ドラゴンクエストビルダーズ メタルギアファンの復興日記 (seven river )
しおりを挟む

1章 メルキド編
Prologue 異世界での覚醒


定期的に続きを書いて行きます。1日一回出せるようになるべく頑張ります。


世界は、ブロックで出来ていた

さあ、アレフガルドを作り直す冒険に旅立とう

 

俺は影山雄也。俺はメタルギアソリッドのファンだが、それ以外のゲームもたくさんプレイしている。

今日は、ドラゴンクエストビルダーズと言うマイクラなどのサンドボックスゲームの要素を融合した、新しいタイプのドラクエを買ってきた。

俺はこのゲームの体験版をして面白そうだったので製品版をすることにする。

だが、早くプレイしたくてダッシュで家に帰り、自室に戻ると、急に激しいめまいがした。

 

「なんだ、急に目の前が···!」

 

俺は立っていることも出来ず、その場に倒れふした。

 

どのくらい時間が経ったか分からないが、俺は無事に意識を取り戻した。いや、無事では無かった。

 

「ど、どこだよここー!!!」

 

俺は暗い洞窟の中で目覚めた。俺は自宅で倒れたはずなのに。

 

「まさか、誘拐された!?」

 

急に謎の場所に来てしまった俺はパニックに陥ってしまう。

だが、こんな場所では騒ぐとかえって危険だ。俺はなんとか自分を落ち着かせる。

 

「落ち着け俺!冷静になるんだ!」

 

そう自分に言い聞かせ、とりあえず周りを見渡す。松明が沢山掛けられていて、壊れた階段や大きな切り株がある。

俺は、なんとなくこの洞窟に見覚えがあった。

 

「この洞窟は見覚えがあるな、なんだっけな?」

 

よく考えると、ドラクエビルダーズの開始地点の洞窟に似ている。いや、どう考えても、その洞窟だ。

 

「何で俺がドラクエビルダーズの世界にいるんだよ!」

 

夢じゃないかと思い、自分の顔を叩いてみる。しかし、なにも起こらない。

やはり、現実に起きていることのようだ。

 

「目覚めましたね、雄也。見つけましたよ。あなたのことを」

 

さらに、突然脳内に謎の声が聞こえた。ドラクエビルダーズの体験版では、こんな風に精霊ルビスから話しかけら、チュートリアルが始まる。

 

「お前、精霊ルビスか?」

 

「ええ。ようやく見つけましたよ。あなたのことを。ここはアレフガルド、とある戦士の忌まわしき選択のせいで、荒廃した世界です。」

 

やっぱりそうか。俺は本当に異世界に来たようだ。

 

「何で俺を異世界に転送させたんだ?俺はただのメタルギアファンの高校生だぞ」

 

「荒廃したこの世界を復活させるため、あなたの力が必要なのです」

 

人間なんていくらでもいるのに、なぜ俺は選んだんだ?

 

「俺より有能な人間なんて、いくらでもいるだろ」

 

「あなたのメタルギアソリッドや、他のアクションゲームをプレイしているのを見て、この人なら沢山の物を作り、魔物と戦うための力や知識があると思ったのです」

 

確かに俺はメタルギアオンラインで最高ランクを取ったりしたことはあるが、それはあくまでゲームの話。現実でできる訳ではない。

 

「これは現実だろ?俺はリアルでもそれなりに運動は出来るけど、大したことでもないぞ。強いのはゲームの世界だけだ。後、俺は物を作る技術なんてないぞ」

 

「ここは地球ではないのです。技術が無くても、知識さえあればビルダーの魔法の力を使い、物をいくらでも作るこが出来るでしょう。」

 

「でも俺、魔物とは戦えないぞ」

 

「そこであなたのメタルギアソリッドの知識が生かされるのです。メタルギアソリッドはステルスアクション。それをしていたあなたなら、敵に見つからずに進むことも出来るはずです。」

 

それでメタルギアファンの俺を選んだのか。まあ、見つかってもスライムくらいなら倒せそうだな。どう考えても危険なので、断りたいがルビスは絶対に俺をビルダーにする気だ。

 

「魔法とメタルギアの知識か、それでもかなりキツそうだな」

 

「大丈夫です。ともに復興を行う仲間もいるはずです。あなたも彼らと協力すれば、必ずアレフガルドの復興を成し遂げられるでしょう」

 

「断っても、聞いてはくれないんだろ?」

 

「当然です。ビルダーにふさわしいのはあなたしかいないのです。」

 

やっぱりな。俺しかいないと言うのは言い過ぎだと思うが、断れないのなら、仕方ないな。本当にひどい精霊だな。

 

「分かった分かった。なるべく頑張ってみるよ。」

 

「よろしい、では、早速ビルダーの魔法の力を教えますね」

 

俺が仕方なく承諾すると、ルビスは説明を始めた。魔法の力か···。どんな感じなんだろう。

 

「まずは、このあなぐらに落ちている白い花びらを3つ集めて下さい。」

 

確か、白い花びら3つで傷薬を作れるんだよな。どういう原理かは分からないが、それが魔法の力だろう。

俺は、辺りを見渡して、白い花びらを探した。

白い花びらは洞窟の一角に、3つまとめて置いてあった。

歩いて取りに行こうとすると、途中で高さ1メートルの壁があった。ドラクエビルダーズの世界はブロックで出来ているからだろう。一メートルの壁は余裕で登れるので、白い花びらのところにたどり着くことが出来た。

 

「これが白い花びらか、本当にこれからどうやってクリーム状の傷薬を作るんだ?」

 

魔法の力らしいが、いまいち分からない。

 

「白い花びらをてに入れられましたね。それをそこにある切り株に乗せ、ビルダーの魔法を使うのです」

 

その場でも使えるんじゃないかと思ったが、作業台が無いと魔法が発動しないようだ。

俺は白い花びらをすぐ近くにあった切り株に乗せた。

 

「雄也、白い花びらが傷薬になるよう、強い念をかけるのです」

 

俺は白い花びらを見て傷薬になれと願った。すると、白い花びらはみるみる形を変えていき、3秒くらいで傷薬が出来上がった。

スゴいな、これがビルダーの魔法か。

 

「傷薬が出来たようですね。このようにして、素材を集め、作りたいものの事を考えて、強く念じれば素材を変化させる、それがビルダーの魔法です。」

 

これなら、楽に物を作れそうだ。魔法の力は本当に便利だ。

 

「分かった。こんな風に物を作り、アレフガルドを復興させればいいんだな」

 

「その通りです。では次にこのあなぐらから脱出しましょう。」

 

そういえば、驚く事が多くて、自分が洞窟にいる事を忘れていた。いつまでも洞窟にいるのは嫌なので、そろそろ外に出てアレフガルドの大地を見たい。

この洞窟の出口に繋がる階段は、所々壊れており、ブロックを置いて修復しなければいけない。

 

「ブロックを集めて、足場を作らないとな」

 

「はい、ブロックを壊しやすいよう、まずはひのきのぼうを作りましょう。」

 

ひのきのぼうの原料は太い枝のはずだが、その太い枝はここにない。

しばらくしていると、うえから太い枝が落ちてきた。もちろん俺にぶつからないようにだが、もしぶつかったら危なかった。

 

「危ねえなあ。とりあえず、こいつに魔法をかけるか」

 

俺は太い枝に魔法をかけ、ひのきのぼうに変化させた。武器としては弱めだが、土を壊すには十分だろう。と言うか、どう見ても太い枝はひのきではないのに、何故ひのきのぼうになるのか。本当にこの世界はワケわからん。

 

「ひのきのぼうが出来たようですね。では、さっそくそれを装備してみましょう」

 

装備と言っても、単に手に持つだけでいいんだけどな。ゲームではいちいちメニューから装備欄を開かないといけないけど。現実のほうがめんどうなことは多いが、ゲームのほうがめんどうなことも存在する。

俺はひのきのぼうを持ち、次の指示を待った。

 

「ひのきのぼうを装備できたようですね。それを使って土のブロックを壊し、持ち運び可能な状態にするのです。そして、その土のブロックで足場を作り、このあなぐらから出るのです。」

 

持ち運び可能な状態、ゲームで言う、アイテム化した状態ってことだな。

それにしても、ようやくこの洞窟から出られるのか。暗い場所はもう嫌だ。俺は足元にあった土のブロックをひのきのぼうで攻撃した。4回ほど攻撃を加えると、他のブロックとくっついたブロックが離れ、そこに転がった。

ゲームとは違い、それに触っても勝手にポーチの中にしまわれること無かった。俺はポーチを持ってないし、例え持っていたとしても、1立方メートルの大きさのブロックがポーチの中に入る訳がないので当然だが。

 

「ん、こんなデカイブロック、どうやって運ぶんだ?」

 

試しに持ち上げようとすると、余裕で持てるほど軽かったが、やはり大きさのせいで持ちにくい。

 

「おお、そう言えばこれをわたすのを忘れていましたね」

 

俺がブロックの持ち運びに困っていると、また何かが落ちてきた。腰につける形のポーチのようだ。

 

「あのー、これはありがたいんだが、こんな小さいポーチに土ブロックなんて入るわけないぞ」

 

「大丈夫です。それは魔法のポーチなので、それをつけてアイテムを触ると、自動的にこの中に回収されます」

 

これも魔法かよ···。魔法のない世界に生まれた俺にとっては理解できない。俺は半信半疑でポーチを腰につけ、さっき壊した土のブロックに触った。

すると、急にブロックが小さくなり、吸い込まれるようにポーチに入っていった。

 

「出したいときは、出したいもののことを考え、ポーチに手を入れるのです。もういくつかブロックを手に入れ、壊れた階段の所へ行ってみましょう。」

 

ゲームでは確か十個集めるんだったな。でも、このあともっと必要になるだろうし、100個位は集めておくか。自分のいる場所の土ブロックを全部壊すと、大体100になった。

 

「これを階段に持っていけばいいんだな」

 

壊れた階段は、一つ土のブロックを置けば上れるようになるな。俺はポーチに手を入れ、土のブロックが出るよう念じた。今は、土のブロックしか入っていないので、念じる必要は無かったかも知れないが。

ブロックを取り出すと、元の1立方メートルの大きさに戻った。それを壊れた階段の所に置き、足場を作った。

 

「足場が出来たようですね。この足場や階段を使い、出口に向かって下さい。」

 

俺は1メートルの段差を登って上がり、そこからは階段を使って上へと上がっていった。10メートルほど登ったところで、もう一ヶ所階段が壊れている場所があったので同じように壊し、さらに登って行く。

そして、ようやく外の世界に出る扉を見つけた。

 

「ここか外に出られるんだな。早く外の世界の空気を吸いたいぜ」

 

俺は扉を開け、アレフガルドの大地へ踏み出した。そこは人気のない寂しい場所だったが、空気はとてもキレイだった。日本と違い、排気ガスや工場の煙などがないからだろう。

 

「雄也、うまくあなぐらから出られたようですね。では、あらためてあなたに与えられた責務を言います。それは、あなたの持つ物作りの力で、アレフガルドを復活させることです」

 

さっきも聞いたんだが。大事なことだから二回言うってことか。

 

「空気はキレイなんだけど、空が暗いな。ここは、メルキドか?」

 

ゲームでは物語はメルキドで始まる。俺がいまいる場所も、そんな感じの場所だ。確かドラクエ1では大きな都市があったんだよな。今は裏切り勇者や竜王のせいで完全に壊滅しているけど。

 

「はい。ここはメルキド。昔はここに大きな城塞都市がありましたが。今は破壊しつくされ、見る影もありません。」

 

「まずはここを復活させろとってことだな」

 

「はい。そのためにあなたには、魔物と戦った者たちが最後まで掲げていた旗を渡しましょう」

 

今度は俺の前に黄色い旗が落ちてきた。ゲームで言う、希望のはたってやつだな。

 

「確か、これをメルキドの跡地に刺すと、光が溢れてあんたの加護をうけられるんだよな」

 

「そのとおりです。まずは、メルキドに旗を建てましょう」

 

俺は希望の旗を持ち、メルキドの跡地に向かった。途中、崖があったので、1ブロックずつ、慎重に降りて行く。崖を降りた所は草原が広がっていて、スライムが何体か生息していた。今は戦う必要がないので、刺激しないよう歩いていった。

メルキドの跡地たどりつくと、家だったと思われる廃墟がいくつもあった。もちろん、人は居ないが。

 

「ここがメルキドか。誰もいないけど、本当に大丈夫なのか?」

 

「人々はいろいろな場所に散らばって暮らしています。ですが、希望のはたからあふれる光につられて、やってくる人がいるはずです。」

 

まずは、希望の旗を刺せってことだな。廃墟の中心にそのための台座のようなものがあったので、そこに向かう。

 

「いよいよ、アレフガルド復興が始まるんだな」

 

俺は台座にたどりつくと、抜けないようにしっかり希望の旗を刺した。すると、そこから光があふれ、メルキドの跡地を照らした。それに、少し気温が上がった気がした。

 

「希望の旗を掲げられたようですね。ここに集まって来た人々と共に、新たなるメルキドの町を作り上げるのです。」

 

「ああ、もちろんだぜ!」

 

さっきは危険だから止めようと言っていた俺だが、今はわくわくしていた。自分の力で世界を復興させていく、大変だろうけどとても楽しくもあるだろう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode1 全てを破壊された大地

しばらく待っていると、10歳くらいの少女がこちらに向かってきた。おそらく、体験版で住民となったピリンだろう。まさか現実で会えるとは思っていなかった。もしかしたら、ロロンドやロッシとも会えるだろうか。

 

「さっそく、人間がやって来ましたね。彼女とともに、メルキドの復興を始めるのです。」

 

ルビスの言うとおり、まずは仲間が必要だ。頼りになるか分からないが、協力しないといけないな。

少女は、旗が気になったのか、旗の刺してある台座に登った。

 

「なんだろう、この旗。それにここ、とっても暖かい」

 

少女もこの場所は暖かく感じるようだ。やはり、光の範囲の中は気温が高いらしい。

俺はまず、その少女に話しかけた。

 

「こんにちは。君は誰だ?」

 

言葉が通じるか不安だったが、それは大丈夫だった。

 

「わたしはピリン!そっちこそ、だあれ?それに、このはたはなあに?」

 

やはりピリンだったか。先に名前を名乗るのが礼儀だが、それが気になって先に聞いてしまった。

 

「俺は影山雄也。普段は雄也って呼んでくれ。あと、この旗は俺が立てた」

 

「雄也って言うんだ!あなたは何処から来たの?ここで何をしてるの?」

 

さすがに日本から転送させられたなんて言っても分からないだろうから、精霊の声に導かれて来たとでも言っておこう。

 

「何かよくわからんが、精霊の声に導かれてここまで来たんだ」

 

そう言うと、ピリンは不思議そうな顔をした。

 

「精霊の声が聞こえるなんて、何だかものすごく怪しい感じだけど···」

 

それくらいしか返す言葉がないんだから仕方ないだろ。まあ、実際俺も精霊の声が聞こえるなんて言う奴がいたら、怪しく思うが。

 

「おかしいことは分かってるよ。でも俺は怪しいことをしている訳じゃない。ここで町を作ろうと思っているんだ。」

 

「町を、作っている?」

 

「それでだな、一緒に町を作って、一緒に暮らす仲間を探しているんだ。」

 

「じゃあわたし、ここに住んでみようかな?ここ、暖かくて気持ちがいいし」

 

やった!さっそく仲間になってくれる人がいた。このまま一人だったらどうしようかと思っていた。

そして、俺はあらためてピリンに挨拶をした。

 

「これからよろしくな、ピリン!」

 

「よろしくね、雄也!」

 

挨拶を済ませた後、ピリンはメルキドの跡地を見て回った。まわりは廃墟すらないので、この

ような場所が珍しいのだろう。

一通り見て回ると、ピリンは俺のところに戻って来た。

 

「ねえ、雄也。ここに住みたいけど、みんな壊れていて、使えそうな部屋がないの。なんとか修理できればいんだけど···。」

 

そういえば、寝室などの部屋について考えてなかった。自分で直せないのか?と思ったが、この世界の人々は物を作る力だけでなく、ブロックを置く、壊す力もないようだ。

すると、またルビスの声が聞こえてきた。

 

「物を作ることのできない人々のかわりに、あなたが家を修理してあげましょう。土ブロックで、旗の北西にある白い家を修理するのです」

 

ゲームではここで、土ブロックをどれだけ持っていても新たに5個貰えるのだが、現実では貰えなかった。

どっちが北西か分からないが、廃墟にひときわ目立つ白い家があった。これからはその家を基準に方角を覚えておこう。

 

「あの家だな」

 

その家は、ゲームと同じで壁が高さ2メートルしかなく、天井もない。そして、その家の壁には、5ブロック分の穴が空いていた。

これを塞げと言うことだな。ゲームでも思ったが、白い家の壁を土で直すのは違和感を感じる。リアルなら尚更だ。

俺は、土ブロックでまず一つ、穴を埋めた。

 

「素晴らしい。その調子で全ての穴を埋めるのです。」

 

俺が何をしているか気になったようで、ピリンは修理中の家に入ってきた。

 

 

「ねえ雄也?なにをしてるの?」

 

「この家を修理しているんだ。」

 

「え!?あなたは壊れた家を修理できるの!?」

 

ピリンはとても驚いたようだ。こんな世界で生きてきたのだから、無理はないが。

 

「すごい力を持っているんだね。どうしてそんなことが出来るの?」

 

「出来るのが普通なはずだぞ。そっちが力を失っているんだ。」

 

「力がないって言うか、どうやってブロックをあつかったりするのかが分からないの」

 

それを聞いて、ふと思った。俺がピリンにブロックの置き方を教えれば、手伝えるようになるんじゃないか?

俺は手を止めて、ピリンに言った。

 

「俺がお前にブロックの置き方を教える。それならば手伝えるんじゃないか?まずはこれを持ってくれ。」

 

俺はブロックを取りだし、ピリンに渡した。手本を見せる為、俺の分も取り出す。

 

「まず、そのブロックを持ち上げ、家の穴の空いている所に置くんだ。」

 

俺が置いたのを真似して、ピリンも土ブロックを穴にはめる。ピリンの置いたブロックも、俺の置いたブロックと同じように、まわりの白いブロックとくっついた。一度くっつくと、攻撃して再びアイテム化しないと持ち運ぶことは出来ない。

 

「これで、修理できたの?」

 

「バッチリだぞ。残りの穴も埋めてしまおう」

 

ピリンと俺は、一つずつ穴を埋め、白い家の修復を終えた。この家が、俺たちの寝室になるだろう。

 

「家が直ったね!雄也、今日からここで暮らそうね!」

 

自分たちの力で復興させていくのは、やはり達成感があるな。だけど、天井がないのはやはり気になる。

 

「この家、天井がないけど大丈夫なのか」

 

そうつぶやくと、ルビスが答えてくれた。

 

「この地方では雨が降らないので、無くても大丈夫です。」

 

そういえば、ドラクエでは全く雨が降らない場所ってあるけど、本当にそうなのか。でも、雨が降る地域もあるだろうから、その時は必要だな。

俺が精霊と話していると、心配そうなピリンの声が耳に入った。

 

「ねえ、雄也?」

 

「ピリン、どうしたんだ?」

 

「大丈夫?ぼおっとして、口が半開きになっていたんだけど」

 

え!?俺はそんな状態になっていたのか?ぼおっとして口が半開きとか、頭のおかしい人に思われてしまいそうだ。どうやらルビスと話している時はそんな表情になるらしい。なるべくルビスには話しかけないようにしよう。

 

「大丈夫だ。たまにこうなるかもしれないけど気にしないでくれ」

 

「分かった。それより雄也!せっかく家が直ったんだけど、真っ暗な夜を照らす、明かりが必要だと思うの」

 

それを言いに来たとき、俺のおかしい表情が見えたってことか。確かに、昼間でさえ地球より暗いのに、さらに夜になったら何も見えなくなるほど暗いだろう。

 

「この辺にたいまつは落ちてないよね。なんとかならないかな?」

 

たいまつが落ちてるとかあり得ないと思うが。それにしても、この世界の人はたいまつのような簡単な道具も作れないのか。深刻だな。

 

「ここらにあるもので、たいまつを作れたらいいんだけどな」

 

それを聞いて、ピリンがとんでもないことを言った。

 

「ものを、つくる?つくるってなあに?」

 

そういえば、ゲームでも言っていたけど、この世界の人々はものをつくることが出来ないのではなくものをつくることの記憶もないんだったか。

俺が実際に作って見せれば、ピリンも分かってくれるかもしれない。

確かたいまつは太い枝と青い油、一つずつ必要だったな。

 

「じゃあ、俺がお前にものをつくるということを教える。ちょっと待っててくれ」

 

俺が素材を調達しに行こうとすると、またしてもルビスの声が聞こえた。

 

「この世界の人々は、ものをつくることの概念の記憶もないのです。この太い枝と青い油を使い、たいまつを作り、彼女に見せてあげましょう。」

 

目の前に太い枝と青い油が落ちてきた。分かっていることばかり話していたが、素材をくれる

のはありがたい。ピリンが見ていないところなので、頭のおかしい人にも見られなかっただろう。

俺はメルキドの跡地にある石の作業台に太い枝と青い油を乗せた。このポーチは青い油のような液体も入れられるらしい。俺はたいまつになるよう、二つの素材に念をかけた。すると傷薬を作ったときのように勝手にたいまつができあがる。しかも火のついた状態のものが5個も出来た。

 

「魔法の力って本当にスゴいな」

 

これが便利すぎて、日本に帰りたくなくなってしまう。そういえば、もの作りの魔法はピリン

たちは使えるのだろうか。今は一人なので、ルビスに聞くことにした。

 

「ビルダーの魔法って、みんなが使えるのか?」

 

「いいえ。ですが、もの作りの力を取り戻せば、手動で物を作ることはできます。」

 

一応、作ることはできるのか。俺はたいまつをさっそく一本を家に置き、ピリンに残りのたいまつを見せることにした。

 

「おいピリン。たいまつを用意できたぞ」

 

「どこから持ってきたの?」

 

やはり、作ったということは考えていないようだ。

 

「持ってきたんじゃない。俺が太い枝と青い油を素材にして作ったんだ」

 

「雄也が、つくった···?」

 

ピリンは、しばらく考えたあと、何か分かったようだ。

 

「そっか。素材を使って、新しい物を生み出す。それが物を作るってことなんだね」

 

「よく分かったな、ピリン。お前も出来そうか?」

 

「うん。わたし、頑張ってみるね!」

 

ピリンは、もの作りの概念を覚え、同時にもの作りの力も取り戻したようだ。こうやって、もの作りの力を復活させて行けと言うことか。

 

「それと、もう家の中にたいまつを置いた。これで夜も明るくなるだろう」

 

「やったね。夜を照らす明かりが出来たし、次は寝る場所が必要だよね」

 

せっかくたいまつを置いたと思ったら、まだ寝室に必要なものが無かった。ゲームではわらベッドという物があったが、緑色の草が急に干し草になるのはあり得ないので、魔法の力がないと作れなさそうだ。

俺は廃墟に生えている緑色の草、じょうぶな草を6つ拾い、作業台に乗せ魔法をかけた。

そして、わらベッド2つに変化した。

 

「わらベッドを2つ作って来たぞ。これで二人で寝られる。」

 

「この辺りにわらなんてあったっけ?」

 

ピリンには、ビルダーの魔法のことは教えていなかったな。

 

「俺はもの作りの魔法が使えるらしいんだ。それを使ったら、草が急に干し草に変化したんだ」

 

「え、雄也って魔法も使えるんだ!スゴいね!でも、魔法がないと作れないの?」

 

わらベッドはそうだろうが、緑色のベッドなら手動でも作れそうだ。草を編みあわせてベッドの形にすれば、草のベッドが作れるだろう。

 

「わらベッドじゃないけど、緑色のベッドなら、ピリンでも作れるよ。もし他の人が来たら作ってあげてみたらいいんじゃないか?」

 

「分かった!今度作って見るね」

 

ピリンなら出来るだろう。俺たちはその後、完成した寝室で休んでいた。夕方になると、俺は腹が減って来た。

 

「今日は大変な1日だったね。雄也と出会ったり。ものを作ることを教えてもらったり。それでね、忙しかったから、お腹がすいて来ちゃった」

 

ピリンも、同じことを考えていたようだ。

 

「実は俺も腹が減っているんだ。」

 

「この辺の木の下に、モモガキの実って言う木の実がなってるの。一緒に取りに行かない?」

 

もう夕方だが、夜になるまでは時間がある。

 

「取りに行こう。だけど、夜になる前に戻るぞ」

 

俺たちは、拠点の近くの木の下を探した。そこには、ピンク色の柿が3つ落ちていた。桃色の柿だからモモガキと言うのか。

 

「これがモモガキの実だよ。わたしは一つで良いから、雄也は2つ食べてね」

 

ピリンも腹が減っているはずなのに譲るとか、いい子だなあ。俺だったら自分が多いほうを選ぶ。

俺はそのモモガキの実を食べてみた。小さいので大して満腹にはならないが、かなりうまい。

 

「これはあまりお腹いっぱいにならないけど、とっても甘くておいしい実なんだ」

 

俺たちは仲良くモモガキの実を食べた。俺は女の子と一緒に食事をするのは初めてだ。疲れた時に女の子と一緒に食べたので、より美味しく感じられた。

 

「美味しかったね!もうすぐ夜になるから、家に入らない?」

 

「ああ、そろそろ戻ろう」

 

モモガキの実を食べ終えた頃にはもう暗くなってきていた。俺たちは部屋に戻り、ベッドに横になった。

 

「お休み、雄也」

 

「また明日、がんばろうな」

 

疲れていた俺たちは、すぐに眠りに入った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode2 メルキドの末裔

翌日、俺はメルキドの家のベッドで目覚めた。この世界に来たのは夢なのではないかと思ったが、そんなことは無かった。

 

「おはよう、雄也」

 

俺と同じくらいの時間に、ピリンも起きた。二人で外に出た後、ピリンが今日も相談をしてきた。

 

「今日は、雄也の魔法の力で、作って欲しいものがあるの」

 

魔法の力ってことは、手動では作れないってことか。何故ドラクエビルダーズがお使いだらけなのかよくわかるな。

 

「これからたくさん物を作るようになると思うから、素材や作った物を入れて置ける箱があったらいいと思うの」

 

「それくらい、自分で作れるだろ。太い枝を集めてじょうぶな草をヒモ代わりにして縛れば、手動で作れるぞ」

 

「普通の箱じゃなくって、雄也の持っているポーチのように、なんでも入れられる箱が欲しいの。土のブロックが余ったらしまって置かないといけないでしょ」

 

何でポーチのことを知っているんだ?と思ったが、ピリンは昨日俺がポーチから土ブロックを取り出すところを目の前で見ていた。なんでも入れられる箱なら、ゲームにあった収納箱が

あればいいな。

 

「雄也、作れそう?」

 

太い枝が3つあれば作れるはずだが、魔法の力を持ったものが出来るかは分からない。でも一応作っておく価値はあるな。

 

「魔法の収納箱になるかは分からないけど、一応作ってみる」

 

俺はまず、太い枝を取りに、近くの森の中に入った。森の中には、太い枝だけでなく、じょうぶな草、モモガキの実、キノコが落ちていた。キノコは生で食べると食中毒になりそうなので、加熱する必要がありそうだ。

 

「確かゲームでは、木は切れなかったけど、試しに攻撃してみるか」

 

木も手に入れられないかと思い、ひのきのぼうを叩きつけたが、全く反応が無かった。

 

「やっぱりムリか···」

 

俺は木は諦めて、手に入れられる素材を持って、森を出た。途中、ドラキーと言うモンスターと遭遇しそうになったが、こちらから攻撃しなければ大丈夫なので、そっとしておいた。

俺は拠点に戻ると、石の作業台に太い枝3本を乗せた。ゲームにあった魔法の収納箱になるよう祈ると、太い枝はいつも通り光輝き合体し、収納箱の形になった。

 

「とりあえず収納箱にはなったな。あとはこれが魔法の力を持っているかどうかだな」

 

恐る恐るふたを開けると、中は暗い空間になっていた。ポーチも中はそうなっていた。俺はさっき拾ったキノコを試しにそこに入れてみた。

 

「問題は、これを取り出せるかだな。」

 

俺は、収納箱に手を入れ、キノコを取りだそうとした。すると、問題なく取り出すことが出来た。どうやら、魔法の収納箱が出来たようだ。

 

「おい!ピリン!収納箱が出来たぞ」

 

ピリンは家の中にいたようで、走って飛び出してきた。彼女は、手に設計図のような紙を持っていた。

 

「ありがとう雄也!これで素材をたくさん入れて置けるね」

 

俺は、ピリンの持っている設計図について聞いた。

 

「ピリン、その紙は何だ?」

 

「実はわたし、雄也が収納箱を作っている間に、作業部屋の設計図を書いていたんだ。いっしょに作ろうよ!」

 

そういえばゲームでも、そんな設計図を渡されるイベントがあったな。でもこれはゲームじゃないから、一緒に作ることも出来る。ゲームではただお使いを言うだけの存在であったピリンも、リアルでは共に町を作る仲間だ。

 

「じゃあ、その設計図を見せてくれ」

 

ピリンの見せてきたその設計図は、石の作業台と収納箱、たき火がある部屋だ。それとわらのとびらが入り口にある。石の作業台と収納箱はここにある物を使えばいいな。たき火は青い油と太い枝2本、わらのとびらはじょうぶな草3つと太い枝1つで作れる。草と枝は森でたくさんとってきているので、スライムを倒して青い油を手に入れればいい。スライムくらいなら、俺でも倒せるだろう。

 

「どう、作れそう?」

 

俺がじっくり見ていると、ピリンが心配して言ってきた。

 

「たき火はここにないから、無理だったらたいまつでいいよ」

 

「たき火と扉は俺が作っておくから、このポーチから土ブロックを取り出して、壁を作っておいてくれ。土ブロックを取り出す時は、土ブロックを取り出したいと思ってポーチに手を入れるんだ」

 

「分かった。石の作業台と収納箱も置くね」

 

そういえば、この世界のものは地球のものと比べて物凄く軽いが、石の作業台とか重そうなものでも、少女でも1人で持てるほど軽いのか。

 

「分かった。頼む」

 

ピリンが建て始めたのを見て、俺も作業に取りかかる。まずわらのとびらを作り、次にスライムを倒しにいく。スライム相手なら、ひのきのぼうでも十分そうだが、一応強い武器を作っておこう。手動なら太い枝1本で作れそうだが魔法なら2つ必要な武器、棍棒がある。手動で作ったほうが素材を節約できることもあるようだ。しかし時間がかかるし、太い枝はいくらでも入手できるので、今は魔法で作った。

 

「よし、棍棒が出来た」

 

俺は武器をひのきのぼうに持ちかえ、スライムのいる所に出かける。俺はスライムの後ろにゆっくりとしのび寄り、棍棒を叩きつけた。スライムは一発では死なず、俺に反撃してきた。

 

「そんなスピードで、俺に追い付けると思ってんのか?」

 

スライムのスピードは、人間のはや歩きと同じくらいだ。俺はすぐにかわし、もう一回スライムを殴った。今度は耐えきれなかったようで、スライムは光を放って消えた。そして、そこに青い油を落とした。

 

「リアルに魔物って、死体になるんじゃなくて消滅するんだな」

 

まあ、死体がいつまでも残っていたり腐ったりするのは嫌だが。俺は青い油を持ち帰ろうとしたが今はポーチはピリンに預けて来ている。素材か消える訳ではないので、一旦もどることに

した。

拠点に戻ると、作業部屋はほぼ完成しており、あとはたき火を置くだけだ。俺が作ったわらのとびらもすでに設置されていて、扉をあけると中に収納箱と作業台が置かれていた。

 

「あ、雄也。おかえり!素材が集まったの?」

 

「いや、スライムは倒して青い油をおとさせたんだけどな、回収するためのポーチをピリンに預けたままだったからな、とりにきた」

 

「はい、そういえばポーチが一つしかないって不便だよね」

 

確かにそうだが、ポーチの作り方は分からない。ピリンにポーチを返してもらい、青い油を回収してきた。設計図ではたき火を置くところは作業台の真横なので、作成後すぐに設置できそうだ。

俺は魔法でたき火を作り、指定の位置に置いた。これで設計図どおりの部屋ができた。

 

「ピリン!たき火を置いたぞ」

 

ピリンは完成した作業部屋に入り、大喜びしている。その姿を見て、俺も嬉しくなった。

だが、俺はここで思った。作業部屋ができたのはいいが、二人だけでは人数が足りない気がする。ピリンは頼もしい仲間だが、もっと人がいないと町どころか、集落とも呼べないだろうな。

 

「ピリン、喜んでいる時に言って悪いが、町を作るにはもっと人数が必要じゃないか?」

 

それに、ロロンドやロッシがいるのか気になる。ピリンは、心当たりがあるようだ。

 

「そのことなら、昨日ここにくるまえに人を見つけたんだ。町の東の岩山の裏で見たんだけど、ちょっと変わった人だったから、声はかけなかったんだ。」

 

おそらく、ロロンドのことだな。ゲームでも、町の東にいた。

 

「じゃあその人を連れてくる。ピリンはここで待っていてくれ」

 

俺は棍棒を手に、町の東に向かった。海沿いを歩いて行くと、木箱とたき火が置かれている場所があった。

 

「ゲームでも、こんなものが置いてあったな」

 

そこからもう少し進むと、壊れた家ような建物があった。その建物には、ベッドとたき火、何かが書かれたメモ用紙があった。

 

「何だ、これは?」

 

そのメモ用紙には、汚い文字で文章が書かれていた。

 

「うしなわれたもじをよむというのは、なんてたいへんなことなんだ。めるきどろくをよみとくには、まだじかんがかかりそうだ」

 

何故か、全部平仮名で書いてある。でも、メルキド録という本を解読しているということは、間違いなくこれを書いたのはロロンドだ。でもその家にはロロンドの姿は無かった。

俺はさらに、その家の裏にある森に入った。太い枝やモモガキ、キノコを拾いながら森を進んでいくと、土ブロックで出来た謎の建造物をみつけた。ゲームでは確か、この中にロロンドが閉じ込められているんだよな。俺は試しにその土ブロックを手で叩いた。すると、予想通り中から中年男性の声が聞こえた。

 

「そこに誰かおるのか?魔物にここに閉じ込められてしまったんだ。頼む!我輩をここから出してくれ」

 

中年男性の声は、とても苦しそうだった。中の空間にある酸素の量が残り少ないのだろう。ゲームでは放っておいても問題ないが、現実では窒息死する危険がある。俺は棍棒で土ブロックを叩き壊し、中にいる人を救出した。中からは、やはりロロンドと思われる男性が出てきた。

 

その頃···

魔物の王 竜王の間

 

竜王の配下の魔物の一体が、雄也の行動に気付き、それを報告していた。

 

「竜王様。ビルダーとやらが最近、町を作り、人々の物を作る力を復活させているようです。」

 

「そのくらい分かっておる。くそっ、ルビスの奴め、余計なことをしやがって!」

 

竜王は不機嫌そうに返事をする。

 

「さっきビルダーは町の仲間を探しに行きました。これ以上物を作る力をもつ者が増えたら大変です」

 

「わしはまだ平気だがな」

 

竜王はしばらく考えたのち、自分と同じ姿をした影の魔物を3体放った。

 

「あいつらの力を試す為に、コイツらを使ってみるか」

 

竜王の影は、メルキドの地に飛び立った。

 

 

 

一方雄也は、助けだした男性と話をしていた。

 

「おかげで助かったぞ、礼を言う」

 

彼はまず感謝の言葉を言った。だが、次に助けてくれた人に対してはちょっと酷い事を言った。

 

「ところでお主は誰なんだ?ずいぶんとぼけた顔をしているが」

 

「助けてくれた人に対してひでえな。俺は影山雄也だ。雄也って呼んでくれ」

 

この世界では、名前だけで十分だろうが、一応名字も名乗っておく。

 

「ここらへんで町を作っているんだ。あんたも来るか?」

 

俺は年上の人もだいたいあんたかお前で呼ぶ。俺は敬語とかいうのが好きじゃないからな。

 

「もちろんだ!我輩も町作りの仲間に入れてはくれないか?」

 

どうやら喜んで来てくれるらしい。俺は当然OKの返事をした。

 

「俺は仲間を探しにここまで来たんだからな。歓迎するぜ」

 

「良かった。我輩はロロンド!幻の書物、メルキド録を持つ男だ。必ず町作りの役に立とう。よろしく頼むぞ、雄也」

 

「ああ、よろしくな、ロロンド!」

 

ロロンドもゲームではお使いを頼むだけの存在だったが、リアルでは物凄く役に立ちそうだ。

俺はロロンドを連れ町へ歩き始めた。

だか、歩き始めて少し立って、ロロンドはある異変に気付いた。

 

「なあ雄也よ、空がやけに暗くはないか?」

 

ロロンドに言われて気付いたが、確かにそうだ。まだ夜にもなってないのに、あまりにも暗い。少し不安になりながらも歩き続けた。

しばらく進むと、ロロンドは、さらなる異変に気付いた。

 

「雄也、あれを見ろ!」

 

「どうした、ロロンド?」

 

ロロンドの指差した方向を見ると、謎の魔物がこの地に迫っていた。その姿がはっきり分かったとき、俺もロロンドも戦慄した。

 

「まさか、竜王か!?」

 

それは、竜王と全く同じ姿の、暗黒の魔物だった。ゲームではこんな奴ら出てこなかったのに···。現実は何が起こるか分からないな。

 

「あれは竜王本体ではないが、竜王と同じ姿を持つ最強クラスの魔物、竜王の影だ。強い奴を竜王本人の代わりに始末するんだ。」

 

竜王の影か···。俺から見ても物凄く強そうだ。こういう時は正面から戦っても勝ち目はない、隠れてやり過ごそう。

 

「ロロンド、隠れるぞ」

 

俺とロロンドは海の近くに降り、ブロックにはりついて敵の死角に入るようにした。竜王の影は俺たちの方へ来ているが、海のところまで見てはいない。このまま死角にいて、物音を立てなければ、見つからないはずだ。

竜王の影は俺たちを見つけられず森のほうに行った。だが今町に戻ればピリンも危険にさらされる。竜王の影がメルキドから撤退するまで、じっとして待った。1時間くらい経って、ようやく竜王の影の気配が消え、暗闇が晴れた。

 

「助かったようだな」

 

俺たちはほっとして、再び拠点へ歩き始めた。1時間もじっとしているのは、俺にとってもロロンドにとっても辛かった。

拠点が見えてきたところで、ロロンドに紹介した。

 

「あれが俺たちの作っている町だ。あそこには俺だけでなくピリンと言う少女も住んでいる。ロロンドにも後で紹介するよ」

 

「お主以外にもいたのか!みんなで協力すれば、町を作ることも夢ではない」

 

そういえばこの世界に来てから、俺は協力の大切さを学んだな。俺は、新たな仲間を加え、メルキドの拠点へ帰還した。

 

 

 

「竜王様、あの者達を逃がして良かったのですか?」

 

「あれはあいつらがどのくらい力を持っているか試しているんだ。生き残れば無理に追わない。死ねばそれまでだけどな。まだ奴らは必ず殺さなくてはいけないほど、力を持っていない。持っていたとしても、メルキドの魔物がなんとかしてくれるだろう。」

 

竜王はアレフガルド復興が最終段階まで進んだとき生きていたら、雄也を始末する予定だった。

 

「だが、これからも定期的に奴の力を試す。下がれ」

 

竜王の話を聞き終え、竜王の配下の魔物は立ち去った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode3 ビルダーの力

ロロンドは町に到着すると俺たちの作った家を走って見回った。本当に、テンションの高い男だな。

 

「あ、おかえり雄也!」

 

町に戻ってきた俺を見て、ピリンがかけよって来た。彼女はとても心配な顔をしている。急にメルキドが暗闇に閉ざされたからだろう。

 

「さっき空が暗くなって、怪しい影が見えたんだけど、なんだったの?わたし、こわくて家に隠れてたんだけど」

 

「竜王の影って言う凄く強い魔物が現れたんだ。何とか見つからないようにして、ここまで戻って来た。奴らはもう帰ったから安全だぞ」

 

「無事で良かった···。雄也たちに何かあったら、どうしようかと思ってた」

 

俺もリアルでメタルギアのスネークのようなステルスアクションは出来ないのでマジで見つかるかと思った。とにかく、生きて帰れてなによりだ。

 

「ところで雄也、あのロロンドって人、何だか胡散臭そうじゃなかった?」

 

お互いの無事を喜んだ後ピリンはロロンドについて話をした。

 

「まあ、やたらとテンションが高いし、変な感じの人ではあったな」

 

「だからわたし、最初に会った時声をかけなかったんだ。長いひげを生やしてて、いつも大きな本を持っていて、怪しい感じの人だったから」

 

自分でも、そんな人が目の前にいたら話しかける気にはならないが。

 

「その大きな本はメルキド録って言う本だ。町の発展に繋がる情報も書いてある可能性もあるから、怪しい本ではないよ。まあ、失われた古代の文字で書かれてるらしいから、ロロンドに解読して貰わないといけないけど。」

 

「解読が進んで、何か手伝わないといけないことがあったら教えてね」

 

怪しいなんて言っていたピリンも、ロロンドと協力する気のようだ。これからは3人でメルキドを復興させよう。まだ住民の数は足りないが、また新しい人が来ることもあるだろう。

俺とピリンが話をしていると、町をひととおり見終わったロロンドが旗の所に走ってきた。

 

「ここはなんて生命力に溢れた場所なんだ!まわりより暖かく、居心地の良い場所だ」

 

ロロンドも暖かいこの場所を気に入ったようだ。

 

「この地は、メルキド録に書かれた城塞都市、メルキドを復活させるに相応しい場所だ!」

 

相応しい場所と言うか、もともとメルキドの町はここにあったんじゃないか?まあ、そんなことロロンド達が知るわけないか。確かアレフガルドが滅亡してから数百年経っているはずだからな。

 

「そう言えば、メルキド録ってどんな内容が書かれているんだ?」

 

俺は出会った時からそのことが気になっていた。凄く分厚い本なので、たくさんの情報が書かれているはずが、その内容は聞いていない。

 

「メルキド録には、何百年も昔に失われた物の作り方や人間の歴史が書かれておるのだ。これを解読すればメルキドの町を復活させることも出来るだろう」

 

それって物凄く重要なことが書かれているって事だ。本当にロロンドを町の仲間にすることが出来て良かったな。

 

「我輩やピリンとともに、大きな町を作って行こうぞ!」

 

「俺としては、昔と全く同じな町じゃなくて、少し変えたほうがいいと思うな」

 

「もちろんだ。我輩が作りたいのはかつてのメルキドと我輩たちが考えて作る新しいメルキド。2つが合わさったメルキドだ」

 

俺の意見にも、ロロンドは同意してくれた。過去の知識と新しいアイディア、両方があれば、間違いなく最高の町が作れるだろう。

 

「ところで雄也、ここの建物は本当にお主が作ったのだな?」

 

盛り上がっていると、ロロンドは急に話を変え、当たり前に分かっていることを聞いてきた。

 

「今さら何聞いてんだ?もちろん俺が、いや、俺とピリンが作った」

 

「だが、ピリンに物作りの仕方を教えたのはお主であろう?」

 

「ああ、そうだけど」

 

「つまりお主は元から物を作る力を持っていたことになる。と言うことは、お主はメルキド録に書かれた伝説の存在、ビルダーなのか?」

 

ビルダーのことはメルキド録にも載っているのか。確かに俺はビルダーと呼ばれていて、その力を使うことも出来る。

 

「確かに俺はルビスからビルダーって呼ばれてるな」

 

「おお、やはりそうか。お主がビルダーであるならば、メルキドの復興もよりはかどる!」

 

俺がビルダーであることをロロンドは信じてくれたようだ。確かゲームだと、こんなとぼけた顔の奴をビルダーだと信じる訳にはいかん!って言うんだよな。でも現実で町を作っていたり、自分を助けたりした人に向かって、そんなことは言えないだろう。

俺はロロンドとの話を終え、部屋に入った。今は特に作りたい物もないし、素材もたくさんある。することがないので、ベッドでごろごろしていると、15分後くらいに、ロロンドが部屋に入って来た。

 

「雄也よ、さっき言い忘れていたが、メルキド録には移動を簡単にする道具が書かれていたのだ」

 

「どんな道具だ?」

 

「キメラという岩山の近くに生息しているモンスターの羽根を集めて編みあわせると空を飛んで町に帰ることの出来る道具、キメラのつばさと言う物だ」

 

キメラのつばさ···。ドラクエシリーズ恒例のアイテムで使うと町に帰れるんだよな。ゲームでも、作れと言われるシーンがあったな。確かにあったら便利なので、作っておけばいいだろう。

 

「別に無理に作らなくてもいいが、あったら便利だと思ってな」

 

「作っておくよ。遠い所から歩いて帰るのは危険だし大変だからな」

 

キメラのはね五枚でキメラのつばさ三枚が作れたはずだ。俺は準備を整え、キメラを狩りに行くことにした。ゲームでは町の北東の岩山にいたので、そこを探して見よう。でもそこにはキメラが密集して生息しているはずだ。無闇に突っ込んで行けば複数のキメラに見つかり、メラを連発されるだろう。俺は出かける前に工房でスネークのかぶる段ボール箱のような物を作りに行った。草に紛れて進んでいける箱形の物、草地の箱とでも名付けておこう。俺はそれをビルダーの魔法で作ろうとしたが、一つ問題があった。

 

「じょうぶな草を使えば良さそうだけど、いくつ必要か分からないな」

 

草地の箱は俺が考えた道具なのでゲームには登場していない。そのため、つくるために必要な素材が分からないのだ。今回だけでなく、これからも自分で素材を考えないと行けなくなることがあると思うけど、これは現実、ゲームの主人公みたいに何でも勝手に閃く訳ではない。

何とか必要な素材が分かるようになれば良いんだけどな。

 

「ビルダーの魔法には、必要な素材が分かるようになる力もあります。」

 

今日も、ルビスが話し掛けて来た。困っているときは大体助けてくれるな。

 

「作りたい物を思い浮かべて何が必要かを考えると魔法の力で思い付くことができるでしょう」

 

俺はルビスの言う通りに、草地の箱を脳内に思い浮かべた。すると、作るのにじょうぶな草が5個必要なことが分かった。必要な素材も分かるとは、やっぱりビルダーの魔法の力はスゴいぜ。物を作るのと必要な素材を調べる、その2つがビルダーの魔法のようだ。もしかしたら今後、銃などドラクエにない武器も作れるかもしれない。

俺は草地の箱を作り、町の北東の岩山に向かおうとした。

 

「そういえば、ピリンに頼みたいことがあったな」

 

岩山に行く前にに、ピリンにしてほしいことを伝えないと。工房で作業をしていたピリンは、俺の声を聞いて出てきた。

 

「なあピリン、俺が出かけている間に、ロロンドにブロックの扱いや、物作りの方法を教えてくれないか」

 

これから町を作っていくために、最低限のブロックの扱い、物の作り方は知っておく必要がある。

 

「実はわたし、そう言われると思って、ロロンドのベッドを作るついでに、物作りの方法を教えていたんだ。ベッドと言っても、雄也が作ってくれたベッドと違って、緑色のベッドだけどね。じょうぶな草がすぐに干し草になったりは普通しないから」

 

「じゃあその調子で、二人でベッドを完成させて、寝室に置いてくれ」

 

さすがはピリン、もうロロンドに教えていたのか。本当にピリンは頼もしいな、安心して任せられる。俺はキメラのはねを集めに、岩山に行った。そこには案の定、キメラが多数生息していた。それに、ちょうど5体だ。

俺は草地の箱を被り、キメラの背後に回る。後ろにいれば、足音をたてたりしない限り、見つかることはないからな。

俺は群れから離れているキメラを狙い攻撃を仕掛けた。スネークの近接戦闘術を真似して、キメラを地面に投げ飛ばした。キメラの体は軽いようで、地面に落とされてもほとんど音は出なかった。投げ飛ばされたくらいではキメラは死ななかったが、気絶はしたようだ。俺は棍棒で気絶したキメラを何度か殴り付けて倒した。キメラは光を放って消え、一枚の羽を落とした。

 

「これがキメラの羽根だな。これを五枚集めればいいのか」

 

俺は残りのキメラも倒そうとしたが、群れで集まっていて手を出しにくい。しばらく待ち、はぐれるのを待った。キメラたちは俺が思っていたより早く分散し、ラッキーなことに一体だけで俺の所に向かってくる奴がいた。

 

「自分から向かって来るって、間抜けなやつだな」

 

俺は草地の箱を被りじっとしているのでキメラは見つけることが出来ず、俺の横を通りかかった瞬間に俺は草地の箱から飛び出し、キメラの頭を何度か殴って倒した。

 

「これで2つだな」

 

俺はこの調子で残りも倒そうと3匹目に殴りかかった。反撃させずに倒そうとしたが、奴は最後にメラを放った。俺はかわせたし、もう一度なぐると倒せたが、メラの炎が見えて残りの2体に見つかってしまった。

 

「見つかったか、やっぱり隠れて進むのはキツいな」

 

スネークのように完全ステルスで行くのは難しい。見つかってしまったので、俺はキメラと

戦うことにした。まずは左側にいたキメラを殴り付ける。2体なら、もう片方の動きを見ながら戦えばいいので、そんなに苦労することはない。目の前にいるキメラは俺をくちばしでつつこうとしたが、俺はかわせた。スライムの2倍くらいのスピードではあるが、十分反応できた。俺はキメラの横に回り、頭から棍棒を叩きつけ倒した。それに怒ったそこにもう片方のキメラがメラを打ってきたが、そっちの動きも見ていたので、俺に攻撃を当てることは出来なかった。

 

「次の攻撃がくる前に仕留める!」

 

俺は走ってキメラに突撃し、メラを使えないように連続攻撃した。キメラはなんとか俺の攻撃を止めようとくちばしで棍棒に噛みついたが、俺はその棍棒をキメラごと地面に突き刺した。キメラは口の中を貫通させられ、特大のダメージを受けただろう。キメラは息絶え、5枚目のキメラのはねを落とした。口の中を貫通させて殺すとは、我ながら残酷な方法をつかうな。魔物に対してだから、別に何も思わないが。

 

「敵に見つかってはしまったが、無傷でキメラのはねが集まったな。これでキメラのつばさが作れるだろう」

 

俺は町の工房に戻り、キメラのはね五枚に魔法をかけた。すると思った通りキメラのつばさが3枚出来た。手動でも作れないことはなさそうだが、キメラのはね五枚につきキメラのつばさ一枚しか出来ないだろう。

 

「あの二人は、寝室かな?」

 

俺はキメラのつばさが出来た事を伝えようと、ロロンドを探した。寝室に入ると、ロロンドとピリンが一緒にいた。どうやら二人は出来上がった草のベッドを寝室に置いているようだった。

 

「雄也!ロロンドと一緒にベッドを完成出来たよ!ロロンドも、物を作る力を取り戻したみたいだよ!」

 

これでロロンドもピリンと同じくらい役に立つ仲間になりそうだ。

 

「ピリン、これから新しく来る人がいたら、そいつに物を作る方法を教えてあげるんだぞ」

 

「任せて!上手く教えられるよう頑張るよ!」

 

ピリンとの話の後、隣にいたロロンドにキメラのつばさが出来たことを教える。

 

「キメラのつばさが出来たぞ」

 

俺はロロンドに、自分で作ったキメラのつばさを見せる。それを見て、ロロンドは感激してさらにテンションが上がった。

 

「おお、これはまさしくキメラのつばさ!さすがは伝説のビルダー、こんなものまで作れるとはな!」

 

さっきも聞いたが、この世界ではビルダーは伝説の存在のようだ。地球では、誰もが物を作る力を持っているのに。

 

「おぬしには、メルキドを復活させるのともうひとつある、我輩の夢についても話そう」

 

「もうひとつの夢?」

 

「それは、なぜかつてのメルキドの町が滅びたのかを調べることだ。」

 

メルキドが滅びた理由?普通に考えて魔物の攻撃を受けたからじゃないのか?

 

「それは竜王の配下の魔物のせいじゃないのか?」

 

ロロンドは、首を横に振った。

 

「いや、メルキドの城塞はとても固く、魔物ごときに壊せるはずが無いのだ。それに何より、守り神であるゴーレムがいたはずなんだ」

 

ゴーレム、ドラクエ1でも、メルキドを守っていたよな。そんな鉄壁の守りがあったのに、滅びた。それなら、単なる魔物の襲撃が原因とは考えにくい。

 

「だから我輩はメルキドの町が滅びた理由を調べているのだ。」

 

「そう言うことか。俺も協力する」

 

俺も、何か分かったら知らせよう。

 

その日の夕方、ピリンが休んでいた俺に話しかけてきた。

 

「ねえ、雄也!ちょっといい?」

 

俺は疲れてるんだが、また何か相談があるのだろうか?

 

「俺は疲れてるんだけどな···とりあえず話してくれ」

 

「雄也、わたしもロロンドも、ここら辺には生で食べられるものがモモガキしかなくてすぐお腹がすいちゃうの」

 

モモガキの実はウマイが、全然お腹がいっぱいにならないのが問題だな。

 

「昨日から、物を作ることも始めたから、なおさらすきやすくなったの。そこで思いついたんだけど、料理が出来る部屋があったらいいんと思わない?」

 

料理部屋か、確かゲームでは料理用たき火というものがあったな。確か材料は太い枝五個、じょうぶな草三個、たき火一個で作れたはずだ。魔法で確認したが、それで合っていた。

 

「確かにあるといいな。俺は調理用のたき火が作れるから今すぐ作ってくる。ピリンは寝室で待っていてくれ。」

 

俺は近くにいるスライムを倒し青い油をてに入れ、在庫が山ほどある太い枝二本と一緒に魔法をかけたき火を作り、そこからさらに太い枝に五本とじょうぶな草3本を取りだし料理用たき火を作る。青い油はこれからもたくさん必要になりそうだから、ロロンドにも手伝って貰ってたくさん集めよう。

料理用たき火が出来ると、次に料理部屋の壁を作っていく。寝室とくっ付けて作り、すぐに食べに行けるようにした。まだ土ブロックがたくさんあるので、調達しなくても壁を完成させることが出来た。

 

「料理用たき火を置いて、扉をつければ完成だな。」

 

俺はまず料理用たき火を置いてから、わらのとびらを作りに行った。太い枝やじょうぶな草は森で100個以上拾ったため、当分の間不足することはなさそうだ。調理部屋には料理の材料を入れて置くための収納箱を作ることにした。そう言えばゲームのように、完成した料理を収納箱に入れれば保存することができるのだろうか?今は一人なので、ルビスに聞こう。

 

「おいルビス、収納箱に入れれば、料理を保存することができるのか?」

 

「はい。収納箱に入れている間は、品質は変化しません。」

 

それなら、完成した料理を入れておくのにも必要だな。俺はわらのとびらと収納箱を設置し、この世界に来てから3つめの部屋、調理部屋を作った。

 

「ピリン、ロロンド!調理部屋が完成したぞ!」

 

お腹が減っているであろう二人は、ダッシュで調理部屋に駆け込んで来た。

 

「もうおなかペコペコだったんだ、ありがとう!」

 

「早速何か作ってみようぞ」

 

俺は今ある食材で焼く必要があるのはキノコだけなので、焼きキノコを作ることにした。ゲームではキノコ一つだけで作れるのに、何故か串が付いている。おそらくビルダーの魔法で作れば、本当にそうなるのだろう。

 

「焼きキノコでいいか?」

 

「もちろんだ!早く作ってくれ。そう言えば、メルキド録には男料理のページがあったりするんだ」

 

メルキド録にはあまり重要そうじゃなさそうだけどそんな記述もあるのか。ロロンドはキノコが好物のようだ。俺はキノコ3つに魔法をかけ、焼きキノコにした。一人一つずつだが、モモガキよりは腹が膨れるだろう。そしてやはり串は勝手に何故か現れた。

 

「できたぞ、一緒に食べよう。」

 

俺たち3人は焼きキノコにかぶりついた。俺とピリンはゆっくり食べたが、キノコ好きのロロンドはすぐに平らげてしまった。食べ終わると、今度は串が自動消滅した。

 

「ビルダーの魔法の力で発生した串はキノコを食べ終わると消えるようだな。それより、おかわりはないのか?」

 

ロロンドは、串が消滅する原理をそんなふうに言った。でも、ロロンドにとってはそのことより焼きキノコのおかわりのほうがだいじなようだ。

 

「食料は大事にしないといけないから、おかわりは無しだぞ。もし今たくさん食べれば、この先飢餓状態になるかもしれない」

 

おかわりを貰えずロロンドはガックリとして部屋に戻った。もう真っ暗な夜なので、俺たちも部屋に戻って寝ることにした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode4 町を狙う骸骨

メルキドに来て三日目、俺は朝早く起き、調理部屋でモモガキの実を食べていた。俺はこの世界に来てから早寝早起きの生活を送っており、地球にいた時よりも生活のリズムが保たれていた。今日は出かける予定はまだないし、町で1日を過ごそうかと思っているが、何か不穏な気配を感じていた。

 

「今日はなんか、嫌な事が起きる気がする」

 

俺が朝食を食べていると、ロロンドが起きてきて調理部屋に入って俺にあいさつをしてきた。

 

「おはよう雄也。ところで何か嫌な気配を感じるのだが何かあったのか?」

 

ロロンドも、不穏な気配を感じ取っていたようだ。今の所は何も起きていないので、ロロンドも朝食を食べる。

俺は先に食べ終わり、外に出ていた。すると、ピリンももう起きて、町の中を散歩していた。俺は何時も夜中起きて昼間はおそくまで寝ているのに、メルキドの朝は早い。だが俺はそれにもう適応できていた。

 

「ピリンも起きてたんだな。ん、あれは?」

 

ピリンに声をかけようとしていると、町の西側から謎の人影が5つこちらに向かって来ていた。

 

「誰だろあいつら?新しい住民か?」

 

新たな仲間だったら歓迎しないといけないと思ったが、姿がはっきり見えるようになると、それは人間ではないことが分かった。そこにいたのは、人の形をしているが肉や内臓がなく、骨だけあるという気味の悪い魔物、がいこつだった。

 

「なんだ、新しい住民じゃないの。一気に五人増えてくれたら町の復興も大きく進むはずなんだけどな」

 

でも、そこで気になることがあった。この草原には、がいこつは生息していない。それなのに確かにがいこつがいて、だんだん町にこの町に接近している。

 

「もしかして、俺たちが町を作っているのが気づかれて、潰そうとしている!?」

 

よく考えると、そうとしか考えられなかった。ゲームでも、ストーリーを少し進めると、町にモンスター、それもがいこつの群れが襲撃するイベントがあった。今はそれが、現実に起きているようだ。それなら、今すぐピリンやロロンドに伝えないといけない。俺は調理部屋の扉を開き、ロロンドに大声で言った。

 

「敵襲だ!がいこつの群れがこの町を潰そうとしている!迎え撃とう!」

 

「なに!?準備を整えて、襲撃に備えるぞ!」

 

ロロンドはがいこつがもう目の前に来ていることを知らないようだ。準備を整える時間はない。あと30秒も経たないうちにがいこつは町に到達する。

 

「時間がない!今すぐ迎え撃つぞ!」

 

ロロンドの装備を整えていなかったので、俺は棍棒、ロロンドはひのきのぼうで立ち向かうことになった。俺たちが出撃しようとしていると、ピリンが調理部屋に入ってきた。

 

「大変、魔物がきたよ!」

 

「分かってる。今からロロンドと俺で迎え撃つ!ピリンは調理部屋に隠れててくれ」

 

「分かった。雄也、負けないでね」

 

「もちろんだ!必ずメルキドの町を守り抜く」

 

俺とロロンドが、外に出ると、がいこつはもう光の範囲の中に入った。そこで、ルビスの声援も聞こえた。

 

「これが初めての本格的な戦いです。雄也、あなたたちの勝利を、信じていますよ」

 

「その期待には答えないといけないな、行くぞ!」

 

そして、メルキドの町の一度目の防衛戦が始まった。

 

がいこつたちの陣形は、前衛に二体、真ん中に二体、後ろに隊長というものだった。まず俺たちに前衛のがいこつが切りかかってきた。

 

「人間どもめ、お前らも町も滅ぼしてやる!」

 

そういえば、魔物の中には、しゃべることの出来る奴もいるのか。って今はそんなことはどうでもいい。俺はがいこつの攻撃をかわし、肋骨と頭蓋骨を殴った。

 

「お前もスライムやキメラと同格だな」

 

攻撃スピードも威力も、対して強くはなかった。最弱クラスの魔物と同じに扱われて怒ったがいこつは、剣を何度も振り回した。俺は棍棒で受け止めて、攻撃の手が止んだところに、もう一度攻撃を加えた。もう一撃で倒せそうだが、別のがいこつも攻撃してきたため、俺は一度攻撃の手を止める。それに隊長も俺に攻撃してきた。俺が二体同時でも戦えるということを知っているのだろうか。

 

「隊長はそう簡単には死なないはずだ。手下を先に一体ずつ倒していく!」

 

ロロンドも二体同時で戦っており、対応しきれず傷を負っていた。傷を負いながらもがいこつに攻撃はできているので、もう少し倒せそうだ。だが傷を負った人を連戦させるのはよくない。がいこつの隊長は俺が倒さないと。

 

「まずはコイツから!」

 

俺は弱ったがいこつに隊長の斬撃を避けながら棍棒を叩きつけ、倒した。がいこつは、ぼろぼろの布のような物をおとした。しかし、今は拾っている暇はない。

 

「ビルダー!お前は俺が倒す!」

 

隊長の攻撃は普通のがいこつとスピードはおなじだが、威力が高いので喰らうとまずい。隊長と1対1で戦いたいが、もう一体のがいこつが邪魔をしてきて、なかなか出来ない。そいつを倒そうとすると逆に隊長が邪魔をしている。ロロンドは、片方を倒せたようだが、まだ戦っているので、引き付けてもらうことは出来ない。

俺は一時的にがいこつをおとなしくさせるため、手下のがいこつを投げ飛ばして、その瞬間にしてきた隊長の攻撃を受け止めた。隊長の攻撃は受け止めてても腕が痛むくらいの威力で、棍棒も一部が欠けた。何度も受け止めていると武器が壊れてしまう。一方投げられたほうのがいこつはバラバラに砕け、動かなくなった。

 

「消えてないってことは、死んでないってことだろうけど、しばらくは動けないな」

 

今のうちに隊長を倒そうと、攻撃を避けながら何度か殴る。しかし、なかなか隊長は死なない。手下のがいこつは4回殴れば倒せたのに。

30秒くらい隊長と戦っていると、後ろから変な音がした。振り替えると、手下のがいこつがもう起き上がって、がいこつの隊長との戦いに集中している俺を切りつけた。

俺はそれをかわし、反射的にカウンター攻撃のようなものをがいこつの頭蓋骨に叩きつけた。二回も頭を強打したがいこつさすがに再生力が尽き、消えていった。しかし、隊長の方を向くと、素早い強力な攻撃を放ってきた。

 

「くそっ、かわしきれない!」

 

手下のがいこつを攻撃したせいで反応遅れ、俺は腕を切りつけられてしまった。かなり深く斬られ、その痛みで武器を落としそうになる、なんとか持ちこたえる。

 

「よくも俺の部下を!」

 

がいこつの隊長の怒りは頂点に達していた。だが、怒りのせいで判断力が鈍り行動が単純になり、動きが読みやすくなっていた。

 

「おおい!こっちは倒したぞ!」

 

俺と隊長との戦いが続いている時、ロロンドの声が聞こえた。ロロンドはかなり傷を負いながらもがいこつを倒し、俺を援護しにきたようだ。

 

「あんた怪我をしてるだろ。こいつは俺が倒すから、ロロンドは下がっててくれ」

 

俺はロロンドを引き下がらせようとするがロロンドは聞かず、ひのきのぼうを手に隊長を攻撃した。

 

「ここで引き下がることは出来ん!雄也よ、共にこいつを倒すぞ!」

 

ロロンドは平気そうなので、無理には止めずに一緒に戦うことにした。

 

「じゃあロロンド、こいつを倒すぞ」

 

ロロンドは隊長の後ろに回った。ロロンドが背後を狙っているのにすぐに気づいたがいこつの隊長は後ろを振り向いた。どが反対側からは俺が狙っている。がいこつの隊長は勝ち目がないと思ったのか逃げようとする。もちろん俺とロロンドは逃すわけにはいかないとがいこつの隊長の後頭部を強打する。

 

「逃がすわけにはいかない!」

 

追い詰められて逃げるのもやっとな状態のがいこつの隊長に棍棒を思い切りふり下ろした。遂にがいこつの隊長は力尽き、光になって消えた。

 

「やったぞ雄也!倒したぞ」

 

「俺たちで頑張ったおかげだな」

 

町を狙った骸骨は倒したが、俺とロロンドは怪我を負って、かなり苦戦した。これからはもっと強い武器が必要になるだろう。

 

「まずはこいつらが落とした物を回収するか」

 

骸骨軍団が落とした物の中に、武器の素材になるものがないか探した。しかし、布や骨など役にたたなそうなものばかりだった。

 

「使えるものはないな。でもこれは何だ?」

 

骸骨の隊長は手下とは違い、半分に割れた石板のような物を落とした。ゲームでは確かこれが旅のとびらという物になって、次のフィールドに行けるんだったな。体験版はそこで終わるので、もし別の場所に行けたとしたらそこは未知の世界だ。

 

「本当に旅のとびらか分からないし、ロロンドやピリンにも見せて来るか」

 

その前に、俺とロロンドの分の傷薬を作っておこう。ロロンドとピリンはそのあと寝室に入ったので、そこにいるはずだ。俺はまず自分に傷薬を塗り、もう一つをロロンドに渡しに行った。

 

「おい、ロロンド。傷薬を持ってきたぞ」

 

俺は寝室で傷薬を渡し、それを塗ったのを見てから謎の石板をピリンとロロンドに見せた。

 

「二人とも、この石板が何か分かるか?さっきのがいこつの隊長が落としたんだ。」

 

「なあに、その石板?」

 

ピリンは知らないようだが、ロロンドはその石板を見て驚いている。

 

「もしかしてこれは、旅のとびらかもしれん!メルキド録に書かれた物でな、他の場所に一瞬で移動することが出来るのだ。さらに旅のとびらと言うのは自分が必要とする物がある場所に繋がるそうだ。」

 

やはり、これは旅のとびらのようだ。自分が必要とする場所に繋がるってめちゃくちゃ便利だな。

 

「でもこれ、壊れてるぞ」

 

「いや、ビルダーであるお主なら、旅のとびらを修復できるはずだ」

 

そう言えばゲームでも自分で作れって言われたな。なぜモンスターは壊れた状態で落とすんだろうな?確か土と青い油で作れたはずだが、壊れていない状態で落としてほしい。また青い油が必要だな。スライムは棍棒なら速攻で倒せるし、怪我をしてる俺でも大丈夫なはずだ。俺は町の近くにいるスライムを10匹くらい倒した。

 

「旅のとびら修復には一個で良かったはずだけど、使う機会が多いのを考えると多く集めておいたほうがいいな」

 

俺は青い油を集めると石の作業台で旅のとびらを修復させた。そう言えば、ゲームでは旅のとびら·青って名前だったから、別の色もあるのかな?旅のとびら一個で世界全部に行ける訳が無いから、そう言うことなんだろうけど。俺は旅のとびらを修復し、町の一角においた。現実には拠点レベルなんて概念はないから、部屋の中に置く必要はない。

 

「おいロロンド!旅のとびらが開いたみたいだぞ」

 

ロロンドは傷を負っているのに、いつものテンションで走ってきた。

 

「よくやった雄也!これであらたな土地とこの拠点を行き来することが出来るようになるだろう。新しい地には新しい素材がある!新しい素材があれば、新しい物が作れるぞ!」

 

それは楽しみなので早く行きたいが、今日は戦いで疲れている。探索は明日からにしよう。

 

「早く行きたいけど、分からない場所に疲れた時に行くと危険だぞ。今日はゆっくり休もう」

 

ロロンドも無理に今日行こうとは言わなかった。ゲームと違って傷薬を塗ってすぐに怪我が治るわけでもないしな。

俺たちは明日からの探索に備え、早めに寝ることにした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode5 おおきづちの里

防衛戦の日の夜、俺は不思議な夢を見た。夢の中に出てきた兵士は、俺ではない誰かと話していた。

 

「え?何ですって?王様の話を忘れた?」

 

夢の中の誰かは、王様に何らかの命令をされたが、その内容を忘れてしまったようだ。

 

「仕方ないですね。私からもう一度言います。その昔、伝説の勇者ロトは神から光の玉をさずかり、この世界を覆っていた魔物たちを封じ込めたと伝えられています」

 

ロトが伝説として語りつがれていると言うことは、ゾーマが倒されてからかなり時間がたっているようだ。次の兵士の発言で、誰が話していたのかが分かった。

 

「しかし、どこからか現れた悪の化身、竜王がその玉を闇に閉ざしてしまったのです。このままでは、世界は再び闇に覆われ、滅びてしまうでしょう。竜王を倒し、光の玉を取り戻す。それがあなたの使命なのです!」

 

竜王の討伐を命じられているということは兵士と話しているのは間違いなくゲームでいうドラクエ1の主人公、勇者になるはずだったのに裏切った戦士だ。

夢の続きを見ていると、兵士が戦士に希望をたくしていると話をする。

 

「国中の人々があなたに希望を託しています。どうか竜王を倒しこの世界を救って下さい。」

 

こんなに期待されているのならば、竜王を倒して世界を救ったほうが絶対良かったのに、どうして裏切ったのだろう。

そこで夢は終わり、俺の意識は現実に戻される。

 

「何だったんだ、あの夢は?」

 

過去の誰かの記憶を夢に見るなんて初めてだ。これもビルダーの力なのだろうか。

目覚めると朝になっていた。今日は旅のとびらの先を探索する日だ。俺は準備をしに工房に向かった。夜寝るときに武器を持っていると邪魔になるので、寝るときは武器は工房にしまっている。

 

「まだ町の人口は3人のままか」

 

ゲームであれば竜王軍バトル、すなわち防衛戦に勝つと、ロッシという口の悪い青年がやってくる。しかし、昨日も今日も、ロッシは現れていない。ロッシはゲームにしかいないのか、死んだのか、まだ来ていないのかのどれかだろう。口の悪い奴だったとしても、町の役に立ってくれれば俺は構わない。

 

「まあ、ロッシは役にたつか分からないけどな」

 

体験版ではロッシは少し出てくるだけで、どんな性格なのかは分からない。ロッシのことも気になるが、とりあえず俺は工房に入った。

 

「雄也よ、起きてきたか。今日はいよいよ旅のとびらの先を探索するのだな?」

 

「ああ、新しい素材をてに入れられるかもしれないしな」

 

「そこでだ雄也、お主に頼みたいことがある」

 

頼みたいこと?いったい何だろう。探索ついでにしておくか。

 

「頼みたいことって?」

 

「昨日、旅のとびらは求めている物がある場所に繋がるという話はしただろ?」

 

そういえば、そんな話をしていたな。

 

「その性質を使って、お主にはビルダーの証とも言える武器、おおきづちの作り方を調べてきてほしいのだ」

 

ゲームでもそんな依頼があったけど、旅のとびらに入ると続きは製品版でとか言われて、結局作れないんだよな。

 

「メルキド録によると、おおきづちを使うとこれまで固くて壊せなかった木や岩も壊せるという。」

 

確かに木や岩を素材に出来るようになったら作ることのできる物も一気に増えるだろう。メルキド録には、そこまで細かく武器の性能が書かれているのか。俺も読みたいけど、失われた古代の文字で書かれてるから無理なんだよな。

 

「おおきづちの作り方は、その名のとおり、魔物のおおきづちが知っているはずだ。おおきづちの作り方を探って、我輩たちにも教えてほしいのだ」

 

「でも、何で急にそんなことを頼んで来たんだ?」

 

「我輩は町作りに協力すると言ったものの、たいした素材をとることも出来てないだろう?だから強い武器でたくさんの素材が取れるようになれば、町作りに貢献できると思ってな」

 

メルキド録の解読も行っているし、ロロンドは十分に役立っていると思うが。本人にとっては、まだ足りないらしい。

 

「作り方が分かったら教えるぞ。でも、魔物からどうやって情報を聞き出すんだ?脅迫して吐かせるのか?」

 

メタルギアのスネークのように喉にナイフをあてれば教えてくれるかもしれないが、ナイフのような鋭い武器は持っていない。棍棒では喉は切れないので、脅しには使えないだろう。

 

「いや。実はおおきづちというのは人間に友好的な魔物でな。普通に話すことも出来るだろう。」

 

そうなのか?他のドラクエシリーズではおおきづちは普通に敵だった気がするが。というか人間に友好的な魔物がいること自体、初めて知った。

 

「じゃあ作り方を教えて貰えるかもしれないな。そろそろ行くか」

 

出発前に、ロロンドには食料集めを頼んでおくことにした。

 

「ロロンドは俺がおおきづちの作り方を調べている間、ピリンと一緒に食料を集めておいてくれ。今は食料も足りてるけど、これから町の住民が増えたらすぐに無くなる。その前に補充しておきたいんだ。」

 

「任せておけ。そっちも頑張るのだぞ」

 

お互いに頼みごとをし、俺はいよいよ旅のとびらに入った。旅のとびらに入ると、一瞬目の前が真っ白になったが、すぐに土ブロックでできた荒れ地のような場所についた。

 

「ここが旅のとびらの先か」

 

移動した地点にも旅のとびらがあり、そこから町に帰れるようだ。俺は探索を始める前にまずまわりを見回した。すると、ここは崖や高低差が多い険しい山岳地帯であることが分かった。今いる場所の標高も町より高い。

 

「険しい場所だな。調べるのが難しそうだ」

 

大変そうな場所だが、俺は探索を始めた。そこで初めて見た魔物は、おおきづちではなくスライムの色ちがい、スライムベスだった。生息している魔物も町の近くとは異なるようだ。

 

「スライムが青い油を落としたってことは、こいつも油を落とすかもしれないな。」

 

俺はスライムベスに近づき棍棒で殴る。スライムより耐久力は高いが、攻撃スピードはほぼ同じで動きも単純なので、数回殴ってあっさりと倒すことができた。所詮はスライムの色違いだな。スライムベスを倒した所を見るとやはり油が落ちていた。あっちが青い油だから、こっちは赤い油だろう。ゲームと違って勝手に名前が出るわけではないので正式名称は不明だが、おそらくは赤い油だろう。オレンジの油って何か変だしな。俺は赤い油を集めながら、先へと進んでいった。途中、少し気になる建物があった。

 

「なんだあれ?誰か住んでいるのか?」

 

家のようだが、入り口に扉がない。そして、建物の前には看板が書いてあった。その看板を読んでみると、おおきづちの里 案内所と書かれていた。

 

「ここにおおきづちがいるのか。案内所って書いてあるし入ってみるか」

 

俺は案内所の中へ入った。中にはおおきづちが一匹いて、俺が入って来たことでとても驚いていた。

 

「お、お前は人間じゃないか。さも当然って顔で入ってくるとは向こう見ずというか大胆というか···」

 

「案内所って書いてあったから入って来たんだけどな。聞きたいことがあって」

 

「ま、まあいいさ。おれは昔から人間が嫌いじゃない。聞きたいことって何だ?」

 

最初話を聞く気がないのかと思ったが、ちゃんと聞いてくれるようだ。

 

「おおきづちの作り方を教えて欲しいんだけど、知ってるか?」

 

するとおおきづちは俺はまじめに聞いているのに変なことを言い出した。

 

「お、お前はなんてえっちな質問をするやつなんだ!?」

 

俺はただおおきづちの作り方を聞きにきただけなのに、何でえっちなんて言われるんだ?そこまで考えたところで気づいた。どうやらこいつは俺が武器のおおきづちの作り方ではなく、魔物のおおきづちの作り方を聞いたのだと誤解してしまったようだ。

 

「そうじゃなくて、俺が聞いているのは武器のおおきづちの作り方だ」

 

「な、なんだそっちのほうか。急に子供の作り方を聞かれたかと思ってびっくりしたぜ。」

 

だが、魔物もそうやって増えることを知れて良かったのかもしれないが。

 

「それなら、この先の家に住むおおきづちの長老が知っているはずだぜ。長老の家は屋根にかがり火が置いてあるから、それを目印に探してくれ」

 

「教えてくれてありがとう。じゃあな」

 

情報を聞くことが出来たので、案内所を去ろうとした俺に、おおきづちは何かを渡して来た。

 

「ほらよ、人間これをやる。おれからのお近づきのしるしってやつだ」

 

それは案内所のものと同じ形の何も書いていない看板だった。別に使用することは無さそうだが、せっかくくれたものなので受けとることした。

 

「さて、長老の家は何処だ?かがり火が置いてあるって言ってたけど」

 

案内所を出てからまわりを見ると、100メートルほど離れた場所にかがり火のある大きな家が見えた。その家までは、歩いて一分ちょっとで移動することができた。その途中、案内所や大きな家の壁に張り付いているつたを見つけた。

 

「つたか···結構丈夫だし頑丈なひもが作れるかもな。」

 

ひもを思い付いた所で、収納箱にひもをつけることで持ち運べるようにする持ち運び収納箱も思い付いた。俺はひもと持ち運び収納箱の作り方をビルダーの魔法で確認する。どうやらひもはつた3個、持ち運び収納箱は収納箱とひもを一つずつで作れるようだ。持ち運び収納箱はロロンドたちに渡し、みんなが液体の物や大量の物を回収できるようにしよう。俺はつたを10個くらい集め、ポーチに入れた。

 

「あれ、何か入りにくいな?」

 

魔法のポーチにも容量の限界があるらしく、そろそろいっぱいになるようだ。帰ったら収納箱に入れておこう。

俺は長老の家に入る前にあることを思い付いた。おおきづちの作り方を魔法で調べれば、聞きに行かなくてもいいんじゃないか?

本当に出来るか分からないが俺は試してみた。しかし、おおきづちの作り方は分からなかった。

 

「あれ、素材が浮かばないな。何でだ?」

 

その時、ルビスの声が聞こえてきた。

 

「ビルダーの魔法は、形が分かっている物にしか発動しないのです。あなたはまだおおきづちの形を知らないでしょう」

 

そう言うことか、俺はおおきづちの形状は全く知らない。やはり長老に聞くしかないな。俺は大きな家の中に入った。そこには普通のおおきづちより体の大きなおおきづちが住んでいた。

 

「お主、人の子か···?」

 

大きなおおきづちは俺に話しかけてきた。こいつがおおきづちの長老だろう。

 

「そうだ。あんたがおおきづちの長老なのか?」

 

「いかにもわしがおおきづちの長老だが。人間よ、何か用か?」

 

俺はさっそく長老におおきづちの作り方を聞いた。

 

「おおきづちの作り方を教えてほしい。案内所のおおきづちが長老なら作り方を知ってると言ってたんだ。」

 

「それなら、まずはいきのよいぴちぴちとしたおおきづちをはらばいにして···」

 

何言ってんだこいつ?またおおきづちの子供の作り方と間違えられたのか。俺は思春期の男子なのでそっちにも興味はあるが今は聞く必要はない。

 

「さっきも誤解を受けたんだが、俺が聞きたいのは武器のほうのおおきづちだ」

 

「おぬしが聞きたいのはそっちのほうか。だが、おおきづちは我らが秘宝。作り方はそう簡単には教えられぬな」

 

教えてくれないのか。やっぱり、脅迫して聞き出したほうがいいのか?いや、今は平和的に解決しよう。

 

「何とか教えて貰えないか?」

 

「ならこうしよう。この家の天井に3つ穴があいていてな。それを埋めてくれたらおおきづちの作り方を教えてやろう」

 

交換条件ってことだな。天井を見てみると、確かに穴が空いていた。天井の修理か、そのくらいならお安いご用だ。

 

「任せてくれ、今すぐ天井を直す。」

 

俺は家の屋根に登り、土ブロックを3つ取り出して穴を埋める。そろそろ土ブロックも少なくなってきたので補充しないといけない。穴を埋め終わり、長老のところへ戻ろうとすると屋根に町にあるのと同じタイプの石の作業台があるのを見つけた。作り方を教えて貰ったらここでおおきづちを作ろう。

 

「天井を修理したぞ、これでいいか?」

 

「天井の修理を、いとも簡単にやってのけるとは、お主、もしかして伝説のビルダーか?」

 

そうだ。と言おうとした所でおおきづちの長老は俺の言葉をふさいだ。

 

「いや、なんでもない。わしは聞かなかったことにしよう」

 

他の魔物にビルダーを隠していることがバレたらただじゃすまないからな。俺も言うのは止めた。

 

「人間は昔は強い存在であったが今は力を失い滅びを待つ存在。かたや我々はその数を増やす一方だ。」

 

竜王のせいで、人間は衰退していった。奴は一体何を考えているのだろうか。

 

「確かに人間が増えすぎても困ることは確かじゃ。しかし、このままでは世界の調和というものが···」

 

人間が増えすぎると困るか···味方であるはずのおおきづちがそんなことを言うなんて意外だ。彼らと他の魔物の違いは、人間と魔物のバランスを考えているかいないかの違いということか。まあ、地球で育った俺から見ても人間が増えすぎると困るというのは分かる。地球では人口爆発とやらで人類が増えすぎて環境が破壊されたり食料が無くなったりしている。そう考えると、その意見も分かる。

 

「よし、竜王様には言えぬが、ほんの少しだけお主のことを助けてやろう。約束であった。おおきづちの作り方を教えてやるぞ」

 

おおきづちの長老は自分の意見を言った後、おおきづちの作り方を教えてくれた。太い枝2本を加工し持ち手の部分と攻撃する部分を作り、その2つをくっ付けるらしい。くっつけるなら、ひもが要りそうだな。形なども分かったので、魔法で作る時の素材も調べた。すると、太い枝3本と出た。手動と自動では必要な素材が違うようだ。

 

「ありがとうな、おおきづちの長老」

 

「がんばるんだぞ、人の子よ。」

 

俺はおおきづちの長老と別れた後、屋根の石の作業台でまずおおきづち3つを作った。その次にひもと収納箱を作る。ひもは作ると一度に10個完成した。ピリンとロロンドの分の持ち運び収納箱を作ってもまだ8個ある。

俺はおおきづちと持ち運び収納箱を作り、メルキドの町に戻った。

 

「ロロンド!おおきづちを作ってきたぞ」

 

ロロンドたちは沢山取ってきた食料を調理部屋の収納箱に入れていたが、俺の声を聞くと、すぐさま走ってきた。

 

「そ、それは本当か、早く見せてくれ」

 

「どんなのを作ったの?」

 

俺はピリンとロロンドにおおきづちを渡した。ピリンは戦闘は出来なくても採掘などは出来るだろう。

 

「こ、これがおおきづちか、素晴らしいぞ!これでもっと町を発展させられるぞ!」

 

いつもテンションの高いロロンドだが、今はさらに盛り上がっていた。

 

「あと、二人も沢山の素材を回収できるよう。持ち運べる収納箱を作ってきた」

 

「本当に?見せて見せて!」

 

頼まれてはいないが作ってきた道具、持ち運び収納箱も二人に見せた。

 

「まさかこんなものまで作ってきてくれるとはな!これで我輩ももっと活躍できるぞ。そうだ、今度みんなで旅のとびらの先に素材を取りに行かないか?」

 

ロロンドは喜んで、このさきのことまで提案していた。あと、俺は二人におおきづちの作り方を教えた。自分で作ったほうがよりものを作る力を取り戻せるだろう。俺は長老に教わったことを伝えた。

 

「もしおおきづちが壊れたりしたら、自分でも作ってみてくれ」

 

「ああ、お主に任せっきりなのもいかんからな!」

 

俺たちはおおきづちを手に入れ、少しずつ強くなってきていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode6 衛兵の子孫

おおきづちを作成し、旅のとびらの先の探索に戻ろうとしている時、メルキドの町に向かって誰かが歩いてきた。俺はその人の姿をゲームでは何度も見たことがあった。

 

「あいつ、もしかしてロッシか?」

 

緑色の帽子を被った、二十代くらいの男だ。ロッシはゲームにしかいないと思っていたが、リアルアレフガルドにもいるようだ。

 

「光を見つけて歩いてきたら、まさかこんな場所があるなんてな」

 

その男は、人が集まっているのが珍しいのか、俺たちの町を不思議なもののように見ていた。そして、彼は俺に話し書けてきた。

 

「お前誰だ?ここでなにやってるんだ?」

 

「俺は雄也、ここで仲間たちといっしょに町を作っている」

 

それを聞いて、彼は信じられなそうな顔をした。

 

「なんだって?ここで町を作っているだと。ずいぶんくだらねえことしてんだな。この世界では自分が生きていくのがやっとなんだ、人間が協力しあって暮らすだなんて、よくそんなことができるな。」

 

くだらないことだなんて、失礼な奴だ。それに、一人で生きていくのがみんなで協力しているんじゃないか。一人では出来なくても、力を合わせれば出来るって言われることもよくあるのに。

 

「失礼なことを言う奴だな。一人で生きていくので精一杯だから、みんなで協力して乗り越えるんだぞ。気に食わないのなら無理に仲間になってくれとは言わない。この町と別の場所で暮らせばいい」

 

「歩きすぎて疲れちまったからな。少しの間、オレもここにいさせてもらうぜ。俺はロッシ。長居するつもりはねえが、よろしくな」

 

やっぱりロッシだったようだ。ロッシは少し考えたのち、この町に滞在することに決めたらしい。だが、あんまり気の合わなさそうな奴だな。長居するつもりはないって言ってたから、しばらくの付き合いだろうけど。一応、町の仲間を紹介しておくか。

 

「おい、ピリン、ロロンド!新しい人が来たぞ」

 

「おお!町の仲間も四人になったか!」

 

「え?誰が来たの?」

 

ピリンとロロンドを呼び集めて、ロッシのことを紹介する。

 

「こいつが今来たロッシだ。長居するつもりはないと言ってるから、完全に町の仲間って訳ではないけどな。しばらくの間、よろしく頼む」

 

「ロッシだ。よろしくな。お前たちは?」

 

俺の紹介に続けて、ロッシもあいさつをする。ピリンとロロンドは、順番に名前を名乗った。

 

「わたしはピリン。雄也やロロンドといっしょに、この町を大きくしていってるの。よろしくね、ロッシ!」

 

「我輩はロロンド。我輩もメルキドの町を復興、発展させようとしているんだ。よろしく頼むぞ!」

 

俺はロッシのことは少し気に入らないが、二人は仲良く出来そうだ。同じ町にいる者として、俺も仲良くしないといけないが。

 

「さっきは下の名前しか言ってなかったな、俺の本名は影山雄也だ。でも、普段は雄也って呼んでくれ」

 

俺は一応フルネームで名乗るが呼ばれる時は雄也だけのほうがいい。俺たちは自己紹介をし終わり、ピリンとロロンドは町の外に出掛けて行った。早速持ち運び収納箱を使ってくれているようだ。二人が出掛けていった後、ロッシは俺に話しかけてきた。

 

「今聞いたが、お前たちは人を集めて、町を大きくしてるんだったな。実は、そのことでちょっと心当たりがあるんだ」

 

「心当たり?他の人間の居場所を知ってるのか?」

 

「ああ、お前おおきづちの里って知ってるか?」

 

おおきづちの里、さっきまで行っていた場所のことだな。

 

「もちろん知ってる。お前が来る前に、そこを探索していたからな。」

 

「なら話が早いな。おおきづちの里の奥に、陸と細い道で繋がった小島がある。その小島で人を見た気がするんだ。もしその気があるなら、探しに行ってみるといい。」

 

魔物に襲われている可能性もあるな、なるべく早く見つけに行こう。

 

「分かった。ロロンドたちにも伝えておいてくれ」

 

俺は再び旅のとびらに入り、ロッシの言っていた小さな島を探そう。途中、山の斜面に茶色や黒色の鉱石があったが、持ち物がいっぱいなので今は取らないことにした。おおきづちの長老の家を過ぎて少し進んだところに崖があった。

 

「あれがロッシの言ってた島か。何か壊れた家のような物があるな。」

 

崖を降りたところには、小さな島が見えた。別の場所にも崖はあったが、そっちはさらに山岳地帯の奥のほうに続いていた。今は小さな島へ行こう。俺は慎重に崖を降りて島に向かった。

 

「崖とかがあって危険だな。この場所は。」

 

旅のとびらの先の場所は、探索しにくい地形のため、俺はあまり好きではなかった。山岳地帯と小さな島を繋ぐ細い道は町の近くと同じように、スライムなどの弱いモンスターしかいなかった。俺はスライムを避けながら、小さな島にたどり着く。そして、さっきも見えた壊れた家の中に、兵士の格好をしている男がいた。しかし彼は何かに追われているようで、怯えていた。

 

「大丈夫か?」

 

「く、来るな。早く逃げるんだ!早くしないと死ぬぞ!」

 

彼は魔物に追われて、ここに隠れているようだ。今の内に彼を連れだそうとしたが、その壊れた家の中に、2体のがいこつが入ってきた。

 

「ここに隠れていたか、人間!」

 

「それにもう一人いるぞ、獲物が増えたな」

 

がいこつたちは、俺と男を狙って襲いかかってきた。だが、がいこつは相手をしたことがあるし、今はあのときより強い武器を持っている。

 

「俺に勝てると思ってるのか?」

 

俺は左側のがいこつの頭を、おおきづちで殴りつける。がいこつは再生力が高いので一撃では倒せないが、棍棒より大きなダメージを負わせることが出来た。

 

「くっ、かなり強い武器をもってるな」

 

強さは町を襲ったものより少し強いくらいだ。攻撃を受けないよう俺はがいこつの前に立たないよう移動しながらおおきづちで殴っていく。左側のがいこつは、五回ほど殴り付けると倒れた。

 

「もう一体だな。ぶっ倒してやる!」

 

俺はもう一体のがいこつも同じような戦法で戦った。がいこつは前方にしか攻撃できないので、後ろに回って振り返られるまでに攻撃ができる。俺を攻撃できないのでがいこつはイライラして剣でなぎはらってくる。

 

「人間め、さっさとやられちまえ!」

 

「誰がお前らなんかに負けるか!」

 

イライラして振り回したので剣のスピードは上がったが動きは単調なままなのでかわしきれないところはおおきづちを使って防いだ。俺は攻撃のチャンスができるように、俺はがいこつが降り下ろした剣をおおきづちで弾き返した。おおきづちにも傷がつくがたいしたことではない。

 

「くそっ、剣が···」

 

剣を弾き飛ばされ無力化したがいこつの頭を俺は全力で殴り付け倒した。

 

「終わりだ、がいこつ!」

 

俺はこの世界に来てからかなり戦闘ができるようになった。俺は剣を失った魔物でも叩きつぶす。無力化したといえとも魔物だ、生かしておく訳にはいかない。

襲ってきたがいこつを排除した俺は、怯えていた男性に話しかけた。

 

「がいこつは倒したぞ。」

 

「すごいじゃないか、魔物たちを倒してくれるなんて」

 

もう少し来るのが遅かったら彼は死んでいたかもしれない。とにかく助かって良かった。

 

「実は、この辺りで状態のいいひのきのぼうをてに入れて、これなら魔物に勝てるかもしれないと思って戦いを挑んだんだ。そしたら、このザマさ」

 

ひのきのぼうでがいこつに立ち向かうなんて、無謀なことをするやつだな。

 

「君は勝てたかもしれないけど、やっぱり人間の力じゃ魔物にはかなわないみたいだね。」

 

こいつは、魔物に立ち向かうのを諦めているのか?確かに、一人では無理だろうが。

 

「そんなことない。みんなで力を合わせれば魔物にだって勝てるはずだ。」

 

「でも、力を合わせるって言ったって、人が集まっている場所なんてないだろ?」

 

「いや、俺たちの作っている町がある。実は町の仲間を見つけようとしていたら、お前を見つけたんだ。来てくれるか?」

 

「どうせいくあても無いからな。君の町ってところに行ってみよう」

 

俺がいろいろ話して、彼は町の仲間になってくれるようだ。

 

「僕の名はケッパーだ。よろしく頼むよ」

 

ケッパーか、覚えておこう。俺の名前も教えないとな。

 

「俺は影山雄也。いつもは雄也って呼んでくれればいい」

 

「雄也か。そういえば、キメラのつばさという物があれば、使った人だけでなくその回りにいる人も飛ぶことが出来るんだ」

 

知らなかったな。使った本人しか飛べないのかと思っていた。俺はキメラのつばさを持っていたので、それを使ってみた。そもそも、キメラのつばさを使うこと自体初めてだ。キメラのつばさを使うと、俺とケッパーは体が空中に飛び上がり、町の方角へ飛んでいった。

 

「お、これは便利だな!」

 

歩かなくても町に帰れる、本当に便利な道具だ。町に着地する時はゆっくりと着地した。今日二人目の新しい仲間の姿を見て、3人は希望の旗の所へ集まってきた。

 

「雄也、また新しい仲間を連れて来たんだ!」

 

「これは一気に町を発展させられそうだな」

 

ピリンとロロンドは、いつも通りの歓迎ムードだった。

 

「僕はケッパー。メルキドの衛兵の子孫さ」

 

さっきは聞かなかったけど、ケッパーは衛兵の子孫だったのか。だから兵士の格好をしていたんだな。今日3度目の盛り上がりを見せるピリンとロロンドとは逆に、ロッシはケッパーのことを歓迎していないようだ。自分で教えたはずなのに、変わった奴だ。

そして、俺はその後ロッシが、工房で聞き捨てならないことを言っているのを聞いてしまった。

 

「まさか兵士気取りの奴だったとはな。あんなやつの居場所、教えるんじゃなかったぜ」

 

何だと!?あの時助けに行ってなければあのままがいこつに殺されていたのかもしれないんだぞ!?俺は年上だろうがズバズバと物を言うタイプなので、俺はロッシに強い口調で言った。

 

「おいロッシ!ふざけたことを言うな!あのまま放っておいたらあいつ死んでたかもしれないんだぞ!?人の命を何だと思ってる」

 

俺が怒っていることに気付き、ロッシは謝る。

 

「すまん、悪かった。だが、人間は集まるとろくなことがねえ。それが戦いたがりのやつなら尚更だ。」

 

だが、素直に謝るのではなく、よく分からないことを言ってきた。やっぱりロッシは町に協力する気はないのだろうか。さらに、ロッシはこんな質問をしてきた。

 

「お前、どうして城塞都市であったメルキドの町が滅びたか知ってんのかよ?」

 

「まだ分からんな。ロロンドが調べてるらしいけど」

 

「悪いことは言わねえ。これ以上は人を集めたり町を大きくしたりしねえ事だ」

 

それだけ言って、ロッシは去って行った。悪いことは言わねえなんて言ってるが、町の復興、発展を望む俺たちにとっては、悪いことに聞こえるが。それに質問の答えを教えてくれなかったが、あいつは知っているのか?

やっぱり俺とロッシは気が合わなさそうだな。あいつはいずれ、町にとって邪魔な存在になるかもしれない。旅のとびらの先の探索で俺は疲れていたので、ロッシとケッパーの分のわらベッドを作った後、休んだ。気に入らない相手とはいえ、作らないというのはさすがに酷いからな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode7 槌を持つ魔物

ロッシとケッパーが町に来たり、おおきづちの里を探検したりして忙しかった日の翌日、俺は工房にケッパーから呼び出された。

 

「雄也。おはよう。実は僕から君に教えたいものがあるんだ。強力な武器を作るために必要なものさ」

 

武器を作るために必要なもの?珍しい素材でも持っているのだろうか?

 

「それって、なんだ?」

 

「強力な武器を作るためには、金属を加工する必要があるだろ?そのための炉と金床と言うものがあるんだけど、物を作る力を失った僕にはそれを作ることが出来なかったんだ」

 

言われてみると、確かに金属を加工するには炉が必要だな。金属は硬いから、一度溶かして加工する必要がある。

 

「君になら、作れるんじゃないかと思ってね、どうかな?」

 

「多分作れるぞ。どんな形のものなのか教えてくれ」

 

必要な素材を調べるためのビルダーの魔法は、作りたいものの形状が分かっていないと使えないからな。

ケッパーの話によると、炉と金床は石材を加工して作られ、内部で石炭を燃やして熱を発生させる仕組みのようだ。その話で、大体の形も思い浮かんできた。

 

「作れそうだな。俺が素材を取って来るからケッパーはみんなと一緒に家に置く家具とかを作っていてくれ」

 

「分かった。僕も物を作れるようになりたいし、ロロンドたちと一緒に作業するよ。」

 

ロロンドたちはまだ起きていないが、ケッパーは作業部屋で収納箱の中の様子を見ていた。俺も一旦作業部屋に入り、ポーチにたくさん入っているじょうぶな草やふとい枝を収納箱に入れた。俺は出かける前に、炉と金床の作り方を魔法で調べた。

 

「えっと、炉と金床の作り方は?」

 

いつも通り念じると、頭の中に必要な素材が思い浮かんでくる。炉と金床は、石材8個、銅3つ、石材3つで作れるようだ。やっぱりケッパーの言う通り、かなりの数の石材が必要だった。旅のとびらの先にある、大きな岩が石で、崖に埋まっている鉱石が銅と石炭だろう。俺はそれらの素材を取りに、旅のとびらに入った。

 

「まずは石材だな。ここらの石を壊せばいいはずだ。」

 

俺はおおきづちを使い、高さ1メートル以上もある大きな石をたたきつけた。数回たたきつけると割れ、二つの石材らしきものに変わった。

 

「これが石材だな。一度に2つ落とすから、あと3つ大きな石を壊せばいいな」

 

俺は回りにもいくつかあった大きな石を壊し、石材を8つ手に入れた。石材からは、炉以外にも、様々な物に使えそうだ。

石材が揃ったので、俺は崖に銅と石炭を取りに行く。ケッパー救出の時に崖を降りたことがあるので、そんなに苦労せずに崖を降りて行った。

 

「お、鉱脈がたくさんあるぞ」

 

この前見た茶色と黒色の鉱石。これが銅と石炭だろう。俺はおおきづちで銅と石炭を採掘した。全員分の武器を作るため、かなりの数を手に入れた。銅も石炭も、かなりの数が手に入った。ドラクエの世界なら、どうのつるぎあたりが作れそうだ。

 

「どうのつるぎは作れるか?」

 

俺は魔法でどうのつるぎの素材を調べた。すると、聞いたことのない素材名である銅のインゴット一個と分かった。

 

「銅のインゴット?名前からして、銅を加工して作れそうだな。こいつも調べよう」

 

俺は次は銅のインゴットの作り方を調べた。俺の予想通り、銅のインゴットは銅を加工して作るもので、銅3個、それと石炭1個と出てきた。石炭は炉が完成した後も必要なようだ。石炭も集めておいて良かった。

素材が集まったので、俺は町に戻り作業部屋で炉と金床を作り始めた。工房では、まだロロンドたちは起きていなかったが、ケッパーが一人でふとい枝を加工し、棍棒を作っていた。教えなくても、この町の光の中にいれば、少しずつ物を作る力は戻ってくるようだ。

 

「ケッパー、お前が言ってた炉と金床ってものを作りたいから、作業台を使わせてくれ」

 

「雄也、素材を集めるのが早いね。さっそく作って見てくれ」

 

ケッパーが作業を中断して、俺はポーチから素材を取り出して石の作業台に置き、炉と金床が出来るよう魔法を掛けた。たくさんの石材、銅、石炭が集まり、炉の形に変化した。

 

「出来たぞ、ケッパー。これでいいか?」

 

俺は作った炉をケッパーに見せた。ケッパーもうまく出来てると見ていた。

 

「すごいよ君。魔法の力でなんでも作れるんだね」

 

「ああ、炉だけじゃなくて、今からみんなの分のどうのつるぎを作るぞ。まずは銅のインゴットを作って···」

 

俺は今作った炉と金床を工房の中に置き、作業を始めた。俺はまず銅3つと石炭一個から銅のインゴットを作った。銅のインゴット1個だけができるのだと思っていたが、5つも同時に出来た。

 

「次にこの銅のインゴットを加工するんだな」

 

今戦えそうな人、俺、ロロンド、ロッシ、ケッパーの4人分を作った。みんなが金属製の武器を使えば、魔法が攻めてきても戦いが楽になるだろう。

 

「ケッパー、早速炉を使ってどうのつるぎが出来た。強そうか?」

 

「もちろんだよ。ありがたく使わせてもらうよ」

 

ケッパーはどうのつるぎが気に入ったようだ。俺はしばらくして起きてきたロロンドとロッシにも、どうのつるぎを渡した。

 

「ケッパーにはもう渡したんだが、みんなの分の新しい武器を作ってきた。」

 

「これは銅でできているのか、ひのきのぼうよりも断然つよそうだな!」

 

「オレは遠慮しておくぜ、こんなものがあったら···」

 

ロロンドは俺の作った武器を受け取ってくれたが、ロッシは断った。武器を見て、ロッシは何かを怯えていたようだが、何故かは分からない。

 

炉と金床を作ってから3日の間、とくに何も起こらず、ロロンドのメルキド録の解読にも進展は無かった。俺たちはその間金属や石材を集めていた。そのおかげで、作業部屋の収納箱ももういっぱいになって来た。

メルキドに来て8日目、今日も朝起きて、工房に向かった。ロロンドは町を散歩しており、ピリンは何かを作っていた。

 

「おはよう、ピリン。何を作ってるんだ?」

 

「あ、雄也。わたしは調理部屋でみんなでゆっくり食べるためのテーブルとイスを作ってたんだ。みんなと仲良くできる時間も多ければ、協力も深まるでしょ?」

 

「確かにな。俺も手伝うよ」

 

俺は石のテーブルと石のイスの作り方を調べ、石材2個で石のテーブル、石材1個と毛皮1個で石のイスを作った。

 

「ありがとう雄也!できたイスとテーブルを調理部屋に置いてこよう。」

 

俺はピリンと一緒に調理部屋にイスとテーブルを配置した。全員が入れるよう、テーブルを2個、イスを5個置いた。ピリンのおかげで、この町の仲も深まること間違いないだろう。まあ、俺はロッシに対してあまりいい感情を持っていないのだが、一緒に食事をすれば仲良くなれるだろう。

俺が調理部屋でそんなことを思っていると、外にいるロロンドが大声で叫んだ。

 

「おい、みんな大変だぞ!また我輩たちの町に魔物が攻めてきた!」

 

なにっ?魔物だと!?俺が調理部屋から外に出ると、町の西から七体の魔物が攻めて来ていた。キメラが2体、おおきづちの色違いであるブラウニーが4体、隊長と思われる大きなブラウニーが一体だった。ブラウニーの攻撃を喰らえば、弱い土ブロックなどは壊されそうだ。

 

「ロロンド、雄也、魔物が攻めてきたって本当?」

 

ピリンは俺のあとに調理部屋から出てきた。

 

「ああ。今から俺たちが戦うから、ピリンは隠れるんだ!」

 

俺はピリンを部屋に隠れさせ、ロロンドやケッパーと共に戦いの準備をする。今回はブラウニーがいるので、早めに迎え撃とう。

 

「みんな!今回の魔物は家を破壊しそうなやつがいる。町に近づけさせないようにしよう」

 

「ああ!今回も町を守り抜くぞ」

 

「僕もメルキドの衛兵の子孫として、この町のために戦おう!」

 

俺たち三人は、どうのつるぎを持って魔物の群れに向かっていった。そして、やはりロッシは戦おうともせず、寝室に隠れていた。

 

「お、人間ども自分から来たか。おれたちブラウニーはおおきづちの奴らとは違って、人間が大嫌いなんだ!全部壊してやる!」

 

俺たちの姿を確認して、前衛のブラウニーが殴りかかってきた。ブラウニーは手に持っている大きなハンマーのせいで余り早く動くことは出来ないので、がいこつよりも遅かった。俺はハンマーでの一撃をかわし、銅のつるぎで切りつける。

ロロンドとケッパーもブラウニーの動きをよみ切り、手下のブラウニーを倒していく。全員、ブラウニーの攻撃はかわせていた。

 

「武器が強くなってきて、今回は楽そうだな」

 

ひのきのぼうだけでがいこつたちに挑んだときに比べると楽なものだ。目の前にいたブラウニーを切り裂いて倒し、少し後ろにいる四体目のブラウニーを攻撃した。すると、その瞬間火の玉が自分に向けて飛んできた。後ろのキメラが俺を狙っているようだった。

 

「キメラはビルダーを倒せ!われわれが他の人間どもをぶっ殺す!」

 

隊長は部下に指示し、町を壊そうとしている。

俺を狙っている2体のキメラは何度もメラを放ってくる。野生のキメラよりもかなり強い。俺は避けながら近づいてキメラを剣で攻撃する。だが、キメラ2体に気をとられて、俺はブラウニーの攻撃を受けた。後ろからの気配を感じたがハンマーで叩きつけられる寸前だったので、回避しきれず、足に攻撃を受けた。

 

「くそっ!いてえな!」

 

俺はブラウニーの体に深く剣を突き刺して倒した。1つの敵しか見ないのは危険なので、倒した後すぐにキメラの方を向いて、メラをかわす。ブラウニーの攻撃を受けて足が痛むが、問題なく動ける。キメラがメラを打った隙に俺は横にまわり、キメラの体を切り裂いた。

 

「お前も吹っ飛ばす!」

 

俺ははもう一体のキメラも銅のつるぎで切り刻む。やっぱり金属製の武器は強い!致命傷になる部位に当てなくても、数回切れば倒れる。

2体のキメラも倒され、今ロロンドやケッパーと交戦している隊長ブラウニーが本気を出してくる。

 

「人間どもめ!よくもわれわれの仲間を殺しやがって!ぼこぼこにしてやる!」

 

隊長ブラウニーは大きなハンマーでロロンドやケッパーをなぎはらった。二人はすぐさまどうのつるぎで受け止めたが、少し後ろに吹き飛ばされた。

 

「我輩はこのくらいでは倒せぬぞ!」

 

俺はロロンドたちが追撃を受けないように、隊長ブラウニーの前に立ちふさがる。

 

「お前がビルダーか、お前だけは逃がす訳にいかん!」

 

俺はブラウニーの攻撃をかわしながら移動し、敵を俺のところへ引き付ける。ロロンドたちも態勢を立て直し、ブラウニーを切りつける。

 

「お前たち、もう立ち上がってこれたのか!このビルダーとやらが作った武器で受け止めたからなのか、本当にビルダーは恐ろしい!」

 

なんとしても俺を殺そうと、隊長ブラウニーは俺たちにハンマーを振り回しまくる。手下のブラウニーやキメラよりも素早い攻撃で俺たちでも攻撃に対応するのに苦戦した。

危ないので一歩さがり、反撃のチャンスを見る。

 

「ビルダーめ、許さんぞ!」

 

俺に攻撃をあてようとしつこくハンマーを振り回す隊長ブラウニー、だが彼も生物であるため、そんなに長時間その行動を続けられる訳ではない。隊長ブラウニーは体のバランスを崩し、転んでしまった。

当然俺たちはそのチャンスを見逃さない。

 

「魔物といえども生物は疲労するものだからな。そんなに乱暴に振り回すから悪いんだ。」

 

俺はどうのつるぎでハンマーを持ち直し、振り上げたブラウニーの腹を深く斬った。振り上げている最中に強い攻撃を喰らい、ブラウニーは大きく怯んだ。

 

「今だね!とどめだ!」

 

ケッパーが怯んだ隊長ブラウニーの背後から、思い切り銅の剣を突き刺した。その剣は内臓に深く刺さり、心臓にも刺さったかもしれない。

 

「ぐぐぐ···人間ども、なんて力だ···」

 

ケッパーの攻撃により、隊長ブラウニーは倒れた。二回目の防衛戦も、メルキドの町の勝利に終わった。今回は魔物たちも俺たちの武器強化に気付けなかったこともあるだろうから、今度はさらに強力な魔物が来るはずだ。

 

「そうだ、この前のがいこつは旅のとびらがてに入ったが、今回の奴等は何を落としたんだ?」

 

ロロンドが言うまで忘れていたが、俺は魔物が落としたものを調べた。手下のブラウニーは毛皮、キメラはいつも通りキメラのはね、隊長ブラウニーは革でできた袋を落とした。

 

「旅のとびらはないのか、必ず落とす訳ではないんだな」

 

まあ、山岳地帯もまだ探索していない場所がたくさんあるから、まだ新しい旅のとびらは必要ないな。俺は隊長が落とした袋をどうするか悩んだが、とりあえず作業部屋に置いた。収納箱もいっぱいだし、少しは収納の足しになるだろう。

俺はブラウニーから受けた傷のこともあり、夕方になってきたのでもう寝ることにした。殴られてちょっと痛んだだけなので、明日には直るだろう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode8 魔法の大倉庫

二回目の防衛戦の翌日、メルキドに来て8日目、ロロンドのメルキド録の解読に進展があったらしく、俺はその話を聞いていた。

 

「雄也よ、最近たくさんの素材を集めているから、そろそろ収納箱がいっぱいになって来ておる」

 

確かに、最近銅や石炭をたくさん集めているから、作業部屋の収納箱はもう限界だった。これからはもっと新しい素材がてにはいるだろうから、収納を増やすのは必須だ。

 

「そうだな。もっとたくさんの物をしまえるようにならないと」

 

「そこでだ、今日は我輩がメルキド録を解読している内に見つけた、大倉庫の作り方について教えようと思う」

 

大倉庫か、名前からして、物凄い数の素材が入りそうだな

 

「大倉庫があれば、素材集めがおそろしいほど便利になるだろう。しかも、この大倉庫はビルダーの力がないと作れないのだ」

 

収納箱と同じように、魔法で作られた空間にものを入れる仕組みという事だな。

 

「ビルダーの魔法を使うときは、作りたい物の形状が分からないといけないから、それを教えてくれ」

 

大倉庫と言うなら、家と同じくらいの大きさの建物だろうか?俺はそう思ったが、実際は全然違った。

 

「メルキド録によると、大倉庫は普通の収納箱の何倍もある箱に、ツボと小さな箱をくっ付けたものなんだ。」

 

ただの大きい収納箱?なんで大倉庫って名前なんだよ?まあ、メルキド録にそう書いてあるんだから仕方ないが。でも、それだと少し容量が増えるだけだと思うんだが。

 

「そんなの少し大きくなっただけで、少し容量が増えるだけだろ?普通の収納箱をいくつも作ればいらないな。」

 

「我輩もそう思っていたのだが、メルキド録の大倉庫のページには、驚くべきことが書かれていたのだ。」

 

驚くべきこと?そんなに凄いことなのか?ロロンドは少しの発見でもすごい発見だって言いそうだからな。

 

「実は、大倉庫に入れたものはポーチや持ち運び収納箱からも取り出せるらしいのだ。」

 

「どういう意味だ?」

 

俺は最初、どういう意味なのか分からなかった。だが、話を聞くと、ロロンドが言っていた通り驚くべきものだった。

 

「例えば、武器を大倉庫にしまったとしよう。普通の収納箱ならばその収納箱からしかその武器は取り出せんが、大倉庫にしまったならどこにいてもポーチからすぐに取り出せるのだ。それ以外にも、必要な道具を中に入れておけば、いつでもどこでも取り出すことが出来るのだ」

 

そう言うことか。大倉庫の魔法の空間とポーチの魔法の空間はつながっていて、大倉庫から直接ポーチに物を移動させたり、逆にポーチから直接大倉庫に移動させることも出来るという訳か。

 

「スゴい便利だな。これがあれば素材集めの時ポーチがいっぱいで持ち帰れないなんてことは無くなるぞ」

 

ロロンドの話でだいたいの形状も分かったので、さっそく作り方を魔法で調べた。大倉庫は、木材が8個、毛皮が3個、ツボが1個で出来るようだ。ツボが必要と出たので、ツボの作り方も調べた。

ツボ···土3個 あおい油1個

こっちも、いつも通り作り方が頭の中に浮かぶ。土3個とあおい油1個なら、今すぐに作れる。毛皮は昨日の防衛戦で襲ってきたブラウニーが落とした物を使えばいいし、木材はおおきづちで森にある木を壊せばてにはいるだろう。

 

「結構簡単に作れそうだ。ロロンドはメルキド録の解読を進めていてくれ」

 

「分かった、大倉庫ができたら我輩に見せてくれ!」

 

メルキド録の解読が進めば、もっと便利な道具が作れるかもしれない。ロロンドは部屋に戻り、俺は木材を取りにいくために近くの森に行った。

 

「たくさん木があるけど、全部切るのはよくないからな。必要な分だけ取ろう」

 

俺は森の外側にあったブナの木らしき木をおおきづちで叩いて壊した。外側だけでなく、この森の木はすべてブナのようだ。

 

「あれっ、何かブロックに変化したぞ?」

 

木を壊すと、木のブロックが3つ落ちていた。これが木材だろう。俺は同じ大きさの木をもう二本切って、木のブロックを合計で9個集めた。大倉庫を作ると一個余るので、何かに使おう。

 

「簡単に集まったな。作業部屋でまずツボを作って、それから大倉庫を作るぞ」

 

俺は木材をポーチに押し込み、作業部屋へ入った。みんなは別の場所にいて、作業部屋は俺だけだった。俺はまず石の作業台でツボを作った。できたツボは、高さ70~80センチほどで、かなり大きいサイズだった。

 

「ツボが出来たな。後は木材8つと毛皮3つと合わせて」

 

俺は大倉庫になるようそれらの素材に念をかけた。いつも通り成功したと思ったのだが、大倉庫にならず、そのままだった。

 

「あれ、出来ないな?どうなってるんだ?」

 

俺は大倉庫に必要な素材を調べ直す。だが、さっきと同じで、

大倉庫···木材8個、毛皮3個、ツボ1個

と出る。素材が何か間違っているのか?と思っていると、ルビスの声が聞こえてきた。今は一人だから話をしても大丈夫だ。

 

「雄也よ、ブナ原木はそのままでは使えないのです。まずは原木を加工して木材を作るのです」

 

そう言うことか、確かに木を使うときは一度使いやすい形に加工しないといけないな。俺のビルダーの魔法が弱かったのだと思った。

 

「ありがとうな、ルビス。俺のビルダーの魔法が弱かったんだと思ったぜ」

 

「ビルダーの魔法には、強いや弱いというものは特にありません。ですが、この世界に存在するのもので作れないものはさすがに作れません」

 

作れるものの範囲で町を作れってことか。それでも、作れる物は山ほどあるから、十分だろう。

俺はブナ原木と言うらしいさっき取ったブロックに魔法をかけ、木材に変えた。

 

「今度こそ上手くいくか?」

 

俺は改めて木材、毛皮、ツボに魔法をかけた。すると、それらが合体し、巨大な収納箱に姿を変えていった。

 

「成功したな。これが大倉庫か。ロロンドに見せてこよう。」

 

俺は完成した大倉庫をポーチに入れ、ロロンドのいる寝室に向かった。ものスゴく大きなものまでこのポーチに入るのか。

 

「おい、ロロンド、大倉庫が出来たぞ!」

 

「そ、それは本当か!?今すぐいくぞ!」

 

ロロンドは俺の声を聞いて、すぐさま部屋を飛び出して来た。ロロンドは何かが完成したりするといつも高いテンションがさらに高くなる。俺は大倉庫を取りだし、ロロンドに見せた。

 

「これがメルキド録に書かれていた大倉庫と言う物か!素晴らしいぞ!」

 

ロロンドは大喜びだ。これがあれば、素材集めがさらにはかどるようになるだろう。

大倉庫は大きいが、壊されると困るものなので、俺は町に大倉庫を置く部屋を作った。ゲームでは扉と明かりがないと行けなかったが、あまりいかない部屋には明かりはいらなさそうだ。

大倉庫の中身はポーチから取り出せるため、直接取りに行くことはなさそうなので、大倉庫部屋には明かりは置かなかった。

 

「そうだ、いっぱいになっている作業部屋の収納箱の中身のいくつかを大倉庫にしまっておくか」

 

俺は作業部屋の収納箱から、有り余っているじょうぶな草やふとい枝を数十本、大倉庫にうつしかえた。それでも、それらの素材は収納箱にたくさん入っている。

 

その日の午後、俺はピリンから相談を受けた。

 

「ねえねえ、わたし、雄也にお願いがあるんだ。」

 

ピリンのたのみごとは久しぶりに聞いたな。久しぶりと言っても、数日しか経っていないのだが、ロロンドやケッパーの話を聞いていることが多かったので、そう思えた。

 

「お願いって、何だ?」

 

「わたし、最近物を作るのが楽しくてみんなのためにいろいろ作ってるんだけど、最近、特に作りたいものがあるの」

 

ピリンは俺が出掛けている間も、様々な物を作っているようだ。前作っていた石のイスと石のテーブルもそうだろう。

 

「だけど、夜になるとみんなの様子が気になって、作業に集中出来ないの。ロロンドはいびきが異常に大きいし、ロッシは寝ながら時々絶叫するからね」

 

それには俺も悩まされていた。本人は気づいてないのだろうが、ロロンドのいびきがうるさすぎて、眠れなかった日があった。ロッシの絶叫も聞いたことがある。

 

「だけど、いびきを止めるなんて無理だぞ」

 

いくらビルダーの魔法があったとしても、さすがにそれは不可能だ。

 

「そこでね、集中して作業ができるように、わたし専用の部屋を作って欲しいの。部屋を作るのはわたしでもできるんだけど、その部屋が誰の部屋なのか分かるように、壁掛けが欲しいの。それを雄也に作ってほしいんだ」

 

個室が欲しいってことか。みんなが夜うるさいからもあるだろうけど、ピリンは日本で言えば小学校高学年から中学生くらいの女の子だ。自分の部屋が欲しくなる年頃だろう。

 

「壁掛けは、女の子の部屋って分かるように、赤色にしてね」

 

「分かったぞ。俺が個室看板を作っている間に、ピリンは土ブロックで部屋を作っておいてくれ」

 

「うん!お願いね」

 

ピリンは持ち運び収納箱から土ブロックを取りだし、積み上げていった。結構な数の土ブロックを持っているようだ。俺はまず、女の部屋の壁掛けの作り方を調べた。

女のカベかけ···染料1個、木材1個、あかい油1個

女のカベかけがあるなら、男のカベかけもあるだろうから、そっちの作り方も調べた。俺も個室が欲しいし、みんなも欲しいだろうからな。

男のカベかけ···染料1個、木材1個、あおい油1個

2つのカベかけは、必要な素材が少し違ったが、あおい油もあかい油も簡単に集まる素材だ。問題はこの染料とかいう奴だな。

 

「最近知らない素材名がたくさん出てくるな」

 

俺は染料の作り方も調べた。すると、それにもあおい油とあかい油が必要なことが分かった。

 

「あかい油3つとあおい油3つと石炭が1つか。簡単に作れるけど、それにしても油をたくさん使うな」

 

油の在庫は切らさないように気をつけよう。俺は石の作業台で染料を作ろうとしたが、何も起こらなかった。

 

「素材が間違ってるのか?」

 

そう言えば、染料は加熱して作るもの。石の作業台では出来なさそうだな。俺は隣に置いてある炉と金床を使ってみた。それでも、染料は出来上がらなかった。

 

「おかしいな?これは温度が高すぎるのか?」

 

今度は、調理部屋にある料理用たき火を使ってみた。すると、今度こそ染料が出来上がった。料理用たき火は、必ず料理に使うとは限らないのか。

 

「木材はさっきの余りを使えばいいな。作業部屋に戻るか」

 

俺は染料とあかい油、木材で女のカベかけを作った。カベかけは石の作業台で出来るようだ。なんの作業台で作れるかもわかればいいな。

俺の思いを気づいたのか、ルビスが俺に話しかけてきた。

 

「確かに、その能力があると便利かもしれませんね。最初は必要ないと思っていましたが、必要な作業台を見分ける魔法も授けましょう」

 

そんな魔法もあるのか。これからはそれで必要な作業台を見分けよう。

 

「必要な素材を調べた時、必要な作業台も思い浮かぶようになります。これで必要な作業台が分からなくなることは無いでしょう」

 

ルビスとの話が終わり、俺はピリンに女のカベかけを見せに行く。

 

「ピリン、これでいいか?」

 

ピリンは部屋を作って、中に明かりを置いていた。

 

「うん!それを壁にくっつけてね」

 

俺はその部屋の外の壁に設置することにした。ゲームでは中に置かないとポイントが入らないが、リアルでは外に置かないと誰の部屋か分からない。どうやってくっ付けるか分からなかったが、壁に付けると離れなくなり、固定されたようだ。攻撃されないかぎり、外れることはないだろう。

 

「うわあ!わたし専用の部屋が完成したね!」

 

ピリンが俺の張り付けた看板を見にきた。それにしても、ピリンはそんなに集中して何を作っていたんだ?

 

「それで、一体何を作っているんだ?」

 

「えへへ、それはまだ秘密。できたら教えてあげるから楽しみにしててね」

 

ピリンは個室看板に自分の名前を書き、中に入っていった。何を作っているか教えてくれなかったが、ピリンの作るものだし、楽しみに待とう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode9 特技の伝授

俺がメルキドに来て9日目、昨日はロロンドが頼んだ大倉庫を作った。今日はもっと素材を集めたり、全員の個室を作ったりしようと思っていたが、今度はケッパーが俺に話したいことがあるらしい。

 

「そういえば、ロロンドから聞いたよ。君は、あの伝説のビルダーなんだって?」

 

ケッパーには話してなかったな。みんなビルダーのことを知っているのか。ビルダーの伝説ってかなり有名なんだな。

 

「そうだ。ルビスって精霊からアレフガルドの復興を頼まれたんだ。」

 

「君は、この前の魔物との戦いで頑張っていたけど、戦いが専門じゃない君には、これからの戦いは厳しいと思うんだ。」

 

ビルダーは建築士って意味だから、戦闘は確かに専門じゃないけど、これからの戦いは厳しいかもって、失礼だな。

 

「ビルダーだからって、弱いわけじゃないんだぞ」

 

「ごめん、別に君のことが弱いなんて言ったわけじゃないんだ。次の戦いに備えて、ちょっとした技を覚えてもっと強くなったらいいんじゃないかと思って」

 

それなら最初からそう言って欲しい。あの言い方だと俺が弱いように言われている感じがする。

 

「技って、どんなやつだ?」

 

「見せてあげるから、ちょっと下がっていてくれ」

 

ケッパーの言う通り、俺は少し離れた。ケッパーは回りに何もないことを確認して叫んだ。

 

「回転斬り!」

 

ケッパーは叫んだと同時に剣を振り回し、回りを360度なぎはらった。一回転して敵をなぎはらうから回転斬りと言うんだろうけど、そのまんまな名前だな。

 

「それを、俺も使えるようになればいいってことか?」

 

「そういうこと。回転斬りは自分の近くを一回転してなぎはらうから、ブロックを壊すときにも使えるんじゃないか?」

 

最近自分の持っている土ブロックが残り少なくなってきている。一気にブロックを最終出来れば、調達するとき楽になるだろう。

 

「ならケッパー、俺に回転斬りの方法を教えてくれ」

 

「いや、僕は人に教えることが苦手なんだ。でも、この技は魔物の攻撃を見て、それを真似してできるようになったんだ。」

 

ケッパー本人からは教えてもらえないのか。でも、その魔物に会うことができれば、俺も回転斬りを覚えられるかもしれない。

 

「じゃあ、その魔物はどこにいるんだ?」

 

「てつのさそりって言う魔物なんだけど、僕がいた小島より奥の山岳地帯にいるよ。それを倒すのとついでに、覚えてこればいい」

 

てつのさそりか···結構強力な魔物のはずだな。黄色いさそりの魔物、おおさそりの上位種だ。そのおおさそり自体も、まだ見たことがない。そんなに強いやつなら、動きだけを見て戻ってこればいいのに。

 

「倒す必要はないんじゃないか?今の武器だと厳しいぞ。」

 

「いや、このてつのさそりは竜王軍の一員だからね。奴等の戦力を削るという意味で、倒しておいたほうがいいと思う。もし逃したら、今度の襲撃で一緒に襲ってくるかもしれない。倒すなら、奴が単独行動をしている今だと思うんだ。」

 

確かに、集団で襲われると危険だ。でも、次の襲撃が来ることはケッパーの中では確実らしい。出来れば来ないで欲しいのだが。

 

「まあ、そうだな。危険なことを避けていたらアレフガルドの復興も出来ないからな。倒しに行ってくる」

 

「頑張ってくれよ」

 

俺はてつのさそりを倒しに、旅のとびらに入り、メルキドの山岳地帯に行った。途中に現れた、スライムベスを倒しながら進んだ。しばらく行くと、ブラウニーやがいこつなど、町を襲った強めの魔物も姿を現した。

 

「戦って倒すのは大変だな、隠れて行こう」

 

俺はメルキドに来て二日目に作った、草地の箱を取り出した。ここは草地ではないが、少しは魔物に見つかりにくくなるだろう。草地の箱をかぶって少しずつ動いていくと、土ブロックで出来た山と、白い岩のブロックで出来た山の境目にある、小さな谷にたどり着いた。

 

「崖だな。本当にこの山岳地帯は探索しにくい。」

 

俺は愚痴を吐きながら崖の下を見た。すると、ケッパーが言っていたてつのさそりがいた。てつのさそりは俺が思っていたよりでかい。体長は3~4メートルくらいあるだろう。俺はそいつと戦うため、そこにあったつたを使って、崖を降りた。

 

「正面から戦ったら勝てなさそうだな。背後から襲おう。」

 

てつのさそりの行動も見る必要もあるが、普通に斬っても一撃では死なないだろうから、回転斬りも覚えられる。てつのさそりと言う名前の通り、かなり体が固そうなので、胴体ではなく少しでも切れやすそうな脚を狙うことにした。

 

「ゆっくり動いて、見つからないようにしないとな。」

 

俺は物音を立てず目立たないよう、スネークのような匍匐前進でてつのさそりの背後に回った。うまく気付かれずに近づけたので、俺はどうのつるぎを振り上げ、てつのさそりの脚を切り裂いた。てつのさそりの脚の一本をを落とすことに成功したが、やはりてつのさそりはまだ死ななかった。

 

「俺の予想どおり、かなりの生命力があるようだな」

 

俺は、反撃に備えて後ろにジャンプした。脚を切り落とされたことに怒ったてつのさそりは、するどいはさみで俺を攻撃してくる。

 

「まあ、俺に勝てるほどではないだろうけどな!」

 

実際俺も勝てるかどうか不安な敵だが、弱気になってはいけない。俺はてつのさそりが攻撃するときに奴の側面にまわり、少しずつ傷を負わせていく。どうのつるぎではあまりダメージを負わせられないが、何度も切られればその硬い殻も破られるだろう。そして、敵の動きが一瞬止まった。

 

「動きが止まった、かなりダメージを受けているようだな」

 

俺はてつのさそりの顔面にどうのつるぎを叩きつける。顔は胴体よりも耐久力が弱いらしく、深い傷を負わせた。だが俺は敵の動きが止まったため油断していた。てつのさそりは突然体を回転させ、俺をなぎはらった。

 

「くっ!これがケッパーの言ってた技か。」

 

全力で回りをなぎはらう技。俺は剣で受け止め、直撃は避けられたが、数メートル吹き飛ばされ、地面に体を叩きつけられた。俺の背中に激痛が走ったが、なんとか耐えて立ち上がる。

 

「やっぱりこいつ強いな。動きが止まったら回転攻撃の前兆、覚えておかないと」

 

今度は油断しないように気を付けよう。俺は敵の前に立たないよう、また横から攻撃し始める。攻撃も速いので、気を抜くとすぐにくらってしまう。

 

「この固い装甲があるせいで倒せないな。なんとか破れればいいんだけど」

 

これまでの攻撃で、てつのさそりの装甲にヒビが入って来ているが、未だ砕ける気がしない。しかも、奴はまた回転攻撃の前兆を見せた。

 

「またあれが来るな」

 

今は一旦動きが止まった後、おそらくは力を溜めた後に回転攻撃が来ることが分かっているので、俺は後ろに退いた。俺の予想通り、てつのさそりは回転攻撃を行った。溜めた力を解き放ち、周りにいる敵を斬り裂く。俺もてつのさそりの行動を見て、だいたいは覚えた。回転攻撃の後、少し隙が出来たので顔面を斬りつけ、またすぐに飛び退く。

 

「もう装甲も弱っているはずだ。俺が回転攻撃を使えれば、倒せるかもな」

 

俺は腕に力を込めながら、もう一度隙が出来るのを待った。てつのさそりは俺にハサミや尻尾で攻撃してくる。そして俺は避けきれず、てつのさそりのハサミで傷を負ってしまう。だが、攻撃の直後にはわずかな隙が出来る。完全に隙を与えずに連続で攻撃することは非常に難しい。チャンスは今しかないと思い、俺は痛みに耐えながら渾身の力で剣を回転させ、てつのさそりの装甲を引き裂いた。

 

「お前の攻撃を見て覚えた、回転斬り!」

 

俺の回転斬りでついにてつのさそりは装甲が破れ、内臓がむき出しになる。俺は鉄のさそりの内臓にどうのつるぎを突き刺し、力いっぱい引き裂いた。てつのさそりは、断末魔の叫びを上げてついに倒れ、青い光になった。

 

「強敵だったけど、なんとか倒せたな。回転斬りも覚えられたし」

 

この技があればこれからの戦いも乗りきれそうだ。俺は帰る前に、てつのさそりが落とした物を拾った。てつのさそりの頭に生えていた角のようだ。

 

「てつのさそりの角か、何に使うんだろうな?」

 

何かの役には立つだろうから、俺はそれをポーチに入れた。大倉庫のおかげで、ポーチはすっきりしている。

歩いて帰ると1キロメートル以上あり、怪我もしているので俺はキメラのつばさを使ってメルキドの町に戻った。3つあったキメラのつばさもあと1つしかない。作ろうと思えば何時でも作れるけど。

 

「傷を負ってしまったけど、何とか町に生きて戻れたな」

 

ハサミでの攻撃を受けた時は、ものすごい痛みがあって死ぬかと思った。

 

「雄也、てつのさそりを倒してきてくれたのか?」

 

ケッパーが俺が帰ってきたことに気付き、話しかけてくる。

 

「結構強かったし、怪我もしたけど、何とか倒せた」

 

「怪我をしてしまったのか。そうだ、僕が拾ってきたこれを使って!」

 

ケッパーは薬草のような物を俺に渡した。それを食べると、傷はまだ直らなかったが痛みは引いてきた。きずぐすりより傷を直す力が高そうだ。痛みが引いてきたので、ケッパーとの話を続けた。

 

「それで、奴が使う回転攻撃はおぼえられたか?」

 

「ああ、もちろんだ。今から見せる」

 

俺はさっきのケッパーのように周りに何もない、誰もいないことを確認し、剣に力をため、なぎはらった。

 

「回転斬り!」

 

ケッパーは、俺がうまくできていたからか、拍手をしていた。

 

「すごい、うまく出来てるね。これで特技を覚えられたね!この技があれば、魔物に負けることなんてないだろう」

 

確かに、てつのさそりをも倒せる回転斬りなら、強い魔物でも倒せそうだ。

 

「ああ、強い魔物に会ったら使ってみるぞ」

 

俺はケッパーと別れた後、寝室に戻った。今日はまだ昼だが、傷を負ったのでゆっくり休むことにし、明日また作業を行うことにした。明日も何か頼まれるかもしれないが。

その日から5日間、特に何事も起こらず、メルキド録の解読にも進展はなかった。俺たちはその間に素材を集めたり、全員分の個室も作った。それと、ロッシは長居する気はないと言っていたが、この町を去る気はなさそうだった。なので、あまり居候されても困るのだが、彼の分の個室も作っておいた。

 

「ロッシはこの前ひどいことを言っていたが、結局あいつは仲間になる気はあるのか?」

 

俺、ピリン、ロロンド、ケッパーはこの町の発展のため頑張っているが、ロッシにはそんな姿が見かけられなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode10 廃墟の城

俺が回転斬りを覚えた5日後、もうメルキドに来て2週間が経っていた。今日、ロロンドのメルキド録の解読により、新しいことが分かったらしい。

 

「もう二回も、この町は魔物襲撃を受けてしまっている。これからも魔物の襲撃は続いていくだろう」

 

回転斬りを覚えた時、ケッパーもそんなことを言っていた。もう襲撃が起こらず平和に暮らして行ければよいのだが、現実はそうはいかない。魔物はまたしてもこの町を潰しにくるだろう。

 

「それでだな、我輩はこの町を守る術を見つけるために、寝る間も惜しんでメルキド録の解読に明け暮れておってな。ある記述を発見したのだ」

 

寝る間も惜しんでいたのか。そういえば、最近ロロンドのいびきが聞こえなくなっていたが、そう言う理由だったのか。

 

「メルキドの山岳地帯の奥の奥に、とある城があり、そこに石の守りと呼ばれる魔物を撃退する装置の手がかりがあるらしいのだ。メルキドの山岳地帯は、旅のとびらで行けるところのことだろう」

 

奥の奥?この前てつのさそりと戦った場所のもう片方の崖から登る白い岩で出来た山を越えた先あたりだろうか。

 

「それでだな、雄也よ。メルキドの山岳地帯にあるその城に行き、石の守りの作り方を調べてきて欲しいのだ」

 

「分かったけど、結構遠そうだな。歩いていけるかどうか」

 

俺は長距離を歩いたことがない。この前のてつのさそりのところに行くときも、結構疲れたな。

 

「だが、物作りの力でみなを救う伝説のビルダーであるお主ではないと調べられないと思ってな。行ってくれるか?」

 

ビルダーって、本当に大変な仕事だな。帰りはキメラのつばさを使えばいいし、なんとか行けそうだけどな。

 

「分かったよ。その分ロロンドも町でしっかり働いてくれ」

 

「もちろんだ。我輩たちは素材集めや家具作りをしているから、お主は石の守りの手がかりをつかんでくるのだ」

 

かなり遠くまで行かないと行けないので、この前の戦いで損傷したどうのつるぎから新しいどうのつるぎに変えたりして、準備を整えた。

 

「何回も崖を登り降りしたり、何キロメートルも歩かないといけないって、キツそうだな」

 

俺はそう思っているが、ロロンドの言うように魔物を撃退できる設備を作れば、魔物の襲撃があっても少しのことなら大丈夫だろう。

俺は装備や所持品を整えたのち、旅のとびらに入った。俺はまず、この前てつのさそりと戦った場所に向かった。あの場所までなら、道も途中に出てくる魔物も知っている。

 

「それにしても、結構疲れるな」

 

てつのさそりと戦った場所までは15~20分ほどで行くことが出来た。そこに行くまでも高低差の激しい地形が多かったので、足が疲れた。そして俺はてつのさそりがいた場所から、白い岩で出来た崖を登る。ときどき足場がないことがあったが、持っていた土ブロックを置いて足場を作り、上に着いた。

 

「この先にあるのか、ロロンドの言ってた城は。目的地はどれだけ遠いんだ?」

 

白い岩の山に登っても城のようなものは見えなかった。そんなに距離が遠いのか。一度もきたことがない場所なので、慎重岩山を進んでいく。岩山には、キメラがいくつか生息していた。

 

「キメラはメラを使われると厄介だからな、避けていこう」

 

俺はキメラの視界に入らないよう、岩の後ろに隠れながら進む。隠れられるものが多かったので、スネークのような潜入能力を持たない俺でも見つからずに行けた。今回は見つからずに行ったが、キメラのつばさを作るためにキメラを狩る必要もある。だが、今回は石の守りの作り方を調べに行くのが優先なので、避けて通ることにした。隠れながらゆっくり移動していたため、岩山をぬけるのに30分ほどかかった。岩山を抜けると、また土ブロックで出来た山になった。

 

「また土ブロックの山に戻ったな。ん、あれは何だ?」

 

そこらへんには、町の周辺やおおきづちの里のあたりでは見られない植物が生えていた。近づいて見てみると小麦のようだった。

 

「小麦か、パンとか作れそうだな。」

 

ようやくしっかりとした主食が食べられそうだ。俺は、この前てに入れた必要な作業台を調べる魔法のテストも兼ねて、パンの作り方を調べた。

パン···小麦10個、石炭1個 レンガ料理台

素材だけでなく、必要な作業台も頭に浮かんできた。だけど、何でパン1個に小麦10個もいるんだ?もしかしたら、一度に複数できるのかも知れないけど。だが、問題はそれだけではなかった。

 

「なんで料理に石炭なんか要るんだ?貴重な資源のはずなのに。それにレンガ料理台って何だよ?」

 

ビルダーの魔法は資源を浪費してしまうこともあるようだ。それはまだいいが、レンガ料理台とかいう訳の分からない作業台でないと作れないのか

 

「せっかくパンが食べられるようになったと思ったんだけどな···しばらくはお預けか」

 

パンが食べられるのはまだ先になりそうだ。俺は一応小麦を30個ほど集めておき、メルキドの城探しを再開した。

 

「小麦に気を取られてて、本来の目的を忘れてたな。また歩くとするか」

 

その土の山岳地帯を何キロメートルも歩いていく。ゲームでは短縮されているだろうけど、現実で距離短縮は出来ないからな。しかも、旅のとびらから5キロメートルほど歩いたところで、またしても崖があった。

 

「また崖かよ···ん、でもあれって、ロロンドが言ってた城じゃないか?」

 

崖を降りて200メートルほど先に、崩れて廃墟となっている城のようなものが見えた。城の前には、石垣でできた壁のようなものもある。

 

「やっと着いたか。長かったな。」

 

俺はもう足がやっと動くくらいの状態だったので、しばらく休んでから城に入ることにした。10分ほど座って、足が少しなおってきたので、俺は崖を降り、城へと歩みを進めていく。

 

「ん、あの石垣の上に立ってる奴はなんだ?」

 

さっきは気づかなかったが、石垣の壁の上に兵士の格好をした男の姿があった。

 

「無念だ、無念だ、あまりに無念だ···」

 

なんかよく分からないことを言っているな。何が無念なんだ?ケッパーの仲間だろうか。こいつも町に来てくれるといいな。俺は、その男に話しかけた。

 

「おい、お前ここでなにやってんだ?」

 

その男は、驚いた様子で俺に返事をしてきた。

 

「ひょっとして、君には幽霊である私の姿が見えるのかい?」

 

幽霊だと!?俺には普通の人間に見えたんだが。幽霊と話ができるのもビルダーの力ってことか。

 

「私はこの地を守るべく、竜王軍と最後まで戦った、メルキドの兵士だったんだ」

 

この人はかなり昔の人のようだな。ケッパーは自分は衛兵の子孫だって言ってたから、こいつはケッパーの先祖だろう。

 

「だけど、町を守る石の守りという物を思い付いて、それを作っている途中に、魔物にやられてね···それが無念で仕方ない」

 

ロロンドの言ってた石の守りは、この人が考えたものなのか。それで完成させられずに死んでしまったと。

 

「ああ、確かにそれは無念だな」

 

兵士の幽霊は何かを考えて、閃いたように俺に言った。

 

「そうだ、君は私のことが見えるんだろ?私に代わって、石の守りを完成させてくれないか?使い方も教えよう。そこに石垣とトゲわなが置いてあるだろ?それを使って、穴が空いている場所に石垣をはめて、トゲわなが一列にならんでいるところの抜けている場所に置くんだ」

 

幽霊が指さした場所を見ると、アイテム化した石垣が3つと、鋭いトゲが何本かセットになっているものが2つあった。これがトゲわなだろう。

 

「これが刺さったら危険だな。注意して扱おう。」

 

俺はまず3つの穴にそれぞれ石垣をはめ、その後にトゲわなを空いている場所に設置した。

 

「これでいいか?」

 

「石の守りが完成したようだな。これで魔物たちをわなにかけられる。さっそくこれを使って、魔物を倒して見てくれ。」

 

そう言われたので、俺は近くにいたブラウニーの群れを攻撃し、石の守りの所に連れてくる。

 

「人間め、何をしてくれるんだ!」

 

防衛戦のときと同じように、ブラウニーは俺を叩きつぶそうとハンマーを降りながら歩いて来た。俺はダッシュで走り、石の守りの裏に隠れる。ブラウニーは石垣を壊そうとハンマーで殴り付ける。しかし、ブラウニーごときの攻撃では、石垣は傷ひとつつかなかった。

 

「硬い!全然壊せない!イタッ!」

 

攻撃を弾かれるだけでなく、地面に置いてあったトゲわなが刺さり、ブラウニーはダメージを受ける。他のブラウニーたちも集まってきて群れで石垣をこわそうとするがやはり壊せず、奴等はトゲわなが刺さりまくって倒れていった。

 

「おお、すばらしくうまくいったな!魔物がかたい壁に引っ掛かっているうちに、トゲわなでダメージを与えて倒すってことさ」

 

俺は石の守りというのは巨大な石像だったりするのかと思ったが、石垣ブロックとトゲわなを使ったもののようだ。

 

「使い方がよく分かったよ。それと、もうひとつ聞きたいごとがある。この城は誰が建てたんだ?」

 

こんな大きな城だから、王様でもいそうだけど、メルキドに王がいたと言うのは聞いたことがないな。

 

「この建物は城ではなく、人々が魔物から身を守るために作ったシェルターだったんだ。メルキドを破壊された人々は最後のとりでとしてこの城塞を作り、魔物たちの攻撃を防いだんだ。だけど、このシェルターの中にもとあるマモノが現れて···」

 

どちらも魔物によって滅ぼされたってことか。でも、このシェルターの中に現れた魔物って一体なんなんだ?竜王の配下の魔物とは違う気がする。

 

「おっと、陰気くさい話をしてしまったね。そういえば、石の守りの設計図がいるなら、この建物の中にいるロロニア様に聞いてみてくれ。ありがとう、死人の私に付き合ってくれて。嬉しかったよ···」

 

「こっちこそいろいろ教えてくれてありがとうな!」

 

兵士の幽霊は消えていった。未練が無くなったからだろうが、結局シェルターの中に現れた魔物については教えてくれなかったな。

 

「とりあえず、この中にいるロロニアって人から話を聞くか。そいつも死人だろうけど」

 

俺は廃墟の中に入っていった。廃墟のなかは、かなりくずれていたり、中に草が生えていたりと、かなり荒れていた。そして、奥の方に1人たたずんでいる男がいた。

 

「あんたが、ロロニアか?」

 

「そなた、ワシのことが見えるのか。そなたの言う通り、ワシがかつてのメルキドの町長、ロロニアだ。亡霊である我輩のとが見えるということは、そなたは普通の人間とは少し違うようだな。」

 

亡霊か、やっぱりこいつも死人だな。こっちはロロンドの先祖っぽいが。

 

「俺はルビスから選ばれたビルダーってやつだ。ビルダーは、お前の言う通り、普通の人とは少し違うようなんだ」

 

「そなたが、あのメルキド録に書かれていたビルダーだと申すか」

 

ロロニアも、メルキド録のことを知っているのか。代々受け継がれているみたいなこと言ってたし、彼はロロンドの先祖で間違いないようだ。

 

「ビルダーよ、こんな場所になんの用だ?ここには人間が自らで自らを滅ぼしたなげきとかなしみがあるだけだ」

 

人間が自らを滅ぼした?こいつも訳のわからないことを言うな。

 

「俺は石の守りについて調べに来たんだ。外にいた兵士の幽霊が、お前が設計図を持っているって言ってたんだ」

 

「確かに、ワシが石の守りの設計図を持っている。そなた、何ゆえに町を作る?そなたは何ゆえに物を作るのだ?」

 

急に難しい問いをしてきた。これまでいつもやって来ていることだが、つい聞かれるとうまく答えられない。

 

「すこしワシに付き合ってくれ。そなたに見せたいものがある。この城塞の屋上で待っておる」

 

ロロニアはそう言うと、この廃墟の屋上へワープした。幽霊は、ワープ出来るようだ。俺は、廃墟の中にあるメモを読みながら、進んでいった。その中に、1つ気になる物があった。

 

きょうもまたひとがいなくなった。どうしてだろう、このじょうさいのなかにはまものはいないはずなのに···。じつはきょうのよる、おとなたちからよびだしをうけた。いったいぼくに、なんのようがあるんだろう···。

 

子供が書いた文章のようだが、魔物がいないのに人がいなくなったって、もしかして、人間同士で殺しあっていたってことか?じゃあ、この子供も大人たちに殺されたのかもしれない。とにかく、この城塞で恐ろしいことが起きていたことは間違いない。

近くにあったアレフガルド歴程という本にも、そのようなことが書かれていた。

 

おお!我が故郷メルキド!私は滅びたと思っていたメルキドの奥地でシェルターとして作られた城塞を発見した。どうやら私の留守中に人々は最後の力でこのおおきな城塞を作り上げ、魔物たちの脅威から逃れるためその中に閉じこもって生活をしていたようだ。しかし、閉鎖された城塞の中に暮らす人々はどこか様子がおかしい···。私が話しかけても目は虚ろで持っていた食料を奪われそうになってしまった。これも魔物の恐怖の中、閉鎖された空間に長く居続けたせいなのだろうか。そんな恐怖にとらわれた人々が暮らすシェルターの中で、メルキドの守り神であるゴーレムがどこか悲しげに座っている姿が印象的だった。メルキドは愛すべきわが故郷···。しかし、故郷の人々が住む場所だからとは言え、ここに長居するといいことはなさそうだ。よからぬことが起きぬ前に私は次なる地へと歩を進めることにする。

メルキドの冒険家·ガンダル

 

この本の内容から考えて、ここにいた人々は食料不足などが原因で正気を失っていたようだな。それで殺しあいになってしまったと。確かに、ゴーレムが悲しく思うのも無理のない話だ。

俺は一通り落ちていたものを読み終え、ロロニアのいる屋上に登った。

 

「ロロニア、俺に見せたい物ってなんだ?」

 

俺がそう聞くと、ロロニアは上を、空を指差した。

 

「ん?上に何かあるのか?」

 

「いや、そなたに見せたかったのはこの空だ。見るがよい、どこまでも続く暗き雲に覆われた世界を···」

 

ロロニアはこの空を見せたかったのか。確かに、メルキドの、アレフガルドの空は闇に覆われている。

 

「かつてこの世界は素晴らしく美しく、人々は美しい大地に美しい町を作り生きてきた。」

 

この人、やたら美しいという言葉を強調したがるな。確かに、ドラクエ1のアレフガルドは自然豊かな場所だった。メルキドはあまり環境は悪化していないが、他の地方はどうか分からない。

 

「しかし、今やそのすべては破壊され、人々は滅びを待つ存在となった」

 

竜王、それに裏切った戦士のせいで、こんなことになったんだな。そう思うと、あいつらは許せないと思えてくる。

 

「そなたがビルダーであるならば、空の闇を晴らし、美しい世界を復活させてくれ。」

 

「ああ。俺はこの世界で必死に生きている人々のために、町をつくっていくぞ」

 

「期待しているぞ。そなたの作る新しい世界を楽しみにしている。そなたの言っていた石の守りの設計図はこの中にあるだろう。さらばだ、若きビルダーよ。」

 

そう言い残し、ロロニアも消えていった。この世界が復活した時に、また生まれてこればいいだろう。俺はロロニアの言っていた宝箱を開けた。中には、紙が一枚入っていた。

 

「これが石の守りの設計図か、よし、持ち帰ろう」

 

俺は石の守りの設計図を手に入れると、キメラのつばさをほうりあげ、メルキドの町へ飛んでいった。移動に時間がかかったり、本を読んでいたりしていたので、朝に出発したのにもう午後になっていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode11 石の守り

石の守りの設計図を手に入れ、町へ戻った俺は、さっそくロロンドに見せにいった。

 

「ロロンド!石の守りの設計図を手に入れてきたぞ」

 

「おお!本当か、早く我輩に見せてくれ!」

 

俺はポーチから石の守りの設計図を取りだし、ロロンドに手渡す。

 

「うむ、素晴らしいぞ!ところで雄也、お主、どことなく顔つきが変わりはせぬか?ほんの少したくましくなったというか、何かが吹っ切れた感じがすると言うか···。」

 

「メルキドの町を復興させたり、魔物を倒したりして、少しは強くなってきているのかもな。」

 

地球にいたころの自分だったら、この前のてつのさそりなどの強力な魔物には勝てなかっただろう。少し強くなって来ているのが、顔に現れたということか。

 

「とにかく、この設計図も古い文字で書かれているからな、我輩が解読しておく。分かったら教えるぞ」

 

俺は詳しくは見なかったが、この設計図もよく分からない文字で書かれていたな。メルキド録と同じ文字なのだろう。

ロロンドが解読を始める前に、俺はもうひとつ分かったことも教えた。

 

「あと、お前が調べたいと言っていた、なぜメルキドの町が滅びたかと言うことについて、分かったことがある」

 

「滅びた理由が分かったのか!?」

 

完全に分かった訳ではないのだが、ロロンドは期待して俺の話を聞いた。

 

「今日行ってきた城は、城というより魔物に襲われた人間たちが立てこもったシェルターだったんだ。メルキドの町自体は、魔物の襲撃で滅びたってことだった。でも、なぜシェルターのなかにいた人間が滅びたのかは、まだ分からない。」

 

「あの城はそう言う目的で立てられたのか。シェルターと言うくらいだから、かなり強固に作られているはずだな。それを突き破るほど恐ろしい魔物でもいたのか?」

 

「いや、あのシェルターの中で見つけたメモには、シェルターに魔物は入って来られなかったと書いてあった。」

 

俺は、兵士の幽霊が言ってたシェルターの中に現れた魔物というのが気になるな。だが、ロロニアの言っていたように、人間同士で殺しあって自滅したと考えるべきか。

 

「でも、そのシェルターの中では、人間同士が殺しあっていたようなことも書かれていた。人間が自滅したっていうのが、俺の推測だな」

 

「そのようなことが書かれていたのか。我輩もまた調べてみよう。だが今は石の守りの設計図を解読するのが先だな」

 

確かに、今考えても仕方のないことだな。ロロンドは、自作の家具がおいてある個室に入り、設計図の解読を始めた。

 

「しばらく時間が掛かりそうだし、俺は部屋に置く家具でも作るか。」

 

俺は作業部屋で自分用の石のいすと石のテーブルを作って自室に置いた。自室でもいすとかがあったほうがいいよな。

ロロンドはその日の夜、一晩中石の守りの設計図の解読を行った。朝日が登ってくるころ、ようやく解読を終えた。

 

メルキドに来て15日目の朝、俺が個室から出ると、拠点の旗の近くで、ピリンとロロンドが話していた。

 

「ねえロロンド!わたし、みんなのために新しい服を作ってたの。着替えてみて」

 

「ピリン、公衆の面前で着替えは出来んぞ。」

 

新しい服?ピリンはそんなものを作っていたのか。これが前言ってた、集中して作っているものか。そういえば俺は15日間、一度も着替えをしていない。他のみんなはもっと長い間着替えをしていないだろう。かなり服が汚れてきているので、そろそろ着替えをしたかった頃だ。

 

「あ、雄也おはよう!聞いてたと思うけど、実はわたし、みんなへのプレゼントとして、お洋服を作っていたんだけど、ロロンドに渡したら、公衆の面前で着替えは出来ん!って怒られちゃったんだ···。」

 

普通着替えは一人でするものだろう。ピリンはこんな世界で生きてきたからなのか?まだその事を分かっていないようだ。

 

「それなら、個室で着替えをすればいいだろ。みんなの個室があるから、それぞれが一人で着替えられるぞ」

 

「そうだけど、服をたくさん作ったから、しまって置くための部屋がいると思うの。」

 

確かに個室の地面は土ブロックなので、あまり服を置きたくはないな。服を収納するための部屋も、あったほうがいいかもしれない。

 

「部屋には、落ち着いて着替えをするためのいすが2つと、服をいれておく家具が欲しいんだけど、雄也、何か作れない?」

 

「服を入れる家具か、思い付いたら作ってみるぞ」

 

「前と同じように、わたしが土ブロックで壁を作っておくから、中におく家具やとびらをよろしくね」

 

ピリンは、町の空き地にブロックを積み始めた。町の空き地はもうほとんどないので、これからは光の外に作るか、二階を作るかだな。ゲームと違って、光の範囲の外に作ったものでも、みんな使えるからな。

 

「俺は家具を作らないと、服を入れる家具か···」

 

俺は、地球にいるときクローゼットに服をいれていたので、ビルダーの魔法でクローゼットの作り方を調べた。

石のクローゼット···木材3個、石材1個、銅のインゴット1個、ボロきれ3個、ひも1個 石の作業台

この世界のクローゼットは石で出来ているのか。それにしても、5種類の素材が必要なのか。木材と石材はみんなで集めたのでたくさんあるし、銅のインゴット、ひもも作ってある。ボロきれという奴は、一度目の防衛戦やケッパー救出の時のがいこつが落とした。いずれも、在庫がある素材だったが。

 

「素材は足りてるな。」

 

俺は5種類の素材にビルダーの魔法をかけ、姿を変化させていく。すぐに、高さ2メートルほどのクローゼットが出来上がった。

 

「これが石のクローゼットか、あとはわらのとびらと石のいす2つを作ってピリンが建てた部屋に置けばいいな」

 

石材と毛皮を使って石のいすを作り、じょうぶな草とふとい枝を使ってわらのとびらを作る。今は有り余っているこれらの素材も、足りなくなるときがくるのだろうか?

俺はそんなことを考えたが今は大丈夫だな。出来上がった石のクローゼット、石のいす、わらのとびらを持って、ピリンの建てた部屋に設置した。

 

「ありがとう、お着替えができる部屋が出来たね!ロロンドもロッシもケッパーも雄也もわたしも、ここに来てからずっと同じ服を着てるでしょ?」

 

こんな世界では、替えの服を持っていること自体珍しいだろう。日本で生きてきた俺には考えられないことだが。

 

「すれ違うたびに、こうばしい匂いがして、鼻をつきさして我慢出来なくなっていたの。でも、これでお着替えしてもらえるね!さっそくみんなを呼んで来るよ!」

 

着替え部屋が出来たことを喜び、ピリンはロロンド達を呼びに走っていった。1分くらいで、みんなが着替え部屋に集まった。

 

「ロロンド、ここなら着替えができるでしょ」

 

「ああ、部屋の中なら問題ないぞ」

 

俺たち5人は、順番に着替えをして、新しい服になった。俺とロロンドは同じ形、同じ色の服だが、新しくなって汚れもついていない。俺の服は魔物の攻撃で所々破れているが、これで安心だ。

 

「おお、我輩のお気に入りの服と同じものを作ってくれるとは」

 

「ピリンの服を作る才能はスゴいな」

 

ロロンドは俺以外の中で唯一最初からしっかりした服を着ていた。ほぼ同じ物を作れるとはな。俺の地球から来てきた服も、しっかり再現されていた。

最初ぼろぼろの服を着ていた3人は、キレイな服に着替えていた。ピリンは赤色の服とスカート、ロッシは緑色の帽子と服、ケッパーは兵士の服とそれぞれに似合った服になった。

 

「おお、こりゃ悪くねえな」

 

「かっこいい服だね」

 

ロッシやケッパーも、新しい服を気に入っていた。みんながきれいな服に着替えて、町の雰囲気も明るくなった気がする。

 

「みんな気に入ってくれたね!」

 

「良かったな、ピリン」

 

みんな喜んで、今日の活動を始めた。

 

「着替えが出来てうれしいのは分かるが、我輩から話がある」

 

俺が新しい服に着替えてテンションが上がっているところに、ロロンドは真面目な話を始めた。

 

「どうした、ロロンド?」

 

「雄也よ、昨日我輩は石の守りの設計図を一晩中解読していたのだ。そして、石の守りをどうやって作るか突き止めたぞ。」

 

一晩中かかったとはいえ昨日手に入れた設計図をもう解読できたのか。さすがはロロンドだ。

 

「この手がかりを見るに、石の守りには石垣とトゲわながいるようだ。」

 

石垣とトゲわなか、あの兵士の幽霊もそんなことを言っていたな。石垣で魔物の攻撃を防ぎ、トゲわなでダメージを与える、攻撃と防御、両方が出来る装置だ。

 

「そして、お主が手に入れた石の守りの設計図を少しアレンジし、この町に合った石の守りの設計図を書いたぞ」

 

ロロンドは、手書きの設計図を渡してきた。そこに書かれている石の守りは、シェルターにあったものより少し大きめだった。

 

「我輩も石垣とトゲわな設置を手伝う。お主はそのために石垣とトゲわなの作り方を見つけてくれ」

 

「それくらい簡単だぞ。ちょっと待っててくれ。」

 

石垣もトゲわなも、形状はシェルターで見たので分かっている。俺は魔法で作り方を調べた。

石垣···石材3個、銅のインゴット1個、石炭1個 炉と金床

トゲわな···銅のインゴット3個 炉と金床

これも在庫があるもので作れるようだ。だが、石垣が40個、トゲわなが16個とかなりの数が必要だ。もしかしたら、一度にいくつか出来るパターンかもしれないので、試しに石垣とトゲわなを作ってみた。

 

「お、一度に10個もできたぞ」

 

すると、石垣もトゲわなも、一度に10個出来上がった。これなら素材も足りる。もし一度に一個しか作れないのなら、素材が足りなくなっていた。

 

「トゲわなは16個で良いみたいだけど、6個だけ作ることは出来ないからな、合計20個になるけどまあいいか」

 

トゲわなを20個、石垣を40個作り、ロロンドと話した。

 

「石垣とトゲわなは出来たぞ。」

 

「もう作れたのか!早いな。」

 

確かに、5分もかからずに石垣とトゲわなをそろえた。普通の人から考えれば早すぎるだろうし、俺も早すぎると思う。

 

「では、さっそく石の守りを作るぞ!設置場所は魔物がよくやって来る、町の西がいいだろう。」

 

そういえば、これまでの2回の防衛戦では、どっちも町の西から襲ってきたな。町の西に置いてあった看板にも、いつも魔物はこっちから来るって書いてあった。

 

「分かった。半分ずつ石垣とトゲわなを置いていこう」

 

俺はロロンドに石垣20個とトゲわな8個を渡し、作業を始めた。俺は北西の部分に、ロロンドは南西の部分に石垣を置いていき、高さ2メートルの壁が出来た。石垣は、おおきづちで殴っても一撃では壊れなかった。そんじょそこらの魔物には、壊すことは出来ないだろう。

 

「次はトゲわなだな」

 

自分に刺さらないよう、慎重にトゲわなを設置していく。俺とロロンドが協力して、短い時間で作ることが出来た。ゲームでは一人でやらないと行けないのかもしれないな。でも、ここではロロンドと共同で作った。

 

「ロロンド、これでいいか?」

 

「おお、設置図の通りの石の守りが完成したな!」

 

シェルターにあったものと同じような防壁が完成した。もし次の襲撃が来たとしても、勝てる可能性が上がる。

 

「これで、町の防御力が一段と上がったな!素晴らしい!」

 

ロロンドは、いつ見てもテンションが高い。それがロロンドのいいところではあるのだが。

 

「それと、メルキド録に書いてあったのだが、このメルキドにはこの地を支配する魔物なるものがおり、その魔物の親玉を倒せば、空の闇が晴らすことが出来るらしいのだ」

 

魔物の親玉か、ゲームで言うボスモンスターって奴だな。一体どんな奴なのだろうか。

 

「雄也よ、もうひとつ大きな目標が出来たな!絶対に魔物の親玉を倒し、メルキドに光をとりもどそうぞ」

 

メルキド 魔物の集会所

 

「あの人間ども、なんて力を持っているんだ。オレの同族も、けっこうやられちまったぜ」

 

「仇を討ってやりてえぜ!」

 

人間たちに多くの仲間を奪われたブラウニーやがいこつは、なんとしても彼らを潰そうと思っていた。

 

「だが、不用意に突っ込んでは返り討ちに遭うだけだ。これ以上犠牲を出すわけにはいかない」

 

強力な魔物であるよろいのきしが、今すぐメルキドの町に行こうとする彼らをひき止めた。

 

「では、どうしろって言うんだ?このままだともっと被害が大きくなるぞ」

 

よろいのきしは少し考えたのち、立ち上がった。

 

「自分も行こう、人間たちなど、この斧で絶ちきってくれるわっ!」

 

一刻も早く人間たちを潰そうと、よろいのきしの軍団がメルキドの町に向かった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode12 鎧の騎士

俺は石の守りを完成させ、少し休憩していた。地球より物はとても軽いのだが、石垣を何個も積み上げていくのはさすがに疲れた。

 

「この防壁があれば、並の魔物は入って来れないな」

 

俺が出来上がった石の守りを眺めていると、俺が気に入らない奴、ロッシが話しかけてきた。そこまで悪い関係ではないので、普通に話せるが。

 

「お前、こんな防壁を作っていたのか。順調そうじゃねえか」

 

一瞬、ロッシもこの町の発展を喜んでいるように見えたが、急に真面目な顔をし、こんなことを言ってきた。

 

「だが、俺はこれ以上町を大きくしてり、武器を作って魔物に対抗したりするのは反対だ」

 

ケッパーがこの町にやってきた時も、そんなことを言っていたな。真面目な顔をして言っているので、何らかの理由がありそうだ。それでも、協力が必要なのに、こんなみんなの意思にそぐわない者がいるのは困るのだが。

 

「別に、気に入らないのなら出ていけばいい。お前は最初、長居するつもりはないって言ってたよな?そろそろ出ていく時なんじゃないのか?」

 

俺は町を去るべきではないかと提案した。もちろん、外には魔物がいて危険なので、無理に追放するつもりはないが。

 

「まあ、そうなんだけどよ、みんなと一緒に暮らしたり、素材から物を作るってのは、楽しくない訳でもなくわねえ」

 

ないわけでもなくわねえ?複雑な文でよく分からんくなってきたが、ロッシはこの町が嫌いな訳ではないようだ。

 

「町の仲間になりたいって言うんだったら、俺は別に断らないけどな」

 

「ピリンたちと物を作るのは楽しいからそれも良いけど、今この町にある作業部屋は、地味すぎてなんとなくやる気が出ねえんだ」

 

それにしても、地味だとか失礼なことを言う奴だな。そこまで派手にする必要もないと思うし。

 

「そこまで派手にしなくても良いだろ。」

 

「オレもスゴいものにしろとは言ってない。例えば、作業部屋の目印になりそうな壁掛けあったりしたら、少しは違うと思うんだけどな」

 

壁掛けか···。確かにドラクエの道具屋とか武器屋には、大体看板が貼ってあるよな。あれを作ればいいか。

 

「壁掛けなら簡単に作れる。すぐに作れるぞ」

 

「そうか。出来たら、作業部屋の入り口に着けてくれ」

 

俺は、ドラクエシリーズで見たことのある武器屋、防具屋、道具屋の壁掛けの作り方をそれぞれ調べた。

武器屋のカベかけ···鉄のインゴット1個、染料1個 炉と金床

防具屋のカベかけ···鉄のインゴット1個、染料1個 炉と金床

道具屋のカベかけ···木材1個、染料1個 石の作業台、木の作業台、鉄の作業台

鉄のインゴットという素材は、鉄が無いと作れなさそうなので、今作れるのは道具屋のカベかけだけだな。この木の作業台とか鉄の作業台とか言うのが気になるけど、今は石の作業台でも作れるから別にいいな。

 

「道具屋のカベかけなら、在庫がある素材で作れるな」

 

特に用事のない日は、俺たちはスライムを狩ったり、木材を取りに行ったりしているので、素材はかなりあった。じょうぶな草などに比べれば少ないが。

俺は石の作業台で道具屋のカベかけを作り、作業部屋の入り口につけた。ちょうど、ロッシが作業部屋の近くにいたので、道具屋のカベかけを見に来た。

 

「これがカベかけか。なかなか良さそうだ。これで、ここが作業部屋ってことがはっきり分かるな」

 

だが、ロッシはまた真面目な表情に戻った。

 

「ロッシ、どうしたんだ?」

 

「ちょっとお前に大事な話がある。ロロンドに聞かれるとマズイから、オレの個室に来てくれ」

 

ロロンドに聞かれたくない話だと?俺はとりあえずロッシの部屋に入った。

 

「ここなら、他の人に聞かれないな。」

 

「それで、大事な話って何だ?」

 

「さっきも言ったかもしれないけど、何度でも言うぜ。ロロンドにいくらそそのかされても、これ以上町を発展させるのはやめておいたほうがいい」

 

またその話だったのかよ。だから、絶対に町を発展させて見せると言ってるロロンドの前では話せないと。だけど、何でロロンドと協力している俺に言うんだ。それに、何を言われても町の復興をやめるつもりはない。

 

「何でみんなの意思にそぐわないことを言う?ピリンもロロンドもケッパーも俺も、町の発展のために頑張っている。発展を止めるつもりもない。さっきも言った。気に入らないのなら出ていけばいい」

 

さっきまで壁掛けを作る話で仲良くなれたかと思ったが、俺とロッシの関係は、再び、いやこれまで以上に険悪なものとなった。

 

「そう言われると思ってたぜ。だがな、ほどほどに目を付けられて、必ず潰されちまう」

 

俺たちは魔物に立ち向かおうとしているのに、ロッシは諦めている様子だった。メタルギアソリッド5で、マザーベースが滅びたのは力を持ちすぎたからだなんて言われてたけど、結局はスカルフェイスの独断と、裏切り者の存在が原因だったんだよな。

それにしてもロッシは、必死に魔物に立ち向かっている俺たちを否定しているのだろうか。

 

「だからこそ、町を発展させ、強い武器を作ってるんだ!何で分からないんだ!?」

 

俺は、ケッパーが来たときと同様に、ロッシを怒鳴っていた。すると、ロッシは訳の分からないことを言った。

 

「わ、分かるけどよ。町を発展させすぎると、あの化け物が必ずやってくるんだ。その昔メルキドの町を滅ぼした、巨大なゴーレムがな!」

 

聞いた瞬間、は?と思った。ゴーレムはメルキドの守り神だったはずだ。それが何で町を滅ぼすんだ?竜王とかに操られた可能性もあるが。しかし、ロッシの言い方から考えて、操られたとは考えにくい。もしそうだったら、操られたゴーレムがメルキドを滅ぼしたって言い方になるはずだ。

 

「おい、ゴーレムはメルキドの守り神のはずだぞ?何でゴーレムが町を滅ぼすことになる?」

 

俺は問い詰めたが、ロッシはそれ以上は話さなかった。俺がロッシの個室から出ると、今度はロロンドに話しかけられた。

 

「ここにいたか、雄也よ。実は、メルキド録の解読が進んでまた新しいことを発見したのだ。」

 

最近、メルキド録を解読するスピードが早いな。毎晩徹夜でやっているからだろう。

 

「お主には、とある人物を探しに行って欲しいのだ。」

 

「ある人物?」

 

「メルキド録によると、このメルキドには伝説の鍛冶屋、ゆきのふなる人物がおり、その遠い子孫が、今もどこかで生きているようなのだ。強力な武器を作って、このメルキドを支配する魔物の親玉を倒すためにも、なんとか鍛冶屋の子孫を見つけ、仲間にしたい」

 

ゆきのふか···。確かドラクエ3で伝説の剣を作った鍛冶屋だったな。彼の遺伝子を引き継ぐ者がいれば、強力な武器も作れそうだ。

 

「その男の情報があつまったら、彼をこの町に連れてくるのだ。」

 

「何か分かったら言ってくれ」

 

伝説の鍛冶屋のことは分かったが、俺もロロンド相談しないといけないことがあったな。

 

「俺もロロンドに相談したいことがある。ロッシの奴が、これ以上町を発展させないほうがいいとか、メルキドの町はゴーレムが滅ぼしたとか言ってたんだ」

 

「何を言っている?ゴーレムはメルキドの守り神なのだぞ!何があったか知らぬが、ゴーレムが人間を滅ぼすことがなかろう。お主、こんな話を真に受けてはないだろうな?」

 

ロロンドも、ゴーレムがメルキドの守り神だと言うことは知っているようだ。ロロンドも、ロッシのことを悪く思い始めた。

 

「もちろん真に受けてはいない。でもそんなことを俺に言ってきたんだ。どうすればいいと思う」

 

「そう言う根拠のない噂で人々を不安させたり、町の発展に文句を言う奴は、町にとって邪魔な人間になる」

 

ケッパーが来たときの話で、俺もそんな予感がしたけど、本当だったようだ。

 

「いずれ、対処を考えなければならないかもしれん」

 

やっぱりそうだよな。追放するのは気が引けるが、町の発展を考えれば、そんなことを言ってはいられない。

その時だった、俺たちの耳に、ケッパーの大声が聞こえた。

 

「みんな、魔物がこの町に近づいて来ているよ!」

 

「な、何だと?またしても魔物の軍勢が迫ってきているのか」

 

もう襲撃は来ないで欲しいと思っていたが、やはり思い通りにはならなかったようだ。町の西を見ると、がいこつ6体、ブラウニー6体、そして隊長と思われる初めて見る、青い鎧を身にまとい、斧をもった魔物、よろいのきしがいた。合計13体で、これまでで一番多い。

 

「今の我々には、石の守りもある。しかし、油断してはならんぞ!」

 

「分かってる。こいつらを倒すぞ!」

 

俺とロロンドとケッパーは、どうのつるぎを手に持つ。メルキドの町の、三度目の防衛戦が始まった。

 

「同族のかたきを討つぞ!」

 

「人間め、切り刻んでやる」

 

ブラウニーとがいこつは、この前の防衛戦などで俺たちが倒した奴らの仲間らしい。仇討ちに来たってところか。だが、俺たちも負けるわけにはいかない。

 

「なんか壁が出来てるぞ?まあいい、ぶっこわす!」

 

ブラウニーは石の守りを見つけ、叩き壊しに来る。だが、ブラウニーごときには石垣を壊すことはできない。シェルターの前の時と同じように、ブラウニーはトゲわなに刺さり始める。

 

「なんて固いんだ。それに地面にトゲが!」

 

石の守りで侵攻を妨げられたのを見て、よろいのきしは指示を出す。

 

「その防壁は俺が壊す!ブラウニーたちは横にある建物を壊して侵入しろ!」

 

「了解だ、隊長!」

 

よろいのきしは固い鎧があるため、トゲわなでもダメージを受けない。よろいのきしは石の守りに突撃し、6体のブラウニーは町の西にある着替え部屋に向かった。中には誰もいないとはいえ、せっかくピリンが作った部屋だ、壊される訳にはいかない。

 

「僕と雄也で倒そう。ロロンドは石の守りが壊された時に奴らを止めてくれ」

 

「壊されるとは思えんが、一応のためだな、分かったぞ」

 

ケッパーと俺は、着替え部屋を壊そうとするブラウニーに斬りかかった。

 

「な、何をするんだ人間!」

 

ブラウニーはすぐに俺たちに反撃に出る。6体もいるので倒すのが難しい。でも俺とケッパーにはあの技があるからな。

 

「ケッパー、特技を使おう」

 

「分かった。お互いを巻き込まないように離れてから使うぞ!」

 

「特技か何だか知らねえけど、お前らをぶっつぶすって言ってんだ!」

 

俺はブラウニーのうち三体を切りつけ、その後2メートルほど移動する。ケッパーや石の守りを巻き込まない位置にきたら、ブラウニーを挑発する。

 

「お前らなんてハンマーもうまく使えない雑魚だろ(笑)」

 

俺もうまくはないが、これは挑発だからな。ブラウニーは俺の発言に怒り狂い、ハンマーを振り回してくる。

 

「人間のくせに生意気なこと言ってんじゃねえよ!」

 

「うるせえ!低レベルの生物が!」

 

俺とケッパーでうまくブラウニーを分断できた。奴らの攻撃をかわしながら、俺たちは同時に叫んだ。

 

「回転斬り!」

 

俺は剣を一回転させ、ブラウニーの腹を切り裂く。トゲわなでのダメージもあってだろうが、一撃で倒れるブラウニーもいた。

 

「まだ残ってるやつもいるが、瀕死だろうな」

 

生きているブラウニーも、立っているのがやっとの状態だった。俺は奴らにとどめを指していく。ケッパーも無事にブラウニーを殲滅できたようだ。

 

「何っ!ブラウニーが!」

 

石の守りの破壊に手こずっているよろいのきしは、ブラウニーたちが倒されたことを知ってショックを受けた。

 

「くそっ!あいつらの人間への仕返しを成功させるって言ったのによ!ふざけんなよ貴様ら!」

 

よろいのきしは渾身の攻撃を鎧に叩きつけ、ついに石垣を破壊した。ドラクエ本編で言う、痛恨の一撃って奴だろう。よろいのきしの壊した石垣の穴からがいこつたちが次々と町の中に入って行く。

 

「この町を壊させはせんぞ!」

 

ロロンドががいこつたちと交戦する。俺とケッパーは救援に向かった。だが、俺たちの行動を見たよろいのきしはロロンドに斧を振り上げる。

 

「まずは貴様を殺す!」

 

よろいのきしの行動に気付いた俺は、がいこつとの戦いに集中しているロロンドに言った。

 

「危ない!避けろ!」

 

「何っ!?」

 

しかし、ロロンドが気付いたときはもう遅く、よろいのきしの斧はロロンドを切りつけた。

 

「まだ死んではないな。次でとどめだ!」

 

よろいのきしはもう一度ロロンドに斧を振り上げる。

 

「させるかよっ!」

 

俺は立ちふさがるがいこつを回転斬りで一掃し、よろいのきしに剣を突き刺そうとした。。首を狙ったがうまく当たらなかった。しかし、鎧にヒビをいれ、攻撃を止めることができた。

 

「ぐっ、貴様!邪魔をするな!」

 

回転斬りで死ななかったがいこつが俺を狙ってきたが、ケッパーが倒してくれた。

 

「こっちは僕に任せて!ロロンドを安全なところに避難させてくれ!」

 

ケッパーがよろいのきしを引き付けている間に、俺はロロンドを作業部屋に移動させた。ロロンドは命に別状はなさそうだが、戦える状態ではない。ロロンドを避難させた後、俺はよろいのきしとの戦いに戻る。

 

「雄也、ロロンドは大丈夫そうか?」

 

「なんとかな。今はこいつを倒そう。」

 

ケッパーの攻撃で、よろいのきしの鎧の耐久力は減って来ていた。

 

「おのれ人間ども!我が軍団を壊滅させ、俺自身もここまで追い詰めるとは!」

 

残り1体だけになり、追い詰められたよろいのきしは斧を降りながら突進してくる。よろいのきしの前方にいた俺とケッパーは避けられないと思い、剣で受け流す。てつのさそりと同じかそれ以上のパワーで、俺はまたしても吹き飛ばされた。そして、ロロンドのいる作業部屋の壁に穴が開く。

 

「くそっ、ロロンドが危ない!」

 

ケッパーは吹き飛ばされなかったが、かなり腕は痛そうだった。だが、ケッパーは痛みになんとか耐えて、突進の反動で動きの止まったよろいのきしに回転斬りを放つ。

 

「回転斬り!」

 

「ぐっ!まだ戦えたのか!?」

 

回転斬りのせいで、作業部屋の壁はさらに壊れたが人命が優先だから仕方ない。俺は立ち上がって、耐久力が切れそうであろう鎧を全力で叩き割り、よろいのきしの内臓をどうのつるぎでえぐった。

 

「ぐ、ぐああああああっ!」

 

内臓をえぐられるすさまじい痛みに、よろいのきしは悲鳴をあげる。俺はそのまま心臓なども切り裂き、よろいのきしを倒した。

 

「た、倒せたみたいだね」

 

ケッパーも俺も、かなりキツイ戦いだった。よろいのきしを倒すことが出来たが、アイツは魔物の親玉どころか、その半分の力もないのだろう。もっと力をつけないとな。

俺はロロンドを個室に運びきずぐすりを5個使って寝かせた。ここまで傷をうければきずぐすりをぬっても1日では直らなそうだが、命に別状がなくて良かった。

 

「キツイ戦いだったぜ。そうだ、よろいのきしは何を落としたんだ?」

 

よろいのきしが倒した所を見ると、なんと新しい旅のとびらが落ちていた。この前の物と違い最初から完成しており、縁の紋様が赤色だった。

 

「これでまた新しい場所に行けるってことか」

 

俺は赤の旅のとびらを設置し、個室に入った。もう夕方であり、戦闘後なので、ベッドで休むことにした。明日からは、新しい場所の探索が始まるだろう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode13 砂漠の料理人

3度目の防衛戦を勝ち抜いた日の夜、俺は再び不思議な夢を見た。この前と同じように、裏切り勇者の記憶を追体験しているのだろう。

夢の中では、恋人同士だと思われる若い男女が出てきた。彼女がいない俺にとっては、うらやましい話だ。二人のうち、まず男のほうが勇者に話しかける。

 

「彼女といつまでもこうしていっしょにいたい。こんな僕の気持ちも、魔物たちに踏みにじられる時がくるのでしょうか···」

 

この人も、竜王や魔物たちを恐れて、奴らを勇者に倒してほしいと願っているのだろう。でも、兵士や町人たちみんなから期待されて、辛いこともありそうだ。

 

「ああ、でもあなたなら、竜王を倒してくれる!僕はそう信じています!」

 

本当に、何でも勇者に任せられてるな。こんなに重い期待をされたら、自分だったら耐えきれないだろう。男が話し終えた後次は隣にいた女が話しはじめた。

 

「彼といっしょにいたら、世界が闇がおおうなんて嫌なことも忘れられるわ。でも、それはウソ。世界が滅べば私たちの愛も終わってしまうなんて、彼がそう言うんです。」

 

この男、結構暗いこと言ってんだな。あっちでは愛は地球を救う、なんて言われているのに。その後、彼女も勇者に期待を持っているような発言をした。

 

「だけど、きっとあなたなら何とかしてくれる。だってあなたは伝説の勇者の子孫ですもの!」

 

家系や血筋に縛られるって、嫌なことだな。自分から望んでその家系に生まれて来たわけでもないのに。俺は昔ドラクエ1をやったことがあるが、何でもかんでも行ってくる村人には相当イラついた。本人なら尚更のことだろう。

勇者はカップルの近くを去り、今度は緑の服をきた中年くらいの男性に話しかけられる。

 

「闇の竜、つばさ広げる時、ロトの血を引くもの来たりて、闇を照らす光とならん」

 

ロトの血を引くものか···こいつも血筋のことを言っているな。世界が危機だから仕方ないのかも知れないが、本人の気持ちも考えるべきだろ。

その時、勇者が、こんな声をあげた。

 

「もう、やめてくれよ···」

 

俺にはそう聞こえた。やっぱりみんなの期待を背負っていて辛いのだろう。

 

「おお、神よ。古き言い伝えの勇者となりしあなたに光あれ!!」

 

さっきのカップルも、この中年男性も応援しているのだろうが、本人にとっては苦痛なようだ。

勇者の夢を見てそんなことを考えていると、目の前が真っ暗になり俺の意識は現実に戻ってきた。

 

「また変な夢を見ちまったな···まあいいか。今日は赤の旅のとびらの先の探索をしないといけないな」

 

俺が個室から出ると、ピリンやロッシ、ケッパーは起きていたが、ロロンドは昨日の怪我のせいでまだ休んでいるようだ。

 

「あんな怪我がもう起こらないようにもっと装備を強化しないとな」

 

俺はどうのつるぎ、おおきづちを持ち、探索の準備をする。準備が完了し、赤の旅のとびら、恐らく名前は旅のとびら·赤に入ろうとすると、急に調理部屋からロッシが飛び出してきた。

 

「あ、あいつ何を食わせる気なんだ!?」

 

何かと思い、調理部屋に入ると、謎の異形の物体をもつピリンがいた。

 

「ピリン、何をやってるんだ?」

 

俺は恐る恐るピリンに話しかける。すると、ピリンはいたって普通のあいさつをした。

 

「おはよう、雄也!」

 

「その謎の物体は何だ?」

 

その異形の物体について聞いても、ピリンは普通に話した。

 

「わたし、このころ料理に凝ってるの。それで、わたしが思い付いたのがキメラのくちばしにバッタとモモガキを入れて、あおい油と土で煮込んだ料理で、それがこれなの」

 

ピリンはその物体を俺に近づける。悪気がないのは分かっているが、あまりのひどい見た目と匂いで吐き気を催してくる。

 

「それで、ロッシに食べさせようとしたら、こんなの食べたら死ぬって言うの···」

 

だからさっきはロッシが慌てて調理部屋から逃げ出してきたのか。そんな物を与えるって、毒殺みたなものだ。ロッシが気に入らないからといって狙ってやった訳ではないようだが。

 

「だから、美味しい料理が出来たらわたしに見せてくれない?それを真似すれば、わたしも美味しい料理が作れると思うの。」

 

この世界に来てからは、1種類の食材を生で食べるか焼いて食べるかだけで、複数の食材を使った料理は食べたことがないな。もし作れるようになったら教えよう。

 

「分かった。探索のついでに考えておくよ」

 

ピリンの料理の話で遅れてしまったが、俺は改めて旅のとびら·赤に入った。青色の扉と同じように最初は目の前が真っ白になる。その後、今回は砂漠地帯に移動した。

 

「ここは、砂漠のようだな。どんな素材があるんだろうな?」

 

山岳地帯より、探索は楽そうだ。俺はまず、砂漠地帯で初めて見かけるものを手に入れていくことにした。旅のとびらの近くには、砂に似ている色の草が生えていた。その場所以外にも、たくさんの場所で生えている。

 

「この草を使えばまたカモフラージュできる箱が作れるかもな」

 

前に作った草地の箱はあまり使う機会はなかったが、役に立たないこともなかったので、俺は砂漠でカモフラージュ効果を持つ箱の作り方を調べた。

砂漠の箱···砂の草切れ5個 石の作業台 木の作業台、鉄の作業台

砂の草切れ?今手に入れたこれの草のことか。石の作業台でも作れるようなので、俺はいくつか砂の草切れを集めた。

 

「他にも何か素材はないのか?」

 

俺が少し歩いて行くと、ここで初めて見る魔物がいた。いっかくうさぎとおおさそりという魔物だ。見たことのある魔物だと、スライムベスがいた。

 

「とりあえずコイツらを倒して素材を手に入れてみるか」

 

俺はまず、いっかくうさぎと戦うことにした。俺はよこからいっかくうさぎを切りつける。すると、奴は怒って俺に突進してきた。突進スピードは非常に早いが、突進までの溜め時間が長いので簡単にかわすことが出来た。しかも、いっかくうさぎには角があり、岩にその角が刺さった。

 

「間抜けな魔物だな」

 

俺は角が刺さって動けなくなっているいっかくうさぎの背後を切り裂き、倒した。いっかくうさぎは、青い光になって、肉のような物を落とした。

 

「肉か、やっと栄養の多いものが食べられるな!」

 

俺はこの世界に来てからは地味なものしか食べていない。肉はさすがに普通に焼くことが出来るので、作り方を調べる必要はなさそうだ。

特に食材などは落とさなさそうだが、おおさそりも倒すことにした。やや固い殻を持つので、俺は背後に忍び寄り、回転斬りで倒した。すると、魔物が何故持っているのか分からないものだった。

 

「ん、なんだこれ?」

 

囚人を捕らえておくためのくさりのような物を落とした。手がないため使えないはずのおおさそりが持っているのは何でだ?

 

「お、ストーンマンがいるな。それに鉱脈もあるぞ」

 

砂漠の中心のようなところでは、ストーンマン2体と、そのボスと思われる巨大ストーンマンが生息していた。

 

「さすがにこいつは固すぎるからな。今は戦わないことにしよう。」

 

ストーンマンはてつのさそりやよろいのきしより固いだろう。特に巨大ストーンマンはほとんど攻撃が効かなそうだ。

ストーンマンを無視して近くの小さな山を見ると、鉱脈が存在していた。近づいて見てみると、俺も見慣れている金属だった。

 

「これはどう見ても鉄だな。ってことは、てつのつるぎとか作れるってことか?」

 

俺は鉄を手に入れたので、てつのつるぎの作り方を調べた。

てつのつるぎ···鉄のインゴット1個

銅の時のように、インゴットに加工しないといけないようだ。鉄のインゴットは鉄3個と石炭1個で作れると出た。

 

「木材もそうだけど、いちいち加工しないといけない素材があるのは面倒だな」

 

俺が近くにある鉄の鉱石を集めていると、途中オアシスのような物を発見した。そこには、若い男がいた。

 

「お、人がいるな。もしかして、幽霊かしれないけど」

 

俺はオアシスにいた男に話しかけた。

 

「お前、このオアシスで何やってんだ?」

 

「へえ、君は私の姿が見えるのかい?幽霊であるわたしが見えるなんて、君は他の人間とは違うようだね。」

 

やっぱり幽霊だったか。この世界、生き残っている人々はほとんどいないな。

 

「私は生前料理の研究をしていた美食家でね。長年の研究の末考えた至高の料理器具、レンガ料理台を作っていたら、美味しい料理を求める魔物に襲われ、命を奪われてしまったんだ」

 

レンガ料理台は、パンを作るときに必要って出てたな。作り方を知っておいたほうがよさそうなので、聞こうと思った。

 

「料理と言うものは魔物をも狂わせる。君も気をつけたまえ···」

 

そう思っていた矢先、突然オアシスに2体のてつのさそりが襲ってきた。

 

「てつのさそりだとっ!?」

 

一体でも苦戦したてつのさそりが2体もいるが、この前戦った奴よりも、体は小さくてそこまで強くなさそうだ。俺は近づいてきた2体に向けて、また特技を使った。

 

「回転斬り!」

 

回転斬りを使えば、てつのさそりの装甲を剥がすことはできるが、一撃でたおすことは出来ない。てつのさそりは反撃に、俺と同じような回転攻撃を行う。

 

「お前らの攻撃は分かってるよ!」

 

1体が回転攻撃を行ったら、俺はもう片方のてつのさそりの傷口に剣を突き刺した。だが、なかなかの生命力で死なない。俺の動きに気付かれたのかてつのさそりは回転攻撃をやめ、ハサミや尻尾で俺を攻撃する。しかし、前の大きなてつのさそりほどは強くない。

 

「2体いるが、そんな強くないな」

 

俺はさそりの攻撃を避けながら斬りつけていく。傷口を突き刺されたほうのてつのさそりは、3.4回切るとたおれた。

もう片方のてつのさそりは、喋らないが相当怒っているようだ。それでも正確に俺を狙ってハサミを振り回す。

 

「結構速いな!でもこれならどうだ?」

 

俺は降り下ろされたハサミを思いきり弾き返した。それでもすぐにもう片方のハサミで攻撃してくるが、俺はその前に奴の弱点の顔を斬り裂いた。そこで動きが一時的に止まったので、俺はもう一撃回転斬りを叩き込んだ。てつのさそりは、今度こそ生命力が尽きる。

 

「まあまあ強かったな」

 

「魔物を倒してしまったのかい?君もこちらの世界の住人になれたというのに」

 

せっかくてつのさそりを倒したのに、この幽霊がふざけたことを言ってきた。俺に死ねとでも言いたいのかよ···。

 

「アホなことを言うな。俺がそう簡単に死ぬと思うな」

 

レンガ料理台のことを聞きたいが、こんな幽霊信用できないな?俺はオアシスを離れ、一旦町に戻りに歩いた。

 

「おい、待て、待てって!」

 

すると、美食家の幽霊が追いかけてきた。

 

「待て、もうそんなことは言わない。君に頼みたいことがあるんだ」

 

頼みたいこと?一体何だ?

 

「私が長年続けてきた料理の研究とその極意を受け継いで、これからアレフガルドで最高の料理人を目指してくれないか?悪い話じゃないだろう?」

 

いきなり最高の料理人とか言われてもこまるのだが···。

 

「俺は料理なんて出来ないぞ」

 

「今すぐにとは言わない。でも、料理はただ空腹を満たすだけでなく、人の心に光を与えるものなのだ!君がもしこの世界を救おうとするのなら、私の料理を継承し、作り出していってほしい。レンガ料理台の作り方も教える。」

 

「仕方ないな。俺もレンガ料理台は欲しかったし、教えてくれ」

 

さっきの発言でイラつく幽霊だなと思ったが、彼なりにアレフガルドのことを考えているようだ。俺は、しばらくの間レンガ料理台の作り方の説明を受けた。説明が終わると、最後に彼は言った。

 

「頼む、どうか私の料理の力もアレフガルドの復活に役立ててくれ···」

 

そう言い残し、美食家の幽霊は消えていった。

 

「料理の力か。確かにウマイ物を食べると幸せになるって言うのを聞いたことがあるな」

 

俺は美食家からレンガ料理台の形も教えて貰ったので、俺は作り方を調べる。

レンガ料理台···料理用たき火1個、レンガ5個、鉄のインゴット5個 石の作業台 木の作業台 鉄の作業台

料理用たき火は今あるし鉄のインゴットは帰ってから作ればいいな。レンガはどうやって作るんだ?

レンガ···粘土5個、石炭1個 炉と金床

石炭はあるけど、粘土なんて持ってないな。おそらくは山岳地帯にあった色が違う土か。

俺は町に戻ると、すぐに旅のとびら·青に入った。

 

「崖にあるはずだったな」

 

俺はツタを使って崖を降りる。そこには予想通り、粘土と思われる土があった。

 

「これがレンガの材料か。さっさと作ろう」

 

俺は今度こそ町に帰還し、炉と金床で鉄のインゴットとレンガを作る。その時に、戦闘が出来る3人の分のてつのつるぎを作った。その後、一旦調理部屋の料理用たき火を回収し、レンガ料理台に強化する。レンガ料理台は、料理用たき火の上位版と言ったところのようだ。

 

「てつのさそりと戦ったりレンガ料理台作ったり大変だったな」

 

レンガ料理台を調理部屋に設置すると、俺は腹が減ってきた。俺はパンを作った。ビルダーの魔法だと、一度に5個もできた。

 

「そういえば、ピリンは何か複数の食材を使った料理がしたいって言ってたな。なにか作れるか?」

 

少し考えて、思い付いた。パンの間に焼いた肉を挟めば、ハンバーガーになる。俺はさっそく作り、ピリンにみせにいった。肉を焼くのと、ハンバーガーをつくるのは手動でもできるのでそうした。

 

「ピリン!新しい料理が出来たぞ。今日作ったレンガ料理台で作ったハンバーガーだ」

 

「はんばあがあ?どんな料理なの?」

 

ピリンはハンバーガーも知らないのか。俺はレンガ料理台やハンバーガーの作り方をピリンに教えた。

 

「ハンバーガーは作れそうか?」

 

「うん!わたしも美味しいものをつくれるように頑張るね!」

 

その日の夜は、もう一つハンバーガーを作り、ピリンと一緒に食べた。ピリンの料理も、少しずつ上手くなっていくだろう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode14 伝説の鍛冶屋

レンガ料理台を作った翌日、希望の旗のところにまた新しい人が来ていた。ロッシやケッパーと同じくらいの年齢と思われる男だ。

 

「やっとたどり着けました。この光のあふれる場所に」

 

「見たことない顔だな、あんた誰だ?」

 

その男は、町というものが珍しいのだろう、不思議そうに町を見回していた。

 

「あなたも、ここに住んでいる人なのですか?きれいな建物にたくさんの人、これが噂に聞いた町というものなのでしょうか?」

 

「そうだ、お前の思ってるとおり、これが町って奴で、俺を含めて今は5人が住んでいる。」

 

最初は1人だったのに、もうそこまで増えたんだな。この男も仲間になってくれれば6人目だ。

 

「それにしてもこの町は、誰が作ったのですか?まさかまさか、あなたがお作りになったのですか?」

 

「みんなで作ったんだ。でも、最初に町を作り始めたのは俺だな」

 

「おお!ということは、あなたはあの伝説のビルダーなのですね!?これはなんという感動、なんという興奮だ!」

 

この男も、ロロンドみたいにテンションが高いな。それにしてもビルダーの伝説って言うのは、本当に誰でも知ってるんだな。

 

「ああ、俺は精霊ルビスからビルダーって呼ばれている。昔ここにあったメルキドの町を復興させろって言われたんだ。」

 

「なるほど、ここは巨大なゴーレムを守り神として栄えた、メルキドの跡地なのですね」

 

やっぱりゴーレムはメルキドの守り神なんだよな。そう考えると、ゴーレムがメルキドを滅ぼしたとはやはり考えにくい。だが、ロッシの言い方を見ると、嘘とは思えない。

 

「あの、何かありましたか?」

 

その男が俺に声をかける。ゴーレムのことを考えていて、表情が変わっていたからだろう。

 

「なんでもない。俺は影山雄也。いつもは雄也って呼んでくれればいい。」

 

俺は男に返事をした後、名前を名乗った。彼も仲間になってくれそうなので、教えておかないとな。

 

「雄也と言うのですか。私の名前はショーター。とほうもなく長い間歩き続けてきた旅のものです。」

 

「ショーターか。よろしくな」

 

「なんのとりえもありませんが、各地で見聞きした情報をお伝えできると思います。お願いします!どうか今日からここに住ませてください!」

 

情報を持ってるってだけで、十分なとりえだと思うが。長い旅をしているのなら疲れていそうだし、役に立ってくれるのならもちろん歓迎だ。

 

「もちろんだ。今日からお前もこの町の仲間だ。」

 

「ありがとうございます!がんばりますね」

 

ショーターとのあいさつを終えるころ、ロロンドが俺たちのところへやって来た。おととい受けた傷も、きずぐすりの力で治ったようだ。

 

「おお、また新しい人が来たのか。これでメルキドの町もさらに発展するな」

 

「この人もこの町の住人なのですか?」

 

俺はショーターにロロンドのことを紹介した。

 

「ああ。ロロンドって言うんだ。」

 

「ロロンドですか、私はショーター。よろしくお願いします」

 

自己紹介の後、ロロンドはショーターに質問をした。前に言っていた、伝説の鍛冶屋の子孫についてだ。

 

「ところでショーター、お主、伝説の鍛冶屋、ゆきのふの子孫について何か知らないか?」

 

「ああ、そのことなら知っていますよ。旅の途中に訪れた、ドムドーラという砂漠に、その男がいたはずです」

 

ドムドーラは、ドラクエ1で竜王に滅ぼされた町だったな。赤い旅のとびらから行ける先は砂漠だが、そこのことなのかも知れない。

 

「ドムドーラの砂漠地帯か。でも、今はそこには行けぬな」

 

ロロンドは怪我を負ったから、旅のとびら·赤が手に入ったことを知らないのか。

 

「いや、おとといのよろいのきしを倒した後、新しい旅のとびらが手に入ったんだ。それは砂漠地帯につながってたから、そこのことかもしれないぞ」

 

と言うか、アレフガルドには砂漠はドムドーラにしか無かったはずだから、間違いないはずだ。

 

「そ、それは本当か!?町に鍛冶屋がいればより強い武器や防具、町を守る設備も作り出すことが出来るであろう。その新しい旅のとびらの先で、その男を探してきてくれ」

 

「私の持っていた情報が役に立ちましたか。良かったです」

 

ショーターは早速活躍してくれたな。役に立てて本人も嬉しそうだ。

 

「分かった。伝説の鍛冶屋の子孫を探してくる」

 

後は、砂漠地帯でその男を見つけるだけだな。俺はてつのつるぎを持ち、旅のとびら·赤に入った。

 

「この砂漠のどこかにいるはずなんだよな。でも、ここは結構広いし」

 

この砂漠地帯を一周するのは大変だ。俺は、高さ10メートルほどの砂と岩でできた小さな山に登り、全体を見回すことにした。

 

「誰かいないのか?ん、なんだあれは?」

 

美食家がいたオアシスの近くに、小さな牢屋のようなものが見えた。しかもその前に、ピリンがいたのだ。

 

「何でここにピリンがいるんだよ?さっき町にいたはずなのに」

 

さっきてつのつるぎを取りに作業部屋に入った時、ピリンを見かけた。そしてその後すぐに俺は旅のとびらに入った。だからここにピリンがいるはずがない。恐らくは、何らかの魔物が化けているのだろう。

 

「怪しまれれば、本来の魔物の姿に戻ってしまうはずだ。普段と同じように接しないとな」

 

何の魔物が化けているかは分からないが、まともに戦うと勝ち目のない相手の可能性もある。俺は怪しまれないように、偽物のピリンのところへ行った。

 

「ピリン、こんなところで何をしているんだ?」

 

俺は普段ピリンに話しかける時と同じように偽ピリンに話しかける。偽ピリンも本物と同じように俺に話しかけてくる。

 

「あ、雄也!こんなところで何をしているの?」

 

「伝説の鍛冶屋の子孫を探しているんだ。ピリンこそ何をしているんだ?」

 

すると、偽ピリンは自らが偽物だと言うかのようなことを言った。

 

「へえ、ロロンドに言われて鍛冶屋を探しているんだ。相変わらず、あのヒゲおやじに馬車馬のように働かされていたんだね」

 

何を言っているんだ?ピリンはロロンドにも協力している。こんなことを言うはずがない。

 

「それで、何が言いたいんだ?」

 

「あんなヒゲの使いっぱしりはやめて、わたしといっしょに逃げちゃわない?実はわたし、あの町の人たちが、邪魔で邪魔で仕方がないの」

 

俺は呆れた。仲間のことを大切に思っているはずのピリンがこんなことをいうはずがない。いくら見た目を真似していたとしても、性格は全く真似できていない。

 

「1つだけお前に言いたいことがある」

 

「ん?なあに?」

 

「お前のどこがピリンなんだよ!」

 

俺は左手で偽ピリンの首を絞めて、右手にてつのつるぎを持った。

 

「うっ···何をするの、雄也」

 

そして俺は偽ピリンの喉にてつのつるぎを突き刺し、思い切り引き裂いた。メタルギアでは拘束して△ボタンで使える、CQC·喉切りという技だ。まさか実際にこれをやるとは思ってもいなかった。偽ピリンは、変身状態だと言えども喉を引き裂かれたら耐えられないようで、青い光になり、消えていった。

 

「やっぱり魔物だったか。鍵を落としたな」

 

偽ピリンは、金属でできた鍵を落とした。すぐ後ろにある、牢屋の鍵だろう。俺はその鍵を拾い、牢屋の扉に使った。

 

「お、ここの鍵で合ってるみたいだな」

 

俺の予想通り、その鍵で牢屋の扉を開くことができた。牢屋の中には、ハゲの中年の男が捕まっていた。彼がゆきのふの子孫なのかもしれない。

 

「誰だ、お前さん?あの扉を開けたってことは、まさかあくまのきしを倒したってのか?それにしたって、ここでなにをしているんだ?」

 

あれはあくまのきしだったのか。あくまのきしはよろいのきしの上位種のはずだな。まともに戦ったら危ない相手だった。変身を解かれる前に倒せて良かったな。

 

「俺は伝説の鍛冶屋、ゆきのふの子孫を探しているんだ。もしかして、あんたがそうなのか?」

 

「その通りだ、ワシが伝説の鍛冶屋の子孫、ゆきのへだ。」

 

ゆきのふの一文字違いなのか。ゆきのふは代々受け継がれていく名前のはずだから、時代が立つにつれて、一文字が変化したのだろう。

 

「良かった。俺は仲間たちと町を作っているんだ。それで町を強化するために鍛冶屋の子孫を探していたんだ。とにかく、見つかって良かった。俺の町に来てくれるか?」

 

「行く場所もないし、分かった。お前さんの町とやらに連れて行ってくれ。お互いの話は道すがらするとしよう」

 

ゆきのへも町の仲間になりそうだ。ロッシとケッパーが来た時のように、1日で二人仲間が増えることになる。

俺とゆきのへは牢屋から出て、旅のとびらへ歩き始める。ゆきのへは長い間捕まって体力を消耗しているが、なんとか歩けるようだ。

 

「お前さん、町を作っていると言ったが、もしかしてあの伝説のビルダーなのか?」

 

「ああ、そう呼ばれてる。俺の名前は影山雄也。雄也って呼んでくれればいい」

 

「雄也か。お前さんがビルダーっていうのは、簡単には信じられないな」

 

俺は自己紹介などをしながら、歩いて町へと戻った。ゆきのへは町につくとすぐさま、俺たちの作った建物を見た。

 

「ここがお前さんたちの作り上げた町か。結構にぎやかな場所だな。どうやらお前さんが伝説のビルダーだってのも、本当のようだな」

 

この町を見て、ゆきのへも俺をビルダーだと信じるようになったようだ。

 

「それにしても、ここに巨大な城塞都市、メルキドがあったとはな。巨大なゴーレムによって滅ぼされたという話は本当なのか?」

 

ゆきのへも、ゴーレムがメルキドを滅ぼしたと思っているのか。ロッシのような奴から聞いたんだろうな。それでも、ゴーレムがメルキドを滅ぼすなんてやっぱり信じられないが。

 

「いや、ゴーレムはメルキドの守り神のはずだ。それがメルキドを滅ぼすなんてあり得るのか?」

 

「さあな、メルキドが滅びたのは何百年も前だ。何があったのかはワシも知らん。ただ、メルキドの生き残りが語り継ぐ話だ、間違いはないと思うぜ」

 

ゆきのへも、真相は知らないようだ。だが、もしもゴーレムがメルキドを滅ぼしたとすれば、何の為なんだ?

 

「とりあえず、ワシを少し休ませてくれ」

 

そうだった、ゆきのへは牢屋に捕まっていたんだった。真相も気になるが俺はゆきのへを作業部屋で休ませた。後でショーターとゆきのへの分の個室を作るよう頼んでおかないとな。光の範囲の中にはもうスペースないけど、外に部屋を作るのもかわいそうなので、どこかの建物に二階を付けよう。ゆきのへは作業部屋でロロンドやピリンとあいさつをしていた。

 

「これで鍛冶屋も仲間になったな。でも、魔物がピリンに化けていたのが気になるな。」

 

5分くらい後、ロロンドが作業部屋から出てきたので、そのことを話すことにした。

 

「なあ、ロロンド」

 

「どうしたんだ、雄也よ?」

 

「ゆきのへを救出に行った時、ピリンに化けた魔物がいたんだ。無事に倒せたけど、これって魔物が俺たちを監視しているってことじゃないのか?」

 

「そうか。魔物たちは我らを警戒しているようだな。それゆえに我らのことを知り、ゆきのへを捕まえていたのだな。これはますます油断ならん。さらに町の守りを強化せねばならんな」

 

メルキドの魔物でも上位の魔物であろうあくまのきしを倒したと言うことは、相当魔物たちは俺たちを危険に思っているはずだ。これからはさらに強力な魔物がここに攻めこんでくるだろう。

 

「ああ、そうだな。後、ショーターとゆきのへの個室を作っておいてくれ。どこかの建物を二階立てにすれば作れるはずだ」

 

「分かった。ピリンたちにも伝えておこうぞ」

 

ピリンやロロンドは、二人の個室を作り始めた。どうやら、大倉庫部屋と着替え部屋に二階をつけているようだ。その間、俺はゆきのへに呼び出された。

 

「どうしたんだ、ゆきのへ?」

 

「さっきは言ってなかったけど、伝説のビルダーのお前さんに鉄の武器や防具の作り方を教えようと思ってな。」

 

てつのつるぎはもう作れるが、それ以外の武器についても知っているだろう。防具もあれば、怪我を負いにくくなるし、聞いておこう。

 

「さっそく教えてくれ」

 

ゆきのへは、俺の知っているてつのつるぎの他に、武器のおおかなづちと防具のてつのたてとてつのよろいの作り方や形を教えてくれた。俺はそれらの作り方を魔法で調べる。

おおかなづち···鉄のインゴット2個

てつのたて···鉄のインゴット1個、木材1個

てつのよろい···鉄のインゴット2個、毛皮1個、ひも1個

どれも、今持っている素材で作れるようだな。

 

「さっそく作ってみるか」

 

俺はゆきのへから作り方を教えてもらった後、おおかなづち、てつのたて、てつのよろいを作った。作業部屋の外では、ショーターとゆきのへの個室が出来上がっていた。

 

「これが私の部屋ですか。ありがとうございます。」

 

「他の人も、物を作る力を取り戻しているのか、俺も早く鍛冶屋として役に立たないといけないな」

 

個室を作ったピリンやロロンドに、二人は感謝している。もう日が沈みかける時間だったので、俺たち7人は夕食にパンなどを食べて、眠りについた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode15 祈りの遺跡

ゆきのへとショーターが仲間に加わった翌日、今日もロロンドから呼び出しを受けた。またメルキド録の解読が進んだのだろう。

 

「雄也よ。お主がゆきのへを救出に行っている間にショーターから聞いたのだが、お主が行ったドムドーラと言う地域には、多くの宝が隠されたピラミッドが存在するという」

 

ピラミッドか、かなり目立ちそうなものだけど、これまで見たことがないな。宝って、財宝などがあるのだろうか?

 

「その宝ってどんな物なんだ?」

 

「それを今から言おうと思ってな。メルキド録によると、そこには火をふく石像がおいてあり、それを使えばこれまで以上に強力な防壁を作れるようになるのだ!」

 

なんだ、財宝のことじゃないのか。でも、拠点の防衛に必要なのなら取っておいて損はないな。

 

「で、それを取ってきて欲しいってことか?」

 

「そう言うことだ。この町の防壁を強化するために、ドムドーラにあるピラミッドから、火をふく石像を2体持ってくるのだ」

 

ピラミッドに潜入して、石像を回収するか。この世界に来てから初めての潜入って感じだな。準備を整えて行こう。

 

「それと、火をふく石像は恐ろしく固い。強力な武器を持って回収に向かうのだぞ」

 

確かに、石像って言われたら固いイメージがあるな。今ある武器だと、おおかなづちがあれば壊せそうだな。

俺は潜入のために一応この前閃いた砂漠の箱を作り、おおかなづちを持って砂漠地帯へ出かけた。

 

「まずはピラミッドを探さないと」

 

俺は美食家やゆきのへがいた場所より奥のほうに進んでいった。それでも、広大な砂漠が続いているだけだ。途中にいるいっかくうさぎやおおさそりを倒したり、鉄を採掘しながら進んでいった。しばらくすると、幅10メートルくらいの川があった。

 

「これは、川か。ん、あれがピラミッドか?」

 

川を渡った先には、大きな三角形の建物があった。ロロンドが言っていたピラミッドはそれのことだろう。

 

「石の守りの時ほどじゃないけど、結構遠かったな。」

 

少なくとも、2~3キロメートルは歩いた。このまま何事もなく火をふく石像を回収できればいいのだが。

俺は濡れるのは嫌だが、川を渡るしか方法がなさそうなので、仕方なく泳いで向こう岸に着いた。

 

「ここは砂漠だし、しばらくしたら乾くだろうな」

 

向こう岸には、今まで戦ったことはあるが非常に強力であった魔物、よろいのきしやてつのさそりがいた。集団で囲まれたら危険だな。

 

「砂漠の箱を使うか」

 

俺はポーチから砂漠の箱を取りだし、被りながら動く。箱を被っても見つかる可能性はあるので、敵の視界を避けて、ピラミッドまで進んでいった。ピラミッドは高さ30メートルほどで、地球のエジプトにあるものよりかなり小さかった。だが、中に入る入り口があり、何かが隠されている感じがした。

 

「この中に火をふく石像があるのか。まずは中の様子を見てみよう」

 

俺は砂漠の箱を取り、ピラミッド内部の通路を見渡す。地球のピラミッドに比べると広い通路で、両端にかべかけ松明がかけられていた。しかし、気になることがあった。

 

「敵の姿が見えないな···」

 

普通、大事なものを隠している場所なら、警備の魔物がいてもおかしくないはずなんだが。そんな状況で、俺はかえって不安になる。いないように見せかけて、待ち伏せしている可能性もある。

 

「何があるか分からない。気をつけていこう」

 

俺はとりあえず、ピラミッドの中に入った。途中、通路に曲がり角があり、敵がいないか確認した。しかし、何の姿も無かった。

 

「ここにもいないな、一体どうなってるんだ?」

 

俺は油断せずに、ピラミッドの内部を進んでいく。かなり奥まですすんでも、一向に魔物は現れない。

 

「ん、ここだけ土の壁だな」

 

ピラミッドの最深部に近づいてきたあたりで、回りは固い壁なのに一ヶ所だけ土ブロックで出来ている壁があった。こういう場所には、隠し通路があることが多い。

 

「壊してみるか、この先に火をふく石像があるのかもしれない」

 

俺はおおかなづちで土ブロックの壁を叩き壊した。すると、予想通り壁の反対側に通路があった。

 

「絶対お宝がありそうな感じだ」

 

ピラミッドの隠し通路を進むと、途中で二手に別れている場所があった。まっすぐ進む道と、左に進む道だ。

俺はまず、まっすぐ進む通路に行った。つたが付けられていて、登れる場所があったが、何もなくてすぐに行き止まりだった。

 

「こっちには何もないな。左のほうの道に行くか」

 

俺は今度は左のほうの通路を進んでいく。すると、まっすぐ進んだ時と同じように、つたで登れる壁があった。

 

「さっきは何も無かったけど、ここも一応確認しておくか」

 

俺はそのつたを登り、奥へ進んでいく。

 

「また行き止まりだな。でも宝箱があるな」

 

その場所もすぐに行き止まりになっていたが、1つの宝箱が置いてあった。この中に火をふく石像が入っているのかもしれないと思い、俺は宝箱を開けた。

 

「あれ?何か靴が入っていたぞ?」

 

その宝箱には、火をふく石像ではなく、靴のような物が入っていた。非常に固い金属で出来ているようで、防御力が高そうだ。

 

「足に攻撃を食らっても、これなら耐えられそうだな。高い所から落ちても大丈夫そうだ」

 

おそらくはドラクエ世界の伝説の金属、オリハルコンで出来ているのだろう。俺はその靴を履き、ピラミッドの探索を続ける。

隠し通路の更に奥を目指して、何百メートルも歩く。さっきは分からなかったけど、かなり大きなピラミッドだな。隠し通路の突き当たりには、1つの宝箱が置いてあった。今度こそ火をふく石像か?と思っていたが、どうでもいい物が入っていた。

 

「何か、暖炉が入っているな。別に要らないけど、もらっておくか」

 

大事なものが入っていそうなのに、そこにあったのはただの暖炉だった。

 

「火をふく石像はないみたいだな。一旦もとの通路に戻ろう。」

 

俺は長い通路を歩いて、土ブロックの壁があったところまで戻ってきた。隠し通路ではない、もう1つの道があったので、そこに進むことにした。そこには、階段があり、ピラミッドの最深部につながっているようだった。相変わらず魔物がいないので、俺はその階段を登っていった。

そして、俺が階段を登った先で見たのは、異様な光景だった。

 

「な、何だこの空間は?」

 

たくさんの人が、何かに祈りを捧げていた。俺が声をかけても、返事はしてこない。彼らも、偽ピリンと同じように魔物が化けているのだろう。

 

「この魔物どもは、何に向かって祈りを捧げているんだ?」

 

俺は、彼らが見つめている方向を見てみた。そこには、魔物が象られた大きな石像があった。

 

「これが火をふく石像か···それにしても俺の予想どおり、内部で待ち伏せしていたのか。それも人間に化けて」

 

その石像には口があり、火をふく石像という名前から考えて正面を通ると燃やされるだろう。俺は石像の後ろにまわり、破壊、回収を始める。

 

「でも、こんな大量の魔物がいたら、確実に見つかるな」

 

さすがにこの狭い空間でたくさんの魔物の誰にも見つからないというのは無理がある。だからと言ってコイツらを一体でも殺せば、本気で襲いかかってくるだろう。

俺はしばらく考えて、石像の回収を優先させることにした。石像を後ろからおおかなづちで殴る。4回殴ると、壊れてポーチに入った。

 

「まだ人間の姿のままか···。でももうひとつ回収しないといけない」

 

俺は、もう片方の石像も後ろから忍び寄り、叩き壊す。すると、やはり周囲の奴等は変身を解き、魔物の姿となった。

 

「我らの祈りを妨げるとは、人間め、許しはせぬぞ!」

 

がいこつの色違いの中でも上位種であるしりょうのきしが6体、まほうつかいが2体、その上位種のまどうしが1体、合計9体が俺を狙っていた。

 

「一人でこの数を相手にはできない。逃げるぞ!」

 

俺はピラミッドの出口に向かって走り始める。その俺をしりょうのきしは剣を振って追いかけてきて、まほうつかいやまどうしは魔法で攻撃してくる。

 

「メラ!」

 

「メラミ!」

 

俺は飛んでくる火の玉をかわしながら、ひたすら走る。しりょうのきしの走る速度はかなり速く、少しでも気を抜くと追い付かれる。

 

「くそっ、何て早いんだ!?」

 

通路を戻っている間にも、メラやメラミが飛んできて、走りながらかわすのは大変だった。かわしていると、すぐにしりょうのきしが迫ってくる。

 

「コイツらを足止めしないとキツいな、回転斬り!」

 

俺はしりょうのきしに回転斬りを放った。しかし、倒れることはなく、少し動きが止まっただけだった。俺はその隙に逃げ、魔法が来るたびにかわし、追いかけてくるしりょうのきしを回転斬りで足止めした。何度もそれを繰り返し、ようやくピラミッドの出口が見えてきた。

 

「もう少しだな!」

 

俺は全力で疾走し、ピラミッドの外へ飛び出した。ピラミッドの外に出ると、奴らも追いかけてこなくなった。

 

「奴らが消えたか。何とか助かったようだな。」

 

最初は敵に見つからずに回収する予定だったのに、大変なことになった。俺は全力で走って疲れたし、危険な魔物が多い砂漠をもう一度移動するのは嫌なので、キメラのつばさを使い、メルキドの町へ飛んだ。

 

「生きて帰ってこれたか。火をふく石像のことをロロンドに教えないとな」

 

俺は個室にいたロロンドを呼び出し、火をふく石像のことを話した。

 

「おい、ロロンド!魔物に追いかけられたりして大変だったが、火をふく石像を取ってきたぞ」

 

俺が話をすると、相変わらずのテンションでロロンドは喜ぶ。

 

「おお、素晴らしいぞ!火をふく石像があれば、メルキド録に書かれた鋼の守りが作れるだろう」

 

鋼の守りか、石の守りよりずっと頑丈なものなのだろう。

 

「これがあれば、メルキドを復活させ、この地域を支配する魔物の親玉を倒すことも夢ではあるまい」

 

「そうだな、今すぐその鋼の守りを作るか?」

 

「いや、まだメルキド録の鋼の守りに関する記述を完全に解読できていないんだ。我輩も早く作りたいが、もう少し待ってくれ」

 

まだ解読が出来ていなかったのか。早くできればいいな。

 

「分かった。解読ができたら教えてくれ」

 

強力な設備があれば、魔物の親玉だって必ず倒せるはずだ。俺は、まだ鋼の守りが作れないにしても火をふく石像が強そうなので、石の守りの両端に火をふく石像を置いた。弱い魔物なら、トゲわなで刺され、石像に焼かれ、すぐに倒れるだろう。

 

 

 

メルキド 魔物の集会所

 

「ついに、我が同族からも、犠牲者が出てしまったか···」

 

ピリンに変身していたあくまのきしが倒された顔を聞き、他のあくまのきしたちは深刻な顔をしていた。

 

「どうすればいいものか···このままではメルキドが人間たちの手に」

 

「なんとかしないといけないな」

 

話の途中、3体いるあくまのきしの一体が、立ち上がった。

 

「我が砂漠にいる強力な魔物を率いて、あの町を潰しにいく。てつのさそりやよろいのきしはかなりの戦力になるはずだ」

 

その話を聞いて、別のあくまのきしは止めようとする。よろいのきしもてつのさそりもビルダーに倒されたことがあるからだ。

 

「待て、奴等は相当強いぞ。いくらお前とはいえ危険だろう」

 

「いや、かなりの数の魔物が我と共にメルキドを攻めたいと言っておる。前回のよろいのきしの軍勢よりも多い。それに、本気を出せば我らは人間などにやられるはずがない!」

 

そのあくまのきしは、絶対に勝てると確信していた。前のあくまのきしが倒されたのは不意の攻撃を受けたからだと聞いているからだ。他のあくまのきしも、そう思っているし、実際にそうだった。

 

「心配だが、そこまで言うのなら良いだろう。必ず人間どもを駆逐しろ」

 

「ああ、任せておけ。出発は明日だ」

 

翌日の朝、あくまのきしは多数のよろいのきし、しりょう、おおさそり、てつのさそりを連れて、メルキドの町へ向かった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode16 砂漠の軍勢

これまでの竜王軍バトル(エピソード4.7.12)は原作と敵の数や種類が同じでしたが、ここからは違っていることもあります。


火をふく石像のを入手した翌日、メルキドに来て19日が経っていた。しかし、ロロンドの鋼の守りに関する記述の解読は、まだ進んでいなかった。

 

「もうここに来てから、結構な時間がたってるんだな。」

 

俺はこっちの世界に適応し、もう地球に戻りたいとは思わなくなってきた。メルキドは、あとどのくらいで復活するのか···そんなことを考えて町を歩いていた。

素材の在庫が切れないように、今日はみんなで砂漠に行こうと思っていた。鉄は結構必要な物だからな。俺はみんなを誘いに作業部屋に入った。

 

「ぬおおおお!大変だぞ、魔物だ!」

 

その時、外でロロンドの大声が聞こえた。またしても魔物が攻めてきたのか。これで4度目だ。俺は、魔物の様子を見に作業部屋から飛び出した。

 

「また襲撃かい?」

 

「大変だな、迎えうつぞ!」

 

ケッパーだけでなく、ゆきのへも武器を持って飛び出してきた。彼は自分で作ったであろうおおかなづちを持っていた。

 

「あれを見ろ。どうやらまたも魔物たちがこの町に攻めいろうとしているようだ。まったく、懲りぬ奴らだな!」

 

町の西側を見ると、これまでより多数の魔物がメルキドの町に向かっていた。ロロンドの言う通り、本当にしつこい連中だ。

 

「結構数が多いな、こっちには火をふく石像があるとはいえ」

 

がいこつの上位種であるしりょうが10体と、砂漠にいた魔物、おおさそりが6体、てつのさそりが2体、よろいのきしが3体だった。そして、隊長がよろいのきしの上位種、あくまのきしだった。今回はあのドムドーラ地方にいた魔物を中心に攻めてきているのか。

 

「とにかく、我らの防壁と新しい武器で立ち向かおうぞ」

 

前の防衛戦で苦戦した、よろいのきしが3体もいて、その上位種もいる。かなり厳しい戦いになりそうだが、勝たなければ町に未来はない。

 

「ああ、行くぞ!」

 

俺たち4人は、それぞれの武器を手に、あくまのきしの軍勢を迎え撃つ。メルキドの町の4度目の防衛戦が始まった。

 

「よろいのきし共、まずはあの防壁を破壊するんだ!」

 

あくまのきしは、前衛のよろいのきしに指示を出した。その命令をうけ、よろいのきしたちは防壁の破壊を試みるが、そう簡単に壊れる防壁じゃない。隊長よろいのきしはなんとか壊せていたが、このよろいのきしは奴より弱いだろう。

 

「隊長、壊れません!」

 

「なんて硬い壁なんだ!」

 

「何をしている!っておい、危ないぞ!」

 

あくまのきしが言った時はもう遅かった。石の守りの両端にあった火をふく石像が、防壁の破壊に夢中になっているよろいのきしを燃やした。

 

「うわさで火をふく石像が盗まれたとは聞いたが、まさか本当だったとは。だが、どちらにせよ我らの勝ちに変わりはない!」

 

今がチャンスだと思い、俺は石の守りの上に登り、よろいのきし3体の首をを切りつけた。石垣が破壊される可能性は0ではないからな。固いよろいのお陰でまだ死ななかったが、再び火をふく石像が灼熱の炎を吐き、よろいのきしたちは燃え尽きていった。

 

「どうだ、俺たちだってお前らに負ける気はない!」

 

次に、おおさそりやてつのさそりが攻めいってきた。それでも、石垣は壊れることはなく、おおさそりやてつのさそりは火をはかれる。

 

「おい、下がれ!我がこの防壁を破壊する!」

 

あくまのきしは、サソリたちを下がらせると、自ら先頭にでた。

 

「我もこの石像の火を浴びることになるが構わん!死にやがれ人間ども!」

 

あくまのきしは、軽く石垣を斧で叩きつけた。そんなちょっとの攻撃とは、石の守りをなめているのか?と思ったが、なんとその攻撃だけで石垣や足元のトゲわなは壊れたのだ。

 

「こ、こんな簡単に壊されるだと!?」

 

その様子に、ロロンドもとても驚いている。しかし、これで防壁のすき間から魔物が侵入してしまう、なんとか食い止めないと。

あくまのきしは、石垣を壊すと再び手下に指示を出した。

 

「全員!あの防壁の穴から町に侵入し、破壊の限りを尽くせ!」

 

俺は防壁の穴の前に立ち、魔物の侵入を防ぐ。みんなには、俺が食い止めた魔物を倒してもらえばいいな。

 

「俺が魔物を止める。その間に魔物を倒してくれ!」

 

「ああ、分かったぞ!」

 

ロロンドが先頭にきたしりょうやおおさそりを攻撃した。火をふく石像の炎の範囲に入らないように、魔物を倒していく。

ロロンドはしりょうたちを斬り倒し、ケッパーは回転切りでサソリたちの装甲を突き破り、ゆきのへは魔物たちの頭をおおかなづちで叩き潰す。

 

「おのれ人間どもめ、しつこいんだよ!」

 

あくまのきしは、ロロンドたちに斬りかかる。みんなは避けられたが、倒せていない魔物が町に侵入しようとする。

 

「この町は絶対に壊させねえぞ!」

 

石の守りの穴に向かった魔物を、俺は剣で食い止める。てつのさそりやしりょうは、俺の攻撃では死ななかったが、横からの火をふく石像の炎で、ほとんどがやきつくされた。

 

「くっ、被害は甚大だな···」

 

あくまのきしの軍勢は、もう数体しか残っていなかった。

 

「もう少しだ、お主らを切り刻んでやろう!」

 

その数体も、ロロンドたちによって倒されていく。俺も戦い慣れているてつのさそりと戦った。てつのつるぎと同じくらいの固さだが、顔が弱点なのでそこを斬れば倒せる。

 

「お前らとはもう戦い慣れているんだよ!」

 

奴の動きが止まるが回転攻撃をした直後、俺は顔を真っ二つに叩き切った。あくまのきしの軍勢は完全に壊滅し、残るはあくまのきしだけになった。

 

「人間どもが、よくもこんなことをしやがって!ふざけんじゃねえよ!」

 

あくまのきしは、俺たちをなんとしても倒そうと斧を振り回しまくる。だが、さすがに俺たち4人の攻撃に対応しきることは出来ない。

俺とロロンドが斧を受け止め、背後に回ったゆきのへがあくまのきしの頭を叩き潰す。

 

「くそがっ!これでも喰らいやがれ!」

 

あくまのきしは、力をため、回転斬りのような攻撃を放つ。俺たちはすぐに後ろに飛び退き、攻撃後に今度はケッパーが近づいて、

 

「回転斬り!」

 

あくまのきしのよろいを破壊する一撃を放つ。しかし、回転斬りの後には隙が出来る。それは人間も魔物も同じだ。あくまのきしは怯まず、ケッパーに全力で斧を叩きつける!

 

「死ね!愚かなメルキドの兵士よ!」

 

追い詰められて放った一撃はケッパーのてつのつるぎを破壊した。ケッパー自身は無傷だが、剣がなければ危険だ。俺はケッパーをかばってあくまのきしの前に立つ。その間にケッパーはその場を離れる。

 

「ビルダー!貴様を死ね!」

 

あくまのきしは俺に斧を降り下ろす。俺は回転斬りの後ではないのでギリギリかわすことができ、ケッパーの攻撃で壊れた鎧のすき間に剣を突き刺す。

 

「目障りなんだよ、人間のくせにな!」

 

剣を突き刺されて相当痛いにも関わらずあくまのきしは斧を振り回した。よろいのきしは悲鳴を上げていたと言うのに、俺はあわてて剣を抜き取り、後方に飛ぼうとするが間に合わず、腹を深く斬りつけられた。

激痛のせいで動きが止まりそうになるが、避けないと今度こそ死んでしまう。俺は痛みに耐えながら攻撃をよける。

 

「雄也に何をするのだ!」

 

ロロンドとゆきのへは俺を助けにあくまのきしに武器を振りかざす。その二人の攻撃で、あくまのきしはもう瀕死の状態だった。兜はゆきのへの攻撃で大きく変形し、鎧は斬られてボロボロだった。あと一発でも斬れば倒せるだろう。

 

「くそがっ!もうこうなったら、撤退する!」

 

追い詰められたあくまのきしは町から離れていく。このまま逃げられれば、また傷を治して襲ってくるだろう。あくまのきしも抵抗する力は残されていないはずだ。俺はなんとか立ち上がり、あくまのきしの背後から剣を振り回し、首を切り裂いた。

 

「ぐああっ!」

 

俺の攻撃で首を斬られたあくまのきしは、青い光を放って消えていった。なんとか4度目の防衛戦を勝ち抜いたようだ。

 

「倒せたみたいだな。良かった」

 

ゆきのへがそう言い、俺たちは町の中に戻っていった。傷を負った俺はきずぐすりを塗って、個室で休んだ。この前のロロンドのように2日くらいやすみたいがそういうわけにも行かない。今度はさらに多くの魔物が来るだろう。早くこの町の防壁を強化しないといけないな。

 

 

 

メルキド 魔物の集会所

 

「大変です、あくまのきし様!」

 

2体のあくまのきしのところに、不幸なお知らせが入ってきた。

 

「どうしたんだ、そんなに急いで」

 

「今日、メルキドの町に攻めいった軍勢が全滅。隊長のあくまのきしも倒されました!」

 

「何だと!?」

 

20を越える軍勢を10人もいない町に送り込んだのに負けたことは、誰にとっても想定外の事態だった。

 

「まさか、また我が同族からも犠牲者がでたか。人間たちを侮っていたようだな」

 

「では、人間たちを放っておくのか?」

 

人間たちは必ずつぶさなければいけないが、今回のことでメルキドの竜王軍は多くの戦力を失った。

 

「放っておくことは出来ない。だが、並大抵の魔物ではすぐに倒されてしまうだろう」

 

「ああ、強力な魔物を出来るだけ集めて、必ず人間たちを潰そう。その時は、我らも行かねばならんな」

 

「そうだな。今まで我らは指揮をするだけだったが、今度こそ本気で戦う必要がある。お前ら、強力な魔物をここに集めろ」

 

あくまのきし2体と、強力な魔物たち、それならあの人間たちにも勝てるだろう。あくまのきしは部下に魔物を集めさせ、準備が出来たら出撃することにした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode17 鋼鉄の武具

4度目の防衛戦の翌日、メルキドに来て20日目、俺が昨日受けた傷はだいたいは治っていた。魔物に破壊されない頑丈な防壁を一刻も早く作りたいが、ロロンドのメルキド録の解読はまだ終わっていないらしい。

 

「まだ解読は終わらないのか。まあ、古代の文字を読むなんて俺には出来ないけど」

 

今は気長に待つしかない。その間にまた魔物が攻めてこないことを祈らないとな。俺は特にすることもないので、とりあえず調理部屋でピリンといっしょにパンを食べていた。

 

「昨日出来なかったし、みんなで素材集めにでも行こうかな?」

 

「わたしはいいよ。それと雄也、聞きたいことがあるの」

 

ピリンが珍しく俺に質問をしてきた。昨日の魔物襲撃についてだろうか。

 

「聞きたいことって?」

 

「最近、ロロンドや雄也とロッシの仲が良くないきがするの。どうしてかな?と思って。最初は仲良くしてたのに」

 

なんだ、そのことだったのか。ピリンも色々細かいところを気にしているようだ。最初はロッシが町の発展を妨げるような発言をしたことが始まりだったな。

 

「意見の対立が原因だ。俺やロロンドはこの町を大きくしてかつての城塞都市メルキドを復活させようとしている。だけどロッシは魔物に狙われるからだと言ってそれを妨げるような発言をしたり、メルキドの守り神のゴーレムが人間を滅ぼしたなんて行ってるんだ。」

 

「ゴーレムって?」

 

ピリンはゴーレムのことも知らないのか。学校も何もないこの世界では、知識が薄くても不思議ではないけど。

 

「ゴーレムって言うのは、昔メルキドを守っていた巨大な石像のことさ。ロッシはそれがメルキドが滅んだ原因だって言うんだ。普通に考えて、あり得ないと思うんだけどな」

 

こんな世界だ。普通じゃないことも起きるだろうし、ゆきのへも言っているので、俺はゴーレムの話を完全に否定はしていない。だが、ロロンドは全く信じていないようだ。

 

「そうなんだ。それで最近、仲が悪く見えたのね」

 

「ああ、ピリンはどっちが正しいと思う?」

 

「どっちでもいい。わたしはみんなで仲良く暮らしたいだけなんだもん」

 

みんなで仲良く暮らしたいか···ピリンらしいな。でも、現実的な話ではない。子供にそんなことを言っても仕方ないけど。

 

「まあ、今はとりあえずパンを食べて探索に行こう」

 

返す言葉が見当たらないので、俺は話を切り替える。2人でパンを食べた後に、砂漠地帯へ出かける準備をする。

ピリンといっしょに素材収集に出発しようと旅のとびらのところへ行った。

 

「雄也。ちょっと待って、僕から相談があるんだ」

 

すると、後ろからケッパーに声を掛けられた。今から探索に行こうとしていたのに、何の用事だろう。

 

「今から出かけようとしてるんだけどな。時間がかかるか?」

 

「うん。少し時間がかかるかもね」

 

せっかく準備していたのに、今日も素材収集にいけないのだろうか。鉄の在庫が残り少ないのだが。

 

「悪い、ピリン。探索は後にする」

 

「ううん。わたし、一人でも行ってくる。魔物にも気をつけるよ」

 

それなら助かるな。ピリンは本当にこの町に貢献してくれている。

 

「分かった。頑張ってこいよ」

 

ピリンは赤の旅のとびらに入っていった。二人になったところで、ケッパーは話を続けた。

 

「相談のことなんだけど、最近は敵の攻撃がかなり激しい気がしないか?」

 

「確かにそうだな。襲ってくる魔物の数も多くなって、強い魔物がたくさん来るようになっている」

 

ケッパーは昨日の戦いで結構苦戦している様子だった。

 

「どうやら、本格的に竜王軍に目をつけられたみたいだね。そこで、僕から相談なんだ」

 

竜王軍に対抗する手段でも考えているのだろうか?

 

「みんなの士気を高めるために、着替え部屋に武器や鎧の置物があったらいいと思うんだ。君ならつくれるだろ?」

 

有効な対抗策ではなく、単に士気を高めるだけか。だがそれも、結構大事なことだな。やる気がなければ戦いには勝てない。

 

「確かに、士気を上げるのは大切だな。作ってみよう」

 

俺は工房に向かった。家具を作らないといけないから、ケッパーは時間がかかると言っていたのか。そして、剣や鎧を思い浮かべて、置物の作り方を魔法で調べた。

剣のカベかけ···鉄のインゴット2個、銅のインゴット1個 炉と金床

鎧の置きもの···鉄のインゴット2個、木材1個 炉と金床

さっそく作り方が分かったな。銅のインゴットや木材はたくさんあるし、鉄のインゴットももう少しだけならある。

 

「鉄は本当に使う機会が多いな」

 

俺はそう思いながら、剣のカベかけと鎧の置きものを作った。確かにこれがあれば、士気が上がりそうだ。俺はその2つを着替え部屋においた。

 

「ケッパー!これでいいか?」

 

ケッパーは走って着替え部屋の中に入った。

 

「ばっちりだよ!これなら着替えのたびにこれを見て士気を高められる。ありがとう、雄也」

 

「これくらい作るのは簡単だ」

 

作業部屋の改装が終わったあと、ケッパーはもうひとつ相談があるようだ。

 

「あと雄也。僕は気になることがあるんだ」

 

「気になること?」

 

「どうしてかつてのメルキドの兵士たちは、メルキドの町を守りきれなかったんだろう?」

 

何故メルキドの町を守りきれなかったか···あのシェルターにいた兵士の幽霊も教えてくれなかったな。気になる話だ。兵士たちも、人間同士で殺しあっていたのだろうか?

 

「さあな。前にメルキドでは人間同士で殺しあったって話があった。それで兵士たちは死んでいったのかもな」

 

「でも、メルキドには巨大なゴーレムが守り神としてついていたはずなんだ。それに、とても固い城塞があったはずだし、外からの攻撃には十分耐えられたはずだ。兵士はそうなったかもしれないけど、全員が殺しあったなんてありえるのか?もしそうだとしても、強い者は生き残るはずだ」

 

ケッパーの話を聞くと、俺の推測も正しいとは思えなくなっていた。それに、やっぱりゴーレムはメルキドの守り神なんだな。

 

「確かに、その部分はひっかかるな」

 

「竜王軍の攻撃って、そこまで激しいものだったのかな?それとも、魔物は城塞の中に?」

 

ケッパーのその言葉を聞いて、俺は兵士の幽霊が言っていたことを思い出した。城塞の中には、とある魔物が現れたと。

 

「詳しくは分からないけど、その可能性もあるな」

 

今は考えても仕方がなさそうなので、ケッパーは話を元に戻した。

 

「変な相談をしてしまったけど、助かったよ。ありがとう」

 

俺はケッパーとの話の後、そろそろ素材集めに行こうかと、再び旅のとびらのところへ行った。

 

「おい、雄也。お前さんに話がある」

 

すると、今度はゆきのへが話しかけてきた。全くいつになったら素材集めに行けるんだ?

 

「今出発しようと思っていたのにな···何だ、話って」

 

「昨日の戦いを見て思ったんだが、最近はこの町の発展ぶりに魔物どもも焦りはじめてるみてえだな」

 

確かに昨日の戦いでは、なんとしても潰さないとまずいという魔物の焦りが感じられた。

 

「ああ、あんなに大軍を送りこんで来たからな」

 

「竜王が世界を牛耳って数百年。いよいよ人間が巻き返しをはかるチャンスかもしれん」

 

そうだな。これ以上魔物に支配されるのはごめんだ。メルキドの復興もかなり進んでいるし、その時がきたと考えられるな。

 

「だから雄也よ、このメルキドにかかった空の闇を晴らすために、魔物の親玉を倒す準備を進めたいと思っている」

 

ゆきのへも同じことを考えていたようだ。

 

「俺もそう思っている。もちろん協力するぜ」

 

「良かった。魔物の親玉を倒すために、お前さんに教えたい物がある」

 

伝説の鍛冶屋の子孫が言ってるんだからな、凄いものに違いない。

 

「実はな、作業部屋にある炉と金床を越える、神鉄炉と金床と言う究極の炉がある」

 

神鉄炉か、名前からして凄そうだな。

 

「どんな物なんだ?」

 

「ワシが祖先から伝え聞いた物でな。その炉があれば鋼を加工し、さらに強力な武器や防具が作れるはずなのだ」

 

そういえば鋼の武器はドラクエに毎回出てきているな。それがあったら確かに戦いに有利になれるだろう。

 

「お前さんには製法を教える。頑張って作ってくれよ」

 

俺はゆきのへから神鉄炉の作り方や構造を教えてもらった。

 

「分かった。必ず作らないとな」

 

「ああ、頼んだぜ。出来たらまず、ワシに見せてくれ」

 

俺は、神鉄炉と金床の作り方を、魔法で調べた。

神鉄炉と金床···炉と金床1個、鉄のインゴット5個、石炭3個 石の作業台

       または石材10個、鉄10個、石炭5個 石の作業台

 

「二通りの作り方があるのか。どっちも石の作業台だけど」

 

俺は今ある炉と金床を強化するほうにした。石炭はあるが、鉄のインゴットはもうない。もちろん鉄自体もない。

 

「ピリンが取りに行ってるけど、帰ってくるのはまだ時間がかかりそうだな。自分で集めに行くか」

 

俺は旅のとびらに入り、鉄を取りに行った。鉄が眠っている場所につくと、誰かが鉱石を採掘している音がした。

 

「ん、ピリンか?」

 

そこを見ると、やはりピリンがいて、鉄を採掘していた。ピリンは俺に気づいて話しかけてきた。

 

「あ、雄也。来たんだ!」

 

「ああ、結構おそくなってごめんな」

 

俺はピリンと一緒に鉄を採掘した。おそらく午後3時ごろに集め終え、二人でメルキドの町へ戻った。

 

「いっぱい集まったね、雄也!」

 

「ああ、これでしばらく鉄が不足することはないな」

 

二人でだいたい100個くらい集めた。神鉄炉をつくっても、まだまだ余る。俺は作業部屋でまず鉄のインゴットを作り、その後一度炉と金床を回収した。

 

「これで神鉄炉がつくれるんだな」

 

俺は石の作業台で魔法をかけた。すると、炉と金床が輝いて、黒い大きな炉が出来上がった。その炉は、これまでの炉とは比べ物にならないほど高い温度だった。

 

「これが神鉄炉か、この暑さなら鋼を作れそうだな」

 

俺はそのことをゆきのへに教えた。

 

「ついに神鉄炉が作れたんだな!これで、より強い武器や防具を作れるぜ」

 

「ああ、絶対に魔物の親玉を倒そう」

 

鋼の武器なら、硬い装甲を持つ敵でも突き破れるだろう。

 

「じゃあさっそく、鋼の装備について教えるぜ」

 

俺は、鋼で作れる武器や防具のことを聞いた。それらの作り方をすぐに魔法で調べる。

はがねインゴット···鉄のインゴット8個、石炭3個

はがねのつるぎ···はがねインゴット1個

ウォーハンマー···はがねインゴット2個、さそりの角3個

はがねのたて···はがねインゴット1個、木材1個

はがねのよろい···はがねインゴット2個、上質な毛皮2個、ひも1個

はがねを作るのにも鉄が必要なようだ。そもそも鋼は鉄を加工して作るものだから当然だが。

それに、今まで使い道がなかったさそりの角の使い道もあった。

 

「確かに強そうだな」

 

「強い武器か···」

 

俺がそういうと、ゆきのへは何かを思い出したように言った。

 

「どうしたんだ?」

 

「お前さん、おおきづちの里の奥にある壊れた城塞に行ったことがあるんだってな」

 

「そうだけど、何だ?」

 

「ワシの祖先のひとりもあの城塞で暮らしていたらしいんだ。その城塞の中では、人間同士が争いを繰り広げていたらしい」

 

やはりそうだったのか。ゆきのへもそのことは知っていたんだな。

 

「お互いがお互いを信じられなくなり、やがては自分たちが作った武器を取り合って···そんな人間を見て、メルキドの守り神だったゴーレムはどう思ったろうな?」

 

そうか、ゴーレムはその争いを目の前で見てたんだな。自分だったら、人間に怒り、呆れ、失望するだろうな。ゴーレムがおかしくなるのもありえないことじゃない。

 

「とにかく、ご苦労だったな。強い武器や防具を作って、このメルキドから魔物どもを追い払ってくれ!」

 

「もちろんだ」

 

俺は話を終えると、はがねインゴットを20個ほど作った。一度に5個できるので鉄のインゴットを32個使った計算だ。そして、俺とロロンドとケッパーの分のはがねのつるぎを作り、ゆきのへの分のウォーハンマーを作った。ウォーハンマーは俺も欲しかったが、さそりの角が足りなかった。

 

「おお、素晴らしいぞ!」

 

「これが鋼の武器かい?」

 

「さっそく作ってくれたのか」

 

作った武器を渡すと、みんな大喜びだった。あとは鋼の守りがあれば、町の守りは完璧だな。だが、今日はもう夕方なので、もう休むことにした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode18 強固なる軍団

雄也がメルキドに来てから21日目 早朝

メルキド 魔物の集会所

 

メルキド中の魔物を集めていたよろいのきしが、報告をしにあくまのきしの元へ戻っていた。

 

「どうだ、魔物は集まったか?」

 

さっそくあくまのきしは、よろいのきしに話を聞いた。次こそメルキドの町を潰そうとしていた。

 

「数日前に人間どもにやられてしまったおおさそりやてつのさそりの残党、それにしりょうのきし、スターキメラが共に戦ってくれるそうだ。まもなくこちらに到着する」

 

しりょうのきしやスターキメラは強力な魔物だ。だがあくまのきしは、それでも油断ならないと思っていた。

 

「分かった。今日こそあの人間どもを引き裂いてやる!」

 

「お前らは万全の準備を整え、魔物たちの到着を待て!」

 

「了解だ!」

 

2体のあくまのきし、多数のよろいのきしは人間たちとの決戦を目前に控えていた。

 

 

 

メルキドの町

もう俺がメルキドに来てから3週間か。気がつくと結構長い時間が経っているな。

 

「さて、今日は何をしようか」

 

俺が個室から出ると、すぐ外に真剣な顔をしたロッシが立っていた。何か大事な話があるのだろうか。

 

「雄也。話したいことがある」

 

「何だ?話したいことって?」

 

ロッシは、俺の個室に入った。またしても、人には聞かれたくない話だろう。

 

「まったく、神鉄炉なんてとんでもねえもんを作りやがって。オレは何度も忠告したぜ、余計なことをすると、魔物に目をつけられるって」

 

それで忠告のつもりなのか?ロッシは部屋に入るとムカつくことを言った。余計なことだと?俺たちは魔物に狙われることを分かって、それでも町を発展させているのに。なぜわかってくれないんだ!?俺はいら立つ気持ちを押さえて、俺は普通の口調で話す。

 

「それぐらい分かってるんだ。それを理解した上で、町を発展させている、分かってくれないのなら、前も言った。出ていけばいい。それに、お前が何を言おうとメルキドの復興は止めないからな」

 

「魔物だけならまだいい。人間が力をつけすぎると、あの化け物が···」

 

またゴーレムの話か。メルキドはゴーレムが滅ぼしたという話は少しは信じているが、こいつの態度は何かイラつく。俺たちをなめている感じだ。

 

「とはいえ、もう手遅れか。なあ、一つオレの頼みを聞いてくれねえか?」

 

「町の発展を妨げるような発言をするやつの話を聞くと思うのか?」

 

俺はそう言い返した。それでも、ロッシは話し続けた。

 

「ここにオレが書いた遠くまで見渡せる見張り台の設計図がある。この設計図通りに見張り台を作ってほしい」

 

正直に言うと、却下したい。だが、確かに見張り台があったら便利ではあるな。作っておいたほうがいいのかもしれない。

 

「仕方ないな、その設計図とやらを見せてくれ」

 

ロッシは俺に設計図を渡してきた。5メートルくらいの高さで、上にかがり火があり、つたと石の階段で登れるようになっていた。石の階段は廃墟にあったものを取り外したからあるが、かがり火はないな。

 

「作れそうか?手遅れになる前に頼んだぜ」

 

やっぱりロッシはムカつく奴だが、見張り台は作っておくべきだな。俺はまず、かがり火の作り方を調べた。

かがり火···石材3個、石炭1個

結構簡単に作れるな。俺は作業部屋に入り、かがり火を作った。

 

「これで見張り台をつくればいいんだな」

 

かがり火が出来ると町の旗の近くに、29個の土ブロックで見張り台を作り、階段とつたを設置し、最後に上にかがり火を置いた。

 

「ロッシ!出来たぞ。」

 

ロッシは俺の声を聞いて駆けつけてきた。

 

「お、見張り台が出来たか。手間かけさせて悪かったな。」

 

これからはロッシが見張り台で魔物を見張ってくれるのだろうか。それならもし襲撃があっても早く準備が出来るんだが。

 

「お前が魔物を監視してくれるのか?」

 

「ああ、アイツが来たとき、すぐにここから逃げ出せるようにな」

 

逃げ出せるようにだと?そんな理由でこれを作らせたのか?今すぐ撤去してやりたいな。ロッシの態度に俺はもう限界だった。

 

「ふざけんな!俺は町の役にたつと思って見張り台を作ったんだ。そんなことを言うのなら今すぐ取り壊すぞ!」

 

俺は激しい口調でロッシに怒鳴っていた。さっき作った見張り台におおかなづちを叩きつけそうになった。

 

「落ち着けって。オレはガキのころから、メルキドで人間が栄えたら、必ずゴーレムが全てを破壊するって聞いてたんだ」

 

落ち着けと言われたが、俺は苛立ちが収まらない。

 

「ロロンドやお前は言ってただろ。メルキドを本当に解放するには、ここを支配する魔物の親玉を倒す必要があるって。その魔物の親玉こそ、メルキドの守り神である巨大なゴーレムで間違いない!」

 

だからどうしたって言うんだ?ゴーレムが来たとしても、倒せばいいだけだ。そうすればメルキドは解放される。

 

「それくらい聞いている。だから俺たちはゴーレムだろうがなんだろうが倒そうとしているんだ!何故分からない!」

 

あまりにも分かってくれないロッシに、俺は怒鳴り続けていた。

 

「それくらい分かってるよ。だが、俺たち人間じゃ、ゴーレムには勝てねえぜ」

 

ロッシのその言葉は、俺の腹をさらに立たせた。勝てないだとか勝手に決めつけてるんじゃねえよ。俺は衝動的に、ロッシの服を掴んでいた。

 

「いい加減にしろ!どれだけ強い相手だろうが、必ず勝とうと俺たちはしてるんだ!お前なんかに俺たちの何が分かったって言うんだ!?」

 

さすがに怒りすぎたと思い俺は自分をなんとか落ち着かせる。俺とロッシの仲は、非常に悪いものとなっていた。ロッシも何も言い返せず、険悪なまま俺たちは別れた。

 

「怒りすぎてしまったな。だが、あの俺たちの力をなめた言い方はどうしてもイラつくな」

 

俺が不機嫌な表情で歩いていると、ロロンドがそれを気にかけたのか話しかけてきた。

 

「雄也よ、何かあったのか?」

 

「ああ、ロッシがイラつくことを言ってきてな」

 

「もしかしてまたゴーレムが魔物の親玉だとか戯れ言を言っていたのか?」

 

そう言っていたが、それは本当の可能性もあるので、問題はそこではない。

 

「それも言っていたが、それ以上に腹が立つことを言っていた。ゴーレムが魔物の親玉の可能性はゼロではないからな」

 

ロロンドは絶対に信じていないだろうがな。

 

「あいつは俺たちの力をなめたようなことを言っていた。人間じゃゴーレムには勝てないぜ。とかな。俺はゴーレムが魔物の親玉と言うのは否定している訳じゃないんだが、あの態度は許せない」

 

「その通りだな。我輩たちは何回も困難を乗り越えてきた。それなのに勝てない相手などおらぬはずだ」

 

そこまで言うと、急にロロンドは真面目な顔になった。

 

「そこで雄也よ。お主にひとつ、大切な話がある。」

 

今までこんな話をしていたから、ロッシに関係することなんだろうな。

 

「この町をさらに発展させるためには、町に住む人間はしっかりと選ばねばならん。町の発展の邪魔をするもの、みんなの気持ちをそぐもの···町には不要な人間だ」

 

確かに、そんな奴が町にいたら、町の発展が妨げられること間違いなしだ。これまではこんな世界だしおおめに見ていたが、そう言う訳には行かなくなってきた。

 

「意味することは、分かるな?」

 

「もちろんだ。」

 

これ以上まちの発展の邪魔をする場合は、ロッシをこの町から追放しろということだな。あんなやつ、メタルギアのヒューイのように追放してやる。

 

「よく、考えておいてくれ」

 

追放するなどと言う話をしていたが、ロロンドはもうひとつ言いたいことがあったらしく、今度はいつもの口調で言った。

 

「ロッシのことは後から考えることにして、実は、雄也に朗報があるのだ」

 

もしかして、またメルキド録の解読が進んだのか?

 

「雄也よ、喜ぶがいい!我輩はメルキド録を読みとき、鋼の守りの作り方が判明したのだ」

 

「本当か!?」

 

俺の予想した通り、ついに鋼の守りの記述を解読できたようだ。ようやくこの町の防壁を強化できるな。

 

「ああ、鋼の守りなら、この町をさらにさらに強固に守れるだろう。この設計図の通りに、鋼の守りを完成させようぞ」

 

ロロンドは俺に設計図を渡してきた。石垣を78個も使う上、見たことのない物も2つある。

 

「設置場所はもちろん町の西だ。邪魔になるし、もう役に立たないだろうから、石の守りは壊してくれても構わない。」

 

確かに石の守りだと、すぐに壊されてしまうな。

俺は、必要な物を作るために、よく分からないものについて聞いた。

 

「それでロロンド、この木でできた盾みたいなのと、この大きな扉はなんだ?」

 

「バリケードとはがねの大とびらという物だ。バリケードは木の枠に鋼を取り付け、魔物の攻撃を防ぐもので、はがねの大とびらは物凄い固さで魔物の攻撃を防いだり、こちらが出撃するときに使う。」

 

どっちも凄そうな設備だな。俺は作り方を調べる。

バリケード···はがねインゴット3個、木材1個

はがねの大とびら···はがねインゴット6個、染料1個

染料と木材はたくさんあるにしても、はがねインゴットの必要数が多いな。バリケードは10個も必要なようだし、合計36個必要な計算だ。もしかしたら、バリケードは一度にいくつかできるのかも知れないが。

 

「じゃあ俺は必要なものを作ってくる。ロロンドは石の守りを解体していてくれ」

 

俺はロロンドにおおかなづちを持たせ、作業部屋に入った。俺はまず石垣を40個作ろうとした。炉と金床で作れるものは、神鉄炉でも作れるようだ。40個作れば石の守りの40個と足して80になり、必要数に足りる。

 

「本当に大量の素材が必要だな」

 

石垣を40個作り終えるころには、石材がほとんどなくなっていた。それにトゲわなももう少しいるようなので作っておく。

その次に鉄のインゴットを作り、もう一度加工しはがねインゴットにする。

 

「まずはバリケードだな」

 

俺は木材とつなぎあわせ、バリケードを作る。すると、魔法の力のおかげでバリケードが5つもできた。これならもう一回作ればいい。俺はたくさんのはがねインゴットを作ると、バリケードとはがねの大とびらを作った。予想より少なかったが、かなりはがねインゴットを使ったのに変わりはない。鉄をたくさん集めておいて正解だった。

 

「ロロンド、解体は終わったか?」

 

俺が作業部屋から出ると、石の守りは跡形もなくなっていた。これなら鋼の守りを設置できるな。

 

「雄也も準備ができたようだな。では、鋼の守りを作り上げよう!」

 

今回は大変な作業だということで、ピリンやケッパーたちにも手伝って貰った。

最初にはがねの大とびらを設置し、バリケード、トゲわなを設置していく。そして両端に火をふく石像をおく。

 

「あとはまわりを石垣で囲めばいいな。みんな、がんばるぞ!」

 

石垣は4段積み上げないといけないところも多く、一番上の段は落ちても大丈夫そうな靴をはいている俺が作った。

みんなで協力して作っても、30分くらいはかかったであろうが、鋼の守りを完成させることができた。

 

「よし、完成したみたいだな!」

 

「すごいね。」

 

「これなら強い魔物でも壊せないな」

 

「素晴らしすぎます!」

 

「ここまで頑丈な防壁、よく思いついたな」

 

みんなも、これならどんな魔物との戦いに勝てそうだと思っているようだ。

 

「やったぞ!うおおおお!ついに鋼の守りが完成したな。これがあれば、どんな魔物が来ても町を守れる」

 

ロロンドはハイテンションになっている。俺からみても、この防壁は強力だ。鉄壁の壁に守られて、壊そうとしたものは火をふく石像にやきつくされる。みんなは先に戻っていったが、俺とロロンドはもう少し鋼の守りを眺めていた。だが、せっかく喜んでいたのに、そこにロッシが現れた。

 

「こんなので、ゴーレムが来ても守れると思うのか?」

 

俺には分からない、ゴーレムの強さによるな。だが、その発言はロロンドのかんに障ったようだ。

 

「お主、またゴーレムが魔物の親玉だとか戯れ言を言ったり、我輩たちが弱いと言っているのか!?」

 

ロロンドは俺より大きな声で怒鳴った。俺はおっさんが怒鳴るところは生まれて初めて見た

ロロンドはゴーレムが魔物の親玉と言うことも信じていないんだよな。俺もまだ疑っているし。

 

「雄也から聞いたぞ。お主、これまで何度もそんなことを言っているそうだな。我輩は、いや雄也もピリンもケッパーもショーターもゆきのへも、みんな町の発展やメルキドの復活を願っているのだ!何故そこまでみんなの気持ちをそごうとする!?」

 

そして、ついにロロンドは俺と相談していたことを言い出す。

 

「町の発展の邪魔をするもの、みんなの気持ちをそぐもの、町には不要な人間だ。これ以上そのようなことをするのであれば、この町から立ち去ってもらうぞ!」

 

ロロンドとロッシの対立が極限まで高まった時その時、ケッパーの大声が聞こえた。

 

「みんな。魔物が攻めてきたみたいなんだ!これまでよりも敵の数が多い。今度こそ僕たちを潰すつもりだ」

 

ケッパーは、見張り台の上から町の西を見ていた。

 

「仕方ない。このことは保留にする!」

 

「ああ、今は魔物を倒すのが先だ」

 

俺とロロンドも見張り台に上がり、町の西を見る。そこには前回見なかった、さらに強力な魔物がいた。ピラミッドで俺を苦しめたがいこつとしりょうの上位種、しりょうのきしやキメラとつく魔物の最上位種、スターキメラがいた。

 

「あんな強い魔物も攻めて来たのか···」

 

前衛にあくまのきし1体、よろいのきし6体、てつのさそりとおおさそりが2体ずつ、後衛にしりょうのきし12体とスターキメラ4体、あくまのきし1体の合計28体だった。

 

「魔物の親玉を倒す準備のためにもここはなんとしても魔物を追い払わねば!」

 

俺たちは見張り台から降り、下にいたゆきのへと合流した。強固な魔物の軍勢はすぐそこまで迫っていた。5度目の防衛戦の始まりだ。

 

「今日こそ、人間どもを根絶やしにするぞ!」

 

先頭にいたあくまのきしは、鋼の守りを破壊しようと、バリケードやはがねの大とびらに斧を降り下ろす。足元のトゲわなは壊れた。しかし、バリケードやはがねの大とびらそう簡単に壊されるものじゃない。あくまのきしの一撃は弾かれた。

 

「固いな。ん、石像の火が来るぞ!」

 

石像で焼き尽くせると思ったが、それに気づかれ大防御の姿勢をとられる。そして、火の勢いが弱まるとあくまのきしは回転斬りを放った。金属がぶつかり合ってギン!という音がする。それでも壊れなかったが、耐久力が減ったことは確かだ。そこへ、6体のよろいのきしがバリケードを壊そうとしたり、石像を破壊しようとしたりしていた。このままだと、鋼の守りでも耐えきれない。

 

「眺めてるだけでいいかと思ったが、そんなわけにもいかないようだな。」

 

正面から出ると町に侵入される可能性もあるので、俺たちは鋼の武器を持って町の横から魔物の群れに向かっていった。

 

「やれ、スターキメラ!人間どもを焼き尽くせ!」

 

4体のスターキメラが俺たちに火を放ってくる。コイツらを倒さないと、マトモに戦えないな。しかしスターキメラは、多数のしりょうのきしやさそり達に守られている。

 

「誰かがしりょうのきしどもを引き付けて、その隙にスターキメラを倒せばいいんじゃないか」

 

ゆきのへが言うのは、よくある誰かに引き付けてもらう作成だ。上手くいくか分からないが、俺はしりょうのきしの群れに斬りかかった。

 

「喰らえ、回転斬り!」

 

俺の攻撃でダメージを負ったしりょうのきしたちは、俺のほうに襲ってくる。しかし、後方のあくまのきしが、しりょうのきしに言った。

 

「コイツらの作戦に惑わされるな!お前達を一ヶ所に引き付けてスターキメラを倒すつもりだ!」

 

聞こえないほどの距離で言っていたはずなのに。さすがは隊長だな。鋼の守りにもかなり傷が入っていた。

 

「くそっ、スターキメラの炎を避けながらコイツらを倒すしかないな。」

 

危険だが、それくらいしか方法が思い付かない。銃でもあれば遠くのスターキメラも倒せるんだろうけど。

俺とロロンドは目の前のしりょうのきしを、ケッパーはさそり達を、ゆきのへはよろいのきしや先頭のあくまのきしと戦いになった。少しでも動きが止まると炎を撃たれるので、回転斬りは使えない。何度か肩や腕を切られながらも、しりょうのきしを倒していく。鋼の武器なら斬ることができるので、ケッパーはおおさそりやてつのさそりを切り刻んだ。回転斬りはなくてもさすがはメルキドの衛兵の子孫だ。

 

「これ以上被害をだす訳にはいかない!スターキメラ共、何としても人間どもを焼き尽くせ」

 

スターキメラは、俺たちを正確に狙って、炎を乱射してくる。俺は火を避けながら逃げるのはピラミッドでやったことがあるので、その時のように動いた。

 

「ビルダーの野郎!なんて逃げ足の早い!」

 

俺は体育は苦手だが、しりょうのきしからギリギリ逃げ切れるくらいのスピードはある。それに、しりょうのきしも所詮は骸骨。骨しかないのでスピードが遅いのは当然だ。

 

「お前ら、さっさとビルダーを始末しろ!そこのヒゲ野郎や兵士やハゲもだ!」

 

あくまのきしはそう言うが、魔物たちにも限界はある。やがて、スターキメラは炎の撃ちすぎでそろそろ疲れてきていった。ゲームで言うところの、MP切れってやつだな。

 

「何をしているんだ!さっさと奴等を殺せ!」

 

スターキメラが弱ってきたところで俺はしりょうのきしたちに全力で剣を叩きつける。片手用の剣だが、今は両手で持ち、より威力を高めた。そして、しりょうのきしたちの生命力を破壊していく。

 

「我輩をヒゲ野郎とは失礼な奴だな!切り裂いてやる!」

 

ロロンドも剣を操り、しりょうのきしを倒していった。12体もいたしりょうのきしだが、俺たちの攻撃で全滅した。結構強行突破で、いくつか傷を負ったが、俺もロロンドもこれまでの戦いで痛みには慣れている。

 

「このままスターキメラも倒すぞ!」

 

俺とロロンドはMP切れになったスターキメラに剣を振りかざす。スターキメラは何とか炎を出して攻撃してくるが、俺たちは走ってかわしながら、奴等の首を狙って斬り倒していった。外しても、何回も鋼の武器で斬られれば倒れる。だが、そのうちの一体が俺の体にもかなりの傷を負わせてきた。するどいくちばしで、俺をつついてきた。

 

「いてえな···でも負けられるか!」

 

俺はそのスターキメラの腹にはがねのつるぎを突き刺し、頭まで真っ二つに切り捨てた。ロロンドが1体、俺が3体を倒し、スターキメラを全て撃破する。

 

「おおさそりもてつのさそりもしりょうのきしもスターキメラも全滅だと!?だが、人間ごときにやられてたまるか!」

 

そしてついに前衛のよろいのきしやあくまのきしはゆきのへの攻撃を防ぎながらついに火をふく石像を破壊した。

 

「恐ろしく固いはずの火をふく石像が壊れただと!?」

 

それは俺たちにとって想定外の事態だったが、俺は火をふく石像を拾いに行った。この世界では壊されてもアイテム化するだけだからな、もう一度設置すればいいだけだ。しかし、やはりそれに気付き、6体のよろいのきしが俺の目の前に立ちふさがる。

 

「死ねビルダー!地獄に落ちろ!」

 

6体のよろいのきしが一斉に俺に斬りかかってくる。だが途中でかわされることに気付き、奴等は3度目の防衛戦の時のよろいのきしのように、斧を振り回しながら突進してきた。6方向からの攻撃だが途中まではかわせたが何度も突進を繰り返され遂に俺はよろいのきしの1体に突き飛ばされてしまう。そして、別のよろいのきしが俺のところへ迫っていた。

 

「うおおおおお!」

 

「回転斬り!」

 

そこへ、ロロンドとケッパーが援護に駆けつけた。俺は体勢を立て直し、ケッパーと二人同時に回転斬りを放つ。

 

「ここは僕に任せて!雄也はあくまのきしを頼むよ!」

 

「ああ、分かった!」

 

まだ生き残っていたよろいのきしは、ケッパーが戦ってくれた。俺が向かうと、ゆきのへは石垣に体を叩きつけられて動けなくなっており、あくまのきしはついにバリケードを破壊した。

俺はゆきのへを巻き込まないように火をふく石像を拾ってあくまのきしの後ろに置いた。

 

「焼け!」

 

俺はメタルギア5の終盤でカズがナパーム弾を落としていた時に言ったセリフを叫んだ。俺の声に反応するかのように、火をふく石像はあくまのきしを焼き尽くした。

 

「ビルダーめ、よくも···」

 

まだ生きていたので、俺は動かれる前にあくまのきしの首にはがねのつるぎを突き刺し、引き裂いた。もうあくまのきしを2体も喉切りで倒している。

それを見ていた後方のあくまのきしは、怒りが頂点に達した。

 

「ふざけるなよ人間ども!部隊を全滅させ、我が同族まで殺すとは!」

 

あくまのきしは、斧にオーラを纏うほど力をため、鋼の守りの所まで走り、凄まじい力で叩きつけた。俺もゆきのへもかわすことは出来たが、俺がさっき置いた火をふく石像、バリケード、石垣、それどころかはがねの大とびらまで破壊した。恐らくはドラクエの斧スキルの技、魔神斬りだろう。二分の一の確率で必ず会心の一撃が出る技だ。

 

「まずい、町に侵入される!」

 

俺はあくまのきしを止めにいく。ケッパーも全てのよろいのきしを倒して、あくまのきしの所へ来た。

 

「失せろ人間どもが!」

 

あくまのきしは渾身の回転斬りを放ってくる。俺も回転斬りを放って相殺するが、後ろにあった鋼の守りは壊滅した。

 

「自分の攻撃で壊してしまったか。だが後で直せばいい」

 

俺もあくまのきしも動きが止まっているときに、ケッパーがあくまのきしの鎧を切り裂く。胸部の鎧が破損したので、心臓を突き刺せば倒せそうだ。ゆきのへもウォーハンマーで頭を叩き潰す。

 

「おのれ!人間ごときが世界の支配者になってたまるか!」

 

あくまのきしはひたすらに、だが正確に斧を降り下ろす。俺たちは一度後ろに下がり、チャンスを待つ。だが、いつまでたっても攻撃のやむ気配がない。

 

「怒りで我を忘れて、肉体の限界を越えているな」

 

もう何としてでも止めるしかない。狂ったあくまのきしにケッパーは回転斬りを放ち、ロロンドは剣で切り上げ、ゆきのへはハンマーで頭を狙う。

 

「目障りなんだよ!」

 

あくまのきしは力ずくで3人を突き飛ばす。俺は3人が突き飛ばされた後奴が攻撃を再開するまでのわずかな時間にはがねのつるぎを思いきりあくまのきしの心臓に突き刺した。だが、狂った奴は心臓を刺されても10秒くらいは動けるらしい。その間に俺が攻撃を受けるのは確実なので、俺は動けないようにあくまのきしの体を真っ二つにしようとした。だがあくまのきしは斧を降り、俺はすぐに避けるが至近距離だったため、全身を切り裂かれ吹き飛ばされた。傷は深く、俺は意識が朦朧としていた。

 

「雄也よ!大丈夫か!?」

 

ロロンドたちが俺に駆け寄ってくる。あくまのきしは遂に力尽き、青い光になって倒れた。しかし、そこで俺は意識を失ってしまった。




本来は見張り台のところか鋼の守りのところまでエピソード17のつもりでしたが、事情により途中で投稿してしまいました。
そのため今回は前半が町の発展、後半が防衛戦という形になり、結構長くなっています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode19 鉱山の峡谷

気がつくと、俺は自分の個室で寝ていた。あれ、さっき俺はあくまのきしと戦っていたはずなのに。ピリンとロロンドが、俺を心配そうに見ていた。

 

「雄也、気づいたんだ!」

 

「俺はどうしてたんだ?」

 

「お主はさっきあくまのきしの攻撃を受けて意識を失っただろ?我輩たちがきずぐすりを塗って、ここに寝かせていたんだ」

 

そうか、俺はあくまのきしの最後の反撃を受けて倒れていたのか。本当にあの攻撃は痛かった。死にかけたかと思った。今は夜のようだから、結構な時間気を失ってたんだな。

俺が起き上がろうとすると、ピリンに止められる。

 

「雄也は怪我をしてるんだから、今日はゆっくり休んで」

 

確かにまださっきの傷が痛んでいる。俺はピリンの言う通り、もう休むことにした。

 

翌朝、俺の傷はまだ治っていなかったが、痛みはおさまり、普通にあるけるようになっていた。ピリンたちがきずぐすりを塗ってくれたおかげだな。

 

「ん、また新しい人がいるな」

 

部屋から出ると、希望のはたの所に見知らぬ女が立っていた。この人もいれば、メルキドは8人になるのか。

 

「おい、あんた誰だ?」

 

その女は俺に気づくと、いろんなことを聞いてきた。

 

「ここは何なの?あなた、ここに住んでるの?暖かい光があふれる素晴らしい場所じゃない!」

 

「ああ、ここには俺以外にも人が住んでいる。町ってやつだ」

 

町という言葉を聞いて、その女は首をかしげる。町というものの存在自体を知らないのだろう。それにしても、ここまで来て新しい住人とはな、役にたつ奴だったらいいが。

 

「ここには建物もあるし、人もいる、光もあってとても素敵な場所に見えるけど···」

 

「それが町って奴だよ」

 

どうやらこの場所を気に入ってくれているようだ。その一方で、こんなことを聞いてきた。

 

「でも、住んでる人たちはずいぶんとピリピリしているのね。」

 

この女は人の様子を見るのが得意なようだな。町の状態をすぐに分かるとはな。

 

「もうすぐこの町で魔物との決戦があったり、町の中で対立が起こっていたりするからな。少し前までは平和だったんだけどな」

 

最初に俺とピリンで町を作りはじめた時、まだあの時は魔物のことなんて考えていなかったな。

 

「そうなの。でも私はもう歩き疲れてヘトヘトよ。私も今日からここに住ませてもらうわ」

 

この女も町の仲間になってくれるようだ。俺は、新しい住民が来たときにいつもしている自己紹介をした。

 

「よろしくな。俺は影山雄也。いつもは雄也って呼んでくれればいい。」

 

「雄也ね。私はチェリコ、なんの取り柄もないけど、空気だけは読める女よ、よろしくね」

 

俺はチェリコと自己紹介をしあうと、昨日の魔物たちが落としたものを拾いに行った。大した素材はなかったがウォーハンマーの材料のさそりの角やキメラのはねなどが落ちていた。そして、俺がなんとか倒した狂ったあくまのきしは3つ目の旅のとびらが落ちていた。

 

「また旅のとびらだな。今度は縁の紋様が緑色だな」

 

旅のとびらはそれぞれ縁の色が違った。赤·青·緑は光の三原色と言われるから、この色になっているのだろうか。メルキドの復興も大詰めなので、旅のとびらはこれが最後だろう。

 

「雄也よ、また旅のとびらを手に入れたのか」

 

俺が旅のとびらを設置すると、ロロンドが話しかけてきた。

 

「ああ、ロロンドこそどうしたんだ?」

 

「実は雄也よ。お主に素晴らしい知らせがある!昨日の防衛戦で、鋼の守りも壊されてしまっただろう」

 

あれは誰も予想していなかったな。魔物の親玉どころか、あくまのきしなんかに壊されてしまうとはな。さらに強固な防壁が必要なのは明らかだ。

 

「それでだな、ついに我輩はメルキド録を読みとき、最強にして最大の防壁の記録を見つけたのだ」

 

「それって、どんな奴なんだ?」

 

最強の防壁か···それなら今度こそ町を破壊されずに済みそうだ。

 

「その名も、メルキドシールドと言う。なんともおごそかで品のある名の防壁であろう!」

 

「それほどでもないだろ」

 

メルキドシールドとか、そのまんまな名前だな。ロロンドからみれば品がある名前なんだろうけど。

 

「名前はともかく、これさえあれば、どんな魔物の攻撃からも町を守ることができ、かつての城塞都市、メルキドを完全に復活させられる。」

 

どんな魔物の攻撃からも町を守れるか。あのあくまのきしの攻撃でもびくともしないんだろうな。

 

「それで、どうやって作るんだ?また大量の鉄とかがいるのか?」

 

俺が作り方を聞くと、ロロンドは深刻な顔をした。

 

「実は、雄也よ。その細かい製法までは、メルキド録には書かれておらぬようなのだ。このままでは、せっかくのメルキドシールドも作り出すことはできぬ···」

 

メルキド録にも書いてないか、初めての事態だな。これまでの防壁のこととかは、全てメルキド録に記載されていたのに。

 

「だったら、メルキドシールドはどんな形をしているかは分からないか?形状が分かれば魔法の力でなんとかできる」

 

「それが、盾の形をしているということ以外、何も書かれていないのだ。素材も形状も製法も、一切不明ということだ。」

 

詳しい情報が何もないのなら魔法の力も使うことが出来ない。製法も分からないなら、自力で作ることも出来ないな。

 

「だが、お主なら必ずメルキドシールドの作り方を閃いてくれると信じているぞ」

 

そんなことを言われても、難しい気がするが。でも、やるしかないんだよな。必ずメルキドシールドの作り方を見つけないと。

 

「ああ、何とか作れるように頑張るな」

 

ロロンドとの話を終えた後、俺は緑のとびらを探索することにした。俺が作業部屋から武器を取り出したり、昨日のてつのさそりが落としたさそりの角で、自分の分のウォーハンマーを作っていたりした。するとショーターが中に入り、俺に話をした。

 

「雄也さん、ちょっといいでしょうか?」

 

また探索ができなくなるのだろうか。短い時間で終わる話だと願うばかりだ。

 

「何だ、ショーター?」

 

「雄也さんは、また新しい旅のとびらを手に入れたのですね?」

 

ショーターはもう旅のとびら·緑のことを知っていたか。俺が拾っているのを見たか、町の端に置いてあるのを見たのか?

 

「ああ、今度は緑色の紋様が彫られていた。」

 

「雄也さんにはそこで素材を集めて、作ってほしいものがあるのです。ロッシさんはメルキドを滅ぼしたのはゴーレムだと言っていました。と言うことは、このメルキドを支配する魔物こそ、かつてのこの地の守り神、ゴーレムでしょう」

 

ショーターも、ゴーレムが魔物の親玉だと思っているのか。まあ、根拠がないわけではないけど、断定は出来ない。

 

「そして、ゴーレムを倒すためにまほうの玉と言うものを作って欲しいのです」

 

まほうの玉って言うくらいならすごい力がありそうだな。

 

「それって、どんな物なんだ?」

 

「玉と言っても、立方体の形をしているのですが。ばくだんいわというモンスターから取れる爆発する危険がある石を鉄で囲んで、導火線を付ける。導火線に火を付ければ鉄が砕けて破片になり、魔物の体を貫くと言うものです」

 

ショーターの話を聞いて思ったのだが、それってただの爆弾じゃないのか?この世界では爆弾も魔法みたいなものなんだろうけど。グレネードも、そんな作りだったはずだ。

確かに爆弾だったら、非常に固そうなゴーレムも砕けそうだ。

 

「あなたにその製法を教えます。作り方を閃いたら形にして見せてください。旅のとびらは自分の必要なものがある場所にとびらを開くと聞いたので、ばくだんいわがいるところへ行けるでしょう。」

 

俺はまほうの玉と言う名の爆弾の作り方を教えてもらい、その作り方を魔法で調べる。ついでにグレネード、地雷、C4などの作り方を調べた。

まほうの玉···鉄のインゴット3個、ばくだんいし3個、ひも1個

グレネード···鉄のインゴット3個、ばくだんいし3個

地雷···鉄のインゴット2個、ばくだんいし2個

どれも同じような作り方だな。まほうの玉とグレネードはどう考えてもグレネードのほうが小さいのに必要数が同じだな。いつもの一度にいくつも出来るってやつだろう。C4は調べても出てこない。この世界には無線機能がないから、無線で起爆させる仕組みのC4は作れないってことのようだな。

 

「雄也さん、作り方を閃きましたか?」

 

「ああ。探索とついでにばくだんいし取ってくる」

 

俺は旅のとびら·緑の先の探索を始めた。旅のとびらをくぐると、こんどは深さ20メートルほどの峡谷に着いた。

 

「ここは谷底なのか。どんな素材があるんだろうな?」

 

崖を見ると、鉄や銅、石炭などが眠っていた。それでけではなく光り輝く謎の鉱石が存在していた。

 

「なんだこの鉱石は?」

 

俺はその鉱石をウォーハンマーで叩きつけてみたが、まったく壊れる気配がしない。ここまで固いとは、ダイヤモンドか何かだろう。今は壊せないので、無視して先に進んだ。

そして、途中まで進んでいくとショーターが言っていた魔物、ばくだんいわが生息していた。

 

「あの固すぎる鉱石も気になるが、今はこいつを倒して素材を集めるか」

 

とりあえず地雷、まほうの玉、グレネードを1つずつ作るために、8個は必要だな。俺は目の前にいたばくだんいわを倒しにいく。正面からいくと攻撃を受けたり自爆されたりする可能性があるので、背後から回転斬りで倒すことにする。

 

「回転斬り!」

 

爆弾岩はかなり大きいサイズで、回転斬りでも真っ二つにはならなかった。不意の攻撃を受けた爆弾岩は転がって攻撃してくる。そこまでのスピードはなく、俺は避けながら何回か斬りつけ、ばくだんいわを倒した。

 

「こんなふうに倒せばいいのか、他にもいるはずだな。」

 

俺はばくだんいわを倒しながら、峡谷地帯の奥へとすすんで行く。途中、自爆魔法のメガンテを唱えられたことがあったが、すぐにはは発動しないらしく、問題なく倒すことができた。

 

「森か、スライムとか、ずいぶん弱い魔物がいるな」

 

俺は探索をしている途中に、スライムばかり住んでいる森を見つけた。俺がその森に入っていくと、目の前を何かが高速で走り去った。

 

「ん、何だったんだ?」

 

その方向を見ると、ドラクエで大量の経験値がもらえることで有名なモンスター、メタルスライムがいた。メタルスライムは俺を見るなりすぐに逃げていった。

 

「逃がすかよっ!」

 

俺はメタルスライムを追いかけていく。しばらくメタルスライムが逃げて、俺から逃げ切ったと思ったところでメタルスライムは動きを止めた。

 

「喰らえ!」

 

俺は回転斬りをし、動きを止めて何回も斬りつけ、メタルスライムを倒した。だが、ゲームのようにレベルが上がったりはしなかった。銀色の液体を落としたが、使い道はわからない。

 

「これは何に使うんだろうな?」

 

必要になる可能性もあるので、俺はその液体をポーチにしまった。

俺がその森の奥を探索していると、何かに怯えているスライムがいた。

 

「なんだこいつ?もしかして、回りに強い魔物でもいるのか?」

 

俺が回りを警戒していると、そのスライムは突然言葉を話した。

 

「わあ、人間だ!僕はスラタン!君は?」

 

スライムって喋れるのかよ···しかも名前まで名乗られたし。どうやら敵ではなさそうなので、俺も自分の名前を名乗る。

 

「俺は影山雄也だ。いつもは雄也って呼んでくれ」

 

「雄也かあ、素敵な名前だね!お顔だって凛々しくてかっこいいや!」

 

そのスライムは、地球では全くモテない俺の顔をほめてくれた。

 

「それで、なんでここで怯えているんだ?」

 

「実は僕、人間のことが大好きで人間と友達になりたくって、仲間たちに話をその話をしたら僕は竜王様にさからう悪いスライムだって」

 

他のスライムは人間の敵だからな。友好的なスライムは奴らにとっては裏切りものってことか。それにしても孤立している状態なので、助けてやったほうがいいな。

 

「人間にとってはいいスライムってことだな」

 

こいつも仲間になってくれるのか?と思っていたら、スラタンが急に逃げ出した。

 

「いつも僕をいじめているスライム達が来たよ!気を付けて!」

 

それを聞いて前を見ると、たくさんのスライムやスライムベスがいた。スライムは弱い魔物なので、俺はスラタンが離れたのを見て攻撃した。

 

「回転斬り!」

 

スライムたちは俺の攻撃で両断され、あかい油やあおい油になった。それを見たスラタンが、俺のところに駆け寄ってきた。

 

「うわあ、雄也ってとっても強いんだね!助けてくれてありがとう。でも、ここにいたらまた他のスライムにいじめられるかもしれないね」

 

やはり、スラタンは保護してあげたほうがいいな。

 

「だったら俺たちが作った町に来ないか?」

 

「雄也の作った町に?僕は魔物だよ、ホントに住んでもいいの?」

 

そうか、スラタンも一応魔物だからな。でも味方だからいいだろう。

 

「町のみんなも、人間の味方なら歓迎してくれるぞ」

 

「やったあ!ありがとう!」

 

俺はスラタンを連れて町に戻った。いきなり町にスライムがいたらみんな驚くと思うので、みんなに説明することにした。

 

「こいつは人間の味方で、他のスライムからいじめられていたから助けたんだ。こいつを住ませてもいいか?」

 

人間の味方だと言うことで、みんなは歓迎ムードだった。

 

「味方なら大歓迎だぞ!」

 

「よろしくね!」

 

みんなにも受け入れられて、スラタンはこの町の住人(?)になってくれた。

俺はスラタンを紹介した後、作業部屋でまほうの玉、グレネード、地雷を作った。まほうの玉と地雷は一度に10個、グレネードは一度に20個もできた。

 

「なんか大量にできたな」

 

予想よりもたくさんの兵器を作ることができた。俺はまず、それをショーターに見せにいった。

 

「まほうの玉が完成したぞ」

 

「本当ですか!?さすがは伝説のビルダーですね。必ず作ってくれると信じてましたよ。」

 

まほうの玉の完成を喜ぶと、ショーターは改めて言った。

 

「雄也さん。メルキドを支配するゴーレムは必ず来ます。ゴーレムに勝てば空の闇も晴れる。負ければメルキドは再び滅びるでしょう。」

 

負ければ滅びるか、いつも分かっていることでも、改めて言われると決戦が目前に迫っていることが実感できるな。

 

「きたる戦いの勝利を祈っています。どうかその、まほうの玉を役立ててください」

 

「そうだな。だが肝心のメルキドシールドはどうやって作るんだ?」

 

「どうなさったのですか?」

 

「いや、何でもない」

 

俺はショーターと別れて、夜になりそうな時間だったので俺は個室に入った。

ショーターのおかげで、爆発系の武器がつくれるようになった。しかし、メルキドシールドの作り方は、依然として思い付かない。

 

「どんな形なら、魔物の攻撃をより防げるんだ?」

 

俺の思考力では思い付けないのだろうかという不安な気持ちと、どうして作れないんだ!?という苛立ちが俺の中で出来ていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode20 究極の盾

メルキドに来て23日目、何としてもメルキドシールドの作り方を思いつかないといけない。俺の頭の中は、それしかなかった。

 

「ねえ、雄也。お願いがあるの」

 

その日、作り方を考えていて忙しい俺の個室にピリンがやって来た。

 

「今は忙しいんだ、後にしてくれ」

 

いつもは快く聞き入れているピリンのたのみごとも、今は聞く気になれなかった。それでも、ピリンは個室のとびらを開けて入ってきた。

 

「少しだけでもいいから、話をさせて」

 

「忙しいと言ってるのに、そこまで大事な用なのか?」

 

俺はメルキドに来て初めてピリンにイラついた。俺がなんとしてもメルキドシールドの作り方を考えているというのが分からないのだろうか?

だが、ピリンはどうしても言いたいことらしく、俺は仕方なく聞いた。

 

「なるべく短く話してくれ、何が言いたいんだ?」

 

「ねえ、最近みんなピリピリしてて怖いね」

 

そんなの分かっているだろ。この前もロロンドとロッシの対立の話はしたはずだ。

 

「ロロンドに聞いたよ。もうすぐ、でっかい魔物との戦いがあるんでしょ?」

 

「まあな、メルキドの復興ももうすぐだし」

 

「わたしはただ、みんなで町を作って楽しく暮らしたかっただけなのに、どうしてこんなことになっちゃったのかな」

 

ピリンの純粋なその気持ちも、現実的でないと言うことで俺をいらだたせた。

 

「この世界は闇に閉ざされているから当然だろう。平和に生きていきたいなんて現実的でない話をしないでくれ。そんなことを言いにここに来たのか?」

 

「ううん。こんな時にわざわざお願いするものじゃないかもしれないけど···」

 

ピリンは俺がイラだっていることに気づいたのか、控えめな口調で言う。だったらするな。と言ってやりたいが、必要なことかも知れないし、一応だけど聞くことにした。

 

「こわい魔物が来ても安心できるように、きずぐすりを5つ作ってわたしにくれない?」

 

「きずぐすりくらい、自分でも作れるだろ?」

 

「それだけじゃ足りないと思ったから、雄也にも作ってほしいの。これがわたしからの最後のお願いだよ」

 

魔物に襲われても大丈夫なようにきずぐすりか、戦えないピリンにも必要になる可能性はありそうだし、作っておくか。

 

「仕方ないな、ちょっと待っててくれ」

 

簡単なことだから、すぐに済ませられるな。俺は町の外で白い花びらを集める。だが、こんなことをしている間にも考える時間がなくなっていくと思うと、余計にイライラしてきた。

白い花びらがそろうと、石の作業台できずぐすり5つを作る。

 

「あとはピリンにこれを渡して···」

 

きずぐすりが出来ると、俺は町を歩いていたピリンに声をかけた。

 

「お前が言ってたきずぐすりを作ってきたぞ」

 

「それじゃあ雄也が作ったきずぐすり、一度わたしにちょうだい」

 

俺はピリンにきずぐすりを渡したが、一度って言うのはどういう意味なんだ?すると、ピリンは意味不明な行動をとった。ピリンが持っていたきずぐすりと俺が渡したきずぐすりを集めて、俺にまた渡してきたのだ。

 

「実はわたしも2つ作っておいたんだ。これで全部で7つ、雄也にあげるね。」

 

意味が分からない。俺はピリンが怪我をするかもしれないと言われたからきずぐすりを作ったのに。なんで返してくるんだ?俺は時間を無駄にされたと思い、ピリンにキレていた。

 

「なんでそんなことをするんだ!?俺は忙しいって言っただろうが!余計な頼みごとをするな!」

 

俺が大声で言うと、それがショックだったのかピリンは泣き出してしまった。

 

「だって、だって雄也は、みんなのために頑張るのに夢中で、自分のことはいつも後回しでしょ。だから、最後の戦いの前に、ちゃんと自分のための道具を作ってほしかった。それだけなの!」

 

ピリンは泣きながら必死に訴えるように俺に言う。それだけでなくピリンはこんなことを言った。

 

「最近、雄也はおかしいよ。わたしと出会った時は、いっしょに仲良く町を作っていこうって言ってたのに···」

 

確かにそれは言っていたが、魔物との戦いが迫っている以上、そんなことは関係ない。

 

「町を復興させるということは、魔物との戦いもあるってことなんだ」

 

「そう言う意味で言ってるんじゃない!昔メルキドでは、人々がお互いを信じられなくなって、争いになったって言ってたでしょ。今の雄也は、その人たちと同じだよ!」

 

確かにそれは否定出来なかった。俺は今、ピリンを信じていなかった。俺の時間が無駄になったとしか思っておらず、ピリンの気持ちは考えていなかった。

 

「雄也が怒っていることは分かるけど、どうしてもそれだけは伝えたかったの。わたし、雄也が大切だから。元の雄也に戻って欲しかったの」

 

そうだったのか。俺は焦りすぎて、大切な仲間の気持ちも分からなくなっていたんだな。それで、いつの間にか昔のメルキドの住民たちと同じように仲間の大切さを忘れていた。

俺は本当に最低で、愚かな人間だな。

 

「本当に悪かったな。俺のためを思って言っていたのに、あんなことを言ってしまってな。俺にとっても、ピリンは最高の仲間だよ」

 

「うん。ありがとう雄也。」

 

ピリンは泣き止み、俺の悩んでいることを言った。

 

「雄也は、メルキドシールドの作り方が分からなくて困ってるんでしょ」

 

「ああ、詳しい製法や形状が全く分からないんだ」

 

もしかしたら、俺だけでは思いつかないかもしれないけど、ピリンの力もあれば、思い付けるかもしれない。

 

「わたしは、いくら悪い魔物でも、戦うのはいやだけど、もし雄也とわたしたちが作った町を壊されたら、すっごく悲しいかな···」

 

「俺もだ。みんなと共に作りあげてきたこの町、絶対に壊させはしない。ピリンもいっしょに、メルキドシールドの作り方を考えてくれ」

 

「うん。この町を守るために、メルキドシールドの作り方を必ずみつけようね!」

 

それから俺とピリンは、その日の昼から夜遅くまで、メルキドシールドの作り方を相談していた。どのような形なら、魔物の攻撃をより防げるか。そして、日付が変わる頃、メルキドシールドの形を思いつくことができた。

 

「どう、雄也。作れそう?」

 

俺は二人で考えたメルキドシールドの形を思い浮かべ、魔法をかける。するとついに、メルキドシールドの必要な素材が分かった。

メルキドシールド···オリハルコン5個、ゴーレム岩3個

 

「ああ、必要な素材は分かった。明日二人で取りに行こう」

 

「良かった。必ずメルキドシールドを作り上げようね!」

 

俺たちは明日の素材集めに備え、個室に戻った。2つの素材の入手方法も見当はついている。オリハルコンは峡谷地帯にあったダイヤモンドのような鉱物で、爆弾を使えば取れるだろう。ゴーレム岩は砂漠地帯にいた巨大ストーンマンからだろう。それ以外に思いつかない。

 

メルキドに来て24日目、俺はピリンと素材集めに行く前に、メルキドシールドの作り方が分かったことを、ロロンドに伝えに行った。

 

「おいロロンド、ついにメルキドシールドの作り方が分かったぞ!」

 

俺が言うと、ロロンドはこれまでにないテンションで走ってきた。

 

「でかしたぞ、雄也!これで城塞都市メルキドを完全に復活出来る!来るべき魔物の親玉との決戦にも備えられよう」

 

ついにメルキドの完全復活か。最後まで気を引き締めていこう。

 

「思えばここまぜ長い道のりだったな···」

 

ロロンドの言う通り、まだ1ヶ月も経っていないのに、何年も一緒に暮らしてきたかのような感覚だった。

 

「いよいよこの時だ!メルキド録に書かれた最強にして最大の防壁、メルキドシールドを作り上げるのだ!」

 

「もちろんだ!楽しみに待っててくれ!」

 

俺はロロンドと別れ、調理部屋で朝食をたべているピリンと話した。2つの素材が必要なので、分担して取るつもりだ。

 

「ピリン、メルキドシールドを作るためにはオリハルコンとゴーレム岩が必要なんだ。お前はオリハルコンを取ってきてくれ」

 

「オリハルコンって?」

 

「緑色の旅のとびらの先にある鉱石のことだ。普通の攻撃じゃ壊せないから、これを使ってくれ」

 

オリハルコンを入手するために、ピリンにまほうの玉を3個渡した。

 

「それをオリハルコンの近くに置いて、ピリンはすぐに離れてくれ」

 

爆弾は使い方を正しく使わないと危険なので、ちゃんと使い方を教えておかないとな。

 

「わかった!雄也も頑張ってね」

 

「ああ!」

 

俺とピリンは、食事を済ませた後すぐに出掛けた。俺は砂漠地帯、ピリンは峡谷地帯に行き、それぞれ必要な素材を集める。

 

「あの巨大ゴーレムを倒せばいいはずだな」

 

俺は砂漠の中心あたりで、2体のストーンマンと巨大ストーンマンを見つけた。普通の攻撃では倒せそうにないので、俺はまず、地雷を仕掛けてストーンマンを爆破することにした。

 

「まずはグレネードで手下を倒して引き付けよう」

 

地雷を仕掛けた後、俺はストーンマンの群れにグレネードを投げ込んだ。小さいストーンマンは一撃で砕け散り、巨大ストーンマンも大ダメージを負った。

巨大ストーンマンはよくもやりやがったな!という目で俺を睨んで追いかけてくる。俺も逃げ出して地雷に誘い込む。

 

「あとは地雷が爆発してくれればいいな」

 

ストーンマンは何も気づかず俺を追いかけてきて、地雷を踏んで爆破され砕け散った。ストーンマンが倒れたところを見ると、茶色のブロックが3個落ちていた。

 

「これがゴーレム岩か。メルキドシールドはどのくらい必要か分からないけど、もう少し集めておくか。」

 

俺は巨大ストーンマンを地雷やグレネード、まほうの玉で爆破していき、10個ほどゴーレム岩を集めた。

 

「これでメルキドシールドは3個作れるな」

 

これくらいで十分だろうと思い、俺はメルキドの町に戻った。ピリンも、20個ほどのオリハルコンを持っていた。

 

「雄也、おかえり!わたしもがんばってきたよ」

 

「ありがとうな、ピリンのお陰でメルキドシールドの作り方がわかったし、仲間の大切さを思い出すことができた。」

 

ピリンや他のみんなも、絶対に守らないといけない。俺はそう強く思い、オリハルコンとゴーレム岩に魔法をかける。オリハルコン15個とゴーレム岩9個を使い、3つのメルキドシールド、あらゆる魔物の攻撃を防ぐ究極の盾が出来上がった。

 

「これがメルキドシールドか、近くで見ると迫力があるな」

 

高さは4メートルか5メートルくらいあり、決して壊れない鉄壁の防壁が出来上がった。しかも、壊さなくても取り外すことができるようだ。

 

「動いている魔物にも対応できるな」

 

俺はメルキドシールドの完成を、ロロンドに伝えた。

 

「ロロンド、ついにメルキドシールドが完成したぞ!」

 

「お主、ついにできたのか!長い道のりだったが、これでもう、魔物たちの襲撃をおそれずに済む!」

 

ロロンドはハイテンションを越えて、涙が出るほど感動していた。

 

「後はこの地を支配する魔物の親玉を倒せば、メルキドを完全に復活させられる!素晴らしい、素晴らし過ぎるぞ!」

 

「そうだな!メルキドの復活まで後少しだ!」

 

魔物の親玉か、何があろうが絶対に勝ってやる!

俺たちが意気込んでいたその時だった、メルキドの地が激しく揺れた。

 

「な、なんだ!?我輩の町に何が起きていると言うのだ!?」

 

「地震でも起きたのか?ってあれはまさか!?」

 

町の西側に、茶色の石で出来た、巨大な魔物が見えた。その大きさは巨大ストーンマンの比ではない。ロロンドも、それに気付いて驚愕する。

 

「そんな、まさか···この地を支配する魔物の親玉は、本当にゴーレムだったと言うのか!?ゴーレムはメルキドの守り神であるはずだぞ!」

 

まだ遠くからしか見えないが、その魔物はゴーレムであった。

 

「ウソだろ!?守り神が人間を滅ぼしたなんて···」

 

俺もまだ信じられない。ロッシやゆきのへから聞かされていたが、あんなにメルキドを守ろうとしていたゴーレムが人間を滅ぼしたとはな。しかし、確実にゴーレムはメルキドの町に迫ってきていた。

認めたくはないが、ついにメルキドでの最終決戦が始まったようだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode21 全てを破壊する者

目覚めたゴーレムは、どんどんメルキドの町に迫って来ていた。今だに信じられないが、奴が魔物の親玉ならば、戦って倒すほかない。

 

「どうやら、メルキドの守り神だった、ゴーレムが目覚めたようだな」

 

俺とロロンドのところに、ロッシが駆けつけて来る。

 

「本当にゴーレムが魔物の親玉だったとはな···俺もその可能性はあると思っていたがやっぱり信じられないぜ」

 

俺は最初、あくまのきしのさらに上位種あたりが魔物の親玉だと思っていた。それが本当に、かつての守り神だったとはな。

 

「雄也、お前はどうして守り神だったはずのゴーレムが、メルキドを滅ぼしたと思う?」

 

「いろいろ考えてみたけど、はっきりとした理由は思い付かないな。あんたの言い方からして、操られた訳ではないんだろ?」

 

この前のロッシの言い方からして、それは明確だった。そして、次のロッシの発言で、ようやく1つの仮説が浮かび上がってきた。

 

「ああ。きっとメルキドを守るために、メルキドに住んでいた人間を滅ぼしたのさ」

 

メルキドを守るためか。あのシェルターにいた人間たちは、魔物の攻撃がないから安全だったはずなのに、今度は人間同士で殺しあった。ゴーレムは、外の魔物よりも、人間たちのほうがメルキドとって危険な存在だと思ったんじゃないのか?

 

「つまり、外にいる魔物たちよりも、自分たちで殺しあっていた人間のほうが、メルキドにとって危険だったからか?」

 

そう考えると、城塞の中に現れた魔物と言うのは、人間自身を指しているのだろう。

 

「そう言うことだ。ゴーレムは、人間こそがメルキドの敵だと判断したんだ」

 

「やっぱりそう言うことだったのか。やっと分かったぜ」

 

「お前も行ったんだろう?おおきづちの里の向こうの、あの壊れた城に」

 

お前もってことは、ロッシも行ったことがあったんだな。この町に来る前の話だろうけど。

 

「ああ、人間同士が争った痕跡があったな」

 

「世界が闇に支配され、竜王の軍団がメルキドに迫った時、人間たちは最後の力で城塞を作り、シェルターとして閉じこもった。だけど、閉鎖された城塞で暮らすうちに、人間たちは最低の争いを始めた。限られた食料を奪い合い、些細なことで憎しみあうその有り様は、まさに地獄絵図だったって話だ」

 

男の子が大人たちに呼び出されたなんて話があったが、あれは食料にされたか、消費を押さえるために殺されたのかなんだろうな。本当に悲惨な話だ。昨日の俺もそうだったが、人間は精神的に追い詰められると狂ってしまう。

 

「そりゃ酷かったんだろうな」

 

「ああ、その醜い争いを見て、ゴーレムは人間こそがメルキドを滅ぼす敵だって判断したのさ」

 

ゴーレムがそう思うのも仕方ないことなのかもしれない。

 

「そして、メルキドの地で人間が再び発展したら、もう一度滅ぼしに来る。···メルキドを守るためにな。それがガキのころから聞いていた話の全てさ」

 

人間にとっては敵だが、ゴーレムも完全に悪意があってメルキドを滅ぼそうとしている訳ではないんだな。それでも、負けられないことに変わりはないが。

それと俺は、ロッシに気になることがあった。

 

「でも、何でお前は逃げ出そうとしなかったんだ?ゴーレムの脅威も知っていたはずだし、俺たちはお前を追い出そうとしたりした」

 

「危険なのは分かってたよ。だけど、みんなと一緒に暮らしたり、お前やロロンドに言われたりして気づいたんだ。人と協力することがどれだけ大切で、どれだけ楽しいかがな!」

 

ロッシもついに俺たちの気持ちを分かってくれたようだ。人と協力することの大切さは、俺もこの世界に来てから学んだ。

 

「俺も、何も考えずにすぐにお前に怒ったりしてごめんな。今日からはお前も本当に仲間だ!」

 

「それと、オレはな、あの城塞で起きたいろんな出来事を聞いて、武器を持つのが怖くなっちまったんだ」

 

最初ロッシに武器を渡そうとしていたとき、何かに怯えていたのはそう言うことだったのか。しかし、ロッシはその気持ちを克服したようだ。

 

「だけどもう、そんなことは言ってられない。オレもこの町のために戦うぜ!」

 

「単なる臆病者だと思って悪かったな。ロッシもいたら勝てる可能性も上がる。よろしくむぞ!」

 

俺とロッシがようやく和解すると、後ろで俺たちの話を聞いていただけだったロロンドが、口を開いた。

 

「雄也よ、ロッシよ、我輩はお主たちに謝らねばならぬことがある」

 

急に改まっていうロロンド。いったい何だろうか。

 

「我輩はいつでも否定していたが、本当は分かっていた、このメルキドを支配するのが、かつての守り神、ゴーレムであると。我輩は認めたくなかったのだ、かつての守り神が人間を滅ぼしたなど···」

 

俺だって認められなかったんだ。この世界に住んでいたロロンドならなおさらだろう。

 

「我輩は、なぜかピリンの言葉を思い出したぞ。あやつはよく言っておった、わたしはただ、みんなで仲良く暮らせる町を作りたいだけだと」

 

ピリンの言葉か、昨日も思い出したけど、それが一番の目的だったんだよな。

町の外を見ると、ゴーレムはもう目の前に迫って来ていた。

 

「では行くぞ雄也!みなが楽しく暮らせる町を守り抜くぞ!」

 

「ああ、もちろんだ!」

 

ついに、メルキドの町での最後の戦いが始まった。

ロロンドとロッシとゆきのへにメルキドシールドを渡し、俺とケッパーは剣や爆弾を用意する。

町にギリギリまで接近すると、ゴーレムは巨大な岩を投げつけてきた。

 

「我輩の町を壊させはせぬぞ!」

 

そこに、ロロンドが立ちふさがりメルキドシールドを設置した。巨大な岩も、メルキドシールドの前では砕け散った。するとゴーレムは、町の至るところに岩を投げまくる。

 

「ここはオレが!」

 

「ワシの力を甘くみるなよ」

 

3人は次々にメルキドシールドを移動させ、ゴーレムの攻撃を防いでいく。

 

「メルキドの真なる敵であるお前ら。必ず叩き潰してやろう」

 

攻撃が防がれていることに怒ったゴーレムは、体を超高速で回転させ、こちらへ近づいてきた。

 

「何をやろうと無駄だ!」

 

ロロンドがゴーレムの前に、メルキドシールドを設置した。だが、岩とは違いさすがのメルキドシールドもだんだん耐久力が削られてきていた。

 

「このままだと壊れるかもしれねえ、3つとも置くぞ!」

 

そのことに気づいたゆきのへは、ロッシに指示をだしゴーレムをメルキドシールドで囲んだ。メルキドシールドは壊れかけたが、その前にゴーレムは目を回し、動きが止まった。

 

「モンスターも目は回すんだな」

 

今がチャンスだと思い、俺はメルキドシールドを取り外すとケッパーと一緒にゴーレムに切りかかった。

 

「回転斬り!」

 

だが、鋼の武器での回転斬りも、ゴーレムには通用しなかった。普通の剣では倒せないようだな。

 

「おい、ケッパー!俺が渡したグレネードを使ってくれ!」

 

巨大ストーンマンを簡単に破壊した爆弾ならゴーレムでも倒せるかもしれない。

 

「グレネード?これのことかい?」

 

ケッパーはまだグレネードのことを覚えていないようだが、ゴーレムの胴体に向かってグレネードを投げつけた。数発当たると、砕けてはいないがゴーレムは大きく体勢を崩し、ひざをついた。

 

「今だな、これで粉砕してやる、ゴーレム!」

 

俺はゴーレムの下にまほうの玉を設置し、さらに遠くからグレネードも投げつける。2つの爆発が起こり、ゴーレムはバラバラに砕け散った。

 

「倒せたのか!?でもこんな上手くいくはずがないよな」

 

数秒後、俺の予想通りゴーレムは砕けた体がくっつき、もとの形に再生した。魔物の親玉だけあって、そう簡単には倒れない。

 

「人間め、こんなに傷を負わせてくるとは、許さぬぞ!」

 

だが、確実にダメージは通っているようで、ゴーレムはより怒り出した。今度は俺とケッパーとロッシでメルキドシールドを使うことにした。

ゴーレムは町の回りを飛び回りながら、巨大な岩を投げてくる。さっきと違い町の反対からも投げてくるため、走って移動しなければいけなかった。

 

「くそっ、どれだけ走らないといけないんだ!?」

 

とても疲れるが、少しでも気を抜くと、せっかく作った町が壊されてしまう。ゴーレムは石像であるため疲れることもない、何とかして止めないと。

 

「まだグレネードはあるし、これを一度に投げれば···」

 

一度に大量のグレネードを投げれば岩も破壊でき、ゴーレムにも傷を与えられるかもしれない。

 

「愚かな人間どもが!ここから消え去れ!」

 

ゴーレムが俺のいる方向に岩を投げて来たとき、俺はそれを試してみた。一度に3個のグレネードをなげ、岩を砕いてゴーレムも爆破する。

ゴーレムの体には、また大きな傷が出来る。

 

「やったな。グレネードが足りればいいけど」

 

追い詰められたゴーレムは、この前の狂ったあくまのきしのように、強いオーラを纏った。そして、俺の方向に回転してきた。

 

「ここまで追い詰めるとは···絶対に潰してくれるわっ!」

 

俺は慌ててメルキドシールドを置くが、壊されるのは時間の問題だろう。俺はゴーレムが来るであろう方向に地雷を仕掛けた。

メルキドシールドはどんどんダメージを受け、ついには壊れてしまった。これがゴーレムの本気なのか!?ゴーレムは俺の仕掛けた地雷を踏んでいき、ボロボロになっていくが動きは止まらなかった。

 

「くそっ、このままだと町がマズイ!」

 

俺は攻撃をかわせたが、ゴーレムは建物に近づいて行った。あんな回転攻撃をくらえば、ひとたまりもないだろう。今その部屋には誰もいないが、壊される訳にはいかない。しかも、そこを壊されればピリンたちが隠れている作業部屋も危ない。

 

「こうなったら、被害を最小限に抑えないと」

 

俺は持っていたグレネードを全て取り出した。町に近いので建物も壊れるだろうが、ゴーレムを止めるにはそれしかない。俺は大量のグレネードを、ゴーレムの背中目掛けて一斉に投げつけた。ゴーレムは体の大部分が激しく損傷し、さっきのようの膝をついた。

 

「ここでとどめをさすか!」

 

このダメージを受けてもまだ生きているだろうから、俺はゴーレムの足元にまほうの玉をグレネードのように全て置いた。そして、1つが爆発すると次々に爆発していき、ゴーレムの体は粉々になった。

そして、ついにゴーレムは再生力が無くなり、普通の魔物より大きな光を放って消えた。最強の防壁を破壊されてしまったが、俺たちには敵わない。

 

「少し壊れてしまったけど、勝てたんだな」

 

地雷を仕掛けたので危ないと言う理由で離れていたロロンドたちも、俺のもとに集まってきた。青い光の所を見ると、謎のメダルのような物が落ちていた。

 

「雄也!ついにゴーレムを倒したな!」

 

「オレが勝てないって言ってた奴を倒すとはな、大した奴だ」

 

「すごいよ、これでメルキドの町は完全に復活できるね」

 

「さすがだな、お前さん」

 

とどめを指したのは俺だったが、みんなの力があったからこそ勝てたんだが。

 

「みんなのおかげだろ」

 

俺たちが勝利を喜んでいると、ロロンドが俺の持っている錆びたメダルを見ていった。

 

「おい、雄也!そのメダルはもしかして、いにしえのメダルかもしれん」

 

「いにしえのメダル?聞いたことないな」

 

「そのメダルがあれば、このメルキドにかかる空の闇を晴らせるだろう!なんとかしていにしえのメダルに光を取り戻してくれ!」

 

ゴーレムが持っていた物だから、すごい物だとは思っていたが、そんな力があるとはな。俺はいにしえのメダルの作り方を調べたいが、それがどんな形のものなのか分からない。

 

「いや、でも待てよ。これってもしかしてドラクエ1に出てたロトのしるしじゃないのか?」

 

錆びたメダルに描かれている紋様が、ロトのしるしにそっくりだ。もしかしたらと思い俺はロトのしるしを頭に思い浮かべて、魔法をかけた。

いにしえのメダル···さびたメダル1個、オリハルコン5個、石炭3個 神鉄炉と金床

やはり、いにしえのメダルはロトのしるしのようだ。時間がたって、名称が変わったのだろう。オリハルコンもまだ在庫があるので、俺は神鉄炉を使い、いにしえのメダルを復元した。

 

「お、これは正しくロトのしるしだな」

 

出来上がったのを見ても、ロトのしるしと同じものだった。

 

「これがあれば、メルキドにかかった闇を晴らせるんだよな」

 

俺は町の中心にある希望の旗の台座に登り、いにしえのメダルを空に掲げた。すると、いにしえのメダルから光があふれ、暗かった空が晴れて美しい青空が広がった。

長かったけど、ついにメルキドの復興を達成出来たんだな。俺は泣きはしないが、とても感動していた。

 

「雄也よ、よくやりました。これでこの地は竜王の悪しき力から解放され、人々は自らの力で発展していくことでしょう。しかし、忘れてはなりません。この世界にはあなたの助けを待つ人が数多くいることが」

 

久しぶりに、ルビスの声も聞こえてきた。メルキドの復興は果たされたとはいえ、まだこれからなんだよな。これが、第1章の終わりってところか。アレフガルドには、メルキド以外にも、リムルダール、マイラ、ガライ、ラダトームと4つの町があったはずだ。

でも、今はメルキドの復活を喜ばないとな。

 

「うおおおおお!見るのだ!空に、光が!こんなにも広く、青く、美しく!」

 

俺にとっては1ヶ月ぶりくらいだが、ロロンドたちにとっては生まれて初めてなんだろうな。とてつもなく感動し、喜んでいるはずだ。

俺たちはその日の夜、メルキドの復活を祝って宴を行った。昨日まで対立していたロッシとも、それが無かったかのように仲良くなっていた。町は、これまでになかった笑顔に包まれていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2章 リムルダール編
Episode22 病に侵された大地


今回から2章のリムルダール編に入って行きます。
原作とはちょっと違う展開になる予定です。


ゴーレムを倒した翌日、俺が起きると、昨日までにはなかったまぶしい朝日が見えた。自分たちで取り戻した景色なので、余計にキレイに見える。

 

「目が覚めたようだな、雄也よ!」

 

俺がその景色を眺めていると、ロロンドに声をかけられた。俺が一番最初に起きたと思っていたが、先にロロンドが起きたようだ。

 

「ロロンド、何時もより早いな。どうしたんだ?」

 

「興奮して眠れなくてな、気づいたら朝だったんだ。それにしても、昨日の夜は久しぶりに腹を抱えて笑ったな!」

 

そういえば昨日の夜は、ロロンドが一番盛り上がっていた。あのロッシとも、ワイワイ楽しんでた。

 

「ロッシがあんなにひょうきんな奴だとは思わなかった!今思えば、追放しなくて良かったな!」

 

「ああ、これからはみんなが仲良く暮らせる町になって行けそうだ」

 

みんなで楽しく暮らせる町を作る。その目的は達成できたようだな。

 

「ところで雄也よ。今日我輩は奇妙なものを見つけたのだ」

 

「奇妙なものって何だ?」

 

せっかくゴーレムを倒したというのに、またなにかあるのだろうか?

 

「東の岩山の向こう。我輩が最初魔物に閉じ込められていた場所の近くに、まぶしい光が降り注ぐのを見たのだ。」

 

俺もその方向を見てみたが、確かに光の柱のようなものが見えた。希望の旗をさす前に台座から出ていた光に似ている。

 

「ひょっとしたら何かあるのかもしれん。もしも気になるなら行ってみるといい」

 

でも光ってことは竜王とかじゃなくて、ルビスが俺を呼ぼうとしているのかもしれない。行って見るべきだな。

 

「分かった。朝食を食べたら見に行ってみる。」

 

俺とロロンドはその後もう一度部屋に戻り、みんなが起きて来る頃にまた部屋から出た。ピリン達と朝食を済ませた後、あの光の柱へ向けて出発した。

 

「あれは何があるんだろうな?」

 

3週間くらい前に、ロロンドを救出したときに歩いた道を進んだ。昔のロロンドの家と思われる家も残っていたが、もう使われることはないだろう。みんなの町があるからな。

 

「この先の森を越えたあたりだろう」

 

俺はロロンドが捕まっている森に入り、さらに奥のほうへ進んでいく。町の近くでありながら、ここにはまだ行ったことが無かった。

 

「ここから光が出てきていたのか」

 

そして、俺が光の元にたどり着くと、謎の壊れた遺跡のようなものがあった。その遺跡の中心から、光の柱が登っていた。

 

「これは何なんだ?」

 

俺が不思議そうにその遺跡を見ていると、突然ルビスの声が聞こえてきた。

 

「その光は、次なる地へとあなたを運ぶ光のとびらです」

 

次なる地ってことは、ついにメルキド以外の場所に行けるってことか?

 

「ここと別の場所に行って、今度はそこを復興させろと言うことか」

 

「そう言うことです。ここからは、リムルダールと言う地に繋がっています」

 

リムルダールか、水に囲まれたきれいな町だったけど、今はどうなっているんだろうな。

 

「なら、さっそく行くか。リムルダールがどんな感じなのか気になるし」

 

俺がその光の中に入っていこうとすると、ルビスに止められた。

 

「待ってください。実は、重大な問題があるのです。」

 

重大な問題?ここに入るとまずいのだろうか。

 

「重大な問題?」

 

「実は、竜王の力によって、このとびらをくぐると全ての持ち物を失ってしまい、もう戻れなくなるのです」

 

持ち物が無くなって一度入ると戻れないか。確かに重大な問題だな。行くときは覚悟を決めて行かないと。

それと、俺はそれについて気になったことがあった。

 

「それなら、メルキドの町の仲間は連れて行けるのか?もし最初からになっても、仲間がいれば少しは安心だ」

 

現地で出会う人もいるであろうが、今まで協力してきた仲間もいればもっと心強い。

 

「できないことはありません。ですが、仲間の持ち物もなくなってしまいますし、仲間にも事情があるので、よく話し合って決めてくださいね」

 

確かにみんながついては来れないよな。この町を離れるあいさつもしたいから、一旦町に戻ろう。

 

「ああ、また後でここに来る」

 

俺はキメラのつばさを使い、メルキドの町へ戻った。ここに戻るのも、しばらくは無いんだろうな。

 

「おお雄也、あの光の柱は何だったんだ?」

 

俺が帰ると、気になったロロンドが光の柱について聞いてきた。

 

「実はその光について大事な話がある。みんなを集めてくれ。その時にロロンドにも言う」

 

不思議に思いながら、ロロンドはみんなを呼んできた。

 

「どうしたの、雄也?」

 

「みんなを呼ぶってことは、何かあったんだな?」

 

全員集まったのを見て、俺は話を始めた。

 

「俺はこれからリムルダールって言う場所に旅立つことになった。あの光のとびらはそこに俺を運ぶための物らしい」

 

急に俺が旅立つという話をしたため、みんな驚きを隠せない。

 

「雄也よ、本当に行くのか?ここにずっといればいいだろ」

 

ロロンドは俺を止めようとしているが、ビルダーとして復興を止める訳にはいかない。

 

「そっちでも困っている人がいるだろうから、そう言う訳にはいかない。そこでだ、誰か俺についてきたい奴はいるか?」

 

俺がそう言うと、みんなはしばらく考え始めた。何分かたって、ようやく結論が出たようだ。

 

「すまぬが、我輩はこの町に残りたいと思う」

 

「オレも昨日、ロロンドとこの町の町長になるって話をしてたから、無理だな」

 

俺の予想通り、ロロンドとロッシはこの町に残るようだな。昨日の宴で、大町長や町長になるって話をしていた。

 

「僕もこの町を守るために、ここに残るよ」

 

ケッパーもメルキドの衛兵の子孫として、ここに残るようだ。また新しい特技を教えてもらえたりしてほしかったが、仕方ないな。

 

「わたしは、雄也についていこうかな」

 

3人はここに残ると言っていたが、ピリンは俺に付いてきたいようだ。最初から助け合ってきた大切な仲間だもんな。

 

「ワシも行くぜ。鍛冶屋の知識で、アレフガルドの復興を手伝いたいんだ。それに、リムルダールにはワシの弟子が住んでいてな。そいつのことが気になる」

 

ゆきのへもついてきてくれるようだ。まあ、自分の弟子の安否は気になるよな。そいつも、俺たちを助けてくれるかもしれないし。

 

「これ以上抜けると良くないですし、私はここに残りますね」

 

「私は何の取り柄もないし、ついていっても足手まといになると思うから、ここに残るわ」

 

ショーターやチェリコもここに残るようで、リムルダールに向かうのは俺、ピリン、ゆきのへだった。もっといれば良さそうだが、ショーターの言う通り、メルキドの人口が5人になってしまうのでこれ以上は行かないほうがいいな。

 

「リムルダールに着けば、竜王の力で持ち物や武器が無くなるらしい。それでもいいか?」

 

俺はルビスから聞いたそのことを話した。急に装備が無くなって混乱されても困るしな。

 

「もちろんよ!」

 

「当たり前だぜ!」

 

ピリンとゆきのへは、そのことを知ってもなお、俺についてくるようだ。

俺たちは、別れのあいさつをして、再び光のとびらに向かった。

 

「元気でな、お前ら!」

 

俺がそう言うと、みんなも手を降って見送る。

 

「次の場所に行っても、頑張れよ!」

 

「雄也、君の活躍を楽しみにしてるよ」

 

「またどこかで会いましょう、雄也さん」

 

「アレフガルドの復活を頑張ってね」

 

「僕、雄也のことを忘れないよ」

 

スライムのスラタンまであいさつをしてくれたが、ロロンドは大泣きしていて、別れの言葉を言えなかった。

みんなを見送られて、光のとびらに着いた時、ルビスの声が聞こえてきた。

 

「先ほども言ったように、ここをくぐれば、竜王の力によって全ての持ち物を失います。簡単な装備は向こうに着いたら支給しますが、ここで作ったものは全て無くなります。雄也よ、それでもこの世界の闇を払いたいというのなら、この光の中に飛び込むのです」

 

もちろんだ。覚悟はできている。俺たちは、光のとびらへ足を踏み出した。その時だった、後ろからロロンドが走ってきたのだ。

 

「さっき言えなかったから、今言うが、我輩は思い知ったぞ。壊れた町など幾らでも直せる。大切なのは、そこに暮らすにんげ···。やはり止めておこう。こう言う時だからといってそれらしい話をするのは!さあ、行くのだ雄也!この世界にはビルダーであるお主を待つものがたくさんいるのだからな!さらばだ!」

 

「ああ、行ってくる!」

 

メルキドの復興で、俺も大切なことを学んだ。それを胸に、リムルダールの復興も頑張ろう。

俺たち3人は、光のとびらへ飛び込んだ。

 

 

 

普段の旅の扉より長い時間目の前が真っ白になり、俺たちは見知らぬ場所に飛ばされた。

 

「ここが、リムルダールか?」

 

俺が目をさましたとき、俺たちは紫色の沼に囲まれた場所にいた。毒沼に浮かんでいる島のようだ。

 

「なんか、メルキドより空気がきたないね」

 

「なんかヤバそうな雰囲気がするぜ」

 

ピリンやゆきのへも気づいたようだ。それにしても、俺の記憶ではリムルダールはキレイな水に囲まれた島だったはずなんだが。

 

「ルビスの奴、行き先を間違えたのか?」

 

俺はそう疑ったが、地形などは俺が知っているドラクエ1のリムルダールと同じだった。ただ、水は汚染されていた。

 

「いいえ、雄也。ここは本当にリムルダール。あなたが次に救うべき場所です。遥か昔、この地には豊かな水に囲まれた美しい町がありましたが、今ではおぞましい毒に侵され、わずかに残された人々も病の恐怖に怯えています。」

 

毒だけでなく、病気まであるのかよ···。メルキドは自然は破壊されていなかったが、ここは環境がかわり過ぎている。

 

「さあ、あそこに見える光さす地を目指しなさい。そして、新たな希望の旗を立てるのですあなたにはこれを渡しておきましょう」

 

すると、俺がメルキドの洞窟から出たときと同じように、目の前に旗が落ちてきた。メルキドのものと違い、緑色をしている。

 

「雄也、それってメルキドに刺さってるのと似てるね」

 

ピリンが新しい希望のはたを見て言う。

 

「多分、これをあの台座に立てればメルキドのように暖かい光が溢れるんだろう」

 

かつてリムルダールの町があった場所の中心に、旗を立てるための台座があり、そこから光が出ている。

 

「じゃあ、まずはそこを目指そうぜ」

 

俺たちは、リムルダールの跡地へ向かった。ルビスの言ったように強力な武器は無くなり、俺はこんぼうとおおきづち、ゆきのへはおおきづちのみを持っており、戦闘能力を持たないピリンにおいては手ぶらだった。

 

「それにしても、毒沼を埋めないと進めないな」

 

今俺たちは毒沼の上の島にいる。流石に毒沼を泳いで行くわけにもいかないので、その小島にあった土ブロックで埋めて行くことにした。

 

「お前ら、落ちるなよ」

 

「うん、気を付けるね」

 

「こんな沼に落ちたら、何が起こるか分からんからな」

 

土ブロックを毒沼に付けると、毒沼の水を吸い込んで紫色に変化した。触ったりするのではなく、上を歩くだけなら大丈夫だろう。

俺たちは紫色の土の上を歩いていき、リムルダールの町がある場所に上陸した。

 

「着いたな。まずは何があるか調べないと」

 

俺たちは、リムルダールの跡地を見回った。そこには、2つのわらベッドが置いてある廃墟があったり、石の作業台とは違う木で出来た作業台もあった。

 

「これが魔法で調べた時に出た木の作業台って奴か。どんな物が作れるかは知らないけど」

 

石の作業台とは、別の物も作れそうだ。そんなことを考えていると、別の場所を見ていたピリンが俺を呼んだ。

 

「ねえねえ雄也。この水色のブロックってなあに?」

 

ピリンの所に行くと毒沼ではないきれいな水がある場所があり、そこに水色の不思議なブロックが置いてあった。

 

「何だこれ?意味のないものでは無さそうだな。もしかしてこの水色のブロックのおかげでここだけ水がきれいなのかもな」

 

「へえ、だったら喉がかわいたらここに飲みにこようっと」

 

料理や飲み水には、ここの水を使えばよさそうだな。ピリンと話をしていると、ゆきのへも、このリムルダールの跡地を一通り回って、俺の所へ集まった。

 

「あっちには、骨やたき火があったぜ」

 

たき火と骨か、どっちも人がいた痕跡だな。回りには人の気配はないけど、誰か生きているといいな。

これでひとまず、リムルダールの跡地を調べ終わったな。そろそろ希望のはたを立てるか。

 

「二人ともありがとう。俺は希望のはたを立ててくる」

 

俺は緑色の希望のはたを持ち、台座に登った。そして、その旗を光の中へ突き刺した。

すると、メルキドの時と同じように、暖かい光が辺りに溢れ出した。

 

「うわあ、あったかい。初めて雄也と出会った時みたい」

 

「ワシはその時のことは知らんが、こんな感じだったのか」

 

「よし、リムルダールの復興を始めるぞ!」

 

そして、アレフガルド復興の第2章が始まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode23 念願の病室

リムルダールの跡地へ希望の旗をさすと、またルビスが話しかけてきた。

 

「雄也よ。その地に生きる人々は身に迫る病に絶望し、生きる希望を失っています。メルキドにおけるあなたの働きで人々はわずかに物を作る力を取り戻していますが、はびこる病に抗う力はなく、ほとんどの人が病と戦うことを諦めているのです」

 

ほとんどの人が諦めているって、医学が進歩している日本では考えられないな。ここはどう考えてもメルキドより深刻だな。

 

「さあ、雄也。その地にも光に導かれた人々が集まってくるでしょう。そこに新たな町を作り、リムルダールの地を浄化するのです。すべては精霊の導きのままに」

 

ルビスはいつもの口癖を言って去っていった。とりあえず、新しい住民が来るまでに最低限の設備を作っておくか。

 

「おい、ピリンとゆきのへ。そこにわらベッドがある廃墟があるだろ。そこの壁を修理してくれ」

 

俺は二人に、寝室の修復を頼んだ。まずは寝る場所がないと何も出来ないからな。だが、今は3人いるのにそこにはわらベッドが2個しかなく、とびらもない。

 

「ここにはじょうぶな草が生えてないんだよな」

 

メルキドではいくらでも生えていたじょうぶな草も、この毒に侵された地では、1つも見つからなかった。俺はまず、わらベッドとわらのとびらの作り方を調べた。

わらベッド···じょうぶな草3個 石の作業台 

      しっかりした草3個 木の作業台

      砂の草切れ3個 鉄の作業台

わらのとびら···じょうぶな草3個、ふとい枝1個 石の作業台

       しっかりした草3個、ふとい枝1個 木の作業台

       砂の草切れ3個、ふとい枝1個 鉄の作業台

近くにふとい枝が落ちていたのでそれを使えばいいが、草の種類が違っているな。木の作業台では、しっかりした草と言うもので作れるようだ。それにしても適当な名前だな。

 

「毒沼の近くに生えていた紫色の草か?」

 

さっきここに来る前に、毒沼の近くで紫色の草を見つけた。おそらくはそれのことだろう。俺はその草を20個ほどと、ふとい枝5本くらいを集めて、木の作業台に向かう。この地には枯れ木はたくさんあるのにふとい枝はあまり落ちていなかった。

 

「これで合ってるよな?」

 

木の作業台で紫色の草3本に魔法をかけると、わらベッドに変化した。

 

「これがしっかりした草であってるようだな。でも、なんでメルキドと同じ色になるんだ?」

 

魔法なので気にしても仕方がないが、違う草で作ったのに出来上がったわらベッドはメルキドで作ったものと同じ色だった。ピリンたちの様子を見ると、寝室のかべが出来上がっていたので、俺はわらのとびらも作り、置きにいった。

 

「ありがとうな、二人とも」

 

もし俺1人だったら、かなりの時間がかかっていただろう。ピリンたちがついてきて本当に良かった。

そして俺たちはリムルダールで初めての建物を完成させた。

 

「わあ、新しいおうちが出来たね!」

 

「メルキドほど豪華じゃねえが、いい家だ」

 

俺たちが喜んでいると、誰かの走ってくる足音が聞こえてきた。

 

「ん、誰か来たのか?」

 

足音のする方向を振り向くと、ドラクエの教会でよく見るシスター服を着た女性がこちらに向かっていた。

 

「ここに住んでる人なのかな?」

 

そのシスターは、俺たちに気づくと心配そうに話しかけてきた。

 

「おお、なんということでしょう!こんな所にも患者様がいらしたなんて!」

 

患者っていきなりどうしたんだ?別に俺たちは病人じゃないんだけどな。

 

「あなたたちはどこがお悪いのですか?おなかですか?胸ですか?それとも、頭が!?」

 

何か、急に頭が悪いって言われたぞ。俺は地球にいたとき通知表はかなり悪かったが、初対面の人に言われるとショックだな。まあ、美人に心配されるというのも良いものだが。

 

「確かに俺は頭は悪いけど、病気にはなってないぞ」

 

「患者様ではなかったのですね。では、あなたはいったい···」

 

あなたはいったいって言われてもな···。地球から来た高校生といっても訳分からないだろうし、一応ビルダーだって言っておくか。

 

「俺は影山雄也。この世界では伝説って言われてるらしい、ビルダーって奴だ」

 

彼女もビルダーの存在を知っているらしく、俺の話でとても驚いた。どこの地方でも、ビルダーは有名なようだ。

 

「なんと、あなたは伝説の物を作る力を持つもの、ビルダーだというのですか?それでは、その後ろの二人は?」

 

「この二人は俺の仲間だ。いっしょにメルキドを復活させた」

 

俺の紹介に続き、ピリンとゆきのへも自己紹介をする。

 

「わたしは、ピリン!雄也とは、最初のころから知り合いなんだ」

 

「ワシはゆきのへ、伝説の鍛冶屋の子孫だ」

 

「お仲間もいたのですね!あなたが本当にビルダーであるのなら、これこそ神のお導きに違いありません!」

 

正確には、神じゃなくて精霊の導きなんだが、似たようなものか。

俺たちが自己紹介を終え、そのシスターも名前を名乗る。

 

「私は、エルと申します。私と共に病に侵されたこの地をお救いください!」

 

病に侵された地を救うってことは、シスターって言うより、医者みたいなものか。病を直すには医者は必要不可欠だからな。仲間になってくれてありがたい。

 

「よろしくね、エル!」

 

「よろしく頼むぜ」

 

「普段は、雄也って呼んでくれ。よろしくな」

 

いきなり美人が仲間になってくれて嬉しいな。エルは、俺たちが作った寝室を見に行った。

 

「これが雄也様の作ったお部屋のようですね」

 

雄也様だとっ!?俺のことを様付けで呼んでくれた人なんてこれまで1人もいなかったな。アレフガルドでも、地球でも。

そんなことを考えていたが、よく見るとエルは何か痛そうな表情をしていて、足を引きずるように歩いていた。

 

「なあ、エル」

 

「どうされたのですか?」

 

「なんか足が痛そうに見えるんだが、大丈夫なのか?」

 

もしかして、魔物の攻撃を受けて怪我をしてしまったのかもしれない。

 

「実は、ここに来る時に転んでケガをしてしまったのです。きずぐすりでもあればいいのですが、病に苦しむ人々のことを思えば、このくらい···」

 

魔物ではなく、単に転んでしまっただけか。本人はがまんしているが、かなり痛そうだな。きずぐすりを作ったほうがいいだろう。

 

「無理はしないほうがいいぞ。ケガをしてたら、病人の治療もしにくいだろ?」

 

「それはそうですけど、雄也様に迷惑をかける訳にも行きませんし」

 

「別に気にするな。少し材料を取ってくる」

 

別にいいとエルは言うが、放ってはおけない。こんな環境の悪い場所で傷を放置すれば、それこそ病気になりそうだ。

俺は材料である白い花びらを取りに、拠点から出た。しかし、毒沼だらけのこの場所には白い花は全く生えていなかった。

 

「あんなこと言ったものの、全然白い花がないな」

 

スライムや新しく見つけたカタツムリ型のモンスター、ドロルに見つからないように探すが、一向に見つからない。だが、白い花によくにたピンク色の花が生えていた。

 

「もしかして、ここでは違う素材で作れるのか?」

 

別の素材の可能性もあると思い、俺は魔法できずぐすりの使い方を調べた。

きずぐすり···白い花びら3個 石の作業台 木の作業台 鉄の作業台

 

「やっぱり白い花びらか。どこにあるんだ?」

 

もしかして、この地方ではきずぐすりは作れないってことか!?と思いかけた時、崖の上に草原がまだ残っている場所があった。毒沼と離れているので、汚染を免れたのだろう。

 

「もしかして、この上か?」

 

俺はそこにあったつたを使い、崖の上に登っていった。

 

「お、ここにあったか。でも危険なモンスターがいるな」

 

そこには、白い花や薬草の葉、綿のような白い植物などがあった。しかし、リリパットという弓を使う危険な魔物もいた。

 

「見つかるとまずいな。視界から入らないようにしよう」

 

俺はリリパットに見つからないように、3つの白い花びらを手に入れた。他の素材は、また今度に取りに来よう。

 

「後はこれに魔法をかければいいな」

 

崖を降りると、今はキメラのつばさがないので、歩いてリムルダールの拠点(まだ町とは呼べない)に戻った。俺は木の作業台を使い、きずぐすりを作り上げる。

 

「よし、できたな。後はエルに渡してくるか」

 

俺は、寝室で待っていたエルにきずぐすりを渡しにいった。

 

「きずぐすりが出来たぞ、使ってくれ」

 

「おお、なんとすてきでしょう!ありがとうございます」

 

俺がきずぐすりを渡すと、エルはそれをぬりながら話した。

 

「その素材から物を作り出す力···。あなたは本当に伝説のビルダー様なのですね」

 

まだ信じていなかったのか。初めて出会った時のゆきのへと同じだな。俺の事をビルダーだと信じると、エルは強くお願いをしてきた。

 

「ビルダーである雄也様がいれば、出来ないことはないでしょう。どうか、この地を恐ろしい病苦からお救いください!」

 

「もちろんだ。ここの復興が俺たちの目的だからな」

 

もちろんだ。は俺の口癖になってきていた。この地方では、町の再建と病人の治療、その2つを行う必要がありそうだな。病人が治れば、仲間になってくれるだろうし。

 

「そこでなのですが、私は病に侵された人々のために、患者様をお迎えする病室を作りたいのです」

 

病室か、まずは病人を寝かせる場所が必要だからな。

 

「どんな感じの病室なんだ?」

 

「ここに設計図があります。どうか、設計図の通りに病室を作ってください」

 

エルは、病室の設計図を見せてきた。そこには木のベッド、たらい、木の机、いけ花などの作ったこともないものがたくさん書かれていた。

 

「これは結構難しいかもしれんな。頑張ってはみるが。エルは、ピリン達にブロックの積みかたを教えて貰って、壁を作ってくれ」

 

最近、壁を作るのはみんなに任せることが多い。そのほうが、早く作れるからな。

 

「お願いします、雄也様」

 

いけ花はピンク色の花なので、さっき見たピンク色の花があれば作れるだろう。他の奴は木材があれば出来そうだ。

 

「この枯れ木が木材になるのか?」

 

俺は近くに生えていた枯れ木をおおきづちで破壊した。しかし、枯れ木は太い枝2個に変わり、原木にならなかった。

 

「マジかよ、今取れる素材じゃ、あの病室は作れないってことか?」

 

もしかしたら別の素材かもしれないと、俺は魔法で一応調べてみる。

木の机···ふとい枝3個 木の作業台

木のベッド···ふとい枝3個、毛皮1個 石の作業台

      ふとい枝3個、綿毛1個 木の作業台

たらい···ふとい枝2個、ひも1個 木の作業台 鉄の作業台

いけ花···ピンクの花びら3個、ふとい枝1個

 

「は!?ふとい枝で作れるだと!?」

 

どう考えても大型の木材がいるはずの木のベッドや木の机も、何故かふとい枝で作れるらしい。

 

「ビルダーの魔法って、こんなスゴいことまでできるのかよ」

 

改めて、ビルダーの魔法の凄さが分かった。まずは枯れ木を壊して、ふとい枝を集めるか。

 

「枯れ木なら山ほど生えてるしな、あとでふとい枝が足りなくならないようにたくさんとっておくか」

 

枯れ木なら取っても環境に悪影響はなさそうだ。俺は近くにある枯れ木や落ちている枝をおおきづちで殴り、ふとい枝を集める。拠点のまわりだけで、20個くらい集まった。

 

「あとはひもとピンクの花びらと綿毛だな」

 

俺はふとい枝を全てポーチにしまい、さっきの崖のあたりに行った。崖の下にはピンクの花びらがあった。

 

「花そのものじゃなくて、花びらを使うんだな。まあ、叩いたら必ず花びらになるからそうじゃないと困るけどな」

 

そんな疑問を抱きながら、俺はピンクの花びらを集めた。必要な数の3つを集め終わると、今度は崖の上に行き、隠れながら前に見た白いの綿のような植物を刈り取った。すると、綿のような物に変化する。

 

「予想通り、これが綿毛か」

 

綿毛を取ると、俺はつたを取りながら崖を降り、拠点へ戻っていく。作れないんじゃないかと思ったが、無事に素材が揃った。

 

「あとはこれを加工すれば···」

 

俺はまずつたでひもを作り、それからたらいを作る。それから木のベッドとわらのとびらを2個ずつ、木の机といけ花を1つずつ作った。魔法とはいえそれなりに時間はかかるので、10分以上は作業台の前にいた。

 

「結構時間はかかったけど、完成したな」

 

それにしても、やたらとふとい枝を使った。20本あったのに、15本以上使ってしまった。でもこれがあれば、病室も満足して治療を受けられるだろう。

 

「エル、必要な物はできたぞ」

 

俺は3人が組み立てていた病室に、設計図の通りに作った物を設置した。たき火も必要なようだが、廃墟に置いてあったものがあるのでそれを使った。

 

「だけどこのたき火、設置場所がおかしいな」

 

何故か、たき火の設置位置がベッドのすぐ近くになっていた。これは危険なので、俺は少し設置場所を変え、何もない病室の奥のほうにたき火を置いた。

 

「これで病室は完成だな!」

 

俺のその声を聞いて、エルやピリン達が、中に入ってきた。

 

「へえ、これが病室っていうものなんだ」

 

「おお、雄也様!病室が完成したのですね。病室を作ることは私の長年の夢でした。本当にありがとうございます!」

 

みんなは、特にエルは病室の完成をとても喜んでいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode24 衰弱の病

ピリンやエル達の力もあり、俺は病人の治療を行うための部屋、病室を完成させた。日本の病院にくらべればまだまだだが、この世界ではいいほうだろう。

 

「ところで、雄也様···」

 

病室の完成を喜んでいたエルは、いつもの表情に戻り真面目な話を始めた。

 

「どうしたんだ?急に真面目な顔に戻ったな」

 

「人間はいずれ滅び行く存在。病に抗っても意味はないという人がいます」

 

エルが患者の治療をしたいと思っていても、病人たちはとっくに生きるのを諦めているってことか。地球でも重い病気にかかって、生きる希望をなくしている人がいる。この世界ではみんながそんな感じなのだろう。

 

「ですが、私は思います。人間には病と戦う力があり、知恵と勇気で立ち向かって行けると」

 

知恵と力と勇気か···ゼルダの伝説みたいだな。でも、その3つがあれば恐ろしい病にも打ち勝てるかもしれない。

 

「雄也様!作りあげた病室でこの島にはびこる病を根絶いたしましょう!もちろん、雄也様も強力してくださいますよね?」

 

「当たり前だろ。病に勝てないようなら、この世界を覆う闇にも勝てないからな」

 

俺とエルは、改めてこのリムルダールに蔓延する病を根絶しようと言った。メルキドの時より大変かもしれないけど、がんばらないとな。

 

「もし患者を見つけたら、病室に連れてこないとな」

 

病人を見つけたら、必ず助けてやらないとな。

俺はエルとの話の後、もう一度探索に出掛けようと思っていた。

 

「もう午後だが、もう少しくらいは探索できるだろう」

 

俺がこんぼうとおおきづちを持ち、拠点の外に出ようとすると、またエルに話しかけられた。

 

「雄也様、お出かけになるのですか?」

 

「ああ、まだここの近くも回れていないしな」

 

そう返事をすると、特に変わったことは何もないのにエルは驚いたようなことを言った。

 

「おお!それは本当ですか?なんということでしょう!」

 

探索に行くと言っただけなのに、そんなにおかしいことなのだろうか?

 

「俺、変なことでも言ったのか?」

 

「いいえ、私としたことが失礼いたしました。念願の病室ができて興奮してしまって」

 

さっき不安そうに話していたけど、興奮しているところもあったんだな。

 

「なんだ···別に用事はないってことだな」

 

「いいえ。実は以前、ここから西に行った場所で病にかかった方を見た気がするのです」

 

結構重要な話だったのか。さっそく病人を連れてくるってことだな。

だが、方位磁石も目印も地図もないので、どこが西かが分からない。

 

「西ってどっちの方角だ?」

 

俺が聞くと、エルはさっき俺が行った場所の反対を指差した。そこには広い毒沼があり、反対側に行くには土ブロックで毒沼を埋めていくか、北か南の山を通って行くしかなさそうだ。

 

「そこに行って、その病人を連れてこればいいんだな?」

 

「はい、患者様をここまで運んできて、病室のベッドに寝かせてあげてください」

 

俺が運ぶのか···俺は身長170センチで体重60キロくらいなんだよな。重すぎる奴じゃなければいいが。

 

「分かった。なるべく早く連れてくる」

 

「はい、お願いします」

 

毒沼を埋めていくと向こう岸まで1キロメートルはありそうで、1000個以上の土ブロックが必要になってしまうので、俺は北の山を通って行くことにした。

 

「まずはさっき行った崖を登らないとな」

 

北の山を通って西に行くには、一旦東に行って崖を登らないといけない。俺はその崖を登ると、リリパットに見つからないように姿勢を下げて進んだ。

 

「遠距離攻撃ができるモンスターって本当に厄介だよな」

 

俺はリリパットの愚痴を言いながら、北の山へと動いた。しゃがみながらブロックにかくれて移動しているので、かなり時間がかかった。

 

「ん?ここからは土が汚染されてるな」

 

崖を登ってすぐの所には綿毛や白い花びらが取れる草原のような場所だったが、町の北にある山の上は、毒沼ほど紫色ではないが、拠点の地面と同じようなやや紫がかった土で出来ていた。

それに、生息しているモンスターはスライムや下にいたドロルの色ちがい、ドロルメイジだった。

 

「リリパットほど危険なモンスターじゃないけど、避けていくか」

 

ドラクエの勇者だったら、剣で斬り倒して行くんだろうけど、俺はゴーレムと戦ったと言っても地球の高校生だからな。無闇な戦闘は避けよう。

そして、俺が北の山を進んで行くと、メルキドで見たことのある遺跡があった。

 

「これは、光のとびらか?」

 

メルキドから旅立った時に使った光のとびらにそっくりな遺跡だった。

 

「リムルダールを支配する魔物の親玉を倒したら、ここから次の場所に行くんだよな」

 

リムルダールを復活させてもまだアレフガルドにはマイラ、ガライ、ラダトームと3つの町がある。それらのどれかに行くことになるのだろう。

ゲームでは各エリアごとに章が別れていたので、5章まであったのだろうか。でも、どこかの町は生存者ゼロって可能性があるよな。

今さらそんなことを考えても意味はないが、俺はいつになったらアレフガルドを復活させられるのかと気になった。

 

「って、今はそんなことを気にしている場合じゃないな。病人を助けるのが先だ」

 

光のとびらを見ていろいろ考えていたため、俺の足はしばらく止まっていた。俺が再び歩き始めて15分ほど経つと、ようやく町の西側に降りられる崖があった。

 

「エルの話によればここに病人がいるんだよな」

 

その崖にはつたがかかっていなかったので、1ブロックずつ足を踏み外さないように慎重に降りて行った。

降りたところには、しっかりした草やピンクの花が生えていたが、病人らしき人はいない。だが、少し進むとたき火が置いてある小さな廃墟があった。

 

「こんなところにも廃墟があるのか···ん?あれは人か!?」

 

しかもよく見ると、その廃墟の中に誰かが倒れていた。近づいて見ると、若い男が苦しそうな表情をしていた。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

俺はその人に駆け寄った。その人はなんとか喋れるようで、俺の顔について文句を言ってきた。

 

「ごほっ、ごほっ。誰だあんた?ずいぶん田舎くさい顔だな。」

 

実際俺はイケメンとは到底呼べない顔だった。だが、エルと会った時に頭が悪いと言われたように、この世界の人は初対面でも何でも言ってくる。

 

「顔のことは別にいいだろ。お前を助けに来たんだ」

 

そう言うと、急にその男は名前を名乗り出した。死んでも名前を覚えておいてくれってことなのかもな。

 

「オレはノリン。助けに来てくれたのはありがたいが、どうせもうすぐ死ぬ身だ。放っておいてくれ」

 

本人はもう生きることを諦めているようだが、見捨てる訳にはいかない。人間には病と闘う力があるって、証明してみせないといけないしな。

 

「死なせはしない。俺たちが作った拠点に来い。そこなら安全に休めるぞ」

 

「悪いが、オレはもう歩けねえ。あんた、オレのことを担げるか?」

 

「もちろんだ」

 

ノリンは俺よりも年上かもしれないが、病気で痩せほそっているためか背負うことが出来た。俺はスネークが人を運ぶ時のようにノリンを担ぎ、拠点へと向かった。

 

「まずはこの崖を登らないとな」

 

俺はポーチに入っていた土ブロックも使って、崖を登った。人を背負った状態で1メートルの段差を登るのは大変で手や腰が痛くなってきた。拠点に着くころには、ぎっくり腰になるかもしれない。キメラのつばさがあったら便利だが、今は持っていないし、リムルダールでキメラを見かけたことはない。

崖を登った後は、1キロ以上もある山の上の道をひたすら東に歩いていき、緑地のところについたら姿勢を下げて見つからないように進んだ。

 

「やっと拠点に戻ってきたか」

 

俺は町の東の崖を降りた頃には、もう全身の疲労が限界だった。拠点に到着すると、ノリンをベッドに寝かせて病室のもう1つのベッドに寝転がった。

 

「マジで大変だったな。こんなに人をかついで歩くのは初めてだったぜ」

 

地球では何度か人をおんぶしたりしたことはあったが、その状態で長距離を歩いたりしたことはない。

少し休んでいると、エルが病室の中に入ってきて、ノリンがいることに気づいた。

 

「おお!患者様を連れてきて下さったのですね」

 

「ああ、何とかな。ノリンって言うらしい」

 

俺がベッドから起き上がると、エルはノリンの様子を見ていた。病院でいう、診察みたいなものだな。

しばらくして、ノリンの状態を見て何かが分かったらしく、エルは俺に話をしにきた。

 

「どうだったんだ、ノリンの様子は?」

 

「ノリン様のお顔を見て分かったのですが、どうやら全身の体力が失われるこの地の風土病のようです」

 

ん?風土病って、その土地の環境が原因で起こる病気みたいな意味じゃなかったか?今のリムルダールの環境なら、そんな病気があっても十分あり得る話だが。

どうでもいいが、エルは患者にも様付けなんだな。ノリンの容態を話し、エルはこの地の病に関する説明をした。

 

「ここには、体力を徐々に失って命を落とす病以外にも、激しい咳で呼吸が出来ずに死にいたる病、体内を蝕まれ全身が朽ち果てる病などありとあらゆる病が蔓延しています」

 

どの病気も、ヤバそうな症状ばっかだな。それにしても、何故リムルダールはこんなに病が流行っているんだ?

 

「ちょっと聞くけど、何でリムルダールでは病気が流行るようになったんだ?」

 

「リムルダールに病苦をもたらしているのは、この地域を支配する、ヘルコンドルと言う魔物と言われています」

 

ヘルコンドルって確かドラクエ3とかに出てた鳥のモンスターだよな。何でただの鳥が病の元凶なんだ?と思ったが地球でも鳥インフルエンザとかあるし、鳥って結構危険な病原体持ってるんだな。そのヘルコンドルが、この地を支配している親玉だろうし。

 

「空の闇を晴らし、この地の毒を浄化するには、その空飛ぶ怪鳥を倒さねばならないでしょう」

 

ヘルコンドルはメルキドのゴーレムより戦闘能力的には低いだろうが、問題は空を飛んでいることか。何らかの対策をしないと勝ち目はなさそうだな。

 

「それに、リムルダールに病が広がったのはこの地の雨が原因だと言われています」

 

ヘルコンドルが病原体を撒き散らし、雨によって人に感染するという訳か。危険な雨が降るってことは、ここでは建物に屋根をつけないとダメみたいだな。

俺がいろいろ考えこんでいるとエルが、

 

「とりあえず今は、雄也様がお連れになった患者の治療にあたりましょう」

 

ノリンの治療のことに話を変えた。ヘルコンドルのことは今考えても仕方がないからな。

 

「患者様を見る限り症状は軽い方のようで、体力さえ戻れば快方に向かうと思うのです」

 

体力さえあれば、体の免疫機能で自然に回復していくということか。

 

「何を使えばいい?」

 

「おそらく、薬草を3つほど飲ませればきっと病は回復するでしょう。私は看病に専念しますので、雄也様は薬草をノリン様にお与えください」

 

薬草は手持ちが無かったな。だが俺もノリンを運ぶので疲れているので、ピリン達に取ってきてもらうしかないか。流石に病人に明日まで待てっていうのもおかしい話だし。

俺は病室にいるエルと別れ、ピリンたちにその話をした。

 

「俺はさっき病人を連れてきてただろ。そいつを直すために薬草が3つ必要なんだが、俺は運ぶので疲れきってしまったからな、代わりに薬草を取ってきてくれないか?あと、この地方では雨がふるらしいから、高さ3メートルの壁に屋根をつけてほしい。」

 

屋根をつけることも頼んでおいた。今日の夜に雨が降るかもしれないからな。

 

「じゃあわたしは、おうちに屋根を付けるね」

 

「ならワシは、薬草を取ってくるぜ」

 

ピリンが屋根つけ、ゆきのへが薬草採取をすることになった。俺も手伝いたいが足と腰が痛くて出来ない。

この世界のものはブロックで出来ているため、ピリンは10分ほどで寝室と病室に屋根をつけた。何かその間に出来ることはないかと思い、俺はエルの分の木のベッドを作った。

 

「俺たちも木のベッドがいいが、綿毛が足りないな」

 

また素材が揃ったら木のベッドにすることにしよう。木の作業台があるところに、屋根をつけたピリンは走ってきた。

 

「雄也、屋根をつけたんだけど、これでいいかな?」

 

全て土ブロックで出来ているが、雨を防ぐことはできるだろう。

 

「ああ、これで病人たちも安心して過ごせるな」

 

病人だけでなく、俺たちも雨を浴びるのは良くないからな。ピリンと話をしていると、薬草採取に行っていたゆきのへも戻ってきた。

 

「おおい、これでいいのか?」

 

ゆきのへは薬草の葉を3枚取り出した。苦そうなにおいがするけど、体には良さそうだ。良薬口に苦しって言うもんな。

 

「ありがとうな、ゆきのへ。さっそく与えてくるぜ」

 

俺はゆきのへからもらった薬草を持ち、ノリンのいる病室に行った。

 

「エル!薬草が準備できたぞ」

 

「おお!早くノリン様に与えましょう」

 

俺はノリンに薬草を飲ませた。初めは苦そうな表情をしていたが、しだいに落ち着いていき、さっきよりも楽そうだった。

 

「これは、薬草か?ありがとうな、楽になったぜ」

 

薬草は戦いに傷を負った時にも使えるかもしれないな。とりあえず、ノリンに薬草が効いて良かったな。

 

「おお!これで症状は落ち着くはずです。一晩眠れば回復するでしょう」

 

きずぐすりで1日で傷が治ったように、薬草も同じような効果なのか。別の患者も、こうやって治せればいいんだけどな。

 

「ですが、実は私は、この先がちょっと不安なのです。あくまでノリン様は症状が軽かっただけ。これからも今回のようにうまくいくとは···」

 

エルもやはり不安なところがあるようだ。だが、今は人間の病に抗う力を信じるしかないだろう。

 

「今はノリンの回復を祈ろう。話はそれからだな」

 

病人の前で暗い話をしたら、病人まで暗い気持ちになってしまう。病は気からと言うし、それは良くない。

 

「そうですね。雄也様も体を休めてお待ち下さい」

 

「ああ、そうだな」

 

リムルダールに来た初日、俺たちはかなり疲れていたので寝室ですぐに眠りについた。屋根がある部屋で寝るのは1ヶ月ぶりくらいだ。明日、ノリンが回復しているといいな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode25 諦めの老人

リムルダールに来て二日目、朝俺が寝室から出ると病室のほうから男の声が聞こえてきた。

 

「うおおお!治ったぜ!」

 

その声が聞こえたと同時に、病室の扉が勢いよく開けられ、ノリンが走って出てきた。薬草のおかげで無事に病気が治ったようだ。

 

「ノリン、起きてきたのか」

 

「ああ、昨日オレを助けてくれた人か!ありがとな!」

 

ノリンは昨日までの病気が無かったかのように元気に話している。俺はノリンにいつもの自己紹介をした。

 

「まだ名前を言ってなかったな。俺は影山雄也。いつもは雄也って呼んでくれ」

 

「雄也か、よろしくな!」

 

ノリンも助けてくれたお礼か、俺たちの仲間になってくれそうだ。

 

「それにしても、病気って治すことが出来るもんだったんだな!オレは一度病気になったら、必ず死ぬもんだと思ってたぜ。実はいつ死んでもおかしくないって諦めてたんだ」

 

確かに昨日は、放っておいてくれなんて言ってたもんな。地球では考えられないが、この世界では病気はかかったら必ず死ぬものと思われているのか。

 

「でも、これで分かっただろ。人間には病と闘う力があるってことが」

 

「ああ。助けてくれた礼もあるし、オレもお前らと一緒にここに済ませてもらう!これからよろしくな!」

 

「ああ、もちろんだ」

 

俺とあいさつをして、ノリンは俺たちの作った建物を見て回っていた。これまでの人々と同じように、建物というものが珍しそうだった。

 

「ノリン様が元気になられてよかったですね!」

 

俺とノリンとの会話を見ていて、エルがそう言った。薬草の力もあるが、エルの看病のおかげでもあるだろう。

 

「エルの看病のおかげだろうな。人間には病と闘う力があるって証明できたし」

 

「はい!本当に良かったです」

 

昨日エルが言っていたようにこれからも上手く行くとは限らないが、今はそう信じるしかない。

 

「ところで、雄也様」

 

「ん、どうしたんだ?」

 

今日もエルは、俺に相談があるようだ。もしかして、別の患者がいるのだろうか。

 

「雄也様にお会いでき、私の夢だった病室も作り、そこで患者様を治療することができたのですから、私はこの地での患者様の治療を、もっと本格的なものにしたいと考えています」

 

もっと本格的なもの?ノリンよりも重い症状の人でも治せるようにってことか?確かに今の状態では難しいかもしれない。

 

「それで、新しい設備を作ってほしいのか?」

 

「いえ、私は病に立ち向かうための特別な薬を作りたいのです」

 

確かに、薬がなければ治せない病気もあるな。でも、俺は薬の作り方なんて知らないし、ピリンやゆきのへも知らないだろう。

 

「俺、薬の作り方なんて知らんぞ。エルは知ってるのか?」

 

「実は、私も薬の作り方は、何一つ知らないのです」

 

病気に詳しいはずのエルも知らないのか。このままだと、薬を作ることはできなさそうだな。

 

「だったらどうするんだ?誰にも作れないってことだぞ」

 

「そこでなのですが、南の丘にいるゲンローワと言う薬師を連れてきてくれませんか?彼は薬について多くの知識を持っています」

 

この世界にも、薬師なんていたのか。その人がいれば病に対抗できるかもしれない。

 

「分かった。俺が呼びに行ってくる」

 

俺が南の丘に行こうとすると、エルはゲンローワの性格について話した。ちょっと問題のある性格なようだ。

 

「あと、雄也様。彼は気難しく強情な人なのです。雄也様ならなんとかなると思うのですが···」

 

「まあ、出来る限り説得はする」

 

どんな奴だったとしても、薬師がいたら心強いからな。なんとしても呼びにいくべきだろう。

 

「お願いします。彼をここに連れてきてください!」

 

エルもそう思っているようなので、俺はゲンローワを呼びに拠点から出発した。

 

「また一度東にいかないといけないのか。」

 

昨日行った北の山であっても、今から行く南の丘であっても、一度東にいってからまわるしかない。3方向が毒沼に囲まれているので、本当に移動が大変だ。

ゲンローワも病人かもしれないし、魔物に襲われる危険もあるからな、早めに見つけたほうがいいだろう。

南へ進んでいくと、途中でメルキドにあったような壊れた家があった。

 

「誰もいないな。ん、紙がおいてあるぞ」

 

その紙には、かすれた文字で文章が書かれていた。

 

このリムルダールの地は、ヘルコンドルによって支配されている。聖なるしずくで病を癒し、ヘルコンドルを倒せば、光がさすだろう。しかしそれは、所詮我らの力では叶わぬことだ。

 

誰が書いたものか分からないが、エルの言っていた通り、ヘルコンドルがリムルダールを支配する魔物の親玉のようだ。メルキドでは最後まで魔物の親玉が分からなかったのに、この地方では最初から分かっているのか。それにしても、魔物の親玉を倒せば解決って、難しい話だけど単純だよな。

 

「ヘルコンドルもそうだが、この聖なるしずくって何だ?」

 

聖なるしずくで病を癒し、と書いてあるが、特殊な薬か何かのことだろうか。現段階では、材料も見た目も何も分からない聖なるしずくは閃けないので、俺はゲンローワの捜索に戻った。

 

「ここがエルの言ってた南の丘か」

 

しばらく歩くと、町の北の山より低い崖があった。ここを登った上も、町の近くの高台と同じように、緑地になっている。

登ったところにいるモンスターも、スライムベスやリリパットと行った高台と同じものが生息していた。

 

「また隠れて進まないといけないな。」

 

ここではメルキドのようにじょうぶな草がないため、草地の箱を作ることは出来ないが、なんとか見つからないように進んでいった。途中で見つけたが、そこには豆のような植物があった。

 

「これは豆か。茹でれば枝豆として食べれそうだな」

 

自力でも作れるが、俺は茹でた枝豆の作り方を魔法で調べた。

えだまめ···まめ3個

1つ作るのに3ついるのか。えだまめも同時に3つできるんだろうけど。

俺は豆や白い花びらを広いながら歩いていった。すると、墓の前でお参りをしている老人が見えた。

 

「あれがゲンローワって人か?老人だとは聞いていないんだけどな」

 

もっと若い人を予想していたが、メタルギア5にはコードトーカーっていう老人の寄生虫研究者がいたからな。老人の薬師がいても不思議ではない。

 

「それとあの墓、数が足りないな」

 

その人の前には5つの墓、正しくいえば墓は4つしかないが、5つ置く分のスペースがあるという状態で、1つ足りないようだ。

俺はとりあえず、その老人に話しかけた。

 

「おい、あんた誰だ?」

 

その老人は俺に気付き振り向いた。髪の毛はほとんどはげていて、残った髪も白髪で、ヒゲも白色だった。かなりの高齢のようだ。

 

「ん?お主こそ、誰じゃ?見慣れぬ顔じゃが」

 

そして、その老人は目の前の墓を見ていった。

 

「もうどのくらいの人々を弔ったか。医学とはなんと、無力なものなのだ···」

 

医学が無力なもの?薬師っぽい言い方だが、何か暗いことを言ってるな。

 

「それより、俺はゲンローワって人を探しているんだが、あんたがゲンローワか?」

 

俺がそう聞くと、老人はうなずいた。

 

「そうじゃ、いかにもわしがゲンローワじゃ。お主は何故わしを探しておる?」

 

俺の思った通り、この人がゲンローワだったか。印象とはかなり違うが。

 

「俺は影山雄也。いつもは雄也って呼んでくれ。俺は実はこの世界で伝説って呼ばれてるビルダーって奴で、エルって女の人に言われてあんたを呼びに来たんだ」

 

「なんと、お主が伝説のビルダーで。エルに言われてわしを連れに来たと···?」

 

「ああ、そうだ」

 

しかし、ゲンローワはついてこようとしなかった。

 

「すまぬが、帰ってくれぬか。今のわしは、何もやる気がせぬでの···」

 

さっきも見て思ったけど、ゲンローワは昨日のノリンよりも諦めムードだな。それに、俺のことをビルダーだとまだ認めていないようだ。これは説得が難しそうだ。

ゲンローワは、再び墓を見て言った。

 

「あと一人弔いたいのじゃが、もうそのための木の墓すらないのじゃ。わしのことはどうか放っておいてくれ」

 

確かに墓がないのは困るな。作ったところで説得できるかは分からないが、一応墓は作っておいたほうがいいだろう。俺は木の墓の作り方を調べた。

木の墓···ふとい枝3個、ひも1個 木の作業台

素材は今あるもので作れるようだが、町に一旦戻って木の作業台を使わないといけないようだ。

 

「一旦戻るか。ん、宝箱かあるな」

 

ゲンローワのいた場所の後ろに、宝箱が置いてあった。何が入っているのかと開けてみると、俺が一番欲しかった道具、キメラのつばさが入っていた。

 

「キメラのつばさだな。これがあれば病人をすぐに運べる」

 

3つあったので、その1つを使うことにした。俺はキメラのつばさの力で飛び上がり、拠点へと戻った。

 

「雄也様、ゲンローワ様は来てくれなかったのですか?」

 

俺が希望の旗の台座に着陸すると、俺にそう聞いてきた。

 

「結構説得は難しそうだな。だが、あいつは死者を弔うための墓がなくて困っていた。墓を作ってもう一度説得してみる」

 

「お願いします、雄也様」

 

エルにも俺たちも薬の知識はないが、どうしても来てくれないのなら、自分たちだけでなんとかするしかない。

俺は木の作業台で木の墓を作り、ゲンローワの所に持っていった。

 

「ゲンローワ、木の墓を作ってきたぞ。これでいいか?」

 

俺が木の墓を設置すると、ゲンローワは俺がビルダーであることは認めたようだ。

 

「素材から墓を作るとは、お主はまことに伝説のビルダーなのだな」

 

「分かってくれたか」

 

「お主、エルにそそのかされたのじゃな?薬を作り、共にこの地の病を根絶しようと」

 

しかし、ゲンローワは俺たちの拠点に来る気はまだないようだ。それに、よくわからない理論を言い出した。

 

「よいか、そもそも死とは抗うべきものではない。自然の摂理として、受け入れるべきものなのじゃ」

 

俺は本当にこの人が薬師かよ!?と思った。この人は完全に病や死に対抗することに諦めきっているようだ。

 

「何だ、そのよくわからない理論は?」

 

「分からぬか?死を逃れようとするのは人間だけじゃ。おこがましくも、愚かしいことだとは思わぬか」

 

確かに人間だけかもしれないが、それだから人間らしいと思うのだが。それに、自然の摂理というのも、この場合においては違うだろ。

 

「そうかもしれないけど、これは自然の摂理なんかじゃない。魔物どもが悪意を持って人間を殺そうと病を振り撒いてるんだ。このどこが自然の摂理だって言うんだ?本当はもっと生きられた人でも、魔物のせいで命を落としているんだ」

 

「確かに、そうかもしれぬな。ずっと同じ状況だったから分からなかったのかも知れぬが、これは魔物の仕業じゃった。だが、恐ろしい力に抗うことに変わりはない。」

 

「それに、死に抗ったり、恐ろしい力に抗ったりするからこそ、人間らしいと思うんだけどな」

 

人間はどんな困難が来てもそれを乗り越えようとする。俺はそれが人間という生物の良いところだと思うが。

 

「なるほど。そう申すか。お主、ずいぶんそれっぽいことを抜かすではないか」

 

俺は別に自分の意見を言っただけなんだけどな。

そして、ゲンローワは少し考えたのち、俺たちの拠点に行くと言った。

 

「いいじゃろう。お主が作った集落に言ってみようではないか。エルとお主の覚悟のほどを、このわしが見極めてやろうぞ」

 

「ああ、よろしくな」

 

俺はキメラのつばさを使い、ゲンローワと共にリムルダールの拠点に帰還した。

 

「おお、ゲンローワ様を連れて来てくださったのですね!」

 

ゲンローワの姿を見て、エルはとても喜んでいた。薬が作れるようになったからという理由以外でもエルは喜んでいる様子だったが、それが何なのかは分からなかった。

 

「ここがお主らの作った集落か」

 

ゲンローワは病室や寝室をみた後、俺に話しかけてきた。

 

「雄也よ、お主は本当に分かっておるのか?病と闘うことは死ぬこと以上に辛く苦しいものだということを」

 

確かに地球でも病と闘うのを諦め安楽死を選ぶ人がいる。そういうのを見ると分からない話でもない。

 

「ああ、分かってるよ。それでも俺たちはやろうとしてるんだ」

 

メルキドを復活できたので、リムルダールも復活出来ないはずはない。

 

「いいじゃろう。ワシもここに住み、病に対抗する薬を研究することにしよう。ビルダーであるお主が一緒ならこの地に蔓延する病も克服できるかもしれぬ。よろしく頼むぞ」

 

俺はゲンローワとの話のあと、エルと話した。

 

「それにしてもあいつ、よくわからない理論を言ってたりしたな」

 

俺はそのことが気になって、エルに聞いた。だがエルはさほど気にしていないようだ。

 

「それはゲンローワ様の癖なのです。あまり気になさらないでくださいね」

 

いや、めちゃくちゃ気になるんだが。昔からあんな奴だったとは思えないし。

 

「ゲンローワ様はこの世界では珍しい薬の知識を持つ薬師と呼ばれる存在です」

 

この世界では珍しいか、確かにメルキドの住民は誰も薬の話なんてしてなかったな。する必要がなかったのかもしれないが、知らない可能性が高い。

 

「彼とも協力し、この地の病と闘っていきましょうね」

 

「ああ、協力することは大事だからな」

 

暗い人だが、ゲンローワがいれば病に打ち勝てやすくなるだろう。

その日の夜、俺はノリンとゲンローワの分のベッドを作り、明日に備えて休んだ。仲間を二人加え、リムルダール復興二日目は終わった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode26 薬師の調合室

忙しくて数日間投稿できませんでした。すいませんでした。


リムルダールに来てから三日目、俺は朝起きて拠点を散歩していた。メルキドほど空気はキレイではないが、やはり外の空気はいいものだ。

 

「雄也よ、少しいいかの?」

 

散歩を終えて朝食に枝豆でも食べに行こうと思っていると、ゲンローワに話しかけられた。

 

「どうしたんだ、ゲンローワ?」

 

「お主に薬の調合をするための、調合ツボを作ってほしいのじゃ。それで、作り方を教えようと思ってな」

 

確かに木の作業台では薬は作れなさそうだな。きずぐすりくらいなら木の作業台でも作れるけど、様々な薬を作っていくには特殊な作業台がいる。

 

「そう言うことか。さっそく教えてくれ」

 

ゲンローワは、俺に調合ツボの作り方を説明した。俺はすぐに、その作り方を魔法で調べる。

調合ツボ···土8個、粘土5個、あおい油1個

土とあおい油はいいが、粘土って聞いたことないな。土ブロックに似てそうなので、見落としているだけなのかもしれないが。

 

「どうじゃ、作れそうか?」

 

粘土さえ見つかれば作れるので、難しいことはないだろう。

 

「ああ、出来たら教える。待っていてくれ」

 

リムルダールに来てからもゆっくりできる日はない。大変だが、復興のためなので、俺は粘土を探しに拠点を出た。

 

「粘土か、もしかしたら崖にあるかもしれないな」

 

俺は、町の東にある崖に向かった。何度か上り降りしたことはあるが、意識して何のブロックで出来ているかを見たことはない。

俺が改めてその崖の地層を見ると、所々に普通の土ブロックとは違う色をしたブロックがあった。

 

「もしかして、これが粘土か?」

 

アイテムの名前を調べることは出来ないが、これが粘土だと信じよう。俺は拠点に戻り、木の作業台のある場所に行った。

 

「これで調合ツボが作れるといいんだけどな」

 

俺は土とあおい油と粘土と思われるブロックに魔法をかけた。するとそれらは合体し姿を変えていく。そして、ゲンローワに教えてもらったのと同じ形の調合ツボができた。

 

「あれが粘土で合ってたんだな」

 

これからも粘土が必要になるかもしれないし、覚えておこう。調合ツボが完成すると、俺はそれをゲンローワに見せに行った。

 

「ゲンローワ、調合ツボが出来たぞ」

 

「おお、それはまことか!?」

 

俺が作った調合ツボを見て、ゲンローワは嬉しそうな表情をした。これで薬を作れるようになるだろう。

 

「おお、これはわしが思っていた通りの調合ツボじゃ!雄也よ、ありがとう」

 

調合ツボが完成し、俺は朝食の枝豆を食べていた。大した腹の足しにはならないが、食べないよりはましだろう。

 

「今日はメルキドの時みたいに、ちゃんとした作業部屋でも作ろうかな?」

 

食べながら考えていたが、石の作業台のように、木の作業台も室内においたほうがいいかもしれない。

それ以外にも、調理部屋も作ろうと思っていた。

 

「だが、病室に土ブロックを使いすぎたな。」

 

病室や寝室を作るのに大量の土を使い、調達する必要があった。取りに行こうとすると、再びゲンローワに話しかけられた。

 

「雄也よ、先ほどの話の続きじゃ」

 

調合ツボは完成したのに、まだなにかあるのだろうか?

 

「今度は何なんだ?」

 

いろいろ頼まれてばっかりで、なかなか作りたい部屋が作れないな。だが、今は大事な話かもしれないので、ゲンローワの話を聞くことにした。

 

「雄也よ、先ほど調合ツボを作ったじゃろう。これからは看病と診察をエルに任せ、わしとお主で薬を作っていくぞ」

 

エルは薬の知識はないから、確かにそのほうがいいな。俺もないが、ビルダーの力で何とかなるだろう。

 

「それで、薬の研究に集中できるよう、お主には薬の調合室を作ってもらいたい。そこで共に、新しい薬の開発をしよう」

 

薬の調合室か。確かに作業部屋と同じくらい大事だな。ゲンローワの言うこともあるし、こっちを先に作ろう。

 

「どんな感じの部屋がいいんだ?」

 

俺がそう聞くと、ゲンローワは一枚の紙を取り出した。それには細かい設計図が書かれていた。

 

「この設計図通りの調合室を作ってほしいのじゃ。できそうか?」

 

設計図に書いてあるのがたき火、ツボ、木の机、収納箱など、今まで作ったことのあるものや、さっき作った調合ツボなどだった。

 

「作ったことがある奴ばっかだし、簡単そうだな」

 

だが、これもふとい枝をやたらと使う。何故リムルダールの住民の書く設計図はふとい枝がたくさん必要なんだろうな。

 

「素材を集めてくるから待っててくれ」

 

「おお、頼むぞ」

 

俺は土とふとい枝を取りに拠点から出た。まず、拠点の近くにある土ブロックを壊して入手し、ふとい枝を取りにまだ行ったことのない場所へ向かった。

しばらく進むと木が全て枯れてしまっている森があった。酸性雨が降った後のような状態だ。

 

「この前気づいたけど、枯れ木は壊すとふとい枝になるんだな」

 

枯れ木をおおきづちで叩き壊してみたが、やはりふとい枝2本に変化した。俺は枯れ木を10個ほど破壊し、ふとい枝を回収した。

 

「素材が揃ったか。簡単に集まったな」

 

リムルダールではふとい枝をやたらと使うが、足りなくなることはなさそうだ。

俺は拠点に戻り、木の作業台で必要な家具を作っていく。収納箱も作るので、しばらくは素材がいっぱいになることはなさそうだ。

家具が完成すると、俺は設計図に書かれた通りに土ブロックを積んで建物を作り始めた。

この地方では雨が降るため、天井を付ける必要があり、100個以上の土ブロックを使った。そして、中に家具や収納箱、調合ツボを置いていく。

 

「結構簡単に作れたな」

 

完成した調合室を見て、ゲンローワは喜んで走って俺のところに来た。

 

「おお!薬の調合室を作ってくれたのじゃな!」

 

エルにとっては病室を作るのが夢だったが、ゲンローワにとっては調合室を作るのが夢だったんだろう。

 

「このリムルダールの地には、お主の見たことのない病がまだまだ存在する。お主の作ってくれた調合室は多いに役立つであろう」

 

ゲンローワは喜びながら話をしていたが、その後暗い表情になり、彼の過去を話し始めた。

 

「雄也よ、わしにはかつてウルスという名の弟子がおって、長年彼と共にこの地にはびこる病の研究をしておったのじゃ」

 

ゲンローワに弟子がいたのか。やはりゲンローワは昔はもっと前向きな性格だったようだ。

 

「それで、そのウルスとやらはどうなったんだ?」

 

「研究は失敗に終わり、我が弟子ウルスは···」

 

その先は言わなかったが、ウルスが病気になってそれを治せず、死んでしまったということだろう。

 

「じゃからの、わしは研究を捨て病に抗うことをやめたのじゃ···」

 

弟子を助けられず、何をやっても無駄だ!みたいに思ってしまったってことか。大事な人を亡くして性格が変わってしまう話は聞いたことがある。

 

「おっと、暗い話をしてしまったのう···話を元に戻そう。雄也よ、改めてよろしく頼む。この地の病を癒す薬の開発に共に挑もうぞ」

 

ゲンローワは過去の話をやめ、もとの表情に戻った。こんな性格だが、ゲンローワも大切な仲間になるだろう。

調合室が出来たので、俺は何の薬の研究をするのか聞いてみた。

 

「ゲンローワ、まずは何の薬を作るんだ?」

 

すると、ゲンローワは興奮してエルと同じようなことを言った。

 

「おお、それはまことか!?なんということじゃろう!」

 

俺は聞いただけなんだが。それにしても、美人のシスターとネガティブな老人という全然違う二人だが、どこか似ているな。

 

「おい、俺は少し聞いただけなんだが?」

 

俺が言うと、ゲンローワは落ち着いて普通に話した。

 

「すまぬ。調合室ができてつい興奮してしまったのじゃ。それはそうと雄也よ、最初は毒の病を直すために必要な、どくけしそうの研究をしようと思っている」

 

毒を直す薬か、患者だけでなく俺たちが魔物から毒の攻撃を受けた時にも使えそうだな。だが、毒の病ってそのまんまな名前だ。毒に冒されるからそう言う名前なんだろう。

 

「なら、さっそく始めるか?」

 

「いや、実は一つ問題がある。この地の毒を解析するには、どうしても毒の病原体が必要でな。その毒の病原体を持つ巨大なドロルがどうしても倒せないんじゃ」

 

毒の病の原因は、巨大なドロルなのか。そいつを倒せば病気の発生も止めることができ、治療も可能になるので一石二鳥だな。

 

「それを倒してこいってことか?」

 

「そう言うことじゃ。南の丘を越えた所にある毒沼にいる巨大なドロルを倒し、毒の病原体を手に入れてほしい」

 

南の丘はこの前ゲンローワがいたところか。毒沼なんて見えなかったし、かなり遠そうだな。

だが、巨大ドロルを倒さないと病の治療が出来ないので、俺は拠点を出発した。

 

「1日に何回出掛けてるんだ?」

 

今日1日で3回目の出発になった。作業部屋などを作るのは、また今度になりそうだな。俺はさっき通った枯れ木の森を抜け、海辺に出た。

 

「海辺の道を使っても行けるみたいだな」

 

毒沼に行くには、南の丘を越えないといけないと思ったが、海辺に普通に歩いていける道があった。何か新しい物があるかもしれないので、俺は海辺の道を進んだ。

途中、ピンク色の不味そうなキノコが生えていた。

 

「なんだこのキノコ?メルキドに生えている奴とは違うな。あいつらに見てもらうか」

 

こんな場所に生えているのでおそらく毒キノコだが、一応持ち帰ってエルやゲンローワに見せることにした。

もう少し進んでいくと、たき火が置かれている家があった。

 

「ここも昔、誰かがすんでたのか?んっ!?もしかして生きている人間か?」

 

しかもその家の前に倒れている人がいたのだ。まだ生きていそうなので、俺はその人に話しかけた。その人は、若い女性のようだった。

 

「おい、大丈夫か?」

 

その人は息があったが、病気にかかっているようだ。

 

「ごほっ、ごほっ。身体が、身体がものすごく熱いんだ···」

 

俺はその人のひたいに手を当ててみる。すると、俺がインフルエンザだった時などとは比べ物にならないほどの高熱だった。

 

「このままだと危険だな、連れて帰ろう」

 

こんな高熱が長く続けば全身に悪影響が出るだろうし、脱水症状にもなるだろう。俺が担ごうとすると、女の人はノリンと同じように生きるのを諦めたような発言をした。

 

「あたいもこれでもう終わりだね。墓にはケーシーって名を書いてくれ」

 

「いや、お前は死なせない。俺たちの拠点に連れて帰るぞ!」

 

俺はケーシーを背負い、拠点へ引き返した。毒の病原体のことも気になるが、人命救助が最優先だ。拠点に着くとケーシーをすぐにベッドに寝かせ、エルに報告した。

 

「おい、エル!新しい患者を連れてきた。重症だから早く診てくれ」

 

「おお、本当ですか!?今すぐに診察いたしますね」

 

俺の話を聞き、エルは病室に駆け込んで行った。ケーシーは何の病気か分からないが、必ず助けないとな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode27 毒の病原体

しばらくして、ケーシーの診察を終えたエルが病室から出てきた。俺は、ケーシーの容態について説明される。

 

「雄也様。この方は先ほどゲンローワ様の言っていた毒の病にかかっています。どくけしそうがないと治すことは出来ないでしょう」

 

どくけしそうはまだ作れないんだよな。これから巨大ドロルを倒して毒の病原体を手に入れてもすぐに薬の開発を出来るわけではない。

だが、ゲンローワや俺が研究をしている間にも、ケーシーはどんどん衰弱していくだろう。なんとかしないといけないな。

 

「まだどくけしそうは作れないぞ。時間もかかるし、どうすればいいんだ?」

 

その話を聞きエルは少し考えて、俺に提案した。

 

「それであれば食べ物や水を与え、体力が尽きないようにするしかないでしょう。もちろんそれでは治らないので、雄也様は薬の研究を急いでくださいね」

 

病人が食べ物を食べるのは難しいだろうが、今はそうやって耐えてもらうしかないな。枝豆なら消化によさそうなので、枝豆と水を与えればよさそうだ。

 

「分かった。食べ物と水をケーシーにあげたら、今度こそ巨大ドロルを倒しにいく」

 

俺はこの前とった豆を料理用たき火で加熱した。あと、脱水症状を防ぐために水が必要だが、これまで水を飲みたいときは手ですくって飲んでいた。しかし病人のところに運ぶために、コップか何かが必要だな。俺は太い枝かあたりでコップが作れないか調べた。

木のコップ···ふとい枝1個

どうやらふとい枝1個だけで作れるようだ。俺は木の作業台でコップを作り、水をくんで枝豆と一緒にケーシーのところへ持っていった。

 

「水と食べ物を持ってきたぞ、食べれるか?」

 

苦しそうだったが、ケーシーは何とか枝豆を食べて水を飲み、再び横になった。体力をわずかに取り戻し、少しは容態が安定したようだ。

 

「ありがとう。少し元気が出たよ。ゆっくり眠ってみる。明日になったらまた様子を見に来ておくれ」

 

「ああ、またな」

 

俺はケーシーが眠ったのを見て病室から出た。今は安定しているとはいえ、早く治さないといけないのはかわりない。

 

「ケーシーのためにも、どくけしそうを作らないとな」

 

俺は今日4度目の外出をした。何度も拠点とフィールドを行き来し、少し疲れてきたが、メルキドで何キロも歩いた俺にとっては、まだまだ余裕だった。

10分ほど経って、ケーシーの倒れていた家のところまで戻ってきた。

 

「ん、メモが置いてあるな」

 

さっきは気づかなかったが、その家の中にメモ用紙が置かれていた。そのメモ用紙には、ロロンドのメモのようにほとんど平仮名で文章が書かれていた。

このさきにどくのやまいをもたらすものがおる。やつからびょうげんたいをさいしゅできれば、どくのやまいをいやせるかもしれぬ。しかし、あのきょだいなドロルには、われわれにんげんではかてないだろう。

 

「これ、ゲンローワが書いた奴みたいだな」

 

この文章を見て、ゲンローワが書いたものだとすぐに分かった。それにしても我々人間では勝てないだろうとロッシのようなことが書いてあることから、この世界の人は人間は弱い生物だと思っているのだろう。

 

「勝てないだろうなんて言ってるが、俺が来たからには倒してやるぜ」

 

そのメモを読み終えると、俺はさらに海辺の道を奥へと進んだ。その道は、途中で内陸のほうへ曲がっていた。

 

「ここで海から離れるな」

 

内陸のほうへ進んでいくと、大きな毒の湖のようなものがあった。その湖には小さな島があり、その島の上に通常の数倍もある巨大なドロルがいた。

 

「あれがゲンローワの言ってた巨大なドロルか。気持ち悪いやつだし、強そうだな」

 

俺は見つからないよう、姿勢を下げて巨大ドロルを見た。今すぐでも倒しに行きたいが、毒の湖に浮かぶ島にいるため、毒沼を埋めていかないといけないが、目の前でそんなことをしたらすぐに気づかれてしまうだろう。

 

「また崖を登らないといけないが、背後から襲うか」

 

正面から行くのは危険すぎるので、俺はつたを使って崖を登り、巨大ドロルの後方にまわった。崖の上にあった土も集めて、俺は島にいくために毒沼に橋をかけていった。

気づかれないようにゆっくりブロックを置いていき、島に到着すると俺はおおきづちを強く振り上げ、巨大ドロルに叩きつけた。

 

「喰らえ、気持ち悪い奴め!」

 

巨大ドロルはまだ倒れず、俺に向かって反撃してきた。巨大ドロルが力を溜めたと思ったら、3つ同時に毒のミサイルのようなものを放ってきた。

 

「こいつ、遠距離攻撃もできるのか」

 

正面から行かなくて正解だったようだ。見つかっていたら毒沼に土ブロックを置いてある間に喰らってしまうだろう。

だが、遠距離攻撃が出来たとしても行動がかなり遅いので、動きを見極めるのはそれほど難しくもなさそうだ。

俺は巨大ドロルのから逃げるような行動を取り、力を溜める。俺に体当たりしようとしていた巨大ドロルに、俺は強力な一撃を放った。

 

「回転斬り!」

 

「ぐぎゃあああああ!」

 

巨大ドロルは悲鳴をあげ、動きが止まった。おおきづちで全力で殴られ、巨大ドロルの顔は大きく変形していた。リムルダールの魔物にも、回転斬りは有効なようだ。

それに怒った巨大ドロルは、何回も毒のミサイルを連射してくる。それでもメルキドで強力な魔物と戦った俺の敵ではなかった。

 

「動きが遅いんだよ!」

 

ドロルの毒や体当たりをかわして、俺は巨大ドロルの胴体を何発もおおきづちで殴った。かなり弱ってきたところで、俺は巨大ドロルの頭を思い切り叩きつけた。その衝撃で巨大ドロルは倒れ青い光になった。

 

「そんなに強くなかったな。ん?何か落とした」

 

そして、巨大ドロルは何かを落としていった。紫色の奇妙な物体だが、よくみると人間の心臓と同じ形をしていた。

 

「どう見ても心臓だが、これが毒の病原体なのか?」

 

人間とドロルは全く別の生物のはずなのに、心臓の形は同じらしい。俺はその心臓、毒の病原体をポーチに入れ、拠点へと歩き出した。せっかく遠くまで来たので、行きとは違って崖の上を通って帰ることにした。

 

「崖の上はまだ探索しきってしないいんだよな。何かあるかもしれないな」

 

崖の上は拠点の近くの高台と同じように、白い花や綿毛、薬草などが生えていた。特に何もないのか?と思っていたが、変な建物を見つけた。青い城の壁のようなもので作られていて、扉もなく、中に謎の石碑が立っていた。

 

「なんだこの建物、誰も住んでいないよな?」

 

中にある2つの部屋を調べたが、どちらにも人はいなかった。だが、石碑の所に宝箱があり、何かの力で封印されていた。この石碑に開けるヒントが書いてあるのか?と思い見てみると、クイズのようなものが書かれていた。

 

「こんなところに問題が書いてあるとはな、やってみるか」

 

その石碑には、その問題を書いた人であろう、見知らぬ人の名前が書かれていた。

私は、探求者タルバ。知恵あるものよ、そなたの輝きをここに示すがよい。目の前の部屋は双子である。しかし双子は今、双子ではない。双子を、双子たらしめよ。

 

「タルバって誰だ?それに双子の部屋?」

 

タルバと言う名前は聞いたことがないな。でもこの先、会うことになるかもしれない。今は目の前の問題を解こう。

双子と言われて気づいたが、2つの部屋は全く同じ面積であった。それに、同じような家具がおいてある。

 

「でも、右の部屋は家具の数が少ないな」

 

中を詳しく見ると、右の部屋はいけ花と料理用たき火がなく、ツボやたらい、たいまつも数が少なかった。これらを作って、左の部屋と同じように配置すればいいってことだろう。

 

「よく考えれば、簡単な問題だな」

 

幸いにして素材はあるので、俺は必要な物を作り、左の部屋と同じ配置で右の部屋に家具を置いた。そして、全ての家具をおき終えると、宝箱が光り出した。どうやらこれで正解だったようだ。

 

「正解みたいだな。何が入ってるんだ?」

 

俺が宝箱を開けると、1つは石で出来た斧が入っており、もう片方には謎の白いブロックが入っていた。使う機会はなさそうだが、大切なものかもしれないので俺はポーチにしまった。

 

「でも、石で出来た斧は使えそうだな」

 

石で出来た斧はおおきづちよりも強いだろう。ゆきのへも持っていると良さそうなので、俺は魔法で作り方を調べた。

いしのおの···石材1個、木材1個 仕立て台

石材と木材が一個ずつか。両方ともこの地方に来てから手に入れることが出来ていないし、仕立て台というのも見たことがない。

 

「今は作れなさそうだな」

 

だが、俺一人でも持っていれば強力だろう。俺はその建物を後にし、崖の上を歩いていった。しばらく進むと再び崖があり、降りないといけないようだ。だが、ここを降りればもうすぐ拠点だ。

崖を降りると、俺は途中でふとい枝やピンクのキノコを拾いながら、拠点に帰った。拠点についたころには、日がくれる時間になっていた。

 

「今日も忙しかった日だが、もう夕方か」

 

俺は病室も覗いたが、ケーシーはさっきと同じように眠っていた。俺はひとまず安心して、ゲンローワのいる調合室に入る。

 

「ゲンローワ、毒の病原体を取ってきたぞ。これでいいか?」

 

本当にドロルの心臓が毒の病原体なのか心配だったが、それであっていたようだ。ゲンローワは興味津々に毒の病原体を見る。

 

「これが毒の病原体か!雄也よ、よくぞ持って来てくれた」

 

そこまで苦労はしなかったが、これでどくけしそうが作れるようになるだろう。俺は毒の病原体をゲンローワに渡した。

 

「今毒の病にかかっている人もいるからな、急いでくれよ」

 

「ああ、なるべく早く解析しよう」

 

ゲンローワは調合室に入っていった。俺も手伝いたいが、薬に詳しくない自分が入っても、邪魔になるだけだろう。

中からは、

 

「ふむふむ。ここの構造がああなってこうなって」

 

というゲンローワの声が聞こえた。

待っていると時間がかかりそうなので、俺はエルにピンクのキノコのことを聞きにいった。食べれるキノコだといいんだが。

 

「なあ、エル。このキノコを知ってるか」

 

俺はエルにピンク色のキノコを見せた。

 

「それはニガキノコというキノコです。焼けば食べることは出来ますが、とても苦いのです」

 

ニガキノコなんて、名前からして苦そうだな。俺は試しにニガキノコを料理用たき火で加熱し、食べてみた。

 

「ん?やっぱり何か苦いな」

 

最初は大丈夫だったが、しばらくして口の中全体に苦い味が広がった。たくさん手にはいる食材だが、あまり食べたくないな。

俺は食べた後、寝室に入って寝た。ゲンローワの毒の病原体の解析は、明日には出来るだろう。

 

翌日、リムルダールに来て4日目、俺が思っていたより毒の病原体の解析がうまくいったらしく、俺はゲンローワに呼び出された。

 

「雄也よ、毒の成分の分析が終わった。どくけしそうの作り方も分かったのじゃ」

 

これでケーシーを治療できるってことか。1日も待たせてしまったからな。さすがにスネークの名言、待たせたな。を言うほどでもないが。

 

「良かった。さっそく教えてくれ」

 

俺はゲンローワにどくけしそうの作り方を教えてもらった。そして、俺は材料を確認する。

どくけしそう···くすりの葉1個、ピンクの花びら1個、ねばつく液体1個 調合ツボ

くすりの葉ってなんだ?と思ったが名前からして恐らく薬草のことだろう。薬に使うとかんがえれば、それしか思いつかない。ねばつく液体は、ドロルあたりが落としそうだな。なぜどくけしそうに毒のような物が必要なのかは分からないが。

 

「雄也よ、作り方は理解できたかのう?」

 

「ああ、さっそく素材を集めに行ってくる」

 

せっかくゲンローワが作り方を教えてくれたし、必ず作らないと。俺は町の近くにいたドロルを倒しにいった。後ろからいしのおのの回転斬りを放てば、一撃で倒すことが出来る。ドロルは青い光になって、紫色の液体を落とした。

 

「やっぱり、こいつがねばつく液体を落とすのか」

 

俺はねばつく液体を回収すると、ゲンローワのいる調合室に入って、3つの素材に魔法をかけた。すると、細かく切られた草のような形に変化する。

 

「おお、どくけしそうができたのか!さっそく毒の病の患者に与えるのじゃ」

 

後ろで見ていたゲンローワも、どくけしそうの完成を驚いていた。いずれゲンローワも物を作る力を完全に取り戻して普通に作れるようになるだろう。

俺はゲンローワに言われた通り、ケーシーにどくけしそうを与えに、病室に入った。

 

「薬を作ってきたぞ。飲んでくれ」

 

苦そうだったが、ケーシーは俺のあげたどくけしそうを飲んだ。彼女の容態は、昨日よりも安定したものになった。

 

「これが、どくけしそう?死んだじいちゃんの手招きが見えて、もうだめだと思ったけど、助かったみたいだね。もうしばらく、休ませておくれ」

 

さすがにどくけしそうを与えたからと言って、すぐに歩けるほどには回復しないよな。もう何日か待たないといけなさそうだ。

 

「分かった。ゆっくり休んでくれ」

 

俺は話をした後、病室から出た。今日は特に予定はないな。自分のしたかったことが出来そうだ。

その日と翌日、俺たちはようやく作業部屋と調理部屋を作った。これで作業な食事がしやすくなるな。ケーシーの体力も徐々に回復していき、もうすぐベッドから出られそうだった。地球でいうところの、退院ってやつだな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode28 ドロルの行進

リムルダールに来て6日目の朝、俺が起きて寝室から出ると、病室のほうから扉が開く音が聞こえた。

 

「もしかして、ケーシーが起き上がれるようになったのか?」

 

気になって俺が病室を確認に行くと、予想通りケーシーが起きて病室の外に出てきていた。前は倒れていて気づかなかったが、彼女もかなりの美人だ。ケーシーは俺を見つけると、感謝の言葉を言ってきた。

 

「助けてくれてありがとう!あんたたちのおかげですっかりよくなったよ!」

 

二日前まで倒れていたのに、それがなかったかのように元気だった。ケーシーも仲間になってくれれば、人口は7人になる。ようやく町というものになってきたな。

 

「ああ、俺もお前を助けられてよかった」

 

「あたいは、病気になったら死ぬと思ってた。人間が病気と闘うことができるだなんて、思ってもいなかった」

 

ケーシーもノリンと同じようなことを言ってきた。だが、彼女にも人間には病に抗う力があるってことを証明できたな。これからどんな病があったとしても、絶対に治していこう。

 

「これで分かっただろ。人間には、病に抗う力があるってことが」

 

俺がそう言うと、ケーシーは急に笑った。俺の発言が面白いからというのではなく、病が治ったのを喜んでいるのだろう。

 

「どうしたんだ?」

 

「あたいなんだか、嬉しくなってきちまったよ」

 

やはりそうか。ケーシーはしばらく嬉しそうにしていた。その表情を見ていると、俺まで嬉しくなってくる。

 

「これからはあたいも治療に協力するよ!一緒に頑張っていこうじゃないか!」

 

そして、ケーシーは町の仲間になってくれるようだ。

 

「ああ、よろしくな。俺は影山雄也。いつもは雄也って呼んでくれればいい」

 

「雄也っていうのか!よろしく頼むよ」

 

俺はケーシーとあいさつをしていると、エルもその様子を見て嬉しそうにしていた。

 

「おお、雄也様!新しい患者様が治ったのですね!」

 

「この人が、あたいを看病してくれてた人なのか?」

 

ケーシーはエルを見て俺にそう聞いてきた。

 

「ああ、エルって言うんだ。リムルダールで病人を救おうと必死に頑張っているんだ」

 

俺がエルのことを紹介すると、ケーシーはエルにも感謝の言葉を言う。

 

「あんたもあたいを助けてくれてありがとう。一緒に病人を治療していこうじゃないか」

 

「はい、頑張りましょうね!」

 

俺たち3人でのあいさつを終えた後、俺はエルと病室で話をしていた。

 

「本当に良かったですね。患者様を助けられて!患者様が良くなって、私は感無量です!」

 

俺にとっても嬉しいことだが、最初から病人の治療をしようとしていたエルにとっては、より嬉しいことだろう。

少し前は不安も持っていたエルだが、今はその気持ちも薄れてきているだろう。そして、エルはさらにはりきっていた。

 

「患者様をお助けし、この地を浄化できるのなら、私はいつでもこの身を投げ出しますわ!」

 

身を投げ出すって、そこまではりきっているのか。止めることはしないが、無理をしすぎなければいいのだが。

 

「雄也様も病に苦しむ人々を治療していきましょうね」

 

「もちろんだ」

 

俺が患者を連れてきて、エルが治療を行う。これからもそうやって病人を治していくことになるだろう。

 

その後、俺たちは調理部屋に集まって一緒に食事をとっていた。食べるものは、ニガキノコと枝豆しかないが。

食べ終わると、俺たちは別れてそれぞれの行動をしていた。俺は特にしたいこともなくぼおっとしていたが、ゲンローワに呼ばれた。

 

「雄也。ちょっといいかの?」

 

ゲンローワの話ということは、また新しい薬のことだろうか。俺はゲンローワと一緒に調合室に入った。

 

「また新しい薬を作ろうと思っているのか?」

 

どくけしそうが完成したばかりなのに、もう次のを作るのか。かなり早いな。俺はそう思っていたが、ゲンローワがしたいのは別の話のようだ。

 

「いや、わしが言いたいのはこのリムルダールを支配する、魔物の親玉についてじゃ」

 

ゲンローワも魔物の親玉について知っていたのか。リムルダールの魔物の親玉については、何度か聞いたことがあるな。

 

「確か、ヘルコンドルに支配されているんだろ?」

 

エルがそんなことを言っていたし、廃屋で見つけたメモ用紙にもそんなことが書いてあった。メルキドの親玉がゴーレムだと分かったのは復興が進んでからなので、本当にそうなのかは分からないが。

だが、やはりヘルコンドルに支配されているらしく、俺の話に、ゲンローワはうなずいた。恐らくはゴーレムと違って、頻繁に姿を現すのだろう。俺はまだ見たことはないが。

 

「いかにも。空飛ぶ怪鳥、ヘルコンドルはおぞましい悪の力でリムルダールを支配しているのじゃ」

 

空飛ぶ怪鳥か、ヘルコンドルはゴーレムより戦闘能力は低いだろうが、空を飛んでいることが厄介だな。鉄がないので銃などもつくれないし、今はどうすることもできなさそうだ。

 

「そいつともいずれは戦う必要があるんだろ?」

 

「もちろんじゃ。ヘルコンドルを倒さなければこのリムルダールの空は晴れない」

 

ゴーレムは空を晴らすための道具を持っていたから、ヘルコンドルも何か持っているんだろうな。

ゲームの2章でもやっていれば倒し方も分かっただろうが、その前にこの世界に来てしまった。

 

「でも、何で急にそんな話をしたんだ?」

 

「わしらにはヘルコンドルを倒すという使命があることも覚えておいて欲しかったのじゃ」

 

今は対抗手段がないが、みんなで協力して考えないとな。ヘルコンドルを倒して、リムルダールにも光を取り戻して見せる!そのためにも、病に苦しむ病人たちを助けないとな。

 

その時だった、空に大きく鳥の羽ばたく音が聞こえた。かなり大きな音のため、鳥も相当巨大なはずだ。その音に、ゲンローワも気づいた。

 

「なんじゃ、羽ばたく音が聞こえるのう···」

 

しかもその音は、だんだん大きくなってきていた。何なんだ!?と思い空を見ると、体長10メートル近くもあるであろう青い羽毛で覆われた鳥がいた。

 

「あれは、ヘルコンドル!?」

 

ゲンローワはその鳥を見てそう叫んだ。確かにヘルコンドルはそんな感じの魔物だったはずだ。それにしても、いきなり魔物の親玉が来ただと!?

ヘルコンドルが空中で大きく叫んだかと思うと、町のまわりに大量のドロルと、奴らの隊長と思われるドロルメイジが現れた。そして、ドロルたちは行進するようにこの町に向かってきた。魔物たちを呼ぶと、ヘルコンドルは飛び去っていった。どうやらドロルにこの町を攻撃させるつもりのようだ。

ドロルの接近に気付き、エルが俺のいる調合室に駆け込んできた。

 

「雄也様、ゲンローワ様。大変です!多くの魔物たちがここに迫ってきています。今までこのようなことはなかったのに、どうしてでしょう···」

 

メルキドの時と同じように、人間が町を作っていることを気づかれたのだろう。

 

「人間の発展を恐れているんだろうな。とりあえず、奴らを追い払わないといけない。みんなに知らせるぞ!」

 

俺は調合室から出て、みんなに魔物が来たと叫んだ。

 

「この町に魔物が迫っている!戦える奴は魔物を迎え撃ち、戦えない奴は建物に隠れてくれ!」

 

俺の声を聞いて、ゆきのへやケーシーが俺のところへ走ってきた。一緒に戦ってくれるようだ。しかし、ノリンは、

 

「うひゃあああ!隠れないと!」

 

と言って作業部屋に逃げ込んでしまった。こんなに怖がるなんて、男なのに情けないな。

俺たちが戦いの準備を整えていると、エルとゲンローワも調合室から出てきた。

 

「お役に立つか分かりませんが、私も戦います!」

 

「共にこの町を守り抜くのじゃぞ!」

 

戦闘能力が無さそうに見えたこの二人も戦ってくれるのか。敵はかなりの数なので、とても助かる。

 

「そろそろ来る。行くぞ!」

 

俺はいしのおのを、ゆきのへはおおきづちを、ゲンローワはひのきのぼうを、エルとケーシーは石つぶてを持ち、魔物の群れに向かっていった。

そして、リムルダールの町の一度目の防衛戦が始まった。

 

「ドロルは弱いが、数が多いな」

 

俺はいしのおのでドロルの群れに斬りかかった。数は多くてもドロルは2.3回斬れば必ず死ぬので、苦戦する相手ではなかった。

仲間が倒されていくのを見て、ドロルは俺に毒の液体を飛ばしてきた。スピードは遅いがたくさん飛んでくるので、かわすのが難しい。

 

「ワシが援護するぞ、雄也!」

 

俺が狙われているのを見て、ゆきのへは俺に集中しているドロルを後ろから叩き潰した。ゲンローワもひのきのぼうでドロルたちをなぎはらっていく。

 

「一体一体は弱いようじゃな」

 

しかし、俺たちがまわりにいる敵を倒している間にも、後ろから10体くらいのドロルが迫ってきた。

 

「私に任せてください!」

 

「ここはあたいが倒すよ!」

 

俺たちの後ろから毒の液体を放とうとしているのに気付き、エルとケーシーが石つぶてを投げつける。あまりダメージは与えられないが、敵の動きが止まった。

 

「今だ!二人とも下がってくれ!」

 

その瞬間を狙い、ゆきのへとゲンローワを下がらせ、俺は一気にドロル達をなぎはらった。

 

「回転斬り!」

 

体を真っ二つにされたドロルたちは、次々に青い光になって消えていく。回転斬りの範囲から逃れた敵も、移動したゆきのへとゲンローワが倒した。

 

「敵の数もかなり減ってきたぞ」

 

最初30体ほどいたドロルの数は、残り10体もいなかった。このまま押しきれそうだ。

俺は残っているドロルにも斬りかかっていく。それをピンチに思ったのであろう隊長のドロルメイジは、よくわからない言葉で叫んだ。ドロルは人間の言葉をしゃべれないようだが、

 

「なんとしてもこいつを殺せ!」

 

のようなことを言っているのだろう。その声に応じてドロルたちは次々に毒の液体を乱射する。勢いが激しくなって俺たちは一度後ろに下がった。

 

「お前たち、石であいつらの動きを止めてくれ」

 

「はい、分かりました!」

 

さっきエルの投げた石でドロルの動きが止まったので、今回も止められるだろう。俺の指示でエルとケーシーは敵全員に石を投げつけ、動きを止めた。

 

「今だ、叩き潰すぞ!」

 

近接攻撃ができる俺たちは、ドロルを斬り捨てたり、叩き潰したり、なぎはらったりした。あともう少しだな。

その時、後ろのドロルメイジがもう動きを再開し、毒の液体を俺たちに放った。かわせないと思った俺は、いしのおので液体を弾き返した。ゆきのへも同じようにして攻撃をふせいだ。

 

「動けるようになったとしても、俺たちに勝てると思うなよ!」

 

ドロルメイジは他のドロルよりは強そうだが、毒の病原体を持っていた奴よりも小さい。俺はドロルメイジの横にまわり、腹を斬りつけた。

一撃では死なず、ドロルメイジは俺に体当たりをした。俺は少し吹き飛ばされたがいしのおのを持っていたため、奴も深い傷を負った。

 

「少しは強いみたいだな」

 

ドロルメイジは俺が起き上がる前に攻撃をしようとしたが、ゲンローワがひのきのぼうで頭を叩きつける。

すると、ドロルメイジは気持ち悪いうめき声をあげて、なんとか俺たちに抵抗しようとしていた。だが、弱っていることは確かだ。奴はゲンローワに至近距離から毒の液体を浴びせようとしたが、俺がその前に頭を叩き斬った。

 

「ゲンローワに攻撃はさせねえよ!これで終わりだ!ドロルメイジ!」

 

そして、ゲンローワが離れたことを確認して、俺は回転斬りを放った。強力な攻撃を何発も受けて、ドロルメイジは青い光になった。

 

「おお、倒したようじゃな!」

 

「これで町を守り抜けましたね!」

 

ドロルメイジが倒されたことを確認し、みんなも安堵の声を上げる。だが、メルキドのように何度も襲撃が来ることになるだろう。対策を考えないとな。

みんなが町に戻っていった後、ドロルメイジを倒したところを見ると、見覚えのあるものが置かれていた。

 

「これは、青色の旅のとびらか?」

 

同じ色の物がすでに存在しているが、地方が違えば繋がっている場所も違うだろう。俺は旅のとびらを持ち、町に戻っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode29 禍々しき病

リムルダールの一度目の防衛戦の日の夜、今日も俺は裏切り勇者の記憶の夢を見ていた。今日で3回目だな。

夢の中で裏切り勇者は、洞窟のような場所で、何者かと話していた。

 

「わたしの名はロト。わたしの血を引きしものよ。ラダトームのから見える魔の島に渡るには、3つの物が必要であった。」

 

3つのものか···。ドラクエ1では、ロトのしるし、あまぐものつえ、たいようのいしの3つのアイテムを揃えないと竜王の島に行けなかったんだよな。

 

「俺もこの3つを集めることになるのか?」

 

メルキドの魔物の親玉であるゴーレムが現在はいにしえのメダルという名前に変わったロトのしるしを持っていたことを考えれば、リムルダールの魔物の親玉であるヘルコンドルも何か持っていそうだ。この地には雨が降るらしいし、恐らくはあまぐものつえだろう。

俺がいろいろ考えていると、裏切り勇者に話しかけるロトの声は続けた。

 

「わたしはそれらを集め、魔の島に渡り魔王を倒した。そして、今その3つの神秘なる物を、3人の賢者に託す」

 

その魔王と言うのは、ドラクエ3のラスボス、ゾーマのことだろうな。3人の賢者というのは、勇者と一緒に旅をした3人の仲間のことか?ドラクエ3では3人の仲間を連れていけるからな。

 

「再び魔の島に悪が甦った時、それらを集めて戦うがいい」

 

伝説のアイテムを集めて竜王を倒す。それがドラクエ1のストーリーだ。だが、これは自分のご先祖様にまで辛い役目を押し付けられているということでもある。

 

「他人にいろいろ言われるのはまだ分かっても、先祖にまでこんなことを言われるとはな」

 

ドラクエ1の世界では、城の兵士であっても戦おうとせずみんな勇者に任せっきりだった。これまで3回見た勇者の記憶の夢は、勇者が闇落ちした理由を俺に教えているのだろうか。

話は変わったが、ロトはまた気になる話をした。

 

「3人の賢者はこの地のどこかでそなたが来るのを待っていることだろう。」

 

ドラクエ3とドラクエ1の間は数百年空いているからそいつらが生きているはずないだろう。子孫のことだろうが、アレフガルドが荒廃した今もどこかで生きているのだろうか。もしかしたら、すでに会っているかもしれない。

最後に、ロトの勇ましい声と、勇者の文句が聞こえた。

 

「行け!私の血を引きしものよ!」

 

「くそっ、誰もがオレに任せっきりだ。なんでオレは自由に生きることが出来ないんだ!」

 

勇者の声には、怒りも含まれているように聞こえた。そこで俺の目の前が真っ暗になり、ベッドの上で目が覚める。

 

「またしても、変な夢を見てしまったな」

 

俺は夢で見たことを考えながら、寝室の外に出た。今日でリムルダールに来て1週間だ。メルキドは25日かかったが、リムルダールはどのくらいかかるのだろうか。

 

「とりあえず今日は、旅のとびらの先を探索するか」

 

裏切り勇者のことも気になるが、今すぐにどうかすることはできない。俺は旅のとびらの先で新しい患者を見つけたり、新しい素材を見つけたりするために町の一角に旅のとびらを設置した。置いた瞬間、旅のとびらから眩しい光が溢れ出す。

 

「おお、これはなんでしょう!?」

 

その光を見て驚いたようで、エルやみんなが俺のところに駆け寄ってきた。ピリンとゆきのへを除けば、みんな旅のとびらなんて見たことないはずだからな。

 

「雄也!旅のとびらが手に入ったんだ!」

 

旅のとびらのことを知っていたピリンがそう言い、エルが質問をする。

 

「ピリン様。旅のとびらとはなんでしょう?」

 

「えーっとね、この中に入ると別の場所に移動できる道具なんだ。わたしはメルキドにいたとき何回か見てるんだ」

 

ピリンの説明に、俺も付け加える。

 

「それに、旅のとびらは持ち主が行きたいところに移動できるらしい」

 

そう言うと、エルは興奮して俺に聞いてきた。

 

「と言うことは、新しい患者様がおられるところに行けるということですね」

 

「そう言うことだ。新しい薬の材料まで見つかるかもしれない。」

 

薬の話をすると、ゲンローワも喜びだした。そして、エルとゲンローワは似たような口癖を言った。

 

「なんということでしょう!これでより多くの患者様をお救いすることができますわね」

 

「なんということじゃろう!雄也よ、新しい薬の材料が見つかったら教えるのじゃ」

 

やっぱりこの二人、どこか似ているな。ただ仲がいいだけでなく、特別なつながりを感じる。年の差があるから、さすがに恋人同士ではないだろうけど。

 

「とりあえず、朝食を食べたら出発するぞ」

 

俺たちは旅のとびらを一旦離れ、調理部屋に向かった。そこで7人で枝豆を食べ、俺は準備を整えた。

みんなも食事を終え、そろそろ旅のとびらに向かおうとしていた時、エルに話しかけられた。

 

「雄也様。あの人たちは誰でしょうか?」

 

エルは町の東側を指差した。そこを見ると、二人のぼろぼろの服を着た男性が、こちらに近づいて来ていた。一人はケッパーのように兵士の兜を被っている男で、もう片方は黒い髪の男性だ。

 

「見たことないが、新しい住民じゃないか?」

 

もし新しい仲間なら、歓迎してやらないといけないな。やがて、二人は町の光の範囲に入った。だが、二人は病人らしく、町にたどり着いたところで倒れた。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

俺とエルは急いでその二人に駆け寄る。幸い、二人はまだ息があるようだ。何の病気か?と思ったが、近づくと彼らは異様な気配を放っていた。

 

「こいつら、本当に人間か!?」

 

俺がそう疑ってしまうほどだった。実際メルキドでピリンに化けていたあくまのきしがいたからな。だが、それとはまた違う様子だった。彼らは間違いなく人間なのだが、人間ではなく、魔物の気配を放っていた。それどころか、禍々しい赤黒いオーラをまとっていた。ただの病でないことは明らかだ。

俺はまず、兜を被っている男性に話しかけた。

 

「おい、しっかりしろ!」

 

「どうやらここがエディ様の墓場になるらしい。オレはもうすぐ死ぬ。お墓くらい、作ってくれよ···」

 

禍々しいオーラや異様な気配があっても気にすることはない。これまでの二人のように、治療するだけだ。

 

「死なせはしないぞ。俺たちが絶対に治してやる」

 

俺はそう言い、エディを病室のベッドに運んだ。もう一人の人と一緒に、エルに見てもらおう。エルなら、この禍々しい病のことも分かるかもしれない。

エディをベッドに寝かせた後に、俺はもう一人の男性に話しかけた。彼も、禍々しいオーラをまとっていた。彼は、話すのがやっとのようだ。

 

「はあっ、はあっ。僕はケン。遠くに見えた光に、ようやくたどり着けました」

 

ケン?日本人みたいな名前だな。ドラクエ世界では珍しい。次に、ケンは聞き逃せないことを言った。

 

「ウルス様のところから、ここに来たんです···」

 

は!?ウルスは確かゲンローワの弟子のはずだが、もう死んでいるはずだ。かなり前にウルスのところにいたのか?それともウルスが生きているのか?だとしたら、あのゲンローワの言い方は何だ?

 

「あんなところで死ぬくらいなら、ここで···」

 

こいつももうダメだと思っているのか。本当にリムルダールは暗い奴が多いな。もちろん死なせる気はないので、俺はケンを背負う。

 

「いや、ここに来たからには、お前は死ななくていい。俺たちが治療してやるからな」

 

俺はケンも病室のベッドに寝かせ、エルに診察を頼んだ。

 

「エル、お前はあの二人の診察をしてくれ。あの二人、ただの病気ではないようだしな」

 

エルは病室に入り二人の診察を始めた。この二人で病室のベッドが埋め尽くされたし、もう2つくらいベッドを作っておいたほうがいいな。俺は作業部屋に入り、2つの木のベッドを作る。それを病室に配置すると、また病室から出た。

今日は旅のとびらの探索にいくはずの日だが、もうひとつ気になることもある。

 

「ウルスが生きているって、どういうことだ?」

 

ケンが嘘をついたとはとても思えないので、俺は調合室に行きゲンローワにウルスのことを聞きに言った。

 

「おい、ゲンローワ。今日ここに来た病人がウルスが生きているって言ってたんだが、どういうことだ?」

 

俺がその話をしても、ゲンローワは答えようとしなかった。

 

「すまぬ。その話はしたくないのじゃ。何しろ、昔の辛い記憶がよみがえってきてしまうからのう···」

 

昔の辛い記憶か···。仮にウルスが生きていたとしても、何かがあったことは確実だ。ゲンローワが答えてくれない以上、知ることはできないが。

 

「別に、気にするほどのことではないか」

 

スネークのように尋問すればしゃべらせることが出来るだろうが、そこまでして知る必要はなさそうなので、俺はそのまま調合室を去った。

 

「今は旅のとびらの探索をするか」

 

ウルスの話は置いといて、今度こそ旅のとびらの中に入った。いつものように一瞬目の前が真っ白になり、離れた場所に移動させられる。

 

「お、熱帯地方みたいだな」

 

旅のとびらで移動したのは、南国風の草原にヤシの木がたくさん生えている場所だった。地球でいえばオセアニアの島のような場所だろうか。とにかく、毒沼だらけの町のまわりより、ずっとキレイな場所だった。空気もこっちのほうがいいな。

 

「さて、早速探索を始めるか」

 

広い草原にはたくさんのスライムベスと芋虫型のモンスター、キャタピラーが生息していた。旅のとびらの近くを調べようと歩き出すと、いきなり目の前に人間の男が倒れていた。

 

「こんな所に人が倒れてるぞ。死んでるのか?」

 

俺が確認すると、その男は生きていて話をしてきた。

 

「き、君は誰?おれはイルマ。もう少しで光にたどり着けるんだ。もう少しで···」

 

なるほどな。このイルマという男は、旅のとびらに入ろうとしたが、直前で力尽きて動けなくなったという訳か。確認すると、イルマも魔物の気配を放っていた。町にいる二人と同じ病気だろう。ベッドを増設しててよかったな。

 

「俺がこの旅のとびらの先にある町に連れていく。そこでなら治療を受けられるぞ」

 

「ああ、ありがとう···」

 

俺はイルマを担いで、すぐに町に戻った。もう午後になっているし、今日は旅のとびらの先の詳しい探索は無理そうだな。

 

「エル、また新しい病人だぞ」

 

町に戻るとすぐに病室に入り、イルマを3つ目のベッドで寝かせる。やはり、この3人は同じ病気で、異様な気配だ。

 

「この方も病にかかっておられるのですか···。本当に、リムルダールは病にあふれていますね」

 

今日1日で3人も病人がやってきた。エルのいう通り、本当にここは病気だらけだな。俺は病室の外で、エルが診察を終えるのを待っていた。

20分ほどたって、ようやくエルが病室から出てきた。

 

「あの3人は、なんの病気だったんだ?」

 

「実は、私も分からないのです。症状としてはエディ様は毒の病、イルマ様はマヒの病に似ています。ケン様は脱水症状を起こしているようです」

 

マヒの病というのもあるのか、初耳だな。症状がそうなだけで、原因は違うってことだよな。同じ毒の病の患者であったケーシーは、あんなオーラをまとってはいなかった。

 

「ですが、原因はさっぱり分からないのです」

 

原因が分からないと、治療も出来ないな。どうしたらいいんだ?

 

「じゃあどうすればいいんだ?」

 

「毒の病に似た症状のエディ様には、どくけしそうを与えて、脱水症状を起こしているケン様には水を与えましょう。マヒの病を治す薬はないので、イルマ様にはニガキノコを食べさせて栄養を与えましょう」

 

今はそのくらいしか対処をする方法しかないのか。しないよりマシだろうから、俺はまずエディにどくけしそうを与えた。エディは苦そうな顔をしてどくけしそうを飲み込む。

 

「何だよ、これ?どくけしそうか?少しだけ楽になった気がするぜ···」

 

効果があるかは分からないが、少しは症状が収まるだろう。俺は次に、イルマにニガキノコ焼きを与えた。

 

「イルマ、食えるか?」

 

イルマは体が痺れてうまく噛めないようだが、なんとかニガキノコ焼きを食べた。少しは栄養がつくはずだ。

 

「ううう、ありがとう。す、少し元気になった気がするよ」

 

イルマにニガキノコ焼きを食べさせ、今度は俺はケンに与えるために木のコップを使い水を汲んだ。

 

「水を持ってきたぞ、飲んでくれ」

 

ケンは俺の持っていたたくさんの水を飲み干す。これで脱水症状からは回復するだろう。だが、3人ともこれで治ってはいないだろう。なんとか治療法を見つけられればよいのだが。

 

「全員に言われた物を与えたが、これで治るのか?」

 

エルも治るのかは不安なようだ。

 

「治るのかは分かりませんが、効果はあったでしょう。彼らが治ることを祈るしかないでしょう」

 

確かにそうだな。3人が病人も来て疲れたし、今日は探索はなしにして、明日から本格的に旅のとびらの先の探索を始めよう。

俺たちはその日、いつも通り夕食を食べ、真っ暗になったらベッドで眠った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode30 マヒ花の牢獄

リムルダールに来て8日目、俺は朝起きるとまず、昨日連れてきた患者たちの様子を見に行った。

 

「少しは良くなってるといいんだが···」

 

だが、俺の期待は裏切られてしまった。病室の中にいたのは、昨日より症状が悪化して苦しむ3人と、それを見て必死に看病しているエルの姿だった。

 

「雄也様、患者様の様子なのですが···昨日より容態が悪化しています」

 

エルもそう見ているようだ。彼らは、全身がかゆいようでひたすらかきむしっていた。昨日はこんなことは無かったのに、どう言うことだ?

 

「ああ、俺にも分かる。どうしたらいいんだ?」

 

俺はそう聞いたが、エルも分からないようだ。なんとか助けられればいいんだが。

俺たちがそんなことを考えていると、寝ているイルマが少し起き上がり、話を始めた。どうしても伝えたいことがあるようだ。

 

「イルマ様、無理をしてはいけません」

 

エルは止めようとしたが、イルマはそれでも話す。とても大切な話のようだ。

 

「君たち、ザッコ見つけてくれた?」

 

雑魚?変な名前だが、イルマの仲間だろうか。

 

「ザッコ?誰だそれは。知り合いなのか?」

 

「ザッコ、おれの友達。ザッコ、マヒの薬探してあなぐら落ちた。助けて、助けてやってくれ···」

 

なんとかそのことを俺たちに伝え、イルマは再びベッドに寝た。友達があなぐらに落ちて出れないということだろうか。確かに心配だな。今日は本格的に旅のとびらの先を探索する予定なので、見つけたら救出しよう。

 

「もちろんだ。お前の友達も、必ず助けてやる」

 

俺は探索の準備をするために病室から出た。作業部屋に置いてあるいしのおのを取り、俺は旅のとびらに向かった。

 

「今日こそは旅のとびらの先を調べて、新しい素材を手に入れないとな」

 

俺は旅のとびらに入り、南国の草原を歩き始めた。かなりの数のスライムベスがいるが、いしのおのを持っていれば、返り討ちにできるだろう。草原を歩いていくと、昨日遠くから見たときよりも大きく見えるヤシの木があった。

 

「メルキドではブナの木を木材に出来たが、ここではヤシの木で木材を作れるのか?」

 

俺は試しにヤシの木をいしのおので斬り倒した。すると、ヤシの木の色をした2つのブロックに変化した。メルキドのものがブナ原木ならこちらはヤシ原木だろう。俺はヤシの木でも木材が作れるか魔法で調べた。最初に木材を作った時はルビスに教えてもらったからな。これまで木材の作り方を魔法で調べたことはない。

木材···ブナ原木 石の作業台

   ヤシ原木 木の作業台

   スギ原木 鉄の作業台

やはりヤシの木から木材を作れるようだ。大倉庫も作れるようになるかもしれない。スギからも作れるようだが、今のところスギの木は見たことがないな。俺はいくつかヤシの木を斬り倒していき、ヤシ原木を10個ほど集めた。

 

「木は集まったけど、まだ気になるものがあるな」

 

ヤシの木に次に新しく見つけたものは、白い石だった。灰色の小さい石は叩くとなにも残らなかったが、これはどうなんだろう?

いしのおので叩きわってみると、消滅せずに細かい砂利のような石になった。

 

「白いほうは素材になるのか」

 

小さい石なんて使い道が思い付かないが、一応俺はポーチにしまった。

それ以外にも、綿毛やふとい枝も落ちており、町の近くの場所より素材が豊富だった。新しい薬の原料になる素材もてに入るかもしれない。

しばらく進むと崖があり、つたがかかっていて上れるようになっていた。だがその崖には、明らかに人工物もかけられていた。

 

「なんだこれ?はしごか?」

 

崖の一ヶ所に、上まで登れるようにかけられているはしごがあったのだ。イルマの話もあったし、この先に人間がいるのかもしれない。つたよりはしごのほうが登りやすいので、俺ははしごで上まで行った。

 

「ここが崖の上か。見たことないモンスターまでいるな」

 

崖の上には、獣型のモンスター、リカントが生息していた。攻撃力が高そうだし、気を付けないといけないな。

それに、モンスターではないが黄色い花がたくさん咲いていた。

 

「黄色い花なんて初めて見たな。これは黄色い花びらになるのか?」

 

俺がその花を刈ってみようとその花に触れた時、いきなり俺の体は痺れて動かなくなった。

 

「な、なんだ!?こ、この花」

 

痺れている間にモンスターがこないか心配だったが、なんとか襲われることはなく再び動けるようになった。

 

「触ると痺れるのか。危険な花だな」

 

痺れても命にかかわることはないが、モンスターに襲われる危険は十分にあるからな。俺は触れないように気をつけてマヒの花を刈っていった。マヒの花は素材にはならず、消滅していった。

 

「これは刈ると消えるのか。取れたら敵を痺れさせる罠が作れそうなんだけどな」

 

モンハンのシビレ罠あたりが作れたら、戦いも楽になりそうだが。

崖の上を進んでいくと、町の近くで見つけたような廃屋があった。中に人はいないが、一冊の本が置かれていた。

 

「この人の本、メルキドでも見たな」

 

その本の著者は、冒険家ガンダルと書かれていた。メルキドのシェルターにも、ガンダルの本があった。

アレフガルド歴程というタイトルで、読んでみると彼の冒険の記録が書かれていた。これはガンダルがリムルダールにいるときに書いたようだ。

 

ああ、こんなおぞましい場所があのリムルダールだとは信じたくはない!リムルダールはかつて清らかな湖に浮かぶそれはそれは美しい島だったはずだ。

 

この人も、俺が最初にリムルダールに着いた時と同じようなことを考えていた。俺も、ここがリムルダールだとはとても思えなかったからな。そのことを思いだしながら、続きを読んでいった。

 

それが、今やどうであろう。草木は枯れ、湖は毒の沼となり、空気は淀んでいる。そして、住民たちの間に得体の知れない病が広がり初めている。リムルダールの人々は今、残された力で懸命に病と闘っている。しかし、人間が完全に物を作る力を失えば、病に抗うことが難しくなり、人間たちは病と闘う力があったことすら忘れてしまうだろう。人が物を作る力を失うことがここまで悲劇的だったとは、私はこのリムルダールの人々を見たときほど、竜王への恐れと怒りを感じたことはない!

 

物を作る力を失えば、人間は弱い存在。だからこそ竜王はその力を奪ったんだろうな。メルキドが滅びたのはどちらかといえば人間のせいだが、こちらは魔物たちに滅ぼされているようだ。

俺は本を読み終えると廃屋を出て、探索に戻った。崖の上を歩いていくと、看板が置いてある遺跡のようなものを見つけた。

 

「何だ?こんなところに看板があるな」

 

俺はその場所に近づき、看板を読んだ。どうやらこれは人間が書いたのではなく、魔物が書いた物のようだ。

 

この下に不届きな人間を閉じ込めた。森に入った罰としてここから出すな。

 

それはともかく、この下に人が囚われているようだ。これは遺跡ではなく、魔物が作った牢屋のようだ。

 

「早く助けないといけないな」

 

俺は地面を次々に壊していき、10メートル下くらいに空間があることを見つけた。その空間には、たくさんのマヒの花が生えていて、イルマと似たような格好をした男が倒れていた。

 

「この人が閉じ込められた人か。今すぐ助けるぞ」

 

俺はあたりのマヒの花を刈り尽くし、倒れている男性に近づいた。

 

「あああ、あんたなんだってこんな所に?オオオ、オイラはザッコ。こここ、この花はやばいべ···」

 

この人がイルマが言っていたザッコっていう奴か。彼はマヒの花の影響か病気なのかで、体が痺れて動けないようだ。

 

「動けないのか?俺が安全な場所に連れていくぞ」

 

俺はザッコをかついで立ち上がった。戻ろうとすると、ここにも看板があることを見つけた。

 

この先、抜け道あり。自分の手で道を切り開け。

 

この壁を壊していけば外に出られるようだが、時間が掛かりそうなのでさっきほった穴を階段状にして、崖の上に戻った。

 

「かついだまま崖を降りるのはキツいな。キメラのつばさを使うか」

 

俺はキメラのつばさを使い、リムルダールの町へと帰還した。病気の可能性もあるので、俺はザッコをエルに見せに行った。

 

「エル、倒れていたザッコって言う人を見つけたぞ。病気かもしれないから、診察してくれ」

 

俺はザッコを4個目のベッドに寝かせ、エルは彼の診察を始めた。ザッコからは禍々しいオーラは感じられないので、イルマたちとは違う病気だろう。

今回はエルも病気の原因が分かったようで、俺に伝えてきた。

 

「ザッコ様は、この地にある病の一つ、マヒの病のようです。それに効く薬はまだありませんが、昨日の患者様と違い、私の知っている病気です」

 

イルマはマヒの病に似ているけど別の病気で、ザッコは確実にマヒの病という訳か。なんとか薬を作れたらいいのだが。

とりあえず今は、栄養をとってもらうために、ニガキノコ焼きを食べさせた。あんな場所に閉じ込められていたのだから、腹も減っているはずだ。

 

「早くマヒの病を治せる薬を作れるといいな」

 

俺はザッコにニガキノコ焼きを与えると、看病をエルに任せて病室から出た。すると、ケーシーから話しかけられた。

 

「雄也、ちょっといいか?」

 

ケーシーは病気が治った後町の仲間として活躍しているが、何の相談だろう。

 

「もちろんだ。話してくれ」

 

「ピリンって子から聞いたけど、あんた、伝説のビルダーなんだって?」

 

ピリンはそんなことをみんなに教えていたのか。エルも言ってたけど、リムルダールでもビルダーは伝説なんだな。

 

「そうだが、どうしたんだ?」

 

「この前、あんたは病気のあたいに水を飲ませてくれただろう。だけど、あんまりおいしい水じゃなかったんだ」

 

この地方の水は汚染されてるし、少しでもキレイな水を使ったはずなんだけどな。メルキドに比べれば、それでも汚いが。

 

「あんたたちも、美味しい水が飲みたいだろうし、病気の治療にも必要だと思うんだ」

 

確かにキレイな水のほうが、衛生的にいいよな。でも、あれ以上キレイな水はこの地方にはないのだが。

 

「じゃあ、どうすればいいんだ?」

 

「あんたたちが使ってる水場に、青い石があっただろ?あれは新鮮な水がわき出る石なんだ」

 

リムルダールに来たとき気になったあの石は、そんな効果があったのか。

 

「それで、外の空気で水が汚染されないように室内の水飲み場を作って欲しいんだ」

 

確かに外の空気が原因で水が汚くなっているのはあるだろう。いつものように俺が中に置く物を作り、ケーシーに建物をくみたたてもらえば、作れるはずだ。

 

「分かった。ケーシーは建物を組み立ててくれ。俺が家具を作るから必要なものを教えてくれないか?」

 

「あたいは、ツボが2つと、クッション付きのいすと収納箱とたらいが一つずつがいいと思うんだ」

 

水を貯めて置くためのツボと汲むためのたらいと座るためのイスか。収納箱は魔法の道具なので水も入るだろうからこれも水を貯めるためだろうな。

 

「確かにそれがいいな。持ち運び収納箱と土ブロックを渡しておくから、そっちは頼んだぞ」

 

俺はケーシーに持ち運び収納箱と100個くらいの土ブロックを渡し、作業部屋に入った。

 

「今作り方が分からないのは、クッション付きのいすだけか」

 

クッションは何で作るのだろうか?俺は魔法でクッションいすの作り方を調べた。

クッションいす···木材1個、綿毛1個

木材でいすの足を作り、綿毛でクッションを作るという訳か。今ある物で作れるそうだな。

俺はヤシ原木を木材に加工し、それからクッションいすを作った。やわらかいクッションで、かなり座り安そうだ。メルキドで作った石のイスは一応毛皮をクッションにしていたがあまり座り心地はあまり良くなかった。

 

「あとは知ってるものだらけだな」

 

クッションいすが出来上がると、次に俺はツボやたらい、収納箱を作り、入り口につけるためのわらのとびらを作った。

 

「あとはケーシーが建物を組み立てるのを手伝うか」

 

作業部屋の外に出て見たが、ケーシーはまだ水飲み場の建物を作っている途中だった。3段目の壁が出来上がっていたところなので、俺は屋根をつけるのを手伝った。

完成させた後、中に入ると25平方メートルの大きさの部屋で、10平方メートルの水場があった。

 

「あとはこれを設置して出来上がりだな」

 

俺は水飲み場の中に作ってきた物を置き、最後に入り口に扉をつけた。俺はだいたい、扉は最後に設置する。

 

「ケーシー、これでお前が言ってた通りの水飲み場になったぞ」

 

水のことなんて気にしたこともなかったし、結構ケーシーは細かいことを気にするタイプなんだな。

 

「ありがとう雄也!立派な水飲み場じゃないか。病気で死んだじいちゃんがよく言ってたんだ。健康な体を作るには、美味しい水が一番だって」

 

確かに地球でもキレイな水は体にいいと言われるしな。そう考えると、大切なことなのかもしれないが。

 

「そうだな。これからは病人にはここのキレイな水を飲ませよう」

 

俺は水飲み場を作った後、ケーシーと別れて昼食を食べに調理部屋に入った。

その日の午後、俺たちはみんなで旅のとびらの先に行き、石炭などを発見したが、まだ全域を調べることは出来ず、薬の材料などは発見出来なかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode31 釣り人の隠れ家

リムルダールに来てから9日目、俺が朝食の後町の中を歩いていると、ノリンに話しかけられた。

 

「なあ、雄也よお。今のこの町の空気を読まずに、不謹慎なことを言ってもいいか?」

 

不謹慎なことって、何を考えているのだろうか。改まって言うってことは、相当ふざけた話なのだろう。

俺は真面目な話よりもふざけた話のほうが好きなので、もちろん言ってもいいが。

 

「いいぜ。俺はそういう話は大好きだからな」

 

「絶対に怒らないって、約束してくれるか?」

 

ふざけた話が好きな人でも、怒るレベルの話なのか?それでも一応聞いてはみるが。

 

「もちろんだ。とりあえず言ってくれ」

 

俺がそう言うと、ノリンはしばらく息を吸い込んだ後、大声で言った。

 

「病気だかなんだか知らねえけど、この町なんか空気が重いんだよおおおー!リフレッシュしてえよお!自然と戯れてキャッキャウフフしてえよお!はあ、はあ、はあ」

 

大声で言い過ぎたのか、ノリンは言ったあとは少し息を切らしていた。急に大声を出していたので、俺は一瞬ノリンがおかしくなったかと思った。

この町の空気が重いか、俺は意識していなかったが、よくよく考えるとそうかもしれない。病気だのなんだので、暗い雰囲気が漂っていることは確かだ。だが、そんなことを言われてもこんな環境なんだから仕方がない。

 

「それは分かるが、病気の流行っている場所だから仕方ないぞ」

 

「いや、そんな中でも、リフレッシュする方法を思いついたんだ!」

 

こんな場所でリフレッシュする方法?俺には思い付かないな。

 

「オレは釣りができればリフレッシュ出来ると思う。お前もそう思うだろ?」

 

魚釣りか。確かに病気のことなども忘れて楽しめるかもしれない。俺は魚釣りにはあまり興味がないが、魚をとれるようになれば、食料危機になることもなさそうなので、できたら便利かもしれない。

 

「俺はあんまり興味はないが、釣りが出来たら確かにいいな」

 

この世界ではどんな魚が連れるか分からないが、食べられる魚もあるだろう。

 

「やっぱりそうだろ!そこでだ、リリパットの里にいる釣り名人に、釣竿の作り方を聞いてきてほしいんだ」

 

リリパットの里なんて聞いたことないな。今ある旅のとびらで行けるかどうかも分からないし。

 

「リリパットの里ってどこにあるんだ?」

 

きのうみんなで旅のとびらの先に探索に行ったが、その時に見つけたのだろうか。

 

「昨日マヒの花を見たから間違いない。リリパットの里は、マヒの森と同じ場所にあるからな」

 

やはりその時に見つけたのか。みんなで行くと俺だけでは探索しきれない場所も見つけられていいな。

 

「そのマヒの森って言うのは、どこにあるんだ?」

 

俺が聞くと、意外に行ったことのある場所の近くのようだ。

 

「旅のとびらからまっすぐ進んだ所に高台があるだろ?マヒの森はその高台を越えた向こう側だ」

 

その高台にはザッコを救出した時に登ったあのマヒの花が咲いている場所のことだろう。そう言えば、反対側は見ていなかったな。

 

「分かった。その釣り人が魔物に襲われてるかもしれないし、行ってくる」

 

釣竿は地球で何度も見たことがあるので作れるから行かなくてもいいと思っていたが、そう言う訳にはいかないようだ。

リリパットの住処なんかに迷いこんだら、弓で殺されてしまうだろう。早めに見つけて、救出してやらないとな。

 

「頼んだぜ!釣竿の作り方を聞いてきてくれよ」

 

俺の目的はそこじゃないんだけどな。とりあえず俺は、旅のとびらに入り、南国の草原へ移動した。昨日は避けていったが、油が不足する可能性もあるので、たくさんいるスライムベスを倒しながら進んで行った。

途中、メルキドでもみたことのある銀色のスライムもいた。

 

「メタルスライムか···リムルダールにもいるんだな」

 

現実にはレベルの概念がないので特に狩る意味はないが、メタルゼリーというのも何かに使えるかもしれない。俺はメタルスライムの背後に忍び寄り、いしのおのを持って力を込めた。

 

「回転斬り!」

 

体が小さいため真っ二つにされて、メタルスライムは青い光になった。そして、やはり銀色の液体、メタルゼリーを落とした。これを武器に使えれば結構便利なんだが。

俺は一応、作り方を調べてみた。

メタルの剣···メタルゼリー1個、鉄のインゴット1個 神鉄炉と金床

      メタルゼリー1個、さびた金属1個 仕立て台

おっ、メタルゼリーで武器が作れるようだな。しかもメルキドであった素材で作れたようだ。あの時に作っておけばよかったな。

 

「リムルダールで作れるかは、微妙だな」

 

リムルダールでは銅や鉄を見かけていないので、炉は作れなさそうだ。もう1つの仕立て台とやらを作れればいいのだが。

俺はメタルゼリーをポーチにしまい、昨日も登った崖の上に行った。この崖の反対側は、まだだれも探索したことがない。

 

「ん、なんか看板があるな」

 

進んでいくと、崖の反対側に降りられる場所に、また魔物が立てたと思われる看板があった。

それには、この先マヒの森。近づくべからず。と書かれていた。

 

「マヒの森か···いかにも危険そうな名前だな」

 

俺が崖の下を見下ろすと、川があり、その先にたくさんのヤシの木が生えた大きなジャングルがあった。そのジャングルには、多くのマヒの花が咲いている。ノリンいわく、ここにリリパットの里があって、釣り名人がいるらしい。

 

「広い森だな。調べるのは時間がかかりそうだ」

 

それと、ジャングル以外にも人がいそうな場所があった。川を渡る前のところに、海に面した壊れた家があるのだ。とびらもついていないが、人がいる可能性はある。

 

「森は大変そうだし、さきにあの家を調べるか」

 

俺はつたを使って崖を降り、その家に向かった。ここに釣り名人がいるといいのだが。

外から覗くと、中にわらベッドも置いてあり人が住んでいる痕跡があった。

 

「おい、誰かいるか?」

 

俺が声をかけてその中に入ると、人間ではない者がいた。なんと、リリパットがいて、俺の方へ振り向いてきたのだ。

 

「おお、ニンゲンじゃネーカ!」

 

何か声もかけられたが、俺は反射的にいしのおのを取り出してしまった。だが、よく見るとそのリリパットには俺を攻撃する気はないようだ。

 

「いきなり慌てるナンテ、オマエおもしれーやつダナ!」

 

それどころか、普通に話しかけてきた。リリパットも会話ができるモンスターのようだ。

おおきづちだけでなく、リリパットにも人間に友好的な奴がいるようだ。もしかしたら、釣り名人の居場所を知っているかもしれない。

 

「ソンデ、何しにここに来たンダ?」

 

「リリパットの里に釣り名人がいるって聞いたんだが、知らないか?」

 

すると、そのリリパットは釣竿を取り出して言った。

 

「間違いネエ、それはオレのことダナ」

 

え!?釣り名人って言ったのに、人じゃないのかよ。こいつが本当のことを言っているかは分からないが。

 

「本当なのか?」

 

「ああ、名人ナンテ言うから、ヒトのことだと思ったんダロ?でも、ヒトじゃねえがオレがこの里の釣り名人ダ」

 

リリパットはそう言うが、簡単には信じられないな。俺がそう思っているのに気付いたのか、リリパットはこう言った。

 

「じゃあ、オレが釣りをするところをみせてヤルヨ!」

 

そう言って、リリパットは釣竿の先を海に入れた。俺はしばらく見ていたが、3分くらいで魚が食いついた。

 

「今ダナ!」

 

リリパットは釣竿を一気に引き上げ、食いついた魚を釣り上げる。食いついたのは、俺が見たことのない銀色の魚だった。

 

「何だこの魚?」

 

「このマヒの森の近くの海で釣れる、銀遊魚っていう魚ダナ」

 

この世界で釣れる魚は、地球のものとは異なるようだ。これ以外にも、たくさんの種類の魚が釣れるのだろう。

俺がいろいろ考えていると、リリパットは釣れた銀遊魚を渡してきた。

 

「この魚ヤルヨ!この魚はマヒの薬の原料になるンダ。もしマヒの病を患っているヒトがいたら使ってヤレヨ」

 

これがマヒの病に効くのか。まだ薬の作り方や他の原料は分からないから、後でゲンローワに聞こう。

 

「ああ、ありがとうな」

 

俺は銀遊魚をポーチに入れ、帰ろうとしたが、リリパットは俺に頼みたいことがあるらしい。

 

「ちょっと待ってクレ。実はこの前大物を釣り上げて、この釣り場の壁を壊しちまってナ!」

 

この家の壁に所々穴が空いていたのは、そう言う理由だったのか。それを直してほしいということだろう。

 

「それを直せばいいのか?」

 

「そう言うことダ。仕事サボって釣りしてんのが仲間にバレるからな···」

 

確かに見つかったら怒られそうだな。銀遊魚をくれたこともあるし、壁を修理してやるか。

俺は土ブロックを使い、壁の隙間を埋めていった。10個くらいの穴だったので、すぐに塞ぐことができた。

 

「これで壁が直ったぞ」

 

これで見つからずに釣りができると、リリパットは安心する。

 

「ありがとう!これで釣りにボットウできんナ!そうだ、オマエにオレの使ってる釣竿の作り方を教えてヤルヨ!」

 

リリパットはお礼に釣竿の作り方も教えてくれるらしい。釣竿は形が分かっているので作れるが、リリパットの釣竿のほうが性能は良さそうだ。

 

「分かった。教えてくれ」

 

リリパットの釣竿は、俺が知っている地球の釣竿とは少し違う形だった。作り方を聞くと、俺は必要な素材を魔法で調べた。

つりざお···ふとい枝1個、ひも1個、巨大なツノ1個 石の作業台

     ふとい枝1個、ひも1個、ニガキノコ1個 木の作業台

     ふとい枝1個、ひも1個、サボテンフルーツ1個 鉄の作業台

何か、巨大なツノとか食べ物が混じっているな。ふとい枝は持ち手で、ひもは釣糸の役割だろうが、ニガキノコなどは何なのだろうか?エサなのかもしれないが、それだと1回で無くなるはずだ。それに、巨大なツノがエサになる訳がない。

とりあえず、ふとい枝もひももニガキノコもあるので、俺とノリンの二人分作れそうだ。

 

「教えてくれてありがとうな」

 

「バンバン魚を釣って、イダイな釣り人になれよ!」

 

俺は作り方を教えてもらった後、お礼を言ってリリパットの家を去った。偉大な釣り人か···ノリンならなるかもしれないな。

 

「戻ったら早速作るか」

 

俺はキメラのつばさで町に戻り、作業部屋に入った。

 

「二人分作ったら、早速釣りに行くか。食い物が枝豆とニガキノコしかないしな」

 

これまではうまいものは食べられなかったが、今日からは魚が食べられるようになるな。

俺は魔法でつりざおを作り、ノリンに渡しに行った。

 

「ノリン、つりざおを作ってきたぞ」

 

俺がつりざおを渡すと、ノリンはロロンドくらいにハイテンションになった。よっぽど釣りをしたかったんだろうな。

 

「うおおおーーー!よくやった雄也!これで釣りを楽しめるぜ!」

 

「ああ、食料に困ることもなさそうだな」

 

うまく釣れれば、の話だが。つりざおを受けとると、さっそくノリンは俺を釣りに誘った。

 

「オレは今から釣りに行ってくる。雄也も来るか?」

 

俺はその予定だったので、もちろんOKの返事をする。

 

「もちろんだ。そのほうがたくさん魚を釣れるしな」

 

俺たちは、つりざおを持って旅のとびらに入った。旅のとびらに入ってすぐのところに海があるからな。

 

「おおーー!ここならうまい魚が釣れそうだ!」

 

俺たちは海につりざおの先を入れる。しばらくは釣れないんだろうな、と思っていたが、ノリンのつりざおに、始めて5分くらいで反応があった。

 

「お!何かかかったぜ!」

 

ノリンがさおを引き上げると、地球でも見たことのある魚、イワシが釣れた。地球と同じ魚も釣れるようだ。

初めて魚を釣って、ノリンはものすごく喜んでいる。

 

「おお!うまそうな魚だな!もっと釣って、今日は魚まつりだ!食って食って食いまくるぜ!」

 

ノリンは結構大食いなのかもな。それに結構テンションが高いし、ふざけた話もしている。

防衛戦の時に逃げ回っていてなんだこいつ?と思ったが、ノリンとは気があいそうだ。

 

「そうそう、魚ってのは栄養満点でな。病気の患者にも食べさせてやるよ」

 

それに、ノリンも病人のことを考えてくれているようだ。たくさん釣って、病室にいる四人にも食べさせてやらないとな。

その日、俺とノリンで夕方まで釣りをし、25匹くらいのイワシを釣り上げた。この海域には、イワシしか生息していないらしい。

 

「そろそろ夜だぞ、戻らないといけない」

 

「分かった。帰ったら焼いて食うぞ」

 

ノリンはかなり腹が減っているようだった。イワシもポーチに入るらしく、俺たちは中に入れて持ち帰った。帰ったら、みんなで魚を食べるか。俺たちは魚を食べるのを楽しみにしながら旅のとびらをくぐり、町へと戻った。

 

「オレが調理するぜ。イワシを11匹渡してくれ」

 

確かにオレは料理はピリンよりはマシだけど上手くないからな。俺はノリンにイワシを渡し、料理を任せた。11匹ってことは、俺たち7人と病人4人の分か。

その日の夜、俺たちは1人一匹ずつ魚を食べた。まだ満腹にはならないが、これまでの食料よりはお腹いっぱいになった。俺が食べ終わった後は、病室にいるエディ、ケン、イルマ、ザッコに食べさせた。これで治るとは思えないが、少しは体力がついただろう。

そして全員が食べ終わった後は、明日に備えて寝室で寝た。明日で10日目だ。早く病人を治してやらないとな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode32 麻痺の森

リムルダールに来て10日目、俺はゲンローワにマヒの病の原因について相談しに行った。俺は昨日見つけた、マヒの森という所にその原因があるのだと思っている。

 

「ゲンローワ、マヒの病の原因がいそうな場所が分かったぞ」

 

俺の話を聞き、ゲンローワはすぐに調合室から飛び出してきた。

 

「おお、それはまことか?さっそく教えてはくれぬか」

 

「俺の予想では、旅のとびらの先にあるマヒの森というところに、その原因があると思う」

 

マヒの森っていう名前からして、その可能性は高い。そこに何がいるのかはまだ分からないが。

 

「お主もそう思っていたか。実は、わしもマヒの森の中にマヒの病の感染源がいると思っておったのじゃ」

 

どうやら、ゲンローワも同じことを考えていたようだ。

またマヒの病にかかる人がでないように、早めに感染源を絶たなければいけないな。

それと、俺はもう1つゲンローワに言いたいことがあった。

 

「病の感染源のこともそうだが、マヒの病に効く薬の作り方は知らないか?」

 

イルマやザッコを助けるために薬の作り方を聞いたが、ゲンローワは分からないようだった。

 

「わしも知らぬのじゃ。マヒの病が、どんな仕組みで発症するかなどのことが分かっておらぬからな」

 

もう少し研究を進めないと、マヒの薬は作れないのか。あとどのくらいかかるのだろうか。

 

「なら、いつマヒの薬を作れるようになるんだ?」

 

「わしも早く作りたいのじゃが、さっきも言った通りマヒの病に関する情報なくてのう。じゃが、マヒの病の感染源が分かれば研究も進むじゃろう」

 

薬を作るのにもマヒの病の元凶と戦う必要があるってことか。魔物に支配された世界だからな、病気の治療を行うにしても魔物との戦いは避けられない。

 

「分かった。マヒの森に行ってマヒの元凶を見つけてくる」

 

俺はマヒの森にはあまり入りたくないが、病人のために行くことにした。今回は毒の病の元凶とは違い何が出てくるか分からない。気を付けていかないとな。

 

「雄也よ、頼んだぞ」

 

俺はゲンローワとの話を終えて、いしのおのを持って旅のとびらに入った。まだ草原の右側のほうも探索しきれていないが、俺は崖のほうへ向かった。

 

「この崖を登り降りするのも、もう3回目だな」

 

メルキドでもそうだったが、この世界には崖が多くて移動が大変だな。俺は落ちないように気をつけながら崖を登り、反対側の崖まで進んでいく。

 

「この下の川を越えれた先がマヒの森か···」

 

俺は昨日も思ったが、マヒの森はマヒの花やヤシの木がたくさん生えたジャングルなので、あまり入りたくはない。

だが、そう言う訳にもいかないので、俺は崖を降りて川の所へ行く。川の水で濡れないように、俺は土ブロックで川に橋をかけていった。

そして、その川を渡ると、いよいよマヒの森の中に入っていく。

 

「外から見ても思ったけど、やっぱり気味が悪いな」

 

マヒの森の中は気温も湿度も高く、非常に居心地の悪い場所だった。どこから危険生物が出てきてもおかしくない雰囲気だ。

 

「それに、キャタピラーがいたり、マヒの花がはえてたりするな」

 

森の中には、崖のところとは比べ物にならないほどたくさんのマヒの花がはえており、進むのが難しかった。だが、多くの植物のおかげで俺はキャタピラーに見つからずに進むことが出来た。

 

「そういえばこれまで、メタルギアみたいに敵の拠点に潜入することってなかったよな」

 

そこで思い出したが、俺は最初メタルギアのスネークのような行動をしようと思っていたが、これまでする機会がなかったな。いかにも魔物の拠点っぽいピラミッドでも、最深部にしか敵はいなかった。

ここは森なので魔物の拠点ではないにしろ、たくさんの敵に見つからないように進んでいく、いわゆるスニーキングミッションではあるだろう。

 

「とりあえず、キャタピラーに見つからないようにしないとな」

 

キャタピラーとはまだ戦ったことはないが、油断の出来ないモンスターだろう。俺は植物の影に隠れながらマヒの森の奥へ奥へと進んでいった。途中、変わった植物もいくつか見つけた。

 

「なんだこの巨大な花?すごく臭いな···」

 

森の中に、直径1メートルほどはあるであろう強烈なにおいを放つ巨大な花が咲いていた。恐らくラフレシアとかいう花だろう。地球にいた時にテレビで見たことはあるが、実際に見たのは初めてだ。

 

「これも素材になるかもしれないが、いらなさそうだな」

 

ラフレシアはあまり素材にならなそうだし、もしなるとしても臭そうなので、回収せずにそのままにしておいた。

ラフレシアのところを離れた後20分くらい、マヒの花とキャタピラーを避けながら、マヒの森の奥へと潜入していった。

そして、森の中心部と思われるところに木がないところがあり、大きな穴があいていた。

 

「なんだこれ?木がないぞ」

 

そこに近づくと、2体のリリパットもいた。彼らは痺れて動けないようで、俺に攻撃してくることはなかった。もしかしたら、こいつらも味方かもしれないな。

俺は、ここに何があるのか一応聞いてみた。

 

「おい、ここには何があるんだ?」

 

「ココハ、キャタピラーの巣ダ。早く壊してミンナを助けナイト、リリパットはゼンメツダ!」

 

キャタピラーの巣か。こいつらは痺れているみたいだし、キャタピラーがマヒの病の元凶なのかもしれない。

 

「そのキャタピラーがマヒの元凶なのか?」

 

リリパットは体が痺れていながらも、なんとかうなずいた。

 

「そうダ。キャタピラーが現れてから、マヒの病になるリリパットが出たんダ。ニンゲン、キャタピラーの巣を破壊してクレ」

 

このリリパットは味方みたいだし、町のみんなも助けないといけないからな。俺はもちろん、キャタピラーと戦う気でいた。キャタピラーは見た目が気持ち悪いが、なんとか我慢しよう。

 

「分かった。ちょっと待っててくれ」

 

俺がキャタピラーの巣であるらしい森に空いた穴に入ろうとすると、もう片方のリリパットが俺にこんなことを言ってきた。

 

「そこをドケ!キャタピラーの巣はワタシが破壊するのだ!ニンゲンは帰ってクレ」

 

そう言われても、放っておけばさっきの奴が言っていたようにリリパットが全滅するかもしれない。それに、こんなことを言っているリリパットも、痺れて動けない様子だった。

 

「無理はするな。俺が戦ってくる」

 

リリパットにそう返事をして、俺はキャタピラーの巣の中に入っていった。そこには、小さいサイズだがかなりの数のキャタピラーがいた。

 

「すごい数だな···それに巣穴が3つある」

 

それに、キャタピラーが次々に出てきている巣穴もあった。これを壊せば、マヒの病は終息するだろうな。

俺はいしのおのを握り、キャタピラーの群れに斬りかかっていった。

 

「全員切り刻んでやるぜ!」

 

俺を見つけると、キャタピラーは次々に体を回転させて襲いかかってくる。俺はそれをかわすか斧で受け止めるかして防ぎ、次々に切り裂いていった。

巣から出てきたキャタピラーは生まれたてなのか弱いようで、一撃で倒すことができた。

 

「こいつら、結構弱いな。赤ちゃんか?」

 

だが、子供がいるということは親のキャタピラーもいるはずだ。そいつが出てきてもいいように、気を引き締めてかからないとな。

俺は何十体もキャタピラーを倒していき、巣穴のあるところまでたどり着いた。かなりの強度がありそうだが、いしのおのでも壊せそうだ。

 

「回転斬り!」

 

俺が回転斬りを放つと、キャタピラーの巣穴にはヒビが入った。もう少し攻撃すれば壊せそうだ。他の2つの巣穴から迫ってくるキャタピラーをかわしながら、上から思い切りいしのおのを叩きつける。

 

「よし、あと2つ壊せばいいな」

 

2度も強力な攻撃を受け、キャタピラーの巣穴はバラバラに砕け散った。しかし、その事に怒ったのか、他の巣穴からものすごい数のキャタピラーが飛び出してきた。

 

「100体はいそうだな···」

 

だが、キャタピラー自体はやはり弱いので、回転斬りを使って他のキャタピラーの巣穴までたどり着くことができた。

 

「これで2個目だ!回転斬り!」

 

そのキャタピラーの巣も、回転斬りともう一発攻撃を叩き込めば壊せるはずだ。だが、そんなところでさらに激しくキャタピラーが飛び出してきた。倒せば倒すほど出てくるようになり、倒すのが追い付かない。

 

「クソッ、どんだけいるんだよ!?」

 

キャタピラーを殺すことは可能だが、巣穴を封じない限り1000体は余裕で出てくるだろう。

町のみんなを連れてこればキャタピラーも巣穴も対処できるだろうが。一度戻れば敵も戦力を増やしてくるはずだ。ここは俺一人で決着をつけないといけない。

 

「そうだ!リムルダールについた時にルビスから貰ったこれがあった」

 

俺はとっさに思いつき、ルビスに貰ったこんぼうを取り出した。この弱いキャタピラーなら、こんぼうでも倒せるだろう。俺はこんぼうを左手に持ち、それでキャタピラーを倒し、右手に持っているいしのおのでキャタピラーの巣を潰した。

 

「二刀流にすると強いな」

 

片手だけでは倒すのが精一杯だったが、両手を使えば2倍の攻撃ができる。ゲームでは出来ないことも、リアルでならできることもあるな。

 

「よし、残り1個も潰すぞ!」

 

俺はこんぼうといしのおので大量のキャタピラーをなぎはらっていき、巣穴のところに到達すると、左手で出てくる奴を倒し、右手で何度も巣穴を切り裂いた。

そして、ものすごい数のキャタピラーを倒し、すべての巣穴を破壊した時、子供のキャタピラーの何倍もの大きさを誇る、巨大キャタピラーが出現した。

 

「こいつが奴らの親で、マヒの病を振り撒いた元凶だな」

 

巨大キャタピラーは、俺を強くにらみつけていた。子供を大量に殺されたことで怒っているのだろう。

強そうだが、こいつを倒さないとマヒの病は治せない。俺はいしのおので、巨大キャタピラーに斬りかかった。攻撃は通るが、子供のように一撃で死んだりはしない。

反撃として、巨大キャタピラーは力をため始めた。回転しながら突進してくる攻撃の前兆だ。

 

「動きは子供と変わらないな」

 

だが、巨大キャタピラーの突進はとてもスピードが速く、今の俺でもかわすことは出来なかった。俺はすぐにこんぼうといしのおので受け止めたが、衝撃でこんぼうが砕けてしまった。

 

「こんぼうが壊れただとっ!?」

 

防げなかったら危なかっただろう。しかし、攻撃の反動で巨大キャタピラーも動きが止まった。ここで仕留めないと危険だろう。

いくら巨大だと言えども、キャタピラーは細長い体なので回転斬りで真っ二つにできそうだ。

 

「くらえ、回転斬り!」

 

俺は巨大キャタピラーの顔に向かって攻撃を放った。当たる寸前に巨大キャタピラーは体制を立て直し、俺を尻尾の針で突いてきたが、その尻尾も斬り飛ばすことが出来た。

そして、巨大キャタピラーを真っ二つにして倒すことが出来たが、俺の持っていたいしのおのも砕けちってしまった。

 

「いしのおのも壊れたか。敵に遭遇したら危険だし、キメラのつばさで帰るか」

 

俺がキメラのつばさを取り出すと、後ろにいたリリパットが文句を言ってきた。さっきそこをどけなんて言っていた奴だ。

 

「ジャマをするなと言ったはずだぞ、ニンゲン」

 

全く、苦労して巨大キャタピラーを倒したというのに、何て失礼な奴だ。そう思っていると、人間に友好的なもう一体のリリパットがそいつを注意する。

 

「オイ、助けてくれたニンゲンに対して失礼ダゾ。オマエにとってはジャマだったかもしれんが、助けてくれたことに変わりはナイ」

 

そして、そのリリパットは俺に感謝の言葉を言う。

 

「ありがとうナ、ニンゲン。レイを言うヨ」

 

「ああ、そっちも元気でがんばれよ」

 

俺はリリパットにそう言うと、キメラのつばさでリムルダールの町へ帰還した。そして、すぐにゲンローワにキャタピラーのことを話に行った。

 

「ゲンローワ、マヒの病の元凶を倒してきたぞ!」

 

「よくやったぞ、雄也!それで、マヒの病の感染源はなんだったのじゃ?」

 

俺の話を聞き、すぐにゲンローワは部屋から飛び出してくる。最初は暗い人だったが、今はそうでもなくなって来ている。

 

「キャタピラーがマヒの病の元凶だった。ドロルみたいに病原体は手に入らなかったが、それでもいいか?」

 

俺はさっき巨大キャタピラーを倒したところを見たが、病原体らしき物は落ちていなかった。

 

「大丈夫じゃ。これから薬の作り方を考えてくる。ちょっと待っててくれ」

 

今回は病原体がなくても大丈夫なのか。ゲンローワは、薬の作り方を考えに調合室に入っていった。

1時間くらいたって、ようやくゲンローワは調合室から出てきた。

 

「雄也よ、マヒの薬の作り方を閃いたぞ。さっそくお主に作り方を教える」

 

これでイルマとザッコに薬をあげることができるな。ゲンローワに薬の話を聞くと、今回は草を集めた物ではなく、まんげつ丸と言う黒色の丸薬らしい。俺はその作り方を確かめる。

まんげつ丸···白い花びら1個、銀遊魚1個、マヒ針1個

白い花びらはたくさんあるし、銀遊魚も釣り名人から貰ったものがあるな。マヒ針は名前からして通常の大きさのキャタピラーが落とすだろう。確か旅のとびらに入ってすぐのところにもいたはずだ。

 

「どうじゃ雄也、作り方は分かったか?」

 

「ああ、素材が集まったらすぐに作る」

 

ゲンローワの話を聞き終えると、俺は作業部屋でおおきづちを作り、再び旅のとびらに入った。すると、やはり入ってすぐのところにある草原に、キャタピラーが生息していた。

 

「こいつも後ろから忍び寄って回転斬りで倒せばいいな」

 

おおきづちで殴ってもかなりの威力はあるので、すぐに倒せるだろう。俺はキャタピラーの背後にまわり、おおきづちに力をためた。

 

「回転斬り!」

 

そういえば打撃武器なのに回転斬りというのはおかしいが、あまり気にすることではなさそうだ。回転斬りだけでは死ななかったが、胴体を何発か殴ると、キャタピラーはついに倒れた。

 

「お、やっぱり針を落としたな」

 

そのキャタピラーは、大きな針を落とした。おそらくこれがマヒ針だろう。俺はそれをポーチに入れて町へ戻り、調合室に入った。

 

「これでまんげつ丸が作れるはずだ」

 

3つの素材を調合ツボに入れて魔法をかけると光を放ち、姿を変化させていく。そして、ゲンローワから聞いた通りの、黒色の丸薬が3つできる。

 

「これがまんげつ丸って奴か。さっそくあの二人にあげないとな」

 

一度に3つ出来たので、もう一度素材集めに行く必要もない。俺は病室に入って、二人にまんげつ丸を飲ませた。

 

「これで治るといいんだが···」

 

ザッコは確実にマヒの病らしいのでこれで治るだろうが、イルマは原因不明なので治るか分からないな。今は彼が回復することを祈るしかない。

 

その日は、地球時間でいう午後4時ごろになっていたため、それ以上探索には行かず、夕食を食べて俺たちは眠りについた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode33 朽ち果てし亡骸

リムルダールに来て11日目の朝、俺は昨日まんげつ丸を与えたイルマとザッコの様子を見に、病室に入った。

 

「あいつら、治ってるといいんだけどな」

 

病室では早起きしたエルが病人の様子を見ていて、ザッコが起き上がっていた。どうやら、まんげつ丸は効果があったようだ。

彼は、俺を見つけて話しかけてきた。

 

「あんた、もしかしてオイラを助けてくれた人だべか?あんがとな!」

 

ザッコは元気になり、普通に話せるほどまで回復しているようだ。そして、俺はザッコに対して、いつも通りの自己紹介をした。

 

「俺は影山雄也だ。いつもは雄也って呼んでくれ」

 

「雄也さんって、言うのか!よろしくな!」

 

ザッコは笑顔であいさつをした。これで町の仲間も8人になるな。最終的にはどれくらいまで増えるんだろうか。俺がそんなことを考えていると、ザッコは笑顔から、心配そうな顔に変わった。

 

「あとはまだ起き上がれねえ、友達のイルマを治してやりてえが···。オイラとは、違う病気かもしれないべ」

 

やはり、友達のことが気になっているのか。かもしれないじゃなくて、確実に違う病気だ。イルマにもまんげつ丸を与えたが、回復する様子は全くない。むしろ酷くなっている様子だ。禍々しいオーラもだんだん強くなってきている。

 

「ああ、明らかに違う病気だな」

 

「雄也さんもそう思うべか。オイラ、隣で見てたんだけどよお、ずっと身体をかゆがって血が出るまでかきむしってやがんだぞ?」

 

俺は知らなかったが、確かに3人の身体を見るといくつも出血した跡がある。こんな症状を起こさせるモンスターなんて、見当もつかないな。だが、なんとしても助けないといけない。

 

「今は治す方法はないが、必ず治してやりたいな」

 

俺がそう言うと、ザッコは少し安心した顔をする。

 

「ありがとう雄也さん。絶対に治してやるって、約束だべ?」

 

「もちろんだ」

 

俺がその返事をすると、ザッコは病室の外へ出ていった。この町のことを気に入ってくれるといいのだが。

 

「雄也様、ザッコ様を治すことができましたね」

 

ザッコが出ていくと、エルが俺に話しかけてきた。病人を治すことができて、エルも嬉しいだろう。

だが、エルもザッコと同じように治らない3人を心配しているようだ。

 

「しかし、治療を行ったはずなのに治らないどころか、逆に悪化していく患者様が多くいらっしゃいます。彼らからはおぞましい気配が感じられ、こんな症状は見たことがありません」

 

禍々しいオーラや魔物の気配については、エルも気づいてたんだな。だが、エルはそれ以外にも気になることがあるようだ。

 

「それに、あの3人はウルス様のことを言っていました。ウルス様は、確かゲンローワ様の弟子だったはず。ひょっとすると何か関係があるのでしょうか?」

 

ウルスとあの病気の関係か···よく分からないな。ウルスは3人がかかっている病の研究でもしているのだろうか。

 

「今は分からないな。ゲンローワも話したくないらしいし」

 

俺も気にならないことはないが、無理にしゃべらさせるのはよくないだろう。よっぽどのことがない限り、本人が教えてくれるのを待つしかないな。

 

「そうですよね。私もそこまで気になるわけでもありません。ところで、雄也様」

 

エルはウルスの話を一旦やめて、話題を変えた。

 

「実は、1つ作りたい部屋の設計図を書いたのです」

 

病室以外にも作りたい部屋があったのか。どんな部屋なんだろうな。

エルが持っていた設計図を見ると、仕立て台という作業台が1つと、クッションいすが2つ置いてある部屋だった。

この前魔法で調べたら、確かいしのおのは仕立て台で作れるはずだったからな、武器を作る部屋がほしいのだろうか。あの時にエルに仕立て台のことを聞いていれば良かったな。

 

 

 

「武器の部屋か?」

 

「いいえ、私はキレイな服を作るための部屋がほしかったのです」

 

武器ではなく、新しい服を作るための部屋なのか。メルキドで全員の服を作ったピリンもいるし、あったほうがいいかもしれない。少なくとも、武器を作るために仕立て台は必要だ。

 

「そう言うことか。確かに、服がキレイなほうが雰囲気も明るくなるよな」

 

「はい!私も作るのをお手伝いします」

 

エルも手伝ってくれるなら、土ブロックを入れるための持ち運び収納箱が必要だな。

 

「なら、そのための道具を作らないとな」

 

俺は作業部屋にある木の作業台で持ち運び収納箱を作って中に土ブロックを入れ、エルに渡した。

 

「この中に入っている土ブロックを使って壁と天井を作っておいてくれ」

 

水飲み場の時もそうだったが、壁や天井を作るのは任せることが多い。壁などを作っている間に俺が家具を作る方法が、一番早く出来るからな。

俺は再び作業部屋に入り、2つのクッションいすを作る。その後、仕立て台の作り方を調べた。

仕立て台···木材5個、綿毛3個、ひも3個

どれも、旅のとびらの先でたくさん入手できた素材だった。かなりの在庫があるはずなので、すぐに作ることができるな。

 

「これに魔法をかけてと···」

 

ビルダーの魔法をかけると、それらの素材は短時間で仕立て台へと変わっていく。仕立て台は、服や布を作るための形になっていて、とても武器が作れるようには思えなかった。

 

「本当にこれで武器が作れるのか?」

 

俺は試しに、今作った仕立て台で、いしのおのを作ってみた。すると、この前俺が持っていたいしのおのと全く同じものができた。どうやら、本当に仕立て台で武器が作れるらしい。

 

「原理は分からないが、とりあえず新しい部屋において、ピリンに教えるか」

 

俺は作業部屋から出て、調理部屋にいるピリンに話しかけにいった。

 

「おい、ピリン。服を作るための作業台が出来たんだ。みんなの服を作ってくれないか?」

 

服の話をすると、ピリンは喜んで調理部屋から飛び出してきた。どうやら、早く作りたくて仕方がないようだ。

 

「ありがとう雄也!実はわたしこの町に来てからずっと、みんなに服を作ってあげようと思ってたんだ!」

 

「その作業をするための部屋も出来てるはずだ」

 

俺とピリンは、エルの作っている部屋を見に行った。すでに壁と天井が完成しており、あとは扉をつけるだけでよかった。俺はその中に仕立て台、クッションいすを置き、そして入り口にわらのとびらを設置した。それを見て、エルも喜んでいる。

 

「おお、雄也様!私の考えていた衣装部屋が完成しました。本当にありがとうございます!」

 

「これぐらい簡単だ。みんなのための服はピリンが作ってくれる」

 

俺がピリンの話をすると、エルは初耳らしくとても驚いた。まあ、10歳くらいの女の子が服を作るなんて、本当にすごいことだけど。

 

「ピリン様は、服を作ることが得意なのですね」

 

「うん。みんなのお洋服を作るから、楽しみに待っててね!」

 

ピリンは服を作るために、さっそく衣装部屋に入っていった。彼女が部屋の中に入るのを見て、エルも改めてお礼をしてくる。

 

「雄也様。病室だけでなく、衣装部屋まで作っていただき、本当にありがとうございました!」

 

そんな時だった。この前の襲撃の時のように、再びリムルダールの空に、鳥の羽ばたく音が聞こえた。俺が空を見上げると、やはりヘルコンドルがこの地に迫ってきていた。

俺は衣装部屋が出来て喜んでいるエルにそのことを伝えた。

 

「エル、喜んでいる場合じゃないようだ。ヘルコンドルがまた町に近づいてきている」

 

その話を聞くと、エルの顔は一瞬にして怒りの表情となった。エルの性格からして、この地に病をもたらすヘルコンドルが絶対に許せないのだろう。

 

「患者様の治療も終わらず、これからと言う時に···!雄也様、ヘルコンドルはまた手下の魔物を呼ぶはずです」

 

さすがに、まだヘルコンドル本体と戦うことにはならないか。だが、今回は前より強力な魔物を連れて来ているはずだ。

 

「ああ、このことをみんなに知らせるぞ!」

 

俺は町のみんなを呼び、ヘルコンドルが迫っていることを話した。それを聞いて、全員が戦闘に備える。今日病気が治ったザッコも、エルのように石を投げることで戦ってくれるようだ。

ヘルコンドルは町の近くにつくと、大きな雄叫びをあげる。そして、その声と同時に多数の魔物が現れた。

 

「キャタピラーにリカントマムルか。ん?あれは何だ?」

 

大量のキャタピラーと、赤色のリカント、リカントマムルがほとんどだったが、中心に隊長と思われる人の形をしたモンスターがいた。

人の形と言っても全身が朽ち果てており、まともな自我も存在していない。

 

「くさったしたいか。こんな奴もいるんだな」

 

ドラクエでは、確かくさったしたいと呼ばれているモンスターだ。そのくさったしたいを中心に、魔物の軍勢はリムルダールの町に向かってきていた。

 

「この町を守り抜くのじゃぞ!」

 

「ワシも頑張って戦うぜ!」

 

俺、ゲンローワ、ゆきのへは魔物たちを迎え撃ちに走っていく。リムルダールの2回目の防衛戦が始まった。

 

まず、前衛にいたキャタピラーが回転して突進してくる。マヒの森で何回もその攻撃に対応しているので、かわすのは容易だ。スピードも巨大キャタピラーより遅い。

 

「お前らの攻撃はもう慣れてるんだよ!」

 

俺は突進しているキャタピラーの横に回り込み、いしのおのを叩きつける。一撃では死ななかったが、怯んだところにもう一回攻撃すると、倒すことができた。

 

「こいつらも結構弱いな」

 

マヒの森にいた子供のキャタピラーよりは強いものの、大した力はなく、数も20匹くらいと10分の1以下だ。

それに、今回は町のみんなもいるからな。

 

「わしらの町を壊すでないぞ!」

 

ゲンローワとゆきのへも、キャタピラーの攻撃を受け止めて、なぎはらったり叩きつぶしたりする。キャタピラー軍団を次々に倒していき、残り数体になった。

奴らは、俺たちのところに一斉に突進してくる。俺はかわすのではなく、近づいていしのおのに力を込めた。

 

「これで終わりだ!回転斬り!」

 

キャタピラーたちは体を引き裂かれ、青い光になって消えていく。

 

「よし、キャタピラーは全部倒したな!」

 

奴らが全滅したのを見て、リカントマムルが殴りかかってくる。キャタピラーと違い攻撃力や知能も高そうなので、気を付けて戦わないといけないな。

4体いるリカントマムルのうち、俺とゆきのへとゲンローワが一体づつ相手をし、残りの一体はエルたちに足止めしてもらおう。

リカントマムルはしゃべることが出来るらしく、俺を威嚇してくる。

 

「ビルダーめ、お前は絶対に倒してやるぞ」

 

しゃべるモンスターが防衛戦に来るのはリムルダールに来て初めてだな。もちろん、何を言われようと負ける訳にはいかない。

リカントマムルは、俺を鋭い爪で攻撃してきた。

 

「かなり鋭いな。だが、この爪ごと引き裂いてやる!」

 

俺はその爪をいしのおので受け止め、リカントマムルの爪が割れるほどの力を入れる。強靭な爪もさすがに耐えきれず、砕けてしまった。

 

「ぐぬうっ!何てことをするのだ」

 

激しい痛みで、リカントマムルは動きが止まる。だが、すぐに立ち直り、大きく飛び上がってもう片方の爪で俺を切り裂こうとした。3メートルくらいジャンプし、俺へ目掛けて爪を降り下ろす。

 

「消えろ!ビルダーめ!」

 

俺は攻撃を受ける直前に避けて、リカントマムル地面に着地した瞬間に背後から回転斬りを放つ。強力なモンスターであろうが、生物である以上痛みは感じるので、再び動きが止まる。

 

「お前なんかが俺を倒せると思うなよ!」

 

俺はリカントマムルの内臓にいしのおのを突き刺し、思い切りえぐった。

 

「ぐぎゃああああああ!」

 

リカントマムルは大声で悲鳴をあげて、倒れていった。奴は、爪のような素材を落とした。だが、今は拾っている場合ではない。

俺は別のリカントマムルと戦っているみんなの方を見た。エルたちと戦っているリカントマムルは石を投げつけられまくり、顔の形が変形している。

 

「これでとどめです!」

 

弱ったのを見て、3人は同時に大量の石を投げつけた。そして、リカントマムルの目や鼻、頭を潰して倒した。

 

「あと2体みたいだな」

 

俺はエルたちがリカントマムルを倒したことを確認し、次はゲンローワとゆきのへの様子を見る。ゆきのへはおおきづちで頭を叩き潰して倒せていたが、ゲンローワはリカントマムルの攻撃を受けていた。それに、目が回っているかのような変な動きをしていた。

 

「ゲンローワ、どうしたんだ?」

 

俺が話しかけると、ゲンローワはいくつか傷を負っているが、話はできる状態だった。

 

「目が回ってうまく戦えない。奴の攻撃を受けると視覚が混乱するようなのじゃ」

 

リカントマムルの攻撃にはそんな効果もあったのか。くらわなくてよかったな。

俺はゲンローワと戦っていた残り1体のリカントマムルにいしのおのを向けた。目が回っている状態で戦わせるのは危険だろう。

だが、その俺の背後から隊長のくさったしたいが殴りかかってきた。

 

「くそっ、2体に挟まれたか」

 

くさったしたいの力は強かったが、殴られても意識を失うほどではなかった。だが、リカントマムルも俺のことを狙っている。

 

「ビルダー、挟み撃ちにしてやろう!」

 

「そうはさせるかよ!」

 

その事に気付き、ゆきのへはリカントマムルをおおきづちで叩く。エルたちも、リカントマムル目掛けて大量の石を投げる。

 

「雄也!お前はそのゾンビを頼むぜ!」

 

「ああ、分かった」

 

リカントマムルをみんなに任せ、俺はくさったしたいに斬りかかった。くさったしたいは人間の皮膚と同じくらいの柔らかさで、普通に斬ることが出来た。だが、ゾンビなので痛覚が全くないためか、怯むことはなく攻撃中の俺を殴り付けた。

 

「くそっ、いてえな!」

 

顔面を殴られ、鼻血が出てきた。だが、ここで動きを止めるとさらに攻撃を受ける。俺は痛みに耐えながらくさったしたいの側面にまわり、いしのおのを降りおろす。

 

「ぐひゃひゃひゃ!」

 

すると、くさったしたいは訳の分からない声を発し、俺に向かって殴る、蹴るなどの攻撃をしてくる。幸いにして動きは遅いので、俺は殴ってきた隙に腕を切り落とす。次に蹴り攻撃が来たので俺はジャンプしてかわし、くさったしたいの腹を斬りつけた。

痛みは感じていないようだが、全身を斬られくさったしたいは追い詰められた。

その時だった、くさったしたいは俺から離れ、ゲンローワの所に向かっていった。

 

「ゲンローワサマア···ゲンローワサマアアアアア!」

 

何だ!?こいつは今、ゲンローワの名前を呼んでいた。しかも、ゲンローワを殺したいという感じの声ではなく、助けを求めているような声だった。しかし、相手はモンスターであり、混乱が治ったらしいゲンローワは、くさったしたいをひのきのぼうで殴った。

何故くさったしたいがゲンローワの名前を呼んだかは分からないが、今は考えている時間はない。俺は奴の後ろから回転斬りを放った。胴体を切り離されれば、さすがに動かなくなるだろう。

 

「回転斬り!」

 

そして、くさったしたいは上半身と下半身を切り離され、力尽きた。だが、最後にもう一度ゲンローワの名前を叫んだ。

 

「ゲンローワサマアアアアアアアアア!」

 

今度は、助けてくれなかったことを嘆くかのように。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode34 水没した密林

リムルダールの2回目の防衛戦の後、くさったしたいを倒した所を見ると赤色の旅のとびらが落ちていた。これで、また新しい場所に行けるようになるな。

だが、くさったしたいが最期にあげた叫び声は何だったんだ?あれは確かに、ゲンローワのことを呼んでいた。

 

「一応ゲンローワに聞いてみるか」

 

気になるので、赤色の旅のとびらの探索の前に、ゲンローワに聞きにいったほうがいいな。俺は調合室に戻ったゲンローワに、くさったしたいの叫び声について話した。

 

「おい、ゲンローワ。あのくさったしたいがお前の名前を呼んでたんだが、どういう事なんだ」

 

だが、ゲンローワはその声を聞いていなかったようだ。

 

「何!?奴がそんなことを言っていた?そんな声、わしは聞いてはおらぬぞ。聞き間違いではないのか?」

 

俺には確かに聞こえたはずなのだが。戦いの途中だったから聞こえなかったのか、それとも話したくないのか。俺には分からなかった。

 

「それに、そんな声が聞こえていたとしても、魔物がわしらを騙そうとしているとは考えられぬか?」

 

確かに、魔物がゲンローワを自分たちの味方だと思わせるためにあの叫び声を上げたと言う可能性も考えられなくはない。だが、あの助けを求めるような叫びは、騙すためにあげたものだとはとても思えない。

 

「それは分からないが、確かに聞こえたんだ」

 

「そうか···わしも何故くさったしたいがそのような叫び声を上げたかは分からぬ」

 

ゲンローワも詳しくは分からないようなので、俺は外に出た。どうしてくさったしたいがゲンローワの名前を呼んだのか。俺はしばらく考えていた。

そして、色々考える内に、俺の脳裏に恐ろしい可能性が浮かんでくる。実はあのくさったしたいは、実は元は人間で何らかの理由で魔物に変異してしまったのではないかと。そして、薬師であるゲンローワなら、自分を助けてくれるのではないかと思い、あの叫び声を上げた。

 

「じゃあ、まさかあの3人は!?」

 

そこで、さらに恐ろしい可能性を思い付く。もしかしたら、エディ、ケン、イルマは、だんだん魔物へと変異しているんじゃないか?それなら、あの3人が魔物の気配を放っていることも納得できる。原因は不明だが、あいつらはいずれ魔物になってしまうのかもしれない。

 

「だが、そんな事ってあり得るのか?」

 

人間が魔物に変異するという話は、聞いたことがない。もしそうだとしても、必ず救う方法があるだろう。

 

「今はとりあえず、新しい旅のとびらの先を探索するか」

 

俺は彼らを助ける方法を見つけるためや、新しい患者や素材を見つけるために赤の旅のとびらを設置した。

 

「おお!雄也様!新しい旅のとびらが手に入ったのですね!」

 

その光を見たエルが、俺のところへ走ってくる。新しい病人が見つかるはずだからな、早く治療をしたいのだろう。

 

「ああ、これから探索に行くつもりだ」

 

「でしたら、そこに倒れている方々もこの町で治療できたらいいのですが···」

 

俺はもちろんだと返事をしようと思っていたが、急にエルは暗い表情になった。

 

「実は、雄也様···まだ病が癒えず、ずっと苦しんでいる患者様を見ていると、私はつい考えてしまうのです。長い苦しみが続くならいっそ、楽になれた方が幸せなのではないかと」

 

いつもは明るいエルなのに珍しいな。地球でも、病気で生きることを諦めて、安楽死を選ぶ人がいるからな、そう思っても仕方ないかもしれないが。

 

「確かにな。だが、諦めたくはないんだろ?お前がそんなことを考えていると病人まで暗い気持ちになるぞ」

 

俺がそう言うと、エルは元の表情に戻った。やはりエルは、人々を助けたいという気持ちの方が強いようだ。

 

「そうでした。こんな弱音をはいてしまって、申し訳ございません···」

 

「別に気にするな。誰だって暗い気持ちにはなるはずだ」

 

どんなに明るい人間でも、落ち込むことはあるだろう。

 

「はい、雄也様。旅のとびらの先で患者様を見つけたら、いつも通り診察いたしますね」

 

「ああ、頼むぞ」

 

俺はエルとの話を終えると、旅のとびらの中へ入っていった。今度はどんな場所に繋がっているのだろうか。

 

「ここは、谷底か?」

 

移動が完了すると、俺はメルキドの緑の旅のとびらの先と似たような場所にいた。だが、メルキドより崖は低く、谷底は水没していた。

 

「水没していて進みにくいな···」

 

水に濡れるのは嫌なので、俺は崖の上を移動することにした。崖まで土ブロックの足場を作り、つたを使って登っていく。

そして、つたを登っている途中に、2種類の初めて見る鉱石を見つけた。

 

「もしかしてこれ、銀かもしれないな。それに、この赤い宝石のような物もある」

 

俺がいしのおのを使い採掘すると、やはり片方は銀だった。触ってみた感じだと、この世界の銀は鉄よりも硬いようだ。もう片方の赤い宝石は、何なのかは分からなかった。

 

「強い武器を作れるかもしれないな。集めておくか」

 

俺はそれらの鉱石を集めながら、崖の上へ登っていった。崖の上は、青の旅のとびらの先と同じように、草原が広がっていた。

 

「ここなら、遠くも見渡せそうだな」

 

崖の上からなら、この地方を偵察出来るだろう。俺が谷底を見下ろすと、奥のほうに木が水没しているジャングルがあった。モンハン3に出てきたフィールド、水没林のような感じだ。それ以外にも、緑色の大きな葉が何枚かある植物や、オオオニバスのような植物があった。ここを探索するには、濡れるしかなさそうだ。

 

「もうしばらく、この崖の上を探索するか」

 

だが、まだ崖の上も調べ終わっていないので、俺はそこにいる敵のリリパットを避けながら探索を続けた。すると、メルキドでも見た黄色の植物があった。

 

「小麦か···リムルダールにもあったのか」

 

これまで枝豆やニガキノコ、魚ばかり食べていたが、小麦があればパンを食べられるようになるな。

小麦以外にも、ふとい枝や薬草がたくさんあった。それに、歩いていると通常の1.5倍くらいある土ブロックを見つけた。

 

「何だこの土ブロック?やたらと大きいな」

 

俺がその土ブロックをいしのおので叩いてみると、なんと動き出して、俺に襲いかかってきた。どうやら、モンスターが擬態していたようだ。土ブロックのモンスターは、形を変形させ、俺を押し潰そうとしてきた。

 

「モンスターだったのか···だが、そんなに強そうではないな」

 

そのモンスターは、動くのも変形するのにも時間がかかっていた。俺は元の形に戻る直前に、思い切り斧を振り回した。

 

「回転斬り!」

 

それだけでは倒せなかったが、さらに奴の頭にいしのおのを降り下ろし叩き斬った。土ブロックのモンスターは青い光を出して消えた。すると、何故か2メートル×2メートルの大きさガラス張りの窓を落とした。

 

「何でモンスターがガラス窓なんて持ってるんだ?」

 

ガラス窓を持っている理由は分からないが、窓があったら天井があっても外の光が入るので、持っていったほうがいいな。俺はガラス張りの窓をポーチにしまい、そろそろ下に降りようとした。

 

「さっきのところにはつたがあったし、そこで降りるか」

 

そろそろ水没した密林の探索を始めようと、崖の下を見ながら旅のとびらの近くに歩いていると、さっきは気づかなかったが、人が倒れているのを見つけた。ケッパーやエディのような、兵士の格好をした人だ。

 

「あいつを助けないといけないな」

 

俺はその人を助けるために、崖を降りていった。話しかけると、まだ意識はあるようだった。

 

「おい、大丈夫なのか?」

 

その兵士は女で、とてもやせ細っていた。

 

「あ、あたしミノリ···。あ、あなたは誰···ですか?」

 

ケンみたいに、日本人みたいな名前だな。リムルダールにそんな名前が多いのは何故なのだろうか?

 

「俺は影山雄也。雄也って呼んでくれ。こんなところで倒れて、どうしたんだ?」

 

ミノリからは、エディたちが発している禍々しいオーラは感じられなかった。だが、かなり弱っているようだ。

 

「あたし、お腹すいて···。もうだめ···みたいです」

 

腹が減っているだけで、病気ではないと言うことか?でも、エルに診てもらうか。それに、町にならたくさん食べ物があるし、連れて帰るか。

 

「これから食べ物のある場所に連れていくぞ」

 

「は、はい···ありがとうございます」

 

俺はミノリを背負って水没している谷底を歩き始めた。今はキメラのつばさがないので、歩いて戻るしかない。途中にいるぐんたいガニというカニのモンスターに見つからないようにして旅のとびらに入り、町へ戻った。

俺はさっそく、エルにミノリのことを伝えに行く。

 

「エル、倒れているミノリという人を見つけた。病気かは分からないが、一応診てくれ」

 

「はい。もし病気でしたら、雄也様にもお伝えしますね」

 

俺がミノリを病室のベッドに寝かせ、エルが診察を始める。俺が外で待っていると、10分くらいでエルが出てきた。

 

「どうだったんだ?ミノリの状態は」

 

「ミノリ様は、飢餓の病にかかっておられるようなのです」

 

飢餓の病?単なる飢餓とは違うのだろうか。

 

「普通に空腹なだけって訳じゃないのか?」

 

「はい。飢餓の病にかかると、物を少し食べただけでは全く栄養にならなくなるのです。枝豆やニガキノコなどでは、食べていないのと同じということです」

 

つまり、飢餓というよりも食べ物を栄養に変える働きが弱っているということか。だが、今はそれに効く薬はないな。

 

「どうすれば治せるんだ?」

 

「この病は、この地に蔓延している病の中では弱いほうで、豪華な食事を与えれば栄養がつき、自然に治っていくはずです」

 

特殊な薬はいらないってことか。でも、豪華な食事を作る必要があるって大変だな。

 

「今はそんなものは作れないぞ」

 

今日小麦を手に入れたが、パンくらいでは治らないだろう。

 

「そうでしたら、まずはイワシを食べさせるのはどうでしょうか?ノリン様が、魚は体にいいと言っておられました」

 

イワシも豪華だとはとても言えないが、少しでも栄養があるもののほうが良さそうだな。まだあったはずなので、今すぐ焼きにいくか。

 

「分かった。俺が焼いて食べさせてくる」

 

俺はエルと別れ、調理部屋に入った。そして、そこの収納箱に入っているイワシを焼き、病室にいるミノリに食べさせた。

 

「これ···さかな···おいしい。ありがとうございます···すこしお腹がいっぱいになった気がします···」

 

ミノリはイワシを食べたが、まだ治る気配はなかった。もっと栄養のある食べ物を与えないといけなさそうだな。

 

その日はもう夜になっていて、俺はミノリにイワシを食べさせた後、自分も夕食を食べて寝室で寝た。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode35 鍛冶屋の弟子

リムルダールの2回目の防衛戦や、ミノリの救出をした日の夜、俺はまたしても裏切り勇者の記憶の夢を見ていた。勇者の夢を見るのも、これで4度目になる。今日の夢にも、勇者が裏切った理由を示すヒントがあるのだろうか。

勇者は、夢の中で町の中を歩いており、店の前で立ち止まった。

 

「ここは、武器屋か?」

 

その店には、さまざまな武器や防具が売られており、勇者はそれを買いに来ているようだった。強い敵に立ち向かうには、装備を整えることも大切だからな。

勇者が来たことに気付き、武器屋の店主は元気よく話しかける。

 

「いらっしゃい、ここは武器と防具の店だ。どんな用だね?」

 

「武器を買いに来たんだ。何があるか見せてくれ」

 

「ふむ、何か買うのだな?どれにするかね?」

 

勇者に言われ、店主は店で売っている物を紹介し始めた。

 

「こんぼうは60G、どうのつるぎは180G、てつのおのは560G、かわのふくは70G、くさりかたびらは300G、てつのたては800Gだよ!」

 

結構いろいろな物が売られてるんだな。てつのおのやくさりかたびらと言った、俺が作ったことのない物もあるし。

この様子だけ見れば、普通の買い物の風景にしか見えないのだが。

しばらく悩んだ後、勇者はてつのおのを指差した。「てつのおのだね?それなら560Gでどうだい?」

 

560Gか…かなり高そうな値段だが、勇者は買うとうなずいた。

そして、武器屋の店主はてつのおのを勇者に渡し、勇者はお金を払う。

 

「買ってくれてありがとうな!」

 

てつのおのを買い、勇者が店を去ろうとしていると、店主は勇者を呼び止めた。

 

「せっかくだから、ここで装備させてやるよ!」

 

装備させてもらえるなんてありがたいなと俺は思ったが、勇者は自分で装備すると言って断った。だが、勇者は店主に申し訳ないと思ったのか、自分で装備すると言った。

しかし、店主は困るどころか、むしろ勇者に装備させてあげたいと思っているようだった。

 

「いいんだよ!アンタには、世界を救う使命があるんだから!」

 

そこで、店主はこれまでの夢に出てきた人たちと同じようなことを言った。どうやら彼も、勇者を普通の人間ではなく、特別な存在だと思っているようだ。これまでの夢に出てきた人の共通点は勇者を世界を救う使命を持つ特別な存在だと扱っていることだな。そう考えると、自分を普通の人間として扱ってくれない人々に嫌気がさし、竜王の味方に付いた可能性が高いな。

俺は特別扱いされたことはないから勇者の気持ちは分からないが、とても辛かったのかもしれない。

俺がいろいろ思っていると、店主は勇者に失礼なことも言った。

 

「苦労して作った武器を拾ったお金で買う。そんなのはアンタだけの特権だ」

 

確かに勇者は魔物が落としたお金を拾って稼いでいるが、魔物退治も立派な仕事のはずだ。

だが、特権という言葉を使っているところからも、勇者を特別扱いしていることが感じられた。さらに、店主は今の発言の失礼な部分だけを打ち消すようなことを言った。

 

「でも、いいんだ、いいんだよ!アンタには、世界を救う使命があるんだから!」

 

使命だのなんだの言って、勇者の気持ちはほとんど考えていないな。

そしててつのおのを装備してもらい店を去った後勇者は、誰もいない場所に言って、大声で叫んだ。今度は前よりも強い怒りが込められた声だった。

 

「クソがっ!オレの気持ちも何もわかっていないクセによっ!」

 

ここまで追い詰められた状態なら、人間を裏切ることになっても仕方ないのかもな。

勇者が叫んだところで俺の意識は途切れ、目が覚めると朝になっていた。

 

リムルダールに来て12日目、夢の中で勇者の記憶を見ていたが、目覚めるといつも通りの朝だった。

 

「今日も旅のとびらの先の探索に行くか」

 

俺は今日は赤色の旅のとびらの先の探索を続けようと思っていた。昨日は崖の上しか探索できていないからな。奥に進めば新たな病人や素材が見つかるかもしれない。

「行く前に準備しておかないといけないな」

 

俺が準備のために作業部屋に入ると、心配そうな顔をしているゆきのへがいた。ゆきのへがそんな顔をしているなんて珍しいな。

気になるので、俺はゆきのへに話しかけた。

 

「心配そうな顔をしてるが、どうしたんだ?」

 

「メルキドを旅立つ時、ワシの弟子がリムルダールにいると言う話をしただろ?」

 

そういえば、リムルダールにいる弟子がどうなったか気になるって話をしていたな。

だが、この町にゆきのへの弟子はまだいないな。

「確かに言ってたな。その弟子って言うのは、どんなやつなんだ?」

 

「ヘイザンっていう女でな。かなりの間離れて暮らしているが、そいつのことが心配でな…」

 

今知ったが、ゆきのへの弟子って女だったのか。師匠と弟子という関係ではあっただろうが、うらやましいな。

 

「まだ見つかっていないし、確かに心配だな。生きてるといいんだが」

 

俺も、彼女が生きているかどうかは分からない。

 

「無事だといいな。雄也、もし探索の途中で見つけたら連れてきてくれ」

 

「ああ、もちろんだ」

 

探索の時は、人がいないか念入りに探すとするか。早くゆきのへの弟子を助けられたらいいな。病気にかかっている可能性もあるし。俺はゆきのへとの話を終えると、いしのおのを持って旅のとびらに入った。

一瞬目の前が真っ白になった後、昨日もいった水没した谷底に移動する。

 

「今日は崖の下を探査するか」

 

新しいものが見つかるかもしれないので、俺は濡れるのを覚悟で崖の下を歩き始めた。1メートルほどの水深で、俺の上半身まではつからなかった。谷底には、大きな緑色の葉がある植物がたくさんあり、俺はそれを集めながら歩いて行った。ラフレシアのように変な臭いもないので何かに使えるかもしれないしな。

 

「あれは、ぐんたいガニか。こんなモンスターもいるんだな」

 

奥へと進んでいくと大きな赤色のカニのモンスター、ぐんたいガニが生息していた。

 

「こいつは硬そうだし、防具の素材を落とすかもしれないな」

 

ぐんたいガニの甲殻はかなり硬そうなので、武器や防具の素材になるかもしれない。モンハンでは、甲殻が装備の素材になることが多いしな。

俺はぐんたいガニの背後に忍び寄り、いしのおのに力をため、比較的もろそうな脚を切り裂いた。

 

「回転斬り!」

 

ぐんたいガニはかなりの傷を負ったが死なず、俺にハサミで反撃してきた。

 

「やっぱり結構硬いな」

 

反撃のスピードはかなり早かったが、そこまでの力はなく、俺はぐんたいガニの攻撃を弾き返した。

そして、ぐんたいガニの頭に、いしのおのを叩きつけた。頭を割られてさすがに耐えきらなかったのか、ぐんたいガニは青い光になった。

 

「そんなに強くなかったな。何を落としたんだ?」

 

俺がぐんたいガニを倒したところを見ると、脚の爪が落ちていた。装備に使えるかは分からないが、中に身が詰まっているため、加熱すれば食べられそうだ。

 

「ミノリに食べさせればいいかもな」

 

かなり栄養がありそうなので、飢餓の病に苦しむミノリに食べさせるか。

俺はぐんたいガニの爪を拾って先に進んでいき、昨日崖の上から見た水没した密林にたどり着いた。その密林では、水の中からはえているヤシの木や、オオオニバスのような巨大な水に浮かぶ植物があった。

 

「この浮いているやつを取ってみるか」

 

俺は、オオオニバスのような植物をいしのおので刈り取った。しかし、アイテムにはならず消滅してしまった。

 

「ん?攻撃すると消えるのか。上に乗ったりしたら楽しそうなんだけどな」

 

もしリムルダールの町の周辺の毒沼を浄化できたら浮かべてみようかと思ったが、無理なようだ。

他に何かないかと探していると、奇妙な物を発見した。

「なんだあれ?じんめんじゅが白い岩を守っている?」

 

木のモンスターであるじんめんじゅ2体が、白い岩で作られた墓のような物を守っていたのだ。

誰の墓かは分からないが、何故じんめんじゅが守っているのだろうか。少し気になったが、特に何もなさそうなので、通りすぎることにした。

だが、その時だった

 

「たす…けて」

 

その白い岩でできた墓の中から女の人の声が聞こえたのだ。もしかして、死者を埋めているのではなく、生き埋めになっているのか!?それなら、じんめんじゅが守っているのも納得がいくな。

 

「生きた人が埋められているのか。助けないとな」

 

早く出してあげなければ、本当に死んでしまう。俺はじんめんじゅに向かっていしのおのを降り下ろす。木に斧は相性がいいのか、じんめんじゅを深く切り裂くことが出来た。

そして、そのまま俺はじんめんじゅの体を引き裂いた。

 

「あとはもう一体だな」

 

もう一体のじんめんじゅは仲間が倒されて怒り、俺を枝で叩きつけてくる。これはさっきのぐんたいガニの攻撃とは逆で、スピードは遅いが威力が高かった。

俺がいしのおので受け止めると、腕がかなり痛む。

 

「くっ!結構強いな」

 

俺は痛みに耐えながらいしのおのを降りかざし、じんめんじゅの顔に突き刺す。目を斬られて俺のことが見えなくなったようで、じんめんじゅはいしのおのが突き刺さった状態で暴れ出す。

俺はその瞬間に、右腕に力をためて、回転斬りを放った。

 

「これで終わりだ!」

 

俺はじんめんじゅを体内から斬り、苦しむ奴にとどめをさした。

 

「2体とも倒せたか。早く捕まっている人を助けないとな」

 

敵がいなくなったので、俺は白い岩を壊して、中を見てみる。そこには、痩せ細った美女が倒れていた。彼女は俺に気づいて話しかけてくる。

 

「ワタシは…ヘイザン…ここをさまよっていたらじんめんじゅに捕まってな…」

 

ヘイザン?もしかしてこの人がゆきのへの言っていた弟子か?かなり弱っているようだが、病気なのだろうか。

 

「大丈夫なのか?」

 

「ワタシ…お腹減りすぎて変にな…る…」

 

お腹が減っているってことは、ヘイザンも飢餓の病なのかもしれない。どちらにしろ、放っておくことはできないので俺はキメラのつばさを使い町に帰還した。

まずはエルに見てもらわないとな。俺は病室にいるエルに、ヘイザンを見せに言った。

 

「エル、ヘイザンっていう新しい人を見つけたんだが、病気かもしれない」

 

「新しい患者様ですね。私が診察するので、雄也様は待っていて下さい」

 

俺がヘイザンをベッドに寝かせるとエルはすぐに診察を始める。

俺はエルが診察をしている間に、ゆきのへにヘイザンのことを教えに行った。

「ゆきのへ、あんたの弟子を見つけて連れてきたぞ」

 

「本当か!?どこにいるんだ?」

 

作業をしていたゆきのへは、とても驚いた表情をする。

早く弟子であるヘイザンに会いたいようだ。

 

「病気の可能性があるから、エルに見てもらっている」

 

病気の話をすると、ゆきのへはまた心配そうな表情に戻る。

 

「そうなのか…だが、必ず助けてくれよ。大切な弟子だからな」

 

もちろん助けるつもりだ。飢餓の病なら、治療方法も分かっている。

 

「分かってる。ヘイザンも他の患者たちも必ず助ける」

 

そう返事をすると、ゆきのへは少し安心した表情に変わる。

 

そろそろ診察も終わっただろうから、俺は病室に戻った。

 

「エル、ヘイザンはどうだったんだ」

 

中に入ると、診察は終わっているようなので、俺はその結果を聞いた。

 

「ヘイザン様は、ミノリ様と同じ飢餓の病のようです。ヘイザン様も、栄養価の高い食事を与えれば治るはずです」

 

やっぱり飢餓の病だったのか。栄養価の高い食事というのはどのくらいの物なのかは分からないが、かなりの食材が必要になるかもしれないな。

俺たちはその日、ミノリにカニを、ヘイザンにイワシを食べさせた。少しは元気になったが、回復にはまだまだ食事が必要なようだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode36 農業の記録

俺がリムルダールに来てから13日目の朝、昨日の探索の続きをしようと旅のとびらのところに向かうと、ゲンローワが話しかけてきた。また病の感染源を見つけてきてほしいのだろうか。

「雄也よ、ちょっといいかの?」

 

「どうしたんだ?」

 

「今この町には飢餓の病の患者が二人いるじゃろ。」

 

どうやら、ゲンローワは飢餓の病にかかっているミノリとヘイザンの治療について相談があるらしい。

 

「二人の治療のために、新しい地でお主に探してきてほしいものがあるのじゃ」

 

探してきてほしい物か…今行ける場所にあるかは分からないな。

 

「何を探してきてほしいんだ?」

「この地方にある密林の奥に進めば、とある遺跡にたどり着くのじゃ」

 

密林と言うことは、赤いとびらの先のことかもしれないな。探しに行って来るか。

 

「その密林なら赤の旅のとびらから行けるぞ」

 

ゲンローワはその場所に行けるか不安だったようだが、俺の話を聞いて安心の顔をした。

 

「それならよかった。その遺跡は、探求者タルバなる人物が住んでいた宮殿の跡地なのじゃ」

 

確か探求者タルバっていうのは、拠点の近くの丘の上にクイズを書いていた人だな。宮殿に住んでいたってことは、結構金持ちだったのかもしれない。

それで、その宮殿に何があるのだろうか。

「そいつの宮殿でなにを探してきてほしいんだ?」

 

「噂ではその遺跡には農業の記録なる物がまつられていて、その記録を知れば作物を一から育てられるようになるという」

 

この世界にも農業があったのか。確かに、作物を育てることができれば食料に困ることはなくなるな。だが、作物が育つには何ヵ月も必要だろうから、今いる患者の治療には役立たない気がする。

 

「でも、育つのにはかなりの時間がかかるだろ?」

 

「普通の場所ならそうじゃ。じゃが、精霊ルビスの加護を受けたこの地なら1~2日で育つじゃろう」

 

そんなに早く育つのか!?確かにそれなら二人の治療にも役立つな。前も思ったが、ルビスは本当にすごいな。

「じゃからの、雄也よ。赤い旅のとびらの先で移籍を探し、農業の記録を見つけてきてくれ」

 

「ああ、わかった。患者だけじゃなくて、俺たちの食料も作れるからな」

 

毎日ノリンがイワシを釣りにいっているが、すぐに食べきってしまうし、野菜も食べる必要がある。

患者の治療や俺たちの食料難を解決するためにも必ず見つけて来ないとな。俺は朝食に残り少ないイワシを食べて、赤い旅のとびらに入った。

 

「ゲンローワの言ってた遺跡は、ヘイザンが捕まってたところより奥だろうな」

俺はまず、昨日行ったところへ向かった。そこまでは500メートルくらいの距離なので、10分くらいでたどり着いた。

 

「ここから先に行くのは初めてだな」

 

そして、昨日じんめんじゅと戦ったところから、さらに奥へと進んで行った。

途中、ハートの形をした実がなっている奇妙な植物を見つけた。

「地球にはない形をした果物だな。食えそうだし取っていくか」

 

モモガキの実と同じくらいの大きさだが、かなりうまそうだ。俺はその実をいくつか集めて、密林の中を歩いていった。

密林の中には、じんめんじゅや緑色のカニのモンスター、じごくのハサミがいたが、俺は木の裏に隠れたりして、見つからないようにして進んでいった。やがて密林を抜けると、レンガで出来た遺跡のようなものがあった。所々につたが生えており、長い時間放置されたのだろう

 

「これがゲンローワの言ってた遺跡か?」

 

 

遺跡の中には木のいすやテーブル、酒タルなどが置かれてあり、人が住んでいた形跡もあった。

ゲンローワは探求者タルバが住んでいた場所と言っていたので、ここの可能性が高い。

 

「だが、農業の記録はどこにあるんだ?」

 

俺はその遺跡に農業の記録が書かれている紙などがないか調べたが、見つからなかった。

遺跡の屋根に宝箱があり、登って開けてみたが、入っていたのは変わった形の木の実だった。

 

「これは、いのちのきのみか?」

 

ドラクエシリーズに登場するHPを増やすアイテム、いのちのきのみのようだな。だが、現実にはHPゲージなんてないので食べても意味はないだろう。

俺は一応いのちのきのみをポーチにしまったが、使う機会はなさそうだ。

 

「ここには農業の記録はないのか?」

 

いのちのきのみを手に入れた後、俺はもうしばらく遺跡を調べたが、農業の記録らしき物はなかった。

ここにないと言うことは、この遺跡以外にも建物があるのかもしれない。

「もっと奥にも行ってみるか」

 

俺は遺跡を調べ終えると、反対側の方の入り口から出た。遺跡の反対側は、地面がレンガになっている場所が多かった。これも、人間が住んでいた形跡だな。土が勝手にレンガに変化するとは思えない。それ以外にも、レンガで作られた建造物がいくつかあった。

 

「やっぱりこの近くにあるはずだよな」

 

俺はレンガで作られた建造物を調べようと歩き始めた。進んでいくと、メルキドでも見た強力な魔物が生息していた。

 

「しりょうやまほうつかいか…気を付けないといけないな」

 

しりょうとその上位種のしりょうのきしや、まほうつかいと言った奴らだ。俺は見つからないように歩いていたが、役に立つ素材が手に入るかもしれない。

 

「こいつらも倒していくか」

 

メルキドでは鋼の武器を使わないと倒せなかった敵なので、正面から向かわないほうがいいな。

俺はレンガブロックに隠れながらしりょうに後ろから近づき、いしのおので頭蓋骨を叩き割る。反撃の機会を与えないように、攻撃を受けてこちらを振り向いたしりょうに、回転斬りを放った。

 

「喰らえ!回転斬り!」

 

しりょうはバラバラに砕け散り、青い光を放って消滅した。そして、茶色に風化した金属を落とした。

 

「何だこれ?すごくさびてるな」

 

そのさびた金属は鉄のようだが、武器や防具に加工するのは難しそうだな。もしてつのつるぎやおおかなづちを作れたらヘルコンドルや手下の魔物たちにかなり対抗しやすくなるはずだ。

俺はそれらの装備がさびた鉄から作れないか魔法で調べた。

てつのつるぎ···鉄のインゴット1個 炉と金床

      さびた金属1個 仕立て台

おおかなづち···鉄のインゴット2個 炉と金床

 

「てつのつるぎはこれからも作れるのか。おおかなづちは無理みたいだけど」

 

てつのつるぎはさびた金属から作れるようだが、おおかなづちは炉がないとダメなようだ。

 

「おおかなづちは結構便利なんだけどな」

 

攻撃力の高いおおかなづちがあれば採掘や戦闘が楽になるんだが。だが、おおかなづちに変わる武器を思い付いた。

 

「もしかして、斧なら作れるか?」

 

おおかなづちは作れないが、てつのおのが作れるかもしれない。斧もハンマーと同じくらい便利な武器だ。いしのおのが仕立て台で作れるので、てつのおのも作れるだろう。

俺は、てつのおのの作り方を調べた。

てつのおの···さびた金属1個、木材1個 仕立て台

案の定、てつのおのは仕立て台で作れるようだ。さびた金属のさびを落とし、斧の形に加工するということだろう。

「さびた金属も結構使えるんだな」

 

俺はさびた金属をしまい、遺跡の探索を続けた。遺跡には地面がレンガではなく、普通の土であるところもあり、そこにはじゃがいもがはえていた。

 

「いももあるのか。農業で増やすためにも持ち帰るか」

 

農業ができるようになればいもも作れるようになるだろうな。フライドポテトとかも食べれるようになるかもしれない。俺はじゃがいもを集めたり、魔物たちを倒したりしながら、遺跡の奥へと進んでいった。

しりょうのきしは3個のさびた金属を、まほうつかいは青色の宝石を落とした。青色の宝石からは魔力が感じられて、これも装備の作成に使えそうだ。

 

そして、いのちのきのみがあった場所から30分ほどたって、ついに大きな宮殿らしき建物を見つけた。

 

「間違いなくここだろうな」

 

さっきの建物の何倍もの大きさで、何かがありそうな雰囲気だった。

中に入ると、農業の記録が入っているであろう宝箱と、その前に立ち塞がる大きな目玉と触手を持つ魔物、メーダの姿かあった。

 

「メーダか、どんな動きをするんだろうな?」

 

戦わずに宝箱の中身だけを持ち帰れたらいいのだが、そうさせてはくれないだろう。俺はいしのおのを構え、メーダに近づいていく。やがて、メーダも俺に気付き、俺を威嚇してきた。

 

「お前を倒して農業の記録を手に入れてやる!」

 

俺がメーダに斬りかかると、メーダは目から青い光線を出して攻撃してきた。

その光線はとても高速で俺のところへ向かってくる。

 

「くっ!」

 

俺は光線をいしのおので防ぎ、さらにメーダに近づいた。だが、あと1メートルくらいでいしのおので斬りつけられるところまで近づいた時、メーダは光線をいくつも連射してきた。

そして、俺はその攻撃を防ぐのに必死でメーダに攻撃するどころではなくなった。

 

「くそっ!連射もできるのか!?」

 

ゲームではもっとゆっくりな攻撃頻度なのだろうが、現実ではそうはいかない。

こちらも銃でもあれば対抗できるんだけどな。だが、今は近接武器で対抗するしかない。

 

「二刀流にするか」

 

片手で光線を防ぎ、もう片方の手で攻撃できるかもしれないので、俺はおおきづちを取りだし、左手に持った。

そこでメーダはまずいと思ったのか、さらに攻撃を激しくする。

俺はなんとかいしのおので光線を防ぎながら、メーダに攻撃があたる位置まで動き、おおきづちを思いきり振り上げた。

 

「潰してやる!」

 

おおきづちで頭を殴ると、メーダは形が変形し、かなりのダメージを受けているようだった。

だが、メーダはすぐに体勢を立て直し、至近距離で俺に光線を放ってきた。

俺はおおきづちで防いだため無傷だったが、おおきづちが光線の熱で燃えてしまった。

油断していれば次の攻撃を食らってしまうので、光線が放たれた直後に俺はいしのおのでメーダの目玉をえぐった。

 

「これでもうビームは撃てないな」

 

メーダの光線は目から出ていたので、目を潰されてはもう撃つことはできないだろう。目を潰されたメーダは痛みに耐えながら触手で俺を付いてくる。

だが、目が見えないため俺が何をしているかわからないはずだ。

俺はメーダから少し距離をとり、いしのおのに力をためる。そして、体温か何かで俺を見つけて近づいてきたメーダにその力を解き放った。

 

「回転斬り!」

 

強力な回転斬りを食らい、メーダは青い光を放って死んでいった。

 

「また武器が壊れたな。結構強かったぜ」

 

強いモンスターだったが、なんとか倒すことができた。

正面の宝箱以外にもーメーダのいた場所の両側に牢屋の扉のようなものがあり、中に宝箱があったが、鍵がかかっていて入れなかった。

 

「この正面の宝箱に入ってるといいんだが」

 

俺はいま開けることのできる宝箱を開けた。すると、中にたくさんの文章や絵が書かれた紙が入っていた。

 

「これが農業の記録か」

そして、その紙の一番目立つところに、こう書かれていた。

人間が物を作る力を失ってからどのくらいの歳月が立つのであろう···。いつの日か現れるとされるビルダーのために、ここに農業の記録を残す。伝説のビルダーよ、どうかこの世界に再び光を···。

 

「この世界に再び光を···か」

 

長い時間がかかるだろうが、なんとしてもこの世界を復活させてやりたいと改めて俺は思った。

 

「とりあえず、これをゲンローワに見せるか」

 

俺は農業の記録を持って、キメラのつばさで町へと帰還した。町に着くと、さっそく調合室にいるゲンローワに、農業の記録を見せに行った。

「ゲンローワ!農業の記録が見つかったぞ」

 

「おお、まことか!?」

 

俺の話を聞くと、ゲンローワはすぐに調合室から飛び出してきた。そして、農業の記録を読み始める。

 

「ふむふむ、大昔の人々はこのようにして作物を育てておったのか!」

 

ゲンローワは農業の記録を見て、とても驚いている。この世界で農業は、数百年ぶりのことだからな。

 

「それで、何て書いてあったんだ?」

 

俺が聞くと、ゲンローワは詳しく説明を始めた。

 

「農業の記録によれば、くまでを使って土を耕し、そこに種を植えれば作物を育てられるようなのじゃ」

 

あれ?確かくまでって落ち葉とかを集める道具じゃなかったか?

アレフガルドと地球では同じ道具でも用途が違うことがあるんだな。

俺がそんなことを思っていると、ゲンローワは種の作り方を話し始める。

 

「その種は調合ツボを使って魔法で作物を変化させて出来るようなのじゃが、この魔法は珍しくビルダー以外にも使えるようじゃ」

 

ビルダー以外も使えるって本当に珍しいな。この世界の人々は魔法の力も奪われているようだが、ルビスの加護があるこの場所ならそれくらいの魔法は使えるのか。

まあ、ビルダー以外使えないのだったら、リムルダールから俺が去ったら一気に食料難になってしまうが。

そして、ゲンローワはその魔法を使うのに必要らしい呪文を教えてくれた。

 

「わしも農業に興味があっての、共に作物を育てていこうではないか」

 

ゲンローワも農業をしたかったのか。俺たちで作物を育て、リムルダールをさらに発展させていきたいな。




最近更新頻度が遅いですが、もうすぐ夏休みに入るのでまた一日一回は出せるようになると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode37 飢餓の治療(前編)

俺はゲンローワとの話を終えた後、病室にいるミノリとヘイザンの様子を見に行った。そこでは、いつも通りエルが病人の看病をしている。

俺は、エルに二人の様子を聞いた。

 

「ミノリとヘイザンはよくなってきているか?」

 

そう聞くと、エルはまだまだ治りそうにないと言う。

 

「カニやイワシだけでは、飢餓の病を治すことはできません。もっと栄養のある食べ物でなければ···」

 

確かにこのくらいの食べ物ではまだまだ栄養が足りなさそうだな。だが、これ以上栄養のありそうなものなんてこの世界にあるものでは思い付かない。

 

「それなら、何を食べさせればいいんだ?」

 

「実は、二人から食べたいもののリクエストを受けていて、ミノリ様はバケット、ヘイザン様はフライドポテトが食べたいそうです」

 

リクエストだと!?二人とも病人なのにぜいたくだな。それに、バケットやフライドポテトはそんなに栄養があるとは思えない。確かバゲットはフランスパンの一種で、フライドポテトは俺も好物のいもを揚げた料理だ。

 

「リクエストなんてしてるのか?ぜいたくな奴らだな」

 

俺は二人が自分から言ったと思ったが、エルは首を振った。

 

「いいえ、私が聞いたのです。好きな物を食べたほうが、元気になるかと思ったので」

 

確かに好きな物のほうがいいとは思うが、病気が治りやすくなったりするのだろうか。

 

「でも、栄養の面も考えたほうがいいんじゃないか?」

 

「栄養の面でも考えました。バゲットやフライドポテトは体のエネルギーになるのです」

 

そういえば学校でパンやいもは、体のエネルギーになる黄色の食品に分類されていたな。それに対して昨日のカニやイワシは血や肉になる赤の食品のはずだ。栄養が片寄らないようにということなのかもしれない。

それなら食べさせたほうがいいな。

 

「そう言うことか。作ってくるから待っていてくれ」

 

俺は病室から出た後魔法で、バゲットとフライドポテトの作り方を調べる。

バゲット···小麦3個、石炭1個 レンガ料理台

フライドポテト···いも5個、石炭1個 レンガ料理台

どっちも素材はあるな。だが、レンガ料理台がないと作れないようだ。レンガ料理台は料理用たき火1個とレンガ5個、鉄のインゴット1個で作れるはずだ。

調理部屋に料理用たき火があるし、鉄のインゴットはないが、さびた金属で代用できるだろう。

 

「あとはレンガを取ってこないといけないな」

 

レンガは農業の記録があった場所の近くにたくさんあったな。今すぐ取りに行くか。ついでに、さびた金属も大量に集めてこよう。

俺は旅のとびらがある場所に向かった。その途中、ノリンが話しかけてきた。

 

「なあ雄也。ちょっとお前に相談があるんだ」

 

メルキドでもあったが、旅のとびらに入ろうとすると頼みごとをされることが多い。探索のついでにしてきてほしいのだろうが、長い話になって探索の時間が短くなってしまうことがある。

 

「どうしたんだ?あんまり長い話はするなよ」

 

「この前不謹慎なことを言っても怒らなかった雄也なら、バカにせずに聞いてくれるかもしれないと思ってな」

 

バカにされるかもしれないってことは、またふざけた話ってことか。俺はそう言う話が好きなので、今回も聞くことにした。

 

「バカにしないから言ってくれ」

 

「雄也。実はオレ、頭がよくなりたいんだ」

 

ノリンはかなり意外なことを言った。理由は分からないが、ノリンはそんなことを考えていたのか。

 

「それで、魚をたくさん食べて頭がよくしようと思ってんだ」

 

確かに、魚を食べると頭がよくなるって地球でも言われているな。だが、ノリンはいつも魚を食べているはずだ。

 

「お前はいつも魚を食べてるだろ?」

 

「だけど、今調理部屋にあるたき火じゃ、あんまり上手く料理できないんだ。旅のとびらの先にはもっとうまい魚もいるはずなんだけど、上手く食べられないと意味がないからな」

 

ノリンは十分料理が上手いと思うんだけどな。どれだけ料理が上手くなりたいんだ?でも、調理用たき火よりいい調理台にしたいというのは、俺も同じことを思っていた。

 

「それなら、俺が今作ろうとしているレンガ料理台ってやつがある。それでいいか?」

 

俺がレンガ料理台のことを話すと、ノリンはうなずいた。

 

「ああ、料理しやすい奴ならなんでもいいぜ!頼んだぞ」

 

そして、俺はレンガ料理台の素材を集めるため、赤色の旅のとびらに入っていった。レンガがあるところまでは、30分ほど歩けばつくはずだ。

俺は途中にいるぐんたいガニやじんめんじゅと言ったモンスターたちを避けたり、緑色の植物を集めたりしがら、密林の奥へと進んで行った。

 

「そろそろあのレンガの遺跡に着くな」

 

水に濡れながら歩き続け、さっき行ったレンガで出来た遺跡までたどり着いた。建物や地面がほとんどレンガで出来ていて、全部で何千個かはあるだろう。

 

「遺跡を壊すのは良くなさそうだが、仕方ないか」

 

昔の遺跡は大事にしたほうがいいと思ったが、もうここに住んでいる人はいないので、俺はあまりためらわずにレンガのブロックを5つ集めた。

俺はそこでキメラのつばさでを使ってろうと思ったが、もうひとつ気になることがあった。

 

「ノリンが言ってたが、ここら辺の海にはどんな魚がいるんだ?」

 

この密林の近くの海では釣りをしたことがないので、俺はどんな奴が釣れるか気になっていた。だが、ノリンや病人たちを夕方まで待たせるのもよくないので、1時間ほどだけ釣りをすることにした。

俺はレンガの遺跡のすぐ近くにある海に行き、つりざおの先を沈めた。

しばらくすると、イワシの時よりも強い反応があった。かなり大きな魚が釣れるかもしれない。

 

「何がかかったんだ?」

 

俺が釣り上げると、つりざおの先に大きなマグロがかかっていた。米がないから寿司は作れないだろうけど、刺身あたりには出来そうだな。

マグロの刺身···マグロ1匹

ビルダーの魔法があれば、俺でも作れる。

俺はマグロをしまい、釣りを続ける。それ以外の魚も釣れるかもしれないしな。

 

1時間くらい釣りを続けて、マグロ以外にもサケやタイと言った魚が釣れた。どれもイワシよりうまそうなので、病人の治療にも役立つかもしれない。

 

「ここは結構いい魚が釣れるみたいだな。今度ノリンも連れてくるか」

 

そろそろ午後になるので、俺はキメラのつばさを使い町に戻った。まずは、レンガ料理台を作らないといけないからな。

俺は調理部屋の料理用たき火を一度叩いて回収し、作業部屋に入った。

 

「早く作って、病人たちに料理を食べさせないとな」

 

そして、俺は木の作業台で魔法を使い、レンガ料理台を作る。調理用たき火とさびた金属とレンガが合体していき、メルキドでよく使っていたレンガ製の調理台になる。

 

「レンガ料理台になったな。さっそくバゲットとフライドポテトを作るか」

 

俺はレンガ料理台を調理部屋に置いて、エルから頼まれた料理を作った。そして、作った料理を病室に持っていった。

 

「エル、料理が出来たぞ」

 

「おお、ありがとうございます!さっそく食べさせてあげてください」

 

俺とエルは、料理を病人に食べさせる。お腹が減って動けない二人は、少しは元気になったようだ。だが、まだ完治はしなかった。まだ栄養が足りないらしい。

 

「まだ治らないか。あとどのくらい食べさせればいいんだ?」

 

「もうすぐ治りそうですが、完治にはとても栄養のある豪華な料理が必要です。今は患者様は眠っておられるので、また明日リクエストを聞きますね」

 

好きなものであって豪華な料理か···確かにそれなら飢餓の病は完治するかもしれない。明日になったらエルに聞きにいくか。

俺は病室から出て、ノリンにレンガ料理台が出来たことを報告しに行った。

 

「おい、ノリン!レンガ料理台ができたぞ」

 

それを聞くと、ノリンは大喜びで走ってくる。そこまで嬉しいことのようだ。

 

「これでたくさんうまい魚を食って、頭がよくなれるぜ!」

 

だが、なんでノリンはそこまで頭が良くなりたいと思っていたんだ?

 

「喜んでるとこ悪いんだが、何で頭が良くなりたかったんだ?」

 

「実はな、忙しいお前やエルの代わりに、オレたちがヘルコンドルに対抗するための武器を考えていたんだ」

 

そういえば最近、ノリンとケーシーとザッコが集まっていることがあったが、そう言うことだったのか。ヘルコンドルは飛んでいるので、射撃ができる武器がないと倒せないだろう。

 

「だけどオレ、バカだからよ。みんなの役にたてなかったんだ。だから頭がよくなりたくて、魚をたくさん食べようとしたんだ」

 

「そう言うことか。確かに頭がよくないと思い付けないかもしれないな」

 

ノリンたちもリムルダールを魔物から解放しようと頑張っている。みんなの協力があれば、必ずヘルコンドルを倒せるはずだ。

 

「とりあえず、ありがとな雄也!もし武器のアイデアをひらめいたら、お前にも教えるぜ」

 

「ああ、頼んだぞ」

 

そう言うと、さっそくノリンはレンガ料理台の置いた調理部屋に行った。早く武器のアイデアが閃くといいな。

ノリンと話し終えてから俺は今日手に入れたさびた金属から武器を作るため、仕立て台のある部屋に入った。

 

「時間が空いたし、今のうちに鉄の武器を作っておくか」

 

俺がさびた金属に魔法をかけると、さびが落とされていき、剣の形に変化していった。

 

「このてつのつるぎもかなり強そうだな」

 

そのてつのつるぎは、炉と金床で作ったものと同じくらい輝いていた。これなら、だいたいの魔物は倒せるようになるだろう。

 

「あとは、みんなの分も作っておかないとな」

 

俺はさびた金属を10個くらい手に入れており、みんなの武器も作れそうだ。

ゲンローワのためにてつのつるぎ、ゆきのへと俺の分のてつのおのを作った。今病室で寝ている5人の中にも戦える人がいるかもしれないが、そいつらの分は治ってから作ろう。

俺は武器を完成させた後、まずゲンローワにてつのつるぎを渡しに行った。

 

「おお、雄也よ。ちょっといいかの?」

 

すると、ゲンローワの方から先に話しかけられた。どうやらゲンローワも俺に用があったらしい。何かと思っていると、ゲンローワは一枚の設計図を見せてきた。

 

「何だ、この設計図は?」

 

その設計図は、木でできたさくの中に、いろいろな植物が植えられているものだった。

書かれている植物は、まめと小麦といもの3種類だった。

 

「雄也から農業の記録を受け取った後、作物を育てるための農園の設計図を書いたのじゃ。お主と共に作りたくての」

言われてみると、植えられている植物は、みんな食べられる物だった。二人の患者の治療にも役立てたいし、今日のうちに植えたほうがいいだろう。

 

「ああ、分かった。俺が調合ツボで植物を種に加工してくる。ゲンローワは畑の土を用意してくれ」

 

今回もいつも通り、俺が必要なものを作り、ゲンローワに土ブロックで畑の形に組み立ててもらう。俺はそうしようと思っていた。

 

「いや、植物を加工するのはわしがやる。お主は木のさくやくまでも作る必要があるじゃろ?」

 

そういえば、畑を囲むためのさくや、土を耕すためのくまで、まわりより1メートル高い場所にある畑に登るための木のかいだんも必要なのか。確かに種を作るのはゲンローワに任せておいたほうがいいな。いつもとは違う分担の仕方になった。

「じゃあそうしよう。俺が畑も作って耕しておく」

 

土ブロックを積むのも何日かぶりな気がするな。

 

「おお、頼んだぞ!」

 

そして、俺は作業部屋、ゲンローワは調合室に入って行った。作業部屋で俺は、木のさくとくまでの作り方を調べる。

木のさく···ふとい枝5個

くまで···ふとい枝4個

どちらもふとい枝からできるようだな。木のさくは18個も必要なので、一度に大量にできればいいんだが。

俺は最初に木のさくを作っていく。一個しか出来ないのではないかと思ったが、一度に10個作ることが出来た。木のかいだんは最初にリムルダールに来たときに木の作業台のある高台に上るためにあったやつを使えばいいな。今はその高台は整地してしまっているので階段が必要なくなっていくつかポーチの中に入れてある。

「10個もできるのか。なら、もう1セット作ればいいか」

俺はもう10個木のさくを作り、その後に土を耕すためのくまでを作る。それにしても、くまでで土を耕すというのは、いまいちしっくりこない。昔のアレフガルドでは普通だったのだろうか。

 

「これで木のさくとくまでが出来たか。後は町の空いているところに、設計図通りに土をおかないとな」

 

俺は作ったものをポーチにしまい、町の西側の空いているところに土を置いていく。

土は33個必要で、そのうちの13個を畑にすると設計図に書いてある。耕すのは大変そうなので、俺は先にまわりに木のさくや階段を設置することにした。

最初に木のかいだんを置いて登り降りできるようにしていると、後ろからゆきのへに話しかけられた。

 

「なあ、雄也。何を作っているんだ?」

 

そういえば、ゆきのへやみんなには農業のことは話していなかったな。

 

「ゲンローワから畑を作ろうと言われてな。その畑の土を置いているんだ」

 

「もしかして、農業って奴か?」

 

どうやらゆきのへは農業というもの自体は知っているようだが、実際にしたことはないらしい。

 

「ああ、今日農業の記録って言う奴を手に入れてな。それがあれば作物を自分の手で育てられるらしいんだ」

 

俺がそのことを話すと、ゆきのへは喜んで手伝おうとした。

 

「ならワシにも手伝わせてくれ。実はワシはな、そろそろ鍛冶屋を引退して、農業をして暮らそうと思っていたんだ」

 

鍛冶屋を引退して農業をする···か。確かにゆきのへはもう50代後半くらいだろう。ゆきのへとは、リムルダールで別れることになるかもしれない。

 

「それなら、ゆきのへはこの設計図に書かれた場所を耕してくれ」

 

俺はゆきのへに設計図を渡し、畑のまわりに木のさくを置いていった。ゆきのへはかなりの速度で畑を耕していき、俺が木のさくを全ておくのと同じくらいの時に、13個の土ブロックを耕し終えた。後はゲンローワが種を作るのを待つか。

 

「これで全部耕せたぜ。後はどうすればいい?」

 

「後はゲンローワが種を持ってくるのを待つしかないな」

 

ゲンローワはもう少し時間がかかるのかと思ったが、少し話をしているとすぐに出てきた。

 

「雄也よ、種を作ってきたぞ!ん?ゆきのへも手伝っていたのか?」

 

ゲンローワはゆきのへに気づいて話しかけた。

 

「ああ、そろそろワシは鍛冶屋を引退して農業生活を送ろうと思っていてな」

 

リムルダールの空を晴らした後は、二人で農業をしていくことになるだろう。

 

「そうか。ならゆきのへに雄也よ、一緒に種を植えようぞ」

 

俺たちは3人で作物の種を植えていった。3人で植えたためあまり時間はかからず、まめと小麦を5個、いもを3個植えて、設計図通りの農園ができた。

農園が完成すると、ゆきのへとゲンローワはとても喜んだ。

 

「ついに道具だけでなく、生きた植物まで作れるようになったのう」

 

「ああ、明日どのくらい成長しているか楽しみだぜ」

 

俺も、明日どんな感じになっているか気になるな。大きくなってるといいんだが。

その日、もうすぐ日が暮れる時間だったので、俺はゆきのへとゲンローワに作った武器を渡し、寝室に入った。

今日はとても忙しかったので、俺はすぐに眠りについた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode38 飢餓の治療(後編)

飢餓の病の患者を治すところはかなり長くなったので、前編と後編に分けました。


俺がリムルダールに来て14日目、起きるとすでに太陽がかなり高く上がっていた。昨日の疲れが原因で寝過ぎてしまったのだろう。

 

「今日もミノリとヘイザンのリクエクトを聞きにいくか」

 

俺は部屋を出ると、エルのいる病室に向かった。今日こそあの二人を治してやらないといけないな。俺が病室に入ると、いつも通りエルが病人たちの看病をしていた。彼女は飢餓の病の二人だけでなく、未だに禍々しいオーラをまとう3人の様子も見ている。彼らの放つ魔物の気配はだんだん強くなっていき、治る気配は全くなさそうだ。

俺がその3人を見ていろいろ考えていると、俺に気づいたエルが話しかけてきた。

「雄也様、どうなさいましたか?」

エルは俺が何か考えていることも気づいているようだ。俺もエルに3人のことを相談したかったが、今は治す手段の分かっているミノリとヘイザンの治療をしないと。

 

「いや、なんでもない。今日はその二人は何が食べたいって言ってたんだ?」

 

俺はエルに二人のリクエストを聞いた。今日はどんな料理を作らないといけないんだろうな。

 

「ミノリ様はもりもりサラダ、ヘイザン様はブイヤベースが食べたいそうです」

 

昨日よりもすごく豪華な料理だな。もりもりサラダは詳しくは分からないが、たくさんの野菜で作られたサラダのことだろう。ブイヤベースは確か、南フランスの魚介類がたくさん入った郷土料理だったはすだ。実際に食べたことはないが、料理の本で見たことがある。作るのは大変だろうが、これなら飢餓の病も治るかもしれない。

 

「たくさんの材料が必要だとは思いますが、患者様の治療のため、お願いします」

 

「ああ、分かってる」

 

今ある物だけで作れるかはわからないが、俺はもりもりサラダとブイヤベースを頭に思い浮かべ、作り方を調べる。

もりもりサラダ···じゃがいも2個、まめ2個、小麦2個、ハートフルーツ1個、ゆでガニ1個、くすりの葉1個 レンガ料理台

ブイヤベース···サケ1匹、カニの爪1個、小麦1個、ハートフルーツ1個、きれいな水1個、石炭1個 レンガ料理台

ひとつの料理に6つの材料を使うのか!?地球では珍しくないことだが、この世界に来てからは初めてだ。

まめや小麦、いもなどの作物は在庫がなくなっているな。ゲンローワが1日で育つと言っていたし、後で畑を見に行くか。両方に必要なハートフルーツという奴は、おそらく密林で見つけたハート型の植物だろう。そらなら20個くらい持っている。

足りない素材と言えば、カニの爪だな。ゆでガニもカニの爪から作る奴だし、カニの爪を2個取ってこないといけない。ぐんたいガニくらい、てつのおのなら楽勝だろう。それと、きれいな水と言うのは水のみ場で汲める水のことでいいのか?

予想通り、かなり作るのは大変そうだが、やるしかない。

 

「エル、なんとかこの二人の言っているものを作れそうだ」

 

俺は材料を揃えるために、病室から出ていった。病室からでた後、俺は昨日ゲンローワたちと種を植えた畑に向かった。病室とは反対の方向にあるが、町の広さがあまり大きくないのですぐにつくことができる。

畑を見ると、一日ではあり得ないほど成長していた。

 

「もう実がなっているな」

 

なんと、自然に生えているものと同じくらいにまで成長していた。これなら、今すぐ収穫できそうだ。

俺はまめといもをを2つ、小麦を3ついしのおので刈り取った。まだ成長するかもしれないので、残りのは刈り取らないでおこう。

 

「これで、必要な野菜は集まったな。あとはカニの爪か」

 

俺は収穫した野菜をポーチにしまい、旅のとびらがあるところに行った。するとその途中、ケーシーに話しかけられた。

「雄也。ちょっとアンタに相談があるんだ」

 

「これから出かけたいんだが···まあいい、どうしたんだ?」

 

ケーシーに話しかけられるのは久しぶりだな。何か大事な話があるのかと思ったが、ケーシーが言ったのは変な質問だった。

「ゲンローワとエルって、デキてんのかい?」

 

デキてる?つまり、恋人同士ってことか?急にそんなことを聞いてきてどうしたんだ?ケーシーもそういうことを気にしているのだろうか。

 

「別にそんなことはないと思うが···何でそんなことが気になったんだ?」

 

「いや、あいつらいつもはツンツンした雰囲気をかもし出してるくせに、たまに気持ち悪いくらいイチャイチャしだすことがあるんだよね」

 

確かに、あの二人からは単なる知り合いではない、強い繋がりが感じられる。だが、それが恋人同士かと言われると違う気がする。

 

「いや、あの二人には特別な繋がりがあるとは思うけど、恋人同士ではないと思うな」

 

「そうなのかい?まあ、恋愛に年齢は関係ないわけだし、別にいいんだけどさ」

 

いや、いくら恋愛に年齢は関係ないと言われても、さすがにあの二人は年齢差がありすぎると思う。俺の予想だが、あの二人は50歳くらい年齢差があるだろう。

大事な頼みごとがあるのかと思ったが、質問があっただけのようだ。

 

「あの二人のことはよく分からないな。とりあえず、素材集めに行ってくる」

 

俺は話を終えて、赤色の旅のとびらに入ろうとすると、再びケーシーが俺を呼び止めた。

 

「ちょっと待っておくれ。今のはどうでもいい話で、もう一つ相談があるんだ」

 

なんだ、本題は別にあったのか。先にそれを言えばいいと思うのだが。

「何だ、もう一つの話って?俺も早く出かけたいんだけどな」

 

「なかなか病人たちが治らないのは、やっぱり水のせいなんじゃないかって思うんだ」

 

そう言えば、今ある水飲み場を作ることを提案したのもケーシーだったな。ケーシーは本当に水が重要だと思っているようだ。だが、水飲み場の水で十分だと思うんだけどな。

 

「水飲み場の水じゃダメなのか?あれでも結構きれいだと思うが」

「いや、外の汚れた水よりもきれいだけど、病気を治すためにはもっときれいな水が必要だと思うんだ」

 

確かに水飲み場の水も、地球でいつも飲んでいる水に比べればおいしくないな。

 

「それで、あんたには水を浄化するための浄化装置を作ってほしいんだ」

 

浄化装置か···地球の水道水も、普通の水を浄化して、塩素で消毒しているんだったな。この世界では塩素で消毒は無理だろうけど、浄化装置は作れるのか。だが、浄化装置の形がまったく思い付かないな。

「その浄化装置は、どんな形がいいんだ?」

 

「あたいは、噴水のような形で、きれいな水が出てくるのがいいと思うよ」

 

噴水なら、見た目にもよさそうだな。俺は水の浄化をする噴水の作り方を魔法で調べた。

浄化のふんすい···石材5個、じゃり石5個、綿毛3個、密林の葉2個 木の作業台

どれも今持っている素材だな。密林の葉というのは赤の旅のとびらの先にあった緑色の大きな葉がある植物のことだろう。石材で噴水の形を作り、じゃり石や綿毛で不純物を取り除くんだろうな。密林の葉の役割はわからないが、消毒効果でもあるのだろうか。これなら、いますぐに作ることができる。

 

「今すぐ作れそうだ。ちょっと待っていてくれ」

 

俺はケーシーにそう言って、作業部屋に入っていった。そして、木の作業台を使い、素材を浄化のふんすいに変えていく。

 

「これが浄化のふんすいか」

 

出来上がった浄化のふんすいは石材を磨いて作られているため、とてもきれいな色をしていた。

 

「あとはこれで水がきれいになるかだな」

 

俺は浄化のふんすいを水飲み場へと持っていく。水飲み場では、浄化装置が出来上がるのを楽しみにケーシーが待っていた。

 

「おお、雄也!浄化装置が出来上がったのかい?」

 

「ああ、今そこに置く」

俺が浄化のふんすいを水の中に置くと、すぐにきれいな水があふれだした。ブイヤベースを作るのに必要なきれいな水というのは、このことなのかもしれない。

 

「ありがとう雄也!すごくきれいな水じゃないか!」

 

ケーシーは喜びを越えて、少し感動していたそして、病気で死んだ祖父のことを思い出しているようだった。

 

「こんなきれいな水、病気で死んだじいちゃんにも飲ませてあげたかったよ」

 

そういえば、ケーシーが水が重要だと言っているのも、祖父から教えられたからだったのか。どんな人だったんだろうな。

ケーシーは、しばらく祖父のことを思い出していたが、話を変えた。

 

「それはそうと、病人たちの治療で忙しいあんたたちのために、あたいたちが武器のアイディアを考えているんだ」

 

昨日ノリンが言ってたな。ヘルコンドルに対抗するための武器を作っているって。

 

「ノリンから聞いた。ヘルコンドルに対抗するための武器だろ?」

 

「ノリンからも聞いてたんだ。だったらわかると思うけど、空を飛ぶヘルコンドルに攻撃を当てるために、特別な武器が必要だと思うんだ。だけど、あんたやエルは武器を考える時間がないだろうから、あたいたちが考えてるのさ。もう少しでアイディアがまとまりそうだから、その時は言うよ!」

 

もうすぐ武器ができる段階にまで来ているのか。ヘルコンドルとの戦いはいつになるかは分からないが、早く作っておくのに越したことはないからな。

 

「ああ、頼んだぞ」

 

俺はケーシーと話をした後きれいな水を汲み、水飲み場から出た。

 

「きれいな水が手に入ったし、あとはカニの爪だな」

 

そこから俺は旅のとびらがあるところに行き、密林に移動した。

俺はてつのつるぎやてつのおのの性能を試すのもついでに、ぐんたいガニに背後から斬りかかった。てつのおのの強力な攻撃で、ぐんたいガニの甲羅は砕け散る。

だが、ぐんたいガニはまだ死なず、ハサミで俺を攻撃してくる。

 

「まだ死なないか。それでも、これで終わりだ!」

 

俺は左手に持ったてつのつるぎでぐんたいガニのハサミを切り裂いた。そして、鉄の武器の連続攻撃に耐えられずカニの爪を落としてぐんたいガニは倒れた。

 

「これであと1個だな」

 

あと1個カニの爪が必要なので、俺は近くにいた別のぐんたいガニに近づき、回転斬りを放った。

 

「回転斬り!」

 

両手の武器を一回転させたため、ぐんたいガニは大ダメージを2回も追い、すぐに死んでいった。

鉄の武器があれば、そこらのモンスター相手だと簡単になるな。だが、当然敵もこのことを知るだろうから、次の防衛戦ではかなり強い奴が襲ってくるだろうな。

 

「今は、あいつらの病気を治すか」

 

魔物への対策も重要だが、今は治療のための料理を作らないとな。俺は2個のカニの爪を持ち、町に戻っていった。

 

 

 

「これで材料が揃ったな」

 

俺は町に戻ってすぐに調理部屋に入り、必要な料理を作っていく。まずゆでガニを作り、他の素材と合わせてもりもりサラダにする。その後、昨日釣ったサケを使ってブイヤベースを作った。

 

「あとはあの二人に食べさせないとな」

 

俺は完成したもりもりサラダとブイヤベースを病室に持っていった。

 

「エル!頼まれた料理を持ってきたぞ」

 

俺の声を聞くと、エルはすぐに振りかえる。

 

「おお、ありがとうございます!こんな豪華な料理であれば、患者様も完治するはずです。早く食べさせてあげましょう」

 

俺とエルは、ミノリにもりもりサラダを、ヘイザンにブイヤベースを食べさせた。

 

「エル、これで治りそうか?」

 

「はい!二人とも満腹になっていて、明日には起き上がれるようになるでしょう」

 

これで、飢餓の病の患者は治すことができたな。

だが、エディ、ケン、イルマの3人の容態はさらに悪化していて、幻覚などを見るようになってきていた。俺からみると、だんだん魔物になっていっているように感じられる。

このままでは、完全に魔物になり、メタルギアソリッド5の終盤のように自らの手で病人を殺さなければいけなくなる気がする。それだけは、絶対に避けないといけないな。何かあいつらを治すことができるすごい薬でもあればいいんだが。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode39 うごめく樹木

リムルダールに来てから15日目の朝、俺が寝室の外に出ると、ミノリとヘイザンが希望のはたの台座に立っていた。ついにこの二人も病気が治り、動けるようになったようだな。豪華な料理を用意するのは結構大変だったが。

二人も、病気が治ったことを喜んでいた。

 

 

「ああ、今日はなんて素敵な日でしょう!」

 

「よかったあー!どうやら死なずに済んだみたいだな!」

 

そして、ミノリが俺に気づいて話しかけてきた。

 

「あっ、雄也さん。助けてくれてありがとうございました!」

 

そういえばミノリには出会った時に名前を名乗っていたな。彼女は嬉しそうな表情をして、俺に感謝の言葉を言う。

彼女は嬉しそうな表情をして、俺に感謝の言葉を言う。

 

「なんだかあたし、とてもお腹がすいて食べても食べてもいっぱいにならないし、お腹は減るのにお腹はどんどんふくらんでいって、もうダメだと思ってたんです」

 

お腹がずっと空いているというのも十分苦しい症状だが、お腹がふくらむっていうのも怖いな。人間の体は飢餓状態になると脂肪をたくわえようとするんだったか?

それはともかく、本当に助けられてよかった。

 

 

「助けられて良かった。これからどうするんだ?」

 

「あたし、武器や防具の知識ならありますよ!恩返しのためにも、この町に住ませてください!」

 

ミノリもこの町の住民になってくれるようだな。兵士だから戦うこともできるだろう。俺はもちろん歓迎の返事をした。

 

「もちろん歓迎するぞ。よろしくな、ミノリ」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

ミノリは喜んであいさつをして、俺たちの町を見に行った。気に入ってくれるといいな。

ミノリとのあいさつを済ませた俺に、今度はヘイザンが話しかけてきた。

 

「いい遅れたが、おかげで助かったぞ!ありがとう!」

 

ヘイザンはこんな美女なのに男みたいなしゃべり方なのか。それでも結構かわいいんだがな。

 

「かなり苦しそうな表情をしていたからな、助けられてよかったな」

 

それと、ヘイザンはまだ治らない3人のことも見ていたようだ。

 

「だけど、病室の他の患者たちは全身が土気色で目は血走り、そのうえ、幻覚まで見て一日中うめき続けて···ワタシもああなるもんだと思っていたよ」

 

ヘイザンの言う通り、あの3人は誰から見ても異常な状態になっていた。治療法も分からないまま、時間が過ぎていく。

 

「あの患者たち、恐ろしい気配がするし何かヤバそうだ。せいぜい気をつけて看病するんだね」

 

「ああ、分かってる」

 

エディたちについては、今は何もできないので、ヘイザンは話題を変えた。

 

「それにしてもだ!君たちには病気に立ち向かう知恵と勇気があるんだね!素晴らしいよ!ぜひワタシもここの仲間に入れてほしい」

「もちろんだ。俺は影山雄也、普段は雄也って呼んでくれ」

 

この自己紹介も10回以上しているな。ヘイザンも町に住んでくれるのか。今気づいたが、この町はメルキドより女性の住民が多いな。まあ、エディたちが治れば男の割合のほうが高くなるんだが。

ヘイザンは、ゆきのへから教わった鍛冶屋の知識の話もしてくれた。

 

「ワタシは以前、旅の途中に出会った伝説の鍛冶屋の子孫のいかつい男に弟子入りしたことがあってな、金属の加工に関する知識があるんだ」

 

俺はヘイザンにその鍛冶屋がここにいることを教える。それを聞くとヘイザンは、とても驚いた顔をした。

 

「その男ならここに住んでるぞ。メルキドから一緒にここに来たんだ」

「それは本当か!?どこにいるんだ?」

 

「多分そこの作業部屋にいる。会ってこればいい」

 

俺が作業部屋にいると言うと、すぐにヘイザンはそこへ走っていった。久しぶりの再会だし、嬉しいに決まってるよな。

 

俺が二人との話を終えると、今まで病室にいたエルが出てきて話しかけてきた。

 

「おお、雄也様!ありがとうございます!飢餓の病の患者様の治療が終わったのですね」

 

エルも二人のようにとても喜んでいる。病人が元気になる時は、いつ見てもそう思うのだろう。

 

「この病が治せたのも雄也様が栄養価の高い食事を作ってくださったからです」

別に俺のおかげだけでもないと思うけどな。病人自身の力と、エルの看病があったからだと思う。

これからはミノリとヘイザンも、この町のために活躍することになるだろう。だが、エルはすぐに暗い表情へと変わっていった。

 

「しかし···、以前の患者様は未だに眠ったまま、病の原因もその方法も分かってはいません。今の私にはもうなすすべがないのです。あとはただ、よりそうことくらいしか···」

 

やはりエルもあの治らない3人のことが心配なようだ。だんだんエルも、諦めかけているような気もした。

 

「おお!この地から病がなくせるのなら私は自分の身などどうなってもかまいません!神よ、もしもそこにおわすならどうか患者様をお救いください。げほっ、げぼっ」

 

困った時の神頼みという奴か···諦めかけてはいるが、それでも病人を救いたいという気持ちのほうが強いようだ。

それに、少し咳をしていたが最近エルは無理をしすぎている気もするな。治療法を見つけられればいいんだが。

 

しかし、俺たちが悩んでいるその時、今まで2回聞いたことのある鳥の羽ばたく音が、またしても聞こえた。

まさかと思い空を見ると、そこにはやはりリムルダールの魔物の親玉、ヘルコンドルがいた。俺は、エルにすぐにそれを知らせる。

「エル、今はそんなことを言っている場合じゃないようだ。ヘルコンドルがまたしても手下の魔物を呼び出そうとしている」

 

すると、エルこの前の襲撃の時の用に、魔物への憎しみを見せる。

 

「ヘルコンドルはこの地に見え隠れしているほんのわずかな希望の光すら邪魔なのでしょう。病を振り撒くだけでなく、私たちの町を破壊しようとするなんて、なんと、なんと憎らしい!皆さまにそのことを伝えて、魔物を迎えうちましょう」

 

ヘルコンドルにとっては希望は目障りなものなのだろうが、俺たちも負けることは許されない。俺は町のみんなに、魔物が来ることを伝えた。

 

「みんな、ヘルコンドルの手下が攻めてくるぞ!」

 

俺の声を聞いて、ピリンとノリン、ヘイザンを除くみんなが集まってきた。

みんなが集まったと同時に、ヘルコンドルは雄叫びを上げ、魔物を呼び出した。

 

「キュオーーーーー!」

 

ヘルコンドルの叫びと同時に町の東側に多数のじんめんじゅとくさったしたい、それらの隊長と思われる紫色の木のモンスター、ウドラーが現れた。

 

「また魔物が現れたのじゃな!?」

 

「迎え討たねえとな」

 

「あたしも戦いますよ!」

 

やっぱりミノリも戦えるようだな。俺はてつのつるぎをミノリに渡し、てつのおので戦うことになった。

そして、俺とゆきのへはてつのおの、ミノリとゲンローワはてつのつるぎ、エルとケーシーとザッコは石を持ち魔物を迎え討つ。リムルダールの3回目の防衛戦が始まった。

 

二刀流で戦えないのは困ったが、てつのおのだけでもなんとかなるだろう。俺たちはまず、前衛にいるじんめんじゅに斬りかかった。「この町は壊させねえよ」

 

てつのおのはじんめんじゅに突き刺さったが、生命力が高いため倒すことはできなかった。

密林にいた奴らよりもかなり強いようだ。野生のモンスターとは違い、訓練されているのだろう。

体に大きな傷を負ったじんめんじゅは俺に枝を叩きつける。まともに食らったらとても痛いだろう。俺はすかさずてつのおので枝を受け止め、そのまま枝を斬り捨てた。じんめんじゅにとって枝を斬られることは腕を斬り落とされるのと同じことなようで、激痛を感じて動きを止めた。

 

「これで終わりだな」

 

俺は動きが止まっているうちにてつのおのでじんめんじゅを頭から真っ二つにした。

ミノリやゲンーローワもじんめんじゅの枝を斬り落としてからとどめをさしていた。

 

「お主らなどにこの町は壊させぬのじゃ!」

 

「あたしがここを守って見せます!」

 

ゆきのへは敵の攻撃をかわしながら後ろにまわり、てつのおのを降り下ろした。彼の強力な一撃でじんめんじゅは消えていく。

これで4体のじんめんじゅを倒すことができたが、俺たちのもとに他のじんめんじゅやくさったしたいが迫ってくる。

 

「私が魔物たちを足止めします!」

 

それに気づいたエルたちは石を投げつける。しかし、じんめんじゅの固い樹皮には効果がなく、くさったしたいはそもそも痛覚がないため怯むことがなく、どちらにも効かなかった。

 

「石投げは効果がないか···」

そろそろもっと強い遠距離武器が必要そうだが、今は作ることができない。

次々に迫ってくる魔物たちを俺は攻撃される前に倒すため、てつのおのに力をためた。

それに気づいたのか、じんめんじゅは俺を狙うのをやめ、ゆきのへたちのところへ向かった。今3人は多くの魔物に囲まれて苦戦していた。これ以上多くの敵が来たら危ないだろう。

俺は力をまだためていたので、みんなのところに向かう魔物に解き放つ。

 

「回転斬り!」

 

じんめんじゅは死んだが、くさったしたいな腹に大きな傷を負っただけだった。そのくさったしたいは、この前の防衛戦で来た奴のように俺を殴り付けてくる。こいつもスピードは遅いので、かわすのは容易であった。

「たいして早くないな。くさったしたいは耐久力だけは高いんだよな」

 

俺は殴ってきた隙にくさったしたいの右腕を斬り落とす。すると、痛みは感じないため、怯むことなく左腕で殴りかかる。

俺はその左腕も斬り落とし、最後に無力化したくさったしたいの胴体を両断した。

これでくさったしたいを1体倒せたが、あと何体もいる。奴らのせいで、ゆきのへ、ゲンローワ、ミノリは少し傷を負っていた。

 

「くそっ、囲まれたな」

 

俺はその中でも一番多くの敵に囲まれているゆきのへのところへ向かい、背後からじんめんじゅを斬り倒していく。

 

「助かったぜ、雄也!」

 

ゆきのへも体勢を立て直し、てつのおので敵を攻撃していく。

次にゲンローワとミノリを助けようとしたが、隊長のウドラーが立ちはだかった。だが、今すぐ二人を助けに向かわないとまずい。

 

「隊長のウドラーは俺が倒す。ゆきのへはゲンローワたちと一緒に手下を倒してくれ」

 

「ああ、分かったぜ」

 

俺はゆきのへにそう言って、目の前にいるウドラーにてつのおのを降り下ろした。普通のじんめんじゅには突き刺さったが、ウドラーはそいつらよりも固く、少し傷をつけられる程度だった。

 

「てつのおのでも斬れないか···」

 

俺はすぐに次の攻撃をしようと思ったが、ウドラーが両方の枝を叩きつけてきた。俺はとっさにてつのおので攻撃を防いだが、枝を斬り落とすことはできなかった。

それどころか、次々に枝を振り回してきて、反撃の機会がない。回転斬りを使えば攻撃できるだろうが、近づかないといけないため、自分も傷を負うことになるだろう。

みんなの様子も見てみるが、まだ手下のじんめんじゅやくさったしたいと戦っている途中だった。エルたちの投石もこの固い樹皮の前では何の意味もなさそうだ。

俺はなんとか背後に回ろうとするが、ウドラーは移動速度も速く、俺の動きにすぐに対応してくる。俺はウドラーから距離をとって、隙ができるのを待った。

その機会は、すぐに訪れた。あまりに連続攻撃をしすぎたウドラーは疲れて動きが鈍くなってきていた。

 

「こいつも疲れてきているのか、今だな」

 

俺はウドラーに近づき、枝を弾き返した後、回転斬りを放った。

 

「回転斬り!」

 

すると、両方の枝を落とすことができ、胴体にも深い傷ができた。

さらに、そのウドラーの背中に、手下を倒し終えたゆきのへがてつのおのを持って斬りかかった。

 

「雄也、援護するぜ!」

 

「ああ、頼んだぞ」

 

枝を失ったウドラーは、ゆきのへに体当たりで攻撃した。巨体での体当たりは威力が高く、ゆきのへを突き飛ばした。

だが、そこにゲンローワとミノリが来て、ウドラーの前にたち塞がる。ウドラーは、その二人にも体当たりをしたが、そのせいでてつのつるぎが体に刺さってしまい、大ダメージを負う。

刺さった剣を抜こうとするが、枝がなくなったためできなかった。

 

「そろそろとどめだな」

 

俺はゆきのへがつけた大きな傷にてつのおのを突き刺し、その状態で回転斬りを放った。そして、ウドラーは内臓を裂かれてついに倒れる。

これで、町を襲ってきたモンスターは全部倒したな。

 

だが、安心して町に戻ろうとした時、俺の耳におぞましい声が聞こえた。

 

「ダレダ···ダレダ、ダレカガココニ、キボウヲフリマイテイル···」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode40 浄化の霊薬

ウドラーを倒した時に聞こえた声はなんだったんだ?俺はそんなことを考えながら町に戻った。

何者かがこの地に希望が振り撒かれていることに怒っているようだが、誰の声なんだろうな。

 

「少なくとも、ヘルコンドルではなさそうだな」

 

ヘルコンドルが喋るとは思いにくいし、仮に喋れたとしてもすでに希望を振り撒く存在、ビルダーがいること、それが俺であることはすでに気づいているはずなので、あんなことは言わないはずだ。

あれはもっと恐ろしい存在の声のように思える。そいつとも、いつか戦うことになるんだろうか。

俺は少し不安になったが、今すぐに戦うことにはならないだろう。それに、今はそれより大事なことがある。

 

「気になるけど、今はあの3人を治すことに集中しないとな」

 

俺は、未だに病気の治らない3人の様子を見に行った。病室では、なんとしても諦めたくないと言っているエルがなんとか希望を持ち続けながら、彼らの看病をしている。

 

「エル、そいつらの様子はどうだ?」

 

「私が何をしても、病状は悪くなっていくばかりです。雄也様、今日は戦いもありましたし、休んで明日また考えましょう」

 

確かに休んだほうが疲れがとれていい発想も浮かぶかもしれない。だが、俺が病人たちの様子を見たところ、皮膚がくさったしたいのような色になっていて、まともな言葉を発することもできなくなっていた。また、魔物の気配がさらに強くなり、本当に人間だと思えない状態にまでなっていた。

もう、時間がない気がする。俺の推測が正しければ、今日の夜くらいに3人は魔物に変異するだろう。それまでに治療法を見つけなければ、3人を殺すしか方法がなくなる。

俺はエルに、病人たちが魔物になってしまうことを伝えた。単なる推測ではなく、ほぼ確実なことだからな。

 

「いや、休んでいる時間はない。こいつらはもうすぐ、早ければ今日にでも魔物になってしまう」

 

「魔物に?そうなったらどうなるのですか?」

 

「もう諦める···殺すしかなくなる」

 

魔物になれば、何をしても戻すことは出来ないだろうし、俺たちを攻撃してくるはずだ。

 

「そんなことにはしたくありません···雄也様、必ず患者様を救う方法を見つけ出してくださいね」

 

エルもそんなことには絶対にしたくはないようだ。当たり前だ、これまで必死に看病してきたんだからな。

ゲームでは殺すしかなくなるのかもしれないが、現実ではゲームにないアイテムも作れるはずだ。あと数時間は猶予があるだろうから、その間に薬を作らないといけない。

 

「ああ、もちろんだ!」

 

俺はエルの言葉に、そう返事をした。これは人の命がかかっているからな。責任重大だが、必ず救ってやらないとな。

俺はその薬の作り方を考えるために、一人で寝室に戻った。今回は旅のとびらも手に入っていないし、ゆっくり考える時間がある。

 

「あいつらを治すためには、魔の力を浄化する必要があるはずだな」

3人を蝕んでいる病原体は不明だが、魔の力を浄化することができれば、治すことができるはずだ。

俺はその日の夕方まで考えて、その薬の素材を思い付いた。

 

「銀と、薬草あたりが必要だな」

 

銀は昔から毒を消し去ると言われているので、その力で魔の力を清める。それと、薬草で体の抵抗力を高めて、魔の力を自分の力で消し去る必要もあると思う。

俺は、それらの素材を使った薬を思い浮かべる。浄化の力を持つ、光り輝く薬だ。

そして、一つのある薬の作り方が頭の中に浮かんでくる。

浄化の霊薬···きれいな水1個、銀3個、くすりの葉3個 調合ツボ

浄化の霊薬か···霊薬というのは、不思議な効き目がある薬という意味だったはずだ。

これなら、あの3人の禍々しい病も治すことができるな。それと、今分かったがいつも薬草と呼んでいた緑色の葉は、くすりの葉というのが正式名称なのか。

銀とくすりの葉はどちらも持ってはいるが、数が足りなかった。一つに3個ずつ使うので、三人分だと9個ずつ必要なことになる。普通の薬のように、一度に3つできたりすることもないだろう。

 

「今すぐ取りにいくか」

 

もう夕方だったが、俺は患者を救うため、まず水飲み場できれいな水を3回汲んだ後、くすりの葉を取りに行った。くすりの葉はリムルダールに来てすぐのころに何度も登り降りしていた町の東の崖の上にある。

 

「この崖を登るのも久しぶりだな」

 

俺はその崖をつたで上っていき、くすりの葉を探した。くすりの葉は数があまり多くはないが、10個以上はある。

 

「早く集めないとな」

 

俺はリリパットに見つからないようにして、くすりの葉を集めていく。急いで集めたいが、敵に見つかったら戦わないといけないし、隠れたほうがいいだろう。

くすりの葉が必要な数集まった時、もう日が暮れる時間だった。

 

「あとは銀だな」

 

俺は町に戻った後、すぐに赤の旅のとびらに入り、銀を取りに行った。この近くの崖に銀が埋まっていたはずだ。

まわりはもう暗いので、俺はたいまつで辺りを照らしながら、銀を探した。

俺は慎重に崖を歩いていき、多くの銀が埋まっている鉱脈を見つけることができた。

 

「これで銀も集まるな。これであの3人を助けられる」

 

俺はてつのおのを銀の鉱脈に叩きつけ、たくさんの銀を採掘した。

 

「てつのおので叩いているのに、結構固いな」

 

地球では銀は鉄より柔らかいのだが、この世界では銀のほうが固いようだ。そんな固いものを薬に出来るのか心配になったが、ビルダーの魔法の力があればなんとかできるだろう。

 

「これで浄化の霊薬が作れるはずだな」

 

空は真っ暗になっていて前が見えにくかったが、なんとか崖を降りて旅のとびらに入っていった。

町に戻ると、そこはただならぬ気配で覆われていた。そして、エルが俺を見つけて駆けつけてくる。

 

「雄也様、大変なのです!患者様の、患者様の様子が···」

 

やはり患者達に異常があったか···俺の推測は正しかったようだ。

 

「分かった。とりあえず、患者達の様子を見に行こう」

 

俺とエルは病室に急ぐ。中ではゲンローワも3人の様子を見ていて、もうダメだというような顔をしている。

そして、その3人は起き上がり、わけの分からない言葉を発している。

「おおお!もうスッカリ、よくなったゼ!···モウ、スッカリ!アハハハハ、アヒャヒャヒャヒャ!」

 

「あはは!僕はついに目が覚めましたよ!あはははは!」

 

「ああ、どうすればいい?どうすればいいかな?全身をイモムシがはいずり回って取っても取っても取れないんだ···」

 

魔物に変異する寸前といったところか。これは早くしないとまずいな。

 

「今すぐ薬を作ってくる!待っててくれ!」

 

俺は調合室に向かって全速力で走る。そして、すぐに浄化の霊薬を作り始める。きれいな水と銀とくすりの葉が合わさり、俺が想像したような光り輝く薬が出来上がる。

 

「これが浄化の霊薬か···これであいつらを助けられる」

 

俺は3つの浄化の霊薬を持ち、再び病室へ向かった。やはり浄化の霊薬は、一度に一個しか出来なかった。

病室では、エルが患者たちに必死に声をかけている。しかし、その声は全く届いていない。

 

「みなさま!しっかり、しっかりしてください!」

 

「える···れる···れる···」

 

「ウルス様の言っていた通りでした。うたがった僕がマチガッテいたんデス!」

 

「きもち···いい···かゆい、かゆい、きもちいい、かゆい···うひ、うへ」

 

だが、これで助けることができる。俺はエルとゲンローワに一つずつ浄化の霊薬を渡した。

 

「これを飲ませるんだ!そうすれば助かるはずだ」

 

俺はエディに、エルはケンに、ゲンローワはイルマに浄化の霊薬を飲ませる。すると、3人を包む魔物の気配は消えていき、落ち着いて眠りについた。

「これで、治ったのですね?」

 

魔物の気配は消えたものの、エルは心配して聞いてくる。

 

「今は落ち着いているようじゃ。雄也の作ってくれた薬のおかげじゃろう。もうしばらくしたら、回復するはずじゃ」

 

俺も少し不安だったが、ゲンローワの話を聞いて安心することができた。エルも同じく、安心の表情をする。

 

「ありがとうございます、雄也様。おかげで患者様を助けられました!本当に、感謝しています」

 

この3人に必ず助けてやると言ったし、ザッコにも友達を助けると約束した。言葉には責任があるとよく言われるから、本当に救うことができてよかった。

 

「さっき、もちろんだって返事をしたからな」

 

そして、俺たちは安心して眠りにつくことができた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode41 不死の研究所

今回は1章の序盤に現れた敵が再登場します。今後もたまに出てくる予定です。


俺がリムルダールに来て16日目の朝、最悪の事態を回避できた日の翌日、俺は浄化の霊薬を飲ませて治療した3人の様子を見に行った。

病室に入ると、3人はまだ眠っていて、エルはその様子を見ていた。

 

「雄也様、おはようございます」

 

俺はエルに3人の状態を聞く。魔物の気配が消えたとはいえ、完全に安心している訳じゃないからな。

 

「おはようエル。こいつらの様子はどうなんだ?」

 

「容態は安定しています。早ければ明日には起き上がれるようになるでしょう」

 

エルが見たところは安定しているのか。この3人が起き上がればこの町の人口は13人になる。魔物にもより対抗しやすくなるはずだ。

だが、結局この病の原因はなんだったんだろう。さすがのヘルコンドルも人間を魔物に変異させる病気が振り撒けるとは思えない。

 

「でも、あの病の原因はなんなんだろうな?」

 

「私にも全くわかりません。あのような恐ろしい症状は、見たことがないのです」

 

やっぱりエルにも分からないか。治療法が見つかったので無理に突き止める必要はなさそうだけどな。

 

「そうか···ヘルコンドルより恐ろしい存在がいるのかもしれないな」

 

そうとしか考えられないが、それが何者なのかはわからなかった。

今は考えても仕方ないので、俺は病室から出て、朝食を食べに調理部屋に行った。その途中、ゲンローワが話しかけてきた。

 

「雄也よ、昨日は恐ろしいことが起きそうじゃったのう···患者たちを助けてくれて、本当に感謝するぞ」

 

そう言えば、昨日もケンはゲンローワの弟子、ウルスの名前を言っていた。この前ゲンローワは知らないと言っていたが、やはり無関係とは思えない。俺はゲンローワにそのことを聞く。

 

「昨日ケンがあんたの名前を言っていた。やっぱりあんたはあの病気について知ってるんじゃないか?」

 

ゲンローワは言いたくないようでしばらく黙っていたが、話し始めた。

 

「知らないと言えば嘘になる。すまぬ、これまでは言いたくなくて黙っておったのじゃ」

 

そこまで言いたくないってことは、ウルスとの間に何かがあったってことだよな。

俺は早く続きを聞きたかったが、ゲンローワは本題に入る前にこう言った。

 

「雄也よ、わしの言葉を覚えておるか?病と戦うことは、死以上に辛く、苦しいと···」

 

そう言えばゲンローワは俺と初めて出会った時、そんなことを言っていた。ウルスとの間に何かあったからこそ、そう思うようになったのだろうか。

 

「ああ、覚えてるよ。それで、ウルスとの間に何があったんだ?」

 

そこで、ゲンローワはとんでもないことを言う。

 

「おそらく、あの病の原因を作ったのは、我が弟子、ウルスであろうと思う···」

 

ウルスがあの恐ろしい病気を作っただと!?ゲンローワの弟子は、いわゆるマッドサイエンティストなのか?

 

「そして、ウルスは密林の奥地で今も生きておる···」

 

ゲンローワは最初ウルスが死んだような言い方をしていたが、今も生きていて、研究を続けているのか。密林というのは赤の旅のとびらの先の場所のはずだ。

 

「そこでの、雄也。お主に頼みたいことがある。ウルスの元へ行き、あの病について聞いてきてほしいのじゃ」

 

もしかしたら、ウルスもこの町の仲間になってくれるのかもしれない。だが、密林は広いので、どこにいるかわからないな。

 

「でも、ウルスは密林のどこらへんにいるんだ?」

 

「崖のほうから密林に入り、左の方向に進むのじゃ。そこに、ウルスの研究所がある。」

 

密林の左のほうか···そこら辺はまだ探索したことがなかったな。探索もついでに行ってくるか。

 

「分かった。朝食を食べたら行ってくるか」

 

俺はゲンローワと一度別れ、調理部屋に入る。今日もノリンが釣ってきた魚を食べて、探索に備えた。

 

「そろそろ出発するか」

 

朝食を食べ終えててつのおのを持ち、俺は旅のとびらに向かった。その途中、ゲンローワがまた話しかけてきた。

ゲンローワは手に、手紙のようなものを持っている。

 

「雄也よ、待つのじゃ。ウルスは今、固く心を閉ざしておる。わしのこの手紙を持ってウルスを訪ねるのじゃ!」

 

俺はゲンローワからその手紙を受けとる。そこには、ゲンローワからウルスへのメッセージが書かれていた。

そして、その手紙をポーチに入れて、旅のとびらに入った。

「またしても濡れることになるのか···」

 

密林には何回も行っているが、服が濡れるのはいつまでたっても慣れない。

だが、そうして進むしかないので、俺は仕方なく水の中を歩いていった。

10分ほどで谷を抜けて、密林にたどり着く。そこから、まだ行ったことのない左の方向に向かった。

 

「ウルスの研究所はまだまだ先だな」

 

左の方向に進んでも、なかなかウルスの研究所は見えてこない。途中で、白い岩でできた岩山もあった。

「岩山か、これも越えないといけないのか」

 

メルキドでは何回も岩山に上ったことがあったので、今回も土ブロックで足場を作りながら登ろうと思った。

それと、その岩山の近くに気になるものが2つあった。調べておいたほうがいいな。

 

「大きな塔とか遺跡みたいなのがあるな」

 

ウルスの研究所ではなさそうだが、何か役に立つ物があるかもしれない。俺はまず、近くにある土ブロックでできた塔に登り始めた。

 

 

「こんな高い塔、誰が建てたんだろうな」

 

この塔の頂上には宝箱が見えたので、人間から宝を隠すために魔物が建てたのだろうか。そう考えれば、レアなアイテムが入っている可能性が高い。

俺はブロックを積みながら塔を登っていき、頂上にある宝箱を開けた。

そこには、必要ではあるが既にいくつも持っている物が入っていた。

 

「さびた金属が5つか、大した物じゃなかったな」

 

その宝箱には、さびた金属が5個入っていた。確かに加工すれば鉄製の武器が作れるため、魔物からしたら人間に渡したくないのだろうが、ちょっと残念だな。

俺はその塔を降りて、今度は遺跡に向かった。

 

「今度こそいい物が入っているといいんだけどな」

 

その遺跡は、ドムドーラのピラミッドと同じブロックで出来ていて赤色のとびらが付いていた。

さっそく俺はそのとびらを開けようとしたが、開かなかった。

 

「くそっ、鍵がかかってるぞ」

 

鍵がかかっているということは、間違いなく貴重な物が入っているようだ。農業の記録があった遺跡にも、鍵つきのとびらがあったな。

中に何があるか気になるが、鍵を持っていないため開けることは出来なかった。

 

「結局、あんまりいい物は手に入らなかったな」

 

俺は遺跡を去り、岩山を登った。この岩山を越えればそろそろ着くだろう。

俺は岩山の上に生息しているキメラの色違い、メイジキメラを避けながら奥の方へと進んでいった。

 

 

俺は岩山の上に生息しているキメラの色違い、メイジキメラを避けながら奥の方へと進んでいった。

メルキドの岩山でも何度もしたので、キメラを避けることには慣れていた。

そして、岩山の一番奥の崖の下を見下ろすと、人がいそうな建物があった。

 

「あれがウルスの研究所か」

 

俺はウルスに話を聞くため、崖を降りて建物へ歩いていった。

 

一方、その頃···

魔物の王 竜王の間

 

雄也がウルスの研究所に向かっている頃、リムルダールの魔物の1体が竜王に謁見していた。

 

「竜王様、この前メルキドのゴーレムを倒したビルダーが今度はリムルダールを支配しようとしております」

 

竜王は、メルキドでの雄也の活躍に少しは驚いていたが、まだ心配するようなことはなかった。

 

「それは分かっている。わしに何を頼みたいというのだ?」

 

「今、そのビルダーが魔物化の病を作った研究者、ウルスのところへ行こうとしています。そして、そのウルス自身もその病にかかっています」

 

魔物はこう考えていた。魔物化の病を竜王の闇の力で変異させれば、ウルスは強大な魔物になり、人間にとっての脅威になるのではないかと。

 

「竜王様の闇の力でウルスを強大な魔物にしてはもらえないでしょうか」

 

「確かに人間が増えすぎてはならぬ。わしの影をリムルダールに送り込み、闇の力で研究者を変化させてやろう」

 

竜王の影には、竜王本体ほどの戦闘能力はないが、同じくらいの闇の力を持っている。王である竜王自身が動く訳にはいかないので、自身の影にやらせているのだ。

また、再びビルダーの力を試すという目的もあった。無論、ビルダーを殺してしまうこともありえるが。

 

「ありがとうございます、竜王様」

 

リムルダールの魔物は竜王にお辞儀をして、去っていった。

それと同時に、この前の3体の竜王の影と、それらより大きな竜王の影の合計4体がリムルダールの地へと向かった。

 

 

一方雄也は、ウルスの研究所と思われる建物にたどり着いていた。中には、木の机がいくつもおいてあり、最近使われた形跡もある。

 

「ん、メモがあるな」

 

また、ウルスが書いたと思われるメモが置いてあった。

 

なぜだ!どうやってもうまくいかない!···やはり、病にあらがうなどムダなことなのか。

 

ウルスも病の治療には行き詰まっていたようだな。もしかしたら、魔物になれば病気にならずに済むと考えたのだろうか。

そして、建物の一番奥には金髪の赤い服を着た男がいて、俺に気づいて話しかけてきた。

 

「だ、誰だ···お前は···」

 

「俺は影山雄也だ。お前がゲンローワの弟子のウルスか?」

 

「そうだ。こんなところに···何の···用だ?」

 

それだけ言って、ウルスはまともに話そうとしなかった。なので、俺はゲンローワから預かった手紙を渡す。

 

「ゲンローワから手紙を預かってきた。読んでくれ」

 

ウルスは手紙を受け取り、それを読み始める。そしてウルスは、後悔しているような表情をする。

「私は···とんでもないことをしてしまった。すべてゲンローワ様が正しかった···」

 

やはり、ウルスが魔物化の病を作ったと考えて間違いないようだな。そう考えると、人間と魔物のどちらが悪なのか分からなくなる。

 

「お前があの病気を作ったので間違いないんだな」

 

「ああ。だが、人間が死を乗り越えるなどおこがましい、げほっ、げほっ」

 

それで魔物化の病を作ったってことか。別に狂っていた訳ではないんだな。

 

その時だった、突然空が暗くなってきたのだ。

 

「何だ?まだ昼間のはずなのに···」

 

そう言えばメルキドでロロンドを救出に行った時も空が暗くなり、竜王の影が出現したな。再び竜王の影が来るのかもしれない。

俺がそんなことを考えていると、ウルスが一枚の紙を渡してくる。

 

「これを、ゲンローワ様に···生命の樹を、世界樹を探すんだ···ぐひゃひゃ!」

 

紙を渡したと同時に、ウルスは昨日の3人のような声を発した。今まで気づかなかったが、ウルスも魔物化の病にかかっているのか!?

 

「アア···アゥアウェア···オオォ···。アオォオー!オオオオー!オオオオオーッ!」

 

ウルスは凄まじい声をあげて禍々しいオーラを纏い、恐ろしい魔物へと変化していった。そのオーラは、あの3人の比ではなく、とてつもなく強大なものだった。

 

「ウギョアアアーーー!」

 

そして、俺の目の前にいたのはドラクエ10のマッドスミスに似た巨大なゾンビだった。だが、マッドスミスより体が黒く染まっており、目は血のような赤色だった。

マッドスミスのウルス版、マッドウルスと言ったところか。ウルスの心は完全に失われており、俺を鋭く睨み付けてくる。

俺はここで戦わないといけないのかと思い、てつのおのを構えたが、マッドウルスはどこかへ去っていった。

 

「これが、魔物への変異か···」

 

魔物になる瞬間、ウルスはものすごく苦しそうな表情をしていた。それを見るとあの3人を助けられて良かったと思う。

 

「ウルスは助けられなかったが、この手掛かりは手に入ったか。持ち帰らないとな」

 

俺はゲンローワにウルスのメモを見せるため、町へ歩き始めた。だが、俺の恐れていた者が見えた。

竜王の影が、このウルスの研究所へ迫ってきていたのだ。偶然とは思えないし、ウルスがあそこまで強大な魔物になったのは、こいつらのせいかもしれない。

「ウルスを変異させた後は、俺を殺す気か?」

 

ロロンドを救出しにいった時のように、見つからないようにしないといけない。俺は研究所の裏に隠れ、体勢を低くして離れていく。

そして、竜王の影と距離をおいた後、キメラのつばさを使った。だが、竜王の影の魔法で封じられているようで、俺は飛び上がらなかった。

 

「どこかに隠れるしかないか」

俺は近くにあったヤシの木の裏に隠れて、竜王の影が去るのを待つ。やがて竜王の影は研究所に到達し、中を調べ始めた。

俺は竜王の影が研究所に集中している間にほふく前進で町の方向へ向かう。途中、竜王の影は俺が隠れていたヤシの木のところも探していた。早めに動いてよかったぜ。

土でできた山があるところまで逃げた時、その山に洞窟があることを見つけた。

 

「ここに入れば見つからないな」

 

俺はその洞窟に入り、竜王の影が去っていくのを待つ。じっとしているのは苦手だが、今は仕方がない。

今回は一時間では去っていかず、二時間くらい洞窟の中に隠れていた。竜王の影が去り、空が晴れたころには、もう正午を過ぎていた。

 

「朝出発したのにもう昼か、いろいろあって大変だったな」

 

ウルスが変異したり、再び竜王の影が迫ってきたり、一度に大変なことがいくつも起きた。まずは、ウルスのことをゲンローワに言わないとな。

俺はキメラのつばさを使い、リムルダールの町へと戻っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode42 対空の大弓

竜王の影が去っていった後、俺はキメラのつばさで町に戻り、ゲンローワにウルスのことを話しにいった。

 

「ゲンローワ、ウルスと話してきたぞ」

 

俺のその声を聞いて、ゲンローワは調合室から出てくる。

 

「戻ったか、雄也。ウルスは、連れてこなかったのか?」

 

本当は俺は連れて帰りたかったが、目の前で魔物になるという想定外の事態が起きたからな。

 

「ああ、ウルスは魔物になった。自分で作った病気が原因でな」

 

ただのくさったしたいではなく強大なマッドウルスになったのは竜王の影の影響もあるかもしれないが、元々の原因は魔物化の病だろう。

「···そうか、ウルスが。」

 

俺がそう言うと、ゲンローワはショックを受けたような顔をする。

やはり、自分の弟子が恐ろしい研究をしていたり、魔物になったとは信じたくないのだろう。これまで黙っていたのも、そういう理由だったのか。

 

「ウルスのことは分かった。じゃが、少し前に空が暗くなったのは何なのじゃ?」

 

それと、ゲンローワは竜王の影によって空が暗くなったことも心配しているようだ。

 

 

「さっきウルスの研究所にいた時、竜王の影っていう強いモンスターが現れたんだ。そいつの影響だ」

 

「そのようなモンスターがいるとは···雄也よ、大丈夫だったのか?」

 

「洞窟に隠れてやりすごした。二時間くらい俺のことを探していたぜ」

 

これまで2回とも見つからずに済んで、戦うことはなかったが、いつか戦うことになるんだろうな。

 

「助かってよかったのう。雄也よ、ウルスを助けられなかったのは残念じゃが、助かったぞ」

 

俺からも、ゲンローワに聞きたいことがあった。ウルスは、なぜゲンローワと離れることになったんだ?確かにウルスは悪いことをしているが、ゲンローワは止めなかったのだろうか。

 

「俺からも聞きたいことがある。いつからウルスは魔物化の研究を始めたんだ?」

 

「かなり前のことじゃ、わしとウルスはこの地の病を根絶すべく、研究に明け暮れておっての。」

 

やっぱり、最初は同じ目的で研究を始めてたんだな。

 

「しかし、物を作る力を持たぬわしらでは、何をやっても上手くはいかなかった。そして、ウルスは魔物になるかわりに、死そのものをなくす恐ろしい研究を始めたのじゃ。」

 

魔物になる研究、それを巡ってウルスとゲンローワは対立したってことか。

 

「あの異形の病は、人のおごりが生み出した負の産物なのじゃ」

 

最初は魔物が振り撒いた病が原因とはいえ、人間のほうが何倍も恐ろしいことをしてるんだな。そう考えると、ヘルコンドルよりウルスが危険に思えてくる。

 

「ウルスを止めなかったのか?」

 

「もちろん説得して、止めさせそうとした。じゃが、ウルスは何を言っても聞いてはくれなかった。ついにはわしの元を離れ、一人で研究をするようになった」

 

止めても無駄だったと言うことか。そして、ウルスはその研究を完成させてしまった。

これで、ゲンローワとウルスの過去のことが分かったな。

 

「そうだったのか。そういえば、ウルスからメモを預かってきている」

 

俺は話を聞いた後、ウルスのメモをゲンローワに渡した。ウルスの話によると、この地の病をなくす手がかりが書かれているはずだ。

 

「これは、ウルスの薬の開発記録か···」

 

ゲンローワはその紙を受け取って読み始める。

 

「じゃが、しょせん人間が病と戦うなど、やはり間違っておるのではないか?病や死から逃れようとするなど、人間の領分を超えることなのではないか?」

 

またゲンローワが暗いことを言い出したな。まあ、病に抗った結果が魔物化という話を聞いた今なら、分からない話ではないが。

 

「せっかくじゃ、ウルスの手がかりはわしが解析してみる。それが本当に正しいことなのかは分からぬがの···」

 

ゲンローワは悩みながら、ウルスのメモの解析を始めた。

俺はゲンローワと別れ、何をしようかと考えていると、ミノリが話しかけてきた。

 

「雄也さん、この町のみなさんはいい人ばかりですね」

いい人ばかりか···この町の住民は共に町を発展させ、魔物に立ち向かい、苦労を共にした大切な仲間だからな。でも、急にそんなことを言ってきてどうしたんだろう。

 

「確かに俺もそう思うけど、急にどうしたんだ?」

 

「あたしは、ノリンさん、ケーシーさん、そしてザッコさんに相談を受けました。」

 

あの3人に相談を受けたってことは、この前言ってたヘルコンドルに対抗するための武器の話だろうな。

 

「ヘルコンドルに対抗するための武器のことか?」

 

「はい、病と闘うことや町を作ることに忙しい雄也さんのかわりに、ヘルコンドルを倒す武器を開発したい、と」

 

やっぱりその話だったか。ヘルコンドルだけでなく、手下の魔物やマッドウルスにも使えるかもしれないし、必ず作る必要があるな。

 

「それで、相談を受けてから町のみなさんと一緒にいろんな武器のアイディアを考えてみました。ヘルコンドルは空飛ぶ鳥です。普通の攻撃は当たらないでしょう」

 

ヘルコンドルのはゴーレムより弱そうだが空を飛べるのが厄介なんだよな。何らかの対空兵器を作って撃ち落とさないといけない。

 

「ああ、撃ち落として攻撃する必要がある」

 

「そこで、あたしたちはリリパットが持つ武器を見て思い付いたんです!」

 

リリパットが持っている武器ってことは、弓か。確かに空中にいる敵にも攻撃当てられるな。

俺は銃を使うアクションゲームばかりしていたので、遠距離に攻撃できる武器は銃しかないと思っていた。

 

「あたしたちが考えたのは、固定型の大きな弓からヘルコンドルに突き刺さるような大きな矢を放つ武器です。雄也さん、あとはどうかあたしたちのアイディアを形にしてください」

 

固定型の大きな弓ってことは、モンハンのバリスタみたいな感じか。それと、大きな矢も作らないとな。俺は大きな弓と矢の作り方を調べる。

大弓···木材5個、ひも3個、さびた金属1個

鉄の矢···木材1個、さびた金属1個

どちらにも木材とさびた金属がいるな。大弓はいくつか設置しないといけなさそうだし、木材の数が足りないな。

 

「分かった。素材を揃えたら作ってみる」

 

俺はミノリにそう言って、旅のとびらに向かった。矢はいくつか同時にできると思うが、それでも何回か作っておいいたほうがいい。

 

「木材を集めるのとついでに、まだ行ったことがない場所に行ってみるか」

 

俺は青の旅のとびらに入ったところにある草原の右にある山や、赤の旅のとびらの先にある宮殿の裏の山には登ったことがなかった。山を登るのは結構大変だからな。だが、そこに何かあるかもしれないし、木材を集めるついでに行っておくか。

俺はまず、青の旅のとびらに入り、南国の草原に出た。

 

「ここに来るのも久しぶりだな」

最近はずっと密林に行っていたので、何日かぶりにここに来ることになる。

 

「右の山に登って何かないか調べてみるか」

 

俺はスライムベスやキャタピラーを避け、途中にあったヤシの木をてつのおので叩いて原木を入手しながら、草原を歩いていった。

15分くらいでその山にたどり着くことができた。その山の上にも、たくさんのヤシの木が生えている。

 

「この山で木材を30個くらい取るか」

 

大弓はヘルコンドルに当たる確率を上げるために5個以上設置したほうがいいだろう。大弓を5つ作るのに25個必要になる。矢を作ることを考えれば、30は必要だ。

幸いその山にはツタがあったので、俺はそれを登った。

山の上は、赤の旅のとびらの先の崖の上に似たような感じで、土ブロックに擬態しているモンスターもいた。だが、俺はすぐに擬態していることが分かる。

 

「あんなに分かりやすいのに擬態したつもりなのか?」

 

地面は草が生えていて緑色なのに、そのモンスターは茶色なのですぐに見分けられる。戦う必要はないので、俺は攻撃しないように木を切りながら進んでいった。

そして、原木を大量に集め、山の反対側まで行くと、目の前に青い城の壁でできた建物が見えた。

 

「こんな建物、町の近くにもあったな」

 

毒の病原体を入手した後町に帰る途中に見つけたはずだ。あの建物の中にあった石碑にはクイズが書かれていた。この建物にもあるのかもしれない。

俺が中に入ってみると、石碑と封じられた宝箱や、小さなヤシの木と大きなヤシの木があった。

 

「これも探求者タルバだったかが作ったクイズか」

 

本当にタルバと言う人はクイズが好きなんだな。俺はその石碑に書かれた文章を読む。

 

私は探求者タルバ。知性あるものよ、そなたの輝きをここに示すがよい。人は進化する生き物である。しかし、進化するのは人間だけではない。ここに不完全な進化がある。そなたの力でその進化を完成させるのだ。

 

進化の謎か···目の前には左に小さなヤシの木、右に大きなヤシの木が植えられている。小さな方は成長の途中ということだろう。だが、小さなヤシの木のさらに左に、土があるのに何も植えられていない場所があった。

「これは、右にいくほど大きくなるってことだな。ってことは、あれより成長前のヤシの木を植えればいいのか」

 

進化の謎と書いてあるくらいだし、そういうことだろう。俺は切り株から入手したヤシの木の苗を植えてみる。

すると、手前にあった2つの宝箱が光を放ち、封印が解除された。

 

「これで正解だったな。開けてみるか」

 

俺は早速宝箱を開けてみる。すると、片方には金が1個入っていた。

 

「金が入ってたか。きれいだし、何かに使えそうだな」

 

金は金属の中ではやわらかいので敵を斬ることには使えなさそうだが、武器の装飾などに使うかもしれない。

もう片方の宝箱には、青一色の変なブロックが入っていた。

 

「そういえばこの前のクイズでも白いブロックが入ってたな」

 

タルバはなんでこんなブロックを宝箱に入れたんだ?よく分からなかったが、俺は金と青いブロックをポーチに入れた。

クイズの建物から外にでると、もう夕方になっていた。この山はまだ探索しきれていないが、帰らないといけない。俺はキメラのつばさで飛び上がり、町に戻った。

木材を集めることができたので、大弓を作りに作業部屋に入った。

 

「まずは大弓を5個作るか。その後に矢だな」

 

俺は木材とひも、さびた金属に魔法をかけ、大弓を作っていく。5つ完成すると、次に矢を作った。

「いくつ同時にできるんだろうな?」

 

そう考えて作っていると、10本の矢が出来上がった。

 

「一回に10個も作れるのか。なら、50個はできるな」

 

俺は次々に矢を作っていき、50本の矢ができた。ヘルコンドルは動きが早いから、全部当てることは無理だろうけど。

大弓と矢が完成した後、俺はミノリにそのことを教えに行った。

 

「ミノリ!大弓を作ってきたぞ」

 

俺はミノリに、作った大弓を見せる。恐らく、みんなのアイディア通りのものになっただろう。

 

「ありがとうございます、雄也さん!ヘルコンドルに対抗するための大弓を完成させてくれたんですね!」

ミノリは、俺の作った大弓をよく見て話を続ける。

 

「うん!これなら空中のヘルコンドルにも攻撃を当てることが出来そうです!」

 

どうやらうまく作れたってことだな。武器に詳しいって言ってたミノリが言うんだから間違いない。

武器が完成した事を確認すると、ミノリは話を変えた。

 

「それと、雄也さん···あたしはこの町に来たばかりで詳しいことは分かりません。ただ、あのゲンローワさんの言う、病と闘うことがいいとか悪いとか、病の原因がああだとかこうだとか、ハッキリ言っていろいろこじらせてるおじいちゃんのボヤキにしか聞こえません!」

 

ミノリは言いたいことははっきり言うんだな。ゲンローワは昔いろいろあったとはいえ、ミノリの言いたいことも分からなくはない。

「これまでがどうであれ、ヘルコンドルがもともとの病を振り撒いたのは事実のはずだし、ヘルコンドルを倒せば空の闇が晴れるのもきっと間違いないはずなんです!」

 

確かにゴーレムのように、ヘルコンドルも空の闇を晴らす伝説のアイテムを持っていると考えられる。

 

「そうだな。必ずヘルコンドルを倒して、空の闇を晴らそう」

 

「はい!決戦のために一緒に準備を進めていきましょうね!」

 

大弓が完成したことだし、ヘルコンドルとの決戦も近いだろう。

俺はミノリとの話の後、作った大弓を作業部屋、調理部屋、調合室、病室、仕立て部屋の屋根に設置し、屋根に登るための階段もつけた。高いところにおいたほうが当てやすいからな。

設置した時にすでに夜になっていたので、俺たちは夕食を食べた後、寝ることにした。明日には、病室にいる3人も治っているだろう。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode43 迫り来るアンデッド

リムルダールに来て17日目の朝、俺が朝起きると、ゲンローワに調合室に呼ばれた。今日も何か大切な話があるのだろうか。

 

「どうしたんだ、ゲンローワ?」

 

「お主が大弓を作っていた間にウルスの手がかりを解読し終えての、それを教えておこうと思ったのじゃ」

 

ウルスからもらったメモの内容がもう解読できたのか。役に立つ情報が書かれていればいいんだけどな。

 

「それで、何が書いてあったんだ?」

 

「ウルスは以前、世界樹と呼ばれる樹に関心を持っておったようじゃ」

 

そう言えばウルスはマッドウルスになる直前に、世界樹を探せと言っていてメモを渡してきた。その世界樹とやらに、全ての病を克服する手がかりがあるってことだな。

「かつて聖なるほこらがあった地。そこに立つという生命の樹···世界樹か···」

 

聖なるほこらと言うのは、ドラクエ1で虹のしずくが手に入った場所で、リムルダールからそんなに離れていないはずだ。新しい旅のとびらが手に入れば世界樹にたどり着けるかもしれないな。

だが、ゲンローワは手がかりが見つかったにも関わらず、病に抗うことを諦めているようだ。

 

「しかしのう、雄也。病と闘ってももう無駄なのではないか?」

 

せっかくゲンローワは薬の開発に協力するようになったのに、ウルスのことがあってから逆戻りだな。

 

「俺はそうは思わないけどな。病と闘ったからこそ、リムルダールは復興してきているんだ」

「じゃが、これ以上無用な悲劇を生まぬためにも、やはりわしは、もうここまでにするべきだと思うのじゃ」

 

ゲンローワも色々悩んでいることがあるのだろう。しかし、メルキドのロッシにも似たようなことを言ったが、俺は決して病と闘うことをやめるつもりはない。

俺はゲンローワと話を終えて、病室から出た。

 

「今日はエディたちが起きてるかもしれないな」

 

3人は昨日はまだ眠っていたが、今日こそは起きているかもしれないので、俺は病室に向かっていった。

病室に入ると、エルがとても嬉しい顔をしていて、俺に話しかけてきた。

 

「雄也様、エディ様達が動けるようになったのです!」

やっぱりそのことで喜んでいたのか。ベッドを見ると、3人の姿はなく、外に出ていったのだろう。後であいさつをしないとな。

 

「一時はどうなるかと思ったけど、ついに完治したんだな」

 

「はい! 雄也様、改めて言いますが、本当にありがとうございました!」

 

あの時浄化の霊薬を閃いていなければ、今ごろこの3人は死んでいただろう。ビルダーの力があってこそだけど、俺にも人の命を救うことができるとはな。

 

「ああ、これからどんな病があっても、一緒に治していこう」

 

「もちろんです、雄也様!」

 

俺とエルは、ゲンローワと違って諦める気は全くなかった。ー

「でも、今はあの3人が治ったことを喜ぶべきだな」

 

エルにそう言った後、俺は病室を出て3人にあいさつをしに行く。3人は、町の中心に立つ希望のはたのところにいた。

3人は、俺が話しかける前に俺に気付き、走ってくる。

 

「お前、オレたちを助けてくれた人だな?」

 

「そうだ。俺は影山雄也。いつもは雄也って呼んでくれればいい」

 

俺は、先に話しかけてきたエディとほかの二人に、いつもの自己紹介をする。

 

「やっぱりそうだったか。オレ、全身がかゆくて、もうダメなのかと思ったぜ。雄也、本当にありがとな」

 

「僕も、頭が割れそうなほど痛くて、死ぬかと思ったんです」

「雄也さん、助かった。おかげでザッコを悲しませずにすんだぜ」

 

3人は俺に、それぞれの感謝の言葉を言ってきた。生きて話をしているところを見ると、本当に助けられてよかった。

 

「お前たちやザッコに必ず助けるって約束したからな」

 

3人は病気が治ったことを喜びながら、町のいろいろな建物を見回りに言った。

これで町の人口も13人になるな。これで魔物も、かなり追い詰められたはずだ。

そんなことを考えていると、これまで3回聞いたことのある鳥の羽音が、またしても俺の耳に聞こえてきた。

 

「もしかして、またヘルコンドルか!?」

 

空を見上げると、この町に向かってヘルコンドルが飛んでくるのが見えた。せっかくあの3人が治って喜んでいたと言うのにな。俺はみんなに、ヘルコンドルが来ることを伝えた。

「みんな、またしてもヘルコンドルが迫ってくるぞ!」

 

今は大弓があるし、空中のヘルコンドルに対抗することができる。もしかしたら奴も全力でかかってくるかもしれない。

 

「またしても魔物が来たというのですか!?なんとか魔物を追い払って、新しい患者様をお連れしなければ」

 

最初にエルがそう言って病室から出てきて、次々にみんなも集まってくる。

 

「魔物を倒して、わしらの町を守り抜こうぞ!」

 

病と戦うことを諦めると言っていたゲンローワも、町を壊される訳にはいかないので、てつのつるぎを持って走ってきた。

みんなはまだヘルコンドル本体と戦うとは思っていないようだ。

ピリンとノリンとヘイザンを除く10人が集まったのを見て、俺はヘルコンドルをうち落とす作戦を伝える。

「今回は魔物ではなくヘルコンドル本体と戦うことになるかもしれない。エル、ケーシー、ザッコ、ケン、イルマは大弓でヘルコンドルを撃ち落としてくれ」

 

いつも遠距離から石で攻撃している3人と、ケンとイルマが大弓で攻撃し、落ちたところを俺たちで攻撃する。それが俺の考えた作戦だった。

 

「そして、落ちたところを俺、ゆきのへ、ゲンローワ、ミノリ、エディで攻撃する。うまくいけば、今日でリムルダールの空を晴らせるかもしれない」

 

「でも、オレは武器を持ってねえぞ」

エディは兵士の格好をしているので、剣を使って戦えるだろう。俺は昨日自分とエディの分の2つてつのつるぎを作っておいた。

 

「このてつのつるぎを使え」

 

これなら俺は二刀流で戦えるし、エディもヘルコンドルに攻撃できる。

 

「ついにリムルダールの空を晴らせるかもしれないのですね、みなさん、がんばりましょう」

 

エルの声で、みんなが配置についた。ヘルコンドルはもう、目前に迫ってきている。

エルたち5人は、一斉にヘルコンドルに向けて鉄の矢を発射する。だが、ヘルコンドルはそれをかわしながら、手下の魔物を呼ぼうとした。

 

「ここで逃がしはしません!」

「あたいが撃ち落として見せるよ!」

 

しかし、ヘルコンドルもさすがに5台の大弓から同時に放たれる矢を避け続けることは出来ず、エルとケーシーが放った矢が体に刺さった。

それでもヘルコンドルは落ちず、手下の魔物を召喚し、逃げかえっていった。

 

「くそっ、逃げられたか!」

 

ヘルコンドルを逃がしてしまい、俺やみんなは悔しい表情をする。俺は今すぐにでも追いかけたいが、奴の呼び出した魔物を倒さないといけない。

この町に、大量のくさったしたいと隊長と思われるくさったしたいの色違い、リビングデッドが迫ってきていた。

 

「ゾンビの魔物だらけだな」

今日がリムルダールの最終決戦の日だと思っていたが、まだ4回目の防衛戦に過ぎなかった。

エルたちは、ヘルコンドルを逃がしてしまった悔しさをぶつけるように、くさったしたいたちに鉄の矢を放っていく。くさったしたいの体に穴が空いたが、倒れることはなくどんどん町に近づいてくる。

それでも何発か当てれば、くさったしたいは青い光を放って消えた。

 

「この町には近づかせないべ!」

 

「おれもあいつらを倒すぞ」

 

「僕たちの町を壊させはしない」

 

さっきはヘルコンドルに矢を当てることができなかったケン、イルマ、ザッコもくさったしたいを撃ち抜いていく。

だが、敵の数が多すぎて何体かには町のすぐそばまで近寄らせてしまった。

 

「俺たちは町に近づいた奴を倒すぞ」

 

そいつらは、剣や斧を持っている俺たちで倒さないといけない。大弓は真下に打つことはできないからな。

 

「俺たちに勝てると思うなよ」

 

俺は殴りかかってくる大量のくさったしたいを、二刀流で斬り刻んでいく。

てつのつるぎとてつのおのの二本を持っていれば、多くの敵に囲まれても対応することができた。

みんなもくさったしたいには慣れてきているのか、ゆきのへやゲンローワも攻撃を見切っていた。

 

「それくらいでワシにはかなわないぜ」

「お主らごときには負けぬのじゃ」

 

強力な攻撃で、次々にくさったしたいを倒していく。だが、今俺たちが倒した奴等は前衛で、後ろにはまだたくさんのくさったしたいがいる。

 

「まだたくさんいるな。このままだと鉄の矢がなくなるぞ」

 

後ろにいる敵は、エルたちが鉄の矢で攻撃しているが、鉄の矢は50本しかない。大量に使ったので、残り少ないはずだ。

間違いなく強力であろう隊長のリビングデッドに向けて使ったほうがいいな。

 

「エル!そっちは隊長のリビングデッドを攻撃してくれ!手下のくさったしたいは俺たちが倒す」

 

俺が指示を出しているその途中にも、大量のくさったしたいがこちらに迫ってくる。

俺は武器を構えて、くさったしたいの群れに斬りかかっていった。

今度は、残りの40~50体くらいのくさったしたいが一斉に襲いかかってくる。俺はそいつらが来るのを待って力をため、解き放つ。

 

「回転斬り!」

 

くさったしたいは倒しにくいが、二刀流で回転斬りを放つと胴体が真っ二つになり、すぐに倒すことができる。

だが、囲まれた時は力をためる時間がないので、普通の攻撃で倒していくしかない。

 

「かなり数が多いな。でも、一体はそんなに強くない」

 

俺たちにくさったしたいは次々に攻撃してくるが、俺はてつのおので防ぎながら、てつのつるぎで斬り裂いていった。

他のみんなは少し体を殴られながらも、多くのくさったしたいを倒し、敵は残り少なくなってきていた。

 

「あと少しだな、このまま全員倒すぞ!」

 

だが、そこで大変なことが起きた。隊長のリビングデッドを狙っていた矢が、飛んでこなくなったのだ。

リビングデッドはかなりダメージを受けていたが、それでも余裕で動ける状態で、俺たちに近づいてきていた。

 

「雄也様、大弓の矢がなくなりました!」

 

やっぱり50本では足りなかったか。

 

「グギャアアーーー!」

 

リビングデッドは鉄の矢を撃たれた仕返しに、叫び声を上げながらエルがいる作業部屋の屋根に毒の液体を放った。

巨大ドロルも毒の液体を放っていたが、それの何倍も高い威力だ。

エルは離れた場所にいたためすぐにかわすことができたが、近くにいる俺たちなら食らってしまうかもしれない。

早めに倒さないとまずいな。

 

「俺は隊長を倒す!残った手下を倒してくれ」

 

ゆきのへたちにそう言い、俺はリビングデッドに近づいていった。

リビングデッドはすぐに俺に気づいて殴りかかる。

 

「ギョアーーー!」

 

リビングデッドは気持ち悪い声をあげるが、俺は怯まずにてつのおので斬りつける。

だが、リビングデッドは、すぐにもう片方の腕で俺の腹を殴った。

 

「くっ!かなり力も強いな」

 

俺は1メートルくらい後ろに突き飛ばされる。体に激痛が走るが、すぐに立ち上がり、武器を構えた。

リビングデッドはすぐに近づいてくるかと思ったが、逆に離れていった。

 

「これは、毒の液体を飛ばしてくるな」

 

毒の液体はすぐ近くにいる敵に放つと自分もダメージを受けてしまうので、離れて撃たないといけない。

俺はかわして、回転斬りを使おうと思い、攻撃を放つ瞬間にかわし、力をためた。

そして、リビングデッドが俺を殴りつける前に、俺は剣と斧を一回転させる。

 

「喰らえ、回転斬り!」

 

リビングデッドはそれでも倒れなかったが、体に大きな傷をつけられ、かなりのダメージを負った。

「まだ倒れないのか」

 

再びリビングデッドは俺を両腕で殴ろうとしてくる。普通のくさったしたいより動きが速いので、背後に回ることもできなかった。

 

「両腕の動きを止めて、そこで攻撃するか」

 

俺はてつのつるぎだけで両腕の攻撃を受け止め、一瞬の隙にてつのおので斬り裂くことにした。

しかし、素早い攻撃を片手で受け止めるのはかなりきつく、リビングデッドの強烈なパンチで俺のてつのつるぎを吹き飛ばされてしまった。

 

「くそっ、もう少しで倒せるのによ!」

 

俺は一度リビングデッドから距離を取った。どうすればいいかと考えていると、くさったしたいを倒し終えたエディがリビングデッドの前に駆けつけてきた。

 

「雄也!オレも手伝うぜ」

 

エディは素早い攻撃をなんとかてつのつるぎで防いでいる。そこに、ゆきのへ、ゲンローワ、ミノリも現れ、4人でリビングデッドを取り囲んだ。

 

「ウギョアーーーー!」

 

リビングデッドは追い詰められて怒り狂い、4人にひたすら殴りかかる。その怒りは、メルキドで戦った隊長のあくまのきしのようだった。

だが、4人に囲まれては対応しきれず、次々に斬り裂かれていく。そして、死にかけになったところで、俺はみんなに離れるようにいった。

 

「みんな、離れてくれ!回転斬りでとどめをさす!」

 

4人が離れたところで俺は回転斬りを、リビングデッドはパンチを繰り出す。

スピードはギリギリ俺の回転斬りのほうが早かったようで、リビングデッドの体をなぎはらって、青い光に変えた。

 

「なんとか倒せたか。ギリギリだったな···」

 

倒すことはできたが、リビングデッドにあんなに苦戦するとは思っていなかった。これだとさらに強力な装備が必要に思えるな。

そんなことを考えて町に戻っていると、再び何者かの恐ろしい声が聞こえた。

 

「ダレダ、ダレダ。ダレカガココニ、キボウヲフリマイテイル···オマエカ···オマエカ···オマエダナアアアアー!」

 

それは、この前より強い怒りが込められている声だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode44 倒れた聖職者

4回目の防衛戦でリビングデッドを倒したところを見ると、緑色の旅のとびらが落ちていた。メルキドでも旅のとびらは3色だったし、これで最後だろう。

 

「緑色の旅のとびらか。今度はどんな場所に行けるんだろうな?」

 

だが、俺にはそれ以上に気になることがあった。リビングデッドを倒した瞬間に聞こえたあの声は何だったんだ?確か、3回目の防衛戦でウドラーを倒した時も聞こえたはずだ。

 

「今更俺の存在に気づいたみたいだし、やっぱりヘルコンドルではないな」

 

お前だなと言っていることから、今ビルダーである俺の存在に気づいたはずだ。

いろいろ考えたが、誰の声なのかは分からなかった。

どうしても気になるが、今はヘルコンドルやマッドウルスに対抗することを考えないといけないな。

 

「ゆきのへやヘイザンに武器のことを聞いてくるか」

 

俺は、作業部屋にいる鍛冶屋の二人にさらに強力な武器の作り方を聞きにいった。リムルダールでは神鉄炉は作れないけど、鋼鉄製の武器に変わるものが作れたらいいな。

 

「ゆきのへ、ヘイザン、ちょっと相談があるんだ」

 

俺が作業部屋に入ると、ヘイザンだけしかいなかった。

 

「親方は別の部屋にいるけど、ワタシに何か用か?」

 

ゆきのへにも聞きたかったが、ヘイザンも十分金属について詳しいだろう。

「鉄の武器より強い武器の作り方を知らないか?ここには炉がないから鋼は作れないが、今の武器だとこの先厳しいんだ」

 

リビングデッドでさえあの強さだったからな、親玉のヘルコンドルはさらに強いはずだ。

 

「それなら、銀で武器を作るのはどうだ?昔、銀を加工する方法を親方から教わったんだ」

 

銀か···この世界の銀は鉄よりも固いから、強い武器が作れるかもしれないな。だが、浄化の霊薬を作るのに銀を使ってしまい、俺は銀を持っていなかった。取りに行ってこないといけないな。

 

「でも今は銀を持っていないぞ。これから取りに行ってくるから、待っててくれ」

 

「分かった。銀を持ってきたら加工の方法を教えるぞ」

 

俺は銀を取りに、旅のとびらに向かった。緑色の旅のとびらの先に行ってみたいけど、銀があるか分からないな。

 

「タルバのクイズもあるかもしれないし、密林の方に行くか」

 

これまで2ヶ所にタルバのクイズがあったので、赤の旅のとびらの先にもあるかもしれない。

クイズを探すのもついでに、俺は赤の旅のとびらへと入った。

旅のとびらを抜けると、いつも通り水没した密林に出る。最初は水に濡れるのが嫌だったが、今はもう慣れてきた。

 

「まだ行ったことがない場所もあるし、そこも探索してみるか」

 

俺は赤の旅のとびらの先はほとんど調べているが、農業の記録があった宮殿の後ろの崖の上には登ったことがなかった。

崖には銀が埋まっているはずだし、そこに向かうか。

俺は密林の中を歩いて30分くらいたって、いのちのきのみがあった遺跡にたどり着いた。

 

「ここからさらに歩かないといけないんだよな」

 

水の中を歩いてきたので足が余計に疲れる。俺はその遺跡ですこし休んだ後、農業の記録があったタルバの宮殿に歩き始める。

 

「せっかくだからな。さびた金属も集めていくか」

 

鉄製の武器より強いものが作れるようになるとは言え、さびた金属はいつ必要になるか分からない。

俺はしりょうやしりょうのきしをてつのおので叩き斬って、さびた金属を集めながら、宮殿に向かった。

 

「そろそろ着くはずだな」

 

最初の遺跡から500メートルくらい歩いて、ようやくタルバの宮殿にたどり着く。

ここから後ろの崖に登らないといけない。俺は宮殿の後ろにいき、そこから崖を登った。

崖の上は、旅のとびらを抜けてすぐのところにある崖と同じで、小麦が生えていたり、土ブロックに擬態するモンスターがいたりした。

 

「崖の上はほとんど同じだな。少し降りて、銀を集めながら反対側に向かうか」

 

俺は銀の鉱脈があるところまで降り、採掘しながら進んでいく。宮殿の反対側に着くまでに、30個くらい金属が集まった。

そして、宮殿の反対側には、町の近くほどではないが大きな毒沼と、クイズがあると思われる青い城の壁で作られた建物があった。

 

「やっぱりここにもクイズがあったか。今回も何か手に入るかもしれないし、やってみるか」

 

俺は崖を降りて、クイズの建物に向かった。少し毒沼を埋め立てて進んで行くと、すぐにたどり着くことが出来た。

その建物の中には案の定、クイズが書かれた石碑があり、その後ろにはメルキドシールドの減量であるゴーレム岩が置かれている。

 

「今度はなんのクイズなんだろうな?」

 

俺は、その石碑に書かれている文章を読んだ。

 

私は探求者タルバ。知識あるものよ、そなたの輝きをここに示すがよい。目の前の石は時を刻みし石。今、時は朝と昼の間であり、夜の中心である。その時を、昼と夕の間であり、夜と朝の間にせよ。

 

俺は最初は意味が分からなかったが、目の前のゴーレム岩は、時計の針のような形になっていて、9時を指していた。

石碑に書いてある朝と昼の間というのは、午前9時のことで、夜の中心と言うのは、午後9時のことだろう。

 

「このゴーレム岩の向きを変えればいいのか?」

 

問題の昼と夜の間というのは午後3時、夜と朝の間と言うのは午前3時のことだろうか。

俺は、9時の方向を指していたゴーレム岩をてつのおので壊し、3時の方向におき直した。すると、建物の中にあった2つの宝箱から光があふれて、封印が解除された。

 

「3時であってたのか。今回は何が入ってるんだ?」

俺はまず、左側の宝箱を開けた。そこには、ドムドーラのピラミッドに置かれていた、火をふく石像が入っていた。

 

「これは、火をふく石像だな。リムルダールにもあるのか」

 

強力な兵器だが、リムルダールでは鋼の守りは作れないな。それでも、ヘルコンドルの配下の魔物を倒すのには役立つだろう。

火をふく石像を手に入れた後、次は右の宝箱を開けた。すると、赤一色のブロックが入っていた。

 

「またしても変なブロックが入ってるな。本当になんなんだ?」

 

これまでのクイズでも、一色に染まっているブロックを手に入れた。これらを集めると何かあるのだろうか。

俺は火をふく石像と赤いブロックをポーチに入れて、キメラのつばさで町に帰還した。

「さっそくヘイザンに銀を見せてこないとな」

 

俺は希望のはたの台座に着地すると、ヘイザンのいるはずの作業部屋に向かう。だが、作業部屋にはおらず、調合室にゆきのへと二人でいた。

 

「ヘイザン、銀を集めてきたぞ」

 

「すばらしい!では、銀の加工の方法を教えるぞ」

 

「お前たち、何の話をしているんだ?」

 

俺とヘイザンが急に話し始めたので、ゆきのへはそのことが気になったようで聞いた。

 

「以前親方から教えてもらった銀の加工の方法を、雄也に言おうと思ってたんだ」

 

「そういうことか、ならワシも強力するぜ」

 

ヘイザンの話を聞き、ゆきのへも銀の加工の方法の説明を始めた。

 

「銀は固くて強いけど、こんなカッチコチじゃ、武器を作るのは難しそうだろ?」

 

確かに、仕立て台では銀を加工するのは難しそうだな。

 

「だからな、銀を一度液体にして加工しやすくするんだ。雄也、ドロルの落とす液体はあるか?」

 

ドロルの落とすねばつく液体を使えば銀が液体になるってことか?よく分からないが、ゆきのへは銀を調合ツボに入れた。

 

「銀の上にねばつく液体を垂らすんだ。そうしたら銀が反応を起こして、液体になる」

 

化学反応みたいなものか。ねばつく液体は地球にはない物質だし、そんな性質があってもおかしくはないな。

俺は、ねばつく液体を取りだし、銀にかける。すると、銀はだんだん溶けていき、液体になった。

 

「これで銀が液体になっただろ。」

 

ポーチには液体になった物もしまえるので、俺は液体の銀を入れた。

銀の加工の方法を教えた後は、二人は銀で作れる武器のことを話し始めた。

 

「銀では、はやぶさのけんやぎんのおのと言った武器が作れるぜ。鉄の武器より強力な奴だ」

 

はやぶさのけんは、確か一度に二回攻撃できるかなり強力な武器だったな。まだアレフガルド復興の第2章だと言うのに、もうそんな武器が作れるとはな。ぎんのおのは、ウォーハンマーくらいの強さがありそうだし、そっちも使えそうだ。

俺は、その三つの作り方を調べた。

はやぶさのけん···液体銀1個、さびた金属1個、銀1個 仕立て台

てつのおの···液体銀1個、さびた金属1個、木材1個 仕立て台

聖なるナイフ···液体銀1個 木の作業台

剣と斧はさびた金属がいるのか、さっき集めておいて良かったな。はやぶさのけんを作るのに必要な金も、1つは持っている。

 

「それと、くさりかたびらやみかがみのたても作れるぞ」

 

ヘイザンは、防具の作り方を教えてくれた。俺は防具は装備するのは嫌いだが、一応作り方を調べておこう。

くさりかたびら···液体銀3個、リカントの毛皮2個、ひも1個 仕立て台

みかがみのたて···液体銀10個、青い秘石1個、木材1個 仕立て台

どっちもかなり作るのは難しいし、よく分からない素材もある。青い秘石はまほうつかいが落とした青色の宝石のことだろうけど、リカントの毛皮って何だ?リカントを倒しても、普通の毛皮を落としたはずだ。

まあ、防具は装備しないし、別にいいか。

 

「二人ともありがとうな。さっそく液体銀で武器を作ってくる」

 

俺は二人の説明を聞いた後、仕立て部屋に入り、俺の分のぎんのおのとはやぶさのけんを作った。明日はみんなの分も作るために金を集めないといけないな。緑の旅のとびらの先にあるといいが。

その日、もうすぐ夜になる時間になっていたので、俺たちは明日からの緑の旅のとびらの先の探査に備えて、眠りについた。

 

翌日、リムルダールに来て18日目の朝、俺は少し早く目が覚めてしまった。

 

「今日は緑の旅のとびらの先に行くか」

 

俺は探索の準備をするために寝室から出て、作業部屋に向かった。だが、部屋から出ると、エルが外で倒れていた。

 

「エル!?どうしたんだ?」

 

何が起きているのか分からず、俺はエルに慌てて声をかけた。そこで気づいたが、エルは禍々しいオーラをまとっていた。それも、エディたちとは違う、とてつもなく強いものだった。

 

「このオーラは、マッドウルスと同じだ」

 

ウルスがマッドウルスに変わった時も、このくらい強いオーラを放っていたな。

発生の原因は分からないが、恐らくはヘルコンドルやマッドウルスの仕業だろう。

エルは、俺の声に気付き、なんとか話しかけてくる。

 

「ああ、雄也様···申し訳、ありま···せん。どうやら私も病にかかってしまったようです···おお···ついに私も···ほかの誰かを助ける力を失ってしまいました···」

 

魔物化の病なら、浄化の霊薬で治せるだろう。幸い銀もくすりの葉もあるし、すぐに作れるな。

 

「今すぐ浄化の霊薬を作ってくる。まずは病室に運ぶぞ」

 

俺はエルを病室のベッドに寝かせて、調合室に浄化の霊薬を作りに行く。ビルダーの魔法の力で、この前のように光り輝く薬ができた。

「これで治せるはずだな」

 

俺は浄化の霊薬を持ち、エルの寝ている病室へ行った。そして、すぐに飲ませる。

だが、禍々しいオーラは全く消えることがなかった。

 

「どういうことだ!?どうして魔物の気配が消えないんだ?」

 

あの3人の場合は、すぐに治すことができたのだが。この強力なオーラには、浄化の霊薬も効かないのか?

魔物化の病の変異種と言ったところか。人を非常に強力な魔物へと変えてしまう、最恐の病だ。

浄化の霊薬が効かないことが分かり、エルは諦めの表情をする。

 

「雄也様、ここまでに···致しましょう。治療はもう、必要···ありません」

 

俺はなんとかエルを助けられる薬がないか考えるが、これほどの強力なオーラを浄化できる薬など、まったく思い付かない。

 

「浄化の霊薬が効かないのであれば···私たちでは、この病は治せない···でしょう。それに···もし私が感染を広げれば、この町は···終わりです」

 

感染するかは分からないが、エルも強力な魔物になってしまえば、3体もの強大な魔物に襲われることになり、この町が壊滅することもありえる。

それを防ぐために、俺は一つの方法を思い付いてしまうが、それは、絶対にしたくない方法だった。

 

「雄也様、お願い···します。皆様のために···この町のために···どうか、私を···殺してください」

エルも、同じことを考えていたようだ。強力な魔物になる前に殺せば、この町にさらなる脅威が迫るのを防ぐことができる。

だが、大切な仲間であるエルを殺すことは出来るはずもなく、俺はこう叫んだ。

 

「待て!お前を殺すなんて出来るわけないだろ!」

 

そこで、一つの考えが思い付く。薬師あるゲンローワなら、浄化の霊薬を越える薬も知っているんじゃないかと。

 

「そうだ、ゲンローワなら何か知ってるかもしれないな」

 

俺がゲンローワと話に行くために外に出ると、俺の叫び声を聞き付けたらしく、

 

「何かあったのか?雄也よ」

 

外にゲンローワが立っていて、俺に話しかけてきた。俺はすぐに、エルが病気になったことを伝えた。

 

「大変なんだ。エルが魔物化の病の変異種に感染して、浄化の霊薬も効かない。それでエルが、私を殺してと言ったんだ」

 

「なんじゃと!?おのれ···おのれ···おのれ!」

 

俺の話を聞き、ゲンローワは強く怒っていたが、しばらくして諦めの表情となる。

 

「しかし···これも定めかもしれぬ。やはり人間は、病にあらがうべきではないのだ···」

 

病に抗い続けたから、ヘルコンドルたちが怒り、エルを病気にしたとも考えられるな。それに、そんなこと言っているということは、ゲンローワも治療法は分からず、諦めるしかないということなのだろうか。

 

「それにじゃ、エルにとってみんなを傷つけることは、死ぬことよりもつらいはずじゃ」

 

確かに、仲間たちをとても大切に思っているエルならそうなのかもしれない。

 

「じゃから、雄也よ。エルの願いを聞いてやってはくれぬか」

 

「そうするしか、ないのか?」

 

「そうじゃ。エルを···エルを···エルを殺してやってくれ···」

 

ゲンローワは、ためらいつつもそう言った。俺は、それを否定することは出来なかった。生き続けたい人ではなく、自らの死を願う人を生き続けさせることは良いとは思えない。

俺はゲンローワとの話を終えると、エルにもう一度聞こうと、病室に入った。

 

「エル···治療法はないらしい。本当に、自らの死を願っているのか?」

 

俺が聞くと、エルはうなずいた。

 

「はい。雄也様や、皆様を傷つけたくはありません···」

 

「分かった···」

 

それがエルの意思なら、どんなに嫌なことでも尊重するべきなのかもな。

俺はてつのおのを取り出すと、エルに向かって振り上げた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode45 薬師の願い

俺が自分の死を願い、殺してくれと言ったエルにてつのおのを振り上げたその時だった、

 

「雄也よ、待て!待ってくれ!」

 

ゲンローワが息を切らしながら、俺のいる病室に駆け込んできた。

 

「どうしたんだ?ゲンローワ。エルにおのを振り上げたところで入ってくるなんて」

 

俺がそう聞くと、ゲンローワは必死に言った。

 

「やはり、エルを···わしのかわいい孫娘を殺してはならんっ!」

 

ゲンローワの言っていることは、さっきとは真逆だった。それにしても、エルはゲンローワの孫だったのか。ケーシーも気にしていたが、特別な関係があるように感じられたのはそう言うことだったのか。

「あんたとエルは家族だったのか」

 

「そうじゃ。雄也よ、どうか、どうか、どうか!エルを、救ってくれ!」

 

ゲンローワはどうかを3回も言い、俺に必死にエルを救うよう、頼み込んだ。家族を大切に思う話はいくらでも聞いたことがあるが、病に抗うのは間違っているなんて言う人が、ここまで変わるとはな。

 

「これまではずっと、病に抗うべきではないって言っていたのにか?」

 

「そうじゃ。わしももう、そんな考えはやめることにする」

 

今のゲンローワは、病に抗うのは間違っているという偏屈な薬師ではなく、孫の命を救ってくれという、一人の祖父になっていた。

エルの気持ちに反することにもなるが、それでもゲンローワはエルの命を救いたいんだろうな。ゲンローワにとっては、エルが死ぬことは何よりも悲しいことだろうから。

だが、肝心の治療法がないのではどうしようもない。

 

「でも、さっきあんたは治療法はないと言っていなかったか?」

 

「いいや、あるのじゃ。お主は再び旅のとびらを手に入れたのであろう?」

 

そう言えば、今日は緑の旅のとびらの先を探索する予定だったんだよな。今まで行ける場所にはないけど、新たな場所に治療法があるということか。

 

「ああ、昨日の襲撃でリビングデッドが落とした」

 

「旅のとびらは持ち主が求めるものがある場所へと道を拓くと言う」

 

ロロンドも言ってたけど、旅のとびらって本当に便利なものだよな。その性質を使って、エルの病気を治す手がかりを探しにいくか。

 

「それで、どこに病を治す手がかりがあるんだ?」

 

「ウルスも調べていた、聖なるほこらの跡地に立つという世界樹という大きな木じゃ」

 

そう言えばゲンローワがウルスのメモを読み終えた時、世界樹の話をしていたな。

 

「ウルスのメモによると、そこにあるいにしえの調合台なるものがあれば、特別な薬を作れるかもしれぬのだ···!」

 

いにしえの調合台か···調合ツボの上位版みたいな感じなのか。それでも、ゲンローワの言い方から考えると、100%特別な薬を作れるかは分からないんだな。だが、今はその唯一の希望に賭けるしかない。

「頼む、雄也!新たな旅のとびらの先で、いにしえの調合台を探してきてくれ!」

 

「ああ、もちろんだ!」

 

俺はエルの命を救うため、ゲンローワの願いを叶えるために緑の旅のとびらを設置し、中に入っていった。

いつものように目の前が真っ白になり、次の瞬間には新たな場所に移動する。

 

「ここが、緑のとびらの先か」

 

緑のとびらの先は、メルキドの青のとびらの先と同じように、けわしい山岳地帯だった。

しかし、ここは今まで行ってきた場所の中でも異様なところだった。常に謎の赤い雨が降り注ぎ、たくさんの墓が置かれていた。

 

「本当にこんな場所に世界樹なんてあるのか?」

しかも、生息している魔物もくさったしたいやしりょうのきしと言った、アンデッドの魔物だらけだ。自分が思っていた世界樹のイメージとは全く違うな。

 

「とりあえず、探索を始めるとするか」

 

居心地が非常に悪いが、俺はいにしえの調合台を探すために、その異様な山岳地帯の探索を始めた。

土ブロックでできた山の上には魔物と墓しかなく、気になるものは特になかった。

 

「メルキドの山は、木が生えていたりしたのに、本当にここには何もないな」

 

俺はくさったしたいたちに見つからないように、山の上を進んでいった。やがて、山が途切れて崖になっているとこれがあり、降りなければいけないようだ。

「崖の登り降りは慣れてるけど、大変だな」

 

植物が何もない場所だが、つただけは生えていて、俺はそれを使って崖を降りていく。降りている途中、俺が探していた光る金属かあった。

 

「これは、金の鉱脈かもしれないな。みんなの分のはやぶさのけんも作れるな」

 

たくさんの金が眠っており、ゲンローワたちにもはやぶさのけんを作れそうだ。うち落としたところでみんなで斬りまくれば、さすがのヘルコンドルも倒れるだろう。俺はぎんのおのは戦いのためにとっておきたいので、てつのおので金を10個くらい集めて、ポーチに入れた。

 

「金はこれで集まったし、あとはいにしえの調合台だな」

金を集め終わると、俺は崖の下まで降り、探索を続ける。崖を降りたところからまっすぐ行くと、今度は白い岩でできた崖があった。

 

「また崖かよ···でも、横から迂回できそうだな」

 

その白い岩でできた崖を登らなくても、横から回り込んで進めるようだ。俺がそっちに向かってすすんで行くと、4回目の防衛戦で俺たちを苦しめた強敵、リビングデッドが何体もいた。

 

「リビングデッドがこんなに大量にいるのかよ。見つかったらまずいな」

 

町を襲った奴よりは弱いだろうが、それでも囲まれると危険だ。俺は姿勢を低くして、先に進んだ。

進んだ先には、今度は赤い服を着たゾンビの魔物、グールがいた。1体だけだが、体が大きく強そうだ。

「今度はグールかよ···本当に気味が悪いな、ここは」

 

緑のとびらに入ってから俺は、ゾンビの魔物しか見ていなかった。こんな場所、一刻も早く帰りたいぜ。

俺はグールの視界に入らないようにして、ゆっくり歩いていった。

そして、なんとかゾンビだらけの場所を抜け出すことが出来たが、そこでも大量の墓があることはかわりなかった。

 

「これって誰の墓なんだろうな」

 

墓どころか、埋められていない人のものと思われる骨もたくさん落ちていた。

 

「墓とか骨とかだらけで、本当に世界樹なんてあるのか?」

 

それどころか、ゲンローワの言っていた世界樹が見あたらなかった。そんなに大きな木であれば、遠くからでも見えるはずだ。

俺は不安になりながらも、墓場のある荒野を進んでいった。

途中、ピラミッドと同じ壁で作られた門のようなものがあり、その門の先は草原になっていた。

 

「何だ?この荒野と草原の境目にある遺跡は?」

 

その門は、ところどころつたがかかっており、かなり昔に作られたもののようだ。

よく見ると、門の上に上れるようになっていて、そこには俺も作ったことのある、大弓がおかれていた。

 

「しかも、何で大弓があるんだ?」

 

この遺跡は門ではなく、昔ヘルコンドルに大弓を当てるために作った高台なのかもしれない。

はしごがあったので、俺はそれを使って遺跡の上に登る。すると、大弓のところに立て札が立てられていた。

「これにはなんて書いてあるんだ?」

 

俺はその看板に近づき、文章を読み始める。

 

射手への伝令

空を飛ぶ怪鳥、ヘルコンドルを倒さねば、このリムルダールに未来はない。その忌々しいヘルコンドルは空中から攻撃してくる厄介な相手だ。そこで、奴に対抗するために、大弓を使うことにした。ヘルコンドルが現れたら、射手はただちに塀の上に移動すること。ヘルコンドルと同じ高さに登れば、大弓を当てることができるはずだ。諸君らの健闘を祈っている。すべては精霊の導きのままに。

 

射手への伝令か···昔の人も大弓を作って、ヘルコンドルに対抗しようとしたんだな。

そう言えばみんなは、ヘルコンドルを倒せば空の闇が晴れると言っていたが、マッドウルスは倒さなくてもいいのだろうか。伝説のアイテムを持っているのはヘルコンドルだか、強敵を残したままリムルダールを去るのも嫌だな。

そんなことを考えて遺跡を調べていると、誰かが書いたメモのようなものもあった。

 

ヘルコンドルはバシルーラという聞いたこともない魔法を使う。バシルーラは嵐を起こしてあらゆる物を吹き飛ばす恐ろしい魔法だ。バシルーラを砦の外で受ければ、はるか遠くまで飛ばされてしまうだろう。とはいえ、砦の中にいたとしても、嵐に飛ばされ天井に頭をぶつけてしまうはずだ。どちらも痛そうではあるが、わたしなら頭をぶつける方を選ぶ。

 

バシルーラはゲームではメンバーをパーティーから離脱させてしまう魔法だったけど、結構恐ろしい魔法だな。遠くまで飛ばされたら、落ちる速度によっては落下死するだろう。そう考えると頭をぶつけたほうがマシと言うのは分かるが、それでもかなり痛そうだ。

「何かに捕まって耐えるしかなさそうだな」

 

ヘルメットでも作れれば、頭をぶつけても大丈夫そうだが、作れないので、みんなで重い物に捕まって耐えるしかなさそうだな。

 

「この遺跡でいろいろなことが分かったし、そろそろ探索に戻るか」

 

俺ははしごを降りて、草原のほうへ歩いていく。

草原には、ここに来て初めてみる、リカントの上位種、キラーリカントや、ストーンマンの上位種、ゴールドマンが生息していた。

 

「ゾンビではないが、強力な魔物だらけだな」

 

ゾンビの魔物でないにしろ、まともに戦うと強力な魔物だった。草原で隠れるものはあまりないので、俺は姿勢を低くし、離れて歩いた。

そして、草原の近くにある岩山が、1ヶ所途切れている場所があり、そこに再び門のような遺跡があった。

今度の遺跡には、かがり火やタペストリーがあり、ここをくぐれば何かありそうだった。

門を抜けると、高さ30メートルくらいの、巨大な枯れ木が見えた。

 

「これが、世界樹か?完全に枯れてるな」

 

ここまで環境が悪化しているならば、仕方がないのかもしれないが、いにしえの調合台は無事だといいな。

世界樹の周りを調べていると、密林でも見た鍵のかかった建物もあった。

 

「まわりにはないみたいだし、やっぱり世界樹の上だよな」

 

俺は一番いにしえの調合台がありそうな、世界樹の上に登ることにした。土ブロックを積み上げていき、途中からはつたがあったのでそれでさらに上に行き、周りの岩山と同じくらいの高さのところまでたどり着いた。

そこに、謎の緑色の服を着た男がいた。こんなところに普通の人間がいるとは思えないし、恐らくは幽霊だろう。

 

「あんた、誰なんだ?」

 

その男は、俺に気づいて振り向いて、名前を名乗る。

 

「私は、探求者タルバ。そなたは、私の姿が見えるのか?」

 

タルバって何度も名前は聞いたことがある。確か、各地にクイズの建物を作ったり、農業の記録を残した人だったな。幽霊だけどまさか本人に会えるとはな。

 

「ああ、ビルダーの力で幽霊も見えるようになったんだ」

 

「そう言うことか、そなた、ルビスに使わされた、伝説のビルダーなのか」

 

タルバはビルダーのために農業の記録を残したと言っていたし、いにしえの調合台のことも知っているかもしれない。

 

「ビルダーよ。そなたはなぜ、このような地に来たのだ?ここはかつて聖なるほこらという神聖な場所があった地。しかし、聖なるほこらは竜王軍によって跡形もなく破壊されてしまったのだ。そして、その跡地に生えた聖なるほこらの力を宿した一本の生命の樹も、生を得ようとすがってきた人間のせいで枯れてしまった」

 

世界樹が枯れたのも人間のせいだったのか。メルキドで起きた殺しあい、リムルダールで起きた魔物化の研究や世界樹の破壊、魔物よりも、人間のほうが悪の存在なのかもしれないとふと思った。

 

「俺はいにしえの調合台を探しに来たんだ。どこにあるか知らないか?」

 

「いにしえの調合台も、世界樹が枯れた時に失われてしまった。だが、作り方は覚えている。そなたがどうしても知りたいと言うのなら、教えよう」

 

いにしえの調合台は自分で作らないといけないのか。でも、それならエルを救うこともできる。

俺はタルバからいにしえの調合台について教えてもらった。3メートル×4メートルのかなりの大きさのようだ。俺はすぐに、必要な素材を調べた。

いにしえの調合台···調合ツボ1個、石材5個、液体銀3個、きれいな水1個

今ある素材で作れそうだな。教えてくれたタルバにお礼を言わないといけない。

 

「ありがとうな、タルバ」

 

「ビルダーよ、そなたに改めて問う。お主の目的は何だ?リムルダールの地を浄化することか?それとも、この世界の闇を晴らすことか?いにしえの調合台を必要とすると言うことは、それなりに理由があるのだろう?」

 

俺が感謝の言葉を言うと、タルバは俺がいにしえの調合台を必要とする理由を聞いてきた。

 

「俺から言わせて見れば、どれもだな。ビルダーとして、必ずこの世界を復興させてやらないといけない」

 

「そうか、私からも頼んだぞ。そなたの作る世界を楽しみにしていよう」

 

俺が答えると、タルバはそう言い残して、消えて行った。

メルキドの町長の幽霊、ロロニアも似たようなことを言っていたが、こう言われると絶対に世界を救いたいと強く思えてくる。

とりあえず、これでいにしえの調合台の作り方が分かったな。俺は世界樹の上でキメラのつばさを使い、町に戻った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode46 探求者の保管庫

リムルダールの町に戻ってきた後、俺はさっそくゲンローワに、いにしえの調合台の作り方が分かったことを伝えに行った。

 

「ゲンローワ、世界樹のところに行ってきたぞ」

 

「それで、どうだったのじゃ?いにしえの調合台はあったか?」

 

最初はいにしえの調合台を手に入れることは可能なんだけど、自分で作らないといけないんだよな。

 

「いや、いにしえの調合台はかなり昔に失われていた。でも、探求者タルバの幽霊が作り方を教えてくれた」

 

「それなら良かった。エルを救うための薬も作ることが出来そうじゃ」

 

ゲンローワは、いにしえの調合台を作ることができると聞いて、安心の表情をした。

その後、ゲンローワはエルのことを話し始めた。

 

「雄也よ、みなには黙っておったが、エルはわしのたった一人の孫娘での···」

 

たった一人の孫娘か···ゲンローワとエルは長い時間、二人で一緒に暮らしていたんだろうな。ゲンローワがそこまでエルの命を救いたいという気持ちが強いのも分かる。

 

「じゃが、エルは病の研究を諦めたわしを、心の底では憎んでおった···だから、あのように···」

 

確かに、ゲンローワとエルはこの町に住むようになってからも、ずっと意見が合わなかったな。憎んでいたかは分からないが、分かりあえない気持ちはあっただろう。

それに、ゲンローワはまだ病に抗うのは間違っているという考えを完全には捨てきることができないようだ。

「確かにわしは、今も病に抗うのが正しいことなのか、悩んでおる」

 

「じゃあ、エルを救うかどうかも悩んでいるのか?」

 

俺がそう聞くと、ゲンローワは首を横に振って否定した。

 

「いいや、何があったとしても、やはりわしにはかわいい孫娘を見殺しにはできぬ」

 

その理論を捨てきれなかったとしても、エルを救いたいと言う気持ちのほうが強いのか。家族のことになると、まさかゲンローワがここまで変わるとはな。

 

「今まで何人もの病人を見殺しにしたのに、孫娘だけはどうしても救いたいと思う。勝手と思うか?愚かと思うか?そうじゃ、わしは勝手じゃ、おろかな人間じゃ」

 

確かに、自分の家族だからと言ってその人だけを助けるのは愚かな話だよな。だが、メルキドとリムルダールを復興させてきて思ったけど、愚かだからこそ人間なのだとは思う。

そして、ゲンローワは再び必死に俺に薬を作るよう頼み込んだ。

 

「わしも協力する!どうか···どうか···新しい薬を作って、エルを助けてやってくれ!」

 

俺も自分の死を願うエルを無理にでも助けるのは必ずしも良いことだとは思わない。しかし、ここまで言われたら協力するしかないな。

そう言えば、エルは今はどうなっているんだろうか。

 

「分かった。俺もエルを救うのに協力する。今のエルの様子はどうなんだ?」

「わしが必ず助けると何度も励まし、私を殺してとは言わなくなった。今の状態なら、数日くらいは耐えられるだろう」

 

数日あるなら、今日中に薬を作らないといけないと言うわけではないのか。でも、エルを長く苦しませることになるし、なるべく今日中に作りたいな。

俺は薬を作るための調合台の作り方が分かったので、次は素材を集めないといけない。

俺は浄化の霊薬を越える薬の作り方をゲンローワに聞いた。

 

「それで、エルを救うための薬ってどんな奴なんだ?」

 

「ウルスのメモによれば、聖なるしずくという、光輝く液体なようじゃ」

 

聖なるしずくか、いかにも凄そうな名前だな。町から出て南東の方向にある家にあった紙にも、その名前が書かれていたはずだ。浄化の霊薬も輝いていたので、それより強く光り輝くのだろう。

「聖なるしずくがあれば、病だけでなくこの地の毒素も浄化することができるじゃろう」

 

この地の毒素も浄化できるってことは、毒沼だらけのリムルダールを元に戻せるかもしれないと言うことか。それほどの力を持つ薬なら、魔物化の病の変異種にも効果があるかもしれない。

 

「それなら、あの強大な魔物のオーラも浄化できるかもしれないな」

 

「わしもそう思うのじゃ。聖なるしずくを作り、エルを救ってほしい!」

 

後は、素材さえ揃えば聖なるしずくを作り、エルを治すことができるだろう。でも、特別な薬だし、普通の素材では作れないだろうな。

 

「どんな素材を使えば、聖なるしずくを作れるんだ?」

 

「聖なるしずくの原料となるのは、世界樹の根本に生える、聖なる草じゃ」

 

世界樹の根本には行ってきたが、そんな草生えていなかったな。恐らく、世界樹が枯れた時に一緒に失われたんだろうな。

 

「そんな草、生えていなかったぞ」

 

「大丈夫じゃ、雄也。ウルスのメモには、ひとつだけ探求者タルバが保管していた物があるらしい。失われた保管庫のかぎさえ作りだせれば、聖なる草が得られるじゃろう!」

 

鍵がかかっているのか。これまでも4つ、鍵のかかった扉を見たことがあるな。その4つはどれも同じ鍵穴をしていたので、今回もそうだろう。

 

「鍵か···作れるかもしれない」

「よかった。雄也よ、頼む!なんとか保管庫の扉を開ける鍵を作り出すのじゃ。そして、聖なるしずくの原料の聖なる草を手に入れてくれ!」

 

「ああ、もちろんだ!」

 

俺はその鍵穴に入りそうな鍵の形を考え、作り方を調べる。

かぎ···液体銀1個、さびた金属1個 木の作業台

銀の武器と同じような素材で作れるようだな。これなら今すぐ準備することができそうだ。

俺はゲンローワと別れ、かぎを作りに作業部屋に入った。

 

「かぎを使えば、これまで開かなかった扉も開けるようになるんだよな」

 

今は聖なる草の保管庫を探しにいくが、これまでに見つけた鍵つきの部屋にも使えるアイテムがありそうだ。聖なる草を取ってきた後に行ってみるか。

俺はそんなことを思いながらかぎを一つ作った。銀色に輝いていて、きれいな形をしている。

 

「これがかぎか、早速聖なる草を取りに行かないとな」

 

俺は作った鍵をポーチに入れると、緑の旅のとびらの先に向かった。旅のとびらを抜けると、昨日と同じ気味の悪い山岳地帯にたどり着く。他の場所はほぼ探索しきっているので、聖なる草があるとすればここだろう。

 

「まだ行ってない場所があるし、そこを探索してみるか」

 

俺は緑のとびらの先の、昨日も行った草原の奥と、白い岩でできた岩山は行ったことがなかった。

それに、聖なる草の保管庫だけでなくタルバのクイズもあるかもしれない。

「まずは草原の奥のほうだな」

 

俺はまず、土ブロックの山をくさったしたいやしりょうのきしから隠れながら進み、崖のほうへ向かった。だが、さびた金属は素材として必要なので、銀の武器を試すためにもしりょうのきしの背後から斬りかかって倒していった。それに、聖なるナイフで斬ると、しりょうのきしは体が痺れて動けなくなっていた。聖なるナイフは不死の魔物に対して麻痺の効果があるようだ。

下に降りる崖にたどり着いた時は、20個くらいはさびた金属を集めることができた。

これで大量の鉄の矢を作ってヘルコンドルやマッドウルスに対抗できるな。100本以上矢があれば魔物の親玉であろうが落とせるだろう。

「そういえば、鉄の矢でも倒せるだろうけど、不死の魔物に対抗できる聖なる矢があればもっとよさそうだな」

 

ヘルコンドルは鉄の矢で倒せそうだが、マッドウルスには効果が薄いかもしれない。聖なる矢があればマッドウルスを痺れさせ、動きを止められるかもしれないので、俺は作り方を調べた。

聖なる矢···液体銀1個、木材1個 木の作業台

液体銀と木材か、いつでも揃えられる素材だな。こっちも一度に10個できるだろうし、帰ったら作るか。それに、もっと大弓の数も増やせばいいかもしれない。

俺はヘルコンドルやマッドウルスに対抗する手段を考えながら、歩いていった。

そして、45分くらい経って、草原地帯にたどり着いた。その草原にも、謎の赤い雨が降っているので不気味なことに変わりはないが。

俺はその草原をまっすぐ進み、世界樹のところに行く門をくぐらず、まっすぐ進んでいった。

すると、海辺の方にたどり着いた。

 

「海の近くか。ここでは何が釣れるんだ?」

 

急いではいるものの、どうしても気になってしまう。俺はその海でつりざおを使い、魚が食いつくのを待った。

2分ほどで何かが食いついたので、釣り上げてみると何故かくさったしたいを釣り上げてしまった。

 

「くさったしたいだと!?何でこんなモンスターが釣れるんだ?」

 

とにかく倒さないと襲われるので、俺は聖なるナイフでくさったしたいを斬りつけ、痺れさせた。

そして、動けなくなったくさったしたいにぎんのおのを向けて、回転斬りを放った。

「回転斬り!」

 

ぎんのおのは非常に切れ味がよく、くさったしたいは一瞬で真っ二つになった。

 

「すげえな。こんなに切れ味がいいのか」

 

くさったしたいは倒すことが出来たが、他にもモンスターが釣れるかもしれないし、ここでの釣りはやめておいたほうがいいかもな。

俺はつりざおを片付けて、草原の奥へとさらに進んだ。

一番奥まで進むと、保管庫以外に俺が探していた、タルバのクイズの建物があった。

 

「やっぱりここにもクイズがあったか。今回は何の問題なんだ?」

 

俺がその建物に入ると、今まで一つの建物に一つしかなかった石碑が、手前に一つ、奥に三つで合計四つ置かれていた。それに、奥の石碑の前にはブロックをはめる穴が空いている。その後ろの高台には、封じられた宝箱が置かれていた。

俺はまず、手前にあった石碑に書かれた文字を読んだ。

 

私は探求者タルバ。知力あるものよ、そなたの輝きをここに示すがよい。この地には三つの問いがある。全ての謎を解いた証を、ここに示すのだ。

 

つまり、三つの謎を解いた証を見せればいいようだが、どうすればいいんだ?それが後ろの石碑に書かれているかもしれないので、俺は後ろの石碑を順番に読んだ。

 

左の石碑には、

この地にある、双子の謎を解け。そして、知恵の証を窪みへとはめこむのだ。

 

真ん中の石碑には、

この地にある、進化の謎を解け。そして、知性の証を窪みへとはめこむのだ。

 

右の石碑には、

この地にある、時の謎を解け。そして、知識の証を窪みへとはめこむのだ。

 

とそれぞれ書かれていた。恐らくここには、クイズの正解の報酬として貰った、一色の謎のブロックをはめこむのだろう。

 

「3つのブロックを正しいところにはめればいいようだな」

 

確か、双子の問題では白いブロック、進化の問題では青いブロック、時間の問題では赤いブロックが手に入ったはずだ。

なので俺は、白いブロックを左の、青いブロックを真ん中の、赤いブロックを右の窪みにはめこんだ。

3つのブロックをはめ終えると、後ろの高台にある宝箱が光り、封印が解除された。

 

「正解だったか。今回は今までのクイズのまとめみたいなものだし、凄い物が入ってそうだ」

俺はかけられていたはしごで高台に登り、宝箱を開けた。中には、一枚の紙と、不思議な指輪が入っていた。

 

私は探求者タルバ。知力あるものよ!よく、ここまでたどりついた!そなたにふさわしい宝を授けよう。これは、スーパーリング、魔物の攻撃による体の異常を全て無効化するものだ。これを使い、魔物を必ず倒してくれ。

 

スーパーリングか···これがあれば毒や麻痺の攻撃を受けても平気ということか。

俺はスーパーリングを指にはめて、聖なる草の保管庫探しを再開した。

 

「あと、調べていないところは岩山だけだな」

 

岩山は登りにくいので、大切なものを隠す保管庫を作るのに適しているだろう。俺は土ブロックを積んで足場を作り、クイズの建物の近くの崖を登った。

岩山の上は起伏が激しいため、多くのメイジキメラがいたが、隠れて進みやすかった。

 

「どこに保管庫があるんだ?」

 

30分くらい探し続けて、ようやくカベかけ松明が掛けられている遺跡の入り口が見えた。その遺跡は岩山に隠されていて、近くに行かないと全く分からなかった。

 

「多分ここが、探求者タルバの保管庫だろうな」

 

その中は、所々崩れているが先に進めそうだ。俺は遺跡に入り、中の階段を降りていく。

 

「結構下まで続いてるな」

 

中はかなり薄暗く、進みにくかったが、なんとか一番下までたどり着くことができた。下に着くと、赤色の鍵つきの扉が見えた。木のとびらより豪華なものだ。これを俺の持っているかぎを使って開ければいいんだな。

俺が鍵をさしこみ、少し回すと扉が開いた。

 

「この先に聖なる草があるのか」

 

俺は扉を開けた先にある通路を進み、遺跡のさらに奥へ歩いた。

そして、遺跡の最深部には、不思議な雰囲気を放つ、きれいな花が咲いていた。あれが聖なる草だろう。だが、その前に緑色の巨大な竜、キースドラゴンが眠っていた。

 

「キースドラゴンか···起こしたら殺されるな」

 

キースドラゴンは初代ドラクエに出てくるモンスターの中でもかなり強い奴だったはずだ。しかも寝ているところを起こせば、怒ってくるだろう。俺はスネークのようにほふく前進で進み、足音を立てないようにした。

10メートルくらいの距離を、1分以上かけて進んだが、全く足音を立てずに済んだ。

聖なる草の目の前につくと、俺はぎんのおので刈り取り、ポーチにしまった。

帰りもキースドラゴンの近くではほふく前進で移動し、離れると歩いて遺跡から出た。

 

「キースドラゴンがいたけど、何とか見つからずに済んだな」

 

ゲームでは戦う必要があったのかもしれないが、俺はメタルギアのファンなので、これからもなるべく戦闘は避けていきたいな。

聖なる草を入手したからついにエルを治せるな。俺はゲンローワに早速伝えようと、町に戻った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode47 究極の秘薬

俺が聖なる草を手に入れリムルダールの町に戻ってきた時、もう夕方になって、日が沈みそうだった。でも今日はまだ休むことはできない。早くエルに聖なるしずくを飲ませてやらないとな。俺はゲンローワに、聖なる草を手に入れたことを伝えに行った。

 

「ゲンローワ!聖なる草を見つけて来たぞ」

 

そう言って俺はポーチから聖なる草を取りだし、ゲンローワに見せる。

 

「おお!すばらしいぞ雄也!これが聖なる草か」

 

大きな花が咲いているし、聖なる花という名前のほうが良かったと思うのだが、それは気にしないでおくか。

 

「ああ、かなり探したけど、何とか見つかった」

とにかく、これを使えばエルを治せるはずなんだよな。早く作ってやらないと。

 

「それで、聖なるしずくと言うのはどんな見た目をした薬なんだ?」

 

俺はゲンローワに聖なるしずくの詳しい色や見た目を聞いた。ビルダーの魔法を発動させるには、作りたいものの見た目が分からないといけない。

 

「聖なるしずくは水色をしていて、まばゆい輝きを放つ薬じゃ。どうじゃ、作れそうか」

 

ゲンローワから聞いた聖なるしずくの見た目を、俺は頭の中に浮かべ、作り方を調べた。

聖なるしずく···聖なる草5個、液体銀3個、きれいな水1個 いにしえの調合台

え!?聖なる草が5個だと?液体銀やきれいな水はたくさんあるが、聖なる草は保管庫から持ってきた一つしかない。

「ゲンローワ、まずい···」

 

俺が深刻な表情をすると、ゲンローワも不安になって聞いてきた。

 

「雄也よ、これで聖なるしずくが作れると言うのに、どうしたのじゃ?」

 

「いや、作れないんだ。聖なるしずくの作り方をビルダーの力で今調べたんだけど、聖なる草が5つも必要らしい」

 

その事実を知り、ゲンローワも俺と同じような深刻な表情になる。

 

「雄也よ、本当なのか?」

 

「ああ。でも、ゲンローワなら聖なる草1本でも聖なるしずくは作れないのか?」

 

もしかしたら、このことを考えてゲンローワは100%エルを救えると言わなかったのかもしれない。だが、ビルダーの魔法では無理でも、薬師のゲンローワなら作れるかもしれない。

「無理じゃ。必要な材料はビルダーの力で調べるのが最も正確なはずじゃ。一応1本でも作れぬことはないのじゃが、量が少なくなる」

 

作れるけど、エルを治せるほどの量にはならないってことか。一か八かで少ない量で試してみることもできるが、リスクが大きすぎる。もし失敗すれば、エルを救う方法が完全に消えることになる。そんな危険は冒せないな。

 

「クソッ、あと少しだというのによ!」

 

「あと一歩というところなのじゃが、何か方法は無いのか···?」

 

俺もゲンローワも、ここまで来たのに諦めるのは絶対に嫌だった。

こう言う時は、冷静になってゆっくり考えるのがいいな。浄化の霊薬も、そうやって思い付いた。

「ゲンローワ、何か聖なるしずくを作る手段がないか考えてくる」

 

「雄也よ、頼んだぞ」

 

俺は一旦寝室に入り、聖なる草を5個用意する方法を考えた。

 

「聖なる草をどうにかして、増やせればいいんだけどな」

 

植物を増やす方法か···そう言えば農業の記録を手に入れた後、畑で野菜を栽培していたな。その方法が使えるかもしれない。

 

「農業で聖なる草を育ててみるか」

 

俺は聖なる草を種に加工するため、寝室から出て調合室に向かった。

調合室にはゲンローワもいて、何か方法が見つかったか聞いてきた。

 

「雄也よ、聖なる草を増やす方法を思い付いたのか?」

「しばらく考えたんだが、野菜のように聖なる草を種に変えて、育てればいいんじゃないか?」

 

町の中はルビスの加護があるから、1~2日で育つはずだ。それまでエルが耐えきれるかは賭けだが、少ない量を使うよりは高い確率で助かるだろう。

 

「うむ!それならいけそうじゃの!さすがじゃ、さすがじゃぞ、雄也!」

 

どうやらゲンローワも納得したようだ。今思ったが、農業の力って本当にすごいよな。

 

「聖なる草を一度種に戻して、探求者タルバから得た農業の記録を使えば、聖なる草を5個入手できるはずじゃ」

 

「ああ、エルが耐えられるかは分からないけど、これしか方法がない。早速種を作るか」

俺は聖なる草を調合ツボに入れ、農業の魔法をかける。すると、聖なる草が種の形になり、2つに分裂した。普通の野菜は一度に3つ種ができるが、聖なる草は2つしか出来ないようだ。

 

「おお、聖なる草の種が出来たようじゃな!」

 

横から俺の作業を見ていたゲンローワも、聖なる草の種が出来たことを喜んでいた。

 

「ああ、今から畑に植えてくる」

 

「頼むぞ、雄也。お主の手で、エルに聖なるしずくを飲ませてやってくれ!」

 

ゲンローワにそう言われた後、俺は畑に向かい、聖なる草の種を植えた。

種を植え終えると、もう夜遅い時間だったので、俺は寝室に戻って寝た。

 

リムルダールに来て19日目の朝、俺は目覚めると最初に、昨日植えた聖なる草の様子を見に行った。

聖なる草は、保管庫にあったものと同じくらいに成長していたが、まだ花が開花しておらず、もう一日待たないといけないようだ。

 

「まだ聖なるしずくは作れないのか。今日は決戦に備えての準備をするか」

 

何もしない訳にもいかないので、まず、聖なるしずくを作るためのいにしえの調合台を作っておくか。

調合ツボを回収して強化しないといけないので、調合室に向かった。

 

「雄也よ、聖なるしずくは育っておるか?」

 

調合室に入ると、中にいたゲンローワから聖なる草の様子を聞かれた。

 

「いや、あと1日はかかりそうだ」

 

野菜では、最大まで育てたものを刈り取ると、5個に分裂したはずなので、聖なる草も同じだろう。2つ植えているので、一度に10個収穫できるはずだ。

 

「それで、今日はできる準備をすべてしようと思っているんだ。調合ツボを強化するから、回収させてくれ」

 

俺はゲンローワにそう言ってから調合ツボをてつのおので叩いて回収し、作業部屋に向かった。

 

「他の素材はみんな揃ってるし、今すぐ作れるな」

 

俺は木の作業台のところで調合ツボ、石材、液体銀、きれいな水に魔法をかけ、変化させていく。

やがて、その4つが合体し、巨大な調合台になった。

「これが、いにしえの調合台か」

 

タルバから聞いた通り、3メートル×4メートルの大きさで、複雑な作りになっていた。

今の調合室の大きさだと、いにしえの調合台を置くことは出来ないので、俺は一度いにしえの調合台をしまい、土ブロックを使って調合室を増築した。

 

「これで置けるようになったな」

 

新しい調合室が出来上がると、俺はいにしえの調合台を取りだし、設置する。明日には、これを使って聖なるしずくを作ることになるだろう。

 

「まだ時間があるし、鍵のかかった扉でも開けに行くか」

 

いにしえの調合台が出来たので、俺は次に、今まで鍵が掛かっていて開けられなかった扉を開けにいくことにした。戦いに役立つ素材が手に入るかもしれないからな。

「鍵の掛かっていた扉は4つあったはずだな」

 

俺は調合室で4つかぎを作り、その後赤色の旅のとびらに入った。

 

「最初は、岩山の近くにあった建物だな」

 

俺は水没した谷底を歩いて密林に入り、そこから岩山を目指した。

途中にいたじんめんじゅやじごくのハサミなどのモンスターを避けながら密林を進み、鍵のついた建物の前にたどりついた。

 

「何が入ってるんだろな?」

 

楽しみにしながらかぎを使い、扉を開けると、中に一つの宝箱が入っていた。

開けてみると、銀色に輝く不思議な指輪が入っていた。確かこれは、ドラクエシリーズで会心の一撃が出やすくなる、かいしんのゆびわだったか。

「やっぱり戦いに役立つ物が入っていたな」

 

ここ以外の場所にも、こう言う戦いに役立つ物が入っているといいな。

俺は次に、農業の記録を手に入れた、探求者タルバの宮殿に向かった。

タルバの宮殿には、鍵付きの扉が2つあったはずだ。

俺は宮殿にたどり着くと、まず、左側の扉を開けた。

扉の先には、幅1メートルの狭い通路があったが、すぐに行き止まりで、そこに宝箱が置いてあった。

宝箱を開けると、中には金が5個入っていた。

 

「金か···みんなの分の武器を作る分はあるけど、これからも必要になるかもしれないな」

 

緑の旅のとびらの先でも金を手に入れているので、全員分のはやぶさのけんを作っても余るな。だが、金は貴重な金属なので、他にも使い道があるかもしれない。

俺は金をポーチにしまい、今度は右側の鍵付きの扉を開けた。

こちらの扉の奥にも、ひとつの宝箱が入っていた。

 

「あっちは金が入ってたけど、こっちは何が入ってるんだ?」

 

その宝箱を開けると、中には大量の聖なるナイフが入っていた。全部で50本もあり、町のみんなが使うとしても37本余る。

 

「壊れた時のために入れたのか?」

 

これなら、もし聖なるナイフが壊れたりしてもすぐに新しいものを使えるな。

俺は聖なるナイフを全てポーチに入れ、一度町に戻った。

 

「あとは世界樹の下にあるやつだけだな」

 

町に戻った後は、緑の旅のとびらに入り、世界樹の近くを目指した。今回は、岩山を越えて行ったので、足は疲れたがあまり時間はかからなかった。

そして、鍵のかかった建物に到着すると、鍵を開けて中に入った。

ここにも、宝箱が一つ置かれていた。その宝箱を開けると、今度は銀が15個入っていた。

 

「銀が15個か。戻ったら聖なる矢を作っておくか」

 

俺の推測ではヘルコンドルより強力だと思うマッドウルスに対抗するために、大量の聖なる矢を作っておいたほうがいいな。奴も不死の魔物なので、聖なる武器には弱いはずだ。

俺は銀をポーチにしまうと、キメラのつばさを使ってリムルダールの町に戻った。

 

「結構使える素材が手に入ったな」

 

手に入れた素材を使って、魔物との決戦に備えていかないとな。

その日、俺は仕立て部屋で全員分の銀製の武器を作り、作業部屋で鉄の矢と聖なる矢を作り、さらに大弓を5台から8台に増やした。

8方向から狙い撃てば、ヘルコンドルも避けることは不可能だろう。

武器を作り終えた時には、もう夜だったので、明日聖なる草が育っていることを楽しみにして、眠りについた。

 

リムルダールに来て20日目、俺は起きると、早速畑に植えてある聖なる草を見に行った。

 

「おっ、ついに聖なる草が開花したな」

 

聖なる草は、昨日より大きく育っていて、美しい花が咲いていた。これなら、聖なるしずくを作るための量が集まるだろう。

 

「さっそく刈り取って、聖なるしずくを作るか」

 

俺がてつのおのを使って聖なる草を刈り取ると、野菜のように1本が5本に分裂する。もう一つ植えてあるので、合計10本の聖なる草を収穫することが出来た。

聖なる草が集まると、俺は調合室に入り、ビルダーの魔法を使う。調合室にはゲンローワの姿はなく、恐らくエルを看病しているのだろう。

 

「これでついにエルを救えるんだよな。2日間も待たせてしまったけど」

 

メタルギアのスネークなら、待たせたなと言っていただろう。俺もこのセリフは言ってみたかったんだよな。

聖なる草、液体銀、きれいな水に魔法をかけると、いにしえの調合台が光を放ち、目の前に一つの薬が出来上がった。

 

「これが、聖なるしずくか」

 

その薬は、浄化の霊薬とは比べ物にならないほど輝いており、まさに究極の秘薬といった感じだ。

俺は聖なるしずくを持ち、エルの待っている病室に入った。

 

「エル、聖なるしずくを作ってきたぞ!」

 

病室には、苦しい顔をするエルと彼女を必死に励ますゲンローワの姿があった。

 

「おお、雄也よ。ついに聖なるしずくが出来たのじゃな!」

 

ゲンローワも、聖なるしずくができたことを大喜びしていた。

俺は、エルの寝ているベッドに近づいて、

 

「待たせたな」

 

と言って聖なるしずくを飲ませた。

すると、エルを包んでいた強大な魔物の気配は消え、落ち着いた状態になった。

そして、話せる状態にまで回復し、俺に感謝の言葉を言った。

 

「おお、雄也様···。私などのために、お薬を作って頂いたのですね···」

 

「当然のことだろ。仲間が苦しんでいて、助ける方法があるのならビルダーの力を使って、必ず助けてみせる」

 

ゲンローワがどうしても助けてほしいと言っていたからな。もちろん、俺自身がエルの命を救いたいと思っていたのもあるけど。

 

「私は、ずっと夢を見ておりました。それは、恐ろしいヘルコンドルと、巨大なくさったしたいの夢です···」

 

巨大なくさったしたい···マッドウルスのことだな。色は違うのだが、エルは名前を知らないからくさったしたいと呼ぶしかないのだろう。

 

「これまで、雄也様のおかげでたくさんの病を克服することが出来ました。夢の中に出てきたくさったしたいが何者かは分かりませんが、魔物の親玉であるヘルコンドルさえ倒せば、このリムルダールに光が戻るはずです」

 

リムルダールの空の闇を晴らすまで、後少しなんだな。ヘルコンドルだろうがマッドウルスだろうが、必ず俺たちで倒してやる。

 

「分かってる。絶対にリムルダールを魔物から解放させてやる」

 

俺がそう言うと、エルは安心して眠りについた。明日には回復するだろうな。

エルが落ち着いたのを見て、ゲンローワが話しかけてきた。

 

「ありがとう、雄也よ。お主にはいくら感謝しても、感謝しきれぬ···!」

 

別に、俺はビルダーとして当然のことをしただけなんだよな。人々や世界を救う、それがビルダーの役目だ。

 

「雄也よ、わしは···わしは···自分がなさけない。間違った道に進んだ弟子のウルスを見捨て、そして、死を受け入れよなどと最もらしい哲学や理屈をこねておきながら、結局は愛する孫娘を見殺しにすることは出来なかった···雄也よ、わしは···わしは···本当に愚かな人間じゃ」

 

ゲンローワはまだその事を気にしていたのか。

「ゲンローワ、気にするな。俺はビルダーとしてアレフガルドを復興させてきて、分かったことがある」

 

「それは、どんなことじゃ?」

 

「愚かだからこそ、人間ってことだ」

 

俺がそう言うと、ゲンローワは驚いた顔をした。

 

「なに!?愚かだからこそ、人間らしいと。そうか、そうであったな、お主は最初に出会った時もそのようなことを言っておったな」

 

あの時は違う言い方をしていたが、意味はだいたい同じだな。ゲンローワは納得したようで、話題を変えた。

 

「さあ!これで一晩立てばエルの病も癒えるはずじゃ。お主もゆっくりと眠り、明日エルに声をかけてやってくれ」

 

「ああ、分かった」

 

ゲンローワの言う通り、今日は決戦に備えて体を休めておいたほうがいいな。準備もできているので、俺は寝室に戻り、一日中ゆっくりと過ごした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode48 大空駆ける病の主

リムルダールに来てから21日目の朝、俺は昨日聖なるしずくを飲ませて病を治した、エルの様子を見に行った。

ゲンローワの言っていることが正しければ、今日には起き上がれるようになっているはずだ。

俺は起きてるといいなと思いながら、病室に向かった。

 

「エル、起きてるか?」

 

俺が病室の中に入ると、エルはすでにベッドから起き上がっていて、俺に声をかけてきた。

 

「おお!雄也様!おはようございます!」

 

「おはよう、エル」

 

昨日までとても苦しんでいたのに、もうこんなに元気になるとはな。聖なるしずくの力はやっぱりすごい。

 

「雄也様のおかげで、ご覧のとおりすっかり良くなりました!」

 

「一度は殺してくれなんて言っていたのが、嘘みたいだな。本当に良かった」

 

俺がエルが回復したことを喜んでいると、リムルダールの町が強く揺れた。

その揺れは、メルキドのゴーレムが目覚めた時と同じような感じだった。

 

「雄也様、この揺れは一体何なのですか!?」

 

突然起きた揺れに、エルは驚きを隠せないようだ。

これは恐らく、ヘルコンドルが本気で俺たちの町を壊しに来る合図のはずだ。

 

「聖なるしずくが出来て、ヘルコンドルは病では俺たちを殺せないことが分かったはずだ。だから今回は、全力で襲ってくるんだろうな」

 

「おお、ついに病の元凶であるヘルコンドルと決着をつける時が来たのですね!」

 

ついにリムルダールの空の闇を晴らす時が来たか。マッドウルスの存在など、まだ困っていることは多いが、とりあえず闇を晴らすことはできるだろう。

俺がそんなことを考えていると、ゲンローワが病室に入ってきた。

 

「雄也よ、さっきの揺れは何だったのじゃ!?」

 

ゲンローワもさっきの揺れには驚いたのだろう。俺はこの地に、ヘルコンドルが迫っていることを伝えた。

 

「ヘルコンドルとの決戦の時が来たんだ。みんなに伝えてくれ!」

 

「そうか、ついにこの地での最終決戦になるのじゃな···今すぐみんなを集めるぞ」

最終決戦かは分からないが、ヘルコンドルを倒さなければリムルダールに未来はない。ゲンローワは俺の話を聞くと、すぐにみんなを集めに行った。

俺とエルも、走って希望のはたのところへ向かう。ヘルコンドルが来るまで時間がないようで、いつもの大きな羽音が聞こえてきていた。

 

「やっぱりヘルコンドルが来たか」

 

俺がヘルコンドルを見るのに夢中になっていると、みんなを集めてきていたゲンローワに話しかけられた。

 

「戦える全員を集めたぞ。みんなも、ヘルコンドルと戦う覚悟は出来ているようじゃ」

 

戦う覚悟か···ヘルコンドルは強力だろうけど、当然俺にも覚悟はある。

俺含めて10人が集まったのを見て、俺は作戦を話し始めた。

 

「今回はこの前と違って大弓が8台ある。この前の5人と、俺、ミノリ、エディを加えればいいと思う。二人は、大弓は使えそうか?」

 

ミノリとエディは兵士だし、剣だけでなく、弓も使えそうだ。俺は一応聞いたが、二人ともうなずいた。

それに俺も加われば、8つの大弓を全て使うことになる。

 

「分かりました!当てられるよう頑張りますね」

 

「オレもヘルコンドルをうち落とせるようやるぜ」

 

そして、近接戦闘が得意そうなゆきのへとゲンローワは、ヘルコンドルが手下を呼んだ時に、食い止める役割が良さそうだ。

「ゆきのへとゲンローワは、ヘルコンドルが手下を呼び出したら倒してくれ!」

 

「ああ、分かったぜ!」

 

「何としてもわしらの町を守り抜くぞ」

 

二人も納得し、俺たちはそれぞれの配置についた。もうヘルコンドルは、町のすぐそばまで迫っていた。

リムルダールの魔物の親玉との戦いが、ついに始まった。

俺たちはこの前と同じように、ヘルコンドルに向かって矢を放つ。

ヘルコンドルも何もしないわけではなく、鉄の矢を避けながら町に近づいてきた。そして、いつも通り大きな雄叫びを上げて手下を呼ぼうとする。

 

「キュオーーーーー!」

 

「くそっ、今度も手下を呼んで逃げる気か!?」

 

今度こそ逃がしたくはないので、みんなは一斉に鉄の矢を放った。

 

「今日こそは逃がしません!」

 

「このリムルダールの闇を晴らせてもらうよ」

 

この前も命中させたエルやケーシーだけでなく、全員の放った矢がヘルコンドルに当たった。だが、ヘルコンドルはそれでも落ちず、手下の魔物を呼び出した。

 

「くそっ、手下を呼ばれたか」

 

「ですが、逃げていく気配はないようです」

 

ドロルやキャタピラー、リカントマムル、じんめんじゅ、くさったしたいと言ったこれまでにも襲撃してきたモンスターが、100体近く呼び出されていた。ヘルコンドルも逃げる気はないようで、同時に戦わないといけないようだ。

「な、なんと言う数じゃ···」

 

「こんなの、二人だけでは無理だろ」

 

ゆきのへとゲンローワも、この数を相手することは厳しそうだな。かといって、ヘルコンドルの相手もする必要がある。

 

「そうだ、火をふく石像があったな」

 

今思い出したがタルバのクイズに正解した報酬としてもらった火をふく石像があった。炎で敵を焼き尽くせば、町に入ってこられる奴はわずかのはずだ。

俺は魔物が迫ってきている町の東側に行き、石像を2つ設置した。

 

「二人とも、これで敵を焼き尽くすから、残った敵を倒してくれ」

 

少ない数になれば、二人でも相手は出来るだろう。

早速、火をふく石像だとは知らずに近づいてきた魔物たちは、炎に焼かれて倒れていく。

 

「な、何だこの炎は~!?」

 

「うぎょあーーーー!」

 

声を発することのできるリカントマムルやくさったしたいは悲鳴をあげていた。

 

「これで手下の魔物は大丈夫だな。ヘルコンドルとの戦いに集中しないと」

 

魔物が次々に数を減らしていくのを見て、俺は大弓のところに戻る。

 

「今度こそ落ちろ!」

 

俺はそう叫んで鉄の矢を撃ち始めたが、ヘルコンドルは素早く回避し、当てることが出来なかった。

ケン、イルマ、ザッコも鉄の矢を撃ち続けるが当たることはなかった。

 

「オイラが撃ち落としてやるべ!」

 

「おれも矢を当ててやるぜ」

 

「僕も援護します!」

 

だが、軽々と回避しているヘルコンドルに、左右から2本の矢が刺さった。兵士である、ミノリとエディが放った矢だ。

 

「やった!当たりました!」

 

「オレにかかれば簡単だぜ!」

 

さすがは兵士だな。弓の扱いもやっぱり上手だ。

翼に傷を負ったヘルコンドルは、俺たちが次の矢を用意している間に、呪文を唱える。

 

「キュアーーーーーー!」

 

すると、俺たちのいる建物の屋根の上に、巨大な風の刃が襲いかかってきた。

「みんな、魔法が来るぞ!」

 

俺の声で、みんなは間一髪かわすことが出来たが、建物の屋根が大きく破壊された。

 

「あれは、バギクロスか?」

 

ヘルコンドルが唱えたのは、真空の刃で敵を攻撃するバギ系呪文の上位種、バギクロスだろう。普通、ヘルコンドルはこんな呪文は使えないはずだが、魔物の親玉だけあって強いな。

俺が体勢を立て直していると、エルの声が聞こえた。

 

「雄也様、ヘルコンドルの動きが止まりました!」

 

動きが止まっただと!?俺がヘルコンドルの方を見ると、確かに呪文を使って力を消耗したのか、動きが止まっていた。

それを見て、俺は全員に大声で叫んだ。

「奴の動きが止まった!今だ!」

 

それを聞いてみんなはすぐに大弓に鉄の矢をセットし、次々に発射した。

そして、疲れていたところに大量の矢を受ければ、さすがに耐えきれなかったのか、ヘルコンドルは地面に落下した。

 

「やりましたね!このまま倒しましょう」

 

「ああ、早くとどめをさすぞ!」

 

これで銀製の強力な武器で攻撃できるな。後ろを見るとゆきのへとゲンローワも、すべての魔物を倒し終えていた。

 

「近接武器を持っている人は、俺と一緒にヘルコンドルを斬り裂いてくれ」

 

鉄の矢での遠距離攻撃より、銀の武器で斬ったほうが倒しやすいだろう。俺、ゆきのへ、ゲンローワ、ミノリ、エディはヘルコンドルに近づき、体を斬り刻んで行く。

「これでお前も終わりだぜ」

 

「わしらの町をこれ以上攻撃するではない!」

 

「オレがお前を倒してやるぜ!」

 

「ヘルコンドルを倒して、リムルダールを救って見せます」

 

みんなの攻撃で、ヘルコンドルはもう瀕死になっていた。チャンスだと思い、俺は全力で回転斬りを放った。

 

「回転斬り!」

 

しかし、ヘルコンドルは追い詰められているのにまだ倒れず、再び飛び上がった。

 

「くそっ、止めをさせなかったか」

 

ヘルコンドルは体を斬り刻まれて、激しく怒っているようだった。そして、高いところに飛ぶと、バギクロスとは違う呪文を唱え始めた。

 

「ギュアーーーーーー!」「今度は何の呪文を使うんだ?」

 

俺が警戒しながらヘルコンドルの様子を見ていると、突然、高さが数十メートルもある巨大な竜巻が発生し、この町に迫ってきていた。

 

「竜巻も使えるのか。どうやって避けるんだ?」

 

竜巻は町をまるごと吹きとばすほどの大きさで、回避することは不可能だと思われた。もしかしたらこれが、昔の人のメモに書かれていた、バシルーラなのかもしれない。

だが、町に入っても建物を吹き飛ばさずに、俺たちに近づいてきていた。恐らく、人間だけを吹き飛ばす魔法なのだろう。

それなら、物に掴まればなんとか耐えられるだろう。

 

「どうやったら避けられるんだ?」

 

「あんなものに飛ばされたら、わしらは終わりじゃ!」

 

建物が迫ってきていてどうすればいいか分からないみんなに、俺はこう言った。

 

「物にしがみつくんだ!あれは建物を吹き飛ばすことはない!」

 

俺の声を聞いて、みんなはそれぞれ近くにあった物に掴まる。

俺は希望のはたに掴まり、バシルーラが去っていくのを待った。10秒以上強い竜巻に巻き込まれ、何度も手を離しそうになる。

 

「こんな魔法なんかに、吹き飛ばされるかよ!」

 

それでも諦めずにしがみつき、ようやく竜巻は去っていった。

みんなが無事か俺はすぐに様子を見たが、全員飛ばされていなかった。

「みんな無事か、良かった」

 

竜巻で吹き飛ばされずに済んだが、ヘルコンドルはまだ空を飛び続けていた。

俺はかなり腕の力を使ったので、今度バシルーラを使われたら耐えられないかもしれない。早めに倒さないといけないな。

 

「みんな、奴は弱っている!もう一度一斉に鉄の矢を撃とう」

 

俺たちはすぐに建物の屋根に登り、そこに置いてある大弓からまた鉄の矢を放っていく。

ヘルコンドルは今度も避けようとしていたが、体を斬り裂かれたり、強力な魔法を使ったりして、もうその強力はなかった。

 

「これまで私たちを苦しめてきたヘルコンドルを、許す訳にはいきません!」

 

そして、エルの刺さった矢がヘルコンドルの目に刺さり、奴は動きを止めた。

さらに、俺はヘルコンドルの心臓に向かって、鉄の矢を放った。

 

「これで終わりだ!ヘルコンドル!」

 

ヘルコンドルは目が見えず、俺の放った矢を避けることはできなかった。鉄の矢は奴の心臓を貫き、地に落としていった。

地上に落ちたと同時に、ヘルコンドルは青い光を放って、消えていった。

倒れたところを見ると、あまぐものつえの部品と思われるアイテムが落ちていた。

 

「やりましたね、雄也様!ついにヘルコンドルを倒しました!」

 

「ゴーレムだけでなく、ヘルコンドルも倒すとはな、すごい奴だぜ」

 

「これでリムルダールの空も晴れるはずじゃ。本当によくやった、雄也よ」

 

俺たちはついに、リムルダールの魔物の親玉、ヘルコンドルを倒すことができたのか。ゴーレムの時もそうだったが、いまいち実感が沸かないな。

ヘルコンドルが落とした素材であまぐものつえを作れば、リムルダールの闇は晴れるだろう。

俺はあまぐものつえの部品を取りに、ヘルコンドルが死んだところに近づいた。

その時だった、突然、あまぐものつえの部品が闇の色に染まり、消えていったのだ。

 

「あまぐものつえが消えた?一体何が起きてるんだ?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode49 闇に染まりし不死の者

俺たちは、ヘルコンドルを倒した後に起きた出来事に唖然としていた。

 

「おお、何が起きたのでしょうか!?ヘルコンドルは倒されたはずなのに···」

 

「何者なのじゃ!?伝説の素材を奪っていったのは」

 

あまぐものつえが伝説のアイテムだと言うのは、みんなも知っているのか。だが、ヘルコンドル以外の強力な魔物のことなど、考えてはいないようだ。

俺には、その魔物が何なのかは、だいたい予想がついていたが。

 

「多分、ウルス···マッドウルスだ。強大な魔物になった、ゲンローワの弟子だ」

 

俺がウルスの名を口にしたことを、ゲンローワや他のみんなは、とても驚いていた。

「なんじゃと!?ウルスが、伝説の素材を奪っていったというのか?」

 

マッドウルスはとてつもなく禍々しいオーラを放つ魔物なので、あまぐものつえを闇に染めることもできないはずはない。

 

「ですが、どうしてウルス様が魔物になったのですか?」

 

俺が恐らくそうだ、と答える前に、エルがウルスのことについて聞いてきた。

俺も話しておきたいが、これはゲンローワの辛い過去だから、話していいのか、一応聞くか。

 

「ゲンローワ、ウルスのことを話していいか?」

 

「もちろんじゃ。今さら隠すこともない」

 

ゲンローワが良いと言ったので、俺はウルスとゲンローワの過去について話し始めた。

 

「ウルスは、病を治すために様々な研究をしていた。そして、その途中に恐ろしいことを閃いてしまったんだ」

 

「恐ろしいこと···?昔から気になっておりましたが、何があったのですか?」

 

そう言えばエルはゲンローワと長い間過ごしてきたから、ウルスにも会ったことがあるかもしれないし、余計に気になっているんだろう。

 

「死ななくなる代わりに、魔物になってしまうという方法だ。ウルスはその研究を完成させて、たくさんの人に使った」

 

「じゃあ、まさかオレたちは?」

 

俺の話を聞き、エディは何かを思い付いたような顔をしていた。

魔物化の病にかかっていた3人は、やはりウルスのところに行ったようだ。

「ああ、エディ、ケン、イルマにもその魔物化の病を植え付けた。俺たちが浄化の霊薬で治したけどな」

 

「やっぱりか。あのヤロウ、オレたちを騙してたんだな!」

 

「僕もウルス様のところに行った後、ここに来たんです。まさかそんなことをされていたなんて」

 

「おれも、何とか病が治らないかウルスのところに行ったんだ」

 

騙されたと言うのも無理はないな。ウルスに悪意はなかったとは言え、愚かなことをしたことに代わりはない。そう考えると、マッドウルスは人間の愚かさから生まれた魔物だと言える。

 

「別にウルスは悪意があって魔物化の病を作った訳じゃない。だけど、ウルス自身もその病に感染し、最後には強大魔物になってしまった。そいつを俺は狂ったウルス···マッドウルスと読んでいるんだ」

 

マッドとは、狂っていると言った意味のはずだ。元は悪気がなかったとはいえ、今は完全に狂っている。

 

「そうか、この地での最後の戦いの相手は、我が弟子であるのか···」

 

マッドウルスの話をすると、ゲンローワは暗い顔になった。俺も人間だった者と戦いたくはない、師匠であるゲンローワにとってはなおさらだろう。しかし、リムルダールを解放するには、戦うしか、殺すしかない。

 

「気持ちは分かる。でも、戦うしか方法はないんだ」

 

ゲンローワは少し悩んだが、うなずいた。

 

「分かっておる。我が弟子であろうと、襲ってくるのなら倒すまでじゃ。それに···ウルスも早く苦しみから解放されることを願っているはずじゃ」

確かに、ウルスは魔物になって苦しんでいるのかもな。せめて、楽にしてやりたいってことだろう。

 

その時だった、リムルダールの地が、再び揺れたのだ。その揺れは、ヘルコンドルが来た時より強かった。

 

「そろそろマッドウルスが来る。空を飛んでいる訳じゃないから、俺も近づいて戦うぞ。エルたちは聖なる矢を使って少しでも動きを止めてくれ!」

 

マッドウルスはゾンビの魔物なので、聖なる矢が効くだろう。

全員が配置について、しばらくした後、マッドウルスが現れた。

 

「あれがマッドウルスだ、行くぞ!」

 

この前見た時と同じように、全身が漆黒に染まり、血のように赤い目で俺たちを睨み付けていた。

リムルダールでの最後の戦いが、ついに始まった。

 

「皆様、相手が誰であろうと、必ず勝ちましょう!」

 

最初に、エルの掛け声で5人が聖なる矢をマッドウルスに放つ。

 

「ヘルコンドルだろうが、マッドウルスだろうが、必ずあたいたちが倒してみせるよ!」

 

「ウルス様、これ以上狂わないでください!」

 

「おれたちがこのリムルダールの闇を晴らしてやるぜ」

 

「オイラたちの町を攻めるんじゃないべ!」

 

みんなはそれぞれに言葉を発しながら聖なる矢を当てるが、マッドウルスは少しも止まらず、俺たちの町に近づいてくる。

 

「やっぱり麻痺の効果は効かないか」

 

聖なる武器には不死の魔物に麻痺の効果があるが、マッドウルスには全く効かなかった。

エルたちはそれでも諦めず、聖なる矢を撃ち続ける。だが、それはかえってマッドウルスを凶暴化させるだけだった。

 

「グギャアアアアアーーー!」

 

マッドウルスは恐ろしい叫び声を上げると、大弓を使うエルたちを鋭く睨む。そして、口の中に力を溜め始めた。

 

「な、何をするんだべ?」

 

「とんでもない攻撃が来そうだ」

 

それを見て、イルマやザッコも恐ろしい攻撃が来るのではないかと恐れていた。

そして、力を溜め終えると、マッドウルスは口から5つの巨大な毒の砲弾を放つ。それはこの前のリビングデッドが放ったものより10倍ほどの大きさで、5人の真上に落ちてきていた。

「みんな、攻撃が来るぞ!」

 

俺はその毒の砲弾を見て、エルたちにそのことを伝える。エルやケーシーはマッドウルスを撃ち抜くことに必死になっていたが、攻撃に気づいてよけた。

毒の砲弾は、5人が使っていた大弓に直撃した。もし当たっていたら一撃で死ぬかもしれないし、一撃ではなくても毒で死んでしまうだろう。

大弓とその近くの屋根はバラバラに壊れ、毒の液体が建物の中にまで入っていった。

 

「くそっ、部屋の中が汚染された」

 

毒を片付けないと部屋を使うことは出来ないだろう。だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

マッドウルスはついに町の光の中に入り、建物を壊そうとしていた。奴の闇の力が原因で、ルビスの光も弱まっている。

 

「私達の大切な町は決して壊させません!まだ大弓は残っています。それで何とか倒しましょう」

 

5台の大弓が壊されたが、まだ3台残っている。8個も作っておいてよかったな。エルはまだ残っている大弓を使い、マッドウルスを撃ち抜く。残り2台はケーシーとケンが使い、聖なる矢を次々に放つ。

そしてついに、マッドウルスの体に大きな穴があき、少し弱らせることができた。だが、倒すのにはまだまだ聖なる矢が必要だろう。100本作っていたとしても、足りなくなる。

ヘルコンドルのように動きを止めて、全員で叩きのめそうと思っていたが、その作戦では勝てないようだ。

 

「俺たちもあいつを斬り裂きに行くぞ」

 

俺とゆきのへはてつのおのを、ゲンローワとエディとケンははやぶさのけんを持ち、マッドウルスに近づいていく。

 

「ズギャアアアアアアアア!」

 

下からも上からも狙われたマッドウルスは、さっきより大きな叫びをあげた。

今度は何を使うんだ?と思っていたら、マッドウルスは呪文を唱えるような行動をとった。

 

「こいつはもう人間じゃないから、魔法まで使えるのか」

 

この世界では呪文も物作りの力と同様に、竜王に奪われているようだが、魔物となれば使えるようになるのだろう。ただのくさったしたいには呪文は使えないが、マッドウルスほどの奴であれば別だな。恐らくこいつが使うのは闇の呪文だろう。

マッドウルスが呪文を唱えると、町に俺たち全員を巻き込むような特大の闇の力が解き放たれる。

そして、その闇の力が町の中で炸裂した。

俺たちは何とか剣で防ごうとしたが、かなり吹き飛ばされてしまった。

 

「何て強いんだ···ドルモーアか?」

 

俺は地面に叩きつけられた痛みに耐えながら、起き上がる。みんなも呪文に気付き、直撃は避けられたが、町の建物は大きく壊され、希望のはたも折れかけていた。

マッドウルスが使ったのは、恐らくドルモーアだろう。闇の呪文であるドルマ系の呪文の3段階目、ドルモーアを受ければこのくらい破壊されるのも当然なのだが、ここまで町が被害を受けたのは初めてだ。

今まで作り上げてきた町を壊され、みんなもショックを受けている。

 

「おお、なんということじゃ···町がボロボロになっておる」

 

「せっかく皆様と作り上げてきた町なのに、どうしてこのようなことに···」

 

このようなことをしても、マッドウルスはまだ町を破壊しようとしていた。希望のはたを完全にへし折り、全ての建物を跡形もなく消し去るまでやめないのだろう。ウルスは狂っているとは分かっていたが、まさかここまでするとはな。

 

「みんな、町は後で直せばいい。今はあいつを倒すことに集中しよう」

 

俺がそう言うと、ゆきのへも俺に続いて言った。

 

「雄也の言う通りだ。壊れた町なんていくらでも直せる。今は敵を倒すことだけに集中するんだ」

 

そう言えば、メルキドを旅立つ時にロロンドも言っていたな。壊れた町などいくらでも直せる。大切なのはそこに住む人間だと。

必ず勝って、リムルダールを復活させてやる。

 

「わかったぞ。わしも諦めはしないのじゃ」

 

「あたしも頑張ります!ヘルコンドルを倒したんですから、こいつも倒せないはずがありません!」

 

「悪気はなくてもお前はオレを騙した。それに、町まで破壊するなんてよ。絶対に許さねえ」

 

俺とゆきのへに続き、近接武器を持つゲンローワ、ミノリ、エディもマッドウルスに斬りかかっていった。

「俺たちに勝てると思うなよ」

 

近づくと、マッドウルスはみんなを殴ってくる。その動きはゾンビとは思えないスピードで、攻撃を当てるのがやっとだった。

 

「くそっ、こいつ、こんなに動きが速いのか!?」

 

5人で囲んでも攻撃をほとんど防がれ、恐らくこれまでに出会った敵の中で最強の奴だ。

俺ははやぶさのけんとぎんのおのの二刀流で、マッドウルスの動きを必死に止めようとする。だが、その度に弾き返され、俺の腕に強い痛みがはしる。

 

「どうやったら止められるんだ?」

 

俺の腕の力も限界に来ていた時、ゆきのへが何とか動きを止めようと、マッドウルスに掴みかかり、腕をぎんのおので斬りつけた。

マッドウルスはゆきのへを振り払おうとするが、ゆきのへは懸命にしがみつき、俺にこう言った。

 

「雄也!速くこいつを斬り裂くんだ!」

 

ゆきのへは腕の力が尽き、マッドウルスに投げ飛ばされる。俺は、動きを再開する直前に渾身の一撃を放った。

 

「回転斬り!」

 

俺の放った回転斬りで、マッドウルスは胴体に大きな傷を負った。さっきの聖なる矢で受けたダメージもあるので、かなり弱ってきているはずだ。

それでも、マッドウルスは抵抗を続けてきた、体勢を立て直したと同時に、口から町を闇に包む霧を吐いてきた。

 

「暗黒の霧!?こんな技まで使えるのか」

ドラクエ10のマッドスミスも使う技、暗黒の霧だ。マッドウルスはこんな厄介な技も持っていたのか。

 

「前が見えない!マッドウルスはどこにいるんだ!?」

 

暗黒の霧により視界がほぼ真っ暗になり、マッドウルスの姿も仲間たちの姿も見えなくなっていた。

そして、仲間たちの悲鳴とマッドウルスの叫び声が、何度も聞こえてきた。

 

「みんな、どうなってるんだ!?」

 

声を頼りに俺はみんなを探そうとするが、途中でいきなりマッドウルスに体を掴まれた。

マッドウルスは俺に傷をつけられたことを怒っているようで、すさまじい視線を送りつけてくる。

 

「何をするつもりなんだ?」

そして、マッドウルスは俺のすぐ近くで、毒の砲弾を溜め始めた。俺は掴まれているため離れることも武器を使うこともできない。

俺はスーパーリングをしているため毒は防げるが、至近距離で放たれたらさすがに耐えきれないだろう。

 

「クソッ、何か方法はないのか!?」

 

俺は何とか抜け出す方法を考えたが、少しも思い付かない。

そして、毒の砲弾が放たれるその時だった、誰がが俺を突き飛ばし、代わりに毒の砲弾を受けたのだ。

 

「何が起きたんだ!?」

 

やがて、暗黒の霧の効果がなくなり、視界が元に戻った。

誰が俺を助けてくれたのかと思い、吹き飛ばされた方向を見ると、ゲンローワが倒れていた。

エルたちもそれに気づいて、ゲンローワに駆け寄る。

 

「ゲンローワ様!しっかりしてください!」

 

エルはゲンローワに声をかけると、辛うじて意識があった。だが、今にも力尽きそうな状態だった。

 

「何で俺を庇ったんだ?」

 

「お主には恩があるからのう。エルが倒れてわしがお主に助けを求めた時、お主は断らず聖なるしずくを作った。本当に感謝しておる」

 

そう言うと、ゲンローワは意識を失った。エルのことも、最初は彼女の願いを聞き入れようとしたが、ゲンローワに頼まれて断れなかったな。

ゲンローワは今、そのことを恩に俺を助けてくれた。俺も、ゲンローワを助けてやらないとな。

 

「このままだと死んでしまう。何とか治療しないと」

 

回復しないといけないが、きずぐすりやくすりの葉では効果がないほどの重傷だ。

その時、俺はポーチにあるアイテムが入っていることを思い出す。

 

「そう言えば、遺跡でいのちのきのみを見つけたな。これが使えるかもしれない」

 

いのちのきのみは体力ゲージのない現実では使い道がないと思っていたが、生命力を強化する力を持つすごい木の実だ。これを使えばゲンローワを治せるかもしれない。

 

「エル、これをゲンローワに食べさせてくれ。俺はマッドウルスとの戦いに戻る」

 

「分かりました、雄也様!」

 

俺はエルにいのちのきのみを渡すと、未だに倒れないマッドウルスのほうを向いた。だが、マッドウルスは動きを止めていた。

 

「ゲンローワ様···私は···私は···なんてことを···!まさか、ゲンローワ様まで傷つけてしまうなんて!」

 

マッドウルスの中から、元のウルスの声が聞こえてきた。自分の師匠を殺しかけてしまったというショックで、一時的に正気を取り戻しているようだ。

 

「早く···私にとどめをさしてくれ···これ以上傷つける訳には···いかない」

 

ウルスの最後の理性がマッドウルスの身体を止めているようだ。倒すなら、今しかないだろう。

「今だ!ウルスの気持ちが動きを止めている!」

 

俺、ゆきのへ、ミノリ、エディは全力でマッドウルスに斬りかかつた。

ゆきのへは頭を、ミノリは腕を、エディは足を斬り刻む。そして、最後に俺が大きな傷を負っている胴体に、もう一度渾身の回転斬りを放った。

 

「回転斬り!」

 

ついにマッドウルスは力が尽き、青い光を放って消えようとしていた。ウルスが、最後に俺にこう言い残した。

 

「ありが···とう。たすけて···くれて。あまぐものつえを···伝説の杖を···掲げるんだ···」

 

殺したのに助けた···か。エルの時も最初はそう思っていたが、殺したほうが救われるということもあるんだな。

マッドウルスが消えたところを見ると、ヘルコンドルを倒した時にも見た、あまぐものつえの部品が落ちていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode50 雨雲の杖

かなり予定が遅れましたが、ようやく2章の最終回になります。


マッドウルスを倒した後、俺は今度こそ、あまぐものつえの部品を手に入れた。

みんなも、激しい戦いに勝つことが出来て安心している。特に、前衛で戦ったゆきのへ、ミノリ、エディはとても喜んでいた。

 

「ついにワシらの力で、ヘルコンドルもマッドウルスも倒したんだな」

 

「どうなるかと思いましたけど、何とか勝てましたね!」

 

「これでこのリムルダールに、光が戻るはずだぜ!」

 

そうか、かなり長い道のりだったけど、ようやくリムルダールの地も光が戻るんだな。周りの湖はまだ毒沼のままだから、完全復活まではまだまだ時間がかかるだろうけど。

 

「あまぐものつえはこれで作れるはずだけど、ゲンローワは大丈夫なのか?」

俺はあまぐものつえを作りに行く前に、病室にいるエルとゲンローワの様子を見に行った。大ケガを負ったゲンローワにいのちのきのみを食べさせたが、効果があったか不安だな。

 

「エル、マッドウルスは倒した。ゲンローワは大丈夫なのか?」

 

病室に入ると、エルがゲンローワの傷を手当てしていた。だが、傷はかなり治りかけていて、やはりいのちのきのみの効果があったようだ。

 

「はい、ゲンローワ様は雄也様の使った木の実のおかげで元気になりました!」

 

いのちのきのみは現実では用途のないアイテムだと思ってたけど、すごい力があったな。

 

「それにしても、雄也様···。ついに、ヘルコンドルも、魔物になったウルス様も倒せたのですね!おお···おお···なんという···なんという···ことでしょう!」

魔物の親玉たちを倒せたことは、エルにとってもものすごく嬉しいことのようで、いつもより強く、なんということでしょうと言った。

 

「これで、リムルダールの地に蔓延する病も根絶できるはずです!」

 

確かに、これでリムルダールに病を振り撒く者はいなくなったな。しかし、まだ病を患っている人が残ってはいるだろう。まだまだ課題は多いな。

 

「ああ、まだ病にかかっている人も、この町でなら必ず治せる」

 

「はい!雄也様、本当にありがとうございました!」

 

エルは俺に改めて感謝の言葉を言うと、あまぐものつえの部品のことを聞いてきた。

 

「ところで、雄也様。先ほどヘルコンドルが落とし、マッドウルスに奪われた不思議な結晶はなんですか?マッドウルスを倒したのですから、取り返したはずです」

「多分伝説のアイテム、あまぐものつえの部品だ。これがあればリムルダールの空を晴らすことができる」

 

「では、早速作っていただいて、空の闇を晴らしてください!」

 

俺も早く、リムルダールの空が晴れるのを見てみたいぜ。

 

「ああ、もちろんだ!」

 

俺はエルに、いつものもちろんだと言う返事をして、病室から出た。病室から出た後、あまぐものつえの形を脳内に浮かべ、作り方を調べた。

あまぐものつえ···あまぐものかざり1個、きれいな水3個、木材2個 いにしえの調合台

今俺が持っている部品は、あまぐものかざりと言うのか。他は木材ときれいな水か。木材はたくさん持っているし、きれいな水は水飲み場ですぐに汲んでこれるな。

だけど、何で薬を作るためのいにしえの調合台で作るんだ?調合ツボの上位種であるいにしえの調合台では、薬以外の物でも作れるのだろうか。

 

「とりあえず、今すぐ作れそうだな」

 

調合台のことは考えても仕方ないので、俺はきれいな水を3回汲み、調合室に向かった。

調合室の中は、今はゲンローワが病室で寝ているため、誰もいなかった。これなら、静かに作れるな。

俺はいにしえの調合台の前に立ち、あまぐものかざり、木材、きれいな水に魔法をかけた。

あまぐものかざりが杖の先端の部分になり、木材が持ち手の部分になる。そして、その二つの素材をきれいな水によって清めていく。

「これも聖なるしずくのように、光り輝いてきたな」

 

やがて、杖はまぶしい光を放ち、伝説のアイテム、あまぐものつえとなった。

 

「これがあまぐものつえか。ゲームでは見たことあるけど、実物を見るのは初めてだな」

 

あまぐものつえは、出来上がった後も光を放っていた。この光があれば、リムルダールの空の闇も晴らすことができそうだな。

俺はあまぐものつえを手に取ると、希望のはたに掲げるために調合室から出ていった。

調合室から出ると、エルも希望のはたの近くにいて、俺のところへ駆けつけてきた。

 

「おお!雄也様!この地の闇を晴らす伝説の杖が出来上がったのですね!とてもきれいな装飾がされていて、光っているようにも見えます」

エルにもあまぐものつえは光って見えるのか。やっぱり、それほど強い力を持つ杖ということなんだろう。

 

「これを希望のはたに掲げる。そうすれば、この地の闇が晴れるはずだ」

 

「はい!私も、早く美しい空が見たいです」

 

俺はあまぐものつえを持ちながら希望のはたの台座に登った。そして、空へと掲げた。

あまぐもの杖は、自然に俺の手を離れ、空高く登っていった。黒い雲のところまで登ると、動きが止まり、強い光が空に広がっていく。

その強い光は、空を覆っていた黒い雲を吹き飛ばし、リムルダールの地に青空を取り戻させた。

ついに、このリムルダールも光を取り戻すことが出来たんだな。今のメルキドのように、明るい光で包まれている。

俺たちが空の光を見て感動していると、久しぶりにルビスの声が聞こえてきた。

 

「雄也よ、よくやりました。これでこの地も竜王の悪しき力から解放され、人々は自らの力で町を浄化していくことでしょう。しかし、忘れてはなりません···。この世界には、あなたの助けを待つ人が、多くいることを···」

 

リムルダールに光が戻ったとは言え、まだこれはアレフガルド復興の第2章なんだよな。メルキド、リムルダールの2つの町を復興させたが、アレフガルドにはあと3つの町がある。全域に光が戻るのは、まだまだ先だな。

俺はこれからのことを考えていたが、みんなはリムルダールに光が戻ったことだけを考え、とても嬉しい表情をしていた。

「雄也様、なんと言うことでしょう!見てください!空に、光が!光が!!」

 

中でも1番感動していたのはやはりエルだった。俺たちがここに来る前から、リムルダールの復興を目指していたからな。

俺も、今はリムルダールの闇が消えたことを喜ぶか。

 

「ああ、これでリムルダールも復活するはずだ!」

 

俺たちは、その日の夜、リムルダール解放を祝って宴を行った。ウルスを初めとしたたくさんの犠牲者が出たことも思い出していたが、みんな笑顔で宴を楽しんでいた。メルキド復興の時のように、夜遅くまで宴は続き、眠りについたのは日にちが変わった後だった。

 

そして、リムルダールに来て22日目の朝、俺はかなり遅くまで寝ていた。外に出ると、みんなはもう起きてるだろうと思ったが、起きていたのはエルだけだった。

 

「おはようございます、雄也様」

 

「ああ、おはよう、エル」

 

俺たちはいつものようにあいさつをする。だが、これまでよりも明るいあいさつができた。これも空の闇が晴れたからだろうな。

 

「ずっと心にかかっていた闇も晴れ、あんなに笑ったのは久しぶりでした」

 

エルにとっては、心の闇を晴らすことでもあったのか。病にあふれた環境では、笑えることなんてほとんどないけど、これからは笑って楽しく暮らせるんだよな。

 

「俺も、本当にリムルダールの闇を晴らせてよかったよ」

 

俺たちはすぐに次の地に行くことになるけど、エルたちだけでもリムルダールを発展させて行けるだろう。

 

「ところで、雄也様。実は私は今朝、北の丘に美しい光が舞い降りるのを見たのです。もしも気になるのであれば、様子を見に行ってはいかがでしょうか」

 

やっぱり、あの場所に光のとびらが出現したのか。最初にノリンを救出しにいった時に見た場所だ。

今回もエルやゲンローワがついて来てくれたら嬉しいが、まだ治療しないといけない病人もいるだろうし、無理そうだな。みんなが起きたら、一応聞いてみるか。エルにも、みんなが起きた時に説明しよう。

1時間くらい経って、ようやくみんなが起きてきた。みんなは、昨日騒ぎすぎてまだ眠そうな顔をしている。

 

「みんな、大事な話がある。聞いてくれ」

 

みんなは、眠そうな顔をしていたが、大事な話と聞いた瞬間、真剣な表情になった。

 

「雄也様、もしかして北の丘に出来た光の柱に関してですか?」

 

「ああ、そのことだ」

 

全員が俺の周りに集まったのを見て、俺は話を始める。

 

「俺たちはリムルダールを復興させた。だから俺は次の地に行くことになる。一度次の地に行くと、しばらく会えなくなる」

 

俺が急にリムルダールを去ると言う話を聞いて、ピリン、ゆきのへを除くみんなが動揺した。

 

「しばらくと言うのは、どのくらいの期間なのですか?」

 

「分からない。あと1ヵ月くらいかもしれないし、1年以上かかるかもしれない」

1年は言い過ぎかもしれないが、今度帰ってこれるのは竜王を倒してからだろう。

 

「それで、誰か俺と一緒に次の地についてくる人はいないか?仲間は多い方が復興も早くなる」

 

メルキドの時のように、みんなは少し悩んだが、俺に着いていくかを決めたようだ。

 

「わたしはもちろん雄也についていくよ!」

 

「わしもだ。もう歳だが、最後まで雄也の旅に同行するぜ」

 

メルキドから一緒に来たピリンとゆきのへは付いてくるようだ。ゆきのへは鍛冶屋を引退するようなことを言っていたけど、アレフガルドが完全復活するまでは続けるってことか。

 

「私はできれば雄也様について行きたいのですが、まだリムルダールの地には患者様がたくさんおられますので、ここに残るつもりです」

 

「わしも、薬師がここを離れては病人の治療が出来なくなるのでな、行くわけには行かぬのじゃ」

 

やはりエルとゲンローワはここに残るつもりなのか。確かに、病人を残した状態でリムルダールを離れるのは無理だよな。

 

「あたしも、この町を守る役目があるので、残りますね!」

 

「オレもだ。魔物の残党がまだいるだろうからな」

 

ミノリとエディもここに残るのか。メルキドに残ったケッパーのような理由だな。兵士だから仕方ないんだろうけど。

ノリン、ケーシー、ケン、イルマ、ザッコもこの町を発展させていくために残ると言った。

次の地にはまた3人でいくのかと思ったが、ゆきのへの弟子のヘイザンはこう言った。

「ワタシは、親方や雄也と一緒に、鍛冶屋の知識を広めようと思う。それでいいか?」

 

ヘイザンは付いてきてくれるのか。戦闘は出来ないとはいえ、鍛冶屋が2人もいれば、武器もたくさん作れるようになるだろう。

 

「ああ、もちろん歓迎だぜ」

 

俺とピリンとゆきのへとヘイザンの4人は、町の北の丘に向かって歩き始めた。

 

「また会う時まで、元気でな!」

 

俺が最後にお別れのあいさつをすると、みんなも手を振って俺たちを見送る。

 

「さようなら、皆様!次の地でもがんばってください!」

 

「またいつか戻ってくるのじゃぞ!」

 

これからもっと戦いも過酷になっていくだろう。だが、リムルダールのみんなのためにも、必ずアレフガルドを復興させてみせるぜ!

俺たちは町の東の崖から丘の上に登り、光のとびらへと向かった。魔物の活動も穏やかになっていて、隠れて進まずにすんだので、15分くらいでたどりついた。

 

「またこれをくぐる時が来たんだね!」

 

「これが旅のとびらか。きれいな物だな」

 

「今度はどこに繋がってるんだろうな」

 

3人は、新たな地に行くのにわくわくしていた。まだ俺たちが行っていないのは、マイラ、ガライ、ラダトームの3つの町だな。ゆきのへの言う通り、どこに行くのか気になるぜ。

 

「じゃあ、そろそろ入るぞ。みんな、いいか?」

 

俺が最後にそう聞くと、3人は同時にうなずいた。俺も、新たな地へいく覚悟を決め、光のとびらに入っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3章 マイラ・ガライヤ編
Episode51 炎と氷に包まれた大地


俺たちは光のとびらに入ると、目の前が真っ白になり、すぐに新たな地へと移動した。

 

「ここが新しい地か。どの町なんだろうな」

 

目の前を見渡すと、どうやら俺たちは山の上にいて、下には広大な荒野が広がっていた。下だけでなく、山の上も緑がまったくないが、そういう山はメルキドやリムルダールにもあったので、不思議には思わなかった。

だが、こんな荒野なんか、アレフガルドにあったか?

 

「荒野だな。見たことないところだぜ」

 

「リムルダールみたいに、毒はないけど自然がほとんど壊されてるね」

 

「これからここを復興させて行くのか。見たことない場所だな。雄也は、ここがどこか知ってるか?」

みんなもこの場所については知らないか。リムルダールは毒沼になっても湖があったためすぐに分かったが、ここは全く見当がつかないな。マイラ、ガライ、ラダトームのうちのどれかなんだろうけど。

 

「俺も分からないな。アレフガルドが荒廃した後のことは、よく知らないんだ」

 

俺たちが困っていると、希望のはたを渡しに来たのか、ルビスの声が聞こえてきた。

 

「目が覚めましたか、雄也。その地はマイラ、あなたたちが次に救うべき場所です」

 

ここがマイラだと!?マイラはドラクエ1では温泉があり、森林に囲まれた緑豊かな場所だったはずだ。しかし、目の前にあるのは枯れ木や砂の草切れくらいしかない荒野だ。

 

「ここがマイラ?本当なのか?」

 

「はい、信じたくないかもしれませんが、本当です。遥か昔、この地には美しい木々に覆われた活気あふれる町が存在していました」

 

ルビスの言うことだから、やはり本当なのだろう。リムルダールのように病の心配はなさそうだが、こちらの方が荒廃の度合いは強い。

俺は、みんなにルビスから聞いたことを話した。

 

「今ルビスから聞いたんだが、ここはマイラの町の近くらしい」

 

「へえ。ここはマイラってところなんだ!」

 

「そうなのか。マイラの町は、森林が壊されていったとは聞いていたが、まさかここまでとはな···」

ゆきのへもマイラの森が枯れていったのを聞いてはいたのか。森林が減っていき、植物の育ちにくい荒野になった。地球で言う、砂漠化ってやつだな。

俺がゆきのへたちにマイラに来たことを話すと、ルビスは続けた。

 

「ですが、今では屈強な魔物に支配され、森林も枯れていき、わずかに残された人々も戦火の中で絶望しています」

 

屈強な魔物たちか···これまで以上に強力な敵と戦わないといけないってことか。

 

「さあ、あなたにはこれを渡しましょう」

 

俺が魔物との戦いのことを考えていると、ルビスはこれまで2回もくれた、希望のはたを渡してきた。

いつも通り、希望のはたが上から落ちてきて、俺はそれを拾う。今回の希望のはたは、赤色をしていた。

「マイラの希望のはたは赤色なのか」

 

「なあ、雄也の持っているそれはなんだ?」

 

俺が希望のはたを手に取ると、希望のはたを手に入れる瞬間を知らないヘイザンが聞いてきた。

 

「ヘイザン、これは希望のはただ。リムルダールの町の台座にも刺さってただろ」

 

俺は答えようとしたが、その前にゆきのへがヘイザンに教えた。

 

「そう言えば、確かにリムルダールの町にもあったな」

 

「ここのは赤色なんだね」

 

俺が希望のはたを持っているのを、ピリンも気づいた。希望のはたはいつも通り、町の中心にある台座に立てればいいのだろう。

 

「目の前に見える、光さす地をめざしなさい。そして、新たな希望のはたを立てるのです」

 

ルビスはそう言って、去っていった。光さす地は、崖を降りて3~400メートルくらい歩いたところにある、マイラの町の廃墟の中心にあった。

まずは、そこを目指すとするか。

 

「みんな、そろそろあの町の跡地に希望のはたを立てにいくぞ」

 

俺は3人にそう言い、歩き始めた。山の上には、メルキドにもいた槌を持つ魔物がいた。

 

「ブラウニーか、久しぶりに見るな」

 

「メルキドで、わたしたちの町を壊そうとしていた魔物ね。今回は、狙われなければいいんだけど。今でもわたしは、みんなで仲良く暮らせればそれでいいって思ってるから」

みんなで仲良く暮らしたいか···ピリンの純粋な思いは、リムルダールに来てもマイラに来ても変わらない。今回もその願いを叶えてやらないといけないな。だけど、魔物の襲撃はやっぱり避けられないんだろうな。

俺はそんなことを考えながら、崖を降りていった。みんなも足元に気を付けながら、つたを使って降りてくる。

ゆきのへは歳をとっているから、かなり崖を降りるのが大変そうだった。

 

「いきなり崖か。ワシにとっては結構きついぜ」

 

もしゲンローワがここに来ていたら、もっと苦労していただろうな。

崖の下に広がる荒野には、いっかくうさぎやスライムベスと言った、ドムドーラと同じモンスターが生息していた。最初からこんなモンスターがいるなんて、大丈夫なのか?俺はこんぼうとおおきづち、ゆきのへはおおきづちを支給されたが、こんな武器で強い魔物に対抗できるとは思わない。

「スライムベスはまだしも、いっかくうさぎは強そうだな」

 

「ああ、ワシが捕まっていたところと、同じような奴がいるぜ」

 

今は戦えないピリンとヘイザンがいる状況なので、なおさら遭遇する訳にはいかない。

俺たちは魔物から離れながら、マイラの町の跡地に到着した。

 

「ここがマイラの町の跡地か。これまでの町より整っているな」

 

マイラの町の跡地は、メルキドやリムルダールに比べてきれいに整備されていて、最近まで誰かが住んでいたような感じだった。

 

「最初のメルキドに比べたら、建物がしっかりしてるね」

 

「ああ、誰かが整備したみてえだな」

「ワタシたちが来る前にも、ここに誰かいたのか?」

 

3人も、俺と同じことを考えていたようだ。とりあえず、3つくらい建物があるし、俺が希望のはたを建てる間に、3人が調べればよさそうだな。

 

「3人とも、建物の中を調べて来てくれるか?俺は希望のはたを建てるぞ」

 

「うん、分かったよ!」

 

「ワシはあっちを調べるぜ」

 

「じゃあワタシはあの本の置いてある建物を見てみる」

 

俺がそう言うと、3人はそれぞれ別の部屋を調べに行った。俺も早速、希望のはたを立てないとな。

希望のはたの台座は周りより1メートル高くなっていたが、階段があったので俺はそれを使って登った。台座の中心からは、美しいきれいな光の柱が立っている。

 

「行くぜ、これがアレフガルド復興の第3章の始まりだ」

 

俺はどうしても言いたかったので、そう叫んだ。そして、希望のはたを台座に突き刺すと、マイラの町に明るい光が灯った。

ここでも、やはり光は暖かく感じられる。光があふれたのを見て、ルビスが再び話しかけてきた。

 

「雄也よ···その地に生きる人々は、あなたのメルキドとリムルダールにおけるあなたの働きでわずかながら物を作る力を取り戻し、竜王軍と激しい戦いを繰り広げています」

 

マイラの人々が物を作るを持っていると言うことは、俺たちが教えなくても作れるってことか。それなら、すぐに町の復興に協力してくれそうだな。

 

「しかし、圧倒的な魔物たちの力を前に、立ち上がった人間たちも敗北の危機にあります。さあ、雄也。その地にも光に導かれた人々がやって来るでしょう。あなたの手で新たな町を作り、戦火におおわれたマイラの地を救うのです。すべては精霊の導きのままに···。」

 

ルビスはマイラの人々の状況を話すと、いつもの口癖を言って去っていった。

マイラは圧倒的と言うほど魔物が強いのか。復興できるか不安になってくるな。だが、新しい住民が来れば、戦いに参加してくれるかもしれない。メルキドのピリンや、リムルダールのエルのように、今回も女性が来るのだろうか。

 

「とりあえず、みんなが入っている建物の中を見てみるか」

希望のはたの前で新しい住民を待つのも暇なので、俺はまず、ピリンが見に行った部屋に入った。

 

「ピリン、ここには何があったんだ?」

 

その部屋は、壁が所々くずれていて、湯気が出ているお湯があるが、ほとんど土に埋もれていた。

 

「あっ、雄也!ここには温泉があったみたいだよ。ここのお湯、結構あったかいの」

 

つまり、ここはかつてマイラにあった温泉の跡地ってことか。世界が荒廃した後でも、温泉は残ってたんだな。

 

「わたし、温泉には入ったことがないから、町が整ったらはいってみようかな」

 

「俺も温泉に入るのは何ヵ月ぶりだろうな、地球にいた時も行く機会は少なかったし」

ピリンは一度も温泉に入ったことがなかったのか。まあ、メルキドには温泉なんて全くなかったからな。

俺は今すぐにでも入りたいが、温泉の部屋の修復は時間がかかりそうだし、先にほかの二人が調べている部屋を見てくるか。

俺は温泉の部屋から出て、ゆきのへのいる部屋に入った。

部屋の中には、鉄でできた台が一つ置かれており、壁にはカベかけ松明がかけられていた。

 

「ゆきのへ、この部屋にはは何があったんだ?」

 

「見たことのない作業台が置いてあった。今回はここを作業部屋にしたらよさそうだぜ」

 

よく見ると、鉄で出来た台は作業台の形をしていた。恐らくこれが魔法で調べた時に出てきた鉄の作業台だろう。

鉄の作業台では何が作れるかは知らないが、マイラではこれを使うことになりそうだな。

 

「確かに、ここを作業部屋にしたら作業台を移動させなくていいな」

 

「ああ、土ブロックが集まったら、この部屋を修理しておくぜ」

 

その部屋は壁がかなり壊れていて、直すには多くの土ブロックが必要そうだった。

ヘイザンの調べている部屋も見てきたら、取りに行ってくるか。俺はいちど作業部屋予定地の部屋から出て、今度はヘイザンのいる部屋に向かった。

 

「おお、雄也。気になる本が二つ置いてあったぞ」

 

ヘイザンの言う通り、その部屋には二冊の本が置かれていた。そのうち一冊は、タルの上に置かれている。

「確かに、役立つことが書かれているかもしれないな」

 

「タルに乗っているほうは読んだんだが、難しいことが書かれていて分からなかった」

 

もしかしたら俺のビルダーの力なら読めるかもしれないと思ったが、発明品の絵などが書かれていて、やはり難しくて読めなかった。

 

「じゃあ、こっちの本には何が書いてあるんだ?」

 

俺はタルの上にある本を閉じて、地面に置いてある本を読み始めた。その本には、アレフガルド暦程という、見たことのあるタイトルが書かれていた。

 

「これは、アレフガルド歴程だな。これなら読めるはずだ」

 

「アレフガルド歴程?どんな感じの本なんだ?」

ヘイザンは、アレフガルド歴程のことについて聞いてきた。ヘイザンは読んだことがないだろうから、気になるのも当然か。

 

「メルキドに住んでいた冒険家のガンダルって人の旅の記録だ。リムルダールでも見たことがある」

 

ガンダルと言う人はいつぐらい前の人かは分からないが、アレフガルドが荒廃していく様子を書いている。今回は、マイラを訪れた時のことを書いているんだろうな。

俺は、早速そのアレフガルド歴程を読み始めた。

 

私は今、メルキドのはるか北に位置するマイラと言う町にいる。豊かな緑に囲まれていたというその美しい風景は今や失われ、地面から溢れ出したマグマが町とその周辺を覆い尽くそうとしている。そもそもマイラとは温泉で名をはせた町だ。火山活動が活発な地域だったのかもしれない。おそらく、竜王が人間の力を弱めるために、地下のマグマに何らかの細工を加えたのであろう。空に光が失われ、世界は絶望の中にある。しかし、マイラの人々はまだどこか明るいようだ。それは恐らくいまだこの地に温泉が残っているせいなのではないだろうか。噂に聞く、パフパフ屋なる癒しの施設がすでになくなっていたのは残念だったが、マイラの温泉は人間の生きた証として、いつまでも残っていてほしい物だ。

メルキドの冒険家 ガンダル

 

これを読んで初めて知ったが、ここは荒野だけでなく、マグマもあったのか。竜王のことだから自分でマグマを活性化させたのではなく、手下にやらせているのだろうが、そんなことを出来る魔物って誰なんだろうな。

それと、マイラは温泉のおかげで明るい町で居続けたのか。やっぱり、温泉の力ってすごいな。それに、パフパフ屋まであったのか。ドラクエのパフパフ屋は、結局何をする場所なのか分からないが、復興させてみたいな。

 

「それで、何が書いてあったんだ?」

 

俺がアレフガルド歴程を読み終えて、いろいろ考えていると、ヘイザンが話しかけてきた。

 

「マイラがどんな環境になっているのかや、ここに住んでいた人々について書かれていたぞ。詳しくは自分で読んでくれ」

 

「ああ、ワタシも詳しく知りたいんだ」

 

俺はヘイザンにアレフガルド歴程を渡し、一度その部屋から出た。

外に出ると、ピリンとゆきのへもそれぞれのいた部屋から出て、希望のはたの所に集まっていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode52 荒くれのアジト

ヘイザンに本を渡した後、部屋から出た俺は、ゆきのへとピリンと話をしていた。

 

「ヘイザンはまだ出てきていないようだが、何を見つけたんだ?」

 

「かなり昔、アレフガルドを冒険していたガンダルって人の本があったんだ。俺が読んだ後、今はヘイザンが読んでる」

 

3人は希望の旗のところに集まっているが、ヘイザンはまだ部屋の中だ。あの本はかなり分厚いし、時間もかかるだろう。

 

「その本は、どんな内容だったの?」

 

「ガンダルがマイラを訪れた時に発見したことや思ったことが書かれている。それで、マイラはマグマが活性化して、火山地帯になっているって書いてあった」

 

まだマグマのあるところは見たことがないが、嘘を書いたりはしていないはずだ。マグマに落ちたら死ぬだろうから、気をつけないといけない。

 

「マグマか···これまで以上に大変な戦いになりそうだな。だが、火山には鉱脈がたくさん眠っているんだぜ」

 

確かに、火山は危険ではあるけれど、そういう武器の原料になるような鉱石が埋まっていそうだ。モンハンでも、火山はレアな鉱石がたくさん取れる。

 

「それなら、武器を強化して魔物に対抗できそうだな」

 

メルキドでよく使っていたはがねのつるぎやウォーハンマーも作れるかもしれない。

 

「もし火山地帯を見つけたら、ワシも採掘を手伝うぜ」

それに、ここには鍛冶屋が二人もいる。とても心強いことだな。

俺たちが話を初めてしばらく経って、ようやく部屋からヘイザンが出てきた。

 

「おお、みんなもう集まっていたのか」

 

「本を読み終えたのか。そろそろ、町を作り始めるか」

 

これで一通りこの町の跡地に何があるか分かったし、全員が調べ終えたので、そろそろ町の復興を始めたほうがいいだろう。

そんな時だった、俺たちの町に向かって、一人の人影が近づいてきていた。

 

「ねえ雄也。あの人ってだあれ?何か、変な格好をしてるけど」

 

ピリンもその人影に気づいたようだ。

その人をよく見ると、覆面マスクを被った男で、ドラクエシリーズでよく見る荒くれ者の姿をしていた。

「荒くれ者っぽいけど、この近くに住んでるんじゃないか?」

 

荒くれ者は少し怖いイメージがあるが、この人とも協力しなければいけないだろう。

その荒くれ者は、町の光の範囲に入ると、いきなり叫んできた。

 

「おいおい!なんだよこの旗!なんだよこの光は!」

 

これまで最初に出会った人は、みんな旗や光のことを不思議に思っていたが、この人も例外ではないようだ。

荒くれ者は、俺たち4人の近くまで走り、話を続けた。

 

「でもって、オマエたちは誰だ!?人サマのアジトで、勝手に何やってやがる!」

 

え!?この町は荒くれ者のアジトになっていたのか。これまでの地域に比べると建物がしっかりしていたのは、そう言う理由だったんだな。

 

「俺は影山雄也、ルビスから遣わされた、ビルダーって奴だ」

 

俺はまず、自分の名前を名乗り、自分がビルダーであることを伝えた。さすがにビルダーを知らない訳はないだろう。

 

「なに!ビルダーだと!?おお!ってことはオマエはあの伝説の···」

 

やっぱり、ビルダーのことは知っているんだな。

だが、次の瞬間荒くれ者は衝撃の発言をした。

 

「ってバカヤロウ!いったい何のことだよビルダーって?」

 

「は!?本当に知らないのか?」

 

これまで出会った全員が知っていたんだぞ?脳まで筋肉で出来ていそうな奴だけど、まさかここまでとはな。

 

「知らねえに決まってんだろ。オマエなあ···ちょっと得意気な顔でワケ分からねえこと言ってんじゃねーぞ!」

 

俺が今まで思っていたより、荒くれ者と協力するのは難しそうだ。

 

「全く···竜王軍の魔物に吹っ飛ばされて、やっとの思いでアジトに帰ってきてたら、妙な旗は立ってるし、おかしな奴はいるし、いったいぜんたいどうなってやがんだ!うおおおーーー!アネゴオオーーー!助けてください!アネゴオオオーーー!」

 

いくら無知だとは言え、この地を救いに来ているのに、おかしな奴扱いはイラつくな。それに、アネゴって誰なんだ?本当に、訳の分からない奴だな。

しかも、その荒くれ者は、さらに俺をイラだたせることを言った。

「オラオラ!オマエ達は早くどっかに消えな!もう二度と話しかけてくんじゃねーぞ!」

 

早く消えなとか、話しかけて来るなとか言われると、こっちから去って行きたくなる。

 

「何か、感じのよくない人だね」

 

「こんな腹が立つ奴に出会ったのは初めてだ」

 

みんなも、その荒くれ者の態度には腹が立っているようだった。

だが、このまま放っておけば、荒くれ者は一人で魔物と戦わなくてはいけなくなってしまう。

話を続けて協力しなければ、俺たちよりも彼のほうが危険な状況になる。

 

「ちょっと待てよ」

 

「出ていけって言ってんじゃねーか!···ちなみに、オレの名前はガロンだ。二度と話しかけんじゃねーぞ!」

こいつ、ガロンって名前だったのか。それにしても、協力しようとしているのにまた出ていけとか行ってくる。

 

「こんな奴と協力するなんて、無理じゃねえか?」

 

ゆきのへは、強い怒りの表情を浮かべていた。俺も、イライラが限界に達して、ガロンを怒鳴りつけた。

 

「いい加減にしろ、ガロン!別に俺たちは出ていってもいい。だけど、お前は一人で魔物と戦わないといけなくなるぞ。それでもいいのか!?」

 

この世界に来てから、こんなに腹が立つ奴と出会ったのは初めてだな。この先やっていけるか不安だな。

ガロンは少し考えた後、返事をした。

 

「わ、分かったよ。そんなに言うなら協力してやってもいいぜ」

 

なんとか協力する気になってくれたか。どんな嫌な奴だったとしても、ビルダーとして見捨てる訳にはいかないからな。

 

「だが、やっぱり見知らぬ奴をアジトに簡単には入れねえ!どうしてもお近づきになりたいってえなら、ひとつ、条件がある!」

 

せっかく協力しようと思っていたのに、何なんだこいつは?見捨てる訳にはいかないと思ったが、前言撤回したくなってくる。

俺はマジギレする寸前だったが、何とか自分を落ち着けて、ガロンの言った条件とやらを聞く。

 

「それで、何なんだ?その条件って言うのは」

 

見捨てるぞ!とかぶん殴るぞ!とか言って、脅して言うことを聞かせたくなるが、そうすると心から協力することは出来なくなるからな。

ここはひとまず、ガロンの頼みを聞いておこう。

俺が聞くと、ガロンはさっきピリンと俺で調べた、温泉の部屋を指差した。

 

「あそこに湯気の立つ水場が見えんだろ?あれは、魔物に壊されちまった温泉でな」

 

あの温泉も、魔物に破壊されてあんな状態になったのか。前からガロンは、温泉を使っていたが、魔物の襲撃を受けて逃げ出したのかもしれない。

 

「それを修理しろってことか?」

 

「その通りだ。あのぶっ壊れた温泉を修理してくれたら、まあ···ダチくれえには、なってやってもいいぜ?」

 

元々俺たちも温泉を修理しようと思っていたから、丁度いいな。ピリンたちにも手伝って貰えば、すぐに作業も終わるはずだ。

「分かった。すぐに修理してくる」

 

「おう!頼んだぜ」

 

俺はガロンの頼みを受けると、さっそくそのことを3人に話した。

 

「ガロンは温泉を修理したら町作りに協力してくれるらしい。俺も温泉に入りたいし、手伝ってくれ」

 

「うん!わたしも、早く温泉に入ってみたい」

 

みんなと仲良くしたいと思っているピリンはもちろん協力してくれるようで、さっき怒っていたゆきのへたちも、仕方なく手伝うようだ。

 

「あいつのことは気に入らんが、仕方ねえな」

 

「師匠がそう言うのなら、ワタシも手伝うぞ」

 

俺たち4人は、温泉のある部屋に入って行った。

温泉は本当は16平方メートルの広さのようだが、ほとんど土に埋もれていた。

 

「まずは、この土をどかさないといけない。ゆきのへもおおきづちを使って壊してくれ」

 

素手でブロックを破壊するのは大変だから、武器を持っている俺とゆきのへで壊せばいいな。

 

「もちろん手伝うぜ」

 

俺たちはおおきづちを叩きつけ、多くの土ブロックを破壊していった。土ブロックを全て壊すと、お湯にオレンジ色の不思議なブロックが1個だけ入っているのが見えた。

 

「なんだ?この変わったブロックは?」

 

ゆきのへも、その謎のブロックは見たことがないようだ。だが、リムルダールでも似たようなブロックがあったな。確かあれは、きれいな水がわきだしてきたはずだ。お湯の中に入ってるってことは、温泉を発生させる岩なのだろうか。

「多分、リムルダールにあった水を発生させるブロックみたいに、お湯を発生させるブロックなんだろうな」

 

「そう言えば、そんな物があったな。すでに温泉があるから、必要なさそうだけどな」

 

「でも、結構きれいな色をしているし、壊さないでおくか」

 

ゆきのへの言う通り、このブロックは必要ないが、見た目明るいオレンジ色なので、明るい雰囲気の温泉になりそうだ。

 

これで、温泉を治すことはできたから、後は部屋の壁を作らないといけない。温泉を埋めていた土ブロックを使えば、他から調達してこなくて済みそうだ。

 

「ピリンとヘイザンも、俺とゆきのへが今手に入れた土ブロックで壁を修理してくれ」

 

「わたしに手伝えるんだったら、もちろんするよ!」

 

「ワタシはブロック積みは初めてなのだが、やるしかないな」

 

ピリンとヘイザンも手伝ってくれて、あっという間に温泉の建物の壁は直っていった。露天風呂だけど、まわりから覗かれないために、壁は必要なんだよな。

 

「これで直ったか。すぐに終わったな」

 

作業を初めて2分くらいで、温泉の修理を終えることができた。あとは、これをガロンに伝えればいいな。

 

「おい、ガロン!温泉を修理できたぞ!」

 

俺の声を聞くと、すぐにガロンは大声を上げて温泉の部屋に駆けつけてきた。

 

「うおおおおおおおーーー!すげえっ!温泉を修理してくれたんだな!」

 

温泉が直って嬉しいのは分かるが、ここまで大声で言う人なんてあまりいなさそうだ。ガロンは結構変わった奴だな。

 

「もちろんだ。このくらい簡単だぜ」

 

「心の距離を縮めるには、やっぱり温泉だ!裸でぶつかり合えば、友情を越えた感情が···」

 

裸でぶつかり合って、友情を越えた感情だと?この話を聞いて思ったが、ガロンはホモなのか?

 

「何言ってるんだ?俺は別にホモな訳じゃねえよ」

 

「まあ、そんなことは気にすんな。とにかく、温泉の修理、ありがとな!たった今からオマエはオレのダチだぜ!」

 

ホモ発言をしていたし、ダチの関係のまま過ごせることを祈るしかないな。

 

こうして、俺たちと荒くれの復興活動が始まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode53 初日での襲撃

俺たちがマイラの温泉を修理し終えた頃、まだ夕方にはなっていなかったが、午後になっていた。

 

「新しい場所に来ていろいろ大変だったし、さっそく温泉に入ってくるか」

 

俺はさっき修理した温泉に入りに行くことにした。作業部屋や料理部屋も作らないといけないが、明日でも間に合うだろう。

俺が温泉に入ろうとすると、ガロンが呼び止めてきた。

 

「ちょっといいか、影山雄也?」

 

「別にいいけど、頼みたいことでもあるのか?それと、普段は雄也って呼んでくれ」

 

温泉を修理したけど、まだ頼みごとでもあるのだろうか。それに、呼ばれて気づいたけどいつもの雄也と呼んでくれと言うのを忘れていたな。ゆきのへたちは、希望のはたの近くで休んでいる。

「じゃあ、雄也。アネゴや仲間を失って身も心もボロボロのオレの願いを聞いてくれ」

 

そう言えば出会った時、オレたちのアジトって言ってたから、やっぱり仲間もいたんだな。それに、アネゴと言うのも言っていたけど、姉御って言い方から考えて、女の人だよな?

まあ、詳しくは後で教えて貰えばいいか。今はガロンの頼みを聞かないとな。

 

「それで、何をすればいいんだ?」

 

「オマエたちが直してくれた温泉をもうちょっといい感じにグレードアップしてくれ!」

 

また温泉のことなのか?本当にガロンは温泉が好きなんだな。だが、グレードアップしろって言われても、どうすればいいんだ?

「グレードアップって言われてもな、何を作ればいい?」

 

「体の汚れを流すたらいを2つと、カベかけタオルを3つ用意してくれ」

 

たらいとタオルか···地球にある温泉に行っても、必ず置いてあるよな。グレードアップと言うより、温泉に最低限必要な道具を揃えてほしいってことか。

 

「それなら簡単だな。待っててくれ」

 

俺はガロンに返事をしてから、カベかけタオルの作り方を調べた。カベかけタオルは、棒にタオルがかけられている物のはずだ。

カベかけタオル···ふとい枝1個、毛皮1個 鉄の作業台

毛皮でタオルを作って、ふとい枝で棒を作るってことか。毛皮を落とすブラウニーは崖の上にいたし、ふとい枝はそこら中にたくさん落ちている。

たらいを作るにはひもが必要だったはずだが、ひもの材料であるつたも崖にあり、ついでに取りに行ける。

 

「すぐに素材が集まりそうだな。行ってくるか」

 

俺はたらいとカベかけタオルの素材を手に入れるために、町からでた。

 

「まずはふとい枝だな。枯れ木の下に結構落ちてる」

 

ふとい枝は、そこらに生えている枯れ木の下にいくつか落ちていた。それに、枯れ木を壊してもふとい枝を手に入れられるはずだ。

俺はおおきづちを振り回し、下に落ちている枝や、枯れ木を壊してふとい枝を手に入れた。ふとい枝は7個必要だが、枝が5本落ちていて、枯れ木から一度に2個手に入ったので、これで足りるな。

「こんな荒野でも、ふとい枝はすぐに手に入るな」

 

また、その枯れ木の近くには、砂の草切れもたくさん生えていた。確か、砂の草切れが5個あれば砂漠地帯で姿を隠せる砂漠の箱が作れたな。ここは砂漠ではないが、少しは敵から見つかりにくくなるかもしれない。

 

「メルキドの時みたいに、砂漠の箱も作っておくか」

 

俺は砂の草切れを集めながら、マイラに到着した時にいた崖のところに向かった。

その崖には、つたがたくさんあるので、俺はまず最初に必要なさそうな場所に生えているつたを3つ刈り取り、別のつたを使って崖の上へ登ろうとした。

 

「マイラでも崖を登り降りすることになるとはな」

メルキドやリムルダールで慣れているとはいえ、崖を登るのはやはり緊張する。断崖絶壁というほどではないが、落ちる危険性がないわけではないからな。

俺はしっかりつたに掴まり、崖の上へたどり着いた。

 

「あとはブラウニーを倒して、毛皮を手に入れればいいな」

 

その崖の上には、かなりの数のブラウニーが生息している。ブラウニーは大して強い魔物ではないが、集団で囲まれたら危険だな。

 

「いつもみたいに、背後から叩き潰すか」

 

てつのつるぎ辺りを持っていたら、正面から戦っても楽勝だが、今はおおきづちくらいの武器しかないので、隠れるべきだな。

俺は敵がいるとも思っていないブラウニーの後ろに忍びより、頭を叩き潰した。思いきり頭を潰され、ブラウニーは青い光になって消えた。そして、毛皮を1つ落とした。

 

「あとは2つだな。このまま隠れながら行くか」

 

メルキドで最初にキメラと戦ったところと違い、高低差が多く隠れやすい地形だった。さっき俺かブラウニーを叩き潰した音に気づいて、大きなブラウニー1体、小さなブラウニー2体の群れが近づいてきたが、すぐに隠れた。

 

「仲間が潰された音がした。人間かもしれん、よく探すんだ!」

 

大きなブラウニーは、手下たちに指示を出したが、俺はかなり遠くに離れていたため見つかることはなかった。

そして、ブラウニーが諦めて帰っていこうとした時、俺は近づいておおきづちで回転斬り···ではなく回転殴りを放った。それでも、いつもの癖で回転斬り!と叫ぶが。

「回転斬り!」

 

強力な打撃を受け、手下のブラウニーは一撃で倒れ、大きなブラウニーも反撃してきた。

 

「よくも手下を!人間め、潰してやる!」

 

大きなブラウニーは俺を叩き潰そうとハンマーを振り回す。だが、自分の体の半分くらいもあるような大きさのハンマーを軽々と振り回せる訳もなく、俺は容易に回避することができた。

 

「これくらいのスピードなら、余裕でよけれるぜ」

 

俺は攻撃を避けると、次にハンマーを叩きつけられる前に後ろに周り、さっきのブラウニーと同様、頭を叩き潰して倒した。

 

「ブラウニーはやっぱりそんなに強くないな」

そのブラウニーは、メルキドの作業部屋の壁にかけてある袋を落とした。確か、あっちでも大きなブラウニーを倒したら手に入っていたな。

俺は毛皮と皮の袋をポーチにしまうと、崖を降りてマイラの町に戻っていった。

俺は町に戻ると、さっそく作業部屋に入り、鉄の作業台の前に立った。

 

「この鉄の作業台を使えば、2つとも作れるはずだ」

 

俺は手に入れた素材に魔法をかけ、最初にひもを作り、その後カベかけタオルとたらいに変化させる。

 

「あと、砂漠の箱も今のうちに作っておいたほうがいいな」

 

今度の探索から使うかもしれないので、砂の草切れ5個を使って砂漠の箱も作る。

砂漠の箱は今は使わないのでしまっておき、タオルとたらいを持って温泉の部屋に入った。

タオルは体を拭くのに取りやすいように入り口の近くの壁に設置し、たらいは石で作られている温泉のまわりの床に置いた。

 

「これで温泉の設備も整ったな。ガロンに教えてくるか」

 

俺はタオルとたらいを設置し終えて、外にいるガロンを呼んだ。

 

「ガロン、必要なものを作って温泉に置いたぞ」

 

「マジか!?すげえじゃねえか、雄也!そんな筋肉のねえ体で、よくやってくれたな」

 

すごいとほめているのは分かるが、何で筋肉の話を持ち出すんだ?確かに俺は地球にいるときほとんど運動していなかったが、筋肉がなくてもビルダーの力があれば物は作れるんだよな。

 

「いいか、雄也。温泉ってのはこのアジトの···マイラのシンボルなんだ。アネゴや仲間がここに帰ってきた時、温泉がしっかりしてねえとみんな悲しむだろ!」

 

筋肉の話の後、ガロンは温泉に対する思いを話し始めた。それに、ガロンだけでなく仲間もアネゴという人も温泉が好きなのか。早く帰ってくるといいな。

 

「仲間たちやアネゴっていう人は、どこにいるんだ?」

 

「オレたちはここをアジトにして魔物と戦っていたんだが、オマエが来る少し前竜王軍の総攻撃にあっちまったんだ」

 

竜王軍の総攻撃か···それだと仲間たちは帰ってくるどころか、生きてるかも分からない気がする。

「助かったのか?」

 

「まあな。だが、仲間たちはバラバラになって、アネゴは魔物たちに捕まっちまって···」

 

生きてはいるってことか。だが、魔物に捕まっていると言うのは、まずい状態だな。たくさんの魔物の前で、公開処刑でもするのだろうか。早く助けないといけないけど、場所が分からない。

 

「アネゴって人はどこに捕まったか分かるか?」

 

「オレには分からねえな。仲間なら知ってるかもしれねえが」

 

ガロンも居場所は分からないのか。荒くれの仲間たちを集めるのが先なんだな。

俺がガロンと話をしていると、いきなりゆきのへが走ってきた。

 

「おい、雄也。まずいぞ!」

 

こんな言い方からして、何かあったことは確実だな。

 

「どうしたんだ、急に?」

 

「ブラウニーとよろいのきしがここに近づいてきているんだ」

 

まさか、もう襲撃が来たのか?まだマイラの復興の初日だと言うのに。

 

「ここは魔物との戦いが激しい場所だ!気を抜いたら敵がバンバン攻めてくるぜ!」

 

ガロンの話にもあったけど、ここは俺たちが来る前から魔物との戦いがあったんだよな。こんなタイミングで来てもおかしくはないのか。

 

「分かった。ゆきのへ、ガロン、迎え撃とう」

 

このタイミングで来たとしても、俺たち3人がいるからな。

しかし、ガロンはこんなことを言った。

 

「オレはさっきから体の調子が悪いんだ。2人で戦ってくれ!」

 

体の調子が悪いって、さっきまでガロンは大声を出していたりしたので、そんな訳がない。誰でも思い付くような仮病だな。

ガロンは覆面を被っていて、筋肉もあると言うのに臆病者なのかよ。筋肉のないと言われた俺も戦ってるのにな。もしかしたら、ガロンだけ無事に町に来たのは、魔物が怖くて逃げたのかもしれない。

 

「お前荒くれなのに怖がりだったのかよ!?仕方ない、二人で迎え撃つぞ」

 

「そ、そんな訳ねえだろ!?本当に体の調子が悪いんだ」

 

ガロンは否定しているが、言い方から見ても明らかだ。俺とゆきのへはガロンを放っておき、迫り来る魔物におおきづちを構えた。町には、4体のブラウニーと1体のよろいのきしが近づいて来ていた。ブラウニーは大して強くない魔物だが、さっき戦った野生の奴らよりはいくらか強いはずなので、警戒は怠れないな。

マイラの町の1回目の防衛戦が始まった。

 

俺たちがおおきづちで奴らに殴りかかろうとすると、ブラウニーと同様、喋ることのできる魔物、よろいのきしが指示を出した。

 

「ブラウニーども!2体ずつに別れて人間を叩き潰せ!」

 

やっぱり、喋る魔物が隊長だと色々な指示を出したりして戦いにくいな。だが、2体同時に来ようが俺が勝てない強さではないはずだ。

俺のところには、左側にいたブラウニーがハンマーを振り回しながら襲いかかってきた。

 

「人間め!お前も町も壊してやる!」

 

「お前なんか簡単に倒せるぞ!」

 

本当にブラウニーはおおきづちと違って、竜王の味方に付き、人間を倒そうとしているんだな。もちろん、人間としては負ける訳にはいかない。

ブラウニーのハンマーは威力は高そうだったが、やはりスピードは遅かった。

 

「何が簡単に倒せるぞだ?このくらいで俺に勝てると思っているのか」

 

俺は2体の攻撃を後ろに飛んで避けた。かわせない時のために、こんぼうとおおきづちの二刀流で戦うことも考えていたが、その必要はなさそうだ。

俺はおおきづちを振り上げ、片方のブラウニーの頭に叩きつけた。一撃では倒れなかったが、頭が大きくへこんでいた。

 

「よくも仲間にこんなことを!」

 

俺がブラウニーの頭を叩き潰したことをもう片方のブラウニーが怒り、連続でハンマーを振り回す。

避けるのは簡単だが、動きを止めないといけない。俺はそのブラウニーに近づき、攻撃の瞬間にハンマーをおおきづちで弾き飛ばした。

「くっ、やっぱり威力は高いな」

 

強力な攻撃を受け止めて、俺の右腕にかなりの痛みがはしった。

しかし、その間にもブラウニーは体勢を立て直そうとしていた。弱っているはずなので、回転殴りで止めをさすか。

 

「とどめをさすぜ!回転殴り!」

 

今回はいつもと違って回転殴り!と叫んでみたが、やはり違和感を感じるな。さっきみたいにいつも通り、回転斬り!と叫んだほうがいい。

それはともかく、回転殴りによってブラウニー2体を倒すことができた。

 

「ブラウニーが倒されただと!?どうなってるんだ?」

 

それをよろいのきしの言葉を聞いて分かったがまだビルダーと伝説の鍛冶屋の子孫がこの地に来たことは分かっていないようだ。

ゆきのへもおおきづちをブラウニーの体を叩きつけ、なぎ倒していく。

 

「お前なんかにやられるかよ、ハゲ親父!」

 

ブラウニーはゆきのへに文句を言い、抵抗しようとするが、

 

「誰がハゲ親父だと!?ぶっ潰してやるぜ」

 

怒ったゆきのへによって体がグチャグチャになるまで潰された。ゆきのへは鍛冶屋の知識を伝えるために旅についてきたと言っているが、戦いの腕もとても強い。もしゆきのへがいなかったら、俺はリムルダールでもマイラでも魔物に負けていたかもな。

俺とゆきのへによってブラウニーたちが次々と倒されていくのを見て、よろいのきしは驚くどころか、恐れていた。

「お前たち、何者なんだ?ここには生き残りの荒くれ者しかいなかったはずだ」

 

生き残りの荒くれ者···ガロンのことか。確かに昨日まではそうだったが、今日からは俺たちがいる。

 

「俺は影山雄也。ビルダーだ」

 

「わしはゆきのへ。伝説の鍛冶屋の子孫だ」

 

その名前を聞き、よろいのきしはさらに驚く。

 

「あの伝説のビルダーだと!?リムルダールのヘルコンドルを倒した話は聞いたが、ここに来ていたのか。それなら、なおさら倒す必要があるな」

 

よろいのきしは逃げて俺たちのことを報告するのだろうと思っていたが、俺たちを殺そうと斧を振り上げてきた。

「消え去れ!ビルダーめ!」

 

俺はとっさにおおきづちで受け止め、後ろに下がった。さすがにさっきのブラウニーのようにひたすら連続攻撃をすることはなく、俺が攻撃してくるのを待っているようだ。

しかし、後ろからはゆきのへがおえきづちを振り上げていた。

 

「クソッ!いい加減にしろ人間!」

 

よろいのきしはゆきのへと俺に同時に対応することはできないようで、ゆきのへの攻撃を止めている間に、俺はよろいのきしに接近した。

よろいのきしは俺の攻撃も止めようとしたが、ゆきのへに止められ、そのまま俺はよろいのきしの兜を叩き割るような攻撃を放った。

 

「ぐあっ!ビルダーめ···よくも!」

 

よろいのきしは俺の全力の打撃を受けて、大きく怯んだ。

 

「今のうちに叩くぜ、雄也!」

 

「ああ!行くぞ」

 

ゆきのへの合図で、俺たちはおおきづちで何度もよろいのきしを殴った。最後には鎧が原形を止めない形にまで壊れ、よろいのきしは倒れた。

 

「倒したか。そんなに強くなかったな」

 

でも、今回は俺たちがいることを魔物が知らなかったから楽に勝てただけだからな、次からは強い魔物が来ることになるだろう。

よろいのきしは旅のとびらを落とさなかったので、俺たちはそのまま町へと戻っていった。

 

戦いが終わった後、もう夜になる頃だったので、俺たちは寝室とわらベッドを5個作って寝た。リムルダールみたいに木のベッドで寝たいけど、綿毛がないから作れないんだよな。

明日は作業部屋と調理部屋を作ったり、ガロンの仲間を探したりするか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode54 白岩のバリケード

マイラに来て2日目の朝、今日は作業部屋を作る予定だったな。俺は寝室から出て、作業に取りかかろうと思った。だが、作業部屋の予定地に向かう途中、ガロンに呼び止められた。

 

「なあ、昨日は魔物を速攻で倒してたけど、オマエ···まさか本当に、伝説のボディビルダーって奴なのか?」

 

伝説のボディビルダー?ガロンは何を言ってるんだ?最初に俺は自分はビルダーだと言ったが、ボディビルダーの意味だと思ってしまったのか。

 

「けど、そんな緩みきった体で···」

 

「それは当たり前だ。俺はボディじゃない方のビルダーだからな」

 

ボディビルダーとビルダーでは、全く意味が違うのに、ガロンはよく分かっていないようだ。

「ボディビルダーじゃない?そんな細けえことはどうでもいい!」

 

「いや、全然意味が違うから!」

 

俺はそう言ったが、ガロンは気にせず話を続けた。

 

「なあ、雄也。オマエ、本当にここに町を作ってくれるんだな?一緒に竜王軍と戦ってくれるんだなっ!?」

 

「もちろんだ。俺はアレフガルド全域を復興させるつもりだからな」

 

ガロンの質問に、俺はもちろんだと返事をした。

俺は最初はルビスに言われて町を作っていたが、最近は町を作ることや、人々と協力することが楽しく思えるようになってきている。どんな困難があっても、必ずこの世界を救いたいな。

その返事を聞くと、ガロンは何故か泣き出していた。

 

「うっ、うっ、うっ···ありがてえ···。実はオレ···ひとりきりでどうしようかと···」

 

竜王軍の攻撃で仲間とはぐれて大変なことも結構あったんだろうな。仲間とはぐれた理由が、臆病だから逃げ出したという訳ではなければいいが。

 

「落ち着けよ、ガロン。協力するって言っただろ」

 

とりあえず今はガロンを信じて、そう言った。

 

「それじゃあ、早速だがな、雄也。オマエにひとつ頼みてえことがある」

 

ガロンは泣き止んで、俺に頼み事をしてきた。昨日は温泉を直せだのたらいやタオルを置けだの温泉に関する頼み事ばかりだったから、今日も温泉に関することなのか?

 

「また温泉のことなのか?」

 

「いや、ここから南に少し行くと竜王軍が作ったこのアジトを封鎖するためのバリケードがあるんだ」

 

アジトを封鎖するためのバリケードか。逃げ場をなくして一気に潰すという作戦だな。こちらから見れば、早く壊したほうがいい物だ。

 

「それを壊せってことか?」

 

「ああ、あれがあるとここから出られねえし、アネゴや仲間を助けに行くこともできねえ。南に抜けるルートを確保するためにも、そのバリケードをなんとかしてえんだ」

 

ガロンの話から考えるとそのバリケードを避けて通る方法がまったくないほど大きく強固なものなのかもしれない。俺一人で破壊できるか心配だな。

それと、方角がわからないから、南はどこになるんだ?

 

「南はどっちなんだ?」

 

俺が聞くと、ガロンは本が置いてある部屋があるほうを指で差した。

 

「あっちが南だ。しばらく進めば、バリケードにたどり着くはずだ。監視役の魔物をぶっ倒し、そこにあるバリケードもぶっ壊してきてくれ」

 

南の方角は分かったが、やっぱり監視役の魔物がいるのか。そう簡単に突破出来ないと言うことは、強力な魔物であると見て間違いない。

 

「かなり難しいかもしれないけど、分かった」

 

俺はガロンと別れ、町の南にあるバリケードへ行こうとした。しかし、作業部屋を作る予定もあったな。

「作業部屋を作ることを頼んでおくか」

 

俺は近くにいたピリンに、作業部屋を作ることを頼むことにした。

 

「なあ、ピリン。俺から頼みがある」

 

「どうしたの?雄也」

 

こうしてピリンに頼むのも久しぶりだな。できれば一緒に作りたいが、バリケードの破壊も大事だ。

 

「俺は出掛けないといけないから、鉄の作業台が置いてある部屋を修理して作業部屋を作ってくれ」

 

「もちろんいいよ!ゆきのへやヘイザンにも教えてくるね」

 

ピリンに頼むと、彼女は一緒に部屋の修理をするため鍛冶屋の二人を呼びに行った。

さて、俺は町の南に出発するか。おおきづちを持って、俺は町の外に出た。

「ガロンの言ってたバリケードって言うのは、どれなんだろうな」

 

町の南には、遠くに白い岩で出来た岩山が見える。あの岩山の下にあるのかもしれない。

俺はスライムベスやいっかくうさぎを避けながら町の南の岩山に進んで行った。途中に落ちている素材も確認したが、ふとい枝や砂の草切れと言った、まわりと同じ物だった。

 

「特に新しい素材はないんだな」

 

新しい素材ではなかったが、今後必要になるかもしれないので、俺はこんぼうを使って集めながら進んでいった。

15分ほどたって岩山にたどり着くと、目の前に変わったブロックが出来た建物が見えた。

 

「あれは、タルバのクイズの建物と同じブロックだな」

青い城の壁のブロックで関所のような形が作られていて、そのブロックがないところにも白い岩を網目状に配置し、侵入者を防ぐような形の建物だった。

 

「これがガロンの言ってたバリケードか」

 

この関所によって岩山の反対側に行く方法が岩山を登る以外になくなっている。しかも、そのバリケードには監視役と思われるよろいのきしがいた。

 

「よろいのきしもいるのか。こいつを倒さないといけないみたいだな」

 

俺が考えていたよりは弱いモンスターで、1体しかいないが、おおきづちとこんぼうしかない状態では十分な強敵だ。昨日もよろいのきしが襲ってきたけど、あれはゆきのへもいたから倒せた。一人では勝てるか分からない。

「正面から挑むのは厳しいけど、他に方法がないんだよな」

 

俺は岩山に登るのには慣れているので、岩山の反対側まで行くことは出来るが、登っているところを見られる可能性があるから、背後から襲うことは難しそうだ。

 

「遠回りすれば出来なくもないけど、どうせ一撃では倒せない」

 

ここから離れた所の岩山を登れば見つかる心配はないが、かなりの遠回りになるし、一撃では倒れないだろうから、どっちにしても戦わざるを得ない。

 

「結局戦わないといけないから、正面から行くか」

 

俺はバリケードに近づき、おおきづちを振り上げて白い岩を壊す。

それを見て、監視役のよろいのきしは斧を構えた。

「人間め、通しはせぬぞ!」

 

俺がバリケードの中に入ると同時に、よろいのきしは斧を降り下ろしてくる。かなり力が強いが、俺はそれをおおきづちで受け止め、なんとか弾き返した。

 

「お前なんかに負けるかよ」

 

そして、すぐに俺はおおきづちをよろいのきしに叩きつけようとしたが、よろいのきしは体勢を立て直し、俺の攻撃を受け止めた。

 

「そう簡単に倒せるとは思うなよ、人間」

 

とにかく攻撃を喰らわせないといけないので、俺は斧で防がれないように背後に回ろうとする。だが、よろいのきしも動きが早く、すぐに対応されてしまう。

 

「くそっ、やっぱり一人で戦うのはキツいぜ」

強い攻撃を何度も受け止め、俺の右腕も力の限界に達しそうだった。

だが、それでもまだ勝てる方法はある。俺は一瞬でポーチからこんぼうを取りだし、左手に持った。

マイラに来てから初めて二刀流を使ったな。これなら片手で攻撃を受け止め、もう片手で攻撃することができる。

 

「何をされようが、人間ごときが我を倒せるはずがない!」

 

俺が二刀流にしてもよろいのきしは構わず斧を叩きつけてきた。今度は、こんぼうを持った左手で攻撃を受け止める。

だが、よろいのきしの斧を受け止めて俺の左手は骨が折れそうなほど痛み、こんぼうもひびが入った。

だが、怯む訳にはいかないので、俺は右手に持つおおきづちで、よろいのきしの腹を思いきり殴り付ける。

「ぐはっ!人間のくせに、なんて力だ!」

 

よろいのきしは動きが止まり、俺はその隙にもう一撃叩き込んだ。

あと少しで倒せそうだが、よろいのきしはまた斧を振り回しだす。

 

「だが、人間ごときにやられてたまるか!」

 

よろいのきしは何としても俺を倒そうとしてくる。俺はこんぼうで攻撃を止めて、後ろにまわろうとした。

攻撃を受け止め続け、こんぼうはもうすぐ壊れそうだった。俺は砕けるのを覚悟で、よろいのきしにこんぼうを叩きつけた。

 

「これでも喰らえ!」

 

案の定こんぼうは砕けてしまったがよろいのきしは再び大きく怯んだ。これ以上反撃されると厳しいので、俺はおおきづちでよろいのきしの腕を殴り、斧を落とさせる。

「斧がなければ何も出来ないだろ。これで終わりだ!」

 

そして俺は、無抵抗になったよろいのきしの頭を叩き割り、とどめをさした。

 

「まさか、人間ごときに···」

 

よろいのきしはそう言い残し、青い光を放って消えていった。

 

「やっと倒したか。マイラに来てから一番大変だったぜ」

 

俺の思っていた通り、キツい戦いになったな。これまでは最初のフィールドでは大して強い敵がいなかったが、マイラの魔物は町の近くにも強力な奴がいる。これからも厳しい戦いが続きそうだな。

 

「あとは反対側の岩も壊せばいいな」

 

俺は反対側の岩も壊し、ガロンに教えるために一度町に戻った。

町に戻ると、ピリンたちに頼んだ作業部屋の修理が終わっていた。俺が作業部屋を見ていると、気づいたピリンが話しかけてきた。

 

「あっ、雄也!帰ってきたんだ!みんなと手伝って、お部屋を修理できたよ」

 

「ああ、ありがとうな。これでマイラの町にも作業部屋が出来た」

 

作業部屋はなくても別に構わないが、どうしても作りたくなってしまう。この後に行くであろうガライやラダトームの町でも、作業部屋は作るだろう。

作業部屋が完成したのを見たので、俺はガロンにバリケードを壊したことを伝えに行った。

 

「なあ、ガロン。あんたの言ってたバリケードを壊してきたぞ」

 

「本当か!?雄也」

 

「ああ、かなり強かったけど、そこにいたよろいのきしも倒した」

 

俺がそう言うと、ガロンは声を上げて大喜びする。

 

「うおおおお!よくやったぞ雄也!さすがだぜっ!筋肉はねえけど、さすがはオレのダチだっ!」

 

喜んでいるのはいいんだが、何でいちいち筋肉がないとか余計なことを言ってくるんだ?

こいつらにとってどれだけ筋肉は大切な物なのかは、俺には分からないな。

 

「さあ!雄也!ここからが本格的なマイラ復活計画のスタートだぜ!魔物にやられて行き倒れている仲間をアジトに連れてくること、そして魔物に捕まっちまってるいとしのアネゴを助けだすこと。この二つが、さしあたってのオレたちの目標だぜ!」

 

まずは、仲間を助けるのが優先ってことか。それと、毎回気になっているがアネゴって言うのはどんな人なんだ?

ガロンが大切な人のような言い方をしているが、恋人なのだろうか。

魔物に捕まっているってことは、危険な状況だし、早めに助け出したい。

俺はアネゴのことを聞こうと思ったがガロンは話を続けた。

 

「んでもって、全ての準備が終わったら、このマイラ地方を支配する魔物の親玉、ようがんまじんをぶっ倒す。これが、最終目標だ!」

ガロンから初めて聞いたが、マイラを支配しているのはようがんまじんなのか。だが、ヘルコンドルにしてもようがんまじんにしても、普通のモンスターであるはずなのに何故魔物の親玉になれるのだろうか。

まあ、ただのようがんまじんではないことは確実だな。十分に対策をして挑まないと勝てないだろう。

それに、リムルダールではヘルコンドル戦の後にマッドウルス戦があったりしたので、マイラでももう一体強大な魔物がいてもおかしくはない。マイラを復活させるのも、かなり大変そうだな。

 

「マイラを復興するのは、これまで以上に大変そうだな」

 

「ああ、このマイラの魔物はめちゃくちゃ強力だがオマエがいりゃあ何とかなりそうだな!」

俺はマイラを復興させるためにここに来たんだ。ガロンに言われた通り魔物は強いが、何とかしてみせないとな。

 

「改めてよろしくな、雄也!筋肉はねえけど頼りにしてるぞ!」

 

「一言余計なんだが···とりあえずよろしくな!」

 

また筋肉のことを言われながらも、俺は改めてガロンとあいさつをした。

これからついに、本格的にマイラの復興が始まるのか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode55 帰らない仲間

俺はガロンとの話を終えた後、ピリンたちの作ってくれた作業部屋に入って中を見てみた。さっきは中から見ただけで、中には入っていないからな。

作業部屋の中には、カベかけ松明がかけられていて、作業台も使いやすい場所に置き直されていた。

 

「結構きれいに整っているけど、収納箱を作っていなかったな」

 

その作業部屋には、これまでの町の作業部屋にあったような収納箱がなかった。あれは魔法の収納箱だから、ビルダーの俺じゃないと作れないので仕方ないが。

 

「素材でポーチが一杯になっても困るし、作っておくか。材料のふとい枝もすぐ近くにあるな」

 

俺は町のまわりで3つふとい枝を拾い、それを使って収納箱を作った。

これなら、ポーチが満タンになっても素材をとっておける。

 

「収納箱が出来たし、これで作業部屋が完成だな」

 

ゲームでは作業台、収納箱、灯りがあれば工房と言う部屋レシピになったはずだ。

現実では部屋レシピなんて存在しないが、灯りと収納箱があればかなり便利な作業部屋になる。

俺は収納箱を作った後、他には何か作る必要があるものはないかと考えていた。そんな時、ガロンが作業部屋の中に入り、俺にまた話しかけてきた。

 

「なあ、雄也。一日に何回も言って悪いんだが、また頼みがある」

 

「別にいいけど、何だ?」

 

俺はこれまでにも一日に何度も頼みごとをされたことがあるので、別に気にならず、ガロンの頼みを聞くことにした。

「バリケードもぶっ壊してきてくれたところだし、バリケードの先を調べてきてほしいんだ」

 

バリケードの先を調べるのは、当然だと思うから、いちいち頼まなくてもよくないか?

 

「もちろんそのつもりだ。別に頼まれなくても行ってたぞ」

 

「いや、ただ探索するんじゃなくて、倒れている仲間がいないか見てきてほしいんだ」

 

ガロンが頼みたいのは、仲間の救出だったのか。確かに、バリケードの先に逃げた仲間がいてもおかしくはない。それに、この地方は魔物が強力だし、早く見つけないと危ない。

 

「魔物に捕まっているアネゴを助けるためにも、仲間の協力ってのはものすごく重要だからな。しっかり仲間増やして、魔物との戦いに備えようぜ!」

アネゴを助けるのは大人数で突撃するよりもれ魔物に見つからないようにして、スネークのようにこっそり連れ出すほうがいいと思うのだが。難易度は高いが、そっちのほうが安全だ。

でも、魔物の襲撃も多いらしいし、やっぱり戦力の強化も大事だな。

 

「まあ、仲間は多いほうが魔物の軍団から町を守りやすくなるな。とにかく、あんたの仲間を探してくる」

 

「ああ、頼んだぜ、雄也!バリケードを抜けて、仲間を探し、助けてきてくれ!」

 

俺は人助けのためや、町の戦力を増やすために、ガロンの仲間を探しに出発した。バリケードの先にはいったことがないが、どんな場所なのだろうか。

 

「まずは、さっき行ったバリケードのところまで行かないといけないな」

 

俺は町から出て、バリケードに向かって歩き始めた。バリケードまではまっすぐ行って15分くらいだな。

スライムベスやいっかくうさぎは邪魔だが、そんなにたくさんいるわけでもないので、簡単に避けて進むことができた。

そして、岩山に着くと壊れたバリケードを通りすぎ、反対側に着いた。

 

「ここがバリケードの反対側か。広いところだな」

 

バリケードの反対側は、町の近くとは比べ物にならないほど広大な荒野が広がっていて、一番奥までは何キロメートルもあるだろう。

探索するのはかなり時間がかかりそうな広さだが、それ以外にも問題があった。

「それにしても、この荒野には強いモンスターだらけだな」

 

その荒野に住むモンスターは、弱いものではスライムだった。この地方に来てからは赤いスライムベスしか見ていないので、青いスライムは初めて見るな。

だが、スライム以外の魔物はどれも今の武器では太刀打ちできないような強力な魔物だらけだった。

町の近くにもいるいっかくうさぎだけてはなく、その上位種のアルミラージや、サソリ型のモンスターであるおおさそりやてつのさそりが生息している。

 

「見つかったら大変だな、砂漠の箱を使うか」

 

よろいのきしはおおきづちでギリギリ倒せたが、ここの魔物はさらに強いかもしれない。

俺は見つからないように、砂の草切れから作った砂漠の箱を被った。これなら、変な動きをしなければ見つからないだろう。

俺は姿を隠しながら、慎重に荒野の奥のほうに進んでいく。

途中、ドムドーラにもあった砂漠の植物を見つけた。

 

「サボテンか。マイラにもあったんだな」

 

サボテンがあるってことは、地面が土ブロックで出来ていても砂漠に近い環境なのかもしれない。

サボテンには、柱型のものと丸形のものの2種類があり、俺は両方におおきづちを叩きつけた。

 

「ドムドーラでは取ったことはなかったけど、どんな素材になるんだ?」

 

おおきづちを叩きつけられると、丸形のサボテンは果実のような物を落とし、柱型のサボテンはそのままスライスしたような形の素材になった。

「この果物みたいな奴は、食べられそうだな」

 

そう言えば、マイラに来てから食料がほとんどなく、俺たちは何も食べていなかった。腹が減っていたので、俺はサボテンの果実を食べてみた。

 

「結構うまいな、これ」

 

腹が減っていたからかもしれないが、そのサボテンの果実はとても美味しかった。みんなにも食べさせると良さそうなので、俺は丸形のサボテンをおおきづちで叩いて、果実を集めながら進んで行く。

 

「この砂漠にはうまいものがあって良かったな」

 

サボテンの果実には栄養がどのくらいあるかは分からないが、しばらくはこれで食料難をしのぐことになるだろう。

荒野を進み始めて30分くらい経ち、バリケードから1キロメートルくらい離れたところまで進むと、家のようなものが見えてきた。

 

「こんな所に家があるのか。誰かいるのか?」

 

その家は、レンガと土ブロックで組み立てられていて、一部壁が壊れていた。家の近くには、俺が最初の穴蔵で使ったきりかぶ作業台もあり、人が住んでいた痕跡があった。

その中にガロンの仲間がいるかもしれないので、俺はその家の中に入り、声をかけた。

 

「誰かいないのか?」

 

だが、返事はなく、人の姿もなかった。その家には人はいないようだが、一枚のメモのようなものが置かれていた。メルキドにもリムルダールにもあったメモが置いてある家が、マイラにもあったのか。

俺はそのメモの内容を読んだ。そのメモは俺と同じくらい汚い字で書かれていた。

 

魔物たちの攻撃からようやく立ち直り、アジトに帰ろうとしてはみたものの、アジトへの道が魔物に作られたバリケードによって塞がれていて、帰ることが出来ない。ワシ一度この先の鉱山に身を隠し、機会を伺うことにする。

 

内容から考えて、ガロンの仲間が書いたもので違いないな。アジトであるマイラの町に帰ろうとしたが、さっきのバリケードによって帰れなくなった。俺なら崖を登って帰っただろうが、この人は崖登りに慣れていないのだろう。

ともかく、ガロンの仲間がこの先の鉱山にいることは分かったな。鉱山と言うのは、ここからかなり奥に見える山のことだろう。鉱山と言うことは、金属があるのかもしれない。

 

「メルキドの時みたいに、炉が作れるようになるかもな」

 

金属を炉で加工すれば、強力な武器を作って魔物に対抗できる。確か炉を作るには石材も必要なはずなので、俺は荒野にある大きな石を壊しながら、鉱山のほうへ進んでいった。

鉱山の近くまで来ると、途中、とんでもない魔物を見つけた。

巨体で大きな棍棒を持つ魔物であるトロルの色違い、ボストロールがいたのだ。

 

「ボストロールだと!?こんなのガロンの言ってたようがんまじんより強い奴じゃねえか」

 

ボストロールはマイラの魔物の親玉らしいようがんまじんより強力な魔物のはずだ。こんな奴と戦っても勝ち目があるわけないので、砂漠の箱を被って絶対に見つからないようにして、鉱山に向かった。

鉱山は、土より固い茶色のブロックで出来ていて、洞窟があった。

 

「この洞窟にガロンの仲間がいるのかもな」

 

俺はその洞窟に入り、中を調べる。そこには、銅や石炭といった鉱物がたくさん埋まっていた。これがあれば、炉を作れるはずだ。

俺は銅や石炭の鉱脈をおおきづちで砕いていき、集めていった。残念ながら鉄はなかったが、銅でも十分強力な武器を作れる。

 

「金属があっていい場所なんだけど、地面が割れそうだな」

 

その洞窟はところどころ地面にひびが入っており、そこを踏んでしまうと割れてしまいそうだ。俺はひびの入った地面を避けながら鉱物を集め、洞窟の奥へと進んでいった。

そして、洞窟の一番奥にはガロンと似たような格好をした荒くれの男が一人、倒れていた。

 

「おい、生きてるか!?」

 

俺はその人に近づいて声をかけた。男はかろうじて意識はあるが、とても衰弱しているようだった。

その男は何とか、俺に話しかけてくる。

 

「うぬぬ···誰だ、お主は···」

 

「俺は影山雄也、ビルダーだ。雄也って呼んでくれ。大丈夫なのか?」

 

「ワシは···ベイパー。もう限界だ···喉が乾いて死にそうだ···」

 

喉が乾いて死にそうってことは、脱水症状を起こしているってことか。だが、俺は水を持っていなかった。こんな状態のベイパーを町まで連れていくことも無理だろう。

 

「でも俺、水なんて持ってないぞ」

 

「それなら、近くにサボテンフルーツはないか?もしあれば、ワシに食わせてくれ···」

 

サボテンフルーツ?恐らくは、俺がさっき食べたサボテンから取れる果実のことだろう。それなら大量に集めて、50個くらいは持っている。

 

「それならあるぞ、食ってくれ」

 

俺はポーチからサボテンフルーツを取りだし、ベイパーに渡した。ベイパーはそれを食べると、すぐに元気になって立ち上がった。

 

「ぬほおおー!喉が潤ったぞ!雄也とやら、助かったっ!」

 

あんなに弱っていたのに、こんなに早く回復するのか。ベイパーの体はどうなっているのか疑問に思えてくる。

「魔物との戦いで傷を負ったワシは、傷が治るのを待ち、アジトに帰ろうとしたのだが、アジトは魔物が作ったバリケードで塞がれていてな、帰るに帰れなかったのだ」

 

さっきのメモにも、そんなことが書いてあったな。バリケードを作ったり、マイラの魔物は頭がいい。

俺みたいに、崖を登る奴がいれば別だが、だいたいの人はバリケードが原因で崖を越えることが出来なくなる。

 

「そして、身を潜めたこの鉱山で水と食料が尽き、行き倒れてしまったと言うわけだ」

 

「結構時間がたってたんだな。助けられてよかった」

 

水と食料も持っていたのに、それも尽きてしまった。ベイパーはかなりの時間、アジトに帰ることができなかったんだろうな。でも、バリケードは俺が壊したし、これで帰ることができる。

 

「···して、お主はなぜここにおる?」

 

「俺がバリケードを壊した後、ガロンに言われて助けにきたんだ。あんた、ガロンの仲間だろ?」

 

「お主の言う通り、ガロンの仲間だ。お主はガロンに言われて助けに来てくれたと言うのか!」

 

ベイパーは俺がバリケードを壊したことをとても驚いていた。

 

「···そのような、筋肉のない体でそこまでのことをしたとはとても信じられぬが···」

 

また筋肉の話かよ!?ガロンだけでなく、ベイパーも筋肉のことばかり言うのか?荒くれ者はみんなそうなのかもしれないな。

 

「筋肉の話はやめてくれ。とりあえず、ガロンのところに戻るぞ」

「分かった。詳しい話は、そこで聞くとしよう」

 

俺とベイパーは洞窟から出て、町の方向に歩いていった。今はキメラのつばさがないので、歩いて帰るしかない。町にたどり着いた時、あたりはもう薄暗くなってきていた。

ベイパーは町につくと、ようやく帰ってこれたと喜んだ。

 

「うおおおおーー!やった、やったぞ!ようやく!ようやくアジトに帰ってこれたっ!」

 

ベイパーにとっては久しぶりに戻ってきたのだろうから、そこまで喜ぶのも無理はない。

それと、ベイパーは温泉が修理されていることに気づいた。

 

「おお!それに温泉が復活しておるではないか!これもお主がやってくれたのだな!?」

「ああ、それもガロンに頼まれてな。タオルとたらいも置いてある」

 

ベイパーもガロンと同じで、温泉が好きなのか。この二人は、かなり性格が似ているところがあるな。

 

「我々の物を作る力ではこうはいかん···」

 

今ここに来たところなのに物を作る力?そう言えばルビスがマイラの人は少し物を作る力を取り戻しているって言ってたな。それでも、完全ではないのだろう。

 

「初めて聞く職業だが、お主が伝説のボディビルダーと言うのは、本当のようだな」

 

伝説の、まで来てビルダーと言うのだと思っていたが、伝説のボディービルダーって言ってきた。

 

「ガロンにも言ったけど、ボディは余計だ」

「そんな細かいことは気にせずともよいであろう!ワシが筋肉の付け方を教えてやる。十日もすればお主も腹筋が六つに割れるぞ!」

 

俺はボディがつかないビルダーだと訂正したが、ベイパーは聞かないどころか、筋肉の付け方を教えると言ってきた。俺は筋肉はそこまで大事だとは思わないんだけどな。

 

「別にいい。俺は筋肉には興味がない」

 

俺がそう言うと、ベイパーは少し残念そうな顔をする。

 

「そ、そうか···とりあえず、よろしく頼むぞ、雄也」

 

俺とベイパーがあいさつしていると、温泉に入っていたガロンが出てきて、走ってきた。

 

「うおおおーー!ベイパー!戻ってきてたのか!」

「ガロンも無事で良かった!久しぶりだな!」

 

ガロンとベイパーもお互いに喜んでいた。この二人はかなり仲が良かったみたいだな。

 

「雄也!ベイパーを助けてきてくれてありがとな!」

 

「別に気にするほどのことでもないぞ」

 

俺はガロンからも感謝の言葉を言われる。ベイパーは弱っていたが、助けられて良かった。

ベイパーとの再会を喜んだ後、ガロンは改めて俺を呼んだ。

 

「さっきも言ったけど、ありがとうな。これなら、オレたちの最初の目標であるアネゴ救出も、必ず成功させられるはずだ!」

 

ガロンは、改めて感謝すると同時に、アネゴ救出の話をした。

確かに、このまま仲間を助けていけば、アネゴと言う人の居場所が分かるかもな。

 

「ベイパーなら、アネゴや他の仲間の行方も知っているかもしれねえしな!おお···アネゴ、待っていてください!必ずオレたちが助けに行きます!」

 

ベイパーもアネゴの居場所を知っている可能性があるのか。後で聞いてみたらよさそうだ。それにしても、アネゴという人は、どんな人なんだ?

 

「ずっと気になってたけど、アネゴってどんな人なんだ?」

 

「アネゴはな···オレたちのリーダーであり、憧れであり、心の支えであり、母であり、妹であり、恋人であり、そして何より、オレたちの希望なんだ」

 

一度に七つも言われたな。とりあえず、自分たちをまとめてくれる母のような大切な人ってことだろう。妹って言ってるってことは、ガロンより年下の可能性もあるな。どんな感じの人なのか、俺も会って見たいぜ。

 

「アネゴは魔物に捕まってる。絶対に助け出してやらなきゃならねえ!雄也、オマエの力も貸してくれよな!準備が出来たら、一緒にアネゴを助けに行こうぜ!」

 

「分かってる。もちろん俺も協力するぞ」

 

いつになるかは分からないが、アネゴを救出する時が来たら、ビルダーとして必ず俺も協力するつもりだ。

それと、ガロンはアネゴのこんな情報も話した。

 

「ここだけの話だがな、雄也。アネゴは無類の風呂好きなんだ。ここに帰ってきたらすぐにアネゴは···」

「つまり、覗くつもりなのか?」

 

ガロンはホモ発言をしていたが、普通に女にも興味があるんだな。両性愛者という奴なのだろうか。

 

「ま、まあ、そう言うことだ。別に構わんだろ?」

 

「もちろんだ。だが、絶対に見つかるなよ。もし見つかったら、死ぬぞ」

 

別に俺は誰が誰の風呂を覗こうが構わない。だが、ピリンにしてもヘイザンにしてもアネゴにしても覗かれれば容赦しないだろう。俺は止めないが、そのことだけは伝えた。

 

「わ、分かってるぜ。とにかく、早いとこアネゴを救出しようぜ!」

 

ガロンとの話を終えた時には、もう外は真っ暗になっていた。俺はベイパーの分のわらベッドを作った後、明日に備えて眠りについた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode56 サソリの急襲

マイラに来て3日目の日の朝、俺は起きてすぐに、作業部屋に向かった。

 

「今日は昨日手に入れた素材で炉を作るか」

 

俺は、昨日ベイパーを救出した鉱山で手に入れた、銅や石炭で炉と金床を作ろうと思っていた。

炉があれば金属製の武器が作れるようになって、弱い魔物は簡単に切り裂くことができるし、強い魔物にも対抗できるようになる。確か、炉は石材8個、銅3個、石炭3個で作れるはずだ。

 

「銅はたくさんあるし、どうのつるぎも作っておこう」

 

俺はそれらの素材に魔法をかけ、炉と金床を作り出す。炉はリムルダールではなかったので、久しぶりに使うな。

炉が完成すると、俺はさっそく作業部屋の鉄の作業台の横に置いた。

そして、炉を作った後、余った銅を銅のインゴットに加工し、それから俺の分のどうのつるぎを作った。ゆきのへは剣は使わないし、ベイパーはどうやって戦うかわからないから、あとは一本でいいな。

 

「この武器を使えば、戦いも楽になるな」

 

どうのつるぎがあれば、いっかくうさぎやおおさそりなどのモンスターは倒せるだろうし、よろいのきしの攻撃も楽に弾き返せそうだ。さすがに、それより強いモンスターならてつのつるぎやはがねのつるぎが必要になるだろうけど、今は作れないんだよな。

さすがに最初から鉄製の武器は使えないか。

俺が作ったどうのつるぎをポーチにしまっていると、ベイパーが作業部屋に入ってきた。

「おお、雄也!何をしていたんだ?」

 

ベイパーには2つ聞きたいことがあった。魔物との戦いに何の武器を使うかと、アネゴという人の居場所についてだ。

 

「俺は炉を作ってたんだが、ちょうど良かった。あんたに聞きたいことがあるんだ」

 

「聞きたいこと?何だ?」

 

俺は最初に使う武器について聞いた。俺たちは作業部屋にいるし、今のうちに作っておきたい。

 

「あんたは魔物との戦いの時、何の武器を使ってるんだ。必要なら、今すぐ作るぞ」

 

「ワシはいつも大きなハンマーを振り回して戦っておるぞ。作れるか?」

 

ハンマーか···それなら、鉄製のおおかなづちはまだ作れないんだよな。だが、金属製の武器じゃないと厳しい。ゆきのへからは教えられなかったけど、銅でもハンマーが作れるかもしれない。俺は、銅製のハンマーの作り方を調べた。

どうのかなづち···銅のインゴット2個 炉と金床

おおかなづちよりは威力が低そうだが、作ったほうがいい。

 

「作れそうだ。少し待っててくれ」

 

俺は炉の中に銅のインゴットを入れ、魔法をかけてハンマーの形に変化させる。ゆきのへの分も必要だろうから、2個作って、片方をベイパーに渡した。

 

「これで出来たぞ。今度モンスターが襲ってきたら、これで潰してやろう」

 

「おお、お主も頼んだぞ」

 

ベイパーはどうのかなづちを受け取ると、軽々と手に持った。俺は筋肉には興味がないが、すごいと思ってしまう。

武器を作ったので、今度はベイパーにアネゴの居場所について尋ねた。

「あと、もう一つ聞きたいことなんだが、ガロンの言ってたアネゴと言う人の居場所は分かるか?ガロンはあんたが知ってるかもしれないって言ってたぞ」

 

「すまぬが···ワシも知らぬ」

 

ベイパーもアネゴの居場所は分からないか。居場所さえ分かれば、助けに行けると言うのに。

だが、ベイパーはアネゴに関する情報を少しは持っていた。

 

「だが、ワシは魔物との戦いの後、傷ついたアネゴを連れ去る魔物の姿を見たのだ。なんとかして、アネゴの居場所を探し、アネゴを連れ戻さねばならぬっ!」

 

「まだ他の仲間もいるかもしれないし、そいつらに聞くしかないか」

 

魔物に連れ去られたってことは、魔物の拠点に捕まっているとみてやはり間違いないな。俺はメタルギアファンだが、メタルギアらしい潜入はまだしたことがなかった。

魔物の拠点に見つからないよう潜入して、必ずアネゴを助けてやる。

 

「それはそうと、アネゴ救出にはより多くの筋肉がいる。そこで雄也、お主に頼みがあるのだ!」

 

俺が話を聞き終えると、今度はベイパーが俺に頼み事をしてきた。

それにしても、アネゴ救出に筋肉がいるとか、こいつらは魔物の群れに突っ込んでいく気なのか?

それは自滅だろと言いたいが、とりあえずはベイパーの頼みを聞くことにした。

 

「でも、どうやって筋肉を増やすのを手伝えって言うんだ?」

 

「筋肉作りに欠かせない栄養を多く含んだ料理を、ワシに作ってほしいのた」

 

筋肉作りに欠かせない栄養と言うことは、肉料理か何かか?いっかくうさぎを狩れば、確か肉が手に入ったはずだから、町の近くで狩りにいけばよさそうだ。それと料理用たき火を作るのに、あおい油がいるから、ついでに取りに行くか。

 

「分かった、それなら簡単だな。その辺のいっかくうさぎを倒せば肉が手に入るし」

 

俺がいっかくうさぎやスライムを狩りに行くために町の外に出ようとすると、ベイパーが追いかけて呼び止めた。

 

「待ってくれ。実はワシはベジタリアンでな。今まで満足感のあるメシを食ったことがない」

え?荒くれなのにベジタリアンなのか?荒くれ者と言うのは、肉が大好物なイメージがあったが、必ずそうでもないのか。

だが、それなら何を作ればいいんだ?

 

「でも、肉料理以外で筋肉が付きそうなものなんて、思い付かないぞ」

 

「ワシは、バリケードの向こうにある柱型のサボテンを焼いて食べるとよいと思うぞ」

 

柱型のサボテンをスライスした物は持ってるけど、あれってそんなに栄養があったのか。

料理用たき火さえあれば、作ることが出来そうだ。

 

「柱型のサボテンか···ちょっと待っててくれ。料理用のたき火を作る材料を取りに行ってくる」

 

俺はそう言って、町の外に出た。またバリケードの先まで行かないといけないのは大変だが、仕方ない。

「何でマイラには、すぐ近くにスライムがいないんだろうな」

 

俺はそんなことを思いながら、バリケードに向かって歩いて行った。

バリケードまでは、いつものように15分くらいで着く。俺は、そこから先の荒野に行き、スライムを探した。

スライムはたくさん生息しており、すぐに見つけることが出来たので、俺は後ろに忍び寄り、どうのつるぎを降り下ろした。

スライムは悲鳴を上げる暇もなく真っ二つに斬り裂かれ、光を放って消えると同時にあおい油を落とした。

 

「これで手に入ったな。ついでにサボテンもいくつか集めておくか」

 

俺はポーチにあおい油をしまい、帰る途中に、他のスライムを狩ったり、サボテンフルーツや柱型のサボテンを集めたりしながら、また歩いていった。

町に戻ると俺は、さっそく料理用たき火を作りに、作業部屋に入った。

 

「料理用たき火を作るから、調理部屋も作っておいた方がよさそうだな」

 

料理用たき火を作ったら、これまでの町にもあった調理部屋を作るか。毎朝そこに集まって、朝食を食べるのもよさそうだ。

だが、料理用たき火の材料の一つである、たき火を作ろうとしたのだが、なぜかふとい枝とあおい油が合体しなかった。

 

「あれ?何で作れないんだ?」

 

俺はおかしいなと思い、たき火の作り方を調べ直した。

たき火···ふとい枝2個、あおい油1個 石の作業台 木の作業台

    ふとい枝2個、あかい油1個 鉄の作業台

そういうことか!鉄の作業台を使う場合は、あかい油でたき火を作るのか。ゲームでは作業台をいじればレシピが表示されるけど、現実ではそれはないからな。こういったこともあり得る。

 

「スライムベスならすぐ近くにいるし、また行ってくるか」

 

俺は町から出て、すぐ近くにいるスライムベスをどうのつるぎで倒し、あかい油を手に入れる。それ以外に、料理用たき火を作るのに必要そうな砂の草切れも集めて、町に戻った。

これまで料理用たき火を作るには、メルキドではじょうぶな草、リムルダールではしっかりした草と言った草の素材が3つ必要だった。マイラでは、砂の草切れが必要なのだろう。

俺は作業部屋に再び入り、まずたき火を作って、それから料理用たき火にする。

「やっと料理用たき火が出来たか。早くベイパーにサボテンを持っていかないとな」

 

俺は完成した料理用たき火を地面に起き、サボテンのスライスした物を焼いた。特に味付けはしていないが、美味しそうなにおいがしてくる。

ちょうどいいくらいに焼くと、ベイパーのところに持っていった。

 

「ベイパー、焼いたサボテンを持ってきたぞ。食ってくれ」

 

それを見ると、ものすごい勢いでベイパーは俺の手からサボテン焼きを取り、食べ始める。

 

「ぬおおおおお!よくやったぞ、雄也!」

 

ベイパーはそんなにお腹が空いていたのか。まあ、昨日食べたのはサボテンフルーツだけだから、仕方ないけど。

 

「うまいぞおおおお!これなら、アネゴを助けるための筋肉もつけられそうだ!」

 

そんなにうまいのか。俺も後で食べてみようかな。

ベイパーがサボテン焼きを食べている途中に、俺はまた、アネゴのことについて聞いていた。なぜ魔物は、アネゴを殺さずに連れ去ったんだ?

 

「ベイパー、アネゴはどうして魔物に殺されず、捕まったんだ?」

 

「アネゴがどうして魔物にさらわれたのかだと?うむ、魔物たちはアネゴから何かを聞き出そうとしておったようでな。断固口を開かないアネゴに業を煮やし、魔物たちはアネゴを連れ去って行ったのだ」

 

魔物がアネゴに聞きたいことがある?アネゴは魔物にとって必要な情報を持っているのか。どんな情報なんだろうな?

「じゃあ、魔物はアネゴから何を聞き出そうとしていたんだ?」

 

「そこまでは分からぬ」

 

ベイパーもその情報については知らないか。情報を聞き出すと言うことは、すぐに殺されたりする心配はないけど、それでも早めに助けないといけないことに、変わりはない。

 

「とにかく、よくやってくれた、雄也!ワシはこの料理で、アネゴ救出のためのより強い筋肉を作り上げるぞ!」

 

やっぱり荒くれ達は、危険なのに魔物の群れに突っ込んで行きたいようだ。

それも一つの作戦だが、俺は潜入のほうがいいと思う。

俺がベイパーにそのことを伝えようとした、その時だった。ガロンがいきなり作業部屋に入り、

 

「雄也、ベイパー!大変だ!大変だぜえええーー!」

 

ただならぬ表情で、何かが起きていることを伝えた。

 

「どうしたんだ、そんなに慌てて?」

 

「またしても魔物たちが攻めて来やがったんだ!」

 

また魔物の襲撃!?2日前にも襲撃があったばかりだの言うのに、マイラは本当に魔物の活動が激しいな。

俺が外に出て見てみると、町の南から、おおさそりとてつのさそりが2体に、隊長のよろいのきしが1体で合計5体の魔物が、この町に接近してきていた。

俺は、魔物の襲撃が来たと町中に伝わる声で叫んだ。

 

「みんな、また魔物が攻めてきたぞ」

 

それを聞いて、ピリンとヘイザンは建物に隠れ、ゆきのへはおおきづちを持って出てきた。

ベイパーも、どうのかなづちを持って戦いに備える。だが、ガロンは前のように仮病を使って戦いに参加しようとしなかった。

 

「こんな時に、急な腹痛がっ!すまん、あとは頼んだぜ!」

 

こんな時にふざけんな!と怒鳴りつけたかったが、そんなことをしている時間はない。こんな奴がいて、ベイパーや他の荒くれはどう思っているのだろう。

俺たちは臆病なガロンは放っておいて、魔物の群れに近づいて行った。ゆきのへには、さっき作ったどうのかなづちを渡す。

 

「銅で金槌を作っておいた。使ってくれ」

「お前さん、もう炉も作っていたのか。分かった、これで魔物共をぶっ潰すぜ!」

 

ゆきのへはどうのかなづちを受け取り、魔物たちに向ける。マイラの町の、2度目の防衛戦の始まりだ。

 

「この前はよくも我らの仲間を殺してくれたな!やれ、お前ら!」

 

今回の襲撃は、2日前俺たちが倒した魔物の敵討ちのためにも来たようだ。

この前と同じように、よろいのきしが手下たちに指示を出す。すると、おおさそりとてつのさそりが、俺たちのところに向かって襲いかかってくる。

 

「てつのさそりは、戦いなれているけど、固いんだよな」

 

俺のところには、てつのさそりが、ゆきのへとベイパーのところにはおおさそりが来た。

てつのさそりは戦い慣れているし、知能も低いので、俺はハサミでの攻撃を簡単に避け、どうのつるぎで一体の脚を斬りつける。

脚を斬られたてつのさそりは、もう片方のてつのさそりと俺を挟み撃ちにしようとしてくる。

 

「俺をそう簡単に挟み撃ちに出来ると思うなよ」

 

俺はてつのさそりを引き付けて、右腕に力を溜めた。そして、ハサミが降り下ろされる瞬間に俺は力を解き放ち、奴らのハサミと顔を引き裂く。

 

「回転斬り!」

 

奴らの体に、大きな傷がついた。だが、てつのさそりはそれだけでは死なず、体に力を溜めるために動きを止めた。

 

「クソッ、回転攻撃が来る」

俺は元々、てつのさそりの回転攻撃を見て回転斬りを覚えた。その回転攻撃を目の前のてつのさそりがしようとしている。

俺は避けるのは間に合わないと思い、どうのつるぎで攻撃を受け止めた。

 

「くっ!」

 

俺はメルキドのてつのさそりの時のように、吹き飛ばされはしなかったが、大きく体勢を崩してしまう。そこで、ハサミで俺を攻撃しようとてつのさそりはハサミを振り上げた。

俺は起き上がれないまま、そのハサミを弾き返すが、てつのさそりは2体いるため、すぐに別のてつのさそりが俺にハサミを降り下ろした。

立ち上がる時間もなく、俺はその攻撃を受けそうになる。

 

「雄也!ワシが助けるぞ!」

そこに、ベイパーが走って駆けつけてきた。ベイパーのどうのかなづちでの一撃で、てつのさそりのハサミは砕かれる。

しかし、そのベイパーの後ろに、彼と戦っていて大きな傷を負っているおおさそりが追いかけてきていた。

 

「お前に邪魔はさせるか!」

 

このままだと、ベイパーは3体の魔物に囲まれてしまう。俺はどうのつるぎを振り上げ、おおさそりを叩き斬る。

おおさそりはそこまで固くはなく、俺の攻撃で力が尽き、青い光を放って消えていった。

ゆきのへもおおさそりと戦っているが、こちらもおおさそりはボロボロになっていて、もう少しで倒せそうだ。

だが、ベイパーは俺を助けた後、てつのさそりと戦っていて、かなり苦戦していた。

「ワシの筋肉の強さを見せつけてやるぞ!」

 

自慢の筋肉を使い、ベイパーはてつのさそりにダメージを与えてはいるが、さっきの俺のよう2体同時の攻撃には対応しきれず、次第に追い詰められていく。

俺はベイパーに助けられたので、俺もベイパーを助けに行こうとするが、その前によろいのきしが立ち塞がる。

 

「人間め···よくも仲間を殺してくれたな。我はお前を許さぬぞ!」

 

よろいのきしは、おおさそりが倒されたことに怒っていて、俺に斬りかかってくる。

 

「俺もお前たちを倒して、この町を守って見せる!」

 

俺はどうのつるぎで斧を受け止め、そのまま弾き返す。よろいのきしも倒さないといけないが、まずはベイパーの援護に行かないと。

よろいのきしもそうはさせまいと、俺の動きを止めようとしてくる。

 

「お前も荒くれも、ここで死んでもらうぞ」

 

このままでは、この前と同じようにひたすら敵の攻撃を受け止めるだけになってしまう。今はどうのつるぎしかないので、二刀流にすることもできない。

なので俺は、攻撃を避けるのも兼ねて少し後ろに下がり、気づかれないように剣に力を溜めた。

 

「避けても無駄だぞ、人間」

 

よろいのきしは俺が力を溜めていることに気づかず、近づいてくる。そして、斧を降り下ろしたと同時に、俺は今日2回目の回転斬りを放った。

 

「喰らえ、回転斬り!」

 

「何っ!?」

 

俺の強力な一撃がよろいのきしの斧を吹き飛ばして、体勢も崩させた。

今のうちだと思い、俺はベイパーのところに行き、片方のてつのさそりの尻尾にどうのつるぎを突き刺した。

突然背後から剣で刺され、大きく怯んだてつのさそりの胴体に、俺は思いきり剣を降り下ろした。

 

「これで一体倒したぞ!」

 

追い詰められていたベイパーも、どうのかなづちを持ち直した。

 

「ありがとうな、雄也。助かったぞ!」

 

「そっちこそありがとうな。もう一体も倒すぞ!」

 

俺がハサミや尻尾での攻撃を受け止めている間に、ベイパーはてつのさそりの背中に、思いきりどうのかなづちを降り下ろす。

いくら固い甲殻を持っていたとしても、ベイパーの本気の一撃を受けては耐えられない。

てつのさそりはこれで2体とも倒れ、ウォーハンマーの材料であるさそりの角を落とした。

ゆきのへも、おおさそりに止めをさし、残りは俺が動きを止めたよろいのきしだけだ。

 

「よくもやったな!このクソ人間が!」

 

よろいのきしは俺とベイパーのところへ斧を振り回してくる。だが、2人同時を攻撃することは出来ない。俺はさっきと同じようによろいのきしの攻撃を防ぎ、その間にどうのかなづちを持つ二人は、鎧を砕くほどの威力でよろいのきしを殴り付けていく。

 

「思い知ったか!ワシに敵うとは思うなよ」

「二度とこの町を攻めて来るなよ」

 

よろいのきしは抵抗しようとするが、俺にそれを防がれる。よろいのきしが倒れた時には、鎧がこの前の襲撃の時以上に変形していた。

 

「今回も町を守り抜けたな」

 

俺たちは2回目の防衛戦に勝つことができたが、まだ旅のとびらは手に入らなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode57 砦の牢屋

マイラに来て4日目の朝、俺は今日も朝早くから起きて、作業部屋に向かっていた。

昨日の防衛戦では、なんとかどうのつるぎだけで勝つことが出来たが、あれ以上の大軍で来られたら対処しきれないだろう。

 

「マイラの魔物に立ち向かうのは、二刀流じゃないとキツそうなんだよな」

 

俺は何体の魔物に囲まれてもいいよう、常に剣とハンマーの二刀流にしておいたほうがよさそうだ。なので、俺はどうのかなづちを作るため、炉のところに向かった。

 

「どうのかなづちは、銅のインゴット2つで作れたはずだな」

 

俺は炉の中に銅のインゴットを2つ入れ、それから魔法をかける。すると、銅のインゴットが合わさって、ハンマーの形になった。

「ビルダーの魔法って、いつも使っているけど本当に便利だよな」

 

俺はどうのかなづちをポーチにしまってから、そんなことを思っていた。ビルダーの魔法の力を、これからも役立てていきたいな。

俺がどうのかなづちを作った後、作業部屋から出ようしていると、ガロンが入ってきて、一人言を言った。

 

「ベイパーもアネゴの居場所は知らなかったか。全く、早く助けに行きたいのによ···」

 

ガロンはまだ居場所も分からない、アネゴのことがとても心配のようだ。そう言えば、アネゴが大切な人であることは分かっているが、どうしてそうなったんだ?そこまでは、まだ聞いていなかったな。

 

「そう言えば、ガロンはどうしてアネゴのことを大切に思うようになったんだ?」

 

「雄也、アネゴってのは···すっごく厳しいが、それ以上に、めちゃめちゃ優しい人でな」

 

すごく優しい人ってことは、やはりガロンの恋人ってことなのか?そんなことを思いながら、ガロンの話を聞き続けた。

 

「そもそも昔のオレたちは、協力もせず、バラバラに竜王軍と戦っていた。そんなオレたちを一つにまとめて、導いてくれたのがアネゴなんだ!アネゴを失えば、オレたちはおしまいだ。アネゴは必ず助けなければならねえのさ!」

 

アネゴは恋人ではないかもしれないけど、チームの大切なリーダーと言ったところか。協力の大切さは俺はアレフガルドを復興させていくうちに分かったが、荒くれたちは、アネゴと言う人から教えられた。

ガロンとベイパーが仲がいいのも、アネゴのおかげなのかもな。その人がいれば、みんなの団結力も高まって、より魔物に対抗しやすくなる。さまざまな面で、アネゴは大切な人だな。

 

「雄也も、アネゴの救出に手を貸してくれるって言ったよな。改めて言うが、その時が来たら、頼むぜ」

 

「分かってる。居場所がわかったら、すぐにでも助けに向かう」

 

俺は改めてアネゴを救うと言い、ガロンと別れて作業部屋を出た。

 

「今日は調理部屋でも作るか」

 

俺のどうのかなづちは完成したが、今日はまだ始まったばかりだ。俺は昨日作ることが出来なかった、調理部屋を作ることにした。

 

「そこらで土を集めてそれで建物を作って、中に料理用たき火と収納箱を置けばいいな」

 

俺はまず、建物の壁を作るために土ブロックを取りに行った。町の外には、たくさんの土ブロックがあり、その中の50個ほどを壊して集める。

土ブロックが集まると、町に戻って作り始める。土ブロックで長方形の部屋を作り、その後必要なものを置く。

料理用たき火を最初に置いて、その後収納箱とわらのとびらを作り、収納箱を料理用たき火の近くに置く。

最後に、入り口にわらのとびらを置けば完成だ。

 

「これでマイラにも調理部屋が出来たな」

 

調理部屋は作業部屋ほどまでは作りたいとは思わないが、これまでの町にも作ったので、ここだけないと言うのはおかしいと思うんだよな。

俺は調理部屋が出来ると、そろそろ探索の続きに行こうかと思った。バリケードの先は、まだ調べきった訳ではないからな。

そう思って、町から出ようとしていると、ガロンが走って俺のところに来た。

 

「雄也!大変だぜ!オマエが料理の部屋を作っている間にベイパーの奴が魔物に連れ去られた仲間の居場所を思い出したらしいんだ!」

 

調理部屋を作っていたことは、ガロンも知っていたのか。

それにしても、何でベイパーは大切な仲間の居場所を忘れていたんだ?鉱山にいた時に起こした脱水症状で意識が朦朧として、記憶が飛んでしまったのかもしれないが。何にせよ、早めに救出に行かないといけないな。

 

「それで、魔物に捕まった仲間はどこにいるんだ?」

 

「ベイパーが言うにはその仲間はここから南西にある、魔物の砦にいるらしい!」

 

魔物の砦か···警備もかなり手厚いかもしれないな。アネゴ救出の前にも、潜入ミッションをすることになるようだ。

 

「今からすぐに向かえば、助かるかもしれねえ!ベイパーと一緒に見てきてくれねえか?」

 

ベイパーと一緒に?こいつらやっぱり、魔物を全員倒していく気だな。誰でも思い付く方法だが、難易度は高い。

 

「俺は一人で行くつもりなんだが。何でベイパーと一緒になんだ?」

 

「そのほうが、砦にいる魔物どもを倒しやすくなるだろ。一人で戦うより、二人で戦うほうがいい」

やっぱりか。筋肉、筋肉うるさいから、どうせそう言う作戦なんだろうと思っていたが、案の定だな。

俺は、魔物に見つからないように潜入する方法を提案した。

 

「それなら、一人で行って魔物に気づかれないよう助ければいいんじゃないか?」

 

「無理だな。これもベイパーの話だが、その砦はかなり小さくて、隠れる場所もない」

 

潜入は無理なのか···。それなら確かに、危険なことには変わりないが、ベイパーと一緒に戦ったほうが楽そうだな。

 

「それと、その砦の入り口は固い壁で覆われているらしい」

 

「固い壁ってことは、どうのかなづちを作っておいて良かったな」

砦の入り口は固い壁になっているのか。その壁を破壊して、中にいる魔物を倒し、仲間を救出すると言うのが、今回の頼みか。

でも、それならベイパーだけでなく、ガロンもこれば3人で戦えるのに、ガロンは自分は行こうとしない。

 

「ガロン、ベイパーと行けって言うなら、あんたも来ればいいじゃないか」

 

俺がそう言うと、仲間がピンチだと言うのにガロンはまた仮病を使った。

 

「オレはこのアジトから出ると、じんましんが出る奇病なんだ」

 

アジトから出るとじんましんが出ると言われても、俺がここに来る前は外にいたはずだ。

全く、こんな臆病者が荒くれのメンバーだとは、全く思えないぜ。俺はガロンを殴り付けたくなったが、なんとかベイパーに協力を頼みに行った。

「ベイパー、あんたが仲間の居場所を思い出したという話をガロンから聞いたんだが、本当か?」

 

「もちろん本当だぞ。ワシも、これから助けにいこうと思っていたところだ」

 

ベイパーもその仲間を救出しに行こうとしているってことは、協力してくれそうだな。

 

「それなら、俺と一緒に来ないか。二人で戦ったほうが魔物を倒しやすい」

 

「お主が協力してくれるならありがたい。では行くぞ」

 

俺もベイパーも準備は完了していたので、すぐに町の外に出た。今日は探索のためにバリケードの先に行こうと思っていたが、仲間の救出のために行くことになるとは、思ってもいなかった。

バリケードの反対側に着くと、敵に見つからないよう、ベイパーに砂漠の箱を渡した。

 

「ベイパー、これを使ってくれ」

 

「何だ?この箱のような物は?」

 

砂漠の箱は1つしか持っていないから、目立つ格好をしているベイパーが被るべきだな。

ベイパーは、砂漠の箱をどう使うかは、分かっていないようだが。

 

「それを被って進めば、魔物に見つかりにくくなる。一つしかないから、俺はあんたの後ろに隠れて進むぞ。どこに砦があるのか詳しくは知らないし」

 

「そういうものだったか。ワシが砦に案内する。付いてこい」

 

俺が説明すると、ベイパーは砂漠の箱を被って進み、俺はベイパーについていった。

ベイパーと一緒に進んでいると、この前は見なかったものがあった。荒野に、誰かが作ったと思われる線路があるのだ。荒くれたちも俺も、線路は作れないのに、誰が作ったんだろうな。

 

「なあ、ベイパー。この線路は誰が作ったんだ?」

 

「ワシにも分からん。ワシらが生まれた時からあったのだ」

 

ベイパーが生まれた時からあったと言われても、ドラクエ1の時点では線路なんてなかったはずだ。勇者が裏切ってから人々の物作りの力が失われるまでは、かなり時間があったのかもな。

物作りの力があっても、魔物の攻撃が激しい時にこんな物を作っている暇があるとは思えない。

 

「でも、線路があったら便利そうだな」

今は線路は所々で途切れているが、これを直せば、移動が楽になりそうだ。

俺は線路を見ながらいろいろ考えて、ベイパーと共に荒野の奥のほうに進んで行った。

荒野には、キメラがたくさんいるところもあった。俺はキメラのはねを集めて、キメラのつばさを作りたいが、今は仲間の救出に行かないといけないから、後でまた集めに来るか。

それ以外にも、キメラの場所の近くには、リムルダールでも見た土ブロックでできた高い塔が見えた。いろんな場所に建てられているけど、何なんだろうな。

それ以外には、特に気になることはなく、1時間くらいかかって、ベイパーに砦の近くまで来たと言われた。

 

「もうすぐ仲間が捕まっている砦に着くぞ。見えるか?」

砦までは50メートルくらいの距離で、俺たちは中にいる魔物に見えないところに隠れていた。

砦の中には、よろいのきしが一体と、まどうしが2体いて、奴らの後ろに宝箱と、仲間が囚われているであろう牢屋があった。

恐らくは宝箱の中に、牢屋の鍵が入っているのだろう。だが、ベイパーの情報の通り、砦はかなり狭く、気づかれずに救出は無理そうだった。

 

「行くぞ。魔物を全員倒して、仲間を救出する!」

 

「待て、ベイパー」

 

潜入は無理だが、一人に敵を引き付けてもらい、その間にもう一人が鍵を取って仲間を助け出す方法がある。

 

「どうしたのだ、雄也?早く助けに行こうではないか」

「全員倒さなくても、片方が魔物を引き付けて、もう片方が鍵を取る。その作戦はどうだ?」

 

問題は、どっちが引き付ける役になるかだな。全ての敵の攻撃が、その人に集中するから、とても危険だ。

だが、その役はベイパーが引き受けてくれるようだ。

 

「その方法なら、ワシが魔物を引き付けるぞ。筋肉のないお主にそれは任せられぬからな」

 

引き付け役をしてくれるのはありがたいが、また筋肉がないと言われた。ここまで言われると、言い返す気もなくなるな。

 

「余計な一言は言わないでくれ。とりあえず、始めるぞ」

 

俺がそう言うと、ベイパーはどうのかなづちを持ち、砦に近づいて行った。

「ワシらの仲間を返してもらうぞ!」

 

ベイパーはどうのかなづちを持ち、入り口にある白い岩の障壁を破壊し、中の魔物に殴りかかった。

 

「愚かな人間め、捕まっている仲間と一緒に死ぬがいい!」

 

よろいのきしやその手下のまどうしが、ベイパーに攻撃をする。俺はその間に、こっそり砦へと入った。

ベイパーは魔物の視界に俺が入らないようにうまく引き付けてくれていて、俺は安心して宝箱に近づいた。

 

「鍵を手に入れて、こっそり牢屋を開ければいいな」

 

鍵はその宝箱に入っているのではなく、よろいのきしが持っている可能性がある。それでも、背後から近づいて喉を斬り裂けばよさそうだ。

だが、宝箱を開くと普通にかぎが入っていた。俺はそれを使って牢屋を開いて、中にいる人に話しかけた。

 

「おい、助けに来たぞ!」

 

中にいたのは、ガロンやベイパーより大きい荒くれ者だった。

 

「まあ···アタシを助けてくれるのかい?」

 

なんだこの人?どう見ても男なのに女みたいな喋りかたをしてるぞ。初めて見るが、これがオカマって奴なのか?

って、今はそんなことはどうでもいい。

 

「ああ、ベイパーと一緒に来たぞ」

 

「アタシは···ギエラ。見かけない顔だけど、アンタ、何者だい?」

 

いつもならここで、俺は影山雄也。ビルダーだと言っていたが、今はそんなことを言っている場合ではない。一刻も早く、ここから脱出しないと。

俺はギエラと一緒に牢屋から出て、ベイパーに声をかけた。

 

「ベイパー、仲間は助けた、逃げるぞ!」

 

「分かった。今すぐ行く」

 

俺の声に気付き、よろいのきしは斧を振り回してきて、まどうしはメラの呪文を唱えた。

 

「この野郎!いつの間にそいつを連れ出した!?まあいい、斬り刻んでやる!」

 

「燃え尽きろ、メラ!」

 

俺たちは砦から出て、3体の魔物から逃げ続ける。そして、追ってこなくなったところで一旦止まり、ギエラと話した。

 

「な、なんとか逃げ切ったわね···」

 

ギエラは助けた時と同じように、オカマ口調で話す。俺はそこで、ギエラに自分の名前を名乗った。一応ビルダーだと言うが、どうせ知らないだろうな。

 

「さっきは言えなかったけど、俺は影山雄也。普段は雄也って呼んでくれ。どうせ知らないだろうけど、この世界で伝説と言われている、ビルダーだ」

 

「伝説のビルダー···もちろん知ってるわよ。失われた、物を作る力を持つ者でしょ」

 

知っていたのか!?ガロンとベイパーは知らなかったから、荒くれはみんな知らないのかと思っていたぜ。

 

「本当に知ってるのか?良かった。ガロンもベイパーも知らないから、あんたも知らないと思ってた」

 

「アタシはそういうことには詳しいの。とりあえず、今はアジトに帰りましょう」

 

ギエラは結構頼りになりそうだな。続きは町で話すことにして、俺たちは歩いて帰っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode58 炎の魔導師

俺たちは、ギエラを救出した後、1時間くらい歩いて、町に戻った。かなり時間が経ったが、まだ夕方にもなっていなかった。

 

「ありがとう、アンタのおかげでやっとアジトに帰ってこれたわ!」

 

ギエラは、アジトであるマイラの町に帰ってくることが出来て、とても喜んでいる。ベイパーと同じで、ギエラも長い間帰ってこれなかったからな、その気持ちも分かる。

 

「俺だけじゃなくて、ベイパーのおかげだ」

 

「分かってるわ。二人とも、本当にありがとう」

 

俺とベイパーが救出に行っていなければ、ギエラは魔物に殺されるか、そのまま衰弱していくかで死んでいたかもしれない。ギエラは頼れそうな人だし、助けられて良かったぜ。

あと、帰ってきてすぐに、お風呂に入りたいと言った。

 

「帰ってきたところだし、さっそく温泉に入りたいわね···でも、温泉は魔物に壊されたし」

 

いや、温泉はとっくに直ってるぞ。ギエラは捕まっていて、町を復興していることを知らないようだ。

 

「温泉なら俺が直した。いつでも入っていいぞ」

 

「えっ、本当?」

 

俺の話を聞き、ギエラは温泉がある部屋を確認しに行く。そして、温泉が修理されているのを見て、驚いていた。

 

「スゴい、こんなに素敵に修理されてるのね···ガロンやベイパーの力じゃ、ああは行かない」

 

マイラでは、物作りの力を取り戻しているらしいけど、やっぱり完全ではないんだな。

完全に力を取り戻すには、マイラの空の闇を晴らすしかないのだろう。

 

「俺はビルダーだからな。それくらいは出来る」

 

「やっぱりそうなのね!どう考えても、アンタは本物のビルダーだわ!」

 

ギエラはビルダーのことを知っているどころか、すぐに俺のことだと信じてくれた。筋肉だのボディビルダーだの言っている二人とは大違いだ。

さらに、ギエラは俺のこれまでの活躍のことも知っていた。

 

「メルキドの再興や、リムルダールの浄化は、ビルダーがそのきっかけを作った···そして、ビルダーによって失っていた物を作る力を取り戻して行った」

 

完全に復興することや、リムルダールの全域を浄化することは、気の遠くなるような時間がかかるだろうし、可能なのかも分からないけど、人々が物を作る力を取り戻したことは確かだ。

だから今、ピリンやゆきのへやヘイザンは、俺と一緒に物を作っている。

 

「あんたの言う通り、俺たちでメルキドとリムルダールの空の闇を晴らした」

 

「良かった。ボディ的なビルダーしかいないこのアジトに、本物のビルダーが来てくれるなんて!」

 

確かに、この地方で出会った人は筋肉だらけの荒くれものしかいない。その荒くれたちも、それ以外の人々には出会わなかったのか。

ビルダーが来たことによって、マイラの復興が進むと、ギエラは嬉しそうに言った。

 

「これできっと、アネゴを助け出せる!そして、マイラを支配する魔物の親玉も倒せるわね!」

 

「ああ、一緒に頑張ろうな、ギエラ」

 

ギエラが加わって、この町の戦力はさらに上がる。強い魔物が攻めてきても、対処しやすくなるだろう。

それにしても、ビルダーのことを知っていたり、オカマ口調だったりしたから、アネゴ=ギエラかと一瞬思ったけど、違うのか。

アネゴ救出には、まだ時間がかかるみたいだな。だが、ギエラはアネゴに関する重要な情報を持っていた。

 

「実は、アタシね···連れ去られたアネゴがどこにいるか、一つ心当たりがあるの···」

 

アネゴの居場所を知っているだと!?それが分かれば、助けに行けるぞ。

それで、俺とギエラの会話を聞いているだけだったベイパーも、アネゴのことになると、気になって聞いてきた。しかも、他のところにいたガロンも、アネゴの居場所という言葉を聞き、走って駆けつけてきた。

「ギエラ、本当なのか!?だったら、どこにいると言うんだ?」

 

「ギエラ、帰ってきたのか!それで、アネゴはどこにいるってんだ?」

 

アネゴの居場所は、俺も気になる。俺とガロンとベイパーは、アネゴの居場所を強く尋ねた。

しかし、ギエラは教えてくれず、温泉に行こうとした。

 

「でも、その前に!一度お風呂に入らせて!あふれでる雄汁が身体をつたってもう限界よ!」

 

は!?アネゴのことより温泉のほうが大事なのか?それに、雄汁とか変に聞こえるようなことを言ったり、ギエラは実は変態なのかもしれない。

別に俺も少しは変態なので、気にすることではないが、アネゴより温泉を優先するのはどうかと思う。

しかも、ガロンとベイパーもそれで納得していた。

 

「分かったぜ。まずは、温泉に入ってきな!」

 

「アネゴの居場所については、後で聞くぞ」

 

ガロンとベイパーも、温泉のことを第一に考えているようだ。やっぱり、荒くれの考えにはついていけないな。

俺はギエラが温泉に入っている間に、ガロンと話をした。

 

「さっきは言えなかったが、ギエラを救出してくれてありがとな!」

 

「別に気にすることはない。ビルダーとして当然のことだからな」

 

ガロンは俺に、まだ言っていなかった感謝の言葉を言った。俺とベイパーの力で助けたが、やっぱりガロンも来てくれたらいいのに。

俺はそんなことを思っているが、ガロンはギエラについての話を続ける。

 

「ギエラは、あんな口調だが一番の情報通だ。気になることがあれば、気軽に聞いてみな! 」

 

ギエラが情報通か···あいつだけビルダーのことを知っていたし、納得が行くな。俺はガロンよりも、ギエラとの方が気が合いそうな気がする。

何よりも、ガロンは怖がってついてきてくれなかったからな。

 

「話を変えるけど、何で仲間が危険などに、あんたは助けにいかなかったんだ?」

 

俺が問い詰めると、ガロンはいつもの仮病で言い逃れをしようとした。

 

「何度も言わせんな!オレはこのアジトから出ると鼻血が止まらなくなる奇病なんだ!べべべ、別に怖い訳じゃねえ!勘違いするなよ!」

 

アジトから出たら鼻血が止まらなくなる奇病とか、幼児でももっとまともな仮病を考えそうだな。それに、前はじんましんといっていたのに、鼻血に変わっている。

 

「そんなの嘘に決まっているだろ。正直に言え」

 

「だから怖い訳じゃねえって言ってるだろ!そんな話はどうでもいい、オレから大事な話がある」

 

俺が何を言っても、ガロンは魔物が怖いと認めようとしなかった。しかも、隠すためにいきなり別の話をし始めた。

 

「じゃあ、大事な話って何だ?」

 

「実はな···このマイラを支配する魔物の親玉、ようがんまじんの手下に、フレイムってのがいる」

フレイム···確か、燃える炎のような形をしたモンスターだったな。魔物の情報はありがたいが、そこまで大事な話でもないだろう。

結局は、俺の質問に言い逃れしたかっただけだろう。

しかし、ガロンはフレイムに関する重要なことを言った。

 

「今のオレたちの装備じゃ、そのフレイムすら倒すことができねえんだ···」

 

フレイムは燃える炎だから、実体がないので斬れないということだろう。もし出会っても、戦わずに逃げないといけないな。

 

「じゃあ、フレイムはどうしたら倒せるんだ?」

 

「それは分からねえ。だからよ、オマエにはフレイムを倒せる強力な武器も一緒に開発して欲しいんだ」

フレイムは、一体どうしたら倒せるんだろう。俺にもまったく思い付かない。

 

「今はどうすればいいか分からないけど、何とか考えてみる」

 

俺はそこでガロンと別れ、ギエラの武器を作るために作業部屋に入った。

 

「多分ギエラも、ハンマーを使うだろうな」

 

荒くれが剣を使うイメージはないし、筋肉の力はハンマーのほうがいかしやすいだろうから、ギエラも戦いの時はハンマーを使うはずだ。

なので俺は、銅のインゴット2個を使ってどうのかなづちを作った。

 

「あいつが温泉からあがったら渡しておくか」

 

ギエラには、アネゴの居場所の話を聞くときに渡そう。まだしばらく、温泉につかっているだろうから、待っているか。

そして、作業部屋で待って5分くらい経って、ガロンが中に慌てて入ってきた。

 

「雄也、大変だぜ!また魔物どもが攻めてきやがった!」

 

ガロンの慌て方からして、魔物の襲撃だと思ったけど、やはりそうだったか。

昨日も襲撃があったのに、今日も来たのかよ。

 

「分かった。みんなに知らせるぞ」

 

俺は作業部屋から出て、外の様子を見る。すると、これまでと同じ町の南から、てつのさそりが4体、よろいのきしが2体いた。

だが、今回はそれだけではなかった。町の西の方から、隊長の大きなまどうしと、そいつに操られているガロンが言っていた魔物、フレイムが4体もいた。

 

「みんな!今日も魔物が来たみたいだ。迎え撃つぞ!」

 

俺のかけ声で、ゆきのへが寝室から、ベイパーが調理部屋から、ギエラが温泉から飛び出してくる。

 

「今日も魔物か···どんだけ頻度が高いんだ?」

 

「せっかくメシを食っていたと言うのに、襲撃か」

 

「もっと温泉につかっていたかったのに、魔物ども、許さないわよ」

 

ギエラも来たので、俺はどうのかなづちを渡した。

 

「ギエラ、これを使ってくれ」

 

「ありがとう、雄也。ありがたく使わせてもらうわよ」

 

ギエラもどうのかなづちが気に入ったようで、今から使ってくれそうだ。

そこに、ガロンが出てきて、フレイムの話を始めた。

 

「オマエたち、今回はちょっと厄介だぞ。燃え盛る炎を魔物、フレイムには攻撃は効かない。そいつを操っているまどうしを倒すんだ!」

 

まどうしを倒せば、フレイムも消えるってことか。だが、まどうしに近づくのはかな難しいだろうな。敵も、ビルダーが来たことを感じとっているようだ。

 

「分かった。今日もこの町を守り抜くぞ」

 

俺のかけ声でみんなが武器を構え、マイラの町の3回目の防衛戦が始まった。

 

よろいのきしたちは南から、まどうしたちは西から来ていて、このままだと挟み撃ちにされそうだった。

分担して戦うほうが良さそうだな。

 

「みんな、二手に別れて戦うぞ。このままだと挟み撃ちにされる」

 

俺が二手に別れることを提案すると、荒くれのベイパーとギエラはまどうしのほうに向かって行った。

 

「ならワシは、危険なフレイムのほうにいくぜ」

 

「アタシもよ。魔物たちに力を見せつけてやりましょう」

 

なら俺とゆきのへは、よろいのきしとてつのさそりを倒さないといけないな。

 

「ゆきのへ、俺たちはよろいのきし共を倒すぞ」

 

「ああ!数は多いが、必ず勝てるはずだ」

 

俺とゆきのへは、この前と同じように2体ずつ相手をすることになった。今回は二刀流で戦うので、かなり楽になるだろう。

「何度来られようと同じだ。叩き潰してやる!」

 

俺は両側から来る攻撃を受け止め、そのまま弾き返す。いくら銅でできた武器だとはいえ、力をこめて叩きつければ、てつのさそりでも倒せるはずだ。

攻撃を弾きかえされ、怯んだてつのさそりたちに、俺は回転斬りを放った。

 

「回転斬り!」

 

武器を二本持っているので、回転斬りの威力も二本分になる。てつのさそりは顔を斬り裂かれて、さらに叩き潰された。

 

「かなり弱らせたはずだけど、まだ倒れないはずだ」

 

俺の予想通り、てつのさそりは大ダメージを負っていたが、体が鉄でできているため、そう簡単には死ななかった。

他のみんなも、まだ一体も敵を倒せてはいない。

ゆきのへはてつのさそりの動きに慣れ、攻撃をかわしながらどうのかなづちで頭や足、尻尾を叩き潰していた。

 

「ワシらの町を壊そうとするなら、容赦なく叩き潰すぜ」

 

ゆきのへはメルキドの時から、町を守り抜こうと頑張っている。顔は怖いが、とても頼れる仲間だ。

マイラに来てもそれは変わらず、今もてつのさそりと戦っている。だが、てつのさそりはボロボロになりながらも、みきのへにハサミで抵抗していた。

ベイパーとギエラは、何とかフレイムを操るまどうしを倒そうとするが、まどうしのメラの魔法やたち塞がるフレイムによって、行く手を阻まれていた。

「フレイムを倒せないのに、どうやってまどうしに近づけばいいのだ?」

 

「アタシたちだけじゃ、フレイムを防ぐので精一杯ね」

 

フレイム4体に対して、ベイパーとギエラの二人だけで戦っている。このままだと、いつまで経ってもまどうしを倒せないな。

今のところ、誰も危険な状態にはなっていないが、早めに助けに行かないといけない。

俺は大きな傷を負い、死にかけているてつのさそりを倒そうとどうのつるぎとどうのかなづちを降り下ろす。

だが、そこによろいのきしが現れ、どうのつるぎでの攻撃を防いだ。

 

「まさかお前が伝説のビルダーだったとはな···我が殺してやろう!」

 

もう俺が伝説のビルダーだと言うことは、魔物にも知れ渡っているのか。だからこそ、フレイムという強力な魔物を送り込んだのだろう。

どうのかなづちで潰されたてつのさそりは倒れたが、もう一体のてつのさそりは体勢を立て直し、俺にハサミを降りおろした。

 

「クソッ、また体勢を立て直されてきまったか」

 

俺はてつのかなづちを振り回し、そのハサミを受け止める。その間に、よろいのきしが受け止められないように俺を攻撃しようとしたが、俺は先に気付き、後ろに飛ぶ。

 

「避けられたか、あれが来るぞ大防御!」

 

だが、避けた後俺が回転斬りを放つことも知っているようで、よろいのきしは大防御の姿勢を取る。大防御は、受けるダメージをほとんど無くす技だ。

いくら強力な回転斬りとはいえ、打ち破れないだろう。でも、てつのさそりは倒せるだろうから、俺は回転斬りを放とうとした。

 

「てつのさそりだけでも倒す!回転斬り!」

 

俺がてつのさそりの至近距離で回転斬りを放とうとして、よろいのきしは立ち塞がって攻撃を防ぐため、大防御を解除する。

だが、大防御を解除した後、てつのさそりを守る前に俺は力を解き放った。

威力はいつもより低いが、瀕死だったてつのさそりは倒れ、よろいのきしも怯んだ。

そして、そのよろいのきしの心臓にどうのつるぎを突き刺した。

 

「ぐはあっ!」

 

これで俺は、てつのさそりを2体、よろいのきしを1体倒した。

ゆきのへも、てつのさそりを2体とも倒し、今はもう片方のよろいのきしと戦っている。

 

「問題はフレイムとまどうしだな。攻撃が効かないんじゃ、どうすればいいんだ?」

 

ベイパーとギエラは、フレイムのせいで未だまどうしに近づくことが出来なかった。俺も正面から近づいても、焼き払われるだけだろう。

 

「まどうしが二人に集中している間に、後ろから襲うか」

 

まどうしはベイパーとギエラに集中しているので、気づかれずに後ろから襲えばよさそうだ。

俺はどうのつるぎを構え、足音を立てないようにまどうしの背後に忍び寄る。そして、どうのつるぎを突き刺そうとしたその瞬間だった。

「失せろ、メラ!」

 

突然まどうしが振り向き、俺に向かってメラの呪文を放つ。俺は至近距離にいたため、避けきることができず腕をやけどした。

 

「お前の気配など、簡単に感じとることができる。愚かな奴だ、ビルダーめ」

 

しかし、ここで負けられない。俺は痛む腕でなんとか剣を持ち、まどうしに斬りかかる。

 

「しつこい奴め、メラ!フレイムどもも、こいつを焼け!」

 

まどうしのメラはいつもなら普通にかわすことができる。だが、2体のフレイムが俺のところに来て、火を吐き出した。

 

「どうやったらまどうしを倒せるんだ?」

 

そう思っていたが、なんと、ベイパーとギエラがフレイムから離れて、こちらに向かってきていた。まどうしは2対2でも大丈夫だろうと思っていたようだが、荒くれたちは、そこまで弱くはない。

 

「よくもやってくれたな。ぶっ潰してやろうぞ!」

 

「アンタにもフレイムにも負けないわよ!」

 

戦力を俺に回してしまったのが失敗だったようだ。まあ、俺に戦力を回さなかったら、俺がまどうしを倒していたが。

まどうしは抵抗しようとメラを放つが、ベイパーはかわして、まどうしに突撃していく。

そして、ベイパーとギエラの同時の一撃で、まどうしは倒れていった。

 

「おお、苦戦したが、倒せたぞ!」

 

「強かったけど、勝ったわね」

 

荒くれ者って、町に隠れている人を除けばとても強い人だ。どうしてかって聞くと、どうせ筋肉の力だとか言うんだろうけど。

魔物の群れを全滅させ、みんなは町の中に戻って行った。まどうしが倒れたところを見ると、青色の旅のとびらが落ちていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode59 火山の鉱脈

3回目の防衛戦の日の夜、俺はきずぐすりを使ってまどうしから受けた傷を治していた。

 

「全く、まどうしは背後から近づいても見つかるのか」

 

背後に回っても、至近距離なら気配で人を見つけられるようだ。もしアネゴの捕まっている魔物の拠点にまどうしがいたら厄介だな。

俺がきずぐすりを塗り終えて、作業部屋から寝室に向かった。荒くれたちと一緒に、ギエラからアネゴの居場所を聞くためだ。

寝室に入ると、みんなはもう集まっていた。

 

「おう、雄也。やっと来たか」

 

ガロンは待ちくたびれている様子で、俺の顔を見てきた。

大切なアネゴの居場所が早く気になるのだろうが、俺も一緒に聞く約束なので、待ってくれていたのだろう。

俺が来たのを見て、ベイパーが話を始めるようギエラに言った。

 

「さっそく話を始めるぞ。ギエラ、アネゴはどこ囚われているんだ?」

 

ガロンもアネゴの居場所のことになると、真剣な表情になって聞いている。

ギエラは、アネゴの囚われている拠点がある場所を言った。

 

「アネゴが囚われているのは、海を越えないと行けない火山の島にある、魔物の城よ」

 

海を渡らないと行けないと聞き、ガロンやベイパーは困った顔をする。

 

「じゃあ、どうやって助けにいきゃいいんだ!?」

 

「ワシも泳ぎは苦手だぞ」

 

そう言えば、筋肉が多いと水に沈みやすいって聞いたことがある。荒くれたちが海を渡るのは難しそうだな。

だが、俺もあまり水泳は得意ではなかった。と言うより、ほとんどのスポーツが苦手だった。

 

「俺も、泳いでいくのは無理だな」

 

25メートルのプールくらいなら普通に泳げるが、何キロメートルもあるだろう海を渡って、疲れている時に魔物と戦う。

とても俺にはできないことだった。

 

「せっかくアネゴの居場所が分かったって言うのによ···行けない場所なのか?」

 

せっかく居場所が分かり、後はその魔物の城に潜入するだけだと思ったが、そう上手くはいかなかった。

だが、次のギエラの一言で、俺はあることを閃いた。

 

「一瞬で海を越えることが出来れば、魔物の城に行けるのにね」

一瞬で移動すると言う言葉で気づいたが、さっきまどうしは青の旅のとびらを落とした。

あれを使えば、持ち主の求めるものがある場所にたどり着くと言われるし、アネゴのいる島にも一瞬で行けるはずだ。

 

「みんな、それなら方法がある。旅のとびらって奴を使えば、そこに一瞬で移動できる」

 

「本当か!?どういう物なんだ、旅のとびらと言うのは」

 

「ビルダーのことは知っているけど、旅のとびらというのは知らないわね」

 

俺が旅のとびらについて話すと、3人とも知らないようだ。

旅のとびらについて知っていたのは、ロロンドとゲンローワくらいだから、みんなが知らなくても仕方ないけど。

「旅のとびらと言うのは、離れた場所に一瞬で移動できる装置のことだ。さっき倒したまどうしが落とした」

 

俺は手に入れた旅のとびらをポーチから出し、みんなに見せる。

 

「そんじゃあ、これを使えばアネゴのいる場所に行けるんだな!」

 

「今日は夜遅いし、明日にでもその島に行くか」

 

みんなはやっとアネゴの救出に行けるととても喜んでいる。俺も、こいつらと共に行くつもりだ。

しかし、ギエラがもう一つ問題があることを言った。

 

「待って、みんな。実は、アネゴの囚われている魔物の城は、固い岩で入り口が塞がれていて入れないの」

 

固い岩か···ギエラの言い方からして、おおきづちやどうのかなづちでも壊せない固さなのだろう。

おおかなづちや、ウォーハンマーがあれば壊せるかもしれないけど。

塞がれていると言う言い方からして、網目状に置かれているのではなく、大きな壁のように置いているのだろう。網目状なら、しゃがんで入ることができるからな。

 

「何だと!?もう少しでアネゴの救出に行けると言うのに」

 

もう一歩のところで行けないと言われ、ガロンは悔しそうな顔になる。鉄が取れればいいのだが、火山の島に鉄があるのかも分からない。

俺は、ギエラに鉄の鉱山があるのか聞いてみた。

 

「ギエラ、そのアネゴのいる火山の島には、鉄が取れるところはあるか?」

 

「あったはずよ。鉄の武器を使えば、アネゴのいる城にも入れるはずだわ」

良かった。魔物の城に入れないと聞いたとき、俺も不安になったが、鉄があるのなら炉を神鉄炉に強化したり、強力な武器を作ることが出来る。

ひとまずは、鉱山で鉄を集めるないといけないな。

 

「では、まずは鉄を集めて、武器を作らねばならぬな」

 

「アネゴを待たせちまうが、助けられることに代わりはねえ!」

 

アネゴと言う人をあまり待たせたくないが、ガロンの言う通り、助け出せることに変わりはないんだ。

夜遅かったので、俺たちは一旦寝て、明日から火山の島の探索に行くことにした。

 

俺は眠りについた後、久しぶりに裏切り者の勇者の記憶の夢を見た。こんな夢を見るのも、これで5回目だな。

夢の中で勇者は、木がたくさん生えていて、花が咲いている緑豊かな町にいた。温泉のある建物が見えたので、勇者がマイラを訪れた時の記憶だろう。

勇者はその温泉の前に立っていて、そこにいる赤い服を着た女性と話をしていた。

 

「あーら、すてきなお兄さん。パフパフはいかが?たったの20ゴールドよ?」

 

冒険家ガンダルの書いたアレフガルド歴程にも書いてあったが、これがマイラのパフパフ屋と言うやつか。

20ゴールドは日本円に換算するとどのくらいの値段なのかは分からないが、魔物を倒してお金を稼いでいる勇者にとっては、安い金額のはずだ。

勇者も男だから、ここはしてもらうはずだろう。ドラクエシリーズでは、パフパフと言いながら別のことをするのが多かったが、ここでは本当にしてくれそうだ。

だが、勇者は

 

「別にそんなのいいですよ」

 

あっさりと断った。男なら、断るべきではないはずなのに。

 

「あら、残念だわ。やっぱり勇者の子孫は真面目ねえ」

 

しかも、勇者は助けた姫と夕べはお楽しみしているような奴だ。それなのに、どういうことなんだ?

 

「もしかしたら、人と関わることが嫌になっているからかもな」

 

勇者はこれまでの夢で、だんだん自分を選ばれた勇者だという人々と話すのが嫌になってきていた。だからこの優しそうな女の人であっても、あまり関わりたくなかったのかもな。

 

「でも、もしその気になったら、また声をかけてね」

パフパフ屋の女は、最後にそう言って勇者と別れた。でも、もう話すこともなく勇者は人々を、世界を裏切ったんだろうな。

勇者はパフパフ屋を離れた後、ロッシと同じような緑色の服を着た男性に話しかけられた。

 

「ここから南の島にはもう行きましたか?」

 

南の島···多分、俺たちが前に復興させた、リムルダールのことだろうな。リムルダールは、アレフガルドでもかなり南に位置している。

男性の質問に、勇者はもう行ってきたとうなずいた。

 

「なんと!もう行かれたと?とても強い魔物たちがいると聞きましたが···」

 

確かに、リムルダールはドラクエ1では、マイラより後に訪れる場所だ。魔物が強いと言うのも納得だ。

一般人には倒せないような敵だらけだろう。

 

「あなた、見かけによらず強いんですね」

 

見かけによらずってことは、ついに勇者扱いしない人が来たのか!?

俺はそう思ったが、その男性は次にこれまでの人々と同じようなことを言った。

 

「いや、まあそれも当然か!あなたは伝説の勇者の子孫ですからね!」

 

これは普通に見れば、褒め言葉に聞こえるが、普通の人間として扱ってくれないことに怒っていた勇者にとっては、腹の立つことだったはずだ。

勇者は男性のところを去り、歩いていると今度は兵士の男に話しかけられた。

 

「古い言い伝えでは、ロトはこの島の西のはずれに虹をかけたそうです」

そう言えば、ドラクエ1の最後は虹のしずくと言うアイテムを使って竜王の島に渡って、竜王と戦うんだよな。

いずれ俺も、虹のしずくで竜王の島に行くときが来るのだろうか。

俺がそんなことを思っている間に、兵士は話を続けた。

 

「そして、魔王の部屋の隠された入口より、闇に入ったとのこと···」

 

これは、竜王が1階の玉座ではなく、その裏の階段から地下に降りたところの最深部にいることを示しているな。

 

「おお、勇者様!あなたはルビスに選ばれた竜王を倒す役割をおった特別な方です···どうか定められた責務を果たし、この世界に光を取り戻してください!」

 

この兵士も、勇者を追い詰めるようなことばかり言った。そして、勇者はまた人のいないところで大声で行った。

 

「何がルビスに選ばれただ!何が責務だ!オレの人生を何だと思ってるんだよ!あのクソ野郎どもが!」

 

今の勇者の叫びには、人々への怒りを通り越して、絶望しているような感じだった。

さらに、勇者はその責務を果たすべきなのか、迷い始めていた。

 

「だいたい、あんな奴らのためなんかに、竜王を倒さないといけないのか···ふざけんなよ!」

 

そこで俺の意識は途切れ、目覚めると朝になっていてみんなも起きていた。

 

「また勇者の夢を見たか···裏切った理由も分かってきたな」

勇者が裏切ったのにも理由があるが、それでも戦わないといけないことに変わりはないだろう。

とりあえず、今日は青のとびらの先に鉄を取りにいく日だ。

 

「鉄を集めて、武器を強化しないとな」

 

俺は朝食を食べた後、旅のとびらを設置した。アネゴ救出もなるべく急がないといけないし、さっそく俺は中に入った。

すると、いつものように目の前が真っ白になり、火山地帯へと移動する。

 

「ここがギエラの言ってた火山地帯か···町の近くに比べたら、すごく暑いな」

 

火山の影響でかなり温度が高く、遠くにはマグマの池が見えた。危険な場所だけど、とりあえず探索開始だな。

歩き始めて最初に見つけたのは、枯れ木や、砂の草切れだった。

 

「町の近くみたいに、砂の草切れとか枯れ木もあるな」

 

だが、その数は町の近くの荒野より少なく、植物の素材はほとんど取れそうにないな。

先に進んで行くと、崖の上にいたモンスター、ブラウニーが生息していた。あまり危険なモンスターではないが、なるべく戦いは避けたい。石材が取れる大きな石があったので、それの後ろに隠れながら、俺は進んで行った。

途中、崖があり、下に降りないといけないようだった。

 

「モンスターは弱いにしても、高低差が激しいな」

 

メルキドの青のとびらの先や、リムルダールの緑のとびらの先のように、どの地域にも高低差が激しいエリアがある。

幸い、その崖はあまり高くなかったので、俺は簡単に降りることが出来た。

崖を降りたところは、マグマの近くだと言うこともあり、さらに温度が高かった。

 

「本当にここは暑いな。早く鉄を手に入れて帰りたいぜ」

 

しかも、温度が高いだけでなく昨日の襲撃で襲ってきたフレイムもいた。それ以外にも、人の手の形をした魔物、マドハンドが生息している。

 

「フレイムもいるのかよ。気をつけて行かないと危ないな」

 

マドハンドはまだしも、フレイムには攻撃が効かないので、絶対に見つかる訳にはいかない。

効果は薄いだろうが、俺は砂漠の箱を被って奥へと進んで行く。

進む道が二手に別れている場所があり、そこに看板が立っていた。

 

「こんなところに看板があるのか。誰が書いたんだろうな」

 

俺は、その看板に書かれている文章を読んだ。書き方からして、魔物が書いたもので間違いないようだ。

 

西の鉱山に人間どもを近づけるな。鉄を渡しては、ならない。南の砦に、人間どもを近づけるな。あの女を渡しては、ならない。

 

西にある鉱山に鉄があるのか。だが、西はどっちなんだ?旅のとびらで移動したので、方角がまったく分からない。

どちらに進んでも、関所のような物が見えるが、片方はマグマの池のすぐそばに繋がっていて、もう片方は大きな城のような場所に続いていた。

「鉱山はマグマの池を越えた辺りなのか」

 

城のような場所に、アネゴが囚われているはずなので、俺はマグマの池の方に向かった。その池を越えれば、鉱山にたどり着くだろう。でも、どうやって越えればいいんだろうな?

とりあえずはそこまで行こうと思い、俺は歩き始めた。その途中、赤い実がなっている植物を見つけた。

 

「これ、唐辛子じゃないか?」

 

その植物は、地球で見たことがある唐辛子と似ていた。辛いので料理の味付けに使えそうだ。

俺はとうがらしをいくつか拾った後、関所にたどり着いた。

 

「特に門番みたいな魔物はいないな」

 

その関所には、ツボやタル、木箱などが置いてあったが、魔物は1体もいなかった。

関所を抜けると、もうマグマの池がすぐそばだった。この中に落ちたら、全身がすぐに焼けて死にそうだ。

しかし、運のいいことにそのマグマの池を避けられる道があり、そこから鉱山に行けた。

 

「マグマに土ブロックを置いて慎重に渡る必要はなかったな」

 

俺は、その道を歩いて鉱山へと向かう。その途中には、これまでの3回の襲撃で毎回来た、よろいのきしも生息していた。

 

「野生のよろいのきしか、ドムドーラのピラミッドの近くにもいたな」

 

マイラには、砂漠に生息していた魔物が多い。同じ暑い場所だからだろう。

広さが10メートルもない道だが、よろいのきしの視界に入らないよう気をつけて進んでいく。

そして、鉱山の手前のところにもう一つ関所があった。

 

「ここにも関所か。マイラの魔物はなんでも作るな」

 

そこにも特に門番はいなかったので、俺は普通にくぐる。その関所を越えたところに、鉄が取れると思われる洞窟があった。

 

「この洞窟で鉄が取れそうだな。さっさと集めて帰るか」

 

俺はよろいのきしに気を付けながら、その洞窟に入る。

洞窟の中に入ると、さっそく鉄の鉱脈があった。鉄の鉱脈を見たのは、メルキドの時以来なかったから、見た目を忘れていたが、色からして鉄だった。

 

「やっぱり鉄があったな。大量に集めて全員分の武器を作るか」

 

俺はどうのかなづちを打ち付け、鉄の鉱脈を砕いていく。鉄は固いので、簡単には壊しにくいが、何度か叩くと砕け、鉄のかたまりになる。

その洞窟には、大量の鉱脈があり、鉄を50個くらい集めることが出来た。

それと、洞窟の一番奥には宝箱が置いてあった。

 

「こんな洞窟に宝箱?何が入っているんだ?」

 

俺が開けて見ると、中には女性の顔が描かれた絵が入っていた。誰の顔なのかは分からないが、きれいに書かれている。

俺はその絵をポーチにしまい、洞窟から出た。

 

「鉄が集まったし、そろそろ帰るか」

 

鉄製の武器より鋼の武器のほうが強いし、まずは炉を強化してから武器を作らないと。鋼の武器を作るには、鉄のインゴットが大量にいるので、多く集まってよかったな。

俺はキメラのつばさがないので、歩いて旅のとびらまで戻り、町に戻った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode60 筋肉増強作戦

俺は町に帰って来ると、鉄が集まったことを荒くれたちに教えに行った。

その後炉を神鉄炉に強化して、鋼の武器を作ったら、アネゴの救出に行くとするか。早ければ、今日中に助け出せるかもしれない。

荒くれたちも、そうしたいだろう。

 

「おい、みんな!鉄を集めて来たぞ」

 

俺の声を聞くと、すぐにガロンたちは走って俺の所に来た。

 

「本当か!?こんなに早く集まったのか?」

 

「ああ。たくさん鉄がある洞窟を見つけて、そこで集めたんだ」

 

ガロンは半日で大量の鉄を集めたことに驚いていた。鉱山の洞窟がなければ一日中採掘作業をしていただろうけど、これなら午後から魔物の城に行ける。

「鉄の武器を使えば、アネゴのいる城の壁を壊せるはずよ!ありがとう、雄也」

 

「では、あとは鉄を加工して、武器さえ作ればアネゴを助けだせるのだな!」

 

ようやくアネゴを助け出せるようになり、ベイパーやギエラも喜んだ。

魔物の城に潜入するときは、一人のほうが見つかりにくいが、こいつらは絶対に一緒に行くと言いそうだ。

 

「ああ、準備が出来たら助けに行くぞ。武器を作ってくるから、しばらく待っててくれ」

 

「おう、ベイパーとギエラはハンマーを使うから、おおかなづちを作ってくれるとありがたいぜ」

 

俺は潜入で行きたいが、やっぱり魔物を全員倒していく気なのか。荒くれ者は本当に好戦的だな。

確かにおおかなづちやウォーハンマーがあれば魔物は倒しやすくなるが、危険なことに変わりはない。でも、万が一見つかった時のために、戦う準備をすることも悪くはないな。

でも、臆病者のガロンはベイパーとギエラの分のおおかなづちと言っているし、今回も来ないんだろう。

 

「ガロン、あんたは今回も来ないのか?」

 

「仕方ねえだろ!オレはアジトから出ると鼻血が止まらなくなるって言っただろうが!」

 

やっぱり仮病で行かないつもりか。まあ、何を言っても聞かないだろうから、もう放っておくけど。

俺は二人と俺の分の武器を作るため、作業部屋に向かおうとした。すると、ベイパーがもう一つ気になったことがあったらしく、呼び止められた。

「待て、雄也。お主はアネゴのいる火山の島に行ってきたのだろう?アネゴの捕まっている城がどんな感じか見てきてはおらぬか?」

 

魔物の城の様子が気になっているのか。確かに、敵の拠点を知ることも潜入においては大事だからな。

 

「詳しくは知らないけど、入り口にはいくつもの関所があって、魔物もたくさんいると思う」

 

「詳しくは知らぬか。まあ、何が待ち受けておろうが、ワシらが倒すがな」

 

どんな魔物が待ち受けているかは分からないが、潜入は困難を極めると思われる。そう考えると、正面から突撃する方法も分からなくはない。

それと、ベイパーは俺にひとつ頼み事をしたいようだった。

「とにかく、雄也。ガロンの言う通りおおかなづちを作ってきてくれ。ワシ

はお主に頼みたいことがあるが、それは後でいい」

 

「それなら、アタシも雄也に作ってほしい物があるわよ」

 

ベイパーに続き、ギエラも頼み事があると言ってくる。アネゴ救出のための大事なことだろうか。

 

「分かった。とりあえず俺は武器を作ってくるから、後で聞くぞ」

 

俺は先に武器を作るため、3人と別れて、作業部屋に入った。まず、全員にウォーハンマーを作りたいが、俺、ゆきのへ、ベイパー、ギエラの4人分作るとしたら、さそりの角が12個必要になる。

だが、今の俺は6個しか持っていなかった。

「先に炉を強化してから集めに行くか」

 

俺は先に炉を神鉄炉にしてから集めに行くことにした。はがねのつるぎがあれば、てつのさそりも軽く斬れるだろう。

確か、神鉄炉の原料は炉と金床、鉄のインゴット、石炭のはずだ。

 

「まずは鉄のインゴットだな」

 

俺はさっき手に入れた鉄を炉に入れ、鉄のインゴットを作った。一度に5個出来るので、何回も作る必要はない。

鉄のインゴットが出来たら、次に炉と金床を取り外し、鉄の作業台を使ってビルダーの魔法を発動させる。

 

「これで神鉄炉になるはずだな」

 

しかし、いくらビルダーの魔法をかけても炉が神鉄炉に変化しなかった。メルキドの時は、この材料で作れたはずだ。

 

「あれ、どうなってるんだ?」

 

俺は慌てて、神鉄炉を作るのに必要な素材を確かめる。前に神鉄炉を作ったのはかなり前だから、忘れているのかもしれない。

神鉄炉と金床···炉と金床1個、鉄のインゴット5個、石炭3個 石の作業台

       石材10個、鉄5個、石炭5個 石の作業台

そういうことか!神鉄炉には二通りの作り方があるが、どちらも石の作業台でないと作れないようだ。鉄の作業台しかないマイラでは、神鉄炉は無理なのか。

だが、これって結構マズいことだな。マイラには間違いなくメルキドより強力な魔物がいる。それなのに鉄製の武器までしか作れないとなると、戦いに勝てなくなる可能性が大きい。

「鋼の武器は必要なのに!クソッ!」

 

俺がどうしたらいいか悩んでいると、ヘイザンが作業部屋の中に入ってきて、話しかけてきた。

 

「雄也、大声が聞こえたんだけど、どうしたんだ?」

 

俺が鋼の武器を作れないことにいら立って出した声は外にも聞こえていたのか。でも、鍛冶屋のヘイザンやゆきのへに頼めば何とかなるかもしれない。

 

「ヘイザン、俺のビルダーの魔法じゃ鉄の作業台で神鉄炉を作れないんだ。鍛冶屋のあんたならなんとか出来るか?」

 

「それならもちろん出来るぞ。親方にも手伝って貰えば、一日で出来るはずだ」

 

ビルダーの魔法がダメなら、他の人も無理かもしれないとも思ったが、さすがは伝説の鍛冶屋の子孫とその弟子だな。

時間がかかってしまうが、それでも作れることに変わりはない。本当に良かったな。

 

「ありがとう、ヘイザン。神鉄炉が作れないって分かったときは、どうしようかって思ったぜ」

 

「別に気にしなくていい。雄也には、病気の時助けてもらったからな」

 

別に気にしなくていいと言われても、感謝せずにはいられない。改めてゆきのへとヘイザンのスゴさを実感するな。

 

「では、ワタシは親方を呼んでくるぞ。ちょっと待っていてくれ」

 

神鉄炉を作るために、ヘイザンはゆきのへを呼びに行った。二人が神鉄炉を作っている間に、ギエラとベイパーの頼みを聞いたり、さそりの角を集めに行ったりするか。

俺はヘイザンとゆきのへを待つ間にてつのつるぎを作り、鉄のさそりに対抗しやすいようにした。

 

「雄也!親方を連れて来たぞ!」

 

2分くらい待って、ゆきのへを連れてヘイザンが戻ってきた。

ゆきのへは、俺が困っていることを聞いたようで、そのことについて話した。

 

「ヘイザンから聞いたぜ。神鉄炉が作れなくて困ってるんだろ?」

 

「ああ、鋼の武器がないとこれからの戦いには勝てないと思う」

 

ゆきのへも防衛戦で苦戦することがあるし、鋼の武器が必要だと思っているはずだ。

そして、ゆきのへはもちろん作るぞと言った。

 

「それならワシらに任せてくれ。お前さんが作ったのと同じくらい立派なものにして見せるぜ」

同じものどころか、ゆきのへが作った物のほうが凄そうだ。何しろ、伝説の鍛冶屋の子孫だからな。炉を作る腕も一流に決まっている。

 

「明日には完成するだろうから、その間は素材を集めていてくれ。あいつらが言ってた、アネゴって奴の救出が遅れちまうってのは申し訳ねえが」

 

アネゴも、今日か明日に殺される訳ではないはずなので、それでも大丈夫だろう。ベイパーとギエラの頼みを聞いているうちに、日が暮れる可能性もあるし。

さっそく二人は作業を始めて、俺はその邪魔をしないよう外に出た。

 

「今日のうちに、二人の頼みを聞いておくか」

 

外に出た後、俺は近くにいたベイパーの頼みを聞きに行った。アネゴ救出のために大事なことだと思うので、聞いておかないとな。

 

「なあ、ベイパー。さっき言ってた頼み事って言うのは何なんだ?」

 

「おお、雄也か。武器を作ってからと聞いたが、予定を変えたのか?」

 

ベイパーに話しかけると、まだ俺が武器を作っていない理由を聞かれた。俺も作りたいんだが、想定外のことが起きたからな。

 

「いや、実はビルダーの魔法でも鉄の作業台じゃ鋼の武器を作るために必要な、神鉄炉というものが作れないんだ。それで、鍛冶屋のゆきのへとヘイザンに作ってもらっている」

 

「ボディビルダーの魔法と言うのはよく分からないが、まあいい。では、ワシの頼みを話すぞ」

 

俺がビルダーの魔法のことを話すと、またボディビルダーと間違えられた。いくら修正してもボディビルダーといい続けそうだし、もう俺は気にしないことにする。

「アネゴの救出が迫っているとあって、我々の士気は高い···だが、しかし···」

 

「今よりも士気を上げたいってことか?」

 

全員がアネゴの救出という一つの目標に向かって頑張っている。それだけでも十分士気は高いと思うが、まだ足りないと言うのだろうか。

 

「いや、いざ魔物の城に乗り込むとしたら、こんな筋肉で足りるのかどうしても不安でな」

 

なんだ、足りないのは士気じゃなくて筋肉だったか。ベイパーは筋肉のことにうるさいが、アネゴがピンチの時にまで言うとはな。

それに、士気と同じで筋肉もベイパーには十分あると思うが。ベイパーの筋肉が多いの基準は、全く理解できない。

 

「またしても筋肉の話か···これ以上つける必要はないと思うけどな。それで、トレーニングの道具でも作って欲しいのか?」

 

これ以上筋肉を付けるとなれば、トレーニングのための道具を作ってくれと言いたいのだろうか。

 

「確かにそれもいいが、トレーニングをしている時間はない。だから、サボテンステーキを遥かに凌ぐ筋肉作りを活発化する料理を作って欲しいのだ!」

 

また料理を作ってほしいのか。でも、サボテンステーキを越える料理って、肉料理しかないと思うぞ。ベイパーはベジタリアンだし、何を作ればいいんだ?

 

「聞くところでは、火山の島にはとうがらしなる辛い食材があるという。その食材で、ベジタリアンのワシも満足な肉汁したたる、肉料理を作ってくれ!」

 

は!?ベイパーはベジタリアンじゃなかったのか!?今思いっきり、肉料理って言ってたな。

俺は一瞬耳を疑ったが、どういうことなのか聞いてみた。

 

「あんた、ベジタリアンじゃなかったのか?」

 

「だから何だ?お主、ベジタリアンと筋肉と、いや、ベジタリアンとアネゴと、どちらが大切なのだ?」

 

「確かに、アネゴの方が大事だよな。その肉料理は、どんな見た目なんだ?」

 

ベイパーも、アネゴのためならベジタリアンをやめると言うほど、アネゴを大切に思ってるんだな。俺は肉料理をビルダーの力で作るため、ベイパーに見た目を聞いた。

 

「溶岩ステーキと言うものでな。大きな肉を、大量のとうがらしで味付けしたものだ」

溶岩ステーキって、名前からしてすごそうだな。口の中から火を吹くほど辛いみたいな意味だろうか。

俺は溶岩ステーキの見た目を思い浮かべ、作り方を調べる。

溶岩ステーキ···ぶあつい肉1個、とうがらし3個、石炭1個 料理用たき火

足りないのはぶあつい肉だけか。ぶあつい肉は、いっかくうさぎが落とす普通の肉より大きいはずなので、恐らくは上位種のアルミラージが落とすのだろう。てつのさそりとついでに狩りに行くか。

それ以外の素材は揃っている。料理に石炭を使うのはもったいない気がするが、仕方ないな。

 

「ベイパー、時間がかかりそうだけど、作れそうだぞ。待っていてくれ」

 

俺はベイパーにそう言い。アルミラージやてつのさそりを狩りに町から出た。バリケードの先の荒野に行くのは面倒だが、歩いて行った。

 

「夕方になるまで狩るか」

 

俺は荒野でまず、アルミラージを狙ってしゃがんで後ろから近づく。そして、思いきりてつのつるぎを降り下ろした。

アルミラージは体毛が厚く、心臓までは刺さらず、反撃してきた。体に力をためて、俺に向かって突進をする。

 

「これくらい余裕で避けれるな」

 

突進の速度はそこまで速くはなく、普通のいっかくうさぎと同じくらいだった。だが、途中では止まらずアルミラージは、角を土ブロックに突き刺してしまった。

「今のうちだな」

 

アルミラージの角は一度刺さるとなかなか抜けない。俺は今度は心臓に突き刺せると思い、アルミラージの体に思いきり剣を刺した。

角を抜く暇もなく、アルミラージの体は青い光になって消えていき、大きな生肉を落とした。

 

「やっぱり肉を落としたか。これで溶岩ステーキを作れる」

 

アルミラージを倒した後は、ウォーハンマーの素材を手に入れるためてつのさそりを倒したり、俺も溶岩ステーキを食べてみたいので他のアルミラージを狩ったりした。また、キメラのつばさを作りたいので、キメラも倒した。

てつのさそりは、回転斬りを使えば一撃で倒せるようになった。これからの襲撃でてつのさそりが来ても、簡単に倒すことができる。

キメラは、メラを使われる前に速攻で倒せるようになっていた。夕方になるころには、全員分のウォーハンマーを作れる分のさそりの角と、キメラのつばさを15個くらい作れる量のキメラのはねが集まった。

 

「素材も集まったし、そろそろ帰るか」

 

俺はさそりの角とぶあつい肉を全てポーチにしまうと、マイラの町に戻っていった。

町に戻ると、溶岩ステーキを作る前にゆきのへとヘイザンが神鉄炉を作っている途中の作業部屋を覗いてみた。

中で二人は、汗を流しながら熱い炉を加工している。今は半分くらいが出来上がっているようだった。

 

「やっぱりあの二人はすごいな」

 

その様子を見て、俺も手伝いたいと思うが、俺には鍛冶の知識はほぼないので、何も出来なかった。俺は作業部屋の扉を閉じて、調理部屋に入った。

 

「俺の分とベイパーの分で2つだな」

 

俺もベイパーと一緒に食べたかったので、溶岩ステーキを2個作る。

溶岩ステーキの味付けは、とうがらし100%で、ものすごく辛そうだった。俺は辛いのはまあまあ得意だが、食えるか不安になってきた。

 

「辛そうだけど、ベイパーに届けてくるか」

 

俺は溶岩ステーキが完成すると、ベイパーのところに持って行った。ベイパーは、お腹が減っているようで休んでいた。

 

「ベイパー、あんたの言ってた溶岩ステーキを作ってきたぞ」

「では、さっそくワシにくれ!腹が減って限界だったんだ」

 

素材集めをしていたとは言え、かなり待たせてしまったな。でも、腹が減った時に食べるほうがうまく感じる。

俺は1つをベイパーに渡し、一緒に食べ始めた。

溶岩ステーキはやはりものすごく辛いが、肉の味ととうがらしの辛さが合わさって、とてもうまかった。この世界に来てから、一番うまいかもしれない。

 

「ううむ!ううむ!うまいぞおおおおっ!これだけで心なしか、筋肉がついた気がするぞおおお!」

 

「こんなにうまいものが、アレフガルドで食えるとは思ってなかったぜ」

 

俺たちは一緒に溶岩ステーキを食べながら話を始めた。そして、ベイパーは衝撃なことを言った。

「実はな、雄也。ワシのベジタリアン宣言は今回で37回目なのだ」

 

ベジタリアン宣言が37回目だと!?もしかして、ベイパーは普通に肉を食べているのか?

 

「じゃあ、肉を食べたくなったらいつも、ベジタリアンをやめるって言ってるのか?」

 

「その通りだ。禁を破るのは慣れておる。それに、そもそもワシはベジタリアンではない」

 

やっぱりそうだったのか。本物のベジタリアンなら、そう簡単にやめたりはしない。

 

「アネゴの真似して、ベジタリアンまがいのことをしてみておるが、最高の筋肉を求めるワシには、やはり良質な肉料理が必要なのだ」

 

そう言って、ベイパーは溶岩ステーキを食べ終えた。今聞いたが、アネゴがベジタリアンだから、ベイパーもそれに合わせようとしたけど、やっぱりやめたと言うことか。

まあ、好きなものを我慢する必要はないと思うな。ベイパーが食べ終えて5分くらい後に、俺も食べ終えた。食べ終えた頃には、もう夜になっていた。

 

その日は、まだゆきのへたちの作っているし神鉄炉も完成せず、明日続きをすることになった。

俺たちも明日こそアネゴの救出に行くと思い、早めに眠りについた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode61 救出への準備

マイラに来て6日目の朝、俺は昨日聞けなかった、ギエラの頼み事を聞きに行った。こっちもベイパーの頼みと同じで、筋肉に関係していることなのだろうか。

ギエラは調理部屋で朝食を食べていて、俺も一緒にサボテンフルーツを食べながら、ギエラの頼みたいことについて聞いた。

 

「ギエラ、昨日俺に頼みたいことがあるって言ってたよな」

 

「ええ、アネゴ救出作戦も近いじゃない?そこでね、アタシちょっと考えたのよ」

 

アネゴ救出に関係していると言うことは、やはり筋肉をさらにつけたいとか言う話か?でも、ギエラはガロンやベイパーに比べたらそんなことを言わないんだよな。

 

「みんなの士気を高めつつ、心を落ち着けられる場所があったらいいなと思って」

 

こっちはベイパーが十分と言っていた士気を上げたいと思っていたのか。確かにそんな部屋があったらいいが、アネゴを早く救出しないといけないのに、作っている時間があるのかと思う。

だが、ギエラの言う通り戦いの前に心を落ち着けることも大切だ。何も考えずに突っ込んで行っても、勝つことはできないからな。なので、とりあえず聞くことにした。

 

「どんな感じの場所を作ればいいんだ?」

 

「新しく作らなくても、もうこのアジトにあるじゃない。気分を盛り上げつつ、高ぶる感情を抑える。こんなことをできる施設は一つしかないでしょう?」

ギエラが言う心を落ち着けられる場所はもうこの町にあるのか。気分を盛り上げることも出来ると言われたら、確かに一つしかないな。

 

「温泉のことだろ?」

 

温泉に入れば、みんなと話ができて気分が盛り上がるし、体にいい成分が入った湯につかって、心も体もリラックスすることができる。

ギエラは救出に行く前に、みんなで温泉に入りたいのだろうか。それなら、あまり時間も使わないな。

 

「そうよ!温泉よ!温泉に何か置いて、今よりもっとグレードアップしてほしいのよ!」

 

ギエラは温泉が好きだし、やっぱり温泉のことだったか。だが、みんなで入るだけで十分な気がするのに、何でわざわざグレードアップしたいんだ?

 

「別にグレードアップしなくても、みんなで温泉に入れば盛り上がれると思うぞ?」

 

「それは分かってるわよ。でも、これからアタシたちはアネゴ救出という大変なことをしないといけない。だから、より士気が上がる何かを温泉に飾ったほうがいいと思うのよ!」

 

みんながさらに盛り上がれるものがないと、アネゴ救出に向かえるほどの士気にはならないと言いたいのか。まあ、分からない話でもないな。何を飾ればいいかは分からないが。

 

「何を飾ればいいんだ?」

 

「剣の飾り物や、武器が描かれた壁掛けがあるといいわ」

 

それなら、メルキドで作り方を調べた剣のカベかけや、武器屋のカベかけ、防具屋のカベかけがあったな。

「それなら、いくつか作れるのがあるぞ」

 

「なら、雄也。温泉の中に素敵な飾りを置いて、アタシたちのマイラ温泉を今よりもっとグレードアップしてちょうだい!」

 

俺はギエラと別れて、飾りを作るために作業部屋に向かった。だが、作業部屋ではまだゆきのへとヘイザンが神鉄炉を作っている。

 

「先に調理部屋で染料を作ってくるか」

 

ずっと待っているのも暇なので、俺は武器屋と防具屋のカベかけを作るのに必要な染料を作りに、調理部屋に入っていった。

この世界では染料は、何故か料理用たき火で作るんだよな。加熱しないと作れないのは分かるが、それにしても料理を作るためのたき火で染料を作るのはどうかと思う。

俺はそんなことを気にしながらも、この前集めたあおい油とあかい油を使って、染料を作った。

 

「これで染料は出来たから、後は待つだけか」

 

俺は染料を作り終わった後、調理部屋から出ようとして気づいた。

鉄のインゴットとレンガがあるので、料理用たき火をレンガ料理台に強化できるはずだ。

 

「今気づいたけど、もうレンガ料理台に強化できるんだよな」

 

神鉄炉が出来たら、レンガ料理台も作るか。作らないといけないものが多いな。俺は料理用たき火を叩いて壊し、ポーチに入れておいた。

調理部屋から外に出て、俺は1時間くらい待っていた。そして、ついに神鉄炉が完成したようで、ゆきのへとヘイザンが作業部屋から出てきた。

 

「雄也、神鉄炉が完成したぜ!今日も朝早くから作業を始めて、やっと終わった」

 

「さっそく見に来てくれ」

 

二人に言われて、俺は作業部屋の中に入る。部屋の奥のほうの、炉と金床があった場所には、黒く輝く神鉄炉と金床が置かれていた。

しかも、その輝きは俺がメルキドで作ったものとは違い、なんと言うか、職人の魂が感じられた。

 

「すごいな、この神鉄炉。俺が作ったのと全然違う」

 

俺がその神鉄炉に見とれていると、後ろからゆきのへに話しかけられた。

 

「ワシとヘイザンが一日かけて作ったものだ。これを使って、どんな魔物にも対抗できる武器を作ってくれよ」

「ああ、もちろんだ」

 

二人が頑張って作ってくれた神鉄炉だ。大事に扱って、役に立てるようにしないとな。

俺はさっそくその神鉄炉を使い、まずは持っている鉄を全て鉄のインゴットに加工した。はがねインゴットを作るのにも、鉄のインゴットがいるからな。

 

「先に、レンガ料理台と壁掛けを作るか」

 

そして、俺はまず鉄のインゴットを使うアイテムを作り始めた。

武器屋と防具屋のカベかけと、剣のカベかけ。それからレンガ料理台を作った。

 

「これでギエラの言ってた温泉のグレードアップができるな。今すぐ置いてくるか」

 

鋼の武器をいくつも作るのは時間がかかるので、先に温泉に飾りを置いてくることにした。途中、調理部屋に入ってレンガ料理台を置いた後、温泉へと向かう。

温泉の部屋に入ると、ギエラが温泉につかっていて、俺が来たのを見て話しかけた。

 

「もしかして、温泉に飾る飾りを作ってきたの?」

 

「ああ、これから中に置くから、待っていてくれ」

 

俺は飾りが出来たとギエラに伝え、温泉の左の壁に武器屋のカベかけ、右の壁に防具屋のカベかけ、奥の壁に剣のカベかけを設置した。

3つの壁掛けを設置し終えると、ギエラはとても喜んでいた。

 

「ありがとう、雄也!温泉を素敵に飾りたててくれたのね!」

 

ギエラのいる位置から見ると、3つの壁掛けが一度に見渡せた。俺は特に何も思わないが、荒くれ者にとっては士気が上がるのだろう。

 

「温泉はマイラの象徴でもあるの。温泉を立派にしておけば、アネゴも喜ぶはずよ!」

 

温泉はマイラの象徴か···マイラは温泉で発展した町だからな。アネゴも温泉が好きらしいし、喜ぶかもしれない。

 

「···アネゴはよく言ってたわ」

 

俺が温泉のことを考えていると、ギエラは何かを思い出すように言った。

 

「何を言っていたんだ?」

 

「武器の発明に行き詰まったら、温泉に入るとリラックスして、気分転換できるって」

 

そう言えば、アネゴは武器の発明もしていたって聞いていたな。救出した後は、一緒に強力な武器を作っていけたらいいな。

だけど、何でアネゴは武器の発明を始めるようになったんだ?荒くれ者のリーダーがそんなことをするとは、あまり思えない。

 

「アネゴは、何で武器の発明をしているんだ?」

 

「アネゴは昔、発明家の助手のようなことをしていたの。その発明家が残した、手がかりをヒントに、魔物を倒す武器や兵器の開発を進めてたってわけ」

 

アネゴは発明家の助手をしていたことがあったのか。その発明家本人に会えれば、武器の開発も進むだろうけど、残したって言い方からしてその発明家はもう死んでるんだろうな。その人がいたら心強いのに、残念だ。

 

「それで、強い兵器は作れたのか?」

 

「いいえ、物を作る力があるとは言え、アタシたちはそこまでのことは出来ないわ。でもアタシは、アネゴが魔物にさらわれた理由も、そこにあるんじゃないかって考えてるわ···」

 

いくら武器の知識があったとしても、物を作る力が失われたこの世界では意味がない。でも、魔物は物を作る力を失っていないから、アネゴから情報を聞きだそうとしていると考えられるな。

こうなると、早く助け出さないと魔物に情報が知れ渡ってしまう可能性がある。魔物がアネゴに対して拷問をしていることも考えられるからな。

 

「それなら、アネゴを急いで助けないと、魔物がさらに強力になるな」

 

「ええ。でも、アタシたちの準備は終わったわ。今日のうちに、アネゴ救出に行けそうね」

あとは俺が鋼の武器を作ればアネゴの救出に出発できる。俺はギエラとの話を終え、再び作業部屋に入っていった。

そして、神鉄炉でまず大量の鉄のインゴットを作り、それをさらにはがねインゴットに加工する。はがねインゴットは、鉄よりもきれいに輝いていて、とても固そうだった。

 

「あとはこれで俺のはがねのつるぎとみんなの分のウォーハンマーを作るか」

 

はがねインゴットができると、それを使ってはがねのつるぎ1個とウォーハンマー4個を作った。はがねインゴットを9個も使ったが、まだ余っているのでアネゴのための武器も作れそうだ。

これで鋼の武器が出来たし、アネゴ救出作戦の準備は全て完了だな。みんなに教えてきて、魔物の城に乗り込むか。

みんなにウォーハンマーを届けようと、作業部屋から出ると、またガロンが慌てて俺のところに走ってきた。

 

「おい、雄也!大変だぜっ!」

 

まさか、こんな時に襲撃が来たのか!?もうすぐアネゴの救出に行こうとしていたところなのに。

 

「もしかして、魔物が来たのか?」

 

「ああ、城に攻めこもうとしているオレたちを見て、魔物どもが先手を打ってきたみてえなんだ!」

 

確かに、魔物から見れば城に攻めこまれるわけにはいかない。なんとしても阻止したいのだろう。

町の西のほうから、よろいのきし4体、まどうし4体、そして隊長のあくまのきし1体の、合計9体が町に迫ってきていた。あくまのきしはマイラでは初めて見る魔物だ。魔物たちも本気を出してきたな。

 

「アネゴを助け出すために、ここは何としてもしのがなきゃならねえ!」

 

「ああ、分かってる」

 

ここはひとまず迎え撃ち、それからアネゴの救出に行かないとな。俺はいつものように大声で、みんなを呼んだ。

 

「みんな、またしても魔物が来たぞ!」

 

「せっかくアネゴの救出が出来そうだったのに、さっさと倒すぞ」

 

「アタシも、魔物の城を攻めるためにも、必ず勝たないといけないわ」

 

今日は、アネゴの救出が近いこともあってみんなもやる気が高かった。それに、俺の作ったウォーハンマーがあるからな。

 

「みんな、このウォーハンマーを使ってくれ」

俺はゆきのへ、ベイパー、ギエラに一つずつウォーハンマーを渡す。ベイパーとギエラは、ウォーハンマーのことを知らないようで、聞いてきた。

 

「何だこのハンマーは?おおかなづちとは違うな」

 

「アタシも、見たことないわ。でも、おおかなづちより強そうね」

 

「それはワシらが作った神鉄炉で雄也が作った、ウォーハンマーってもんだ。おおかなづちよりずっと強いぜ」

 

俺が答えようとしたが、先にゆきのへが答えた。おおかなづちより強いと聞いて、二人もウォーハンマーで戦ってくれるようだ。ガロンは今回も戦わないだろうから、もう放っておくことにした。

俺たちが話をしていると、魔物たちは町のすぐそばに迫っていた。俺たちは武器を構え、その魔物の群れへと向かっていく。マイラの町の4回目の防衛戦が始まった。

「今回も魔物どもを斬り裂いてやるか」

 

俺は右手にはがねのつるぎ、左手にウォーハンマーを持ち、前衛のよろいのきしに斬りかかる。

よろいのきしは受け止めようとしたが、鋼の武器には敵わす、持っていた斧を落として体勢を崩した。

 

「まさか人間が、鋼鉄の武器を持っているだと!?」

 

よろいのきしたちは、俺たちが鋼の武器を持っていることは想定外だったようだ。まあ、分かっていたらメルキドの防衛戦のように、もっと大軍を連れてきたはずだな。

何とか反撃しようと、よろいのきしは盾を使い、俺のはがねのつるぎでの攻撃を受け止める。

 

「それくらいの盾で、受け止められると思うなよ!」

 

俺の攻撃を防いだ後、よろいのきしは斧を拾うつもりだったが、俺は左手に持ったウォーハンマーで盾を殴り、ひびを入れさせた。

 

「くっ!なんて威力だ!」

 

俺のウォーハンマーの衝撃が腕に伝わり、よろいのきしは怯む。

ゆきのへたちも、よろいのきしに有利に戦っていた。

 

「鋼の武器の力を思い知るんだな!」

 

「アネゴ救出の邪魔はさせぬぞ!」

 

「アンタたち、一人残らず叩き潰すわよ!」

 

3人ともウォーハンマーを力強く振り回し、よろいのきしの体を殴り付けていた。

ベイパーとギエラの筋肉の力で振り回されたウォーハンマーの威力は、俺の攻撃より遥かに高く、鎧を変形させ、斧や盾を砕いていた。

「なんだこの筋肉野郎どもは!?」

 

「くそっ、強すぎるぞ!」

 

みんなもよろいのきしを追い詰めていて、俺も止めをさそうと、怯んだよろいのきしにはがねのつるぎを突き刺そうとした。

だが、よろいのきしの背後には、俺たちの邪魔をする者がいた。

 

「我らの仲間に手を出すな、人間!メラ!」

 

4体のまどうしが、俺たちに向かってメラの魔法を放ってきた。俺はかわしきれないと思い、はがねのつるぎで魔法を防ぐ。

ゆきのへたちも、よろいのきしへの攻撃を中断せざるは得なくなった。

 

「あのまどうしを何とかしないといけないわね」

 

「ああ、叩き潰すぞ!」

まずはまどうしを倒さないと、他の奴を倒すのは難しそうだ。ギエラとベイパーは、ボロボロになっているよろいのきしから離れ、まどうしのところに向かった。まどうしは防御力は低いので、筋肉の力なら一撃で倒せるかもしれない。

しかし、その二人の前に、隊長のあくまのきしが立ち塞がった。

 

「人間め、本当に目障りなんだよ!」

 

あくまのきしは斧を横に一閃させ、ベイパーとギエラをなぎ払おうとする。もちろん二人はウォーハンマーを使って防ぎ、あくまのきしに反撃しようとする。

だが、またしてもまどうしが邪魔をしてきた。

 

「隊長には触れさせぬぞ!」

 

さすがの荒くれでも、一度に大量の炎が飛んできたら防げず、避けるしかない。

「どうだ、まどうしの力を思い知ったか!」

 

そして、まどうしに守られたあくまのきしは二人を叩き斬ろうと、斧を降り下ろす。

それでも、ウォーハンマーで弾き返しながらまどうしのメラを避け、少しずつあくまのきしの斧を破壊していった。

 

「俺はあのまどうしどもを倒すか」

 

あのまどうしの邪魔がなければ、二人ならすぐにあくまのきしを倒せるはずだ。俺がまどうしのところに向かおうとすると、瀕死のよろいのきしがどうにか俺を止めようと、たち塞がってくる。

斧も盾も砕かれたよろいのきしは、俺を腕で殴り付けてくる。だが、武器もないのに勝てるはずはない。それに、まどうしたちはあくまのきしを守るのに精一杯で、よろいのきしを守ることは出来なかった。

俺はよろいのきしたちの腕をはがねのつるぎで斬り落としていき、最後に剣を一回転させ、4体のよろいのきしの胴体を真っ二つにした。

 

「回転斬り!」

 

よろいのきしを全て倒すと、俺はまどうしたちに斬りかかっていく。すでにゆきのへがまどうしと戦っていて、残り3体になっていた。

 

「俺たちの邪魔はさせないぞ!」

 

俺は一番左にいたまどうしに向かって近づいていく。まどうしはそれに気づいて、メラを放ってくるが、遠距離だったので簡単に避けられた。

 

「うっとうしいビルダーだ。メラ!」

 

「その距離で当たると思ってるのか?

 

俺はメラをかわした後、ダッシュでまどうしに近づき、剣を降り下ろす。

となりのまどうしはそれに気づき、止めようとするが、ゆきのへに叩き潰された。

 

「ワシらを倒そうとすると、こうなるんだぜ」

 

そして、俺の目の前にいたまどうしははがねのつるぎで斬り裂かれ、死んでいった。まどうしは残り一体になり、俺は同じような方法で倒した。

これで、9体いたはずの魔物は、あくまのきし一体だけになっていた。

 

「何っ!?まどうしが全て倒されただと!?」

 

あくまのきしは自分を守ってくれるまどうしが全ていなくなり、さらに荒くれの二人に囲まれ、大ピンチになっていた。

 

「くそっ、こうなったら人間が鋼の武器を持っていることを報告して、援軍を呼ぶか」

 

追い詰められたあくまのきしは、他の魔物に報告するために逃げ出そうとした。

どうせは鋼の武器を持っていることを知られるが、今知られたらアネゴの救出が難しくなる。

 

「逃がすかよ!」

 

俺は走り出したあくまのきしの首に向かって、はがねのつるぎを投げつけた。

 

「ぐはあああっ!」

 

少し首からずれたが、はがねのつるぎはあくまのきしの体を貫き、生命力を消し去った。あくまのきしは援軍を呼ぶことは叶わず、倒れた。

 

「雄也、逃がしてしまうところだったが、ありがとうな」

「これで今度こそ、アネゴの救出に向かえるわね」

 

みんなはアネゴの救出作戦を始めるため、町の中に戻っていった。俺も、はがねのつるぎを拾ってから、戻った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode62 城への潜入

俺たちは4回目の防衛戦に勝った後、ガロンのもとに集まってアネゴ救出作戦の詳しい話を聞くことになった。

一人で行ったほうが潜入はしやすいのだが、こいつらはどうしてもついて行くと言いそうだし、どうしても見つからずに行けないところで、敵の攻撃を引き付けてもらうことが出来る。

なので俺は、今回の潜入ミッションに荒くれたちが来ることは断りはしなかった。だが、潜入するということを言わないと、魔物の群れに突っ込んでいきそうだし、その辺は俺から説明しないといけないな。

 

「アジトに迫ってきた魔物を倒したし、いよいよ、この時だっ!アネゴ救出作戦の始まりだぜ!」

 

ガロンがそう言うと、さっきまでは筋肉だの温泉だの言っていたベイパーとギエラの顔にも緊張が走る。

戦いで何もしていないガロンが仕切るのはおかしいと思うが、今は気にしないでおくか。

 

「それじゃあ、救出作戦についての説明を始める。心の準備はいいか?」

 

「もちろんだ」

 

心の準備は出来てるかと聞かれ、俺はもちろんだと言い、ベイパーとギエラは静かにうなずく。

それを見て、ガロンは説明を始めた。

 

「アネゴは魔物の城の中で捕まっている。これを助け出すのが、一番の目標だ」

 

アネゴの捕まっている城は広そうだが、その分隠れられる場所も多いはずだ。

アネゴのところまで気付かれずにたどり着き、救出したらすぐにキメラのつばさで離脱する。そうすれば安全に助けられるな。

 

「だが、そのためには、アネゴが入れられている牢屋を壊すための、強力な武器が必要になる」

 

そう簡単にアネゴをつれ出すことは出来ないってことか。でも、俺たちのウォーハンマーがあれば、牢屋の壁くらい壊せそうだが。

 

「さっき俺が作ったウォーハンマーなら、壊せるんじゃないか?」

 

「いや、そんなハンマーくらいでは、びくともしないくらいの強度だ」

 

ウォーハンマーでも壊せないのか···。

魔物たちにはすでにビルダーがマイラに来たことは伝わっているようだし、牢屋を強化したのかもな。

だが、それならどうやってその牢屋を壊すんだ?現段階では、鋼の武器以上に強いものは作れない。

 

「じゃあ、何を使えば壊すことができるんだ?」

 

「オレにも分からねえ。その武器を作るには、アネゴが研究していた発明メモに書かれている、いろんな兵器作りのおおもとになるマシンメーカーってもんがいるらしいんだ」

 

俺たちの知識では作れないから、アネゴが研究していた武器の発明メモを見て考えるってことか。

マシンメーカーって名前からして、剣やハンマーよりも、近代的な武器が作れそうだな。俺がずっと作りたいと思っていた、銃も作れるかもしれない。

 

「それで、その発明メモはどこに置いてあるんだ?」

 

その発明メモを見れば、マシンメーカーを作れるかもしれないな。アネゴ救出には、まだ準備がいるってことか。

俺は、そろそろ魔物の城に潜入するのだと思っていたが。

 

「実はその発明メモも、アネゴの囚われている魔物の城に隠されているんだ」

 

発明メモが魔物の城に置いてある?ってことは、まだ準備段階とはいえ、城には行くってことか。

 

「まずは発明メモを手に入れるために、魔物の城に行くってことか」

 

「ああ、救出作戦の第一弾として、魔物の城からまずはその発明メモを手に入れてくれ!」

 

でも、それだと二回も魔物の城に行かないといけなくなる。二回目に行った時は、俺たちが鋼の武器を持っていることや、アネゴを救出しようとしていることを魔物が全て知っているはずだから、ものすごい量の戦力を送り込んで来るはずだ。そうなれば、潜入は不可能になって、正面から立ち向かうしかなくなるだろう。

それなら、二度も危険な目に遭わないために、一回目だけでもやはり潜入をするべきだな。

 

「分かった。魔物に見つからないようにして、こっそり取ってきてやるぜ」

 

「おう、頼んだぜ!オレはお前たちの帰りを待ってるぜ」

 

ガロンはどうせ行かないし、俺は鋼の武器を持ち、旅のとびらに向かった。

すると、案の定ベイパーとギエラが俺に付いてきた。

 

「雄也よ、ワシもアネゴのためだ、共に行くぞ」

 

「アタシも、アネゴのためならどんな魔物だって叩き潰すわよ!」

 

この二人はまだ分かっていないようなので、俺は今回は敵に見つからないように潜入するぞ、と言った。

 

「あんたら、今回は魔物に見つからないようにしてほしい。でも、どうしても戦わないといけないのなら手伝ってくれ」

 

潜入とは言っても、発明メモの目の前に魔物がいる可能性があるので、戦う可能性があることも伝える。まあ、こいつらにしたらそっちのほうがいいんだろうけど。

戦闘が得意な二人に魔物を引き付けてもらっている間に、俺がこっそり発明メモを持ち出す。

ベイパーとギエラも分かったようで、うなずいた。

 

「お主はこの前もそんなことを言っていたからな。ワシらが行くのはもしものためだ」

 

「アタシも、魔物に見つからないよう努力するわ」

 

俺は二人が納得したのを見てから、旅のとびらに入った。二人も、俺に続いて旅のとびらに入っていく。

やがて、俺たち3人は灼熱の火山地帯へと移動した。

 

「ここが魔物の城がある火山の島か。すごく暑い場所だな」

 

ベイパーも俺と同じようにこの場所は暑いと思っているようだ。筋肉だらけの二人からは、汗がふきだしていた。

俺たちはその暑さに耐えながら、火山地帯を進んで行く。崖を降りるところもあって、30分くらいしてようやく魔物の城の入り口にたどり着いた。

 

「ここから魔物の城に行けるはずだ」

 

魔物の城の手前には、関所が二つあり、それを越えた奥の場所に、魔物の城の入り口らしき物が見える。

 

「アタシも聞いてはいたけど、来るのは初めてね」

 

「強い魔物がおりそうだが、恐れるほどではない」

 

俺から見ても、今までよりも強い魔物がいることが分かる。だが、恐れる訳にもいかないので、俺たちは一つ目の関所に向かって行った。

その関所には、特に門番などはおらず、普通に通り抜けることが出来た。ストーンマンがいたが、離れた場所なので見つかる心配はなく、俺たちは進んで行く。

関所を抜けると、二つ目の関所までの間に何体かのマドハンドがいた。

 

「マドハンドか···ここは砂漠の箱を使えばよさそうだな。みんなも体勢を下げてくれ」

 

俺は二人に体勢を下げるように言ってから、砂漠の箱を被った。ギエラは、砂漠の箱を見たことがないので、何なのか分からず小声で聞いてきた。

「雄也、アンタが被っている箱はなんだい?」

 

「これは砂漠の箱って言って、砂漠や荒野で身を隠せるんだ。二人は、俺の後ろに隠れてくれ」

 

俺は砂漠の箱について答えた後、ベイパーとギエラを俺の影に隠した。砂漠の箱は一つしかないから、見つからなくするには、そうするしかない。

俺たちはマドハンドに動いているところを見られないように進み、二つ目の関所に近づいて行った。

そこも普通に通れると思っていたが、なんとそこには、斧を持ったあくまのきしが2体待ち構えていた。関所の周りは全てマグマで、回避していくルートもなさそうだ。

 

「あのあくまのきし、どうやったら避けられるんだ?」

俺たちはしばらくあくまのきしの様子を見ていたが、まったく動く気配がない。夜まで待てば去る可能性もあるが、そんなに待てないな。

 

「雄也よ、こんなときは戦って突破するしかないぞ」

 

ベイパーの言う通り、ここは戦って倒したほうがいいかもしれない。幸い、魔物の城まではまだ距離があるので、戦っている音で気付かれる心配もないだろう。

 

「じゃあ、あいつらを倒して魔物の城まで向かうぞ」

 

「やはりワシらの活躍する機会もあったな!」

 

「アタシも戦う覚悟は出来てるわよ」

 

俺たちは立ち上がり、武器を構えて二つ目の関所に向かって行った。

あくまのきしたちも、俺たちに気づき、攻撃してくる。

 

「人間どもめ!」

 

「通しはせぬぞ!」

 

あくまのきし2体と同時に戦うのはかなり久しぶりだな。でも、ここのあくまのきしは隊長クラスではなさそうだし、そこまで苦戦はしないはずだ。

俺は降り下ろされた斧を、はがねのつるぎとウォーハンマーで弾き返す。

 

「通してくれないって言うのなら、お前らを倒して進むぞ!」

 

攻撃を弾き返され、2体のあくまのきしは少し怯む。そこに、ベイパーとギエラが殴りかかった。

 

「アネゴを帰させてもらうぞ」

 

「アタシたちに敵うと思わないでよ!」

筋肉の力が込められたウォーハンマーで殴られた魔物は、どんな奴であろうが叩き潰される。

あくまのきしの鎧は、みるみる内に変形して、潰されていった。だが、あくまのきしも何もせずに倒される訳にもいかず、体勢を立て直して斧で斬りかかった。

 

「忌々しい人間どもめ!我らをそう簡単に倒せはせぬぞ!」

 

「お前らに、捕らえた女を渡すつもりはないぜ!」

 

ギエラとベイパーは攻撃をかわすが、次の攻撃がなかなか出来なかった。

あくまのきしの攻撃速度が早くなり、威力も高まってきている。だが、2対3でこちらのほうが有利であることに変わりはない。

あくまのきしが荒くれの二人に集中している間に、俺は背後からはがねのつるぎを降り下ろす。奴らはそれに気づき、俺を止めようとしたが、荒くれにも囲まれたため、両方の攻撃を防ぐことは出来ない。

あくまのきしたちは荒くれのウォーハンマーで今度は兜を砕かれた。そして弱っている奴らにとどめをさすため、俺ははがねのつるぎとウォーハンマーに力を溜める。

あくまのきしは俺を止めようと斧を振り回すが、俺はその前に力を解放した。

 

「回転斬り!」

 

二つの鋼の武器の強力な一撃を喰らい、あくまのきしは青い光を放って消えていく。何もアイテムは落とさなかったが、これで先に進めるようになったな。

 

「これで、やっと魔物の城の内部に入れるな」

 

俺たちは二つ目の関所を抜け、さらに魔物の城へ近付いていく。途中、溶岩の池を渡らないといけない場所があった。

「マグマの池か。みんな、橋を作るから待っていてくれ」

 

俺はポーチにたくさん入っている土ブロックを使い、溶岩の池に橋をかけていく。そして、落ちないように慎重に渡っていった。

マグマの池を渡りきると、もう魔物の城は目の前になっていた。ギエラの言う通り、入り口は大きな黒い岩のブロックで塞がれていた。

 

「これが、アタシの言っていた魔物の城の入り口よ」

 

入り口はそこ以外になさそうで、ウォーハンマーで叩き壊して入るしかなさそうだ。だが、岩を叩き割る音が聞こえる可能性があるな。

それに、壊したところにいきなり魔物がいることもあり得る。でも、進まない訳にはいかないので、俺はウォーハンマーを振り上げ、一番下のブロックを破壊した。

 

「黒い岩のブロックになったか···これで塞げそうだな」

 

ウォーハンマーで叩き壊すと、その壁は黒い岩のブロックになった。壁に穴が開いていると侵入がばれてしまうので、みんなが入ってから塞いだ。

 

「とりあえず、これで魔物の城の中に入れたな」

 

魔物の城は地面が青いブロックで出来ていて、バリケードなども置いてあった。小部屋などもあり、隠れて進みやすい場所だな。

入ってすぐのところには、魔物はおらず、俺たちは一安心する。だが、慎重に進もうとしていると、魔物たちの会話が聞こえてきた。

 

「さっき、入り口の方から妙な物音がしたな」

 

「何かが侵入したかもしれん。確認に行くぞ」

 

そして、何体かのあくまのきしが俺たちのところに近づいてきた。俺はとっさに、小部屋に隠れるよう二人に言った。

 

「その左の小部屋に隠れるんだ!」

 

先にギエラとベイパーが見つからないように小部屋に入っていき、俺も続いて入った。

 

「とりあえず、ここにいれば大丈夫なはずだ」

 

その小部屋には、わらベッドとたき火が置いてあった。だが、その横に人間のものと思われる骨が置かれていた。

あまり居心地のいい場所ではないが、ここしか隠れる場所がない。

あくまのきしたちは、俺たちに気付かず、入り口の方に向かっていく。そこでは、俺が壁を元通りにしていたので、何の異常も見つけることは出来なかった。

「確かに物音が聞こえたはずだが···どういうことだ?」

 

「お前の聞き間違いだろう。警備に戻るぞ」

 

黒い岩はウォーハンマーで壊さないと砕けてブロック化しない。魔物は俺たちが鋼の武器を持っていることを知らないから、修理された可能性は考えていないみたいだ。

あくまのきしが元の位置に戻ると、俺たちはその小部屋から出て、先に進んでいく。

次にたどり着いたのは、今のあくまのきしもいる、大きな広間のような空間だった。そこにはまどうしとあくまのきしが、5体くらいいた。

 

「あくまのきしがこんなに大量にいるのか···絶対に見つからないようにしないとな」

 

幸い、その部屋には石材の原料となる大きな石がいくつか置かれていて、その裏に隠れられそうだ。

 

「みんな、あの石の裏に隠れて進むぞ」

 

俺たちは奴らが目をそらした隙に移動していき、反対側につくのに1時間くらいかかった。

大広間の反対側まで着くと、その先は長い通路になっていて、魔物もあまりいなかった。しかも、バリケードが大量に設置されていて潜入がかなりしやすい感じだ。

 

「多分この先にアネゴが捕まっている牢屋や、発明メモがあるんだろう。行くぞ」

 

その通路には、ときどきあくまのきしやまどうしが警備をしていたが、俺たちはバリケードの裏に隠れたり、砂漠の箱を使ったりしてやり過ごした。

そして、しばらくしてバリケードなどが置かれていない、大きな通路に出た。

その通路には、何体かのまどうしがいたが、また大きな石があったので、それを使って見つからないように進んでいった。

途中、ギエラに小声で話しかけられた。

 

「ここよ、ここにアネゴが捕まっているわ」

 

そう言って、ギエラは通路の右の方を指差す。そこには、青い壁で覆われて、最上段だけ通気孔のためか網目状になっているほとんど閉ざされた空間があった。

多分、あの中にアネゴが囚われるんだろうな。

俺たちは、通路から一旦離れてまどうしから隠れるため、アネゴの牢屋の近くに来た。

 

「すぐ近くにアネゴがいると言うのに、まだ助け出せないのだな」

「ええ、一回で救出できないのが残念ね···」

 

二人は、すぐ近くにいるのにアネゴを助けられないことを悔しそうにしていた。

一度戻って平気を作ってからまた乗り込む。それまでにアネゴが生きていればいいんだが。

俺たちはずっと魔物から隠れていて、少し疲れていたので、そこで休んだ。

すると、俺の目の前に羽根つきの帽子を被った男が立っていて、俺に話しかけてきた。こんな場所に派手な格好をしている人間がいるわけないし、幽霊だろうな。

 

「君は、僕の姿が見えるようだね。それで、こんなところに何をしに?」

 

「ここに捕まっている、アネゴと言う人を助けに来たんだ。今はそのために、発明メモを探しているところだが」

俺は、ベイパーとギエラに聞こえないよう、男の幽霊と話した。周りから見れば、独り言を言っているようにしか聞こえないからな。

俺がそのことを言うと、幽霊は気になることを言ってきた。

 

「だとしたら、やめておくんだね。あんな女を助けると、ろくなことにはならない」

 

「何を言ってるんだ?放っておいたら死ぬかもしれないだろ」

 

「別に構わないさ。何故なら、あの女が人殺しだからさ···」

 

アネゴが人殺しだと?でも、それなら今ごろ荒くれのリーダーなんてしているはずがない。もし本当に人殺しであっても、十分に反省しているはずだ。

そうでなければ、荒くれたちはついてこないだろう。

「あんたの言うことを信じない訳ではない。でも、仲間たちのためにも助けないといけない」

 

「やめておいたほうがいい。さあ、このまま引き返すんだ。人殺しのためなんかに、危険を冒すのはおかしいだろ?」

 

確かに、その幽霊の言うことは分かる。だが、荒くれたちがどうしてもアネゴを助けたいって言ってるし、今更引き返すことはできない。

俺は幽霊と別れ、ベイパーたちのところに戻り、再び先に進み始めた。

俺たちがいた大きな通路を抜けて少し進むと、先ほどのところより大きくはないが、大広間があった。

 

「そろそろ一番奥みたいだな」

 

そして、その大広間の奥が、この城の最深部のようだった。恐らくは、発明メモもそこにあるだろう。

俺たちは今までと同じようにその大広間を進み、一番奥の部屋にたどり着く。

その部屋には、やはり宝箱が置いてあったが、その前に巨体の魔物、トロルがいた。

しかも、そのトロルは全く動く気配がない。こうなったら、ベイパーとギエラに引き付けてもらい、発明メモを取り、キメラのつばさで帰るしかない。

 

「二人とも、あのトロルを引き付けてくれ。俺がその間に発明メモを手に入れる」

 

「ああ、任せておけ」

 

「行くわよ!」

 

ベイパーとギエラは、トロルのところに突っ込んでいった。それに気付き、トロルも巨大な棍棒を構える。

 

「人間め!宝は渡さんぞ!」

 

トロルは、ベイパーとギエラしかいないと思っている。二人は、トロルの視界に俺が入らないよう引き付け、俺は安全に発明メモを取ることができる。

 

「他の魔物が来るかもしれないし、今のうちだな」

 

俺はトロルの背後に回って宝箱を開け、発明メモを取り出した。ベイパーとギエラのほうを見ると、他の魔物にも襲われていてピンチになっていた。

 

「みんな、発明メモは手に入れた!帰るぞ」

 

ベイパーとギエラは、トロルの棍棒を避けて俺のところに来る。そして、俺たちはキメラのつばさを使い、町に帰っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode63 兵器の製造台

魔物の城で発明メモらしき紙を手に入れた後、俺たちはキメラのつばさを使って町に戻ってきた。

キメラのつばさがなければ、今ごろ俺たちは大量の魔物から必死の逃走をしていただろう。キメラのつばさって、改めてすごい道具だと思った。

それはともかく、ベイパーとギエラはマイラの町に戻ってこれて一安心していた。

 

「かなりの魔物がいたが、なんとか帰ってこれたな」

 

「アタシも、どうなるかと思ったわ、トロルやあくまのきしに囲まれるし」

 

俺も、さすがにトロルが出てくるとは思わなかった。ようがんまじんが、トロルのように強力な魔物を手下にしているとは思わないからな。

 

「俺も、この発明メモを手に入れられてよかったぜ」

 

「ええ、これでガロンの言ってた通り、強力な武器を作れば、今度こそアネゴを救出できるはずよ」

 

これでマシンメーカーとやらを作れるだろう。だが、まだアネゴの救出作戦はまだ始まったばかりだ。

今度は魔物たちも俺たちを警戒しているだろうし、もう潜入は不可能なはずだ。全力で戦って、アネゴのいる牢屋に向かうしかない。

 

「ああ、今度も手伝ってくれよ」

 

突入の時は、今まで以上に協力して戦うことが大切になる。ゆきのへにも来てもらわないといけないかもな。できればガロンにも協力してほしいが、どうせ来ないだろう。

「もちろん行くぞ、雄也。ワシは温泉に入るから、ガロンにも発明メモを見せてきたらどうだ?」

 

「アタシも温泉に入ってくるわね。戦いで疲れたし」

 

二人は今度も協力してしてくれるようだな。そのために体を休めるため、温泉に入るのか。

俺はその間に、ガロンに発明メモを見せに行った。ガロンは臆病者だが、一応荒くれのメンバーだから、教えないわけにもいかない。

俺は作業部屋に入り、中にいたガロンに話しかけた。

 

「ガロン、戻ってきたぞ」

 

「もしかしてその紙、発明メモを手に入れてきたのか!?」

 

ガロンは、俺が手に持っている発明メモの紙を見つけて聞いてきた。

「ああ、結構強力な魔物がたくさんいたけど、なんとか取ってきた」

 

「うおおおおーー!よくやったな、雄也!ついに強力な兵器を作れるぞ!」

 

何もせずに町で待っていたガロンにほめられても、何とも思わないのだが、まあ、これでアネゴを救出出来るとなれば、嬉しくなるのも分かるけど。

それに、強力な兵器があれば、町の防衛にも役立つことになるだろう。

ここは魔物の襲撃が激しいので、そういったものがあると本当に助かる。

発明メモのことを言うと、ガロンはそれを見せるように言ってきた。

 

「その発明メモを、ちょっとオレに見せてみてくれ···!」

 

俺もまだ手に入れて帰ってきたばかりで、何が書いてあるかはほとんど見ていない。

内容が気になるが、先にガロンに見てもらうか。

 

「分かった。なんて書いてあるか教えてくれ」

 

俺はガロンに、持っていた発明メモを渡した。ガロンは読み始めたが、途中で首をかしげるようなことをした。

 

「何だこのメモ?確かに、発明についての情報が書いてあるみたいなんだが、オレには難しすぎでよく分からん」

 

「ん?そんなに難しいことでも書いてあったのか?」

 

ガロンは脳も筋肉で出来ていそうだけど、そこまでバカな訳ではないだろう。そんなに難しいものだったら、俺でも読めないぞ。

 

「オマエでも分からないと思うぜ。本当に、何がなんだか分からねえんだ」

俺はガロンから発明メモを受け取り、一応読んでみる。すると、兵器の構造や部分の作り方などが複雑に書かれていて、俺でも全く分からない部分が多い。

一瞬でもガロンは頭が悪いんじゃないかと疑った俺のほうがバカなのかもしれない。

 

「本当だ。俺にも全く分からない。あんたのこと、頭悪いと思ってごめんな」

 

「そんな風に思ってたのか!?別にオレは頭は良くないけど、失礼だぞ」

 

「本当にごめんな」

 

俺はガロンに謝った後、もう一度発明メモに目を通す。説明などは複雑に書かれているが、絵も書いてあり、マシンメーカーの見た目も分かりそうだ。

 

「とにかく!これでマシンメーカーって奴が作れる訳だよな!」

 

「ああ、作りたい物の見た目が分かれば、後はビルダーの力でなんとかなる」

 

マシンメーカーの作り方はまだ分からないが、今手に入れられる素材で作れるといいな。

ガロンとの話が終わったら、早速作り方を調べるか。

 

「マシンメーカーがあれば、アネゴのいる牢屋を壊す強力な武器が作れるはずだぜ!」

 

強力な兵器と言うのは、まだどのような物かは分からないが、それを作って、アネゴを救出しに行くか。

だが、俺にはマシンメーカーを作りに行く前に、一つガロンに聞いておきたいことがあった。アネゴが捕まっている牢屋の前で出会った男の幽霊は一体誰だったんだ?

 

「ガロン、ひとつ聞きたいことがある。俺は、ビルダーの力の影響で幽霊と話せるんだが、アネゴの牢屋の前で、変なことを言う幽霊に会ったんだ」

 

「幽霊と話せる?そんなこと出来るわけねえだろ。幻覚じゃないのか?」

 

やっぱり、そう簡単には信じてくれないか。でも、俺はロロニアやタルバのような幽霊と何回か話をしている。

 

「本当の話だ。俺がここに来る前の場所でも、幽霊と話したことがある」

 

「もしそれが本当だとして、そいつは

何を言ったんだ?」

 

ガロンはまだ半信半疑のようだが、俺に幽霊が話したことについて聞いてきた。

 

「何故かは分からないけど、その幽霊の男は、アネゴが人殺しだと言っていたんだ。本当だとは思わないけどな」

 

「アネゴが人殺しだと!?その男が、そんなことを言っていたのか?そんなの、嘘に決まってるだろ!」

 

俺が男の話したことを言うと、急にガロンは慌て出した。本当に嘘なのか、隠そうとしているのか、それは分からなかった。

俺からしたら、嘘であることを願いたいが。

 

「その幽霊の話に構ってるひまはねえんだ!さっさと、アネゴを助ける準備にかかろうぜ」

 

今は確かに、アネゴが人殺しかなんて関係ないな。あの男は、人殺しを助ける必要はないなんて言ってたけど、よっぽど勝手な理由で殺したのでもなければ、人殺しでも助けるべきだと俺は思う。

 

「雄也、オマエはまずマシンメーカーを作ってきてくれ。それが出来たら、アネゴのいる牢屋をぶっ壊す兵器を一緒に考えようや!」

「ああ、じゃあマシンメーカーを作ってくる」

 

俺はそこでガロンと別れ、マシンメーカーを作りに作業部屋に入った。

マシンメーカーは恐らく、発明メモの中にあった作業台の形をした物のことだろう。そして、その作業台の上に兵器を作るための器具が置かれている。

俺はその作業台を頭の中に思い浮かべ、マシンメーカーの作り方を調べる。

マシンメーカー···鉄のインゴット8個、マグマ岩3個、ガラス1個 鉄の作業台

やっぱりこれがマシンメーカーで合っていたのか。材料は、二つ持っていない物があるな。

鉄のインゴットは在庫が大量にあるが、マグマ岩とガラスは持っていない。

マグマ岩と言うのは、火山地帯のマグマの近くにある赤黒いブロックのことだろう。たくさんあるけど、熱いし採取は危険そうだな。ガラスは自然には落ちていないだろうし、作らないといけなさそうだ。

俺は今度は、ガラスの作り方を調べた。

ガラス···砂5個、石炭1個 炉と金床

砂と石炭なら、俺はかなりたくさん持っている。それと、炉と金床の上位版である神鉄炉と金床でも作れるはずだ。

 

「ガラスは今すぐ作っておくか」

 

俺は、マグマ岩を取りに行く前に先にガラスを作っておくことにした。神鉄炉の中に砂と石炭を入れ、それに魔法をかける。

すると、炉の中からガラスの塊が10個も同時に出来ていた。

 

「ガラスって一度に10個も出来るのか。一個で充分なんだけどな」

 

マシンメーカーを作るにはガラスは1個あれば大丈夫だ。これだと、ガラスが9個も余るな。

まあ、ガラスは他にも使う機会があるかもしれないか。

 

「ガラスが出来たし、次はマグマ岩を取りに行かないとな」

 

俺はガラスを作業部屋の収納箱に入れた後、ウォーハンマーを持って青い旅のとびらに向かう。

マグマ岩は結構固そうなので、ウォーハンマー辺りがないと壊せないだろう。

俺は旅のとびらを抜けると、魔物の城と反対側にある火山地帯に向かった。その火山地帯は、マグマから離れた場所にもマグマ岩があり、安全に採掘できる。

 

「あっちなら、簡単にマグマ岩が取れそうだな」

 

俺はその火山地帯に向かって歩いていく。途中には、白い岩で出来た岩山があったが、もう俺は崖登りには慣れているので、簡単に火山地帯にたどり着いた。

火山地帯に着くと、出来るだけマグマから離れ、海の近くにあるマグマ岩に向かってウォーハンマーを降り下ろす。

すると、固いマグマ岩も砕けてブロック化し、俺はそれを拾った。とても熱くてやけどしそうだったので、すぐにポーチの中にしまう。

魔法のポーチになら、何を入れても安全だからな。俺は同じように残り二つ、マグマ岩を集め、町に戻っていく。

 

「魔物の城に行ったり、マグマ岩を集めたり大変な日だったな」

 

距離が近いので、キメラのつばさを使わず徒歩で旅のとびらにたどり着いたが、空を見上げるともう太陽が沈みかけていた。

 

「もう今日も終わりか。アネゴ救出は明日になりそうだな」

今日はマシンメーカーを作って、兵器のことを考えたら夜になるだろう。アネゴを早く助けたいが、突入は明日になるな。

旅のとびらをくぐり、町に戻ってくると、俺はマシンメーカーを作るため、再び作業部屋に入った。材料は揃っているので、今すぐ作れるだろう。

 

「マシンメーカーを作ったら、銃も作れるか試してみるか」

 

マシンメーカーなら、恐らく銃が作れるようになるだろう。弾切れになる可能性があるが、魔物の城への突入もしやすくなるはずだ。

そのためにも、まずは俺は鉄のインゴット、マグマ岩、ガラスに魔法をかけ、マシンメーカーを作り出す。

 

「これがマシンメーカーか、あの絵に書いてあるのと同じだな」

 

マシンメーカーは、作業台の部分が深緑色で、その上に何種類かの器具が置かれていた。使い方は分からないけど、ビルダーの魔法ならどうにかなるはずだ。

マシンメーカーが完成すると、次は俺は銃の作り方を調べた。マシンガンやスナイパーライフルなどの強力な銃は作れるか分からないが、ハンドガンやサブマシンガンなどの、メタルギアでなセカンダリウェポンと呼ばれる小型の銃なら作れるかもしれない。

俺は試しに、ハンドガンとサブマシンガンの作り方を調べた。

ハンドガン···鉄のインゴット1個、ばね1個 マシンメーカー

サブマシンガン···鉄のインゴット2個、ばね2個 マシンメーカー

 

「やっぱり銃も作れるんだな」

 

鉄のインゴットで銃身を作り、ばねで弾を撃ち出すのだろう。俺は、銃を作るためにばねの作り方を調べる。

ばね···鉄のインゴット1個 マシンメーカー

これも鉄のインゴットか···マイラでは鉄を使う機会が多いな。なくならないように注意しないと。

ばねの作り方を調べた後、俺は強力な銃器の作り方も調べたが、マシンメーカーでは無理なようだ。これでアネゴの牢屋を壊す兵器が作れるか不安になってくるが、ガロンが言ってたし、大丈夫だろう。

 

「とりあえず、ガロンに教えてくるか」

 

銃が作れることは分かったので、俺はまず、ガロンにマシンメーカーが出来たことを報告しに行くことにした。ガロンは外にいるので、俺はマシンメーカーを作業部屋の隅に設置し、出ていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode64 強力なる大砲

俺はマシンメーカーが完成した後、ガロンにそのことを話しに行った。

今日はもう夜だから、話が終わったらもう寝るか。アネゴの救出に備えて、体を休めておかないといけないからな。

俺は寝室に入り、そこにいたガロンに話しかける。

 

「ガロン、マシンメーカーを作って来たぞ」

 

「おお!すげえじゃねえか!さっきから大して時間も立ってねえのに、もう出来たのか」

 

ガロンはこんなに早く出来たのかと、とても驚いていた。

確かにあんな複雑な作業台は作るのに時間がかかりそうだけど、ビルダーの力を使えば簡単だ。

 

「ああ、ビルダーの力を発動させればすぐに作れる」

「こいつがビルダーの力って奴なのか···筋肉もろくにないのに、何でこんな力があるんだろうな?」

 

ガロンもついに俺のことをボディビルダーとは言わなくなったか。それでも、筋肉のことを話すのはやめてはいないが。まあ、こいつらが筋肉の話をやめるのは永遠にないだろうけど。

俺はとりあえず話を切り替え、強力な兵器について相談した。

 

「もう筋肉の話はいいから、アネゴの牢屋を壊す兵器の話をするぞ」

 

「分かってるよ!雄也、何かこう、ドッカーンとど派手に牢屋を壊す兵器···何か思い付かないか?」

 

つまり、爆発の衝撃で牢屋を破壊すると言うことか。

爆発と言ったらまほうの玉やグレネードだけど、マイラにはばくだんいわがいないから作れないんだよな。

それ以外に爆発を起こせる兵器か···思い付かないな。ミサイルとかは、さすがに作れないし。

 

「まほうの玉って奴なら爆発を起こせるんだけど、素材がなくて作れない。ガロンは何か思い付かないのか?」

 

俺が何か思いつかないかと聞くと、ガロンはしばらく考え始める。そして、少したって何かを閃いたようだ。

 

「そういや、アネゴの話してた兵器の中に大砲って奴があったぜ」

 

大砲か···確かに、着弾したところで爆発を起こすから、牢屋も破壊できるかもしれない。

それに、大砲は結構仕組みが簡単そうだし、マシンメーカーでも作れそうだ。

 

「それなら壊せるかもしれない。ありがとうな、ガロン」

「気にするな。アネゴを助け出すためだ」

 

俺が感謝の言葉を言うと、ガロンはアネゴのためだと言う。それなら、ガロンも魔物との戦いに参加して欲しいんだけどな。

俺はそんなことを考えながら、大砲を頭の中に思い浮かべて、作り方を調べた。

大砲···鉄のインゴット5個、木材3個、マグマ電池3個 マシンメーカー

鉄のインゴットはまだたくさん残っているからいいんだけど、残りの二つはどうやって手に入れるんだ?

木材を作るための原木を落とす木がどこにも生えていないし、マグマ電池なんて見たことも聞いたこともない。

だが、木材は時間はかかるけど確実に手に入れられそうだ。

「そう言えば、火山地帯に切り株があったけど、あれを壊せば苗になるはずだ」

 

これまで木を切ると切り株が残り、その切り株は壊すと苗に変わる。マイラでもそれは同じはずなので、苗を植えて木材を集めることが出来るはずだ。

 

「今日のうちに木を植えておくか」

 

木を育てるのには野菜と同じように、1~2日かかるだろう。今日のうちに植えておいたほうが、アネゴの救出に早く行ける。

俺はかなり疲れていたが、青いとびらに入り、切り株を探しに行った。切り株はいくつかあったし、木材は多くの使い道があるから、なるべくたくさん

植えておいたほうがいいな。

俺は旅のとびらから進んで、崖を降りて行った。確か、切り株は崖の下にあったはずだ。

「夜なのに崖を降りるのは大変だな」

 

俺は崖登りに慣れてはいるが、真っ暗な夜にしたことは初めてだ。俺はいつも以上に慎重に降りていき、切り株を探し始めた。

暗いところでは、切り株も見つけにくいが、昼間来たときにだいたいの場所を覚えていたので、すぐに集めることができた。

 

「これであとは植えるだけだな」

 

5個の苗を手に入れた俺は、来た道を戻って町へ帰って行った。手に入れた木が何の木なのかは分からないが、木材に使える木ではあるだろう。

町に着いた時には、地球で言えば午後9時くらいの時間になっていた。この世界では、その時間になるとみんなが寝ている。

「俺も木を植えたらすぐに寝るか」

 

俺は町の何もない場所に5つ木を植えてから寝室に入った。寝室では、もう全員が寝ていて、俺も眠りについた。

 

マイラに来て7日目、ついにここに来てから一週間か。俺は目が覚めると、さっそく昨日植えた木の様子を見に行った。

 

「どのくらい育ってるんだろうな?」

 

俺がその場所を見に行くと、苗は小さめの杉の木になっていた。あの苗は杉の苗だったのか。

しかし、ブナの木やヤジの木に比べると、大きさがかなり小さかった。杉はそこまで小さい木ではないので、まだ成長途中なんだろうな。他の準備もまだしていなし、今日もまだ救出には向かえなさそうだな。

俺が木の前に立っていると、ガロンに話しかけられた。

 

「おいおいっ!大砲を作るっていってたのに何で木を植えてんだ?」

 

ガロンは大砲に木材を使うことを知らないから、そう言うのも分かるな。俺も大砲に木材が必要と言うのは驚いた。

 

「何か知らないけど、大砲を作るのに木材が必要なんだ」

 

「そうなのか?マイラには枯れ木しかねえから、育てようとしてるってことか」

 

木がないと言うのは、これまでにはなかったことだが、切り株は残っていて良かった。もう1日ほど待たないといけなさそうだけど、これで大砲が作れるはずだ。

 

「そういうことだ。大砲を作るのにはもうすこし時間がかかる。ガロンもその間に、全ての準備をしておいてくれ」

木材を手に入れたら、大砲を作ってすぐに魔物の城に乗り込む。出来る準備は今日のうちにしておかないといけない。

 

「分かったぜ。準備を整えて、必ずアネゴを救出しようぜ!」

 

「分かってる。みんなのためにも必ず助けに行くぞ」

 

ガロンはいつも以上にやる気があるな。これなら、アネゴの救出のために魔物の城に来るかもしれない。

とりあえず俺はと別れ、作業部屋に入った。今日は、マグマ電池と大砲の弾を作っておくか。

俺は昨日も見た発明メモをもう一度見て、マグマ電池らしき物を探す。すると、電池のような構造をしている物が見つかった。

 

「これがマグマ電池だろうな」

俺はそれを見ながら、マグマ電池の作り方を調べる。

マグマ電池···マグマ岩3個、銅のインゴット1個 マシンメーカー

銅のインゴットは持っているからいいんだけど、やっぱりマグマ岩もいるんだな。

俺は集めに行く前に、大砲の弾の作り方も調べた。

大砲の弾···鉄のインゴット1個、マグマ岩1個 マシンメーカー

こっちにもマグマ岩が必要なのか。まほうの玉はばくだんいしの力で爆発を起こしたけど、大砲の弾はマグマの力で爆発を起こすんだな。

 

「マグマ岩って、結構使い道が多いな」

 

俺はマグマ岩を集めるため、青の旅のとびらに入っていく。マグマ岩はこれからも使う可能性が高いので、たくさん集めておかないとな。

今日は、魔物の城がどんな様子になっているかも気になったので、先にそっちを見に行った。

すると、この前は敵がいなかったはずの一つ目の関所にもあくまのきしが配置され、その後ろにも大量の魔物がいた。この前潜入した時と比べたら、5倍以上の戦力だろう。

 

「やっぱり、もう潜入は無理っぽいな」

 

出来れば今回も潜入で行きたかったが、一度潜入したことがバレているので、魔物も対策を取っている。突入するのもかなり厳しそうだが、それしか方法が思い付かないほどの敵の数だ。

 

「今は、マグマ岩を集めるか」

 

見つかったらまずいので、俺はそこを離れてマグマの池の近くに行った。そこで、俺はウォーハンマーを降り下ろしてマグマ岩を集めていく。

落ちないように気をつけながら、50個くらいは集めることが出来た。

マグマ岩が集まると、俺は結構旅のとびらから離れた場所にいたので、キメラのつばさを使って町に戻っていった。歩いて帰ると、45分くらいかかって大変だからな。

町に戻ると、さっそくマグマ電池と大砲の弾を作りに作業部屋に入る。

 

「これと後は銃を作ったら、俺の準備は完了だな」

 

俺はまず、マグマ電池を作り始める。マグマ岩と銅のインゴットに魔法をかけ、電池の形に変化させていく。しかも、途中で数が増えていき、5個のマグマ電池を作ることができた。

 

「これは一度に5個もできるのか。すぐに大砲が作れる量になったな」

大砲はマグマ電池3つでいいので、これで十分だな。

次に俺は、大砲の弾を作り始めた。マグマ岩を鉄のインゴットで包んで、まほうの玉のような構造にする。これも、一度に5個作ることができた。

 

「大砲の準備はできたな。後は銃を作ろう」

 

マグマ電池と大砲の弾を作り終えた俺は、今度は銃を作る。

ハンドガンとサブマシンガンのうち、俺はサブマシンガンを作った。ハンドガンより、こっちのほうが強そうだからな。

 

「これがサブマシンガンか、実物を見るのは初めてだな」

 

ゲームでよく見るようなかっこいい銃を作ることが出来た。銃の本体が出来たので、今度は銃弾の作り方を調べた。鉄や鋼を使えば、弾が作れるはずだ。

鉄の弾丸···鉄のインゴット1個 マシンメーカー

はがねの弾丸···はがねインゴット1個 マシンメーカー

どっちもマシンメーカーで作れるな。鋼のほうが強いはずなので、俺ははがねインゴットをマシンメーカーで加工した。

すると、20個のはがねの弾丸が出来た。だいたい予想はついてたけど、一度に大量に作れたな。俺はさらに4回ビルダーの力を使い、合計100個のはがねの弾丸を作り出した。敵も大量にいるが、このくらい用意しておけば戦いもかなり楽になるはずだ。

 

「これで、俺はほとんどの準備が終わったな。あとは明日、大砲を作るだけだ」

 

その日は、その後探索には行かず、町でゆっくり過ごしていた。戦いの前に体力を消耗するのはよくないからな。そして、夜はかなり早めに眠りにつき、体を休めた。

マイラに来て8日目の朝、俺はさっそく杉の木の様子を見に行った。すると、かなり大きめの木になっていて、地球の山にある杉と変わらない大きさだった。

俺はウォーハンマーで叩き、原木を集める。5本木があったので、10個の原木を手に入れることが出来た。

 

「これでやっと、大砲が作れるな」

 

俺は原木を作業部屋に持っていき、まず鉄の作業台で木材を3つ作った。

杉は木造建築にも使われるし、結構いい木材のはずだ。俺は木材が出来上がると、それをマシンメーカーのところに持っていき、大砲を作り始めた。

 

「これでやっと、アネゴの救出に向かえるな」

 

俺は鉄のインゴット、マグマ電池、木材に魔法をかけて、合体させていく。合体すると、それは大砲の形に変化していった。

俺は出来上がった大砲を持つと、寝室にいたガロンに教えに行った。

 

「ガロン、かなり遅くなったけど、大砲が完成したぞ」

 

そして、俺はポーチから大砲を出して、ガロンに見せる。大砲は普通だったらものすごく重い物だが、この世界では普通に持てるほどだ。それでも、少しの重さは感じるが。

ガロンは、大砲を見るととても驚いたような表情になった。

 

「うほおおおおー!雄也、これが大砲か!すげえっ、すげえぞ!」

 

確かに俺も大砲を見るのは初めてだな。巨大な弾を発射することができて、ものすごく強そうだ。

 

「俺も大砲なんて初めて見たぜ」

 

「雄也もそうだったか。兎に角、この大砲があればアネゴが入れられてる牢屋もぶっ壊せるって訳だ!」

 

俺が昨日作った大砲の弾、あれが炸裂すれば牢屋なんて簡単に壊せるだろう。爆風も牢屋にぶつかって消えるはずなので、中にいるアネゴも無傷で済むはずだ。

 

「おお!アネゴ!ついに助けに行けます!魔物に捕まり、さぞ恐ろしい責め苦を···」

 

「でも、今日俺たちが解放してやれる。みんなにこのことを教えるぞ」

 

俺が来てからも8日たっているし、その前からも捕まっていたらしいので、アネゴの体力もそろそろ限界なはずだ。それに、ガロンの言う通り拷問されていてもおかしくはない。

今から作戦会議を始めて、終わり次第救出に向かおう。

 

「おう、いよいよだぜ、雄也!アネゴ救出作戦の第二弾の決行だ!大砲をひっさげて、アネゴを助けに行こうぜ!」

 

「もちろんだぜ、ガロン!」

 

俺がそう返事をすると、ガロンは走ってベイパーとギエラを呼びに行った。

ついに、アネゴという人を救出する時が来たんだな。俺は、これまでで一番緊張していた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode65 決死の突入(前編)

しばらく旅行に出かけていて書けませんでしたが、今日から再開します。

今回もかなり長くなるので、前編と後編に分けました。


俺が大砲を作ったことをガロンに知らせると、ガロンは荒くれのみんなを呼びに行った。

2分くらいたって、ベイパーとギエラを連れ、俺のところへ戻ってくる。

 

「雄也!ついにアネゴを救出するための兵器ができたのだな!」

 

「よくやったわ!今度こそあの牢屋を壊せるはずよ」

 

二人は、ついにアネゴの救出に行けるということを聞き、とても喜んでいた。それと同時に、魔物の城にもう一度乗り込むことへの緊張感も持っていた。

荒くれたちの目標であったアネゴ救出···長い準備があったけどようやく決行できるんだな。そう考えると、俺も緊張がこれまで以上に高まってくる。

 

「俺もみんなも準備完了のはずだ。ガロン、作戦について話してくれ」

 

そして、俺の合図でガロンはアネゴ救出作戦の話を始める。

 

「分かった、話を始めるぜ!救出の方法は簡単だ、もう一度魔物の城に乗り込むぜ!」

 

ガロンの話しを聞き、ベイパーとギエラも納得する。

 

「それで、強力な兵器を使ってアネゴの牢屋を壊すのだな!」

 

「アタシたちなら、必ず成し遂げられるわね」

 

確かに、ガロンの言う通り、アネゴのいる牢屋まで到達し、その牢屋を壊す、とても単純な作戦だ。だが、その遂行は困難を極めるだろう。

今回は魔物も俺たちを警戒していて、城には比べ物にならないほどの敵がいる。

俺はそのことを、みんなに伝えておいた。

 

「そんな簡単ではない。少し見てきたんだけど、この前の何倍も敵がいる。もう潜入は不可能だろうな」

 

だが、そのことを聞いてもベイパーとギエラは恐れる様子は無かった。

 

「心配することではない。何のために筋肉があると思っておるのだ?」

 

「アンタの作ってくれたハンマーで、どんな敵でも倒して見せるわ」

 

まあ、もともとこいつらは筋肉をつけて魔物の群れに突入していくつもりだったからな。

これまで強化してきた筋肉が、ついに役立つ時が来ると来たんだな。

 

「そうだな。俺たちの力があれば、どんな魔物でも必ず倒せるはずだ。準備も出来たし、そろそろ行くか」

俺は改めて魔物を倒し、アネゴを助けると言う決意を固めた。それに続くように、ベイパーとギエラも旅のとびらに向かっていく。

しかし、ガロンはまたしても町に残ろうとしていた。

 

「オレは、みんなの分までここを守ってる!今度こそアネゴを助け出してきてくれよな!」

 

町の守りはゆきのへに任せられるし、今回の作戦では少しでも戦力を増やすことが必要だ。それなのにこいつは、まだ戦う気がないのか?

俺たちはイライラしてきて、ガロンを軽蔑するような冷たい目で見た。

 

「いい加減にしろ、ガロン。あんたは大切な人がの命が懸かっていると言うのに、戦う気がないのか?」

「ガロン、お主のアネゴを思う気持ちはその程度だったのだな」

 

「こんなのがアタシたちの仲間だなんて、恥ずかしいわね」

 

俺たち3人に冷たい目で見られ、ガロンは耐えきれなくなったのか、ついに付いてきてくれると言った。

 

「分かってる!分かってるよ!そんな粗大ゴミを見るような目で、人を見るな!誰あろう、アネゴのためだ!めちゃめちゃ怖えけど、オレも行くぜ!」

 

ついに自分が臆病だということを認めたな。それはともかく、これでこっちは4人で魔物の城に乗り込める。

過酷な戦いになることは変わりないだろうけど、少しは勝ち目が上がるはずだ。

 

「じゃあ、ガロンも加わったところで今度こそ行くぞ!」

俺たち4人は、魔物の城からアネゴを助け出すため、旅のとびらに入っていった。

 

その頃···

 

魔物の王 竜王の間

 

雄也たちがアネゴの救出のため、魔物の城に向かっている時、竜王の城では一体のマイラの魔物が、竜王に謁見していた。

 

「竜王様、マイラの人間どもが我々が捕らえている女を解放しようと動き出した模様です」

 

竜王は、ビルダーがメルキドとリムルダールを復興し、今度はマイラの復興を始めたという情報は聞いていた。

だが、マイラの魔物が強力なのもあり、大して心配はしていなかった。

 

「そのくらい分かっている。そなたらの力で蹴散らせばいい」

 

竜王はそう言うが、マイラの魔物は必ず勝てるとは思ってはいない。これまで4回、人間の拠点に攻めこんだが、生きて帰った仲間は誰もいなかった。

 

「ですが、竜王様。人間は我々が思っているより屈強です。増援を派遣して頂けないでしょうか」

 

竜王には、しにがみのきしやダースドラゴンと言った、とても強力な直属の部下がいる。彼らを派遣してもらえば、魔物の勝ち目が上がるはずだ。

竜王は、マイラの魔物が思っていた者とは違う手下を派遣した。

 

「それなら、わしの影をマイラの地へと送る。ビルダーの力を、また試したいと思っていたしな」

 

竜王の影はまだ、ビルダーである雄也の戦闘能力を確かめたことがなかった。それを試すのも目的で、竜王は4体の影を放つ。

「ありがとうございます。竜王様」

 

竜王が自身の影を送ってくれると聞き、マイラの魔物は安心して謁見を終えた。

 

 

 

一方、雄也たちは火山地帯を15分くらい歩き続け、魔物の城に続く関所の前にいた。

一つ目の関所には、あくまのきしが2体いる。その先には、さらに多くの敵がいるだろう。

 

「雄也の言う通り、この前より敵が増えているわね」

 

「だが、ワシの筋肉には敵わぬな」

 

それでもベイパーとギエラは恐れずに、ウォーハンマーを持って立ち向かって行こうとする。

しかし、まだガロンは少し怯えている様子だった。

 

「あ、あんな魔物どうやって倒すって言うんだ!?」

 

そう言えばガロンにはまだ、武器を渡していなかったな。でも、俺はガロンがアネゴ救出に来てくれると信じていて、もう一つウォーハンマーを作っていた。

 

「このハンマーを使ってくれ。あんたなら使えるだろ?」

 

「こ、これを使えばいいんだな。なら、やってやるぜ!」

 

ガロンはウォーハンマーを受け取ると、軽々と持ち上げ、関所に向かっていった。俺たちもそれに続き、武器を構えて走り出す。

 

「やはり来たか人間め!ここは絶対に通しはせぬぞ!」

 

俺たちに気づくと、あくまのきしも斧を構えて、斬りかかろうとする。

あくまのきし2体なら、サブマシンガンを使わなくても倒せそうなので、弾を節約するため俺ははがねのつるぎとウォーハンマーを使って戦う。

 

「お前らなら、新しい武器を使わなくても倒せるぜ!」

 

俺は荒くれたちの前に出て、左からの攻撃をウォーハンマーで、右から攻撃をはがねのつるぎで受け止める。

 

「くっ、ビルダーの野郎。我らも負けはせぬぞ!」

 

あくまのきしは俺の武器を弾き飛ばそうと力を入れる。鋼の武器を持っているが、かなり腕に痛みが走った。

このままでは押しきられるが、後ろで3人の荒くれがウォーハンマーを振り上げていた。

 

「別に俺の剣を弾き飛ばせても、お前らに勝ち目はないぜ」

俺がなんとか攻撃を止めている間に、みんなはあくまのきしの頭を殴りつける。

このあくまのきしは鍛えられているようで、兜の形が大きく変形したものの、まだ倒れはしなかった。

だが、そこに俺は回転斬りを放つ。ケッパーから教えてもらったこの技は、本当に強い。

 

「これでも喰らえ、回転斬り!」

 

「ぐはあっ!」

 

しかし、2体同時に倒せると思っていたが一体がもう一体を庇って、回転斬りを受けた。二刀流での回転斬りをまともに受け、そのあくまのきしは倒れた。

しかし、もう一体のあくまのきしは生き残り、仲間が倒されたことに怒り狂っていた。

 

「よくも、よくも我の仲間を殺してくれたな!貴様ら、絶対に生きては返さんぞ!」

 

あくまのきしはもの凄いスピードで俺たちに斧を降り下ろしてくる。この攻撃は、メルキドの5回目の防衛戦でも戦った、狂ったあくまのきしと同じだった。

あくまのきしは魔物ながらも仲間を大切にする気持ちがあるようで、目の前で仲間が殺されると怒り狂う。

 

「くそっ、あくまのきしはこの状態になると手がつけられない」

 

怒り狂ったあくまのきしは、俺たちに向かって回転斬りや魔神斬りを放つ。魔物にも感情があるのは分かるが、だからといって殺される訳にはいかない。俺はあくまのきしを止めるため、サブマシンガンを取り出した。

 

「こうなったら、サブマシンガンを使うしかないな」

 

俺はサブマシンガンを連射し、あくまのきしの心臓を狙う。だが、素早く動くのでなかなか当てられなかった。

そんな時、ガロンがあくまのきしの一瞬の隙を見て、殴りかかる。ガロンは短気なので、なかなか倒せないのにいらだって来ているのだろう。

 

「おとなしくしろって言ってるだろうが!」

 

「待て、ガロン!」

 

狂ったあくまのきしは、心臓を潰されようが10秒近く動き続ける。頭を潰されたとしても、それは同じだろう。それで俺は大ケガをしたことがあるので、よく分かっている。

案の定、ガロンはあくまのきしの頭を叩き潰したが、あくまのきしの動きは止まらず至近距離でガロンを斬り裂こうとする。

「危ない!」

 

俺はとっさにあくまのきしの一撃をはがねのつるぎで受け止め、斧を弾き落とす。

やがて、狂ったあくまのきしは力尽き、青い光を放って消えていった。

 

「危なかったけど、何とか倒せたか···」

 

「な、何だったんだよ?あの動きは」

 

ガロンも、あのあくまのきしの動きには驚いていた。

それにしても、あくまのきしは怒らせるとやはりまずいな。潜入した時のように、同時に倒せばいいのだが、今の奴のように仲間を庇う奴がいたら厄介だな。

俺は戦い方を考えながら、荒くれたちと共に一つ目の関所を潜り抜けて次の関所へと向かっていった。

だがその途中、大量のマドハンドが行く手を塞いでいた。

 

「今度はマドハンドか···大して強くはなさそうだけど、数が多いな」

 

10体以上いるので、4人で突っ込んでも囲まれる危険がある。

でも、近くにいるマドハンドを荒くれたちが倒し、遠くにいるマドハンドを俺がサブマシンガンを使って倒す方法なら、勝てるかもしれないな。

マドハンドが次々に近づいてくるので、俺は急いでみんなに作戦を伝えた。

 

「みんなは近くにいる奴らを叩き潰してくれ。俺が遠くにいる奴らを倒す」

 

「分かった。ワシらならこんな腕のような魔物、簡単に倒してやろう」

 

ベイパーが返事をして、それに続いてガロンとギエラもウォーハンマーをマドハンドに降り下ろす。

マドハンドはあくまのきしより弱いはずなので、そこまで苦戦はしないはずだ。

俺はみんなが戦い始めたのを見てサブマシンガンを構え、遠くのマドハンドに向けて撃ち放つ。

マドハンドは何発も銃弾を受けるが、簡単には倒れずに俺のところに向かってきていた。

 

「サブマシンガンではそう簡単には倒せないか」

 

銃ははがねのつるぎやウォーハンマーに比べれば威力は劣るようだが、近づけば囲まれて回転斬りを放つ間もなく叩きつけられまくるだろう。

 

「とりあえず、敵の数を減らさないといけないな」

これまでは全てのマドハンドをなぎはらうように撃ち抜いていたが、一体を集中して撃ったほうがいいかもしれない。

俺はまず、中央にいたマドハンドに向かってサブマシンガンを乱射する。5発くらい当てると、マドハンドは生命力が尽き、倒れていった。

ガロンたちもそれぞれの戦っているマドハンドを倒し、マドハンドの数は残り6体になっている。

 

「オレも戦いには慣れてきたぜ!このまま行くぞ」

 

「所詮はただの腕、ワシらに勝てる者ではない」

 

「このまま全員倒すわよ」

 

荒くれたちは、また次のマドハンドに殴りかかっていく。俺を狙っているマドハンドは三体で、これなら回転斬りで倒せるかもしれない。

俺はサブマシンガンからはがねのつるぎに持ちかえ、力を溜めた。そして、マドハンドが近づいてきたと同時に、力を解放する。

 

「回転斬り!」

 

マドハンドは真っ二つに斬られ、3体とも倒れていく。みんなもマドハンドを叩き潰し、ついには群れを全滅させた。

 

「やっぱり過酷な戦いだな。でも、必ずアネゴを助けないといけない」

 

とても過酷な戦いが続きそうだが、荒くれたちとアネゴを救出すると約束したので、諦める訳にはいかない。

俺たちはマドハンドを倒したところから進んで、二つ目の関所に向かっていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode66 決死の突入(後編)

俺たちが2つ目の関所にたどり着くと、そこにいたのは通常より大きなまどうしが1体と、炎の魔物、フレイムが4体だった。

マイラの3回目の防衛戦でも襲ってきた、厄介なモンスターだ。防衛戦の時も、かなり苦戦した。

 

「フレイムの野郎か···厄介な奴が来やがったな」

 

ガロンも、フレイムを見て困った顔をする。今回は4人で来ているが、フレイムも4体いる。

周りがマグマの池なので、この前みたいにこっそり後ろに回りこむことも出来ない。

 

「フレイムにはオレたちの攻撃はきかねえ。なんとか操っているまどうしを倒すんだ」

 

ガロンの言う通り、なんとかして後ろにいるまどうしを倒して、フレイムを消さないといけない。

でも、この荒くれたちならフレイムの猛攻をすり抜け、まどうしを殴り殺せるかもしれない。もしできなかったとしても、俺がサブマシンガンでまどうしの体を撃ち抜いてみせる。

俺たちは武器を構えて、まどうしとフレイムの群れに近づいていった。まどうしは俺たちに気づくと、杖でフレイムを操りだす。

 

「忌々しい人間どもめ···フレイム!こいつらを焼き尽くせ!」

 

まどうしの声に反応し、フレイムは俺たちの前に立ちはだかる。

俺たちはフレイムを避けてまどうしに近づこうとしたが、今回のフレイムはかなりスピードが速く、俺たちの動きを止めてきた。

「こいつ、この前のフレイムより強いな」

 

俺たち4人は全員フレイムに道を防がれていて、まどうしに近づくことができなかった。普通の魔物であれば、誰かが敵全体を引き付ければいいのだが、フレイムには剣で斬っても傷をつけられないので、その作戦も使えない。

だが、俺にはサブマシンガンがあるので、遠くのまどうしを攻撃することが出来る。俺はフレイムの攻撃をかわしながらサブマシンガンを取りだし、まどうしに向けて撃ち放った。

 

「俺を防げると思うなよ!」

 

まどうしは急に発射された銃弾を避けることが出来ず、何発か当てることが出来た。しかし、弱らせたことは確かだが、まだ倒れる気配はない。

「よくも、我を攻撃しやがったな···」

 

傷を負ったまどうしは俺を強く睨み付けてくる。そして、俺に向かってメラの呪文を放った。

 

「お前など焼き殺してやる!メラ!」

 

距離があったので、俺はメラの呪文をかわしてさらに銃弾を撃ち込む。10発くらい受けて、まどうしは瀕死の状態になっていたが、まだ抵抗してきた。

 

「速くビルダーを焼き殺せ!フレイム!」

 

弱っているとはいえフレイムを操る力はまだ残っているらしく、俺に向かって炎を吐かせた。

かなり広範囲への攻撃で、俺は大きくジャンプしてかわし、フレイムを操っている途中のまどうしにさらにサブマシンガンを乱射する。

 

「これで終わりだぜ、まどうし!」

 

まどうしはもう一度メラの魔法を唱えようとしたが、サブマシンガンの連射速度には勝てず、蜂の巣の状態になってまどうしは倒れていった。

それと同時に、まどうしに操られていたフレイムも消えていく。

 

「かなりの銃弾を使ったけど、なんとか倒せたな」

 

銃はまどうしのような敵に大しては非常に強い武器だ。銃弾の数が残り50個ほどになったけど、倒せてよかったぜ。

みんなも、フレイムの攻撃でやけどを負わずに済んでいた。そして、フレイムが消えると二つ目の関所を抜け、魔物の城の入り口に向かう。

 

「もうすぐアネゴのいるところだぞ」

「この調子で行くわよ!」

 

「オレもどんな奴が来てもアネゴのためなら戦ってやるぜ!」

 

魔物の城の入り口に着くと、3人は黒い岩を叩き割って中に進んでいく。俺もその後からついて行き、魔物の城の中に入った。入り口近くには敵がいないが、奥で待っているのだろう。

 

「ここにはいないけど、奥には結構魔物がいるはずだな」

 

その時、俺はこれまで2回あった異変に気づく。

ロロンドを救出した時や、ウルスの研究所に行った時のように、空が暗闇に包まれてきていたのだ。

これは、竜王の影が現れる前兆だな。もし竜王の影に見つかれば、アネゴの救出どころではなくなるので、荒くれたちにそのことを伝えた。

「おい、空が暗くなってきている。竜王の影って言う強力な魔物が来るかもしれない」

 

俺はそう言って警戒するが、ガロンは何よりもアネゴの救出が最優先らしく、気にせずに進んでいった。

 

「竜王の影なんて言われれば強そうだが、今はとにかく、アネゴを救出するんだ!」

 

「まあ、すぐにアネゴを救出すれば、隠れる時間もあるはずだな」

 

本気で戦うことにならないか心配だが、まだ奴らが俺たちを見つけるのには時間がかかるだろうから、見つかる前にアネゴを救出して隠れれば、何とかやりすごせそうだ。

なので、俺は無理にガロンたちを止めずに、魔物の城の奥について行った。

 

俺たちが魔物の城の大広間までたどり着くと、そこにはあくまのきしとまどうしが10体ずつくらいと、この前発明メモを守っていたトロルがいた。

 

「やっぱり結構な数の魔物がいるな」

 

20体を越える魔物と戦うのはかなり難しい。サブマシンガンを使っても、途中で弾切れになってしまうだろう。

 

「どうするんだ、雄也?」

 

ベイパーも突っ込んではいかず、魔物たちの様子を見ながら俺に聞く。

トロルは巨大な魔物で、正面から挑んだら叩き潰されてしまうな。でも、銃で撃っても効果は少なそうだ。

 

「こうなったら、大砲を使うしかないな」

 

トロルを安全に倒すためには、アネゴの牢屋を壊すために作った兵器、大砲を使うしかないだろう。大砲の弾は5個持っているので、4回は撃つことが出来る。

大砲を使うことには、ガロンとギエラも賛成していた。

 

「いいわね。大砲を使えば、どんな敵も吹き飛ぶはずよ」

 

「マシンメーカーで作った兵器の力を、試してみるのもいいかもな」

 

俺は大砲を置くために、魔物の群れの目の前に出た。すると、魔物たちは俺に気づいて身構える。

 

「人間め!また来たのか!」

 

敵の中央にいたトロルはそう言い、棍棒を振り上げながら俺に近づいてくる。動きは遅いものの、物凄い威力がありそうだ。

大砲が確実に命中しそうな距離まで来ると、俺は大砲の弾をセットし、トロルに向けて発射した。

 

「魔物ども!これでも喰らえ!」

 

俺が放った大砲はトロルの腹で炸裂し、回りにいたあくまのきしやまどうしを巻き込んだ。そして、あくまのきしとまどうしは何体か倒れ、トロルは大ダメージを負うが生きていた。

 

「よくもやりやがったな···許さんぞ!」

 

俺はもう一発放とうとするがトロルは大砲が当たらない場所に移動してから、俺に近づき始める。

さらに、今の大砲で倒れなかったあくまのきしとまどうしが、俺に集中攻撃をしてきた。

 

「よくも我らにここまで刃向かったな!」

「ビルダーめ、焼き尽くしてやる!メラ!」

 

あくまのきしの強力な斬撃やまどうしのメラの呪文が一斉に俺に向かってくる。俺は回避して近くにあったバリケードの裏に隠れたが、反撃はできそうにもなかった。

でも、3人の荒くれという強力な仲間が俺にはいる。3人は俺がピンチなのを見て、ウォーハンマーで魔物を殴り付けた。

 

「アネゴ救出の邪魔はさせねえって言ってるだろ!」

 

「ワシの筋肉の力を見せつけてやる!」

 

「アタシもアンタたちを一人残らず叩き潰すわ」

 

ガロンは近くにいるあくまのきしを、ベイパーとギエラは遠くにいるまどうしをウォーハンマーで殴り倒し、少しずつ数を減らしていった。

だが、数が多くて倒しきれず、俺のところにも魔物が近づいてきて、3人もしだいに追い込まれていった。攻撃を避けきれずいくつも傷を負っている。

 

「やっぱり数が多すぎる。二刀流に戻すか」

 

俺は態勢を立て直すため、二刀流にして力を溜めた。そして、俺の近くにいる魔物の近くで、渾身の回転斬りを放つ。

 

「回転斬り!」

 

斧を振り回していたあくまのきしたちは体を引き裂かれた後に殴りつけられ、一撃で倒されていった。二刀流での回転斬りは、本当に強力だ。

俺はまず、自分を狙っていた魔物を倒すと、次はガロンを救援に行った。

 

「ガロン、今助けるぞ!」

俺はガロンを斬りつけようとしているあくまのきしの心臓を背後から突き刺したり、ウォーハンマーで全身をボロボロにしたりして、倒していった。

 

「助かったぜ、雄也!」

 

あくまのきしの数が減ると、ガロンも体勢を立て直してハンマーを降りかざす。そして、あくまのきしの群れを全滅させ次にベイパーとギエラを助けに行こうとする。

しかし、二人のところに向かおうとしていた俺にトロルが棍棒を降り下ろした。

俺は気づくのが遅れ、回避は不可能だと思い左手のウォーハンマーでトロルの攻撃を受け止める。叩き潰されずには済んだが、俺の左腕にとてつもない激痛が走る。

トロルの巨大な棍棒を受け止めて、骨折したかもしれない。だが、今はきずぐすりも持っておらず、このまま戦うしかない。

「くそっ、なんて威力なんだ!?」

 

俺はトロルに狙われているが、まどうしと戦うベイパーとギエラも助けに向かわないといけない。俺がどうしようかと考えていると、ガロンがトロルを引き付けてくれていた。

 

「雄也、このデカいのはオレが引き付ける。二人を助けてやってくれ!」

 

一人でトロルと戦うのは心配だが、今は二人を助けることに集中しないとな。俺は右手にサブマシンガンを構え、まどうしに向かって撃ち放つ。

二人に遠くからメラを放とうとしていたまどうしたちを俺が倒していき、二人も近くにいたまどうしを潰した。

 

「これでまどうしも全滅させたぞ!」

 

「あとはトロルを倒せばいいわね」

 

まどうしを倒し終えると、俺たちはトロルと戦うガロンのところに向かう。ガロンはかなり苦戦していたが、トロルにもダメージを与えられていた。もう少しで倒せるだろう。ガロンも、トロルが弱っているだろうと言った。

 

「こいつはもうすぐ倒せるぜ。みんな、行くぞ!」

 

トロルは必死に棍棒を振り回すが、動きが遅いので簡単にかわされてしまう。さっきのような不意の一撃でもない限り、喰らうことはなさそうだな。

そして、荒くれたちの猛攻でついにトロルは、足を潰され体勢を大きく崩す。そこに俺は、はがねのつるぎでの回転斬りを放つ。

 

「とどめだ、回転斬り!」

 

二刀流の回転斬りに比べれば威力は劣るが、弱っているトロルの生命力を狩り取るほどの威力はある。

トロルは大きな青い光を放ち、消えていった。

 

「何とか倒したか···先を急ごう」

 

厳しい戦いだったし、左腕もまだ激しく痛んでいる。少し休みたいのだが、そんなことをしている時間はないので走って魔物の城の奥へ進んでいった。

ゆっくりしていると、竜王の影が来るかもしれない。

その先の通路には、もう敵がおらず、楽に進むことができた。戦力をさっきの場所に集中させていたのだろう。

 

「ついに、アネゴの牢屋までたどり着いたな」

そして、大広間から走って1分くらいたって、アネゴの捕まっている牢屋の前にたどり着いた。ようやく助け出せると、荒くれたちは喜んでいる。

 

「ついにここまで来たぜ!雄也、大砲を使って牢屋を壊してくれ!」

 

「ああ、もちろんだ!」

 

俺は牢屋の前に大砲を設置し、弾を発射した。トロルに大ダメージを与えた大砲の一撃はとても固い壁でも耐えることはできず、崩れ去った。

牢屋が壊れると、中には角のついた帽子を被った、荒くれ者のような女がいた。彼女が、荒くれのアネゴと呼ばれている人なのか。

俺はその女の人を縛られていた鎖から解放し、話しかける。

 

「おい、大丈夫なのか?かなり弱っているみたいだけど」

アネゴは話すことも立ち上がることもできるようで、大砲で牢屋を壊したことを驚いていた。

 

「へへ···ド派手に決めてくれたね。アンタ、なかなかカッコいいじゃないか」

 

アネゴも、まだ大砲は作ったことがなかったんだろうな。そう言えば、荒くれたちはアネゴと読んでいたけど、本名はなんて言うんだろうか?

 

「アンタが、荒くれのアネゴだろ?名前はなんて言うんだ?」

 

「確かにアタシは、アネゴって呼ばれてるね。アンタは、アメルダって呼んでくれればいいさ」

 

アメルダって名前なのか。彼女の名前を聞いたところで、俺の名前を言おうとしたが、ガロンたちが駆け込んできた。

 

「アネゴオオオオ!会いたかったぜ!」

 

ガロンはそう叫んで、アメルダに抱きつく。やっぱりガロンは、誰よりもアメルダのことを大切に思ってるんだろうな。

 

「アネゴ、無事で良かったぞ!」

 

「ようやく助け出せたわね」

 

「アタシも、アンタたちが生きてて良かったよ」

 

荒くれたちは、アネゴを助け出せたことを、アメルダは、荒くれたちが生きていたことをとても喜んでいた。俺も、無事に助け出すことが出来て一安心する。

だが、今は感動の再会をしている場合ではない。一刻も早くここを離脱しないと。

 

「みんな、続きは後にしてくれ。竜王と同じ姿の魔物、竜王の影がここに迫っている」

「だったら、今すぐここを抜け出さないと。竜王の影と戦えば、勝ち目はないはず」

 

アメルダも竜王の影のことは知っているようだ。危険な存在だと言うことが分かっているので、俺に続いて今すぐ離脱しようと言った。

俺たちは帰るために、後ろを振り向いた。だが、そこでもう俺たちは竜王の影に見つかっていることに気づく。

4体の竜王の影が、俺たち5人のすぐそばまで迫ってきていた。

 

「どうやら、もう見つかっているみたいだね」

 

「どどど、どうすりゃいいんだ!?」

 

これまで勇気を出して頑張っていたガロンも、俺とアメルダから竜王の影が非常に危険だという話を聞いてビビり始めた。

竜王の影は、さっきのトロルなんかよりも、よっぽど危険なはずだからな。

兎に角、今戦っても勝てるはずがないので、逃げるしかない。旅のとびらまでたどりつけば、諦めて帰るはずだ。

 

「逃げるしかない。なんとか旅のとびらまで行くぞ!」

 

俺の声で、みんなは全力で走り出す。竜王の影は、とても早い速度で移動し、俺たちに向かって強力な炎の魔法を放った。

 

「メラミ!」

 

「メラゾーマ!」

 

小さな竜王の影はメラミを、大きな竜王の影はメラゾーマを放つ。ドラクエ1の竜王はこんな呪文を使わないので、パワーアップしていると言うことだろう。

俺たちは巨大な火球を避けて、魔物の城の外に出る。関所があるところまで来たが、またしても前に回りこまれてしまった。

 

「やっぱり、戦って倒すしかないんじゃねえか!?」

 

ガロンはもう逃げ切れないと思ったのか、竜王の影の1体をウォーハンマーで殴り付ける。

竜王の影は僅かに怯んだが、すぐに体勢を立て直してガロンを杖で叩きつける。すると、ガロンは大きな傷を受けて吹き飛んだ。

 

「くっ!なんて奴なんだよ!」

 

ガロンへの攻撃は一回に止まらす、もう一度杖を叩きつけようとする。今度喰らったら、本当に死ぬかもしれない。

 

「ガロン!早く起き上がれ!」

 

俺も手を貸して、ガロンを起き上がらせてひたすら走り続ける。火事場の馬鹿力という奴か、もう数百メートルも全力疾走しているのに、疲れてこなかった。

「このまま逃げ切れそうだな」

 

だが、俺たちの目の前には崖が立ちはだかる場所があった。しばらく時間を稼がないと、みんなは逃げられない。

他の人にこんな危険なことをさせる訳にはいかないので、俺が竜王の影を引き付けることにした。

 

「くそっ、あんたたちは先に逃げてくれ!」

 

「アタシも手伝うよ!」

 

俺がそう言うと、アメルダも竜王の影を引き付けてくれるようだ。荒くれのリーダーとして、仲間の安全が最優先なのだろう。

俺とアメルダは、3人が崖を登っている間に竜王の影の動きが少しでも止まるように攻撃した。

途中、大きな竜王の影は俺に向かってオーラを纏って突進してきた。これをまともに喰らうとまずいので、俺は回転斬りでなんとか食い止める。

 

「回転斬り!」

 

アメルダはてつのつるぎを持っていて、それを使って竜王の影を怯ませていた。怯ませるだけで、倒すことはできなさそうだが。

少し経って、荒くれたちが全員崖を登りきったので、俺たちも竜王の影の攻撃を避けながら崖を登り、旅のとびらに向かって走る。

旅のとびらに近づいても、竜王の影はメラミやメラゾーマの呪文を撃ってくる。

 

「もう少しで逃げ切れる!」

 

俺は体の限界を越えるほどのスピードで走り、アメルダも同じくらいのスピードで走り続ける。そして、旅のとびらが見えた瞬間、俺たちはその中に飛び込んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode67 怒り狂う復讐者たち

俺たちが旅のとびらに入り、町に戻ってくると、空の暗闇は晴れていて竜王の影も追ってこなくなっていた。

 

「なんとか、生きて戻ってこれたみたいだな」

 

アネゴことアメルダを救出すると言う目標は果たせたが、竜王の影から逃げ切るのはとても大変だった。

そして、俺たちは逃げ切った瞬間、ずっと走っていたのでひどい息切れを起こした。長い距離を全力疾走していたのだから、そうなっても仕方がないけど。

 

「な、なあ雄也。アネゴも知ってるみたいだけど、竜王の影って奴は何なんだ?」

 

ガロンが、呼吸を整えながら竜王の影について聞いてきた。

俺も詳しくは知らないが、竜王の分身みたいなものだろう。だが、あくまでも分身なので、竜王本体よりは戦闘能力は低いはずだ。それでも、最強クラスの魔物だけど。

「竜王と全く同じ姿で、あんなに強いから、竜王の分身みたいなものだろうな。さすがに、竜王本体よりは弱いと思うけど、今の俺たちじゃ勝てない」

 

「竜王が、自分のかわりに敵を倒す役割で作ったんだ。竜王は城から離れられないからね」

 

俺が説明をすると、アメルダが付け加える。竜王は魔物の王だから、そう簡単に自分の玉座を離れられないってことか。

確かに、本人が城から出たと言う話は、一度も聞いたことがない。城から離れられない自分のかわりに戦うのが竜王の影ってことか。

そう考えると、俺はもう3回も竜王に狙われたことになる。これからも襲ってくるかもしれないので、気をつけないといけないな。

竜王の影のことも気になるが、アメルダは改めて俺に感謝の言葉を言った。

 

「それはともかく、アンタのおかげで戻って来られた···改めて、礼を言うよ」

 

さっきは早く離脱しないといけなかったから、大して話もしていなかったな。自己紹介もまだだ。

なので、俺はアメルダにいつも通りの自己紹介をする。

 

「俺は影山雄也。いつもは雄也って呼んでくれればいい。知ってるか分からないけど、ビルダーって奴だ」

 

「もちろん知ってるさ。このアジト···綺麗になってると思ったけど、アンタが直してくれたんだね」

 

アメルダはビルダーのことも知っているのか。まあ、知らない人の方が少ないんだけど。

「ビルダーのあんたとなら、アイツの研究を完成させられるかもしれないね」

 

「ガロンから聞いた。発明家の助手をしていたんだろ?」

 

そう言えば、アメルダは発明家の助手をしていたんだったか。今の状況からして、開発は進んでいないようだけど。

 

「そいつの残した手がかりを元に、兵器の開発をしようと思ってたんだけど、その兵器の知識がほしい魔物に囚われていたんだ」

 

魔物に囚われていたのも、それが原因だったのか。俺はその発明家について詳しく聞きたかったが、アメルダは温泉の部屋に向かった。

 

「作りたい兵器は考えてるけど、詳しい話は後にしよう。体が、汗やら何やらでベトベトだ。まずはゆっくり、温泉につからせておくれ!」

最初に出会った時、ガロンがアメルダは帰ってきたら温泉にすぐ入るって言ってたけど、本当にそうなったな。

ガロンは覗こうとか言っていたけど、本当にするつもりだろうか。

 

「兵器のことも気になるけど、とりあえず作業部屋に戻るか」

 

俺は一旦アメルダと別れると、作業部屋の中に入って行った。そして、作業部屋の中にはガロンがいて、彼も俺に改めて感謝の言葉を言う。

 

「さっきは竜王の影の話で言ってなかったけど、アネゴを助けてくれてありがとうな!」

 

「俺の力じゃなくて、4人で協力したからこそ助けだせたんだ」

 

今回の戦いは、アレフガルドに来てから1番過酷だったかもしれない。いつも一人で町の外に行くことが多かったから、仲間の大切さに改めて気づかされた。

ガロンも勇敢に魔物に立ち向かえるようになったし、これからも一緒に行動したほうがいいな。

それと、ガロンは俺に筋肉を鍛える道具について教えてきた。

 

「感謝のしるしとして、お前にとっておきの道具を教える。ダンベルって奴で、これを使えば筋肉を鍛えられるぞ!」

 

「いや、俺は別に筋肉とか興味ない」

 

俺は筋肉には興味がないと言っているのに、それでもガロンは作り方を教えてくる。

ダンベル···鉄のインゴット1個、ひも1個 炉と金床

一応作れるみたいだけど、作ることはまずないだろうな。

俺はダンベルの作り方を聞いた後、ガロンにアメルダが温泉に行ったことを伝えておいた。

「そう言えば、さっきアメルダが温泉に入るって言ってたぞ」

 

「ほほほ、本当か!?オマエの言う通り、見つからないように行ってくるぜ!」

 

温泉のことを伝えると、ガロンは走って作業部屋から出ていった。

俺も興味はあるけど、風呂覗きに命を賭けたくはないので、ガロンの健闘を祈りながら作業部屋で休んでいた。

 

作業部屋にいる間、俺は自分の分のきずぐすりや、アメルダの分のはがねのつるぎを作っていた。てつのつるぎよりはがねのつるぎの方が強力だからな。

そろそろ寝室に行こうかと思っていると、アメルダが作業部屋に入ってきた。

どうやら、温泉から上がってきたようだ。

 

「なあ、雄也。さっき温泉に入っている時、妙な視線を感じたんだけど、何か知ってるか?」

 

それは間違いなくガロンの視線だろう。でも、ここで言ってしまうとガロンが危険なので、黙っておくことにした。

 

「そんなことがあったのか?俺は気づかなかったけど」

 

「でも、何かに見られているような気がした。って、それより雄也に大切な話があるんだ」

 

これで何とかガロンは気づかれずに済んだな。

でも、本題が別にあるってことは、さっき言ってた新しい兵器のことだろうか。

 

「さっき作りたいって言ってた、新しい兵器のことか?」

 

「ビルダーのアンタが、ようがんまじんとの戦いにも力を貸してくれるってアイツらから聞いてね、頼もうって思ったんだ」

確かに俺はマイラの魔物の親玉、ようがんまじんとの戦いに協力するって言った。それを話すってことは、ようがんまじんに対抗するための兵器ってことだろうか。

 

「つまり、ようがんまじんを倒すための兵器なのか?」

 

俺がそう聞くと、アメルダは首を横に振った。

 

「いいや、アタシの発明知識でも、まだそこまでの兵器は作れない。今作って欲しいのは、アジトに攻めてくる魔物を撃退する兵器なんだ」

 

まずは、ようがんまじん本体ではなく、その手下の魔物を撃退する兵器を作るってことか。確かにこの町はこれまで4回も襲撃を受けているので、メルキドのはがねのまもりのような設備がないとこの先厳しいかもしれない。

 

「兵器のアイディアは前からあってね。設計図も書いて建設予定地も確保してたんだけど、アタシたちの物を作る力じゃ、完成させられなかったんだ」

 

アメルダの持っている設計図を見ると、大砲が2つ並んでいて、その間にスイッチが置かれていた。

そのスイッチを押して、2つの大砲を同時に発射するという装置のようだな。俺でもビルダーの力がなければ絶対に作れなさそうだ。

 

「ビルダーの力を作って、兵器を完成させればいいんだな?」

 

「そう言うことさ。この二連砲台は、アジトの西側にある黒い床石の上に設置しておくれ」

 

西側の黒い床石か···確かに、黒色の床石が敷き詰められている場所があり、この二連砲台という兵器を設置できそうだ。

大砲をもう一つと、発射用のスイッチを作れば完成させられそうだ。俺は、発射スイッチの作り方を調べた。

床用スイッチ···鉄のインゴット2個、ばね2個、あかい油1個 マシンメーカー

これなら今すぐ作ることができるな。鉄のインゴットとあかい油は大量に持っているし、ばねもサブマシンガンを作った後ちょうど3つ残っている。

 

「今すぐ作れるぞ。今日中に完成させるから、待っていてくれ」

 

俺はアメルダにそう言って、マシンメーカーでまず床用スイッチを作った。一度に3つできたが、今は1つしか使わないので残りの物はポーチの中にしまって置いた。

 

「スイッチが出来たから、次はもう一つの大砲だな」

俺は次に、もう一つ必要な大砲を作った。大砲を作るのには素材が多く必要で、鉄のインゴットも残り少なくなってきていた。

鉄はまた今度取りにいくことにして、俺はマグマ電池を作って、そこに木材と鉄のインゴットを組み合わせ、大砲を作った。

 

「これでもう一つの大砲も完成だな」

 

大砲も出来上がると、俺は町の西側にある、床石のところに行く。そこで、設計図の通りに2つの大砲と床用スイッチを設置した。

大砲は狙いを定めることが出来ないが、当てることが出来れば絶大な威力を持つ。二連砲台を作っておいて損はなかっただろう。

俺は砲台が完成すると、アメルダにそれを教えに行った。

 

「アメルダ、あんたの言ってた砲台を作ってきたぞ」

 

俺がそのことを話すと、アメルダは二連砲台が置かれている方向を見て驚いた。

 

「やるじゃないか、雄也!アタシの設計図通りに二連砲台ができてるね。あのスイッチを押せば砲弾を同時に発射出来る。それで、魔物を一気に吹っ飛ばすって寸法さ」

 

砲台の正面にいる敵にしか当てることは出来ないけど、二発の砲弾を同時に当てることができればいくら強大な魔物でも倒れるだろう。

後で大砲の弾をたくさん作っておかないといけないな。

あと、俺はひとつアメルダに聞きたいことがあった。彼女は発明家の助手をしていたと聞いているが、その発明家というのは、どんな人だったのだろうか。

「そう言えば、アメルダが助手をしてた発明家って、どんな人だったんだ?」

 

「ラライって言う発明バカさ。アタシの知識は、全部そいつの受け売りで、魔物を倒すために必死に思い出してるだけなんだ」

 

発明バカって言われるほど兵器の開発に熱心だったのか。俺たちの仲間になってくれればいいけど、その人は既に死んでいるらしいと聞いた。

 

「でも、そいつはもう死んだって聞いたな」

 

「アンタの言う通り、ラライはずいぶん前に殺されて、もうこの世にはいないよ···」

 

魔物の軍団と戦って、戦死したということだろうな。生きていたら、協力して兵器の開発が出来たと言うのに。

今は、ラライが残した知識を活かして魔物に対抗していくしかないだろう。

 

「ラライのことは残念だけど、何とか彼の知識で、兵器を開発して行ければいいな」

 

だが、今日はもうすぐ夜になるので、次なる兵器は明日から考えよう。俺たちは、寝室に戻って行こうとした。

 

その時だった、町の西の方から突然大きな足音が聞こえてきたのだ。アメルダもその足音に気付き、町の西側を見る。

すると、町に多数の強力な魔物が迫っているのが見えた。よろいのきしとフレイムが4体ずつ、あくまのきしと普通のまどうしが2体ずつ、フレイムを操る大きなまどうしとトロルが1体ずつで、合計14体がいた。

またしてもフレイムと言う、攻撃の効かないモンスターがいる。それに、魔物の城でも戦ったトロルもいるのか。

さらに、奴らは強い殺気を放ち、武器を構えていた。

 

「人間め!よくも仲間たちを殺してくれたな!」

 

「我々の同族を、ここまで殺すとは絶対に許さぬぞ」

 

「倒されていった仲間のためにも、貴様らを焼き殺してやる」

 

今回のあくまのきし、まどうし、トロルはいずれも俺たちが魔物の城で戦った奴らの仲間のようで、俺たちに復讐に来たようだ。

 

「あいつら、倒された仲間の復讐に来たようだな」

 

「そうみたいだね。兎に角、みんなを集めて撃退しよう」

これでもう5回も、マイラの町は魔物の襲撃を受けたことになる。俺はいつものように、みんなを呼び集める。

 

「みんな、魔物が来たぞ!」

 

俺の声を聞き、3人の荒くれとゆきのへが、こちらに向かってくる。集まる前に、俺はアメルダにはがねのつるぎを渡した。

 

「アメルダ、鉄より強い鋼の武器だ。これを使ってくれ」

 

「これが鋼の武器なのかい。アタシも見るのは初めてだね。助かったよ、雄也」

 

アメルダは鋼の武器を使うのは初めてのようだが、鉄より強いという話しを聞いてはがねのつるぎを受けとる。

はがねのつるぎを渡し終えると、みんなはもう集まってきていた。

「しつこい魔物だぜ、オレたちで蹴散らしてやる!」

 

「何度来られても、ワシの筋肉の力に敵うはずはない」

 

「何が来たって、叩きのめすわよ!」

 

ガロンとアメルダが加わったので、俺たちは6人で魔物の群れと戦うことができる。俺たちは怒り狂った魔物たちに武器を向け、マイラの町の5回目の防衛戦が始まった。

 

「今作った砲台で敵の数を減らすか」

 

俺は、さっき作った二連砲台をさっそく使ってみることにする。まだ実戦で使ったことがないから、どれくらいの威力なのかも気になるし。

残っていた3つの大砲の弾のうち、二つを大砲の中にセットし、発射させるための床用スイッチを踏んだ。

「俺たちの兵器に勝てると思うなよ!」

 

俺の声と共に二つの砲台は魔物の群れに飛んでいき、よろいのきし、あくまのきし、フレイムがいるところに着弾する。まどうしやトロルは離れた場所にいたので当たらなかった。

 

「大防御!」

 

すると、弾が炸裂する寸前に大防御を発動し、大砲の威力を減らそうとする。

だが、いくら大防御を使っても強力な砲弾が二つも同時に炸裂すれば無傷でいられるはずがなく、よろいのきしの鎧はかなり破壊され、上位種であるあくまのきしも大きな傷を負っていた。

 

「防御はされたけど、やっぱり大砲は強いな」

 

弱っているので、俺たちはとどめをさそうと武器を持って走って行く。しかし、そこにいつもの厄介なモンスターが立ちはだかった。

フレイムには大砲も効かないようで、平然と俺たちの前に立ちはだかる。そして、奴らを操るまどうしが指示を出した。

 

「この人間どもは我の仲間を殺した者どもだ。灰になるまで焼き尽くしてしまえ!」

 

フレイムは俺たちに、激しい炎を吐いてくるようになる。フレイムは感情のない操られている魔物なので、操る魔物が怒っていればフレイムも強くなる。

それでも、俺たちは6人いるので4体のフレイムなら何とか避けて行けるはずだ。

俺はフレイムの攻撃を避けながらよろいのきしの方に近づき、はがねのつるぎで斬り裂こうとする。

だが、まどうしは仲間である魔物を攻撃する俺に優先的にフレイムに攻撃させる。まずはあのまどうしを倒さないと勝つことは難しい。

「サブマシンガンの弾があと少し残っていたはずだ」

 

魔物の城での戦いで100発あった銃弾はほとんど使いきったが、まどうし一体を倒すのには十分な量は残っている。俺は右腕の武器をはがねのつるぎからサブマシンガンに持ち変え、まどうしに向けて発砲した。

 

「やられるものか!メラ!」

 

俺は飛んでくるメラの呪文を食らったり、銃弾を防がれたりしないようにジャンプで回避しながらまどうしを撃ち抜いていく。

今回は連射はせず、確実に当たるように一発ずつ当てて行った。もう少しで倒せるというところで、怒り狂ったあくまのきしや、その手下のよろいのきしが俺に斬りかかってきた。

「お前、ここまで我らの仲間を倒してきたと言うのに、まだ倒すつもりなのか!?」

 

「倒されて行った仲間の仇を討ってやる!」

 

魔物からしたら俺たちが憎いのだろうが、町に攻めこんだら返り討ちに遭うとは思わないのだろうか。

まあ、今回は俺たちも苦戦はさせられているが、勝てないはずはない。俺に向かって回転斬りを放ってきたあくまのきしには、俺も左手のウォーハンマーで回転斬りを放って威力を相殺した。

 

「回転斬り!」

 

回転斬りを放った後、俺にまどうしの放ったメラの呪文が迫ってきていたので、すぐにかわして銃弾を放った。

だが、すぐにあくまのきしは体勢を立て直し、次の攻撃を叩きこんでくる。

「アタシも援護するよ!」

 

すると、そこに俺と同じようにフレイムの群れを避けてきたアメルダが駆けつけてきて、あくまのきしの心臓目がけてはがねのつるぎを突き刺す。

アメルダは狂った生物は心臓を刺されてもすぐには死なないことを分かっているのか、すぐにはがねのつるぎを抜いてもう一体のあくまのきしやよろいのきしたちと戦う。

しかし、他のまどうし2体もアメルダを狙い始めて、危険な状態になった。

 

「我々の城から抜け出した女め···出来れば生け捕りにしたいが、抵抗するなら容赦はせん!」

 

ガロンたちも救援に向かいたいと思っているようだが、フレイムが邪魔になっている。

 

「早くあのまどうしを倒さないとな」

 

俺は心臓に弾を命中させるほどうまくはないが、出来るだけまどうしの心臓に近い場所を撃ちまくり、10発も撃たずに倒すことが出来た。

まどうしが消えるとフレイムも消え、ガロンたちはすぐに大量の魔物と戦っているアメルダのところに言った。

 

「アネゴには触れさせねえぜ!」

 

中でもアメルダのことを大切に思っているガロンはウォーハンマーを振り回し、よろいのきしたちを潰していく。

 

「ワシもアネゴを助けるぞ!」

 

「フレイムがいなくなったことだし、ようやく本気で戦えるわね!」

 

そこにベイパーとギエラも加わり、よろいのきしやあくまのきしをボコボコにしていった。

俺も荒くれたちに加勢しようと思ったが、ゆきのへに話しかけられた。

 

「雄也、ワシらは後ろにいるまどうしを倒すぞ」

 

残り2体のまどうしは、アメルダや荒くれたちにメラの呪文で攻撃していた。回避することは出来ているが、その間にあくまのきしたちの攻撃を受ける可能性もある。

 

「確かに、俺たちで倒しておいたほうがいいな」

 

ゆきのへは左にいるまどうしを、俺は右にいるまどうしに武器を構えて進んで行った。

まどうしは俺たちが近づいてくるのを見ると、メラを俺たちに放ってきた。俺は竜王の影のメラミやメラゾーマも避けてきたので、下位呪文のメラを避けることは簡単だった。

俺はメラを避けると、左手のウォーハンマーでまどうしの頭を殴りつける。筋肉だらけの荒くれたちの攻撃に比べれば威力は低いが、それでもまどうしを倒せる力はある。

 

「二度と俺たちの町を攻めてくるんじゃねえぞ」

 

俺は最初に一回まどうしを殴り、怯んだところを何度も殴り付けた。防御力の低そうなまどうしは何発も耐えることはできず、数回殴ると光を放って消えて行った。

ゆきのへも力をこめてウォーハンマーを降り下ろし、まどうしを頭から殴り潰した。そのまどうしも青い光を放って倒れ、消えていった。

残りは、巨体の魔物、トロルだけだ。すでに荒くれたちとアメルダはよろいのきしとあくまのきしを倒し、トロルと戦っていた。

そのトロルは仲間が全て倒され、自身も追い込まれてとても怒っていた。

 

「たかが人間のくせに魔物にここまで逆らうとは!町ごと滅ぼしてやる」

 

そのトロルは、魔物の城で戦ったトロルよりも速いスピードで棍棒を降り下ろし、足や胴体をウォーハンマーで殴り付ける荒くれたちを潰そうとする。

しかし、4人に囲まれているので全員の動きに対応することなどできずに、次々とダメージを負っていく。

 

「どこまで目障りなんだ!潰してやると言ってるだろ!」

 

そう言って、トロルは棍棒を一回転させ、回りにいる荒くれたちをなぎはらった。

ガロンたちは筋肉とウォーハンマーの力を使い、トロルの棍棒を防ぎ、アメルダは素早く回避し、トロルの元から離れた。

誰も大きな傷を負わずに済んだが、今度はトロルは町に向かって歩いて行った。町にある建物を壊して、マイラを復興できないようにするためだろう。

 

「クソ野郎!オレたちのアジトは壊させねえぞ!」

 

荒くれたちは、自分たちのアジトを守るためにトロルに殴りかかっていく。それでも、トロルは棍棒を振り回しながら次々と町に近づいて行った。なんとかしなければ、ここまで直してきたマイラの町が台無しになってしまう。

 

「そう言えば、大砲の弾が一つだけ残っていたな」

 

町を守り抜くには、大砲を使うしかないようだ。俺は残り一つの大砲の弾をセットし、発射するためみんなに離れるように行った。

 

「みんな!大砲を撃つから下がっていてくれ!」

 

それを聞き、みんなはトロルから離れる。

トロルも急いで大砲の届く範囲から離れようとするが、俺はそうさせないようなタイミングで弾を発射した。

そして、大きなダメージを負っていたトロルに絶大なダメージを与え、生命力を削り取った。

 

「に、人間どもがああああ!」

 

トロルは最期の力で砲台と温泉を破壊しようとするが、俺たちみんなでトロルの棍棒を受け止めて、なんとか壊されずに済んだ。やがてトロルは力尽き、倒れて死んでいった。

倒したところを見ると、赤色の旅のとびらが落ちていた。

 

「強かったけど、ギリギリで破壊されずに済んだぜ」

 

ガロンが温泉はマイラのシンボルだと言っていたし、絶対に壊されるわけには行かない。強大なトロルだったが、守りきることが出来てよかった。

 

戦いが終わると、もう真っ暗な夜になっていた。俺たちは激しい戦いで疲れた体を休めるため、すぐに眠りについた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode68 雪国のガライヤ

俺はマイラの5回目の防衛戦に勝った後の夜、またしてもあの裏切り勇者の記憶の夢を見た。

これで6回もこんな夢を見たけど、どれも勇者が裏切った理由を示しているものだったから、今回もそうなのだろう。

夢の中で勇者は、立ちはだかる巨大なドラゴンを討伐し、捕まっているローラ姫を助け出していた。勇者に助けられ、ローラ姫は感謝の言葉を言う。

 

「ああ!助け出してくださる方が本当にいたなんて!まだ信じられませんわ!」

 

だが、姫を助け出せたと言うのに勇者は嬉しそうではなかった。

人との関わりを嫌い始めた勇者は、自分の意思ではなく、国王の命令で姫の救出に来たのかもしれないな。この勇者なら、夕べはお楽しみは間違いなくしていないだろう。

そして、姫は勇者にこれまでの人々と同じようなことを言った。

 

「さすがはルビスに選ばれたお方···世界を救う使命を持ったお方です」

 

ただでさえそう言われて人々に怒っている勇者に、姫までもがそう言うとはな。

いや、王族だからこそ精霊ルビスを強く信仰しているところもあるだろう。

続けて、さらに姫は勇者の気持ちを分かっていない発言をする。

 

「あなたなら、必ず竜王を倒せるでしょう。すべては精霊の導きのままに···!」

 

全ては精霊の導きのままにと言われて、勇者の精神はもう極限まで追い詰められているようだった。

勇者は、姫に聞こえないように小声で言った。

「くそがっ···!姫までオレの気持ちを分かってくれないのか!?オレに味方はいねえのかよ!」

 

誰も味方をしてくれない、誰も気持ちを分かってくれない。

そんな中で、竜王にルビスから与えられた責務を放棄できる選択肢を与えられたら、はいとうなずいてしまうのもあり得るかもしれない。

勇者が絶望の表情を浮かべているにも関わらず、ローラ姫は続けた。

 

「さあ、勇者様。私をお城まで連れてってくれますね?」

 

このまま姫を竜王に引き渡すことも可能だが、勇者にはまだ僅かに自分の責務を果たすべきだという気持ちが残っていたのか、城に連れていくと返事をした。

まあ、ドラクエ1ではいいえを押すと無限ループになった気もするけど。

「うれしゅうございます······ぽっ」

 

そして、姫は勇者の気持ちが分からないまま、共に洞窟から出て城へ向かって行った。

そこで俺の目の前は真っ暗になり、気がつくと目を覚ましていた。

 

マイラに来て9日目、今日はトロルが落とした赤色の旅のとびらの先を探索する日だ。今度はどこにつながっているのだろうか。

 

「新しい旅のとびらの先に兵器の手がかりでもあればいいんだけどな」

 

俺はそんなことを考えながら寝室から出て、まずは作業部屋に向かった。昨日の戦いで銃弾を使いきってしまったので、探索に行く前に補充しておかないと厳しい戦いになる。

俺は作業部屋に入ると、マシンメーカーの前に立ってはがねの弾丸を作り始める。

 

「今日も100個くらい作っておけばいいな」

 

一度に20個も作れるので、はがねインゴットが足りなくなる心配はない。なので俺は、はがねインゴットを5個使って100発の銃弾を作った。

銃弾を作り終えると、調理部屋に行って朝食を食べ、旅のとびらのところへ向かう。

その途中、希望のはたのところに見知らぬ男が立っているのが見えた。

 

「誰なんだ?見たことない奴だな」

 

その男は俺と同じくらいの年齢のようで、この町に筋肉だらけの荒くれが大勢いることに驚いていた。

 

「遠くに見える光のはしらを目指して海を越え、山を越え、ようやくたどりついたと思ったらどこもかしこも筋肉だらけ!ああ!僕は地獄に迷いこんだのだろうか···!」

確かに俺も、最初に荒くれのガロンが来た時は、この地方はどうなっているんだ?って思ったな。

こんな荒くれ者のアジトに入り込んでしまったら、誰でも驚いてしまうだろう。

俺がその男に話しかけようとしていると、先に彼が俺に気づいて話しかけてきた。

 

「おや?あなたは筋肉の人たちより、まともそうですね!」

 

この人は、荒くれはまともではない人って思っているのか?まあ、筋肉の話でうるさいから、俺もそう思わなくはない。

 

「ここは、どこなのです?あなたは、いったい···」

 

「俺は影山雄也。いつもは雄也って呼んでくれ。ここはマイラの町で、ここを拠点に魔物と戦っている」

俺のことについて聞かれたので、いつも通りの自己紹介をした。この自己紹介も、この世界に来てからもう20回近くしている。

それと、ここのことを知らないようなので、マイラの町であることを伝えた。

 

「へえ、ここはあの温泉があったと言われるマイラの町だったのですね!」

 

マイラの町は知ってても、来たことがないようだな。もしかしたら、別の地方から来た人なのかもしれない。

 

「それで、あんたはどこから来たんだ?」

 

「僕は、氷に覆われたガライヤ地方から来ました。名前はコルトと言います」

 

名前は聞いていなかったけど、コルトというのか。

でも、ガライヤ地方と言うのはドラクエ1で言うガライの町があった場所のはずだ。俺たちにはまだ行けないけど、そっちは氷の大地と化していたのか。かなり離れた場所から来て、かなり大変だっただろうな。

 

「結構遠くから来たんだな」

 

「はい。疲れていますし、僕もここに住ませてください!」

 

ガライヤ出身の人なら、ガライの町に住めばいいと思うが、まだ復興を始めていないので、コルトもここに住ませたほうがいいな。

町の外で放っておくのは危険だからな。

 

「ああ、もちろん構わないぞ。よろしくな、コルト」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

俺はコルトとあいさつをして、旅のとびらに向かっていった。すると、コルトは再び俺を呼び止めてきた。

 

「すいません。雄也さんに、さっそく頼みたいことがあるんです」

 

「どうしたんだ?俺は出かける予定なんだけど」

 

旅のとびらの先でしてこれることだといいな。まだ朝なので、俺はコルトの頼みを聞くことにした。

 

「実は、僕がいたガライヤ地方に僕の恋人のシェネリという子がいて、一緒にこの光を目指していたんですが、どこかではぐれてしまって···」

 

こ、恋人だと!?コルトは俺と同じくらいの年齢に見えるのに、リア充だったのか!?

俺のいた高校でも恋人がいる友達はいたけど、本当にうらやましい話だぜ。

それはともかく、寒い場所で一人というのは危険な状態だ。

 

「かなり大変なことだな。助けにいかないとまずいぞ!」

 

「それで、僕も助けにいってほしいとお願いしたいのですが···」

 

恋人が危険だと言うのに、何を悩んでいるんだ?俺だったらすぐにでも助けに行くのに。

 

「何を悩むことがあるんだ?」

 

「こんなオス臭い野獣たちが住む筋肉地獄に連れてくるべきか悩んでしまって···」

 

オス臭いだの、野獣だの、筋肉地獄だの、こいつは荒くれに大して酷く言い過ぎじゃないか?

変な奴らではあるけど、頼れる仲間なんだぞ。

それに、こんなことで助けに行くか悩むと言うのもおかしいと俺は思う。

 

「あのな、そんなことと人の命、どっちが大切か分からないのか?普通に考えたら分かるだろ?」

 

そう言うと、悩んでいたコルトも納得してくれた。

 

「わ、分かってますよ。では、お願いします雄也さん!雪のガライヤからシェネリを連れてきてください!」

 

「ああ、もちろんだ」

 

旅のとびらでは違う地方であるガライヤに行けるかは分からないけど、早く助けにいかないといけない。

俺はコルトと別れると、ガライヤに行けるようにと祈りながら、赤の旅のとびらに入った。

旅のとびらに入ると目の前が真っ白になり、一瞬で新たなる場所へと移動した。

気づくと、俺は雪が降り積もる寒い場所にいた。マイラと違って、杉の木がたくさん生えている。

「結構寒いな。本当にガライヤに来れたみたいだ」

 

そこは、コルトから聞いたガライヤの特徴と同じだった。メルキドの旅のとびらでもドムドーラに行けたし、マイラの旅のとびらでガライヤに行けるのもおかしくないのかもしれない。

そう考えると、まだアレフガルドで行っていない地域···王都があったラダトームにも行けるのかもな。今度手に入ったら試してみるか。

 

「とりあえず、シェネリを探して助け出すか」

 

俺は旅のとびらの凄さに驚いていたが、今は兎に角コルトの恋人、シェネリを救出しないといけない。

俺はシェネリを探すため、雪原を歩き始めた。

雪原には、俺が初めて見るモンスターが多く生息している。

「メタルハンターとイエティか···それに、もう少し進んだ所にはホークマンがいるな」

 

俺が今いる旅のとびらの近くは山の上のような場所で、機械のモンスター、メタルハンターと雪男のモンスター、イエティがいる。

山を降りた所には、紫色の翼や剣を持つ魔物、ホークマンが生息している。

どれも戦ったら危険そうなので、俺は杉の木や雪に隠れながら、山を降りて雪原の奥へ進んでいく。

途中、ドラキーやその色違い、ドラキーマの姿も見えた。

 

「ドラキーマもいるのか。あまり強くはなさそうだけど、今は戦ってる時間はない」

 

幸い、隠れられる物が多かったのでそれを利用して敵を避けていった。

山から降りて20分くらい歩いて行くと、木がたくさん生えていた場所を抜け、一面の銀世界とも言える広大な雪原が広がっていた。

 

「きれいな景色だけど、もともとはこんな場所じゃなかったんだよな」

 

雪国の景色はきれいではあるが、元々ガライヤもこんな場所じゃなかったはずだ。これもマイラがようがんまじんの影響で火山地帯になってしまったように、ガライヤも何らかの魔物の影響で氷雪地帯になったのだろう。

 

「どんな魔物が原因でガライヤはこんな場所になったんだ?」

 

雪や氷の技を使う魔物はたくさんいるけど、どの魔物が親玉なのかは分からない。

ただ、ようがんまじんだけでなくそいつにも対抗していかないといけないだろうな。

俺がガライヤの魔物の親玉について考えていると、この近くで誰かが戦っているような音が聞こえた。

 

「ん?この近くに誰かいるのか?」

 

その音がした方向に駆けつけて行ってみると、そこではおおかなづちを持つ少女と、メタルハンターの上位種、キラーマシン3体が戦っていた。あの少女が、コルトの言ってたシェネリだろうか。

キラーマシンは剣や弓、レーザーと言った様々な攻撃手段を持っていて、かなり危険な魔物だ。少女は苦戦していて、いくつか傷を負っていた。

 

「助けないとまずいな···」

 

すぐに助けに行きたいが、正面から戦ったら俺でも苦戦するし、サブマシンガンで奴の核のような場所を狙撃する能力もない。

俺はキラーマシンが少女に集中している間に背後から斬りつけることにした。機械と言えども、背後から全力の攻撃を受ければ大きなダメージを負うだろう。

俺は3体いるキラーマシンのうち、左にいる奴の背後に回り、はがねのつるぎを構えて忍びよる。

そして、攻撃が届く位置までたどりつくと、キラーマシンに目がけて思いきりはがねのつるぎを降り下ろした。

すると、キラーマシンは大きなダメージを負って動きが止まる。それを見て少女は、俺に驚いていた。

 

「あ、あなたは?」

 

「その話は後だ。コルトに言われて、あんたを助けに来た」

 

とりあえず今はこのキラーマシンの群れから離脱しなければいけない。俺が攻撃した奴も動きを再開し、まわりのキラーマシンと共に俺に斬りかかって来る。

 

「相手は3体いるし、二刀流を使うか」

 

俺は左手にウォーハンマーを持ち、左側のキラーマシンの攻撃を受け止め、右手のはがねのつるぎで真ん中の大きなキラーマシンの攻撃を受け止める。

 

「私も下がってはいられないです!」

 

俺の受け止めることの出来ない右側のキラーマシンの攻撃は、少女がおおかなづちで防いでくれた。

 

「俺たちなら勝てそうだな」

 

キラーマシンの攻撃は、狂ったあくまのきしやトロルの攻撃よりは威力が低く、俺は両腕に力を入れて、攻撃を弾き返すことができた。

攻撃を弾かれキラーマシンが怯んだところで、俺はさらに力をためて、2体のキラーマシンをなぎはらった。

「回転斬り!」

 

二刀流での回転斬りで、弱っていた左側ほキラーマシンは倒れ、真ん中のキラーマシンも大きな傷を負った。

 

「これで後2体だな」

 

真ん中のキラーマシンは、俺に剣では勝てないと判断したのか、少し距離をとって弓矢を撃ち始める。

矢は3方向に飛んでいき、避けるのはそう簡単ではないが、俺はキラーマシンの動きを見ながら回避して、少しずつ近づいていった。

 

「結構速い矢だけど、かわせないほどじゃないな」

 

だが、俺がキラーマシンのすぐ近くに来ても、キラーマシンは剣で防ごうとはしなかった。剣で防ぐのは諦めたからだなと思い、俺はキラーマシンを斬り裂こうとする。

その時だった、キラーマシンの核のような物が、赤く輝いていた。これは、ビームを発射するところなのか。

どうやらキラーマシンは反撃しないのではなく、ビームのエネルギーを溜めているようだった。

俺には回避する時間もなく、とっさにキラーマシンの核にはがねのつるぎを突き刺した。

すると、ビームを発射する核にはがねのつるぎが刺さったことで発射できなくなり、キラーマシンの中に過剰なエネルギーが溜まっていった。

 

「ビームは防げたけど、このままだと爆発するな」

 

俺はすぐにそこから移動し、爆発に巻き込まれないほどの距離を取った。そして、少したつとキラーマシンは過剰エネルギーによって爆発し、消えていった。

はがねのつるぎは砕けてしまったけど、キラーマシンを倒すことはできたな。少女もおおかなづちで残り1体のキラーマシンを倒すことが出来ていた。

 

「こんな強いモンスターと戦うことになるとは思ってなかったぜ」

 

ガライヤに来て、キラーマシンと戦うことになるとは思っていなかった。

なんとか倒すことができ、少女は感謝の言葉を言う。

 

「すごい!あなたのおかげで助かりました!」

 

少女はかなり傷を負っているが、命に別状はない。町に連れて帰れば治せるだろう。

 

「ああ、コルトに言われて恋人のシェネリを助けに来たんだが、あんたのことか?」

 

「はい、私はシェネリといいます!ですけど、コルトはただの幼馴染みで恋人ではないです」

 

あれ?コルトは恋人のシェネリを助けてほしいと言ってたけど、一方的な片想いだったってことか。

彼女がいない俺は安心したぜ。

 

「そのコルトは今どこにいるんですか?私たち、ガライヤから光差す地を目指して歩いてたんですが、途中ではぐれてしまって···」

 

「コルトは、今は俺たちが住んでるマイラの町にいる。あんたも来るか?」

 

俺がマイラの町に来てくれるかシェネリに聞くと、もちろん行くと言った。

 

「はい!あなたの町まで連れて行ってください」

 

「それなら歓迎するぜ。キメラのつばさで町に行くぞ」

 

シェネリはケガをしていて、雪原を20分も歩くのは大変そうなので、俺たちはキメラのつばさを使って町に戻って行った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode69 氷の湖

俺とシェネリがキメラのつばさでマイラの町にたどり着くと、だいだい昼頃になっていた。シェネリと改めてあいさつをしたら、探索の続きに行くか。

俺が午後からのことを考えていると、シェネリはコルトと同じように、荒くれだらけのマイラの町を見て驚いていた。

 

「すごいすごい!こんな場所があったんですね!もりだくさんな筋肉の人たちがたくさん!」

 

シェネリはコルトと違って、荒くれだらけのここを気に入ってくれているようだ。俺たちの町を気に入ってくれて何よりだぜ。

さっき俺は、自己紹介をしていなかったので、今することにした。

 

「筋肉の人たちは、みんな俺の仲間だ。そう言えば、俺の名前は影山雄也、いつもは雄也って呼んでくれ」

 

「分かりました、雄也さん!これからよろしくお願いします」

 

自己紹介の後、シェネリと改めてあいさつをする。これでマイラの町の人口も10人になったぜ。

シェネリと話していると、その様子を見ていたコルトも話しかけてきた。

 

「おお、雄也さん!シェネリを助け出してくれたのですね!」

 

「そうです、雄也さんのおかげで魔物たちから逃げ切ることができました!」

 

「ビルダーとして人を助けるのは当然のことだ」

 

俺がビルダーになってから、魔物に襲われている人を何人も助けている。そのため、人を助けることもビルダーの役目なんだと俺は思っている。

魔物に襲われていたと言うと、コルトは不思議そうな表情をした。

 

「でも、何でシェネリは魔物に襲われたのでしょう?僕たちは、雪原にいながらほとんど襲われたことがないんです」

 

今回偶然襲われたのだと思うが、何か別の理由があったのだろうか。

シェネリは何か心当たりがあるらしく、ポケットから鍵のようなものを取り出した。

 

「おそらく魔物たちは、私の宝物の鍵を狙っていたみたいなんです!」

 

その鍵はリムルダールで俺が作っていたかぎと形はほぼ一緒だが、より強く銀色に輝いている。

魔物に狙われていると言うことは、重要な場所の鍵なんだろうな。シェネリはどこの鍵なのか知っているのだろうか?

「その鍵、どこの鍵か知ってるか?」

 

「実は、雪の中に埋まっていたのを見つけただけでどこの物かは分からないんです」

 

どこかはシェネリも分からないか···ただ、絶対に重要な場所の鍵だと思うし、何か分かるまではシェネリが持っているといいな。

 

「そうか、それならその鍵は大事に保管しておいてくれ」

 

「はい、もちろんです!」

 

シェネリは鍵を再びポケットにしまった。その後、俺やコルトと別れて町のいろいろな場所を見に行った。

シェネリが去っていった後、コルトは改めて俺にお礼をしてきた。その時、やっぱりシェネリのことを恋人だと言っていた。

「改めて言いますが、シェネリは僕の大切な恋人です。助けてくださって本当にありがとうございます」

 

本人からはただの幼馴染みだと聞いたのだが、結局はどっちなのだろうか。本当の恋人でもないのに恋人だと言っていたらシェネリは迷惑に思うだろう。

 

「シェネリはあんたのことをただの幼馴染みと言っていたんだけど、本当は恋人ではないのか?」

 

俺がそう聞くと、コルトは首を振って否定する。

 

「いやいや、シェネリはただ恥ずかしがっているだけですよ」

 

さっきは恥ずかしがって違うと言ってるのではなく、本当に違うと言っているように聞こえたが、実際はどうなのだろうか。

それも気になるけど、聞いても本当のことは言わなさそうなので、これは以上は聞かないことにした。

とりあえず、コルトやシェネリとも協力して、マイラの町を作っていかないといけないな。

俺はそこでコルトと別れて寝室へと戻っていった。

 

俺が寝室に戻ってしばらく休み、そろそろもう一度ガライヤの雪原の探索に行こうとしていた時、アメルダが寝室に入ってきて話しかけてきた。

 

「さっき新しくここに来たコルトとシェネリに聞いたけど、雪のガライヤ地方にも行けるようになったんだって?」

 

アメルダもあの二人とは話していたのか。旅のとびらについてはあの二人は知らなさそうだけど、ここからガライヤに移動できることは分かる。

「ああ、コルトからシェネリを助けてくれって言われたから、旅のとびらを使ったんだ」

 

ガライヤに行けたことで話しかけてきたってことは、そこで何か手に入れてきてほしい物でもあるのだろうか。

 

「それで、俺に頼みたいことでもあるのか?」

 

「その通りさ。昨日アジトにアタシたちの攻撃が効かないフレイムが襲ってきただろ?そいつを倒す武器を開発したいところなんだ」

 

確かに、フレイムはこれまでに2回も町に襲撃してきて、俺たちを苦戦させている。奴を倒すことができれば戦いもかなり楽になるだろう。

 

「どんな形の武器なんだ?」

 

「アンタが使ってる武器を見て思い付いたんだけど、氷の力を秘めた弾丸で、フレイムを撃ち抜くのさ」

銃を使うってことか。フレイムは火を吐いて攻撃してくるし、遠距離から攻撃できればより安全に倒せる。

これからもフレイムは襲撃してくるだろうから、必ず作っておくべきだな。

 

「それで、ガライヤ地方にある凍った湖に行けばでかい氷を手に入れられるはずだから、アンタに頼みたかったんだ」

 

必要な氷はガライヤに行けば手に入るってことだな。

さっき行った時は凍りついた湖なんて見なかったから、コルトやシェネリに場所を聞いてみるか。

 

「分かった。その凍りついた湖を探してくる」

 

「頼んだよ、雄也!少なくても10個は集めてきておくれ」

 

湖と言われるくらいだから、10個くらい簡単に集まるだろう。

俺はアメルダと別れて、近くにいたシェネリに氷の湖の場所を聞いた。ガライヤ出身の彼女なら、何か知っているであろう。

 

「なあ、シェネリ。ガライャに凍り付いた湖があるらしいんだけど、どこか知ってるか?」

 

「知ってます。私がいた広い雪原を進んでいった先にありますよ」

 

あの森を抜けた場所から見えた広大なあの雪原のことか。あの雪原の奥に進んでいくにはかなり時間がかかりそうだな。

とりあえず、教えてもらえて助かったぜ。

 

「教えてくれてありがとうな。これからその氷を取ってくる」

 

「別にいいんですけど、どうして氷が必要なんですか?」

 

俺が氷を取りに行くと言うと、シェネリは理由を聞いてきた。

 

「マイラにいるフレイムという攻撃が効かない魔物を倒す武器を作るためだ」

 

フレイムのことを話すと、ガライヤにも似たような攻撃が効かない魔物がいることを聞いた。

 

「それなら、ガライヤにもブリザードと言う攻撃が効かない魔物がいるから、そいつを倒す武器もあったらいいと思います!」

 

ブリザードか···確かフレイムと同じ姿の氷の魔物だな。こっちを倒すには、逆に炎の武器を作ればよさそうだな。

 

「分かった。そろそろ言ってくるぞ」

 

「はい、気をつけてくださいね!」

俺はシェネリにブリザードの情報を聞くと、話を終えて赤の旅のとびらに入る。

一瞬で俺の前が真っ白になり、ガライヤの雪原地帯へと移動した。

 

「さっそく凍り付いた湖を探しに行くか」

 

今回は氷を取りに行くのが目的だが、この前は急いでいてゆっくり探索できていなかったので、色々調べながら氷の湖に行くことにした。

俺はさっきと同じように崖を降りて、広大な雪原を目指すために森に入った。

 

「まずは森の中を調べていかないとな」

 

森の中では、さっき見つけなかった小さな池を見つけた。その池には、リムルダールにもあったハートフルーツや、初めて見るさとうきびのような植物が生えていた。

「さとうきびみたいだけど、水中に生えているから違う物なんだろうな」

 

さとうきびは水中に生えないので別物のようだけど、料理に使えるかもしれないので俺ははがねのつるぎで刈り取った。

池のまわりにも、新しく見る白い花が咲いている植物があった。きずぐすりの原料になるのも白い花びらだけど、それとは違う形だ。

 

「この白い花は何に使うんだろうな」

 

何に使うかは分からないが、丈夫な繊維になっており、素材になりそうなので俺はその白い花も手に入れる。

俺は歩きながらそれらの植物を手に入れて行き、森を抜けた。森を抜けると、今度は広い雪原に着く。

この雪原の反対側に行くには1時間はかかりそうだな。

「広い雪原だけど、進むしかないな」

 

まだまだ時間はあるので、俺は雪原を歩き始める。

途中、町の近くのバリケードを越えた先にいるモンスター、スライムやアルミラージがいた。そこまでたくさんいる訳でもないので、見つからないように進むのは容易だ。

モンスター以外にも、きずぐすりの原料のほうの白い花やくすりの葉などがたくさん生えている。

 

「雪原にこんな植物も生えていたのか。きずぐすりは大切だし、集めておくか」

 

これらの植物は寒さに強いみたいだな。きずぐすりは魔物との戦いが激しいマイラでは重要だし、俺は見つけた白い花やくすりの葉を、すべて集めていった。

植物を集めながら雪原を歩いていき、予想通り1時間たって、ようやく氷の湖のような物が見えてきた。

やっぱりこの雪原を越えるのはかなり時間がかかったな。氷は10個ほどでいいって言われたけど、もう一度来るのも大変だし一度に集めておくか。

俺の足はかなり疲れて来ていたが、氷の湖に着くまでなんとか歩いた。

 

「何キロも歩いたけど、やっと凍り付いた湖までたどり着けたか」

 

俺はさっそく、ウォーハンマーを降り下ろし、氷を砕いていく。手に入れた氷が溶けないか心配だが、魔法のポーチに入れれば大丈夫だろうし、ポケモンのとけないこおりのように、絶対に溶けないようになっているのかもしれない。

ウォーハンマーでは氷は簡単に砕け、俺は次々に氷のブロックを集めて行った。氷が50個ほど集まって、それそろ戻ろうかと思っていると、さっきシェネリが言っていた魔物、ブリザードも見えた。

 

「あいつがブリザードだな。気をつけないと」

 

ブリザードは氷の湖に何体もいるから、見つからないように気を付けないとな。

 

また、近くの崖には水色の鉱石が埋まっていた。何の金属かは分からないが、武器を作れるかもしれないし、その金属も5個くらい集められた。

 

「この金属でも武器を作れそうだな」

 

全員分を作るのには足りないので、また見つけたら採掘するか。

氷と水色の金属を手に入れた俺は、歩いて帰るのが大変なので、キメラのつばさを使って町に戻って行った。

戻ってきた時には、だいたい午後4時くらいになっていた。いろいろ探索も出来たし、今日はアメルダに氷を取ってきたことを教えたら休むか。

俺はすぐに、作業部屋にいるアメルダに氷のことを教えに行った。

 

「アメルダ、氷を集めてきたぞ!」

 

そう言って俺は手に入れた氷のブロックを取りだし、アメルダに見せた。気温が高いマイラでも変化がないので、やはりこの氷は溶けないようだ。

 

「助かったよ雄也!これでフレイムを倒す兵器が作れるね。これで魔物からラライの発明の秘密も守れるね」

 

アメルダが囚われていたのはラライの研究の情報を聞き出すためだったから、これからも彼女をさらいに魔物が来る可能性もあるな。

魔物にその情報を知られれば、俺たちの勝てる可能性は少なくなる。これでまた、マイラの解放に近づいたな。

 

「ああ、これならフレイムがいくら来ようとも返り討ちにできる!」

 

「その通りだね!それと、ラライの発明の秘密に関してなんだけど···」

 

アメルダは、ラライの発明についての話もしてくれた。まだ俺の知らない、強力な兵器の情報だろうな。

 

「ラライはね、魔物を倒すために炎と氷を融合させる実験をしてたんだ」

 

炎と氷を融合させるってことは、メドローアの呪文のようなものだろうか。

俺たちは呪文は使えないけど、それに似たものが使えれば心強い。

 

「実は、魔物が狙っているのもその研究についての情報なんだ」

 

「確かに、魔物もその研究を完成させれば強くなれるもんな」

 

そんな情報なら、なおさら魔物に知られるとまずいな。今はフレイムを倒す武器を完成させて、対抗できるようにしないと。

 

「兎に角、俺はフレイムを倒すための武器を作ってくるぜ」

 

「分かった、頼んだよ!」

 

俺はそのために、フレイムを倒す氷の銃弾の作り方を調べる。あと、ガライヤのブリザードを倒す武器も作っておくか。

こおりの弾丸···氷2個、鉄のインゴット1個 マシンメーカー

ほのおの弾丸···マグマ岩2個、鉄のインゴット1個 マシンメーカー

どっちもマシンメーカーを使ってつくれるな。素材もあるので、俺はほのおの弾丸とこおりの弾丸を20個ずつ作っておいた。さすがに普通の銃弾のように、100個も作る必要はないだろう。

 

「これでフレイムとブリザードも倒せるようになったな」

 

次の襲撃がいつくるか分からないが、これでひとまず安心だ。俺は2種類の弾丸をポーチにしまい、作業部屋から出た。

 

作業部屋から出た後、俺は疲れていたので寝室に行き、そのままベッドで眠りについた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode70 灼熱の進軍

マイラに来て10日目、昨日いつもより早く寝たので、俺は朝早くから起きていた。

ガライヤの雪原も一通り探索したので、俺は朝食のサボテンステーキを食べながら何をしようかと悩んでいた。

 

「今日は暇だから、何をしようかな?」

 

フレイムを倒す武器を開発できたし、次はアメルダの言ってた炎と氷を融合させる研究だな。だけど、どうやったら完成させられるのかはまだわからない。

俺がいろいろ考えていると、起きてきたアメルダが調理部屋に入ってきた。

 

「雄也、昨日言ってたラライの研究の秘密について新しいことが分かったんだ」

 

俺もそのことについて考えていたけど、もう進展があったのか。早くその研究も完成させて、マイラの魔物の親玉、ようがんまじんも倒せるようになるといいな。

「どんなことが分かったんだ?」

 

「ラライの発明メモによると、フレイムを倒すと手に入るフレイムドロップという素材が、さらに強力な兵器を作るための素材になる代物らしいんだ」

 

フレイムドロップって変わった名前の素材だな。どんな形をしているのだろうか。

それはともかく、そのフレイムドロップを集めればラライの研究を完成させられるかもしれないってことか。

 

「それを集めてきてほしいのか?」

 

「そうさ、素材の収集と新しい武器の実験を兼ねて、溶岩地帯にいるフレイムをちょっとばかりぶっ倒してきてくれないか?」

 

昨日作ったこおりの弾丸がさっそく役に立つのか。まだ実戦で試したことがなかったし、ちょうどいい機会だな。

「分かった。フレイムを倒して素材を集めてくるぜ」

 

俺はさっそくフレイムを倒しに行くため、サブマシンガンにこおりの弾丸をリロードした。

これで離れた場所からフレイムを撃ち抜いて倒すことができるはずだ。準備が出来ると、俺は青色の旅のとびらに入った。

 

「フレイムは崖を降りたところにいたはずだな」

 

旅のとびらに入ってすぐのところにフレイムはいないので、ブラウニーなどの魔物を避けながらマグマの池の近くへ向かう。

 

「結構な数のフレイムがいるな」

 

そこにたどり着くと、俺の予想通り何体かフレイムが生息していた。そして、俺はフレイムの背後にまわり、サブマシンガンを構えながら近づいていく。

確実に当たる距離まで近づくと、引き金を引いてこおりの弾丸を発射する。

すると、フレイムは氷の力で貫かれ、青い光を放って消えた。

 

「本当にフレイムを倒せるみたいだな」

 

これでこおりの弾丸が本当に使えることが分かったな。

それと、フレイムを倒したところを見ると、燃え盛る炎のような形をした不思議なアイテムが落ちていた。

これがアメルダの言ってたフレイムドロップという奴だろう。俺はフレイムドロップを拾い、ポーチにしまうと次のフレイムを倒しに行った。

 

「もう少し集めて行くか。1つでは足りないかもしれないし」

 

マグマに近づけば近づくほどたくさんのフレイムが生息していて、たくさんのフレイムドロップを集めることができる。

そうやってマグマの池のすぐ近くまで来ると、マグマの中に巨大な腕の形をした魔物がいた。

俺の身長を遥かに越える大きさで、高温の岩石で体が作られていた。

 

「一体何なんだ?あの巨大な腕は」

 

どう考えても勝てそうにないので、俺は見つからないようにその場を立ち去る。

あの巨大な腕は何者なのか分からなかったが、よく考えるとようがんまじんの腕に見える。でも、顔はどこに行ったのだろうか。

腕だけでもかなり強そうだし、フレイムドロップもたくさん集まったので、そいつとは戦わずに帰ろう。

そこまで旅のとびらから離れていない場所だったので、俺は歩いて町まで戻った。

「とりあえず、アメルダにフレイムドロップを見せて来るか」

 

ようがんまじんは腕だけでも強そうだから、早く新しい兵器を開発しないといけないな。

俺はアメルダに会って、フレイムを倒してきたことを伝えた。

 

「アメルダ、フレイムを倒してフレイムドロップを手に入れてきたぞ」

 

「ありがとう、雄也!うん、やっぱりこのこおりの弾丸なら、炎の魔物にかなりの効果がありそうだ!」

 

フレイムをこおりの弾丸で倒せることが確実となり、アメルダも喜んでいる。

フレイムドロップも集めて来たし、新たな兵器の開発にまた一歩近づいたな。

 

「アンタが手に入れたフレイムドロップの力を分析して、この地域を支配する魔物の親玉、ようがんまじんを倒す兵器をなんとか開発しよう!」

腕だけでもものすごく強い魔物だったんだ。本体はもっと強力なモンスターのはずだな。

早く兵器を開発して、マイラの空の闇を晴らしたいぜ。

俺がそんなことを考えていると、アメルダはようがんまじんについての話を始めた。

 

「まだ言ってなかったけど、ようがんまじんは猛烈に熱い岩でできた巨大な腕の形をした魔物なんだ」

 

あれ?ようがんまじんは腕だけでなく、顔もあったはずだけど。アメルダはそのことを知らないのか、本当に腕だけなのか気になるな。

本当に腕だけなら、さっきマグマの中にいたあいつがマイラの魔物の親玉と言うことになる。

俺はようがんまじんの腕を見たことをアメルダに話した。

 

「そいつなら、さっき火山地帯で見たぞ。あの腕だけの奴がようがんまじんなのか?」

 

「その通りのはずさ。だけど、まだアタシたちじゃあいつを倒せない」

 

アメルダもまだ倒せないと言ってるし、戦わなかったのは正解だったな。でも、あれがようがんまじんだと言うのは、やっぱり納得できないな。

だが、アメルダの言っていることだし、あの巨大な腕を倒すことを目標にするか。

 

「もう少しラライの発明メモを見て、兵器の作り方を考えてみるよ!」

 

フレイムドロップを手に入れたとは言え、新しい兵器はまだ開発段階だ。アメルダがアイディアを思い付くのを待つしかなさそうだな。

「分かった。思い付いたら俺に教えてくれ」

 

俺はアメルダが兵器を思い付いたら、それをすぐに形にしよう。

話を終えて、アメルダが兵器のことを考えに行こうとしていたその時だった。

町の西側から、またしても魔物の足音が聞こえてきた。アメルダもそれに気づき、町の西側を見る。

すると、フレイムが12体、まどうしが6体、あくまのきしが6体いた。だが、まどうしは6体とも普通の奴で、フレイムを操ってはいなかった。

 

「何がフレイムを操っているんだ?」

 

俺が魔物の群れをよく見ていると、一番後ろに黄色の衣を纏う杖を持った魔物がいた。姿は同じだが、まどうしではない。

「あれは、だいまどうか。ヤバい奴が来たな」

 

それはまどうしの上位種、だいまどうだった。奴ほどの魔力があれば一度にフレイムを12体操ることもできるだろう。

合計25体のマイラの魔物たちが、この町に迫ってきていた。

 

「これはまずいことになったね···!魔物はアタシたちがこおりの弾丸を開発したことに焦っているみたいだ」

 

フレイムを倒せる武器を手に入れた俺たちは魔物にとって脅威だから潰しにきたのか。

今回はこれまでと比べて敵の数が多いし、魔物が焦っているのは間違いない。

ここは何とか防ぎきらないといけないが、さっきこおりの弾丸を使いきったから新しいものを作ってこないと行けない。それに、シェネリはまだおおかなづちを装備しているから、ウォーハンマーを作らないといけない。

 

「俺は今すぐこおりの弾丸を作ってくる。アメルダはみんなを呼んでくれ」

 

俺はそう言って作業部屋に駆け込み、こおりの弾丸20個とシェネリの分のウォーハンマーを作った。

本当は大砲の弾も作りたかったが、さすがにそれは時間がなかった。

 

「もうみんな集まってるだろうな」

 

俺が作業部屋の外に出ると、戦えるメンバーは全員アメルダの元に集まっていた。コルトはシェネリと違い、部屋に隠れているようだった。

 

「アメルダ、こおりの弾丸を作ってきた。それと、シェネリにはウォーハンマーを作った」

 

俺はシェネリにウォーハンマーを渡し、サブマシンガンにこおりの弾丸を入れる。

魔物の群れももう目前まで迫っているので俺たちはすぐに迎撃態勢を取る。マイラの町の6回目の防衛戦が始まった。

 

今回は大砲が使えないので、武器を使って倒していくしかない。不幸中の幸いで、トロルのような巨体の魔物がいなかったのはよかったな。

俺たちが前衛で襲いかかってくるあくまのきしに斬りかかろうとすると、だいまどうがフレイムを操りだした。

 

「フレイムどもよ、今度こそこの町を焼き払い、愚かな人間どもを消し去るのだ」

 

フレイムが12体もいたら、今までなら絶望的な状況だが、こおりの弾丸を入手した今なら違う。

俺はサブマシンガンを構え、フレイムたちに連射していく。

「フレイムだろうが何だろうが、俺たちなら倒せるぜ」

 

これでフレイムを6体倒し、残り半分になる。だが、こんな簡単に倒せると言うことは、奴らはこおりの弾丸を手に入れたことに気がついていないのだろうか。

おかしいと思っていると、俺に向かっていきなり大量の火球が飛んできた。

 

「我らに騙されたな、ビルダーよ」

 

6つの方向からメラの呪文を唱えられて、俺は回避しきれずウォーハンマーとはがねのつるぎを使って受け止める。

だが、炎を防ぎきることは出来ず俺は軽いやけどを負ってしまう。

フレイムはただのおとりで、俺がフレイムと戦っている途中にまどうしたちが囲むつもりだったようだ。

「くそっ、6体に囲まれてしまったか」

 

こおりの弾丸が出来たからと言って、調子に乗りすぎたようだな。

みんなはあくまのきしに足止めされていて、俺のところにたどり着けない。

 

「筋肉野郎どもめ、貴様らの相手は我らがしよう」

 

「女だからと言って、決して容赦はしないぞ」

 

あくまのきしは戦い慣れているが、倒すのにはすこし時間がかかる。

 

「ここを通せよ!雄也を助けに行くぜ!」

 

「ワシの邪魔をするのなら、こちらも容赦はせぬぞ!」

 

「今日もアンタたちを叩き潰すわよ!」

 

荒くれたちは筋肉の力であくまのきしに大きなダメージを与えているが、まだ倒せていない。

俺は6体のまどうしに囲まれ、ピンチに陥っていた。1体ずつ倒して数を減らして行くしか方法はないな。

 

「たとえ囲まれても、必ずお前たちを倒してやるぜ!」

 

俺ははがねのつるぎとサブマシンガンを持ち、まどうしに斬りかかっていく。

俺は次々に飛んでくるメラの魔法を避けながらまどうしの一体を斬りつけた。回転斬りを使えば一撃で倒せるかもしれないが、攻撃を溜める時間もない。

一体を斬りつけてすぐに後ろを振り向き、まわりのまどうしをサブマシンガンで撃ち抜いていく。

弾を入れ換える時間もないので、俺はこおりの弾丸でまどうしを撃った。だが、フレイムをせる唯一の武器であるこおりの銃弾を無くすのは困るので、6発は残しておいた。

一体につき1~2発しか当てられなかったが、まどうしにもこおりの弾丸の方が効果があるようで、動きを止めることができた。

「これでまずは一体だな」

 

そして、まどうし全員が怯んだところで俺ははがねのつるぎで斬りつけた目の前にいるまどうしを、思いきり引き裂く。

それでもまだ5体に囲まれているが、こいつらはさっきからメラを連発しているし、そろそろ魔力が尽きそうだな。

しかし、俺の思い通りにはいかなかった。

 

「この前も今回も、どこまで我らの仲間を殺せば済むのだ。決して許さぬぞ!」

 

そう言った後、まどうしたちは一斉にメラの呪文を放つ。俺もかわしつづけて、体が疲れてきていた。

みんなは、あくまのきしを倒せたのだが、俺の倒しそこねたフレイムに行く手を妨げられている。

 

「フレイムは今度はみんなを妨害しているな···撃ち抜いてやるか」

 

残っている6発の銃弾で、みんなと戦っているフレイムを倒さないとな。攻撃が効かないフレイムに圧倒され、6人とも苦戦している。

俺は何とかまどうしの放つメラをかわして、フレイムに向かってこおりの弾丸を放つ。

そして、フレイムが倒されて動けるようになった6人は、俺を助けるためにまどうしに武器を向けた。

 

「今すぐ助けに行くぜ、雄也!」

 

「この筋肉の力を見せつけてやるぞ!」

 

「アンタたち、アタシたちを焼き殺そうなんて許さないわよ!」

 

「雄也、今助けに行くよ!」

 

「鍛冶屋の力って物をなめるなよ」

 

「私もこの町を守って見せます!」

 

だが、そんなみんなに向かって、大きな火の玉が飛んできた。

 

「せっかくビルダーを騙せたと言うのに···!メラミ!」

 

隊長であるだいまどうが、6人に向かってメラミの呪文を唱えた。あの竜王の影も使っていた呪文だ。

しかし、竜王の影のものほど威力は高くなく、6人は回避してまどうしのところに向かう。

まどうしは5体なので、アメルダはだいまどうに斬りかかって行った。そして、残りの5人はまどうしにウォーハンマーで殴りかかり、大きなダメージを与える。

俺は回避のしすぎで体力の限界だったが、俺もみんなを助けないといけないので立ち上がり、それぞれが押さえつけているまどうしを斬り裂いていく。

 

「よくも俺を騙したな。一体も残らず斬り裂いてやる!」

 

みんながまどうしを押さえつけているので、俺はその間にまどうしの心臓をはがねのつるぎで突き刺して行く。

次々にまどうしはその数を減らしていき、後はアメルダの戦うだいまどうだけだ。

 

「このだいまどう、結構強いね···」

 

アメルダもだいまどうのメラミを避けるのに一苦労で、あまり反撃は出来ていなかった。

だが、俺たち全員でかかれば押しきれるだろう。

 

「みんな、あのだいまどうを集中攻撃するぞ!」

 

「おう、アネゴだけを戦わせる訳にはいかねえからな!」

 

ガロンの返事で、俺たちはだいまどうに殴りかかる。みんながウォーハンマーで奴の背中を殴りつけ、とどめにアメルダが頭から真っ二つにする。

 

「どれだけ強くても、アタシたちには勝てないよ!」

 

奴らの作戦にはまってしまったこともあって、今回は今まで以上に苦戦したな。

とりあえず勝つことが出来たので、俺たちは町の中に戻って行った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode71 新たな作業部屋

俺はマイラの6回目の戦いの日、まどうしの攻撃でやけどをした腕にきずぐすりを塗って休んだ。

 

「マイラの魔物がここまで攻めてくるとは思ってなかったぜ」

 

ガライヤで大量の白い花びらを手に入れたから不足はしないだろうが、なるべくケガはしたくないな。

今度はさらに強力な魔物が来るだろうし一刻も早く新しい兵器を開発しないといけない気がする。

明日には傷も治ってるだろうし、何か手伝えることがあったら手伝うか。

俺はそんなことを思いながら、わらベッドで眠りについた。

 

マイラに来て11日目の朝、俺はやけども治っていて、アメルダにどのくらい研究が進んでいるか聞きに言った。

「アメルダ、兵器の開発は進んでるか?」

 

アメルダは昨日の戦いの後も作業部屋にこもってラライの発明メモを解読していたので、進展があったかもしれない。

 

「実は雄也、そのことで困っていることがあるんだ」

 

「困っていること?何があったんだ?」

 

発明の途中で困っていると言われても、俺では解決できるか分からないな。発明メモを解読してくれと言われても、詳しくない俺には無理がある。

だが、アメルダの困っていることはそれとは別のことだった。

 

「昨日の午後から、あの発明バカが残したメモの解読を続けてたんだけど、荒くれどもがアタシの集中力を片っ端から奪っていきやがるんだ」

 

あいつらが作業部屋に何度も入ってきたと言うことだろうか。

でも、俺から見たらあいつらは物を作るより、温泉に入ったり魔物と戦ったりすることが多いイメージだ。

 

「そんなに作業部屋に何回も出入りしてるのか?」

 

「ああ、それも作業をするためじゃなくて、話をするためなんだ。筋肉はこっていないかだの、筋肉は張っていないかだのうるさくてね」

 

そう言うことか。確かに俺もあいつらが筋肉の話をしているのは聞いたことが何度もある。

そんな話を大声でされたら、集中力が切れるのも分かるな。

 

「アタシはもともと、メモの解読なんて苦手だから、気が散って一向に進まないんだ」

 

「それで、どうすればいいんだ?」

 

俺がどうすればいいか聞くと、アメルダは部屋の設計図が書かれた紙を取り出した。

 

「この設計図通りに、専用の作業部屋を作って欲しいんだ」

 

その設計図には、マシンメーカーと収納箱や、それ以外にもタルやランプや本、それを入れるための本だなが書かれている。

特に気になったのは、ランプの隣にあるスイッチだった。これはなんのために付けてあるんだ?

 

「一つ聞きたいけど、このスイッチは何なんだ?」

 

「このカベかけランプを付けたり消したりするためさ」

 

このスイッチはランプを付けるためにあるのか。初めて見る物が多いけど、何とか作れるかもしれない。

「雄也、作れそうかい?」

 

「ああ、素材さえあればできるはずだ」

 

俺ははじめて見た道具の作り方を調べた。タルはアレフガルド歴程が置いてある部屋にあったので、それを回収すればいいな。

かべかけランプ···ガラス1個、鉄のインゴット1個、マグマ電池1個 マシンメーカー

カベ用スイッチ···鉄のインゴット2個、ばね3個、あかい油1個 マシンメーカー

本···パルプ5個、あかい油1個 鉄の作業台

本だな···木材1個、本3個 鉄の作業台

パルプと言うのは、ガライヤで手に入れた繊維状の白い花のことだろうな。他の素材もたくさん持っているので作ることはできそうだ。

だが、かなり時間がかかりそうだからアメルダに土ブロックで壁を作っておいて欲しいな。

 

「何とか作れそうだから、アメルダは土ブロックで壁を作っておいてくれ」

 

「分かった。頼んだよ、雄也」

 

俺はアメルダに土ブロックを渡すと、中に置く道具を作りに、作業部屋にいった。そこではアメルダの言う通り荒くれたちが筋肉の話をしていたが、気にせずに作業を始める。

 

「まずは、カベかけランプとカベ用スイッチだな」

 

俺はまず、マシンメーカーで作ることのできるものを作り始める。

大砲やサブマシンガン、床用スイッチを作った時に余った素材で作ることが出来るので、すぐに完成させることが出来た。

カベかけスイッチは1つしか要らないのに、一度に3つ出来てしまった。

 

「これでマシンメーカーを回収できるな」

 

その2つを作り終えると、俺はウォーハンマーでマシンメーカーを叩いて回収した。マシンメーカーも新しい作業部屋に置かないといけないからな。

 

「あとは本と本だなを作るか」

 

マシンメーカーをポーチにしまうと、今度は鉄の作業台の前に立った。

そして、パルプとあかい油を使って本を作り出す。本は、一度に3冊作ることが出来た。

本3つで本だなが出来るからちょうどいい。

俺は本3冊と木材1個にビルダーの魔法をかけた。一度に5個もできた本だなには、原理は不明だがすでに大量の本が入っており、新しく本を作る必要はなさそうだ。

本だなは4つで足りるので、これで必要な道具は全て揃ったな。それと、入り口に置くための扉も作った。

 

「本だなもできたし、あの部屋にある、タルを回収して持っていこう」

 

俺は作業部屋から出た後、タルを回収してアメルダが壁を作っている場所へ行った。

俺が作っている時間が長かったのか、すでに壁は完成していて、中に家具を置くだけだ。

 

「雄也、必要な物は全部作れたかい?」

 

「ああ、今すぐこの部屋の中に設置する」

 

アメルダもかなり待っていたようなので、俺は設計図を見ながら中に家具を設置していく。

カベかけランプのとなりに置いたスイッチを押すと、本当にランプを消したり付けたりすることが出来た。

本だなも4つ置いたので、研究の結果を記録することができるだろう。

俺とアメルダが協力して、ついに新しい作業部屋を完成させることが出来た。兵器の研究をする場所だから、研究室と呼ぶべきか。

アメルダはさっそく研究室に入り、完成したことを喜んでいる。

 

「うん!アタシの設計図通りに作れたね!」

 

作ったことがないアイテムも多かったけど、無事作れて良かったな。

荒くれたちのいる作業部屋や温泉とは離れた場所に作ってあるし、ここなら落ち着いて兵器の開発を進められるだろう。

 

「これで、ようがんまじんを倒すための兵器について、解読を進められそうだ」

 

「あとどのくらいで出来そうなんだ?」

 

これで強力な兵器の開発にまた一歩近づいたし、居場所も分かっているようがんまじんを早く倒しに行きたいな。

しかし、アメルダの話によるとまだ時間がかかるようだ。

 

「まだまだ時間がかかるよ···さっきも言ったけど兵器の開発なんて、全然得意じゃないんだ」

 

そう言えば、どうしてアメルダは荒くれのリーダーなのに、発明家の助手なんてしていたんだ?

俺から見ると、アメルダが発明家の助手だったと言う話は不思議に思える。

 

「だったら、どうして発明家の助手を始めたんだ?」

 

「勘違いするんじゃないよ、雄也。発明家の助手まがいさ···少し研究の手伝いをしたくらいさ」

 

そこまで助手らしいこともしていなかったんだな。ただ、一緒に魔物に立ち向かう仲間が発明家だったから少し手伝った、それだけの話ってことなのかもな。

俺がいろいろ思っていると、アメルダは話を変えて俺に新しい装置の話をした。

 

「話を変えるけど、例の発明バカの記録にあるしかけが書いてあってね、アンタに教えておくよ」

 

今も研究を続けている強い兵器ではないけど、役にたつ可能性もあるのか。

 

「ピストンって言って、箱が飛び出して魔物を弾き飛ばす装置さ」

 

魔物を弾き飛ばす効果があれば、敵が町のすぐそばまで来ても追い払えるってことだからすごく便利だな。

俺はビルダーの魔法で、ピストンの作り方を調べる。

ピストン···鉄のインゴット3個、ばね5個、マグマ電池1個 マシンメーカー

スイッチと似たような素材で作れるみたいだな。それにしてもこの地方では本当に鉄を使うことが多い。

そろそろ火山地帯か雪原で鉄を集めに行こうと思っていると、ベイパーが話しかけてきた。

 

「雄也よ、最近魔物の攻撃が激しく、アジトが破壊される危険が高まってきている」

 

確かに、この前のトロルが来たときなんてもう少しで温泉や砲台が破壊されるところだったからな。

何かしらの対策をした方がいいと、ベイパーも思っているようだ。

 

「まあな、何か対策が出来ればいいんだけど」

 

「ワシもそう思って、どうにか魔物をアジトに近づけない方法を考えたのだ」

 

この町に魔物を近づけないと言うのなら、さっきアメルダから教えてもらったピストンが使えるかもしれない。

そして、ベイパーも全く同じことを考えていたようだ。

 

「そこでワシは、アネゴから教えてもらったピストンと言う装置を使って魔物を追い払えるのではないかと思い付いた」

 

「俺も全く同じことを考えていたぜ。あれを使えば、魔物はここに入れないはずだ」

 

いつも筋肉ばかり言っているベイパーがこんなことを言うのは珍しいし、まさか同じことを考えていたとはな。

それにしても、アメルダは荒くれたちにもピストンのことを教えていたのか。

二人ともピストンを使って魔物を追い出すという意見で一致して、ベイパーは装置の設計図を俺に渡した。

 

「ワシの設計図通りの装置を作れば、アジトの防御力が劇的に高まるはずだ」

 

その設計図では、ピストンの前に床用スイッチが設置されていて、魔物がそのスイッチを踏むことでピストンが作動するようだ。

これなら、確かに魔物はこの町の中に入ってこれないな。ピストンと床用スイッチが9個ずつ必要で、これもまた大量の鉄を使いそうだ。でも、作っておけば間違いなく安全に戦えるようになる。

 

「じゃあ、さっそく作ってくるぜ」

俺がピストンとスイッチを作りに行くため、さっき作った研究室に向かおうとすると、ベイパーが町の西にある溝のような場所を指差した。

 

「設置場所はそこがいいぞ。丁度床用スイッチが置けるように一段低くなっておるだろ」

 

この溝は元からあったものだけど、これを利用して設置するのもいいな。

 

「分かった。すぐに作ってくるから待っていてくれ」

 

設置場所のことを聞き終わると、俺はすぐにマシンメーカーを使いに作業部屋にいく。

俺は最初にピストンを作るため、足りない素材であるばねを作ってその後に鉄のインゴットやマグマ電池と組み合わせて、ピストンにする。

ピストンは魔法をかけると、同時に5個も作ることが出来るようだった。もう1セット作れば、ピストンは必要な数になる。

 

「ピストンも1度に5個もできるんだな」

 

この世界では、一度にいくつも出来る物が多いが、どうしてかは気にしないでおこう。

そして、俺はピストンをもう1セット作り、合計10個になった。一度に1つしか作れないのなら、鉄が足りなくなっていた所だった。

 

「次は床用スイッチだな」

 

ピストンを作ることが出来たら、今度は床用スイッチを作り始める。

これもばねや鉄のインゴットで作ることが出来るので、鉄の数がさらに減って行った。

床用スイッチが9個作れた時には、鉄はもう残り数個しかなかった。でも、これは作ることが出来たからよかったな。

 

「これで魔物を追い払う装置を完成させられるぜ」

 

俺は完成したピストンと床用スイッチをポーチに入れて、ベイパーの言っていた設置場所に向かった。

そこにたどり着くと、先にピストンを設置し始める。向きにも気をつけて、箱が飛び出る部分が町の外に向くよう置いた。

ピストンを設置し終えると、それらの前に床用スイッチを置いていく。魔物がこのスイッチを踏めば、ピストンの力で外に飛ばされるだろう。

 

「そう言えばこのピストンって、どのくらい飛ぶんだ?」

ピストンと威力がどれくらいか気になり、スイッチを押してみようと思ったが、怪我をしたら困るのでやめておいた。

兎に角、これで町の防衛装置が完成したので、ベイパーに教えた。

 

「ベイパー、ピストンを作って設置してきたぞ」

 

「おお!よくやったぞ雄也。これで床用スイッチを踏んだ魔物は、ピストンで弾き飛ばされるようになる!アジトを守れる可能性も上がったと言うことだ!」

 

アジトであるマイラの町を守れる可能性が上がり、ベイパーはとても喜んでいる。

ベイパーだけでなく、みんなにとっても嬉しいことだろう。

 

「ワシはアネゴだけに兵器の開発を任せていたことが気がかりでな。それでこのピストンバリアを思い付いたんだ」

 

どうしてベイパーがこんな物を思い付いたのか不思議に思っていたけど、少しでも兵器の開発に貢献したいと思っていたからなのか。

ベイパーは筋肉のことばかり考えているイメージだが、そんな一面もあったんだな。

 

「もしアジトに魔物が進入したら、ピストンで弾き返されるのを待って、外で戦うようにするのだぞ」

 

「ああ、分かってる。これからも一緒に魔物と戦っていこうな」

 

これまでは町の中にまで魔物が入ってきたことは少ないが、これから何が起こるか分からない。

そう考えると、ベイパーの活躍は大きいな。

 

その日、俺はベイパーと別れた後雪原地帯に鉄を取りに行った。

雪原の近くの崖にも大量の鉄が埋まっており、たくさん集めることが出来た。30個ほど見つけることができ、夕方には町に戻って、明日からに備えて休んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode72 魔法の金属

アメルダの研究室が出来た翌日、マイラに来て12日目の朝、俺はいつも通り朝起きて、朝食を食べに行った。

朝食を食べていると、後から調理部屋に入ってきたアメルダに話しかけられた。

 

「雄也、話しておきたいことがあった」

 

「何か分かったのか?」

 

アメルダは俺がピストンを作っている間にも研究室で発明メモの解読を進めていたからな、何かが分かったのかもしれない。

そして、俺の予想は本当だったようだ。

 

「アンタと協力して作った新しい作業部屋のおかげで作業が抜群にはかどってね、ついに強力な兵器の開発に繋がるものすごい発明品を作る糸口がつかめたのさ!」

やっぱり研究に進展があったみたいだな。

まだ最強の兵器は作れないけど、それを作るのにも繋がる重要な物ってことか。

 

「そのものすごい発明品と言うのは、どんな奴なんだ?」

 

「エネルギー物質って物でね。この物質そのものが強大な力をたくわえてんだ」

 

エネルギー物質か···そのまんまな名前だけど、アメルダの言う通り強い力が秘められているのだろう。

今回は、そのエネルギー物質の作り方が分かったのかもしれないな。

 

「エネルギー物質は、どうやったら作れるんだ?」

 

「メタルハンターやキラーマシンが落とすハンター回路とかいう物と、ブリザードのブリザードロップ、フレイムのフレイムドロップを合わせて作れて、白い色をしているんだ」

この前キラーマシンを倒したらそのハンター回路と言う物をいくつも落としていたし、フレイムからフレイムドロップも集めたから、後はブリザードのブリザードロップとやらを集めればよさそうだな。必要な数も気になるので、俺はビルダーの魔法で調べる。

エネルギー物質···ハンター回路5個、フレイムドロップ3個、ブリザードロップ3個 マシンメーカー

必要な数が多いから、これは一度に作れるパターンだな。2つは揃っているので、あとはブリザードロップを3個取ってこれば作れる。

 

「それなら、後はブリザードロップを集めれば作れるぜ。取りに行ってくる」

 

俺がブリザードを倒しに行くため、赤の旅のとびらに向かおうとすると、アメルダは俺を呼び止めてエネルギー物質は加工すれば武器に出来ることも教えてくれた。

 

「ちょっと待っておくれ。エネルギー物質はミスリルと組み合わせることで、武器を作ることも可能なんだ」

 

ミスリルって言うのは、雪原で見つけた水色の金属のことだろうな。昨日鉄を取りに行った時にも見つけて、20個ほど持っている。

ミスリルを使った武器がどのくらい強力なのかは分からないが。

 

「その、ミスリルを使った武器って、どのくらい強いんだ?」

 

「ミスリルとエネルギー物質を合わせると、まほうインゴットになって、鋼の武器より強いはずなんだ。それだけじゃなくて、フレイムやブリザードも普通に倒せるようになるはずさ」

 

まほうインゴットって、不思議な名前だな。フレイムやブリザードも倒せる能力があるから、魔法の武器と呼ばれているのだろうか。

兎に角、それを使えば普通にフレイムやブリザードと戦えるようになるってことだな。

またしても大量のフレイムが襲撃してくる可能性もあるので、絶対に作っておくべきだな。全員で魔法の武器を使えば、すぐに奴らを壊滅させられる。

 

「すごくいい武器だな。どんな物があるか教えてくれ」

 

「あんまりいいネーミングじゃないけど、4つの武具が作れるみたいだよ」

 

俺がまほうインゴットで作れる武器を聞くと、アメルダは剣、ハンマー、盾、鎧の作り方を教えてくれた。

俺はまほうインゴットの作り方と共に、それらの武器と防具の作り方を調べる。

まほうインゴット···エネルギー物質1個、ミスリル3個 マシンメーカー

ひかりのつるぎ···まほうインゴット1個 マシンメーカー

まじんのかなづち···まほうインゴット2個、マグマ電池1個 マシンメーカー

まほうのたて···まほうインゴット1個、木材1個 マシンメーカー

まほうのよろい···まほうインゴット2個、ひも1個、イエティの毛皮1個 マシンメーカー

インゴットや武器なのに、炉ではなくマシンメーカーで作るんだな。全員分作るには大量のまほうインゴットが必要だが、何とか揃えないとな。

それと、アメルダはネーミングがいまいちと言っていたけど、そんなにかっこいい名前をつける必要もないと思うが。

 

「このまほうインゴットを使った武器があれば、マイラを支配する魔物の親玉、ようがんまじんを倒せるかもしれないね」

最強の兵器を作らなくとも、魔法の武器だけでもようがんまじんを倒せる可能性もあるのか。

武器が出来たら、マイラの魔物との決戦が始まるかもな。

 

「分かった。魔法の武器を作って、必ずようがんまじんを倒そう!」

 

俺はアメルダにそう言うと、まずはエネルギー物質を作るためのブリザードロップを集めに雪原地帯に行った。サブマシンガンとほのおの弾丸を持ったので、準備は完了だ。

 

「ブリザードはあの氷の湖にいたはずだな」

 

俺は雪原に出ると、ブリザードのいる氷の湖に向かうため、魔物を避けながら森を抜けて、奥へ進んで行った。

そして、森を抜けると広大な雪の大地が目の前に広がる。

「ここを1時間くらい歩けばたどり着いたはずだ」

 

その広大な雪原には、まだたくさんの白い花が咲いているので、この前とは別の場所を通りながら氷の湖を目指した。

すると、途中でとんでもない魔物を見てしまった。

 

「ギガンテスか···何でこんな場所にいるんだ?」

 

身長が10メートル近く、俺の身長より大きいかもしれないハンマーを持つ巨人の魔物、ギガンテスが雪原に立っていたのだ。

町の南の荒野にいるボストロールと同じで、ようがんまじんよりも格が上だと思われる魔物だ。ガライヤの魔物の親玉にしても、ギガンテスより強い奴だとは思えない。

もしギガンテスに見つかったら、すぐに足で踏み潰されそうなので、俺はすみやかにギガンテスから離れて、湖へ進んでいった。ギガンテスがいた場所から30分くらい歩いて、ようやくブリザードのいる凍り付いた湖にたどり着くことができた。

 

「ここまでたどり着くことができたな。さっそくブリザードを倒すか」

 

湖に到着すると、俺はサブマシンガンにほのおの弾丸を入れる。そして、冷たい氷の上でブリザードに忍び寄り、サブマシンガンの引き金を引いた。

ほのおの銃弾を当てると、ブリザードは溶けていくように青い光を放って消えていき、フレイムドロップに似た青い素材を落とした。

 

「これがブリザードロップか、あと2つだな」

 

俺はブリザードロップをポーチにしまい、近くにいた別のブリザードにサブマシンガンを向ける。

湖にはかなりの数が生息していたので、10体以上のブリザードを倒すことができた。何故かは分からないが、かき氷を落とす奴もいた。

「何で魔物がかき氷を持ってるんだ?」

 

ブリザードロップはフレイムドロップのように100%手に入れることは出来ないようだが、必要な数が揃ったので俺はキメラのつばさを使い町に戻って行く。

 

町に戻って来ると、エネルギー物質を作るため、研究室に入った。

研究室では、アメルダがラライのメモを読んでいて、俺に気づくと話しかけてきた。

 

「雄也じゃないか。エネルギー物質の素材が集まったのかい?」

 

「ああ、これからみんなの分の魔法の武器を作る」

 

俺はマシンメーカーの前に立って、エネルギー物質をビルダーの力で作り出す。エネルギー物質は、1回で10個も作ることができ、一度作れば不足することは当分なさそうだ。

エネルギー物質は、白い不思議な形のする、強い力を感じられる物質だった。

 

「エネルギー物質が出来たから、次はまほうインゴットをだな」

 

エネルギー物質を作った俺は、今度はそれをミスリルと合体させ、まほうインゴットを作る。

全員分の武器が作れるように、エネルギー物質3個と、ミスリル9個を使い、まほうインゴットを15個作る。

 

「これがまほうインゴットか、ミスリルとは色が違うな」

 

アメルダからも聞いていたので知っていたが、まほうインゴットはミスリルを使っているのに水色ではない。エネルギー物質の色と同じになっている。

それはともかく、まほうインゴットが完成すると、俺はそれを加工して俺、アメルダの分のひかりのつるぎ2つと俺、ガロン、ベイパー、ギエラ、ゆきのへ、シェネリの分野のまじんのかなづち6つを作った。

「これで魔法の武器も作ることが出来たな。みんなに渡して来るか」

 

俺はまず、自分の分のひかりのつるぎとまじんのかなづちをしまい、近くにいたアメルダにもう1本のひかりのつるぎを渡した。

 

「アメルダ、みんなの分の魔法の武器が出来た。これがアメルダの分だ」

 

「これはひかりのつるぎか、実物を見るのは初めてだけど、ものすごく強そうだ···ありがとね、雄也!」

 

俺がひかりのつるぎを見せると、アメルダは喜んでそれを受けとる。

ひかりのつるぎを受け取った後、アメルダはラライの研究についての話を始めた。

 

「アンタに教えたエネルギー物質は、炎と氷の力を合わせ持つ物でね、ラライの研究していた物の試作品みたいな物さ」

 

確かに、エネルギー物質はフレイムとブリザードの素材を使っているから、両方の性質を持つことになっている。

でも試作品ってことは、もっと強力な物もあるってことだろうな。

 

「試作品ってことは、改良された物もあるってことか?」

 

「いいや、炎と氷を合わせることで、爆発的なエネルギーが得られるらしいけど、結局アイツは研究を完成できずに死んじまったよ」

 

炎と氷を本当に合わせることが出来たら、メドローアのような強力な攻撃が出来るようになるだろうけど、完成はさせられなかったのか。

俺たちの力で作ることが出来ればいいんだけどな。

 

「その研究だけど、魔物たちも同じことをしたがっているようなんだ。何を企んでいやがるのかは、分からないけどね」

魔物もその力が欲しいからアメルダを誘拐していたんだよな。

魔物が強力な兵器の研究を完成させてしまうことは、何としても阻止しないといけない。

アメルダもそう思っているようで、火山地帯に乗り込んでようがんまじんの腕を倒すつもりのようだ。

 

「兎に角、魔法の武器があれば勝ったも同然さ。みんなにも武器を渡して来て、準備が出来たらこの地を支配するようがんまじんを倒しに、火山地帯に乗り込もうじゃないか!」

 

あれがようがんまじんの本体とはとても思えないのだが、アメルダを信じてあいつを倒すしかないか。

俺はアメルダと別れた後は、5人にまじんのかなづちを渡し、ようがんまじんの腕を倒しに行くことを伝えた。

 

「俺とアメルダで新しい武器を作った。これがあれば、ようがんまじんも倒せるはずだから、準備が出来たら火山地帯に行くぞ」

 

俺の話を聞くと、みんなは急に真剣な表情になった。ようがんまじんを倒しに行くと聞き、緊張しているようだ。

 

「分かったぜ。まだどんな奴か見たこともないが、絶対に倒してやる」

 

ガロンはまだあのようがんまじんの腕も見ていないのか。

ガロンだけでなくみんなは、アメルダがようがんまじんは腕一本だけの魔物と言っているのを信じるのだろうか。俺は絶対に違う気がするんだよな。

俺がいろいろ考えている間に、荒くれたちは戦いの準備をしに行った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode73 氷河の軍勢

俺はみんなにまじんのかなづちを渡した後、研究室に戻って再びまほうインゴットを作っていた。

魔法の剣とハンマーはもう作ったが、銃弾や大砲の弾はまだだからな。俺はまほうインゴットを使う銃弾と大砲の弾の作り方を調べる。

まほうの弾丸···まほうインゴット1個 マシンメーカー

まほうの砲弾···まほうインゴット1個、マグマ電池1個 マシンメーカー

普通の銃弾と同じで、作るのは簡単だな。

俺は新しく作ったがまほうインゴットから、まほうの弾丸100発と、まほうの砲弾5発を作った。

 

「これで俺は準備が出来たな」

 

俺はそれらをポーチにしまって、研究室の外に出た。これで後は、みんなの準備が出来るのを待つだけだな。

しばらく待っていると、ギエラが話しかけてきた。

 

「ねえ、雄也。溶岩地帯に乗り込む前に、ひとつアタシからお願いしたいことがあるの!」

 

「こんな時に、どうしたんだ?」

 

まじんのかなづちの他に作ってほしい武器でもあるのだろうか。

だが、ギエラの言ったことは俺の予想とはまったく違うことだった。

 

「いいえ、アンタにもう一度このアジトの温泉をグレードアップしてほしいっていうお願いよ!」

 

このタイミングで温泉!?魔法の武器が出来てもうすぐようがんまじんの腕を倒しに行くと言うところなのに、なんで温泉なんだ?

戦いが終わってからでもいいと思うのだが。

 

「何で今温泉のことを言うんだ?」

 

「みんな、決戦の前に裸でぶつかりあって仲間同士の結束や士気を高める必要があるって言ってたの」

 

裸でぶつかり合うと言う変な表現が気になるけど、この前のアメルダを救出する時に温泉をグレードアップしようと言っていたのと同じ理由か。

荒くれたちにとっては、温泉に入るのが士気を高める一番の方法だからな。

 

「それで、見ると気分が高ぶるような物を、温泉の壁に飾ってほしいわね」

 

「それならこの前も付けただろ。あれ以上に士気が上がる物って何かあるのか?」

 

今この町の温泉には剣、武器屋、防具屋のカベかけと3種類の壁掛けがある。

それより士気が上がりそうな壁掛けなんて、俺には思い付かないな。

 

「さっき、アンタがくれたハンマーが描かれている壁掛けがいいわね。それがあれば、ムラムラと···じゃなかった、モリモリと、見るだけで力が沸いてくる気がするの」

 

ムラムラとか、またギエラは変なことを言ってきた。まあ、少し変態なところがギエラの個性だとは思うが。

それはともかく、さっき俺が渡したハンマーと言うことは、まじんのかなづちが描かれた壁掛けが良いってことだな。

 

「分かった。作れるか調べてみるぞ」

 

「お願いするわ。出来たら、温泉の壁に飾ってね」

 

俺はギエラにそう言うと、まじんのかなづちが描かれた壁掛けの作り方を調べた。

まじんのカベかけ···武器屋のカベかけ1個、まほうインゴット1個 炉と金床

まじんのかなづちが描かれた壁掛けだから、まじんのカベかけと言うのか。

作るのには武器屋のカベかけも必要なので、温泉から回収しないといけないな。

 

「あの武器屋のカベかけを加工すればいいな」

 

俺は温泉に入り、武器屋のカベかけをウォーハンマーで回収する。それをポーチにしまうと、今度は作業部屋に向かった。

炉と金床で作れる物は神鉄炉でも作れるので、俺は武器屋の壁掛けとまほうインゴットを入れた。

 

「まほうインゴットを使うのに炉で作るのか」

 

まほうインゴットを使った武器は全てマシンメーカーで作るのに、壁掛けは炉で作れるようだ。

ビルダーの魔法をかけて少ししていると、まじんのかなづちが大きく描かれている、2メートル×2メートルの、大きな壁掛けが出来た。

 

「これがまじんのカベかけか。かなり大きいな」

 

俺はまじんのカベかけが出来ると、作業部屋から出て温泉に持っていく。

温泉に入ると、奥の壁の中央にまじんのカベかけを設置した。これなら、みんなで集まって眺めることができる。

俺は、さっそくまじんのカベかけを設置したことをギエラに伝えに行った。

 

「ギエラ、温泉にあんたが言ってた壁掛けを置いたぞ」

 

俺がそう言うとギエラは温泉の中に入って、まじんのカベかけを見て驚く。

 

「素敵じゃない!これでようがんまじんに挑むモチベーションも高められるわね!」

 

ようがんまじんの本体ではなく腕だとしても、かなり強いはずだから、士気を上げておいて損はないんだよな。

温泉に入って戦う気力が高まっているみんなとなら、ようがんまじんの腕くらい、簡単に倒せるかもな。

 

「雄也、アンタにはいつも世話になってしまって、悪いわね」

 

「ビルダーとして当然のことだから気にすることないぞ」

 

ギエラは、俺にばかり温泉の強化を頼んで申し訳なく思っているようだった。

別に俺はビルダーとして当たり前だと思うので、気にしてはいなかったが。

 

「そうだわ!せめてものお礼に、アタシのとっておきの技、筋肉ぱふぱふをやってあげる!」

 

何だ、筋肉ぱふぱふって?詳しくは分からないが、ものすごく嫌な予感がする。

ぱふぱふと言われたらしてもらいたいと思うが、それに筋肉って言葉がつくと一気にイメージが変わる。

俺が嫌そうな表情をしていることは、ギエラも気づいた。

 

「雄也ったら、何を期待してそんな顔をしているの?筋肉ぱふぱふはまだおあずけよ。魔物の親玉を倒したらやってあげるわ」

 

全然期待していないのに、何故か誤解されている。

今はしないと言うところで、逆に安心するぜ。

 

「今はみんなと温泉に入ってくるわ。雄也も戦いの準備をしながら待っててね」

「分かったけど、ようがんまじんを倒しても筋肉ぱふぱふはお断りだぞ!」

 

ギエラは、ガロンやベイパーと俺が強化した温泉に入りに行った。

俺は筋肉ぱふぱふは嫌だと伝えたかったが、ギエラは走りさって行ってしまった。

とりあえず、あの3人が温泉から出てきたら、ようがんまじんの腕を倒しに行くことになるだろう。

俺は準備が完了しているので、3人が上がってくるのを待っていた。

 

すると、5分くらい経ってこの前のように町の西から、魔物が歩いてくる音がした。

もしかしたらと思い西の方を見ると、やはり大量の魔物が、この町に向かって攻めてきていた。

ブリザード12体、ホークマン6体、メタルハンター6体、キラーマシン3体の合計27体だ。キラーマシンの内の一体は大きく、この軍団の隊長ようだ。

「今回の魔物は、いつもの奴らとは違うな」

 

しかし、気になったのはいつも攻めてくるあくまのきしやまどうしがいないことだった。

今回来たのは、マイラではなく、ガライヤ地方に生息する魔物ばかりだ。

何でこいつらが襲ってきたのかは分からないが、ようがんまじんの腕を倒しに行くためにも、倒さないといけないな。

俺はいつものように大声でみんなを呼んだ。

 

「みんな、魔物が攻めてきたぞ!」

 

俺の声を聞き、まずゆきのへとシェネリが出てきた。

 

「これで何度目だ?本当に戦いが多すぎるぜ」

 

「ここは魔物が多くて大変ですね」

 

ゆきのへとシェネリは、マイラでの襲撃の多さに困っているようだ。

二人の後に、温泉に入っていた荒くれたちや、アメルダも俺のところに集まってきた。

 

「アタシたちがようがんまじんを倒そうとしているのが、魔物たちに知られたみたいだね」

 

攻めてきた理由は、アメルダが言っているので間違いないだろう。だが、それだとどうしてガライヤの魔物が来るんだ?

それが気になるが、今はこいつらを倒さないといけない。

 

「でも、魔法の武器があれば楽勝なはずだよ!さっさと倒して、火山地帯に向かおう」

 

確かに、ブリザードは魔法の武器で斬れば一撃だろうし、他の魔物にも大きなダメージを与えられるはずだ。

でも、この前のように魔物も作戦を立てている可能性もあるので、無闇に突っ込んで行くことも出来ない。

俺たちは武器を構えて、マイラの町の7回目の防衛戦が始まった。

 

魔物たちの中で、ブリザードが先に俺たちの町に近づいてきていた。魔法の武器を使えば簡単に倒せる敵だけど、油断は出来ないな。

 

「また囲まれると困るから、みんなで行くぞ」

 

俺がそう言うと、みんなが12体のブリザードに斬りかかって行く。俺たちは7人なので2体同時に戦わないといけないこともあるが、苦戦はしないだろう。

俺のところにも2体のブリザードが来て、吹雪を吐いてきた。

だが、吹雪と言ってもあまり範囲は広くなく、俺でもかわすのは難しいことではなかった。

そして、かわしてすぐに、俺はひかりのつるぎでブリザードをなぎはらった。

「これくらいの吹雪、簡単によけられるぜ」

 

ひかりのつるぎの一撃を受けると、ブリザードはすぐに青い光を放って消える。

魔法の武器はほのおの弾丸のように使えばなくなる訳でもないので、何体でも倒せるから便利だな。

 

「もう一体も倒してやるぜ」

 

俺はブリザードを倒すと、もう片方のブリザードの吹雪も避けて思いきり斬り裂く。

みんなも魔法の武器でブリザードを次々に倒していき、すぐにブリザード軍団は全滅していった。

アメルダの言う通り、ブリザードには楽勝で勝てたな。だが、その背後にはさらに強力なモンスターが迫っていた。

「ブリザードは倒せたけど、あいつらには苦戦するだろうな」

 

俺たちのところに、後ろにいるホークマン、メタルハンター、キラーマシンが一度に襲いかかってきた。その中でも、ホークマンは動きが早く、すぐに町のすぐそばに来た。

合計で15体であり、それぞれがかなり強いはずなので、正面から戦ったらかなりきついな。

だが、ガロンたちはウォーハンマーで、翼を羽ばたかせて素早く動くホークマンに殴りかかかって行った。

 

「ブリザードの野郎といい、お前といい、人が温泉入ってる時に邪魔すんなよ!」

 

「もうすぐようがんまじんを倒しに行くところだ、邪魔はさせぬぞ」

 

「アタシたちを怒らせないほうがいいわよ!」

 

荒くれたちは温泉に入っていたところを邪魔されて、とても怒っているようだった。

本当にこいつらは温泉が好きだなと、改めて思う。

3人はホークマンの持つ剣を叩き割り、その次に体を叩き潰した。どんなに強い魔物でも、あの筋肉の力には勝てないだろう。

 

「3人がいるから大砲は使えないし、俺たちは後ろのメタルハンターを倒しに行くぞ」

 

俺とアメルダ、ゆきのへ、シェネリは大砲を使って敵を殲滅しようと思っていたが、ここで撃ったら荒くれたちを巻き込んでしまう。

ゲームでは味方には当たらないようになってたりするけど、現実ではそうは行かないからな。

「大砲を使いたいけど、あいつらがいて使えないからね。確かに、剣で戦うしかなさそうだね」

 

ホークマンは荒くれ3人に任せられそうなので、俺たちはその後ろにいるメタルハンターを倒せばいいな。

俺たち4人は、メタルハンターに向かって武器を構えて走っていく。

その時だった、俺たちに向かって大きな弓矢が飛んできたのだ。それは、ホークマンと戦っているガロンたちのところにも飛んで、3人はとっさに避けた。

 

「いきなり何なんだ?」

 

俺がそう思って見ると、まだ少し離れた場所にいるキラーマシンが、弓を使って攻撃してきていた。

 

「アタシたちを狙ってるみたいね」

「あいつ、射撃精度が高いな···」

 

「どうすればよいのでしょう?」

 

俺たちは何とか魔物の群れに近づこうとするが、キラーマシンは連続で弓矢を撃ってきて、みんなも避け続けることしか出来ない。

俺はとっさにサブマシンガンを取り出して連射するが、キラーマシンはなかなか倒れなかった。

 

「まほうの弾丸もあんまり効果がないな」

 

でも、それ以外に倒す方法はなさそうなので、俺はキラーマシンの核に向かってサブマシンガンを撃ちまくる。

さすがに15発くらい当てると、キラーマシンはボロボロになっていき、もうすぐ倒せそうだった。

しかし、後衛だった6体のメタルハンターが俺の前にたち塞がってきたのだ。

「ここはアタシに任せて、あのキラーマシンどもを撃ち抜きな!」

 

「あんな機械、簡単に壊してやるぜ」

 

「この前のように、私のハンマーで倒せるはずです!」

 

奴らは、アメルダたちが止めてくれるようだ。だが、メタルハンターが6体なので一度に2体相手しないといけず、かなり厳しい状況だな。

 

「早くキラーマシンどもを倒さないとな」

 

俺はみんながメタルハンターを引き付けている間にキラーマシンに向かってさらにまほうの弾丸を撃ち放つ。

俺も何回も銃を使ってきたので、最初の頃よりは扱いが上手くなってきている。そして、2体のキラーマシンの核を何度も撃ち抜いて倒すことができた。

「あとは隊長のキラーマシンだけだな」

 

小型の2体のキラーマシンは簡単に倒せたが、隊長のキラーマシンはなかなか死なない。

みんなの様子を見ると、もう荒くれたちはホークマンを倒し終わっており、アメルダたちと共にメタルハンターと戦っていた。

 

「ガロンたち、もうホークマンを全滅させたのか」

 

ホークマンはそこまで強い魔物でもないけど、短時間で6体を3人で倒すのはすごい。この調子なら、メタルハンター軍団を全滅させられるだろう。

俺も目の前にいるキラーマシンに向けてまほうの弾丸を撃ちまくる。しかし、傷をつけてはいるのだが倒れなかった。

このままサブマシンガンで撃ちまくっても弾切れを起こす可能性があるので、俺はひかりのつるぎとまじんのかなづちの二刀流で隊長のキラーマシンに向かっていった。

俺のひかりのつるぎでの攻撃を受け止め、キラーマシンは回転斬りを使おうとする。

 

「こいつも回転斬りを使うのか。なら、こっちも使って防がないとな」

 

俺はキラーマシンの回転斬りの予備動作を見て、両腕に力を溜める。そして、奴が回転斬りを放ったと同時に俺も力を解放した。

 

「回転斬り!」

 

キラーマシンの剣と俺のひかりのつるぎがぶつかりあい、火花のような物ができる。

このままだと互角の戦いだが、俺は左手に持つまじんのかなづちでも思いきりキラーマシンを殴り付けた。

すると、キラーマシンは一部がへこんで大きく怯む。

 

「キラーマシン、これでとどめだな」

 

俺はキラーマシンの核にひかりのつるぎを突き刺してえぐった。

キラーマシンは機械なので、内部の部品を破壊されるとさすがに動かなくなる。最後には、青い光を放ちつつ消えていった。

 

「よし、これで倒したか」

 

ブリザードには楽勝だったが、キラーマシンには苦戦させられたな。

みんなもメタルハンターを全滅させていて、今回も勝つことができたようだ。

戦いが終わると、みんなで町の中に戻って行った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode74 赤熱の巨腕

俺たちはマイラの町の7回目の防衛戦に勝って、一安心して町の中に戻っていった。

だが、みんなの中でアメルダだけは不安な表情をしていた。

 

「あれはいったいどういうことだい?今までここに攻めてくるのはようがんまじんの手下の魔物だけだったのに、今回はガライヤ地方に住む魔物ばかりだったじゃないか···!」

 

俺と同じで、ガライヤの魔物がここに来たのを不自然に思っているようだ。

俺が最近ガライヤで魔物を倒しているから仕返しに来たのかもしれないが、このタイミングで来るのはおかしい。

ようがんまじんを倒しに行くのに気づかれたのなら、いつも通りマイラの魔物が攻めてくるはずだ。

「俺もおかしいと思ってるんだけど、どういうことなんだ?」

 

俺が聞くと、アメルダは少し考え込んで、一つの仮説を建てる。

 

「もしかしたら、ようがんまじんの奴ら、ガライヤ地方を支配するひょうがまじんの軍団と手を組んで···」

 

今はじめて聞いたが、ガライヤはひょうがまじんが支配していたのか。

ようがんまじんとひょうがまじんは属性が違うだけで、形はほとんど同じな魔物だ。その2体が手を組むと、どれほどの脅威になるのだろうか?

 

「もしその2体が手を組んで襲ってきたらどのくらい危険なんだ?」

 

「一番恐ろしいのは、ラライの炎と氷に関する発明を悪用されることさ。炎の力を持つようがんまじんと氷の力を持つひょうがまじんが合体して一つになればアタシたちに勝ち目はなくなってしまう···」

マイラの魔物たちはそのためにアメルダを誘拐していたのかもな。

ラライの研究を利用して、ひょうがまじんと合体し、最強の魔物となる。それがあいつらの目的だったって訳か。

本当にそうなれば、俺たちが苦戦したマッドウルスよりも危険な魔物になるだろうし、アメルダの言う通り倒すのは非常に難しくなるだろう。

 

「何としても、ひょうがまじんと合体されるのを阻止しないといけないな」

 

「ああ、だから厄介なことになる前にようがんまじんだけでも先にぶっ倒さなきゃね!」

 

しかし、俺も早くようがんまじんを倒したいが、あれはただの腕のはずだ。

でも、俺の知っているようがんまじんとマイラの奴は違うかもしれないので、アメルダの言うことを信じてあいつを倒しに行くしかないか。

「じゃあ、戦いに向けて最後の準備をしてくるぜ」

 

俺はさっきの防衛戦でかなりのまほうの弾丸を使ってしまったので、補充して来るか。あとは、まほうの砲弾をつくったから大砲を持って行かないとな。

俺はアメルダと別れて研究室に入り、マシンメーカーを使い始めた。

 

「まほうの弾丸は100個くらい持っていればよさそうだな」

 

あのようがんまじんの腕はかなり頑丈そうなので、大量の銃弾が必要になるだろう。

俺は今40個くらいまほうの弾丸を持っているので、新たに60個つくり、だいたい100個の弾丸で奴を撃ち抜けるようにした。

 

「これで最後の準備も完了したな」

 

俺が研究室の外に出ると、アメルダが荒くれ3人と共に俺を待っていた。

俺がいない間に、あいつらを呼んできたようだ。

 

「アンタが準備している間にアタシはみんなを呼んできたよ!これで5人で乗り込める」

 

ゆきのへとシェネリも呼んだほうがいいと思ったが、町に戦える人がいなくなるのはまずいことなので、この5人で行くしかなさそうだ。

 

「アネゴから聞いたぜ。ついにようがんまじんを倒すときが来たな!」

 

「雄也も共に、マイラの空の闇を晴らそう!」

 

「アタシたちなら、必ず勝てるはずよ!温泉に入って戦う気で満ち溢れているからね」

荒くれたちもいつも以上に張り切っている。3人のこんなに真剣な顔を見るのはアメルダの救出作戦以来だな。

俺は違うと思うのだが、この地での最後の戦いになるかもしれないからな。

 

「雄也、アンタとアタシたちなら心配することないさ。行こう!」

 

俺たち5人は、ようがんまじんの腕を倒しに青の旅のとびらの先に向かった。

火山地帯に着くと、アメルダが先頭に立って歩いて行く。15分くらい高低差の激しい場所を進み、ようがんまじんの腕がいるマグマの池にたどり着いた。

するとアメルダが、ようがんまじんの腕を指差して言った。

 

「ようがんまじんなんて言っても、腕一本だけの魔物さ。問題は、どうやってあいつのところまで近づくかだね」

ようがんまじんの腕はマグマの池の中にいて、近づいて戦うことは出来ない。

でも、そんなことはこの前見たときに分かっていたからまほうの砲弾を作ったんだよな。

 

「それなら気にしなくていい。魔法の金属を使った大砲の弾を作ったぞ」

 

俺は大砲をポーチから取り出して設置し、中にまほうの砲弾を入れた。ようがんまじんの腕とは言え、5発も大砲を当てれば倒れるだろう。

 

「すごいじゃないか。アタシたちの出番はなくなっちまうけど、倒せることに変わりはないよ!」

 

アメルダはまほうの砲弾を見て、これでようがんまじんを倒せると喜んでいる。

俺はまずは一発、ようがんまじんの腕に向かってまほうの砲弾を発射した。不意討ちを食らい、ようがんまじんの腕は大きなダメージを受ける。

「よし、まだ砲弾は4つあるし、このまま行くか」

 

俺は次なる攻撃を仕掛けようとしたが、後ろからガロンの叫び声が聞こえた。

 

「危ねえ、雄也!」

 

どうしたんだ?と思って上を見ると、俺のいる場所に巨大な岩が飛んできていた。その岩はマグマがまだ固まっていない部分があり、赤色をしていた。

 

「やっぱり、そう簡単には倒させてくれないな」

 

俺は回避することが出来たが、巨大な岩は大砲に直撃して、大砲は壊れてしまう。

俺は大砲を回収して、すぐに設置しようとするが、今度は俺の足元が赤く光った。

 

「くそっ、今度は何なんだ?」

俺は何かの攻撃が来ると思ってその場を離れる。すると、赤く光った地面から巨大な火柱が吹き上がった。

近づくことが出来ないのに、大砲も使えないか。普通のまほうの弾丸では、100発使っても倒せるか不安だな。

俺はまほうの弾丸100発とまほうの砲弾5発全てを使って倒すつもりだったので、これでは倒せない。

 

「とりあえず、まほうの弾丸を撃ちまくるしかないか」

 

サブマシンガンで俺はようがんまじんの腕を撃ちまくるが、少ししかダメージを与えられない。

それどころか、奴の攻撃は激しくなっていき、サブマシンガンを撃つことすら困難なレベルで火柱を発生させる。

 

「攻撃が激しすぎる!どうすれば倒せるんだ!?」

 

俺は少しずつまほうの弾丸を撃ってはいるが、倒せる気配は全くない。

その時、ある方法を思い付いた。今ようがんまじんの腕の攻撃は俺に集中しているので、今ならアメルダたちはマグマの池にブロックを積んであいつに近づけるんじゃないかと。

 

「みんな、これを使ってマグマの池を渡ってあいつを攻撃してくれ!」

 

俺はガロンに土ブロックを火柱を避けながら何とか手渡す。ガロンがそれを受け取ったのを見ると、俺は火柱が上がった後のわずかな隙にサブマシンガンを撃ってようがんまじんの腕を引き付けた。

ガロンたちは、マグマの池に土ブロックを置いてようがんまじんの腕に近づいて行く。

 

「よし、このままあいつを引き付けておくぜ」

 

だが、ようがんまじんの腕はガロンたちが近づくにつれて、俺ではなく彼らに火柱攻撃を始めた。

 

「みんな、急ぐぞ!」

 

4人の内先頭にいるガロンはものすごいスピードで土ブロックを置いて、ようがんまじんの腕に近づいていき、ベイパー、ギエラ、アメルダもそれに続く。

 

「今なら大砲を使えそうだな」

 

今はその4人に攻撃が集中しているが、彼らとようがんまじんの腕はまだ距離がある。今ならみんなを巻き込まずに大砲であいつを攻撃できるだろう。

俺はすぐに大砲を設置し、まほうの砲弾を発射した。ようがんまじんの腕はその2発目のまほうの砲弾で、かなり弱って来ていた。

続けて3発目を撃とうと思ったが、もうみんなはようがんまじんの腕のすぐそばまでたどり着き、それぞれの武器で斬りかかった。

 

「アンタを倒して、マイラの闇を晴らさせてもらうよ!」

 

「こんな一本の腕なんかに負けられねえぜ!」

 

「どれだけ巨大な魔物でも、ワシの筋肉には敵わぬぞ」

 

「悪い魔物は、みんなアタシが叩き潰しちゃうわよ!」

 

4人の攻撃でようがんまじんの腕はかなり追い詰められた。腕をみんなに叩きつけようとはしているが、魔物との戦闘に慣れているみんなにとっては、大した攻撃じゃない。

 

「俺も二刀流であいつを倒しに行くか」

 

俺はまほうの弾丸でようがんまじんの腕を撃ち続けていたが、弾が残り少なくなってきたのでひかりのつるぎとまじんのかなづちを持って斬りかかって行った。

ようがんまじんの腕のところにたどり着くと、みんなと同じように奴を攻撃しまくる。魔法の武器での二刀流なので、非常に大きなダメージを与えられているだろう。

こいつももう、もう少しで倒せるな。そう思っていると、ようがんまじんの腕は自分もダメージを受ける覚悟で俺たちに火柱を上げてきた。

だが、火柱は連続で使うことは出来るが、一度にいくつも使うことはできないようだ。

さっきと違って攻撃しているメンバーが5人なので、あまり効果がない。

俺は自分のところに火柱が来たのを避けて、次に自分に来る前に両腕に力を溜めた。

そして、魔法の武器2つで、ようがんまじんの腕をなぎはらった。

 

「回転斬り!」

 

俺の回転斬りを受けて、ようがんまじんの腕は力が尽き、青い光を放って消えて行った。

だが、俺の予想通り空を晴らすための伝説のアイテムは落とさなかった。

 

「とりあえずこれで倒せたな。町に帰るか」

 

「アタシたち、ついにようがんまじんを倒せたみたいね!」

 

俺たちはようがんまじんの腕を倒した後、キメラのつばさで町に戻って行った。アメルダは、やっと倒せたと言う思いで、空の闇が晴れていないことに気づいてはいなかった。

だが、町に戻ってきたと同時にそのことに気づいたようだった。

 

「あれ?これはどう言うことだい?魔物の親玉を倒したのに、空の闇が晴れていないじゃないか···!」

 

やっぱりあれはただの腕で、ようがんまじんの本体ではないんだよな。

今までようがんまじんの本体だと思っていた魔物が実は違うと分かり、アメルダはかなり困惑している。

 

「アメルダ、あれはようがんまじんの腕にすぎない。本当は顔もあるはずなんだ」

 

「つまり、まだ魔物の親玉を倒しきれていないと言うことかい?」

 

言い換えれば、そう言うことになるな。本当にマイラの空の闇を晴らすには、ようがんまじんの顔も倒さないといけないだろう。

「でも、アイツの発明メモだけじゃまほうインゴットより強い兵器なんて作れやしないよ···」

 

ようがんまじんの本体と戦う時は、この前アメルダの言っていた最強の兵器が必要になるかもしれない。

どのような兵器かは分からないけど、今の発明メモでは作ることが出来ないと言うことか。

 

「こうなったら、アイツの研究所に行ってみるしか···でも···」

 

「どうかしたのか?」

 

ラライの研究所に行けば、新しいことも分かるかもしれないのに、何をためらっているのだろう?

単にその場所が強い魔物に占拠されているからと言う理由ではなさそうだな。それだったら潜入するか、魔物を倒すかすればいい話だからな。

 

「とりあえず、これからどうするかは温泉にでも入って考えて来るよ」

 

アメルダは研究所に行くことをためらっている理由を教えてはくれず、温泉に向かって行った。

そう言えばアメルダの救出に行ったとき、謎の幽霊がこの女は人殺しだと言っていたけど、それとも関係があるのかもな。

いろいろ気になるが、今日はかなり疲れたので、寝室に戻って休んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode75 氷炎の激戦

マイラに来て13日目の朝、昨日の疲れで遅くまで寝ていて、みんなはもう外に出て活動していた。

 

「これからどんな戦いがあるか分からないし、まほうの弾丸を補充しておくか」

 

俺は起きた後、まず研究室に入った。昨日のようがんまじんの腕との戦いでかなり使ったので、新しい物を作ったほうがいいだろう。

まずまほうインゴットを5個作り、それからまほうの弾丸を100個作る。弾丸は一度に20個出来るから便利だな。

 

「そろそろミスリルが少なくなってきたな」

 

まほうインゴットを作る材料であるミスリルがあと少ししかなくなったので、今日はミスリルを集めに行くか。

俺が研究室から出ると、ガロンが話しかけてきた。

 

「なあ、雄也。ちょっと真面目な話をしていいか?」

 

ガロンが真面目な話をするのは珍しいな。ベイパーと同じで、筋肉の話ばかりしているイメージだ。

 

「真面目な話って、どんなことだ?」

 

「昨日倒した腕じゃなくて、本当のマイラを支配する魔物の親玉であるようがんまじんを倒すための兵器を作るには、アネゴの忘れてえ過去に触れなくちゃならねえはずなんだ」

 

そう言えば、昨日アメルダはラライの研究所に行くことをためらっていたな。

やはり過去に何かあったと言うことだな。

俺はそのことを聞こうと思ったが、その前にガロンは話の続きをした。

 

「だから、お前には過去と向き合うアネゴの支えになってほしいんだ」

 

確かに、自分の忘れたい記憶と向き合うのは辛いだろうから、誰かが支えないといけないな。

それに、俺たちで協力してアメルダを支えて、最強の兵器を作って行くしかようがんまじんを倒す方法はない。

 

「分かった。あんたも協力してくれよな、ガロン」

 

「おう、当然だぜ。アネゴのことを、これからもよろしくな」

 

ガロンたちの協力もあれば、アメルダは過去の傷を乗り越えて、ラライの研究を完成させられるだろう。

そんな時だった、俺たちが話している場所に、アメルダが走ってきた。

「アンタたち、大変なことになっちまった!」

 

アメルダの表情は緊迫していて、恐ろしいことが起きているようだった。

いつも通り魔物が攻めてきたのだろうが、いつも以上の緊張が感じられる。

 

「また魔物が攻めてきたのか?」

 

「ああ、でもこれまでとは敵の数が違う···」

 

どのくらいの敵の数なんだろうかと町の西を見てみると、俺は戦慄してしまった。

先頭には巨大なキラーマシンが立ちはだかっていて、その後ろにはフレイムやブリザード、よろいのきし、あくまのきし、まどうし、メタルハンター、ホークマンと、戦ったことのある魔物だけでなく、ホークマンの上位種で青い翼と鋭い剣を持つ魔物、ガーゴイルもいた。

そして一番後ろには、6回目の襲撃で戦った奴よりさらに強そうなだいまどうがいる。

正確な敵の数は分からないが、7~80体くらいはいるはずだ。

 

「おいおい、冗談じゃねえぞ!?」

 

ガロンもそれを見てとても恐れている。魔物は俺たちがようがんまじんの腕を倒したのを知り、総力を上げて俺たちを潰しに来たようだ。

しかも、マイラとガライヤの魔物両方がいる。

 

「兎に角みんなを呼ぶぜ。負けられないことに変わりはない!」

 

「そうだね。何体いようと、アタシたちが負ける訳ないさ」

 

魔物を倒すため、俺とアメルダは急いでみんなを呼ぶ。激戦が予想されるが、全員の力とこの町の設備を使えば必ず勝てるはずだ。

みんなが集まったころには魔物はすぐ近くまで来ていた。早めに迎撃しなければ、町の中に魔物に入られてしまう。

 

「何体来ようが、ワシの筋肉に敵うはずがないぞ!」

 

「アタシたちを潰しに来たみたいだけど、そうはさせないわよ!」

 

「今まで多くの魔物を倒してきたワシらなら、勝てるに決まってるぜ」

 

「ここで負ける訳には行きませんよ!」

 

最初はみんなも恐ろしい数の敵を見て怖じ気づいていたが、今は戦う気になっている。数が多いだけで慣れている敵が多いし、俺たちなら勝ち残れるはずだ。

そして、俺たち7人は武器を振り上げて魔物の群れに駆けつけていく。マイラと町の8回目の防衛戦、マイラとガライヤの魔物との総力戦が始まった。

先頭にいるキラーマシンは、町に近づくと大量の矢を撃ち放つ。そして、そのキラーマシンの横から大量のフレイムとブリザードが現れて、俺たちに近づいてきた。

 

「まずはこいつらを倒したいけど、あのキラーマシンが厄介だな」

 

まずはそいつらを倒したいが、キラーマシンに守られていて近づくことは難しかった。

俺は先にキラーマシンを倒そうと、まほうの弾丸を連射する。しかし、キラーマシンと戦っている間にもフレイムとブリザードは町のすぐそばまで迫ってきていた。

ここは俺がキラーマシンを引き付けて、みんなでフレイムたちを倒したほうがいいな。

 

「俺がキラーマシンを引き付ける!みんなはフレイムとブリザードを倒してくれ!」

 

「分かったぜ、雄也!そのバカでかい機械はお前に任せた!」

 

俺がみんなに指示を出すと、ガロンが返事をした後、他の5人も動き始める。

俺は奴らと戦っているみんなにキラーマシンの攻撃が行かないようにしないとな。まほうの弾丸を放ちながら近づいて行き、近接攻撃が当たる位置までたどり着くと、ひかりのつるぎとまじんのかなづちの二刀流に持ち変えた。

 

「お前みたいな奴がいくら来ようと、俺たちに勝てると思うなよ!」

 

俺がひかりのつるぎで斬りつけると、キラーマシンも剣を使って受け止める。これまで戦ったキラーマシンより攻撃力は高いようだが、押し返されそうなほどではなかった。

それに、キラーマシンは俺と違って武器を1本しか持っていない。二刀流での攻撃は受け止めきれないはずなので、俺はまじんのかなづちをキラーマシンの装甲に叩きつけた。

 

「俺の攻撃はそう簡単には受け止められないぞ」

 

まじんのかなづちの一撃を受けて、キラーマシンの体は大きくへこんだ。倒れはしなかったが、大きなダメージを与えられたことは間違いない。

いつも思うけど、二刀流はものすごく強いぜ。よほどの敵でもない限り一体一なら倒せそうだ。

そのことに気づかれたのか、キラーマシンを援護するために大量のメタルハンターが俺のところに近づいてきた。

 

「アノオトコヲ、ハイジョスル!」

 

「ビルダーメ、キエサルガイイ!」

 

そして、メタルハンターたちは機械音声を発しながら俺に斬りかかってくる。

俺はその攻撃を避けながら、サブマシンガンでメタルハンターの核を狙って撃ちまくる。これまでサブマシンガンを何度も使ってきているので、狙いを定めることは得意になってきていた。

そうして、メタルハンターを何体も倒して行くが、次々に俺に近づいてくるため倒しきれず、まわりをメタルハンターに囲まれてしまった。

 

「囲まれたか···でも魔法が使えないから、まどうしに囲まれるよりはマシだな」

 

メタルハンターは呪文を唱えられないので、6回目の防衛戦でまどうしに囲まれた時よりは対応しやすい。

サブマシンガンの弾もまだ残っているので、攻撃をかわしながら撃ち続ければ倒せるはずだ。

そんな中、キラーマシンが俺に向かって、巨大なレーザーを放ってきた。食らったら間違いなく体を貫かれてしまうので、俺はジャンプをして回避する。

 

「レーザーか···このくらいなら簡単に避けれるぜ」

 

レーザーを避けることは出来たが、そこにメタルハンターが一斉に斬りつけてくる。

俺はさすがに避けきれず、体を何ヶ所も斬られてしまう。さらに傷をつけられた俺に、回転斬りをため始めたメタルハンターもいた。

 

「くそっ、このままだとやられるぞ!」

 

俺は体の痛みに耐えながら立ち上がり、メタルハンターと同じように腕に力を溜める。

そして、メタルハンターと同時に力を解き放った。

 

「回転斬り!」

 

傷ついた腕に衝撃が加わり、痛みが増していくが、それも我慢してメタルハンターたちを一回転になぎはらった。

回転斬りを放ったメタルハンターだけでなく、俺の近くにいた奴らを巻き込み、多くのメタルハンターを倒すことができた。

しかし、まだメタルハンターとキラーマシンに囲まれている状況に変わりはなかった。

 

その頃みんなは、この前とは比べ物にならないほど大量のフレイムやブリザードに囲まれて火傷や凍傷を負いながらも、なんとか全滅させることが出来ていた。その傷は、メタルハンターやキラーマシンと戦っている雄也より重症だ。

 

「これでフレイムとブリザードの野郎どもは全滅か···?」

 

「ワシの筋肉の力を持ってしても、ここまで苦戦するとはな」

 

「アタシも、こんなにケガをしたのは初めてよ···」

 

それでも6人は傷を我慢して、魔物の群れに向かって行こうとする。そんな時、後ろから二人の女と、一人の男の声が聞こえた。

 

「みんな、これを使って!」

 

「戦いには参加できなくても、何とか手伝えないか考えたんだ」

 

「大切な恋人やみんなのために、薬を作ってきましたよ」

 

いつもは戦いの時身を隠しているピリンとヘイザン、コルトが、きずぐすりを持ってガロンたちを支援しようとしていた。

3人は戦いの時に何とか役立てるようきずぐすりをたくさん作っていて、みんながピンチなのを見て持ってきてくれた。

 

「これは、きずぐすりだね。ありがとう、これでまた戦えるよ」

 

「さすがはワシの弟子だぜ!」

 

「恋人じゃないけど、おかげて助かりました!」

 

アメルダとゆきのへ、シェネリはそう言ってきずぐすりを受け取り、傷を受けたところに塗っていく。傷がすぐ治る訳ではないが、痛みはすぐに消えていった。

3人の荒くれもきずぐすりを使って、また戦える状態になった。ホークマンやまどうしが迫ってきていたので、すぐにまじんのかなづちを持って攻撃を始める。

残りの3人もすぐに戦いに向かおうとするが、ピリンはアメルダを引き留めた。

 

「アメルダ!これは雄也の分だから、渡してあげて!」

 

「ああ、ここらの魔物を倒したら雄也を助けにいくさ」

 

ピリンは雄也がメタルハンターに傷を負わされたのを見て、雄也の分のきずぐすりも持ってきていた。アメルダはそれを受け取って、5人と共にまどうしやホークマンと戦いに行く。

ずっとここにいると危険なので、ピリンたちは建物の中に戻っていった。

 

「痛みも消えたし、このまま奴らをぶっ潰すぜ!」

 

「筋肉は決して死なず!このアジトを守り抜くぞ!」

 

「敵もかなり減ってきたし、押しきれるはずよ!」

 

「あの3人を守るためにも、魔物は倒さないとね」

 

「これまでで一番の激戦だが、生き残ってやるぜ!」

 

「私たちならやれるはずです!」

 

6人は大声で言いながら、ホークマンやまどうしを倒していく。こいつらは戦いなれている上にフレイムやブリザードより数が少ないので、あまり傷を負うことなく倒せた。

だが、みんながホークマンやまどうしと戦っている間に、よろいのきしたちはピリンたちを殺すために町に入ろうとしていた。

 

「あの小娘どもめ!あいつらも始末してやる!」

 

「我らに歯向かう者どもを支援するとは決して許さぬぞ!」

 

ガロンはそれに気づいて止めにいこうと思うが、目の前のホークマンと戦うので精一杯で、よろいのきしの所に向かうことは出来なかった。

 

「おい、野郎ども!オレたちのアジトに入るんじゃねえよ!」

 

そんなガロンの叫びも聞かず、よろいのきしは町の光の中に入り、ピリンたちのいる建物に向かおうとした。

その時、よろいのきしたちの目の前にあったブロックから箱が飛び出し、奴らをまとめて吹き飛ばしたのだ。

ピストンバリアが作動したおかげで、よろいのきしが町の中に入ることは防がれたようだ。

 

 

 

その頃、雄也は···

 

俺は回転斬りでメタルハンターの数をかなり減らした後、またサブマシンガンに持ち変えて奴らの核を撃ち抜いていた。

「それにしても、まだ数が多いな」

 

しかし、メタルハンターはまだ10体近くいて、全滅させるにはまだまだ時間がかかる。サブマシンガンの弾はもう少しあるものの、動きすぎて体が疲れてきていた。

それでも、攻撃を続けないとやられるので、俺はサブマシンガンを使ってメタルハンターをひたすら撃っていく。

だが、残りすこしで全滅させられると言うところで俺のまわりに青い光が現れ、俺は戦いの途中なのに突然眠くなってきてしまった。

どうやら後ろにいるガーゴイルがラリホーの呪文を唱えたようだ。俺は何とか意識を保とうとするが、呪文による催眠効果は非常に強力で、俺はその場で眠ってしまいそうになる。

「おい、起きろ!しっかりしろ、雄也!」

 

すると、俺の耳にガロンの声が聞こえてきて、顔に強い衝撃が走った。俺はそこで眠気が消えて、意識がはっきりしてくれ。

 

「お前が魔法で眠りそうになっていたから、叩き起こしに来たぜ」

 

「助かったのか···ありがとうな、ガロン」

 

まわりを見ると、俺を囲んでいたメタルハンターはほぼいなくなっており、俺を叩き起こすためにガロンが倒してくれたようだ。

ガロンは前までは臆病者だったのに、今では勇敢になったな。

俺がそんなことを思っていると、後ろからアメルダの声が聞こえた。

 

「雄也、ガロン!大砲を撃つから集まっておくれ!」

 

後ろを見ると、みんなは砲台の前に集まっていた。

敵の数がかなり少なくなってきているので、大砲を使って一気に撃破するつもりのようだな。

 

「分かった。今すぐ行くぜ!」

 

俺はアメルダが大砲を発射できるように、砲弾のところへ走っていく。後ろからよろいのきし、あくまのきし、ホークマン、ガーゴイル、メタルハンター、キラーマシンが追いかけてくるが、追い付かれないよう必死で走った。

 

「ビルダーめ、逃がさんぞ!」

 

「我々に二度と逆らえぬようにしてやる!」

 

なんとしても俺を殺そうとしているようだが、逃げ切れそうだ。

そして、俺が砲弾にたどり着いた瞬間、アメルダは床用スイッチを踏んだ。

二つの大砲から発射した砲弾は、雄也たちを追いかけていた魔物の群れに直撃する。

すると、俺やガロンの攻撃で弱っていたキラーマシンがついに倒れて、それ以外にも多くの魔物を倒すことが出来た。その代わりに、町の西側の地面まで巻き込んで壊してしまったが。

 

「やったね!これでもう少しだよ!」

 

残っているのはだいまどうと、重症を負ったあくまのきしとガーゴイルだけだ。残り10体くらいなので、全員でかかれば勝てるだろう。

 

「みんな、あいつらを全滅させてこの町を守りきるぞ!」

 

俺は大声でそう言い、みんなと共に魔物たちに斬りかかって行こうとする。すると、アメルダが俺を呼び止めた。

「雄也、あのピリンって子がアンタのためにきずぐすりを作ってくれたよ。これを使ってから行きな」

 

そう言ってアメルダは、俺に一つのきずぐすりを渡す。ピリンは俺たちの大切な仲間だったけど、戦いの時に支援してくれるとはな。

俺はメタルハンターから受けた傷にきずぐすりを塗った後、ひかりのつるぎとまじんのかなづちを構えた。

 

「ピリンに感謝しないといけないけど、あいつらを倒してからだな」

 

「ああ、早くあいつらを倒すよ!」

 

そして、俺とアメルダは残っている魔物の群れに向かって行く。いつもならだいまどうはメラミの呪文で妨害してくるが、ガロンたち3人の荒くれと戦っているため、俺の妨害は出来なかった。

 

「この筋肉野郎どもが!ようがんまじん様を怒らせてただで済むとは思うなよ!」

 

「そいつだって、オレらがぶっ倒してやるぜ!」

 

「そんな魔物、ワシは恐れんぞ」

 

「ようがんまじんを倒すためにも、まずはアンタからね」

 

だいまどうは防御力が低いので、あの3人なら簡単に押しきれるだろう。

なので、俺はだいまどうと戦う3人を狙うガーゴイルにひかりのつるぎを降り下ろす。

 

「あの3人の邪魔はさせないぜ!」

 

ガーゴイルは弱っているところを背後から斬られ、青い光を放って消えていく。すると、それに気づいた別のガーゴイルたちが俺を狙って突進してきた。

 

「このくらいの突進なら受け止められるな」

 

俺はガーゴイルたちの突進を二刀流で受け止めていく。ホークマンの攻撃より威力が高く、かなり腕か痛んだが、すべてのガーゴイルの突進を止めることができた。

突進を止められたガーゴイルは、怯んで動きが止まっている。倒すなら今しかないな。

俺はガーゴイルたちに止めをさすために、さっきのように腕に力を溜める。

そして、最大まで力が溜まったところで渾身の一撃を放った。

 

「これで終わりだ、回転斬り!」

 

ガーゴイルたちは回転斬りが直撃し、全て地面に落ちて倒れて行った。ラリホーも使われて強い魔物だったけど、大砲と二刀流を使えば倒すことができた。

みんなも、アメルダたちはあくまのきしを、3人の荒くれたちはだいまどうをそれぞれの武器でとどめをさしていた。

 

「どうやら、町を守りきれたようだな」

 

ついに俺たちは襲ってきた全ての魔物を撃破し、マイラとガライヤの魔物との総力戦に勝つことができた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode76 過去の研究

俺たちがマイラの町の8回目の防衛戦に勝った後、荒くれたちがだいまどうを倒したところを見ると、緑色の旅のとびらが落ちていた。

 

「マイラで手に入るのはこれで最後だろうな」

 

メルキドでもリムルダールでも手に入ったのは3色なので、今回もこれが最後だろう。

この前は新しい旅のとびらが手に入ったら、まだ行ったことのないラダトーム地方に行こうかと思っていたが、最強の兵器を作る手がかりがある場所に繋げたほうがよさそうだな。

俺は緑の旅のとびらを拾ってポーチにしまうと、町の中に戻って行った。

 

「疲れたけど、まずはピリンにお礼を言いに行くか」

 

町の中に入ると、俺は作業部屋にいるピリンに、きずぐすりを作ってくれたお礼を言いに行った。

作業部屋に入ると、休んでいたピリンに久しぶりに感謝の言葉を言う。

 

「ピリン、さっきは助けてくれてありがとうな」

 

「みんながケガをしちゃって、何とかしなきゃって思ったの。ヘイザンやコルトも協力してくれたんだ」

 

あの二人も協力してくれていたのか。たとえ直接戦うことは出来なくても、戦いの支援はできるからな。

それに、やっぱりピリンと一緒に来て良かったと思った。

 

「それに、ピリンみたいな仲間と協力出来て本当に良かったと思ってるぜ」

 

「ありがとう!これからもがんばるね!」

 

俺がそう言うと、ピリンも嬉しそうな顔をする。このままピリンと共に、アレフガルドを復興させてやるぜ。

「これからもよろしくな、ピリン!」

 

「うん、雄也!」

 

俺はピリンに言って、作業部屋から出ていった。

戦いで疲れたとは言えまだ正午くらいの時間なので、今日はこれからどうするか考えていると、アメルダに話しかけられた。

 

「なあ、雄也。少し話があるんだ」

 

「新しい兵器の開発のことか?」

 

アメルダの話と言うことは、最強の兵器の開発についての話なのだろうか。

アメルダの過去については分からないが、兵器の開発は続けなければいけない。

 

「今回の襲撃は、敵の数が多いだけでなく、マイラとガライヤに住む魔物の両方が襲ってきただろ?」

俺もそのことには気づいていたけど、こんな事があったのは初めてだよな。これまではマイラの魔物とガライヤの魔物、片方しか襲ってこなかった。

恐らくは、ようがんまじんとひょうがまじんが本格的に協力し始めたのだろうな。

アメルダも、同じようなことを考えているようだった。

 

「これは、ようがんまじんとひょうがまじんが完全に手を組んだってことだね」

 

「ああ、そう考えて間違いないと思う」

 

このままだと、この前アメルダが言っていたように、ようがんまじんとひょうがまじんが合体して強大な魔物になる可能性があるな。

今回の防衛戦を生き残った俺たちでも、そいつを倒すのは難しいだろう。

「だから、早いとこ奴らに対抗する最強の兵器を作り出さないといけないよ!」

 

今の装備ではまだようがんまじんに対抗することはできないんだよな。

どんな兵器かは分からないが、必ず作り出さないといけない。

 

「それで、アンタには行ってきてほしい場所があるんだ」

 

「この前行っていた、ラライの研究所のことか?」

 

俺がそう聞くと、アメルダはうなずいた。この前はラライの研究所に行くことをためらっていたが、そんなことを言っている場合ではないからな。

 

「ああ、そこにならラライが発明しようとしていた最強の兵器の手がかりがあるはずなんだ」

ラライの研究所の場所は分からないが、新しい旅のとびらがあるのですぐに取りに行ける。早く最強の兵器を完成させて、マイラやガライヤの空の闇を晴らしてやりたいな。

 

「それで、ラライの研究所はどこにあるんだ?」

 

「ガライの町の跡地にあるよ。今は行けないはずだけど、新しい旅のとびらが手に入ったんだろ?」

 

アメルダは俺が旅のとびらを拾っていたことも知っているのか。ガライの町がどのような状況になっているか気になるし、行ってみるべきだな。

 

「確かに俺は新しい旅のとびらを手に入れたぞ」

 

「だったら行けるはずだね。その新しく手に入れた旅のとびらを使って、ラライの研究所から研究記録を探してきておくれ!」

「分かった。今日のうちに取ってくるぜ」

 

今日は疲れているので休むのもいいかと思っていたが、なるべく急いだほうがいい。

俺はそこでアメルダと別れ、緑の旅のとびらを設置しに行った。

 

「これでガライの町に行けるよう願えばいいはずだな」

 

俺は今まで手に入れてきた2つの旅のとびらの隣に緑のとびらを設置する。

そして、ガライの町の跡地に行けるよう願いながら、中に入った。

 

緑の旅のとびらに入ると、目の前が真っ白になって、新たなる場所へと移動する。

移動した先は、赤の扉の先より多くの雪が降り積もっている豪雪地帯だった。かなり寒いが、雪に隠れることで魔物を避けることは簡単そうだ。

ここからガライの町に向かって、研究記録を手に入れないとな。

 

「結構寒い場所だな···ガライの町はどこにあるんだ?」

 

だが、辺りを眺めてみるがガライの町らしき物はなかった。どうやら町から離れた場所に出たようなので、探索しながら見つけるしかないな。

 

「新しい素材も見つけられるかもしれないし、探索開始だな」

 

俺は寒さを我慢しながら豪雪地帯の探索を始める。進んで行くと、さっきの襲撃でも戦った青い翼と剣を持つ魔物、ガーゴイルが生息していた。

ガーゴイルは攻撃力もそれなりに高いし、敵を眠らせる効果を持つ呪文、ラリホーも使えるので、見つかると危険な魔物だ。

 

「ガーゴイルがいるし、寒いけど雪に隠れて進むか」

 

俺は戦いを避けるために冷たい雪で身を隠しながら進んでいく。寒いので歩いて進みたいが、それだとガーゴイルに見つかる可能性がある。

俺は雪に隠れながら10分くらい歩いた。途中、白い花やくすりの葉など、赤の旅のとびらから行ける雪原地帯にもあった薬になる植物があった。それをいくつか集めて行ったが、新しい素材は見つからなかった。

 

「特に新しい素材はないみたいだな。ん?あれは何だ?」

 

さらに奥に行こうとすると、目の前に雪に埋まった建物がいくつかある場所を見つけた。

人の気配が全くない廃墟になっているが、ここがラライの研究所があるガライの町の跡地だろう。

「これがガライの町か。ここも復興させたいけど、住民がいないな」

 

アレフガルドを復活させるために、ガライの町の復興も行いたいが、希望のはたも共に暮らす住民もいない。

ガライヤ出身のコルトとシェネリも、マイラの町に慣れてしまっているので、今さら引っ越すことはしないだろう。

 

「とりあえず、ラライの研究記録を探すか」

 

俺はガライの町の復興のことを考えていたが、今は兎に角ラライの研究記録を見つけなければいけない。

そのために、俺はガライの町の中に入って行った。

町の中は、ブリザードやホークマン、ガーゴイルと言った多くの魔物に占拠されていた。それだけでなく、ひょうがまじんの腕だと思われる氷で出来た巨大な腕も町の近くにいた。

「ひょうがまじんの腕もいるのか···戦うのは大変だし、潜入するか」

 

腕とはいえ、大砲やみんなの力がないと勝てないだろうし、それ以外の魔物もたくさんいる。

魔物の城に潜入した時のように、敵に見つからないように研究記録を探すべきだな。

 

「町の廃墟だから隠れる場所も多いし、そんなに潜入は難しくはなさそうだな」

 

建物の影や雪の中に隠れれば見つからないだろうし、魔物の城に潜入した時より簡単かもしれない。

俺は魔物たちの視界に入らないようにガライの町の中を調べていく。すると、人が生活していた名残と考えられる

カベかけランプや浴槽などが置かれていた。

しかし、研究記録はなかなか見つからなかった。

 

「研究記録はどこにあるんだ?」

 

ガライの町を占拠している魔物から隠れることはそこまで難しいことではないが、確実に見つからないと言う保証はない。そう考えると、あまり長居しないほうがいいな。

町の奥の方まで行ってみると、壊れかけたキラーマシンが放置されていた。

人間に追い詰められた魔物だな、と思ったが、そのキラーマシンは紙のような物を持っていた。

 

「このキラーマシン、紙を持っているな。これに研究記録が書かれているのか?」

 

俺がその紙を取ろうとキラーマシンに近づくと、キラーマシンは残った力で話し始めた。

 

「···オマエ、ダレダ?」

 

人間だと分かれば間違いなく攻撃してくるだろうし、まわりの魔物たちにも見つかってしまう。なので俺はそのキラーマシンを破壊するためにひかりのつるぎを抜いた。

すると、キラーマシンは自分は敵ではないと言ってきた。

 

「ワタシハ···敵デハナイ。ラライ様がツクッタ、研究記録ヲ魔物カラマモッテイルンダ」

 

確かにラライは発明家だし、キラーマシンを作ることも出来た可能性もある。俺はキラーマシンの話を信じることにして、ひかりのつるぎをしまった。

 

「その研究記録を貸してほしいんだ。ラライの助手だったアメルダの頼みだ」

俺がアメルダの名前を言うと、キラーマシンは持っていた研究記録の紙を俺に渡してきた。

 

「ソウカ···ラライ様ノ助手ダッタ、アメルダ様ノ仲間カ···ソレナラ、コレヲモッテイケ···」

 

俺に研究記録を渡すと、キラーマシンはついに力尽きて、動かなくなってしまった。

そして、最後の力で俺にこう言った。

 

「アメルダ···ラライ様···愛シタひ···と。守って···ヤッテ···ク···」

 

最後に言い残して、完全にキラーマシンは動かなくなってしまう。キラーマシンの言い方からして、ラライはアメルダのことを大切な人だと思っていたようだな。

もしかしたら、単なる助手ではなく恋人だったのかもしれない。

「ありがとうな···キラーマシン」

 

俺は動かなくなったキラーマシンにお礼を言ってガライの町を出て、キメラのつばさを使った。

魔物の攻撃で破壊されてしまったキラーマシンのためにも、必ずラライの研究を完成させないといけないな。

 

俺はマイラの町に戻ってくると、さっそくキラーマシンからもらったラライの研究記録が書かれた紙をアメルダに見せに行った。

この研究記録が、最強の兵器を作るための手がかりになるといいな。

 

「アメルダ、ガライの町から研究記録を手に入れて来たぞ」

 

「本当かい?さっそく見せておくれ!」

 

俺がラライの研究記録をポーチから取り出すと、アメルダはすぐに受けとる。

これも発明メモと同じように俺が読んでもよく分からないが、アメルダなら解読することができるだろう。

 

「何か重要な手がかりは書かれていたか?」

 

アメルダが研究記録を読み始めたので俺がそう聞くと、何かを見つけたような表情をしていた。

 

「ああ、アイツの炎と氷を合体させる研究の話はしただろ?この研究記録は、その発明をさらに発展させて、最強の兵器を作るための発明メモみたいだ」

 

やはり最強の兵器は炎と氷を合体させる研究を応用した物なんだな。まだ詳しいことは分からないとは言え、まほうインゴットが役に立ちそうだ。

解読が終わったら、すぐ作り始めるとするか。

 

「その研究記録を解読するには、どのくらい時間がかかりそうなんだ?」

 

「今回も結構複雑なことが書かれているからね、もう少しかかると思うよ」

 

少なくとも、今日中には解読はできなさそうだな。ようがんまじんとひょうがまじんが合体するまでに間に合えばいいのだが。

 

「分かった。もし解読が終わったら、すぐに教えてくれ」

 

「もちろんだよ。なるべく急ぐから、もうしばらく待っていておくれ」

 

アメルダはそう言って研究室の中に入って行った。俺には解読は不可能だし、今は待つしかないな。

 

その日は、やはりアメルダの研究記録の解読は終わらないまま、夜を迎えた。だが、徹夜での作業は集中力が切れてしまうし、今日もかなり疲れている。

俺もアメルダもみんなも、夜遅くになる前に眠りについた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode77 悲しみの歌声

俺がマイラに来て14日目、アメルダの研究記録も途中で、まだようがんまじんと戦いに行くことは出来なかった。

今日は、昨日行った緑の旅のとびらの先の探索を続けるか。あの豪雪地帯はガライの町以外にもいろいろありそうだ。

 

「新しい素材か、研究の新しい手がかりが手に入るといいな」

 

俺は朝食を食べた後、さっそく緑の旅のとびらに向かった。すると、その途中でシェネリが俺を呼び止めてきた。

 

「雄也さん、今日も忙しいと思いますけど、少しいいですか?」

 

「別にいいけど、何かあったのか?」

 

俺はこれから緑の旅のとびらに入るつもりだったし、探索のついでに頼み事を解決すればいいので、別に困ることはなかった。

出掛けようとしたら相談を受けたことも、これまで何度もある。

 

「私、最近悩みがあるんです···。私の話、聞いてくれますか?」

 

「もちろん聞くぞ。何か困っていることでもあるのか?」

 

素材が欲しいとかではなく、悩み事の相談をしてほしいのか。

女の人の悩みを俺が解決できるかは分からないけど、一応聞いておくべきだな。

俺が相談していいと返事をすると、シェネリは少し怖いことを言い出した。

 

「簡単には信じられないと思いますが、夜になるとどこからか歌声が聞こえて眠れないんです」

 

歌声なんて俺には聞こえてこないのに、どう言うことなんだ?それに、夜はみんな眠っているし、歌っている人なんて誰もいない。

本当に聞こえたとすれば、魔物や幽霊の仕業だろうか。

 

「幻聴とかじゃなくて、本当に聞こえたのか?」

 

「それは分かりませんけど、すごくきれいで、悲しげな歌なんです」

 

きれいな歌であれば、逆に眠れると思うんだけどな。

寝る前にゆっくりとした音楽をかけて、眠りやすくする方法も存在している。

 

「そんな歌なら、逆に寝やすいんじゃないか?」

 

「それが、あまりに悲しすぎる歌で、聞いていると涙があふれてきちゃうんです」

 

そんなに悲しい歌を演奏しているのは誰なんだろうな。そして、何故俺たちには聞こえないかも気になる。

何か心当たりでもあれば、調べることができるだろうけど。

「その歌が聞こえるようになった原因に、手がかりはあるか?」

 

「心当たりと言えば、この鍵ですね」

 

俺が聞くと、シェネリはポケットから銀色の鍵を取り出した。どこの鍵か分からないから、そのままシェネリが持っていればいいと言った鍵だ。

この鍵と歌声が何か関係しているのだろうか。

 

「最近気づいたんですけど、この鍵は歌声と反応して光り輝くんです」

 

歌声と反応すると言うことは、この鍵で行ける場所に歌声を発生させている何かがいるのだろう。

でも、その場所がどこにあるのかは分からないな。

 

「間違いなくその鍵と歌声は関係あるだろうけど、どこを開ける鍵なのか分かるか?」

「多分ですけど、ガライヤの氷の湖の近くにある塔の鍵だと思います。いつもあの方角から、歌声が聞こえて来るんです」

 

そう言えば、アメルダの頼みで氷を集めに行った時、遠くに塔のような物が見えていたな。

あの時は大して気にならなかったけど、塔の中に歌を歌っている奴がいるんだな。

 

「じゃあ、その場所に行ってくる。その鍵を貸してくれるか?」

 

「はい!私の宝物ですけど、このまま歌声が続けば睡眠不足になってしまいます」

 

シェネリは俺に銀色の鍵を渡してくれた。俺も歌声については気になるし、調べに行ってこよう。

俺はさっそく赤の旅のとびらに入った。今日は本当は緑のとびらの先を探索する予定だったが、あの塔は赤のとびらの先にある。

旅のとびらを抜けると、何度も行ったことのある雪原地帯へとたどり着く。この雪原は、日本の冬くらいの気温ではあるが、ガライの町がある豪雪地帯に比べれば寒くはない。

 

「結構遠いけど、シェネリの言っていた塔を目指すか」

 

俺は旅のとびらから、歌声の聞こえる塔を目指して歩き始める。

まず、杉の木がたくさん生えている森を抜けて、その先にある広大な雪原を歩いていく。

ここらにいる魔物は戦いなれているが、戦うと時間がかかるので避けながら進んで行った。

そして、町から出て1時間以上経って、凍り付いた湖までたどり着いた。2回も来たことがあるが、遠くて大変だな。

 

「ブリザードが邪魔だから、迂回して塔を目指すか」

 

氷の湖を歩いて行ったほうが早いが、大量のブリザードが生息していて厄介だ。隠れる場所もないので、戦うことになってしまうだろう。

なので俺は、氷の湖の近くにある森の中を進みながら、塔に近づいていった。15分くらい歩き続けて、ようやく塔の入り口にまでたどり着く。

 

「やっと塔についたな。さっそく中に入ってみるか」

 

その塔は高さが30メートルくらいで、ピラミッドと同じブロックで出来ている。

中に入るとカベかけ松明がある明るい部屋があり、2階に上がるはしごがある部屋の入り口には、鍵のかかった赤色の扉があった。

シェネリが持っていた鍵は、ここを開けるための物だろう。

 

「この塔の上に何がいるんだろうな?」

 

俺はそんなことを考えながらポーチから鍵を取りだし、赤色の扉にさしこんだ。すると、鍵がはずれて開けられるようになった。

 

「やっぱりここの鍵だったみたいだな」

 

鍵が外れたので、俺は扉を開けて塔の2階へと登っていく。

階段ではなくはしごを使わないといけないが、俺は崖にかかっているつたも何度も登ったことがあるので、全く疲れなかった。

2階にたどり着くと、そこは一階と同じような部屋で、何もなかった。だが、この塔は高いのでまだ上があるはずだ。

「3階に続くはしごもあるな」

 

2階を少し調べていると、やはりまだ上があるようで、3階に繋がるはしごを見つけた。

俺はそれを登っていき、3階へとたどり着く。そこには、たくさんの本や机なとが置いてあり、書斎みたいな場所だった。

その部屋を調べていると、これまで何度も見たことのあるタイトルの本も見つけた。

 

「アレフガルド歴程か···ここにもあったんだな」

 

冒険家ガンダルが書いたこの本は、どのようにアレフガルドが衰退していったかが記されている。

メルキド、リムルダール、マイラで1冊ずつ見つけて来たので、これで4冊目だな。

俺はそのアレフガルド歴程を手に取り、読み始めた。

 

メルキド、リムルダール、マイラを巡り、アレフガルドの北西、ガライヤ地方に行き着いた。長い旅の中でたくさんの山を越え海を渡り、私はひとつ気づいたことがある。それは、このアレフガルドの地形が聞いていた物と少し違っていることだ。どうも、海面が上がり陸だった場所が海の中に沈んでいるらしい。なぜこのような変化が起きたのか分からないが、これも竜王の手によるものだろう。ひょっとすると、人間の往来を断ち、人間たちが協力するのを防ぐためなのかもしれない。

 

そう言えばドラクエ1のアレフガルドと比べるとやたらと海が多いんだよな。

竜王がそんな力を手にしたのも、勇者が裏切ったからだろう。

竜王と勇者は、どちらのほうがより悪の存在なのか分からないがどちらも倒さなければアレフガルドに未来はないな。

 

「まだ続きが書かれてるな」

 

海について書かれている次のページには、ガライの町や、俺がまだ行っていないラダトーム地方のことが書かれていた。

 

行き着いたガライヤ地方には、吟遊詩人のガライという人物が作った町があったはずだが、今やこの地は冷たい雪と硬い氷に閉ざされ、町自体も失われてしまったようだ。炎とマグマに閉ざされたマイラ、そして雪と氷に閉ざされたガライヤ···。おお!このアレフガルドにはもはや人間の住める地は残されていないのだろうか!メルキドからアレフガルドを東まわりに巡ってどのくらいの年月がたったのだろう。

私はこれから旅の最後に残された地、かつての王都があったラダトームに向かう。伝え聞くところでは、ラダトームは今、死と呪いが支配する死の大地と化しているそうだ。はたしてそんな地に、希望などあるのだろうか。

メルキドの冒険家·ガンダル

 

マイラとガライヤは今俺たちがいる場所なのでどんな状況かは分かっているが、ラダトームが死の大地と呼ばれるほど荒廃しているとは知らなかったぜ。恐らくは、竜王の城が近くにあるからだろうな。

俺たちが行くことになるのは、マイラとガライヤの空の闇を晴らしてからだろう。

俺はアレフガルド歴程を読み終えると、また塔の中を調べ始めた。

すると、3階の一番奥に羽根のついた帽子を被った男がいた。

 

「あいつ、マイラの魔物の城にもいたな···」

 

その男はよく見ると、俺たちが魔物の城に潜入した時にアメルダのことを人殺しだと言っていた幽霊だった。どうしてあいつが、ここにいるのだろうか。

 

「この前魔物の城でも会ったよな。あんたは誰なんだ?」

 

俺がそう聞くと、男の幽霊は俺の方を見て話し始める。

 

「どうしてこんなところにいるんだい?もしかして、僕が生前持っていた鍵を手に入れたのか?」

 

「ああ、町の仲間がその鍵を拾って、それを貰ったんだ」

 

男は俺がこの塔に入れたことを驚いている。もしシェネリが鍵を拾っていなかったら、俺はここには来れなかったな。

 

「それで、僕に何の用だい?」

 

「その鍵をくれたシェネリって女の人が、この塔から歌声が聞こえて眠れないと言って、俺に相談に来たんだ。それで、この塔を調べている」

 

この塔から歌声が聞こえてきたと言うことは、男が歌を歌っていたのだろう。

それを言うと、男は悪気があった訳ではないと言う。

 

「すまない···僕の歌で少女の眠りをさまたげてしまうとは思ってもいなかった。これからは、気を付けるようにするよ」

 

歌を歌うことは悪いことではないが、他の人に迷惑をかけないようにしないとな。彼はこれからは気を付けると言っているのでもう大丈夫だろう。

俺は最初の話題に戻して、男が誰なのかを聞いた。

 

「話を戻すけど、あんたは誰なんだ?この前はアメルダのことを人殺しって言っていたよな」

 

「僕はラライ。しがない発明家をしていた男さ。あの人殺しを助けるのはやめたほうがいいと言ったのに、どうして君は助けたんだ?」

 

ラライと言うのは、アメルダが助手をしていたと言う発明家の名前だったはずだ。どんな人だったのか気になっていたけど、既に会っていたとはな。

誰を殺したのかは分からないが、ラライが嘘を言っているとは思えない。

だが、やはり本当に人殺しだとしても、助けないと言うのはおかしいと思う。

 

「たとえ人殺しであっても、助けないと言うのは間違っていると思うぞ」

 

「君はそう思うのか···だけど、あの女の手助けはやめたほうがいい。そうしないと、君もあの女に殺されるかもしれないよ?」

 

確かに人殺しと協力するのは嫌だとは思うが、協力しなければようがんまじんやひょうがまじんは倒せない。

それに、どうして殺したのかも聞いていないから、本当にアメルダがただの人殺しなのかは分からないな。

 

「じゃあ、アメルダが人を殺した理由は何なんだ?」

 

「それは僕にも分からないね。兎に角、迷惑をかけた少女には謝っておいておくれ」

 

理由を聞いてもラライは教えてくれず、この場を去っていった。本当に知らないのか、知っていて隠しているのかは分からないけど。

これまで協力してきた仲間だし、俺は理由もなくアメルダが人を殺すとは思えない。

そのことは気になるが、とりあえず歌声のことについては解決したので俺は塔を降りて、キメラのつばさを使って帰っていった。

 

マイラの町に戻って来ると、さっそくシェネリにラライが歌を歌っていたことを教えに行った。

 

「シェネリ、歌声の秘密を調べて来たぞ。ラライと言う男の幽霊が歌っていたんだ」

 

「え!?雄也さんって、幽霊が見えるんですか?」

 

幽霊と話したと言うと、シェネリは驚いた顔をする。

そう言えばシェネリには俺が幽霊を見ることが出来るって話をしていなかったな。

「ああ、ビルダーの力のおかげで、幽霊が見えるんだ」

 

「ビルダーの力ってすごいですね!それで、ラライさんと言うのは、アメルダさんが助手をしていた発明家なんですか?」

 

シェネリもラライの話は知っていたのか。シェネリはアメルダと一緒にいることも多いので、聞いたことがあるのだろう。

 

「ああ、その人のことだ」

 

「やっぱりそうなんですね!ラライさんって、歌が上手なんですか!」

 

歌が上手って言っているってことは、夜眠れなくて困っていることもあったけど、そこまで嫌でもなかったのかもな。

ラライの話をしていると、シェネリは急に話題を変えた。

 

「そう言えば雄也さん。昨日、幼馴染みのコルトから聞いたんですけど、アメルダさんは昔、人を殺したことがあるそうです」

 

シェネリもその話は聞いていたのか。

どうしてコルトが知っていたかは分からないが、ラライ以外の人も言っているということは、やはり本当なんだろうな。

 

「俺もラライの幽霊からそんな話を聞いたぜ」

 

「ラライさんも言っていたんですか!?私はただの噂だと思っていたのですが、嘘だとは思えなくなってきましたね」

 

アメルダが人殺しであるとラライも言っていたことを聞き、シェネリは不安そうな表情をする。

これでシェネリがアメルダのことを信用しなくなったりしなければいいのだが。

「そのことについては、また聞いてみます。とりあえず、今日は歌声の謎を解決してくれてありがとうございました」

 

シェネリはそう言った後作業部屋に入って行った。アメルダのことを荒くれたちに聞くためだろうか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode78 氷山に眠る竪琴

俺はシェネリと別れた後、しばらく町の中で休んでいた。

アメルダがどうして人を殺したのかは気になるけど、思い出したくないことなのかもしれないから、聞くのはやめておいたほうがいいな。

今はまず、ようがんまじんとひょうがまじんに対抗する兵器を作ることが先だ。

この後何をしようかと考えていると、作業部屋から出てきたガロンに話しかけられた。

 

「なあ、雄也。シェネリから聞いた。お前、死んじまったラライの姿が見えるんだってな」

 

そのことをガロンが知っていると言うことは、やっぱりシェネリはアメルダのことをガロンたちに聞いていたんだな。

そのことを言いにくるということは、ラライに何か伝えてほしいことでもあるのだろうか。

 

「ああ、俺はビルダーの力で幽霊が見えるようになったんだ。だけど、それがどうしたんだ?」

 

「実は、アネゴはラライの研究記録の解読に行き詰まっていてな。本人に直接聞いてきて欲しいんだ」

 

確かに研究記録を手に入れてから時間がたっているのに、アメルダはまだ解読を続けている。それならガロンの言う通り、本人に聞いたほうが早いな。

しかし、ラライはアメルダは人殺しだから手伝うなと言っていた。普通に聞いても、教えてはくれないだろう。

でも、ガロンもシェネリから聞いていたのか、そのことは分かっているようだった。

 

「アイツが素直に話すはずがねえけど、一つ考えがあるんだ」

 

「考えって、どうするんだ?」

 

ラライはアメルダのことを全く信用していないみたいなので、説得は難しいだろう。

だが、他の方法も俺には思い付かないな。

 

「ラライが先祖から代々受け継いできた銀の竪琴ってモンがあるらしいんだが、魔物に奪われて壊されちまってな」

 

銀の竪琴と言うのはドラクエ1のガライの墓にある、吟遊詩人ガライが持っていた竪琴のことだな。

先祖と言うことは、ラライはガライの子孫なのか。名前が似ているけど、ゆきのふとゆきのへのように受け継がれていく名前なのだろうか。

とりあえず壊されていると言うのなら、直せばいいと言うことだな。

 

「その銀の竪琴を直してほしいのか?」

 

「ああ、ラライの大切な竪琴を直せば、さすがに教えてくれるだろう」

 

でも、その銀の竪琴がどこにあるかが問題だな。魔物に奪われたと言うことは、ここにはないだろう。

場所が分からないと探しに行けないが、ガロンは知っているようだった。

 

「銀の竪琴はガライの町から岩山を越えた所の氷原にある、小さな氷山に埋まっているはずだ。見つけたら、これを使って修理してくれ」

 

場所を教えてくれると同時に、ガロンは竪琴の弦を渡してきた。これだけで銀の竪琴を修理出来るか分からないが、ビルダーの力がなんとかしてくれるだろう。

小さな氷山と言うのも、どんな物か分からないが、現地に行けば見つかるだろう。

 

「分かった。壊れた竪琴を探しに行ってくるぜ」

 

「雄也、少し待ってくれ」

 

俺がガロンと別れて緑の旅のとびらに向かおうとすると、まだ言いたいことがあったらしくガロンは呼び止めてきた。

 

「どうかしたんだ?」

 

「伝え忘れていたが、竪琴を直したらアネゴからの送り物として奴に渡してくれ!」

 

普通にガロンや俺が直したと言えばいいと思うのに、どうしてアメルダからの送り物だと言うんだ?

それに、ラライはアメルダのことを人殺しだと言っているから、そんな嘘をついて渡せば、逆に教えてもらえなくなるかもしれない。

 

「何でそんなことをするんだ?普通に渡せばいいだろ」

 

「ちょっとした小細工さ。そうすれば、ラライの野郎は喜ぶはずだ」

 

どうしてラライが喜ぶことになるんだ?人殺しからの送り物と言われても、許しを請っているようにしか見えないと思うが。

まあ、それで許してもらえれば教えてもらえるだろうけど、許すかは分からないな。

でも、アメルダとラライの間には俺が知らない何かがあるのかもしれないから、ガロンの言うことを信じておくか。

 

「分かった。あの二人に関しては、アンタのほうが詳しいだろうからな」

 

俺はそこでガロンと話を終えて、旅のとびらに向かった。銀の竪琴を直すには別の素材がいる可能性もあるので、出発する前に調べた。

銀の竪琴···壊れた銀の竪琴1個、おもいでの弦1個、銀3個 マシンメーカー

銀が必要みたいだな。壊れた銀の竪琴がある氷原にはまだ行ったことがないので、その近くを探してみるか。

どうして竪琴をマシンメーカーで直すのかは気になるが、修理は出来そうだな。

 

「さっそく銀と壊れた竪琴を探しに行くか」

 

必要な素材が分かると、俺は緑の旅のとびらに入っていった。すると一瞬でマイラの町からガライの町の近くに移動する。

 

「この左側の岩山を越えたところに氷原があるのか」

 

岩山は旅のとびらから左の方向にあるので、俺はそこへ歩いていった。この前より雪が積もっていたが、数分でたどり着くことが出来た。

 

「結構高い岩山だけど、俺なら簡単に越えられそうだな」

 

ここもそうだけど、本当にアレフガルドは岩山が多いな。

岩山はもう10回以上は登ったことがあるので、今回もすぐに登って行くことができた。

岩山の頂上まで着くと、反対側を見渡してみる。すると、赤のとびらの先の雪原のような面積の広大な氷原が広がっていた。

 

「あれが氷原か。ガロンの言ってた小さな氷山もあるな」

 

よく見ると、その氷原には高さが5メートルくらいのとても小さな氷山が10個くらいあった。あの氷山のどれかに、壊れた銀の竪琴が眠っているのだろう。

 

「あと、降りてすぐのところには池もあるのか」

 

それと、崖の真下にはハートフルーツやさとうきびのような植物も生えている池もある。食料も必要になってくるし、それらの植物も集めておいたほうがいいな。

俺は池や氷原に向かうため、岩山の反対側に降りていった。すると、その途中に洞窟のようなものを見つけた。

 

「こんなところに洞窟があるのか。竪琴の修理に必要な銀があるかもしれないな」

 

洞窟にはさまざまな金属が眠っていることが多いので、銀が埋まっている可能性もあるな。それ以外にも役立つ金属があるかもしれないので、俺は中に入って行った。

そして、洞窟の奥に進んで行くと金や銀、ミスリルと言った珍しい金属がたくさんあった。

 

「やっぱり銀があったか。まほうインゴットももっと必要になるだろうし、ミスリルも集めておくか」

 

最強の兵器を作るのにまほうインゴットが必要になる可能性が高いので、俺は銀と一緒にミスリルも集めた。

金はマイラでは使い道がないが、きれいなので一応手に入れておく。

 

「これで金属も集まったし、銀の竪琴を探しに行くか」

 

俺は金属を集め終えるとポーチにしまい、洞窟から出た。

洞窟から出た後は池でハートフルーツなどを集めて、氷原へと向かって行く。氷原までは池から歩いて10分くらいでたどり着くことができた。

小さな氷山は10個くらいなので、すぐに壊れた銀の竪琴が見つかりそうだな。

しかし、探し始めようとしていると、雪原にもいた巨大なモンスターを見つけた。

 

「ここにもギカンテスがいるのか···見つかったら危険だな」

 

大砲などがなければギカンテスを倒すのは不可能だろう。俺はギカンテスに見つからないよう距離をとって、小さな氷山を調べ始めた。

小さな氷山は壊すと中が空洞になっており、物を隠すには最適な場所だ。俺はいくつも氷山を壊していき、宝箱が入っている氷山を見つけることができた。

その宝箱の横には立て札が立ててあり、魔物が書いたと思われる文字が書いてあった。

 

「人間の竪琴、持ち出し禁止って書いてあるな。多分ここに、ラライの竪琴が入ってるんだろうな」

俺はその宝箱を開けて、中を見てみる。すると、弦が切れてボロボロになっている銀色の竪琴が入っていた。

 

「これが銀の竪琴か。さっそく持ち帰って修理しないとな」

 

銀の竪琴を修理するにはマシンメーカーを使わないといけないので、町に戻らないといけないな。

まだキメラのつばさもたくたん持っているので、俺はそれを使って町に戻って行った。

 

町に戻って来ると、俺はマシンメーカーのある研究室に入っていった。素材は揃っているし、これで銀の竪琴が修理できるはずだ。

俺はマシンメーカーの前に立ち、壊れた銀の竪琴、おもいでの弦、銀にビルダーの魔法をかける。

すると、その3つの素材が合わさり、銀色に輝く美しい竪琴が出来上がった。

 

「これが銀の竪琴か。早くラライに届けに行かないとな」

 

だが、ラライは塔で俺と話した後消えてしまったな。昇天はしてないだろうけど、居場所に心当たりがない。

 

「ラライの居場所は分からないけど、ガロンなら心当たりがあるかもしれないな」

 

銀の竪琴のことを教えてくれたガロンなら、ラライがいそうな場所も分かるかもしれない。

俺は作業部屋に入り、ガロンにラライの居場所について聞いた。

 

「なあ、ガロン。ラライの幽霊がいそうな場所は知らないか?」

 

俺がそう聞くと、ガロンは心当たりがあるようだった。

 

「オレは幽霊なんて見えねえから分からないけど、あいつの墓の近くにいるんじゃねえか?」

ラライの墓なんてあったのか。この地方の人々は俺が来る前から物を作る能力があったらしいし、墓も作ることが出来たみたいだな。

 

「そのラライの墓って、どこにあるんだ?」

 

「壊れた銀の竪琴がある氷原をずっと進んで行った所にあるぜ。結構遠いと思うけど、最強の兵器のためだからな、必ず銀の竪琴を届けてくれよ」

 

ラライの墓も緑のとびらの先にあるみたいだな。

氷原を越えるということはガロンのガロンの言う通りかなり遠そうだけど、今日の夜になる前にはたどり着くことができるだろう。

 

「分かった。銀の竪琴はもう修理したから、ラライに届けてくるぜ」

 

「おう、頼んだぜ!」

 

俺は作業部屋からすぐに出て、再び緑の旅のとびらに入った。1時間は間違いなくかかるだろうから、なるべく急いで行かないとな。

俺は旅のとびらを抜けると、岩山を越えて、その先に広がる氷原に向かった。

氷原にはさっきのギガンテス以外にもブリザードやガーゴイル、メタルハンターと言ったモンスターが生息しているので、小さな氷山などに隠れながら進んでいく。

1時間くらい氷原を歩いていると、再びガライの町の近くと同じように雪が積もっている場所へ着いた。

 

「氷原を越えることは出来たけど、まだラライの墓は見えないな」

 

その場所を進んで行くと、海の近くまで行った。崖と海に挟まれていて一本道なので、このまま進めばラライの墓があるのだろう。

そして、20分くらい海の近くの道を歩いて、墓石が一つだけ置いてある小さな岬のような場所を見つけた。

近づいて行くと、その墓石の前にラライの幽霊が立っているのが見える。

 

「おい、ラライ。話があるんだ」

 

俺はさっそくラライに銀の竪琴を渡すために話しかけた。

すると、俺の声に気づいてラライは振り向いて、近づいて来る。

 

「おや、また君か···今度は何をしに来たんだい?」

 

「あんたに銀の竪琴を渡しに来たんだ。大事な物だったんだろ?」

 

俺はポーチから銀の竪琴を取り出して、ラライに渡す。

魔物に壊された銀の竪琴が直されていて、ラライはとても驚いていた。

「おお!これは僕の家に代々伝わる銀の竪琴!君が、これを直してくれたのか?」

 

本当は俺が修理したんだけど、ガロンはアメルダからの贈り物ということにしておけと言われたし、アメルダが直したことにするか。

 

「いや、アメルダがあんたへの贈り物として直してくれたんだ」

 

俺がそう言うと、ラライはしばらく黙りこんだ後、こう言った。

 

「それは、嘘だね。アメルダは、物で人を動かそうとはしない女性だからね」

 

嘘だと気づかれるとしても、こんなに早く気づかれるとは思っていなかったぜ。

さすがはアメルダが助手をしていた発明家だけあるな。俺が知らないアメルダの性格も全て分かっているようだ。

今さら隠し通す必要もなさそうなので、俺は本当のことを言った。

 

「もう気づかれたか。本当はアメルダの仲間のガロンが、アメルダからの贈り物だと言ってあんたに銀の竪琴を渡そうと考えてたんだ」

 

「そうだったのか。だけど、ガロンはどうしてそんなことを考えたんだい?」

 

「アメルダはあんたの研究記録の解読に手間取っていてな、銀の竪琴を渡す代わりに直接教えて貰おうかと思ったんだ。それと、銀の竪琴を直したのは、本当は俺だ」

 

ラライの研究記録の内容を早く知りたいのなら、本人に聞くのが一番早いからな。

俺が銀の竪琴を直したと言うと、そのことについてラライは聞いてくる。

「本当はアメルダじゃなくて、君が直していたんだね。だけど、ここまで上手く直せるなんて、君は何者なんだい?」

 

アメルダからの贈り物と言うのが嘘だと気づいた理由には、銀の竪琴が新品のような状態になっていたからもあるだろう。

マイラではみんなわずかに物を作る力を持ってはいるが、完全ではないし、ビルダーの魔法も使えない。

 

「俺は影山雄也。伝説のビルダーって言う奴だ」

 

「そうか、君がビルダーなのか···君の力があれば、僕の発明も完成させられるかもしれないね」

 

ラライも物を作る力がなくて、最強の兵器は完成させられなかったんだな。

でも、作り方さえ分かればビルダーの俺なら作れるかもしれないな。

「だったら、研究記録を俺に教えてくれないか?最強の兵器は、俺が完成させて見せるぜ。それに、アメルダも過去に何があったかは知らないけど、魔物の親玉を倒そうと必死に頑張っているんだ」

 

俺はラライの代わりに最強の兵器を完成させると言って、研究記録を教えてくれるよう頼んだ。

それに、アメルダが魔物の親玉を倒そうと必死に頑張っていることも知れば、考えも変わるかもしれない。

すると、ラライはしばらく考えて俺に言った。

 

「分かった。僕が命をかけて進めた研究も、君なら完成させられるかもしれないからね。」

 

「ああ、必ず完成させるぞ」

 

自信はあまりないが、ビルダーとして必ず最強の兵器を完成させないといけないな。

そうしなければ、マイラとガライヤの空の闇は晴れないし、ラライのこの世での未練も消えることはないだろう。

 

「君にブルーブロックというブロックの作り方を教える。これを使って、弱き物を描くんだ」

 

ラライは、俺にブルーブロックの作り方を教えてくれた。ブルーブロックと言うのは、名前の通り青一色のブロックのようだ。

だが、弱き者については教えてくれなかった。

 

「そうすれば、君とアメルダが求めている物を得られるはずさ···」

 

とりあえず、ブルーブロックを使って何かをすれば、最強の兵器の手がかりが掴めると言うことだろう。

何か知ってるかもしれないし、帰ったらガロンやアメルダに聞いてみないとな。

 

俺はラライと別れて、マイラの町に戻って行った。

アメルダは誰を、何故殺したのかは分からないけど、ラライのこれまでの言い方から考えて、ラライ自身が殺されたのではないかと思えてくる。

だけど、もしそうならどうして殺したんだろうな。俺には全く理由が分からなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode79 岩山に隠されし宝

俺がラライからブルーブロックについて教えてもらった後、マイラの町に戻ってくると、もう夜になっていた。

早く最強の兵器を作りたいけど、今日は俺もみんなも疲れているだろうから、ブルーブロックのことを話すのは明日にするか。

 

「今日は休んで、明日からの戦いに備えておかないとな」

 

俺が寝室へと向かおうとしていると、まだ起きていたガロンが話しかけてきた。

 

「なあ、雄也。ラライの野郎から兵器の情報を教えて貰えたか?」

 

ラライに銀の竪琴を渡すことを提案したのはガロンだから、結果が気になっているのだろう。

最初の作戦とは違ったけど、兵器の手がかりを手に入れることはできたな。

 

「ああ、詳しくは分からないけど、ブルーブロックって物を教えてもらった。ガロンは何か分かるか?」

 

「ブルーブロックなんて、オレも聞いたことねえぞ」

 

俺はブルーブロックのことについてガロンに聞いてみたが、ガロンも知らないようだった。

ラライが教えてくれたんだし、重要な手がかりには間違いないはずだが。

 

「アネゴなら何か知ってるかもしれねえし、聞いてみたらどうだ?」

 

「ああ、明日聞いてみるぜ」

 

アメルダは兵器の研究で疲れていて、今日はもう寝室で寝ていた。

ブルーブロックのことについては、明日聞くしかないな。

それと、ガロンにもうひとつ聞きたいことがあった。

 

「あと、もう一つ気になるんだけど、どうしてアメルダからの贈り物と言うことにしようと思ったんだ?」

 

結果嘘だと気づかれてしまったが、ガロンが提案した理由が気になるな。

そのことを聞くと、ガロンは驚くようなことを言った。

 

「実はな、アネゴとラライは単に発明家と助手の関係じゃなくて、恋人同士だったんだ。だから恋人からの贈り物と言うことにすれば、ラライも喜ぶと思ったんだ」

 

「あの二人が恋人!?そんな関係だったのか?」

 

そう言えば、ガライの町の跡地にいたキラーマシンも、そのようなことを言っていたな。

すぐには信じられないことだが、アメルダとずっと共に暮らしてきたガロンが言うのだから、間違いないだろう。

俺が驚いていると、ガロンは二人の過去の話を始めた。

 

「ああ、何故かは分からねえけど、マイラに生まれたアネゴと、ガライヤに生まれたラライ···この二人は性格まで真逆だったのに、不思議と惹かれあったんだ」

 

そう言えばガロンの言う通り、アメルダは活発で、ラライは冷静な人と言うイメージだ。

性格が一致していないと、恋人にはなりにくいはずだけど、不思議なこともあるんだな。

でも、今までは明るい話だったが、ガロンは急に真面目な表情になった。

 

「だけど、ある夜のことだった。アネゴが、ラライを殺したのは」

俺もだいたい分かっていたけど、やっぱりアメルダはラライを殺したんだな。

恋人同士だったはずなのに、どうしてなんだろう。

 

「やっぱりそうだったんだな···何があったんだ?」

 

「それはオレも知らねえな。だけどオレは、アネゴのことを信じてるぜ」

 

俺も勝手な理由でアメルダが人を殺すとは思えない。

リムルダールで戦ったマッドウルスのように、殺さなければいけない理由があったと言うことだろう。

 

「俺もアメルダのことは信じている。過去に何があったとしても、協力して兵器を作っていくぜ」

 

「お前ならそう言ってくれると思ってたぜ!兎に角、ありがとうな」

俺はガロンから二人の過去の話を聞き終え、寝室へと入って行く。

アメルダがラライを殺した理由を知りたくはあるけど、無理には聞かないほうがいいな。

とりあえず俺は明日に備えるため、わらベッドで眠りについた。

 

マイラに来て15日目の朝、俺は起きるとさっそく研究室に行き、アメルダにブルーブロックのことを教えに行った。

アメルダはまだ研究記録を解読している途中だが、なかなか終わらない。

 

「アメルダ、実はガロンの提案で、ラライ本人から兵器の情報を聞いてきたんだ」

 

「ガロンから全部聞いたよ。最強の兵器のためだとは言え、余計なことを···」

 

アメルダももう知っていたようで、驚くことはしなかった。

ガロンは俺より先に起きていたし、俺が目覚める前にそのことを教えていたんだろう。

 

「それで、アイツが教えてくれた手がかりってのは?」

 

「ブルーブロックって言う青一色のブロックの作り方を教えてくれたんだ。それを使って、弱き物を描けって言ってた」

 

俺はアメルダに、ブルーブロックのことについて聞いた。

俺にはラライの言っていた言葉の意味は分からないけど、アメルダなら知っているかもしれない。

そして、アメルダは少し考えた後、何かを思い付いたようだった。

 

「それなら心当たりがあるね。ラライが倉庫として使っていた建物があるんだ」

ラライの倉庫か···それなら、研究を進めるための重要な情報やアイテムが見つかるかもしれないな。

それを手に入れるために、ブルーブロックが必要なのだろう。

 

「そのラライの倉庫って、どこにあるんだ?」

 

「ガライの町の近くの氷原を越えた先にある、岩山の上さ。この前の旅のとびらから行けるはずだよ」

 

昨日ラライの墓に向かう途中に見つけたあの岩山のことか。そこに向かうまで結構な時間がかかるけど、場所は分かっているから迷わず行けるな。

 

「そこでブルーブロックを使えば、何かが起きるはずだよ!調べてきておくれ」

 

「分かった。何か見つけたらすぐに教えるぜ」

ブルーブロックを作ったら、すぐに出発できるな。俺はビルダーの魔法で、ブルーブロックの作り方を調べる。

ブルーブロック···エネルギー物質1個、氷3個 マシンメーカー

青一色のブロックだから、作るのはそんなに難しくはないな。それに、今俺はマシンメーカーのある研究室にいるので、すぐに作ることが出来る。

そして、俺はエネルギー物質と氷を合体させて、ブルーブロックを作った。

 

「これがブルーブロックか···一度に10個も出来るんだな」

 

ブルーブロックはラライから聞いた通り、青一色のブロックだった。

それと、氷ブロックを3つしか使っていないのに、一度に10個も作ることが出来た。

「もう10個くらい作っておくか」

 

10個のブルーブロックをポーチにしまった後、念のためにもう1セット作り、合計で20個にした。

万が一ブロックが足りないと言うことになって、戻ってくるのは嫌だからな。

 

「これでブルーブロックも作れたし、そろそろ出発するか」

 

俺は研究室から出て、緑の旅のとびらに向かった。ラライの倉庫まではかなり歩かないといけないだろうが、長距離を歩くのは慣れているので平気だ。

旅のとびらに入ると、昨日も来たガライの町の近くへと移動する。

そこから俺は左にある岩山を登って、反対側にある広大な氷原へと移動した。

 

「この氷原を越えれば、ラライの倉庫がある岩山だぜ」

 

ここから見ても、氷原の反対側にかなり高い岩山が見える。今俺が越えた岩山と同じくらいの高さだ。

俺は魔物が少ない場所を選んで氷原を進んで行き、45分くらいで目指していた岩山の前までたどり着いた。

2~3キロメートルほど歩いたが、まだ崖を登る力は残っている。

 

「ブロックを置いていけば簡単に登れるな」

 

俺はガライの町の近くの岩山を登った時と同じように、土などのブロックで足場を作って登っていく。

ブロックは幅が1メートルあるので、結構安全に登ることができるんだよな。

岩山の上は、かなり多くの雪が積もっていて、調べるのが大変そうだった。

「ラライの倉庫はどこにあるんだ?」

 

普通に歩いていくと雪で動きづらくなるので、俺は積もっている雪を除去しながら、ラライの倉庫を探して歩いて行った。

すると、カベかけ松明がいくつもかけられている、遺跡の入口のような場所も見つけた。

その入口から中に入ると下に降りる階段があり、降りた先の部屋には立て札と封印された宝箱がある。

 

「ここがラライの倉庫みたいだけど、宝箱が封印されてるな」

 

恐らくここがラライの倉庫で、ブルーブロックを使えば宝箱の封印が解けるのだろう。

 

「もしかしたら、あの立て札にヒントが書いてあるのかもな」

 

ブルーブロックをどうやって使うかが分からないので、俺は中にある立て札を読んでみた。

すると、そこにはこう書いてあった。

 

ブルーブロックを持つものは弱き者を地に描け。

持たざる者は、ここより立ち去れ。

 

その立て札の横には、ブルーブロックをはめるためだと思われる、15ブロック分の窪みがあった。

そこにブルーブロックをはめていけば、弱き者と言うのが描けるのだろう。

俺はその窪みに一つずつ、ブロックをはめていく。すると、顔のような絵が出来上がっていった。

 

「この顔は、スライムか···?でも、人間の顔にも思えるな」

 

弱き者と言うのは、ドラクエで最弱の魔物のスライムのことなのかと思ったが、人間の顔の絵にも見える。

メルキドでは味方同士で争い、リムルダールでは死を恐れ魔物化の研究を行い、マイラでは魔物たちに敗北の危機にある、それらを考えれば、弱き者と言うのは人間を表しているとも考えられるな。

そんなことを思いながら、ブルーブロックをはめ続けていき、15個全ての窪みを埋めることが出来た。

 

「これで宝箱の封印が解除されるはずだな。何が入ってるんだ?」

 

だが、俺が宝箱に近づこうとすると、突然目の前に3体のキラーマシンが現れた。

ここがラライの倉庫と言うことを考えれば、ガライの町にいたような人間の味方のキラーマシンだろう。

 

「ここにもキラーマシンか。魔物に奪われたら困るから当然かもしれないけど」

しかし、俺が宝箱に近づくと3体のキラーマシンは俺に斬りかかってきたのだ。

俺はすぐ近くにいた中央のキラーマシンの攻撃を受け止めて、後ろに下がる。

 

「どうなってるんだ!?こいつらはラライの味方じゃないのか?」

 

もし魔物の仲間のキラーマシンなら、すでに宝箱の中身を奪っているはずだ。なので、ラライの仲間のキラーマシンのはずだが、何故か俺を攻撃してくる。

 

「とりあえず、倒すしかなさそうだな」

 

兎に角倒さないと最強の兵器の手がかりを手に入れることはできない。

俺はサブマシンガンを取り出して、キラーマシンに向かって撃つ。

この前の襲撃でもキラーマシンとは戦ったので、戦い慣れている相手だ。

「お前らキラーマシンとは戦い慣れているんだぞ!」

 

サブマシンガンを扱いもかなり上達してきたので、敵を早く倒せるようになって来ている。

 

「コノタカラハ、ワタサンゾ!」

 

「シンニュウシャハ、ハイジョスル!」

 

中央のキラーマシンの核へ向かってまほうの弾丸を撃っていると、左右のキラーマシンが機械音を発しながら俺に向かって矢を放ってくる。

俺は発射された直後にジャンプして回避し、矢を放ってきたキラーマシンに向けても、サブマシンガンを乱射した。

まほうの弾丸もまだかなりの数があるので、弾切れになる前に倒すことができそうだな。

 

「キラーマシンも、そろそろ弱って来ているな」

 

奴らは核を何発か撃ち抜かれ、かなりのダメージを受けているようだった。

しかし、このまままほうの弾丸を避けていれば倒せそうだと思っていると、中央のキラーマシンが左右のキラーマシンをかばいながら近づいてきた。

 

「タカラヲワタスワケニハ、イカナイ!」

 

普通に戦っても勝つことは出来ないと判断したのだろう。

中央のキラーマシンは左右の奴らより大きいので、まずはそいつを倒さないといけないな。

 

「仲間をかばったところで、勝てると思ってるのか?」

 

俺はサブマシンガンを中央のキラーマシンの核に狙いを定めて撃ち続け、内部の機械を破壊していく。

そして、最後には中央のキラーマシンは火花を出して、青い光になって消えて行った。

 

「これで後は2体になったな」

 

そいつらもサブマシンガンで倒そうと思ったが、俺のすぐ近くまで迫っていて、左右から俺に剣を降り下ろしてきた。

なので俺は、右手にひかりのつるぎ、左手にまじんのかなづちの二刀流に持ち変える。

今回のキラーマシンの剣は、この前の襲撃できた奴らと同じくらいの強さで、魔法の武器の一撃で弾き返すことができた。

二体いて、どちらも弱っているので、回転斬りを使って斬り裂くべきだな。

 

「これでとどめだな、回転斬り!」

 

俺は腕に溜まった力を解放し、体と両手に持った武器を一回転させる。その一撃は、弱っていたキラーマシンたちの核を斬り刻んで、青い光へと変えさせた。

 

「これで倒せたか···まさか戦いになるとは思っていなかったぜ」

 

どうしてラライの倉庫にいるキラーマシンが襲ってきたのかは分からないが、これで宝箱の中身を手に入れられるはずだ。

俺は宝箱に開けて、中に入っている物を取り出した。

 

「これは、また紙だな。マシンパーツとか言うのが書いてある」

 

そこには発明メモや研究記録と同じような紙が入っていて、マシンパーツと言う歯車のような物が描かれていた。

恐らくは、これが最強の兵器を作る部品になるんだろうな。

俺はそのマシンパーツが書かれた紙をアメルダに見せるため、倉庫から出て町へ戻って行った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode80 魔物の宮殿

俺はマシンパーツのメモを手に入れて町に戻ってくると、さっそくアメルダに見せに行った。

ラライの倉庫にあったと言うことは、重要なアイテムに間違いないだろう。

 

「アメルダ、ラライの倉庫でこんな物を見つけたぞ」

 

「これも研究記録かい?何が書かれてるんだ?」

 

俺はマシンパーツが書かれた紙を、アメルダに渡す。これも解読するのに時間がかかるものでなければいいんだが。

アメルダはしばらくマシンパーツのメモを眺めていると、急に驚いたような表情をした。

 

「どうやらこのマシンパーツってのは、最強の兵器を作るのに必要不可欠な部品みたいなんだ!これさえあれば、兵器を完成させられるね」

ついに、最強の兵器を作るための重要な手がかりが手に入ったんだな。

これで最強の兵器を完成させれば、ようがんまじんやひょうがまじんも倒せるだろう。

そこで俺はマシンパーツの作り方を聞こうと思ったが、アメルダは昨日のガロンのように過去の話を始めた。

 

「だけど、結局あいつの発明に頼っちまった。自分で殺した相手なのにね···」

 

「話したくなかったらいいんだけど、あんたとラライの間に、何があったんだ?」

 

自分からラライを殺したことを俺に言った今なら、その理由も教えてくれるかもしれない。

無理に話させるつもりはないが、一応聞くことにした。

 

「この前も話したけど、アイツは炎と氷を合体させる研究に、自分の全てを捧げていたんだ。けど、どうやっても発明は完成しなかった」

 

物を作る力を奪われているこの世界だから仕方ないことだけど、ラライにとってはとても辛いことだっただろう。

だが、それでどうしてラライを殺すことになるんだ?

俺がそう思っていると、アメルダは魔物の王である竜王の名を口にした。

 

「そんなある日、ラライの目の前に竜王が現れたのさ。そして、竜王はラライにもし味方になれば、人を越えた知恵を与えようって問いかけた」

 

竜王はラライにもそんな問いかけをしていたのか。

殺さざるを得ない状況になったと言うことは、ラライはその質問に、はいの返事をしたのだろうか?

「それで、ラライは竜王の誘いに乗ってしまったのか?」

 

「ああ、もともとは竜王軍を倒すための発明だったのに、研究に没頭するあまり、アイツはおかしくなってきていたんだ」

 

竜王の誘いに乗れば、研究が完成させれらない苦しみから解放されると思ったのだろうか。

竜王が本当に味方をしてくれるのかも分からないけど、勇者のように精神が追い詰められた人間ならそれにすがるしかないようだな。

 

「だからアタシは···アイツを、ラライを殺したのさ」

 

「そういうことだったのか···やっと分かったぜ」

 

ラライの倉庫にいたキラーマシンが襲ってきたのも、ラライが竜王の味方についたからなんだろうな。

それしか方法がなかったとは言え、アメルダが恋人であるラライを殺すことはとても辛かっただろう。

 

俺はかける言葉が見つからず、しばらく黙りこんでいた。

すると、アメルダはいつものような口調に戻り、マシンパーツの話の続きを始めた。

 

「全く、アタシとしたことが無駄な話をしすぎちまったよ!早いところ、最強の兵器を完成させちまおう!」

 

確かに、発明を完成させられなかったラライのためにも、俺たちが完成させないといけないな。

そのためにまずは、マシンパーツを作る必要がある。

 

「まずはマシンパーツを作らないといけないけど、必要な素材は書いてあったか?」

最強の兵器の素材になる物なので、そこら辺の素材で作ることは出来ないだろう。

そう聞くと、アメルダはメモを見ながら言った。

 

「このメモには、氷の湖の近くにある魔物の宮殿に隠されている、からくりパーツが必要って書いてあるね」

 

魔物の宮殿か···氷の湖の近くと言うことはすぐに場所は分かるだろうけど、マイラの魔物の城のようにたくさんの魔物が生息していそうだ。

でも、魔物の城の時のように荒くれの3人と行けば、魔物の群れを突破できるかもしれない。

 

「分かった。あの荒くれたちにも言ってくるよ」

 

「ああ、あの3人と一緒に戦えば、宮殿の魔物も倒せるはずだよ!」

俺はアメルダのいる研究室から出て、荒くれの3人のいる作業部屋に行った。

そこであいつらはいつも通り、筋肉の話をしている。

 

「なあ、あんたたちに頼みたいことがあるんだ」

 

俺の呼び掛ける声が聞こえると、3人は俺の方を向いて話しかけてきた。

 

「オレたちに頼みたいことって何だ?できることならなんでもするぜ!」

 

「実は、最強の兵器を作るための素材がガライヤの魔物の宮殿にあるんだ。だから、一緒に魔物たちと戦ってほしい」

 

この3人は魔物との戦いが得意だから、俺一人で行くよりよっぽど心強い。

俺の言ったことに、3人は考える間もなくうなずいた。

 

「そんなことなら、もちろん手伝うぜ!」

 

「ワシは魔物との戦いには慣れている。共に最強の兵器の素材を取りに行こうぞ!」

 

「魔物との戦いも大詰めだし、アタシも行くわよ!」

 

みんなは、アメルダの救出に言った時と同じくらいやる気に満ちていた。

荒くれたちも早く最強の兵器を作って、魔物の親玉のようがんまじんとひょうがまじんを倒したいのだろう。

そのために、魔物の宮殿にあるからくりパーツを手に入れないといけないからな。

 

「みんな、ありがとうな。マイラの魔物の城に攻めこんだ時のように、今回も行くぞ!」

 

「おう!どんな魔物が来ようとも、オレたちがぶっ倒してやるぜ!」

ガロンの返事と共に、俺たちは赤色の旅のとびらに入った。荒くれたちはガライヤに来るのは初めてだから、俺が指示を出さないといけないな。

 

「魔物の宮殿までは結構距離があるけど、ついて来てくれ」

 

俺はみんなの先頭に立って歩いて、ガライヤの広大な雪原を歩いていく。

道中の敵は避けることが可能なので、俺たちは魔物に見つからないように雪原を歩いていった。

そして、1時間くらい歩いて、氷の湖がある場所までたどり着いた。

 

「アメルダの言う通りだと、この近くに魔物の宮殿の入り口があるはずだ」

 

氷の湖のまわりは広いので、歩きながらまわりを見回して、魔物の宮殿の入り口がないか探して行く。

すると、池の左側を見ていたベイパーが、何かを見つけたようだった。

 

「雄也が言っておる魔物の宮殿の入り口は、ここではないのか?」

 

ベイパーが言った方向を見ると、そこには海の上にかかっている大きな橋が見えた。

そして、橋を渡った先には宮殿のような大きな建物も存在している。

 

「アネゴの言ってたことだし、ここで間違いねえぜ」

 

「ここにいる魔物を倒して、兵器の素材を手に入れるわよ!」

 

ガロンたちは、宮殿に繋がる橋がある場所へ走っていった。他に宮殿らしき場所もないので、ここが魔物の宮殿で間違いないだろう。

なので俺もひかりのつるぎとまじんのかなづちの二刀流で、宮殿に繋がる橋に向かう。かなりの魔物がいるはずなので、二刀流を使わないと厳しい戦いになるだろう。

「雄也、この橋の上にも結構な敵がいるぜ」

 

先にガロンたちがたどり着いていた橋の上には、3体のキラーマシンと、4体のメタルハンターがいた。

慣れている敵だし今回はこっちも4人で来ている。今の俺たちなら楽勝で勝てるかもしれないな。

 

「俺たちなら押しきれるはずだ、みんな行くぞ!」

 

油断することは出来ないが、俺たちは武器を持って橋の上にいる魔物たちに殴りかかって行った。

 

俺たちが橋の上に来たことに気づくと、7体の魔物のうち手前にいたキラーマシン1体、メタルハンター2体がこちらに気づき、剣を持って斬りかかってきた。

弾き返せば攻撃のチャンスになるので、俺はみんなの前に出てひかりのつるぎとまじんのかなづちの二刀流で、メタルハンター2体の攻撃を受け止める。

だが、ここのメタルハンターは他の場所にいる奴らよりも攻撃力が高く、弾き返すことは出来なかった。

 

「このメタルハンター、結構強いな」

 

でも、攻撃を防ぐことは出来るので、今のうちにみんなで殴りかかればいいな。

キラーマシンも俺を狙っているのを見て、荒くれたちはメタルハンターをまじんのかなづちで殴りつける。

 

「この機械野郎ども!オレたちの邪魔は絶対にさせねえぜ!」

 

「ワシの筋肉で、お前らを潰してやるぞ!」

 

「アタシたちを止められると思わないことね!」

 

みんなはそれぞれ大声を出して、メタルハンターに大きなダメージを与える。

鉄で出来たメタルハンターの装甲も、魔法の金属でできたハンマーの強力な一撃を受ければ、へこんでしまう。

そして、みんなの攻撃のおかげでメタルハンターの力が弱まり、俺は腕に力を入れて剣を弾き返した。

 

「よし、これで体勢を崩せたぜ!」

 

体勢を崩して動けなくなったメタルハンターに、みんなは次々と殴り付ける。体がボロボロになり、剣もへし折られて、もうすぐ倒せそうだった。

俺も一緒に殴りたいが、目の前のキラーマシンを何とかしないといけないな。それに、キラーマシンの背後から2体のメタルハンターが近づいてきていて、遠くにいるキラーマシンは弓で俺を狙っている。

 

「目の前にいるこいつを止めながら、サブマシンガンを撃つか」

 

俺は左手に持つ武器をサブマシンガンに変え、近くにいるキラーマシンの攻撃を受け止めながら後ろにいる4体の魔物を狙った。

キラーマシンの攻撃はかなり強いが、戦い慣れている俺が受け止められない強さではない。

遠くからの弓での攻撃も避け続け、俺はサブマシンガンで弓使いのキラーマシンの核を撃ち抜いて行く。

だが、弓を撃つキラーマシンに集中しているとメタルハンターに近づかれ、近くにいるキラーマシンも含めて3体の魔物に囲まれてしまった。

俺は剣や弓を避けながら右腕に力を溜めて、3体の魔物に向けて解き放つ。

「囲んでも俺は倒せないんだよ!回転斬り」

 

ひかりのつるぎだけでの回転斬りだったので二刀流の時より威力は劣り、一撃で倒すことはできなかった。

でも、大きな傷を与えることとのけぞらせて動きを止めることはできた。

 

「雄也、こっちの2体は片付いたぞ!そっちも任せてくれ」

 

「雄也は弓を撃ちやがる機械をぶっ壊してやってくれ!」

 

俺が3体に追撃をしかけようとしていると、後ろからメタルハンターを倒したガロンとベイパーの声が聞こえた。

荒くれは3人、俺のまわりにいる敵も3体なので、一対一で戦うことが出来るな。

 

「分かった。俺はあの2体を倒すぜ」

俺は橋の上を進んでいき、2体のキラーマシンの弓矢を避けながらサブマシンガンを撃ち放つ。

奴らの核にはひびが入っていて、俺はとどめをさすために大量の弾を乱射した。

まほうの弾丸はかなり消費したが、キラーマシンたちは光を放ちながら消えていった。

倒してからみんなの方を見ると、3人とも魔物の攻撃を受け止めて、まじんのかなづちで鉄の体を破壊していった。

 

「弓を使うキラーマシンを倒したし、俺も援護するぜ!」

 

荒くれたちの攻撃はかなり効いているが、倒すのに少し時間がかかりそうなので、俺はみんなと戦うのに集中している魔物たちを、後ろからひかりのつるぎで突き刺す。

弱っていたキラーマシンやメタルハンターは、内部の精密機械をえぐり取られ、壊れて消えて行った。

 

「よくやったぜ雄也!これで機械野郎どもは全滅だな」

 

「ああ、でも宮殿の中にはもっと敵がいるはずだぞ」

 

橋の上にいる敵は全滅したが、まだ油断することは出来ない。俺たちは橋を渡りきって、魔物の宮殿の近くまで来た。

しかし、魔物の宮殿はすぐ近くだが、岩山を越えないと行けないようだった。

でも、海に面している崖の真下を通っていけば岩山に登らなくても魔物の宮殿のところまで行けそうだな。

 

「みんな、これからこの岩山の崖の真下を通っていく。海に落ちないように気をつけてくれ」

筋肉は沈みやすいはずなので、荒くれたちが海に落ちたら危険だ。それに、ここは寒い地域なので低体温症を起こす可能性もある。

幅が1メートルもあるので、落ちることはないとありえないと思うけど。

 

「分かったぜ。魔物を早くぶっ潰してえが、慎重に行かないとな」

 

俺たち4人はゆっくり歩きながら海に面した崖の真下を歩き、魔物の宮殿を目指した。

5分くらい歩いて、ようやく魔物の宮殿の裏側にたどり着くことが出来た。

 

「これが魔物の宮殿みたいだな。入り口を探して乗り込むぞ」

 

魔物の宮殿はマイラの魔物の城よりは小さいけど、2階建てになっているようだ。からくりパーツは2階にあるんだろうな。

魔物の宮殿の周りを歩いていき、しばらくして正面の入り口のような場所を見つけた。

気づかれないように中を覗くと、ホークマン、ガーゴイル、メタルハンターの群れがいて、2階にはキラーマシンが弓を構えて待ち受けていた。

からくりパーツは2階にあると思っていたが、1階の奥に宝箱があり、その中に入っているのだろう。

2階は下を見渡せる狭い廊下しかないから、恐らくはキラーマシンが下にいる敵を攻撃するための場所だと思われる。

 

「俺は弓を持ってるキラーマシンを倒すぜ。みんなは下にいる敵と戦ってくれ。俺もキラーマシンを全て倒したら下に降りるぞ」

 

遠距離攻撃ができるキラーマシンは、サブマシンガンを持っている俺が倒したほうがいいな。

その作戦を伝えると、みんなも納得した。

 

「分かったぜ。オレたちは、1階にいる奴らを倒しまくるぞ!」

 

「かなりの数だが、やはりワシの筋肉には敵わぬぞ」

 

「アネゴを助けた時みたいに、みんなでかかれば行けるはずよ!」

 

そして俺たちは魔物の宮殿の入り口にあった青い城の壁のブロックを壊し、中に突入していった。

その瞬間、中にいた多くの魔物が俺たちに向かって剣を向けてくる。

 

俺は2階にいるキラーマシンをサブマシンガンで撃とうとするが、それを防ごうとホークマンやガーゴイルが俺のところへ突撃してくる。

荒くれたちは奴らの攻撃をまじんのかなづちで防ごうとするが、数が多すぎて防ぎきれなかった。

「まずはこいつらを倒さないといけないのか」

 

俺はサブマシンガンを一度しまって二刀流に持ちかえる。そして、斬りかかってきたホークマンやガーゴイルを受け止めて、攻撃を弾き返した。

こいつらはスピードは早いが、攻撃力はあまり高くないので魔法の武器を使えば筋肉のない俺でも弾くことが可能だった。

怯んだ魔物たちを一気に倒すため、一撃必殺の威力を持つ、二刀流での回転斬りを放った。

 

「回転斬り!」

 

回転斬りで体を引き裂かれ、次々にホークマンやガーゴイルは倒れていく。

だが、安心する暇は少しもなく、宮殿の2階からキラーマシンの放った矢が飛んできた。

荒くれのみんなも気づいてかわすことは出来たけど、あいつらは戦いの邪魔になるし、先に倒しておかないといけない。

それで、2階に向けてサブマシンガンを撃ちながら階段の近くまで行くと、今度はメタルハンターたちが俺の前に立ち塞がる。

 

「2階に行こうと思ったら、今度はメタルハンターかよ」

 

荒くれたちは他のメタルハンターやガーゴイルに囲まれて、俺を助けに来られる状態ではなかった。

ここは俺一人でなんとかして、目の前のメタルハンターと上にいるキラーマシンを倒さないといけないな。

でも、キラーマシンを倒せる程度のまほうの弾丸しか残っていないので、メタルハンターの攻撃をかわしながら奴らを倒さないといけない。

俺はメタルハンターの降り下ろす剣を避けながら、上にいるキラーマシンの核に向かってまほうの弾丸を撃つ。

 

「残りの弾丸は少ないけど、足りるといいな」

 

上にいる敵に向かって銃を撃ったのはこれが初めてなので、普段のように核に命中させることは出来ない。

それでも残った銃弾を全て撃ちまくり、3体のキラーマシンのうち2体を倒すことができた。

しかし、残った1体を倒す前にまほうの弾丸がなくなってしまった。

 

「くそっ、やっぱり足りなくなったか。数は減らせたけど、全滅させるのは無理だったか」

 

キラーマシンは知能が高いようで、俺だけを狙わずガロンたちにも弓を撃っていた。

俺だけを狙っていれば、荒くれたちが魔物を蹴散らすことが分かっているようだ。

みんなもキラーマシンのせいで上手く戦えず、ガーゴイル、ホークマン、メタルハンターに苦戦していた。

 

「早くあいつを倒さないといけないのに···このメタルハンターが邪魔だな」

 

こうなったら2階に登ってなんとかキラーマシンに近づいて倒すしかないが、俺を登らせないようメタルハンターが妨害してくる。

もう一度回転斬りを使うしかないけど、キラーマシンが連続で弓を撃ってくるから使うタイミングがないな。

なので俺は、メタルハンターの攻撃を避けながら少しずつダメージを与えていく。

メタルハンターはスピードがそれほどでもないので、後ろにまわって斬りつけることが出来た。

 

「このくらいの動きなら簡単にかわせるし、倒せそうだな」

 

俺は二刀流で次々にメタルハンターにダメージを与えていったが、倒すのにはかなりの時間がかかった。

みんなもまだ苦戦しており、早く救援に向かわないといけないな。

 

「アネゴのいた城みてえに、敵が多すぎるぜ!」

 

「結構倒したはずなのに、まだかなりいるわね」

 

「上にいる機械が撃ってくる弓矢が邪魔だな」

 

まずは俺は3人が少しでも戦いやすくなるよう、2階にいるキラーマシンを倒しに行く。

するとキラーマシンは俺に気づき、大量の矢を放ってくる。それでも俺だけでなく、下にいる荒くれにも同時に矢を撃っていた。

俺はそれを避けるために、全力で2階の通路を走っていく。

そして、キラーマシンの至近距離まで近づくと、奴も武器を弓から剣に変えて襲いかかってくる。

それも、俺も使う特技である回転斬りを放ってきた。

 

「コノニンゲンヲ、シマツスル!」

 

「そっちが使うなら、俺も回転斬り!」

 

俺は機械音で喋りながら剣を一回転させるキラーマシンを、まじんのかなづちとひかりのつるぎでなぎはらう。

攻撃力の高い攻撃がぶつかりあい、俺の右腕はかなり痛んだが、動きを止めずに左腕での一撃をキラーマシンの装甲に当てた。

まじんのかなづちの強力な一撃を受けて、キラーマシンは変形して動きが止まる。

このまま反撃されないように、俺は痛みに耐えてひかりのつるぎを奴の核に深く突き刺した。

 

「これで終わりだぜ、キラーマシン!」

 

俺はキラーマシンが倒れたのを見て、下にいる3人の援護に行った。

キラーマシンが倒れたことでみんな戦いやすくなったが、まだ敵は残っている。

 

「みんな、今すぐ助けに行くぜ!」

 

急いで階段を降り、ガロンと戦っているメタルハンターや、ガーゴイル、ホークマンを思いきり攻撃する。

そして、俺の攻撃で怯んだ魔物たちの頭を、ガロンはまじんのかなづちで叩き潰した。

 

「よくやったな雄也!敵はもう少しだぜ!」

 

「ああ、二人を助けて敵を全滅させるぞ」

 

俺はベイパーと、ガロンはギエラと戦っている魔物に襲いかかる。敵の残りも少ないので、体勢を立て直した二人は一気に奴らを倒していった。

 

「雄也!あとはワシの筋肉の力に任せておけ!」

 

「ガロンのおかげで助かったわ!これで安心して魔物を潰せるわ!」

 

俺たち4人で次々に魔物を減らしていき、最後には全滅させていった。

久しぶりに一緒に行動したが、やっぱり荒くれ者は強いな。

 

「これで全滅させたみたいだな。あの宝箱を調べて来るぜ」

 

俺は敵がいなくなったことを確認して、奥にある宝箱を開けた。すると、中には複雑な歯車が入っていた。

これがアメルダの言ってたからくりパーツだろう。俺はそれをポーチにしまい、3人のところに戻った。

 

「雄也、探していた物は手に入ったか?」

 

「ああ、これで最強の兵器を作れるはずだし、町に戻るぞ!」

 

これでようやく、ようがんまじんを倒す準備が全て完了するな。

俺たちは最強の兵器を作り、マイラとガライヤの魔物の親玉を倒すため、町に戻って行った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode81 炎と氷を操る者

俺たちは町に戻ってきた後、希望のはたの近くで別れた。

俺は多くの魔物と戦って少し疲れていたが、荒くれのみんなはまだまだ元気そうだ。

 

「雄也、魔物との戦いに行くならまた呼んでくれ!」

 

「ああ、これからもよろしくな」

 

俺はガロンにそう言った後、アメルダの待つ研究室に向かった。

3人は温泉に行っていて、俺も入りたかったが今はまず、最強の兵器を完成させないといけないな。

研究室の中に入ると、マシンパーツのメモを読んでいたアメルダが話しかけてきた。

 

「雄也、戻ってきたんだね。それで、からくりパーツは見つけたかい?」

 

「ああ、これでマシンパーツが作れるはずだ。今すぐ作ってくるぞ」

 

からくりパーツからマシンパーツを作って、それから最強の兵器を作る。ようがんまじんたちがどこにいるかは分からないが、これで準備は完了するな。

俺はマシンメーカーの前に立って、からくりパーツの他に必要な素材を調べた。

マシンパーツ···からくりパーツ1個、エネルギー物質3個、マグマ電池5個 マシンメーカー

エネルギー物質はまほうインゴットを大量に作ったからなくなっているけど、素材があるから今すぐ作れるな。

俺はまずエネルギー物質を作り、その後マグマ電池やからくりパーツと合体させて、マシンパーツへと変化させた。

 

「これでマシンパーツが出来たな。あとは最強の兵器を作るだけだ」

最強の兵器がどのような物なのかは分からないが、アメルダに聞けば分かるだろう。

俺は作ったマシンパーツを、さっそくアメルダに見せる。

 

「アメルダ、マシンパーツが出来たぞ!」

 

「おお、ついに完成したんだね!これで最強の兵器が作れるよ!」

 

アメルダは、マシンパーツが完成したことをとても驚き、喜んでいた。

魔物の親玉に勝てるようになったからだけでなく、恋人であったラライの発明を完成させられたからもあるだろう。

俺は喜んでいるアメルダに、最強の兵器について聞いた。

 

「それで、マシンパーツから作れる最強の兵器って、どんな物なんだ?」

 

「アタシも初めて知ったんだけど、どうやら乗り物で、敵に激突する兵器みたいなんだ」

 

敵に激突する兵器ってどんな物なんだ?と思っていると、アメルダは俺にマシンパーツのメモの裏側を見せてきた。

そこには、赤色の車体に3つのタイヤがついた、車が書かれていた。前方には角のような物がついており、これで敵を突き刺すのだろう。

 

「何なんだ? この車みたいな物は?」

 

「これに乗り込んで突撃して、敵を吹き飛ばす兵器さ。絶望的なネーミングだけど、超げきとつマシンって言うらしいよ」

 

超げきとつマシンって名前なのか。確かに強そうには見えるけど、まさか車が最強の兵器だとは思っていなかったぜ。

でも、それ以外に最強の兵器なんて思い付かないから、これを作るしかないな。

 

「アタシも思ってたのとは違うけど、これがあればマイラとガライヤの空の闇を晴らせるはずだよ!」

 

「ああ、これを作って、ようがんまじんたちを倒そう」

 

俺はアメルダにはそう言ったが、やっぱり車が最強の兵器と言うのはちょっと不安だな。

とりあえず今はメモに書かれていることを信じて、作り方を調べた。

超げきとつマシン···マシンパーツ1個、まほうインゴット8個、マグマ電池5個 マシンメーカー

今持っている素材で作れるみたいだな。マグマ電池は大砲を作る時に大量に作っておいたし、まほうインゴットは足りなくなると困る素材なので少なくなるたびに作っていた。

この2つの素材とマシンパーツを合わせれば完成できるはずだ。

 

「素材は足りてるみたいだから、今すぐ作ってくるぞ」

 

「ああ、頼んだよ!」

 

俺はマシンメーカーの前に移動し、マシンパーツや他の素材にビルダーの魔法をかける。

すると、素材が次々と合わさっていき、やがて車の形に変化した。

 

「これが、超げきとつマシンと言う奴なのか」

 

「よくやったよ雄也!今度こそ、ようがんまじんと決着をつけられるね!」

 

最強の兵器が完成したのを見て、アメルダもマシンメーカーのところに来てとても嬉しそうな顔をする。

そして、ラライの発明を完成させたことに改めて感謝の言葉を言った。

 

「ありがとうね···ラライの発明を完成させてくれて」

 

「俺も完成させられて良かったぜ。ラライも喜んでいるといいな」

 

ラライも俺たちが最強の兵器を完成させたことを知れば、喜んでくれるだろう。

 

そう思っている時だった、マイラの町が、突然揺れたのだ。その揺れは、ゴーレムやヘルコンドル、マッドウルスが来た時と同じような揺れだった。

大きな揺れを感じたこと初めてのアメルダは、突然のことにとても驚く。

 

「な、何なんだい!?この揺れは」

 

「多分ようがんまじんがこの町に迫っているんだ。マイラでの最後の戦いの時が来たみたいだな」

ようがんまじんもひょうがまじんも、最強の兵器を完成させた俺たちを潰しに来ようと思っているのだろう。

今回は、2体同時に戦わないといけないかもな。

研究室の外に出てみると、まだようがんまじんたちはいなかったが、もうすぐ現れるだろう。

 

「おいおいっ!何が起きてるんだ!?」

 

温泉に入っていたガロンたちも、突然の揺れに気づいて俺のところに走ってくる。

その後、まじんのかなづちを持ったゆきのへとシェネリも集まってきた。

 

「雄也、何が起こってるんだ?」

 

「こんなに強い揺れが起きるなんて、何があったのでしょう?」

 

戦えるメンバーが全員集まったのを見て、俺はもうすぐようがんまじんが来ることを伝える。

 

「マイラとガライヤを支配する魔物の親玉がもうすぐ攻めてくる。この地での最後の戦いになるはずだぞ」

 

その話を聞くと、みんなは一瞬で真剣な表情になる。

いくら最強の兵器があると言っても、決して油断することは出来ない相手だからな。

 

「ついに決戦の時がきたか。ここまで来たなら絶対に勝ってやるぜ!」

 

「ワシらの力があれば、負けるはずはないぞ!」

 

「アタシたちならどんな敵だって倒せるはずよ!」

 

荒くれたちは大声で言いながらまじんのかなづちを構える。戦いの準備は全員完璧な状態だな。

しばらくして、揺れはさらに激しくなり、町の西にようがんまじん、町の東にひょうがまじんが現れた。

やっぱり、同時に戦わないといけないようだな。でも、俺たちなら倒せるはずだ。

 

「これに勝てばマイラとガライヤの空の闇が晴れるはずだよ!アタシたちならできるさ!」

 

アメルダが大声で叫び、みんなも武器をようがんまじんたちに向ける。そして、マイラでの最後の戦いが始まった。

 

俺たちが身構えていると、ようがんまじんとひょうがまじんは、巨大な岩を投げてきた。

 

「こんな巨大な岩を投げてくるのか。当たったら危険だな」

 

みんなはその岩を回避して、二手に別れて魔物の親玉に立ち向かっていく。荒くれたちはようがんまじんに、アメルダ、ゆきのへ、シェネリはひょうがまじんに殴りかかった。

「俺はさっき作った超げきとつマシンを使ってみるか」

 

俺はさっそく、超げきとつマシンを使ってみることにした。

俺は超げきとつマシンに乗り込んで、まずはようがんまじんへと向かって行く。

すると、ようがんまじんは腕と戦った時のように火柱をあげて来た。

 

「今回も火柱を使ってきたか···でも、車のスピードなら避けられるぜ」

 

超げきとつマシンのスピードはかなり早く、火柱を避けることは難しくなかった。攻撃を避け続けながら、俺はようがんまじんへと近づいて行く。

そして、マシンの速度をさらに上げて奴に激突した。

するとようがんまじんは、巨大な腕を振り上げ、俺をなぎはらおうとする。

超げきとつマシンとようがんまじんの腕がぶつかって、俺の体に強い衝撃が走った。

 

「くっ、やっぱり攻撃力も高いな」

 

だが、ようがんまじんの腕にかなりのダメージを与えられたことも確かだ。

でも、ようがんまじんはすぐに体勢を立て直し、まだ激突マシンを発車させていない俺に火柱を突き上げてきた。

俺は間に合わないと思い、超激突マシンから飛び降りて回避した。

 

「こんなに早く体勢を立て直したのか。さすがは魔物の親玉だな」

 

激突して怯んだところで、顔にも攻撃を当てようと思っていたが、そう上手くは行かないようだ。

火柱の攻撃が止んだ後俺はすぐに超げきとつマシンに乗り直そうとするが、ようがんまじんは腕を降り下ろし、俺を叩き潰そうとしていた。

すると、走ってようがんまじんの所にたどり着いたガロンたちが、ようがんまじんの腕に向かってまじんのかなづちを叩きつけた。

 

「雄也のマシンはすげえけど、やっぱり筋肉の力も必要だぜ!」

 

「いくら巨大な腕であろうが、ワシらを潰すことは出来んぞ!」

 

「でも、この攻撃は結構キツいわね···」

 

ようがんまじんは、攻撃の対象を俺から荒くれの3人に変える。

荒くれたちは力一杯にまじんのかなづちで攻撃するが、ようがんまじんの力が強すぎて3人の筋肉の力でも潰されそうだった。

なので俺はすぐにポーチから2つの魔法の武器を取りだし、横に回っで力を溜めた。

 

「俺には筋肉はないけど、行くぜ、回転斬り!」

 

ひかりのつるぎとまじんのかなづちでの回転斬りが当たり、ようがんまじんは少し動きが止まる。

でも、すぐに体勢を立て直すはずなので、俺はさらに二刀流での追撃を加える。

 

「よくやったぜ雄也!オレたちもこの腕をへし折ってやるぞ!」

 

俺がようがんまじんの腕を止めている間に、荒くれの3人もまじんのかなづちで殴りまくる。

4人で殴り続けられ、ようがんまじんの腕はかなり弱っていた。すると、ようがんまじんの顔の方が俺たちに激しい炎を吐いてくる。

俺たちはすぐにそれに気づいてかわすが、正面から攻撃は出来なくなった。

「オレたちの筋肉でも、こいつは防げねえな」

 

ガロンたちの筋肉の力を使っても、さすがに炎を防ぐことは出来ない。

ようがんまじんの激しい炎はなかなか止まらず、俺たちは避け続けるしかなかった。

しかも、俺たちを追い詰めながらようがんまじんは次々とマイラの町に近づいていく。奴らは俺たちを倒して、町も破壊するつもりなのだろう。

 

「ようがんまじんは町に近づいているわね。なんとかしないといけないわ」

 

ギエラもそのことに気づいて、何とかしようとする。

このままだと町の建物を壊されるだけではなく、戦うことの出来ないピリンやヘイザン、コルトも危険にさらされてしまうだろう。

でも、離れていた場所にいたようがんまじんが近づいてきて、二連砲台の射程範囲に入ってきた。まほうの砲弾を放てば、あいつも止められるかもしれないな。

 

「みんな、大砲を使ってあいつを攻撃するぞ、離れてくれ!」

 

俺はみんなにそう言って、砲台に立って2つの大砲にまほうの砲弾をセットする。セットしている間にようがんまじんは町のすぐそばまで来ていたので、俺は即座に発射スイッチを踏んだ。

 

「俺たちの町に入らせはしないぜ!」

 

そして、同時に発射された2つの魔法の砲弾は、目の前にいたようがんまじんに向かって飛んでいく。

すると、ようがんまじんは自分の腕を犠牲に砲弾を防いだのだった。いくら巨大な腕だとは言え、まほうの砲弾を一度に2発も受ければ耐えることは出来ず、破壊されて地面に消えて行った。

しかし、顔を倒すことは出来ず、ようがんまじんは再び激しい炎を吐き始めた。

 

「くそっ、まだ倒せなかったか」

 

まほうの砲弾はまだ残っているが、砲台に向かって激しい炎を吐いているため、撃つことが出来ない。

誰かに他の方向にようがんまじんを引き付けてもらうことも出来るが、それだとその人が砲弾に巻き込まれてしまうだろう。

俺がどうすればいいか考えていると、ガロンが作戦を提案してきた。

 

「オレたちがアイツを4方向から囲めばいいんじゃねえか?」

 

確かにその方法はまだ試していなかった。東西南北から囲まれれば、さすがのようがんまじんも対応しきれないかもしれない。

 

「分かった。みんな、あいつを4方向から囲んで倒すぞ!」

 

俺は大声で言ってベイパーとギエラにも伝え、作戦を開始した。俺たちはまだ吐き続けられる激しい炎をかわしながら、ようがんまじんを取り囲む。

今はようがんまじんは俺のいる方角を向いているので、後ろにいるガロンを攻撃することは出来ないだろう。

 

「これでお前も終わりだぜ、ようがんまじん!」

 

そう言って、ガロンようがんまじんに殴りかかる。だが、俺もみんなも攻撃が成功すると思っていたのに、期待は裏切られた。

ようがんまじんは顔を思っていた以上に素早く回転させて、俺たち4人を一気に激しい炎で焼き付くそうとしたのだ。

攻撃をしようとしていたガロンは、大きくジャンプして激しい炎をかわしたが、ダメージを与えることは出来なかった。

 

「くそっ、この作戦でもダメなのか!?」

 

俺たちが走って近づこうとすると、すぐにようがんまじんの激しい炎に当たってしまう。

そこで思い付いたが、超げきとつマシンの最高速度で突撃すれば、激しい炎が回ってくる前に突撃できるかもしれない。少しでも遅ければ炎が直撃してしまうが、それしか方法はないな。

 

「超げきとつマシンを使うしかないな」

 

俺は、ようがんまじんの炎を避けた後、すぐに超げきとつマシンに乗って、アクセルを思いきり踏んで最高速度で突撃した。

その速度は、高速道路を走る車より遥かに早いスピードで、一直線にようがんまじんの後頭部に向かって行く。時速200キロは越えているだろう。

そして、俺のところに激しい炎が来る直前に、ようがんまじんに先端についた角を突き刺すことが出来た。

スピードが早かったので、腕にぶつかった時より威力が上がり、ようがんまじんは大きく怯む。

 

「さすがは最強の兵器だぜ!ようがんまじんは弱ってるし、とどめだ!」

 

最強の兵器が車だなんて大丈夫か?と思っていたが、ここまで強いとはな。超げきとつマシンを作っておいてよかったぜ。

また体勢を立て直されると大変なので、俺は怯んだようがんまじんの顔に全力で二刀流の回転斬りを放った。

「とどめだ、回転斬り!」

 

俺の回転斬りと一緒に、みんなもようがんまじんに向かってまじんのかなづちを思いきり降り下ろす。

そして、ついにようがんまじんは倒れて、地面の中に消えていった。しかし、青い光は発生せず、伝説のアイテムを落とすこともなかった。

もしかして、まだ倒れていないのかと思ったが、今はひょうがまじんと戦っている3人の援護に行かないとな。

 

ひょうがまじんは俺たちとは離れている場所にいるので、走って町の東へと向かっていく。

奴と戦っている3人は、さっきの俺たちのようにかなり苦戦していた。

ひょうがまじんは氷の柱を突き上げたり、腕を叩きつけたりしながら、3人を追い詰めていく。

 

「この腕も結構弱ってるはずだけど、まだ倒れないね···」

 

でも、次々に突き上げられる氷の柱を避けながらひょうがまじんの腕を魔法の武器で攻撃し、かなりのダメージを与えることが出来ていた。

何とかひょうがまじんの腕を倒そうと、ゆきのへとシェネリもまじんのかなづちを叩きつける。

 

「お前さんのような奴に、ワシらの町は攻めさせねえぜ」

 

「みんなと一緒に、この町を守ります!」

 

しかし、ひょうがまじんの腕や氷の柱を避けながら攻撃をしていた3人は、さすがに体力の限界で動きが鈍ってきていた。

 

「早くアネゴたちを助けないとまずいぜ!」

 

俺たちは早く助けに行こうと、ひょうがまじんの元へと走って行った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode82 炎と氷が合わさりし者

俺たちがひょうがまじんのすぐ近くまで近づくと、奴も俺たちに気づいて、巨大な氷の塊を投げてきた。

 

「氷を投げてきたな。でも、これくらい簡単にかわせるぜ」

 

ひょうがまじんはようがんまじんを倒した俺たちに怒っているのか、さっきより力強く投げつけてくる。

それでもかわせない程の大きな氷の塊ではなく、俺たちはジャンプして回避した。

そして、回避しながら走っていき、ひょうがまじんの目の前にたどり着いた。

ひょうがまじんと戦っているアメルダも俺に気づいて、話しかけてくる。

 

「アタシたちを助けに来たってことは、ようがんまじんを倒したのかい?」

 

「ああ、最強の兵器のおかげでな。こいつにも超げきとつマシンを使うから、離れてくれ」

 

ひょうがまじんは攻撃が激しいので、普通に近づいて回転斬りなどで倒すことは出来ない。アメルダたちが俺の指示を聞いてひょうがまじんから離れたことを見て、超げきとつマシンへと乗り込んだ。

俺がひょうがまじんに向かって走って行くと、奴も俺を止めようと大量の氷の柱を発生させてくる。だが、柱の大きさなどはようがんまじんとほぼ同じなので、俺はかわしながらスピードを上げて、ひょうがまじんの腕へと激突した。

すると、既にかなりのダメージを受けていたひょうがまじんの腕は大きく破壊され、地中に消えていった。

腕を壊されたことで、ひょうがまじんの顔を少し怯んだ。

 

「これでひょうがまじんの腕は倒せたな」

 

俺がひょうがまじんの腕を倒すと、みんなは残っている顔を倒すために、ひょうがまじんに近づいて行く。

俺もひかりのつるぎとまじんのかなづちの二刀流で、ひょうがまじんへと近づいて行った。

 

「よくやったな雄也!後はこの顔を倒せば終わりだ!」

 

「マイラの空と共に、ガライヤの空も晴らさせてもらうぞ!」

 

「みんなで戦えばこいつも倒せるはずよ!」

 

荒くれたちが突き上がってくる氷の柱を避けながら、ひょうがまじんをまじんのかなづちで殴りつける。

続いてアメルダたちも攻撃に加わろうとしたが、ひょうがまじんはようがんまじんが激しい炎を吐いたように、凍える吹雪を吐いてきた。

 

「ようがんまじんが息の攻撃をしてきたけど、やっぱりこいつも使うんだな」

 

非常に低い温度なので、食らえば全身に凍傷を負ってしまうだろう。ガロンたちは避けることが出来たが、近づくことが難しくなった。

でも、さっきようがんまじんを倒した方法で倒せるはずだな。

 

「みんな、あいつの周りを取り囲んでくれ!ようがんまじんと同じ方法で倒すぞ!」

 

俺の指示で、みんなは凍える吹雪を避けながらひょうがまじんを囲む。

そして、ひょうがまじんの顔のちょうど反対側に俺が来たとき、超げきとつマシンへと乗り込んだ。

 

「もう一度、最高速度を出すぜ!」

 

最高速度を何度も出したら、超げきとつマシンに負担がかかりそうだが、今はそんなことを考えている場合ではない。

そして、俺はアクセルを力強く踏んで、ひょうがまじんの顔へと突撃した。

先端の角の部分が深く突き刺さり、ひょうがまじんは絶大なダメージを受ける。二連砲台と同じくらいの威力があるかもしれない。

 

「ようがんまじんと同じように動きが止まったな。これで倒せるはずだ!」

 

ひょうがまじんの顔が怯んだのを見て、みんなは再びそれぞれの武器を振り上げ、奴に殴りかかって行く。

俺は二度と凍える吹雪を吐けないよう、ひょうがまじんの口に向かって回転斬りを放った。

「回転斬り!」

 

俺の回転斬りやみんなの一斉攻撃で、ひょうがまじんは倒れて地中へ落ちて行った。

しかし、こちらも青い光は放たず、伝説のアイテムの素材も落とさなかった。やはりまだ、完全にとどめをさせていないのだろうか。

とりあえず俺たちは町の中に戻っていったが、少し不安だな。

俺のそんな考えとは反対に、ガロンたちは2体の魔物の親玉を倒せたことを喜んでいた。

 

「ついにやったぜ!マイラとガライヤの魔物の親玉を倒したぞ!」

 

「やはり、ワシの筋肉に敵う奴はいなかったな」

 

「雄也とアネゴが開発した、最強の兵器のおかげね」

 

そんな中で、アメルダも俺と同じことを考えていたようで、俺にそのことを言ってきた。

 

「雄也、これで本当に魔物の親玉を倒せたのかい?まだ空の闇は晴れていないみたいだけど···」

 

「確かに、これで本当に倒せたのか不安だな。魔物の親玉を倒したら空の闇が晴れるんじゃなくて、奴らが落とす伝説のアイテムを修復して使えば空の闇が晴れるんだけど、それも落としていない」

 

俺たちの中で不安が高まっていたその時、再びマイラの町が大きく揺れた。

やっと倒せたと喜んでいたガロンたちも、異変に気づく。

 

「な、何が起きてるんだ!?2体とも倒れたはずだろ?」

 

やっぱりまだ倒しきれていないみたいだな。

再び2体が戻ってくるのかと思っていると、町の北側にようがんまじんとひょうがまじんの腕が1本ずつ現れ、その後ろに2体が合体した姿の顔が現れた。

その姿を見て、一番驚いているのはアメルダだった。

 

「まさか、ようがんまじんとひょうがまじんが合体して一つになっちまったのかい?」

 

「信じたくないけど、そうとしか思えないな」

 

アメルダが一番恐れていた、2体の魔物の親玉が合体することが起きてしまったようだな。

こうなってしまえば、もう自分たちの手におえないとも言っていた。

 

「アイツをどうしろって言うんだい?いくら最強の兵器でも、倒せるか分からないよ」

 

「間違いなく、これまでで最強の敵だろうな」

 

俺たちが呆気にとられていると、ガロンが大声で言ってきた。

 

「雄也、アネゴ!どんだけ強い奴だろうがあの合体したまじん、がったいまじんを倒さねえとこの町に未来はねえんだ!それにここまで来て、諦める訳にはいかねえだろ!」

 

確かに、どんなに強い奴であろうが立ち向かうしかないんだ。あのがったいまじんとやらも、戦って倒すしか方法はない。

ガロンの言葉を聞いて、アメルダも戦う気になっていた。

 

「アンタの言う通りだね、ガロン。自分たちの力を信じて、立ち向かって行くしかないよ!」

 

「ああ、今度こそ最終決戦だ!あいつを倒して、マイラとガライヤの空の闇を晴らしてやるぜ!」

そして俺たちは、がったいまじんに向かって武器を向けて走って行く。マイラとガライヤを支配する魔物の親玉が合体した、最強の魔物との決戦だ。

 

俺たちががったいまじんの所へ走っていると、奴は両腕を使いマグマ岩の塊と氷の塊を同時に投げつけてきた。

飛んでくる速度はそこまででもないが、やはり攻撃が激しいな。

 

「腕が2本に増えたら結構厄介だぜ」

 

腕が2本と言うことは、両方を破壊しなければ本体を倒すことは出来ないだろう。しかも、がったいまじんの腕の所まで近づくことも難しかった。

俺たちが武器を振り上げて、がったいまじんに殴りかかろうとすると、奴は火柱と氷の柱を同時に突き上げて来る。攻撃の頻度が2倍になっているため、俺たちは避けることで精一杯だった。

「くそっ、攻撃が激しすぎるぜ!どうなってるんだ!?」

 

「炎と氷の力が合わさると、ここまで強くなるのか」

 

「アタシたちでもなかなか近寄れないわね」

 

いつもは攻撃を避けながら敵を叩き潰す3人の荒くれも、今回は敵に近寄ることすら出来ない。

 

「超げきとつマシンを使っても近づけるか分からないけど、速度を上げれば行けそうだな」

 

俺は何とか近づこうと、攻撃を回避した直後に超げきとつマシンに乗り込んで、発車した。

攻撃に当たらないようにするために、いつもより速度を上げていき、がったいまじんに向かって突撃する。腕なら一撃で倒せるかもしれないので、俺はマシンを加速させていき、思いきりぶつかって行く。

すると、がったいまじんは俺に気づいて、両腕を振り上げて力を溜める。そして、激突してきた俺をなぎはらおうとした。

超げきとつマシンはそう簡単には止められないぜ!と思いながら2本の腕に激突したが、奴の攻撃力は予想以上に高く、ぶつかった瞬間激痛が全身に走り、俺は超げきとつマシンから放りだされた。

 

「くっ、ここまで強いのかよ!?」

 

もちろんがったいまじんの腕もダメージを受けていたが、まだ破壊することは出来ない。

俺は痛みに耐えながら何とか立ち上がって、再び火柱や氷の柱を避けていった。

 

俺がそうしていると、アメルダとゆきのへががったいまじんから離れて、町へ戻っていった。

がったいまじんを倒すために、大砲をここに持ってくるつもりのようだ。

 

「大砲を使って、あいつを倒すよ!」

 

「2つあるからな、ワシも運ぶのを手伝うぜ」

 

しかし、がったいまじんはそれに気づいて、アメルダたちに巨大な2つの岩を放り投げる。

荒くれの3人とシェネリはアメルダたちを助けるために、何とか火柱と氷の柱を避けながら、大声を上げてがったいまじんの腕をまじんのかなづちで殴りつけた。

 

「お前なんかにオレたちは止められねえぜ!」

 

「どれだけ強い魔物でも、筋肉の力には敵わぬ!」

 

「必ずアンタを倒して、マイラに光を取り戻して見せるわ!」

「魔物たちなんかに、マイラとガライヤは支配させません!」

 

だが、がったいまじんはさっき俺をなぎはらった時と同じ攻撃を溜めていた。2本の腕に同時になぎはらわれば、さすがに4人でも防ぐことは出来ないだろう。

俺もがったいまじんの腕をとめるため、二刀流で力を溜めながら近づき、回転斬りを放った。

 

「回転斬り!」

 

みんなも同時にまじんのかなづちを叩きつけたが、攻撃を止めることはできなかった。

がったいまじんの腕は俺たち5人をなぎはらい、遠くへ吹き飛ばした。武器のおかげで威力を軽減することは出来たが、さっき超げきとつマシンでぶつかった時と同じような衝撃が走った。

俺はしばらく動けなくなってしまったが、後ろから聞こえたアメルダの声を聞いて、立ち上がってその場を離れた。

 

「二連砲台をここまで持ってきたよ!すぐに撃つから離れておくれ!」

 

すでにまほうの砲弾がセットされているようで、俺たち5人が離れるのを見るとアメルダはすぐに発射ボタンを押す。

すると、がったいまじんの両腕に直撃しそうだったが、氷の腕の方が前に出て防いだので、マグマの腕を倒すことはできなかった。

だが、まほうの砲弾の威力のおかげで、がったいまじんは少し怯み、マグマの腕にもかなりのダメージを与えていた。

 

「今のうちに、もう片方の腕も倒しておかないとな」

 

俺はその間に再び超げきとつマシンに乗り込み、マグマの腕へと突撃する。

そして、大砲で壊れかけているマグマの腕を先端の角で破壊し、残りを顔だけにした。

 

「あとは顔だけだな。もう少しで倒せそうだぜ」

 

だが、がったいまじんは体内で恐ろしいほどの炎の力と氷の力を発生させ、それを融合させていた。

俺もそれに気づいて、超げきとつマシンから飛び降りる。

恐らくこいつが放つのは炎と氷を融合させた最強の呪文、メドローアだろう。それも、とてつもなく巨大なものだ。

 

「みんな、強力な攻撃が来るから避けてくれ!」

 

俺の声を聞いて、みんなはがったいまじんのところから離れる。しかし、その直後に、がったいまじんは巨大なメドローアの呪文を放った。

食らったら間違いなく即死する威力なので、何とかかわそうと俺たちは大きくジャンプする。

そして、メドローアが直撃することは避けられたが、奴の目の前にあった2つの大砲は跡形もなく消え去り、温泉や研究室もほとんどが消しとんだ。

マッドウルスのドルモーアなどとは比べ物にならない威力だ。

 

「みんな、生きてるのか?」

 

俺はそんな心配をしていたが、全員無事なようだった。だが、直撃は避けられてもとてつもない衝撃でみんなは壁などにぶつかり、重症をおっていた。

だが、がったいまじんの攻撃が止まることはなく、奴はついに町の光の中に入ってくる。もう腕は倒しているが、またメドローアを使えば町を破壊することが出来る。

今度使われれば、この町は完全に壊滅してしまうだろう。

 

しかし、そんな中でもこのマイラの町を大切に思っている荒くれの3人とアメルダは、何としてもがったいまじんを倒そうと立ち上がったのだ。

4人とも俺と同じようにかなりのケガをしていて、全力で戦うのは難しい状

態だ。

 

「これ以上オレたちのアジトをこわすんじゃねえぜ!」

 

「筋肉は決して···決して死なず!」

 

「アンタにアタシたちを倒せるなんて思わないでほしいわね!」

 

「ここはアタシたちが作り上げてきたアジトだからね。そう簡単に壊させる訳にはいかないよ!」

 

4人は、再び突き上げられる火柱と氷の柱を避けながら、がったいまじんへと近づいていく。アジトを守りたいと言う気持ちからか、さっきと同じくらいの力を出せていた。

「俺も、ここで負ける訳にはいかないな」

 

俺は意識を失いかけていたが、みんなの姿を見てもう一度超げきとつマシンに乗り込む。町を作ってその町を守るのがビルダーの役目だからな、絶対にがったいまじんを倒さないといけない。

俺はがったいまじんの背後にいたので、今なら倒せるかもしれない。俺は速度を上げていき、奴の後頭部へ進んでいく。

しかし、がったいまじんはそのことに気づき、俺に向かって2発目のメドローアを撃とうと力を溜め始めた。

俺はマシンから降りてもかわせない位置にいて、発射される前に奴に激突するしか方法はなかった。

 

「頼む!間に合ってくれよ」

 

俺はさっきようがんまじんとひょうがまじんを撃退した時のスピードをさらに越えるために、アクセルが壊れるほど強く踏む。

そして、メドローアを発射する寸前のがったいまじんの口を、全力で貫いた。

メドローアは阻止され、がったいまじんの体内で過剰なエネルギーが溜まっていく。

 

「これで俺たちの勝ちだな、がったいまじん!」

 

最後には、奴の体内でエネルギーが大爆発を起こし、がったいまじんは巨大な青い光を放ち、消えていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode83 太陽の石

3章はかなり長かったですが、今回で最終回になります。


がったいまじんが倒れたところを見て、必死に戦っていた荒くれたちとアメルダは、自分たちのアジトを守り抜くことが出来たと大喜びし始めた。

 

「よっしゃあ!ついにがったいまじんをぶっ倒せたぜ!」

 

「筋肉の大勝利だな!」

 

「アタシたちなら勝てるって思ってたわ!」

 

「よくやったよ雄也!今度こそマイラとガライヤを復活できるね!」

 

みんなが喜んでいるのを見て、今までケガをして起き上がれなかったゆきのへとシェネリも嬉しそうな顔をした。

超げきとつマシンと言う最強の兵器の力のおかげだけど、俺も本当に倒すことが出来てよかったと思う。

がったいまじんも伝説のアイテムの素材を持っているだろうから、それを修復して使えば、マイラとガライヤの空の闇が晴れるはずだ。

「あいつは何を落としたんだ?」

 

がったいまじんが倒れたところを見ると、赤色の宝石のような物が落ちていた。

恐らくは、伝説のアイテムのうちまだ手に入れていないたいようのいしの欠片だろう。

俺がそれを拾ってポーチにしまっていると、喜んでいたアメルダが話しかけてきた。

 

「今アンタが拾った、石みたいな物は何なんだい?」

 

「多分、たいようのいしって言う伝説のアイテムの欠片だ。これを使えば、マイラとガライヤに光が戻るはずだぜ」

 

アメルダも、俺がたいようのいしを拾ったところを見ていたようだな。

それを使えば空の闇を晴らすことが出来ると聞き、アメルダはさらに嬉しい表情になる。

 

「それは本当かい!?だったら、さっそく作ってみておくれ」

 

「ああ、もちろんだ!」

 

俺は久しぶりに、もちろんだの返事をした。

もうすぐマイラとガライヤの空の闇を晴らすことが出来る。そうしたら、アレフガルド復興の第3章も終わりになるだろう。

俺も早くマイラの空の光が見たいと思い、伝説のアイテムであるたいようのいしの作り方を調べた。

たいようのいし···くだけた宝玉1個、マグマ岩1個、まほうインゴット3個 マシンメーカー

がったいまじんが落とした欠片は、くだけた宝玉と言う名前なのか。それを、マグマ岩やまほうインゴットと組み合わせれば、たいようのいしを作れるみたいだな。

必要な素材は全て揃っているので、俺はマシンメーカーのある研究室へと入っていく。

そして、俺はマシンメーカーの前に立って、くだけた宝玉、マグマ岩、まほうインゴットに向かってビルダーの魔法をかけた。

すると、くだけた宝玉がもの凄い熱を発して、小さな爆発のようなことが起きた。俺は、巻き込まれないかと少し後ろに下がって、変化の様子を見る。

やがて、爆発が収まっていくと太陽の力が込められたきれいな石が出来ていた。

 

「太陽の石が完成したみたいだな。これを使えば、マイラとガライヤに光が戻るんだよな」

 

たいようのいしも、いにしえのメダルやあまぐものつえと同様、実物を見るのは初めてだった。とても熱い石なので、俺はやけどしないようにポーチに入れて、研究室から出た。

「アメルダ、たいようのいしを作ってきたぞ」

 

「よくやったよ!ついにこの地に光が戻る時が来たんだね!アイツも、ラライも喜んでくれるといいんだけどね···」

 

俺がアメルダにたいようのいしができたことを伝えると、アメルダはラライの話もしてきた。

ラライも世界の闇を晴らすことを望んでいただろうから、必ず喜んでくれるだろう。

 

「絶対に喜んでくれるはずだぜ。今からこれを希望のはたに掲げて来るぞ」

 

「ああ、頼んだよ!」

 

俺はアメルダとの話を終えると、希望のはたの台座に登ってポーチからたいようのいしを取り出す。

すると、たいようのいしは俺の手を離れて行き、マイラの町の上空へと登っていった。空高くまで上がり、動きが止まった瞬間、たいようのいしは大きな爆発を起こし、空の闇を吹き飛ばして行く。

そして、マイラとガライヤの地に、まぶしい光があふれだしていた。

 

俺が光が戻った空を見上げていると、精霊ルビスが話しかけてきた。ルビスの声が聞こえたのは、マイラに来た時以来だな。

 

「雄也よ、よくやりました。これでこの地は、竜王の悪しき力から解放され、人々は自らの力で発展していくことでしょう。しかし、忘れてはなりません。この世界には、あなたを待つ人が、まだ残されていることを···」

 

ルビスの言う通り、俺たちは4つの地方の光を取り戻してきたけど、まだアレフガルドの全域を復興させた訳ではないんだよな。

次は、ガンダルの本によれば、死の大地と化しているらしいラダトームに行くんだろう。

俺がルビスの話を聞いて、そんなことを考えていると、町のみんなが希望のはたの元へ集まってきていた。

 

「おお!雄也、本当によくやったよ!空に、光が!光が···!なんて、なんてきれいなんだろう!」

 

アメルダやみんなは、生まれて初めて見る青空に見とれて、とても感動していた。

俺は3回目だけど、やっぱり空の光が戻る瞬間は嬉しい気分になるぜ。

 

その日の夜、俺たちはマイラとガライヤに光が戻ったことを祝い、宴を開いた。そこでみんなはたくさんのお酒を飲んでいて、俺も未成年だけどせっかくなので、酔っぱらうまで飲み続けた。

宴がお開きになった後、寝室に戻る途中、俺の目の前にラライの幽霊が見えた。彼の姿が見えているのは俺だけのようだが、嬉しそうな表情をして消えていった。

この世での未練が全てなくなり、昇天していったのだろう。俺はそんなラライの様子を見ながら寝室へと戻り、眠りについた。

 

マイラに来て16日目の朝、昨日は酔っぱらっていたが、俺は二日酔いなどは起こさなかった。

だが、俺よりたくさんの酒を飲んでいたアメルダは、頭痛がするらしく頭をおさえながら俺に話しかけてきた。

 

「いてててて···頭がガンガンするよ···さすがに昨日は、飲みすぎちまったみたいだ」

 

そんなに飲みたくなるほど、嬉しいことだったのだろう。

日本にいた時に俺も酒を飲んだことはあったが大量に飲んだのは初めてだ。

 

「俺もあんなにたくさん飲んだのは初めてだぜ」

 

「そう言えば、酔っぱらったからか分からないけど、見えるはずのないアイツの姿が見えたのさ。多分、幻だろうけどね」

 

アメルダにも、ラライの姿が見えていたのか。アメルダは俺と違って幽霊は見えないから、幻覚の可能性もあるけど、本当に見えていたらいいな。

その話の後、アメルダは俺がこれまで2回見たことのある、光の柱を見たと言った。

 

「それはそうと、雄也。ガロンがアジトの西の山で、おかしな光を見たらしい」

 

アメルダの言う町の西の山を見ると、確かに美しい光の柱が出来ていた。

マイラとガライヤを復興させたから、新たな地へと繋がる光のとびらが開いたんだな。

「アメルダ、それについて大事な話があるから、みんなを集めてくれ」

 

「別にいいけど、その柱について何か知ってるのかい?」

 

「ああ、みんなが集まったら話すぞ」

 

マイラのみんなとも仲良くなれたのに、しばらく会えなくなってしまうのか。

まあ、もう二度と会えなくなる訳ではないけどな。竜王を倒せば、自由に行き来できるようになるだろう。

少し待っていると、アメルダは町のみんなを集めて希望のはたのところに戻っていた。

 

「それで、光の柱についての大切な話ってのは何なんだい?」

 

マイラの町にいる10人が揃っているようなので、俺は新しい地に行かなければならないことを言った。

「俺たちはマイラとガライヤを復興させたから、まだ復興していない新しい地方に行かないといけないんだ」

 

「つまり、このアジトを離れちまうってことか!?」

 

俺がその話をすると、俺と一緒にマイラに来たピリン、ゆきのへ、ヘイザンを除いた全員がびっくりしていた。

これまで俺たちと暮らしていたのに、急に離れてしまうと言うのはすぐには信じられないのだろう。

 

「ああ、そう言うことだ。この中で、俺と一緒に新しい地に行きたい人はいるか?」

 

俺はいつものように、一緒に来る人がいないか聞いた。仲間は多い方が、復興させていきやすいからな。

マイラのみんなは考え始めるが、ピリンたちはすぐに一緒に行くと言ってくれた。

 

「わたしはもっとみんなの役に立ちたいから、雄也についていくよ」

 

「アレフガルドの復興が終わるまでは、鍛冶屋を続けていくぜ」

 

「ワタシも親方について行くぞ」

 

やっぱりこの3人は頼もしい仲間だな。この先に待ち受けているのがどんな大変なことでも、乗り越えて行けそうだ。

マイラの住民のみんなは、しばらく考えた後、どうするかを言った。

 

「オレは、このぶっ壊れちまったアジトを直して、発展させていくつもりだ。だから、雄也と一緒には行けねえな」

 

「ワシも、ガロンと共にこのアジトの復興を続けようと思う」

 

「アタシも、二人を手伝うつもりよ」

アジトであるマイラの町を復興させていく必要があるのは分かるが、荒くれたちと別れるのはやっぱり残念だな。

アメルダも、荒くれのリーダーとしてここに残ると言った。

 

「アタシは荒くれのリーダーだからね。こいつらを置いてはいけないよ」

 

ガライヤに住む二人もここに残ると言い、新しい地に行くのは俺たち4人だけのようだ。

恐らく次は死の大地になっているラダトームに行くのだから、仲間は多いほうがいいのだが、無理に連れていくことも出来ないな。

 

「分かった。そっちにも都合があるもんな」

 

話を終えると、俺たち4人は新たな地方へ出発するために準備をする。

そして、準備を終えると、光の柱が立っている町の西の山に向かって歩いていく。

 

「みんな、もう会えない訳じゃないから、またな!」

 

俺が手をふってあいさつをすると、みんなも別れの言葉を言ってくる。

 

「おう、必ず戻ってこいよ!」

 

「ワシも応援しておるぞ!」

 

「アンタには筋肉はないけど、必ずやれるはずよ!」

 

「負けたりしたら、アタシが許さないからね!」

 

「頑張ってくださいね、雄也さん!」

 

「必ずこの世界全てに、光を取り戻してください!」

 

俺たちはマイラの町の人々に見送られながら、光の柱へと進んでいく。多くの人を救ってきた俺たちなら、必ずアレフガルド全域を復興できるだろう。

そう思いながら10分ほど町の西へ進み山を登ると、光の柱が上がっている場所のすぐ近くまで来た。

すると、俺の耳に再びルビスの声が聞こえてきた。

 

「雄也、そのとびらが通じる先は、私の力も及ばぬ死の大地、ラダトーム。あなたはその運命の地で、自らに課せられた使命を果たさなければなりません。あなたの役割も、そこで終わりを迎えるでしょう。覚悟が出来たら、光の渦の中に飛び込むのです」

 

やっぱりこの次はラダトームに行くんだな。ルビスの力も及ばないと言うのは、相当酷い状態になっているのだろう。

これまで4つの地域を復興させてきたから、ルビスの言う通り最後に復興させる場所になるだろう。

急にそんな場所に行くと驚くだろうから、俺はみんなにラダトームに行くことを伝えた。

 

「ルビスから聞いたんだけど、これから俺たちは死の大地になったラダトームに行くらしい。みんなも覚悟は出来てるか?」

 

だが、その話を聞いてもみんなは恐れることはしなかった。

 

「別に、わたしは雄也と一緒なら、どこへ行ってもいいよ!」

 

「ワシも伝説の鍛冶屋の子孫としてな、最後まで復興に付き合うぜ」

 

「ワタシも親方の弟子として、共にラダトームへ向かうぞ」

 

さすがは今まで一緒に復興させてきた仲間たちだな。この3人となら、死の大地になったラダトームにも必ず光を取り戻せるはずだ。

そして、俺たちはラダトームに向かうため、光のとびらに飛び込んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4章 ラダトーム編
Episode84 闇と呪いの中心


俺たちはマイラの光のとびらに入ってから、しばらく目の前が真っ白になり、ラダトーム地方へと移動する。

移動した後目を開けると、そこには俺が思っていたよりも遥かに荒廃している世界が広がっていた。

地面の土がすべて灰色になっており、植物なども全く見かけられない。それどころか、常に空が竜王の影が現れた時くらいの暗さになっていた。

本当にここが、かつての王都があったラダトームなのか?

 

「思っていたより酷いな、この場所は」

 

みんなも、あまりに荒廃しすぎているこの地域を見て、驚いていた。

 

「何かこの場所、昼なのに真っ暗で怖いね」

 

「ラダトームは竜王の城に近いから、酷い状況だとは聞いてたが、ここまで荒廃していたとはな」

 

「ワタシも、こんなに恐ろしい場所は初めてだぞ」

 

リムルダールやマイラも相当環境が破壊されていたが、ここはその比ではない。勇者が裏切ったことによって、竜王はここまで力をつけていたのか。

俺たちが荒廃した世界を見ていると、ルビスの声が聞こえてきた。

 

「目が覚めましたか···雄也。そこは···私の···光も届か···ない、死の大地」

 

これまでは俺の脳内にはっきり聞こえていたルビスの声も闇の力に遮られて、聞こえにくいな。

俺が耳をすませて、ルビスの声を何とか聞き取っていると、ルビスはこれまではありえなかったことを言う。

 

「立てる···べき、希望のはた···すら、今は···ありません」

 

希望のはたがないってことは、町を作ることすら出来ないことになるぞ。今はないって言い方から考えれば、手に入れられる方法があるのかもしれないが。

 

「希望のはたもないんだったら、どうすればいいんだ?」

 

「この先に···誰かいるように見えます。生き残った人々に会い···希望のはたを···探すのです」

 

こんな場所に生き残っている人なんているとは思えないが、ルビスの言う通り先に進むしかなさそうだな。

俺は、この荒廃した世界の探索を始めるため、みんなに声をかけた。

 

「みんな、ルビスから聞いたんだけど、ここを復興させるにはまず希望のはたを手に入れないといけないらしい」

 

「今回は希望のはたも自力で見つけねえといけないのか。まあ、ワシらならなんとかなるだろうがな」

 

ゆきのへたちも、このラダトームの状況を見ても恐れることはしていないようだ。

今回はルビスも強い装備を用意することが出来なかったのか、俺とゆきのへがひのきのぼうを1本ずつ持っているだけだ。それでも、これまでいくつもの町を復興してきた俺たちなら、この地域の復興も出来るばすだ。

それに、アレフガルドの全域を復活させるまでもう少しだから、ここで怖じ気づいている訳にはいかないな。

 

「それなら、探索を始めるぞ」

 

そして、俺の掛け声でラダトーム地方の探索を始める。俺たちのアレフガルド復興の第4章の始まりだな。

 

俺たちがいる場所は、3方向を岩山に囲まれていて、まっすぐ進んでいくしか道はなかった。

歩いている途中に、人の物と思われる頭蓋骨がたくさん落ちている場所も見つけた。この地方で、最後まで魔物と戦った人々の物なのだろうか。

 

「人の骨がこんなに大量に落ちているんだな」

 

「やっぱり、何か怖い雰囲気がするね」

 

人の骨以外にあった物も、石材の原料になる大きな石や、枯れ果てて黒くなった植物だけで、いつも手に入るふとい枝や白い花びらと言った素材は、全く手に入れることが出来なかった。

死の大地となったラダトームを5分くらい歩いていると、ヘイザンが誰かを見つけたらしく、俺たちに声をかけた。

「なあみんな、あそこに誰かいるみたいだぞ」

 

「さっきルビスが言っていた人のことか?」

 

ヘイザンが指差した方向を見るとたき火が置いてある場所があり、そのたき火の前に青い服を着た一人の老人が座っていた。

 

「あの人が誰かは分からないけど、とりあえず話しかけてみるか」

 

「ああ、あいつなら希望のはたについて知ってるかもしれないしな」

 

ゆきのへの言う通り、昔からここにいた人であれば失われた希望のはたのありかも分かるかもしれない。

俺たちは老人がいる場所まで歩いていき、彼に話しかけた。

 

「なあ、急に話しかけて悪いんだけど、あんたは誰なんだ?」

 

俺がそう聞くと、老人は長い間人間を見ていないらしく、俺たちに驚いていた。

俺が聞くと、老人は自分の名前を言う前に、俺たちが伝説のビルダーなのかと聞いてくる。

 

「そなたらこそ、こんな場所にいるとは何者なのじゃ?もしや、大地の精霊ルビスが遣わした、伝説のビルダーなのか?」

 

この老人も、ビルダーについては知っているようだな。

それで、こんな荒廃した場所に来るのは世界を復興させる役目を持つビルダーだけだと思ったのだろう。

 

「俺は影山雄也、いつもは雄也って呼ばれてる。あんたの言う通り、伝説のビルダーって奴だ」

 

俺が老人にいつもの自己紹介をすると、俺の後ろにいた3人も名乗り始めた。

「わたしはピリン!雄也と一緒に、みんなで仲良く暮らせる楽しい世界を作ろうとしているの」

 

「ワシはゆきのへ、伝説の鍛冶屋の子孫だ。鍛冶屋の知識を広めるために、雄也と一緒にここまで来たぜ」

 

「ワタシは伝説の鍛冶屋である親方の弟子の、ヘイザンだ」

 

みんなの話を聞くと、老人は伝説のビルダーやその仲間と会えたことに、とても驚いていた。

 

「やはりそなたらが、伝説のビルダーとその仲間であったか。ワシは予言者ムツヘタ。ひとまず、ワシの後についてくるのじゃ···」

 

そして、予言者ムツヘタと名乗る老人は立ち上がって、歩き始める。

ムツヘタは老人なので歩くスピードが遅かったが、希望のはたの場所を知っているかもしれないので、俺たちはムツヘタについて行くことにした。

しばらく歩いていると、岩山の谷間のような場所を抜けて、広い平原のような場所に出た。だが、やはりまわりは骨や岩、枯れ木しか残っていなかった。

 

「本当に生きている物が何もない場所だな」

 

魔物さえもほとんど生息しておらず、しりょうのきしのさらに上位種である、かげのきししか見つけることが出来なかった。

まわりの景色を見ながらムツヘタと一緒に進んで行くと、たき火が置いている場所があり、ムツヘタは息を切らしながらそこで立ち止まった。

 

「はあ、はあ。老骨にむちを打つのも限界じゃ。目的地はまだ先じゃが、少し休ませてくれ」

 

ムツヘタはかなり高齢に見えるので、長い間歩き続けることは出来ないだろう。

彼は息を整えた後、休みながらラダトームの地について話を始める。

 

「この地はかつて繁栄を極めた、王都ラダトームがあった大陸じゃ。じゃが、今は人が生きられぬ、死の大地と化しておる」

 

「ああ、これまで復興させてきた場所よりも、桁違いに酷い状態だ」

 

ムツヘタの言う通り、この地は生物が生きられる環境ではないな。

どうにかして、かつての王都を復活させることが出来ればいいのだが。だが、ムツヘタにもその方法は分からないようだ。

 

「この地を救うことが、そなたの使命のはずじゃが、その方法はワシにも分からぬ」

 

「じゃあ、希望のはたの場所も分からないのか?」

俺が聞くと、ムツヘタはうなずく。彼も希望のはたの場所が分からないのなら、何とかして自分で見つけるしか方法はないだろうな。

俺がそんなことを思っていると、ムツヘタは再び立ち上がって、歩き始めた。

 

「そなたらも休めたじゃろ。そろそろ目的地へと向かうぞ」

 

ムツヘタが向かっている場所がどこかは分からないが、今はついて行くしかないので、俺たちは彼の後を追って10分くらい歩き続けた。

 

すると、目の前に白い花やふとい枝など、生きた植物が生えている場所が見えて来る。

その場所には、正方形の形の小さな家があり、近くに石像のような物が置かれている。

そこが目的地だったようで、たどり着くとムツヘタは立ち止まって、再び話を始めた。

 

「ルビスからここを最初の拠点にするように命じられたのじゃ。この地でここだけは、緑が残されておるのじゃ」

 

確かに、ここなら灰色の死の大地で過ごすより良さそうだ。

でも、ルビスの加護でもなさそうなのに、どうしてここだけは緑が残ったんだろうな?

 

「どうしてここだけ緑が残ったんだ?」

 

「恐らくは、そこにある姫と瓜二つの石像のおかげじゃ。あの石像からは、不思議な力が感じられる」

 

石像をよく見ると、ムツヘタの言う通りラダトームの姫である、ローラ姫にとても似ていた。

どうしてこの場所にこんな石像が立てられたかは分からないけどな。

俺が石像を見ていると、ムツヘタはラダトームを復興させるには、まず死の大地を蘇らせる必要があると言った。

 

「その石像のことも気になるが、今は死の大地と化したこの場所に緑を蘇らさねばならぬ」

 

確かにこのままだと素材を集めることも出来ないので、何とかしなければいけないな。

その方法は、ムツヘタにも分からないんだろうけど。

 

「でも、死の大地を復活させる方法は、あんたにも分からないんだろ?」

 

「その通りじゃ。だが、この拠点の南にきれいな水が湧いている場所があるのじゃ。その場所には、意味深な古い本が置かれていてな、何か手がかりをつかめるかもしれぬ」

 

そう言って、ムツヘタは拠点からさらに奥の方を指さす。

古い本か···それに死の大地を復活させる手がかりが書かれているかは分からないが、それを読みに行ってみるしかなさそうだな。

 

「分かった。その本を読んでみるから、何か分かったら教えるぞ」

 

俺はそう言ってムツヘタと別れて、拠点の反対側に出た。そこで遠くを眺めると、確かに水場のような場所が見える。

俺は、死の大地を復活させる方法を見つけるため、その水場へ向かって行った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode85 大地の浄化

今週はテストがあったので、あまり更新できませんでした。


俺はきれいな水のある場所に向かって、灰色の大地を歩いて行く。

俺はまわりを眺めながら進んでいったが、やはり枯れ木や骨などしか見つけられなかった。だが、かろうじて緑の葉を残しているふとい枝も落ちていた。

 

「ふとい枝はここでは貴重だし、集めておくか」

 

ふとい枝だけではひのきのぼうくらいしか作れないが、一応拾っておいたほうがいいだろう。

俺はふとい枝を拾ってポーチに入れた後、他にも生きている植物がないか探したが、見つけることは出来なかった。

そして、拠点を出発して10分くらい経って、ムツヘタが言っていた水場へとたどり着くことが出来た。

そこには、リムルダールで俺が作ったことのある浄化のふんすいが置かれていた。

「浄化のふんすいか···だからきれいな水があったんだな」

 

この荒廃した世界では水も汚染されていそうだが、浄化のふんすいのおかげで汚染を免れたようだ。

きれいな水のおかげか、その水場にもたくさんの白い花が咲いていた。

 

「でも、何でこんな場所に浄化のふんすいが置いてあるんだろうな?」

 

俺は白い花を拾いながら、そんなことを考えていた。

ここに浄化のふんすいが置いてあると言うことは、誰かがいたということになる。

この水場には分厚い本が置かれているので、それを読めば何か分かるかもしれないな。

 

「とりあえず、この本を読んでみるしかなさそうだな」

俺がその本を手に取ると、表紙には見慣れたタイトルが書かれていた。

 

「これは、アレフガルド歴程って書かれてるな。ガンダルがラダトームに来たときに書いたのか」

 

アレフガルド歴程の著者である冒険家ガンダルが浄化のふんすいを設置したのかは分からないが、役に立つ情報が書かれているかもしれないな。

俺はアレフガルド歴程の表紙を開いて読み始めた。

 

おお!わが故郷メルキドを出発してどのくらいの年月が流れたのであろう。私はついに、かつての王都ラダトームがあった大陸へと行き着いた。しかし、この地の有り様はどうであろう。まだラダトーム城は遥か遠くだと言うのに、ここにも死や絶望の匂いがあふれている。やはり、竜王の城によほど近いラダトーム城が呪いの中心と言うのは本当のようだ。ただ、こんな地にあってきれいな水が飲める浄化のふんすいがあったのは嬉しい誤算だった。

嬉しい誤算って書いてるってことは、ガンダルが浄化のふんすいを置いた訳ではないみたいだな。

それと、ラダトーム城が呪いの中心になっていると言うことは、今俺たちがいるここより酷い状況になっているのか。この後行くことになるのだろうが、復興させられるか不安になってくるぜ。

俺はそんなことを思いながらページをめくり、続きを読んで行った。

 

浄化のふんすいの近くでバケツを使えば、きれいな水が手に入るのだ。なんでも、かつてこの地を復活させようとしたとある研究家が設置した物らしい。その研究家はこの地の北で、せいすいなる物の研究をしていたと言う。もしもこの死の大地を復活させたいと言う物がいれば、行ってみるといいだろう。

メルキドの冒険家 ガンダル

 

ここに浄化のふんすいを置いたのは死の大地を復活させようとしていた研究者なのか。俺たちやムツヘタ以外にも、ラダトームを復興させようとしていた人がいたんだな。

これで、せいすいと言う物を作ればこの地を復活させられる可能性があることは分かったな。

でも、せいすいと言う名前や、浄化のふんすいがあるのを考えると、作るのには間違いなくきれいな水が要りそうだ。ムツヘタに聞けば、この地でもバケツを作る方法が分かるかもしれないな。

 

「死の大地を復活させられることは分かったし、一回拠点に戻るか」

 

俺はせいすいのことを教えるためや、バケツの作り方を聞くために拠点へと戻っていった。

拠点に戻ると、ムツヘタは正方形の家の中に入って休んでいた。長い距離を歩いたので疲れているのだろう。

でも、なるべく早く大地を復活させたほうが良さそうなので、俺は家の中に入ってムツヘタに話しかけた。

 

「ムツヘタ、死の大地を復活させる方法が分かったぞ」

 

「おお、それは本当なのか!?やはりあの本に書かれていたのじゃな」

 

俺が話し始めると、ムツヘタはすぐに立ち上がって聞いてくる。

ずっとこんな場所にいたのだから、早くこの地を復活させる方法を知りたいのだろう。

 

「ああ、あの本に書いてあったんだけど、せいすいと言う物が必要らしい」

 

「せいすいじゃと!?それはどうやって作るのじゃ?」

 

今の段階ではきれいな水が必要だと言うこと以外は分からないな。

俺は水を手に入れるためのバケツについて聞いてみる。

 

「せいすいを作るためにはきれいな水が必要なんだけど、水を汲むのバケツの作り方は分かるか?」

 

すると、ムツヘタは骨を使ってバケツを作ることが出来ると教えてくれた。

 

「それなら、ふとい枝や骨を集めて、ホネ組みバケツを作っていくとよいじゃろう」

 

骨なら周りにいくらでもあるし、それなら作れそうだな。俺はさっそく、ホネ組みバケツの作り方を調べる。

ホネ組みバケツ···ふとい枝2個、巨大なツノ1個 きりかぶ作業台

巨大なツノと言うのは、ここに来る前に見た先端が尖っている大きな骨のことだろう。理由は分からないが、普通の骨じゃなくて、ツノ型の骨を使うのか。

でも、この拠点の近くにも結構あるので、すぐに集めて来れそうだな。

 

「素材もすぐに集まりそうだし、バケツを作ってきれいな水を汲んだら、せいすいの作り方を調べてくるぜ」

 

「おお、頼んだのじゃぞ!」

 

俺はムツヘタにバケツの作り方を教えてもらった後、さっそく素材を集めに行った。水場に向かう途中にふとい枝を手に入れられたし、あとは巨大なツノを集めればいいな。

拠点から見える場所にあった物に近づいて、俺はひのきのぼうで回収しようとする。遠くから見たら分からなかったが、巨大なツノは2メートル以上の高さがあった。

「これが巨大なツノか···思っていたより大きいんだな」

 

どんな生物の骨だったのかは分からないが、何回か叩いて地面から取り外し、ポーチにしまう。

その後、ホネ組みバケツへと加工するために俺は拠点へと戻って行った。

そして、拠点のすみに置いてあるきりかぶ作業台を使い、ふとい枝と巨大なツノに魔法をかけていく。

すると、その2つの素材があわさって、バケツの形へと変化して行った。

 

「これでホネ組みバケツを作れたな。後はきれいな水を手にいれたら研究所を探しに行ってみるか」

 

ホネ組みバケツが完成すると、次はそれを使ってきれいな水を汲むため、さっきの水場へと向かう。今日は同じ場所に何回も行き来することが多いな。

でも、まだ足は疲れていないので俺は早足で歩いていき、8分くらいで水場に着くことが出来た。

そこで俺はホネ組みバケツを取りだし、浄化のふんすいの近くの水を汲み上げた。1つでは足りないかもしれないので、俺はきれいな水を5回手に入れてから、水場を去った。

 

「きれいな水も手に入ったし、せいすいの研究所に行ってくるか」

 

水場の北に研究所があると書かれていたので、多分俺たちがラダトームに来て最初にいた、岩山の近くだろう。かなり遠いが、俺は北に向かって歩き始める。

30分ほどたって、北にある岩山のところまで歩いていった。だが、岩山の下を探していても、せいすいの研究所らしき物は見つからない。

「もしかして、この岩山の上にあるのかもしれないな」

 

魔物に見つからないようにするために、岩山の上に作られている可能性もあるな。岩山の上は、キメラなどの魔物しかおらず、地上より数が少ない。

俺は研究所を探すために、岩山の上へと登って行った。これまでに何度も岩山に登っているので、今回も楽に登ることが出来た。

 

「ここが岩山の上か。見回しても研究所みたい物はないけど、詳しく探したほうがよさそうだな」

 

ラダトームの岩山はキメラも生息しておらず、立ったまま探索できそうだな。俺はせいすいの研究所を探すために、岩山の上を進んでいった。

そして、1時間くらい探し続けていると、目の前に倒れている男が見えてきた。

「おい、大丈夫なのか?」

 

仲間になってくれるかもしれないと思い、俺はその人に話しかけたが、残念なことに彼は既に死んでいるようだった。

ここは食料も何もないので、行き倒れてしまったのだろう。

 

「もう死んでいたのか···仲間になってくれると思っていたけど、残念だな。でも、地面に何か書いてあるぞ」

 

よく見ると、その人の倒れているところに文字が書かれていたのだ。次にここに来た人へ伝えるためみたいたな。

 

「この土は壊せる。きっと、ここに秘密が。って書いてあるな。壊せる土とはどれのことなんだ?」

 

この近くに、白い岩のブロックではなく土ブロックで出来ている場所があると言うことなのだろうか。せいすいの研究所と関係があるかは分からないけど、探してみたほうがよさそうだな。

そこで、男の死体がある場所から周りを見渡してみると、東の方向に灰色の土ブロックで出来ている場所を見つけることが出来た。

 

「ここを壊せば何かが見つかるはずだな」

 

俺はひのきのぼうで灰色の土ブロックを叩きつけて、壊していく。すると、土ブロックの裏に隠されている洞窟があったのだ。

 

「こんなところに洞窟が隠されていたのか。もしかしたらここが、せいすいの研究所なのかもしれないな」

 

その洞窟は多くのカベかけ松明があり、人がいた痕跡が残っている。水場の北にあると言う情報から考えて、ここがせいすいの研究所で間違いなさそうだ。

だが、入り口の階段を降りた先に強力な魔物である1体のかげのきしがいるのが見えた。今は研究家も生きてはいないだろうし、ここも魔物に占領されてしまったのか。

「せいすいの記録が残っていればいいんだけどな」

 

俺はせいすいの記録が残っていることを祈り、かげのきしに見つからないように入り口にある階段を降りていく。

階段を降りるとすぐに、かげのきしの視界に入らないように近くにあった灰色の土ブロックに隠れた。

 

「魔物がいるにしろ、数は少ないから見つからずに進めそうだな」

 

がいこつ系の最上位種であるかげのきしとひのきのぼうで戦っても勝てるとは思えないので、今回は潜入で行くべきだろう。

しばらくして、近くにいたかげのきしが去っていったので、俺は体勢を低くして足音を立てないようにしながら、洞窟の奥へと進んで行く。

途中の通路には、メルキドのピラミッドやリムルダールのクイズの報酬で手に入れたことのある、火をふく石像が置かれていた。

 

「ラダトームにも火をふく石像があったのか。強力な兵器だけど、ひのきのぼうでは回収できないな」

 

火をふく石像を使えば、拠点の防衛戦がかなり楽になるのだが、おおかなづちなどがないと手に入れることは出来ない。それに、今の段階で壊せたとしても、音でかげのきしに見つかる可能性があるから無理そうだな。

仕方ないので、俺は火をふく石像を手に入れるのを諦め、さらに洞窟の奥へと進んで行った。

 

「この洞窟はどこまで続いているんだろうな」

 

洞窟はかなり長く、かげのきしに見つからないようにゆっくり歩いているので、最深部に着くにはまだ時間がかかりそうだな。

10分くらい魔物に警戒しながら洞窟の奥を目指していると、二手に別れている場所もあった。

 

「ここから二手に分かれているのか。どっちに行けばいいんだ?」

 

左側を見ると、行き止まりになっている場所に宝箱が置いてあり、その前に2体のかげのきしがたち塞がっていた。

その宝箱にせいすいの作り方が書かれた紙が入っているのかもしれないが、研究所らしい場所ではないので、恐らくは違うだろう。

 

「左はすぐに行き止まりだけど、右の方はまだ奥に続いているな」

 

右の方はかげのきしは1体もいないが、さらに洞窟の奥まで続いているようだった。

なので俺は、こっちにせいすいの手がかりがあると信じて、右の通路を進んでいく。すると、はがねの大とびらの前にドラゴンが寝ていると言う場所にたどり着いた。

 

「このドラゴンの後ろにあるとびらの先に、せいすいの研究所があるんだろうな」

 

ドラゴンは強力で巨大な魔物だが、聖なる草の保管庫にいたキースドラゴンと同じで寝ているので、起こさずに行けば安全だろう。

俺はほふく前進でドラゴンの横を進んでいき、決して音をたてないようにはがねの大とびらの前に移動する。

そして、同じように音をたてずに扉を開き、せいすいの研究所と思われる部屋に入った。

「ここが最深部か。青色の作業台とメモが置いてあるな」

 

メモに手がかりが書かれているかもしれないので、俺はまずそれを読み始めた。その紙には、せいすいだと思われる物の絵も書いてあった。

 

研究を始めて幾年月。どうやらもう潮時のようだ。結局私には物を作る力はなく、せいすいを作ることは出来なかった。しかし、ルビスによって遣わさせると言う伝説のビルダーならば、きっと···!

ビルダーよ···もしここにたどり着いたなら、このシャナク魔法台を持ち帰り役立ててくれ。ああ、もうおしまいだ。とびらの先からドラゴンの鳴き声が聞こえる。ああ、大地の精霊ルビスよ···どうかこの世界に祝福を···!

この人が亡くなった後に魔物に占拠された訳じゃなくて、せいすいの研究をしていたところを見つけられてしまったと言う訳か。

それで、ドラゴンに殺されたか、この部屋から出られなくて餓死したかで、せいすいを完成させる前に研究者は死んだみたいだな。

 

「ここに書いてあるように、ビルダーの俺がこの人の研究を完成させてやらないとな」

 

恐らくは、目の前に置いているのがシャナク魔法台で、これを使えばせいすいを作れるのだろう。俺はさっそく、せいすいの作り方を調べてみる。

せいすい···きれいな水1個 シャナク魔法台

きれいな水とシャナク魔法台だけで作れるのか。多分、きれいな水を魔法の力でせいすいに変化させているのだろうな。

 

「試しに1つ作ってみたいけど、なるべく早くここから出ないとまずいな」

 

俺はこの場でせいすいを作ろうと思ったが、長い時間この部屋にいると外にいるドラゴンが起きる可能性もある。

そのため、俺は音を立てないように気を付けながらシャナク魔法台を回収してから、とびらを開けて部屋の外に出た。

部屋から出た後は、さっきと同じようにドラゴンやかげのきしに見つからないようにしながら、20分くらいで洞窟の外に戻ってくる。

 

「これでせいすいが作れるようになったし、拠点に戻るか」

 

そして、今はキメラのつばさがないので、歩いて拠点へと帰って行った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode86 死の大地に芽生えし光

俺は拠点へと帰ってくると、さっそくせいすいを作るためのシャナク魔法台を手に入れたことをムツヘタに教えに行った。

 

「ムツヘタ、せいすいの作り方が分かったぞ」

 

「おお!ついにこの死の大地を復活させられるのじゃな!?」

 

俺がそう言うと、ムツヘタは急いで家の中から飛び出してきた。

ついにこの地を復活させられることが分かって、とても嬉しいのだろう。

出てきた後、ムツヘタはすぐに作り方について俺に聞いてくる。

 

「それで、どうやってせいすいを作り出すのじゃ?」

 

「このシャナク魔法台の力できれいな水を加工すれば、せいすいになるんだ」

 

俺はそう説明して、ポーチからシャナク魔法台を取り出して、設置する。

これを使うのは初めてだけど、いつも通りビルダーの魔法を発動させればよいだろう。

そして、せいすいの作り方を教えるとムツヘタはさっそく作ってくれと言ってきた。

 

「よくやったのじゃ、雄也!さっそく作って、大地の呪いを解いてみてくれ」

 

「ああ、俺も早く死の大地を復活させたいからな」

 

俺はポーチからきれいな水を取りだし、シャナク魔法台の前でビルダーの力を使う。すると、1個のきれいな水から5個の光り輝く水が出来上がった。

見た目は、浄化の霊薬や聖なるしずくに似ているな。

 

「これでせいすいを作れたみたいだな。さっそく使ってみるか」

 

「どの程度の効果かは分からぬが、これならうまくいくはずじゃ」

 

ムツヘタもせいすいを見て、これなら大地を蘇らせられそうだと言う。

俺は拠点のすぐ近くにある灰色の土の上に立って、せいすいを振り撒いた。すると、せいすいは光を放って、半径5メートルくらいの範囲の呪いを消し去る。

呪いが解けると、拠点の中と同じように地面が草原になっていた。

 

「おお、これがせいすいの力か···!ついにこの死の大地を復活させられたのじゃな!」

 

ムツヘタは、灰色の世界に緑が戻ったことにとても感動していた。

せいすい1つでは少しの範囲しか呪いは解けないが、たくさん作って行けばいずれはラダトーム全域を復活させることも可能だろう。

これで、この地の復興に一歩近づくことが出来たな。

ピリンたちも、せいすいの放った光に気づいてこっちに走ってきていた。

 

「すごいすごい!灰色だったはずの場所が、草原に戻ってるね」

 

「ついに竜王の呪いも解けるようになったのか···さすがは雄也だぜ!」

 

「これなら、アレフガルド全域の復活も夢ではないな!」

 

3人も、緑が戻った大地を見てとても喜んでいる。

 

その時、俺の耳に不思議な女の人の声が聞こえてきた。

 

「ゆうしゃさま···ゆうしゃさま···」

 

その声は、拠点の中央に置かれている石像から聞こえてきていた。

誰かが勇者のことを呼んでいるようだけど、その勇者と言うのはこの世界を闇に陥れた元凶である裏切りの勇者のことなのだろうか?

 

「今何か聞こえなかったか?まさかワシも、幻聴が聞こえる年齢に···」

 

「不思議な声が聞こえたけど、誰の声なの?」

 

「今、女の声が聞こえなかったか?」

 

「変な声が聞こえたけど、魔物の声ではなさそうだな」

 

どうやらみんなも聞こえているようなので、幽霊の仕業ではなさそうだな。でも、ヘイザンの言う通り魔物の声でもなさそうだ。

俺はみんなに、石像から声が聞こえたことを伝えた。

 

「みんなも聞こえたのか。多分その声は、そこにある石像から聞こえたはずだぞ」

 

「石像じゃと!?もしかすると···あの石像は本物の姫が封じられているのかもしれん!」

 

あの石像はローラ姫にそっくりな石像じゃなくて、石になった本人だったと言うことか?

確かに、あんなにそっくりなのだからあり得ない話ではないな。

 

「石像にせいすいを使えば元に戻るとはずじゃ!」

 

俺たちは石像の前まで走っていき、目の前でせいすいを振り撒く。

すると、さっきのようにせいすいは光を放って、大地を浄化していく。それと同時に目の前の石像も変化して、ラダトームの王女であるローラ姫になった。

「おお!石化の魔法が解けたのですね!誰なのですか、私の眠りを覚ましたのは?」

 

呪いを解かれたローラ姫は、体を動かせるようになって、とても驚いている。

まさか本当に、石像が本物のローラ姫だったとはな。

そして、姫は俺たちに気づいて、すぐに話しかけてくる。

 

「あなたが魔法を解いてくれたのですね···。あなたからは、とても不思議な力を感じます。いったい誰なのですか?」

 

ローラ姫は俺のことを聞いてきたので、いつもの自己紹介を始める。この自己紹介をするのも、これで何度目だろうな。

 

「俺は影山雄也。精霊ルビスから遣わされた、伝説のビルダーだ」

 

「ビルダー···?私は竜王がこの世界の空の光を奪ったことに絶望して自分を石に変えてずっと眠っていたので、最近のことはよく分からないのです」

 

世界が滅亡してから100年以上たっているはずだから、ずっと石像になっていたローラ姫がビルダーのことを知らないのは無理ないな。

ビルダーの伝説が作られたのは、世界が闇に包まれてからしばらく後のはずだ。

 

「ビルダーと言うのは、失われた物を作る力を持つ存在だ。この世界を復活させるためにいろいろな地域を巡っているんだ」

 

「おお!では、あなたの力があればこの闇に包まれたアレフガルドに光を取り戻すこともできるはずなのですね!」

 

ビルダーのことについて教えると、ローラ姫はこの世界に光を取り戻せるととても嬉しそうな顔をする。

俺は元から闇の元凶である竜王と裏切り勇者を倒すつもりだし、そうすれば世界の闇は晴れるだろう。

 

「ああ、俺もこの世界を必ず復活させるつもりだ」

 

俺がそう返事をすると、姫はさらに嬉しい顔になる。

その様子を見ていると、後ろにいた4人も姫に向かって自己紹介を始めた。

 

「石像が生きていたことに驚いて申し遅れていたのじゃが、ワシは予言者ムツヘタ」

 

「わたしはピリン。雄也と一緒に楽しい世界を作ってるんだ」

 

「ワシはゆきのへ、伝説の鍛冶屋の子孫だ」

「ワタシはヘイザン。ゆきのへの親方の弟子だ」

 

「雄也様にはお仲間もいたのですね!これならもっと心強いです」

 

姫を蘇らせることが出来たし、ラダトームの復興、アレフガルド全域の復活にもまた一歩近づくことが出来たな。

だが、そう思っていた矢先に、町の南の方から魔物の足音が聞こえてきていた。

 

「なんじゃ、このただならぬ気配は!?」

 

ムツヘタも魔物に気づいたようで、俺と同時に拠点の南の方角を向く。

すると、この拠点に向かってかげのきしが3体向かって来ていた。かげのきしの内の一体は他の2体より大きく、隊長のようだった。

 

「どうやら、姫の復活を竜王や他の悪しき者に気付かれてしまったようじゃ!」

姫の石化を解いてからまだ5分も経っていないと言うのに、もう気付かれてしまったのか!?

ここは竜王の城に近い場所だから、魔物もこちらの行動にすぐ気づくみたいだな。

 

「姫はようやく芽生えたこの地の希望。何としても、守りぬかねばならぬ!」

 

「ああ、何とか戦って倒さないとな。みんな、魔物が来たぞ!」

 

俺は姫と話していて魔物に気づいて着ないみんなに、魔物が来たことを伝える。すると、ピリンとヘイザンとローラ姫は家の中に隠れて行き、ゆきのへはひのきのぼうを持って駆けつけて来た。

 

「やっぱりここでも魔物の襲撃はあるみたいだな。雄也、いつものように倒していくぞ!」

「結構強力な魔物だけど、俺たちなら勝てるはずだな」

 

かげのきしは強力な魔物だが、これまで数多くの魔物を倒してきた俺たちなら勝てるはずだ。

そして、俺たちが話している間にかげのきしは拠点のすぐ近くまで迫ってきていた。

 

「必ず、この拠点を守り抜くのじゃぞ!」

 

ムツヘタは戦えないようなので、俺とゆきのへの二人で戦うしかなさそうだな。

俺たちはひのきのぼうを構えて、かげのきしの群れを迎え撃つ。ラダトームの拠点の防衛戦が始まった。

 

俺たちがひのきのぼうを使って殴りかかっていくと、まずは手前にいた2体のかげのきしが剣を使って斬りかかってくる。

「人間どもめ、竜王様に逆らわせはせぬぞ!」

 

「この地に希望はいらぬものだ!」

 

なので、俺が左にいるかげのきしと、ゆきのへが右にいるかげのきしと戦うことになった。二人同時に殴ればかげのきしも簡単に倒せそうだが、そう上手くはいかないようだ。

でも1対1の状況だから勝てないことはないはずだな。

 

「ここであんたたちを倒して、ラダトームを復興させてやるぜ」

 

俺は、剣を降り下ろしてきたかげのきしを避けて、横からひのきのぼうで殴り付ける。ひのきのぼうは最弱の武器ではあるが、かげのきしは少し怯み、ダメージを与えることは出来ているようだ。

そこで俺は、もう一撃殴り付けようとすぐにひのきのぼうを振り回す。だが、かげのきしは俺が思っていたより早く立ち直り、攻撃をしている俺を斬り裂こうとしていた。

「オレたちはこの死の大地に住む魔物だ。人間ごときに倒されはしない!」

俺はすぐに攻撃を中断して、かげのきしの剣を受け止めようとする。ひのきのぼうで攻撃を受け止めるのはキツそうだが、避けている時間はない。

そして、俺の持っているひのきのぼうに向かって、強力な一撃が放たれた。

 

「くっ、やっぱりかげのきしは強いぜ!」

 

なんとか受け止めることは出来たが、俺の右腕はかなり強く痛み、ひのきのぼうも傷ついていた。

 

「ビルダーめ、いくらお前でも竜王様に逆らうことは許されぬのだ!」

 

しかし、休んでいる暇もなくかげのきしは次の攻撃を放とうとしてくる。

今度は避ける時間があったので、俺は後ろにジャンプして、奴の剣をかわした。

 

「力も強いし、結構素早いな。回転斬りを使えば倒せるかもしれないけど」

俺はかげのきしが攻撃をした直後に回転斬りを使おうと思ったが、すぐに次の攻撃を始めてしまうため、なかなか使うことがなかった。

何とかして攻撃を止めないと、かげのきしを倒すことは無理そうだな。

 

「もう一回こいつの攻撃を受け止めて、弾き返すしかないか」

 

ひのきのぼうが壊れる可能性もあり、自分の腕も激しく痛むかもしれないが、かげのきしの攻撃を受け止めた後、思いきり攻撃を弾き返せば、回転斬りを放てるようになりそうだな。

まあ、ひのきのぼうが壊れてしまえば使えなくなるが、そこは賭けるしかない。

 

「今度こそ終わりだ、ビルダーの野郎め!」

 

「いや、終わりなのはそっちのほうだぞ!」

 

そして、俺のひのきのぼうとかげのきしの剣がぶつかり合い、大きな音が鳴る。俺の腕にも衝撃が走ったが、全力で押し返し、かげのきしの体勢を大きく崩すことが出来た。

かげのきしが動けなくなったのを見て、俺は腕に力をためて、解き放った。

 

「回転斬り!」

 

至近距離で回転斬りが直撃したかげのきしは体が砕け散って地面に転がる。

でも、まだ再生する可能性があるので俺は奴の頭蓋骨をひのきのぼうで叩き割った。

「強かったけど、まずは1体倒せたな」

 

かげのきしが青い光を放って消えていったのを見て、俺は今度は隊長のかげのきしに向かっていく。

ゆきのへはまだ右側のかげのきしと戦っているが、鍛冶屋の強力な一撃を何度も受けて、もうすぐ倒すことが出来そうなので、自分は隊長を倒すことに集中すればよさそうだ。

隊長のかげのきしに近づくと、奴も俺を殺そうと剣を振り上げてきた。

 

「よくもオレの部下を倒して、竜王様に反逆しようとしたな!決して生かして返さぬぞ!」

 

隊長と言っても、さっきのかげのきしより少し強いくらいのはずだ。俺は隊長の横に移動し、肋骨の部分を殴り付ける。

だが、隊長のかげのきしは全く怯まず、ほとんどダメージも受けていないようだった。ゲームで言えば、1ダメージ与えられたかどうかと言ったところだろう。

 

「こいつ、ほとんど攻撃が効いていないな」

 

それでも、何度も殴り付ければ倒せるだろう。だが、かげのきしは俺の次の攻撃の前に、素早く剣を振るってきた。

かわすことは出来そうなので、俺はかげのきしの横に動いて攻撃を避けて、もう一度ひのきのぼうを叩きつけた。

しかし、攻撃の直後なので次の攻撃は来ないだろうと思っていたが、隊長のかげのきしは一瞬の隙も与えず2回目の攻撃を放ってきたのだ。

俺はかわすことも受け止めることも出来ず、ひのきのぼうを持っている右腕を斬りつけられる。

 

「これで分かったかビルダーめ!やはり人間は弱い存在なんだ」

 

さっきのかげのきしと比べても、こいつはとても強い。鉄や鋼の武器があれば楽に倒せたかもしれないが、今はひのきのぼうしかない。

倒すのは難しそうだが、さすがにかげのきしも3連撃を放つのは無理なようで、俺はそのまま斬り刻まれることはなく、奴から離れることが出来た。

 

「2連続攻撃の後には少し隙が出来るから、そこで攻撃するしかないな」

 

攻撃を避けた後は、かげのきしの連続攻撃の後のわずかな隙にひのきのぼうを叩きつけ、次の攻撃をかわすと言うのを繰り返した。

その方法で数十回隊長のかげのきしを殴り付け大分弱らせたが、まだ倒れる気配はなかった。

 

「まだ倒れないのか、強すぎるな···」

 

俺は右腕を怪我しているので、いつも通りの力を出すのでやっとの状態だった。体力もかなり消耗しており、奴が倒れるまで動き続けられるかも分からないな。

そんな時、俺に降り下ろされたかげのきしの剣が、横からひのきのぼうで受け止められた。俺はいつも通りかわそうとしていたが、すぐに動きを変えて奴の頭を叩きつける。

 

「雄也、こっちも終わったぜ。あとはこいつだけだ」

 

ゆきのへも手下のかげのきしを倒して、隊長のかげのきしと戦いに来たようだ。俺もゆきのへも疲れているが、ここまで来たら勝つしかないな。

 

「ああ、二人でこいつを叩き潰すぞ!」

 

「ビルダーの野郎だけでなく、鍛冶屋の野郎もオレの部下を倒したのか!人間どもめ、よくも···!」

 

かげのきしはさっきと同じように2連続で攻撃を放とうとしてくる。俺はかわそうとしたがゆきのへは腕に力を込めて、思いきり攻撃を弾いた。

さすがはゆきのへだな。俺でも止められない攻撃も弾き返せている。

隊長のかげのきしはすぐに体勢を立て直し、俺たちを斬り裂こうとしていたが、ゆきのへはそれを防ぐために、奴の頭の上にひのきのぼうを砕けるほどの勢いで殴り付ける。

 

「雄也、そろそろとどめをさすぞ!」

 

かげのきしはもうすぐ倒れるほどになっていて、俺もとどめをさすためもう一度腕に力を溜める。

右腕はまだ痛んでいるが、いつも以上の威力になるように力を溜めて、かげのきしをなぎはらった。

 

「これで終わりだ、回転斬り!」

 

そして、隊長のかげのきしは青い光を放って消えていった。最初の襲撃から強い魔物が来たけど、拠点を守り抜けたようだな。

隊長が倒れたところを見ると、青色の旅のとびらが落ちていた。

 

「これで勝ったみたいだな。旅のとびらも手に入ったぜ!」

 

「でも、今日は戦いで疲れているからな、休んでおくぜ」

 

旅のとびらの先の探索にも行きたいが、ゆきのへの言う通り休んだほうがいいな。

俺たちは旅のとびらを回収してポーチに入れ、拠点の家の中に戻っていく。

 

その途中、俺にだけのようだが恐ろしい声が聞こえた。

 

「うおおああーーっ!ヒカリ···ひかり···眩しい光···!光などこの地には要らぬ。世界の半分はオレの···オレのォオー!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode87 始まりにして、終わりの地

俺はラダトームの拠点の防衛戦に勝った日の夜、またしても裏切りの勇者の記憶の夢を見た。

勇者の夢を見るのはこれで7回目で、どうして人類を、世界を裏切ったのかは分かってきている。奴と対決するのは、いつになるのだろうか。

そんなことを考えていると、夢の中で勇者は魔物を従える王である竜王の部屋に入っていった。

竜王は勇者のことに気づいて、話しかけてくる。

 

「わしは待っておった。そなたのような若者が現れることを」

 

ドラクエ1ではここで竜王と問いにいいえと答えて、竜王を倒せばゲームクリアになる。

だが、この荒廃したアレフガルドでは、勇者は「はい」の返事をしたはずだ。俺は、その時の記憶を夢として見ているようだな。

竜王と勇者の様子をしばらく見ていると、竜王は例の問いかけを始めた。

 

「もし、わしの味方になれば世界の半分をお前にやろう。どうじゃ?わしの味方になるか?」

 

さすがに勇者も、本当に世界の半分を貰えるとは思っていないだろう。

だが、竜王の味方になれば自分に責務を押し付けた人間たちから解放されると考えたようだな。

勇者はしばらく考え込んだのち、

 

「はい」

 

と返事をした。

すると、竜王は勇者が持っているロトのつるぎを差し出すように言う。

 

「よろしい!では、わしらの友情の証として、その剣を貰うぞ」

 

勇者はロトのつるぎを渡すことも少しためらっていたが、結局竜王を倒すと言う選択肢を選ばず、渡すことにしたようだ。

そこで、竜王はうまく勇者を騙せたと思い、笑みを浮かべる。

 

「ほほう、すでにこの剣を手にしていたか。だが、それはどうでもいいことじゃ。わしからの贈り物を受けとるがよい!そなたに世界の半分、闇の世界を与えよう」

 

その後、世界の半分、闇の世界を貰えると言われた勇者がどうなったかは分からなかった。

それは、竜王や勇者本人に会って確かめるしかなさそうだな。

そこで俺の意識は途切れて、気がつくと拠点にある家のわらベッドの上にいた。

 

ラダトームに来て2日目、俺が起きていた時はみんなももう起きていた。

昨日の戦いで受けた傷も、寝る前にきずぐすりを塗ったのできれいに直っていた。

今日は昨日手に入れた、青色の旅のとびらの先の探索に行きたいな。

 

「さっそく旅のとびらを設置して、探索に出掛けるか」

 

俺が旅のとびらを設置すると、とびらの中心から強い光が放たれ、驚いたローラ姫とムツヘタが駆け付けてきた。

 

「おお、雄也様!旅のとびらを手に入れていたのですね」

 

「ああ、これから探索に向かうつもりだ」

 

ローラ姫は長い間石になっていたのに、旅のとびらのことを知っているんだな。

俺が探索のためにとびらに入ろうとすると、2人はかつての王都ラダトームがあった場所に行ってほしいと頼んできた。

 

「雄也よ、お主にはこの旅のとびらを使って、かつての王都ラダトームの城の跡地を目指して貰いたい」

 

「そこで希望のはたを探して、城の跡地に立てれば、光が溢れて精霊ルビスの加護を受けられるはずです」

 

ローラ姫が言うには、希望のはたはラダトームの城の近くにあるのか。

それと、希望のはたを立てるのは今俺たちがいる拠点じゃなくて、ラダトームの城の跡地なのか。

ここはあくまで、仮の拠点といったところなんだな。

 

「分かった。ラダトームの城のところに行って、希望のはたを見つけてくるぜ」

 

水場にあったアレフガルド歴程には、ラダトームの城は闇と呪いの中心になっていると書いてあったけど、恐れる訳にはいかないな。

ラダトームを復興させるために、何としても希望のはたを見つける必要がある。

「お願いします、雄也様。私はここで、精霊ルビスにあなたのご無事をお祈りしています」

 

俺がローラ姫に見送られ、青の旅のとびらに入ろうとすると、ムツヘタがシャナク魔法台を持っていくといいと言った。

 

「待て、せいすいを作るために、シャナク魔法台を持っていったほうがよいじゃろう」

 

確かに、ラダトームの城の近くも間違いなく死の大地になっているだろうから、現地でせいすいを作れたほうがいいな。

俺はシャナク魔法台をひのきのぼうで叩いて回収し、今度こそ旅のとびらに入る。

 

「これで準備は完了だし、ラダトームの城へ出発するぜ」

 

旅のとびらに入ると俺の視界は真っ白になり、新たなる地へと移動した。

 

俺が移動した先は、拠点の近くと同じように辺り一面が灰色の世界になっている場所だった。

そして、かなり遠くの方には、崩れ落ちたラダトーム城と思われる大きな廃墟が見える。

 

「あれがラダトーム城か。希望のはたがどこにあるかまだ分からないし、とりあえずは城を目指さないとな」

 

俺がラダトーム城の廃墟を目指そうとしていると、昨日ラダトームに着いた時よりもはっきりした、ルビスの声が聞こえた。

 

「雄也よ。ついに運命の地、ラダトームに着いたのですね。その地では私の力も限られていますが、姫の祈りで今はあなたの姿がよく見えます」

 

ローラ姫の祈りにそんな力があったとは知らなかったぜ。

兎に角、姫の祈りのおかげで普通に会話ができるようになったから、改めて俺にラダトームのことを教えに来たみたいだな。

 

「そこはラダトームと呼ばれていた地。あなたが最後に救うべき場所です」

 

最後に救うべき地か···そう言えば、俺たちはメルキド、リムルダール、マイラ、ガライヤと裏切り勇者の旅路を逆行する順番で世界を復興させてきているんだよな。

それでついに、勇者の旅が始まった場所にまでたどり着いたと言う訳か。

俺がそう思っていると、ルビスはラダトームの説明を始める。

 

「かつては輝きに満ち、人と物で溢れる王都がありましたが、とある戦士の裏切りで、荒れ果てた死の大地に変わり果てています」

ラダトームがここまで荒廃していたのは、竜王だけじゃなくて、裏切り勇者の影響もあったからなのか。

どちらと先に戦うことになるかは分からないが、やはり両方倒さなければアレフガルドに未来はないみたいだな。

でも、今は兎に角希望のはたを見つけて、ラダトームを再建しなければいけない。

 

「さあ、今はまっすぐ進み、ラダトームの城を目指しなさい。そして、希望のはたを見つけて、台座に突き刺すのです。すべては精霊の導きのままに」

 

ラダトームについての話を終えると、ルビスはいつものセリフを言って去っていった。

希望のはたの手がかりが見つかるかもしれないから、ルビスに言われた通りラダトームの城跡を目指すべきだな。

俺は旅のとびらのある場所から城が見える方角へと歩き始めた。

 

ラダトームは闇の中心になっているのだから、強力な魔物だらけだと思い俺は警戒しながら進んでいく。

だが、生息していたのはスライムやスライムベス、ブラウニーと言った弱い魔物が多かった。

 

「こんな場所でも、結構弱いモンスターがいるんだな」

 

でも、強力な魔物であるかげのきしもいたので、俺は魔物たちを避けながらラダトームの城へ歩いて行った。

途中、使える素材がないか調べてもみたが、やはりほとんどの植物が枯れ果てていて、鉱石なども見つけることは出来なかった。

 

「新しい素材も特にないみたいだな」

俺はその後も探索をしながら城へと向かっていく。

そして、旅のとびらを出て20分くらい歩き続けて、遠くに見えたラダトームの城にたどり着いた。

 

「ここがラダトームの跡地か、かなり荒れ果てているな」

 

ラダトーム城の中に入ってみると、そこら中に人の骨が落ちていたり、枯れ果てた植物が生えていた。

地面がそんな状態なので、城の中を調べることが難しかった。まずは骨と枯れ草を片付けないと、復興させる時も邪魔になるだろう。

 

「せいすいで浄化してから、ひのきのぼうで刈り取るか」

 

骨や枯れた植物はそのままでも片付けることは出来るが、せいすいを使えば役に立つ素材に変化させられるはずだ。

俺はポーチからシャナク魔法台を取り出して城のすぐそばに設置する。

その後、今持っているきれいな水全てにビルダーの魔法をかけた。

新しいせいすいを20個作ることができ、これなら城全体の呪いを解くことも出来そうだった。

 

「これでせいすいが出来たな。さっそく城の中で使ってみるか」

 

俺はせいすいを使ってラダトームの城の地面にかけられている呪いを解いていった。20個以上せいすいを持っていたので、城を全て浄化してもまだ多く残っている。

呪いが解けた後は、骨や枯れ草は白い花やくすりの葉、じょうぶな草に変化していた。

骨が白い花に変わったのは不思議に思うが、白い花が骨の見た目に変えられたと言うことなのだろうか。

とりあえず、どの植物も使える素材なので、俺はひのきのぼうを使って刈り取って行った。

 

「これで城の地面もきれいになったし、たくさん素材も集まったな」

 

これだけ白い花やくすりの葉があれば怪我をしてもすぐに治療できるだろう。

集め終えると、俺は手に入れた素材を全てポーチにしまった。

 

それから、改めて城の中を調べ始める。

城の中を調べていて、まず最初に目に入ったのはメルキドでも使ったことのある石の作業台と、その近くに置いてあった見慣れた本だった。

 

「石の作業台とアレフガルド歴程か。これでこの本も6冊目になるな」

 

俺はまず、石の作業台の近くに置いてあったアレフガルド歴程を読むことにする。ガンダルは王都ラダトームがあった場所に向かうと書いていたから、その時のことを記したのだろう。

仮拠点の近くの水場にあった物にせいすいの情報が書いてあったから、こっちにも役立つ情報が書かれているかもしれないな。俺は6冊目のアレフガルド歴程を開き、読み始めた。

 

おお!我が故郷メルキドを出発して幾年月、ついに私は、ラダトームの城に行き着いた。しかし、この地は噂に違わぬ死の世界。光も希望もなく、ここには闇と呪いしかない。かつては反映を極めたラダトームの町も、今や荒れ果て見る影もないのだ。聞くところでは、この地のどこかに人々の希望を背負いながら最後の最後に裏切った、闇の元凶が住んでいるらしい。しかし、今の私には、それは関係のないことだ。私にはもう、旅を続ける力は残されていない。私はこの地を旅の終着点にしようと思う。もし、私の旅の記録をはるかメルキドの地からここまで追ってきてくれた者がいたならば、私の辛く悲しい旅は無駄ではなかった。ここに、その感謝の想いを伝えておく。

 

この人も俺たちと同じように、裏切り勇者の旅路を逆行する形でアレフガルドの各地を巡っていたみたいだな。

この本を読んでも、裏切りの勇者がラダトームにいると言うのは間違いないようだ。

感謝の想いを伝えたいとあるが、アレフガルド歴程には役に立つ情報がたくさん書かれていて、俺からも感謝しないといけない。

俺はガンダルへの感謝の気持ちを持ちながら、ページをめくった。そこには、俺が探している希望のはたについて書かれていた。

 

最後に···万が一を考えて記しておこう。もしも、この死の大地に光を取り戻すのなら、魔物に奪われた希望のはたを取り返すことだ。希望のはたは、ここから南にある、魔物たちが建てた新しい城の中にあると言う。魔物は強く、城の内部は入り組んでいる。最大限の準備をして向かうのだ。おお!私の記録を読む後の時代の冒険者よ。ラダトームを再建し、アレフガルドを復活してくれ!

メルキドの冒険家 ガンダル

 

これによると、希望のはたは南にある魔物の城に奪われているみたいだな。

この情報を残してくれたガンダルのためにも、アレフガルドの復興を祈るみんなのためにも、必ず見つけ出さなければならない。

しかし、魔物の城には昨日戦った隊長のかげのきしと同レベルか、それ以上に強力な魔物がいる可能性があるな。

石の作業台があるのでおおきづちは作れるが、それでも勝てるとは思えない。

 

「魔物の城に向かうには、鉄や鋼の装備がいりそうだな」

 

鉄が見つかれば炉や強力な武器も作れるが、この地方ではまだ見たことがない。

でも、ラダトームの城周辺もまだ探索してない場所が多いので、もう少し探したほうが良さそうだな。

 

「おおきづちを作って、鉄を探しに行ってくるか」

 

俺は拠点の近くで拾ったふとい枝3つをビルダーの魔法で加工し、採掘用のおおきづちを作る。

そして、鉄を見つけるためにまだ行ったことのないラダトーム城の西へ向かっていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode88 希望の奪還

俺が鉄を探すためにラダトーム城の西に歩いていき5分くらいたつと、俺の視界に気になる物が見えてきた。

 

「何だあれ?ブロックが空中に浮いてるな」

 

地面が血のように赤い土でできている場所があり、その近くにはマドハンドの色違い、ブラッドハンドが生息している。

真上には、骨が埋まっているブロックと、竜王の顔が書かれたブロックがたくさん集まった塊があった。

そのブロックの塊の下には、文字が書かれている看板がある。

 

「これが何なのか、あの看板に書いてあるかもしれないな」

 

ブロックの塊について何か分かるかもしれないので、俺はブラッドハンドを避けながら赤い土の上を歩いていき、その看板を読み始める。

その看板には、メルキドで俺を助けてくれたことのある魔物、おおきづちのメッセージが書かれていた。

 

竜王様の命により、鉄と石炭に呪いをかけ、空に浮かべてやった。せいすいの力なくば、人間は二度とそれらを手に入れることは出来ないだろう。

ガンバレ、ニンゲン!おおきづちはニンゲンの味方だ!

 

おおきづちは人間の味方か···メルキドでも俺たちを助けてくれたが、ラダトームでも助けてくれるとはな。

あのおおきづちの長老に感謝しないといけないぜ。

それと、この宙に浮いているブロックは、呪われている鉄と石炭だったのか。

 

「鉄と石炭と石材があれば、神鉄炉が作れたはずだな。さっそくせいすいを使って集めるか」

神鉄炉には、炉と金床から強化する方法だけでなく、いきなり作るという方法もあったはずだ。

そっちの方法なら銅は必要ないはずだし、ラダトームでも作れるはずだな。

俺はブロックを積んで呪われた鉄と石炭の塊に登っていく。

そこでせいすいを振り撒くと、骨が埋まっているブロックは石炭に、竜王の顔が書かれたブロックは鉄に変化した。

 

「これで呪いは解けたし、おおきづちで採掘して行くか」

 

俺はブロックが鉱脈に変化したのを見て、おおきづちを使って採掘していく。

塊の下半分は黒い岩があって取ることは出来なかったが、上半分でもそれぞれ3~40個の鉄と石炭を集めることが出来た。

「鉄と石炭を集めることが出来たし、あとは石材を集めながら城に戻るか」

 

俺は鉄や石炭をポーチの中にしまい、地面に降りてラダトームの城へと戻っていった。神鉄炉を作るには石材が10個必要なはずなので、途中大きな石を5個砕いて、石材を集めていった。

そこから5分くらい歩き続けて、俺はラダトームの城跡へ戻ってきた。

 

「石材も集めて城まで戻ってきたし、すぐに神鉄炉を作ってそこから鋼や鉄の武器を作るか」

 

俺は、石の作業台の前でビルダーの魔法を発動させる。そして、石材10個、鉄10個、石炭5個を消費して、神鉄炉を作り上げることが出来た。

マイラでゆきのへとヘイザンが作ってくれた物に比べれば輝きは劣るが、それでも強力な鋼の武器を作れそうだった。

神鉄炉が出来ると、俺はすぐに設置して、今持っている鉄を全て鉄のインゴットに加工する。大量に鉄があったので、50個以上の鉄のインゴットを作ることが出来た。

 

「鉄のインゴットが出来たから、はがねインゴットも作るか」

 

俺は鉄のインゴットを8個使い、5個のはがねインゴットを作った。

鉄のインゴットも使う機会が多いので、全てを加工することはできないからな。

 

「これではがねのつるぎが作れるようになったな。ウォーハンマーも作りたいけど、さそりの角がないんだよな」

 

それから俺は、右手に持つためのはがねのつるぎと左手に持つためのおおかなづちを作り出す。

鉄や鋼の武器で二刀流にすれば、どれだけ強力な魔物でも倒すことが出来るだろう。

 

「これで武器も作れたし、そろそろ魔物の城に向かうか」

 

俺は武器を作り終え、準備が完了したので魔物の城に向かって歩いていく。

魔物の城はかなり遠くにあるようでここからは見えないが、アレフガルド歴程に書かれていることを信じて、ラダトームの城の南へと進んでいった。

城から歩き始めて15分ほど経つと、枯れ木がたくさん生えている森があり、その向こうに城が見えてきた。

 

「この枯れ木の森を抜ければ魔物の城があるのか。でも、この森にも強い魔物が結構いるな」

 

その森には隊長と同じくらい大きいかげのきしや、まどうしが生息している。今なら倒せると思うが、必要のない戦いを避けるために俺は隠れながら進んで行った。

そして、枯れ木の森の中を進み始めて20分くらい経ち、ようやく魔物の城の入り口にまでたどり着く。

 

「ここがラダトームの魔物の城か。一人で乗り込まないといけないけど、必ず勝てるはずだ」

 

本当はゆきのへと来たかったが、ゆきのへがいない間に仮拠点を攻められるとみんなが危ない。だから、一人で戦うしかなさそうだな。

入り口のはがねの大とびらを開けて城の中に入ろうとすると、魔物の声が聞こえてきた。

 

「そこにいるのは誰だ?お前はまさか人間、伝説のビルダーなのか?」

 

「ああ、希望のはたを取り返しに来たぜ」

 

「そんなことが出来ると思うなよ。命が惜しいなら、諦めてとっとと立ち去れ!」

魔物たちもそう簡単に希望のはたを渡すつもりはないようだな。そらなら、力づくで奪い返すまでだぜ。

俺はとびらを開いて、魔物の城の中に入って行った。

すると、4体のかげのきしと、あくまのきしのさらに上位種であるしにがみのきし1体が俺に気付き、武器を構える。

 

「愚かなビルダーめ、本当に来たとはな。ここに来たからには、生きて帰さんぞ」

 

しにがみのきしは俺に向かってそう言ってくる。さっき入り口で聞こえた声とは違う声なので、こいつがこの城のボスではないだろう。

でも、こいつも倒さなければ、希望のはたを手に入れることは出来ないな。

 

「ここで帰るつもりはない。あんたたちを倒して、希望のはたを取り返すさ」

「ならばお前を斬り刻んでやらねばならんな。行くぞ!」

 

しにがみのきしは手下であるかげのきしたちを率いて、俺に斬りかかって来る。ラダトームの魔物の城での戦いが始まった。

 

今回はいきなりリーダーであるしにがみのきしが最初に斧を降り下ろしてくる。かなり威力が高そうなので、俺は攻撃をかわし、その隙に奴の鎧を斬りつけた。

はがねのつるぎを使ったので、かなり大きなダメージを与えたはずだが、まだ倒れる気配はない。

俺はすぐに左腕に持つおおかなづちでもしにがみのきしを殴り付けようとするが、奴はすぐに体勢を立て直して、攻撃を受け止めてくる。

かなり威力は高いがおおかなづちを使っているので押しきることが出来そうだ。しかし、しにがみのきしを援護するために4体のかげのきしも襲いかかってくる。

「この人間め!しにがみのきし様を傷つけはせぬぞ!」

 

「ビルダーごときがオレたちに勝てる訳がないんだよ!」

 

このかげのきしは普通の大きさで枯れ木の森にいた奴等より小さいが、かなり攻撃力が高そうなので、俺はしにがみのきしへの攻撃を中断し、後ろに下がる。

奴らは自分たちが絶対に勝つと思っているようだが、俺の二刀流での回転斬りには耐えられないだろう。

俺が腕に力を溜めようとしているのを見て、かげのきしは何とかそれを止めようと剣で斬りかかってくる。

なので俺は、回転斬りを使うのを中断し、かげのきしの2連続の攻撃を避けながらはがねのつるぎとおおかなづちで奴らを叩き斬っていく。

「おのれ、この人間め!」

 

「ここまでオレたちを攻撃するとは許さんぞ!」

 

俺がかげのきしたちを追い詰めると、奴らはこれまで以上に早いスピードで鋭い剣を振り回してくる。

それでも、対応しきれないほどではないので、俺は2連続攻撃の後の僅かな隙にかげのきしを攻撃していった。

二刀流なので一度に2体を攻撃することもでき、奴らはかなり弱ってきていた。

 

「結構素早い奴らだけど、倒せないことはないぜ」

 

かげのきしたちが弱ってきているのを見て、後ろにいるしにがみのきしも攻撃を仕掛けてくる。

奴は武器を振り回したまま、俺に向かって突進してきたのだ。

 

「愚かなビルダーめ、5体に囲まれては何もできまい!このまま死ぬがいい!」

 

俺はすぐにそれに気づいて回避しようとしたが、かげのきしたちがそれを妨害してくる。

 

「かげのきしたちが邪魔だし、受け止めるしかないな」

 

奴の突進を受け止めている間にかげのきしから攻撃を受ける可能性もあるけど、あれを防がないと危険だ。

俺は突進してきたしにがみのきしを両腕の武器で受け止め、思いきり弾き返す。

 

「くっ、結構重いな!」

 

すぐには弾き返せず、俺はかげのきしに何ヵ所か腕を斬りつけられる。

突進の衝撃と切り傷で俺の腕も強く痛んだが、そこでしにがみのきしは体勢を崩して、動けなくなっていた。

でも、すぐに次のかげのきしの攻撃が来てしまう。

 

俺は腕の痛みを我慢して攻撃を避け続け、一瞬の隙に二刀流で攻撃し、奴らの体を砕いていく。

何度も攻撃を受けてかげのきしは追い詰められていて、動きも鈍くなってきていた。

 

「そろそろかげのきしは弱っているな。とどめをさすか」

 

俺はかげのきしたちが弱っているのを見て、とどめに強力な一撃を放っていく。

回転斬りを使うのは難しいので、それぞれの頭蓋骨を砕いていき、かげのきし4体を全滅させることが出来た。

 

「よし、これでかげのきしたちは倒せたぜ!あとはしにがみのきしだけだ」

 

かげのきしを倒した後、休む暇もなくしにがみのきしが俺に斬りかかってくる。

突進を弾き返されて体勢を崩していたが、もう立て直したみたいだな。

 

「よくも我の部下たちを倒してくれたな、このビルダー野郎め!」

 

しにがみのきしは怒って俺を叩き斬ろうとしてくる。あくまのきしの上位種だけあって、その攻撃力は怒り狂ったあくまのきしより強い。

はがねのつるぎを使っても押し返されそうになるが、俺は腕に力を溜めて受け止め続ける。

そしてその間に俺は、左手に持ったおおかなづちを振り回し、しにがみのきしの頭を殴り付ける。俺は荒くれたちほどの力はないが、奴の兜をへこませることが出来た。

頭を殴り付けられ、しにがみのきしは少し怯む。俺はその隙を逃さず、奴の心臓へとはがねのつるぎを突き刺した。

 

「ぐあっ!まさか我らが、ビルダーごときにやられるとは···」

 

最後にそう言って、しにがみのきしは青い光になり、消えていった。

 

「腕を斬りつけられてしまったけど、これで5体とも倒せたな」

 

この世界で何度も魔物と戦ってきて、戦闘にはかなり慣れているが、それでもラダトームの魔物は強い。

もし二刀流を使っていなければ倒すことは出来なかっただろう。

でも、こいつらを倒せたとしてもこの城にはまだ強力な魔物がいるはずだ。

 

「きずぐすりを塗ったら上の階に行くか」

 

俺はポーチからきずぐすりを取りだし、かげのきしに斬りつけられたところに塗る。

痛みが消えていくのと同時に、俺は奥の階段を登って2階に登っていった。

 

2階は狭い通路になっていて、魔物の姿は見かけられなかった。だが、俺は警戒をゆるめず奥へと進んでいった。

すると、3階に続く大きな階段の前で、2体のかげのきしを見つけた。

恐らくは3階に希望のはたが隠してあり、俺をそこに行かせないようにしているのだろう。

2体とも俺に背後から襲われないように、常にまわりを見回している。2体くらいなら同時に相手をしても簡単に勝てそうなので、俺は正面から斬りかかっていった。

 

「まさかここまで来るとはな···この上には行かせんぞ!」

 

「希望のはたを渡す訳にはいかん!」

 

俺はさっきと同じように奴らの剣での攻撃をかわし、わずかな隙に武器を叩きつける。だが、かげのきしは1階にいた奴らより隙が少なく、素早く剣を振ってきていた。

俺は攻撃をした後、かわす暇もなく剣を降り下ろされ、とっさに右腕のはがねのつるぎで受け止める。

もう一体のかげのきしも俺を斬りつけてきたが、そっちも左手のおおかなづちで防ぐことが出来た。

攻撃力もかなり高く、さっききずぐすりを塗ったはずの腕の傷が、再び痛んで来るほどだった。

 

「こいつら、かげのきしの中でも結構強いな。さっきのしにがみのきしと同じくらいか?」

 

威力の高い攻撃だが、俺は何とか腕に力をこめて、かげのきしたちを弾き返す。奴らの体勢を崩せば、その間に倒すことが出来るだろう。

俺の腕もかなりのダメージを受けたが、かげのきしたちは剣を落とし、動きを止めた。これでしばらくは無抵抗の状態に出来たな。

すぐに立て直すだろうから、今のうちに倒さないといけない。俺は右のかげのきしにはがねのつるぎ、左のかげのきしにはおおかなづちを思いきり叩きつけ、奴らの頭蓋骨を粉砕した。

でも、がいこつ系の魔物には再生力があるので俺はさらに追撃をかけて、全身の骨を破壊してとどめをさす。

 

「これで2階にいる奴らも倒せたな!あとは3階の魔物を倒せば、希望のはたを取り返せるはずだぜ」

 

恐らく3階には、かげのきしやしにがみのきしよりさらに強大な魔物がいるだろう。でも、ここまで魔物を倒してきたのだから、必ず勝てるはずだ。

俺はかげのきしを倒した場所をあとにして、3階に続く階段を登っていく。

 

3階には、大広間のような部屋になっていて、その部屋の一番奥に希望のはたが入っていると思われる宝箱がある。

しかし、その前にはしにがみのきしが2体、まどうしが2体、マイラでも見たトロルの上位種、ボストロールが立ち塞がっていた。

入り口で聞こえた声も、ボストロールのものだろう。

 

「人間め、ここまでたどり着いただと!?まあいい、ここでお前を消し去ってやるぞ」

 

ボストロールたちを倒せば、希望のはたを取り返すことが出来るだろう。絶対に負けることの出来ない戦いだな。

 

「こっちこそ、お前を倒して希望のはたを手に入れてやるぜ!」

俺も魔物たちも武器を構えて、魔物の城の3階での戦いが始まった。

最初に、階段の近くにいた2体のしにがみのきしが俺に向かって斧を振り回してくる。

後ろにいるボストロールも巨大な棍棒を持ってこっちに向かってきているが、ゆっくりな動きなのでまずは俺はしにがみのきしと戦うことにした。

左右から降り下ろされる斧を俺は二刀流で受け止めた。だが、そのしにがみのきしの力が強く、俺の腕も傷をしているので弾き返すことは出来なかった。

 

「力が強くて弾き返せないか。避けながら攻撃した方が良さそうだな」

 

俺はさっきのかげのきしのようにしにがみのきしの攻撃を弾き返して、怯んだところで倒そうと思っていたが、作戦を変えて避けながら攻撃することにした。

俺はしにがみのきしの斧をかわし、奴の腕をはがねのつるぎで斬り裂く。2体しかいないので、1階で戦ったかげのきし4体よりも倒しやすそうだ。

だが、しにがみのきしと戦っていたところに火の玉が飛んできた。

 

「人間を焼き尽くせ、メラ!」

 

後ろにいた2体のまどうしがしにがみのきしを助けるためにメラの呪文を唱えたようで、俺は攻撃を中断してかわした。

マイラでも思っていたが、まどうしのメラは本当に厄介だな。倒しに行こうと思っても、目の前のしにがみのきしが防いでくる。

 

「メラも避けながらしにがみのきしを倒すしかないか」

 

俺は遠くにいるまどうしと近くにいるしにがみのきしの動きを見切りながら、武器を振るってダメージを与えていく。でも、その間に遠くにいたボストロールが俺のすぐそばまで迫ってきていた。

「ビルダーめ、叩き潰してやるぞ!」

 

ボストロールはしにがみのきしと戦っている俺に向かって棍棒を降り下ろす。

さすがにボストロールの攻撃は二刀流を使っても防げるかは分からないので、俺は後ろに大きくジャンプして回避する。

 

「先にしにがみのきしを倒したいけど、ボストロールが邪魔だな」

 

しにがみのきしとの戦いに集中したいが、ボストロールは次々に棍棒を降り下ろしたり、俺が階段の近くにいると大きな手で突き落とそうとしてくる。

俺はボストロールを避けるのが大変で、なかなかしにがみのきしを倒すことが出来なかった。

そんな中で、しにがみのきしは2体同時に突進の構えをとった。

 

「ビルダーは追い詰められている、これで終わりにするぞ!」

 

「所詮は人間。我々に敵うはずのない奴だ」

 

至近距離での突進をくらえば、全身の骨がバラバラになって死んでしまうかもしれない。ボストロールのせいで避けることも出来ないので、受け止めるしかなさそうだ。

俺は2体のしにがみのきしの突進をはがねのつるぎとおおかなづちで受け止める。腕に激痛が走るが、何とか止めることは出来た。

しかし、しにがみのきしの攻撃を止めている間に、ボストロールが棍棒を降り下ろす。

 

「くそっ、でもここで倒されるかよっ!」

 

俺は渾身の力でしにがみのきしの突進を止めて、ボストロールの攻撃を避ける。しにがみのきしもボストロールも、攻撃の反動で動けなくなっていた。

腕の骨が砕けたような痛みを感じるが、チャンスは今しかないので、俺は腕に力を溜めて、2つの武器で奴らをなぎはらった。

 

「回転斬り!」

 

二刀流での回転斬りを受け、2体のしにがみのきしは倒れて、ボストロールも大きく怯む。

さすがは二刀流の回転斬りだな。どんな強力な強力な魔物であろうが、絶大なダメージを与えることができる。

 

「これで何とか、しにがみのきしを倒せたぜ。次はまどうしだな」

 

しにがみのきしを倒した俺は、ボストロールが怯んでいる間に部屋の奥でメラを撃っているまどうしを倒しに行った。

まどうしが邪魔をすれば、ボストロールを倒すのも大変になるからな。

まどうしは近接戦闘は苦手であり、近づくことができれば簡単に倒すことが出来る。

俺はメラの呪文をかわしながら左にいるまどうしをはがねのつるぎで斬りつける。その後、反撃する暇を与えないようにおおかなづちを叩きつけた。

 

「我の仲間に何をするのだ!くらえ、ベギラマ!」

 

俺がまどうしと戦っていると、もう一体のまどうしがギラ系の呪文であるベギラマを放ってきた。ラダトームにいるまどうしは、こんな呪文も使えるのか。

俺はベギラマの呪文をかわすことは出来たが、目の前にいたまどうしにも体勢を立て直されてしまった。

 

「よくもここまで追い詰めてくれたな、人間め!」

 

2体のまどうしは俺に向かってメラやベギラマの呪文を撃ち続ける。

でも、魔力には限界があるようで呪文の勢いが弱まって来ていた。

 

「そろそろ魔力が切れてきているみたいだな。今なら倒せそうだぜ」

 

俺は弱ってきたところを狙い、2体のまどうしに近づいて斬り刻んでいく。奴らは必死に反撃しようとしていたが、魔力が尽きて強力な呪文を使えなくなっていた。

まどうしを倒すと、初めて見る赤色の布を落とした。素材になりそうなので拾いたいが、今はボストロールを倒さないといけないな。

ボストロールは体勢を立て直し、俺に近づいて棍棒を振り回してくる。でも、回転斬りで弱っているために動きはさっきより遅くなっていた。

俺は攻撃をかわして後ろに回りこみ、ボストロールの背中をはがねのつるぎで突き刺す。

ボストロールはそこで回転斬りのように棍棒を一回転させて、俺をなぎはらおうとしていたが、俺は左手のおおかなづちで奴の足を殴り付け、バランスを崩させた。

ボストロールは立ち上がろうとするが、俺はそれをさせないために、奴に向かってもう一度回転斬りを放った。

 

「希望のはたは取り返してやるぜ、回転斬り!」

 

そして、ボストロールの生命力を尽きさせて、青い光へと変化させていった。

これでラダトームの魔物の城にいる敵は、すべて倒すことが出来たな。

 

「厳しい戦いだったけど、これで希望のはたを手に入れられるな」

俺はまどうしが落とした赤色の布を拾ってから、部屋の奥にある宝箱のところに行く。

開けてみると、中には青色の希望のはたが入っていた。これまでの希望のはたと違い、最初から整った形になっている。

俺が希望のはたを手に取ると、ルビスの声が聞こえてきた。

 

「雄也、ついに希望のはたを手に入れたのですね。それを持って、ラダトームの城の跡地に立てるのです」

 

ラダトームの城の中央には希望のはたの台座があったので、そこに立てればいいのだろう。

これでようやくラダトームの復興を始められるな。

俺が希望のはたを手に入れたことを喜んでいると、ルビスは続ける。

 

「そして、ラダトームの城を復興していけば、あなたのビルダーとしての役割も終わりを迎えるでしょう」

 

ビルダーの役割を終えるってことは、ついにアレフガルド全域を復興させるってことだな。ラダトームを再建するのも大変そうだが、頑張って行かないといけない。

俺は希望のはたを持って魔物の城を出て、ラダトームの城跡へ向かった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode89 城の再建(前編)

希望のはたを手に入れて魔物の城からでた後、俺は30分くらい歩いてラダトームの城に戻ってきた。

城の中心にある台座にこの旗を立てれば、ルビスの加護を受けて光が溢れるはずだ。

俺は台座に登り、ポーチから希望のはたを持ち上げる。これから、ラダトームの城の復興が始まって行くんだよな。

そして、俺は台座に希望のはたを突き刺して立てる。すると、ラダトームの城全体に暖かい光が溢れた。

 

「あとはここにみんなを連れて来て、城を再建して行くぜ」

 

俺は、希望のはたを建てたことをみんなに教えるために仮拠点に向かおうとした。俺が歩き始めると、再びルビスの声が聞こえてきた。

 

「雄也よ、よくやりましたね。そこが、この地でのあなたの拠点となるでしょう。あなたには、物を作る力を持つ者として、ここで果たさなければならない使命が二つあります」

 

二つと言うことは、ラダトームの城の再建以外にも、しなければいけないことがあるみたいだな。

 

「一つは王都ラダトームの再建。そしてもう一つは、失われた武器や防具、そして竜王を倒すための道具を新たに作り、この世界を闇に覆われる前の状態に戻すことです」

 

闇に覆われる前ってことは、ドラクエ1で勇者が旅出った時のような状態に戻すってことか。

でも、それだと竜王はまだ倒されていない状態のはずだ。

「待て、その話だと俺が竜王を倒す必要はないということか?」

 

「はい。ビルダーの役目はアレフガルドを復活させることで、竜王を倒すことではありません」

 

ここまで来て初めて聞いたけど、俺の役割はあくまで世界が闇に閉ざされる前の状態に戻すことだけなのか。

でも、これまで復興させてきた町のみんなに約束したので、たとえ自分の責務でなくても俺は竜王を倒すつもりだ。

 

「今はとりあえず、ラダトームの城の復興が先だな」

 

俺はルビスとの話を終えて、仮拠点に繋がる旅のとびらがある場所に向かっていった。魔物を避けながら平原を歩いて、旅のとびらに入った時には、もう午後になっていた。

仮の拠点へと戻ってくると、さっそく俺はみんなに希望のはたを取り返して、城跡に立てたことを教えた。

 

「みんな、ラダトームの城に希望のはたを立ててきたぞ!」

 

そのことを聞くと、みんなは喜んで俺のいる旅のとびらの近くに走ってくる。中でも、ローラ姫とムツヘタはとても嬉しそうな表情をしている。

 

「おお、それは本当か!?ついにこの地にも希望の光が溢れたのじゃな!」

 

「ありがとうございます、雄也様!これで城を再建することができますね!」

 

ムツヘタは暖かい光を見るのが初めてなのだろうし、ローラ姫は早くラダトームの城を復興させたいのだろう。

今日はまだ夜になるまで時間があるので、部屋を一つくらいは作れそうだな。

俺がそう思っていると、ローラ姫はさっそくラダトームの城へ行こうと言った。

 

「それでは雄也様、さっそくなのですが光が溢れるラダトームの城へ参りましょう」

 

確かに復興を始めるのは早いほうがよさそうなので、今すぐみんなで移動した方がいいな。

 

「ああ、みんなも準備が出来たら出発するぞ」

 

みんなも準備は出来ていたようで、俺たち5人はすぐにラダトームの城へ向けて出発することが出来た。

みんな早くラダトームの復興をしたいと思って早足で歩いていったので、15分ほどで城跡にたどり着く。

そして、ローラ姫は久しぶりに自分の城に戻ってこれたことをとても喜んで、走って中に入っていく。

 

「おお!ついに城へと帰ってくることが出来ました。それも、とても暖かい光に包まれています!」

 

俺たちも姫に続いて、光に溢れるラダトームの城の中に入っていった。

みんなは城の中を見回っていたが、俺は魔物たちと戦ったり長い距離を歩いたりして疲れていたので、石の作業台の近くで座って休み始める。

 

「今日は朝から忙しかったけど、やつと休憩できるな」

 

15分くらい休んでいると、一通り崩れた城の中を見終えたローラ姫が俺に話しかけてきた。さっそく城の再建を始めたいようだな。

俺もずっと休んではいられないので、立ち上がってローラ姫の話を聞く。

 

「雄也様、そろそろラダトームの再建を始めたいと思うのですが、少し相談があるのです」

 

再建を始める前に俺に質問って、何を聞きたいのだろう?

 

「別にいいけど、何の相談だ?」

 

「実は私は、かつてこの城にあった玉座の間を作りたいのですが、このような時にそんなお部屋を作るのもどうかと思うのです」

 

玉座の間は大きな部屋であり、損壊状況も他の部屋に比べて激しい。

確かに時間はかかりそうだが、ローラ姫が作りたいのなら別に構わない。そこまで急いで復興させる必要もないはずだからな。

だけど、どうしてローラ姫は最初に玉座の間を再建しようと思ったのだろうか。

 

「別にいいけど、どうして玉座の間を最初に作るんだ?」

 

「玉座の間が、ラダトーム再建のシンボルになると思ったのです」

 

確かに玉座の間は城にとって一番大切な部屋かもしれないので、最初にそれを作ることで他の部屋も再建する意欲が湧いてくるかもしれないな。

 

「そう言うことだったのか。なら、さっそく作り始めるぞ」

 

「ありがとうございます、雄也様。あなたはなんとお優しい方なのでしょう」

 

そして、ローラ姫は俺に感謝の言葉を言った後、玉座の間の設計図を渡してきた。

「これが玉座の間の設計図です。これを使って、どうか再建をお願いします」

 

玉座の間の設計図は、俺が見たことのない物も含めてさまざまな物が描かれていた。かなり大量の素材が必要になりそうだが、作れないことはないだろう。

気になるのは、もう国王はいないはずなのに玉座のいすが2つあることだな。裏切り勇者がいつか帰ってくるかもしれないと言う、儚い希望だろうか。

 

「結構大きな部屋だけど、今日中に作れるはずだぜ」

 

俺は姫と別れた後、設計図に書かれている物を詳しく見てみる。必要な物が多いので先に壁を作るとするか。

玉座の間は、これまで俺が建ててきた部屋と違い、壁が3メートルの高さになっていて、一段目が城のカベ・地、二段目と三段目は城のカベと言うブロックで出来ていた。

どっちも見たことのあるブロックだけど、作ったことは一度もないんだよな。俺はビルダーの力を使い、二種類のブロックの作り方を調べた。

城のカベ・地···石材3個、鉄のインゴット1個 神鉄炉と金床

城のカベ···石材3個、鉄のインゴット1個 神鉄炉と金床

どっちも必要な素材は同じみたいだな。一度に10個作れるとしても、城のカベ・地は34個、城のカベは68個必要なので、石材33個、鉄のインゴット11個が必要な計算になる。

 

「鉄のインゴットは足りるけど、石材を集めてこないといけなさそうだな」

 

俺は石材を集めるために、おおきづちを持ってラダトームの城の外に出る。

この近くには大きな石がたくさんあるので、33個集めることも出来るだろう。

俺はまず城のまわりにある大きな石を砕いて石材を集めていき、城のまわりの物がなくなると少し遠くまで歩いていき、大量の石材を回収して行く。

城のカベ以外にも作るのに石材が必要な物があるかもしれないので、50個くらい手に入れて、ポーチにしまった。

 

「これで石材を集めれたし、壁を作りに戻るか」

 

玉座のいすなどを作るのには他の素材も必要だろうが、今は部屋の壁を作るためにラダトームの城に戻る。

石の作業台の前で城のカベを作ろうとビルダーの力を使うと、案の定一度に10個のブロックが出来た。恐らく、どの種類のブロックでも、一度に10個作れるだろうな。

その後、城のカベ・地を合計40個、城のカベを合計70個作り、玉座の間に必要な壁を揃えることが出来た。

 

「これで壁を作ることができたな。さっそく設計図通りに積み上げて来るか」

 

俺は設計図を見ながらかつて玉座の間があった場所に城のカベ・地を置き、その上に城のカベを積み重ねていった。

3メートルの壁は地球では当たり前だが、アレフガルドに来てからはほとんど見ないな。建てるのに、いつもより時間がかかる。

20分ほど作業を続けて、ようやく必要な壁を全て作ることができた。

 

「これで壁を作ることは出来たな。あとは中に置く物を作らないと」

 

壁を積み上げた後、俺は改めて玉座の間の設計図に目を通す。

すると、玉座、城の大柱、大きさの違う2種類のタペストリ、カベしょく台がそれぞれ2個ずつと、入り口に置くはがねの大とびらが必要のようだった。はがねの大とびらを作るには染料がいるから、料理用たき火を作らないといけないな。

はがねの大とびら以外は作ったことのない物ばかりなので、俺は魔法の力で作り方を調べる。

玉座···ととのえた布3個、毛皮2個、鉄のインゴット3個、金1個 神鉄炉と金床

カベしょく台···ドロドロ石1個、あおい油1個、鉄のインゴット1個 石の作業台

城の大柱···石材2個、金1個 石の作業台

タペストリ···ととのえた布1個、金1個 石の作業台

大きなタペストリ···ととのえた布2個、金1個 石の作業台

鉄のインゴットや石材はたくさん持っているが、それ以外の素材は持っていないな。でも、あおい油や毛皮は簡単に集められるし、ととのえた布と言うのもこの前まどうしが落とした赤色の布のことだろうから、まどうしを倒せば手に入るだろう。

 

「ドロドロ石と金は、どうやって手に入れるんだ?」

 

ドロドロ石と言う素材は初めて聞くけど、自然に落ちている物ではなさそうなので、魔物が落とすのかもしれない。俺の予測だと、体に血のような色の粘液を纏っている魔物、ブラッドハンドが落としそうだ。

金は珍しい金属でラダトームに来てからは一度も見たことがない。でも、城の近くにある岩山を探せば見つかるかもしれないな。

 

「とりあえず、探しに行ってくるか」

 

俺は玉座の間を作るための素材を集めに、再びラダトームの城から出かけていった。

まず最初に、金を探しに行くために城の北にある岩山へ向かう。岩山の表面には白い岩しかないが、洞窟があるかもしれないからな。

俺はあおい油やあかい油、毛皮も集めるため、途中で見つけたスライムやスライムベス、ブラウニーを倒しながら、岩山に近づいて行く。料理用たき火を作るためのじょうぶな草も、大地をせいすいで浄化して集めていく。

10分くらい経って岩山までたどり着いた時には、必要な数の素材が集まっていた。

 

「ここがラダトームの岩山か。俺が思っていた通り、洞窟があるな」

 

岩山の近くを歩いていると、中に何かありそうな洞窟を見つかった。俺は金を見つけるため、その洞窟に入っていく。

そして、洞窟の一番奥に進むと、たくさんの金や銀の鉱脈がうまっていた。

 

「やっぱり洞窟に金があったのか。今は必要ないけど、銀も採掘しておくか」

 

そこで俺は採掘用のおおきづちを取りだし、金と銀の鉱脈を砕いていく。銀も何かに使えるかもしれないからな。

その洞窟は金の鉱脈の方が数が多く、金を20個、銀を5個くらい手に入れることができた。

俺は採掘を終えた後、手に入れた金属をしまって洞窟から出る。

 

「これで後は、ドロドロ石とととのえた布を集めるだけになったな」

 

俺は洞窟を出た後、ドロドロ石を落とすと思われるブラッドハンドがいる地面が赤い土になっている場所へ向かう。

岩山からそこまでは距離があるが、結構遠くからでも見える鉄と石炭の鉱脈が空中に浮いている塊があるので、迷うことなく行くことができた。

 

血のような赤い土の上を見ると、何体かのブラッドハンドは不気味にうごめいていた。

腕だけの魔物なので、かげのきしやまどうしに比べれば弱そうだが、油断は出来ないな。

 

「俺に気づいていないみたいだし、後ろから襲って倒すか」

 

俺は音を立てないように一体のブラッドハンドの後ろに忍びより、はがねのつるぎで思いきり斬りつける。

一撃で倒せると思ったが、以外に生命力が高いようで倒れずに俺に反撃してきた。

 

「鋼の武器でも一撃では倒せないか。でも、動きは早くないな」

 

大きな赤色の腕を振り回し、俺を叩きつけようとする。でも、他の魔物に比べて動きが遅く、避けることは難しくはなかった。

でも、俺が戦っているのを見て、近くにいた他のブラッドハンドも襲ってきた。さすがに大勢に囲まれると、避けるのは難しくなってくるな。

「こいつらを引き付けて、回転斬りで倒すか」

 

俺は腕を叩きつけてくるブラッドハンドをジャンプで避けて、奴らから距離をとる。今なら囲まれてもいないし、回転斬りが使えるはずだ。

俺は腕に力を溜めて、奴らが至近距離に近づいてきたのと同時に解放する。

 

「回転斬り!」

 

背後からの攻撃を耐えたブラッドハンドも、高威力の回転斬りには耐えられず、青い光を放って消えていった。

奴らが倒れたところを見ると、変な感触の白い石が落ちていた。見た目もドロドロしているので、これがドロドロ石で間違いないだろう。

 

「これでドロドロ石も手に入ったから、あとはととのえた布だな」

 

俺は全てのドロドロ石を集めて、まどうしのいる枯れ木の森に向かっていく。

野生の魔物は城にいる奴より弱いはずなので、近づくことが出来れば簡単に倒せるはずだ。

枯れ木の森に入ると、さっそく視界にまどうしの姿が映る。すぐに俺ははがねのつるぎを使って、まどうしに斬りかかっていった。

まどうしも俺に気づくと、メラの呪文を放ってくる。

 

「来たな人間め、メラ!」

 

「それくらいの呪文、かわすのは慣れてるぜ」

 

マイラやラダトームでまどうしと多く戦っているので、メラの火球を避けるのは慣れている。

俺はメラに当たらないように近づき、まどうしの体を斬り裂く。やはり近接戦闘は苦手なようなので、近づけばすぐに倒すことが出来た。

まどうしが倒れたところを見ると、魔物の城でも手に入れた赤色の布が落ちている。

 

「これがととのえた布だろうな。他の奴も倒してたくさん集めるぜ」

 

俺はととのえた布を拾った後、他のまどうしたちを倒し始める。夕方になるまで奴らを倒し続け、魔物の城で手に入れたのも合わせれば15枚以上ととのえた布を集めることが出来た。

 

「このくらい集めれば足りるだろうな。戻って作り始めるか」

 

俺は枯れ木の森から歩いてラダトームの城に戻っていった。今日は戦いや探索が続いてとても疲れているが、もうひとがんばりだな。

俺は石の作業台の前に立って、ビルダーの魔法で必要な物を作り始める。まずは今日集めた素材で玉座、城の大柱を2個ずつ作っていった。

他の物も2つ必要だが、タペストリとカベしょく台は一度に5つ、大きなタペストリは一度に2つ出来たので、一回で必要な数を揃えることができた。

余ったタペストリとカベしょく台は、他の部屋に使うかもしれないし、とっておいたほうがいいな。

次に、料理用たき火を作り、それを使ってあかい油とあおい油を染料への変化させる。

最後にはがねインゴットと染料を使って、はがねの大とびらを作り上げた。

 

「ついに玉座の間に必要な物が全部作れたな。ビルダーの魔法を使っても、結構時間がかかったぜ」

 

もうすぐ真っ暗な夜になるが、今日の内に玉座の間を完成させておきたい。

俺は設計図を見ながら玉座や城の大柱などを配置していく。そして、ようやくローラ姫の書いた設計図通りの玉座の間が完成した。

俺はさっそく、ローラ姫にそのことを伝える。

 

「ローラ姫、玉座の間が何とか完成したぞ」

 

俺の声を聞いて、ローラ姫は玉座の間の入り口のところへ走ってくる。彼女は、完成した玉座の間を見てとても驚いていた。

 

「おお、雄也様!もう玉座の間が完成したのですか!この部屋があれば、ラダトーム再建のシンボルになりそうですね!」

 

まだラダトームの再建は始まったばかりだが、豪華に作られた玉座の間はローラ姫の言う通り再建のシンボルになりそうだ。

俺がそんなことを思っていると、ローラ姫は話題を変えてきた。

 

「ところで雄也様。実はこの地に来る前、ルビスからお告げがあり、竜王を倒す特別な道具を持つ3人の賢者がここに向かっているそうです」

 

ルビスからそんなお告げがあったとは知らなかったぜ。その3人の賢者って、どんな人たちなんだろうな。

 

「3人の賢者と言うのは、誰のこと何だ?」

 

「私にも今は分かりません。ですが、雄也様のお役に立つべく、三賢者の行方を探してみることにします」

 

その人たちも、ラダトームの復興に協力してくれるといいな。

でも、彼らがどこにいるかはまだ分からないみたいだから、もう少し待つしかなさそうだ。

 

「何か分かったら、また教えてくれ」

 

その日はもう夜になっていたので、俺たちに明日からのラダトームの復興に備えて、眠りについた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode90 城の再建(後編)

ラダトームに来て3日目の朝、俺が起きた後城の中を歩いていると、ケッパーのような兵士の格好をした男が希望のはたのところに立っていた。

かつてのラダトームの兵士はもういないはずだが、どういうことだろう?

兵士の男は玉座の間に向かって歩いているローラ姫を見て、とても驚いている。

 

「もしや、あれは姫様!?ここには眩しい光が溢れているし、どうなっているんだ?」

 

この人も希望のはたの光のことを不思議に思っているようだな。

ローラ姫のことを知っていると言うことは、やはり現代の人ではないようだ。

誰なのか聞くために、俺はその人に近づいて話しかけた。

 

「なあ、あんた誰なんだ?兵士の格好をしてるけど」

 

すると、兵士の男も俺に気づいて話しかけてくる。

 

「そっちこそ一体誰だ?ずいぶんと緊張感のない顔をしているが···」

 

顔のことで何か言われたのはロロンドやノリンに出会った時以来だな。

確かに昨日の疲れがまだ完全に取れてはいないし、そう見えても仕方がないのかもしれないけど。

俺は先に自分の名前を名乗ることにして、いつもの自己紹介をする。

 

「俺は影山雄也、いつもは雄也って呼んでくれ。伝説のビルダーって奴だ」

 

「ビルダー?それは一体何なんだ?」

 

ビルダーと言う言葉を聞いた瞬間、男は首をかしげる。

彼は昔の人みたいだから、ビルダーのことも知らないのだろうな。

 

「ルビスから遣わされた、失われた物を作る力を持つ人のことだ」

 

「私は竜王の呪いで石になっていたから、最近のことは分からないが、つまりビルダーと言うのは、大工のような存在なのだな?」

 

やっぱりこの男は最近まで石になっていたのか。せいすいで死の大地を蘇らせて行くと同時に、石化の呪いが解除されたのだろう。

それと、ビルダーのことを大工のような存在だと言っているけど、元々ビルダーは建築士って意味のはずだからあながち間違ってもいない。

 

「ちょっと違うけど、似たような物だと思うぞ」

 

「やはりそうだったか!安心したぞ、お主のような奴が竜王を倒すと言わなくてな!」

 

いや、大工と似たような物と言ったからって、どうしてそう言う話になるんだ?

俺は戦闘が専門ではないけど、みんなのために竜王も裏切り勇者も倒すつもりだ。

 

「いや、これまで復興させてきた町のみんなのためにも、俺が竜王を倒すつもりだぞ」

 

「だとしても、竜王はお主が思っているより危険だから、やめておいたほうがいいぞ」

 

危険なことくらい百も承知だが、この兵士は分かってくれそうにないな。

勇者に向かっては竜王を倒してきてくれと言うのに、変わった奴だ。

「それと、私はかつてのラダトームの兵士、ラスタンだ。よろしく頼むぞ!」

 

少し腹が立つ奴だけど、ラダトームを再建していくには協力するしかないだろう。

彼は兵士だから、防衛戦の時も一緒に戦ってくれるだろうからな。

 

「ラスタンって言うのか。よろしくな」

 

俺とあいさつをした後、ラスタンは再建している途中のラダトームの城の中を見回りに行った。

 

俺はその後、今日はどの部屋を再建しようか考えていた。すると、少し前に起きてきたムツヘタに話しかけられた。

 

「雄也よ、少し話があるのじゃが、いいかの?」

 

「ああ、まだ何をするか決めてなかったしな」

ムツヘタにもローラ姫のように、作りたい部屋があるのだろうか。

これから何をするか悩んでいたところなので、俺はムツヘタの話を聞くことにする。

 

「精霊ルビスのお告げなのじゃが、ワシの予言者としての役割は、そなたを正しき道に進ませることのようじゃ」

 

ルビスがムツヘタにそんなことを言っていたとは知らなかったぜ。

ラダトームでは城の再建以外にもしなければいけないことがあるらしいし、それを教えるってことなんだろうな。

そのことに関して、俺に手伝ってほしいことがあるのだろうか?

 

「それで、俺に何をしてほしいんだ?」

 

「そなたには、かつてこのラダトームにあった、占いの間を作ってもらいたい。占いの間があれば、そなたがビルダーとして進むべき道をより正確に示すことが出来るであろう」

 

占いの間なんて部屋、ゲームではラダトームの城にあった覚えがないけど、どの部屋のことなのだろうか。

ルビスの言っていた竜王を倒す準備とやらも進めて行きたいし、作っておくべきだな。

 

「もちろん作るけど、どこに作ればいいんだ?」

 

俺が作る場所を聞くと、ムツヘタはドラクエ1ではMPを回復させてくれる老人のいる部屋があった場所を指差した。

 

「それなら、そのあたりがよい。そこなら、かつてのラダトームに近い気がするぞ」

 

あの部屋が占いの間だったとは知らなかったぜ。場所を言った後、ムツヘタは占いの間の設計図が書かれた紙を渡してくる。

 

「占いの間の設計図はワシが作っておいたぞ。どうじゃ、作れそうか?」

 

玉座の間に比べてかなり小さいが、また2種類の城のカベが必要と書いてあった。

中にはシャナク魔法台と収納箱、壁しょく台2つが置かれている。

すぐに用意できる物ばかりなので、今すぐ作ることが出来そうだな。

 

「ああ、今持っている物が多いし、すぐに作ってくるぜ」

 

城のカベ・地が20個、城のカベが18個必要と書いてあり、それと収納箱を作ればすぐに占いの間を完成させられる。

俺はムツヘタから設計図を受け取った後、神鉄炉と金床があるところへ向かった。

 

「素材は揃ってるから、すぐに作れるはずだな」

石材は昨日たくさん集めたし、鉄のインゴットもまだまだ残っている。

俺はビルダーの力を発動させて、それらを加工して占いの間に必要な壁を作り出す。

そして、城のカベ・地と城のカベがそれぞれ20個ずつできると、隣にある石の作業台で収納箱も作る。収納箱を作ったら、ムツヘタの言っていた場所へ行く。

 

「これで必要な物は揃ったし、すぐにブロックを積み上げて占いの間を作るか」

 

俺は設計図を見ながら1段目に城のカベ・地を、2段目に城のカベを置いていく。今回は玉座の間と違って2メートルの壁なので、すぐに完成させられた。

完成した後は、部屋の中にシャナク魔法台と収納箱を置き、壁には2つのカベしょく台をかける。

そして、最後に部屋の入り口にとびらを設置して、設計図通りの占いの間を作り上げることができた。

占いの間ができると、さっそく俺はそのことをムツヘタに教えに行った。

 

「ムツヘタ、占いの間が完成したぞ!」

 

「少ししか経っておらぬと言うのに、もう出来たと言うのか!?さすがは伝説のビルダーじゃな」

 

ムツヘタは、俺がすぐに占いの間を完成させたことにとても驚いていた。必要な物が揃っていたからでもあるけど、やはりビルダーの魔法の力のおかげだろう。

こんなにすごい力が使えるし、竜王と裏切り勇者を倒した後もずっとこの世界で暮らしたいぜ。

俺がそんなことを考えていると、ムツヘタはさっそく中に入っていた。

 

「おお、この部屋でならビルダーのそなたが進むべき道を正しく示していくことができようぞ!」

これでルビスのお告げ通り、竜王を倒す準備を進めて行けると言うことだな。

全ての準備が整ったら、たとえ俺の役割でなくとも竜王を倒してやるぜ。

ムツヘタは部屋の中を見た後、一度外に出てきて竜王のいる島へ行く方法について話を始めた。

 

「ところで雄也よ。竜王を倒すために竜王の住む魔の島に行くには、虹のしずくと言う特別な道具を作り出さねばならぬのだ」

 

確かドラクエ1でも、虹のしずくがないと竜王の島に行けなかったんだよな。

今はまだ作れないだろうけど、早く作れるようになりたいな。

 

「その虹のしずくは、どうやって作るんだ?」

 

「虹のしずくの原料は、このラダトームの最も深い闇の中に封印されているのじゃが、どこにその場所があるのかは分かっておらぬ」

ラダトームの最も深い闇か···もしかしたらその場所に闇の元凶である裏切り勇者がいるのかもしれないな。

ムツヘタは、その場所に入るにはさいごのかぎと言う特別な鍵が必要だとも言った。

 

「じゃからワシはその場所と、入口にある闇のとびらを開けるためのさいごのかぎの製法を調べてみるつもりじゃ」

 

「分かった。頼んだぞ、ムツヘタ」

 

ムツヘタも時間がかかりそうだから、今はラダトーム城の再建を進めていくしかなさそうだな。

ムツヘタは俺との話を終えると、再び占いの間の中に入っていった。

 

ムツヘタと別れた後、俺が少し休んでいると、城の中を一通り見終えたラスタンが話しかけてきた。

ラスタンもかつてのラダトームの兵士として、再建したい部屋があるのだろうか?

そう思っていたが、ラスタンは竜王を倒すのに必要な武具の話を始めた。

 

「なあ、雄也は聞いたことがあるか?竜王に戦いを挑むには、特別な剣と特別な鎧が必要って話だ」

 

そう言えば城に希望のはたを立てた時のルビスの話で、竜王を倒すための装備を作るのもビルダーの使命だと言っていたな。

別になくても勝てないことはないだろうけど、作っておいたほうが勝ち目は上がるだろう。

でも、どんな武器や防具なのかは知らないな。

 

「俺も聞いたことがあるけど、どんな武具なんだ?」

 

「おうじゃのけんとひかりのよろいと言う物らしいんだが、今ではどちらも失われてこの世界には存在しないそうだ···」

 

おうじゃのけんとひかりのよろいはドラクエ3に出てきた装備で、後のロトのつるぎとロトとよろいだったはずだな。

勇者が裏切ったことによって彼が装備していた伝説の武具も竜王の手に渡ってしまったと言うことか。

 

「きっとその武具を作ることも、ビルダーとしてのお前の役割なんだろうぜ!」

 

伝説の装備を作るのはかなり大変そうだけど、俺のビルダーの力があれば何とかなるだろう。

ラスタンは伝説の武具の話の後、自分も再建したい部屋があると言ってきた。

 

「そう言えば雄也、この城はお前が再建させているようだが、私も作りたい部屋があるのだ」

 

やっぱりラスタンも再建させたい部屋があったみたいだな。

かつてのラダトームの城にはたくさんの部屋があったけど、どの部屋を作りたいのだろうか。

 

「あんたはどの部屋を作りたいんだ?」

 

「私は多くの武器や道具を保管できる部屋を作りたくてな、昔あのあたりにあった宝物庫を再建したいと思ったんだ」

 

ラスタンはそう言って、城の西にある壊れた部屋を指さす。確かにあの場所には、彼の言う通り宝物庫があったはずだな。

壁はところどころ壊れているが、余っている城のカベを使えば直せそうだ。

でも、設計図がないみたいだから、何が必要なのか聞いておかないといけないな。

 

「分かったけど、何を置けばいいんだ?」

 

「大倉庫が一つと、倉庫の中を飾るタペストリが2つ、後は宝箱が3つと収納箱を置けばいいと思うぞ」

 

宝箱は1つ既に置いてあり、タペストリは3つ持っているし、収納箱もすぐに作れるからいいけど、大倉庫や残り2つの宝箱が必要だから、すぐには完成させられないな。

大倉庫は作ったことがあるけど、宝箱は作ったことがない。俺は魔法で、宝箱の作り方を調べた。

宝箱···鉄のインゴット1個、金1個 鉄の作業台

宝箱は鉄の作業台がないと作れないみたいだな。昨日行った魔物の城には宝箱がいくつかありそうだし、大倉庫を作るための木材を集めながら行ってくるか。

希望のはたが無くなったので、竜王が再びあの城に魔物の軍勢を送り込んでいるということもないはずだ。

 

「それなら用意出来ると思うぞ。待っていてくれ」

 

俺はラスタンにそう言って、ラダトームの城を出発した。大倉庫の素材である毛皮や、ツボを作るためのあおい油と土は持っているので、あとは木材だけだ。

俺は枯れ木をせいすいで浄化してブナ原木を手に入れるために、まずは枯れ木の森へ向かう。

城から1キロメートルくらいの場所にあるので、俺は15分くらいでたどり着くことができた。

「枯れ木の森に着いたな。さっそくせいすいで浄化して、原木を集めて行くか」

 

枯れ木にせいすいを振り撒くと、メルキドにもたくさん生えていたブナの木に変化する。

木材は8つ必要なはずなので、俺はまわりにあるいくつかの枯れ木の呪いを解き、ブナの木に戻していった。

 

「これでブナ原木が集められるはずだな」

 

そこで俺はおおきづちを取りだし、ブナの木を叩いて原木にする。木材は大倉庫以外にもさまざまな用途があるので、俺は20個以上ブナ原木を手に入れ、ポーチにしまった。

 

「原木を集めることが出来たし、次は宝箱を集めに魔物の城に向かうか」

 

俺はその後、さらに15分歩いて、希望のはたがあった魔物の城へ行った。

俺の思っていた通り、魔物の姿はなく安全に調べられそうだった。

俺は入り口にあるはがねの大とびらを開けて中に入っていく。玉座の間を作るとき、このとびらを持って行っても良かったかもしれないな。

 

「希望のはたが入っていた奴以外にも宝箱はありそうだし、探していくか」

 

希望のはたが入っていた宝箱を手に入れても、あと一つ足りない。

俺は他の宝箱を探すために一階の通路を進んでいった。すると、すぐに宝箱を見つけることが出来た。

この前は戦いが大変で気づかなかったけど、通路の近くに宝箱が置いてある。

 

「ここに宝箱があったのか。何が入っているんだ?」

その宝箱を開けると、中には10個の鉄のインゴットが入っていた。

 

「鉄のインゴットが10個も入ってるな。これからも必要になると思うし、持っていくか」

 

鉄のインゴットは在庫が多くあるが、いくつあっても足りないほど重要な物だし、俺は鉄のインゴットをポーチにしまい、宝箱もおおきづちを使って回収した。

 

これであとは3階にある希望のはたが入っていた宝箱を集めればいいな。

俺は奥の階段から2階へ上がり、そこから狭い廊下を歩いて3階へ続く大きな階段のところへ行く。

3階に上がった後は大広間の奥にある昨日も見た宝箱を回収し、必要な数の宝箱を集めることが出来た。

「宝箱も集まったし、ラダトームの城に帰って宝物庫を作るか」

 

俺は歩いてラダトームの城へ戻り、すぐに石の作業台を使い始める。

収納箱とツボを作った後、俺は木材8個、毛皮3個、そして今作ったツボ1個にビルダーの魔法をかけて、大倉庫を作り出す。

ポーチの中身もそろそろ一杯になってきたし、これでさらにたくさんの素材を集められるようになったな。

 

「あとはあの部屋の中に置けば、宝物庫の完成だな」

 

俺は作った大倉庫と収納箱、手に入れた宝箱を持ち、宝物庫の中に置いていく。タペストリも2つ必要なので、俺はポーチから取り出して壁に設置した。

結構狭い部屋だが、言われた物を全て置くことが出来たぜ。

その後俺は壊れた壁を、城のカベ・地と城のカベを使って修復した。

宝物庫を完成させた俺は、さっそくそのことをラスタンに教える。

 

「ラスタン!少し時間がかかったけど、宝物庫が完成したぞ」

 

占いの間を作った時と比べればかなり時間がかかったけど、完成させられてよかったぜ。

俺の話を聞いて、ラスタンはすぐに向かってくる。

 

「さすがは伝説の名大工だな!こんなにきれいに再建されている!」

 

褒めてくれるのはありがたいけど、何で伝説のビルダーじゃな名大工って言うんだよ。

確かに似たような物だけど、大工と言われると違和感があるな。

 

 

「大工じゃなくてビルダーだけど···まあいいか」

 

俺はラスタンに一応そう言ったが、これからもビルダーと呼んでくれるかは分からないな。

俺がそう思っていると、ラスタンは違う話を始める。

 

「それにしても、我ら人間は一体いつまで竜王と戦わねばならぬのだ?」

 

さっき俺が倒すと言ったのに、まだ危ないからやめておけと言うのか?

俺が竜王を倒せば数百年も続いた戦いを終わらせることが出来るだろう。

 

「だからさっき、俺が竜王を倒すって言っただろ。どんなに危険でも、それは変わらない」

 

「いや、いつか竜王を倒す使命を持った若者が現れるはずだ。わざわざビルダーのお前が行く必要はないんだぞ」

ラスタンの話を聞いて思ったけど、この世界の人は勇者に何でも任せすぎなんだよな。

そのせいで勇者が世界を裏切ったかもしれないと言うのが、分かっていないのだろうか。

 

俺が何度自分が竜王を倒すと言っても分かってくれないだろうから、これ以上言うのはやめて、ラスタンと別れた。

今日は2つも建物を再建して疲れたので、俺は午後は休んで過ごしていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode91 王都防衛戦

俺がラダトームに来て4日目、昨日は早く寝たので、これまでの疲れがとれていた。

今日もラダトームの再建を続けようと思いながら城の中を歩いていると、外からラスタンと同じような兵士の格好をした男が入ってきて、俺に話しかけてきた。

多分、ラスタンの仲間なんだろうな。

 

「おや、あなたが雄也さんですね。僕はオーレン、ラスタンと同じかつてのラダトームの兵士です」

 

オーレンと名乗ったこの男は、俺のことを知っているようだな。

俺は一度も会った覚えがないのに、どうしてオーレンは俺の名前を知っているんだ?

 

「何で俺の名前を知ってるんだ?」

 

「昨日ラスタンから聞いたんです。ビルダーを名乗る雄也と言う人が宝物庫を作ってくれたと」

 

オーレンもラスタンと同じ時に石化が解除されていたようだけど、俺と話すのが初めてってことか。

恐らくは俺が枯れ木の森や魔物の城に出かけている時にラスタンと会っていて、その後また城の外に出ていったのだろう。

俺がそう思っていると、彼も俺の顔について言ってきた。

 

「それにしても、ラスタンの言う通りあなたは面白い顔をしていますな!魔物を倒したり、まして竜王を倒すなど夢のまた夢といった顔立ちだ!」

 

確かに俺の顔はドラクエの勇者や戦士の顔とはかけ離れているけど、顔と実際の強さは比例しないはずだ。

それに、昨日のラスタンもそうだったけどかつてのラダトームの兵士は誰も俺が竜王を倒すとは思っていないみたいだな。

「いきなり失礼なことを言うな。これまで多くの魔物を倒してきたし、竜王も俺が倒すつもりだ」

 

「さすがにそれはご冗談でしょう!さすがビルダーは冗談を作るのもお上手だ!」

 

俺は本気で言っているのに、冗談だと思っているみたいだな。ラスタン以上にムカつく奴だぜ。

俺がイラついていると、オーレンはこれまで出掛けていた理由を話し始めた。

 

「実は私は、石化が解けた後あなたの留守中にラダトームに戻ったのですが、姫様からのご命令でとある調査のために城から出掛けていたのです」

 

やっぱり俺がいないタイミングでこの城に戻ってきていたのか。もし俺がいたなら、気づかないはずがないからな。

だけど、ローラ姫が命令した調査って、何のことなんだ?

 

「ローラ姫は何を調査してほしいと言ったんだ?」

 

「雄也さんも聞いているかもしれませんが、この地に向かっていると言う三賢者の行方についてです。もう少し時間はかかりますが、いい報告ができそうですよ!」

 

そう言えば、ローラ姫は3人の賢者が竜王を倒すために必要な道具を持ってラダトームに向かっていると言ってたな。

どんな人たちなのかはまだ分からないけど、居場所を突き止めたら迎えに行く必要があるかもな。

オーレンはかなりムカつく奴だけど、協力して探していくしかなさそうだ。

 

「分かった。三賢者の居場所を突き止めたら、教えてくれ」

俺はオーレンとの話を終えて、また城の中を歩き始める。

ラダトームの城も3つの部屋を再建することが出来たし、今日は一日ゆっくり過ごそうかとも考えた。しかしその時、ラダトーム城の南から、魔物の足音が聞こえてきたのだ。

 

「もしかして、魔物の襲撃が来たのか?」

 

魔物の襲撃が来たのかと思い城の南を見ると、ブラッドハンドが8体、しにがみのきしとだいまどうが2体、隊長と思われるオレンジ色の巨大な竜、ダースドラゴンが1体と合計13体の魔物がこの城に近づいてきていた。

魔物の数は少ないが、どれも強力な魔物ばかりだ。野生の奴は簡単に倒せたブラッドハンドも、今回は強い個体が来るだろうから一筋縄ではいかないはずだな。

城の再建を進めている俺たちを見て潰そうと思ったのだろう。

俺はみんなに伝えるために、魔物が来たことを大声で叫ぶ。

 

「みんな、魔物が攻めてきたぞ!戦える人は集まってきてくれ」

 

俺の声を聞いて、ラスタンとオーレンがはがねのつるぎを、ゆきのへがおおかなづちを持って集まってくる。

みんなの武器は、ゆきのへが作ってくれたみたいだな。鉄や鋼の武器を使えば、強力な魔物でも倒しやすくなるはずだ。

戦えるのは俺を含めて4人だけのようだが、ここまで多くの魔物を倒してきた俺たちなら勝てないはずはないだろう。

 

「魔物も我々がラダトーム城を再建していることに気づいたみたいだな。姫様のためにも、魔物どもを倒す!」

「ここまで復興させてきたラダトームの城を壊させはしませんよ!」

 

ラダトームの兵士二人も、迫り来る魔物たちを必ず倒して、この城を守ろうとしていた。

彼らは腹が立つ奴らだけど、一緒に戦わなければいけない。それに、俺が強力な魔物と戦うことが出来るって、証明する必要もありそうだ。

 

「俺もあいつらを倒して、この城を守り抜いてやるぜ!」

 

これまで俺と一緒にアレフガルドを復興させてきたゆきのへも、俺と一緒に強力な魔物たちと戦おうとしている。

 

「行くぞ雄也、ラダトームの魔物は強力だが、ワシらが負けるはずはないぜ!」

 

そして、俺たち4人は魔物の群れへと向かっていく。ラダトームの城の1度目の防衛戦が始まった。

魔物たちの中で遠距離を攻撃できる呪文を使えるだいまどうは、俺たちや城を焼き払おうとメラミの呪文を使ってくる。

 

「この忌まわしき人間どもが!燃えろ、メラミ!」

 

「我々の世界に、貴様らのような存在は必要ない!」

 

メラミはまどうしの使うメラより大きい火球だが、マイラでもだいまどうと戦ったことがあるので、かわすことは難しくなかった。

なので俺は最初にだいまどうを倒そうと両腕に武器を構えて進んでいく。

だが、メラミの呪文を唱えているだいまどうのところへ向かっている途中、8体のブラッドハンドが俺たちの前にたち塞がってきた。

移動の速度だけを見ても、ドロドロ石を集めるために戦った奴よりもかなり早い。囲まれたらかなり危険な状況になりそうだな。

でも、数が8体だけなのでみんなで分断すればそこまで苦戦はしないだろう。

 

「みんな!ブラッドハンドの奴らを分断して一人2体ずつ倒すぞ!」

 

俺の指示を聞いて、みんなは2体のブラッドハンドを斬りつけて引き付ける。そのおかげで、だいまどうは一度に全員を攻撃することが出来なくなり、火球を連続で回避しながら戦う必要もなくなった。

俺もその様子を見て、誰にも引き付けられていない2体のブラッドハンドを斬りつける。

しかし、だいまどうも広範囲に攻撃できるベギラマの呪文を唱えてきた。

 

「まとめて焼きつくしてやる!ベギラマ」

 

俺たちはすぐに気づいて、ベギラマの炎をかわす。ブラッドハンドたちも巻き込まれないよう素早く移動した。

「みんな、もっと離れて戦えば全体を攻撃出来なくなるはずだ!」

 

ベギラマの攻撃範囲は広いが、俺たちがさらに散開すれば全体を攻撃することは出来なくなる。

みんなもその作戦には賛成のようで、ブラッドハンドを引き付けながら移動していった。

誰かがピンチに陥ってもすぐに助けに行けなくなるが、そうならないことを祈るしかないな。

 

「全員散開できたみたいだな。これでブラッドハンドを倒しやすくなったぜ」

 

だいまどうは一人ずつ攻撃するしかなくなり、さっきと同じようにメラミの呪文を連続で放っていく。だいまどうもベギラマよりさらに上位の呪文であるベギラゴンなどは使えないみたいだな。

俺はときどき来る火の球を回避しながら、ブラッドハンドを攻撃する。

ブラッドハンドもすぐに動いて、俺の攻撃をかわして殴り付けようとした。攻撃のスピードは速いが、俺は何とかジャンプでかわすことが出来た。

 

「この前の奴らより強いけど、勝てないことはなさそうだな」

 

俺はブラッドハンドが次の攻撃を行う前に飛びかかり、2体の腕の部分を斬り裂いていく。

はがねのつるぎやおおかなづちでの強力な一撃を受けて、奴らは大きなダメージを負っていた。

しかも、ブラッドハンドたちは怯んで動きが止まり、一気に倒すチャンスが来た。奴らはすぐに立て直そうとするが、俺はその前に腕の力を溜め始める。

二刀流での回転斬りを使えば、ブラッドハンドにとどめをさせるだろう。

 

「これでどうだ、回転斬り!」

 

回転斬りが直撃し、俺と戦っていたブラッドハンドは青い光になって倒れる。この前も手に入れたドロドロ石を落としていたが、今はそんなことを気にしてはいられない。

 

「みんなはまだブラッドハンドと戦っているみたいだし、援護しに行くか」

 

俺がみんなの様子を見るとまだブラッドハンドと戦っているようだった。

3人とも苦戦はしていないようだが、後ろから強大な魔物であるしにがみのきしやダースドラゴンが迫ってきているので、ブラッドハンドは今のうちに倒しておきたい。

俺はまず、ゆきのへが戦っている2体のブラッドハンドに強力な一撃を叩き込んだ。奴らはすでにゆきのへの攻撃で弱っているようで、俺の攻撃によって生命力が尽きて消えていった。

あとはラスタンとオーレンが戦っている奴らを倒せばブラッドハンドは全滅させられるな。

 

「援護してくれてありがとうな、雄也!あの兵士たちが戦っている奴も倒しに行くぜ」

 

「ああ、二人と戦っているブラッドハンドも弱っているはずだ」

 

しかしその時、今まで遠くにいた2体のだいまどうが俺たちの近くに移動して、ベギラマの呪文を放ってきた。

 

「ビルダーも鍛冶屋も、まとめて燃やす!」

「竜王様に逆らう貴様らなど、我らが焼き殺してやる!」

 

ブラッドハンドを倒して油断しているところを狙ってきたみたいだな。

俺とゆきのへはベギラマをかわすために大きくジャンプする。何とか攻撃範囲を外れることができ、火傷を負うことはなかった。

だが、近づかれてしまったので、ラスタンたちを援護に向かう前に奴らを倒さなければならなさそうだ。ゆきのへもそう思ったようで、おおかなづちを片手にだいまどうに殴りかかる。

 

「雄也、このだいまどうどもを先に倒すぞ!」

 

「ああ、近づかれたからそうするしかないな」

 

だいまどうはすぐ近くにいるので、俺ももう一体のだいまどうを攻撃した。

だいまどうは自身が近接戦闘が苦手なことが分かっているはずなので、俺たちを一撃で倒すか、動けなく出来ると思って近づいたのだろう。

でも、俺たちを倒すことは出来なかったので、苦手な近接戦闘に持ち込まれることになった。

 

「おのれ人間め···絶対に許さぬぞ!」

 

だいまどうは何とか抵抗しようと、持っている杖で俺を殴り付けようとする。ブラッドハンドの叩き付け程度の威力はあったが、俺ははがねのつるぎで弾き返した。

そして、奴が体勢を崩したところで全力で頭におおかなづちを降り下ろした。

 

「やっぱり近接戦闘には弱いのか、このまま倒せそうだな」

 

おおかなづちの一撃では倒れなかったが、俺は体勢を立て直される前にだいまどうの体を真っ二つに叩き斬った。

さすがにだいまどうは耐えきれず、死んでいった。

ゆきのへも力のこもった攻撃でだいまどうを弱らせていき、俺と同時くらいのタイミングでとどめをさしていた。

しかし、油断している暇はなく、だいまどうを倒した直後、奴らの背後にいるしにがみのきしが斧を降り下ろしながら飛びかかってきた。

 

「今度はしにがみのきしか···倒したことのある相手だから勝てるだろうけどな」

 

俺とゆきのへはすぐに武器を構え直し、しにがみのきしの攻撃を受け止める。

魔物の城で戦った奴らと同じくらいの強さであり勝てないことはないのだが、魔物の軍団の隊長であるダースドラゴンも俺たちに迫ってきていたのだ。

 

「くそっ、ダースドラゴンも近づいてきたな」

 

しにがみのきしとダースドラゴンを同時に相手するのは俺やゆきのへでもかなり厳しいだろう。

そう思っていると、ラスタンとオーレンが駆けつけてきて、しにがみのきしを斬りつけたのだ。

どうやら俺たちがだいまどうと戦っている間に、ブラッドハンドたちを倒したみたいだな。

 

「雄也にゆきのへ、こいつらは私たちが倒す!」

 

「あなたたちはダースドラゴンの相手をしてください!」

 

俺にもダースドラゴンを倒してくれと言っているので、強力な魔物を倒せると分かってくれたみたいだな。

二人がしにがみのきしを引き付けているので、今ならダースドラゴンと戦える。

「お前らはラダトームの兵士か···ならばお前らも斬り捨ててやろう!」

 

しにがみのきしも本気でラスタンたちと戦っているが、二人が負けることはないはずだ。

俺とゆきのへがダースドラゴンの近くに行くと、奴は灼熱の炎を吐いてくる。

だが、ようがんまじんのように高速で回転させながらは出来ないようなので、ゆきのへが前でダースドラゴンを引き付けている間に俺は後ろに周り、両手に持つ武器で思いきり攻撃する。

鉄や鋼で作られた武器なので、ダースドラゴンの硬い鱗も突き破ることができた。

まだ倒すことは出来ないが、かなりのダメージを与えられたはずだ。

 

「かなり効いてるな。これなら倒せるかもしれない」

ダースドラゴンの吐く炎も一時的に止まり、ゆきのへは奴の頭を殴り付けることができた。

もうすぐ倒せそうだと思っていると、ダースドラゴンは突然体に力をため始めた。どんな攻撃が来るのかと思っていたが、奴は体を一回転させて俺たちをなぎはらってきた。

 

「くっ、回転攻撃か!?」

 

炎を吐きながら回転は出来なくても、力を溜めての回転攻撃は出来るみたいだな。

俺はかわしきれないと思い、慌てて受け止めるが、魔物の城で受けたしにがみのきしの突進を越える威力で、俺の腕は骨が折れたような痛みが走る。

俺は動けなくなりそうだが、ダースドラゴンは俺に鋭い歯で噛みついてきたので、俺は痛みに耐えて避けた。

だが、すぐにダースドラゴンは動きを変えて、俺に向かって炎を吐き出した。このままでは危険なので、俺は一度下がって体勢を立て直す。

ラスタンもオーレンもまだしにがみのきしと戦っているので、ダースドラゴンは俺が倒さないといけないな。それに、こいつも倒せないようなら竜王を倒すことも出来ないだろう。

 

「腕がすごく痛いけど、休んではいられないぜ」

 

俺は立ち上がって、ダースドラゴンの横に回ろうと動き始める。

奴も炎を吐いて俺を倒そうとしてくるが、ゆきのへがおおかなづちで動きを止めてくれた。

ゆきのへは奴の回転攻撃を受け止めきれずかなりの傷を負っていたが、まだ戦えるようだな。

 

「ダースドラゴンめ、雄也に手は出させねえぜ!」

 

ダースドラゴンも、やはり二人を同時に相手するのは難しいようだな。奴はすぐに俺への攻撃を再開しようとしたが、動きが止まった一瞬の隙に近づき、腕に残った力をこめて、強大な威力の回転斬りを放つ。

 

「お前みたいな魔物でも、俺たちには勝てないぜ!回転斬り!」

 

ダースドラゴンは体内を深く引き裂かれ、悲鳴を上げて動きを止める。

それでもすぐに起き上がられそうだったが、ラスタンたちがしにがみのきしを倒したようで、ゆきのへと一緒にダースドラゴンを攻撃して行った。

 

「あとはこいつを倒せば勝利だぞ!」

 

「このままラダトームの城を守りきりますよ!」

 

ダースドラゴンは再び回転攻撃を溜め始めるが、俺は一度動きを見たことがあるのですぐに気づいた。

使われる前に倒そうと、俺は大きくジャンプして飛び上がり、ダースドラゴンの背中に奥深くまではがねのつるぎを突き刺す。

 

「まだ死なないのか、でも次で倒してやる!」

 

それでも奴はまだ生きていたが、左手に持ったおおかなづちで背骨を思いきり砕かれ、とどめをさされて倒れていった。

俺も反動で腕にさらに激痛が走ったが、敵は全滅したのできずぐすりやくすりの葉を使えば治るだろう。

 

「厳しい戦いだったけど、勝てたみたいだな」

 

町に戻る前にダースドラゴンを倒したところを見ると、赤色の旅のとびらが落ちていた。

探索に行きたいけど、傷はすぐには治らないから明日からのほうがいいな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode92 再び埋められた男

俺がラダトームに来て5日目の朝、寝室の外に出て城の中を歩いているとローラ姫に呼び止められた。

 

「雄也様、少しお話があるのですが、いいですか?」

 

「今日もすることは決まってないし、もちろん聞くぞ」

 

ラダトーム城の復興も大分進んできて、魔物たちから守ることも出来ているが、どんな話があるんだろうな?

俺がそう思っていると、ローラ姫は玉座の間を作った時にも言っていたことを話し始めた。

 

「このラダトームに向かう三賢者を探しているとお伝えしたことを覚えていますか?」

 

「もちろん覚えてるぞ。竜王を倒すのに必要な3つの道具を持った人たちのことだろ?」

そう言えばこの前も、3人の賢者が竜王を倒すために必要な道具をラダトームに向かっていると言う話をしていたな。

どんな人たちなのか気になり、竜王を倒すための道具も早く手に入れたいと思っていたが、もしかして見つかったのだろうか。

 

「それで、もしかして三賢者の行方が分かったのか?」

 

「はい。私は雄也様が城を再建している間に、ムツヘタ、ラスタン、そしてオーレンに三賢者を集めて貰っていたのです」

 

ラダトームに来てから数日しか経っていないのに、もう見つけられたのか。

オーレンが昨日もうすぐ見つけられると言っていたけど、俺が思っているより早かったな。

彼らの居場所を聞いたら、さっそく迎えに行ってくるか。

 

「それで、三賢者はそれぞれどこにいるんだ?」

 

「私は知らないのですが、3人に聞けば分かるでしょう」

 

ローラ姫は詳しい居場所は教えられていないのか。でも、今日はみんな城の中にいるのですぐに聞きに行けそうだ。

 

「分かった。さっそくみんなに、三賢者の居場所を聞いてくるぜ」

 

「お願いします、雄也様。この地を目指している彼らの行方を探し、ここに連れてきてください!」

 

ローラ姫は最後に俺にそう言って、玉座の間に戻っていった。三賢者を探すのはかなり大変そうだが、必ず見つけてこないといけない。

俺たちは占いの間の近くで話していたので、まずはその中にいるムツヘタに賢者の居場所を聞きに行くことにした。

俺はさっそく部屋の入り口のところまで歩いていき、とびらを開けて中にいるムツヘタに話しかけた。ちょうどムツヘタは作業をしていない状態だったので、邪魔をせずに聞くことが出来るだろう。

 

「ムツヘタ、聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

 

「もちろんじゃ。何か気になることでもあったか?」

 

ムツヘタは話を聞いてくれるようなので、俺は占いの間の中に入っていき、さっそく三賢者のことについて聞いた。

 

「ローラ姫から聞いたんだけど、竜王を倒すための道具を持つ三賢者を探しているんだろ?」

「そうじゃ。じゃが、一向に来ないと言うことは、旅の途中で何かあったのじゃろう···」

 

そう言えば最初、三賢者はここに自分たちの力で来る予定だったはずだな。そう考えると、三賢者がここに来る途中に足止めされている可能性が高いな。魔物に襲われているのかもしれないし、早めに迎えに行ったほうがよさそうだな。

 

「そして今日、三賢者の内の一人の居場所を突き止めることができたのじゃ!」

 

ムツヘタが一人の居場所しか知らないと言うことは、他の二人はラスタンたちに聞かないといけなさそうだ。

でも今は、ムツヘタが居場所を突き止めた三賢者の一人を助けに行こう。

俺はムツヘタに、その賢者の居場所を聞いた。

「それで、その人はどの辺りにいるんだ?」

 

「ラダトームの近くにある、凍り付いた湖のある砂漠じゃ。砂漠はかなり広いのじゃが、そこに三賢者のうちの一人がいるはずなのじゃ」

 

凍り付いた湖のある砂漠か···このラダトームの近くにそんな場所があったとは知らなかったぜ。

見たことのない場所だけど、昨日手に入った赤色の旅のとびらを使えば行けるだろう。

 

「そこなら昨日手に入れた旅のとびらで行けると思うぜ。準備が出来たら、すぐに迎えに行ってくる」

 

俺はムツヘタから三賢者の居場所を聞いた後、占いの間から出て城の隅の方に赤の旅のとびらを設置する。

これでラダトームでも3つ目の地域に行けるようになったな。

各地方で旅のとびらは3つずつ手に入っているので、ラダトームでもあと一つしか入手できなさそうだ。

そんなことも考えながら、旅のとびらの中に入っていく。すると、目の前が一瞬真っ白になった後新たな地域へと移動した。

 

「ここが新しい場所か。この場所のどこかに、三賢者がいるはずなんだよな」

 

その場所は最初の地域や城の近くと同じで、地面は灰色の死の大地に変化している。ムツヘタは氷の湖がある砂漠に賢者の一人がいると言っていたので、まずは砂漠を見つけないといけないな。

俺は旅のとびらのすぐ近くから、遠くに砂漠が見つけられないか見渡してみた。ムツヘタはかなり大きな砂漠だと行っていたので、離れていても分かる可能性がある。

辺りを眺めていると、旅のとびらから左の方にはそびえ立っている岩山があった。あの岩山の反対側には何かありそうだな。

そして、右側の方には火山地帯と、俺が探していた砂漠があった。氷の湖も見えるし、間違いないだろう。

 

「砂漠は見つかったけど、ここはこれまで俺が行ってきたどの地域よりもおかしい場所だな」

 

ここで気づいたが、この地域は各地方が合わさったような不思議な場所だ。

竜王の呪いを強く受けている場所なので、そういったこともあり得るのだろうか。

 

「とりあえず、砂漠に向かうとするか」

 

そのことは気になるが、俺は三賢者を助けるため砂漠に歩き始めた。砂漠までは1キロメートルはありそうだが、そんなに時間はかからないだろう。

旅のとびらの近くの灰色の大地を歩いていると、マイラで見た大きな棍棒を持つ魔物、トロルが何体も生息しているのを見つけられた。

 

「トロルが生息しているのか。倒せるだろうけど、隠れながら行かないとな」

 

上位種のボストロールを一人で倒したことがあるのでトロルも倒せるだろうが、今は戦う必要がないので見つからないように進んでいく。

それ以外にも、しりょうやスライムベスと言った弱い魔物もたくさんいた。

俺は素材も探しながら歩いていくが、ラダトーム城の近くにあるものしか見つけることが出来なかった。

俺はそこから20分ほど歩き続け、魔物に襲われることなく凍り付いた湖のある砂漠にたどり着くことが出来た。

「やっとムツヘタが言ってた砂漠に来れたな。大変そうだけぞ、三賢者を探すとするか」

 

まだ俺は疲れていないので、休憩はせず砂漠の中を歩き始める。

ドムドーラの砂漠に比べれば小さいが、ここも結構広い砂漠なので、探すのには時間がかかりそうだな。

砂漠を歩いていると、メルキドの峡谷地帯で見たことのある爆発する岩の魔物である、ばくだんいわがたくさんいた。

 

「ばくだんいわがいるってことは、まほうの玉やグレネードが作れそうだな。あいつらを狩りながら進んで行くか」

 

爆弾があれば、守りが固い魔物を倒したり、オリハルコンなどの固い鉱石を採掘したりできる。

俺は素材であるばくだんいしを手に入れるために、ばくだん岩を倒しながら三賢者を探すことにした。

俺は背後からばくだんいわに忍び寄り、右手に持つはがねのつるぎで斬りつける。

岩で出来ている奴らもはがねのつるぎでの攻撃を防ぐことは出来ず、大きなダメージを受ける。

 

「メルキドの奴らと強さは変わらないみたいだな。このまま倒せそうだぜ」

 

傷を負ったばくだん岩は、怒って俺に向かって転がりながら突進してきた。

すぐ近くにいるのでかわしきれないと思い、俺は左手に持つおおかなづちで突進を防ぐ。かなり重い一撃だったが、俺は腕に力を入れて弾き返す。

二刀流での攻撃を連続で受け、ばくだんいわは死にかけていた。メルキドの時から、二刀流で戦う方法を思い付いていればよかったな。

「そろそろ追い詰めたな。自爆される前に倒すぜ」

 

ばくだんいわは最後の力で自爆呪文のメガンテを唱えようとしたが、俺はその前に両腕の武器を奴に叩きつけ、とどめをさす。

奴が倒れたところには、一つのばくだんいしが落ちていた。

 

「これで1個手に入ったな。まほうの玉とかを作るときはもっと使うし、あと何体か倒しておくか」

 

俺はばくだんいしをポーチにしまった後、まわりにいるばくだんいわを同じように倒していった。

どのくらい爆弾を使うかは分からないが、10個くらいばくだんいしを手に入れることが出来た。

砂漠の奥の方にはてつのさそりのさらに上位種であるしのさそり、凍り付いた湖の上には青いカニのモンスター、ガニラスと言った魔物もいたが、俺は奴らは避けながら砂漠の探索を続けた。

「かなり探してるけど、三賢者はどこにいるんだ?」

 

ばくだんいしを集めた後、俺は三賢者を探すため海の近くまで歩いた。

すると、俺がメルキドに来てすぐのころに見たことがある変わった形の建築物を見つけることが出来た。

 

「メルキドでロロンドが捕まっていた建築物に似てるな。もしかして、三賢者がここに捕まっているのか?」

 

形は似ているが、今回は石垣で作られていて中央には竜王の顔が書かれた旗が立っている。誰かいるかもしれないので、俺は石垣を叩いて返事があるか試してみた。

そうすると、俺が聞き慣れた声で返事が聞こえてきたのだ。

 

「ぬおお!そこに誰かおるのか!?不届きな魔物どもに襲われて、硬い岩の中に閉じ込められてしまってな」

その声は、どう考えてもロロンドの声だった。ロロンドが捕まっていた建築物に似ていると思っていたが、まさか本人がいるとはな。

そうなるとロロンドが三賢者の一人と言うことになる。もしかしたら他の二人も、これまで復興させてきた町の住民なのかもしれない。

でも、いまいち信じられないのでロロンドなのか確認した。

 

「あんた、もしかしてロロンドか?」

 

「おお、その声は雄也ではないか!頼む、我輩をここから出してくれ!」

 

俺を知っているみたいだし、本当にロロンドみたいだな。

確かにロロンドは幻の書物であるメルキド録を解読して、彼のおかげで城塞都市メルキドを復興させられたと言っても過言ではないけど、三賢者の一人だとは思っていなかった。

俺はロロンドを救出するため、すぐに石垣を破壊しようとする。だが、ロロンドはこう言った。

 

「分かった。ロロンド、今すぐ助けてやるぞ」

 

「待ってくれ、雄也。我輩の真上はとても固い岩で閉ざされているのだ。だが、ゴーレムを倒すのに使ったまほうの玉を使えば壊れる気がするぞ!」

 

魔物も今回はロロンドが簡単に出られないようにしたみたいだな。

まほうの玉を使えばロロンドも巻き込まれそうだけど、固い岩を吹き飛ばしたことで爆風も弱まるだろう。

彼をを待たせることになるけど、まほうの玉を作ってくるしかなさそうだな。でも、走って往復すれば30分もかからずにロロンドのところに戻ってこれそうだ。

 

「それならすぐにまほうの玉を作ってくる。少し時間はかかるけど、待っててくれ」

 

俺はそう言って、走りながら旅のとびらのところに向かっていく。

走っていると魔物に見つかる可能性があるので、魔物があまり生息していない場所を選んで移動していった。

そして、15分もかからずにラダトームの城に戻ってくることが出来た。

 

「やっと帰ってこれたか。すぐにまほうの玉を作って、ロロンドのところに持っていかないと」

 

城に戻ってきてからも休みはせず、すぐに石の作業台を使ってまほうの玉を作る。まほうの玉は一度に10個作ることが出来るので、これからも使っていけそうだ。

まほうの玉が完成すると俺は赤色の旅のとびらに入り、砂漠地帯へと向かっていく。

ロロンドが閉じ込められている空間の酸素がなくなる前に助けないといけないので、今度はさらに早い速度で走っていった。

ロロンドのいる場所にたどり着くと、まほうの玉を作ってきたことを伝えて、すぐに設置する。

 

「ロロンド!まほうの玉を作ってきたぞ!」

 

「では、さっそく使って硬い岩を壊してくれ!」

 

まほうの玉は置いて数秒で爆発し、ロロンドを閉じ込めていた硬い岩を破壊して吹き飛ばす。

ロロンドが巻き込まれることもなく、彼は爆発が終わった後に閉じ込められていた空間から出てきた。

「よくやったぞ、雄也!お主のおかげで助かった!」

 

「ああ、助けられて本当に良かったぜ。それと、久しぶりだな、ロロンド!」

 

ロロンドを助けることが出来て本当に良かった。メルキドでの大切な仲間と再会できたこともあるし、すごく嬉しいぜ。

しかし、俺たちの背後から魔物の声が聞こえてきた。

 

「すげえ、爆発だったな。何が起きてんだ?」

 

その方向を振り向くと、そこにいたのは一体の小さなスライムだった。メルキドの峡谷地帯にいたスラタンみたいに、喋ることが出来るスライムのようだな。

ロロンドはあのスライムが持っていたいにしえのメダルを奪ったと言う。

「あいつは我輩がメルキドから持ってきたいにしえのメダルを奪ったのだ。あいつを倒して、メダルを取り戻すのだ」

 

ロロンドがいにしえのメダルを持ってきたと言うことは、もしかして竜王を倒すのに必要な道具と言うのは各地の空の闇を晴らすのに使ったアイテムのことなのか?

俺はいにしえのメダルを取り返すために、スライムに剣を持って近づく。すると、スライムは初めて俺に気づいたようで、とても驚いていた。

 

「2人も人間がいたぞ!それにこいつ、伝説のビルダーって奴じゃないのか!?」

 

どうやら俺がビルダーであることにも気づいているようだ。スライムもビルダーである俺やその仲間のロロンドを倒したいと思っているのだろうが、俺たちがスライムに負ける訳がない。

だが、奴もそれを分かっているようで、先生と呼ばれる魔物を呼び出した。

 

「こいつらを倒せばお手柄だ!先生、やっちまって下さい!」

 

先生ってどんな奴なんだと思っていると、目の前に王冠を被った巨大なスライム、キングスライムが現れた。

スライムの中でも強力な魔物であるキングスライムが現れ、俺もロロンドも武器を構えて戦いに備える。

 

「キングスライムか···ロロンド、一緒にあいつを倒すぞ!」

 

「分かっておる。久々に一緒に戦うが、必ず魔物を倒そうぞ!」

 

俺とロロンドは共にメルキドの強力な魔物と何度も戦ってきた。キングスライムに負けるはずはないだろう。

俺たちが武器を構えていると、キングスライムは体当たりをしようと近づいてくる。でも、体が大きくて重いためか、動きはあまり早くないので、俺たちは簡単にかわすことが出来た。

すぐに次の攻撃が来るはずなので、俺はキングスライムに向かってはがねのつるぎとおおかなづちを降り下ろす。

ロロンドも、メルキド復興の時から使っていたはがねのつるぎで、奴の体を斬り裂いていた。

 

「お前くらいの魔物に負ける訳がないぜ!」

 

「お主を倒して、いにしえのメダルを取り替えさせて貰うぞ!」

 

大きな傷を受けたキングスライムは、怯んで動きが止まっていた。だが、話すことの出来るようで、怒った口調で俺たちに向かって言う。

「人間なのに魔物に逆らうと言うのは、決して許されないことだぞ!」

 

そう言った後、キングスライムは二刀流で攻撃していた俺に向かって、思いきり体当たりをする。俺はすぐに受け止めたが、奴はかなり攻撃力が高いので押し返されそうだった。

 

「くっ、スライムの癖に結構強いな」

 

俺は腕に力を入れて、キングスライムの攻撃を受け止めきろうとする。

そして、俺の様子に気づいたロロンドも俺の隣に移動して、キングスライムの攻撃を弾き返そうとする。

 

「雄也、今援護しにいくぞ!」

 

ロロンドの力も加わり、キングスライムはさずかに押しきれず、体勢を崩して動きを止める。

俺はその間に力を貯めて、動けなくなっている奴に向かって回転斬りを叩き込んだ。

 

「回転斬り!」

 

「よくやったぞ雄也!これであいつも弱っているはずだ!」

 

二刀流での回転斬りを受けて、キングスライムは非常に大きなダメージを受けた。これなら、あと一撃を食らわせれば倒せるだろう。

俺が回転斬りの直後で動きが止まっている間に、キングスライムは何とか体勢を立て直し飛び上がって俺たちを押し潰そうとする。

だが、そこにロロンドが後ろから全力で斬りつけて、キングスライムは生命力が尽きて、消えていった。

 

「ついにやったな、雄也!キングスライムを打ち倒したぞ」

「ああ、これでいにしえのメダルを取り返せる」

 

俺はキングスライムの後ろに隠れていたスライムに近づき、はがねのつるぎを振り上げる。すると、奴は命乞いのようなことをしてきた。

 

「すいません、すいませんでした!だから、絞るのはやめてください!僕のあおい油は臭くて不味いですよ!」

 

「別にあおい油は持ってるからいらないけど、あんたを逃がす訳にはいかない」

 

もしここでスライムを逃がしてしまえば、上位の魔物や竜王に報告されて大量の魔物の軍勢がラダトーム城に押し寄せてくるかもしれない。俺たちは逃げようとした魔物を生きて帰したこともないしな。

そして、俺はスライムに向かってはがねのつるぎを降り下ろす。すると、奴が倒れたところにいにしえのメダルが落ちていた。

「よし、これでいにしえのメダルを取り返せたな」

 

俺はいにしえのメダルを拾って、ロロンドに見せに行く。俺はロロンドに渡そうと思ったが、俺が持っていていいと言う。

 

「ロロンド、いにしえのメダルを取り返して来たぞ」

 

「それはお主が持っていてくれ。精霊ルビスからのお告げによれば、そのメダルは竜王を倒すために必要な、虹のしずくと言う物を作る鍵となる物なのだ」

 

ムツヘタは竜王の島に行くのに虹のしずくが必要だと言っていたが、いにしえのメダルはその素材だったのか。

恐らく残りの二人の賢者も、虹のしずくの素材になる伝説のアイテムを持っているんだろうな。

俺がいにしえのメダルをポーチにしまうと、ロロンドは話を変えた。

 

「それと、いにしえのメダルを取り返せたところで、お主が復興させているラダトームの町に向かいたいと思う。それでいいか?」

 

「もちろんだ。ロロンドがいれば、ラダトームの復興も進むだろうからな」

 

ロロンドはとても心強い仲間なので、もちろんだの返事をした。ロロンドなら、俺が竜王を倒すことにも賛成してくれるだろう。

俺たちは歩いて、ラダトームの城に繋がる赤色の旅のとびらに向かった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode93 魔物の巣穴

ロロンドを助け出し、いにしえのメダルを取り返した後、俺たちは30分くらい歩いて旅のとびらの所へ歩いていった。長い道のりを往復したりキングスライムと戦ったりして結構疲れたけど、まだ正午くらいの時間帯なのでもう1人三賢者を救出に行けそうだな。

ラダトームの城へ戻ってくると、さっそくロロンドは城の中にある部屋を見回していた。

メルキドの町とは全く違う雰囲気だけど、気に入ってくれるといいな。

 

「おお!これがラダトームの城か!メルキド録に書かれた伝説の王都がここに!」

 

メルキド録にもラダトームの城のことが書かれていたのか。ラダトームが伝説の王都として伝えられているとは知らなかったぜ。

「ああ、俺たちが再建している途中なんだ」

 

「今のメルキドの発展ぶりに比べればまだまだではあるが、さすがは雄也だ」

 

確かに俺が去った後もメルキドの復興は続いているだろうから、今ではとても発展した町になっているだろう。竜王を倒した後に一度戻ってみるとするか。

そんなことを思っていると、ロロンドは俺が竜王を倒すのかと聞いてきた。

 

「お主はとてもすごい奴だ。このままの勢いで竜王も倒すのであろう?」

 

「もちろんだ。ここまでアレフガルドを復興させて来たんだから、竜王も倒してやるぜ」

 

最初から俺はそのつもりだったので、もちろんだと返事をする。

ルビスは竜王を倒すのは俺の役目ではないと言うが、そんなものは関係ないぜ。

 

「やはりそうか!アレフガルドで竜王を倒せるのはお主以外におらぬからな!」

 

ロロンドも俺に期待しているようなので、必ず竜王だけでなく裏切り勇者も倒して、アレフガルドに平和を取り戻さないといけない。

ロロンドはそれを聞いて喜んだ後、ローラ姫にあいさつに行こうとしていた。

 

「お主にはもう一つ話したいことがあるのだが、姫にも挨拶をせねばならぬ」

 

もう一つ話したいことと言うのが気になるが、今すぐ言う必要はないのだろう。

ロロンドがローラ姫や城のみんなと話したり、休んでいる間に俺は残り二人の賢者を探しに行こう。

俺はロロンドとの話を終えた後、城の中を見回っていたラスタンに、三賢者の居場所を聞きに行くことにした。

リムルダールやマイラからは誰が来ているのか分からないけど、早く迎えにいきたいな。

 

「ラスタン、ちょっと話があるんだけど、いいか?」

 

「もちろんいいが、どうしたのだ?」

 

ラスタンも話をする時間があるようなので、俺は三賢者の内の一人の居場所を聞いた。

 

「ラダトームに向かっている三賢者の一人の居場所が分かったんだろ?」

 

そう言うと、ラスタンはうなづいた。でも、ロロンドと同じようにここにたどり着く気配が全くないらしい。

 

「一向にラダトームの城に来る気配がないからな、姫の命令で行方を追っていたんだ」

 

今回も魔物に襲われたりしている可能性があるな。なるべく急いで向かったほうが良さそうだ。

 

「それで、三賢者の一人はどこにいるんだ?」

 

「ラダトームの周辺にある毒沼の近くにいるはずだぞ。そこでその賢者とやらを探し、このラダトームに連れてきてくれ!」

 

ラダトームの近くにも毒沼なんてあったのか。毒沼に落ちると危険なので、気をつけて行かないといけなさそうだ。

でも、城のまわりの地域にはそんな場所はなかったので、恐らくは赤色の旅のとびらの先だろう。

 

「分かった。すぐに出発するぜ」

俺は三賢者の居場所を教えてもらった後、ラスタンにそう言って旅のとびらに向かった。

とびらの中に入るとすぐに、砂漠や火山のある地域へと移動する。

 

「毒沼は見たことないけど、多分岩山の向こう側だな」

 

この地域ではまだ毒沼は見たことないので、俺がまだ行ったことのない岩山の向こうを調べてみるか。

俺は岩山の向こうへ行くため、旅のとびらから左に向かって歩き始めた。

旅のとびらの左側も灰色の大地になっていて、生息している魔物はトロルやしりょう、スライムベスだけだ。

 

「ここは初めて来たけど、旅のとびらの右側と同じ魔物しかいないのか」

 

倒せる魔物ではあるが時間がかかるので、俺はさっきのように隠れながら毒沼地帯を探して行く。

15分くらい歩き続けて、岩山の端のところへたどり着くことが出来た。

そして、そこから奥の方を見ると、リムルダールの町の近くにあったような大きな毒沼が見える。

旅のとびらの所から見れば、岩山の反対側にあたる場所だ。

 

「やっぱり岩山の向こう側に毒沼があったか。ここに三賢者の二人目がいるはずなんだよな」

 

俺は賢者を見つけるために、歩いて毒沼の近くへと進んでいく。

すると、毒沼の奥の方に紫色の土ブロックで出来た高い塔のような物が見えてきた。

 

「あの塔が気になるな···三賢者がいるかもしれないし、行ってみるか」

 

俺はそこを目指すために、毒沼にブロックを置いて渡り始める。

毒沼の近くにはドロルやウドラーと言った魔物がたくさんいたので、奴らを避けながら慎重に進んでいくことにした。

何とか魔物に見つからず毒沼にある塔の近くまで来ると、その真下にリムルダールで共に病人の治療を行い、魔物たちと戦った仲間である、シスターのエルの姿が見えてきた。

 

「リムルダールから来たのはエルだったのか」

 

エルはみんなが病に絶望している中、治療を諦めようとせず、リムルダールの復興に一番貢献していたな。

ロロンドとエルが選ばれたことを考えると、それぞれの町の復興に一番貢献した人が賢者して選ばれているのだろう。

毒沼を渡りきるとエルは俺に気づいて驚き、話しかけてきた。

「おお、あなたは雄也様なのですか!?どうしてこのような場所にいらしたのですか?」

 

「久しぶりだな、エル。ラダトームに向かっている三賢者と言うのを探しているんだけど、あんたがその内の一人みたいだな」

 

魔物にも襲われていないみたいだし、無事に見つけられて良かったぜ。

しかし、エルはこの塔の上にいる魔物にあまぐものつえを奪われてしまったと言う。

 

「雄也様のおっしゃる通り、私は精霊ルビスのお告げでラダトームの地を目指していました。ですが、雄也様にお渡しするあまぐものつえを、この上にいる魔物に奪われてしまったのです」

 

エルは魔物から逃げられたけど、あまぐものつえを取り返すことは出来なかったのか。

どんな魔物がいるのかは分からないが、俺とエルが協力して戦えば、あまぐものつえを取り返すことができるだろう。

 

「それなら、魔物を倒してあまぐものつえを取り返しに行くぞ」

 

「はい!ここには魔物の巣穴がたくさんあるのですが、雄也様と一緒なら破壊できるでしょう」

 

魔物の巣穴か···麻痺の森にあったキャタピラーの巣のような物が、ラダトーム地方にもあるのか。

巣穴からは大量の魔物が出現してくるが、強力な武器での二刀流で攻撃出来るので、魔物を倒しながら破壊することが可能だな。

俺たちが塔を少し登っていくと、二つの魔物の巣穴を見つけられた。中からはリリパットの色違いである、どくやずきんが出てきている。

「これはキャタピラーじゃなくて、どくやずきんの巣なのか。遠距離攻撃が出来るから、結構危険な魔物だな」

 

どくやずきんの矢には毒が塗られているので、リリパットの矢より危険だ。当たらないように気をつけて戦わないといけないな。

 

どくやずきんは俺たちに気づくと、すぐに弓を構えて毒の矢を放ってくる。

矢のスピードはかなり早いが、今の俺たちならかわせないことはなかった。

だが、次々に巣穴からどくやずきんが出てきて、近づくことが出来なかった。

 

「くそっ、敵の数が多すぎて近づけないな」

 

そう思っている間にも、次々にどくやずきんは出てくる。このままだと矢を回避することさえ難しくなってくるな。

何とかして奴らの数を減らして、巣穴を叩いて破壊しなければいけない。

でも、俺が必死に毒の矢を避けていると、隣にいたエルが銀色のナイフを投げつけて、どくやずきんに突き刺したのだ。体を貫かれたどくやずきんは、青い光を放って消えていく。

 

「私が出てくる魔物を倒します!雄也様はその間に巣穴を破壊してください!」

 

銀色のナイフ···聖なるナイフは手に持って使う物だと思っていたけど、投げて敵を倒す方法もあったのか。

このどくやずきんは巣から現れた個体なので一撃で倒せるし、それなら巣穴に近づいて破壊することが出来そうだな。

 

「分かった。厳しい戦いだけど、必ずあまぐものつえを取り返そうぜ!」

 

俺はエルがどくやずきんを倒していき、巣の近くに奴らがいなくなったところを狙って近づいていく。そして、巣穴に向かって思いきり左腕に持ったおおかなづちを叩きつけた。

一撃で壊すことは出来なかったが、巣の耐久力を減らせたことは確かだな。

巣穴を殴っている間にも、中からどくやずきんが出てきたが、はがねのつるぎを使って弓を構える前に倒していった。

 

「どくやずきんも近接戦闘は苦手みたいだな」

 

奴らはまどうしなどと同様で、近づくことは難しいが近づければ簡単に倒すことが出来る。

巣への攻撃とどくやずきんの殲滅を同時に行い、一つ目の巣穴を破壊することが出来た。

「これで一つ壊すことが出来たな。もう一つの巣穴も破壊してやるぜ」

 

もう片方の巣穴から出てくる魔物も、エルが聖なるナイフを使って食い止めてくれている。

俺は巣の横の方へ移動して、2つの武器を同時に叩きつけた。もう一回叩き込めば、巣穴は砕け散るだろう。

まだどくやずきんは出てきたが、俺とエルの攻撃によってすぐに倒されて、巣穴も壊されていった。

 

「よし、これで二つとも壊すことが出来たぜ!」

 

「この上には別の魔物の巣穴もあります。気を引き締めて行きましょう!」

 

どくやずきんの巣穴は壊せたけど、この塔のさらに上には別の魔物の巣穴もあるのか。

俺たちがつたを使って登っていくと、また巣穴が2つある場所があった。巣穴の形は同じだが、今回は戦い慣れている魔物、キャタピラーが出てきた。

 

「キャタピラーか。聖なるナイフが無くなると困るし、ここは俺一人で行くぜ」

 

エルは今回も援護しようとしていたが、ここで聖なるナイフが尽きると困るので俺一人で戦うと言った。

マヒの森での戦った時よりも巣穴の数が少ないので、一人でも楽勝なはずだ。

キャタピラーは体を丸めて転がり、突進してくるが、俺はそれをはがねのつるぎで受け止めて、そのまま斬り裂いていく。こいつらも生まれたてのようで、一撃で倒すことが出来た。

マヒの森にいた奴らより攻撃力は高いようだが、はがねのつるぎを使えば受け止めることは難しくない。

「やっぱりキャタピラーはそんなに強くないな。このまま巣に近づいて破壊してやるぜ」

 

俺はキャタピラーを斬り裂きながら奴らの巣穴へと近づいていき、叩き割っていく。

それを阻止しようとたくさんのキャタピラーが俺を襲ってくるが、二刀流なので攻撃を防ぎつつ、巣を破壊することが出来た。

片方の巣穴を破壊すると、もう一方から出てくるキャタピラーの勢いが強まる。

数十体以上のキャタピラーがまとめて突進してきたが、俺は腕に力を溜めて、一斉になぎはらった。

 

「回転斬り!」

 

回転斬りでキャタピラーの群れを全て倒し、敵がいなくなったところで俺は巣穴に近づいて、全力で叩き壊す。

はがねのつるぎとおおかなづちを何度も降り下ろされ、次のキャタピラーが出てくる暇もなく巣穴は破壊された。

強力な武器のおかげが、キャタピラーの巣穴を2つとも壊すことが出来たな。

後ろで見ていたエルは、俺が一人でキャタピラーの巣を壊したことにとても驚いていた。

 

「魔物の巣を一人で壊してしまうなんて、さすがは雄也様ですね!」

 

キャタピラーは慣れている魔物だったからもあるが、俺がアレフガルドに来てから魔物との戦いも得意になってきているからでもあるだろう。

残りの魔物の巣穴も、この調子で壊して行きたいぜ。

 

「この上には強力な魔物がいるだろうけど、行くぞ!」

塔のさらに上に登っていくと、今度はリカントマムルが出てくる巣穴が一つだけあった。

リカントマムルの爪は俺たちを混乱させてくる効果があるから、気を付けないといけないな。

 

「さすがにこいつは一人では押さえきれない。エルもナイフを使って援護してくれ」

 

リカントマムルは一人では押さえきれないので、今度はエルも聖なるナイフを投げて攻撃する。生まれたてのはずなのに、奴は生命力が高く一撃で倒すことは出来なかった。

 

「この魔物は下にいた魔物たちと違って、そう簡単に倒せませんね」

 

これだと、リカントマムルがたくさん出てきたらピンチになるな。次の奴が来る前に巣穴を破壊しないといけない。

なので、俺はリカントマムルの巣穴を破壊するため、武器を構えて走っていく。

それに気づいたエルと戦っているリカントマムルは、俺を止めようと鋭い爪を降り下ろして来た。

 

「お前に俺たちを止めることは出来ないぜ!」

 

俺ははがねのつるぎを使い、リカントマムルの攻撃を弾き返す。奴が怯んで、体勢を崩したところで俺は巣穴に近づき、おおかなづちで何度も殴った。

そして、次のリカントマムルが出てくる前に巣を破壊することが出来た。

 

「よし、リカントマムルの巣穴も壊せたぜ!」

 

「雄也様、こっちも片付けられました!」

 

エルの聖なるナイフによって、さっきのリカントマムルは倒されていた。強力な魔物だったが、苦戦せずに倒すことが出来てよかったぜ。

次で塔の最上段に登ることになるから、そこにあまぐものつえを奪った魔物がいるんだろうな。

 

「もう少しであまぐものつえを取り返せる。行くぞ!」

 

俺とエルは段差を登って、塔の一番上に登っていった。そこには強力な魔物の姿はなかったが、巣穴が3つ設置されていた。

恐らく、これらの巣穴を全て壊せばあまぐものつえを奪った魔物が現れるのだろう。

魔物の巣穴を壊しに行こうとすると、左の巣穴からどくやずきんが、真ん中の巣穴からキャタピラーが、右の巣穴からリカントマムルが現れてきた。

これなら、先に危険度の高いリカントマムルの巣を壊すべきだな。

 

「俺は先にリカントマムルの巣を壊す。エルはどくやずきんとキャタピラーを倒してくれ!」

エルに他の魔物を引き付けてもらい、俺はリカントマムルの巣へ近づいていく。

幸いまだリカントマムルの数は1体なので、俺は奴の攻撃をはがねのつるぎで防ぎながら、おおかなづちで巣を殴り付ける。

だが、巣穴を壊そうとしている俺のところに大量のキャタピラーが転がってきた。

 

「雄也様、魔物の数が多すぎて防ぎきれません!」

 

ここの魔物の巣穴は、下にあった物よりも魔物の出現頻度が高いみたいだな。エルは遠距離攻撃が出来るどくやずきんを倒すので精一杯で、キャタピラーを止めることが出来ないようだ。

俺は回転斬りでまとめてなぎはらおうとするが、リカントマムルの攻撃が激しく腕に力を溜めることが出来なかった。

俺は右手でリカントマムル、左手でキャタピラーと戦っているが、巣穴を攻撃することができない。

 

「魔物の数が多すぎるな、どうしたらいいんだ?」

 

そうしている内に、巣穴から2体目のリカントマムルが出てきてしまった。このままでは対応きしきれず、やられる可能性があるな。

 

「まほうの玉を使って、まとめてこいつらを倒すか」

 

俺はポーチからまほうの玉を取りだし、リカントマムルの巣穴の近くに置く。

俺は爆発する寸前にまほうの玉から離れ、俺を狙っている魔物全てを爆発に巻き込めるようにした。

そして、まほうの玉が爆発した瞬間魔物の巣穴やキャタピラー、リカントマムルが砕け散り、一気に数を減らすことが出来た。

 

「あとはキャタピラーの巣とどくやずきんの巣だな」

 

キャタピラーの巣からは、まだ大量のキャタピラーが出てくるが、奴らは弱いので片手で対応することが出来る。

俺はキャタピラーたちをなぎはらいながらく巣穴に近づき、おおかなづちで破壊した。

最後に、どくやずきんの巣に後ろから近づいて、両腕の武器を使って壊していく。どくやずきんはエルが引き付けてくれていたので、安全に壊すことが出来た。

 

「雄也様、これで魔物の巣穴を全て壊すことが出来ましたね!」

 

「ああ、でもあまぐものつえを持っている奴とはまだ戦っていない」

 

ここまででもかなり大変だったが、まだ終わりではない。

魔物の巣穴を壊して間もなく塔全体が揺れて、俺たちの目の前に巨大なガニラスが現れた。

 

「このガニラスがあまぐものつえを持っているみたいだな。こいつを倒して取り返すぞ!」

 

ガニラスが攻撃してくる前に、俺は両腕の武器を奴に向かって振り上げる。

その攻撃を、ガニラスは大きなハサミを使って受け止めようとした。奴は力が強く、二刀流でも押しきるのは難しそうだ。

俺の武器とガニラスのハサミがぶつかりあっている間に、エルは奴の背後に回って聖なるナイフを投げつける。

この世界の銀は鉄より固いので、銀でできたナイフはガニラスの甲殻を容易に貫くことが出来た。

 

「雄也様に渡すあまぐものつえを返させていただきます!」

 

聖なるナイフは一撃の威力は低いが、何度も投げつければ敵に大きなダメージを与えられる。

ガニラスはエルに反撃するため俺を押し返そうとするが、俺は腕に力をこめて体勢を崩さないようにしていた。

 

「お前くらいの魔物に押し返されはしないぜ!」

 

俺の腕の力も弱ってきていたが、エルはガニラスに聖なるナイフを当て続け、確実に大きな傷を負わせていた。

俺の腕の力が尽きる前に倒せそうなので苦戦することはないと思っていたが、怒ったガニラスはハサミを降りかざし、俺たちをなぎはらおうとした。

回転斬りと似たような攻撃でかなり威力が高く、俺は耐えきれず吹き飛ばされそうになる。

 

「くっ、回転攻撃も使えるのかよ!?」

 

それを見たエルは、聖なるナイフを使って一緒にガニラスの攻撃を受け止める。奴の攻撃力は強く、聖なるナイフが砕けてしまったが、攻撃を止めることは出来た。

そこでガニラスは攻撃の反動で動きが止まり、俺たちのチャンスが来た。奴は今の攻撃で俺たちを倒しきれると思っていたのだろう。

回転攻撃を使う敵には、こちらも回転斬りで対抗すればいいな。

 

「今だ、回転斬り!」

 

しかし、ガニラスは弱っているところに二刀流での攻撃を受けても瀕死の状態で生き残った。

 

「くそっ、倒しきれなかったか」

 

奴は最後の力を全て使うようにハサミを振り上げ、俺に向かって降り下ろす。

当たる寸前のところで回転斬りの反動は消え、俺もガニラスに武器を叩きつける。そして、ガニラスを倒すことは出来たが、俺も腕に大きな傷を受けてしまった。

ガニラスを倒したところにはあまぐものつえが落ちていたが、エルはそれより先に俺に駆け寄ってくる。

 

「おお、雄也様。大丈夫ですか!?今すぐきずぐすりを塗りますね」

 

エルはきずぐすりをラダトームに持ってきたらしく、俺の腕の傷に塗る。

エルは治療に詳しいので、俺が自分で塗る時よりもすぐに痛みが消えていった。

痛みが消えた俺は立ち上がって、あまぐものつえを拾いに行く。

 

「ありがとうな、エル。とりあえずこれで、あまぐものつえは取り返せたぜ」

「はい、大変でしたが雄也様にあまぐものつえを届けることができてよかったです」

 

あまぐものつえも虹のしずくの素材になるだろうから、大切に持っておかないとな。

俺があまぐものつえをポーチにしまっていると、エルは話を変えてラダトームの城に行きたいと言った。

 

「ところで私は、雄也様の作るラダトームの城に行ってみたいと思っています。連れていってくださいますか?」

 

「ああ、もちろんだ。リムルダールの町に比べればまだまだだけど、かなり再建されているぞ」

 

エルはラダトームでも大切な仲間になってくれるだろう。俺たちは塔を降りて、ラダトームの城へ向かった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode94 火山の魔城

俺はあまぐものつえを取り返した後、エルを連れてラダトームの城へと戻ってきていた。毒沼の塔から旅のとびらまではかなりの距離があったので、城にたどり着いた頃にはもう夕方になっていた。

ラダトーム城に初めて来たエルは、さっきのロロンドと同じようにいくつかの部屋を見回している。

 

「おお、ここがラダトームのお城!どこもかしこも雄也様らしい素敵な建物で溢れていますね!」

 

「ああ、ここの人たちと一緒に復興させてきたんだ」

 

どうやらエルは気に入ってくれているみたいだな。

みんなの力があれば、ラダトームもこれまでの町と同じくらい発展した場所に出来るだろう。

そんなことを考えていると、エルは俺なら竜王を倒すことが出来ると言ってきた。

 

「さすがは雄也様ですね。あなたなら必ず竜王も倒せるでしょう!」

 

「ああ、竜王はとても強いだろうけど必ず倒せるはずだぜ」

 

これまで何体も強大な魔物を倒してきた俺たちの力があれば、魔物の王である竜王を倒すことも夢ではないだろう。

 

「今のアレフガルドで竜王を倒すことが出来るのはあなただけだと思います!竜王を倒して、この闇に閉ざされた世界をお救いください」

 

エルも俺に期待してくれているみたいだし、頑張らないといけないな。

もちろん竜王を倒しても全てが解決する訳ではないが、とりあえずアレフガルド全域に光を取り戻すことが出来るだろう。

「ですが、今日は雄也様もお怪我をしておられるので、休んだ方がよいでしょう」

 

俺は竜王を倒す話で盛り上がっていたが、エルはそう言った。

今日はあと一人の三賢者も連れてくる予定だったが、傷が完全に治っている訳ではないし、もうすぐ真っ暗な夜になるので休んだほうがいいな。

 

「確かに、今日は大変だったし休むことにするよ。明日からまた、竜王を倒す準備を進めていこう」

 

俺はそこでエルと別れて寝室に戻り、残りの三賢者が魔物に襲われていないことを祈りながら眠りについた。

 

ラダトームに来て5日目の朝、エルが塗ってくれたきずぐすりのおかげで腕の傷はほとんど消えていた。これなら魔物に襲われたとしても思いきり戦うことが出来るだろう。

残りの三賢者の居場所はオーレンが知っているはずなので、俺はさっそく城の中を歩いている彼に話しかけた。

まだ朝早い時間なので、オーレンは眠そうな顔をしている。

 

「オーレン、朝早くから悪いんだけど、聞きたいことがあるんだ」

 

「どうなさったのですか、雄也様?」

 

オーレンが眠そうな顔からいつもの顔に戻るのを見て、俺は三賢者の居場所についての話を始めた。

 

「あんたがこの前言っていた、三賢者の居場所を教えて欲しいんだ。ローラ姫から、行方を突き止めたって聞いたぞ」

 

「はい、少し時間はかかりましたが、何とかルビスの命でここに向かう三賢者の一人の居場所が分かりました」

オーレンが行方を知っているのは、マイラの代表としてラダトームに来ている人だろう。

オーレンはさっそく、三賢者の最後の一人の居場所を俺に教えてくれた。

 

「三賢者は、この城から少し離れた場所にある火山地帯にいるはずです」

 

ラダトームの近くの火山地帯か···多分、赤色の旅のとびらを抜けたところの右に見えた火山のことだろう。

行ったことはないが、場所は分かるので迷わずに行くことができそうだ。

 

「分かった。旅のとびらを使えば行ける場所だし、三賢者を探してくるぜ」

 

「頼みましたよ、雄也殿。火山地帯で三賢者の一人を探してきてください!」

俺はすぐに武器を持って、城の端に置いてある赤色の旅のとびらに入る。

とびらを抜けた後右を見るとかなり遠くに火山地帯があり、たどり着くには結構時間がかかりそうだった。

 

「火山地帯までは距離があるみたいだけど、歩いて行くしかないな」

 

三賢者を助けに行くため、俺は火山地帯へ向かって歩き始めた。

旅のとびらから灰色の大地を右に進んでいき、途中にいる魔物たちを避けながらラダトームの火山へと近づいていく。

2キロメートルくらいの距離があり、昨日毒沼に向かった時より時間がかかるが、30分ほど歩き続けて火山地帯にまで来ることが出来た。

 

「やっとオーレンが言ってた火山地帯に着けたな。ここのどこかに、三人目の賢者がいるはずなんだよな」

火山も砂漠や毒沼と同じくらい広く、人を探すのは大変そうだが、俺はとりあえず探索を開始した。

そこにはマイラでも見たことのあるとうがらしが生えていて、魔物は多くの触手を持つメーダとその上位種のメーダロード、キャタピラーの色違いのかえんムカデが生息していた。

 

「初めて見る魔物も結構いるな。強い魔物だらけだし、戦いは避けて行こう」

 

俺はいつも通り魔物の群れを避けながら、たくさん生えているとうがらしを集めていく。

とうがらしはラダトームでは貴重な食材なので、今の内に集めておいたほうが良さそうだからな。

でも、とうがらしはいくらでも見つけられるが三賢者は見つからない。

「マグマの近くにも探しにいってみるか」

 

俺は三賢者を見つけるために、マグマの近くへ歩いていった。

すると、マグマの池の中に魔物の城のような物が建っており、そこへ登っていく長い階段を見つけられた。

上の様子を見ることは出来ないが、三賢者が魔物と戦っているかもしれないな。

 

「こんなところにも魔物の城があるのか。ここに三賢者がいるかもしれないし、行ってみるか」

 

魔物がいるだろうから、俺は武器を構えて目の前にある階段を登っていく。何十段もある階段だったが、俺は疲れずに登ることが出来た。

階段の上には奥の建物に続く道があり、そこに荒くれのリーダー、アメルダの姿があった。

アメルダの後ろには大砲が置いてあり、彼女がマイラから持ってきたものだろう。

アメルダは3体のメーダに襲われていたが、ひかりのつるぎを持っているのに戦おうとせず、怯えているだけだった。

 

「マイラからはアメルダが来てたのか。メーダに襲われてるみたいだから、助けに行かないとな」

 

どうしてアメルダがメーダと戦おうとしないのかは分からないが、兎に角助けに向かわないと危ない。

俺ははがねのつるぎとおおかなづちを構えて、メーダの群れに向かって行った。

 

「アメルダ、今助けるぞ!」

 

俺がアメルダの所に向かっていくと、メーダたちは俺に気づいてビームを放ってくる。

リムルダールで農業の記録を守っていた奴より小さい個体なので、かわすことは簡単だった。

俺はビームを避けてメーダの背後にまわり、思いきり武器を叩きつける。次の攻撃が来る前に何度も斬り裂き、1体を倒すことが出来た。

 

「メーダはそんなに強くないみたいだな。残りの2体も倒してやるぜ」

 

これなら、すぐにメーダを全滅させてアメルダを助けられるだろう。

しかし、メーダと戦っている俺の耳に別の魔物が呪文を唱える声が聞こえてきた。

 

「ベギラマ!」

 

その瞬間、俺の左右から大きな炎が飛んでくる。俺はすぐに気づいて炎を避けることが出来たが、誰が呪文を唱えたんだ?

見てみると、俺がいる場所の左右にも足場があり、そこにいるだいまどうがベギラマの呪文を唱えていたようだ。

それにだいまどうだけでなく、俺がいる場所の奥と右の足場に1体、左の足場に2体、合計4体のメーダロードがいた。

 

「だいまどうとメーダロードもいるのか···厄介なモンスターだらけだな」

 

俺たちが奴らの攻撃を避けていると、俺に気づいたアメルダが10発のまほうの砲弾を渡してきた。

 

「ア、アンタは雄也かい?この砲弾を使って奴らを倒しておくれ。アタシはメーダが苦手で戦えないのさ」

 

だからアメルダはメーダやメーダロードと戦えなかったのか。あんなに強い荒くれのリーダーなのに苦手な魔物がいるとは知らなかったぜ。

一人で戦わなければいけなさそうだが、まほうの砲弾があれば左右の足場にいる魔物も倒すことが出来るだろう。

俺はまほうの砲弾をさっそく使おうと思うが、近くにいるメーダが至近距離でビームを放ってくる。

 

「先に近くにいるメーダを倒さないといけなさそうだな」

 

俺は残り2体のメーダを倒すために、大きくジャンプして奴らの後ろへ回り込む。

そして、だいまどうのベギラマをかわした後の一瞬の隙に力を溜めて、回転斬りを叩き込む。

 

「回転斬り!」

 

二刀流での回転斬りを受けて、2体のメーダは青い光に変わって消える。

しかし、すぐに次の攻撃が来るので俺は大砲にまほうの砲弾をセットして、通路の奥にいるメーダロードに向かって撃ち放った。

「メーダを倒せたところだし、あいつらも大砲で吹き飛ばしてやるぜ」

 

メーダロードはまほうの砲弾が直撃し、大きなダメージを受ける。しかし、かなり防御力が高いようで一撃では死ななかった。

メーダロードが攻撃されたことに怒っただいまどうたちは、さっきより激しくベギラマの呪文を唱えてくる。

 

「我らの仲間を攻撃するとは許せぬ! 燃え尽きろ、ビルダーめ!」

 

だいまどうは防御力が低そうなので、まほうの砲弾を使えば一撃で倒すことが出来そうだ。一撃で死ななくても、衝撃でマグマに落ちて燃えるだろう。

メーダロードよりも先にだいまどうを倒した方がよさそうなので、俺はおおかなづちで大砲を回収する。

そして、だいまどうの前に設置した瞬間に発射スイッチを押す。

 

「だいまどう、燃え尽きるのはお前のほうだぜ!」

 

だいまどうも直前にベギラマを放ったがまほうの砲弾を防ぐことは出来ず、奴は吹き飛ばされてマグマに落ちていく。

だいまどうはマグマによって燃やされ、光を放って死んでいった。

 

「だいまどうもあと一体になったな。あいつもこの大砲で吹き飛ばしてやるぜ」

 

反対側にいるだいまどうは、俺の大砲を食らわないために移動しながらベギラマの呪文を唱え続ける。

だが、呪文の使いすぎで魔力が尽きて、ベギラマが使えなくなり、だいまどう自身の動きも鈍くなっていた。

俺は今がチャンスだと思い、奴に向かって大砲を発射した。

 

「お前もマグマの池に落としてやるぜ!」

 

その一撃をだいまどうは避けきれず、爆風でマグマに落ちていく。

これで、俺の目の前にいるのは4体のメーダロードだけになった。

 

「あとはメーダロードだけだな。まほうの砲弾を使って1体ずつ倒していくか」

 

左右にいるメーダロードは大砲を使わないと倒せなさそうだが、通路の奥にいる奴は弱っているし、剣でも倒せそうだ。

俺はメーダロード放つのビームを避けたり、武器を使って防いだりしながら近づいていき、奴の目にはがねのつるぎを突き刺す。

目に深いダメージを負ったメーダロードは生命力が尽きて消えていく。これで、あとは左右にいる奴らだけだ。

「まほうの砲弾はまだ残っているし、このまま倒してやるぜ」

 

俺は大砲を移動させながらメーダロードを撃っていき、次々に撃ち倒していく。

奴らもさっきのだいまどうのようにビームの撃ちすぎで動きが鈍っていたので、大砲を回避することは出来ない。

防御力は高いがまほうの砲弾を2発受けると耐えられず、3体とも倒れて消えていった。

魔物たちが全滅したのを見て、怯えていたアメルダが俺に近づいてきた。

 

「さすがだよ、雄也!メーダたちを全滅させることが出来たみたいだね!」

 

「ああ、結構強い奴らだったけど、何とか倒すことが出来たぜ」

 

メーダロードを全て倒した時にはまほうの砲弾は残り一つになっていて、俺も動き続けてすごく疲れたぜ。

でもこれで、三賢者を全員見つけることが出来たな。

俺がそう思っていると、アメルダはメーダに怯えていたことを謝る。

 

「でも、メーダが怖くて雄也に任せっきりになって、本当に悪かったね···」

 

「別に気にしなくていいぞ。まほうの砲弾が残り1個になったけど、無事に倒すことが出来たからな」

 

アメルダは申し訳なく思っているようだが、俺はそこまで気にしていない。

誰にでも苦手なものはあるはずなので、仕方のないことだろう。

 

「それならよかったよ。ところで、どうしてアンタはここに来たんだい?」

 

「竜王を倒す伝説の道具を持った三賢者を探しているんだけど、あんたがそうみたいだな」

 

俺はアメルダに、自分が三賢者を探しにここに来たことを伝える。

アメルダは、マイラの空の闇を晴らすのに使ったたいようのいしを持っているのだろう。

俺は一緒にラダトームの城へ帰ろうと思ったが、アメルダはたいようのいしが魔物に奪われていると言ってきた。

 

「実はそのことなんだけど、アンタに渡すために持ってきたたいようのいしを魔物どもに奪われちまってね。この奥の建物の中に隠されているはずなんだ」

 

それなら、ラダトームに戻る前にたいようのいしを取り返しておくべきだな。

俺は疲れているが、一度戻ってしまうと竜王は再びここに魔物を派遣するだろう。

 

「じゃあ、たいようのいしを手に入れたらラダトームの城に行こう」

 

「ああ、一緒に戦うのは久しぶりだけど、アタシたちなら取り返せるはずだよ」

 

俺はたいようのいしを取り返すために建物の中に入っていった。建物の中は一本道で、奥の部屋に宝箱が置かれている。

魔物の姿はないのだが、恐らくは宝箱を開けると出現する仕組みになっているのだろう。

 

「アメルダ、あの宝箱を開けたら魔物が出てくるはずだから、気をつけてくれ」

 

「ああ、どんな魔物が出るか分からないけど、アタシたちなら勝てないはずはないよ」

 

俺はアメルダがひかりのつるぎを構えたのを見て、宝箱を開く。すると、案の定罠だったようで、5体のかげのきしが俺たちの回りに現れた。

だが、それだけでなく宝箱自体も魔物だったようで、鋭い牙を持つ箱型の魔物、ミミックに変化した。

 

「かげのきしとミミックか···かげのきしは戦ったことがある奴らだし、倒せそうだな」

 

俺のところにはミミックとかげのきしが2体が、アメルダのところにはかげのきしが3体襲いかかってきた。

かげのきしは鋭い剣で斬りかかってきて、ミミックは牙で噛みついてくる。

 

「たいようのいしは渡さんぞ!」

 

「ビルダーも荒くれの女も、ここでオレたちが斬り刻んでやるぜ!」

 

俺は両側から斬りつけてくる2体のかげのきしを、はがねのつるぎとおおかなづちで受け止める。

希望のはたがあった魔物の城にいたかげのきしと強さはあまり変わらないが、ミミックの攻撃が来たため弾き返すことは出来なかった。

俺は後ろに飛んで回転斬りを使おうとしてみるが、ミミックは予想以上に早く移動してきて、力を溜めることが出来ない。

 

「回転斬りも使えないようだから、攻撃を避けながら少しずつ削っていくしかなさそうだな」

 

俺は少しづつ奴らを攻撃していく作戦に変えて、かげのきしの剣やミミックの牙を回避しながら、何度も武器を降り下ろしていった。

だが、奴らもそう簡単に倒れることはなく、俺に向かって素早い連続攻撃を放ってくる。

さっきの戦いの疲れもあって、俺は動きが鈍くなってきていた。

 

「やっぱりそう簡単に倒せる相手じゃないみたいだな。回転斬りを決められるチャンスでもあればいいんだけどな」

 

俺も苦戦しているが、アメルダは3体のかげのきしに囲まれて厳しい状況になっていた。

マイラの魔物も非常に強い奴だらけだったけど、竜王の城に近いラダトームの魔物はそれ以上の強さがあるからな。

アメルダはひかりのつるぎで確実にかげのきしたちにダメージを与えてはいるが、反撃を受けて何ヵ所か傷を負っていた。

 

「ここの魔物は、思っていたより強いみたいだね」

 

俺も攻撃を避けてかげのきしやミミックを攻撃し、弱らせてきてはいるが倒すのにはまだかかるだろう。

それまでに俺の体力が持つかどうか分からないし、アメルダも追い詰められているので、何とかしないといけないな。

 

「まほうの砲弾が一つ残っていたはずだから、それを使ってあいつらを倒すか」

 

メーダロードを倒した時に残ったあと一つの砲弾を使うしかなさそうだな。

俺はかげのきしたちの攻撃をかわしながら、アメルダにまほうの砲弾を使うことを伝えた。

 

「アメルダ、このままだと勝てないかもしれないから、最後のまほうの砲弾を使うぞ!」

 

「まほうの砲弾をラダトームに持って行きたかったけど、こうなったら仕方ないみたいだね」

 

俺たちは走って魔物たちから離れて、奴らに向かってまほうの砲弾を設置する。あいつらも弱っているはずなので、大砲を使えば一気に倒すことができるだろう。

そして、俺がまほうの砲弾をセットした次の瞬間、アメルダが大砲の発射スイッチを押す。

まほうの砲弾は迫ってくる魔物たちに直撃し、弱っていたかげのきしは全てバラバラに砕けて倒れた。

しかし、ミミックを倒しきることは出来ず、俺たちを噛み潰そうとしてきた。

 

「ミミックはまだ倒せなかったか、攻撃を防ぐしかないな」

 

俺はミミックの上の牙にはがねのつるぎを、下の牙におおかなづちを当てて噛みつきを防ぐ。

俺の腕がへし折られそうになる威力だったが、力を腕にためて耐え抜いた。

ミミックも弱っているので、そこまでの力は出せないようだった。

 

「雄也、アタシがとどめをさすよ!」

俺が攻撃が防いでいるのを見て、アメルダはミミックの口の中にひかりのつるぎを突き刺し、思いきり引き裂く。

そこでミミックは生命力が全て尽き、たいようのいしを残して消えていった。

 

「まほうの砲弾がなくなっちまったけど、たいようのいしを取り返せたみたいだね!」

 

「ああ、ミミックは強敵だったけど、これで倒すことが出来たぜ!」

 

アメルダは大砲を、俺はたいようのいしを回収して建物から出る。その後、アメルダは俺と一緒にラダトームに住むと言った。

 

「さて、たいようのいしを取り返したところだし、アンタの住んでいるラダトームの城に案内しておくれ」

「もちろんだ。俺もアメルダが協力してくれるなら心強いからな」

 

そして、俺とアメルダは30分ほど歩いて旅のとびらに入り、ラダトーム城に戻ってきた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode95 洞窟に隠れ潜む者

俺たちが旅のとびらを通ってラダトーム城に戻ってきた後、アメルダは歩きながら城にある部屋を眺めていた。

アメルダのこの城を気に入っているようだが、マイラと違って温泉がないのを残念に思っているようだ。

 

「ここ、なかなかいいところだけど、温泉はないみたいだね」

 

「ああ、アレフガルドで温泉があるのはマイラだけだからな」

 

ラダトームはマイラと違って、温泉が沸いている場所がない。

アメルダは温泉がとても好きだと荒くれたちも言っていたので、今でも毎日入らないと気がすまないのかもしれない。

 

「そうかい···残念だけど、仕方ないみたいだね」

でも、ラダトームに住むのが絶対に嫌だとは思っていないようだった。

温泉の話の後、アメルダも俺が竜王を倒しに行くのかと聞いてきた。今まで復興させてきた町の人々はみんな、俺が竜王を倒すと期待しているようだな。

 

「ところで、いよいよアンタが竜王をぶっ倒しに行く時なんだろう?」

 

「ああ、竜王を倒せばアレフガルド全域に光が戻るはずだからな」

 

俺は、ロロンドやエルに聞かれた時と同じように、自分が竜王を倒しにいくと答えた。

ここまでアレフガルドを復興させてきたのだから、闇の元凶である竜王と裏切り勇者を倒さずに終わるのは絶対に嫌だ。

どちらが先でもいいが、2体とも倒さなければアレフガルドに平和が戻ることはないだろう。

アメルダは裏切り勇者のことは知らないようだが、俺が竜王を倒しに行くと聞いて嬉しそうな表情をする。

 

「アンタならそう言ってくれると思っててね、アタシたちはマイラに古くから伝わる伝説の剣、おうじゃのけんの作り方を調べておいたんだ」

 

そう言えばラスタンは、竜王を倒すにはおうじゃのけんと言う伝説の武器が必要だと言っていたな。

おうじゃのけんがあれば確実に勝ち目は高くなるので、必ず作っておいたほうがいいな。

 

「それで、作り方が分かったのか?」

 

「ああ、今すぐアンタに伝えたいけど時間がかかるから、先に旅の疲れを癒させておくれ」

 

おうじゃのけんは今日中に作らないといけない訳ではないので、休んでからでもいいだろう。

アメルダだけでなく、俺も戦いでかなり疲れているので、今日は休んでおいたほうがいいな。

俺が寝室に向かっていると、ローラ姫は三賢者を連れてきたことのお礼を言いたいようで、話しかけてきた。

 

「雄也様、三人の賢者を全員お連れくださったのですね!本当にありがとうこざいます」

 

「ああ、三人は俺の大事な仲間たちだからな、助けることが出来て良かったぜ」

 

最初はあいつらが三賢者だとは思っていなかったけど、また会えたことはとても嬉しいぜ。

ローラ姫は、これで竜王を倒す準備がまた一つ進んだとも言った。

 

「三賢者がラダトームに持ってきたのは、竜王を倒す鍵となる聖なるほこらと虹のしずくを作るのに必要な物だそうです。雄也様の責務である竜王討伐の準備も、達成に近づいてきましたね」

「そうだな。まだ時間がかかりそうだけど、全ての準備が整ったら俺が竜王を倒しにいくぜ」

 

虹のしずくだけでなく、聖なるほこらという物も作らないといけないのか。

聖なるほこらはドラクエ1で虹のしずくを持っている賢者がいた場所のことだから、それを再建しろと言うことなんだろうな。

そして、準備が整ったら竜王の島に行って、奴を倒すと言うことだな。

でも、俺が竜王を倒すと言うとローラ姫は、ルビスが俺は竜王を倒す存在ではないと言っていたことを伝えてきた。

 

「あなたのお仲間の皆様も、雄也様が竜王を倒すと信じておられました。ですが、精霊ルビスはあなたは竜王を倒す存在ではないと言っています」

ルビスは竜王を倒すのは次に現れる勇者だと言っていたが、そうなればその人も人々の重すぎる期待に絶望し、世界を裏切るかもしれない。

そうならないためには、俺が竜王を倒しに行くしかないだろう。

 

「ムツヘタの言うように、人にはそれぞれ与えられた役割があって、全てはルビスの導きのままにと言うことなのでしょうか?」

 

「それは違うぞ。確かに俺はルビスの導きでアレフガルドに来たけど、町を復興させてきたのは自分の意思だからな」

 

たとえルビスであっても、人の人生を勝手に決める権利は決してない。その権利があったとしたら、精霊でも何でもなく、ただの独裁者のようなものだ。

「雄也様ならそう言ってくれると思っていました。今は兎に角、竜王を倒す準備を進めて行きましょう」

 

俺はローラ姫が喜んでいるのを見てから話を終えて、寝室に戻っていく。

今日はとても疲れたので、午後からは特に何もせずにゆっくり休んでいた。

 

ラダトームに来て7日目の朝、俺は起きた後寝室から出て城の中を歩いていた。今日でラダトームに来てからもう1週間になるんだな。

今日もラダトーム城の再建や、竜王を倒す準備を進めて行こうと思っていると、同じくらいの時間に部屋から出てきたアメルダに話しかけられた。

 

「おはよう、雄也!一晩休んで疲れがとれたし、今日こそアンタに竜王を倒すための伝説の剣、おうじゃのけんの製法を教えるよ」

昨日アメルダはおうじゃのけんの作り方を教えると言っていたが、結局寝てしまって聞くことが出来なかったな。

でも、今日は俺も疲れが取れているので、おうじゃのけんの素材を集めに行くことが出来るだろう。

非常に固い金属なども使いそうだが、まほうの玉があるので採掘できそうだ。

 

「分かった、さっそく作り方を教えてくれ。必要な素材が分かったら、すぐに取りに行ってくるぜ」

 

そう返事をすると、アメルダはおうじゃのけんの形や作り方を俺に教え始めた。

かなりたくさんの素材が要りそうだが、ビルダーの魔法を使えばすぐに作れるだろう。

俺はアメルダから聞いたおうじゃのけんの形を頭に思い浮かべて、必要な素材を調べた。

おうじゃのけん···オリハルコン3個、はがねインゴット2個、金1個、銀1個、染料1個 神鉄炉と金床

はがねインゴット、金、銀はポーチに入っているし、染料もすぐに作れるので、あとはオリハルコンを手に入れれば作れるだろう。

アメルダは、俺に作ることができそうか聞いてくる。

 

「どうだい雄也?おうじゃのけんは作れそうかい?」

 

「オリハルコンって言う固い金属が必要だけど、作れるはずだぞ」

 

オリハルコンは、この前ロロンドを救出しに行った砂漠地帯にある洞窟を調べれば見つかるかもしれないな。

砂漠までは結構距離があるが、強力な武器であるおうじゃのけんを作るためなので行くしかないな。

「それなら、さっそく素材を集めておうじゃのけんを作っておくれ!」

 

「ああ、作ったらすぐに教えるぜ」

 

俺はアメルダにそう言って、赤色の旅のとびらに向かった。とびらを抜けると、各地方が入り混じった不思議な場所にたどり着く。

洞窟がある砂漠地帯までは30分くらいかかるけど、歩いて行けるだろう。

俺は途中にいる魔物たちを回避しながら進んでいき、旅のとびらの右にある砂漠地帯を目指していった。

そして、魔物と戦うことなく無事に砂漠まで来ることが出来た。

 

「少し時間はかかったけど、砂漠地帯に着いたな。でも、洞窟まではもう少し歩かないといけないな」

俺は広い砂漠を岩山に向かって歩いていき、15分くらいで洞窟の入り口へ着いた。

洞窟はかなり奥まで続いており、珍しい金属がたくさん眠っていそうだった。

 

「この洞窟にならオリハルコンもありそうだし、入ってみるか」

 

洞窟に入っていくと、壁は黒い岩でできていて中は少し暗く、いくつかの段差もあって進みにくかった。

途中で道が二手に分かれている場所もあり、どっちにも何かありそうだが、まずは俺は左の道を進んでいく。

そして、その奥へ進んでいくと、オリハルコンや銀の鉱脈がたくさん眠っている場所を見つけた。

それに、オリハルコンや銀だけでなく、リムルダールで見た赤い宝石や、初めて見る青色の金属も埋まっていた。

「やっぱりここにオリハルコンがあったか。赤い宝石や青い金属も何か素材になりそうだし、一緒に採掘しておくか」

 

俺はポーチからまほうの玉を取り出して、それらの鉱脈の近くに設置する。

置いた後はすぐにその場から離れて、3秒くらい経つとまほうの玉は激しく炸裂し、たくさんの鉱脈を砕いていった。

爆発が起こったところを見ると、黒い岩のブロックやオリハルコン、銀、赤い宝石、青色の金属と言った鉱物が大量に落ちている。

これでオリハルコンは3つ以上集まったので、戻ったらすぐにおうじゃのけんを作れるな。

でも、俺は洞窟が二手に別れているところの、右側の道も調べようと思っていた。

 

「これで素材は集められたけど、右の道にも行ってみるか」

 

集めた鉱石をポーチにしまった後、俺は洞窟が別れていたところまで戻り、右側の道へ歩いていった。

左側にはなかった別の素材が見つかるかもしれないので、こっちも調べておいたほうがいいだろう。

しかし、そっちの道は俺の予想と違って一番奥に行っても何も鉱脈が埋まっていなかった。

 

「あれ?こっちには何もないみたいだな」

 

俺は何もないのを見て帰ろうと思っていたが、洞窟の壁から不思議な声が聞こえてきたのだ。

 

「クルナ···クルナ···」

 

魔物の攻撃に怯えている誰かが隠れているのかもしれないな。

来るなとは言っているが、ラダトームの城に連れていけるかもしれないので、俺はおおかなづちで壁を叩き壊す。

すると、そこには毒沼の近くにいるカタツムリ型の魔物、ドロルがいた。

このドロルは喋ることが出来るらしく、俺に話しかけてきた。

 

「おや?竜王様の使者かと思ったら、人間ではないですか」

 

「普通に話しかけてくるってことは、あんたは竜王の味方ではないみたいだな」

 

魔物でありながら竜王に怯えていると言うことは、メルキドのスラタンのように、人間の味方をしているのだろうか?

 

「はい、自分で言うのも何ですが、ワタシは心の優しいドロルでございまして。人間と争うのが嫌でこんなところに身を潜めていたのです」

やっぱりこのドロルは人間の味方のようだな。だから人間と仲良くなるために、人間の言葉を覚えたのだろう。

暗い洞窟の奥にずっと隠れているのも嫌だろうから、ラダトーム城に連れて行けばいいかもしれないな。

 

「それなら、俺たちが作っている城に来ないか?その場所ならここより安全だと思うぞ」

 

「おお、それは本当ですか!?ありがとうございます!この姿ではご不満かもしれませんが、これなら大丈夫でしょう」

 

俺がそのことを言うとドロルはとても喜んで感謝の言葉を言う。

その後、俺は今の姿でも構わないぞと伝えようと思ったが、ドロルは突然人間の兵士の姿へと変わった。

人間と仲良くなるために人間に化けることも身に付けたなんて凄い奴だな。

 

「ワタシは、チョビと言います。サア、あなたたちの城へ連れてってください!」

 

「ああ、人間の味方をしてくれるのなら魔物でも歓迎するぜ!」

 

確かに兵士の姿であれば、城を攻めてくる魔物とも戦うことが出来るだろうから、その方がいいのかもしれないな。

俺はチョビと名乗るドロルと一緒に洞窟から砂漠地帯へ出て、そこから45分くらい歩いて旅のとびらへ戻っていった。

人間の味方だと言うことが分かれば、みんなもチョビを城を再建する仲間として迎え入れてくれるだろう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode96 伝説の装備

俺とドロルのチョビは、砂漠から45分くらい歩いてラダトームの城に戻ってきていた。朝に素材集めに出発したのだが、もう昼頃になっている。

ずっと暗い洞窟にいたチョビは、希望のはたの明るい光にとても驚いていた。

 

「オオ!ここニハ光が溢れてイル!なんて素晴ラシィ場所なのだろう」

 

初めて眩しい光を見た人は、みんな同じようなことを言っていたな。

それと、どうしてかは分からないが、チョビはさっき洞窟にいてドロルの姿になっている時より喋りにくそうにしていた。

 

「何か喋りにくそうだけど、どうしたんだ?」

 

「実は、コノ姿ニナルト言葉ガ話しにくクなるノデス。ドウカ、ご勘弁ヲ!」

元々はドロルだったから、人間の体の作りには慣れていないんだろう。

俺も話を聞き取りづらいので、早くうまく喋れるようになるといいな。

そんなことを考えていると、俺がまだチョビに自己紹介をしていないことを思い出した。

 

「そう言えば、言い忘れていたけど俺の名前は影山雄也。いつもは雄也って呼んでくれ」

 

「ナカナカ、いい名前デスネ!コンナ所ニ住ませテクレテアリガトウ、雄也ドロル!」

 

いい名前だと言って貰えるのはありがたいのだが、どうして雄也ドロルって呼ぶんだ?

俺は別にドロルではないし、呼び捨てでいいと思っているのだが。

 

「どうして名前の後にドロルを付けるんだ?」

「こレハ、ドロルノ言葉デ最高ノ尊敬ヲ表す敬称デス」

 

つまり、名前の後に様をつけるのと同じようなことなのか。チョビは自分を助けてくれた俺のことを、大切な人だと思ってくれているようだな。

そのことを話した後、チョビは俺だけでなく城のみんなにあいさつをしに行った。

 

「ソレデハ、雄也ドロル!この城ノ皆様ニあいさつヲして来ますネ!」

 

喋り方は変わっているが、チョビもみんなと仲良くなることが出来そうだな。

 

「そろそろアメルダに言われてた、おうじゃのけんを作りに行くか」

 

俺はそこでチョビと別れて、おうじゃのけんを作るために神鉄炉のところへ向かった。

砂漠の洞窟でオリハルコンをたくさん集めたので、今すぐ作ることが出来るだろう。

神鉄炉の前に立つと、俺は金、銀、オリハルコン、はがねインゴット、染料を中に入れて、ビルダーの魔法を発動させた。すると、それらの素材が合体して変形していき、剣の形へと変わっていく。

そして、美しい装飾も施されているとても鋭い剣を作り上げることが出来た。

 

「これがおうじゃのけんみたいだな。確かにこれなら、竜王を倒すことも出来そうだぜ」

 

おうじゃのけんは、はがねのつるぎやひかりのつるぎ以上に斬れ味がすごそうだった。

竜王が真の姿を現しても、この武器を使えば斬り刻むことが出来るかもしれない。

俺はさっそく、おうじゃのけんを作ったことをアメルダに知らせた。

城の中を歩いていたアメルダはその話を聞くと、すぐに俺のところへ走ってきた。

 

「アメルダ、おうじゃのけんが完成したぞ」

 

「おお、それは本当かい?さっそく見せておくれ」

 

アメルダは、早く俺が作ったおうじゃのけんを見たいようだった。

なので俺は、出来上がったおうじゃのけんをポーチから取りだし、アメルダに見せる。

 

「おお、これがおうじゃのけんかい!これで、竜王をぶっ倒す準備がまた一つ、完了したね!」

 

確かに、これで伝説の剣が手に入ったので、あとは竜王の島に行くために必要な虹のしずくを作れば、竜王と戦うことが出来るな。

俺がそう思っていると、アメルダは話を変えてきた。

 

「ところで雄也。あのムツヘタとかいうじいさんと二人の兵士、捻り潰してやってもいいかい?」

 

アメルダはムツヘタたちに腹が立っているようだけど、何があったのだろうか?

 

「あいつらに怒っているみたいだけど、何があったんだ?」

 

「アイツら、アンタに竜王を倒す使命はないだとか言いやがるのさ!今のアレフガルドで竜王を倒せるのは、アンタだけのはずだろう?」

 

この前俺は自分が竜王を倒しにいくと言っていたのに、あいつらはまだそんなことを言っていたのか。

俺もあいつらにはイラついたし、俺が竜王を倒しに行くと信じているアメルダが怒りたくなる気持ちは分かるな。

でも、何を言われようが俺は竜王を倒してアレフガルドを救うつもりだ。

 

「別にあいつらが何と言っても、俺は竜王を倒しにいくぞ」

 

「雄也ならそう言うと思ってたよ。偉そうに上から決めつけやがって。自分がどうするかってのは、自分で決めるもんだろう?」

 

昨日ローラ姫にも言ったが、これまでアレフガルドを復興させてきたのは間違いなく自分の意思だ。

だからアメルダの言う通り、これからも自分がどうするかは自分で決めていく。

 

「俺もそう思うぞ。人の人生を勝手に決められる権利なんて、誰も持っていないはずだからな」

 

俺の返事を聞いて、アメルダはマイラのみんなも俺が竜王を倒すと期待していることを伝えてきた。

「アンタが竜王を倒すことは、シェネリもコルトも荒くれ共も信じているさ。世界が平和になったら、またマイラの温泉に入りに来なよ」

 

「ああ、もちろんだ!」

 

俺は大声でもちろんだと言った後、おうじゃのけんをポーチに戻して、アメルダと別れた。

これで、みんなのためにも必ず世界に光を取り戻さなければいけないと改めて思うことが出来たな。

 

俺はアメルダと別れてからしばらくして、午後からは何をしようかと考えていた。

伝説の装備を作ったので、後はムツヘタが虹のしずくの原料のありかを突き止めるのを待つしかないのだろうか。

そう思っていると、ロロンドが近づいて話しかけてきた。

「雄也よ、お主に伝えたいことがあるのだが、いいか?」

 

「俺は暇だからいいけど、伝えたいことって何だ?」

 

そう言えばロロンドを救出した後ラダトーム城に戻ってきてから、もう一つ話したいことがあると言っていた。

ラダトームの再建や竜王との戦いに関わることかもしれないし、聞いておくべきだな。

 

「我輩がラダトームに来たのはいにしえのメダルをお主に届けるためだけではなく、竜王を討伐に必要な鎧の作り方を教えるためでもあったのだ」

 

竜王を倒すのに必要な鎧か···俺は重い鎧や盾を装備することが嫌いで、これまで一度も使ったことがない。

でも、俺には必要ないなんて言ったら、せっかく作り方を調べてきてくれたロロンドに失礼だよな。

「その鎧って言うのは、どんな物なんだ?」

 

「ひかりのよろいと言われる物でな。お主なら作り出せると思っておるぞ」

 

この前ラスタンがおうじゃのけんのことを話した時、一緒にひかりのよろいのことも言っていたな。

竜王を倒しに行くときも俺は装備するか分からないけど、一応作り方を聞いておくか。

 

「分かった。作り方や形が分かれば、ビルダーの力で完成させられるぞ」

 

ロロンドは、さっそく俺にひかりのよろいの作り方を教えてくれた。

俺はひかりのよろいの形状を脳内に思い浮かべ、ビルダーの力で必要な素材を調べた。

ひかりのよろい···ブルーメタル3個、赤い宝石1個、金1個、オリハルコン2個、上質な毛皮2個、ひも1個 神鉄炉と金床

ブルーメタルと言うのは初めて聞く名前だが、さっき洞窟で手に入れた青い金属のことだろう。

ブルーメタル以外も、赤い宝石、金、オリハルコン、ひもは持っているから後は上質な毛皮だけだな。

上質な毛皮は魔物が落とすのだろうけど、どの魔物が落とすのか分からないな。

でも、ロロンドなら知っているかもしれない。

 

「どうだ、作ることが出来そうか?」

 

「だいたいの素材は揃っているから、あとは上質な毛皮を手に入れれば作れるぞ。その上質な毛皮はどの魔物が落とすか知っているか?」

 

「メルキドの峡谷地帯に住む魔物、アルミラージが落としたはずだ。我輩がいた砂漠地帯にも生息しているはずだぞ」

マイラのアルミラージはぶあつい肉しか落とさなかった気がするけど、同じ魔物でも生息している地方によって落とす素材が違うのか。

砂漠まで行くのは面倒だけど、今更ひかりのよろいは要らないとも言えないな。

 

「じゃあ、今から集めに行ってくるぜ」

 

「頼んだぞ、雄也。作ったらすぐに我輩に見せてくれ」

 

俺はロロンドにそう言って旅のとびらに入り、さっきも行った砂漠地帯を目指した。

今日は何キロメートルも歩いているが、このようなことには慣れているのでまだ疲れてはいなかった。

30分くらい歩いて砂漠地帯にたどり着くと、俺はさっそくアルミラージを見つけることが出来た。

「アルミラージが見つかったな。せっかくだから、おうじゃのけんの力を試してみるか」

 

俺はどのくらい強いのか調べるために、おうじゃのけんを構えてアルミラージの背後に近づく。

そして、奴の背中に向けて降り下ろすと、毛皮で覆われた丈夫な体を簡単に斬り裂くことができ、大ダメージを与えた。

 

「やっぱり強い魔物でも簡単に狩れるみたいだな。このままとどめをさすぜ」

 

アルミラージは気づいて突進してきたが、俺は角の部分をおうじゃのけんで弾き返し、怯んだところでもう一度斬りつける。

すると、アルミラージは生命力が尽きて、上質な毛皮を落として消えて行った。

 

「これがロロンドの言ってた上質な毛皮か。2つ必要みたいだし、もう一体も倒すぜ」

 

俺は近くにいた別のアルミラージも同じように倒して、二つ目の上質な毛皮も手に入れた。

その後、俺は上質な毛皮をポーチにしまって、来た道を引き返してラダトーム城に戻っていった。

 

「これで素材を揃えることが出来たし、ひかりのよろいを作ってくるか」

 

俺は城に戻ってくると、すぐに神鉄炉を使ってビルダーの魔法を発動させる。

それからしばらく待っていると集めた素材が合体していき、鎧の形になっていく。そして、ひかりのよろいの名に違わぬ光り輝く鎧が出来上がった。

思っていた通りかなり重そうだが、これなら竜王の攻撃も防ぐことが出来そうだ。

ロロンドも俺がひかりのよろいが完成させたところを見ていたようで、とても驚いていた。

 

「おお!雄也、ついにひかりのよろいを作り上げられたようだな!」

 

「ああ、素材を集めるのには時間がかかったけど、ビルダーの力を使えば簡単だぜ」

 

今まではビルダーの力でも伝説の剣や鎧を作ることは出来ないと思っていたが、俺の思っている以上にビルダーの力はすごいみたいだな。

 

「お主ならひかりのよろいを完成させられると思っていたぞ。さすがだな、雄也」

 

ロロンドはひかりのよろいの完成を喜んだ後、さっきのアメルダと似たようなことを言ってきた。

 

「ところで、あのムツヘタという奴は何故あんなに偉そうなのだ?雄也は竜王を倒す者ではないと、ふざけたことを抜かしおって···」

 

「この前言っていたけど、あいつらは次に現れる勇者が竜王を倒すと思っているらしいぞ」

 

勇者が裏切ったせいで世界が滅亡したのに、そのことから何も学んでいないように思えるな。

次の勇者もみんなの気体が重すぎることに絶望して、竜王に寝返るかもしれないと言うのに。

それどころか次の勇者がいつ現れるのも分かっていないので、ここまで世界を復興させてきた俺が竜王を倒しに行くべきだろう。

 

「勇者など待ってはおれぬ!我輩は竜王を倒せるのはお主しかいないと思っているぞ」

やっぱりロロンドも俺が竜王を倒しに行くと思ってくれているようだ。

 

「俺も、誰が何を言おうと竜王を倒しに行くつもりだぜ」

 

「頼んだぞ、雄也よ。完全に光を取り戻した世界を我輩に見せてくれ!メルキドの者たちも、世界に真の平和が訪れる日を待っておる」

 

完全に光を取り戻すには、竜王だけではなく裏切り勇者も倒す必要があるだろう。

でも、そいつが竜王以上に強大な魔物になっていたとしても、俺は必ず打ち倒してやるぜ。

俺がそんなことを思っていると、ロロンドは伝説の盾の作り方も調べてきたと言った。

 

「それと雄也よ。我輩はひかりのよろいだけでなく、伝説の盾であるゆうしゃのたての作り方も調べてきたぞ」

ゆうしゃのたては、ドラクエ3に出てきた後のロトの盾になる物だったな。

盾も俺は使う気はないが、せっかくロロンドが調べてきたことなので、聞いておくか。

 

「じゃあ、それの作り方も教えてくれ」

 

俺がそう言うと、ロロンドはゆうしゃのたての作り方を言い始めた。ひかりのよろいよりは小さいので必要な素材は少なそうだった。

作り方を聞き終えた後、俺はゆうしゃのたての作り方を調べた。

ゆうしゃのたて···ブルーメタル2個、赤い宝石1個、金1個、はがねインゴット2個、木材2個 神鉄炉と金床

どれも持っている素材なので、今すぐ作ることが出来そうだな。

 

「ゆうしゃのたては今持っている素材で作れそうだぞ」

 

「それなら良かったな!では、さっそく作ってみるのだ」

 

ロロンドがそう言うので、俺は神鉄炉を使ってゆうしゃのたてを作り始める。

ビルダーの魔法を使ってしばらく待っていると、きれいな紋様が描かれた盾に変化していった。

 

「おお、これはまさしくゆうしゃのたて!ひかりのよろいを作ったお主になら完成させられると思っていたぞ!」

 

「こっちは素材が揃っていたからすぐに作れたんだ」

 

重いので使わないと思うが、これで伝説の防具を2つとも作ることが出来たな。

 

「兎に角、これでまたお主が竜王を倒す準備が進んだ訳だ!本当によくやったな、雄也!」

ロロンドはこれで竜王討伐にまた一つ近づいたと喜びながら俺にそう言った。

後は虹のしずくの原料を手に入れれば、竜王を倒す準備は全て完了するだろう。

 

俺はロロンドと別れた後今日はもうすることがないので、明日からの活動に備えて休むことにした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode97 さらなる城の復興

俺がラダトームに来て8日目の朝、今日もまだ虹のしずくの原料のありかは分かっていないようだった。

昨日伝説の装備を作り上げて、他の竜王を倒す準備は全て整っているので、今日1日はゆっくり過ごそうかと考えていた。

すると、何か頼み事があるらしく、俺がいるところにエルが歩いて話しかけてきた。

 

「雄也様、突然悪いのですが、少し頼みたいことがあるのです」

 

ロロンドとアメルダからは伝説の装備を作ってと言われたけど、エルは何を頼みたいんだろうな。

今日は休もうと思っていたが、大切な話かもしれないし聞いておくか。

 

「今日はすることもないし、もちろん聞くぞ」

 

「ありがとうございます、雄也様。さっそく頼み事を言うのですが、このラダトームの城に、素敵な教会を作ってほしいのです」

 

教会か···確かにドラクエ1のラダトーム城にも教会があったはずだな。

ラダトーム城の再建に繋がるので、俺も作っておいたほうがいいと思うが、どうしてエルは教会を建てようと思ったんだ?

 

「別にいいけど、どうして教会を作りたいんだ?」

 

「このラダトームは竜王の城の近く、魔物との戦いも激しいです。ですから、戦いに疲れた人々が安らぎを得られる場所を作りたいと思いました」

 

それを聞いて、教会は儀式や祈りなどを行う場所じゃないのか?と思っていると、エルは作ってほしい教会の設計図を見せてくる。

その設計図には、料理をするためのレンガ料理台や寝るための木のベッド、それ以外にもテーブルやいすなどが書かれていた。

俺が思っている教会のイメージとは違っているが、これならみんなが休息を得ることが出来るだろう。

 

「ですから、この設計図通りの教会をこの城にお作りください」

 

「俺の思っている教会とは違うけど、これならあんたの言う通り、人々が安らぎを得れらる場所になりそうだな」

 

俺が教会の設計図を受け取ると、エルは中に置くための女神像の作り方を教え始めた。

 

「雄也様、教会に必要な女神像は私が考えてきた物です。少しお恥ずかしいですが、作り方をお伝えしますね」

 

休息を得るための施設だけど、一応教会らしく女神像を置きたいと思っているようだな。

俺はエルから女神像の形と作り方を聞くと、ビルダーの魔法で作り方を調べる。

女神像···石材2個、せいすい1個 シャナク魔法台

石材とせいすいはどちらもたくさん持っているので、女神像は今すぐ作ってこれそうだな。

でも、教会を完成させるにはそれ以外の物もたくさん必要なようだった。

 

「女神像は今すぐ作ることが出来るけど、それ以外の物も作らないといけないから少し待っていてくれ」

 

俺はそう言ってエルと別れた後、教会の設計図を詳しく見て必要な物を調べた。

設計図には、城のカベ・地が30個、城のカベが28個、木のベッドが6個、クッションいすが2個、しょく台とおしゃれテーブルとレンガ料理台と女神像がそれぞれ1つ必要と書かれている。

城のカベ・地と城のカベ、クッションいす、木のベッドは今ある素材で作れそうだ。

料理用たき火があるので、粘土と石炭でレンガを作ればレンガ料理台も作れるだろう。

この中で作り方が分からないのは、しょく台とおしゃれテーブルだな。カベしょく台は作ったことがあるが、ブロックの上に置くタイプのしょく台は見たことがない。

なので俺は、おしゃれテーブルとしょく台の作り方をビルダーの魔法で調べた。

しょく台···ドロドロ石1個、あおい油1個、鉄のインゴット1個 石の作業台

おしゃれテーブル···木材1個、ボロきれ1個 石の作業台

 

「この2つも今持っている素材で作れるみたいだな」

ドロドロ石やあおい油、木材はこの前たくさん集めたし、ボロきれもかげのきしが落としたのを持っている。

鉄のインゴットもまだ在庫があるので、集めに行く必要はなさそうだ。

それと、しょく台を作るのに必要な素材はカベしょく台と同じのようだな。

 

「素材集めに行く必要はなさそうだし、さっそく作ってくるか」

 

俺はエルと別れた後、まずは神鉄炉ののところへ向かう。

途中、レンガ料理台に強化しないといけないので、料理用たき火を回収してポーチに入れた。

神鉄炉と金床の前に立つと俺は、城のカベ・地と城のカベを30個ずつ作り、その後レンガ料理台に必要なレンガを作る。

次に俺は石の作業台の前に立ち、しょく台、おしゃれテーブル、クッションいす、木のベッドを作り、さっき作ったレンガを使って料理用たき火をレンガ料理台に強化した。

しょく台は一度に5個作れたので、この後も使っていくことが出来そうだな。

 

「これで後は、女神像を作れば教会は完成させられるな」

 

最後に占いの間にあるシャナク魔法台を使ってビルダーの魔法を発動し、石材とせいすいを加工していく。

そして、エルの言っていた通りの優しい微笑みを浮かべた女神像を作り出すことが出来た。

 

「女神像も作れたし、設計図を見ながら教会を作ってくるか」

 

これで教会に必要な物は全て作ることが出来たので、俺はドラクエ1で教会があった場所に行き、壁となるブロックを置いていく。

ブロックを積み終えると他に必要な物を中に置いていき、エルの書いた設計図通りの教会を作ることが出来た。

 

「少し時間がかかったけど、これでラダトームの城に教会を作れたな」

 

最近は竜王を倒す準備を進めてばかりいたが、これでラダトームの再建も進められた。

俺は教会が出来たことを、大声でエルに伝える。

 

「エル、あんたの設計図通りに教会を作ったぞ」

 

「おお雄也様、ありがとうございます!とても素敵な教会ですね」

 

そのことを伝えると、すぐにエルは喜んで教会の入り口に走ってきた。

そして、さっそくとびらを開けて中の様子を見始める。

 

「この教会であれば、戦いに疲れた人々に安らぎを与えられるでしょう」

 

「ああ、教会のイメージとは少し違うけど、戦いの疲れを癒すことが出来そうだぜ」

 

彼女はリムルダールでも必死に病気の患者を治していたので、人々のことをとても大切に思っているのだろう。

レンガ料理台があるので、調理部屋としても使えそうだ。

俺がそんなことを考えていると、エルは竜王のことではなく裏切り勇者のことについて話し始めた。

 

「ところで雄也様。この世界は竜王に戦いを挑んだとある若者が、味方になるなら世界の半分を与えるという竜王の問いにはいと答えたことで滅んだ世界だと言われています」

 

裏切り勇者のことはエルも知っていたようだな。エルも、彼が世界を裏切った理由が気になっているようだった。

 

「ですが、どうして彼は竜王の味方についたのでしょう?まさか本当に世界の半分を貰えると思っていたのでしょうか」

 

「俺は、みんなの期待が重すぎたからだと思うぞ。あいつは人々から竜王を倒す勇者だと言われ続けて、自由がほとんどなかった。そしてその状況から抜け出すために、竜王の誘いに乗った」

 

俺はこれまで勇者の記憶の夢を何度も見てきて、人々の期待が重すぎて絶望し、竜王に寝返ったのではないかと考えるようになった。

さすがに勇者も、本当に世界の半分を貰えるとは思っていなかっただろう。

 

「雄也様のおっしゃる通り、期待の重さに耐えきれなくなった可能性もありますね。もし今もどこかで生きておられるのなら、会って話をしてみたいですね」

 

「そいつとも戦うことになるだろうから、その時に聞けるといいな」

 

裏切り勇者と戦うのがいつになるかは分からないが、世界を裏切った理由を聞いてみたいぜ。

でも、今は考えても仕方ないので、エルは話を元に戻した。

 

「おお、話がそれてしまいましたね。兎に角、教会を作っていただいてありがとうございました」

 

この教会で疲れを回復させながら、竜王や裏切り勇者との戦いに備えていかないとな。

エルが俺に向かって改めて礼を言った後、俺はエルと別れて歩いて行った。

教会を作った後しばらくゆっくりしていると、城を巡回していたオーレンが話しかけてきた。

オーレンも何か、俺に頼みたいことがあるのだろうか。

 

「雄也殿、このような時ですが再建して貰いたい部屋があるのです」

 

そう言えばムツヘタやラスタンの作りたい部屋は作ったが、オーレンの作りたい部屋は聞いていなかったな。

ラダトーム城の再建はかなり進んできているが、今度は何を作ってほしいのだろうか?

 

「もちろんいいぞ。ラダトーム城の再建も竜王を倒す準備と同じくらい大事だからな」

 

「ありがとうございます。さっそく言いますが、私が作りたいと思っているのは、姫の寝室です」

ドラクエ1の時代にはない部屋だが、今のラダトーム城には玉座の間の隣に姫専用と思われる寝室があった。

あの部屋ならあまり壊されていないし、すぐに直すことが出来るだろう。

 

「これまでは思っていなかったけど、確かにローラ姫には専用の寝室があったほうがいいかもな」

 

「はい、私も姫と皆様の寝場所が同じなのが気になったのです」

 

ローラ姫も自分専用の寝室があると眠りやすいだろうし、作ったほうがよさそうだな。

俺は、オーレンに寝室の中に必要な物を聞く。

 

「それで、寝室の中に置いてほしい物はあるか?」

 

「美しい花飾りにカベしょく台ときぞくのいす、それから女のカベかけと姫が寝るための王女のベッドがあるといいですね」

カベしょく台は一つ持っているし、女のカベかけも木材と染料、あかい油を使ってすぐに作ることは出来る。

でも、花飾りときぞくのいす、王女のベッドは聞いたことがないな。

 

「ビルダーの力で必要な素材を調べるから、花飾りといすとベッドの作り方を教えてくれ」

 

俺がそう聞くと、オーレンはきぞくのいすと王女のベッドの作り方について話した。

それと、花飾りは作る物ではなく、スコップを使って城の周りに咲く白い花をとってこればいいそうだ。

普通白い花を斬ると花びらになるが、スコップを使えばそのまま集めることが出来るのか。

俺はオーレンの話を聞いた後、それらの物を作るのに必要な素材を調べた。

きぞくのいす···木材1個、ととのえた布1個 石の作業台

王女のベッド···木材2個、毛皮3個、ととのえた布2個 石の作業台

草花スコップ···鉄のインゴット1個、ふとい枝1個 石の作業台

木材や毛皮以外にも、まどうしが落とすととのえた布が必要みたいだな。

でも、玉座の間を作る時にタペストリは1度に1個しか作れないと思っていてたくさん手に入れたので、集めに行く必要はなさそうだ。

あとはスコップを使って花を持ってこれば、持っている素材で姫の寝室を作れるだろう。

 

「あんたが言った物は全部用意できそうだぞ。姫の寝室が完成したら教えるぜ」

 

「おお、頼みましたよ、雄也殿」

オーレンにそう言った後、俺は石の作業台のところへ行った。

そこで俺はビルダーの魔法を発動させて、きぞくのいすと王女のベッド、女のカベかけを作り出す。

王女のベッドと貴族のいすは、どちらも姫にふさわしいと思えるとても豪華な家具だった。

そして、その2つを作った後に草花スコップを作って、城の外に向かった。

 

「あとは白い花を手に入れてこれば、ローラ姫の寝室を作れるな」

 

さっそく城の外で白い花を見つけることが出来たので、俺はスコップを作って花をそのままの形で採取した。

白い花以外の植物もそのままの形で手に入るかもしれないし、見つけたら試してみたいぜ。

俺は白い花をポーチに入れると城の中に戻っていき、壊れたローラ姫の寝室へ向かう。

この部屋は既にとびらがつけられていたので、俺が作る必要はなさそうだな。

 

「さっそく作った物を置いて、ローラ姫の寝室を再建してやるぜ」

 

俺は部屋の壁にカベしょく台と女のカベかけを設置して、その後地面が土ブロックのところに白い花を植え、最後にきぞくのいすと王女のベッドを配置した。

これで、オーレンが言っていた姫の寝室を作ることが出来たな。

 

「オーレン、あんたの言ってた姫の寝室を作ることが出来たぞ」

 

俺が寝室が完成したことを伝えると、オーレンはとても嬉しそうな顔をして歩いてきた。

「おお!このお部屋なら姫もお喜びになるでしょう。さすがは伝説の大工の雄也殿ですね」

 

「大工じゃなくてビルダーなんだけど···言っても無駄か」

 

褒めてくれるのはありがたいが、未だにラスタンやオーレンは俺のことを大工だと言ってくるな。

何度言っても聞いてくれないので、もう諦めることにしたが。

俺がそう思っていると、オーレンは寝室が出来たことをローラ姫に知らせに行った。

 

「それでは雄也殿、姫をこちらへお呼び致しますね」

 

オーレンは玉座の間に入っていき、そこにいるローラ姫に声をかけていた。

自分専用の寝室が出来たことを知ると、ローラ姫は早く中を見てみようと俺のところに走ってきた。

「おお、雄也様!私専用の部屋を作っていただきありがとうございます」

 

「オーレンに頼まれて作ったんだ。これなら落ち着いて寝られると思うぞ」

 

ローラ姫は部屋の入り口を開けて、寝室の中を見回していた。姫は部屋を見てさらに嬉しそうな顔をして、俺にもう一度感謝の言葉を言った。

 

「とても素敵なお部屋ですね!雄也様、このような部屋を作っていただき本当にありがとうございました!」

 

「姫もご満足していらっしゃるようですね。私からも言いますが、本当にありがとうございます」

 

ローラ姫に続いて、オーレンも俺にお礼を言ってきた。姫を喜ばせることが出来たし、ラダトームの再建も進んだので一石二鳥だな。

 

ローラ姫はその後完成した寝室の中に入っていき、俺も今日は疲れたので自分の寝室に戻っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode98 世界の半分

俺がラダトームに来て9日目の朝、起きて寝室から出て城の中を歩いていると、占いの間から出てきたムツヘタに話しかけられた。

今日のムツヘタはいつも以上に緊張している顔で、何かあったみたいだな。

 

「雄也よ、伝説の装備を作り、竜王を倒す全ての準備が整いつつあるようじゃな。そこで、ワシからも大切な話があるのだ」

 

ムツヘタの言う通り、あと少しで全ての準備が完了し、魔物の王である竜王との戦いに行けるな。

もしかしたら、今まで探っていた虹のしずくの原料のありかが分かったのだろうか。

 

「もしかして、この前言っていた虹のしずくの原料がどこにあるか分かったのか?」

「その通りじゃ。虹のしずくの原料があるラダトームの最も深い闇の場所も、入り口にある闇のとびらを開けるさいごのかぎの製法も、そこで待ち受ける敵についても突き止めておる」

 

占いの間が出来てからかなりの時間がたっているが、ようやく虹のしずくの原料のありかが分かったみたいだな。

でも、そこで待ち受ける敵と言うのは、どんな奴なんだろうな。

俺が聞くと、ムツヘタはそこにいるのは闇の元凶である裏切り勇者だと答えた。

 

「じゃあ、その深い闇の中で待ち受けるのは、どんな敵なんだ?」

 

「人々の希望を背負いながら最後の最後に裏切った勇者、精霊ルビスが闇の戦士と呼んでおる闇の元凶じゃ」

闇の戦士か···世界を裏切った訳だから、ルビスからも勇者と呼ばれなくなったみたいだな。

虹のしずくの原料を手に入れなければいけないし、放っておけば人類に未来はないだろうから、必ず闇の戦士を倒さなければならないな。

これまでで一番の強敵だと思われるが、場所が分かったらすぐに戦いに行こう。

 

「それで、ラダトームの最も深い闇はどこにあるんだ?」

 

「ラダトーム周辺にある火山地帯の近くじゃ。そこに、ラダトームの最も深い闇である闇の戦士の城がある」

 

アメルダを救出する時にラダトームの火山地帯には行ったことがあるけど、城のような物は見なかったな。

でも、まだその辺りを調べ尽くした訳ではないので、そこに向かうとするか。

ムツヘタは、入り口にある闇のとびらを開けるのに必要なさいごのかぎの作り方も教えてきた。

 

「それと、闇のとびらを開けるためのさいごのかぎは、せいすいとふしぎな宝石、マネマネ金属があれば作ることが出来るじゃろう」

 

作り方の後に、さいごのかぎの詳しい形などもムツヘタは言う。

さいごのかぎ···せいすい1個、ふしぎな宝石1個、マネマネ金属1個 シャナク魔法台

ビルダーの魔法で調べると、ムツヘタの言う通りの素材が必要だと分かった。

せいすいは今も持っているが、ふしぎな宝石とマネマネ金属と言うものは聞いたことがないな。

そう思っていると、ムツヘタは赤色に輝く宝石のような物を渡してきた。

「これがふしぎな宝石じゃ。そなたが昨日休んでいる間にワシが手に入れておいたぞ」

その宝石は見た目は普通だが、強い魔力が感じられた。

これで後は、マネマネ金属を手に入れればいいな。

 

「あと必要なのはマネマネ金属だけど、どうやったら手に入るんだ?」

 

「マネマネ金属はラダトームに生息するトロルが落とすはずじゃ。今のそなたなら倒すことは簡単じゃろう」

 

トロルは赤色の旅のとびらを抜けてすぐのところにいたはずだ。

そいつを倒してマネマネ金属を手に入れ、さいごのかぎを作ったら闇の戦士の城に向かおう。

 

「分かった。さいごのかぎを作ったら、闇の戦士を倒して虹のしずくの原料を手に入れてくるぜ」

「ビルダーとしての最後の責務は大変じゃろうが、がんばるのじゃぞ!」

 

俺はそこでムツヘタと別れて、赤の旅のとびらへ向かった。

ムツヘタは最後の責務だと言っていたが、たとえビルダーの役目を終えても俺は必ず世界に光を取り戻すつもりだ。

そして、とびらを抜けた先では、すぐにトロルを見つけることが出来た。

 

「さっそくトロルを見つけたな。あいつを倒して、マネマネ金属を手に入れてやるぜ」

 

俺はアルミラージを倒した時のようにおうじゃのけんとはがねのつるぎを構えて、トロルの背後に回った。

トロルは巨体の魔物だが、二刀流での攻撃を受ければかなりのダメージを受けるだろう。

俺はトロルのすぐ近くまで行くと、二本の剣を同時に降り下ろし、奴を思いきり斬り裂いた。

すると、大きな傷をつけられたが倒すことは出来ず、トロルは怒鳴って棍棒を振り上げてきた。

 

「この人間め、よくも斬りつけやがったな!」

 

「さすがに一撃では倒せなかったようだな」

 

トロルの動きはあまり早くないので、俺は棍棒をかわして横にまわり、もう一度斬りつける。

奴はかなり弱ってきたが、まだ倒れずに俺をなぎはらおうと棍棒を振り回してくる。

 

「人間などに倒されると思うなよ!」

 

さっきよりは攻撃の速度は速かったが、俺は大きくジャンプをしてかわす。

そして、俺はトロルの動きが止まった隙にもう一度全力で斬りかかり、とどめをさすことが出来た。

奴が倒れたところには、顔のような形をした金属が落ちていた。

 

「これがマネマネ金属みたいだな。これでさいごのかぎを作って闇の戦士の城に行けるぜ」

 

俺はマネマネ金属を拾ってポーチにしまい、一度旅のとびらをくぐってラダトームの城に戻っていった。

そこからシャナク魔法台のある占いの間に行き、さいごのかぎの素材を取り出す。

 

「シャナク魔法台でビルダーの魔法を使えばさいごのかぎを作れるはずだな」

 

俺がそれらの素材にビルダーの力を使うと、マネマネ金属が鍵の形を作り、ふしぎな宝石が持ち手の部分にはめこまれる。

最後に出来上がった鍵をせいすいで清めて、闇のとびらを開けるさいごのかぎを完成した。

俺はさいごのかぎを持って、改めて赤色の旅のとびらに入っていく。

 

「これでさいごのかぎも作れたし、ラダトームの最も深い闇を目指すか」

 

俺は旅のとびらを抜けると、今度はトロルたちを避けながら火山地帯へ向かっていく。

そこまではかなりの距離があるが、疲れずに行くことが出来るだろう。

そして、俺が旅のとびらを出て30分ほど歩き続けると、火山地帯の近くにまでたどり着いた。

 

「俺は見たことがないけど、この近くに闇の戦士の城があるはずなんだよな」

 

火山地帯の近くに来ると、俺は闇の戦士の城を探すためにあたりを見回す。

すると、火山地帯の左側に禍々しい雰囲気を放つ大きな城が遠くに見えた。

他に城らしい建物もないので、あの中に裏切りの勇者である闇の戦士がいるのだろう。

 

「あれが闇の戦士の城か···ここから見ても禍々しい感じだけど、行くしかないな」

 

俺は火山地帯の近くから、その城に向かってさらに歩いていった。

城の入り口に着くと、見た目ははがねの大とびらだがおぞましい闇の気配が感じられるとびらがあり、その前には立て札が立てられていた。

その立て札には、カタカナでセカイノハンブンと書かれている。

 

「世界の半分か···この小さな城に闇の戦士がいることから考えて、やっぱり本当に世界の半分は貰えなかったみたいだな」

目の前にある闇の戦士の城はそこまで大きい物でもなく、とても世界の半分と呼べる物ではなかった。

それに、闇の戦士が外に出てきていないことを考えると閉じ込められているのだろう。

勇者も本当に世界の半分を貰えるとは思っていなかったはずだが、流石に小さな城に閉じ込められるとも思っていないだろう。

 

「裏切り勇者はこの中で何を考えているんだろうな」

 

俺は闇の戦士と話をしたいとも思いながら闇のとびらに近づき、さいごのかぎをさしこんだ。

すると、掛けられていた重い鍵が外れて、とびらが開くようになった。

 

「これで闇のとびらが開いたみたいだな。どんな理由で世界を裏切ったとしても、必ず倒してやるぜ」

俺がとびらを開けて中に入ると、そこには一人の王冠と覆面を被った筋肉だらけの男が不気味な笑い声を上げていた。

勇者と言うよりドラクエ3に出てきたカンダタに似ているが、ロトのつるぎとロトのたてを持っている。

ロトのつるぎは竜王に渡したはずだし、ロトのたてはドラクエ1に登場しないのでどちらも偽物だろうが、首から下げている王女の愛と呼ばれる首飾りは本物だと思われる。

恐らくは世界を裏切った後に、竜王の魔法でこのような姿にされてしまったのだろう。

 

「ぐひゃひゃひゃ!この世界はオレ様の物···。オレ様の物だ!」

 

どうやら数百年も閉じ込められていたせいで精神状態が狂ってしまったようだな。俺でもこんな場所に閉じ込められれば狂ってしまうだろう。

それと、奴の声はリムルダールの町やラダトームの仮拠点の防衛戦の後に聞こえた声と同じだった。

狂っていても、闇の戦士はあの時からビルダーである俺のことに気づいていたようだ。

 

「狂っているから話は出来そうにないけど、ここで倒すしかないな」

 

俺は話をするのを諦めて二本の剣を持ち、闇の戦士に近づいていった。

すると闇の戦士も俺に気づいて、驚いたような顔をしていた。

 

「んん!?誰だ?お前···誰だあああ!?」

 

「俺はビルダーの影山雄也。世界を裏切ったお前を倒しに来たぜ」

 

俺が自分はビルダーだと言うと、闇の戦士は怒りだし、ロトのつるぎとロトのたてを構える。

「そうか···お前が世界に希望を振り撒いていたのか!ならば、絶対に許さんぞおおお!」

 

そして、そう言いながら奴は俺に斬りかかってくる。世界を裏切った勇者である闇の戦士との決戦が始まった。

 

闇の戦士は走って俺に近づくと、右腕に持ったロトのつるぎを降り下ろして叩き斬ろうとしてくる。

俺は右腕に持つおうじゃのけんで受け止めたが、闇の戦士の剣は非常に威力が高く、腕に凄まじい衝撃が走った。

でも、弾き返すことは不可能でも攻撃を受け止めていることだけならできそうだな。

俺はその間に左腕に持っているはがねのつるぎを降りかざし、闇の戦士に突き刺そうとした。

 

「二刀流の力があれば、何とか勝てるかもしれないな」

 

しかし、闇の戦士もすぐに反応してロトのたてで俺の攻撃を受け止める。

俺は左腕に強い力をこめたが、非常に高い防御力を持つロトのたてを突き破ることは出来なかった。

 

「くそっ、二刀流でも攻撃を当てられないのか!?」

 

「ぐひゃひゃ!ビルダーの力はこの程度の物か!」

 

そう言うと、闇の戦士も俺を押しきろうと剣にさらに強い力をかけてくる。

これまで戦ってきたどの魔物の攻撃よりも強く、おうじゃのけんを使っても受け止めきれない。そして、俺は耐えきれずに体勢を少し崩してしまった。

その隙を闇の戦士は見逃さず、大きく飛び上がってロトのつるぎを叩きつけてくる。

喰らえば真っ二つにされるだろうから、俺は何とか直前に体勢を立て直して大きく後ろにジャンプする。

 

「それくらいの攻撃で、俺は倒されないぞ!」

 

闇の戦士の一撃は城の地面を砕くほどの威力だったが、俺に直撃することは避けられた。

だが、闇の戦士は俺を逃がさないためにすぐに追撃をかけてくる。

俺と奴との間には少しの距離があったのでさらに避ける時間はあったが、このまま攻撃をかわし続けるだけではいつまでたっても倒すことは出来ないな。

なので俺は、闇の戦士の動きを止めてダメージを与えるために、腕に力を溜めて思いきり解放する。

 

「回転斬り!」

 

俺が回転斬りを放つと、おうじゃのけんは光を放って闇の戦士を斬り裂こうとする。

ドラクエの剣の奥義であるギガスラッシュのような一撃は闇の戦士も受け止めきることは出来ず、わずかな時間ではあるが動きを止めることが出来た。

そこに左手に持っていたはがねのつるぎでの攻撃が炸裂し、闇の戦士は大きなダメージを受ける。

 

「おうじゃのけんの回転斬りはこんなに強いのか。これなら、こいつを倒すことも出来そうだな」

 

俺は闇の戦士が怯んでいる間にもう一度後ろに飛んで、回転斬りを連続して放とうと思っていた。

しかし、闇の戦士は俺が攻撃の反動で動きが止まっている間にすぐに体勢を立て直してしまう。

さらに、立ち直った闇の戦士は俺が回転斬りを溜める時と同じ行動をとった。

 

「なかなかやるな、ビルダー。これならどうだ!」

 

「もしかして、こいつも回転斬りを使えるのか!?」

 

俺がそう思っている間に闇の戦士はロトのつるぎを一回転させる。俺のおうじゃのけんは光を放っていたが、奴の剣は恐ろしい闇の力をまとっていた。

至近距離にいたので俺はかわすことは出来ないと思い、両腕で闇の戦士の回転斬りを止めようとする。

だが、思っていた以上に威力の高い攻撃で俺は数メートル飛ばされて地面に叩きつけられた。

 

「くっ!こいつの回転斬りはここまで強いのか?」

俺は立ち上がって、闇の戦士が近づいてくる前に腕に力を溜めようと思っていたが、奴は俺の動きを読んでベギラマの呪文を放ってきた。

 

「今度こそ終わりだ、ベギラマ!」

 

闇の戦士のベギラマはまどうしなどのベギラマと比べて攻撃範囲が広く、かわすのがとても大変だった。

でも、俺は魔法を避けながら敵に近づくのには慣れているので、大きなジャンプを繰り返しながら闇の戦士へ近づいていく。

 

「魔法での攻撃には慣れているからな、このくらい避けられるぜ」

 

奴も魔法の詠唱中には武器を使うことが出来ないので、俺はその間に二本の剣を降り下ろす。

闇の戦士は俺に気づいてすぐにベギラマの詠唱を中断するが、剣を持つ前に俺の剣で斬り裂かれた。

すると、奴はかなり弱ってきて俺への攻撃も強まってきた。

 

「オレ様の世界に光はいらない!お前のような奴は絶対に許さない!」

 

闇の戦士は正気を取り戻していないにしても、勇者としての戦闘能力は失っていないからな。

奴は連続してロトのつるぎを振るってきて、怯ませなければ攻撃することが出来なかった。

俺は奴を止めようと、おうじゃのけんとはがねのつるぎの両方を使って攻撃を受け止める。さっきと違って奴も弱っているので、今なら攻撃を弾き返せるかもしれないな。

俺は腕に渾身の力をこめて、闇の戦士の剣を弾き返して体勢を崩させる。

腕がかなり痛んだが休んでいる時間はないので、俺は闇の戦士の体に剣を深く突き刺し、体内を斬り刻んでいく。

これで闇の戦士は瀕死にまで追い詰められ、もう少しで倒せそうだった。

 

「そろそろ弱ってきているな、とどめをさすか」

 

しかし、俺が回転斬りを放とうとしていると、闇の戦士は走って城の外に逃げ出した。

俺が闇のとびらを開けたことで闇の戦士も外に出られるようになったみたいだが、ここで逃がす訳にはいかない。

 

「逃がすかよっ!」

 

俺はおうじゃのけんを投げつけて、闇の戦士にとどめをさそうとする。

だが、闇の戦士は剣をすんでのところでかわし、そのまま遠くへ逃げていった。

 

「くそっ!もう少しで倒せたのに逃げられてしまったか」

 

俺は城の外まで追いかけたが、すでにそこに闇の戦士の姿はなかった。

もしあいつがここを出られたことで正気を取り戻したら、人類にとって竜王以上の脅威になるかもしれない。

たとえ今は狂っているとしても、世界を裏切ったのは間違いなく本人の意思だからな。

 

「あいつとはもう一度戦うことになるだろうけど、今はとりあえず虹のしずくの原料を手に入れるか」

 

追いかけても見つかりそうにないので、俺は闇の戦士の城にある虹のしずくの原料が入っているであろう宝箱を開けに行った。




最近かなり忙しいので数日間更新できないこともあります。

また、次回はこれまで各章に1回ずつ出てきたあの敵との決戦になります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode99 暗黒竜影

今回は1章序盤から出てきた敵との最終決戦になります。


雄也が闇の戦士を撃退し、虹のしずくの原料を手に入れようとしているその頃···

 

魔物の王 竜王の間

 

ラダトームは竜王の城に近いので、雄也が闇の戦士を撃退し、虹のしずくの原料である魔力の結晶を手に入れようとしていることを知った魔物は、すぐに王である竜王に報告に来ていた。

報告に来た魔物は、このままでは竜王や魔物たちが危ないと焦っている。

 

「竜王様、大変でございます。ビルダーが闇に堕ちた者を撃退して、魔力の結晶を手に入れようとしています!」

 

「何だと!?元勇者であるはずのあいつも、ビルダーごときにやられたと言うのか?」

 

虹のしずくの原料を手に入れたと言うことは、アレフガルドの復興が最終段階まで進んだことを意味していた。

それに、これまで何度も力を試してきて雄也のことを危険な存在だと思っていた。

そこで竜王は、今度こそビルダーである雄也を本気で殺すべきだと判断する。

そして、竜王はラダトームの魔物の話を聞いた後、自身の4体の影を呼び出した。

 

「竜王様、あのビルダーをどうなさるおつもりですか?」

 

「全ての魔物のためにも、わしの影を送り込んであのビルダーを始末する。このままでは、人間が世界の支配者となってしまうだろう」

 

竜王がビルダーを始末すると聞いて、ラダトームの魔物は竜王に礼をして去っていく。

 

「ありがとうございます、竜王様。あの者を生かしておく訳にはいきません」

それと同時に、4体の竜王の影が雄也のいる闇の戦士の城に向かっていった。

魔物たちは竜王の城に近いラダトームなら旅のとびらを封じることが出来るので、必ずビルダーを殺すことが出来ると確信している。

しかし、ビルダーである雄也はそのことに全く気づいていなかった。

 

 

 

俺は逃げ出した闇の戦士に投げつけたおうじゃのけんを拾った後、奴の玉座の隣にあった宝箱を開ける。

中を見てみると、虹色に光っている結晶のようなものが入っていた。

見たことのない物だが、どうやらこれが虹のしずくの原料みたいだな。

俺がそれを取り出して手に持つと、頭の中にルビスの声が聞こえてきた。

 

「雄也よ、闇に堕ちた者を撃退し、虹のしずくの原料である魔力の結晶を手に入れられましたね」

ムツヘタは言っていなかったけど、これは魔力の結晶という物なのか。確かに名前の通り、結晶からは強い魔力が感じられるな。

俺が魔力の結晶をポーチにしまおうとしていると、ルビスは話を続けた。

 

「あとは三賢者の持ってきた道具を使って聖なるほこらを再建すれば、世界は闇に覆われる前の状態に戻るでしょう」

 

闇に覆われる前と言うことは、ドラクエ1の冒険が始まった時のような状態にまで戻ったと言うことか。

ついにルビスが言っていた2つの責務である、ラダトーム城の再建と竜王を倒す準備を両方達成できたみたいだな。

だが、竜王と逃げていった闇の戦士を倒さなければこの世界に平和は戻らないだろう。

「これであなたの責務は全て終わりました。本当によくやりましたね」

 

「でも、まだ闇の元凶である竜王と闇の戦士が残っているぞ」

 

せっかくここまでアレフガルドを復興させてきたのに、ここで終わると言うのは、絶対に嫌だな。

ルビスは次の勇者が竜王を倒すというが、それでいいとは思えない。

それに、もし勇者が現れるとしてもどれだけ先のことになるのだろうか?

 

「竜王はやがて現れるであろう、勇者の伝説の血をひく者が打ち倒すでしょう」

 

「じゃあ、その勇者はいつになったら現れるんだ?」

 

俺はそう聞くが、ルビスは自分にも分からないと答えた。

「それは私にも分かりません。何百年後かもしれませんが、その時は必ず訪れます」

 

勇者が現れるのがそんなに後だったら、今まで復興させてきた町の仲間たちはみんな死んでいるだろう。

次の勇者も人々の期待に耐えられず世界を裏切る可能性もあるし、やはり俺が戦いに行くべきだと思えてくる。

そう伝えようと思ったが、ルビスは俺の言葉をさえぎって続けた。

 

「兎に角聖なるほこらを再建し、最後に虹のしずくを作り出してください。全ては精霊の導きのままに···」

 

そして、ルビスは俺の話を聞かずにいつものセリフを言って去っていった。

ここまで魔物と戦ってきた俺なら必ず竜王も倒せるはずなので、ルビスが何を言おうと戦いに行くぜ。

俺がラダトーム城に戻るために闇の戦士の城を出ようとしていると、外からとても恐ろしい気配がし始めた。

何だと思っていると突然城が激しく揺れだし、壁に捕まっていないと立てないほどになっていく。

どうやら、何者かがこの城を攻撃しているみたいだな。

 

「いきなり揺れるなんて、何が起こってるんだ!?」

 

俺が壁に捕まって倒れないようにしていると、再びルビスの声が聞こえてきた。

しかし、その声は闇の力に遮られているらしく、とても聞こえにくかった。

 

「雄也···私の声が聞こえますか?」

 

「ああ、急に城が揺れ始めたんだけど、何が起こっているんだ?」

俺が聞くと、ルビスはこの地に竜王の影が迫っていると言ってきた。

 

「竜王の影です···今回はこれまでとは違い、本気の殺意を感じられます」

 

竜王も俺が虹のしずくの原料を手に入れたことに気づいたみたいだな。

今なら倒せないことはないだろうが、この前のように逃げて旅のとびらに向かえばよさそうだ。

 

「じゃあ、いつものように旅のとびらまで逃げればいいんだな」

 

「いいえ···ここは闇の力が強く、竜王の影は旅のとびらを封じることも出来るでしょう」

 

ラダトームは竜王の呪いの影響が強いから、旅のとびらまで封じることが出来るのか。

そうなったら、戦って奴らを倒さなければ生きて帰ることは出来なさそうだな。

「あなたが生きて帰らなければ虹のしずくを作ることはできません。とても厳しい戦いになると思いますが、勝利を祈っています」

 

竜王の影を倒すことが出来れば、ルビスも俺が竜王と戦いに行くのを認めてくれるかもしれない。

奴らを倒すため、俺はおうじゃのけんとはがねのつるぎを持って闇の戦士の城の外に出た。

すると、小さな竜王の影が3体、その後ろにいる大きな竜王の影1体が暗黒の杖を降り、俺に襲いかかってくる。

 

「必ずこいつらを倒して、竜王本体も倒しに行くぜ」

 

そして、俺も持っている武器を奴らに向けて、竜王の影たちとの決戦が始まった。

最初に、3体の小さな竜王の影のうち、真ん中にいる奴が俺に杖で殴りかかってきた。

俺は攻撃を弾き返して体勢を崩させようとおうじゃのけんで受け止めるが、竜王の影は闇の戦士と同じくらいの攻撃力があり、弾くことはできなかった。

でも、奴らは杖しか持っていないので

左腕に持っているはがねのつるぎを使えば防げないだろう。

そこで、俺は竜王の影の攻撃を受け止めている途中にはがねのつるぎを降り下ろす。

すると、倒すことは出来なかったが竜王の影にダメージを与えることが出来た。

 

「強い奴らだけど、二刀流で戦えばなんとか勝てそうだな」

 

竜王の影は攻撃を受けて怯み、その隙に俺はおうじゃのけんで奴を思いきり斬り裂いた。

その後、回転斬りを使って一気に弱らせようと思ったが、まわりの竜王の影が呪文を唱える声がした。

 

「メラミ!」

 

竜王の影が放つメラミはだいまどうなどが放つ物より大きいので、すぐにかわさないと直撃してしまう。

俺は目の前にいる奴への攻撃を中断して、ジャンプして後ろに下がった。

そこへ俺と戦っていた竜王の影が杖を素早く降り下ろしてくるが、もう一度ジャンプして避けて、奴にさらなる攻撃を加えた。

他の竜王の影がメラミを使ってくるので連続では攻撃出来ないが、このままなら倒せそうだな。

俺は飛んでくるメラミの火球を避けながら目の前の竜王の影を何度も斬りつけていき、かなり弱らせることが出来た。

「こいつも弱ってきたみたいだし、そろそろとどめをさすか」

 

こいつを倒しても竜王の影はまだ3体いるが、少しは戦いが楽になるだろう。

だが、奴にとどめをさそうとしていると周りにいた竜王の影が俺に近づいて杖を振り回してきた。

竜王の影もメラミでは俺を倒すことが出来ないと分かったようだな。

 

「囲まれないように回転斬りを使って、一気にあいつらをなぎはらうか」

 

囲まれると危険なので、俺は奴らから距離をとって回転斬りを溜めようとする。

竜王の影は結構動きが速いが、すぐに追い付けない距離にまで離れることが出来た。

でも、回転斬りを溜めている俺のところへメラミよりさらに大きな火球が飛んでくる。

「メラゾーマ!」

 

後ろにいた大きな竜王の影がメラゾーマの呪文を唱えたみたいだな。

メラゾーマの火球は他の竜王の影を巻き込むほどの大きさなので今までは使えなかったけど、俺が奴らと距離をとったので使えるようになったようだ。

さすがにメラゾーマは走ってかわすことが出来ないので、俺は大きく飛んでなんとか直撃を避ける。

かわすことは出来たが、立ち上がる暇もなく小さな竜王の影が迫ってきた。

 

「メラゾーマは避けられたけど、囲まれてしまったか」

 

俺はかげのきしと戦ったときのように攻撃を避けながら斬りつけていこうと思ったが、竜王の影は攻撃のスピードが速すぎてその隙がほとんどなかった。

だからと言って距離を取れば大きな竜王の影がメラゾーマを唱えてくるので回転斬りも使えないだろう。

それに、俺は攻撃を避け続けて体が疲れてきて、動きが鈍くなっていた。闇の戦士との戦いの後だということもあって、このままだと攻撃を避けきれなくなるな。

そんな俺の様子を竜王の影は見逃さず、3体同時に杖を降り下ろしてくる。

左右にいた奴らの攻撃は二刀流で受け止めることができたが、真ん中の奴の攻撃は防げず、俺は地面に叩きつけられた。

 

「くそっ、このままだとやられるな」

 

このまま倒される訳にはいかないので、俺は次の攻撃が来る前に立ち上がる。

奴らから距離を取った後、大きな竜王の影が唱えるメラゾーマを避けた後すぐに回転斬りを溜めれば倒せそうだが、ジャンプで避けた後体勢を立て直すのには時間がかかってしまう。

なので俺は一か八かでジャンプせずにメラゾーマを避けることにした。

 

「走ってメラゾーマを避けたら、すぐに回転斬りを溜めればいいな」

 

俺が小さな竜王の影たちから離れると、予想通り大きな竜王の影はメラゾーマの呪文を唱えてきた。

とても大きな火球だが、俺は走ってかわそうとする。

足の体力も限界なので全力で走ることは出来ず、背中にやけどを負ったが、何とか直撃は避けられた。

背中が激しく痛むが、俺は必死に我慢してこれまでで最大の力を腕に溜める。

そして、小さな竜王の影3体が近づいてきた瞬間、その力を解き放って奴らをなぎはらう。

 

「これでどうだ、回転斬り!」

おうじゃのけんは強い光を放って奴らを斬り刻んでいき、はがねのつるぎがさらなるダメージを与える。

俺が弱らせていた真ん中の竜王の影は青い光を放って消えて、左右にいた奴らも大ダメージを負って怯んだ。

ここで体勢を立て直されると今度こそやられるので、俺は今のうちに2体にとどめをさす。

 

「お前らもこれで終わりだ!」

 

俺は奴らに深く剣を突き刺していき、体の中を思いきりえぐった。

既に弱っていた竜王の影は耐えきることができず、2体とも光になって死んでいった。

これであとは、大きな竜王の影だけになったな。

 

「さっさとあいつを倒して、虹のしずくを作ってやるぜ」

今度は大きな竜王の影は、メラゾーマを唱えるのではなく俺に向かって突進してきた。

スピードが速く攻撃力もかなり高そうだが、俺は避けきれないと思っておうじゃのけんとはがねのつるぎで防ごうとする。

疲れていた俺は吹き飛ばされそうになったが、腕に残っている最後の力をこめて受け止めた。

竜王の影もさらに力を強めてくるが、俺は攻撃を受け止め続け、一瞬だけ動きが止まった。

 

「もう体力は限界だし、今のうちに倒してやるぜ!」

 

俺はその一瞬で竜王の影を真っ二つにしようと両腕に持つ剣を降り下ろす。

それでも奴は倒れず、左手に持つはがねのつるぎをはたき落としてきた。

腕にもの凄い痛みが走ったが、俺は動きを止めずに次の攻撃が来る前におうじゃのけんを竜王の影の心臓に突き刺した。

 

「これで終わりだ、竜王の影!」

 

そこでついに竜王の影は力尽き、倒れて消えていった。それと同時に、辺りに満ちていた闇の気配も消えていく。

厳しい戦いだったけど、何とか生き残ることが出来たみたいだな。

 

「これで竜王の影を倒すことが出来たな。すぐに城に戻って、虹のしずくを作ろう」

 

戦いの後、俺は足を引きずるように歩きながらラダトーム城へと戻っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode100 虹の雫

竜王の影を倒したところから30分くらい歩き続けて、俺はようやくラダトーム城に戻ってくることが出来た。

ものすごく疲れているけど、今日のうちに虹のしずくを作っておきたいぜ。

そのために、俺はまずムツヘタに魔力の結晶を手に入れたことを教えに占いの間へ向かう。

入り口のとびらを開けると、俺はさっそくそのことをムツヘタに話した。

 

「ムツヘタ、闇の戦士を倒して虹のしずくの原料を手に入れてきたぞ」

 

「おお、雄也よ!闇の戦士は強敵だったはずじゃが、よくがんばったな」

 

闇の戦士は元勇者なだけあって強かったけど、撃退することが出来てよかったぜ。

あいつとは再び戦って決着をつける必要があるだろうけど、いつになるかは分からないな。

俺がそう思っていると、ムツヘタはついにビルダーとしての最後の責務を果たす時が来たと言った。

 

「それで、手に入れた素材を使ってビルダーとしての最後の責務を果たすのじゃ」

 

「聖なるほこらを再建して、虹のしずくを作ればいいんだろ?」

 

ロロンドからも聞いたけど、ムツヘタも俺に竜王を倒す役割はないと思っているようだな。

でも、たとえビルダーの役目が終わったとしても、俺はこの世界に光を取り戻させるつもりだ。

そのためにも、今は虹のしずくを作らなければいけない。

ムツヘタは、聖なるほこらを再建させる方法はローラ姫が知っていると言った。

 

「その通りじゃ。聖なるほこらの作り方を姫から聞いて再建し、それを使って虹のしずくを作るのじゃ」

 

聖なるほこらは虹のしずくを作るための作業台のような物なのか。

ローラ姫から見た目や作り方を聞いたら、すぐにビルダーの魔法を使って作り上げよう。

 

「分かった。さっそく姫に聖なるほこらの作り方を聞いてくるぜ」

 

「戦いで疲れているじゃろうが、がんばるのじゃぞ」

 

俺はそこでムツヘタと別れて玉座の間にいるローラ姫に会いに行く。

中に入るといつも通りローラ姫は玉座のいすに座っていたが、俺の姿を見ると立ち上がって先に話しかけてきた。

 

「おお、雄也様···ルビスから聞きました。失われた聖なるほこらを再建し、虹のしずくを作り上げれば、あなたのビルダーとしての役割は終わると」

 

ローラ姫もビルダーの最後の役割について聞いていたようだな。

彼女の話し方から考えて、やはり次の勇者が竜王を倒すと言うルビスの話には納得できないようだ。

 

「ああ、ムツヘタもそんなことを言っていたぞ」

 

「彼らの言う通り、いつの日か竜王を倒せれば結果的にはそれでよいのでしょう」

 

確かに、何百年後に勇者が現れたとしても竜王が倒されるのには変わりないな。

しかし、それでは今生きているみんなは平和な世界を見ることが出来なくなってしまう。

それに、せっかくここまでアレフガルドを復興させてきたので、光を取り戻さすに終わるのは絶対に嫌だ。

俺がそんなことを考えていると、ローラ姫は光が戻った世界を見たいと強く訴えかけてきた。

 

「ですが私は、自分自信で澄みきった空を見上げたい。美しい雨に打たれたい、優しい風を感じたい!」

 

ここまで強く訴えてきたのは初めてだが、ローラ姫だけでなくこれまで復興させてきた町の全員が同じことを思っているだろう。

やはり何を言われたとしても俺が竜王や闇の戦士を倒さないといけないと、改めて思えたな。

 

「おお、申し訳ありません。一国の姫ともあろう私がこのような···」

「別に構わないぞ。俺は最初から自分の役割でなくても竜王を倒しにいくつもりだからな。それに、たとえルビスに何を言われてもその考えを変えるつもりはない」

 

誰にだって取り乱してしまうことはあるだろう。でも、ローラ姫は俺の竜王を倒しに行きたいという変わらない意思を見て安心している。

 

「雄也様はこの前もそうおっしゃっていましたが、お気持ちは変わらないようですね。何度も言いますが、本当にありがとうございます!」

 

それで、感謝の言葉を言った後にローラ姫は聖なるほこらの作り方を話し始めた。

 

「それでは、雄也様が竜王と戦いに行くためにも聖なるほこらと虹のしずくの作り方を教えますね」

「分かった。さっそく作り方を教えてくれ」

 

ローラ姫は聖なるほこらの見た目や作り方について詳しく教えてくる。

ルビスも言っていたけど、各地方の空の闇を晴らしてきた伝説のアイテムを全て使う必要があるようだ。

そして、最後にその聖なるほこらを使って魔力の結晶を虹のしずくに変化させればいいらしい。

他にも必要な素材があるかもしれないので、俺はビルダーの魔法を使って原料を確かめた。

聖なるほこら···たいようのいし1個、あまぐものつえ1個、いにしえのメダル1個、ブルーメタル3個、せいすい1個 シャナク魔法台

虹のしずく···魔力の結晶1個 聖なるほこら

聖なるほこらを作るにはブルーメタルとせいすいも必要みたいだな。

でも、どちらもたくさん持っているので集めに行かなくても作ることが出来そうだ。

 

「必要な素材は持っているから今すぐ作りに行ってくるぜ」

 

俺が聖なるほこらを作るためにシャナク魔法台がある占いの間に行こうとしていると、ローラ姫は何かの設計図を渡してきた。

その設計図には聖なるほこらが描かれていて、祭壇のような物だった。

 

「ムツヘタから預かった祭壇の設計図です。もしよければ、作ってみてくださいね」

 

あまり大きな物でもなく時間もたくさんあるので作っておいたほうが良さそうだな。

俺はローラ姫から受け取った祭壇の設計図を占いの間に向かう途中に詳しく見る。

すると、城のカベ・地が11個、ほこらの青床石が6個、城の大柱が4個、石のかいだんが3個、聖なるほこらが1個必要と書かれていた。

城のカベ・地は少しは持っているのであと1セット作ればいいし、城の大柱と石のかいだんも石材を多く持っているので作ることが出来るな。

 

「あとはほこらの青床石を作れれば完成するな」

 

聖なるほこらの真下に置くと書かれているほこらの青床石は作り方が分からないな。

見た目は設計図に書かれているので俺はそれを見てビルダーの力を使った。

ほこらの青床石···石材3個、せいすい1個、染料1個 シャナク魔法台

これも今ある素材で作れそうだし、聖なるほこらと同じでシャナク魔法台を使うのか。

なので、俺はまず聖なるほこらとほこらの青床石を作るために占いの間に入り、シャナク魔法台の前に立つ。

そこで俺はビルダーの魔法を発動させて、まずはほこらの青床石を作る。

石材やせいすい、染料が交わっていき祭壇にふさわしいきれいな色のブロックが10個出来上がった。

 

「これがほこらの青床石か。きれいな青色をしているな」

 

一度に10個作ることが出来たので、俺は今度は聖なるほこらを作ろうとする。

ビルダーの魔法を発動させると、伝説のアイテムとブルーメタルがせいすいによって清めれられた後合体して、聖なるほこらの形へと変化していった。

 

「これで聖なるほこらも作れたな。あとは城の大柱と城のカベ・地を作って祭壇を完成させるか」

聖なるほこらがあれば虹のしずくを作ることが出来るが、先に祭壇を完成させてからにしよう。

俺は占いの間を出た後石の作業台と神鉄炉と金床のところへ行って、城の大柱と城のカベ・地、石のかいだんを作る。

祭壇に必要な物が揃ったので、俺は城の空いている場所に行ってさっそく設計図通りに組み立てて行った。

最初に城のカベ・地を置いていき、その上に城の大柱や石のかいだん、ほこらの青床石を置く。

そして、最後にほこらの青床石の上に聖なるほこらを乗せて、祭壇を完成させることが出来た。

 

「これで設計図通りの祭壇が完成したな。あとはこれを使って虹のしずくを作ろう」

 

俺は完成した祭壇に登ってポーチから魔力の結晶を取り出して聖なるほこらの上に置く。

そこでビルダーの力を使うと、魔力の結晶は虹色の眩しい光を放っていき、やがてその光と同じくらい輝きを持つ虹のしずくが出来た。

俺はさっそく出来上がったことをローラ姫に知らせに行く。

 

「ローラ姫、聖なるほこらを再建して虹のしずくを作ってきたぞ」

 

俺の声を聞くと、ローラ姫はすぐに玉座の間を飛び出して俺のところに走ってきた。

 

「おお、雄也様!ついに、ついにビルダーとしての責務を果たされたのですね!」

 

アレフガルドに来てから2ヵ月くらい経ったけど、ついにビルダーの責務を全て終えたんだな。

ローラ姫も、これで竜王を倒しに行くことができるととても喜んでいる。

「虹のしずく、おうじゃのけん、ひかりのよろいがあれば必ず竜王を倒すことが出来るでしょう!」

 

「ああ、ついに竜王との戦いの時が来たみたいだな」

 

俺も竜王と今すぐ戦いに行って、ラダトームやアレフガルド全域に光を取り戻したいぜ。

でも、今日は闇の戦士や竜王の影との戦いで疲れているのでゆっくり休んだほうがいいな。

 

「でも、今日は疲れたから休んで、明日戦いに行くことにするぜ」

 

「分かりました。竜王は恐ろしく強いと聞くので、万全の状態で挑んでくださいね」

 

俺はそこでローラ姫と別れて教会に入り、木のベッドに横になろうとする。

すると、闇の戦士の城でも話しかけてきたルビスの声が再び聞こえてきた。

「雄也よ···私からも言いますが、本当によくやりましたね。これであなたは、ビルダーとしての責務を全て果たしたのです」

 

ルビスも俺がビルダーとしての責務を果たしたことを喜んでいるようだな。

最初はアレフガルドの復興なんて無理だと思っていたのに、自分でもここまでこれたことに驚きだ。

そんなことを思っていると、ルビスは次の話を始める。

 

「そもそもあなたは、ゲームが得意な地球の高校生。最初にも話しましたが、アレフガルドを復興させる適任者を探していた時見つけたのが、たくさんのゲームの知識を持つあなただったのです。そこで、あなたならその知識とビルダーの魔法でアレフガルドを復興させられると思いこの世界に呼びました。そんなあなたが、よくここまでかんばりましたね···」

 

最初はいきなりアレフガルドに呼び出されてパニックになっていたけど、今ならここに来て良かったとはっきり言うことが出来る。

それに、日本の高校生だった頃が遥か昔に感じられるようになってきた。

ルビスは日本に帰ることも出来ると言うが、俺はあまり帰りたいとは思わない。

 

「さあ、あなたの役割はここで終わりです。私に言って元の世界に帰るのもいいですし、この世界で暮らしていくのもよいでしょう」

 

そこでルビスの声は途切れて、俺は教会で眠りについた。

役割が終わったと言うのなら自由に生きられるということだから、竜王を倒しに行くのも別に構わないだろう。

必ず竜王と闇の戦士を倒して、アレフガルドに完全な光を、真の平和を取り戻してやるぜ。

俺がラダトームに来て10日目の朝、俺がおうじゃのけんとはがねのつるぎを用意し、竜王と戦う準備をしているとローラ姫が話しかけてきた。

 

「雄也様、いよいよこの時が来たのですね···」

 

「ああ、アレフガルドを支配する竜王との決戦の時だな」

 

闇の戦士がいるのでまだラストバトルではないが、竜王を倒せばアレフガルド全域の闇を晴らすことが出来るはずだ。

それに、ラダトームの城やその他の町を狙う魔物の襲撃もなくなるだろう。

そう思いながら準備を終えて、虹のしずくを使うために部屋の外に出る。

 

「これで準備は完了したし、そろそろ竜王と戦いに行くか」

俺が竜王の島に行くために虹のしずくを使おうとしていると、ローラ姫はこう言った。

 

「雄也様、最後に一つだけ言いますが、必ず生きて帰ってきてくださいね」

 

「ああ、もちろんだ!」

 

俺はローラ姫の言葉に対して、今までで一番大きな声でもちろんだと言った。

ローラ姫だけでなく、これまで共にアレフガルドを復興させてきた仲間全員のためにも、必ず勝って、生きて帰って来なければいけない。

そして、必ず生きて帰るという決意を固めた後、俺は虹のしずくを空にかかげる。

すると、俺の体は空高く飛び上がって竜王の島へ向かっていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode101 竜王城の守護者

虹のしずくを使ってラダトーム城から飛び立って10秒くらいたち、俺は竜王の島に着地した。

早く戦いに行きたいけど、まずはどこに竜王の城の入り口があるか探さないといけないな。

島の探索を始めようとしていると、俺の耳に竜王のものだと思われる恐ろしい笑い声が聞こえてきた。

 

「くっくっくっ···よくぞ来た、雄也。物を作る力を持つものよ。我が城でそなたを待っているぞ」

 

どうやら竜王も俺がこの島に来たことに気づいたみたいだな。

声だけでも恐ろしいし、戦えばさらに強力であろうが、必ず勝って光を取り戻さないといけないな。

俺はさっそく竜王の城の入り口を探すため、竜王の島の探索を始めた。

「竜王の城の入り口を見つけたら、すぐに乗り込んでいくぜ」

 

竜王の島を歩き始めると遠くに白い岩でできた岩山が見えるが、城の入り口のような物は見えない。

でも、岩山の左の方に進むことが出来そうなので、そこを目指せばよさそうだな。

この島はラダトーム城の周辺と違い地面が不思議な色の砂になっているが、歩きにくいことはなかった。

岩山の近くまで来ると、だいまどうやダースドラゴンと言った魔物が何体も見かけられた。スライムベスもいるが、それ以外は強力な魔物だらけだ。

 

「ここにはだいまどうやダースドラゴンがこんなにいるのか。さすがは竜王の島だな」

 

勝てないことはない相手だが、俺は戦いを避けるために奴らから離れながら城の奥へ進んでいった。

それで、岩山の左の方へ行くと遠くに関所のような物が見えてきた。

関所はラダトームの魔物の城と同じように青色の城の壁で作られていて、入り口は岩で塞がれている。

 

「もしかしたら、あの関所から竜王の城に入れるのかもしれないな」

 

俺は竜王の城に向かうために、その関所に歩いていく。少し距離があったが、10分くらいでたどり着くことが出来た。

入る前に関所の中を覗いてみると、しにがみのきしとだいまどうが人間を警戒しているのが見える。

潜入は出来ないだろうし、竜王と戦っている時に共に攻撃を仕掛けてくる可能性があるので、今のうちに倒しておいたほうがよさそうだ。

「この関所にはしにがみのきしとだいまどうの2体だけだし、俺一人でも倒せるだろうな」

 

俺はそこでおうじゃのけんとはがねのつるぎを構えて、関所を塞いでいる白い岩を叩き割る。

すると、中にいた魔物たちが俺に気づいて威嚇してきた。

 

「貴様がビルダーか!竜王様の城へは行かせんぞ!」

 

「お前は我がここで焼き尽くしてやろう!」

 

この話から考えて、やはりこの関所が竜王の城の入り口みたいだな。

疲れてしまって竜王との戦いで全力を出せなくなったら困るが、こいつらを倒さなければ先に進むことはできない。

俺が二本の剣を向けると、奴らも武器を構えて襲いかかってくる。俺と関所の魔物との戦いが始まった。

戦いが始まると俺はまず、近接戦闘が苦手なだいまどうに斬りかかっていく。だいまどうはメラミの呪文を使って厄介なので、しにがみのきしとの戦いの前に倒しておきたい。

俺は奴に近づくと、さっそくおうじゃのけんを降り下ろして攻撃する。

だいまどうもかわそうとするが、あまり動きは速くないのでかわされることはなく、奴に大きなダメージを与えることが出来た。

 

「だいまどうは戦い慣れているからな。このまま倒してやるぜ」

 

俺は左手に持つはがねのつるぎも使い、だいまどうにさらなる攻撃をする。

その後も何度も斬りつけられて、奴はかなり弱ってきていた。

 

「強すぎるぞ···これが伝説のビルダーという奴なのか」

しかし、とどめをさそうとしていると後ろにいたしにがみのきしが斧を振り回しながら突進してきた。

 

「ビルダーめ、我の仲間をこれ以上傷つけるな!」

 

受け止めることも出来るが、なるべく腕の力を使いたくないので俺はジャンプをしてかわす。

すると、しにがみのきしは関所の壁にぶつかって、動けなくなってしまっていた。

そこで、今なら2体まとめて倒すことが出来ると思い、俺は両腕に持つ剣に力を溜めた。

 

「これでどうだ、回転斬り!」

 

二刀流での回転斬りを受けて、だいまどうは力尽きて青色の光を放って消えていった。

だが、しにがみのきしは耐え抜いて体勢を立て直し、俺に向かって斧を叩きつけてくる。

「仲間を倒されてしまったか···せめて敵をとってやる!」

 

俺は回転斬りの反動でしばらく動けなくなっていたので回避することは出来ず、攻撃をはがねのつるぎで受け止める。

しにがみのきしも思いきり斬りかかっているので弾き返すことは無理だが、おうじゃのけんで斬り裂けば倒せるだろう。

俺は奴の攻撃を受けている間におうじゃのけんを振り上げ、心臓を突き刺した。

 

「竜王様···すまなかった···」

 

既に瀕死だったしにがみのきしは、そう言った後光を放って倒れていく。

これで、関所にいる魔物は全て倒すことができたな。

 

「関所の魔物は倒せたみたいだし、竜王の城に向かうか」

竜王の城にはさらに多くの魔物がいるだろうが、今の俺なら勝てないことはないだろう。

俺は関所の反対側を塞いでいる白い岩を叩き壊して、先へと進んでいった。

 

関所を抜けたところもさっきと同じで、不思議な色をした砂の平原になっている。

だが、ダースドラゴンなどの魔物は一切見かけることが出来なかった。

恐らくは、竜王を守るために城やさっきの関所に戦力を集中させているのだろう。

でも、魔物は見つからなかったが、ドラゴンの頭の形をした柱やかがり火などが置かれている場所もあった。

 

「柱やかがり火が置いてあるのか。もしかしたら、竜王の城が近いのかもな」

 

俺はそう思ってその場所から辺りを見回す。すると、奥のほうに暗黒の巨大な城を見つけることが出来た。

あれが竜王の城で間違いないだろうから、俺はそこに向かって歩き続ける。

そして、10分くらいで竜王の城の入り口のところに来ることが出来た。

 

「ここが竜王の城なのか···思っていたより大きな城だな」

 

この城の最深部に魔物の王である竜王がいるはずなんだよな。

竜王の城は毒沼に囲まれていたので、俺は土ブロックで足場を作って渡っていく。

毒沼を渡りきって竜王の城に入ると、俺はさっそく中を調べ始めた。

入ってすぐのところには3つの通路があったが、左と中央の通路は固い壁で塞がれているので、右の通路を進むしかなさそうだ。

「通路は3つあるけど、右にしか進むことができないみたいだな」

 

俺が入り口から見て右の通路へ入っていくと、細長い廊下が奥まで続いているようだった。

カベしょく台がかけられているので暗くはないが、かなり不気味だな。

俺はいつ魔物が出てくるか分からないので警戒しながら城の中を歩いていく。

そこからしばらく進むと、大広間のような部屋にたどり着いた。まだ竜王の玉座の間ではないが、ここに魔物が待ち受けているのだろう。

 

「どんな魔物がいるんだろうな?」

 

俺が魔物に見つからないように大広間の中を覗くと、しにがみのきしが4体とダースドラゴンが1体見つかった。

どちらも戦ったことのある魔物だが、竜王を守るために訓練されているだろう。

だが、闇の戦士や竜王の影といった、こいつらよりさらに強力な魔物と戦ったことがあるので、今更恐れることはない。

 

「お前らを倒して、竜王も倒してやるぜ」

 

そして、俺は二本の剣を持って魔物たちの前に立つ。魔物たちも俺に気づいて、戦闘態勢にはいった。

 

「ビルダーの奴、ここから先には進ませんぞ!」

 

「竜王様のかわりに、お前の命を断ち切ってやろう!」

 

5体の魔物の中で、最初に前衛のしにがみのきし2体が斬りかかってくる。竜王の城の魔物との戦いの始まりだ。

2体のしにがみのきしが攻撃を仕掛けてきたと同時に、俺も両腕の剣を叩きつけて奴らを受け止めた。

やはり攻撃力がかなり高いので受け止めるのも大変だが、俺は腕に力をこめて押し返そうとする。

だが、そうしている間に奴らの背後にいるダースドラゴンが大きな火球を吐いてきた。

 

「くそっ、ダースドラゴンが厄介だな」

 

先にダースドラゴンを倒したいが、そう簡単に倒せる相手ではないし、4体のしにがみのきしに守られている。

しにがみのきしの数を減らしてからではないと、攻撃は出来なさそうだな。

なので俺は、ダースドラゴンの火球をだいまどうのメラミのように避けながらしにがみのきしと戦うことにした。

俺が火をかわした後、前衛のしにがみのきしの1体が素早く斧を降り下ろしてくる。

「ビルダーもさすがの我々には敵わないようだな!」

 

連続で攻撃をかわすのはかなり疲れるが、俺は奴の斧をジャンプで避けて背後に回り込む。

そして、次の攻撃が来る前にしにがみのきしの背中におうじゃのけんを突き刺した。

もう片方のしにがみのきしも斧で俺を斬ろうとしていたが、左手のはがねのつるぎで受け止めることが出来た。

 

「しにがみのきしなんかに俺が倒されると思うなよ」

 

奴の攻撃を受け止めた後、少しでもダメージを与えようと腕に強い力を入れて思いきり弾き返す。

俺の左腕もかなり痛んだが、しにがみのきしを怯ませて動きを止めることが出来た。

奴もすぐに立ち上がろうとするが、俺はその隙を逃さずにはがねのつるぎを使って叩き斬る。

これで前衛のしにがみのきし2体ともに傷を与えることが出来たので、このまま弱らせていけば倒せるだろう。

 

「こいつらも結構強いけど、やっぱり倒せないほどではないな」

 

俺はさらにしにがみのきしを攻撃しようと思ったが、ダースドラゴンが再び火を吐いてきた。

でも、火球をかわした後に何度も斬り裂いていき、前衛のしにがみのきしはかなり弱っていた。

そこで奴らは何としても俺を倒そうと、同時に斧を振り上げて突進してくる。

 

「おのれビルダーめ、ここまで我らを追い詰めるとは許さんぞ!」

「これで潰れてしまえ!」

 

俺は攻撃を防ぐと同時に奴らを倒そうと思い、腕に力をためて回転斬りを放とうとする。

そして、奴らが至近距離にまで突進してきた時、俺はその力を解き放った。

 

「回転斬り!」

 

俺の腕にも激しい痛みが走ったが、かなりの傷を負っていたしにがみのきしは2体とも倒れていった。

残りはしにがみのきし2体とダースドラゴンだが、俺は先にダースドラゴンに向かって剣をふりかざす。

広範囲攻撃である灼熱の炎は、今はしにがみのきしを巻き込む可能性があるので使えないため、防衛戦の時より楽に戦えるはずだ。

 

「ビルダーの野郎、よくも我らの仲間を殺しやがったな!」

「ダースドラゴンには触れさせないぞ!」

 

後衛のしにがみのきしも俺に斧を降り下ろしてくるが、かわしながらダースドラゴンに近づいた。

奴のすぐそばまで来ると、俺はおうじゃのけんとはがねのつるぎを使い固い鱗を引き裂く。

ダースドラゴンも俺を足で踏み潰そうとしてくるが、すぐにかわして奴の顔の前に移動した。

そして、次の攻撃が来る前に俺は剣を奴の口の中に突き刺す。すると、ダースドラゴンは悲鳴をあげて大きく怯んだ。

 

「ダースドラゴンももう少しで倒せそうだな」

 

ダースドラゴンを守ろうとしにがみのきしたちも飛びかかって斧を叩きつけてきた。

でも、俺はその動きをすぐに見切ってかわし、ダースドラゴンの首を狙って何度を攻撃する。

奴は最後の力で近くにいる俺に火の球を飛ばしてきたが、はがねのつるぎで防ぎ、軽いやけどで済んだ。

火の球を吐いた後には少し隙が出来るので、俺はその間に二つの剣を同時に降り下ろして奴の首を斬り落とす。

 

「よし、これでダースドラゴンもとどめをさせたぞ」

 

ダースドラゴンも首を斬り落とされては耐えられず倒されていった。

あとはしにがみのきし2体を倒せば竜王のところに行けるな。

でも、奴らは俺を竜王の元へ行かせまいとダースドラゴンが倒された後も斧を振り続ける。

 

「ダースドラゴンも倒したようだが、我らは諦めんぞ!」

 

「ビルダー、竜王様の元へは絶対に行かせないぞ!」

しにがみのきしの動きはさっきより速くなってきていたが、俺がかわせないほどではなかった。

そこで、俺は奴らの攻撃をかわしながら後ろに回り、背中に剣を突き刺そうとする。

しにがみのきしたちもそれに気づいたが、攻撃の途中だったので反応が遅れ、防ぐことは出来なかった。

 

「これで終わりだぜ、しにがみのきし!」

 

そして、俺は突き刺した剣で奴らの体を真っ二つにしていく。しにがみのきしの鎧はかなり固いが、鋭い剣のおかげで両断することが出来た。

俺はしにがみのきしが倒れたのを見た後、大広間を抜けて城のさらに奥に進んでいった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode102 闇を統べる者

1ヵ月以上間が空きましたが、期末テストが終わったので竜王戦や第5章を書いていきます。

今回は復帰したばかりなのでいつも以上に文章力が低いと思います。


俺はしにがみのきしとダースドラゴンを倒して剣をしまった後、竜王の城の更に奥に進んでいった。

そこには、さっきまでと同じように壁にしょく台がかけられた細長い通路が続いている。

だが、竜王の物と思われる禍々しい気配はさらに強くなってきていた。

 

「そろそろ竜王の玉座が近いのかもしれないな」

 

そう思いながら進んでいくと、しばらくしたところで俺の目の前にはがねの大とびらが見えてきた。

ここが竜王が待ち構えている部屋だと思い、俺は剣を構えて扉を開ける。

しかし、その部屋には玉座のいすが一つあるだけで、そこに座っているはずの竜王の姿はなかった。

 

「玉座はあるのに竜王がいないな···どうなってるんだ?」

俺はその部屋を見回してみるが、やっぱり竜王の姿は見当たらない。

 

「もしかしたらドラクエ1の時みたいに、玉座の裏に隠し通路があるのか?」

 

そこで思い出したが、確かドラクエ1では玉座の裏に城の地下へ続く階段があって、その地下の最深部に竜王がいたはずだ。

そこで、俺が玉座の間の裏を見てみると、壁が一部黒い岩で作られている場所があった。

周りの青い城のカベと違って黒い岩は壊すことが出来るので、間違いなく何かがありそうだ。

そして、おうじゃのけんを使って岩を壊すと、案の定地下の隠し通路へ続く階段が見つかった。

その階段はかなり長く、降りた先には暗い通路が広がっている。

 

「この先は一本道みたいだから、すぐに竜王のところに行けそうだな」

 

ドラクエ1では竜王の城は複雑なダンジョンだったが、今は一本道になっていた。

ついに竜王と戦う時が来たと思うととても緊張するが、みんなのためにも勝たなければいけない。

そして、暗い地下を歩き続けると、さっきの玉座の間の何倍も広い空間にたどり着いた。

 

「ここが、本当の竜王の玉座の間みたいだな」

 

その部屋の一番奥を見ると、巨大な杖を持った魔物の王、竜王の姿があった。

今まで何度も話には聞いているが、目の前で見るととても恐ろしい感じがする。

竜王は俺に気づくと、睨みつけながら話しかけてきた。

 

「よくぞ来た、雄也よ。わしが王の中の王、竜王である」

 

確か勇者に対しても、同じようなことを言っていたな。戦いを挑みに来た者には、必ず言っているのだろうか。

その後、竜王はビルダーである俺が戦いに来たことに驚くようなことを言う。

 

「わしは思わなかったぞ。勇者ですらないそなたが、戦いを挑みに来るなど」

 

ルビスは次の勇者が現れるまで待つべきだと言っていたが、俺がそれに従うと思っていたようだな。

次の勇者がいつ現れるか分からないなら、今俺が竜王を倒したほうがいいはずだ。

そう思っていると、竜王は俺の顔を見てこう言ってきた。

「しかし、そなたの顔···なんとも恐ろしい顔だ。そなたこそ、人間の物を作る力の恐ろしさを表しておる」

 

そういえば、どうして竜王が人間から物を作る力を奪ったのか、まだ聞いていなかったな。

早く竜王と戦いたい気持ちはあるが、そのことを聞いてからにしたほうがよさそうだ。

竜王は王の中の王と言われる存在なので、何の考えも無しに物を作る力を奪ったりはしないだろう。

 

「前から気になっていたけど、どうしてお前は人間の物を作る力を奪ったんだ?」

 

「分からぬか?そなたが今まで復興させてきた地域で起きたおぞましい出来事は、すべて人間が自らの手で起こしたことだ」

確かに、せっかく安全なシェルターに閉じ籠ったのに、食料を手に入れるために殺しあった人々。病を乗り越えるために魔物化のウィルスを作り、最後は自らが強大な魔物になってしまったウルス。魔物を倒す兵器の研究のために竜王に魂を売り渡し、本来の目的を見失ってしまったラライ···人間の愚かさによって引き起こされた悲劇は、いくつも見てきている。

俺が見ていないところでは、さらに多くの悲劇が起きていたことだろう。

 

「人間が物を作る力を失った状況でもいくつものおぞましい出来事が起きている。もし人間が力を取り戻すことになれば、この世界は調和を失い、滅びてしまうであろう」

 

お前が物を作る力を奪ったから人間は愚かなことをしたんじゃないのか?と言おうとしたが、すぐにそれは間違いであることに気づいた。

地球では物を作る技術を、人を殺す兵器を作ることに使われることがあるからな。

しかし、このアレフガルドの人たちは物を作る力を失ったことで人間の愚かさに気づくことが出来た。

物を作る力を取り戻したとしても、二度と悲劇が起こらないように生きていけるはずだ。

 

「でも俺たちはアレフガルドを復興させていくうちに人間の愚かさに気づいて、もう悲劇が起こさないようにしている。物を作る力を取り戻したとしても、それは変わらない」

 

俺はそのことを伝えたが、竜王はやはり人間は物を作る力を取り戻すべきではないと思っているようだ。

 

「いや、人間は必ず世界を滅ぼすはずだ」

竜王はそう言うと、杖を構えて立ち上がる。竜王との戦いは避けられないようなので、俺もおうじゃのけんとはがねのつるぎを向けた。

魔物の王である竜王であっても、今の俺に倒せないことは決してないはずだ。

 

「そなたがそれでも人間の物を作る力を取り戻させたいと言うのなら、わしが消し去ってやろう!」

 

そして、俺と竜王との決戦が始まった。

 

俺と竜王との間にはかなり距離があるので、俺は走って竜王に近づき、斬りかかろうとする。

竜王も俺に近づいてくると思ったが、その場から動かずに杖を振りかざし大きな火球を発生させる。

 

「そなたなど焼き尽くしてくれよう、メラゾーマ!」

メラゾーマの呪文は竜王の影も使っていたけど、竜王本体が使うものはそれ以上に巨大な火球だった。

でも、距離が離れていたので、俺は走りながらでもかわすことが出来、竜王との距離を縮めていった。

 

「そのくらいの魔法、今なら簡単に避けられるぜ!」

 

竜王は何度もメラゾーマの呪文を唱えてくるが、俺は走ってかわしながらだんだん奴に近づいていく。

竜王のすぐ近くまで来ると、さすがに走りながら火球を避けることは出来ないので、俺はジャンプをして回避していく。

竜王はメラゾーマの呪文を撃ち続けたが俺はすべてかわし、奴のすぐ近くまで行くことが出来た。

 

「ビルダーめ、かなり素早いな。だが、これはかわせぬだろう。ベギラマ!」

俺が近づいたのを見て、竜王は今度は広範囲を攻撃できるベギラマの呪文で攻撃してきた。

威力はメラゾーマより低いものの、まとも喰らえば大火傷は免れないので、俺は安全にかわせる位置に下がった。

 

「ベギラマもかわすことは出来たけど、竜王に近づけないな···」

 

走って避けられる位置まで下がることはできたが、このままだと攻撃することが出来ない。

竜王はベギラマを唱えている時間はわずかな隙ができるが、その間に近づいて攻撃するのは難しそうだな。

でも、その隙に斬りかかるしか竜王を倒す方法はなさそうだな。

 

「わずかな隙だけど、呪文を詠唱しているところに飛びかかるしかないな」

俺はベギラマをかわした後、次の呪文が放たれる前に思いきり竜王に飛びかかり、おうじゃのけんを降り下ろす。

そして、何とか次のベギラマが放たれる前に攻撃することができ、竜王の体に大きな傷をつけられた。

竜王も強力な剣の一撃を喰らってはただでは済まず、大きく怯んだ。

 

「また呪文を唱えてくるかもしれないし、今のうちに斬り刻むか」

 

俺は竜王が怯んだところを見て、左腕に持っていたはがねのつるぎで奴の体を斬り裂く。

だが、さらにもう一度おうじゃのけんで斬りつけようとすると竜王は体勢を立て直して杖で受け止めてきた。

 

「勇者ではないそなたが、これほどの力を持っていようとはな。だが、ここでわしが倒される訳にはいかぬ」

竜王はそう言うと杖に力をこめて、はがねのつるぎを弾き返そうとしてくる。

その力は闇の戦士以上に強く、右腕に持っているおうじゃのけんも使わなければ受け止められなかった。

 

「力で押しきることは無理だから、後ろに回りこんだほうが良さそうだな」

 

そこで俺は、一度竜王から離れた後、奴の背中にまわりこんで剣を降り下ろす。

竜王は素早さもかなりあったが、今まで多くの魔物と戦ってきた俺には敵わず、2本の剣で大きなダメージを与えることが出来た。

その後も俺は竜王の横や後ろに移動しながら、何度も斬りつけていく。

やがて竜王は体に大きな傷をいくつも負い、かなり弱ってきていた。

「竜王も弱ってきているし、このまま倒せそうだな」

 

俺が竜王にさらなるダメージを与えようとしていると、奴は俺から離れて杖を振りかざし始める。

今度は何をするんだ?と思っていると、俺のまわりに小さな太陽のようなものがいくつか出来ていた。

そして、小さな太陽からはメラゾーマに匹敵する巨大な火球が放たれた。

 

「わしをここまで追い詰めるとは思っていなかったが、今度こそそなたを消し去ってくれる!」

 

竜王はこんな強力な呪文も唱えられるようになっていたのか。

火球はジャンプでかわすことが出来るが、避けたところへ竜王が杖で殴りかかってくる。

でも、火球と竜王の攻撃の両方を避けた後、次の火球が飛んでくる前に竜王の後ろに回りこむことが出来れば奴を倒せるはずだ。

俺はまず飛んでくる火球を避けて、そこに杖を降り下ろしてくる竜王の後ろへ回りこんだ。

まだ次の火球は飛んできていないので、今なら攻撃できると思い、俺は竜王の背中に渾身の一撃を叩き込む。

 

「お前の呪文ぐらいで俺を倒すことはできないぜ!」

 

弱っていたところに鋭い二刀流での攻撃を受けて、竜王はその場に大きく倒れこむ。

それによって竜王の魔力によって作られていた小さな太陽も消えていき、火球も発生しなくなっていた。

だが、俺が倒れている竜王にとどめをさそうと思って近づくと、奴が恐ろしい闇の力を発し始めていることに気づく。

 

「くっくっくっ、やるではないか···そなたのような力を持つ者には、わしも本来の力を解き放たねばなるまい···」

 

竜王が、真の姿を現そうとしているようだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode103 真なる竜王

俺は竜王が真の姿へと変わろうとしているのを見て、急いでそれを止めようとおうじゃのけんを降り下ろす。

真の姿である巨大な竜になれば、さっき以上に厳しい戦いになることは間違いないからな。

しかし、俺が攻撃を命中させる前に、竜王は大きな雄叫びを上げた。

 

「ぬううううううううんっ!」

 

その瞬間、俺のまわりに一気に闇の力が解き放たれ、視界が真っ暗になる。

竜王の姿も見えなくなったが、闇の中から奴が話しかけてくる声が聞こえた。

 

「そうだ、雄也よ···。本来の姿を見せる前に、あやつと同じ問いかけをしようではないか」

 

あやつと言うのは恐らく裏切り勇者のことだろうから、俺にも世界の半分を渡すとでも言いたいのだろうか。

俺がそう思っていると、竜王はやはりあの質問を言い始める。

 

「世界の半分を貰うかわりに、わしの味方にならんか?」

 

世界の半分を渡すと言って、どうせ勇者の時と同じように小さな城に閉じ込めるつもりだろう。

そうなればせっかく復興してきた町も再び壊滅し、俺自身も精神が狂うことは間違いないだろう。

 

「どうせそんなことを言って騙すつもりじゃないのか?」

 

「心配するな···そなたには闇の世界を与えるようなことはせぬ」

 

闇の世界ではないと言うのなら、どんな世界をくれると言うのだろうか?

 

「そうだな···そなたが自由に物を作れるビルダーとしての新しい世界を与えてやろう」

自由に物を作れる新しい世界か···確かにそれならビルダーの能力を使って楽しく生きていけるかもしれない。

だが、竜王がそんな世界をくれるとはやっぱり思えないな。

それに、いくら自由に物を作れる世界であったとしても、みんなが協力して生きている今の世界のほうが確実に楽しいはずだ。

俺が竜王の誘いを断ろうとしていると、奴は改めて問いかけをしてくる。

 

「雄也よ、改めてそなたに問う。もしわしの味方になれば世界の半分を雄也にやろう。わしの味方になるか?」

 

「いや、お前の味方にはならない。必ずお前を倒して、みんなが楽しく暮らせる世界をつくってやる」

 

何度問いかけををされても、俺の気持ちは変わらない。だが、俺がはっきり断っても竜王は問いかけを続けてきた。

 

「もしそなたがわしに負ければそなたが復興してきた町も、助けた人々も、出会った仲間も全て滅びることになるのだぞ?本当にそれでよいのだな?」

 

負ければ世界が再び滅びるということなんて、言われなくても分かっている。

とてつもなく強い相手だと言うことは分かっているが、必ず真の竜王を倒して世界に光を取り戻してみせるぜ。

 

「お前に負けるつもりは決してないからな。何度言われても味方にはならないぞ」

 

俺がそう言うと竜王はついに問いかけをやめ、真の姿を現そうとする。

 

「そうか···愚かな奴め!では雄也よ、地獄で後悔するがいい!」

その言葉と共にあたりはさらに深い闇に包まれ、竜王の城が崩れていくような音も聞こえた。

そして気がつくと俺は城の城壁の上に立っており、目の前には鋭い爪や牙を持ち、全長30メートル以上あると思われる巨大な紫色の竜がたち塞がっていた。

俺がいる城壁は高さ20メートルくらいの場所で、竜王の顔は見上げなければ見えなかった。

 

「これが竜王の真の姿か···ここまで大きいとは思っていなかったぜ」

 

崩れる音が聞こえたのは竜王が巨大化したことによって城が壊されたからなのか。

ここまで巨大な竜だとは思っておらず、かなり驚いたけど、怯えている訳にはいかない。

 

「ものすごく強そうだけど、必ず勝って、生きてみんなのところに帰るぜ!」

 

俺が二本の剣を構えると、竜王も同時に凄まじい叫び声を上げる。俺と真の竜王との決戦の時が来た。

竜王は最初は俺のいる城壁から少し離れた場所にいて攻撃を当てることが出来なかった。

それで、竜王が近づいてくるのを待っていると、奴は急に爪を振り上げて俺のところへ飛びかかってきた。

俺は急いでジャンプしてかわしたが、竜王の爪が叩きつけられた瞬間、城壁が強く揺れる。

俺の攻撃ではびくともしない城壁なので、それだけ威力が高いということだろう。

 

「攻撃力もここまで強いのか···避けながら攻撃していくしかなさそうだな」

 

回避した後体勢を立て直していると、竜王は爪を再び振り上げて俺を斬り裂こうとしてくる。

それを見て思ったが、竜王は攻撃のあと爪を振り上げるのには少し時間がかかっており、攻める隙がありそうだった。

奴は体が大きいから攻撃の威力と範囲は大きいが、動きは遅くなっているみたいだな。

俺はもう一度ジャンプをして爪を避けて、竜王の次の攻撃が来る前におうじゃのけんを叩きつける。

さすがは伝説の剣で、固い竜王の体に深い傷を負わせることが出来た。

だが、ダメージを与えたものの、奴は全く怯む気配はみせなかった。

 

「攻撃は出来たけど、怯ませるのは難しそうだな」

 

回転斬りを当てれば怯むかもしれないが、力を溜められるほどの隙はなかった。

少しずつ攻撃していくしかなさそうなので、俺は竜王の爪を避けながら二本の剣で奴の腕を何度も斬り裂いていく。

はがねのつるぎでは少しの傷しか負わせられないが、使わないよりはいいだろう。

しばらくすると、竜王は傷をつけられたことに怒ったのか、

 

「グギャアアアアアッ!」

 

と再び叫んで、今度はさっきよりも大きく爪を振り上げる。

強く爪を叩きつけるのだろうから、今までと同じでジャンプで避ければよさそうだな。

奴が力を溜めている今は攻撃のチャンスなので、俺は竜王の体を斬り刻んでいく。

怯ませればさらなる攻撃チャンスが出来ると思ったが、やはり竜王が怯んで体勢を崩すことはなかった。

でも、強力な叩きつけをかわせばその後にも攻撃の隙はできるだろう。

しかし、竜王が力を溜め終わり、ジャンプで回避しようとしていると、奴は

俺の予想と違い、爪を叩きつけるのではなく爪で城壁の上をなぎはらってきた。

「くそっ、これだとかわせないな」

 

俺はジャンプをしても避けることが出来ない位置にいるが、喰らうわけにはいかないので、何とか威力を最小限に抑えようと剣を使って受け止めようとする。

体が引き裂かれることは免れたが、腕が砕け散るような痛みに襲われ、数メートル横に吹き飛ばされてしまった。

さらに、今まで多くの魔物の攻撃を受け止めて弱ってきていたはがねのつるぎにひびが入っていた。

 

「くっ、防いでもこの威力なのか···!」

 

いつもなら動けなくなるほどの痛みだが、すぐに竜王の次の攻撃が来てしまう。

竜王の方を見ると、奴は巨大な口を開いて俺を噛み砕こうとしており、弱っている俺にとどめをさそうとしているようだった。

絶対に負ける訳にはいかないので、俺は激痛が走る腕で二本の剣を構え直して竜王の噛みつきを避けた。

噛みつきの跡には隙が出来たので、俺は腕の痛みを我慢して斬りかかっていく。

 

「確かに強い一撃だったけど、まだ俺を倒すことは出来ないぜ!」

 

竜王の顔は腕よりも柔らかく、俺は連続で剣を降り下ろしてさっきより深い傷をいくつもつけていく。

そして、竜王も顔面を斬られ続けてはかなりのダメージを受けるようで、大きく怯んで動けなくなっていた。

 

「やっと竜王を怯ませることが出来たな。今なら回転斬りも使えそうだし、一気に弱らせるか」

 

俺は竜王が怯んだところを見て、両腕に力を溜める。

二刀流での回転斬りを受ければ竜王も弱らせることが出来るだろうからな。

そして、腕に最大まで力が溜まった瞬間、俺は竜王の顔面に向かって強力な一撃を放つ。

 

「回転斬り!」

 

回転斬りを受けてもまだ竜王は倒れることはなかったが、弱らせたのは確実だろう。

ひびの入っているはがねのつるぎは今度こそ砕けてしまうと思っていたが、辛うじて無事だった。

回転斬りが終わった後、俺は竜王にさらなるダメージを与えるためにおうじゃのけんで追撃を加える。

2発ほど追撃したところで竜王は起き上がり、俺を強く睨み付けてくる。

 

「竜王も本気で怒ってきているみたいだな」

次はどんな攻撃をしてくるのか警戒していると、竜王は口の中に闇の炎を発生させ、それを巨大な火球として放ち始める。

魔導士の姿の竜王が放ったメラゾーマの火球よりも大きく、ジャンプでなければ回避することが出来なかった。

でも、今まで多くの魔法攻撃をかわしてきた俺なら闇の火球を避けて竜王に近づくことが出来るだろう。

俺は竜王が次々と放ってくる闇の火球を避けていき、奴の腕に近づいていく。

竜王の火球を吐くスピードはどんどん上がっていくが、俺はなんとか避けていきながら腕に近づき剣を叩きつけた。

 

「どれだけ巨大な闇の炎でもかわしきれないことはないぜ!」

 

腕に近づいた後は闇の炎を避けつつ、わずかな隙に竜王の腕にダメージを与えていく。

竜王が弱っているのは確実なようで、奴が闇の火球を放つスピードが落ちてきていた。

だが、竜王ももうすぐ倒れるかもな、と思っていると突然竜王は闇の炎を吐くのをやめて、大きく後ろにジャンプして俺の攻撃が届かない場所へ移動した。

 

「後ろに下がったけど、何をするつもりなんだ?」

 

竜王が逃げ出すことはありえないはずなので、俺の近くで使えば竜王自身もダメージを受けるほどの強力な攻撃を放ってくるのかもしれない。

その予想は当たっていたようで、竜王は口の中に膨大な量の闇のエネルギーを溜め始める。

さっきの闇の炎とは比べ物にならないほどの強さで、竜王のまわりにも闇の力が溢れ出すほどだった。

「どこまで闇の力を溜め続けるつもりなんだ?」

 

そして、闇のエネルギーが最大にまで溜まると、竜王は俺のところへ向かってそのエネルギーを放つ。

あんな威力の攻撃を受けたら即死だと思い、城壁の右端にいた俺は城壁の左端へと走り始める。

生きるか死ぬかの境目だからか、いつもよりとても速い速度で俺は城壁の上を走っていく。

何とか俺は左端まで逃げることが出来たが、その瞬間に放たれた闇のエネルギーが大爆発を起こし、城壁の3分の2近くが跡形もなく消し飛んだ。

俺も直撃は避けられたが衝撃で吹き飛ばされ、全身に激しい痛みがおこる。

 

「助かったけど本当に凄い威力だったな。もしもう1回使われたら今度こそ死ぬだろうな」

だが、竜王の様子を見ると奴もこの攻撃をするのに多くの魔力を消費したようで、2回目が放たれることはなさそうだ。

だが、竜王の怒りも極限に達して、奴は先ほどの叫び遥かに越える大きさの叫び声を上げる。

 

「ドギャアアアアアアアッッ!」

 

耳をつんざくような声に怯んだ俺のところに、再び竜王は両腕を振り上げて爪を叩きつけてきた。

鼓膜が破れるかと思うほどだったが、俺は耐えて爪を避け、ジャンプをして避ける。

攻撃を避けた後は、城壁が激しく揺れているが何とか立ち上がり、隙が出来た竜王の腕におうじゃのけんで攻撃する。

 

「何度爪を叩きつけられても俺を引き裂くことはできないぞ」

何回か斬りつけられたが怯ませることは出来ず、竜王は起き上がって腕を振り上げて力を溜め始める。

なぎはらい攻撃が来ることは分かるが、残った城壁ではジャンプをしても避けきることは出来ないな。

 

「何とかしてなぎはらいを阻止しないとまずいな」

 

普通の攻撃をいくら与えても動きを止めることは出来ないだろうから、回転斬りを当てるしか攻撃を阻止する方法はない。

それも、なぎはらい攻撃が始まる前に放たなければいけないので、いつもより速く力を溜めないといけない。

俺はいつもより速く、そして強く回転斬りを放つために、全身の力を腕に集中させるように力を溜める。

そして俺は、竜王のなぎはらい攻撃が行われる寸前にその力を解放し、奴の体を斬り裂いた。

「回転斬り!」

 

渾身の二刀流での回転斬りをまともに受け、弱っている竜王はさらなる大ダメージを受けて怯み、動きを止めた。

俺はさっき回転斬りを使った時と同じように追撃を与えようとしたが、竜王は何としても倒されないようにとすぐに起き上がる。

 

「竜王も追い詰められているから、最後の力を振り絞っているようだな」

 

追い詰められた竜王とそれを倒そうとする俺、その戦いも終盤を迎えていた。




次回、4章の最終話になります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode104 アレフガルドの光

竜王は追い詰められているにも関わらず、攻撃が弱まるどころかより激しくなっていた。

回転斬りを受けた後、すぐに体勢を立て直した竜王は、さっきよりも強く俺に爪を叩きつけてくる。

奴の攻撃の後にはいつもなら大きな隙が出来るのだが、速度も上がっているのでほとんど隙がなくなっていた。

 

「弱っているはずなのに、攻撃の威力も速度も上がってきているな」

 

竜王にも人間の物を作る力を奪った理由があるので、ここで倒される訳にはいかないのだろう。

でも、俺がついていけないほどの速度ではなく、爪をかわした後に斬りかかることが出来そうだ。

俺は竜王の爪をジャンプでかわしていき、奴が腕を振り上げるまでののわずかな隙に、おうじゃのけんを叩きつける。

俺もかなり体が疲れてきていたが、必ず竜王を倒せると思いながら攻撃を避け続け、その度に反撃で奴の腕を斬り刻んでいく。

そして、もう竜王の力も限界なのか、ついに爪を降り下ろすスピードが落ち始めてきた。

 

「攻撃のスピードも遅くなってきたし、もうすぐ竜王の力も尽きるのかもな」

 

俺は竜王の様子を見て、強力な攻撃を叩き込んでとどめをさそうと思った。

しかし、隙が大きくなったと言っても攻撃はやまず、再び竜王は巨大な口を開けて闇の火球を吐き出してきた。

さっきのように絶大な威力を持つ攻撃は放てなくなっても、メラゾーマ並の大きさの火球を放つことは出来るようだ。

すぐに気づいて大きく飛んで避けることが出来たが、竜王の闇の火球の衝撃によって城壁のいくつかのブロックにひびが入っていた。

 

「残っている城壁にひびが入ったか···このままだと全部崩れるかもな」

 

さっきの闇の大爆発の時の爆風で弱っていたブロックがさらに爪や噛みつきを受けているのだから、ひびが入るのも仕方ないな。

城壁が崩れれば転落死は免れないだろうから、その前に竜王を倒さないといけない。

だが、竜王は俺の攻撃を防ぐためだけでなく、早く城壁を砕け散らせるためにも大量の闇の炎を放つ。

それだけでなく、火球を吐くと同時に両腕の爪を叩きつけてきた。

 

「爪のスピードも威力も落ちているけど、闇の炎のせいでまた隙が無くなったな」

 

俺は爪と炎を避けながら竜王に近づこうとするが、なかなか近づけない状況であった。

このままだと本当に城壁が壊れてしまうな···と思っていると、竜王もブロックの耐久力が尽きると思ったのか、頭を振り下ろして城壁を叩き砕こうとしていた。

回転斬りを溜める時間もないし、避けても城壁が崩れ去るだろうから、何としても防がないといけない。

 

「出来るか分からないけど、剣で竜王を受け止めるしかなさそうだな」

 

おうじゃのけんを使っても竜王の強力な一撃を防ぐのは難しいだろうけど、それ以外に防ぐ方法は思い付かないし、もし怯ませられれば今度こそとどめをさせるかもしれない。

そして俺は、竜王が頭を叩きつけてきたと同時に腕に思いきり力をこめて受け止めようとする。

竜王の攻撃はやはりとてつもない威力で俺は腕だけでなく、全身の骨が激しい痛みに襲われる。

 

「ここでお前なんかに倒されるかよ!」

 

必ず生きて帰るってみんなに言ったからな、こんな攻撃で死ぬわけにはいかない。

あまりの力に左手に持っていたはがねのつるぎも砕け散ってしまったが、それでも俺は叫びながら竜王の攻撃を受け止め続けた。

すると、ついに竜王は俺を押しきることが出来ず、力尽きて大きく体勢を崩す。

 

「受け止めきれたのか···もう俺も力の限界だけど、倒すなら今しかないな」

 

これで城壁を壊されずに済んだし、竜王を怯ませることが出来たな。

立つこともやっとの状態だったけど、次に攻撃を受ければ確実に城壁が砕けるだろうし、このチャンスを逃す訳にはいかないので、俺はおうじゃのけんで竜王の顔面を斬り刻む。

竜王は弱点である顔面に攻撃されないように何とか体勢を立て直そうととするが、俺はその様子を見てすぐに腕に力を溜め始めた。

そして、奴が頭を起き上がらせる寸前に、俺はその力を解き放つ。

 

「今度こそ倒す、回転斬り!」

 

おうじゃのけんだけでの回転斬りだったが、瀕死の竜王にとっては大きなダメージで、奴は再び怯んだ。

そこでとどめをさそうと俺が竜王の首に向かって剣を叩きつけると、ついに竜王の生命力は全て尽き、倒れこんで動かなくなる。

そして、竜王の体はだんだん大きな青い光へと変わっていく。

 

本当に竜王を倒せたのかしばらく確信が持てなかったが、奴の体が完全に消え去ると安心して俺は武器をしまった。

 

「ついに俺は、魔物の王である竜王を倒すことが出来たんだな」

 

竜王を倒したことに俺はまだ実感が湧かないけど、これで残る闇の元凶は闇の戦士だけになったな。

そう思っていると、倒れた竜王の中からは闇に包まれた宝玉のような物が出てくるのが見えた。

今までの戦ってきた魔物の親玉は伝説のアイテムの素材を落としていたが、竜王が持っていたこれは何なのだろうか?

俺がその宝玉に近づいていくと、頭の中にルビスの声が聞こえてきた。

「よくやりました、雄也。見事竜王を打ち倒したようですね」

 

竜王が倒されたことは、ルビスももう知っていたようだな。

 

「ああ、今までで一番強かったけど、みんなのためにも負けられないと思ったんだ」

 

これでアレフガルド全域の空の闇が晴れるはずなので、ルビスもとても喜んでいるのだろう。

俺もとても嬉しいが、今は竜王が落とした闇に閉ざされた宝玉のことが気になるな。

ルビスなら何か分かるかもしれないので、俺は宝玉のことを聞いた。

 

「それとルビス、こんな玉を落としたんだけど、これは何なんだ?」

 

「それは竜王に奪われたひかりのたまです。竜王の呪いで闇に閉ざされてしまいましたが、あなたなら元の輝きを取り戻すことが出来るでしょう」

 

ひかりのたまか···ドラクエ3で竜の女王から貰え、ゾーマの闇の衣を剥がす時に使ったアイテムだったな。

それで、ドラクエ1では竜王を倒してそれを取り戻すと、世界に平和を取り戻すことが出来る。

だが、その時と違って今のアレフガルドにはまだ闇の戦士がいるので、完全な平和を手に入れることはできなさそうだ。

でも、空の闇を晴らすことは出来るかもしれないな。

俺はそう思い、輝きを取り戻させる方法をルビスに聞くことにした。

 

「どうやったらひかりのたまは輝きを取り戻すんだ?」

 

「あなたのビルダーの魔法を使えばよいでしょう。素材も作業台もいらないので、この場でできるはずです」

ビルダーの力ではそんなこともできるのか。恐らくは、ひかりのたまの輝きを作り出すということなのだろうな。

この場で出来ると言われたので、俺はさっそくひかりのたまに向かってビルダーの力を発動させた。

すると、ひかりのたまを包んでいた闇が晴れていき、しだいに輝きを取り戻していく。

そして、すべての闇が晴れるとひかりのたまは本来の輝きを取り戻し、まばゆい光を放っていた。

 

「これがひかりのたまの本来の輝きなのか···これなら、世界の闇をはらえそうだな」

 

俺がひかりのたまを手に取ると、再びルビスが話しかけてきた。

 

「よくやりましたね、雄也。では、そのひかりのたまを天へと掲げるのです」

「ああ、もちろんだ!」

 

俺はそう言ってルビスに返事をした後、手にしたひかりのたまを空に掲げる。

ひかりのたまは空高く登っていくと、アレフガルド全体を暖かい光で照らしていく。

そして、ラダトームの黒かった空は青空へと変わり、アレフガルド全域がより明るくなっていく。

自分の力で光を取り戻したという感動のせいかもしれないが、その空は日本にいた時の青空よりもずっと美しかった。

 

「雄也よ、本当によくやりました。勇者ではないあなたが竜王を倒せたのは、あなた自身の力で作り上げた物の力があったからでしょう」

 

光が戻ったアレフガルドの空を眺めていると、ルビスはそう言った。

ビルダーの力で作った武器、仲間たちに平和な世界を見せたいという強い思い、それら全てが竜王を倒す力になっていたのだろう。

これからもビルダーの力を使って大切な仲間たちのために、アレフガルドの復興を進めていきたいな。

 

「ああ、本当に厳しい戦いだったけど、あんたの言う力があったからこそ竜王に勝てたんだ。みんなも喜んでいるといいんだけどな」

 

今ごろはみんなも闇が晴れたアレフガルドの空を眺めていることだろう。

俺がそう言うと、ルビスはみんなも俺の帰りを待っていると言ってくる。

 

「みなも喜んであなたの帰りを待っているはずです。虹のしずくを使えば、ラダトームの城に帰れるでしょう」

俺もみんなに会いたいし、竜王との戦いで疲れているので早く帰りたいぜ。

虹のしずくをポーチから取り出して使うと、竜王の島に来た時と同じように俺は空に飛び上がる。

その後、俺の体はラダトーム城へ向かって飛んでいき、城の目の前のところで着地した。

 

俺は着地すると、さっそくみんなの待っているラダトーム城の中へと入っていく。

すると、最初に俺の姿を見たピリンが驚いた顔をして話しかけてきた。

 

「雄也、さっき空が明るくなったんだけど、もしかして竜王を倒してきたの?」

 

「ああ、竜王を倒してアレフガルドに光を取り戻して来たんだ」

俺が竜王を倒して帰ってきたことを聞いて、ピリンはとても嬉しそうな顔をする。

俺とピリンとの話し声が聞こえたのか、みんなも希望のはたがある場所に集まってきた。

そして、生きて帰ってきた俺の姿を見てみんなは大喜びしながら感謝の言葉を言い始める。

 

「お前さんなら勝てると思ってたが、生きて戻ってきてくれて本当に嬉しいぜ」

 

「ワタシは少し心配になっていたけど、さすがは雄也だな!」

 

「竜王を倒してくるとは···よくやった、よくやったぞ雄也!」

 

「おお!雄也様!生きて帰ってきてくださったのですね!」

 

「雄也、やってくれたね。アタシは、あんたなら必ずやると思っていたけどね」

「勇者ではないそなたが竜王を倒したことにはとても驚いたぞ。とにかく、よくやった、雄也!」

 

「あなたさまのおかげで平和が戻りました。どうもありがとうございました!」

 

「まさかお前が、本当に竜王を倒してくるとはな!」

 

「アノ竜王様ヲたおストハ、なんトイウおそロシイオかたダロウ!」

 

でも、みんなは竜王が倒れたことで空の闇が晴れただけでなく、世界に平和が戻ったと思っているようだな。

だが、俺がまだ闇の戦士が生きていると伝えようとすると、ローラ姫が宴を開こうと提案してきた。

 

「雄也様、世界に光が戻ったことをお祝いして、これからささやかな宴を開こうと思っているのです」

確かにまだ敵は残っているけど、せっかく空の闇が晴れたのでお祝いの宴は開いたほうがよさそうだ。

そして、明日になってみんなが落ち着いたら、そこで戦いがまだ終わっていないことを伝えよう。

俺も竜王との戦いは本当に大変だったし、1日くらいは休みたいからな。

 

「分かった。空の闇が晴れたんだし、今日は宴を楽しむとするか!」

 

 

その日の夜、俺たちはアレフガルドに光が戻ったことを祝って宴を開いた。

その宴は姫の言う通りささやかなものであったが、みんなの顔には笑顔が満ちあふれていた。俺もその時には疲れを忘れて、みんなと一緒に盛り上がっていく。

深夜になって宴がお開きになった後空を見上げてみると、そこには満天の星空が広がっていた。

俺たちはその美しさに感動しながら、明日から始まるであろうさらなるアレフガルドの復興に備えて眠りについた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5章 ラダトーム・サンデルジュ編
Episode105 残る闇の元凶


ここから第5章に入り、ほとんどがオリジナル展開になっていきます。

第5章では原作には登場していない新エリアやキャラクター、アイテムなども登場させる予定です。

章タイトルのサンデルジュというのは新エリアの名前です(今回は登場しませんが、エピソード107辺りから出てくる予定です)


俺は竜王を倒すことが出来たが、まだ世界には完全に平和が戻った訳ではない。

ゲームではこれでエンディングを迎えたのかもしれないが、魔物との戦いは続いていく。

これから、アレフガルド復興の第5章が始まっていくのだろう。

 

竜王を倒した翌日、ラダトームに来て11日目の朝、俺が目覚めると既に昼頃になっていた。

でも、昨日の宴で盛り上がりすぎたせいで、竜王と戦った時の疲れはまだとれていなかった。

今日は一日休みたいけど、まずはみんなに世界にまだ平和が戻っていないことを伝えないといけないな。

寝室の外に出るとみんなはもう起きていて、俺は大声を出してみんなを希望のはたのところへ呼んだ。

「みんな、大事な話があるから集まってくれ!」

 

俺の声を聞いて、みんなはすぐに希望のはたの近くへと走ってくる。

最初に俺の近くにいたロロンドが出てきて、その後にみんなが集まってきた。

 

「雄也よ、世界に平和が戻った次の日に大切な話とは···何があったのだ?」

 

ロロンドもやはり、竜王が倒れたことで世界に平和が戻ったと思っているようだった。

ラダトーム城にいる全員が集まったのを見て、俺はまだ闇の元凶である裏切り勇者が生きているということを話し始める。

 

「みんな驚くと思うけど、実は世界にまだ平和が戻ってはいないんだ」

 

案の定、そのことを聞くとみんなはとても驚いた表情をする。

今まで竜王を倒せば空の光が晴れるだけでなく、世界に平和が訪れると思っていたのだから無理もないだろう。

動揺しているみんなに、俺は話を続けた。

 

「この世界が荒廃したのは勇者が竜王の誘いに乗ってしまったからと言うのは知っているだろ?その人類を裏切った勇者···闇の戦士がまだ生きているんだ」

 

そいつを倒さなければアレフガルドに完全な平和を訪れないだろうと言おうとすると、ムツヘタが闇の戦士はもう倒れたはずではと聞いてくる。

 

「闇の戦士はそなたが虹のしずくの原料を手に入れるために倒したのではないか?」

 

「いや、もう少しのところまで追い詰めたんだけど、逃げられてしまった」

あの時は竜王を倒す準備を進めるのに忙しくて、そのことを伝えていなかったからな。

闇の戦士が倒れていないことを知ると、さっきまで明るかったみんなの顔が、一気に暗い表情へと変わっていった。

 

「では、まだ私たちは魔物と戦い続けなければならぬと言うのか?」

 

「このラダトームにも、再び魔物の軍勢が来ることもあるのでしょうか?」

 

みんなが暗い表情をしていると、ラスタンとオーレンが魔物との戦いもまだ続くのかと聞いてくる。

竜王という統率者を失ったことで、しばらくは魔物の行動も落ち着くだろう。

だが、もし狂っていた闇の戦士が正気を取り戻せば、新たな魔物の王となって城への攻撃を命令する可能性がある。

「ああ、闇の戦士の軍勢が城を狙ってくることもありえるはずだ」

 

「そうか···いつになったら私たちは、真の平和な世界を見られるのだろうな···」

 

魔物との戦いが続くことを聞くと、ラスタンはそう言った。

俺も早くアレフガルドが平和になってほしいが、闇の戦士の居場所が分からない今は、迫り来る魔物と戦い続けるしかない。

この前闇の戦士の居場所を見つけたムツヘタなら、今回も居場所を見つけられるかもしれないと思って聞いてみたが、分からないと言った。

 

「闇の戦士を倒せれば、今度こそ平和が戻るはずなんだけどな···ムツヘタ、奴の居場所は分からないか?」

「確かにおぞましい闇の力がどこかから感じられるのじゃが、詳しい場所を突き止めることは出来ぬ」

 

闇の力を感じられるのなら、いつかは見つけられるかもしれないな···でも、かなりの時間がかかることは間違いないので、やはりすぐに平和を取り戻すことは出来ないな。

俺がそんなことを考えていると、隣にいたロロンドがメルキドが心配だといい始める。

 

「雄也よ。闇の戦士がどこにいるか分からないと言うのであれば、我輩たちのメルキドが狙われる可能性もあるのではないか?」

 

ロロンドの言う通り、メルキドなどの他の地域に闇の戦士が移動している可能性もあるな。

今まで見てきた夢から考えて、奴はラダトームだけでなくアレフガルドに暮らす人間全てに絶望しているのだろうから、どこが襲撃されてもおかしい話ではない。

「確かに、闇の戦士がどこにいるか分からないと言うことは、どの町にも襲われる可能性があるってことだ」

 

その話を聞いて、エルとアメルダもリムルダールとマイラを心配し始める。

 

「では、リムルダールが狙われる可能性もあると言うことですね」

 

「マイラはアイツらに任せてきてるけど、ちょっと心配になってきたよ」

 

俺も今まで復興させてきた町が再び危機に陥るかもしれないと言うことを考えると不安になってくるな。

俺はまだラダトームにいるつもりだが、3人は一度帰ってそれぞれの町の防衛にあたったほうがいいかもしれない。

 

「なら、みんなはそれぞれの町に帰って魔物の襲撃に備えたらいいんじゃないか?」

「だが、雄也はここに残るのであろう?我輩たちだけ帰っていいのか?」

 

俺が提案すると、ロロンドはそう聞いてくる。

確かに、俺もみんなと一緒に暮らしていきたいとは思っている。

だが、俺にとっても復興させてきた町が壊されるのはとても悲しいことなので、出来るだけ多くの人数で町を防衛したほうがいい。

ここにいる3人はそれぞれの町のリーダーと言える人たちなので、彼らが帰ってこればみんなの士気も上がるだろう。

 

「町作りのリーダーだったあんたたちが帰れば、みんなの士気も上がって魔物に勝てる可能性も上がるはずだ。それに、協力できなくなる訳じゃない」

 

俺たちがマイラの光のとびらをくぐってたどり着いた、ラダトームの最初の場所の方向を見ると、光の柱が立っている。

ルビスは竜王の力が原因で光のとびらは自由に使うことが出来ないと言っていたので、奴が倒されたことによって自由に行き来が出来るようになったのだろう。

 

「竜王が倒されたて光のとびらが自由に使えるようになっているから、全ての町で協力することが出来るはずだ」

 

「では、何かあればすぐに雄也様に知らせられると言うことですね!」

 

「アタシたちが作った兵器を、他の町に持っていくことも出来ると言うことだね」

 

アレフガルドの全員が協力すれば、必ず闇の戦士を見つけて倒すことが出来るだろう。

俺が全ての町で協力することが出来ることを伝えると、3人は納得して帰る準備を始める。

俺はピリンとゆきのへ、ヘイザンにも帰りたくはないか聞いてみたが、まだ俺と一緒にラダトームの復興を手伝いたいと答えていた。

 

そして、準備が整うとロロンド、エル、アメルダの3人はラダトーム城を出て、光のとびらへと歩き始めた。

 

「雄也よ、来たくなったらいつでもメルキドに帰ってくるのだぞ!」

 

「リムルダールの町が協力できることがあれば、何でもいたしますね」

 

「もし魔物が襲ってきたら、すぐにアンタに知らせに行くよ!」

 

そう言って3人は手を振り、ラダトームの光のとびらがある地域へ繋がる旅のとびらへと歩いていく。

さっき言った通り光のとびらが自由に使えるようになったので、俺も今まで復興させてきた町に戻ることもあるのかもしれないな。

俺も3人の姿が見えなくなるまで手を振り続け、その後ラダトーム城の中へ戻っていこうとする。

 

その時に、俺はラダトーム城の近辺を彷徨く魔物の数が昨日より増えているのが見えた。

昨日はひかりのたまを使ってもドラクエ1の時のように魔物が封印されることはなかったが、それでも竜王という統率者を失って活動は穏やかになっていた。

だが、今日になって活動を再開した魔物がたくさんいると言うことは闇の戦士が新たな統率者になり始めているのかもしれないな。

 

「せっかく竜王を倒したけど、これからの戦いも厳しいものになっていきそうだな」

 

でも、竜王がいた頃に比べればまだ穏やかなものだった。

魔物の活動が再開したにしても、まだ城を襲撃したりする気配は感じられないな。

今日は俺は寝室で、竜王との戦いでの疲れを取り、新たな戦いに備えるためにゆっくり休むことにした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode106 魔物の再来

ラダトームに来て12日目、竜王を倒してから2日目の朝、俺は寝室から出た後ムツヘタに闇の戦士の居場所のことで分かったことがないか聞きに行くことにした。

占いの間の入り口を開けると、中で作業をしているムツヘタの姿が見えたので、さっそく話を始める。

 

「ムツヘタ、昨日おぞましい闇の気配が感じられたって言っていたけど、どの方向からなのか分かるか?」

 

詳しい居場所は分からなくても、だいたいの方向が分かれば自分の力で探しに行けるかもしれない。

今はアレフガルドの全域に行くことが出来るようになっているので、大まかな場所が分かればすぐに探索に向かおう。

 

「昨日から闇の戦士の居場所を探って、だいたいの位置は突き止めた。じゃが···」

どうやらもう場所は突き止められたようだが、何か問題があるのだろうか?

 

「何か問題があるのか?」

 

「実は、そなたらがまだ行くことが出来ぬ場所の可能性が高いのじゃ」

 

まだ行くことが出来ない場所···?アレフガルドにはメルキド、ドムドーラ、リムルダール、マイラ、ガライヤ、ラダトームの6つの地域があるが、その全ての地域に俺は行ったことがある。

もしかして、アレフガルドにはまだ俺が知らない地域があるのだろうか?

 

「俺は今までアレフガルドの全域をまわったはずなんだけどな、まだ行ったことのない場所があるのか?」

 

「わしも精霊ルビスから一度聞いただけなのじゃが、アレフガルドのどこかにサンデルジュという秘境の地があるらしいのだ」

俺が知っているところでは、サンデルジュなんて場所はアレフガルドになかったはずだ。

秘境の地なので、人間にはほとんど知られていないと言うことなのだろうか?

 

「そのサンデルジュって場所はどんなところなんだ?」

 

「そびえたつ高い岩山に囲まれた場所で、精霊ルビスがアレフガルドを創造してから今日まで、ほとんど人が立ち入ったことはないそうじゃ」

 

そう言えばドラクエ1には越えられない高い岩山がいくつかあったが、その内のどこかにあったということか。

人間がほとんど立ち入らないと言うことであれば、闇の戦士や魔物たちが潜んでいる可能性も高いな。

 

「確かにそんな場所なら、闇の戦士が新たな拠点を作っていたとしても不思議じゃないな」

今はまだ行くことが出来ないとしても、今度旅のとびらが手に入ったら必ず行ってみる必要があるな。

ムツヘタも、俺にサンデルジュに行ってほしいと頼んでくる。

 

「まだ闇の戦士がサンデルジュにいると決まった訳ではないが、もし行く方法が見つかったら調べてきてほしいのじゃ」

 

「ああ、今度こそ闇の戦士にとどめをささなければいけないからな」

 

俺はムツヘタにそう言って返事をする。

人間の立ち入らない場所であるサンデルジュには、ラダトーム以上に強力な魔物が生息している可能性があるが、そいつらにもうち勝って、世界に真の平和を取り戻さなければいけないな。

でも、今はサンデルジュに行く方法はないのでラダトームの復興を進めようかと思い、俺は占いの間から出た後ラスタンに次はどこを復興させればいいか聞きに行くことにした。

 

しかし、ラスタンはラダトーム城の外を見て驚いた顔をしており、魔物のものと思われる足音が聞こえてきていた。

まさかと思い話しかけると、彼はこの城に向かって多くの魔物が迫ってきていると言った。

 

「ラスタン、驚いた顔をしているけど何があったんだ?」

 

「雄也か。どうやらこの城に魔物の群れが迫ってきているようだ。竜王が倒れて倒されて2日しかたっていないのに、もう襲撃が来たと言うのか!?」

 

平和がまだ戻っていないことは昨日伝えたが、それでもこんな早く魔物が襲ってくるとは思っていなかったのだろう。

俺も1週間ほどは魔物の活動は穏やかになると思っていたから、襲撃が来たなんて信じられない。

だが、ラダトーム城の外を見ると、かげのきしが6体、だいまどうとスターキメラが4体ずつ、しにがみのきしが5体いて、合計19体の魔物たちが迫ってきていた。

しにがみのきしの中には他より体が大きい者が1体おり、そいつが隊長なのだろう。

竜王軍の残党なのかもしれないが、すでに魔物たちは闇の戦士という新たな統率者を得ている可能性があるな。

何故襲撃してきたかは分からないが、兎に角迎え撃たなければいけないので、俺は大声でみんなを呼び出す。

 

「みんな、魔物がラダトーム城に迫ってきているぞ!」

 

俺の声を聞くと城の中にいたオーレンとゆきのへが驚いた顔をして俺のところへ走ってくる。

それだけでなく、兵士に化けたドロルであるチョビもはがねのつるぎを構えて魔物と戦おうとしていた。

 

「魔物が襲撃してくると言うことは、やはり世界に平和は戻っていないようですね」

 

「竜王様ハ倒レタと言うノニ、シツコイ魔物タチデスね」

 

急な戦いではあるが、みんなラダトーム城を守り抜こうと魔物の群れへと向かっていく。

俺は竜王との戦いではがねのつるぎが壊されたので二刀流で戦うことは出来ないが、戦いなれた相手なので大丈夫だろう。

 

「何度城を潰しに来ようが、ワシらが守り抜いて見せるぜ!」

 

それでも気は抜かず、ゆきのへの言葉と同時に俺は前衛のかげのきしに斬りかかっていく。

そして、ラダトームの城の2回目の防衛戦が始まった。

 

いつも通りだいまどうはメラミの呪文を放って近づいてくるが、まだ距離があるので簡単に避けることが出来た。

みんなも同じように攻撃をかわしていき、かげのきしへと近づいていく。

 

「何度攻めてこようが、ラダトーム城を壊させはしないぜ!」

 

そして、俺は6体のかげのきしの内、一番先頭にいる奴におうじゃのけんを叩きつける。

ラダトームへの仮拠点へ襲撃してきた隊長のかげのきしと同じくらいの攻撃力はあったが、おうじゃのけんの力があれば押しきることは簡単だった。

俺は剣に力をこめてかげのきしの体勢を崩し、さらなる攻撃を与える。

まわりのかげのきしはみんなが押さえてくれていて、だいまどうのメラミに気をつけながら攻撃すれば安全に倒すことが出来そうだ。

 

「竜王を倒した今なら、お前らなんて簡単に倒せるぜ」

 

かげのきしが弱ってきているのを見ると、俺はそう言って奴にとどめをさす。

みんなもかげのきしをかなり弱らせていて、もう少しで倒せそうだった。

だが、その様子は隊長のしにがみのきしも知っていたようで、部下たちに命令をする。

 

「このままではかげのきしが全滅する。お前たちも人間どもに斬りかかれ!」

 

すると、後衛にいたスターキメラと部下のしにがみのきしたちが俺たちのところへ走ってくる。

最初にスターキメラが炎を吐き出し、かげのきしを攻撃しているみんなを焼き付くそうとしていた。

だいまどうのメラミとスターキメラの炎を同時に避けるのは難しく、このままではかげのきしに攻撃できないので、みんなは先にスターキメラを倒しに行くことになる。

 

「こんなに炎が来たら避けきれねえな。先にスターキメラを叩き潰してやるか」

 

そこで、俺はスターキメラの救援に向かおうとするかげのきしやしにがみのきしをおうじゃのけんで止める。

 

「お前らなんかにみんなの邪魔はさせないし、ラダトーム城を壊させもしないぜ!」

 

敵の数はかなり多いが、強力な武器であるおうじゃのけんを叩きつければ奴らは体勢を崩し、動きを止める。

その間にみんなはスターキメラを次々に攻撃して弱らせていった。

スターキメラもくちばしを使って抵抗しようとするが攻撃速度がそこまで早くはないので、みんなはかわしながらそれぞれの武器を叩き付けていく。

ゆきのへはおおかなづちで奴らの羽を叩き潰し、ラスタンたち兵士ははがねのつるぎで羽を斬り落としていった。

そして、飛べなくなったスターキメラに抵抗する力は残っておらず、4人にとどめをさされて青い光に変わって消えていった。

 

「これでスターキメラは全て倒したぞ!」

 

「今回は敵の数が多いですが、この調子で行けば勝てそうですね」

 

スターキメラを倒したラスタンたちは急いでかげのきしやしにがみのきしと戦っている俺の所へ来る。

体勢を立て直した奴らはスターキメラが倒されて怒り、俺に斧を降り下ろしてくる。

 

「くそっ、スターキメラがやられたか!人間め、どこまで我らの仲間を殺す気だ!」

 

「ビルダーの野郎も兵士共も、絶対に許すことはできん!」

 

さっきより威力が上がっていたが、かけつけてきたみんなに受け止められる。

4体のしにがみのきしは全員動きを止められているので今のうちにと思い、俺はかげのきしを倒していく。

かげのきしたちはさっきの戦いでかなり弱っており、動きがかなり鈍っていた。

俺は奴らの攻撃をかわしながら背中を斬り刻んでいき、かげのきしの数をどんどん減らしていった。

このままではかげのきしも全滅するので、ついに隊長であるしにがみのきしも俺にとびかかってきた。

 

「竜王様を倒したビルダーだろうが、我は恐れぬぞ!」

 

そして、しにがみのきしを援護するかのように4体のだいまどうは俺に集中してメラミを放ってくる。

 

「ビルダーを焼き尽くせ!メラミ!」

 

「全員で放てばビルダーもかわせないはずだ!」

 

4方向から飛んでくる大きな火球を走ってかわすことはさすがに出来ず、俺は大きくジャンプする。

このままでは隊長のしにがみのきしとかげのきしを同時に相手しなければいけなくなるので、俺はすぐに体勢を立て直してかげのきしを倒していった。

最後のかげのきしが倒れたと同時に隊長のしにがみのきしは俺に斧を降り下ろしてきた。

俺はかげのきしやだいまどうの攻撃をかわし続けて疲れていたが、すぐに反応して攻撃を受け止めた。

隊長のしにがみのきしの攻撃力はかなり高く、おうじゃのけんだけでは弾き返すことが出来ない。

 

「こいつ、竜王の城にいた奴と同じくらい攻撃力が高いな」

 

「竜王様や我の部下のかたきを取ってやる!だいまどうもビルダーを攻撃しろ!」

 

しにがみのきしは俺の攻撃を受け止めながら命令を下し、その命令を受けただいまどうは俺にメラミを撃ち続ける。さっきからメラミを使っているが、まだ魔力が尽きることはないようだ。

「奴らの攻撃も激しくなってきたけど、これくらいなら負けないぜ」

 

俺はメラミや斧をかわしながらしにがみのきしに側面にまわり、剣を降り下ろす。

おうじゃのけんはとても鋭いので、しにがみのきしの強固な鎧も簡単に貫くことが出来た。

そして、鎧を突き破られて肉体を斬り裂かれた奴は大きなダメージを受けて動きが止まった。

 

「ここで回転斬りを決めれば倒せそうだけど、だいまどうが邪魔だな」

 

回転斬りならしにがみのきしを倒せそうだが、溜める時間がないので俺はメラミをかわしながら奴の鎧を何度も斬りつける。

だが、もう少しで倒せると言うところでしにがみのきしは起き上がり、再び斧を降り下ろしてきた。

「くそっ、まだ倒しきれなかったか」

 

しにがみのきしはもう瀕死の状態であったが、高い威力の攻撃を連続で放ってくる。

俺はしにがみのきしの動きを避けながら攻撃が出来る隙を探していく。

そして、奴の攻撃とだいまどうのメラミを大きなジャンプでかわした直後に俺は奴の体におうじゃのけんを突き刺す。

 

「くっ、我が竜王様のかたきを取ることなく死ぬことなど···!」

 

そう言ってしにがみのきしは最後の抵抗をしてこようとしたので、俺は剣を降って奴の体を深くえぐってとどめをさした。

このしにがみのきしは強力な個体ではあったが、竜王に比べれば簡単に倒せる。

しにがみのきしを倒した俺は、さっきからメラミを撃ち続けていただいまどうのところへ向かった。

 

「隊長を倒したことだし、残った奴らも片付けるぜ」

 

みんなも手下のしにがみのきしを倒しており、全員で攻撃すればすぐに倒すことができるだろう。

だいまどうは残った魔力でまだメラミを放っていたが、さっきより威力が低下して簡単にかわせるようになっていた。

 

「あとはだいまどうだけだな。雄也、一緒に叩き潰すぜ!」

 

俺はゆきのへの言葉にうなずいて4体のだいまどうに接近し、剣でなぎはらっていく。

俺の攻撃をうけただいまどうの1体は反撃する暇も与えられずゆきのへに頭を砕かれて倒された。

残りのだいまどうもメラミを唱える前にラスタン、オーレン、チョビの3人の兵士に斬り刻まれていく。

 

「私たちのラダトーム城に攻めてくるからこうなるんだ」

 

「世界に平和が戻る時まで僕は戦い続けますよ」

 

「人間タチノお城を壊ソウトスル魔物は許しまセン!」

 

やがでだいまどうたちは全ての生命力を失い、光に変わって消滅した。

これで19体の魔物の群れは全滅したので、今回もラダトーム城を守り抜けたようだ。

 

「急な襲撃だったけど、勝つことが出来てよかったぜ」

 

城の中に戻る途中、隊長のしにがみのきしが倒れたところを見ると緑色の旅のとびらが落ちているのが見えた。

これでムツヘタの言っていたサンデルジュの地に行けるようになりそうだが、戦いで疲れた今日はもう休むことにした。




今回まではラダトームでの戦いでしたが、次回から新エリアが登場することになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode107 魔に支配されし秘境の地

今回から新エリアのサンデルジュに入っていきます。

また、今回から出てくる万能作業台は原作のフリービルドモードに出てくる物とは性能が異なっています。


ラダトームの城の2回目の防衛戦の翌日、ラダトームに来て13日目の朝、俺はさっそく昨日手に入れた緑色の旅のとびらを設置した。

すると、いつものように旅のとびらからは光があふれ、新たな地へ移動できるようになる。

 

「これならサンデルジュへ行って、闇の戦士を探すことが出来そうだな」

 

今度こそアレフガルドの最後の地域に行くことになるだろうし、旅のとびらもこれで最後だろう。

旅のとびらを置くことが出来たので、朝食を食べたらムツヘタの言っていたアレフガルドの秘境、サンデルジュの地に向かうとするか。

 

「サンデルジュには何があるか分からないし、気を引き締めていかないとな」

俺はそう思いながら朝食を食べるためや、ムツヘタに旅のとびらを手に入れたことを知らせるために、みんなの集まっている教会に向かっていく。

すると、歩いている俺の頭の中に突然ルビスの声が聞こえてきた。

 

「雄也よ、これからサンデルジュの地に向かうのですね」

 

ルビスも俺がサンデルジュに向かおうとしているのは知っていたようだな。

サンデルジュの地について伝えたいことがあるのだろうか?

 

「そうだけど、それについて何か話があるのか?」

 

「はい。実はあなたにサンデルジュの地でしてほしいことがあるのです」

 

ルビスが直接頼み込んでくるなんて珍しいけど、何をしてほしいんだ?

「あの予言者も言っていましたが、近頃サンデルジュの方から恐ろしい闇の力が感じられるようになったのです。しかもそれだけではなく、強大な力を持つ魔物が次々にあの地へと集まっています」

 

サンデルジュには闇の戦士だけでなく、その手下と思われる魔物たちもいるということか。

やはり、今まで俺が復興させてきたどの地域よりも強力な魔物がいると見て間違いないな。

俺がそんなことを考えていると、ルビスはサンデルジュの地に砦を作ってほしいと言い始める。

 

「そこで、あなたにはサンデルジュの地へ赴いてもらい、魔物を倒すための砦を築いてほしいのです」

 

「つまり、サンデルジュに俺たちの拠点を作って魔物を迎え撃てってことだな」

確かにサンデルジュに拠点を作ればそこに生息する魔物と戦いやすくなる。

メルキドのはがねの守りのような防衛設備も作り上げれば、さらに勝てる可能性は高まるだろう。

 

「そう言うことです。このまま魔物たちが力をつければあなたたちが復興させてきた世界は再び危機に陥ることでしょう」

 

ルビスも言っているが、魔物たちを倒さなければせっかく光を取り戻した世界がまた闇に閉ざされるかもしれないので、サンデルジュに砦を作ってそこから魔物を迎撃するべきだろう。

今まで俺たちは3つの町とラダトーム城を復興させてきているので、今度もうまく行くはずだ。

でも、新たな拠点を作るとなれば当然仲間が必要になるので、みんなに話したほうが良さそうだ。

「分かった。みんなも協力してくれるかもしれないし、話してくるぜ」

 

「はい。必ずサンデルジュの地に住む魔物を倒して、真の平和を取り戻してください」

 

俺はそこでルビスとの話を終えて、みんなの待っている教会へ入っていく。

ピリンはさっき俺がルビスと話していたところを見ていたらしく、何があったか聞いてきた。

 

「雄也!さっきからぼうっとしてたけど、何かあったの?」

 

そう言えばルビスの声が聞こえている時は、まわりの人には口が半開きの状態でぼうっとしているように見えるんだったか。

それはともかく、ピリンを含めたみんなにサンデルジュに来てくれるか聞かないといけないな。

俺は教会にみんなが揃っているのを確認して、サンデルジュの話を始めた。

 

「さっきまた精霊の声が聞こえたんだけど、強力な魔物が集っているサンデルジュに砦を作って欲しいと言っていたんだ」

 

ムツヘタはサンデルジュに行けるようになったことを知って、嬉しそうな顔をしていた。

ゆきのへもサンデルジュのことを知っているようだったが、それ以外と全員はその地名を聞いて困惑していた。

 

「サンデルジュって?この世界にそんな場所があったの?」

 

「ワタシも聞いたことがないな。親方は知っているのか?」

 

ヘイザンに聞かれてゆきのへは一応答えるが、行ったことはないと言っていた。

「アレフガルドのどこかにある秘境らしいが、ワシも行ったことは一度もねえぜ」

 

俺はゆきのへの話の後、アレフガルドにサンデルジュという秘境の地があり、そこに強大な魔物が集まっていることを伝えた。

 

「ゆきのへの言う通り、サンデルジュは人がほとんど立ち入らない秘境なんだけど、そこに多くの魔物が集まっているらしいんだ」

 

「それで、その地に砦を作って魔物を迎え撃てと言われたのじゃな?」

 

俺が言いたかったことを先にムツヘタがみんなに伝える。

サンデルジュの魔物は強力なのでここにいる全員で砦を作りたいが、ラダトーム城も守る必要があるのでそれは出来ない。

俺はこれまで新しい地に旅だった時のように、一緒に来てくれる人はいないかと聞く。

 

「ああ。だからもしよければ、俺と一緒に来てサンデルジュに砦を作って、魔物と戦ってほしい」

 

今回は今までと違って自由に行き来が出来はするが、もし一人で行くことになれば魔物を食い止めるのに精一杯でみんなを呼びに行くことすら出来なくなる。

それに、早く砦を完成させるにはなるべく多くの人が一緒に住んでいたほうがいいだろう。

 

「私は行きたいところだが、ラダトームの兵士としてここを離れることは出来ない」

 

「僕にもここで姫様をお守りする役目があります」

 

「ワタシも、ココでおフタリと一緒ニお城ヲ守リたいデス!」

ラスタンとオーレン、チョビの3人は兵士としてここを離れることは出来ないようだ。

もともとは洞窟に潜んでいたドロルであるチョビも、今では立派なラダトームの兵士だ。

 

「ワシもまだ闇の戦士の居場所を突き止めた訳ではないし、占いの間があるここにいるつもりじゃ」

 

ムツヘタも、占いの間を使わなければいけないためラダトーム城に残ると言った。

サンデルジュでも占いの間が作れないとは限らないが、作るのにも時間がかかるのでこのままラダトーム城のものを使ったほうがいいだろう。

ラダトームの王女であるローラ姫もここを離れられないと言い、残ったのは今まで俺と一緒にアレフガルド全域を復興させてきたピリン、ゆきのへ、ヘイザンだけになった。

「あんたたちはどうするんだ?ここに残っても俺と一緒に来てもいいぞ」

 

俺はそう聞いたが、3人は迷うことなく俺と一緒にサンデルジュに来ると行ってきた。

 

「わたしはもちろん、雄也と一緒に行くよ!サンデルジュにも、楽しく暮らせる場所を作ろう!」

 

「ワシもここまで来たからには、雄也と最後まで一緒に戦うぜ」

 

「ワタシも、雄也や親方について行くつもりだぞ」

 

世界に真の平和が訪れる時まで一緒に戦ってくれるであろう3人は、本当に頼もしい仲間だな。

4人という少ない人数ではあるが、俺たちであればサンデルジュの魔物も必ず倒せそうだ。

何かあればすぐラダトームにも行ける訳だし、心配することはないだろう。

 

「じゃあ、朝食を食べたら旅のとびらに入って、サンデルジュに向かうぞ」

俺がそう言うと、3人はうなずいて朝食を食べ始める。

昨日のだいまどうが何故か落とした黒ヤモリ肉というもので、変わった味がするが元気が出そうだ。

そして、全員が食べ終わると俺たち4人はサンデルジュに行くため旅のとびらへ向かう。

 

「サンデルジュの魔物は強力だろうが、頑張るのじゃぞ」

 

「そっちこそ、新しく分かったことがあったり、魔物が襲いかかってきたりしたら知らせてくれ」

 

俺はラダトームのみんなにあいさつしてから緑色の旅のとびらに入っていく。

ピリンたちも俺に続いて旅のとびらに入っていき、秘境の地・ サンデルジュへ向かった。

 

目の前が一瞬真っ白になった後、俺たちは旅のとびらを抜けて見たこともない場所に移動する。

そこはまわりをとても高い岩山に囲まれており、手付かずの自然が残されている場所だった。

 

「ここがサンデルジュなのか。どの地域でも海を見ることが出来たけど、ここからは見えないな」

 

まわりを見渡すとそびえ立つ岩山に囲まれた中に、緑の森が広がっており、まさに人が立ち入らない秘境と言える場所のようだ。

ピリンたちも、手付かずの自然を見た感想をそれぞれ言っていた。

 

「ここがサンデルジュかあ。メルキドみたいにとっても空気がきれいだね」

 

「ワシの先祖から聞いたことはあったが、アレフガルドにこんな場所があったとはな」

「ここまで自然が残っている場所は初めて見たぞ」

 

地球にいたころはこんな秘境の地なんて見たことがなかったな。

俺たちはここに砦を作ることになるのだが、自然を破壊しないように気を付けないといけない。

しばらくサンデルジュの地を見回していると、再びルビスの声が聞こえてきた。

 

「その地はサンデルジュ。今までほとんど人の立ち入ることのなかった秘境の地です」

 

ルビスはいつも通り、その地域についての説明を始める。

ここまで高い岩山に囲まれているのであれば、人がほとんど来なかったのも納得が行くな。

俺がそう思っていると、ルビスはこの地域がとても強力な魔物に支配されていると話を続ける。

「ここには人間と魔物、どちらの影響も受けない自然が残されていましたが、あの忌まわしき戦士の影響なのか禍々しい気配が立ち込め、恐ろしいほどの力を持つ魔物が多く現れるようになってしまいました」

 

もともとサンデルジュは人間だけでなく、魔物もほとんど生息していなかったと言うことか。

でも、闇の戦士や魔物に支配されたとなればサンデルジュの自然も壊される可能性があるな。

 

「ルビスもムツヘタも言っているけど、どのくらい強力なモンスターが生息しているんだ?」

 

どのくらい強力な魔物なのか森の中を見てみると、生息しているのは弱い魔物でもリリパットの上位種であるアローインプで、強い者であればリムルダールの聖なる草の保管庫にもいたキースドラゴンだった。

また、森ではなく草原が広がっているところではおおきづちやブラウニーの上位種であり、白と黒の体にトゲつきのハンマーを持つブラックチャックがいた。

今の俺たちであればいずれも勝てない相手ではなさそうだが、サンデルジュの奥に行けばさらに強力なモンスターがいると見て間違いないだろう。

生息する魔物を見ていると、ルビスは俺に2つの物を渡そうとして来た。

 

「この地を支配する魔物を倒すために砦を作るあなたたちに、2つの物を渡しましょう。まず1つ目は、この地に立てる新たな希望のはたです」

 

やはり今回も希望のはたを使うようで、俺の目の前に新しい旗が現れた。

今回の希望のはたは布の色が銀色で、最初からきれいな形に整っていた。

「人々は既に力を取り戻しているので光の外でも物を作ることは出来ますが、これがあれば目印となるでしょう」

 

確かに希望のはたがあれば目印になるし、キメラのつばさを使ってすぐに帰れるようになるので、立てておいたほうが良さそうだな。ここから少し進んだところに森よりも地面が高くなっている高台があり、そこに光の柱が上がっていた。

 

「あの場所なら旅のとびらから近いし、大きな砦も作れそうだな」

 

俺が希望のはたを手に取ると、ルビスは2つ目の物を渡してくる。

それは、3メートル×3メートルの大きさもある、巨大な作業台であった。

木で作られているけど、いろいろな作業をすることが出来そうだな。

「何だ?このすごく大きな作業台は?」

 

「これが2つ目の渡したい物です。これは万能作業台と言われる物で、石、木、鉄の作業台の全ての機能を兼ね揃えているのです」

 

つまり、この万能作業台を使えば今までに作ってきた全ての物を作れると言うことか。

サンデルジュの魔物はとても強いが、たくさんの兵器の力を使えば勝ち目が上がるだろう。

俺は万能作業台も受けとると、サンデルジュの景色を見ているみんなに光の柱が上がっているところへ向かおうと言った。

 

「みんな、ルビスから新しい希望のはたをもらったから、立てに行くぞ」

 

「今度の希望のはたは銀色なんだね!さっそく立てに行こうよ」

「あの場所にワシらの砦を作るのか。どんな魔物が来ようと叩き潰してやるぜ」

 

「ワタシも出来ることがあれば何でも手伝うぞ」

 

俺たち4人は銀色の希望のはたを持って光の柱が立っている高台へ向かっていく。

強力な魔物に見つからないためにゆっくりと進んでいったのだが、5分くらいでたどり着いた。

その高台からは、さっき俺たちがいた場所やサンデルジュの森を眺めることが出来た。

 

「ここなら見晴らしがいいし、魔物が来てもすぐに見つけられそうだな」

 

魔物の姿をすぐに見つけることが出来るので、砦を作るのに適した場所だと言えるだろう。

しばらく手付かずの自然が残る草原や森を見渡した後、俺は銀色の希望のはたを光の柱へと突き立てに行く。

 

「必ずサンデルジュの魔物も闇の戦士も倒して、必ずアレフガルドに平和を取り戻す!」

 

そして、俺は必ず世界に平和を取り戻すと決意を固め、サンデルジュの地に希望のはたを立てた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode108 鋼の白壁

俺が希望のはたを立てると、サンデルジュの高台が光に包まれ暖かくなっていく。

アレフガルド全域に光が戻ったとはいえ、やはり希望のはたの光の中のほうが暖かく感じられるな。

希望のはたを立てたことをみんなに伝えに行こうとしていると、またルビスの声が聞こえてきた。

 

「雄也よ。人が立ち入ることがなかったその地には、今まで見たことのないような素材もあります。それらの素材も使えば、今まで多くの魔物を倒してきたあなたたちなら、必ずサンデルジュに住む魔物を倒すことが出来るでしょう」

 

確かに地球でも秘境の地には、独自の生態系があることが多いからな。サンデルジュでも同じようなことなのだろう。

新しい道具を作るのに必要になるかもしれないけど、自然をなるべく壊さないように集める必要があるな。

 

「さあ、雄也。仲間と力を合わせて、この高台に世界の平和を取り戻すための拠点となる砦を築いてください」

 

俺がそんなことを考えていると、ルビスはそう言って去っていった。

いつもの「すべては精霊の導きのままに」という口癖を言わなかったのが気になるが、ルビスも自分の導きのせいで勇者が世界に絶望し竜王に寝返ったのではないかと考えているのかもしれないな。

そう言えば、サンデルジュに砦を作ることも、俺の使命という訳ではなく、俺への頼み事であるかのような言い方をしていた。

だが、使命でなかったとしても、この世界を救うためならこの地に砦を作るべきだろう。

俺はさっそく砦を作り始めようと、サンデルジュの地を眺めているみんなを大声で呼んだ。

 

「みんな、希望のはたを立てたからそろそろ砦を作り始めるぞ」

 

俺の声を聞くと、ピリンたちはすぐに銀色の希望のはたのまわりに集まってくる。

この地には最初から人の住む場所はなかったので一から作らないといけないが、みんなで力を合わせればそんなに時間はかからないだろう。

 

「もう作り始めるのか。それなら、ワシから提案したいことがあるぞ」

 

俺の近くに集まってきた後、ゆきのへはそう言ってきた。

提案があると言っているが、何か作りたい武器や建物があるのだろうか?

 

「何か作りたいものが思い付いたのか?」

 

俺が聞くと、ゆきのへはサンデルジュの砦は石垣や城のカベなどよりも固いブロックで作るべきだと言ってきた。

 

「さっきお前さんはこの地には強大な魔物が多く生息していると言ってただろ?だからメルキドにある石垣やラダトームの城壁より、もっと強い壁が必要になってくると思うんだ」

 

確かに石垣や城のカベは、あくまのきし程度の魔物の攻撃で壊されてしまうからな。

サンデルジュの魔物の攻撃に耐えるには、さらに強力な壁を作る必要があるだろう。

 

「ああ。弱い壁だったら、一撃で壊されるだろうからな」

 

「お前さんなら、生半可な魔物の攻撃では傷ひとつつかない壁を思いつかないか?」

 

そう言われて、俺はさっそく砦を作るための強力なブロックを考え始める。

今まで作ってきた石垣は石材と銅のインゴット、城のカベは石材と鉄のインゴットから作られているので、それよりも固いはがねインゴットを使えばいいかもしれないな。

素材を思い付いた後は、ビルダーの力を使うために砦の壁の見た目についても考える。

そして、磨かれた石材をはがねインゴットで固めた白色の壁を脳内にイメージし、ビルダーの力を使う。

砦のカベ···石材3個、はがねインゴット1個 神鉄炉と金床

それと、城のカベ・地のように壁の一段目に置くためのブロックの作り方も調べた。

砦のカベ・地···石材3個、はがねインゴット1個 神鉄炉と金床

城のカベ・地の下の部分が茶色になっているように、砦のカベ・地の下の部分は黒色になっている。

 

「城のカベは鉄のインゴットから作られてたし、それより固いはがねインゴットで壁を作ったらいいんじゃないか?」

 

「なるほどな。確かにそれなら生半可な魔物の攻撃じゃ壊れないくらいの壁を作れそうだ」

 

思い付いた砦のカベについて話すと、ゆきのへもそれなら魔物を防げると言ってくる。

はがねインゴットも元は鉄だが、強度は鉄のインゴットよりかなり高い。

すぐに作りたいところだけど、はがねインゴットや石材はラダトームの大倉庫にしまっているので、今は取り出すことが出来ないな。

旅のとびらを使えば戻ることは出来るが、かなりの数が必要になるだろうから、探索も兼ねてこの地でも集めておいたほうがいいだろう。

 

「それなら、この地域の探索もしたいし、今から必要な素材を集めに行ってくるぞ」

 

「ああ。基本的な建物は今日のうちに作っておきたいし、頼んだぜ!」

 

鉄などの鉱石は岩山に埋まっているだろうし、壊すと石材になる大きな石も岩山の近くにあった。

岩山はそんなに遠い場所ではないので、すぐに集めてくることができるだろう。

俺はゆきのへにそう言って、サンデルジュの地を囲んでいる巨大な岩山に向かって歩き始めた。

 

希望のはたの近くを離れると、さっきも見つけたトゲつきの棍棒を持つ魔物、ブラックチャックの姿が見えてくる。

それだけでなく、岩山の近くにはアルミラージの上位種で黒いウサギの魔物である、ブラバニクイーンも何体か生息していた。

 

「さっきは見つけなかったけど、あんな強い魔物も生息していたのか」

 

ブラバニクイーンはドラクエ10ではギガデインなども使えるボス級の魔物だったはずだ。

それが多く生息しているのを見ると、改めてサンデルジュでの戦いが厳しいものになると思えてくるな。

「勝てなくはないだろうけど、とりあえず今は見つからないように進んだほうがいいな」

 

今は砦のカベを作るための素材を集めることが最優先なので、俺は奴らから隠れながらまずは石材となる石がある場所へ向かう。

そして、5分くらい歩いたところで、大きな石がたくさんある場所にたどり着いた。

 

「ラダトームの時も石材は大量に使ったし、今回もなるべく多く集めておくか」

 

俺はそこで、ポーチからおうじゃのけんを作る前に使っていたおおかなづちを取りだし、石を砕いていく。

おうじゃのけんでも壊せないことはないだろうが、ハンマーを使ったほうが早く壊しやすい。

俺は高台にあった石の多くを砕き、だいたい40個くらいの石材を集めることが出来た。

「後からもっと使うようになるだろうけど、今はこれくらいあればよさそうだな」

 

はがねのまもりのような防壁を作ることになれば、さらに大量の石材が必要になりそうだが、今は40個でも十分だろう。

俺は集めた石材をポーチにしまい、再び体勢を低くしながら岩山へ歩いていった。

 

「あとは鉄を集めれば砦のカベを作れるはずだな」

 

しばらくして、岩山の目の前にまで来ると、そこには石炭や銅、鉄、オリハルコンといったメルキドの峡谷地帯と同じような鉱物がたくさん埋まっているのが見えてきた。

鉄を加工するために石炭が必要だし、銅も使い道がありそうなので、それらもここで集めたほうがよさそうだ。

「オリハルコンはまほうの玉がないから壊せないけど、それ以外の物は集めておくか」

 

俺は石材の時と同じように、おおかなづちを使って鉱脈を砕いていく。

魔物との戦いが激しくなるであろうサンデルジュでは今までより大量の金属が必要になる可能性が高いので、俺はポーチが一杯になるくらい鉱石を集めた。

 

「これくらいあればサンデルジュの魔物との戦いも乗りきれそうだな」

 

これで砦のカベを作れるので、大量の金属を集めた後、俺はみんなの待つ希望のはたのところへ戻っていく。

今回はオリハルコンを手に入れることは出来なかったが、使い道が限られている金属なので困ることはなさそうだ。

帰り道も魔物から隠れながら歩いていき、10分くらいでみんなの待つ場所へ戻ることが出来た。

 

希望のはたの前に戻ってくると、さっそくゆきのへは素材が集まった聞いてきた。

 

「戻ってきたか、雄也。砦の壁の素材が集まったんだな?」

 

「ああ、大量に素材を集めてきた。すぐにでも作り始められるぞ」

 

俺はゆきのへにそう言って、さっそく砦のカベを作り始めることにする。

万が一魔物が砦の中に入られた時に被害をなるべく抑えるために、サンデルジュの建物は全て砦のカベで作りたいと思っているので、早く作らなければ寝室や工房などの基本的な建物も建てられないからな。

「まずは万能作業台を使って神鉄炉を作らないといけないな」

 

俺は最初にルビスから受け取った万能作業台をポーチから取りだし、神鉄炉を作り始める。

神鉄炉には炉と金床を強化するか、直接作るかの2通りの作り方があるが、時間がかからないように今回は直接作ることにした。

直接作る方法では、必要な素材は石材10個、鉄10個、石炭5個なので、俺はそれらを取りだし、ビルダーの魔法をかけていく。

魔法を使った後少し待っていると、素材が加工され合体していき、ラダトームでも見慣れた神鉄炉が出来上がった。

 

「これでサンデルジュにも神鉄炉が出来たことだし、砦のカベを作り始めるか」

俺は出来上がった神鉄炉を万能作業台の隣に置くと、まずは鉄を鉄のインゴットにして、それをさらに加工してはがねインゴットを作る。

鉄のインゴットのままでも使い道は多いので、20個くらいはがねインゴットを作ると残りは加工せずに残しておいた。

 

「あとははがねインゴットと石材を組み合わせれば完成だな」

 

最後に、はがねインゴット1個と石材3個を神鉄炉の中に入れてビルダーの力を使う。

そしてしばらく待つと、俺がさっき脳内でイメージしていた白色の砦のカベが10個出来上がった。

 

「これで砦のカベが完成したな。10個だけじゃ足りないし、もっと作っておくか」

今まで壁は10個同時に作ることが出来たが、どうやらそれは砦のカベも同じようだ。

でも、それだけでは建物を作ることは出来ないので、俺は次々に砦のカベを作っていく。

石材がなくなるまで作ったので、砦のカベと砦のカベ・地が50個ずつ出来上がっていた。

砦のカベが出来たので、俺はさっそくそのことをゆきのへに伝えた。

 

「ゆきのへ、砦のカベが出来たぞ」

 

「もう作ったのか。それなら、さっそくワシに見せてくれ」

 

ゆきのへも早く見たいようなので、俺は一度ポーチにしまった砦のカベを取り出す。

 

「これがお前さんの考えた砦のカベか。どのくらい強いのかは見た目だけじゃ判断できないから、ワシのハンマーで叩いて調べてみてもいいか?」

 

「ああ、俺もどのくらい固いのか気になるからな」

 

砦のカベを見せると、ゆきのへは耐久力を調べるために鍛冶用のハンマーで叩こうとする。

俺もこれで魔物の攻撃が防げるか不安なので、調べてほしいと言った。

すると、ゆきのへは砦のカベを何度もハンマーで叩きつけ始める。

これで壊れるのなら魔物の攻撃は防げないと言うことになるが、ゆきのへがハンマーを叩きつけても砦のカベはびくともせず、全く壊れる気配がなかった。

 

「強い力で叩いても大丈夫みたいだな。これなら、魔物の攻撃も防げそうだ」

 

近づいて見てもひび一つ入っておらず、ゆきのへはそう言う。

ゆきのへは俺の回転斬りと同じくらいの強い力で叩きつけていたので、それでも壊れないと言うことはかなり耐久力が高そうだ。

 

「俺も最初は不安だったけど、これなら問題なく魔物の攻撃を防げそうだな」

 

「よほどの強敵じゃない限り壊せないだろうし、これからはこの壁を使って砦作りを進めて行くといいぜ」

 

無事に強固な砦のカベを作ることが出来て、俺もゆきのへも嬉しそうな顔になる。

これでサンデルジュの魔物との戦いに勝てる可能性も高まるだろうし、本当によかったぜ。

ゆきのへの言う通り、これから本格的に砦作りが始まっていくことになりそうだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode109 串刺しの罠

第5章ではサンデルジュだけでなく、ラダトームの方に出掛けたりすることもあります。

また、作者のアイテムのネーミングセンスがとても低いですが、どうかご了承ください。


神鉄炉を使って砦のカベを作った俺は、さっそく寝室や工房などの最低限の設備を作ろうと思い、ピリンとヘイザンを呼びに行くことにする。

砦に何を作るかはまだ考えている途中だが、それらの建物は必ず必要になるからな。

ピリンたちはさっきのようにサンデルジュの地を眺めていたので、俺は後ろから声をかけた。

 

「みんな、ゆきのへの言ってた固い壁が出来たから、そろそろ建物を作り始めるぞ」

 

すると、ピリンは俺がもう砦のカベを作ったことに驚き、その後に何を作るのか聞いてきた。

 

「すごい、もうできたんだ!最初は何を作るつもりなの?」

 

「まずは寝室とか工房みたいな、必ず必要になる建物を作ろうと思っている」

 

寝室や工房を作ることを伝えると、ピリンだけでなく、隣にいたヘイザンも一緒に作りたいと言い始める。

 

「確かに寝室と工房はないと困るもんね。もちろんわたしも手伝うよ!」

 

「ワタシも鍛冶屋として工房は必要だからな、手伝わせてもらうよ」

 

みんなもサンデルジュに砦を作るために来たのだが、手伝うと言われるとやはりありがたく思えてくる。

今日はもう午後になっているが、俺たち4人で作れば夜までに完成させられるだろう。

それならさっそく作り始めようと、俺は2人にさっき作った砦のカベを渡した。

 

「それならすぐに作り始めるぞ。2人はこの砦のカベを使って壁を組み立ててくれ」

俺が砦のカベを手渡すと、さっそく2人は希望のはたの近くに寝室と工房を建て始める。

俺も二人に続いて砦のカベを積んでいき、次々に高さ2メートルの壁を作っていった。

 

作業は俺が思っているより早く進み、寝室や工房を作り始めてから10分くらい経つともう部屋の大部分が完成していた。

 

「まだ少ししか時間がたっていないけど、もう少しで完成させられそうだな」

 

俺はこのまま建物を作り終えようと、ブロックを積み続けていく。

そうしていると、隣で作業をしていたゆきのへが話しかけてくる声が聞こえた。

 

「なあ、雄也。一日に何度も悪いんだが、もう一つお前さんに話したいことがあるんだ」

さっきは固い壁について話していたが、今度は何の話をするのだろうか。

そう思っていると、ゆきのへは守りを固めるだけでなく、魔物を攻撃できる設備を作る必要もあると言ってきた。

 

「お前さんの考えた砦のカベで守りは充分固くなったんだけどな、ワシは魔物を攻撃するための設備も必要だと思っているんだ」

 

砦のカベも無敵な訳ではないし、壊されないためにはなるべく早く魔物を倒さなければならないだろう。

そうなれば、俺たちの攻撃たけでは対処しきれない可能性もあるので、ゆきのへの言う通り攻撃のための設備も必要になるかもしれないな。

 

「確かにそれがあったら魔物を早く倒せるし、砦を守れる可能性も上がりそうだな」

「お前さんもやっぱりそう思うか。それで、ワシはさっきからその設備を考えていたんだ」

 

俺はさっそくどんな兵器にするか悩み始めたけど、ゆきのへが既に考えていたのか。

ゆきのへは兵器などには詳しくなさそうだが、どんな物を思い付いたのだろうか?

 

「あんたが考えたのはどんな設備なんだ?」

 

「メルキドのはがねの守りに使われているトゲわなとマイラで使った床用スイッチの両方を使って、スイッチを踏んだら地面に隠されているトゲわなが飛び出して、敵を串刺しにするっていう装置を考えたんだ」

 

はがねのまもりのように地上にトゲわなを置いてその上を歩いた魔物にダメージを与えるのではなく、敵が来たときにだけトゲわなを地面から飛び出させるということか。

確かにそれならトゲわなに気づかれて避けられたり壊されたりすることがなくなるので、より魔物にダメージを与えやすいと言えるだろう。

 

「なかなかいいんじゃないか?突然トゲわなが飛び出してきたら魔物も避けられないだろうし」

 

いい設備だと言うと、ゆきのへは飛び出し式のトゲわなの作り方を俺に教えてくる。

 

「気に入ってもらえてよかった。作り方もワシが考えていたから、お前さんに教えるぜ」

 

ゆきのへは、マイラで敵を拠点から追い出すために作ったピストンバリアと同じようにばねの力を使ってトゲわなを飛び出させるといいと言ってくる。

大きな箱を押し出すほどの力を持つばねなので、必ずトゲわなも押し出せるだろう。

それと、上の部分には敵に気づかれないよう土を被せておくといいとも言っていた。

 

「こんな感じの仕組みなんだが、作れそうか?」

 

俺はゆきのへに作り方や見た目を聞き終えると、すぐにビルダーの力で作り方を調べる。

飛び出し式トゲわな···土5個、銅のインゴット5個、鉄のインゴット5個、ばね10個 マシンメーカー

かなり多くの素材が必要だが、普通のトゲわなが同時に10個作れたように、飛び出し式トゲわなも同時に10個作れるのだろう。

土、銅と鉄のインゴットは持っているし、ばねも鉄のインゴットから作れるが、マシンメーカーを使わないといけないようだ。

 

「素材は足りてるけど、まずはマシンメーカーを作らないといけないな」

 

「結構複雑な兵器だから炉では作れないようだな。マシンメーカーはすぐに作れるのか?」

 

マシンメーカーを作るにはマグマ岩やガラスが必要だったはずなので、ガラスの原料となる砂とマグマ岩を手に入れる必要があるな。

ラダトームの赤色の扉の先にある砂漠地帯や火山地帯に行けば集められるが、サンデルジュから一度ラダトーム城に戻って、そこから赤の扉に入らないといけないので往復で2時間以上かかるだろう。

でも、今はだいだい午後2時くらいなので、夕方には帰ってくることが出来そうだ。

 

「ラダトームまで戻って素材を集めないといけないから時間はかかるけど、夜になる前には戻ってくる」

「それなら兵器を作ったらすぐに寝られるように、寝室作りを進めておくぜ」

 

素材集めに行くことを伝えると、ゆきのへは寝室を完成させておくと言った。

まだ寝るためのベッドを作っていないが、みんなも物作りには慣れてきているので、近くに生えているじょうぶな草からベッドを作れるだろうから、心配することはなさそうだ。

 

「ああ、頼んだ。なるべく早く帰ってくるようにするぜ」

 

俺はそう言った後ゆきのへと別れてサンデルジュの高台から降りていき、まずはラダトームに行くためにさっきくぐった緑色の旅の扉があった場所に向かっていく。

草原にはブラックチャックが、森にはアローインプやキースドラゴンがうろついているが、姿勢を下げながらゆっくりと進んでいけば見つかることはなかった。

そして、10分くらいで旅の扉のところに着き、俺はラダトーム城に戻っていく。

 

ラダトーム城に着くと、外の様子を見ながら城の警備をしているラスタンたちの姿が見えてきた。

昨日魔物の襲撃があったので、再び闇の戦士の軍勢が来ないか警戒しているのだろう。

 

「そう言えば、闇の戦士の居場所探しは何か進展があったのか?」

 

俺はムツヘタに聞きに行こうかと思ったが、半日で何か変化があるとも思えないので、マシンメーカーの素材集めを優先することにした。

サンデルジュに繋がる緑の扉の横に置いてある赤の扉に入り、砂漠や火山がある場所へと移動する。

 

「砂漠のほうが近い場所にあるはずだから、先に砂を集めに行くか」

俺は旅の扉を抜けた後、最初に砂漠地帯を目指して歩いていく。

地面は相変わらず灰色の死の大地で、しりょうやトロルなどの魔物もたくさんいるのが見えた。

 

「やっぱりこの辺りでも、魔物の動きが活発になってきているみたいだな」

 

竜王を倒してからはこの地域に来たことはなかったが、ラダトーム城のまわりと同様、かなり活発に活動しているようだな。

闇の戦士が幽閉されていた城もあるので当然かもしれないが、ここの魔物も奴の配下なのだろう。

敵の数はなるべく減らしたほうがいいが、戦っていると夕方までに帰れなくなるかもしれないので、俺は魔物の視界に入らないよう動きながら砂漠地帯へ歩いていった。

30分くらい進んで砂漠地帯にたどり着くと、俺はさっそくおおかなづちを持って砂のブロックを集めていく。

ガラスを作るためには5個の砂で十分だが、俺は念のために10個ほど集めておいた。

 

「これで砂は手に入ったし、あとはマグマ岩を手に入れればマシンメーカーを作れるぜ」

 

俺は砂をポーチの中にしまった後、次にマグマ岩を集めるために火山地帯へ向かう。

火山地帯まではここから近い場所にあるので、たいして時間はかからないだろう。

さっきまでと同じように魔物に見つからないように進んだので時間はかかったが、20分ほどで火山地帯の近くまで来ていた。

 

「マグマ岩も他にも使い道がありそうだし、たくさん集めておくか」

マグマ岩はマシンメーカーを作るためだけではなく、大砲やその弾を作るのにも必要になる。

大砲も強力な兵器なので、俺はマグマに落ちないように慎重に動きながら大量のマグマ岩を集めていった。

 

「これでマグマ岩も集まったし、サンデルジュに戻るか」

 

さっき大量の鉱石を集めたのでポーチの容量にそろそろ限界が来そうだが、大倉庫にしまうとサンデルジュに持っていけないので俺は集めたマグマ岩を全てポーチにしまう。

そして、45分くらいかけて赤の旅のとびらのところまで歩き、ラダトーム城へと戻った。

 

ラダトーム城に着いたころには足もかなり疲れていて、日も暮れ始めていたが、いつ襲撃されても大丈夫なように今日中に飛び出し式トゲわなを作っておきたいな。

俺はすぐに隣に置かれている緑からサンデルジュに行き、みんなの待つ高台へと歩いていく。

 

「今日はサンデルジュに行ったりたくさんの素材を集めたりで大変だったけど、もうすぐ休めるぜ」

 

今までも大変な日はあったが、ここまで1日にいろいろなことが起きたのは久しぶりだ。

俺は疲れた足で歩きながら高台を登っていき、ゆきのへに素材を集めて来たと大声で言った。

 

「ゆきのへ、かなり時間がかかったけどマシンメーカーの素材を集めて来たぞ」

 

俺が戻ってきたことを知ると、ゆきのへはすぐに俺のところに走ってきた。

彼らは既に寝室や工房を完成させていたようで、ピリンたちは中で休んでいるようだった。

「結構遅かったな。それで、今日中に設備を作ることは出来そうか?」

 

「ああ、少し休んだらみんなが新しく作った工房で作ってくるつもりだ」

 

本当は今すぐ作りたいが、少し休まなければ体が動かなそうだ。

俺はそう言うと、しばらくの間地面に座って休み、その後新しく出来た工房へと入っていった。

 

「ここがみんなで完成させた新しい工房か」

 

メルキドの工房のように壁掛けや革ぶくろは置いていないが、十分立派な工房に見えてくる。

俺は工房の中を見回した後、さっそく飛び出し式トゲわなを作り始めた。

最初に砂からガラスを作り、鉄のインゴット、マグマ岩を会わせてマシンメーカーを作る。

作ったマシンメーカーは広い工房だったので、万能作業台のとなりに設置することにした。

 

「今は時間がないけど、マイラのマシン工房みたいな部屋があってもいいかもしれないな」

 

マシンメーカーを別室に置くことも俺は思い付いたが、今日はもうすぐ夜になるので、飛び出し式トゲわなを作ることを優先させることにした。

マシンメーカーが出来た後はそれを使って床用スイッチに使うのも含めて25個作り、銅も炉を使ってほとんどを銅のインゴットに変えることで、飛び出し式トゲわなの素材を全て揃える。

そして、今作ったばねと銅のインゴット、ポーチの中にあった土と鉄のインゴットの4つの素材にビルダーの魔法をかけて、飛び出し式トゲわなを完成させる。

飛び出し式トゲわなは俺の思っていた通り10個同時にでき、広範囲に設置できそうだった。

魔物を貫く鋭いトゲが入っているのに俺でも上からは普通の土ブロックにしか見えないので、魔物も気づくことはないだろう。

 

「これが飛び出し式トゲわなか。これなら魔物に気づかれないだろうし、強力な兵器になりそうだな」

 

あとは、飛び出し式トゲわなを発動させるための床用スイッチを作ればよさそうだな。

床用スイッチは一度に3個出来るため、10個丁度作ることは出来ないので、俺は12個作ることにする。

余った2個の使い道は決めていないが、何かに使うことはあるかもしれない。

 

「これで床用スイッチも作れたし、さっき下を見下ろしていた場所に設置するか」

 

俺は完成した飛び出し式トゲわなと床用スイッチを、ピリンたちがサンデルジュの地を眺めていた場所に設置することにする。

この高台の左右は崖になっているので、魔物が攻めてくるとしたらさっき俺たちが下を眺めていた方向からだろう。

俺は地面を掘って設置場所を確保し、それからトゲわなと飛び出し式トゲわなを配置していく。

設置するだけなのでそんなに時間はかからず、5分くらいで作業を終えることが出来た。

 

「これでゆきのへの言ってた設備が完成したし、さっそく教えるか」

 

俺は飛び出し式トゲわなを設置したことをゆきのへに教えに行く。

もう夜になっていたのでゆきのへは部屋で休んでいたが、完成した兵器を早く見ようと外に出てくる。

 

「これで攻撃も守りも整ってきたってことだな。雄也、さっそくスイッチを踏んでみてくれ」

 

「ああ、あんたの思い通りのトゲわなが出来てればいいんだけどな」

 

俺はゆきのへがトゲの当たらない安全な位置に移動したことを見て、スイッチを踏む。

すると、スイッチのまわりにある土から魔物を串刺しにする鋭いトゲが突き上がった。

突き上がる勢いも強く、鉄の鎧を来た魔物も貫くことが出来そうだ。

それを見ていたゆきのへは、これなら強力な魔物から砦を守れそうだと言ってくる。

「すごいぜ、これなら魔物に気付かれずに大きな傷を負わせられそうだな」

 

「ああ、勢いがあるからメルキドのトゲわなより威力が高そうだしな」

 

ゆきのへの言っていた魔物を攻撃するための設備も完成したし、これからはサンデルジュの魔物と本格的に戦っていくことになるかもしれないな。

 

でも、今日はもう真っ暗な夜になっているので、俺とゆきのへは飛び出し式トゲわなを見た後寝室へと戻っていく。

そして、俺たちは新たな兵器の完成を喜びながら、明日からの活動に備えて眠りについた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode110 黒兎の女王

サンデルジュに来て2日目の朝、目が覚めた俺は朝食を食べる前に工房へ向かうことにした。

 

「今日も新しい設備を作ることになるかもしれないけど、まずはマシンメーカーで作れる兵器を一通り作っておくか」

 

大砲やサブマシンガンといったマシンメーカーで作れる兵器も、魔物に勝てる可能性を高めるためになるべく早く作っておいだほうがいいからな。

大砲を作るのには木材がいるので、俺は砦の近くにある木をおおかなづちで集めてから工房の中に入っていった。

中に入ると、さっそくマシンメーカーの前に立って作業を始めていく。

 

「大砲とサブマシンガンを使うのはマイラの時以来になるな」

そう思いながら、俺はまずは作るのに時間がかからないサブマシンガンを作り始める。

昨日作ったばねは全て飛び出し式トゲわなを作るのに使ってしまったので、俺は新しくばねを作り、それを他の鉄のインゴットと組み合わせることでサブマシンガンに変えていく。

サブマシンガンは威力もそれなりに高く、連射も出来るので、サンデルジュの軍勢にも有効な武器となるだろう。

 

「これで銃身が出来たから、あとは弾を作ればいいな」

 

サブマシンガンの銃身が出来た後は、はがねインゴットを加工してはがねの弾丸を作っていく。

昨日はがねインゴットはたくさん用意していたので、俺はそれを加工してはがねの弾丸を100個ほど作っておいた。

この後もっと必要になるかもしれないが、今はこのくらいで大丈夫だろう。

 

「弾丸も作ったから、あとは大砲だな」

 

銃と弾丸が出来た後、今度は砦のすぐそばにまで近づいてきた魔物をまとめて吹き飛ばす大砲も作り始める。

ポーチに入っているマグマ岩を加工してマグマ電池に、さっき手に入れた原木を木材に加工して、その2つと鉄のインゴットを組み合わせて大砲の形にしていく。

大砲の弾もいくつか必要になるだろうから、残ったマグマ岩と鉄のインゴットで5個作っておいた。

 

「これで大砲も完成したし、さっそく設置しに行ってくるか」

 

大砲が出来上がると、俺はサブマシンガンをポーチに入れてから大砲を持って工房から出て、砦の前に設置しに行った。

大砲の爆風で飛び出し式トゲわなが壊れないように、すこし場所をずらして置いておく。

 

こうして大砲を設置した後、俺は今日は何をするか考えようと一旦寝室に戻ろうとする。

だがその時、俺のところへゆきのへが走ってくるのが見えてきた。

 

「ゆきのへがあんなに急いでいるってことは、まさか魔物が来たのか?」

 

案の定魔物の襲撃が来たらしく、彼は焦った声で俺に話しかけてくる。

 

「おい雄也、すぐに来てくれ!大量の魔物が近づいて来ているぜ」

 

どうやら、闇の戦士やその配下の魔物も、俺たちが砦を作ろうとしているのに気づいたみたいだな。

今日来たと言うことは、さらに強力な設備を作られる前に潰しておこうということなのだろう。

 

「やっぱり魔物が襲って来たのか。今回はどんな奴らなんだ?」

 

ゆきのへが指差した方向を見ると、ブラックチャックとアルミラージが8体ずつと、大きな体を持つブラバニクイーンが1体いて、合計17体の魔物が襲いかかって来ていた。

アルミラージが襲撃してくるのは始めてだが、恐らくは女王であるブラバニクイーンの家来と言うことなのだろう。

相手はおおきづちの色違いやウサギの魔物だが、強力な魔物であることは間違いなさそうだ。

 

「分かった。魔物としては砦が出来上がる前に俺たちを潰したいんだろうけど、そうはさせない」

 

こちらには大砲と飛び出し式トゲわなと言う兵器があるが、数が多いので近づかれる前に迎え撃つ必要があるだろう。

俺がそう言うと、ゆきのへも魔物たちを迎え撃ちに行こうと言い始める。

 

「ああ、2人だけしか戦える人間がいねえが、ワシらなら負けることはないはずだぜ」

 

俺もゆきのへの言葉にうなずき、おうじゃのけんとおおかなづちを構えて魔物の群れに向かっていく。

俺たちが魔物の群れに近づいた頃には、前衛のブラックチャックは既に高台に登り始めていた。

 

「もうここまで来ていたのか。でも、これ以上は俺たちの拠点には近づけさせないぜ」

 

そこで斬りかかろうとすると、奴らも俺たちに気づいてトゲつきの棍棒で叩きつけようとしてくる。

そして、サンデルジュの砦の1回目の防衛戦が始まった。

俺とゆきのへが近づいていくと、ブラックチャックは4体ずつに分かれて殴りかかってくる。

奴らが持っているトゲつき棍棒はブラウニーなどが持つハンマーより軽いので、攻撃の速度もかなり速かった。

普通ならかわせない速度ではないのだが、4体に囲まれているので全てを避けきることは出来ず、最初に2体の攻撃をジャンプで避けた後、俺は両腕に持つ武器で残りの2体の攻撃を受け止めることにする。

 

「ぐぬぬ···人間の作った武器などに負ける訳にはいかない!」

 

おおきづち同様言葉を話せるらしいブラックチャックはそう言いながら俺を押しきろうとする。

だが、小柄なブラックチャックの攻撃はそこまで重くないので、俺は腕に力をこめて奴らを押し返す。

ブラックチャックの武器は一撃の威力を上げることよりも素早く殴り付けることを重視しているようなので、動きに対応することが出来ればすぐに倒すことが出来そうだ。

 

「何体同時に殴りかかって来ても、俺たちの拠点を潰すことは絶対にさせないぞ」

 

俺は2体のブラックチャックの攻撃を弾き返して体勢を崩した後、そう言いながら追撃を加える。

丈夫な毛皮でもおうじゃのけんの一撃を防ぐことは出来ず、奴らは大きなダメージを負った。

他のブラックチャックも攻撃を続けてくるが、俺は同じようにして傷を与えていく。

俺のとなりで戦っているゆきのへも奴らの動きをとめた後に頭を叩き潰し、次々に弱らせていた。

「これでブラックチャックは弱ってきたし、ブラバニクイーンが来る前にとどめをさすか」

 

俺も何度もブラックチャックの体を斬りつけていき、瀕死の状態にまで弱らせていく。

だが、奴らを弱らせた後後衛にいるブラバニクイーンやアルミラージを見ると、ブラックチャックたちを援護するために突進を始めようとしているのが見えた。

混戦になるとさすがに対応することが難しくなるので、俺はその前にブラックチャックを倒そうとする。

 

「ビルダーの野郎め···これ以上砦が出来上がる前に倒してやる」

 

だが、追い詰められたブラックチャックは今まで以上の力を出して俺の攻撃を受け止める。

押しきることは可能なのだが、その間にブラバニクイーンたちの突進を喰らってしまう可能性が高い。

こうなったら奴らを誘導して、飛び出し式トゲわなで敵全体にダメージを与えたほうがよさそうだな。

俺は大きく後ろに下がって、奴らを飛び出し式トゲわなの近くに誘導する。

 

「怯えているのかビルダーめ!だが、ここで生きて帰すことはしない!」

 

「ビルダーも砦も、ここでまとめて全部壊す!」

 

飛び出し式トゲわなの存在に気づいていないブラックチャックたちは、俺が逃げようとしているのだと思い込んでいるようだ。

ブラバニクイーンたちも同じのようで、飛び出し式トゲわながあることも知らずに砦に突進していく。

そして、俺は奴らがトゲわなの上に登った丁度いいタイミングに床用スイッチを踏む。

 

「やっぱり魔物たちも、この設備には気付けなかったみたいだな」

 

俺がスイッチを踏んだ瞬間土に隠されたトゲわなが突き上がっていき、魔物たちを貫いていく。

素早く動いていたブラックチャックもまさか下からトゲが出てくるとは思っておらず、かわすことは出来ていなかった。

 

「ぐっ···!いきなりトゲが出てくるなんてどうなっているんだ···?」

 

そして、あまりの痛みでブラックチャックは棍棒を落とし、ウサギの魔物たちも動きを止めていた。

ここで大きな隙が出来たので、俺は魔物たちの背後へとまわり腕に力を溜めていく。

そして、奴らの動きを再開する前に力を解き放ち、思いきりなぎはらって行く。

 

「回転斬り!」

 

おうじゃのけんとおおかなづちの二刀流での回転斬りを行い、俺は魔物たちに特大ダメージを与える。

すでに弱っている4体のブラックチャックは今度こそ生命力が尽き、消えていった。

 

「動きを止めて回転斬りを当てられたし、飛び出し式トゲわなを作って正解だったな」

 

魔物に大きな傷を与えられ、隙も作れるので本当に飛び出し式トゲわなは強力な兵器だな。

アルミラージたちはまだ生き残っているものの、もう一撃を与えれば倒せるくらいの状態だろう。

その様子を見たブラバニクイーンは、俺を倒すために呪文を唱えるような行動を始める。

ブラバニクイーンはドラクエ10ではギガデインを使っていたので、こいつも恐らく使えるのだろう。

ギカデインは強力な呪文なので何とか阻止したいが、女王を守る兵士のようにアルミラージたちは俺の動きを止めようと突進してくる。

 

「くそっ、アルミラージが邪魔であいつに近づけないな」

 

アルミラージの突進はかなりの威力だが、俺はおうじゃのけんを使うことで動きを止めていく。

しかし、なかなかブラバニクイーンに近づくことは出来ず、ついにギカデインの魔法が放たれてしまった。

そして、魔法が放たれた瞬間俺がいた場所の近くに巨大な雷が落ちてくる。俺は大きくジャンプをすることで回避することは出来たが、飛び出し式トゲわなやその周りの地面が大きく破壊された。

「くっ、ギガデインは阻止出来なかったか···砦の中にいるピリンたちは無事なのか?」

 

もしかして砦のカベも破壊されたのではないかと思って見てみたが、辛うじて無事だったようだ。

これなら中にいるピリンたちは無事だろうし、安心して戦いを続けられるな。

だが、安心したのもつかの間で、ブラバニクイーンは非常に強い勢いで俺に向かって突進し始めていた。

大きくジャンプをしてギガデインを避けた俺はすぐに体勢を立て直すことは出来ず、両腕に持つ武器を使って受け止めようとする。

しかし、ブラバニクイーンの突進は見た目からは想像も出来ないほど威力が高く、おおかなづちが砕けそうになるほどだった。

「くっ、女王だとはいえ、ウサギの魔物がここまでの攻撃力を持っているのか···!?」

 

俺は必死に押しかえそうとするが、その俺に向かって周りのアルミラージが突進して角で突き刺そうとしていた。

魔物の立場から考えればチャンスなのだろうが、このままだとまずいな。

 

「雄也、こっちの小さいウサギはワシに任せてくれ!」

 

そう思っていると、アルミラージたちの前にゆきのへがたち塞がった。

どうやらゆきのへもブラックチャックを全滅させて、アルミラージたちと戦いに来たようだ。

ゆきのへの力ならアルミラージの動きを止められそうなので、俺も何とかブラバニクイーンの動きを止めないとな。

俺は回転斬りを放つ時と同じくらい力を溜めて、ブラバニクイーンの突進を何とか食い止め続ける。

すると、ブラバニクイーンの力が尽きたのか、奴の動きが少しの間止まった。

 

「これで動きが止まったから、今のうちに斬り刻まないとな」

 

そこでわずかな隙か出来たので、俺はおうじゃのけんをブラバニクイーンに突き刺す。

体の奥まで突き刺されては奴もただではすまないようで、かなり大きく怯んでいた。

そこで俺は左手に持つおおかなづちを振り上げて、ブラバニクイーンの頭へ叩きつける。

 

「これでブラバニクイーンの奴も、もうすぐで倒せそうだな」

 

奴はまだ死ななかったが、弱ってきているのは間違いないだろう。

体勢を立て直したブラバニクイーンは鳴き声を上げて、再びギガデインの魔法を唱え始める。

それと同時にアルミラージたちは俺に向かって突進を始めようとしていたが、ゆきのへによって動きを止められ、次々に倒されていった。

 

「ブラバニクイーンへの攻撃を邪魔する奴はいないから、今度は阻止出来そうだな」

 

邪魔が入らないので、俺はギガデインを阻止するために腕に力を溜めていく。

そして、ギガデインの魔法が放たれる寸前に力を溜め終えて、俺は力を解放した。

 

「もう一度喰らえ、回転斬り!」

 

二度も二刀流での回転斬りを受けたブラバニクイーンは、さすがに耐えきれず倒れこむ。

ゆきのへはもうアルミラージを倒し終えていたので、奴にとどめをさせば今回の防衛戦は勝ちだ。

 

「今度こそ終わりだ、ブラバニクイーン!」

 

俺はそう言って倒れこんでいるブラバニクイーンを斬り裂き、とどめをさす。

 

「やっぱり厳しい戦いになったけど、なんとか勝てたか」

 

サンデルジュではこれからも厳しい戦いが続くだろうが、今回は拠点を守り抜けたようだな。

闇の戦士にとどめをさせば今度こそ魔物との戦いは終わるだろうが、まだ居場所を見つけるには時間がかかるので、しばらくの間は砦の強化を行って行ったほうがいいだろう。

でも、戦いが終わって砦の中に戻った後もまだ腕が痛むので、今日はこの後休むことにした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode111 謀反の射手

今回からオリキャラが登場しますが、サンデルジュには人間が住んでいない設定なので、スラタンやチョビのようなモンスター仲間になります。

今まで復興させてきた町に戻る第6章では、人間のオリキャラも登場させるかもしれません。


ブラバニクイーンたちとの戦いの翌日、サンデルジュに来て3日目の朝、俺は朝起きると今日は何をしようかと考えながら高台から下を見下ろしていた。

すると、俺はサンデルジュに生息する魔物に異変が起こっているのに気づいた。

昨日も1体しか襲って来ず、岩山の近くに少しだけしかいなかったはずのブラバニクイーンの個体数が明らかに増えて、草原のところだけでも数十体生息していたのだ。

 

「どうなってるんだ?ブラバニクイーンの数がかなり増えているな」

 

それに、異変が起きているのは草原だけではなく、森の中には今まで見かけなかったじんめんじゅの上位種、エビルトレントの姿も見かけられるようになっていた。

エビルトレントはリムルダールで戦った強敵、マッドウルスも使ったドルモーアの呪文を使える、非常に強力な魔物のはずだ。

 

「俺たちが昨日の戦いに勝ったから、魔物も戦力を強化しているみたいだな」

 

奴らも俺たちが設備を強化しているように、戦力を強化しているようだが、これでサンデルジュでの戦いはさらに厳しいものになっていきそうだな。

もしブラバニクイーンやエビルトレントが複数襲撃してきたら、砦のカベや飛び出し式トゲわなだけで守り抜くことは不可能になるだろう。

 

「今の設備では勝てると思えないし、今度は何を作るかみんなに相談しに行ってみるか」

 

俺はさらに厳しい戦いになるであろう今後のために、新しい兵器の相談に行こうとする。

みんなもそろそろ起きている頃だろうし、寝室に戻って話をするか。

 

寝室に行こうとしていると、俺と同じように下を見下ろしていたピリンが話しかけてきた。

ピリンの方からも、俺に何か相談したいことがあるのだろうか?

そう思っていると、彼女は森の方から、戦いが起こっている音が聞こえると言い始める。

 

「ねえ、雄也。さっきから森で誰かが戦っているような音が聞こえて来ない?」

 

俺は新たな魔物が現れたことに気を取られて気づいていなかったが、確かに耳をすませると森から音が聞こえて来るのが分かった。

それも、弓を撃つ音や固い物がぶつかり合う音など、戦いの時に聞こえる音だ。

「確かに戦っている音が聞こえるけど、ここには俺たち以外誰もいないはずだぞ?」

 

「そうだけど、雄也にも聞こえてるってことは、気のせいじゃないよね」

 

秘境の地であるサンデルジュに人間はいないと、ルビスも言っていたはずだ。

どう言うことなんだ?と思っていると、ピリンはこの地にも人間の味方をしてくれる魔物がいるんじゃないかと言ってきた。

 

「もしかして、スラタンやチョビみたいに、人間好きな魔物がいるんじゃない?」

 

人間の味方をしてくれる魔物か···サンデルジュには闇の戦士の配下の魔物がほとんどだが、そんな魔物がいないとも限らなさそうだ。

 

「確かにその可能性もあるな。どっち道気になるし、見に行ってくるぜ」

 

もし人間の味方をしてくれる魔物であれば、砦作りの仲間になってくれる可能性もあるな。

それなら闇の戦士の配下との戦いに勝てる可能性も上がるし、助けに行ったほうがいいだろう。

外には危険な魔物だらけの状態になっているが、隠れて進めば安全にたどり着けるだろう。

 

「雄也。何が起きているのか分からないけど、気をつけてね」

 

俺が武器を用意してさっそく出発しようとすると、ピリンはそう言って俺を見送る。

 

「ああ、もし人間の味方の魔物だったら、ここに連れて来るぜ」

朝早くから大変だが、俺はピリンにそう言ってサンデルジュの砦を出て、森に向かった。

 

戦いが起きているので急いだほうがいいが、敵に見つかると危険なので俺は姿勢を低くして歩いていく。

ブラバニクイーンの生息数は多いが、視界に入らずに進むことも不可能ではないので、俺は奴らの眼を盗みながら急いで森へ近づいていく。

砦を出発して5分くらいたち、森の入り口にたどり着いた頃には、戦いの音はさっきより激しくなっていた。

 

「やっぱり戦いが起きているみたいだな。何がいるかは分からないけど、進むか」

 

森の中に入ると、俺は耳をたよりに音が聞こえる方向へ進んでいく。

エビルトレントの姿も何回か見えたが、森の木に隠れて進めば見つかることはなかった。

探索をしている暇はないが、歩いている間に異形に変異している大きな白い花を見つけることも出来た。

 

「こんな変わった花も生えているんだな。今度ゆっくり探索をする暇があったら取りにくるか」

 

ルビスはサンデルジュには見たことのない素材があると言っていたし、恐らくはきずぐすりの原料になるしろい花が独自の進化を遂げたものだろう。

俺は独自の植物が生えている森をさらに奥へと進んでいき、音の聞こえる場所に近づいていく。

そして、戦いの音がしていた場所に着くと、1体のアローインプが4体のキースドラゴンに襲われているのが見えてきた。

「わたしはただ、人間が本当に悪い存在なのかって聞いただけなのに」

 

ピリンによく似た口調のアローインプは、そう言いながらキースドラゴンへ弓を放ち続けている。

あんなことを言っているということは、アローインプの方が人間の味方なのだろう。

アローインプの使う矢には麻痺の効果があるらしく、連続で矢を受けた1体のキースドラゴンは動きが出来なくなった。

そこでアローインプはそのキースドラゴンにさらなる追撃をかけて、とどめをさす。

だが、残り3体のキースドラゴンに囲まれて、危険な状態に陥っていた。

 

「このままだと危ないし、助けに行かないとな」

 

助ければ砦作りの仲間になってくれるかもしれないし、俺はキースドラゴンの背後に回って斬りかかる。

アローインプとの戦いに集中していたキースドラゴンは俺に気づかず、背中を斬られて大きなダメージを負った。

 

「もしかして、人間···?何でこんな森の中に人間が···?」

 

急に戦いに乱入してきた俺を見て、アローインプは驚いた顔をする。

 

「戦いの音が聞こえて来てみたらあんたが襲われてたから、助けに来たんだ」

 

「昔から疑ってたけど、やっぱり人間が悪しき生き物というのは間違ってるようね」

 

俺が助けに来たことを伝えると、アローインプはそう言う。

このアローインプは完全に人間の味方という訳ではないが、多くの魔物が持っている「人間は倒すべき敵だ」という認識を疑っていたということみたいだな。

そんなことを考えていると、大ダメージを受けたキースドラゴンは俺にも襲いかかってくる。

説得して俺たちの砦に連れていきたいが、まずはキースドラゴンを倒さないといけないな。

 

「兎に角、このキースドラゴンたちを倒すから、手伝ってくれ」

 

「わたしが麻痺の矢で動きをとめるから、あなたはその間に攻撃して」

 

俺がおうじゃのけんをキースドラゴンに向けると、アローインプはそう言って再び矢を放ち始めた。

キースドラゴンはかなりの巨体なので麻痺の矢を避けることは出来ず、次々に傷を受けていく。

だが、キースドラゴンは麻痺耐性が高いらしく、奴らの内の1体がアローインプに向かってブレスを吐こうとしていた。

そこで、近縁種のダースドラゴンと戦ってだいたいの動きは分かっているので、俺はブレスを阻止しようと奴の頭に向かって斬りかかる。

 

「お前らの動きはだいたい分かってるんだ。アローインプに攻撃させはしないぞ!」

 

そして、おうじゃのけんで頭を斬られたキースドラゴンは大きく怯み倒れこむ。

さっきの背後から襲いかかったのもあって、キースドラゴンはかなりの大ダメージを受けているようだった。

俺はとどめをさすためもう一度剣を降り下ろそうと思うが、他の奴らもブレスを吐いて阻止しようとしてくる。

だが、ここで攻撃を中断すれば体勢を崩したキースドラゴンが起き上がってしまうので、俺はジャンプをしてブレスを避けながら倒れている奴を斬り裂いた。

そして、既に弱っていたキースドラゴンはその一撃で生命力が尽き、青い光に変わっていった。

 

「これで残り2体になったし、このまま倒していくか」

 

キースドラゴンは強力な魔物であるが、呪文は使えないのでそこまで苦戦はしない。

なので、俺は残りのキースドラゴンにも攻撃を避けながら近づいていき、剣を叩きつけていく。

追い詰められた奴らは、怒り出して激しい勢いで紫色の毒のブレス何度も放ってくる。

でも、俺が近づくことが出来なくなってもアローインプの放った麻痺の矢が突き刺さり、奴らはさらなる傷を受けることになる。

それに、キースドラゴンにも力の限界はあるようで、ブレスの勢いもどんどん弱まっていき、ジャンプすれば回避しながら近づくことが出来そうになっていた。

「奴らも疲れてきているみたいだし、近づいて攻撃できそうだな」

 

俺はブレスが弱まってきたのを見て、ジャンプで避けながら近づいて攻撃する。

キースドラゴンたちは素早く爪を叩きつけようとしてきたが、奴らの体は突然動かなくなった。

どうやら、弱っている体に麻痺の矢を受けて、ついに体が痺れてしまったようだな。

 

「麻痺の矢で動きが止まったみたいね。あなたも、今のうちに攻撃して倒して」

 

「ああ、言われなくても分かっているぞ」

 

俺はアローインプに返事をしてから腕に力を溜めていく。

そして、キースドラゴンたちの動きが再開する前に、力を解き放って奴らをなぎはらう。

「回転斬り!」

 

回転斬りを受けてもキースドラゴンはまだ倒れなかったが、起き上がる前にアローインプは目を射ぬいていく。

そして、再び大きく怯んだ奴らの背中に、俺は両腕に持っている武器を叩きつけた。

すると、巨体のキースドラゴンもさすがに耐えきれず、さっきの奴と同じように消えていった。

 

「なかなか手強かったけど、倒せたみたいだな」

 

「誰か分からないけど、ありがとうね。あのまま一人で戦ってたら危なかった」

 

武器をしまっていると、アローインプは俺に感謝の言葉を言ってくる。

俺はその後、どうしてキースドラゴンに襲われていたのかを聞いてみた。

「あんたは人間を敵だと思っていないみたいだけど、それで襲われていたのか?」

 

「そんな感じね。キースドラゴンたちが人間の砦を襲おうとしていたから、本当に人間は倒すべき敵なのかって聞いたの。別に人間の味方をしたかった訳じゃないけど、謀反を企んでいると思われて襲われることになった」

 

キースドラゴンが俺たちの砦を襲おうとしているのを止めたってことか。

確かに、人間に自由に生きる道を奪われた闇の戦士や、奴の配下にとっては間違いなく人間は倒すべき敵なので、それを少しでも疑う者は許せないということなのだろう。

謀反を企んでいる訳ではないと言うが、この後このアローインプはどうするつもりなのだろうか?

「そうだったのか。それで、これからあんたはどうするんだ?」

 

「あなたに助けられて人間は敵じゃないと思えたし、闇の戦士様の手下を止めようと思う」

 

人間の味方ではないことを証明するためにここで俺を倒すなんて言ってきたらどうしようかと思ったが、それなら良かったぜ。

このアローインプはもう闇の戦士の配下が住む森では暮らせないだろうし、こちらの戦力を増やすことにもなるので、俺は一緒に砦に来ないかと誘う。

 

「それなら、あんたがさっき言ってた砦に来ないか?そこで俺たちは闇の戦士の配下を倒すための設備を作っているんだ」

 

「あなたには助けてもらった恩があるし、そうする。だけど、あなたの仲間はアローインプのわたしを嫌がるんじゃない?」

 

俺が砦に行くことを提案すると、アローインプはそう言ってくる。

そう言えばスラタンも、魔物の自分が人間の町に言っていいのか不安になっていたな。

でも、スラタンの時もチョビの時もみんなは受け入れてくれたので、今回も大丈夫だろう。

それに、どうしてもその姿が嫌ならチョビのように人間に化ける術を身に付ければよさそうだ。

 

「気にするな。俺たちには他にも仲間の魔物がいるけど、みんな受け入れてくれてるぞ」

 

このアローインプも来てくれるのなら、これで魔物の仲間は3人目になるな。

俺がそう答えると、アローインプは喜んで砦に行くことを決めて、名前を名乗り出す。

「みんなが受け入れてくれるなら良かった。わたしはルミーラ、よろしくお願いね」

 

ルミーラという名前から考えて、やはりこのアローインプはメスみたいだな。

俺も自分の名前を名乗らなければいけないと思い、いつもの自己紹介をする。

 

「まだ言ってなかったけど、俺は影山雄也だ。いつもは雄也って呼んでくれればいい。こっちこそ、よろしく頼むぞ」

 

アレフガルドの全域を回ったことだし、あと何回この自己紹介をすることになるのだろうか。

俺はそんなことを考えながらルミーラと一緒に森を出て、みんなの待つ砦へと戻ってきた。

 

30分くらい歩いて砦へ戻ってくると、俺の帰りを待っていたピリンが気づいて出迎えてくれた。

ゆきのへとヘイザンも俺のとなりにいるルミーラに気づいて、走って近づいてくる。

 

「おかえり、雄也!もしかして、本当に人間好きな魔物がいたの?」

 

「メルキドにもスライムがいたが、今度はアローインプか。仲間をしてくれる魔物も結構いるんだな」

 

今まで2匹いたとは言え、仲間の魔物が来たことにみんな驚いているようだった。

そこで、俺はさっそくみんなにルミーラのことを紹介する。

 

「ルミーラっていうんだ。俺たちの砦作りや闇の戦士との戦いに協力してくれることになった」

「わたしは人間じゃなくて魔物だけど、よろしくね」

 

ルミーラもそう言ってみんなにあいさつをする。

すると、みんなもスラタンの時と同じように歓迎のムードになっていた。

 

「魔物でも仲良く暮らしてくれるんだったらもちろんいいよ!」

 

「ワシらが戦いに勝てる可能性も上がることだし、もちろん歓迎するぜ」

 

「ワタシからも、よろしくお願いするぞ!」

 

みんなに歓迎されて、ルミーラも嬉しそうな顔をする。

これでサンデルジュで戦える人が3人になったし、ゆきのへの言う通り戦いの勝ち目も上がるだろう。

俺はルミーラとみんなとの話が終わった後、少し休もうと部屋に戻っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode112 激化する魔物の動き

2章のエピソード31で名前だけ登場していた、メタルゼリーを素材に作られる武器を、5章で登場させることになりました。




サンデルジュに来て4日目の朝、俺が朝起きて外を見てみると、昨日よりも魔物の活動がさらに激しくなっているのが見えていた。

ルミーラが俺たちの仲間に加わったとは言え、やはり今の設備では戦いの勝ち目は薄そうだ。

俺は昨日の夜みんなにに新しい設備を思いつかないか聞いてみたが、結局思い付かず、そのまま寝ることになった。

 

「砦のカベと飛び出し式トゲわなだけだと、これからの戦いは厳しいだろうな」

 

俺もなかなか思い付かず、これからどうしようかと思っている。

そうしてサンデルジュの砦の中を歩いていると、俺の次に起きてきたヘイザンが話しかけてきた。

 

「雄也。実はワタシも親方みたいに役に立ちたいと思って、新しい武器を考えていたんだ」

 

ヘイザンにも昨日は相談していたけど、何か思い付いたみたいだな。

設備ではなく武器を強化するのも重要だと思えるので、俺はヘイザンの意見を聞こうとする。

俺は最強クラスの武器であるおうじゃのけんを右手で扱っているが、左手に持つ武器やゆきのへの武器はおおかなづちのままだからな。

 

「新しい武器?どんな素材を使って作るんだ?」

 

そう聞くと、ヘイザンはメタルスライムが落とす素材から武器を作ればいいと言ってきた。

 

「ワタシが思い付いたのは、メタルスライムが落とすメタルゼリーから武器を作ることだ。メタルスライムはとても固いから、その素材を使えば強力な武器を作れると思っている」

メタルゼリーか···そう言えば俺がリムルダールを復興させている途中にメタルスライムを倒した時、メタルのけんという武器を思い付いていたな。

あの時は結局作らず仕舞いだったけど、メタルスライムはゲームでは1ダメージしか与えられないほど固い魔物なので、奴の体を作る金属であればサンデルジュの魔物に対抗できるほどの武器を作れるかもしれないな。

 

「俺もメタルゼリーから出来る剣を思い付いたことがあったんだ。確かに強そうだし、いい考えだと思う」

 

「君も同じことを考えていたのか!剣の作り方を思い付いているのなら、ワタシはハンマーの作り方を教えるぞ」

 

俺がそう言うと、さっそくヘイザンはメタルゼリーで作れるハンマーについて教えてくる。

必要な素材はメタルの剣と同じだろうが、俺は一応ビルダーの力で作り方を調べた。

メタリックハンマー···メタルゼリー2個、鉄のインゴット2個 神鉄炉と金床

メタルのけんは一つで作れるが、メタリックハンマーはメタルゼリーが2つ必要なのか。

鉄のインゴットは、折れない丈夫な持ち手を作るのに使うのだろう。

必要な素材は分かったから、後はメタルスライムの居場所が分かれば素材集めに行けるな。

 

「作り方は分かったけど、メタルスライムはどこに生息しているんだ?」

 

メルキドの峡谷やリムルダールの草原に行けば見つかるだろうが、そこに行くまで時間がかかる。

近くにいないのかと思っていると、ヘイザンはラダトームの枯れ木の森で見かけたことがあると言った。

「確かこの前、ラダトーム城の近くの枯れた森で見かけたぞ」

 

ラダトームか···それなら旅のとびらからすぐに戻れるので、今日中に帰ってこれるな。

それに、ついでにムツヘタに闇の戦士捜索の状況を聞くことができるだろう。

 

「分かった。ラダトームならすぐに行けるし、今から集めに行ってくるぜ」

 

俺はヘイザンにそう言って、さっそくサンデルジュの砦を出発してラダトームに繋がる旅のとびらへ向かう。

いつ魔物が襲撃してくるか分からないし、早めに作っておいたほうがいいだろう。

魔物の視界を避けて進むのが難しくなるほど数が増えていたが、俺は草の影に隠れながら何とか安全に進むことができた。

そして、15分くらいで無事旅のとびらにたどり着き、ラダトーム城へ向かった。

 

旅のとびらを抜けてラダトーム城へ着くと、俺はまずムツヘタに会いに行こうと占いの間に向かう。

すると、途中で城を警備していたラスタンとオーレンが、俺に気づいて話しかけてきた。

 

「おお、雄也。3日ぶりくらいだが、戻って来たのか!」

 

「こちらに戻ってくるとは、何か大変なことでもあったのですか?」

 

俺は素材集めに来ただけだが、オーレンはサンデルジュで何か起きたのかと聞いてくる。

素材を取りに来ただけだと言おうと思ったが、俺は一応ブラバニクイーンの軍勢が襲撃してきたことを話した。

「今日は素材を取りに来ただけだけど、おととい俺たちが作っている砦に魔物が襲ってきたことがあった」

 

「やはり魔物の活動も再び激しくなっているみたいですね···僕たちも毎日まわりを監視していますが、日に日に魔物の数は増えています」

 

俺が襲撃が来たことを話すと、オーレンはラダトームでも魔物の活動が激しくなっていると言う。

ラダトーム城の外を見てみると、確かに竜王が生きていた時と同じかそれ以上の数の魔物が彷徨いていた。

竜王を倒してから2日後の戦いの後はまだ魔物が攻めてきてはいないようだが、油断を許さない状況のようだ。

 

「竜王を倒して平和が戻ったと思ったが、逆にさらに危険な状態になってしまったな」

オーレンと話をしていると、ラスタンも魔物の様子を見てそう言い出す。

俺も最初は、闇の戦士がここまで早く勢力を拡大していくとは思っていなかったぜ。

 

「ああ、俺も数日の間にこうなるとは考えてはいなかった」

 

アレフガルドに住む人々はみんな平和な世界を見たいと思っているだろうが、なかなかうまくいかないな。

 

そんなことを話していると、占いの間で作業をしていたムツヘタも俺の声に気づいて出てきた。

 

「何か話し声が聞こえると思ったら、そなたが戻ってきておったのか。もう4日目じゃが、サンデルジュでの戦いはどんな感じじゃ?」

 

ムツヘタは俺たちの話に加わると、サンデルジュでの戦いについて聞いてきた。

ラスタンとオーレンにはもう話したけど、ムツヘタにもこちらの様子を報告しておいたほうがいいだろう。

 

「おととい魔物に襲撃されて、その時は砦の設備を使って倒せたんだけど、昨日からさらに強力な魔物が現れるようになってきた」

 

「サンデルジュの方から感じられる闇の気配は強くなっていたが、そんなことが起きていたのか···このままだと闇の戦士はアレフガルド全域の魔物を従えるようになり、この地に生ける全ての人々を滅ぼそうとするじゃろう」

 

魔物の襲撃にあい、さらに強力な魔物が現れるようになったことを話すと、ムツヘタはそんなことを言う。

ロロンドたちからの報告がないのでメルキドやリムルダール、マイラは安全なのだろうが、それも今のうちだけなのだろう。

ムツヘタに闇の戦士の居場所について聞くためにもラダトームに来たので、俺はそのことについて何か進展がないか尋ねた。

 

「それなら早く倒さないといけないけど、闇の戦士の居場所について分かったことはあるか?」

 

すると、ムツヘタはサンデルジュの奥の峡谷のほうから闇の戦士の気配がすると言った。

 

「いや、まだ詳しい居場所は分からぬ。じゃが、サンデルジュの峡谷の方からおぞましい気配を感じるのじゃ」

 

まだ行ったことはないが、砦のある高台からサンデルジュに峡谷地帯があるのは見えていた。

メルキドの峡谷よりずっと深く、ほとんど光がささない場所なので、闇の戦士が拠点を作っている可能性はあるな。

でも、峡谷はかなり広いので、詳しい位置を突き止めるのにはまだ時間がかかりそうだ。

 

「峡谷か···詳しい位置が分かったら、すぐに俺に知らせに来てくれ」

 

「もちろんじゃ。偽りの王が竜王のようなまことの王になる前に、なんとしても倒さねばならぬ」

 

竜王のようなまことの王か···もし闇の戦士がそうなったら、再びアレフガルドは闇に包まれて、俺たちの復興してきた町も再び滅びることになるだろう。

その前に奴を倒さなければいけないので、ムツヘタも今まで以上に急いで闇の戦士の居場所を探すことになるだろう。

 

「俺たちも砦の強化をしておくから、頼んだぞ」

でも、それまでに奴の配下の魔物との戦いも避けられないので、俺たちはサンデルジュの砦の強化もしていかなければいけないな。

闇の戦士が倒されれば、今度こそ光の玉によって悪い魔物は封じ込められるので、間違いなく激しい抵抗をしてくることになるだろう。

俺はムツヘタにそう言った後、新たな武器を作るためのメタルゼリーを集めに、枯れ木の森へと歩いていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode113 失われた王女の愛

ドラクエビルダーズの解釈はいろいろあるけど、僕みたいに勇者と姫の間の愛が消えたと思っている人は少ないのかな?




ムツヘタたちとの話を終えた後、俺はラダトームの枯れ木の森へ向かって歩き始めていた。

さっきも見た通り魔物の活動が激しくなっていたが、俺は枯れて黒くなった草に隠れて見つからないように進んでいく。

 

「いつかラダトームにも緑を取り戻したいけど、闇の戦士を倒してからになりそうだな」

 

今だに死の大地が広がるラダトームを見て、いつか全域を浄化したいとは思うが、今は闇の戦士と決着をつけることを優先しなければいけない。

そのためにも準備を早く進めたいと思い、俺はメタルスライムのいる場所へ急いでいく。

そして、15分くらいで枯れ木の森にたどり着くと、俺はさっそくメタルスライムを探し始めた。

「ここがヘイザンの言ってた枯れ木の森だろうし、メタルスライムを探し始めるか」

 

俺はまず辺りを見渡しながら、メタルスライムの姿がないか調べる。

なかなか見つからないが、今日中に武器を作りたいので、俺はさまざまな場所を探す。

メルキドやリムルダールでは偶然見つけることが出来たが、自分から探すとなるとなかなか見つからないな。

それでも20分ほど木に隠れながら探索を進めていき、メタルスライムの姿を視界に捉えることが出来た。

 

「少し時間がかかったけど、何とかメタルスライムが見つかったな。逃げられる前に仕留められればいいんだけどな」

 

俺はこの前メタルスライムを見つけた時と同じように、気配を消して奴の背後に回る。

そして、音をたてないように腕に力を溜めて、ニ刀流での回転斬りを放つ。

 

「回転斬り!」

 

メタルスライムは直前で俺の存在に気づいたが、すぐに攻撃をかわすことは出来ず、大ダメージを負って倒れていった。

奴の逃げるスピードは俺でも追い付けないほどの速さだろうし、一撃で仕留められてよかったぜ。

奴が倒れたところにはメタルゼリーが落ちており、俺はそれをポーチにしまった。

 

「これでまずは1個手に入ったし、5個くらい集めておくか」

 

メタルゼリーをしまった後は、次のメタルスライムを倒すために再び探し始める。

俺が左手に持つメタルのけんと、ゆきのへが使うメタリックハンマーを作るだけでもメタルゼリーは3つ必要だからな。

それに、もし武器が壊れてしまった時のために予備を用意しておいたほうがいいので、俺は5個くらい集めたほうがいいとも思った。

 

「時間はかかるだろうけど、今のうちに集めておくか」

 

そこで俺は、メタルスライムを見つけてはさっきと同じような方法で倒していき、メタルゼリーを回収していく。

メタルスライムの数は少ないが、地道に探していくことで何体も見つけることが出来た。

そして、2時間くらいメタルスライムを探し続けて、5個のメタルゼリーを集めることが出来た。

 

俺はメタルゼリーを集め終えると、サンデルジュに戻るためまずはラダトーム城に戻ろうとする。

帰ったら午後になっているだろうが、みんなの武器を作る時間は十分にあるな。

だが、ラダトーム城に戻って来ると、玉座の間にいたローラ姫が外に出てきて俺に話しかけてきた。

 

「雄也様。さっきあなたとムツヘタは、闇の戦士···勇者様を倒さなければいけないと言っておられましたね···」

 

さっきの俺とムツヘタとの会話は、姫にも聞こえていたのか。

ローラ姫は寂しそうな顔をしながらそう言ってくる。

俺は早くサンデルジュに戻りたいと思っているのに、何の用なのだろうか?

 

「そうだけど。何か聞きたいことでもあるのか?」

 

「そうではないのですが···本当にあの人を倒さなければいけないのか気になったのです」

 

その言葉を聞いて、姫が玉座の間の設計図に玉座のいすを2つ書いていたことを思い出す。

姫はあの勇者に助けられ、恐らくは宿屋でお楽しみもしているので、やはり奴がいつか帰って来るのではないかと儚い希望を持っているようだな。

でも、世界を裏切ったのは間違いなく勇者自身の意思なので、その儚い希望が叶うことはないだろう。

 

「世界を裏切ったのは間違いなくあいつ自身の意思だから、戦いは避けられないと思うぞ」

 

「勇者様自身の意思、ですか···どうしてそう思われるのですか?」

 

俺が戦いを避けられないことを話すと、姫はどうしてそう思うのかと聞いてくる。

自分の意思以外で裏切ること以外はありえないからでもあるが、一番の理由は7回も夢で見た勇者の記憶から、彼が人々に絶望していることが見えたからだ。

夢で見たなんて言っても信じてくれないかもしれないが、俺は勇者の記憶を話すことにする。

 

「実はこれまで俺はビルダーの力で、勇者の記憶を夢で見てきたことがあるんだ」

 

「夢であの人の記憶を···一体何があったのですか?」

 

今までビルダーの力で普通の人には出来ないことを何回もしているので、姫も夢で記憶を見たことを信じてくれているようだ。

だが、ローラ姫の愛が一方的なものであることを知ったら彼女はとても悲しむだろうから、本当に言っていいか確認することにした。

 

「あんたが知ったら悲しい思いをするかもしれないけど、言ってもいいのか?」

 

「はい。あの人に何があったのか、ずっと前から知りたいと思っていました」

 

それでも知りたいというのは、まだ僅かにローラ姫の裏切り勇者に対する想いが残っているからだろうな。

勇者に助けられたので、今度は勇者に対して何かしてあげられないかという気持ちがあるのだろう。

その返事を聞いて、俺は姫に勇者の記憶について話し始める。

 

「俺が夢で見たのは、勇者に竜王を倒してくれという多くの人々の姿だ。少しの期待なら良かったんだろうけど、過度な期待は勇者にとって苦痛だったみたいなんだ。それで、どこへ言っても勇者様と言われ、自分を一人の人間として扱ってくれないことにあいつは絶望して何度も怒りの声を上げていた。だから、自分から人として生きる自由を奪った人たちや、自分を勇者として導いたルビスがいる世界なんて救いたくないと思ったんだろう···あいつは罠だと分かっていただろうが、竜王の誘いに乗った」

「あの人がそんな事を思っていたなんて···私は気がつきませんでした」

 

俺が勇者の記憶について一通り話すと、ローラ姫はさらに暗い表情になって言う。

勇者をやめたいなんて言えば、「精霊ルビスに選ばれたあなたが何をおっしゃっているのですか」とか、「そんなこと言わずに、竜王を倒して光の玉を取り戻してください」などと言われるのは間違いないので、彼も必死に自分の気持ちを隠していたんだろうな。

 

「あいつも勇者をやめられないことは分かっていたから、本当の気持ちを隠していたんだ。それで、よりあいつは人々への絶望を強めることになった」

 

誰もが自分のことを分かってくれない状況なんて、俺には理解できないな。

俺がそう思っていると、ローラ姫は勇者のために何か出来ることはないか聞いてくる。

 

「では、私が勇者に対して出来ることは何かないのですか?」

 

全ての人類に絶望し、新たな魔物の王となったあいつを今更俺たちの仲間にするのは不可能だと思うので、出来ることと言えばもう二度とこのようなことが起こらないようにすることだろうか。

勇者でない俺が竜王を倒した今の世界であれば、それは実現することが出来そうだ。

 

「あいつ自身に出来ることは残念だけどないと思う。俺たちに出来るのは、同じようなことが起こらないように防ぐことだな」

 

「そうですか···でも、彼に会ったらこれだけは伝えてください。もし良かったら、またこの城に戻ってきてくださいと」

俺はそう言ったが、ローラ姫にはやはり勇者に対する想いが残っているようだな。

あいつ自身からはまだ話を聞いていないので、つれ戻せる可能性も0ではなさそうだが。

 

「分かった。あいつに会った時には一応言ってみるぜ」

 

俺はそう思ってローラ姫に言う。

奴がいま人類に対してどんな感情を持っているのか、いろいろ話もしてみたいな。

長い話をしてしまったが、ここで俺はローラ姫と別れて、サンデルジュに繋がる旅のとびらに入った。

 

旅のとびらから歩いて15分ほど歩いてサンデルジュの砦に着くと、俺はしばらく休んでからメタルゼリーを加工するために工房へと入っていく。

姫との話で忘れていたけど、俺がラダトームへ行ったそもそもの目的は新しい武器を作るための素材を集めることだったからな。

闇の戦士を説得するにしても手下の魔物との戦いは避けられないだろうから、俺は武器作りを始める。

 

「まずは俺が左手に持つメタルのけんからだな」

 

俺は最初に鉄のインゴットとメタルゼリーを1個ずつ使い、メタルのけんを作った。

メタルのけんは見た目の色はてつのつるぎなどと対して変わらないが、固さはどんな攻撃であっても1ダメージしかくらわないメタルスライムと同じくらいのものだった。

おうじゃのけんには敵わないかもしれないが、とても強そうな剣だ。

「メタルのけんが出来たから、次はメタリックハンマーだな」

 

これならどんな敵でも大ダメージを与えられると思いながら、次はハンマーを作っていく。

ハンマーは必要な素材が多いが、メタルゼリーは残り4つもあるので俺はすぐに作業を始めた。

剣の時と同じようにビルダーの魔法をかけていき、メタルゼリーをハンマーの形に加工する。

 

「これでメタリックハンマーも出来たし、ヘイザンに教えて来るか」

 

メタリックハンマーも出来上がると、俺はそのことをヘイザンに伝えに行くことにする。

メタルの武器は彼女が考えたので、完成したことを教えておいたほうがいいだろう。

「ヘイザン、ラダトームでいろいろあって時間がかかったけど、メタルゼリーで武器を作れたぞ」

 

俺が拠点の中を歩いていたヘイザンにそう言って話しかけると、さっそくどんな感じの武器になったか聞いてきた。

 

「おお、君なら今日中に作れると思っていたよ。それで、強そうな武器になったか?」

 

おうじゃのけんには及ばなくても、相当強力な武器ではあるので、作って良かったと言えるだろう。

 

「メタルスライムと同じくらいのすごく固くて強力な武器になったぞ」

 

「それなら良かった。ワタシは戦えないけど、君の役に立てたみたいだね!」

 

俺が強い武器になったと言うと、ヘイザンはとても嬉しそうな顔をする。

彼女のお陰で魔物への勝ち目も上がるだろうから、感謝しておかなければいけないな。

 

「ああ、ありがとうな、ヘイザン。今日作った武器も使って、必ず魔物との戦いに勝ってやる」

 

まだ師匠のゆきのへには及ばないにしても、ヘイザンも一人前の鍛冶屋だと言えるだろう。

俺はヘイザンに感謝の言葉を言った後、今日は休もうかと部屋に戻っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode114 深森の軍勢

サンデルジュに来て5日目、俺は昨日作ったメタリックハンマーをゆきのへに渡しに行っていた。

渡すのは魔物との戦いの時でいいのだが、彼の弟子のヘイザンが思い付いた武器なので、そのことを知らせておいたほうがいいだろう。

ゆきのへは部屋の外を歩いており、俺は話しかけてハンマーを見せた。

 

「ゆきのへ、魔物に対抗するための新しい武器を作ってきたぞ」

 

「すごく頑丈なハンマーだな···お前さんが考えたのか?」

 

俺がそう言うと、ゆきのへは強そうな武器だと言ってメタリックハンマーを手に取った。

だが、ヘイザンが考えたものだとは思っていないようだな。

「いや、昨日ヘイザンから教えてもらったんだ」

 

ヘイザンが考えたということを聞くと、ゆきのへはとても驚いた顔をした。

 

「ヘイザンが···?あいつももうここまで強い武器を思い付くようになったのか」

 

そして驚いた顔をした後、ゆきのへはとても嬉しそうな表情になる。

今まで弟子であったはずのヘイザンが一人前になったのだから、喜んでいるのだろう。

 

「俺もあいつがこんなに強い武器を考えるとは思ってなかったな」

 

「ワシには子供がいないから不安になっていたが、伝説の鍛冶屋の技術はヘイザンが受け継いでくれそうだぜ」

 

メタリックハンマーを見終わった後、ゆきのへはそんなことを言う。

最初に出会った時から思っていたが、やはりゆきのへに子供はいなかったようだな。

荒廃した世界なので子供を作る相手が見つからなかったのだろうし、もうかなりの高齢なので今から作ることもできない。

でも、伝説の鍛冶屋ゆきのふの血筋が途絶えても、技術は受け継がれていくことになりそうだ。

 

「そこでだな、お前さんに伝えたいことが···」

 

弟子のヘイザンの成長を知って、ゆきのへは何か俺に伝えたいことがあるようだった。

 

だがその時、後ろからアローインプのルミーラの声が聞こえてきた。

 

「2人とも、すぐに来て!わたしたちの砦の近くに魔物が近づいているみたい」

魔物が来たという言葉を聞いて、俺たちはすぐに話を中断する。

確かに魔物の足音が聞こえており、俺もゆきのへもすぐに拠点の外を見てみた。

 

「話の途中だったというのに、また魔物が襲って来たのか」

 

この前魔物が来た方向を見てみると、敵のアローインプが12体、ブラバニクイーンが8体、キースドラゴンが4体、巨大なエビルトレントが1体の合計25体の魔物がサンデルジュの砦に迫ってきているのが見えた。

 

「最近魔物の活動が激しくなっていたけど、敵の種類も数も増えているな」

 

「ああ、ヘイザンの考えたこの武器があるが、一筋縄ではいかないはずだぜ」

 

ゆきのへの言っていたことも気になるが、今はそれどころではないようだ。

ここまでの大群で来ることは予想の範囲内ではあったが、厳しい戦いになりそうだ。

それでも何とかこの砦を防衛しなければいけないので、俺たち武器を構えて魔物の群れへと向かっていくことにする。

ここで勝たなければ、闇の戦士を倒すことも出来ないからな。

 

「種族の裏切り者も人間たちも、ワタシたちが滅ぼしてやろう!」

 

「ワタシたち魔物の新たな指導者に逆らうことは許さない!」

 

砦の外に出ていくと、アローインプが俺たちを撃ち抜こうと弓を構え始めていた。

アローインプの矢を避けながら近づくのは難しいので、俺はこの前作ったサブマシンガンを取り出す。

「お前たちに撃ち抜かれる前に、俺がこれでお前たちを倒してやるぜ」

 

俺がそう言うと、怒り出した敵のアローインプたちは麻痺の矢を放ち出す。

アローインプは12体もいるが、ゆきのへとルミーラを狙っている奴もいて、距離も離れているので、俺はジャンプでかわすことが出来た。

 

「かなり素早い矢だけど、避けれないほどじゃないみたいだな」

 

すぐに再び矢が飛んでくるので、俺はサブマシンガンの引き金を引いてはがねの弾丸を撃つ。

ゆきのへはブラバニクイーンの群れに殴りかかっていき、ルミーラは俺と同じように遠距離攻撃でアローインプの群れを壊滅させようとしていた。

サンデルジュの砦の2回目の防衛戦が始まった。

 

俺が放った最初の弾は前衛のアローインプへと当たり、奴の体を貫いていく。

はがねの弾丸の威力は高く、奴は一撃では死なないにしても大きく怯んでいた。

サンデルジュの強力な魔物に銃弾が効くか少しは不安になっていたけど、少なくともアローインプの軍団は倒せそうだな。

俺はそう思いながら、他のアローインプの矢を避けながら怯んでいる奴に追撃をかけようとする。

 

「遠距離攻撃が出来るアローインプは厄介だから、早めに倒しておかないとな」

 

俺は体勢を立て直す前に倒そうと、怯んでいるアローインプにはがねの弾丸を連射した。

奴も必死に起き上がろうとするが、俺はその隙を与えないように次々に弾を撃ち込んでいく。

そして、さっきの攻撃と合わせて5発ほど撃つと、奴は生命力が尽きて倒れていった。

 

「まずは1体を倒せたな。このまま残りの奴らも倒していくぜ」

 

はがねの弾丸は100個用意しているので、このままアローインプの軍団を壊滅させられそうだな。

俺はすぐに次のアローインプに向かってサブマシンガンを構えて、弾を発射していく。

 

「おのれビルダーめ···!よくもワタシたちの仲間を倒したな!」

 

「あいつを集中的に攻撃するんだ!」

 

奴らも俺を狙って攻撃してくるが、俺はガライヤでのキラーマシンとの戦いで矢を避けるのには慣れているので、かわしながら反撃することが出来ていた。

どのアローインプも大ダメージを受けていき、もう少しで倒せるところまで追い詰められていった。

 

それを見たブラバニクイーンたちは、アローインプを助けようと俺のところに向かってくる。

だが、ハンマーを持ったゆきのへが立ちはだかって、奴らの動きを止める。

 

「お前たちをワシらの砦に近づけることはさせねえ。ヘイザンの考えたこのハンマーで叩き潰してやるぜ!」

 

ブラバニクイーンは突進してゆきのへを突き飛ばそうとしてくるが、彼は攻撃をかわしたり受け止めたりしながら奴らにメタリックハンマーを叩きつけていた。

ゆきのへは俺より力が強いので、強力な魔物の攻撃も受け止めやすいみたいだな。

だが、それでも8体の動きを止めるのは難しいだろうから、アローインプを倒したらゆきのへを援護しに行かなければいけない。

 

「ゆきのへもあの数を相手にするのは大変だろうし、早く助けにいかないとな」

 

そのためにも早くアローインプを倒そうと思い、俺は動きを見極めながら銃を撃ち続ける。

体を何度も貫かれた奴らは次々に倒されていき、残りも少なくなっていった。

 

「これでアローインプは残り少しになってきたな」

 

「ワタシたちも人間どもなどに倒される訳にはいかない···!」

 

残ったアローインプたちは激しい攻撃を続けるが、俺の後ろにいたルミーラも奴らを攻撃してさらに弱らせていく。

ルミーラもアローインプであり、同じ種族同士で戦うのは嫌かもしれないが、俺たち人間に協力することになったので仕方のないことだろう。

そして、俺はルミーラの攻撃で瀕死の動けない状態になったアローインプたちにサブマシンガンでとどめをさしていった。

 

「これでアローインプの軍団は倒せたな。今度はゆきのへを援護しに行くか」

 

アローインプを倒した後にゆきのへの方を見ると、彼はブラバニクイーンだけでなく、後衛のキースドラゴンとも戦っているようだった。

援護しようと思っていると、ゆきのへが押さえきれなかった6体のブラバニクイーンが俺やルミーラのところへ突進してきた。

だが、キースドラゴンと戦っているゆきのへを助ける必要もあるので俺はルミーラにこう伝える。

 

「ルミーラ!俺はブラバニクイーンを止めるからあんたは麻痺の矢でゆきのへを助けてくれ」

 

「あなたなら負けないと思うし、そっちの敵は任せるね」

 

ルミーラはそう返事をして、ゆきのへと戦っているキースドラゴンに麻痺の矢を使っていく。

ゆきのへに当てないように気を付ける必要があるが、ルミーラなら大丈夫だろう。

 

だが、ブラバニクイーンたちはキースドラゴンを守るために攻撃のターゲットをルミーラに変える。

弓は溜めるのに時間がかかり、敵に接近されると危険なので、俺はブラバニクイーンたちを横から斬りつけてルミーラに近づけないようにした。

奴らはしつこくルミーラを狙っていたが、何度も斬りつけることで俺を倒さなければルミーラも倒せないと思ったのか、俺に向かって突進してこようとしていた。

 

「うまく引き付けられたな。あとは飛び出し式トゲわなに誘導するか」

 

6体と同時に戦うのも不可能ではないだろうが、ここは飛び出し式トゲわなを使った方がいいな。

俺は床用スイッチがあるところまで移動して、ブラバニクイーンが突進してくるのを待つ。

そして、奴らが突進してきてトゲわなの上を通ったと同時に俺はスイッチを踏み、トゲを飛び出させた。

 

不意に飛び出して来たトゲで刺され、生命力の高いブラバニクイーンでも大ダメージを受ける。

だが、この前のブラックチャックと違って動きは止まらず、再び突進をしようとしたり、ギガデインの呪文を唱えようとしたりしていた。

 

「ダメージは与えたけど動きが止まらなかったか。でも、ギガデインの呪文は防がないといけないな」

 

1発でも高い威力を持つギガデインを何度も使われれば砦のカベでも破壊されるのは免れないだろうから、何とか防がなければいけないな。

二刀流での回転斬りを使えば止められるだろうが、突進をしてくる奴もいるので腕に力を溜めることができない。

どうしようかと思っていると、俺の目に入ったのはこの前砦の前に設置した大砲だった。

 

「間に合うか分からないけど、大砲を使うしかないか」

大砲なら敵に飛び出し式トゲわな以上のダメージを与えられるので、動きを止められそうだ。

俺は突進をするブラバニクイーン避けながら大砲に近づいていき、ポーチから取り出した大砲の弾をセットした。

その頃にはもうギガデインの呪文が放たれる寸前だったので、俺は即座に大砲を発射して、奴らを吹き飛ばそうとする。

 

「これならどうだ、ブラバニクイーン!」

 

大砲の弾が炸裂した衝撃により、そこまで大きな体を持っている訳ではないブラバニクイーンたちは少し吹き飛ばされる。

それと同時に突進や呪文の詠唱も中断され、今度こそ奴らの動きは止まる。

そこで俺はすぐに奴らに近づいていき、おうじゃのけんやメタルのけんを降り下ろして斬り刻んでいく。

トゲわなと大砲によって弱っていたブラバニクイーンたちは俺の剣が致命傷となり、全員倒れていった。

 

「これでブラバニクイーンも全滅か。大砲があってよかったぜ」

 

大砲はマイラ復興の時にとても活躍したが、サンデルジュでも役に立つものになりそうだ。

俺がそう思っていると、ルミーラもキースドラゴンを弱らせ、ゆきのへは今はエビルトレントと戦っていると言ってきた。

 

「そっちは全部倒したみたいね。わたしもキースドラゴンを弱らせたから、残る強敵はエビルトレントと2匹のブラバニクイーンだけ」

 

6体のブラバニクイーンたちを倒し、今度こそ俺は助けに行けるのでゆきのへの方へ向かう。

ゆきのへはブラバニクイーンたちの攻撃を避けながらエビルトレントをハンマーで叩きつける。

だが、エビルトレントも自らの葉を刃のように飛ばしてゆきのへを斬り裂こうとしていた。

ブラバニクイーンの攻撃にも気をつけなければいけず、ゆきのへは葉を避けきれずにいくつも傷を負っている。

 

「まずはまわりの奴らを倒して、それからエビルトレントに斬りかかるか」

 

彼のいるところに着くと、ルミーラがさらに矢を撃つことでキースドラゴンが青い光に変わっていくのが見えた。

これで残りの敵は3体になったので、俺はルミーラに感謝しつつブラバニクイーンに斬りかかる。

 

「ゆきのへをこれ以上傷つけはさせないぞ」

ゆきのへを狙っていたブラバニクイーンは俺に気づかず、背後から斬られて大きな傷を負う。

奴らはすぐに狙いを俺に変えて突進してくるが、もう動きに慣れているので俺はジャンプをしてかわした。

 

「今まで何度も戦ってきたし、お前らの動きにはもう慣れてるぞ」

 

ギガデインを唱える隙もなく、さっきのゆきのへとの戦いで弱っているので、ブラバニクイーンはもう少しで倒せるだろう。

奴らは再び突進をしてくるが、俺はもう一度かわして、次の攻撃が来る前に思いきり斬り裂く。

そこでブラバニクイーンも力尽きて倒れ、残りはエビルトレントだけになった。

 

「後はエビルトレントを倒せば今回の戦いも終わりだな」

 

俺はゆきのへを助けてエビルトレントを倒すために、奴に近づいて両腕の剣を叩きつける。

 

「ゆきのへ、少し時間がかかったけど助けに来たぜ」

 

「あとはこのデカい木の魔物だけのようだな。ワシも少しは傷を与えたから、手伝ってくれ」

 

鋭い剣を2本も降り下ろされ大きな傷を負ったエビルトレントは、俺に向かって腕に相当する巨大な枝を叩きつけてきた。

動きはブラバニクイーンより早く、俺はかわしきれずに両腕の剣で防ぐことにした。

奴の攻撃力はかなり高く、押し返すのは無理だが、受け止めることは出来たのでゆきのへがその間に側面からメタリックハンマーを叩きつける。

俺もだんだん腕が痛くなってきたが、エビルトレントも大分弱ってきているだろう。

 

「お前みたいな木の魔物に、ワシらの作った砦を壊すことは出来ないぜ」

 

ゆきのへはそう言いながら、エビルトレントを何度も攻撃していく。

 

だが、追い詰められた奴はさっきと同じように葉を刃のように飛ばしてきた。

 

「くっ、弱らせたと思ったらまたこの攻撃を使って来たか」

 

それも、さっきより激しい勢いなので俺たちは近づくことが出来ずエビルトレントから離れる。

エビルトレントが一度に飛ばせる葉の量には限度があるが、俺とゆきのへの接近を防ぐのには十分な量だった。

俺は次々に飛んでくる葉を避けながらサブマシンガンを撃っていくが、奴の固い樹皮に防がれてあまりダメージを与えることが出来なかった。

 

「少しはダメージを与えてるんだろうけど、このままだと弾切れになるな」

 

サブマシンガンでも倒せないことはないだろうが、その前に弾切れを起こしそうだ。

砦の近くにいるルミーラも俺たちを助けようと何度も麻痺の矢を撃ち込むが、はがねの弾丸と同じようにあまり効果がないようだった。

 

「ルミーラの持っている矢が無くならなければいいんだけどな···」

 

でも、彼女の持っている矢が無くならない限りは勝ち目があると俺は思っていた。

しかし、俺たちが攻撃できないのを見てか、エビルトレントは砦に向かって強大な呪文を唱える。

ピリンたちがいる砦に向かって、奴はドルモーアの呪文を使おうとしているようだった。

 

「くそっ、今度はドルモーアの呪文か!?このままだとピリンたちが危ないな」

 

ドルモーアが使われれば、マッドウルスの時のリムルダールの町と同じようにサンデルジュの砦も破壊されるだろう。

だが、葉の刃のせいで近寄ることが出来ず、攻撃して詠唱を止めることは難しそうだった。

そう思っていると、ルミーラが何か思い付いたのか俺たちのところに走ってくるのが見えた。

ルミーラは俺のところに着くと同時に左腕からメタルのけんを取っていき、エビルトレントの動きを引き付けようとしていた。

「わたしが引き付けるからあなたは早く呪文を止めて!」

 

いきなり俺からメタルのけんを取っていったので驚いたが、ルミーラも葉の刃の量に限界があると気づいたみたいだな。

ルミーラはメタルのけんでエビルトレントを引き付けるが、弓を使うのに特化したアローインプの体では素早く動き回れず、いくつもの傷を負っていく。

 

「ああ、分かった!」

 

でも、今はドルモーアを止めるのが最優先なので、俺はそれだけの返事をしてエビルトレントに向かって思いきりおうじゃのけんを突き刺し、深くえぐる。

はがねの弾丸を防ぐ樹皮もさすがにおうじゃのけんを防ぐことは出来なかったようだな。

だが、エビルトレントは瀕死の状態になってもまだドルモーアの詠唱を続ける。

呪文はもう放たれる寸前だったが、ゆきのへとルミーラもそれに気づいてそれぞれの武器を使ってエビルトレントにとどめをさして止めた。

そして、エビルトレントが死ぬと同時に闇の力もなくなり、砦の壊滅を防ぐことが出来た。

 

「危ないところだったけど、何とか防げたみたいだな」

 

「ああ、今回もやっぱり厳しい戦いになったぜ」

 

「明日から、魔物の攻撃はさらに激しくなるかもしれないね」

 

俺とゆきのへはエビルトレントを倒した後今回も拠点を守れたと一安心する。

しかし、ルミーラの言う通り明日にはさらに危険な魔物が出現する可能性もあるな。

 

戦いの後、ゆきのへとルミーラは傷ついた体を治すために先に砦の中に戻っていき、俺もその後に中に入っていった。




活動報告の方で第5章後半以降の展開についてのアンケートをとっているので、そちらも見てくださるとありがたく思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode115 鍛冶屋の伝承

サンデルジュに来て6日目の朝、俺は起きるといつも通り外を見ようと部屋から出ていく。

昨日も戦いがあったので、今まで以上に強力な魔物が現れるようになったかもしれないからな。

でも、外を眺めに歩いている途中に、ゆきのへが俺に話しかけてきた。

 

「なあ、雄也。これからお前さんに話したいことがあるんだが、時間はあるか?」

 

昨日ゆきのへはメタリックハンマーを見た後、もう一つ話したいことがあるようだったな。

魔物の様子を見に行こうとしていた途中だったが、すぐに奴らが襲って来る訳でもないので、俺はゆきのへの話を聞くことにする。

 

「もちろん時間はあるぞ。昨日言おうとしていたことか?」

 

「ああ、ヘイザンの考えた武器で配下の魔物を倒しやすくはなったが、親玉である闇の戦士を倒すにはもっと強い武器が必要だと思うんだ」

 

確かに正気を取り戻した闇の戦士は竜王を遥かに凌ぐ強さであろうから、おうじゃのけんとメタルのけんの組み合わせでも勝てる可能性は低そうだな。

それに、ヘイザンの師匠として、弟子に負けてはいられないという気持ちもありそうだ。

とても固いメタルゼリー製を超える武器とは、どんなものなのだろうか?

 

「あれより強い武器って、どんなものなんだ?」

 

俺がそう聞くと、ゆきのへは彼の家系に代々伝わる最強のハンマーがあると話し始める。

 

「数百年前から先祖が代々語り継いできた最強の武器でな、ビルダーハンマーというらしいんだ」

 

伝説の鍛冶屋の子孫が伝えてきた武器というのならば、確かにすごく強そうだな。

おうじゃのけんと同じくらいか、それを超える強さを持っていることは間違いないだろう。

だが、どうしてまだビルダーである俺がいない時だったのに、ビルダーハンマーという名前を付けたのだろうか?

 

「ビルダーハンマーか···数百年前の人が考えた武器なのにどうしてビルダーってついてるんだ?」

 

そのことについて聞くと、ゆきのへは数百年前から人々は世界を建て直す者であるビルダーの出現を待ちわびていたと言った。

 

「お前さんは聞いたことないかもしれないが、実はビルダーの伝説というのは数百年前から語り継がれていたんだ」

 

アレフガルドを復興させている間に出会った人々の多くがビルダーのことを知っていたけど、さすがに数百年前からビルダーの伝説があったとは思っていなかったせ。

そんなことを考えている間に、ゆきのへはビルダーハンマーの名前について話す。

 

「それで、ワシの先祖はビルダーが竜王や世界を裏切った勇者を倒しに行く時のために、最強のハンマーを考えた。その時に、伝説の勇者ロトが世界を救うのに使った剣はロトのつるぎと言われているのだから、ビルダーが世界を救うために使う武器はビルダーハンマーという名前がいいと考えたらしいんだ」

 

ゆきのへの先祖は、ビルダーハンマーがロトのつるぎのような世界を救う武器になってほしいと願っていたのか。

それなら、世界に平和を取り戻す最後の戦いにふさわしい武器だと言えそうだな。

しかし、裏切り勇者だけでなく竜王を倒すための武器でもあったようなのに、どうしてゆきのへは今まで教えてくれなかったんだ?

 

「ビルダーハンマーという名前の意味は分かったけど、どうして今まで教えてくれなかったんだ?」

 

すると、ゆきのへはビルダーハンマーの作り方がサンデルジュに隠されているからだと言ってきた。

 

「親父からビルダーハンマーの作り方が書かれた書物はサンデルジュに隠されていると教えられてな。アレフガルドにそんな場所があると思っていなかったワシは、その話を信じていなかったんだ」

 

サンデルジュは人間も魔物もいなかった場所なので、重要な物を隠すには最適だったのだろう。

ゆきのへはサンデルジュという地名に聞き覚えがあるみたいだったが、こういう理由だったのか。

俺も最初ムツヘタからサンデルジュの話を聞いた時は驚いたので、ゆきのへが信じられなかったのも無理はなさそうだ。

 

「でも、サンデルジュの地に来たことで、先祖の話が本当だったって分かったんだな」

 

「ああ。だからお前さんに最高の武器で挑んでほしいと思って、ビルダーハンマーの話をしたんだ」

 

俺がそう言うと、ゆきのへはうなずいてから話す。

ビルダーハンマーの作り方がサンデルジュのどこに隠されているのか分からないけど、俺も準備は万全にして戦いに行きたいのでそれが分かったらすぐに探しに行くか。

俺は詳しい隠し場所が分からないかと、ゆきのへに聞いてみる。

 

「それならさっそく作り方の書かれた書物を探しに行って来ようと思うんだけど、サンデルジュのどの辺りに隠されているのか分かるか?」

 

「親父の話では、サンデルジュの峡谷にある洞窟の中に隠されていると聞いたぜ」

 

峡谷か···ムツヘタの話ではそこに闇の戦士がいると言っていたな。

配下の魔物も生息している可能性が高いが、いつものように隠れて進めば安全だろう。

闇の戦士との戦いまではまだ時間があるだろうが、配下の魔物との戦いにも役立つだろうからさっそく俺は探しに行こうとする。

 

「分かった。峡谷に行くのは初めてだけど、ビルダーハンマーの作り方が書かれた書物を探してくるぜ」

 

「ああ、書物を手に入れたらすぐにワシに見せてくれ」

 

俺はゆきのへとの話を終えると、峡谷に向かおうと砦の外に出ていく。

 

砦の外に出ると、俺はまず魔物の動きがどうなっているかを見てみた。

さっきはゆきのへに話しかけられて見ることが出来なかったからな。

すると、やはり魔物の活動も激しくなっており、人間が近くにいないか常に警戒しているように見えた。

 

「やっぱり魔物の動きも活発になってきているのか」

 

魔物の種類や数は変わっていないが、いつもより隠れて進むのは難しそうだな。

でも、ビルダーハンマーがあれば戦いの勝ち目は上がるはずなので、俺は慎重に動きながら峡谷へ向かっていく。

 

「いつもより慎重に動かないとすぐに見つかりそうだな」

 

見つかりそうになったら落ちている大きな石の裏に隠れて、奴らの視界から外れるようにする。

視界に入っていない時も、足音で気付かれないようにゆっくりと歩いていった。

そして、普通なら10分ほどで着く距離なのに、30分もかかってようやくサンデルジュの峡谷にたどり着くことが出来た。

 

「時間はかかったけど無事に着いたな。ここがサンデルジュの峡谷なのか」

 

峡谷は砦や森よりもさらに深いところにあり、少なくとも200メートルはある岩山に囲まれている。

そのため昼でもほとんど日が当たらず、とても暗くなっていた。

 

「気味が悪いけど、さっきよりも隠れて進みやすそうだな」

 

でも、その分草原よりも魔物に見つかりにくそうなので、俺はさっきより速く歩いていく。

峡谷にはブラバニクイーンという草原にもいる魔物も生息していたが、ダースドラゴンの上位種であるゴールデンドラゴンも見かけられた。

でも、やはり暗い場所では奴らも遠くが見えにくいらしく、俺は見つからずに進んでいくことが出来た。

 

「やっぱり魔物たちも、暗い場所では人間を見つけにくいようだな」

 

峡谷を探索していると、見たこともない鉱物が埋まっている鉱脈も見つかった。

その鉱物は非常に数が少ないが、オリハルコンよりも固く、透明で美しいものだった。

 

「ダイヤモンドみたいだけど、今は採掘出来なさそうだし使い道もないな」

 

俺も実物を見るのは初めてだが、恐らくはダイヤモンドの原石だろう。

でも、ダイヤモンドはとても固いが炭素で出来ているので、まほうの玉を使って採掘すれば燃え尽きてしまうだろうし、炉で武器に加工することも出来そうにない。

希少な鉱物だが採掘手段も使い道もないので、俺はダイヤモンドの鉱脈から離れて峡谷の探索を続けることにした。

 

「ダイヤモンドは手に入れてみたいけど、今は峡谷の探索を続けるか」

 

その後、俺は再び魔物から隠れながらサンデルジュの峡谷の奥へ進んでいく。

峡谷にはダイヤモンド以外の鉱物もたくさんあったが、今は集めずに探索を続けていく。

そして、しばらく進み峡谷に入って10分くらい歩き続けたところで、人が入った形跡のある洞窟を発見することが出来た。

 

「洞窟の中にカベかけ松明が置いてあるけど、ここがゆきのへの言っていた場所なのか?」

 

その洞窟にはいくつもカベかけ松明が置いてあり、明らかに人が入った痕跡だった。

サンデルジュの地に他に入った人がいるとは考えにくいので、ここがビルダーハンマーについて書かれた書物が眠っている洞窟なのだろう。

 

「結構深い洞窟だし、ここなら書物が魔物に見つかっていることもなさそうだな」

 

洞窟は荒らされていないので、魔物に書物が奪われている心配はなさそうだ。

なので、俺はさっそくビルダーハンマーについて書かれた書物を手に入れようと洞窟の中を調べていく。

中に魔物はいないのでいつもの普通の速さで歩くことができ、深い洞窟だがすぐに奥へ進むことが出来た。

 

「洞窟の中には魔物がいないから探索がしやすいな」

 

途中からはカベかけ松明がなくなったが、一本道なので迷うことはなかった。

10分くらい歩いて洞窟の最深部に着くと、そこに宝箱が置いてあるのが見えてきた。

恐らくその中にビルダーハンマーの作り方が書かれた書物が入っているだろうから、俺はその宝箱に近づいてふたを開ける。

開けてみると、宝箱の中には数百年前に書かれたと思われる古い紙が何枚か入っていた。

 

「これがビルダーハンマーについて書かれた書物か···砦に戻ったらゆきのへに見せないとな」

 

その紙には見たことのない形のハンマーが書かれており、恐らくこれがビルダーハンマーなのだろう。

俺は早くゆきのへに見せようと書物をポーチにしまって、洞窟から出ていった。

洞窟から出る時も魔物がいないか警戒して出ていき、慎重に歩いて砦へと歩いていく。

そして、45分くらい魔物に見つからないように歩いて、俺はゆきのへたちの待つサンデルジュの砦にたどり着くことが出来た。

 

サンデルジュの砦に戻ってくると、俺はさっそく書物を見せようとゆきのへを呼び出す。

 

「ゆきのへ、魔物がいて時間がかかったけど、ビルダーハンマーの作り方が書かれた書物を取って来たぞ」

俺の声を聞くと、ゆきのへはすぐに部屋の中から出てきて書物を見に来ようとした。

 

「やはり先祖の話は本当だったのか。雄也、さっそくワシにその書物を見せてくれ」

 

「ああ、これが手に入れてきた書物だぞ」

 

俺が書物を手渡すと、ゆきのへはすぐに作り方が書かれている部分を読み始める。

数百年前に書かれた紙なので一部ボロボロになっている部分もあったが、文字が読めないほどにはなっていなかった。

しばらく読み進めてビルダーハンマーの作り方が分かると、ゆきのへは俺に必要な素材を伝える。

 

「この書物によると、ビルダーハンマーを作るのには鉄のインゴット、はがねインゴット、オリハルコン、金の4種類の素材が必要らしいぞ」

 

「おうじゃのけんは6種類の素材を使ったのに、ビルダーハンマーは4種類でいいのか?」

 

その話を聞くと俺は最強のハンマーなのにそんなに少ない素材で作れるのか···?と思い、ビルダーの力を使って必要な素材を確かめることにする。

ビルダーハンマー···オリハルコン3個、鉄のインゴット1個、はがねインゴット1個、金1個 神鉄炉と金床

それでも、ゆきのへの言う通り4種類の素材だけで作れると出てきた。

もしかしたら、少ない素材で強い武器を作るというのも、鍛冶屋の技術なのかもしれないな。

 

「ワシも少しは驚いたが、先祖が少しでも作りやすいようにと思ったんだろうぜ」

 

ビルダーの魔法を使っている間に、俺の言った発言に対してゆきのへはそう答える。

最強の武器であり、なおかつ作りやすいハンマーを考えるなんて、本当にゆきのへの先祖はすごいな。

鉄のインゴットとはがねインゴットは今持っているし、オリハルコンと金もラダトームの大倉庫から取って来ればよさそうだな。

 

「それだったら、後はオリハルコンと金をラダトームの大倉庫から持って来れば作れるな」

 

ラダトームにならすぐに行けるし、今日中にビルダーハンマーを作ることが出来そうだ。

 

「今日はまだ時間があるし、これから取りに行ってくるぞ」

 

「分かった。戻って来てすぐに大変だが、頼んだぜ」

 

ゆきのへの言う通り大変だが、俺はビルダーハンマーを完成させるためオリハルコンと金を取りにラダトームに行こうとする。

ついでに、ムツヘタに闇の戦士の居場所探しに進展がなかったか聞くことにもした。

さっきのように魔物から隠れて15分ほど歩き続けて俺は旅のとびらにたどり着き、そこからラダトーム城へと入っていった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode116 最強のハンマー

高校受験が終わって春休みに入ったので投稿を再開します。

最近更新頻度が非常に低いですが、春休み中に5章(エピソード122まで)は完成させたいと思います。


旅のとびらをくぐってラダトーム城に着くと、俺はさっそく大倉庫からビルダーハンマーを作るのに必要な素材を取りだし始める。

ハンマーを作るのに必要な素材はすぐに取り出せるので、俺はそれ以外にサンデルジュでの生活で必要になりそうな物も集めることにしていた。

 

「金とオリハルコンがあればビルダーハンマーは作れるけど、せっかくだから他の素材も取り出しておくか」

 

金を1個、オリハルコンを3個手に入れた後に、俺は明かりを作るのに必要なあおい油を取り出す。

サンデルジュにはスライムがいないのであおい油を集めることが出来ず、夜は真っ暗だったからな。

一応、ゲームと違って明かりがなくても部屋を作ることは出来るが、明かりがあるに越したことはないだろう。

「これで明かりが作れるようになったし、夜も明るい部屋で過ごせそうだな」

 

俺はあおい油を取り出すと、その次にひもなどさまざまな設備を作るのに必要な素材や、くすりの葉など傷を治すのに必要な物を取り出していく。

必要な素材を一通り手に入れた後は、兵士たちに魔物との戦いの状況について、ムツヘタに闇の戦士の居場所について聞きに行くことにした。

 

「これでサンデルジュの生活に必要な物は揃っただろうし、ラダトーム城のみんなと話しに行くか」

 

俺はみんなと話をするために、ラダトーム城の希望のはたの近くへと歩いていく。

すると、みんなを探している間に、城の一部に魔物の攻撃を受けたような跡が見かけられた。

もしかして魔物の襲撃を受けたのか?と思っていると、オーレンが俺を見つけて話しかけてきた。

 

「雄也さん、2日ぶりですね!今日も素材を集めに来ていたのですか?」

 

オーレンはいつもの口調で話しているが、どこか深刻そうな顔をしていた。

やはり何かあったのだと思い、俺は魔物の襲撃があったのかと尋ねる。

 

「ああ、素材を集めるついでにみんなに会いに来た。深刻そうな顔をしているけど、魔物の襲撃があったのか?」

 

「はい、昨日20体を越える魔物がこの城へと迫って来ました。僕たちが何とか倒しましたが、さらに魔物の活動は激しくなって来ています」

 

俺が質問すると、オーレンはうなずいてからそう話し始める。

外を眺めると、彼の言う通りラダトーム城付近の魔物の活動は竜王が生きていた頃より激しくなっており、いつ次の襲撃が来てもおかしくないような状況になっていた。

闇の戦士は竜王と違って人間を滅ぼすことが目的のようなので、魔物の活動もここまで激化しているのだろうな。

 

「昨日はサンデルジュにも襲撃があった。闇の戦士の捜索も急がないといけなさそうだな」

 

「はい。あれ以上の数の魔物が来れば、ラダトームもサンデルジュも危ないでしょうね」

 

サンデルジュへの襲撃のことも話すと、オーレンは不安そうな口調になってそう言う。

30体を越える数の強大な魔物が来るとなれば、これから作るビルダーハンマーを使っても厳しい戦いになりそうだ。

それに、オーレンは魔物が不穏な動きをしているという話もする。

 

「それに、昨日の戦いに負けてから魔物たちがラダトーム城の西の島に集まろうとしているのです」

 

ラダトーム城の西の島と言うのは、恐らくラダトームの仮拠点があった場所のことだろう。

そこで魔物たちが何をしているのかは分からないが、人間を滅ぼすための計画を立てているのは間違いなさそうだな。

 

「魔物にそんな動きがあったのか···やっぱり心配だし、それについてもムツヘタに聞くか」

「確かにムツヘタさんになら、何が起きているのか分かるかもしれないですね」

 

俺はそこでムツヘタに、闇の戦士の居場所だけでなく、魔物の不穏な動きについても聞くことにする。

復興したアレフガルドを再び滅ぼされる訳にはいかないので、魔物の状況を詳しく知っておきたいからな。

 

「兎に角俺はムツヘタに、闇の戦士の居場所や魔物の動きについて聞いて来るぜ」

 

俺はそう言ってオーレンと別れて、ムツヘタのいる占いの間に向かって行った。

占いの間の扉を開けると、ムツヘタも深刻な顔をしながらシャナク魔法台を見ていた。

俺はまずムツヘタに、闇の戦士の居場所について聞き始めることにする。

「ムツヘタ、素材集めのついでに聞きに来たんだけど、闇の戦士の居場所は分かったか?」

 

「雄也か···そなたがサンデルジュに戻った後に探してはみたのじゃが、昨日は魔物との戦いがあったりして、まだ居場所を特定出来てはおらぬ」

 

俺が聞くと、ムツヘタは首を横に振ってからそう言う。

もしかしたら昨日の魔物の襲撃は、闇の戦士の居場所探しを妨害する目的もあったのかもしれない。

ムツヘタは戦闘には参加しないものの、魔物の襲撃がある間は落ち着いて作業を行うことは出来ないだろうからな。

 

「そうか···じゃあ、さっきオーレンが魔物がラダトームの西に集まっているっていたけど、それについては何か分かるか?」

闇の戦士の居場所についてはもう少し時間がかかりそうなので、俺は魔物の不穏な動きについて聞く。

すると、ムツヘタは魔物の動きに対して何か嫌な予感がすると言い出した。

 

「これはまだわしの予測でしかないのじゃが、あの魔物たちの動きを放っておけば恐ろしいことが起こる予感がするのじゃ」

 

「恐ろしいこと···?どんなことが起こるんだ?」

 

ムツヘタは予言者なので、その嫌な予感が当たる可能性は高いと言えるだろう。

 

「詳しくは分からぬが、再び人の世に破滅が訪れるほどの災いが起こるかもしれぬ」

 

闇の戦士の配下の魔物がしていることなので、やはり人間を滅ぼすようなことなのか。

闇の戦士は配下の魔物が既に100体近く倒されている訳だし、単に拠点を襲うだけでは人間は倒せないと判断したのだろう。

 

「詳しいことは分からないけど、調べに行ったほうがよさそうだな」

 

「わしもそう思って、今日は闇の戦士の居場所と同時に魔物がラダトームの西のどの辺りに集まっているのかも調べておる」

 

ムツヘタは嫌な予感を感じてから、さっそく魔物の動きについても調べ始めているようだ。

だが、まだ闇の戦士の居場所と同じように正確な位置は分からないようだった。

 

「それで、魔物たちはどの辺りに集まっているんだ?」

 

「わしも早く知りたいのじゃが、今日探し始めたのだからまだ詳しくは分かっておらぬのじゃ」

 

俺は今すぐにでも行きたいが、闇の戦士の居場所と同じで詳しくは特定できていないのか。

俺は肩を落としたが、ムツヘタはラダトームの西はサンデルジュより狭いので早く見つかると言った。

 

「大丈夫じゃ、ラダトームの西は狭いからすぐに場所が特定できるはずじゃぞ」

それなら、世界が再び滅びる前に見つけられる可能性はあると言うことか。

 

「そうなのか。なら、闇の戦士の居場所についても、魔物の動きについてもなるべく早く調べてくれ」

 

今まで協力してラダトームを復興させてきたムツヘタが言うことなのできっと大丈夫だろう。

俺はムツヘタがうなずいたのを見てから占いの間を出て、旅のとびらのところへ向かった。

「魔物の動きは気になるけど、まずはビルダーハンマーを完成させるか」

 

オーレンやムツヘタと話をしていて、ゆきのへが待ちくたびれているかもしれないからな。

俺は旅のとびらがあるところに来ると、サンデルジュに繋がる緑のとびらに入り、砦へ戻っていった。

 

砦に近づいて来ると、ワクワクした顔で俺を待っているゆきのへの様子が見えてくる。

ビルダーハンマーが完成するのが待ち遠しいようで、俺が砦に入るとさっそくゆきのへに話しかけられた。

 

「雄也、戻ってきたのか!ビルダーハンマーの素材は集まったのか?」

 

「ああ、ラダトームの大倉庫から取ってきたぜ。これでビルダーハンマーが作れるはずだ」

魔物との戦いでの勝ち目が上がるので、ビルダーハンマーが出来ることは俺にとっても嬉しいことだが、ゆきのへにとっては俺以上に嬉しいことだろう。

俺が素材が集まったことを伝えると、さっそく作って見せてほしいとゆきのへは言う。

 

「良かった。ワシも先祖が考えた最強のハンマーを見てみたいし、さっそく作ってみてくれ」

 

「ああ、少し時間はかかるけど、出来上がるのを待っていてくれ」

 

俺もビルダーハンマーの形は書物で見たことがあるが、早く実物を見てみたいぜ。

俺はさっそく工房に入っていき、神鉄炉と金床の前に立って作業を始める。

最初に素材となる鉄のインゴット、はがねインゴット、金、オリハルコンを炉の中に入れて、それからビルダーの魔法を使ってビルダーハンマーの形にしていく。

ビルダーハンマーは最強の武器だからなのか分からないが、完成に時間がかかっていた。

 

「いつも武器を作る時よりも長く時間がかかっているな」

 

でも、しばらく魔法をかけ続けることで形が仕上がっていき、書物で見た通りのビルダーハンマーの形になる。

ビルダーハンマーが出来上がると、俺はさっそく手に取ってゆきのへのところに向かった。

 

「これがビルダーハンマーか···確かにすごく固くて強そうだな」

 

おおかなづちなどよりも大きくて重いが、その分全ての物を砕けるような威力がありそうだった。

これなら正気を取り戻した闇の戦士が相手でも勝てる可能性はあるだろう。

そんなことを思いながらゆきのへのところへ歩いていき、俺は完成したビルダーハンマーを見せた。

 

「ゆきのへ、いつもより時間はかかったけど無事にビルダーハンマーが完成したぞ!」

 

「おお!よくやったな、雄也!確かに書物に書かれていた通りのビルダーハンマーだ!」

 

ビルダーハンマーを見せると、ゆきのへはとても嬉しそうな顔になり、興奮した口調で話をする。

そして、これならどんな魔物でも倒せると、確証を持ったような言い方もした。

 

「これを使えば、どんな魔物にでも勝てないことはないはずだぜ!」

 

「ああ、これで今度こそ闇の戦士にとどめをさしてやるつもりだ」

砦の設備はまだ強化していかなければいけないし、魔物の不穏な動きを突き止める必要もあるが、最終決戦に使う武器はおうじゃのけんとビルダーハンマーで決まりだろう。

 

「ワシの家系に伝わる最強のハンマーなんだ、お前さんなら世界を裏切った勇者にでも勝てるだろう」

 

ただ、ビルダーハンマーにも一つだけ欠点があるとゆきのへは言った。

 

「ただ、最強のハンマーであるビルダーハンマーにも一つだけ欠点があるらしいんだ」

 

「それって、魔物との戦いに影響することでか?」

 

その欠点が魔物との戦いに影響を及ぼすのであれば改善しなければいけないが、ゆきのへは魔物との戦いには関係しないと話す。

「いや、魔物との戦いには関係ない。書物の記述によると、ビルダーハンマーで鉱脈を叩くと、鉱石ではなく鉱脈そのものを手に入れてしまうらしいんだ」

 

つまり、ビルダーハンマーでは鉱石を集めることが出来ないと言うことか。

ハンマーとしては大きな欠点であるが、鉱石なら今まで使っていたハンマーやまほうの玉で集められるし、攻撃力が最強なのであれば問題なさそうだ。

もともとビルダーハンマーは世界を救うための武器であり、採掘に使う物ではないので、ゆきのへの先祖も大丈夫だと判断したのだろう。

 

「確かにそのくらいの欠点なら大したことないな。採掘が出来なくても、戦闘に直接の影響はないからな」

「ああ、出来れば何とかしたかったが、今のままでも大丈夫だろうよ」

 

ゆきのへも先祖と同じで、採掘の機能は必ずしも必要ないと考えているようだ。

俺は少し不安ではあったが、伝説の鍛冶屋の家系が考えた武器なので心配ないだろう。

 

その後、俺はゆきのへともうしばらく話してから、ビルダーハンマーをポーチへとしまった。

ゆきのへとの話を終えるともう夕方になっており、俺は夜になる前にあおい油で部屋の明かりを作ることにする。

そして、明かりが出来上がった後は夕食を食べて、明日からに備えて早めに眠りについた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode117 白花の秘薬

俺たちがサンデルジュに来てから7日目の朝、もう闇の戦士を探し始めてから1週間が経つが、まだ奴の居場所は特定できていない。

それで、俺は最強の武器であるビルダーハンマーも作ったので、今日は何をしようかと考えながら砦の中を歩いていた。

すると、ルミーラが砦の設備について提案したいことがあるらしく、俺に話しかけてくる。

 

「雄也、少しいい?わたしからも砦の強化について提案があるんだけど」

 

そう言えばルミーラは一昨日の戦いで傷を負ってから、設備の強化について積極的に考えるようになっていたな。

アローインプのルミーラなら、人間が知らないような設備や武器も知っているかもしれない。

いつ闇の戦士の配下の魔物が襲って来るか分からないし、万全の対策をしておくべきなので、彼女の提案を聞いておいたほうがいいだろう。

 

「もちろん聞くぞ。どんな魔物が来てもいいように、砦ももっと強化しないといけないからな」

 

俺がそう言うと、ルミーラは傷を癒すための薬が必要だと話し始める。

 

「それなら、さっそく伝えるね。わたしが必要だと思って考えたのは、大ケガをした時でもすぐに治療できる薬。この2つがあれば、闇の戦士の配下との戦いも楽になると思う」

 

新たな薬···薬ならきずぐすりや薬草があるが、ルミーラが言っているのはそれら以上に強力な薬のことなのだろう。

確かに大ケガをした場合、きずぐすりなどでは回復しきれないこともありそうなので、強力な薬もあったほうがいいかもしれないな。

これからさっそく作ろうと思い、俺は強力な薬を作るのに必要な素材を聞き始める。

 

「確かに強力な薬があれば戦いの勝ち目が上がりそうだな。今から時間があるし、作り方を教えてくれ」

 

「わたしがいた森に生えている大きな白い花を使えば作れるはず。あの花には多くの傷を癒す成分が含まれているから。森に入ったことのあるあなたなら、見たことがあるかもしれないね」

 

ルミーラの救出に向かっている時にいくつか見つけたあの花のことか。

最初にあの花を見た時、きずぐすりの原料であるしろい花が独自の進化を遂げた物だと思っていたけど、やはりそうだったようだ。

生えている場所もだいたい覚えているし、すぐに集めてくることが出来るだろう。

 

「それなら見たことがあるな。森までならあまり時間はかからないし、これから集めて来るか」

 

「じゃあ、大きな白い花を集めてきたら薬に加工する方法を教えるね」

 

いつ魔物が襲ってきてもいいように、なるべく早く作ったほうがいいので、俺はさっそく大きなしろい花を集めに森へと向かおうとする。

今日も魔物の活動は激しくなっているだろうが、慎重に進めば見つかることはないだろう。

 

「ああ、1時間くらいかかると思うけど待っていてくれ」

 

俺はそうルミーラに言ってから砦を出て、体勢を下げながらサンデルジュの草原を歩いていった。

草原を歩いている時、俺はいつものように魔物の様子を見ながら進んでいく。

やはり奴らは俺たちのことを警戒しているようで、隅々まで監視するかのような動きをしていた。

だが、魔物の数は昨日ビルダーハンマーの書物を探しに行った時と比べて、少し減少しているように見えた。

 

「相変わらず俺たちのことを警戒しているな···でも、この前より数が少ないぞ。どうなってるんだ?」

 

俺たちの砦を攻めようと一ヶ所に集まっているのかと思ったが、そんな様子も見かけられない。

でも、多くの魔物が倒されているのに警戒を弱めているということは、何か理由がありそうだな。

 

「オーレンとムツヘタが魔物が不穏な動きをしていると言ってたけど、何か関係あるのか?」

 

魔物がラダトームの西に集まっていると言っていたけど、もしかしたらサンデルジュの魔物もそこに向かっているのかもしれないな。

でも、本当にサンデルジュの魔物がラダトームの西に向かっているとしたら、魔物たちは一体何をしているのだろうか?

 

「魔物の動きは気になるけど、今はやっぱり戦いの準備を進めるしかないか」

 

ここで考えていても仕方ないので、俺は大きな白い花を集めに再び森へと歩き始める。

警戒はされているものの、魔物の数が少ないので俺はいつもより早く進むことができた。

そして、砦を出てから10分くらいの時間で、俺は森の入り口にたどり着いた。

 

森の中に入ると、俺はさっそくこの前大きなしろい花を見たところに向かっていく。

森の中も草原と同じように魔物の数が少なくなっており、いつもより早く歩くことが出来た。

 

「やっぱり森の中の魔物も、少し数が減っているな」

 

そして、森は隠れる場所が多いのでさらに進みやすく、俺はすぐにこの前大きな白い花を見つけた場所にたどり着く。

白い花が魔物に取られている可能性も考えたが、無事に咲いていることも確認できた。

 

「魔物の活動は激しくなっているけど、白い花は無事だったか。さっそく集めて、砦に持ち帰らないとな」

 

白い花が咲いているのを確認した後、俺は持っている剣を使って回収していく。

この白い花も刈り取ると花びらになったが、普通の白い花びらと比べるとかなり大きかった。

 

「薬を作るのに1つでは足りないだろうし、もう少し集めていくか」

 

俺はその大きな白い花びらを手に入れると、まわりに咲いている白い花も次々に刈り取っていく。

かなり大きな花びらであっても、ルミーラの考えている薬を作るのには1つでは足りないだろうからな。

そうして、しばらく森を探索し続けることで、俺は10個ほどの大きな白い花を集めることが出来た。

 

「少し時間はかかったけど、結構な数の大きな白い花が集まったな」

 

大きな白い花びらを集め終えると、俺はそれらを全てポーチにしまい、サンデルジュの砦へと戻ることにする。

魔物の数が少なくなっているので帰りも時間はかからず、10分ほどで砦の近くまで戻ってくる。

だから、ルミーラには1時間くらいかかると言っていたが、森へ行ってから戻って来るまで45分くらいしか経っていなかった。

 

俺は砦へと戻ってくると、すぐに大きな白い花が集まったことをルミーラに教えに行こうとする。

ルミーラは砦の中を歩いており、俺は話しかけて大きな白い花びらを見せた。

 

「ルミーラ、大きな白い花をいくつか集めて来たぞ」

 

「思ったより早く帰って来たけど、たくさん集まったみたいね。なら、さっそく新しい薬の作り方を教えるね」

 

ルミーラも俺が早く帰ってきたことが少しは気になっているようだな。

でも、魔物の不穏な動きが原因であるとは思っていないようで、そのことについては俺に聞かず、薬の作り方について教え始めようとする。

ルミーラはアローインプだが、魔物に不穏な動きがあったのは昨日からなので詳しいことは知らないだろうから、俺も魔物の動きのことは話さず、新しい薬について聞くことにした。

 

「ああ、早く薬を作っておきたいし、教えてくれ」

 

俺がそう言うと、さっそくルミーラは大きな白い花を使った薬の作り方について話し出す。

 

「わたしが考えたのは飲み薬で、大きな白い花の成分を濃縮して作るもの。花びら1枚じゃ足りないけど、あなたが持っている量があればいくつも作れるはずね」

 

普通の白い花から作るきずぐすりは塗り薬だが、ルミーラが考えたのは飲み薬なのか。

塗り薬よりも飲み薬のほうが使うのに時間がかからないので、戦いの最中にも使えるようにと思ったのかもしれないな。

それと、やはり花びらが何枚か必要なようなので、たくさん集めておいてよかったぜ。

俺がそんなことを考えていると、ルミーラはその薬の名前や見た目についても教えてくれる。

 

「それと、薬の名前は大きな白い花から作られた効き目の強い薬という意味で、白花の秘薬。白い花そのものを加工するんじゃなくて、白い花の成分を取り出して濃縮するんだから、見た目は透明ね」

 

ピリンたちはルミーラにビルダーの能力に関することも教えていたから、見た目が分からなければ魔法を使えないということも知っているようだ。

こちらから聞く手間が省けて、すぐに必要な素材の数を調べ始められるので助かったぜ。

 

「細かく教えてくれてありがとうな。必要な素材の数を調べたら、すぐに作り始めるぜ」

 

そして、白花の秘薬の見た目を聞き終えると、俺はルミーラにそう言ってビルダーの魔法を発動させる。

1つ作るのにも多くの白い花を使いそうだが、どのくらい必要になるのだろうか?

白花の秘薬···秘境の白花5個 調合ツボ

秘境の白花というのはサンデルジュの森に生えている白い花のことのようだが、あの大きな花が5つも必要になるようだな。

それと、リムルダールを復興させる時にも使っていた調合ツボも必要になるのか。

でも、秘境の白花は10個集めてきてあるし、調合ツボを作るのには土、粘土、あおい油を使うが、土と粘土はサンデルジュの砦のすぐ近くで集められ、あおい油は昨日ラダトーム城の大倉庫から取ってきてあるので、作るのに時間はかからなさそうだ。

 

「調合ツボが必要になるとは思っていなかったけど、すぐに作れるから良かったな」

 

白花の秘薬を作るのに必要な素材を調べ終えると、俺は粘土がある場所へと歩いていく。

粘土がある場所の近くには普通の土もたくさんあるので、調合ツボを作るのに必要な数はすぐに揃えられそうだな。

砦から近い場所なので、そんなことを考えながら歩いているとすぐに着くことが出来た。

 

「調合ツボを作るのに必要な数なら、すぐに集まりそうだな」

 

調合ツボを作るのには土が8個、粘土が5個必要であり、おおかなづちを使ってそれらを回収していく。

土や粘土はおおかなづちなら一撃で壊せるので、次々に集めていくことが出来た。

そして、時間をかけずに必要な数を集めると、俺は砦に戻っていった。

 

砦に戻ってくると、俺は早く調合ツボや白花の秘薬を作ろうと工房へと入っていく。

工房の中に入ると、まずはさっき手に入れた土と粘土、昨日ラダトームから取ってきたあおい油を使って、調合ツボを作り始めた。

俺は取り出した3つの素材を万能作業台の上に乗せると、それらに向かってビルダーの魔法をかけていく。

すると、それらの素材が合体していき、やがて見覚えのある調合ツボに変化していった。

 

「これで調合ツボが出来たから、白花の秘薬を作り始めるか」

 

出来上がった調合ツボを工房の中に設置すると、俺は次にそれを使って白花の秘薬を作っていく。

5つの秘境の白花をポーチから取り出すと、俺はそれらを調合ツボに入れてビルダーの力を使った。

すると、秘境の白花に含まれている癒しの成分が濃縮されていき、ルミーラが言っていた見た目の薬が出来上がっていく。

 

「これが白花の秘薬か。せっかく出来たんだから、ルミーラに見せないとな」

 

見た目では分からないが、癒しの成分を濃縮して作られた薬なので高い効果が期待出来そうだな。

もし次に魔物が襲ってきて、戦いの時にケガをしてもすぐに治せるだろう。

闇の戦士の居場所が分かったのに、傷を負っていて戦いに行けないという状況も避けられそうだ。

俺は出来上がった白花の秘薬を見ていろいろなことを思いながら、ルミーラのところに向かった。

 

「ルミーラ、白花の秘薬が出来たから見せに来たぞ」

 

「わたしが考えていた通りの薬が出来たみたいだね。これで闇の戦士の配下に勝てる可能性も上がるんじゃない?」

 

白花の秘薬を見せると、ルミーラは俺にそう言ってくる。

戦いの傷を癒しやすくなったので、確かに魔物との戦いの勝ち目も上がっただろう。

サンデルジュの魔物は強力だから、大きな傷を負う可能性は高いからな。

 

「ああ、ケガをしないようにすることも大事だけど、もしした時のことを考えるのも大事だからな」

 

「わたしもそう思ってる。もし今度大きな傷を負うことがあったら、白花の秘薬を使ってみてね」

 

なるべく傷を負わないように気を付けて戦うが、万が一の時はこの薬を使おう。

どんな味がするかは分からないが、癒しの効果はとても高いはずだからな。

 

俺とルミーラは話をした後もうしばらく白花の秘薬を見て、その後部屋の中へと戻っていった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode118 終末の気配(前編)

白花の秘薬を作ってから3日間、魔物が襲撃してくることはなかったが、俺は砦の付近に生息している魔物に何か動きがないか毎日観察していた。

すると、やはりサンデルジュの魔物もラダトームの西の地域に移動しており、ムツヘタの言う通り何か恐ろしいことを計画しているのは間違いないようだった。

魔物の数が減ったことで砦の外の探索がしやすくなっているが、放っておく訳にはいかない。

俺は早く調べに行きたいと思っているが、魔物が集まっている場所の特定も闇の戦士の居場所探しほどではないが大変なようで、俺が思っているより時間がかかっていた。

 

だが、白花の秘薬を作った4日後、サンデルジュに来てから11日目の朝、ムツヘタの活動に進展があったらしく、城の兵士であるドロルのチョビがサンデルジュの砦に報告に来ていた。

 

「久しぶりデスね、雄也ドロル!ムツヘタにあなたヲ呼んデ来ルようニ言わレテ、ここニ来まシタ」

 

数が減っているとはいえサンデルジュには強力な魔物がたくさんいるので、ドロルの姿に戻ることが出来るチョビに俺を呼びに行かせたようだ。

チョビはルミーラと違って魔物の姿のまま拠点で行動したこともないので、他の魔物たちに裏切り者だとも思われていないだろう。

それにしても、ムツヘタの方からわざわざ俺を呼びに来ると言うことは、闇の戦士の捜索か魔物が集まっている場所の特定に大きな進展があったようだな。

 

「もしかして、ムツヘタが調べていることについて何か進展があったのか?」

 

「詳しくハ分かりマセンが、ドコに魔物が集まっテいるノカ特定出来タと聞いテいマス」

 

俺がそのことについて聞いてみると、チョビはそう言ってくる。

闇の戦士の居場所についてはまだのようだが、魔物たちが集まっている場所は特定することが出来たのか。

魔物が行っている計画を止められるかは分からないが、調べに行ったほうが良さそうだな。

 

「時間はかかったけど、確かに大きな進展だな。ムツヘタに詳しい場所を聞いて、魔物が何をしているか調べて来るぜ」

 

チョビは詳しいことは知らないと言っているので、魔物が集まっている場所はムツヘタ本人に聞かないといけないだろう。

俺はそう話すと、さっそくムツヘタと話すためにラダトームに向かおうとする。

放っておけば何が起こるか分からないし、調べるのはなるべく早いほうがいいからな。

 

「気ヲ付けテくだサイね、雄也ドロル!」

 

俺が砦から出て旅のとびらのところへ向かっていると、チョビはそう言って俺を見送る。

チョビもすぐにラダトームに戻るのかと思っていたが、サンデルジュまで歩いて疲れているようで、砦の中で休んでいた。

しばらくすると、ピリンたちがチョビに気づいて話しかけているところも見かけられた。

俺はそんなみんなの様子も見ながらサンデルジュの草原を歩いていき、10分ほどでラダトームに繋がる旅のとびらにたどり着いた。

 

旅のとびらを抜けてラダトーム城に着くと、俺はムツヘタと話すために占いの間に向かっていく。

途中で兵士のラスタンに出会ったが、彼もムツヘタが俺を呼んでいると言ってきた。

 

「また会ったな、雄也!チョビから聞いていると思うが、ムツヘタから大事な話があるらしいぞ」

 

「ああ、これから占いの間に話を聞きに行こうと思ってる」

 

ムツヘタが教えたのだろうが、もうチョビだけでなくラダトーム城のみんなもそのことを知っているのか。

俺はラスタンにそう言って城の中を歩いていき、占いの間の所に来ると中に入ってムツヘタに話しかける。

魔物が集まっている場所を特定できても、まだ闇の戦士の居場所を探さなければいけないので、彼は今もシャナク魔法台を使っていた。

 

「ムツヘタ、チョビから聞いたぞ。魔物たちが集まっている場所が特定できたんだってな」

 

「雄也よ、さっそく来てくれたか。時間がかかってすまなかったが、今日の朝チョビに伝えた通り多数の魔物の反応がある場所を突き止めたのじゃ」

 

俺が話しかけると、ムツヘタは一旦作業を中断して話し始める。

確かに俺が思っているより時間がかかっていたが、まだ恐ろしいことは起きていないので大丈夫だろう。

だが、今は大丈夫でもこれから何が起こるか分からないので、詳しい場所を聞いて調べに行こうとする。

 

「それなら、さっそく詳しい場所を教えてくれ。今日調べに言って来るぜ」

 

「場所はラダトームの仮拠点の南東にある岩山の中じゃ。おそらくは、岩山を掘って巨大な空間を作り、その中に無数の魔物がいるのじゃろう」

 

ラダトームの仮拠点の南西には浄化のふんすいが置いてある池があるので行ったことがあるが、南東には岩山しかないので行ったことがなかったな。

その岩山はかなりの大きさなので、巨大な空間を作ることも出来るだろう。

俺がそんなことを思っていると、ムツヘタは話を続ける。

 

「岩山のどこかに入り口があるはずじゃから、そこから入るといい」

 

入り口の場所はまだ特定できていないみたいだが、そのくらいならすぐに見つけらそうだ。

仮拠点に繋がる旅のとびらまでは15分くらいなので、そんなに時間もかからないだろう。

でも、これで魔物が集まっている場所と行き方は分かったが、どうして魔物たちはわざわざ岩山を掘って空間を作ったのだろうか?

 

「ありがとうな、これで調べに行けるぜ。でも、何で魔物たちは岩山を掘って空間を作ったんだ?」

 

そのことについて聞くと、ムツヘタは深刻そうな顔になった。

そして、魔物たちが集まっている場所から闇の戦士のようにおぞましい闇の力が感じられると言う。

 

「それはワシにも分からぬのじゃ。じゃが、魔物たちが集まっている場所から竜王や闇の戦士と同じか、それ以上強い闇の力が感じられるのじゃ」

 

今日ムツヘタが魔物たちの居場所を特定出来たのは、その闇の力が強くなったからなのかもしれないな。

俺はムツヘタと違って闇の力を感じることが出来ないので分からないが、多くの魔物が集まっているからではないのだろうか?

 

「それって、単純に魔物の数が多いからじゃないのか?」

 

「いや、いくら普通の魔物が集まってもあれほどおぞましい闇の力を放つことは無い。これはワシの想像じゃが、たくさんの魔物が集まって何かとてつもなく恐ろしい者を呼び起こそうとしている可能性があるのじゃ」

 

俺がムツヘタに魔物の数が多いからではと言うと彼は首を振り、その仮説を言い出した。

確かにそんな強力な魔物が現れれば人類は再び絶望に叩き込まれるだろうし、この前のムツヘタの予言は当たることになる。

でも、それほどまでに強力な魔物とは、一体どんな奴なのだろうか?

もしムツヘタの仮説が当たっていたら、そのことについても調べて来ないとな。

 

「分かった。もし本当にそうだったら、すぐに伝えるぜ」

 

俺はムツヘタの仮説を聞き終えると、さっそく魔物たちが集まっている場所に向かおうとする。

すると、ムツヘタはいつも以上に心配そうな声で俺を見送った。

 

「何が起きても大丈夫なように、気をつけるのじゃぞ…」

 

「ああ、分かってる」

 

そんなムツヘタの声を聞いて、俺はいつも以上に気をつけなければいけないと思いながら、ラダトームの仮拠点に繋がる青色の旅のとびらへと歩いて行った。

 

今は町の外をうろついている魔物の数は少ないが、それでも人間を警戒しているようなので、俺はいつものように体勢を下げながら進んでいく。

ラダトーム城周辺にはスライムやブラウニー、体の小さいかげのきしといった弱い魔物しか生息していないが、戦っていると時間がかかるからな。

奴らはそんなに目がいい訳ではないので離れた場所にいる俺を見つけることは出来ないだろうが、一応慎重に進んで行った。

そうやって15分ほど歩き続けて、俺は敵に見つからずに仮拠点に繋がる旅のとびらに着くことが出来た。

 

「ラダトームの平原の魔物には見つからずに済んだな。まずはここから仮拠点に行って、魔物が集まっている南東の岩山を目指すか」

 

ここから仮拠点のあるラダトームの西の地域に行けるはずなので、俺はさっそく中に入っていく。

一瞬目の前が真っ白になってから、旅のとびらを抜けると、仮拠点のレンガのような床の上に出た。

ラダトームの仮拠点はもう20日間くらい誰もいない状態だが、魔物に壊されておらず、わらベットが置かれている部屋も残っていた。

 

「魔物の活動が激しくなっているけど、人間がいない仮拠点は攻撃されなかったのか。それはともかく、魔物が集まっている空間の入り口を目指さないとな」

 

でも、ラダトーム城やサンデルジュ砦がある今はもう使わないだろうし、残っていても壊されていても気にしなくていいだろう。

俺はすぐに仮拠点を後にして、ムツヘタの言っていた南東の岩山に向かって行った。

仮拠点から岩山まではかなり近いので、5分ほどで着くことが出来るだろう。

 

するとその途中、元からこの地域に生息していたと思われるかげのきし数体が、岩山に向かって歩いているのが見えた。

 

「あのかげのきしたち、もしかしたら岩山の魔物が集まっている空間を目指しているのか?」

 

普通の魔物なら立ち止まっていたり人間を警戒して見まわっていたりするので、岩山を目指して歩くなんてことはしないだろう。

あいつらを尾行すれば、岩山の空間の入り口が分かるかもしれないな。

 

「自分で探したら時間がかかるだろうし、奴らを尾行して入り口を目指すか」

 

魔物を尾行なんて1度もしたことがないが、音を立てないように歩けば見つかることはないだろう。

俺はこっそりかげのきしの後ろへとまわり、気づかれないように背後をつけていった。

そうしていると、話すことが出来るかげのきしたちは、少し立ち止まって話を始める。

岩山の空間の中で行われていることについて何か分かるかもしれないので、俺は耳をすませて奴らの会話を聞こうとした。

 

「人間はオレたちの仲間だけでなく竜王様も殺しやがったが、これで奴らも終わりだな」

 

「空の忌々しい光も永久に消えるはず」

 

「竜王様が亡くなられた後、勇者と言われていた者がオレたちの味方になってくれてよかった」

 

「人間の愚かな希望の終焉は近いです、早く向いましょう」

 

かげのきしたちはそんな話をした後、再び岩山に向かって歩き始めていった。

あいつらの会話から考えると、やはり世界を再び破滅させるような計画をしているのは間違いないようだな。

 

「やっぱりあいつら、人間を滅ぼす計画をしているみたいだな。気になることは他にもあるし、尾行を続けるか」

 

それは分かったが、それはどのような計画なのか、現時点で阻止出来るのかも調べなければいけないので、俺は奴らの尾行を続ける。

奴らはその後も立ち止まって会話することがあったが、魔物たちの計画に関する詳しい情報は得ることが出来なかった。

そして、10分くらい気づかれないように尾行を続けると、かげのきしたちは岩山に掘られた巨大な洞窟のような場所に入って行く。

それは洞窟と言うより地下に隠された城であり、壁は全て竜王の城と同じ青黒い城のカベで覆われていた。

 

「ここに魔物たちが集まっているのか…思っていたよりも不気味なところだな」

 

ムツヘタが闇の戦士と同じくらいの闇の力を感じると言っていたが、近づくと彼のような特別な力がなくてもおぞましい力を感じることが出来る。

それに、竜王の城にもついていた明かりがほとんどついておらず、中は真っ暗だった。

 

「何が起こるか分からないし、気をつけて進まないとな」

 

恐ろしい場所ではあるが魔物たちの計画を調べない訳にはいかないので、俺は気をつけながら岩山の城の中に入っていった。

すると、やはり中には侵入者を監視しているしにがみのきしやだいまどうが歩いているのが見えてくる。

奴らの動きは今まで何度も見てきているので視界に入らないことは難しくはないが、それだけではなく、初めて見る魔物であり、メーダやメーダロードの上位種であるコスモアイも城の中を見まわっていた。

 

「コスモアイもいるのか…やっぱりいつも以上に慎重に動かないといけないな」

 

コスモアイは大きな目玉を持つ魔物なので視界も広いので、見つからずに進むのは難しそうだ。

だが、怪光線なども使う強力な魔物であり、まわりの魔物も呼ばれるだろうから戦いを挑むのは得策ではないだろう。

なので、俺はコスモアイが近づいて来ると壁に隠れて視界から外れると、奴が戻ってくる前に音を立てないように奥へと進んでいった。

 

「コスモアイには見つからずに済んだけど、これからも警戒して進まないとな」

 

その後も何体もコスモアイが現れて、俺はその度に壁にかくれてやり過ごした後、戻ってくる前に一気に進んで行く。

しにがみのきしやだいまどうが現れても同じ方法でやり過ごしていき、どんどん城の探索を進めていく。

だが、この岩山の城はかなり複雑に作られており、道を間違えて引き返さなければいけないこともあった。

 

「せっかく魔物を避けても、複雑な通路だからなかなか先に進めないな」

 

引き返す時にも魔物を避けて進む必要があり、今までの魔物の拠点への潜入の中で一番緊張するな。

魔物を避けながら正しい道を探して行くのには時間もかかり、気づくと長い時間岩山の城の中を探索し続けていた。

 

だが、2時間近く探索を続けることで、何とか俺は城の通路の一番奥だと思われる場所に着くことが出来た。

そこには地下に降りる階段があり、下からは竜王の間と同じくらいおぞましい気配を感じる。

 

「地下に降りる階段か…この先に魔物たちが集まっているんだろうな」

 

何があるかは分からないが、この先で魔物たちが人間たちを破滅に追いやる計画を行っていることはは確実だろう。

ムツヘタも俺を心配しているだろうし早く調べたいと思い、俺は見張りの魔物がいないか確かめてから、岩山の城の地下へと降りていった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode119 終末の気配(後編)

俺は岩山の城の通路の奥にある階段を降りて地下に行くと、見張りの魔物がいるだろうと思ってまずまわりを確認した。

だが、見回りをしている魔物は全くおらず、通路も広い一本道になっている。

通路の奥も見てみると、ラダトーム城やサンデルジュ砦よりも広そうな大広間があり、そこに魔物たちが集まっているのが分かった。

 

「地下の大広間か…あそこで魔物たちは何をしているんだ?」

 

魔物たちが何をしているのかは遠くからでは分からないので、大広間の近くまで行く必要がありそうだな。

大広間に近づくにつれてだんだんおぞましい気配が強くなっていくが、俺は恐れずに先に進んで行こうとする。

その途中、見張りの魔物はやはりいないのだが、俺は警戒を緩めずに歩いていった。

暗くて不気味な場所だし、罠が仕掛けられている可能性も考えられるからな。

でも、罠などは見つからず、俺は魔物たちが集まっている大広間の近くまで無事にたどり着くことが出来た。

 

「この距離なら中の様子もよく見えそうだな。奴らに見つかったら大変だし、ここから覗くか」

 

これ以上近づくと中にいる魔物に見つかる可能性があるので、俺はその位置から大広間の中を覗いて、奴らが何をしているのか突き止めようとする。

もし現時点で阻止できる計画ならば、世界が再び闇に包まれないように必ず止めないといけないな。

 

さっそく覗くと、大広間の中で数百体の魔物たちが魔法を唱えているような格好をしている、不思議な光景が広がっていた。

中にはさっき俺が尾行していたかげのきしたちもいたが、奴らも他の魔物たちと同じように、一心に魔法を唱えているように見えた。

だが、魔物たちは5日前からここに集まっているはずなので、呪文を唱えているのなら既に発動しているはずだ。

ドラクエ世界での最強呪文であるマダンテであっても、そんなに発動に時間はかからないからな。

 

「何か、魔物たちが呪文を唱えているみたいに見えるな…?でも、魔物の不穏な動きは5日前からあるんだし、呪文を唱えているのならとっくに発動しているはずだな」

 

呪文を唱えていないのであれば何をしているのだろうかと思い、俺は大広間の奥の方も覗き込んで見る。

すると、大広間の反対側にも通路があるのが見え、この岩山の城にはさらに奥があることも分かった。

 

「それに、この城にはまだ奥があるのか…分からないことだらけだな」

 

魔物の行動やさらに奥へと続く通路…気になることがたくさんあるがこれ以上近づくことは出来ないので、俺は今の場所で魔物の様子を観察し続けことにした。

 

そうしていると、呪文を唱えてはいないはずなのに、魔物たちが魔法を使って魔力を消費したかのように疲れている顔をしていることに気づいた。

集中しているのに疲れが顔に出ていると言うことは、魔力が残り少ない状態にまでなっているのだろう。

でも、呪文を使っていないのにそんなに大量の魔力を消費するなんて、魔物たちは一体何をしているんだ?

 

「呪文を唱えていないのに魔力を使うのか…まるで誰かに魔力を捧げているみたいだな」

 

魔物の様子を見続けていると、俺の頭の中にそんな考えも浮かんできた。

もしそうなら、闇の戦士が人類を滅ぼす力を得るために、魔物たちから魔力を吸収していることが考えられるな。

俺たちはサンデルジュの強力な魔物たちも倒して来ているので、このままでは自身も倒されてしまうと思ったのかもしれない。

でも、その予想では大広間より奥の通路があることや、ここにおぞましい闇の力が集まっていることへの説明がつかないのdr、恐らくは違うのだろうな。

 

「いろいろな予想は思いつくけど、この場では確かめようがないか」

 

俺はそれ以外の仮説も考えてみたが、魔物たちは集中していて会話をしておらず、確かめることは出来なかった。

詳しい計画は分からなくても魔物たちが怪しいことをしているのが分かったので十分な収穫ではあるが、俺はどうしても気になり、何とか確かめられないかと思う。

魔物の数が多すぎてこの場で阻止することは出来ないので、もし計画が成功してしまった場合、俺たちはどのくらい危険な状況に陥るのかも知っておきたいからな。

 

「もしかしたら、地上にいる監視の魔物たちなら話すかもしれないな」

 

そんなことを考えていると、俺はさっき城の1階で侵入者を監視していたしにがみのきしやだいまどうなどが、何かの話をしていたことを思い出す。

監視の魔物はかなりの数がいるので、侵入者がいてもすぐに見つけられると思っているだろうから、話しをしていても大丈夫だと思っているのだろうな。

奴らは計画を直接実行している訳ではないが、計画について何か知っている可能性はありそうだ。

なので、奴らの会話を盗み聞きすれば魔物たちが何を行っているのか確かめられるかもしれないな。

 

「計画について話すかは分からないけど、あいつらの会話を盗み聞きしてみるか」

 

俺は多くの魔物の拠点への潜入や、尾行を成功させてきているので、盗み聞きも多分成功するだろう。

俺はさっそく監視の魔物がいる場所に向かおうと、大広間の魔物たちに気づかれないよう音を立てずに通路を戻っていき、階段から地上へ登っていった。

地上に戻ってくると、俺はさっき監視の魔物たちを見たところへ向かって静かに歩いていく。

途中大きな目玉を持つ魔物であるコスモアイにも遭遇するが、奴らは喋れないので、見つからないようにしながらしにがみのきしなどがいた場所に向かっていった。

 

そして、コスモアイたちに見つからずに、しにがみのきしとだいまどうが1体ずついる場所にたどり着くと、俺は壁の後ろに隠れて奴らの会話を聞き始める。

 

「魔物たちの計画について話すかは分からないけど、待ってみるか」

 

奴らもさっそく会話を始めたが、最初にしにがみのきしは人間の発展を終わらせたいなど、他の魔物と同じようなことを言っていた。

だが、それを聞いてだいまどうが、今回の恐ろしい計画に関する話を始めた。

 

「人間がラダトームの復興を始めてからもう随分経っている…早く再び死と呪いの大地に戻したいところだな」

 

「大丈夫です。我らが滅ぼせなくとも、もうすぐ全てを闇に飲み込む者が現れるのだから、人類に未来はないでしょう」

 

その全てを闇に飲み込む者を目覚めさせようと、魔物たちは魔力を捧げていたのか。

そう言えばムツヘタは魔物たちが何かを目覚めさせようとしているのではないか?と言っていたが、その予想が当たっていたみたいだな。

魔物の動きについても予測できるとは、さすがは予言者だな。

だが、その全てを闇に飲み込む者って、一体どんな奴なんだろうな?

俺がそう思っていると、しにがみのきしたちは計画について詳しいことを言い出す。

 

「志半ばで散った竜王様や我らの仲間の魂に魔力を捧げ、一つの強大な闇の存在にして蘇らせる計画だったか」

 

「はい。あらゆる魔物の力を持つであろうその者なら、人間に勝ち目は全くないと言っていいでしょう。既にその者のための玉座も出来ているので、もうすぐ計画は達成されるはずです」

 

大広間のさらに奥の空間は、その者のための玉座が作られている場所だったのか。

それにしても、竜王や倒された魔物たちの魂を集め、魔力を捧げて一つの強大な魔物として蘇らせるか…そんなことが出来るのか?と思ったが、ドラクエ3のラスボス、ゾーマは死者の怨念の集合体であるという話もあったので、不可能ではないのかもしれない。

それに、もし本当にあらゆる魔物の魂が集まって出来た者が現れるとなれば、確かに今の俺にでも勝ち目はなさそうだ。

炎と氷の2属性を融合させ、全てを消滅させる威力を持つメドローアという呪文があるが、その最強の魔物は2属性どころか、全ての属性を融合させて放つかもしれないからな。

それに、死んだ魔物たちの怨念の力だけでなく、あの数百体の魔物たちの魔力も加わるので、今アレフガルドに生きている全ての人々の力を持ってしても勝てるか分からないほどだ。

まあ、だからこそ、魔力で竜王だけでなく、たくさんの魔物の魂も集めて、1つの最強の存在にしようと思ったんだろうな。

 

「現時点では阻止出来ないけど、闇の戦士を今度こそ倒して、必ず止めないといけないな」

 

大した計画ではないのではとも思っていたが、やはり恐ろしい計画だったようだ。

でも、集まっている数百体の魔物を全て倒すのは困難なので、計画を阻止するには、闇の戦士を倒してひかりのたまに完全な光を取り戻させるしかないだろう。

ひかりのたまが完全な光を取り戻せば、悪しき魔物は封印されるはずだからな。

 

「闇の戦士の捜索をより急ぐ必要があるし、戻ってムツヘタに話すか」

 

全てを闇に飲み込む者がいつ現れるかは分からないが、なるべく急いだほうがいいだろう。

そう思って俺はそこ魔物たちの話を聞き終えて、ラダトームへと戻ろうとした。

 

でも、早く戻りたいが魔物に見つかりたくはないので、行きと同じように慎重に歩いていき、45分くらいかけて岩山の城の出口へと向かう。

岩山の城から出た後は仮拠点にある青色の旅のとびらからラダトーム城のある地域へと移動していき、それから15分ほど歩いてラダトーム城へたどり着いた。

出発した時にはまだ朝だったが、戻ってきた時にはもう昼頃になっていた。

 

俺はラダトーム城に戻ってくると、さっそくムツヘタに調べたことを報告に行こうと、占いの間の扉を開けて中に入っていく。

すると、ムツヘタは俺が帰ってくるのが遅くて心配していたようで、無事に戻ってきて良かったと安心したような声を出した。

 

「そなたの帰りが遅くて少し心配しておったが、大丈夫だったようじゃな。それで、魔物たちは集まって何をしていたのじゃ?」

 

俺も岩山の城では何回か見つかりそうになったので、無事に戻って来れて良かったぜ。

ムツヘタは安心したようなことを言った後、魔物たちが何をしていたかを聞いてくる。

 

「それを調べるのに時間がかかっていたんだけど、あそこに集まっている魔物たちは死んだ竜王やその手下の魔物たちの魂に魔力を捧げ、一つの強大な存在として蘇らせようとしているみたいなんだ」

 

俺はムツヘタに闇の戦士の居場所の捜索を急ぐように頼まないといけないので、さっそく魔物たちが行っている計画について教えていった。

 

「奴らは何かを目覚めさせようとしているのではと思っていたのじゃが、まさか竜王や魔物たちの魂が融合した存在だとは。もしその存在が現れてしまったら、何が起こってしまうのじゃ?」

 

「強力な武器を持っている今の俺でも倒せないほどの強さになるだろうから、間違いなく全ての拠点が破壊されて、いずれはアレフガルド全域が死の大地になるだろうな」

 

ムツヘタが質問をしてきたので、俺はそう答える。

その最強の存在の中には竜王の魂が含まれており、竜王の目的は人類の絶滅ではなく人類から力を奪うことなので、人類の絶滅は免れるかもしれないが、美味しい物を食べたり、物を作ったり、整備された家に住んだりなどの人間らしい生活は、永久に送れなくなってしまうだろう。

そのことを話した後、俺は闇の戦士の居場所を早く見つけないといけないと伝える。

 

「防ぐ方法は、その最強の存在が現れる前に闇の戦士を倒して、ひかりのたまに完全な光を取り戻させることしかない。そうすれば、ひかりのたまの力で魔物たちは封印されて、魔力を捧げる者はいなくなる。捜索もかなり進んでいるだろうけど、なるべく急いでくれ」

 

「分かったのじゃ。世界が再び危機に陥るのならば、確かにその前に止めねばならぬな。今日からは夜も寝ずに闇の戦士の捜索を行うとしよう」

 

俺がなるべく闇の戦士の捜索を急いでくれと言うと、ムツヘタはそう話す。

老人であるムツヘタが一晩中起きて作業を行うのは大変だろうが、世界が再び闇に包まれるかもしれないと聞いて、がんばらなければと思ったようだ。

 

「ああ、頼んだぞ。俺も戦いの準備をするから、居場所が分かったら教えてくれ」

 

竜王を倒してからずっと、早く闇の戦士を倒さないといけないなと思っていたが、ついに決戦の時が近づいて来ているようだな。

俺はムツヘタにそう言った後、白花の秘薬を作るなどして戦いの準備を進めようと、サンデルジュの砦に戻っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode120 深淵の王城

竜王や倒された魔物たちの魂に魔力を捧げ、全てを闇に飲み込む者として蘇らせるという魔物たちの計画を知ってから、俺はサンデルジュに戻ってから闇の戦士との決戦に向けて最後の準備を整えながらムツヘタからの報告を待っていた。

その間、サンデルジュの魔物の不穏な動きも収まらず、俺だけでなくピリンたちも不安を感じ始める。

サンデルジュの峡谷は広いのでムツヘタも大変なのだろうが、俺はみんなの様子を見てなるべく早くしてほしいと思った。

 

だが、魔物たちの計画を知った3日後、サンデルジュに来てから14日目の朝、闇の戦士の居場所が見つかったのか、ムツヘタがサンデルジュの砦に来ていた。

俺は起きたばかりだったが、ついに闇の戦士との決戦の時が来たと思い、一気に緊張感を持ち始める。

そして、さっそくムツヘタの近くへ歩いていき、そのことについて聞いた。

ムツヘタは老人でありながら3日も徹夜で作業をしていたので、とても疲れた顔をしている。

 

「ムツヘタか…あんたがここに来たってことは、もしかして闇の戦士の居場所が分かったのか?」

 

「起きたか、雄也よ。そなたの言う通り、3日間一睡もせずに闇の戦士を探し続けて、ついに正確な位置を突き止めたのじゃ」

 

闇の戦士の居場所が分かったのかと聞くと、ムツヘタはうなずく。

今回はとても重要なことなので、チョビを遣わせるのではなく直接本人が来たみたいだな。

それに、闇の戦士のことで俺に話したいことがあるのか、ローラ姫もムツヘタに同行してサンデルジュに来ていた。

姫も闇の戦士が最強の魔物を生み出し、世界を滅ぼす計画をしているのは知っているだろうが、それでも奴が戻ってくるのではないかという儚い希望を持ち続けているのかもな。

闇の戦士を倒すにしても説得して連れ戻すにしても、まずは奴の居場所に向かわなければいけないので、俺はムツヘタに詳しい位置を聞き始める。

 

「それなら今から向かうぞ。その詳しい場所を教えてくれ」

 

「サンデルジュの峡谷の最も深い、昼でもほとんど光が当たらぬ所じゃ。そこから闇の戦士のものと思われる、おぞましい闇の気配がしてくるのじゃ」

 

サンデルジュの峡谷の最も深い場所か…ビルダーハンマーについて書かれた書物を取りに峡谷を探索したことはあったが、一番奥までは行ったことがないな。

ムツヘタが闇の戦士の捜索にラダトームの時より時間がかかったのは、奴が日の光が当たらないほど深い場所にいたからかもしれない。

どんな魔物が生息しているかは不明だし、気をつけて向かわなければいけないだろう。

 

「まだ行ったことのない場所か…生息する魔物も分からないし、慎重に行かないといけないな」

 

しかし、そう俺がつぶやくと、ムツヘタはゆっくりしている時間はないと言い出す。

 

「慎重に向かわなければいけないのはもちろんじゃが、もうゆっくり歩いている時間はないぞ。あと僅かで魔物たちの計画が達成される…そんな予感がするのじゃ」

 

俺はほとんど闇の力を感じ取ることが出来ないので分からなかったが、もう魔物たちの計画はそこまで進んでいたのか。

あと僅かということは、あと数時間で竜王や魔物たちの魂が集まった最強の存在が現れるのは間違いないということだろう。

もしかしたら1時間後くらいの可能性もあるし、確かに急いだほうが良さそうだな。

 

「確かにそれなら急ぐしかないか…もし最強の魔物が現れたら、もう手のつけようがなくなるからな」

 

幸いなことにサンデルジュの峡谷は暗い場所なので、素早く歩いても魔物に見つかることはなさそうだ。

計画が達成される前に闇の戦士を倒し、ひかりのたまの力で魔物たちを封じなければいけない。

少しでも急いだほうがいいと思い、俺はムツヘタの話を聞き終えるとさっそく戦いに必要な武器と道具を持ち、サンデルジュの峡谷の最深部を目指そうとする。

 

「今も魔物たちの計画は進行しているだろうし、すぐに向かうぞ」

 

「1度滅びてから蘇った世界が生き続けるか、それとも再び滅びるか…それはそなたにかかっておる。絶対に世界を裏切った勇者、闇の元凶を倒すのじゃぞ」

 

俺がサンデルジュ砦の外へと歩き始めると、ムツヘタはそう言う。

俺からしてもせっかく復興させた世界を壊されるのは御免なので、必ず勝たなければいけないと、竜王戦の時よりも強く決意を固める。

ムツヘタが言い終わって俺が砦を出た後、彼のとなりにいたローラ姫も戦いに向かう俺を追いかけてきて話をする。

 

「あの人を説得して連れ戻せるかも、魔物の計画を止められるかも、私にも分かりません…ですが、どんな結果になろうとも、必ず生きて帰ってきてくださいね」

 

やっぱり姫は、勇者が戻ってくるのではないかという儚い希望を捨てきれないみたいだが、奴と戦って倒すという結末になることも覚悟は出来ているようだ。

ローラ姫にとって勇者は命を張ってドラゴンを倒し、自分を助けてくれた命の恩人であり、宿屋でお楽しみをした相手でもあるが、あいつからしたら姫は自分に過度な期待をした一人の人間でしかないはずだからな。

それはこの前俺が話したので、ローラ姫も知っているはずだ。

俺も一応は説得を試みて見るが、魔物の計画を阻止して、姫の言う通り生きて帰って来るのが最優先だ。

 

「ああ、一応奴を説得してみるつもりだし、もちろん生きて帰ってくるつもりだ」

 

俺は姫にそう告げて、砦がある高台を降りてサンデルジュの草原を歩いていく。

魔物の数は相変わらず少ないので、急いであるいても見つかることはなさそうだ。

そして、魔物の計画を阻止して、今度こそ完全に平和な世界を取り戻さなければいけないと思いながら、峡谷を目指していった。

サンデルジュ砦に残っているみんなも、平和な世界を見たいと心から望んでいる。

 

砦を出てから8分ほど歩き続けて、俺はサンデルジュの峡谷の入り口へとたどり着く。

この前は魔物の数が非常に多く、30分もかかっていたが、今回は魔物の数が少なくて動きやすいので、10分もかからなかった。

魔物が減っているのは岩山の城で魔力を捧げているからであり、決して良い事ではないのだが。

峡谷の入り口に着いてからは、休んでいる暇はないので、俺はすぐに歩き始めていく。

 

 

「峡谷の奥はどうなってるか分からないけど、まずはこの前の洞窟があった場所を目指すか」

 

峡谷に入ってからも、俺は魔物に用心しながら、この前ビルダーハンマーの書物を見つけた洞窟をまずは目指していく。

峡谷では、この前と同じようにブラバニクイーンやゴールデンドラゴンが警戒しながら歩いており、草原の魔物たちと違って数がほとんど変わっていなかった。

 

「ここの魔物は草原の奴らと違って数があんまり減ってないな。でも、元々生息している魔物が少ない場所だし、安全に進めるか」

 

だが、峡谷は他の場所と比べて魔物の数が少ないし、暗い場所なので足音を立てない限りは見つかることはなさそうだ。

しかし、こちらも視界が悪いので、気付かずに魔物の目の前に近づいてしまうことがないよう、あまり急ぎすぎないように進んでいった。

歩くスピードはこの前と大して変わらなかったが、この前のようにダイヤモンド鉱脈で立ち止まったりしていないので、少しは早く進むことが出来る。

そうして進んでいき、砦を出てから15分ほどで、ビルダーハンマーの書物があった洞窟のところに着いた。

 

「ここまで着くのに15分しかたっていないけど、ここからは俺が知らない場所だから進むのに時間がかかりそうだな」

 

ここから先はまだ何があるか分からない場所なので、俺はどんな魔物が出てもいいように、歩くスピードを落としながら進んでいった。

すると、現れる魔物はさっきと同じブラバニクイーンやゴールデンドラゴンだったが、地面が下り坂になっていき、だんだん視界が暗くなっていく。

ムツヘタは闇の戦士がいる場所はほとんど日の光が当たらない場所だと言っていたし、この先に闇の戦士がいるのは間違いないだろう。

 

「早く戦いに行きたいけど、魔物の姿が見えにくいから進みにくいな」

 

早く進みたいが、魔物と戦ったほうが時間がかかると思い、俺は魔物の動きを把握しながら慎重に進んでいく。

もちろん魔物たちを俺を見つけにくいだろうが、体に触ってしまったらさすがに気づかれるだろう。

下り坂はかなり長く、洞窟の場所を過ぎてから30分ほど歩き続けることになった。

そして、下り坂の最も下に降りると、そこはムツヘタの言っていた通りの真っ暗な場所であり、何か恐ろしい者が潜んでいるような雰囲気だった。

 

「ここがサンデルジュの峡谷の最深部か…崖の高さは300メートルを超えてそうだな。こんなところに闇の戦士がいるのか…」

 

俺はさっそくその場所で、魔物を警戒しながら闇の戦士の姿がないか探していく。

だが、闇の戦士の姿も魔物の姿もなく、真っ暗な空間が広がっているだけだった。

でも、ムツヘタが闇の戦士はサンデルジュの峡谷の最深部にいると言っていたので、ここのどこかにいることは間違いないだろう。

 

「どこにも姿がないな、もう少し奥もあるみたいだし、そっちも調べてみるか」

 

峡谷の最深部もかなり広く、俺はその場所をもう少し調べてみる。

すると、峡谷の最深部の中でも最も暗い場所に、何か城のような者が見えてきた。

近づいて見てみると、それはラダトームにあった「セカイノハンブン」という看板が立てられていた、闇の戦士との一度目の戦いがあった城によく似た建物だった。

竜王の城よりは小さいが、全てが真っ黒な色のブロックで作られており、とても禍々しい雰囲気を放っていた。

 

「禍々しい建物だな…入り口もあるし、ここが闇の戦士の新たな城ってことか。入り口もあるし、中に入ってあいつと決着をつけないとな」

 

闇の戦士は元々竜王を倒すためにルビスに選ばれた勇者だし、正気を取り戻したあいつは竜王よりも強いのは確実だろう。

だが、それでもみんなに平和な世界を見せるために、戦わなければいけない。

もしあいつが人間の世界に戻りたいと思っているにしても、まずは話をしなければいけない。

俺はそう思って暗黒の城の入り口を見つけて、中へと入っていった。

 

「ここが闇の戦士の城の中か…一本道の通路だけど、暗くて不気味だな…」

 

狭い城だからか通路は一本道であり、この前の岩山の城と違って明かりのカベしょく台もあるが、外が真っ暗であるため、薄暗くで不気味だった。

ここも竜王の城の地下通路と同じように、奥に進む度におぞましい闇の気配が強くなっていく。

そして、通路の一番奥にまで進むと、この城の主である闇の戦士の部屋の入り口であると思われる、はがねの大とびらがあった。

 

「この先に闇の戦士がいるみたいだな…戦う覚悟は出来ているし、開けるか」

 

とびらからも禍々しい気配がするが、俺は恐れることなく押して開けようとする。

ここのはがねの大とびらはかなり重かったが、俺は腕に力をこめて開けていく。

そのとびらの先に進むと、そこには竜王の間と同じくらいの大きさの巨大な空間が広がっていた。

 

「ついに再び会うことになったな、世界を裏切った勇者…」

 

そして、その空間の中心には、あの時と同じで覆面を被った筋肉だらけであり、勇者とも王とも到底言えない姿だが、とてつもなく恐ろしい気配を放つ者…闇の戦士と呼ばれる世界を裏切った勇者がいた。

一つあの時と違うのは、首から下げていた王女の愛という名前の首飾りが、消えてなくなっていたことだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode121 裏切りの追憶

俺が闇の戦士のいる巨大な空間に入っていくと、奴は偽物と思われるロトのつるぎとロトの盾を持ち、俺を睨みつけて来た。

そして、覆面に筋肉だらけという姿からは想像出来ない、若い青年のような声を話しかけてきた。

 

「ついに来たのか…影山雄也。オレが壊したアレフガルドを復興させるために忌まわしき精霊、ルビスが遣わした男…いや、連れてきたと行った方が正しいか?」

 

いきなりルビスが連れてきた男などと言われて、俺はかなり困惑してしまう。

もしかしてこいつは、俺がアレフガルドの人間ではなく、地球という名の異世界から連れてこられたと言うことを知っているのか?

 

「あんた…何で俺がアレフガルドの人間じゃないことを知っているんだ?」

 

「やはりそうだったのか。オレは勇者として持て囃されていた頃、嫌気が指すほど人間の顔を見ていた…オレに向かって、『竜王を倒して、世界を救ってください』としか言えなかった奴らだ。今のアレフガルドの人間の顔も、そいつらと同じような物だろう。だが、お前はそいつらとは全く違って、この世界の者とは思えない不思議な感じの顔だ」

 

確かに地球人である俺の顔と、アレフガルドで出会った人々の顔には違う特徴があった。

田舎臭いだの、とぼけた顔だのと言われたのも、それが原因かもしれない。

また、夢で見たアレフガルド人の顔と、現在のアレフガルド人の顔は奴の言う通りそこまで違いはなかった。

だが、顔だけで俺が異世界の人間だと分かるとは思っていなかったぜ。魔物の王である竜王でさえ、恐ろしい顔だとしか言っていなかったからな。

そんなことを考えていると、闇の戦士は俺を哀れんでいるような目で見てきた。

 

「そう考えると、お前は自分の人生を奪った精霊のために戦っているのか?愚かすぎる奴だな…」

 

確かに最初はいきなり連れてこられて、俺はルビスに腹を立てていたな。

だが、彼女が俺をここに連れてきて、ビルダーの力を与えてくれたからこそ、ピリンやロロンドたちに出会えたし、協力して物や町を作ることの楽しさも知ることが出来た。

だから、ルビスには感謝しているし、人生を奪われたとは思っていない。

 

「人生を奪われたとは思っていない。ルビスのおかげでこの世界のみんなに出会えたからな。あいつのためにも、アレフガルドに生きる人々のためにも戦っているんだ」

 

「そんな奴らのために、今日はオレを倒しに来たと言うのか。ルビスに導かれた者同士だから分かり合えるとも思ったが、残念だな…魔物たちの魔力が満ち、新たな王が現れる前に、お前を始末しよう」

 

俺の精霊ルビスや人々への思いを伝えると、闇の戦士は残念な顔をした後、偽物のロトのつるぎを構えようとする。

このまま戦いになりそうだが、姫に闇の戦士を説得してほしいと言われたし、夢で大体検討はついているもののどうして世界を裏切ったのか聞きたいので、俺はもう少し話をしないかと提案する。

 

「待てって。同じ精霊ルビスに導かれた者だと言うのなら、どうしてあんたはこんなことになったんだ?何で竜王の誘いに乗って、世界を裏切ったんだ?あんたなら、あれが罠だと言うことが分かっていたはずだ」

 

「お前にそのことを話しても、理解してくれるとは思えないな。だが、冥土の土産だ、どうして世界を滅ぼしたのか、何故お前とここで対峙しているのか、教えてやるか」

 

俺がそう言うと、闇の戦士は提案に乗って偽物のロトのつるぎをしまう。

冥土の土産と言っているので、まだ奴は俺を殺す気なのだろうが、話の途中で説得出来る機会があるかもしれない。

俺がそんなことを考えている内に、闇の戦士はさっそく話を始めていく。

 

「オレは昔、アレフガルドに生きる一人の普通の人間として生きていた…あの日、精霊ルビスに導かれ、国王に呼び出されるまではな。ロトの血筋だと言うことも、気にせずに生きてきたんだ」

 

闇の戦士も元々普通に生きていた人間だったからこそ、突然ルビスから勇者に選ばれて驚いたのだろうな。

さすがに、勇者ロトの子孫であるという理由だけで勇者に選ばれるとは思っていなかったのだろう。

ルビスに導かれる前の話をした後、今度は闇の戦士は俺が夢で見ていた光景について話し始める。

 

「でも、オレが勇者に選ばれたということは、瞬く間にアレフガルド全域に広がって、オレは持て囃されることになった。人々に話しかけても、『竜王を倒して平和を取り戻してください』だの、『竜王を倒すのがあなたの使命』だのとしか言われなくなった。普通に暮らしたいと言っても、『あなたは特別な人間なんです』『あなたは選ばれた勇者です』と言われてしまったんだ。それで、一つの自由も与えられなかったオレはだんだん精神的に追い詰められていった。人が見ていないところで悪口もたくさん言ったさ」

 

確かに夢でも人々のことを「気持ちを分かってくれないクソ野郎」と怒っている所があったな。

俺はそんなに過剰なまでの期待を受けてはいないので分からないが、奴からしたら相当辛かったのであろう。

そして、追い詰められた勇者が最後にどうしたかと言うことで、今度は竜王の誘いに乗った時のことを話し始める。

 

「それで、人々の勝手な期待に押されて、オレは結局旅を続けて、竜王の住まう城に向かった。オレも最初は竜王を倒して、先祖のような伝説の勇者になるんだと思っていたさ。でもそんな時、竜王があの問いかけをして来たんだ」

 

「それで、自分を追い詰めた人間たちに復讐しようと、竜王の誘いに乗ったのか?」

 

竜王の問いかけを受けた時の気持ちについても俺は聞いてみたが、闇の戦士は最初はそんなつもりはなかったと答えた。

 

「いや、最初は勇者になってから初めて与えられた選択肢…自由に対する好奇心だったんだろう…世界を滅ぼそうなんて思ってもいなかったさ。でもさ、竜王の誘いに乗った後、不思議なことに全く後悔する気持ちは生まれなかったんだ。多分オレはその時から、心の底で自分から自由を奪った人間たちに救う価値なんてないと思っていたんだろうね」

 

確かにただの好奇心だけで世界を滅ぼす選択をしてしまったなら、普通ならもの凄く後悔することになるだろう。

最初は好奇心だったが、その後に俺が言ったような感情が生まれたみたいだな。

その通りだったようで、闇の戦士は後悔しないどころか、世界を裏切る選択をして良かったと思っていたと話し出した。

 

「それだけじゃない、竜王は『お前の選択によって滅んでいく世界を見るがいい』と言って滅んでいく町や死んでいく人間の様子をオレに見せつけたんだ。竜王はオレを後悔させようとしたんだろうが、オレの中にはは逆に喜びの気持ちが生まれてしまった。『勇者様、どうして裏切ったのですか!?』『世界を救う責務を忘れたのか!』とか言いながら死んでいく人間を見る度、笑いが止まらなかったさ。そこで俺は自分の気持ちに気づいた…勝手な期待を押し付け、自由を奪っていく人間たちなど救う必要なんてない、むしろ邪魔な存在だと思う気持ちにな」

 

元々は狂った人間ではないはずの勇者がそんなことを考えるようになるなんて、人々の過剰な期待は俺が今聞いた物や夢でみたもの以外にもたくさんあったのだろうな。

俺もみんなに「ビルダー様」などと言われ、過剰な期待をかけられていたら、同じような考えに陥ってしまったのかもしれない。

同じ精霊ルビスに導かれた人間でもここまで違う結果になってしまうのか…闇の戦士も同じことを考えているようで、こんなことを言い出す。

 

「オレとお前…同じように精霊ルビスに導かれた存在なのに、どうしてここまで違う結果になったんだろうな…?」

 

「人との関わり方しだいってことじゃないか?あんたも俺みたいに人々と協力することが出来ていれば、今のようなことにはなっていなかったはずだぜ」

 

そう答えると、闇の戦士は寂しそうであり、羨ましそうな目で俺を見てきた。

 

「お前のいう通りなんだろうな…。人々との絆というものがあれば、オレは竜王を倒して、伝説の勇者となっていた」

 

だが、すぐに闇の戦士はその表情から、再び俺を睨みつけるような表情に戻してしまう。

 

「でも、今さらそんなことを言っても仕方ないか…。お前の言ったようなことにはならず、オレは世界を裏切り、魔物になったからな。では、世界を裏切った後オレはどうなったか、何故今ここにいるのかを話そう」

 

確かに人間に絶望して世界を裏切り、今は魔物として世界を滅ぼそうとしているので、やはり今さら戻るつもりは無いようだな。

ここでローラ姫はあんたを今でも信じている、今からでも遅くない、と言おうとしたが、奴は世界を裏切ってから今に至るまでの話を始めてしまう。

俺はとりあえずその話を聞いてから、ローラ姫のことについて話すことにした。

 

「世界が滅んでいく様子を見た後、オレは竜王の魔法でこの醜い姿に変えられて、あの小さな城に閉じ込められたんだ。もちろんお前の言う通り、竜王が本当に世界の半分をくれるとは思っていなかったが、あんな場所に閉じ込められるとは思っていなかった。それで、気の遠くなるほどの長い時間あの中に閉じ込められて、外部からの刺激がなかったからだろう、オレは自分が誰かも分からなくなり、精神が崩壊したまま何百年も過ごしていたんだ」

 

この覆面に筋肉だらけという姿は、やはり竜王の魔法が原因だったのか。

精神が崩壊してこの前の時のように変な言動をするようになってしまったのも、何百年も狭い空間に閉じ込められていたのだから仕方ないだろう。

だが、醜い姿に変えられた事も、狭い空間に閉じ込められていたことも、少しも苦痛だとは感じていなかったとも話し始めた。

 

「でも、その空間に閉じ込められていた時、オレは大きな幸せを感じた。今までオレに勇者様、勇者様と言っていた人間が消えたことによる、責務からの解放というものだろう。竜王から見たら邪魔者を騙して排除しただけなんだろうけど、オレは竜王に、人間から解放してくれたことに対する感謝の気持ちを持ち始めていた。精神がおかしくなったあとも、その2つの気持ちだけは忘れなかったさ」

 

竜王に対する感謝か…闇の戦士が竜王を倒した俺を殺そうとしたり、竜王を含めた多くの魔物の魂に魔力を捧げて最強の存在を作ろうとしたりしているのは、それが原因みたいだな。

そして、次に闇の戦士はいよいよ、俺がアレフガルドに現れた時の話を始めた。

 

「だが、それから数百年経って、突然その幸せも、それをくれた竜王も消えてしまうことになる。お前のせいだ、物を作る力を持つ者…影山雄也」

 

そう言った瞬間、闇の戦士がより強く俺を睨んでくる。

でも、まずは闇の戦士との一度目の戦いや竜王との戦いのことではなく、リムルダールやラダトームの仮拠点で聞こえた謎の声について言い出す。

 

「精神が狂っていながらも希望を振り撒く者の存在を感じ取ったオレは『ダレガ、ココニ、キボウヲフリマイテイル…』、『オレの世界に光はいらない!』などと狂ったまま叫んでいたさ。お前にも聞こえたかもしれないな」

 

希望を振り撒く者が現れた時点で、自分自身の幸せが壊されたり、竜王が倒されたりする可能性があることを、狂っていながらも分かったようだな。

俺の行動によって、それは本当のことになっているし。

 

「それで、闇に包まれた死の世界になったラダトームに来たお前によってついに、オレが閉じ込められていた城のカギは開けられてしまった。そこで精神が狂っていたオレは、『オレは王様だぞ!』などと叫んで、兎に角幸せを壊されないようにと、ひたすらお前を攻撃した。でも、オレはお前に追い詰められて、生き延びなければ幸せは訪れないと言うことで、建物の外に飛び出した。そこから先はあまり記憶がなくて、気づいたらラダトームの空は晴れ渡っていて、竜王が死んだことを理解したんだ。そして、狭い空間から解放されて精神が戻ったオレは、人間のいない闇の世界の幸せをもう一度得るために動き始めたんだ。その途中で、先祖の勇者ロトが倒した大魔王の話を思い出して、竜王を最強の存在にして蘇らせる方法も思いついた」

 

そして、この前の闇の戦士や竜王との戦いの話をした後、奴はやはり人間を滅ぼすつもりだと言い始める。

それに、竜王や倒された魔物たちの魂に魔力を捧げて最強の存在を作り出すと言うのも、先祖から聞いたであろう、大魔王ゾーマが死者の怨念の集合体であるという話から思いついたみたいだな。

闇の戦士はそれから、アレフガルドの秘境であるサンデルジュに着いてからの話もした。

 

「幸いなことに、オレの強い闇の力によって、ひかりのたまは本来の力を発揮することが出来ず、魔物たちは消えずに済んだ。だから、オレはそいつらと組んでアレフガルド各地を回り人間の影響を受けず、魔物を強大にするための訓練を行える場所がないか探したんだ。それがここ、サンデルジュと呼ばれる地だ」

 

今のアレフガルドは海面が上昇しているので歩いて移動することは出来ないので、闇の戦士が移動用の魔法、ルーラを使って探したり、魔物を移動させたりしたんだろうな。

サンデルジュに来た経緯を話すと、闇の戦士は俺たちが竜王を倒したことで平和が戻ったと思わず、サンデルジュにまで拠点を作ったからこそ、ここまで早く再び世界が危機に陥ったと話し始める。

 

「元々オレたちは人間が絶対に勝てないほどの魔物になるまで訓練してから、竜王たちの魂に魔力を捧げたり、人間の町を侵攻したりする予定だった。でも、お前たちがサンデルジュに来たからこそ、オレたちは計画を早めたんだ。お前が竜王を倒したところで世界が平和になったと思っていれば、少なくとも数年は平和に暮らせたんだよ」

 

確かに地球で発売されているドラクエビルダーズのゲームでは、竜王を倒せばエンディングになったのかもしれないし、俺がいる実際のアレフガルドでも、闇の戦士のいう通りサンデルジュまで来てなければ、しばらくの間は平和だったかもしれない。

でも、人々は一時の平和ではなく、完全な平和、完全な光を求めていた。

だからこそ俺はサンデルジュへ行き、アレフガルド復興の第5章を始めたのであり、今の闇の戦士の言葉を聞いても第4章で終われば良かったとは思わない。

 

「たとえそうだったとしても、俺は後悔してないぜ。その計画が成功する前に、完全な平和を取り戻すつもりだからな」

 

そんなことを考えて言うと、闇の戦士は最後に、計画を急いでから現在に至るまでの話をした。

 

「竜王たちの魂から最強の魔物を生み出す計画を早めたオレたちは、ラダトーム城の西の岩山に城を作り、そこで不眠不休で魔力を捧げ続けた。お前たちのせいで魔物たちを鍛える時間がなかったからそれぞれの魔力が少なく、当初の予定よりも何倍も時間がかかったけど、今まで計画は順調に進んでいた。計画達成の目前にして、お前に邪魔されるまではな」

 

闇の戦士とは一度詳しく話をしてみたいと思っていたが、それが叶い、現在に至るまでの奴の行動についても知ることが出来たな。

自分の過去について全て語り終えた闇の戦士は、そろそろ俺を殺そうとしているのか、再び剣を構えた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode122 偽りの王国

自分の過去を語り終えた闇の戦士は、いよいよ戦いを始めようかと偽物のロトのつるぎを構えたが、俺はまだローラ姫のことについて奴に言っていなかった。

今までの話から考えて説得は無理そうだが、姫から頼まれたことなので、俺はローラ姫のことをどう思っているのか奴に聞いてみた。

 

「戦いの前にもう少しだけ話をさせてくれ。あんたは、ローラ姫のことはどう思っているんだ?」

 

すると、闇の戦士は呆れたような顔をしながら一度構えた剣を下げて、ローラ姫も自分から自由を奪った邪魔な人間の一人だと言った。

この前の戦いの時は付けていた王女の愛という名の首飾りが消えているのも、海に捨てたからだと答える。

 

「さっきの話で分からなかったのか?あの女だって、オレから自由を奪った人間の過ぎない。あいつが世界の惨状を見て自らを石に変えた瞬間は、今思い出しても笑えてくるさ。もちろん、あいつがくれた忌まわしい首飾りも、この前海に捨てた」

 

本人の気持ちを聞いてみても、ローラ姫の元勇者に対する思いは一方的な物みたいだな。

邪魔な存在に過ぎないと言っているので、ローラ姫を殺すことにも躊躇いはないのだろう。

やはり説得は無理そうだが、俺は一応姫が今も元勇者の帰りを待っているということも伝えてみる。

 

「でも、あんたから見たらローラ姫は邪魔な存在かもしれないけど、あいつは今もあんたを愛し続けて、帰ってくるのを待っているみたいだぞ。あいつにとってあんたは、ドラゴンから救ってくれた命の恩人であり、宿屋で一夜を過ごした相手だからな」

 

それを聞くと、闇の戦士はさらに呆れたような顔になって言葉を返して来た。

 

「くだらない話だ…勝手な人々に追い詰められていたオレに、あの女はさらなる期待を押しつけてきた。今さら愛だのという言葉を使っても、オレはあいつを許すつもりはない」

 

姫の気持ちを伝えても、やっぱり闇の戦士は人間の世界に戻って来る気はないみたいだな。

でも、ローラ姫が勇者を追い詰めてしまったのは、彼の本当に気持ちに気づけなかったからだろう。

本当の気持ちを分かり合うことも出来れば、姫は勇者を傷つけることはしないはずだ。

今からでも遅くないのではないかと、俺はあいつに聞き出す。

 

「でも、今のローラ姫ならあんたの気持ちを分かってくれると思うぜ。今からでも遅くない、人間の世界に戻って来ないか?」

 

「もう遅いんだよ。オレは指導者である竜王や多くの仲間を失って悲しむ魔物たちと協力し、彼らを新たな存在に生まれ変わらせようとしている。人間と暮らす幸せよりも先に、魔物と暮らす幸せを先に見つけたんだ。その幸せを失うことなんて、オレには耐えられない」

 

しかし、闇の戦士は首を横に振ってからそう答える。

今の闇の戦士にとっては魔物と協力し、自分を責務から解放してくれた竜王を最強の存在に蘇らせるのが何よりの喜びみたいだな。

だが、それ以上の喜びを人間の世界で見つけられないことはないだろう。

ローラ姫と子供を作って王家の血筋を残す…俺たちと一緒にアレフガルドの町を発展させていく…最高の幸せになりそうなものはいくらでもある。

しかし、闇の戦士が人間の世界に戻れない理由は他にもあるようで、俺がそれを提案する前に彼はその話をする。

 

「それにさ、オレが精霊ルビスを殺すと言ったら、お前や姫はオレを止めるだろ。お前はあの忌々しい精霊の味方だからな」

 

精霊ルビスの話をしている時の闇の戦士は、彼女を恨むような口調や表情になる。

精霊ルビスを殺すか…精霊は人間のように簡単に死にはしないだろうが、不死身という訳では無いだろう。

だが、もしそうなったら人々が彼女の加護を受けることはなくなり、再び物を作る力を失うことになってしまうな。

もちろん闇の戦士がそんなことを言い出せば、俺は戦ってでも止める。

だが、確かに闇の戦士にとって精霊ルビスは、自分を勇者として導いた全ての元凶のような存在だが、彼がルビスを憎む理由はそれだけではない気もした。

 

「もちろん止める。でも、どうしてあんたはそこまでルビスを恨んでいるんだ?」

 

「あいつは、人間のことを奴隷や捨て駒のようにしか思っていないからだよ。俺が竜王の提案に乗った時、あいつが何て言ったか分かるか?」

 

さっき闇の戦士は竜王の誘いに乗った時自分はどう思ったか言っていたが、ルビスが何と言ったのかは言っていなかったな。

 

「何て言ったんだ?」

 

「人々の希望を背負いながら最後に裏切った忌まわしき戦士、あなたはもう勇者などではないと吐き捨てるように言っていたさ。オレが今の姿に変えられ小さな城に閉じ込められた時は、竜王に偽物の王冠と偽物の城を与えられた偽りの王と言った」

 

そう言えば俺たちがサンデルジュの地に来た時、ルビスは忌まわしき戦士という言い方を使っていたな。

偽りの王という言い方も、闇の戦士の居場所を探している時にムツヘタが使っていた。

そんなことを思い出していると、闇の戦士は激しく怒りながら続きを話す。

 

「勝手にオレに責務を押し付けた上に、その責務を果たさなかったら文句を言う。それを聞いた時思ったさ、あいつは人を道具としか見ていないってな!たとえ世界が闇に包まれようと、いつか絶対に殺してやると思った。お前はこの話を聞いても、ルビスの味方をするのか!?」

 

闇の戦士の口調には、俺や精霊ルビスに対する強い殺意がこもっていた。

確かに精霊ルビスがそんな奴だったとしても、俺にビルダーの力をくれて、みんなと巡り合わせてくれたのに間違いはない。

いくら話を聞いても、俺はルビスや人々を見捨てるつもりは無かった。

 

「確かに精霊ルビスは人のことをそんな風に見ているかもしれない。だが、それでも俺はあいつに感謝しているんだ。あいつがいなかったら、ピリンやゆきのへには会えなかったからな」

 

「だったら、殺すしかないな。お前も、仲間たちも、ローラ姫も、精霊ルビスもな!」

 

俺がそれでも精霊ルビスには感謝していると言うと、闇の戦士は偽物のロトのつるぎを再び構えて迫ってくる。

怒り狂うあいつに、もう話は通じないだろう。やはり、戦いは避けられないことみたいだな。

俺もおうじゃのけんとビルダーハンマーを構えて、奴の攻撃に備える。

 

「俺もここで倒されるつもりはない。必ず魔物たちの計画を阻止して、世界に光を取り戻させてやるぜ」

 

「この前と同じには考えるなよ。お前くらい、計画が完了する前に始末できるさ」

 

あいつの言う通り、この前の時とは比べ物にならないほどの力を持っていることだろう。

だが、それでも負けるわけにはいかないと、俺も奴に近づいていく。

俺と闇の戦士との、2度目の戦いが始まった。

 

闇の戦士は走って俺に近づいて来て、飛びかかって剣を振り下ろそうとしてくる。

今回は回転斬りでもないのに奴の剣からはすさまじい闇の力が感じられ、威力も非常に高そうだった。

そこで受け止めても衝撃によって動きを止められ、攻撃のチャンスが出来ないと思い、俺は奴の攻撃を避けて、一瞬の隙に斬りつけようとする。

でも、避けきれない可能性も高いので、俺は右腕に持つおうじゃのけんで受け止める構えをしてから左に飛んだ。

 

「さっさと死にな!お前の仲間たちも、どうせすぐに逝くさ!」

 

その言葉と同時に、闇の戦士は一瞬で剣を俺に叩きつける。

奴の見た目からは有り得ないほどの攻撃速度であり、俺は回避している途中に剣で受け止めるしかないかと思ってしまう。

だが、何とか俺は攻撃をかわしきり、闇の戦士の左側に移動することが出来た。

闇の戦士の左側に移動してからは、奴が反応する前にダメージを与えようとビルダーハンマーを頭に叩きつけようとする。

 

「この隙を逃がすかよ!」

 

しかし、闇の戦士はほとんど隙を見せず、偽のロトのつるぎでハンマーを受け止めてしまう。

そして、奴はすぐに腕に力をこめて俺を弾き返そうとしてきた。

ここで弾き返されれば体勢を崩し、奴に攻撃の機会を与えてしまうので、俺はその前に右手に持つおうじゃのけんを思い切り突き刺す。

闇の戦士の体は多くが筋肉で強靭だが、おうじゃのけんが刺さらないほどではない。

だが、闇の戦士を怯ませてさらに追撃を仕掛けるつもりだったが、奴は剣が刺さってもほとんど怯まず、俺は奴の力で弾き返されてしまう。

 

「くっ!このくらいでは怯まないのか」

 

「お前も所詮は人間。戦闘力でオレに勝つことは出来ないんだよ!」

 

俺が弾き返されて動きを止められたのを見て、闇の戦士はもう一度斬りかかってくる。

俺はすぐに起き上がって攻撃に対処しようとするが、すでに至近距離にまで近づかれており、両腕に持つ武器で受け止めようとした。

片手で受け止めれば押し切られる可能性が高く、俺はさらに隙を晒してしまうことになる。

今は弾き飛ばされた後何とか持ち直しているが、今度こそは体勢を立て直せず、斬り裂かれてしまうかもしれない。

両腕で受け止める場合は隙が出来た時に攻撃に移るのに時間はかかるが、今は安全を第一に考えなければいけない。

そう思って両方の武器を構えて闇の戦士の攻撃を受け止めると、両腕に骨が折れるような激痛が走る。

 

「やっぱりすごい攻撃力だな…」

 

両腕で受け止めているので一つの腕にかかる衝撃は半分になっているのにこれほどの衝撃があると言うことは、闇の戦士の力は本当にすさまじい。

何とか弾き返し隙を作れないかと思っていたが、激痛に耐えている俺を見て奴は左手に持つ偽のロトのたてで殴りかかってきた。

盾は攻撃に使うものでは無いが、奴の力で叩きつけられれば強力なハンマー並みの力が出る。

俺はすぐに気づいて避けようとしたが、奴は剣だけでなく盾を振り下ろす速度も早い。

奴の目の前にいた俺はジャンプでも避けきることは出来ず、直撃は避けられたが盾の端の方が右肩に当たる。

 

「くそっ!盾もあんな速度で扱って来るのか」

 

俺は右手に持っていたおうじゃのけんを落としそうになってしまうが、骨が折れるような激痛に耐えて後ろに下がり、体勢を立て直す。

しかしそんな間に、闇の戦士は走って俺に近づき、さらなる追撃を加えようとしてきた。

さっき飛びかかる攻撃は俺に避けられたので、今度は走りながら連続で斬りつけてくる。

 

「オレのスピードについて来られないのか。勝つ気でいたんじゃないのか?」

 

連続攻撃も闇の戦士はとても早いスピードで振り回してきて、俺はかわすので精一杯になる。

もちろんかわしきれる確証はないが、右肩に攻撃を受けたことによる痛みが原因で右腕に力を入れて受け止めることが出来ないので、ひたすら避け続けるしかない。

ビルダーハンマーだけで避けるというのも、かなり難しいだろう。

奴の攻撃をかわしながら僅かな隙に剣を叩きつけることも試みたが、隙が全く見つからない。

 

「何とか攻撃の隙はないのか…?」

 

このままでは俺の体力が先に尽きてもう一度攻撃を受けてしまうので、俺はさっき難しいと考えていた左手のビルダーハンマーだけで攻撃を受け止めるという方法を使おうと思う。

飛びかかり攻撃は両腕でも受けきるのが難しいほどの威力であったが、今は連続攻撃なので一撃ごとの威力は少しは下がっているかもしれない。

弾き返されてしまう可能性が高いが、その前におうじゃのけんで斬りつけることが出来れば、怯ませられなくても大きな傷を与えられそうだ。

痛みによって右腕の全力を出すことは出来ないが、おうじゃのけんの鋭さがあればそれでも大ダメージは狙える。

 

「片手で攻撃を受け止める…危険だけどやるしかないな」

 

ビルダーハンマーはゆきのへの家系が受け継いできた最強のハンマーなので、必ず攻撃を防げると信じて、俺は闇の戦士の剣に叩きつけた。

すぐに奴は防がれたのを見て、ビルダーハンマーを弾き返すどころか、叩き斬るほどの力を腕にこめようとする。

左腕にも強い痛みが走り、やはり突き飛ばされそうになるが、俺は渾身の力で防ぎながら、右腕に持つおうじゃのけんを叩きつける。

心臓の辺りを狙うと闇の戦士が左手に持つ偽のロトのたてに防がれるので、俺は防がれないように奴の下腹部あたりを狙った。

そこなら左手から離れているので、防がれる可能性は少しは下がる。

それでも必ず当たるとは限らないので、俺は出すことの出来る最高の速度で剣を突き刺す。

 

「今のうちに斬り裂いてやるぜ!」

 

すると、闇の戦士もすぐに対応しようとしたが俺の剣が先に刺さり、奴は体をえぐられる。

攻撃を防ぎきれなかった奴の盾は再び俺の肩に当たりそうになるが、俺は剣を突き刺しなが左に飛んで、攻撃を避けると同時に体内を斬り裂いていく。

 

「オレのスピードについて来られないと思ったが、そうでもなかったか。ロトの血筋の者しか倒せないと言われていたはずの竜王を倒したと言うだけあるな」

 

さすがに強靭な肉体を持つ闇の戦士もかなりのダメージを負ったようで、奴は大きく後ろに飛んでそう言う。

怯ませることは出来なかったが、少しは弱っていることだろう。

しかし、闇の戦士はまだ余裕そうな顔で、俺に負けるということは考えていないようだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode123 勇者としての力

雄也は今まで防具を装備しませんでしたが、せっかく作った伝説の防具を使わないのはもったいないと思ったので今回ゆうしゃのたてを登場させました。


大きな傷を受けて追い詰められているはずの闇の戦士だが、まだ俺に勝てることを確証しているような余裕の顔は変わらない。

人間を守るためには使われなかったものだが、奴は俺にはない勇者としての力を持っているからだろう。

今度は何をして来るのかと思っていると、闇の戦士は俺を睨みつけながら呪文を唱えてきた。

 

「お前がただの人間だと言うことが、まだ分からないみたいだな!目を眩ませよ、レミーラ!」

 

闇の戦士がそう叫んだ瞬間、辺りに眩しい光が溢れ出し、奴の姿が見えにくくなる。

確かレミーラはドラクエ1に登場した、光を放って暗い洞窟を探索しやすくするための呪文だ。

空の光が全く当たらない場所すらも明るくする魔法なので、強大な魔力を持つ存在である今の闇の戦士が使えば周囲の様子が分からなくなるほどの光になるのか。

モンハンの閃光玉を使った時のような光がずっと続いている状態であり、俺は目を開けているのがやっとだが、目を閉じれば奴の攻撃が見えなくなってしまう。

目に負担がかかりそうだが、俺は目を開け続けて奴の攻撃を警戒した。

 

「この光の中で、あいつはいつ仕掛けて来るんだ?」

 

目を開けていても奴の動きを目視するのは困難であり、どの方向から攻撃して来るかは分からない。

俺はどこから攻撃が来てもいいように、全方向に気をつける。

そうしていると、突然まわりに青色の円のような物が現れ、俺は戦闘の途中だというのに眠気に襲われ、目を閉じてしまいそうになる。

 

「ラリホーの呪文も効いたか。そのまま永遠の眠りにつきな!」

 

俺は剣で攻撃して来るのだと思って警戒していたが、敵を眠らせる呪文、ラリホーを使ったのか。

ラリホーもレミーラと同じく、ドラクエ1の勇者が覚えることの出来る呪文だ。

ガライヤにいるガーゴイルもこの呪文を使っていたが、闇の戦士は非常に短い詠唱時間で発動させている。

本当にこのまま眠らされてしまえば奴の剣で斬り刻まれてしまうだろうから、俺は何とか眠気に抵抗して、両腕の剣で攻撃を受け止めようとする。

 

「そんな呪文くらいで、戦闘中に寝られるかよ…!」

 

強制的に意識を奪われるような感覚になり、俺は腕に力が入らなくなってくる。

だが、直撃さえ避けられれば死ぬことはないだろうから、俺は残った意識で両腕に持つ武器を奴の剣に叩きつけた。

おうじゃのけんとビルダーハンマーは俺の手から弾き飛ばされ、俺自身も数メートル後ろに突き飛ばされる。

再び体に強い痛みが走ったが、俺はすぐに立ち上がり落とした武器を回収しに行こうとした。

 

「眠気には耐えたみたいだが、無駄な努力だったな!武器も落としたお前にもう勝ち目はない!」

 

しかし、俺の行動を妨害しようと、闇の戦士は飛び上がって剣に力を溜めて回転斬りを放って来ようとする。

回転斬りは範囲が広いので、走って避けるのは不可能だと思い、俺は大きくジャンプをしてかわす。

その時、武器を回収するため俺はおうじゃのけんが落ちたと思われる場所に向かって飛んだ。

レミーラの効果が続いていて遠くから正確な位置を確認することは出来なかったが、着地した地点の近くでおうじゃのけんを見つけることが出来た。

今の闇の戦士でも回転斬りの後の隙は少しあるので、俺はその間におうじゃのけんを拾い、闇の戦士との距離をとった。

 

「おうじゃのけんは回収出来たけど、このままだと本当に勝ち目がないな…」

 

俺も闇の戦士も大きなダメージを受けているが、闇の戦士は呪文を使えるので優勢になっている。

攻撃力、魔力、素早さの全てが強力である奴に確実に大ダメージを与えられる方法を見つけなければ、逆転するのは難しいな。

俺は闇の戦士との距離をとった後、またラリホーの呪文を受けないように動きながらそんなことを考える。

そこで俺は、レミーラの呪文によって視界が悪くなっている状況を利用する方法を思いついた。

レミーラの呪文は辺りを明るくするという効果なので、呪文を発動させた本人である闇の戦士も俺の姿が見えにくくなっているはずである。

今、奴が俺を狙えているのは俺の足音から居場所を特定しているからの可能性が高い。

 

「足音をたてずに動いて、闇の戦士の背後にまわるしかないな…」

 

奴を背後から攻撃し、もし心臓を突き刺すことが出来ればここで戦いを終わらせることが出来る。

さまざまな場所に潜入してきた俺にとって、足音をたてずに動くことは慣れていることなので、成功する可能性もあるだろう。

俺も闇の戦士の足音に耳をすませて、奴から十分な距離をとってから、足音をたてずに奴の背後にまわろうとする。

すると、闇の戦士はさっき俺が足音を立てて移動した場所までは向かってきたが、無音で動く俺を見つけることは出来ていないようだった。

だが、俺が音をたてずに動いていることも、奴にすぐに気づかれてしまった。

 

「お前、この眩しさを利用しているのか。なら、レミーラを解除してやるさ!」

 

闇の戦士はそう言った後、もう一度呪文を唱える。

すると、辺りを包んでいた眩しい光が消えていき、視界が普通に戻っていこうとする。

俺はまだ闇の戦士の後ろにまわりきれていなかったが、このままでは奴に攻撃を防がれてしまうな。

少しでも大きな傷を与えなければ勝ち目は薄れるので、俺はすぐに動きを変えて、奴の側面から攻撃を行う。

一瞬でも早く突き刺さるようにと、俺は飛びながら右腕を延ばして、闇の戦士の筋肉だらけの横腹に思いきりおうじゃのけんを突き刺した。

 

「ぐはあっ!」

 

光がまだ消えていないうちだったので、闇の戦士は俺の攻撃に気づけず、鋭い剣で再び体を貫かれる。

剣が突き刺さった瞬間、闇の戦士はあまりの痛みに叫び声をあげて怯んだ。

俺が強い力でとても素早く攻撃したため、おうじゃのけんは闇の戦士の体に根本まで刺さっている。

 

「ついにこいつが怯んだな。今のうちにさらに追撃するか!」

 

今まで何度斬りつけても怯まなかった闇の戦士がついに動きを止めたので、俺はさらに大きなダメージを与えようと腕に力をためた。

回転斬りを使って体内を斬り裂けば、闇の戦士でも瀕死に追い詰められるだろう。

俺が力を溜めている間、闇の戦士は何とか体勢を立て直そうとするが、体を貫かれた痛みが原因で時間がかかっていた。

普通の人間なら確実に死ぬはずであるほどの重傷なので、勇者であったころも経験したことがないのだろう。

そして、闇の戦士が体勢を整えようとしている途中で腕に限界まで力が溜まり、俺は力を解放して奴の体内を斬り裂いていく。

 

「行くぞ、回転斬り!」

 

外見は筋肉だらけの強靭な肉体である闇の戦士も、体内を斬り裂かれればただでは済まず、さっきより大きな叫び声をあげた。

それと同時に、立ち直ろうとしていた奴の体が再び倒れ込む。

今までの攻撃のダメージもあるので、闇の戦士はもう瀕死の状態だろう。

だが、回転斬りの後は隙ができてしまうので、もう一度攻撃することは出来なかった。

痛みに耐えて起き上がった闇の戦士は、一旦俺から離れようと後ろに飛ぶ。

 

「お前…ただの人間のくせにここまでオレに攻撃出来るのか。思っていた以上の力と素早さだな…」

 

そして、追い詰められた奴は俺を鋭く睨みつけ、強力な魔法で攻撃をしようとしてきた。

 

「でもさ、どうせお前に平和な世界を作ることは出来ないんだよ!燃え尽くせ、ベギラゴン!」

 

ドラクエ1の勇者はベギラマまでしか覚えなかったが、今の闇の戦士はその上位の呪文であるベギラゴンも使えるようになっているのか。

ベギラゴンは強力な炎の呪文なので詠唱時間がかなり長いはずなので、回転斬りを終えて体勢を立て直した俺は詠唱時間の間に攻撃を行い、呪文を阻止しようとする。

 

「強力な呪文だけど詠唱時間も長い。今のうちに攻撃するぜ!」

 

しかし、闇の戦士は俺が接近する前にベギラゴンの呪文を唱え終わり、巨大な炎で辺りを焼き尽くそうとした。

奴はラリホーの呪文を素早く発動させていたが、ベギラゴンのような強力な呪文でもそれが可能なのか。

俺はすぐに呪文が発動したのに気付き、とても大きくジャンプして回避しようとする。

だが、ベギラゴンの炎は思った以上に広範囲であり、直撃は避けられたものの俺は足を焼かれ、火傷を負ってしまった。

 

「くそっ、詠唱時間も短い上に、範囲もこんなに広いのか…」

 

さらに、足の痛みに耐えて起き上がろうとしている俺のところに、闇の戦士は剣を叩きつけてくる。

 

「人間を守るためには決して使うことのなかった、勇者としての力だ!竜王を超えたお前もこれは超えられない」

 

重傷を負っているはずの闇の戦士だが、攻撃の威力は一向に下がっている様子はなかった。

おうじゃのけんしか持っていない今、飛び上がっての叩きつけを防ぐことは両手を使っても不可能だろう。

仮に受け止められたとしても、反撃することが出来ずに押し切られてしまうな。

俺は火傷を負った足を動かして叩きつけを避けることは出来たが、闇の戦士はさっきのように続けて連続攻撃を放ってくる。

 

「追い詰められているはずなのに、まだ連続攻撃を放てるのか…!?」

 

痛む足はそのスピードについて行くことが出来ず、俺は体をそらすなどして攻撃を避けて行くが、体力の限界が近づいてきてだんだん動きが遅くなっていった。

それを見た闇の戦士は、そろそろとどめを刺そうかと俺の頭に剣を振り上げる。

 

「終わらせてやる、影山雄也!」

 

奴の剣であれば頭蓋骨も容易に斬り裂かれるだろうから、俺は痛む足に力をこめて後ろに飛ぶ。

だが、足の火傷と体力の消耗のせいで思ったように体が動かず、俺は致命傷は負わなかったものの背中に大きな傷を負ってしまう。

闇の戦士は未だ素早く動いており、今度こそ殺されてしまうかもしれない。

闇の戦士から少し離れた俺は、何とか奴の攻撃を防ぎ状況を逆転出来る方法がないか考える。

 

「ビルダーハンマーもない…何を使えば状況を逆転出来るんだ?」

 

「仕留め損なったか…だが、いくら攻撃をかわしても無駄だ!」

 

その間にも闇の戦士は再び剣を構えて、俺を叩き斬ろうとして来る。

だがその時、俺はラダトーム復興の際に作ってから、1度も使うことなくポーチに入っている伝説の防具を思い出した。

俺は防具を使うのが好きではないし使ったことがないが、そうしなければこのまま闇の戦士に殺されてしまう。

 

「もうこれを使うしかないか…」

 

そして、闇の戦士の剣が叩きつけられる直前にポーチから伝説の盾であるゆうしゃのたてを取り出し、俺はそれを左手に持って奴の攻撃を受け止める。

武器である剣より防具である盾の方が攻撃を受け止めやすく、左腕に非常に強い衝撃が走ったが、奴の強大な一撃を受け止めることが出来た。

 

「お前…伝説の剣だけでなく伝説の盾も持っていたのか!?」

 

闇の戦士は俺がゆうしゃのたてを取り出したことに驚いたが、すぐにそれを叩き割ろうと剣に力を溜めていく。

 

「だが、そんなのは無駄な抵抗でしかない!」

 

左腕にかかる衝撃で突き飛ばされそうになるが、攻撃のチャンスは今しかない。

俺は左手にの力をこめて闇の戦士の攻撃に耐え抜き、その間に右腕のおうじゃのけんを奴の体内に再び突き刺す。

俺の攻撃を弾くのに集中していた闇の戦士は俺の渾身の突き攻撃に気づくのに遅れ、再び腹に大きな傷を負った。

 

「くっ、まだ攻撃して来る力が残っているのか…!」

 

防ぐことは出来なかったが、闇の戦士は俺の腕に盾を叩きつけて攻撃を止めようとして来る。

左腕だけでなく右腕にも激痛が起こり、力を弱めそうになるが、ここで怯ませれば勝てる可能性も上がるので、俺は両腕に全身の全ての力をこめて奴の攻撃を防ぎ、体内をえぐった。

 

「ここであんたに勝って、世界に平和を取り戻してやる!」

 

闇の戦士の体内を再び斬り裂いた瞬間、奴もさらなる大きなダメージを負って倒れ込み、俺も力尽きてその場で動けなくなった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode124 世に満ちる闇

今回から5章終わりまで急展開の連続になるかもしれません。


力尽きて動けなくなっていた俺と闇の戦士は、しばらくして再び立ち上がった。

闇の戦士は何度も体内を斬り裂かれ、もう死にかけているはずなのにまだ余裕な表情をしている。

体力の限界だった俺がまだ来るのか…?と思い奴の様子を見ていると、突然地面が激しく揺れ始めた。

 

「くっ…闇の戦士は追い詰めたのに、何が起こっているんだ…!?」

 

今までの町で魔物の親玉が襲撃してきた時のような地響きに、俺はまた体勢を崩してしまいそうになる。

何が起こっているのかと思っていると、闇の戦士はまもなく魔物たちの計画が達成されると言い出した。

 

「人間の破滅の時だ。まもなくアレフガルドの地に、魔物の魂の集合体たる最強の魔物が現れる」

 

サンデルジュの砦を出る時、ムツヘタは最強の存在が現れるまであと僅かだと言っていたが、ついにその時が近づいて来てしまっているのか。

だが、闇の戦士はまもなく現れると言っているので、まだ現れた訳ではないはずだ。

まだ間に合うと思って、俺は痛む全身に力を入れておうじゃのけんを構える。

 

「もうほとんど時間がないってことか…でも、ここであんたにとどめを刺して計画を阻止してやるぜ」

 

闇の戦士は弱っているので、魔物の計画が達成されるまでの間にとどめをさすことが出来るはずだ。

だが、闇の戦士は余裕な表情を続けるどころか、まだ追い詰められていないと言った。

 

「とどめを刺すだと…?お前は所詮、勇者だった頃のオレを超えただけだ。人間がどれだけ足掻こうが、オレたちの計画を止めることなど出来ない」

 

勇者としての力を超えただけ…?余裕の表情や今の言葉から考えると、闇の戦士はまだ俺に見せていない力を持っているのだろうか。

確かにさっき奴が使っていた呪文は、ドラクエ1の勇者が覚える呪文や、その上位の呪文だけだった。

 

「もしかして、まだ俺に見せていない力を持っているって言うのか?」

 

「ひかりのたまの力を消し去る時に使った、強大な闇の力だ。勇者だった頃のオレには勝てても、この闇の力には勝てないだろう」

 

闇の戦士が闇の力でひかりのたまの効果を打ち消したのは知っていたが、その力は戦闘に使うことも出来たのか。

勇者としての力に打ち勝つことさえ大変だったのに、それを上回る闇の力となれば、勝ち目は薄そうだな…。

だが、ここで計画を達成されれば今までの俺たちの復興活動が無駄になってしまうので、俺は再び剣を構えて闇の戦士に斬りかかっていく。

 

「それでも、ここで魔物の計画を達成させるわけにはいかないな」

 

しかし、さっきまでの戦いで受けた傷のせいで腕に力が入らず、全力の攻撃を叩きつけることは出来そうになかった。

 

「無駄だと言っている。オレを不幸にした人間の世界の破滅を大人しく見てろ!」

 

そして、闇の戦士は弱っている俺の様子を見て、そんなことを言い出した。

それと同時に、奴は闇の力を使って剣に力を溜めて、近づいてきた俺に叩きつけてくる。

今までも闇の戦士の剣から凄まじい闇の力を感じることが出来たが、今はその比ではないほど強大であり、剣がその力によって黒く輝いていた。

 

「諦めるんだな、影山雄也!」

 

俺は奴の剣を避けようとしたが、素早く動くための体力が残っておらず、受け止めるしかなくなる。

しかし、受け止めるにしても腕に力が入らないので、直撃を避けることは出来たが、おうじゃのけんが弾き飛ばされ、俺は再び倒れ込んでしまった。

 

「くそっ…もう計画は止められないのか…?」

 

ここまで上手く進んできたアレフガルドの復興を、失敗に終わらせる訳にはいかない。

だが、今の俺は立ち上がることすら大変なので、闇の戦士の闇の力に敵うとは到底思えなかった。

俺が何とかもう一度立ち上がろうとしていると、闇の戦士は魔物たちによって町が壊されて行くのを見ながら死んでいけと言ってくる。

 

「そうだ、もう計画を止めることは出来ない。魔物たちに町が壊され、人間たちが殺されていく様子を見ながら死んでいくがいいさ」

 

またそれだけでなく、闇の戦士は魔物たちの計画が、俺たち人間が考えているよりも恐ろしいものだということも話した。

 

「それと、現れた最強の存在を倒せばいいと思ったかもしれないが、人間にそれは不可能だ。オレたちの計画は、お前たちが思っているより遥かに恐ろしいものだからな」

 

俺やムツヘタが知っている魔物たちの計画は、竜王や倒された魔物たちの魂に魔力を捧げて蘇らせるというものだ。

魔物の魂の集合体というだけでも恐ろしいのに、それだけではないということなのか…?

 

「どう言うことだ…?」

 

「確かに今回の計画でオレたちが生み出そうとしているのは、魔物の魂の集合体だ。だが、倒れた竜王や魔物たちの魂に捧げているのは、岩山の城の魔物の魔力だけじゃない。アレフガルドに満ちる全ての闇を捧げているんだ」

 

アレフガルドに満ちる全ての闇…?空を覆っていた闇はひかりのたまに吸収されているはずなので、この地に残っている闇の力といったら闇の戦士の力くらいのはずだ。

闇の戦士も魔物たちの魂に力を捧げているというのは考えられるが、それだけならアレフガルドに満ちる闇なんて言い方はしないはずだ。

 

「アレフガルドに満ちる闇…?あんたの力とは別なのか?」

 

「ああ。リムルダールに満ちる、人を蝕む闇の力…ラダトームに満ちる、生命を朽ち果てさせ、死の大地に変える闇の力…それだけじゃない、今でもアレフガルドのあらゆる地に闇の力は満ちている。ひかりのたまによって封じられたのは、空を覆う闇の力だけだ」

 

空だけでなく地上にも闇の力が満ちており、そちらはまだ消えていないということか。

確かにラダトーム全域を死の大地に変えるのには、膨大な闇の力が必要だったと考えられるな。

もしそれほどの闇の力を捧げられたのであれば、魔物の魂の集合体どころでは済まされない、とてつもなく恐ろしい存在になってしまいそうだ。

 

「それをあんたが、魔物たちの魂に捧げていたのか」

 

また、計画が始まってから1週間程度で最強の存在が現れようとしているのも、膨大な闇の力を捧げているからだという。

 

「そうだ。オレたちの計画が急速に進んだのも、そのアレフガルドに満ちる全ての闇の力のおかげだ」

 

俺は今まで数百体の魔物が魔力を捧げているから計画が急速に進んでいるんだと思っていたが、そんな理由があったのか。

とにかく、魔物の魂をあくまで依り代と言えるほどの膨大な闇の力の集合体が現れるとなれば、尚更阻止しなければいけない。

 

「それなら、尚更阻止しないといけないな…でも、もう武器がない…」

 

俺はそう思いながら全身の痛みを我慢して立ち上がるが、俺の両腕に武器はなく、拾ったとしても闇の戦士を止められるほどの力は残っていない。

それを見て、闇の戦士は計画を完成させようとしているのか、呪文を唱えるような構えをとる。

おそらくさっき言っていた、アレフガルドの大地に満ちる闇の力を魔物たちの魂に捧げることをしているのだろう。

 

「もうお前に出来ることはない。人間の破滅の始まりをそこで見ているがいい」

 

そして、闇の戦士が闇の力を魔物たちの魂に捧げるにつれて、地面の揺れが大きくなってくる。

闇の戦士を止めることは限りなく不可能だが、ここで何もしない訳にはいかない。

俺は少しでも計画を遅らせられないかと、弾き飛ばされたおうじゃのけんを拾って、闇の戦士に叩きつけようとする。

 

「くそがっ…!何とか止められないのか!?」

 

しかし、力が残っていない俺の攻撃では、奴を少し食い止めることも出来ない。

 

「人間は消え去るべきだ、もういい加減にしろ!」

 

闇の戦士は俺の攻撃を軽く弾き返し、闇の力を捧げ続ける。

俺は何度も奴に向かっておうじゃのけんを叩きつけたが、どうすることも出来ない。

そしてついに、魔物の計画が達成される時が来てしまった。

 

この世の物とは思えないおぞましい叫び声が聞こえ、地面の揺れがさらに激しくなる。

そして、闇の戦士は俺に向かって、もう人間は終わりだと言ってくる。

 

「オレたちの計画は達成された。アレフガルドに満ちる全ての闇の集合体は、すぐにお前たちの町を破壊し尽くすだろうな。物を作る力を持つビルダーを遣わせ、人間の町を復活させるというルビスの試みは失敗に終わった。人類はもう終わりだ」

 

そう言うと、闇の戦士は倒れている俺を残して、この小さな城から出ていく。

さっき町が壊され、人々が殺されていくのを見ながら死んでいけと言っていたから、ここでは殺さないということか。

闇の戦士の人類に対しての、特に幸せを奪った存在である俺に対しての恨みはとてつもなく強い。

俺に復讐する方法としてはこれが一番だと思ったのだろうな。

 

闇の戦士が去った後の城の中で、俺はこれからどうしたらいいんだと考えていた。

 

「この状況を、どうやって覆せばいいんだ…?」

 

そうやってしばらくしていると、俺の耳にルビスの声が聞こえてきた。

ルビスもアレフガルドに最強の魔物が現れ、大変な状況になってしまったことに気づいたみたいだな。

 

「あなたと闇の戦士とのやりとり、私も見ていました…大変なことになってしまいましたね」

 

「ああ。せっかくあんたにビルダーの力を貰ったのに、こんなことになってしまった…」

 

この状況は、ルビスの力があっても覆すことは出来ないだろう。

アレフガルドに満ちる全ての闇の力と、ルビスを激しく憎んでいる闇の戦士が相手では、ルビスも対応することは出来なさそうだ。

せっかく世界を復興させる力を貰ったのに、こんなことになってしまい、本当にルビスに申し訳ない。

 

「闇の戦士を止めることが出来なくて、本当にごめんなさい…」

 

謝ってもこの状況が変わる訳ではないが、俺はルビスに謝った。

ルビスもこんな状態になってしまったことを、悲しんでいるだろうからな。

だが、ルビスは自分も謝らなければいけないと俺に言ってくる。

 

「謝らなければいけないのは私もです。私は今まで闇の戦士の言う通り、人を自分の道具のように思っていました。だからいつも、『すべては精霊の導きのままに』と言い、人間は私の導きに従うべきだと考えていたのです。もちろん、あなたも例外ではありません」

 

つい2週間くらい前も、ルビスは俺に『あなたは竜王を倒しに行く勇者ではありません』と、人の行動を制限するようなことを言っていた。

まあ、精霊と人間という関係なので、そんな考えになるのも仕方ないだろう。

だが、数百年前の勇者の裏切りと、今回の最強の魔物の出現。闇の戦士によって引き起こされたこれらの出来事の責任は、自分にもあると彼女は考え始めているようだな。

『すべては精霊の導きのままに』という考えを、改めようとしているようだ。

そう思っていると、ルビスは話を続ける。

 

「ですが、闇の戦士の話を聞いて思ったのです。私の導きのせいで、一人の男を不幸にしてしまい、やがてそれが世界を滅ぼしたと。だから、精霊の導きなどやめて、人の生き方は自分で決めさせるべきなのではないかと」

 

それで闇の戦士がルビスを許すかは分からないが、確かに彼女は考えを変えたようだ。

そして、ルビスは俺に、勝手にアレフガルドへ連れてきて、ビルダーとして遣わしたことを謝る。

 

「ですから、私はあなたに謝らなければいけません。私の思いだけであなたをアレフガルドに連れてきてしまい、本当にごめんなさい」

 

「さっきの話は聞いていただろ。あんたのおかげでみんなに会えたんだし、俺は恨んでなんかいないぞ」

 

「ですが、勝手に連れてきたことは紛れもない真実です」

 

俺が謝る必要はないと言ったが、ルビスはそう話してくる。

また、俺を大変な状況になってしまった今のアレフガルドから、地球に返すことも出来ると言ってきた。

 

「せめてもの償いなのですが、私は今あなたを地球に返すことも出来ます。そうすればあなたは、魔物と戦って死ぬこともなく、普通に暮らすことが出来るでしょう」

 

確かにこのままアレフガルドにいたら、俺は戦いの中で死んでしまうかもしれない。

闇の戦士から最強の存在が現れたことを聞いた直後には、絶望の中で地球に帰りたいとも考えていた。

だが、ルビスの声を聞いて、やはりそう言う訳にはいかないとも思った。

ルビスは確かに俺を無理やりアレフガルドに連れてきたが、俺はそれでも彼女に感謝している。

ここで地球に帰るなんて選択をしたら、ルビスやみんなを見捨てたことを後悔して生き続けることになってしまう。

それは、この先待っているどんな戦いよりも辛く苦しいものとなるだろう。

だから、ルビスの作ったこの世界を見捨てて、地球に戻ることなんて出来ない。

 

「いや、俺はアレフガルドに残る。こんな状況になってしまったのも、俺が闇の戦士は止められなかったからだ。あんたや人々のためにも、俺が責任を持って最後まで戦い続ける」

 

「本当にいいのですね?これからの戦いは勝ち目のほとんどない、非常に厳しい戦いとなるでしょう」

 

ルビスもこれからの戦いが厳しく、勝ち目が薄いものになると忠告してくる。

それでも、ここでルビスやみんなを見捨てるなんて出来ない。

 

「ああ。それでも俺はアレフガルドで戦い続ける」

 

「分かりました…それがあなたの選択なのであれば、私は止めることはしません。すべてはあなた自身の選択のままに…」

 

俺の気持ちをはっきり告げると、ルビスはそう言って去っていった。

もう全ては精霊の導きのままに…とは言わずに、あなた自身の選択のままに…と言っていたな。

闇の戦士や闇の力の集合体に勝てるかは分からないが、俺はアレフガルドに残る選択をした。

だから、出来る限りのことはしなければいけない。

そう思って、俺は闇の戦士の城から出て、サンデルジュの砦へ戻っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode125 破滅への抵抗

俺が闇の戦士の城を出てサンデルジュの砦へ戻っている時、闇の力の集合体が現れたことによる激しい地面の揺れはまだ続いていた。

そんなに長い時間、強い地面の揺れを起こせると言うことからも、その闇の力の集合体の恐ろしさが窺える。

本当にそんな奴に勝つことが出来るのか…という不安が大きくなるが、俺はアレフガルドに残るという決断をしたので、諦める訳にはいかない。

そんなことを考えながら、俺はポーチにしまっていた白花の秘薬を飲んで体の痛みを癒してから、サンデルジュの砦に向かって歩いて行く。

地面の揺れに気をつけて日の当たらない暗い峡谷を歩いていると、50分くらいかかってサンデルジュの草原に戻ってきた。

 

「地面の揺れのせいで進みにくかったけど、何とかここまで戻ってくることが出来たな」

 

地面のゆれのせいでいつもより時間がかかったが、無事に砦に戻ることが出来そうだ。

今はまだサンデルジュにいる魔物の数が少ないので、そんなに警戒して進む必要もない。

 

「砦に戻ったら、まずはみんなに謝らないといけないな」

 

サンデルジュの砦が近づいてくると、俺はそんなことを考える。

今後の戦いについて話すのも大切だが、まずはみんなに魔物の計画を止められなかったことを謝らなければいけないだろう。

最後まで戦い続けるという決断はしたが、それでもみんなの期待に答えられなかったのは間違いないからな。

 

30分くらい歩いてサンデルジュの砦に戻ってくると、ムツヘタとローラ姫が心配そうな顔で辺りを眺めていた。

そして、俺が砦に戻ってきたのを見ると、2人はすぐに話しかけてくる。

 

「雄也か。さっきから何が起きているのじゃ?激しい地面の揺れが止まらぬのじゃ」

 

「ラダトーム城の西のほうに、赤黒い雷が落ちるのも見えました」

 

地面の揺れだけでなく、赤黒い雷が落ちるという現象も起きていたのか。

ラダトーム城の西という場所から考えて、これも闇の力の集合体が現れたことが原因なのだろう。

 

今の話を聞いて俺が帰ってきたことに気づいたようで、ピリンやゆきのへたち、アローインプのルミーラも砦の中から出てくる。

4人も、激しい地面の揺れや赤黒い雷に不安を感じているようだった。

 

「雄也…何が起きてるの…?やっと楽しい世界になるって思ってたのに…」

 

「この地面の揺れはゴーレムやヘルコンドルの時の比じゃねえ。間違いなくマズイことになってるぜ」

 

「ワタシもこんな揺れを感じたのは始めてだ。雄也、何がどうなってるんだ?」

 

「今まで感じたことのない、とても恐ろしい気配がするね」

 

みんなも闇の戦士との戦いが終わったら世界に平和が戻ると思っていたし、俺も今回が最後の戦いだと思っていた。

だからこそ、より不安が大きくなっているのだろう。

俺はみんなが集まっているのを見て、今何が起きているのかを伝える。

 

「みんな…本当にごめん。魔物の魂の集合体…いや、全ての闇の力の集合体が現れてしまったんだ。奴らの計画を止めることが出来なかった」

 

その話を聞いて、みんなはとても驚いた表情に変わっていった。

ゆきのへは、どうして計画を止められなかったかや、闇の力の集合体について聞いてくる。

 

「計画を止められなかったってことは、闇の戦士に負けたってことか…?それに、全ての闇の力の集合体ってどう言うことだ?」

 

ゆきのへたちもムツヘタから、魔物たちが倒れた魔物の魂の集合体を作ろうとしているという話は聞いていたが、全ての闇の力の集合体であるということはまだ知らない。

どうして計画を阻止できなかったかも、みんな気になっているだろう。

だから、俺は闇の戦士との戦いで何があったかと、魔物たちの計画について奴から聞いたことを、みんなに話した。

 

「闇の戦士との戦いの時、あいつはかつて勇者だった時の剣技や呪文を使って俺を倒そうとしてきたんだ。俺は何とか奴の攻撃を凌いで反撃して、追い詰めることが出来た。だけどあいつは、勇者としての力ではない、新たな力を持っていたんだ」

 

「新たな力…いったいどう言うことなのじゃ?」

 

闇の戦士が勇者としての力以外の力を持っているという話をすると、ムツヘタはそう聞いてくる。

 

「ひかりのたまの力を打ち消す時に使った、闇の力だ。勇者としての力を使っていた奴を追い詰めるのに力を使い果たした俺は、闇の力を使う奴を止めることが出来なかった」

 

「勇者の力を超える闇の力…そんなものがあったのか。ワシもそんなことは考えてなかったぜ」

 

「あやつは、わしらが考えていたより、遥かに強力な者であったようじゃな…」

 

ゆきのへとムツヘタは俺の話を聞いて、そんな話をする。

闇の戦士が闇の力を持っていたのは知っていたはずだが、それが勇者の力を超える物だとは思っていなかったのだろう。

闇の力を纏った闇の戦士の剣は、勇者の力を使っていた時の奴の剣の比べ物にならないほど強力であった。

俺は闇の戦士との戦いについて話した後、奴らの計画についても話した。

 

「それで、動けなくなった俺に向かって闇の戦士は、魔物の計画について話した。計画は、人間たちが考えているより恐ろしいものだということを」

 

「魔物の魂の集合体ではなく、全ての闇の力の集合体だと言っていたな…」

 

「ああ、魔物の魂に捧げられたのは、生きている魔物たちの魔力だけじゃなく、アレフガルドに満ちる全ての闇だったんだ。奴は、魔物たちの魂はあくまで依り代で、闇の力の集合体を作るのが計画の目的だと言っていた」

 

「そのアレフガルドに満ちる闇とは、どう言うことなのじゃ?」

 

アレフガルドに満ちる闇と言われてもよく分からないのか、ムツヘタはそう返す。

ひかりのたまによって空を覆っていた闇は消えたのだから、そうなるのも仕方ないだろう。

 

「ラダトームを死の大地に変えたような、生物や大地を蝕む力だ。もともと竜王やその配下の魔物たちが作り出した物なんだけど、闇の戦士の影響で竜王が倒れたあとも残ってしまっていたんだ」

 

「その力を、一つの意思ある存在にしたと言う事じゃな」

 

「そう言うことだ。だけど、その力は数百年に渡って作り続けられた物だから、全て合わせれば膨大な力になる。…俺たち人間に勝ち目はほとんどないと言えるほどだろう」

 

現れた最強の存在がどれほどの力を持っているかは分からないが、今の俺たちの力で勝てる相手だとは到底思えない。

俺はアレフガルドで戦い続ける選択をしたが、まだ不安の方が大きい。

 

「アレフガルドに平和が戻るどころか、最悪の状況に陥ってしまったようじゃな…」

 

予想以上の危機になったことを知り、ここにいる全員が暗い顔になってしまった。

そして、ピリンは悲しそうな口調で、こんなことを言ってくる。

 

「わたしにはアレフガルドに満ちる闇とかよく分からないけど、用事が全て終わって、世界が平和になったら、雄也と二人でピクニックに行きたいと思ってたの…だけど、行けなくなっちゃったんだね…」

 

幼いピリンには説明しても最強の存在のことがよく分からないみたいだが、俺の口調やみんなの表情を見て、世界が危機に陥っているのは分かったのだろう。

…ピリンは世界が平和になった後のために、そんなことを考えていたのか。

みんなも世界に平和が訪れたらしたいことがあっただろう。

それで、ここで闇の戦士を倒せていればみんなの願いを叶えられていたと思い、申し訳なく思う気持ちが強くなってしまう。

 

「楽しみにしていたのに、ごめんな…俺が闇の戦士を止められていれば、こんなことにはならなかったはずだ。みんな…本当に、本当にごめん」

 

さっきもっと体に力を入れていれば、立ち上がって奴を止められたかもしれない。

だが、後悔しても意味などなく、闇の力の集合体による地面の揺れが続いていた。

でも、俺がみんなに向かって頭を下げていると、ピリンがそんなに謝らなくてもいいと言ってくる。

 

「そんなに謝らなくたっていいよ。新しい用事が出来たとしても、そっちも終わらせればいいんだから。そしたら今度こそ、二人でピクニックに行こう!」

 

ゆきのへも、これからどうするかが大切だと言ってくる。

 

「謝るよりも、これからどうしていくかが大切だぜ。責任を感じているんなら、その闇の力の集合体をどうにかしなきゃいけねえ」

 

確かに俺はさっきから、アレフガルドで最後まで戦い続けることを決意している。

でも、みんなを今まで以上に危険な目に合わせてしまうことになるのは間違いない。

 

「俺も最後まで戦い続ける…だけど、みんなを今まで以上に危険な目に合わせてしまうことになるんだ」

 

「そんなこと気にしてねえ。どんな危険があったとしても、ワシらは乗り切ってきた。これから何があったとしても、同じように乗り切れるはずだぜ」

 

俺が頭を下げ続けたままそう話しても、ゆきのへは気にしていないと言った。

彼の後ろにいたヘイザンとルミーラも、自分たちの力があれば必ず勝つことが出来ると言ってくる。

 

「雄也と親方の力があれば、闇の力なんかに負けるはずはないぞ」

 

「どれだけ勝ち目の薄い戦いでも、人間の者を作る力があれば大丈夫だと思うね」

 

勝ち目のほとんどない戦いだと伝えても、みんなは今まで通り協力して戦って行こうと言っている。

それに、ゆきのへの言う通り謝っているだけでは責任を取ることは出来ない。

俺はまだみんなに申し訳なく思う気持ちでいっぱいだが、俺は頭を上げてこう話す。

 

「みんな、ありがとう。さっき言った通りとても厳しい戦いになるけど、出来る限りのことをする。どんな大変な目にあったとしても、必ず平和を取り戻してやるぜ」

 

勝ち目のほとんどない戦いとは言え、全くない訳ではない。

俺がゆきのへたちに向かってそう言うと、ムツヘタと姫も諦めずに、魔物たちに立ち向かって行くと言う。

 

「ワシらも諦めることはせぬ。ラダトームに戻ったら、世界を救うために何か出来ぬか考えてみるぞ」

 

「ずっと取り戻したいと思っていた美しい大地と澄みきった空、私もここで諦めたくはありません」

 

「分かった。みんな、これからも頼んだぞ」

 

みんなどんな事があっても、アレフガルドを復興させたいという意志は、なくならないみたいだな。

 

「ああ。まずは、魔物の活動がまた激しくなる前に、新しい設備を考えてやるぜ」

 

俺がそう言うと、ゆきのへは砦を守るために作れるものはないか考え始める。

みんなも自分に何か出来ることはないかと考えるために、ピリンたちはサンデルジュの砦の中に、ムツヘタはラダトームの城へと戻って行こうとする。

 

だが、ローラ姫はまだ俺に話があるようで、この場に残っていた。

 

「ところで、雄也様。闇の力の集合体が現れたという話で聞くことが出来ませんでしたが、あの方と話した時、何とおっしゃられていたのですか?」

 

最強の存在が現れるという事態のせいで忘れていたが、ローラ姫は闇の戦士の気持ちを気にしていたんだったな。

俺はまず、奴が人間を裏切って世界を滅ぼした理由について、ローラ姫に教えていく。

 

「あいつは確かに俺の思っていた通り、竜王を倒すという責務を押し付けて、自由を奪った人間やルビスに絶望していたんだけど、竜王の誘いに乗った後に自分のその気持ちについて気づいたらしいんだ」

 

「では、どうして竜王の誘いに乗ることになったのですか?」

 

竜王に寝返ってから自分の気持ちに気づいたのなら、どうして誘いに乗ったんだ?とローラ姫は不思議に思っているようだった。

俺も最初に闇の戦士からそのことを聞いた時は、どういうことなんだ?と思った。

 

「世界を裏切った理由は、ここで世界の半分を選んだらどうなるんだろうという、勇者になってから初めて与えられた選択肢に対する好奇心だったらしいんだ」

 

「好奇心…ですか。世界の命運を分ける選択肢に好奇心が湧くなんて、それほどに自由がなかったということなのでしょうね。…気づいてあげれば、こんなことにはならなかったでしょうに…」

 

俺が勇者が裏切った理由について話すと、ローラ姫は後悔の念を口にする。

確かに普通の精神状態であれば、世界を滅ぼす選択肢に好奇心が湧くなんてありえないはずだ。

ローラ姫一人でも勇者の気持ちに気づく人がいれば、世界を裏切ったり、人間を滅ぼそうとする計画を立てたりはしなかったかもしれない。

俺がそんなことを考えていると、ローラ姫は元勇者が自分のことをどう思っていたのかも聞いてくる。

 

「では、気持ちに気づいてあげられなかった私のことを、あの人はどう言っておられましたか?」

 

「自分から自由を奪った一人に過ぎないと言っていたな」

 

そのことを伝えると、ローラ姫は後悔の気持ちが強まったのか、より落ち込んだ顔になる。

だが、今からでも諦めたくはないとも言い出した。

 

「…そうですか。でも、今からでも諦めたくはありません。あの人のために、出来ることならしたいです」

 

「最愛の人なのは分かるけど、どうしてそこまで言うんだ?」

 

俺からしたら闇の戦士を連れ戻すのはもう不可能だと思っているが、どうしてローラ姫は諦めないのだろうか。

 

「私はあの人に命を救われました。だから、今度は私があの人を救ってあげたいのです。共に王国を再建して、アレフガルドを繁栄させていけば、きっとあの人は幸せになるでしょう」

 

元勇者命を助けてもらった恩を、どうしても返したいと思っているようだな。

平和な世界になってからは、二人で末永く王国を繁栄させて行こうとも思っているのだろう。

だが、人類に絶望し、人類を滅ぼすために闇の力の集合体を作り出した奴を、どうやって連れ戻すと言うのだろうか。

 

「でも、もう説得は不可能だと思うぞ」

 

「あの人はまだ生きているのですよね。今度もしお会いする時があれば、その時は私も連れていってください。私自ら、あの人に想いを伝えます」

 

闇の戦士はまた相見えることになるだろうが、その時に一緒に連れていってほしいと言うことか。

俺が説得しても駄目だったので、ローラ姫が説得しても成功するとは思えない。

だが、断っても説得しに行くと言いそうなので、俺は分かったと言った。

 

「分かった。もし今度奴に会う機会があったら、教えるぞ」

 

「ありがとうございます、勇者様。その時は、ラダトームに教えに来てくださいね」

 

俺がそう伝えると、ローラ姫は話を終えてラダトーム城に戻っていった。

ローラ姫の儚い希望が失われることはまだないみたいだが、彼女の想いは闇の戦士に届くのだろうか。

俺はラダトームに繋がる旅の扉に姫が向かっていくのを見て、みんながいる砦の中に入っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode126 激戦に向けて

今回は1章にもあった魔物サイドの会話を復活させました。今後も何回か出す予定です。


俺が闇の戦士と戦い、闇の力の集合体が現れた日の午後、俺たちは砦の中で新しい設備が作れないかと考えていた。

これから現れるであろう強力な魔物には、今の設備では対処しきれないだろうからな。

だが、今の砦にある兵器より強力なものなど、俺にはなかなか思いつかなかった。

でもそんな時、アローインプのルミーラが一つの提案をしてきた。

 

「雄也、ひとつわたしから提案したいことがあるんだけど、いい?」

 

さっそく新しい設備について何か思いついたのだろうか?

俺はまだ何も思い浮かんでいないのに、早いな。

どんな提案なのかは分からないが、今は少しでも砦を強化しなければいけないので、俺はルミーラの提案を聞くことにする。

 

「ああ、何か新しい設備を思いついたのか?」

 

「わたしが考えたのは、襲撃してきた敵を砦に近づかれる前に倒すための、大型の弓。何体かを砦に近づかれる前に倒しておけば、砦の防衛が楽になると思う」

 

大型の弓か…そういえばリムルダールを復興している時、ヘルコンドルやマッドウルスを倒すために大弓という兵器を開発していたな。

サンデルジュに来てからは作っていなかったけど、遠距離から敵を狙い撃ち出来る、機械仕掛けの強力な兵器だったはずだ。

ルミーラが考えているのは、そのような兵器なのだろうか?

 

「俺たちもリムルダールという町を復興している時に大型の弓を開発したことがあるんだけど、ルミーラはどんな感じの弓を思いついたんだ?」

 

「わたしが思いついたのは、アローインプ式の弓を何倍もの大きさにしたもの。一度に5発の矢を放てるから、強敵にも致命傷を与えられると思うね」

 

一度に5発もの矢を放つことが出来るか…アローインプの弓にそんな力があるとは思えなかったぜ。

確かにそれなら、大型の魔物にも大きなダメージを与えることが出来そうだ。

俺がそんなことを考えていると、ルミーラは俺が昔作っていた大弓はどんなものなのかと聞いてきた。

 

「それで、雄也が昔作ってた弓は、どんな感じだった?」

 

「俺がリムルダールで作っていたのは、機械仕掛けの大弓だ。そこの町のみんなが考えてくれたものでな、リムルダールの魔物の親玉、ヘルコンドルを撃ち落とすほど強力だった」

 

俺はリムルダールを復興していた時のことを思い出して話す。

まだあの時からそんなに時間はたっていないので、はっきりと覚えている。

そのことを話すと、ルミーラは自分が考えていた兵器と俺が作っていた大弓を合わせようと言った。

 

「確かにそれは強そうだね。わたしが考えたアローインプ式の弓と、雄也が作っていた機械仕掛けの大弓を合体させた兵器を作ればもっと強力になりそうだね」

 

その二つの兵器を合体させると言うことは、機械仕掛けの大弓の威力の矢を、5発同時に放てる兵器になると言うことか。

あんな高威力の矢を5発同時に撃てるのなら、間違いなくこれからの砦の防衛にも役立ちそうだ。

 

「確かに強そうだな。それを作って、砦の前に配置するか」

 

「わたしが作り方を考えるから、雄也は昔作っていた大弓の形や作り方を教えて」

 

ルミーラの思いついた兵器に賛成すると、彼女は俺が昔作っていた大弓の形や作り方について聞いてくる。

ルミーラにはまだ機械仕掛けの大弓だとしか伝えていないので、新兵器を考えるのには情報が足りなさすぎるのだろう。

俺はルミーラにリムルダールで作った大弓の特徴を伝えると、近くでルミーラの考えがまとまるのを待っていた。

そして、しばらくすると、ルミーラは考えがまとまったらしく、俺に新たな大弓の作り方について教えてきた。

 

「少し時間がかかったけど、だいたいの作り方や見た目は決まったね」

 

「さっそく教えてくれ。今から作りに行ってくるぜ」

 

俺がそう言うと、ルミーラは新たな大弓の作り方について言い始める。

俺が考えていた通り、高威力の矢を5発同時に撃つことが出来る、機械仕掛けの大弓になったようだった。

作り方を聞き終えると、俺はビルダーの力で必要な素材を確認する。

 

アローインプ式大弓…木材10個、ひも8個、はがねインゴット5個 木の作業台

 

大弓よりもさらに大型かつ、複雑な作りになっているので、木材とひもの必要数が増えているな。

また、大弓ではさびた金属を使っていたが、それでは強度が足りないとルミーラが考えたようで、はがねインゴットを使うようだ。

必要数は多いが持っている素材ばかりなので、今から作りに行けそうだ。

木の作業台が必要だと出たが、ここには万能作業台があるので問題ないな。

 

「今持っている素材で作れそうだから、さっそく作ってくるぜ」

 

俺はルミーラに言ってから、万能作業台が置いてある工房に向かった。

工房に入ると、俺は万能作業台の前に立って必要な素材を取り出し、ビルダーの魔法を発動させていく。

すると、持っていた素材が次々に複雑に加工されていき、かなり大型な弓の形に変わっていった。

それは、ルミーラに言われた通り5つの矢を同時に放てる構造となっており、俺がリムルダールで作っていた大弓と同じような機械仕掛けの物となっていた。

 

「これがアローインプ式大弓か。とても強そうだし、今度魔物が来た時に使ってみるか」

 

アローインプ式大弓を作った後は、今度は敵に放つための矢を作っていく。

リムルダールでは鉄で作られた鉄の矢、銀で作られた聖なる矢の2種類の矢を作っていたけど、今は強力かつ大量に持っているはがねインゴットがあるので、それから矢を作ったほうが良さそうだな。

 

はがねの矢…はがねインゴット1個、木材1個 木の作業台

 

俺は必要な素材を調べると、さっそく目の前にある万能作業台で大量に作っていく。

一度に10個も作ることが出来るし、5発同時に撃っていればすぐになくなるだろうから、俺は次々に作っていき、200個のはがねの矢を用意しておいた。

 

「このくらいはがねの矢があればしばらくはなくならないだろうな。弓も矢も作れたし、アローインプ式大弓を設置しに行ってくるか」

 

俺は200個のはがねの矢をしまうと、今作ったアローインプ式大弓を砦の前に設置しにいく。

いつも魔物が襲撃してくる方向は決まっているので、魔物を狙い撃ちしやすいような位置に置くことにした。

アローインプ式大弓を設置した後は、それがうまく機能するか動かしてみる。

すると、大型の弓とは思えないほど軽く角度調整ができて、とても使いやすそうになっていた。

 

「これなら、強い魔物を狙い撃ちするだけじゃなくて、弱い魔物を薙ぎ払うように撃つことも出来そうだな」

 

強い魔物を集中攻撃するか、弱い魔物を薙ぎ払うか、2通りの使い方が出来るというのもとても便利だな。

次の魔物の襲撃がいつになるかは分からないが、これで勝てる可能性が上がったはずだ。

俺はアローインプ式大弓を完成させ、設置したことを伝えるために、ルミーラを呼ぶ。

 

「ルミーラ、新しい大弓を作って設置してきたぜ。とても使いやすそうだし、強そうだ」

 

それを聞いて、嬉しそうな顔をしたルミーラが部屋の中から出てきて、俺のところに走ってくる。

自分が考えた兵器が強そうだと言われて、喜んでいるのだろう。

 

「うまく考えられたか少し不安だったけど、強力な兵器になったのならよかった」

 

俺のいるところに近づくと、ルミーラはそう言う。

そういえばルミーラは俺たちの活動に加わってからそんなに時間がたっていないし、兵器を考えるのも初めてのはずだ。

初めてなのにこんな強力な兵器を考えるのは、かなりすごいことだろう。

俺はそんなことを考えながら、アローインプ式大弓を考えてくれたルミーラに感謝する。

 

「こんな強力な兵器を考えてくれてありがとうな。今度からの戦いはこれを役立てていくぜ」

 

「わたしももっと強力な設備を作れないか、みんなと話し合ってみるね」

 

ルミーラは今回だけでなく、これからも強力な設備を開発していこうと言う。

さっきみんなは今まで通り協力していけば大丈夫だと言っていたが、俺もそう思えてくるぜ。

俺とルミーラはしばらくアローインプ式大弓を見た後、次なる設備を考えに砦の中に戻っていった。

 

その日、俺達は魔物との戦いに向けてさらなる兵器を砦の中で考えていたが、思いつかないまま夜になってしまった。

アレフガルドの夜は暗くて不気味であり、明日からの活動に備えて俺達は寝ることにした。

 

 

 

その日の深夜、雄也達が寝静まった頃…

ラダトーム地方 岩山の城 玉座の間

 

雄也が闇の戦士と戦った日、闇の力の集合体が現れたことで、岩山の城にいる魔物たちはこれで人間を滅ぼすことが出来ると喜んでいた。

その騒ぎは夜になっても止むことはなく、闇の力の集合体が鎮座する玉座の間にも、多くの魔物たちが集まっていた。

だが、喜んでいる魔物たちの様子を見て、闇の力の集合体は快く思っていないようだった。

そして、魔物たちに向かって怒鳴りつける。

 

「貴様ら、何を喜んでいるのだ!貴様らには、人間を滅ぼす気がないのか」

 

これで人間を滅ぼせると思って喜んでいたのに、どういう事だ?と魔物たちは闇の力の集合体の方を向く。

闇の力の集合体の気迫は魔物にとっても恐ろしいものであり、騒いでいる魔物も黙り込んだ。

魔物全員が黙ったのを見て、闇の力の集合体は話す。

 

「確かに貴様らや、あの戦士のおかげで、我はこの姿で実体化することが出来た。だが、貴様らが我を生み出そうとしている間、人間どもも拠点を強化したはずだ。特にビルダーという男は、あの戦士に戦いを挑むほどの男だ。この城で喜んでいることが、本当に人間どもを滅ぼしたい者のすることか?」

 

闇の力の集合体は闇の戦士や魔物の話で、今までに起きたことは一通り知っていた。

人間が着実に力をつけていることも把握しており、魔物たちに命令を下した。

 

「人間どもがこれ以上力をつける前に、奴らの拠点を破壊し尽くせ。特にビルダーの男がいる、サンデルジュの砦が目障りだ。戦力を出来る限り集めて、あの砦を消せ」

 

「承知いたしました、すぐに向かいます!」

 

命令を聞き、闇の力の集合体の前に立っていたアローインプが言う。

闇の力の集合体も魔物たちもサンデルジュの砦は人間の拠点の中で最も強固だと認識していたので、相当な数の戦力を集めさせた。

そして明け方、サンデルジュに赴ける魔物が揃うと、岩山の城から出て、雄也のいる砦へ向かっていった。




5本の矢を同時に撃ち出すというのは、ドラクエビルダーズの2章やバトル島のアローインプが使う技から思いつきました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode127 早朝の激戦

闇の力の集合体が現れた翌日、サンデルジュに来てから15日目の朝、まだ寝ている俺の耳に誰かの大声が聞こえてきた。

俺はまだ眠かったが、その声に反応して目を開けてみる。

 

「おい、雄也、起きろ!大変なことになっちまったぞ!」

 

すると、明らかに焦った表情をしているゆきのへがベットの横に立っていた。

そうしているうちにも、ゆきのへは大声で俺に話しかけ続けるので、俺の眠気はすぐに吹き飛んでしまう。

 

「早く起きてくれ!この砦に危機が迫ってんだ!」

 

こんな朝早くに焦って起こしに来るなんて、何かがあったみたいだな。

俺はベットから出て立ち上がると、ゆきのへに何が起きているのか聞いた。

 

「ゆきのへ、そんなに急いでどうしたんだ?」

 

「まだ新設備を考えている途中なのに、もうこの砦に魔物が襲ってきやがった!それも、今までにないほどの大軍だ!」

 

闇の力の集合体が現れてからまだ一日しかたっていないのに、もう魔物が襲撃を仕掛けてきたのか!?

それに、今までにない大軍って、どれだけの魔物がいると言うんだ?

 

「今までにない大軍?どれだけの魔物が来たんだ?」

 

「ざっと数えて、80体はいるだろうな…マズいことになったが、今すぐ迎え撃ちに行くぜ!」

 

80体もの魔物が襲ってきたと告げると、ゆきのへは寝室の外に出ていく。

マイラの8回目の防衛戦の時もすごい数の魔物が来ていたが、今回はそれをも上回っているのか···。

こちらが新たな兵器を開発する前に、一気に潰そうということなのかもしれない。

だが、昨日作ったアローインプ式大弓を使うなどして何とか迎え撃たなければ、この砦は滅ぼされてしまう。

そう思いながら、俺もおうじゃのけんやビルダーハンマー、サブマシンガンを持つと、寝室から出て砦の前へと向かっていった。

 

「雄也、遅い!早くしないと、この砦が危ない!」

 

「やっと来たか、雄也。朝早く大変だが、全力でこの砦を守るぞ!」

 

砦の前に出てみると、ゆきのへだけでなくルミーラも魔物を迎え撃つ準備をしており、遅れてきた俺にそんなことを言った。

 

「遅れてごめん。でももう準備は出来てるから、すぐに戦いに入れるぜ」

 

俺は二人に遅れたことを謝ってから、迫ってくる魔物の様子を見る。

すると、ゆきのへが言った通りの非常に多数の魔物の姿が見かけられた。

アローインプとブラックチャックが24体ずつ、ブラバニクイーンが16体、キースドラゴンとエ ビルトレントが8体ずつ、ゴールデンドラゴンが6体の、合計86体の魔物だ。

先頭と最後尾に巨大なゴールデンドラゴンがおり、その間に84体の魔物が並んでいると言う形だった。

 

「くそっ、数が多いだけじゃなくて、強力な魔物も結構いるな…」

 

戦ったことのある魔物がほとんどだが、ゴールデンドラゴンは初めて戦う相手だ。

だが、ゆきのへのこの前言っていた通り、俺たちは今までいくつもの困難を乗り切ってきた。

今回も、何とかして乗り切らなければいけない。

 

「正面から斬りかかっていっても勝ち目はなさそうだし、俺はまず昨日作った大弓で魔物の数を減らしていくぞ」

 

俺は魔物たちを迎え撃つために、アローインプ式大弓のところへ向かっていく。

 

「分かった。ワシもこのメタリックハンマーで、出来る限りのことをするぜ」

 

「必要があったらわたしの麻痺の矢で援護するね」

 

ゆきのへやルミーラも、それぞれの武器を構えて魔物と戦う態勢をとった。

サンデルジュの砦の、3回目の防衛戦が始まった。

 

魔物の群れはすで砦のある高台に登り始めており、先頭の巨大なゴールデンドラゴンやその後ろにいるブラックチャックたちは、もう砦のすぐそばに来ていた。

ブラックチャックはそこまで強くはないが、ゴールデンドラゴンの攻撃は強力だろうし、砦のカベでも破壊される可能性がある。

 

「まずはあのゴールデンドラゴンを倒さないとまずいな…」

 

だが、ブラックチャックも24体いるため、囲まれたら危険な状況になりそうだ。

ここはみんなにブラックチャックを任せて、俺がアローインプ式大弓でゴールデンドラゴンを倒した方がいいな。

 

「みんなはブラックチャックを倒してくれ!俺がその間にゴールデンドラゴンを撃ち抜く」

 

「分かったぜ。お前さんもあの金色のドラゴンに、新兵器の威力を見せてやれ」

 

ルミーラは麻痺の矢で左側の12体のブラックチャックを撃ち、ゆきのへはハンマーで右側の12体のブラックチャックを叩き潰していく。

ブラックチャックも二人の攻撃をトゲ付きの棍棒で防ごうとするが、ルミーラは防がれていない部位を正確に狙っていき、ゆきのへはハンマーの威力で棍棒を弾き落とし、奴らを追い詰めていった。

 

俺はその様子を見て、ゴールデンドラゴンに向かって5本の矢を放っていく。

5本も大型の矢が刺されば、ゴールデンドラゴンも無事では済まないだろう。

奴もすぐに矢が飛んできたことに気づくが、巨体なのでかわしきることが出来ず、次々と体に矢が刺さっていった。

すると、俺の思っていた通りゴールデンドラゴンはかなりのダメージを受けたようで、大きな叫び声を上げて怯む。

 

「やっぱりこの大弓は強いな。もう一発撃てばあいつも倒せそうだぜ」

 

まだゴールデンドラゴンとは距離があるので、このまま砦に近づかれる前に倒すことが出来そうだ。

俺は奴にとどめを刺そうと、再び5本のはがねの矢を大弓から放とうとする。

だがそんな時、ゴールデンドラゴンは体勢を立て直し、俺に向かって巨大な火球を飛ばしてきた。

 

「くっ!もう少しで倒せると思っていたのに…あんな巨大な火球を吐くことも出来るのか!?」

 

メラゾーマに匹敵するほどの大きさであり、それを連続で放ってくるので、俺は避けるのに精一杯でアローインプ式大弓に近づくことが出来なくなる。

俺が攻撃出来ない間にも、ゴールデンドラゴンはだんだんと砦に近づいてきていた。

 

「あの炎に苦戦してるようね…わたしがゴールデンドラゴンを引きつけるから、雄也は今のうちに!」

 

その様子を見て、ルミーラは麻痺の矢で狙う対象をブラックチャックからゴールデンドラゴン変える。

左側のブラックチャックはまだ6体残っているが、このままではゴールデンドラゴンに砦を破壊されると考えたのだろう。

ゴールデンドラゴンは体が大きく麻痺しにくいだろうが、それでも何十発も受ければ麻痺してしまうので、奴は火球をルミーラに向かって吐くようになった。

だが、俺に大きな隙を晒すことはなく、俺に向かっても火球を吐いてきた。

でも、さっきのように回避しか出来る行動がないという状況ではなくなり、俺はアローインプ式大弓に近づき、ゴールデンドラゴンに5本の矢を放つ。

 

「隙は小さいけど、今のうちに倒さないと砦が危ない…!」

 

これで合わせて10本ものはがねの矢が刺さり、ゴールデンドラゴンは瀕死になったのかその場に倒れ込む。

だが、この先頭のゴールデンドラゴンは他の個体よりも大きいからなのか生命力も非常に高いようで、まだ青い光にはならなかった。

 

「まだ倒れないのか…!でも、あと1発撃てば今度こそ!」

 

しかし、さらなる矢を撃とうとしている時、アローインプ式大弓がある俺のところに、10体のブラックチャックが棍棒で殴りかかって来た。

 

「ビルダーめ、これ以上は撃たせないぞ!」

 

「人間どもが作った弱々しい兵器なんて、オレたちが全部叩き壊してやる!」

 

ゆきのへが抑えきれなかった4体と、さっきまでルミーラと戦っていた6体がアローインプ式大弓を使う俺を止めに来たみたいだな。

だが、メタリックハンマーを持ったゆきのへがブラックチャックを抑えきれないというのは、何かあったのかもしれない。

そう思ってゆきのへの方を見ると、さっきまで魔物の大軍の真ん中辺りにいたブラバニクイーンたちが、ゆきのへに襲いかかっているのが見えた。

 

「ゆきのへはブラバニクイーンと戦っているのか…あいつはかなりの強敵だから、囲まれると危険だな」

 

ゆきのへは8体のブラックチャックを倒した時にブラバニクイーンの軍勢に襲われたようで、彼の元にはブラックチャックは残っていなかった。

だが、16体ものブラバニクイーンを必死に食い止めようとしている状態であり、より危険な状態になっているのは間違いない。

ブラバニクイーンの突進は高速かつ高威力であり、ブラックチャックと比べると危険度がかなり高い。

ゆきのへの援護や先頭のゴールデンドラゴンの討伐…しなければいけないことはたくさんあるが、俺はまずは目の前のブラックチャックを倒さなければいけない。

 

「こいつらを倒して、みんなを援護しにいかないとまずいな…」

 

ブラックチャックに当たらないようにか、ゴールデンドラゴンは俺のほうに火球を吐かなくなっている。

だが、それはルミーラが集中攻撃を受けているということでもあり、安心することは出来ない。

早く救援に行こうと、俺はブラックチャックの棍棒をおうじゃのけんで弾き落とし、体勢を立て直す前にビルダーハンマーで頭を叩き潰していく。

両腕を使ったものの、竜王を超える力を持つ闇の戦士の攻撃を受け止めたことのある俺にとっては、ブラックチャックの棍棒を弾き落とすのはそこまで難しくなかった。

また、棍棒を叩き落とすだけでなく、背後に回って頭から斬りつけるという攻撃でも、ブラックチャックの数を減らしていく。

 

「闇の戦士様に匹敵する力を持つビルダー…ここまでの力とは…!」

 

「でも、お前たちはここで滅びる運命なんだ!」

 

ブラックチャックは残り4体になったが、奴らはまだ俺を倒そうと殴りかかってくる。

だが、このままいけば倒すのにそんなに時間はかからないだろう。

しかし、ここで俺の攻撃を阻害し、ゆきのへたちの戦況をさらに悪化させる事が起きてしまう。

 

「ビルダーめ!無駄な抵抗はやめて、大人しく殺されるがいいさ」

 

「ハゲた男も種族の裏切り者も、ここで撃ち抜いてしまえ!」

 

魔物の大軍の後方にいたアローインプも砦にかなり近づき、弓で俺たちを狙い始めたのだ。

俺は相手しているのが4体のブラックチャックだけであり、弓を使う敵とは何度も戦ったことがあるので、避けるのは容易であり、サブマシンガンでアローインプたちを撃ち抜くことが出来そうだ。

だが、強敵であるゴールデンドラゴンを相手にしているルミーラは、避け続けるのが難しいかもしれない。

さらに、大量のブラバニクイーンを相手にしているゆきのへにとっては、非常に危機的な状況だ。

ゆきのへは昔、ハゲと言った魔物に怒って強力な一撃を叩き込んだことがあったが、今はそんなことをする余裕はまったくない。

二人とも危険な状況ではあるが、特にゆきのへが危ないな。

 

「このままだとゆきのへが危ないな…何とかあの状況から抜け出させないと」

 

俺はブラックチャックたちと距離を取り、矢を避けながらアローインプたちをサブマシンガンで撃ち抜きながら、まずはゆきのへを何とか助け出せないか考える。

ゆきのへはブラバニクイーンの突進とアローインプの矢を避け続けて、体力の限界になっているようだった。

俺はゆきのへを狙っているアローインプを優先的に倒しているが、それでも16体のブラバニクイーンを何とかしない限りゆきのへは危機的状況のままだ。

 

「ブラバニクイーンたちを引き寄せて、飛び出し式トゲわなで突き刺すか」

 

ブラバニクイーンを倒すには、飛び出し式トゲわなを使うしかないだろう。

今までも、飛び出し式トゲわなでブラバニクイーンを突き刺したことがある。

だが、ゆきのへはブラバニクイーンに完全に包囲されているため、誘導のために砦の近くに向かうことすら出来ない。

 

「サブマシンガンで一体を倒せば、残りの奴らに包囲されるまでのわずかな間に砦に走って来れそうだな」

 

でも、ブラバニクイーンを1匹サブマシンガンで撃ち殺せば、その隙にゆきのへを砦の近くまで走らせることは出来るだろう。

ブラバニクイーンは生命力もそれなりにあるが、サブマシンガンで連射すれば倒せるはずだ。

俺はアローインプたちの弓や、俺を追いかけてくるブラックチャックたちの棍棒を避けながら、力を溜めてゆきのへに突進しようとしているブラバニクイーンにサブマシンガンを向ける。

そして、10発以上のはがねの弾丸を、奴の頭に向かって撃ち続けた。

 

「助かったぞ、雄也…」

 

突進しようとしていたブラバニクイーンが倒されたのを見て、ゆきのへはそう言う。

だが、俺はそれを遮って早く砦に向かって走ってくれと叫んだ。

飛び出し式トゲわなと言ってしまうと、どんな仕掛けがあるのか魔物たちに気づかれて、回避されてしまうからな。

 

「話は後でだ、砦に向かって走ってくれ!」

 

1体倒したとは言え、まだ15体のブラバニクイーンが残っているので、またすぐに包囲されてしまう。

今はブラバニクイーンたちも急に仲間が射殺されたことに驚いているので、チャンスは今しかない。

ゆきのへは突然の俺の声に戸惑いそうになっていたが、俺が何をしようとしているのか分かったのか、一直線に砦に向かって走ってくる。

 

「あのハゲ男を逃がすな!撃ちまくって追い詰めろ!」

 

「何をするつもりかは分からんが、お前たち人間に勝機はないぞ!」

 

アローインプたちも、砦に向かったゆきのへに向かって多くの矢を放っていく。

ゆきのへはブラバニクイーンを食い止めるのに体力を使っているので、奴らの矢を避けきれないということも考えられるので、俺はサブマシンガンでゆきのへを狙っているアローインプを次々に撃ち抜き、数を減らしていった。

ゆきのへの後ろにはブラバニクイーンが走ってきており、誘導も成功している。

ゆきのへが砦の前までたどり着くと、彼はブラバニクイーンを飛び出し式トゲわなが刺さる位置に誘導していった。

 

「ゆきのへは分かってくれたみたいだな。スイッチを踏んで、魔物たちをトゲに突き刺してやるぜ」

 

俺たちは今までも魔物を砦の近くに誘導して、飛び出し式トゲわなで突き刺すという作戦を使ってきているので、ゆきのへも今回もその作戦を使うと分かったのかもしれない。

飛び出し式トゲわなで4体のブラックチャックたちも倒そうと思っているので、ゆきのへが来たのを見ると俺は奴らを誘導しながらスイッチに向かう。

そして、ブラバニクイーンとブラックチャックたちがみんなトゲが飛び出す場所に来た瞬間、俺はスイッチを思い切り踏んだ。

 

ゆきのへに向かって突進しようとしていたブラバニクイーンも、俺に棍棒を叩きつけようとしていたブラックチャックも、一斉に体を貫かれて、動きを止める。

そして、さっきまでの俺との交戦でダメージを受けていたブラックチャックは倒れ、ブラバニクイーンたちもかなりのダメージを受けたようだった。

 

「うまくいったな、今のうちに出来るだけ数を減らすぞ!」

 

「ああ、お前さんに急に走れって言われた時は驚いたが、この前の襲撃の時も使っていたんで、ウサギどもを倒すために罠を使うんじゃねえかと思ってな」

 

俺とゆきのへは、怯んでいるブラバニクイーンたちにとどめを刺していく。

ゆきのへは危機的状況を脱したし、飛び出し式トゲわなを使おうとしているのが伝わって本当によかったぜ。

ブラバニクイーンたちが起き上がった時には、奴らは残り7体になっていた。

まだ魔物の軍勢の中には強力な魔物が多いが、何とかしてこの砦を守り抜かないとな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode128 灼熱の金竜

俺とゆきのへは弱っている15体のブラバニクイーンを次々に攻撃し、倒していくが、残り7体になった時に奴らは体勢を立て直してしまった。

だが、飛び出し式トゲわなのダメージのせいで全力で攻撃することは出来ないはずなので、俺とゆきのへの二人がかりなら押し切ることが出来そうだ。

 

「体勢を立て直したとは言え、弱っているし数も少ない。このまま一緒に全滅させるぞ!」

 

「ああ、ウサギどもを全滅させて、後衛の奴らも攻めに行くぜ!」

 

俺の声にうなずくと、ゆきのへも突進を避けながらブラバニクイーンを叩き潰していく。

やはり奴らはかなり弱っており、突進のスピードが体力を消耗しているゆきのへでも簡単に避けられるほどに低下していた。

だが、ブラバニクイーンが追い詰められているのを見て、生き残っているアローインプたちが俺たちのところへ向かって一斉に弓を撃ってくる。

 

「ビルダーとあのハゲを狙え!ブラバニクイーン軍団を守るんだ!」

 

「これ以上戦力を失う前に、あいつらを仕留めてやる!」

 

さっきから俺たちを狙っているアローインプだけでなく、ルミーラに向けて矢を撃っていた奴らも俺たちを攻撃してくる。

アローインプは残り10体ほどなので、矢を避けるのはさほど難しくはないが、ブラバニクイーンへの攻撃チャンスが潰れてしまったな。

 

「くそっ。せっかくブラバニクイーンを追い詰めたけど、アローインプたちが邪魔してきたか…」

 

あのアローインプたちを倒さないと、ブラバニクイーンを攻撃するのは難しそうだな。

ゆきのへにブラバニクイーンを引き付けてもらって、その間にサブマシンガンで奴らを倒していくしかないだろう。

俺はサブマシンガンを構えると、ゆきのへに指示を出す。

 

「俺があいつらをサブマシンガンで撃つ!ゆきのへはブラバニクイーンを何とか引き付けてくれ!」

 

「分かったぜ!ワシをハゲだとか言ったあいつらを、お前さんの武器で撃ち抜いてやれ」

 

ブラバニクイーンは残り3体にまで減ったので、今のゆきのへでも引き付けることが出来そうだ。

さっきと違って、ハゲと言ったアローインプに怒ることも出来ていた。

ゆきのへは俺の指示を聞くと、すぐにその3体のブラバニクイーンをメタリックハンマーで殴りつけ、自分の方に攻撃を向けさせる。

ゆきのへにブラバニクイーンの攻撃が向いたのを見ると、俺はゆきのへをかばうような位置に立って、アローインプたちに向かってサブマシンガンを発射して行った。

 

「どれだけ弓で狙って来ようが、あいつらから砦を守ってやるぞ!」

 

サブマシンガンで連射をすれば、アローインプは数発で倒すことが出来る。

それでも、より早く倒せるように俺は奴らの頭を狙っていく。

そして、マイラやサンデルジュでの戦いでサブマシンガンに慣れている俺は、アローインプの数を一気に減らしていった。

そして、最初24体いたアローインプは、残り5体にとなっていた。

 

「ここで人間どもを滅ぼさねば、我々にとって脅威となる!なんとしても撃ち抜け!」

 

「やはりビルダーは危険だ!今日のうちに排除しなければ!」

 

だが奴らも諦めようとはせず、2体のアローインプの声と共に弓を放つスピードを上げてきた。

しかし、アローインプの数は残りわずかなのでそれほどの脅威にもならず、俺は奴らの矢を回避しながら体を撃ち抜いていくことが出来る。

 

「あいつらのスピードも上がっているけど、このまま倒せそうだぜ」

 

サブマシンガンの弾はたくさん用意してあるので、弾切れになることもなさそうだ。

俺の後ろでブラバニクイーンと戦っているゆきのへも、奴らを追い詰めていた。

そして、俺がアローインプを全滅させると同時に、ゆきのへもブラバニクイーンたちを全て倒すことが出来ていた。

 

「これでアローインプは全部倒したか、これで残りの魔物も少なくなって来たな」

 

「ワシの方も終わった。けど、まだ強力な魔物がたくさんいるぜ」

 

だが、ゆきのへの言う通り、まだ砦を守りきることは出来ていない。

キースドラゴン、エビルトレント、ゴールデンドラゴンと言った強力な魔物がまだ残っているからな。

 

「ああ、分かってる。あいつらを何とか倒して、砦を守りきってやるぞ」

 

俺はゆきのへにうなずくと、まずはルミーラと戦っている巨大なゴールデンドラゴンを倒そうとアローインプ式大弓に近づいていく。

ゴールデンドラゴンはさっき俺が撃った10本の矢やルミーラとの戦いで大分弱っているはずなので、あと5本矢を当てれば確実に倒すことが出来るだろう。

 

「ワシは後衛の魔物どもを大砲で吹き飛ばしてやる。雄也、大砲の弾を渡してくれ」

 

俺が移動している間、ゆきのへは後衛の魔物を大砲で攻撃したいと言ってきた。

確かに後衛の魔物ももう砦の近くに来ており、大砲でダメージを与えるなどした方が良さそうだ。

大砲なら、大型の魔物にもかなりの傷をつけられるだろうからな。

 

「分かった。あいつらを近づける訳にはいかないからな」

 

すぐに俺はポーチから大砲の弾を取り出し、ゆきのへに渡す。

ゆきのへは大砲の弾を受け取ると、砦の正面にある大砲に向かって走っていった。

それで、俺もアローインプ式大弓の所に急ぎ、ルミーラと戦っているゴールデンドラゴンに狙いを合わせた。

やはりルミーラはゴールデンドラゴンに苦戦しているようで、灼熱の炎と回転攻撃によって苦しめられている。

砦のそばで戦っているので、このままでは砦のカベが壊される可能性もあった。

 

「今度こそゴールデンドラゴンを倒して、ルミーラを助け出してやるぞ」

 

俺はルミーラを助け出そうとアローインプ式大弓から5本の矢を撃ち出し、ゴールデンドラゴンの体を貫いていった。

背後から大量の矢が刺さったことで、既に大きなダメージを受けていたゴールデンドラゴンは耐えきれずに倒れて、青い光に変わっていく。

ルミーラは危機を脱して、俺に感謝の言葉を言った後、後衛の魔物たちに弓を向けた。

 

「急に矢が飛んできてびっくりしたけど、助かった。まだ魔物はたくさんいるから、わたしも手伝うね」

 

「ああ、早くしないと、奴らが砦に到達してしまう」

 

ルミーラはゴールデンドラゴンとの戦いで体力を使っているはずだが、まだ戦えるみたいだな。

彼女はこの前の防衛戦の時のように、後衛の右側にいるキースドラゴンたちに麻痺の矢を放っていく。

キースドラゴンは麻痺耐性が高いようだが、麻痺させることが不可能ではないため、奴らを足止めすることが出来そうだ。

 

「ルミーラはキースドラゴンを狙っているし、俺はエビルトレントを撃ち抜くか」

 

ルミーラが麻痺の矢を撃っている間、俺はアローインプ式大弓で後衛の左側にいるエビルトレントを薙ぎ払っていく。

エビルトレントは硬い樹皮で覆われているので弱い攻撃ではほとんどダメージを与えられないが、はがねの矢なら貫くことが出来る。

 

「あいつらは強敵だけど、この大弓を使えば安全に倒せそうだぜ」

 

砦に近づいたエビルトレントの中には、ドルモーアの呪文で砦を破壊しようとする者もいたが、はがねの矢が刺さった衝撃で怯み、詠唱を中断していた。

そして、大きなダメージを負った魔物たちのところに、さらなる追撃が加わる。

 

「ワシも大砲の準備が出来た。撃ってあいつらを吹き飛ばしてやるぜ!」

 

ゆきのへが大砲を発射して、大砲の弾が魔物の軍団の中心で炸裂した。

着弾地点の近くににいたキースドラゴンやエビルトレントは瀕死になり、ゴールデンドラゴンたちも大きなダメージを受ける。

もう少しで、奴らを全滅させられそうだな。

 

「大砲のおかげであいつらも死にかけだろうし、一気に仕留めるぜ!」

 

そして、俺とルミーラは畳み掛けるように大量の矢を放っていく。

キースドラゴンは弱っている体に麻痺の矢を受けて麻痺を起こし、エビルトレントは何体かが力尽きて倒れていった。

ゆきのへは、2発目の大砲を撃とうと俺に言ってくる。

 

「ワシももう1発大砲を撃つぞ。弱っているとは言っても、近づいて戦ったら苦戦するはずだぜ!」

 

だが、このまま魔物の軍団に勝てると思っていたが、そうはいかなかった。

奴らも黙って倒されることはなく、5体のゴールデンドラゴンが動き出し、エビルトレントやキースドラゴンの前に出る。

そして、俺がゆきのへに大砲の弾を渡そうとしているところに、灼熱の火球を何発も撃ってきた。

ルミーラも狙われており、キースドラゴンへの攻撃を中断することになってしまう。

 

「くっ、ゴールデンドラゴンが前に出てきたか…!これだと大砲が使えないな」

 

「あいつらの火は威力も高え。連発されたら砦が持たねえぞ」

 

俺とゆきのへは素早く反応してかわすことが出来たが、火球が砦に当たってしまう。

特に最後尾にいる巨大ゴールデンドラゴンの火球では、砦が少し揺れていた。

ゆきのへの言う通り、このままでは砦に危険が及ぶ可能性が高いな。

俺は火球を回避しながら、サブマシンガンで奴らを撃ち抜けないかと試してみる。

 

「確かにあの炎は何とかしないとな…」

 

しかし、僅かなダメージは与えられるものの、倒れる気配が全くない。

ヘッドショットを狙ってみたが、大量の火球を回避しながら撃っているので、なかなか狙いが定まらないな。

運良く頭に当てることが出来ても、奴らはアローインプと違って一撃で死ぬことはなかった。

そうしている間にも、ゴールデンドラゴンはだんだんこの砦に近づいてくる。

 

「強力な攻撃を撃ち込まないと倒せなさそうだし、かなりまずいな…」

 

さらに、ゴールデンドラゴンだけでなく、その後ろに下がったエビルトレントも砦を破壊しようと、再びドルモーアの呪文を唱え始める。

今回のエビルトレントは、この前の襲撃の時より小さい個体ではあるが、ドルモーアの威力はそれなりにあるはずだ。

奴らを阻止するためには大砲かアローインプ式大弓を使うしかなさそうだが、使う隙がない。

 

「余っている砦のカベで炎を防いで、その間に大砲に弾を入れるしかないか…」

 

しばらく俺たちは回避することしか出来なかったが、俺は一つの方法を思いつく。

ゆきのへが大砲の弾を大砲に入れている間、俺が大砲の前に砦のカベを設置。発射の準備が完了した瞬間俺が砦のカベを叩き壊し、壊れた瞬間に弾を撃ち放つ。

この方法なら、大砲をゴールデンドラゴンたちに当てることが出来るかもしれない。

砦のカベは結構たくさん作ってあったが、こんな時に役に立つとは思わなかった。

問題は砦のカベを叩き壊す時に俺が集中攻撃されることになり、危険だということだが、こんな厳しい戦況になってしまったのは俺が闇の戦士を倒せなかったからであり、俺が何とかしなければいけない。

俺は奴らの炎を回避しつつ、今の方法をゆきのへに話す。

 

「ゆきのへ!俺が余った砦のカベを大砲の前に置いて、あんたが大砲の準備を出来るようにする。準備が出来たら俺が砦のカベを叩き壊すから、その瞬間にあんたは大砲を撃ってくれ」

 

「分かったぜ!急がねえとまずいからな」

 

他の作戦を考える余裕もなく、ゆきのへは俺の話にうなずく。

ゆきのへに大砲の弾を渡すと、すぐに俺たちはゴールデンドラゴンの火球を避け、ポーチから砦のカベを取り出しながら大砲のところに移動し、俺は大砲の前に2段の砦のカベを設置する。

砦のカベを設置したのを見ると、ゆきのへは急いで大砲の弾を大砲に入れた。

大砲の準備には少し時間はかかるが、砦の壁が奴らの火球を防いでくれる。

そして、準備が終わったとゆきのへが言った瞬間、俺はビルダーハンマーで大砲の前に設置した砦のカベを叩き壊していく。

 

「雄也、大砲の準備が出来たぞ!」

 

「ああ。すぐにこのカベを壊すから、少し待っていてくれ」

 

ゴールデンドラゴンも大砲の前のブロックが壊された瞬間に大砲が放たれると分かっているようで、俺に集中して火球を放ってくる。

だが、火球を避けながら壊していては時間がかかり、ゴールデンドラゴンたちの後ろにいるエビルトレントたちのドルモーアが発動してしまった。

ドルモーアは砦の中で炸裂し、砦が破壊される音が聞こえてくる。

一度ドルモーアを発動させた後も、再び奴らは詠唱を始めていた。

 

「くそっ、発動されてしまったか。これ以上やられる訳にはいかないし、大砲を急がないと!」

 

これ以上砦を破壊されないよう、俺は火球を避けることよりもカベを壊すことを優先する。

何度か火球の一部が体に当たり、やけどを負うことがあったが、痛みに耐えてカベをビルダーハンマーで殴っていく。

そして、カベが壊れて俺が巻き込まれない位置に移動した瞬間、ゆきのへは大砲を放った。

 

「やったか!でも、まだ生きているみたいだな…」

 

だが、さっきと合わせて2回も大砲をくらっているのに、ゴールデンドラゴンはまだ生きていた。

でも、怯んで動きは止まっているようなので、もう一発大砲を撃つことが出来そうだ。

俺はすぐにもう一つ大砲の弾をポーチから取り出し、奴らが体勢を立て直す前に発射する。

すると、最後尾にいる巨大ゴールデンドラゴンを除く4体のゴールデンドラゴンが、倒れて青い光に変わっていった。

残っているのは巨大ゴールデンドラゴンと、軍団の端のほうにいたために大砲の直撃を免れたキースドラゴンとエビルトレントだけだ。

 

「さすがに3回も撃ったから、普通のゴールデンドラゴンは倒せたか」

 

「だが、あのデカいのはまだ死んでねえみたいだぜ」

 

俺は巨大なゴールデンドラゴンを倒して、アローインプ式大弓で他の奴らを薙ぎ払おうと思い、4発目の大砲の弾を取り出そうとする。

しかし、巨大ゴールデンドラゴンはまだ倒れるわけにはいかないと思っているのか、その前に体勢を立て直して、再び火球を吐き出してきた。

 

「もう少しだったのに、体勢を立て直されてしまったか…」

 

残り1体だとは言え、アローインプ式大弓を使おうとすればあいつは俺を集中攻撃するだろう。

だが、そう思っているとゆきのへは自分が近づいて戦い奴を引き付けると言ってきた。

 

「もう死にかけだろうし、ワシがこのハンマーであの金の竜に殴りかかってやるぜ。雄也は、その間に大弓であいつを撃ち抜いてくれ」

 

ゆきのへはそう言うと、メタリックハンマーでゴールデンドラゴンと戦おうとする。

ゴールデンドラゴンは強力だが、もう弱っているのでゆきのへなら大丈夫だろう。

ゴールデンドラゴンは鋭い牙でゆきのへに噛み付こうとしてきたりするが、ゆきのへは正確にかわしながらハンマーで殴りつけていく。

俺はその間に、アローインプ式大弓のところに向かう。

 

「エビルトレントもゴールデンドラゴンも、これで倒れるはずだな」

 

ルミーラがキースドラゴンに矢を撃ち続けて倒しているので、俺はゴールデンドラゴンとエビルトレントにとどめをさそう。

ゴールデンドラゴンは俺の動きに気づいたが、近くにいるゆきのへと離れている俺を同時に対処することは出来ない。

奴は時々火球を吐いてきたりはしたが、大弓を使うほどの隙はあった。

俺はアローインプ式大弓のところに着くと、すぐにはがねの矢を発射して、ゴールデンドラゴンとエビルトレントたちを薙ぎ払っていく。

すると、3発の大砲に加えてゆきのへの攻撃もあり、瀕死だったゴールデンドラゴンは今度こそ倒れ、エビルトレントたちも力尽きて次々に倒れていった。

 

「これで全滅させることが出来たか…やけどをして砦にも被害が出たし、かなり厳しい戦いだったな」

 

ルミーラもキースドラゴンを全滅させ、これで86体全ての魔物を倒すことが出来た。

ゆきのへも魔物を全て倒したのを見て、砦の方に戻ってくる。

しかし、これから先はこれ以上の強力な魔物、大量の魔物が襲って来るだろうから、このままではマズいな…。

俺たちはそんなことを考えながら、砦の中に戻っていった。

 

 

 

その日の昼ごろ…岩山の城 玉座の間

 

サンデルジュの砦に赴いた86体の魔物が全て倒されてしまったことは、その日のうちに闇の力の集合体にも伝えられた。

伝えに来たのは、サンデルジュに生息しているブラックチャックだった。

このブラックチャックは弱い個体のためサンデルジュの砦への襲撃には参加しなかったが、魔物たちが全滅したところを近くで目撃していた。

ブラックチャックの報告を聞き、闇の力の集合体はやられた原因は何だと問う。

 

「なぜあの数を用意して極小数の人間に勝てん!既に人間はそこまで力を蓄えているのか?」

 

「それは分かりませんが、人間の拠点に、初めて見る大型の弓のような物が新たに設置されていたのを見ました」

 

闇の力の集合体の前では、ブラックチャックも敬語になってしまう。

このブラックチャックは、サンデルジュの砦への前回の襲撃のことも知っていたので、新しく増えていた大型の弓について話した。

そして、その大型の弓は人間に寝返ったアローインプが考えた物ではないかとも話す。

 

「恐らく、人間に寝返ったアローインプの小娘が考えたものと思われます」

 

「魔物に生まれておきながら、人間ごときに力を貸す者がいようとはな…許されぬことではない」

 

人間に味方する魔物がいると聞き、闇の力の集合体は怒り出す。

そんな魔物のせいで人間がどんどん力をつけていくかもしれないとも、闇の力の集合体は言った。

 

「そのような魔物どものせいで、人間は次々に力を付けていくかもしれぬ…人間を滅ぼす前に、人間に味方する魔物を滅ぼすべきかもしれぬな…」

 

それで、人間に味方する魔物を早めに始末したほうがいいと考えた闇の力の集合体は、玉座の間にたくさんの魔物を集めて、命令を下す。

 

「貴様らに命令する。貴様らの仲間に人間の味方をしている者がいないか徹底的に調べ尽くせ。もしそのような者が見つかった場合、即刻排除しろ!」

 

ほとんどの魔物は人間を滅ぼそうとしているので、この命令に従っていく。

人間の味方をしたいと言ったり、人間と戦うのが嫌だと言ったりする者がいないか、闇の力の集合体の配下となった魔物たちはさまざまな場所を監視し、魔物たちの会話や行動を調べあげていった。

そして、そんな魔物が見つかった場合、闇の力の集合体の言う通り殺すつもりでいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode129 狙われた仲魔

サンデルジュに来てから16日目、サンデルジュの砦の3回目の防衛戦の翌日の朝、俺は昨日の魔物の攻撃で破壊された部分を修復していた。

やはりエビルトレントのドルモーアは強力であり、広い範囲で壁が破壊されている。

砦の中で隠れていたピリンたちが無事だったのは運が良かったと言えるだろう。

 

「これ以上砦を壊されたり、みんなが攻撃を受けたりしないよう、もっとこの砦を強化していかないとな」

 

俺は砦のカベを積み重ねながら、そんなことを考えていく。

これからは魔物の数ももっと増えるだろうし、今のままでは闇の力の集合体を倒すどころか、その手下の魔物にすら負けてしまうだろう。

この作業が終わったら、またみんなと新しい設備について話し合わないとな。

 

しばらく修復活動を続けて、砦が元通りの姿に戻っていく。

だがそんな時、サンデルジュの草原のほうから何者かの声が聞こえたような気がした。

 

「人間!…追われてるんだ!助けてくれ…!」

 

とても小さな声だが、誰かが助けを呼んでいる声だ。

 

「何だ?何か声が聞こえたな…」

 

だが、サンデルジュには俺たち以外の人間はいないはずだ。

ラダトームの人がここに向かっているのかもしれないと思ったが、その声はラダトームの誰の声とも一致しないものだった。

 

「もしかして、チョビやルミーラみたいに人間に友好的な魔物がいるのか?それなら、助け出さないといけないな」

 

可能性として考えられるのは、まだサンデルジュに人間に友好的な魔物がいるということだな。

それで、人間の住んでいるこの砦に向かっているのかもしれない。

仲間になってくれるかもしれないし、見にいった方がいいかもしれないな。

俺は砦の修復作業を中断して、武器を持って砦の外に向かっていく。

すると、俺の次に起きてきたゆきのへが、急いでいる俺に話しかけてきた。

 

「どうしたんだ、雄也?もしかして、また魔物が襲ってきやがったのか?」

 

「いや、誰かが助けを呼ぶ声が聞こえたんだ。もしかしたら、人間の味方をする魔物なんじゃないかと思ってな」

 

ゆきのへは今起きたばかりのようなので、さっきの叫び声に気づかなかったようだな。

俺がそのことを伝えると、ゆきのへは昨日の夜から特に魔物の活動が活発化していると言ってくる。

 

「そんなことがあったのか。昨日の夜外を見てみたんだが、魔物の動きが今までにないほど活発化しているぜ。気をつけてくれ」

 

そんな状態ならば、かなり注意しながら進まないと魔物に見つかりそうだな。

だが、急がなければ追われている魔物も危ないだろう。

ルミーラの時よりも確実に多くの魔物に追われているだろうからな。

急ぎながら慎重に進むというのは今までも何度かしているので、その時のように行けば良いだろう。

 

「ああ、急いで声が聞こえたほうに向かうけど、見つからないようにも気をつけるぜ」

 

俺はゆきのへにそう言うと、砦のある高台を降りて草原に向かっていく。

 

草原を眺めてみると、辺りを見回っている魔物が多数おり、やはり気をつけて進まなければいけなさそうだ。

だが、魔物たちの動きについて、少し気になることがあった。

 

「活動が活発なのには変わりないけど、あいつら、お互いを監視しているみたいな動きだな…」

 

魔物たちは他の魔物の行動を見回っており、お互いを監視し合っているような感じだ。

魔物たちがこんな動きをするのは初めてなので、少し気になるな。

まあ、魔物を監視しているのだとしても、人間を見つけても襲ってくるだろうから、身長に進まなければいけないのは変わりなさそうだ。

今はさっき声が聞こえた方向に向かわなければならないので、それを考えるのは後にしよう。

 

「気になるけど、今は声の方向に向かうのが優先だな」

 

俺は魔物たちから隠れながら、声がした方向に向かっていく。

草原を歩き始めて5分後くらいのところで、再びさっきと同じ声が聞こえてきた。

また、その声の主と戦っている魔物のものであろう声も聞こえてくる。

 

「あの砦に辿りついて、人間と一緒にお前らと戦ってやるんだ…!」

 

「無駄な抵抗はやめるんだな。人間に寝返った者には死あるのみ!」

 

やっぱり人間の味方をしている魔物と、人間を滅ぼそうとしている魔物が争っているみたいだな。

味方の魔物がサンデルジュの砦に向かっている間に、他の魔物に見つかってしまったと言う事だろう。

味方の魔物の声はさっきより弱々しくなっており、このままでは殺されてしまいそうだ。

 

「やっぱり味方の魔物みたいだし、早く助けないとな…」

 

早く助けなければいけないと思い、歩く速度を上げていく。

そうしてしばらく進んでいくと、その魔物たちが戦っている現場に着いた。

 

「ボクは…ここで死にたくはないんだ…!」

 

「いい加減に諦めろ!人間どもの味方をするからこうなったんだぞ」

 

人間の味方の魔物はブラックチャックのようで、棍棒を使って何とか抵抗していた。

だが、そのブラックチャックを襲っているのは6体のアローインプであり、ブラックチャックはかなり苦戦しているようだった。

ブラックチャックの体には既にいくつもの傷が出来ている。

また、アローインプたちだけでなく、草原の魔物を見回っていた敵のブラックチャックも襲いかかって来ていた。

 

「こんなところにも反逆者がいたのか!こいつもこの棍棒で殺してやる!」

 

敵のブラックチャックたちはそう言いながら味方のブラックチャックの背後から殴りかかり、頭を潰そうとしてくる。

しかし、味方のブラックチャックはアローインプと戦うのに精一杯で、背後にまで気を配れる余裕はない。

でも、奴らは俺には気づいていないので、サブマシンガンで頭を狙い撃ちすることが出来そうだ。

 

「サブマシンガンでまず背後の奴らを撃ち抜いて、アローインプたちも倒していくか」

 

そこで俺はさっそく、味方のブラックチャックに向けて棍棒を振り上げている奴の頭に狙いを合わせ、はがねの弾を発射した。

強力な弾丸であるはがねの弾丸で頭を撃ち抜かれたブラックチャックは、その場で倒れて青い光に変わっていく。

一体のブラックチャックが突然倒れたことで、他のブラックチャックやアローインプたちは、驚いて動きを止めていた。

 

「今のうちに数を減らして、あの味方のブラックチャックを助け出してやるぜ!」

 

俺は奴らが驚いている間に、次々に敵のブラックチャックを倒していく。

そして、奴らの数が減り、味方のブラックチャックの逃げ道を確保出来たところで、俺は大声で呼びかける。

 

「さっきの声を聞いて助けに来たぞ!俺の後ろに隠れてくれ」

 

味方のブラックチャックは弱っており、これ以上攻撃を受けるとまずいので、俺がかばわなければいけないだろう。

 

「人間だ!これで助かったんだ!」

 

俺の声を聞いて、味方のブラックチャックは少し安心した顔をして走ってくる。

 

「人間どもの戦力を増やす訳にはいかない。ビルダーもろとも仕留めてやる!」

 

アローインプたちもビルダーである俺に気づいて、矢を放ってくる。

だが、俺は大量のアローインプを同時に相手したことがあるので、6体のアローインプなら苦戦することはなさそうだ。

俺は自分に飛んでくる矢を避けながら、味方のブラックチャックを狙っているアローインプを優先的にサブマシンガンで倒していく。

 

「このブラックチャックをこれ以上傷つけはさせないぞ」

 

味方のブラックチャックは傷を負っているので動きが遅かったが、俺がアローインプを倒している間に奴らから離れることができ、俺の後ろに隠れた。

ブラックチャックが俺の後ろに隠れた後はアローインプはみんな俺を狙ってくることになったが、残っているアローインプは僅かなので、そのままトドメを刺していく。

 

「これでアローインプたちを倒すことが出来たし、このブラックチャックも助けられたな」

 

「助かったよ。砦に向かって叫んではみたが、本当に聞こえるとは思ってなかったんだ」

 

俺がアローインプたちを倒すと、味方のブラックチャックはそんなことを言ってくる。

確かにさっきのはとても小さな声だったし、もしかしたら聞き逃していたかもしれない。

あの声を聞き取って、こうして助けに来ることが出来てよかったぜ。

このブラックチャックは傷を負ってしまったので、他の魔物が来てしまう前に移動したほうが良さそうだ。

さっきサンデルジュの砦を目指していると言っていたし、砦の戦力も増やしたいので、俺は砦に来ないかと誘う。

 

「俺も気づくことが出来てよかった。さっきあんたは人間の砦に辿り着きたいって言っていたけど、俺と一緒に来るか?あそこならここより安全だぞ」

 

「うん。このままここにいたら、すぐに殺されちまう」

 

俺が聞くと、味方のブラックチャックはうなずいた。

これでサンデルジュの砦の戦力が増えることになるし、魔物たちに勝てる可能性も少しは上がったな。

 

「なら、さっそく行くぞ。ここに留まっていたらすぐに魔物が来る」

 

俺が砦に向かって行こうとしていると、ブラックチャックは名前を名乗る。

 

「分かった。ボクはバルダスだ。人間、よろしく頼んだぜ」

 

「俺は影山雄也、物を作る力を持つビルダーだ。普段は雄也って呼んでくれ」

 

俺もいつまでも「人間」と呼ばれるのも嫌なので、いつもの自己紹介をする。

自己紹介をお互いにし終わった後、俺とバルダスは砦に戻っていった。

 

砦に戻っている途中、俺は再び魔物の様子を見ながら進んでいく。

すると、やはり魔物たちは、他の魔物を監視するような動きを続けていた。

今まで人間の敵の魔物がいる場所で暮らしていたバルダスなら何か知っているかもしれないと思い、俺はバルダスにそのことについて聞いてみる。

 

「バルダス、さっきから魔物たちが魔物同士で監視し合ってるんだけど、何か知ってるか?」

 

「人間に寝返った魔物を見つけ出そうとしているんだ。エンダルゴが、裏切り者を皆殺しにしろという命令を出したから」

 

監視をしてまで裏切り者を見つけ出せ…そんな命令が出されていたのか。

バルダスも、それでアローインプたちに見つかってしまったのだろうか。

それに、エンダルゴと言うのは誰の事なんだ?

 

「それで、あんたはアローインプに追われていたのか?それに、エンダルゴって何のことなんだ?」

 

「ボクもよく分からないけど、つい最近現れた魔物の支配者のことだ。必ず人間を滅ぼせるほどの力を持つらしいんだ」

 

その話を聞いて分かったが、エンダルゴと言うのは俺たちが必ず倒さなければいけない敵、闇の力の集合体のことみたいだな。

魔物たちのなかでは、そんな名前で呼ばれていたのか。

エンダルゴが命令を出したのは昨日のことのようで、バルダスはアローインプに見つかってしまうまでについて話す。

 

「昨日エンダルゴから裏切り者を皆殺しにしろと命令されると、あいつの配下の魔物はすぐに動き出した。だけど、ボクはサンデルジュの森の奥深く、魔物がほとんど来ない場所に隠れていたから、命令に気づかなかったんだ」

 

魔物たちも森の奥の方に人間との戦いを嫌う者が隠れていると考えて、そこに調べに入ったのかもしれないな。

そんなことも考えながら、バルダスの話を聞いていた。

 

「それで、魔物が騒がしくしているのを人間の砦に攻めに行くのだと勘違いして、「何でみんな人間を滅ぼしたいって思うんだ?」って言ってたら、それをアローインプに聞かれてしまったんだ。それで、「エンダルゴ様の命令で、裏切り者のお前を殺す!」と言われて、ボクは追いかけられることになった。何とか森の草木を利用してあいつらを撒いてから、草原の高台にある人間の砦に行けば助かると思って、そこを目指したんだ。だけど、草原をしばらく進んでいたところで見つかってしまった」

 

草原は遮る物が少ないし、こんな監視態勢では見つからずに進むのは難しかっただろう。

隠れて進むのに慣れている俺でも、かなり警戒するほどだからな。

森を出たところですぐに見つからず、途中まで草原を進めただけでも幸運と言えそうだ。

でも、これでバルダスが襲われるまでの経緯は分かったが、どうしてエンダルゴは急に人間に寝返った魔物を皆殺しにしろって命令したんだ?

 

「そんなことがあったのか…。でも、エンダルゴは何でそんな命令を出したんだ?」

 

「森で隠れながら逃げている時に偶然聞いたんだけど、これ以上人間に協力する魔物がいたら、人間がさらに強力な武器を開発してしまうからだって。ボクはよく知らないけど、雄也の砦に人間に協力している魔物がいるのか?」

 

ルミーラの開発したアローインプ式大弓の存在や、その大弓を使って多くの魔物が倒されたことも、もうエンダルゴに知らせられていると言うことか。

昨日襲ってきた86体の魔物は全て倒したが、サンデルジュにはそれ以外にも多くの魔物が生息しているので、誰かが戦いの様子を報告したのだろう。

これ以上強力な兵器を作れば魔物たちにとってもかなりの脅威となるし、それを防ごうとしたということみたいだな。

 

「ああ、アローインプのルミーラって奴がいる。確かにルミーラみたいな魔物が増えれば俺たちは強力な兵器を作りやすくなるし、それを防ごうとしたってことなのか」

 

「実際、人間の味方だとバレた魔物は殺されたし、隠し通している者も身動きが取れないから、これ以上の協力は求められそうになくなった。エンダルゴの思い通り、人間はだんだん追い詰められて来ているようなんだ…」

 

エンダルゴの思い通りにことが進んでいると、バルダスは言う。

確かに少し前まではもう少しで世界が平和になるなんて言っていたのに、エンダルゴが現れてからは平和が遠ざかるどころか、より状況が悪化してきている。

でも、エンダルゴの思い通りになっていないことも、一つあった。

 

「でも、奴の思い通りになっていないこともある。こうしてあんたを救出出来ただけでも、俺たちの勝ち目は上がったはずだ。どんなに追い詰められても、俺は諦めずに戦い続けるぞ」

 

バルダスを救出したことで、魔物たちに勝てる可能性は上がっただろう。

少しでも希望があるのならば、俺は最後まで戦い続けるつもりだ。

俺がそう言うと、バルダスも諦めずに魔物に立ち向かって行くと言う。

 

「ボクも雄也に助けられたから、出来る限りのことはする。雄也が戦い続けるなら、ボクも最後まで戦い続けるんだ」

 

勝てる可能性が低いのは変わりないにしても、みんなと協力して出来る限りのことをしたい。

俺とバルダスはこれから一緒に魔物たちと戦っていこうという話をした後、サンデルジュの砦に戻っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode130 新たなる罠

バルダスと共に歩き続けて15分ほどたって、ようやくサンデルジュの砦がある高台が見えてくる。

バルダスと二人で行動しているので、魔物に見つかりやすくなったと思い、いつも以上に慎重に移動していたからだ。

高台に登り始めると、バルダスは砦に住んでいる人について教えてほしいと言ってくる。

 

「もうすぐ砦に着くけど、砦にはさっき言ってたアローインプ以外にどんな人が住んでるんだ?さっきは急いでて聞けなかったけど、教えてほしいんだ」

 

「ピリンっていう10歳くらいの女の子と、ゆきのへっていう鍛冶屋と、その弟子のヘイザンって人だ。みんな、一緒にアレフガルドを復興させてきた仲間だ」

 

俺はバルダスに、ピリンたちのことを話す。

あの3人なら、バルダスとも協力して砦を強化していけるだろう。

だが、バルダスは魔物である自分が人間と暮らしていけるのか不安だと言ってくる。

 

「そんな人たちが住んでるんだ。でも、雄也は良くてもその人たちはブラックチャックの僕と暮らしてくれるのか?人間の砦に向かおうと思いついた時から、それが一番の不安だったんだ」

 

ルミーラの時もそうだったけど、人間と魔物は本来敵対し合っている種族なので、そんな不安が生まれるのも仕方ないのかもしれないな。

今までも魔物の仲間を受け入れてきたみんななので問題ないと、俺はバルダスに言う。

 

「大丈夫だ。ルミーラ以外にも、俺たちは2匹の魔物の仲間がいるんだけど、そいつらのこともみんな大切な仲間だと思っている」

 

たとえどんな魔物であろうと、仲間は仲間だ。

俺がそう言うと、バルダスは安心して砦に向かって歩いていく。

 

「雄也がそこまで言うなら安心だな。みんなともすぐ仲良くなれるように頑張る」

 

砦に着いたら、みんなにバルダスのことを紹介しないといけないな。

俺もそう考えながら、高台を登ってみんなの待つ砦に戻っていった。

 

サンデルジュの砦に戻って来ると、さっそく俺はみんなにバルダスを紹介しようとする。

 

「みんな、新しい仲間を連れてきたぞ!」

 

俺がそう叫ぶと、部屋の中にいた4人が出てきて、俺たちのところに走ってきた。

 

「やっぱり仲間の魔物がいたのか。助けられてよかったな」

 

さっき仲間の魔物がいるかもしれないという話を聞いたゆきのへは、そんなことを言う。

ピリンたちも、新しい仲間が増えたことで嬉しい顔をしていた。

 

「また仲間が増えたんだ!これで暮らしがもっと楽しくなりそうだね!」

 

「厳しい戦況になっているが、これで少しは状況を覆せるかもしれないな」

 

「わたし以外にも人間との争いを嫌う魔物もいたんだね」

 

みんなから歓迎され、バルダスもとても嬉しそうな顔になる。

みんなが喜んでいるところで、俺はみんなにバルダスのことを話した。

 

「ブラックチャックのバルダスだ。魔物の群れに襲われていたところを助けて、ここに連れて来たんだ」

 

「みんな、宜しく頼んだ。魔物から砦を守れるように、出来る限りのことをするぞ」

 

俺の紹介に続いて、バルダスもあいさつした。

それを聞いて、みんなもバルダスに自己紹介とあいさつをする。

 

「よろしくね、バルダス!わたしはピリン!」

 

「ワシはゆきのへだ。厳しい戦況だが、お前さんとも協力して砦を守ってやるぜ」

 

「ワタシはヘイザン、ゆきのへの弟子だ」

 

「わたしはルミーラ。これから仲良くしていこう」

 

4人とも新たな仲間が増えたことをとても喜んでいるので、すぐにバルダスと仲良くなっていくだろう。

ゆきのへの言う通り俺たちは厳しい戦況の中にあるが、バルダスとも協力して砦を守り抜いて、今度こそ世界に平和を取り戻さなければいけないな。

自己紹介の後、バルダスはみんなと話をしながら砦の中に入っていく。

俺はさっきバルダスの声が聞こえて中断してしまった、砦の修復作業に戻っていった。

 

しばらくして砦の修復作業を終えた俺は、これから何をしようかと考えていた。

すると、さっきみんなと一緒に砦の中に入ったバルダスが出てきて、俺に話しかけてきた。

 

「雄也。みんなと話し合って、思いついたことがあるんだ」

 

バルダスは砦に入ってから、みんなといろんな事を話していたな。

この砦にある兵器のことについても話していたし、もしかしたら新しい兵器について思いついたのかもしれない。

もしそうならさっそく作りに行こうと、俺はバルダスの話を聞く。

 

「もしかして、新しい兵器について何か思いついたのか?」

 

「この砦にはいろんな兵器があるけど、大きな敵を足止めする兵器も必要だと思ったんだ」

 

バルダスはうなずくと、大きい敵を足止めする兵器が必要だと言う。

確かにこの砦にはアローインプ式大弓や大砲など、巨大な敵を攻撃するための兵器はいくつでもあるが、足止めするための兵器はひとつもないな。

それがあれば、この前みたいにゴールデンドラゴンの火球に苦戦することもなくなるかもしれない。

でも、大きな敵を足止めする兵器と言われてもなかなか思いつかないな。

 

「俺もあったほうがいいと思うぞ。バルダスはどんな感じの兵器を思いついたんだ?」

 

「地面に大きな穴を開けて、その下にたくさんの槍を置くんだ。それで、その穴が見えないように、薄く土を被せるんだ。その上を大きな魔物が通ったら、土は重みに耐えられない。そしたら大きな魔物は穴に落ちて、たくさんの槍が突き刺さる。足止めも出来て、大きな傷も与えられるはずなんだ」

 

足止めのために地面に掘った穴に落とす…つまりは落とし穴と言うことか。

深い穴に落ちてしまったら、確かに巨大な魔物でもしばらくは出て来れなさそうだ。

ドラクエビルダーズのオープニングムービーでも、ゴーレムを穴に落として攻撃するという場面があったはずだ。

それに、たくさんの槍を置けば巨大な魔物でもかなりのダメージを受けることになるだろうから、確かにこの砦を守るのに役立つ強力な兵器になりそうだ。

 

「確かにそれなら強そうだな。詳しい作り方は思いついたか?」

 

「もちろん。素材が集まったら、雄也のビルダーの力で作ってみてくれ」

 

詳しい作り方も考えているらしく、バルダスはさっそく教え始める。

俺のビルダーの力についても、みんなから聞いていたみたいだな。

次にいつ魔物が襲ってくるか分からないし、すぐに作って砦の前に設置しに行こう。

そんなことを考えながら、俺はバルダスの言う落とし穴の作り方について聞く。

 

「大きな魔物でも落ちて、簡単に出てこられないように、穴の大きさは3×3の9ブロック分、深さは2ブロック分で、穴の横と底は魔物に壊されないように砦のカベで固めるんだ。それで出来た穴の中にはがねインゴットで出来た槍を置いて、最後に穴が見えないように薄い土を被せるんだ。穴に落ちた魔物は槍が刺さって弱るはずだから、砦のカベは薄くてもいい」

 

槍ははがねインゴットで作るようだし、砦のカベの原料もはがねインゴットなので、今回もかなりのはがねインゴットを使うことにもなりそうだ。

サンデルジュに来てから本当にはがねインゴットを使う機会が多いし、今度また岩山に採掘に行ったほうがいいかもしれないな。

そう思ったが、まだ砦のカベもはがねインゴットも在庫はあるので、今回は取りに行く必要はなさそうだ。

俺はバルダスに言われた通りの落とし穴を頭の中に想像して、ビルダーの力を使う。

 

落とし穴…はがねインゴット4個、砦のカベ4個、土3個 神鉄炉と金床

 

土と砦のカベは薄くして使うので、あまり必要数は多くないな。

はがねインゴットにしても落とし穴一つにつき4つなので、かなりの数の落とし穴を作ることが出来そうだ。

 

「ビルダーの力で素材や必要な数を調べたんだけど、今すぐたくさん作れそうだ。さっそく作りに行って来るぜ」

 

俺はバルダスに必要な素材が分かったから、さっそく作りに行くと言った。

砦の中に入っていき、神鉄炉が置いてある工房に向かっていく。

 

工房に入ると、俺ははがねインゴット、砦のカベ、土を用意し、神鉄炉を使ってビルダーの魔法を発動させた。

ビルダーの魔法を発動させると、砦のカベが薄く変化して穴の横と底を作っていき、その穴の中にはがねインゴットの槍が作られていく。

穴と槍が出来ると、薄くした土がそれらを覆い隠し、落とし穴が出来上がった。

 

「これで落とし穴が出来たか。でも、今度も魔物の数はかなり多いだろうし、まだたくさん作らないといけないな」

 

落とし穴が一つ出来てからも、俺は続けてたくさんの落とし穴を作っていく。

次の防衛戦ではどのくらい大型の魔物が来るかは分からないが、かなりの数が襲ってくるのは間違いないだろう。

それで、俺ははがねインゴットの在庫が少なくなるまで作り続けて、20個もの落とし穴を完成させる。

20個めの落とし穴が出来た時、俺はそろそろ砦の前に設置しに行こうかと思う。

 

「これで20個も落とし穴が出来たか…はがねインゴットは大量に使ったけど、次の防衛戦は間違いなく勝ち目が上がっただろうな。今から設置しに行ってくるか」

 

俺はさっそく工房から出て、砦の前に向かった。

ゴールデンドラゴンの火球で砦を壊されるのも防ぎたいので、砦からかなり離れた場所に設置したほうが良さそうだ。

そうすれば、砦が火球の射程範囲に入る前にゴールデンドラゴンは落とし穴に落ちて、火球を放つことは出来なくなる。

砦のある高台を降りて、草原に出たところ辺りで、俺は地面に落とし穴を設置し始めた。

 

「この辺りに設置すれば、ゴールデンドラゴンが来ても火球を吐く前に落ちそうだな」

 

ビルダーハンマーを使って地面を掘っていき、一つ一つ落とし穴を設置していく。

明日の朝、昨日ほどのたくさんの魔物が襲ってくるかもしれないし、今日のうちに20個とも設置しておいたほうがいいだろう。

かなり時間はかかり、設置しているうちに昼ごろになってしまう。

でも、俺は休まずに穴を掘って落とし穴を設置して、夕方になる前には全ての落とし穴を置くことが出来た。

 

「これで全部置けたか。魔物に見破られることはなさそうだな」

 

落とし穴を設置し終えると、その設置した場所を眺めてみる。

落とし穴がある場所もまわりの地面と同じようになっており、見分けることは出来なかった。

飛び出し式トゲわなの時も大丈夫だったし、魔物に見破られるという心配はないだろう。

だが、落とし穴に関して一つ気になっていることがあった。

 

「心配なのは、人間や軽い魔物が落ちたりしないかだな」

 

アローインプやブラバニクイーンなどの小型の魔物が落ち、大型の魔物を足止め出来なくなることや、人間が落ちてしまうことが心配だ。

サンデルジュの砦のみんなには落とし穴のある位置を教えればいいので大丈夫だが、ラダトームの人がここに来た時に危ない。

 

「俺が確かめたらもしもの時危ないし、重い物を乗せて耐えられるか調べるか」

 

俺は金属製の武器やインゴットを落とし穴を設置した場所の上に置いていき、重さに耐えられるか調べてみる。

俺が直接確かめたほうが早いが、万が一崩れた時に危険だ。

慎重にいくつもの武器やインゴットを置いていき、合計の重さ人間の体重と同じくらいにする。

そして、重さに耐えきれず崩れることがないか、しばらく観察していた。

 

「崩れる気配は…ないみたいだな」

 

でも、しばらく観察しても崩れる様子はなく、小さな魔物や人間が落ちる心配はなさそうだった。

それを見て、大型の魔物でも落ちないのではないかとも思ったが、ゴールデンドラゴンなどの体重は人間の何倍もあるだろうから、恐らく問題ないだろう。

 

「これで事故の心配もなさそうだし、多分大丈夫だろうな」

 

落とし穴を使って、これからの戦いを有利に進めていくことが出来そうだ。

俺は落とし穴の上の土に置いた武器やインゴットを回収し、砦の中に戻っていく。

 

砦の中に戻ると、俺は落とし穴が完成したことを伝えるためにバルダスを呼んだ。

 

「バルダス、落とし穴を設置してきたぞ!結構強力な設備になりそうだ」

 

自分が考えた落とし穴が強力になりそうと言われて、バルダスは部屋の中から嬉しそうに出てきた。

バルダスは俺のところに来ると、どの位置に落とし穴を設置したのか聞いてくる。

 

「本当か?それならこの砦の役に立てて良かった。どの辺りに設置したんだ?」

 

「この砦がある高台の下辺りだ。そこに置けば、一番この砦を守りやすいと思ったんだ」

 

俺はさっき落とし穴を設置した場所を指差し、バルダスに教えた。

すると、バルダス自身も全くまわりと区別がつかないと言う。

 

「あの場所に作ったんだ。ボクにもまわりと全く区別がつかないし、穴に魔物を落とせそうだ」

 

自分で考え出した設備に、バルダスも満足しているようだった。

バルダスはこんな強い設備を考えたし、これからも協力していけばさらなる兵器も開発出来るようになるだろう。

闇の力の集合体…エンダルゴも倒せるようになるかもしれない。

 

「バルダスのおかげであんな強力な設備が作れたんだ。これからも協力して、魔物たちに立ち向かっていくぞ」

 

「もちろん。雄也やみんなが勝てるように、ここで頑張るんだ」

 

俺がそんなことを言うと、バルダスもこれからも頑張っていくと言う。

俺たちはもう少し話し合った後、砦の中に戻っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode131 王都の監視塔

落とし穴を作った2日後、俺がサンデルジュに来てから18日目の朝、今日も砦の外を見て草原に生息している魔物の様子について観察していた。

魔物の活動は日に日に激しくなっていき、今日も魔物たちは人間に寝返った魔物がいないか監視しているようだった。

人間に寝返った魔物を全て殺すまで、この動きは続くのだろう。

 

「活動が激しいだけじゃなくて、新手の魔物も出てきてるのか…」

 

また、魔物の活動を見ながら草原の奥の方を見てみると、ラダトームの南の城で戦ったことのある巨人の魔物、ボストロールの姿が何体か見かけられるようになった。

裏切り者の魔物を殺すにしても、人間の砦を破壊するにしても、今まで以上に強力な魔物が必要だとエンダルゴは判断したのかもしれないな。

もしボストロールが砦に迫って来たら、この前以上に苦戦することになりそうだ。

 

「ボストロールは強いけど巨体の魔物だから、落とし穴で止められそうだな」

 

でも、人間の数倍もの巨体を持ったボストロールは間違いなく落とし穴に落ちるだろうから、この砦に近づかれることはなさそうだ。

新手の魔物でも食い止められそうなので、落とし穴を作ってよかったと俺は改めて思う。

次の防衛戦は、この前よりも勝ち目が上がったかもしれないな。

 

「でも、万が一近づかれた時のことも考えておくか」

 

だが、ここで油断はせず、もし砦に強大な魔物が近づいてきた時のことも考えなければいけないとも俺は思う。

今の設備では対処しきれるか分からないので、また新しい兵器を考えた方がいいだろう。

俺は今日も新設備についてみんなに相談しようと、砦の中に戻ろうとする。

 

するとその時、サンデルジュの砦に1匹のカタツムリの魔物、ドロルが近づいて来た。

でも、サンデルジュにはドロルは生息していないはずだし、そいつは俺たちを襲って来るような気配もなかった。

 

「ん?あいつはチョビか…?ここに来たってことは、ラダトームで何かあったのか?」

 

ラダトームの兵士となったドロルのチョビだろうが、どうしてサンデルジュに来たのだろうか?

強大な魔物が生息しているサンデルジュにまで俺を呼びに来ると言うことは、ラダトームで何か起きたということだろう。

そんなことを考えながら、俺はチョビが来るのを待つ。

チョビは砦に入ると呪文を唱えて人間の姿に化けて、俺に話しかけてきた。

 

「久しぶりデスネ、雄也ドロル!」

 

「こっちこそ久しぶりだな。でも、チョビがここに来るってことは、ラダトームで何かあったのか?」

 

俺はさっそく、ラダトームで何が起きたのか聞く。

この前チョビがサンデルジュに来たのはラダトーム城の西で魔物たちが不穏な動きを始めた時だが、今回もラダトームで恐ろしいことがあったのだろうか。

するとチョビは、暗い顔になってラダトームの現状を話してきた。

 

「ハイ…実ハ昨日、またラダトーム城二魔物ノ軍勢が押し寄せテ来たのデス。ワタシたちデ何とか追い払ったのデスガ、城ヲ大きく壊さレテしまいマシタ。姫ノいる玉座の間モ、傷を受けてしまいマシタ」

 

エンダルゴの住む城も近くにあるし、ラダトームもサンデルジュと同じくらい魔物の動きが活発になっているみたいだな。

この前は強力な兵器を持つサンデルジュの砦でも一部を破壊されたので、ラダトームにあの数の魔物が襲撃すれば甚大な被害を受けるのだろう。

このままもう一度襲撃を受ければ、ラダトーム城は陥落してしまいそうだ。

 

「そんな大変な状況になっていたのか…。それで、城を強化を頼みに来たんだな」

 

「ハイ。雄也ドロル二、作るのヲ手伝ッテ欲しい物ガあるノデス」

 

チョビは城の強化をするために、俺に作ってほしい物があると言ってくる。

ラダトーム城もみんなと共に復興させてきた大切な場所なので、俺としても魔物に壊されたくはない。

 

「俺もラダトーム城を壊される訳にはいかないし、もちろん聞くぞ」

 

「今回ノ戦いデ城ガ大きな被害ヲ受けたノハ、魔物ノ襲撃二気づクのガ遅かッタからダトワタシたちハ考えマシタ。気づイタ時にハ、魔物ハ砦ノすぐ側マデ来ていタノデス」

 

俺たちもラダトーム城を復興させている時、襲撃に気づいたのは魔物たちが城のすぐ近くまで来てからだったな。

ラダトーム城はサンデルジュと違って高台にある訳ではないので、遠くの魔物の行動は見えにくい。

魔物の活動が激化している今、チョビの言う通り城に近づかれてから迎撃していては防衛が間に合わない恐れもある。

 

「そこで、雄也ドロル二作っテ欲しいノハ、遠く二いる魔物ノ動きモ見ルこと出来る監視塔デス。マダ魔物ガ城から離レタところ二いる時二迎え撃てば、城ノ被害モ抑えラレルと思うのデス」

 

監視塔か…メルキドでも、ゴーレムが来た時のためにロッシが見張り台を作ってほしいと頼んできたことがあった。

確かに監視塔があれば遠くの魔物の動きも見えるようになり、襲撃の時に早めに対応することが出来るだろう。

作りに向かう前に、俺はどんな感じの監視塔にするのかチョビに聞く。

 

「確かに監視塔があれば、城を破壊される前に迎え撃てるかもしれないな…それで、どんな形の監視塔にするんだ?」

 

「城ノみなさんト一緒二設計図ヲ書いテ来まシタ。これノ通り二作っテみテ下サイ」

 

すると、チョビは監視塔の設計図を手に取り、俺に渡してきた。

サンデルジュに来てからは一回も設計図を使ったことがないし、設計図を使うのはエルの教会以来になるな。

その設計図には、監視塔は高さ10メートルで、城のカベを使って作ると書かれている。

メルキドの見張り台の倍くらいの高さだが、同じように上にはかがり火を置いてあった。

また、登るためにはつたではなく、はしごを使うと書かれていた。

 

「はしごは作ったことがないな…今の素材で作れるのか?」

 

はしごはまだ作ったことがないので、今持っている素材で作れるのかビルダーの力で調べる。

素材が足りないのだったら、集めに行かないといけないな。

 

はしご…木材3個、ひも1本 石の作業台

 

木材とひもだけで作れるみたいだな…これならラダトームの大倉庫に入っているはずだし、すぐに作ることが出来そうだ。

素材も揃っているし、早めに作ったほうがいいと思い、さっそく作りに行こうと俺はチョビに言う。

 

「素材も揃っているし、この高さがあれば遠くの魔物もちゃんと見れると思うぞ。いつ魔物が来るか分からないし、今から作りに行こう」

 

「ありがとうございマス。ワタシはモウ少し休みタイのデスが、ラスタンたちト共二城ヲ修理しなケレばいけないノデ、雄也ドロルと一緒二ラダトーム城二戻りマス」

 

チョビも城を修理しなければいけないので、サンデルジュの砦で休まずに俺と一緒にラダトーム城に向かうといった。

城がかなり大きく破壊されているので、修理も急がないといけないみたいだな。

 

「分かった。魔物に気をつけながら、旅のとびらに向かうぞ」

 

チョビはドロルの姿に戻り、俺はその後ろに隠れながらラダトーム城に繋がる緑の旅のとびらを目指してゆっくり歩いていく。

多くの魔物が監視を行っているところを進んでいくので、これまで以上に時間がかかってしまう。

旅のとびらに着いた時には、サンデルジュの砦を出てから25分もたっていた。

 

旅のとびらを抜けると、そこにはチョビの言う通り魔物の攻撃で大きな被害を受けたラダトーム城が広がっていた。

城の前の方にある占いの間は半壊しており、奥のほうにある玉座の間や姫の寝室もかなり破壊されている。

 

「話には聞いていたけど、ひどいことになってるな…」

 

全壊まではしておらず、みんな生き残っているのは良かったが、せっかく復興してきた町を再び壊されてしまうのはやはり悲しいな。

そう思いながら城の中を眺めていると、修復作業を行っていたラスタンが俺とチョビに気づいて話しかけてきた。

 

「雄也、来てくれたのか…チョビから聞いているとは思うが、先日の魔物の襲撃でラダトーム城はこのような有り様になってしまった…」

 

ラスタンもさっきのチョビと同じように、暗い口調で話している。

ラスタンも兵士として、守るべき城を壊されてしまったことを悲しく思っているみたいだな。

また、ラダトーム城に俺を呼び出したことを申し訳なく思っているようだった。

 

「最初は私たちだけで城の修理も監視塔の建設も行うつもりだったのだが、それでは時間がかかり過ぎると思ってお前を呼ぶことになった…お前にはサンデルジュの防衛という大切な役目があるのに、悪いな…」

 

「気にしなくていい。エンダルゴ…闇の力の集合体を倒すためにはラダトーム城の強力も必要になるだろうし、俺に出来ることなら何でもするぞ」

 

確かにさっき俺は、今日もサンデルジュの砦を防衛するための設備を考えようとしていた。

強力な兵器があればあるほど、魔物たちに勝てる可能性は高まるからな。

だが、エンダルゴの軍勢を倒して世界に完全な平和を取り戻すには、ラダトームのみんなの力も不可欠だろう。

だから、ラダトーム城を強化することもサンデルジュの強化と同じくらい重要だ。

俺はラスタンに気にしなくていいと言った後、どこに監視塔を作ればいいか聞く。

 

「それで、監視塔を城に作って欲しいんだろ?城のどのあたりに作ればいいんだ?」

 

「監視塔は城の横に作ってほしい。本当は城の中に作りたいのだが、場所がなくてな」

 

ラスタンは城の中ではなく、城の横に監視塔を作って欲しいと言ってきた。

監視塔はもともとラダトーム城にはない物だし、そうするしかないみたいだな。

でも、城の横でも襲って来る魔物は見れるので、問題はないだろう。

 

「分かった。チョビから設計図は貰っているし、今から作ってくるぞ」

 

「本当にすまないな…どのくらい遠くまで見えるのか気になるから、出来上がったら見せてくれ」

 

俺はラダトームのためにも何でもすると言ったが、ラスタンはまだ申し訳なく思う気持ちがあるようで、そんな言い方をした。

だが、みんなに平和な世界を見せるためには、ラダトーム城も守り抜かなければならないので、俺はすすんで監視塔を作りに行く。

チョビとラスタンは城の修復作業に戻り、俺は監視塔を建てるのに必要なもの、はしごとかがり火、城のカベを作るために工房に向かった。

 

工房も魔物の攻撃によってかなりの被害を受けており、壁や扉がなくなっていた。

だが、石の作業台はまだ壊されておらず、必要なものをすぐに作ることが出来そうだ。

 

「はしごを作るためには…木材とひもだったな」

 

俺はまずポーチから大倉庫に入っているひもと木材を取り出し、はしごを作ろうとする。

二つの素材を石の作業台の上に置き、ビルダーの力を発動させていった。

すると、木材とひもは一つだけでなく、いくつものはしごに変わっていく。

ビルダーの魔法を発動し終えたときには、10個ものはしごが出来ていた。

 

「一度に10個も出来たのか…監視塔の高さは10メートルだったし、ちょうどだな」

 

はしごの長さは1つ1メートルなので、10個あれば10メートルの高さの監視塔を作るのに十分な数だ。

はしごが出来ると、同じように大倉庫から素材を取り出していき、かがり火や城のカベを作っていく。

 

「城のカベは結構な数が必要になるけど、ラダトームの大倉庫には大量の素材が入ってるし、大丈夫か」

 

大量の鉄のインゴットや石材が必要になるが、大倉庫にはラダトームを復興させている時集めていたものが残っているので、集めに行かなくてもよさそうだ。

ビルダーの魔法で次々に城のカベ・地や城のカベを作っていき、必要な数が出来上がると監視塔を建てにラダトーム城の横に向かっていく。

 

「これでたくさんの城のカベも出来たし、早めに監視塔を建ててこないとな」

 

俺は一度城を出て城の横に向かい、監視塔を建て始める。

 

まずは1段目に城のカベ・地を置いて、その上に城のカベを積み重ねていく。

降りれなくなったら困るので、一段積んでいくごとにはしごをかけていった。

8段目くらいになるとかなりの高さだが、俺は高いところが苦手ではないので、そのまま設計図の通り10メートルの高さまでブロックを積み上げていく。

 

「これで10メートルの高さになったな、あとはここにかがり火を置いたら、監視塔の完成だな」

 

俺は10段目のところに床を作っていき、その上にかがり火を置く。

そして最後に、落下防止のためにまわりを城のカベで囲み、監視塔を完成させた。

 

「これで監視塔が出来たな。ここからなら、遠くの魔物でも見えそうだぜ」

 

完成した監視塔の上で、俺は魔物の活動が激しくなっている今のラダトーム平野を眺める。

すると、前まではスライムや小型のかげのきしくらいしかいなかったところに、たくさんのしにがみのきしやだいまどうがうろついていた。

ラダトームの他の地域には、さらに強力な魔物もいるかもしれないな。

そう考えると、魔物の襲撃を遠くからでも知ることが出来る監視塔を作ってよかったぜ。

 

「ラダトーム城の周辺にあんな強力な魔物がいるのか…でも、この監視塔があれば城を守れる可能性も上がりそうだな。みんなにも、完成したことを伝えるか」

 

俺はしばらくラダトーム城周辺の様子を見た後、監視塔が完成したことをみんなに伝える。

 

「みんな、監視塔が出来たぞ。結構遠くの魔物も見えるし、襲撃に気づけるようになったと思うぜ」

 

俺の声を聞いて、ラスタン、オーレン、チョビの3人のラダトームの兵士が出来上がった監視塔のところにやってくる。

この監視塔で魔物の様子を見張るのも、この3人になるのだろう。

年寄りであるムツヘタは、はしごを登るのが大変だろうからな。

 

「ラスタンから雄也さんが来てくれたことは聞きましたが、高くて役立ちそうな監視塔になりましたね。本当にありがとうございます」

 

さっきは会っていなかったオーレンも、俺に感謝の言葉を言った。

3人はしばらく下から監視塔を見た後、はしごを使って上に登ってくる。

 

上から遠くを眺めた3人は、これなら魔物の襲撃にも事前に気付けるだろうと話をする。

 

「これが監視塔から見たラダトーム周辺の眺めか…あの距離まで見えるのなら、魔物が来ても城に近づかれる前に対応出来るぞ」

 

「城が再び崩壊すると言う、最悪の事態は避けられそうですね」

 

「助かリまシタ、雄也ドロル!次二いつ魔物ガ来るかハ分かりマセンが、被害ヲ最小限二抑えテ見せマス」

 

ラダトームでの魔物の襲撃がどの程度なのかは分からないが、3人の言う通りこの城を守りきれる可能性は上がったわけだし、本当に良かった。

 

「また困ったことがあったら、いつでも呼びに来てくれ」

 

俺は3人にそう言った後、監視塔から降りてラダトーム城に戻り、旅のとびらからサンデルジュに向かっていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode132 火を吹く兵器

日に日に激しさを増していく魔物の活動を見て、俺だけでなくみんなも落とし穴だけではまだ砦を守れるか不安になり、砦を守る新たな設備について考え続けていた。

そして、ラダトームに監視塔を建てた2日後、サンデルジュに来てから20日目の日、ゆきのへが新しい設備を思いついたらしく、砦の中を歩いていた俺に話しかけてきた。

 

「雄也。新しい設備について、一つ思いついたことがあるんだ。砦を守るだけじゃなく、エンダルゴの城を攻める時にも使えそうな兵器だ」

 

エンダルゴの城を攻めるか…俺たちは今はサンデルジュの砦を強化するのに精一杯で、エンダルゴを倒すための武器を作ることが出来ていない。

砦が強固でなければ、武器を作ろうとしている間に壊されてしまうからな。

ゆきのへの言う砦を守るためにも、エンダルゴの城を攻めるためにも使える兵器を作れば、早めにエンダルゴに挑みに行くことが出来そうだ。

 

「エンダルゴの城を攻めるのに役立つのなら、絶対に作ったほうがいいな。どんな感じの兵器なんだ?」

 

さっそく作ろうと思い、俺はゆきのへにその兵器について聞く。

すると、ゆきのへはメルキドの火をふく石像のように、火で魔物を攻撃するものだという。

 

「火で魔物を焼き尽くす兵器だ。ただ、メルキドにあった火をふく石像と違って、手に持って使うんだ。サンデルジュの魔物は強力だから、石像ではすぐに壊されると思ってな」

 

手に持って使う火をふく兵器…地球で言うところの、火炎放射器ってことか。

ゆきのへの言う通り火をふく石像は、サンデルジュの魔物には簡単に壊されてしまうだろう。

火炎放射器なら移動しながら使えるので、壊される心配もないし、確かにエンダルゴの城を攻めるのにも使えそうだ。

 

「それなら、砦に近づいてきた魔物もエンダルゴの城にいる魔物も倒せそうだな。さっそく必要な素材を調べて、作って来るぞ」

 

「ワシは他にも作れそうな兵器がないか考えてるぜ。完成したら見せてくれ」

 

火炎放射器を作りに行こうとすると、ゆきのへも何か別の設備も作れないかと考えるために部屋の中に戻っていった。

ゆきのへたちと協力してこのまま兵器の開発を続けていけば、エンダルゴや闇の戦士を倒して世界に完全な光が戻る日も遠くなさそうだ。

俺はそんなことを思いながらビルダーの魔法を発動させて、火炎放射器を頭の中に思い浮かべて、作るために必要な素材を調べる。

 

火炎放射器…はがねインゴット4個、マグマ岩2個 マシンメーカー

 

はがねインゴットで火炎放射器の形を作り、マグマ岩で火を放つための熱を作るということみたいだな。

マグマ岩はマシンメーカーを作る時にたくさん集めてきたので在庫があるが、はがねインゴットの原料である鉄はほぼなくなっているので、集めに行かないといけないな。

 

「火を放つためには、燃料も必要になりそうだな」

 

俺は火炎放射器の作り方を調べた後、燃料の作り方も調べる。

サブマシンガンや大砲を撃つのに弾が必要なように、火炎を放つのには燃料が必要になるだろう。

 

燃料…あおい油1個、あかい油1個、石炭1個 石の作業台

 

油や石炭といった、燃えやすい物が必要になってきたな。

石炭はたくさん持っているし、すぐに集められるが、サンデルジュにはスライムやスライムベスが生息していないので、ラダトームから持ってくるしかないな。

 

「岩山で鉄を集めてから、ラダトームに油を取りに行ってくるか。魔物の活動は激しいし、気をつけて行かないとな」

 

魔物の活動が激化している砦の外に出るのは危険だが、火炎放射器を作るためにはそうするしかない。

俺はまず、この前鉄や石炭を見つけた鉱脈に向かっていき、はがねインゴットを作るための鉄を集めに向かっていく。

この前と同じで鉱脈の近くには何体かのブラバニクイーンが生息しており、他の魔物と同じように辺りを監視するような動きをしていた。

 

「こいつらは倒せる相手だけど、いつも通り隠れながら進んでいこう」

 

まだ人間の味方をしている魔物が生き残っているかは分からないが、この監視態勢は終わらないみたいだな。

ブラバニクイーンに見つからないようにして鉱脈に近づくのはかなり大変だが、なるべく戦いを避けようと体勢を下げながら慎重に進んでいった。

近くには石材がとれる大型の石もあったので、俺はその後ろに隠れたりしながら、鉄と石炭の鉱脈に向かっていく。

 

かなり時間がかかり、砦を出て20分くらいたって鉄と石炭の鉱脈にたどり着いた。

 

「魔物に見つからずに鉱脈に着いたか…鉄はこれからも必要になるはずだし、可能な限りの数の鉄を集めておかないとな」

 

鉱脈に着くと、俺はさっそくおおかなづちを使って大量の鉄を採掘していく。

ビルダーハンマーは使うと何故か鉱脈ごと手に入れてしまうので、採掘には向いていない。

はがねインゴットはこれからも必要になるだろうから、いくらあっても多すぎということにはならなさそうだ。

200個以上の鉄を集めると、俺は油を手に入れるためにラダトームに向かおうとする。

 

「あとはラダトームで油を手に入れれば、火炎放射器も燃料も作れるな」

 

さっき通ったブラバニクイーンのいる場所を戻っていき、ラダトーム城に繋がる旅の扉へ足を進めていく。

2日前チョビと一緒にラダトーム城に向かった時より魔物の数が増えており、その時のようにドロルの姿に戻ったチョビの後ろに隠れて進むこともできない。

何度も魔物に見つかりそうになり、40分かけてようやく旅のとびらのところに着くことが出来た。

 

「時間がかかったけど、何とかラダトーム城に無事に着いたか。大倉庫から油を取り出したら、火炎放射器を作りに戻ろう」

 

行ったり来たりで大変だが、早めに強力な兵器である火炎放射器を作ったほうが良いと思うので、ラダトームで油を手に入れたら、サンデルジュの砦に戻ろう。

俺は旅のとびらをくぐって、ラダトーム城の中に入った。

ラダトームの大倉庫に入っている油をポーチに移す前に、俺は修復活動が行われているラダトーム城の中を眺めてみる。

すると、城の大部分はきれいに戻っており、俺が作った監視塔の上ではラスタンが魔物の様子を見ていた。

 

「気になっていたけど、無事にラダトーム城は元通りになったみたいだな」

 

次の防衛戦ではどうなるか分からないが、ラダトーム城がこれ以上の被害を受けなければいいな。

俺はラダトーム城の様子をしばらく眺めた後、大倉庫に入っているあかい油とあおい油を取り出す。

ラダトーム城で作らなければいけない物もなさそうなので、俺は予定通り火炎放射器を作りにサンデルジュの砦に戻ることにした。

 

緑の旅のとびらを抜けてから、俺は30分くらいサンデルジュの砦に向かって歩き続ける。

帰りも慎重に進んでいったので、魔物に見つかることはなかった。

だが、砦までもう少しというところで、砦に向かって歩いている魔物の大軍が見えた。

 

「何か…大量の魔物が砦の報告に向かっているな…。もしかして、俺たちの砦を襲おうとしているのか!?」

 

その魔物の大軍は、ブラバニクイーンとエンダルゴの城にいたメーダの上位種、コスモアイが16体ずつ、エビルトレントとキースドラゴンが10体ずつ、ゴールデンドラゴンとボストロールが6体ずつおり、最後尾にはボストロールのさらに上位種、トロルキングが1体いた。

合計65体であり、この前に比べて魔物の総数は少ないが、強力な魔物が増えている。

ブラックチャックやアローインプといった弱めの魔物は戦力外の扱いを受けたのか、その大軍の中にはいなかった。

俺は歩きながら魔物の様子を見ていたが、やはり奴らはサンデルジュの砦に向かっているようだった。

 

「やっぱり俺たちの砦に向かっているな…早くみんなに知らせて、迎え撃たないとな…勝ち目を上げるために、火炎放射器もすぐに作らないといけない」

 

俺は魔物のことをみんなに知らせたり、火炎放射器を作ったりするため、奴らに見つからないようにしながら急いで砦がある高台に登っていく。

砦に入ると、俺は魔物が近づいてきていると大声でみんなを呼んだ。

 

「みんな、急いで戦いの準備をしてくれ!この前みたいに、かなりの数の魔物がこの砦に近づいているんだ!」

 

俺の声を聞いて、それぞれの武器を持ったゆきのへ、ルミーラ、バルダスの3人が部屋の中から飛び出してくる。

急な魔物の襲撃に驚いているようだが、この砦を守らなければいけないという思いで砦の前に向かっていった。

 

「まだ兵器を考えてる途中だってのに、もう魔物が来ちまったのか」

 

「魔物の数が増えて来てるし、今日も大変な戦いになりそうだね」

 

「ボクもみんなの砦を守るために、この棍棒で戦ってやる!」

 

3人はそう言った後、サンデルジュの砦に近づいてきている魔物を見下ろす。

みんな、厳しい戦いになりそうだという表情をしていた。

俺はすぐに火炎放射器を作るために、急いで工房の中に入っていく。

 

「俺は急いで火をふく兵器を作ってくる!兵器が出来たら、俺もすぐに向かうぞ」

 

「魔物が来るまでもう時間はねえ、出来るだけ早くしてくれ!」

 

俺は工房に入るとすぐにポーチから鉄を取り出し、まずは鉄のインゴットを作る。

鉄のインゴットが出来ると、それをさらに加熱してはがねインゴットに変えた。

はがねインゴットは大量に作っておきたいが、今は時間がないので火炎放射器を作るために必要な分だけにしておいた。

 

「はがねインゴットが出来たから、マグマ岩と合わせれば火炎放射器を作れるな」

 

出来たはがねインゴットをマシンメーカーの上に置き、マグマ岩と合わせて火炎放射器を作っていく。

今は急いで作らないといけないので、いつもビルダーの魔法を発動させる時よりも強く念じていた。

そのおかげか、いつもより早くはがねインゴットやマグマ岩が加工されていく。

俺が考えていた通り、はがねインゴットが火炎放射器の形を作っていき、マグマ岩が内部で熱を発生させるという仕組みだ。

 

「あとは燃料を作ったら、ゆきのへたちと一緒に戦いに行こう」

 

火炎放射器が完成すると、俺は炎を放つための燃料を作り始める。

石の作業台を使ってあかい油、あおい油、石炭を混ぜ合わせていき、たくさんの燃料を作っていった。

10個くらいの燃料が出来ると、俺はそれらをポーチにしまって工房を飛び出す。

 

「みんな、火をふく兵器が出来たぞ!これを使って魔物を迎え撃ってやる」

 

俺がそう言ってみんながいる砦の前に行くと、魔物の大軍の前衛にいるブラバニクイーンはもう砦のかなり近くまで来ていた。

強力な魔物だらけだが、落とし穴や火炎放射器の力も使って必ず勝たないといけない。

 

「無事に火を吹く兵器が出来たか…だが、油断は決して出来ねえ。大変な戦いになるだろうが、必ず倒しに行くぞ」

 

ゆきのへはそう言って、メタリックハンマーを構える。

砦のすぐそばまで来ていたブラバニクイーンたちも、俺たちをにらむような顔をしていた。

サンデルジュの砦の4回目の防衛戦が始まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode133 破壊者たちの猛攻

ブラバニクイーンは16体いるので、俺たちは一人4人ずつ相手していくことにする。

ブラバニクイーンは戦い慣れている魔物だし、4体くらいなら苦戦せずに同時に倒せるだろう。

この後燃料が尽きることがないよう、俺は火炎放射器は使わず、おうじゃのけんとビルダーハンマーを使って、ブラバニクイーンに殴りかかっていく。

奴らはいつものようにかなりの高速で突進してくるが、俺は確実に避けていくことが出来た。

 

「お前たちとは戦い慣れているんだ!そのくらいの突進、簡単によけれるぞ」

 

砦の近くで戦っているので、勢いあまって角が砦のカベに突き刺さる奴も出てくる。

突進の威力は高いので、砦のカベにもかなりのダメージではあるが、一撃で壊れることはなかった。

 

「角が壁に刺さったか…動けるようになる前に、一気に潰しておくぜ」

 

砦のカベに角が突き刺さって動けなくなったブラバニクイーンを、俺は両腕の武器で叩き潰していく。

動けなくなっていたところに強力な武器での攻撃を叩き込まれ、奴らは次々に青い光に変わっていった。

ゆきのへとルミーラも、目の前に立ちふさがるブラバニクイーンに苦戦することなく戦っているようだった。

 

「ゆきのへとルミーラも苦戦していないようだし、ブラバニクイーンはもう少しで全滅だな。まだ奴らを倒しきれていないバルダスの援護に向かうか」

 

戦いがそこまで得意ではないバルダスはブラバニクイーンを倒すことは出来ておらず、攻撃を抑えることで精一杯のようだった。

俺は自分と戦っていた奴らを全滅させると、バルダスのところに向かう。

ゆきのへとルミーラはまだブラバニクイーンと戦っている途中だが、じきに倒し終えることだろう。

ブラバニクイーンたちはバルダスとの戦いに集中しているので、背後から回転斬りを放てば倒すことが出来そうだな。

だが、魔物の大軍の親玉であるトロルキングも、ブラバニクイーンが倒されないように魔物たちに指示を出す。

 

「これ以上の人間どもの抵抗を許すな!コスモアイ、砦ごと人間どもを撃ち抜いてしまえ!ドラゴンも、砦に急げ!」

 

トロルキングの命令を受けて、コスモアイは速度を上げて砦に近づいて来る。

コスモアイの後ろにいたゴールデンドラゴンたちも、火球が砦に当たる位置にまで近づいて来ようとしていた。

 

「やっぱり奴らもブラバニクイーンの援護に来たか。でも、ゴールデンドラゴンは落とし穴に落ちるだろうし、コスモアイに気をつければ大丈夫だな」

 

ブラバニクイーンやコスモアイと戦っている間にゴールデンドラゴンの火球が飛んできたらかなり危険な状況になる。

だが、ゴールデンドラゴンはこの前バルダスが考えてくれた落とし穴に落ちるだろう。

一度あの落とし穴に落ちれば、奴らは死ぬまで脱出できないはずだ。

だから、俺は今はゴールデンドラゴンのことを気にせず、バルダスと戦っているブラバニクイーンや、迫ってくるコスモアイとの戦いに集中することにする。

 

「コスモアイたちが来る前に、1体でもブラバニクイーンを減らしておこう」

 

力を溜めている間にコスモアイが砦のそばまで来てしまうので、俺は回転斬りで一気に倒そうとするのをやめて、1匹でも確実に仕留めようと、剣とハンマーを一匹の頭に叩きつける。

奴は突進をしようとしていたが、俺に突然後ろから攻撃されたことで動きを止める。

動きが止まったところを、俺はおうじゃのけんでもう一度突き刺して倒した。

 

「1体は倒せたか…もうすぐコスモアイが来るけど、どんな攻撃をして来るんだ?」

 

ブラバニクイーンを倒したと同時に、16体のコスモアイたちが砦のすぐ近くに迫ってくる。

砦に近づいてくると、奴らは光線を放って攻撃をしてきた。

光線はアローインプの弓より速いスピードで、俺たちがいるところに飛んでくる。

 

「メーダと同じで、光線を放ってくるのか…光線はかなりの速度だけど、予備動作があるから避けられそうだな」

 

でも、光線を放つために力を溜める動作があるので、それを見ていればかわすのはそんなに難しくなさそうだ。

だが、コスモアイたちの光線を避けながら、残りのブラバニクイーンと戦うのはさすがに難しい。

バルダスが残り3体を倒すことが出来るか心配だが、俺はサブマシンガンにはがねの弾丸を装填してコスモアイたちに向ける。

光線を放つ奴らに近づいて戦うのは、かなり危険だからな。

 

「バルダスが心配だけど、サブマシンガンでコスモアイを先に倒すか」

 

俺ははがねの弾丸を、奴らの弱点だと思われる目に向かって連射していく。

コスモアイはかなり生命力も高いようで、目を10発くらい撃ち抜かなければ倒せなかった。

でも、弾丸はたくさん用意しているので、弾切れになる前に全滅させることが出来そうだ。

しかし、光線を避けながらコスモアイを倒している途中、俺の後ろにある砦のカベが壊れる音がした。

 

「あの光線は砦のカベを壊すほどの威力なのか…早く倒さないと、被害が大きくなるな」

 

俺はサブマシンガンを使ってコスモアイの数を少しづつ減らして行くが、奴らの光線によって砦のカベも次々に壊されていってしまう。

急がないと、砦の奥にあるみんなの寝室にまで被害が出てしまうな。

そうなってしまうと、寝室に隠れているピリンやヘイザンが危ない。

また、砦だけでなく、ブラバニクイーンたちと戦っていたバルダスも苦戦しているようだった。

 

「バルダスも苦戦しているみたいだな…やっぱり今回も、簡単には勝てそうにはないか」

 

さっきのブラバニクイーンとの戦いでは、俺たちは安定した戦いをしていたが、そこにコスモアイたちが加わったことで戦況がやや厳しくなってきてしまった。

だがそんな時、ゆきのへとルミーラもブラバニクイーンとの戦いを終え、ゆきのへはバルダスの援護に行き、ルミーラは俺と一緒にコスモアイたちを攻撃し始める。

 

「バルダスはまだ苦戦してるみてえだな、援護に行くぜ」

 

「砦が壊される前に、雄也と一緒にコスモアイを倒さないとね」

 

砦の一部分は破壊されてしまったが、これ以上砦に被害が出る前にブラバニクイーンとコスモアイを全滅させることが出来そうだ。

俺とルミーラの二人の射撃によって、コスモアイたちを倒していく速度が上がる。

これなら、寝室にまで被害が出る前に奴らを倒しきることが出来そうだ。

ゆきのへもバルダスと戦っていたブラバニクイーンをメタリックハンマーで叩き潰し、全滅させていた。

 

「砦の一部が壊されてしまったけど、コスモアイたちを倒せたか…残りは大型の魔物だな」

 

ブラバニクイーンとコスモアイを倒し、これで残りはキースドラゴン、ゴールデンドラゴン、エビルトレント、ボストロール、トロルキングになった。

こいつらは落とし穴に落ちるはずで、俺が奴らの方向を見てみると、案の定4体のゴールデンドラゴンが落とし穴に落ちて動けなくなった。

突然ゴールデンドラゴンたちが穴に落ちたことで、隊長のトロルキングは驚いている。

 

「こんなところに穴だと!?人間どもめ、厄介な物を作りやがって…!」

 

ゴールデンドラゴンたちは穴の中にあるたくさんの槍に突き刺され、瀕死の重傷を負った。

このまま放っておいても倒せるだろうが、俺は念を入れて、アローインプ式大弓で奴らの頭を薙ぎ払うように撃ち抜いていく。

4体のゴールデンドラゴンは力尽きて青い光に変わっていき、残りの魔物たちもこれ以上砦に近づけなくなっていた。

 

「あいつらは身動きが取れなくなっているな…今のうちに仕留めていくぜ」

 

立ち往生している魔物たちを見て、俺はアローインプ式大弓からはがねの矢を次々と放っていく。

そして、落とし穴に落ちなかった2体のゴールデンドラゴンも大量のはがねの矢で貫いて倒すことが出来た。

ゴールデンドラゴンを全滅させると、次はその後ろにいるエビルトレントやキースドラゴンにも向かって矢を放とうとする。

しかし、隊長のトロルキングもこのまま魔物が倒されていくのを見ているというのではなく、手下のボストロールやエビルトレントたちに新たな命令をした。

 

「恐れるな、しょせんは人間どもが作った兵器だ!エビルトレントどもよ、ドルモーアで落とし穴を破壊しろ!」

 

その命令通りに、エビルトレントたちは落とし穴が仕掛けられている場所に向かってドルモーアの呪文を唱え始める。

ドルモーアは砦のカベが壊れるほど強力な呪文なので、落とし穴も簡単に壊されてしまいそうだ。

そうなれば、大量の大型の魔物が砦に迫ってきて、危機的状況に陥ってしまう。

大型の魔物はブラバニクイーンやコスモアイと比べて、攻撃力も高いし攻撃範囲も広いからな。

 

「落とし穴が壊されると砦が危ないな…エビルトレントを優先して倒すか」

 

俺はドルモーアを止めようと、10体のエビルトレントに向かってアローインプ式大弓を撃ち始める。

エビルトレントはかなり生命力があるが、10発ほどはがねの矢を撃ち込めば倒れるはずだ。

最初の5発の矢でドルモーアの詠唱を中断させて、次の5発の矢でとどめをさしていく。

俺はかなりの早さで矢を撃っているので、ドルモーアが発動する前にエビルトレントの数を大きく減らすことが出来るだろう。

だが、エビルトレントが残り8体になった時、魔物の軍勢の後ろにいた隊長のトロルキングが前に出てきて、エビルトレントをかばうような動きをする。

 

「トロルキングがエビルトレントたちをかばいだしたか…でも、まとめてはがねの矢で倒してやるぜ」

 

トロルキングはとても生命力が高そうだが、数十発はがねの矢を当てれば倒れるだろうから、俺はアローインプ式大弓を打ち続ける。

強敵が立ち塞がったとしても、エビルトレントのドルモーアを阻止しなければ俺たちの砦が危ないからな。

まっすぐに飛んでいったはがねの矢は、巨体であるトロルキングの体を貫こうとする。

しかしその時、奴は右腕に持っていた太い棍棒で、はがねの矢を防いでしまった。

 

「なかなか手こずらせてくれたが、お前たちの兵器はその程度の力でしかない。人間ども、これ以上無駄な抵抗はやめろ」

 

トロルキングは5発のはがねの矢を叩き落とすと、笑うような表情で俺の方を見てくる。

奴が強力な魔物だとは分かっていたが、まさかはがねの矢を叩き落として来るとはな。

だが、たくさんの矢を防いでいたらトロルキングの腕の力も尽きるだろうと思い、俺ははがねの矢を撃ち続ける。

しかし、いくらはがねの矢を撃ってもトロルキングの腕の力が尽きることはなく、棍棒で矢を防ぎ続けている。

 

「くそっ、このままだと落とし穴が壊されてしまうな…」

 

そうしている間にも、エビルトレントはドルモーアを発動させようとしていた。

このままではドルモーアを阻止できないとゆきのへも思ったようで、彼はトロルキングに近づいく。

 

「大弓だけじゃどうにもならんようだし、ワシがトロルキングの棍棒を引きつける。ワシが棍棒を引き付けている間に、お前さんは頭を撃ち抜いてくれ!」

 

ゆきのへに続いて、ルミーラとバルダスもトロルキングのところに向かっていった。

 

「わたしも雄也を援護する。このままじゃ、わたしたちの砦が壊されちゃうからね」

 

「ボクはあんまり強くないけど、援護に向かう!」

 

3人が武器を引き付けていれば、確かにトロルキングの頭を貫くことが出来そうだ。

俺は大弓の扱いに慣れているので、間違えて3人に当てることもない。

しかし、ゆきのへたちが近づいて来たのを見て、トロルキングは少し後ろに下がり、その前に奴の手下の6体のボストロールのうちの1体が立ち塞がった。

ボストロールはトロルキングの物ほどではないが大きな棍棒を振り回し、ゆきのへたちに殴りかかっていく。

 

「お前たちのような弱き者どもがいくら力を合わせようと、我らに敵うことは決してない。もう諦めるんだな!」

 

ボストロールはそう言ってくるが、3人は諦めずトロルキングのところにたどり着こうとする。

 

「何を言われようと、ワシらは世界の平和のために戦ってきたんだ。諦めることはしねえぜ」

 

ゆきのへが棍棒を引き付けている間に、バルダスはボストロールの足元を攻撃し、ルミーラは麻痺の矢で奴の腹を撃ち抜いていく。

ボストロールの体が麻痺することはなかったが、ボストロールは3人の攻撃でかなりのダメージを受けていた。

 

「みんなも頑張っているし、早くボストロールを倒してトロルキングとエビルトレントを止めないとな」

 

俺もボストロールを早く倒そうと思い、奴の頭にはがねの矢を撃ち放っていく。

だが、俺がゆきのへたちと戦っているボストロールにはがねの矢を撃つことは他のボストロールたちも分かっていたようで、2体目のボストロールが棍棒で矢を防いでしまう。

 

「まだ分からないか、そんな兵器で我らを倒すことは出来ないと」

 

でも、ボストロールはトロルキングと違って矢を叩き落とした時に怯むような動きをしており、棍棒にも傷がついていた。

 

「ボストロールの棍棒なら、トロルキングと違って破壊できそうだな」

 

たくさんの矢を放てば、棍棒を破壊して無防備にすることが出来るだろう。

そう思いながら攻撃を続けて、20発くらいはがねの矢を撃ったところで、ボストロールの棍棒が砕け散る。

20発も矢を放ったので、結構時間がかかっていた。

防御手段を失ったボストロールにとどめをさそうと、俺はさらに奴の頭に矢を放つ。

ボストロールは大きく倒れ込んで、光を放って消えていった。

 

「次はゆきのへたちと戦っているボストロールだな」

 

防ぐ者がいなくなり、今度こそ俺はゆきのへたちと戦っているボストロールに攻撃する。

ゆきのへたちとの戦いに集中している奴は俺の放った矢に気付かず、頭を貫かれて倒れた。

残り4体のボストロールはまだ軍勢の後ろのほうにおり、これでトロルキングに近づくことが出来る。

だが、トロルキングはもうドルモーアが発動すると言ってきた。

 

「我の手下を2体倒したか…だが、もうドルモーアが発動する。我らが砦に近づけるようになるのだ」

 

トロルキングの言葉と同時に、落とし穴が埋められている地帯でいくつもの大きな闇の爆発が起こる。

爆発によって地面は壊れ、どこに落とし穴が仕掛けられているか見えるようになってしまい、穴の中に作られていた槍も砕けてしまう。

2体のボストロールを倒すまで少し時間がかかったので、その間に詠唱が完了してしまったのか…ドルモーアの呪文が発動してしまったようだ。

 

「間に合わなかったか…落とし穴が壊されてしまったな」

 

ゆきのへたちは無事だったが、これで奴らが砦に近づけるようになってしまった。

この前の防衛戦でもドルモーアで砦を破壊されたし、ドルモーアの呪文は本当に厄介だ。

さっきまであまり苦戦せずに戦っていたのに、戦況が非常に悪化してしまったな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode134 巨人の王

ドルモーアによって落とし穴が破壊されると、トロルキングは砦に攻め込むために、目の前に立ち塞がっているゆきのへたちを攻撃し始めた。

 

「その程度の兵器では、我らを倒せないと言っただろ。人間ども、砦もろともこの棍棒で砕いてやる!」

 

そう言いながら、トロルキングは3人に向かって巨大な棍棒を叩きつける。

奴は攻撃力が相当高いようで、離れた場所にいる俺のところにも地面と棍棒がぶつかる音が聞こえた。

俺やゆきのへの力や武器があっても、受け止めるのは難しいだろう。

だが、速度は他のトロルたちよりは速いにしても、反応するのがそんなに難しいほどでもないので、ゆきのへたちに棍棒が当たることはなかった。

攻撃を避けた後、ゆきのへはメタリックハンマーを使ってトロルキングに反撃しようとする。

 

「我の棍棒を避けることは出来るか…だが、囲まれたらどうしようもないだろう」

 

しかし、トロルキングの指示で、後ろにいたエビルトレントやキースドラゴンたちもゆきのへたちに攻撃を始めた。

エビルトレントは固い枝で殴りかかり、キースドラゴンは鋭い爪で引き裂こうとする。

戦いが得意なゆきのへやルミーラでも、大量の強敵に囲まれたら危険だな。

ゆきのへもここで戦うのは危ないと思ったようで、一旦砦の方に退却しようとルミーラたちに言う。

 

「囲まれるのはまずいな…一旦雄也のいるところまで引くぞ!」

 

魔物たちを砦に近づけることになってしまうが、囲まれてしまえば勝ち目はないので仕方ない。

ゆきのへたちは魔物の攻撃を避けながら、砦のほうに走ってくる。

その間に、魔物の群れは隊列を変えて、前衛に4体のボストロールが出てきた。

 

「砦に近づかれる前に少しでも魔物の数を減らそうと思ったけど、ボストロールたちが邪魔だな…」

 

さっきと同じように、はがねの矢でエビルトレントやキースドラゴンが倒されるのを防ごうとしているようだな。

エビルトレントが砦に近づけば、ドルモーアの呪文で大きな被害が出てしまう。

ボストロールの棍棒は20発はがねの矢を当てれば砕くことも出来るので、俺は何とか前衛のボストロールたちを倒そうとするが、20発もはがねの矢を撃っているうちに魔物たちはの近くにやって来てしまった。

 

「20発もはがねの矢を撃つのは時間がかかるし、間に合わないか…」

 

1体の棍棒を砕くことは出来たが、残り3体は棍棒を持ったまま砦に歩き続けた。

トロルキングは砦のすぐそばにまでやってくると、笑っているような顔で俺たちを見てくる。

 

「追い詰められたな…人間ども。砦が壊され、仲間が殺されていくのを見ながら我らに逆らったことを後悔しろ」

 

奴がそう言ったと同時に、エビルトレントたちも再びドルモーアを唱え始めた。

ボストロールたちも砦に向かって歩き続け、このままでは棍棒と魔法の両方で砦が壊されてしまうな。

何とか侵攻を止められないかと思い、俺は砦の前に設置されている大砲を使おうとする。

 

「…かなりまずいことになって来たけど、大砲なら奴らの動きを止められそうだな」

 

大型の魔物は生命力も高いので大砲を当てても一撃では死なないだろうが、動きを止めることは出来るはずだ。

大砲の爆発は範囲が広いので、魔物の群れの中心に着弾すれば後ろのほうにいるエビルトレントにもダメージを与えられるだろう。

俺はすぐにポーチから大砲の弾を取り出して、魔物たちに向かって発射した。

放たれた弾は、トロルキングたちの頭上を飛んで魔物の軍勢の中心に向かって飛んでいく。

 

「無駄な抵抗だと言っているだろ」

 

しかし、大砲の弾がトロルキングの頭上に来ようとした時、奴はそう叫んで棍棒で大砲の弾を叩きつける。

すると、魔物の群れの中心で炸裂するはずだった大砲の弾が、トロルキングの頭上で爆発してしまった。

棍棒を叩きつけたトロルキングやその横にいたボストロール、前の方にいたエビルトレントはダメージを負ったが、本来の着弾地点よりも前で爆発してしまったため、後ろにいたエビルトレントは怯まずドルモーアを唱え続けている。

 

「人間の砦を破壊するためならば、我らは多少の傷を受けても構わん。もう抵抗は諦めるんだな」

 

トロルキングたちも、もう俺の目の前にまで来てしまっていた。

このトロルキングには、アローインプ式大弓だけでなく大砲も通用しないのか…。

俺はそう思ったが、大砲の弾を叩きつけたトロルキングの棍棒に傷がついているのも見えた。

 

「もう1発撃てば、あの棍棒を壊せるかもしれないな…」

 

もう1発大砲の弾を当てれば、トロルキングの棍棒を破壊することが出来そうだ。

ボストロールが奴をかばうかもしれないが、ボストロールの棍棒を破壊したとしても敵の戦力を減らせるのに変わりないな。

俺はなるべく奴らの戦力を減らそうと、もう1発大砲を放っていく。

すると、やはりボストロールの1体がトロルキングの前に立ち塞がり、棍棒を大砲の弾に叩きつけた。

ボストロールの棍棒はトロルキングの物に比べて耐久力がなく、大砲の弾が爆発した瞬間に砕け散る。

 

「トロルキングの棍棒は砕けかなったけど、ボストロールの棍棒は砕けたな」

 

これで棍棒を持っているボストロールは2体になり、あと3発大砲を放てばトロルキングの棍棒も破壊することが出来るだろう。

しかし、3発目の大砲を放つ前に、奴らは俺がいるところまで到達してしまった。

 

「しつこく抵抗しやがって…でも、もうこれは使えないぞ」

 

そう言いながら、ボストロールのうちの1体が大砲を叩き壊す。

大砲が使えないとなると、トロルキングたちを倒して、エビルトレントのドルモーアを阻止するのが難しくなるな。

だが、俺はここで諦めようとはせず、さっき作った火炎放射器を取り出す。

 

「大砲がなくても、火炎放射器でお前たちを倒してやるぜ」

 

火炎放射器はさっき作ったばかりで、どのくらいの火力なのかは分からない。

だが、今はこれを使わなければ砦を破壊されてしまうだろう。

俺はボストロールたちの棍棒を避けながら、奴らに向けて火炎放射器の発射ボタンを押した。

すると、ダースドラゴンの吐く炎くらいの勢いの火炎が、奴らの体を焼き尽くしていく。

 

「炎を吐くだと…!人間どもめ、まだ抵抗手段を残していたのか!」

 

大砲の弾の爆発でも怯まなかった奴らなので、火炎を浴びても怯むことはなかったが、確実にダメージは与えられているはずだ。

炎はボストロールたちの体に燃え移り、奴らは苦しそうな顔になる。

しかし、奴らも体を焼かれる痛みに耐えながら、俺に向かって棍棒を叩きつけ来た。

棍棒を失った2体のボストロールは、俺を太い腕で殴りつけて来る。

 

「だが、その程度の炎で我らは焼き尽くせん!ビルダーを叩き潰してやる!」

 

ボストロールたちの攻撃は激しいが、俺も攻撃を避けながら奴らの全身に炎を放っていく。

途中で燃料がなくなることもあったが、その度に燃料を補充しては奴らに火炎を浴びせていった。

だが、5体の魔物の猛攻を避け続けるのは大変で、その様子を見たゆきのへたちが助けに入ってくる。

 

「お前さんだけでは厳しいだろうし、ワシらも援護するぜ!」

 

ゆきのへたちに敵の攻撃を引き付けてもらえば、今より楽にボストロールたちを焼き尽くすことが出来そうだ。

しかし、砦を守ることから考えれば、ボストロールたちは俺一人で戦って、ゆきのへたちにエビルトレントのドルモーアの阻止を頼んだほうがいいかもしれない。

5体の猛攻を避け続けるのも不可能ではないので、俺は3人にエビルトレントと戦うように指示を出す。

 

「待ってくれ。俺は一人でこいつらと戦うから、みんなはエビルトレントたちを何とかしてくれ。そうしないと、砦が壊されてしまう」

 

俺が指示を出すと、ルミーラは一人で戦えるのか心配そうに聞いてきた。

 

「雄也、一人でも大丈夫?」

 

俺も不安ではあるが、砦をこれ以上壊される訳にはいかない。

 

「多分大丈夫だ。エビルトレントのところに急いでくれ!」

 

俺が大丈夫だと言うと、3人はエビルトレントのところへ向かっていく。

もちろんエビルトレントを守ろうと動いたボストロールもいたが、俺は奴に集中して火炎を放ち、全身を焼き尽くす。

そのボストロールは内臓までが燃やされ、倒れて青い光に変わっていった。

他のボストロールやトロルキングもエビルトレントを守ろうと動いたが、俺はそいつらの体も次々に燃やしていった。

 

「火炎放射器のおかげて、トロルたちもだいぶ弱ってきたな」

 

残り3体のボストロールは瀕死になり、トロルキングも弱ってきているようだった。

そこで奴らは、火炎放射器を何とかしなければエビルトレントを守れないと考えたようで、再び俺に集中して猛攻を仕掛けてくる。

だが、さっきより数が減っているので、避け続けるのが少し楽になっていた。

 

「数も減ったし、このまま避け続けられそうだぜ」

 

エビルトレントと戦っている3人は、バルダスが枝での攻撃を防ぎ、ゆきのへとルミーラが攻撃するという戦法をとっていた。

エビルトレントを倒すことはまだ出来ていなかったが、何体かのドルモーアの詠唱を中断させることが出来ている。

奴らを砦に近づけてはしまったものの、これ以上砦の被害を広げずに済むかもしれないな。

 

しかしそんな時、トロルキングたちとの戦いに集中していた俺のところに、後衛のキースドラゴンたちもやってきた。

キースドラゴンも砦のすぐそばにやって来たのを見て、トロルキングは命令を出す。

 

「キースドラゴン、我らの仲間を焼き殺したビルダーを襲え!…必死に抵抗したみたいだが、残念だったなビルダー」

 

トロルキングの命令で、10体のキースドラゴンはトロルキングたちと共に俺を囲んで爪で引き裂こうとして来た。

キースドラゴンはボストロールと比べれば弱い魔物だが、囲まれると危険だ。

だが、さっき魔物に囲まれそうになったゆきのへたちは砦のほうに退避することで危機を脱していたが、今はすぐ後ろに砦があるので退避することが出来ない。

 

「くそ、もう少しで倒せると思っていたのに、キースドラゴンも来てしまったのか」

 

俺は火炎放射器でキースドラゴンを倒そうとするが、奴らはドラゴンだから炎に耐性があるようで、なかなか倒すことは出来なかった。

少しはダメージを与えられているものの、倒すのには時間がかかりそうだ。

そうしているうちに、10体のキースドラゴンは俺を囲んでしまう。

俺のその様子を見たゆきのへが、援護に戻ろうかと聞いてきた。

 

「キースドラゴンも来ちまったようだが、本当に大丈夫なのか?必要なら、すぐにでも援護に戻るぜ」

 

俺は援護してもらわなければ厳しい状況だが、ゆきのへたちはまだ全てのエビルトレントのドルモーアを阻止出来てはいなかった。

もうすぐドルモーアが発動するだろうし、今俺の救援に来れば砦が破壊されてしまう。

ダメージは少ないものの、キースドラゴンにも火炎放射器は聞いているので、救援は必要ないとゆきのへに答えた。

 

「大丈夫だ。みんなはドルモーアの阻止に集中してくれ!」

 

そう言うと、ゆきのへは不安そうな顔をしてエビルトレントとの戦いに戻る。

俺も火炎放射器を使って、ボストロールやキースドラゴンたちに炎を放ち続けた。

しかし、10体のキースドラゴンと3体のボストロールとトロルキングという14体の魔物の攻撃を避け続けて、俺の体力にも限界が来てしまう。

 

「大丈夫だとは言ったけど、もう体力の限界だな…」

 

そしてついに、俺はキースドラゴンの爪をよけられず、腕に深い傷を負ってしまった。

その衝撃で、持っていた火炎放射器もその場に落としてしまう。

怯んだところを見て、トロルキングは手下に俺を殺すように指示する。

 

「忌まわしきビルダーが兵器を落としたぞ!今のうちに殺せ!」

 

俺は痛みに耐えて攻撃を何とか避け続けるが、もう長くは持たないだろう。

 

「このままだと殺されるな…どうしたらいいんだ…?」

 

そう思っていると、俺の左にいた3体のキースドラゴンが突然怯んで動きを止める。

他の奴らの攻撃を避けながら左を見てみると、ゆきのへたち3人がエビルトレントへの攻撃をやめて、キースドラゴンに攻撃していた。

 

「大丈夫だとは言っていたが、さすがにまずいと思ってな…援護に来たぜ」

 

ゆきのへたちはそれぞれが攻撃していたキースドラゴンを倒して、奴らの数を残り7体に減らす。

俺はキースドラゴンが倒れて消えたところを通って、囲まれている状況から抜け出す。

しかし、俺は助かったが、このままではドルモーアで砦が壊されてしまう。

エビルトレントはまだ6体が生きていて、3体がドルモーアの呪文を唱え続けていた。

 

「でも、ドルモーアを止めないと砦が破壊されてしまうぞ」

 

「確かにそうだが、生き残ることが最優先だ。壊れた物なんて、いくらでも後で直せるからな」

 

ドルモーアを止めないといけないと言うと、ゆきのへはそう返してきた。

そう言えばマッドウルスとの戦いの時でも、ゆきのへは壊れた町なんていくらでも直せると言っていたな。

ここまで厳しい戦いとなれば、砦を守ることよりも、生き残ることを最優先にしなければいけないのかもしれない。

 

「…分かった。厳しい戦いになったけど、必ず生き残らないとな」

 

生き残らなければ、エンダルゴを倒すことも、人々に平和な世界を見せることも出来ない。

俺が魔物に囲まれた状況を抜け出して、ゆきのへたちと合流していると、ついにエビルトレントのドルモーアが発動した。

砦の中央にある銀色の希望のはたに傷がつき、奥にある寝室までにも被害が出ていた。

 

「この砦は終わりだな…仲間に助けられたようだが、今度こそは仕留めるぞ」

 

砦には大きな被害が出たのを見て、トロルキングは俺たちにそう言ってきた。

今までドルモーアを唱えていた、エビルトレントたちも俺たちへの攻撃に加わる。

だが、俺たちも何とかして奴らに打ち勝とうと、武器を構えた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode135 落ちゆく砦

俺たちの立っているところに、まずはまだ生き残っている6体のエビルトレントと7体のキースドラゴンが襲いかかって来た。

今は囲まれていない状況だし、4人いるのでさっきよりは楽に戦えるだろう。

この前の防衛戦でもキースドラゴンを麻痺の矢で撃ち殺していたルミーラは、今回も奴らを倒すと言う。

 

「わたしは麻痺の矢でキースドラゴンたちを倒すから、雄也たちはエビルトレントたちを止めて」

 

ルミーラは囲まれないように、距離をとりながら奴らに矢を放っていった。

前の方にいるキースドラゴンは、麻痺の矢を何度も受けて、体が動かなくなる。

これならエビルトレントたちと戦っている間に、奴らの邪魔が入ることもなさそうだ。

 

「分かった。エビルトレントを倒したら、援護しに行くぜ」

 

俺たち3人は、それぞれの武器を持ってエビルトレントたちを攻撃していく。

エビルトレントは6体なので、それぞれ2体ずつ相手していくことになった。

俺は奴らの枝での攻撃を避けて、次の攻撃までの隙に両手に持っている武器をを叩きつけていく。

エビルトレントの樹皮はかなりの硬さだが、おうじゃのけんでは容易に斬り裂くことが出来て、ビルダーハンマーで変形させることが出来ていた。

 

「2体同時くらいなら、そんなに苦労することはないか」

 

俺は体力の限界が訪れているため回避の速度が遅くなっており、何度か攻撃を受けてしまうこともあったが、痛みに耐えて奴らへの攻撃を続ける。

エビルトレントたちは生命力が高い魔物だが、強力な武器での攻撃を何度も受けてかなり弱ってきていた。

 

「砦は守れなくても、お前たちのことは倒してやるぜ!」

 

「ボクはそんなに強くないけど、戦いの役に立ってやるんだ!」

 

ゆきのへもメタリックハンマーを力強く叩きつけて、エビルトレントたちを弱らせていく。

戦いが苦手なバルダスも、少しは奴らにダメージを与えることが出来ていた。

 

「せっかく砦を破壊したというのに、まだ抵抗して来るのか…!しつこい人間どもめ、仲間が倒される前に叩き潰してやる!」

 

だが、俺たちがエビルトレントたちを弱らせているのを見て、後ろのほうにいたトロルキングたちも再び殴りかかろうとして来る。

ビルダーである俺のところにトロルキングが、3人のところにボストロールたちが向かって来ているようだった。

 

「動きが遅くなっているところにトロルキングも来たら、かなり厳しいことになるしるな…その前に、エビルトレントを倒さないと」

 

体力が尽きて動きが遅くなっているところにトロルキングも来れば、攻撃が直撃してしまう可能性もある。

その前に、2体のエビルトレントを倒す必要があるな。

 

「回転斬りを使って、エビルトレント2体を薙ぎ払うか」

 

トロルキングたちが来る前にエビルトレントたちを倒すには、回転斬りを使うしかないだろう。

今は囲まれている状況ではないので、力を溜める隙もあるからな。

さっそく俺は奴らの攻撃を避けて、少し離れた場所で両腕に力を溜めていく。

回転斬りを使うことを知らないエビルトレントたちは、俺に近づいてまた枝を叩きつけようとしてきた。

力を溜め終えた俺は、奴らが攻撃してきた瞬間に力を解放する。

 

「今だ、回転斬り!」

 

回転斬りは久しぶりに使う気がするが、今までと変わらず高威力だ。

二刀流での回転斬りを受けて、エビルトレントたちは倒れはしなかったものの、大きく怯んで動きを止めた。

 

「まだ死ななかったか…でも、これで終わりだ!」

 

俺はエビルトレントが体勢を立て直す前に倒そうと、奴らの幹の部分にもう一度強力な攻撃を叩きこんでいった。

左の奴はビルダーハンマーの、右の奴はおうじゃのけんの一撃を受けて、生命力が尽きていく。

奴らは青い光に変わっていき、これで3体の魔物を同時に相手せずに済みそうだ。

 

「エビルトレントは倒せたな…これで安全にトロルキングと戦えるぜ」

 

トロルキングもさっきの火炎放射器での攻撃で弱っているので、あまり苦戦せずに倒せるだろう。

 

「人間のくせに、ここまで我の部隊を倒しやがって…!」

 

トロルキングは怒りのこもった声で俺に棍棒を叩きつけてくるが、さっきよりかなり攻撃速度が落ちていた。

俺は棍棒をジャンプして避けて、奴の足もとを攻撃していく。

トロルキングはやはり怯むような動きは見せなかったが、攻撃を続ければ倒すことが出来るだろう。

 

「厳しい戦いだったけど、生き残ることは出来そうだな」

 

砦に大きな被害を受け、俺も一度は追い詰められてしまったが、生きて戦いに勝つことが出来そうだ。

みんなもエビルトレントやキースドラゴンを弱らせて、ボストロールとの戦いに備える。

しかしそんな時、3人のところに向かっていたボストロールのうちの1体が砦の中を見て、あることを言った。

 

「隊長!砦の中にまだ人間の小娘が二人いるみたいだ。二人は戦う力はないみたいだが、どうしたらいい?」

 

寝室の壁が壊されてからも、ピリンとヘイザンは魔物たちに見つからないようにしていたが、隠れきることが出来なかったか…。

砦の中に人間がいることを聞いたトロルキングは、俺と戦いながらボストロールに指示を出す。

 

「戦う力はなくとも、ビルダーに協力しているに違いない!砦の中に攻め込んで、殺せ!」

 

非戦闘員だから見逃してくれるかもしれないと思ったが、エンダルゴの手下の魔物にはそんな情けはないようだな。

隊長の命令を聞いて3体のうち2体のボストロールが、ピリンたちを殺そうと砦の中に入っていく。

奴らは砦のカベを棍棒で叩き壊しながら、2人のいる寝室の奥に向かっていった。

ボストロールが砦に入ったのを見て、トロルキングはまたしても笑っているような顔で俺に言って来る。

 

「お前は生き残っても、小娘どもはもう終わりだ。何も出来ない無力な奴らが死んでいくのを見て、嘆き悲しむんだな!」

 

俺はトロルキングをかなり弱らせたが、奴は生命力がとても高いので、倒すにはもう少し時間がかかりそうだ。

だが、時間をかけていたら、ピリンたちはボストロールに殺されてしまうだろう…。

今までよりも力を入れてトロルキングに攻撃を続けるが、やはりなかなか倒れる気配はなかった。

 

「なかなか倒れないな…このままだと、ピリンたちが…」

 

「小娘たちの命が大事か?だが、もう何をしても無駄なんだよ」

 

懸命に攻撃を続ける俺に、トロルキングは棍棒を振りながら笑い続けた。

そしてついに、ボストロールたちが砦の奥にある寝室にたどり着き、ピリンたちへの攻撃を始める。

 

「消え失せるんだな!ビルダーに協力する者どもよ!」

 

「わたしは戦えないのに…どうしたらいいの…?」

 

「ワタシは…こんなところで死にたくはないんだ…」

 

ボストロールたちの攻撃は速度が遅いので、ピリンたちもすぐに殺されることはないようだ。

しかし、戦闘力を持たない二人では、やがて追い詰められてしまうだろう。

みんなもピリンたちが危険な状況ではあると気づいていたが、救援に迎える状況ではなかった。

 

「ワシの弟子が危ねえんだ…!さっさと倒れろ!」

 

「ボクもピリンたちを助けに行きたいんだ!」

 

ゆきのへとバルダスはそれぞれのハンマーで残り3体のエビルトレントたちと戦っているが、まだ倒しきることは出来ていない。

 

「キースドラゴンは倒したのに、ボストロールも来たみたいね…」

 

ルミーラもキースドラゴンを麻痺の矢で撃ち抜いていき、残り2体に減らしていたが、ピリンたちのところに向かわなかったボストロールにも襲われてしまっている。

 

「誰も救援に迎えないな…どうしたら二人を助けられるんだ?」

 

ピリンたちがだんだん追い詰められていく中、俺は何とか助けに迎えないか考える。

トロルキングを早く倒さなければ、ピリンたちの救援は間に合わないだろう。

 

「奴の棍棒を壊せば、無力化させて楽に倒せるようになるかもしれないな…」

 

俺はそこで、何とかしてトロルキングの棍棒を壊して、奴を弱体化させるしかないという結論に至った。

棍棒をなくせば、奴は回転斬りを防げなくなるだろうから、一気に倒すことが出来そうだ。

トロルキングの棍棒ははがねの矢ではびくともしない強度だが、さっき大砲を防いだことで傷がついている。

もしかしたら、もう一度強い衝撃を与えれば破壊できるかもしれないな。

 

「危ない方法だけど、こうしないとピリンたちは助からない…」

 

もう大砲やアローインプ式大弓は使えないので、ビルダーハンマーで棍棒を破壊するしかなさそうだ。

棍棒の威力は非常に高いので、左手に重症を負うことになるだろうが、もう他の方法を考えている時間はない。

トロルキングが攻撃してきた瞬間に、俺は左手に力を入れて、トロルキングの棍棒にビルダーハンマーを思い切り叩きつけた。

 

「くっ…!すごい衝撃だけど、押し切られる訳にはいかない…!」

 

俺の左腕を激しい痛みが襲い、衝撃で後ろに倒れ込んでしまいそうになってしまう。

これほどの痛みを感じたのは、竜王と戦った時以来だろう。

 

「我の攻撃を受け切ろうなど、人間のお前には不可能なんだよ!」

 

トロルキングも腕に力を入れて、俺のビルダーハンマーを押し返そうとして来る。

だが、俺も全身の力を左腕に集中させて、奴の棍棒を叩き壊そうとした。

しばらくすると、ついに奴の棍棒が衝撃に耐えられなくなったようで、砕け散っていく。

棍棒が砕け散った瞬間、俺は力尽きて倒れそうになるが、力を振り絞って立ち上がり、奴から少し離れて腕に再び力をため始める。

 

「これで棍棒を壊せたし、回転斬りで倒してやる…!」

 

弱っているトロルキングに二刀流での回転斬りを当てれば、倒せなくても瀕死にはなるはずだ。

トロルキングはさっき俺がエビルトレントに回転斬りを放ったところを見ているので、回転斬りから逃げようとするが、俺は力を溜めながら追いかける。

そして、最大まで力が溜まったところで、俺は奴の体を薙ぎ払うように斬り裂いた。

 

「回転斬り!」

 

高威力の二刀流での回転斬りを受けて、ついにトロルキングは怯んでしばらく動きを止める。

俺も回転斬りの後には隙が出来るが、その間に攻撃をされることはなかった。

早くピリンたちを助けに行こうと、俺は体勢を立て直すとすぐにトロルキングの腹におうじゃのけんを突き刺し、内臓を深くえぐっていく。

 

「これで終わりだ、トロルキング!俺たちの仲間を殺させはしないぞ!」

 

瀕死になっていたトロルキングは、体内を斬り裂かれて生命力が尽き、その場に倒れて消えていった。

トロルキングを倒すと、俺はさっき落とした火炎放射器を拾って、ピリンたちを襲っているボストロールたちを倒しに行く。

俺はまだ左腕に激痛が走っており、走るのもやっとの状態だが、火炎放射器があれば奴らを倒せるだろう。

俺は砦の中に入ると、火炎放射器を構えてボストロールたちに火炎放射器を向けた。

 

「ピリン、ヘイザン!大丈夫か!?」

 

ピリンはかろうじてまだ怪我をしていなかったが、ヘイザンは棍棒で足を殴られ、動けなくなっていた。

 

「早く助けて…!このままじゃ、二人ともやられちゃう!」

 

もう少し遅れていたら、二人とも死んでいたことだろう。

俺は二人を助けるために、ボストロールの腹に向かって火炎を放っていく。

奴らはピリンたちへの攻撃をやめて、俺に向かって棍棒を叩きつけてきた。

その間にピリンたちは、ボストロールたちから離れていった、。

 

「ビルダーめ、まだ生きていたか…!その火を吹く兵器ごと破壊してやる!」

 

俺にはもうジャンプをして回避をするほどの力は残ってないので、離れた位置からボストロールたちを焼き尽くしていく。

火炎放射器の射程距離はかなりあるので、少し離れていても問題なく攻撃することが出来ていた。

ボストロールたちの体にはさっきと同じように炎が燃え移っており、奴らは瀕死の状態にまで追い詰められていく。

 

「燃料ももう少ないけど、奴らを倒すまでは持ちそうだな」

 

火炎放射器の燃料が残り少なくなってきたが、ボストロールたちを倒すまでにはなくならないだろう。

燃料がなくなる度に新たな燃料を入れて、奴らが倒れるまで炎を放っていく。

最後には、ボストロールたちの全身に炎が燃え広がっていき、奴らは燃え尽きて死んでいった。

 

「これで終わったか…ボストロールたちを倒せてよかったぜ…」

 

非戦闘員であるピリンたちにまで危機が及んだのは今回が初めてだが、助けることが出来てよかったな。

一緒にアレフガルドを復興させてきた仲間が死んでしまうなんて、絶対に嫌だからな。

危機を逃れたピリンたちは、俺たちに感謝の言葉を言ってくる。

 

「ありがとう雄也!わたしは戦えないから、もうだめだと思ったよ」

 

「リムルダールでも命を救われたが、ここでも救われたな。本当にありがとう、雄也」

 

だが、ピリンはせっかくの砦がほとんど破壊されてしまったことを悲しんでもいた。

 

「でも、せっかくみんなと楽しく作った砦が、壊されちゃったね…」

 

砦は修理できるにしても、砦を容易に壊せるほど強力な魔物がまた襲って来れば、俺たちは生き残れるか不安だな。

ゆきのへとバルダスもエビルトレントを、ルミーラもキースドラゴンとボストロールを倒し、今回の戦いを生き残ることは出来たが、みんな明るい表情はしていなかった。




5章はかなり長かったですが、エピソード140で終わりの予定です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode136 避けられぬ崩壊

今回は今までと比べて、結構短いです


サンデルジュの砦の4回目の防衛戦の後、俺とヘイザンは白花の秘薬を飲んで傷を癒してから、みんなと一緒に砦の修理を行っていた。

みんなと一緒に作業をしているので、一人でする時よりもずっと早く進んでいく。

そんな作業の途中、ゆきのへが暗い顔で、みんなに話しておきたいことがあると言ってきた。

 

「みんな、少し作業を止めてくれないか。辛いことになるんだが、話しておきたいことがある」

 

俺だけでなくみんなに話すということは、それだけ大事な話だと言うことみたいだな。

辛いことだと言っているが、どんな話なのだろうか?

 

「辛いことって、何だ?」

 

ゆきのへも今日の戦いが終わった後、不安そうな顔をしていたので、恐らくは砦の防衛に関することなのだろう。

みんなの動きが止まると、ゆきのへは話を始めていく。

 

「ワシらはいくつもの強力な兵器を開発してきたが、今日の戦いはみんな苦戦したし、ピリンやヘイザンも危険に晒すことになっちまった…。この先もっと魔物の活動が激しくなれば、もうワシらに勝ち目はねえと思うんだ」

 

ゆきのへの言う通り、今日の時点でも相当魔物に苦戦しているのに、これからも魔物の活動は激しくなっていくはずだ。

砦を守るための今以上に強力な兵器と言うのもなかなか思い付かず、ゆきのへもそれで悩んでいるのだろう。

今回は砦の被害だけだったが、次は俺たちの命が奪われるかもしれない。

でも、必ず世界に平和を取り戻すと言ったので、ここで諦める訳にもいかないな。

 

「確かに魔物との戦いは厳しいけど、ここで諦めたくはない」

 

「ワシも諦めるつもりはねえ。だが、魔物たちに打ち勝つには、この砦だけでは戦力が足りねえんだ」

 

ゆきのへも諦めるつもりはないようで、戦力を強化すれば魔物たちに勝てるかもしれないと言った。

だが、エンダルゴの命令で人間の味方の魔物の多くが殺され、生き残っている者も隠れているので、協力を頼むことは出来そうにない。

生きている人間も、これ以上見つかることはないだろう。

 

「でも、新たな仲間になってくれそうな奴なんてもういないぞ?どうやって戦力を増やすんだ?」

 

俺がをう聞くと、ゆきのへは戦力不足を解決するために、ある方法を提案する。

しかしそれは、俺たちが絶対にしたくないと思っている方法であった。

 

「…サンデルジュの砦を放棄する。それで、ラダトーム城の者と一緒に戦うんだ。それでも勝てなかったら、アレフガルドの全ての人々を、一つの拠点に集める」

 

サンデルジュの砦を捨てて、ラダトーム城で魔物との戦いを行う。

それでも勝てなかったら、アレフガルドの全ての人々を一箇所に集める…確かにそうすれば戦力は増えるので、魔物との戦いに勝てる可能性も上がるだろう。

人が多ければ、それだけたくさんの兵器も思いつくかもしれない。

しかしそのために、今までせっかく復興させてきた拠点を捨てるなんてな…。

町や砦は何度でも作り直せる物ではあるが、人がまったくいなくなってしまえば、復興の象徴である希望のはたは折られ、魔物の住処に変えられてしまうだろうから、簡単に再建が出来なくなってしまう。

 

「この砦を捨てちゃうの…?せっかくみんなと楽しく作り上げて来て、魔物に壊されても頑張って直そうとしているのに…」

 

サンデルジュの砦を捨てるという話を聞き、ピリンは泣きそうな声でそう言う。

一緒にこの砦で暮らしてきたみんなも、さっきより暗い顔に変わっていた。

だが、誰もゆきのへに怒鳴ったりしないのは、みんなも他に魔物たちに勝つ方法が思いつかないからだろう。

ゆきのへ自身も、本当はサンデルジュの砦を捨てたくないと言った。

 

「ワシだって、お前さんたちと一緒に作り上げて来たこの砦を捨てたくはねえ。壊されたとしても、何度でも修理して魔物に立ち向かって行きたいと思ってるぜ。だが、このままここで戦い続けたら、世界を救う前に死んでしまうぜ」

 

死んでしまえば、アレフガルドに平和を取り戻すことが出来なくなる。

俺もそうなるのは嫌なので、サンデルジュを捨てて戦力を1ヶ所に集めるのも仕方ないのかもしれないと思ってはいる。

だが、今すぐこの砦を捨てるという決断も、俺には出来なかった。

 

「確かに、魔物たちを倒すためなら、この砦を捨てるしかないのかもしれない…。でも、すぐにそんなことを決めることは出来ないな…」

 

もしかしたら、サンデルジュの砦を大幅に強化出来る設備を思いつけるかもしれない、魔物の活動がこれ以上激化しないかもしれない、などと考えてしまう。

俺がそう言うと、ゆきのへもすぐに決める必要はないと言ってきた。

 

「ワシもすぐに決めろとは言わねえ…もしかしたら、魔物の勢力が弱まるかもしれねえからな。だが、この砦を捨てなければいけなくなるかもしれねえってことは、覚えておいてくれ…」

 

「ああ…」

 

ゆきのへも、俺と同じように奇跡が起こることを祈っているみたいだな。

恐らく、俺とゆきのへ以外のみんなも、同じ気持ちになっていることだろうな。

 

俺たちは話を終えた後、砦を捨てなければならないかもしれないという暗い気持ちを持ったまま、砦の修復活動を再開させていった。

今回は被害が大きかったし、俺たちの気持ちも暗くなっているので、寝室を元に戻したところで休むことにする。

その日の夜俺は、奇跡が起こることを祈りながら眠りについていった。

 

しかし、それから2日間の間、やはり魔物の活動は収まることがなく、砦の防御力を大幅に上げるような強力な設備も思いつくことは出来なかった。

みんなの協力もあって工房も修復することが出来たが、強力な魔物が来ればまた壊されてしまうだろう。

もし次に魔物の襲撃を受けたら、サンデルジュの砦を捨てるしかない…そう言った状況に、俺たちは追い込まれて来ていた。

 

 

 

ラダトーム城の西 エンダルゴの城…

 

そしてついに、サンデルジュの4回目の防衛戦の3日後、雄也がサンデルジュに来てから23日目の朝、砦の様子が玉座の間にいるエンダルゴの間に伝えられた。

森の中から砦の様子を見ていたアローインプが、エンダルゴに報告を行う。

 

「エンダルゴ様。人間の砦を見て参りましたが、新たに作られた兵器はございませんでした。人間にも限界が訪れて来ており、次に襲撃すれば砦を破壊し、人間たちを殺すことが出来るでしょう」

 

アローインプは、もう一度攻めこめばサンデルジュの砦を滅ぼせると考えていた。

2度の戦いによって魔物たちもかなりの損害を受けてはいるが、エンダルゴの城の中にはまだ無数の魔物がいる。

エンダルゴも、人間の砦が強化されていないのであれば、その魔物たちを送り込めば確実に滅ぼせるだろうと思っている。

また、今砦を滅ぼさなければ、また人間は新たな兵器を作ってくるだろうと考えていた。

 

「放っておけば、また設備を強化してくるかもしれないな…分かった。人間の砦を攻めるために、強力な魔物を出来る限り呼んでこい!」

 

「了解致しました、エンダルゴ様」

 

戻ってきたばかりのアローインプだが、エンダルゴの命令を受けて再び城内を走り回っていった。

アローインプの呼びかけに応じて、トロルキング、ゴールデンドラゴン、コスモアイなど、次々に強力な魔物たちが玉座の間に集まっていく。

今回はサンデルジュの魔物だけでなく、ラダトーム地方の魔物であるしにがみのきしもサンデルジュへの攻撃に参加しようとしていた。

100体を超える強力な魔物たちが玉座の間に集うと、エンダルゴは大声で彼らに言う。

 

「よく集まってくれたな…聞いているとは思うが、今回はビルダーと仲間たちを殺す絶好の機会だ。貴様たちは今まで2度も砦の破壊に失敗したが、今回こそ失敗は許されない。力を合わせて砦を攻め、人間どもを皆殺しにして来い!」

 

エンダルゴの命令が終わると、100体を超える魔物たちは、一斉にサンデルジュの砦へと向かっていった。

今度こそビルダーを殺すことが出来ると、魔物たちは全員確信していた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode137 放棄の決断

サンデルジュの4回目の防衛戦の3日後、俺がサンデルジュに来てから23日目、砦の魔物に壊された部分は、みんなの協力のおかげでほとんど修理することが出来ていた。

だが、この砦を守る今まで以上に強力な兵器は、誰も思いつくことが出来ていない。

サンデルジュの砦を捨てたくはないが、奇跡というのはおきないものだな…。

 

「どうしたら、この砦を守れるようになるんだ…?」

 

それでも諦めきれず、俺は寝室の中で何か新しい兵器が作れないか考え続けた。

しかし、何も思いつくものはなく、時間だけが過ぎていく。

みんなもサンデルジュの砦を捨てたくはないだろうが、何も出来ることはなかった。

そしてそんな中で、今まで以上の規模の魔物の軍勢が攻めてきたと、ルミーラの声が聞こえた。

 

「みんな来て!今までにないほどたくさんの魔物が近づいて来てる!」

 

魔物の活動はさらに激化してきているが、今回はどんな魔物が来てしまったのだろうか…?

魔物の種類によっては勝てるかもしれない…俺はそんなことを思って、いつものようにおうじゃのけんとビルダーハンマーを持って、魔物の様子を見に行く。

ゆきのへとバルダスも、それぞれの武器を持って砦の外に飛び出して来ていた。

 

「もう魔物は来ないでくれと願っていたが、そんな奇跡は起きねえか…」

 

「まだ新しい兵器を作れてないのに、大変なことになった…」

 

俺はゆきのへたちと一緒に、サンデルジュの砦を襲いに来た魔物たちの姿を見下ろした。

するとそこには、ボストロールやエビルトレント、キースドラゴンなどの魔物がたくさんおり、合計すると100体以上の魔物がいるように見える。

中には、ラダトーム地方の魔物であるしにがみのきしもいた。

この前の襲撃で苦戦したトロルキングも、4体いるのが見えた。

 

「強敵だらけだし、数も100体を超えているな…」

 

俺たちにとっては、絶望的な状況だ…。

恐らく魔物たちも俺たちが追い詰められているのを知って、とどめをさしに来たのだろう。

まともに戦えば、砦を破壊されるどころかみんなの命が危なそうだな…。

ゆきのへとバルダスも同じことを考えているようで、暗い顔で魔物たちの方を見ていた。

 

「生き残れるか分からないけど、戦う?…それとも、この前言っていたみたいに、この砦を捨てる?」

 

暗い顔をした俺たちを見て、ルミーラはそんなことを聞いてくる。

ここで魔物たちが来る前にサンデルジュの砦を捨てて、ラダトームに向かえば、みんなの命は助かる。

ラダトーム城の兵士と協力すれば、100体を超える魔物の軍勢に勝てるようになるかもしれない。

ゆきのへは、もう砦を放棄するのもやむを得ないと言い出した。

 

「ワシもこの砦を捨てたくはない…だが、今の状態であの軍勢に挑んでも勝てるとは思えねえ…。…今すぐにこの砦を捨てて、ラダトームに逃げたほうがいいと思うぜ」

 

この状況を見ると、俺ももうサンデルジュの砦を捨てるしかないと思っている。

俺たちは戦う力があるので生き残れる可能性はあるが、戦闘力を持たないピリンたちは助からないだろう。

だが、やはりみんなと共に作り上げてきたサンデルジュの砦を捨てるというのは、どうしても躊躇ってしまう。

 

「俺もみんなが戦いを生き残れるとは思えない…でも、やっぱりこの砦を捨てるのはな…」

 

ルミーラとバルダスは何も言わないが、俺と同じで砦を捨てたくないという気持ちがあるのだろう。

俺はどうしようかと考えるが、そうしているうちにも魔物たちはサンデルジュの砦に近づいてくる。

先頭にいるしにがみのきしたちは、もう砦のある高台に登り始めていた。

 

「人間ども!今日こそお前たちの終わりの時だ!」

 

「一人残らず斬り裂いてくれよう!」

 

その後ろにいる、コスモアイやブラバニクイーンと言った魔物たちも、次々に砦に攻め込もうとしている。

 

「くそっ、もう時間がないな…。どうしたらいいんだ…?」

 

もう時間はなく、悩み続けている俺やバルダスたちを見て、ゆきのへはこんなことを言ってきた。

 

「ワシも大事なこの砦を諦めたくはねえ。だが、ここで死んじまったら、平和な世界を見ることも作ることも出来なくなっちまう。…世界に平和が戻ったら、またここに砦を作りに来ようぜ」

 

確かに、世界が平和になれば、もう一度ここに砦を作りに来ることが出来る。

それは今俺たちが作りあげてきた砦ではないが、そう考えれば少しは希望があるかもしれないな。

そして、もう魔物たちが目の前に迫ってきており、まだためらう気持ちはあるものの、俺はサンデルジュの砦の放棄を決断する。

 

「…分かった。俺たちは、生きて平和な世界を作らないといけないからな…。この地を捨てて、ラダトームに逃げよう…」

 

「ワシは、ピリンたちにそのことを知らせてくる…。裏から逃げるから、一度砦の中に入ってくれ」

 

ゆきのへはピリンたちにも砦を放棄することを伝えるために、中に入っていく。

ルミーラとバルダスは、暗い顔のまま彼についていった。

俺も砦の前にあるアローインプ式大弓と大砲を回収してから、砦の中に入った。

これらの兵器があれば、ラダトームでの戦いでも役に立つだろうからな。

 

砦の中に入ると、ピリンたちは寝室でゆきのへたちの話を聞いていた。

ルミーラとバルダスは、万能作業台や調合ツボ、マシンメーカーといった作業台を集めている。

ピリンは砦を放棄するという話を聞いて、この前のように泣きそうな顔をしていた。

 

「もっとみんなと一緒にこの砦を作りたかったのに…、魔物に壊されちゃうんだね…」

 

ピリンは俺たちの中でも一番幼いし、みんなと楽しく暮らすことが夢なので、彼女にとってこの砦を捨てることは、俺たち以上に辛いことだろう。

 

「確かに捨てることにはなるが…世界が平和になったらもう一度砦を作りに来るぜ」

 

ゆきのへは、さっき俺に言ったことと同じようなことをピリンにも言った。

ピリンはその話を聞いてもまだ暗い顔をしていたが、そんな時、しにがみのきしが斧を砦のカベに叩きつける音が聞こえてくる。

 

「中に逃げ込んでも無駄だ!このくらいの砦、すぐに破壊してくれる!」

 

「貴様らは追い詰められている!何をしても我らには勝てないぞ!」

 

しにがみのきしはかなり攻撃力が高いので、じきに壁は破壊されてしまうはずだ。

その音を聞くと、ピリンもこの砦に残りたいとは言えなくなっていた。

辛いことながらも、生き残るためには砦を捨てるしかないと思い始めたのだろう

ゆきのへとピリンの会話を見ていると、ルミーラとバルダスも作業台を回収し終えて、寝室に集まってくる。

 

「作業台は集めてきた。…わたしもこの砦に残りたいけど、仕方ないね…」

 

「もうすぐ壁が打ち破られる…。心残りはあるけど、出発するんだ!」

 

みんなが寝室に集まり、サンデルジュの砦から逃げ出す準備は整った。

バルダスの言う通り、もうすぐ壁が破壊されてしまうだろうから、俺は寝室の奥に穴を開けて、砦の裏側に出る。

砦の裏側に出ると、魔物に見つからないように森を抜けて、ラダトームに繋がる旅のとびらへと歩いていった。

 

「みんな、絶対に…絶対に平和を取り戻して、もう一度砦を作りに来ような」

 

ゆっくり考える時間もなくサンデルジュの砦を放棄するという選択をし、みんな暗い表情のまま歩いていく。

捨てられたサンデルジュの砦とその中心に立っている銀色の希望のはたは、100体を超える魔物たちに壊されていくだろう。

世界が平和になったらもう一度砦を作りに来れるという希望はあるが、砦の方からこんなしにがみのきしの声が聞こえてきた。

 

「人間どもは逃げたか…だが、もう無駄なことだ。世界の光を消し去り、人間の繁栄を永久に終わらせる計画が、もうすぐ行われる」

 

光を消し去り、人間の繁栄を終わらせる…何をするのかは分からないが、魔物たちがそんな計画を立てているのか。

そんな話を聞くと、世界に平和を取り戻せるかどうかも不安になってしまうな。

だが、物を作る力を持つビルダーとして、何があっても諦める訳にはいかない、俺はそう思いながらラダトーム城へと歩いていった。

 

アローインプやキースドラゴンなど、森に住む魔物たちから隠れながら、俺たちは30分ほどかけて、ラダトーム城に続く旅のとびらにたどり着く。

みんなは魔物から隠れて歩いたことがないので、見つかりそうになることもあったが、木や草に隠れることで何とかやり過ごすことが出来ていた。

旅のとびらを抜けてラダトーム城に入ると、見回りをしていたラスタンが俺たちに気づく。

 

「5日ぶりだな、雄也。みんなも来ているようだが、何かあったのか?」

 

ラスタンに会うのは、ラダトームに監視塔を作った日以来になるな。

みんながラダトーム城に戻ってきたのはかなり久しぶりなので、何があったか聞いてくる。

ラスタンが俺たちに話しかけているのを見て、監視塔で魔物の様子を見ているチョビ以外のみんなも集まってきた。

 

「みなさんがいらっしゃるというのは、あなた方がサンデルジュに向かった以来ですね」

 

「雄也の名前が聞こえたと思ったが、やはり来ておったか。新たに仲間とした魔物も来ておるようじゃが、サンデルジュの砦はどうしたのじゃ?」

 

「辛そうな顔をしておられますが、どうなさったのでしょう」

 

ムツヘタはルミーラやバルダスも俺たちと共に来ていることを見て、サンデルジュの砦に誰もいなくなったことに気づいたようだった。

ローラ姫は、俺たちが暗い顔をしていることについて聞いてくる。

みんなが集まったのを見て、俺は三日前の戦いから今日までのことについて話し始めた。

 

「三日前、サンデルジュに強力な魔物がたくさん来てな、砦が大きな被害を受けて、戦う力のないピリンたちも危ない目にあった。その時は何とか魔物を倒すことが出来たんだけど、これ以上強力な魔物が来たら、俺たちだけでは倒しきれないだろうと考えるようになったんだ。そうするためには、みんなと共に作り上げてきたサンデルジュの砦を放棄して、ラダトームのみんなと共に戦うしかないということになった」

 

「それで、サンデルジュの砦を捨てたと言うことか…。サンデルジュの魔物が強いことは分かっていたが、そんな事態になるとは…」

 

ムツヘタは、俺の話を聞いてそう言ってくる。

俺も最初サンデルジュに砦を作りに行った時には、放棄することになるとは思ってはいなかったな。

エンダルゴが現れてからも、サンデルジュの砦で戦い続け、世界に平和を取り戻すのだと思っていた。

そんなことを思いながら、俺は話の続きをしていった。

 

「俺たちも本当はサンデルジュの砦を捨てたくはなかった…。でも、さっき100体を超える強大な魔物が砦に押し寄せてきてな、戦ったら命が危ないってことになってな…」

 

100体を超える強力な魔物が来たということを話すと、戦いになれた兵士であるオーレンも、戦っても勝てなかっただろうと言った。

 

「確かに100体となれば、少ない人数でどうにか出来るとは思えませんね…」

 

「私たちも魔物には苦戦しているし、共に戦うと言うのは正しいだろう…」

 

ラダトームもこの前訪れた時かなりの被害を受けていたが、その時でも100体を超える魔物は来ていなかっただろうな。

ラスタンも、共にラダトームで戦うという決断は正しかったと言う。

でも、そのためにサンデルジュの砦を捨てたことも、悲しいことだと話した。

 

「だが、それでもサンデルジュの砦が失われてしまったと言うのは、悲しいことだな…」

 

「ああ…、でもどうすることも出来なかった…。エンダルゴを倒せば世界に平和が戻って、もう一度サンデルジュに砦を作ることが出来る…それを信じて、ここに逃げてきた」

 

悲しいことではあるが、アレフガルドに平和が訪れればまた砦に行くことが出来るという希望はある。

いつになるのかは分からないが、平和が戻ったら必ずサンデルジュに向かうつもりだ。

平和になれば魔物の様子を監視する必要はなくなるし、ラスタンたちにも手伝ってもらえるだろう。

だが、ムツヘタはもう世界に平和は戻らないかもしれないと言ってくる。

 

「平和になれば、また砦を作りに行ける…確かにそうじゃが、もうすぐ世界に平和が訪れる可能性自体が、消えてしまうかもしれないのじゃ」

 

ムツヘタは予言者だし、また恐ろしい事が起きることを予知しているのだろう。

さっきしにがみのきしがもうすぐ人間の繁栄を終わらせる計画を行うと言ってしたし、そのことなのかもしれない。

平和が戻ったら、砦を再建しようと思っているみんなは、それを聞いて今まで以上に暗い顔になってしまった。

 

「…どう言うことだ?」

 

「何が起こるかは、ワシにも分からぬ。じゃが、とてつもなく嫌な予感がするのじゃ」

 

ゆきのへは聞くが、エンダルゴを生み出す計画の時と同じで、具体的に何が起こるかはまでは分からないみたいだな。

今回は、どこで魔物の計画が行われるかも分かっていないようだ。

しかし、それを防がなければ平和を取り戻して、サンデルジュの砦が再建することが出来なくなるかもしれない。

 

「…俺もサンデルジュの砦から逃げる途中、しにがみのきしがもうすぐ光を消し去って、人間の繁栄を終わらせる計画が行われると言っていたのを聞いた。何が行われるかは分からないけど、必ず止めないと世界の危機だな…」

 

砦を再建出来なくなるだけでなく、アレフガルド中が危機に陥る恐れもある。

計画の内容はまだ分かっていないが、必ず止めなければいけないな。

 

「魔物の計画を突き止められないか、試してはみる。そなたらも、何が起きてもいいように備えておいてくれ…」

 

ムツヘタも、魔物の計画を止められるように試してはみると言った。

だが、みんなは世界に平和が戻らなくなる可能性を聞き、暗い気持ちのままラダトーム城で過ごすことになってしまう。

みんなを安心させるために、必ず魔物を止めないといけないな。

まだ俺もムツヘタも、世界の光が消えるまで、もう少し時間はあるだろうと思っていた。

 

 

 

ラダトーム城の西 エンダルゴの城…

 

雄也たちがサンデルジュの砦を放棄し、ラダトーム城に逃れた日の翌日の朝、玉座の間にいるエンダルゴの間に、多くのラダトーム地方の魔物が集まっていた。

魔物たちの先頭には、世界を裏切った勇者、闇の戦士も立っている。

 

「報告は聞いた…サンデルジュの砦の破壊には成功したが、ビルダーどもはラダトームの城に逃れたそうだな」

 

エンダルゴはサンデルジュの砦に襲撃した魔物から聞いて、雄也たちが砦を放棄して逃げ出したということは知っていた。

雄也たちがラダトーム城にたどり着いたことも、ラダトーム地方の魔物の報告で聞いている。

エンダルゴはサンデルジュの砦を滅ぼせたことはもちろん嬉しく思っているが、ビルダーである雄也が生きていては、意味がないと思っていた。

ビルダーと城の人々の協力によって、また強力な兵器が作られる可能性があるからだ。

 

「サンデルジュの砦を落としたことは良かったが、ビルダーや人間どもが生きていてば、また強力な兵器を作って来る可能性がある」

 

新たな兵器が作られる前にビルダーを殺さなければいけない…エンダルゴはそう思っていた。

そこで、魔物たちにラダトーム城を襲撃して、ビルダーを殺すようにと命令を出す。

ラダトーム城を破壊したら、もう逃げ場はないだろう。

 

「そこでだ、貴様らには新たな兵器が作られる前に、ラダトーム城も破壊してもらう!あの城を失えば、もう人間どもに逃げ場はない…。攻めるならなるべく早いほうが良い、今すぐに向かえ!」

 

エンダルゴの命令を受けて、サンデルジュから戻ってきて休んでいたしにがみのきしたちも、再び出発していく。

ラダトームに向かった魔物たちにはサンデルジュを襲った魔物より弱い者もいるが、数は150体ほどにもなっていた。

闇の戦士には別の用がり、この場に残っている。

魔物たちが玉座の間を去っていくと、エンダルゴは闇の戦士に言う。

闇の戦士はエンダルゴを生み出すのに最も貢献していた者なので、エンダルゴも命令口調ではなかった。

 

「魔物たちは行ったな…そなたには、魔物がラダトーム城を襲っている間に、ルビスを殺し、ひかりのたまを破壊してほしい。かつて魔物の王であった、ゾーマや竜王でさえも、成しえなかったことだ」

 

精霊であるルビスがいる限り、ビルダーを殺しても新たなビルダーが生み出される可能性があり、エンダルゴを倒すための勇者が生み出される可能性もある。

エンダルゴや闇の戦士は、その可能性を潰して起きたかった。

また、ひかりのたまを消して、二度と魔物の封印を不可能にしようとも思っている。

これが、光を消し去り、人間の繁栄を永久に終わらせる計画だった。

これは今まで世界を闇に落としたゾーマや竜王ですらも出来なかったことだが、ルビスへの強い恨みがあり、絶大な闇の力を持っている闇の戦士ならば出来るとエンダルゴは思っている。

 

「今まで誰も出来なかったとしても、オレはやってやる。ルビスめ…ついに数百年続いた恨みを晴らす時が来たようだな…」

 

闇の戦士も断ることはなく、精霊ルビスを殺しに行こうとする。

宝玉が抜かれたロトのつるぎとロトのたてを持ち、立ち上がった。

 

「ここで光を消し去って、魔物の世界を作って見せるさ」

 

闇の戦士のルビスへの恨みは、とてつもなくなく強い。

ルビスを殺したいと強く思いながら、闇の戦士はエンダルゴの城を出ていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode138 創世者に迫る闇

ルビスの髪の色は、精霊ルビス伝説と同じ赤色にしてあります


サンデルジュの砦を放棄した翌日、さっそく俺はラダトームのみんなとも協力して、城を守ったり、エンダルゴの城を攻めたりするための兵器を考えようと思っていた。

戦力が増えたし、兵器も強化すれば、魔物に勝てる可能性はかなり上がるだろう。

しかし、光を消し去るという魔物の計画については、まだ何も分かっていなかった。

 

「新しい兵器も作りけど、魔物の計画のことが気になるな…」

 

この計画が達成されたら、どれだけ強力な兵器を使ったとしても平和が取り戻せなくなるかもしれない。

ムツヘタは占いの間の魔法台を使っているが、進展はないようだった。

魔物たちの計画を何とかしなければいけない…そう思いながらラダトーム城内を歩いていると、ラダトーム城に人が近づいてくるのが見えた。

顔に立派なヒゲを生やした男で、見覚えのある人物だ。

 

「あいつは…ロロンドか…?ここに来るのは久しぶりだな」

 

ロロンドは三賢者として一度ラダトームに来ていたが、魔物の襲撃が心配だと言うことでメルキドに戻ってから、会っていなかったな。

ロロンドは俺の顔を見ると、近づいて話しかけてきた。

 

「おお、雄也ではないか!元気にしておったか?」

 

ロロンドは共にメルキドとラダトームを復活させてきた大切な仲間なので、また会えて嬉しいぜ。

だが、ロロンドが遠いラダトームにわざわざ来ると言うことは、メルキドで何かがあったのだろうか?。

 

「久しぶりだな、ロロンド。あんたがここに来たってことは、メルキドで何かが起きたのか?」

 

エンダルゴが現れてからもうかなりの日数が経っているし、メルキドにも奴の配下の魔物が侵攻し始めているのかもしれないな。

俺がそう聞くと、さっきまで大声で話していたロロンドが、暗い顔になった。

 

「…実はな、数日前からマイラやリムルダールで魔物の動きが急に激しくなり、町が襲われるということが起きたのだ。どれだけ倒しても魔物の動きは収まらなくてな、ついには我輩たちのメルキドまでもが襲われることになった…」

 

やはり、エンダルゴ出現による魔物たちの活動の激化は、もうアレフガルド全域に広がっているみたいだな。

リムルダールやマイラが先に被害を受けたのは、メルキドと比べてエンダルゴの城に近い位置にあるからだろう。

3つの町は、魔物の襲撃によってどのくらいの被害を受けてしまったのだろうか?

 

「魔物の襲撃で、どのくらいの被害を受けたんだ?」

 

「ロッシやケッパーと共に戦い、襲ってきたあくまのきしやドラゴンは倒したのだが、町の一部が壊されてしまった。リムルダールとマイラも、大きな被害を受けておる」

 

メルキドにはメルキドシールドやはがねの守りがあるが、それでもかなりのダメージを受けたみたいだな。

ドラゴンはメルキドで見かけたことは無い魔物なので、新たな魔物も現れ始めているということなのだろうか。

もしくは、ゲームのドラクエビルダーズで見た、町から離れた場所にいる強力なドラゴンのことなのかもしれない。

そんなことを考えていると、ロロンドは魔物の動きがなぜ激しくなったのか聞いてきた。

 

「なぜ魔物の行動が激しくなったのか、原因は分かっておるのか?」

 

「あんたたちが帰った後、俺たちは逃げた闇の戦士を追うためにアレフガルドの秘境、サンデルジュに向かった。そこで俺たちは奴の手下の魔物と戦ったりして、決戦の準備をしていたんだ」

 

ロロンドは俺たちがサンデルジュに向かったことも、闇の戦士がエンダルゴを生み出したことも知らないだろうから、俺はそこから話していく。

その途中、サンデルジュという地名には、ロロンドは聞き覚えがないと言った。

 

「サンデルジュ…アレフガルドにそのような場所があったのか…。我輩のメルキド録には他の地域のことも少しは書いてあるのだが、そのような地については書いていなかったぞ…」

 

詳しい書物であっても、人がほとんど入らない秘境のことは書かれていなくても仕方ないだろう。

アレフガルド各地にアレフガルド歴程という書物を残したメルキドの冒険家ガンダルでさえ、サンデルジュには到達していなかった。

唯一入った記録があるのは、ゆきのへの祖先だけだ。

 

「サンデルジュはとても高い岩山に囲まれていて、人が立ち入ることは難しい場所だから、記録がなくても仕方ない。俺は闇の戦士と戦って、追い詰めることは出来たけど、奴は強大な闇の力を使って、エンダルゴという最強の魔物を生み出してしまったんだ」

 

俺はサンデルジュの説明もしながら、闇の戦士の力でエンダルゴが生み出されたことを話していく。

 

「エンダルゴ…?それはどのような魔物なのだ?」

 

「俺たちが倒した魔物や竜王の魂に、アレフガルドに満ちる全ての闇の力を捧げて生み出された、意識の集合体のような者だ。数百年の間生み出された闇の力が全て集まっているんだから、とてつもない力を持っている。そいつが、俺たちの復興活動を止めようと、魔物の活動を激しくさせている」

 

数百年の間に生み出された闇の力がどれほどの物なのか、それは俺にも予想がつかない。

ロロンドは、意識の集合体や世界に満ちる闇の力についてはよく分からないが、とてつもなく恐ろしい存在が現れ、そのせいで一度は収まっていた魔物の活動が激しくなっていることは分かったようで、さらに不安な顔になる。

 

「そのエンダルゴも倒さねば、世界に完全な平和と光は戻らぬということか…我輩の知らぬところで、そんなことが起きていたのだな。雄也は、そのエンダルゴにも挑むつもりか?」

 

「もちろん倒すつもりだ。でも、エンダルゴが現れてから強力な魔物が増えて、数も増えているから、俺たちはかなり苦戦している」

 

エンダルゴの話の後、ロロンドは奴に戦いを挑むつもりなのかと聞いてきた。

俺はもちろん戦って平和を取り戻すつもりだし、そのためにラダトームに戦力を集めた。

しかし、魔物たちがもうすぐ光を完全に消し去る計画を行おうとしているのを聞き、俺たちは不安になっている。

 

「それに、ムツヘタからは、魔物たちが光を消し去り、人間の繁栄を終わらせる計画を立てていると聞いた。それを止めないと、二度と光と平和は戻らなくなるかもしれないんだ」

 

「そのような話もあったのか…それならば、何とかせねばならぬな…」

 

魔物たちの計画を突き止めて、対策を立てれば、計画を止められるかもしれない。

しかし、それまでにはまだ時間がかかるだろう。

それまでに、魔物の計画が行わなければいいな…そう思うしかなかった。

 

だがそんな時、耳に俺を呼ぶ精霊ルビスの声が聞こえてきた。

 

「…雄也よ、聞こえますか!?大変なことになってしまいました!」

 

いつもはゆっくりとした話し方だが、今日のルビスはとても焦っているようだ。

ロロンドと話している最中なのに、何があったというのだろうか?

 

「どうしたんだ、そんなに焦って?」

 

「あの闇の戦士が、竜王の城の上空でアレフガルドを照らすひかりのたまを壊しに向かったようなのです。ひかりのたまだけでなく、私の命も狙っています。私が消えれば、太古から保たれていた光と闇のバランスが完全に崩壊し、二度と光が戻ることはなくなるでしょう」

 

…この前闇の戦士は、精霊ルビスを殺すつもりだと言っていたが、ついにそれを実行に移す時が来たのか。

二度と光が戻らなくなると言うことは、これがムツヘタやしにがみのきしが言っていた光を消し去り、人間の繁栄を終わらせる計画なのかもしれないな。

ドラクエ3のゾーマもルビスを封印していたが、闇の戦士は封印どころか、彼女を完全に消し去ろうとしている。

あいつはゾーマよりも強いという説もある竜王を超える力を持っているので、ルビスを倒すのも不可能ではないだろう。

だが、竜王の城上空に向かった闇の戦士を止めるなんて不可能だ。

奴はルーラの呪文か何かを使ったのだろうが、俺には呪文は使えない。

 

「でも、上空に向かった奴をどうやって負うんだ!?ブロックを積んでいくにしても、かなり時間がかかるぞ」

 

ドラクエビルダーズのオープニングの最後で、主人公がブロックを積んで雲の上に行くシーンがあり、たくさんのブロックを使えば向かうことは出来るだろう。

ラダトーム城の大倉庫にはたくさんの土ブロックなどがあり、足りなくてもみんなで集めることが出来る。

しかし、ブロックをたくさん積むのには時間がかかり、闇の戦士にたどり着く前にひかりのたまは壊されてしまうだろう。

 

「あの戦士の人生を狂わせたのは私です。ですが、ひかりのたまが失われれば、魔物を抑える術は失われることになります。私も狙われているのですし、出来る限りの力で、あの人を食い止めておきます」

 

俺が聞くと、ルビスは出来る限りの力で闇の戦士を食い止めると言った。

ルビスは精霊の力を持っているだろうから、しばらくの間は持ちこたえられるだろう。

俺たちがブロックを用意して、積んでいく時間が出来る可能性もある。

そう思っていると、これは命令ではないが、なるべく早く来て欲しいとルビスは言った。

 

「もう、全ては精霊の導きのままにとは言いません。ですから絶対に来なさいとは言いませんが、なるべく早く、あの戦士を止めに来て欲しいのです」

 

「俺も勝てるかは分からないけど、必ず行くぞ!みんなにも、なるべく早くするように伝える」

 

ルビスは前の闇の戦士との戦いの後、全ては精霊の導きのままにという口癖を止めて、人の行動を決めつけるようなことは言わなくなっている。

しかし、行かなくてもいいと言われたとしても、俺はルビスを助けに行きたい。

ルビスのおかげで、俺はアレフガルドのみんなと復興活動が出来たんだからな。

 

ルビスとの話を終えると、俺の様子を見ていたロロンドが口が半開きになっていると言ってくる。

 

「…急にどうしたのだ、雄也よ。突然口が半開きになって、ぼうっとしたまま独り言を呟いておったぞ」

 

そう言えばピリン以外のみんなは、精霊ルビスと話している間の俺の様子を知らないんだったな。

いつもなら説明しているところだが、今はそんなことをしている場合ではない。

一刻も早く、闇の戦士がひかりのたまを狙っている竜王の城上空に行かなければいけない。

 

「今は説明している場合じゃない!ひかりのたまとルビスが危ないんだ!」

 

いきなり語勢を荒らげて、ロロンドは驚いた顔をする。

大きな声だったので、監視塔に立っているオーレン以外のみんなも集まってきた。

 

「雄也!いきなり叫んで、どうしたの?」

 

「ルビスが危ないと言ったが、どう言うことなのじゃ?」

 

みんなを呼び集める手間が省けたし、さっそく俺は今何が起きているか伝える。

ラダトーム城にはかなりの人数がいるし、みんなで集めればブロックはすぐに集めることが出来るはずだ。

 

「今ルビスの声が聞こえたんだけど、闇の戦士が竜王の城の上空にあるひかりのたまを壊して、ルビスを殺そうとしているらしいんだ。これが昨日言っていた、光を消し去って人間の繁栄を終わらせる計画だ」

 

「もうすぐだとは言っていたが、こんなに早くその時が来ちまったのか…」

 

「まだ新しい武器も考えていないのに、厳しい状況になったな…」

 

みんなももう計画が実行されるとは思っていなかったようで、ゆきのへとラスタンはそんなことを言う。

ムツヘタはルビスが狙われることも考えていたようだが、本当にそうなるとは思っていなかったようだ。

 

「精霊ルビスがおわす限り、アレフガルドから光が消えることはないから、まさかとは思ったが、本当にそうなるとは…」

 

アレフガルドが出来てから1000年くらい経っているだろうが、ひかりのたまとルビスは闇に閉ざされたり封印されたりすることはあっても、完全に消えることはなかった。

だからみんな、これからもアレフガルドに光を照らしてくれるのだと思っていたのだろう。

俺はルビスを助けに行くために、ブロックを集めてほしいと言う。

 

「ルビスは竜王の城の上空で、闇の戦士を食い止めている。俺は今から助けに行くから、みんなは上空に登るためにたくさんのブロックを集めてほしい」

 

「まだ新しい武器を作っていないが、大丈夫なのか?」

 

ルビスを助けに行くと言うと、ゆきのへは心配そうにそう言ってくる。

確かにルビスさえも殺せる力を持つ闇の戦士に今の武器を持って加勢しても、勝てる可能性はほとんどないだろう。

ルビスと一緒に、奴に殺されてしまうかもしれない。

だがそれでも、俺はルビスを見捨てると言うことは出来なかった。

 

「勝てる可能性はほとんどない…だけど、ルビスを見捨てたくはないんだ」

 

ルビスとひかりのたまが失われれば、アレフガルドに二度と平和が戻らなくなることにもなってしまう。

俺がルビスを見捨てたくはないと言うと、ローラ姫も一緒に闇の戦士のところに向かいたいと言ってきた。

 

「私も雄也様と共にあの人の元へ行きたいです。私が説得すれば、あの人は戦いを止めてくれるかもしれません」

 

闇の戦士はローラ姫のことも自分を追い詰めた人間の一人に過ぎないと言っていたし、王女の愛という名の首飾りも捨てている。

だが、彼女は命を助けてくれた元勇者に恩返しをしたいと思っており、説得を諦めることは出来ないようだった。

闇の戦士との2度目の戦いの後、姫はもし今度闇の戦士に会う機会があったら、自ら説得しに行きたいと言っていた。

しかし、やはり説得は困難だろうし、失敗したら彼女の命も危ない。

 

「さすがにそれは危険だぞ。説得に失敗したら、命が危ない」

 

「雄也様も命を懸けて向かうのですから、私もたとえ危なくても行きます」

 

ラスタンも止めようとするが、ローラ姫はどうしても行きたいと言う。

 

「お言葉ですが、姫様を危険な目に合わせる訳にはいきません」

 

「ですが、私はどうしてもあの人に会って、直接話したいのです!みなさんが止めたとしても、私は必ず雄也様と共に向かいます」

 

俺たちはローラ姫に城に残るように言うが、彼女はどうしても元勇者のところへ向かいたいと言い続けた。

揉めている間に、早くしなければいけないとゆきのへが大声で言う。

 

「揉めてる場合じゃねえぞ!早く向かわねえと、ルビスが危ねえんだろ」

 

ローラ姫を止めたいが、確かにそんなことをしている時間もない。

彼女を連れていくしかない状況になってしまっているが、彼女の説得もあれば、少しはルビスを殺す計画を止められる可能性が上がるかもしれない。

 

「もう準備を始めないといけないし、仕方ない…分かった。ついて来てもいいけど、戦いになったらすぐに逃げてくれ」

 

「ありがとうございます…あの人を止められるように、必死に思いを伝えます」

 

俺はブロック集めを始めるために、ローラ姫について来てもいいと言った。

姫との話を終えると、俺たちはすぐにラダトーム周辺にある灰色の土を集め始める。

 

「これで話は終わりだ。みんな、急いでブロックを集めるぞ!」

 

みんなは剣やハンマーを使って、次々にラダトーム城周辺の地面を削っていった。

ドラクエビルダーズのムービーではレンガを積んで空に登っていたが、今はブロックなら何でもいい。

俺はまほうの玉や大砲なども使って、たくさんのブロックを集めていった。

しばらくして大量のブロックが集まると、俺たちは城の真ん中に集まる。

 

「雄也、みんな大量の土を集めて来たぜ。これで足りるか?」

 

みんなたくさんの土を集めて来ており、全部合わせるとポーチがいっぱいになるくらいだった。

このくらいあれば、ルビスと闇の戦士のいる竜王の城上空に行くことが出来るだろう。

 

「みんなありがとう。これなら、多分足りると思うぞ。闇の戦士を止めに、ひかりのたまのところに行ってくる」

 

もうみんなと話している時間もなく、俺はブロックを受け取るとすぐに出発する。

ひかりのたまは竜王の城の上空にあるので、まずは虹のしずくを使って、竜王の島に向かおうとした。

 

俺が虹のしずくを掲げると、俺とローラ姫の体は浮き上がり、竜王の島へと飛んでいく。

竜王の島に来るのは久しぶりだが、魔物の様子を見ている時間はない。

俺はみんなで集めた灰色の土ブロックを積み上げていき、ルビスに加勢しようと空へと向かって行った。

 

「間に会うか分からないけど、なるべく急がないとな…」

 

竜王を倒した時ひかりのたまが昇ったところまでブロックを積み上げると、ひかりのたまの前で剣を持った赤い髪の女性と、この前と同じで醜い姿をした闇の戦士が戦っているのが見えてくる。

赤い髪の女性がルビスだろうが、ルビスは闇の戦士の攻撃を受けて、かなり傷を受けていた。

二人が戦っているところには、ルビスの大地の精霊の力でか、俺たちが乗ることが出来そうな足場が出来ている。

 

「ルビスはまだ無事か…でも、早く助けに行こう」

 

俺はブロックを置く手を止めず、灰色の土とルビスが作った足場を繋げていった。

二人が戦っているところにたどり着くと、ルビスも闇の戦士も手を止めて、俺たちの方を見てくる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode139 世界への報復

俺たちが来たのを見てルビスは戦いの手を止め、嬉しそうな顔で感謝の言葉を言ってくる。

 

「来て下さったのですか。もう命令はしないと言いましたのに、ありがとうございます」

 

「あんたには感謝しているからな。見捨てたくはなかったんだ」

 

ルビスとは今まで何度も話したことがあるが、直接会うのは初めてになるな。

彼女が殺され、ひかりのたまが壊される前に来ることが出来てよかったぜ。

闇の戦士を止められるかは分からないが、出来る限りのことはしたい。

 

「…来なくてもいいと言われたのに、来やがったのか。そこまでしてこの精霊を助けるとは、お前はどこまでも愚かな人間だな、影山雄也」

 

ルビスを助けに来た俺を、闇の戦士はそう言いながら見下すような目で見てきた。

奴は俺たちに向けて、かつて自分を追い詰めた数百年前の人間も、今の人間も何も変わっていないと言ってくる。

 

「お前は本当に、ビルダーになって幸せだと思っているのか?今の人間どもも、オレに竜王を倒す責務を押し付けた数百年前の人間と何も変わらないと言うのに」

 

確かに今の人々も、俺のことをビルダーという特別な存在として見ているだろう。

だが、共に世界を復興させていく一人の仲間としても見てくれているはずだ。

闇の戦士が人間だった頃と違って、俺にだけ重い責務を押し付けたりはして来なかった。

奴はどう言った意味で、そんなことを言ったのだろうか?

 

「この前も言ったけど、確かに最初は急にビルダーに選ばれて嫌だと思っていた。だけど、みんなと協力して世界を復興している内に、ビルダーになってよかったと思い始めたんだ」

 

「協力か…本当に人間どもは、望んでお前に協力していたと思うのか?」

 

俺がそう言うと、闇の戦士は人々が望んで俺に協力していたのかと聞いてくる。

俺は今までの間たくさんの人々と共に町を作ってきたが、誰も嫌々協力していたようには見えなかった。

厳しい戦いになっても、みんなで乗り切ろうと頑張っていたはずだ。

そうでなければ、ここまでアレフガルドの復興を進めることは出来なかっただろう。

 

「もちろんだ。もしそうじゃなかったら、ここまでアレフガルドの復興を進められなかったと思うぞ」

 

「なら、なんでビルダーの伝説なんて物があったんだと思う?」

 

そう言えばアレフガルドの多くの人々は、俺がビルダーだと名乗る前からビルダーという存在を知っていたな。

でも、ビルダーの伝説の存在と、人々が望んでアレフガルドを復興させているかに、どんな関係があるんだ?

ビルダーの伝説が出来た理由を、闇の戦士は知っているのだろうか。

 

「俺は深く考えたことはなかった…あんたは知ってるのか?」

 

「オレも真相は知らないけど、だいたいの予想はついている」

 

闇の戦士も数百年の間封じられていたので、真実を知ってはいないようだな。

だが、ビルダーの伝説が出来た理由について一つの予想を持っているようで、奴はそれを話し始める。

 

「人間どもはかつて、竜王を倒す、世界を救うといった偉業はルビスに選ばれた勇者が行うべきことであり、普通の人がすべきことではないと考えていた。だから、世界の復興も、自分たちで行うのではなく、ルビスに選ばれた人間に任せるべきだと考えたんだろう。そして、いずれ現れるだろうその者のことをビルダーと呼んで、語り継いでいったんだろうな」

 

そう言えば、数百年前の人間であるラスタンやオーレンは昔、竜王を倒すのは勇者の役目であると言っていたな。

それと同じように、アレフガルドを復興させるのは自分たちではなく、ビルダーの役目だと考えるようになったと言うことか。

闇の戦士は、人々が世界の復興をビルダーに任せようとした理由は、他にもあると言ってきた。

 

「理由は他にもあるはずだ…魔物がはびこる世界を復興させると言うのは非常に危険なことで、命を落とす恐れがあるからだ。人間どもは平和な世界を作りたいと思っていたが、そのために命を危険に晒したくはない…だから、自分たちのかわりに伝説のビルダーに、世界を救ってもらおうと考えたんだろう。もし自らアレフガルドを復興させる気があったのなら、ビルダーの伝説なんて生まれなかったはずだ」

 

俺は魔物に支配されたアレフガルドを復興させている間、何度も命の危機に会ったし、数百年前の人もそうなることは予想出来たはずだ。

平和な世界を作ることを、他人に任せたくなることもありえるだろう。

数百年前の人々が自らアレフガルドを復興させようとしていたなら、確かにビルダーの伝説は生まれなかっただろうな。

もしそうなら、物を作る力を持った者の出現ではなく、自らが物を作る力を得ることを望んだはずだ。

ルビスは、闇の戦士の予想は正しいと言ってくる。

 

「…その通りです。世界が荒廃した後、僅かに生き残った人々は、竜王を倒す使命を負った勇者が現れたように、世界を復興する使命を負った者がいずれ現れるだろうと考え始めました。そして、人々はその者のことを、物を作り出す者という意味の、ビルダーと呼び始めました。こうして出来たビルダーの伝説を何百年も語り継いで行き、人々はビルダーの訪れを待ち続けていたのです」

 

また、俺のビルダーの力がなぜ生まれたのかについても、ルビスは話した。

 

「雄也の持つビルダーの力は、数百年の間ビルダーの伝説を信じ続けていた人々の想いを、私が力に変えた物です」

 

人々の想いを力に変える、ルビスは精霊だからそんな事も出来るのか。

ビルダーの俺が現れたのが、アレフガルドが荒廃して数百年も経ってからなのは、ビルダーの力を生み出すのに、それだけ多くの人々の想いが必要だったからなのかもしれない。

ルビスの話の後、闇の戦士は数百年前の人々も、今の人々も何も変わっていないことを確信していたようだった。

 

「やはりそうだったか…ビルダーの伝説を信じ続け、自ら世界を復興しようとしなかったのは今の人間も同じだ。人間どもは本心では、アレフガルドの復興を全てお前に押し付けたいと思ってるんだろうな」

 

確かに俺が来るまでアレフガルドのほとんどの町は廃墟だったし、ビルダーである俺が来たことにみんな喜んでいた。

闇の戦士は、人々は仕方なく協力していただけだと話し始める。

 

「人間どもが仕方なく協力していたのは、お前一人ではどうしようも出来ないほど、魔物の数が多かったからだろう。もし今より魔物の数が少なかったら、今の人間どもも数百年前の人間どもと同じように、世界の復興という責務をお前一人に押し付けていただろうな」

 

…ルビスや闇の戦士の話から考えると、確かに人々は数百年前と変わっておらず、俺にアレフガルドの復興という責務を押し付けたかったのかもしれない…。

だが、最初はそうだったとしても、今は違っているはずだ。

もし仕方なく協力していたのなら、復興している間にみんなが楽しそうな顔をすることはなかっただろう。

 

「確かに最初はそうだったのかもしれない…。でも、一緒に町を作っていく内に、みんな心から協力するようになってきたはずだ。だから、みんなの暮らすこの世界を壊させたくはない」

 

奴は人間は仕方なく協力していることを確信しているようだが、俺はみんなが進んで楽しく協力していることを確信している。

俺の考えを闇の戦士に伝えると、俺の後ろにいたローラ姫も心から協力していると言った。

 

「私も雄也様と同じ考えです。私たちは心から望んで、共にアレフガルドを復興させたいと思っております」

 

俺とローラ姫の考えを聞くと、闇の戦士は呆れ返ったような顔になる。

そして、俺たち3人を殺そうと、剣を構えてきた。

 

「…この話を聞いてまで、本当にそう思っているのか。そこまで人間どもが大事だと言うのならば、そこの精霊と共に消し去ってやろう」

 

俺とルビスも剣を構えようとするが、ローラ姫は俺たちの前に出て、闇の戦士を説得しようと話し始める。

 

「お待ちください。私は人々だけでなく、あなたにも幸せであってほしいのです。どうか戦いを止めて、アレフガルドの復興を手伝ってくださいませんか?」

 

ローラ姫は闇の戦士を説得するためにここに来たが、うまく行くのだろうか?

もし奴を連れ戻すことが出来たら、こちらの戦力が増えることになり、アレフガルドに平和が戻る可能性が上がるだろう。

 

「…お前のことは雄也からも聞いていたが、何を言われようとオレは人間どもの元に戻る気はない。エンダルゴや魔物たちと共に、闇に満ちた世界を作っていくつもりさ」

 

だが、やはり闇の戦士は説得に応じようとせず、魔物として生きていくと言う。

人々と共に生きるより魔物たちと生きるほうが幸せになれると、奴は思い続けているようだな。

 

「オレの幸せを願うのなら、魔物たちの味方に付くか、ここで死ぬかを選ぶんだな。あんな人間どもといては、オレは楽しく生きられない」

 

「そんなことはありません。必ず私たちなら、数百年分を取り戻すほどの幸せを作ることが出来ます」

 

でも、ローラ姫も必ず幸せな暮らしを作って見せると、元勇者を何とか説得しようとした。

平和な世界を作り、そこでみんなと共に楽しく暮らしていけば、確かに数百年分を取り戻すほどの幸せを手に入れることが出来るのかもしれない。

しかし、闇の戦士に魔物たちとの暮らしを捨てることは出来ないようで、奴は語勢を荒らげてローラ姫に言い返す。

 

「そんな不確かな事を信じて、かつてオレを勇者として持て囃した人間どもやルビスに協力しろと言うのか?…オレの味方をしてくれた魔物たちを、捨てろと言うのか!?」

 

「今の人々は、あなたを特別な存在ではなく、一人の仲間として見てくれるはずです。信じられないかもしれませんが、きっと楽しく暮らすことが出来るでしょう」

 

魔物たちやエンダルゴと言うのは闇の戦士にとって、人間であった時には出来ることのなかった、大切に思える仲間というものなのだろう。

何を言われても、奴は俺たちに協力するつもりはないと話し続けた。

 

「例え本当に人間どもが変わっていたとしても、それでもオレは魔物たちとの暮らしを失いたくはない。あいつらとの暮らしを超える幸せは、お前たちには作れないだろうな」

 

「いいえ。必ずあなたを、今より幸せにして見せます。私たちと一緒に、世界の復興を進めていきましょう」

 

ローラ姫も必ず幸せな暮らしを作り出すと、元勇者に言い続ける。

だが、竜王が死んでから魔物たちと共に暮らし続けてきた闇の戦士に、姫の言葉を信じることはどうしても出来なかった。

 

「無理に決まっている。どうしても魔物たちとの暮らしを捨てろと言うのなら、ルビスやビルダーとともに、ここで斬り捨ててやる」

 

ローラ姫の説得をこれ以上聞こうとはせず、奴は剣を構えて彼女を睨みつける。

やはり非常に厳しい戦いになるだろうが、戦いは避けられなさそうだな。

 

「待ってください!」

 

「もういい、諦めてここで死ぬんだな!」

 

姫はなおも説得を続けようとしていたが、闇の戦士はそう言って彼女を剣で叩き斬ろうとした。

ルビスはすぐに動きに対応して、剣で奴の攻撃を受け止める。

強大な闇の力を纏った奴の攻撃は、ルビスの剣の力でも受け止めるのが精一杯のようだった。

 

「戦いは避けられないようですね…ですが、今は先ほどと違って雄也もいます。雄也の力もあれば、あなたにも負けることはないでしょう」

 

でも、俺の力もあれば勝てないことはないだろうとルビスは言う。

確かにルビスが奴の攻撃を受け止めている間に俺が攻撃を加えれば、ダメージを与えることは出来るだろう。

しかし、闇の戦士は俺たちに勝ち目はないと言ってきた。

 

「雄也が増えたところで無駄なことだ。お前たちへの復讐心から生まれた闇の力に、適うことはないだろうな!」

 

闇の戦士は腕に力をこめてルビスを押し倒し、後ろに下がる。

そして、さらなる闇の力を剣と盾にこめようとしていた。

 

「復讐心から闇の力が生まれたって、どういう事なんだ?」

 

闇の力が復讐心から生まれたと言うのは、どう言うことなのだろうか。

闇の戦士が非常に強大な闇の力を持っているのは知っているが、その闇の力が生まれた理由は聞いたことがなかったな。

 

「オレが人間どもを裏切った時、竜王はオレに闇の力を与えて体を変異させ、この姿に変えたんだ。その時にオレの持っていたロトのつるぎと、竜王の手下の魔物が回収したロトのたてから宝玉か抜き取られた物が、オレの手に与えられた」

 

俺が聞くと、闇の戦士は一度武具に力をこめるのを止めて、闇の力が生まれた理由や、奴が持っている剣と盾について話し始めた。

ロトのつるぎとロトのたては偽物だと思っていたが、宝玉を抜き取られただけで本物だったようだな。

ドラクエ1には登場しなかったロトのたても、竜王は回収していたのか。

オレがそう思っていると、最初は強力な闇の力は与えられていなかったのだと話す。

 

「竜王がオレに与えた闇の力はあくまで体を変異させるためのもので、そんなに強力ではなかった。だが、オレの幸せを奪い、竜王を倒し、生き残った魔物たちまで殺そうとした人間どもやルビスへの憎しみと復讐心や、オレが勇者だった時から持っていた魔力のおかげで、闇の力は強大なものへと変わっていったんだ。アレフガルドに満ちる全ての闇を、一点に集めることも出来るようになった」

 

憎しみや復讐心と言った負の感情は、闇の力を強めることが出来るのか。

竜王は闇の戦士を手下として利用する訳ではなく、狭い城に閉じ込めていたので、強力な闇の力を与える必要はなかったんだろうな。

だが、勇者の時から持っていた魔力の影響もあって、今の奴の闇の力はルビスを殺せるほどになっている。

 

「今日がその復讐を果たす時だ。お前たちを殺して、全てを闇が支配する世界を生み出してやる」

 

闇の戦士は俺に話をした後、再び力をロトのつるぎとたてに溜め始める。

奴の武具にはさっきまでとは比べ物にならないほど闇の力がこもっており、暗黒色へと変わった。

宝玉が抜き取られたところには、闇の力の塊と思われる黒い宝玉も現れる。

ロトのつるぎとたてだけでなく、奴の被っていた王冠や着ているマントまでもが、暗く染まっていった。

 

「精霊だのビルダーだの、そんな奴らの力は何の意味も持たない…もう諦めて、この剣に斬り裂かれるがいいさ!」

 

闇の戦士の持っている全ての物が黒く染まると、奴はそう言って剣を構え、俺たちに斬り掛かろうとして来た。

確かに奴の闇の力は、俺とルビスの力があってもどうすることも出来ないかもしれない。

だが、ここまで世界を復興してきた者として、ここで負ける訳にはいかない。

そして、俺と闇の戦士との、3回目の戦いが始まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode140 精霊の光と復讐の闇

剣を振り上げた闇の戦士はまず、さっきの攻撃で体勢を崩していたルビスに斬り掛かっていった。

彼女もすぐに起き上がって攻撃を避けようとしたが間に合わず、剣で受け止めるしかなくなってしまう。

直撃は避けられたが、奴の攻撃力は上がっており、ルビスは今までの戦いで疲れているので、すぐに押し切られてしまいそうになった。

 

「抵抗しても意味はないぞ、ルビス!」

 

ルビスは力をこめて耐えようとするが、かなり苦しそうな表情をしていた。

俺はルビスを援護するため、ビルダーハンマーとおうじゃのけんを構えて、闇の戦士の左側へと向かっていく。

左側から斬りつければロトのたてに防がれることもなく、両腕でダメージを与えることが出来るだろう。

奴の左側面にまわると、俺は両腕の武器を思い切り叩きつけようとする。

 

「お前が援護に来たところで同じだ!」

 

だが、闇の戦士は俺が攻撃してきたのを見て、腕により一層力をこめていった。

すると、ついにルビスは耐えきれなくなり、剣を弾き飛ばされてしまう。

ルビスが剣を手放したのを見て、奴は両腕で俺の攻撃を防ごうとしてきた。

ロトのつるぎで攻撃を防がれれば、間違いなく押し返されてしまうので、俺は攻撃を中断して後ろに下がる。

 

「くそっ、攻撃出来ると思ったんだけどな…」

 

「無駄だと言っただろ。ルビスが戻ってくる前に始末してやろう!」

 

後ろに下がっても、闇の戦士はルビスが剣を取り戻す前に俺を仕留めようと、連続で斬りつけて来た。

防ぐことは出来ないだろうから、俺はひたすら避け続けることになる。

だが、闇の戦士の攻撃力は上がっていても、攻撃速度はこの前と変わっていない。

非常に素早くはあるが、今まで多くの強敵と戦ってきた俺にとっては、避け続けるのは不可能ではなかった。

 

「まだ避け続けるか…でも、いつまで持つかな?」

 

しかし、回避こそ出来るものの、反撃する隙は全くと言っていいほどない。

このまま避け続けていたら、俺の体力が尽きてしまうな。

 

「何とか反撃しないと、俺の体力が尽きるな…」

 

でも、攻撃を避けている間に、ルビスが剣を取り返して闇の戦士に斬りかかっていく。

それを見て闇の戦士は、再びルビスの剣を弾き飛ばして、俺の二刀流での攻撃を両腕で防ごうとしてきた。

さっきのように右腕に力を溜めて、ロトのつるぎをルビスに叩きつけた。

 

「もう戻ってきたか…でも、またすぐに弾き飛ばしてやるさ!」

 

弱っているところに強力な攻撃を叩き込まれ、ルビスはまたすぐに剣を弾き飛ばされそうになってしまう。

だが、ルビスは何とか攻撃する隙を作ろうと、本来片手用の剣を両腕で握って攻撃に耐えようとした。

 

「くっ…!」

 

腕だけでなく全身に強い衝撃が走っているようだが、懸命に剣を弾き飛ばされないようにしている。

すると、闇の戦士は一瞬で剣を弾き飛ばすことが出来ず、俺に隙を晒してしまう。

ルビスが作ってくれた隙を無駄にしないように、俺はおうじゃのけんを奴の腹に深く突き刺し、ビルダーハンマーを頭に叩きつけた。

 

「今のうちに斬り裂いてやるぜ!」

 

二刀流での攻撃を受けて、闇の戦士はわずかに怯む。

その間に俺は突き刺したおうじゃのけんを使って、奴の体を斬り裂いていった。

 

「ルビスめ…一瞬とは言え、オレの攻撃に耐えるとはな…」

 

非常に強力な闇の戦士だが、これで少しはダメージを与えることが出来ただろう。

奴は体勢を立て直すと、俺たちから距離をとってそんなことを言う。

しかし、奴はまだ俺たちを倒せることを確信しているようだった。

 

「だが、無駄なことだ!闇の魔法を使ってお前たちを滅ぼしてやる、ドルモーア!」

 

闇の戦士は今度は剣で攻撃して来るのではなく、マッドウルスやエビルトレントも使ってきた闇の魔法、ドルモーアを唱えて来る。

奴は強力な闇の力を手に入れてから、闇の魔法も使えるようになったのか。

闇の戦士は剣の腕だけでなく、魔法に関しても非常に強力だ。

エビルトレントは詠唱にかなりの時間がかかっていたが、闇の戦士はわずかな時間で発動させてしまう。

俺たちはすぐに大きくジャンプして回避し、直撃は避けられたが、爆風で少し吹き飛ばされてしまった。

 

「いくら避けても、お前たちが倒れるまで唱え続けてやる!」

 

そんな時に、闇の戦士はもう一度ドルモーアを唱えようとして来る。

俺は立ち上がって再びジャンプするが、今度はさっきよりも強く爆風を受けてしまった。

地面に叩きつけられたのを見て、闇の戦士はベギラゴンで俺を焼き尽くそうとする。

 

「もう起き上がれないか…それなら焼き尽くしてやる、ベギラゴン!」

 

俺のところに、燃え上がる巨大な火球が飛んでくる。

立ち上がってもう一度ジャンプしようとしたが、俺は避けきれず、炎に焼き尽くされそうになってしまった。

だがそんな時、ルビスが俺の前に立ちはだかり、何か呪文のようなものを唱え始める。

何をしているのかと思っていると、ルビスと俺の前に光のバリアのような物が現れ、ベギラゴンの炎を防いだ。

 

「私の光の力を使って、ベギラゴンの炎を防ぎました。今のうちに立て直してください」

 

ルビスは世界を作るほどの力を持った精霊だし、こんなことも出来るみたいだな。

ルビスの力がなければ焼き尽くされていたかもしれないし、俺はルビスに感謝しながら体勢を立て直す。

 

「あのままだと焼かれていたかもしれないし、ありがとうな」

 

しかし、光の力でベギラゴンを防いでから、ルビスはかなり苦しそうな顔をしていた。

闇の戦士の魔法を防ぐにはかなりの魔力が必要だろうし、何回でも防げ続ける訳ではないのだろう。

今まで光の力を使わなかったのも、それが理由だろう。

戦いが長引けば、ルビスの力にも限界が訪れてしまう。

 

「オレのベギラゴンを防ぐとは、さすがはアレフガルドを作った精霊だな…だが、精霊の力など何の意味も持たないと言っただろ!」

 

闇の戦士はルビスを弱らせようと、ドルモーアやベギラゴンの詠唱を続けようとしていた。

俺はなるべくルビスに負担をかけないように、奴の魔法を止めようとする。

 

「また呪文を唱えるのか…サブマシンガンで止められないか?」

 

そこで、サブマシンガンなら遠距離からでも奴を攻撃出来ると思い、俺はサブマシンガンを構えて奴に向かってはがねの弾丸を撃ち放とうとした。

サブマシンガンはかなりの速度で弾を撃ち出すので、奴でも避けることは出来ないだろう。

闇の戦士は突然飛んできたはがねの弾丸に体を貫かれ、驚いて動きを止める。

 

「くっ!…遠距離を攻撃出来る武器か…雄也め、こんな物も作っていたのか」

 

奴の動きが止まったところで、俺はさらにたくさんの銃弾を撃ち込んでいった。

一発ごとの威力はそれほどでもないだろうが、何十発も当てればかなりのダメージを与えられるだろう。

だが、闇の戦士は銃弾で体を撃ち抜かれる痛みに耐えて、ドルモーアの呪文を再び唱え始めた。

 

「…強力な武器だが、そんな物でオレは止められない。闇の力で、必ずお前たちへの復讐を果たしてやる!」

 

奴がドルモーアを唱えている間にも、俺はサブマシンガンを撃ち続ける。

闇の戦士の体には銃弾によってかなりの傷がついており、少しは弱らせることが出来ているだろう。

しかし、どれだけ撃っても奴のドルモーアの詠唱は止まらず、俺たちがいたところで闇の力が再び爆発を起こそうとする。

ルビスはまた光のバリアを作ろうとしていたが、俺はその必要はないと言って、ジャンプで回避しようとした。

さっきと同じように直撃は免れたが、爆風を受けて地面に叩きつけられる。

 

「ドルモーアは止められなかったか…でも、かなりのダメージを与えられたはずだ」

 

何度も爆風で地面に叩きつけられて、俺の全身にはかなりの痛みが走っていた。

それでも俺は体勢を立て直し、次の呪文が来る前にサブマシンガンを撃っていく。

闇の戦士は少しは弱っているようで、呪文を発動させるのにさっきよりも時間がかかっていた。

このままサブマシンガンを撃っていけば、さらに弱らせることが出来るだろう。

でも、闇の戦士もこれ以上サブマシンガンを撃たせないために、強力な攻撃をして来ようとした。

 

「もう諦めろと言っているのに、まだ攻撃して来るのか…!なら、闇の爆炎でお前もルビスも焼き殺す!」

 

そう言うと、闇の戦士はベギラゴンとドルモーアの呪文を同時に唱え始める。

二つの呪文を同時に唱える…闇の戦士はそんなことも出来るのか。

ベギラゴンとドルモーアはどちらも強力な呪文であり、二つが合わさったら恐ろしいことになるのは間違いない。

ルビスでも防ぎきれないかもしれないので、俺は何とかして止められないかと思い、弾切れになるまでサブマシンガンを撃ち続けた。

100発以上はがねの弾丸を受けて、闇の戦士は苦しそうな顔になって来ている。

 

「間違いなく効いてるのに、呪文の詠唱が止まらないな…」

 

だが、奴の俺やルビスに対する復讐心は簡単に止めることは出来なかった。

サブマシンガンが弾切れになり、どうしようかと思っているうちに、ついにベギラゴンとドルモーアが同時に発動してしまう。

呪文が発動した瞬間、暗黒の闇に染まった灼熱の火球が大爆発を起こし、広範囲を焼き尽くしていった。

 

「焼け死ね!雄也、ルビス!」

 

俺がジャンプしても避けきることが出来ず、後ろに下がっていたローラ姫にも危険が及ぶ。

ルビスが再び光のバリアを張り、俺たちを守ろうとしてくれる。

しかし、彼女はかなり力を消耗したようで、倒れこみそうになってしまっていた。

 

「くそっ、これでも呪文は止められなかったか…ルビス、大丈夫か?」

 

「はい。ですが、彼はまだ向かってきます」

 

ルビスは大丈夫だと言って剣を構えるが、これ以上魔法を防ぐことは出来ないだろう。

剣を使うにしても、闇の戦士の攻撃で一瞬で弾き飛ばされるかもしれない。

闇の戦士はそれを好機と考えたようで、ロトのつるぎで俺たちに斬りかかって来た。

 

「闇の爆炎を受けても、まだ生きているのか…だが、抵抗ももう限界のはずだ」

 

俺は奴の攻撃を回避することはできるが、やはり反撃を与えることは出来ない。

ルビスも弱っているので、さっきのように隙を作ってもらうことも出来ないだろう。

しかし、何とかして奴に攻撃して倒さなければ、俺もルビスもここで死んでしまう。

闇の戦士の戦士の攻撃を避けながら、俺は何か状況を覆せる方法はないかと考えた。

 

「…隙は作れるかもしれないけど、成功率は低いな…」

 

一つ思いついた方法があったが、成功する確率は低いだろう。

俺がさっきのルビスのように闇の戦士の攻撃に耐えて、その間にルビスに攻撃してもらうという方法だ。

奴は弱ってきているとは言え、攻撃力が非常に高いのは変わりない。

おうじゃのけんとビルダーハンマーの両方を使っても、恐らく一瞬で弾き飛ばされるだろう。

だが、他の方法を考えているうちに俺の体力は尽きてしまうだろうから、この方法に賭けるしかない。

 

「でも他の方法はないし…俺が奴の攻撃を受け止めるしかない」

 

俺は闇に染まったロトのつるぎが叩きつけられた瞬間、両腕に全ての力を入れて奴の攻撃を止めようとした。

俺が攻撃を受け止めようとしたのを見て、闇の戦士も腕に力を溜める。

全身の骨が砕け散るほどの衝撃が走り、左手に持つビルダーハンマーは一瞬で弾き飛ばされてしまった。

だが、わずかな時間でもルビスが攻撃する隙を作ろうと、残ったおうじゃのけんに力を入れ続け、闇の戦士の攻撃を止める。

 

「今だルビス…奴を攻撃してくれ!」

 

俺は必死に声を出し、ルビスに攻撃の合図を送る。

俺はついに耐えきれず、おうじゃのけんも手放してしまったが、その瞬間、ルビスの剣も闇の戦士の体に刺さった。

ルビスは残った力で闇の戦士の体に深い傷を負わせて、動きを止める。

もう俺は武器を両方手放してしまっているので、今奴にとどめをさせなければ、終わりだ。

ルビスもそれは分かっているようで、闇の戦士の体を何度も深く斬り刻んでいく。

 

「ここであなたを倒して、世界の光を守り抜きましょう!」

 

ルビスの攻撃を何度も受けて、闇の戦士はかなり追い詰められていた。

 

しかし、奴はまだ倒れることはなく、闇のロトのつるぎを握りしめて立ち上がってしまう。

闇の戦士は体勢を立て直すと、ルビスの剣を一瞬で弾き飛した。

 

「…残念だったな。世界の光は、もう消えてなくなるんだよ!」

 

ルビスの剣を弾き飛ばすと、奴はまた連続で斬撃を放って来る。

俺たちにはもう攻撃手段がないし、さっき奴の剣を受け止めたことで俺の体力も限界であった。

 

「倒しきれなかったか…。くそっ、もうどうしようも出来ないのか…?」

 

俺はまだ諦めたくはないので、何とか奴に攻撃する方法はないのかと考えるが、その間に体力が尽きてしまう。

ついに奴の攻撃を避けられなくなり、俺は腹を斬りつけられてその場に倒れ込んでしまった。

ルビスは弾き飛ばされた剣を拾い、闇の戦士に立ち向かおうとしたが、奴は俺とルビスを殺すために、再びベギラゴンとドルモーアを同時に唱えようとする。

 

「終わりだな!雄也、ルビス!」

 

俺は体の痛みに耐えて立ち上がり、何とか闇の爆炎の範囲の外に出ようとする。

だが、闇の爆炎は非常に攻撃範囲が広いので、避けきることは出来なかった。

ルビスにももう、光のバリアを発動させる力はない。

闇の爆発の中心部にはいなかったものの、俺たちは体を焼き払われてしまった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode141 光が消える時

次回から6章に入っていきます。

6章では途中から、メルキドなど今まで復興させてきた町に戻る話も書きます。






今までの戦いで体力の限界になった上に、闇の爆炎で全身に火傷を負った俺は、力尽きて動けなくなってしまっていた。

ルビスも闇の爆発に焼かれ、倒れ伏している。

立ち上がらなければ死んでしまう…そう思って体に力をこめようとしたが、立ち上がることは出来なかった。

動けなくなった俺たちを見て、闇の戦士はひかりのたまに近づいていく。

 

「やはりお前たちの抵抗は無駄だったな。世界は永遠の闇に閉ざされる…その瞬間を見ているがいい」

 

俺たちを殺す前に、ひかりのたまを破壊する気なのか。

世界の光が消えるところを見て、絶望しながら死んでいけということなのかもしれないな。

闇の戦士はひかりのたまの前に立つと、闇に染まったロトのつるぎを振り上げる。

その時に奴は、なぜ竜王がひかりのたまを破壊するのではなく、闇に染めるだけにとどめたのかについて話した。

 

「オレの先祖から聞いた話だが、もともとひかりのたまは竜王の母である、竜の女王と言う奴の物だったらしい。母親の形見だから、竜王も完全に破壊するのは躊躇われたんだろう。だが、そんな思いのせいで空の光を失うことになり、魔物たちも封印されそうになってしまった」

 

そう言えば、ドラクエ3の竜の女王の卵から、竜王が生まれたという話があったな。

母親の形見を破壊するのは、世界を闇に閉ざすためとはいえ嫌なのかもしれない。

でもそれなら、エンダルゴはひかりのたまの破壊を許してくれたのだろうか。

エンダルゴには竜王の魂も含まれているので、いくら闇の戦士の行動とは言え、母親の形見を破壊して良いとは言わないだろう。

そう言ったところで止めてくれるかは分からないが、俺は声を振り絞って聞いてみることにする。

 

「…それなら、エンダルゴはひかりのたまの破壊を許してくれたのか?…あいつには、竜王の魂も入っているはずだぞ」

 

すると、全ての闇の集合体であるエンダルゴを構成する竜王の魂は、かつての竜王とは思考が違っていると言う。

 

「この前も言っただろ、エンダルゴは魔物の魂の集合体ではなく、全ての闇の集合体であると。数百年の間に渡って作り続けられた闇の力は絶大だ…竜王ですら制御しきることは出来ない。だから、絶大な闇の力の影響を受けて、竜王は昔とは変わったんだ」

 

制御しきれないほど闇の力のせいで、竜王は性格が変わり、世界を闇に染めるためには母親の形見の破壊もいとわなくなったというのか。

恐らくエンダルゴを構成している他の魔物の魂についても、絶大な闇の力の影響で以前とは変わっているのだろう。

だが、闇の戦士は自分を人間から救ってくれた存在として、竜王を大切に思っていたはずだ。

闇の戦士なら、竜王が制御出来る分だけの闇の力を集めることも出来ただろう。

大切な者の性格を、どうして無理やりのような方法で変えたのだろうか。

なぜ竜王として蘇らせるのではなく、エンダルゴという存在にしてしまったのだろうか?

 

「…お前は竜王が大切なんじゃないのか?…何で大切な人の性格を、闇の力で変えようとしたんだ?」

 

「本当はオレだって、竜王の魂を竜王として蘇らせたかった。…でも、それだとまたお前たちに倒されてしまうだろ!?ひかりのたまのせいで、魔物たちが封印されることもあるかもしれない…。だから仕方なかったんだ…もうオレを助けてくれた、魔物たちを失いたくなかった」

 

確かに俺は竜王を一度倒したことがあるので、竜王が蘇ったところでまた倒しに行き、闇を消し去り、魔物を封印するためにひかりのたまを取り返すだろう。

闇の戦士は、そうなる事が嫌だったと言うことか。

もう二度と魔物たちが封印されることがないように、竜王たちをエンダルゴという存在にし、ひかりのたまを破壊しようとしている。

声を荒げて俺の話に答えると、闇の戦士はひかりのたまに剣を叩きつける。

 

「…これでもう、魔物が封印されることはない。世界は、永遠に闇に閉ざされるんだ」

 

「闇の戦士にも理由はある…でもひかりのたまが破壊されたら、アレフガルドが…」

 

俺は何とか闇の戦士を止めたいと思ったが、やはり立ち上がることは出来なかった。

闇の戦士の攻撃力は非常に高く、叩きつけられた瞬間ひかりのたまにヒビが入り、砕け散ってしまう。

ひかりのたまが砕け散った瞬間、空がだんだん暗くなっていった。

闇の戦士はひかりのたまを破壊すると、倒れているルビスに近づいていく。

 

「次はルビス、お前だ。お前はオレを捨て駒のように扱い、ビルダーなんてものを生み出して闇を消し去ろうとした。復讐とこれからの魔物たちのために、お前を殺す!」

 

「ひかりのたまだけでなく、ルビスまでも…何とかしないと…!」

 

最初にアレフガルドに連れて来られた時には、俺はルビスに腹を立てたりしていたが、彼女のおかげでみんなに出会い、ここまで復興を進めることが出来た。

ルビスも間違いなく、俺たちの大切な仲間だ。

そんな彼女を、ここで死なせる訳にはいかない。

俺は這いつくばってでも動き、闇の戦士のところに向かっていく。

 

「お前がルビスを恨む理由は分かっている…でも、俺はルビスを死なせる気はないぞ…!」

 

「そんな体で、何をすると言うのだ?オレに抵抗しても、無駄だと分かっただろ?」

 

近づいてきた俺に向かって、闇の戦士はそう言って笑って来る。

確かに武器も持っていない俺には、何かができるとは思えない。

しかし、ここでルビスが殺されるのを黙って見ていることも出来なかった。

ルビスを守らなければいけないという思いで、俺は奴に近づいていく。

だが、ルビスは俺に逃げてと言って来た。

 

「来てはいけません!このままでは、あなたも死んでしまいます。…あなただけでも逃げて、世界を作り続けてください」

 

「俺はあんたを見捨てたくはない…ここで逃げることはしないぞ」

 

だが、俺がそう言ってもルビスは聞こうとはせず、呪文を唱えて、俺とローラ姫をラダトーム城に帰そうとする。

 

「逃げてください…そして、大切な仲間と共に闇を払う強力な武器を作ってから、もう一度戦いを挑むのです!」

 

「だめだルビス!あんたも俺たちにとって、大切な仲間なんだ!」

 

「あなたは私たちの世界を作ってくださったお方…どうか死なないでください!」

 

確かにみんなと共に兵器の開発を続けてから闇の戦士に挑めば、今ここで立ち向かっていくより勝てる可能性は高いだろう。

しかしそれでは、ルビスを見捨てることになってしまう。

俺もローラ姫も強い口調でそう言ったが、ルビスは呪文の詠唱をやめない。

ついに呪文が発動して、俺たちの体はラダトーム城の方向へと飛ばされる。

 

「行きなさい、雄也!ローラ!あなたたちの力があれば、必ず世界を救うことが出来るはずです」

 

俺たちを呪文で飛ばして、ルビスは最後にそんなことを言った。

俺はそれでも戦い続けたいと言おうとしたが、もうルビスには聞こえない。

 

飛ばされている途中、ルビスが闇の戦士のロトのつるぎで刺されるのが見えた。

体を何度も刺されながらも彼女は最後の力の振り絞って呪文を唱え続け、俺たちはラダトーム城の近くへと着地する。

 

「くそっ、ルビス…!」

 

「ルビス様…」

 

必ず助けに行くと言ったのに、ひかりのたまは破壊され、ルビスを救うことも出来なかった…。

この前エンダルゴが現れた時のように、闇の戦士の計画はまたしても達成されてしまった。

ルビスはみんなと共に強力な武器を作れば、必ず闇の戦士を倒すことが出来ると言っていたが、俺は本当に世界を救うことが出来るのか、不安になってしまう。

エンダルゴや闇の戦士を倒すのは、不可能なのではないかと思ってしまう。

俺がそんなことを思っていると、ローラ姫はラダトーム城に戻ろうと言ってくる。

 

「…雄也様、まずはラダトーム城に戻りましょう…精霊ルビスのことを、みなさんにお伝えしなければ」

 

「ああ、分かった…」

 

確かに、ここで突っ立っている訳にはいかない。

ルビスが死んだことを聞けば、みんなもアレフガルドの復興を諦めようとするかもしれないが、それでも黙っている訳にはいかないだろう。

俺は痛む足を引きずりながら歩いていき、ラダトーム城に向かう。

ラダトーム城は一部が壊されており、俺がいない間に魔物の襲撃があったのだろうか。

 

「ラダトーム城も被害を…何があったんだ?」

 

「監視塔やみなさんの力があっても壊されたということは、それだけ魔物の数が多かったということなのでしょうか…?」

 

俺とローラ姫がそんなことを言いながらラダトーム城の中に入ると、みんなが希望のはたのところに立っており、心配そうな顔をしていた。

ムツヘタは俺たちの会話を聞いていたようで、ラダトーム城で何があったか話してくる。

 

「戻ってきたか…雄也、姫。そなたらがいぬ間に、この城に150体ほどの魔物が押し寄せて来てな…監視塔のおかげで早く襲撃に気づき、ロロンドという男の持っていたまほうの玉やグレネードと言った兵器もあったのじゃが、被害は受けてしまったのじゃ…」

 

150体もの魔物が…そんなに多くの魔物が来たのならば、被害を最小限に抑えられただけでも幸いだろう。

ピリンとヘイザンは無傷であり、非戦闘員にまで危険が及ぶことにはならなかったようだ。

グレネードとまほうの玉を持ってきたみたいだし、ロロンドが来たのは幸運だったな。

ムツヘタはラダトーム城への魔物の襲撃について話すと、俺たちが闇の戦士との戦いで何があったのか聞いて来た。

 

「そなたらには何があったのじゃ?先ほどから空が暗くなり、精霊ルビスの加護が失われてしまったのじゃ…」

 

ひかりのたまの破壊とルビスの死による世界の異変は、みんなも感じていたようだな。

俺がラダトーム城を出発した時には青かった空が、今は灰色になっている。

また、希望のはたの周辺は暖かく感じられるはずなのに、今は城の外と同じ気温になっていた。

希望のはた自体も、ぼろぼろになっている。

みんなもショックを受けるだろうが、俺は闇の戦士との戦いで何があったか話し始めた。

 

「俺はみんなが集めてくれたブロックを使って竜王の城の上空に行って、ルビスと共に闇の戦士と戦ったんだ。俺はおうじゃのけんやサブマシンガンでかなりの傷を与えて、ルビスも剣で奴を攻撃出来ていた。でも、あいつの闇の力は強すぎて、俺たちは攻撃を防ぎきることが出来なかった…」

 

「私はあの人に人間の世界に戻ってくるように説得したのですが、彼は聞く耳を持たず、私に斬りかかってきました」

 

間違いなくダメージは与えられていた訳だし、あの時もっと強力な兵器があれば、奴を倒すことが出来たかもしれない。

ローラ姫は、闇の戦士を説得した時のことについて話した。

俺たち2人の話をそこまで聞くと、ムツヘタはルビスはどうなったのかと聞いて来る。

 

「ルビスは…精霊ルビスは、どうなったのじゃ?」

 

「ルビスは…死んだ…。闇の戦士に追い詰められた時、最後の力で呪文を唱えて、俺たちを逃がしたんだ。ひかりのたまも、破壊されてしまった…」

 

俺は隠すことはせず、みんなにルビスが死んだことを伝えた。

そのことを聞くと、みんなとても暗い顔に変わっていく。

ひかりのたまも破壊されたことを聞いて、よりショックを受けていた。

ラスタンとオーレンは、アレフガルドはもう滅びるのではないかとも言い出す。

 

「ルビス様が亡くなられただと…ルビス様のいない世界で、私たちはどうしていけばいいのだ?」

 

「もうアレフガルドは、終わりなのでしょう…」

 

二人はルビスを信仰していた数百年前の人間なので、余計にショックが強いのだろう。

俺もこの先、魔物たちに立ち向かって行けるかは分からない。

アレフガルドの人類は、このまま絶滅を迎えるのだろうか。

…ここまでのアレフガルドの復興は、無駄だったのかもしれない。

 

「ルビスは最期に、人々が協力して強力な武器を作っていけば、必ず闇の戦士に打ち勝つことが出来ると言っていた。…でも、俺ももう、世界を救える自身はない」

 

ルビスの最期の言葉を伝えても、みんなは暗い表情のままだった。

俺も、いくら強力な武器があったとしても、もう無理なのではないかと思う。

闇の戦士にかなりのダメージを与えられたとは言え、それはルビスの力があったからだ。

 

「我輩も、こうなったらどうしていいか分からぬ…」

 

いつもはテンションの高いロロンドでも、暗い口調になっていた。

みんな悲しい顔のままであり、やはりこのまま滅びを待つしかないのだろうか…。

 

だが、しばらくみんなが落ち込んだまま無言でいると、ゆきのへはまだ諦めないほうがいいと言って来る。

 

「…ワシは、まだ諦めるのは早いと思うぜ。ワシにだって、世界を救えるかなんて分からねえ…だが、少しでも可能性はあるんだから、出来る限りのことはするべきだ。アレフガルドの復興を、無駄になんてしたくはねえだろ?」

 

確かに、俺もせっかく成し遂げたアレフガルドの復興を無駄にはしたくない。

わずかな可能性ではあるが、それに賭けてアレフガルドを復興させ続けたほうがいいのかもしれない。

俺がそう思っていると、ピリンも復興を続けていきたいと言う。

 

「わたしにも分からない。でも、わたしは雄也と一緒に、町づくりを続けたい。みんなが楽しく暮らせる町を作りたいって、ずっと思ってたから」

 

ピリンはみんなが楽しく暮らせる町を作りたいとずっと言っていたが、その気持ちは今になっても消えてはいないみたいだな。

ヘイザンも、ゆきのへと同じようにここで諦めるつもりはなさそうだ。

 

「親方がアレフガルドの復興を続けるのなら、ワタシも続けるぞ。ワタシたちの鍛冶の技術があれば、きっと今まで以上に強い武器も作れるはずだ」

 

多くの人々がアレフガルドは終わりだと思っても、抗い続ける者達はいる。

一人でもそのような者がいるのならば、俺はビルダーとして、共にアレフガルドの復興を進めていきたい。

だが、闇の戦士の強大な闇の力を見た俺の中には、大きな不安があった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6章 ラダトーム・メルキド再訪編
Episode142 メタルギアファンの復興日記


今回は1章から5章の回想・総集編です


みんなとの話の後、俺は闇の戦士との戦いを癒すために、白花の秘薬を飲んで、教会のベッドで眠りにつこうとする。

 

目を閉じると、俺は考えてしまった。

エンダルゴや闇の戦士を倒し、世界を救える可能性なんてあるのか…これからも、アレフガルドの復興は続けて行くべきなのかと。

ピリンたち3人は諦めたくはないと言っていたが、これ以上魔物に抗おうとしても死が近づくだけなのではないか…俺も諦めたくはないが、そんなことも思ってしまう。

これまでのアレフガルドの復興を振り返りながら、これからどうしていくべきなのか俺は考え始めていった。

 

 

 

アレフガルド復興の第1章、メルキドでの戦い。

 

アレフガルドに来てから最初の頃は、何で俺がこの世界を復興させなければいけないんだと思っていたな。

俺をこの世界に連れてきたルビスに対しても、腹を立てていた。

今のようにルビスを大切な人だと思う日が来るようになるとは、あの時は思ってもいなかったな。

だが、ピリンやロロンドと言った仲間たちと出会ううちに、アレフガルドでの生活がだんだん楽しく思えるようになっていった。

彼らと一緒に、かつての城塞都市メルキドを復活させるんだと、思うようになった。

ケッパーやゆきのへ、ショーターといった新しく仲間になった人々とも、協力して町を作っていこうとしていた。

工房や調理室、衣装部屋が新しく出来た時には、とても嬉しくなっていたな。

ケッパーやゆきのへのおかげで強力な武器が出来た時には、これを使って必ず魔物たちを倒してやるんだと、強い気持ちを持っていた。

 

途中ロッシが、「これ以上町を大きくするのは反対だ」と言い出した時は、ロロンドと共に彼に対して怒ったりもしていたな。

「ゴーレムがメルキドを支配する魔物の親玉だ」とか、「人間の力ではゴーレムには勝てない」とか言うのを聞く度に、俺とロロンドは腹を立てていた。

しまいには、彼をメルキドの町から追い出そうとまで考えるようになっていた。

 

だが、今となれば当時のロッシの言い分も、その通りなのかもしれないと思ってしまう。

俺がルビスと共に戦っても闇の戦士を倒せなかったように、人間には決してかなわない存在という者がいるのではないかと思い始めた。

無理に抗おうとしても、潰されてしまうかもしれない。

 

しかし、ロッシが決してかなわないと言っていたゴーレムを、俺たちは倒すことが出来た。

ゴーレムは彼の言う通り非常に強力な敵であったが、俺たちが協力して作ったメルキドシールドのおかげで、町の破壊もおさえることが出来た。

ショーターが考えてくれたまほうの玉やピリンの作ってくれた傷薬も、戦いの役にたったな。

メルキドの空が晴れた日から、ロッシも暗い考えはやめて、みんなと楽しく暮らすようになっていった。

アレフガルドの他の地域も、人々と協力することで復興させていこうと、思うようになった。

人々が協力すれば出来ないことなどないかもしれないという考えも、俺の中に生まれる。

 

アレフガルド復興の第2章、リムルダールでの戦い。

 

ゴーレムを倒してメルキドの空を晴らした後、俺はピリンとゆきのへと共に、次に俺たちが復興させるべき場所、リムルダールに向かった。

リムルダールはメルキドより魔物の影響が大きく、湖は毒に染まっており、人々は病に苦しんでいたな。

薬師であったはずのゲンローワも、「病に抗おうとしても無駄だ」とか、「死から逃れようとするのはおこがましいことだ」とか言っていた。

確かに大きな力に抗うことはおこがましいことであり、無駄なことではないかと、今の俺は思ってしまう。

 

しかし、シスターのエルと協力することで、さまざまな病に苦しむ患者を救い、リムルダールの町を発展させることが出来ていた。

死に抗うのはおこがましいと言っていたゲンローワも、俺たちと共に、色々な薬を開発してくれるようになったな。

治療法が全く分からず、魔物となってしまいそうだった3人もいたが、彼らについても浄化の霊薬を使って治すことが出来た。

病に苦しんでいた人々に笑顔が戻り、共に暮らしていけるようになった時には、俺もエルも嬉しくなっていたな。

メルキドだけでなく、リムルダールも救うことが出来そうだと思っていた。

 

だが、リムルダールには死から逃れようとするあまり、人間を魔物にしてしまうという研究を始めたゲンローワの弟子、ウルスもいた。

最後には、病に苦しむ患者を救っていたエルも、その病気にかかってしまった。

魔物に抗い続けようとすれば、人々の心はおかしくなってしまうかもしれないと、俺は考える。

 

でも、究極の秘薬である聖なるしずくのおかげでエルの病気も治り、病が治った人々が考えてくれた大弓で、リムルダールに病を振りまいていたヘルコンドルを倒すことが出来た。

魔物化の研究を続けたウルスのなれの果てであるマッドウルスも倒し、リムルダールに光を取り戻すことが出来た。

リムルダールの復興はメルキドの復興より大変なことも多かったが、人々が協力すれば成し遂げられないといくことはなかったな。

 

アレフガルド復興の第3章、マイラとガライヤでの戦い。

 

ヘルコンドルとマッドウルスを倒し、リムルダールを救った後、俺たちはゆきのへの弟子であるヘイザンも連れて、マイラに向かった。

マイラはドラクエ1では緑豊かな森に囲まれた村だったので、あんな荒れ地や火山地帯になっていたのを見た時は、とても驚いたな。

かつてガライの町があったガライヤ地方も、氷雪地帯になっているとは思わなかった。

ルビスはマイラの魔物は今までの地域より強力であり、人々は敗北の聞きにあると言っていたので、復興するのも難しそうだなと、あの時思っていた。

 

マイラの魔物は確かに強力で、俺たちは何度も苦戦を強いられた。

だが、筋肉だらけの荒くれたちと共に戦うことで、多くの魔物たちを倒していき、マイラの復興を進めていくことが出来た。

筋肉のことばかり話す荒くれと暮らすのは、最初は大変そうだなと思っていたが、一緒に暮らしていくうちに、みんな面白い人たちだなと思うようになったな。

荒くれの女リーダーであるアメルダも救出することが出来、共に炎と氷を合わせて、強大なエネルギーを生み出す研究も行っていた。

ガライヤ出身のコルトとシェネリとも仲良くすることができ、マイラの復興もうまくいきそうだなと思い始めるようになった。

 

しかし、マイラにもリムルダールのウルスと同じように、魔物に抗おうとするばかりにおかしくなってしまった人がいた。

アメルダが助手をしていた発明家であり、彼女の恋人でもあった、ラライ。

彼は魔物を倒すための研究に行き詰まるあまり、倒したかったはずの魔物の王である、竜王の誘いに乗ってしまうことになってしまう。

彼は最後には、恋人であるアメルダの手で殺されることになった。

 

だが、マイラとガライヤの復興も、俺たちは成し遂げることが出来た。

ラライの残した研究記録を使って、車の形をした最強兵器、超げきとつマシンを作り上げることに成功し、マイラを支配するようがんまじん、ガライヤを支配するひょうがまじんを倒すことが出来た。

2体が合体して生まれた最強の魔人である、がったいまじんについても、俺たちは倒している。

たいようのいしを取り返し、アレフガルドの大部分に光を取り戻すことが出来ていた。

 

アレフガルドの第4章、ラダトームでの戦い。

 

がったいまじんを倒し、マイラとガライヤの空を晴らした俺たちは、かつて国王やローラ姫が住む王都があった、ラダトームへと向かった。

ラダトームは竜王の城が近いので闇の力の影響が大きく、空は真っ暗で、地面は灰色になっていたな。

今までとは比べ物にならないほど荒廃しており、復興するのはかなり大変そうだなと思っていた。

せいすいのおかげで大地を浄化して、石になっていたローラ姫を元に戻すことも出来たが、魔物が非常に強力で、希望のはたを手に入れるのも厳しかったな。

希望のはたを手に入れてラダトーム城の復興を始めることは出来ても、城の防衛戦もかなり苦戦することになった。

 

だが、今までの町で出会った仲間である、ロロンド、エル、アメルダの協力もあって、竜王を倒すための伝説の武具を作ることが出来た。

教会やローラ姫の寝室など、ラダトーム城の復興も進めていけたな。

世界を裏切った勇者である闇の戦士を撃退して魔力の結晶を手に入れることもでき、今まで何度か俺の前に姿を表した竜王の影も倒せた。

最後には、聖なるほこらで虹のしずくを作り出し、竜王を倒す準備が整った。

 

だが、俺が竜王を倒しにいくつもりでいたのに、ラスタンやオーレン、ムツヘタは、勇者でない者が竜王を倒すのは無理だとも言っていた。

あの時の俺は必ず自分が竜王を倒しに行くと思っていたし、ロロンドたちも俺が竜王を倒すのだと信じていた。

しかし、人間にはやはり限界という物があるのかもしれないな。

 

でも、俺はロロンドたちが信じていた通り、ロトの血筋の勇者しか倒せないと言われていた竜王を倒して、ひかりのたまを取り返すことが出来た。

竜王の真の姿は非常に強力で、俺も何度も負けそうになったが、みんなと共に作り上げた武器の力があれば、不可能という物はなかった。

世界を荒廃させたもう一人の元凶である闇の戦士も倒して、アレフガルドに完全なる平和と光を取り戻したいと、強く思っていた。

 

そして、アレフガルド復興の第5章、サンデルジュでの戦い。

 

竜王を倒した数日後、俺とピリンたち3人は、闇の戦士や手下の魔物たちがアレフガルドの秘境、サンデルジュにいると聞いて、その地に向かうことになる。

ルビスの頼みで、サンデルジュに魔物を倒すための砦も作ることにもなった。

最初のころはみんなと共に砦を発展させていき、ゆきのへの家系に語り継がれる伝説のハンマー、ビルダーハンマーも作ることが出来ていたな。

人間との争いを嫌うアローインプ、ルミーラとも出会うことが出来た。

 

だが、サンデルジュの峡谷の最深部での、闇の戦士との2度目の戦いの後、俺たちは危機に陥ってしまうことになる。

俺は、闇の戦士がかつて人間だった時に持っていた勇者の力を超えることはでき、奴を瀕死にまで追い詰めたな。

しかし、闇の戦士はルビスや俺への復讐心から生み出された闇の力で俺をなぎ倒し、数百年の間生み出され続けた闇の力の集合体である、エンダルゴを生み出してしまった。

エンダルゴが現れてから、魔物たちの動きは急激に激化していった。

 

みんなは諦めようとはせず、エンダルゴの手下と戦っていくが、戦況は厳しいものとなり、ついにはピリンたちにまで危険が及んでしまう。

砦を守るための兵器も、エンダルゴを倒すための武器もあまり思いつかず、俺たちはついにサンデルジュの砦を放棄することになった。

 

最後には闇の戦士はひかりのたまを破壊し、ルビスを殺し、アレフガルドの光を消し去ってしまう。

俺はルビスの援護に行ったものの、彼女を守ることは出来なかった。

 

 

 

…アレフガルドの復興を思い出すと、確かに魔物に抗うのには限界があり、魔物と戦い続けるべきではないのではないかと思うところがあった。

しかし、アレフガルド復興の1章から4章では、どんな大変なことがあったとしても、復興は成功し、幸せな結末を迎えていた。

人々が協力して生み出す物に、限界というものはなかった。

アレフガルド復興の第5章も、幸せな結末を迎えられるのではないかと、俺は考える。

まだまだ不安はあるが、ゆきのへたちやラダトーム城の人々と協力して、出来る限りの戦いは行っていったほうがいいかもしれない。

明日からは俺も、ラダトーム城を守る兵器やエンダルゴを倒すための兵器を出来るだけ考えて行こう。

 

明日からの活動に備えるため、俺はアレフガルドの復興の振り返りを終えると、ベッドの上で眠りについた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode143 抗い続ける者

アレフガルドの光が消えた翌日、俺たちはまず昨日の襲撃で壊された部分を修復していた。

魔物との戦いを諦めないとなれば、これからも厳しい魔物との戦いは続いて行くだろうから、城の状態は万全にしておかなければならない。

城の修理を終えると、サンデルジュで使っていた調合ツボやマシンメーカーを置くための部屋も作っておいた。

それらの部屋も作ったら、ラダトーム城を防衛したり、エンダルゴを倒したりするための兵器を、俺は考え始める。

 

そして、その日の午後、オーレンは何か話したいことがあるらしく、話しかけてきた。

 

「雄也殿、少しいいですか?話したいことがあるのです」

 

昨日もうアレフガルドは終わりだと言っていたオーレンだが、今は少しは明るい顔になっている。

もしかしたら、オーレンも新しい兵器を考えてくれているのだろうか。

 

「どうしたんだ、オーレン?」

 

「実は僕たちもゆきのへさんたちの話を聞いて、もう少しは頑張ってみようと思ったのです。ラスタンやチョビ、ムツヘタとも相談して、強力な兵器を考えて来ました」

 

オーレンもゆきのへの話で、エンダルゴや闇の戦士の打倒を諦めるのはまだ早いと思ったみたいだな。

ラダトーム城のみんなの協力もあったようだが、どんな兵器を考えたのだろうか。

今は戦力になればどんな兵器でもいいので、俺はオーレンの話を聞いていく。

 

「みんなも協力してくれたのか…どんな兵器を考えたんだ?」

 

「雄也殿たちが使っていた大弓と大砲を見て思いついたのです。あの大弓が一度に5発もの矢を撃ち出すように、何発かの弾を一度に撃ち出せる大砲を作れば、固い敵も一気に吹き飛ばせるんじゃないかと。僕たちは、3発の砲弾を同時に撃ち出せる大砲を考えました」

 

3発の弾を一度に撃ち出せる大砲か…大砲の弾は一発でも広範囲かつ高威力なので、確かにそれなら強敵でもかなり倒しやすくなるかもしれないな。

次の防衛戦もかなりの敵が押し寄せてくるだろうが、城の被害も減らせるだろう。

俺は今から作りに行こうと、オーレンに新しい大砲の見た目や作り方について聞こうとした。

 

「確かに強そうな兵器だな…今から作りに行きたいし、見た目と作り方について教えてくれ」

 

そう聞くと、オーレンは俺に新たな大砲の作り方について詳しく教え始める。

新しい大砲は3つの砲弾を同時に入れるために、今までの大砲より大きいようだった。

構造も複雑になっており、たくさんの素材が必要そうだな。

俺はオーレンの話を聞き終えると、新しい大砲を作るために必要な素材を、ビルダーの力を使って調べる。

ルビスが死んだ今でも、ビルダーの魔法は使えていた。

彼女が遺してくれた物作りの力を、精一杯役立たてていかなければいけないな。

 

三連大砲…はがねインゴット8個、木材6個、マグマ電池10個 マシンメーカー

 

大砲と必要な素材の種類はあまり変わらず、マシンメーカーで作れるみたいだが、やはり素材の必要数が増えているな。

だが、火炎放射器を作る時に鉄を集めてきているので、はがねインゴットはたくさん作れるし、マグマ電池の原料となるマグマ岩もかなり持っている。

木材に関しても、在庫があったはずだ。

いつ魔物が襲撃して来てもいいように、今すぐ作って来よう。

 

「必要な素材は多いけど、みんな在庫があるな。さっそく作りに行ってくるぜ」

 

「それならよかったです。完成したら、僕に見せてください」

 

俺はオーレンにそう伝えると、まずは鉄をはがねインゴットに加工するため、工房へと向かっていった。

 

工房に入ると、俺はこの前手に入れた鉄を次々に神鉄炉に入れて、まずは鉄のインゴットを作っていく。

鉄のインゴットが出来ると、それをさらに加熱してはがねインゴットに加工した。

 

「これで三連大砲は作れるけど、はがねインゴットは大量に作っておいたほうがいいな」

 

三連大砲に必要なはがねインゴットは8個だが、はがねインゴットは非常に用途が多いため、俺はたくさん作ることにする。

50個以上のはがねインゴットが出来ると、俺はマシンメーカーの部屋に入っていった。

 

マシンメーカーの部屋に入ると、俺はまずマグマ岩と銅のインゴットを使って、マグマ電池を作っていく。

マグマ電池は10個も必要だが、一度に5個作ることが出来るので、そんなにたくさんの素材は使わなくてもいいな。

 

「これでマグマ電池も出来たし、大砲が作れるな」

 

マグマ電池が出来ると、俺はさっき作ったはがねインゴットと大倉庫に入っていた木材を使い、三連大砲を作っていった。

ビルダーの魔法をかけると、それらの素材が加工されて、大型の大砲へと変わっていく。

大きさのせいで加工に少し時間がかかったが、無事に完成させることが出来た。

 

「これで三連大砲は作れたか…でも、もう1台作ってスイッチで同時に発射すれば、さらに威力が上がりそうだな」

 

三連大砲が完成するとすぐに城の前に設置しに行こうかと思ったが、その時俺は、マイラのアメルダが考えた二連砲台を思い出す。

三連大砲を2台同時に発射出来れば六連砲台となり、直撃させられればトロルキングなどでも一撃で倒すことが出来るかもしれない。

出来るだけ城を守れる可能性を高めるために、俺はもう一台の三連大砲と、床用スイッチを作っていった。

まずマグマ電池をもう10個作り、はがねインゴットと木材も使って、二台目の三連大砲を作る。

それが出来ると、まだはがねインゴットになっていない鉄のインゴットや、それから作られたばね、大倉庫にあるあかい油を使って、床用スイッチも作った。

 

「これで六連砲台にできるようになったな、さっそく城の前に設置してくるか」

 

床用スイッチが出来ると、俺は2台の三連大砲も持って、ラダトーム城の前へと向かう。

最初に三連大砲を並べて置いて、その間に床用スイッチを置いた。

これで魔物がラダトーム城に近づいてきても、6発の砲弾を発射して倒すことが出来るはずだ。

 

大砲とスイッチを置き終えると、俺はオーレンを呼んだ。

 

「オーレン、あんたが言ってた三連大砲を完成させてきたぞ」

 

オーレンは兵士の仕事で城の見回りをしていたが、俺の声を聞くと、すぐに城の前に走ってやって来る。

彼は三連大砲が二つもあるのを見て、かなり驚いた表情になった。

 

「ありがとうございます。一つでいいと思っていましたが、二つも作って下さったんですね」

 

二連砲台のことを思い出していなければ、俺も一つしか作っていなかっただろう。

俺はスイッチを押すと同時に発射出来ることも、オーレンに伝えておいた。

 

「ああ。真ん中にあるスイッチを押せば、二つの大砲が同時に起動するぞ。一度に6発の砲弾が撃てるはずだ」

 

「一度に6発ですか…やはり魔物との戦いを諦めるのは、まだ早いかもしれませんね」

 

オーレンも六連砲台のことを聞くと、魔物に勝てる自信が高まったようだった。

これを使ってラダトーム城を守りながら、強力な武器を考えていけば、エンダルゴや闇の戦士を倒すのも夢ではないだろう。

俺はそう思っていたが、オーレンはその話の後、また昨日のような暗い表情をする。

 

「…ですが、ムツヘタはこんなことを言っておられました」

 

オーレンはムツヘタとも相談していたみたいだが、その時に何か聞いたみたいだな。

ムツヘタは、どんなことを言っていたんだ?

 

「何て言っていたんだ?」

 

「エンダルゴや魔物たちを倒したいと言うのならば、あまり時間は残されていないと言っていました。エンダルゴは闇の力の集合体です、光が失われ、闇の力が次々に広がっていくこの世界では、奴もどんどん力を増して行くでしょう。放っておけば、決して人間には倒せないほどの力を得ることになるはずです」

 

ルビスが死に、ひかりのたまも失われ、強大な魔物が増えた今のアレフガルドは、ルビスの言っていた光と闇のバランスが完全に崩壊した状態であり、竜王が支配していた時代よりも遥かに早く闇の力が広がっていくだろう。

その闇の力はもちろんアレフガルドの大地や空を汚染するのに使われるだろうが、確かに闇の力の集合体であるエンダルゴの強化にも使われるはずだ。

そうなれば、エンダルゴが無敵と言えるほどの力を得る時が来るかもしれないな。

ムツヘタが残された時間は少ないと言っていた理由は、他にもあるとオーレンは言う。

 

「それに、ひかりのたまが失われたことで、魔物の封印は不可能になりました。魔物の活動を抑えるには、戦って数を減らしていくしかないはずです。早めに数を減らさなければ、アレフガルドは倒しきることができないほどの魔物に満ちあふれることになるしょう」

 

魔物たちとも早めに決着をつけなければ、数が増えすぎて手に負えなくなると言うことか。

今までは闇の戦士を倒せばひかりのたまの力で魔物は封印されると思っていたが、もうそうすることも出来なくなっている。

城を防衛することだけでなく、人間に敵対している魔物の拠点を積極的に潰しに行くことも、必要になるかもしれない。

 

「確かに急がないと、手に負えなくなりそうだな。みんなで協力して、早く兵器を開発していかないといけなさそうだぜ」

 

兵器の開発も、今まで以上に急いでいかなければいけなくなりそうだな。

だが、みんなで協力して開発を行って行けば、エンダルゴや魔物たちを倒すための武器も必ず作り出すことが出来るだろう。

まだまだ不安なことも多いが、そう信じて進んでいくしかない。

オーレンも、これからも出来る限りのことはしていくと言った。

 

「僕もみなさんと共に、武器や兵器の開発は続けていきます。何かいい物が思いついたら、すぐに教えに行きますね」

 

「ああ、頼んだぞ」

 

光は消え去ったが、俺たちはまだ魔物たちに抗い続けていく。

俺はオーレンにそう言った後、一度休憩するために、教会へと入っていった。

 

その日の夕方、俺はこれからの戦いに備えて、他にも準備をしに行く。

昨日の闇の戦士との戦いでなくなってしまったはがねの弾丸を補充し、アローインプ式大弓のためのはがねの矢も大量に用意しておいた。

六連砲台から発射するための大砲の玉も、たくさん作っておく。

俺たちはその日の翌日も、エンダルゴや魔物たちと戦うための兵器を考えていた。

 

 

 

ラダトーム城の西 エンダルゴの城…

 

アレフガルドの光が消えた3日後の早朝、エンダルゴは隊長である強力なしにがみのきしを呼び出していた。

エンダルゴは隊長のしにがみのきしに向かって、こんなことを言う。

 

「…ルビスは死に、ひかりのたまも消え去った。我は諦めの悪い人間どもに、今度こそとどめを刺そうと思っている。そのために、貴様を闇の力で変異させたい」

 

エンダルゴはルビスやひかりのたまと同時に、ラダトーム城も滅ぼそうとしていたが、城を襲撃した魔物は人間たちに全て倒されてしまった。

また、ルビスの最後の力で、ビルダーも生き延びてしまっている。

次こそはビルダーもろともラダトーム城を滅ぼしたいと考えていたが、普通の魔物の軍勢を襲撃させても意味はないだろうとも思っていた。

隊長のしにがみのきしは、闇の力で変異するとはどのようなことなのかを、エンダルゴに尋ねる。

 

「闇の力で変異させるとは、どのようなことでございますか?」

 

「我が持つ闇の力の一部を与え、その力で貴様の肉体を変異させる。成功すれば貴様は、人間どもをいとも簡単に蹂躙できるほどの力を得るだろう」

 

エンダルゴは闇の力の集合体なので、闇の力を他人に与えれば少し弱体化してしまう。

だが、今のアレフガルドでは急速に闇の力が拡大しているので、元通りになるまでにあまり時間はかからない。

隊長のしにがみのきしが強大な闇の力を操れるようになれば、ラダトーム城を落とせる可能性も高まると、エンダルゴは考えていた。

だが、変異に耐えきれなければ隊長のしにがみのきしは死んでしまうと、エンダルゴは言う。

 

「だが、変異に耐えきれなければ肉体は崩壊し、貴様は死ぬだろう。貴様が嫌だと言うのなら、やめても構わない」

 

いくら魔物とはいえ、自らが持っているより遥かに多くの闇の力が与えられれば、肉体が変異に耐えきれず、崩壊してしまうかもしれない。

この隊長のしにがみのきしはしにがみのきしの中でも最も強力な個体であるが、それでも変異に耐えられる可能性はあまり高くないとエンダルゴは考えている。

だが、隊長のしにがみのきしは、変異して強大な魔物になるとエンダルゴに言った。

 

「我なら大丈夫なはずです。エンダルゴ様、我を変異させて下さい」

 

隊長のしにがみのきしは、強力な魔物に変異出来ることを確信している。

エンダルゴはそれを聞くと、隊長のしにがみのきしに大きな闇の力を与えた。

 

「よろしい!ならば我の力を、貴様に授けよう」

 

「ぐがあっ!」

 

体が変異することによってすさまじい痛みが起こり、隊長のしにがみのきしは叫び声を上げる。

だが、肉体が崩壊しそうにもなるが、強大な魔物となってビルダーや仲間たちを倒すため、何とか耐え続けていた。

変異が進むにつれて、隊長のしにがみのきしの体長が1.5倍くらいになり、斧や全身の鎧が暗黒に染まっていく。

盾には、死神の顔のような不気味な紋様が現れていた。

隊長のしにがみのきしはしばらく苦しみ続けたが、やがて変異が終わり、身体中に力が満ち溢れるようになった。

 

「…変異は成功のようだな。これでラダトーム城も、今度こそ終わりだ」

 

「今なら、人間どもを滅ぼせる気がします。今から我の部下を集めて、人間の城に攻め込む」

 

変異に成功した隊長のしにがみのきしは、さっそくその力を使って部下とともにラダトーム城に攻め込みに行こうとする。

 

「ああ、しにがみのきしから変異した、滅ぼしの騎士よ。未だに抗い続ける人間どもを、闇の力で蹂躙してやれ!」

 

エンダルゴも変異したしにがみのきしを滅ぼしの騎士と呼ぶことにして、そう命令を下す。

命令を受けると、滅ぼしの騎士とその手下の魔物は、ラダトーム城に向かっていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode144 闇を纏う者(前編)

アレフガルドの光が消えた3日後、俺たちは魔物たちと戦う準備を進め続けていた。

ラスタンたちはまだはがねのつるぎを装備していたので、さらに強力であるメタルのけんを作っておく。

ロロンドがメルキドから持ってきていたグレネードやまほうの玉も、残り少なくなっていたようなので、新しいものを作っておいた。

 

新しい武器や兵器についても、俺たちは考え続けている。

この前作った六連砲台はとても強力だろうし、これ以上設備が増えれば、どんなに強力な魔物が相手だとしても、勝てる可能性は上がるだろうな。

そんなことを思って、俺はみんなと話し合っていた。

 

だがそんな時、監視塔からラダトーム城の外を眺めていたラスタンの大声が聞こえてくる。

 

「おいみんな、早く来てくれ!城の西から、多くの魔物が近づいてきている!」

 

まだ兵器を考えている途中だと言うのに、もう魔物たちが来てしまったのか。

この前は監視塔や、ロロンドのまほうの玉やグレネードのおかげで城の被害は抑えられたようだが、今回はさらに強力な魔物が来ることだろう。

とにかく迎え撃たなければいけないので、俺はすぐに戦いに行こうとする。

 

「雄也たちの城にまた魔物が…我輩も迎え撃ちに行かねばな」

 

「ワシは魔物たちに抗い続けると決めたんだ、奴らを必ず倒してやるぜ」

 

「サンデルジュだけじゃなく、この城も捨てることになるのは嫌だね」

 

「強い魔物ばかりだと思うけど…ボクも頑張る!」

 

みんなもそう言いながら武器を持って、部屋から出ていった。

城の中を見回っていたオーレンとチョビも合流すると、ラスタンは魔物の数がかなり多く、見たことのない魔物がいたとも言ってくる。

 

「みんな、集まってくれたか。今日は魔物の数が多いだけでなく、私も見たことのない魔物の姿があった…恐らく、かなり厳しい戦いになるだろう」

 

見たことのない魔物か…アレフガルドの光が消えてから現れた魔物だろうし、強力なのは間違いないないだろう。

俺は今まで多くの魔物を倒してきているが、警戒して戦ったほうがよさそうだ。

強力な魔物がいると聞き、みんなは少し不安な顔になってしまう。

だが、それでも諦めようとはせず、魔物の大軍に立ち向かおうとしていた。

 

「そうなのか…だが、ラダトーム城を壊される気はない、行くぞ!」

 

ゆきのへを先頭に、魔物が迫ってきているという城の西に向かっていく。

さっきルミーラも言っていたが、サンデルジュの砦だけでなく、ラダトーム城も放棄するということには俺はしたくない。

俺もおうじゃのけんとビルダーハンマーを持って、魔物たちの所へ走った。

 

しばらく走り続けていると、ラスタンの言っていた魔物の大軍が見えてくる。

彼の言う通りとても多くの魔物がおり、厳しい戦いは避けられなさそうだった。

 

かげのきしと、紫色の触手を持つメーダロードの上位種、メーダクインが24体ずつ、ブラバニクイーンとコスモアイが16体ずつ、しにがみのきしとだいまどうが12体ずつ、エビルトレントとダースドラゴンが8体ずつ、ゴールデンドラゴンとボストロールが6体ずつおり、大軍の最後尾には2体のトロルキングと、暗黒の鎧を纏った見たことのない魔物がいて、合計135体もいる。

 

ラダトームに生息する魔物だけでなく、サンデルジュの魔物も来ているな。

この前は150体以上の魔物が来ていたとムツヘタは言っていたので、その時よりは少ないが、苦戦するのは間違いないだろう。

 

「魔物の数も多いけど、あの魔物もやっぱり強力そうだな…」

 

今回は、俺たちが見たことのない魔物の存在もある。

しにがみのきしに似た見た目をしているが、体長がかなり大きく、鎧だけでなく斧や盾も闇に染まっていた。

盾には、恐ろしい顔のような紋様も現れている。

恐らくまわりの魔物とは、桁違いの強さを持っているのだろう。

でも、みんな諦めずに戦うつもりなので、俺も精一杯戦わなければいけない。

 

「厳しい戦いになりそうだけど、やるしかなさそうだな…」

 

みんなそれぞれの武器を構えて、奴らを迎え撃とうとする。

俺が参戦する中では3度目の、ラダトーム城の防衛戦が始まった。

 

俺たちが近づいていくと、魔物の大軍の前衛にいたメーダクインが光線を撃って攻撃して来る。

奴らの光線はコスモアイのものよりは弱そうだが、それでも高威力なのは間違いないし、当たったら危険だろうな。

俺とルミーラは距離をとって、サブマシンガンや弓矢で奴らを攻撃していった。

剣やハンマーで戦うのは難しそうだが、ロロンドたちも後ろに下がっているだけでなく、光線を避けながら少しずつ奴らに近づこうとしていく。

メーダクインは耐久力もコスモアイよりは低いようで、目に撃ち込めば7~8発のはがねの弾丸で倒すことが出来た。

 

「耐久力はあんまり高くないな…このまま銃で倒しきってやる」

 

ルミーラの弓矢でも奴らにかなりダメージを与えられており、奴らは少しずつ数を減らしていった。

メーダクインたちも抵抗をやめず、仲間が次々に倒されていくと、光線を撃つ速度を上げて来る。

まだ15体以上も残っているので、攻撃が激しくなると回避が大変になるな。

光線を避けながらメーダクインに斬り掛かろうとしていたみんなは、近づくのが難しくなってしまう。

でも、遠距離から攻撃している俺とルミーラは、回避の難しさもあまり変わらず、奴らを撃ち続けることが出来た。

 

「攻撃を早めても、俺たちを止めることは出来ないぜ」

 

はがねの弾丸もたくさん作って来てあるので、弾切れになることもないだろう。

二人で攻撃を続けて、メーダクインは残り10体ほどになっていった。

だが、メーダクインたちは全滅する前に、俺たちの正面から横に移動しようとする。

正面からは、24体のかげのきしが剣で斬り掛かかろうとして来た。

かげのきしとは何回も戦ったことはあるが、多くのかげのきしと戦っている間に横から光線を撃たれたら避けにくいな。

 

「横から光線を撃って来るつもりか…かげのきしたちが来る前に倒さないとな」

 

かげのきしたちが来る前にメーダクインを全滅させようと、俺とルミーラは奴らの目にはがねの弾丸や矢を放ち続ける。

だが、かげのきしの歩く速度は速いので、メーダクインを倒しきる前に俺たちのところに到達されてしまうだろう。

ロロンドたちもその様子を見ており、何とか奴らに近づこうとしていった。

しかし、メーダクインたちの攻撃は相変わらず激しいので、近接武器を叩きつけるのはやはり難しそうだな。

 

そんな中、ゆきのへは奴らに攻撃するため、メタリックハンマーで光線を防げないか試そうとした。

メーダクインが光線を発射した瞬間、ハンマーを構える。

光線を防ぐことは出来たが、光線の熱が腕に伝わり、ゆきのへは少し痛そうな顔をした。

だが、メーダクインを全滅させておかなければこの後苦戦するだろうから、次の光線を溜めている間に奴らの内の一体に近づき、目にハンマーを叩きつける。

 

「その程度の光線で、ワシらは止められねえぜ!」

 

ゆきのへの強力な一撃を受けて、メーダクインは体が大きく変形した。

大ダメージを受けて怯んだ奴に向かって、ゆきのへはもう一度ハンマーを振り下ろして倒す。

その様子を見ると、ロロンドや兵士たちも、メタルの剣で光線を防ぎながら、奴らを斬りつけ始めた。

 

「我輩もゆきのへのように、光線を防いでみせよう!」

 

メタルの剣はかなり鋭いので、メーダクインたちは何度か攻撃を受けると、青い光に変わって倒れていく。

俺もルミーラも射撃を続け、残り10体だった奴らを全滅させた。

 

メーダクインを倒し終えた時には、かげのきしたちはもう俺たちのところに到達しており、すぐに戦いに入っていった。

俺たちは8人いるので、3体ずつ相手をしていくことになる。

 

「ルビスは死んだ、もうお前たちに光はない!」

 

「ビルダーめ!いつまで戦い続けるつもりだ!」

 

かげのきしたちは、そう言いながら剣で斬り掛かってきた。

かげのきしは連続で攻撃を行い、攻撃力も高い方ではあるが、サンデルジュの強力な魔物たちと戦ってきた俺にはそんなに苦戦する相手ではない。

かげのきしが剣を振り下ろして来た瞬間、俺はおうじゃのけんを使って受け止め、剣を弾き飛ばす。

剣を飛ばした衝撃で奴らを怯ませることもでき、大きな隙が出来ていた。

 

「何度城を潰そうとしても、俺たちは戦い続けるぜ!」

 

左腕に持つビルダーハンマーも使っていき、俺は相手しているかげのきし3体の剣を、みんな弾き飛ばしていく。

そして、3体ともが剣を失い、体勢を崩したのを見て、俺は両腕に力を溜めていった。

かげのきしたちはすぐに起き上がろうとしたが、俺はその前に力をため終えて、奴らを薙ぎ払っていく。

 

「回転斬り!」

 

体勢を崩しているところに回転斬りを受けて、かげのきしたちは倒れていく。

一緒にサンデルジュの魔物と戦ってきたゆきのへとルミーラも、それぞれが相手していたかげのきしを倒すことが出来ていた。

バルダスやロロンド、兵士たちもまだ倒せてはいないが、苦戦はしていない。

 

だが、みんながかげのきしを倒し終える前に、俺たちのところにブラバニクイーンやしにがみのきしたちも向かって来る。

 

「みんなを援護に行きたいけど、後ろの魔物がもう近くまで来ているな…」

 

俺は先にかげのきしを全て倒しておきたいと思ったが、奴らは俺たちがかげのきしと戦い始めた頃に移動を始めたらしく、もう目の前に迫っていた。

俺のところには2体のブラバニクイーンと、3体のしにがみのきしが襲って来る。

 

「ビルダー!エンダルゴ様のため、お前を消し去ってやる!」

 

どちらも戦い慣れた魔物ではあるが、かげのきしより強いので、倒すのには少し時間がかかるだろうな。

まだかげのきしを倒していないみんなは、他の魔物にも囲まれて、危険な状態に陥ってしまった。

 

「早くこいつらを倒して、みんなを助けにいかないとな」

 

俺は目の前にいる魔物たちを倒して、みんなを援護に向かおうとする。

しにがみのきしは斧を連続で振り下ろして、俺を叩き斬ろうとしてきた。

おうじゃのけんの力があれば奴らの斧を受け止め、弾き返すことも可能だが、多くの敵と戦っている状態では攻撃を弾き返す隙がない。

しにがみのきしは攻撃力は高いものの、攻撃速度はそんなに早くないため、俺は攻撃の合間に、奴らに剣を叩きつけていった。

ブラバニクイーンも力を溜めて突進して来るので、奴らの動きも見ながら、俺は戦いを進めていった。

 

「体力は使うけど、こいつらを倒しきれそうだな」

 

何度も攻撃を避け続けているので少し疲れて来るが、体力が尽きる前に奴らを倒しきることが出来るだろう。

おうじゃのけんやビルダーハンマーで攻撃していくうちに、奴らはだんだん弱っていった。

 

「おのれビルダー!どこまで我らを邪魔するのだ!」

 

しにがみのきしは怒りの声を上げるが、攻撃の速度はさっきよりも落ちていた。

このまま奴らを倒せば、みんなを援護に向かえるだろう。

俺は攻撃の手を緩めず、しにがみのきしやブラバニクイーンへの攻撃を続けた。

 

しかしそんな時、魔物の大軍の後衛にいたコスモアイとだいまどうが、さっきのメーダクインのように、俺たちの側面へと移動し始める。

これではみんなの援護が出来ないどころか、ますます危険な状況になってしまうな。

ただでさえ厄介な遠距離攻撃が出来る魔物に、危険な状態であるみんなが襲いかかられれば、攻撃を避けきれず、殺されてしまう可能性が高い。

 

「援護に行けそうだと思ったのに、あいつらまで出てきたか…」

 

俺は弱っていたしにがみのきしとブラバニクイーンたちを倒し、コスモアイたちをサブマシンガンで迎え撃とうとする。

しにがみのきしたちはもう死にかけの状態だったので、俺は斧を振り下ろした後の隙に奴らの心臓におうじゃのけんを突き刺して、とどめを刺していった。

残ったブラバニクイーンたちも、突進の後には隙が出来るので、俺はその間に剣を振り下ろして倒していく。

俺と戦っていた魔物たちが全滅すると、左側から襲ってくるコスモアイとだいまどうに向けて、サブマシンガンを構える。

 

「俺があいつらと戦っている間、みんなが持ちこたえていてくれればいいんだけどな…」

 

ゆきのへとルミーラもしにがみのきしとブラバニクイーンたちを倒しており、ゆきのへはロロンドの援護に向かい、ルミーラは右側から襲ってくるコスモアイたちを倒そうとする。

これでロロンドは大丈夫だろうが、バルダスや兵士たちは魔物の攻撃を何度か受け、かなりの傷を負っていた。

コスモアイたちと戦っている間、持ちこたえていてくれ…そう思いながら、俺は奴らにサブマシンガンを向けた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode145 闇を纏う者(後編)

俺たちのところに近づいて来ると、コスモアイは光線で、だいまどうはメラミの呪文で攻撃して来る。

コスモアイたちはしにがみのきしたちに囲まれているバルダスたちにも攻撃しようとしていたが、サブマシンガンで撃つと、俺に集中して攻撃を浴びせて来た。

 

「あの武器は厄介だ…!先にビルダーを殺せ!」

 

「ビルダーを焼き殺せば、エンダルゴ様もお喜びになるぞ!」

 

俺は8体のコスモアイと、6体のだいまどうに狙われてしまうことになる。

しかし、光線を溜めるのにもメラミを唱えるのにも時間がかかるので、動きを見極めて回避するのはそんなに難しくなかった。

俺は攻撃を避けながら、サブマシンガンで奴らの体を撃ち抜いていく。

 

「こいつらも、メーダクインと同じように倒せそうだな」

 

コスモアイはこの前サンデルジュに襲ってきた奴らと同じで、10発ほど目を撃ち抜かれると、力尽きて消えていった。

コスモアイたちが倒されていくと、だいまどうたちは広範囲を攻撃出来るベギラマの呪文で、俺を焼き尽くそうとして来る。

 

「まだ生きているか…だが、何をしようと、ここで貴様は焼け死ぬのだ!」

 

「ベギラマ!」

 

6体のだいまどうにベギラマを撃たれたら、ジャンプでも回避しきれるか分からないな。

何とか避けるために、俺は城のほうに走って後退して、ベギラマの射程範囲の外に出ようとした。

走りながらも、俺はサブマシンガンで奴らを撃っていく。

はがねの弾丸で次々に目を撃ち抜かれていき、コスモアイは残りわずかになっていった。

 

「ベギラマも避けられたし、コスモアイももう少しで全滅だ」

 

城に走っていくと、コスモアイたちも俺を攻撃するために追い掛けてくる。

奴らを城に近づけてしまうことになるが、まだかなりの距離があるので、城を破壊されることはないだろう。

監視塔のおかげで城を守りやすくなったと、実感出来るな。

ベギラマを走って避けながら、俺はコスモアイやだいまどうたちを倒していった。

 

「まだ避け続けるか…!いい加減にするんだな!」

 

だいまどうは追い詰められても、ベギラマの詠唱を続けていく。

俺はしばらく走り続けて疲れて来ていたが、回避が出来なくなるほどではなかった。

サブマシンガンで倒し続け、コスモアイは全滅し、だいまどうは残り1体になる。

 

「攻撃は激しかったけど、残り1体だな…これでみんなを救援に行ける」

 

最後の1体が呪文を唱え始めると、俺はおうじゃのけんを構えて、そいつのところに向かっていった。

そして、ベギラマが発動する前におうじゃのけんを突き刺し、とどめを刺す。

だいまどうは杖で剣を防ごうともしていたが、奴らはそんなに腕力のある魔物ではないので、押し切ることが出来た。

俺と戦っていただいまどうが全滅したのを見ると、みんなのところへ向かっていく。

 

ルミーラは苦戦はしていないものの、まだ他のコスモアイやだいまどうと戦っており、倒すのにはもう少し時間がかかりそうだった。

ゆきのへはバルダスを、ロロンドはチョビを援護するために、しにがみのきしたちと戦っている。

 

「ラスタンとオーレンがまだ危険な状態だな…」

 

ラスタンとオーレンはまだ苦戦している状態なので、俺はこの二人を援護しないといけないな。

だが、二人を同時に助けるのは難しいので、俺はまずラスタンを助けに行こうとする。

ラスタンはかげのきしたちを倒すことは出来ていたが、ブラバニクイーンやしにがみのきしの攻撃で大きなダメージを負っていた。

体力をかなり消耗しており、動きも遅くなっている。

 

「まだ敵はたくさんいるな…一体どうすれば…」

 

「残念だったな、大事な城を壊されることになって。お前も姫も、この世界から消してやる!」

 

動きが鈍ったラスタンを目掛けて、しにがみのきしの1体が思い切り斧を振り下ろそうとする。

奴は俺には気づいていないようなので、足音を立てないようにして、後ろに回り込んだ。

そして、斧を振り下ろす直前に、背中におうじゃのけんを突き刺す。

突然背後から鋭い剣を突き刺され、しにがみのきしは声を上げて怯み、攻撃の手を止めた。

それを逃さず、俺は奴の頭に向かって、おうじゃのけんを叩きつけた。

しにがみのきしが突然倒され、まわりにいた2体のブラバニクイーンたちも驚いて動きを止める。

奴の体が消えていくと、ラスタンは俺の顔を見て、少しは安心した顔になった。

 

「雄也か…危ないところだったが、助かった」

 

「ああ、でもまだ魔物はたくさんいるぞ…」

 

ラスタンは体勢を立て直し、俺は驚いている奴らに向かって攻撃していく。

とどめを刺す前にブラバニクイーンたちは起き上がってしまうが、かなり弱っているのでもうすぐ倒せるだろう。

奴らは起き上がった後、力をためて突進し、俺たちを角で突き刺そうとして来る。

弱っているラスタンは突進を避けきれないかもしれないので、俺はその前に倒そうとした。

 

だが、ブラバニクイーンたちは俺の攻撃に耐えきり、突進を初めてしまう。

1体は俺のところに来て、もう1体はラスタンのところに向かった。

俺は回避することが出来たが、体力を消耗しているラスタンはやはりかわしきることが出来ない。

 

「…くううっ!」

 

ラスタンはメタルの剣を使って突進を防ごうとしたが、弾き飛ばされそうになってしまう。

俺はすぐに反応し、ブラバニクイーンを斬り裂いて倒すが、ラスタンはかなり腕が痛むようで、かなり苦しそうな表情になった。

もう1体のブラバニクイーンも倒すと、俺はラスタンに声をかける。

 

「大丈夫だったか、ラスタン?」

 

「ああ…だが、やはり強力な魔物だらけだな…」

 

ラスタンは大丈夫だと言うが、彼がこれ以上戦い続けるのは難しいかもしれないな。

まだ多くの魔物がいるのに、ラスタンが戦えないとなると、さらに厳しい戦いになりそうだ。

彼が心配だが、オーレンのことも助けに行かなければいけないので、俺はオーレンのところに向かっていく。

 

「俺はこれからオーレンを助けに行ってくる。ラスタンは下がっててくれ」

 

オーレンもさっきのラスタンのようにしにがみのきしと2体のブラバニクイーンに囲まれ、追い詰められていた。

全身に傷を負い、ついには倒れ込んでしまいそうになる。

急いで助けようと思い、俺は剣とハンマーを構えて背後にまわっていった。

ゆきのへとルミーラもそれぞれが戦っていた魔物たちを倒しており、オーレンの救援に来ている。

 

「みんなも来ているな…一気に奴らを倒せそうだぜ」

 

俺たちはほぼ同時に魔物たちに攻撃し、俺はしにがみのきしを、ゆきのへとルミーラはブラバニクイーンを倒した。

まわりの魔物たちが全滅し、オーレンも救うことが出来たが、彼も戦い続けるのは厳しい状態になっている。

 

「…ありがとうございます。みなさんのおかげで命拾いしました…」

 

感謝の言葉を言うのも、やっとの状態だ。

ロロンドとゆきのへに助けられたバルダスとチョビも、体力の限界が近づいているようだった。

 

だが、休んでいる暇など訪れなかった。

ブラバニクイーンやしにがみのきしを倒した俺たちのところに、次は8体のダースドラゴンが襲いかかって来る。

ダースドラゴンたちは、灼熱の炎を吐いて俺たちを焼き尽くそうとしてきた。

 

「しにがみのきしたちを倒したと思ったのに、もうダースドラゴンが来たのか…」

 

炎を吐いている敵に近づくことは出来ないので、俺たちは後退を余儀なくされる。

弱っていたラスタンたちも、何とか走ることは出来るようなので、奴らの炎に焼き尽くされないように後ろに下がった。

だが、炎を避けることは出来ても、逃げ続けていたらラダトーム城が滅ぼされてしまうな。

 

「連戦は大変だけど、何とかしてあいつらを止めないとな…」

 

ダースドラゴンはそんなに動きが速くないので、サンデルジュの魔物と戦ってきた今の俺たちなら、奴らの横に回り込んで攻撃することも出来るはずだ。

しかし、奴らもそれは分かっているようで、ダースドラゴンの軍団の左右にはエビルトレントたちも構えていた。

俺は少しでも奴らにダメージを与えようと、再びサブマシンガンを使い始める。

はがねの弾丸ならダースドラゴンの硬い鱗も突き破り、傷をつけることが出来ていた。

 

「銃ならダメージは与えられるけど、なかなか倒れないな」

 

でも、傷は与えられるものの、なかなか倒れる気配はなかった。

ダースドラゴンは巨体なので、生命力もかなり高いな。

いくら大量のはがねの弾丸を用意していたとは言え、さっきのメーダクインやコスモアイたちとの戦いでも消費したので、弾切れを起こしてしまいそうだ。

 

ルミーラも麻痺の矢を、ダースドラゴンに向かって放ち続けていた。

灼熱の炎で矢が燃えないよう、奴らの背中のトゲのような部位を狙って撃っている。

ルミーラの矢も少しは効果はあったが、ダースドラゴンはキースドラゴンより麻痺耐性も高いようで、動きを止めることは出来なかった。

 

「わたしの矢を使っても、なかなか止められないね」

 

俺たちは後退しながら撃っているので、このままだとやがて奴らもラダトーム城に到達してしまうな。

そうなる前に、何とか手を打たないと。

俺はサブマシンガンを撃ちながら、使えるものがないか考えていった。

 

「銃も弓も効かないか…何とか動きを止められないのか?」

 

考えているうちに、ダースドラゴンたちはどんどん城に近づいていく。

 

そんな中で、俺は昨日ロロンドの頼みで補充した、グレネードとまほうの玉を思い出した。

それらは大きな爆発を起こす兵器であり、大砲と同じくらいの威力があるだろう。

生命力の高いダースドラゴンにも、致命傷を与えられるかもしれない。

ムツヘタは俺がいない時の防衛戦で、ロロンドの持ってきたグレネードとまほうの玉が役に立ったと話していたが、今回も役に立つことになりそうだ。

俺はグレネードを使うことを、ロロンドに伝える。

 

「…もしかしたら、グレネードなら奴らを倒せるかもしれない。ロロンド、一緒にグレネードを投げるぞ!」

 

「ああ、我輩も共に魔物どもを爆破してやろうぞ!」

 

俺の指示を聞くと、ロロンドはグレネードを持ち運び収納箱から取り出した。

そして、俺と同時に、ダースドラゴンの群れに向かって投げつける。

俺たちが投げたグレネードは、奴らの背中に落ちていった。

ダースドラゴンは、突然背中に落ちてきた硬い物を振り落とそうとする。

だが、背中から振り落とした瞬間、グレネードは爆発を起こし、奴らを吹き飛ばそうとした。

 

爆発に巻き込まれ、ダースドラゴンたちは大きなダメージを受ける。

まだ死にはしなかったが、一瞬の間怯み、灼熱の炎の威力も少し弱まった。

 

「かなり効いてるな…。ロロンド、攻撃を続けるぞ!」

 

ダースドラゴンを倒そうと、俺たちはグレネードを投げ続ける。

奴らの左右にいるエビルトレントたちも、同じように爆破していった。

俺の持っているものとロロンドの持っているものを足すと、グレネードは30個ある。

奴らの軍団を壊滅させるのに、十分な数だと言えるだろう。

 

ダースドラゴンたちもグレネードの爆発でなかなか倒れようとせず、ラダトーム城に向かって進み続けた。

しかし、何度も爆発に巻き込まれると、さすがに耐えきれず、大きく体勢を崩す。

俺はそこでとどめを刺そうと、ポーチからまほうの玉を取り出す。

 

「かなり弱っているな…まほうの玉でトドメを刺してやるか」

 

弱っているダースドラゴンたちに、もう灼熱の炎を吐く力はない。

俺とロロンドは奴らの足元に向かって、まほうの玉を設置していった。

まほうの玉はグレネードより威力が高く、弱っているところに爆風を直撃させれば、ダースドラゴンの軍団を全滅させられるだろう。

まほうの玉を使うと周囲の地面までも破壊してしまうが、今はそんなことを気にしてはいられない。

置かれたまほうの玉は、数秒後に大爆発し、奴らの体を青い光に変えていく。

生き残った者もいたが、既に瀕死で動けなくなっているので、俺たちはもう一度まほうの玉を使った。

 

「1度耐えても、もう一回爆破してやるぜ」

 

広い範囲を2度も爆破したので、かなりの数のまほうの玉を使ってしまったことになる。

だがこれで、ダースドラゴンとエビルトレントたちを全滅させられたな。

ラダトーム城を襲撃してきた全ての魔物を倒すまで、もう少しだろう。

残りはゴールデンドラゴン、ボストロール、トロルキングと、暗黒に染まった騎士だ。

ダースドラゴンたちを倒した俺たちのところに、まずは6体のゴールデンドラゴンが迫って来ていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode146 滅ぼしの魔斧

ゴールデンドラゴンたちはこの前の奴らのように、巨大な火球を吐いて俺たちを攻撃して来た。

俺たちはまたしても後退していき、魔物たちはさらにラダトーム城に近づいてしまう。

ダースドラゴンと同じで近づいて倒すのは難しそうなので、俺とロロンドは再びグレネードを使っていった。

 

「ゴールデンドラゴンにも、グレネードは効くだろうな」

 

ゴールデンドラゴンはグレネードを避けようともしていたが、奴らの移動速度はあまり早くないので、爆風をかわしきることは出来ていなかった。

奴らはダースドラゴンより生命力も高いが、何度かグレネードの爆発を受けるとかなりのダメージを受けたようで、大きく怯む。

まほうの玉を使えるような隙はなかなか生まれないが、このままグレネードを使っていれば、安心して倒すことが出来るだろう。

俺とロロンドがグレネードを投げ続けていると、ゆきのへも手伝いたいと言って来た。

 

「雄也、ワシにも手伝わせてくれねえか?」

 

「分かった。3人で攻撃して、あいつらを倒してやろう」

 

3人でグレネードを投げれば、より早く奴らを倒せるかもしれないな。

俺はそう返事をして、ゆきのへに数個グレネードを渡す。

ゆきのへはグレネードを使ったことが1度もないが、奴らにダメージを与えることは出来ていた。

3人での攻撃を受け続け、ゴールデンドラゴンはだんだん弱っていく。

追い詰められた奴らは火球を吐き出すことをやめて、魔物の軍団の後ろに下がろうとしていった。

 

「後ろに下がるつもりか…でも、ここで逃す気は無い」

 

今度はトロルキングとボストロールたちが、前に出てこようとして来る。

トロルキングとも戦わないといけないが、俺たちは先にゴールデンドラゴンを倒そうと、グレネードを投げ続けた。

そうしていると、奴らのうちの2体が力尽きて動けなくなり、動けなくなったところにさらなる爆発を受けて倒れる。

 

「2体は倒したな…残りの4体ももう少しで倒せそうだぜ」

 

生き残っている4体にも、俺たちはグレネードを投げる手を止めなかった。

グレネードも残り少しになっているが、奴らを全滅させることは出来るだろう。

 

だが、4体のゴールデンドラゴンが倒れる前に、トロルキングが前に出てきてしまう。

手下のボストロールたちも、棍棒を持って殴りかかってきた。

 

「ここまで我らを追いつめるとは…絶対に許さんぞ!」

 

「もうお前たちに希望はない…なのになぜ諦めない!」

 

トロルキングの棍棒には、ルビスが死んだ後も戦いを続けようとする俺たちへの怒りがこもっており、非常に威力が高い。

俺たちはトロルキングたちの攻撃をジャンプで回避して、奴らの足元に斬りかかった。

 

「もうこいつらが来てしまったか…動きは遅いから、近づいて戦えそうだな」

 

トロルキングは棍棒でしか攻撃出来ないし、動きも遅いので、近づいて戦うことが出来る。

グレネードはゴールデンドラゴンを倒すのにとっておきたいので、俺たちは剣とハンマーで戦うことにした。

トロルキングとボストロールは合わせて8体いる。

俺は2体のトロルキングと戦い、ゆきのへたち3人は2体ずつボストロールを相手していった。

バルダスや兵士たちは大きな傷を負っているので、後ろに下がっていた。

トロルキングの棍棒は当たると危険だが、攻撃を避けた後には隙が出来る。

 

「威力は高いけど、何とか避けられそうだな」

 

奴らの攻撃を確実に避けていき、次の攻撃までの間に両腕の武器を叩きつけた。

生命力がかなり高い魔物なので簡単には倒れないが、ダメージを与えられている。

足に傷をいくつか負うと、トロルキングたちはさっきよりも強い口調で俺に怒鳴って来た。

 

「我らを倒したところで無駄だ!人間の滅亡は避けられん!」

 

「人間どもはもう終わりだと言ってるだろ!」

 

確かにここでこいつらを倒せても、これからも城を守り続けられるかは分からない。

だが、それでも俺は戦い続けると決めたんだ。

奴らは棍棒を振り続けるが、俺もおうじゃのけんとビルダーハンマーでの攻撃を止めない。

トロルキングたちの足だけでなく、腹にも傷をつけることができ、少しは弱らせることが出来ていた。

 

「耐久力が高い奴らだけど、確実に弱ってきているな…」

 

俺も奴らの棍棒を避け続けて、かなり体力を消耗してしまうが、もう少しは戦い続けることが出来そうだ。

ゆきのへたちもそれぞれの武器で、ボストロールたちを弱らせることが出来ていた。

奴らが弱ってきたのを見て、さっき後ろに下がったゴールデンドラゴンたちも再び襲ってくる。

トロルキングたちを巻き込まないように火球は使わず、巨大な爪で俺たちを引き裂こうとしてきた。

 

「ゴールデンドラゴンも戻ってきたか…避けるのが難しくなるな」

 

やはりトロルキングたちが来る前に、ゴールデンドラゴンを倒せていればよかったな。

ゴールデンドラゴンは、俺たち4人のところに1体ずつ襲って来た。

3体もの巨大な魔物に囲まれ、俺は少し回避が難しくなってしまう。

 

「でも、ゴールデンドラゴンはすぐに倒せるはずだ」

 

しかし、ゴールデンドラゴンはさっきのグレネードでかなり弱っているので、もう少し攻撃すれば倒すことが出来るだろう。

俺はトロルキングたちの攻撃を避けながら、ゴールデンドラゴンを先に倒すことにする。

奴は攻撃の速度も遅くなっており、俺は爪を避けて奴の口に近づいた。

そして、次の攻撃までの隙に、奴の口におうじゃのけんを突き刺す。

体内を貫かれると、ゴールデンドラゴンは怯んで動きを止めた。

 

「動きが止まったな…今のうちに頭を叩き潰しておくか」

 

動きが止まったところで、俺はすぐにおうじゃのけんを抜き、奴の頭にビルダーハンマーを叩きつけられる。

弱っているところで頭をハンマーに潰され、ゴールデンドラゴンは死にかけになっていた。

みんなも襲ってきたゴールデンドラゴンと戦い、弱らせることが出来ている。

トロルキングたちも、俺たちはここで倒すことが出来るだろう。

 

だがそんな時、ゴールデンドラゴンと戦っていたロロンドのところに、暗黒の鎧を纏った騎士の魔物が斬りかかって来る。

 

「ここまで我らと戦うとは…決して生きて返すことはせん!ビルダーと手を組みし者め、まずは貴様から叩き斬ってやる!」

 

暗黒の魔物はしにがみのきしと同じくらいの攻撃速度であるが、体が大きく、異様なまでの闇の力を放っている。

そいつにも囲まれ、ロロンドは攻撃を避けきることがさらに難しくなっていた。

ボストロールたちにも囲まれ、彼は追い詰められてしまっている。

その様子を見て、後ろに下がっていたラスタンたちが前に出てきた。

 

「怪我をしていても、兵士として下がっている訳にはいかない…今すぐ援護に向かうぞ!」

 

ラスタンは残った力を腕に込めて、メタルのけんで暗黒の魔物に背後から斬りかかる。

背後から攻撃も受ければ、奴もかなりのダメージを受けるだろう。

メタルのけんはかなり硬いので、暗黒の魔物の鎧を斬り裂いていった。

だが、奴はほとんど怯んだ様子を見せず、斬りつけてきたラスタンに向かって斧を叩きつける。

 

「何も出来ない無力な兵士め…まだ生きていたか!斬り裂いてやる!」

 

弱っているラスタンは避けきることが出来ず、メタルのけんを弾き飛ばされてしまった。

体勢を崩したラスタンに暗黒の魔物はとどめを刺そうとするが、そこにオーレンやチョビ、バルダスも助けに入ろうとする。

だが、暗黒の魔物は彼らの武器も弾き飛ばそうとして来る。

 

「同じようなのが何人も来たところで同じだ!全員殺してやる!」

 

奴は普通のしにがみのきしより口調も強く、やはりただ者ではない。

このままでは4人とも殺されてしまうので、早く俺も助けにいかないといけないな。

 

「早くあの魔物のところに向かわないとな…」

 

俺は瀕死になっているゴールデンドラゴンに何度か攻撃を加えて、とどめを刺すことが出来た。

だが、2体のトロルキングも倒さなければ、みんなを助けにはいけそうになかった。

トロルキングたちも弱っているものの、倒すのにはもう少し時間がかかる。

しかし、戦っている間に、ラスタンたちは暗黒の魔物に殺されてしまうだろう。

 

「残ったグレネードを使って、こいつらを爆破してやるか」

 

みんなのところに急ぐために、俺は残ったグレネードを使ってトロルキングを爆破しようとする。

ゴールデンドラゴンを倒すためにとっておこうとしていたが、奴はさっき剣で斬り殺した。

今回の2体のトロルキングは、この前サンデルジュに来たトロルキングよりは体が小さく、グレネードを全て使えば倒すことが出来るかもしれない。

俺は持っている全てのグレネードをポーチから取り出し、トロルキングに向かって一斉に投げつけた。

ゆきのへとロロンドにも、トロルキングにグレネードを投げるように指示する。

暗黒の魔物はラスタンたちを攻撃しているので、ロロンドは一時的に危機を脱していた。

 

「ゆきのへ、ロロンド!トロルキングに全てのグレネードを投げてくれ!」

 

二人もそれぞれが戦っている魔物の攻撃を避けながら、トロルキングに向かってグレネードを投げつける。

俺は爆発に巻き込まれないように、大きくジャンプしてその場を離れた。

トロルキングたちは動きは遅いので、爆風を避けきることは出来ない。

足元で全てのグレネードが大爆発を起こし、奴らの体を吹き飛ばした。

周囲の地面が大規模に砕けるほどの爆発であり、トロルキングは大ダメージを受けて体勢を崩す。

トロルキングたちが体勢を崩したところを見て、俺はすぐに両腕に力を貯めて奴に近づいていった。

そして、力が最大にまで溜まると、俺は回転斬りで2体の体を引き裂く。

 

「終わりだ、回転斬り!」

 

大爆発で死にかけているところに二刀流での回転斬りを受けて、トロルキングたちは倒れ、大きな青い光となって消えていった。

 

「グレネードの力もあって、何とかトロルキングを倒せたな。ラスタンたちのところへ行こう」

 

トロルキングが倒れたのを見ると、俺はすぐに暗黒の魔物と戦っているラスタンのところに向かっていった。

暗黒の魔物は闇を纏った斧をみんなにも叩きつけ、オーレンたちのメタルのけんも弾き飛ばしている。

バルダスのトゲつき棍棒は、奴の攻撃の衝撃に耐えきれず、折れてしまっていた。

俺はおうじゃのけんを構えて、急いで奴に斬りかかっていく。

しかし、近づいて来たのを見て、暗黒の魔物は俺の方に向かって暗黒の斧を振り下ろした。

 

「ビルダーめ、お前もここで死ぬんだな!闇の力が屈するがいい!」

 

奴が斧を降った瞬間、斧から闇の刃が飛び出て、俺を斬り裂こうとして来る。

あの魔物は、闇の力を使って遠距離を攻撃することも出来るのか。

俺は突然飛んできた闇の刃をかわしきれず、両腕の武器で受け止めようとした。

闇の戦士ほどではないが非常に強力な一撃であり、俺は体勢を崩しそうになってしまう。

俺が体勢を崩している間に、暗黒の魔物はラスタンたち4人を斧で薙ぎ払おうとしていた。

 

「ビルダーはまだ生きているか…だが、貴様らはもう終わりだ!」

 

このままでは4人とも死んでしまう…そう思ったオーレンは、暗黒の魔物の前に立って後ろの3人をかばう。

暗黒の魔物は容赦なくオーレンを斬り裂き、彼は腹に大きな傷を負ってしまった。

俺は体勢を立て直し、暗黒の魔物のすぐそばにまで近づいていく。

奴が闇の刃を飛ばして来るのは分かっているので、今度はかわすことが出来た。

 

「今度はくらわないぞ!これ以上みんなを傷つけはさせない」

 

「そんなことを言っても、無駄だと知れ!」

 

暗黒の魔物に近づくと、俺は奴の鎧に向かっておうじゃのけんとビルダーハンマーを叩きつける。

思い切り攻撃したので、奴の鎧にも大きな傷がついた。

しかし、やはり奴は全く怯む気配を見せず、連続で大きな斧を振ってくる。

暗黒の魔物の耐久力は、サンデルジュに来たトロルキング以上かもしれないな。

だが、グレネードはもうないし、あったとしても奴は移動が速いので避けられるだろうから、剣とハンマーで倒すしかない。

暗黒の魔物との戦いは、かなり厳しいものになりそうだ。

 

「どうしたビルダー?その程度の力では、エンダルゴ様どころか、我を倒すことも出来んぞ!」

 

俺は暗黒の魔物の攻撃を避けながら、何度も剣とハンマーを叩きつけていく。

しかし、どれだけダメージを与えても、奴は弱る気配ほほとんど見せなかった。

奴は俺に向かってそんなことを言いながら、暗黒の斧を何度も振り下ろして来る。

 

「くそっ、思った以上に強い敵だな…!」

 

さっき暗黒の魔物の攻撃を受けたオーレンも、大量に出血して意識が朦朧としており、早く治療しなければいけなさそうだ。

 

今まで俺たちは魔物たちを城に近づけないように戦っていたが、この暗黒の魔物を倒すには城の設備を使ったほうがいいかもしれないな。

この前作った六連砲台を使えば、ボストロールやゴールデンドラゴンの軍団も壊滅させられるだろう。

城に入れば、オーレンも安全に治療を受けられるはずだ。

 

「城の設備を使って、こいつらを倒すか…」

 

奴らをラダトーム城に近づければ、城が壊される可能性も高まってしまうが、俺もみんなも体力をかなり消耗している。

俺は城の設備で暗黒の魔物を倒したいと、みんなに伝えた。

 

「みんな、聞いてくれ!こいつは強いし、オーレンも怪我を負ってしまった。だから、城の設備を使ってこいつらを倒す!」

 

「分かったぜ!ワシらの兵器なら、奴らを砕けるはずだ!」

 

ゆきのへはそう言い、みんなも戦いを一旦城に戻ろうと走り始めた。

重症を負って動けないオーレンは、ラスタンとチョビの二人が運んでくれている。

足に残った力を使って、俺たちは奴らより早くラダトーム城へと戻って行った。

 

「城の兵器を使おうが、我は倒せん!城ごと破壊し尽くしてやる!」

 

暗黒の魔物もそう言いながら、ボストロールやゴールデンドラゴンたちと共にラダトーム城へと向かっていく。

 

城に戻って来ると、俺はすぐに六連砲台の床用スイッチの前に立ち、発射準備をした。

ラスタンとチョビ、バルダスは、オーレンの治療をするために中に入っていく。

魔物たちが近づいて来ると、俺は床用スイッチを踏もうとした。

 

「あの魔物はかなり強力だったけど、これで倒せるはずだな」

 

俺がそう言いながらスイッチを踏んだ瞬間、二つの大砲から3つずつ大砲の弾が発射され、合計6発の砲弾が魔物の群れの中心で炸裂する。

さっきトロルキングたちを倒したグレネードの爆発より巨大な爆発が起こり、魔物の群れの大部分に爆風が広がった。

ボストロールたちも、棍棒で防ぎきることは出来ない。

爆発に巻き込まれた魔物たちは耐えきれず、光を放って消えていく。

残っているのは、爆発の範囲の外にいたボストロール2体と、ゴールデンドラゴン1体だけになると、俺は思っていた。

 

しかし、暗黒の魔物は6発の砲台を生き延びて、俺たちを睨みつけてくる。

 

「確かに人間とは思えぬほどの、強力な兵器だ…だが、我をそれで倒すことは出来ん!」

 

1発でも強力な砲台を6発受けても倒れないほど、あの暗黒の魔物は強力なのか…。

奴は俺に向かってそう言って、何か呪文のようなものを唱え始める。

すると、闇の力の爆発が起こり、俺が立っていた辺りを吹き飛ばしていった。

俺はすぐにジャンプして回避するが、六連砲台は壊されてしまう。

 

「こいつもドルモーアを唱えるのか…詠唱速度も、かなり早いな…」

 

エビルトレントや闇の戦士も使う、ドルモーアの呪文だな。

闇の戦士ほどではないがかなり発動が早く、詠唱時間は数秒しかないようだ。

ここまでの力を持つ暗黒の魔物は、一体何者なんだ…?と俺は思う。

だが、そんなことを思っている間にも、奴は闇の刃で攻撃してきた。

 

「砲台はもう使えないし、剣で倒すしかないか…」

 

俺は闇の刃を避けながら、暗黒の魔物にまた剣で斬りかかっていく。

倒すことは出来なくても、砲弾を受けたことで弱らせることは出来ただろう。

ゆきのへとロロンドはボストロールと、ルミーラはゴールデンドラゴンと戦っていく。

残った魔物は4体であり、もう少しで倒すことが出来そうだ。

俺が近づいていくと、暗黒の魔物は再び斧を振り回して攻撃して来る。

 

「まだ立ち向かってくるか…!エンダルゴ様の力で変異した我を、貴様が倒すことは不可能だと言ってるだろ!」

 

斧を扱いながら、暗黒の魔物はそんなことを言って来た。

エンダルゴの力で変異したというのは、どう言うことなんだ?

こいつの斧や鎧はしにがみのきしのものと似ているので、奴は今まではしにがみのきしだったのかもしれない。

 

「エンダルゴの力で変異したって、どう言うことだ?」

 

「エンダルゴ様は我に、強大な闇の力を与えてくださったのだ。そのおかげで我はこの姿に変異し、ここまでの力を手にした。エンダルゴ様は我のことを、滅ぼしの騎士と呼んでいる」

 

戦いながらこんな話が出来るとは、奴はまだ余裕のつもりのようだな。

闇の力で体が変異したと言うのは、闇の戦士が竜王の闇の力で人間の姿から今の姿に変わったのに似たようなことなのだろう。

こいつは元々の力も人間への憎しみも元勇者よりは弱いので、あれほどの力はないようだが、普通の魔物とは比較にならないほどの力は手に入れたようだ。

エンダルゴからは、滅ぼしの騎士と呼ばれていたのか。

話が終わった後も、滅ぼしの騎士は暗黒の斧を振り続ける。

 

「この闇の力は、人間には決して及ばぬ者だ。諦めて滅びを受け入れろ!」

 

「確かにあんたはかなり強いが、俺も戦いをやめる気はないぞ!」

 

俺も奴の攻撃を避け続け、鎧を何度も剣とハンマーで叩き割ろうとしていった。

滅ぼしの騎士も素早さはしにがみのきしと変わらないので、攻撃を当て続けることは出来る。

ビルダーハンマーの強力な一撃を受けて、鎧も何ヶ所か変形していた。

砲弾のおかげもあって、奴はかなり弱ってきているようだった。

こいつも倒せなければ、エンダルゴも倒すことはできない…俺はそう思いながら、滅ぼしの騎士への攻撃を続けた。

 

だが、さっきからの戦いもあって、俺の体力にも限界が訪れて来てしまう。

奴の攻撃速度も遅くなって来ているが、俺の動きも鈍って来ていた。

早く倒さなければ、俺も攻撃を避けられなくなるかもしれない…そう思って、俺は滅ぼしの騎士にとどめを刺そうとする。

だが、追い詰められているにも関わらず、奴の余裕の表情は変わらない。

滅ぼしの騎士は鎧を着ているので、防御力は闇の戦士より高いかもしれないな。

俺の動きが鈍って来ているのを見て、奴は思い切り斧を叩きつけて来る。

 

「動きが遅くなっているぞ…戦いを続ける気ではなかったのか?」

 

それでも回避を続けたが、ついに避けきれなくなり、俺は滅ぼしの騎士の斧をおうじゃのけんとビルダーハンマーで防ぐことになってしまった。

両腕なら奴の攻撃を受け止めることが出来るが、押し切られそうになってしまう。

 

「くそっ、このままだと押し切られるな…」

 

「もう抵抗も限界のようだな、ビルダー」

 

だがそんな時、ゆきのへとロロンドもボストロールを倒し、俺のところに向かって来た。

滅ぼしの騎士は俺を押し切り、2人を闇の刃で攻撃しようとする。

みんなも体力は限界だろうし、早く決着をつけなければいけない。

俺は残った腕の力で滅ぼしの騎士を止めて、二人が近づけるようにした。

竜王やこの前のトロルキングの時のような激しい衝撃が腕に加わり、すぐに倒れそうになってしまうが、ゆきのへたちはそんな俺の様子を見て急ぐ。

 

「ワシらが戦っていた奴らは倒した…お前さんを助けに来たぜ!」

 

「我輩の剣で、あやつも斬り裂いてやろう!」

 

ゆきのへとロロンドは腕に力を込めて、滅ぼしの騎士に武器を叩きつける。

一度だけでなく、何度も二人は攻撃を行い、奴は怯みこそしなかったものの、相当なダメージを受けたはずだ。

 

「何人来たところで無駄だ!まとめて殺してやる、人間ども!」

 

滅ぼしの騎士の力で、ついに俺は押し切られて、体勢を崩してしまう。

だが、ゆきのへとロロンドが二人同時に、奴の斧を受け止めてくれた。

二人もすぐに押し切られそうになってしまうが、そこにゴールデンドラゴンを倒したルミーラも来て、奴の頭を撃ち抜こうとする。

 

「みんなが大変みたいだね…わたしも弓で援護する!」

 

ルミーラの矢では防御力の高い滅ぼしの騎士にあまり傷を与えられないが、頭を狙うことで、ダメージを大きくしていた。

俺との戦いで弱っていたところをロロンドとゆきのへにも攻撃され、ルミーラにも頭を撃ち抜かれた。

俺はここで滅ぼしの騎士を倒そうと、何とかおうじゃのけんを持って立ち上がり、奴の心臓を目掛けて突き刺す。

 

「みんなのおかげでチャンスが出来た…今のうちに倒す!」

 

奴の頭も同時にビルダーハンマーで叩き潰した。

俺たち4人の攻撃を受けて、滅ぼしの騎士はついに倒れて、消え去っていく。

ラダトーム城を襲った135体の魔物たちは、これで全て倒せたはずだ。

 

ラダトーム城の防衛戦が終わると、体力の限界だった俺たちは足を引きずりながら城の中に戻っていく。

 

「何とか滅ぼしの騎士を倒せたな…みんなの助けがなければ、危なかった」

 

重症も負っていたオーレンも治療を受けて、安静にしているようだった。

今回はこの前のように、非戦闘員にまで危険が及ぶことはなかったな。

だが、今回の滅ぼしの騎士のような強力な魔物がこれからも現れる可能性はあるだろうし、そこは少し不安だ。

俺はそんなことを思いながら、教会の中で休んでいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode147 希望の小舟

次回からメルキドの町に向かいます。

ドラクエビルダーズ2の発売までには完結させたい


ラダトームの防衛戦の3日後、アレフガルドの光が消えた6日後、俺たちは新しい武器や兵器について考え続けていた。

ラダトーム城を防衛する兵器だけでなく、エンダルゴを倒すための武器も考える。

エンダルゴを倒すのは、今のおうじゃのけんとビルダーハンマーでは難しいだろうからな。

伝説の武具を上回る力を持つ武器はなかなか思いつかないが、俺たちなら必ず作れるはずだ。

 

いろいろ考えながら城の中を歩いていると、悩んだ顔をしたロロンドに話しかけられる。

 

「雄也よ…お主に少し、相談したいことがあるのだ…」

 

新しい武器について、何か思いついたことがあるのだろうか。

どんなアイデアでもいいので、俺はロロンドの話を聞くことにした。

 

「もしかして、新しい武器を思いついたのか?」

 

「いや、実はメルキドのことが心配になっているのだ。先日のような強力な魔物が、我輩たちのメルキドにも襲ってくるのではないかとな…。我輩は一度、メルキドに戻りたいと思っておる」

 

だが、ロロンドは新しい武器の話ではなく、メルキドが心配だと言う話をして来る。

確かに、滅ぼしの騎士のような魔物が襲って来れば、メルキドは壊滅してしまう可能性が高いな。

メルキドの強固な防壁も、あれほどの力なら一瞬で壊されてしまうだろう。

滅ぼしの騎士は4人がかりで倒したが、今のメルキドに戦闘員はロッシとケッパーの二人しかいない。

ロロンドの話を聞くと、俺もメルキドが心配になって来るな。

 

「確かに、メルキドのことは心配だな…俺も一度様子を見に行きたい。メルキドのみんなとも協力すれば、新しい兵器も思いつくだろうからな」

 

メルキドの人たちとも協力すればより多くの新兵器を思いつくだろうし、そう言った点でも俺はメルキドに行きたい。

リムルダールやマイラにも、もう一度訪れてみたいな。

しかし、ルビスが死んだことで光のとびらは使えなくなったので、メルキドに戻るのは難しそうだ。

 

「でも、もう光のとびらは使えないぞ。どうやってメルキドに向かうんだ?」

 

「小舟を使って海を渡るつもりだ。お主には、小舟作りを頼みたい」

 

俺がそう聞くと、ロロンドは小舟を使うと言ってきた。

確かに、小舟があれば海を渡って、メルキドにたどり着くことが出来るだろう。

小舟は木材で作れるだろうし、木材はすぐに集めに行ける。

 

だが、俺たち二人がメルキドに向かえば、ラダトーム城を守る人が減ってしまうという問題もあった。

八人いても厳しい戦いだったので、二人も減ったら城が壊される可能性が高まってしまう。

俺たちの代わりに、ラダトーム城を守ってくれる人が必要になるだろう。

 

「小舟なら確かにメルキドに行けそうだな…でも、俺たちがメルキドに向かったら、ラダトーム城を守れる人が減ってしまう。誰かかわりに戦ってくれる人が必要だ」

 

ラダトームやサンデルジュの人間好きの魔物は、エンダルゴの部下の魔物に多くが殺され、生き残った者も隠れているので、協力を頼むことは出来ない。

俺がそう言うと、ロロンドも誰か協力してくれる人がいないかと考え始めた。

しばらく考え続け、ロロンドはおおきづちの里のおおきづちなら、助けてくれるかもしれないと話す。

 

「…お主におおきづちの作り方を教えてくれた、魔物のおおきづちたちなら助けてくれるかもしれん。彼らも、人間に友好的な魔物だからな」

 

おおきづちの里か…武器のおおきづちの作り方を聞いたのに、魔物のおおきづちの作り方を聞いたと勘違いされたのが懐かしいな。

魔物のおおきづちの作り方についても、今度は詳しく聞いてみたい。

おおきづちの長老ならかなり強いだろうし、人間にも友好的なので、一緒に戦ってくれそうだ。

でも、考えたくはないが、おおきづちが既に全滅していたり、長老を連れてくる前にラダトーム城が襲われる可能性もある。

 

「おおきづちの長老なら、ラダトームの魔物とも戦えるかもしれないな。でも、おおきづちたちが全滅していたり、連れてくる前にラダトーム城が襲われる可能性がある」

 

「だが、彼ら以外に協力を頼めそうな者はおらぬ。大丈夫であると、祈るしかない」

 

ロロンドの言う通りそれ以外に方法はなさそうので、祈るしかないか。

ラダトームへの援軍も決まると、俺は小舟の作り方をビルダーの魔法で調べようとする。

 

「…分かった。おおきづちたちの無事を祈って、メルキドに向かおう。小舟の作り方を調べてみるぜ」

 

「ああ、頼んだぞ」

 

ロロンドにそう言った後、俺は小舟と、小舟を漕ぐための櫂の作り方を調べた。

 

小舟…木材20個、鉄のインゴット5個 石の作業台

 

櫂…木材2個 石の作業台

 

小舟とは言え、かなりの数の木材が必要になるみたいだな。

鉄のインゴットは、木材を繋ぎ合わせるための釘になるのだろう。

俺とロロンドの二人で小舟を漕ぐことになるだろうから、櫂は2つ必要そうだ。

鉄のインゴットはたくさんあるので、24個の木材を用意して来れば良さそうだな。

俺が小舟と櫂の作り方を調べてそんなことを考えていると、ロロンドは作れそうかと聞いてくる。

 

「どうだ、作れそうか?」

 

「ああ、木材があれば、すぐに作れそうだ。ロロンドも手伝ってくれ」

 

ロロンドの力もあれば、木材の原料となるブナ原木はすぐに集まるだろう。

ラダトームの木は竜王の闇の力の影響で枯れ木になっていたので、俺はロロンドにいくつかせいすいを渡しておいた。

せいすいを枯れ木にかければ、葉が生い茂った木に変えることが出来る。

 

「このせいすいを使ったら、枯れ木を生きた木に変えられるはずだ」

 

せいすいを渡すと、ロロンドはさっそくラダトーム城の外にブナ原木を集めに行った。

俺もロロンドに続いて、城の外に出ていく。

ラダトーム城の南には枯れ木がたくさん生えている場所があるので、俺はそこを目指すことにした。

 

枯れ木の森に向かっている途中、俺は辺りをうろついている魔物の様子も見ていく。

スライムやスライムベス、ブラウニーと言った弱い魔物は数が減っており、かげのきしやまどうしと言った危険な魔物の数が増えていた。

かつては竜王の城にしかいなかったしにがみのきしも、何体か見かけられる。

 

「危険な魔物が多くて、進みにくいな…」

 

この前は枯れ木の森まで15分ほどでたどり着けたが、今回は20分くらいかかりそうだ。

魔物の様子を見ていて、もう一つ気づくことがあった。

 

「…おおきづちの姿が、一体も見かけられないな」

 

今までは人間の味方であるおおきづちもラダトーム平野を歩いていたが、今は全くいなくなっている。

看板に「おおきづちは人間の味方だ」と書いていたりしたし、エンダルゴの部下の魔物に人間の味方であることがバレてしまったのかもしれないな。

ラダトームのおおきづちがいなくなったのを見て、メルキドのおおきづちの里も滅ぼされているのではないかという不安が大きくなってしまう。

だが、それでもあのおおきづちの長老なら大丈夫なはずだと俺は思い続けながら、枯れ木の森に向かって行った。

 

不安を感じながらも20分ほど歩き続けて、俺は枯れ木の森にたどり着く。

 

「何とか見つからずにここまで来れたか…さっそくせいすいを使っていこう」

 

枯れ木の森に着くと、俺はポーチからせいすいを取り出して、辺りに振りまいていった。

枯れ木は葉が生い茂ったブナの木に変わっていき、俺はそれをビルダーハンマーで砕いていく。

10個くらいのブナ原木はすぐ集まったが、メルキドに行ってからも必要になるだろうから、俺はさらにたくさんの木を砕いていった。

 

「かなりの数が集まったな…ロロンドのところに戻るか」

 

十分な数のブナ原木が集まると、俺はポーチに入れてラダトーム城に戻っていく。

帰りも魔物に見つからないように進んでいったので、城に戻るのにはかなりの時間がかかってしまった。

 

ラダトーム城に入ると、ロロンドが待ちくたびれたような顔で俺を待っている。

ロロンドは城のすぐ近くでブナ原木を集めていたので、戻るのに時間がかからなかったようだ。

 

「ようやく戻ってきたか、雄也よ。木は集められたか?」

 

「もちろんだ。ロロンドが集めてきた物も使って、これから小舟を作って来るぜ」

 

ロロンドが集めてきてくれた木材も使えば、すぐに小舟を作れるだろう。

そう言うと、ロロンドは集めてきたブナ原木を俺に渡してくる。

 

「それなら良かった。小舟が出来たら、我輩に知らせてくれ」

 

ロロンドはブナ原木を20個くらい集めており、俺はそれらをポーチにしまって工房に向かっていった。

メルキドの現状はどうなっているか分からないが、早く向かったほうがいいだろう。

俺は工房の中に入ると、石の作業台の前に立ってビルダーの魔法を使い始める。

 

俺は最初に、ブナ原木を木材へと加工していった。

ブナ原木にビルダーの力を使うと、形が変わって木材として使いやすいものに変わっていく。

小舟と2本の櫂を作るのに必要な木材は24個だが、俺は持っている全てのブナ原木を木材へと変えていった。

原木のまま使うと言うのは、今のところ見たことがないからな。

 

「木材ができたな…これで鉄のインゴットも使えば小舟が作れるぜ」

 

全ての原木を木材に変えると、俺はいよいよ小舟を作り始めた。

20個の木材と5個の鉄のインゴットに魔法をかけると、それらが合わさって舟の形に変わっていく。

今まで俺が作ってきたどの道具よりも大きいので、加工にも時間がかかっていた。

だが、何分もビルダーの力をかけつづけていると、無事に小舟が完成していく。

メルキドに向かうのは俺とロロンドの二人の予定だが、もう何人か乗ることが出来そうだった。

 

「時間はかかったけど、小舟が完成したな。後は櫂を作ったら、ロロンドに教えよう」

 

小舟も魔法のポーチに入れることが出来たので、俺は完成した小舟を使って、2本の櫂を作っていく。

櫂は木材2個だけで作ることができ、あまり時間はかからない。

すぐに完成させることができ、俺は工房を出た。

 

工房を出ると、俺は小舟が完成したことを知らせにロロンドを呼ぶ。

 

「ロロンド、小舟が完成したぞ!これでメルキドに向かえそうだ」

 

この小舟を使ってメルキドやリムルダール、マイラの町に行き、アレフガルドのみんなと協力することが出来れば、エンダルゴを倒せる希望も強くなるだろう。

俺の声を聞くと、ロロンドは嬉しそうな顔で近づいて来る。

 

「おお、良くやったな雄也!これから共に、メルキドに行こうぞ!」

 

「ああ。まずはメルキドだけど、リムルダールやマイラにも行って、みんなでエンダルゴを倒すための兵器を考えるぞ」

 

ロロンドも早くメルキドに戻りたいようだし、今日のうちに出発したほうがいいだろうな。

だが、メルキドなどの町に行っている間、しばらくはラダトーム城に帰ってこないだろうから、みんなにも伝えたほうが良さそうだ。

 

「でも、しばらくラダトーム城を離れることになるから、みんなにも伝えておくぞ」

 

「分かった。連絡もなしにここを去るわけにはいかんからな」

 

俺がそう言うと、ロロンドもこれからメルキドに向かうことをみんなに伝えるために、希望のはたのところに向かった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode148 持てる全ての力を

俺とロロンドは、メルキドに戻ることを知らせるために、みんなを集めようとする。

希望のはたのところに立つと、俺はさっそくみんなを大声で呼んだ。

 

「みんな、俺のところに集まってくれ!大事な話があるんだ」

 

俺の声を聞くと、城の見回りをしていたオーレンとチョビが驚いた顔で集まってくる。

監視塔にいるラスタンは、魔物の監視を続けているものの、俺の声にも耳を傾けているようだった。

 

「どうなさったのですか、雄也殿?」

 

「全員を集めるって事は、大変なことでもあったのか?」

 

教会の中で新しい兵器を考えているゆきのへたちも、希望のはたの周りにやって来る。

みんなが集まって来たのを見ると、俺はメルキドに向かう話を始めた。

 

「みんな集まってくれたな。実はこれから俺とロロンドは、小舟を使ってメルキドに戻るつもりだ。しばらくみんなと別れることになるから、話しておこうと思ったんだ」

 

俺たちがメルキドに戻るという話を聞くと、みんな驚いた顔になる。

ずっとラダトーム城で戦って来ており、今日になるまでそんな話は出てこなかったので、仕方ないだろう。

俺とロロンドは驚いているみんなに、なぜメルキドに行くことになったか説明した。

 

「メルキド…確か、ロロンド殿の故郷でしたね」

 

「ああ。我輩たちと雄也が、共に作り上げてきた町だ。我輩はメルキドに、この前のような危険な魔物が来ないか心配になって、様子を見に行きたいと思っていたのだ。先ほど雄也に、メルキドに向かうための小舟を作ってくれと頼んだ」

 

「俺もメルキドが心配だし、あそこの人たちの力もあれば、新しい兵器が作れる可能性が高くなると思った」

 

ラダトーム城で武器や兵器の開発を進めるのもいいが、他の町のみんなとも協力すればより早く、よりたくさんの兵器を作ることが出来るだろう。

俺たちの話を聞いて、ムツヘタもメルキドと協力した方が強力な兵器を作れる可能性が高いと言って来る。

 

「確かにメルキドは、ひかりのよろいの製法が伝わっていた地じゃ…あの地に住む者の力も借りれば、エンダルゴを打ち破れる可能性は上がるじゃろう」

 

だが、オーレンは俺たちがいなくなった後、ラダトーム城の守りはどうするのかとも聞いてくる。

 

「ですが、雄也殿たちがいなくなれば、ラダトーム城を守れる者は減ります。一層この城を守るのが難しくなるでしょう」

 

オーレンもさっきの俺と同じで、その点を気にしているみたいだな。

俺は新たな味方となってくれる者…おおきづちの長老がいることを、みんなに伝えた。

 

「そこは多分大丈夫だ。新たな味方になってくれそうな人に、心当たりがある。メルキドにはおおきづちの里って言う、人間との争いを嫌うおおきづちが住んでいる場所があるんだけど、そこの長老がラダトームの防衛に協力してくれるはずだ。数時間もあれば、ここに連れて来られる」

 

エンダルゴとの戦いは、全ての人間に味方する魔物も巻き込んだ戦いになるだろう。

おおきづちの長老は体も大きいし、上位種のブラックチャックであるバルダスと同じか、それ以上の力を持っていると思われる。

数時間の間にラダトーム城が襲われないかは不安であるが、この話を聞いてみんな少しは安心した。

 

「確かに、新たな味方が来るのであれば、大きく戦力は下がらなさそうですね」

 

なるべく早くおおきづちの長老のところに行って、ここに彼を連れて来ないとな。

しばらくラダトーム城には戻らなくなるが、必ずエンダルゴを倒すための力をつけてくると俺はみんなに言う。

 

「ここにはしばらく戻って来ないけど、必ずエンダルゴを倒すための兵器や武器を作って来るつもりだ」

 

メルキドは衛兵のケッパーもいるので、回転斬りのような新たな剣技も覚えられるかもしれないな。

 

みんなにそう言った後、そろそろロロンドと共に出発しようと思っていると、ヘイザンがリムルダールやマイラにも行く気なのかと聞いてくる。

 

「一つ聞きたいが、メルキドだけでなく、リムルダールやマイラにも向かうつもりなのか?」

 

「もちろんだ。全ての町の人が協力したほうが、新しい兵器も作りやすいと思うからな」

 

メルキドだけでなく、全ての町の人々と協力したほうがいいと思うので、俺はもちろんリムルダールやマイラにも行くつもりだ。

俺がそう答えると、ヘイザンは自分も共に小舟に乗りたいと言って来た。

 

「それなら、ワタシも一緒に向かうぞ。故郷のリムルダールが心配だし、鍛冶屋としての腕ももっと磨きたいんだ」

 

ヘイザンはアレフガルド復興にずっと協力してくれていたが、これからも一緒に来てくれるのか。

小舟には俺とロロンド以外にももう何人か乗れそうなので、彼女も連れていくことが出来そうだな。

リムルダールが心配だと言うだけでなく、鍛冶屋の腕ももっと高めたいと思っているようだ。

ヘイザンは伝説の鍛冶屋の子孫である、ゆきのへの教えを受け継ぐ者なので、早く彼と同じくらいの熟練の鍛冶屋になりたいと考えているのだろう。

ヘイザンはサンデルジュでメタリックハンマーを考え出したり、かなり活躍していたが、まだゆきのへには及ばない。

 

「小舟には何人か乗れるし、もちろんいいぞ」

 

今まで共にアレフガルドを復興させてきた仲間なので、俺ももちろんいいと言った。

ロロンドも、ヘイザンを連れていくのに不満はないようだった。

 

俺とヘイザンの会話を聞いていたピリンも、一緒に行きたいと言ってくる。

 

「何人か乗れるのなら、わたしも連れてって。今まで雄也と一緒に町を作って来たんだから、最後まで一緒に行きたい」

 

今のメルキドでは何が待ち受けているか分からないが、ピリンは今までもラダトームやサンデルジュといった危険な場所について来ていた。

連れていっても、きっと大丈夫だろう。

 

「分かった。準備が出来たら、メルキドに出発するぞ」

 

メルキドには、俺とロロンド、ピリンとヘイザンの4人で向かうことになりそうだ。

ゆきのへも今まで一緒にアレフガルドを復興させてきていたが、ラダトーム城を守るために、ここに残ろうとしている。

 

ピリンへの返事も終えると、オーレンが何かを思い出したように、ポケットから一枚の紙を取り出した。

 

「そうだ、出発の前に、これを持っていってください。今のアレフガルドの地図です」

 

オーレンが持っていた紙を見てみると、確かにそれはアレフガルドの全体図が書かれた世界地図だった。

それも、ドラクエ1の時代のアレフガルドの地図ではなく、今の海面が上昇したアレフガルドの地図だ。

オーレンは、宝物庫の中で見つけたと話す。

 

「この前宝物庫の中を見ていたら、見つけたんです」

 

誰が作ったかは分からないが、これがあれば海上で迷うことなくメルキドまでたどり着くことが出来そうだな。

地図によると、メルキドはラダトーム城の南東にある。

秘境の地であるサンデルジュのことはさすがに書かれていないが、小舟でサンデルジュに行くことはないだろう。

世界地図を受け取ると、ポーチにしまって感謝の言葉を言った。

 

「ありがとうな、オーレン。これで迷わず、アレフガルド各地に行けそうだ」

 

俺が世界地図を貰っている間に、ロロンドたちも準備を進めていた。

 

準備が終わると、いよいよ小舟でメルキドに旅立つ時が来る。

 

「我輩たちも準備は終わった…地図も手に入れたようだし、そろそろ出発するぞ」

 

「ああ。小舟を一緒に漕いで、メルキドに向かおう」

 

俺はうなずいて、ロロンドたちと共に歩いてラダトーム城を出た。

ラダトーム城に残るみんなに、俺は大声で別れの言葉を言う。

 

「みんな、ラダトーム城を頼んだぞ!必ず魔物たちや、エンダルゴを倒そう!」

 

ラダトーム近くの海に出たら、小舟に乗り始めよう。

離れていく俺たちに、ラダトーム城のみんなは手を振ってくれた。

 

「必ずエンダルゴを倒す力をつけて来るのじゃぞ!」

 

「何があっても、無理はしないでくださいね」

 

「ワシの弟子や、メルキドのみんなを頼んだぞ!」

 

「ラダトーム城は私たちに任せてくれ!」

 

「もし迷いそうになったら、僕の見つけた地図を使ってください」

 

「雄也ドロル!絶対二諦めナイでくだサイネ!」

 

「辛い戦いも、仲良く頑張っていってね」

 

「ボクも城を守れるよう、力をつけるよ!」

 

ラダトーム城の8人全員に見送られながら、俺たちはラダトーム平野を歩いていく。

アレフガルドを、もう一度復興させるための戦いの始まりだ。

魔物の数も多くて進みにくかったが、俺たち海に10分くらいでたどり着くことが出来た。

 

海に着くと、俺はポーチから小舟を取り出し、みんなそれに乗り込む。

アレフガルドの海にはほとんど波がないので、乗り心地は悪くなかった。

俺とロロンドはさっそく櫂を持って、メルキドに向けて小舟を漕ぎ始める。

 

「メルキドまでは結構遠そうだけど、頑張らないとな…」

 

遠くにあるメルキドまで小舟を漕ぐのはかなり腕の力を使いそうなので、途中で休憩も必要になりそうだ。

俺たちは30分くらい漕ぐごとに少し休みながら、南東を目指していった。

体の大きい大人であるロロンドでも、体力の限界はある。

 

休んでいる時には、俺は空の様子を眺めていた。

どこまでいっても灰色の空が広がっており、竜王を倒した直後の時の青空は、全く見えない。

もうひかりのたまはないので、エンダルゴや元勇者を倒しても青空が戻ることはないかもしれない…そんなことも考えてしまった。

暗い空を見ると、気分まで暗くなってしまうが、必ずエンダルゴを倒したいとも思いながら、また小舟を漕ぎ始める。

時々休憩を挟みながら、俺たちは2時間半以上小舟を漕ぎ続けた。

 

そして、小舟を漕ぎ始めて3時間くらい経って、ようやく目の前に陸地が見えて来た。

陸の上にはスライムが生息しており、白い花やブナの木がたくさん生えている。

アレフガルドで一番最初に復興させた地、メルキドだ。

ヘイザンはメルキドに来るのは初めてであり、メルキドの大地を見た感想を言っていた。

 

「ここがメルキドか、緑に溢れていて、きれいな場所だ」

 

秘境のサンデルジュを除けば、メルキドはアレフガルドで一番自然環境が壊されていない場所だ。

エンダルゴが出現した今も、まだ自然環境は無事のようだな。

メルキドの町も、無事だといいんだけどな。

俺がそんなことを思っていると、ピリンはモモガキの実をまた食べたいと言う。

 

「メルキドって言ったら、モモガキの実が美味しかったね!町に着いたら、また食べたい」

 

モモガキの実はアレフガルドで最初に食べた食べ物だし、俺ももう一度食べたいな。

おおきづちの長老をラダトームに連れて行ったら、探しに行ってみるか。

 

「確かに、モモガキの実は結構久しぶりだな」

 

モモガキの実についてピリンと話していると、小舟はメルキドの大地にたどり着く。

 

俺たちが降り立ったのはメルキドの町の北で、歩いて町にすぐに行けるだろう。

俺は小舟をポーチにしまうと、ロロンドを先頭にメルキドの町を目指して行った。

 

「メルキドの町まではもうすぐだ。気をつけて向かおう」

 

メルキドの町には、ロッシ、ケッパー、ショーター、チェリコ、スラタンの5人がいる。

あの5人に会ったら、いろいろ話をしてみたいな。

ロロンドは気をつけて進もうと言ったが、途中にいる魔物はほとんどスライムであり、俺たちはかなり早く進むことが出来た。

だが、途中で何体かのドラゴンがうろついているのも見えた。

 

「スライムだけじゃなく、ドラゴンもいるのか…」

 

この前ロロンドはメルキドの町にドラゴンが襲って来たと言っていたし、メルキドではドラゴンが増えているみたいだな。

ゲームのドラクエビルダーズでも1体しかおらず、俺がメルキドを復興させている時には全く見つからなかったので、エンダルゴの影響があるのだろう。

ロロンドは、この前よりドラゴンの数が増えていると言う。

 

「ドラゴンは我輩がラダトームに行く前からいたのだが、数が明らかに増えておるな。以前は町の周辺には、2体ほどしかいなかった」

 

ドラゴンはラダトームのダースドラゴンなどに比べれば弱い魔物だが、それでも危険な魔物には変わりない。

俺たちはドラゴンの近くでは姿勢を下げて、見つからないように進んでいく。

15分ほど歩き続けて、俺たちはメルキドの町のすぐ近くにまでやって来た。

近くにやって来ると、俺たちは町もみんなも無事であることを祈って、メルキドの町を眺めてみる。

 

しかし、エンダルゴの支配するこの世界で、そんな祈りは通じなかった。

町の西にあるはがねの守りは原型を留めないほどに壊されており、ほとんどの建物が大規模に壊れている。

メルキドの復興を最も望んでいた男であるロロンドは、メルキドの現状を見て暗い顔になってしまった。

 

「心配はしておったが、我輩たちのメルキドがこのような姿に…」

 

同じくメルキド出身であるピリンも、悲しそうな顔をしている。

ビルダーの俺からしても、せっかく復興させた町を壊されてしまうのは辛いな…。

ゴーレムを倒し、仲間と共に作り上げたメルキドの町が、今は廃墟のような状態になってしまっている。

…町がこんな状態なのであれば、みんなも無事ではないかもしれないな。

 

「…とりあえず、みんなが無事か見に行こう」

 

だが、壊された町をこのまま眺めている訳にもいかないので、俺はまずみんなの無事を確認しに行く。

廃墟と化した町の中に、最近土ブロックで修理されたと思われる部屋が一つだけあった。

みんなが生きているとすれば、そこにいるのだろう。

人々が生きていれば、メルキドの町ももう一度作り直せるので、俺たちはその部屋に向かった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode149 崩れ落ちた町

俺たちはみんなの無事を確認するため、廃墟と化したメルキドの町を歩いていく。

メルキドには世界が平和になってからもう一度行くのだと思っていたので、こんな感じで訪れることになるとは考えてもみなかったな。

昔俺がメルキドにいた時にはなかった建物もいくつかあったが、それらも全て大きく壊されていた。

俺が他の町を復興させている間に、ロロンドたち作った物なのだろう。

町の中を進んでいくと、気になる物も見つかった。

 

「ロロンド、この転がっているたくさんのゴーレム岩はなんだ?」

 

ぼろぼろの旗となってしまった希望のはたの近くに、たくさんのゴーレム岩が転がっているのだ。

ゴーレム岩は建築には使わないだろうし、一体何に使おうとしたのだろうか。

俺がそう聞くとロロンドは、メルキドでゴーレムを作り直す計画があったのだと話す。

 

「我輩とロッシはメルキドに光が戻ってしばらくした後、この地の守護者や象徴として、新たなゴーレムを作る計画を始めたのだ。…この様子から考えると、計画は頓挫してしまったようだがな」

 

新たなゴーレムか…確かにゴーレムがいれば、メルキドの象徴になるし、魔物に勝てる可能性も上がるな。

みんなが仲良く暮らしている今のメルキドなら、ゴーレムもちゃんと守ってくれるだろう。

町が半壊したことで計画は頓挫してしまったようだが、何とか計画を再開させて、新しいゴーレムを作り上げたい。

 

「そんな計画があったのか…ゴーレムは強力な味方になるだろうし、何とかして計画を再開させたいな…」

 

ゴーレムを作るためにも、まずはみんなの安否確認をしないとな。

メルキドの町の様子を見ているうちに、俺たちはみんながいると思われる建物にたどり着いた。

 

その建物に着くと、ロロンドは俺やピリンを連れてきたことを伝えながら、わらのとびらをノックする。

 

「ラダトームで色々あって遅くなったが、帰ってきたぞ。雄也とピリンも、一緒に来ておる」

 

ロロンドがノックをすると、中からショーターの大声が聞こえて来た。

 

「二度と会えないと思っていたんですが、帰って来てくれたんですね、ロロンドさん!雄也さんもピリンさんも来ているって、本当ですか!?」

 

どうやらショーターは、無事だったみたいだな。

声が聞こえてからしばらくすると、ショーターはわらのとびらを開けてくれる。

彼は俺とピリンが本当に来たのを見て、とても驚いていた。

 

「おお、雄也さん!本当に来てくださったんですね!」

 

ロロンドもショーターの顔を見ると、少しは明るい顔になっていく。

 

「町が壊されているのを見た時はまさかと思ったが、お主は無事であったか」

 

町は壊されてしまったが、ショーターが生きていたのは不幸中の幸いだな。

他のみんなの無事も確認するため、俺は建物の中に入っていく。

すると、チェリコとスラタンも生きていたようで、俺たちに声をかけてきた。

 

「久しぶりね。私も何とか生きてるわ」

 

「また会えて嬉しいよ、雄也!ピリン!」

 

「二人も無事だったか…本当に良かったぜ」

 

3人は怪我も負っておらず、元気そうだった。

さっきは町のみんなが全滅しているという最悪の事態も考えてしまったが、そうはならなかったようだな。

だが、部屋の奥では大怪我を負ったロッシとケッパーが寝ているのも見えた。

 

「でも、ロッシとケッパーは怪我してるみたいだな…」

 

生きているのは良かったが、二人は体中に切り傷ややけどを負っている。

俺がロッシたちの方を見ていると、スラタンは昨日メルキドの町で大きな戦いがあったと話した。

 

「昨日この町で大きな戦いがあったんだ…あくまのきしとドラゴンが襲ってきて、町を壊していっちゃった。ロッシとケッパーも、その時に怪我しちゃったんだ」

 

メルキドには今回も、あくまのきしとドラゴンが襲ってきていたのか。

だが、あくまのきしやドラゴンはかなり強力な魔物ではあるが、ゴーレムを倒すことが出来た二人がそこまで苦戦するとは思えない。

はがねの守りやメルキドシールドと言った、強固な防壁もあるからな。

そう思っていると、スラタンとの話を聞いていたショーターは、ドラゴンの中に一体だけ非常に強力な者がいたとも話す。

 

「お二人ははがねの守りやグレネードも使って、次々に魔物を倒していました。ですが、魔物の群れの最後尾にいたドラゴンが異様なまでの力を持っており、苦戦を強いられてしまったのです。何とか傷を負わせて撃退することが出来ましたが、また襲って来ることでしょう…」

 

ドラゴンなのに、上位種のダースドラゴンなどと同じか、それ以上の力を持っている個体だったと言うことか。

メルキドの町がここまで破壊されたのも、そいつが原因だろう。

次に襲ってきたら、メルキドの町は完全に壊滅してしまうかもしれない。

それまでに何とかして、町の設備を立て直さなければいけないな。

チェリコは、その強力なドラゴンについて聞いたことがあると言った。

 

「多分、メルキドに昔から住んでいた3体のドラゴンのうちの一体ね。彼らは長い年月を生きているから、他の魔物とは比べ物にならないほど強力だと聞いているわ」

 

メルキドに昔から住んでいた3体のドラゴン…そんな奴らがいたのか。

ゲームのドラクエビルダーズの体験版にいたドラゴンも、そのうちの1体だったのかもしれないな。

非常に長い年月を生きたことで、最近現れたドラゴンとは比較にならないほど強くなっているので、魔物たちからはドラゴンではなく、別の名前で呼ばれていると言う。

 

「手下の魔物たちからは、最近増えだしたドラゴンと区別するために、悠久の竜と呼ばれているのが聞こえたわ」

 

3体の悠久の竜を倒さなければ、メルキドの2度目の復興は達成できないだろうな。

しかし、どれだけ長い年月を生きたとしても、ドラゴンが強固な防壁を破壊出来るほど強力になるのだろうか?とも俺は思った。

 

「悠久の竜か…でも、どれだけ長い年月を生きても、そんなに強力な力を得ることってあるのか?」

 

「体が黒く染まっているのも見えたわ。何者かから、新しい力を授かった可能性もあるわね」

 

黒く染まっていると言うことは、この前の滅ぼしの騎士と同じように、エンダルゴの闇の力で変異しているのかもしれないな。

それなら確かに、メルキドの防壁を破壊出来るほどの力を得ていてもおかしくはない。

3体いる悠久の竜のうち、全員が変異している可能性もありそうだ。

そんなことを考えていると、ショーターはどうしてこんなことになってしまったのだろうと、暗い顔で言う。

 

「せっかく竜王も倒れて、これからさらに町を大きくしようと思っていたのに、どうしてこんなことになってしまったのでしょう…?」

 

「かつて人類を裏切った勇者が、エンダルゴという最強の魔物を生み出してしまったんだ…。そのエンダルゴの影響で、アレフガルド各地の魔物の動きが激しくなっている」

 

メルキドのみんなは知らないので、俺はエンダルゴのことを伝えていった。

ショーターの悲しそうな声を聞いて、もしサンデルジュで闇の戦士を倒し、エンダルゴの出現を阻止していれば、こんなことにはならなかったのにと思ってしまう。

だが、後悔したところで何も変わらないので、必ずエンダルゴと闇の戦士を倒したいとも、みんなに伝えた。

 

「メルキドに来たのはエンダルゴを倒す力をつけるためだ。町が壊されたのは悲しいけど…もう一度みんなでメルキドを復興させて、エンダルゴや手下の魔物を倒したい」

 

俺がそう言うと、ショーターは悲しい表情でありながらも、これからも協力していきたいと話す。

 

「そんなことがあったんですか…私もずっと悲しんでいる訳にもいかないので、一緒にもう一度メルキドを復興させていきましょう」

 

メルキドのみんなの力があれば、必ず新たなる力を得て、エンダルゴを倒せる可能性を上げることが出来るだろう。

だが、メルキドの町を立て直す前に、俺はおおきづちの長老をラダトームに連れて行かなければいけないので、そのことも俺は伝えた。

 

「もちろんだ…みんなの力があれば、必ず出来るはずだ。…でも、メルキドの町を立て直す前に、行かなければいけないところがある」

 

「どこに向かうつもりなのですか?」

 

「青の旅のとびらの先にあるおおきづちの里の、おおきづちの長老のところだ。今ラダトームは俺とロロンドがいなくなったことで、守りが手薄になっているからな…城を守るために、おおきづちの長老を連れて行くんだ」

 

ラダトーム城はいつ襲われてもおかしくないので、なるべく早くおおきづちの長老を連れていったほうがいいだろう。

俺がおおきづちの里に向かうと言うと、ショーターは里も無事ではないかもしれないと話した。

 

「おおきづちの里ですか…メルキドの町も襲われたのですから、彼らの里も無事ではないかもしれませんね…。何が起こるか分かりませんし、気をつけて下さい」

 

確かに長老を含めたおおきづちが全滅しているという、最悪の可能性も俺は考えている。

だが、そこはもうおおきづちたちの力を信じて、生きていると祈るしかない。

魔物たちに気をつけながら、おおきづちの里に向かっていこう。

 

「ああ。長老を連れて、なるべく早く帰ってくるぜ」

 

俺はそう言うと、ショーターたちがいた建物を出て、旅のとびらが置いてあるところに向かった。

旅のとびらは壊されておらず、すぐに使うことが出来るだろう。

青の旅のとびらに入ると、俺の視界は一瞬真っ白になり、メルキドの山岳地帯へと移動した。

 

山岳地帯に移動すると、俺はまわりの魔物に警戒しながらおおきづちの長老の住む家に向かっていく。

ブラウニーやスライムベス、がいこつと言った弱い魔物も生息していたが、ここでもこの前は見なかった強力な魔物の姿があった。

 

「この前は見なかったビッグハンマーとあくまのきしがいるな…」

 

紫の体に赤色の毛を持つブラウニーの上位種、ビッグハンマーや、あくまのきしが何体か歩いているのが見えてくる。

倒せない魔物ではなさそうだが、今はおおきづちの長老のところに急ぎたいので、俺は隠れながら進んでいった。

だが、強力な魔物がこんなに現れたのであれば、おおきづちの里が壊滅してしまったのではないかという不安も、大きくなってしまう。

 

「…おおきづちの案内所は、無事なのか?」

 

心配になり、長老の家に向かう途中、俺はおおきづちの里の案内所も見にいった。

案内所は、俺が初めて出会ったおおきづちがいた場所だ。

無事だといいな…と思いながら、俺は案内所の方向に向かっていく。

 

だがそこでは、俺が恐れていたことが起こってしまっていた。

おおきづちの里 案内所と書かれていた看板は壊され、建物も原型を留めてはいなくなっている。

 

「壊されているか…中にいたおおきづちは、どうなっているんだ…?」

 

中にいたおおきづちは無事なのだろうかと思い、俺は壊された案内所の中に入っていく。

しかし、中におおきづちの姿は見えず、生きているか確かめることは出来なかった。

 

「誰もいないか…生きているといいんだけどな…」

 

生きているか死んでいるかは分からないが、何とか生き延びていてほしいな。

案内所のおおきづちとは、もう一度会って話をしてみたい。

おおきづちの里の案内所が壊されていたので、俺は長老の家も壊されていないか遠くから見てみる。

すると、長老の家の屋根にあるかがり火は無事であり、壊されてはいないようだった。

 

「長老の家は無事か…案内所のおおきづちも、あそこに逃げたのかもしれないな」

 

案内所のおおきづちが生きているとすれば、長老の家にいるのだろう。

俺は壊された案内所を出て、魔物に見つからないようにしながらおおきづちの長老が住む家に向かっていった。

魔物の数はサンデルジュほどではないので、そこまでゆっくり進む必要もなさそうだ。

 

10分くらいメルキドの山岳地帯を歩き続けて、俺はおおきづちの長老の家にたどり着く。

 

「魔物に見つからずに、ここまで来れたか…」

 

長老の家に着くと、俺はすぐに白い岩で作られた階段を登っていき、家の入り口に向かった。




メルキドに昔から住んでいる3体のドラゴンは原作1章のチェリコの、ゴーレムを作り直す計画は原作4章のロロンドのセリフから考えました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode150 折られた木槌

今回で150話。

1章を書いてた1年半前が懐かしい。




5段くらい白い岩の階段を登っていくと、俺は長老の家の入り口があるところまでたどり着く。

白い岩の階段も壊されているところはなく、長老は無事の可能性が高いな。

 

「案内所のおおきづちも、無事であってくれ…」

 

俺は案内所のおおきづちもここに逃げ延びていると祈って、俺は長老の家に入っていった。

中に入るとやはり長老は生きており、久しぶりに会った俺を見て驚く。

 

「お主は…もしやビルダー…!?このような時にここを訪れるとは、何かあったのか?」

 

俺からしても、おおきづちの長老と会うのは数ヶ月ぶりだな。

だが、長老は生きていたが、家にいるのは彼と3体のおおきづちだけであり、案内所のおおきづちは見かけられなかった。

 

「久しぶりだな、長老。あんたに頼みたいことがあって来たんだ」

 

「こんな状況の時だ…我々に出来ることなら、何でもしよう」

 

今回もおおきづちの長老は、協力的な口調で話しかけてくる。

これならラダトームに連れて行き、城を守れる可能性を上げることが出来そうだ。

でも、俺はラダトームに来て欲しいと言う前に、他のおおきづちたちがどうなったのか確かめようとした。

 

「頼み事の前に聞きたいんだけど、案内所や他のおおきづちたちはどうしたんだ?」

 

彼らが生きているのであれば、今すぐに助けに向かわないといけないからな。

しかし、それを聞くと長老は悲しい顔をして答えてくる。

 

「…ここにいる者を除けば、おおきづちの里は全滅した。みな外をうろつく魔物どもに、殺されてしまったのだ…」

 

…長老の家にいないことから嫌な予感が強まってはいたが、案内所のおおきづちも、他のおおきづちたちも、みんなもう殺されてしまっていたのか…。

ラダトームのおおきづちももういないので、長老たちがアレフガルド最後のおおきづちとなっているのだろう。

長老がそう言うと、長老の後ろにいた小さなおおきづちも俺に話しかけて来た。

 

「ボクは外の怖い魔物から逃れるために、2体の仲間と一緒に隠れてたんだ。でも、少し前ボクたちがいた家ごと壊されて、2体の仲間は殺されちゃった…。抵抗しようともしていたけど、木槌を簡単に折られちゃったよ…」

 

おおきづちはあくまのきしなどに比べれば弱い魔物なので、抵抗することも出来なかったのか…。

長老はメルキドの山岳地帯には、庭園や墓と言った物を作っていたおおきづちもいたと言う。

 

「庭園を作る者、亡くなった人間のために墓を作る者、崖を上り下りするためのはしごを作ろうとする者…この地にはさまざまなおおきづちが住んでいた。だが、みんな志半ばで死んでしまった…」

 

昔メルキドを復興させている時は案内所のおおきづちと長老くらいにしか会わなかったが、そんなことをしていたおおきづちもいたんだな…。

庭園や人間の墓、はしごを完成させることができず、とても無念だったのだろう…。

…エンダルゴは人間の味方だと言うだけで、弱い魔物も容赦なく殺そうとする。

闇の戦士がエンダルゴを生み出したのにも理由はあるが、俺は絶対にエンダルゴを倒したいという気持ちを強めた。

俺は辛いことを聞いてしまったので、長老や後ろのおおきづちに謝る。

 

「辛いことを聞いてしまってごめんな…。おおきづちの里がそんなことになっていたなんて…」

 

「気にしなくてもよい。さっき言っていた、頼みたいことと言うのは、何なのだ?」

 

おおきづちたちが死んでいることは覚悟していたが、実際に聞くとやはり悲しくなるな…。

だが、悲しんでばかりいられないので、俺はラダトーム城に来て欲しいと長老に言った。

 

「ラダトーム城の防衛を手伝って欲しいんだ。俺たちはアレフガルド各地を巡って、かつての王都ラダトームも復興させた。そのラダトーム城が今手薄になっていてな、防衛のためにあんたたちの力を借りたい」

 

俺の話を聞いて、おおきづちの長老はうなずいてくれる。

 

「力になれるかは分からんが、もちろん協力するぞ。…我も魔物である故に、人間が増えすぎるのも困ることだと思っている。しかし、今は竜王様がおられた頃よりも世界の調和が失われておる。エンダルゴという者の仕業らしいが、我は魔物のみが支配する世界を望んではおらぬ」

 

おおきづちの長老も竜王が倒され、エンダルゴが現れたことを知っているようだ。

そう言えば、数ヶ月前最初に出会った時も、長老は人間が増えすぎても困ると言っていたな。

だが、ルビスの言っていたような光と闇のバランスも気にしているようなので、エンダルゴや闇の戦士が作ろうとしている魔物だけが支配する世界も望んではいないのだろう。

竜王がいた頃の光と闇のバランスが2:8くらいだとすると、今の光と闇のバランスは1:99か、それより光が少ないという状況だ。

 

「ありがとうな、長老。さっそくメルキドから、ラダトームに向かおう」

 

「少し待って欲しい…我は今すぐにでも行きたいのだが、みんなはどうするのだ?」

 

俺が感謝の言葉を言って、長老をメルキドに連れて行こうとすると、彼は小さな3体のおおきづちの方を見てそんなことを言う。

確かにここに置いていけば、この3体はまわりの魔物たちに殺されてしまうだろうな。

メルキドはまだ立て直していないので、長老と一緒にラダトームで暮らしてもらうのがいいかもしれない。

 

「あんたと一緒に、ラダトーム城で暮らすといいと思うぜ。ラダトーム城になら、整った部屋もたくさんある」

 

「分かった。お主たち、我と共にラダトーム城へと行こう」

 

俺の話を聞くと、おおきづちの長老は3体の小さなおおきづちにそう言う。

彼もおおきづちたちをラダトーム城に連れていけば、安全だと思ったみたいだな。

さっき長老の後ろにいたおおきづちは、話を聞いて長老に着いていこうとした。

 

だが、長老の左と右にいたおおきづちたちは、長老の話に不満を持っているようで抗議して来る。

それどころか、エンダルゴの手下になるべきだとも言い出した。

 

「長老、いい加減にしましょう!人間なんて、百害あって一利なし!あんな奴ら放っておいて、エンダルゴ様の手下となりましょう!」

 

数ヶ月前も今も長老の左のおおきづちとは話したことはなかったが、おおきづちの中にも人間をよく思っていない者もいるみたいだな。

エンダルゴの手下にならなかったせいで、仲間が殺されてしまったことの影響もあるのかもしれない。

右のおおきづちは、人間の町に言ってもいじめられるのではないかと言ってくる。

 

「人間は魔物たちをいじめてたって聞いたよ。例え人間の町に行ったとしても、ボクたちはいじめられるんじゃないか?」

 

人間と魔物は本来敵対しているので、そう思っても仕方ないだろう。

だが、ラダトーム城には魔物であるチョビやルミーラ、バルダスも暮らしているので、きっと歓迎されるはずだ。

俺は右のおおきづちに、その事を伝えようとした。

 

「それは大丈夫だ。ラダトーム城には魔物の仲間もいるけど、みんな仲良く暮らしているぞ」

 

俺がそう言った後、長老は左のおおきづちも説得しようとする。

 

「確かに人間には悪いところもあるが、魔物しかいない世界も良くないのだ。どうか我らと共に、ラダトームに向かって欲しい」

 

2体のおおきづちは俺たちの言葉をなかなか信じてくれなかった。

だが、長老は2体のことも大事な仲間と思っているようで、説得を続けようとする。

 

しかし、俺たちが説得している間、背後から鎧を来た者が歩いて来る音が聞こえた。

俺と長老はすぐに音に気づき、家の入り口の方を向く。

するとそこには、斧を構えた4体のあくまのきしがおり、長老の家を破壊しに来たようだった。

 

「まだ生きていたようだが、おおきづちの里は今日で終わりだ…我らの斧で叩き斬ってやる!」

 

「人間どもに味方したことを後悔しろ!」

 

こいつらを倒さなければ、おおきづちを助けてラダトーム城に連れて行くことは出来なさそうだな。

俺は一度説得を止めて、あくまのきしたちに武器を構える。

あくまのきしは強力な魔物だが、長老も大きな木槌で立ち向かおうとしていた。

 

「こんな時に魔物が来やがったか…何とかして迎え撃たないとな」

 

「我も戦うぞ。みんなを守って、ラダトーム城へと向かおう」

 

長老が戦っているのは初めて見るが、どのくらいの力なのだろうか。

あくまのきしに恐れずに立ち向かえると言うことは、やはり他のおおきづちよりもかなり強いのだろう。

ラダトーム城への援軍として、間違っていなかったようだな。

魔物たちはビルダーがラダトームにいると思っており、あくまのきしたちは俺の顔を直接見たことがないようで、俺がビルダーだとは気づいていなかった。

 

「人間も一緒にいたか!共に仕留めてやろう!」

 

2体のおおきづちが人間の味方になってくれるかもしれないし、俺も精一杯戦わないとな。

あくまのきしたちは、俺の方にも斧を振り下ろしてくる。

おおきづちの里の、生き残ったおおきづちを守るための戦いが始まった。

 

俺と長老は、あくまのきしを2体ずつ相手していくことになる。

奴らの斧を避けながら、俺は鎧を貫こうとおうじゃのけんを振り下ろした。

奴らの上位種であるしにがみのきしとも戦ったことがあるので、戦うのはそんなに難しくはない。

 

「まだ避け続けるか…人間!」

 

あくまのきしたちもさまざまな角度で攻撃をしてくるが、俺はジャンプも使って回避を続けていった。

奴らの攻撃を受けないようにしながら、俺は攻撃の後の隙に、何度も両腕の武器を叩きつけていく。

おうじゃのけんもビルダーハンマーも攻撃力が高いので、何度か攻撃を当てると、あくまのきしたちにかなりのダメージを与えることができていた。

 

「あくまのきしは強力だけど…この武器があれば苦戦しないぜ」

 

昔メルキドで戦った隊長のあくまのきしほどの力もなく、このまま倒すことが出来そうだ。

奴らが弱ったところで、俺はおうじゃのけんを思いきり突き刺す。

 

「くそっ…人間め…!」

 

だが、剣を突き刺されてもあくまのきしは死なず、さらに斧を振り下ろそうとしてきた。

でも、奴の動きは遅くなっているので、俺はもう一度攻撃を避けて、鎧をビルダーハンマーでも殴りつける。

ハンマーでの攻撃も受けると、あくまのきしは生命力が尽きて、光を放って消えていった。

おおきづちの長老も、巨大な木槌を使ってあくまのきしたちにダメージを与えられている。

 

「長老も苦戦していないみたいだな…今のうちに、もう一体も倒すぜ」

 

長老が苦戦していないのを見て、俺も残り1体のあくまのきしを倒そうとした。

もう一体も動きは遅くなっており、すぐにとどめをさせられそうだ。

奴も盾を使って防御しようとしたが、俺はおうじゃのけんを使って盾ごと貫こうとする。

あくまのきしの盾はかなり硬かったが、俺は右腕に全身の力をこめていった。

しばらく力を加え続けていると、ついに盾は突き破られて、あくまのきしの体もおうじゃのけんに貫かれる。

 

「結構硬い盾だったけど、こいつも倒すことができたな」

 

そこで俺と戦っていたあくまのきしは2体とも倒れ、俺はおおきづちの長老を助けに行こうとする。

長老はあまり動きが早くないので何度か攻撃をくらいそうになっていたが、まだ無傷だ。

彼が怪我をする前にあくまのきしを倒そうと、俺は奴らの後ろに回った。

 

「後ろから突き刺せば、こいつもすぐに倒せるだろうな」

 

そして、あくまのきしがこちらに振り向く前に、俺は心臓を目掛けておうじゃのけんを突き刺す。

奴らは俺に気づいていたが反応が間に合わず、刺されたあくまのきしはその場に倒れこんだ。

残り1体になったあくまのきしも、長老に思い切り殴られて怯む。

 

「これ以上、我々の里の者を傷つけはさせん」

 

里の仲間をこれ以上殺されたくない長老は、怯んだあくまのきしを木槌で攻撃し続けていった。

俺もあくまのきしにとどめをさそうと、ビルダーハンマーで鎧を殴りつける。

俺と長老に何度もハンマーで殴られ、奴は鎧や盾が大きく変形した状態で死んでいった。

 

4体のあくまのきしを倒すと、おおきづちの長老は一安心したような顔になる。

 

「助かったぞ、人の子よ。お主がいなければ、我もみんなも殺されていただろう」

 

しかし外を見ると、多くの他のビッグハンマーやあくまのきしたちが、この長老の家に向かっているのが見えた。

俺は苦戦しないかもしれないが、ここで戦っていたら後ろの小さなおおきづちたちが危ないな。

 

「ああ…でも、他にも多くの魔物がここに向かっているみたいだぞ」

 

「戦っていてもキリがない数だと思えるが、どうするのだ?」

 

奴らが来る前にこの家を離脱して、メルキドの町に向かうしかないだろう。

だが、ルビスが死んだことで希望のはたの力が失われてしまい、キメラのつばさを使って町に戻ることは出来なさそうだ。

魔物から逃げながら、走って旅のとびらに向かうしかなさそうだな。

今すぐにこの家を出れば、魔物たちと戦わずに向かうことが出来るかもしれない。

 

「奴らがこの家に来る前にこの家から逃げ出して、メルキドの町に繋がる旅のとびらに向かう。今すぐに出れば、みんな助かるはずだ」

 

俺がそう言うと、おおきづちの長老もそれしか方法がないと思ったようで、みんなに指示を出そうとした。

 

「分かった。多くの魔物が迫っているから、ビルダーと我は人間の町に逃げる。みんなもついて来てくれ」

 

さっきから長老と共にラダトームに行こうとしていた後ろのおおきづちは、もちろん指示を聞いて長老の家から出る。

説得に応じなかった右のおおきづちも俺とあくまのきしとの戦いを見て、人間の町に行くことを決めたようだ。

 

「人間はボクたちをいじめるって聞いてたけど、その人は助けてくれた…ここで死にたくないし、ボクもついて行くよ」

 

左のほうにいたおおきづちも人間と協力する気はまだないようだが、魔物に囲まれている状態なので、仕方なく俺たちについて行こうとする。

 

「あっしは人間なんかと住みたくはないが…仕方ないな」

 

おおきづちが3体ともついて来ると、俺と長老を先頭にメルキドの町に続く旅のとびらに向かっていった。

一部のビッグハンマーはもう長老の家のすぐ近くにも来ていたが、俺たちは攻撃を避けながら走っていく。

ゆっくり進んでいたら15分かかる距離だが、走っていくと数分で旅のとびらにたどり着くことが出来た。

 

旅のとびらにたどり着くと、俺たちはすぐに飛び込んでメルキドの町に向かう。

説得が中断されたので、左のおおきづちは仕方なくついて来ているが、何とか生き残ったおおきづち全員を連れて来ることが出来たぜ。

あのおおきづちも何とか、俺たちに協力してくれるといいな。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode151 王都への援軍

青の旅のとびらを抜けて、俺はおおきづちたちと共にメルキドの町に戻ってくる。

ロロンドたちは壊れた建物の修理をしているが、まだ時間がかかりそうだった。

あくまのきしたちから逃げ切ることができ、おおきづちたちは安心の声を上げる。

 

「お主らの町まで逃げ切れたようだな。本当に助かったぞ、ビルダーよ」

 

「魔物が家に入って来た時は、もうダメだと思ったよ…」

 

ほとんどのおおきづちたちは死んでしまったが、この4体だけでも助けられたのは幸いだったな。

彼らをラダトームに連れていったら、俺もメルキドの立て直しを始めよう。

そう考えながら町の中を歩いていくと、長老は壊されたメルキドの町に対しての感想も言っていた。

 

「ここがお主らの作っていた町か…大きい町だが、ここも大きな被害を受けておるな…」

 

「ああ、昨日魔物の群れに襲われたらしいんだ」

 

おおきづちたちが人間の町を見るのは初めてな訳だし、昔のきれいなメルキドを見せたかったな。

あのメルキドならば、彼らもきっと気に入ってくれただろう。

今度長老たちがメルキドに戻ってくるまでに、再び楽しい町へと発展させたい。

町の中心のところまで歩いて来ると、聞き覚えのある2人の男の声が聞こえて来る。

 

「ロロンドから聞いたけど、本当に来てたのか。すげえ久しぶりだな、雄也」

 

「おおきづちの里に向かったと聞いてたけど、無事に彼らを連れて来られたみたいだね」

 

声が聞こえた方向を見ると、さっきは部屋の中で眠っていたロッシとケッパーの姿があった。

二人の怪我はまだ治っていないが、動けるようにはなったみたいだな。

二人と会うのもとても久しぶりなので、俺はあいさつをする。

 

「こっちこそ久しぶりだな、ロッシ、ケッパー。また一緒に、メルキドの町を作って行こう」

 

俺は白花の秘薬を持っているし、ロッシたちの怪我はもう少しで治ることだろう。

二人と共に戦うのも数ヶ月ぶりだが、悠久の竜たちを倒すために頑張らないとな。

俺とロッシたちとのあいさつを聞いて、建物の修復作業をしていたロロンドも近づいてきた。

 

「おお!声が聞こえたと思ったが、戻って来ておったのか雄也。おおきづちたちもいるようだな」

 

ロロンドは、自分がおおきづちたちをラダトームまで連れて行きたいと言う。

 

「お主はおおきづちの里まで行って疲れておるだろう。我輩がおおきづちをラダトームまで連れて行くぞ」

 

確かに今日俺は、ラダトームの枯れ木の森まで歩いたり、おおきづちの里であくまのきしと戦ったり、魔物たちから走って逃げたりしたので、かなり疲れている。

本人もしたいと言っているので、おおきづちをラダトームに連れて行くのは、ロロンドに任せても良さそうだな。

 

「分かった。ありがとうな、ロロンド。小舟を渡しておくぞ」

 

ロロンドはまだ体力がありそうだが、またラダトームまで小舟を漕ぐのは大変だろうから、俺は彼に感謝する。

俺のポーチに入っていた小舟も取り出し、ロロンドに渡しておいた。

 

俺との話の後、ロロンドはさっそくおおきづちの長老に話しかけた。

ロロンドはメルキド録の記述によっておおきづちの里の存在は知っていたが、実際に彼らと会うのは始めてなので、自己紹介もする。

 

「我輩はロロンド、雄也と共にメルキドを発展させた者だ。我輩がお主たちを、ラダトーム城まで小舟に乗せていく」

 

ロロンドの話の後、おおきづちの長老も自分の名前を名乗った。

 

「我はおおきづちの長老、ラグナーダだ。これからよろしくお願いするぞ」

 

今までずっと長老と呼んでいたけど、そんな名前があったのか。

おおきづちの長老と初めて会った時も、名前を聞くことはなかったな。

ラグナーダは、後ろにいる小さなおおきづちたちの名前もロロンドに教える。

 

「左にいるのはサデルン、真後ろにいるのはプロウム、右にいるのはエファートだ」

 

これからは小さなおおきづちたちも、名前で呼び分けることが出来そうだ。

自己紹介の後、ロロンドはさっそくみんなを連れて行こうとする。

 

「ラダトームまでは遠いが、ゆっくりしていてくれ。城の者達とも、仲良くするんだぞ」

 

俺が作った小舟の大きさなら、ロロンドとおおきづち4体が乗っても大丈夫だろう。

左にいるおおきづちのサデルンは人間の城に行くのがまだ嫌そうな顔をしていたが、もうおおきづちの里はないので、仕方なくラグナーダたちについて行く。

ラダトーム城で、人間と一緒に暮らす楽しさを見つけてくれればいいな。

 

ロロンドたちは、さっき俺たちが上陸したメルキドの町の北へと歩いて行った。

 

「あっちの海で小舟に乗る。しばらく歩くことになるが、頑張ってくれ」

 

ロロンドが町に帰って来るのは夜になるだろうし、俺も疲れているので、本格的にメルキドの2度目の復興を始めるのは明日からになりそうだ。

ロロンドとおおきづちたちが海に向かうのを見送ってから、俺はロッシたちが寝ていた部屋に戻っていった。

 

しばらく休憩した後、俺はショーターたちを手伝い、壊れた建物を修復していく。

夜になるまで活動したので、メルキドの町にある多くの建物は直すことが出来た。

日が暮れてもロロンドはまだ戻って来なかったが、俺たちは明日からの活動に備えるために、早めに眠りについた。

 

 

 

メルキドに戻ってきた翌日、俺が朝起きた時には、もう寝室には誰もいなかった。

空が灰色になっているのでよく分からないが、もう昼頃になっているのだろう。

疲れていたからか、みんなより長く寝てしまっていたようだな。

俺が寝室から出ると、ロロンドが希望のはたの台座に立っているのが見える。

 

「おおきづちたちは、無事にラダトームに行けたのか…?」

 

俺たちが寝た後、夜遅くに戻って来たのだろう。

俺はそんなことを思ってつぶやき、ロロンドのところに向かった。

でも心配はいらなかったようで、彼は起きてきた俺を見つけると、おおきづちたちをラダトーム城に連れて行けたと伝えてくる。

 

「やっと起きてきたか、雄也よ。おおきづちたちは、ラダトームまで連れて行けたぞ」

 

ラダトーム城を守れる可能性も高まったし、安心してメルキドの町を立て直して行くことが出来そうだ。

おおきづちたちが城のみんなとどうしていたかも、俺は聞いてみる。

 

「みんなと仲良くやっていけそうだったか?」

 

「ラグナーダとプロウム、エファートは、すぐにみんなと友達になっておった。サデルンも、チョビやバルダスとは話をしておったぞ」

 

元々協力的なラグナーダとプロウムは、やはりうまくやっているようだ。

エファートもあくまのきしから助けられた後は、人間への警戒を解いている。

人間嫌いのサデルンも、魔物同士なら仲良くしやすいようだな。

彼らから人間と暮らす楽しさについて聞けば、サデルンも考えを変えるかもしれない。

 

おおきづちたちの様子について聞いた後は、俺たちはメルキドでの活動について話した。

 

「それなら良かった。これでおおきづちたちについては、安心だな」

 

「ああ…これからは本格的に、メルキドの立て直しを進めていこうぞ。我輩はロッシと共に、ゴーレム作りを進めようと思う」

 

ロロンドはロッシと共に、新たなゴーレム作りを進めて行くと言う。

どのくらいの時間がかかるかは分からないが、二人の力があれば完成は夢ではないだろう。

俺はゴーレムを作るために集める必要がある素材がないかと、ロロンドに聞いてみた。

 

「ゴーレムを作るのに、集めないといけない素材はあるか?」

 

「今のところは大丈夫だ。もし必要になったら、お主にも伝えるぞ」

 

もし集めないといけない素材が出来たら、俺も手伝いに行こう。

みんなで集めたほうが、ゴーレムの完成も早まるからな。

今は大丈夫と聞いて、みんなと共にまだ壊れている建物の修理に行こうと思っていると、ロロンドはケッパーが俺を呼んでいたと言ってきた。

 

「そう言えば、ゴーレムとは関係ないが、さっきケッパーが雄也に話したいことがあると言っておったぞ」

 

「そうなのか。大事な話かもしれないし、行って来るぜ」

 

ケッパーが何を考えているかは分からないが、メルキドの立て直しや悠久の竜との戦いにおいて大事なことなのかもしれない。

ケッパーは町の西にある建物の修復を行っており、俺はそこに向かっていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode152 飛天の剣技

ケッパーは土ブロックを積み上げて、壊された建物を直している。

作業に集中しているようだが、俺の姿が見えるとすぐに話しかけてきた。

 

「やっと起きたみたいだね、雄也」

 

「ああ。ロロンドから聞いたけど、俺に話したいことがあるんだって?」

 

メルキドの立て直しや魔物との戦いのために、役立つ話だといいな。

 

「これから強力な魔物と戦うには、強力な武器だけでなく、武器を振るう人自身の力も必要だと思ったんだ」

 

確かに、どれだけ強力な武器を作ったとしても、俺自身の力もなければエンダルゴや闇の戦士を倒すことは出来ないだろう。

ケッパーがそんな話をすると言う事は、もしかして、新しい剣技を思いついたのだろうか。

 

「もしかして、回転斬りに次ぐ新しい技を教えてくれるのか?」

 

「うん。僕も最近覚えたんだけど、腕に全身の力を溜めて飛び上がり、目の前の敵を叩き斬る、飛天斬りという技さ。回転斬りと違って目の前にいる敵しか攻撃出来ないけど、威力はすさまじい物だよ」

 

飛天斬り…腕に力を溜めて飛び上がり、敵を叩き切る技か…。

回転斬りと違って、飛天斬りは目の前の敵にしか効果がないようだな。

だが、周囲の敵全体に傷をつけることは出来なくても、敵一体には回転斬りを上回る超特大のダメージが与えられるのなら、役に立つ強力な技になりそうだ。

 

「確かに役に立ちそうな技だな。早めに習得しておきたいし、さっそく教えてくれ」

 

いつメルキドにまた悠久の竜が襲って来るか分からないし、習得は早めにしておいたほうがいいだろう。

俺はすぐに、ケッパーに飛天斬りを教えてくれるように頼んだ。

 

「この前も言ったけど、僕は人に物を教えるのが得意じゃないんだ。だから君には回転斬りの時と同じように、魔物の動きを見て飛天斬りを覚えて欲しい」

 

そう言えば回転斬りの時も、ケッパーが物を教えるのが得意じゃないという理由で、てつのさそりと戦いに行くことになったんだったな。

飛天斬りを覚えるために、今度はどんな魔物と戦うことになるのだろう?

 

「ケッパーは何の魔物の動きを見て、飛天斬りを覚えたんだ?」

 

「ドムドーラの岩山を越えた先にある草原にいる、大きなあくまのきしさ。ロッシと僕は町の周辺にドラゴンが現れた後、他にも異変が起きている場所がないか各地を調べに行ったんだ」

 

大きなあくまのきしか…昨日おおきづちの里を襲ったあくまのきしよりも強いのかもしれないな。

ロッシとケッパーはメルキドで異変が起きた後、各地を見に行っていたのか。

ドムドーラに白い岩でできた岩山があるのは知っていたが、その先に行ったことは一度もなかった。

そんなことを思っている間に、ケッパーは話を続けていく。

 

「そこで体の大きなあくまのきしを見つけて、僕は敵の戦力を削ぐために戦いを挑んだんだけど、そのあくまのきしは大勢のしりょうのきしに守られていて、飛天斬りも使って来た。しりょうのきしを減らすことは出来たけど、結局あくまのきしを倒すことは出来なかった。もっと力をつけようと思って、逃げて町に帰って来た後、あくまのきしの動きを思い出して飛天斬りの練習を始めたんだ」

 

しりょうのきしに守られていたとはいえ、ケッパーが倒しきれなかったと言う事は、昔のメルキドの隊長のあくまのきしより強い可能性があるな。

あくまのきしは戦い慣れた魔物ではあるが、警戒して挑まなければいけなさそうだ。

もしかしたら、滅ぼしの騎士や悠久の竜のように、エンダルゴによって変異させられた個体なのかもしれない。

 

「そのあくまのきしって、体が黒く変異していたりしていなかったか?」

 

「僕が見た限りでは、見た目は普通のあくまのきしだったよ」

 

俺は聞いてみたが、ケッパーは普通のあくまのきしだったと言う。

それを聞いて少しは安心だが、気をつけて挑まなければいけないのには変わりない。

今から時間はあるので、俺はさっそく赤い旅のとびらからドムドーラに向かおうとする。

 

「分かった。今からドムドーラに向かって、そのあくまのきしと戦って来るぜ」

 

「十分気をつけてくださいね、雄也」

 

ケッパーのように飛天斬りを覚えて、出来るならそのあくまのきしを倒そう。

俺はケッパーにそう言うと、旅のとびらのある部屋に入り、ドムドーラに向かった。

 

ドムドーラの砂漠地帯に入ると、俺はケッパーの言っていた岩山に向かう。

岩山はゆきのへが捕まっていた牢屋の、さらに奥にあったはずだ。

ここでも新たな魔物が現れていないか、俺はまわりを見ながら進んで行った。

 

「新しい魔物は特にいないか…でも、見つからないようにしていこう」

 

すると、特に新しい魔物は見かけられず、スライムベスやおおさそりといった見慣れた魔物の姿しかなかった。

メルキドやドムドーラの全域で、新たな魔物が現れているという訳ではないようだな。

だが、危険な魔物ではないにしろ、俺はなるべく見つからないためにメルキドの大倉庫からある道具を取り出す。

 

「砂漠の箱を使えば、安全に進めるだろうな」

 

砂の草切れから作られる、砂漠の箱…メタルギアソリッドのダンボールをイメージしたもので、これを使えば砂漠地帯で敵に見つかる可能性を下げられる。

昔ドムドーラやマイラの荒野で使っていたが、かなり久しぶりに使うことになるな。

俺は砂漠の箱を被って、ドムドーラの砂漠をゆっくりと進んでいった。

 

20分くらい歩き続けると、俺は魔物に見つからずにゆきのへが捕まっていた牢屋のところにまでたどり着く。

ここでピリンに化けた魔物に出会い、奴の喉を思い切り斬って倒したのが懐かしいな。

かつてのメルキドの復興を思い出しながら、俺は目の前にそびえる岩山を眺めた。

 

「この岩山の先に、ケッパーが言ってた草原があるのか」

 

ものすごく高いと言う訳でもなく、岩山を登るのに慣れている俺なら簡単に超えることが出来そうだ。

俺は土ブロックを積みながら、慎重に岩山を登っていく。

岩山を登りきると、そこには何体かのキメラが生息しているのが見えた。

俺はそのキメラたちも避けて行きながら、岩山の反対側へと降りていく。

するとそこには、メルキドの町の周辺と変わらない、緑に溢れた草原が広がっていた。

 

「この草原のどこかに、ケッパーの言っていたあくまのきしがいるんだな」

 

草原にはたくさんの木が生えており、キノコや白い花も見かけられた。

砂漠のすぐ隣に、こんなに緑に溢れた場所があるとは思わなかったな。

そんなことも思いながら、俺はドムドーラの隣の草原を探索していく。

草原を進んで行くと、何体かのしりょうのきしが生息しているのも見つかった。

 

「ここにはしりょうのきしがいるのか…ここは草原だし、草原の箱を使うか」

 

元々いたのか、最近住み始めるようになったのかは分からないが、しりょうのきしに見つからないように、俺は今度は草原の箱を大倉庫から取り出して使う。

魔物から隠れながら進んでいくと、海に浮かんでいる島と、そこにたくさんの石の墓が立っているのも見えた。

 

「あんなところに島があるな…墓がたくさん立っているけど、誰かいるのか?」

 

墓が立っていると言う事は、それを作った者がいたはずだ。

料理用たき火も置いてあり、最近まで誰かが生活をしていた痕跡がある。

困っている人がいるのなら助けないといけないと思い、俺はその島を眺めてみた。

しかし、人間がいたのか魔物がいたのかは分からないが、その島にはもう誰の姿もなかった。

 

「昔は誰かいたのかもしれないけど、今はもういないな…」

 

この島に住んでいた者がどうなったかは分からないが、もう誰もいないので、俺はあくまのきしを再び探し始める。

草原はかなり広く、奥まで進むのはかなり時間がかかりそうだった。

しかし、急げば魔物に見つかってしまうので、俺は草原の箱を使いながらゆっくりと進み始める。

草原をさらに進んで行くと、木が生えていない開けた場所にたどり着いた。

 

「結構進んできたけど、まだあくまのきしは見つからないな…」

 

かなり広い場所だが、そこにもあくまのきしの姿はない。

その開けた場所には白い花や薬草がたくさん生えていたが、一ヶ所植物が全く生えていないところもあった。

もしかしたら昔そこに、悠久の竜のうちの1体がいたのかもしれないな。

そんなことを思いながら、俺は白い花や薬草を集めつつ、草原の先へと歩いていった。

 

そして、メルキドを出てから1時間くらい経って、俺は海の近くにまでたどり着く。

そこで辺りを見回すと、ついに2体のしりょうのきしに囲まれた、大きなあくまのきしが見かけられた。

 

「こんなところにいたのか…さっそく戦いに行こう」

 

しりょうのきしが2体しかいないのは、ケッパーが減らしてくれていたからだろう。

俺は奴らと戦うために、草原の箱をポーチにしまい、おうじゃのけんとビルダーハンマーを構える。

武器を持って近づいて行くと、奴らも俺に気づいて来た。

 

「こんなところに人間だと…!?何をしに来たのだ!」

 

「ここに強いあくまのきしがいるって聞いてな、戦いに来たんだ」

 

俺が戦いに来たことを告げると、あくまのきしたちはそれぞれの武器を構える。

やはりあくまのきしはケッパーの言っていた通り、見た目は普通だった。

だがあくまのきしは、これからエンダルゴのところに向かうつもりだったと言った。

 

「これからエンダルゴ様の元に行き、さらなる強さを得るところだったと言うのに…面倒な奴だ」

 

悠久の竜だけでなく、このあくまのきしも闇の力で変異してしまえば、メルキドはさらなる危機に落ちいることになるだろうな。

そうなる前に、戦いに来ることが出来てよかった。

必ずここで倒して、あくまのきしの変異を阻止しなければいけなさそうだ。

 

「エンダルゴのところには行かせないぞ」

 

「何とでも言うがいい、人間め…貴様ごときが我らを止めることはできん。お前たちも、そこの人間を殺せ!」

 

このあくまのきしも、ビルダーがメルキドに戻って来たとは思っていないようだな。

奴は手下である2体のしりょうのきしたちに命令を出し、俺を殺そうとして来る。

飛天斬りを使うという、大きなあくまのきしたちとの戦いが始まった。

 

まず最初に、あくまのきしの命令を受けたしりょうのきしが斬りかかってくる。

しりょうのきしは昔メルキドの防衛戦で戦った個体と、同じくらいの強さだろうな。

 

「メルキドの町もお前も、もうおしまいだ!」

 

「我らに逆らったことを後悔しろ!」

 

しりょうのきしは強力な魔物だが、俺は上位種のかげのきしとも何回も戦っている。

攻撃を弾き返して、動きを止めることが出来るだろう。

俺は奴らが剣を振り下ろして来た瞬間に、両腕の武器を使って攻撃を防いだ。

そして、しりょうのきしたちが次に攻撃をして来る前に、俺は腕に力をこめて奴らの剣を弾き飛ばす。

 

「結構強い攻撃だけど、弾き返せたな…今のうちに倒してやるぜ」

 

両腕にかなりの痛みが走ったが、奴らを無力化することが出来た。

あくまのきしが来る前に倒そうと、俺は体勢を崩した奴らに何度も斬りかかる。

だが、後ろにいたあくまのきしもしりょうのきしたちを守るために、腕に力を溜め始めた。

 

「かなりの力を持っているようだが…無駄だ、人間!」

 

腕に力を溜め終えると、あくまのきしは俺に走って近づいて大きく飛び上がり、斧を凄まじい勢いで垂直に叩きつけて来る。

俺はジャンプで避けたが非常に威力が高く、地面が砕けそうになっていた。

 

「これがケッパーの言ってた飛天斬りか…確かにかなり強力な技だな」

 

ケッパーの言っていた通り、腕に力を溜めて飛び上がり、目の前を叩き斬る技で、これが飛天斬りだろう。

俺がこれを使えるようになれば、確かにエンダルゴや闇の戦士にも大きな傷をつけられそうだ。

あくまのきしは飛天斬りの後も、斧で連続で斬りかかってくる。

 

「我が剣技を避けたか…だが貴様に勝ち目などない!」

 

奴の攻撃速度は他のあくまのきしより速く、武器を叩きつける隙があまりなかった。

攻撃を避けながら少しずつ攻撃を与えることは出来るが、それでは倒すのに時間がかかってしまいそうだ。

しりょうのきしが体勢を整え、剣を持ち直して来てしまう。

早く倒すには、奴の斧も弾き飛ばして無力化させないといけないだろう。

 

「攻撃力も高そうだけど、こいつの斧も弾き飛ばすしかないな」

 

奴は攻撃力も上位種のしにがみのきしと同じくらいありそうだが、今までたくさんの魔物と戦って来た俺なら問題なく弾き返せるはずだ。

あくまのきしが斧を叩きつけて来たと同時に、俺はおうじゃのけんとビルダーハンマーを使い、奴の攻撃を受け止めた。

 

「防ごうとしても無駄だ、人間め…!」

 

あくまのきしの攻撃力はやはりかなり高く、押されそうにもなるが、俺は両腕に身体中の力を込める。

奴は最初余裕そうな顔をしていたが、だんだん苦しそうになっていった。

そこでさらに力を加え続けていると、あくまのきしは耐えられなくなり、斧を落として体勢を崩していく。

 

「やっぱり攻撃力は高かったけど、何とか押し返せたな…今のうちに仕留めるぜ」

 

あくまのきしが体勢を崩したところで、俺は両腕の武器を使ってさらなるダメージを与えていった。

このまま攻撃を続ければ、あくまのきしが立ち直る前に倒すことが出来そうだ。

 

しかし、あくまのきしが倒れる前に、しりょうのきしたちが剣を持ち直して斬りかかろうとして来る。

 

「さっきはよくも我らの剣を!」

 

「今度こそ斬り裂いてやるぞ!」

 

しりょうのきしにも囲まれたら、あくまのきしを集中攻撃することが出来なくなるな。

そうなれば、あくまのきしは体勢を立て直してまた斧を叩きつけてくることだろう。

俺はしりょうのきしたちが来る前にあくまのきしを倒そうと、腕に力を溜めていった。

 

「あいつらもう体勢を立て直して来たのか…あくまのきしの動きを真似て、飛天斬りを放とう」

 

さっきのあくまのきしの動きを見て、飛天斬りの動きだいたいの動きは覚えることが出来た。

ここで飛天斬りを放てば、しりょうのきしが来る前にあくまのきしを倒せるだろう。

俺は腕に力を最大まで溜めると、大きく飛び上がって垂直に武器を叩きつける。

 

「飛天斬り!」

 

あくまのきしほどきれいな動きではないが、強烈な一撃を奴に与えられた。

二刀流での飛天斬りを受けて、あくまのきしは生命力が尽きて消えていく。

飛天斬りであくまのきしを倒した後は、今度は2体のしりょうのきしを倒すために回転斬りの構えをとった。

 

「これであくまのきしは倒せたな…あとは回転斬りで、あの2体を倒すか」

 

あくまのきしが倒されても、しりょうのきしたちは恐れずに俺に攻撃して来る。

俺は再び力を溜めていき、奴らが至近距離にまで近づいたところで解放し、周囲を薙ぎ払っていった。

 

「お前たちも終わりだ、回転斬り!」

 

さっきの俺の攻撃で弱っていたしりょうのきしたちは、回転斬りが直撃して砕けて散っていく。

 

これで俺と戦っていた3体の魔物は倒れて行き、俺は武器をしまった。

 

「飛天斬りの動きを覚えられたし、あくまのきしも倒せたな」

 

このあくまのきしが倒れたことで、メルキドが今以上の危機に陥ることはなさそうだ。

飛天斬りも練習を続けていけば、間違いなくエンダルゴや闇の戦士にも強烈な一撃を与えられる技になるだろう。

メルキドの悠久の竜との戦いにも、役立てて行きたいな。

俺はそんなことを考えながら、草原地帯やドムドーラの砂漠を歩いてメルキドの町へと戻って行った。

 

メルキドに戻って来ると、俺はケッパーにあくまのきしを倒し、飛天斬りの動きを覚えたことを伝えに行く。

ケッパーはさっきの建物の修理を終えたようで、希望のはたの近くで休んでいた。

 

「ケッパー。あくまのきしを倒して、飛天斬りも覚えてきたぞ」

 

「本当かい!?君はあの竜王も倒したって聞いたけど、本当に強いんだね。さっそく飛天斬りを見せてみてくれ」

 

俺があくまのきしを倒したことを聞いて、ケッパーはそんなことを言う。

だが、俺があくまのきしを倒せたのは、ケッパーが手下のしりょうのきしを減らしてくれたおかげだろう。

しりょうのきしの数が多かったら、間違いなく苦戦していたはずだ。

俺は飛天斬りを放つために、ケッパーに少し下がってくれとも伝える。

 

「ケッパーがしりょうのきしを減らしてくれたおかげだ。少し離れていてくれ」

 

ケッパーが離れたのを見て、俺は腕に力を溜め始めた。

力が溜まっていくと、俺はその場で大きく飛び上がっていく。

 

「飛天斬り!」

 

そして、そう叫んだ瞬間に両腕の武器を振り下ろし、地面に叩きつけた。

 

「まだ動きを覚えたばっかりだから、あんまりうまくは使えない」

 

「僕もまだ完璧には使えていないさ。これから一緒に練習していこう」

 

ケッパーは俺の飛天斬りを見て、一緒に練習していこうと話す。

確かに一緒に練習して行けば一人でするよりやる気も出るだろうし、早く上達出来るはずだ。

 

「ああ。今からでもさっそく始めたい」

 

俺とケッパーはその日の午後、日が暮れるまで飛天斬りの練習を続けた。

一日ではあまり成果が現れなかったが、毎日続けていけばだんだん威力も上がっていくだろう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode153 山岳の緑竜

メルキドに戻って来て4日後、先日の悠久の竜の襲撃によって破壊されたメルキドの町は、ほとんど修復することが出来ていた。

ロロンドとロッシの新たなゴーレムを作る計画も、大分進んできている。

それぞれがメルキドの2度目の復興のために活動している中、俺とケッパーは飛天斬りの練習を続けていた。

 

「大分きれいな動きになっていると思うよ。威力も上がって来ている」

 

ケッパーは俺の放った飛天斬りを見て、そんなことを言う。

動きを覚えたての時と比べれば、俺もケッパーもかなり上達することが出来ていた。

 

「ケッパーの飛天斬りも、うまくなってると思うぜ」

 

このまま練習を続けていけば、さらに威力を高めることが出来るだろう。

悠久の竜やエンダルゴにも、確実に大ダメージを与えられるようになるはずだ。

俺たちはそんなことを思いながら、何度も飛天斬りを放っていった。

 

だが、練習を始めてしばらくして、ロロンドの慌てた声が聞こえてきた。

 

「みんな、大変なことになったぞ!我輩たちの町に、大量の魔物が迫って来ておる!」

 

ロロンドの声はとても大きいので、練習に集中していた俺たちの耳にもはっきりと届く。

魔物が襲って来ていると聞き、俺とケッパーはすぐに彼のところに向かっていった。

 

「こんな時に魔物か…雄也、迎え撃ちに行くよ!」

 

「ああ。せっかく立て直した町を、また壊される訳にはいかないからな」

 

まだ飛天斬りは練習の途中だが、メルキドが再び壊されるのは防ぎたいので、魔物たちを倒さなければいけない。

魔物たちはいつも通り町の西から来ているようで、ロロンドは魔物たちの様子を見ていた。

 

「まだゴーレムも出来ていないのに、もう魔物が来ちまったのか…」

 

俺たちが町の西に着いたと同時に、他の場所で作業をしていたロッシもやってくる。

襲ってくる魔物の群れを見ると、ビッグハンマーとスターキメラが12体ずつ、あくまのきしが8体、ドラゴンが6体おり、奴らの中心には深緑の体を持った禍々しい雰囲気のドラゴンがいた。

 

「あいつは…この前メルキドを破壊したドラゴンじゃねえか…」

 

「まだ飛天斬りも練習中なのに、まずいことになったね…」

 

ロッシとケッパーは、深緑のドラゴンを見てそんなことを言う。

どうやらあいつが、チェリコの言っていた悠久の竜みたいだな。

メルキドシールドで守られたこの町を破壊し、ロッシとケッパーに大怪我を負わせるほどの力を持っているので、最大限に警戒して挑まなければならなさそうだ。

俺はメルキドを守るために剣を構えるが、二人は怯えた様子を見せていた。

 

「せっかく立て直したのに、また壊されちまうのか…?」

 

一度戦って勝てなかった相手なので、そうなるのも仕方ないだろう。

だが、今日は俺とロロンドがメルキドに戻って来ているし、練習中とは言え飛天斬りもある。

 

「確かにあいつは強そうだ。でも、例えこの前勝てなかったとしても、今回は俺とロロンドもいる。今度こそ奴を倒して、メルキドをもう一度復興させるぞ」

 

俺がロッシたちにそう話すと、後ろで聞いていたロロンドも続けて言う。

 

「我輩たちは、お主が人間には勝てないと言っていたゴーレムをも倒したのだ。誰が相手であろうと、勝てないはずはあるまい。力を合わせて、必ずあの竜を打ち倒すのだ」

 

「確かに今回は二人もいる…力を合わせて戦えば、あのドラゴンだって倒せるかもしれねえな」

 

懐かしいな、メルキドのみんなでゴーレムを倒し、町を守り抜いたのは。

今日もあの日のように、みんなと共にメルキドの町を守りたい。

ロッシも町を大切に思う気持ちは強い。俺たちの話を聞いて、ロッシは不安な表情をしながらも剣を構えた。

 

「厳しい戦いにはなりそうだけど、僕もメルキドの兵士として、諦めたくはないね」

 

ケッパーもメルキドの衛兵として、魔物たちとの戦いに備え始める。

魔物たちも、かなりメルキドの町に近づいて来ていた。

 

「そろそろ魔物たちが来る、みんな行くぞ!」

 

どんな苦しい戦いになっても、必ずメルキドの2度目の復興を達成してやるぜ。

俺が参戦する中では6回目の、メルキドの町の防衛戦が始まった。

 

メルキドの町ははがねの守りとメルキドシールドの二段構えで守られている。

悠久の竜は町のすぐ近くにまで来ると、巨大な闇の火球を吐いてメルキドシールドを攻撃してきた。

奴が放った闇の火球は前衛の魔物の上空を飛んでいき、メルキドシールドに着弾した瞬間爆発する。

 

「あの威力だと、メルキドシールドでもそう長くは持ちそうにないな…」

 

メルキドシールドは一撃では壊れなかったが、何発か受けたら耐えられないだろう。

前の戦いの時も、あの火球で防壁と町が壊されたのかもしれない。

俺たちは悠久の竜の火球を止めに行こうとするが、前衛のビッグハンマーたちが立ち塞がってくる。

俺たちは4人いるので、12体のビッグハンマーたちは3体ずつに分かれて襲いかかって来た。

 

「もう町を作るのは諦めな!」

 

「いくら作り直したところで、ボクたちが全部壊す!」

 

ビッグハンマーはブラウニーやブラックチャックよりも大きなハンマーを振り回し、俺たちに殴りかかってくる。

ハンマーはかなり威力が高そうで、当たったらかなり危なそうだ。

しかし、大きなハンマーを振り回すのには力がいるためか、あまり攻撃速度は早くなかった。

 

「攻撃力は高そうだけど、このくらいのスピードなら避けられるな」

 

俺はビッグハンマーたちの攻撃を回避しながら、おうじゃのけんとビルダーハンマーで攻撃していく。

強力な武器での攻撃を受けて、奴らはすぐに弱っていった。

ビッグハンマーは新しく見る魔物だが、ラダトームやサンデルジュの奴らと比べたら強くはない。

しかし、決して気を抜かないようにしながら、俺は攻撃を続けていく。

傷を負ってもビッグハンマーは攻撃を続けて来るが、攻撃速度はさらに落ちていた。

 

「ぐぬぬ…攻撃が当たらない…」

 

「しつこいぞ…人間め…!」

 

俺は攻撃速度が落ちたビッグハンマーたちの腕を攻撃していき、持っているハンマーを叩き落としていく。

俺と戦っている3体ともがハンマーを落としたのを見て、俺は腕に力を溜めた。

そして、奴らが体勢を立て直す前に力を解き放ち、薙ぎ払って行く。

 

「回転斬り!」

 

弱っていたところに二刀流での回転斬りを受けて、3体のビッグハンマーは青い光に変わっていった。

メルキドのみんなも、ビッグハンマーにはあまり苦戦していない。

 

「これ以上、我輩たちの町に近づくでないぞ!」

 

「このヒゲ男…強いな…」

 

「だが、ボクたちは人間どもには屈さない!」

 

力の強いロロンドはビッグハンマーの持つハンマーを弾き落とし、無防備になっているところを倒していく。

まだハンマーを持っている奴は抵抗を続けているが、じきに倒されるだろう。

ロッシとケッパーも、素早い動きで次々にビッグハンマーたちを攻撃していった。

このまま行けば、ビッグハンマー軍団を壊滅させることが出来そうだ。

 

だが、俺たちがビッグハンマーと戦っている間に、悠久の竜の炎によって、メルキドシールドの耐久力は限界になっていた。

闇の火球が何度も直撃し、メルキドシールドはついに破壊されてしまう。

もう少し耐えられると思っていたが、急いで悠久の竜のもとに辿り着かなければいけないな。

 

「メルキドシールドが…早くしねえと、町が…」

 

ロッシもメルキドシールドの破壊に気づき、そんなことを言った。

はがねの守りはメルキドシールドほど耐久力がないので、すぐに壊されてしまうだろう。

俺は早く悠久の竜のところに向かおうと、ビッグハンマーたちの後ろにいたあくまのきしたちに斬りかかって行く。

8体いるあくまのきしのうち、4体が俺と戦いに来て、残りの4体はまだビッグハンマーと戦っているロロンドたちのところに向かった。

 

「貴様はなかなかやるな…だが、我らに勝てると思うなよ!」

 

「我らの斧で叩き斬ってやる!」

 

あくまのきしは強力な魔物だ…しかし、今戦っているあくまのきしは昔メルキドで戦った隊長のあくまのきしや、この前戦った飛天斬りを使うあくまのきしと比べて体が小さい。

攻撃力も、あいつらに比べたら低いかもしれないな。

俺はなるべく早く奴らを倒すため、回避しながら攻撃していくのではなく、斧を弾き飛ばして無力化させようとする。

最初に攻撃してきたあくまのきしの斧を、俺はおうじゃのけんを使って受け止めた。

 

「体は小さいのに、結構重いな…!」

 

攻撃力はやはり大きなあくまのきしに比べたら低かったが、俺の腕にはかなりの衝撃が走る。

だが、防ぎきれないということはなく、腕に力をこめて奴の斧を弾き飛ばすことが出来た。

 

「でも、弾き返せないほどじゃないぜ」

 

1体の斧を弾き飛ばすと、俺は左腕のビルダーハンマーも使ってあくまのきしたちの体勢を崩していく。

あくまのきしがみんな体勢を崩すと、俺は再び回転斬りを放とうとした。

回転斬りを使えば、奴らに大きなダメージを与えられるだろう。

 

「もう一度だ、回転斬り!」

 

あくまのきしたちは鎧を引き裂かれたり叩き潰されたりして、瀕死の重症を負う。

体勢を立て直されると厄介なので、俺は動けなくなっている奴らに追撃を行い、とどめをさしていった。

俺があくまのきしたちを倒した頃には、みんなもビッグハンマーとあくまのきしを倒しており、悠久の竜の前に立つ6体のドラゴンの前に向かっている。

 

悠久の竜の炎はもうはがねの守りを突き破っており、これ以上放たれたら町が破壊されてしまう。

一刻も早くドラゴンを倒そうと思っているロロンドたちは、グレネードを使って攻撃を行っていく。

 

「お主たちもあの竜も、我輩たちを倒すは出来ん!」

 

「せっかく町を立て直したんだ…もうお前たちの好きにはさせねえ!」

 

俺の考えたグレネードは爆発範囲がそこまで広くなく、素早く小柄な魔物には避けられてしまうが、巨体で移動速度がそこまで早くないドラゴンには効果が高い。

 

「お主もグレネードを使うのだ!早くあの竜を止めに行くぞ!」

 

みんなのところに近づいて行くと、ロロンドは俺にもグレネードを使うように指示した。

 

「ああ、町の被害を最小限に留めたい」

 

指示を聞くと、すぐに俺はポーチからグレネードを取り出し、ドラゴンの背中に向かって投げていく。

俺たちが投げたグレネードの爆風はドラゴンたちに直撃し、大きなダメージを与えられた。

ドラゴンたちは火炎を吐いて抵抗して来たが、俺たちは横に避けてグレネードを投げ続ける。

 

「炎を吐いてきたか…でも、このくらいで俺たちは止められない」

 

普通のドラゴンはダースドラゴンなどと比べて耐久力も低く、爆風を何度か受けると怯んで動きを止めた。

奴らが動きを止めたのを見て、俺たちは持っていたグレネードを一斉に投げつける。

 

「怯んだな…今のうちに一気に倒すぞ!」

 

大量のグレネードの爆発に巻き込まれ、ドラゴンたちは生命力が尽きて消えていった。

 

6体のドラゴンが倒されたのを見て、悠久の竜は町への攻撃を止めて俺たちを睨みつけてくる。

町の西側にある建物はいくつか壊されてしまっているが、この前のようにメルキドの町全体が被害を受けてはいない。

奴を倒して、これ以上町が壊されないようにしないとな。

 

「よくも我輩たちのメルキドを破壊してくれた…お返しはたくさんしてやらないとな」

 

ロロンドもそう言って、悠久の竜に剣を向けた。

だが、俺たちが悠久の竜に斬りかかろうとすると、後ろにいたスターキメラたちも炎を吐いて来る。

 

「くっ…。せっかくここまで来たのに、こいつらも邪魔して来やがったか…」

 

全員でスターキメラと戦えば悠久の竜が町への攻撃を再開してしまうだろうから、誰か一人が悠久の竜を引き付けて、残りの3人でスターキメラを倒さなければいけなさそうだ。

ラダトームやサンデルジュでドラゴンの魔物とは戦い慣れているので、俺が悠久の竜を引きつけようとみんなに言う。

 

「みんなはスターキメラを倒してくれ。俺がその間、悠久の竜を引き付ける」

 

「分かった。スターキメラを何とかしないと、あのドラゴンも倒せなさそうだからね」

 

俺の指示を聞くと、ケッパーたちはすぐにスターキメラたちに斬りかかって行った。

スターキメラの炎は強力だが、近接戦闘に持ち込めば簡単に倒すことが出来る。

みんななら、奴らを倒しきるのにそんなに時間はかからないだろう。

みんながスターキメラのところに向かったのを見て、俺は悠久の竜に近づいた。

 

悠久の竜は俺が近づいて来たのを見て、直線状に闇の炎を吐き出す。

普通のドラゴンと同じような動きだが、炎の勢いも熱さも桁違いだ。

 

「火球以外でも、強力な闇の炎を扱って来るな…」

 

さすがに闇の戦士の闇の爆炎ほどの威力はないものの、直撃したらひとたまりもなさそうだ。

俺は悠久の竜の炎をジャンプで避けて、奴の前足へと近づいていく。

 

「でも、何とか近づけそうだぜ…」

 

動く速度はゴールデンドラゴンくらいなので、接近することは不可能ではない。

変異したことにより足の肉質も固くなっているだろうが、おうじゃのけんならかなりのダメージを与えられるだろう。

俺は奴の足に向かって剣を振り下ろし、反撃して来る前にビルダーハンマーも叩きつける。

しかし、ラダトームを襲った滅ぼしの騎士と同様に、全く怯む様子を見せず、俺に爪を振り下ろして来た。

俺は動きを見てすぐに避けたが、奴は連続して牙での噛みつきも行ってくる。

 

「くっ…連続攻撃か…」

 

悠久の竜の口内には常に闇の炎があり、噛まれれば大きな火傷も負うことになるだろう。

俺は牙での攻撃もジャンプして回避しようとするが、連続攻撃はそれでは終わらない。

悠久の竜は力をこめて飛び上がり、俺を叩き潰そうともして来る。

ドラゴン系の魔物が飛び上がるなんて、今まで見たこともなかったな。

飛びかかり攻撃の後は、3連続で闇の火球を放ってくる。

 

「くそっ、どれだけ連続で攻撃して来るんだ…!?」

 

連続攻撃にも限界があるはずだと思い、俺は飛びかかりや火球もかわしていくが、3発目の火球を避けきれず、俺は足に傷を負って怯んでしまった。

俺が怯んだのを見て、悠久の竜は口に力を溜めていく。

そして、俺が体勢を立て直しきる前に、辺りの全てを焼き払うような広範囲の闇の炎を、放射状に吐いてきた。

俺は直撃だけは避けようと体勢を立て直せぬままにまたジャンプを行ったが、体中に大きな火傷を負ってしまう。

 

「連続攻撃だけじゃなく、こんな広範囲に炎を吐くことも出来るのか…」

 

奴はメルキドの地で長い年月を生き、さらにエンダルゴの力で変異した個体だ…連続攻撃を行ってもそう簡単に疲労はしないのかもしれない。

この前のロッシとケッパーも、この連続攻撃に対応出来なかったのだろう。

火傷を負った俺に見せつけるかのように、悠久の竜はメルキドの町に向かって火球を吐く。

火球は町の中央にまで到達し、ルビスの加護を失ってボロボロになった希望のはたが燃え上がっていた。

 

「でも、どんな強敵であっても、俺たちのメルキドを壊させたくはないぜ…!」

 

俺は町を守らなければいけないという思いで立ち上がり、少しでも奴にダメージを与えられないかとサブマシンガンを取り出す。

はがねの弾丸を連射すると、少しは悠久の竜も傷を負っていた。

だが、やはり怯むことはなく、奴は火炎での攻撃を続けてくる。

一人では奴を引き付けることすら難しいみたいだな…。

俺は痛む全身を動かして回避しながら、何とかみんなが戻って来るまで持ちこたえようとした。

 

「大丈夫かい、雄也?ここまで引き付けてくれてありがとう」

 

そして、俺の体力が残り僅かになった時、ついにスターキメラを倒し終えたケッパーが戻って来た。

4人がいれば、戦いの前に言っていた通り、戦いに勝てる可能性は上がる。

しかし、奴の連続攻撃を見ると、苦しい戦いになるのは間違いないだろう。

 

ロロンドとロッシもスターキメラ軍団を打ち破り、悠久の竜に斬りかかって行った。

 

「ようやく町を壊された礼ができるな。覚悟するのだ!」

 

「今日はこの前のようにはいかねえ…絶対に倒してやる」

 

3人は悠久の竜の側面にまわり、奴の体に次々にダメージを与えていく。

ロロンドはメタルのけん、ロッシとケッパーははがねのつるぎを使っているが、それでも傷をつけることは出来ていた。

悠久の竜もさすがに3人同時に攻撃することは出来ないのか、まずはケッパーを倒そうと、さっき俺にしたような連続攻撃を仕掛ける。

 

「あの連続攻撃は危険だ。ロロンド、雄也、何としてでも止めるぞ!」

 

ロッシもやはり連続攻撃の危険性を知っているようで、俺たちにそんなことを言った。

悠久の竜はケッパーを爪で薙ぎ払い、炎で焼き付くし、飛びかかって叩き潰そうとする。

体力の限界で動きを止めていた俺も再び攻撃に加わり、ロロンドたちと共に奴の後ろ足や尻尾に武器を叩きつけていった。

だが、3人でどれだけ攻撃を行っても、悠久の竜はなかなか怯まない。

ケッパーも最初は簡単に避けられていたが、あまりに連続して行われる攻撃に苦しそうな表情になる。

ケッパーが苦しんでいるのを見て、悠久の竜は力を溜めた。

おそらく、さっき俺に放ってきた放射状の闇の炎を吐くつもりなのだろう。

 

「こうなったら、飛天斬りだな…」

 

飛天斬りはまだ練習中だが、それでも通常の攻撃よりはかなり威力が高い。

飛天斬りを使えば、もしかしたら悠久の竜の動きを止められるかもしれないな。

ケッパーも大けがを負ってしまえば、奴に勝てる可能性はさらに下がってしまう。

ケッパーを助けるには他に方法はないと思い、俺は腕に力を溜める。

そして、悠久の竜が炎を吐き出す直前に大きく飛び上がり、両腕の武器を垂直に思い切り叩きつけた。

 

「飛天斬り!」

 

奴の背中に、伝説の武器の二刀流での飛天斬りが直撃する。

すると、力を溜めていた悠久の竜はついに怯んで体勢を崩し、動きを止めた。

さらに、溜まっていた闇の炎が体内で爆発の起こし、大きなダメージを受けていた。

 

「よくやったぞ雄也!今のうちに奴を倒してやろう!」

 

ロロンドたちは悠久の竜が怯むと、肉質の柔らかい腹部への集中攻撃を行う。

俺は傷ついた体で飛天斬りを使ったので、着地と同時に体に激しい痛みが起こったが、苦痛に耐えて攻撃に参加した。

ケッパーも体勢を立て直し、俺と同じように飛天斬りを使う。

 

「僕もやるよ、飛天斬り!」

 

悠久の竜は顔面に強力な一撃を与えられ、体勢を立て直すどころかさらに怯んだ。

それを見て、俺とケッパーはもう一度飛天斬りを放つ。

ロロンドたちも可能な限りの攻撃を叩き込み、奴を弱らせていった。

 

体勢を立て直した頃には、悠久の竜はもう瀕死の状態になっていた。

追い詰められた奴は、メルキドの町の反対側に逃げ出そうとする。

 

「ここで逃がしてもまた襲ってくる…みんな、とどめをさすぞ!」

 

「ああ!」

 

この前ロッシたちが町を破壊されながらも撃退した悠久の竜が、今日再び襲いかかって来ている。

ならば、今日ここで逃がしたら、確かに奴はまた戻って来るだろう。

俺たちは悠久の竜にとどめをさそうと、剣を構えて向かっていった。

すると、悠久の竜ももう逃げられないと思ったのか、再び火を放って攻撃して来る。

 

「炎の範囲も狭くなっているな…連続攻撃も、もう使えないかもしれない」

 

だが、炎の範囲も威力もさっきより弱まっているので、近づきやすくなっていた。

俺たちは再び奴を包囲し、可能な限りの攻撃を叩き込む。

ロロンドたちも、このままとどめをさせそうだと思っていた。

 

しかし、悠久の竜はただでは倒れてはくれない。

包囲している俺たちを一度に薙ぎ払おうと、全身を回転させて攻撃してきた。

 

「まだ攻撃出来る力があるのか…!?」

 

ラダトーム城の1度目の防衛戦で襲いかかって来た、ダースドラゴンも使っていた技だ。

俺はすぐに気づいて避けることが出来たが、尻尾の近くにいたロッシは攻撃を受けて地面に叩きつけられる。

それだけでなく、悠久の竜は回転攻撃の直後に火炎での攻撃を行い、避けた直後であり、体力がほとんど尽きている俺はさらなる火傷を負ってしまう。

 

「くそっ、連続攻撃もまだ使えるのかよ…!」

 

連続攻撃は使えるものの、やはり弱ってはいるので、悠久の竜の動きは少し止まっていた。

ケッパーはその隙を逃がさず、腕に力を溜める。

奴はもう一度回転攻撃を使おうとしていたが、ケッパーはその前に高く飛び上がり、剣を叩きつける。

 

「今度こそ、飛天斬り!」

 

高威力の技を受けて悠久の竜はもう一度怯み、そこをロロンドとケッパーは残った力を全て使って攻撃を行う。

そして、二人の体力が尽きるのとほぼ同時に、悠久の竜の強大な生命力と闇の力はついになくなり、奴は青い光を放って消えた。

 

「何とか…勝ったんだな…」

 

悠久の竜が倒れるのを見て、俺たちはメルキドの町に戻っていく。

俺たちは強大な魔物を打ち倒した、あの時ゴーレムを倒したように。

しかし、メルキドの町を破壊した強敵を打ち破った嬉しい瞬間ではあるが、それを喜び合う力ももう残っていなかった。

チェリコの話によると、悠久の竜は残り2体もいるらしい。

恐らく今度はさらに多くの部下を引き連れて、2体同時に現れることになるだろう。

ゴーレムの製造や防壁の強化を、急がなければならなさそうだ。

俺たちはそんなことを思いながら、足を引きずりながら町の中に入っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode154 石の心臓

悠久の竜を倒した翌日、メルキドに戻って来てから5日目の朝、俺は昼頃になってようやく目を覚ました。

昨日の戦いで俺は体力を限界まで消耗し、その疲れはまだ取れていない。

傷もきずぐすりや薬草で治療したものの、完全には治っていなかった。

 

「体力も傷も治ってないけど、昨日の襲撃で壊された場所を修復しないとな」

 

だが、次に魔物たちが襲って来る前に、なるべく早くメルキドの守りを固めなければいけない。

まずは悠久の竜の攻撃で壊されたメルキドシールドやはがねの守りを修復しようと、町の西に向かっていく。

 

するとその途中、焼け落ちた希望のはたの台座に、会ったことのない若い女が立っているのが見えた。

髪が長く静かそうな雰囲気で、昔のピリンたちと同じようにボロボロの茶色の服を来ている。

 

「見たことない人がいるな…あいつは誰だ?」

 

メルキドの人で、まだこの町に暮らしていない人がいたのか。

その女はメルキドの町を見渡しながら、不思議そうな表情をしていた。

 

「光の中に入ったと思ったら…何なのでしょう、ここは?」

 

光の中に入ったと言っているので、恐らくは旅のとびらを通って町に辿り着いたのだろう。

町の仲間になってくれるかもしれないし、俺はその人に話しかけてみる。

 

「あんた、ここに来るのは初めてだな?」

 

「私以外にも人がいたのですか。あなたは、ここが何だか知っていますか?」

 

今まで町にやってきた人々は町の中を光に溢れた暖かい場所だと言っていたが、彼女はそう感じてはいないようだ。

ルビスの加護が失われたことで、町の中の気温も明るさも町の外と同じになっている。

俺はその人に、ここがメルキドの町であることを伝えた。

 

「ここは俺たちが作っている、メルキドの町だ。俺以外にもたくさんの人が、ここに住んでいる」

 

「メルキドの町…?私は鉱山の洞窟に住んでいたから知らないのですが、町って何ですか?」

 

この人も昔のチェリコみたいに、町という物は知らないみたいだな。

鉱山の洞窟に住んでいたと言うので、緑の旅のとびらの先から来たようだ。

俺は町について説明し、一緒に暮らさないかと提案する。

 

「町って言うのは、人々が協力しながら建物を作り、共に暮らしている楽しい場所だ。良かったら、一緒に暮らさないか?」

 

「私が住んでいた洞窟にも魔物が入って来ましたし、他に暮らせそうな場所はありません。私もここで暮らしましょう」

 

メルキドの峡谷地帯でも、やっぱり魔物の数は増えているようだな。

一緒に暮らしてくれるようなので、俺はいつもの自己紹介をする。

 

「あの峡谷地帯でも魔物が増えているのか…。一緒に暮らすんなら、自己紹介をしないとな。俺はビルダーの影山雄也、普段は雄也って呼んでくれ」

 

「私はエレカ、よろしくお願いします、雄也さん」

 

エレカも自己紹介をし、あいさつをする。

あいさつの後、エレカは峡谷地帯の今の状況を話してくれた。

 

「私が住んでいた場所の近くでは魔物が増えるだけでなく、虹色のばくだんいわも見られるようになりました。黒く変質して、今までよりも硬度を増しているオリハルコンもありましたね」

 

虹色のばくだんいわか…山岳地帯のビッグハンマーのように、峡谷地帯でも新種の魔物が現れているのか。

滅ぼしの騎士や悠久の竜のようにエンダルゴの力で変異した個体以外にも、ルビスの死後いくつもの新種の魔物が現れている。

それに、黒く変質して硬度を増したオリハルコン…硬度を高めて人間が採掘できないように、魔物たちが魔力をかけたのだろう。

何とかしてその変質したオリハルコンを採掘出来れば、メルキドの町をさらに強固に出来そうだ。

 

「それなら何とかして、その黒いオリハルコンを採掘したいな。とにかく、これからよろしくな」

 

峡谷地帯についての話を聞いた後、俺もエレカにあいさつした。

お互いにあいさつが終わった後、俺は昨日壊された部分の修復に向かう。

エレカは、町のみんなにもあいさつに行っているようだった。

 

悠久の竜の攻撃で壊された部分はかなり多く、修理には時間がかかっていた。

ロッシとケッパーも手伝ってはいるものの、すぐには終わらない。

 

「壊された町はまた作り直せると言うけど、今度こそは被害がないようにしたいな。…そう言えば、まだロロンドは起きて来ないのか?」

 

「いつもは早く起きることが多いから、珍しいな」

 

3人で作業を行っている間、ロロンドはまだ起きて来なかった。

俺がアレフガルド各地を巡っている間、ずっとロロンドと共に暮らして来たロッシは、彼は早く起きることが多かったと言う。

昨日の戦いで疲れてはいるものの、こんなに遅くまで起きてこないと言うことは、何があったのだろうか?

俺たちがそう思っていると、ロロンドの個室の扉が勢い良く開かれた。

 

「ぬおお!雄也よ、ロッシよ、ついに分かったぞ!」

 

個室から飛び出してきたロロンドは興奮して喋りながら、こちらに向かってくる。

彼は右手にメルキド録を持っているようだが、また解読が進んだのだろうか?

 

「どうしたんだロロンド、そんなに興奮して?」

 

「昨日のような強大な魔物がまた来てもいいように、ゴーレムの製造を急ごうとしてな、我輩は徹夜でメルキド録のゴーレムについて書かれた部分を解読していたのだ。そしてさっきついに、ゴーレムの製造に不可欠な、石の心臓のありかを突き止めたのだ」

 

俺たちが町の修復をしている間、ロロンドはメルキド録の解読を進めていたのか。

ロロンドの顔は興奮しながらもかなり疲れたように見えるが、それは徹夜で作業をしていた影響もあるようだ。

彼がありかを突き止めた石の心臓と言うのは、どのような物なのだろうか?

 

「石の心臓って、どんな物なんだ?」

 

「ゴーレムの動力となる物でな、それがなければ生きたゴーレムを作ることは不可能なのだ」

 

確かに、ただゴーレム岩を組み立てただけでは、それは単なる岩の塊であり、生きたゴーレムにはならない。

メルキドの守護者たる生きたゴーレムにするためには、心臓が必要だと言うことか。

ゴーレム作りも急ぎたいし、場所を聞いたらすぐに取りに向かおう。

 

「俺もゴーレム作りは早くしたいし、今から取りに行ってくるぞ。さっそく場所を教えてくれ」

 

「メルキドの峡谷地帯の奥にある森、その近くの海に面した崖に、石の心臓が隠された洞窟がある。古代の人々は二つの石の心臓を作り、一つは我輩たちが倒したゴーレムの動力にして、もう一つは予備としてその洞窟に隠したらしいのだ」

 

峡谷地帯の森と言うのは、昔スラタンを救出したところのことだろう。

その近くには、海に面した崖もあったな。

俺はアレフガルド復興の間にいくつもの岩山や崖を登って来ているので、崖にある洞窟でも問題なく行けるはずだ。

 

「分かった。俺が石の心臓を取ってくる間、ロロンドは町の修復を手伝ってくれ」

 

「その洞窟には石の心臓と一緒に、ゴーレムの詳しい設計図もあるそうだ。そちらも手に入れて来てほしい」

 

ゴーレムの設計図か…俺はゴーレムの形はだいたい覚えているが、確かに詳しい設計図があった方がいいだろう。

俺はロロンドの話を聞いた後、メルキドの峡谷地帯に向かうため緑の旅のとびらに入る。

峡谷地帯に行くのだから、さっきエレカが言っていた話も確認出来そうだ。

 

緑の旅のとびらに入ると、一瞬目の前が真っ白になり、俺はメルキドの峡谷地帯に移動する。

 

「ここに来るのも、数ヶ月ぶりだな…。まずは、森の方に向かうか」

 

昔メルキドを復興させていた時、ばくだん石やオリハルコンを集めに来た場所だ。

俺はポーチから砂漠の箱を取り出して被り、魔物に見つからないようにして進んでいく。

途中にはアルミラージやばくだんいわと言った見慣れた魔物が多かったが、エレカの言っていた通り、輝くばくだんいわも見かけられた。

 

「あれはオーロラウンダーか…ばくだんいわよりも強力そうだな」

 

オーロラ色の体を持つ、ばくだんいわ等の岩型の魔物の上位種、オーロラウンダーだ。

エレカはオーロラを見たことがないだろから、虹色と言ったのだろう。

強さはばくだんいわより上だろうし、戦いは避けようと、俺はより慎重に動いていく。

スラタンがいた森までは結構な距離もあり、辿り着くのに時間がかかりそうだ。

 

森に向かっている間、俺は黒く変質したオリハルコンを確認するため、鉱脈の方も見ながら歩いていった。

すると、確かに多くの金色だったオリハルコンは、黒色に変化している。

まだ金色のままのオリハルコンも残されているが、これから変質していくんだろうな。

 

「これが黒いオリハルコンか…どれ位硬くなっているんだ?」

 

エレカは黒くなったオリハルコンは硬度を増していると言っていたが、どのくらい硬くなっているのだろうか?

それを確かめるために、俺はビルダーハンマーで黒いオリハルコンを叩いてみる。

すると、ビルダーハンマーは弾かれ、黒いオリハルコンはびくともしなかった。

 

「ビルダーハンマーでも壊れないか…何とかして採掘出来ればいいんだけどな」

 

ビルダーハンマーで壊せないのならば、まほうの玉も効果がないだろう。

もし採掘出来ればメルキドの防衛に大いに役立つだろうが、今は手に入れる方法がない。

ひとまず今は採掘を諦めて、石の心臓が隠されているという洞窟に向かった。

 

45分くらい慎重に歩き続けて、俺は峡谷地帯の森に辿り着く。

この近くの海に面した崖に石の心臓がある洞窟があるそうなので、俺はまず海のほうに行った。

 

「魔物に見つからずにここまで来たか…確か、ここにはスライムがたくさんいたな」

 

この峡谷地帯の森はスライムばかりが生息している。

スライムは弱い魔物なので戦っても苦戦はしないだろうが、俺は今まで通り隠れながら進んでいく。

この森はあまり大きくないので、ゆっくり動いてでも5分ほどで海に辿り着くことが出来た。

海に出ると、俺は崖を歩きながら石の心臓がある洞窟を探し始める。

 

「森の近くの崖って言っていたし、すぐに見つかるだろうな」

 

崖を歩くのは結構久しぶりだが、慎重に歩いていけば安全に進める。

森の近くの崖と言っていたので、洞窟を探すのにはあまり時間がかからないだろうと思っていたが、案の定すぐに洞窟の入り口を見つけることが出来た。

 

「ここが石の心臓がある洞窟だな…さっそく入ってみよう」

 

洞窟の入り口を見つけると、俺はすぐに中に入っていく。

エレカの住んでいた洞窟には魔物が入って来たそうなので、この洞窟は大丈夫だろうかと思っていたが、魔物の姿は見かけられなかった。

崖にある洞窟なので、魔物も来にくいのだろう。

だが、それでも俺は警戒を怠らず、奥へと進んでいく。

そうして洞窟の一番奥までたどり着くと、並んで置かれている二つの宝箱が見つかった。

 

「この宝箱に石の心臓とゴーレムの設計図が入っているのか…ゴーレムが出来たら、町を守れる可能性も上がるだろうな」

 

石の心臓と設計図を手に入れれば、ついに新たなゴーレムを作り出すことが出来る。

俺はまず、左の宝箱を開けて中身を見てみた。

するとそこには、石で出来た丸い物が入っていた。

見た目はただの岩のようにも見えるが、手に取ると強い力が感じられる。

 

「不思議な力を感じるな…これが石の心臓か」

 

これが石の心臓なのだろう。

俺はポーチに石の心臓をしまうと、右の宝箱を開けてみる。

そちらのほうには、古びた何枚かの紙が入っていた。

古代の文字で書かれており、ロロンドに解読して貰わなければ内容は分からなさそうだ。

 

「この設計図は古代の文字で書かれてるけど、ロロンドなら大丈夫そうだな」

 

メルキド録をここまで解読してきたロロンドならば、このゴーレムの設計図を解読出来るだろう。

俺はゴーレムの設計図も手に入れると、メルキドの町に戻っていく。

帰るのにもかなりの時間がかかったが、魔物と戦うことなく町に帰ることが出来た。

 

メルキドの町に戻って来ると、俺はロロンドを大声で呼ぶ。

ロロンドたちのおかげで、昨日の襲撃で壊された部分はだいたい直すことが出来ていた。

 

「ロロンド、石の心臓とゴーレムの設計図を手に入れて来たぞ!」

 

「おお、よくやったな雄也!これでもうすぐ、ゴーレムを再建出来る!」

 

俺の声を聞くと、ロロンドはさっきのような興奮した声を出しながら走って来る。

一度は頓挫したゴーレムを作り直す計画が成功目前となり、とても嬉しいのだろう。

近づいて来たロロンドに、俺は石の心臓とゴーレムの設計図を見せた。

 

「これが石の心臓とゴーレムの設計図だ。設計図は古代の文字で書いてあるけど、解読出来そうか?」

 

ロロンドはしばらく設計図を眺めた後、解読出来そうだと言う。

 

「このくらいなら、少し時間はかかるが、解読出来る。なるべく急ぐから、もう少し待っていてくれ」

 

「それなら良かった。解読が出来たら、俺にも伝えてくれ」

 

解読が終わったら、俺もゴーレム作りを手伝おう。

ロロンドに設計図を見せた後、俺はロッシたちと共にメルキドの修理に戻った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode155 守護者の再建

石の心臓を手に入れた翌日、メルキドに戻って来てから6日目の朝、俺はメルキドの周りの様子を観察していた。

この前は6体のドラゴンを倒したが、まだ多くのドラゴンが町の近くを彷徨いている。

ゴーレムの製造と黒いオリハルコンの利用、それらが早く出来ればいいなと、俺は奴らを見て思っていた。

そうしていると、ショーターが後ろから話しかけて来た。

 

「雄也さん、少しいいでしょうか?」

 

「もちろんいいけど、どうしたんだ?」

 

俺がそう聞くと、ショーターはエレカと共に、黒いオリハルコンの採掘方法を考えていると話す。

 

「峡谷に黒いオリハルコンが現れたことは、雄也さんも知っているでしょう。私とエレカさんはそれを採掘するために、新しいまほうの玉を考えています」

 

そう言えば、最初にまほうの玉を発案したのはショーターだったな。

今回も黒いオリハルコンを採掘するために、新しいまほうの玉を考えているのか。

エレカも手伝っているということは、彼女にも爆弾に関する知識があるのだろう。

 

「それって、どんなまほうの玉なんだ?」

 

「エレカさんの言っていた、虹色のばくだんいわを利用することは決まっています。ですが、それだけでは爆発力が足りないと思うので、まだ考えている途中ですね」

 

オーロラウンダーはばくだんいわの上位種なので、爆発力はかなり高そうだ。

しかしショーターの言う通り、あれだけ硬い鉱物を採掘するためには、さらなる爆発力が必要な可能性が高いだろう。

作り方が分かったらすぐにでも作りに行きたいが、まだ時間がかかりそうだ。

 

「爆発力を高めるのは大変だろうけど、なるべく急いでくれ」

 

「もちろんです。考えがまとまったら、すぐに教えますね」

 

次に悠久の竜が襲ってくる前に、新たなまほうの玉と、黒いオリハルコンを使った防壁が出来上がるといいな。

ショーターは俺にそう言った後、エレカのところへ戻っていく。

ショーターとの話の後、俺はまずは朝食を食べに調理室に向かった。

 

朝食を食べた後、俺は今日これから何をしようかと個室の中で考える。

そうしていると、部屋の外からロロンドの大声が聞こえてきた。

 

「おおい!雄也よ、ロッシよ、ついにこの時が来たぞ!」

 

今日のロロンドは、昨日にも増してテンションが高そうだ。

もしかしたら、昨日渡したゴーレムの設計図の解読が終わったのかもしれないな。

俺はすぐに部屋を出て、ロロンドの声がする方向に向かっていく。

 

「どうしたんだ、ロロンド?もしかして、ゴーレムの設計図が解読出来たのか?」

 

ロロンドは町の外側にある、新たなゴーレムを組み立てているところに立っていた。

ゴーレムの足と胴体の下部は既に組み立てられているが、まだ上部や顔、腕は作られていない。

ロッシもやって来ると、ロロンドは興奮した口調のまま話をする。

 

「その通りだ、雄也よ!我輩は昨日も徹夜をしてな、ゴーレムの設計図を解読していたのだ。メルキド録ほどの文章量でもないのでな、先ほど解読を終えることが出来た」

 

二日も連続で徹夜をするのはかなり身体に悪そうだが、ロロンドにとってはメルキドの町を守ることの方が重要なのだろう。

これでゴーレムを完成させられるので、ロッシも嬉しそうな顔になった。

 

「いよいよか…ここまで本当によくやったな。いよいよ最後の仕上げって訳だ」

 

メルキドの守護者たるゴーレムの力があれば、悠久の竜との戦いに勝てる可能性も大きく上がるはずだ。

二度目の復興にまた一歩近づき、俺も嬉しいぜ。

俺とロッシが喜んでいると、ロロンドはゴーレムを完成させるための作業について説明する。

 

「ゴーレムを完成させるために、まず我輩とロッシは今作ってある足と胴体の下側を設計図の通りに直そうと思う。それが終わったら他のゴーレム岩を使い、胴体の上側を作る」

 

今作られているゴーレムの足と胴体の下部は、俺たちがかつて戦ったゴーレムとは違っている部分も見かけられた。

だが、そこまで大きな違いでもないので、すぐに直すことが出来そうだ。

また、俺たちの周りにはまだ組み立てられていないゴーレム岩も多く落ちていた。

それらを使えば、胴体の上部を作ることも十分可能だろう。

ロッシと共に行う作業を説明した後、ロロンドは俺に頼みたいことを言う。

 

「雄也よ。お主は両腕と頭を作るのに必要なゴーレム岩を集め、お主の力で設計図の通りに加工してくれ」

 

ゴーレム岩はドムドーラの砂漠にいる巨大ストーンマンが落としたはずだ。

非常に防御力の高い魔物であり、今ならビルダーハンマーでも倒せるだろうが、グレネードや地雷を使ったほうが簡単に倒せるだろう。

ロロンドは設計図を持ちながら、ゴーレムの頭部と腕の正確な形について教えてくれた。

俺はロロンドの話から頭部と腕の形状を思い浮かべ、ビルダーの魔法を発動させる。

 

ゴーレムの頭…ゴーレム岩1個 石の作業台

 

ゴーレムの腕…ゴーレム岩3個 石の作業台

 

頭は一つ、腕は二つ作らなければいけないので、7つのゴーレム岩が必要になるな。

そのくらいなら、すぐに集めることが出来るだろう。

俺はロロンドの話を聞き終えると、すぐにドムドーラの砂漠に向かおうとした。

 

「さっそく集めに行ってくるぜ。なるべく早く戻って来る」

 

ポーチを通じてメルキドの大倉庫からグレネードと地雷を取り出し、旅のとびらがある部屋に入っていく。

俺が出発するのを見た後、ロロンドたちも作業を開始した。

赤色の旅のとびらを抜けると、俺の体はドムドーラの砂漠地帯へと移動する。

 

ドムドーラの砂漠地帯にたどり着くと、俺は無駄な戦いを避けるために砂漠の箱を被りながら、ストーンマンの生息地に向かっていった。

最近は魔物の数が増えているので慎重に動かなければならないが、危険な戦いはなるべく発生させたくない。

 

「確かストーンマンは、砂漠の中心にいたな」

 

生息地が変わっていなければ、今も砂漠の中心辺りにいることだろう。

20分くらいかけて海辺の道を進んでいき、俺は砂地が広がっている砂漠の中心へとたどり着く。

するとそこには、昔と同じように、2体の小さなストーンマンと1体の巨大ストーンマンからなる、ストーンマンの群れがいた。

 

「やっぱりここにいたか…。小型も襲われたら危険だろうし、倒しておかないとな」

 

ゴーレム岩を落とすのは、大型の個体だけだったはずだ。

しかし攻撃を仕掛ければ、群れ全体に襲われてしまうことになるだろう。

俺は小型ストーンマンに襲われないよう、いくつかのグレネードを投げて、一気に撃破しようと試みる。

俺は群れの背後に投げたので奴らは気付かず、爆風を直撃させることが出来た。

 

「これで小型は倒れたな…後は地雷を設置して、大型の奴を倒そう」

 

何発ものグレネードの爆発に巻き込まれ、小型のストーンマンはバラバラに砕け散る。

だが、まだ大型のストーンマンは立っていたので、俺は地雷を設置して倒そうとした。

大型のストーンマンは群れを攻撃した俺に怒り、追いかけて来ようとする。

そこで俺は追い掛けてくるストーンマンを地雷の上に誘導し、爆破していった。

大型のストーンマンは地雷にも少しは耐えたが、何度も爆破されれば耐えきれず、砕け散って青い光に変わっていく。

大型のストーンマンが砕け散ったところを見ると、3つのゴーレム岩が落ちていた。

 

「一度に3つも手に入ったか…この調子なら、すぐ集まりそうだな」

 

俺は手に入れたゴーレム岩をポーチにしまうと、他の大型ストーンマンも同じ様にして倒していく。

かなりの数のグレネードや地雷を使ったが、ゴーレム作りに必要な7つのゴーレム岩はすぐに集めることが出来た。

ゴーレム岩が集まると、再び俺は砂漠の箱を被ってメルキドの町へと戻っていく。

帰りも20分くらいで、俺は赤色の旅のとびらにたどり着いた。

 

メルキドの町に戻って来ると、俺はさっそくゴーレム岩をゴーレムの頭や腕に加工するために、工房へと向かう。

 

「町に戻って来たな…ロロンドたちの作業も進んでるだろうし、早く頭と腕を作らないとな」

 

工房には今は誰もいないので、俺はすぐに使うことが出来た。

俺は石の作業台の前に立つと、ポーチからゴーレム岩を取り出していく。

 

「まずはゴーレムの腕を作るか」

 

岩を取り出すと、まずはゴーレムの腕を作ろうと、ビルダーの魔法を発動させた。

魔法が発動すると、3つのゴーレム岩は次々に加工されていき、腕の形に変わっていく。

片方の腕を作ると、もう片方の腕も作っていった。

 

「これで両方の腕が出来たし、後は頭だな」

 

腕を作るのに6個のゴーレム岩を使い、残ったゴーレム岩は1つになる。

俺はその残ったゴーレム岩にもビルダーの力を使っていき、ゴーレムの頭を作った。

ゴーレムの頭と両腕が完成すると、俺はロロンドたちに知らせるために工房を出ていく。

 

ロロンドとロッシの所に向かっていくと、二人は既に足と胴体をほとんど完成させており、俺が戻ってくるのを待っているようだった。

胴体の上部には穴が空いているところがあり、そこに石の心臓をはめ込むのだろう。

俺は作ってきたゴーレムの腕と頭を取り出し、ロロンドたちに見せる。

 

「二人とも、ゴーレムの腕と頭を作ってきたぞ!」

 

「おお!岩を集めるのは大変だっただろうが、本当によくやったな。これでようやく、メルキドの新たな守護者を完成させられる!」

 

俺の声を聞くと、ロロンドはこちらに振り向いて、嬉しそうな口調でそう話した。

腕と頭部を取り付けるのにも時間はかかりそうだが、確かに今日中に完成させることが出来そうだ。

今までの作業で少し疲れているロッシも、作業を続けようと言う。

 

「胴体を作るのに結構疲れたが、今日のうちに完成させるぞ」

 

「俺も手伝うぜ、ロッシ」

 

俺も作業に加わり、ゴーレムを作りは次々に進んでいった。

ロロンドが設計図を見ながら指示を出して、ロッシと俺が組み立てを行っていく。

ロロンドの指示はとても正確であり、かつて俺たちが倒したゴーレムとほとんど同じ姿をした、新たなゴーレムが出来上がっていった。

 

そしてついに、その日の夕方になると、ゴーレム作りは最後の段階に入っていた。

 

「これでゴーレムの体は出来上がったな。雄也よ、胸の窪みに石の心臓をはめ込むのだ」

 

「ああ、もちろんだ」

 

体は完全に出来上がり、後は動力となる石の心臓をはめ込めば完成だ。

俺は組み立て作業に使った段差に登り、ゴーレムの胸の部分に近づいていった。

胸の窪みの所に来ると、俺はそこに手に持った石の心臓をはめて行く。

石の心臓が完全にはまると、ただの岩の塊であったゴーレムに生命力が満ち溢れ始めた。

 

「ゴーレムはこれで動力を得たはずだ…成功なのか…?」

 

これでメルキドの象徴や守護者となる、新たなゴーレムは完成だ。

しかし、ロロンドはまだゴーレム作りが成功したと確信を持てないようで、そんなことを言う。

 

だが俺たちの目の前で、完成したゴーレムは動き出し、話しかけてきた。

 

「ここは…それにお前たちは…?我はゴーレム、メルキドの地を守る者」

 

石の心臓に情報が組み込まれていたのか、ゴーレムは自分と、守るべき場所の場所の名前は分かっているようだ。

ゴーレムの声を聞くと、ロロンドもロッシもとても喜んだ顔になる。

ロロンドはゴーレムに近づいていき、自分のこととメルキドの町について教えた。

 

「おおおおお!本当に完成したのだな、ゴーレムよ!ここがお主の守る場所、メルキドの町だ!そして我輩はこの町の大町長、ロロンドだ!」

 

始めて聞くが、ロロンドはメルキドの大町長を名乗っていたのか。

今のロロンドのテンションは、今までで一番高いな。

ロロンドの後、俺とロッシもゴーレムに近づいて自己紹介をしていく。

 

「オレはロッシだ。オレたちの町を守るために、一緒に戦ってほしい」

 

「俺は影山雄也。いつもは雄也って呼んでくれ」

 

メルキドの守護者を完成させることが出来て、俺も本当に嬉しいぜ。

町を一緒に守って欲しいというロッシの願いに、ゴーレムはうなずいた。

 

「ロロンド、ロッシに、雄也か。それにここが、メルキドの町。我はメルキドの地を守る者…この地を脅かす者には、お前たちと共に戦おう」

 

残り2体の悠久の竜も、非常に強い力を持っていることだろう。

だが、俺たちとゴーレムの力があれば必ず打ち倒し、メルキドの二度目の復興を達成する事が出来るはずだ。

俺たちとゴーレムが話していると、完成したゴーレムの姿を見て驚くピリンの声が聞こえてきた。

 

「すごい!本当にゴーレムが出来上がったんだ!」

 

ピリンを含めた町のみんなも、俺たちが新たなゴーレムを作っていることは知っていた。

ピリンの声を聞いて、みんなもゴーレムのところに集まってくる。

 

「おお!ここまで大きな味方は、ワタシも見たことがないな」

 

「飛天斬りだけでなく、ゴーレムも…これでまた一歩、メルキドの再生に近づきましたね」

 

「一度はどうなるかと思いましたが、おめでとうございます、ロロンドさんたち!」

 

「これからさらに、賑やかな町になりそうね」

 

「こんな物まで作るなんて…本当にすごいですね」

 

「これが新しいゴーレム…とってもかっこいい顔だね!」

 

いきなりみんなが集まってきて、ゴーレムは少し戸惑う様子も見せた。

ロロンドは、町のみんなのことについても紹介する。

 

「急に集まってきたが、この者たちは?」

 

「我輩たちの町の住人だ。みんな仲良く暮らしながら、町を発展させている」

 

みんなも、ゴーレムと仲良く出来るようになればいいな。

町の人々の顔を一通り見渡した後、ゴーレムはあいさつをした。

 

「我はこの地を守る者、ゴーレム。お前たち、これからよろしく頼む」

 

かつてのメルキドの住民は、狭いシェルターの中で人間同士で殺し合いを起こし、ゴーレムを暴走させてしまった。

だが、今のメルキドの町の人々なら、共に町を発展させてきた仲間たちなら、そのような悲劇を決して繰り返さないだろう。

町の象徴にして守護者を仲間に加え、これからもメルキドの町は発展していく。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode156 峡谷の輝岩

ゴーレムを完成させた2日後、メルキドに戻って来てから8日目の朝、俺は目が覚めるといつも通り、一日の活動のために朝食を食べに行く。

そのために調理室に入ると、ショーターとエレカが俺を待っていたようで、話しかけてきた。

 

「起きて来ましたか、雄也さん。あなたが来るのを待っていました」

 

ショーターたちは確か数日前から、黒いオリハルコンを採掘するために新たなまほうの玉を開発していたはずだ。

そんな二人が俺を待っていたと言うことは、新しいまほうの玉の作り方を、思いつくことが出来たのだろうか。

 

「もしかして、新しいまほうの玉を思いついたのか?」

 

「はい。ロロンドさんがゴーレムを作るために徹夜をしていたという話を聞いて、私たちも徹夜でまほうの玉について考えていたのです。そして今日の明け方に、考えがまとまりました」

 

俺がそう聞くと、ショーターはうなずく。

徹夜していたせいで、ショーターもエレカも眠そうな顔をしていた。

二人は大変だっただろうが、これでようやく黒いオリハルコンを採掘出来るようになるな。

メルキドの二度目の復活に、また近づくことが出来た。

俺はさっそく、新しいまほうの玉の作り方について聞き始める。

 

「早く黒いオリハルコンを採掘したいし、詳しく教えてくれ」

 

「私たちが考えた新たなまほうの玉…まほうの光玉は、虹色のばくだんいわから取れる素材で金色のオリハルコンを爆散させ、オリハルコンの破片で周辺を破壊するという物です。普通のオリハルコンでも鉄よりは硬いので、破壊力も高くなるでしょう」

 

確かにオーロラウンダーの素材とオリハルコンを使えば、今のまほうの玉よりも高い破壊力を得ることが出来るだろう。

だが、多くのオリハルコンは黒く変質しており、普通の金色のオリハルコンはまだ残っているのだろうか。

 

「確かにそれは良さそうだな。でも、まだ普通のオリハルコンって残っているのか?」

 

「それは私たちにも分かりませんね。そこはもう、残っていることに賭けるしかないでしょう…」

 

俺が聞くと、エレカは不安そうに、賭けるしかないと言った。

オリハルコンと同等の硬さを持つ金属はないので、確かにそうとしか言えないはずだ。

ショーターは他にも爆発力を高める工夫がしてあると、俺に伝える。

 

「オリハルコン以外にも、爆発力を高める工夫はあります。それについてもお教えしましょう」

 

爆発力を高める様々な工夫を聞きながら、俺は頭の中にまほうの光玉のイメージを浮かべた。

 

ショーターたちは、それでも黒いオリハルコンを採掘出来るかは分からないとも言う。

こちらについても、かなりの賭けになりそうだな。

まほうの光玉の作り方を聞き終えると、俺はビルダーの魔法を使って必要な素材を調べた。

 

まほうの光玉…オーロラストーン5個、オリハルコン5個、ひも3個 石の作業台

 

オーロラストーンと言うのが、オーロラウンダーからとれる素材みたいだな。

オーロラウンダーは峡谷地帯にいるので、今からそこに向かって倒して来よう。

 

「どうでしょう。作ることが出来そうですか?」

 

「ああ。今から素材を集めて来るぞ」

 

俺はショーターたちとの話を終えると、すぐにオーロラストーンとオリハルコンを集めに、緑の旅のとびらに向かった。

旅のとびらを抜けると、俺の体はメルキドの峡谷地帯に移動する。

 

峡谷地帯に入ると、俺はまずはオーロラストーンを集めに行った。

オーロラウンダーは目立つ色をしているので、すぐに見つけることが出来るだろう。

俺はいつも通り、他の魔物から隠れながらゆっくりと歩いていく。

しばらく奥の方まで進んでいくと、さっそく奴の姿が見かけられた。

 

「オーロラウンダーがいるな…。正面から戦ったら強いだろうし、後ろから襲うか」

 

オーロラウンダーはばくだんいわの上位種であり、戦闘力はかなり高いだろう。

正面から戦うと苦戦するかもしれないので、俺は奴の背後に迫っていく。

音を立てないように進んで行けば、気づかれることはなかった。

至近距離にまで近づくと、俺は両腕に力を溜める。

そして力が溜まり切ると、俺は垂直に大きく飛び上がり、両腕の武器を思い切り叩きつけた。

 

「飛天斬り!」

 

一対一の状態であれば、飛天斬りは非常に有用な技だ。

背後から二刀流での飛天斬りを受けて、オーロラウンダーは大きなダメージを受ける。

だが、一撃で倒れることはなく、奴は反撃の姿勢を取ってきた。

 

「一撃では倒れなかったか…でも、大きなダメージは与えられたはずだ」

 

起き上がったオーロラウンダーは、俺に体当たりで攻撃しようとする。

奴はかなりの巨体であり、当たったら危険だろうが、俺はジャンプで避けて横に回った。

そうして次の攻撃をして来る前に、俺は両腕の武器を叩きつけていく。

何度か攻撃を続けていくとオーロラウンダーは傷つき、今にも砕けそうになっていた。

 

「反撃はされたけど、もう少しで倒せそうだな」

 

追い詰められた奴に向かって、俺は攻撃を続けていく。

 

だが、オーロラウンダーもそう簡単に倒されようとはせず、俺を押し潰そうと回転して攻撃して来た。

ばくだんいわの回転攻撃よりも速度が早く、回避こそ出来るが攻撃する隙がなくなってしまう。

 

「今度は回転攻撃か…何とかして動きを止めないとまずいな…」

 

回転を続ければ疲れて動きが止まるかとも思ったが、奴はなかなか止まらない。

俺は回転攻撃を避けながら、オーロラウンダーを止める方法を考えた。

 

「…岩山に誘導すれば、黒い岩にぶつかって動きが止まるかもしれないな」

 

そこで俺は奴を岩山に誘導し、黒い岩とぶつけさせる方法を思いつく。

黒い岩はかなりの強度があるので、オーロラウンダーの動きも止まるかもしれないな。

俺はさっそく奴を引き付けながら、岩山へと近づいていった。

 

岩山の目の前にまで近づくと、オーロラウンダーは動きを止めようとするが、奴はかなりのスピードで転がっているのですぐには止まれない。

俺の思っていた通り、オーロラウンダーは岩山にぶつかり、その衝撃で動きを止める。

 

「動きが止まったし、今のうちに倒すぜ」

 

動けなくなった奴を見て、俺は次々に武器を振り回し、残った生命力を削り取っていった。

オーロラウンダーはまだ抵抗しようとしていたが、伝説の武器での連続攻撃には耐えられず、青い光に変わっていく。

奴が倒れたところには、オーロラ色に輝く綺麗な石が落ちていた。

 

「結構強かったけど、何とか倒せたな…これがオーロラストーンか」

 

これがまほうの光玉を作るのに必要な、オーロラストーンなのだろう。

俺はオーロラストーンを拾ってポーチに入れると、他のオーロラウンダーも倒しに行った。

 

他のオーロラウンダーも飛天斬りでは一撃では倒れず、体当たりや回転攻撃で俺に反撃して来る。

だが、俺はさっきのように回転攻撃を使われたら岩山に誘導し、動きが止まったところで止めをさしていく。

ばくだんいわのように自爆呪文のメガンテを唱えようとする奴もいたが、俺は発動前に倒すことが出来た。

オーロラストーンが5個集まると、俺は今度はオリハルコンを採掘しに行こうとする。

 

「これでオーロラストーンは集まったな。後はオリハルコンを探そう」

 

俺は辺りの岩山を見回して、黒くなっていないオリハルコンを探した。

しかし、この前は金色だったオリハルコンもみんな黒くなっており、採掘出来そうにない。

エレカは洞窟の中にも魔物が侵入したと言っていたし、洞窟のオリハルコンも黒く変質していることだろう。

 

「みんな黒くなってるな…どこかに変質していない奴はないのか…?」

 

変質していないオリハルコンがあるとしたらどこだろうか。

そう考えていると、この前行った石の心臓が隠されていた洞窟には、魔物がいなかったことを思い出す。

 

「海に面した崖なら、金色のオリハルコンも残っているかもしれないな…」

 

魔物が行きにくい海に面した崖…そこにあるオリハルコンは、まだ変質していないかもしれない。

さっそく俺は魔物から隠れながら海に面した崖に向かい、金色のオリハルコンを探した。

 

海に落ちないよう慎重に動きながら、オリハルコンがないか見ていく。

すると、そこにはやはり、まだ金色のままのオリハルコンの鉱脈があった。

 

「やっぱりここにはまだ残っていたか。さっそくまほうの玉で採掘して、まほうの光玉を作ろう」

 

放っておいたら、ここのオリハルコンも変質してしまうかもしれない。

俺はまほうの光玉をたくさん作れるよう、なるべく多くのオリハルコンを採掘しようとする。

ビルダーハンマーでは鉱脈ごと手に入れてしまうとゆきのへが言っていたので、俺はメルキドの大倉庫からまほうの玉を取り出した。

そしてオリハルコン鉱脈の前にまほうの玉を置き、爆発に巻き込まれないように離れる。

爆発の衝撃で鉱脈は砕け、俺はたくさんのオリハルコンを手に入れることが出来た。

 

「これでオリハルコンも手に入ったな。メルキドの町に戻ろう」

 

俺は手に入れたオリハルコンを全てポーチにしまうと、崖を歩きながらメルキドの町に戻っていく。

まほうの光玉が出来たら、黒いオリハルコンを採掘しにまた来よう。

 

メルキドの町に戻ってくると、俺はまほうの光玉を作りに工房に入っていった。

さっき手に入れたオーロラストーンとオリハルコンを取り出し、石の作業台の上に置く。

大倉庫から導火線となるひもも取り出すと、俺はビルダーの魔法を発動させた。

 

「これで黒いオリハルコンが採掘出来たらいいな…」

 

もしまほうの光玉でも黒いオリハルコンが採掘出来なかったら、もう黒いオリハルコンの利用は不可能と言う事だろう。

そうなればメルキドを守れる可能性は下がるし、採掘出来てほしいな。

まほうの光玉を作っている間、俺はそんなことを考えていた。

魔法をかけ始めてからしばらくして、作業台の上の素材が加工されていき、まほうの光玉が出来上がる。

 

「これがまほうの光玉か…まほうの玉と違って、一度に五個しか作れないのか」

 

まほうの玉は一度に10個作れたが、まほうの光玉は5個しか出来なかった。

光玉の方が複雑な仕組みをしているので、仕方のないことだろう。

 

「まほうの光玉は完成したし、ショーターたちに見せてこよう」

 

俺はまほうの光玉が出来上がると、考えてくれたショーターとエレカに見せに行こうとする。

二人はさっきと同じように、調理室で休んでいるようだった。

 

俺は調理室のわらのとびらを開けると、二人に話しかけた。

 

「ショーター、エレカ。まほうの光玉を作ってきたぞ!」

 

「本当ですか、雄也さん!普通のオリハルコンが残っているか心配でしたが、大丈夫だったみたいですね」

 

俺の声を聞くと、ショーターはそう言いながら近づいてくる。

エレカも俺のところに来たのを見て、まほうの光玉をポーチから取り出した。

 

「これがまほうの光玉だ。二人の言った通りに作ってきたぜ」

 

「おお!これならどんな鉱脈でも砕くことが出来そうです!」

 

「すごくきれいに出来ています。これで黒いオリハルコンが採掘出来ればいいですね」

 

このまほうの光玉は二人が数日もかけて考えてくれた物だ。

もし黒いオリハルコンが採掘出来なかったら、二人も悲しむことだろうな。

俺は完成したまほうの光玉を見て喜んでいる二人に、さっそく採掘に向かうと伝えた。

 

「俺はこれからこれを使って黒いオリハルコンを採掘して来る。もし成功したら、二人にも伝えるぜ」

 

「はい、お願いします!」

 

きっと採掘出来るだろうと、俺もショーターたちもまほうの光玉を信じている。

俺はまほうの光玉をポーチにしまって、再びメルキドの峡谷地帯に向かった。

 

峡谷地帯に来ると、俺はさっき見た黒いオリハルコンの鉱脈に向かっていった。

オリハルコンの鉱脈は結構多いので、魔物を避けながらでも数分でたどり着くことが出来る。

黒いオリハルコンの鉱脈に着くと、俺は近くにまほうの光玉を置き、爆発に巻き込まれないように離れた。

 

「採掘出来てくれよ…」

 

まほうの光玉は爆発範囲も広いだろうから、俺はまほうの玉を使うときよりも距離を大きく取る。

そして、設置してから5秒ほど経って、まほうの光玉は炸裂して周囲を破壊した。

爆風が収まった後、俺は黒いオリハルコンの鉱脈を確認しに行く。

 

「すごい爆発だったな…鉱脈はどうなったんだ?」

 

すると、鉱脈は砕け散り、黒いオリハルコンは入手可能な状態になっていた。

どうやら採掘は、成功したようだ。

俺は落ちている黒いオリハルコンを拾うと、全てポーチにしまっていく。

 

「無事に採掘出来たか…やったな。これで防壁を作ったら、どんな魔物でも壊せないだろうな」

 

魔物によって人間が採掘不可能なほどの硬度になったオリハルコン…俺たちはそれすらも手に入れ、町を守るのに使えるようになった。

この黒いオリハルコンで防壁を作れば、悠久の竜ですら打ち破ることの出来ない強固な城塞都市が出来上がるだろう。

俺はまほうの光玉を使って、他にも数十個の黒いオリハルコンを集めていく。

十分な数の黒いオリハルコンが集まると、俺はメルキドの町に戻って行った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode157 決戦の前に

メルキドの町に戻ってくると、俺は黒いオリハルコンが採掘出来たことを、調理室にいるショーターたちに教えに行く。

二人にそれを伝えたら、さっそく新たな防壁について考え始めよう。

戻ってきた俺を見て、二人は少し不安そうな顔をしていた。

 

「戻って来ましたか、雄也さん。黒いオリハルコンは採掘出来ましたか?」

 

「ああ。まほうの光玉の威力は、本当にすごかった。これが黒いオリハルコンだ」

 

俺はショーターにうなずくと、ポーチから黒いオリハルコンを取り出す。

二人は黒いオリハルコンを見ると、不安そうな表情が消えて、喜びの声を上げた。

 

「おお、うまくいったんですね!爆発力が足りないのではとも思っていましたが、心配無用でしたね!」

 

「私たちの考えが役に立って良かったです」

 

まほうの光玉はこの先、鉱物の採掘だけでなく魔物との戦いにも役立つかもしれない。

強力な道具を考えてくれた二人に、感謝しなければいけないな。

俺は喜んでいるショーターたちに、感謝の言葉とこれからの予定を言う。

 

「二人とも本当にありがとうな。俺はこれから、このオリハルコンを使った防壁を考える。この硬さの防壁があれば、メルキドを守れる可能性も大きく上がるからな」

 

次の魔物の襲撃までに防壁を完成させて、今度こそ町の被害がないようにしたいな。

すると、ショーターは新たな防壁については、町のみんなで話した方がいいと言ってきた。

 

「それに関しては、皆さんと共に考えた方がいいのでは?皆さんの力を借りた方が、より強固な防壁を作れるでしょう」

 

確かに今のメルキドシールドもピリンと共に開発した物だし、みんなと一緒に考えたほうがいいかも知れないな。

俺がショーターに賛成すると、彼はみんなを呼んで来ようとする。

 

「確かにそうだな。ここで、みんなと一緒に考えよう」

 

「では、私は皆さんを呼んできますね」

 

「私も行って来ましょう」

 

みんなが集まるなら、町の中で一番の広さを持つこの調理室がいいだろう。

ショーターに続いて、エレカも町のみんなを呼びに行った。

 

みんなを呼びに行って数分後、ショーターとエレカは調理室に戻ってくる。

 

「雄也さん、皆さんを呼んできました」

 

二人に続いて、ピリンやロロンドたちも次々に調理室の中に入ってきた。

 

「聞いたぞ雄也、新たな防壁の素材が手に入ったんだってな」

 

「メルキドシールドの時みたいに、また一緒に考えようね」

 

「もちろんだ。どんな魔物でも破壊出来ないような、最強の防壁を作ろう」

 

黒いオリハルコンを使ったとしても、悠久の竜の攻撃に耐えうる防壁を作るのは非常に難しいだろう。

だが、メルキドの町のみんなとなら、必ず思いつくことが出来るはずだ。

ゴーレムは流石に部屋には入れないので、外で待っている。

 

みんなが集まったのを見ると、ロロンドはさっそくある提案をした。

 

「みんな集まったな。さっそく提案するのだが、我輩は新たなる防壁を作るために、黒いオリハルコンの他に使いたい素材があるのだ」

 

他に使いたい素材か…そちらも非常に硬度が高い物なのだろうが、どんな素材なのだろうか?

 

「どんな素材なんだ?」

 

「メルキドシールドが、岩石と金属から作られていることは知っておるな。だから新たな防壁にも、金属だけでなく岩石を使おうと思うのだ」

 

「確かメルキドシールドは、ゴーレム岩とオリハルコンで出来ていたよね」

 

ピリンも覚えているようだが、今のメルキドシールドはゴーレム岩とオリハルコンから作られている。

黒いオリハルコンだけで防壁を作るとなると、黒いオリハルコンの必要数がすごいことになりそうなので、確かに今回も岩石と組み合わせたほうがいいかもしれないな。

ロロンドは黒いオリハルコンと組み合わせるのには、黒よう岩という岩石がいいだろうと言う。

 

「我輩が使いたいのは、黒よう岩という物だ。オリハルコンに勝るとも劣らない硬度を持っている」

 

黒よう岩か…地球にも黒曜岩という物があるが、それと似たような物なのだろう。

オリハルコン並の硬度を持っていると言うのは、地球の物にはない性質だが。

メルキドシールドのゴーレム岩より硬そうなので、新たな防壁に使っても問題なさそうだな。

場所が分かったら、さっそく採掘しに行って来よう。

 

「そんな岩があったのか…。役立ちそうだから今から採掘しようと思うけど、どこにあるんだ?」

 

「この町の東の山に、古代の墓地のような遺跡がある。その遺跡の壁に、大量の黒よう岩があったぞ」

 

メルキドの東にある古代の墓地…恐らく俺がアレフガルドに来て、最初に目覚めた場所のことだろう。

あの場所の壁には黒い岩があったが、あれが黒よう岩だったのか。

場所も分かるし町のすぐ近くなので、すぐに集めに行くことが出来そうだ。

 

「それなら今から集めに行ってくる。みんなはその間に、新たな防壁の形状を考えていてくれ」

 

「町のすぐ近くだけど、気を付けてくれよ」

 

俺はみんなにそう伝えて、黒よう岩を集めに行くために一度調理室を出る。

町を出る俺に向かって、ロッシはそう言った。

 

「ああ、分かってる」

 

町のすぐ近くにもドラゴンが生息しているので、確かに気をつけたほうがいいだろう。

俺が調理室を出ると、みんなは新たな防壁について話し合いを始めていた。

 

俺はメルキドの町を出ると、草原の箱を被って東の山に向かっていく。

草原地帯であれば、これを使えば魔物に見つかる危険性は大きく下がるだろう。

町のまわりを彷徨いているドラゴンは、町を睨むような動きをしていた。

 

「いつ襲って来るか分からないし、早く防壁を作らないとな」

 

悠久の竜が再び町を襲撃して来るまで、もうあまり時間はなさそうだ。

新たな防壁を作るのを急がなければいけないなと思いながら、俺は慎重に歩いていった。

 

そうして10分くらい歩き続けて、俺は町の東にある山の、墓地の入口にたどり着く。

ここに戻ってくるのは、俺がアレフガルドに転移させられた日以来だな。

 

「魔物に見つからずに着いたか…。懐かしい場所だな」

 

俺はあの日この中で、俺を勝手にアレフガルドに連れてきたルビスに文句を言っていた。

あの日の俺は、アレフガルドの人々のために二度も世界を復興させることになるなんて、思ってもいなかったな。

もし今の俺があの時の俺のままだったら、虹のしずくを作った時かエンダルゴが出現した時に、この世界を見捨てて地球に帰っていただろう。

アレフガルドの復興が始まった日を思い出しながら、俺は遺跡の中に入っていく。

遺跡の奥にすすむと、さっそく黒く煌めく岩…黒よう岩を見つけることが出来た。

 

「これが黒よう岩か…まほうの光玉を使って採掘しよう」

 

黒よう岩はビルダーハンマーでも壊せるかもしれないが、攻撃範囲の広いまほうの光玉を使ったほうが時間はかからないだろう。

俺は黒よう岩の近くにまほうの光玉を置き、爆発までに大きく距離を取った。

数秒後にまほうの光玉が炸裂すると、大量の黒よう岩は壊れて、採取可能な状態に変わる。

 

「結構な数が集まったな…でも、まだ集めておくか」

 

まほうの光玉の爆発範囲は広く、一度に20個くらいの黒よう岩を集めることが出来た。

だが、なるべく多く集めておいた方がいいと思い、俺はたくさんの黒よう岩をまほうの光玉で採掘していった。

50個くらいの黒よう岩が集まると、俺はそれらをポーチにしまって、遺跡を出てメルキドの町に戻っていく。

 

「だいぶ集まったな。これくらいあれば、新しい防壁を作るのにも十分だな」

 

帰り道もドラゴンに気をつけながら、草原の箱を被って俺は歩いていった。

ドラゴンが増えたからか、もともと草原地帯に生息していたスライムは数が減っている。

帰り道も10分くらいかかったが、無事にメルキドの町に帰ってくることが出来た。

 

メルキドの町に戻ってくると、俺はみんなが待っている調理室に向かっていく。

調理室の中ではみんなの話し声が聞こえ、新たな防壁に関して考えているようだった。

わらのとびらを開けて中に入ると、一番とびらの近くに立っていたチェリコが最初に話しかけて来る。

 

「戻ってきたのね、雄也。黒よう岩は集まった?」

 

「ああ。防壁に必要な分は多分集まったと思うぞ」

 

黒よう岩が集まったのを聞いて、調理室の奥の方にいたロロンドも嬉しそうに近づいて来た。

 

「おお、よくやったな雄也!これで素材は集まった、共に新たな防壁を考えようではないか」

 

「ああ、外のドラゴンもいつ襲って来るか分からないし、なるべく早く開発しよう」

 

黒よう岩と黒いオリハルコンを使った新たな防壁…今日のうちに開発出来ればいいな。

みんなはそう思いながら防壁の形状についての話し合いを進め、俺もそれに参加する。

 

しかし、夕方になっても考えはまとまらず、まだ新たな防壁を作ることは出来なかった。

みんなも、もうすぐ再び悠久の竜が来るのではないかと思っており、焦りと不安の中で夜を明かすことになってしまった。

 

メルキドに戻って来てから9日目の朝、俺はいつもより早く目が覚めてしまう。

早く新たな防壁を作らなければいけないと、焦っているからだろうな。

 

「まだ防壁は出来ていないし、今日も調理室に行かないとな…」

 

今日もみんなと話し合うために、俺は調理室へと向かっていった。

しかし、調理室のとびらを開けても、まだみんなは集まっていなかった。

みんなも急いでいるとは言え、まだ早朝なので仕方のないことだろう。

だが、ピリンだけは既に起きており、何かを作っているようだった。

 

「ピリン、何を作っていたんだ?」

 

「新しい防壁を考えるのに、みんな疲れているでしょ。だからみんなを元気付けるために、美味しい料理を考えていたの」

 

俺が聞くと、ピリンは苦労しているみんなのために、料理を考えていると言う。

昔のメルキドでもそうだったけど、俺たちが戦いの前で焦っている時も、ピリンは落ち着いてみんなのことを考えるのを忘れないな。

昔の俺だったら今日も、「そんなことをしている暇があったら防壁を考えろ」と怒鳴っていたかもしれない。

しかし、一度落ち着いて美味しい料理を食べた方が、新しい防壁も思いつき安くなるだろう。

 

「どんな料理を考えているんだ?」

 

「2枚のパンの間にうさぎの肉とえだまめを挟んだ、うさまめバーガーっていう料理だよ」

 

俺はピリンに、どんな料理を作っているのかと聞いた。

うさまめバーガー…俺は昔ピリンにハンバーガーを作って見せたことがあるが、それのアレンジ版ということか。

ピリンはロッシが逃げ出すほどの異様な料理を作っていたこともあったので少し警戒したが、心配はいらなかったようだ。

 

「俺も食べてみたいし、手伝えることがあるなら手伝うぞ」

 

「それなら、えだまめとお肉が足りないから、集めて来てくれる?みんなの分を作るには、たくさんいるの」

 

ピリンは小麦をこねて、具材を挟むためのパンを作っているようだった。

でも、ピリンはうさまめバーガーを作るのに、えだまめと肉が足りないと話す。

確かに最近俺たちは町の近くにあるキノコやモモガキの実ばかり食べていて、それらの食材は集めに行っていないな。

どちらも旅のとびらを抜けたすぐ近くで採れるので、すぐに集めて来られそうだ。

 

「分かった。なるべく早く集めて来るぜ」

 

パンを作っているピリンを見ながら、俺は調理室を出て旅のとびらのある部屋に向かう。

えだまめは確か、おおきづちの里があったメルキドの山岳地帯に生えていたはずだ。

まずはえだまめを集めに、俺は青色の旅のとびらに入った。

 

青色の旅のとびらを抜けて山岳地帯にたどり着くと、俺はえだまめが生えていないかと辺りを見渡す。

すると、やはり旅のとびらのすぐ近くにもえだまめが生えており、すぐに集めることが出来そうだった。

 

「近くにも結構生えているな。さっそく集めて行こう」

 

まわりにはブラウニーやビッグハンマーといった魔物も生息しているので、俺は気づかれないように隠れながら、えだまめを回収していく。

みんなの分のうさまめバーガーを作るには20個くらい必要だろうから、俺は少し奥の方にまで向かっていった。

そこからは、この前助けたおおきづちの長老たちが住んでいた家も見えて来る。

 

「おおきづちの長老の家…やっぱりあの後壊されたんだな」

 

長老の家の目印だった屋上のかがり火が無くなり、彼らが住んでいた部屋も大きく壊されていた。

今おおきづちの長老たちは、ラダトーム城に暮らしている。

ラダトーム城はいい場所だが、故郷であるこの地にも戻ってきたいと思っていることだろう。

あの4匹がこの地に戻って来られる日は来るのだろうか…俺はそんなことも考えながら、えだまめを集めていった。

 

「いつかおおきづちの里も、再建出来るといいな」

 

おおきづちの里のことを考えながら歩いていると、20個ほどのえだまめもすぐに集まる。

 

「えだまめは集まったし、あとは肉だな」

 

えだまめが集まると、俺は一度メルキドの町に戻り、そこからドムドーラの砂漠地帯に向かった。

 

砂漠地帯にやって来ると、俺はいっかくうさぎを探して、背後に迫っていく。

いっかくうさぎはそんなに強い魔物ではないので、正面から戦っても問題なく勝てるだろうが、背後から襲ったほうが早く倒せるだろう。

俺は奴の真後ろに移動すると腕に力をためて、思い切りおうじゃのけんを突き刺す。

強力な武器で体を貫かれて、いっかくうさぎは青い光を放って消えていき、生肉を落とす。

 

「一撃で倒せたし、生肉も手に入ったな。このまま集めて行くぜ」

 

生肉を一つ手に入れると、俺は他のいっかくうさぎも同じように狩っていき、次々に生肉を集めていった。

10個ほどの生肉が集まると、俺はそれらを持ってメルキドの町に戻っていく。

 

「これでみんなの分のうさまめバーガーが作れるな…ピリンのところに戻ろう」

 

ピリンがどのくらい料理が上手になっているのか、俺も気になるぜ。

メルキドの町に戻ってくると、俺はピリンの待つ調理室に入っていった。

 

調理室に入ると、もうみんなも起きて来ており、俺に話しかけてきた。

 

「戻ってきたか、雄也よ。ピリンのために、食材を集めて来ていたのだろう?」

 

「こんな時に豪華な料理って言うのも驚いたが、楽しみだぜ」

 

みんなも、ピリンがうさまめバーガーを作っているのは知っているみたいだな。

早く新たな防壁を開発したいがために、そんな料理いらないと言っている人はいないようだった。

ロロンドとロッシに返事をした後、俺はピリンに集めてきた食材を渡す。

 

「ああ。ピリン、えだまめと肉を集めて来たぞ!これでうさまめバーガーが作れるだろ」

 

「ありがとう雄也!このくらいあったら、みんな分も作れそうだよ。出来上がるまで、もう少し待っててね」

 

もうパンは出来上がっているようで、後は肉を焼いてえだまめを添えるだけのようだ。

ピリンはえだまめと生肉を受け取ると、嬉しそうな顔で肉を焼き始める。

出来上がるまでまだ少し時間がかかるが、俺は調理室の中で楽しみに待っていた。

 

そして、ピリンに食材を届けてから20分ほど経って、ついに出来上がる時がやって来る。

お腹を空かせて待っていた俺のところに、調理を終えたピリンの声が聞こえてきた。

 

「みんな、うさまめバーガーが出来たよ!いっぱい食べてね」

 

調理室の椅子に座っている俺たちのところに、ピリンはうさまめバーガーを持ってくる。

パンも綺麗に出来上がっており、肉も丁度いい焼き加減になっていた。

 

「これがピリンのハンバーガーか…すごく美味しそうだな」

 

モンハンで言うところのこんがり肉の状態であり、とても美味しそうだ。

ロロンドたちも、うさまめバーガーを見てすごく美味しそうだと話す。

 

「こんなにうまそうな物は、我輩も作ったことがないな」

 

「あのピリンが、こんなにうまそうな物を作るとはな」

 

ピリンに異臭を放つ料理を食べさせられそうになったことのあるロッシは、特に驚いているようだった。

俺もピリンの料理の腕がここまで上がるとは、思ってもいなかったな。

しばらくうさまめバーガーを見た後、俺は食べ始める。

 

すると、パンも肉も柔らかくて食べやすく、味においても非常によい物だった。

俺は地球にいたころ枝豆を良く食べていたので、豆が入ったことでより美味しく感じられる。

ここまで美味しいハンバーガーを食べたのは、今までで初めてかもしれないな。

 

「やっぱりすごくうまいな、これ」

 

みんなも、ピリンのハンバーガーを食べた感想を呟いていく。

 

「ぬおお!うまいぞおお!」

 

「見た目だけじゃなく、本当にうまいな」

 

「力が湧き上がって来るような味ですね!」

 

「こんなにうまい物を食べたのは、どれだけぶりでしょうか」

 

「なかなかいい味ね」

 

「こんな料理を作れるなんて、素晴らしいですね、ピリンさん」

 

「すごく美味しいよ!ピリンは将来、いいお嫁さんになれるよ!」

 

ピリンのハンバーガーを食べた後なら、新たな防壁も思いつけるかもしれないな。

みんなが食べ終わったら、昨日の話を再開しよう。

何としても、次に悠久の竜が襲って来る前に新たな防壁を完成させたいな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode158 不落の壁と竜の闇炎

ピリンのうさまめバーガーを食べた後、俺たちは新たな防壁を考え続けていく。

美味しい物を食べた後で頭もよく働き、みんなさまざまな意見を出すことが出来ていた。

メルキドシールドをも超える防壁なんてどうやったら作れるんだ…?と最初はみんなも思っていたが、いよいよ考えがまとまってくる。

 

そして、夕方ごろになって、ついに俺たちは新たな防壁の形と作り方を決めることが出来た。

 

「ついに考えがまとまったな…雄也よ、メルキドウォールを作ることは出来そうか?」

 

俺たちが考えたのは究極の盾をも超える不落の黒壁、メルキドウォールだ。

ロロンドに聞かれて、俺はビルダーの魔法でメルキドウォールの作り方を調べていく。

 

メルキドウォール…黒よう岩8個、ダークハルコン10個 神鉄炉と金床

 

ダークハルコンというのが、この前まほうの光玉で採掘した黒いオリハルコンなのだろう。

黒よう岩も大量に集めているので、すぐに作りに行くことが出来そうだ。

 

「ああ。今ある素材で作れそうだから、今すぐ作って来るぜ」

 

「それは良かった。もういつ魔物が襲って来てもおかしくはない…速やかに設置するぞ」

 

メルキドウォールを設置し、残り2体の悠久の竜を倒せば、メルキドの2度目の復興を達成することが出来るだろう。

俺はみんなが集まっている調理室を出て、工房の方に向かっていく。

 

工房に入ると、俺は神鉄炉の前に立ってポーチから黒よう岩とダークハルコンを取り出し、ビルダーの魔法を発動させて行った。

神鉄炉の熱でダークハルコンを溶かし、黒よう岩と組み合わせていく。

巨大な物なので加工にも時間がかかったが、無事に防壁の形に変えることが出来た。

ビルダーの魔法を使い始めて10分くらい立って、メルキドウォールが完成する。

 

「これでメルキドウォールが出来たか…町全体を守るためには、もう二つくらい必要そうだな」

 

メルキドウォールは2×8メートルの大きさだ。

今のメルキドの町を守るのには、もう二つくらい必要になることだろう。

俺はポーチから他の黒よう岩とダークハルコンも取り出し、続けてメルキドウォールを作っていく。

工房に入って30分ほどたって、3つのメルキドウォールが出来上がると、俺は町の外へと設置しに行った。

 

「これでメルキドウォールも十分だな。町の西に設置して来よう」

 

魔物たちはいつもメルキドの西から襲って来るので、メルキドウォールも町の西に設置した方がいいだろう。

 

修復されたはがねの守りの横から町の外に出て、俺はメルキドウォールを並べていく。

これでメルキドウォール、メルキドシールド、はがねの守りの三重防壁が出来上がり、悠久の竜でもこれを破壊するのは容易ではないだろう。

設置されたメルキドウォールは黒く煌めき、何者にも打ち破られないという雰囲気を放っていた。

 

「これで戦いの準備は整った…みんなにも知らせよう」

 

絶対に壊されない保証もないが、これでメルキドの町を守れる可能性はまた大きく上がっただろう。

俺はメルキドウォールを設置したことを伝えるために、大声でみんなを呼んだ。

 

「みんな、メルキドウォールを作って設置しておいたぞ!」

 

俺の声を聞くと、調理室で待っていたみんなはロロンドを先頭に、町の外へとやって来る。

 

「おおお!ついに出来たか、雄也よ!魔物が襲って来る前に、何とか間に合ったな!」

 

町の外にいるドラゴンは数も増えており、いつ襲って来てもおかしくない状況が続いているが、戦いの前に防壁が出来て本当によかったな。

自分たちの考えた不落の壁が出来上がり、みんな嬉しそうな表情をしていた。

メルキドの大町長を名乗っていたロロンドは、中でも一番喜んでいる。

 

「一度は壊された我輩たちの町も、ここまで発展させることが出来た。必ずあのドラゴンたちから、この町を守り抜こうぞ」

 

「もちろんだ。一緒に戦おう、ロロンド」

 

大切な仲間たちが住むこの町を、必ず守り抜かなければいけない。

俺とロロンドはメルキドウォールを見て、そんな思いを強めていた。

 

メルキドウォールが出来た後も、すぐには魔物たちは襲って来なかった。

しかし、俺や衛兵のケッパー、ゴーレムはいつ奴らが来てもいいように、交代で町の外を見回っていた。

早めに魔物たちを発見すれば、町に近づけずに戦うことが出来るからな。

 

そして、その日の夕暮れに、ついにその時はやって来る。

ケッパーが町の西を見回し、俺は自分の部屋で休んでいる時のことだった。

町中に響くようなケッパーの大声が、俺の耳に聞こえてきた。

 

「みんなすぐに集まってきて、僕たちの町に魔物が近づいている!この前の闇のドラゴンも、2体いるよ!」

 

やっぱり残りの悠久の竜は2体同時に襲いかかってきたみたいだな。

俺はポーチからおうじゃのけんとビルダーハンマーを取り出し、個室の外に出ていく。

 

「ついに来たか…なんとしても勝たないとな…」

 

魔物たちはやはり町の西からやって来ているようで、ケッパーはそこで魔物の様子を見ていた。

俺も走って彼のところに向かい、襲って来る魔物たちを見る。

すると、ビッグハンマーとスターキメラが12体ずつ、てつのさそりとしりょうのきしが10体ずつ、あくまのきしとドラゴンが8体ずつ、悠久の竜が2体の、合計62体の魔物がいた。

 

「悠久の竜以外も、かなり数が多いな」

 

この前はいなかったしりょうのきしやてつのさそりが現れ、ドラゴンも数が増えている。

今回もラダトームと比べれば魔物の数は少ないが、苦戦は免れないだろう。

俺たちが魔物の様子を見ていると、ロロンドたちも剣を持って近づいてくる。

 

「あの黒いドラゴンが2体も…だが、我輩たちとゴーレムとメルキドウォールがあれば、勝てぬことはないはずだ!」

 

「ああ。この前は町の一部を壊されちまったが、今回はそうはさせねえ」

 

この前俺たちを苦戦させた悠久の竜が2体もいるので、ロロンドとロッシは驚いていたが、それで弱気になったりすることはなかった。

俺も決して怯えることなく、魔物たちに剣を向ける。

4人が魔物との戦いに備えていると、メルキドの新たな仲間たちもやって来た。

 

「私も、みんなと一緒に戦いましょう」

 

「この町を守るのが我の役目…襲い来る魔物を倒すため、お前たちに加勢しよう」

 

メルキドの守護者たるゴーレムの力があれば、弱い魔物は簡単に蹴散らすことが出来るだろう。

今までずっと峡谷地帯で生き残って来たエレカも、戦いは得意そうだ。

戦うことの出来る6人が揃うと、俺たちは魔物たちの群れへと近づいていった。

 

数百年世界を覆った闇の力は新たな魔物の王へと変わり、世界を作った精霊ルビスは死んだ。

そんな絶望的な状況になっても、俺たちはアレフガルドの復興を諦めなかった。

ここでメルキドの二度目の復興を成し遂げ、この後に向かうであろうリムルダールやマイラも必ず復興させてやるぜ。

強い復興の思いを持ちながら、俺たちは強大な魔物に立ち向かって行く。

俺が参戦する中では7回目の、メルキドの町の防衛戦が始まった。

 

俺たちが接近していくと、魔物たちも戦いの構えを取る。

奴らの後方にいる2体の悠久の竜はこの前と同じように、闇の火球で町を破壊しようとしていた。

悠久の竜の火球はメルキドシールドを数発で壊してしまう、非常に強力な攻撃だ。

だが、メルキドウォールは火球を受けてもびくともせず、町への被害を防いでいた。

 

「さっそくメルキドウォールが役に立ってるな…安心して他の魔物と戦えそうだぜ」

 

絶対に壊れないということはないだろうが、しばらくの間は耐えられそうだ。

これなら、他の魔物を急いで倒さなければいけないということはないだろう。

そう思っていた俺たちのところに、まずは前衛のあくまのきしが斬りかかって来る。

 

「また新しい防壁を作ったようだが、無駄なことだ!」

 

「お前たちもこの町も、今日で消し去ってやる!」

 

奴らはそう言いながら、斧を振り回して攻撃して来た。

俺たち5人は1体ずつ、巨体のゴーレムは3体のあくまのきしと戦うことになる。

奴らは戦い慣れた魔物なので、苦戦することはないだろう。

攻撃力はかなり高いので、俺は無理に斧を弾き返そうとはせず、回避しながら両腕の武器を振り下ろしていく。

伝説の武器ではあくまのきしの鎧を破壊するのも難しくはなく、次々にダメージを与えることが出来た。

 

「動きは今までの奴らと変わらないな…このまま倒してやるぜ」

 

「くっ、我が鎧まで突き破るとは…。だが、我も簡単に倒れる気はない!」

 

あくまのきしも力を込めて斧を叩きつけて来るが、攻撃の速度は変わらない。

回避しては攻撃するを繰り返し、俺は奴を確実に弱らせていく。

ロロンドたちもあくまのきしとは戦い慣れているので、特に苦戦している様子は見られなかった。

 

ゴーレムも3体の奴らに囲まれているが、今のところは大丈夫そうな様子だ。

 

「こんな岩の塊、粉々に打ち砕いてやる!」

 

「人間どもが作った守護者などに、我らは止められん!」

 

あくまのきしたちはゴーレムにそう言って、斧を叩きつけていく。

鉄で出来た斧の斬れ味はよく、岩で出来たゴーレムは少しはダメージを負ってしまった。

しかし、多少のダメージではゴーレムは怯まず、奴らに岩の拳を叩きつけていく。

 

「この町を壊すというのなら、容赦はせんぞ!」

 

ゴーレムの拳は動きが遅く、あくまのきしは盾を使って防御してしまった。

だが、ゴーレムの攻撃は防ぎきれるような威力ではなく、あくまのきしは盾を落として動きを止める。

 

「くそっ、なんて威力なんだ…!」

 

1体が盾を落とすと、他の2体の盾も落とそうと、ゴーレムは拳を振りかざしていった。

 

あくまのきしの軍団は、このまま全滅させることが出来そうだ。

俺と戦っていたあくまのきしはかなり弱っており、すぐに倒せるだろう。

そう思っていたところに、あくまのきしたちの後ろにいたしりょうのきしたちも斬りつけて来る。

 

「我らも相手だ、人間どもめ!」

 

「いつまで抵抗を続ける気なんだ!」

 

俺たち5人のところに、それぞれ2体ずつのしりょうのきしがやって来る。

でも、敵が増えたのは厄介だが、しりょうのきしくらいなら問題にはならなさそうだ。

奴らの攻撃力はあくまのきしより低いので、攻撃を弾き返して体勢を崩させることも十分可能だろう。

弱ったあくまのきしの斧を回避した後、俺は2体のしりょうのきしに近づき、両腕の武器を使って剣を受け止める。

 

「何体でかかって来たところで、俺たちの町は壊させないぞ」

 

奴らの攻撃を受け止めると、俺は両腕に全身の力を込めて剣を弾き落とそうとした。

しりょうのきしたちも少しは耐えようとするが、しばらく力を込め続けていると流石に力尽きて、剣を落としてしまう。

奴らが剣を落としたのを見ると、俺はまずは死にかけのあくまのきしにとどめをさしていった。

 

「剣を落としたな…体勢を立て直される前に、3体とも倒すぞ」

 

あくまのきしはまだ斧での攻撃を続けるが、俺はそれも避けて両腕の武器を振り回していく。

既に弱っていた俺の攻撃に耐えきれず、生命力を失い青い光に変わっていった。

 

「あくまのきしは倒れたし、次はしりょうのきしだな」

 

俺があくまのきしを倒した後、しりょうのきしたちは落とした剣を拾って、俺への攻撃を再開しようとする。

それを阻止するために、俺は走って奴らに近づいて行き、思い切り武器を叩きつけた。

起き上がった所に再び伝説の武器での攻撃を受けて、しりょうのきしたちは再び体勢を崩す。

奴らが体勢を崩したところを見て、俺は両腕に力を溜めていく。

 

「人間め…よくもここまで…!」

 

しりょうのきしたちは俺を睨みながら、今度こそ剣を取り戻そうと立ち上がろうとした。

だが、体勢を立て直される前に、俺は奴らを薙ぎ払っていく。

 

「回転斬り!」

 

二刀流での回転斬りを受けて、しりょうのきしたちも青い光へと変わっていった。

ロロンドたちはまだしりょうのきしを倒せてはいないが、弱らせることは出来ているようだ。

ゴーレムも3体のあくまのきしを追い詰め、戦いは順調に進んでいた。

 

だが、3体のあくまのきしに攻撃されても全く怯まないゴーレムを見て、悠久の竜はゴーレムの破壊を優先しようとする。

1体の悠久の竜はメルキドウォールへの攻撃を止めて、火球の標的をゴーレムに変えた。

あくまのきしを巻き込まないように、悠久の竜はゴーレムの頭を目掛けて闇の火球を吐く。

 

「ぐうっ…!」

 

ゴーレムはすぐに気づいて腕で頭を守ったが、ついに怯んで体勢を崩してしまった。

体勢を崩したのを見て、あくまのきしたちはゴーレムに力を溜めて斧を叩きつける。

斧1回でのダメージは小さい物だが、何十回も斬りつけられればゴーレムも弱ってしまうだろう。

 

「まずいな…このままだとゴーレムが…」

 

ゴーレムの足元には2体のビッグハンマーも迫って来て、より危険な状態になっていた。

ゴーレムは何とか魔物たちの攻撃に耐えて立ち上がるが、そうすると再び悠久の竜が火球を放って来る。

 

「我はこの地を守る者…そのくらいで我は倒せん…!」

 

今度は火球を受けても何とか耐えて、足元を狙う魔物たちへの攻撃を再開した。

しかし、悠久の竜は闇の火球を連続して吐くことも出来る。

何度も火球を受けてゴーレムは腕や体の一部が砕けてしまい、再び体勢を崩してしまった。

 

「早く悠久の竜を止めないとな…」

 

足元にいる魔物と悠久の竜の火球を止めなければ、ゴーレムはバラバラに砕け散り、ただの岩の塊と化してしまうだろう。

ゴーレムはメルキドの象徴にして守護者…そして、俺たちの新たな仲間だ。

そんなことになるのは絶対に避けたい。

 

メルキドウォールが出来て町への被害はなくなったが、悠久の竜の元へは急いでたどり着かなければいけなさそうだ。

俺の前にも、2体のビッグハンマーが襲いかかって来ている。

早く悠久の竜を止めようと、俺は奴らに斬りかかっていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode159 メルキドの守護者

ビッグハンマーたちは名前の通りの大きなハンマーを振り回し、俺を叩き潰そうとして来た。

あくまのきしやしりょうのきしを弱らせていたロロンドたちのところにも、奴らは向かっていく。

 

「人間め…どこまで抵抗して来るんだ!」

 

「お前もあの岩の塊も、ボクたちが叩き潰してやる!」

 

あくまのきしたちが倒されても、奴らは怯まずに向かって来るようだな。

ゴーレムを助けるためには、俺と戦っている2体のビッグハンマーを素早く倒さなければいけなさそうだ。

ビッグハンマーは他の魔物より攻撃速度が遅いので、攻撃を回避することはそんなに難しくない。

俺はハンマーを回避しつつ、奴らの腕へと武器を叩きつけていった。

 

「これくらいの速度なら、簡単に対応出来るぜ」

 

おうじゃのけんやビルダーハンマーといった強力な武器での攻撃を受けて、ビッグハンマーたちは大きなダメージを負っていく。

そこにさらに攻撃を続けていくと、奴らは持っていたハンマーを落とした。

武器を失ったのを見て、俺はビッグハンマーたちにとどめをさしていく。

 

「さっさとあんたたちを倒して、ゴーレムを助けに行くぞ!」

 

左側のビッグハンマーの頭をビルダーハンマーで叩き潰し、右側の奴の体をおうじゃのけんで貫く。

弱っているところに強力な一撃を受けて、ビッグハンマーたちは倒れていった。

ビッグハンマーが倒れると、俺はゴーレムの足元にいる魔物たちと戦いに行こうとする。

 

だが、ゴーレムのところへ走っている俺のところに、4体のてつのさそりが襲いかかって来た。

てつのさそりは俺を囲んで、ハサミで攻撃しようとして来る。

てつのさそりも戦い慣れている魔物なので苦戦はしないだろうが、急いで倒さないといけないな。

 

「くそっ、今度はてつのさそりか…」

 

ゴーレムは今も足元の魔物と悠久の竜の攻撃を受け続けており、このままではそう長くは持たないだろう。

俺は近づいて来たてつのさそりのハサミを破壊し、無力化させようとする。

奴らのハサミはかなり硬いが、今の俺の武器なら壊すのに時間はかからないはずだ。

ビルダーハンマーでハサミを潰し、おうじゃのけんで斬り落として行く。

 

「急いでこいつらを倒さないとな…」

 

てつのさそりたちも反撃して来たが、俺は奴らを弾き返して、体勢を崩させた。

4体ともの攻撃が止まると、俺は奴らの背中の甲殻に思い切り武器を叩きつけていく。

甲殻が砕かれると、奴らはさらに怯んで大きな隙を見せた。

 

「動きが止まったな…回転斬りで一気に倒す!」

 

回転斬りを使えば、てつのさそりたちを薙ぎ払って一気に倒すことが出来るだろう。

甲殻が砕かれた奴らに向かって、俺は両腕に力を溜めていく。

そして、てつのさそりたちが動きを再開する前に、俺は力を解放した。

 

「回転斬り!」

 

てつのさそりの体はかなり硬いので俺の腕にも衝撃が走ったが、俺は痛みに耐えて体を一回転させていく。

甲殻が砕かれたところに回転斬りを受けて、奴らは生命力がなくなり消えていった。

4体のてつのさそりを倒すと、俺は今度こそゴーレムの近くへと向かっていく。

 

ゴーレムの足元には3体のあくまのきしと2体のビッグハンマーに加え、2体のてつのさそりも襲いかかっていた。

7体もの魔物の攻撃を受けて、ゴーレムの足は激しく損傷している。

あくまのきしはゴーレムが弱ってきたのを見て、胴体にも斬りかかっていった。

 

「今助けに行くぞ、ゴーレム!」

 

石の心臓が破壊される前に、何としても魔物たちを止めなければいけないな。

俺はゴーレムを襲っている魔物たちの背後にまわって、両腕の武器を振り下ろしていく。

俺が最初に狙ったのは、ゴーレムの足を攻撃しているてつのさそりだ。

叩きつけられた武器は、奴らの尻尾へと直撃した。

突然尻尾に大きな傷がつけられ、てつのさそりたちは怯んでゴーレムへの攻撃を中断する。

 

「この岩の塊を助けに来たのか、人間め!」

 

「無駄なことをするな!もう諦めて、こいつが砕け散るところをみてるんだな」

 

てつのさそりが攻撃を受けたのに気づき、ビッグハンマーたちも攻撃の対象を俺に変えた。

てつのさそりもビッグハンマーもさっき倒した奴らと強さは変わらないだろうから、ここでも苦戦はしないはずだ。

殴りかかってきたビッグハンマーをジャンプして回避し、頭を斬り裂いていく。

 

「ゴーレムも俺たちの大事な仲間だ。お前たちに壊させはしないぞ!」

 

頭を斬られてもビッグハンマーはまだ怯まず、武器を振り回し続けて来た。

しかし、攻撃速度が上がったりすることもないので、俺は攻撃を受けることなく、奴らをだんだんと弱らせていく。

途中でてつのさそりたちも動きを再開し、俺にハサミを振り下ろして来た。

でも、俺はさっきと同じように奴らのハサミを潰して、無力化させていく。

 

「強いな…この人間…!でも、ボクたちに勝つことは出来ない!」

 

今回のビッグハンマーはなかなかハンマーを落とさず、最後まで攻撃を続けてきた。

俺は決して油断せず、確実に回避しながら奴らを追い詰めていく。

何度もダメージを与えていくと、奴らも耐えきることは出来ず、光を放って倒れていった。

 

「あとはあのあくまのきしたちだな」

 

ビッグハンマーとてつのさそりを倒すと、俺はゴーレムを斬り裂いている3体のあくまのきしの所に向かう。

あくまのきしたちは今までのゴーレムとの戦いで弱っているので、すぐに倒すことが出来るだろう。

近づいていくと、奴らのうち2体がゴーレムへの攻撃を止めて、俺を斬りつけて来た。

 

「わざわざ助けに来るとは、そこまでこの石像が大事か」

 

「それなら、ここで一緒に死なせてやる!」

 

あくまのきしたちが斧を振り下ろして来たのを見て、俺は両腕の武器を使って受け止める。

すると、やはりゴーレムとの戦いで奴らは弱っているようで、腕の痛みはあまり大きくなかった。

そこで、俺は両腕に力を溜めて、あくまのきしたちを押し返そうとする。

 

「このまま押し返して、ゴーレムを助けてやるぜ」

 

あくまのきしたちも抵抗するが、俺は全身の力を両腕に込め続け、奴らの斧を弾き飛ばした。

斧を落としたのを見て、俺はあくまのきしの鎧を繰り返し斬り裂いていく。

斧を持っていれば危険な魔物である奴らも、斧さえ落とせば簡単に倒せるようになる。

2体のあくまのきしを倒すと、俺はゴーレムを斬り続けているあくまのきしにも背後から近づき、おうじゃのけんを突き刺していった。

 

足元にいた7体の魔物を倒すと、俺はゴーレムに話しかける。

ゴーレムは腹の方まで深いダメージを負っており、かなり苦しそうな顔をしていた。

 

「ゴーレム、大丈夫か?足元にいた魔物はみんな倒したぞ」

 

「本当に助かった、雄也。だが、我はメルキドの守護者、あの程度の攻撃でくたばりはせん。あのドラゴンどもも、我が叩き潰してくれる」

 

ゴーレムは苦しそうな表情を続けながらも、大丈夫だと言って立ち上がろうとする。

だが、立ち上がってしまえば悠久の竜は再びゴーレムに、闇の火球を吐いて来るだろう。

これ以上あの高威力の火球を食らえば、ゴーレムは本当に砕け散ってしまうかもしれないな。

俺はしばらく休んでいてくれと、ゴーレムに伝えた。

 

「いや、あんたはしばらく下がっていてくれ。立ち上がったら、また闇の火球が飛んでくるぞ」

 

「それでも、我は止まる訳にはいかない。この地を守るためなら、どんなことでもいとわぬ」

 

しかし、ゴーレムは俺の制止を聞かず、傷ついた足で体を支えて立ち上がり、近づいて来ていた1体のドラゴンの頭に岩の拳を叩きつける。

そう言えば、今のゴーレムと同じ石の心臓を持っていたかつてのゴーレムは、メルキドを守るために人々を滅ぼした奴だ。

メルキドを復興させていた俺たちにも、最後の瞬間まで攻撃を続けていた。

ゴーレムは自身の命を含めた他の何よりも、メルキドを守ることを優先するのかもしれない。

 

炎を吐こうとしていたところに岩の拳を叩きつけられ、ドラゴンは大きく怯む。

すると、手下を攻撃された悠久の竜はやはり怒り、ゴーレムに向かって闇の火球を吐いた。

動きの襲いゴーレムでは火球を回避する事は出来ず、また体勢を崩しそうになってしまう。

しかし、ゴーレムは何とか体勢を保って、ドラゴンへの攻撃を続ける。

 

「どれだけ攻撃を続けようと、この町を決して壊させはせん!」

 

ゴーレムの拳を二度も頭に受けて、ドラゴンは大きなダメージを負っていた。

ゴーレムがどれだけ傷ついても戦いをやめないと言うのなら、俺に出来るのはゴーレムを援護することだ。

早く魔物たちを倒せば、ゴーレムが生き残る可能性も上がるだろう。

 

「俺も援護するぞ、ゴーレム!」

 

ゴーレムの攻撃で怯んだドラゴンの横に回り、俺はおうじゃのけんとビルダーハンマーを振り回していく。

これらの武器は硬い鱗も容易に貫けるので、ドラゴンにさらなるダメージを与えることが出来た。

そして、ドラゴンが瀕死になったのを見ると、俺とゴーレムは同時に力を溜めて、渾身の一撃を放つ。

 

「飛天斬り!」

 

ゴーレムはドラゴンの頭を砕き、俺は垂直に飛び上がって背中を断ち切る。

二人の強力な一撃を受けて、ドラゴンは力尽きて消えていった。

手下を倒されたことで、悠久の竜の攻撃はさらに激しくなっていく。

ゴーレムは再び倒れてしまったが、すぐに起き上がり、後衛のドラゴンにも攻撃を仕掛けていった。

 

「どれだけ強力な攻撃を受けても、我はお前たちを倒してくれる!」

 

ドラゴンも火炎を吐いてゴーレムを攻撃するが、普通のドラゴンの炎ではゴーレムにほとんど効果はない。

ゴーレムは後衛のドラゴンの頭も拳で叩き潰し、動きを止めていく。

ここで俺も援護に入れば、このドラゴンも倒すことが出来そうだ。

だが、ゴーレムがドラゴンを叩き潰しているのを見て、他の6体のドラゴンもゴーレムに近づいてくる。

普通のドラゴンとは言え、大勢に囲まれればゴーレムも大きなダメージを受けそうだ。

 

「まずいな…他のドラゴンたちも近づいて来ている」

 

そして、6体のドラゴンのうちの1体がゴーレムの背後に近づき、爪を振り下ろそうとした。

 

しかしその時、尻尾の方で爆発が起き、ゴーレムを攻撃しようとしていたドラゴンは怯む。

それに続いて、他のドラゴンの背中でも爆発が起きて、奴らはかなりのダメージを負った。

 

「雄也よ。6体のドラゴンは我輩たちが倒すぞ!お主はゴーレムと共に、目の前のドラゴンを倒してくれ!」

 

どうやらロロンドたちが、グレネードでドラゴンを攻撃してくれたようだな。

4人もあくまのきしやビッグハンマー、てつのさそりを倒したようで、ドラゴンと戦おうとしている。

このまま行けば、もうすぐ悠久の竜の元にたどり着く事が出来そうだ。

 

「ありがとう。頼んだぞ、みんな!」

 

グレネードによる攻撃を受けて、6体のドラゴンはロロンドたちへと攻撃対象を変える。

この前もグレネードでドラゴンを倒していたみんななら、きっと大丈夫だろう。

俺はゴーレムと共に、目の前にいるドラゴンに集中する。

さっきと同じでゴーレムは悠久の竜の火球に耐えながらドラゴンの頭を殴り、俺は横から奴の体を攻撃していった。

ドラゴンは横を振り向いて、爪で俺を斬り裂こうともして来たが、俺はすぐに反応して回避する。

 

「大人しく倒されるがいい、この地を破壊する者よ!」

 

ドラゴンはさらなる攻撃も仕掛けようとして来たが、ゴーレムは力を溜めて奴の体を殴りつけ、動きを止めさせた。

動きが止まると俺は再び近づき、奴の体におうじゃのけんを突き刺し、体内を斬り裂いていく。

ゴーレムもさらなる追撃を加えて、2体目のドラゴンも倒すことが出来た。

 

俺とゴーレムが2体目のドラゴンを倒すと、ロロンドたちもグレネードで6体のドラゴンを倒したようで、こちらに走ってくる。

 

「おお!よくやったな、雄也にゴーレムよ。我輩たちも、ドラゴンどもを倒したところだ。次はいよいよ、あの黒いドラゴンだな」

 

これで残っている魔物は12体のスターキメラと、2体の悠久の竜だけだ。

前側にいる悠久の竜はゴーレムへの火球での攻撃を止めて、俺たちを睨みつけながら近づいてくる。

後ろ側にいる悠久の竜は、メルキドウォールへの攻撃を続けていた。

悠久の竜は、魔物の中でも最高レベルの生命力を持つ強敵だ。

だが、必ず戦いに勝って、メルキドの二度目の復興を達成させたいぜ。

 

「ああ。間違いなく強敵だけど、必ず勝ってこの町を守り抜くぞ」

 

俺たちはそれぞれの武器を強く握って、悠久の竜に近づいていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode160 城塞都市の決戦

悠久の竜は莫大な体力を利用し、普通のドラゴンでは不可能なレベルの連続攻撃を行うことが出来る。

一度奴に狙われれば、攻撃を避けきるのは至難の技だろう。

だが、悠久の竜に近づけば、誰かはその苛烈な連続攻撃を受け続けることになる。

 

「俺があいつの攻撃を引き付ける。みんなは横から攻撃して何とか怯ませてくれ!」

 

誰かが避け続けなければいけない連続攻撃を、自分が引き付けると俺はみんなに言った。

俺も避け続ける自信はないが、今回はエレカとゴーレムもいるので、奴を怯ませられる可能性も高いはずだ。

俺の指示を聞いて、ロッシとケッパーを先頭にみんなは悠久の竜の側面へとまわっていく。

 

「分かりました。飛天斬りも使って、何とかして動きを止めますね」

 

「なるべく急ぐけど、気をつけろよ」

 

みんなが移動したのを見て、俺は悠久の竜の顔へと近づいていった。

 

すぐ近くまで来ると、奴は俺を食いちぎり、闇の炎で焼き尽くそうと牙で噛み付いて来る。

悠久の竜は普通のドラゴンよりも体が大きいので、ジャンプでなければ避けることは出来ない。

俺はジャンプして噛みつきを避けて、奴の前足に近づいていった。

 

「次は爪での攻撃だな…」

 

おうじゃのけんとビルダーハンマーを振り上げ、悠久の竜の足に叩きつけていく。

すると、案の定奴は爪を振り上げて、俺を引き裂こうとして来た。

俺はまたジャンプして回避するが、悠久の竜は再び噛みつき攻撃を使う。

それでも連続攻撃は止まらず、噛みつきを避けた俺のところに闇の炎を吐き出して来た。

 

「くっ、やっぱり避け続けるのは難しいな…」

 

俺も回避を続けるが、悠久の竜は攻撃は終わる気配がない。

俺が攻撃を避け続けるのを見て、みんなは必死に奴を斬りつけていた。

 

ロッシは後ろ左足、ケッパーは後ろ右足、エレカは尻尾、ロロンドは腹をそれぞれはがねのつるぎで攻撃している。

悠久の竜の鱗は普通のドラゴンよりも硬いが、かなりの傷を与えることが出来ていた。

 

「雄也が傷を負う前に、絶対に止めてやるぞ!」

 

ゴーレムも巨大な両腕を振り上げて、悠久の竜の背中を砕こうと拳を叩きつける。

一撃でドラゴンを怯ませたゴーレムの攻撃は、奴にも大きなダメージだろう。

 

「この地を荒らす闇の竜、決して許さんぞ」

 

だが、みんなやゴーレムがどれだけ攻撃しても、悠久の竜はなかなか怯まない。

この前の奴は飛天斬りで怯ませることが出来たので、ケッパーは飛天斬りも使っていった。

 

「飛天斬り!」

 

しかし、それでも悠久の竜は動きを止めず、連続攻撃を放っていく。

この悠久の竜は、この前の奴よりもさらに体力が高いのかもしれないな。

 

闇の炎を回避した後の俺に、悠久の竜は飛びかかり攻撃を使って来た。

あんな巨体を回避するのは難しいが、食らったら潰されてしまう。

大きくジャンプして何とか避けると、悠久の竜は俺を正確に狙って5連続で火球を吐き出して来た。

 

「今度は闇の炎だな…まだ怯まないのか…!」

 

5回も連続でジャンプするのはさすがに疲れるので、俺も動きが遅くなってしまう。

そして、5連続の火球も避けた後の6発目の火球で、俺は足に火傷を負ってしまった。

闇の炎で焼かれたので、普通の炎を受けた時よりも激しい痛みが走る。

 

「くそっ、さすがに避けきれないな…」

 

俺は動きを止めてしまい、それを見た悠久の竜は力を溜め始めた。

恐らくこの前も使って来た、放射状の闇の炎を使って来るのだろう。

あんな炎をまともに受ければ、灰になってしまいそうだ。

俺は痛みをこらえて立ち上がり、火傷を負った足でジャンプしようとした。

悠久の竜が溜め始めたのを見て、ケッパーは再び腕に力を溜めて、大きく飛び上がる。

 

「もう一度、飛天斬り!」

 

ケッパーの放った飛天斬りで奴の足は大きく裂けて、深いダメージを負った。

だが、それでも力を溜めるのを止めることは出来ず、悠久の竜は俺に向かって放射状の炎を吐く。

メルキドの町にまで被害が出そうな広範囲の炎であったが、メルキドウォールはまだ壊れることはなく、町の中は無事であった。

俺は身体中の力を込めて大きくジャンプするが、直撃こそ避けられたものの背中にもダメージを負う。

弱ってきた俺を仕留めようと、悠久の竜は爪を振り上げて斬り裂こうとして来た。

 

「これ以上は本当にまずいな…」

 

俺は立ち上がるが、これ以上回避を続けるのは難しそうだ。

 

どうすればいいんだと思っていると、ロロンドが悠久の竜の腹を離れて、奴の目の前に立つ。

 

「雄也よ、ここからは我輩が引き付ける。お主が竜の腹を攻撃してくれ」

 

俺がもう限界になっているのを見て、ロロンドは代わりに悠久の竜を引き付けようとしているようだ。

だが、悠久の竜の連続攻撃では、ロロンドもすぐに追い詰められてしまう可能性が高い。

なるべくロロンドを危険な目に合わせたくない…しかし、俺がこれ以上奴を引き付けるのは不可能だろう。

 

「…分かった。何としても、あいつを怯ませてやる」

 

ロロンドが追い詰められる前に悠久の竜を怯ませようと、俺は奴の腹へと近づいていった。

ケッパーたちは後ろ足や尻尾に大きなダメージを与えており、悠久の竜を怯ませることも出来ないことはないはずだ。

悠久の竜の腹にはロロンドの攻撃でつけられた傷がいくつかあり、俺はその傷におうじゃのけんを突き刺し、体内を力いっぱいえぐっていく。

ビルダーハンマーでも強力な打撃を与えていくと、ついに悠久の竜は大きな悲鳴を上げた。

 

「これで怯んだか…!?」

 

しかし、悲鳴を上げたものの奴はほとんど動きを止めず、ロロンドへの攻撃を続ける。

俺にも使って来た火球や噛みつき、牙を駆使して、悠久の竜はロロンドを追い詰めていった。

ロロンドの体力もだんだん減っていき、動きが遅くなっていく。

 

「くそっ、このままだとロロンドも…。今度はオレが行くぜ!」

 

ロロンドが弱ってきたのを見て、今度はロッシが悠久の竜の前に立とうとする。

だが、ここまで怯ませられないのであれば、ロッシもやられてしまうのではないかと思ってしまう。

 

すると、ゴーレムも同じことを考えていたようで、ロッシよりも先に悠久の竜の前に立ちふさがった。

 

「このままではみんな力尽きる。このメルキドの地を守るために、守護者たる我がこいつを止める!」

 

ゴーレムは硬い岩で出来ているので、人間である俺たちよりも長く攻撃に耐えられるであろう。

しかし、ゴーレムは今までの攻撃で弱っているので、これ以上攻撃を受ければ本当に死んでしまうかもしれない。

ロッシも同じ事を考えて、ゴーレムに言う。

 

「オレは大丈夫だから、お前は横からの攻撃を続けてくれ。これ以上攻撃を受けたら、本当に死んでしまうぞ!」

 

「何度も言うが、我はメルキドの守護者。何があっても、この地を守る!」

 

だが、やはり先ほどと同様にゴーレムは言うことを聞かず、悠久の竜の攻撃を受け止める。

巨体故に無理に引き止めることも出来ず、俺たちはゴーレムを援護することしか出来なかった。

ゴーレムは悠久の竜に噛みつかれ、体がだんだん砕かれていく。

俺たち5人はゴーレムが攻撃を耐え抜くのを願って、悠久の竜の体へ攻撃していった。

 

「どれだけ生命力があったとしても、そろそろ弱ってきたはずだな…」

 

悠久の竜の竜は怯みこそしないものの、攻撃を続けていくと何度か悲鳴をあげた。

倒すのにはまだ時間がかかりそうだが、弱っているのは確実だろう。

生命力が減ってきた悠久の竜は俺たちを一気に倒そうと、身体中に力を溜め始める。

さっきの放射状の炎の時とは違う溜め方であり、恐らくはこの前の悠久の竜も使ってきた回転攻撃だろう。

 

「回転攻撃が来るぞ、みんな避けろ!」

 

俺が指示を出したことで、ロロンドたちは何とか避けきることが出来た。

だが、動きが遅いゴーレムは避けきれず、再び大きなダメージを受ける。

ゴーレムの傷は石の心臓の近くにまで到達しており、倒れこんでしまった。

ゴーレムが弱ったのを見て、悠久の竜は爪を叩きつけていく。

 

「そろそろ倒さないと、ゴーレムが…」

 

俺たちは回転攻撃が終わったのを見て、すぐに悠久の竜へと近づいていった。

奴の絶大な生命力を削りきるため、俺は傷んだ腕に力をこめて飛び上がり、垂直に両腕の武器を叩きつける。

 

「飛天斬り!」

 

俺に続いて、ケッパーも飛天斬りを放っていく。

飛天斬りが使えないロロンドたちも、素早く、そして力強く剣を振って、悠久の竜を斬り刻んでいった。

そして、俺が2度目の飛天斬りを放った時、悠久の竜はついに大きく怯み、動きを止める。

 

「おお!ついに動きが止まったな。今のうちに、決着をつけてやるぞ」

 

動きが止まったのを見て、ロロンドはそう言いながら奴を倒そうと攻撃を続けていった。

俺やケッパーも飛天斬りを放ち続け、ロッシやエレカもはがねのつるぎを振り続ける。

みんな体力の限界が近づいているが、ここでとどめをさせなければさらに戦況は厳しくなってしまう。

ゴーレムも体勢を立て直して、悠久の竜を頭を何度も拳で殴り続けていた。

 

だが、悠久の竜にとどめをさす前に、俺たちやゴーレムのところに、12体のスターキメラと後方の悠久の竜も近づいて来る。

スターキメラはゴーレムに向けて火炎を放ち、後方の悠久の竜は俺たちに近づいて爪で引き裂こうとして来た。

 

「もう少しで倒せそうなのに、あいつらも来てしまったか…」

 

ゴーレムはスターキメラの火炎ではほとんどダメージを受けていないので大丈夫だろうが、2体の悠久の竜に挟まれるのは非常に危険だ。

2体の悠久の竜に囲まれそうになっているのを見て、ゴーレムは俺たちにある指示を出した。

 

「お前ら、この竜から離れるんだ!」

 

何をするのかは分からないが、俺たちは倒れている悠久の竜から離れる。

俺たちが悠久の竜から離れると、ゴーレムは体を丸めて、全身に力を溜め始める。

溜まった力はすさまじく、ゴーレムのまわりにオーラが溢れ出そうなほどだった。

力が最大にまで溜まると、ゴーレムは力を解放して腕を広げて回転し、まわりにある全てのものを薙ぎ払っていく。

 

「…そう言えば、ゴーレムにも回転攻撃があったな」

 

かつてのゴーレムも使って来た、強力な回転攻撃だ。

かつてのゴーレムは強いオーラを纏って回転し、メルキドの町を粉砕しようとしていた。

ゴーレムの回転攻撃は非常に強力であり、ゴーレムのすぐ近くにいた6体のスターキメラは瞬く間に叩き落とされ、青い光に変わっていく。

2体の悠久の竜にも大きなダメージを与えることが出来、俺たちと戦っていた奴はもう瀕死の状態になっていた。

後方の悠久の竜はゴーレムを止めようと牙で噛みつき、ついにゴーレムは石の心臓がむき出しになった状態になってしまう。

だが、それでもゴーレムは怯まず、回転攻撃を続けていった。

回転攻撃の最後にゴーレムは起き上がろうとしていた前方の悠久の竜の顔面を思い切り叩き潰し、再び怯ませる。

 

「すげえな…今のうちに、この竜にとどめをさすぞ!」

 

「ああ、行くぜ!」

 

ロッシはゴーレムの動きに驚きながら、前方の悠久の竜を攻撃していく。

俺たちもそれに加わり、飛天斬りも使って奴にとどめをさしていった。

ゴーレムの活躍のおかげで、ついに前方の悠久の竜は大きな青い光になり、力を失い消えていった。

 

これで残ったのは、6体のスターキメラと後方の悠久の竜だけだ。

7体の魔物たちは、回転攻撃の反動で動けなくなっているゴーレムに攻撃を続けている。

 

「これで1体は倒れた。残りの奴も倒すぞ!」

 

「私はスターキメラを倒しましょう。皆さんはあの竜を!」

 

エレカが6体のスターキメラを止めに行き、俺たちは悠久の竜を止めに行く。

スターキメラは峡谷地帯の魔物であり、峡谷地帯に住んでいたエレカなら戦い慣れていることだろう。

悠久の竜もゴーレムの回転攻撃による拳を10発ほど受けて、かなり大きなダメージを負っているはずだ。

俺とケッパーはゴーレムへ攻撃している悠久の竜の翼を目掛けて飛び上がり、武器を叩き下ろす。

 

「あんたもここで倒す、飛天斬り!」

 

二人の飛天斬りを受けても、悠久の竜はまだ動きを止めなかった。

俺たちはまた飛天斬りを連続で放ち、ロロンドとロッシも身体中の力を振り絞って攻撃を続けていく。

みんなの強力な攻撃を受けて、こちらの悠久の竜も少しは弱って来たことだろう。

だが、奴はついに攻撃の反動で動きが止まっていたゴーレムの足を爪で斬り裂き、倒れ込ませてしまった。

ゴーレムが転倒したのを見て、悠久の竜は再び身体中に力を溜め始める。

 

「くそっ、また回転攻撃か…みんな、悠久の竜から離れるんだ!」

 

溜め方ですぐに回転攻撃だと分かり、俺はみんなに指示を出した。

しかし、俺たちはすぐに反応して大きなジャンプをして回避したが、ゴーレムはまた攻撃を受けてしまう。

ゴーレムは倒れてもいつもすぐに起き上がろうとしていたが、今はもう起き上がれなくなっていた。

悠久の竜は回転攻撃の後、俺を倒すために俺に顔を向けて回転を止めて来る。

 

「こいつも連続攻撃を使って、俺を倒すつもりなのか…」

 

奴も膨大な体力を生かして、連続攻撃で俺を倒すつもりなのだろう。

ゴーレムは自分の命に変えてまでこの町を守ろうとしていたが、もう体が動かない。

今も何とかして起き上がろうとはしているようだが、俺たちとしては絶対にゴーレムを死なせたくはない。

俺たちが交代で悠久の竜を引き付けて、全員が力尽きる前に倒すしかないだろう。

 

「これ以上ゴーレムに無理はさせられない!みんなで交代でこいつを引き付けて、なんとしてでも倒すぞ。まずは俺が引き付ける!」

 

みんなもそれ以外の方法は思いつかないようで、悠久の竜が俺を狙っている間に奴の横にまわっていく。

悠久の竜は直線上に火炎を吐き、飛びかかって、牙で噛み付くという連続攻撃を仕掛けて来た。

俺は残った体力でそれらの攻撃を何とかかわしていき、みんなが攻撃するチャンスを作る。

ケッパーの飛天斬りやロロンドとロッシの素早い攻撃で、悠久の竜にさらなるダメージを与えていた。

3連続で攻撃をして来た後は、悠久の竜は火球を吐き続けてくる。

 

「みんな攻撃してるけど…やっぱりなかなか怯まないな…」

 

俺はやはりだんだん動きが遅くなっていき、4発目の火球をくらいそうになってしまった。

すると、そんな俺の様子を見たケッパーが、俺の代わりに悠久の竜の前に出てくる。

 

「次は僕が引き付ける番さ。雄也は横にまわって!」

 

ケッパーは衛兵なので戦いは得意だが、悠久の竜の攻撃ではそう長くは持ちこたえられないだろう。

俺は疲れきった体を何とか動かして、悠久の竜の横に移動していった。

エレカもスターキメラを倒し終えて、奴に剣を振りかざしていく。

 

「スターキメラは倒して来ました。私も皆さんに協力しますね」

 

俺はもうおうじゃのけんとビルダーハンマーを持つのもしんどいほどだが、攻撃を止める訳にはいかない。

出来る限りの攻撃を叩き込んで、悠久の竜を怯ませようとしていった。

だが、ケッパーも体力の限界が訪れて、悠久の竜の攻撃をくらいそうになってしまう。

 

「今度はオレが出る。今度こそ、こいつの攻撃を止めてくれ!」

 

ケッパーの代わりに、今度はロッシが悠久の竜の攻撃を引き付けにいった。

奴の横へと戻って来たケッパーは俺と同じように、武器を持つのも辛そうな表情をしていた。

だが、それでも悠久の竜に高いダメージを与えようと、飛天斬りを放っていた。

 

「今度こそ止める、飛天斬り!」

 

俺もケッパーを見て、残った力を全て振り絞り、両腕と足に力を溜めていく。

そして、力が最大にまで溜まったところで飛び上がり、思い切り武器を叩きつけていった。

 

「俺もだ、飛天斬り!」

 

俺とケッパーの飛天斬りに合わせて、ロロンドとエレカも強力な攻撃を叩き込む。

 

すると、ロッシを攻撃していた悠久の竜はついに怯んで叫び声を上げ、動かなくなった。

奴が動かなくなったのを見て、俺たちは全員で攻撃を叩き込む。

 

「やっと怯んだな…今のうちにとどめをさそう!」

 

こいつを倒せば、メルキドの2度目の復興を達成する事が出来る。

だが、ここで倒せなければ俺たちは全滅してしまうだろう。

みんなが攻撃を続けていると、倒れていたゴーレムも起き上がってきて、悠久の竜を叩き潰そうとした。

 

「メルキドの地は、我が守って見せる!」

 

俺やケッパーも再び飛天斬りを放ち、奴の残った体力を削りとっていく。

そして、メルキドの町の人々の総力を叩き込まれ、最後の悠久の竜は光を放って消えていった。

 

悠久の竜を倒し終えた頃には、この前の防衛戦の時と同じようにみんな動けなくなっていた。

だが、これでメルキドの2度目の復興を達成出来るという嬉しさは確かに感じられ、ロロンドは喜びの声を上げた。

 

「ついにやったな!我輩たちは、あの闇のドラゴンを倒したのだ!」

 

「ああ。チェリコは悠久の竜は3体いるって言ってたから、これで全部倒したんだ」

 

ひかりのたまはもうないので、これからもずっと魔物との戦いは続いていくだろうが、メルキドのまわりの強大な魔物はひとまずいなくなった。

メルキドのみんなの力で、これからも町を大きく発展させられればいいな。

ロッシは、メルキドの2度目の復興を祝って宴を開こうと、俺たちに提案する。

 

「そうだ、メルキドに光が戻った時は宴を開いたんだし、今日も宴を開かねえか?」

 

「確かに良さそうだな。今日の夜は、メルキドの2度目の復興を祝おう」

 

俺は宴を開くことに賛成し、みんなも異論はないようだった。

俺たちは疲れた足を引きずりながら、メルキドの町の中に入っていく。

ゴーレムやメルキドウォールがなければ、今回の戦いは決して勝つことが出来なかっただろう。

ルビスが死んでも、まだアレフガルドは終わっていないなと、俺は発展したメルキドの町を見て思った。

 

その日の夜、俺たちはメルキドの2度目の復興を祝って小さな宴を開いた。新たに加わった仲間であるエレカやゴーレムも、もうすっかり町の仲間に馴染んでいる。

ここにいるのは、仲のいい人たちばかりだ。かつてロロンドとロッシが対立し合っていたことなど、もう見る影もなかった。

宴はいつも通り夜遅くまで続き、俺たちが眠りについたのは日が過ぎてからだった。




次回、6章のメルキド編の最終回です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode161 メルキドの未来

メルキドの7回目の防衛戦の二日後、メルキドに戻って来てから11日目の朝、俺は朝早く起きて、町の外の様子を眺めていた。

昨日は疲れを癒すために一日中休んでいたので、悠久の竜との戦いの疲れはなくなっている。

町のまわりをうろつくドラゴンの数は減っており、しばらくの間襲ってくることはなさそうだ。

 

「ドラゴンも数が減ってるな…メルキドの2度目の復興は達成したし、そろそろリムルダールやマイラにも行こうかな」

 

メルキドのみんなは自分たちの力で、この町をこれからもっと発展させていくだろう。

飛天斬りを習得でき、まほうの光玉やメルキドウォールと言った強力な兵器の作り方も覚えたし、本当に良かったぜ。

そろそろ次なる復興のため、リムルダールやマイラに向かおうと俺は思う。

 

「何が起きてるか分からないけど、みんな無事だといいな」

 

ルビスの死後、それらの町にも強力な魔物が襲って来ているだろうが、何とか無事であって欲しい。

俺がこれからのことを考えていると、後ろからロロンドが話しかけてきた。

 

「起きていたか、雄也よ。お主に伝えたいことがあるのだ」

 

振り向いて見ると、ロロンドはとても嬉しそうな顔をしていた。

昨日ロロンドが何をしていたかは分からないが、何かあったのだろうか。

 

「どうしたんだ、ロロンド?」

 

「実はな、我輩が以前からずっと解読し続けてきたメルキド録…それを昨日ついに、全て読み終えることが出来たのだ」

 

古代の文字で書かれており、ロロンドが大切に持ち歩いているメルキド録。

かなり大きな書物のようなのだが、ついに解読を終えることが出来たのか。

あの書物に記されていることは、これからのメルキドの発展にも役立っていくだろう。

 

「あんなに大きな本を全部読んだのか…本当にすごいな、ロロンドは」

 

「メルキド録は20万ページもある書物でな、我輩も何度も断念しそうになった。だが、あの書物に書かれたことは町のために必要だと思い、諦めずに読み続けたのだ」

 

自分だったら、20万ページもある古代の書物を読み解くなんて、どれだけの時間があっても無理だろう。

ロロンドはメルキド録の昨日読んだ部分に、俺と一緒に作りたい施設が書かれていたとも話す。

 

「昨日読んだ部分には、メルキドを盛り上げるのに役立ちそうな施設も記されておった。今日はお主とその施設を一緒に作りたい」

 

メルキドでの最後の活動として、その施設を作るのもいいかもしれないな。

施設が完成したら、ピリンやヘイザンと共にリムルダールへ向かおう。

俺はロロンドに、どんな施設を作るのか聞いてみた。

 

「それなら俺も作りたいけど、どんな施設なんだ?」

 

「木や草、花が生え、水が流れている美しい庭園、メルキドガーデンだ。庭園があれば、みんな心が安らぐだろう」

 

メルキドガーデンか…そう言えばドラクエ1のメルキドの中央部にも、水が流れている庭のような場所があったな。

大きな庭園のある町というのも、確かに良さそうだ。

俺はさっそく、メルキドガーデンの作り方をロロンドから教えてもらう。

 

「結構良さそうな施設だな。作り方を教えてくれ」

 

「メルキド録には、10本の花と5本の草、1本のブナの木、かがり火、広めの水場、そしてベンチが必要だと書かれておった。水場を用意するには水路を掘って、近くの池から水を引かなければならぬ。池はこの町より低い位置にあるから、メルキドガーデンも地下に作らねばならんだろう」

 

花や草はその辺に生えている物を草花スコップで回収すればいいし、ブナの木も森から取ってこれば良さそうだな。

だが、庭園が作れるほどの広さの地面を掘って、さらに水路を作って池から水を引いてくるというのは、かなり大変そうだ。

池からメルキドの町までは少し距離があるので、かなりの体力を使うことになるだろう。

そう思っていると、ロロンドは自分が地面を掘り、水路を引いてくると俺に言う。

 

「我輩は地面を掘って、池から水を引いて来ようと思う。お主は町の外に行って、草花や木を集めて来てくれ」

 

「分かった。かがり火とベンチも作って来るから、そっちは頼んだぞ」

 

地面を掘るという力仕事は、確かにロロンドの方が得意そうだ。

俺は町の外から植物を集めて、ベンチとかがり火を作って来よう。

俺は簡単に作れそうなベンチを想像し、ビルダーの魔法を発動させた。

 

ベンチ…木材2個、ひも1個 石の作業台 木の作業台 鉄の作業台

 

木材はブナの木と一緒に集めて来て、ひもは大倉庫にある物を使えば良さそうだ。

ロロンドが地面を掘る作業を始めたのを見て、俺は植物を集めにメルキドの町の外へと歩いていった。

 

メルキドの町の外に出ると、草や花が生えているところがないかと、俺は辺りを見渡す。

すると、さっそく町の近くに緑の草が生えているところを見つけて、それを集めに歩いていった。

町の近くのドラゴンは減っているので、あまり慎重に進まなくても大丈夫そうだ。

俺は草原の箱を被らずに歩いていき、草の生えているところに近づいていく。

 

「スコップを使えば、草も回収出来るだろうな」

 

緑の草は剣で斬ると、じょうぶな草という素材になってしまい、庭園に植えることは出来なくなる。

でも、草花スコップを使えば姫の寝室を作った時の花飾りのように、植物そのものの形で回収出来るはずだ。

俺はポーチからスコップを取り出して、草のまわりにある土を掘っていった。

緑の草は形を保ったまま回収可能な状態になり、俺はそれをしまっていく。

 

「草は5個必要って聞いたけど、すぐに集まりそうだぜ」

 

草を1本手に入れると、俺は他の草も回収し始める。

近くにも同じ草がたくさん生えているので、5個くらいならすぐに集まるだろう。

俺はスコップで地面を掘り続けて、次々に緑の草を回収していく。

草を5本集めることが出来ると、俺は次は10本の花を集めに行った。

 

「これで草は集まったし、次は花だな」

 

もう一度周りを見回すと、俺は花畑のようにたくさんの白い花が生えている場所を見つける。

俺はスコップを持って、そっちへと向かっていった。

白い花はきずぐすりの素材として使われる物だが、庭園に並べて鑑賞するのも良さそうだ。

白い花のまわりにある土を掘って崩して行き、花の形を壊さないように集めていく。

花は10本も必要なので、その場では集まりきらなかった。

 

「さすがに一箇所で10本集めることは出来ないか」

 

俺は町から少し離れたところに花畑を見つけ、そこにスコップを持っていく。

その辺りには昔からいた魔物、スライムも生息していたので、俺は少し慎重に歩いていった。

そこに着くと、俺はまた草花スコップを使って白い花を回収していく。

2箇所をまわることで、俺は10本の白い花を集めることが出来た。

 

「10本の花が集まったし、今度は森に行こう」

 

俺は手に入れた花をポーチにしまい、ブナの木が生えている森に向かう。

1本の木から複数の木材も苗も手に入るので、木は1本切れば良さそうだ。

俺はまたスライムたちに気をつけながら、ブナの森へと向かっていった。

 

5分ほどたって森に辿り着くと、俺はスコップをしまってビルダーハンマーを取り出す。

木は草花スコップで掘り起こすことは出来ず、回収するには剣やハンマーで破壊しなければいけない。

 

「結構大きめだし、この木にしよう」

 

俺は近くにあった大きなブナの木に近づき、何度もハンマーを叩きつけた。

数回叩きつけると木は砕け散り、3つのブナ原木と切り株を落とす。

 

「確か切り株を壊せば、苗が手に入ったな」

 

俺は3つの原木を回収すると、切り株もビルダーハンマーで叩きつけていった。

切り株は破壊されると、庭園に植えられるブナの苗に変わる。

その苗も拾うと、俺は森を出てメルキドの町へと戻っていった。

 

「これで植物は集まったし、あとはかがり火とベンチだな」

 

俺が植物を回収している間、ロロンドの作業もかなり進んだことだろう。

スライムやドラゴンに気をつけながら、俺は10分くらいで町に歩いていく。

 

メルキドの町に戻って来ると、俺はベンチとかがり火を作りに工房に入っていった。

石の作業台の前にまず先ほど手に入れた原木を置き、木材へと加工していく。

2つの木材が出来上がると、俺は大倉庫に入っていたひもと合わせてベンチを作った。

 

「このベンチなら、二人くらい一緒に座れそうだな」

 

そんなに大きいベンチではないが、二人一緒にくらいは座れそうだ。

ベンチが出来上がると、俺はかがり火も作っていく。

大倉庫にしまってある石材と石炭を取り出し、ビルダーの魔法を使っていく。

かがり火も出来上がると、俺はロロンドがさっき地面を掘っていた場所に向かった。

 

「かがり火も出来たな…ロロンドの作業はどのくらい進んだんだ?」

 

ロロンドがメルキドガーデンを作ろうとしているのは、町の外側だ。

そこに行って見てみると、町の地面より数メートル下にある空間が、数十平方メートル作られていた。

 

「地面は掘り終わったみたいだな…今は水路を作りに行っているのか」

 

その空間にはさらに1段低くなっているところもあり、そこに水場を作るのだろう。

ロロンドはここにはおらず、どうやら池の方から水路を掘っているようだ。

降りるための段差も作られており、俺はそれを使ってこれからメルキドガーデンとなる空間に降りていった。

 

「ロロンドが戻って来る前に、草花とベンチを置いておくか」

 

ロロンドが水路を掘り終えるのにはもう少し時間がかかるだろう。

俺はそれまでに出来る限りのことをしようと、作ったベンチとかがり火を空間の隅に設置していく。

それらを設置すると、俺は手に入れた植物をまわりに植えていった。

水場となる場所の近くに草花を配置し、その近くにブナの苗も植えていく。

もう町の中にもルビスの加護はないが、この苗も長い時間をかければ、森にあるブナの木と同じくらいの大きさになるだろう。

 

「これで植物は、みんな植えられたな」

 

集めて来た植物を全て植えると、俺はその場でしばらく休んでいた。

そうしていると、水場の壁が砕け散る音が聞こえる。

何が起きたのかと振り向いて見ると、ロロンドが水路を完成させてこちらにたどり着いたようで、話しかけてきた。

 

「おお、雄也よ!そちらも作業は終わったようだな。我輩も今、水路を完成させたところだ」

 

「ああ。これでもうすぐ、メルキドガーデンも完成だな」

 

メルキドガーデンが完成すれば、俺はいよいよリムルダールに旅立つ。

ロロンドたちとも、しばらく会えなくなるだろう。

俺がそんなことを思っていると、ロロンドは水路に水を流しに行った。

 

「我輩はこの水路に水を流し、外から町に戻って来る。もう少し待っておれ」

 

自分が濡れないようにするため、水路を完成させた後に水を流すことにしたようだ。

俺はロロンドが戻って来るまでの間、他に何か出来ることはないか考える。

 

「ここに降りやすくするために、階段をつけたほうがいいかもしれないな」

 

そこで俺が思いついたのは、メルキドガーデンへ降りる段差に階段をつけることだった。

1メートルもある段差を庭園に行くたびに何段も登り降りするのは大変だろう。

階段があれば、かなり移動が楽になるはずだ。

 

「さっそく作って、設置して来よう」

 

俺は階段を作りに庭園から出て、再び工房に向かっていく。

 

工房に入ると、俺はまた大倉庫から3つの石材を取り出して、石の作業台の前に置いた。

そして、ビルダーの魔法を使って階段の形に加工していった。

しばらく魔法をかけ続けると、5つの石のかいだんの完成だ。

5つあれば十分だろうから、俺はそれらを持って庭園に向かっていった。

 

「もう水が流れているな…もうすぐロロンドも戻って来そうだ」

 

庭園に戻って来ると、もうロロンドが水路に池の水を流したようで、水場にきれいな水が貯まっていた。

ロロンド自身も、もうすぐメルキドの町に帰ってくることだろう。

これで必要なものは全部作れたし、メルキドガーデンは完成だな。

俺は完成したメルキドガーデンに入る途中、石のかいだんを設置していった。

 

「これがメルキドガーデンか…落ち着く場所だな」

 

メルキドガーデンは静かな場所で、ロロンドの言う通り心が安らぎそうな場所だ。

メルキドでの最後の活動として、これを作ることが出来て良かったぜ。

俺はメルキドガーデンのベンチに座り、しばらく草花や木、水場を眺めていた。

 

5分くらいベンチに座っていると、上からロロンドの声が聞こえてきた。

 

「おおお!階段もつけてくれたのだな。ありがとう、雄也よ。これでメルキドガーデンも完成だ」

 

「階段があった方が、登り降りしやすいと思ったんだ」

 

ロロンドは完成したメルキドガーデンを見て喜び、さっそく俺が作った階段を降りて中に入って来る。

ガーデンの中に入ると、彼はベンチの俺の隣に座って来た。

そして、俺にもう一度感謝の言葉を言って、メルキドがこれからも発展し続けてほしいと話す。

 

「改めて言うが、これまで本当にありがとう、雄也よ。お主のおかげで闇のドラゴンを倒し、メルキドガーデンを作ることも出来た。我輩はこの町が、これからも永遠に発展していくことを願っておる」

 

「ロロンドたちなら、絶対に出来ると思うぞ。また魔物が襲って来たとしても、必ず勝てるはずだ」

 

精霊亡き世界では魔物もいずれまた襲って来るだろうし、メルキドが発展し続けることは難しいかもしれない。

どんなに人々が頑張って作った物でも、一瞬にして壊されてしまうかもしれない。

しかし、人々の心に復興の意志がある限り、壊れた物は何度でも作り直すことが出来る。

そうして、仲のいい人々が住む美しい町、メルキドはずっと続いていくだろう。

 

「ああ。何が起こったとしても、我輩たちは力を合わせて、メルキドの町を作り続けていく」

 

ロロンドたちの仲の良さと復興の意志は、決して失われることはないだろう。

俺はロロンドと共に、メルキドの未来を思いながらメルキドガーデンで時間を過ごしていた。

 

しばらくした後、俺とロロンドはメルキドガーデンを出る。

もう日が登っており、みんなも起きている時間になっていた。

メルキドガーデンを作り終えた俺は、ロロンドにこれからリムルダールに行くことを伝えようとする。

だがその時、ロロンドは北の空を見て言った。

 

「雄也よ、あの黒い流星のようの物は何なのだ?」

 

突然どうしたんだと思ったが、確かに北の空を眺めると、黒い流星のようなものが見える。

それはだんだん地面に近づいていき、衝突して消えた。

黒い流星が衝突したのは、ラダトーム城がある方向だ。

 

「俺にも分からない…でも、ラダトーム城の方角に落ちたぞ」

 

黒い流星の正体は分からないが、もしラダトーム城に落ちたのであれば、城は無事では済まないだろう。

これからリムルダールに向かおうとしていたが、少しラダトーム城が心配だな。

みんなの安否を確認するために、1度ラダトーム城に向かった方がいいかもしれない。

 

「心配だし、ラダトーム城を見に行って来る」

 

ラダトーム城のみんなは、共に魔物たちと戦った大切な仲間だ。

みんな無事であってほしいが、もしもという物も考えられるな。

俺はロロンドにそう告げて、メルキドの町を出て北の海へと向かっていく。

 

メルキドを出て15分くら経つと俺は海に辿り着き、小舟をこぎ始めていった。

 

「みんな、無事であってくれよ…」

 

ラダトームに落ちたと思われる、黒い流星の正体も突き止めたい。

俺は力いっぱい小舟を動かし、ラダトームへと向かっていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode162 闇の降った日

小舟で海を渡り続けて2時間ほどたって、俺の目の前にラダトームの大地が見えてくる。

漕ぎ疲れて俺は腕が痛くなって来るが、早く城を確認しようと、手を止めずに進んでいった。

ラダトームに上陸すると、俺は魔物たちから隠れながら城へと向かっていく。

 

「ラダトームに着いたか…相変わらずここは魔物が多いな」

 

ラダトームのみんなのおかげか前よりは減った気がするが、それでもメルキドよりも多くの魔物がうろついていた。

ここの魔物は強力だし、戦いはなるべく避けたい。

慎重に歩いていき、15分くらいかけてラダトーム城の近くまでやって来る。

 

ラダトーム城に近づくと、俺はそこで異変が起きているのに気づいた。

 

「ん…?何ヶ所も地面が壊されているな」

 

何ヶ所かの地面が破壊され、大きな穴が空いていたのだ。

さっきの黒い流星で破壊されたのであれば、近くにあるラダトーム城も危ないだろう。

穴が空いているだけでなく、せいすいで緑の大地に戻したはずの地面が、呪われた死の大地に戻っているのも見えた。

一層ラダトーム城が心配になり、俺は移動を早める。

 

そして、ラダトーム城の目の前にまでたどり着くと、さっきの地面と同じように、城も大きく壊されているのが見えた。

それだけでなく、城全体が禍々しい気配に包まれているのも感じられる。

 

「やっぱり城も被害を受けていたか…それに、何なんだこの気配は?」

 

城の中にある地面も、灰色の大地に変わっていた。

あの黒い流星は恐らく、大地を蝕む闇と呪いの力なのだろう。

エンダルゴか闇の戦士が、ラダトームを滅ぼすために放ったのかもしれない。

俺はみんなの安否を確かめるために、城内に入っていった。

 

「おい、みんな!無事なのか!?」

 

城の中に入ると、俺は大声でみんなを呼ぶ。

 

俺の声を聞いてしばらくすると、ムツヘタが教会の扉を開けて出て来た。

教会だけは修復されているようで、みんなもその中にいるのかもしれないな。

 

「やはり雄也の声じゃな。ここに戻ってきておったのか」

 

「ああ。ラダトームに黒い流星が落ちたのが見えて、心配だったんだ。城が壊れているようだけど、何があったんだ?」

 

ムツヘタは怪我は負っておらず、無事なようだった。

俺はムツヘタに、ラダトーム城に何が起きたのか、みんなも大丈夫なのか聞いていく。

 

「エンダルゴが空を覆う闇の魔力を吸収し、この城に向けて放ったのじゃ。放たれた闇の力は城を破壊した後爆発するのではなく、大地を侵食していった」

 

ひかりのたまの消滅後、アレフガルドの空は闇の戦士と魔物たちの影響で再び闇に覆われ始めた。

それを吸収して地上に降らせる…エンダルゴはそんなことも出来るのか…。

闇の戦士は人類を滅ぼすためにエンダルゴを生み出したと言っていたが、ついに直接攻撃を行ってきたみたいだな。

爆発させるのではなく大地を侵食させたということは、ラダトーム全域を再び死の大地に戻そうともしているのかもしれない。

 

「この城のみんなも、大丈夫なのか?」

 

みんなの無事を尋ねると、ムツヘタは辛そうな顔になってしまった。

そして、何人かは降って来た闇の魔力に当たって重症を負い、意識不明だと話す。

 

「…いや、プロウムとバルダスは逃げ遅れ、オーレンは姫をかばって重症を負い、意識を失っているのじゃ。今は教会のベッドに寝かせ、必死に手当てをしておる」

 

やっぱりあれだけの闇が降って、全員が無事で済むというのは有り得ないのか…。

だが、死んではいないのならば、治療して助けることは出来るはずだ。

ムツヘタは他のみんなは無傷で、やはり教会の中にいると言った。

 

「そうか…。他のみんなは、どうしたんだ?」

 

「他のみんなは何とか闇をかわし、傷を負わなかった。彼らも、ワシと共に教会にいるのじゃ。久しぶりなのじゃから、そなたも会っていくといい」

 

ムツヘタは教会の中に戻っていき、俺も彼について行く。

教会の中では、ゆきのへやルミーラと言った見慣れた仲間たちが、座って休んでいた。

教会の奥ではローラ姫とラスタンが、重症を負った3人の治療をしているようだ。

 

教会の中に入って来た俺を見て、約10日ぶりに会うゆきのへが話しかけてくる。

 

「お前さんも無事だったか、雄也。メルキドの町は、どうなってたんだ?」

 

ゆきのへは最初はメルキドの町に住んでいたので、あの町が気になるのだろう。

 

「悠久の竜っていう強力な魔物が3体もいたけど、全部倒したぜ。ロロンドたちの力で、これからもメルキドは発展していくと思う」

 

俺もロロンドも、メルキドの町が発展し続けていくことを願っている。

メルキドが無事なことを聞いて、ゆきのへは少しは明るい顔になった。

メルキドのことを聞いた後、ラダトームのみんなが何をしていたのか彼は話す。

 

「それなら良かった。ワシらはお前さん達がメルキドに向かった後、エンダルゴを倒すために、伝説を超える剣とハンマーを考えてたぜ」

 

伝説を超える武器か…確かに闇に染まった伝説の剣を持った闇の戦士と、膨大な闇の力の集合体であるエンダルゴを倒すには、伝説の武器をさらに超える力を持つ武器が必要になるだろう。

そんな武器を作るには、最近出現した非常に硬い金属が不可欠だとゆきのへは言った。

 

「もう少しで思いつきそうなのか?」

 

「いや、もう少し時間はかかると思うぜ。それに伝説を超える武器を作るには、最近出現した黒いオリハルコンや紺色のブルーメタルといった、まほうの玉でも採掘不可能な硬さの金属が必要なんだ。そいつらを採掘する方法も、ワシらは考えないといけねえ」

 

オリハルコンだけでなく、ブルーメタルも変色して硬度を増していたのか。

だが、そちらもまほうの光玉があれば、採掘することが出来るだろう。

俺はまほうの光玉を作ってきたことを、ゆきのへに伝える。

 

「それに関しては大丈夫だぞ。メルキドのショーターたちが、黒いオリハルコンを採掘出来るまほうの光玉って奴を考えてくれた」

 

「そんなことがあったのか…それならワシらは、剣とハンマーの解説に集中出来るってことだな」

 

まほうの光玉が、エンダルゴを倒す武器を作るためにも役立つことになるとは思わなかったな。

ベテランの鍛冶屋であるゆきのへなら、必ず伝説を超える武器を開発することが出来そうだ。

しかし、ゆきのへは教会の奥のベッドを見て、不安そうに言った。

 

「だけど、一緒に武器を考えていたみんなが、エンダルゴの闇にやられちまった…あの様子を見ると、3人とも危険な状態だぜ」

 

ムツヘタからバルダスたちは重症だと聞いていたが、そんなに危険な状態なのか?

俺はまだ3人の容態を詳しく見てはいないが、どうなっているのだろうか。

 

「危険な状態って、どう言うことだ?」

 

俺は教会の奥に入り、ローラ姫たちに手当てされている3人の様子を見に行った。

 

すると俺は、思ってもいなかった異様な状態になっている、オーレンたちの姿を見てしまう。

3人の体が滅ぼしの騎士や悠久の竜といった変異した魔物のように、おぞましい闇の色に染まっていたのだ。

 

「体が闇に染まってる…?何が起きてるんだ?」

 

俺が彼らの姿を見てそうつぶやくと、近くにいたムツヘタは体が闇の力に侵食されているのだと答える。

 

「強い闇の力を受けて、体中が侵食されているのじゃ…。先ほどまでは体を蝕まれる苦しみにうめき声を上げていたのじゃが、それすら出来ないほどに衰弱し、意識を失っておる」

 

緑の大地が死の大地に変わる現象…あれが3人の体に起きていると言うことか。

エンダルゴが闇の魔力を爆発させるのではなく、侵食させたのは、ラダトームのみんなを苦しませて殺すためなのかもしれないな。

だが、闇の力による呪いなのであれば、せいすいで治すことは出来ないのだろうか。

 

「それなら、せいすいで治すことは出来ないのか?」

 

「私もさっき試してみたのですが、効果がありませんでした…」

 

「多分、闇の力が強すぎるからだ。侵食された城の地面も、元に戻すことは出来なかった」

 

しかし、3人の治療に当たっていたローラ姫とラスタンは、せいすいも効果がなかったと話した。

あまりに闇の力が強すぎると、せいすいも無効化されてしまうのか…。

何とかして、オーレンたちを助ける方法はないのだろうか?

 

「どうにかして、3人を助ける方法はないのか?」

 

「完全に体が変質するまで、3人が耐えきるしかない。…じゃが、侵食に耐えきった人間は、今まで一人としておらぬ。魔物であっても、強すぎる闇の力は猛毒となる。ルミーラの白花の秘薬も使っておるが、助かる可能性は低いじゃろう…」

 

確かに体の変質に耐えきれば、滅ぼしの騎士のように今までと姿が変わってしまうかもしれないが、生き残ることは出来そうだ。

でも、闇の侵食に耐えきった人間が今までいないとなれば、希望は薄いな。

3人の力を信じて、回復するのを祈るしかなさそうだ。

 

「今はもう、3人が耐えきるのを信じるしかないのか…」

 

オーレンたちは3人とも、ラダトーム城の大切な仲間だ。

3人が死んでしまったら、みんな絶望に沈んで、エンダルゴを倒すことを諦めてしまうかもしれない。

それだけは、絶対に避けなければいけないな。

 

オーレンたちの容態だけでなく、俺にはもう一つ不安なことがあった。

エンダルゴは人間の徹底的な排除を目指しているのだから、直接攻撃がこれで終わりだとは思えない。

ラダトーム城に、また闇が降ってくる恐れもあるだろう。

 

「それとムツヘタ、エンダルゴがまた攻撃を仕掛けて来る恐れもあると思う。ラダトーム城から、逃げた方がいいんじゃないか?」

 

ラダトーム城も、サンデルジュ砦のように放棄しなければいけないのではないか、俺はそんなことも考えてしまった。

しかしムツヘタは、ラダトームを放棄したところで無駄だと言う。

 

「逃げたところで無駄じゃろう…。エンダルゴほどの力があれば、アレフガルドのどこにいても闇の力を降らせて来るはずじゃ」

 

確かにエンダルゴの力は絶大なので、アレフガルドのどこにいても攻撃を受けるかもしれない。

それなら、せっかく復興させたメルキドも危ないかもしれないな。

メルキドに戻ったら、みんなにその事を伝えておこう。

俺たちの話を聞いていたゆきのへは、逃げても無駄なのならラダトーム城で戦い続けると言った。

 

「どこに逃げても無駄なんだから、ワシらはここで戦い続けるつもりだぜ。せっかく作り上げた場所を捨てる思いは、もうしたくねえからな。お前さんは引き続き、アレフガルドの2度目の復興に向かってくれ」

 

俺も、みんなと共に作ったラダトーム城をなるべく捨てたくはない。

どこに逃げても無駄であり、ゆきのへたちがここで戦い続けたいのなら、ラダトーム城は今まで通り彼らに任せておこう。

俺もこれから予定通り、1度メルキドに戻って、それからリムルダールやマイラに向かうか。

 

「分かった。オーレンたちとラダトーム城は、みんなに任せた。俺はそろそろ、メルキドに戻るぜ」

 

ゆきのへとムツヘタとの会話を終えると、俺はラダトーム城を出て海の方に向かっていく。

さっきと同じように魔物たちから隠れながら、15分くらいで海にたどり着いた。

海に出ると、俺はメルキドに向けてゆっくりと小舟を漕ぎだしていく。

舟を漕いでいる間、俺はオーレンたちが助かることを祈り続けていた。




1話番外編を挟んだ後、リムルダール編に入っていきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode163 常闇の玉座と魔物の楽園

今回はラダトーム城に闇を降らせた後の魔物たち、エンダルゴ、闇の戦士の話です。雄也は登場しません。


ラダトーム城の西 エンダルゴの城…

 

エンダルゴは魔物たちが生み出した闇の力を吸収し、ラダトーム城に向けて放った後、大勢の手下の魔物と共に、最深部の玉座の間にいた。

あれほどの闇の力を放てば、ラダトーム城もそこに住む者もただでは済まない。

ようやく人間の城に大きなダメージを与えられただろうと、魔物たちは喜びあっている。

エンダルゴも、何人かの人間や人間に味方する魔物に、強い闇の力が当たったと確信した。

 

「エンダルゴ様のおかげで、ついにあの忌々しき城に打撃を与えることが出来ました。今頃何人かの人間は、闇の力に蝕まれていることでしょう」

 

「ああ…さっそく人間どもの苦しみが伝わって来る。体を侵食される痛みが、このまま死ぬのではないかという恐怖が、我らに抗うことの出来ない悔しさがな」

 

痛み、恐怖、悔しさ、絶望といった闇に属する負の感情…闇の力の集合体であるエンダルゴは、人間のそういった感情からも力を得ることが出来る。

闇を降らせる時にはエンダルゴの体内にある闇の力もかなり消耗したが、再び力が満ち始めていた。

魔物たちの魔力と人間たちの絶望を受けて、これからもエンダルゴは力を増していく。

そう思っている中1体の魔物が、人間が闇の侵食に耐えきる可能性はないのかとエンダルゴに聞いた。

 

「エンダルゴ様。人間どもが闇の侵食に耐えきる可能性はないのでしょうか?」

 

「それは気にするな。どんな魔物でも耐えられないほどの闇の力だ…人間ごときが、生き残れるはずがない」

 

あの黒い流星が直撃すれば、隊長のしにがみのきしやメルキドのドラゴンを変異させた時の数倍の闇の力に体が蝕まれることになる。

人間や人間に味方する魔物が生き残る可能性は、限りなくゼロに近いだろう。

 

「それなら安心でございます。人間どもの数が減れば、我らが勝てる可能性が高まるでしょう」

 

エンダルゴの話を聞いて、手下の魔物は安心していた。

人間側の戦力を一人でも減らせたら、エンダルゴの軍勢は有利になるだろう。

 

だが、喜び合っている魔物たちとエンダルゴのところに、ある悪い知らせが届いてしまう。

エンダルゴの玉座の間に、一体のあくまのきしが走って駆け込んで来る。

 

「エンダルゴ様。大変でございます!」

 

「やけに急いでいるようだが、何があったのだ?」

 

そのあくまのきしはメルキドの魔物であり、エンダルゴが会うのは初めてだった。

あんな遠方の魔物がわざわざ知らせに来るとは、一体何があったのだろうか?

 

「実は、メルキドの町を破壊した悠久の竜が3体とも人間どもに倒されたのです。魔法で硬化させたはずのオリハルコンも、採掘された形跡がありました」

 

「悠久の竜が倒されたなど、本当なのか!?それに、あれほどの硬度にしたはずのオリハルコンが採掘されただと!?」

 

悠久の竜が倒されたのはおとといなのだが、メルキドは遠方故に報告が遅れていた。

エンダルゴはまさか悠久の竜が倒されるとは思ってはおらず、動揺を隠せない。

ダークハルコンが採掘されてしまうのも、想定外の事態であった。

 

「我も信じられなかったのですが、悠久の竜は人間との戦いの後いつまで経っても戻って来ず、オリハルコンの鉱脈は何度見ても人間の手で砕かれていました」

 

「こんなことがあるとは…ビルダーの奴め、まだ抵抗を諦めないとはな…」

 

悠久の竜が倒されたのも、ダークハルコンが採掘されたのも、間違いなくビルダーの仕業だ。

硬化させた金属が採掘されたとなれば、人間はますます強力な兵器を作り出すことだろう。

 

「せっかくラダトーム城を破壊出来たのに…まずいことになったな」

 

「人間ども…思った以上にやるな」

 

人間の城を破壊出来たと喜んでいた魔物たちは、不安になってしまう。

だがエンダルゴは、動揺を受けたものの、まだ人間側に勝ち目があるとは思っていなかった。

 

「だが、悠久の竜を倒したところで、人間どもに勝ち目はない。ラダトーム城の人間どもはまもなく死ぬだろうし、リムルダールとマイラも変異体の魔物によって壊滅しているはずだ。ビルダーも度重なる仲間の死を見れば、希望を失うだろう。ビルダーの絶望は、我のさらなる力となる」

 

リムルダールとマイラに送った変異体の魔物は、今頃それらの町を壊滅させているだろう。

それぞれの地域でたくさんの仲間を失えば、ビルダーも希望を失うはずだ。

エンダルゴは、ビルダーの絶望をも自分の力とする気でいた。

 

「貴様らも世界を絶望に叩き落とせるよう、人間どもと戦い続けろ」

 

魔物たちもエンダルゴの配下であり闇の戦士の仲間である以上、不安であっても戦いを続ける。

魔物軍団の侵攻は、これからも止まる気配を見せなかった。

 

 

 

エンダルゴへの報告を終えた後、メルキドのあくまのきしは闇の戦士のところへ向かう。

闇の戦士がいるのは、アレフガルドに闇の力を振りまくための場所だ。

人間の干渉が困難な場所にあり、エンダルゴや魔物たちからは、魔物の楽園と呼ばれていた。

闇の戦士以外の魔物も、よくその場所を訪れている。

 

アレフガルドのどこか 魔物の楽園…

 

魔物の楽園の中で、闇の戦士は人間やルビスへの復讐心から生まれた闇の力を、アレフガルド中に向けて振り撒き続けていた。

エンダルゴを早く強化し、人間たちに青空を見せないために、毎日限界まで闇の魔力を放っていく。

闇の戦士の隣には、かげのきしとメスのだいまどうも1体ずつ立っていた。

彼らも、世界に向けてそれぞれが持つ闇の力を放っている。

そんな3体の魔物のところに、あくまのきしが入って来た。

 

「アレフ、みんな!先ほどエンダルゴ様には伝えたが、大変なことになってしまった!」

 

アレフ…かつて闇の戦士が人間だった時、名づけられた物だ。

雄也相手には名乗らなかったが、仲間の魔物たちには名前を教えていた。

彼は魔物の王ではなく、あくまで1体の魔物でありたいため、呼び捨てにさせている。

 

「ここまで知らせに来るって、何があったんだ?」

 

「メルキドの町を破壊した3体の悠久の竜が、人間どもに倒された。エンダルゴ様はまだ人間どもに勝ち目はないって仰ったけど、一応知らせに来た」

 

「雄也の仕業だな、くそっ。ルビスめ、厄介な奴を遺していきやがって」

 

あくまのきしの報告を聞いて、アレフは怒った口調でそう言った。

忌まわしき精霊が遺したビルダー…雄也を早く倒したいと、彼は改めて思う。

だが、今はアレフガルドを闇に沈め、エンダルゴを強化することを優先しているので、直接戦いに行ったりはしない。

エンダルゴの力が極限まで高まったら、雄也も闇の力の侵食を受けて、苦しみながら死んでいくことになるだろう。

 

「我らの勝ちは変わりないにしても、リムルダールやマイラまで復興されないか心配だな」

 

アレフの横に立っていたかげのきしは、そんなことを呟く。

アレフもリムルダールやマイラで何が起きているかは分からないので、何とも言えなかった。

しかしだいまどうは、リムルダールが復興される心配はないと話す。

 

「それは大丈夫でしょう。リムルダールには私の仲間である、最強のだいまどうの変異体が向かいました。たとえビルダーでも、リムルダールを復興することは不可能です」

 

リムルダールに向かっただいまどうの強さは、同じだいまどうの中でも指折りの物だった。

彼がさらに闇の力で変異したのであれば、ビルダーですら勝てないほどの力になっているだろうと、魔物の楽園のだいまどうは確信していた。

 

「これ以上人間の抵抗を許したくはない…そいつが、雄也を返り討ちにしてくれるといいな」

 

雄也を殺すことは出来なくても、リムルダールの復興を不可能にしてほしい。

世界を闇に閉ざそうとする魔物として、アレフはその変異体のだいまどうを信じていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7章 リムルダール再訪編
Episode164 邪毒に沈む


今回の途中から7章のリムルダール編です。


小舟で南に進み続けて2時間後、俺の目の前にメルキドの大地が見えてくる。

ラダトームのことも心配だが、今はリムルダールやマイラの2度目の復興を進めないとな。

メルキドのみんなに黒い流星のことを伝えたら、さっそくリムルダールに向かおう。

そんなことを考えているうちに、俺はメルキドに到着し、小舟を降りた。

 

「ロロンドたちとも、しばらくお別れになるな」

 

ピリンとヘイザンは今まで通りついて来てくれるだろうが、ロロンドたちとはここで別れることになるだろう。

エンダルゴと闇の戦士を倒したらまた会いに来るだろうが、別れのあいさつはしないとな。

俺はスライムやドラゴンに見つからないようにしながら、15分くらいでメルキドの町に戻って来る。

 

メルキドの町にたどり着くと、俺を待っていたロロンドがさっそく話しかけて来た。

 

「おお!戻って来たか、雄也よ。ラダトーム城はどうなっていたのだ?」

 

「やっぱり無事ではなかった。黒い流星は、エンダルゴがラダトーム城を破壊するために放った物みたいなんだ。3人があの流星に当たって、強い闇の力に蝕まれている」

 

俺はロロンドに、ラダトーム城の状況について報告する。

黒い流星を見た時に不安を感じたが、本当にあんなことになっていたとはな。

短い期間ではあるがラダトーム城で暮らしていたロロンドは、その話を聞いて暗い表情になってしまった。

 

「そんなことになっておったのか…我輩もあの城で暮らしておったし、心配だな」

 

「3人は危険な状態だけど、回復するのを祈るしかない。それとムツヘタは、メルキドも危ないかもしれないって言ってたぞ」

 

ロロンドを悲しませたくもないし、何としてもオーレンたちは回復してほしいな。

ラダトームの状況を話した後、俺はメルキドにも闇が降る可能性があると、ロロンドに伝える。

 

「どういうことなのだ、雄也よ?」

 

「エンダルゴほどの力もあれば、メルキドまで黒い流星を飛ばせる可能性もあるらしい。空に黒く光る物が見えたら、全速力で町から逃げてくれ」

 

次にいつエンダルゴが攻撃を仕掛けて来るかは分からないが、警戒は怠らないほうが良さそうだ。

共に町を作ってきた大切な仲間を、誰一人として失いたくはない。

町が壊されてしまったとしても生き残ることが出来れば、復興の意志に満ちたメルキドのみんななら、すぐに作り直すことが出来るだろう。

 

「エンダルゴの力はそれほどまでなのか…逃げ遅れる者が出ないよう、みんなにも伝えておこう」

 

「ああ、頼んだ」

 

俺の話を聞いて、ロロンドはみんなにも伝えておくと言った。

確かにみんなに伝えておけば、闇が降ってくる事を早めに見つけられるかもしれないし、逃げ遅れる人が出る可能性は下がりそうだ。

 

ラダトームに降った闇のことを話した後、俺はこれからリムルダールに旅立つことを、ロロンドに告げる。

 

「後、もう一つ大事な話がある。悠久の竜を倒してメルキドの2度目の復興を達成出来たことだし、俺はそろそろリムルダールに向かおうと思う」

 

「そういえばお主、リムルダールやマイラにも向かうと言っておったな。せっかく賑やかになったと言うのに、寂しくなるな…」

 

ラダトームを出発した時、俺がリムルダールやマイラにも行くと言っていたのは、ロロンドも覚えているようだ。

ついに別れの時がやって来てしまい、ロロンドは暗い顔になってしまった。

 

「俺もメルキドにもう少しいたいけど、エンダルゴや闇の戦士を倒すためにも、リムルダールやマイラに向かわないといけない」

 

「分かっておる。だが、かつてお主がリムルダールに向かった時のように、みんなで送らせてくれ」

 

俺もメルキドのみんなと共に、もっとこの町を発展させていきたい。

だが、メルキドを守るためにも、リムルダールやマイラでエンダルゴと闇の戦士を倒すための力をつけなければいけない。

ロロンドも無理には引き止めようとはせず、せめてみんなで見送らせてくれと言ってくる。

 

「俺もみんなとあいさつしたいし、もちろんだ」

 

俺もメルキドを去る前に、みんなとあいさつを交わしておきたい。

俺がそう言うと、ロロンドは町の中を歩いているみんなを呼びに行った。

 

数分経って、ロロンドはメルキドの全員を連れて来る。

アレフガルドをずっと共に復興させてきたピリンとヘイザンは、一緒にリムルダールに行こうと俺の隣にやって来た。

 

「これからリムルダールに行くんでしょ?雄也を手伝いたいし、また一緒に行くよ!」

 

「リムルダールが気になるし、鍛冶屋の修行のため、ワタシも共に向かうぞ」

 

「ああ、これからもよろしくな。ピリン、ヘイザン」

 

二人は恐らく、アレフガルド復興の最後までついて来てくれることだろう。

ピリンは料理がうまくなり、ヘイザンも鍛冶の腕がだんだん師匠のゆきのへに近づいていき、本当に心強い味方だ。

リムルダールはヘイザンの故郷だし、無事であってほしいな。

リムルダールに向かう俺たち3人が並ぶと、ロロンドは別れの言葉を言う。

 

「3人もいなくなると、やっぱり寂しくなるな…エンダルゴと闇の戦士を倒したら、必ず帰って来るのだぞ」

 

「もちろん帰って来るさ。それまでの間、しばらく待っていてくれ」

 

エンダルゴと闇の戦士を倒しても、精霊ルビスもひかりのたまもない世界では、平和が訪れることはないだろう。

だが、闇が降って来る危険などはなくなるので、少しは安心して過ごすことは出来そうだ。

そうなったら、またメルキドの町に戻って来よう。

出発しようとする俺たちに、みんなそれぞれのあいさつをしていった。

 

「いつでも待ってるからな、雄也!」

 

「飛天斬りを、これからの戦いにも役立ててくださいね」

 

「リムルダールにも硬い鉱脈があったら、またまほうの光玉を使ってみてください」

 

「リムルダールでも頑張るのよ」

 

「僕たちでこの町をもっと大きくして、雄也たちを驚かせるよ」

 

「短い間だったけど、ありがとうございます」

 

「お前たちが戻って来るまで、メルキドは我が守り抜くぞ」

 

みんながあいさつをし終えると、俺はいよいよ小舟に乗りにメルキドを出ようとする。

メルキドを出発する前に、俺はもう一度大きな声であいさつをした。

 

「みんなあいさつありがとう。また会う時まで、元気でな!」

 

もっと大きく発展したメルキドに、必ず生きて帰って来ないとな。

俺はそんなことを思いながら、メルキドの町の北にある海へと向かっていく。

ピリンたちが一緒ではあるものの、20分くらいで海にたどり着くことが出来た。

海に着くと、世界地図を見ながらリムルダールを目指して、小舟を漕ぎ始めていく。

 

 

 

地図を見ながら北東に小舟を漕ぎ続けて1時間半ほど経って、俺たちの目の前に陸地が見えて来た。

薄紫色になった土の上に枯れ木が生えており、ドロルやドロルメイジといったカタツムリ型の魔物が生息している。

 

「そろそろ、リムルダールの大地が見えてきたな」

 

かつて様々な病に人々が侵されていた地、リムルダールだ。

ここでヘルコンドルやマッドウルスを倒したのも、かなり懐かしい話になるな。

リムルダールの町の様子が気になるヘイザンは遠くを眺めてみるが、ここからは町を確認することは出来なかった。

 

「ここからだと、まだ町は見えないようだな」

 

まずは着陸しようと、俺は腕に力をこめて小舟を漕ぎ続けていく。

そして、しばらく小舟を進ませ続け、俺たちはリムルダールの東の海岸に着陸した。

 

かつて湖だった巨大な毒沼を超えた先に、リムルダールの町がある。

広い毒沼に橋をかけて進むのには大量のブロックが必要になるので、北にある山を使って迂回した方がいいだろう。

 

「まっすぐ進んだら毒沼があるから、北の山を通って迂回するぞ」

 

俺を先頭にして、ピリンやヘイザンもドロルたちに見つからないようにしながら進んでいく。

ドロルはそんなに動きの早い魔物ではないので、見つかる危険性は少なかった。

5分ほど進んでいくと、ヘイザンはリムルダールの空気が昔よりも淀んでいると言う。

 

「何か、すごく空気が淀んでいるな。昔のリムルダールでも、ここまでではなかったはずだ」

 

「確かに、呼吸をするだけで気持ち悪くなって来るな…」

 

ヘイザンに言う通り、毒気に満ちていたかつてのリムルダールにも増して、今のリムルダールの空気は汚れている。

周りをよく見てみると、ドロルの中に金色のドロルも混じっているのが見えた。

 

「空気の異変だけじゃなくて、新しい魔物も現れているな」

 

空気のかつてないほどの淀みと、新たな魔物の出現…これらを見ると、リムルダールの町も心配になって来るな。

町の人々が、新たな病に苦しめられているかもしれない。

だが、俺たちはどんな病でも治せる聖なるしずくを開発したので、大丈夫だろうと思いながら、北の山を進んでいく。

昔リムルダールを旅立つ時にピリンたちも崖登りをしているので、そんなに苦労せずに進むことが出来た。

 

45分ほど北の山を歩き続けて、俺たちはリムルダールの町の近くの崖を降りる。

この崖を降りたら、リムルダールの町はもうすぐだ。

早くリムルダールの町のエルたちに会いたいと、俺たちは進んでいった。

だが、崖を降りきったところで、俺たちは恐ろしい物を目にしてしまう。

 

「毒沼が黒くなってる…。それに、リムルダールの町が…」

 

かつて紫色だった毒沼が、禍々しいまでの黒色に染まっていた。

そして、みんなで作り上げたリムルダールの町が、一つの建物を残して完全に崩壊している。

故郷の町が壊されているのを見て、ヘイザンは悲しそうな顔になってしまう。

 

「こんなことになっていたとはな…。…でも、あの残った建物にみんながいるんじゃないか?」

 

「確かにその可能性もあるな。ここで立ち止まっている訳にもいかないし、みんなの無事を確かめに行こう」

 

メルキドでもほとんどの建物が壊されていたが、壊されていない建物の中でみんなは無事だった。

リムルダールでも、あの建物の中にみんながいる可能性はあるな。

俺はみんなの安否を確かめるために、ドロルたちを避けながら町へと近づいていく。

 

町にたどり着くと、俺はそこに残っている建物をノックして、声をかけた。

 

「俺だ、雄也だ!みんな、無事なのか!?」

 

だが、その中から聞こえて来たのは見知らぬ男の声だった。

 

「雄也…?もしかしてみんなの言っていた、伝説のビルダーなのか?」

 

「そうだ。リムルダールの町が心配になって、戻って来たんだ」

 

俺の話を聞いたことがあると言うことは、リムルダールのみんなとは知り合いみたいだな。

俺たちがリムルダールを去った後に、エルたちが見つけて治療した患者なのかもしれない。

俺が答えると、中からノリンの色違いの青い服を着た若い男が出てくる。

 

「残念だけど、みんなはいない。数日前突然町が壊されて、みんないなくなったんだ」

 

建物の外に出てきた男は、暗い顔をしてそう答えた。

確かに建物にはその男一人しかおらず、町の他の場所にも人の気配は感じられなかった。

まさか、一人を残してみんな死んでしまったというのだろうか?

 

「まさか、みんな死んでしまったのか?」

 

「死体は残ってないから、死んではないと思うぜ」

 

最悪の可能性も考えてしまったが、その男は否定した。

男の言う通り、リムルダールの町の中には死体は一つも落ちていなかった。

だが、生きているのであれば、みんなどこに行ってしまったのだろうか。

 

「じゃあ、どこにいるって言うんだ?」

 

「多分、大量の魔物に追い詰められて、旅のとびらを使って逃げ出したんだ。生きているなら、旅のとびらの先だ」

 

かつて俺たちがサンデルジュの砦を放棄したように、リムルダールのみんなも魔物に追い詰められて町から逃げざるを得なくなったと言うことか。

しかし、ヘルコンドルやマッドウルスを倒したリムルダールのみんなを追い込む魔物など、ただ者ではないだろう。

もしかしたら、滅ぼしの騎士のような変異体の魔物なのかもしれない。

でも、そもそもなぜこの男はリムルダールに住んでいたはずなのに逃げておらず、詳しくは何があったのか知らないのだろうか?

 

「そもそも、あんたはここに住んでいるんだろ?どうして何があったか詳しく知らないんだ?」

 

「数週間前、リムルダールの空気がきれいになったのに、逆に魔物の動きが激化するということがあったんだ。それから魔物がいつ襲って来てもいいように、交代で薬草を取りに行っていた。それで1週間くらい前、僕が薬草を少し遠くまで取りに行ったんだけど、帰って来た時には町は破壊されていて、誰もいなくなっていた」

 

薬草を取りに行っていたから、この男は強力な魔物の襲撃を受けずに済んだということか。

数週間前にリムルダールの空気がきれいになったのは、エンダルゴを生み出すために闇の戦士が、人を蝕む力をラダトームの西の城に集めたからだろう。

魔物の襲撃から1週間となれば逃げ出したみんなも危ないだろうし、早く助けに行かないとな。

 

「そうだったのか…。みんなが心配だし、俺はこれから旅のとびらの先を見てくるぜ」

 

「でも、魔物の襲撃で旅のとびらも無くなってしまった。どうやって向かうんだ?」

 

確かに昔なら、旅のとびらがなければ別の地域に移動することは出来なかった。

だが、今は小舟を使えば、アレフガルドのどこにでも行くことが出来る。

 

「俺たちが作った小舟を使って、海を渡っていく。リムルダールのどこに逃げていたとしても、助けることが出来るんだ」

 

みんなを探すのは大変だろうが、何とかして全員助け出したい。

俺がさっそく助けに向かおうとしていると、その男はノリンの居場所について心当たりがあると言う。

 

「本当に助けに行くのなら、ノリンの居場所に心当たりがある。ノリンはリリパットの釣り名人に、一緒に偉大な釣り人を目指そうって言われたらしくてな、暇さえあれば釣り名人のところで釣りをしていた。だから、今も釣り名人のところに逃げた可能性がある。他のみんなも、そこにいるかもな」

 

そう言えばあの釣り名人のリリパットは、俺にも偉大な釣り人を目指せよと言っていたな。

今はエンダルゴの命令で人間に味方する魔物が危険な状況に追い込まれているので、あのリリパットも助けた方がいいかもしれない。

 

「教えてくれてありがとう。さっそく助けに行って来るぜ」

 

俺がピリンとヘイザンと別れてリムルダールの町から出ようとすると、男は最後に自分の名前を名乗る。

 

「言い忘れていたけど、僕はコレスタ。後でまた会おう」

 

「もう知ってるみたいだけど、俺は影山雄也。普段は雄也って呼んでくれ。これからよろしくな」

 

俺もコレスタにいつもの自己紹介をしてから、ノリンたちを助けに向かう。

俺は崖登りに慣れているので、さっき降りた崖の奥にある岩山を超えて、海に出ていった。

海に出るとアレフガルドの世界地図を見ながら、俺は釣り名人のリリパットがいる、南国草原とジャングルの地域に向かっていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode165 蝕まれた射手の森

2章のリムルダール編は原作よりも明るかったですが、7章はかなり暗いです。


リリパットたちが住んでいるのは、かつて巨大キャタピラーがマヒの病を振りまいていた、マヒの森だ。

俺は世界地図を見ながら、マヒの森へ向かって小舟を進めていった。

リムルダールの町がある地域からあまり離れていないので、そんなに時間はかからないだろう。

そして、15分くらい小舟を漕ぎ続けて、目の前にマヒの森が見えてくる。

 

「そろそろマヒの森か…結構木が枯れてるな」

 

マヒの森はたくさんのヤシの木に覆われていたが、たくさんの木が枯れているのが遠くからでも見かけられた。

これもリムルダールの周りの湖を黒く染めた、禍々しい力の影響なのだろうか。

俺はノリンやリリパットの無事を確認するため、マヒの森への上陸を急いだ。

 

マヒの森に上陸すると、俺は生息している魔物に警戒しながらノリンたちを探し始める。

 

「ここにも新しい魔物か…気をつけないとな」

 

すると、背中が橙色、腹部が緑色になっているキャタピラーを見つけることが出来た。

奴らもルビスの死後に現れた新種の魔物だろうし、特に気をつけないといけないな。

他にも、普通のキャタピラーやメイジドラキーが、この森に生息している。

俺はヤシの木の裏に隠れながら、慎重に歩いていった。

しばらく進んでいくと、森の中に誰かが倒れているのが見つかる。

 

「誰かが倒れてるな…あれは、リリパットか…?」

 

人間とは違う体型をしており、おそらくはリリパットだろう。

釣り名人かは分からないが、人間の味方だったら助けないといけないな。

俺はそのリリパットに近づいていき、周囲の魔物に見つからないように小さな声で呼びかける。

 

「どうしたんだ、大丈夫か?」

 

だが目の前に立つと、そのリリパットがさっきのオーレンたちのように、異様な状態になっているのに気づいた。

身体中が濃い紫色に染まっており、高熱と呼吸困難でとても苦しそうな表情をしている。

闇の力に蝕まれたかのようだが、この場所に強い闇が降った形跡はないので、原因は他にあるのだろう。

リリパットは衰弱した身体を何とか起こして、俺の声に答えた。

 

「見ない人間だナ…ワタシもこの森も、モウ終わりダ…早くココから、逃げるンダ…」

 

「あんたたちを助けに来た。ここで何があったんだ?」

 

逃げろと言われても、味方のリリパットやノリンたちを見捨てることは出来ない。

このリリパットを治す事が出来るかは分からないが、リムルダールの町へ連れて帰ろう。

俺が聞くと、リリパットはここで数日前起きたことを話し始める。

 

「ワタシたちとキャタピラーがマヒの森ノ縄張りヲ争ってイタ時、人間二助けて貰っタことガあってナ…それからワタシたちハ、人間ノ味方ヲしていたンダ…」

 

リリパットを助けたと言うのは、俺がマヒの森の巨大キャタピラーを倒したことだろう。

魔物同士なのに、なぜリリパットがマヒの病にかかっていたのかは気になっていたが、縄張りを争っていたからだったのか。

昔のことを思い出していると、リリパットは話を続ける。

 

「それで、暗黒魔導二町ヲ壊されタ人間ヲ保護していてんダガ、キャタビウスたちに見つかッテしまッテな…」

 

キャタビウスというのはさっきの橙色のキャタピラーのことだろうが、暗黒魔導というのは何なのだろうか?

 

「暗黒魔導って、どんな奴なんだ?」

 

「黒くテ巨大ナまほうつかいデ、人間ノ力でも倒すことガ出来なかッタらしいンダ…」

 

黒くて巨大なまほうつかい…恐らくはまほうつかい系統の魔物の最上位種である、だいまどうの変異体なのだろう。

リムルダールを壊滅させるなんて相当強力な魔物でないと不可能だと思っていたが、やはり変異体の仕業だったのか。

暗黒魔導の軍勢は、リリパットの里も壊滅させに来たと、目の前のリリパットは言った。

 

「暗黒魔導ハキャタビウスの報告ヲ受けテ、ワタシたちノ里にも手下ノ魔物ヲ送りこんダ…それだけでなく、邪毒の病も振り撒いたンダ…」

 

暗黒魔導はエンダルゴの手下だから、人間に味方する魔物も皆殺しにするつもりなのだろう。

奴が振り撒いた邪毒の病というのは、一体どんな物なんだ?

 

「邪毒の病って、何なんだ?」

 

「暗黒魔導ガ新種ノ魔物と共二生み出した、かつてないほど強力な病ダ…魔物ノ襲撃ヲ生き延びた仲間モ、それで死んダ…ワタシも…もう…」

 

今まではなかった強力な毒素…暗黒魔導はそんなものを作ることも出来るのか。

このリリパットが異様な状態になっていたのも、邪毒の病が原因のようだ。

暗黒魔導を倒し、邪毒の病の治療法を見つけなければ、リムルダールの2度目の復興を達成することは出来なさそうだな。

メルキド以上に復興が大変かもしれないが、何としても達成したい。

まずはこのリリパットを助けるために、俺はリムルダールの町に連れて行こうとする。

 

「あんたを死なせる気はない。リムルダールの町に連れて行くから、まずはそこで休んでくれ」

 

「無駄ダ…ワタシは、もう助からナイ…」

 

このリリパットは無駄だと言っているが、俺は諦めたくはない。

薬師のゲンローワを救出すれば、邪毒の病を治す薬もきっと作り出すことが出来るだろう。

俺はリリパットを背負って、小舟に乗せるために海へと向かっていく。

 

「俺たちの仲間には薬師がいる。その人の力があれば、きっと助かるさ」

 

邪毒の病にかかったリリパットの身体は、燃えるように熱かった。

人間とリリパットの体温は違うだろうが、ここまでの高熱はリリパットの体でも耐えられないようで、担いでいる間にもだんだん衰弱していく。

何とか町にたどり着き、薬が出来るまで生き延びてくれと、俺は祈り続けた。

しかし、そんな思いも届かず、海の近くまで来たところでリリパットは、

 

「人間…やっぱり、もうダメだ…」

 

僅かな声でそう言って、動かなくなってしまう。

 

「おい、頑張ってくれ!しっかりしろ!」

 

そう呼びかけたが、リリパットはもう息がなく、返事をしなかった。

俺は周りに魔物がいないことを確認して人工呼吸を行ってみたが、効果はない。

助かってくれと祈り続けたが、リリパットが息を吹き返すことはなかった。

 

そして数分後、リリパットは青い光に変わって、消えていってしまう。

 

「…くそっ、助けられなかったか…」

 

…メルキドだけでなく、リムルダールでも俺は多くの魔物の仲間を失うことになった。

このリリパットも仲良くなった人間たちと一緒に、楽しく暮らしていきたいと考えていたことだろう。

あの時闇の戦士を止めることが出来ていればこんなことにはならなかったのに…と、俺は強く思う。

これから暗黒魔導を倒しても、エンダルゴを倒しても、闇の戦士を倒しても、もう仲間たちが戻って来ることは無い。

俺はしばらくその場で、リリパットを助けられなかった悲しみに沈んでいた。

 

…だが、いつまでも悲しみに沈んでいる訳にもいかない。

このマヒの森の中には、まだ生き残っている人間やリリパットがいることだろう。

闇の戦士を止められなかった者の責任として、一人でも多くの仲間を救いたい。

俺は再び立ち上がり、マヒの森の探索を続けていく。

 

「残念だったけど、立ち止まってはいられないか…ノリンと釣り名人を探そう」

 

ノリンと釣り名人は、恐らくこの森の中にいることだろう。

さっきのリリパットのように、邪毒の病に感染していないといいな。

二人を見つけるために、俺は昔行った釣り名人の小屋へと向かっていく。

15分くらい森を歩き続けて小屋にたどり着いたが、中には誰の姿もなかった。

 

「この小屋にはいないのか…どこに行ったんだ?」

 

小屋の中にいないのならば、どこに行ったのだろうか?

俺は近くに二人がいないか確かめるために、辺りを見渡す。

すると、ノリンが黒紫色に染まった身体を引きずって、海に近づいているのが見えた。

 

「ノリンはいたけど、邪毒の病にかかっているのか…」

 

ノリンも邪毒の病にかかっているようだが、まだ動けるようなので、さっきのリリパットよりは症状が進行していないのだろう。

これなら助けられる可能性もありそうだが、どうして海に向かっているのだろうか。

そう思っていると、ノリンは海の前で止まらず、海に落ちようとする。

それを見て、俺はすぐに走り出して、ノリンが落ちないように足を支え、陸の方に戻した。

 

「危ないぞ、ノリン。何をやっていたんだ?」

 

「あんたは…雄也か…?何で…こんな場所にいるんだ?」

 

俺に体を支えられたのに驚いて、ノリンはこちらを振り向く。

すると、ノリンは身体の色だけでなく、目まで異様な状態になっているのに気づいた。

生気がなく、全てに絶望したかのような目をしている。

雰囲気の重かったリムルダールの町でも明るく振る舞っていたノリンがこうなってしまうなんて、何が起きてしまったのだろうか。

 

「エルから聞いたかもしれないけど、この世界は勇者の裏切りで荒廃した。その元勇者のせいで強力な魔物がたくさん現れてな、リムルダールが心配で戻って来たんだ。それで、リムルダールを立て直すために、あんたを助けに来た」

 

俺はノリンに、リムルダールに戻って来た経緯を話した。

助けに来たとも伝えたが、ノリンも自分は助からないだろうと言った。

 

「ここまで来てくれたのに悪いけど、オレはもう助からねえ…町の聖なる草はなくなったし、ゲンローワの爺さんも生きてるか分からない。それに仮に助かったとしても、あいつがいない世界で、生きていく気力はねえ」

 

確かにリムルダールの町が壊滅したことで、数百年間探究者の保管庫で守られてきた聖なる草は、完全に絶滅を迎えてしまった。

ゲンローワも町から逃げた後の一週間で、死んでしまった可能性もある。

だが、このままリムルダールの町を見捨てることはしたくない。

それと、ノリンが言うあいつというのは、誰の事なのだろうか?

 

「あいつって、誰の事なんだ?」

 

「あんたに釣り竿を教えた、釣り名人のことだ…あいつは少し前、邪毒の病で死んじまったんだ。オレはあいつを救うために薬も考えたんだけどよ、どれだけ魚を食べても、オレはバカだからな…何も作ることは出来なかった…。一緒に偉大な釣り人を目指そうって約束してたんだけど、それを叶えることも出来なくなった…。絶望したオレは、あいつの後を追おうとしてたんだ」

 

ノリンと一緒にいない事から嫌な予感はしたが、釣り名人は亡くなっていたのか…。

ただの仲間ではなく、ノリンと釣り名人は共に偉大な釣り人を目指す特別な仲だったのだろう。

親友を亡くしたことで明るかった性格は失われ、自殺までしようとしていた。

釣り名人の死を話したノリンは、自分もここで死ぬんだともう一度言う。

 

「オレはあいつを追って、ここで死ぬ…もう、放っておいてくれ…」

 

確かに今のノリンには、生きていく気力はないだろう。

しかしこのままでは、釣り名人だけでなく、ノリンも偉大な釣り人にはなれなくなってしまう。

邪毒の病が治れば、何とか立ち直ることも出来るかもしれない。

俺はリムルダールの町に彼を連れて行くために、ポーチから小舟を取り出して、海に浮かべる。

 

「あんたも町の大事な仲間だし、放ってはおけない。この舟に乗せて、リムルダールの町に連れて行くぞ」

 

「どこに連れていっても、どうせオレは死ぬんだ…そこまで言うなら、好きにしてくれ」

 

生きることを諦めているのには変わりないが、ノリンはリムルダールの町に行くのは無理には拒まないようだ。

俺はノリンを担いで小舟に乗せ、リムルダールの町へと戻っていく。

リリパットの里の他の生き残りや町の仲間たちも、助け出せるといいな。

一人でも多くの仲間を救い、リムルダールの2度目の復興を達成させたいと、俺は思いながら舟を進めていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode166 生き残りの射手

行きとは違う場所から出発したので時間がかかってしまったが、俺の乗った小舟はリムルダールの町へと近づいていく。

さっきのリリパットのように、途中でノリンが死んでしまわないか心配であったが、今は大丈夫なようだった。

早く邪毒の病の薬を作って、彼を治せるといいな。

1時間くらい経って、俺とノリンが乗った小舟はリムルダールの町の近くの岩山にたどり着く。

 

「この岩山を超えたら、リムルダールの町だな」

 

俺は昔もノリンを背負いながら崖を登り降りした事があるので、今回も出来るだろう。

ノリンを小舟から下ろすと、俺は背中に担いで白い岩で出来た岩山を登っていった。

途中にはキメラやどくやずきんのような危険な魔物もいたが、見つからないように慎重に進んでいく。

ノリンを担いだ状態で戦うというのは、流石に難しいからな。

岩山地帯を抜けると、俺の目の前に黒く染まった毒沼と、破壊されたリムルダールの町が見えてくる。

 

「もうすぐリムルダールの町だ…ノリンもまだ無事だな」

 

「どうせ死ぬのに…本当にここまで連れて来たのか…」

 

ノリンは相変わらず生きることを諦めているようだが、俺はまだ治療を諦めたくはない。

リムルダールの町も、みんなの力があればあまり時間を掛けずに修復出来るだろう。

新たな病室を作り、これ以上の犠牲者を出さないようにしたいぜ。

 

「俺はまだ、治療を諦めていないからな。行くぞ」

 

人間の病に抗う力も復興の意志と同様に、決して失われることはないはずだ。

俺はノリンにそう言って、リムルダールの町へと帰っていった。

 

リムルダールの町に戻って来ると、建物の修復作業を行っているコレスタが出迎えてくれる。

ピリンとヘイザンも、彼と一緒に壊された建物を修理しているようだった。

 

「帰って来たんだ、雄也さん。背負っているノリンさんには、何があったんだ?身体中が、黒くなっているけど」

 

コレスタは俺が背負っている、異様な状態になったノリンについて聞いてくる。

コレスタにも、邪毒の病については話しておきたいけど、まずはノリンをベッドで休ませたいな。

今はまだ病室はないが、わらベッドくらいならあるだろう。

 

「それは後で説明するけど、まずはノリンを休ませたい。ベッドはあるか?」

 

「僕の使っていたベッドがある。この部屋の中だ」

 

コレスタはそう答えると、さっきまでいた部屋の扉を開けた。

確かにその部屋の隅には、コレスタが作ったと思われる草のベッドが置かれていた。

コレスタはベッドが使えなくなってしまうが、また作り直せばいいだろう。

草のベッドにノリンを寝かせると、俺は部屋から出ていく。

部屋の外に出ると、俺はコレスタに邪毒の病について説明していった。

 

「寝かせられたな。この町から逃げた後、ノリンさんに何があったんだ?」

 

「この町を壊滅させた暗黒魔導って魔物が、邪毒の病っていう新たな病気を振り撒いたらしいんだ。その病のせいで釣り名人が死んで、ノリンもああなってしまった」

 

町の周りの毒沼が黒くなっているのも、マヒの森の木が枯れているのも、邪毒の病の病原体によるものなのだろう。

俺の話を聞いて、コレスタもみんなを邪毒の病から救いたいと話す。

 

「邪毒の病…そんなものが。何とかしてみんなを救いたいけど、治療法はないのか?」

 

「聖なる草が失われたから、今は治療法はない。でも、薬師のゲンローワが戻って来れば、必ず薬を作れると思うぜ」

 

コレスタは俺とは最近知り合ったものの、リムルダールのみんなとの付き合いは長い…この地を邪毒の病から救いたいという思いは、俺より強いかもしれない。

ゲンローワは昔、恐ろしい力に抗うことは愚かしいなどと言っていたが、今は積極的に協力してくれるだろう。

ゲンローワやみんなを町に連れ戻して、必ず邪毒の病を治療してやりたいぜ。

まだ夜まで時間はあるので、リリパットの生き残りや、町のみんなをまた探しに行って来よう。

 

「これから俺は、ゲンローワやみんなを探してくる。コレスタたちは、病人を寝かせられるベッドを作っておいてくれ」

 

他のみんなも邪毒の病に感染している可能性もあるので、ベッドはたくさん作っておいた方がいいだろう。

俺がそう頼むと、コレスタはうなずいた。

 

「分かった。あの二人とも協力して、出来るだけ多く作っておく」

 

「ああ、頼んだ」

 

リムルダールは広い…今日中にみんなを見つけることは不可能だろうが、出来るだけ多くの仲間を助け出したい。

コレスタに邪毒の病を説明し、ベッドのことを頼んだ後、俺は再びリムルダールの町を出ていった。

リリパットの里の生き残りがいるだろうし、他のみんなも何人かいるだろうから、俺はもう一度南国草原とジャングルの地域へと向かっていく。

リムルダールの町の近くの岩山を超えて、マヒの森へと小舟を漕ぎ出していった。

 

15分ほど漕ぎ続けて、俺の目の前にまたマヒの森が見えてくる。

何体のリリパットが生き残っているかは分からないが、出来るだけ多く助け出したいな。

 

「早くしないと夕方になるだろうから、急いで見つけないとな」

 

だが、夜は危険だから夕方までにはこの地域を出たいので、あまり時間はかけていられない。

魔物には気をつける必要もあるが、少し歩く速度を早めないといけなさそうだ。

俺はそんなこと考えながら、マヒの森へと上陸する。

 

舟を降りるとさっそく、俺はキャタビウスたちから隠れながら、リリパットの里の生き残りを探していった。

なかなか見つからないので、俺は森の奥の方にも進んでいく。

 

「なかなか見つからないな…もしかして、全滅してしまったのか…?」

 

数十分探し続けても見つからないので、俺はリリパットが全滅したのではないかとも思ってしまった。

でも、俺は森の全ての場所を調べるまでは捜索を打ち切りにせず、生き残りを探していく。

途中、リリパットの家の残骸のような物も見えたが、そこでも見つけることは出来なかった。

しかし、捜索を初めて1時間くらい経って、ついに俺の目の前に倒れたリリパットが見えてくる。

 

「やっぱり生き残りがいたな…でも、邪毒の病に感染しているみたいだ」

 

発見したリリパットは身体が黒紫色に染まっており、邪毒の病に感染しているようだった。

さっきのリリパットは助けられなかったが、今度こそは助けてやりたいな。

俺はそのリリパットに近づいて、話しかけていく。

 

「あんた、大丈夫なのか?」

 

「お前ハ、見ない人間ダナ…。悪イことハ言わナイ…さっさト逃げロ、ここ二いるト死ぬゾ…!」

 

このリリパットもさっきのと同様、ここから逃げろと言う。

キャタビウスのような危険な魔物がいるし、邪毒の病に感染する可能性が高いからだろう。

だが、このリリパットを見捨てて逃げる訳にはいかない。

 

「あんたを助けたらここから出るさ。あんたを安全な、人間の町に連れていく」

 

「人間の町ハ暗黒魔導に壊さレタって、4人ノ人間に聞いたゾ…」

 

このリリパットも町から逃げてきたノリンたちと一緒にいて、リムルダールの町が壊滅したことを知っているようだな。

4人の人間と言うことは、ノリンの他に3人、この地域に俺たちの仲間がいるのだろう。

リリパットを救出したら、その3人も探しに行かないといけないな。

 

「確かに町は壊されたけど、ビルダーの俺とみんながまた作り直してる。安全に休めるくらいの建物なら、もう作ってあるぞ」

 

「ビルダーのことハ聞いタことガあるガ、お前ガそうだったノカ。だが、オレはもう動けナイ…町に行くことハ出来ないゾ」

 

俺がリムルダールの町に帰る頃には、コレスタたちがいくつかのベッドを作っているだろう。

このリリパットは歩けないようだが、俺が担いでいけば問題ない。

 

「それなら俺が担いでいく。邪毒の病の治療法も見つけるつもりだから、安心して休んでいてくれ」

 

「分かッタ。名乗ッテなかったガ、オレはオラフトだ」

 

「俺は影山雄也。いつもは雄也って呼んでくれ」

 

俺はいつもの自己紹介をした後、オラフトを背中に担いでいった。

オラフトはノリンよりも重かったが、何とか小舟までは運ぶことが出来そうだ。

彼もまだ重症ではないので、もうしばらくは耐えることが出来るだろう。

オラフト以外の生き残りもいるかもしれないが、まずは彼をリムルダールの町に運んで行こう。

15分ほどかけて海岸へと近づいていき、ポーチから小舟を取り出した。

 

「そろそろ夕方になってきたな…早くリムルダールに戻らないと」

 

もう日暮れが近づいており、他のリリパットの里の生き残りや3人の仲間の捜索は、明日になりそうだ。

俺はオラフトを小舟に乗せて、リムルダールの町へ向けて出発しようとする。

 

だが、舟を出す寸前、枯れたヤシの木のかげに、もう一人倒れているリリパットの姿が見かけられた。

 

「あれは、倒れたリリパット…?もう一人いたのか」

 

すぐに小舟に乗せられるし、このリリパットもリムルダールの町に連れて行こう。

そのリリパットはオラフトよりも小柄で、体重も軽そうだった。

やはり邪毒の病に感染しているようで、苦しそうな表情をしていた。

俺はそのリリパットに近づいていき、話しかける。

 

「あんたも、邪毒の病にかかったんだろ?俺たちの町に来れば、安全な場所で休めるぞ。一度は暗黒魔導の軍勢に壊されたけど、作り直しているんだ」

 

「あなたハ、人間さん…?助けてくレテ、ありがとう…でも、どうせアタシは死んじゃうンですヨ…」

 

オラフトはオスのリリパットだったが、こちらはメスみたいだな。

身体が小さいからかオラフトよりも弱っているようだが、まださっきのリリパットのような瀕死の状態にはなっていないようだ。

リムルダールの町に連れて帰れば、まだ助かるかもしれない。

 

「俺たちは邪毒の病を治す薬も開発している。あんたの病気も、必ず直してやるさ。俺が担いで行くから、歩けなくても大丈夫だぞ」

 

リムルダールを立て直すならば、なるべく仲間は多い方がいいだろう。

オラフトもこのリリパットも助けて、リムルダールの2度目の復興を達成させたい。

 

「では、お願いしますネ。アタシはセリューナ…」

 

「俺は影山雄也、いつもは雄也って呼んでくれ」

 

またいつもの自己紹介をした後、俺はセリューナのことも担いで、小舟に乗せていく。

この小舟は4人乗りなので、リリパットを2体乗せても問題なく進ませることが出来そうだ。

俺は夜までにリムルダールへ帰ろうと、少し急いで小舟を漕ぎ続けていった。

 

そして、マヒの森を出て30分くらい経って、俺はリムルダールの町の近くの岩山にたどり着く。

急いで小舟を漕ぐのはかなり大変で疲れて来たが、俺はオラフトたちをリムルダールの町に運ぶ必要もある。

体力が途中で尽きそうだが、二人を小舟に置いていく訳にはいかないので、何とか頑張らなければいけない。

岩山に上陸すると、俺は二人を小舟から下ろした。

 

「二人同時には運べないけど、どっちから先に行く?」

 

小舟から降りると、俺はどちらが先にリムルダールに行くのかオラフトたちに聞く。

俺も流石に二人を同時には運べないので、片方にはしばらくの間ここで待って貰わなければいけない。

俺の質問に対してオラフトは、自分が後でいいと答えた。

 

「オレが後でイイ。そいつヲ先二、お前たちノ町二連れて行ってクレ」

 

「分かった。なるべく早く戻るけど、しばらく待っていてくれ」

 

崖の下の海に魔物が来ることはないので、オラフトは安全に待てるだろう。

だが、あまり長時間待たせるのも良くないので、なるべく早く戻って来よう。

俺はセリューナを担いで、岩山を越えてリムルダールの町へと向かっていく。

魔物から隠れながらも、なるべく急いで町へと進んでいった。

そして、15分くらい歩き続けて、俺たちはリムルダールの町へたどり着く。

 

リムルダールの町に戻って来ると、建物の外にはコレスタたちの姿はなく、みんな建物の中に入っているようだった。

俺はみんながいるであろう部屋のとびらを開けて、中に入っていく。

 

「みんな、リリパットの生き残りを連れて来たぞ。ベッドは作ったか?」

 

「もちろん作ったよ!ベッドを作るのは久しぶりだったけど、うまく出来たよ」

 

「ワタシは初めて作ったけど、何とか完成したぞ」

 

「時間はかかったけど、僕も作っておいた」

 

すると、3人ともベッドを作っていたようで、ノリンが寝ているベッドの隣に3つの草のベッドが出来ていた。

これで、セリューナもオラフトも休ませることが出来そうだな。

ノリンも目はまだ絶望に沈んでいるようだが、死んではいないようだった。

エルやゲンローワが戻って来て、邪毒の病の薬が出来るまで、みんなが持ちこたえてくれるといいな。

 

「みんなありがとうな。これで、リリパットを休ませることが出来る。もう一人連れて来ないといけないリリパットがいるから、またすぐに出かけるぜ」

 

俺はセリューナを寝かせると、オラフトを連れて来るためにまた部屋の外に出ていった。

 

誰も担いでいない状態ならば、俺はもっと早く進むことが出来る。

10分ちょっとくらいで、俺はオラフトが待っているところに戻って来た。

 

「待たせたな、オラフト。今度はあんたを、リムルダールに連れて行くぞ」

 

「オレは重いケド、頼んだゾ…」

 

本人の言う通りオラフトは体重が重いので、担ぎながら岩山を登っていくのは大変だった。

俺は何度か倒れそうになるが、踏ん張って歩き続けていく。

町の近くまで来ることは出来たが、かなり時間がかかってしまい、辺りはもう真っ暗になっていた。

 

「もう夜になったな…リムルダールの町に急がないと」

 

夜は視界が悪いので、魔物もこちらを見つけにくくなるが、俺も魔物たちを見つけにくくなる。

急に目の前に、強力な魔物がいたということになってもおかしくはない。

いつも以上に警戒しながら進んで行くと、昼間は見かけられないメトロゴーストやヘルゴーストと言った魔物も見かけられた。

 

「ゴースト系の魔物か…昼間は見たことがなかったな…」

 

昼間にいない魔物が増えることから考えても、夜の探索はやめておいた方がいいな。

俺はヘルゴーストたちにも気をつけながら、リムルダールの町に戻っていった。

 

リムルダールの町に戻って来ると、オラフトをベッドに寝かせてから、自分も身体を休めようとする。

さっきコレスタたちが作った草のベッドは病人用にして、俺たち4人は改めて草からベッドを作り、それで寝ることにした。

今日はノリンとリリパットの生き残りを助けるのに精一杯だったけど、明日は他のみんなも助けられるといいな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode167 南国草原の奥地

リムルダールに戻って来てから2日目、俺は3人をリムルダールまで運んだ疲れのせいで、朝遅くまで寝ていた。

目が覚めた時にはみんな起きており、外で町の修復作業を行っているようだ。

ノリンたちは昨日より衰弱しているようだが、まだ命に関わるほどではない。

 

「みんなまだ生きてるけど、早く薬を作らないとな…」

 

邪毒の病の患者を救うには、エルとゲンローワの力が不可欠だろう。

それ以外のみんなも、早めに助け出さないといけないな。

俺は今日も南国草原とジャングルの地域の探索をするために、部屋の外に出ていった。

出発の前に、また病人のベッドを作っておいてくれと、みんなに頼む。

 

「3人とも!俺は今日もみんなを探しに行って来るから、草のベッドを作ってくれ。他のみんなも、邪毒の病に感染しているかもしれないからな」

 

「分かった。雄也が戻って来るまでには、作っておくよ!」

 

「気をつけて行って来るんだぞ」

 

「みんな無事だといいな」

 

俺の頼みを聞いて、コレスタたちは昨日と同様に草のベッドを作り始める。

作業台さえあれば俺がビルダーの力で短時間で作ることが出来るが、暗黒魔導の襲撃で木の作業台は失われてしまった。

木の作業台を再入手する方法も考えなければいけないが、今はみんなの捜索を優先しよう。

俺はみんなに草のベッドのことを頼むと、今日も岩山を超えて小舟に乗り、マヒの森へと向かっていった。

 

15分ほど小舟を漕ぎ続けて、俺はマヒの森の近くにやって来る。

 

「他にも生き残りのリリパットがいるかもしれないから、まずは森の中だな」

 

昨日の捜索によって、俺はリリパットの生き残りであるオラフトとセリューナをリムルダールの町に連れていく事が出来た。

だが、マヒの森の全域を調べた訳ではないので、まだ他の生き残りがいるかもしれない。

俺はマヒの森に上陸すると、昨日調べていなかった部分にも向かっていった。

 

「他の生き残りもいるといいな…」

 

昔巨大キャタピラーを倒した時に出会った2体のリリパットも、まだ発見出来ていない。

あいつらも、生きているといいんだけどな…。

俺はそう思いながら、新たに見つけたリリパットの家の残骸も、隅々まで調べていく。

 

「家の残骸はあるけど、誰もいないな…」

 

しかし、いくつかの家の残骸を調べても、生きているリリパットの気配は全くしない。

1時間くらいかけて森を歩き続けるが、リリパットたちの姿はまったく見られなかった。

そしてとうとう俺はマヒの森の全ての場所を歩き回り、生き残りの捜索を終えることになってしまう。

 

「これで全部調べたけど、結局誰も見つからなかったか…あの二人を除いて、リリパットは全滅みたいだな」

 

オラフトとセリューナが、最後のリリパットだったという事だろう。

あの二人が死んだら、リリパットの里は全滅してしまうので、何としても助けてやりたいな。

リリパットたちを助けるためにも、次はみんなを探しに行くか。

 

「マヒの森は調べ終えたし、今度は草原の方に行ってみるか」

 

オラフトの話では、ノリンを除いても3人の仲間がこの地域に来ている。

この森にいないことから、彼らはリリパットの里が壊滅した後、草原の方に逃げた可能性が高いだろう。

俺はキャタビウスたちから隠れながら、南国草原へと向かっていった。

 

また15分くらい歩いて川と丘を越え、俺は草原地帯にやってくる。

ここにもたくさんのキャタピラーやキャタビウスがおり、進むのは大変そうだ。

見つかる可能性を下げるため、俺はポーチから草原の箱を取り出した。

 

「魔物が多いから、草原の箱を使って行くか」

 

ここの草原はメルキドの草原と少し色が違うが、草原の箱の効果もない訳ではないだろう。

魔物から隠れながら、俺は広い草原を歩いていった。

 

「みんなが隠れているとしたら、洞窟の中だろうな」

 

みんなも魔物には警戒しているだろうし、隠れているなら洞窟の中だろう。

俺は草原の向こう側にある山を目指して、ゆっくり進んでいく。

途中、かつて青の旅のとびらの出口になっていた場所にも来たが、リムルダールの町の青いとびらが破壊されたことで、こちらからも町に行くことは出来なくなっていた。

草原を歩き続けて30分くらいたって、俺は洞窟のある山にたどり着く。

 

「洞窟に着いたな…みんな、無事だといいんだけど」

 

魔物の襲撃を生き延びたリリパットも邪毒の病でほとんどが死んでしまったし、みんなも死んでいる可能性もある。

だが、生きていることを信じて、俺は洞窟の中も調べていった。

最初に見つけた洞窟には誰もいなかったが、俺は他の洞窟にも向かっていく。

 

「この洞窟には誰もいないか…でも、あっちはどうだ?」

 

洞窟には石炭の鉱脈もあったが、今は3人の捜索を優先した。

この山にはかなりの数の洞窟があるが、俺は一つ一つ調べていく。

 

しかし、山にある全ての洞窟を調べても3人の姿は見つからず、何の痕跡も発見することは出来なかった。

 

「洞窟は全部探したけど、誰もいないな…どこに行ったんだ?」

 

マヒの森にも草原地帯の洞窟にもいないとなれば、3人はどこに行ったのだろうか。

しばらく考えた後、俺は草原地帯の山のタルバのクイズがあった場所の奥に、未探索の地域があったことを思い出す。

ここまで探して見つからないとすれば、みんなは俺が行ったことのない場所に向かったのかもしれないな。

その場所に何があるかは気になっていたし、行ってみよう。

 

「結構遠い場所だけど、クイズの場所の先に行ってみるか」

 

俺は洞窟を出ると、再び草原の箱を被ってタルバのクイズがあった場所に向かっていった。

山にはブラウニーの群れも生息しており、より慎重に進んでいく。

20分くらいでタルバのクイズがあった場所にたどり着くと、俺はその先にある岩山に向かっていった。

 

「この岩山の奥には、何があるんだ?」

 

岩山に草があったら不自然なので、俺は草原の箱を取って進む。

生息しているキメラたちは、白い岩の影に隠れながら回避していった。

しばらく進んでいくと、俺は周囲を岩山に囲まれた、小さな盆地のような場所を発見する。

 

「岩山に囲まれた場所か…何だ、この屋敷は?」

 

その場所を覗きこむと、俺は人間が作った物と思われる、大きな屋敷を見つけた。

ところどころ欠けているが、きれいな赤色の屋根に覆われている。

屋根の近くには、二つの宝箱が置いているのも見つかった。

俺たちはこんな屋敷を作っていないので、大昔にリムルダールに住んでいた人の物なのだろう。

 

「もしかしたら、ここに誰かいるかもしれないな…」

 

破壊されている部分も少なく、魔物から隠れるなら絶好の場所だ。

リリパットの里から逃げ出した3人は、ここにいるのかもしれないな。

屋根にある宝箱も気になるが、俺はみんなの無事を確認するため、岩山を降りて屋敷の中に入っていく。

 

すると、俺は屋敷の1階で、かつて共に魔物たちと戦った仲間である、イルマの姿を見つける事が出来た。

彼はウルスの研究の犠牲となりかけたが、俺の作った浄化の霊薬で回復し、今まで生き延びている。

俺はイルマに近づき、話しかけた。

 

「おい、イルマ。ここにいたのか」

 

「あなたは、雄也さん!?どうしてここに?」

 

突然声をかけられて、イルマは驚いた声を出す。

リムルダールに戻って来るのは事前に伝えていなかったし、驚くのも無理ないだろう。

俺はノリンの時と同じように、イルマにリムルダールに戻って来た経緯について話した。

 

「世界を裏切った元勇者のせいでルビスが死んで、各地に強力な魔物が現れ始めたから、リムルダールが心配で戻って来たんだ。暗黒魔導のせいで町が壊されたみたいだけど、俺たちで作り直している。今は離れ離れになった町のみんなを探しているんだ」

 

「ドロルリッチやキャタビウスが現れたのは、それが原因だったのか…。雄也さんがいれば魔物は何とかなるかもしれないけど、この地にはそれ以上に深刻な問題があるぜ…」

 

ドロルリッチというのは、この前見つけた金色のドロルの事だろう。

強力な魔物が多いが、みんなで強力な武器を使って戦えば、勝ち目は十分にあるはずだ。

暗黒魔導にしても、今まで多くの強敵を倒してきたおうじゃのけんとビルダーハンマーがあれば、倒せる可能性はあるだろう。

深刻な問題というのは、邪毒の病のことだろうか。

 

「リリパットの生き残りから聞いたけど、邪毒の病のことだろ?」

 

「ああ…。おれはザッコ、ノリン、ミノリと一緒にリリパットの里にいたんだけど、魔物の攻撃で里は壊滅した。その時に魔物が、『ここを生き延びても、お前たちは邪毒の病で死ぬだろう』って言ったんだ。おれはノリンやミノリとは別れてしまったけど、ザッコとは一緒に行動してた。でも、この屋敷に着いてしばらくして、ザッコは高熱を出して倒れて、どんどん弱っていった…」

 

ノリンの他にこの地域にいた3人と言うのは、イルマ、ザッコ、ミノリの事だったのか。

邪毒の病にかかったザッコは、死んでしまったのだろうか?

 

「ザッコは、死んでしまったのか…?」

 

「いや、まだ生きてて、屋敷の2階のベッドに寝かせてある。でも、治療法がないから、弱っていく一方だ…」

 

まだ生きているのは良かったが、ノリンたちと同じで、早く薬を作らなければならなさそうだ。

まだ見つかっていない、ミノリの居場所についても気になるな。

俺はイルマに、ミノリの居場所について心当たりがないかも聞いてみた。

 

「そうか…。あんたたちと別れた二人のうち、ノリンは邪毒の病に感染していたけど、リムルダールの町で保護した。ミノリの居場所に心当たりはあるか?」

 

「多分、この辺りの岩山の奥の草原にある、リカント道場だ」

 

リカント道場…この屋敷からさらに奥に行ったところに、そんな場所があったのか。

リカントは魔物の名前だが、彼らが道場なんて作っているのだろうか。

 

「リカント道場…?何なんだそれ?」

 

「この奥の草原では青色のリカントと赤色のリカントマムルが縄張り争いをしていて、劣勢なリカント側を鍛えるために、1体のキラーリカントが道場を作ったんだ。そのリカントたちはリカントマムルとの戦いに必死で、おれたちを襲っては来なかった。そこでおれたちはリカント道場を支援して、仲良く出来ないか試みたんだ」

 

リリパットとキャタピラーもそうだったが、魔物同士の縄張り争いというのも結構あるんだな。

それで、リムルダールの町とリカント道場は協力関係になったということか。

 

「それで、試みがうまくいったのか」

 

「うん。おれもリカントたちと一緒に、リカントマムルと戦ったぜ」

 

イルマは頷いて、そう答える。

俺がリムルダールを去った後に、そんなことがあったとはな。

人間に味方する魔物という事であれば、他の多くの魔物から狙われていてもおかしくないな。

ミノリも助け出したいし、後で見に行って来よう。

ミノリの居場所についても聞いた後、俺はイルマとザッコをリムルダールの町に連れていこうとする。

 

「教えてくれてありがとう。ザッコを治す方法はまだないけど、一緒にリムルダールに戻って来てくれないか?俺は小舟って物を持ってるんだけど、それがあればあんたもザッコも連れて行けるぜ」

 

「おれもあの町を壊されたままにはしておきたくなかったし、もちろんいいぜ。ザッコを連れて来るから、少し待っててくれ」

 

強力な魔物と邪毒の病のせいで厳しい状況だが、イルマもリムルダールの町を立て直したいとは思っているようだ。

イルマは2階に上がり、ザッコを連れに行った。

 

しばらく待っていると、イルマはザッコを背負って降りてくる。

ザッコはやせ細り、やはり身体中が黒紫色に変色していた。

 

「ザッコを連れて来たぜ、雄也さん」

 

「ありがとう、イルマ。小舟に乗るために、海に向かうぞ」

 

ノリンたちより症状が重そうで、残された時間はあまりなさそうだ。

エルやゲンローワの捜索も、急がないといけないな。

ザッコは俺の姿を見ると、口を何とか動かして話しかけて来た。

 

「雄也さん…久しぶりだべ…。最後にあんたに会えて、良かったべ…」

 

彼は最後になんて言っているが、助けてこれからも一緒に町を作りたい。

 

「最後にはさせない。必ずエルとゲンローワも探して、治療法を見つける。まずは、リムルダールの町で休んでくれ」

 

俺はザッコを背負ったイルマと共に屋敷を出ていき、海へ向かっていった。

ザッコを背負って崖を登るのは大変そうで、イルマはかなり体力を使ったようだが、無事に上までたどり着く。

 

キメラから隠れながら岩山を歩いていき、俺たちは10分ほどで海岸にまでたどり着いた。

海に着くと俺はポーチから小舟を取り出し、イルマたちを乗せる。

 

「イルマ、これに乗ってくれ」

 

「こんな乗り物があったんだ…ありがとう、雄也さん」

 

二人が乗ると俺は小舟を漕ぎ始め、リムルダールの町を目指していく。

世界地図を見ながら進んでいき、俺は30分ほどで町の近くの岩山にたどり着くことが出来た。

 

「この岩山を超えたらリムルダールの町だ。二人とも、もう少しだぞ」

 

朝遅かったのでもうすぐ昼頃だが、午後からも他のみんなを探しに行こう。

ミノリを見つけたら、赤色や緑色の旅のとびらの先にも行った方がいいかもな。

そう思っていると、ザッコは自分がリムルダールの町まで連れて行くとイルマは言った。

 

「それなら、おれがザッコを町まで連れていく。雄也さんは、ミノリを助けに行ってくれ」

 

「ありがとう、それは助かるな。町までは近いけど、気をつけてくれよ」

 

イルマはさっきもザッコを背負って崖を登っていたし、多分町までたどり着けるだろう。

ミノリのことも気になるし、イルマに任せたほうがいいかもしれないな。

俺はそう返事して、イルマとザッコを小舟から下ろす。

二人が小舟から降りると、俺はまた岩山から離れていった。

 

「イルマの言っていた、リカント道場に行ってみるか…」

 

二人と別れた後、俺はミノリがいるであろう、リカント道場を目指していく。

生き残っているリカントがいたら、彼らもリムルダールの町に連れて行かないとな。

俺は世界地図で岩山の奥の草原の位置を確認し、舟を進めていく。

 

地図に従って数十分漕ぎ続けると、確かに目の前に、リカントマムルが生息している草原地帯が見えてくる。

恐らくリカント道場のリカントたちは、このリカントマムルたちと縄張り争いをしているのだろう。

 

「この辺りに、リカント道場があるんだな…」

 

俺は草原地帯に上陸すると、リカントマムルたちから隠れながら探索をしていく。

草原の箱も使って、リカント道場の場所を探していった。

そして、しばらく探し続けると、岩山の近くにかなり大きな建物があるのが見えてきた。

 

「これがリカント道場か…入ってみよう」

 

建物の入り口には、2体の火をふく石像も置かれている。

他に目立つ建物もないので、これが恐らくリカント道場なのだろう。

ミノリもリカントたちも、生き残っているといいな…。

俺はそう思いながら、リカント道場に向かって近づいていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode168 希望を断つ者たち

リカントマムルたちに見つからないようにしながら、俺はリカント道場に入っていく。

すると、中にはリムルダールの女兵士のミノリと、黄色いリカントである、キラーリカントの姿があった。

イルマの予想通り、ミノリはここに逃げていたみたいだな。

隣にいるキラーリカントが、リカント道場の創設者なのだろうか。

そう思っていると、俺が近づいていく前にミノリはこちらに気づき、話しかけて来た。

 

「あなたは、雄也さん…?ここに戻って来ていたんですか?」

 

「ああ。アレフガルド各地で強力な魔物が現れたから、リムルダールが心配になったんだ」

 

ミノリもイルマと同じように、俺がリムルダールに戻って来たのを知って驚く。

彼女は邪毒の病にもかかっておらず、元気そうだった。

リムルダールの町にまた魔物が襲って来ることもありそうだが、一緒に戦ってくれるだろう。

俺のことを知らないキラーリカントは、ミノリに俺のことを聞いていた。

 

「知り合いのようだが、この男は誰なのだ?」

 

「ビルダーの雄也さんです。昔あたしたちと一緒に、リムルダールの町を作ってたんですよ」

 

俺もミノリに続いて、キラーリカントにいつもの自己紹介をする。

 

「あんたとは初めて会うな…俺は影山雄也、いつもは雄也って呼ばせてる」

 

「ビルダーのことは聞いていたが、そなたがそうだったのか…わしはクロティム、この道場の主をしておる」

 

キラーリカントも、自分の名前を名乗った。

クロティムとも、これから町の仲間として協力していくことになるだろう。

だが、道場の主と言っているが、弟子のリカントたちの姿は1体も見かけられない。

既に邪毒の病で、全滅してしまったのだろうか…?

 

「町の仲間から聞いたけど、リカントマムルと戦うためにリカントを鍛えてたんだろ?リカントたちは、どうなったんだ…?」

 

「多くが戦いで死んでしまった…以前はわしらを襲うのはリカントマムルだけだったが、最近は人間に味方するわしらを潰すために、見た事のない魔物も多数襲って来たのだ。戦いを生き延びた者も、暗黒魔導とやらが振りまいた病で息絶えていき、残ったのはわしだけだ…」

 

やっぱりリカントたちは全滅していたのか…。

邪毒の病だけでなく、多数の魔物の襲撃があったようだな。

恐らく、リムルダールの町やリリパットの里を壊滅させた時のような、大軍勢が襲って来たのだろう。

このままここで戦い続ければ、ミノリもクロティムも危ない。

俺は二人に、リムルダールの町に来ないかと聞いた。

 

「そうだったのか…。…それなら、このままここにいたらあんたたちも危ないと思うし、俺とリムルダールの町に来ないか?暗黒魔導の襲撃で破壊されたけど、俺たちで建て直しているんだ。旅のとびらもなくなったけど、俺の作った小舟って乗り物があれば大丈夫だ」

 

「あの町を作り直せるなら、あたしはもちろん行きますよ。クロティムさんは、どうですか?」

 

ミノリもリムルダールに住む者として、町を立て直したいと思っているようで、着いて来てくれると言う。

クロティムも、ミノリの質問に頷いた。

 

「弟子はもうおらぬし、そなたの言う通りここにいてはわしも死んでしまう…弟子たちの仇を討てるよう、そなたらに協力しよう」

 

道場の主であるクロティムがいれば、リムルダールの町の戦力はかなり上がるだろう。

もう何をしてもリカントたちが戻って来ることはないが、俺もせめて仇は討ちたい。

二人の返事を聞くと、俺はさっそくリムルダールの町に戻ろうとした。

 

「ありがとう、二人とも。小舟に乗るために、まずは海までついて来てくれ。リカントマムルに見つからないよう、慎重に行くぞ」

 

「奴らから隠れるのは苦手だが、なるべく気をつけよう」

 

俺を先頭にして、ミノリとクロティムも道場から出ていく。

人間よりも体の大きいクロティムが見つからないように歩くのは大変で、いつも以上に俺は周囲を警戒していった。

岩や木の影にも隠れながら、音を立てないように進んでいく。

かなり時間がかかり、海にたどり着くまでには20分以上かかっていた。

 

何とか魔物に見つからずに海までやって来ると、俺はポーチから小舟を取り出し、海に浮かべる。

クロティムは人間より体重も重そうだが、この小舟は4人乗りなので大丈夫だろう。

 

「ここからリムルダールの町に向かう。二人とも、乗ってくれ」

 

「これが小舟とやらか…ビルダーの力というのは、すごいものだな…」

 

ビルダーの力で作られた小舟を初めて見て、クロティムはそんなことを言う。

この力は本当に便利だ…ルビスが遺してくれたこの力を使って、何としてもエンダルゴを倒す武器を作りたいな。

クロティムが小舟に乗り込むと、ミノリも後に続いた。

 

「二人とも乗ったな…さっそく出発するぞ」

 

二人が乗ったのを見て、俺は小舟を漕いでリムルダール近くの岩山に向かっていく。

南国草原とジャングルの地域に逃げた仲間たちは、これで全員救出することが出来たな。

今日はまだ時間があるし次は赤い旅のとびらの先にあった、水没した密林に向かおうと俺は思っていた。

 

今後のことを考えながら小舟を漕ぎ続けて、俺たちは30分くらいでリムルダールの町の近くの岩山にたどり着く。

岩山を越えればすぐに町だが、二人は崖を登ることが出来るだろうか。

 

「目の前に見える岩山を越えればリムルダールの町だ。二人とも、この岩山を登れそうか?」

 

「あたしは兵士ですし、体力には自信ありますよ」

 

「わしも力には自信がある。このくらいの岩山なら、簡単に越えられるぞ」

 

俺が聞いてみると、二人とも岩山を登れると答えた。

もし登れないのであれば岩山を通らないルートを使わなければいけないが、その必要はなさそうだ。

 

「それなら良かった。町までもう少しだし、頑張って行くぞ」

 

俺たちは崖の下に上陸すると、また俺を先頭にして岩山を登っていく。

確かに二人の体力はかなり高いようで、十メートル以上の段差を登り続けてもほとんど疲れていないようだった。

崖を登りきると俺たちはキメラやどくやずきんに警戒しながら、リムルダールの町に向かっていく。

クロティムは何度か魔物に見つかりそうになっていたが、岩山に着いてから30分くらい経って、俺たちはリムルダールの町に帰って来た。

 

リムルダールの町に戻って来ると、ミノリとクロティムは外に出ていたコレスタと話を始める。

コレスタたちはもう病人のベッドを作り終えたようで、建物の修復作業の続きをしていた。

みんなの力があれば壊された町も、数日で元通りになることだろう。

俺はこれから密林地帯に向かうが、その前にノリンたちの様子を見に行くことにする。

 

「ノリンたちは、まだ大丈夫なのか…?」

 

邪毒の病は発生から数日でリリパットの里とリカント道場を滅亡に追い込んだ、極めて強力な病だ。

4人の容態が、急変してしまう可能性もあるだろう。

俺は部屋のとびらを開けて、ノリンたちの様子をしばらく観察した。

 

「まだ大丈夫か…でも、急がないとな」

 

すると、衰弱は進んでいるもののまだ危険な状態にはなっておらず、もう少しは持ちこたえられそうだった。

しかし、治療を急がなければいけないのは変わりないだろう。

何としても、今日中にエルとゲンローワを見つけ出したいな。

 

4人の容態の観察を終えると、俺は部屋を出てまた町から出発しようとする。

だがその時、俺と病人たちのいる部屋に、焦った顔をしたコレスタが飛び込んで来た。

 

「大変だ、雄也さん!まずいことになった…!」

 

こんなに焦っているということは、ただ事ではなさそうだな。

もしかして、リムルダールの町に魔物が迫って来ているのだろうか。

 

「そんなに急いで、何があったんだ?」

 

「町の東から、結構な数の魔物が近づいて来ている。僕たちと一緒に、迎え撃ちに行こう!」

 

俺が戻って来てまだ2日目なのに、リムルダールの魔物は動きが早いな。

さっきは町の近くに魔物はいなかったので、ノリンたちの様子を見ている間に来たのだろう。

もしかして魔物の群れの中には、暗黒魔導もいるのだろうか?

 

「魔物の群れか…奴らの中に、暗黒魔導の姿はあったか?」

 

「いや、普通の魔物だけだった」

 

俺はそう聞いたが、コレスタは暗黒魔導は来ていないと話す。

リムルダール中に邪毒の病を振りまくのに、忙しいからだろうか。

暗黒魔導がいないのならば、あまり苦戦はしないかもしれないな。

だが、ルビスの死後に現れた新種の魔物は間違いなく来ているだろうし、気を抜かないようにしよう。

 

「分かった…それでも気を抜かず、今すぐ迎え撃ちに行くぞ」

 

俺はそう言うと、ポーチからおうじゃのけんとビルダーハンマーを取り出して、リムルダールの町の外に向かう。

町の東からはコレスタの言う通り、多数の魔物が襲いかかって来ていた。

ドロルリッチが16体、メイジドラキーが12体、リカントマムルが8体、キャタビウスが11体の、合計47体もいる。

最後方のキャタビウスは体が大きく、この群れの隊長になっているみたいだな。

 

「やっぱり新種の魔物が多いな…」

 

「はい。でも、大事なこの町を、2度と壊されたくはないです…あたしたちと一緒に、魔物たちを倒しましょう」

 

俺が魔物を観察していると、先に剣を構えていたミノリがそんなことを言った。

町が目の前で壊されていく悲しさを、もう感じたくはないのだろう。

イルマもクロティムも、町を失うことがないよう、魔物たちとの戦いに備える。

 

「ああ。必ずこの町を守り抜こう」

 

俺たちがここで魔物の群れに負けたら、ノリンたちは確実に死ぬだろう。

メルキドでもリムルダールでも、俺たちは多くの仲間を亡くした…俺もこれ以上、大切な町や仲間を失いたくはない。

必ずみんなを救って、リムルダールの2度目の復興を達成してやるぜ。

そう思っている間に、魔物たちはリムルダールの町のすぐ近くまで来る。

俺の後ろから来たコレスタも剣を構え、俺が参加する中では5回目の、リムルダールの防衛戦が始まった。

 

前衛のドロルリッチたちは俺たちに近づいて来ると、口から毒液の塊を吐き出して来た。

塊は地面に当たると炸裂し、周りに毒液が撒き散らされる。

 

「この毒液、かなり範囲が広いな…」

 

攻撃範囲は毒の病を振りまいていた巨大ドロルより広く、走って避けるのは難しそうだ。

俺はジャンプしてかわしながら、少しずつドロルリッチたちに近づいて行く。

その間にも奴らにダメージを与えられるよう、俺はポーチからサブマシンガンを取り出した。

 

「サブマシンガンで弱らせて、近づいたら剣で切り裂こう」

 

サブマシンガンの弾は最近補充していないが、まだかなりの数が残っている。

俺ははがねの弾丸を連射して、ドロルリッチたちを撃ち抜いていった。

金色と言えども奴らの肉質は柔らかく、かなりのダメージを与えられる。

サブマシンガンを持っていないみんなも、少しずつドロルリッチたちに近づいていった。

人間より体の大きいクロティムも、今のところはダメージを受けていない。

しばらくサブマシンガンでの攻撃を続けると、8体のドロルリッチは俺に攻撃を集中して来た。

 

「集中攻撃か…これだと、近づくのが難しいな」

 

遠距離からも攻撃が出来る俺を、何としても潰したいのだろう。

近くで大量の毒液を飛ばされたらさすがに避けきれないので、俺は大きくジャンプして奴らから距離を取る。

だが、毒液攻撃には予備動作が少なく、いくら距離をとったとしても、8体の攻撃を全て避けるのは難しいな。

 

「少しでも減らせたら、近づきやすくなるんだけどな…」

 

俺は1体でも奴らを減らせるように、何とか回避を続けながらサブマシンガンを撃ち続けていった。

コレスタたちは自分を狙う奴らの数が減ったので、一気にドロルリッチたちに近づいて行こうとする。

 

だが、奴らに斬りかかろうとする4人に、後ろのメイジドラキーたちも攻撃を放った。

奴らは呪文を唱えて、炎でコレスタたちを焼き尽くそうとして来る。

 

「ドロルリッチだけじゃなくて、こいつらも遠距離攻撃して来るのか…!」

 

「これでは、なかなか近づけないですね…」

 

詠唱時間は長いものの、だいまどうのメラミくらいの大きさの火球であり、イルマたちはドロルリッチに近づくのが困難になってしまった。

どうやらメイジドラキーの中でも、かなり強力な個体みたいだな。

このまま攻撃を避け続けているだけでは、みんな体力が尽きてしまうだろう。

俺もサブマシンガンでドロルリッチを3体倒すことが出来たが、まだ残っている5体は毒液を吐き続けている。

 

「あのメイジドラキー、結構強いな…早くこいつらを倒して、みんなを助けに行かないと」

 

俺は目の前にいる奴らを倒して、コレスタたちを助けに行こうとした。

だが、ドロルリッチは体力がかなり多く、はがねの弾丸を受けても簡単には倒れない。

このままでは助けに行く前に、誰かが毒液や炎を受けてしまうかもしれないな。

炎はともかく、ドロルリッチの毒液を食らうのは非常に危険だろう。

そう思っていると、クロティムが何か考えがあるようで、奴らの攻撃を回避しながら俺に話しかけた。

 

「雄也!少しだけでいい、わしを狙っている魔物を引き付けてくれ!」

 

クロティムは2体のドロルリッチと3体のメイジドラキーに狙われており、そいつらを引き付ければ、俺は10体もの魔物に狙われることになり、かなり危険だ。

だが、クロティムは確実に魔物たちにダメージを与える方法を考えていることだろう。

何とかしてドロルリッチたちを止めるため、俺は彼の話を聞くことにする。

 

「分かった。魔物たちは引きつけるから、みんなを助けてくれ」

 

そう答えると、俺は目の前にいる5体のドロルリッチの動きも見ながら、クロティムを攻撃している魔物たちにサブマシンガンを放った。

突然死角から攻撃を受けて奴らは怯み、攻撃の対象を俺へと変える。

ドロルリッチもメイジドラキーも俺が引き付けたのを見て、クロティムは全身に力を溜め始めた。

しばらくして力が溜まりきると、クロティムは数メートルも飛び上がり、ドロルリッチの群れに目掛けて思い切り鋭い爪を叩きつける。

 

「わしの道場を潰し、人間の町も狙う者ども…まだまだそなたらにはやられんぞ!」

 

ミノリを狙っていた2体のドロルリッチは爪の直撃を受け、大きく怯んだ。

さすがはリカント道場の創設者だ…長い溜め時間があるとは言え、あんな大技が使えるとはな。

仲間が攻撃されたのを見て、コレスタとイルマを狙っていたドロルリッチたちも、クロティムへの攻撃を始める。

クロティムは攻撃を避けながら、次々に奴らを爪で引き裂いていった。

 

「近づきさえ出来れば、大したことない相手だな」

 

ドロルリッチたちは簡単には死なないが、だんだんと弱っていく。

後ろの9体のメイジドラキーは炎を使うとドロルリッチを巻き込んでしまうので、今度は牙を使って、クロティムを攻撃しようとしていた。

ミノリたちはクロティムを援護するため、奴らへと近づいていく。

 

「ありがとうございます、クロティムさん。これであたしたちも魔物に近づけますし、援護しますね」

 

「助かるが、ミノリ、そなたは雄也のところに向かえ。あやつも多くの魔物に狙われている」

 

だが、クロティムはミノリに、俺のところに向かうように指示した。

俺はサブマシンガンでまた2体のドロルリッチを倒したが、まだ8体の魔物に狙われている。

このまま一人で戦い続ければ体力が尽きてしまいそうだが、ミノリの助けがあれば大丈夫だろう。

 

「分かりました。雄也さんにも、怪我はさせません!」

 

ミノリは俺のところに向かって来て、イルマとコレスタはクロティムを援護する。

もうすぐ後衛のリカントマムルたちがやって来るが、それまでになるべく魔物の数を減らしておこう。

ミノリは俺と戦っているドロルリッチの背後に来ると、持っている剣を思い切り突き刺した。

背後から攻撃を受けて、そのドロルリッチは動きを止める。

 

「助かった、ミノリ。後衛の魔物が来る前に、こいつらを倒すぞ」

 

俺はミノリの攻撃を受けた奴にはがねの弾丸を連射し、とどめをさしていった。

残った7体の魔物のうち、2体のドロルリッチと2体のメイジドラキーは攻撃対象をミノリへと変える。

残りは今まで通り俺の接近を防ごうと毒液と火炎を放って来たが、3体くらいなら避けながら接近することも十分可能だ。

俺はサブマシンガンを撃ちながら、ドロルリッチたちへと接近していった。

そして、近接武器での攻撃が届く位置まで来ると、俺はおうじゃのけんとビルダーハンマーに再び持ち替え、力強く叩きつける。

 

「やっと近づけたな…厄介な奴らだったけど、俺たちの町を壊させはしない」

 

伝説の武器での攻撃を受ければドロルリッチも大ダメージを受けるようで、怯んで動きを止めた。

接近された奴らは体当たりで攻撃して来ようとするが、攻撃速度はあまり早くない。

俺は回避してドロルリッチたちの側面にまわり、次々に斬り刻んでいく。

近接武器での連続攻撃を受けて、俺と戦っていた2体のドロルリッチは青い光に変わっていった。

 

「倒したか…これでドロルリッチの数も減って来たな」

 

ドロルリッチは死に際に、金色のねばつく液体を落としていく。

素材として使えるかもしれないが、回収は後にしよう。

奴らを倒すと、俺はミノリと戦っているドロルリッチも倒しに行こうとする。

だが俺のところには、1体のメイジドラキーと3体のリカントマムルも迫って来ていた。

 

「後衛の奴らも来たか…回転斬りを使って、一気に薙ぎ払おう」

 

ここで回転斬りを使えば、奴らにも大ダメージを与えられるだろう。

俺はミノリと戦っているドロルリッチの背後にまわり、腕に力を溜め始める。

近づいて来たリカントマムルたちは、爪で俺を斬りつけようとしていた。

 

「その武器…お前はビルダーだな。2度とエンダルゴ様に逆らえぬよう、バラバラに引き裂いてやる!」

 

「我らに屈するがいい、ビルダー!」

 

リカントマムルたちは、俺がビルダーであることに気づいたみたいだな。

俺の武器に関する情報は、もう多くの魔物に知れ渡っているのだろう。

奴らはリカントマムルと言えども強そうだが、俺は屈するつもりはない。

魔物たちが至近距離にまで入って来ると、俺は腕の力を解放して、奴らを薙ぎ払った。

 

「回転斬り!」

 

二刀流での回転斬りが直撃し、ミノリと戦っていたドロルリッチとメイジドラキーは倒れ、リカントマムルも重傷を負う。

メイジドラキーは魔法は強力だが、耐久力は普通の奴と変わらないみたいだな。

リカントマムルは怯んでも何とかすぐに体勢を立て直し、俺を攻撃し始める。

 

「おのれビルダー…!いきなりこんな技を…!」

 

「あんたたちがどれだけ強くても、俺は復興をやめないぞ」

 

リカントマムルの爪には混乱させる効果があり、気をつけなければいけない。

しかし、奴らは3体とももう瀕死なので、苦戦せずに倒すことが出来るだろう。

俺は爪を避けながら両腕の武器を振り下ろし、残った体力を削り取っていく。

しばらく攻撃を続けて、俺は爪を受けることなく、リカントマムルたちを倒すことが出来た。

 

「これでリカントマムルも倒すことが出来たし、あとはキャタビウスだけだな」

 

ミノリもリカントマムルを1体倒し、魔物の数は残り少なくなって来ている。

そんな魔物たちを追い詰めた俺とミノリのところに、今度は5体のキャタビウスが迫って来た。

キャタビウスもドロルリッチと同様に、キャタピラーより強力な技を使って来るかもしれない。

慎重に戦って、怪我をしないようにしないとな。

キャタビウスたちは近づいて来ると、俺たちに向かって回転しながら突進して来る。

 

「回転突進か…キャタピラーでも見た技だな」

 

この突進はキャタピラーも使っていたし、避けるのは慣れている。

キャタピラーより回転速度が早く、マヒの森の巨大キャタピラー以上だったが、ジャンプを繰り返すことで回避することが出来た。

勢いよく突進したキャタビウスたちは、リムルダールの町の建物にぶつかる。

この隙に攻撃しようと、俺は奴らに近づいていった。

 

だが、キャタビウスは町の建物にぶつかっても動きを止めず、回転の向きを変えて俺のところに突進して来る。

 

「くっ、壁にぶつかっても動きが止まらないのか…!」

 

あんな勢いでぶつかったら反動で動けなくなりそうだが、キャタビウスは平気なのか。

俺は再び連続でジャンプして、奴らの突進をかわす。

すると、さすがに永遠に回転し続けることは出来ないようで、今度は動きが止まった。

だが、高速で回転するキャタビウスを全て避けるのは体力を使うので、早めに決着をつけなければいけなさそうだ。

 

「早く倒さないと、俺の力が尽きるな…」

 

俺は動きが止まったキャタビウスの群れに近づき、腕に力を溜める。

そして一気に倒そうと、俺は奴らを薙ぎ払い、斬り裂いていった。

 

「早く決着をつける、回転斬り!」

 

二刀流での回転斬りを受けてもキャタビウスは倒れなかったが、かなりのダメージは与えられたはずだ。

大きく怯み、体勢を立て直すまでの時間も長くなったはずだ。

 

「あたしも手伝いますね、雄也さん」

 

ミノリも5体のキャタビウスを次々に斬りつけていき、弱らせていった。

このまま行けば、もう一度回転斬りを当てれば倒すことが出来そうだ。

しかし、5体のキャタビウスと戦っていた俺たちのところに、隊長の巨大キャタビウスもやって来てしまう。

 

「まずいな、隊長の巨大キャタビウスが来てる…」

 

その前に5体のキャタビウスを倒そうとしたが、もう巨大キャタビウスは回転突進攻撃を行ってきた。

奴の回転速度は非常に早く、その上巨体なので、大きくジャンプしても避けるのは難しい。

俺は一度目の回転は大ジャンプで避けることが出来たが、二度目は避けられなかった。

 

「さすがに避けきれないな…」

 

俺は両腕の武器に力をこめて奴の攻撃を受け止めようとするが、あまりに衝撃が強く、直撃こそ避けられたものの全身に激痛が走り、武器を落としてしまう。

 

「くっ…!何て力なんだ…」

 

だが、巨大キャタビウスの動きも止まったので、俺は急いで武器を拾って腕に力を溜める。

ここで痛みに耐えて攻撃しなければ、奴を倒すことは出来ないだろう。

俺は腕に力が溜まると垂直に飛び上がり、両腕の武器を叩きつける。

 

「飛天斬り!」

 

両腕を痛めた直後での飛天斬りなのでいつもほどの力は出なかったが、かなりのダメージは与えられただろう。

しかし、飛天斬りを放っている間に5体のキャタビウスも起き上がり、とどめをさす前に巨大キャタビウスも攻撃を再開してしまった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode169 大魔導の追跡

体勢を立て直した6体のキャタビウスは、今度は俺たちを尻尾の針で突き刺そうとして来る。

キャタピラーの針と同様麻痺効果があるだろうから、絶対に当たらないようにしないといけないな。

巨大キャタビウスの針は非常に大きいが、俺たちはジャンプで回避し続けて、手に持つ武器を叩きつけていく。

 

「俺の体力も限界だけど、こいつらももうすぐ倒れそうだな」

 

起き上がられたとは言え、普通のキャタビウスはさっきの回転斬りのダメージもあり、もう瀕死になっていた。

これ以上の戦いが続けば、俺は力尽きてしまうことだろう。

俺は残った力を腕にこめて、キャタビウスたちにさらなるダメージを与えていく。

 

「強い敵ですけど、あたしも負けません!」

 

ミノリも奴らにとどめを刺そうと、剣を振り続けていった。

そして、俺たちの連撃を受け続けて、キャタビウスたちは光に変わって消えていく。

 

「何とか倒したか…これで後は、隊長のキャタビウスだけだな」

 

これで手下のキャタビウスが倒され、俺たちの前にいるのはもう隊長の巨大キャタビウスだけだ。

奴も飛天斬りで弱っており、もう少しで倒すことが出来るだろう。

コレスタたちも他のキャタビウスやリカントマムルと戦っており、もうすぐ戦いに勝つことが出来そうだ。

しかし、巨大キャタビウスと決着をつけようと武器を振り下ろしていると、奴は急に体を横に曲げた。

 

「ん…?何をするつもりなんだ?」

 

回転突進の予備動作も体を縦に曲げるものであり、横に曲げるのは見た事のない動きだ。

何をするのかと警戒しながら攻撃していると、突然巨大キャタビウスは体を横に1回転させ、俺たちを薙ぎ払おうとして来る。

回転斬りのような広範囲の攻撃であり、攻撃速度も非常に早い。

俺はすぐに反応して両腕の武器で受け止めようとしたが、さっきの攻撃の痛みのせいで耐えきれず、突き飛ばされてしまった。

 

「くっ…こんな回転攻撃も使って来るのか…」

 

巨大キャタビウスは強敵だが、こんな技まで持っているとはな…。

全身を地面に叩きつけられ、俺の体中に激しい痛みが走る。

ミノリも回転攻撃を受けて、動けなくなっているようだった。

大きなダメージを負った俺を見て、キャタビウスは回転突進の予備動作を取る。

 

「このままだと、潰されるな…」

 

巨大キャタビウスの回転突進をまともにくらえば、俺の体は潰されてしまうだろう。

でも、俺は何とか立ち上がろうとするが、体に力が入らない。

そして力を溜め終えると、抵抗する術を持たない俺のところに、奴は高速で回転して突進して来た。

 

だが、巨大キャタビウスは俺のところにやって来る前に、突然動きが止まる。

何が起きたのかと思っていると、クロティムが再び飛び上がって爪を振り下ろし、奴を引き裂いたようだった。

 

「大丈夫か、雄也。そなたはわしをこの町に連れてきて、戦いの援護もしてくれた。今度はそなたの危機を、わしが助けよう」

 

巨大キャタビウスは大きく怯み、クロティムはそう言いながら奴の顔に拳を叩きつける。

彼はとても力強いし、リムルダールの町の仲間に出来て本当に良かったぜ。

クロティムの助けがなければ、俺はキャタビウスに潰されていたところだろう。

 

「ありがとう、危ないところだったぜ」

 

「助かりました、クロティムさん!」

 

俺もミノリも、クロティムに感謝の言葉を言った。

彼は巨大キャタビウスを何度も殴り、爪で斬り裂き、生命力を削っていく。

巨大キャタビウスが追い詰められると、クロティムは今まで以上に大きく力を溜めて、高く飛び上がった。

 

「わしを助けてくれた人間の町…決して壊させはせん」

 

クロティムは5メートル以上飛び上がり、彼の渾身の一撃が巨大キャタビウスの体をえぐっていく。

弱っていたところに強力な攻撃を受けて、奴は力尽きて消えていった。

コレスタたちも他のリカントマムルとキャタビウスにとどめをさし、リムルダールの町を襲った魔物は全て倒れたことになる。

 

リムルダールの防衛戦が終わると、俺はクロティムに改めて感謝した。

 

「改めて言うけど、本当に助かったぜ、クロティム」

 

「そなたのおかげでわしは生き延び、一部ではあるが弟子たちの仇を討てた。当然のことをしたまでだ」

 

クロティムはそう言うが、感謝の言葉を言わずにはいられない。

これからも魔物が現れた時は、クロティムと共に町を守って行こう。

ひとまず戦いは終わったので、俺はポーチに残っていた白花の秘薬を飲んで傷を癒そうとする。

サンデルジュの白い花から作られたこの薬は非常に効果が高く、体中の痛みが少し消えていった。

 

「戦いは終わったし、今度こそ赤いとびらの先の地域に向かうか」

 

今日はまだ夕暮れまで時間があるし、これからまだ探査していない水没した密林に向かおう。

いつもなら一晩休んで傷を癒そうとするが、ゆっくりしている暇はない。

邪毒の病を治すためにも、何としても残りの仲間を見つけないといけないな。

 

「俺はこれから、まだ見つかっていない仲間を探して来る。ピリンたちにも、そのことを伝えておいてくれ」

 

全身の痛みが少なくなると俺は立ち上がれるようになり、俺はみんなにそう伝える。

戦いのダメージを負ったまま探査に向かうので、ミノリたちは心配そうな顔になった。

 

「怪我してるのに、大丈夫なんですか?」

 

確かにこの状態で魔物に見つかってしまえば、危険な状態になるだろう。

だが、俺は今までずっと魔物から隠れながら探査して来たし、今回も見つかる気は無い。

必ず無事に、仲間たちを連れてこの町に帰って来てやるぜ。

 

「確かに大変だけど、早くみんなを見つけたい。気をつけて行って来るから、心配しないでくれ」

 

ミノリにそう告げると、俺は町を離れて魔物たちから隠れながら岩山を越えていく。

白花の秘薬を使っても一瞬で怪我が治るわけではないので、残った痛みのせいで歩くのが遅くなっていた。

それでも俺は20分くらいで岩山を越えることができ、小舟に乗っていく。

小舟に乗ると、俺は世界地図を見ながら、水没した密林の地域に向かっていった。

 

1時間くらい漕ぎ続けて、俺の目の前に大きな山が見えて来た。

崖には赤い宝石や銀の鉱脈があり、山の上には小麦やブナの木が生えている。

世界地図によると、これは赤の旅のとびらを出たところのまわりにあった山だ。

この山を越えれば、水没した密林にたどり着くことが出来るだろう。

だが、俺はその山を登る前に、気になる場所を見つけた。

 

「あんなところに小さな洞窟があるな…」

 

海に面した崖のところに、幅が1メートル、高さが2メートルというとても小さな洞窟があったのだ。

自然に出来た洞窟ではもっと大きい物が多く、人工洞窟のようにも見える。

もしかしたら、リムルダールの町から逃げた仲間たちが掘った物なのかもしれないな。

 

「誰かいるかもしれないし、あの洞窟を調べておくか」

 

俺は山の下に上陸すると、その洞窟に向かって歩いていく。

邪毒の病にかかっている仲間かもしれないし、早く見つけないとな。

洞窟は明かりがなく、俺は暗い中を歩いていった。

しばらく歩き続けると、町の寝室くらいの大きさの空間が見えてくる。

その空間に入ろうとすると、中から突然剣を持った人影が現れ、大きな声を出した。

 

「誰だ!?魔物か?」

 

この声は確か、リムルダールの男兵士の、エディだ。

やっぱりこの洞窟はエディが掘った、人工洞窟みたいだな。

エディは俺に顔を近づけると、とても驚いた表情をする。

 

「お前はまさか、雄也か!?何でこんなところに?」

 

エディも、俺がリムルダールに戻って来るとは思わなかったようだ。

彼がそんな声を上げると、奥の空間からもう一人の人影が見えてくる。

 

「戻って来てたのかい、雄也」

 

リムルダールの町の浄化のふんすいを考えてくれた女性の、ケーシーだ。

二人とも邪毒の病にもかかっておらず、元気そうだった。

俺は驚いている二人に対して、リムルダールに戻ってきた理由を話す。

 

「アレフガルド中に新種の魔物が現れて、リムルダールが心配になったんだ。ルビスが死んで光のとびらは使えなくなったけど、小舟って乗り物で海を渡って来た」

 

「精霊ルビスが死んだ…突然見た事のない魔物が来たと思ったら、そんなことになってたのか…」

 

エディも、世界を創造した精霊が死んだなんて思いもしなかったようだな。

ルビスが死んだことで、アレフガルドの光は完全に消え去り、闇の力の増幅に歯止めがかからなくなっている。

二人もリムルダールの町を立て直したいと思っているだろうから、戻って来ないかとも聞いた。

 

「ああ…。リムルダールの町も暗黒魔導に壊されたみたいだけど、俺たちで立て直している。暗黒魔導も必ず倒すつもりだし、町に戻って来ないか?」

 

二人の力もあれば、リムルダールの2度目の復興はさらに達成に近づくだろう。

暗黒魔導の奴も、必ず俺たちで倒してやる。

 

「オレも暗黒魔導は許せねえし、あの町に戻りたい。その小舟とやらに乗るのか?」

 

「ああ。大体1時間くらいで、リムルダールの町の近くに着く。4人乗りだから、ケーシーも一緒に行けるぞ」

 

「それならあたいも行くよ。またきれいな町になるよう、精一杯協力するよ」

 

エディとケーシーも町に戻りたいと言い、これでリムルダールの町の仲間は大体集まって来たな。

後はエル、ゲンローワ、ケンの3人だけであり、彼らは緑の旅のとびらの山岳地帯にいるのかもしれない。

二人をリムルダールの町に届けたら、あの場所にも向かってみよう。

 

「それなら、さっそくリムルダールの町に向かうぞ。ついて来てくれ」

 

「いや、少し待ってくれ。心配なことがあるんだ」

 

しかし、リムルダールの町に向かう前に、エディは何か気になることがあるようだ。

 

「どうしたんだ?」

 

「実はオレたちの他に、もう一人ここに逃げて来た人がいるんだ。お前は会ったことないけど、マロアって女だ」

 

エディたちの他にも、赤の旅のとびらに逃げ込んだ人がいたのか。

マロアもコレスタと同様、俺がマイラに向かった後にエルたちに治療されたのだろう。

でも、どうしてマロアは、エディたちと一緒にいないのだろうか。

 

「そんな人がいたのか。どうしてあんたたちと一緒にいないんだ?」

 

「昨日まであたいたちと一緒だったけど、食べ物を集めにいった時、暗黒魔導の手下の黄色い魔物が密林の奥の岩山に向かうのを見たらしくて、一人で調べに行ったんだ。あたいは止めたけど、大丈夫って言って聞かなくてね」

 

「一日経っても戻って来ないから、心配なんだ」

 

俺が聞くと、ケーシーは一人で岩山を調べに行ったと答える。

黄色い魔物とはだいまどうのことだろうし、この地域に暗黒魔導の拠点があるのかもしれないな。

昔ウルスの研究所に向かう時に岩山を通ったし、そこを調べに行ってくるか。

会ったことのない人だが、リムルダールの町の仲間には変わりない。

 

「分かった。マロアを探しに行ってくるけど、あんたたちは先にリムルダールに行くか?」

 

「行ったり来たりしてたらお前も大変だと思うし、後でいいぜ」

 

エディたちは、マロアを見つけてからリムルダールの町に戻ると言った。

緑の旅のとびらの先を探索する時間がなくなってしまうが、町の仲間を見捨てるわけにはいかない。

 

「じゃあ、マロアを探しに行ってくる。見つかったら、すぐに戻って来るぜ」

 

そう言うと俺はエディたちの掘った洞窟を出て、山の上に登って行く。

山の上には敵のリリパットや土に擬態したボックススライムがいたが、見つからないように進んでいった。

 

15分くらいかけて歩いて行くと、俺は水没した密林にたどり着く。

 

「岩山は密林の奥だから、濡れるのを我慢しないといけないな」

 

岩山は密林を越えた先にあり、向かうためには水没した場所を進んでいかなければいけない。

腰まで水につかってしまうが、仲間を見つけるためだから仕方ないか…。

俺は山を降りていき、密林の中を進もうとする。

山を降りる途中、俺は見たこともない紫色の宝石の鉱脈があるのも見つけることが出来た。

 

「見た事のない宝石だな…これは、赤い宝石が変化しているのか」

 

ビルダーハンマーで殴っても壊れない硬さであり、恐らくは赤い宝石が変化したものなのだろう。

まほうの光玉を使えば採掘出来るだろうが、今は必要ないので、俺は密林の方に急ぐ。

すると、密林の中にも新種の魔物が生息しているのが、多数見かけられた。

 

「キラークラブにまかいじゅか…ここも新種の魔物だらけだな…」

 

ぐんだいガニの最上位種であり、茶色の甲殻に覆われた蟹の魔物であるキラークラブや、じんめんじゅの上位種であり、黒い体を持った木の魔物であるまかいじゅが見かけられる。

どちらも強力な魔物だろうし、俺は今はけがをしている…絶対に見つからないよう、俺はいつも以上に慎重に進んでいった。

20分くらいで渡りきれる密林を、30分以上かけて歩いていく。

 

そうしてゆっくり進んでいくことで、俺は魔物に見つからずに岩山の近くにたどり着くことが出来た。

 

「そろそろ岩山か…マロアはどこにいるんだ?」

 

岩山の近くに着くと、俺は人の姿がないか辺りを見回していく。

だが、なかなか見つけられなかったので、俺はそこにいるメイジキメラから隠れながら、マロアを探していった。

途中、岩山に出来た洞窟もあったので、その中にも入っていく。

 

「洞窟か…この中に隠れていたりしないか?」

 

その洞窟はエディたちがいたところと違い、自然に作られたものなので、入り口も大きく、奥行きもあった。

魔物から隠れるために奥まで入った可能性もあるので、俺は洞窟の隅々まで見てまわる。

しかし、そこでもマロアの姿を見かけることは出来なかった。

 

「奥まで探したけど、ここにもいないか…。あの建物はどうだ…?」

 

俺は洞窟を出ると、岩山の近くにある建物のところにも向かっていく。

昔は鍵がかかっていたが、俺が開けて、かいしんのゆびわを入手した場所だ。

その建物の中は宝箱以外に何もないが、隠れることは出来るだろう。

俺は入り口のとびらを開けて、建物の中を覗いていく。

 

すると、建物の奥の方に、倒れている人の姿を見かけることが出来た。

ケーシーの色違いのオレンジ色の服を着ている、斧を持った女だ。

一人で魔物の拠点を調べに行くくらいだから戦闘は得意そうだし、この人がマロアなのだろうか。

俺はその人に近づいて、話しかけた。

 

「あんたがマロアか?ケーシーたちが探してたぞ」

 

「確かにワタシはマロアだけど…キミは?」

 

マロアの顔は黒紫色になっており、邪毒の病に感染しているようだった。

昨日は元気だったようだが、探索している間に発症してしまったのだろうか。

俺はマロアにいつもの自己紹介をした後、リムルダールの町に連れて行こうとする。

 

「みんなから聞いたことはあると思うけど、俺はビルダーの影山雄也。いつもは雄也って呼んでくれ」

 

「気になっていたけど、キミが雄也なのね…。この辺りの岩山に魔物が向かうのを見て、暗黒魔導の居場所を突き止めようとしてたんだけど、途中で体調が悪くなって…何とかここまで来たけど、二人のところに戻れなくて」

 

やっぱり魔物の拠点の調査中に、邪毒の病に感染してしまったようだな。

魔物の拠点の、だいたいの場所は突き止めることが出来たのだろうか。

 

「魔物の拠点の場所は、突き止めることが出来たか?」

 

「いいえ…この辺りのどこを探しても、入り口は見つからなかった」

 

だいまどうがここに来たということは、この辺りに魔物の拠点があるのは間違いなさそうだが、見つからなかったのか。

そんなに探しても見つからないのならば、暗黒魔導が魔法の力で、拠点を見つかりにくくしているのかもしれないな。

町の仲間をみんな集めたら、改めて探しに来よう。

 

「じゃあ、俺がまた後で探しに行く。あんたはリムルダールの町で、ゆっくり休んでくれ。町は暗黒魔導に壊されたけど、俺たちが作り直しているんだ」

 

「そうだったの…ワタシはもう歩けないから、キミが背負って…」

 

町にはマロアの分の草のベッドもあり、すぐに休ませることが出来そうだ。

これで町にいる邪毒の病の患者は5人となるが、何とかみんな助けてあげたいな。

 

「ああ、もちろんだ」

 

俺はマロアを背負うと、ケーシーたちの待っている人工洞窟に向かっていった。

水没した密林を越えて、小麦の生えている山を登っていく。

けがをした体で人を背負うのはかなりしんどかったが、俺は全身の痛みに耐えて、1時間くらいで洞窟にたどり着いた。

 

洞窟に入っていくと、エディたちは俺と背負われているマロアに気づく。

 

「戻って来たか。マロアを見つけて来たんだな、雄也」

 

「マロアは病気になってるようだけど、何があったんだい?」

 

ミノリたちと違い、ケーシーたちは邪毒の病について知らないみたいだな。

昨日は3人とも無事だったし、リムルダール中にこんな恐ろしい病気が流行っているとは、思いもしなかったのだろう。

 

「リリパットの里に逃げたみんなから聞いたんだけど、暗黒魔導はリムルダールの町を壊した後、邪毒の病っていう新たな病を振りまいたんだ。マロアは魔物の拠点を探している間に、感染してしまった」

 

「暗黒魔導の野郎、町を壊すだけでなく、そんなことまでしてたのか…!」

 

邪毒の病の話を聞くと、エディは暗黒魔導への怒りを抑えきれずそう言う。

俺もリムルダールの町を壊滅させ、多くの仲間たちを蝕んで来た暗黒魔導を必ず倒したい。

エディたちとも協力して、暗黒魔導や配下の魔物と戦い、邪毒の病を治療しよう。

 

「ああ。暗黒魔導を止めないと、リムルダールはまた滅びてしまうかもしれない。町に戻ったら、協力して奴らと戦って行こう。そろそろ夕方だし、出発するぞ」

 

エディやケーシーの力もあれば、戦いに勝てる可能性も上がるし、リムルダールの2度目の復興に役立つ物も作れるかもしれない。

俺はそう言うとマロアを背負って人工洞窟を出て、海に小舟を浮かべた。

エディとケーシーが乗り込んだのを見ると、俺も小舟に上がって漕ぎ始める。

もう夕方になっているが、今なら日暮れまでに帰ることが出来るだろう。

 

小舟を進ませ始めて1時間くらい経って、俺たちはリムルダールの町の東の岩山にやって来る。

エディたちは海に面した崖に洞窟を掘っていたのだから、岩山を登って町に帰ることが出来そうだ。

もうすぐ真っ暗になるので、急いで戻ろう。

 

「この岩山を越えたらリムルダールの町だ。もうすぐ夜だから、急ぐぞ」

 

俺たちは上陸すると、どくやずきんやキメラに気をつけながら、岩山を登っていく。

エディたちも俺の思っていた通り、難なく岩山を登れていた。

岩山を越えると、俺たちはドロルリッチに気をつけながら、リムルダールの町へと歩いていく。

20分くらいかかったが、俺たちは真っ暗な夜になる寸前に町にたどり着いた。

 

リムルダールの町に戻って来ると、俺はマロアを草のベッドに寝かせて、自分も体を休めようとする。

今日はもう夜になったが、明日こそエルとゲンローワを見つけたいな。

暗黒魔導を倒して邪毒の病を治療し、何としてもみんなでリムルダールの2度目の復興を達成させたい。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode170 救済者の帰還

リムルダールに戻って来てから3日目の朝、俺はさっそくまだ探索していない、緑の旅のとびらの先に向かおうとする。

一晩寝たことで、傷は治りきっていないものの、痛みはほとんどなくなっていた。

今日こそエルとゲンローワを見つけて、邪毒の病の治療法を見つけないとな。

 

「ノリンたちの症状も、どんどん悪化しているな…急いで治さないと」

 

ここまで持ちこたえて来たノリンたちも、衰弱が激しくなって来ている。

エルたちが薬を思いついたら、すぐに作らないといけないな。

俺はそう思いながら、リムルダールの町を出て、小舟に乗りに東の岩山へと向かっていった。

岩山を越えて海にたどり着くと、俺はポーチから小舟を取り出して乗り込む。

世界地図によると緑の旅のとびらの先の山岳地帯はここから南なので、俺はそちらに舟を漕ぎ始めていった。

 

45分くらい経って、俺の目の前に草木が生えていない岩だらけの山岳地帯が見えてくる。

山の上には墓石のような物も立っており、ゾンビの魔物がうろついていた。

 

「ここが緑の旅のとびらの先だな。相変わらず不気味なところだぜ」

 

かつて聖なるしずくを作るために訪れた、緑の旅のとびらの先の地域だ。

病に侵食されたリムルダールの中でも、ここはひときわ不気味だったな。

だが、不気味だからといって避けてはいられず、エルたちを探さなければいけない。

俺は山岳地帯に上陸すると、ゾンビたちから隠れながら探索を始めていった。

 

「ここには洞窟も多いし、みんなも洞窟の中かもしれないな」

 

ここは山岳地帯なので洞窟が多く、みんながいるとしたら洞窟の中だろう。

まだ見つかっていないエル、ゲンローワ、ケンの3人が、同じ場所にいるといいな。

俺は洞窟を見つけては中に入り、3人を探していく。

洞窟には希少な金属である金も多かったが、今は採掘せずにおいた。

俺が最初に調べた洞窟には誰もいなかったが、俺は他の場所も調べていく。

 

「ここは洞窟が結構多いけど、全部調べていくか」

 

どの洞窟でも一番奥まで進み、隅々まで調べていった。

土で出来た山だけでなく、世界樹の跡地を囲む岩山にある洞窟にも入っていく。

その探索の途中、俺は気になることがあった。

 

「ここにいたグールが、いなくなってるな…」

 

土の山と岩山の間の谷にいたはずの巨大グールが、いなくなっていたのだ。

かつての俺は巨大グールは危険だと思い、戦っていなかった。

もしかしたら暗黒魔導の手下に入り、リムルダールの町を襲って来る可能性もあるかもな。

そんなことも考えながら、俺は洞窟の探索を続けていった。

 

そして、岩山にあった洞窟の中で、俺はついに人の姿を発見する。

洞窟の中なので暗くてよく見えなかったが、近づいていくと、エルとゲンローワが立っており、ケンが倒れているのが分かった。

この3人を町に連れていけば、ついにリムルダールの仲間が全員揃う。

これでまたリムルダールの2度目の復興が近づくと思い、俺はエルとゲンローワに話しかけた。

 

「エル、ゲンローワ!ここにいたのか」

 

「あなたは、雄也様!?どうしてここに?」

 

「この地に戻って来ておったのか…!」

 

突然話しかけられて驚き、エルとゲンローワは俺の方に振り向く。

倒れていたケンも何とか頭を動かし、戻ってきた俺を見ていた。

ケンも体中が黒色に変色しており、邪毒の病にかかっているようだった。

俺が帰って来たことに驚きを隠せない3人に、俺はラダトームでエルと分かれた後、何が起こっていたかを話していく。

 

「ラダトームでエルと分かれた後、俺は世界を裏切った勇者の行方を追っていたんだ。そいつを見つけることは出来たけど、奴はエンダルゴという最強の存在を生み出し、さらにルビスを殺した。そのせいで、アレフガルド中に強力な魔物が現れ始めたんだ。それでリムルダールが心配になって、小舟っていう乗り物で戻って来た」

 

「希望のはたが朽ち果て、光の柱がなくなったのを見て嫌な予感はしておったが、本当に精霊ルビスは亡くなっておったのか…」

 

ゲンローワは世界に起きた異変を見て、ルビスが死んだことに感づいてはいたようだ。

ずっと俺たちを見守ってくれたルビスが死ぬことになるとは、俺は最初思ってもいなかった。

壊されたリムルダールの町を作り直していることも、俺はエルたちに伝えた。

 

「リムルダールの町は暗黒魔導に壊されたみたいだけど、俺たちが直している。バラバラになったみんなも、ほとんど集まっているぞ」

 

「ケン様の様な病を患った方も、いらっしゃいましたか?」

 

「その病のせいでリリパットの里とリカント道場は壊滅して、ノリンたちも感染している。町を破壊した後に暗黒魔導が振りまいた、邪毒の病って奴だ」

 

俺はエルに、邪毒の病による被害状況も話した。

一つの病がここまでの速度で拡散するなんて、かつてのリムルダールでもなかったことだろう。

 

「そうでしたか…私たちの町を壊すだけでなく、病まで振りまくなんて、なんて憎らしい…!」

 

暗黒魔導が邪毒の病を振りまいたのを知ると、エルはさっきのエディのように、強い怒りの声を上げる。

昔からリムルダールを救おうと必死になっていたエルは、特に暗黒魔導が許せないだろう。

邪毒の病を治療するためにも、リムルダールの町に戻って来て欲しいと、俺は二人に頼んだ。

 

「邪毒の病を治すためにも、二人にリムルダールの町に戻って来て欲しい。たくさんの病を治療して来た二人なら、必ず邪毒の病も治せると思うんだ」

 

「もちろん行きます。病に苦しむ人々を見過ごすなんて、私には出来ませんから」

 

力のある限り病に苦しむ人々を助けたいというエルの思いは、今も全く変わっていないみたいだな。

ゲンローワももう、病に抗うべきではないとは言わず、協力して薬を作ると答える。

 

「わしも病に抗うべきではないなどと言っておきながら、エルを見捨てられなかった身じゃ…例えそれが間違っていることでも、わしもお主らに協力し、邪毒の病と闘おう。ケンの症状を見て薬は考え始めておるから、少し時間があれば詳しい作り方も思いつくじゃろう」

 

「ありがとう、二人とも。ケンは俺が背負って行くから、小舟を使ってさっそくリムルダールの町に向かうぞ」

 

どうやらゲンローワは、もう薬を考え始めているようだな。

聖なるしずくを作ることはもう出来ないが、きっと別の治療法があるはずだ。

俺は二人の返事を聞くと、ケンを背中にかついで洞窟を出ていく。

ゾンビに気をつけながら俺たちは海へと向かい、海にたどり着くと小舟に乗ってリムルダールの町へと向かっていった。

 

45分くらい小舟を漕ぎ続けて、俺たちはリムルダールの町の近くにやって来る。

普段は岩山を越えてリムルダールに向かうのだが、年寄りのゲンローワが岩山を登るのは難しいのかもしれないな。

そこで俺は岩山のないところまで漕いでいき、そこでエルとゲンローワを下ろした。

 

「ここからは歩きだ。リムルダールの町はもうすぐだから、頑張ってくれ」

 

俺たちが上陸したのは、昔巨大ドロルを倒しに行く時に通った、枯れ木の森の近くだ。

ここからなら、山を通らずにリムルダールの町まで戻ることが出来る。

だが、ここにもドロルリッチがうろついているので、俺たちは慎重に進んでいった。

俺はケンを背負いながら歩いていたが、今までのように岩山を登り降りはしていないので、ほとんど疲れは感じない。

20分くらい歩き続けて、俺たちはリムルダールの町に戻って来ることが出来た。

 

エルとゲンローワ、ケンが戻って来たことで、はぐれたリムルダールの町の仲間たちは全員集まった。

壊れた建物も、コレスタたちによってもうほとんど修復されている。

戻って来たエルとゲンローワは邪毒の病の患者たちのいる部屋に入り、診察を始めた。

俺はケンを草のベッドに寝かせると、希望のはたの台座の近くに座って休む。

 

「町が壊れているのを見た時はどうなるかと思ったけど、みんな生きてて本当によかったな」

 

邪毒の病にかかった者もいたが、みんなを助けることが出来てよかったぜ。

壊滅した町を見た時は、みんな死んだのではないかとも思ってしまった。

メルキドに続いて、リムルダールの2度目の復興ももうすぐ達成出来そうだ。

俺は休みながら、そんなことを考えていた。

そうしてしばらく休んでいると、コレスタが話しかけて来る。

 

「雄也さん。少し相談したいことがあるんだ」

 

「どうしたんだ、コレスタ?」

 

リムルダールの発展に役立ちそうな物を、何か思いついたのだろうか?

そう思っていると、コレスタは昨日俺も考えていた、作業台の事について聞いてきた。

 

「みんなが戻って来たことだし、僕たちはもっとリムルダールの再建を進めようと思っている。でもそのためには、木の作業台が不可欠なんだ。いにしえの調合台と仕立て台も、この先必要になってくると思う。木の作業台を再入手する方法を、雄也さんは思いつかないか?」

 

コレスタの言う通り、リムルダールの町の再建には木の作業台が必要となる。

ビルダーの魔法を発動させるためにも使うので、俺にとっては特に重要な物だ。

いにしえの調合台も邪毒の病の薬を作るために、仕立て台も武器を作るために、必ず使うことになるだろう。

俺は作業台を再入手する方法がないか、必死で考え始める。

しばらく考え続けると、俺はとある場所に、木の作業台が置いてあったのを思い出す。

 

「そう言えば一つだけこの町以外に、木の作業台が置いてある場所がある。そこに行けば、手に入るかもしれないな」

 

「本当か!?それなら、この町の再建を進められる」

 

巨大ドロルがいた毒沼のまわりの山にあった、タルバのクイズ…あの場所に、木の作業台が置いてあったはずだ。

ここから歩いて行ける場所だし、すぐに取りに行くことが出来るだろう。

 

「ああ。この町からそんな離れていない場所だし、今から取ってくるぜ」

 

今日はまだ午前中なので、これから回収しに行って来よう。

俺はコレスタにそう言うと、木の作業台を手に入れにリムルダールの町から出ていった。

 

タルバのクイズに向かう途中、俺はいにしえの調合台を作るのに必要な、調合ツボを作るのに必要な素材も集めていく。

調合ツボの素材は土、粘土、あおい油であり、この地域でも集めることが出来る。

俺はまずあおい油を集めるために、町のまわりに生息するスライムを倒していった。

 

「スライムは楽勝だろうし、後ろから襲わなくても大丈夫か」

 

おうじゃのけんとビルダーハンマーがあれば、スライムくらい簡単に倒せるだろうから、俺は正面から殴りかかっていく。

スライムは俺の姿を見ると、体当たりで攻撃しようとしてきた。

だが、俺が思いきりハンマーで殴りつけると、スライムは一撃で倒れ、あおい油を落としていく。

調合ツボに必要なあおい油は1個だが、他の用途にも使う可能性もあるので、俺は何体かのスライムを倒していった。

かなりのあおい油が集まると、俺は今度は山に土と粘土を回収しに行く。

 

「あおい油はこれくらいで十分か…土と粘土も集めて、木の作業台を回収しよう」

 

土と粘土も、ビルダーハンマーを使えば一撃で破壊することが出来た。

こちらも様々な用途がありそうなので、回転斬りも使ってたくさん集めていく。

大量の土と粘土を集め終えると、俺はタルバのクイズのところに木の作業台を回収しに行った。

 

枯れ木の森を越えて、たくさんの薬草が生えている山を進んでいき、俺は45分くらいでタルバのクイズのところにたどり着く。

クイズの建物の中に入ると、そこにはやはり木の作業台が残っていた。

 

「やっぱりここには残っていたか…タルバに感謝しないとな」

 

タルバもこんな時に備えてここに木の作業台を置いた訳では決してないだろうが、本当に助かったな。

俺は回収する前に、さっき手に入れた素材を使って、調合ツボを作っていく。

調合ツボが出来ると、俺はビルダーハンマーで木の作業台を殴り、回収していった。

 

「これで木の作業台と調合ツボは手に入ったな。素材が集まったら、いにしえの調合台と仕立て台も作りに行こう」

 

いにしえの調合台と仕立て台を作るための素材はこの地域では集まらないので、また後で他の地域に行って、素材を集めて来よう。

まずは木の作業台を置いて来ようと、俺は木の作業台と調合ツボをポーチに入れて、リムルダールの町へと戻っていった。

帰り道も魔物に気をつけながら、また45分くらいで町に帰って来る。

 

リムルダールの町に戻って来ると、さっそくコレスタに木の作業台のことを教えに行った。

ビルダーの力を使うのでなければ、作業台がなくても物作りは出来るが、みんなも作業台があったほうが作りやすいだろう。

コレスタは建物にしっかりした草とふとい枝から作ったとびらを取り付けており、そこはちょうど、昔のリムルダールで工房があった場所だった。

 

「コレスタ、木の作業台を回収して来たぞ」

 

「ありがとう、雄也さん。僕も工房を立て直すため、入り口のとびらを作っていた」

 

木の作業台を手に入れたことを話すと、コレスタは嬉しそうな顔で感謝の言葉を言ってくる。

タルバのクイズの場所に木の作業台が残っていて、本当によかったな。

これで工房も再建出来たので、リムルダールの2度目の復興にまた一つ近づいただろう。

 

「こっちこそ、工房の修理を手伝ってくれてありがとう。さっそく中に、木の作業台を置いて来るぜ」

 

俺もコレスタに感謝して、修理された工房の中に入って、木の作業台を置いて来る。

昔の工房と同じようにするために、俺は町のまわりからふとい枝を集めて、収納箱も作っておいた。

 

工房を作り直してからしばらくして、俺は町の中でまた休んでいた。

これからまた素材を集めに他の地域に向かおうと思うが、ずっと動き続けるのは結構大変だ。

町のみんなを助け出せたことだし、いつも通り休みながら行こうと、俺は考えていた。

そうしていると、今度はヘイザンが俺に話しかけてくる。

 

「休んでいるところに悪いけど、少しいいか?」

 

「もちろんいいけど、何かあったのか?」

 

鍛冶屋ゆきのへの弟子であるヘイザンのことだから、何か武器についての話だろう。

リムルダールの魔物たちとの戦いの役に立つ、強力な武器だといいな。

 

「ワタシはサンデルジュで、メタルゼリーから出来たハンマーを考えていただろ?しばらく旅を続けて、メタルゼリーから出来た斧も思いついたんだ」

 

メタルゼリーから出来た斧か…俺は伝説の武器の二刀流なので使わないだろうが、斧使いのマロアに渡せば、魔物たちに勝てる可能性が上がりそうだ。

マロアが邪毒の病から回復したら、その斧を作ってあげよう。

俺はヘイザンに、メタルゼリーから出来た斧の細かい作り方を聞いていく。

 

「メタルゼリーで出来た斧か…魔物との戦いに役立ちそうだし、作り方を教えてくれ」

 

役立ちそうだと言うと、ヘイザンは嬉しそうな顔になり、さっそくメタルゼリーの斧の作り方を教え始めた。

俺はヘイザンの話を聞きながら、頭の中に形を思い浮かべていく。

形と作り方のだいたいのイメージが固まると、俺はビルダーの魔法で必要な素材を調べた。

 

メタリックアックス…メタルゼリー1個、さびた金属2個、木材1個 仕立て台

 

斧系の武器だから、作るのにはやはり仕立て台が必要みたいだな。

仕立て台があればコレスタたちの武器もメタルのけんに強化出来るだろうし、早めに作っておこう。

ヘイザンはメタリックアックスの他にも、様々な斧の作り方を教えてくれた。

 

バトルアックス…はがねインゴット1個、さびた金属2個 仕立て台

まじんのオノ…まほうインゴット1個、さびた金属2個、木材1個 仕立て台

 

これらの斧は今は必要なさそうだが、機会があったら作ってみたいな。

さらにヘイザンは、ビルダーハンマーにも匹敵するような強力な武器も考えていると話す。

 

「今考えているのはこのくらいだが、ワタシはビルダーハンマーにも及ぶような、強力な武器も考えている。作り方を思いついたら、すぐに教えるぞ」

 

それほど強力な武器なら、これからの戦いでも非常に役立っていきそうだ。

ヘイザンの鍛冶屋としての能力は、だんだん師匠のゆきのへに近づいている。

その武器を思いつくのも、ヘイザンなら必ず出来るだろう。

 

「今日は色々な教えてくれてありがとう。ヘイザンなら、その武器も必ず作れると思うぜ」

 

俺は感謝の言葉をヘイザンに言った後、そろそろ素材集めに行こうかと、リムルダールの町を出ていった。

 

俺はその日それから、仕立て台の素材となる木材や石材を集めるために、小舟で南国草原に向かった。

そこにはメタルスライムも生息しているので、メタルゼリーもいくつか回収していく。

大倉庫もあった方が便利だと思い、俺はブラウニーから毛皮も集めていった。

夕方にリムルダールの町に帰って来ると、俺は大倉庫と仕立て台をビルダーの魔法で作り、修理された部屋の中に置いていく。

それらを設置し終えると、明日はさびた金属やいにしえの調合台の素材を集めるために密林に向かおうと思いながら、俺は体を休めた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode171 止まらない侵蝕

エルたちを救出した翌日、俺はメタルのけんといにしえの調合台の素材を集めるために、水没した密林に向かっていった。

しりょうのきしからさびた金属を集め、鉱脈から銀を採掘していく。

いにしえの調合台にはきれいな水もいるので、浄化のふんすいを作るために必要なじゃり石や密林の葉も集めていった。

一度町に戻って浄化のふんすいを作ると、もう一度密林へと向かっていく。

町にあった水場は黒い毒沼と化しており、きれいな水は入手できないからな。

密林できれいな水も集めると、俺は木の作業台でいにしえの調合台を作り、みんなの分のメタルのけんも作っていく。

これでまた一歩リムルダールの2度目の復活に近づいたと、俺は思っていた。

 

だが、いにしえの調合台を作り直した翌日、リムルダールに戻って来てから5日目、俺は町に異変が起きているのに気づく。

今日は何をしようかと思いながら町の中を歩いていると、コレスタが倒れているのが見えたのだ。

もしかして、邪毒の病に感染してしまったのだろうか。

俺はコレスタに駆け寄り、声をかけてみる。

 

「コレスタ、どうしたんだ…!?」

 

「体中が火のように熱くて、苦しいんだ…どうやら僕も、邪毒の病になったようだ…」

 

コレスタは体は黒紫色に変化してきており、やはり邪毒の病に感染したようだ。

昔はルビスの加護のおかげで、希望のはたの光の範囲にいれば病になる可能性は低かった。

だが、ルビスがいなくなった今、どこにいても感染する可能性がある。

ひとまず俺はコレスタを病室で休ませようと、背中にかついでいった。

 

「町の中でも、やっぱり感染は防げないのか…部屋の外は寒いだろうし、ひとまずベッドのところに連れていくぜ」

 

「ありがとう、雄也さん…」

 

俺は病室のとびらを開けると、余っていたベッドにコレスタを寝かせる。

これ以上感染者が増える前に、何とか治療薬を作らなければいけなさそうだな。

みんなもコレスタも、それまで生き延びていて欲しい。

 

「もうすぐ薬が出来るから、それまで頑張ってくれ…」

 

俺はコレスタにそう声をかけると、ゲンローワの作業がどのくらい進んだか、聞きに行こうとする。

ゲンローワは昨日俺が作り直した、調合室にいることだろう。

もし俺に手伝えることがあるのなら、精一杯取り組まないとな。

 

しかし、ゲンローワのところに向かう前に、寝室の方からエルの大声が聞こえて来た。

 

「ケーシー様、クロティム様!しっかりしてください!」

 

まさかケーシーとクロティムも、邪毒の病に感染してしまったのか?

二人とも昨日は元気であり、リムルダールの発展に役立ちそうな物を考えていた。

俺は二人のことが心配になり、エルたちのいる寝室に入っていった。

 

「エル、何があったんだ?」

 

寝室ではエルの大声によって、さっきまで寝ていたみんなも起きている。

エルが見つめている方向には、苦しそうな声を上げているケーシーとクロティムの姿があった。

 

「お二人も、雄也様の仰っていた病に感染したようなのです。ベッドの上で、苦しそうな声を上げておられました」

 

俺は寝室を出る時にみんなの様子は見ていなかったが、二人がこんなことになっていたとはな。

ケーシーたちも体が変色して来ており、邪毒の病にかかってしまったようだ。

一日に3人も病を発症するなんて、思ってもいなかった事態だな。

 

「ケーシーたちもか…実はさっきコレスタも、邪毒の病に感染していたんだ。1度に3人も、患者が増えるとはな…」

 

「昨日は皆さん元気だったのに、どうしてこのようなことに…」

 

恐らくは俺たちが町を立て直しているのを見て、暗黒魔導が町に集中して毒素を振りまいたのだろう。

暗黒魔導を早く倒さなければ、リムルダールの町は全滅してしまうかもしれないな。

 

「多分、俺たちが町を立て直すのを止めるために、暗黒魔導が町に集中して病を振り撒いたんだと思う」

 

「暗黒魔導…そこまで私たちを苦しめるなんて…!」

 

俺たちを苦しめ続ける暗黒魔導に対して、エルは今まで以上に強く怒る。

マロアのおかげで大体の居場所は分かっているので、今から出かけて探して来よう。

リムルダールの町を壊滅させるほどの強敵だが、おうじゃのけんとビルダーハンマーの力があれば、決して倒せない相手ではないはずだ。

だが、今はとりあえず、ケーシーたちを病室に運ぶのが先だな。

 

「暗黒魔導の大体の居場所は分かってるから、後で探して、倒しに行ってくる。今はとりあえず、二人を病室に運ぼう」

 

「はい。私は、ケーシー様を連れて行きますね」

 

「ああ。頼んだぞ」

 

エルは返事をすると、ケーシーをかついで病室の方に連れていく。

俺はクロティムを連れて行きたいが、キラーリカントである彼を1人で運ぶのは無理なので、近くにいたエディとミノリに手伝いを求めた。

 

「クロティムは1人では運べない。エディ、ミノリ、手伝ってくれ」

 

「分かった。一緒に行こう」

 

兵士である2人の力もあれば、クロティムを病室まで連れて行けるはずだ。

3人で彼の体を持ち上げて、ノリンたちの寝ている病室に向かっていく。

 

3人ががりでもクロティムの体はかなり重かったが、何とか病室のベッドに寝かせることが出来た。

 

「負担をかけて、すまないな…」

 

「気にしないでいい。薬が出来るまで、今はゆっくり休んでくれ」

 

クロティムは負担をかけたと謝るが、俺たちは気にしていない。

最近町に来たとは言え、大事な仲間なんだし、ゆっくり休んで欲しいな。

クロティムを寝かせたのを見ると、エルは病室の奥の方で寝ていた、ノリンたちの様子について話してくれた。

 

「クロティム様を寝かせられましたか。私はみなさまの様子も見ていたのですが、ノリン様、セリューナ様、ザッコ様は衰弱が激しいようでした…オラフト様とマロア様も、症状が悪化し続けています」

 

5日以上前から邪毒の病に感染しているノリンたちは、もう限界が近いのだろう。

3人とももう、息をするのですらやっとの状態になっていた。

リリパットの中でも力強いオラフトも、このままでは長くは持たなさそうだ。

だが、昨日見た時はここまで症状は悪化していなかったので、これも暗黒魔導が毒素を町に集中させた影響かもしれないな。

 

「そうか…やっぱり、薬の開発と暗黒魔導の討伐を急がないといけないな」

 

ノリンたちのためにも暗黒魔導を倒し、症状の進行を遅らせないといけないな。

俺はこれから密林に向かい、岩山で奴の拠点を見つけに行こうとする。

 

だが、そう思っていたところに、外からゲンローワの大声が聞こえてきた。

 

「お主たち、大変じゃ!わしらの町に、多くの魔物が近づいて来ておる」

 

これから出発しようとしていたところなのに、魔物が襲って来たのか…。

邪毒の病にかからなかった俺たちを、暗黒魔導は始末しようとしているのかもな。

 

「こんな時に襲撃か…何とか倒して、暗黒魔導のところに行かないとな」

 

「はい。患者様を治すためにも、町を壊される訳にはいきません。戦いに向かいましょう!」

 

エルの言う通り、ノリンたちを治療するためにも、この町を壊される訳にはいかない。

俺はポーチからおうじゃのけんとビルダーハンマーを取り出すと、ゲンローワの待っている町の外へと飛び出していった。

エルも敵に投げつけるための、聖なるナイフを持っていく。

魔物が襲って来る方向である町の東に行くと、もう戦えるみんなが集まっていた。

 

「クロティムたちが倒れたから、戦えるのは6人か…」

 

クロティムたちが病に倒れたので、戦いに参加出来るのは俺、エル、ゲンローワ、ミノリ、エディ、イルマの6人だ。

この前の時よりは人数が多いが、その分敵もかなりの数だった。

しりょうのきしとメトロゴーストが16体ずつ、キラークラブとヘルゴーストが12体ずつ、まかいじゅが8体、巨大グールとキースドラゴンとだいまどうが1体ずつの、合計59体もいる。

この前はいなかった魔物もおり、気をつけなければならないだろう。

 

「あのグールとキースドラゴンは、緑の旅のとびらの先にいた奴みたいだな」

 

巨大グールが緑の旅のとびらの先からいなくなっていたのは気になっていたが、やはり暗黒魔導の手下となったようだ。

キースドラゴンも、聖なる草の保管庫にいた個体だろう。

世界中を巡って来た俺からしたら強敵ではないだろうが、油断はしないようにしないとな。

 

「暗黒魔導はいないみたいだけど、後で必ず倒しに行ってやる…」

 

もし今暗黒魔導が襲って来ていたのなら、ここで倒していただろうが、奴はこの町に邪毒の病を振りまくのに忙しいのだろう。

今すぐ戦えないのは残念だが、後で必ず倒しに行ってくる。

戦いの前に、ゲンローワはこう言った。

 

「暗黒魔導はおらぬが、かなりの魔物じゃ。じゃが、お主たちとなら、必ず勝てると思っておる」

 

「ああ、行くぞ!」

 

せっかくリムルダールの2度目の復興を進めて来たのだから、ここで負ける訳にはいかない。

ゲンローワに返事をしている間に、魔物たちはリムルダールの町にどんどん近づいて来る。

俺が参戦する中では6回目の、リムルダールの町の防衛戦が始まった。

 

魔物の群れの中でまず、16体のメトロゴーストたちが俺たちに迫って来る。

奴らはリムルダールの町に近づいて来ると、メラの魔法を唱えて攻撃してきた。

俺たちは奴らの詠唱の動きを見ながら、火球をかわしていく。

メトロゴーストは防御力は高くなさそうなので、剣で斬って倒そうと、だんだん近づいていった。

 

「メラは詠唱時間があるし、避けるのはそんなに難しくないな」

 

メラの火球はあまり大きくなく、詠唱時間もあるので、避けるのは簡単だ。

この前のドロルリッチの時より近づきやすく、俺たちはすぐに距離を詰めていった。

その上奴らはエルの投擲攻撃により、何体かが動きを止めている。

 

「私が動きを止めますから、皆さんはその間に攻撃してください!」

 

「聖なるナイフでは、ゴースト系の魔物も麻痺するのか」

 

聖なるナイフでゾンビの魔物が麻痺することは知っていたが、ゴーストにも効果があったとはな。

メトロゴーストの後ろにいるヘルゴーストやしりょうのきしの動きも止められそうだし、エルが聖なるナイフを持っていてよかったぜ。

多くのメトロゴーストの動きが止まると、両腕の武器を振り上げていく。

そして、動けなくなった奴らを、俺たちは次々に斬り裂き、叩き潰していった。

 

「数は多いけど、動きを止めれば苦戦しないな」

 

まだ麻痺していないメトロゴーストは、俺たちを殴って攻撃して来ようとする。

攻撃速度は少し早かったが、武器を持っての攻撃ではないので、そんなに威力は高くない。

そこで俺は攻撃を両腕の武器で弾き返し、空中に浮いている奴らを地面に叩き落とした。

 

「攻撃もそんなに高くないし、このまま倒せそうだぜ」

 

地面に叩き落とされた衝撃で、メトロゴーストたちは動きを止める。

奴らもすぐに起き上がろうとするが、俺はその前に連続で斬りつけた後、思い切りおうじゃのけんを突き刺し、とどめをさしていった。

みんなも、俺が昨日作ったメタルのけんを使い、メトロゴーストたちを倒していく。

数が減って来たメトロゴーストは、後衛に撤退しようとしていた。

 

「逃がしません!」

 

だが、エルは逃げようとしていたメトロゴーストにも聖なるナイフを投げつけ、体を麻痺させる。

ゲンローワたちの近くにいた奴に対しても、みんなに当たらないようにしながら、正確にナイフを投げつけていった。

俺たちは体が麻痺したメトロゴーストに近づき、追撃を加えていく。

3体の奴らには後衛にまわられてしまったが、だいたいは倒すことが出来た。

 

「13体メトロゴーストを倒せたか…次はキラークラブだな」

 

3体のメトロゴーストが撤退した後、俺たちの前にキラークラブが出てくる。

奴らは攻撃力も防御力も高いので、より気をつけないといけないだろう。

慎重になりながら、俺はキラークラブたちに近づいていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode172 治療者への刺客

キラークラブたちは近づいて来ると、俺たちに向かってハサミを振り下ろして来る。

俺のところには、2体の奴らが迫って来た。

ハサミはかなり攻撃力が高そうだし、受け止めきれるか分からないな。

動きはそこまで早くなかったので、俺は回避してキラークラブの横にまわり、両腕の武器を叩きつける。

 

「攻撃力は高そうだけど、動きは簡単に見切れるな」

 

伝説の武器なので硬い甲殻を突き破り、確実にダメージを与えられた。

みんなもメタルのけんを使って、奴らに少しずつ傷をつけていく。

2体くらいなら、同時に相手しても問題なさそうだ。

キラークラブたちはハサミを振り回して薙ぎ払って来ようともするが、ジャンプで回避することが出来た。

 

「薙ぎ払い攻撃も使えるのか…でも、何とかかわせたな」

 

俺は薙ぎ払い攻撃を避けると、その後の隙にさらなる攻撃を叩きこんでいく。

奴らは生命力も高いようでまだ倒れる気配はないが、このまま攻撃を続ければ勝てそうだ。

俺たちがキラークラブを追い詰めているのを見て、後ろのヘルゴーストにも動きがあった。

 

「ヘルゴーストたちも近づいて来たか…でも、メトロゴーストと強さは対して変わらないだろうし、同時に戦えそうだぜ」

 

だが、奴らもそこまで強い魔物ではないだろうし、キラークラブと一緒に戦っても大丈夫そうだ。

俺はヘルゴーストの動きも見ながら、キラークラブを攻撃していく。

しかし、ヘルゴーストたちは俺たちに近づいて来ると、殴って来るのではなく、魔法を唱え始めた。

 

「キラークラブを巻き込むのに、魔法を使うのか…?」

 

俺たちに向かって炎の魔法を放てば、キラークラブを巻き込んでしまうはずだ。

奴らは移動速度が早い魔物ではないので、炎の範囲から逃げられないだろう。

でも、何をしているんだと思っているうちに、ヘルゴーストたちは呪文を唱え終わる。

そして放たれたベギラマの炎は、キラークラブをも巻き込んで俺たちを焼き尽くそうとしてきた。

 

「本当に炎を放ってきたか…」

 

キラークラブも特に炎を回避しようとはせず、俺にハサミを叩きつけ続ける。

俺はハサミとベギラマを同時に避けるために、大きくジャンプした。

回避した後キラークラブの方を見ると、ほとんど炎ではダメージを受けていないようで、俺へまた近づいて来る。

 

「巻き込まれても大丈夫なほど、こいつらは硬いのか…」

 

どうやら奴らの硬い甲殻が、ベギラマの炎を防いだようだ。

ヘルゴーストたちもこれが分かっていて、魔法を使ったのだろう。

もしおうじゃのけんやメタルのけんがなければ、甲殻を貫くのにかなり苦戦したかもしれないな。

ジャンプした後は俺はすぐに立ち上がり、キラークラブへの攻撃を再開する。

 

「こいつらも少しは弱っているし、早めに倒そう」

 

ヘルゴーストのベギラマを避けながら戦い続けるのは大変だろうし、早めにキラークラブを倒さないとな。

俺は奴らの側面にまわっていき、ヘルゴーストの動きにも注意しながら、両腕の武器を叩きつけていった。

ヘルゴーストたちがベギラマを唱えた時には、またジャンプをして避けていく。

みんなも炎に焼かれないようにしながら、キラークラブを斬り刻んでいった。

奴らの甲殻が大きく破壊されていくと、ヘルゴーストたちはベギラマの詠唱を止める。

 

「ベギラマが止まったな…今のうちにたたみかけよう」

 

甲殻が壊された状態でベギラマを放てば、キラークラブたちに大きなダメージになるからだろう。

ヘルゴーストたちの代わりに、今度は後ろにいたしりょうのきしとまかいじゅたちが近づいて来る。

俺のところには、2体のまかいじゅと3体のしりょうのきしが迫っていた。

俺は大量の魔物に囲まれないために、奴らが来る前にキラークラブを倒そうとする。

 

「攻撃力も弱ってそうだし、弾き返せそうだな」

 

キラークラブはかなり弱っており、攻撃力も下がっていた。

腕に力をこめれば、弾き返して動きを止められるかもしれないな。

俺は奴らの攻撃を両腕で受け止めて、体勢を崩させようとした。

攻撃力が下がっているとは言えやはり強く、俺も倒れそうになるが、全身の力を腕に集中させていく。

そして力を入れ続けると、左側のキラークラブのハサミを潰し、右側のキラークラブのハサミを斬り落とすことが出来た。

ハサミを破壊された2体は大きく怯み、動きを止める。

 

「結構強かったけど、動きがとまったな…今のうちにとどめをさす!」

 

俺は奴らの動きが止まったのを見て、両腕に力を溜めていった。

弱ったところに回転斬りを受ければ、キラークラブも流石に耐えられないだろう。

 

「回転斬り!」

 

おうじゃのけんとビルダーハンマーの強力な一撃を受けて、奴らは倒れて消えていく。

 

目の前のキラークラブたちが倒れたのを見ると、俺は近くにいたゲンローワのところに向かっていった。

みんなはまだキラークラブを倒せておらず、このままでは多数の魔物に囲まれてしまうだろう。

まかいじゅたちが来る前に、1人でも援護しておきたいな。

俺はゲンローワと戦っているキラークラブの背後にまわり、思い切りビルダーハンマーを叩きつけた。

 

「ゲンローワ、助けに来たぞ!」

 

そのキラークラブはゲンローワの攻撃で、既にかなりのダメージを受けている。

そこで背中に伝説のハンマーの強力な一撃を受けて、奴の甲殻は砕け散った。

俺は甲殻が砕けたところにおうじゃのけんを突き刺し、とどめをさしていく。

残った1体のキラークラブにも、俺は両腕の武器を向けていった。

 

「こやつらの甲殻は硬かったが、助かったのじゃ、雄也よ。残りの1体も、ここで倒してしまうぞ」

 

「ああ。後ろの魔物たちが来る前にな」

 

ゲンローワは俺にそう言った後、共にキラークラブと戦っていく。

ゲンローワは戦いも出来るとは言え、お年寄りだし、本業は薬師だ。

彼が大勢の魔物に囲まれる前に、助けられてよかったぜ。

俺たちは奴のハサミを避けた後、左右から剣を振り下ろしていく。

メタルのけんとおうじゃのけんで斬り続けられ、奴はさらに弱っていった。

キラークラブの動きが止まると、俺は再び腕に力を溜めていく。

 

「飛天斬り!」

 

俺は今度は飛天斬りを使って、奴にとどめをさしていった。

他のみんなも助けに行きたかったが、もう目の前にまかいじゅたちが現れる。

ゲンローワを狙っていた奴らも来たので、俺たちは6体のしりょうのきしと3体のまかいじゅという、合計9体の魔物と戦うことになった。

 

「キラークラブは倒せたけど、結構な数だな…」

 

「この樹の魔物も硬そうじゃ…気をつけて行こう」

 

二人で戦ってはいるが、それでもかなりの数だな。

ゲンローワの言う通り、まかいじゅの樹皮もかなり硬そうだ。

俺たちは早く魔物の数を減らすために、耐久力の低いしりょうのきしから倒していった。

しりょうのきしの強さはメルキドの個体と同じくらいで、剣を回避しながら攻撃を叩きこんでいけば、すぐに追い詰めることが出来る。

 

「しりょうのきしを全滅させたら、まかいじゅも倒そう」

 

ゲンローワもメタルのけんで、奴らの足や腕を斬りつけていった。

腕を何度も攻撃していくと、しりょうのきしは腕の骨が砕けたり斬り落とされたりして、剣を落として無力化する。

剣を失ったのを見て、俺たちはさらなる追撃をかけて倒していった。

 

「数こそは多かったが、ここまでは無傷じゃな」

 

ゲンローワは老体を何とか動かして魔物の攻撃を避けており、まだダメージを追っていないようだった。

だが、かなり息を切らしている様子なので、早く魔物たちを倒さないといけないな。

しりょうのきしが倒れると、俺たちは硬い樹皮を持つまかいじゅに挑んでいく。

まかいじゅの体はやはり硬かったが、伝説の武具やメタルのけんで何とかダメージを与えることが出来ていた。

 

「硬いけど、何とかダメージは与えられそうだな」

 

まかいじゅたちも俺たちを倒そうと、両腕に相当する太い2本の枝を叩きつけて来る。

かなり振り下ろす速度が早く、全てを避けきることは難しかった。

俺とゲンローワは武器を使って防ぎもしながら、奴らの生命力を削っていく。

攻撃を防ぐときにかなりの衝撃も受けたが、俺たちは何とか耐えていた。

 

「一撃も結構重いけど、何とか倒せそうだな」

 

強力な魔物ではあるが、特に厄介な技などは使って来ないようだな。

このまま攻撃を続ければ、ゲンローワや俺の体力が尽きる前に倒せるだろう。

俺たちは確実に攻撃を回避したり防御したりしながら、少しずつまかいじゅたちを追い詰めていった。

奴らが弱って来たのを見ると、俺は枝を狙って斬り落としていく。

硬い枝を斬り落とすのは難しいことだが、今までの攻撃で多くの傷がついていたので、少し力を入れれば落とすことが出来た。

 

「弱って来たし、枝も落とせたな。このままもっと弱らせて、倒していこう」

 

枝を落としたところで、俺はまかいじゅの体に思い切りおうじゃのけんを突き刺す。

武器となる枝がないのでこれ以上は抵抗出来ず、奴らは倒れていった。

ゲンローワもまかいじゅが怯んだところで渾身の斬撃を放ち、まかいじゅにとどめをさしていく。

 

「こっちも終わった、魔物も残り少しなのじゃ」

 

「でも、最後まで気をつけて行こう」

 

俺たちは多くの魔物を倒し、残りは少なくなって来ていた。

だが、それでも油断せずに、気をつけて戦っていかないとな。

俺たちはキラークラブやまかいじゅを倒したが、みんなはまだ戦っている途中だった。

聖なるナイフではしりょうのきしを麻痺させることは出来ても、キラークラブやまかいじゅの体を貫くのは難しいので、特にエルは苦戦しているようだ。

 

「エルたちはまだ戦っているようだし、助けに行こう」

 

俺とゲンローワで助けにいけば、みんなも無事に戦いに勝てる可能性が高まるだろう。

だが、俺がゲンローワにそう言った瞬間、俺たちのところにたくさんの火球が飛んでくる。

 

「くっ、ヘルゴーストたちか…」

 

後方にいたヘルゴーストが前に出てきて、メラミの魔法を唱えて来たようだ。

先程撤退した3体のメトロゴーストも、戻って来ているようだな。

俺は奴らの詠唱の動きを見ながら、走ったりジャンプしたりして避けていく。

しかし、大量のヘルゴーストたちの攻撃を避け続けるのは大変で、体力が尽きてしまいそうだ。

 

「数が多いし、早く減らさないとな…サブマシンガンを使おう」

 

こんなに数がいては近づくのも難しいので、俺はまずサブマシンガンで攻撃していった。

火球を確実に避けながら、体力の低いメトロゴーストから倒していく。

奴らは10発ほどはがねの弾丸を受けると、生命力が尽きて消えていった。

メトロゴーストを倒すと、俺はヘルゴーストにも攻撃していく。

しかし、ラダトームを出発して以来弾丸を補給していなかったので、弾切れが近づいて来ていた。

 

「そろそろ弾切れか…近づいて、剣を使って倒すか」

 

メトロゴーストが倒れたことで、少しは接近しやすくなっていた。

俺はおうじゃのけんとビルダーハンマーに持ち直して、ヘルゴーストたちに近づいていき、ゲンローワも俺に続く。

近づくにつれて奴らの火球も激しくなるが、俺たちは一瞬の隙を見て動いていった。

そして、ヘルゴーストたちの目の前にまでたどり着くと、俺は奴らのうちの1体に近づいて、両腕の武器を叩きつける。

 

「こいつも防御力は低いし、一気に倒すぜ」

 

メラミを詠唱していたところに強力な一撃を受け、ヘルゴーストは怯んだ。

奴らもメトロゴーストと防御力は大して変わらないので、伝説の武器ならすぐに倒せそうだ。

残った体力を削りとるために、もう数回剣とハンマーを振り下ろした。

そうして1体を倒すと、俺のまわりには他にも6体のヘルゴーストが現れる。

ゲンローワは、他の5体の奴らと戦っているようだった。

 

「今度は6体同時だから、気をつけないとな」

 

近接戦闘に持ち込んだので、ヘルゴーストたちは俺を殴りつけてくる。

殴るスピードはメトロゴーストと同じなので、俺は反応して避けることが出来ていた。

攻撃を避けると、俺は奴らを地面に叩き落とそうと武器を振りかざしていく。

しかし、そうして何体かは落とすことが出来たが、さっきから魔物の攻撃を避け続けたことで、俺の動きもかなり鈍って来ていた。

 

「くそっ、俺の力もそろそろきついな…」

 

ヘルゴーストの攻撃の一つが俺の腹に当たり、強い痛みが全身に広がっていく。

だが、叩き落とした奴らは倒そうと、俺は痛みを我慢して追撃を加えていった。

その間にも何度か攻撃をくらい、倒れこみそうにもなったが、ヘルゴーストは残り2体にすることが出来ていた。

 

「こいつらも叩き落として、回転斬りで仕留めよう」

 

俺は両側から殴りつけてきた奴らの腕を受け止めて、力をこめて地上に叩き落とそうとする。

ヘルゴーストは攻撃力はそんなに高くないので、消耗した俺でも弾き返すことが出来た。

2体ともが地上に落ちると、俺は両腕に力を溜めていく。

そして、奴らが再び浮き上がる前に、力を解放した。

 

「回転斬り!」

 

回転斬りを受けて、体力の低いヘルゴーストたちは青い光に変わっていく。

これで俺と戦っていた奴らは全滅し、後はゲンローワと戦っている奴らだけだな。

ゲンローワの方を見ると、彼も体力の限界に近づいているようで、何度かヘルゴーストの攻撃を受けていた。

 

「ゲンローワも攻撃を受けてるか…助けに行かないとな」

 

俺はすぐに、ゲンローワに攻撃しているヘルゴーストたちの背後に近づく。

ここでまた回転斬りを放てば、ゲンローワを助けることが出来るだろう。

だが、ゲンローワの元に向かう途中に、俺のところにまた火球が飛んでくる。

 

「薬師にビルダー…厄介な人間どもは、我らがまとめて消し去ってやる!」

 

どうやら魔物たちの最後方にいただいまどうが、メラミの呪文を唱えて来たようだ。

奴の横にはグールとキースドラゴンもおり、共に俺たちに近づいて来る。

俺は回転斬りの力溜めをしていたが、すぐに反応して回避した。

メラミを避けると、俺は回転斬りは使えないが、ヘルゴーストたちを連続で斬りつけていく。

 

「もうだいまどうが来たか…回転斬りは使えないけど、早くゲンローワを助けないとな」

 

ゲンローワは攻撃を受けた後も何とか立ち上がり、剣を振り続けていた。

しかし、グールやキースドラゴンにまで囲まれれば、さすがに危険だろう。

奴らが来る前に、何としてもヘルゴーストを倒しておかないとな。

背後から斬りかかられると、奴らは俺に向かっても攻撃してくる。

避けていてはグールたちが来るまでに間に合わないので、俺は奴らが腕を振り下ろして来たところを、思い切り叩き落とす。

 

「結構耐えるけど、落としてやる…!」

 

ヘルゴーストたちも俺たちを倒すために、腕に力をいれて踏ん張っていた。

だが、伝説の武器を生身で防ぐことは出来ず、奴らは腕を失って落ちていく。

ヘルゴーストたちの動きが止まると、俺は思い切り両腕の武器を振り下ろした。

おうじゃのけんを深く突き刺し、ビルダーハンマーで頭を叩き潰す。

 

「なかなかの敵じゃが、わしも負けてはおれん!」

 

ゲンローワも自身を囲んでいた奴らの数が減り、傷を受けずに攻撃を行っていた。

俺とゲンローワの攻撃によって、後ろの3体が来る前に全てのヘルゴーストを倒す。

奴らを倒し終えて後には休む暇もなく、グールたちが襲いかかって来た。

 

「ヘルゴーストを倒したか…しかし、貴様ら人間に希望はない!病人も貴様らも、苦しんで死ぬがいい!」

 

ゲンローワのところにはグールが、俺のところにはキースドラゴンがやって来る。

エルたちもまかいじゅたちに囲まれ続けているようで、早く助けにいかなければならなさそうだ。

俺はドラゴンの変異体である悠久の竜とも戦ったことがあるので、キースドラゴンには苦戦しないだろうが、それでも気をつけて挑もう。

みんなでこの戦いに勝って、暗黒魔導を倒しに行ってやるぜ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode173 邪毒の中心地

キースドラゴンは近づいて来ると、俺に向かって毒の息を吐き出して来る。

ゴールデンドラゴンや悠久の竜に比べれば威力の範囲も小さいが、くらうと危険だな。

俺は大きく横に飛び、毒の息を回避した。

息を回避すると、俺は奴の前足へと近づいていき、両腕の武器を叩きつける。

 

「攻撃範囲も肉質も、そんなに強くはないな」

 

キースドラゴンは肉質もそんなに固くはなく、伝説の武具で大きなダメージを与えることが出来た。

奴も爪を振り下ろして俺を斬り裂こうとするが、悠久の竜のような連続攻撃は使えない。

俺は爪での攻撃も確実にかわして、前足への攻撃を続けていく。

キースドラゴンが追い詰められると、俺はおうじゃのけんを思い切り振って、奴の足を切り落とした。

 

「足が斬れたな…今のうちにとどめをさそう」

 

キースドラゴンは足を失うと、体勢を崩してその場に倒れ込む。

もう弱っているので、起き上がるにも時間がかかりそうだった。

早くエルたちを助けにいきたいし、体勢を立て直される前に倒さないとな。

俺はキースドラゴンの頭に近づくと、おうじゃのけんを深く突き刺す。

 

「ビルダーめ、悠久の竜を倒しただけのことはあるな…だが、貴様に我らは止められん」

 

しかし、奴にとどめを刺そうとしているところに、だいまどうが杖で殴り掛かって来た。

メラミを使えばキースドラゴンを巻き込むので、近接攻撃を行って来たのだろう。

これではキースドラゴンを倒せないが、だいまどうは魔力に特化した魔物なので、近接戦闘は苦手なはずだ。

俺は左腕のビルダーハンマーを使って、奴を弾き返そうとした。

 

「このだいまどう…結構攻撃が重いな…」

 

だが、このだいまどうはかなり力も強いようで、なかなか弾き返せない。

キースドラゴンも剣を刺されながらも、起き上がろうとしていた。

起き上がられても倒すことは出来るだろうが、みんなを助けに行くのが遅くなってしまうな。

俺はだいまどうの動きを止めるために、左腕に残った全身の力をこめていく。

 

「でも、何とか押し返してやるぜ!」

 

それでもだいまどうはかなり耐えたが、だんだん苦しそうな顔に変わっていった。

そして、キースドラゴンが起き上がる前に、奴はついに力尽きて、地面に強く頭をぶつける。

そろそろ体力の限界なので、俺も一緒に倒れ込みそうになったが、何とか体勢を保って、キースドラゴンの体内をえぐっていった。

頭の中を斬り裂かれて、奴は生命力が尽きて倒れていく。

 

「キースドラゴンを倒せたな…だいまどうも一緒に倒しておこう」

 

キースドラゴンは倒れると、大きな竜の鱗のようなアクセサリーを落とした。

役立つかもしれないので拾っておきたいが、魔物たちを全て倒してからにしよう。

俺は崩れ落ちているだいまどうに近づき、両腕の武器を次々に叩きつけていく。

奴は防御力は低いので、すぐに体力を削っていくことが出来た。

だいまどうが倒れると、俺はグールと戦っているゲンローワの方を見る。

 

「グールも倒してから、ゲンローワと一緒にエルのところに向かうか」

 

グールはなかなか死なず、腕で殴ったり毒を吐いたりして攻撃していた。

ゲンローワも体力の限界が近いし、このままだと攻撃を受けてしまうかもしれないな。

エルたちを一緒に助けるためにも、俺はゲンローワと戦っているグールの背後に迫る。

そして、両腕に力を溜めながら飛び上がり、垂直に武器を叩きつけた。

 

「飛天斬り!ゲンローワ、こいつを倒して、一緒にエルたちを助けに行くぞ!」

 

「分かったのじゃ。二人がかりなら、こやつもすぐに倒れるはずじゃ」

 

二刀流での強力な一撃を受けて、グールはかなり弱ったはずだ。

奴は素早く腕を振り回して俺を殴ろうとして来るが、ゲンローワが両腕でメタルのけんを持って防ぎ、攻撃の隙を作る。

 

「わしが両腕で攻撃を防ぐから、お主が弱らせてくれ」

 

攻撃の隙が出来たところで、俺はグールにさらなる攻撃を叩きこんでいった。

ゾンビ系の魔物は耐久力が高いが、奴は次第に弱っていく。

瀕死になって来たのを見て、俺はもう一度飛天斬りを放った。

 

「もう一度だ、飛天斬り!」

 

飛天斬りを2度も受ければ、グールといえども耐えられない。

グールは倒れると、金色に輝く指輪のような物を落とした。

これも役立つかもしれないし、みんなを助けたら拾いに行こう。

みんなの中でも、やはりメタルのけんを持っていないエルが苦戦しているようだった。

 

「やっぱりエルは苦戦しているみたいだな…さっそく助けに行くぞ」

 

「もちろんじゃ…共に行こう!」

 

イルマたちは攻撃を受けながらも、キラークラブやまかいじゅを追い詰めている。

だが、やはり聖なるナイフでは硬い甲殻や樹皮を貫くことは難しいようで、エルは2体のキラークラブとまかいじゅに囲まれ、いくつもの傷を負っていた。

救援にいかなければ、魔物たちに殺されてしまうかもしれない。

エルはリムルダールの大事な仲間だし、ゲンローワにとってはたった1人の孫娘だ…必ず助け出してやらないとな。

 

「俺はキラークラブを倒すから、ゲンローワはまかいじゅと戦ってくれ」

 

俺はゲンローワにそう指示を出した後、エルと戦っているキラークラブたちの背後に近づき、また腕に力を溜めていく。

何度も攻撃を受け止めたりして、腕の力ももう残り少ないが、強力な一撃を与えてキラークラブの甲殻を砕けば、聖なるナイフでもダメージを与えられるようになるはずだ。

俺は力が溜まりきると、両腕で辺りを薙ぎ払い、奴らの甲殻を粉砕していった。

 

「回転斬り!…大丈夫だったか、エル?」

 

奴らの硬い甲殻に武器を叩きつけると、俺の腕だけでなく身体中に痛みが起こる。

しかし、それでも俺は動きを止めず、甲殻を打ち砕いていった。

ゲンローワもまかいじゅの樹皮にメタルのけんを突き刺し、体内を引き裂いていく。

 

「わしの孫娘を傷つけおって…お主、許さぬのじゃ!」

 

「助かりました!ありがとうございます、雄也様、ゲンローワ様!」

 

背後から突然強力な攻撃を受けて、キラークラブもまかいじゅも大きく怯んだ。

危機的状況を脱して、エルは俺たちに感謝の言葉を言う。

そして、体勢を立て直す前に倒そうと、俺とゲンローワは奴らへの攻撃を続けていった。

キラークラブは耐久力が高いので俺1人で早く倒すのは難しいが、甲殻が砕けたことで、エルの聖なるナイフも通るようになっている。

 

「殻が壊れたようですし、私もナイフで援護し続けますね」

 

エルは俺に当たらないようにしながら、正確にむき出しになった奴らの体内へ、聖なるナイフを投げつけていった。

リムルダールでもラダトームでも、本当にエルの投擲攻撃には助けられたな。

もろい内臓を次々でナイフで刺され、キラークラブはどんどん弱っていった。

奴らが追い詰められたところで俺も思い切り武器を叩きつけて、とどめを刺していく。

 

「弱っているし、これで終わりだな…!」

 

内臓をやられたところにさらなる攻撃を受け、奴らは青い光を放って消えていった。

ゲンローワもまかいじゅを弱らせており、もうすぐ魔物たちを全て倒すことが出来るな。

 

俺はエルを助けた後、まだ魔物と戦っているイルマのところに向かった。

イルマはメタルのけんで多くの魔物を倒しているが、まだ2体のまかいじゅが残っている。

でも、そのまかいじゅも弱っており、回転斬りを当てれば倒すことが出来そうだ。

俺は奴らの後ろから近づいていき、体中の力を両腕にこめていく。

 

「回転斬り!イルマ、助けに来たぞ!」

 

俺の力が限界だからか、回転斬りを当ててもまだまかいじゅたちは倒れなかったが、大きく怯んで動かなくなった。

瀕死なのは間違いないだろうし、二人でこのまま倒すことが出来そうだな。

 

「援護ありがとう、雄也さん!今のうちに、魔物たちを倒そう!」

 

「奴らも確実に弱ってるし、行くぞ!」

 

まかいじゅの動きが止まったのを見て、俺とイルマは奴らに連続攻撃を叩きこんでいく。

ゲンローワはもう戦っていたまかいじゅを倒し、ミノリも自分を囲んでいた魔物を全て倒し、エルと共にエディの救援に向かっていた。

かなりの数の魔物だったが、みんなで生きて町に帰ることが出来そうだ。

俺たちは力を出し尽くして、残っている魔物たちを斬り刻み、倒していった。

 

町を襲った魔物が全て倒れると、俺はさっきグールとキースドラゴンが落とした、アクセサリーを拾いに行こうとする。

 

「これで魔物は全部倒れたか…あいつらが落としたアクセサリーを拾ったら、暗黒魔導を倒しに行こう」

 

今回の戦いでかなり体力を消耗してしまったが、今日はまだ休む訳にはいかない。

暗黒魔導を倒しに行くために、俺はポーチから白花の秘薬を取り出し、歩きながら飲んだ。

白花の秘薬でもすぐに傷が回復する訳ではないが、痛みは治まり、戦いでも普段と同じくらいの力を出せるようになるだろう。

魔物たちが落としたアクセサリーを拾うと、俺はさっそく装備してみる。

 

「指輪をはめた瞬間、力が湧いてきたな…暗黒魔導との戦いにも役立ちそうだぜ」

 

すると、それぞれ攻撃力と防御力を高める効果のあるアクセサリーのようで、指輪を装備すると力が湧いてきて、大きな竜の鱗を装備すると体が頑丈になった気がした。

暗黒魔導はかなりの強敵だろうが、これで勝てる可能性が上がったな。

アクセサリーを装備している間には、イルマの心配そうな声も聞こえてきた。

 

「魔物には勝ったけど、昨日の夜、ザッコが別れを告げてくる夢が見えたな…」

 

日に日に弱っていく友達を見て、イルマはついにそんな夢を見るようになったのか。

ザッコの症状がこれ以上悪化しない為にも、暗黒魔導を倒しに行かないとな。

暗黒魔導を倒したら、ゲンローワが薬を考えるのを待とう。

だが、ゲンローワは俺に近づいて来て、薬の開発に行き詰まっていると言ってきた。

 

「実は雄也よ…わしは、邪毒の病の薬の開発に行き詰まっておるのじゃ…。決して不可能ではないのじゃが、少なくとも後1週間はかかりそうじゃ」

 

ノリンたちの症状を見ると、長くても数日しか持たないだろう。

1週間もかかれば、今日発症したコレスタたちも助けられるか分からないな。

何とかして、早く薬を作ることは出来ないのだろうか。

 

「一週間か…何とかして、それより早く作ることは出来ないのか?」

 

「邪毒の病を発生させている毒素の、詳しい成分が解析出来れば、すぐに薬を作れるはずじゃ。しかしのう、解析可能な量の毒素の塊など、暗黒魔導の拠点でもなければないはずじゃ…」

 

毒素の成分を解析出来れば薬が作れるのなら、なおさら暗黒魔導の拠点に行かなければいけなさそうだ。

暗黒魔導の奴を倒すついでに、毒素も探して来よう。

 

「それなら大丈夫だ。これから俺が暗黒魔導の拠点に行ってくる。マロアのおかげで、だいたいの場所も分かってるからな」

 

「じゃが、暗黒魔導は強力な魔物じゃ。竜王を倒したお主でも、苦戦は免れないはずじゃぞ」

 

俺が暗黒魔導の拠点に行くと言うと、ゲンローワは心配そうな顔でそう言った。

確かに奴は変異体の強力な魔物であり、厳しい戦いになるのは間違いないだろう。

だが、暗黒魔導を倒さなければリムルダールの2度目の復興は達成出来ないし、邪毒の病を治療することも出来ない。

 

「それは分かってる…でも、暗黒魔導を倒さないと、リムルダールはまた壊滅してしまう。必ず戻って来るから、心配しないでくれ」

 

「そこまで言うなら、分かった…必ず、生きて戻って来るのじゃぞ」

 

必ず生きて戻ってきて、リムルダールの町をこれからも発展させていきたい。

どんな攻撃を行って来るか分からないが、最大限に気をつけて戦わないとな。

俺はゲンローワと別れると、暗黒魔導の拠点に向かうために、小舟に乗りに行った。

いつも通り魔物から隠れながら、リムルダールの東の岩山を越えていく。

岩山を越えて崖を降り、海にたどり着くと、俺はポーチから小舟を取り出し、暗黒魔導の拠点がある水没した密林に向かっていった。

 

1時間くらい経って、俺の目の前に水没した密林の地域が見えて来た。

マロアのおかげで、暗黒魔導の拠点があるのは密林の近くの岩山だと分かっている。

だから、俺は世界地図を見ながら、岩山の下にある海に面した崖に上陸した。

 

「この辺りに、暗黒魔導の拠点があるはずなんだよな…まずは、海に面した崖を調べて行くか」

 

マロアはこの岩山一帯をまわったが、拠点の入り口を見つけることは出来なかった。

それなら入り口の場所としてまず考えられるのは、人間も魔物も来にくい海に面した崖だろう。

調べにくい場所なら、マロアが見落としてしまった可能性もあるからな。

俺は上陸した地点も含めて、海に面した崖を隅々まで探していく。

今まで幾度となく崖登りをしているので、簡単に崖っぷちを歩いていくことが出来た。

 

「岩山を1周したけど、入り口は見つからないな…」

 

だが、岩山を1周しても、海に面した崖に拠点の入り口を見つけることは出来なかった。

海に面した崖には洞窟らしき物もなく、俺は今度は岩山の上へと登っていく。

岩山の上は地形の凹凸が激しく、ここでもマロアが見落とした可能性はあるだろう。

 

「岩山の上も、隅々まで探してみるか…」

 

ウルスの研究所の近くから密林の近くまで、拠点の入り口やその手がかりがないか細かく探していく。

岩山の上にはたくさんのメイジキメラも生息していたが、隠れながら進んでいった。

今日はまだ午前中なので、ゆっくり探していても大丈夫だろう。

しかし、岩山の上もどれだけ探しても、入り口も手がかりも全く見つけることは出来なかった。

 

「岩山の上にもないのか…やっぱり魔法で隠しているのか…?」

 

ここまで探しても見つからないとなれば、やはり暗黒魔導が拠点の入り口を隠しているのかもしれないな。

奴ほど強力な魔物であれば、そのような魔法を使うことも容易だろう。

もしそうであれば、どうやって見つければ良いのだろうか?

 

だが、そう思いながら崖の下を眺めていると、1体のだいまどうが岩山に近づいているのが見えた。

俺が眺めていたのは、この前マロアを救出した建物の近くだ。

恐らくは暗黒魔導の手下だろうし、これから拠点に向かうのかもしれないな。

俺は尾行して拠点の位置を探ろうとして、奴の動きを観察する。

すると、だいまどうは岩山にある洞窟に入っていった。

 

「あの洞窟の中には、何もなかったはずだけどな…?」

 

この前マロアを探している時に俺も入った洞窟だが、あの時は特に何も見つけられなかった。

だが、だいまどうが中に入ったということは、洞窟内に拠点が隠されている可能性が高いだろう。

俺は崖を降りて洞窟の中に入り、拠点の隠された入り口を探していった。

 

「この洞窟のどこに、拠点の入り口が隠されているんだ?」

 

俺は洞窟の壁を触りもしながら、不自然な場所がないか探していく。

洞窟の入り口近くでは特に何もなく、拠点を見つけることは出来なかった。

しかし、洞窟の一番奥の壁を触った瞬間、俺の腕が壁をすり抜ける。

 

「腕が壁をすり抜けた…?もしかして、この先に暗黒魔導の拠点があるのか?」

 

この壁は魔法で作られた幻影で、本当はこの奥に空間があるようだ。

おそらくその場所が、暗黒魔導の拠点となっているのだろう。

よく調べると人間1人くらいなら余裕で通れるほどの通路があり、俺は幻影の壁を通り抜けて洞窟のさらに奥へと入っていった。

 

「やっぱり暗黒魔導の拠点は、魔法で隠されていたってことか…」

 

隠された通路をしばらく進んで行くと、広めの空間が見えてくる。

そこは魔物の集まり場となっているようで、3体のだいまどうがいた。

さらに奥に進む通路もあり、その先に暗黒魔導がいるのだろう。

だいまどうたちはまさかこの拠点に人間が入って来るとは思ってないのか、警戒心を持っていないようだった。

 

「後ろから襲いかかって、まず1体を倒すか…」

 

だいまどうは防御力は低いので、背後から奇襲すれば1体は簡単に倒すことが出来るだろう。

俺は奴らに気づかれないようにしながら、だいまどうたちの部屋に入っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode174 病毒の大魔導師

俺はだいまどうたちに気づかれないようにしながら、暗黒魔導の拠点の広間に入っていき、一番近くにいただいまどうの背後に迫る。

やはり奴らは幻影で隠されたこの場所に人間が来るとは思っていないようで、警戒はしておらず、静かに近づけば見つかることはなかった。

確かにさっきだいまどうを見つけていなければ、この場所の発見は困難を極めただろう。

 

俺はだいまどうの真後ろに近づくと、背中に向かって思い切りおうじゃのけんを突き刺す。

突然背後から攻撃を受けて、奴は大きく怯んだ。

 

「突然どうしたんだ?」

 

「何者だ!?」

 

他の2体のだいまどうも、拠点に敵が入ってきたことに驚いている。

だが、俺はだいまどうの後ろに隠れているので、まだ姿を見られていない。

戦闘になる前に1体でも倒しておこうと、俺は怯んだ奴に左腕のビルダーハンマーも叩きつけた。

それでもまだ倒れないが、俺はだいまどうを連続で攻撃していく。

そして、奴が倒れて青い光に変わると、他の2体が俺の姿を見て睨みつけて来た。

 

「貴様は、ビルダー…なぜここに…!?」

 

「ここは人間ごときが入っていい場所ではない!」

 

こいつらも一目見て気づくほど、俺のことを知っているようだな。

 

「リムルダールの町を復興させるために、暗黒魔導を倒しに来た。この先に、奴がいるんだろ?」

 

「その通りだ。だが、貴様を通す訳にはいかない!」

 

この奥にいる暗黒魔導を倒して、リムルダールの2度目の復興を成し遂げたい。

だが、やはりこの2体のだいまどうを倒さなければ、そこまでたどり着けなさそうだ。

だいまどうたちは杖を構えて、俺に魔法で攻撃しようとして来る。

 

「暗黒魔導様の元に着く前に、貴様は焼き尽くされるのだ、メラミ!」

 

奴らはメラミの呪文を唱えて、大きな火球を放って来た。

かなりの近距離だったが、俺は大きくジャンプして火球をかわす。

ジャンプした後俺はすぐに立ち上がって、片方のだいまどうに近づいていった。

 

「近づきさえすれば、簡単に倒せるはずだぜ」

 

メラミを詠唱している間に近づかれ、だいまどうは杖で俺の攻撃を防いで来る。

だが、このだいまどうはさっき町を襲った奴より力は弱く、押し返すことが出来そうだった。

おそらくはだいまどうの中でも強力な個体が、町を潰しに行ったのだろう。

俺は両腕で奴の杖を弾き返し、体勢を崩させようとする。

 

「くっ…ビルダーめ!」

 

「あんたたちも倒して、暗黒魔導も倒しにいってやるぞ!」

 

だいまどうも少しは耐えたが、俺はさっきの指輪の効果でいつも以上の力が出せる。

腕に力をこめていくと、奴はついに耐えきれなくなり、倒れて動けなくなった。

動きが止まったところを、俺は何度も斬り裂いていく。

もう片方のだいまどうも殴りかかって来たが、俺はそちらの杖も弾き返していった。

 

「貴様、まだ絶望に屈さないとは…!」

 

2体ともが体勢を崩すと、俺は両腕に力を溜めていく。

攻撃力上昇の指輪のおかげで、回転斬りの威力もいつも以上になりそうだった。

 

「回転斬り!」

 

高威力の一撃を受けて、だいまどうたちは青い光に変わっていく。

これで3体ともだいまどうを倒せたし、暗黒魔導を倒しに行けるな。

 

「だいまどうたちは倒れたか…暗黒魔導を倒して、町に生きて帰らないとな」

 

暗黒魔導を倒し、邪毒の病の病原体を解析出来れば、邪毒の病の薬を作れるし、リムルダールの2度目の復興に大きく近づくだろう。

俺は武器を構えたまま、拠点のさらに奥へと進んでいく。

通路は一本道であり、すぐに最深部の空間にたどり着くことが出来た。

 

最深部の空間はかなりの広さがあり、奥には宝箱と邪毒の病の病原体と思われる黒い塊があった。

そして、黒い塊の前には黒紫の布を纏い、先端に大きな紫色の宝玉が埋め込まれた杖を持った、禍々しいだいまどうがいる。

おそらくこいつが、リムルダール壊滅の元凶、暗黒魔導なのだろう。

暗黒魔導は黒い塊に魔法を唱え、リムルダール中に邪毒の病を振り撒いているようだった。

 

「まさかリムルダールの惨状を見てまで、我らに抗い続けるとはな…」

 

広い空間に入って行くと、暗黒魔導は魔法の詠唱を止めて、俺の方を振り向く。

奴の顔は普通のだいまどうと変わらないが、禍々しい雰囲気がするな。

 

「あんたが暗黒魔導か。確かにリムルダールが壊滅していたのには驚いたけど、俺はアレフガルドの復興をやめる気はないぞ」

 

「いかにも、我は暗黒魔導。エンダルゴ様より力を授かった、かつてだいまどうだった者だ。それが不可能だと、分かっているのにか?」

 

1度はリムルダールの全滅も考えてしまったけど、各地をまわって探し続け、みんなを助けることが出来た。

それに、メルキドの2度目の復興は達成出来たんだし、リムルダールの復興を成し遂げること不可能ではないはずだ。

 

「メルキドの悠久の竜も倒せたんだ。あんたを倒して、邪毒の病の薬を開発することも出来るはずだ」

 

「ルビスもひかりのたまももうない…もう2度と、貴様らの望む平和な世界など訪れないのだぞ」

 

確かにルビスとひかりのたまが消えたことで、かつて俺たちが望んでいた平和な世界が訪れる可能性は消えてしまった。

だがそれでも、このまま人々が死んでいくのを見過ごす訳にはいかない。

 

「例え平和な世界が訪れないにしても、このまま町が滅ぼされるのを見過ごしたくはない」

 

「そうか…、やはりビルダーは厄介だな。…ならば、我が手で葬ってくれよう」

 

俺がアレフガルドの復興を続ける意志を示すと、暗黒魔導は杖を構えてそう言う。

俺も奴に両腕の武器を向けて、戦いに備えた。

 

「こっちこそ、あんたを倒してリムルダールに生きて帰ってやるぜ」

 

「来い、ビルダー!貴様を焼き尽くし、灰をエンダルゴ様に献上しよう!」

 

暗黒魔導は元がだいまどうであり、攻撃力や防御力は滅ぼしの騎士や悠久の竜より低いだろう。

さらに、邪毒の病を振り撒くのに魔力も消耗したので、魔法も十分には使えないはずだ。

しかし、それでも強敵には変わりないので、注意して戦おう。

岩山の洞窟の最深部で、俺と暗黒魔導の戦いが始まった。

 

俺と暗黒魔導の間には、まだかなりの距離があった。

奴は遠くにいる俺を焼き尽くすために、魔法を詠唱し始める。

普通のだいまどうよりはるかに大きな火球を、俺に向けて放って来た。

 

「これがかわしきれるか!?メラゾーマ!」

 

こいつも竜王と同じで、メラゾーマの呪文を使えるようだ。

竜王の物よりも威力が高そうであり、防御力上昇のアクセサリーがあるとは言え絶対にくらってはいけないな。

まだ暗黒魔導とは距離があるので、俺は走りながら避けていった。

詠唱している間に、俺はだんだん奴に近づいていく。

 

「さすがはビルダー、1度は避けたようだな…だが、連続で放たれればかわしきれまい!」

 

暗黒魔導は闇の戦士ほどではないとは言え、詠唱速度が早いので、少しずつしか近づいて行くことが出来ない。

走って火球をかわしきれないほど近づくと、ジャンプも使っていった。

体力を消耗しないように、1度の詠唱時間に出来るだけ近づいていく。

奴の至近距離に入ると、俺はおうじゃのけんとビルダーハンマーを振り上げて、思い切り叩きつけた。

 

「結構強力な魔法だったけど、何とか近づけたな」

 

「近づいたところで、貴様が我に勝つことは出来ない!」

 

暗黒魔導も俺の動きを見て呪文の詠唱を止め、すぐに杖で受け止める。

だが、攻撃力はそこまで高くはないだろうし、両腕の力で押し切れるはずだ。

俺は両腕の力をこめて、奴の杖を弾き落とそうとしていった。

 

「くっ、結構重いな…!押し切れないか…」

 

しかし、暗黒魔導は俺の攻撃に耐えて、逆に俺を弾き返そうとする。

 

「これがエンダルゴ様から賜った力だ。我に触れることも出来ずに、灰になるがいい!」

 

滅ぼしの騎士などよりは低くても、かなりの攻撃力はあるようだな。

攻撃力上昇の指輪があっても、押し切るのは結構難しそうだ。

今は無理に力を入れようとはせず、ジャンプして奴の側面にまわろうとした。

変異体は攻撃力や耐久力は上がっても、素早さは変わらないので、杖を避けた後に暗黒魔導の横腹に攻撃を当てることが出来る。

 

「押し切れなくても、何とか攻撃してやるさ…!」

 

振り下ろされる杖をかわして、一瞬の隙に俺は奴の横に動いて、おうじゃのけんを叩きつける。

次の攻撃も確実にかわして、ビルダーハンマーで頭を殴りつけた。

 

「素早さも大したものだな…しかし、その程度の攻撃で我は倒せん!」

 

暗黒魔導も全く怯まず、杖での攻撃を続けてくる。

確かに変異体である奴にとっては、伝説の武器とは言え2発の攻撃くらい痛くも痒くもないだろう。

しかし、数十回攻撃を当てれば、確実にダメージを与えられるはずだ。

俺は暗黒魔導の杖を見ながら動いていき、何度も攻撃を叩きつけていった。

 

「まだ避けられるのか…ビルダーめ…!だが、いい加減己の無力さを知れ!」

 

連続で攻撃を受けると、暗黒魔導も少しは弱って来る。

俺の体力もまだあるので、このまま攻撃を続けられそうだと思っていると、奴はそう言ってきた。

奴は俺への攻撃を1度やめて、全身に力を溜め始める。

呪文を唱えている訳ではないようだが、何をして来るのだろうか。

 

「呪文じゃないな…何を使って来るんだ?」

 

暗黒魔導には大きな隙が出来ているが、俺は奴から少し距離を取る。

おそらくこの後に、強力な攻撃を放って来るのだろう。

そして、力が最大まで溜まりきると、暗黒魔導は力を解放し、辺りを薙ぎ払った。

 

「滅ぼしてくれる!」

 

俺の回転斬りとほぼ同じ動きであり、広範囲に闇の刃が放たれる。

闇の刃は俺の立っていたところまで到達し、俺は両腕の武器で受け止めた。

だが、離れていてもとても攻撃力が高く、直撃は防げたものの尻もちをついてしまう。

 

「くっ…かなりの範囲だな…これは、回転斬り…?」

 

「アレフ様から聞いた、貴様の大技だ。この体になってからは、こんな技も使えるようになったのだ」

 

アレフというのは、闇の戦士の事だろう。

あいつは俺やルビスと戦った後、魔物たちにそのことを教えていたのか。

強力な攻撃である回転斬りを、まさか暗黒魔導が使うとは思っていなかったな。

体勢を崩した俺に向かって、奴はさらなる追撃を加えようとする。

 

「さあ、灰にしてやる!ベギラゴン!」

 

今度は広範囲のベギラゴンの呪文で、俺を焼き払おうとして来た。

闇の戦士よりも詠唱時間は長いが、早く避けなければ助かっても火傷は免れないだろう。

俺は痛む体で立ち上がり、大きくジャンプする。

それでも避けきれるか分からないので、俺は着地した後、さらに遠くへと動いた。

 

「いくら回避しても無駄だ、もう諦めろ!」

 

すると、何とかぎりぎりのところで、ベギラゴンの炎に焼かれずに済んだ。

だが、暗黒魔導は攻撃の手を緩めず、近づいてきて杖で殴りかかって来る。

3連続で大ジャンプすることも出来ず、俺は両腕の武器で杖を受け止めた。

 

「杖も魔法も結構強いけど、俺も負けるつもりはないぜ…!」

 

飛びかかって来る攻撃なのでさっきより重く、肩が外れそうになってしまう。

弾き返すことは出来そうにないので、俺は力をこめて耐えた後、さっきのように横にまわって斬りかかっていった。

俺も少しは体力を消耗しているが、まだ奴の動きに対応出来る。

暗黒魔導はやはり耐久力は他の変異体より低いようで、確実に弱らせることが出来ていた。

 

「我をここまで…!ならば、もう1度大技を受けるがいい!」

 

奴の攻撃速度も、少しは落ちて来ている。

攻撃を受け続けた暗黒魔導は、もう一度回転斬りを放って俺を倒そうとして来た。

さっきよりも強い力を腕に溜めていき、俺の体を引き裂こうとして来る。

溜め時間も長いが、範囲はものすごく広いものになりそうだ。

 

「遠くまで離れないと、まずいな…」

 

俺は全速力で走って、この暗黒魔導の間に入る時に通った通路に向かっていく。

奴が回転斬りを放とうとした瞬間、俺はさらに大ジャンプして、闇の刃を避けようとした。

 

暗黒魔導が放った闇の刃は、大きな空間の全てを薙ぎ払うほどの広範囲の攻撃だった。

だが、俺は通路に逃げることで回避し、すぐに立ち上がることが出来た。

 

「なんとか避けられたか…今のうちに、また奴に近づこう」

 

回転斬りの後には隙が出来る…それは暗黒魔導であっても例外ではないようだ。

俺は今のうちに奴に再び近づこうと、大きな空間の中に走っていった。

暗黒魔導はかなりの力を消耗したようで、体勢を立て直すのにも時間がかかっている。

 

「まさか避けきるとは…だが、我の手に入れた力は、これだけではないぞ!ドルモーア!」

 

しかし、俺が至近距離にまで近づく前に暗黒魔導は動きを再開し、今度はドルモーアの呪文を唱え始めた。

さっきのメラゾーマのようにジャンプで避けるが、俺の体力も減って来ている。

直撃は避けられたものの1度闇の爆風に当たり、背中に激痛が走った。

でも、防御力上昇の竜の鱗のアクセサリーのおかげか、倒れ込むほどの衝撃にはならなかった。

 

「これも厄介な攻撃だけど、俺もまだ倒れないぜ」

 

暗黒魔導と戦いに来る前に、指輪と竜の鱗を手に入れられてよかったぜ。

近づいていくと、暗黒魔導はまた回転斬りを使って、俺を薙ぎ払おうとして来る。

広範囲の攻撃を何度も避けていれば、俺の体力もさすがに尽きてしまうな。

 

「何度近づいたところで無駄だ!」

 

だが、さっきまでの攻撃で暗黒魔導も確実に弱ってはいるはずだ。

ここで飛天斬りを当てれば奴を怯ませて、回転斬りを止められるかもしれない。

 

「飛天斬りを使ったら、止められるかもしれないな」

 

俺は暗黒魔導の至近距離に接近し、両腕に全身の力を溜めていく。

奴の攻撃は強力だが、力を溜めるのにかかる時間は俺の方が短かった。

おそらく、回転斬りを使った回数が少なく、まだ慣れていないからだろう。

そして、俺は奴が攻撃を放つ直前に大きく飛び上がり、垂直に両腕の武器を叩きつける。

 

「これはあんたが知らない技…飛天斬り!」

 

渾身の一撃を受けて、暗黒魔導は大きく怯んだ。

奴が体勢を崩したところで、俺はもう回転攻撃が使えないように杖を弾き飛ばし、遠くに投げ捨てる。

杖を飛ばした後、俺は動きを止めている暗黒魔導に次々に攻撃していった。

変異することで得た高い生命力を、残らず削りとっていく。

 

「おのれ…ビルダーめ…!何が何でも、貴様は焼き尽くしてくれる…!」

 

奴も生命力が尽きる前に立ち上がり、俺に反撃しようとして来た。

杖を失った暗黒魔導は自分を巻き込んでまで俺を倒そうと、炎の魔力を集中させ始める。

そして、自身の目の前に立っている俺に向かって、超巨大な火柱を叩きつけた。

 

「消え去れ!メラガイアー!」

 

メラ系の最上級呪文、メラガイアーだ。

暗黒魔導も弱っているとは言え非常に強力であり、何とか回避しようと残った力で大きくジャンプする。

だが、洞窟の天井を突き破るほどの威力であり、俺も完全にはかわしきれなかった。

足に大きな火傷を負い、激しい痛みに襲われる。

でも、暗黒魔導自身も火柱に巻き込まれて、動けなくなっていた。

 

「まだ仕留めきれなかったか…しぶとい奴め…!」

 

「くそっ、最後にこんな大技を撃って来るなんてな…」

 

暗黒魔導は何とか体勢を立て直し、俺が投げ捨てた杖を拾いに行こうとする。

杖を拾われてまた回転攻撃でも放たれれば、今度こそ避けられない。

俺は奴の動きを止めるために焼けた足で立ち上がり、背後から斬り裂いていった。

今までの戦いで、傷んだ足で動くことには慣れている。

 

「強敵だったけど、これで終わりだ、暗黒魔導!」

 

もう瀕死になっていた暗黒魔導は背後から攻撃に対応出来ず、また大きく怯む。

怯んだところで俺は、おうじゃのけんで奴の体内を深く斬り裂き、ビルダーハンマーで頭を叩き潰していった。

そして、リムルダールを壊滅させ、邪毒の病を振りまいた暗黒魔導は、ついに青い光に変わっていく。

 

「我を倒したところで、もうリムルダールに未来はない…」

 

奴は死に際に、そう言い残して消えていった。

 

暗黒魔導を倒すと、俺は両腕の武器をポーチにしまう。

痛みを和らげるためにまた白花の秘薬を飲んだ後、俺は邪毒の病原体と宝箱を調べにいった。

 

「魔力を消耗していたはずなのに、かなりの強敵だったな」

 

今までの変異体と同様強敵であったが、何とか倒すことが出来た。

これで邪毒の病の治療薬も見つけることが出来れば、リムルダールの2度目の復興は達成だな。

俺は邪毒の病原体を手に入れると、ポーチにしまう。

 

「これをゲンローワに見せて、解析してもらおう」

 

邪毒の病の原因となる毒素の塊とは言え、暗黒魔導の魔力がなければ周囲に広がることはないので、町に持ち込んでも大丈夫そうだ。

俺は邪毒の病原体を手に入れると、奥の宝箱も開けに行く。

そこには、かつてリムルダールで使っていた、3つの旅のとびらがあった。

 

「旅のとびらか…これがあったら移動が便利だし、持ち帰ろう」

 

便利な道具だから、魔物たちは破壊せずに回収したのだろう。

今は小舟があるので旅のとびらがなくてもアレフガルドのどこにでも行けるが、あった方が時間の短縮になるな。

素材集めがしやすくなるし、また町の中に設置しておこう。

俺は3つの旅のとびらも手に入れると、洞窟を出て海に向かい、小舟を漕ぎ出していった。

 

1時間半くらい小舟を漕いで俺はリムルダールの町の東の岩山にたどり着き、そこから岩山を登って町に帰っていく。

町に戻って来た頃には、もう午後の3時くらいになっていた。

明日までに、邪毒の病の治療薬が出来るといいな。

俺はそう思いながらゲンローワに邪毒の病原体を見せに行くために、調合室に入っていった。

 

「ゲンローワ、邪毒の病の病原体を手に入れて来たぞ。暗黒魔導も、そこで倒してきた」

 

「おお、よくやったのじゃ、雄也よ!これでもう町は壊されないじゃろうし、薬の開発も早まるじゃろう。本当に、本当によくやったのじゃ…!」

 

俺はそう言いながら邪毒の病原体を取り出し、ゲンローワに見せる。

暗黒魔導が倒れたこと、邪毒の病の薬が作れること、俺が生きて戻って来たこと、たくさんの嬉しい出来事が起こり、彼はとても嬉しそうな顔をしていた。

みんなを悲しませずに済んだし、生きて帰って来ることが出来て良かったな。

後どのくらいで、邪毒の病の薬を作れるのだろうか?

 

「これならどのくらいで、薬を作れるんだ?」

 

「遅くても明日には、薬が作れるようになるはずじゃ。薬の作り方を思いつけたら、すぐに教えに行くぞ」

 

明日に出来るのなら、ノリンたちが助かる可能性も高いな。

今日は暗黒魔導との戦いを癒して、明日邪毒の病の薬を作ろう。

 

「分かった。頼んだぞ、ゲンローワ」

 

俺はゲンローワにそう言うと、町の中に3つの旅のとびらを置いた後、寝室に戻っていった。

寝室で休んでいる間、リムルダールの2度目の復興を達成したら、今度はマイラにも行こうと考えていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode175 死してなおも蝕む

暗黒魔導を倒した翌日、リムルダールに戻って来てから6日目の朝、俺は邪毒の病にかかった9人の様子を見に行っていた。

ノリンたちはもう感染からかなりの時間が経つが、まだ生きているだろうか。

 

「ノリンたちもまだ、何とか生きているみたいだな」

 

すると、衰弱が激しかったノリン、セリューナ、ザッコ、ケンの4人も、まだ息はあるようだった。

だが、高熱と呼吸困難で、もう言葉を話すことすら出来ない状態だった。

早く薬を作って、回復させてやらないとな。

 

「ゲンローワは、もう薬を思いついたのか?」

 

ゲンローワは昨日、明日には薬の作り方を思いつけると言っていたが、どうなったのだろうか?

俺は薬が作れるようになったか聞くため、調合室に向かっていった。

 

だがその途中、昨日の朝のようなエルの大声が聞こえて来る。

 

「ゲンローワ様、どうなさったのですか…!?」

 

エルは焦った声で、ゲンローワに呼びかけている。

まさか、薬を作っているゲンローワに何かあったのだろうか。

エルの声は調合室から聞こえており、俺はそこに向かって走っていった。

 

「どうしたんだ、エル!?ゲンローワに、何かあったみたいだけど」

 

調合室の扉を開けると、いにしえの調合台の前で倒れているゲンローワと、彼を心配そうに見つめるエルの姿があった。

ゲンローワの体は、コレスタたちと同様の黒紫色に染まっている。

昨日は元気だったのに、邪毒の病にかかってしまったようだな。

 

「どうやらゲンローワ様も、病にかかられてしまったようなのです。もう暗黒魔導は倒したのに、どうして…」

 

エルもゲンローワから聞いたのか、俺が暗黒魔導を倒したことは知っているようだ。

薬師のゲンローワが、毒素の扱い方を間違えたと言う事は考えにくい。

こんな時にゲンローワが邪毒の病に感染したのは、暗黒魔導を倒しても、汚染は消えていないからだろう。

今のアレフガルドには、ルビスの加護が失われたことに加え、ひかりのたまのように、魔物の力を消し去る物ももうない。

 

「…暗黒魔導を倒したところで、汚染がなくなった訳じゃないからだ。でも、まさかゲンローワがな…」

 

暗黒魔導を倒したことで、町が壊滅する危険性も減り、新たな汚染も起こらなくなったので、確かにリムルダールの2度目の復興に大きく近づいた。

だが、既に汚染されている空気や水は、もう戻ることはない。

そこで俺は、暗黒魔導が死に際に言っていた、もうリムルダールに未来はないという言葉を思い出した。

ゲンローワは俺たちに向かって、苦しそうな声で話しかけて来る。

 

「すまぬ…毒素の解析は出来たが…薬の作り方を思いつけなかった…。おのれ暗黒魔導…死してなおも、わしらを苦しめるとは…!」

 

毒素の解析は出来たが、薬を開発する前に発症してしまったのか。

薬師のゲンローワが倒れてしまえば、邪毒の病の治療薬は作れない。

どうしようかと思っていると、エルが代わりに薬の開発を続けると言った。

 

「私が薬の開発を引き継ぎます!ゲンローワ様は病室で、ゆっくり休んで下さい」

 

だが、エルに薬を作ることは出来るのだろうか。

そもそもリムルダールの町にゲンローワを呼んだのも、俺やエルに薬の知識がなかったからだ。

 

「薬の知識はないんじゃなかったのか?」

 

「昔はそうでしたが、リムルダールに光が戻った後、ゲンローワ様に教えてもらったのです。邪毒の病の薬も、作れないことはないはずです」

 

俺がリムルダールを去った後、ゲンローワはエルに薬の知識を教えていたのか。

ゲンローワほど詳しくなくても、もしかしたら邪毒の病の薬を作れるかもしれないな。

エルも邪毒の病になってしまう可能性もあるが、そこはもう感染しないことを祈るしかない。

薬の開発はエルに任せて、ひとまずはゲンローワを病室に運ぼう。

 

「そうだったのか。じゃあ、とりあえず俺は、ゲンローワを病室に連れていくぜ」

 

「ありがとうございます、雄也様」

 

「本当に済まないのう…雄也、エルよ…」

 

俺たちに向かって、ゲンローワはもう一度謝った。

俺は彼のことを背負って、さっきも行った病室に向けて歩いていく。

病室に入ると空いているベッドにゲンローワを寝かせて、外に出た。

 

「エルは必ず薬を作るから、それまで待っていてくれ」

 

エルが薬を作れるかは分からないが、今は彼女を信じるしかない。

俺は病室を出た後、病人たちのために何か出来ることはないかと考えていた。

 

しばらく考え続けていると、不安そうな顔をしたエルが調合室から出て来る。

まだ薬を開発した訳ではないだろうが、何の用だろうか?

 

「雄也様、ゲンローワ様が書いた毒素の解析のまとめを見るに、私でも薬を作ることは出来そうでした。…ですが、まだ数日はかかりそうですね…」

 

エルでも薬を作ることは出来るが、結構な時間がかかるみたいだな。

ノリンたちは様子を見るに、持っても後一日くらいだろう。

数日も経てば、マロアたちも危ないかもしれないな。

何とかして、早く作ることは出来ないのだろうか?

 

「それだと、みんなは助けられない。何とか、一日で作る方法はないのか?」

 

「私はゲンローワ様ほど薬の知識はないので、どうしても時間がかかってしまいます。今は薬草を飲ませたり、料理を食べさせたりして、体力を保ってもらうしかないでしょう」

 

そういえばかつてのリムルダールでも、薬がまだ作れていない時は、栄養のある食べ物を食べさせたりしていたな。

ノリンたち4人はもう食べ物を食べられる状況ではないので、薬草を与えるしかないだろう。

白花の秘薬は、防衛戦や暗黒魔導との戦いの後に俺が飲んだので、無くなってしまった。

時間を短縮出来ないなら、エルの言う通り体力をつけさせて、生き延びるのを祈るしかなさそうだ。

 

「そうか…なら、食事が出来ないほど弱っているノリンたち4人には薬草を、まだ大丈夫なマロアたち6人には食べ物をあげよう。薬草と食べ物は、俺が集めて来る」

 

「それなら、6人の皆様には、それぞれが好きな食べ物を与えましょう。栄養のある食べ物なら、好きな食べ物を食べた方が、気分も明るくなると思うのです」

 

エルは昔ミノリとヘイザンを治療した時も、二人の好みの食べ物を与えていたな。

確かに気分が明るい方が、病に打ち勝てる可能性は上がるかもしれない。

旅のとびらも再入手したことだし、それぞれが好きな食べ物を集めて来よう。

俺はエルに、6人にどの食べ物を与えればいいか聞いていった。

 

「分かった。6人にどの食べ物をあげればいいか教えてくれ」

 

「マロア様にはフライドポテト、コレスタ様にはニガキノコ焼き、クロティム様にはバゲット、ケーシー様にはえだまめ、ゲンローワ様にはゆでガニをお願いします。オラフト様は釣り名人の釣った魚を食べていたと聞いたので、イワシの炭焼きが良いでしょう」

 

俺はみんなの食べ物の好みなんて知らなかったが、エルは把握していたんだな。

エルが挙げた食べ物はどれも、昔のリムルダールでも病人に食べさせた物だ。

レンガ料理台も必要になりそうだが、町の近くと南国草原と密林を回れば、全て集めることが出来るだろう。

 

「じゃあ、さっそく集めて来るぜ」

 

「料理が出来たら、私も一緒に食べさせに行きますね」

 

「ああ、分かった」

 

俺はみんなの好物を聞くと、エルと別れて薬草と食べ物を集めに行った。

エルは調合室へと戻っていき、薬の開発を続ける。

俺はまずは薬草とえだまめを集めるために、リムルダールの東の山へと向かっていった。

 

東へ向かう道の途中には、相変わらず多くのドロルリッチが生息していた。

俺はいつも通り隠れて進んでいき、ブロックやつたを使って山を登っていく。

山を登ると、俺はどくやずきんに気をつけながら薬草とえだまめを集めていった。

 

「薬草もえだまめも、これからも使うかもしれないし、たくさん集めておくか」

 

えだまめは美味しい食べ物だし、薬草も怪我をした時に必要になる。

この先のリムルダールにも必要になると思って、俺はおうじゃのけんを使ってかなりの数を回収していった。

十分な数が集まると、俺はニガキノコを集めに枯れ木の森に向かっていく。

 

「薬草とえだまめはこれくらいでいいな。次はニガキノコを取りに行こう」

 

黒く染まった毒沼の近くを歩いていき、またスライムやドロルリッチたちから隠れていく。

ニガキノコが目に入ると、俺はまた両腕の武器を使って採取していき、ポーチにしまっていった。

ニガキノコは名前の通り、とても苦い味のするキノコだ。

コレスタが、こんなキノコが好きだとは思っていなかったな。

薬草などよりは必要数は少ないだろうが、俺はニガキノコもたくさん集めていった。

 

「この地域で集められるのは、これで全部だな」

 

ニガキノコもポーチにしまっていくと、今度は旅のとびらに入るために一旦リムルダールの町に戻っていく。

また慎重に歩いていき、15分くらいで帰って来ることが出来た。

 

リムルダールの町に戻って来ると、俺はふとい枝とひも、さっき手に入れたニガキノコを使ってつりざおを作っていく。

つりざおが出来ると、次は青い旅のとびらに入って、南国草原に向かっていった。

 

「つりざおも作ったし、次はイワシだな」

 

ここでは、釣りをしてイワシを手に入れよう。

海はすぐ近くなので、俺は特に魔物にも会わずに歩いていった。

イワシがかかるのを待っている間、俺は昔ノリンと一緒に釣りをしたのを思い出す。

 

「またノリンと一緒に、釣りに行ってみたいぜ」

 

ノリンは釣り名人の元で修行したので、かなり上達していることだろう。

またノリンと一緒に魚釣りに行って、みんなで美味い魚を食べたいぜ。

そのためにも、必ずノリンたちを邪毒の病から救ってやらないとな。

そう思っている間に、俺のつりざおに何かの魚がかかる。

 

「そろそろかかったな」

 

竿を引き上げると、そこには大きめのイワシがかかっていた。

俺は釣り上げたイワシをポーチにしまうと、また旅のとびらをくぐって町に戻った。

今釣ったイワシを石炭を使って焼いて、イワシの炭焼きにしよう。

 

イワシも集めると、今度は俺は赤い旅のとびらを通って密林に入っていく。

移動がかなり楽になるし、旅のとびらを取り返せて本当に良かったな。

ここでは、石炭と小麦、レンガ、いもを集めないといけない。

 

「崖を登りながら石炭を集めて、崖の上で小麦を集めよう」

 

旅のとびらの出口となっている場所は、3方向を土で出来た山に囲まれた場所だ。

俺はまず崖に埋まっている石炭を集めていき、山の上に登っていった。

山の上では敵のリリパットに気をつけながら、小麦を集めていく。

小麦も集まると、俺は水没した密林へと向かっていった。

 

「レンガといもは、密林を越えた先だったな」

 

レンガもいもも、密林を越えた先の遺跡の辺りにしかない。

俺はキラークラブやまかいじゅに気をつけながら、濡れるのを我慢して密林を歩いていった。

ゆでガニを作るためのカニの爪も必要だが、それは昨日の戦いで倒したキラークラブから手に入れているので、今は集めなくてもいいな。

30分くらい歩いて遺跡地帯にたどり着くと、レンガといもを集めていく。

 

「レンガといもを集めたら、レンガ料理台を作ってみんなに料理をあげよう」

 

俺が作った料理で、みんなが少しでも元気になってくれるといいな。

そう思いながら、俺はレンガといもを集めていった。

途中でまほうつかいやしりょうのきしと言った魔物も目撃したが、今は戦う必要はないので、隠れて回収していく。

レンガといもも集まると、俺はまた密林を歩いて、旅のとびらに戻っていった。

 

町に帰って来ると、俺はまず今まで使っていた料理用たき火を回収し、工房に入っていく。

その料理用たき火は俺が出かけている間、ピリンたちが作った物だ。

 

「この料理用たき火を使って、レンガ料理台を作っていこう」

 

そして、さっき手に入れたレンガとこの前集めたさびた金属を使って、レンガ料理台を作っていった。

レンガ料理台があれば様々な料理が作れるし、この先も役立つだろう。

俺はレンガ料理台が出来ると、さっき料理用たき火があった部屋に置いて、みんなの分の料理を作っていった。

 

「レンガ料理台が出来たし、さっそく6人分の料理を作っていくか」

 

まずはえだまめとニガキノコを、火を通して食べられるようにし、それから他の料理も作っていく。

イワシは石炭を使って炭焼きにし、丁度いい焼き加減になったところで回収した。

バゲット、フライドポテト、ゆでガニはただ焼くだけでは作れないものだが、ビルダーの力を使うことで、あまり時間をかけずに完成させることが出来る。

6人分の料理が出来ると、俺は調合室にいるエルに知らせにいった。

 

「エル、みんなの分の料理を作って来たぞ。これから食べさせに行こう」

 

「おお、ありがとうございます、雄也様!まだ薬の開発は進みませんが、皆さんの体力がつくといいですね」

 

やはりエルの薬作りは、なかなか進んでいないようだった。

でも、薬草や料理で体力をつけることで、薬が出来るまで生き延びてほしいな。

 

「ああ。みんな、薬が出来るまで耐えてほしいな」

 

俺はエルにそう言って、彼女と一緒に病室に向かっていった。

 

病室では俺とエルが分担して、病人たちに薬草や料理を与えていく。

それぞれの好きな食べ物をもらって、マロアたちは何とか体を起こして嬉しそうに食べていた。

これで6人は、少しは体力がついたかもしれないな。

しかし、体の衰弱が激しいノリンたち4人は薬草を飲ませても、苦しそうな表情のまま変わらなかった。

 

「マロア様やゲンローワ様は、しばらくの間は大丈夫でしょう。…ですが、ノリン様たちは、薬草でも症状が改善されませんね…」

 

この世界の薬草は即効性であり、飲んだ瞬間痛みが消えたこともあった。

それでも症状が変わらないと言う事は、よっぽど衰弱が激しいのだろう。

4人は朝よりも症状が悪化しており、いつ力尽きてもおかしくない状態だった。

数日間持つ可能性は低いが、もう祈るしかない。

 

「ああ…。このまま弱っていく一方だけど、生き延びることを祈るしかないな…」

 

「私も出来る限り、薬の開発を急ぎますね…皆様と共にリムルダールを発展出来ることを、私も祈ります」

 

エルはみんなの回復を祈りながら、また調合室に入っていった。

だが、もうどうしようも出来ないのではないかという思いも、俺の中に浮かんでしまう。

しかし、俺はそんな思いをはらって、4人が耐え抜くことを祈り続けていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode176 救いなき世界

ゲンローワが倒れた日、エルは夜遅くまで薬の開発を続けていた。

その間にもノリンたちは邪毒に蝕まれ、衰弱が進んでいく。

しかし、やはり一日では薬を作ることはできず、みんなが耐え抜くことを祈るしかなかった。

俺も大きな不安の中、夜を明かすことになる。

 

そして、ゲンローワが倒れた翌日、リムルダールに戻って来てから7日目の朝、俺はノリンたちの様子を見に病室に入った。

すると、マロアたち6人は昨日の食べ物のおかげか、容態は安定していた。

しかし、ノリンたち4人はもう限界のようで、少しも体を動かさない。

息もほとんどしておらず、人間の体に詳しくない俺から見ても、もう長くないことは明らかだった。

 

「くそっ、何とか助けられないのか…?」

 

俺は4人の様子を見て、思わずそうつぶやく。

ひかりのたまとルビスの加護の消滅、それがこんな事態まで招いてしまうとはな。

エルが薬を完成させるまで、とてもじゃないが耐えられないだろう。

何か方法はないかと考えていると、ノリンは僅かに口を動かして、もう助けは必要ないと言う。

 

「もういい…雄也。オレはもともと、あいつの後を追うつもりだったんだ…。欲を言えばもう一度、美味い魚を食べたかったんだけどな…」

 

「それなら何とか、薬が出来るまで頑張ってくれ…!病気が治ったらまた一緒に釣りにいって、みんなと一緒に美味い魚を食べよう。釣り名人の分も、偉大な釣り人を目指そうぜ!」

 

昨日も思ったが、またノリンと一緒に釣りに行って、みんなで魚を食べたい。

昔のような明るいノリンに戻れば、リムルダールの町も盛り上がるだろう。

諦めないでくれと、俺はノリンに声をかけ続けた。

だが、ノリンは釣り名人のいない世界で偉大な釣り人にはなれないと、俺に別れを告げる。

 

「でも、やっぱりオレはあいつなしで、偉大な釣り人にはなれねえ…。もう息が出来ない…さよならだ、雄也…。今いくよ、釣り名人…」

 

俺は声をかけ続けようとするが、ノリンはそう言った後、全く動かなくなった。

呼吸ももうなく、呼びかけても反応しない。

町の大切な仲間であるノリンを、こんなところで失いたくはない…。

俺は大声で、ノリンの名前を呼び続けた。

 

「おい、ノリン…!起きるんだ…、ノリン…!ノリンっ…!」

 

だが、どれだけ呼びかけても、ノリンはもう返事をしない。

俺の大声を聞いて、エルたちも病室の中に駆けつけて来た。

病人を救うことを第一に考えて来たエルは、慌てた口調で何があったのか聞いてくる。

 

「雄也様…!ノリン様に、何があったのですか…!?」

 

「息をしなくなって、呼びかけても返事をしないんだ…!」

 

俺も焦った口調で、ノリンの状態をエルに説明した。

俺の話を聞いて、エルもノリンに駆け寄り、必死に声をかけていく。

 

「そんな…!ノリン様…しっかりしてください…!」

 

俺もノリンが息を吹き返すのを、エルと共に祈っていた。

だが、いくら声をかけても祈り続けても、ノリンはもう動かず、言葉も発さない。

数分間脈も呼吸もなく、もう回復は絶望的であった。

 

「ノリン様っ…!」

 

「助けられなかったか…」

 

…ノリンは、死んだ…。

エルは息絶えた彼の体をまださすり続け、涙を流していた。

必ずみんなでリムルダールの2度目の復興を達成したいと思っていたのに、もうその願いが叶うことはない。

俺たちの後ろにいるミノリたちも暗い顔になり、病室全体が悲しみに包まれていた。

 

だが、悲しみに包まれていた俺たちに、さらなる悲劇が襲いかかって来る。

セリューナとザッコも、自分の死を悟り、最期の言葉を告げて来たのだ。

 

「アタシも…もうダメみたいです…今マデありがとう…雄也さん、エルさん…」

 

「イルマ…みんな…すまねえべ…。最後にこの町に戻って来ることが出来て、良かったべ…」

 

ノリンだけでなく、この二人まで…。

薬が出来るまで耐えられる可能性は低いとは分かっているが、それでも諦めることは出来なかった。

俺とエルは何とか頑張ってくれと、セリューナたちにも声をかける。

 

「セリューナ様、ザッコ様…諦めないでください…!」

 

「もう少しだけ頑張ってくれ…きっと薬は出来るはずだ」

 

これ以上目の前で、大切な仲間を失いたくはない。

イルマもザッコに向かって、死なないでくれと願い続けていた。

 

「ザッコ…おれとあんたは、小さい頃から友達だったじゃないか…。おれを残して、死なないでくれ…!」

 

声をかけながらも、何とか俺はセリューナたちを助けられる方法がないか考えていた。

しかし、俺では何も思いつくことは出来ず、二人を看取ることしか出来ない。

そして、ザッコは親友のイルマにもう一度謝った後、力尽きてしまった。

 

「本当に…すまねえべ…イルマ…」

 

「頼む、生きてくれ…!ザッコ…!」

 

目の前で動かなくなった親友の体を、イルマはゆすり続ける。

ザッコも昔のリムルダールで、イルマを必ず助けてくれと言っていたし、それだけ仲が良かったのだろう。

イルマは普段は考えられないような暗い顔になり、ザッコの前で泣きだす。

そんなイルマの姿を、俺もエルも見ていることしか出来なかった。

何も出来ない俺たちの前で、リリパットのセリューナも息を引き取ろうとする。

 

「みんな二見守らレテ死ねるンデス…アタシ、人間ノ味方二なっテ…良かったデス…」

 

「それなら、生きて一緒に町を作って行こう!俺たちと一緒に、これからも町を発展させようぜ」

 

人間の味方になって良かったと思うのなら、共に生きて町を作り、仲良く暮らしていきたい。

セリューナの力もあれば、リリパットの里を復興することも出来るだろう。

だが、その願いはもう叶わないと、セリューナは言う。

 

「それガ叶えバ、嬉しいンですけどネ…もうアタシに、力ハありまセン…本当二残念デス…」

 

リリパットは人間と違い、死んだら死体は残らない。

悔しそうにそう言ったセリューナの体は、青い光に変わって消えていった。

ベッドの上は、最初から誰もいなかったかのようになってしまう。

 

「くそっ、セリューナも…」

 

必ず助けてやると言ったのに、ザッコもセリューナも救うことは出来なかった…。

立て続けに3人の患者が亡くなったのを見て、ケンも絶望に沈んでいる。

 

「僕も頭が壊れそうなほど痛くて、息が出来ないんです…僕も、ここまでのようです…」

 

「耐えてくれ、ケン!これ以上、大事な仲間を失いたくないんだ…」

 

俺がケンと共に過ごした時間は短いが、それでも大切な仲間だ。

だが、ケンはもう少し言葉をかわす力もなくなったようで、うめき声しか上げなくなってしまう。

そうなってからも、俺は生きてくれと言い続けていた。

 

「ケン、生きるんだ…」

 

しかし、光の失われたこの世界で、奇跡という物は起こらなかった。

ケンが目を閉じたと同時に、彼の呼吸は止まり、脈もなくなってしまう。

…俺たちの目の前で、大切な4人の命が失われてしまった。

病室の中でみんな、亡くなったノリンたちを思いながら、涙を流していた。

 

特に、今まで病人を救うことに懸命になっていたエルは、声をあげて泣いている。

 

「私のせいで…皆さんが…。私がもっと早く薬を作っていれば、こんなことにはならなかったのに…」

 

確かにもっと早く薬を作っていれば、ノリンたちは助かっただろう。

だが、エルは薬作りが専門ではないので、時間がかかるのも仕方がない。

エルのせいではないと、俺は彼女に言った。

 

「エルは悪くない…邪毒の病を振りまいた、暗黒魔導のせいだ…」

 

暗黒魔導が邪毒の病を振りまいたせいで、薬師のゲンローワが倒れてしまった。

しかし、その暗黒魔導は、既に倒されている。

苦しみの元凶を倒したとしても、この世界では、全てを救うことは出来ない。

エンダルゴやアレフを倒しても何も変わらないのではないかとも、俺は思ってしまった。

そんなことを考えている間に、まだ生きているマロアとオラフトの、絶望の声も聞こえて来る。

 

「セリューナが、死んだカ…オレも、もうすぐ終わりダナ…」

 

「ワタシももっと…生きたかったんだけどね…」

 

4人の死によって、昨日料理を食べて少しは元気を取り戻した6人も、生きる気力をなくしていた。

俺は絶対に助けてやるといつも通り言いたかったが、その確証も持てない。

悲しみに暮れている俺とエルに向かって、ゲンローワは話しかけてきた。

 

「雄也よ…エルよ…大切な話があるのじゃ…」

 

ゲンローワは病に冒された体を何とか起き上がらせ、俺たちに伝えたいことがあるようだ。

俺とエルは1度立ち上がり、ゲンローワの寝ているベッドに歩いていく。

 

「どうしたのですか…ゲンローワ様?」

 

「暗黒魔導を倒したところで、リムルダールの邪毒は消えなかった…もう薬の開発をやめてわしらを捨て、安全な場所へ逃げてほしいのじゃ…」

 

エルが聞くと、ゲンローワはもう薬の開発をやめるべきだと言ってきた。

まさか昔のようにまた、病にこれ以上抗うべきではないと考え始めたのだろうか。

 

「な、何を言うのです、ゲンローワ様!私は苦しむ患者様がいる限り、治療を諦めたくはありません…」

 

「別にわしは、病に抗うのが間違っているなどと言うつもりはない。…じゃが、このままではお主もみんなも、邪毒にやられてしまうじゃろう」

 

今日の悲劇を見ても、エルにはまだ諦めない心があるようで、ゲンローワに大声で反対する。

だが、ゲンローワの言う通り、リムルダールで薬の開発を続けていれば、エルも邪毒の病に感染してしまう恐れもあるだろう。

自分だけでなく孫娘まで死んでしまうと言う事は、ゲンローワにとって何より辛いことのはずだ。

 

「雄也の小舟に乗って邪毒のない場所まで行き、そこで魔物に抗うと良い」

 

「ですが、私に患者様を見捨てて、この町を捨てることなど…」

 

暗黒魔導が倒れたことでこれ以上邪毒が振り撒かれることはなくなったので、リムルダールを離れれば、もう病にかかることはないだろう。

だが、俺もエルも、邪毒の病の治療を諦めて、リムルダールの町を放棄することなど、絶対にしたくはなかった。

でも、病に冒される危険もあるリムルダールに残るか、この町を放棄するか、どちらのほうがいいのだろうか。

 

「無理にとは言わぬ…少し、考えて見てほしいのじゃ…」

 

「では、少し時間をとらせてください…」

 

エルはそう言うと、今度のことを考えに病室から1度出ていった。

どちらの選択を選んでも、これからも魔物と戦い続け、エンダルゴやアレフとの戦いの準備を進めることになるだろう。

だが、闇の元凶を倒したとしても、もう何も変わらないのではないかとも、俺は考えてしまっていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode177 終わらないリムルダール

しばらく経って、病室の中にエルが戻って来る。

リムルダールで薬の開発を続けるか、考えがまとまったのだろうか。

ゲンローワは再び体を起こし、エルの決断を聞いた。

 

「…戻って来たようじゃな、エル。町で薬の開発を続けるか、小舟で遠くに逃げるか、お主の考えは決まったのか…?」

 

ゲンローワの言う通り、このままリムルダールに残れば町のみんなが全滅してしまうかもしれない。

しかし、せっかく復興させてきた町を捨てるなんて、簡単には思えなかった。

サンデルジュの砦を捨てた時の悲しさを、もう味わいたくはない。

そう思っていると、エルもリムルダールを捨てず、薬の開発を続けたいと言った。

 

「私はやはり…皆様の治療や、この町の復興を諦めたくはありません…私の命ある限り、薬の開発を続けたいです…」

 

「本当にお主は…昔から変わらんな…。わしを含めたみなが病の治療を諦めても、お主だけは決して諦めなかった…」

 

そう言えば昔のリムルダールでは、エルを除いたみんなが生きることを諦めていた。

俺ももしビルダーの力がなかったら、病に抗おうなんて思わなかったかもしれない。

どんな中でも決して絶望に屈さないエルは、本当にすごいな。

だがエルは良くても、他のみんなは逃げたいと思っているのではないかと、ゲンローワは聞いた。

 

「じゃが、お主は薬の開発を続けるにしても、他のみなはどうなのだ?」

 

確かにイルマたちも、自分が邪毒の病にかかるのではないかと恐れているはずだ。

そんな恐怖の中でも、リムルダールに残って復興を手伝ってくれるだろうか。

俺はみんなの方を振り向き、この地に残りたいか聞いた。

 

「みんな、このままリムルダールにいたら、あんたたちも邪毒の病にかかってしまうかもしれない。それでも、リムルダールに残るか?」

 

俺の話を聞いて、みんなもしばらくの間考え始める。

俺はエルと共にリムルダールの復興を進めるので、彼らにも手伝ってほしいな。

考えた後、みんなはそれぞれの考えを話し始めた。

 

「邪毒の病にはかかるかもしれねえ…オレは今までもこの町を守るために、命をかけてきた…オレも最後の時まで、この町にい続けるぜ」

 

「あたしも雄也さんとエルさんに助けられたおかげで、ここまで生きて来ました…二人が町の復興を諦めないなら、あたしも手伝いますよ」

 

リムルダールの兵士であるエディとミノリは、残ってくれるみたいだな。

今まで守り続けた場所を諦めるという決断は、どうしてもできないのだろう。

目の前で親友を亡くしたイルマも、考え続けた末、リムルダールの復興を続けたいと言う。

 

「おれもザッコとの思い出の場所を、捨てたくはない。それに、ここで諦めたら、ザッコの死が無駄になる気がするんだ」

 

3人とも残ってくれるのなら、リムルダールの復興も早まるだろう。

みんなの町を愛する気持ちは、決して失われることはない。

エディたちの話を聞いて、エルは感謝の言葉を言い、邪毒の病の薬の開発を再開しようとする。

 

「ありがとうございます、みなさん。みなさんのためにも、必ず邪毒の病の薬を開発して見せますね」

 

エルはそう言うと、病室を出て調合室に向かっていった。

もし俺にも薬の知識があれば手伝えるのだが、今は祈ることしか出来ない。

エルが去った後、ミノリは亡くなった4人のために、墓を作ろうと言い出した。

 

「…あたしたちは、亡くなったみんなを弔う準備をしましょう。雄也さんは、墓を用意して来てください」

 

確かに、ノリンたちの遺体をこのままにはしておくわけにはいかない。

きちんと墓を作って、弔ってやるべきだろう。

 

「分かった。工房に行って来るから、少し待っててくれ」

 

ゲンローワを町に連れて来る時に作ったことがあるので、木の墓の作り方は分かっている。

俺も病室を出て、木の作業台のある工房に向かっていった。

 

工房に入ると俺は木の作業台の前に立ち、木の墓を作り始める。

ふとい枝とひもにビルダーの魔法をかけ、墓の形に加工していった。

3つの木の墓が出来ると、俺はポーチにしまっていく。

これで、ノリン、ケン、ザッコの分は出来た。

 

「遺体は残ってないけど、セリューナの分も作っておこう」

 

セリューナはリリパットなので、ノリンたちと違って遺体が残らない。

しかし、共に過ごした時間も短いけど、彼女も間違いなく町の仲間だった。

セリューナのことも決して忘れないよう、俺は4つ目の木の墓を作った。

 

「みんなに知らせたら、遺体を埋めてこの墓を立てよう」

 

4つの木の墓が出来上がると、俺はエディたちのいる病室に戻っていく。

 

「みんな、木の墓を作って来たぞ」

 

「ありがとうございます、雄也さん。町の北側に、建物の立っていない場所があります…そこに、みんなの墓を立てましょう」

 

病室に戻って来ると、ミノリは感謝と共に、墓を立てる場所について話した。

確かに町の北側には建物がない場所があり、そこなら4人分の木の墓を立てることも出来るだろう。

ノリンたちの遺体は、自分たちが運ぶとエディが言う。

 

「死んじまったみんなは、オレたちが運ぶぜ」

 

「分かった。それならさっそく、町の北側に向かおう」

 

エディがケン、ミノリがノリン、イルマがザッコを担いで、俺たちは町の北側に向かっていった。

棺桶はないので、みんなの遺体はそのまま土に埋めることになるだろう。

 

「俺が地面に穴を掘るから、みんなはその中に遺体を埋めてくれ」

 

町の北側にたどり着くと、俺はビルダーハンマーを取り出して地面に穴を開ける。

少し深い穴にして、上に土ブロックを被せられるようにした。

みんなはその穴に入り、ノリンたちの遺体を丁寧に置いていく。

3人の遺体が安置されると、俺は土ブロックを被せて、木の墓を設置していった。

ノリンたちの墓の隣には、セリューナの墓も作っていく。

 

「墓は出来ましたね。ノリンさんたちの魂が救われるよう、みんなで祈りましょう」

 

4人分の墓が出来ると、ミノリはそう言った。

精霊なきこの世界で、4人は病の苦しみの中で死んでいった。

せめて魂だけでも、救われてほしいな。

 

「ああ、そうしよう」

 

俺はそう返事をすると、目を閉じてノリンたちに祈りを捧げ始める。

その間、俺は4人のことを思い出し、いろいろなことを思っていた。

 

ノリンは重苦しかったリムルダールの町を明るくするために、魚釣りに興味を持っていた。

釣り名人の言っていたような、偉大な釣り人になって欲しかったな。

彼がいれば、今の暗いリムルダールも、少しは明るく出来ただろう。

 

セリューナは最期の時、人間の味方になって良かったと言っていた。

俺も町の仲間として、一緒に復興を続けていきたかったな。

 

ザッコはマヒの病から回復した後、リムルダールの町のために、様々な協力をしてくれた。

イルマのためにも、生きていてほしかったな。

 

ケンは浄化の霊薬の力で魔物にならずにすみ、ヘルコンドルやマッドウルスとの戦いで活躍していたな。

彼の力も、リムルダールには不可欠だった。

 

…4人を救うことが出来なくて、本当に残念だな…。

生まれ変わるのなら、どんな世界であっても幸せになってほしい。

エディたちも4人との別れを惜しみ、祈り続けていた。

 

しばらくして俺が目を開けると、エディたちもだんだん目を開け始める。

ノリンたちの墓を作り、祈りを終えると、これからのリムルダールの町の復興について、エディは話し始めた。

 

「ここに残ると決めた以上、オレも町のために出来ることを考えるぜ。必要があったら、お前たちにも伝える」

 

確かに、いつまでも悲しんでいるわけにもいかない。

リムルダールの町の復興を続けると決めた以上、出来る限りのことをしないとな。

 

「分かった、いつでも呼んでくれ」

 

みんなが必要な物を思いついたら、俺がビルダーの力を使って作ろう。

俺はみんなと別れた後、今日これから何をするか考えていた。

 

しばらく考えた後、俺はリムルダールにまだ、探査していない場所があったのを思い出す。

 

「そう言えば南の山の奥の方には、まだ行ったことがなかったな」

 

木の作業台が置いてあったタルバのクイズなどがある、リムルダールの町の南にある緑の山、その奥地にはまだ行ったことがなかったな。

かなり歩かなければいけないが今日はまだ時間があるので、これから行ってみよう。

もしかしたら、リムルダールの復興に役立つ物があるかもしれないからな。

 

「廃墟の屋根の宝箱も気になるな…」

 

それと、イルマとザッコの隠れていた廃墟の屋根にあった2つの宝箱も、調べておいたほうがいいだろう。

屋根の上という取りにくい位置にあるので、貴重な物が入っているかもしれない。

 

「結構遠いけど、今から調べて来よう」

 

俺はその場を立ち上がり、まずは南の山を調べるために、町の外へと出ていった。

 

外に出ると、俺は町の東を通って南の山に向かっていく。

黒く染まった毒沼のせいで、まっすぐ進むことは出来ないからな。

俺はドロルリッチから隠れるために体勢を下げて、ゆっくり進んでいく。

20分くらいで南の山にたどり着くと、俺はつたを使って登っていった。

 

「南の山に着いたか…まずはタルバのクイズがあった場所を目指そう」

 

山を登ると、今度はどくやずきんに気をつけながらタルバのクイズがあった場所を目指していく。

その途中、えだまめや薬草もいくつか集めていった。

今も邪毒の病に苦しんでいる6人に、少しは体力をつけられるだろうからな。

タルバのクイズのところまで来ると、俺は少し休んでさらに奥へと向かっていった。

 

「結構遠かったけど、ここまで着いたな…この先には、何があるんだ?」

 

奥に進んでも、しばらくは目の前に見えるのは薬草や豆、どくやずきんだけで、特に変わった物は見つからなかった。

だが、町を出てから1時間くらい経ったところで、目の前に小さな建物が見えてきた。

壁にはタペストリがかけられており、密林の岩山の近くにあった、マロアが隠れていたものと似たような感じだ。

 

「この中に、何か隠されているのか?」

 

マロアが隠れていた建物には、かつてかいしんの指輪が隠されていたので、この建物も貴重な物が入っている可能性が高いな。

俺はその建物を1周し、入り口がないか探す。

すると、入り口の扉を見つけることはできたが、鍵がかかっていて開かなかった。

 

「鍵がかかってるのか…大変だけど、町に戻って作って来よう」

 

今はかぎを持っていないので、町に戻って作って来ないといけなさそうだ。

面倒だけど、この中には役立つ道具が入っているかもしれない。

俺はまた魔物たちから隠れながら、1時間くらいかけてリムルダールの町に戻っていった。

 

リムルダールの町に戻って来ると、俺は液体銀を大倉庫から取り出し、木の作業台でかぎに加工していく。

かぎは小さいので、加工にあまり時間がかからない。

かぎを用意すると、俺はすぐに町の外へ出て、南の山にある建物に向かっていった。

その建物にたどり着くと、俺はさっそくかぎを使って開けていく。

 

「何が隠されているんだ…?」

 

建物の中に入ってみると、そこには宝箱が一つ置かれていた。

俺はその宝箱に近づいて開け、中身を見てみる。

するとそこには、細長い入れ物に入れられた、薬のようなものが入っていた。

 

「これは…薬か…?見たことがないな」

 

浄化の霊薬とも聖なるしずくとも白花の秘薬とも異なるが、不思議な力を感じる薬だ。

今は製法が失われた、古代の薬なのだろうか。

一本しかないので、6人いる邪毒の病の患者の治療には使えなさそうだ。

しかし、強い力のある薬なのは間違いなさそうなので、ここぞという時のためにとっておくことにした。

 

「今は使えないけど、とっておこう」

 

リムルダールの復興には使えなくても、今後役立つ時が来るだろう。

俺は謎の薬をポーチにしまうと、リムルダールの町に戻っていった。

 

リムルダールの町に戻って来ると、今度は廃墟の屋根を調べに行こうとする。

まずは青い旅のとびらに入り、南国草原の地域に向かっていった。

 

「廃墟があったのは、岩山の向こうだったな」

 

旅のとびらを出ると、俺は魔物たちから隠れながら、岩山へと向かっていく。

特に危険なキャタビウスには、絶対に見つからないように気をつけていった。

岩山まで来ると、ポーチから土ブロックを取り出して、廃墟の屋根へと橋をかけていく。

屋根はかなりの高さなので、落ちないように注意して動いていった。

 

「無事に屋根に着いたか…2つの宝箱のうち、片方は封印されてるな…」

 

屋根にある2つの宝箱のうち、片方は封じられていて、開かなくなっている。

もう片方の宝箱に、開けるためのヒントが隠されているのだろうか。

俺は封じられていない方の宝箱を開けて、中に何が入っているのか見る。

そこには、屋根を覆うための物と思われる赤く塗られた何枚かのレンガの板と、一枚の手紙が入っていた。

 

「誰が書いたんだ、この手紙?」

 

イルマたちが来る前からこの屋敷はあったそうだし、既に亡くなった人が書いた物だろう。

俺はその手紙を宝箱から取り出し、読んでいく。

 

おお…オレが最後の仕事と決めたこの屋敷の屋根修理も、ついに完成出来なかった。依頼主はとっくに病気で死んで、オレも同じ病気で間もなく死ぬだろう。この家の屋根を修理しても、きっともう何の意味もねえ…。だが俺は職人の最後の物作りとして、この屋根の修理を完成させたかったんだ…。もしこの紙を読む物が意志を受け継ぎ、屋根の修理を完成させてくれたら嬉しく思う。

 

この手紙は屋敷の主ではなく、屋根の修理を依頼された職人が書いた物なのか。

確かにこの廃墟にはもう誰もおらず、屋根を修理したところで何の意味もないだろう。

だが、最後の仕事を完成させずに死んでしまったというのは、残念な話だな。

 

「せっかくだし、俺が屋根を修理しておくか」

 

手紙の最後に、屋根の修理をしてくれたら嬉しいと書いてあるし、俺が修理の続きをしよう。

ここは人間がいないので、すぐに魔物に壊されるということもないだろう。

それに屋根の修理を完成させれば、もう一つの宝箱の封印も解けるかもしれない。

俺は宝箱からレンガの板を取り出し、屋根の上のレンガの板が欠けている部分に、はめこんでいった。

 

「屋根は斜面になっているし、気をつけていかないとな」

 

屋根は斜面になっているので、滑り落ちないように慎重に歩く。

レンガの板には平らな物、ななめの物、真ん中が出っ張った物、引っ込んだ物の4種類があり、場所によって使い分けていった。

欠けている場所は10箇所ほどなので、あまり時間はかからない。

全ての場所を修理すると、封じられていた宝箱から光が出て、開くようになった。

 

「これで屋根の修理は完了か…もう一つの宝箱も、開くようになったな」

 

封じられていた方の宝箱に、役立つ物が入っているといいな。

俺はそう思いながら、屋根の上を歩いて宝箱のところに戻っていく。

そして宝箱を開けると、また手紙のようなものが入っていた。

 

「こっちにも手紙が入っているのか」

 

俺はこちらの手紙を取り出して、書かれていることを読んでいく。

 

これを読んでいる奴はきっと、オレの最後の仕事を完成させてくれた奴だろう。誰かは知らぬが感謝する。お礼に、オレの職人魂を受け取ってくれ。

 

廃墟の屋根を修理してくれた未来の人のためにも、この職人は手紙を書いていたのか。

どんな報酬があるのだろうかと思いながら、俺は手紙を読み進めていく。

すると、屋根を覆うための4種類のレンガの板の作り方が、詳しく書かれていた。

 

屋根・天板…レンガ1個、染料1個、木材1個 木の作業台

屋根・ななめ板…レンガ1個、染料1個、木材1個 木の作業台

屋根・でっぱり角…レンガ1個、染料1個、木材1個 木の作業台

屋根・ひっこみ角…レンガ1個、染料1個、木材1個 木の作業台

 

報酬は希少なアイテムではなく、この職人の技術だと思われる屋根板の作り方のようだ。

魔物との戦いや探索には、役に立たない物だろう。

だが、これから町を大きく発展させていく時、使うことになるかもしれない。

俺は屋根板を作るのに必要な素材を確認すると、リムルダールの町に戻っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode178 清めの光薬

ノリンたちが亡くなった次の日も、俺はリムルダールの探索を続けていた。

すると、南国草原の岩山の近くでも鍵のかかった建物も見つけることができ、そこにはドムドーラのピラミッドにもあった、オリハルコンでできた靴が入っていた。

これを使えば、足に傷を負う可能性は下がるだろう。

俺はその靴を装備して、探索を続けていった。

 

そして、リムルダールに戻って来てから10日目の日、ノリンたちが亡くなってから3日後、俺はまた病室のみんなの様子を見に行く。

すると、3日前までは元気だった6人も、もう息をするのがやっとの状態になっていた。

 

「このままだと、みんな死んでしまうな…」

 

4人が死ぬのを見て、生きる気力をなくしたのも原因だろう。

早く薬を飲ませなければ、ゲンローワたちも助からないな。

だが、やはり俺が薬を開発することは出来ないので、見守っていることしか出来なかった。

 

「エルが薬を完成させるまで、持ってくれるといいんだけど…」

 

エルが一刻も早く薬を完成させることを、今は祈るしかない。

ビルダーの力は強力だが、それでも全てを救うことなど出来ないと、俺は強く感じていた。

 

だが、そんなことを考えている俺のところに、エルが入ってくる。

 

「雄也様!ついに、ついに出来ました!」

 

あんな悲劇があった後だが、エルは明るい顔になっていた。

もしかして、邪毒の病の薬を思いつくことが出来たのだろうか。

 

「もしかして、邪毒の病の薬を思いついたのか?」

 

「はい!3日間徹夜で考えて、ようやく思いつくことができました」

 

俺が聞くと、エルは大声でうなずく。

3日間も徹夜なんてロロンドですらしていなかったし、相当大変だっただろう。

だがこれでついに、コレスタたちを回復させることが出来るな。

作り方と素材を聞いたら、さっそく作りに行って、みんなに飲ませよう。

 

「それなら、さっそく作り方を教えてくれ。みんなの衰弱も激しいし、早く飲ませないと」

 

「分かりました。雄也様が薬を作っている間、私がみなさまの様子を見ていますね」

 

エルはさっそく、邪毒の病の薬の作り方を説明していく。

彼女が考えたのは邪毒を祓うための光り輝く薬、清めの光薬という物らしい。

新たに出現した魔物の物を含めて、かなりの種類の素材を使うことになりそうだった。

俺はエルの話を聞いている間に、ビルダーの力で必要な素材を調べていく。

 

清めの光薬…ねばつく黄金液1個、強マヒ針1個、液体銀1個、金1個、くすりの葉1個、ピンクの花びら1個 いにしえの調合台

 

ねばつく黄金液と強マヒ針というのは、それぞれドロルリッチとキャタビウスが落とした素材のことだろう。

この前の防衛戦でたくさん手に入れたので、わざわざ集めなくても良さそうだ。

銀とくすりの葉も、たくさん大倉庫に入っている。

これなら、金とピンクの花びらを集めれば、清めの光薬を作ることが出来そうだな。

ピンクの花びらはどくけしそうにも使ったし、解毒作用があるのだろう。

 

「素材集めには行かないといけないけど、大して時間はかからないと思う。今すぐ集めに行ってくるぜ」

 

「ありがとうございます、雄也様。ですが…」

 

だが、薬を作りに行こうとすると、エルは暗い口調で何かを伝えようとする。

清めの光薬について、何か心配なことがあるのだろうか。

 

「どうしたんだ?」

 

「私はやはりゲンローワ様ほど薬作りに慣れてはいないので、この薬でも邪毒の病を治せる確信はないのです…。もしかしたら、効果がないかもしれません」

 

効果がないかもしれない…でも、これ以外にゲンローワたちを助ける方法はない。

清めの光薬を飲ませた後、みんなが助かることを祈り続けるしかないだろう。

 

「それでも、作らない訳にはいかない。このままだと、みんなが助かる可能性はゼロだからな」

 

「では、みなさまの薬が完成したら、私に知らせてください」

 

「ああ、分かった」

 

俺はエルにそう言った後、病室を出てリムルダールの町の外へ向かっていった。

ピンクの花びらは町の近く、金は緑のとびらの先で手に入れられるはずだ。

まずは町の近くで、ピンクの花びらを集めよう。

俺はドロルリッチから隠れながら、町の東へと歩いていった。

 

町を出てから10分くらい経って、俺はピンクの花が生えている場所の近くにやってくる。

花を攻撃して切り取れば、花びらを入手することが出来たはずだ。

そこで俺はおうじゃのけんを振り下ろし、ピンクの花を刈り取った。

 

「これで一つは手に入ったな。周りのピンクの花も回収していこう」

 

手に入ったピンクの花びらをポーチにしまうと、周りに生えているピンクの花も同じように攻撃していく。

結構な数が生えていたので、6人分集めることが出来た。

ピンクの花びらが集まると、今度は金を集めに行こうと一旦町に戻る。

 

「これでピンクの花びらは十分だな、次は金を集めに行こう」

 

ピンクの花びらの用途は少ないので、たくさん集めなくてもいいだろう。

俺はまた魔物たちから隠れながら、リムルダールの町へと進んでいった。

町に戻って来ると、俺は緑の旅のとびらに入って金のある山岳地帯に向かっていく。

 

緑の旅のとびらに入ると、俺の目の前は一瞬真っ白になり、草木の生えていない山岳地帯に移動した。

辺りにはたくさんの墓標があり、しりょうのきしがうろついている。

何度来ても不気味な場所だが、俺は奴らから隠れながら、金の鉱脈を探していった。

 

「金は数が少ないから、探すのに時間がかかるな…」

 

金は銀より数が少ないので、鉱脈を見つけるのには少し時間がかかるだろう。

しかし、俺は崖を土ブロックも使って歩いていき、金を探していく。

すると、旅のとびらを抜けてから15分くらいのところで、俺はたくさんの金が埋まっている鉱脈を見つけることが出来た。

 

「何とか金の鉱脈が見つかったか…採掘したら、薬を作りに行こう」

 

俺は回転斬りも使って、おうじゃのけんで金の鉱脈を砕いていった。

ビルダーハンマーで鉱脈を殴ると、鉱脈そのものを回収してしまうらしいからな。

6つの金が集まると、俺はポーチにしまった旅のとびらに向かっていく。

 

「これで金も集まったか…ゲンローワたちが治るといいな…」

 

俺はしりょうのきしたちから隠れながら、崖を登って山岳地帯を歩いていく。

リムルダールの町に戻って来ると、俺はさっそく清めの光薬を作りに、調合室へと向かっていった。

 

調合台の前に立つと、俺はいにしえの調合台の前に立ち、必要な素材を6つずつポーチから取り出していく。

そして、ビルダーの力を使って清めの光薬を作っていった。

魔法の力をかけられて、6種類の素材が集まって、光り輝く液体へと変わっていく。

清めの光薬が一つ出来ると、俺は残りの5人分のも作っていった。

 

「これで清めの光薬ができたな…みんなの分も作っておこう」

 

強力な薬だからなのか作るのに時間がかかったが、無事に6本の清めの光薬が完成する。

この薬なら邪毒の病も治せそうだが、実際に飲ませるまでは分からないな。

俺は清めの光薬で邪毒の病が治せることを祈って、エルの待っている病室に向かっていった。

 

「エル、清めの光薬を作って来たぞ!」

 

「本当ですか、雄也様!?これでようやく、苦しんでいる患者様を救えるかもしれませんね」

 

俺の声を聞くと、エルはそう言って病室の中から出てきた。

やはり確実に治せる確信はないのか、そんなに嬉しそうな顔はしていない。

ゲンローワたちが死んだらエルも悲しむだろうし、何としても治ってほしいな。

俺は病室の外に来たエルに、清めの光薬を見せた。

 

「ああ、これが清めの光薬だ。さっそく飲ませに行こう」

 

「はい。薬を飲ませたら、一晩休ませてみましょう」

 

確かに薬を飲ませても、すぐには効果は現れない。

明日になったら、また様子を見に来よう。

 

俺はエルと共に、ゲンローワたちに清めの光薬を飲ませていく。

すると、さっきまで火のような高熱と呼吸困難で苦しんでいた6人の容態が、少しは落ち着いたようだった。

6人の容態が落ち着き、エルは少しは安心した顔になる。

 

「みなさまの状態も、少しは落ち着いたようですね。これで、完治するといいのですが…」

 

「ああ。明日の朝、また見に来よう」

 

光り輝く見た目の通り、清めの光薬はかなりの効果があったようだ。

だが、容態が急変する可能性もあるので、まだ油断は出来ないだろう。

ゲンローワたちの病に抗う力を信じて、明日まで待つことにする。

俺は病室から出た後、希望のはたの台座のところで、今日これから何をするか考えていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode179 鍛冶屋を継ぐ者

ゲンローワたちに清めの光薬を飲ませた後、俺はこれから何をするか考えていた。

しかし、リムルダールはもう全て探索しており、今すぐに作らなければいけない物もない。

特に何も思いつかず、俺は座り続けていた。

 

だが、ぼうっとしている俺のところに、ヘイザンがやってくる。

 

「ここにいたのか、雄也。実は、大事な話があるんだ」

 

いつもより真面目な顔で、大事な話があると言ってきた。

そう言えばこの前ヘイザンは、ビルダーハンマーにも匹敵する強力な武器を考えていると言っていたな。

もしかしたら、その武器の作り方が思いついたのだろうか?

 

「この前言ってた、強力な武器の話か?」

 

「そうなんだ。エルが邪毒の病の薬を考えている間、ワタシは新しい武器を考えていた。それでついにさっき、武器の詳しい作り方を思いつくことができた」

 

ヘイザンが長い時間をかけて考えた武器だから、きっと強力な物になるだろう。

俺はゲンローワたちが回復したらリムルダールを去るつもりだが、マイラに行っても役立つことになりそうだ。

今日はこれから時間があるので、俺はさっそく作り方を聞いていく。

 

「今日はまだ時間があるから、さっそく作って来るぜ。詳しい作り方を教えてくれ」

 

「ワタシが考えたのはビルダーハンマーと同じ、ビルダーの名を冠する斧…ビルダーアックスだ。ビルダーハンマーと同じく、なるべく素材の必要数も減らしたつもりだ」

 

ビルダーアックスか…これからは、ビルダーの名を冠する2つの武器を振るって、魔物と戦っていくことになりそうだ。

素材の必要数も少ないのなら、今日中に作ることも出来るだろう。

しかもヘイザンは、ビルダーハンマーの最大の欠点も改善したと話した。

 

「それに、ビルダーハンマーと違って、鉱石を採掘することもできるんだ。戦闘でも採掘でも、役に立つ物になるはずだ」

 

ビルダーアックスがあれば、鉱脈の採掘がかなり楽になりそうだな。

鉱脈をそのまま入手してしまうという、ビルダーハンマーの強さの代償までもなくしてしまうとは、ヘイザンはもう師匠のゆきのへを超えているのかもしれない。

そんなことを考えていると、ヘイザンはビルダーアックスの作り方を詳しく話す。

ヘイザンの話を聞きながら、俺はビルダーの魔法で必要な素材を調べていった。

 

ビルダーアックス…オリハルコン3個、さびた金属3個、はがねインゴット1個、金1個、木材1個 仕立て台

 

他の斧と同じで、仕立て台で作ることができるようだな。

木材とさびた金属はすでに持っており、金もさっき行った鉱脈で採掘して来れば良さそうだ。

オリハルコンとはがねインゴットはリムルダールにはないが、小舟でメルキドに向かい、メルキドの大倉庫から取り出せば集められるだろう。

時間はかかるが、今日中に作ることが出来そうだな。

ヘイザンは本当は、黒いオリハルコンを使いたかったとも言った。

 

「本当は黒いオリハルコンを使いたかったんだけど、普通のオリハルコンとは性質が変わっているから、うまい加工方法がまだ思いつかなかった…すまないな」

 

「このビルダーアックスでも、十分強いと思うぜ。強力な武器を考えてくれて、本当にありがとう。完成したら、すぐに見せに来るぜ」

 

ヘイザンは謝るが、今のビルダーアックスでも十分な強さだろう。

こんな強力な武器を考えてくれるヘイザンには、感謝してもしきれない。

必ず彼女の考えたビルダーアックスを形にして、見せに来よう。

俺はヘイザンの話を聞き終えると、まずはメルキドでオリハルコンとはがねインゴットを回収するために、小舟に乗りに行った。

 

いつも通り魔物たちから隠れながら、岩山の向こうの海へと歩いていく。

今日はまだあまり疲れてはいないので、15分ほどで海にたどり着くことが出来た。

海に出ると、俺はポーチから小舟を出して漕ぎ出していく。

 

「メルキドまでは遠いけど、頑張らないとな…」

 

メルキドの町まで行かなくても、メルキドの4つの地域のいずれかに上陸すれば、大倉庫から物を回収することが出来るはずだ。

しかし、ここから最も近い峡谷地帯まででも1時間くらいはかかるので、かなり腕が疲れそうだ。

でも、早くビルダーアックスを作りたいので、俺は腕に力をこめて、メルキドの峡谷地帯に向けて小舟を進めていった。

 

そして、思っていた通り1時間くらいで、俺の目の前にメルキドの峡谷地帯が見えてくる。

ほとんどのオリハルコンが黒変しているが、まだ海に面した崖には普通のオリハルコンが残っていた。

俺の腕にはかなりの痛みが走っているが、小舟を漕ぎ続けて上陸する。

 

「オリハルコンとはがねインゴットを手に入れたら、リムルダールに戻ろう」

 

俺は峡谷地帯に立つと、ポーチを通じてメルキドの大倉庫からオリハルコンとはがねインゴットを回収した。

離れた場所からもアイテムを取り出せる大倉庫は、本当に便利だな。

二つの素材を取り出すと、俺はまた小舟を漕いでリムルダールに戻っていく。

今度は休みながら行ったので、1時間半くらいかかって町の東の岩山までたどり着いた。

 

リムルダールの町に戻って来ると、今度は金を集めに緑の旅のとびらに入っていく。

 

「金も集めたら、ビルダーアックスが作れるな」

 

金の鉱脈の場所は分かっているので、すぐに向かうことが出来るな。

早く集めてビルダーアックスを作り、ヘイザンに見せよう。

俺は緑のとびらを抜けると、魔物から隠れながら金の鉱脈へと歩いていった。

鉱脈にたどり着くと、おうじゃのけんを使って、金を採掘していく。

 

「他にも使うかもしれないし、たくさん採掘しておくか」

 

金は今後ビルダーアックスだけでなく、さまざまなことに使うかもしれない。

リムルダールでは使わなくても、マイラやラダトームで必要になる可能性もあるだろう。

また採掘に来なくてもいいように、俺はたくさんの金を手に入れ、ポーチにしまう。

金の採掘も終えると、俺はビルダーアックスを作るために、リムルダールの町へ戻っていった。

 

リムルダールの町に戻って来ると、俺は仕立て台のある部屋に入っていく。

そこで必要な素材を取り出し、ビルダーアックスを作り始めた。

ビルダーの魔法がかけられると、木材とさまざまな金属が合わさり、斧の形に変わっていく。

ビルダーハンマーと同様、加工にはかなりの時間がかかっていた。

 

「時間はかかってるけど、その分強力な武器になりそうだな」

 

でも、その分強力な武器になることは間違いないはずだ。

ビルダーの力を使い続けると、黄金のオリハルコンの刃を持つ斧が出来上がってくる。

この刃があれば、ほとんどの魔物は簡単に斬り裂くことが出来るだろう。

そして、ビルダーアックスが出来上がると、俺は手に取って、ヘイザンに見せに行った。

 

「これでビルダーアックスが出来たか…強そうな上に、持ちやすいな」

 

そこまでの重さもなく、戦いの時に使いやすそうだな。

強い上に軽い武器を考えるのも、ヘイザンの技術なのだろう。

ヘイザンは町の中を歩いており、俺は話しかけながらビルダーアックスを見せた。

 

「ヘイザン、ビルダーアックスを作って来たぞ」

 

「おお!ワタシが考えていた通りのビルダーアックスだ。作ってくれて、本当にありがとう」

 

完成したビルダーアックスを見ると、ヘイザンは驚きの声を上げた後、嬉しそうな顔になる。

自分の考えたことが形になった瞬間というのは、みんな嬉しいものだろう。

俺も強力な武器を考えてくれたヘイザンに、改めて感謝の言葉を言った。

 

「こっちこそありがとう。ビルダーアックスのおかげで、これからの戦いに勝てる可能性が上がったと思うぜ」

 

マイラではどのような魔物が待ち受けているか、それはまだ分からない。

だが、ビルダーアックスのおかげで、確実に勝ち目は上がっただろう。

俺がそんなことを考えていると、ヘイザンはゆきのへが鍛冶屋を引退しようとしていることを伝えてきた。

 

「雄也は知らないかもしれないけど、親方はエンダルゴや元勇者との戦いが終わったら、鍛冶屋を引退するらしいんだ。だからそれまでに、親方と同じくらいの技術を身につけたかったんだ」

 

確かにゆきのへはかなりの高齢なので、鍛冶屋を引退してもおかしくはないだろう。

昔リムルダールにいた時もゆきのへは、そろそろ鍛冶屋を引退して農業を始めようかと言っていたな。

ヘイザンは、もうゆきのへと同じくらいの鍛冶屋になれただろうかと聞いて来る。

 

「そうだったのか…確かに、ゆきのへももう高齢だもんな…」

 

「雄也、ワタシは親方と違って、伝説の鍛冶屋の家系じゃない。それでも、親方と同じくらいの鍛冶屋になれたと思うか?」

 

確かにヘイザンはゆきのへの娘ではなく弟子なので、伝説の鍛冶屋ゆきのふの血を継いではいない。

だが、彼女はアレフガルド各地で鍛冶屋の修行をし、ビルダーアックスも考え出すことが出来た。

伝説の鍛冶屋を継ぐ資格は、十分にあるはずだ。

 

「もちろんだ。ヘイザンなら、必ず伝説の鍛冶屋を継げると思うぜ」

 

「そう言ってくれてありがとう。また新しい武器が必要になったら、いつでも呼んでくれ」

 

俺がそう言うと、ヘイザンは今まで以上に嬉しそうな顔になった。

たとえ伝説の鍛冶屋の血は途絶えたとしても、技術はずっと受け継がれていく。

ヘイザンはこれからも修行を続け、立派な伝説の鍛冶屋になるだろう。

俺はヘイザンと別れた後、メルキドまで出かけた疲れを癒すために、寝室へと戻っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode180 勝利への探究

清めの光薬とビルダーアックスを作った翌日、リムルダールに戻って来てから11日目の朝、寝ている俺の耳にエルの大きな声が聞こえて来た。

 

「雄也様、雄也様、起きてください!」

 

まだ眠かった俺もその声で目が覚め、エルの方を見る。

まさか魔物の襲撃かと思ったが、彼女は嬉しそうな顔をしていた。

もしかして、邪毒の病にかかったみんなが回復したのだろうか?

 

「…こんな朝からどうしたんだ、エル?」

 

「ゲンローワ様たちが回復して、起き上がれるようになったのです!みなさま、雄也様に感謝したいと言っておられます」

 

エルの考えた清めの光薬は、効果があったみたいだな。

ゆきのへの鍛冶の技術がヘイザンに受け継がれたように、ゲンローワの製薬の技術も、確実にエルに受け継がれている。

一時はリムルダール全滅の可能性もあったが、本当に良かったぜ。

 

「薬が効いたのか…昨日はまだ不安だったけど、本当に良かった」

 

「はい!みなさまは外で待っておられます、さっそく会いに行きましょう」

 

外にいると言うことは、もう歩けるくらいまで回復したということか。

邪毒の病が治った6人の力があれば、リムルダールはこれからも発展していくだろう。

 

「ああ、分かった」

 

俺はエルにそう返事をすると、みんなに会いにいくために寝室を出ていった。

 

外に出ると、明るい顔をしたコレスタたちが俺を待っている。

黒紫色に変わっていた身体も元に戻り、病気であったのが嘘だったかのように元気そうだ。

6人の中でも一番前に立っていたゲンローワは、みんなを代表して感謝の言葉を言ってきた。

 

「起きて来たようじゃな、雄也よ。お主とエルのおかげで、わしらは邪毒の病から立ち直ることが出来た。わしら全員、心から感謝しておる」

 

「おはよう、みんな。こっちこそ、みんなを助けられて良かった」

 

ノリンたちの命を奪った邪毒の病を、俺たちはついに克服することができた。

ゲンローワに続いて、マロアたちも喜びの声を後ろであげていた。

 

「もうダメかと思ってたけど、本当に助かったよ」

 

「セリューナたちノことハ残念だったガ、死んダみんなノ分モ生きナイとナ」

 

「ああ、そうだな…」

 

オラフトの言う通り、4人を助けられなかったのは本当に悔しい。

でも、だからこそ生き残った者達が頑張って、4人の分もリムルダールの町を作っていかなければいけないな。

俺たちがそう思っていると、後ろからエルが話しかけてきた。

 

「皆さん、少しいいですか?皆さんの病が治ったところで、一つ提案したいことがあるのです」

 

「どうしたんだ、エル?」

 

清めの光薬を思いついた翌日に、もう次の作りたい物が思いついたのだろうか。

リムルダールの2度目の復興に、役立つものだといいな。

 

「清めの光薬を作ったことで、私たちは邪毒の病を治すことが出来るようになりました。しかし、リムルダールの空気や水は、未だ汚染されたままです」

 

確かに、リムルダールの空気は淀み続け、湖の水も禍々しい黒色に染まったままだ。

町の中にいても、また邪毒の病に感染してしまう恐れもあるはずだ。

治療法が出来たので死にはしないが、清めの光薬の素材を何度も集めに行くのも大変だろう。

 

「そこで、私は空気や水を無毒なものに浄化出来る装置を作りたいのです」

 

その装置があれば、新たな邪毒の病の発生を抑えられるな。

いずれは、リムルダール全域を数百年前と同じ美しい大地に戻すことが出来るかもしれない。

これからのリムルダールの復興に間違いなく役に立つものだし、さっそく作りに行きたいな。

 

「結構いい考えだと思うぜ。さっそく作り方を教えてくれ」

 

「いえ、そのような装置があればいいと思っただけで、作り方はまだ思いついていないのです。今日は、皆さんと共に相談しようと思ったのです」

 

一日でそんなすごい装置を思いつくのは、確かに難しいだろうな。

メルキドウォールの時もそうだったし、みんなで考えた方が良さそうだ。

ゲンローワたちも、一緒に考えてくれるといいな。

 

「そういうことか。みんな、一緒に考えてくれるか?」

 

「町にきれいな水は不可欠だし、もちろん考えるよ。あたいたちの町に、美味しい水と空気を取り戻そう」

 

「これ以上病に苦しみたくはないし、僕も協力する」

 

昔から美味しい水が大事だと言っていたケーシーが最初に答えて、コレスタもそれに続く。

自分たちの町の未来のためなので、他のみんなもうなずいてくれた。

リムルダールのみんなの力があれば、邪毒を浄化する装置を必ず完成させることが出来るはずだ。

みんなが協力すると言ったのを聞いて、エルはさっそく話を始めようとする。

 

「ありがとうございます、皆さん。それでは、さっそく考え始めましょう」

 

いつ誰が新たに邪毒の病になるか分からないし、早めに作った方がいいだろう。

しかし、浄化装置を考え始める前に、ゲンローワが少し待って欲しいと言ってきた。

 

「少し待って欲しいのじゃ。わしも雄也に提案したいことがあっての…お主たちは、先に話し合いを始めていてくれ」

 

「そうなのですか…それでは、そちらのお話が終わったら、寝室で一緒に話し合いましょう。私たちは、先に行っていますね」

 

ゲンローワの提案とは、どんなものなのだろうか。

エルたちは浄化装置について話し合うために、寝室へと戻っていった。

みんなが寝室に入っていくと、俺はゲンローワの提案について聞く。

 

「提案したいことって何だ、ゲンローワ?」

 

「わしはかつてお主がリムルダールを去った後に、探究者タルバの宮殿を調べに行ったことがあるのじゃが、その時、こんな物を見つけたのじゃ」

 

そう言うと、ゲンローワは服のポケットから古びた紙を取り出す。

俺が農業の記録を探しにタルバの宮殿に行った時には見つからなかったが、彼はこんな物も残していたのか。

これも、タルバが後世の人間のために書いたものなのだろう。

 

「俺は気づかなかったけど、こんな紙もあったのか」

 

「よほど魔物に見つかりたくないのか、暗号化された文章で書かれておってな…解読に時間がかかったのじゃ。解読は終わったのじゃが、今までは邪毒の病の薬の開発に集中しておって、伝えることが出来なかったのじゃ」

 

確かに、俺は紙に目を通してみたが、よく分からない文章が書かれていた。

暗号化までしたということは、それほど強力な発明品が書かれているのだろう。

リムルダールの復興や今後の戦いに、役立つものだといいな。

 

「暗号化までしてるのか…それで、何が書いてあったんだ?」

 

「身につけた者の動きを素早くする腕輪、ほしふるうでわじゃ。これがあれば、今後の戦いも少しは楽になると思ったのじゃ」

 

ほしふるうでわか…ドラクエシリーズで、素早さを大きく上げる効果がある腕輪だったな。

素早さが上がれば移動時間も短縮出来るし、エンダルゴやアレフとの戦いでも勝ち目が上がるはずだ。

ルビスと共にアレフと戦った時は攻撃を避けるのがやっとだったが、ほしふるうでわがあれば攻撃を避けつつ反撃も出来るかもしれない。

これから行くマイラでも役立つことになるだろうし、作っておいたほうがいいな。

 

「素早さを上げるか…これから必ず必要になると思うし、これから作って来るぜ。さっそく、必要な素材と作り方を教えてくれ」

 

「もちろんじゃ。どのくらい素早くなるかは分からぬが、出来たら装備してみるのじゃ」

 

俺が作りに行きたいと言うと、ゲンローワはほしふるうでわの作り方を教え始めた。

タルバの書いた紙には、ほしふるうでわを作るには炉が必要だと書かれていたようだが、ゲンローワは仕立て台でも作れるように考えてくれたらしい。

炉はメルキドに行かなければないが、仕立て台でも大丈夫なら今すぐ作れるな。

ゲンローワに作り方を聞くと、俺はビルダーの魔法で必要な素材の数を調べていく。

 

ほしふるうでわ…金10個、銀5個 神鉄炉と金床 金10個、液体銀5個 仕立て台

 

装備者の素早さを高める力を持った腕輪でも、金と銀だけで作ることが出来るようだな。

この世界の金属は、みんな何かの魔力を帯びているのだろうか。

でも、特別な素材が必要ではないということは、作るのに時間はかからないということだ。

ビルダーアックスを作る時に金は大量に集めているし、大倉庫にある銀を加工すれば液体銀もすぐに用意出来る。

 

「どうじゃ、ほしふるうでわは作れそうか?」

 

「ああ、素材はもう揃ってるし、仕立て台で作ってくるぜ」

 

俺はゲンローワにそう言うと、まずは銀を加工するために調合室に向かっていった。

 

調合室に入ると、俺はポーチを通して大倉庫から銀を取り出し、いにしえの調合台を使って液体銀に加工しようとする。

今回必要な液体銀は5個だが、リムルダールでは銀は多くの場合液体銀の状態で使うので、俺は大倉庫に入っている銀のほとんどを加工していった。

 

「大量の液体銀が出来たし、これでわざわざ加工する必要がなくなるな。仕立て台を使って、ほしふるうでわを作って来よう」

 

ほしふるうでわを装備したら、どのくらい素早くなるのか確かめてみないとな。

俺はそう思いながら、仕立て台のある部屋へと向かっていった。

 

仕立て台のある部屋に入ると、俺はさっき作った液体銀と金を取り出す。

そして、仕立て台の上にそれらの素材を乗せて、ビルダーの魔法を発動させていった。

すると、金と液体銀が合わさっていき、腕輪の形へと変わっていく。

特殊な力を持っている物だが大きいものではないので、加工にあまり時間はかからなかった。

 

「これがほしふるうでわか…さっそく試してみないとな」

 

ビルダーの魔法をかけ続けると、金と銀の光沢が美しい腕輪が出来上がる。

俺はほしふるうでわが完成すると、どのくらい素早さが上がるのか確かめるために、さっそく腕にはめてみた。

アレフの剣のスピードに、ついていけるほどになるといいな。

俺はほしふるうでわを腕にはめた瞬間全身が軽くなったように感じ、さっそくおうじゃのけんを構えてみた。

 

「体が軽くなったみたいだな…どのくらいのスピードになるんだ?」

 

俺は部屋の中の物に当たらないようにしながらまず剣を振り、それから横へと跳ぶ。

すると、今までとは比べ物にならないほど素早くなっており、戦いでもかなり有利になりそうであった。

さすがにエンダルゴやアレフが相手であれば楽勝とはいかないだろうが、間違いなく勝てる可能性は上がっただろう。

 

「結構な素早さになったな…ルビスが死んだ時にはもうだめだと思ったけど、アレフに勝つのも不可能じゃないかもな」

 

魔物に製法を絶対に知られたくないというのも、納得の強さだ。

農業の記録やいにしえの調合台でタルバにはお世話になったが、こんな強力な装備まで考えていてくれたとはな。

本当に、タルバには感謝してもしきれない。

 

「ゲンローワにも見せたら、エルたちと浄化装置を考えないとな」

 

タルバの記録を解読してくれたゲンローワにも、ほしふるうでわを見せてこよう。

それからは、エルたちと一緒に邪毒の浄化装置を考えて、リムルダールの2度目の復興を進めないといけない。

暗黒魔導は倒れたし、浄化装置が完成したら、俺はマイラの2度目の復興に向かおう。

今後のことも考えながら、俺はゲンローワにほしふるうでわを見せに行った。

 

「ゲンローワ、ほしふるうでわを作って来たぞ」

 

「おお、わしが教えた通りの腕輪じゃな。どうじゃ、素早い動きは出来そうか?」

 

ゲンローワは俺がほしふるうでわを作るのを、建物の外で待っていた。

ほしふるうでわを見ると、ゲンローワは嬉しそうな顔をしながら、素早さが上がったか聞いてくる。

 

「ああ、これならこの先どんな強力な敵が現れても、動きについて行けそうだぜ」

 

「それなら良かったのじゃ。あまり待たせ過ぎても悪い、共にエルたちの所に向かうのじゃ」

 

タルバにはもちろんだが、解読してくれたゲンローワにも感謝しないとな。

 

「解読してくれてありがとう。浄化装置を作る時も、一緒に頑張ろう」

 

俺はゲンローワにそう言いながら、エルたちの待つ寝室に向かっていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode181 邪毒を祓って

7章の最終回で、ついに合計文字数が100万文字を超えました。

最初はここまで長くなるとは思っていませんでした。


ほしふるうでわを作った後、俺たちは邪毒を浄化する装置について話し合っていた。

町の中の空気を浄化し、水も清める装置を作るとなればかなりの素材が必要になるだろうが、それでもこれからのリムルダールには不可欠な物だ。

ケーシーの浄水の知識やエルとゲンローワの薬の知識も生かしながら、俺たちは考えを進めていった。

さすがに一日では思いつくことが出来なかったが、翌日も朝から話し合いを続けることで、浄化装置の見た目や作り方が、頭の中に浮かぶようになってきた。

 

そして、ほしふるうでわを作った翌日、リムルダールに来てから12日目の昼、俺たちはいよいよ邪毒を浄化する装置を作り始めようとする。

 

「ついに装置を思いつくことが出来ましたね。これで、空気や水がきれいになるといいのですが」

 

「確かに効果があるかは不安だけど、みんなが考えてくれた物だ…あると信じて、必要な素材の数を調べてみるぜ」

 

これで装置を思いついたが、エルはこれで邪毒を浄化出来るのかまだ不安だという。

俺も不安だが、清めの光薬も効果があったんだし、今回も大丈夫なはずだ。

エルにそう言った後、俺はリムルダールのみんなで考えた高さ数メートルの塔のような形をした大型の浄化装置、清めの宝塔を作るのに必要な素材の数を調べ始めた。

 

清めの宝塔…金5個、液体銀10個、清めの光薬5個、じゃり石10個、綿毛10個、石材10個 木の作業台

 

石材で浄化装置の形を作り、金や銀、それらの金属の力を使って作られた薬である清めの光薬の力を使って邪毒を浄化し、さらにじゃり石や綿毛も使って汚染を取り除くといった仕組みだ。

単にそれらの素材を組み合わせるだけでなく、どうしたら最も浄化作用が高まるかも、昨日から考え続けている。

金と液体銀は大倉庫にたくさん入っているし、あとは青の旅のとびらの先でじゃり石、綿毛、石材を10個ずつ集め、清めの光薬を作れば良さそうだ。

清めの光薬に必要な素材で足りていないのはピンクの花びらだが、それは町の近くでも集めることが出来る。

 

「どうじゃ、作れそうか?」

 

「ああ。素材集めには行かないといけないけど、そんなに時間はかからない。今から集めに行って来るぜ」

 

恐らく今日中に清めの宝塔を作り、リムルダールを去ってマイラに行くことも出来るだろう。

俺はゲンローワにそう言うと、さっそく素材を集めるために寝室から出ていく。

まずは石材とじゃり石、綿毛を集めるために、青の旅のとびらへと入っていった。

 

青の旅のとびらを抜けて草原地帯にやって来ると、俺はさっそくこの前作ったビルダーアックスを構えて、素材を探していった。

ビルダーアックスは重さもそこまでではないので、採取にも使いやすい。

石材とじゃり石、綿毛は旅のとびらのすぐ近くにもたくさん生えているので、俺はすぐに集めていくことが出来た。

 

「それぞれ10個ずつ必要だけど、そんなに時間はかからないな」

 

10個ずつ集まると、俺はそれらをポーチにしまって、1度リムルダールの町に戻ろうとする。

これで後はピンクの花びらを集めて清めの光薬を作れば、清めの宝塔を完成させることが出来るな。

だが、じゃり石や綿毛はともかく、石材はこれからも必要になるだろうから、俺は大きな石を砕いてさらに多くの石材を回収しながら、旅のとびらへと歩いていった。

 

「これで集まったけど石材は使い道が多いし、もう少し集めておくか」

 

町に戻ってきた時には、合計30個くらいの石材を集めることが出来ていた。

次は町の南に向かい、ピンクの花を手に入れようとする。

町の南にはまだ多くのドロルリッチが生息しているので、気をつけないといけないな。

俺は体勢を低くして魔物たちから隠れながら、ピンクの花が生えている場所を探していった。

 

そして、町を出てから20分くらい歩き続けて、何度も通ったことがある枯れ木の森の近くのところで、俺はピンクの花を見つけることが出来た。

清めの光薬は5個必要なので、ピンクの花びらも5個集めれば良さそうだ。

 

「ここにピンクの花があったか。この花を集めたら、いよいよ清めの宝塔が作れるな」

 

俺はビルダーアックスを振って次々にピンクの花を刈り取っていき、花びらを拾ってポーチに入れていく。

ここにはかなりの数のピンクの花があったので、ここだけで5枚の花びらを集めていくことが出来た。

 

「これで5枚集まったか…戻ったらさっそく作り始めよう」

 

ピンクの花びらを集め終えると、俺は来た道を引き返して、リムルダールの町へと戻っていった。

みんなも待っていることだろうし、早く清めの宝塔を作らないとな。

 

また20分くらい経ってリムルダールの町に戻ってくると、俺はまず清めの光薬を作りに調合室に入っていく。

いにしえの調合台の前に立ち、さっきのピンクの花びらに加えて、他の必要な素材も取り出していった。

素材をすべて調合台に乗せると、俺はビルダーの魔法を使って薬へと加工していく。

5つ必要とは言え、あまり加工に時間はかからないので、すぐに清めの光薬を用意することが出来た。

 

「清めの光薬も出来たな…後はこれを作業台に持って行こう」

 

これで、清めの宝塔を作るのに必要な物は全て揃ったな。

俺は出来た光り輝く薬をポーチにしまって、木の作業台がある部屋に向かっていった。

 

俺は木の作業台の前に立つと、ポーチから多くの素材を取り出して、清めの宝塔を作り始めていく。

再びビルダーの力を発動させると、まずは石材が加工されて、塔のような形に変わっていった。

次に金や銀、清めの光薬、じゃり石、綿毛によって、浄化装置の内部が作られていく。

 

「今回は結構、加工に時間がかかっているな」

 

大きさや内部構造の複雑さのせいで、清めの宝塔を作るのには時間がかかっていた。

メルキドウォールを作る時も10分くらいかかっていたが、今回はさらに必要な時間が多かった。

しかし、加工を始めてから20分くらい経って、無事に清めの宝塔が完成していく。

 

「時間はかかったけど、清めの宝塔が完成したみたいだな。これで邪毒を浄化出来たらいいな…」

 

完成はしたものの、これで邪毒が浄化出来るかはまだ不安だな。

それを確かめるために、さっそく清めの宝塔を置いてみよう。

水の浄化も行いたいので、置くなら町の中にある水場がいいだろう。

 

「町の中の水場に置いて、効果を確かめてみるか」

 

俺は1度清めの宝塔をポーチの中にしまいこみ、リムルダールの町の水場に歩いていく。

魔法のポーチには、清めの宝塔のような大きなものでも簡単に入った。

水場にたどり着くと、俺は邪毒に染まった水に落ちないように気をつけながら、清めの宝塔を設置する。

 

「無事に置けたな…効果はすぐに現れないと思うし、しばらく待つか」

 

例え効果があったとしても、設置した直後に現れるものではないだろう。

俺は清めの宝塔のまわりの空気や水に何か変化がないか、しばらくの間観察を続けることにする。

そうしていると、清めの宝塔が設置されたことに気づいたエルが、後ろから話しかけて来た。

 

「おお、雄也様!清めの宝塔を作って下さったのですね…!」

 

エルもまだ不安だろうし、早く効果が現れるといいな。

エルの声を聞いて、ゲンローワたちも俺たちのところに集まってくる。

 

「わしらの考えが、ついに形になったようじゃな。どうじゃ、空気や水はきれいになったか?」

 

「まだ分からない…しばらく観察を続けないと、効果は出てこないと思うからな」

 

「では、私たちもここで見ていましょう」

 

俺がゲンローワにそう答えると、エルも一緒に清めの宝塔を見ていると言った。

町にとって大事な設備なので、他のみんなも目を離さずにいる。

効果があることを祈りながら、俺たちは数分間清めの宝塔のまわりに立っていた。

 

そして、清めの宝塔を置いてからしばらくすると、禍々しい黒になっていた水の色が、少し薄まった気がした。

これは宝塔を置いた時からだんだん浄化されていき、ついには目に見えるほどの変化になったということだろう。

俺が声を上げる前に、エルが大声を出して水場を指さす。

 

「おお、皆様!水場の水が、さっきより薄い色になっております!」

 

「あたいにも見えたよ…まだまだ飲めそうにはないけど、確実にきれいになってるね」

 

ケーシーの言う通り、飲める水になるにはまだ時間がかかりそうだが、清めの宝塔の効果は確実にあった。

俺たちが水を見ていると、空気の淀みも晴れて来ているとミノリが言った。

 

「そう言えば皆さん、空気の淀みも晴れてきていませんか?今までより、息がしやすい気がするんです」

 

水場に集中していたので気づかなかったが、確かに空気もきれいになって来ている気がするな。

今までは気持ちが悪いほどに空気が淀んでおり、息をするのも苦しかったが、少しは改善されている。

さすがにメルキドやサンデルジュほどのきれいな空気にはならないだろうが、邪毒の病に感染することはなくなるはずだ。

 

「ああ、水も空気も確実にきれいになってる。今までは不安だったけど、清めの宝塔の効果があったみたいだな」

 

みんなの力を合わせて考えた物が、また大きな役に立つことになったな。

俺は少し前、エンダルゴやアレフを倒したところで何も変わらないではないかとも思ったが、みんなの力を合わせれば、世界をよりより方向に持っていけるだろう。

人々が力を合わせれば、出来ないことなどないのかもしれない。

 

心の中で希望を感じていると、エルも嬉しそうな顔をして言う。

 

「それでは、病の発生も抑えられるということですね…!おお、なんという、なんということでしょう!」

 

エルのこの感動の声を聞いたのは、マッドウルスを倒した時以来だな。

例えこの先新たな病が発生したとしても、エルたちなら必ず治すことが出来るだろう。

ゲンローワも、きれいな水と空気になったこの町を、亡くなったみんな分も発展させていきたいと話す。

 

「本当に良かったのじゃ…ノリンたちにこの感動を見せられなかったのは残念じゃが、彼らの分もこの町を発展させよう」

 

確かに、この瞬間を全員で迎えられなかったのは心残りだ。

でも、そう思ったところで彼らが戻って来ることはないので、俺たちに出来るのは4人の分も生きて、町を発展させることだけだ。

 

「みんななら、必ず出来るだろうぜ」

 

これからも、リムルダールのみんなの力でこの町を大きくしていくことだろう。

だが、リムルダールの復興を手伝いたいが、俺はこれからマイラの2度目の復興を行い、エンダルゴとアレフを倒さなければいけない。

リムルダールにも十日以上滞在したし、今日のうちにもマイラに向かいたいな。

 

「そうだ…リムルダールの邪毒を消せるようになったところで、言わなければいけないことがある」

 

「どうしたのですか、雄也様」

 

ちょうどみんなが集まっている時なので、俺はリムルダールを去る話を始める。

嬉しそうな顔をしていたみんなもいつもの顔に戻り、俺の方を見た。

 

「リムルダールの2度目の復興も進んだことだし、俺はそろそろマイラの地に向かおうと思う。みんなともう少し一緒にいたいけど、マイラのことも心配だからな…」

 

「私も共にリムルダールの発展を続けたかったのですが、そういう訳にもいきませんよね…今度はいつ、戻ってくることが出来ますか?」

 

俺がリムルダールを去ると聞いて、みんなは少し暗い表情になってしまう。

小舟があるとはいえ、今はマイラの復興やエンダルゴとアレフの討伐を急ぎたいので、リムルダールに戻ってくるのもそれらが終わった後になるだろう。

 

「世界を裏切った勇者がルビスを殺して、エンダルゴという最強の存在を生み出したという話はしただろ?その勇者とエンダルゴを倒したら、またここに戻ってくるぜ」

 

「竜王の時より厳しい戦いになるでしょうが、生きて帰って来てくださいね」

 

エンダルゴやアレフとの戦いから生きて帰れる保証はないが、みんなのためにもなんとか勝って、生きて戻って来ないとな。

俺はエルの言葉にうなずいて、ピリンたちを連れて出発しようとする。

 

「ああ、もちろんだ。もう出発するから、一緒に行くぞ、ピリン、ヘイザン」

 

「ここを離れるのも寂しいけど、マイラも心配だもんね。これからも一緒に頑張ろう、雄也!」

 

「エンダルゴを倒す武器を作るためには、まだまだ修行が足りないからな…マイラでも腕を磨くぞ」

 

マイラの復興も終われば、ヘイザンはラダトームでゆきのへと一緒に、伝説を超える武器を開発することになるだろう。

それまでに、腕をさらに上げられるといいな。

急な別れではあるものの、俺はみんなに手を振って、小舟に乗るために海に向かおうとする。

 

「必ずまたリムルダールに戻って来るから、それまで待っていてくれ。みんな、またな!」

 

俺たち3人がリムルダールの町を離れていく間、みんなも手を振りながら別れのあいさつをしてくれた。

 

「また会いましょう、雄也様!」

 

「怪我のないようにじゃぞ!」

 

「困ったことがあったら、いつでも戻って来てくれよ!」

 

「生きて帰って来るって、信じています!」

 

「短い付き合いだったけど、ありがとうな」

 

「助けてくれてありがとう!キミも頑張って」

 

「そなたのおかげで弟子の仇を討てた。本当に感謝しておる」

 

「死ぬンじゃナイぞ、雄也!」

 

今度戻ってくる時にリムルダールがどのくらい発展しているのか、楽しみだな。

俺はリムルダールのみんなに繰り返し手を振りながら、枯れ木の森の近くにある海へ向かっていく。

まだドロルリッチなどの魔物がたくさんいるが、俺たちは20分くらいで海にたどり着くことが出来た。

海に着くと、俺たちは小舟に乗って、世界地図を見ながらマイラの町を目指して漕ぎ始めていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8章 マイラ・ガライヤ再訪編
Episode182 筋肉の限界


世界地図を見ながら北に小舟を進めて1時間くらいで、俺たちの西側に荒野にそびえ立つ岩山が見えてくる。

その荒野にはおおさそりやいっかくうさぎが生息しており、多くのサボテンが生えていた。

 

「この岩山を越えた先が、マイラの町だったな。結構時間がかかったけど、もうすぐたどり着けるな」

 

この広い荒野はマイラの町の南側にある場所であり、魔物の素材を集めたり、ベイパーやギエラを助けたりするために何度も行っていたな。

ここから岩山を越えれば、マイラの町にたどり着く。

 

「みんな無事だといいね」

 

「ああ。リムルダールは壊滅してたけど、マイラは大丈夫であってほしいな」

 

俺はピリンとそんなことを話しながら、岩山の東を小舟で進んでいった。

メルキドやリムルダールと同様、マイラも変異体の魔物に襲われている可能性が高い。

しかし、それでもマイラには強力な兵器がたくさんあるし、無事であってほしいな。

俺は岩山を越えると、西に見えてくるはずのマイラの町の方向を見てみる。

 

「もう町が見えてくるな…無事なのか?」

 

だが、俺の期待とは裏腹に、マイラの町があった場所には異様な光景が広がっていた。

俺たちが作ったマイラの町は跡形もなくなり、代わりに2階建てだと思われる巨大な城が建っていたのだ。

その城は暗い青色の壁で出来ており、恐らくはアメルダが囚われていた魔物の城の壁と同じものだろう。

 

「ん…?あんな城が建ってるなんて、何があったんだ…?」

 

「どうなってるんだろう、マイラの町は…?」

 

「なんだろうあの城…気味が悪いね…」

 

町があった場所に城が立っていることに、ピリンたちも驚きを隠せなかった。

アメルダたちがあんな城を作るなんて、到底考えられない。

もしかして、マイラの町が魔物に占拠されてしまったのかもしれないな。

とにかく何が起きたか確認しなければいけないので、俺はマイラの町の東に小舟を止める。

 

「もしかしたら、魔物に乗っ取られたのかもしれない…何があったか、確認しに行くぞ」

 

あの城の正体は何なのか、町のみんなはどうなっているのか…確かめなければいけないことはたくさんある。

アメルダたちが生きていることを祈りながら、俺たちは不気味な城へと向かっていった。

 

城に向かう途中、俺たちは新たな魔物が生息しているのも見つけることが出来た。

今までの魔物に加えて、フレイムとブリザードが合体した魔物や、キラーマシンの上位種である緑色の光を放つ機械の魔物、デュランダルが何体も歩いている。

 

「フレイムとブリザードが合体してる…それに、デュランダルもいるな、気をつけて進まないと」

 

炎と氷の合体が魔物の力だけで出来るかは怪しいし、キラーマシン系の魔物は今までガライヤ地方にしかいなったので、やはり町が乗っ取られて、技術を奪われたということなのだろうか。

どちらも強力な魔物だろうし、ほしふるうでわを手に入れたものの無駄な戦いは避けたいので、俺たちは隠れながら進んでいった。

 

そうして15分くらい歩き続けて、俺たちは不気味な城の近くにまでたどり着く。

すると、南側にある城の入り口には一つ目の巨人の魔物、ギガンテスが2体もおり、そのまわりでもあくまのきしやデュランダルといった強力な魔物がたくさん見張りをしていた。

この様子から見て、やはりマイラは魔物に占拠されてしまったようだな。

 

「嫌な予感はしていたけど、やっぱり魔物に占拠されていたのか…」

 

これらは強力な魔物とは言え、マイラの兵器があれば勝てない相手ではないだろうから、マイラには変異体の魔物も襲撃してきた可能性が高いな。

マイラのみんなが全滅してしまった可能性もあり、俺たちはとても不安になっていた。

 

「ここのみんなは、どうなっちゃったんだろう…?」

 

「分からない…でも、きっとどこかで生きているはずだ」

 

だが、みんなが死んでしまったなんて思いたくもないので、俺はピリンにそう声をかける。

リムルダールと同じで、どこかに逃げている可能性もあるだろう。

それに、俺の力だけではマイラの町を取り返すのは不可能だろうし、そのためにもアメルダたちを探し出さなければいけない。

 

「とりあえず、これから探しに行くか…」

 

この地域のどこかにいるのか、旅のとびらで他の地域に逃げたのかは分からないが、マイラのみんなが生きていることを信じて、俺たちは探し始めようとする。

そうしていると、占拠された町から2体のギガンテスの話し声が聞こえて来た。

 

「南に逃げた人間どもは、まだ見つからないのか?」

 

「あくまのきしたちが必死に探しても、なかなか見つからないらしい。どこかで野垂れ死んで

るとありがたいんだが…」

 

「ビルダーの野郎が来る前に、殺せればいいんだけどな…」

 

やっぱりアメルダたちは逃げ出して、南の荒野の方に向かったみたいだな。

野垂れ死んでいた方が魔物たちにはありがたいのかもしれないが、そう簡単に死ぬようなみんなではない。

魔物から見つかっていないということは俺たちでも見つけるのが難しいだろうが、何としても見つけ出して、マイラの町を奪還しないとな。

 

「町の南か…まずはそこに向かってみよう」

 

俺たちはギガンテスたちに見つからないようにしながら占拠された町を離れ、南へと向かっていった。

かつてよろいのきしが見張りをしていたバリケードを越えて、さっきも小舟の上から見ていた広い荒野へと入る。

荒野にも多数の魔物がいるので、気をつけて進まないといけないな。

 

俺たちは荒野にたどり着くと、今度は荒野の南端にある茶色の山へ向かっていった。

魔物に未だ見つかっていないとなれば、洞窟の奥に隠れているのかもしれない。

 

「あっちの山には洞窟があったし、そこを調べてみるか」

 

昔ベイパーも洞窟に隠れて、魔物の攻撃を受けずに生き延びていた。

ピリンたちを引き連れながら、俺たちは洞窟へと向かっていく。

その途中、俺はラダトームやサンデルジュでも戦った緑色の太った巨人、ボストロールを何体も見かけることが出来た。

 

「ボストロールが増えているな…前は1体しかいなかったのに…」

 

マイラのボストロールは以前は1体しかいなかったのに、今回は大幅に増えている。

ボストロールは体が大きく、視界も広そうなので、俺はより慎重に進んでいった。

 

そうしてゆっくりと歩き続け、45分くらい経って、俺たちは荒野の南端の茶色の山にたどり着くことが出来た。

 

「洞窟はいくつかあるから、順番に調べていくぞ」

 

この山には昔ベイパーが隠れていた洞窟の他に、いくつか洞窟があったはずだ。

どの洞窟に隠れているかは分からないし、全部調べなければいけないな。

魔物に今まで見つかっていないことを考えると、いくつかの洞窟を転々と動いているのかもしれない。

俺はまず、一番最初に目に付いた洞窟を調べていった。

 

「この洞窟は結構奥が深いな…おい、誰かいるか?」

 

俺は声もかけながら奥に進んでいき、ガロンたちが隠れていないか調べていく。

だが、声をかけても何の反応もなく、ここには誰もいないようだった。

 

「何の反応もないな…次の洞窟を調べるか」

 

この洞窟には銅や石炭といった多くの鉱石があったが、今はみんなを見つけることが優先だ。

俺はその洞窟を出て、次は昔ベイパーが隠れていた洞窟に入っていった。

 

「ここはこの前ベイパーが隠れていた洞窟だな…ここはどうだ?」

 

この洞窟はさっきの洞窟よりは短く、探索にもあまり時間はかからないだろう。

俺たちは踏むと割れてしまうもろい岩石を避けながら、洞窟の奥に進んでいった。

しかし、この洞窟の一番奥を見ても誰の姿もなく、俺は外に出ようとする。

 

だがその瞬間、洞窟の中の壁から肌の茶色い、荒くれマスクをつけた男が飛び出て来て、声をかけてきた。

 

「オマエ、雄也じゃねえか!こっち、こっちだ!」

 

「あんた、ガロンか?姿が見えなかったけど、どこに隠れてたんだ?町で何があったんだ?」

 

マイラに着いてから最初に出会った荒くれ男の、ガロンだ。

最初は臆病で魔物と戦おうともしなかったが、アメルダを助けに言った頃からは勇敢に戦うようになっていたな。

彼は壁から出てきたようだが、どこに隠れていたのだろうか。

それに、町を襲撃して占拠した魔物についての情報を知りたい。

 

「それは後で話す。まずは、オレたちの隠れ場所に来てくれ」

 

だが、ガロンは話は後にすると言って、また洞窟の壁の方に歩いていく。

よく見ると、洞窟の壁に1ブロック分の狭い穴が空いており、その奥にみんなの隠れ場所があるようだ。

昔ベイパーを探しに来た時はこんな穴はなかったと思うし、ガロンたちが掘ったのだろう。

しゃがみながらガロンについて行き、狭い通路を進んでいくと、少し広めの空間にたどり着く。

そこはかなり暗い空間だったが、鉄の作業台や炉と金床、マシンメーカーも置かれていた。

 

「さっきのオレの声が聞こえてたと思うけど、雄也たちが帰って来たぜ!」

 

その空間には荒くれのベイパー、ガライヤ出身のコルトとシェネリもおり、ガロンはみんなに俺が戻って来たことを伝える。

 

「お主たち、無事であったか!心配しておったぞ!」

 

「また会えて嬉しいです、雄也さん!」

 

「いろいろな異変が起きてますし、もう会えないかと思っていました…本当に良かったです」

 

コルトとシェネリは嬉しそうな顔になり、ベイパーは表情は見えないものの明るい声で話す。

魔物が増えて、町を乗っ取られたという状況だ…余計に心配だっただろう。

ギガンテスも人間たちは逃げたと言っていたが、実際に顔を見ると俺も安心する。

 

「心配かけてごめんな…こっちこそ、みんなが生きていてよかった…町が乗っ取られたのを見た時は、最悪の可能性も頭に浮かんでしまった」

 

これからみんなと協力して、マイラの町を奪還する方法を考えないとな。

だが、ガロンたちの無事は確認出来たが、ギエラとアメルダの姿がなかった。

全員逃げたとは言っていなかったし、まさかとも考えてしまう。

 

「そう言えば、アメルダとギエラはどうしたんだ?ここには姿がないけど」

 

「アネゴとギエラは舟とやらを使って、ガライヤに行ったぜ。ミスリルを集めに行ってるんだ」

 

無事で良かった…まさか、アメルダたちも舟を作っていたとはな。

新たな武器を開発するにしても、この地方には普通の武器での攻撃が効かない魔物がいるので、まほうインゴットを作るのに使うミスリルは必要不可欠だろう。

全員の無事が確認出来たところで、俺はマイラの町で起きたことを聞く。

 

「俺も舟を使ってマイラに戻ってきたんだ。さっき町があったところに行ったら魔物に占拠されてたけど、何があったんだ?」

 

「しばらく前に急に希望のはたが朽ち果てて、魔物の数が増えやがったんだ。それで、オレたちのアジトにボストロールやギガンテス、あくまのきしの大軍勢が襲って来た」

 

ルビスの死の影響は、ここでも確実に現れているみたいだな。

ボストロールやギガンテスといった巨人系の魔物は強力だし、苦戦は免れないだろう。

しかし、マイラの町には大砲や超げきとつマシンがある…対応しきれないことはないはずだ。

だが、ガロンの隣にいたベイパーは、それらよりさらに恐ろしい存在が襲撃してきたと言う。

 

「それだけではない。深緑色のトロル、ダークトロルと、全身が暗黒色で禍々しい力を持ったトロル、トロルギガンテ…あやつらは、別格の強さであった。アネゴは超げきとつマシンも使ったが、それでも勝てなかった」

 

ダークトロルは、ドラクエシリーズでも何度か見たことがあるな。トロルギガンテというのは初めて聞いたし、恐らくは変異体の魔物だろう。

確かに変異体は他の魔物と比べると桁違いの戦闘能力を持っているし、それに対応しきれなかったということか。

 

「今まで鍛えた筋肉の力を持ってしても、奴らは倒せなかったぜ…ボロボロになったオレたちは結局、アネゴの指示でアジトから逃げ出すことになっちまった」

 

「筋肉は死なずと言ったが、限度という物がある…逃げ出したみんなはワシの提案でこの洞窟に隠れ、魔物に見つからぬようこの空間を掘ったのだ」

 

生き残ることが優先だと考え、アメルダは逃げる指示を出したのだろう。

いつも明るかった荒くれたちがこんな暗い口調になるのも珍しい…ここでの戦いは、今まで以上に厳しいことになりそうだ。

俺がそんなことを思っていると、ベイパーたちは逃げ出した後のことも話し始める。

 

「逃げ出した後、ワシらは交代で洞窟に魔物が入ってこないか見張り、魔物が来たらこの空間の入り口を土で塞いでいた」

 

「ときどきオレたちは食料や鉱石を集めに行ってな…旅のとびらはアジトに置き去りになってるが、アネゴの発案で舟を作って海を渡れるようになって、マシンメーカーも作り直せたぜ」

 

マシンメーカーを作り直せたなら、新たな武器を考えることが出来れば、マイラの町を奪還できる可能性があるな。

暗い口調をしていたガロンたちも、町の奪還を諦めてはいないようだ。

 

「アネゴは今採掘も行いながら、アジトを取り返すのに使える武器を考えておる。武器ができ次第、魔物どもを潰しに向かうぞ」

 

「オマエの力もあれば、さらに勝てる確率は上がるぜ。またよろしくな、雄也!」

 

いつまでも暗い洞窟の中に隠れ忍んでいるわけにはいかないし、早めにマイラの町を取り返しにいかないとな。

ガロンたちと協力して、必ずマイラの2度目の復興を達成してみせる。

 

「ああ、よろしく頼んだ」

 

「とりあえず今は、アネゴが戻ってくるのを待つぜ。もしかしたら、何か思いついてるかもしれねえしな」

 

「分かった。ここまで歩いて疲れているし、しばらく休んでいるよ」

 

確かにアメルダは採掘を行いながら新たな武器を考えているらしいし、何か思いついているといいな。

かつては発明家の助手だったが、今は一人前の発明家になっているのかもしれない。

俺はアメルダが戻ってくるまでの間、洞窟の中で休むことにした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode183 赤黒き魔法金属

ガロンたちの隠れ場所に着いてからしばらくの間、俺はここまで歩いて疲れている足を休めていた。

そして、隠れ場所に来てから20分くらい経って、足音と女性の声が聞こえてくる。

 

「帰って来たよ、みんな!少し困ったことになっちまった…」

 

「おかえり、アネゴ、ギエラ!実はな…雄也たちが戻って来たぜ!」

 

ミスリルを採掘しにいったアメルダとギエラが、ここに帰って来たみたいだな。

アメルダの声を聞いてすぐに、ガロンは俺たちがマイラに来ていることを教えた。

困ったことというのも気になるが、アメルダたちはその話を聞くと驚いた声を上げて、俺たちのいる空間に駆け込んで来る。

 

「本当かい、ガロン!?生きていたんだね、雄也…!」

 

こんな状況になったので、アメルダたちも俺がどうなっているのか不安だったのだろう。

俺もアメルダたちが生きているとは聞いていたが、実際に声を聞くと安心するな。

アメルダとギエラは隠れ場所の中に入って来ると、嬉しそうな顔で話しかけてくる。

 

「こんな状況になっちまったし、どうなったかと思っていたけど、無事で良かった…久しぶりだね、雄也!」

 

「光のとびらもなくなって、アタシたち心配してたのよ…また会えて嬉しいわ」

 

ギエラの特徴的な口調を聞くのも、かなり久しぶりだな。

荒くれマスクを被った男が女口調で喋り始めた時は、本当に驚いたぜ。

これからマイラの奪還のための話をしなければいけないが、まずは二人に会えたことを喜ぼうと、俺は再会の挨拶をする。

 

「こっちこそ、みんなが無事で良かった。またよろしくな」

 

「よろしくね、雄也。そう言えば、光のとびらがなくなったのに、どうやってマイラまで来たの?」

 

挨拶を交わした後、ギエラはどうやってマイラに来たのかと聞いてくる。

マイラではアメルダが舟を作ったようだが、俺たちも小舟を作ったとは思っていないのだろう。

この世界では今まで、海を渡る手段は旅のとびらか光のとびらしか思いつかなかった訳だしな。

 

「アメルダと同じで、小舟を作ったんだ。今までそれでメルキドとリムルダールをまわって、このマイラにも戻ってきた」

 

「そうだったのかい…ガロンから聞いてるかもしれないけど、アタシたちは見たこともないトロルに負けて、ここに逃げて来ちまった…。奴らが現れる前にも、マイラとガライヤには異変が起こっていたよ」

 

マイラとガライヤでの異変…それも、アレフの行動とルビスの死が原因だろう。

さっきガロンから聞いたこと以外のことも、起こったのかもしれないな。

そう思っていると、アメルダはこの地方で起きていた異変について話し始める。

 

「アタシがマイラに帰ってしばらくした後、急にマイラの火山活動とガライヤの降雪が収まったんだ。最初アタシたちは闇の戦士が倒されて、ひかりのたまが本来の効果を発揮したんだと思っていたけど、ある日突然希望のはたがしおれて、空が灰色になっちまったんだ。その日から、また火山活動と降雪が始まった」

 

マイラの火山活動とガライヤの降雪が収まったということは、アレフはエンダルゴを生み出す時、ようがんまじんとひょうがまじんが残した炎と氷の魔力も集めたのかもしれない。

闇の力だけでなく、炎と氷の力も持っているとなれば、エンダルゴとの戦いは思っている以上に厳しいことになりそうだ。

そんなことも考えながら、俺はアメルダたちにアレフガルドで何が起きているのかを説明した。

 

「もうすぐ平和が訪れると思っていたのに、こうなっちまった…この世界に、一体何が起きているんだい?」

 

「アレフ…闇の戦士がエンダルゴという強大な魔物を生み出して、ルビスを殺したんだ。ルビスの加護を失ったアレフガルドでは魔物の活動に歯止めがかからなくなって、マイラ以外の地域も危機に陥っていた」

 

状況を立て直すことが出来たが、あのままではメルキドもリムルダールも全滅していたことだろう。

エンダルゴとアレフを倒すために力をつけるために再びアレフガルドをまわっていることも、俺は伝える。

 

「それで、みんなが心配なのもあったし、俺はエンダルゴとアレフを倒す準備をするために、もう一度アレフガルドを復興させていたんだ」

 

「そんなことがあったのね…アレフたちを倒さなけれアタシたちに未来はなさそうだし、もちろん協力するわ」

 

マイラのみんながいれば、エンダルゴやアレフに大ダメージを与えられる兵器も開発出来るだろう。

その兵器を開発するためにも、まずはマイラの町を取り戻さなければいけない。

ギエラに感謝の言葉を言った後、俺はさっきアメルダが言っていた困ったことについて聞いた。

 

「ありがとう、ギエラ。そのためにもまずは、マイラの町を取り戻しに行かないとな…さっき困ったことになったと言っていたけど、何があったんだ?」

 

「アタシたちはガライヤにミスリルを採掘しに行ってたんだけど、ミスリルが赤黒い色に変色していてね…歯が立たないほどの硬さになっていたんだ」

 

「まじんのかなづちで思い切り叩いてもびくともしなかったわ…まほうインゴットがなかったら、アジトを取り返すのは無理だわ」

 

オリハルコンや赤い宝石と同様、ミスリルも変色、硬化してしまったということか。

でも、それならまほうの光玉を使えば、採掘できるはずだ。

メルキドでも強力な鉱石を硬化させるという魔物の作戦を逆に利用してメルキドウォールを作って、悠久の竜の攻撃を防いでいた。

硬化したミスリルを使えば、今まで以上に強力な魔法の武器を作ることが出来るだろう。

 

「それなら大丈夫だ…実はメルキドでもオリハルコンという鉱石が硬化していてな、それを採掘するための強力な爆弾を作ったんだ。赤黒いミスリルも、多分採掘出来るぜ」

 

「そうなのか?それなら、今から採掘に向かってくれるかい?アタシも、早くアジトを奪い返したいんだ」

 

マイラでは新たなまほうの光玉を作ることは出来ないが、ポーチの中にメルキドで作ったものがいくつか入っている。

今日はまだ暗くなるまでもう少し時間があるし、赤黒いミスリルを採掘しに行っても大丈夫だろう。

奪われたマイラの町では魔物たちがこちらの技術を利用していることだろうから、早めに奪い返しに行かないとな。

 

「ああ、もちろんだ。ここでしばらく休めたし、採掘に行って来るぜ」

 

「採掘出来たら、アタシが武器を考えるよ」

 

俺はアメルダたちにそう言って、赤黒いミスリルを採掘するために隠れ場所を出ていった。

隠れ場所が魔物たちに見つからないように、洞窟内に魔物がいないか警戒しながら、洞窟の入り口へと向かっていく。

幸い魔物に見つかることなく洞窟を出られたので、俺は慎重に歩きながら西にある海を目指していった。

 

ほしふるうでわをつけていて素早く動けるようになったので、俺は10分もかからずに海へとたどり着く。

地図によるとここからさらに西に進めば、ガライヤに行くことが出来るはずだ。

 

「全員の武器が作れるように、多く集めて来ないとな」

 

全員分の武器を作るためにはかなりの数の赤黒いミスリルが必要になるだろうが、まほうの光玉は広範囲を破壊出来るのですぐに集まるだろう。

俺はポーチの中から小舟を出して、西の方向へと漕ぎ出していった。

ガライヤには、一時間もかからずに着くだろうから、夜までには戻って来れるはずだ。

 

そうして小舟を漕ぎ始めて45分くらい経って、ガライヤの黒い岩山が見えてくる。

アメルダの言う通りガライヤには雪が降っており、かなり寒かった。

 

「ここら辺まで来ると結構寒いな…早めに採掘して戻ろう」

 

ひょうがまじんが残した氷の魔力は、エンダルゴを生み出す時にこの地からなくなったようだが、ルビスが死んだ今では、ひょうがまじんほどの力を持っていない魔物でも気候に影響を与えられるのであろう。

ひかりのたまももうないので、ガライヤはこの先ずっと雪国のままなのかもしれない。

そんなことを考えながら、俺はガライヤの黒い岩山に近づいていった。

そうすると、さっそく血のような赤黒い色に染まったミスリルを見つけることが出来る。

 

「これがアメルダの言ってた変色したミスリルか…メルキドとは違って、海に面した崖のミスリルも変化しているな」

 

メルキドでは海に面した崖のオリハルコンは変化していなかったが、ガライヤのミスリルは全て変化している。

ルビスが死んでからもうだいぶ経っているので、ここにも魔物が来たのだろう。

目に見える場所にあるミスリルは、もう全て変化したのかもしれないな。

俺は小舟を進めて海に面した崖に向かい、ポーチからまほうの光玉を取り出す。

 

「多くのミスリル鉱脈があるし、まほうの光玉で一気に砕こう」

 

そして、土ブロックを使って崖を登り、赤黒いミスリルの鉱脈の前に設置した。

爆発に巻き込まれないように距離をとって、ミスリル鉱脈の様子を眺める。

まほうの光玉は置いてから数秒後に爆発して、まわりの大量の黒い岩も破壊しながら、赤黒いミスリルの鉱脈を砕いていった。

 

「これで変色したミスリルも採掘できたな…新しい武器を作って、マイラを取り戻そう」

 

赤黒いミスリルは恐らくダークハルコンと同じくらいの硬さなのだろう…鉱脈が砕かれ、赤黒いミスリルがたくさん転がっていた。

俺は赤黒いミスリルを全て拾って、ポーチにしまっていく。

まほうの光玉は爆発範囲が広く、ここだけで10個以上集めることができた。

 

「早く戻らないと夜になるし、洞窟に戻るか」

 

恐らく全員分の武器を作れるだろうし、ここに長居していたら日暮れが来てしまう。

俺は再び小舟を漕ぎ始めて、マイラの荒野へと向かっていった。

また45分くらい小舟に乗り続け、降りてからは10分くらい歩いてみんなの隠れ場所に戻っていく。

 

洞窟の隠れ場所に戻ってきた時には、もう夕方になっていた。

マイラの町を奪還しに行くのは、明日以降になりそうだ。

また入り口の狭い通路を通っていき、みんなの待つ小部屋へと入っていく。

そこに戻って来ると、さっそくアメルダが嬉しそうな声で話しかけてきた。

 

「おお、雄也、戻って来たんだね。赤黒くなったミスリルは、採掘出来たかい?」

 

「まほうの光玉を使えば、壊せないことはなかった。これを使って武器を作れば、マイラの町を占拠している魔物も倒せると思うぜ」

 

これでまほうインゴットの上位版のような物を作れば、フレイムとブリザードが合体した魔物にもダメージを与えられるだろう。

非常に高い威力になるだろうから、巨人系の魔物にも大ダメージを与えられるはずだ。

赤黒いミスリルが採掘出来たことを伝えると、アメルダは一晩かけて新たな武器を考えると話した。

 

「よくやったね、雄也。アタシは明日までに新しい武器を考えるから、採掘したミスリルを見せておくれ」

 

「分かった。どんな武器になるかは分からないけど、楽しみにしてるぜ」

 

俺はポーチから赤黒いミスリルを一つ取り出して、アメルダに見せる。

アメルダが武器を思いついたら、俺のビルダーの力を使ってみんな分も作らないとな。

アメルダに赤黒いミスリルを渡した後は、俺は明日に備えて、小部屋の中で休んでいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode184 新・筋肉増強作戦

マイラの荒くれたちは筋肉を大事に思っているので、また筋肉の話を書いて見ました。

今作に出てくるダンベルと原作に出てきたダンベルは、必要な素材の数が異なっています。


赤黒いミスリルを採掘した翌日、マイラに戻って来て2日目の日、俺は洞窟の隠れ場所の中で目を覚ます。

ベッドも何もないので寝心地は悪いが、昨日の疲れを癒すことは出来ていた。

ここには光が届かないので分からないが、今は何時頃だろうか。

荒くれたちはもう起きているようで、俺はマシンメーカーの前に座っているアメルダに、新しい武器を思いつくことが出来たか聞きに行く。

 

「おはよう…アメルダ、新しい武器は思いついたか?」

 

「朝早くから考え続けてるけど、まだだね…もう少し待っていておくれ」

 

単に赤黒いミスリルを加工することだけでなく、武器をどんな形状にしたら最も強力になるかも考えているのだろう。

まだ時間はかかりそうだが、今日中にマイラを奪還しに行けたらいいな。

アメルダが武器の作り方を考え出したら、すぐにビルダーの力を使って作ろう。

 

「分かった。作り方を思いついたら、すぐに教えてくれ」

 

俺はアメルダにそう言うと、さっき寝ていた場所へと戻っていく。

新しい武器を作るまでの間、何をしていればいいだろうか。

そう思っていると、隠れ場所の入り口側にいたガロンが近づいてきて、話しかけてきた。

 

「なあ、雄也。一つ頼みたいことがあるんだが、聞いてくれるか?」

 

「もちろんいいけど、どうしたんだ?」

 

ガロンからの頼みを聞くのも、久しぶりだな。

マイラの町を奪い返すために、何か思いついたことがあるのだろうか。

アメルダが武器を思いつくまではすることがないし、ガロンの頼みを聞くことにする。

 

「オレたちの力不足のせいでトロルどもに負けて、アジトを奪われちまったという話はしただろ…けど、道具なしでは、これ以上の筋肉はつけられねえと思ってる。そこで、オマエにはトレーニング道具を作って欲しいんだ」

 

「また筋肉の話か…本当にガロンたちは筋肉をつけるのが好きだな。ただ、今ここでトレーニング道具を作っても、マイラの奪還戦には間に合わないと思うぞ」

 

筋肉か…そう言えばガロンたちは出会った時から筋肉のことをよく話していて、伝説のビルダーを伝説のボディビルダーと聞き間違えていたこともあったな。

ガロンたちの筋肉は以前会った時よりも成長しており、確かにこれ以上筋肉を鍛えるなら道具を使った方がいいかもしれない。

だが、遅くても明日にはマイラを奪還しに向かうので、それまでにはあまりトレーニングできないだろう。

それに、どうしてここまで筋肉にこだわるのだろうか。

 

「本当はアネゴやオマエみたいに、新しい武器の発明もしたいんだが、頭を使うのは苦手でな…オレたちに出来ることは、筋肉をつけることだけだ。アジトを取り戻しにいくまでには時間はないけど、アジトを取り戻してからも戦いは続くと思うからな…それに備えたいんだ」

 

「確かに1度の戦いで終わるとも思えないな…どんな道具を作って欲しいんだ?」

 

攻撃力を上げるという点では、筋肉をつけるのも立派な作戦なのかもしれない。

マイラには多くの強力な魔物が生息しているし、町を取り戻した後も何度も襲撃して来るだろうな。

どのくらい勝ち目が上がるかは分からないが、荒くれたちのためにトレーニング道具を作ってみよう。

俺はガロンに、作って欲しいトレーニング道具について聞き出す。

 

「ベイパーとギエラとも一緒に考えた、新しいバーベルとダンベルだ…詳しく教えるぜ」

 

ダンベルとバーベルか…地球でもよく聞いた道具だな。

ダンベルは今までも使っていたようだが、今回のは前のとは比べ物にならないほど重いもののようだ。

俺には持ち上げることはまず無理だが、それくらいの物でなければガロンたちにとってはトレーニングにならないのだろう。

バーベルとダンベルを作るにはそれぞれ鉄のインゴットとひもを使うと、ガロンは話した。

ガロンから話を聞いた後、俺はダンベルとバーベルに必要な素材の数をビルダーの力で調べる。

 

ダンベル…鉄のインゴット5個、ひも1本 炉と金床

 

バーベル…鉄のインゴット8個、ひも2本 炉と金床

 

集めに行かなければいけないなと思ったが、ガロンは鉄のインゴットはもう持っていると言った。

 

「鉄のインゴットはもう持ってるからな…今から渡すぜ」

 

ガロンたちはときどきこの隠れ場所から出て食料集めや採掘に行っていると昨日言っていたが、小舟で火山地帯の鉄の鉱脈にも行ってきたみたいだな。

炉と金床も作り直し、それでインゴットに加工したのだろう。

これなら後はひもの材料となるつたを集めて来れば、ダンベルとバーベルが作れるな。

 

「ありがとう、ガロン。これからつたを集めに行って来るから、戻って来たらダンベルとバーベルを作るぜ」

 

「頼んだぜ、雄也」

 

俺は13個の鉄のインゴットを受け取ると、ガロンにそう言って隠れ場所を出ていく。

この洞窟がある荒野の南端の岩山にはつたが生えていないので、町の近くにある山までいかないといけないな。

戻ってくる頃にはアメルダが武器を思いついているかもしれないと思いながら、俺は北に向かって歩いていった。

 

ほしふるうでわの力を使って素早く歩き、30分くらいで俺はバリケードがあった場所を越えて、マイラの町の近くにまでやって来る。

つたを集めるついでに、町を占領している魔物の様子も見るために、俺はこっそり町の方を眺めてみた。

 

「昨日来た時よりも、魔物の数が増えているな…」

 

すると、デュランダルやフレイムとブリザードが合体した魔物の数が、昨日より少し増えていたのだ。

占領された町に建てられた城の中で、フレイムとブリザードの合成や、機械の魔物の強化が行われ続けているのだろう。

これ以上増えてしまう前に、奴らを倒さないといけないな。

 

「早く倒しに行きたいけど、とりあえず今は、つたを集めて来るか」

 

だがここで1人で戦いに行っても、ほとんど勝ち目はないだろう。

俺は町を占領している魔物に見つからないようにしながら、つたがかかっている山に歩いていった。

 

またしばらく歩いて、つたのある山にやって来ると、俺はビルダーアックスを使ってつたを切っていく。

フレイムとブリザードが合体した魔物には魔法の力を持った攻撃しか効かないだろうが、それ以外の魔物にはビルダーアックスも有効だろう。

せっかくヘイザンが考えてくれた武器なんだし、戦いに役立てないとな。

ビルダーアックスを見てそんなことを思いながら、俺はつたを回収していった。

 

「ここら辺には結構つたがあるし、たくさん集めておくか」

 

つた3つで10本もひもが作れるが、ひもは使い道が結構多い。

またつたを集めに行かなくても済むように、俺はたくさんのつたを集めていった。

20本くらいつたが集まると、俺はまた魔物たちから隠れながら、みんなの隠れ場所である洞窟に戻っていく。

 

また30分以上歩いて洞窟に帰って来ると、俺の姿を見たガロンがすぐに話しかけて来た。

 

「おお、戻って来たな、雄也!つたは集まったのか?」

 

「ああ。今からダンベルとバーベルを作って来るから、完成したら呼ぶぞ」

 

ガロンの後ろに立っているベイパーとギエラも嬉しそうな顔をしており、新たなトレーニング道具が出来るのが楽しみなのだろう。

アメルダは今もマシンメーカーの前で考え込んでおり、新しい魔法の武器を作ることはまだ出来なさそうだ。

さっそくダンベルとバーベルを作ろうと、俺は荒くれたちが作った炉と金床の前に立つ。

 

「町にあった奴とは少し形が違うけど、ビルダーの力は使えるな」

 

俺が昔作った炉と金床とは少し形が違うが、問題なくビルダーの力を発動させることが出来た。

魔法を受けて鉄のインゴットとひもが合わさり、バーベルとダンベルの形になっていく。

ダンベルは2つセットになっており、一度に両腕を鍛えられるようになっている。

しばらくして二つのトレーニング道具が出来上がると、俺はガロンたちを呼んだ。

 

「ガロンたち、ダンベルとバーベルが出来たぞ!」

 

そんなに広い空間でもないので、ガロンたちはすぐに俺のところにまでやって来る。

完成したダンベルとバーベルを見て、荒くれたちは腕に力を入れて持ち上げようとしていた。

 

「おお!ありがとうな、雄也。結構な重さだ…これでさらに筋肉が鍛えられるぜ!」

 

「わしの力でも、持ち上げるのは大変だな。これを使って、アジトをもう奪われぬようにせねば」

 

「どんな魔物が来ても、負けない筋肉を手に入れられそうね!」

 

マイラの町を奪い返した後は、また奪われないようにしないとな。

ガロンたちの筋肉がどこまで成長していくのか、俺も楽しみになってきた。

俺はまたしばらく休憩しようと思い、隠れ場所の奥へと向かっていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode185 血色の魔法武具

バーベルとダンベルを作った後、俺はマイラの奪還戦に備えて、荒くれたちが集めていたぶあつい肉を食べていた。

腹が減ったままでは、十分な力を発揮出来ないからな。

肉を食べ終えてからしばらく休んでいると、マシンメーカーの前に立っていたアメルダが立ち上がり、話しかけてくる。

 

「待たせちまったけど、ついに出来たよ、雄也!」

 

「ああ、新しい武器を思いついたんだな。さっそく教えてくれ」

 

昨日から考え続けていた赤黒いミスリルを使った強力な武器を、作れるようになったんだな。

まだ昼頃なので、今日のうちにマイラの町を取り戻しに行くことが出来るだろう。

俺はアメルダに、新しい武器の詳しい作り方を聞いていく。

 

「まずは普通のミスリルと同じで、マシンメーカーを使ってエネルギー物質と反応させて、インゴットにするんだ。赤黒いミスリルは、普通のミスリルの時の2倍くらいのエネルギー物質を与えると、最も強くなるみたいだよ」

 

そう言えば、まほうインゴットを作るためにはエネルギー物質も使っていた。

エネルギー物質を作るには、ハンター回路とフレイムドロップ、ブリザードロップが必要だったな。

だが、アメルダは赤黒いミスリルとエネルギー物質の反応について調べていたようなので、すでにエネルギー物質を持っているようだ。

 

「エネルギー物質か…どれくらい持ってるんだ?」

 

「全員分の武器を作れるくらいにはあるはずだよ、アンタに渡しておくね」

 

アメルダは10個くらいのエネルギー物質を取り出し、俺に手渡す。

普通のミスリルを加工する時の2倍必要になるようだが、このくらいあれば足りるだろう。

エネルギー物質を受け取った後、俺は新しい剣とハンマーについて教えてもらった。

 

「結構持ってたんだな…ありがとう、アメルダ」

 

「それで、今回アタシが考えたのは、やみよのつるぎとブラッディハンマーって奴だ。本当はもう少しかっこいい名前をつけたかったんだけど、考える時間がなくてね」

 

確かにマイラの奪還に急がなければいけないし、名前までよく考える時間はなさそうだ。

やみよのつるぎは黒い刀身に赤い刃、ブラッディハンマーは全体的に赤黒いという見た目をしており、俺はアメルダの話を聞きながらビルダーの力で必要な素材を調べる。

どちらも不気味な色をしているが、強力な武器になるのは間違いないはずだ。

 

ブラッドインゴット…ブラッドミスリル3個、エネルギー物質2個 マシンメーカー

 

やみよのつるぎ…ブラッドインゴット1個 マシンメーカー

 

ブラッディハンマー…ブラッドインゴット2個 マシンメーカー

 

血のような赤黒い色をしているから、ブラッドミスリルという名前なのだろう。

他のインゴットと同様に、ブラッドインゴットも一度に5個出来ることになりそうだ。

俺、荒くれ3人、シェネリの分のブラッディハンマー、俺とアメルダの分のやみよのつるぎを作ることを考えると、ブラッドインゴットは12個必要になる。

昨日採掘したブラッドミスリルとアメルダからもらったエネルギー物質だけで作れそうなので、俺はさっそくマシンメーカーのところに向かおうとする。

 

「どうだい、全員分用意出来そうか?」

 

「ああ。完成したらみんなを呼ぶから、少し待っていてくれ」

 

全員分の武器が出来たら、これ以上魔物の強化が行われる前に、マイラの町に乗り込もう。

アメルダはさっき作った道具でトレーニングしている荒くれたちを見に行き、武器の完成を待っていた。

 

マシンメーカーの前に立つと、俺はブラッドミスリルとエネルギー物質を取り出し、ブラッドインゴットを合成していく。

やはり今までのインゴットと同じで、一度に5個作ることが出来た。

最初の5個を作るとまた別の素材を取り出し、次々に合成を進めていく。

 

「ブラッドインゴットは作れたし、次はいよいよ新しい武器だな」

 

15個のブラッドインゴットが出来ると、俺はまたマシンメーカーを使ってやみよのつるぎとブラッディハンマーを作っていく。

合計で7つの武器を作らないといけないが、そんなに時間はかからなかった。

まずは自分の分を作り、それからみんなの分も用意していく。

 

「余ったブラッドインゴットで、銃弾も作っておくか」

 

全員分の武器が完成すると、俺は残った3つのインゴットで、サブマシンガンの弾も作ろうとする。

非常に硬いブラッドインゴットから作った銃弾ならば、遠距離からでもかなりのダメージを与えられるだろう。

またビルダーの力を発動させて、俺はブラッドインゴットから作られる銃弾について調べる。

 

赤魔の弾丸…ブラッドインゴット1個 マシンメーカー

 

赤魔の弾丸も作ったら、アメルダたちに知らせよう。

俺は残ったインゴットに全て魔法をかけて、弾丸に変化させていった。

 

そして、赤魔の弾丸も用意することが出来ると、俺はまず自分用の剣とハンマーをポーチの中にしまい、みんなに呼びかけた。

 

「みんな、新しい武器が出来たぞ!これで、マイラの町を取り戻しに行ける」

 

その声を聞くと、荒くれたちもトレーニングの道具を下ろし、アメルダを先頭に俺のところに近づいてきた。

隠れ場所の部屋の隅で休んでいたシェネリも、武器を受け取りに歩いてくる。

自分の考えた武器が完成し、アメルダは嬉しそうな声で感謝の言葉を言ってきた。

 

「おお、よくやったね、雄也!ありがとうね、アタシが考えた武器を作ってくれて。さっそく見せておくれ」

 

「これがやみよのつるぎだ。荒くれたちとシェネリには、ブラッディハンマーを作った」

 

俺はアメルダにやみよのつるぎを、荒くれたちとシェネリにブラッディハンマーを手渡す。

新たな武器を受け取ったみんなは、それぞれの喜びの声を上げていた。

 

「へえ、うまく出来てるじゃないか。こいつなら、この前倒せなかった魔物にも勝てそうだね」

 

「さすがはアネゴが考えた武器だ…かなり強そうだぜ」

 

「今のわしらの筋肉でも、アジトを取り返せるかもしれぬな」

 

みんなにもマイラの町を取り戻す希望がわいてきたようだし、これから戦いに向かおう。

今日の間であれば、まだ魔物の数もそこまでは増えていないはずだ。

俺は新しい武器を受け取ったみんなに、マイラの町に向かうと言う。

 

「みんな、そろそろマイラの町を占拠した魔物と戦いに行こうと思う。準備は出来てるか?」

 

「もちろんよ!アジトを取り返したら、また温泉に入りましょう」

 

ギエラが最初にそう言って、みんなもそれに続いてうなずく。

確かに温泉はマイラの名物だし、町を取り返したらまた入りに行こう。

だが、俺たちが隠れ場所を出て、町の方向に向かおうとすると、さっきシェネリの隣に座っていたコルトが話しかけてきた。

 

「すいません、一つ聞きたいことがあるのですが。皆さんが戦っている間、僕たちはどこにいればいいですか?」

 

そう言えばコルトのように戦えない人をどうするかも、考えないといけないな。

一緒に戦ってくれと言いたいところだが、マイラを占拠しているのは強敵ばかりだ…無理をさせる訳にはいかない。

だが、だからと言ってここに残しておけば、後で迎えに行くのが大変だ。

 

「俺たちと一緒に町の近くまで来て、物陰に隠れていてくれ。戦いが終わったら呼びに行くぞ」

 

俺は少し考えこんだ後、そう答える。

町の近くには枯れ木や草がたくさんあるので、そこに隠れさせれば良いだろう。

魔物たちを倒したら呼んで、一緒に魔物が作った城の解体や町の再建を行おう。

 

「分かりました。では、一緒に行きましょう」

 

俺とコルトの会話を聞いて、ピリンとヘイザンもマイラに向かうため立ち上がる。

大人数を引き連れていくわけだから、ほしふるうでわの効果で素早く歩くことは出来ないし、より慎重に動かなければいけないな。

だが、それでも1時間くらいでマイラの町までたどり着くだろうから、大した問題ではない。

いよいよ出発しようと思っていると、アメルダが俺に渡したいものがあると言った。

 

「そうだ。忘れてたけど、アンタに渡したいものがあったんだ」

 

このタイミングで渡すということは、戦いに役立つものなのだろうか。

そう思っていると、アメルダは昔俺がマイラで作った持ち運び収納箱から、角のようなものが2本もついた、赤色の車を取り出す。

 

「これは、超げきとつマシンか」

 

「アンタがマイラを去った後、アタシたちも魔物と戦うために使ってたんだ。だけど、これに乗ってがったいまじんを倒したアンタが使うのが、一番ふさわしいと思ってね。魔物が隙を見せたら、こいつで貫いてやりな」

 

ようがんまじんとひょうがまじんを倒すための最終兵器として開発された自動車、超げきとつマシンだ。

そう言えばガロンも、アメルダがこれを使って魔物と戦ったと言っていたな。

マイラを占領した魔物にどのくらいの効果があるかは分からないが、隙があったら使ってみよう。

 

「ありがとうな。それじゃあ、一緒にマイラの町に向かおう」

 

超げきとつマシンを受け取ると、俺たちは置いてあるものを全て回収してポーチにしまい、洞窟の隠れ場所を去っていく。

洞窟から出ると、俺を先頭にしながら体勢を下げて、魔物に見つからないようにしながら北へと向かっていく。

予想通り1時間くらいで岩山のバリケードにまでたどり着き、そこからさらに進んで占拠された町へと歩いていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode186 融合せし氷炎の魔物

岩山のバリケードを越えてから10分ほど歩き続けて、俺たちは占拠されたマイラの町のすぐ近くにまで戻ってくる。

城の入り口の前には、フレイムとブリザードが合体した魔物が15体、あくまのきしが12体、デュランダルが6体、ギガンテスが2体の、合計35体の魔物がいた。

奴らを倒しても城内にはまだ多くの魔物がいるはずなので、長丁場になりそうだ。

まずは戦いの前にコルトたちを隠れさせようと、俺は指示を出す。

 

「コルト、ピリン、ヘイザン。そろそろ俺たちは戦いに向かうから、魔物に見つからないように隠れていてくれ」

 

「分かりました。皆さん、気をつけてくださいね」

 

コルトはそう返事をすると、ピリンたちを連れて近くの枯れ木の裏に隠れる。

俺たちが戦っている間、コルトたちが魔物に見つからなければいいな。

3人が隠れると、俺はポーチからサブマシンガンを取り出して構え、一緒に戦うみんなに声をかけた。

 

「厳しい戦いになるとは思うけど、必ず生きて俺たちの町を取り返そう」

 

「心配することないよ。アタシたちには新しい武器がある…あんな魔物たちなんて、蹴散らしてみせるさ」

 

アメルダは自身に満ち溢れた様子で、そんなことを言う。

一度は勝てなかった魔物たちであるが、荒くれたちも怯えた様子は見せなかった。

最初は臆病で、仮病で戦いから逃げていたガロンも、もうその時の面影は全くない。

 

「ああ。行くぞ、みんな」

 

俺たちはルビスの加護を失っても魔物たちとの戦いに勝ち、メルキドとリムルダールを立て直すことが出来た…マイラの2度目の復興も、必ず達成できるはずだ。

俺もそんなことを考えながら、マイラを占拠している魔物のところに向かっていく。

 

俺たちが近づいて来るのに気づくと、魔物たちも武器を構えて戦いの準備をする。

そして、城の入り口の前に立っている2体のギガンテスが、改造された魔物たちへと指示を出した。

 

「お前たちは、人間!?まさか、自分たちから戻って来るとはな」

 

「ビルダーと合流したようだが、無駄なことだ。力を見せつけてやれ、デュランダル、ブリザレイム!」

 

フレイムとブリザードが合体した魔物は、ブリザレイムと呼ばれているみたいだな。

マイラのみんながビルダーである俺と合流したことを知っても、魔物たちは引く様子はなさそうだ。

先にブリザレイムが近づいてきて、その後ろにデュランダルたちが続く。

そして、マイラの町を奪還するための戦いが始まった。

 

俺は赤魔の弾丸をサブマシンガンに詰めて、ブリザレイムに向けて撃っていく。

フレイムもブリザードも弾丸を当てると一撃で倒れたので、奴らも簡単に倒せるかもしれないな。

ブラッドインゴットから作られた銃弾は、ブリザレイムたちの体を貫き、大きなダメージを与える。

 

「結構なダメージのはずだけど、すぐには倒れてくれないな…」

 

だが、サブマシンガンを連射しても、なかなかブリザレイムは倒れる様子を見せない。

どうやら炎と氷の融合によって、生命力も大幅に強化されたみたいだな。

サブマシンガンを持っていることを危険視し、15体のブリザレイムのうち5体が俺の方を狙って来る。

奴らは、炎と氷が合わさったブレスを吐いて、俺を攻撃しようとしてきた。

 

「あんなブレスを吐いて来るのか、気をつけないと…」

 

フレイムやブリザードのブレスより範囲が広く、がったいまじんのメドローアほどの威力はないが、当たればかなり危険だろう。

俺はほしふるうでわの力を使って素早く動き、奴らの攻撃をかわしていく。

そして、動きながら武器をやみよのつるぎとブラッディハンマーに持ち替えて、ブリザレイムたちに殴りかかった。

 

「なんとか近づけたか…でも、剣とハンマーでもまだ倒れないな」

 

攻撃を受けたブリザレイムは怯んだが、まだ生命力が尽きる様子はない。

ブレスがブリザレイム同士に当たるのを防ぐため、奴らは今度は腕で俺を殴りつけようとしていた。

攻撃速度はかなり素早く、ほしふるうでわがなければ5体の攻撃を避け続けるのは不可能なほどだ。

 

「腕での攻撃も結構素早いんだな…ほしふるうでわがあって助かった」

 

ガロンたちは相手しているブリザレイムの数が2体なので、腕輪なしでもかろうじて腕での攻撃を受けずに済んでいた。

腕輪の力を持ってしても多くの体力を使うが、俺はジャンプも使いながら、剣とハンマーでダメージを与えていった。

マイラの奪還までは長い…こんなところで、傷を負うわけにはいかないな。

攻撃を続けると、高い生命力を手に入れたブリザレイムたちも、少しずつ弱って来ているようだ。

 

「体力は多いけど、確実に弱って来ているな」

 

炎と氷の融合に成功しても、無敵にはさすがになれなかったようだ。

ブリザレイムたちが追い詰められているのを見て、後ろのデュランダルたちも移動速度を上げてくる。

デュランダルは機械音声を放ちながら、銀色の剣を振り上げて来た。

 

「ビルダーメ、カナラズホロボシテヤル!」

 

魔物から見たら最大の障害である俺を、奴らは何としても排除したいのだろう。

だが、俺もこんなところで負けるつもりはない。

デュランダルが来る前に1体でもブリザレイムを倒そうと、俺は攻撃の手を強めていった。

最も弱っている奴に連続で攻撃を与え、とどめをさしていく。

 

「何とか倒したか…デュランダルと他のブリザレイムもこのまま倒せるといいな」

 

フレイムやブリザードをはるかに凌ぐ生命力を持つブリザレイムも、ついに力尽きて消えていった。

もう一体くらいブリザレイムを倒しておきたかったが、もう間に合わない。

俺の至近距離までデュランダルが近づいて、飛び上がって剣を叩きつけて来た。

 

「くっ、ジャンプ攻撃か…これもかなり強そうだ」

 

俺は大きくジャンプして剣をかわすが、当たったら真っ二つになっていたかもな。

すぐに体勢を立て直して、追撃して来ようとするブリザレイムたちを斬り裂いていく。

攻撃の手をやめないことで、4体の奴らもかなり追い詰められていた。

しかし、ブリザレイムたちを守るために、デュランダルも激しい連撃を行ってきた。

 

「デュランダルも、かなりの攻撃速度だな…」

 

デュランダルの攻撃速度はブリザレイムたちよりも速く、ブリザレイムの腕も見極めながら剣を避けるのはかなり難しかった。

ほしふるうでわの力を持ってしても、長くは持たなさそうだな。

なるべく早く魔物の数を減らそうと、俺は腕に力をこめて攻撃を続けていった。

 

「早く倒さないと、攻撃を食らってしまうな…」

 

瀕死になっているはずなのに、なかなか倒すことができない。

マイラの町を奪って改造された魔物は、やはり強力だな…。

 

だが、危険な状態になっている俺のことを、アメルダが助けに来ようとする。

 

「雄也がビルダーだからって、そんなに大勢で取り囲むとはね…今助けに行くよ!」

 

アメルダはガロンたちほどの筋肉はないが、軽やかな動きで魔物たちを翻弄していく。

戦っていた2体のブリザレイムのうちの一体に集中して、何度も鋭い斬撃を与えていった。

そしてその奴が倒れると、俺と戦っているブリザレイムの背後に近づき、やみよのつるぎを突き刺す。

 

「怪我する前に間に合ったね…大丈夫かい、雄也?」

 

「今のところはな…助かったぜ、アメルダ!」

 

俺の攻撃で弱っていたところに背後から突き刺され、ブリザレイムは倒れる。

アメルダは気を緩めずにすぐに別の奴にも攻撃を加え、俺を囲んでいるブリザレイムは2体になった。

このくらいの数なら、デュランダルと一緒でも相手することが出来るな。

俺は残った奴らにもとどめをさそうと、剣とハンマーを振り回していった。

 

「このくらいの数になれば、安定して戦えるぜ」

 

深いダメージを受け、今まで攻撃を続けてきた疲れもあり、ブリザレイムたちは攻撃速度が落ちていく。

そこで俺はさらなる攻撃を続け、俺の目の前にいるのはデュランダルになった。

デュランダルは相変わらず、斬れ味の鋭い剣を素早く叩きつけて来る。

 

「残りはデュランダルだけになったか…このまま倒してやる」

 

しかし、デュランダル1体であれば、もう苦戦することはないはずだ。

俺は奴の剣を確実にかわしつつ、装甲に両腕の武器を叩きつけていく。

キラーマシンの装甲より硬かったが、今の武器を使えば傷つけることが出来ていた。

 

「結構な硬さだ…この武器がなかったらキツかったかもな…」

 

ブラッドインゴットの武器がなければ、かなり苦戦していたかもな。

マイラの奪還に向かう前に、やみよのつるぎとブラッディハンマーを作ることが出来て良かった。

体中に傷を負ったデュランダルは、俺を止めようと全身の力を腕に溜めていく。

メタルハンターも使っていた、回転斬りの構えだな。

俺は少し走った後大きくジャンプして当たらずに済んだが、今までの魔物と比べて溜め時間がかなり短かった。

 

「くっ、こんな短時間の溜めで回転斬りを使うのか…」

 

ほしふるうでわがなければ、武器で受け止めるしかなかっただろう。

デュランダルにも回転斬りの後には動きを止めていたので、俺はこの隙に走って大きく離れ、ポーチから超げきとつマシンを取り出す。

がったいまじんにも大ダメージを与えたこの車なら、デュランダルも怯ませることが出来るだろう。

俺はすぐにアクセルを踏んで、マシンの先端についている2本の角を突き刺した。

 

「このマシンを使うのも、かなり久しぶりだな」

 

デュランダルの硬い装甲に当たったことでこちらにもかなりの衝撃が加わったが、何とか投げ出されないようにしがみつく。

装甲を傷つけられたところに超げきとつマシンの攻撃を受け、奴は倒れ込んだ。

俺はすぐに体勢を立て直して、デュランダルに近づいて両腕に力を溜めていく。

そして、奴が立ち上がる前に力を解放して大きく飛び上がり、とどめをさしていった。

 

「今だ、飛天斬り!」

 

新武器の二刀流での飛天斬りを受けて、デュランダルは壊れて消えていく。

ブリザレイムもデュランダルもかなり強力だったが、俺を囲んでいた奴らは何とか倒すことが出来たな。

 

ガロンたちもその力強さで奴らの攻撃を弾き返したりしながら追い詰め、アメルダも素早い動きでブリザレイムたちを全滅させていた。

だが、荒くれたちよりは戦闘に慣れていないシェネリは、まだ魔物たちを追い詰めることが出来ず苦戦している。

俺は今度はシェネリを助けに行こうと超げきとつマシンに乗り、彼女を襲っているデュランダルの後ろにまわって突撃した。

 

「まずはシェネリを助けて、それからみんなも援護しに行こう」

 

超げきとつマシンを使うのは久しぶりだが、うまく使えて良かったぜ。

シェネリに集中しているところに背後から勢いよく突き刺され、デュランダルは大きく怯む。

まだ倒すことは出来なかったが、大きなチャンスが出来たな。

 

「ありがとうございます、助かりました!」

 

「俺がデュランダルにとどめをさすから、その間ブリザレイムを引き付けていてくれ!」

 

ブリザレイムだけなら、シェネリでも十分に引きつけることが出来るだろう。

俺はシェネリにそう指示を出すと、超げきとつマシンから降りて両腕の武器を構える。

そしてデュランダルを何度か斬り裂いた後、再び両腕に力を溜めていった。

飛天斬りを当てれば、こいつも倒すことが出来るだろう。

 

「飛天斬り!」

 

渾身の飛天斬りを受けて、デュランダルの装甲は砕け散る。

ボロボロの状態になっていたが、まだ倒れずに起き上がり、剣での攻撃を続けてきた。

 

「ビルダーメ、ココニモキタノカ!」

 

「倒しきれなかったか…でも、確実に弱ってるな」

 

だが、ダメージを受けたことで攻撃速度は落ちており、もう少しで倒すことが出来そうだ。

俺は攻撃を回避してやみよのつるぎを構え、奴の核へと突き刺した。

急所に深い傷を負って、このデュランダルも力を失い倒れていく。

奴らの数も、確実に減ってきているな。

 

だが、魔物たちが追い詰められているのを見て、ギガンテスたちも巨大な棍棒を構えて近づいて来た。

 

「人間のくせに、ここまでやるとはな…」

 

「予想外のことだが、お前たちを中に入れる訳にはいかない。我らに踏み潰されるがいい!」

 

2体のギガンテスだけでなく、あくまのきしたちも近づいて来る。

戦い慣れているあくまのきしは苦戦しないだろうが、ギガンテスは改造された魔物にも劣らない強敵のはずだ。

少しでも戦いを楽にしようと、俺はシェネリと戦っているブリザレイムを倒しておこうとする。

 

「ギガンテスも来たか…先にこいつらを倒そう」

 

奴らは2体とも、シェネリの攻撃で少しは弱っているはずだ。

2体同時に倒そうと、俺は今度は回転斬りを放っていった。

 

「少しでも数を減らす、回転斬り!」

 

ブリザレイムも回転斬りを耐えて、反撃しようとして来たが、シェネリが残った体力を削り取っていく。

俺たちに傷を与える前に倒れて、青い光を放って消えていった。

自分と戦っていた魔物が全て倒れて、シェネリは改めて感謝の言葉を言ってくる。

 

「何度もありがとうございます、雄也さん。これで、敵も追い詰められていますね」

 

「ああ。でも、まだ油断はできないぞ」

 

後はこのギガンテスたちを何とかすれば、マイラの城の中に入ることが出来るだろう。

俺はシェネリにそう言うと、ギガンテスたちに向けて武器を向けた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode187 改造された機械兵団

目の前のブリザレイムとデュランダルを倒した俺とシェネリの前に、ギガンテスたちがだんだん近づいて来た。

俺とシェネリは、ギガンテスを1体ずつ、あくまのきしを2体ずつ相手することになる。

数は少ないが、警戒して挑まなければいけないな。

 

「ビルダーめ、オレが踏み潰してくれる!」

 

「この女も、抵抗をやめないのなら容赦はせん!」

 

ギガンテスは近くに来ると、俺たちを足で踏み潰そうとしてきた。

巨体ゆえに動きは遅いが、攻撃力は非常に高そうだ。

俺は腕輪の力を使って確実に避けていき、足に攻撃を加えていった。

ダメージを与えて転倒させれば、大きな隙を生み出すことが出来るだろう。

 

「動きが遅い分、対応するのはそんなに難しくないな」

 

シェネリもジャンプをして足を回避し、ハンマーを叩きつけていた。

あくまのきしたちも斧で攻撃を行って来るが、見慣れた動きなので当たることはない。

だが、奴らを残したままギガンテスと戦うのは危険なので、先に倒しておかないとな。

俺はやみよのつるぎで鎧を斬り裂き、ブラッディハンマーで叩き潰し、体力を削っていく。

 

「このあくまのきしも、苦戦せずに倒せそうだぜ」

 

体力はかなり高いようで、十数回攻撃を加えても倒れることはなかった。

しかし、それでも確実に弱っていき、攻撃速度が落ちてくる。

追い詰められたあくまのきしたちは、声を上げて俺に斧を思い切り叩きつけて来た。

 

「新たな武器を手にしたからと言って、調子に乗るな!」

 

「どこまで抵抗しようが、最後は我ら魔物が勝つのだ!」

 

少しは攻撃力が上がったが、やはり受けきれないほどではないはずだ。

俺はギガンテスの足を避けた後、両腕の武器で奴らの斧を受け止めて、力をこめて弾き返す。

俺の腕にもかなりの痛みが走ったが、あくまのきしの武器を落とし、体勢を崩させることが出来た。

 

「攻撃力は、メルキドの奴らと変わらないな…」

 

ギガンテスもあくまのきしを助けようと足を振り上げて来るが、俺はジャンプをしてかわし、次の攻撃までの隙にあくまのきしにとどめをさす。

体勢を崩されたところに強力な攻撃が来て、奴らは生命力を失い消えていった。

特に強い個体でもなかったし、苦戦することはなかったな。

 

「これで後は、ギガンテスだけだな」

 

まだデュランダルと戦っている荒くれたちも特に怪我を負っておらず、このまま勝てそうだ。

長期戦になれば体力が尽きてくるだろうが、今の武器があればその前に倒せるはずだ。

後は目の前のギガンテスを倒せば、マイラの城の中に入れるな。

俺も気を緩めず奴の攻撃を見極めて、やみよのつるぎとブラッディハンマーを振り回していく。

 

「オレたちをここまで追い詰めて…こうなったら、こいつで叩き潰してやる!」

 

あくまのきしを倒した後も、ギガンテスはしばらく足で攻撃を続けてきた。

だが、深いダメージを負って怒った奴は、今度は棍棒を振り上げて力を溜めて来る。

全身に力を溜めると、俺の立っているところに向かって飛び上がり、思い切り叩きつけて来た。

巨大な棍棒なので攻撃範囲が広く、俺は何とか避けようと大きくジャンプする。

 

「くっ…何とか避けられたけど、すごい一撃だったな」

 

腕輪の力もあり、何とか避けることは出来たが、当たっていたら全身の骨が砕け散っていたかもしれないな。

ギガンテスも攻撃の反動で動けなくなっているので、俺はさらに奴の足へと攻撃を続けていく。

巨体に見合う体力を持ったギガンテスも、少しは弱って来たかもしれないな。

 

「あの一撃も避けたか…だが、オレたちも諦めない!」

 

ギガンテスは再び足での攻撃を続けて来るが、攻撃速度が上がったりはしなかったので、当たることはなかった。

シェネリもあくまのきしたちを倒し、ギガンテスに攻撃を集中させている。

そうして、弱っているところにさらに足に攻撃を受けて、ギガンテスはついに転倒した。

 

「転んだな…今のうちにさらに攻撃しよう」

 

ギガンテスは巨体のせいで、起き上がるのにも時間がかかっている。

大きな隙なので、また俺は両腕に大きく力を溜めて、高く飛び上がった。

飛天斬りを受ければ、ギガンテスも相当なダメージを受けることだろう。

 

「飛天斬り!」

 

垂直に両腕の武器を振り下ろし、ギガンテスの背中を叩き潰し、引き裂いていく。

それでも奴は生きていたが、残った生命力もわずかだろう。

俺は奴を倒すために、一度距離をとってから、超げきとつマシンに乗り込む。

ここでマシンの先端についている角が突き刺されば、奴も耐えられないはずだ。

 

「これで突撃して、終わらせてやるぜ!」

 

「強そうな機械だが、無駄だ…!」

 

だが、ギガンテスも死ぬわけにはいかないと体勢を立て直して、超げきとつマシンの突進を棍棒で受け止めようとする。

俺はアクセルを思い切り踏んだが、奴の力を振り絞った防御を突破出来ず、マシンは止まってしまう。

マシンが止まったところで、ギガンテスは俺に棍棒を叩きつけてようとする。

 

「くそっ、突き破れないか…」

 

俺はすぐにマシンを飛び降りて、奴の攻撃を避けようとする。

しかし、マシンを止められた時の衝撃で俺の動きも止まったので、攻撃の範囲外に出ることは出来なかった。

 

「オレたちの反撃だ、ビルダーめ!」

 

だが、俺に棍棒が当たる前に、ギガンテスは大きく怯んで再び倒れ込む。

何だと思っていると、今度はギエラがブラッディハンマーを叩きつけて、俺を助けてくれたようだ。

 

「助けに来たわよ、雄也!」

 

荒くれたちもみんなデュランダルとブリザレイムを倒したようで、アメルダたちはシェネリの援護に行っていた。

それでも、まさか超げきとつマシンが止められるとは思っていなかった。

これからの戦いを進めるためには、超げきとつマシンも強化しなければいけないな。

でも、とりあえず今はギガンテスを倒そうと、ギエラに感謝して立ち上がる。

 

「助かったぜ、ギエラ!今のうちにとどめをさそう」

 

「もちろんよ!早くこの城の中に入りましょう」

 

俺とギエラは倒れ込んだギガンテスに攻撃を続け、青い光に変えていった。

シェネリとアメルダたちももう一体のギガンテスを取り囲んで殴りつけ、生命力を減らしていく。

俺たちが駆けつける前に、奴は力を失って消えていった。

 

これで、マイラの城前にいる魔物は全て倒すことが出来たな。

城の中に入る前に、アメルダが俺に声をかけてくる。

 

「そっちも終わったみたいだね、雄也。次はいよいよ中だけど、気を緩めずに行くよ」

 

「ああ。まだ先は長いと思うけど、必ず町を取り返すぞ」

 

マイラの城の中には、町を占領した強大なトロルもいることだろう。

でも、もしそうだとしても、何としても倒して、マイラの町を取り返さないとな。

俺はそう返事をすると、城の入り口のとびらを開けて、中に入っていった。

すると、2階建ての城の1階部分にはデュランダルが10体おり、俺たちを見つけると機械音声を発して剣を構えて近づいて来る。

 

「シンニュウシャダ、ハイジョスル!」

 

「ニンゲンドモヲ、シマツシテヤル!」

 

俺たちも戦いを始めようとするが、その前に城の2階から、トロル系統の魔物のものと思われる声が聞こえてきた。

 

「人間だと!?まさか、城前の仲間たちを全て倒したのか!?」

 

「ああ。結構な数だったけど、何とか倒してきた。あんたたちも倒して、町を取り返させてもらうぞ」

 

改造された魔物は強力だったけど、新武器を使えば倒すことが出来た。

2階の魔物にとって人間に城前の魔物が倒されることは予想外で、そう言って驚く。

しかし、それでも引き下げるということはせず、こう叫んだ。

 

「そこまで言うなら、見せてやる!行け、我らが最高傑作の兵器!」

 

最高傑作の兵器って何だ…?と思っていると、1体の魔物が城の奥にある2階への階段を駆け下りて来る。

それは、体が暗赤色をしている、この世界では初めて見る機械の魔物だった。

 

「あいつは、メギドロイドか…魔物たちはあんなものまで作っていたのか」

 

デュランダルのさらに上位種である、メギドロイドのようだ。

デュランダルでさえかなりの強さだから、こいつは凄まじいまでの力を持っているかもしれないな。

メギドロイドは俺たちを認識すると、弓を構えて近づいて来る。

 

「ニンゲンハ、ヒトリノコラズケシサッテヤル!」

 

ここでもかなり厳しい戦いになりそうだが、こちらも逃げる訳にはいかない。

ほしふるうでわや新武器の力を信じて、最後まで戦い抜かないとな。

俺たちと、改造された機械の魔物たちとの戦いが始まった。

 

メギドロイドは弓に7本の矢を構えて、俺たちに向かって同時に撃ち放ってくる。

かなりの距離があり、昔のマイラでキラーマシンの矢を避けたことがあるので、一度目は当たらなかったが、連発されたら体力が尽きる。

 

「早めに射撃を止めないと、勝ち目はなさそうだな…」

 

早めに近づいて止めようと、俺は2度目の矢をかわした後、ほしふるうでわの力を使って全速力で近づいていった。

メギドロイドは溜める時間もキラーマシンなどより短いが、この腕輪を装備していたら間に合うだろう。

俺は奴に近づくと、やみよのつるぎを振り上げて叩きつける。

 

「チカヅイタトコロデ、ムダダ!」

 

すると、メギドロイドはすぐに剣に持ち替えて、俺の攻撃を受け止めた。

奴の耐久力はかなり高く、両腕に力をこめても押し切ることは出来なかった。

こいつも攻撃を回避しながら倒していくしかないと思い、俺は押し切るのをやめて、攻撃を見極めていく。

 

「押し切るのも無理か…やっぱりかなりの強さだ」

 

流石にアレフほどの攻撃速度はないので、回避しながら武器を叩きつけていくのはそれほど難しくはなかった。

だが、メギドロイドの装甲は非常に硬く、あまり傷をつけられない。

生命力も高いだろうから、俺が力尽きるまでに倒せるか不安になって来るな。

 

「攻撃は出来るけど、ダメージが入りにくいな…」

 

さらに厳しいことに、10体のデュランダルのうちの1体も俺のところに近づいて来る。

残りの9体は、アメルダたち4人のところに2体ずつ、シェネリのところに1体向かった。

さっき倒せたとは言え強敵なのには変わりないし、無事だといいな。

俺も何とか倒そうと、先にデュランダルを攻撃していった。

 

「デュランダルも来たか…まずはこっちを倒そう」

 

デュランダルは外の個体と攻撃速度は変わらず、メギドロイドと同時でも腕輪の力で回避し続けることが出来た。

わずかな隙を見つけてはやみよのつるぎとブラッディハンマーを叩きつけ、装甲を突き破っていく。

身体中に傷を受けて、デュランダルは少しずつ弱っていった。

 

「避け続けるのも大変だけど、押し切れそうだぜ」

 

さっきの戦いでもかなりの体力を使ったが、まだもう少しは余裕がある。

俺はキラーマシン型の魔物の弱点である核を狙って、デュランダルに大ダメージを与えていった。

超げきとつマシンや飛天斬りは使わずとも、このまま倒せそうだ。

みんなも、傷つかずにデュランダルを追い詰めていた。

だが、そんな俺たちの様子を見て、メギドロイドは動きを変えてきた。

 

「マダイキテイルナラ、コレヲウケルガイイ!」

 

すると、メギドロイドは右腕で剣を振りながら左腕で弓を構えて、みんなのところに撃ち放とうとする。

剣と弓の同時使用…占拠された町で改造された結果、こんな技も使えるようになったのか。

至近距離で撃たれないよう、俺はすぐにメギドロイドの右脚の横にに移動する。

メギドロイドの身体の構造上ここにいれば当たらないが、みんなは奴の動きに気づいていない。

 

「矢に気をつけろ!」

 

みんなを攻撃しているデュランダルに当たっても大丈夫なように威力は下げているようだが、それでも生身の人間にとっては十分脅威だ。

俺はとっさにそう叫び、メギドロイドから離れていた位置にいたガロンたちは無事だったが、近くにいたギエラはかわしきれず、矢を受けてしまう。

 

「くっ…痛手を負ったわね…」

 

頭や心臓を貫かれることはなかったが、足に傷を負って動きが遅くなってしまう。

デュランダルの攻撃を避けきれなくなり、腕や腹を何ヶ所も斬り裂かれていた。

その様子を見たアメルダとベイパーは、ギエラを援護しに行く。

 

「大丈夫か、ギエラ?わしが援護するぞ」

 

「このままじゃ危ない…ここはアタシに任せておくれ」

 

ギエラは危機を脱したが、アメルダたちは一度に3体のデュランダルと戦っていることになる。

このままじゃ、みんなまで大怪我を負い、町の奪還どころではなくなってしまうな。

だが、俺もみんなの救援に行ける状態ではない。

みんなの無事を祈りながら、目の前のメギドロイドとデュランダルとの戦いに集中していった。

 

「みんなのことも心配だけど、まずはこいつらを倒さないとな…」

 

二刀流での攻撃を受けて、デュランダルはかなり弱ってきていた。

奴にとどめをさそうと、俺は身体中の力をいれて渾身の連撃を放っていく。

本当は回転斬りや飛天斬りを使いたいが、隙がわずかしかない以上、そうやって倒すしかない。

デュランダルは攻撃速度も落ちて来ているので、もう少しで力尽きそうだ。

 

「オマエモナカマタチモ、モウスグオシマイダ!」

 

メギドロイドもそう言って猛攻を仕掛けて来るが、俺は力の限り動いて回避し続ける。

そしてデュランダルに集中して攻撃を続けることで、ついに倒すことが出来た。

これで俺の目の前にいるのは、このメギドロイドだけだな。

 

「これでデュランダルは倒せたな…みんなはどうなったんだ?」

 

すると、シェネリもデュランダルを倒し、ベイパーとアメルダが戦っているデュランダルを1体ずつ引き付けてくれたようで、同時に3体と戦うという危険な状態は脱したようだ。

このメギドロイドを、俺が傷を負う前に倒すことが出来るといいな。

奴の攻撃速度はまだ落ちることはなかったが、俺は動きを見切りながら少しずつダメージを与えていった。

しかし、攻撃を受けて怒り狂ったメギドロイドは、再び剣を振りながら弓を構える。

 

「ビルダードモメ、ケッシテユルサンゾ!」

 

「くそっ、またあの動きか…みんな、気をつけろ!」

 

俺は再び大声を出して、ガロンたちはジャンプで矢を回避することが出来た。

だが、回避のタイミングはギリギリであり、何度も成功するものでもないだろう。

しかも、先ほど負傷したギエラはかわしきることが出来ず、今度は腹に矢を受ける。

 

「アタシ…このままだとまずいわね…」

 

「このままだとギエラが…早く倒さないとな」

 

ギエラは出血量が多く、もう一度矢を受けたら死んでしまうかもしれないな。

この世界には即効性の薬草があるものの、戦闘中は使っている余裕はない。

ガロンたちが傷を負わないためにも、また放たれる前に倒さないといけなさそうだ。

俺は硬い装甲を少しでも突き破れるように、メギドロイドを攻撃し続けていく。

 

「確実に弱ってはいるはずだし、急ごう」

 

攻撃能力も防御力も高いメギドロイドだが、ブラッドインゴットの武器の攻撃を受け続けたことで、弱っては来ている。

このまま次の矢が放たれる前に、こいつを倒すことが出来るといいな。

しかし、追い詰められたメギドロイドは、また剣と弓を同時に構えてくる。

 

「今度こそ止めないと、みんなが危ない…」

 

放たれる前に止めるのはほぼ不可能だが、それでも何とかしなければいけない。

そう思っていると、ギエラが傷ついた足を引きずりながら、メギドロイドの剣に向かって殴りかかる。

 

「雄也もこいつの剣を止めて…早くして!」

 

「分かった…でも、大丈夫なのか、ギエラ?」

 

ギエラの声を聞いて俺もとっさにメギドロイドの剣に両腕の武器を叩きつけるが、あんなに傷を受けてまだ戦えるのだろうか。

 

「このくらいの傷、アジトを奪われた悲しみに比べたら大したことじゃないわ…押し切るわよ、雄也!」

 

アジトであるマイラの町を奪還するためなら、このくらいの傷は平気ってことか。

かつてアメルダを救出しに行った時も、厳しい戦いになるとは分かっていても決して諦めることはしなかったな。

ギエラと二人でなら、メギドロイドの剣も押し返せるかもしれない。

 

「ニンゲンドモメ、ムダナテイコウハヤメロ!」

 

メギドロイドも弓を中断し、剣に全身の力をこめて俺たちを押し返そうとして来る。

ここで押し返されたら俺はともかくギエラは助からない可能性が高いし、絶対に失敗は出来ないな。

だが、メギドロイドの力はやはり強く、俺たちは倒れ込んでしまいそうになる。

すると、その状況を見たガロンも俺たちを助けようと、こちらに向かって来る。

 

「アネゴ、ベイパー!少しだけこいつらの気を引いておいてくれ…あの赤い奴をぶっ倒したら、すぐに戻るぜ!」

 

アメルダとベイパーはまた3体のデュランダルと同時に戦うことになってしまうが、俺たち二人ではどうあがいても押し切られてしまう。

ガロンはすぐにメギドロイドを倒して戻ると約束し、それを聞いたベイパーとアメルダはデュランダルを引きつける。

 

「分かった…あんたを信じてるよ、ガロン!」

 

「厳しい状況だ…お主に託したぞ!」

 

ガロンは俺たちのところに走って来て、メギドロイドの剣に思い切りブラッディハンマーを叩きつける。

 

「雄也、ギエラ!オレもこいつをぶっ潰すぜ!」

 

俺たち二人を抑えていた奴も流石に三人を弾き返すことは出来ず、体勢を崩していく。

そして、俺たちが全力を腕にこめると、ついにメギドロイドは倒れ込んだ。

奴の動きが止まったところで、俺たちは強大な攻撃を叩き込んでいく。

 

「今だ!ガロン、ギエラ、こいつを倒すぜ!」

 

ガロンは筋肉を活かした威力の高い打撃を与えて核を砕き、ギエラも残った力でメギドロイドの装甲を変形させていく。

そして俺は腕に力を溜めて飛び上がり、奴に垂直に叩きつける。

 

「終わりだ、飛天斬り!」

 

三人の力を合わせた攻撃を受けて、ついに高い生命力と防御力を誇ったメギドロイドは青い光を放って消えていく。

これで俺もかなり体力を消耗してしまったが、2階での戦いも乗り切れるといいな。

俺はアメルダたちを助けに行く前に、ギエラにリムルダールで集めた薬草を渡す。

 

「…強敵だったけど、何とか倒せたな…ギエラ、これを飲んで回復してくれ」

 

「ありがたく受け取るわ、雄也」

 

即効性なので、傷口が塞がるのには1日ほどかかるだろうが、痛みや出血はこれで収まるはずだ。

 

「それじゃあガロン、アメルダたちを助けに行くぞ!」

 

「もちろんだぜ。アネゴたちと一緒に、アジトを取り返してやる」

 

ギエラに薬草を渡した後は、ガロンと一緒に、まだデュランダルと戦っているアメルダたちを助けにいった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode188 占領者との決戦

メギドロイドを倒してギエラに薬草を飲ませた後、俺たちはアメルダたちを助けに向かう。

同時に3体のデュランダルと戦っているアメルダとベイパーはかろうじて怪我を負っていないが、危険な状況であることには変わりない。

俺たちは分かれて、俺がアメルダを助けに、ガロンがベイパーを助けに行く。

 

「俺はアメルダを助けに行く。ベイパーは頼んだぞ、ガロン!」

 

「分かった。今援護してやるぜ、ベイパー!」

 

ガロンに指示を出すと、俺はアメルダと戦っているデュランダルのうちの1体に向かって両腕の武器を構えた。

奴もすんでのところで気づいて来るが、今までの戦いで弱っているからか、反応が間に合っていなかった。

俺はやみよのつるぎで核を貫き、ブラッディハンマーで頭部を殴りつける。

まだ倒れることはなかったが、デュランダルは怯んで動かなくなった。

 

「あの赤い奴は倒せたみたいだね、雄也。こっちも無事だよ!」

 

「俺も援護するぜ。こいつらを倒して、2階に向かうぞ」

 

俺の援護を受けて、アメルダはそう言う。

2階でもかなりの強敵が待ち受けていることだろうし、これ以上怪我を負う前にデュランダルたちを倒さないとな。

俺は動けなくなった奴に向かって、さらなる攻撃を続ける。

 

「起き上がられる前に倒してやるぜ」

 

デュランダルは立ち上がろうともするが、俺はその前に全力の攻撃を叩き込む。

俺の強力な攻撃を受け続けた奴は、倒れて消えていった。

アメルダも2体のデュランダルの攻撃をかわしながら、やみよのつるぎで装甲を斬り裂いていく。

 

「オノレ、ニンゲンメ…!」

 

「ゼッタイニ…ニガサンゾ!」

 

奴らも機械音声を発しながら抵抗を続けているが、アメルダに攻撃を当てることは出来ていない。

かなり弱っており、後数回攻撃をすれば倒すことが出来るだろう。

俺も攻撃しようとしたが、その前にアメルダの攻撃で生命力が尽きて、2体とも倒れていった。

 

「これで3体とも倒せたな…ここでの戦いはキツかったけど、何とか乗り切れたぜ」

 

「改造された魔物も、アタシたちの武器には敵わなかったみたいだね」

 

ガロンたちやシェネリたちもデュランダルを倒し終えて、俺のところに集まる。

薬草を飲んでいたギエラも、次なる戦いのために、ブラッディハンマーを構えて近づいてきた。

 

「雄也、アネゴ、よくやったな!俺たちも、機械どもを倒してやったぜ!」

 

「みんなが無事で良かったわ。少しやられちゃったけど、まだ戦い続けるわよ」

 

ギエラは痛みが収まったので、2階での戦いにも参加してくれるようだな。

どんな敵が待ち受けているかは分からないが、必ず勝って、マイラの町を取り戻してやるぜ。

 

「2階の魔物たちも倒せたら、町を取り戻せるはずだ。行くぞ、みんな」

 

俺はみんなにそう言うと、マイラの城の奥にある階段を登り、2階に向かっていった。

 

2階に登って来ると、4体のボストロールと1体のダークトロルが見えてくる。

トロルたちの後ろには、4体のだいまどうと8体のまどうしの姿もあった。

改造された魔物がおらず、変異体であるトロルギガンテの姿もないが、気をつけなければいけないのは変わりない。

 

「まさかあの最高傑作の兵器も倒すとは…恐ろしい奴らだな」

 

メギドロイドたちを倒して来た俺たちの姿を見て、ダークトロルはそう言う。

城前の魔物だけでなく、機械の魔物たちを倒されたのは奴らにとっては大きな痛手だろう。

だが、追い詰められたダークトロルたちも、マイラの町を返す気はないようだ。

 

「だが、せっかく手に入れた場所を人間どもには返さん!お前ら、こいつらを叩き潰せ」

 

ダークトロルの指示を受けて、ボストロールも棍棒を振り上げて近づいて来る。

ダークトロルはトロルキングより強いだろうが、今の武器があれば決して勝てない相手ではないはずだ。

 

「こっちこそ負けるつもりはない。あんたたちを倒して町を取り返す!」

 

荒くれたちとシェネリはそれぞれボストロールのところに、俺とアメルダはダークトロルのところに向かっていく。

そして、マイラの城の2階での戦いが始まった。

 

俺たちが近づいて行くと、ダークトロルは巨大な棍棒を叩きつけて攻撃して来る。

しかも、今までのトロル系の魔物より攻撃速度が早く、攻撃力も高そうだった。

 

「ビルダーに荒くれの親玉め…どこまで諦めないつもりだ!」

 

攻撃範囲も大きく、回避しながら近づくのは今までの俺だったら難しかっただろう。

だが、今の俺にはほしふるうでわがあり、これを使えば接近して斬りかかるのもそんなに難しいことではない。

作った時からすごい装備だと思っていたけど、ここまで役に立つとはな。

俺は棍棒をジャンプで避けた後、素早く動いて足元に近づき、両腕の武器を叩きつける。

 

「この巨体でこの速度か…でも、腕輪があれば近づけるな」

 

ダークトロルは体力も高いだろうが、やみよのつるぎとブラッディハンマーで攻撃していけば少しずつ弱らせられるはずだ。

足元への攻撃が出来ないダークトロルは移動しながら殴りつけて来るが、その度に俺は近づき、足にダメージを与えていく。

アメルダも軽やかな動きで棍棒をかわしていき、何とか奴に近づいて剣を振り下ろした。

 

「なかなかの強敵だね…でも、このくらいじゃアタシたちは倒せないよ!」

 

みんなもボストロールを倒したら、俺たちを援護しに来るだろう。

避けては近づきの繰り返しはかなり体力を使うが、みんなもいれば力尽きる前に倒せそうだ。

今は少しでも体力を削ろうと、俺とアメルダは攻撃を続けていった。

ガロンたちもボストロールの攻撃を受けることなく、足に打撃を与えている。

だが、俺たちに攻撃を当てられないダークトロルたちを援護するために、だいまどうたちが呪文を唱えて来た。

俺とアメルダのことをだいまどうが、ガロンたちのことをまどうしが狙って来る。

 

「ビルダー…素早い奴め。我々も援護する、メラミ!」

 

「人間どもを焼き尽くしてやる!」

 

奴らは俺たちの動きを止めるために、足を狙ってメラミを放ってくる。

ただでさえ動きが早いダークトロルを、火球もかわしながら攻撃をするのは難しい。

先に、だいまどうとまどうしを倒しておいた方が良さそうだな。

奴らとはラダトームで戦い慣れているので、俺が倒しに向かうとアメルダに言った。

 

「あいつらがいたら戦い辛いな…俺がだいまどうたちを倒して来るから、それまで持ちこたえていてくれ」

 

「分かったよ。アンタが戻ってくるまでに、少しでも弱らせておくさ」

 

俺がだいまどうたちと戦う間、アメルダ一人にダークトロルの攻撃は集中することになる。

かなり危険だが、アメルダはそう返事をして、奴の攻撃を確実に避けて近づこうと試みていた。

それでもなるべく早く戻って来ようと、俺はサブマシンガンを構えてだいまどうたちに向ける。

 

「あいつらとは何度も戦ってるし、すぐに倒せるはずだな」

 

奴らは俺にメラミの呪文を集中させて来るが、今までと同様にジャンプをして回避する。

腕輪の力があるので、今回はさらにかわしやすかった。

そして、奴らが次のメラミを詠唱している間に、俺はサブマシンガンを連射していく。

赤魔の弾丸は攻撃力が高いので、7発ほど当てるとだいまどうは倒れていった。

 

「ビルダーめ…我らは貴様らなどには屈せぬぞ…!」

 

「貴様も仲間たちも、ここで灰になるのだ!」

 

数が減ってもだいまどうは抵抗を続けてくるが、俺はサブマシンガンでの攻撃を続けていく。

残った弾の数も少なくなってきたが、弾切れを起こす前に4体のだいまどうを倒しきることが出来た。

だいまどうたちを倒すと、今度はガロンたちと戦っているまどうしの様子を見る。

 

「そんな小せえ炎じゃ、オレたちは止まんねえぜ!」

 

「怪我してるからって、これくらいじゃやられないわよ!」

 

すると、荒くれたちとシェネリはボストロールの攻撃を凌ぎながらまどうしに近づき、ブラッディハンマーを叩きつけることが出来ていた。

まどうしは体力が低いので、荒くれの強力な打撃を受ければすぐに倒れていく。

シェネリも、奴らをだんだん弱らせることが出来ていた。

 

「みんなは大丈夫そうだな…アメルダのところに戻って、ダークトロルと戦おう」

 

ボストロールに関しても、新武器を持ったガロンたちなら倒すのにあまり時間はかからないだろう。

今はアメルダを助けに行こうと、ダークトロルのところに向かう。

アメルダは奴に何度か近づいて攻撃出来ていたが、まだ倒せる気配はない。

 

「アメルダ、だいまどうたちを倒してきた。また二人で戦うぞ」

 

「ありがとう、雄也。邪魔者もいなくなったことだし、集中して倒すよ!」

 

今までの戦いでかなり体力を消耗してきたが、俺もアメルダもまだ動きが鈍ってはいない。

またダークトロルの足に近づいて、両腕の武器を叩きつけていった。

ダークトロルも攻撃が激しくなって来るが、接近できなくなるほどではなかった。

 

「まだ死なないのか…人間ども…!」

 

どれだけ足を攻撃しても転倒したりはしないが、確実にダメージは入っているはずだ。

アメルダもジャンプで棍棒を避けつつ、奴の身体を斬り続けていく。

だが、ダークトロルもこのまま倒されようとはせず、全身に力を溜め始めた。

 

「砕け散れ、ビルダーめ!」

 

ダークトロルは力を溜めている間は無防備だが、攻撃力も範囲も大きい攻撃が来るはずだ。

 

「大きく跳ぶんだ!」

 

無理に攻撃しようとはせず、俺はアメルダにそう叫んで、自分も大きくジャンプする。

ダークトロルは力をため終えると、さっきのギガンテスのように飛び上がって、地面に棍棒を叩きつけてきた。

攻撃力はギガンテスをも上回り、地面に衝撃波が走る。

でも、俺たちはすぐにジャンプしたことで、攻撃の範囲から逃れることが出来た。

 

「何とか避けられたか…すごい攻撃だったな」

 

当たっていたら即死だったかもしれないし、助かってよかったぜ。

攻撃の衝撃でダークトロル自身も少し動きを止めたので、俺もアメルダもまた近づいて、さらに大きなダメージを与えようとする。

起き上がったダークトロルは、攻撃速度が少し落ちていた。

 

「あの一撃も避けたか…だが、絶対にこの場所は返さん!」

 

それでもせっかく奪ったこの町を渡すまいと、棍棒を叩きつけ続けてくる。

しかし、追い詰められたダークトロルのところに、ガロンたちも近づいて来た。

 

「雄也、アネゴ!ボストロールたちは倒してきた、オレたちも手伝うぜ!」

 

ボストロールも強い魔物ではあるが、ブラッディハンマーを手にしたガロンたちにとってはあまり苦戦する相手ではなかっただろう。

みんなで攻撃すれば、ダークトロルの生命力も削りきることが出来るはずだ。

 

「ありがとう、みんな。こいつを倒して、俺たちの町を取り返すぞ!」

 

こいつを倒すことが出来れば、マイラの奪還戦は終わる。

俺はガロンたちに感謝の言葉を言ってから、ダークトロルへと集中攻撃する。

荒くれたちの強力な攻撃を受け続けて、奴の足は変形してきていた。

 

「おのれ、おのれ…人間ども…我らは決して負けぬのだ…!」

 

ダークトロルも俺たち6人を叩き潰そうとして来るが、攻撃速度が落ちているので、ガロンたちでも回避するのはそんなに難しくなかった。

そして、俺たちの攻撃を受け続けて、奴はついに転倒して動けなくなる。

ここで集中攻撃を与えれば、ダークトロルにとどめをさすことが出来そうだ。

 

「行くよみんな、この隙に倒しきるんだ!」

 

アメルダも同じことを考えたようで、みんなに向けてそう言った。

みんなはダークトロルの全身に強力な攻撃を何度も叩き込んでいき、俺は全身の力を腕にため始める。

そして、奴が立ち上がる前に大きくジャンプして、垂直に叩きつけた。

 

「これで終わりだ、飛天斬り!」

 

マイラのみんなの攻撃を受けた後に飛天斬りを受けて、ダークトロルは生命力を完全に失う。

2階には改造された魔物がいなかったので、そこまでは苦戦しなかったな。

これでマイラの町は奪還出来たし、みんなでこの魔物の城を解体して、マイラの2度目の復興を始めよう。

 

しかし、俺がそんなことを思っていると、ダークトロルは死に際にアメルダの方を見て言い残す。

 

「我を倒したところで、お前たちはこの女の過去の報復を受けることになるのだ…。何のことかは分かるな…?恋人であったはずの発明家を殺した、裏切りの助手め…」

 

奴は最後にそう言うと、青い光を放ちながら消えていった。

アメルダが恋人であったラライを殺したという話を、魔物たちも知っていたとはな。

だが、ラライの霊は昇天したはずだし、それ以前にがったいまじんを倒した時、アメルダに嬉しそうな顔を向けていた…誰が報復を行うと言うんだ?

アメルダがラライを殺したという話を初めて聞いたシェネリは、ショックを受けていた。

 

「裏切りの助手…アメルダさんが人を殺したという話は聞いていました…でも、その殺した相手というのは、ラライさんだったんですか…?」

 

アメルダの忘れたい過去のことだから、俺が去った後もその話はしなかったのだろう。

ガロンは最初は、ダークトロルがついた嘘だとシェネリに言う。

 

「そんなのあいつの嘘に決まってるだろ!魔物どもが、オレたちを惑わそうとしてるんだ!」

 

「でも、どうしても嘘には俺は思えません…。本当のことを教えてください!」

 

だが、シェネリはアメルダの方を見てそう言う。

仕方なかったこととは言え、恋人を殺したのは事実…そのことを思い出して、アメルダは暗い顔をしていた。

もし本当に嘘だったら、嘘に決まってるよと明るい顔で言っていただろう。

シェネリに問い詰められて、ガロンは仕方なく本当のことを言った。

 

「今までずっと黙って来たが、もう隠しきれねえか…。アネゴとラライは恋人同士で、仲良く魔物を倒すための発明をしていたんだ。だが、ある日の夜、アネゴはラライを殺しちまった…」

 

「何で…そんなことをしたんですか…?」

 

シェネリはショックを受けた口調のまま、ガロンたちに問い続ける。

思い出したくないことなので、アメルダ自身も答えることはしなかった。

ガロンもまだそのことについては聞いていないようで、知らないと答える。

 

「そこまではオレも知らねえ…だが、一つだけ言わせてくれ。アネゴは悪い人じゃねえ…それだけは信じてくれ」

 

「それは分かっています…」

 

アメルダが悪い人ではないとは思ってくれてはいるようだが、どうしてもショックを隠せないようだ。

気持ちの整理をつけるため、シェネリは一度この場を離れてコルトたちを呼びに行ってくると俺たちに告げる。

 

「とりあえず私、コルトたちを呼んできますね…」

 

アメルダとシェネリの関係が悪化することにはならないだろうが、ダークトロルが言っていた報復と言うのが何なのか気になるな。

変異体であるトロルギガンテも倒さなければいけないので、マイラでの戦いはまだ続きそうだ。

 

シェネリがコルトたちを呼んできた後、俺たちは魔物が作った城を解体して、マイラの町を作り直す。

シェネリも少しは落ち着いたようで、アメルダとも今まで通り会話して、工房や寝室、温泉と言った最低限の設備を建てていた。

城を解体している途中に魔物が使っていたマシンメーカーも見つかったが、俺たちは今まで隠れ場所で使っていた物を使うことにして、こちらはポーチにしまった。

必要最低限の設備が整うと、俺たちは温泉に入った後、眠りについた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode189 雪に埋もれた研究記録

マイラの町を奪還した翌日、マイラに戻ってきてから3日目の朝、俺は昨日の戦いの疲れがあってかなり遅くまで眠っていた。

昼ごろに起きると、今日はこれから何をしようかと考え始める。

昨日のダークトロルの話も気になるし、トロルギガンテとの戦いもあるはずなので、それまでにさらなる兵器を作っておいた方がいいかもな。

そう思っていながら歩いているると、アメルダが話しかけてきた。

 

「雄也、少しいいかい?相談したいことがあるんだ」

 

「どうしたんだ、アメルダ?」

 

アメルダが、さっそく新しい兵器を思いついたのだろうか。

いつ次に魔物が襲撃して来るか分からないし、それなら早めに作っておかないとな。

しかし、アメルダは今回も新兵器の開発に行き詰まっていると言った。

 

「実は、トロルギガンテを倒すためのさらなる兵器を考えてたんだけど、何の手がかりもなしでは、今以上の物は思いつかなくてね…」

 

「でも、発明の手がかりなんてもう残っていないんじゃないか?」

 

アメルダは昔よりも発明の腕は上がっているが、やはり限界があるようだ。

しかし、ラライの研究記録は昔に全て手に入れたはずだし、これ以上他人の記録から手がかりを得ることは不可能だと俺は思う。

 

「いや、まだアタシたちが持っていない、アイツの研究記録があるかもしれないんだ。アイツがおかしくなってから竜王が現れるまで、しばらく時間があった。アタシはおかしくなったアイツを見ていられなくなってね、その間の研究内容については知らないんだ」

 

確かにだんだん狂っていく恋人の様子を見るのは、とても辛いことだろう。

アメルダが知らない部分の研究内容…そこに、さらなる兵器の手がかりがあるといいな。

だが、ラライも正気が失っていたのでは、まともな研究は出来なかったはずだ。

 

「でも、そんな状態ならまともな研究は出来なかったんじゃないか?」

 

「確かにそうだったかもしれないさ…でも、これ以上の兵器を自力では作れないから、役立つ記録が残っていることに賭けたいんだ」

 

望み薄ではあるが、もう一度ラライの研究所に言ってくるしかなさそうだ。

今の武器だけだったら、トロルギガンテとの戦いは相当厳しいものとなるだろう。

俺も役に立つ研究記録が残っていることを信じて、これから出発するとアメルダに告げる。

 

「分かった…じゃあ、これからまたラライの研究所に行って来るぜ。役立ちそうなものがあったら、ここに持ってくるぞ」

 

「ああ。頼んだよ、雄也」

 

ラライの研究所があったガライの町の跡地は、緑の旅のとびらを抜けてまっすぐ進んでいけばすぐに着く。

昨日城を解体している時に俺たちは旅のとびらも発見し、町の隅の方に設置し直していた。

アメルダと別れると、俺は町の隅へと歩いていき、緑の旅のとびらに入る。

 

旅のとびらを抜けると、俺の目の前には今も雪が降っている雪原が見えて来た。

ここも赤いとびらの先と同様、一度は氷の魔力がなくなったのだろうが、ルビスが死んだ影響で再び魔力に満ちて来ている。

かなりの寒さだが、俺はラライの研究所を目指して歩き始めた。

 

「ここに住んでいる魔物は、昔と変わっていないな…」

 

俺は歩いている途中、まわりの魔物の様子も観察していく。

すると、昔と同様にホークマンやガーゴイルが生息しており、ブリザードやメタルハンターも改造を受けていなかった。

苦戦することなく倒せるだろうが、俺は見つからないように慎重に進んでいく。

 

「そんなに強い奴らではないけど、気をつけて進むか…」

 

この雪原は視界を遮るものが少ないので、より注意しなければいけない。

しかし、ほしふるうでわで素早く動くことが出来たので、15分くらいでガライの町の跡地にたどり着いた。

 

ガライの町に入ると、俺はまずは昔ラライの作ったキラーマシンに出会って、最強の兵器の発明メモを受け取った場所へと向かっていく。

魔物ももうこの場所に研究記録は残っていないと思っているのか、昔来た時よりも数は少なくなっていた。

 

「結局ガライの町は、復興させることがなかったな」

 

他の町は復興したのに廃墟のままになっているガライの町を見て、俺はそんなことも思う。

最初に訪れた時は、この場所もいつか復興したいと思っていたな。

しかし、コルトとシェネリ以外のガライヤの生き残りはおらず、住民になってくれる人が一人もいないので、今後もガライの町を作り直すことはないだろう。

 

「ん?ここにいたはずのキラーマシンがいなくなってる」

 

そう思いながら進んでいくと、俺は前にここに来た時にはいた壊れたキラーマシンが、いなくなっているのに気づく。

人間に修理されたら困ると思い、魔物たちが回収したのだろうか。

もしキラーマシンを味方につけられたらかなりの戦力になりそうだとも思ったが、それは叶わなさそうだな。

キラーマシンがいた場所のさらに奥に進み、俺はラライの研究室だったと思われる場所に入る。

 

「前はこの部屋までは調べていなかったな…何か記録は残ってないか?」

 

前はキラーマシンからメモを受け取ってすぐに帰ったので、研究室を調べていなかった。

何か記録が残っていないかと思い、俺はその中を見ていく。

すると、テーブルの上にラライが書いたと思われるノートが置かれていた。

 

「こんなノートが置いてあったのか…何が書いてあるんだ…?」

 

俺はそのノートを手に取り、表紙を開いてみる。

そこには、殴り書きされたような文字で文章が書かれていた。

 

ついに、ついに念願だったマシンパーツが完成した!あんなに悩んで作り出せなかったのに、今は頭が冴え渡っている!発想が湧いてくる!こんなことなら、こんなことなら!もっと早く、もっともっと早く、こうするべきだった!

 

ここから先はもう完全に正気を失ったのか、読めるような字では書かれていなかった。

 

どうやらこれは、ラライが竜王の誘いに乗った時に書いた文章みたいだな。

こんな文を残していると言うことは、アメルダがラライが竜王に寝返ったと知るまで、しばらく時間があったようだ。

ラライはマシンパーツを自分では作れず、竜王の助けを得ることでようやく完成させたみたいだな。

 

「新しい発明品の記録は、残っていないみたいだな…」

 

だが、マシンパーツが作られた時のことは分かったが、さらなる兵器の手がかりになりそうなことは書かれていなかった。

やはりラライは、超げきとつマシンより強力な兵器に関しては、全く考えていなかったのだろうか。

だが、今の兵器でトロルギガンテと戦うのは厳しいだろうから、俺は研究室のまわりも調べていく。

 

「他に何か、記録は残っていないのか?」

 

研究室の外には雪が積もっているが、俺は雪をはらいながら記録を探した。

そう簡単には何も見つからないが、広い範囲の雪をはらって、俺は探索を進めていく。

そうしていると、研究室の左側にある空間の雪の中に、また別のノートが埋まっていることに気づく。

 

「こんなところにもノートがあったか…こっちには何が書いてあるんだ?」

 

俺はそのノートも手に取り、中身を開いて見に行く。

するとそこには、マシンメーカーより大きな見たこともない作業台の図と、5本もの鋭い角を持った超げきとつマシンの絵が書かれていた。

二つの絵の下には、ラライが書いたと思われる文章も残されていた。

 

今僕が考えている兵器では、魔物の親玉は倒せないかもしれない…でも、これさえあれば、どんな魔物だって倒せるはずだ。でも、マシンパーツすら完成させられない僕がこんな物を作るなんて、夢のまた夢。僕にはもっと知恵が必要だ…力が必要だ…

力が欲しい…力が欲しい…どんな物でも発明出来る力が…

誰でもいい、誰でもいいから…僕に力を与えてくれ…

 

ノートの後の方に行くほど、だんだん字が汚くなっていった。

これは恐らく、ラライが竜王の誘いに乗る直前に書いたものなのだろう。

こうしてラライは力を求めるあまり、本来の目的さえも見失い、竜王の誘いに乗ってしまったんだな。

竜王に与えられた力でマシンパーツは完成させられたが、超げきとつマシンやここに書かれている発明を作る前にアメルダに殺されたようだ。

もしラライが生きていたら、魔物たちにこれらの兵器が渡っていたかもしれない…だが、ラライを殺したことは、アメルダの心に深い傷を負わせることになった…ラライを殺したことが正しかったかどうかは俺には分からないし、アメルダにも分からないのだろう。

 

そんなことを思いながら、俺はこのノートを回収してポーチに入れた。

ここに書かれている兵器があれば、トロルギガンテとの戦いも少しは有利になるだろう。

 

「この発明は結構強そうだし、持ち帰ってアメルダに見せよう」

 

もう研究記録は残っていないと思っていたが、雪の中に埋もれていたとはな。

発明を形に出来なかったラライのためにも、俺たちが完成させてやらないと。

俺はまた魔物たちから隠れながら雪原を歩いていき、マイラの町に戻っていった。

 

マイラの町に戻って来ると、俺はアメルダに研究記録のことを教えに行く。

アメルダは町の中を歩いており、すぐに見つけることが出来た。

 

「アメルダ、ラライの研究所に行ってきたぞ」

 

「よくやったね、雄也!アイツの記録は見つかったかい?」

 

俺の声を聞いて歩いて来るアメルダは、少し不安そうな顔をしている。

ラライの研究所は昔も調べた場所だし、新たな記録が見つかったのか心配なのだろう。

俺はアメルダに、さっき手に入れたノートを見せた。

 

「研究所の近くの雪の中に埋まってたこのノートに、俺たちが知らない形の作業台とげきとつマシンが書いてあった。ラライは詳しい作り方までは思いつけなかったみたいだけど、もしこれを作れたら、トロルギガンテを倒しやすくなると思うぜ」

 

「アタシが知らないうちに、アイツはこんなのを書いてたのかい…中身を見てみるから、もし作り方が分かったらアンタに教えるよ」

 

ラライは作り方までは思いつけなかったようだが、見た目だけでも少しは手がかりになるだろう。

トロルギガンテが襲って来る前に、新しい兵器を完成させないとな。

超げきとつマシンの強化版なら、ラダトームに戻った後の戦いにも役立つかもしれない。

 

「ああ、頼んだぞ」

 

俺はアメルダにそう言うと、少し休もうと寝室へと戻っていった。

 

 

 

その頃…アレフガルドのどこか 魔物の楽園

 

ルビスを殺害した後のアレフの住処である魔物の楽園…その中で、しにがみのきしが斧を振る、だいまどうが大きな火球を飛ばす訓練をしていた。

彼らが訓練している様子を、アレフが見守っている。

しばらくの訓練の後、しにがみのきしは攻撃速度が上がっているかどうか聞いた。

 

「どうだ、アレフ。攻撃速度は上がってたか?」

 

「昔と比べると大分上がってきてると思うぜ。お前なら、新しい滅ぼしの騎士になれるかもな」

 

このしにがみのきしは元は周りと比べても弱く、ラダトームへの襲撃にも参加していなかった。

だが、滅ぼしの騎士がビルダーたちに倒された後、自分も人間との戦いに役立とうと、新たな変異体になろうとしていたのだ。

アレフに褒められて、しにがみのきしは嬉しそうな口調になる。

 

「それは良かった!早く変異出来るほどの強さを得て、人間どもを斬り倒しに行ってやる!」

 

しにがみのきしもビルダーや仲間たちは強力だと分かっているが、それでも戦いを諦めたりはしない。

隣で訓練しているだいまどうも、アレフに魔法が上達しているか聞いた。

 

「どうでしょうか、魔法の威力は上がっていますか?」

 

このだいまどうも他の個体より魔力が低く、人間との戦いには行かずアレフと共に過ごしていることが多かった。

だが、悠久の竜や同族の変異体である暗黒魔導が倒されたことを聞き、隣のしにがみのきしの誘いもあって、新たな変異体を目指すことにしていた。

 

「お前の魔法も、結構上達してる。このまま訓練を続ければ、十分変異体になれると思うぜ」

 

だいまどうの魔力も、訓練を始めたころに比べると上がって来ている。

人間がエンダルゴやアレフとの戦いの準備を進めるように、魔物たちも人間との戦いに備えて次々に強化されていく。

人間と魔物との決戦の日も、だんだん近づいて来ていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode190 最高の筋肉を求めて

3章でガロンの設計図の話を書き忘れていたので、8章に持ってきました。


ラライの研究記録を手に入れた翌日、マイラに戻って来てから4日目の朝、俺は朝食を食べた後町の中を歩いていた。

アメルダが新兵器を考えるまでの間、俺は何をしていればいいだろうか。

そう思っていると、ガロンたち荒くれ3人が話しかけてきた。

 

「なあ、雄也。聞いて欲しいことがあるんだ」

 

「時間があったらで構わないが、大丈夫そうか?」

 

荒くれたちが集まっての頼みと言うことは、恐らく筋肉に関することだろうな。

今は特にすることもないので、ガロンたちの話を聞いておこう。

筋肉を鍛えて攻撃力が上がれば、トロルギガンテに勝てる可能性も上がるかもしれないしな。

 

「どうしたんだ、また筋肉に関することか?」

 

「ええ。アタシたちは筋肉を鍛えるために、二つの建物を考えたの。一つは特訓に集中するためのトレーニングルームで、もう一つは訓練の後に疲れを癒すための食事場よ」

 

俺がそう聞くと、ギエラはトレーニングルームと食事場のことを話し始める。

トレーニングルームはともかく、食事場は俺たちも使うことが出来そうだ。

今マイラの町にあるのは城を解体した時に作った簡単な食事場なので、改良してみてもいいかもしれない。

俺はその二つの建物の内装を、どのようにするのか聞いていく。

 

「その二つの建物の中には、何を置くつもりなんだ?」

 

「トレーニングルームにはワシら全員が一度に使えるよう、ダンベルとバーベルを3つずつ置くつもりだ。もう一つずつ持っておるから、残り二つずつを作ればよい」

 

またダンベルとバーベルか…この前にひもはたくさん作ったから、後は鉄のインゴットを用意して来れば作れるだろう。

入り口に使う扉も、町のすぐ近くで草とふとい枝を集めれば良さそうだ。

建物の壁を3人が作っている間に、俺が素材を取りに行って来よう。

もう一つの食事場については、ガロンが設計図を作ってくれたようだった。

 

「もう一個の食事場は、オレが設計図を書いて来たぜ。この通りに作れそうか?」

 

ガロンが持っている設計図には、食べる時に使う扉と調理する時に使う扉が別になっている、まるで店のような食事場が書かれていた。

食べる場所と調理場はバーのカウンターのような物で隔てられており、食事場には4つの木のイスが、調理場にはレンガ料理台に酒ダル、カベかけランプ、収納箱が置かれていた。

トレーニングの後はこの部屋に来て、料理を食べながら酒を飲むのだろう。

また、食事場の入り口には木のフェンスが、調理場の入り口には牢屋のような扉が使われている。

初めて見る物がかなり多いが、作ることが出来るだろうか。

俺はビルダーの力を使って、必要な素材を調べていった。

 

バーカウンター…木材5個、鉄のインゴット1個 鉄の作業台

 

酒ダル…木材3個、ひも2個 鉄の作業台

 

木のいす…木材1個 鉄の作業台

 

フェンス…木材1個 ふとい枝1個 鉄の作業台

 

ろうやのとびら…はがねインゴット2個 マシンメーカー

 

鉄の作業台では神鉄炉と金床が作れず、鉄を鋼に加工することは出来ないので、ろうやのとびらは作れなさそうだな。

ゆきのへが作った神鉄炉は、マイラが占領された時に失われてしまった。

メルキドやラダトームまで行けばはがねインゴットを手に入れられるが、ここからだとかなりの長旅になるだろう。

食事場を作るためだけに遠出するのは大変なので、他の物はマイラかガライヤで素材で集まるが、ろうやのとびらを作るのは難しいと俺は3人に言う。

 

「バーカウンターとかは作れるけど、調理場の扉を作るのは大変そうだぜ。マイラとガライヤじゃ素材が集まらない」

 

「この扉なら、昔ギエラが捕まってた砦の牢屋にあるはずだぜ。調理場の入り口には小型の扉を使いたくてな、何かいいのが思いつかないかと相談したら、二人がろうやのとびらのことを教えてくれたんだ」

 

そう言えばギエラの閉じ込められていた牢屋には、幅1メートルの扉があったな。

小型の扉が欲しいからと言ってろうやのとびらを選ぶのもどうかと思うが、他に思いつかなかったのだろう。

あの牢屋なら、カベかけランプに使うマグマ電池の材料である銅を集めるついでに向かうことが出来そうだ。

 

「そう言えばそんなのがあったな…分かった。結構素材集めに時間がかかりそうだし、その間にみんなが壁を作っていてくれ」

 

「分かったわ。気をつけて集めて来るのよ」

 

俺は3人にそう言うと、まずは町の近くで素材を集めようとする。

俺が素材を集めに行っている間、みんなが壁を完成させてくれるだろう。

銅の鉱山や牢屋にも向かうため、俺は町の南の方へと歩いていった。

 

町の外に出ると、俺は南に向かって歩きながら草とふとい枝を探していく。

草とふとい枝は昔もたくさんあったので、今回もすぐに見つけることが出来た。

それらを回収してポーチにしまうと、今度は銅の鉱山に向かっていく。

 

「草と枝はすぐに集まったな…結構遠いけど、今度は鉱山に向かおう」

 

ここから銅の鉱山まではかなりの距離があるが、今はほしふるうでわがあるので30分もかからないだろう。

俺は岩山のバリケードを抜けて、広い荒野を進んでいく。

荒野にはこの前と変わらず、多数のボストロールや他の魔物が生息していた。

 

「ここの魔物も減っていないな…注意して進まないと」

 

余計な戦いは避けたいので、俺は体勢を下げて進んでいく。

しかし、この荒野には大きいサボテンや岩など、隠れるのに使えるものがたくさんあったので、見つかりそうになることはなかった。

慎重になおかつ素早く進んでいき、25分くらいで銅の鉱山にたどり着く。

 

「銅も使い道が多いし、たくさん集めておこう」

 

銅は鉄ほどではないが使い道は多いので、なるべく多く集めておかないとな。

今回必要な銅は少しではあるが、俺はビルダーアックスを鉱脈に叩きつけて、大量の銅を採掘していった。

銅だけでなく、近くにあった石炭も採掘していく。

多くの銅と石炭が集まると、俺は今度は扉を回収しに牢屋に向かった。

 

「これくらいあれば十分だと思うし、牢屋に向かうか」

 

牢屋までの間も今まで通り進んでいき、10分ほどで着くことが出来る。

昔はこの牢屋を見張るよろいのきしとまどうしがいたが、今はもう使われておらず、魔物の姿は全くなかった。

これなら、魔物に警戒せずにろうやのとびらを回収することが出来るな。

 

「ここに来るのは久しぶりだな。魔物は…いないみたいだ」

 

ベイパーと一緒にここに潜入して、ギエラを助けに行ったのが懐かしいな。

あの時も今も荒くれたちは筋肉の話が多いが、それが彼らの面白いところでもある。

そう思いながら誰もいない砦の奥に入っていき、ろうやのとびらを回収する。

ビルダーアックスで数回叩くとろうやのとびらは外れて、俺はポーチに入れて町の方へ向かっていく。

 

「無事にろうやのとびらも集まったな…今度は町の近くで粘土を集めよう」

 

この地域であと集められそうなのは、レンガを作るための粘土だな。

俺は来た道を戻ってマイラの町に向かい、そこから町の東にある山を目指していく。

この土で出来た山には粘土がたくさんあるので、すぐに集めることが出来るだろう。

 

「粘土も集めたら、次は旅のとびらを使わないとな」

 

粘土の次は、青のとびらの先でマグマ岩を、赤いとびらの先で木材と鉄を集めに行ってこよう。

俺はまたビルダーアックスを振って粘土の地層を叩いていき、たくさんの粘土を集めていった。

粘土をポーチにしまうと、俺は一度マイラの町の中に入る。

 

「ガロンたちは、もう壁を完成させているみたいだな」

 

ガロンたち3人で作ったからなのか、トレーニングルームも食事場ももう壁が出来上がっていた。

後は俺が素材を集めて内装を作れば、二つの建物が完成する。

早く二つの建物を作ろうと、俺は今度は青い旅のとびらに入っていった。

 

「マグマ電池も使い道が多かったし、マグマ岩も多めに集めに行くか」

 

かつてマイラを復興させていた時、マグマ電池もかなりの数を使っていた気がするな。

今回もたくさん集めに行こうと思いながら、俺はマグマ岩がある溶岩地帯に向かっていく。

フレイムやマドハンドといった魔物も生息していたが、ここにも岩や枯れ木が多くあったので、隠れて進むのは難しくなかった。

 

「今回も魔物に見つからなかったな…さっそくマグマ岩を集めていこう」

 

俺は武器をマグマ岩に叩きつけて、壊して回収していく。

足を踏み外してマグマに落ちないよう、俺はマグマから少し離れた場所にあるものを回収していった。

たくさんマグマ岩をポーチにしまうと、また旅のとびらに向かっていく。

 

「後は木材と鉄を集めたら、トレーニングルームと食事場が作れるな」

 

今回の素材集めは結構大変だったが、後は赤いとびらの先で鉄と木材を集めれば良い。

俺は旅のとびらから一番近い溶岩地帯に来ていたので、戻るのにもほとんど時間はかからなかった。

また町に戻って来ると、今度は赤の旅のとびらを抜けて雪原地帯に向かう。

ここには小舟でブラッドミスリルを集めに来たが、その時と同じくらいの寒さだった。

 

「相変わらず結構寒いな…早めに集めて、町に戻ろう」

 

弱い魔物の魔力でも気候が変動するようになり、今でも雪が降り続けている。

その分魔物からも見つかりにくくなっているので、なるべく早く集めようと俺は急いでいった。

雪を被っているスギの木を見つけると、俺は斧を使って切り倒し、スギ原木を回収していく。

 

「木を集めながら岩山に向かって、鉄を採掘しよう」

 

木は広範囲に生えているが、鉄は岩山に行かなければ採掘出来ない。

俺は木を回収しながら歩き、鉄の鉱山へと向かっていった。

木材も用途はかなり多いので、俺はたくさんの木を切っていく。

鉄の鉱山にたどり着いた時には、30個くらいのスギ原木を手に入れることが出来ていた。

 

「木材は集まったし、後は鉄だな」

 

岩山に着くと、今度は俺は回転斬りも使って鉄を採掘していく。

回転斬りは広範囲を薙ぎ払うことが出来るので、採掘する時にもかなり便利だな。

鉄はいくらあっても足りないので、俺は可能な限りの数を集めていった。

鉄をたくさん集めると、俺は二つの建物の内装を作りにマイラの町に戻っていく。

 

「鉄も結構な数になったな…マイラに戻って、建物を完成させよう」

 

これで全ての素材が集まったし、トレーニングルームと食事場を作ることが出来る。

魔物から隠れながら雪の降る森を歩いていき、旅のとびらの中に入っていった。

 

マイラの町に戻って来ると、まずはレンガ料理台を作るために料理用たき火を回収し、素材を加工するために工房に入っていく。

今の工房には鉄の作業台と炉と金床、マシンメーカーが揃っているので、この部屋だけで全てを作ることが出来そうだ。

俺は最初に炉と金床の前に立ち、銅と鉄をインゴットに加工していく。

金属製の物を作る時は、インゴットを使うことがほとんどだからな。

 

「せっかくだから、全部インゴットに加工しておこう」

 

今回使う分の銅や鉄を加工し終えた後も、俺は炉を使い続け、持っている全ての銅と鉄をインゴットにしていく。

全てを加工しておけば、今後インゴットを作る手間が省けるだろう。

インゴットを作り終えると、俺は今度はダンベルとバーベルを作る。

ポーチからひもも取り出し、ビルダーの魔法で鉄のインゴットをトレーニング器具に変えていった。

 

「これでトレーニングルームは作れるな…あとは食事場だ」

 

これでトレーニングルームの内装は出来たし、後は食事場の内装だな。

まずは炉と金床で作れる物を作ろうと、俺はレンガ料理台のために必要なレンガを作っていった。

粘土に炉の熱を与え、四角いレンガブロックの形へと変化させていく。

レンガが出来ると、俺は今度は鉄の作業台の前へと移動する。

 

「まずは木材を作って、それからいろいろ作っていくか」

 

鉄の作業台の前に立つと、まずはスギ原木を木材へと変えていく。

木に関しても原木のまま使うことはまずないので、全て木材に加工していった。

木材が出来ると、それを使って木のいすや酒ダル、バーカウンター、フェンスを作っていく。

かなりの木材を使ったが、さっきたくさん集めていたので、無くなることはなかった。

木材を使った家具を作った後は、収納箱とわらのとびら、レンガ料理台も作っていく。

 

「レンガ料理台も作れたな…最後はマシンメーカーを使って、カベかけランプを作ろう」

 

料理台が出来ると、俺はマシンメーカーのところに行き、カベかけランプを作る。

たくさん作る物があったが、これで最後になるな。

まずはマグマ岩と銅のインゴットを使ってマグマ電池を作り、それを使ってカベかけランプを作っていった。

 

「結構時間はかかったけど、これでトレーニングルームと食事場が出来るな」

 

素材集めにも物作りにも時間はかかったが、二つの建物を完成させることが出来そうだ。

俺はカベかけランプをポーチに入れて、荒くれたちが待っている場所に向かう。

 

荒くれたちが壁を完成させてからしばらく時間が経っており、3人とも待ちくたびれた様子だった。

 

「みんな、トレーニングルームと食事場の内装を作って来たぞ」

 

「やっと戻って来たか、雄也。オレたち待ちくたびれてたぜ」

 

何度も遠出する必要があったとは言え、ここまで待たせたのは申し訳ないな。

一言謝ってから、俺は作って来た物を部屋の中に置き始める。

 

「遅れてごめん、みんな。今から作って来た物を中に置いてくるぜ」

 

俺はまずトレーニングルームに入り、ダンベルとバーベルを設置していく。

前に俺が作った物が既に1つずつ置いてあったので、俺は二つずつ用意していった。

トレーニング用具の後は入り口にわらのとびらを置き、トレーニングルームを完成させる。

 

「これで残りは、食事場だけだな」

 

トレーニングルームは内装が少ないので、すぐに作ることが出来たな。

俺は今度は食事場に入り、ガロンの設計図の通りに木のいすやバーカウンター、レンガ料理台などを置いていく。

内装を置き終えると、調理場の入り口にろうやのとびらを、食事場の入り口にフェンスを置いて、店のような食事場を作り終えた。

レンガ料理台があれば様々な料理が作れるし、俺たちにとっても便利になりそうだ。

 

食事場も出来上がると、俺はガロンたちを呼ぶ。

 

「みんな、二つの部屋が出来たぞ」

 

「よくやったわね、雄也!これで、今まで以上に筋肉を鍛えられるわ」

 

俺の声を聞いてまずギエラが近づいて来て、その後ろにガロンとベイパーが続く。

トレーニングルームと食事場が出来て、みんな嬉しそうな顔をしていた。

 

「本当にありがとな、雄也。最高の筋肉を手に入れて、トロルギガンテの野郎をぶっ潰してやる」

 

「決戦まであまり時間はないが、出来る限りの努力をする。楽しみにしておれ」

 

新しい部屋が出来て、みんな筋肉を鍛えるやる気に満ちている。

トロルギガンテを止められるほどの筋肉をつけて、町を守り切れるといいな。

 

「ああ。また困ったことがあったら、いつでも呼んでくれ」

 

俺がそう言ってみんなと別れると、ガロンたちはさっそくトレーニングルームの中に入っていく。

何ヶ所にも遠出して疲れたので、俺はしばらく足を休ませていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode191 勇気の温泉

トレーニングルームと食事場を作った2日後、マイラに戻って来てから6日目、まだアメルダは新兵器を開発していなかった。

だが、確実に発明は進んでいるだろうし、あと数日で作れそうだ。

それまでに、トロルギガンテが襲って来ないよう祈るしかないな。

そう思いながら町の中を歩いていると、ギエラが話しかけてきた。

 

「ねえ、雄也。アネゴの兵器の開発も進んで、トロルギガンテとの決戦が近づいて来たでしょ?戦いの前に、アタシから提案したいことがあるの」

 

「別にいいけど、また筋肉に関することか?」

 

荒くれの言うことだから、また筋肉に関することだろうか。

だが、そう思っていると、ギエラは温泉を飾り付けたいと言ってきた。

 

「いいえ。雄也にはこのアジトの温泉を、さらにグレードアップして欲しいのよ。トロルギガンテは強力よ…最大限に士気を高めて挑まなければ、勝ち目はないわ」

 

そう言えば昔もギエラは、温泉に関する提案を何度もしていた。

みんなの士気を上げるために行った温泉のグレードアップも、ついに4回目になるな。

確かにみんなの士気が高くなければトロルギガンテには勝てないだろうし、ギエラの頼みを聞いておこう。

今回は、どんな壁掛けを温泉につけるつもりなのだろうか。

 

「それで、今回も温泉を飾り付ける壁飾りが欲しいのか。どんなのを考えて来たんだ?」

 

「アタシたち荒くれが、勇ましくブラッディハンマーを振り上げている絵よ。これがあれば、心の底から勇気が湧いてくると思うわ」

 

勇ましい荒くれの絵か…それなら、まじんのカベかけよりも勇気が出るかもしれないな。

本物そっくりのブラッディハンマーを描くなら、ブラッドインゴットが必要になりそうだ。

ブラッドミスリルは新兵器にも必要になるだろうし、これから集めに行こう。

そう思いながら、壁掛けの詳しい作り方を聞いていく。

 

「結構いいと思うぜ。どうやって作るんだ?」

 

俺に聞かれて、ギエラは新たな壁掛けの詳しい作り方を説明し始める。

やはりギエラは俺が思った通り、ブラッディハンマーを描くのにブラッドインゴットを使うつもりのようだった。

作り方を聞くと、俺はビルダーの魔法で素材の必要数を調べていく。

 

勇気のカベかけ…ブラッドインゴット2個、鉄のインゴット1個、染料2個 マシンメーカー

 

まじんのカベかけは炉で作れたが、こちらはマシンメーカーを使うみたいだな。

染料を作るためにスライムから油を集め、ブラッドミスリルを採掘して来れば作れるので、あまり時間はかからないだろう。

さっそく素材を集めに行こうと、俺はギエラに言った。

 

「どうなの、作れそう?」

 

「ああ。そんなに時間はかからないし、さっそく素材を集めてくるぜ」

 

筋肉を鍛えて、その上士気が高まった荒くれたちがいたら、トロルギガンテでもきっと倒せるはずだ。

俺はそんなことを考えて、まずはスライムの油を集めに町から出ていった。

 

あおい油を落とすスライムは岩山のバリケードの向こうを、あかい油を落とすスライムベスは町の近くをうろついている。

まずはあかい油を倒そうと、俺はスライムベスを探していく。

スライムベスは体力が低いので、背後から斬りかかれば一撃で倒せるだろう。

俺はスライムベスを見つけると後ろから忍び寄り、ビルダーアックスを叩きつけた。

 

「一撃で倒せたな…このまま集めていこう」

 

思った通り一撃で倒れて、奴はあかい油を落とした。

俺は油をポーチに回収すると、他のスライムベスも狙っていく。

染料を作るためには、それぞれの油が3つずつ必要だからな。

次々にスライムベスに背後から斬りかかっていき、十分なあかい油が集まると、俺は南の荒野へと向かっていく。

 

「あかい油は集まったし、今度はあっちでスライムを倒そう」

 

スライムも同じくらいの生命力だし、すぐに集めることが出来るはずだ。

俺は岩山のバリケードを越えて10分くらいで南の荒野にたどり着き、スライムを見つけては背後からビルダーアックスを叩きつけていく。

 

「こっちも順調に集まってるな。後はガライヤでブラッドミスリルを採掘しよう」

 

あおい油も手に入れると、ブラッドミスリルを採掘しに行くために一度マイラに戻った。

鉱脈はたくさんあるだろうし、まほうの光玉もまだ残っているので、たくさんのブラッドミスリルを手に入れられそうだ。

町の隅へと歩いていき、そこから赤い旅のとびらを使ってガライヤに向かった。

 

赤色のとびらを抜けると、俺の目の前は一瞬真っ白になり、雪の降るガライヤ地方へと移動する。

ブラッドミスリルの鉱脈も鉄と同じで岩山にあるだろうから、俺はまた黒い岩で出来た山へと向かっていった。

 

「よく見たら、ここの魔物も昔と大して変わっていないな…」

 

今日はこの前来た時より魔物をよく見ながら進んだが、ここに生息しているのはイエティやホークマンばかりで、新種の魔物は見られなかった。

改造された魔物を除けば、この地方では新種の魔物は少ないみたいだな。

俺は奴らを観察もしつつ、見つからないように進んでいった。

黒い岩山にたどり着くと、俺はさっそくブラッドミスリルの鉱脈を探す。

 

「岩山に着いたな…ブラッドミスリルの鉱脈はどこだ?」

 

ミスリルはもう全てブラッドミスリルに変えられているだろうから、すぐに見つけることが出来るはずだ。

岩山に沿って歩いていると、案の定1分ほどで鉱脈を発見することが出来た。

ブラッドミスリルを発見すると、俺はまほうの光玉を取り出して設置する。

 

「今後も使い道は多いだろうし、大量に集めておかないとな」

 

ブラッドミスリルは今回以外にも使うだろうし、集められるだけ集めていく。

一つの鉱脈を採掘し終えると他の鉱脈にも行き、そこでもまほうの光玉を使っていった。

30個ほどブラッドミスリルが集まると、俺はマイラへ戻っていく。

 

「町に戻ったら、さっそく勇気のカベかけを作ろう」

 

町に戻ったら勇気のカベかけを作って、温泉の中に設置しよう。

これを置くことで、荒くれたちの士気が高まるといいな。

また魔物たちから隠れながら、旅のとびらへと入っていった。

 

ガライヤから戻って来ると、俺はまず染料を作りに行く。

染料を作るのには料理台が必要なので、俺はろうやのとびらを開けて、この前作った食事場へと向かっていく。

俺はレンガ料理台の前であかい油とあおい油、石炭を取り出し、ビルダーの力を発動させた。

 

「料理台で染料を作るのは、どうも違和感があるぜ」

 

ちょうどいい温度だから仕方ないが、料理台で染料を作るのは妙に感じるな。

ここで染料を作ったからと言って料理に混じることはないので、そこまで気にする必要もないが。

俺はそんなことを考えながら、染料を完成させていった。

 

「染料は1度で5個作れるから、これで十分だな」

 

染料は1回の魔法で5個出来るので、これ以上作る必要はない。

染料をしまうと、俺はポーチにしまっていき、今度はマシンメーカーのある工房に向かっていった。

そこではまず、エネルギー物質とブラッドミスリルを使い、ブラッドインゴットを作り出す。

 

「エネルギー物質は残り少ないけど、カベかけを作るには十分だな」

 

エネルギー物質は残り4つしかないが、これでも10個のブラッドインゴットを作ることが出来る。

もし足りなくなったら、今度集めに行って来よう。

ブラッドインゴットが出来ると、俺はそれを使って勇気のカベかけを作っていく。

 

「ブラッドインゴットも出来たから、後はカベかけだな」

 

俺がブラッドインゴットと鉄のインゴット、染料をマシンメーカーに乗せてビルダーの魔法をかけると、勇ましくハンマーを振るう荒くれの絵に変わっていく。

これをギエラたちが見たら、確かに士気が高まるかもな。

しばらくしてカベかけが出来上がると、俺は温泉に持って行こうとする。

 

「これが勇気のカベかけか…結構かっこいい絵だぜ。そう言えば昔の温泉には、剣のカベかけもあったな」

 

だが、勇気のカベかけは作れたが、昔のマイラの温泉には2つの剣のカベかけがあったことも思い出す。

剣のカベかけもあれば、より荒くれたちの士気が上がるかもしれないな。

そう思って俺は炉と金床の前に立って、剣のカベかけも2つ作っていった。

 

「剣のカベかけも出来たし、今度こそ温泉に向かおう」

 

剣のカベかけも出来ると、俺は工房を出て、温泉に向かっていった。

今の温泉は修復されたばかりの状況で、タオルとたらいくらいしか置かれていない。

俺は温泉の壁にまず勇気のカベかけを設置し、その左右に剣のカベかけをかけていく。

温泉に入りながらこれらを見れば、俺でも気分が高まって来そうだ。

 

「本当に気分が高まって来る絵だな…これで設置出来たし、ギエラを呼ぶか…ギエラ、勇気のカベかけを作って来たぞ!」

 

俺はさっそく勇気のカベかけをつけたことを、ギエラに大声で伝える。

ギエラは建物の外を歩いていたが、その声を聞くとすぐに温泉に駆け込んできた。

剣のカベかけも設置されているのを見て、ギエラは大きな喜びの声を上げた。

 

「やるじゃない、雄也!剣のカベかけも作りなおしてくれたのね!これなら、最大限の士気でトロルギガンテに挑めそうだわ」

 

「昔のマイラにあったからな、今回も置いたほうがいいと思ったんだ。アメルダの発明もあれば、勝ち目は大きく上がるはずだぜ」

 

これからは疲れたらこの温泉で体を休め、士気を高め、戦いに備えよう。

ギエラは感謝の言葉と共に、昔のマイラでも言っていたあることを提案してきた。

 

「昔も今も雄也には、本当に助けられてるわ。お礼をしたいから、アタシのとっておきの技、筋肉ぱふぱふを受けてかない?がったいまじんを倒してすぐにここを去ったから、前は出来なかったでしょ」

 

筋肉ぱふぱふか…昔のギエラも言っていたが、どんな技なのだろうか。

ぱふぱふは好きだが、筋肉とつくと嫌な予感しかしないな。

この前は嫌な表情をしても期待してると勘違いされたが、完全に断っても申し訳ないので、今はしないと言っておいた。

 

「今は別にいい。グレードアップした温泉を楽しんで来てくれ」

 

「分かったわ。でも、したくなったらいつでも言ってね」

 

俺がそう言うと、ギエラは一緒に温泉に入るためにガロンたちを呼びにいった。

筋肉ぱふぱふはしたくないが、世界の光が失われた後もこんな話を欠かさないギエラたちは、本当に明るいな。

彼らがいれば今後の世界はより楽しくなるだろうと思いながら、俺も部屋に戻っていく。

荒くれたちが上がった後は俺も温泉に入り、勇気のカベかけを見て闘志を高めていた。

 

そして、温泉をグレードアップした翌日、マイラに戻って来てから7日目、俺は昨日作ったブラッドインゴットを作り、新たな赤魔の弾丸を作っていた。

 

「ブラッドインゴットが手に入ったから、弾丸も補充しておかないとな」

 

ブリザレイムやデュランダルは弱点に当てても数発は耐えるが、それでも強力な武器だ。

少しでも戦いを楽にしようと、たくさんの弾丸を作っていく。

弾丸だけでなく、大砲の弾も作れないかと、俺はビルダーの力で調べていった。

 

赤魔の砲弾…ブラッドインゴット1個 マグマ電池2個 マシンメーカー

 

ブラッドインゴットを使った大砲の弾なら、強力な魔物にも大きなダメージだろう。

 

「マグマ電池は持ってるし、大砲の弾も作っておこう」

 

俺はこの前作ったマグマ電池を使って、赤魔の砲弾を作っていった。

たくさんの弾丸と砲弾が出来ると、俺はそれらをポーチにしまっていく。

その後、今日はこれから何をしようかと考えながら、工房から出ようとした。

 

しかしそんな時、建物の外からガロンの叫び声が聞こえてきた。

 

「アネゴ、みんな!大変なことになっちまったぜ、早く来てくれ!」

 

こんなに慌てているということは、この町に魔物が迫っているのかもな。

俺たちが取り返したこの町を、再び奪い返しに来たのかもしれない。

トロルギガンテがいるかもしれないが、それでも負けるわけにはいかないので、俺は工房を飛び出してガロンのところに向かう。

 

「どうしたんだ、ガロン?魔物が襲ってきたのか?」

 

「ああ。町を占領した時ほどじゃねえが、かなりの数だぜ」

 

ガロンは今までも魔物が襲ってくる方向であった、町の西を見ていた。

俺もそちらを見ると、そこにはブリザレイムが15体、デュランダルが10体、ボストロールが6体、ギガンテスが4体、メギドロイドに似た真紅の機械の魔物が4体、ダークトロルが1体の、合計40体の魔物がいた。

トロルギガンテはいないようだが、あの真紅の魔物は気になるな。

他のデュランダルとは色だけでなく、形状も少し異なっている。

俺とガロンが魔物たちを見ていると、ベイパーとギエラもやって来た。

 

「叫び声を聞いた時はまさかと思ったが、結構な魔物だな」

 

「アジトを乗っ取られた時には2体のダークトロルがいたけど、もう1体もやって来たみたいね」

 

俺はマイラの町が占領された時のことはよく知らないが、2体のダークトロルがいたのか。

この前1体は倒したが、もう1体との戦いになるみたいだな。

荒くれたちに続いて、アメルダとシェネリも武器を持ってやって来る。

 

「せっかく町に戻って来たのに、大変な戦いになりそうですね…」

 

「ああ…ただ、あの赤い機械はどうも気になる。だいぶ昔、どこかで見た気がするんだ」

 

アメルダは真紅の機械の魔物を見て、そんなことを言う。

そう言えば俺も、あの4体の機械には、どこかで会ったような気がするな。

どこだったのかは、よく思い出せないが。

 

「俺もあの機械はどこかで、見た気がするな…一体何なんだ?」

 

「分からない…でも、ここに近づいているからには、倒すしかないよ。行くよ、みんな!」

 

確かに正体は気になるが、ここに近づいている以上戦うしかない。

アメルダの掛け声でみんな武器を構えて、魔物たちの方に向かっていく。

俺もまずはサブマシンガンを構えて、前衛のブリザレイムを狙っていった。

 

「ああ。とりあえずはあいつらを倒して、この町を守り抜こう」

 

気になることもある中、俺が参加する中では9回目の、マイラの防衛戦が始まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode192 許されざる罪と真紅の復讐者

俺は魔物の軍勢に近づいて行きながら、前衛のブリザレイムに向けてサブマシンガンを放っていく。

そう簡単に倒すことは出来ないが、少しは弱らせることが出来るはずだ。

みんなも剣やハンマーを構えて、奴らに殴りかかっていく。

俺のところにも、3体のブリザレイムがブレスを吐きながら近づいて来た。

 

「さすがの耐久力だな…近づかれる前に倒せなかったか」

 

フレイムなどと同様に近づかれる前に倒せるといいが、そう簡単にはいかない。

近づかれると俺はやみよのつるぎとブラッディハンマーの二刀流に持ち替えて、ブリザレイムたちを攻撃していった。

そうすると、奴らは前回同様腕を使って殴りかかって来る。

 

「腕での攻撃も素早いけど、まだかわせるな…」

 

凍傷や火傷を負えばこちらの攻撃力も下がるし、絶対に食らってはいけないな。

だが、この前は5体も同時にブリザレイムと戦っていたので、3体の攻撃をかわすのはそんなに難しくはなかった。

攻撃をかわした隙に武器を振り下ろし、奴らに何度もダメージを与えていく。

先ほどのサブマシンガンで受けた傷もあり、ブリザレイムは確実に弱っていた。

 

「少しずつ弱って来てるな…後衛の奴らが来る前に倒そう」

 

だが、後衛のデュランダルたちも近づいているので、安心することは出来ない。

大勢の魔物に囲まれれば、ほしふるうでわがあっても回避し続けることは難しいだろう。

俺は腕に力をこめて攻撃を続けていき、ブリザレイムをさらに弱らせていった。

瀕死にまで追い詰めると、俺はまずは1体にやみよのつるぎを深く突き刺し、とどめをさしていく。

 

「まずは1体だな…残りの奴らもさっさと倒すぜ」

 

やはり体力はかなり多かったが、一度戦った相手なので、そんなに苦戦することはなかったな。

仲間の個体が倒され、残りの2体は怒って攻撃速度を上げて来る。

しかし、対応出来ないほどの速度にはならなかったので、俺は回避しながらさらなる攻撃を続けていった。

奴らの体力が減って来ると、俺は両腕の武器で攻撃を弾き返し、体勢を崩させる。

 

「体勢を崩したし、また動かれる前にとどめだ」

 

耐久力も高かったが、俺が両腕に全身の力をこめていくと、奴らは耐えられず倒れこんでいった。

今のうちにとどめをさそうと、俺は剣とハンマーを振り続けて、残った生命力を削りとっていく。

ブリザレイムたちが力尽きて消えていくと、俺はみんなの様子も見た。

 

「これで3体とも倒れたな…みんなはどうなってるんだ?」

 

すると、アメルダとギエラは3体のブリザレイムと、他のみんなは2体と戦っているようだった。

アメルダは前も見た軽やかな動きで奴らを翻弄し、ギエラも筋肉を生かして力強い攻撃を叩き込んでいる。

だが、ギエラはアメルダより動きは遅く、攻撃を何度か受けそうになっていたので、俺は彼を援護しに行くことにする。

デュランダルが来るまでも、あと少しの時間はあるようだった。

 

「少し苦戦してるみたいだな…ギエラ、今から助けに行くぞ!」

 

「ありがとう、雄也!一緒に魔物たちを倒すわよ!」

 

俺の声を聞いて、ギエラはそう言って返事をする。

ギエラはこの前の戦いでも矢を受けたし、これ以上傷を負わせるわけにはいかないな。

俺はギエラと戦っているブリザレイムの1体に近づいてやみよのつるぎを叩きつけ、こちらに注意を引きつける。

 

「こいつは結構弱っているし、すぐに倒せそうだな」

 

奴はギエラのハンマーによって、かなりの体力を削られているようだった。

二刀流ならすぐに倒せると思い、両腕の武器を連続で叩きつけていく。

俺はギエラたちほどの筋肉はないが、力を高める指輪のおかげで、高い攻撃力を発揮出来ているだろう。

ギエラも攻撃をかわしやすくなり、怪我を負うことなく戦えていた。

 

「そこそこ強かったけど、これで終わりよ!」

 

剣やハンマーでの攻撃を続けて、俺とギエラのまわりにいたブリザレイムは残り1体になる。

その残った奴を、俺たちは同時に攻撃していった。

 

「後はこいつだけだな…とどめをさすぞ、ギエラ!」

 

「もちろんよ!成長した筋肉を見せつけてやるわ!」

 

俺が奴の横にまわって両腕の武器を振り下ろし、ギエラはブラッディハンマーで頭を叩き潰す。

ブリザレイムも反撃しようとしていたが、その前に怯んで動けなくなっていた。

倒れたところに二人の攻撃を叩き込まれ、奴は光を放って消えていく。

 

「こいつも倒したし、みんなも順調に戦えてるみたいだな」

 

「そうね。でも、まだ油断は出来ないわよ」

 

ガロンたちも、このままブリザレイムを倒すことが出来るだろう。

しかしギエラの言う通り、まだ油断することは出来ない。

俺たちのところに、ついにデュランダルと真紅の魔物が迫って来ていた。

 

俺とギエラのところには、デュランダルと真紅の魔物が2体ずつ近づいて来る。

 

「ニンゲンメ、ココカラキエサレ!」

 

「ビルダーナド、コノセカイニハイラナイ!」

 

デュランダルたちは、この前と同じような機械音声を発してくる。

奴らに続いて、真紅の機械の魔物も音声を発しながら剣を振り上げてきた。

だが、真紅の魔物が発する声は、デュランダルの物とは大きく異なっていた。

 

「オマエタチモ、ウラギリモノトイッショ二シマツシテヤル!」

 

「ワタシタチノシュジンヲコロシタウラギリモノ…ヤツノナカマノオマエタチモ、ゼッタイニユルサナイ!」

 

デュランダルもこちらを威嚇するようなことを言っていたが、真紅の魔物の声にはそれ以上に激しい怒りが込められていた。

俺たちのことを裏切り者の仲間と呼んでいるようだが、奴らは一体何者なんだ?

この前ダークトロルがアメルダに、過去の罪の報復を受けることになるだろうと言っていたが、これがその報復者なのだろうか。

真紅の魔物の正体が気になるが、今はゆっくり考えている時間はないので、俺は武器を構えて奴らと戦おうとする。

 

「ギエラ!俺はこの赤い魔物と戦うから、そっちはデュランダルを頼む」

 

「分かったわ。気をつけて戦うのよ!」

 

デュランダルをギエラに任せて、真紅の魔物に武器を叩きつけていく。

真紅の魔物はかなりの防御力を持っていたが、この前のメギドロイドほどではなかった。

剣での攻撃速度も相当なものだが、ほしふるうでわのおかげでわずかに攻撃する隙が出来ている。

 

「やっぱり硬いし速いけど…何とか持ちこたえられそうだな」

 

だが、俺一人で2体を倒しきるのは難しそうなので、みんながブリザレイムやデュランダルを倒すまで耐えないといけないな。

体力が尽きないことを祈りながら、俺は戦いを続けていった。

 

4体いる真紅の魔物の残り2体は、アメルダのところに向かっていた。

奴らはアメルダにも、強い復讐心がこもった口調で声を発しながら、斬りかかっていく。

 

「アメルダ!オマエハ、ゼッタイニコロス!」

 

「オマエタチナンカニ、アレヲワタスンジャナカッタ!」

 

アメルダに殺意を向けていることを考えると、やはり奴らがダークトロルの言っていた報復者なんだろうな。

アメルダはまだブリザレイムを倒しきれていないので、多くの魔物に囲まれて危険な状態になってしまった。

アメルダも真紅の魔物をどこかで見たと言っていたが、まだ思い出せないようだ。

 

「アタシを憎んでいるみたいだけど…アンタたち、何者なんだい…!?」

 

「ワスレタカ、アメルダ!オマエガダイキライダッタラライ様ニ、ツクラレタマシンダ!」

 

「ワタシタチノシュジンヲ、オマエガコロシタンダ!」

 

アメルダは真紅の魔物の猛攻をかわしながら、そう聞く。

ラライに作られたマシン…これを聞いて分かったが、奴らは間違いない…俺に発明メモをくれたこともある、ガライの町で倒れていたキラーマシンたちだ。

ガライの町から彼らが消えたことは不思議に思っていたが、まさかこんな姿になっていたとはな。

アメルダも真紅の魔物の言葉を聞いて、俺と同じ結論に至ったようだ。

 

「まさかアンタたちは…アイツに、ラライに仕えていたキラーマシンかい?」

 

「ソノトオリダ!ワタシハオマエヲシンジテ、ラライ様ノメモヲビルダーニワタシタ」

 

「デモ、オマエハラライ様ヲアイシテナドイナカッタ!」

 

俺がメモを受け取った時点では、彼らはアメルダがラライを殺したことは知らなかった。

アメルダのことをラライの助手かつ恋人だと思い、発明メモを託していた。

世界の光が消えた後に、トロルギガンテたちからそのことを教えられたのだろう。

キラーマシンはラライのことが嫌いだったんだろとアメルダに言うが、彼女は誤解だと伝える。

 

「そんなことないよ!アタシも本当は、アイツのことを殺したくなんか…」

 

「ウソヲツクナ!イマサラナニヲイッテモムダダ!」

 

「ラライ様ノアトヲオエ!」

 

だがアメルダの言葉は、憎しみに満ちたキラーマシンたちには届かなかった。

ラライを殺したアメルダに復讐しようと、紅に染まった剣を振り続ける。

ラライのキラーマシンに襲われる俺たちのところに、隊長のダークトロルも近づいてきた。

 

「お前たちは過去の罪の報復を受けるのだ!もう諦めて、ラライのキラーマシンに殺されるといい!」

 

「あんたたちが、ラライのキラーマシンを改造したのか?」

 

俺も真紅の魔物の攻撃を回避しながら、ダークトロルに聞いていく。

彼らの正体がラライのキラーマシンだと聞くと攻撃するのがためらわれるので、俺は剣をひたすらかわし続けるだけだった。

 

「我々がこいつらを修理して、ラライの死の真相を教えてやったのだ。そうすると、こいつらは怒り狂って、人間どもに復讐したいと言い始めた。そこで我らは復讐者にふさわしい姿になるように、体を血の如き赤に染めてやったのだ。可哀想な機械たちだね…自分たちの主人を殺したのが誰かも知らず、挙句の果てにそいつに協力してしまうとは」

 

竜王がラライに問いかけをしたと言うところまでは、ダークトロルたちは言っていないみたいだな。

魔物たちに都合のいい部分だけを教えて、手下にしたのだろう。

キラーマシンたちは怒りのままに、俺やアメルダを斬り裂こうとしていく。

 

「シュジンノサイノウガ、ネタマシカッタノカ!?」

 

「ケンキュウセイカヲ、ヒトリジメシタカッタノカ!?」

 

殺しの理由までは知らないキラーマシンたちは、アメルダにそう言っていた。

確かにラライの発明を完成させるのに、アメルダは苦労していた…だが、ラライを妬んでなんていなかったとアメルダは言う。

 

「妬んでなんていないさ…昔も今も、アイツを嫌いになったことなんてないよ」

 

「ジャア、ナンデラライ様ヲコロシタンダ!ナントカイエ、ウラギリモノ!」

 

アメルダがラライを嫌っていないと言っても、キラーマシンたちには嘘にしか聞こえない。

これまで俺にしか伝えていなかったラライ殺しの真相…もう彼らを止めるにはそれを伝えるしかないと思ったのか、アメルダは口を開く。

 

「…アタシも本当は、アイツを殺したくなんてなかったさ。でも、アイツが発明を完成させられなくて狂っていったある日、竜王が現れて、アイツに問いかけたんだ。『もし味方になるなら、人間を超えた知恵を与えよう』ってね…。そしたらアイツ、はいって答えたんだよ。だからアタシはあいつを止めるために、殺すしかなかったんだ」

 

ラライが竜王の誘いに乗った後、放っておいて逃げることも出来ただろう。

だが、アメルダがそうしなかったのは、ラライを人類を裏切った悪人にしたくなかったかたなのかもしれない。

少なくとも、アメルダがラライを憎んでいたことはないはずだ。

殺しの真相を初めて聞いたガロンは、ダークトロルにアメルダは悪くないと言う。

 

「それが、アネゴとラライの真実だったのか…。でも、それなら悪いのはアネゴじゃねえ、オマエたちじゃねえか!」

 

ガロンは3体のデュランダルを成長した筋肉で潰しながら、ダークトロルを睨みつける。

確かに竜王や、奴に寝返ったアレフさえいなければ、こんなことにはならなかったのだ。

だが、ラライがだんだん狂っていったのは、間違いなくアメルダのせいだとダークトロルは言う。

 

「確かに竜王様は狂ったラライの心につけこみ、誘いに乗らせた。だが、ラライをもっと支えてやっていれば、こうはならなかったのではないか?それに、ラライを止めるために、殺す以外の方法があったのではないか?脳まで筋肉で出来たお前には、無理だったかもしれんがな!」

 

確かにもっとアメルダが支えていれば、完全に狂ってしまう前にマシンパーツや超げきとつマシンを完成させられたかもしれないし、殺す以外にもラライを止める方法はあったのかもしれない。

ダークトロルのその言葉を聞いて、アメルダは後悔の念を口にする。

 

「あの時のアタシは早くラライを止めようと思うあまり、冷静さを欠いていたよ…アタシがもっとしっかりしていたら、確かに殺さずに済むどころか、アイツがおかしくなることさえなかったかもしれないね…本当はアタシは、許されないことをしたよ…」

 

他にも方法があったのではないかと考えると、後悔せずにはいられないだろう。

ラライ殺しの真相を聞いて、キラーマシンたちは一度攻撃を止めていた。

しかしダークトロルは、再びアメルダたちを殺すように彼らに指示する。

 

「竜王様がラライに問いかけをしたのは真実だが、ラライが狂った責任は全てこの女にあり、他の方法を取らずにラライを殺すことに決めたのもこいつだ。主人の復讐のために、こいつらを斬り裂け!」

 

アメルダがラライを殺したという事実は消えない…憎しみに囚われたキラーマシンたちは、真紅の刃を再びアメルダと俺に向ける。

 

「ユルサレナイトワカッテイルナラ、シンデツグナエ!」

 

「ビルダー、オマエタチモダ!」

 

何とか止められないかと思って、俺とアメルダは剣を避け続ける。

アメルダはキラーマシンたちに、ラライが完成させられなかった発明を作り上げて、生きて罪を償いたいと言った。

 

「許されないのは分かっているよ…でも、アイツが完成させられなかった発明を、アタシたちで作り上げる…それが、アタシに出来る償いだと思ってるんだ」

 

志半ばで倒れたラライのためにも、俺たちが新兵器を完成させなければいけない。

もしそれでも許してくれないのなら、自分を殺してでも、みんなの事は助けてくれと頼んだ。

 

「それでも許してくれないと言うなら、アタシのことは殺してくれても構わないよ…ただ、みんなのことは助けておくれ。ラライを殺した責任は、全てアタシにあるからね…」

 

「ダメダ…!オマエニキョウリョクシタニンゲンドモモ、ケッシテユルサナイ!」

 

「コノマチゴト、キエサッテシマエ!」

 

しかし、キラーマシンたちの復讐心は、アメルダを殺しただけでは晴れない。

アメルダのことをアネゴと慕う荒くれたち、協力して魔物と戦って来た俺、そういった人々によって作られたマイラの町…その全てを破壊しなければ、彼らの怒りは収まらないのだろう。

説得を続けるうちに、アメルダや俺の体力もだんだん削られていく。

もう彼らの説得を諦めて、破壊するしか止める方法はなさそうだった。

 

「アメルダ!このままだと俺たちは全滅だ…辛いことだけど、こいつらを破壊するしかない…」

 

「そうかもしれないけど…でも…」

 

しかし相手は、ラライに仕えていたキラーマシン。

俺はともかく、アメルダは何日も生活を共にしていたことだろう。

そんな彼らを破壊することは、ラライ殺しの罪をもう一度繰り返すことと同じだ。

だが、マッドウルスの時のゲンローワもそうだった…どんなに仲のよかった相手でも、戦って倒さなければ俺たちに未来はない。

ためらっているうちにも、ラライのキラーマシンは剣を振り続けていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode193 永遠の後悔

俺たちが生き残るためには、もうラライのキラーマシンたちを破壊するしかない…。

俺はやみよのつるぎとブラッディハンマーを振り上げて、目の前の2体のキラーマシンへ攻撃を加えていった。

どうしても倒すのをためらわれるが、それ以外の方法が見つからない。

 

「ビルダーメ、テイコウシタトコロデムダダ!」

 

「オマエモアメルダモコノマチモ、スベテケシサッテヤル!」

 

キラーマシンたちも憎しみのままに、真紅の剣を振り回して来る。

俺のさっきの攻撃もあって、彼らも少しは弱ってきていた。

しかし、未だラライのキラーマシンと戦う決心がつかないのか、アメルダはまだ攻撃を避け続けるだけだった。

 

「お願いだよ…。アタシのことはどうしてもいいから、みんなは助けておくれ…」

 

体力も消耗してかわすのがやっとの状態だが、それでも戦いたくはないようだ。

だが、このままキラーマシンを倒さなければ、アメルダが怪我を負うのは時間の問題だな。

説得をして攻撃を止めさせようとするが、彼らはやはり聞き入れようとはしなかった。

俺と同じでもう破壊するしかないと思ったのか、追い詰められたアメルダを見て、デュランダルを倒し終えたガロンが走って来る。

 

「アネゴ、もう戦うしかないぜ。雄也の言う通り、このままだと全滅だ」

 

「分かってるよ…でも、またあんな思いをするなんて…」

 

仕方なかったこととは言え、ラライを自分の手で殺してしまったアメルダは、今までも残る深い心の傷を負っている。

アメルダは、同じ悲しみ再び負うことを恐れているようだった。

そんな彼女の様子を見て、ガロンは自分が代わりにキラーマシンを倒すと言う。

 

「それなら、オレがこいつと戦うぜ!オレもこいつらとは一緒に暮らしたことがあるからな…本当は戦いたくなんかねえ。でも、アネゴにばっかり罪を背負わせられねえからな」

 

ガロンたちも、このキラーマシンと一緒にいた頃があったのか。

彼も戦いたくはないが、アメルダにだけ悲しみを負わせる訳にはいかない…そう思って、2体のキラーマシンに殴りかかっていった。

ガロンたちはアメルダに何度も助けられ、彼女をアネゴと慕うようになった…彼なりの、アメルダへの恩返しなのだろう。

 

「ジャマヲスルナラ、コイツカラシマツスル!」

 

「アメルダ、オマエニワタシタチハタオセマイ!コイツガシヌノヲミテイルガイイ!」

 

2体のキラーマシンは、ガロンへの攻撃を集中させていく。

ガロンは鍛えてさらに発達した筋肉で3体のデュランダルを倒していたが、彼らはデュランダルより動きが速い。

ほしふるうでわのないガロンは、かなりの苦戦を強いられていた。

そして、一瞬の隙を見られて、彼は腹を斬り裂かれてしまう。

 

「くっ…さすがはアイツのマシンだぜ。動きがさっきの奴らとは違う」

 

「オマエノツギハ、コンドコソアメルダヲコロス!」

 

ガロンは腹の痛みに耐えて動き続け、キラーマシンへの攻撃を続けていく。

剣をガロンの血で染めたキラーマシンも、復讐を果たし、剣をさらなる血で染めんと、ガロンへ剣を振り回していった。

だが、キラーマシンの生命力はまだ多くあり、ガロンが先に倒れる可能性が高い。

戦いたくはないが、仲間が傷を負ってしまった…そんな様子を見て、ついにアメルダが剣を構えて彼らに近づき、1体に振り下ろす。

 

「ガロン、やっぱりアタシも戦うよ…全てアタシが引き起こしたことなのに、アンタたちに全てを任せるなんて、無責任すぎるからね」

 

ラライを殺したせいで、キラーマシンたちが今この町に襲って来ている…それなのに戦いを他のみんなに任せるのは無責任だとも、アメルダは思っていたようだ。

今まではどうしても倒すのをためらっていたが、ガロンが怪我をしたことでこれ以上は流石に下がってはいられず、ついに戦いを始めようとする。

例えどんな悲しみを負うことになったとしても、自分が引き起こしたことによってガロンが怪我をするのは、どうしても見過ごせないのだろう。

アメルダからしても、ガロンは大切な仲間に違いないはずだからな。

 

「ジブンカラキタカ、アメルダ!ラライ様ノカタキヲウッテヤル!」

 

キラーマシンは強い怒りのこもった声を発しながら、アメルダを攻撃していく。

アメルダは悲しげな顔をしながらも剣を回避し、彼を弱らせていった。

 

俺もデュランダルを倒し終えたベイパーやギエラと一緒に、2体のキラーマシンと戦っていた。

3人での攻撃を受けて、彼らもかなり体力を削られて来ている。

ベイパーやギエラも戦いたくないだろうが、もうそうするしかない。

ガロンと同じような気持ちで、戦い続けているのだろう。

 

「ラライ様ノカタキ、ゼッタイニウッテヤル」

 

「アメルダノミカタヲスルノナラ、ヨウシャハシナイ!」

 

キラーマシンたちも攻撃の手を強めるが、3人ならまだ対処することが出来ていた。

攻撃を回避した後の隙に、彼らの体に両腕の武器を振り回していく。

辛い戦いではあるが、ベイパーたちもいつも通りの力で攻撃を続けていた。

だが、キラーマシンたちと戦っている俺たちのところに、後衛の巨人の魔物たちも近づいて来ていた。

 

「ボストロールやギガンテスも来てるか…。俺がキラーマシンと戦うから、二人は奴らと戦いに行ってくれ」

 

キラーマシンの動きは早いので、ほしふるうでわを持つ俺が戦った方がいいだろう。

しかし、ベイパーとギエラは俺の指示とは反対に、キラーマシンとは自分たちで決着をつけると言う。

 

「いや、このキラーマシンとは、わしらが決着をつける。雄也がそちらに向かってくれ」

 

「これは、アタシたちの問題だからね。雄也に罪を負わせたくはないわ」

 

荒くれたちはラライやキラーマシンと一緒に過ごしたことがある…みんな、ラライがおかしくなっていき、殺されることになった責任は、少なからず自分にもあるのではないかと思っているのかもしれないな。

例えどんな悲しみを負うことになっても、自分たちで彼らを止めなければいけないと考えているようだ。

 

「分かった…魔物の数も残り少ないし、何とかしてこの町を守り抜こう」

 

アメルダとガロンもうまく戦えているし、ベイパーとギエラでも彼らと戦うことは出来るだろう。

俺はキラーマシンを二人に任せて、ボストロールたちのところに向かった。

 

「雄也さん。キラーマシンのことはアメルダさんたちに任せて、私たちは他の魔物と戦いましょう」

 

「ああ、行くぞ!」

 

シェネリもデュランダルを倒し終えて、一緒にボストロールたちのところに向かう。

俺とシェネリのところには、ボストロールとギガンテスが1体ずつ近づいて来ていた。

他の奴らは、キラーマシンと戦っているみんなのところに向かって行く。

まずは俺たちに近づいて来た魔物を倒して、みんなを援護しないといけないな。

 

「ビルダーめ、キラーマシンの復讐を逃れたところで、我が潰してやる!」

 

「お前だけは、絶対に仕留めて見せるぜ!」

 

ボストロールとギガンテスは、それぞれの棍棒を振り上げて俺に叩きつけて来る。

形状は異なるが、どちらも当たれば一撃で死にそうな危険な物だ。

やはり巨体な分動きは遅いので、俺はジャンプで回避しながら、奴らの足を両腕の武器で攻撃していった。

簡単には怯まないが、少しずつ体力を削っていくことが出来る。

 

「キラーマシンに比べたら、攻撃速度はかなり遅いな」

 

さっきまで素早いキラーマシンと戦っていた俺にとっては、いつも以上に動きが遅く見えた。

このまま攻撃を続けていれば、問題なく倒すことが出来そうだな。

だが、先ほどまでの戦いで体力を消耗しているので、俺の動きが持つかが不安だな。

超げきとつマシンで一気に決着をつけたくもなるが、奴らには受け止められ、巨大な棍棒で弾き返されるだろう。

 

「何とか俺の体力が持てばいいんだけどな…」

 

まずは1体を倒そうと、俺はボストロールへと攻撃を集中させていく。

ボストロールの足は防御力は低く、やみよのつるぎが深く突き刺さり、ブラッディハンマーで変形していた。

生命力も削れているだろうが、まだ怯むことはせず、俺に棍棒を叩きつけ続ける。

 

「さすがはビルダーだな…ここまで生き残って来たことはある。だが、エンダルゴ様に逆らう前に、お前はここで死ぬのだ!」

 

さっきよりも力を強めており、かすっただけでも大怪我は免れなさそうだ。

俺は疲れた足を動かしてかわしていき、こちらも腕に力をこめて渾身の一撃を放っていった。

奴の言う通り、俺はここまで厳しい戦いを生き延びて来た…こいつらのことも倒して、エンダルゴやアレフと決着をつけに行ってやるぜ。

俺の渾身の攻撃を受けて、ボストロールはついに体勢を崩して動けなくなる。

 

「結構な生命力だったけど、何とか動きを止められたな…今のうちに、こいつだけでもとどめをさそう」

 

またボストロールに起き上がられれば、こちらの体力が尽きてしまうな。

俺はこの間に奴を倒そうと、さらなる攻撃を何度も叩き込んでいった。

 

「怯ませたところで無駄だ!オレの足で踏み潰してやるぜ、ビルダー!」

 

ギガンテスも足で踏み潰そうとして来るが、相手が1体だけなら避け続けるのもそんなに難しくない。

ほしふるうでわの力を活かして、ジャンプせずに動いて攻撃を続けていく。

ボストロールが起き上がる前に、奴の残った生命力を削りとっていった。

 

「起き上がる前に倒せたか…これで後はギガンテスだけだぜ」

 

俺の前に立ち塞がっているのは、後はギガンテス1体だけだ。

ギガンテスにも最初に結構な攻撃を加えているので、もう少しで倒せるだろう。

アメルダたちはボストロールとキラーマシンと同時に戦っているが、まだ怪我を負ったりはしていないようだった。

だが、残り2体のギガンテスとダークトロルについては、マイラの町を破壊するために進み続けている。

 

「あいつらは町の中に向かっているな…早くこいつを倒して、止めに行かないとな」

 

町を破壊して人々に絶望を与えて、その上再び魔物の拠点に改造しようとしているのだろう。

せっかく作り直した町をまた壊されないようにと、俺はギガンテスの討伐を急ぐ。

足や棍棒での攻撃の後に出来る限りの攻撃を与えて、体力を減らしていった。

 

「ビルダーめ。お前も作った町も、オレたちが破壊するぜ!」

 

ギガンテスも攻撃速度を高めようとするが、巨体故に限度がある。

そう言いながら俺を潰そうとして来るが、消耗した足でも逃げ続けることが出来ていた。

足への攻撃を続けていくと、ギガンテスも怯んで動けなくなる。

 

「やっと怯んだけど、ダークトロルも来る…今のうちに強力な攻撃で倒そう」

 

ボストロールが倒されたのを確認して、ダークトロルは町を破壊するのを止めて、俺のところへと近づいて来る。

ダークトロルは他の巨人の魔物より素早いので、今の俺がギガンテスと同時に戦うことは不可能だろう。

奴が来る前に、ギガンテスを倒しておかないとな。

俺は両腕に力を溜めて、大きく飛び上がって垂直に叩きつける。

 

「これで倒す、飛天斬り!」

 

弱っていたところに二刀流での飛天斬りを受けて、ギガンテスは倒れなかったものの瀕死の状態になっていた。

起き上がるまでの時間も伸びたので、俺はさらなる攻撃を叩き込んでいった。

腕の力も残り少なくなって来るが、ギガンテスは生命力が尽き、大きな青い光になって消えていく。

 

「ギガンテスも倒せたな…ダークトロルも、近づかれる前に弱らせておこう」

 

ダークトロルが接近するまでには、もう少し時間がありそうだった。

全力のダークトロルならば1対1で戦っても負けそうなので、近接戦闘になる前に少しでも弱らせておこうと、俺は再びサブマシンガンを取り出した。

そして、少しでもダメージが大きくなるよう、俺は町を狙うギガンテスやダークトロルの頭を狙って連射していく。

 

「サブマシンガンは、まだ結構弾が残ってたな」

 

今日たくさんの赤魔の弾丸を作ったので、すぐ弾切れになることもないだろう。

奴らは巨体なので、かなりの確率で命中させることが出来ていた。

巨体だと攻撃力が上がるが、攻撃速度が落ちる、頭に銃弾を当てられやすいなどの欠点も多いな。

赤魔の弾丸は非常に威力が高く、大きなダークトロルやギガンテスの頭を貫通していた。

だが、奴らの生命力はかなり高く、それでもなかなか倒れることはなかった。

 

「頭を貫かれても倒れないか…でも、確実に弱っているはずだな」

 

ダメージを与えていることに変わりはないので、俺はさらに体力を削っていこうと、持っている弾丸を全て装填して撃ち続ける。

頭を10発以上も貫かれて、2体のギガンテスは怯んで体勢を崩していた。

ダークトロルに関しても、追い詰められていることだろう。

持っている弾丸を全て使い尽くすと、俺はやみよのつるぎとブラッディハンマーに持ち替える。

 

「全部撃ち尽くしたけど、まだ倒れないか…残りは剣とハンマーで倒そう」

 

大きなダメージを負っても、ダークトロルは棍棒を持って近づいて来る。

ダークトロルでさえこの耐久力なら、変異体のトロルギガンテはどれだけの力を持っているのかと不安になるが、諦めたくはない。

まずは目の前のダークトロルを倒そうと、俺は両腕の武器を振り上げていった。

 

「よくもあんな武器を使いやがって…強力な武器だったが、あの程度で我らは倒せん!」

 

弱っているとは言えダークトロルは、他の巨人の魔物より素早く棍棒を叩きつけて来る。

ジャンプでないとかわすのは困難なので、俺は疲れ果てて痛みすら走る足を動かして奴の攻撃を跳んでかわして、隙をついて攻撃を与えていった。

 

「もう俺の体力も少ないけど、こいつも追い詰められてるはずだ…」

 

それを何度も繰り返し、ダークトロルの残った生命力を削り取っていく。

奴の攻撃速度も僅かに下がり、他の魔物の妨害さえ入らなければ、何とかダークトロルを倒し切れるような気がした。

だが、さっき怯ませたギガンテスも起き上がり、俺のところに近づいて来ようとする。

 

「ビルダーめ、さっきはよくも!この町と一緒に叩き潰してやる!」

 

「お前を倒して、人間の世界にとどめを刺してやる」

 

ビルダーの俺を倒せば人間の世界は今度こそ終わると考え、ギガンテスは棍棒を大きく振りかぶって来た。

だが、奴らの攻撃が俺のところに届くことはない。

キラーマシンやボストロールとの戦闘を終えたベイパーとギエラが、ギガンテスたちに殴りかかっていった。

 

「…あのキラーマシンを使うとは思っていなかったが、わしらはまだ倒れぬ!」

 

「アネゴにまた悲しい思いをさせるなんて、絶対に許さないわよ!」

 

ベイパーとギエラは俺が弱らせていたキラーマシンと戦っていたので、倒すのもアメルダたちより早かったのだろう。

共に暮らしたこともあるキラーマシンを自らの手で破壊した後だが、悲しむ暇さえ俺たちには与えられない。

二人は、ギガンテスの足元を殴って残った体力をさらに減らしていった。

 

「二人も戦い終えたか…俺も、早くダークトロルを倒さないとな」

 

これならダークトロルに集中して戦えるので、俺は奴にまた攻撃を加えていく。

マイラの町を一度破壊しただけあってすさまじい攻撃力と生命力だったが、あと少しで倒れそうな状態にまでなっていた。

足に渾身の連撃を叩き込んでいくと、ダークトロルは体勢を崩して倒れ込む。

 

「倒れたか…早くこいつにも飛天斬りを当てて、とどめをさそう」

 

ここで飛天斬りを当てれば、奴の生命力を削り切ることが出来るはずだ。

俺は腕に、残った身体中の力を全て集めてから大きく飛び上がり、思い切り叩きつける。

そして、ダークトロルの身体を深く斬り裂き、叩き潰していった。

 

「飛天斬り!」

 

全力での飛天斬りを受けて、ついにダークトロルは力尽きて消えていく。

マイラを破壊した2体のダークトロルは両方倒れ、後は変異体であるトロルギガンテだけだ。

奴との戦いの前に、何としても新兵器を完成させたいな。

みんなも戦いを終え、マイラの町の中に戻って行こうとする。

 

「ダークトロルは倒したぜ…そっちも、終わったみたいだな…」

 

「ああ、終わったよ…あの時の罪を、また繰り返すことになっちまった…」

 

だが、いつもと違い、誰一人として嬉しそうな顔をしていなかった。

いつもは声を上げて勝利を喜ぶことが多いガロンも、悲しげに町の中に歩いていくだけだった。

この町を守るためには仕方なかったことだが、かつて仲間だった者を殺したという苦しみは、決して消えることはないだろう。

 

「仕方のないことだってのは分かってるよ…でも、もしあの時ラライを殺さずに止められていたらと考えると、後悔せずにはいられなくてね」

 

一緒にマイラの町に入って行く途中、アメルダはそんなことを呟く。

確かに竜王に寝返った時のラライは武器を持っていなかっただろうし、殺す以外にも止める方法があったかもしれない…それに、そもそもラライが狂っていくことさえ防げたかもしれない。

こんな結末になってしまったら、深く後悔してしまうだろう。

例えそれが、もう2度と取り返しがつかないと分かっていたとしても。

 

俺もアレフガルドの復興の中で、深く後悔し続けていることがある。

あの時アレフを倒し、精霊ルビスを救えていたらと、俺は今でも考えていた。

 

「俺も、アレフ…闇の戦士を倒してルビスを救えていたらと、今でも後悔してるよ。でも、それでももう過去は変えられないんだから、未来に進んで行くしかない」

 

アレフは本当に強かった…仕方なかったと頭では分かっているが、それでも気持ちを落ち着けることは出来なかった。

だが、どれだけ悔やんだところで、もう過去は変えられない。

過去の悲しみを引きずりながらでも、未来に進んでいくしかない。

 

「分かってるよ…アタシたちの手で、ラライの真の最強兵器を完成させよう。それがアイツに出来る、唯一の償いだと思うからさ」

 

罪を償うという意味でも、アメルダはラライの記録を読み、新たな兵器を考える。

ラライはがったいまじんを倒した後、アメルダに微笑んでいたが、彼はもうアメルダのことを許したのだろうか。

だが、ラライが昇天してしまった今、それを確かめる方法はもうなかった。

 

「ああ。兵器の作り方が分かったら、すぐに俺に教えてくれ」

 

俺も世界の光を守れなかったことを、世界中のみんなへと償わなければいけない。

アメルダが新兵器を考えたら、それも最大限に活用してエンダルゴやアレフに戦いを挑もう。

例え俺自身が、どんな目に会うとしても。

患者をみんな救うことが出来なかったエル…アレフを支えることが出来なかったローラ姫、俺とアメルダ以外にも…永遠に消えない後悔の念を持つ人々はいる。

それでも、俺たちは未来に向けて進み続けるしかないのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode194 激突の極み

超マシンメーカーもゲームのフリーモードに登場する物とは少し異なっています。

また、今回の作者のネーミングセンスは今まで以上に悪いです。


マイラの9回目の防衛戦の後も、アメルダは新兵器の開発を進めていた。

ラライを殺した罪を償わなければいけないという思いが強まったのか、今まで以上に開発に力を入れている。

ラライの真の最強兵器の完成も、着実に近づいて来ていた。

 

そして、ラライのキラーマシンを破壊した3日後、マイラに戻って来てから10日目の朝、俺はアメルダに工房に呼び出された。

数日間研究に集中していたので、アメルダはかなり疲れていそうだった。

しかし、疲れを顔に出さず、嬉しそうな口調で話し始める。

 

「ついにやったよ、雄也!ラライの研究記録に書かれてた、新しいマシンメーカーとげきとつマシンの作り方を思いついたんだ」

 

もしかしてと思ったが、やはり新兵器を思いつくことが出来たのか。

トロルギガンテとの決戦の前に、新兵器を用意することが出来そうで良かったぜ。

いつ戦いになってもおかしくない…アメルダから作り方を聞いたら、すぐに素材を集めに行って来よう。

 

「戦いまで間に合ったな…今から作りに行ってくるから、両方について教えてくれ」

 

「マシンメーカーの方はひねりのない名前だけど、超マシンメーカーって言うらしくてね、これは新兵器を作れるだけじゃなく、作業台と炉の機能も持っているみたいなんだ」

 

超マシンメーカーか…作業台や炉の機能があるなら、新兵器を作った後にも役立つことになりそうだな。

今までマイラの設備では作れなかった物も、作れるようになるかもしれない。

トロルギガンテを倒した後のマイラの発展のためにも、俺は超マシンメーカーに必要な素材を尋ねた。

 

「結構便利な物なんだな…どうやって作るんだ?」

 

アメルダは、超マシンメーカーの作り方を俺に詳しく教え始める。

それはラライも思いつかなかったもので、研究記録をもとにアメルダが独自で考えたようだった。

やはりアメルダは、発明家としても確実に成長して来ているな。

俺はそう思いながら、超マシンメーカーの作り方を聞いていった。

 

「どうだい、素材は足りてそうかい?」

 

アメルダの説明の後、俺はビルダーの力で超マシンメーカーに必要な素材を調べていく。

 

超マシンメーカー…マシンメーカー1個、鉄のインゴット10個、銅のインゴット5個、木材5個、マグマ電池5個 鉄の作業台

 

かなりの数の素材が必要だが、どれも在庫がある物ばかりだな。

工房のマシンメーカーを回収したら、さっそく作りに行ってこよう。

超マシンメーカーの後は、新たなげきとつマシンの作り方についても聞いていく。

 

「ああ。結構な数は必要だけど、今すぐに作れそうだぜ。げきとつマシンの方に関しては、どんな物なんだ?」

 

「究極にまで力を高めたげきとつマシンってことで、極げきとつマシンって言うみたいだね。今ある超げきとつマシンを、新しいマシンパーツを使って強化するんだ。そのマシンパーツには、これを使うつもりだよ」

 

究極にまで力を高めたと言うのなら、トロルギガンテ相手でも相当なダメージを与えられそうだな。

ラダトームに戻った後の戦いにも、大いに役立つことだろう。

アメルダはそう言った後、4つのハンター回路を取り出す。

 

「アメルダ、このハンター回路は?」

 

そのハンター回路は、メタルハンターなどが落とす物とは少し形状が違っていた。

 

「アイツのキラーマシンが落とした物さ…これを新兵器に役立てれば、アイツも少しは喜ぶんじゃないかと思ってね」

 

ラライは、自分が作ったキラーマシンのことも大切な存在だと思っていたはずだ。

そのキラーマシン自体は自分たちの手で破壊することになってしまったが、部品を新兵器に活用することが、ラライへのせめてもの償いなのかもしれない。

ラライの想いがこめられたハンター回路で作られた兵器を使い、俺たちは魔物と戦っていく…それをラライ本人にもう見せられないのは、残念なことだがな。

 

「俺もそうだと思うぜ…このハンター回路以外にも必要な物があると思うから、教えてくれ」

 

しかし、キラーマシンのハンター回路だけでは、極げきとつマシンは作れないだろう。

俺はアメルダに、他の必要な素材についても聞いていく。

説明を一通り聞くと、こちらについてもビルダーの力で調べていった。

 

新マシンパーツ…特製ハンター回路4個、エネルギー物質10個、ブラッドインゴット3個、マグマ電池5個 超マシンメーカー

 

極げきとつマシン…超げきとつマシン1個、新マシンパーツ1個、ブラッドインゴット10個、マグマ電池10個 超マシンメーカー

 

ブラッドインゴットで作られた5本の角で突撃されれば、変異体と言えども絶大なダメージを受けることになりそうだ。

必要な素材もやはり多いが、それでも絶対に作らなけれいけないだろう。

ブラッドミスリルやマグマ電池はもうたくさん持っているので、後はエネルギー物質を作れば良さそうだ。

 

「やっぱり必要な素材は多いけど、これから集めに行ってくるぜ。極げきとつマシンが完成したら、すぐに教える」

 

「頼んだよ、雄也。ラライのハンター回路は渡しておくね」

 

俺はアメルダにそう言って、アメルダは俺にラライのキラーマシンが落としたハンター回路を渡してくれる。

これが出来れば、いよいよトロルギガンテとの決戦だな。

俺はエネルギー物質の素材を集めるために、まずは青色の旅のとびらに入っていった。

 

青色の旅のとびらを抜けると、俺は何度も来たことのある溶岩地帯へと移動する。

エネルギー物質を作るにはハンター回路とフレイムドロップ、ブリザードロップが必要だったはずだな。

このうちハンター回路は、デュランダルとの戦いでもう手に入れている。

 

「フレイムを倒して、フレイムドロップを集めて来ないとな」

 

溶岩地帯では、フレイムのフレイムドロップを手に入れて来よう。

俺はブラウニーたちから隠れながら、フレイムが生息している場所まで向かっていく。

この辺りには岩が多く隠れるのが容易で、ほしふるうでわの力もあったので、進むのにあまり時間はかからなかった。

10分もかからずに、俺はフレイムが生息している場所にたどり着く。

 

「弾丸はもうないから、剣とハンマーで仕留めるしかないか…」

 

本当は弾丸を使った方が楽だが、この前の戦いで使い切ってしまったので、近接武器で倒すしかない。

だが、フレイムは一撃で倒せるほど生命力が低いので、あまり問題はないだろう。

やみよのつるぎとブラッディハンマーは魔法の力を持っているので、攻撃が効かないということもない。

俺はフレイムの背後から近づき、やみよのつるぎを突き刺す。

すると、フレイムは抵抗する間も無く、光を放って消えていった。

 

「やっぱり一撃で倒せたな…他のフレイムも仕留めていこう」

 

フレイムは倒れると、フレイムドロップを落とす。

フレイムドロップをポーチにしまうと、俺は他のフレイムも見つけ次第、やみよのつるぎを使って倒していった。

一撃で倒せるので、すぐに集めることが出来るだろう。

エネルギー物質を10個作るのに必要なフレイムドロップは3個だが、今後も必要になることはありそうなので、俺は10体以上のフレイムを倒していった。

 

「これくらい集めれば十分だな…今度はブリザードロップを集めに行こう」

 

たくさんのフレイムドロップが集まると、俺はまたマイラの町に戻っていく。

これでブリザードロップも集めたらエネルギー物質を作り、極げきとつマシンを作ることが出来るな。

またブラウニーに気をつけながら、マイラの町へと歩いていった。

 

マイラの町に一度戻ると、俺は今度はブリザードを倒しに、緑色の旅のとびらに入る。

赤色の旅のとびらの先の氷の湖の方がブリザードの生息数は多いが、あそこまで歩くのはかなり時間がかかるからな。

雪原を歩いて、ブリザードの背後から迫っていき、またやみよのつるぎで突き刺す。

 

「ブリザードも同じように倒せたな…このまま集めていこう」

 

ブリザードも一撃で倒すことが出来るので、すぐにたくさん集めることが出来そうだ。

雪原は寒いので早く帰りたいとも思いながら、ブリザードを何度も剣で突き刺していき、ブリザードロップを集めていった。

ブリザードロップもたくさん集まると、俺はいよいよ極げきとつマシンを作りに行く。

 

「ブリザードロップもこれくらいで十分だな…帰ったら、極げきとつマシンを作ろう」

 

トロルギガンテとの決戦の前に新兵器が作れるか不安だったが、どうやら間に合ったようだな。

ラライの無念を晴らすためにも、何としても極げきとつマシンを完成させよう。

俺はそう思いながら雪原を歩いていき、またマイラの町に戻っていった。

 

マイラの町に戻って来ると、俺はさっそく工房に入っていく。

げきとつマシンを強化するためにも、まずは超マシンメーカーだな。

俺はハンマーでマシンメーカーを回収し、必要な素材と一緒に鉄の作業台のところに持っていく。

 

「超マシンメーカー…話では聞いていたけど、どんな作業台なんだろうな」

 

かなり大がかりな作業台のようだが、実際に見てみるのが楽しみだな。

俺はビルダーの魔法を発動させて、マシンメーカーと素材を合成させていく。

すると、万能作業台にも匹敵するような大型の作業台へと、姿を変えていった。

大がかりな物を作るのには時間がかかるが、10分ほどで無事に超マシンメーカーが完成する。

 

「これが超マシンメーカーか…これで、マイラの町がさらに発展していくといいな」

 

マシンメーカーにはなかった機能も備わっており、これなら新兵器を作ることも出来そうだな。

作業台と炉の機能も持っているらしいし、これを使えばマイラの町がさらに発展していくこと間違いなしだろう。

まずは極げきとつマシンを作ろうと、俺は出来上がった超マシンメーカーを工房の中に置こうとする。

 

「結構大きい作業台だけど、何とかこの中に置けそうだ」

 

大きな作業台だが、工房は広くスペースをとっていたので、かろうじて置くことが出来た。

超マシンメーカーを置くと、俺はまずはさっき手に入れたフレイムドロップとブリザードロップも使って、エネルギー物質を作っていく。

エネルギー物質はブラッドインゴットにも使うのでたくさん必要だと思い、作れる分だけ作っておいた。

 

「大量のエネルギー物質が出来たな…これくらいあれば、今は大丈夫そうだぜ」

 

40個のエネルギー物質を作ることができ、俺は今度はそれを使ってブラッドインゴットを作っていく。

この前入手したブラッドミスリルを取り出し、15個のブラッドインゴットへと加工していった。

これだけあれば、極げきとつマシンを完成させられる。

ブラッドインゴットも用意すると、俺は新マシンパーツを作っていった。

 

「ブラッドインゴットも作れたし、後はげきとつマシンを強化するだけだな」

 

アメルダから受け取ったラライのハンター回路を取り出して、エネルギー物質やブラッドインゴット、マグマ電池と一緒にビルダーの力で加工していく。

ブラッドインゴットを使っているからか、前のマシンパーツより赤黒い色をしていた。

新マシンパーツが出来ると、俺はいよいよ極げきとつマシンを作っていく。

 

「これが新しいマシンパーツか…これを使って、どのくらいの速度が出せるんだろうな」

 

ラライのハンター回路を使ったんだ…超げきとつマシンを、さらに上回る速度で激突することが出来るようになるだろう。

ポーチからさらにブラッドインゴットとマグマ電池を取り出し、新マシンパーツとも合わせて超げきとつマシンを強化していく。

ビルダーの魔法がかかるに連れて、車体は黒色に変わっていき、先端についている2本の角が鋭い5本の角へと変わっていった。

これも加工に時間がかかったが、ビルダーの力を使い続けることで、極げきとつマシンが完成する。

 

「いよいよ完成したな…これが極げきとつマシンか」

 

思っていた通り、とても強そうな見た目をしているな。

これなら並大抵の魔物は一撃で倒せるだろうし、強力な魔物と戦う時にも相当な威力を発揮するだろう。

ラライとアメルダのおかげで、俺はここまで強力な兵器を完成させることが出来た…二人には、本当に感謝してもし切れないな。

俺はさっそくアメルダに、極げきとつマシンの完成を知らせようとする。

 

だが、俺はその前に、超マシンメーカーでもう一つ作っておきたい物があった。

昔マシンメーカーを作った時は、ハンドガンやサブマシンガンといった銃しか作れず、俺は今までサブマシンガンを使って戦って来ている。

だが、超マシンメーカーなら、さらに強力な銃器を作れるかもしれないな。

 

「超マシンメーカーが出来たことだし、新しい銃も作っておくか」

 

サブマシンガンではダメージが少ない魔物も多いので、強力な銃を作った方がこれからの戦いは有利になるだろう。

そう思い、俺はアサルトライフルとスナイパーライフルの作り方をビルダーの力で調べていった。

 

アサルトライフル…鉄のインゴット3個、ばね4個 超マシンメーカー

 

スナイパーライフル…鉄のインゴット4個、ばね3個 超マシンメーカー

 

鉄のインゴットはたくさん持っているし、すぐに用意出来そうだ。

これからはスナイパーライフルで遠くの魔物を狙撃し、近づいて来た魔物にはアサルトライフルで対処しよう。

さすがに地球で使われている物に比べれば威力も射程距離も大きく劣るだろうが、それでも強力な武器になるはずだ。

 

「すぐに作れそうだし、今のうちに作っておこう」

 

これらの銃を作ったら、アメルダのところに向かおう。

俺はまず鉄のインゴットをばねに加工していき、他の鉄のインゴットを使って銃身を作っていった。

二つの銃が完成すると、ライフル用の弾も用意していく。

 

「銃を作っておいたら、弾も用意しないとな」

 

またブラッドミスリルとエネルギー物質を合わせて、ブラッドインゴットに加工していく。

それにさらにビルダーの力を与え、赤黒いライフル弾を作っていった。

ライフル弾はインゴット1個につき5つしか作れなかったので、俺はたくさんのブラッドインゴットを用意していく。

これでトロルギガンテやエンダルゴにどのくらいのダメージを与えられるかは分からないが、大量のライフル弾が出来ると、俺はアメルダのところに向かった。

 

「これくらい弾を作れば大丈夫そうだな…アメルダに、極げきとつマシンのことを伝えて来よう」

 

アメルダは俺がマイラに戻って来た頃には、工房の外に出ていた。

俺は工房の外に出ると、大声を出してアメルダを呼ぶ。

 

「アメルダ!超マシンメーカーと極げきとつマシンを作って来たぞ」

 

「本当かい、雄也?すぐに見に行くよ!」

 

開発の疲れもあり、町の中で休んでいたアメルダだったが、俺の声を聞いてすぐに駆けつけて来る。

ラライの真の最強兵器が形になるのが、待ち遠しかったのだろう。

俺はアメルダの前に、完成した極げきとつマシンを取り出した。

 

「これがアメルダの言ってた、極げきとつマシンだ。これなら、どんな魔物にも負けることはないと思うぜ」

 

「おお!本当によくやったね、雄也!確かにアタシが考えた通りの兵器だよ。…ありがとう、アタシの考えを形にしてくれて」

 

アメルダは極げきとつマシンを見ると、喜びの声を上げて感謝の言葉を言う。

ラライの考えていた兵器は、これで全て形にすることが出来たな。

実際に作ったのは俺でも、作り方を考えてくれたのはアメルダなので、俺も彼女に深く感謝する。

 

「こっちこそ、新しい兵器を考えてくれてありがとう。アメルダの力がなかったら、これは作れなかったからな」

 

「これで罪を償えたなんては思ってないけど…アイツ、喜んでるといいね…」

 

極げきとつマシンを見て、アメルダはラライのことも思い出していた。

もし幽霊としてでもこの地に残っていたら、間違いなく喜んでいただろう…完成したこの新兵器と、成長したアメルダの姿をラライにも見せてあげたかったな。

だが、ラライの姿はもうどこにもなくとも、俺たちは彼の意志を継いで強大な魔物に立ち向かっていく。

 

「そうだな…。ラライのためにも、これを使ってトロルギガンテを倒そう」

 

「もちろんだよ。アイツの分まで、この町の未来を守り抜かないとね」

 

どれだけ後悔しても、もうラライや助けられなかった人々が戻って来ることはない。

俺やアメルダはどんなに苦しい目にあっても、罪を償い続けなければいけない。

そのためにも、俺たちの厳しい戦いはこれからも続いていく。

そう思いながら、俺はアメルダに極げきとつマシンを見せた後、部屋に戻っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode195 力の限りの衝突

極げきとつマシンを作った翌日、マイラに戻って来てから11日目の朝、俺は朝食の後町の中を歩いていた。

マイラの2度目の復興を達成したら、いよいよエンダルゴやアレフとの決戦になる…俺は少し、人間に勝てる相手なのかと不安にもなってしまった。

だが、それでもここまで来たからには、もう引き下がる訳にはいかない。

そんなことを考えていると、ガロンの焦った大声が聞こえてきた。

 

「アネゴ、みんな、今すぐ集まって来てくれ!ついにアイツが襲って来ちまった!」

 

アイツと言うのは、トロル族の変異体、トロルギガンテのことだろう。

一度ガロンたちは力及ばず、マイラの町を奪われることになってしまったが、今度こそ倒して町を守り抜いてやる。

 

「トロルギガンテか…分かった、すぐ行くぞ!」

 

俺はガロンにそう返事をして、昨日作ったスナイパーライフルを手に走っていった。

魔物たちはいつも通り町の西から襲って来ているようで、ガロンはそちらを見ている。

俺も町の西の方を見ると、ブリザレイムとデュランダルが12体ずつ、メギドロイドが2体、ボストロールが8体、ギガンテスが6体おり、最後尾には全身が暗黒色に染まったトロルがいた。

他のトロルに比べても体が大きく、奴がトロルギガンテなのだろう。

 

「あれがトロルギガンテ…実際に見るのは初めてだけど、やっぱり強そうだな」

 

トロルギガンテは、ダークトロルをも超える耐久力と生命力を持つだろう。

俺たちで奴の生命力を削り切れるかは不安だが、自分と自分の作った兵器の力を信じて戦い続けるしかない。

ベイパーとギエラも、闘志に溢れた様子で駆けつけてくる。

 

「やはり戻って来おったか、トロルギガンテ…ワシらも力を付けてきた、今度は負けん!」

 

「アタシたちの筋肉の力を、見せつけてあげましょう!」

 

短い訓練期間ではあったが、荒くれたちの筋肉も確実に成長して来ている。

彼らの限界を超えた筋肉ならば、トロルギガンテにも大ダメージを与えられるかもしれない。

筋肉の少ないシェネリも、少しでも戦いの役に立とうと言う。

 

「厳しい戦いは避けられなさそうですね…私も、全力を尽くして戦わないと」

 

最後にやって来たアメルダも、新兵器の力があればきっと大丈夫だと話した。

 

「アタシたちはアイツの猛攻を凌げず、アジトを一度奪われちまった…でも、アンタとアタシが作った最強兵器の力があれば、きっと大丈夫なはずだよ。自分たちの作った兵器の力を信じるんだ」

 

「ああ。せっかく取り戻したこの町を、何としても守り抜こう」

 

極げきとつマシンも、最大限に活用して戦わないとな。

荒くれたちの成長した筋肉に極げきとつマシン、新たな銃、その全てを使って、トロルギガンテとの決戦に臨む。

 

「じゃあ行くよ、力の限りを尽くして戦うんだ!」

 

アメルダのその声とともに、俺たちは魔物の軍勢へと立ち向かっていく。

俺が参戦する中では10回目の、マイラの町の防衛戦が始まった。

 

みんなは武器を構えて、前衛にいるブリザレイムへと殴りかかっていく。

奴らは強力とはいえ戦いなれているので、あまり苦戦することはないだろう。

だが、それでも少しでも早く倒せるようにと、俺はアサルトライフルを使って奴らの体力を削っていった。

 

「昨日作ったアサルトライフル、さっそく試してみるぜ」

 

アサルトライフルはサブマシンガンよりも重いが、今まで重い武器を2本持っての戦いに慣れていたので、いつものスピードで動くことが出来た。

赤魔のライフル弾を連射して、奴らの体力を削り取っていく。

やはり体力を削り切ることは出来ないが、何体かのブリザレイムを怯ませて動きを止めることが出来ていた。

 

「何体か怯んでるな…結構効いてるみたいだぜ」

 

これなら、後衛の巨人の魔物にもかなりの効果があるかもな。

俺はそう思いながら、ブリザレイムにアサルトライフルを撃ち続けていった。

俺の攻撃で弱った奴らのところに、ガロンたちがそれぞれの武器で殴りかかる。

 

「雄也が作ってくれた隙を無駄にはしねえ…今のうちに叩き潰してやるぜ!」

 

みんなはそれぞれの力を腕にこめて、ブリザレイムたちをさらに追い詰めていった。

それぞれが2体ずつを相手することになり、俺のところにも2体のブリザレイムが近づいてくる。

このままアサルトライフルで倒してもいいが、トロルたちとの戦いのために弾を温存しておきたいので、俺は剣とハンマーに持ち替えていった。

 

「弾にも限りがあるし、こいつらは剣とハンマーで倒すか」

 

ブリザレイムは今までと同様、炎と氷が融合したブレスで攻撃して来る。

かなりの攻撃範囲ではあるが、俺は腕輪の力を使って素早く動き、ジャンプも使って回避しながら奴らに近づいていった。

ブリザレイムに近づくと、俺は両腕の武器を思い切り叩きつける。

先ほどのアサルトライフルのダメージもあり、もう少し攻撃を続ければ倒せるだろう。

みんなも、奴らを順調に追い詰めることが出来ていた。

 

「みんなもうまくやってるな…他の魔物たちも迫って来るし、さっさととどめをさそう」

 

戦いが確実に有利になっているし、超マシンメーカーを作れて本当によかったぜ。

俺はブリザレイムにさらに攻撃を加えて生命力を削っていき、ついには倒れこませて動きを止めることが出来ていた。

それを見て、ここでとどめをさそうと俺は両腕に全身の力を溜めていく。

 

「動きが止まったな…今のうちに回転斬りで倒すぜ」

 

ここで二刀流での回転斬りを当てれば、2体ともまとめて倒せるだろう。

 

だが、回転斬りのために力を溜めている俺や、ブリザレイムの攻撃を回避しながら戦っているみんなのところに、空中から矢が降ってくる。

俺はすぐに気づいて回避したが、力を溜め直す前にもう1本矢が飛んできた。

 

「くっ、メギドロイドの奴らか…これだと回転斬りが使えないな…」

 

ブリザレイムの後ろから近づいて来ている2体のメギドロイドが、弓で攻撃して来たようだ。

奴の矢には魔法の力がないので、ブリザレイムには当たらない。

メギドロイドと俺たちとはまだ距離があるが、狙いがかなり正確だったな。

みんなもかわすことは出来ていたが、このままだとメギドロイドの矢も避けながらブリザレイムと戦うことになるので、少し厳しいことになりそうだ。

 

「先にメギドロイドを倒しておかないと、まずいことになりそうだな…」

 

そう考えているうちにも、メギドロイドは何発も矢を降らせてくる。

ブリザレイムは既に弱っており、攻撃速度が落ちているのでまだしも、この後は素早い攻撃を行えるデュランダルとの戦いもある。

なるべく早くメギドロイドを倒そうと、俺はブリザレイムから離れてそちらに近づいていった。

 

「弾はもったいないけど、こいつらはアサルトライフルで倒すか」

 

メギドロイドのところに向かう俺のことを、ブリザレイムたちも追いかけてくる。

奴らも一緒に戦うのは難しいので、俺は先に倒しておこうと再びアサルトライフルを取り出していった。

メギドロイドに近づきながら連射し、ブリザレイムの体力を削りとっていく。

多くのライフル弾を消費してしまったが、奴らにとどめをさすことが出来た。

 

「ブリザレイムは倒せたし、メギドロイドに集中しよう」

 

俺はメギドロイドのところに来ると、再びやみよのつるぎとブラッディハンマーに持ち替えて奴らに叩きつけていく。

今まで弓での攻撃に集中していたメギドロイドも、剣を構えて反撃して来た。

 

「ビルダー、ドコマデモメザワリナヤツメ!」

 

「オマエラヲハイジョシ、コノバショヲウバイカエシテヤル!」

 

奴らの攻撃速度はこの前のラライのキラーマシンほどもあるが、相手が2体なので何とか戦うことは出来ていた。

1体ずつ確実に倒して行こうと、俺は片方に攻撃を集中させていく。

耐久力も相当なものだが、俺は腕に力をこめて攻撃していき、少しずつ弱らせていった。

 

「やっぱり強いけど、何とかして倒さないとな…」

 

強力な魔物だが、こいつらも倒せないほどではトロルギガンテには勝てない。

奴らもマイラの奪還戦の時のメギドロイドと同じで、右腕で剣を振りながら左腕で弓を使って、みんなのところに矢を放っていた。

しかし、さっきほど連続で撃つことは出来ず、みんなは今のうちにとブリザレイムを攻撃していく。

ガロンとベイパーは、奴らを2体とも倒すことが出来ていた。

 

「お前らごときに倒されるほど、オレの筋肉は弱くねえ…!雄也、今から援護に行くぜ!」

 

「ワシもすぐに向かうぞ!」

 

ブリザレイムを倒した二人は、強力なメギドロイドと戦っている俺の援護に来ようとする。

ブラッディハンマーを大きく振りかぶりながら走り、発達した筋肉に力を溜めて思い切り奴に叩きつけてきた。

俺が片方に集中して攻撃していることにも気づいたようで、二人もそちらのメギドロイドを攻撃していた。

まだ怯みはしなかったが、かなりのダメージを与えられただろう。

 

「オノレ…オマエラモカ…!」

 

メギドロイドはガロンとベイパーに怒り、二人にも剣を振り下ろそうとする。

だが、二人は力を合わせてそれぞれのハンマーで攻撃を受け止め、弾き返して体勢を崩させていた。

荒くれ二人の全力を受ければ、奴も流石に耐えられなかったようだ。

体勢を崩したところで、俺たち3人は一斉に攻撃しようとする。

 

「助けに来たぜ、雄也!起き上がられる前に一気に叩くぜ!」

 

「ああ、行くぞ!」

 

ガロンの声とともに、俺はもう一体のメギドロイドの攻撃にも注意しながら、倒れた奴に連続で攻撃を加えていく。

降ってくる矢が減ったことで、ギエラたちもブリザレイムを倒すことが出来ていた。

これでメギドロイドも倒せば、安全にデュランダルと戦うことが出来るな。

俺のさっきの攻撃もあって、メギドロイドはかなり弱って来ていた。

だが、俺たち3人のところに、もう2体のデュランダルがやって来てしまう。

 

「ニンゲンドモメ、オトナシクシロ!」

 

「テイコウヲヤメテ、ホロビルガイイ!」

 

デュランダルは体勢を崩したメギドロイドを援護しようと、俺たちに斬りかかってくる。

しかし、デュランダルの攻撃も引きつけながら、ガロンたちはメギドロイドをさらに追い詰めていった。

 

「オレたちのアジトを壊そうとするんだったら、お前にも容赦しねえぜ!」

 

「お主たちなど、同時に倒してやろう!」

 

力に満ちた荒くれたちは、改造された魔物でもそう簡単には止められない。

腕に力を込めたまま、デュランダルとメギドロイドを何度も叩き潰していった。

俺も彼らほどの筋肉はないが、二刀流で奴への攻撃を続けていく。

俺たちを止められないデュランダルを見て、新たに4体のデュランダルも剣を振り上げて来ていた。

 

「ドレダケノチカラガアッテモ、ワレラニハカテヌ!」

 

「オマエラヲキリコロシテ、ニンゲンドモ二ゼツボウヲアタエテヤル!」

 

残り6体のデュランダルは、アメルダたちのところに向かっていた。

流石に合計6体のデュランダルを相手しながらメギドロイドを潰すことは出来ないので、ガロンとベイパーはそれぞれ3体ずつを引きつけ、俺にメギドロイドとの戦いを託していた。

 

「くそっ、大量の機械どもが来ちまったな…!」

 

「ワシらはこやつらと戦うから、赤い機械どもはお主に任せたぞ!」

 

デュランダル3体を相手しながらメギドロイドの矢を避けるのはかなり大変なので、早くメギドロイドたちを倒さないといけないな。

片方はもう瀕死なので、もう少し攻撃を続ければ倒すことが出来るだろう。

 

「ああ、そっちは頼んだぞ!」

 

俺は二人にそう言うと、弱ったメギドロイドにとどめをさすべく、やみよのつるぎとブラッディハンマーを何度も叩きつけていく。

より早く力を削り切ろうと、俺は奴の核を集中して攻撃していった。

弱点を攻撃されて、奴はまた体勢を崩して動けなくなる。

 

「また動かなくなったな…突き刺してとどめをさそう」

 

それを見て、俺は倒れたメギドロイドの核に深くやみよのつるぎを突き刺し、とどめをさしていった。

メギドロイドは完全に力を失い、青い光を放って消えていく。

これで残り1体のメギドロイドも倒せば、みんなに矢が降ってくることはなくなるな。

 

「これで残り1体か…こいつも急いで倒さないとな」

 

俺は残りの奴も倒そうと、両腕の武器を振り回して大きなダメージを与えていく。

だが、剣とハンマーだけで倒しきるのは、かなり時間がかかりそうだった。

ガロンたちは3体のデュランダルと怪我を負わずに戦えているが、なるべく早く援護に行った方がいいだろう。

それに、ゆっくりしていては後衛の巨人の魔物たちが来てしまう。

早くこいつを倒すために、俺は極げきとつマシンを使うことにした。

 

「極げきとつマシンでこいつを貫いて、一気に弱らせよう」

 

極げきとつマシンは超げきとつマシンの数倍の攻撃力を持っているので、メギドロイドでも受けきることは出来ないだろう。

それに、今俺を狙っているのはメギドロイド1体だけなので、激突した後の隙に他の魔物から攻撃される心配もない。

俺は腕輪の力を使って走り、一度大きくメギドロイドから離れ、極げきとつマシンに乗り込む。

 

「こいつの力を信じて、思い切り突撃してやるぜ」

 

乗ってすぐに俺はアクセルを思い切り踏んで、メギドロイドに突撃していった。

極げきとつマシンは速度も非常に速く、まだ最高速度を出していないにも関わらず、がったいまじんを倒した時の速度を超えていた。

メギドロイドはすぐに回避しようとしたが間に合わず、ブラッドインゴットで出来た5本の角によって貫かれる。

こちらへの反動もかなりの物だったが、反動を軽減する作りになっているので、思ったほどの衝撃は受けなかった。

 

「すごい速度だったな…どれくらいのダメージになったんだ…?」

 

メギドロイドは受け止めることも出来ず、絶大なダメージを受けて倒れ込んでいた。

5本の角によって体が変形しており、もはや原型を留めていない。

それでもまだ消えていなかったので、俺は起き上がられる前にと思い、両腕に力を溜めていった。

ここで二刀流での飛天斬りを当てれば、とどめをさすことが出来るだろう。

 

「これで終わりだ、飛天斬り!」

 

極げきとつマシンの攻撃を受け、さらに飛天斬りも直撃したことで、メギドロイドは力尽きて消えていった。

ラライの真の最強兵器の威力が、ここまで高いとはな。

変異体であるトロルギガンテはそう簡単に倒せはしないだろうが、かなりの効果があることは間違いないだろう。

 

「メギドロイドは倒せたな…トロルたちが来る前に、ガロンたちを助けに行こう」

 

メギドロイドは倒れたが、ガロンたちはまだ3体のデュランダルと戦っている。

このままトロルたちとも戦いになれば、相当な苦戦を強いられるだろう。

俺はガロンたちを助けに行こうと、剣とハンマーを振り上げて走っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode196 極黒の暴槌(前編)

極げきとつマシンでメギドロイドを倒した後、俺はまずガロンを援護に行く。

ガロンは筋肉を活かした攻撃でデュランダルを弱らせていたが、彼自身もかなり消耗しているようだった。

俺は3体のデュランダルのうちの一体に近づき、背後から剣を突き刺し、ハンマーで頭を叩き潰す。

 

「ガロン、こっちは終わったぞ!こいつらを一緒に倒そう」

 

「助かったぜ、雄也!オレはこっちと戦うから、雄也はもう一体を頼んだ!」

 

ガロンとの戦いで弱っていたこともあり、俺の強力な攻撃を背後から受けたデュランダルは力尽きて倒れていった。

俺はガロンにそう言った後、残り2体のうち1体の奴と戦っていく。

こちらも戦いでかなりのダメージを受け、いつもより動きが遅くなっていた。

 

「動きもかなり鈍ってるみたいだし、さっさと倒そう」

 

「オノレ…ビルダーメ、ドコマデジャマヲスルキダ!」

 

デュランダルの剣を確実に避けて、一瞬の隙に可能な限りの攻撃を叩き込んでいく。

ベイパーの救援にもいかないといけないので、ここに時間はかけていられない。

弱点である核を中心に狙いながら、奴の残った力を削り取っていった。

デュランダルが体勢を崩すと、俺はさらなる連撃でとどめを刺していく。

 

「こいつも倒したぞ。そっちはどうだ?」

 

「オレももうすぐ終わる!倒したら、ベイパーのことも助けに行くぜ!」

 

俺がデュランダルを倒した時にはガロンも奴を追い詰めており、何度も頭部に打撃を与えて倒していっていた。

ガロンと戦っていたデュランダルが全て倒れると、俺たちはベイパーのところに向かっていく。

背後から攻撃する方が大ダメージを与えられるので、俺とガロンはベイパーへの攻撃に集中している奴らの後ろに迫っていき、思い切り武器を叩きつける。

今度は倒すことは出来なかったが、デュランダルは大きく怯んで動かなくなる。

 

「援護しに来たぞ、ベイパー!今まで大丈夫だったか?」

 

「感謝する、雄也、ガロン。相変わらず素早い奴らだが、まだ無事だ」

 

「なら良かったぜ。3人でこいつらを倒して、トロルギガンテの野郎もぶっ潰してやるぜ!」

 

ベイパーもデュランダルの素早さに苦戦していたようだが、まだ傷は負っていないようだった。

この後も戦いは続くし、怪我される前に助けられて良かったぜ。

俺は動けなくなった奴を倒し切ろうと、両腕に全身の力を溜めていく。

ここで飛天斬りを当てれば、デュランダルの生命力を削り取ることが出来るだろう。

 

「飛天斬り!」

 

頭上から飛天斬りが直撃し、奴は力を失って消えていった。

ガロンとベイパーもハンマーでデュランダルたちを殴っていき、体を破壊していく。

デュランダルはかなり耐久力のある魔物ではあるが、荒くれたちの力のおかげで巨人の魔物が来る前に倒すことが出来たな。

アメルダたちもそれぞれ2体ずつの奴らを倒し、巨人との戦いに備えていた。

 

「デュランダルは全滅したな…ギガンテスも迫って来ているけど、このまま倒すぞ」

 

「もちろんだぜ、雄也!」

 

巨人たちの中で、まず最初にギガンテスたちが迫ってくる。

ギガンテスは強力だが何度も戦っているし、今回は極げきとつマシンもある…苦戦せずに倒して、トロルギガンテのところに向かってやるぜ。

俺は近接戦闘になる前になるべく弱らせようと、6体のギガンテスに向かってもアサルトライフルを連射していった。

 

「生命力の高い奴らだから、少しでも弱らせておこう」

 

アサルトライフルの扱いにはまだ慣れていないが、ギガンテスはやはり顔の大きさ故に、何度も頭部や目に命中させることが出来た。

サブマシンガンより威力が高いので、怯みはしないもののかなりのダメージを受けているようだった。

奴らが俺たちの至近距離にまでやって来ると、俺は二刀流に戻す。

このままアサルトライフルで倒してもいいが、トロルギガンテとの戦いにも弾はとっておきたいからな。

 

「人間どもの武器はやはり厄介だな…オレが、お前ごと叩き壊してやる!」

 

6体のギガンテスがそれぞれみんなのところに向かい、俺もそのうちの1体と対峙した。

ギガンテスは近づいて来ると、巨大な棍棒を叩きつけてくる。

攻撃範囲がかなり広いので俺はジャンプしてかわし、攻撃の後の隙に一気に近づいて、両腕の武器を叩きつけていく。

 

「やっぱり攻撃範囲は広いけど、近づくことは難しくないな」

 

攻撃の溜め時間や攻撃後の隙が大きいので、接近がそこまで難しい相手ではない。

みんなもジャンプを駆使して棍棒を回避し、奴らの足元に近づいていく。

足元にまで寄られると、奴は前と同様に足で俺を踏み潰そうとして来る。

 

「オレの棍棒をかわしやがったか…なら、足で踏み潰してやる」

 

足での攻撃もかなり迫力があるが、今までの奴らより攻撃速度が上がったりはしていない。

足を地面に叩きつけた直後に剣とハンマーを叩きつけ、足にダメージを蓄積させていく。

先ほどのアサルトライフルのダメージもあり、奴もかなり弱って来ていた。

 

「かなり弱って来てるな…トロルギガンテが来る前に倒そう」

 

俺たちのところには、トロルギガンテと手下のボストロールも確実に近づいて来ている。

奴らとギガンテスを同時に相手するとなれば、勝てる可能性は大きく下がるだろう。

その前に倒そうと、俺はギガンテスの足への攻撃を強めていく。

そしてギガンテスが倒れ込むと、俺は極げきとつマシンに乗り込むために一度奴から離れた。

 

「体勢を崩したな…この前超げきとつマシンは受け止められたけど、今の極げきとつマシンなら大丈夫なはずだ」

 

マイラの奪還戦の時、俺はギガンテスに超げきとつマシンを受け止められ、危険な状態に陥ってしまった。

だが、今の極げきとつマシンであれば、奴でも止めることが出来ないはずだ。

自分の作った兵器の力を信じて、俺は倒れたギガンテスに向かって突撃していく。

 

「メギドロイドみたいに、こいつも貫いてやるぜ」

 

「くそっ…ビルダーめっ…!」

 

さっきメギドロイドを貫いた時くらいの速度で、5本の角が奴の体にぶつかった。

ギガンテスも必死に受け止めようとするが、棍棒も腕の力も耐えきれず、棍棒は砕け散り、深く体を突き刺される。

アサルトライフルや剣とハンマーでの攻撃で受けたダメージもあって、奴は生命力を失って光を放って消えていった。

 

「これで倒れたか…すごい威力だったな」

 

巨人の魔物でも防ぐことが出来ない、極みという名にふさわしい威力だな。

トロルギガンテが来るまでにはもう少し時間があるので、俺は極げきとつマシンを使ってみんなが戦っているギガンテスも倒しに行こうとする。

俺は近くにいるアメルダの援護に行こうと、彼女に声をかけた。

 

「今からこのマシンを使うから、そこをどいてくれ」

 

アメルダがギガンテスの足元にいる状態で使えば、巻き込んでしまう危険性もある。

アメルダが俺の声を聞いて動くと、極げきとつマシンに乗って一気に加速し、ギガンテスに向かって突撃していく。

奴も回避しようとするが巨体故に間に合わず、足を貫かれて辛うじて生きていたものの、立ち上がることは不可能になっていた。

 

「助かったよ、雄也。新兵器をさっそく使ってくれてるみたいだね」

 

「ああ。やっぱり強力だし、作ることが出来て本当に良かった。ギガンテスは弱ってるし、一緒にとどめをさそう」

 

自分の考えた新兵器が活躍し、アメルダはとても嬉しそうな顔をする。

超げきとつマシンの時点でもかなり強力だったし、ここまで強い物になるとはな。

極げきとつマシンで瀕死になったギガンテスに、俺とアメルダは追撃を加えていく。

弱った体に二人の連撃を叩き込まれ、奴も力尽きて消えていった。

 

「これで今度こそ倒れたな。そろそろトロルギガンテが来るし、奴と決着をつけよう」

 

「もうアジトを奪われるわけにはいかないからね…極げきとつマシンだったら、アイツにも効果があるはずだよ」

 

マイラを奪った変異体であるトロルギガンテが、もう俺たちの目前に迫っていた。

奴なら極げきとつマシンも弾き返すことが出来るかもしれないが、大きな隙が出来た時に激突したら相当なダメージを与えられるはずだ。

トロルギガンテは近づいて来ると、ドルモーアのような呪文で攻撃して来る。

 

「さすがは物を作る力…ここまでの兵器を作り出すとはな。だが、どうあがいても無駄なことだ…我が消し去ってやる!」

 

トロルは普通呪文を使えないのに、こいつはこんな行動もして来るのか。

ドルモーアの範囲は滅ぼしの騎士と同じくらいだが、ほしふるうでわを手に入れた今なら走って回避することが出来た。

アメルダも大きくジャンプして、爆風の直撃を避けることが出来ていた。

しかし、直撃が避けられたとはいえいくらかの衝撃は受けているので、これ以上放たれる前にと俺とアメルダは走って近づいていく。

 

「さすがに1発目は避けたか…だが、どこまで逃げ続けられるか…?」

 

だが、トロルギガンテの詠唱速度はかなり早く、2発目を放たれる前に接近することは出来なかった。

ドルモーアの魔法が炸裂すると、俺は走り、アメルダも大きくジャンプする。

 

「くっ…相変わらずの強敵だね。でも、今度は負けないよ!」

 

マイラが奪われた時にはドルモーアで町を破壊され、さらに爆風の衝撃も受け、近づけたとしてもトロルギガンテの体力を削り切れなかったのだろう。

アメルダは今度こそやられまいと、爆風を受けて痛む体を動かして奴に近づいていく。

さっきの戦いもあって今回も万全な状態では戦えないが、今の武器があれば倒しきることが出来ると信じるしかない。

俺も全速力で走って、3度目の詠唱を行おうとするトロルギガンテに両腕の武器を叩きつける。

 

「聞いた通り相当な強さだけど、これくらいじゃ俺たちは止まらないぜ」

 

「さすがは人間…我に近づくのは容易みたいだな。なら、我らも全力を持ってお前らを消し去る!ボストロールたちも、人間共を叩き潰せ!」

 

アメルダも奴に近づき、やみよのつるぎを深く突き刺す。

トロルギガンテは防御力も上がっていたが、問題なくダメージを与えることが出来ていた。

だが、トロルギガンテは手下のボストロールに指示を出し、一緒に俺たちを潰そうとして来る。

俺たちのところに2体ずつのボストロールが来て、残り4体はガロンたちのところに向かった。

 

「トロルギガンテ様と共に、お前を砕いてやる!」

 

「ここまで来て残念だったな、ビルダーめ!」

 

ボストロールは今までの奴らと変わらず、かわしながら戦うことが出来た。

だが、ビルダーを優先的に排除するために、トロルギガンテも俺に向かって暗黒に染まった巨大棍棒を叩きつけて来る。

攻撃速度自体はダークトロル辺りと変わらないものの、地面に叩きつけられる度に闇の衝撃波が放たれるため、腕輪の力を持ってしても大きくジャンプしなければ回避出来なさそうだった。

 

「我らの力を見ろ、ビルダーめ!お前たち人間が勝つ可能性など、万に一つもないのだ!」

 

「くそっ…3体に囲まれるとかなり厳しいな…」

 

トロルギガンテはそう言いながら、暗黒の棍棒を何度も振り下ろす。

3体のトロルの棍棒を回避しながら攻撃するのは、今の俺でも至難の技だった。

ボストロールに何度か攻撃を当てることが出来たものの、倒す前に俺の体力の方が尽きてしまうな。

 

「トロルギガンテは強いから、アメルダにもう一体ボストロールを引き付けてもらうしかないか…」

 

トロルギガンテとボストロール1体なら、何とか相手出来るかもしれない。

だがそれだと、アメルダが3体のボストロールと戦うことになってしまう。

でも、トロルギガンテよりはボストロールは攻撃速度も遅く、攻撃範囲も狭いので、引き付けてもらうことも不可能ではないかもしれない。

それ以外にトロルギガンテを倒す方法はなさそうなので、俺はアメルダに頼む。

 

「…悪いけど、ボストロールをもう一体引き付けてくれ!このままじゃ、トロルギガンテは倒せない」

 

「分かったよ。今回もアンタには助けられたからね、アタシも全力でアンタを援護するよ!」

 

危険なことではあるが、アメルダはそう言うと俺と戦っているボストロールの足を何度も斬り裂き、注意を引きつける。

俺とアメルダは今まで何度も助け合って来て、今回も彼女は助けてくれた。

アメルダの無事を祈って、俺はトロルギガンテともう一体のボストロールと戦おう。

 

「1体をあっちに引き付けたところで無駄なことだ…我らだけでも、お前を叩き割ってくれる!あの女も、ボストロールたちに潰されて死ぬだろう」

 

トロルギガンテは2体だけでも俺を潰せるといい、棍棒を叩きつけ続ける。

攻撃範囲の広さは変わらないが、ボストロールが1体減ったことで少しはこちらの攻撃もしやすくなっていた。

俺はまず弱い方を倒そうと、ボストロールの足に攻撃し続ける。

出来るだけ速く倒そうと、俺は腕に可能な限りの力をこめて武器を振り続けた。

 

「これでもかなり厳しいけど、さっきよりは戦いやすくなったな…早くボストロールを倒そう」

 

俺の攻撃を受け続けて、ボストロールはだんだん弱って来ていた。

トロルギガンテの棍棒による闇の衝撃波を何度か受けて俺の背中には激しい痛みが走るが、それでも体を動かし続け、奴への攻撃を続けていく。

足に攻撃を受け続けて転倒した時には、俺は回転斬りや飛天斬りは使えないものの、渾身の連撃を力の限り放っていった。

 

「ここで倒せなかったら、かなりまずいな…」

 

「我の棍棒の衝撃波を受けて、まだ立ち上がることが出来るか…だが、それもそろそろ限界だろう…」

 

しかし、トロルギガンテの衝撃波を受けて体の動きが鈍り、さらに回避が難しくなってきていた。

またボストロールとトロルギガンテの2体に攻撃され続ければ避けきれなくなる危険性が高いので、転倒している間にボストロールだけでも倒しておかなければいけない。

俺はボストロールにとどめをさそうと、剣とハンマーでの攻撃を続けていく。

しかし、トロルギガンテの妨害もあって倒しきることは出来ず、ボストロールは体勢を立て直してしまった。

 

「よくもここまで我を…!今度こそ葬ってやる!」

 

「あの女や町の人間どもも我らが始末する…一足先に逝っているがいい!」

 

弱った俺に対して、トロルギガンテとボストロールは容赦なく棍棒で攻撃を続けていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode197 極黒の暴槌(後編)

トロルギガンテとボストロールは、俺を叩き潰すためにハンマーを振り続ける。

俺は残った力で大きなジャンプを繰り返し、闇の衝撃波を回避することは出来ていたが、奴らに近づいて攻撃することは出来ていなかった。

このままだと回避すら不可能になり、奴らに殺されてしまうだろう。

 

「こんなところで負けるわけにはいかないし…何とかしないとな…」

 

「お前の力はこの程度だったか、ビルダーめ!さっさと、アレフガルドの復活など諦めろ!」

 

追い詰められた俺を見て、トロルギガンテはそう言ってくる。

ガロンたちはまだギガンテスやボストロールと戦っており、援護に来れそうになかった。

この危機を脱しようと俺はボストロールに近づいて攻撃しようとするが、なかなか成功しない。

近づいて攻撃するのは、弱った俺ではもう不可能なのだろう。

 

「近づいて戦うのはもう無理そうだな…でも、まだこれがある…」

 

だがここで俺は、アサルトライフルの弾がまだ残っていることを思い出す。

ボストロールは弱っているし、奴を集中して撃てば倒すことが出来るかもしれない。

それ以外にこの危機を脱する方法もなさそうなので、俺は弾が尽きないことを願って、アサルトライフルをボストロールに向かって連射する。

 

「剣とハンマーじゃ無理なら、これであんたたちを倒してやるぜ…!」

 

「また厄介な発明品を出しやがって…だが、何を使ったところで無駄だ!」

 

なるべくダメージが大きくなるように、俺はボストロールの頭へ向かって撃つ。

奴らのハンマーを回避しながらの攻撃なので狙いを定めるのが困難だが、ボストロールは巨体なので何度も頭に当てることが出来ていた。

弱っていたところをアサルトライフルで撃たれ、ボストロールは再び倒れ込む。

 

「また倒れたな…今度こそとどめをさすぜ!」

 

ボストロールが動けなくなったことで、俺に攻撃して来るのはトロルギガンテだけになる。

俺はまた剣とハンマーに持ち替えて、倒れた奴にとどめの攻撃をしていった。

頭に銃での、足に剣とハンマーでの攻撃を受け続け、ついにボストロールは青い光を放って消えていく。

まだトロルギガンテはいるものの、最大の危機は何とか脱することが出来た。

 

「おのれ…よくも我らの仲間を…!我だけになろうとも叩き潰してくれる…!」

 

アサルトライフルの弾を使い切らずにいて、本当に助かったぜ。

トロルギガンテは赤く染まった目で、俺を睨みつけながらそう言う。

通常のトロルの顔はそこまで怖くないが、トロルギガンテは白目の部分が全て真っ赤になっており、非常に不気味だ。

トロルギガンテは今まで通り、闇の衝撃波を放つ棍棒を叩きつけてくる。

 

「トロルギガンテは、俺一人では倒し切れそうにないな…」

 

危機は脱したものの、トロルギガンテの生命力は非常に高いだろう。

このまま一人で戦えば、闇の衝撃波を受けて動けなくなったところを、棍棒の直撃で潰されるかもしれない。

アメルダは思ったよりは苦戦していないがまだ3体のボストロールと戦っており、一緒にトロルギガンテに挑むことは出来そうになかった。

だが、ガロンたちはもうギガンテスを倒しており、ボストロールも弱らせていた。

 

「残ったアサルトライフルの弾で、ガロンを助けよう」

 

そこで、俺はまだ残っているアサルトライフルの弾を使ってガロンを援護し、彼と一緒にトロルギガンテと戦おうとした。

俺はまたアサルトライフルに持ち替えて、ガロンを攻撃しているボストロールの頭を撃ち抜いていく。

命中率は低く、今度こそ弾を使い切ってしまったが、ガロンの攻撃で弱っていたところを背後から銃撃され、怯んで体勢を崩していた。

 

「助かったぜ、雄也!こいつを倒したら、オレもそっちに向かってやる!」

 

「ああ、頼んだぞ!」

 

ボストロールが怯むと、ガロンはそう言って奴に追撃を加えていく。

荒くれの力のこもった連撃を受けて、ボストロールは力を失って倒れていった。

奴を倒すと、ガロンはブラッディハンマーを振り上げて走り、トロルギガンテに近づいていく。

 

「よくもオレたちのアジトを奪いやがって…!もう二度と、壊させたりしねえぜ!」

 

「お前も我らの仲間を…!ならば、ビルダーと同様に叩き潰してやる!」

 

トロルギガンテは闇の棍棒を叩きつけるが、ガロンも大きく跳んで回避する。

そして、奴の足に向かって何度もブラッディハンマーを叩きつけていった。

こちらが二人になったことで俺への攻撃回数が減り、俺も接近出来るようになり、トロルギガンテの足に向かって二刀流での連撃を加えていく。

この程度で倒せる相手ではないが、少しずつダメージを与えて行かないとな。

 

「生命力も相当なものだけど…確実に効いてるな」

 

「ああ。オレたちの筋肉とお前の兵器で、こいつとの戦いを終わらせてやろうぜ!」

 

ガロンは左足を、俺は右足を集中して攻撃していく。

これでみんなの援護も加われば、トロルギガンテを倒せるかもしれないな。

だが、トロルギガンテも俺たちの抵抗を許そうとはせず、全身の力を腕に溜め始める。

 

「まだ死なないのか、人間どもめ…!お前たちがどれだけ弱い存在か、我が叩き込んでやる!」

 

力を溜めた後の攻撃は、どの変異体であっても非常に危険なものだった。

トロルギガンテは変異体の中でも強力な部類だし、すぐに避けなければいけないだろう。

 

「ガロン、今すぐ大きく跳べ!」

 

俺はガロンに向けてそう叫んだ後、自身も大きくジャンプする。

俺もガロンも一度のジャンプでは避けきれないと思い、攻撃が炸裂する前にもう一度ジャンプを行った。

トロルギガンテは力を溜めきると、大きく飛び上がり、飛天斬りのように垂直に暗黒の棍棒を叩きつける。

そして、棍棒が地面に叩きつけられた瞬間に、棍棒の中の闇の力が大爆発を起こし、辺りを吹き飛ばす。

 

「くっ…なんて攻撃範囲なんだ…!」

 

その爆発はドルモーアよりさらに大きく、闇の最上位呪文であるドルマドン並だろう。

俺とガロンは直撃は避けられたが爆風には当たってしまい、先ほどまでの戦いで弱っていた俺は立ち上がれなくなってしまう。

動けなくなった俺を見て、トロルギガンテはとどめをさそうとして来た。

 

「もう動けなくなったか…ビルダー。我が仕留めて、人間どもの抵抗を終わりにしてやる!」

 

「まだオレは戦える…雄也は死なせねえし、アジトも壊させねえぜ…!」

 

まだ戦えるガロンは俺の前に立ち塞がり、トロルギガンテへの攻撃を続けていく。

しかし、彼も大きなダメージを負ったのは間違いないだろうし、今度あの攻撃を使われれば爆発の直撃を受けてしまうかもしれない。

それでもここで引き下がれず、ガロンはハンマーを振り続ける。

 

「ビルダーと共に倒れれば良かったというのに、手間をかけさせやがって!」

 

トロルギガンテは溜め攻撃は行わず、先ほどまでと同じ攻撃に戻る。

あの攻撃の爆発はトロルギガンテ自身や棍棒にもかなりの反動がありそうだし、連発は出来ないのかもしれないな。

しかし、それでも通常の攻撃でも闇の衝撃波を出すので、ガロンも何度もそれを受けてしまっていた。

 

「やっぱり強えな…でも、オレはまだ倒れねえぜ!」

 

「闘志だけは素晴らしいな…だが、お前の体力ももうすぐ限界だろう!」

 

ガロンの動きも確実に鈍って来ており、トロルギガンテはそれを見逃さずさらなる攻撃を叩き込む。

このままではガロンは間違いなく殺されてしまうので、俺も何とか戦線復帰しようとする。

ポーチから白花の秘薬を取り出して飲み、傷ついた体を回復させていった。

この世界の薬は即効性なので、全快とはならずとも、立ち上がれるまでには回復する。

 

「俺もまだ戦うぞ、トロルギガンテ!」

 

そして再び剣とハンマーを構えて、トロルギガンテへの攻撃を始めていった。

俺とガロンの攻撃で、トロルギガンテも少しは弱ってきただろう。

さらに、俺たち二人のところにベイパーたちも駆けつけて来る。

 

「こちらもボストロール共を倒した。加勢しよう、雄也、ガロン!」

 

「アタシたちのアジトを奪うだけじゃなく、ガロンたちまで傷つけるなんて絶対に許さないわよ!」

 

「私も長い間この町で暮らした身です…力の限りを尽くして、この町を守りきります!」

 

「人間どもが…我の軍勢相手にここまで戦うとは…!なんとしても叩き潰してやる…!」

 

ベイパーたちもそれぞれのハンマーを使って、トロルギガンテを攻撃していった。

トロルギガンテは棍棒で攻撃を行い続け、みんなは闇の衝撃波を避けるのがかなり難しそうだった。

だが、それでも直撃だけは避けようとして、大きくジャンプをしながら戦っていく。

5人で攻撃を行い、トロルギガンテの足に大きなダメージを与えていった。

 

「わしらは武器も強力になっている…もしかしたら、倒せるかもしれぬな」

 

「我がここまで追い詰められるとは…だが、人間ごときに倒される我ではない!」

 

ベイパーの言う通り、俺たちは武器も強力になっている…この前は全員の力を合わせても勝てなかったトロルギガンテでも、今度は勝てる希望がある。

みんな闇の衝撃波を受けた痛みに耐えながら、懸命に攻撃を続けていく。

だが、追い詰められたトロルギガンテは、再び腕に力を溜め始めた。

 

「まずい、強力な攻撃が来る…!」

 

「出来る限りの力で跳べ!」

 

さっきの爆発を見た俺とガロンは、みんなに向かって大声でそう叫ぶ。

みんながあの爆発で動けなくなってしまったら、俺たちは全滅だ。

俺も全快の状態ではないが、可能な限りダメージを減らそうとほしふるうでわの力を活かして、素早く、そして遠くまでジャンプする。

 

「消え去れ、人間ども!」

 

トロルギガンテがそう叫んで棍棒を叩きつけると、さっきも見た闇の大爆発が起こる。

トロルギガンテ自身も反動でかなりのダメージを受けていたが、爆発の威力は凄まじく、みんなの中で一番遠くまで離れていた俺にも衝撃が及ぶ。

みんなもまだ辛うじて立ち上がることは出来ていたが、さっきまでの戦いで傷ついていたガロンは、大怪我を負って動けなくなっていた。

 

「すごい威力ではあるな…だが、わしの筋肉は決して死なず!」

 

「ガロンをここまで傷つけるなんて、アンタのことは死んでも許さないわよ!」

 

ベイパーとギエラ、シェネリはガロンをかばうようにしてハンマーを構え、トロルギガンテへの攻撃を再開する。

いつさらなる攻撃を受けてもおかしくないのに、みんなそれぞれの力を信じて戦い続けていた。

俺は戦いに戻る前に、倒れているガロンに駆け寄る。

ガロンはまだ意識はあるようだが、白花の秘薬を使っても戦える状態に戻れるかは分からなかった。

 

「大丈夫か、ガロン?」

 

「大丈夫に決まってるぜ…!あの野郎を倒すまで、オレは倒れねえ…!」

 

ガロンは、普通の人間なら決して立ち上がれないほどの怪我であるのに、ハンマーを持ってトロルギガンテに向かって行こうとする。

だが、今のガロンがトロルギガンテと戦えば殺される危険性が高いので、下がっていてくれと俺は言った。

 

「いや、あいつは俺たちが倒す。この状態で戦ったら、ガロンでも危ないと思うぜ。あんたが死んだら、俺もアメルダもみんなも悲しむぞ」

 

「…分かったぜ。頼んだからな、雄也」

 

ガロンもアネゴと慕うアメルダや仲間たちを悲しませるわけにはいかないと、俺の指示を聞いてくれる。

ガロンの分も、俺がトロルギガンテをさらに追い詰めてやらないとな。

俺はガロンにうなずくと、再びトロルギガンテへと近づいていった。

 

「ビルダーも町の人間どもも、もうボロボロだな…我が終わらせてやる、お前たちも、この町もな」

 

ベイパーたちも闇の衝撃波を避けきれず、かなり追い詰めらていた。

だが、それと同時にトロルギガンテ自身もみんなの攻撃で、確実に弱っている。

どちらの体力が先に尽きるかの、賭けになりそうだな。

俺が戻って来ると、トロルギガンテは俺に向かっても棍棒を叩きつけてきた。

 

「みんなも弱ってるけど、こっちの攻撃も確実に効いてる…みんながやられる前に倒そう」

 

俺は大きなジャンプを繰り返して可能な限り衝撃波を避けていき、食らったとしても痛みに耐えて剣とハンマーを振り、奴の体力を削りとっていく。

みんなも動きが遅くなって来ていたが、トロルギガンテに攻撃を当てることが出来ていた。

 

「我を追い詰めたのは褒めてやる…だが、最後に勝つのは我の方なのだ!」

 

だが、トロルギガンテの猛攻は追い詰めても収まることはない。

俺たちの動きが遅くなって来たのを見て、奴は今度は棍棒を横に振ってから、回転攻撃を行ってきた。

ただの回転攻撃ではなく、回転と同時に闇の竜巻が発生し、周囲を斬り裂いていく。

闇の大爆発よりは範囲は狭いが、弱っていたみんなは回避しきれず、体にいくつもの切り傷を負っていた。

俺は何とか避けられたが、一人だけでトロルギガンテを倒せる気はしない。

 

「これで分かったか、人間ども?自分たちの無力さをな…!」

 

「くそっ、こんな技まで隠していたのか…!でも、それでも俺たちは諦めないぞ」

 

だが、俺は弱気な様子は見せず、みんなの前に立ってトロルギガンテを引き付けていく。

トロルギガンテは闇の衝撃波で俺の動きを止めて、棍棒で叩き潰そうとして来た。

白花の秘薬で回復した俺も、次第にみんなのように追い詰められていく。

俺も弱って来たのを見て、ギエラたちは最後の賭けに出ようとした。

 

「しつこいビルダーもここまでか…終わらせてやろう!」

 

「こうなったら最後の賭けよ…アタシたちが全員でトロルギガンテの棍棒を止めるから、雄也はあのマシンで突撃して!」

 

トロルギガンテの棍棒を止める…人間が何人いたとしても、それは困難だろう。

だが、トロルギガンテも弱っているので、もしそれが成功したら極げきとつマシンを使って、奴を倒すことが出来るだろう。

荒くれたちはようがんまじんの腕も受け止めたことがあったので、今回ももしかしたら成功するかもしれない。

 

「追い詰められて気が狂ったか、人間ども!我の棍棒を止められるはずなかろう!」

 

トロルギガンテはそれは不可能だといい、笑いながら棍棒を振り下ろしてきた。

ギエラの指示を聞いてベイパーとシェネリも動き出し、俺に叩きつけられようとしていた棍棒を受け止めようとする。

これが失敗したらみんな死ぬと思いガロンも飛び出して来て、ボストロールを倒し終えたアメルダも駆けつけてきた。

 

「こんな時に役立てないんだったら、何のための筋肉なんだ!」

 

「自分の作った最強兵器を信じて、思い切り突撃して来な!」

 

それぞれの筋肉と闘志の全てを発揮して、みんなトロルギガンテの攻撃を受け止めていく。

弱っていたこともあって奴もすぐには押し切れず、隙を作ってしまった。

長くは耐えられないだろうからそこで決着をつけようと、俺は極げきとつマシンに乗り込む。

 

「行くぞ!」

 

アクセルを全開にまで踏んで、最高速度で突撃していった。

もはやどれだけの速度なのか分からないほど速く、瞬時にトロルギガンテの背後に5本の角が突き刺さる。

トロルギガンテは絶大なダメージを受けて倒れ込み、動かなくなっていた。

俺自身にもとてつもない衝撃が走るが、身体中の痛みを我慢してマシンから降り、両腕の力をため始める。

 

「動きが止まったね。とどめをさすよ、みんな!」

 

アメルダの指示で、みんなもトロルギガンテに総攻撃を仕掛ける。

みんなはもう全力を出すことは出来ないが、できる限りの攻撃を続けていた。

そして、俺は両腕に力が溜まりきると、大きく飛び上がって垂直に両腕の武器を叩きつける。

 

「飛天斬り!」

 

最後に二刀流での飛天斬りを受けて、トロルギガンテの膨大な生命力は全て失われて消えていった。

 

こうして、長かったトロルギガンテとの決戦は終わった。

荒くれたちの筋肉と闘志、超マシンメーカーで作った新兵器、その一つでもが欠けていたら勝てなかったと思えるほど、厳しい戦いだったな。

そう思っていると、アメルダたちが喜びの声を上げた。

 

「終わった、みたいだね…ついにアタシたち、アジトを奪ったトロルギガンテを倒せたんだ」

 

「賭けには勝ったみたいね。これでこのアジトを奪われる心配も、当分なさそうだわ」

 

「ああ。マイラが魔物の城になっていた時はどうしようかと思っていたけど、本当に良かったぜ」

 

みんなの口調からは疲れも感じられるが、ここまでの戦いだったのだから仕方ないな。

これで、マイラの2度目の復興も達成されただろう。

マイラもメルキドやリムルダールと同様、これからも発展を続けていくはずだ。

アメルダは、がったいまじんの時と同じで宴を開こうと言ってくる。

 

「本当に、本当に良かったよ…アンタのおかげで、ラライの最終兵器も完成させられたしね。そうだ、昔がったいまじんを倒した時みたいに、宴を開かないかい?せっかくのおめでたい日だし、一晩中飲み明かしたいんだ」

 

「いいと思うぜ。傷を癒してみんな落ち着いたら、さっそく始めよう」

 

俺もアメルダの提案に賛成しながら、マイラの町の中に戻っていく。

メルキドの2度目の復興の後にも宴を開いたし、この先はさらに厳しい戦いが待っているかもしれない…こんな時くらい、楽しんでおかないとな。

みんなも宴を開くことに賛成し、疲れた体を引きずりながら帰っていった。

 

みんなの傷を白花の秘薬で癒した後、俺たちはバーカウンターでマイラの2度目の復興を祝う宴を行った。

荒くれもアメルダも騒ぎながら、酔っ払うまで酒を飲み続けている。

俺もあまり酒を飲まない方がいいと分かっていながら、みんなに誘われてたくさん飲んでいた。

もともとはガライヤ出身であるコルトとシェネリも、すっかり荒くれだらけのこの町の雰囲気に馴染んでいる。

今回はこの前の宴と違い、ラライの姿が見えることはもうなかった。

だが、荒くれたちやアメルダは彼のことを決して忘れず、これからも戦っていくことだろう。

朝方になり宴がお開きになった後は、俺はこれから向かうことになるだろうエンダルゴやアレフとの決戦のことも考え、眠りについていった。




次回から9章に入っていきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9章 エンダルゴ編
Episode198 復興の果てに


トロルギガンテを倒した翌日、マイラに戻って来て12日目、俺たちは昼頃になってから目を覚ました。

昨日の戦いは本当に厳しいものだったし、宴も朝方になるまで続いたからな。

まだ疲れは取れていないが、今日はいよいよラダトームに戻ろう。

俺が寝室から出ると、アメルダが話しかけてきた。

 

「起きたみたいだね、雄也。アタシはまた頭がガンガンするけど、アンタは大丈夫なのかい?」

 

アメルダは本当にたくさんの酒を飲んでいたし、二日酔いしても仕方ないだろう。

俺も酒を飲んでしまったとはいえそこまでの量でもないので、酔いはとっくに抜けていた。

 

「ああ。俺はそんなにたくさんは飲んでないからな」

 

「やっぱり飲み過ぎちまったみたいだね…。でも、一晩飲み明かして過ごせるってのは、世界がまだ続いてるからだとも思ったよ」

 

確かに世界があのまま終わっていたら、こんな宴が行われることもなかったはずだ。

飲み過ぎで二日酔いに悩まされてるとはいえ、アメルダの顔は幸せそうだった。

こんな幸せな気持ちになれるのは、世界がまだ続いている確たる証と言えるだろう。

 

「ああ、俺もそう思うぜ」

 

2度目の復興を遂げた3つの町…それらを守るために、俺はエンダルゴとアレフを倒しに行かなければならない。

ルビスを、世界の光を守れなかった自分の罪を償うためにも。

アメルダにうなずいた後、俺はこれからラダトームに向かうことを伝えた。

 

「そうだ。トロルギガンテを倒した事だし、俺はそろそろラダトームに向かおうと思う。この前言ってたエンダルゴやアレフと、決着をつけないといけないからな」

 

「やっぱりそうなのかい…アンタの事情も分かってるけど、寂しくなるね…」

 

マイラを去る話をすると、アメルダは少し悲しそうな顔をする。

マイラはとても明るい人々が集まった場所だし、俺ももう少しここにいたい。

しかし、ラダトームのみんなも俺を待っているだろうから、そう言うわけにもいかない。

 

「俺ももう少しここにいたいけど、エンダルゴとアレフを倒さないとこの町がまた壊されるかもしれないからな…ただ、奴らとの決着が着いたら、またここに戻って来るつもりだぜ。みんなにもあいさつしたいから、呼んできてくれ」

 

「分かった…アンタにはまた会いたいし、必ず生きて帰って来るんだよ」

 

俺もマイラのみんなにまた会いたいし、絶対に生きてエンダルゴたちに勝とう。

アメルダはそう言うと、建物の中に入ってみんなを呼びに行った。

町を去るのは今まで何度も経験しているが、やはり寂しい気持ちは抑えられないな。

そう思いながらしばらく待っていると、アメルダがみんなを連れて戻ってきた。

 

「雄也、みんなを連れて来たよ!」

 

荒くれたちの表情は分からないが、コルトたちは寂しそうな顔をしていた。

今までアレフガルドの復興を共にして来たピリンとヘイザンは、ラダトームにも一緒に行こうとして来る。

 

「ラダトームには親方も待っているからな、ワタシも一緒に向かうぞ」

 

「ここまで旅をして来たんだから、最後まで一緒に行くよ!」

 

ヘイザンはアレフガルドの2度目の復興の中、鍛冶屋としての腕を確実に上げてきている。

ラダトームで待つゆきのへと協力すれば、必ず伝説を超える武器を開発することが出来るだろう。

みんなの力を合わせて、エンダルゴやアレフに挑もう。

 

「ありがとうな、ピリン、ヘイザン」

 

アレフガルドの各所で、二人には助けられている。

俺が二人に感謝した後、アメルダも別れの言葉を言ってきた。

 

「アタシたちはここに残ることになるけど、アンタのことは応援してるよ。ここで作った兵器を、ラダトームでの戦いにも役立てておくれ」

 

「ああ、もちろんだ」

 

極げきとつマシンは絶大な威力を持っているし、ラダトームでの戦いにも確実に役立つことになるだろう。

それだけでなく、アレフガルドの2度目の復興で手に入れたものは、どれも強力なものばかりだ。

俺がそろそろ出発しようとしていると、ガロンも話しかけてきた。

 

「確かにお前とアネゴが作った武器は強い…でも、お前には筋肉が足りねえ。お前に筋肉をつけさせるために、これを作って来たぜ。受け取ってくれ」

 

そう言うとガロンは、ダンベルを取り出して手渡して来る。

荒くれたちが使っているものよりは軽いが、かなりのトレーニングが出来そうだ。

本当にガロンは昔から、筋肉中心の考えをしているな。

俺はそこまでの筋肉をつける気はないが、断るのは申し訳ないので、受け取ってポーチに入れる。

 

「…ありがとう。これから使うかもしれないし、受け取っておくよ」

 

「これで筋肉を鍛えて、絶対に生きて戻って来るんだぜ」

 

ガロンたちにとって、筋肉の強化に終わりはない…これからも訓練を続けて、自分たちのアジトであるマイラの町を守り抜いていくことだろう。

ガロンからダンベルを受け止ると、俺はそろそろラダトームに向けて出発しようとする。

 

「じゃあ、俺はそろそろラダトームに向けて出発するぜ。俺も必ず生きて戻って来るから、みんなも元気でな!」

 

俺はそう言うと、ピリンとヘイザンを連れて小舟に乗りにマイラの町の東の海に向かっていく。

エンダルゴやアレフとの決戦に向かう俺を、みんなも手を振って見送っていた。

 

「戦いが終わったら、またオレたちのアジトで盛り上がろうぜ!」

 

「ダンベルを有効に使うのだぞ!」

 

「会いたくなったらいつでも来るのよ!」

 

「アンタと兵器があればどんな敵にも勝てるって、信じてるからね」

 

「また会いましょう、雄也さん!」

 

「私たちも頑張って、この町を大きくしますね!」

 

力強い者達によって、マイラの町はこれからも発展を続けていく。

そう思いながら、俺はみんなに手を振ってマイラの東の海へと向かっていった。

魔物たちから隠れながらも、20分くらいで小舟に乗り込むことが出来た。

3人で小舟に乗り込むと、世界地図を見ながらラダトームを目指して、漕ぎ出していく。

 

 

 

そして、1時間半ほど小舟を漕ぎ続けて、俺たちの前に灰色になった大地が見えてきた。

その大地にはかげのきしやしにがみのきしと言った魔物の他、スライムやブラウニーのような弱い魔物もうろついている。

アレフガルドの中央にあるラダトームの地のすぐ近くまで、俺たちはやって来ていた。

 

「もうすぐラダトームか…みんな、どうしてるんだろうな?」

 

「ここは魔物も強いし、少し心配だな」

 

俺がそうつぶやくと、ヘイザンもラダトーム城が心配だと言う。

リムルダールやマイラのように、ラダトームも壊滅している可能性もあるな。

魔物のこともそうだが、ラダトームにはエンダルゴの闇が降ったことがあった。

またあのようなことがないか、闇に侵蝕されたオーレンたちがどうなったのかも気になるな。

 

「ああ。とりあえず、みんなの無事を確かめよう」

 

俺たちがいるのはラダトーム城の東の海であり、ここからは城の様子は見えない。

城の様子をまず確かめようと舟を進めていき、ラダトームの大地に上陸した。

 

ラダトーム…世界を裏切った勇者の旅が始まった地。アレフガルドを統治する、人と物に満ちた城があった地。

メルキドとリムルダール、マイラを巡り、アレフガルドの2度の復興の冒険の旅の末に、再びこの地に戻って来た。

そう思うと、1度は決して倒せないと思っていたエンダルゴやアレフとの戦いも、もうすぐ何だと実感するな。

 

「…今まで厳しい戦いだったけど、ついにここまで来たんだな」

 

1度は失敗に終わってしまったアレフガルドの復興を、今度こそ成功に終わらせる時だ。

もう平和な世界を作れないとしても、少しでも人々が生きやすい世界に変えたい。

そうも強く思いながら、俺はラダトーム城へと向かっていった。

ピリンたちも、魔物たちから隠れながら俺について来る。

25分くらい歩いて、俺たちはラダトーム城の近くにたどり着いた。

 

近くに来て見てみると、ラダトーム城は前のように禍々しい気に覆われてはいるものの、壊されている様子はなかった。

だが、全員が無事であるかはここからは確認出来ない。

 

「城は無事みたいだな。でも、みんなが生きてるかは中に入らないと分からない」

 

「親方もみんなも、無事だといいな」

 

「うん。戦いが終わったら、みんなで楽しく暮らしたいね」

 

ピリンとヘイザンもラダトームのみんなと一緒に暮らした時間は長いし、みんなの安否を心配していた。

俺たちはみんなの無事を祈って、ラダトーム城の中へと入っていく。

すると、城の見回りを行っていた兵士のラスタンが、俺たちに気づいて話しかけてきた。

 

「もしかして、お前は雄也か?戻って来たんだな!」

 

「ラスタン、無事だったんだな。アレフガルドの3つの町を立て直して来て、今帰って来たぞ」

 

ラスタンは目立った怪我もなく、元気そうであった。

ラスタンの他にも、希望のはたのところで話しているチョビとルミーラ、バルダス、ラグナーダ、サデルン、エファートの姿も見かけられる。

俺が去った後に何があったかも、ラスタンに聞いていった。

 

「俺が去った後、そっちでは何があったんだ?」

 

「雄也たちが去った後も、私たちは迫り来る魔物と何度も戦って城と姫様を守り抜いていた。伝説の武器を上回る武器の開発も、大分進んでいるぞ」

 

やはり魔物の襲撃はあったようだが、ここまで勝ち抜いて来たようだな。

俺たちがおおきづちの里から連れてきた、ラグナーダの活躍もあったからだろう。

伝説を超える武器の作り方が分かったら、ビルダーの力で作り上げよう。

闇に侵蝕された3人がどうなったかも、俺は聞いていく。

 

「闇に侵蝕されたオーレンたちは、どうなったんだ?」

 

そう言うと、ラスタンは暗い顔になってしまった。

彼は、闇に侵蝕された3人のうち1人しか助からなかったと言う。

 

「バルダスは耐えきって、逆に強大な力を手に入れることが出来た。だが、オーレンとプロウムは耐えきれず、あのまま亡くなってしまった」

 

バルダスの方をよく見て見ると、彼の体毛の白かった部分が黒紫色になっており、体もこれまでより大きくなっていた。

闇の力に耐えて自分の物とし、変異体と同じ存在になったのだろう。

しかし、オーレンとプロウムは、あのまま死んでしまったのか…。

全員無事であることを祈ったが、そううまくはいかないものだな。

 

「そうだったのか…俺がアレフ…闇の戦士を倒せなかったせいで、二人まで…」

 

「あれは仕方のなかったことだ。私もオーレンとプロウムが死んでしまったのは残念だ…だが、今は今度こそ勝てるように、準備を進めるしかない」

 

数百年前の戦いを見てきて、たくさんの人の死に立ち会ったであろうラスタンでも、仲間を失った悲しみは深い。

ラスタンの話を聞いて、アレフを倒せなかったことを悔やむ気持ちが強くなってしまう。

仕方のないことだったと言われても、その気持ちを抑えることは出来なかった。

しかしラスタンの言う通り、いくら悔やんだところでもう仲間が戻って来ることはないので、彼らの分もエンダルゴを倒す準備を進めなければいけない。

過去を引きずりながらも、未来に進んでいくしかない。

ラスタンは話の後、俺が戻って来たことを城のみんなに伝えようとする。

 

「…分かってる。エンダルゴを倒す準備を進めていこう」

 

「私も出来る限りのことをする。みんなもお前を心配していたし、これから呼ぶぞ」

 

こっちもラダトームの人々のことが心配だったし、みんなも俺たちのことを心配していただろう。

無事に戻って来たということを、みんなにも教えてやらないとな。

 

「ああ、そうしてくれ」

 

「みんな。雄也たちが戻ってきたぞ!」

 

俺がうなずくと、ラスタンは大声でみんなに俺たちの帰還を伝える。

すると、その話を聞いたみんなはすぐに動き出し、チョビたちはこちらに走ってきて、ゆきのへは工房から、ムツヘタは占いの間から出て来た。

 

「オオ!おかえりナサい、雄也ドロル!生きテ戻っテ来るト、信じテいまシタ!」

 

「遅かったから心配していたが、無事だったみてえだな。ヘイザンの方も、元気そうで何よりだぜ」

 

「アレフガルド中を、もう一度復興出来たようじゃな」

 

アレフガルドをもう一度復興させて、エンダルゴと戦う準備を進める。

それを達成してみんなに元気な姿を見せることが出来て、本当に良かったぜ。

 

「厳しい戦いの連続だったけど、何とかなった。強力な装備や兵器も、いくつも手に入れて来たぞ」

 

アレフガルド中で手に入れた装備や兵器と、これから開発する伝説を超えた武器、その全てを活用してエンダルゴやアレフに挑もう。

再会を喜んだ後ゆきのへは、伝説を超える武器の開発状況について話す。

 

「こっちもあれから開発を続けて、もう少しで伝説を超えた武器の作り方を思いつけそうだぜ。お前さんが戻って来るまでにはと思っていたが、もう少し待っていてくれ」

 

「ワタシもアレフガルドを巡る中で、修行を続けてきた。開発を手伝わせてくれ、親方」

 

伝説の超える武器…どれだけの強さになるのか楽しみだな。

各地で修行を続けて来たヘイザンは、一緒に開発を行いたいとゆきのへに言う。

俺から見るとヘイザンは既に伝説の鍛冶屋を継げるほどの腕前を持っており、ゆきのへも納得していた。

 

「ワシの家系の技術を継ぐお前さんの力もあれば、さらに強力な武器になるはずだからな、もちろんいいぜ。修行の成果を、ワシに見せてくれ」

 

「武器の作り方が分かったら、すぐに教えてくれ。ビルダーの力で完成させるぞ」

 

これから武器の開発を行なうとする鍛冶屋の二人に、俺はそう言う。

みんなと協力して、闇に満ちたこの世界を少しでも明るく変えていこう。

 

「もちろんだぜ。またこれからよろしく頼むぞ、雄也。さっそく工房に向かうぜ、ヘイザン」

 

あいさつの後、ゆきのへとヘイザンは城内の工房へ向かっていく。

俺もここまで舟を漕いできて疲れたので、みんなとの再会のあいさつを済ませた後、教会の中に入って休んでいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode199 魔法台の記録

ラダトームに戻って来てから数時間後も、俺は教会のベッドで休んでいた。

ゆきのへとヘイザンが伝説を超える武器を思いつくまで、まだ時間がかかるだろう。

トロルギガンテとの戦いの疲れもまだ完全には取れていないので、今日一日はゆっくり休もうと思っていた。

しかし、教会の中にムツヘタが入って来て、話しかけてくる。

 

「雄也よ。そなたに頼みたいことがあるんじゃが、少しいいか?」

 

「もちろんいいけど、どうしたんだ?」

 

ムツヘタも、エンダルゴやアレフとの戦いに役立つ物を思いついたのだろうか。

そこまで大変なことでもなければ今から出来るので、俺はムツヘタの頼みを聞くことにする。

 

「この前わしは占いの間で魔法台を使っていたのじゃが、妙なことに気づいたのじゃ。精霊ルビスを失ったことで世界中に闇が満ちておるが、その中でも特に闇の力が集中しておる場所がある。不思議なことに、そう言った場所が2つあるのじゃ」

 

闇の力が集中している場所…一つは闇の力の集合体である、エンダルゴの城だろう。

だが、そう言った場所が2つあるというのは、確かに妙なことだな。

魔物たちの行動で、俺たちが知らないものがまだあるのだろうか。

 

「片方はエンダルゴの城だと思うけど、もう一つは何なんだ?」

 

「もう一つについては、わしもまだ詳しい場所を特定出来てはおらぬ。じゃがおそらくは、エンダルゴと闇の戦士が別の拠点を持っているということじゃろう」

 

理由までは分からないが、エンダルゴとアレフが別の拠点を持っていると考えると、闇の力が集中している場所が2つあったとしても納得だな。

ラダトームの時もサンデルジュの時もムツヘタはアレフの捜索を行ってくれていたが、今回もまた探さなければいけなさそうだ。

ムツヘタはアレフの居場所をいち早く突き止めるため、今のシャナク魔法台を強化したいと俺に言う。

 

「そこでじゃ、わしはシャナク魔法台を強化し、闇の戦士の居場所を早く突き止められるようにしたいと思っておる」

 

「それで、俺に素材を集めて来て欲しいのか?」

 

魔法台を強化するためには、どんな素材が必要になるのだろうか。

だが、ムツヘタはまだ強化方法を思いついてはおらず、魔法台を改良する手がかりを求めているようだった。

 

「いや、わしもまだ改良方法を思いついてはおらぬのじゃ。あの魔法台の構造は、わしにも分からぬところが多くてな。そなたは確か魔法台を、ここの西の地方のどこかから持ってきておったな。そこに何か、魔法台の構造を示す物はなかったか?」

 

そう言えばこの魔法台はドラゴンの生息する洞窟から持ってきた物だから、ムツヘタも詳しい作り方や構造は知らなかったみたいだ。

シャナク魔法台が置いてあった場所には開発者の手記が残されていたが、魔法台の作り方や構造を示したメモもあったかもしれないな。

魔法台は強化した方がいいだろうし、その洞窟に行って確かめて来よう。

 

「よく覚えてないけど、これから見に行ってくるぜ。少し待っていてくれ」

 

戦いは特になさそうなので、これから向かっても大丈夫そうだ。

そう言うと、ムツヘタは今は旅のとびらでラダトームの西の地域に向かうことは出来ないと教えてくれる。

 

「魔物たちによって仮拠点にあった旅のとびらが破壊されたようで、歩いて向かうことは出来なくなっておる。お主が作った、小舟とやらを使って行くのじゃぞ」

 

「ああ、分かった」

 

ラダトームの西の地域はエンダルゴの城がある場所でもあるし、人間が簡単に近づけないようにしたみたいだな。

時間はかかってしまうが、小舟で向かうしかなさそうだ。

ムツヘタの話を聞いた後、俺は魔法台の記録を探しに教会を出て、小舟に乗るために海に向かっていった。

 

今回は一人で歩いているので、ほしふるうでわの力を使って素早く動くことが出来る。

ラダトームの平野には相変わらずスライムたちがうろついているが、俺は隠れながら海を目指していった。

 

「弱い魔物だけど、なるべく戦いは避けたいな…」

 

枯れ木や呪われた草などがたくさんあるので、隠れながら進むことは容易であった。

10分もかからずに俺はラダトーム城の南の海にたどり着くことができ、そこから小舟に乗ってラダトームの西の地域を目指していった。

まだ夕方になる気配はないので、夜までに戻って来ることが出来るだろう。

 

ラダトーム城の南から小舟を漕ぎ続けて1時間ほど経って、俺の目の前にラダトームの西の地域が見えてくる。

ここに来るのは今エンダルゴの城となっている岩山の城に潜入して以来なので、かなり懐かしいな。

上陸する前に、生息している魔物の様子も確認しておく。

 

「前に来た時はかげのきししかいなかったのに、強力な魔物が増えてるな…」

 

すると、以前はかげのきししか生息していなかったこの地域に、しにがみのきしやコスモアイといった強力な魔物が見かけられるようになっていた。

エンダルゴの城の近くだからだろうが、より気をつけて進まないといけないな。

俺は小舟から降りると、体勢を下げながら魔法台があった洞窟に歩いていく。

 

「確かあの洞窟がある岩山は、北の方にあった」

 

だいぶ前のことなのではっきりは覚えていないが、洞窟がある岩山はこの地域の北にあったはずだな。

俺は魔物から隠れながら、北を目指して進んでいった。

10分くらい歩き続けると、俺の目の前に白い岩で出来た低めの岩山が見えてくる。

 

「この岩山は、魔物がいないから探査しやすいな」

 

この前と同様に、北の岩山には全く魔物が生息していなかった。

なるべく早く洞窟を見つけようと、俺は岩山を登ると立って歩いていく。

ほしふるうでわの効果もあり、素早く岩山を調べて行くことが出来た。

そして、山の上を隅々まで調べているうちに、俺の視界に人間の死体が見えてくる。

 

「ん、あんなところで人が…!?」

 

俺は一瞬驚いたが、この前来た時にも、ここに死体が落ちていたことを思い出す。

食料も何もないラダトームに流れ着き、行き倒れてしまった男の物だ。

この男が書き残してくれたメッセージのおかげで、俺はシャナク魔法台が隠された洞窟を見つけることが出来た。

 

「そう言えば、この男の前に洞窟の入り口があったんだったか」

 

俺は男の死体に近づき、その隣にある洞窟の入り口を目指そうとする。

男は既に死後数ヶ月も経っているため、死体の一部が白骨化していた。

見ていて気分のよいものではないので、俺はすぐに洞窟の中に入っていった。

洞窟に入ると長い階段が置かれており、物音を立てないようにゆっくりと降りていく。

 

「かげのきしがうろついてるし、気をつけないとな」

 

以前入った時と同様、洞窟の中には何体かのかげのきしが生息していた。

この洞窟は周囲から隔絶されているし、奴らはエンダルゴやアレフにも会ったことがないのかもしれないな。

外部の状況を知らず、未だに竜王が生きていると思っている可能性もある。

今の装備なら簡単に倒せるだろうが、念のため隠れながら進んでいく。

 

「火をふく石像もあるけど、回収はやめておこう」

 

この洞窟には2つの火をふく石像があるが、物音を立てないために、回収せずに奥に向かっていった。

今は火をふく石像よりも強力な設備がいくつもあるので、なくても大丈夫だろう。

火を吐かれないように、正面に立たないようにしていく。

そうして奥まで歩いていくと、最深部の研究室の入り口のとびらと、その前に立ちふさがるドラゴンの姿が見えてきた。

 

「そう言えばここにドラゴンがいたな…今も寝てるから、起こさないように進もう」

 

この前と同様、ドラゴンは眠っており俺に気づいていなかった。

ドラゴン系の魔物とは戦い慣れているが、ここの狭い通路で戦うのはかなり難しそうだな。

俺は起こさないように慎重に歩いていき、ゆっくりと研究室の扉を開ける。

 

潜入に慣れていることもあり、ドラゴンに気づかれることなく魔法台の研究室に入ることが出来た。

魔法台は既に俺が回収しているので、残っているのはかがり火と、魔法台の研究を行っていた人間が書いた紙だけだ。

 

「何とか気づかれずに入れたな…魔法台の記録は残ってるか?」

 

魔法台の研究記録を手に入れるため、俺は研究者が書いた紙を調べていった。

表側にはこの前来た時も読んだ研究者の手記と、せいすいの作り方が書いてある。

ここにはシャナク魔法台について書かれていないが、研究者が記録を残さなかったということはないだろう。

 

「こっちには書いてないけど、裏側を見てみるか」

 

魔法台を強化しなければ、アレフの居場所を突き止めるのに時間がかかってしまう。

俺は研究記録が書いてあることを願い、紙を拾って裏側を見てみた。

 

すると、そこにはシャナク魔法台の絵と、その細かい作り方を示した文章が書かれていた。

研究記録が失われてしまったのではないかと不安にも思ったが、無事だったみたいだな。

 

「やっぱり裏側に書いてあったか。これを持ち帰って、ムツヘタに見せよう」

 

恐らく研究者は先にシャナク魔法台の記録を書き、その反対側にせいすいの記録と手記を残したのだろう。

俺は魔法台の研究記録をポーチにしまい、また慎重にとびらを開けて、ドラゴンを起こさないようにしながら来た道を引き返していく。

 

「ドラゴンはまだ寝てるか…帰り道も気をつけていこう」

 

ドラゴンを起こさずに進んだ後も、俺はかげのきしに警戒しながら入り口へと向かっていく。

洞窟の中にある岩にも隠れながら、足音を立てずに歩いていった。

そうして数分経って魔法台の洞窟から出ると、俺はラダトームに戻って行こうとする。

 

「研究記録も手に入ったし、無事に出られたな。夜になる前にラダトーム城に戻って、ムツヘタに見せよう」

 

洞窟を出たころには夕方になっており、俺は帰りを急いでいった。

ブロックを使いながら岩山を降りていき、山を降りると海に出て小舟を漕ぎ出していく。

また1時間くらいでラダトーム城の南にたどり着くことができ、そこから歩いて城の中に戻っていった。

 

ラダトーム城に戻ってきたころには、もうすぐ日暮れという時間になっていた。

ムツヘタはまた占いの間にいるだろうから、俺は大声を出して彼を呼び出す。

 

「ムツヘタ、魔法台があった洞窟に行ってきたぞ!」

 

「よくやったのじゃ、雄也。それで、シャナク魔法台の記録は見つかったか?」

 

ムツヘタは一度休んでいたようで、俺の声を聞くと教会の中から走って出てきた。

魔法台の記録が残っていたかは、ムツヘタも不安に思っていたようだな。

俺はポーチの中から研究記録を取り出し、ムツヘタに見せる。

 

「ああ。あっちの地域は強い魔物も増えてたけど、無事に手に入ったぞ」

 

「魔法台の細かい構造が分かれば、改良する方法も思いつけるじゃろう。方法が思いついたら、すぐにそなたに教えよう」

 

ムツヘタは研究記録を受け取り、書かれていることを隅々まで読んでいく。

彼がシャナク魔法台の強化方法を思いつくまでには、もう少し時間がかかるだろう。

アレフとも今度こそ決着をつけなければならないし、ムツヘタから作り方と必要な素材を聞いたら、すぐに作りに行こう。

 

「ああ、頼んだぞ」

 

俺はムツヘタにそう言うと、体を休めるためにまた教会に戻っていった。

往復で2時間も小舟を漕いで、かなり腕が疲れたからな。

俺との話を終えた後、ムツヘタは研究記録を読み解くのに集中するため、占いの間に入っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode200 常闇の進軍(前編)

魔法台の記録を手に入れた翌日、ラダトームに戻って来てから2日目の朝、俺は工房のマシンメーカーの前に立っていた。

トロルギガンテとの戦いでライフル弾を使い切ってしまったので、補充しなければならない。

ラダトームでの魔物との戦いも、相当厳しいものになるだろうからな。

 

「ラダトームにはミスリルがないし、はがねインゴットで作るか」

 

ブラッドミスリルはガライヤにしかない…わざわざ取りに戻るのも大変なので、はがねインゴットで弾丸を作っておこう。

はがねインゴットもかなりの硬さを持つので、大きく威力が下がることはないだろう。

俺は城の大倉庫からはがねインゴットを取り出し、ライフル弾に加工していった。

たくさんの弾が出来ると、俺は今日は何をしようかと思いながら外に出る。

 

そうして城の中を歩いていると、希望のはたのところにチョビやルミーラといった、魔物の仲間たちが集まっていた。

俺がラダトームに戻って来た時も集まっていたが、何を話しているのだろうか。

少し気になり、俺はチョビに話しかける。

 

「チョビ、みんな。ここに集まって、何の話をしてたんだ?」

 

「オオ、おはヨウございマス、雄也ドロル。実ハワタシみなサンに、人間二変身スル方法ヲ教えテいたのデス」

 

そう言えば人間に変身することが出来るのは、みんなの中でチョビだけだな。

どこで覚えたのかは知らないけど、それをみんなにも教えていたのか。

チョビが人間の姿に変身したのは、ドロルの姿では人々に嫌がられるのではないかと思ったからだったが、今ではすっかり人間の姿での生活になれているようだ。

 

「人間の姿での暮らしも楽しいって言われたから、ボクも興味が湧いたんだ」

 

「わたしはこのままでいいって思ってたけど、強く勧められたからね」

 

闇の力で変異したことでバルダスは身体が黒く染まり声も変わったが、口調は今までと同じだった。

バルダスたちから聞いたわけではなく、チョビの方から勧めていたみたいだな。

町の建物や設備は人間が使いやすいように設計されているので、人間の姿の方が暮らしやすいとチョビは感じていたのだろう。

 

「人間ノ姿デ暮らス楽しさヲ、みんなニモ知っテ欲しかッタのデス」

 

「そうだったのか。後どのくらいで、変身能力を手に入れられそうだ?」

 

暮らしが便利になる以外にも、どこかで役立つ時が来るかもしれないな。

前から変身の訓練を行っているようだが、もう少しで変身能力を手に入れられるのだろうか。

 

「もう変身は出来るが、数秒で元に戻ってしまう。チョビのようになるには、まだ時間がかかりそうだ」

 

俺が聞くと、ラグナーダはそう答える。

チョビがどのようにして変身能力を手に入れたかは知らないが、かなり苦労したことだろう。

みんなが変身した姿も見てみたいし、早く出来るといいな。

俺に手伝えることはなさそうだが、ルミーラたちを応援しようとする。

 

だがそんな時、監視塔からまわりを眺めているラスタンの、焦った大声が聞こえた。

 

「みんな、まずいことになった。また城の西から多くの魔物が近づいてきている。しかも今日は、闇を纏った魔物もいるぞ!」

 

城に戻った翌日なのに、もう魔物たちか襲撃してきたのか。

闇を纏った魔物ということは、変異体とも戦わなければならなさそうだな。

変異体を送り込んで来ると言うことは、エンダルゴたちは俺がラダトームに戻ってきたことをもう知っているのかもしれないな。

ラスタンの声を聞いて、さっそく武器の開発を行っていたゆきのへがハンマーを持って工房から出てきて、チョビは剣を構える。

 

「今の話は聞いてたな。雄也が戻って来た矢先にここを失うわけには行かねえし、戦いに行くぜ」

 

「変身ノ話ハ後にシテ、今ハ魔物ヲ倒し二行かナイと。行きマしょう、雄也ドロル、みなサン!」

 

「ああ、もちろんだ」

 

エンダルゴを倒す武器を開発するためにも、ラダトーム城を守り抜かないといけないな。

まだ魔物は城から離れた場所にいるだろうし、急いで倒しに行こう。

ルミーラとバルダスもそれぞれの武器を構え、城の外に走っていこうとする。

 

「せっかく作り上げた城なんだし、もう壊されたくないからね」

 

「どんな魔物が相手でも、ボクは戦ってやるんだ!」

 

変異したバルダスの攻撃は、かなり強力になっていることだろう。

ルミーラの弓の腕も、前より上がっているかもしれないな。

ラグナーダもサデルンとエファートを建物の中に避難させてから、戦いへと向かう。

 

「わしも戦いに行ってくる。おぬしたちは、建物の中に隠れているのだ」

 

「気をつけてくれ、長老」

 

「無事に戻って来てね」

 

サデルンとエファートは普通のおおきづちだし、流石にラダトームの魔物とは戦えないみたいだな。

心配する二人にうなずき、ラグナーダは大型の木槌を構えて魔物の群れのところに近づいていった。

監視塔を降りたラスタンを先頭にして、俺たちはラダトームを守る戦いに向かう。

 

「変異体以外にも、かなりの魔物がいるな…」

 

近づきながら見てみると、コスモアイとしにがみのきし、だいまどう、ブラバニクイーンが16体ずつ、ダースドラゴンとエビルトレントが8体ずつ、ボストロールとゴールデンドラゴンが4体ずつ、トロルキングが2体いた。

後方には黒い葉を持った巨大な樹の魔物もおり、合計95体の魔物が襲ってきている。

滅ぼしの騎士の時より数は少ないが、それでも決して油断出来ない相手だな。

 

「アレフガルドの2度目の復興で手に入れた物も使って、この城を守り抜こう」

 

でも、アレフガルドの2度目の復興の中で、俺はその時にはなかった技や兵器のたくさん手に入れている。

それらの力があれば、必ずラダトーム城を守り抜き、エンダルゴとアレフを倒しに行けるはずだ。

俺が参戦する中では4度目の、ラダトーム城の防衛戦が始まった。

 

監視塔を使ったことで、かなり遠くの魔物の動きを発見することが出来た。

俺たちは魔物の群れに近づいているが、まだ結構な距離がある。

接近して戦う前に出来るだけダメージを与え、魔物の数を減らすために、俺はスナイパーライフルを構えて奴らに向けた。

 

「スナイパーは結構強そうだし、試してみるか」

 

マイラではアサルトライフルしか使っておらず、こちらの威力はまだ分からないが、大きなダメージを与えられることは間違いないだろう。

俺は弾を詰めて狙いを合わせ、前衛にいるコスモアイの目玉を撃ち抜いていく。

奴の目玉は大きいので、離れた場所からも当てることが出来た。

弱点を貫かれたコスモアイは倒れはしなかったものの、怯んで動きを止める。

 

「かなり効いてるな…このまま撃って数を減らそう」

 

弱点に当てれば一撃で怯ませられるということは、やはりかなりの攻撃力だな。

数発当てれば倒せると思って俺はスナイパーライフルを何度も撃ち、コスモアイたちの身体を貫いていった。

4回目玉を撃たれると奴らは力尽き、青い光を放ちながら消えていく。

奴らに接近したころには、3体のコスモアイを倒すことが出来ていた。

魔物たちとの距離が近づくと、俺はアサルトライフルに持ち替えて攻撃していく。

 

「そろそろ近づいて来たし、今度はアサルトライフルを使うか」

 

アサルトライフルはスナイパーほど威力と射程距離はないが、連射が出来る。

敵との距離が縮まったら、こちらを使った方が有利だろう。

俺はまだ残っているコスモアイたちの目玉を狙って、アサルトライフルを撃ち放っていった。

目玉を外して触手などに当たることもあったが、それでも少しのダメージを与えることが出来た。

コスモアイを次々と倒していくと、奴らもこちらに接近して来て目から光線を放ってくる。

 

「あいつらも光線を使ってきたか…でも、今なら簡単に避けられるぜ」

 

だが、コスモアイの光線は何度も避けがことがあるし、今はほしふるうでわもある。

威力は高いだろうが、当たらずに攻撃を続けることが出来ていた。

素早く動きながらアサルトライフルを連射し、さらに奴らの数を減らしていく。

コスモアイが追い詰められているのを見て、その後ろにいたブラバニクイーンも突進で近づいて来ようとしていた。

コスモアイとブラバニクイーンを同時に相手するのは、少し厳しいことになりそうだ。

 

「後ろの魔物も近づいて来てるね…わたしも手伝うよ!」

 

「ああ。一緒にコスモアイを倒しきるぞ」

 

だが、奴らの様子を見て、俺の後ろにいたルミーラも弓での攻撃を始める。

力を溜めて弓を撃ち放ち、俺と同様にコスモアイの目玉を貫いていった。

ほとんどが目玉に命中しており、射撃の精度は俺をはるかに上回っている。

俺がアレフガルドを回っている間、みんなも強くなっているみたいだな。

 

「残り少なくなって来てるな…このまま全員撃ち落とそう」

 

コスモアイが残り少なくなり、ブラバニクイーンは突進の速度を上げる。

俺たちも射撃の手を緩めず、コスモアイたちの目への攻撃を続けていった。

 

しかし、奴らを倒しきる前にブラバニクイーンは突進を当てて、俺たちを角で突き刺そうとして来る。

俺とルミーラに集中しているので、腕輪を装備している俺はともかく、ルミーラはかなり危険だな。

だがそう思っていると、ブラバニクイーンの目の前で、突然大きな闇の爆発が起こる。

 

「ん?何が起こったんだ?」

 

ドルモーアほどの威力はなかったが、突然の爆発で奴らは動きを止める。

俺が驚いていると、闇の侵蝕を生き延びたバルダスが、自分が手に入れた新たな力だと言った。

 

「闇の侵蝕から助かった後、使えるようになったんだ。雄也とルミーラは今のうちに、コスモアイを倒して!」

 

そう言えば本来魔法を使えない種族でも、変異体は闇の魔法を使っていたな。

奴らと同じ存在になったバルダスにも、魔法が使えるようになったみたいだな。

バルダスの魔法から立て直したブラバニクイーンは再び突進しようとするが、ゆきのへたちが奴らに殴りかかって止める。

 

「こいつらはワシらが止めてやるぜ!」

 

ゆきのへたち4人は、それぞれ4体ずつのブラバニクイーンを引き付けていた。

これで、俺とルミーラを狙っているのは残り少ないコスモアイだけになる。

俺はバルダスやゆきのへたちに感謝して、奴らに弾を撃ち続けていく。

 

「みんなありがとう。コスモアイを倒したら、すぐに援護するぞ」

 

「他の魔物も近づいて来ているし、急ごう雄也」

 

しにがみのきしやだいまどうもこちらに向かっており、まだ急がなければならない。

だが、生き残っているコスモアイも今までの攻撃で弱っているので、すぐにとどめを刺すことが出来た。

俺のライフルとルミーラの弓で、次々に奴らは撃ち落とされていく。

コスモアイを倒しきると、俺とルミーラはブラバニクイーンと戦っているみんなを助けに行った。

 

「これでコスモアイは全員倒したな…ブラバニクイーンも倒して、後ろの魔物との戦いに備えよう」

 

アレフガルドの2度目の復興で手に入れた武器、みんなの新たな力のおかげで、ここまでの戦いはかなり順調に進んでいる。

変異体の樹の魔物も、このまま倒せるといいな。

俺はそう思いながら、一番近くにいたゆきのへを助けにいった。

ゆきのへは4体のブラバニクイーンの突進を避けながらハンマーで反撃しており、奴らを弱らせることが出来ている。

 

「ゆきのへ、コスモアイは倒して来たぞ。一緒にこいつらと戦おう!」

 

俺はゆきのへと戦っている4体の奴らのうちの2体に、ビルダーハンマーとビルダーアックスを叩きつける。

ビルダーの名を冠する武器の強力な一撃を食らった2体は、大きく怯んで動きを止めていた。

2体の動きが止まったところで、ゆきのへはまだ動いている奴らに攻撃を集中させていく。

 

「もうあいつらを倒したのか。ワシはこっちの2体を倒すから、雄也はそっちを頼んだぜ」

 

「ああ、分かった」

 

ゆきのへの連続攻撃を受けて、ブラバニクイーンたちは追い詰められて来ていた。

俺も両腕の武器を振り回し、怯んだ奴らにさらなる攻撃を与えていく。

このまま倒せるかと思ったが、ブラバニクイーンも体勢を立て直し、身体中に力を溜めて突進して来ようとする。

 

「また突進だな…確実に避けて反撃しないと」

 

弱っているとはいえブラバニクイーンの突進はかなり攻撃力が高いので、俺は大きくジャンプして確実に回避していく。

突進の後は隙が出来るので、俺はそこで奴らにまた攻撃を叩き込んでいった。

さらに弱らせていくと、突進のスピードも大きく下がっていく。

 

「かなり弱って来てるな…コスモアイみたいに、こいつらにもさっさととどめを刺すぜ」

 

しにがみのきしたちも、かなり俺たちのところに近づいて来ていた。

乱戦になるのは避けたいので、ブラバニクイーンたちはここで倒しておかないとな。

俺は弱ったブラバニクイーンたちに両腕の武器を思い切り叩きつけ、大きなダメージを与えて動きを止める。

そして、動きを止めたところで両腕に力を溜めて、一回転して敵を薙ぎ払う。

 

「回転斬り!」

 

追い詰められていたところで回転斬りを受けて、奴らは力を失って倒れて消えていった。

ゆきのへもブラバニクイーンを倒しきり、近づいて来るしにがみのきしの方を見る。

バルダスもルミーラの援護を受けて、奴らを倒しきることが出来ていた。

 

「バルダスたちも倒したみたいだし、かなりうまく行っているな。しにがみのきしたちも倒して、城を守り抜くぞ」

 

「ああ。厄介な魔物も多いが、このまま倒して行くぜ」

 

しにがみのきしやだいまどうも戦いなれた魔物なので、そんな苦戦せずに倒せるだろう。

俺がそう思いながら武器を構えていると、だいまどうたちがメラミやベギラマの呪文で攻撃して来る。

 

「ビルダーに城の人間ども!エンダルゴ様とアレフがいる限り、お前たちに未来はない!メラミ!」

 

「エンダルゴ様に逆らうことも出来ず、お前らはここで焼き尽くされるのだ!ベギラマ!」

 

だいまどうの放つ火球は大きいが、詠唱時間もあるし火球の飛ぶ速度もそんなに早くはない。

しかし、しにがみのきしとの戦いを妨害されると、厳しい状態に陥るかもしれないな。

ラスタンとチョビも、まだブラバニクイーンと戦っている途中だ。

俺はまずだいまどうを倒して行こうと、再びアサルトライフルを構えて撃ち放つ。

 

「だいまどうの遠距離攻撃は厄介だな…こっちも遠距離攻撃を使って倒してやろう」

 

「わたしはあっち側のだいまどうと戦うね」

 

中央にしにがみのきしがおり、その左右にだいまどうがいるという形だ。

俺はサブマシンガンで左の奴らを、ルミーラは弓で右の奴らを狙って攻撃していく。

ここまで苦戦していないが、俺たちは警戒を怠らずに魔物たちとの戦いを進めていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode201 常闇の進軍(後編)

俺とルミーラはメラミやベギラマを避けながら、だいまどうに向けて攻撃を続けていく。

やはりかなり大きな火球だが、奴らの動きを見てジャンプすれば回避するのはそう難しくはなかった。

だいまどうはコスモアイより耐久力が低く、頭を撃ち抜かれると5、6発ほどで倒れていく。

 

「まだ弾はたくさんあるし、このまま全員倒してやろう」

 

今朝たくさん作ってきたので、アサルトライフルの弾もまだたくさん持っている。

次々にライフルを撃ち続けていき、だいまどうの数を減らしていった。

ルミーラも正確な射撃で、奴らの身体を貫いていく。

 

「人間ども、抵抗はもう諦めろ!」

 

「我らが貴様らを叩き斬ってやろう!」

 

16体のしにがみのきしのきしたちも、俺たちに向かって斧を振り上げて近づいてきた。

だが、奴らの移動はブラバニクイーンよりは遅く、俺たちは奴らが来る前にだいまどうを倒し切ろうとする。

 

「あいつらが来る前に、だいまどうを倒しきっておかないとな」

 

だいまどうも魔力のある限り呪文を唱えて攻撃して来て、俺はかわし続けるうちに体力を消耗してしまうが、腕輪のおかげもあってさほど動きは鈍らなかった。

なるべく奴らの頭に当てるように射撃し、残った体力を削り取っていく。

だいまどうが全て倒れると、俺はハンマーと斧に持ち替えて、しにがみのきしの攻撃に備える。

 

「これでだいまどうは終わったか…しにがみのきしの奴らも、このまま倒そう」

 

「16体もいるからな…手分けして倒すぜ」

 

しにがみのきしが近づいて来ると、ゆきのへやバルダスも再び武器を構えて戦いに向かう。

俺もゆきのへにうなずくと、4体の奴らに武器を叩きつけ、注意を引き付けた。

しにがみのきしたちは俺に強い怒りを持ちながら、斧を叩きつけて来る。

 

「だいまどうも倒したか、ビルダー…!どこまでも忌わしき奴め!」

 

「貴様を滅ぼして、世界中を魔物の楽園にしてくれる!」

 

奴らは腕に力をこめて攻撃して来るので、相当威力が高そうだった。

だが、攻撃速度は今までの個体と変わらないので、攻撃の後の隙に武器を叩きつけることが出来る。

ビルダーハンマーやビルダーアックスなら奴らの硬い鎧にも簡単にダメージを与えることが出来るので、何度も攻撃を続けることで、大きく体力を削り取っていく。

 

「攻撃力はすごいけど、動きは見慣れてるな」

 

戦い慣れた魔物でもあるので、さらに対処するのは容易であった。

ルミーラたちのところにもしにがみのきしは斧を振り回して来るが、みんなうまく対応出来ている。

 

「ビルダーに味方する者め!貴様も一緒に始末してやる」

 

「魔物でありながら人間に味方する者…貴様のような存在は許されない!」

 

怒りを強めているということは、魔物たちもかなり追い詰められて来ているのだろう。

それならなおさら負けるわけにはいかないし、戦い慣れた魔物とはいえ油断せずに攻撃していく。

強力な武器での攻撃を続けたことで、しにがみのきしはだいぶ弱ってきていた。

 

「弱ってるけど、慎重にいかないとな」

 

弱っているとはいえ、奴らは攻撃の手を緩めず俺を斧で叩き斬ろうとして来る。

だが、それでも攻撃速度は落ちてきているので、俺は確実にかわしながら残った体力を削り取っていった。

みんなもそれぞれの武器で、しにがみのきしを追い詰めていく。

ダースドラゴンも迫って来ていたが、ブラバニクイーンを倒し終えたラスタンとチョビが、奴らを止めに行っていた。

 

「我らを追い詰めたところで、後ろにはドラゴンたちもいる!」

 

「我らの斧とドラゴンたちの炎で、貴様らは滅ぼされることになるのだ!」

 

「私もこちらの魔物を倒した…お前たちの思い通りにはさせないぞ」

 

「ダースドラゴンヲ引き付けテ、みなサンを守りマス!」

 

ラスタンとチョビは2体ずつダースドラゴンを引き付けて、俺たちのところに来るのを防ぐ。

奴らも炎や鋭い爪で二人を攻撃していたが、素早い魔物ではないのであまり苦戦はしていなかった。

しかし、ダースドラゴンは8体いるので、残りの4体は引きつけることが出来ず、俺たちのところに近づいて来る。

ラスタンたちのおかげで俺たちのところに来るダースドラゴンの数は減ったが、少しでも奴らが来たら戦いは苦しくなるので、その前にしにがみのきしを減らそうとする。

 

「二人だと抑えきれなかったか…ダースドラゴンが来る前に、こいつらを出来るだけ倒しておこう」

 

俺は今までしにがみのきし4体ともを均等に攻撃していたが、1体でも減らせるよう、1体に集中して攻撃を仕掛けていく。

集中攻撃を受けているしにがみのきしもまわりの奴らも抵抗を強めて来るが、回避出来ないほどの攻撃は行って来なかった。

 

「我らを倒そうとしても無駄だ!ビルダーめ、滅びを受け入れるがいい!」

 

「こいつらの攻撃も強まってるけど、倒せないほどじゃないな」

 

素早く動いて奴らの斧を避けつつ、鎧に向かって何度も両腕の武器を叩きつけていく。

弱っているところに連続攻撃を受けて、しにがみのきしは生命力を失って消えていった。

1体しにがみのきしが倒れると、俺はすぐに次の奴への集中攻撃を始めて、数を減らそうとしていった。

ゆきのへたちもダースドラゴンが来る前に、少しでも奴らの数を減らそうとしている。

ダースドラゴンが到達する頃には、俺の前にいるしにがみのきしは2体になっていた。

 

「ダースドラゴンが来たか…しにがみのきしは残り2体に減らせたし、こいつも順調に倒せそうだな」

 

残ったしにがみのきしも、先ほどまでの攻撃でかなり消耗している。

ダースドラゴンとは戦い慣れているので、これならあまり苦戦することはないだろう。

ダースドラゴンは俺に近づくと、鋭い爪を振り下ろして攻撃して来る。

当たったら危険だろうが、悠久の竜の時ほどの攻撃速度も範囲もないので、かわして反撃することが出来た。

 

「まだ倒れないのか、ビルダーめ…!どこまでもしぶとい奴め!」

 

「絶望に沈め、ビルダー!」

 

しにがみのきしの動きも鈍っているので、3体同時でも相手することが出来る。

まずは生命力の低いしにがみのきしから倒し、それからダースドラゴンにダメージを与えようとした。

両腕の武器での攻撃を続けていくと、2体のしにがみのきしもだんだん追い詰められていく。

怯んで動きを止めることもあり、俺はその間にさらなる攻撃を続けていった。

俺もゆきのへたちもしにがみのきしを倒しきることができ、ダースドラゴンとの戦いに集中していく。

 

「これでしにがみのきしも倒れたな…ダースドラゴンとの戦いに集中しよう」

 

ダースドラゴンにも少し攻撃を与えており、このまま攻撃を続ければ倒せるだろう。

しにがみのきしがいなくなると炎を吐いて攻撃して来たが、そこまで攻撃範囲が広いわけでもないので、俺はジャンプを使わずにかわし、さらなるダメージを与えていく。

生命力の高い魔物ではあるが、少しずつ弱って来ているようだった。

 

「生命力は高いけど、このまま押し切れそうだ」

 

ゆきのへとバルダスもハンマーで奴の爪を潰し、ルミーラも弓で頭を撃ち抜いて攻撃している。

遠距離武器を持つルミーラには大きな火球を飛ばしての攻撃も行っていたが、まだうまくかわすことが出来ていた。

ラスタンたちも、2体のダースドラゴンを追い詰めることが出来ている。

だが、戦いを進める俺たちのところに、後衛のゴールデンドラゴンやエビルトレントも近づいて来ていた。

 

「でも、ゴールデンドラゴンたちも近づいて来ているな」

 

奴らはダースドラゴンより強力なので、大勢に囲まれるとまずいことになるな。

特に2体のダースドラゴンと戦っているラスタンとチョビは、危険な状況になるだろう。

ゴールデンドラゴンたちが来る前に二人を助けに行こうと、俺はまず目の前にいるダースドラゴンを急いで倒そうとする。

 

「極げきとつマシンを使って、こいつを早く倒すか」

 

このダースドラゴンは既に俺の攻撃で傷を負っているので、極げきとつマシンで突撃したら絶大なダメージを与えられ、その場で倒れるか瀕死になるだろう。

せっかくマイラで作った最強の兵器なんだ、ラダトームでも役立てないとな。

俺は走ってダースドラゴンから距離を取り、すぐにマシンに乗り込む。

そして、奴に追いつかれる前にすぐに発進し、頭に向かって突撃していった。

 

「これであんたを倒して、みんなを助けに行ってやるぜ」

 

ダースドラゴンは火を吐いて来ようともするが、頭にマシンの角が刺さるまでに間に合わない。

頭を5本の硬く鋭い角で突き刺され、奴は大きく怯んで動きを止めていた。

俺もすぐにマシンから降りて、両腕に全身の力を溜め始める。

 

「倒しきれなかったけど、これで終わりだな」

 

飛天斬りも、アレフガルドの2度目の復興の中で手に入れた強力な技だ。

弱っているところにこれを受ければ、ダースドラゴンも耐えきれないだろう。

俺は両腕に力が溜まりきると、大きく飛び上がって両腕の武器を垂直に叩きつける。

 

「飛天斬り!」

 

二刀流での飛天斬りを受けて、ダースドラゴンは力尽きて消えていった。

奴が倒れると、俺は再び極げきとつマシンに乗り込み、まずはラスタンを助けに向かう。

ラスタンと戦っているダースドラゴンのうちの1体の背後に迫り、思い切り加速して突撃していった。

 

「これで突撃して、ラスタンを助けに行ってやるぜ!」

 

背後から鋭い5本の角で突き刺され、ダースドラゴンは大きなダメージを受ける。

ラスタンの攻撃で既に弱っていた奴は、そのまま光を放って消えていった。

突然現れた新兵器でダースドラゴンが倒されたことに、ラスタンも驚いている。

 

「助かったぞ、雄也!しかし、その変な形の兵器は…?」

 

「アレフガルドを回っている間、マイラで作ってきたんだ。次はこれでチョビを助けにいく」

 

そう言えばラスタンは、げきとつマシンを見るのは始めてになるんだな。

詳しい説明をしている時間はないので、俺はマイラで作ってきたことだけを伝えて、今度はチョビのことを助けに行った。

残りのダースドラゴンも既に弱っているので、ラスタンだけですぐに倒すことが出来るだろう。

極げきとつマシンをまた発進させて、今度はチョビと戦っているダースドラゴンのうちの1体に突撃していく。

こちらのダースドラゴンももう弱っているので、極げきとつマシンを使えばすぐに倒せるだろう。

 

「チョビ、新兵器を使って援護しに来たぞ!」

 

そうチョビに言いながら激突すると、案の定奴は力尽きて、倒れて消えていった。

チョビも極げきとつマシンに驚いていたが、すぐに戦いに戻って、残ったダースドラゴンを攻撃していった。

 

「オオ、雄也ドロル!すごイ兵器ですネ!」

 

「俺は先にゴールデンドラゴンと戦いに行く。チョビもそいつらを倒したらすぐに来てくれ!」

 

チョビに関しても、残ったダースドラゴンをすぐに倒すことが出来るだろう。

俺は二人より先に、ゴールデンドラゴンと戦いに行こうとする。

ゴールデンドラゴンたちは俺が近づいて来ると、炎を吐きながら攻撃して来る。

ダースドラゴンのものより攻撃範囲が広いので、俺はジャンプも使いながら回避して近づき、両腕の武器を叩きつけた。

すると、最初は俺の近くにいた2体が爪を振り下ろして攻撃して来る。

 

「ダースドラゴンより動きは早いけど、まだ対処は出来るな」

 

ダースドラゴンより動きは素早いが、まだ回避しながら反撃することが出来ている。

ゴールデンドラゴンも生命力の高い魔物だが、ビルダーの名を冠する武器で少しずつ体力を削っていった。

怯むことはなかなかないが、だんだん弱っては来ているだろう。

2体が攻撃を受けているのを見て、他の2体のゴールデンドラゴンも近づいて来ていた。

 

「4体に囲まれたか…でも、まだ何とか回避出来るな」

 

以前の俺だったら、4体のゴールデンドラゴンに囲まれたら危機的状況になっていたな。

だが、ほしふるうでわを装備し、ここまでの戦いを生き延びて来た今の俺なら、まだ攻撃を受けることなく戦うことが出来ていた。

4体を次々に攻撃していき、生命力を削り取っていく。

ここでラスタンたちもダースドラゴンを倒し終えて、ゴールデンドラゴンと戦いに来た。

 

「先ほどは助けてくれて感謝する。私も雄也を援護するぞ」

 

「手分けシテ、ゴールデンドラゴンヲ倒しマショう!」

 

二人の助けもあり、6体のゴールデンドラゴンを2体ずつ相手することになる。

再び目の前にいる奴らが2体になったので、俺たちは攻撃の手を強めていった。

さっきの攻撃もあって、まだ動きが鈍ってきたりはしないものの、追い詰めることが出来ているだろう。

ラスタンやチョビもゴールデンドラゴンの動きに対処して、少しずつダメージを与えることが出来ていた。

 

「みんなで戦えば、ゴールデンドラゴンも倒せそうだな」

 

まだ攻撃を受けてはいないが油断せず、両腕の武器を振り回していく。

俺たちがゴールデンドラゴンと戦っている間に、ゆきのへたち3人もダースドラゴンを倒し終えていた。

ダースドラゴンを倒したゆきのへたちは、エビルトレントと、その変異体と思われる暗黒の樹の魔物のところに向かっていく。

 

「ワシらもダースドラゴンを倒したぜ、雄也。ワシらはこれから樹の魔物どもを止めに行くぜ」

 

「ああ、頼んだ」

 

俺はゴールデンドラゴンと戦いながらも、ゆきのへに返事する。

エビルトレントはみんなも戦い慣れているが、変異体は気をつけなければいけないな。

魔物の軍勢をかなり追い詰めてはいるが、まだ安心することは出来なかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode202 黒葉の大樹

ゆきのへたちの姿を見て、8体のエビルトレントと変異体も彼らに近づいていく。

ゆきのへとルミーラのところには3体のエビルトレントが、バルダスのところには2体と変異体が向かっていた。

バルダスも変異体となっているので、奴らも警戒しているみたいだな。

3人の無事を祈って、俺はゴールデンドラゴンとの戦いを続けた。

 

「かなり攻撃してるはずだけど、やっぱりすごい生命力だな」

 

先ほどまでの攻撃もあって弱っているはずだが、奴らはまだ倒れる気配を見せない。

ラスタンとチョビも、まだ怯ませることも出来ていなかった。

しかし、ダメージが入っていることは間違いないので、気をつけて攻撃を続ければ問題なく倒せるだろう。

腕に力をこめて、出来るだけ1度に多くのダメージを与えられるようにする。

 

「弱ってはいるはずだし、少しずつ削っていくしかないか…」

 

俺の体力にもまだ余裕はあるので、動きが鈍って来ることもなかった。

3体のエビルトレントと戦っているゆきのへはハンマーで枝を弾き返したりしながら攻撃し、ルミーラは奴らが唱えるドルモーアの呪文をジャンプで避けながら弓を撃ち続けている。

しかし、変異体に狙われているバルダスは少し苦戦しているようだった。

 

「この樹の魔物、素早くて強いな…」

 

変異体は枝も大きいので攻撃範囲が広く、攻撃速度も他のエビルトレントより速い。

バルダスも変異体となって攻撃力も上がっているだろうが、エビルトレントの変異体の枝を弾き返せるほどにはなっていないようだった。

まだ攻撃を食らってはいないが、あまり反撃出来ていなかった。

そんなバルダスのところに、ボストロールたちも近づいて来る。

 

「人間と人間に味方する魔物どもめ!よくも我らをここまで追い詰めたな!」

 

「ここまで諦めない心は素晴らしい…だが、その心ごと打ち砕いてやる!」

 

俺はボストロールとは戦い慣れているし、ゴールデンドラゴンと同時でも何とか戦えるかもしれない。

しかし、ただでさえ苦戦しているバルダスのところに来たら、危険な状態になってしまいそうだ。

何とかそれまでにエビルトレントの数を減らし、バルダスを援護しに行かなければならないな。

 

「このままだとバルダスが危ないけど、まだ助けに行けないな…どうすればいいんだ?」

 

だが、俺はまだゴールデンドラゴンと戦っているし、みんなも助けに行ける状態ではない。

ボストロールの後ろのトロルキングまで来たら、バルダス以外も危ないかもしれないな。

極げきとつマシンは激突後の隙が大きいので、1対1の状況でしか使いにくい。

何とか魔物の軍勢に強烈なダメージを与えられないかと、俺はゴールデンドラゴンと戦いながら考えていた。

 

「そう言えばこの城には、昔作った六連砲台があったな」

 

そこで俺は、ラダトーム城の前に設置してあった六連砲台のことを思い出した。

ラスタンたちが考えた三連大砲と、アメルダが考えた二連砲台を合わせたもので、普通の大砲の6倍のダメージを魔物に与えることが出来る。

滅ぼしの騎士と戦った時にも、奴の手下の魔物を六連砲台で殲滅していたはずだ。

それに今回は、マイラで作ってきた赤魔の砲弾がある。

 

「あれで赤魔の砲弾を撃ったら、相当な威力になりそうだぜ」

 

あの時は普通の砲弾を使っていたので、さらに威力が高くなることだろう。

アレフガルドの2度目の復興で手に入れたものを活用して、俺たちは魔物と戦っている。

これも使えば、魔物の軍勢に一気に壊滅的なダメージを与えられそうだな。

敵を城に近づけてしまうことにもなるが、バルダスたちの命の方が優先だ。

俺は大声を出して、みんなに六連砲台の使用を知らせた。

 

「みんな。バルダスが危険な状態に陥っているし、ボストロールたちも迫って来ている。六連砲台を使って一気に倒すから、城の方に走ってくれ!」

 

「分かったぞ、雄也。あれは強力な兵器だから、こういう時こそ使わないとな」

 

ラスタンはそう言って、ゴールデンドラゴンとの戦いを中断して城の方に走る。

チョビたちもそれに続いて走り出し、バルダスも一瞬の隙を見計らって変異体たちのところから抜け出し、追いつかれないように必死に走っていた。

 

「城まで行ったら強力な兵器がある…それまで逃げ延びるんだ!」

 

バルダスは変異の影響で身体が大きくなり、走る速度も上がっていたが、ゆきのへやラスタンに比べると遅かった。

俺はバルダスが追いつかれないことを願って走り、城の六連砲台に向かっていく。

その途中、赤魔の砲弾をラスタンに2つ、ゆきのへに1つ渡しておいた。

 

「これがマイラで作った新しい大砲の弾だ。ラダトーム城まで戻ったら、これをすぐに大砲に詰めてくれ」

 

「赤黒い見た目をしているな…どれだけの威力かは分からないが、分かったぞ」

 

「ワシが知らないうちにこんな物も作っていたのか…すごい攻撃力なのを期待してるぜ」

 

ラダトーム城に着いたら俺が右の大砲に、二人が左の大砲に赤魔の砲弾を詰める。

手分けして弾を詰めた方が、早く発射することが出来るからな。

弾を詰めるのに時間がかかっていたら、ドルモーアで砲台が破壊されてしまうかもしれない。

赤魔の砲弾は俺も使うのは初めてなので、どのくらいの威力になるかは分からないが、少しでも多く魔物の数を減らせるといいな。

 

「城に着くまでの間にも、少しでもダメージを与えておくか」

 

迫って来る魔物は生命力が高い魔物ばかりだ、赤魔の砲弾で確実に仕留められるように、俺は走っている間にもアサルトライフルで攻撃していった。

今いる魔物の中で前方にいるゴールデンドラゴンやエビルトレント、変異体にさらなるダメージを与えていく。

ルミーラも一緒に走りながら、弓で奴らの身体を撃ち抜いていった。

 

「雄也も攻撃してるんだし、わたしも頑張らないとね」

 

俺とルミーラの攻撃を受け続け、魔物たちはさらに弱っていく。

しかし、それでも奴らは俺たちに追いつこうと、いつも以上のスピードで走って追いかけて来ていた。

どんな兵器を使っても人間に勝ち目はないと、ボストロールは俺たちに言う。

 

「どんな兵器を使ったところで、お前たち人間が勝つなどありえない!」

 

「我らと常闇の樹が、その兵器と城ごと破壊し尽くしてやる!」

 

魔物たちからは、エビルトレントの変異体は常闇の樹と呼ばれていたのか。

確かに今でも、人間側が勝ってアレフガルドの復興を続けられるという確証はない。

だが、まだまだ不安が多いにしても、俺たちはここまで厳しい戦いを勝ち抜いてきた…何があっても、もう諦めることは出来ない。

そう思いながら、俺はアサルトライフルを撃ちながらラダトーム城前の六連砲台を目指した。

 

六連砲台のところに辿り着くと、俺はさっそく右側の大砲に砲弾を詰め始め、ゆきのへとラスタンは左の大砲に持っている砲弾を入れる。

 

「砲台に着いたな…敵が来る前に急いで発射するぞ!」

 

「ああ、もちろんだぜ」

 

敵との距離はまだあるので、今すぐに砲弾を詰めたら間に合うと思って俺たちは手を動かす。

俺はポーチから次々に赤魔の砲弾を取り出し、大砲の中に入れていった。

しかし、俺たちが大砲を使おうとしているのを見て、常闇の樹が呪文を唱え始める。

 

「あいつ、この距離で呪文を…?」

 

エビルトレントの変異体が使う呪文なので、恐らくは闇の最上位呪文、ドルマドンだろう。

呪文といっても、大きく離れた場所に向かって撃つことは普通の魔物では出来ない。

しかし、常闇の樹はかなり離れた距離から、それも走りながらドルマドンを唱えようとしていた。

本来ならすぐに退避しなければ危険だが、ここで砲台を破壊されれば城に奴らを引き付けたのが無駄になってしまい、城も壊されてしまうだろう。

俺たちはさらに急いで弾を詰めて、ラスタンとゆきのへは弾を詰め終えた後に、俺は発射スイッチを踏んだ後に大きくジャンプして砲台から離れる。

そして、発射スイッチを踏んだ直後にドルマドンの爆発と赤魔の砲弾の爆発、2つの巨大な爆発がラダトーム城の前で起こった。

 

ドルマドンは非常に高威力で砲台は一瞬で消し飛んだが、何とかラダトーム城に被害は及ばなかった。

俺は全身の力をこめてジャンプして爆発の中心からは逃れることが出来たが、爆風で地面に強く叩きつけられた。

 

「くっ、すごい威力の呪文だったな…でも、ちゃんと砲台を発射出来たぜ」

 

ゆきのへとラスタンも爆風で吹き飛ばされたが、何とか立ち上がることは出来ていた。

赤魔の砲弾で魔物たちも絶大なダメージを受けており、爆発の中心近くにいたゴールデンドラゴンとエビルトレントは全滅し、ボストロールにも大きなダメージを与えていた。

常闇の樹は倒せず、魔物たちの最後尾にいたトロルキングにはダメージがなかったが、それでも凄まじい威力だったな。

残った魔物たちは、ドルマドンで吹き飛ばされた俺たちに追撃を加えようとして来る。

 

「さすがは人間どもの総力を使った兵器だな…だが、もう一度は使えんぞ」

 

「常闇の樹と我らで、お前たちにとどめをさしてやる!」

 

軍団が大ダメージを負っても、ボストロールたちは撤退する気はないみたいだな。

俺たちも怪我を負ったが引き下がることは出来ず、奴らとの戦いを続けていく。

ドルマドンを受けていないルミーラとバルダスがトロルキングとボストロールを1体ずつ、チョビがボストロールを2体、ラスタンとゆきのへがボストロール1体を相手することになり、俺のところには常闇の樹が襲いかかってきた。

ビルダーである俺を排除するためには、変異体が戦うのが最適だと考えたのだろう。

 

「弱っているとはいえ変異体だからな…気をつけて戦わないと」

 

赤魔の砲弾で大ダメージを受けたとはいえ、変異体をそう簡単に倒すことは出来ない。

俺は痛む身体を動かして最大限に警戒しながら、常闇の樹との戦いに向かった。

常闇の樹は俺に近づくと、太くて巨大な2本の枝を使って俺を叩きつけようとして来る。

バルダスと戦っていた時よりは遅くなっているが、それでもかなりの攻撃速度だ。

弱っている俺では、腕輪の力を使っても回避するのはぎりぎりであった。

 

「さっきより落ちているけど、結構な攻撃速度だな…」

 

枝を振り下ろした後の僅かな隙に、俺は両腕の武器を叩きつけて攻撃していく。

常闇の樹の樹皮は非常に硬いが、今の武器なら十分ダメージを与えることが出来ていた。

しかし、何度か攻撃を続けても、なかなか奴の体力を削りきることは出来ない。

いつ攻撃をくらうか分からないので、俺は不安になりながら奴との戦いを続けていった。

 

「まだ生命力も結構あるみたいだけど、攻撃をくらわないように気をつけないと」

 

弱っているところに攻撃を受けたら、俺は今度こそ動けなくなってしまいそうだ。

先ほどまでは順調に戦いが進んでいたのに、さすがは変異体だな。

身体中に走る痛みに耐えて戦った経験も何度もあるので、俺はその時のように動き続け、奴の体力を削りとっていった。

常闇の樹も身体中に攻撃を受けて、だんだん弱って来ているようだった。

 

「攻撃は何とか出来てるし、このまま倒しきれたらいいな…」

 

ゆきのへたちも傷ついた身体を動かして、ボストロールたちを攻撃して追い詰めている。

俺もラダトーム城を守り抜くために、ここで常闇の樹を止めてやらないとな。

そう思いながら、俺は奴への攻撃を続けていった。

だが、体力を削られて来た常闇の樹は、たくさんの刃のような黒い葉を飛ばして、俺を斬り裂こうとして来た。

 

「くっ、こんな攻撃も持っていたのか…!」

 

昔サンデルジュを襲撃した隊長のエビルトレントも似たような技を使っていたが、こちらは葉の数が比ではなく、葉の嵐のようになっている。

俺は何度も大きくジャンプして葉の嵐を避けて、常闇の樹から距離をとる。

離れてからも常闇の樹は葉の刃を飛ばし続けて、俺は奴に近づくのが困難になってしまった。

 

「くそっ、これだとなかなか近づけないな」

 

ジャンプをして葉を避けながら近づこうとするが、弱ったこの身体ではなかなか距離を詰められない。

近づけないのならと思い、俺はアサルトライフルに持ち替えて、奴の幹の部分に向かって連射する。

しかし、はがねの弾丸ではあまりダメージを与えられず、残り弾数も少なくなって来ているので、これで倒しきることは不可能そうだった。

 

「銃もあんまり効果がないな…どうやって倒せばいいんだ?」

 

ゆきのへたちもボストロールにかなりのダメージを与えていたが、倒すのにはまだ時間がかかりそうだ。

彼らの援護を待っていたら、常闇の樹の葉に斬り裂かれてしまうだろう。

近づくことも出来ず、銃もあまり効果がなく、みんなの救援を待つことも出来ない。

常闇の樹との戦いは、かなり厳しいものとなっていた。

 

「ガロンの時みたいに、ボストロールの方を銃で撃つか」

 

何とか近づこうとしている中、俺はこの前のトロルギガンテとの戦いの時、アサルトライフルでガロンを攻撃しているボストロールを倒し、彼と一緒にトロルギガンテと戦ったことを思い出す。

常闇の樹にアサルトライフルは効果が薄いし、ボストロールに使った方が残った弾も役に立つだろう。

俺は常闇の樹の葉を避けながら、ゆきのへやラスタンと戦っているボストロールの頭を狙って、アサルトライフルを撃ち放っていった。

 

「ボストロールを倒して、ゆきのへたちと一緒にこいつと戦おう」

 

葉を回避しながらの攻撃なのでうまく頭に当たらなかったことも多いが、ボストロールの腕や背中には命中していた。

ゆきのへやラスタンの攻撃もあり、ボストロールは力尽きて倒れ込む。

そこで、ラスタンたちは奴らにとどめの連続攻撃を放っていった。

ボストロールが倒れると、ゆきのへたちは走って俺と常闇の樹のところにやってきた。

 

「その武器での援護、助かった。ワシも一緒に戦ってやるぜ!」

 

「この魔物を倒せばラダトーム城を守り抜ける。共にとどめをさそう、雄也」

 

「ああ、必ずこいつを倒すぞ」

 

俺たち3人は、3方向から葉を回避しながら、常闇の樹に近づいていく。

奴は3人に順番に葉の嵐を放っているので、さっきより近づきやすくなっていた。

ラスタンたちもドルマドンで怪我を負ってしまったが、少しずつ近づいている。

 

「もう少しで近づけるし、一緒にこいつを攻撃しよう」

 

常闇の樹も飛ばす葉の数を増やして来るが、俺たちはジャンプでかわしながら距離を縮めていった。

至近距離にまで近づくと俺はビルダーハンマーとビルダーアックスに持ち替え、思い切り奴の身体に向かって叩きつける。

ラスタンとゆきのへも、それぞれの武器で強力な一撃を放っていた。

 

「3人がかりならこいつに近づけたな。弱ってはいるはずだし、攻撃を続けて倒そう」

 

俺の声に、ゆきのへとラスタンはうなずく。

3人でこのまま攻撃を続ければ、常闇の樹の生命力を削り切れるだろう。

だが、常闇の樹もただでは倒されまいと、全身に力を溜め始めていた。

ドルマドンの詠唱とは違う動きだが、どんな攻撃が来るのだろうか。

 

「まずい、強力な攻撃が来るぞ…!」

 

とにかく強力な攻撃であることは間違いないので、俺はゆきのへとラスタンに大きな声で言った後、大きくジャンプを繰り返して常闇の樹から離れた。

力を溜めきると、奴は今までとは比べ物にならないほどの大量の葉の刃を生み出し、全方向に放っていく。

全てを斬り裂こうとする無数の葉の嵐は非常に攻撃範囲が広く、腕輪を装備していた俺はともかく、ゆきのへとラスタンは全力で飛び続けても身体中を何ヶ所も斬られてしまった。

 

「くそっ、どれだけ攻撃範囲が広いんだ。ゆきのへもラスタンも動けなくなってるな…」

 

ドルマドンに加えて葉の嵐も受けた二人は、立ち上がることが出来なくなっていた。

せっかく3人で戦うことが出来たのに、ここからはまた1人になってしまったな。

しかし、常闇の樹も今の技を使うのに大きな力を消耗したようで、葉の刃を生み出すことが出来なくなっていた。

こいつ自身の生命力も残り少ないはずだし、1人でも倒せるかもしれない。

 

「近づいて戦うのは危ないし、極げきとつマシンを使おう」

 

だが、枝での攻撃はまだ行えるので、斧とハンマーで倒すのは難しそうだ。

こいつは弱っているので、極げきとつマシンで突撃したら動きを止められるだろう。

俺は近づいて来る常闇の樹からなるべく距離をとって、極げきとつマシンに乗り込む。

そして、一気に速度を上げて、奴に向かって超高速で突撃していった。

 

「これで突撃して、こいつにとどめをさしてやる」

 

常闇の樹も極げきとつマシンを回避することは出来ず、幹を5本の角で深く突き刺される。

大きなダメージを受けた奴は、俺の思い通り体勢を崩して動けなくなっていた。

俺はマシンから降りると常闇の樹に近づいて、両腕に力をため始める。

 

「激突では倒しきれなかったけど、これで終わりだな」

 

チョビとルミーラ、バルダスもトロルたちを瀕死に追い込んでおり、ここで常闇の樹を倒せば今回の戦いは勝ちになるな。

変異体はやはり強力だが、アレフガルドの2度目の復興で手に入れたものが大いに役立った。

これで伝説を超える武器も手に入ったら、さらに勝ち目が上がるだろうな。

そう思いながら腕に力を溜めきると、大きく跳んで強力な一撃を放つ。

 

「飛天斬り!」

 

追い詰められたところに飛天斬りを受けて、常闇の樹は倒れて消えていった。

チョビたちもトロルを倒し、武器をしまってラダトーム城に戻っていく。

エンダルゴとの戦いまでにまだ魔物の襲撃があるかもしれないが、何としても勝ち抜いていかなければいけないな。

 

「常闇の樹は強敵だったけど、兵器のおかげで倒しきれたな」

 

俺はそう思いながら、城の中へと戻っていった。

ゆきのへとラスタンも何とか起き上がり、傷んだ身体を休ませるために帰っていく。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode203 伝説を超えて

常闇の樹を倒した2日後、ラダトームに戻って来てから4日目、俺は朝食を食べた後城の中を歩いていた。

即効性の薬も使ったので、この前の戦いで負った傷は完全に回復している。

これで後は伝説を超える武器が出来れば、エンダルゴを倒しに行くことが出来る…そう思いながら、俺は城の中を歩いていた。

そうしていると、ラグナーダとサデルン、エファートが木材をつなぎ合わせ、船のような物を作っているのが見えた。

チョビは監視塔で魔物の見張りをしており、人間に変身する技の訓練は休憩中のようだ。

 

「あれは船か…?俺が使っているものより大きいな」

 

俺の小舟より大きく、完成したら7、8人が乗れるくらいだろう。

おおきづちたちは小舟に乗ってラダトーム城に来たわけだし、それを真似て作っているのかもしれないな。

気になったので、俺はラグナーダに話しかけてきた。

 

「ラグナーダ、船を作っているのか?」

 

「おお、雄也か。お主やロロンドが乗っている小舟を元に、大型の物も作ってみようと思ったのだ」

 

俺たちが乗っている小舟は、最大でも4人しか乗ることが出来ない。

完成したら大人数で別の地域に移動出来るようになるわけだし、結構便利だな。

エンダルゴとアレフを倒した後に、みんなでメルキドなどに向かうのもいいかもしれない。

そう思っていると、ラグナーダは自分たちを助けてくれた人間たちに恩返しがしたかったと話した。

 

「大勢で移動出来るし、かなり便利そうだな」

 

「お主たち人間のおかげで、わしらおおきづちは生き延びることが出来た。船を作ることで、人間たちに恩返しをしようと思ったのだ」

 

確かにあのままだったら、悠久の竜たちの攻撃でおおきづちは全滅だっただろう。

武器の作り方を教えてもらったし、城を守ってくれた…こっちこそ、ラグナーダたちを助けられて本当に良かったな。

人間嫌いだったサデルンも、すっかり今は城のみんなと仲良くしているようだ。

 

「ボクは人間が嫌いだったけど、この城のみんなは魔物のボクにも優しかったんだ」

 

「ここに来ることが出来て、ボクは幸せだよ」

 

エファートも船を作りながら、俺にそう言う。

二人とも、これからも人間と仲良く暮らしていけることだろう。

おおきづちたちが作ったこの船が、完成するのが楽しみだな。

 

「俺もみんなを助けられて本当に良かったよ。この船が完成したら俺にも教えてくれ」

 

「もちろんそうするつもりだ。楽しみにしておるのだ、雄也よ」

 

エンダルゴやアレフとの戦いはとてつもなく厳しい物になるだろうし、戦った後のことを考えていいかは分からない。

だが、それでもこの船を使ってみんなとアレフガルド中をまわることはとても楽しみだ。

俺はラグナーダとの話をした後、再びラダトーム城の中を歩いていった。

 

ムツヘタの魔法台の改良もまだ進んでおらず、俺はまた何をしよかと考えている。

そうすると、ゆきのへが工房の中から出てきて、嬉しそうな顔をして俺に話しかけてきた。

 

「起きてたみてえだな、雄也。ついに、ついにやったぜ」

 

ゆきのへのここまで嬉しそうな顔は、今まで見たことがないな。

もしかして、伝説を超える力を持つ武器を思いつくことが出来たのだろうか。

 

「そんな嬉しそうな顔をして、どうしたんだ?もしかして伝説を超える武器を思いついたのか?」

 

「ああ。ワシらが力を合わせて考えていた伝説を超える剣とハンマー…そのハンマーの作り方がついに決まったんだ」

 

そう言えば、ゆきのへは剣とハンマーの両方を考えていると言っていたな。

どちらも非常に強力なものとなるだろうし、ハンマーだけでも大きな進歩だろう。

アレフガルド復興のための長く苦しい戦いも、いよいよ大詰めなのかもしれないな。

これからさっそく作りに行こうと、俺はゆきのへに詳しい作り方を聞いた。

 

「ハンマーだけでも大きな進歩だと思うぜ。今からさっそく作りに行くから、作り方を教えてくれ」

 

「もちろんだぜ。ビルダーハンマーと違って鉱石も採掘出来るから、そこは安心だ」

 

決戦のためのハンマーではあるが、ゆきのへは鉱石の採掘にも使えると言ってくる。

そこまで優れたハンマーを考えるとは、さすがはゆきのへとヘイザンだな。

そう思っていると、ゆきのへは新たなハンマーの見た目と、詳しい作り方を教え始める。

彼の話によると、変異したブルーメタルとダークハルコンで形作り、金と銀で装飾するとのことだった。

作り方を話した後、このハンマーを考える際において、城のみんなも協力してくれたと話す。

 

「このハンマーを考える時は、城のみんなも手伝ってくれてたんだぜ。自分たちの未来を作る武器なんだ…少しでも協力したいって言ってな」

 

俺がアレフガルドの2度目の復興に向かっている間、ラダトーム城ではそんなこともあったのか。

今まで一緒に戦ってくれたし、本当にみんなには感謝してもしきれないな。

しかし、鍛冶の知識がないみんなでも、ハンマーの計画を手伝うことは出来たのだろうか。

 

「そんなこともあったのか…みんなにも感謝しておかないとな。でも、鍛冶の知識がないみんなでも協力出来たのか?」

 

「ワシも最初は不安だったが、みんなとの話で浮かんだアイデアのおかげで、最初の予定よりずっと強力なハンマーになったぜ」

 

みんなとの相談が、ゆきのへが新たなアイデアを生む助けになっていたみたいだな。

アレフガルド中で修行を続けてきた、ヘイザンの助けも大いにあったことだろう。

人々、人間に協力してくれる魔物たち…彼らの力を合わせて考え出した、伝説を超えるハンマー。

このハンマーには、どんな名前をつけたのだろうか。

 

「このハンマーは、どんな名前にしたんだ?」

 

「ビルダーのお前さんが世界を作ったことで、人々は物を作る力を取り戻した。そして力を得た人々は、自らの手でも世界を作り直していくようになった。そんな物作りを行う人々が力を合わせて考えたハンマーということで、ビルダーズハンマーと名付けたぜ」

 

ビルダーズハンマーか…確かに物を作る力を取り戻した人々は、自らの力でも世界を作り続けている。

ラダトーム城も幾度と魔物の攻撃で壊されながら、その度に人々は作り直してきていた。

ビルダーと力を取り戻した人々が、共に世界を作り続けていく…だからビルダーは1人なのに、ドラクエビルダーズなのかもしれない。

俺はゆきのへの話を聞いた後、ビルダーズハンマーの作り方を調べる。

 

ビルダーズハンマー…アビスメタル3個、ダークハルコン3個、金1個、銀1個 神鉄炉と金床

 

アビスメタルというのが、変化したブルーメタルのことなのだろう。

金と銀はラダトームの大倉庫にあり、ダークハルコンはポーチに入っているので、このアビスメタルを集めれば完成させることが出来そうだ。

ブルーメタルは赤の旅のとびらの先の洞窟にあったはずなので、そこで手に入れられるだろう。

 

「ビルダーズハンマーか…完成したら、すぐに見せに来るぜ」

 

「ああ、頼んだぜ」

 

みんなが力を合わせて考えた最強のハンマーを、ビルダーの力で形にしよう。

俺はゆきのへにそう言うと、アビスメタルを集めに赤い旅のとびらに入っていった。

赤い旅のとびらに入ると、俺は目の前が一瞬真っ白になり、ブルーメタルのあった洞窟がある地方に移動する。

 

旅のとびらを抜けると、俺はまず周りを見回して魔物たちの様子を確認する。

すると、この地方の灰色の大地には以前と変わらず、しりょうやトロルと言った魔物が生息していた。

今なら簡単に倒せるような魔物ばかりだが、俺は見つからないように身長に進んでいく。

 

「ブルーメタルがあった洞窟は、ここの砂漠地帯にあったな」

 

旅のとびらから右奥に向かったところにある砂漠地帯…そこに、かつてブルーメタルを採掘した洞窟があったはずだ。

少し距離があるが、ほしふるうでわの力を使って素早く進んでいく。

道中で見つける魔物も、以前と変わらなかった。

そうしてこの前は30分くらいかけて来た砂漠地帯に、20分もかからずたどり着くことが出来る。

 

「砂漠地帯に着いたな…この奥の岩山に洞窟があったはずだ」

 

砂漠地帯の奥には白い岩で出来た山があり、その洞窟に様々な鉱脈が眠っている。

チョビと出会ったのも、確かその洞窟の中でのことだったな。

俺は洞窟に急ごうと、砂漠地帯やそこにある凍りついた湖も歩いていく。

砂漠地帯にはオーロラウンダー、湖にはキラークラブと言った、光が消えた後に現れた強力な魔物もいたが、俺は見つからずに進むことが出来た。

岩山にたどり着くと、俺はさっそく洞窟に入って鉱脈を探す。

 

「確かこの洞窟だったな…ここにアビスメタルがあるはず」

 

ここはチョビと出会った時と同じ洞窟であり、内部の構造も覚えている。

途中道が二手に分かれているが、俺は鉱脈のある方に進んでいった。

鉱脈のところにたどり着くと、金や銀の鉱脈に混じって、見た事のない色をした鉱脈も見つけることが出来た。

深海を思わせるような深い青色をしており、これがアビスメタルなのだろう。

 

「これがアビスメタルか…普通の武器じゃ壊せないだろうし、まほうの光玉を使おう」

 

アビスメタルの近くには、ダークハルコンやリムルダールで見た紫色の宝石も埋まっていた。

それらを一気に採掘しようと、俺はポーチからまほうの光玉を取り出す。

鉱脈が密集しているところに設置して、爆発に巻き込まれないように距離をとった。

 

そして、設置から数秒後にまほうの光玉は炸裂し、周りの鉱脈を打ち砕く。

アビスメタルも紫色の宝石もこのすさまじい爆発には耐えきれず、手に入れられる状態に変わっていた。

俺はそれらを拾って集め、ポーチにしまっていく。

 

「これでアビスメタルが手に入ったな…他にも使うかもしれないし、もう少し集めておこう」

 

1回の爆発で、ビルダーズハンマーを作るためのアビスメタルは集まった。

しかし、それ以外にも使い道があるかもしれないので、俺は他のアビスメタルの鉱脈もまほうの光玉で砕いて、ポーチに回収していった。

たくさんのアビスメタルが集まると、ビルダーズハンマーを作るためにラダトームに戻ろうとする。

 

「これくらいあれば十分だろうな。ラダトームに戻って、ビルダーズハンマーを作るか」

 

俺は洞窟から出ると、再び砂漠地帯と灰色の大地を歩いて、旅のとびらに戻っていく。

帰り道も魔物に気をつけながら、素早くかつ慎重に進んでいった。

旅のとびらのところに着くと、俺はさっそく中に入って、ラダトーム城へと戻っていく。

 

ラダトーム城に戻って来ると、俺はハンマーを完成させるために工房に入っていく。

特別なハンマーとはいえ、いつも通りビルダーの力で作ることが出来るだろう。

工房の中に入ると、ゆきのへとヘイザンが俺を待っていたようで、話しかけてきた。

 

「おお。戻ってきたんだな、雄也!ビルダーズハンマーの素材は集まったか?」

 

「ああ。今からあの神鉄炉で完成させて来るぜ」

 

「ワシらの考えた伝説を超える武器が、ついに形になるのか…楽しみにしてるぜ」

 

俺はヘイザンに返事をした後、神鉄炉に近づいて素材を取り出し、ビルダーの力を発動させていく。

二人だけでなく、この城のみんながビルダーズハンマーの完成を心待ちにしていることだろう。

俺自身も、このハンマーを持って強大な敵に立ち向かわなければならない。

2度と平和が訪れることのないこの世界に、少しでも希望を作り出すために。

そう思いながら、俺はアビスメタルや他の素材を加工して、ビルダーズハンマーの形へと変えていく。

強大な武器だからだろうか、それほど大きいものでもないのに、加工にはかなり時間がかかっていた。

しかし、それでも作れないということはなく、ゆきのへに教えられた通りのビルダーズハンマーが出来上がる。

 

「これがビルダーズハンマーか…確かに強そうだし、これならエンダルゴにも勝てるかもしれないな。ゆきのへ、ヘイザン、ビルダーズハンマーが出来たぞ!」

 

見た目は今までのハンマーとそこまで大きくは変わらないが、間違いなく強いだろう。

俺はビルダーズハンマーが出来上がると、すぐにゆきのへとヘイザンを呼ぶ。

鍛冶屋の二人は、とても嬉しそうな口調で話しながらこちらに向かってきた。

 

「おお。ついにやったな、雄也!ワシが教えた通りのハンマーだぜ」

 

「ワタシたちの考えた武器を形にしてくれて、本当にありがとう、雄也」

 

これで伝説を超える剣の方も出来れば、決戦の準備は全て整うことになる。

採掘を行う時にも、これからはこのビルダーズハンマーを使っていこう。

しかし、ゆきのへはまだビルダーズハンマーは完成ではないと言ってきた。

 

「ただ、一つ言わなきゃいけねえことがある。ビルダーズハンマーは、まだ完成ではねえんだ」

 

「どう言うことだ、ゆきのへ?」

 

「これはワタシたちの未来を作る武器だ。ワタシたちに、仕上げをさせて欲しい」

 

俺がビルダーの力で作ったハンマーを、自分たち自身でさらに鍛え上げたいと言うことか。

これなら、ただでさえ強力なビルダーズハンマーが、さらなる攻撃力を持つことになりそうだ。

ビルダーの力だけでなく、鍛冶屋の二人の力も合わせて作り出す…そう言った意味でも、ビルダーズハンマーと名付けたのかもしれない。

 

「そういう事か。二人の力もあれば、さらに強力なハンマーになりそうだからな。頼んだぞ、ゆきのへ、ヘイザン」

 

俺はそう言って二人にハンマーを渡し、神鉄炉から離れた。

ハンマーを受け取った二人の最強の鍛冶屋は、汗を流しながらも炉のそばから離れず、さらなる強力な物へと鍛え上げていく。

二人の職人の技は、ビルダーの力でも決して真似することは出来ないだろう。

俺はまた城の中を歩いていても良かったが、ゆきのへたちの動きをじっと見守っていた。

 

そして数十分もハンマーを鍛え上げた後、ゆきのへとヘイザンはようやく立ち上がる。

そして、ヘイザンがビルダーズハンマーを手に取り、俺に渡して来た。

 

「これが、ワタシと親方が魂を込めて作ったビルダーズハンマーだ。厳しい戦いの時には、必ずこれを使うんだぞ」

 

「ありがとう、ゆきのへ、ヘイザン。これがあれば、どんな敵にでも勝てそうな気がするぜ」

 

ビルダーズハンマーはさっきよりも美しく、そして強そうな見た目になっていた。

これはおうじゃのけんやビルダーハンマーよりはるかに強力だろうし、間違いなく伝説を超える武器と呼ぶことが出来るだろう。

世界を創った精霊の死という絶望的な状態から、ここまで巻き返すことが出来るとはな。

ゆきのへは、剣の方ももうすぐ作れるようになると言ってきた。

 

「伝説を超える剣の方も、もうすぐ思いつけるはずだぜ。作り方が決まったら、お前さんにすぐに教えに行くぜ」

 

「ああ、分かった」

 

魔物たちとの決戦の時も、大分近づいてきている。

生き残れる可能性はかなり低いだろうが、武器を考えてくれたみんなのためにも、必ず勝って生きて戻らないとな。

俺はビルダーズハンマーを丁寧にポーチにしまうと、工房から出てしばらく教会で休んでいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode204 不滅の魂

ビルダーズハンマーを作った2日後、ラダトームに戻って来てから6日目の朝、俺は工房のマシンメーカーを作り、はがねの弾丸をたくさん作っていた。

 

「エンダルゴやアレフに効くかは分からないけど、手下の魔物はこれで倒そう」

 

エンダルゴのような強大な存在では、銃を連射しても簡単には倒せないだろう。

しかし、エンダルゴの城を攻める時に手下の魔物とも戦うことになるだろうから、その時には役立つはずだ。

ラダトームの防衛戦もまだあるかもしれないので、それにも備えなければいけない。

 

「結構作れたし、これくらいあれば大丈夫そうだな」

 

たくさんのライフル弾が出来ると、俺はそれらをポーチにしまう。

そうして、今日もしばらくは休んでいようかと思いながら、工房を出ようとした。

 

しかし、そう思っていると、工房のとびらが開いてゆきのへとヘイザンが入ってくる。

伝説を超える剣を考えていた二人は、今日は工房とは違う場所で相談していたようだった。

彼らは俺を見つけると、すぐに走って近づいて来て話しかけてくる。

 

「ここにいたのか、雄也。かなり時間はかかっちまったが、ようやく出来たぜ!」

 

「もしかして、伝説を超える剣の作り方が決まったのか?」

 

二人とも、二日前と同じかそれ以上に嬉しそうな顔をしており、伝説を超える剣の作り方を思いつけたのかもしれないな。

剣も作ることが出来れば、俺はいよいよエンダルゴとの戦いに向かう。

俺が二人に聞くと、ヘイザンはうなずいて詳しく話し始める。

 

「ワタシも親方も徹夜で頑張って、ついさっき考えがまとまったんだ。何者にも敗れることのない、最強の剣になったはずだぞ」

 

「剣を考える時についても、みんなが手伝ってくれたんだぜ」

 

「ここまで長かったけど、いよいよなんだな…。これから素材を集めに言ってくるから、必要な素材と作り方を教えてくれ」

 

伝説を超える剣についても、ラダトームのみんなが開発を手伝ってくれたみたいだな。

みんなの力もなければ、ここまで強力な武器を作ることは出来なかっただろう。

みんなへの感謝の思いを強めながら、俺は二人から最強の剣の作り方を聞いていく。

二人やみんなが相談した結果、ダークハルコンにアビスメタル、紫色の宝石で刀身を作り、サンデルジュのダイヤモンドで装飾することになったようだ。

昨日は紫色の宝石も集めたことだし、後はサンデルジュにダイヤモンドを集めに行けば剣を作ることが出来そうだ。

必要な素材を教えてもらった後、俺はこの剣の名前について聞いてみる。

 

「作り方は分かったぜ。ハンマーの方はビルダーズハンマーだったけど、剣の方はどんな名前にしたんだ?」

 

「何度壊されても作り直そうとする、不滅の魂を持った人々が考えた、決して折れることのない剣ということで、ふめつのつるぎと名付けたぜ」

 

ふめつのつるぎか…人々の復興の意志は決して失われることはない…そんな彼らが考えた最強の剣は、決して折れることなく、俺たちを勝利に導くだろう。

今回もハンマーの時と同様、自分たち自身で仕上げをしたいとヘイザンは言ってきた。

 

「ビルダーズハンマーの時と同じで、最後の仕上げはワタシたちがしたい。ビルダーの力で作ったら、ワタシたちに教えてくれ」

 

「もちろんだ。二人の職人の技があった方が、剣もより強くなるからな」

 

ビルダーズハンマーの時も、二人の技のおかげでさらに強力になっていた。

ふめつのつるぎも、彼らの力も合わせて初めて完成と呼べるだろう。

俺はヘイザンにそう言うと、ビルダーの力で剣の作り方を調べていく。

 

ふめつのつるぎ…ダークハルコン2個、アビスメタル2個、妖光の宝石2個、ダイヤモンド1個 神鉄炉と金床

 

妖光の宝石というのが、昨日手に入れた紫色の宝石のことだろう。

ダイヤモンドがあるサンデルジュの峡谷は結構遠いが、今日中に採掘して来ることが出来そうだ。

ダイヤモンドを手に入れたら、すぐにビルダーの力で加工して剣を作り上げよう。

 

「俺はこれから素材を集めに行ってくる。少し時間はかかるけど、待っていてくれ」

 

「分かった。頼んだぜ、雄也」

 

俺はゆきのへたちにそう言うと、ラダトーム城の隅の旅のとびらが置いてある場所に向かう。

そして緑色の旅のとびらに入り、アレフガルドの秘境、サンデルジュの地に移動した。

 

サンデルジュの地に移動すると、俺はまた魔物に警戒しながら、奥にある峡谷を目指していく。

サンデルジュ…かつては人間も魔物もほとんど立ち入ることのなかった、手付かずの自然が残された地。

砦を放棄して以来、ここに戻って来ることはなかったな。

 

「ここに来るのは久しぶりだな…昔と変わらず、きれいな森が広がってる」

 

幸い森は破壊されていなかったが、キースドラゴンやエビルトレントが何体もうろついていた。

しかし、俺たちとの戦いで多くが倒されたためか、思ったよりは少ない。

俺は奴らに見つからないようにしながら、草原の方に向かっていった。

草原にやって来ると、かつてサンデルジュの砦があった高台も見えてくる。

 

「あの高台に俺たちの砦があったんだったな…やっぱり、跡形もなく破壊されてる」

 

魔物の攻撃によって、サンデルジュ砦はほとんど残骸すら残さず破壊されていた。

あの砦を放棄する時、世界に平和が戻ったらもう一度サンデルジュに来ようと言っていたな。

もう世界に平和が戻ることはないが、エンダルゴとアレフを倒した後、ここの砦を再建出来たらいいな。

 

「この砦を作り直すためにも、エンダルゴとアレフを倒さないとな」

 

そんなことを思いながら、俺はサンデルジュの峡谷地帯へと向かっていく。

エンダルゴたちを倒すためにも、まずはふめつのつるぎを作り出さなければいけないからな。

ブラックチャックやブラバニクイーンもうろついていたが、俺は辺りにある岩に身を隠しながら、さらに奥へと進んでいった。

ラダトーム城を出て30分くらい経ち、峡谷地帯の入り口にまでやって来ると、俺はビルダーズハンマーを取り出して構える。

 

「ダイヤモンドは硬いし、これを使って採掘しよう」

 

ダイヤモンドは非常に硬い鉱物なので、他の武器では壊せないだろう。

ハンマーを片手に、俺はダイヤモンド鉱脈を探して薄暗い峡谷の中に入っていった。

世界中の光が失われているので、以前訪れた時よりも視界が悪くなっていた。

 

「魔物の様子も良く見えないし、気をつけて進まないとな」

 

魔物たちから見つかりにくくはなるが、こちらも奴らを見づらくなってしまう。

突然目の前に魔物がいたということがないように、俺は慎重に進んでいった。

峡谷にいるのはゴールデンドラゴンといった強力な魔物なので、特に戦いは避けたい。

また、鉱脈を見つけるために、なるべく崖の近くを歩くようにしていた。

 

そうして、サンデルジュの峡谷地帯を歩き続けて10分ほど経って、俺の目の前に透明に輝くダイヤモンドの鉱脈が見えてきた。

以前もこれは発見していたが、採掘する方法がなかったので無視していたな。

俺はすぐにビルダーズハンマーを叩きつけて、ダイヤモンドを採掘しようとする。

 

「これがダイヤモンドか…ビルダーズハンマーだったら、さすがに採掘出来たな」

 

ビルダーズハンマーを叩きつけて鉱脈を砕くと、ダイヤモンドの塊が俺の前に落ちた。

俺はそれを拾うと、ポーチにしまって採掘を進めていく。

 

「ダイヤモンドは使い道が少なそうだけど、もう少し手に入れておくか」

 

ダイヤモンドの使い道は多くはないだろうが、また必要になった時にわざわざ集めに来なくていいように、俺はいくつか集めていった。

鉱脈自体たくさんはなかったが、5個くらいを集めることが出来る。

 

「これくらいで十分そうだな。そろそろ戻って、ふめつのつるぎを作ろう」

 

ダイヤモンドを手に入れると、来た道を引き返して旅のとびらに戻っていく。

40分くらい歩き続けて、俺はサンデルジュからラダトーム城に向かっていった。

 

ラダトーム城に戻って来ると、俺はさっそく工房に向かっていく。

ふめつのつるぎを手に入れたら、今まで手に入れた全ての兵器も使って、エンダルゴの城に向かおう。

数百年世界を覆い続けて来た膨大な量の魔物の魔力、敗れ去った魔物たちの怨念、アレフの人間への復讐心が生み出した闇の力…その全ての集合体であるエンダルゴに人間である俺が勝てるとは今でも思えないが、もう引き下がるわけにはいかない。

そう思いながら、工房に入って神鉄炉のところに向かった。

 

「おお、戻って来たんだな、雄也!必要な素材は集まったか?」

 

「ああ。少し遠いところまで行くことになったけど、無事に集まった」

 

「ビルダーの力を使ったら、すぐに教えてくれ。ワシらがさらに強力な武器へと鍛え上げるぜ」

 

工房の中では、ゆきのへとヘイザンも俺のことを待っていた。

二人に素材を集めて来たことを伝えると、俺は神鉄炉の前に立った。

そして、ビルダーの力を発動させて、ふめつのつるぎを作り出していく。

アビスメタルとダークハルコン、妖光の宝石が加工され、すさまじい切れ味と耐久力を持った刃へと変わっていった。

剣の中心には丸い穴の空いた四角形の形になった妖光の宝石が埋め込まれ、その穴にはダイヤモンドがはまる。

ビルダーズハンマーの時と同じで加工にかなり時間がかかっていたが、無事に作り上げることが出来た。

 

「ゆきのへ、ヘイザン。ふめつのつるぎが出来たぞ!」

 

だが、これでもまだふめつのつるぎは十分な力を発揮出来ない。

ゆきのへとヘイザンの技も加わることで、伝説をはるかに上回る武器へと変わる。

俺はすぐに二人を呼んで、出来上がった剣を渡した。

 

「よくやったな、雄也。後はワシらが完成させるから、その剣を渡してくれ」

 

「ああ。二人の鍛冶屋の技を、俺は信じてるぜ」

 

俺はゆきのへたちにそう言うと、神鉄炉から離れて二人の様子を見守る。

ビルダーズハンマーの時と同じで、ゆきのへたちは数十分も神鉄炉の前で集中して、ふめつのつるぎを鍛え上げていった。

彼らが鍛え上げる度に、剣は強く美しくなっていく。

 

そして、1時間くらいの作業の末に出来上がったふめつのつるぎを、ゆきのへたちは俺に渡してきた。

 

「これがワシらが鍛え上げた、ふめつのつるぎだ。こいつも、ビルダーズハンマーに負けない力を持った武器になったはずだぜ」

 

「伝説を超える2本の武器を使えば、もう勝てない敵はいないと思うぞ」

 

「本当にありがとう、ゆきのへ、ヘイザン。苦しいこともたくさんあったけど、ここまで諦めなくて良かったぜ」

 

俺は二人に心の底からの感謝をして、ふめつのつるぎを受け取る。

伝説を超える武器の二刀流で、魔物たちとの決着をつけに行こう。

長く厳しい戦いの中、俺は何度もアレフガルドの復興を諦めそうになった。

でも、ここまで諦めずに戦い続けていてよかったと、俺は思った。

ゆきのへは、いよいよエンダルゴとの戦いに行くのかと聞いてくる。

 

「伝説を超える武器が出来たことだし、いよいよエンダルゴとの戦いに向かうのか?」

 

「ああ。のんびりしていたら、またラダトーム城が攻撃を受けるかもしれないからな」

 

エンダルゴとアレフを放っておけば魔物の襲撃や変異体の出現は抑えられないし、また闇を降らせる攻撃で誰かが犠牲になるかもしれない。

大切な仲間をこれ以上失う前に、決着をつけにいかなければならない。

 

「そうか…とてつもない強敵だとは思うが、必ず生きて帰って来てくれよ」

 

「君はアレフガルドの復興を共にした、大事な仲間だ。引き止めることはしないが、気をつけて行くんだぞ」

 

「分かってる。生きて帰って来て、みんなに元気な顔を見せるつもりだ。じゃあ、そろそろ出発するぞ」

 

みんなを悲しませないためにも、生きてラダトーム城に戻って来ないとな。

俺は二人にそう告げると、工房を出てエンダルゴの城に向かおうとする。

エンダルゴやアレフを倒したところで、世界が良くなるかは分からない…だが、出来る限りのことをしないとな。

それが、守れなかったこの世界に対して、俺が出来るせめてもの償いだ。

 

 

 

ふめつのつるぎが完成する前…ラダトーム城の西 エンダルゴの城

 

城の最深部に存在するエンダルゴの玉座の間…そこに、ラダトームやサンデルジュに生息する、無数の魔物が集っていた。

その魔物たちの中には、ゴールデンドラゴンの変異体である黒く輝く竜もいる。

僅かにでも戦力になる魔物は全て集めろ、それがエンダルゴの命令であった。

 

「エンダルゴ様、言われた通りにラダトーム中、サンデルジュ中の魔物を集めました。しかし、これほどの魔物を集めてどうするおつもりなのですか?」

 

魔物が集めると、群れの戦闘にいただいまどうがエンダルゴに尋ねる。

エンダルゴの玉座は魔物で埋め尽くされており、ここまでの数が集まるのは初めてのことだった。

 

「先日の襲撃で、常闇の樹が人間どもに倒されたことは知っているな。このまま人間が力をつければ、この城が攻められるのも時間の問題だろう。魔物側の犠牲が避けられないのは分かっているが、僅かでも戦力となる全ての魔物を動員して、ラダトーム城を攻め落とそうと思う」

 

竜王が魔物の王だった時代は、極一部の精鋭の魔物のみが人間の拠点を襲撃していた。

竜王の死後アレフとエンダルゴが王となった後も、周りより高い能力を持った魔物が動員されている。

それも、万が一倒されてしまった時のことも考えて、繁殖が途絶えないように、強力な魔物も全てが襲撃にまわされているわけではなかった。

だが、人間が魔物たちの想像以上の力をつけた今、必要以上の犠牲を出さない、次世代の魔物を生み出すということを考えている余裕はもうない。

犠牲をいとわないと聞いて魔物たちも驚くが、そうするしかないと理解もしていた。

 

「確かに、人間があれほどの力を得た以上、他の方法はないでしょう。分かりました…我らの総力を持って、人間どもを世界から排除します」

 

「まもなくここに、アレフの元で修行した2体の魔物も現れる。二人が変異体となったら、ラダトーム城に向かえ」

 

変異体と化すためにアレフの元で訓練していた2体の魔物も、今回の襲撃に参加する。

彼の元で力をつけた魔物なら相当な戦力になるだろうと、エンダルゴは考えていた。

そうして話しているうちに、玉座の間にその魔物たちが入ってくる。

2体の魔物…滅ぼしの騎士の意志を継ぐしにがみのきしと、アレフと共に暮らしたメスのだいまどうに、魔物たちは道を開けた。

 

「遅れてすみません、エンダルゴ様。この時のために、我らはアレフの元で修行して参りました。どうか我を、2体目の滅ぼしの騎士にしてください」

 

「私たちであれば、肉体の変異にも耐えられるはずです」

 

変異に耐えきれず死ぬ可能性もあるが、しにがみのきしとだいまどうは覚悟が出来ていた。

ゴールデンドラゴンの変異体も含め、3体の変異体を襲撃させれば、犠牲は出ようとも必ずラダトーム城を攻め落とせるだろうとエンダルゴは思い、2体に膨大な闇の力を与える。

 

「覚悟はいいな…では、貴様らに闇の力を与えよう!」

 

エンダルゴを構成している闇の力の一部が、しにがみのきしとだいまどうの体の中に流れこんでいく。

本来魔物でも耐えきれないほどの闇の力を浴びて、2体は身体中に走る激痛に声を上げて苦しんだ。

 

「うぐっ…!だが、我は必ず変異体に…!」

 

「アレフの望んだ、全てが闇に染まった世界を…!」

 

だが、しにがみのきしとだいまどうは修行の末手に入れた強靭な肉体で、変異の苦しみに耐える。

やがて2体の体は、滅ぼしの騎士と暗黒魔導と同じ姿になっていった。

そして、変異に耐えきったことを確認すると、エンダルゴはラダトーム城へ向けての出撃命令を出す。

 

「無事に変異出来たようだな…では、いよいよ決戦の時だ。貴様らの総力を持って、人間どもを叩き潰せ!」

 

エンダルゴの命令を受けて、魔物たちはラダトーム城に向けて動き出していく。

人間と魔物との最終決戦の時が、いよいよ訪れようとしていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode205 王都大決戦の幕開け(前編)

ビルダーズハンマーとふめつのつるぎを手に入れ、エンダルゴとアレフを倒す準備は整った。

アレフの居場所は依然として不明なので、俺はまずはエンダルゴのところに向かっていく。

今までの比ではない強敵だろうが、絶対に負けるわけにはいかない…そう思いながら、ラダトーム城を出発しようとした。

 

だがそんな時、監視塔から魔物の様子を見ていたラスタンの焦る声が聞こえてきた。

 

「みんな、すぐに集まってくれ…!私たちの城に、見たこともないほどの魔物の大軍が集まって来ている!」

 

ラスタンの声からは今まで以上の焦りが感じられるが、それほどまでの危機が迫っているのだろうか。

今まででも100体を超える魔物が襲って来たことがあったが、それをさらに上回るとはな。

ラスタンの声を聞いて、工房で休んでいたゆきのへがハンマーを持って出て来る。

 

「雄也、まだここにいたか。今の声は聞いたな…エンダルゴとの戦いの前に、まずは魔物どもを倒すぜ!」

 

「ああ、分かってる」

 

このままではエンダルゴを倒せても、ラダトーム城が壊滅してしまう。

手に入れた伝説を超える武器を使って、まずは奴の手下の魔物を倒しに行かないとな。

俺はゆきのへにうなずいて、魔物が襲撃しているという方向に向かっていった。

人間に変身する訓練をしていたルミーラたちも、それぞれの武器を持って駆け付けてくる。

 

「何度倒されテモ、懲りナイ魔物たちデスね!」

 

「ここはわたしの仲間たちが住む大切な城…何としても守り抜かないとね」

 

「どんな魔物が来たとしても、ボクたちがこの城を守るんだ!」

 

俺たち6人がラダトーム城の外へ出ると、剣を持って監視塔から降りてきたラスタンも一緒に戦いに向かう。

いつも城を守ることに一生懸命になっているラスタンも、今回は少し怯えた顔をしていた。

 

「来てくれたか、みんな。…あまりにも魔物の数が多すぎて、私でも正確な数は把握出来なかった。今の設備を持ってしても、相当厳しい戦いになりそうだ」

 

アレフガルドの2度目の復興の中で手に入れたさまざまな物を使うことで、この前の戦いはそこまで苦戦することはなかった。

しかし、今回は俺たちの総力を持ってしても、勝てるか分からない戦いになりそうだ。

それでもここまで来て負けるわけにはいかないので、俺たちは魔物の大軍勢のところに近づいていく。

 

「それでも、ここで引き下がりたくはない。どれだけ厳しい戦いであっても、必ず勝機はあるはずだ」

 

「分かっている。この城には姫様と、守るべきたくさんの仲間がいる。志半ばで倒れたオーレンのためにも、私は最後まで戦い抜くぞ」

 

ラスタンも怯える心を振り払いながら、果敢に魔物たちのところに向かっていった。

走っていくと、確かに今まで多くの戦いを生き延びた俺でも戦慄するようなおびただしい数の魔物が見えてくる。

かげのきし、まどうし、しにがみのきし、だいまどう、ブラックチャック、ブラバニクイーン、アローインプ、メーダクイン、コスモアイ、キースドラゴン、ダースドラゴン、ゴールデンドラゴン、エビルトレント、ドロルリッチ、キラークラブ、オーロラウンダー、ボストロール、トロルキング…さまざまな魔物が、ラダトームを目指して進んでいる。

魔物の群れの中には、ゴールデンドラゴンの変異体と思われる黒く輝く竜や、滅ぼしの騎士、暗黒魔導もいた。

今までは戦力外として来なかった魔物も、今回は軍勢の中に混じっている…おそらく、もう多数の犠牲が出てもかまわないと、奴らは考えているのだろう。

人間と魔物、勝った方が生き残る…そんな戦いになりそうだった。

無数の魔物を見て、ルミーラやバルダスも怯えた様子を見せている。

 

「城を壊させたくはないけど…すごい数の魔物だね…」

 

「新しい力を手に入れたボクでも、こんな数をどうしたら…」

 

ゆきのへたちも、かなり険しそうな表情をしていた。

だが、俺たちは絶望的な状況から、ここまで戦い続けることが出来た。

今日もその奇跡が起きることを信じて、まずはスナイパーライフルを構えた。

そして、俺が参戦する中では5回目のラダトームの防衛戦が、人間と魔物の生き残りを賭けた大決戦が始まった。

 

監視塔を使って魔物を早期に見つけたので、奴らとはまだかなりの距離があった。

接近戦となる前に少しでも数を減らそうと、俺はまず前衛にいるメーダクインたちを倒そうとする。

奴らはコスモアイより耐久力が低いので、スナイパーライフルなら簡単に倒すことが出来るだろう。

俺はメーダクインの目に向けて、はがねのライフル弾を撃ち放っていく。

 

「まずはメーダクインか…こいつも目玉は大きいし、これで狙撃していこう」

 

スナイパーライフルの扱いにはまだ慣れていないが、メーダクインは目玉が大きいので、かなりの確率で狙い撃つことが出来た。

弱点を貫かれたメーダクインは大きく怯み、地面に落ちていく。

落ちた奴に向かって、俺はさらに銃弾を放っていった。

耐久力のあまり高くないメーダクインは、3発目に攻撃を受けると力尽きて消えていった。

 

「3発で倒れたな…弾はたくさん作って来てあるし、このまま減らしていくか」

 

近づくと光線を撃って来るので、それまでに数を減らさないとな。

はがねのライフル弾は2日前にたくさん作ったので、なくなる心配はなかった。

俺は奴らの目や触手に向かって、スナイパーライフルを次々に撃っていく。

かなり遠くからでも、多くのメーダクインを倒すことが出来た。

 

「でも、数が多すぎて倒しきれないな…」

 

だが、あまりにも数が多すぎて、俺1人では奴らを倒しきることは不可能だった。

ルミーラの矢はスナイパーライフルよりは射程が短いので、まだ近づかなければならなさそうだ。

奴らの光線を警戒して、俺たちは銃での攻撃を続けながら走って近づいていく。

ある程度近づくと、俺はルミーラに弓で奴らの目を撃ち抜くように言った。

 

「数が多すぎて俺だけじゃ倒しきれない…ルミーラも、弓矢でメーダクインを撃ち落としてくれ!」

 

「分かってる…大事な砦を失ったあの悲しみを、もう繰り返したくないからね」

 

怯えた様子のルミーラも戦いを諦めず、メーダクインたちの目玉を正確に撃ち抜いていく。

苦戦の果てにピリンたちをも危険に晒すことになり、最後にはサンデルジュの砦を放棄したこと…あの悲劇をもう繰り返したくないと、俺もルミーラも思い続けている。

彼女の正確な矢は、俺より素早くメーダクインたちを減らしていった。

距離が縮まったことで、奴らも目から光線を放って攻撃して来る。

 

「光線が飛んできたな…みんなも気をつけてくれ!」

 

俺はみんなにもそう言った後、光線をかわしながらライフルを撃ち続けていく。

光線といっても光速で飛んでくるわけではないし、溜め時間もコスモアイより長い…それに、ルミーラと俺の攻撃で奴らは数を減らしているので、みんな回避は容易だった。

今回の戦いは長丁場になるので、体力を消耗しないようジャンプは控えておく。

走りながらさらに距離を詰めると、俺はアサルトライフルに持ち替えて連射していった。

 

「みんなうまく回避出来てるな…近づいて来たし、アサルトライフルで一気に倒そう」

 

回避しながらの攻撃なので命中率は下がるが、それでもだんだん数を減らしていくことが出来ていた。

追い詰められたメーダクインたちは、普段より高くまで浮き上がる。

そして、奴らの下を通って4~50体のかげのきしたちが、俺たちのところに近づいてきた。

 

「倒しきれるかと思ったけど、かげのきしたちも近づいて来たか…」

 

かげのきしはラダトームに生息する魔物の中では弱い方だ。

しかし、これだけの数がそろえばそう簡単には倒すことは出来ないはずだ。

しかも、奴らの後ろからは多数のブラバニクイーンも迫って来ており、のんびり戦っているとさらなる危機になってしまうな。

メーダクインたちも、かげのきしたちの裏を通って俺たちの横側にまわって、光線で攻撃して来ようとして来る。

 

「雄也とルミーラが頑張ってるんだし、ワシらも諦めるわけにはいかねえ!あのかげのきしどもを潰しに行くぞ!」

 

「ボクの新しい力を、魔物たちに見せつけてやるんだ!」

 

かげのきしたちの様子を見て、バルダスが闇の呪文を唱えて足止めしようとする。

かなりの威力があって奴らは怯み、その隙にゆきのへたちが近づいていった。

しかし、みんなの力を持ってしてもブラバニクイーンが来るまでに倒し切れるかは不安だ。

かげのきしの剣だけでなく、メーダクインの光線も避けながら戦わなければならないからな。

そんな様子を見て、俺のとなりにいたルミーラが一つ提案する。

 

「このままだとまずいね…わたしがメーダクイン全員を引きつけるから、雄也もかげのきしを倒しに向かって」

 

確かにルミーラにメーダクイン全ての注意を引きつければ、みんなは奴らの攻撃を気にせずかげのきしと戦える。

俺も伝説を超える武器の力を使い、かげのきしたちを一気に倒すことが出来るだろう。

しかし、メーダクインは最初に比べたら大幅に減ったもののまだ多くいるため、ルミーラが1人で全員を引きつけるのは危険だろう。

 

「でも、そうしたらあんたが危ないんじゃないか?」

 

「そうでもしないと、この戦いには勝てないよ。…大丈夫、わたしの弓で、攻撃を受ける前に倒すつもりだから」

 

だがルミーラの言う通り、危険な方法でも使わなければ、この戦いに勝つことは出来そうにない。

ルミーラの正確な射撃で、光線を受ける前に倒せることを祈るしかなさそうだ。

俺はルミーラの無事を願いながら、ビルダーズハンマーとふめつのつるぎに持ち替えてかげのきしたちに近づいていく。

 

「俺も他の方法は思いつかないし、分かった…無事でいてくれよ、ルミーラ」

 

俺が世界を救えなかったことで、多くの仲間の命が失われてしまった…これ以上の悲劇は、絶対に起こってはならない。

そう思いながら、俺はかげのきしたちに両腕の武器を叩きつけようとしていく。

ビルダーである俺を排除するために、10体を超える奴らが俺のところに近づいて来ていた。

 

「ビルダー…オレたちに逆らった大罪人め…!骨まで斬り刻んでやる!」

 

「剣のサビになってしまえ!」

 

「相当な数だけど…諦めずに戦い続けないとな…!」

 

ここまでの数がいたら、普段の回避しながら戦うという戦法は使えない。

俺もみんなも腕に力を込めて武器を叩きつけ、奴らの剣を弾き落とそうとしていった。

かげのきしの攻撃力は高めではあるが、今まで多くの魔物と戦ってきた俺たちは無事に剣を弾き落とし、奴らの体勢を崩させることが出来る。

何回も繰り返していると腕に強い痛みが走って来るが、俺たちは耐えて攻撃を続けた。

 

「結構な数が怯んだな…今のうちに仕留めてやろう」

 

多くのかげのきしが怯むと、起き上がられる前に倒そうと、頭の骨に向かって伝説を超える武器を振り下ろしていく。

すると、強力な武器ですさまじいダメージを受けた奴らは、一撃で倒れていっていた。

 

「これが伝説を超える武器の強さか…これなら、この戦いにも勝てるかもな」

 

絶大な攻撃力を持つことは確信していたが、まさかここまでの強さだとはな。

これを使えばこの厳しい戦いにもきっと勝てるはずだと思いながら、俺は戦いを続けていく。

ビルダーズハンマーとふめつのつるぎの攻撃力を見ても、かげのきしたちは下がらずに剣を振り回して来た。

 

「なんて威力の武器なんだ…でも、オレたちはビルダー、お前を逃がさない!」

 

「オレたちを倒したところで、お前たちに勝ち目はない!」

 

自分が死んでも、少しでも俺たちを消耗させようという考えに魔物たちはなっているのだろう。

俺はまた身体中の力を腕に込めて、奴らの武器を次々に叩き落としていく。

 

「まだ結構なかげのきしがいるけど…みんななら押し切れそうだな」

 

ゆきのへたちも倒れたかげのきしに、本来片手用の武器を両腕で持つことで威力を上げて攻撃しており、バルダスは闇の魔法で一気に吹き飛ばしたりしていた。

ルミーラもメーダクインを次々に落としており、何とかまだ危機的状況に陥らずに済んでいる。

俺はかげのきしが減って来ると、一気に倒そうと両腕に力を溜めていった。

 

「回転斬りも使って、こいつらを倒し切ろう」

 

俺のところには、まだ立っている奴らも剣を振り上げて近づいていくる。

俺はそう言った奴らもまとめて、両腕の武器で薙ぎ払っていった。

 

「回転斬り!」

 

回転斬りを放った途端、ふめつのつるぎから紅色に輝く光の刃が生み出され、周囲の敵全てを斬り裂いていく。

おうじゃのけんでもギガスラッシュのような光が出ていたが、こちらはそれをはるかに上回る強さであった。

そこにビルダーズハンマーでの打撃も加わり、かげのきしたちは全て倒れていく。

 

「回転斬りもすごい威力だ…こんな光の刃まで出て来るなんてな」

 

ゆきのへたちもそれぞれの力を発揮して、かげのきしたちを全滅させていった。

かげのきしたちを倒したところに、今度はブラバニクイーンたちも近づいてくる。

同時に戦うということは防がれたが、ブラバニクイーンも弱い魔物ではない…伝説を超える武器があるからといって油断せず、俺は戦いに向かっていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode206 王都大決戦の幕開け(後編)

かげのきしを倒した俺たちのところに、40体近くのブラバニクイーンたちが迫ってくる。

かげのきしよりも数は少ないが、強力な魔物なので気をつけて戦わないといけないな。

しかし、戦い慣れている魔物でもあるので、そこまで苦戦することなく倒せるはずだ。

 

「数は多いけど、今まで通り戦って倒そう」

 

俺たちも奴らに近づいていき、それぞれの武器で斬りかかっていく。

俺のところには、10体くらいのブラバニクイーンが近づいてきていた。

以前8体の奴らに囲まれてゆきのへが危険な状況になっていたことがあったが、ほしふるうでわで動きが速まっている今の俺なら、何とか対応することが出来る。

突進の後の隙に近づき、思い切り両腕の武器を叩きつけていった。

 

「一撃では倒せないけど、かなりのダメージは与えられたな」

 

ブラバニクイーンは生命力もあり、かげのきしのように一撃では倒すことは出来なかった。

しかし、大きなダメージを与えられたのは確実であり、怯んで動きを止めている。

別のブラバニクイーンの突進も避けながら、動きを止めた奴への攻撃を続けていった。

すると、10回攻撃するまでもなく、ブラバニクイーンは力尽きて倒れていく。

 

「結構簡単に倒せたな…残りの奴らも確実に仕留めていこう」

 

これなら、あまり体力を消耗することなくブラバニクイーンを倒し切れそうだ。

俺は同じように攻撃を続けていき、怯んだところでとどめを刺していく。

みんなも奴らの突進を何とか回避し続けて、その後の隙に攻撃して生命力を削りとっていった。

ルミーラもメーダクインを無事に倒し終えて、弓をブラバニクイーンに向けて構える。

 

「メーダクインは倒したけど、まだまだ敵は多いね…みんなを援護に行かないと」

 

俺やみんなと戦っている奴らに背後から矢を放ち、確実に撃ち抜いていく。

矢には麻痺毒が塗られているようで、何度も矢を受けたブラバニクイーンは痺れて動けなくなっていた。

麻痺した奴らを、俺たちは連続攻撃を叩き込んで倒していく。

 

「援護ありがとう、ルミーラ。ブラバニクイーンも数が減って来ているから、このまま倒し切るぞ!」

 

「他の敵も迫って来てるから、わたしも出来る限りのことをするね」

 

麻痺の矢のおかげで、ブラバニクイーンとの戦いはさらに有利になりそうだな。

多くのブラバニクイーンに囲まれており、回避に苦労していたみんなも安定して戦えるようになっていた。

最初は40体ほどもいた奴らだが、残りは10体くらいまで減ってくる。

 

「みんなも順調に戦えてるし、もう少しだな…」

 

俺は残った奴らを倒そうと、攻撃の手を強めていった。

ルミーラも麻痺の矢で、まだ動けるブラバニクイーンを次々に痺れさせていく。

みんなもそれぞれの武器を振り回して、奴らに渾身の連撃を与えていった。

 

だが、ブラバニクイーンたちにとどめを刺そうとしているところに、いくつもの光線が飛んでくる。

俺たちはすぐに気づいてジャンプしてかわしたが、奴らへの攻撃の手が止まってしまった。

 

「くそっ…ブラバニクイーンを倒しきる前なのに、コスモアイも来たか…」

 

コスモアイたちが俺たちに近づいて来て、光線の射程距離内に入ってしまったようだな。

かなり素早くブラバニクイーンを倒していたのに、それでも間に合わなかったか…。

さっきのメーダクインは数が減っている状態だったのでルミーラ一人で倒せたが、30体以上もいるコスモアイを一人で相手するのはかなり厳しいだろう。

 

「…ブラバニクイーンはみんなに任せて、俺とルミーラでコスモアイを倒そう」

 

しかし、残ったブラバニクイーンはゆきのへたちだけでも十分倒せるだろうから、俺もアサルトライフルを使ってのコスモアイとの戦いに集中出来そうだ。

俺はゆきのへたちに指示を出して、アサルトライフルに持ち替えていく。

 

「俺とルミーラがコスモアイたちを倒す。みんなはブラバニクイーンを引き付けていてくれ!」

 

ブラバニクイーンと多数のコスモアイと同時に戦うのはさすがに難しい。

 

「あの光線がある限り、ワシらも戦い辛えからな。そっちは任せたぜ、雄也!」

 

ゆきのへたちは俺の指示を聞くと、俺とルミーラを狙っていた奴らにもそれぞれの武器を叩きつけ、引き付けていった。

俺とルミーラもみんなの前に出てアサルトライフルと弓を使い、コスモアイたちの目玉を撃ち抜いていく。

俺はアサルトライフルの扱いに少しは慣れて、目玉に命中させられる確率が上がっていた。

 

「結構目玉に当たってるな…弾もまだまだ残ってるし、このまま数を減らして行けそうだぜ」

 

弱点である目玉を7発ほど撃たれると、コスモアイは力尽きて地面に落ちて消えていく。

コスモアイの光線は威力が高く、溜め時間も短いが、速度はメーダクインと変わらないので、俺とルミーラはかわし続けることが出来ていた。

コスモアイたちの後方にはキラークラブがいるが、俺たちのところに到達するにはまだ時間がかかりそうだ。

この前弾もたくさん作っていたので、このまま奴らを落としていくことが出来そうだな。

 

「何体で来ても、わたしたちの城には近づけさせない!」

 

ルミーラも、今までと同じ正確な射撃でコスモアイを貫いていった。

ブラバニクイーンと違って麻痺はしにくかったが、何度も矢を受けることで生命力を失って倒れていく。

ゆきのへもブラバニクイーンたちを追い詰めて、次々にとどめをさしていた。

 

「みんなもうまく戦っているな…早くこっちも倒して、後衛の魔物との戦いに備えよう」

 

無数の魔物との総力戦となった今回の戦いだが、まだそこまで苦戦していないな。

ブラバニクイーンもコスモアイも、このまま倒しきることが出来るだろう。

俺はそう思いながらも、油断はせずに戦いを続け、奴らの数を減らしていく。

コスモアイの数が残りわずかになった頃には、ゆきのへたち4人がブラバニクイーンを倒し終えて、俺たちのところに近づいてきた。

 

「こっちは終わったぜ、雄也。そっちももう少しみてえだな」

 

「ああ、もう少し待っていてくれ」

 

光線での攻撃を得意とするコスモアイに接近するのは大変なので、ゆきのへたちは奴らの討伐は俺とルミーラに任せて、接近してくるキラークラブに武器を構える。

しかし、変異したことで呪文も使えるようになったバルダスは、それを使ってコスモアイを攻撃していた。

 

「ボクもコスモアイを落として、雄也たちを助けるんだ!」

 

大きな闇の爆発を受けて、何体かのコスモアイは怯んで地に落ちる。

落ちた奴らに向かってバルダスはさらに闇の呪文を使って、体力を削りきっていった。

闇の爆発に巻き込まれなかったコスモアイも、俺とルミーラが撃ち落としていく。

 

「助かったぜ、バルダス。ルミーラ、残った奴らも撃ち落とすぞ!」

 

バルダスも闇の呪文の詠唱を続けて、キラークラブが来る前に、俺たちはコスモアイを全滅させることが出来ていた。

戦いは長いが、体力にもまだ余裕があるし、はがねのライフル弾もまだ残っている。

しかし、それでもなるべく弾は温存しようと思い、再びふめつのつるぎとビルダーズハンマーを持ってキラークラブたちに近づいていった。

 

キラークラブたちは、それぞれのハサミを振り上げながら俺たちのところに近づいてくる。

しかし、ラダトーム地方では凍った湖にしか生息していないからなのか、20体ほどしか襲撃して来ていなかった。

奴らの甲殻は硬いが、今の武器なら簡単に斬り裂き、叩き潰すことが出来るだろう。

 

「コスモアイが終わったし、次はキラークラブだな…でも、数も少ないしそこまで苦戦しなさそうだぜ」

 

警戒を怠ってはならないのは変わらないが、苦戦せずに倒すことが出来そうだ。

キラークラブたちの後ろにはブラックチャックもいるが、奴らもそんなに強い魔物ではない。

どちらも、みんなと共に戦って一気に倒してしまおう。

まず俺のところには、3体のキラークラブがやって来た。

 

「攻撃速度もあんまり早くないし、回避しながら反撃していくか」

 

キラークラブは攻撃力は高いが、攻撃速度はあまり早くはない。

ハサミを避けて奴らの横にまわると、次の攻撃までの隙に俺は両腕の武器を思い切り甲殻に叩きつける。

すると、おうじゃのけんやビルダーハンマーでもそれなりのダメージを与えていたので、今の武器を使うと一撃で甲殻を砕くことが出来ていた。

怯みはまだしないが、確実に大きな傷をつけられたな。

 

「もう甲殻が砕けたのか…やっぱりすごい武器だな。このまま体力を削っていこう」

 

奴らも怒ってハサミを振り回して来るが、俺はジャンプも使って回避して、残りの2体の甲殻も打ち砕いていく。

甲殻が砕けたキラークラブたちに、俺はさらなる攻撃を加えていった。

ゆきのへたちは武器は俺より弱いものを使っているが、肉体の力は彼らの方が上なので、奴らの体力を削っていくことが出来ていた。

 

「ブラックチャックも近づいて来ているし、なるべく早く倒さないとな」

 

今の装備なら、キラークラブと大量のブラックチャックを同時に相手することも出来るだろう。

しかし、なるべく安全な戦いにしたいので、先にキラークラブを倒し終えよう。

甲殻を破られて防御力が下がったところに強力な攻撃を何度も与えると、奴らは力を失い動けなくなっていた。

 

「動きが止まったし、ここで一気に薙ぎ払おう」

 

ここで回転斬りを使えば、キラークラブを3体同時に倒すことが出来そうだ。

俺はそう思って、再び両腕に全身の力を溜め始める。

そして、力が溜まりきると、俺はその力を解放して辺りを薙ぎ払っていった。

 

「回転斬り!」

 

ふめつのつるぎからまばゆい紅色の光の刃が生まれ、キラークラブたちの体を引き裂いていく。

そのすさまじいダメージに加えて、ビルダーズハンマーでの打撃も受けて、奴らは倒れていった。

みんなも、キラークラブたちを弱らせ、もう少しで倒せそうな状態になっていた。

 

「これでキラークラブは倒れたな…ブラックチャックも、この調子で倒していこう」

 

休む間もなく、俺たちのところには大量のブラックチャックたちがやって来ていた。

45体ほどのブラックチャックのうちの多くは、キラークラブを倒し、魔物にとって最大の脅威のビルダーである俺のところ、そして、人間に寝返り、変異体となった、かつてサンデルジュの地に共に向かった同胞であるバルダスのところに向かっていた。

 

「ビルダーめ…よくもここまでオレたちを…!お前も仲間たちも、オレたちの棍棒で叩き潰してやる!」

 

「ここまで頑張ってきたところ残念だが、人間どもの負けはもう決まっている!」

 

俺のところにやって来た奴らは、トゲつきの棍棒を振り下ろして潰して来ようとして来る。

ブラックチャックの攻撃は、決して弱いものではない。

しかし、今まで戦ってきた魔物に比べるとやはり攻撃力が低いので、俺は両腕の武器で棍棒を叩き落とし、体勢を崩させていった。

 

「戦い慣れた魔物だし、攻撃力も他の魔物に比べたら弱いな…このまま全員押し切ろう」

 

リムルダールで手に入れた指輪もあり、俺の攻撃力はさらに上がっている。

あまり腕に痛みを感じることなく、奴らの体勢を連続で崩させていった。

多くのブラックチャックの体勢が崩れると、俺は奴らの頭に向かって両腕の武器を振り下ろしていく。

 

「かげのきしよりは耐えるけど、すぐに倒せるな」

 

一撃で倒すことは出来なかったが、瀕死の状態にまで追い込むことは出来ていた。

弱ったブラックチャックたちにさらなる攻撃を加えて、とどめを刺していく。

俺と戦っている奴らは、少しずつ数を減らしていっていた。

ラスタンたちも、キラークラブと同時での戦いでありながら何体ものブラックチャックを倒していた。

 

「ラスタンたちもうまく戦ってるみたいだし、さっさと倒しきろう」

 

俺はまだ起き上がって攻撃して来るブラックチャックも怯ませて、動きを止めていった。

まだ多くの魔物が俺たちとラダトーム城を狙っているが、このまま倒し切れるといいな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode207 人に救われし魔物たち(前編)

俺たちはそれぞれの武器を使って、残ったキラークラブやブラックチャックを攻撃していく。

大勢のブラックチャックに囲まれたバルダスも、暗黒に染まった棍棒を使って応戦していた。

 

「バルダス…!お前みたいな裏切り者を、オレたちは許さない!」

 

「エンダルゴ様に逆らったことを後悔させてやる!」

 

ブラックチャックたちは、強い怒りのこもった声を上げながらバルダスを攻撃する。

奴らにとって種族の裏切り者であるバルダスは、ビルダーである俺と同じくらい許せない存在なのだろう。

ブラックチャックの中でもそこまで強い存在ではなかったバルダスも、変異したことで高い攻撃力を得ることができ、かつての同胞たちの武器を弾き落としていった。

 

「ボクは人間と一緒に暮らして、昔より幸せに生きている…絶対に後悔なんてしないんだ!」

 

人間と共に暮らして来たバルダスは、同族と戦うのにもためらいはないようだ。

棍棒を落としたブラックチャックに、バルダスは何度も追撃を加えていく。

まだ倒していなかったキラークラブ相手にも、さらなるダメージを与えていった。

何度も奴らの攻撃を弾き返し、バルダスは少し苦しそうな表情をしていたが、腕に力をこめて戦いを続けていく。

 

「裏切り者のくせに、オレたちをここまで追い詰めやがって…!」

 

「お前みたいなブラックチャックの出来損ないは、いさぎよく消え失せろ!」

 

ブラックチャックたちも、裏切り者のバルダスを倒そうと諦めずに攻撃をしていた。

しかし、変異によって得られた力は大きいようで、バルダスは奴らの棍棒を次々に弾き落としていった。

多くのブラックチャックの動きを止め、そのうちの何体かを瀕死にまで追い詰めたバルダスは、囲まれている状況から脱して、闇の呪文を唱えていく。

 

「苦しい戦いだけど、ボクは人間のために戦い続ける!」

 

俺は裏切り者として追われていたバルダスを助け、バルダスは俺たちのことを大切な仲間だと思ってくれている。

仲間たちと、彼らの住む城を救うために放った闇の呪文は、多くの魔物たちを吹き飛ばしていった。

弱っていたキラークラブと一部のブラックチャックは倒れ、まだ動ける奴らも大ダメージを受ける。

呪文を使った後も、バルダスは棍棒を持って奴らを攻撃しに行った。

 

「こんな呪文まで使って気やがったか…でも、変異したといっても、こいつは子供のブラックチャック」

 

「一斉に叩き潰せば、逃れられないはずだ!」

 

裏切り者には負けられないと、ダメージを負ったブラックチャックたちも反撃する。

バルダスを一気に叩き潰そうと、奴らは一斉に棍棒を振り上げ、飛びかかっていった。

すると、バルダスは避けようとするのではなく、腕に力を溜め始める。

そして、棍棒が振り下ろされる直前に、回転斬りのように辺りを薙ぎ払っていった。

 

「変異しただけじゃないよ!」

 

バルダスと敵のブラックチャックの棍棒が、何度も激しくぶつかり会う。

どちらにも強い衝撃が走っていたが、バルダスはそう叫んで耐えて、奴らの棍棒を叩き落としていった。

体勢を崩して動けなくなったブラックチャックたちに向けて、バルダスは言う。

 

「ボクはゆきのへやルミーラほど戦いの役に立てなくて、ずっと悩んでいたんだ。だから、ボクを救ってくれたみんなのためにも、毎日死ぬ気で何時間も体を鍛えて、戦いの訓練をしていたんだ!」

 

確かに戦いの時、バルダスはゆきのへやルミーラより苦戦している様子も見かけられた。

そんなバルダスが、こうして大勢のブラックチャックたちと戦うことが出来ている。

変異しただけでここまで出来るのかと思っていたが、バルダスは俺がラダトームを去った後、そんな訓練もしていたのか。

バルダスはそう話した後、弱っているブラックチャックたちにとどめを刺していった。

 

「その訓練の成果を発揮して、人間たちのことを守り抜いてやる!」

 

もうバルダスは子供のブラックチャックではなく、一人前の強靭な魔法戦士だと呼べるだろう。

バルダスはこのまま、ブラックチャックを倒しきることが出来そうだ。

俺も残っているブラックチャックを、警戒を怠らずに倒していく。

 

「ビルダーも人間どもも、オレたちをここまで怒らせやがって…!」

 

「どうせお前たちは死ぬんだから、早く諦めた方がいいぞ!」

 

奴らも全力を出して、かなりの攻撃速度で攻撃をして来るが、残っている数も少ないので、俺は回避し続けることが出来ていた。

みんなも、ブラックチャックたちを次第に追い詰めていく。

 

「みんなも苦戦していないし、押し切ってしまおう」

 

戦いはまだ続くし、体力の消耗は最小限にしておきたい。

俺はそう思いながら、奴らへの攻撃を続けていった。

 

しかし、そうしていた俺たちのところに、ルミーラの叫ぶ声が聞こえてきた。

 

「危ない!みんな避けて!」

 

俺たちはすぐに反応して、大きく後ろに飛ぶ。

みんなが回避した直後に、俺たちが立っていたところには何本もの矢が飛んできていた。

ブラックチャックに当たらないような、精密な角度で狙って来ている。

何かと思って側方を見ると、30体を超えるアローインプたちが俺たちを狙って来ていた。

 

「くそっ、今度はアローインプか…。次から次へと魔物がやって来るな」

 

アローインプは弓を使って攻撃して来るので、危険度の高い魔物だな。

ルミーラのものと同様矢に麻痺毒が塗られているかもしれないので、特に気をつけなければならない。

速やかに倒そうと俺はアサルトライフルに持ち替えて、ルミーラにも指示を出した。

 

「あいつらは厄介な魔物だし、銃で早く倒しておかないとな…。ルミーラも、一緒にアローインプたちを倒してくれ!」

 

「分かってる。結構な数がいるから、気をつけて戦おうね!」

 

アローインプやマイラの機械兵器など、俺は弓を使う魔物と何度も戦ってきた。

今回は腕輪の力もあり、さらに回避がしやすくなっている。

俺は矢を避けながら、アローインプたちの頭を狙って銃を連射していった。

ルミーラもバルダスと同様、かつての仲間たちと戦うのにもうためらいはなく、正確な射撃で奴らの体を撃ち抜いていった。

 

「よくもここまで、ワタシたちの仲間を…!」

 

「ビルダーに裏切り者め…必ずやここで仕留めてやる…!」

 

アローインプはコスモアイより耐久力が低く、5発ほど弾丸を当てれば倒すことが出来た。

残ったブラックチャックたちも攻撃をして来るが、俺たちは囲まれないように動き続けていく。

最初は俺たち全員を狙っていたアローインプたちだったが、何体も倒していくと俺とルミーラに攻撃を集中させてきた。

 

「俺とルミーラに攻撃を集中させてきたか…ルミーラが狙われないように、なるべく全員を引きつけよう」

 

いくら手慣れの射手とはいえ、ルミーラは体の構造上人間よりは動きの速度が遅い。

まだアローインプはたくさん残っているので、攻撃が集中すれば危険だろう。

それに、さっきはルミーラ一人にメーダクインを引き付けてもらった…俺も出来る限りの援護をしていこう。

今までの戦いで使い慣れてきたアサルトライフルでほとんどのアローインプを狙い撃ちしていき、注意を俺1人にひきつけた。

 

「ビルダーの奴め…恐ろしい兵器を使って来やがる…!」

 

「これだから物作りの力は、消しされなければいけない!」

 

前方からブラックチャックに、側方からアローインプに狙われ、俺は回避し続けるのが少し困難になってしまう。

しかし、俺は大きなジャンプを繰り返して回避を続け、アローインプたちの頭を撃ち抜いていく。

ブラックチャックに関しては、アローインプの狙いから外れたゆきのへたちも引き付けに来てくれた。

 

「ブラックチャックはみんなに任せて、俺はアローインプに集中しよう」

 

アローインプの矢を確実に避けていきながら、アサルトライフルで体力を削っていく。

ルミーラも攻撃を続けて、アローインプたちの数をだんだんと減らしていっていた。

追い詰められたアローインプたちは、攻撃の手を強めて来るだろう。

だがそう思っていると、奴らのリーダーと思われる個体がルミーラに問いかけて来た。

 

「ワタシたちの裏切り者、ルミーラ…!お前はワタシたちを倒したところで、変異体たちには勝てず死んでいくだろう。お前の射撃能力はワタシたちから見ても素晴らしいものがある…人間どもを撃ち殺してやったら、お前のことは助けてやるぞ!」

 

確かに厳しい戦いを生き延びて来たルミーラの射撃能力は、アローインプの中でも右に出る者はいないだろう。

ブラックチャックたちは人間に寝返ったバルダスを最後まで殺そうとしていたが、アローインプたちはルミーラを再び仲間に入れようとしているようだな。

確かにこの後には3体の変異体との戦いも待っており、ルミーラも生き残れるか分からない。

だがバルダスと同じでルミーラも、最後まで人間と共に戦う覚悟が出来ていた。

 

「確かに人間に味方したことで、厳しい戦いに巻き込まれることになった…でも、それ以上にわたしは、人間たちと一緒に暮らせて楽しかった。どんな敵が待ち受けているとしても、わたしは人間と一緒に戦い続けるよ!」

 

ルミーラはそう言うと、リーダー格のアローインプの頭を矢で撃ち抜く。

俺のアサルトライフルでも弱っていた奴は、力尽きて倒れていった。

ルミーラが裏切ったらさらなる危機になってしまうとか、俺はそんなことを考えはしなかった。

ここまで人間と仲良く暮らして来た彼女なら、決して魔物側に戻ることはないだろう。

 

「どうしてもワタシたちやエンダルゴ様と敵対すると言うのか…!」

 

「お前のような力のある者を殺したくはないが、始末してやる!」

 

アローインプはルミーラの説得を打ち切り、再び攻撃を始めていく。

俺もアサルトライフルでの射撃を続けて、ルミーラへ向かう攻撃を少しでも減らしていった。

俺とルミーラの攻撃を頭に受けて、アローインプは次々と倒れていく。

ブラックチャックも、ゆきのへやラスタンたちの攻撃で残り少しになっていた。

 

「ブラックチャックもアローインプも残り少しか…このまま終わらせてやる」

 

ルミーラもバルダスも、これからも人々と仲良く暮らしていくことだろう。

人間に味方してくれる数少ない魔物たちの力も借りて、俺たちの復興は進んでいく。

そう思いながら、アローインプの群れをルミーラと共に全滅させていった。

 

俺たちがアローインプを倒したころには、ゆきのへたちもブラックチャックを倒し切っていた。

何度もジャンプで回避を行い結構体力を使ってしまったが、まだ休むわけにはいかない。

俺たちのところに、今度はドロルリッチたちも近づいて来ていた。

 

「魔物たちの数も大分減ってきたな…次はドロルリッチたちか…」

 

ドロルリッチは毒沼の辺りにしか生息していない魔物だ。

ラダトームの毒沼はリムルダールの物より小さく、ドロルリッチは20体ほどしかいなかった。

さっさと倒してしまおうと、俺たちはそれぞれの武器を構えて攻撃に向かう。

しかし、ドロルリッチたちの横を通って転がって来て、オーロラウンダーたちが先に迫ってきた。

 

「先にオーロラウンダーが近づいてきたな…巨体の魔物だし、気をつけて戦わないとな」

 

オーロラウンダーもドロルリッチと同様、20体くらいが襲って来ている。

オーロラウンダーはばくだんいわの上位種であり、巨体で潰されれば非常に危険だろう。

しかし、まほうの光玉を作るためのオーロラストーンを集めるために何度も戦っており、今は伝説を超える武器も持っている…あまり苦戦せずに、倒しきることが出来そうだ。

 

「倒した後は、オーロラストーンも集めておこう」

 

まほうの光玉はこれからも必要になりそうなので、倒したら忘れずにオーロラストーンも回収しておこう。

俺はそんなことも考えながら、オーロラウンダーたちに斬りかかっていった。

俺のところには3体の奴らがやって来て、体当たりで押しつぶそうとして来る。

俺は回避すると横にまわり、ふめつのつるぎでオーロラウンダーの体を斬り裂き、ビルダーズハンマーで叩き潰していった。

 

「結構硬いけど、かなりのダメージを与えられてるな」

 

オーロラウンダーは岩の魔物のため、かなりの防御力は持っている。

しかし、伝説を超える武器での攻撃をしのぐことは出来ず、だんだん体力を削り取られていった。

武器はそこまでのものではないが、体が俺より強靭なみんなの攻撃でも、奴らは確実にダメージを受けていく。

 

「そんなに強力な攻撃もないし、このまま倒せそうだぜ」

 

オーロラウンダーは突進攻撃も使って来たが、大きくジャンプすればかわすことが出来た。

あまり苦戦せずに、俺たちは奴らの体力を削り取っていく。

しかし、追い詰められたオーロラウンダーは、奇妙な動きを始めた。

 

「ん?何をするつもりなんだ…?」

 

3体のオーロラウンダーの内の2体が離れていき、1体だけが俺のところに残る。

ラスタンたちのところでも、奴らは似たような動きをしていた。

何だと思っていると、近くに残ったオーロラウンダーが呪文を唱え始める。

 

「こいつら、自爆する気だな…!みんな、急いでオーロラウンダーから離れてくれ!」

 

ばくだんいわの上位種なので、こいつらも自爆呪文のメガンテを使えることだろう。

追い詰められているとはいえ、こんな呪文まで使うようになって来るとはな。

奴らの命と引き換えとはいえ爆発の威力は絶大なので、必ず避けなければならない。

俺はみんなにそう叫ぶと、自爆の範囲外に逃れるために走り出す。

だが、オーロラウンダーはばくだんいわと違って、メガンテを唱えながら動くことが出来るようだった。

 

「唱えながら動くことも出来るのか…何とか逃げ切らないとな…」

 

しかし、全力で動くことは出来ないようで、みんなはオーロラウンダーから少しずつ距離を引き離すことが出来ていた。

腕輪を装備している俺は、一気に距離を遠ざけていく。

そして、呪文を唱えてからしばらくした後に、オーロラウンダーたちは自らの命と引き換えに、大爆発を起こしていく。

爆発は広範囲に及び、オーロラウンダーのいた場所の地面をも大きく破壊していった。

 

俺は爆発の直前に大きくジャンプをして、範囲外に逃れることが出来ていた。

ゆきのへたちもわずかに爆風に当たったが、転んで足を地面にぶつけるくらいでそこまでの大きなダメージは受けていなかった。

しかし、足が人間やアローインプより短く、みんなより走るのが遅かったバルダスは、直撃は避けられたものの吹き飛ばされて体を強く打ちつけていた。

 

「俺は何とか避けられたけど、バルダスが怪我してしまったか…しかも他のオーロラウンダーたち、ラダトーム城に転がっていってるな」

 

そこまでの重傷ではないが、この後の戦いに支障があるかもしれないな。

さらに、先ほど俺たちから離れたオーロラウンダーたちが、ラダトーム城に向かって転がっていっていた。

恐らく、ラダトーム城をメガンテで破壊する気なのだろう。

ラダトーム城にはローラ姫たちがいるし、それは防がなければならない。

 

「このままだとラダトーム城が破壊される…みんな、追いかけるぞ!」

 

「わたしたちがせっかく作り上げた城だからね…必ず守りきろう!」

 

ルミーラが最初にうなずき、みんなもオーロラウンダーたちを追いかけ始める。

みんなは足の痛みをこらえて走り出し、奴らがラダトーム城を破壊するのを阻止しようとした。

大きなダメージを負ったバルダスも、戦いを続けようと懸命に走っていた。

しかし、オーロラウンダーはかなりのスピードで転がっているので、怯ませて動きを止めなければ全員で追いつくことは難しそうだ。

 

「結構な速度で転がってるな…ルミーラ、また遠距離攻撃を使って止めるぞ」

 

「分かった。一緒にラダトーム城の破壊を防ごう!」

 

さっきからアサルトライフルを何度も使い、残った弾は残り少なくなって来ている。

しかし、ラダトーム城が狙われている以上、使うのも惜しむわけにはいかない。

俺はアサルトライフルで、ルミーラは弓矢で、オーロラウンダーを背後から貫いていく。

さっきの俺たちの攻撃で弱って来ているのもあり、奴らはすぐに怯んで動きを止めていた。

 

「動きが止まったね。今のうちにみんなで倒すよ!」

 

「ああ、行くぞ!」

 

ルミーラの掛け声で、俺たちはオーロラウンダーたちを倒しにいく。

ルミーラは弓での攻撃を続けて、ゆきのへたちはそれぞれの武器で渾身の連撃を叩き込んでいった。

怪我をしたバルダスも、動きを止めずに全身の力を腕に溜めて、さっきのような回転攻撃を放っていく。

俺も2体のオーロラウンダーに近づき、両腕に力を溜めていった。

 

「俺も回転斬りを使って、こいつらにとどめを刺そう」

 

城にかなり近い位置まで来ており、再び動き始めたらラダトーム城の破壊は止められないかもしれない。

何としても、ここで倒しきらないといけないな。

俺は両腕に力が溜まりきると、回転斬りを放って奴らの体を斬り裂き、叩き潰していく。

 

「回転斬り!」

 

伝説を超える武器の二刀流での回転斬りを受けて、オーロラウンダーたちは倒れていく。

みんなも攻撃を続けて、奴らの生命力を削りきることが出来ていた。

これで、メガンテでラダトーム城を破壊されるかもしれないという危機は去ったな。

 

「これでオーロラウンダーは倒れたな…残りの魔物のところに向かおう」

 

多くの魔物たちを倒し、いよいよ変異体との戦いも近づいて来ている。

まずは20体ほどのドロルリッチを倒そうと、俺たちは魔物の大軍勢のところに戻っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode208 人に救われし魔物たち(後編)

オーロラウンダーたちを倒した後、俺たちは次に迫ってくるドロルリッチたちのところに向かう。

ドロルリッチはそこまで強くもなく、数も少ないので、すぐに倒すことが出来るだろう。

俺は走りながらアサルトライフルに持ち替えて、奴らに向けて連射していく。

 

「今度こそドロルリッチだな…こいつらも遠距離攻撃が使えるし、こっちもまたアサルトライフルで対抗していこう」

 

リムルダールで戦ったドロルリッチは、俺たちに向けて広範囲に炸裂する毒液を吐いて攻撃していた。

遠距離武器で少しでも数を減らさないと、近づくのは難しいだろう。

距離を詰めながら、俺ははがねの弾丸で奴らの体を貫いていった。

 

「まあまあの耐久力はあるけど、そこまで倒し辛くもないか」

 

ドロルリッチは光が消えた後に現れただけあって、かなりの耐久力があった。

しかし、アサルトライフルを頭に当てれば、7発ほどで倒れていく。

1体が倒れると、俺は他のドロルリッチに向けても攻撃を続けていった。

奴らもだんだん俺たちのところに向かって来て、毒液を吐き出して来る。

 

「やっぱり毒液を使ってきたか…気をつけて近づかないとな」

 

リムルダールの奴らと同様、毒液は着弾とともに炸裂し、広く撒き散らされる。

ドロルリッチの毒はかなり強力だろうから、俺たちはジャンプも使って回避しながら少しずつ近づいていった。

攻撃を避けながらも、俺は銃を連射して少しずつ奴らを弱らせていった。

すると、ドロルリッチたちも俺を最大の脅威とみなし、8体が毒液を集中させてきた。

 

「集中攻撃して来ても、今なら何とか避けられるぜ…!」

 

かつては毒液の集中攻撃に苦戦していたが、今ならかわしながら戦い続けることが出来ていた。

だが、さすがに走って全てを避けるのは難しいので、俺はジャンプも使っており、かなりの体力を消耗してしまう。

それを見て、ルミーラも麻痺の矢でドロルリッチの頭を撃ち抜いていった。

 

「雄也がまたたくさんの敵を引き付けてくれてるし、わたしも頑張らないとね」

 

ドロルリッチの移動速度は遅く、ルミーラの矢を回避することは出来ない。

ドロルリッチは毒の魔物であるため、麻痺毒にもかなりの耐性があるようだったが、少しずつ生命力を削られていっていた。

 

「みんなもだんだん近づけてるし、このまま倒せるといいな」

 

攻撃範囲の広い魔物なので、俺とルミーラだけで全員を引きつけることは出来なかった。

しかし、ゆきのへたちも毒液を大きくジャンプしてかわしながら、ドロルリッチに近づくことが出来ていた。

このままみんなで攻撃を続ければ、奴らはすぐに倒しきることが出来るだろう。

 

だがそう思っていると、ドロルリッチたちの背後にいるまどうしやだいまどう、しにがみのきしたちもだんだん迫ってくる。

 

「でも、後ろの魔物もどんどん近づいて来ているな…」

 

奴らも戦い慣れた魔物であるが、ドロルリッチを先に倒しておいた方が、より安全に戦うことが出来る。

俺とルミーラは遠距離攻撃で奴らに順調にダメージを与えられているが、ゆきのへたちはまだ接近出来ていない。

みんなが接近出来たころには、しにがみのきしたちも戦いに加わって来ることだろう。

そう思っていると、突然1体のドロルが急いでドロルリッチたちに近づいていき、そちらも毒液を使って、奴らの攻撃を撃ち落としていた。

そのドロルは、敵のドロルリッチたちと違い、人間の言葉を流暢に話す。

 

「ワタシは人間の姿の方が気に入っていたのですが…皆さんを守るためなら仕方ありません!」

 

また、さっきまで剣を持って戦っていたチョビの姿が見えなくなっていたことにも気づいた。

あのドロルは、変身の呪文を解いて元に戻ったチョビみたいだな。

チョビはドロルの姿の時から言葉を話すことができ、今の人間の姿の時より流暢に話すことが出来ていた。

ドロルの姿のままだと人間に馴染めないかもしれないと変身したチョビだが、元の姿に戻って戦う日が来るとはな。

 

「ドロルに対抗するには、ドロルの力を使うのが一番です!」

 

チョビはそう言いながら、ドロルの姿で魔物たちに急接近していく。

何度か毒液を撃ち落とせず、浴びてしまっていたが、ドロル族同士にはあまり効果がないようだった。

チョビは洞窟の奥から俺に助け出された後、ラダトーム城のみんなと長く一緒に暮らしていた。

ルミーラやバルダスと同様に、彼も人間たちを守りたいと強く思っているだろう。

戦闘能力も人間の姿の方が高く、本人もドロルの力は役に立たないと思っていたのかもしれないが、こうしてそれを使って戦う時が来た。

 

「ワタシはただのドロルですが…同時にラダトーム城の兵士でもあります。あなたたちに負ける気はありません!」

 

通常のドロルであるチョビが、上位種のドロルリッチを相手に懸命に戦っている。

チョビは至近距離にまで近づくと、再び人間の姿に化けて飛び上がり、思い切り剣を叩きつけていた。

飛天斬りのような凄まじい威力であり、ドロルリッチは大きく怯む。

人間の姿に変わった後は、またしゃべりにくそうにしていた。

 

「ドロルノ姿ニ戻るノハ久シぶりデシたが、うまく行きマシたね」

 

怯まなかったドロルリッチたちは、体当たりでチョビに攻撃しようとして来る。

しかし、チョビは横に跳んだりして回避して、剣でさらなるダメージを与えていった。

毒液が飛んで来なくなったことで、ゆきのへたちも一気に近づいていく。

 

「よくやったぜ、チョビ!ワシらも一緒に潰しに行くぜ!」

 

「後ろのしにがみのきしも迫って来ている…急ぐぞ!」

 

みんなはしにがみのきしが来る前にドロルリッチを倒し切ろうと、全力で攻撃をしていった。

チョビとラスタンの剣、ゆきのへとラグナーダ、バルダスのハンマーでの集中攻撃を受けて、ドロルリッチたちは次々に倒れていく。

自分たちの前にいた奴らが全て倒れると、近づいてきたしにがみのきしに向けても武器を向ける。

 

「お前さんたちが来る前に、金色のドロルどもは全員倒してやったぜ」

 

「わしらの城を守るために、お主たちとも戦おう…!」

 

しにがみのきしたちも、斧を振り上げてみんなを叩き斬ろうとして来る。

 

「あいつらが早く倒されることは想定外だったが、貴様らに勝ち目はない!」

 

「我らが斬り刻んで、首をエンダルゴ様に差し出してやろう」

 

しにがみのきしも30体おり、ゆきのへたちのところにはそれぞれ4体ずつが向かい、俺とルミーラのところには10体が近づいて来ていた。

俺がラダトームを去った後もしにがみのきしとの戦いは何度もあったようで、みんな戦いに慣れており、4体同時でも苦戦せずに戦うことが出来ていた。

俺とルミーラもしにがみのきしに近づかれる前にドロルリッチを倒し切って、奴らとの戦いに備える。

 

「ビルダーに裏切り者のアローインプめ!貴様らのような厄介な存在は、ここで消し去ってくれる!」

 

「城に隠れた弱き者共も、我らが葬り去ってくれよう!」

 

俺は再びふめつのつるぎとビルダーズハンマーに持ち替えて、しにがみのきしに斬りかかっていった。

奴らの鎧もかなりの硬度を誇るが、今の武器なら貫くことは容易だ。

 

「しにがみのきしも強力な魔物ではあるけど、戦い慣れているから大丈夫そうだな」

 

何より俺も戦い慣れている魔物なので、攻撃力は高いもののうまく避けながら戦っていくことが出来る。

何度も斬り裂いていくと、しにがみのきしのうちの2体が怯んで動かなくなった。

俺は動けなくなった奴らに大して、とどめとして連続攻撃を叩きこんでいく。

2体のしにがみのきしは力尽きて倒れ、俺は残りの奴らにも両腕の武器を叩きつけていった。

 

「まずは2体だな…残りの奴らにも攻撃を続けていこう」

 

残り3体の鎧も貫いたり叩き潰したりして、かなりのダメージを与えていく。

ルミーラも麻痺の矢でしにがみのきしの動きを止めることが出来ており、その隙にさらに体力を削っていった。

みんなもそれぞれの武器を叩きつけて、奴らを追い詰めていく。

しにがみのきしとの戦いも、あまり苦戦せずに終わらせることが出来そうだった。

 

しかし、しにがみのきしを追い詰めている俺たちの側方や後方に、30体近くのまどうしたちがまわって近づいて来る。

まどうしはだいまどうの下位種であり、今までの防衛戦には現れなかった。

体力も低く簡単に倒せるだろうが、しにがみのきしとの戦いを妨害されるのは厄介だな。

 

「ここまでの魔物に囲まれて、まだ戦いを諦めないとは…!」

 

「我らが消し炭にしてやる、メラ!」

 

まどうしたちはメラの火球を放って俺たちを焼き尽くそうとして来る。

メラ自体をかわすのは大して難しくはないが、しにがみのきしの斧にも同時に対処しなければならなくなるので、少し厳しい状況になったな。

早くまどうしたちを倒さなければ、攻撃をくらってしまうかもしれない。

残り弾数は少ないが、俺はアサルトライフルをポーチから取り出して、奴らに向かって撃っていった。

 

「まどうしのメラは厄介だな…アサルトライフルで、さっさと数を減らそう」

 

まどうしは生命力も低く、3発当てれば青い光を放ちながら消えていった。

しにがみのきしの攻撃もかわさなければいけないが、腕輪があるのでそこまで厳しいものでもない。

ルミーラもしにがみのきしを3体倒した後、まどうしに向けて矢を撃ち放っていく。

 

「この炎は厄介だね…早く倒しておかないと…」

 

まどうしも何度か矢を受けると麻痺して体が動かなくなり、その間にルミーラはとどめを刺していった。

アサルトライフルや弓での攻撃を続けていくと、まどうしのメラが俺たちに集中して来る。

 

「やはりビルダーは危険な人間だ…!集中攻撃で焼き尽くせ!」

 

「魔物のくせに人間に味方する、あのアローインプの小娘もだ!」

 

何度か火球や斧が当たりそうになってしまったが、俺とルミーラはまだダメージを負わずに戦い続けていた。

 

「こっちに集中して来たけど、何とかかわし続けないとな…」

 

みんなもメラで焼かれるのを心配する必要がなくなり、しにがみのきしたちを何体も倒していく。

だが、しにがみのきしやまどうしを倒しきる前に、30体ほどのだいまどうも俺たちの側方に動いて来た。

だいまどうの群れの奥には、変異体である暗黒魔導も混ざっている。

 

「くそっ、だいまどうと暗黒魔道も近づいてきたか…俺たちだけだと引き付けきれないな…」

 

だいまどうたちはメラミを使えるので、しにがみのきしと戦っているみんなも、しにがみのきしとまどうしに何とか応戦している俺たちも、相当苦戦することになりそうだ。

だいまどうを全員を引き付けるというのは、今の俺でも不可能だろう。

さらに暗黒魔道も入って来れば、一気に戦況が悪化する危険性すらある。

その状況を見て、ゆきのへがだいまどうに殴りかかりにいこうとしていた。

 

「このままだと焼き尽くされちまうな…ワシがだいまどうどもを倒しに行くから、誰かしにがみのきしを引き付けてくれ!」

 

「分かったぞ!だいまどうも慣れた魔物ではあるが、炎に気をつけてくれ」

 

ゆきのへの声を聞いて、ラスタンがゆきのへと戦っていたしにがみのきしにも斬りかかっていく。

それぞれがまだ2体ずつと戦っていたので、ラスタンは4体の奴らを相手することになる。

しかし、4体とももう弱って来ていたので、ラスタンは苦戦している様子は見かけられなかった。

だが、ゆきのへだけで30体のだいまどうを押し切るのは難しい。

バルダスもそう思ったようで、ゆきのへと共に奴らを潰しに行くと言った。

 

「ゆきのへだけじゃ大変だから、ボクもだいまどうと戦いに行く。チョビ、しにがみのきしたちを引き付けていて!」

 

バルダスは、近くで戦っていたチョビに呼びかける。

チョビは戦いが始まった頃と比べて、少し動きが鈍くなってきていた。

恐らく、ドロルの姿で受けたダメージが、人間の姿での動きにも影響しているのだろう。

ドロル族同士なら毒は効かないといっても、全くの無傷では済まされないはずだからな。

しかし、チョビは苦しい戦いでもやらなければいけないと思い、しにがみのきしたちを引き付けていく。

 

「分かリマシた、バルダス。そっちハ、任セまシタよ!」

 

チョビも、4体の奴らを同時に相手して、だんだん弱らせていった。

動きが鈍ってきたチョビを倒そうとしにがみのきしは斧での攻撃を強めて来るが、彼は力の限り動き続け、攻撃を回避していった。

 

「どれだけでやって来ても、ワシらを焼き尽くすことなど出来ねえぜ!」

 

「みんなを守るために、ボクは戦い続けるんだ!」

 

兵士たちにしにがみのきしを引き付けてもらったゆきのへとバルダスは、ハンマーを振り上げながらだいまどうたちに近づいていく。

だいまどうたちも、メラミの呪文を唱えて二人を燃やそうとして来た。

 

「近づこうとしても無駄だ、メラミ!」

 

「貴様らを灰にして、完全なる魔物の世界に変えてやる!」

 

だが、アレフガルド各地の厳しい戦いを生き延び続けてきたゆきのへは軽々とかわし、奴らに近づいていく。

暗黒魔道もゆきのへの方にメラゾーマで攻撃していたが、まだ彼を止めることは出来ていなかった。

さっきのメガンテの爆風で傷を負ったバルダスは、体の何ヶ所かを焼かれてしまっていたが、変異体の持つ強大な生命力で耐え伸びていた。

ブラックチャックたちに言っていた、訓練の成果というのも大きいだろう。

だいまどうは生命力や攻撃力は低いので、一度近づくことが出来れば簡単に倒せる。

俺とルミーラもしにがみのきしの攻撃をかわしながら、まどうしたちを倒していった。

 

「まどうしたちを倒したら、ゆきのへたちの援護に向かおう」

 

まどうしの方が残った数は少ないので、早く倒し終えられるだろう。

そうしたら、ゆきのへたちのところに援護に向かわないとな。

今はまだ大丈夫そうだが、暗黒魔道のメラゾーマもかわし続けていたらゆきのへの体力も尽きてくるだろうし、バルダスもさらなるダメージを受けてしまうはずだ。

 

そう思っていると、俺とルミーラのところに、自身が戦っていたしにがみのきしを倒し終えたラグナーダが近づいて来る。

そして、俺たちを狙っているしにがみのきしにハンマーを叩きつけていた。

 

「雄也よ、ルミーラよ。お主たちは、まどうしとの戦いに集中してくれ」

 

ラグナーダは、合計5体の奴らの注意を引き付ける。

しにがみのきしの注意を引き付けてもらえば、まどうしやだいまどうと戦いやすくなるな。

俺が感謝の言葉を言うと、ラグナーダはこれも恩返しの一つだと話してくる。

 

「助かったぜ。ありがとう、ラグナーダ」

 

「お主はわしらのことを助けてくれた…これも恩返しの一つだ。わしは大丈夫だから、そっちは頼んだぞ」

 

大型の船作りや戦いでの援護…ラグナーダはたくさんの恩返しをしてくれるな。

おおきづちの里が全滅寸前という状況から救い出されたことが、ラダトーム城でみんなと仲良く暮らせたことが、それだけ嬉しかったのだろう。

人間とおおきづちは、これからも協力しながら生きていく。

ラグナーダはまだ大きな傷を負っておらず、動きも鈍って来ていないので、きっと無事にこの5 体のしにがみのきしも倒し切れるだろう。

 

「分かった。無事でいてくれよ、ラグナーダ」

 

「ラグナーダの期待に応えるためにも、まどうしを集中して倒そう」

 

俺とルミーラは、アサルトライフルと弓を使ってのまどうしとの戦いに集中していった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode209 生か死か

ラグナーダにハンマーで殴られたしにがみのきしたちは、彼に集中して斧を振り下ろしていく。

ビルダーである俺への攻撃を妨げられ、奴らは怒りの声を上げていた。

 

「ビルダーの野郎を仕留めようとしたのに、邪魔をしやがって!先に貴様のことを叩き斬ってやる!」

 

「仲間のほとんどを殺されながらも生き残った、死に損ないの長老め!他のおおきづちと同じように、無様に死んでいくがいい!」

 

ラグナーダはおおきづちなので動きが人間より遅く、全てを回避していくことは出来ない。

しかし、他のおおきづちよりもはるかに高い攻撃力を持っており、しにがみのきしの斧を弾き返していく。

そうして奴らが体勢を崩したところで、ラグナーダは何度も追撃を与えていった。

 

「確かに多くの仲間を失った時には、わしらだけ生き残っても意味がないと思っていた…だが、ビルダーに救われ、新たな仲間を手に入れた今は、生きて戦い続けなければいけないと思っておる」

 

おおきづちの里が壊滅した時、ラグナーダはそんな考えにも陥っていたのか。

しかし、新たな守るべき仲間と場所を手に入れた今のラグナーダは、生きるために魔物との戦いを続けている。

ラグナーダの強力な攻撃を受けて、しにがみのきしたちはだんだん追い詰められて来ていた。

 

ラグナーダがしにがみのきしを引き付けてくれている間、俺とルミーラはまどうしと戦っていく。

奴らもメラの魔法で俺を焼こうとして来るが、走って避けていく。

アサルトライフルを頭に当てると数発で倒せるので、かなりの早さで数を減らしていくことが出来た。

 

「ビルダー…お前も仲間たちも、時期に死んでいくことになるのだ!」

 

「貴様ら人間がどれだけ力を手に入れたとしても、我らを止めることは出来ん!」

 

それでも奴らも俺たちとの戦いを諦めず、メラの火球を出来るだけ大きくして来ようとして来る。

しかし、しにがみのきしもいなくなって、俺たちは動きやすくなっていた。

まどうし自体の数も残り少なくなって来ているので、メラを受けることなく攻撃し続けることが出来る。

ルミーラも麻痺の矢で動きを止めながら、奴らにとどめをさしていった。

 

「まどうしも残り少なくなって来たな…さっさと倒して、ゆきのへたちのところに向かおう」

 

俺たちがまどうしと戦っている間にも、ゆきのへたちはだいまどうたちと暗黒魔導たちに苦戦している。

バルダスは何度もメラミを受けたことで、さらに動きが遅くなって来ていた。

ゆきのへも暗黒魔導のメラゾーマやドルモーアを、かわし続けるのが難しくなって来ている。

早く助けに行かなければ、二人とも魔物たちに殺されてしまうだろう。

俺は残っているまどうしに正確にはがねの弾丸を当てようと、近づきながら攻撃していった。

 

「距離を詰めた方が、確実に当てられそうだぜ」

 

距離が近くなるとメラを回避することもさらに難しくなるが、俺は大きくジャンプをしたりもしながらアサルトライフルを撃ち続けていく。

戦いが長引くとまどうしたちの魔力も尽きて来て、メラの威力も落ちて来ていた。

 

「まどうしたちも弱ってきているし、今がチャンスだな」

 

俺はそこでさらに距離を詰めて、至近距離で頭を弾丸で貫いていき、残っているまどうしたちを全て倒していった。

まどうしたちを倒しきった頃には、俺が持っているはがねの弾丸はほとんどなくなっていた。

ゆきのへたちを助けに行く時は、剣とハンマーでだいまどうと戦わなければいけなさそうだな。

俺はゆきのへを助けに行こうと思い、ルミーラにはバルダスを助けに向かって欲しいと指示を出した。

 

「これでまどうしはみんな倒れたな…ルミーラ!俺はゆきのへを助けに行くから、そっちはバルダスを頼む」

 

「そっちは黒い魔物がいるみたいだし、気をつけてね」

 

暗黒魔導がゆきのへを狙っているのを見て、ルミーラはそう言う。

確かにゆきのへを助けに行けば、暗黒魔導は俺を狙って来ることになるだろう。

だが、リムルダールでも暗黒魔導を倒したことがあるので、今回もきっと勝つことが出来るだろう。

 

「分かってる。ゆきのへを助けて、暗黒の魔物も倒して来るぞ」

 

俺はルミーラにそう言うと、ふめつのつるぎとビルダーズハンマーを持ってゆきのへのところに向かっていった。

ゆきのへは多くのだいまどうを倒して来ているが、まだ半分以上が残っている。

ゆきのへの体力の限界も近くなり、ついには暗黒魔導のメラゾーマで腹と足を大きく火傷してしまった。

 

「くっ…あの黒いだいまどうの野郎、ここまで強えとはな…」

 

直撃は避けられたが、ゆきのへはかなり苦しそうな表情になっていた。

立ち上がることは出来たが、動きは今までよりも遅くなって来てしまう。

このままではさらなる炎を受けてしまうので、俺はだいまどうたちのところに急ぐ。

だいまどうは俺に気づくと、こちらに向かってもメラミの呪文を唱えてきた。

 

「せっかくこのハゲた男を焼き殺せると思ったのに、ビルダーの野郎め!」

 

「一緒に排除してやる、メラミ!」

 

俺はジャンプして回避し、次のメラミを詠唱している間に全速力で走って近づいていく。

ゆきのへのところに飛ぶ火球は少なくなり、彼は近づいて攻撃することは出来ないものの、2撃目を受けないように必死に回避を続けていた。

メラミの詠唱時間はそこそこ長く、腕輪の力を使えば一気に距離を詰めていくことが出来る。

そして目の前にまで近づくと、俺は両腕の武器を振り上げて思い切り叩きつけた。

 

「ゆきのへ、助けに来たぞ!残りのだいまどうたちは俺が倒す」

 

だいまどうも、生命力や防御力は他の魔物と比べると低い。

伝説を超える武器での攻撃を受けると、大きく怯んで動けなくなっていた。

そこにさらにもう一撃を与えると、奴らは力を失って光を放ちながら消えていく。

何体かを倒していくと、だいまどうたち全員が俺に向かってメラミを放って来た。

 

「助かったぜ!ありがとう、雄也。あの暗黒のだいまどうは相当の強敵だ…気をつけるんだぜ…」

 

これで、追い詰められていたゆきのへも危機を脱することが出来たな。

ゆきのへは俺に感謝の言葉を言うと、体勢を整えるために一度後ろに下がっていく。

ルミーラも身体中に火傷を負っていたバルダスを助け出し、麻痺の矢でだいまどうたちを倒していた。

しかし、安心いている暇もなく、暗黒魔導も俺に向かってメラゾーマの呪文を唱えてきた。

 

「アレフから聞いた通り、ビルダーとは本当に厄介な存在ですね…!アレフに逆らったあなたは、私が排除しましょう!」

 

この暗黒魔導は、アレフに直接会ったことがある奴みたいだな。

アレフと親しい魔物なら、それだけビルダーである俺への恨みは大きいことだろう。

大きくジャンプして回避するが、暗黒魔導は連続してメラゾーマを放っていく。

まわりのだいまどうたちも、メラミで奴を援護していた。

 

「暗黒魔導様と共に、お前を焼き尽くしてやる!」

 

「諦めて灰になれ、ビルダーめ!」

 

まずはだいまどうたちを倒さなければ、暗黒魔導と戦うのは難しいだろう。

俺はメラミやメラゾーマを回避しながら、奴らに近づいていき、両腕の武器を振り下ろす。

 

「早くだいまどうたちを倒して、暗黒魔導とも戦いに向かおう」

 

さっきのだいまどうと同じように、何度か攻撃を当てると生命力を失い消えていく。

ゆきのへの時とは違い、残っただいまどうの数が少ないので、俺の体力が尽きる前に全員を倒し切ることが出来そうだ。

俺は多くの火球を走ったり跳んだりしてかわしながら、だいまどうたちの杖を叩き落とし、怯んだところに頭に向かって武器を叩きつけ、青い光へと変えていく。

だが、残っただいまどうがあとわずかになると、暗黒魔導は長い詠唱時間をかけて、超巨大な火球を生み出していく。

 

「ここまで私達を苦戦させるとは…しかし、エンダルゴ様やアレフのところに向かう前に、あなたはここで燃え尽きる!」

 

「メラガイアーの呪文か…何としても避けないとな」

 

リムルダールの暗黒魔導も使ってきた炎の最上位呪文、メラガイアーだろう。

遠くからでも熱を感じるほど非常に高温であり、直撃は避けられても大やけどは免れない。

俺は攻撃を中断して回避することだけを考えて、力の限り走って、大きくジャンプする。

叩きつけられた火球は巨大な火柱となり、空まで燃やすかと思えるほど高くまで上がっていた。

力の限りの動きによりかわすことは出来たが、休む間もなくだいまどうはメラミを、暗黒魔導はメラゾーマを放って来る。

 

「くっ…何とかメラガイアーからは助かったけど、まだまだ炎が跳んでくるな」

 

流石にメラガイアーを連発することは出来ないようだが、このままでは俺もゆきのへのように火球を受けてしまうことだろう。

俺は早く残っただいまどうを倒そうと、すぐに起き上がった武器を振り上げ、詠唱時間の間に近づいていく。

そして、少しでも大きなダメージを与えられるよう思い切り武器を叩きつけていった。

何度か攻撃を当てると、だいまどうは倒れて消えていく。

 

「これで後は暗黒魔導だけになったか…やっぱり変異体は強敵だけど、何とか勝たないとな…」

 

だいまどうを全員倒しきった時には、俺の体力はもう限界に近づいて来ていた。

だが、ここで動きを止めたら暗黒魔導に殺されてしまうので、俺は動き続ける。

みんなも、だいまどうとしにがみのきしを倒し終えて、キースドラゴンやエビルトレントと戦い始めていた。

ルミーラは麻痺の矢で奴らの動きを止めて、ラスタンとラグナーダもそれぞれの総力をぶつけていく。

今までの戦いで傷を負ったゆきのへたちも、戦い慣れた魔物ではあるので、さらなるダメージを受けずに攻撃することが出来ている。

俺はみんなが生きて戦いに勝てることを信じて、暗黒魔導に斬りかかっていった。

 

「私達の仲間を全て倒しましたね…ですが、私だけでもあなたを滅ぼして見せる!」

 

「くっ…この暗黒魔導も、力で押し切ることは出来ないか…」

 

正面から斬りかかると、暗黒魔導は黒く染まった杖を構えて受け止めてくる。

リムルダールの暗黒魔導を倒した後にも多くの厳しい戦いを生き抜いて来たが、今の俺でも暗黒魔導を腕の力で押し切ることは不可能だった。

弾き返されて武器を落とすことがないよう、俺は奴の側面にまわって武器を叩きつける。

 

「攻撃を回避しながら、少しずつ体力を削っていくしかなさそうだな」

 

押し切って体勢を崩させることが出来ないのなら、攻撃を回避しつつ反撃していくしかない。

伝説を超える武器を装備しているので、それでも大きなダメージを与えられていた。

しかし、変異体である暗黒魔導はそう簡単に倒れようとはしない。

俺の体力が尽きるまでに、奴を倒し切れるかはかなり不安だった。

 

「弱っていても、流石はビルダーですね…!アレフに苦労させないためにも、なおさらここで倒さなければいけない」

 

暗黒魔導も杖を振り回し、俺を殴りつけようとして来る。

弱っているところにダメージを負ったら、俺の動きはさらに鈍ってしまうだろう。

攻撃をかわすのを最優先に動きながら、少しずつ奴の生命力を削っていった。

しかし、暗黒魔導は追い詰められていく様子はなく、むしろ攻撃の手を強めて来る。

 

「どれだけ強い武器を持っていても、変異体はそう簡単に追い詰められないか…」

 

伝説を超える武器を持っていても、やはり変異体は一筋縄ではいかないな…。

確実に弱って来てはいるだろうが、倒すためにはまだ多くの攻撃が必要だろう。

俺は体力が持つことを信じて、暗黒魔導への攻撃を続けていく。

しかし、奴の攻撃を避けるのも難しくなっていき、俺は足を思い切り叩きつけられて倒れこんでしまった。

 

「くそっ、このままだとまずいな…」

 

「あなたにとどめをさして、私達とアレフの望んだ世界を作り出す!」

 

俺は痛みに耐えて起き上がり大きくジャンプして、暗黒魔導から一度離れようとする。

すると、暗黒魔導は俺を追いかけて来ようとはせず、その場で呪文を唱え始めていた。

今度もメラガイアーと同じくらいの詠唱時間があり、非常に強力な攻撃が来そうだ。

 

「どれだけ距離をとっても無駄です!」

 

「また呪文か…もっと遠くまで離れないと」

 

しかし、足にダメージを受けた今の俺では、暗黒魔導の広範囲の魔法を避けることは難しそうだった。

足で逃げられないのならと思い、俺は何か使えないかと一瞬で考えていく。

そこで、極げきとつマシンのスピードなら逃げられるかもしれないと思い、俺はマシンに乗り込んだ。

そして、暗黒魔導の詠唱が終わった直後に、俺は思い切りアクセルを踏んで遠くに向かう。

 

「消えなさい、ビルダー!」

 

今度の暗黒魔導の呪文はメラガイアーほどの火柱は立たなかったが、辺り一面を焼け野原に変えるほど広範囲に炎が撒き散らされていく。

恐らくはギラの最上位呪文、ギラグレイドだろう。

俺はマシンを使うことで何とかギラグレイドの炎から逃れることができ、再び暗黒魔導に近づいていった。

みんなも何体かのキースドラゴンやエビルトレントを倒すことが出来ていたが、ダースドラゴンやゴールデンドラゴンの変異体と思われる黒い竜に襲われて苦戦している。

変異体は非常に広範囲の闇の炎を吐いて来ており、さっきの戦いで傷を負っていたゆきのへたちは後方に撤退し、ラスタンたちも火傷を負っていた。

 

「ギラグレイドからは助かったけど、みんなも苦戦してるみたいだな…」

 

全員の体力が限界に近づいて来ており、怪我を負っている。

極げきとつマシンで暗黒魔導を突き刺そうかとも思ったが、奴も俺の考えは見抜いていたようで、火球を自身の目の前に出して防壁のようにし、突進を防いでいた。

どうしようかと思っていると、ゆきのへの大きな声が聞こえてきた。

 

「まずい状況になってるし、またあの大砲を使って魔物どもを倒そうと思う!雄也、この前の砲弾はあるか?」

 

「ああ、まだ残ってるぞ!」

 

そう言えば今回の戦いでは、六連砲台をまだ使っていなかったな。

砲台を使っても変異体は倒しきれないだろうが、絶大なダメージを与えることは出来るはずだ。

俺はゆきのへにそう返事をして、極げきとつマシンをまずはゆきのへの方に向けて走らせていく。

ラスタンたちも、変異体や他のドラゴンたちから離れて、ラダトーム城に向けて走っていく。

 

「これが大砲の弾だ。受け取ってくれ」

 

俺はみんなのところに来て極げきとつマシンを降りると、ゆきのへとラスタンに赤魔の砲弾を渡す。

この前と同様に、みんなで大砲の弾を込めた方が早く発射出来るだろう。

 

「ありがとう、雄也。ラダトーム城に急ぐぜ」

 

「これを使って、少しでも魔物の数を減らそう」

 

奴らを砲台に近づけると言うのは、同時にラダトーム城に近づけるということでもある。

しかし、大砲を使っても勝てるか分からないにしても、このままでは俺たちは全滅してしまう。

そう思いながら、俺たちはラダトーム城へと力を尽くして走っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode210 追い詰められた城

俺たちは六連砲台を使うために、ラダトーム城の方向へと走っていく。

走っている間にも、俺は残ったアサルトライフルの弾を、ルミーラは麻痺の矢を使って何体かのキースドラゴンやエビルトレントを倒していた。

 

「大砲だけじゃ倒しきれないから…少しでも数を減らしておかないとね」

 

「確かにな…俺も一緒に攻撃するぞ」

 

ルミーラの言う通りまだまだ敵は多く、大砲の攻撃範囲にも限度があるので、少しでも数を減らしていった方がいいだろう。

今までみんなと戦っていた魔物たちは、俺とルミーラの攻撃を受けて何体かが倒れていく。

ダースドラゴンたちやゴールデンドラゴンの変異体にも、少しのダメージを与えることが出来ていた。

しかし、ドラゴンたちと戦っている間に、俺の持っている弾は全てなくなってしまう。

 

「くそっ…まだまだ敵はいるのに、弾がなくなったな…」

 

「まだ矢は残ってるから、私が攻撃を続けるね」

 

たくさんはがねのライフル弾を作ったつもりだったが、まさか足りなくなるとはな。

だが、ルミーラは剣での攻撃が出来ないためか、俺のはがねのライフル弾よりも多くの麻痺の矢を用意している。

そのおかげで、俺がライフル弾を使いきった後も矢が尽きることなく攻撃し続けることが出来ていた。

ルミーラの攻撃で、キースドラゴンとエビルトレントたちは力尽きてほとんどが倒れていく。

しかし、それ以上の攻撃を続ける前に、ルミーラの矢もいよいよ尽きようとしていた。

 

「でも、わたしもそろそろ矢がなくなって来たみたいだね…まさか、足りなくなるとは思わなかった」

 

「今までありがとう、ルミーラ。後は、大砲で少しでも多くの魔物を倒せることを祈ろう」

 

どれだけ矢を用意していたにしても、今回は魔物の数が多すぎる。

逃げながら魔物を攻撃する方法がこれでなくなったので、今はラダトーム城の六連砲台で出来るだけ多くの魔物を倒せることを信じるしかないな。

俺は魔物の数を減らしてくれたルミーラに感謝すると、ラダトーム城へ急いでいった。

 

ラダトーム城が近づいて来ると、俺はポーチから赤魔の砲弾を取り出し、ゆきのへたちに声をかけながら大砲のところに向かう。

 

「そろそろラダトーム城だ…この前と同じで俺は右の大砲に弾を詰めるから、二人は左の大砲を頼んだぞ!」

 

「分かったぜ、雄也!」

 

「何としても大砲を撃って、魔物の群れを倒すぞ!」

 

3人で大砲の弾を詰めて、速やかに発射しないとな。

ゆっくり大砲の弾を詰めていたら、発射する前に魔物に砲台を壊されてしまうだろう。

俺は確実に大砲を放てるよう、ほしふるうでわの力を最大限に使って全速力で走り、大砲に弾を詰めていく。

弾を詰めている間も、魔物たちはどんどんラダトーム城に近づいて来ていた。

 

「何を使うかは分かりませんが、今さらどうしようとあなた達に勝ち目はありません!」

 

暗黒魔導は、大砲のところに来た俺たちに向けてそんなことを言う。

六連砲台が使われるのを見た魔物は今まで全員倒されているので、魔物側は砲台についてよく知らないみたいだな。

しかし、それでも強力な兵器であることは感じとったのか、呪文を唱えて破壊しようとする。

 

「その兵器もあなた達自身も、ここで焼き尽くしてみせましょう!」

 

暗黒魔導の動きを見て、俺たちは大砲の弾を詰める速度をさらに上げていった。

大砲の弾はかなりの重さではあるが、出来る限りの力を使って素早く持ち上げ、三連大砲の中に入れていく。

そして、ラスタンたちの協力もあって6つの赤魔の砲弾が入りきると、俺たちはすぐに発射スイッチを押して、砲台から離れた。

 

「なかなか厳しい戦いだったけど、これでどうだ!」

 

発射スイッチを押すと、大砲から6つの赤魔の砲弾が発射され、ちょうどゴールデンドラゴンの変異体がいるところに着弾し、巨大な爆発を起こす。

6つの爆発が重なり合うことで威力も範囲もすさまじい物となり、周囲にいたキースドラゴンやエビルトレント、ダースドラゴン、暗黒魔導にも絶大なダメージを与えた。

しかし、発射した少し後に、六連砲台に向かっても暗黒魔導のメラガイアーが叩きつけられる。

俺たちはかわすことは出来ていたが、六連砲台は壊されてもう一度使うことは出来なさそうになっていた。

 

六連砲台の炸裂により、多くのキースドラゴンやエビルトレント、ダースドラゴンが倒れていく。

だが、暗黒魔導やゴールデンドラゴンの変異体は弱っているものの生き残り、ゴールデンドラゴンなどは爆発の範囲外にいたのでダメージを受けていなかった。

 

「結構な魔物は倒せたけど、まだまだ多く残っているな…」

 

厳しい状況が逆転したとは、とてもじゃないが言えないだろう。

ゴールデンドラゴンの変異体はともかく、既に弱ってきていた暗黒魔導だけでも倒しておきたかった。

暗黒魔導は瀕死にまで追い詰められているものの、俺のところにメラゾーマの呪文を叩きつけて来る。

 

「さすがは人間、ここまで強力な兵器を持っているんですね…ですが先ほども言いましたが、何をしたところであなた達は滅びる運命なんです!」

 

俺はまたメラゾーマの呪文をかわしつつ、奴に向かって近づいていく。

暗黒魔導ももう追い詰められているので、もう少しで倒せるだろう…そう思いながら、両腕の武器を振り上げていった。

奴に近づくことが出来ると、俺は杖での攻撃を回避しながらビルダーズハンマーとふめつのつるぎを叩きつけていく。

 

「何とか近づけたし、このまま倒してやるぜ」

 

「ビルダー…まだ戦えるほどの力があったのですか…!」

 

杖での攻撃の後には僅かな隙が出来るので、俺はそこを逃さず確実に攻撃を叩き込んでいく。

暗黒魔導も傷だらけになっており、倒れる時は確実に近づいて来ていた。

だが、暗黒魔導を倒す前に、俺の体力にもいよいよ限界が訪れてしまう。

 

「しかし、その力強さも無駄なものでしょう。あなたは私に、仲間たちはダークメタリックドラゴンに殺されるのです!」

 

ラスタンとラグナーダも、ダークメタリックドラゴンと呼ばれたゴールデンドラゴンの変異体に苦戦していた。

奴は悠久の竜のような連続攻撃は行わないものの、広範囲の炎と両腕の爪から放たれる闇の刃で二人にいくつもの怪我を負わせている。

ゆきのへとバルダス、チョビは残ったダースドラゴンたちを倒していたが、そこにゴールデンドラゴンも襲いかかってくる。

戦い慣れた魔物ではあるが、先ほどの戦いで受けたダメージもあって、二人は危険な状態になっていた。

俺もついに暗黒魔導の攻撃をかわすことが出来なくなり、腹を殴られて倒れこんでしまう。

 

「くっ…ここまで戦い続けても、まだ倒しきれないか…!」

 

「私の勝ちみたいですね、ビルダー。とどめをさしてあげましょう!」

 

倒れた俺に向かって暗黒魔導はメラゾーマを何度も放ち、とどめをさそうとする。

俺は身体中の痛みに耐えて立ち上がり回避を続けるが、それにもやがて限界が来る。

ラスタンたちもドラゴンたちに身体中を斬り裂かれ、焼かれ、あと一撃でも受けたら死にそうな状態になっていた。

ルミーラは攻撃手段を失い、追い詰められている様子をただ見ていることしか出来ない。

追い詰められた俺たちを見て、魔物の群れの最後尾にいた滅ぼしの騎士は言った。

 

「人間どもは終わりだ!城の中に隠れた者共も、我らが殺し尽くしてやろう!」

 

俺はメラゾーマをかわし続けるが、そのせいで暗黒魔導との距離が離れてしまうことになる。

アサルトライフルの弾がなくなったので、遠くからでは奴を攻撃する手段がないな…。

もう一度近づこうとするが、回避しながら近づけるほどの体力はもう残っていない。

そしてついに俺はメラゾーマの呪文で身体に大きな火傷を負い、倒れ込んでしまった。

 

「さようなら、ビルダー!同じルビスに苦しめられた存在でありながらアレフに逆らったことを、永遠に後悔し続けなさい!」

 

倒れこんだ俺に対して、暗黒魔導はさらなるメラゾーマの呪文を叩き込もうとする。

ラグナーダもダークメタリックドラゴンの攻撃で動けなくなり、ラスタンが必死にかばっているという状況であった。

ゆきのへたちも、ダースドラゴンとゴールデンドラゴンに苦戦し続けている。

 

「くそっ…どうしたらいいんだ…!?」

 

戦いに出ている7人は全員追い詰められ、後衛の魔物もラダトーム城を破壊しようとだんだん近づいて来ている。

何とか形勢を逆転出来ないかと思ったが、その方法を思いつくことは出来なかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode211 総力を合わせて

動けなくなった俺に大して、暗黒魔導はとどめをさそうとする。

ここまで来て、魔物たちに負けるわけにはいかない…そう考えながら何とか回避しようとするが、身体にもう力が入らなかった。

メラゾーマの詠唱が終わり、ついに火球が俺に向けて叩きつけられていく。

 

「私達の勝ちです、ビルダー!」

 

「ここで負けるわけには…!」

 

直撃を受けたら、消し炭になってしまう…俺はもうだめかと思い、目を閉じようとする。

 

だが、暗黒魔導がメラゾーマを叩きつけようとした瞬間、奴に向かって2本の銀色のナイフが突き刺さった。

突然の攻撃に暗黒魔導は驚き、メラゾーマの呪文を止めていた。

 

「何なんですか…今の攻撃は…!?」

 

銀色のナイフは奴の右側から飛んで来ており、俺もその方向を見てみる。

7人全員が危険な状態に陥っているのに、一体誰が助けに来たのだろうか。

するとそこには、銀色のナイフ…エルも使っていた聖なるナイフを構え、暗黒魔導を睨むムツヘタの姿があった。

 

「ムツヘタ…助けに来てくれたのか?」

 

「そなたらが苦戦していたから、出来る限りのことをせねばならぬの思ったのじゃ。ワシがこの魔物を引き付けておくから、そなたはこれを飲んで回復するのじゃ!」

 

そう言うとムツヘタは白花の秘薬を俺に渡して、暗黒魔導と俺の間に立ちふさがる。

どうしようかと思っていたが、まさかムツヘタが助けに来てくれるとはな。

だが、今まで城に隠れていた通り、ムツヘタは戦う力は持っていないはずだ…暗黒魔導を引き付けられるはずがないだろう。

 

「でも、あんたは戦えないはずじゃ…?」

 

「もちろん魔物との戦いは苦手じゃ…しかし、そなたらが倒されたら、ワシらもこの城も滅ぼされてしまう。だから、ワシらも命をかけて戦うことにしたのじゃ!」

 

確かに俺たちが倒されてしまえば、隠れていても殺されるのは確実だろう。

だから、このまま黙って殺されるのを待つよりは、命をかけてでも俺たちを援護ようと考えたというわけか。

ムツヘタに続いて、ヘイザンも城の中から出てきて俺のところに近づいて来る。

 

「ワタシも雄也を助けに来たぞ!ワタシが作ったはがねの弾丸だ…これを使ってくれ」

 

ヘイザンは、ムツヘタの後ろに下がった俺にたくさんのはがねの弾丸を渡してきた。

ヘイザンも俺が銃を使って戦っていることは知っていたが、まさか新たな弾丸も作っていてくれるとはな。

最強の鍛冶屋であるヘイザンが作った弾丸は俺が作ったものよりも美しく輝いており、とても強そうに見えた。

 

「ありがとう…本当に助かったぜ、ヘイザン、ムツヘタ。この薬で回復したら、すぐに戦いに戻るぞ」

 

はがねの弾丸を渡してくれた後ヘイザンは、ダークメタリックドラゴンたちと戦うゆきのへたちのところに向かう。

二人の決死の覚悟を無駄にしてはいけない…白花の秘薬を飲んで身体を癒したら、必ず魔物たちとの戦いに勝とう。

俺が白花の秘薬を飲んでいる間、ムツヘタは暗黒魔導の前に立ち続け、メラゾーマの呪文を引き付けていた。

 

「かかってくるのじゃ、魔物よ。ワシが、雄也への攻撃を防ぎきるのじゃ!」

 

「老いぼれた予言者なんかが、私達を止められるなんて思わないでください!」

 

暗黒魔導は何度もメラゾーマの火球をムツヘタに叩きつけて、焼き尽くそうとする。

ムツヘタは老人であり、戦いにも慣れていないので回避することが難しく、何度も身体に大やけどを負っていた。

だが、それでも俺に攻撃をさせまいと、奴の前に立ちふさがり続けていた。

ムツヘタを攻撃している間、暗黒魔導はこんなことも言う。

 

「あなたのような予言者のせいで、アレフは人間に絶望するようになった…無駄なあがきはやめて、おとなしく灰になりなさい!」

 

今のムツヘタと同一人物なのかは分からないが、アレフは予言者の言葉で勇者に選ばれたんだったか。

アレフと親しいであろうこの暗黒魔導は、予言者という存在を特に憎んでいるみたいだな。

ムツヘタを焼き殺そうと、奴は怒りのままにたくさんの火球を叩きつけていく。

 

「ぐっ…ワシもここまでなのか…?」

 

メラゾーマを何度も受けて、ムツヘタはもうまともに動ける状態ではなくなっていた。

確かにムツヘタは、ルビスから与えられた責務に従って人間は行動するべきという考えをしていたので、俺も腹が立つことが多かったな。

しかし、今まではムツヘタも大切な仲間の1人だ…こんなところで死なせたくはない。

俺はそう思って、白花の秘薬を飲むスピードを上げていった。

ムツヘタの動きが止まると、暗黒魔導はとどめのメラゾーマを放とうとする。

 

「さあ死になさい、愚かな予言者!」

 

さっきムツヘタが俺を助けてくれたように、俺もムツヘタを助けたい。

白花の秘薬を飲むと、身体中の痛みが消えて、足の疲れもだんだんと癒されていく。

これならまた戦いに向かえると思い、俺は両腕の武器を振り上げ、暗黒魔導に叩きつけていった。

 

「俺もまだ戦える…仲間たちを殺させはしないぞ!」

 

「あなたもまだ立ち向かって来ますか、ビルダー!」

 

暗黒魔導はとっさにメラゾーマの詠唱をやめて、杖で俺の攻撃を受け止める。

俺は弾き返されないように無理に押し切ろうとはせず、再び奴の攻撃を回避しながら体力を削って行こうとした。

ムツヘタは身体中を焼かれたがまだ生き残っており、足を引きずりながら城へと戻っていく。

俺は彼に深く感謝しながら、暗黒魔導との戦いを続けていった。

 

ダークメタリックドラゴンたちと戦っているみんなも次第に戦況が悪化し、ラスタンも大怪我をして動きが鈍っていた。

しかし、兵士として何とか城を守らねばならぬと思い、少しづつ奴の体力を削っている。

 

「私達の城に、お前のような魔物を近づけはしない…!」

 

ゆきのへたちもダースドラゴンとゴールデンドラゴンを倒しきれず、今にも力尽きそうな状態であった。

矢をなくしたルミーラは、追い詰められているみんなの様子を見ていることしか出来ない…そんな状態が続いている。

だが、そんなルミーラのところに、城の中からピリンが飛び出してきた。

 

「ルミーラ、新しい矢と白花の秘薬を持ってきたよ!」

 

「…?わたしは作っていないのに、誰がこれを?」

 

ピリンは矢と白花の秘薬をポーチから取り出して、ルミーラに渡す。

ルミーラはさっきまでに使いきった分の矢しか作っていなかったようで、不思議そうにしていた。

そうしていると、おおきづちのサデルンとエファートも城の中から出てくる。

 

「ボクたちが作ったんだ、ルミーラ」

 

「ルミーラはボクたちに、人間と暮らす楽しさを教えてくれたからな…ボクたちも出来るだけのことをしてあげたいと思ったんだ」

 

「みんなの分の白花の秘薬も、サデルンたちが作ってくれたんだよ」

 

俺が使った白花の秘薬も、サデルンとエファートが作ってくれたものなんだな。

二人はラダトーム城の人々にも、人間と一緒に暮らす楽しさを教えてくれたルミーラやバルダスたちにも深く感謝している。

ルミーラは二人に感謝すると白花の秘薬を飲み、矢をダースドラゴンやゴールデンドラゴンに向けて放っていった。

 

「そうだったんだね…ありがとう、2人とも。危ないから、そろそろ城の中に戻って」

 

サデルンたちの作った矢には麻痺毒は塗られていないが、ルミーラの正確な射撃で頭を貫かれると奴らはかなりのダメージを受けている。

ルミーラは魔物の群れから離れた場所にいたので、ピリンたちは攻撃を受けることなく支援することが出来ていた。

しかし、ピリンたちはルミーラだけでなく、魔物たちと近づいて戦うゆきのへたちのところにも支援に向かおうとする。

 

「いや、ボクたちは長老たちも助けに行ってくるよ」

 

「みんなが必死で戦ってるんだもん…戦うのは怖いけど、もう引き下がってなんていられないよ」

 

「でも、みんなが戦ってるのは本当に危険な魔物だよ…」

 

戦闘能力を持たないピリンたちが近づくには、ドラゴンたちは危険すぎる相手だ。

ルミーラはそう言って止めようとするが、ムツヘタと同様に命をかける覚悟が出来ていたみんなは引き下がろうとはしなかった。

みんなのところに支援に向かおうとする3人のところに、ローラ姫と俺にはがねの弾丸を渡した後のヘイザンも加わる。

 

「それでも構いません。みんなを救わなければ、私達も殺されてしまうでしょう」

 

「親方があんなに頑張ってるんだ…ワタシも下がってはいられないぞ」

 

5人はルミーラの言葉を聞かず、ドラゴンたちのところに近づいていく。

それを見たルミーラは少しでもピリンたちを襲う魔物を減らそうと、矢でたくさんのドラゴンを引き付けていった。

5人が支援しに近づいて来るのを、ラスタンとラグナーダが最初に気づく。

 

「姫様…みんな…近づいてはだめだ…!私は大丈夫だから、城の中に戻っていてくれ…!」

 

「お主たちが敵う相手ではないのだ…早く下がっておるんだ…!」

 

しかし、みんなを引き下がらせようとするラスタンたちは、声を出すのも厳しい状態であった。

そんなみんなを助けようと、ますますダークメタリックドラゴンに近づいていく。

 

「長老が苦戦しているのに、ボクたちだけ隠れているなんて出来ないよ」

 

「長老、ラスタン。ボクたちが作った白花の秘薬を使ってくれ」

 

ラスタンとチョビに白花の秘薬を渡したサデルンたちは、奴に向かって殴りかかっていった。

ピリンたちもチョビたちに白花の秘薬を渡すと、ダースドラゴンたちの前に立ちふさがっていく。

非戦闘員までをも危険に晒したくないとみんな思っていたが、そうでもしないとこの戦いには勝てないことは明白だった。

近づいて来たサデルンたちを一掃しようと、ダークメタリックドラゴンは爪から闇の刃を放っていく。

 

「くっ…なんて攻撃力なんだ…!」

 

「でも、ボクたちも負けないよ…!」

 

すさまじい攻撃力であり、二人はハンマーで受け止めるが大きく吹き飛ばされてしまう。

それでも身体の痛みに耐えて起き上がり、奴に立ち向かっていった。

だが、もう一度攻撃を受けると、サデルンたちのハンマーは砕け散ってしまう。

戦いに慣れていないローラ姫たちも、ドラゴンたちの攻撃でかなりのダメージを受けていた。

 

「強い敵ですが…私達も諦めません…!」

 

「これ以上、わたしたちがせっかく作った町を壊させないよ…!」

 

「親方たちが回復するまで、何とか持ちこたえる…!」

 

魔物たちに懸命に立ち向かっているものの、限界は近いだろう。

しかしそれを見てさっきの俺のように、みんなも白花の秘薬を飲む速度を上げていた。

総力を合わせても厳しい戦いだが、誰一人犠牲を出すまいとみんな思っている。

白花の秘薬を飲み干すと、ラスタンたちはすぐに立ち上がってドラゴンたちに立ち向かっていった。

 

「もう大丈夫だ…姫様、みんな。後は私達に任せてくれ!」

 

「わしの力不足のせいでお主たちを危険な目に合わせてしまった…すまないな、サデルン、エファート」

 

白花の秘薬を使っても完全に回復するわけではないので、依然として厳しい戦況は変わらないだろう。

しかし、みんなの支援のおかげで少しは勝てる希望が生まれて来たはずだ。

大きくなダメージを負ったサデルンたち5人は、命からがら城の中に再び隠れていく。

俺もみんなも必ず勝てると信じて、魔物たちに立ち向かっていった。

 

俺はビルダーズハンマーとふめつのつるぎを振り回し、暗黒魔導を追い詰めていく。

暗黒魔導もかなりのダメージを受けて弱っているので、動きが鈍って来ていた。

ここが好期だと思い、俺は奴に向かって渾身の連撃を放っていく。

 

「予言者の支援を受けたとはいえ、ここまで私達を追い詰めて来ますか…!」

 

「あんたを倒して、エンダルゴとアレフのところにも向かうぜ」

 

必ずこの戦いに勝って、エンダルゴとアレフも倒しに行ってこよう。

暗黒魔導も攻撃の手を止めることはないが、白花の秘薬で回復した俺はまだ戦い続けることが出来ていた。

先ほどの六連砲台のダメージもあり、奴は限界にまで追い詰めていく。

 

「あなたなんかに、アレフのところには行かせない!」

 

アレフとエンダルゴのために俺を殺そうとして来るが、ついに暗黒魔導は力尽きて倒れこんでいた。

奴が動けなくなったのを見て、俺は両腕の力を全身に溜めていく。

 

「くっ…ビルダーごときに…!」

 

ここで飛天斬りを当てれば、暗黒魔導にとどめをさすことが出来るだろう。

起き上がられる前に倒そうと、俺は急いで力を溜めていった。

そして力が溜まりきると、俺は大きく飛び上がり、垂直に両腕の武器を叩きつける。

 

「飛天斬り!」

 

ふめつのつるぎからは回転斬りの時よりも大きな紅色の光の刃が生み出され、ビルダーズハンマーと共に使うことで暗黒魔導の身体を斬り裂き、うち砕いた。

瀕死のところに絶大なダメージを受けて、暗黒魔導の生命力は全て消えていく。

 

「…アレフ、ビルダーを倒せなくて…ごめんなさい…」

 

暗黒魔導は最後にそう言うと、青い光に変わっていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode212 アレフガルドを復活させよ

俺は暗黒魔導を倒すことができ、みんなも回復してドラゴンたちを追い詰めている…しかし、まだこの戦いは終わったわけではない。

ドラゴンたちを弱らせたみんなのところに、今度は城を破壊しに行こうとしていたボストロールとトロルキングが向きを変え、近づいて来ていた。

 

「みんなはまだ戦っているな…俺も援護に行こう」

 

ボストロールやトロルキングはみんなも戦い慣れているので、倒すのはそこまで難しくもないだろう。

しかし、ダークメタリックドラゴンは弱っているとはいえ変異体なので、俺は奴と戦っているラスタンたちを援護に行こうとする。

だが、ラスタンたちのところに向かっていた俺のところに、大きな闇の刃が飛んで来る。

 

「くっ…なんだこの闇の刃は…!?」

 

俺はすぐに気づいて回避し、闇の刃が飛んできた報告を確認してみる。

すると、大軍勢の最後尾にいた滅ぼしの騎士が俺に近づいて来ており、斧を振り上げていた。

そう言えば、以前ラダトーム城を襲った滅ぼしの騎士も闇の刃を放つことが出来ていたな。

 

「よくも暗黒魔導を倒しやがったな…!あいつの仇を討って、エンダルゴ様とアレフのところに首を捧げてやる!」

 

「滅ぼしの騎士か…こいつと戦うのも久しぶりだな。あんたも倒して、この城を守り抜いて見せるぞ!」

 

こいつを倒さなければ、ラスタンたちを助けに行くことは出来なさそうだ。

奴は俺が暗黒魔導を倒したことに怒り、何度も闇の刃を飛ばして来る。

しかし、暗黒魔導のメラゾーマよりは攻撃範囲が狭いので、俺は走って避けながら少しづつ近づいていった。

俺が近づいて来ると、奴はドルモーアの呪文を使っても俺を攻撃して来た。

 

「お前もやる気に満ちているみたいだな…だが、我に近づくことも出来ずにお前は死ぬのだ!」

 

ドルモーアはかなり攻撃範囲が広く、大きくジャンプしなければ回避することは出来ない。

俺はなるべく体力を消耗しないように、ドルモーアの詠唱時間に出来る限りの速度で近づいていき、両腕の武器を振り上げていった。

 

「やっぱり変異体は強力だな…でも、こいつを倒せないようじゃエンダルゴもアレフも倒せない…」

 

本来は呪文を使えないしにがみのきしも、変異することで闇の呪文を扱うことが出来るようになる。

変異体はやはり強力だが、滅ぼしの騎士も倒せないようではエンダルゴには到底敵わないだろう。

俺はそう思いながら、奴に向かってどんどん迫っていく。

俺が至近距離にまで近づいて来ると、滅ぼしの騎士は呪文の詠唱を止めて、斧を叩きつけて来る。

 

「さすがはビルダーだ…呪文だけでは殺すことが出来ないか。ならばアレフのところで得た力を使って、お前を叩き斬ってやる!」

 

「攻撃力も高そうだしこの前の奴より素早いな…でも、今なら勝てないほどじゃない」

 

こいつもさっきの暗黒魔導と同様、アレフと親しい魔物みたいだな。

奴の斧は暗黒魔導や以前の滅ぼしの騎士よりも素早く、これもおそらくアレフの元での修行の成果なのだろう。

攻撃力は間違いなく非常に高いだろうし、弾き返したりするのは不可能だろう。

だが、ほしふるうでわを装備し、白花の秘薬を飲んで回復した今の俺なら、まだ回避しながら攻撃を続けることは出来ていた。

 

「これでもまだ抵抗を続けてくるか…だが、そう長くは持たないはずだ…!」

 

攻撃の後の隙に奴の側面にまわり、ふめつのつるぎとビルダーズハンマーを叩きつけていく。

ラスタンたちもダークメタリックドラゴンの攻撃をうまく回避して、腕や頭に大きなダメージを与えていた。

援護が必要な状態にはなっていないので、俺は滅ぼしの騎士との戦いに集中していく。

奴は防御力もかなり高かったが、伝説を超える武器での攻撃なので確実に体力を削っていくことが出来ていた。

しかし、回復したとはいえ俺の体力には限界があるので、早めに倒しきらないと危険だな。

 

「俺の体力が尽きる前に、削り切れるといいな…」

 

ゆきのへたちもまだ他の魔物と戦っているので、こいつは一人で倒さなければならない。

俺も腕輪の力を最大限に生かして動き、確実にかわしながら反撃していく。

力をこめて攻撃を続けていくことで、滅ぼしの騎士はだんだん弱っていった。

 

「間違いなく攻撃が効いてるし、このまま倒してやる…!」

 

「さすがはビルダー、アレフガルドを2度も復興させただけのことはあるな…だが、我もこの程度で負ける気はない!」

 

奴の攻撃速度も、初めと比べると少し落ちてきていた。

だが、滅ぼしの騎士はそれでも俺を倒そうと、腕に力を溜めて斧に巨大な闇の刃をまとわせ、それで俺を叩き斬ろうとして来る。

攻撃速度は落ちているものの攻撃範囲は拡大し、俺はさらに避けるのが難しくなってしまった。

 

「我の闇の刃で、お前の骨まで断ち斬ってやる!」

 

「くそっ…なかなか攻撃しづらくなってきたぞ…」

 

滅ぼしの騎士は、やはり簡単に倒せるような魔物ではないな。

闇の斧をかわし続けることは出来ていたが、その後に反撃することが難しくなってしまう。

少しはダメージを与えることが出来ていたが、奴の膨大な生命力を消しきる前に俺の方が参ってしまいそうだ。

滅ぼしの騎士の猛攻を受けて、俺の動きもだんだん鈍ってきてしまう。

 

「お前もそろそろ限界が近づいて来たようだな…滅ぼしてやる、ビルダーめ!」

 

俺の動きが弱まって来たのを見て、滅ぼしの騎士はさらに闇の斧を巨大化させる。

奴自身もかなりの力を消耗しているだろうが、使い切る前に俺を倒せると考えているみたいだな。

あの斧をまともにくらったら真っ二つにされてしまうだろう…俺は回避することに集中して、ほとんど近づくことが出来なくなっていた。

 

「まずいな…このままだと倒せそうにない…」

 

何度かは近づいて攻撃することが出来ていたが、俺の身体にも闇の斧がかすり、大きなダメージを受けてしまう。

みんなもボストロールたちとの戦いを続けており、援護を頼むことは出来そうになかった。

何とか一人で倒そうと攻撃を続けるが、俺は身体を何度も斬り裂かれてしまった。

弱って来た俺を倒そうと、滅ぼしの騎士は全身の力を右腕に溜めていく。

 

「ここまでの戦いは無駄だったようだな…消え失せろ、ビルダー!」

 

「今までよりも闇の刃が…何を使って来るんだ…?」

 

全身の闇の魔力が溜まっていき、闇の斧は今まで以上に巨大と化していく。

こんな闇の斧を使っての攻撃は間違いなく強力だろうし、必ず回避しないとな。

俺は何としてもかわそうと、走って滅ぼしの騎士から離れていく。

だが、これまでに受けた傷のせいで、全力で走ることが出来なくなっていた。

 

「逃げても無駄だ!」

 

滅ぼしの騎士は力が溜まりきると、俺のところに向かって闇の斧を振りかざす。

すると、斧から全てを薙ぎ払うかと思えるほど大きな闇の刃が放たれ、俺のところに迫ってくる。

 

「くっ…どれだけ攻撃範囲があるんだ…!」

 

俺はすぐに大きくジャンプしてかわそうとするが、攻撃の範囲から逃れることは出来ず背中を斬り裂かれてしまった。

滅ぼしの騎士は大ダメージを負った俺にとどめをさそうと、斧を振り上げて近づいて来る。

 

「ビルダー、もう諦めるんだな!」

 

俺はあまりの痛みに意識を失いそうになるが、ここで倒されたくないと足に力をこめて立ち上がった。

しかし、今の俺が立ち上がったところで、奴の攻撃を回避しながら武器を叩きつけることは不可能だろう。

何とか滅ぼしの騎士の動きを止めなければ、このまま斬り殺されてしまう。

 

「…何とか攻撃しないとな…極げきとつマシンで奴の動きが止まることに賭けるしかないか…」

 

そこで俺は極げきとつマシンを取り出して乗り込み、奴に向かって突撃していく。

滅ぼしの騎士も確実に弱っているので、これで突撃すれば怯ませられるかもしれない。

止められてしまうかもしれないが、これに賭けるしか勝つ方法はなさそうだ。

 

「これで突撃して、あんたを倒してやるぜ!」

 

俺はそう言ってアクセルを思い切り踏み、滅ぼしの騎士を5本の角で突き刺そうとしていった。

滅ぼしの騎士はかなり近い位置にいたため回避することが出来ず、斧と盾で防ぎきろうとする。

だが、奴はマイラのトロルギガンテよりは攻撃力は低いはずだが、極げきとつマシンでの突進に耐えて、弾き返そうとしていた。

 

「どんな兵器を使ったところで、我らに勝つことは出来ない…!」

 

「くそっ…これでも押し切れないか…」

 

俺はアクセルをさらに強く踏むが、滅ぼしの騎士は持ちこたえ続ける。

だが、ここで押し返されてしまえば、弱っている俺は今度こそ殺されてしまうだろう。

滅ぼしの騎士は俺を押し返すために、再び斧に闇の力を集中させていった。

 

「でも、極げきとつマシンは止められても、俺の剣は止められないはずだ」

 

しかし、滅ぼしの騎士は極げきとつマシンを受け止めるのに両腕を使っているので、ここで両腕の武器を使って攻撃すれば防げないだろう。

俺は押し返される前にと、足でアクセルを踏みながら極げきとつマシンから身を乗り出し、思い切り奴の頭に向かってビルダーズハンマーとふめつのつるぎを叩きつける。

マシンを止めるのに必死になっていた滅ぼしの騎士は防ぐことが出来ず、頭に強力な攻撃を受けて大きく怯んだ。

怯んだことでマシンを防ぐことも出来なくなり、奴の身体には黒色の鋭い五本の角が突き刺さっていく。

 

「ぐっ…ここまで追い詰めてもなお、我らに抵抗を続けるか…」

 

「マシンの角も突き刺さったし、今のうちに倒すぜ!」

 

伝説を超える武器の攻撃を頭に受け、さらに極げきとつマシンの角も突き刺さった。

奴ももう追い詰められているだろうし、ここで飛天斬りを放てば倒せるかもしれないな。

俺は全身の力を両腕に溜めて、大きく飛び上がっていく。

剣からは紅色の光の刃が溢れ、滅ぼしの騎士の鎧の身体を断ち斬っていった。

 

「飛天斬り!」

 

最強の兵器と最強の武器を使うことで、何とか逆転することができたな。

飛天斬りを受けても滅ぼしの騎士はまだ生きており、立ち上がってきた。

しかし、さっきの猛攻で消耗したため闇の刃を使うことは出来なくなり、動くこともやっとの状態になっていた。

ゆきのへたちもトロルたちを倒し終えて、ラスタンたちと一緒にダークメタリックドラゴンを追い詰めている。

瀕死になった滅ぼしの騎士は、俺にこんな話をして来た。

 

「ここまで我らを追い詰めるとは、想定外のことだ…だが、今さら我らやエンダルゴ様を倒したところで、ルビスもひかりのたまももういない。人間どもが救われることは、永遠にないのだ!」

 

確かに光を失ったこの世界では、みんなが望んでいた平和な世界というのはもう訪れることはないだろう。

魔物との戦いも、これからもずっと続いていくことになるはずだ。

だが、それでも人々が力を合わせれば、より良い世界を作って行くことが出来る。

どんな強大な魔物と戦うことになっても、どんなに世界が壊されようとも諦めなかった人々の姿を見て、俺はそう確信するようになった。

 

「それでも人間が力を合わせれば、楽しく暮らせる世界を作っていけるはずだ。そんな世界のために、俺はあんたたちと戦い続けるぜ!」

 

世界が何度壊されることになっても、俺たちはその度に復活を目指して戦っていく。

俺はそう言うと滅ぼしの騎士に近づき、両腕の武器を叩きつけていった。

奴も反撃して来るが攻撃速度が落ちており、俺は対応しきることが出来ていた。

追い詰められていたところにさらなる攻撃を受けて、滅ぼしの騎士は再び倒れ込む。

 

「ぐっ…どこまでも諦めの悪い奴め…!」

 

そこで俺は滅ぼしの騎士の心臓の部分に向かって思い切りふめつのつるぎを突き刺し、とどめを刺していく。

非常に戦い生命力を持っていた滅ぼしの騎士も、ついに力尽きて消えていった。

俺が滅ぼしの騎士を倒した頃には、ゆきのへたちもダークメタリックドラゴンを倒し終えていた。

 

俺が滅ぼしの騎士を倒したことを確認すると、ゆきのへが話しかけてきた。

 

「そっちも片付いたみたいだな、雄也。ワシらも黒いドラゴンを倒したぜ」

 

「ああ。本当に厳しい戦いだったけど、何とか勝てたみたいだな」

 

これでようやく、長かった魔物との大決戦は俺たちの勝ちに終わったな。

何度ももうだめなのではないかと思ったが、非戦闘員たちの支援もあり、今まで手に入れてきた全ての強力な武器や兵器を使うことで、何とか生き残ることが出来た。

俺を含めた全員が身体中に傷を負っており、残った力で歩いて城の中に戻っていく。

 

「それでこれから、エンダルゴを倒しに向かうのか?」

 

「この戦いで疲れたし、明日にするつもりだ」

 

本当は今日エンダルゴと戦いに行くつもりだったが、この戦いで消耗した状態で向かっても勝ち目はないだろう。

一晩休んで、明日奴との決戦に向かおう。

今回の戦いでエンダルゴの手下の魔物はほとんど倒したはずなので、城の最深部に到達するのも簡単になっているだろう。

 

「分かったぜ。なら今日は、ゆっくり身体を休めてくれ」

 

俺たちはラダトーム城に入ると、もう一つ白花の秘薬を飲んで身体を癒す。

そして、明日のエンダルゴとの戦いに備えて、すぐに休みにいった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode213 自らの手で闇を

ふめつのつるぎを作り、魔物たちとの決戦を生き抜いた翌日、ラダトームに戻って来てから7日目、今日はいよいよ、エンダルゴとの決戦の日だ。

昨日の襲撃には3体もの変異体が襲撃していた…変異体を生み出すのに闇の力を使ったことでエンダルゴ自身は弱体化しただろうし、戦うなら今がチャンスだろう。

俺は朝起きるとエンダルゴの城へ向かうために、ベッドから降りて教会を出ていく。

すると、ラダトーム城のみんなが、俺を見送るために希望のはたのところに立っていた。

 

「今日はいよいよ決戦の日だな…みんな、もう起きていたのか」

 

「おお、やっと来たな、雄也。お前さんがエンダルゴとの戦いに向かうって話したら、みんなも見送りたいと言ってきてな」

 

昨日俺たちがラダトーム城に戻った後、ゆきのへはそのことをみんなに伝えていたのか。

力を消費したと言っても、とてつもなく強大な存在であるエンダルゴの元に向かう俺に、みんなは心配そうな目を向けていた。

ラスタンは、一緒にエンダルゴと戦いに行きたいとも言ってくる。

 

「お前がどれだけ強い武器を持っていても、1人でエンダルゴを倒すのは難しいだろう。もしよかったら、私も一緒に戦いに向かうぞ」

 

「…気持ちはありがたいけど、ラスタンたちはここに残っていてくれ。昨日大きな戦いがあったとはいえ、魔物がまた襲って来ないとは限らないからな」

 

ラダトーム城の兵士がアレフを1人で竜王討伐に向かわせたことで彼の心は追い詰められ、最終的には竜王に寝返ることになった…ラスタンには、その時の後悔もあるのだろう。

気持ちは本当に嬉しい…しかし、魔物が襲撃して来る可能性がゼロではない以上、ラスタンたちはここで魔物の監視をしているべきだろう。

それに、アレフを止められず、エンダルゴの出現とルビスの死を招いたのは俺だ…その責任は、俺自身で果たさなければならないだろう。

これ以上俺が招いたことで、みんなを危険な目に合わせたくない。

 

「…確かにそれもそうだな。私はいつも通り、監視塔から魔物たちの様子を見張っている。私ももう、勇者でない者が魔物の王を倒せるはずがないとは言わない。お前が作った物の力を信じて、思い切り戦って来るんだぞ」

 

「ああ、分かってる。たとえ1人で行ったとしても、エンダルゴを必ず倒して来るさ」

 

やはりラスタンは、魔物との戦いを勇者に頼りすぎていたことを後悔しているようだ。

この世界では、多くの人々が過去を悔やみながらも、未来に突き進もうとしている。

人々が未来を作れる可能性を上げるために、俺が頑張らなければならない。

ルミーラたちも、不安げな顔で俺に見送りのあいさつをしていた。

 

「わたしも心配してる…どんな苦しい戦いになっても、必ず無事に戻って来てね…」

 

「これからも一緒に、世界を作り続けていくんだ!」

 

「わしらは、お主が生きて帰って来るのを待っておるぞ…」

 

俺は世界を守れなかった…エンダルゴとアレフを倒せるなら、自分の命と引き換えでもいいと考えたこともあった。

しかし、みんなにここまで心配されているなら、必ず生きて戻って来ないとな。

みんなを悲しませたら、俺はさらに大きな罪を背負ってしまうことになる。

 

「心配しなくても大丈夫だ。必ず勝って、生きてみんなのところに戻って来て見せるさ」

 

ピリンと鍛冶屋の二人も、出発しようとする俺に声をかけてくる。

 

「わたしには何も出来ないけど、雄也のこと、応援してるね!」

 

「ワシら全員が考えた伝説を超える武器を、最大限に役立ててくれ!」

 

「その武器の力があれば、必ず勝てるって信じてるぞ!」

 

ビルダーズハンマーとふめつのつるぎの力も、大いに役立てて戦わないとな。

すさまじいまでの切れ味を持ち、回転斬りや飛天斬りの時には紅色の光の刃を生み出す剣と、あらゆる敵を打ち砕く、ビルダーズの名を冠したハンマー。

これらがあれば、エンダルゴにも確実に大ダメージを与えることが出来るだろう。

俺はそう思いながら、いよいよラダトーム城を出発しようとする。

 

「俺も、この二つの武器の力を信じてるぞ。これでエンダルゴを倒して、みんなの元に戻って来る。…じゃあ、そろそろ出発するぞ!小舟に乗って、エンダルゴの元に向かう」

 

「勇者が世界を裏切ったことで、世界には膨大な量の魔物の力が振り撒かれることになった。ひかりのたまやルビスでさえ消しきれなかったその力を、そなた自身の手で消し去りに向かうのじゃ!」

 

エンダルゴのところに向かう俺に向かって、ムツヘタはそう言う。

アレフのせいで世界を創った精霊ルビスは殺され、数百年世界を支配し続けた魔物の力はエンダルゴという最強の存在に変わった。

しかし、人間たちが諦めずに戦い、復興を続けることで、ここまで巻き返すことが出来た。

魔物の魔力の集合体であるエンダルゴは、さまざまな強大な呪文を使って来るだろう。

しかし、必ず勝機はあると思い、俺はムツヘタたちに向かって大声で言う。

 

「ああ、もちろんだ!」

 

そして、俺は小舟に乗ってエンダルゴの城に向かうために、エンダルゴの城を後にする。

その間にも、ゆきのへたちは心配そうな表情をしながら俺に声をかけていた。

 

「雄也、思う存分戦って来い!」

 

ラダトーム城へ魔物が襲撃する可能性もあるので、俺は城の無事も祈りながら、海へと歩いていった。

昨日の戦いで大幅に魔物の数が減り、ラダトームの平野をうろついていたのはスライムなどの弱い魔物がほとんどだったが、俺は見つからないように進んでいく。

そして、10分くらい歩いて海にたどり着くと、俺は小舟に乗ってエンダルゴの城のあるラダトームの西の地域に向かっていった。

 

ほしふるうでわで歩く速度は早まっても、小舟をこぐ速さまでは変わらない。

1時間ほど小舟を漕ぎ続けて、俺の目の前にラダトームの西の地域が見えて来る。

そこには以前と同様にしにがみのきしとコスモアイが生息していたが、数が明らかに減っていた。

 

「魔物たちの数が、かなり少なくなって来ている…」

 

ここに生息する魔物の中からも、多くがラダトーム城の襲撃に来ていたのだろう。

魔物が少ないとなれば動きやすいし、エンダルゴの城を攻めるのには好機だな。

そう思いながら、俺は小舟を漕ぎ続け、エンダルゴの城があるラダトーム西の地へと上陸した。

 

「無事に上陸出来たか…エンダルゴの城があるのは、確か仮拠点の南東だったな」

 

俺が岩山の城に向かったのはエンダルゴが出現する前のことであり、かなり久しぶりに来ることになる。

しかし、あの時の潜入はかなり苦労したし、城の入口の位置ははっきり覚えている。

まずは入り口を目指して、仮拠点の南東へと向かっていった。

 

「エンダルゴの城に近づいても、魔物の数はほとんど変わらないな…」

 

魔物の動きに警戒し、体勢を下げながら俺は進んでいく。

しかし、エンダルゴの城に近づいても魔物の数は変わらず、むしろさらに少なくなっているようにも感じられた。

城の中にいたような強力な魔物は、みんな昨日の戦いに向かったのだろうな。

城の入り口まで来て中を覗いて見ても、魔物の姿は1体も見かけることが出来なかった。

 

「見つからずに入り口までやって来たな…でも、城の中にも魔物は見つからないか。隠れなくても良さそうだし、急いで進もう」

 

エンダルゴの強さからしても魔物の数からしても、今日は最大の好機だったな。

城の入り口までやって来ると、俺は体勢を元に戻して走りながら奥に進んでいく。

魔物の姿は見かけられないし、もしいたとしても最深部でエンダルゴとの戦いがある以上、手下との戦いも避けられない。

曲がり角になっているところでは魔物が隠れていないか警戒もしていたが、戦うことなく先に進むことが出来た。

 

「やっぱり城の魔物は昨日の戦いで全滅したみたいだな…さっさと階段を降りて、エンダルゴのところに向かわないとな」

 

昨日の戦いは本当に壮絶なものだったし、魔物たちは全滅したと見て間違いないようだな。

俺はこの前来た時の記憶を頼りに、地下に続く階段の場所へと向かっていく。

階段を降りると、俺は魔物が魔力を集合させるために使っていた大広間に入っていった。

 

「この大広間まで来るのも久しぶりだな…エンダルゴはこの先にいるのか」

 

以前見た時は何百体といった強力な魔物が、エンダルゴを生み出すために自身の魔力を捧げたり、アレフガルド中に満ちた魔力を集めたりしていた。

ここにはエンダルゴの姿はないが、大広間の奥にはこの前も見たさらなる深部へと続く扉がある。

エンダルゴは、おそらくその先で俺を待ち構えていることだろう。

 

「とてつもない強敵だとは思うけど、何としても勝たないとな…」

 

今の強力な装備や兵器を持ってしても、エンダルゴは間違いなく今までで最大の強敵だろう。

いざ戦いが近くなってくると少し怖くなっても来るが、もう引き下がることは出来ない。

大広間の奥の扉を開けて、エンダルゴの城のさらなる奥へと入っていった。

 

「ここから先は俺も見たことがないけど、一本道になってるな」

 

扉の奥は、一つの明かりもない真っ暗な一本道になっていた。

一本道なので迷う心配はないが、進む度にだんだんおぞましい闇の気配がして来る。

あらゆる魔力の集合体たるエンダルゴの間が、確実に近づいて来ているということだろう。

そして、通路の最深部までやって来ると、再び俺の目の前に大きな扉が見えてくる。

 

「ここにも扉か…おぞましい気配もこの中からして来るし、この先がエンダルゴの玉座みたいだ」

 

おぞましい気配もこの先から感じられるので、ここがこの城の終着点…エンダルゴの玉座みたいだな。

この扉を開けたら、いよいよエンダルゴとの戦いになるだろう。

 

「どんな戦いになっても、必ず生きて帰らないとな」

 

エンダルゴがどんな攻撃をして来るかは分からない…しかし、どんなに厳しい戦いになったとしても、必ずラダトーム城に生きて戻らないといけない。

生きてアレフとも決着をつけて、これからもアレフガルドを作り続けていこう。

俺はそう思いながら、エンダルゴの間の扉を開けていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode214 具現化せし常闇

城の最深部の扉を開けると、そこにも一つの明かりもない空間が広がっていた。

ひし形をしている大きな空間であり、奥の様子はここからは見ることが出来ない。

中に入っていくと、俺の耳に背筋が凍るような恐ろしい、何者かの声が聞こえて来る。

 

「魔物を封じる力を持つひかりのたまは永久に失われ、世界を創りし大地の精霊は死んだ…この大地の光は消え去り、残ったのは闇…どこまでも続く、永遠の闇…」

 

そう言った後、声の主は暗い空間の中を歩き始め、俺のところに近づいて来ていた。

すぐに戦いになることも予想して、俺は剣とハンマーを構える。

少しづつ近づきながら、恐ろしい声は話を続けた。

 

「だがそんな闇の中で、まだ諦めない者がいるとはな…」

 

確かにこの世界に残ったのは闇だけであり、俺たちはこれからも厳しい戦いを繰り広げることになるだろう。

だが、共にアレフガルドを復興させてきた仲間たちとなら、必ずその戦いも乗り切れると信じている。

そう思っていると、声の主はいよいよ俺の目の前にまだ動いてきて、俺も奴の姿がはっきり見えるようになる。

超高密度の魔力によって形作られた異形の存在が、そこにはあった。

 

「影山雄也…物を作る力を持つもの、ビルダーよ」

 

「こいつが全ての闇の集合体…エンダルゴか」

 

エンダルゴ…アレフと魔物たちによって、数百年世界を支配した魔物の力が実体化した存在。

奴の下半身は目のないドラゴンのような形をしており、全てを薙ぎ払うかのような巨大な翼を持っていた。

上半身は滅ぼしの騎士のような姿をしており、右腕は剣、左腕は杖のような形になっている。

闇の力の集合体であるためか、全身のありとあらゆる場所が黒く染まっていた。

 

「そうだ…いかにも我がエンダルゴ。貴様らはルビスの死後も世界を作り続け、ラダトームに向かわせた魔物の大軍勢をも退けた。我らの想定をはるかに上回る、素晴らしい力を持った者たちだ」

 

エンダルゴは一度、ここまでアレフガルドの復興を続けた人間たちを褒めるようなことを言う。

だが次に、その努力は全て無駄なことだったとも話した。

 

「だがその力を持っての戦いも、全て無駄に終わるのだ。どれだけ戦っても、苦しんでも、嘆いても、もうルビスは戻って来ない…世界に光は二度と訪れない…」

 

エンダルゴも言っているが、もうアレフガルドを光あふれる世界に戻すことは不可能だ。

しかし、昨日の滅ぼしの騎士にも言ったが、みんなが楽しく暮らせる世界を作り、守っていくことは出来るだろう。

 

「それでも、俺たちは世界を作り続けていく。たとえ光がなくても、きっとみんなが楽しく暮らせる世界になるはずだ」

 

「…ルビスの加護を受けた世界などに生まれた人間どもに、そんなことが出来ると思っているのか?」

 

確かにルビスの加護が失われたことで、俺もみんなもアレフガルドは終わりだと考えたことがあった。

しかし、その状況をここまで覆すことが出来たのだから、これから先も楽しい町を目指して物作りを続けていけるはずだ。

確信することは出来ないが、俺はそう思い続けている。

 

「ああ。俺は人間たちのことを信じ続けているからな」

 

たとえ無駄な努力になるとしても、俺はこんなところで戦いをやめたくはない。

俺がそう言うと、エンダルゴは呆れたように笑い、そして、俺を睨みつける。

 

「くっくっくっ…ならば見せてみるがいい、永遠の闇をも打ち払う、人間の可能性を!そして見るがいい、あらゆる命を奪い尽くす魔物たちの魔力を!」

 

エンダルゴは大声でそう言うと、右腕の剣と左腕の杖を大きく振り上げる。

奴の言う通り、あらゆる闇に打ち勝つ人間の可能性を見せてやるぜ。

 

「飛べ、走れ、斬れ!貴様の全てを、我にぶつけてみろ!」

 

「言われなくても分かってる。あんたを倒して、ラダトーム城で待つみんなのところに戻ってやる」

 

エンダルゴは、俺を挑発して来るようなことも言ってくる。

必ず奴との戦いに勝って、ラダトームで待つみんなに元気な顔を見せに行こう。

そして、エンダルゴを生んだ元凶であるアレフのことも必ず倒しに言ってやる。

そして、俺とエンダルゴとの決戦が始まった。

 

戦いが始まると、エンダルゴはドラゴンの口から俺に向かって闇の炎を吐いてくる。

ダークメタリックドラゴンのものより範囲が広かったが、俺は腕輪の力を使ってかわし、奴の側面に近づいていった。

膨大な魔力の集合体たるエンダルゴも、伝説を超える武器での攻撃を受け続ければいずれは限界が訪れるだろう。

そう思って、俺は少しづつ奴との距離を詰めていった。

 

「すごい範囲の炎だな…でも、このくらいならまだ近づける」

 

「今の炎をかわしたか…だが、我の力はこの程度のものではないぞ!」

 

だが、エンダルゴも俺を近づけないために、今度は闇の炎を吐きながらドルマドンの呪文を唱えてきた。

俺とエンダルゴとの間に巨大な闇の爆発が起こり、俺は急いで後退して避ける。

爆風に巻き込まれることはなかったが、これだとエンダルゴに近づくことは難しいな。

近づけないのならと思い、俺はポーチからサブマシンガンを構えて、奴に向かって撃っていった。

 

「貴様ごときの力では、手も足もでまい。絶望に沈むがいい!」

 

「近づいて攻撃出来ないのなら、これを使ってやるぜ」

 

エンダルゴは距離をとった俺に対しても、ドルマドンの呪文を唱え続けていく。

弾丸は鋼で出来ているので剣やハンマーよりは弱いが、それでも鍛冶屋のヘイザンが作ってくれた物だ…かなりの威力を出せることだろう。

大きくジャンプもしながらドルマドンを回避し、エンダルゴの身体を貫いていく。

このまま撃ち続けていけば確実にダメージを与えられるだろうと、俺は思っていた。

 

「鋼の塊を撃ち放つ兵器か…人間の作る物はやはり強力だな。ならば、その鋼の塊を使って、貴様を滅ぼしてやろう」

 

エンダルゴがそう言った瞬間、奴の体内に入っていったはがねの弾丸が外に出てくる。

何をするのかと思っていると、エンダルゴははがねの弾丸を一斉に飛ばし、俺を貫こうとしてきた。

弾速は俺のアサルトライフルと同じかそれ以上に早く、俺はとっさにジャンプしたが当たりそうになってしまう。

 

「くそっ、俺が撃った弾丸を使うことも出来るのか…」

 

「うまくかわしたようだな…だが、これで分かっただろう。貴様の力では、我を止めることなど不可能だ」

 

ほしふるうでわがなければ、今の俺でも撃ち抜かれていたことだろう。

体内に入った弾丸を操り、敵に向けて放つ…魔力の集合体たるエンダルゴはこんなことも出来るとはな。

しかし、このくらいで戦いを諦めるわけにはいかない。

弾丸を回避することは辛うじて出来るので、俺はこのまま弾丸で奴の力を削って行こうとした。

 

「あんたもそれくらいじゃ俺を止められない。その弾丸も全部回避していくぜ」

 

近づくことが出来ないなら、こうするしかない。

再び唱えられるドルマドンをジャンプしてかわしながら、俺はアサルトライフルを撃ち続けていった。

エンダルゴには弱点と呼べる部位がないので、身体中の様々な場所に当てていく。

何度も銃を撃っていくと、奴は再び弾丸を操り、俺を貫こうとして来る。

 

「一度かわしたからといって、調子に乗りおったな…非力な人の身で、どこまで耐えきれるかな?」

 

超高速で多数の弾が飛んで来るが、俺はまたすぐに大きく素早く跳んで、回避した。

その後は、またアサルトライフルを構えて撃ち続け、エンダルゴを攻撃していく。

ヘイザンはたくさん弾を作ってくれていたので、まだ弾切れの心配はなかった。

強力な銃弾で身体中を貫かれ、エンダルゴは少しづつ傷をダメージを負っていく。

 

「さすがは物を作る力を持つ者…我の想定を超えて、ここまで戦い続けるとは…」

 

「このまま弱らせて、剣でも攻撃しに行ってやるぜ」

 

さすがにアサルトライフルだけでは倒しきれないだろうが、弱ったら接近しやすくなるかもしれない。

そう思って、俺はエンダルゴへの銃撃を続けていく。

流石に完全回避を続けるのは難しく、奴の飛ばして来た弾丸がかすり、腕や足を何ヶ所か怪我してしまうこともあった。

だが、今までの戦いの経験で多少の痛みでは動きは鈍らなくなり、ドルマドンやはがねの弾丸に対応し続けていった。

 

「ここまで逆らい続ける者には、我も手を抜くことは出来ぬ。無数の鋼と闇に貫かれ、苦しみの中で死んでゆくがいい!」

 

しかし、先ほどまで俺を弱い存在だと見ていたエンダルゴも、いよいよ本気を出してくる。

奴は俺が撃ったはがねの弾丸を使うだけでなく、自らの力を使って闇の弾丸も生み出してきた。

そして、それらの無数の弾丸を一斉にではなく、機関銃のように放って来る。

 

「このように連続で放たれれば、貴様もかわしきることはできまい。我らに逆らったことを、絶望の中で後悔しろ!」

 

「くっ…何とか逃げきらないと…!」

 

はがねの弾丸も闇の弾丸も、直撃したら非常に危険なものだ。

俺は腕輪の力を最大限に使って走り、エンダルゴの攻撃が終わるまで避け切ろうとする。

だが、やはり全てをかわしきるのは難しく、俺は身体中にさらにいくつもの傷を負ってしまった。

俺が弱って来たのを見て、エンダルゴはさらに攻撃を強めていく。

 

「貴様を殺したら、次は城の人間どもだ。一足先にあの世で待っていろ!」

 

「すごい攻撃だけど、ここで負ける訳には…!」

 

合間なく攻撃して来るので、極げきとつマシンに乗り込む隙もない。

何とか自力で回避しようと、俺は全身の力を足にこめて必死に走っていった。

大きなダメージを受けて動きも鈍って来るが、エンダルゴの残り弾数が少なくなると大きくジャンプもして、最後までかわし続けていった。

何とか攻撃の終わりまで生き残ると、俺は再びビルダーズハンマーとふめつのつるぎに持ち替える。

 

「逃げ切ったか…銃での攻撃はもう無理そうだし、何とかして近づいて戦うしかないな…」

 

これ以上銃を使って戦えば今の技を再び使われることになるだろうし、何とか近づいて戦うしかなさそうだ。

だが、エンダルゴも俺を近づけさせる気はもちろんなく、さらなる攻撃を行っていく。

 

「まさか今の攻撃を避けきるとはな…だが、我の攻撃はまだ終わりではない!」

 

エンダルゴはそう言うと、右腕の剣を地面に突き刺していく。

するとその瞬間、地面からいくつもの黒紫色の雷が現れ、俺を焼き払おうとしてきた。

 

「黒き雷を持って、貴様を滅ぼし尽くさん!」

 

地獄から雷を呼ぶという技、ジゴスパークだろう。

多数の雷が俺を狙って地面からつき上がって来るが、俺はかわし続けようとする。

黒い雷は高威力かつ広範囲なので、俺は体力は消耗してしまうが大きくをジャンプしていった。

ここで近づけなければ勝ち目はないと思い、避けながらもエンダルゴに近づいていった。

 

「あんたに近づいて、剣とハンマーで攻撃してやるぜ」

 

ジゴスパークはなかなか止まらず、俺はかなりの体力を消耗してしまう。

しかし、回避しながら奴の側面にかなり接近することもでき、すぐ近くにまでやって来ると、俺は両腕の武器を振り上げて叩きつけていった。

ジゴスパークは強力な技ではあるが、ドルマドンよりは一度の攻撃範囲が狭いので接近戦に持ち込むことが出来たな。

 

「雷をかわして、我に接近することが出来たか。だが、何を使って戦ったところで同じことだ!」

 

エンダルゴの防御力はどのくらいなのかは分からないが、伝説を超える武器を使えば深く斬りこむことが出来た。

しかし、接近出来たからといって決して油断は出来ない。

エンダルゴは側面にまわってきた俺に対して、巨大な暗黒の翼で斬り裂いて来ようとして来た。

 

「くっ…やっぱりこの翼も攻撃に使えるみたいだな」

 

全てを薙ぎ払うかのように力強い翼だと思っていたが、やはりこれを使っても攻撃して来るようだ。

正面に立つのは危険だが、これなら側面からの攻撃も無理そうだな。

俺は思い切り跳んで翼をかわすと、ドラゴンの部分の前足へと移動する。

俺は攻撃の手を緩めることなく、エンダルゴの前足を攻撃していった。

 

「近づいても強力なのはかわりないけど、必ず倒しきってやるぜ」

 

「我を倒すことなど不可能だ。未だに抵抗を続ける貴様に、それを教え込んでやろう!」

 

エンダルゴは両方の前足を使い、鋭い爪で俺を攻撃して来る。

かなり攻撃範囲が広く後ろに下がりたくなるが、口の前に立てば闇の炎で焼き尽くされてしまうだろう。

俺は奴の口の前に立たないようにしながら爪をかわしていき、攻撃後のわずかな隙に渾身の攻撃を叩き込んでいく。

 

「爪での攻撃も強いけど、まだかわせるな…」

 

エンダルゴを構成している魔力は奴の体内を流動しているので、斬った部分もすぐに元の見た目に戻ってしまう。

しかし、確実にダメージは入っているはずなので、俺は先ほどまでの戦いの痛みや疲労に耐えながら、攻撃を続けていった。

奴は魔力の集合体であるため痛みは感じず、怯んだり動きを止めたりすることもないだろう。

しかし、それでも勝てることを信じて、剣とハンマーを振り回していく。

 

「貴様がどれだけ力を持っていたところで無駄だ!闇の刃を持って、消し飛ばしてくれる!」

 

だが、かなりのダメージを受けたエンダルゴは、俺を滅ぼすために次の攻撃に出る。

右腕の剣に全身の力を溜めて、巨大な闇の刃を生み出し始めていた。

おそらくは昨日の滅ぼしの騎士と同様、俺を闇の刃で薙ぎ払って来るつもりなのだろう。

非常に危険な攻撃だし、必ず防がなければならない…しかし、遠くまで逃げてしまえば、再び近づくのは困難なことになるだろう。

 

「溜め攻撃か…何とか近づいたまま防ぎきらないと、俺に勝ち目はないな」

 

しかし、俺の腕の力だけでエンダルゴの攻撃を防ぎきるなど間違いなく無理だろう。

他に防ぐ方法はないかと思い、俺は何か使えるものがないかと考えた。

 

「このブロックで、威力を軽減出来ることを祈るしかないか…」

 

そこで俺はポーチから、サンデルジュで使っていた白い砦のカベを取り出す。

このブロックはかなりの硬度を持っているので、これで衝撃を軽減した後、さらに俺の両腕の武器を使えば、遠くまで離れることなく溜め攻撃を防げるかもしれない。

俺はこれに賭けるしかないと思い、エンダルゴと俺の間に砦のカベを置いた。

 

「そのような貧弱な壁を使ったところで、我の攻撃を防ぐことなど出来ぬ。消え去るがいい!」

 

エンダルゴはそう言うが、俺は砦のカベの後ろで両腕に力をこめて、溜め攻撃に備える。

そして奴は力が溜まりきると、この空間全体を薙ぎ払うような巨大な闇の刃を放ち、俺を斬り裂こうとして来た。

砦のカベは絶大な衝撃を受けて瞬時に砕け散るが、そこで確かにかなりの衝撃を軽減することが出来ていた。

俺は残った衝撃を両腕の武器で防ぎ、エンダルゴに反撃しようとする。

 

「くっ…軽減してもかなりの衝撃だな…!」

 

だが、大幅に軽減されたといってもその衝撃は大きく、俺は両腕が砕け散りそうな痛みに襲われる。

だが、ここで防げなければエンダルゴは倒せないと思い、俺は必死に耐えていった。

何とか溜め攻撃を防ぎ切っても、俺は倒れ込みそうになってしまう。

それでも足に力をこめて立ち続け、俺は溜め攻撃の後で隙が出来ているエンダルゴに斬りかかっていく。

 

「何とか耐えきったか…この隙のうちに、さらに弱らせてやる…!」

 

今までの戦いで、エンダルゴもかなりのダメージを受けていることは間違いない。

ここでさらなる攻撃を加えれば、俺の勝ちも近づいて来るだろう。

俺の残った体力も少ないが、思い切り剣を振り続けていった。

しかし、体勢を立て直したエンダルゴは、弱っているどころか、自身の勝利を確信したかのように言う。

 

「まさかあの攻撃を耐えきるとはな…だが、貴様の力ももう限界に近い。やはり最後には、我が勝つのだ!」

 

「あんた自身も、結構弱っているはずだけどな」

 

エンダルゴはそう言うと、右腕の剣と左腕の杖を上に向かって掲げる。

すると、突然この空間が揺れだして、エンダルゴに向かって外から風が吹き込んで来た。

 

「…?何をしているんだ…?」

 

「我は闇の集合体…この世界に闇がある限り、我は滅びぬ!」

 

風からは禍々しい気配がしており、おそらくは闇の魔力をこの空間に集めているのだろう。

風が吹き込む度にエンダルゴから感じられる闇の力が強くなり、戦いを始めた時と同じくらいに戻ってしまう。

 

「世界に満ちる闇を吸収して、我は力を取り戻した。これで弱っているのは、貴様の方だけだ。貴様が必死に与えた攻撃は、全て無駄になったのだ!」

 

ルビスが死んだ後、アレフたちによって世界中に新たな闇の力が振りまかれている。

エンダルゴは、それを取り込むことで戦いが始まった時と同じくらいまで回復したみたいだな。

奴の言う通り、これで俺が必死に与えたアサルトライフルや伝説を超える武器でのダメージは、全て無駄になってしまったということか。

 

「くそっ…せっかくここまで戦ったのに、こんなことまでして来るのか」

 

世界中に満ちている闇の力には限度があるので、いずれはエンダルゴも回復出来なくなるだろう。

だが、そこまで戦えるほどの体力は、俺にはあるはずもなかった。

圧倒的に有利な状況に立って、エンダルゴは今度こそ俺を滅ぼし尽くそうとして来た。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode215 集いし勇者たち

エンダルゴは世界中の闇を吸収して回復し、俺は一気に不利な状況に立たされてしまう。

しかし、ここまで戦って諦める訳にはいかないと、俺は奴の足へ剣を振り続けていった。

残った力でエンダルゴの爪を回避しながら、両腕の武器を叩きつけていく。

 

「でも、ここで戦いを諦めたくはない…!」

 

「貴様の力も限界だと言うのに、あくまで抵抗を続けるというのか…ならば、貴様には苦しみに満ちた死を与えよう!」

 

だがそう言うとエンダルゴは、吸収した力を利用して再び溜め攻撃を行おうとした。

俺の体力はやはり限界な上に、奴はさっきより闇の刃を巨大な物としている…砦のカベを使って威力を軽減しても、受け止めきれない可能性が高いな。

他にどうしようもなく、俺は全力で走ってエンダルゴから距離をとっていった。

 

「弱った貴様であれば、これは受け止めきれまい!」

 

「くそっ…もう逃げるしかないか…」

 

一度離れてしまえば再接近が非常に困難だが、そうでもしなければ生き残れない。

溜め攻撃は非常に範囲が広いので、俺はエンダルゴの間の入り口の辺りまで逃げていった。

力が溜まりきると、エンダルゴは生み出した巨大な闇の刃を放ち、俺を斬り裂こうとして来る。

やはり非常に範囲が広かったが、腕輪の力も使って全力で走ったことで、何とかかわしきることが出来た。

 

「この一撃から逃げ切る力がまだあるとはな…だが、もう次はないぞ!」

 

「逃げ切ったけど、ここからどうしたらいいんだ…?」

 

しかし、やはり再び近づくことは困難であり、エンダルゴはドラゴンの口から闇の炎を吐き、ドルマドンの呪文も同時に唱えて俺を攻撃して来る。

俺は回避することがやっとになり、とてもじゃないが距離を詰めることなど出来なかった。

 

「なかなか近づけないな…でも、何とか攻撃しないと…」

 

アサルトライフルを使っても、さっきのようにはがねの弾丸を利用され、身体を貫かれてしまうだろう。

ここで俺が生き残る方法としたら、戦いを諦めてこの場から逃げ出すことしか思いつかなかった。

しかし、そうしたら魔物の軍団が再び力をつけて、さらに悪い状況に陥ることになりかねない。

あくまで戦いを諦めない姿勢の俺に、エンダルゴはとどめをさして来ようとする。

 

「貴様の力は見事なものだったが、人間である以上限界もある。我の力に絶望して、この世界から消滅するがいい!」

 

奴はそう言った瞬間、身体中の魔力を使ってドルマドン以上の巨大な闇の爆発を起こそうとして来る。

追い詰められたところにこんな攻撃をされたら、今度こそ避けられないかもしれないな。

 

だが、そう思っていた俺のところと、勝利を確信していたエンダルゴのところに、一人の男の声が聞こえてきた。

 

「雄也はまだ倒れねえし、負けるのはお前さんの方だぜ!」

 

「この声は…何者だ!?」

 

突然の声に驚きエンダルゴは攻撃を中断し、何者が近づいて来ている通路の方を見る。

俺もまさかと思い見ると、そこにはハンマーを構えたゆきのへの姿があった。

よく見るとゆきのへだけではない…ラスタンやチョビ、戦闘能力を持つラダトーム城の住人全員が、俺とエンダルゴのところに向かって来ている。

 

「ゆきのへ…それにみんな!?どうしてここまで来たんだ!?それに、どうやって?」

 

これ以上自分の失敗のせいでみんなに苦労をかける訳にはいかない…俺はそう思って一人でエンダルゴと戦いに来た。

それなのに、結局みんなで戦うことになってしまったのか。

それに、エンダルゴの城には海を渡らなければ来れないはずだ…みんなは、どうやってここまで来たのだろうか?

 

「一人でエンダルゴのところに向かうお前さんを見て、どうしても心配になってな」

 

「わしとサデルンたちが作った船を使ったのだ。あれを使えば、ここにいる全員が移動することが出来る」

 

「ムツヘタに城の場所を聞いて、みんなで入り口を探したんだ。なかなか複雑な城だったけど、何とかここまでたどりつけた」

 

そう言えば数日前、おおきづちたちが大型の船を作っているのを見たことがあったな。

あの時はまだ途中だったが、もう完成させることが出来たのか。

でも、みんなでここに来たということは、ラダトーム城を守れる人が誰もいなくなっているはずだ。

 

「でも、ラダトーム城の防衛はどうしたんだ?みんなで来たら、その隙に城が攻め落とされるかもしれないんだぞ」

 

「昨日あんなに大きな戦いがあったから、少なくとも数日間は襲撃は起こらないはずだぜ…エンダルゴを倒せなければワシらも終わりだと思って、賭けに出たんだ」

 

確かに壮絶な戦いの末に、魔物側は戦力の大部分を失うことになった。

エンダルゴの城の内部やその周辺を見ても、それは明らかなことだった。

ラダトーム城の防衛に関しては大丈夫そうだが、それでもみんなを厳しい戦いには巻き込みたくなかった。

 

「そうだったのか…でも、エンダルゴは本当に危険な相手だ。気持ちはありがたいけど、すぐに戻ってくれ」

 

「危険だからこそ、お前さんを助けに来たんじゃねえか。一緒にエンダルゴを倒して、ピリンたちの待つラダトーム城に戻るぜ。このまま一人で戦っていたら、お前さんの方こそ危ないぜ」

 

俺はそう言うが、ゆきのへたちは構わずエンダルゴの間に近づいていった。

新たに現れたビルダーの仲間である彼らの姿を見て、エンダルゴも攻撃の準備をする。

俺は危険なことは承知であったが、エンダルゴと一人で戦いたいと言った。

 

「俺はどんなに危険でも構わない。俺の力不足のせいでエンダルゴが現れて、ルビスも死んでしまって、みんなをいくつもの辛い目に合わせてしまったからな。俺のせいで、みんなをこれ以上苦しませたくない」

 

今まではみんなと一緒に魔物たちと戦って来たが、エンダルゴは別格の強敵だ。

また俺のせいで、誰かを死なせてしまうことはしたくない。

俺はそう思い続けていたが、ゆきのへはそんなことは気にしなくてもいいと言った。

 

「そんなこと、もう誰も気にしてねえぜ。アレフの野郎はとんでもねえ強さだ…精霊ルビスが死んじまったのは仕方のないことだぜ。それに、もしお前さんのせいでワシらが辛い目に合ったんだとしても、お前さんはそれ以上にワシらのことを助けてくれている。どんな苦しい戦いになったとしても、お前さんを責める気はねえぜ」

 

「戦いの中でも、何度も助けられることがあった…お前には、心の底から感謝しているぞ。だからこそ、命をかけてでも助けに来たんだ」

 

仕方がないことだと言われても、俺は自分の力不足を悔やまずにはいられなかった。

しかし、ここにいるみんなは誰も俺のことを責めようとはせず、心の底から望んで助けに来ている。

俺はそれでも申し訳ない気持ちでいっぱいだが、このまま一人で戦い続けていても、みんなとの約束である生きてラダトーム城に戻るということを果たせないのも明白だった。

 

「みんな…本当に、本当にありがとう。必ず、生きてラダトーム城に戻るぞ」

 

みんなの優しさに、俺は涙が出そうになってしまう。

しかし、涙を流す余裕が出来るのはエンダルゴを倒してからだ…ラダトーム城の全員の力を合わせて、何としてもエンダルゴにうち勝とう。

ゆきのへたちはエンダルゴの間に入ると、奴に向かって一気に駆け出していった。

 

「ああ。それじゃあ行くぞ、エンダルゴ!」

 

「貴様らが来たのは予想外だな…だが、矮小な存在がいくら束になったところで無駄だことだ。貴様らのことも消し去るつもりであったし、ここでビルダーと共に始末してやる」

 

エンダルゴも再び右腕の剣を地面に突き刺し、ジゴスパークでみんなを倒そうとして来る。

7人の立っているところに狙って黒い雷がつき上がって来て、俺たちは大きくジャンプをしてかわしていった。

 

「何人いたとしても、我が雷で消し炭にしてくれよう!」

 

「これがエンダルゴの力か…でも、これくらいでワシらは止められねえぜ」

 

俺も体力が尽きて来そうな状態だが、かろうじて回避を続けることは出来ていた。

ゆきのへたちは奴を攻撃するために、雷をかわしながら少しずつ近づいていく。

彼らはさっきの俺より近づくのが難しそうな様子であったが、距離を縮めていくことが出来ていた。

 

「ゆきのへたちは近づいて行ってるし、俺も何とかしないとな…」

 

俺も共に攻撃してエンダルゴの力を削ろうと、距離を詰めて行こうとする。

しかし、俺にはやはりそこまでの力は残ってはおらず、回避することがやっとの状態だった。

バルダスたちも身体の作り上人間よりもジャンプ力が低く、何度か黒い雷を受けてけがを負っていた。

 

「何とかして近づいてやりたいけど、難しいな…」

 

変異体となったバルダスの攻撃は強力だろうが、それを当てることが出来ない。

俺たちが苦戦している中で、ゆきのへとラスタン、チョビの3人はエンダルゴに近づき、それぞれの武器を振り回していく。

 

「近づいてやったぞ、エンダルゴ。私たちの城と世界を守るため、お前を倒す」

 

「みなサンと共二、ラダトーム城二生きテ帰っテ見せマス!」

 

ラスタンはドラゴンの右腕に、チョビはドラゴンの左腕に斬りかかり、ゆきのへはエンダルゴの剣を回避しながら顔面の横側を攻撃していた。

剣の振りも爪の動きもかなり素早く、彼らはかなり苦しそうな戦いをしていたが、勇気を持って奴への攻撃を続けていく。

3人が接近したことでエンダルゴはジゴスパークを止めたが、俺たちを近づけないために新たな呪文を唱えて来る。

 

「城の人間どもは時期に我に引き裂かれて死ぬだろう…ビルダーと裏切り者どもは、焼き尽くし、凍てつかして殺してやろう!」

 

俺とルミーラのところには巨大な火柱が、バルダスとラグナーダのところには巨大な氷柱が叩きつけられた。

それぞれ炎と氷の最上位呪文、メラガイアーとマヒャデドスみたいだな。

 

「くそっ…こいつは炎と氷の魔法も使って来るのか…!」

 

おそらく、マイラとガライヤから集められた炎と氷の魔力を使ったものだろう。

俺たちは必死に走って、跳んでかわそうとするが、あまりに攻撃範囲が広いので、かわしきれず火傷を負ったり、氷柱に突き上げられ傷を負うこともあった。

直撃は避けられたのでまだ生きているが、このままだと殺されるのも時間の問題だな…。

離れた場所からでも何とか攻撃出来ないかと思い、ルミーラは弓を構えた。

 

「雄也たちも近づけそうにないし、わたしが弓で援護するね」

 

確かに矢を使えば、離れた位置からでもエンダルゴの身体を撃ち抜いてダメージを与えることが出来るだろう。

しかし、俺の撃ったはがねの弾丸のように、ルミーラの矢も奴は利用して来るかもしれない。

俺はそう思って、ルミーラに矢を止めるように言った。

 

「ルミーラ、待ってくれ。俺がさっき撃ったはがねの弾丸を、エンダルゴは逆に攻撃に利用して来た。弓矢でも、同じようなことが起きるかもしれない」

 

「そんなことがあったんだね…でも、それならどうやって攻撃したら…?」

 

彼女は弓を構えるのをやめるが、俺もかわりの攻撃手段は思いつかなかった。

俺たちが攻撃出来ない間、ゆきのへたちは少しずつエンダルゴの力を削っていく。

しかし、エンダルゴの巨体での攻撃をかわしながらなので、かなり体力を消耗して来たようだった。

 

「あと一歩のところで引き止めたか…。自らの矢で仲間が死に、裏切り者のアローインプが絶望するところを見たかったのだが」

 

ルミーラの攻撃を引き止めたのを見て、エンダルゴはそんなことを言う。

やはり奴は、ルミーラの矢も攻撃に用いて、俺たちを貫くつもりだったみたいだな。

俺たちはその後も少しずつ近づいていこうとするが、メラガイアーとマヒャデドスに阻まれて、なかなかうまくいくことはなかった。

 

だが、しばらくゆきのへたちが戦い続けていると、エンダルゴは呪文の詠唱を止めてくる。

 

「炎と氷の呪文が止まったな…今のうちに、わしも攻撃に向かおう!」

 

「ボクもゆきのへたちと一緒に、エンダルゴを倒しに行くんだ!」

 

しかし、それは攻撃のチャンスではなく、逆に大技の予兆であった。

エンダルゴはまた全身の力を右腕の剣の部分に集中させ、巨大な闇の刃を生み出して来る。

俺はすぐにゆきのへたちとバルダスたちに、それぞれ別の指示を出した。

 

「ゆきのへたち、すぐに目の前にブロックを積んで武器を構えるんだ。ラグナーダたち、すぐにエンダルゴから離れろ!」

 

一度離れてしまうと再接近はかなり難しいし、ゆきのへたちは元々の身体能力が高いので、さっきの俺のようにブロックで衝撃を軽減すれば、それぞれの武器で受け止めることが出来るだろう。

俺の指示を聞いてすぐにゆきのへたちはそれぞれの持ち運び式収納箱から城のカベや砦のカベを取り出し、自身の前に置く。

エンダルゴから元々離れている俺たちは溜め攻撃を受けないよう、さらに距離を離していった。

そして、エンダルゴが力を溜めきり巨大な闇の刃を放っていくと、ゆきのへたちはそれぞれの力の限りを尽くして、奴の攻撃を受け止めていく。

 

「滅びを受け入れろ!人間と、裏切り者どもが!」

 

「すごい一撃だな…でも、ワシらは簡単には倒せねえ」

 

「ラダトーム兵唯一の生き残りとして、私はこれからも姫様の元に仕える…!」

 

「誰ガ相手だトしてモ、ワタシは戦い続けマス!」

 

やはり絶大な威力であったが、ブロックで軽減されたおかげでゆきのへたちは耐え抜き、エンダルゴに向かっての攻撃を続けていた。

俺たちも攻撃の範囲から逃れることが出来て、溜め攻撃の後の隙にルミーラは白花の秘薬を渡してきた。

 

「助かったみたいだね…今のうちにこれを使って、雄也!」

 

「ああ。ありがとう、雄也」

 

俺はかなりのダメージを負っているので完全回復は出来ないが、少しは奴に近づきやすくなるだろう。

俺は急いで白花の秘薬を飲みきると、エンダルゴにさらなるダメージを与えるために奴に向かって走っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode216 諦めない心

それぞれの武器を振り回し、ゆきのへたちはエンダルゴにダメージを与え続けていく。

俺もさらなる攻撃を与えようと、白花の秘薬で回復した身体を動かして奴に近づいていった。

 

「結構弱って来ているはずだし、今のうちに追い詰めよう」

 

バルダスたちも、全力を使って走り、ハンマーを振り上げながらエンダルゴのところに向かっていく。

しかし、エンダルゴもこのままでは倒されまいと、俺たちが接近する前に体勢を立て直す。

そして、ゆきのへたちに向かっては爪や剣を叩きつけ、俺やルミーラたちには呪文を唱えて再び攻撃をしていた。

 

「あれほどの闇を受けても、誰1人として倒れぬとは…だが、貴様らの力にも限界があるはずだ」

 

メラガイアーやマヒャデドスの攻撃範囲はやはり非常に広く、接近するのが困難になってしまう。

だが、ゆきのへたちもかなり消耗しており、このまま援護をしなければ押し切られてしまうだろう。

白花の秘薬で回復したことにより、俺はさっきよりは素早く動くことが出来ていた。

何度か身体に傷を負ってしまったが、少しずつエンダルゴのところに向かっていく。

 

「くっ…やっぱりすごい呪文だな。でも、何とか近づけそうだぜ」

 

「少しは回復したようだが、無駄なことだ…炎と氷に包まれ、消え去るがいい!」

 

近づいて来た俺を見て、エンダルゴは呪文を詠唱する速度を上げていく。

巨大な火柱や氷柱が突き上がる頻度が上がり、俺もバルダスたちもさらなる傷を負ってしまった。

だが、エンダルゴと言えども詠唱速度には限界があり、腕輪の力を最大限に使って俺はジャンプをし、出来るだけ呪文を回避していく。

詠唱している僅かな隙に近づいていき、至近距離まで来たところで俺は両腕の武器を振り上げ、奴のドラゴンの頭に叩きつけた。

 

「もう1回近づけたし、これでゆきのへたちを援護出来るぜ」

 

「まさかあの炎と氷の嵐をしのぎきるとは…さすがはビルダーだが、貴様自身もかなりの力を失っただろう。近づいたところで、貴様の負けは変わらぬのだ!」

 

エンダルゴは近づいて来た俺にそう言い、左腕の杖で俺を殴りつけようとする。

奴の言う通り、俺は呪文を回避しながら近づくのにかなりの体力を使い、再び動きが鈍って来そうになっていた。

今はまだ回避しながら攻撃を続けられているが、奴を倒し切れるかは不安だな。

バルダスたちも近づけばさらなるダメージを与えられるだろうが、彼らはまだエンダルゴの呪文に苦戦しているようだった。

 

「エンダルゴはやっぱり強いけど、絶対に倒してみんなのところに戻るんだ!」

 

「ビルダーや人間どももまもなく死に絶える…貴様らは一足先に逝っているといい!」

 

変異体であるバルダスはまだしも、ルミーラやラグナーダはかなりの重傷を負っていた。

このままエンダルゴに立ち向かっていれば、彼らはこのまま殺されてしまいそうだ。

俺はそう思い、バルダスたちにこの空間から逃げ出すように指示を出した。

 

「バルダスたち、このまま無理に近づこうとしていたら、奴の魔法で殺されてしまう…。俺たちは大丈夫だから、この場所から早く逃げてくれ!」

 

「わしらのことなら気にしなくていい…まだエンダルゴに近づける可能性は十分にあるのだ」

 

俺たちがここでエンダルゴを食い止めたら、奴はルミーラたちを追うことは出来ない。

しかし、ラグナーダは俺の指示を聞かずにそう言った。

ルミーラやバルダスも決して逃げようとはせず、エンダルゴに立ち向かい続けている。

俺たちの役に立とうと無理をしているのではないかと思ったが、3人には作戦があるようだった。

 

「ルミーラ、バルダス…まだ不完全な物ではあるが、チョビから教わった技をここで使うのだ!」

 

「どれくらい持つか分からないけど、弓が使えない以上あれしかないね…」

 

ラグナーダたちはエンダルゴの攻撃をかわしながら、何かの呪文を唱えていく。

その呪文が唱えられると、3人のまわりが煙に包まれ、煙の中で彼らが人間のような姿に変わっていく。

 

「あれはチョビも使っている、人間に化ける呪文か…!」

 

ラダトーム城でチョビから教わった人間に化ける呪文を、ここで使ったみたいだな。

魔物の姿では戦い辛い相手でも、人間の姿なら少しは戦えるようになるかもしれない。

本来は人間の城で暮らしやすくなるために教わっているものだが、こんな時に役立つことになるとはな。

煙が晴れると、ルミーラとバルダスとラグナーダはそれぞれ、緑髪の少女と黒髪の少年、紫髪の老戦士に変わっていた。

 

「この姿なら足も素早く動く…エンダルゴに近づいて、雄也たちを援護するのだ」

 

「剣が持ちやすくなったし、これでわたしもようやく戦えるね」

 

「今度こそボクのハンマーで、あいつを倒してやるんだ!」

 

3人ともチョビとの訓練の時に、人間の姿で動くことにも慣れていたみたいだな。

足の短いおおきづちやブラックチャックの姿より素早く動くことができ、少しずつエンダルゴに迫っていく。

ルミーラは今まで使わなかったものの剣を持っていたようで、それを構えて近づいていった。

エンダルゴは人間の姿への変身に驚いていたが、今までと同じように攻撃を続けていった。

 

「裏切り者の魔物どもが、人間に化ける呪文までも覚えているとはな…だが、どんな姿になったところで我が滅ぼしてくれる!」

 

「どんなに強い魔法を使われたって、ボクたちはお前を倒すんだ!」

 

人間の姿でもさすがに全ての呪文をかわしきることは出来ず、ルミーラたちはさらなる傷を受けていた。

だが、それでも次の呪文を唱えるまでの隙に今まで以上に素早く動き、エンダルゴに確実に近づいていく。

エンダルゴもかなり魔力を消費して来たのか、俺が近づいた時ほど素早く攻撃はしなかった。

ルミーラは奴の頭に、バルダスは奴の右脚に、ラグナーダは左脚に向かって攻撃をしていく。

 

「チョビと違ってちょっとしたら元に戻ると思うけど、それまでは一緒に戦うね」

 

「ああ、エンダルゴをみんなで追い詰めよう」

 

エンダルゴに接近したルミーラは、剣での攻撃をしながらそう俺に言う。

確かにさっきラグナーダも不完全だと言っていたし、チョビのようにずっと変身していることは出来ないのだろう。

だが、短い時間であっても戦力が増えれば、エンダルゴを倒し切れる可能性は高まるだろう。

俺はルミーラにそう返して、エンダルゴに伝説を超える武器を何度も叩きつけていった。

 

「バルダスたちも近づいて来れたし、ワシらも負けてられねえぜ」

 

「私達の全力を持って、エンダルゴを追い詰めるぞ!」

 

戦力が増えたことによって、ゆきのへやラスタンの士気も高まっていく。

全ての闇の集合体たるエンダルゴも、ラダトーム城のみんなの攻撃でかなり弱ってきていた。

 

「どこまでも抵抗を諦めぬ者共め…だが、人間が我を倒すことなど不可能だ!」

 

奴も爪と剣、杖での攻撃を続けてくるが、俺たちはまだ回避し続けることが出来ていた。

だが俺も、これでエンダルゴが倒せるとは思っていない。

追い詰められたエンダルゴは俺たちへの攻撃を一時止めて両腕を振り上げ、再び世界中に満ちる闇を吸収しようとしていた。

 

「再び世界に満ちる闇を取り込み、我が力としてくれよう!」

 

「こいつ…何をしようとしているんだ…?」

 

初めて見るエンダルゴの動きを見て、ゆきのへはそんなことを言った。

エンダルゴの間に向かって禍々しい風が吹き込み、奴が力を取り戻していく。

少しでも回復される量を減らそうと、俺はゆきのへたちに攻撃を続けるように言った。

 

「世界中の闇を吸収しようとしているんだ…!出来る限りの攻撃を叩き込んで、回復を抑えてくれ」

 

俺たちはエンダルゴの回復を止めるため、それぞれの全力を持って攻撃を行っていく。

先ほどより大きなダメージを受けていたので、エンダルゴはその分多くの闇を吸収していった。

世界中に満ちている闇の力も、かなり少なくなってきていることだろう。

だが、エンダルゴの闇の吸収速度はかなり早く、回復すること自体は止められなかった。

奴はだんだんと力を取り戻していき、戦い始めた時と同じくらいまで戻ってしまう。

しかし、とてつもない量の闇の力を使ったので、これ以上の吸収はほとんど出来ないだろう。

 

「なかなかの攻撃だが、その程度で我に勝てるとは思わぬ事だ。吸収した闇の力を持って、貴様らを滅ぼしてくれる」

 

「くっ…回復は防げなかったか…!」

 

「でも、かなりの量の魔力を使ったからこれ以上の吸収は出来ないはずだ。もう一度追い詰めれば、今度こそ倒せる」

 

もう一度追い詰めれば今度こそエンダルゴを倒せると思い、俺たちは攻撃を続けていく。

奴の攻撃速度はさっきより上がってしまっており、俺たちは何度か受けてしまった。

だが、痛みに耐えて攻撃を続けていき、再びエンダルゴを弱らせようとしていく。

7人の攻撃を受けて、エンダルゴは少しずつダメージを受けていっていた。

 

「まだ倒れぬようだが、時間の問題だ…!永遠に消えぬ絶望を叩き込んでやる!」

 

長い戦いの末に、俺たちも体力を相当消耗していた。

だが、何とかまだみんな攻撃を続けることが出来ており、エンダルゴを追い詰めていく。

追い詰められたエンダルゴは再び全身の力を溜めて、巨大な闇の刃を発生させて来た。

 

「俺たちもまだ戦えるし、このまま倒してやるぜ…!」

 

「そこまで抵抗をやめぬなら、再びこの闇の刃を持って、貴様らを斬り裂いてくれる!」

 

ここで遠くまで離れてしまえば、弱った身体でエンダルゴに再び接近しなければならなくなる。

またブロックで衝撃を軽減し、両腕の武器で防ぐしかなさそうだ。

俺は自身の前に砦のカベを置いて武器を構えると、みんなにも指示を出した。

 

「みんな、またあの闇の刃が来る。ブロックで衝撃を軽減して、武器で受け止めてくれ」

 

「分かったぜ。必ずあいつの攻撃をしのいで、このまま弱らせてやる」

 

「すごい攻撃だと思うけど、ボクも受け止めてやるんだ!」

 

ここまで戦ってきたみんななら、必ず受け止めて反撃することが出来るはずだ。

バルダスたちもそれぞれが持つ持ち運び式収納箱からブロックを取り出し、自身とエンダルゴとの間に置いていた。

みんなブロックを置くと、全身の力を腕にこめて闇の刃の衝撃を受け切ろうとする。

 

「何をしたところで無駄だ…滅びろ、その無駄な復興の意志ごとな…!」

 

エンダルゴが右腕を振った瞬間、闇の刃がこちらに向かって放たれる。

闇の刃はやはり凄まじい威力であり、俺たちが置いたブロックを一瞬で破壊していた。

だが、そのブロックを破壊したことによって威力はかなり軽減され、俺たちは両腕の力でその刃を受け止めていく。

俺もみんなもさっきより弱っており倒れ込みそうになっていたが、踏ん張って耐えていた。

 

「やっぱりとんでもない攻撃だな…でも、これを防げないようじゃアレフも倒せない…!」

 

だが、この闇の刃も受け止められないようでは、元勇者であるアレフを倒すことは出来ないだろう。

俺はそう思って必死に耐えて、エンダルゴの闇の刃を防ぎきっていった。

ゆきのへたちも耐えしのぎ、奴に向かって反撃しようとしていく。

しかし、ルミーラたち3人はしばらくの間人間に変身していた上に、これで力を使い果たしたことで、魔物の姿に戻ってしまっていた。

 

「耐えられたが、元の姿に戻ってしまったか…。やはり、わしらの変身は不完全だったな」

 

「でも、これでエンダルゴの攻撃は防げた。今のうちに弱らせるんだ!」

 

バルダスとラグナーダは元の姿に戻りながらも、強力な攻撃の後に隙を晒しているエンダルゴを攻撃していった。

俺やゆきのへたちもそれぞれの武器を使って、奴の残った力を削りとっていく。

エンダルゴはあまり時間をかけずに体勢を立て直すが、それでもかなりのダメージを与えることが出来ていた。

 

「まだ倒れぬか、人間と、人間に寝返った魔物どもめ…。ならば、また世界に満ちる闇を吸収してくれよう!」

 

エンダルゴは体勢を立て直すと、また両腕を振り上げて世界に満ちる闇の力を吸収し、回復しようとして来る。

だが、俺の予想通り世界に残っている闇の力は残り僅かであり、奴はほとんど回復出来ていなかった。

 

「ぐっ…もうほとんど闇の力は残っていなかったか。だが、それでも貴様ら人間に勝ち目などない。残った力だけでも、貴様らを滅ぼすことは容易だ!」

 

しかし、エンダルゴも戦いを諦めようとはせず、俺たちへの攻撃を続けてくる。

巨大な爪や剣、杖での攻撃速度も変わらず、弱って来た俺たちには厳しい戦いになっていた。

特に、元の姿に戻った上に今までかなりの傷を負っているラグナーダたちは、危険な状態に陥っている。

 

「俺も結構疲れて来たけど、ラグナーダたちはもっと危険になってるな…」

 

「ボクたちは、絶対に負けないんだ!」

 

「強がったところで意味はない…自分の無力さを悔いながら、死ぬがいい!」

 

バルダスはそう言うが、彼も他の二人もエンダルゴの攻撃を何度も受けて、もう瀕死と言えるような状態になっていた。

もう変身も出来なさそうなので、このままだと3人とも死んでしまうだろう。

今のうちに逃げてくれと、俺は3人に指示を出した。

 

「このままだと3人とも死んでしまう…ラグナーダたち、早くここから逃げるんだ!」

 

ラグナーダたちも、最後まで俺たちと一緒に戦い続けたいと思っているだろう。

だが、生きてラダトーム城に戻ることが最優先なので、今度は俺の指示を聞いてエンダルゴの間から逃げ出していく。

 

「生きて皆の元に戻らなければならぬからな…分かった。ルミーラ、バルダス、行くのだ!」

 

「戦い続けたいけど、仕方ないか…雄也たち、頑張るんだ!」

 

「わたしたちは、城の外の船のところで待ってるね。絶対に生きて戻ってきて!」

 

ルミーラとバルダスもエンダルゴの攻撃から逃げ出して、この空間から出ていく。

 

「ああ、必ず生きて戻るぞ!」

 

「逃げたところで無駄だ。焼き尽くしてやろう!」

 

エンダルゴは逃がすまいとメラガイアーの呪文を唱えていたが、ルミーラたちは残った力を振り絞って走り、戦線離脱していった。

俺は3人に大声で言うと、伝説を超える武器でエンダルゴの体力を削りとっていく。

ゆきのへたちも残った力を使って、エンダルゴを追い詰めていった。

 

「お前さんに傷つけられたみんなの分も、ワシが攻撃してやるぜ!」

 

「ラダトーム城の兵士として、魔物の力の集合体であるお前を許すことは出来ない!」

 

「コノ戦い二勝っテ、みんなノ所二帰りマス!」

 

残った4人の攻撃でも、エンダルゴはかなりのダメージを受けていた。

もう世界に満ちる闇の力による回復も出来ないので、このまま倒すことも出来るかもしれないな。

 

「魔物どもは逃げ延び、貴様ら人間もまだ攻撃を続けるか…。だが、我が負けることなどありえぬ!」

 

しかし、俺たち自身もエンダルゴと同じかそれ以上に弱っており、爪や剣での攻撃を何度も受けるようになっていた。

その度に痛みに耐えて動き続けて反撃を続けるが、限界が近づいて来ている。

 

「俺たちもそろそろ限界だな…でも、ここまで来て負けるわけにはいかない…」

 

だが、みんなの支援を受けてここまでうまく進んできた戦いなのに、ここで負けるわけにはいかない。

俺たちはそう言う思いで身体を動かし続け、エンダルゴを攻撃し続けていった。

しかし、体力が尽きてきた俺たちにとどめをさそうと、奴は炎と氷の呪文を同時に唱えてきた。

 

「どうやらここまでのようだな…炎と氷の融合による膨大なエネルギーで、貴様らを消し去ってくれる!」

 

がったいまじんが放ったメドローアですらマイラの町を半壊させるほどの威力だった…メラガイアーとマヒャデドスの融合であれば、さらなる絶大な威力になってしまうだろう。

こんな技を放てば奴自身にも相当なダメージだろうが、これを使えば俺たちにとどめをさせるだろうというタイミングなので、ついに使って来るみたいだな。

こればかりは剣やブロックで防ぐことは出来ないので、俺たちはゆきのへたちに指示を出して走って回避しようとする。

 

「ゆきのへたち、まずい攻撃が来る。今すぐエンダルゴから離れてくれ!」

 

「分かったぜ、雄也!」

 

奴自身にも大きなダメージが入るので、これを回避することが出来れば大きなチャンスになるだろう。

俺たちはすぐにエンダルゴから離れ、出来るだけ遠くにまで向かおうとする。

だが、弱っていた俺たちはあまり速く走ることは出来ず、距離を取る前にエンダルゴの呪文が炸裂してしまった。

 

「みんな、危ねえ…!」

 

エンダルゴの呪文の発動を見てゆきのへはそう叫び、俺もみんなも大きく跳ぶ。

だが、爆発の中心からは逃れられたがそれでも凄まじい爆風を受けてしまい、みんなは地面に叩きつけられた。

俺も腕輪の力を使ったが逃げ切ることは出来ず、強力な爆風を受けて大きく吹き飛ばされ、身体中に激痛が走って倒れ込んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode217 ドラゴンクエストビルダーズ

地面に叩きつけられた痛みで意識を失いそうにもなるが、俺は残った気力で耐え続けてエンダルゴの方を見る。

ここまで追い詰めたのに負けるわけにはいかない…そう言う思いで、もう一度立ち上がろうとしていく。

 

「何とか立って、あいつを倒しきらないと…!」

 

さっきの呪文で自身も大ダメージを受けたものの、エンダルゴはまだ俺たちを睨んで、次なる攻撃を放とうとして来ていた。

だが、先ほどの戦いで受けたダメージもあり、脚にどれだけ力を入れても立ち上がることは出来ない。

ゆきのへたちも全身に深い傷を負っている状態であり、誰1人として戦える状態ではなかった。

爆発からは生き残ったもののそんな状態になってしまった俺たちを見て、エンダルゴはとどめを刺そうとして来る。

 

「ここまで我を追い詰めることは想定外だったが、所詮は人間だ…闇の力に呑まれて、絶望の中で死んでいくがいい!」

 

エンダルゴはそう言うと、自身を構成している闇の力を目の前に集中させていく。

今までのどの攻撃よりも大きな闇の力だったが、奴はそれを爆散させるのではなく、俺たちの肉体を侵蝕させようとして来た。

オーレンたちの時と同じで、苦痛の中で死んでいけと思っているのだろう。

このままだと俺だけではなく、ゆきのへたちまで奴に殺されてしまうな…。

 

「くそっ…また俺のせいで、仲間たちが…」

 

俺は自身の力不足でルビスを死なせてしまったことを、ずっと悔やみ続けていた。

その償いとして自分の身を危険に晒してまでエンダルゴと戦いに来たのに、また自分の力不足のせいで、仲間たちを死なせてしまうことになる。

それに、俺たちがここで死んでしまったら、必ず生きてラダトーム城に戻るという約束も果たせなくなってしまう。

 

「何とか…この状況を覆す物はないのか…?」

 

目の前の仲間を守れず、町で待っている仲間との約束も果たせない罪深いビルダーのまま、俺は死にたくない…何とかして、この状況を覆さなければいけない。

だが、どんな思いがあったとしても、重傷を負った身体が動くようになるということはなかった。

最後まで抵抗を続けたビルダーが動きを止めたことで、エンダルゴは勝利を確信する。

 

「ビルダーも仲間どもも、やはりもう立ち上がれぬようだな…貴様らに生き残る道はない、これで分かっただろう」

 

「くそっ、ここでもう終わりなのか…?」

 

エンダルゴの前に満ちている闇の塊も、だんだん大きくなって来ていた。

絶望の淵に立っている俺の頭の中には、今まで復興させてきた町の人々の顔が浮かんで来る。

彼らのためにも、俺はここで死んでしまうわけにはいかない。

生き残らなければいけないという思いにより、もういないはずのルビスの声が聞こえたような気もした。

 

「雄也よ…まだ、倒れる時ではありません。さあ、立ち上がりなさい」

 

絶対に生きてラダトーム城に戻るという強い意志を持ち、俺はこの状況を覆せるものがないかと考えていく。

意志だけではどうにもならないことであっても、何かの道具を使えば状況は変わるかもしれない。

そう思って必死に考えていくと、俺はリムルダールで手に入れた、謎の薬を思い出した。

 

「これを使えば、もしかして…!」

 

鍵のかかっていた建物の中の宝箱にあった、聖なるしずくとも清めの光薬とも違う、不思議な光を放つ薬。

どういった薬なのかは分からないが、強力な効果がありそうな見た目をしていた。

これを使っても俺の傷が回復するかは分からない…だが、他に助かる道はないのでこれに賭けるしかなかった。

 

「頼む…これで立ち上がれるようになってくれ…」

 

エンダルゴはもうすぐ力を溜め終わる…これでもだめなら、俺もゆきのへたちももう終わりだ。

立ち上がれるようになることを祈って、俺はその謎の薬を飲み干していった。

 

そうすると、俺の身体中に出来た傷は全て治り、痛みもだんだんと消えていった。

戦いの末に消耗した体力も回復し、戦いが始まった時と同じくらいにまで戻る。

そして、これなら立ち上がれると思い、俺は両腕に武器を構えて立ち上がっていった。

 

「痛みも消えたし、力も戻ってきた…これなら勝てるぜ!」

 

「馬鹿な…ここまでの傷を負って、なぜ立つことが出来る…!」

 

俺たちを後少しのところまで追い詰めたところで予想外の出来事が起こり、エンダルゴは驚く。

奴は俺の飲み干した薬の容器を見て、俺も聞いたことのない薬の名前を言った。

 

「それは世界樹の葉から作られたという、せかいじゅの薬…まさか、この時代に現存していたとは…」

 

せかいじゅの薬か…まだ聖なるほこらの跡地に世界樹があった時代の人々が、後世の人々のために作り、あの建物に隠したみたいだな。

何かの役に立つと思ってずっととってきていたあの薬が、こんなところで俺を助けてくれるとはな。

この薬を残してくれた古代の人々に、感謝しなくてはならなさそうだ。

俺は体勢を立て直すと、武器を構えてエンダルゴに近づいていった。

 

「一時はどうなるかと思ったけど、ここから逆転してやるぜ」

 

「せかいじゅの薬が現存していたことは予想外だが、回復したところで無駄だ。闇の力に蝕まれ、死んでいくがいい!」

 

エンダルゴも溜まり切った闇の力の塊を放ち、俺たちを侵蝕して来ようとして来る。

それを見てすぐに俺はポーチから砦のカベをいくつも取り出し、エンダルゴと自分の間に置いていった。

闇の力の塊にぶつかって砦のカベは壊れるが、それによって俺たちのところまで攻撃が届くことはなかった。

 

「これ以上あんたの闇の力で、みんなを死なせたくはない。今度こそあんたを倒して、ラダトーム城のみんなのところに戻るぞ!」

 

「もう少しのところだったが、防がれてしまったか…。だが、起き上がったのは貴様のみ…我の残った力でも始末できよう!」

 

エンダルゴは両腕を振り上げ、俺たちのところに届かなかった闇の力を回収していく。

俺はその隙に腕輪の力を使って一気に近づき、両腕の武器を叩きつけていった。

エンダルゴの前脚を叩き潰し、深く貫いていく。

一度攻撃した後もすぐに剣とハンマーを振り上げて、連続で攻撃していった。

 

「こいつもかなり弱っていそうだし、このまま攻撃を続けて倒してやるぜ」

 

「何度でも近づいてくるか…どこまでも厄介な存在だ、ルビスが残したビルダーというのは!」

 

エンダルゴもそう言って、爪や剣を振り回して、俺を攻撃して来ようとして来る。

だが、傷が癒えて体力も戻った今の俺なら、回避しながら攻撃を叩き込むことが出来ていた。

エンダルゴは俺たちの攻撃で追い詰められている上に、さっきの大爆発でさらなるダメージも負っている。

連続で攻撃を与えると、瀕死の状態にまで追い込むことが出来ていた。

 

「エンダルゴを構成している闇の力も、残り僅かになっているな…」

 

エンダルゴを構成する膨大な闇の力…一度は人間の力では決して勝てないと思っていたものを、自らの手で消し去っていく。

身体を構成する闇の力が減ったことにより、エンダルゴの攻撃速度はかなり落ちて来ていた。

そこでさらに俺は攻撃の手を強めていき、エンダルゴの残った力を削りとっていく。

そうしていくとついにエンダルゴは立ち上がるほどの魔力もなくなり、その場に倒れ込んだ。

 

「おのれ、ビルダーめ…!数百年の闇の力を持ってしても、貴様を殺すことが出来ぬとは…!」

 

「厳しい戦いだったけど、ようやく勝ちが見えて来たな。これで終わらせてるぜ!」

 

本当に厳しい戦いだったが、みんなの支援と諦めずに戦い続ける心、そして古代の人々が残してくれた薬のおかげで、ここまで来ることが出来た。

これでエンダルゴに倒して、城の外で待っているルミーラたちと、後ろで待っているゆきのへたちと一緒に、ラダトーム城に戻ろう。

俺はそう思って全身の力を溜めて大きく飛び上がり、垂直に両腕の武器を思い切り叩きつけていった。

 

「飛天斬り!」

 

ふめつのつるぎから生み出された紅色の巨大な光の刃が、エンダルゴの身体を引き裂いていく。

ビルダーズハンマーのダメージも加わり、奴の前脚やドラゴンの頭の部分は原型を留めないほどに破壊されていた。

だが、それでも闇の力の集合体であるエンダルゴは普通の魔物のようには消えず、最後にこう言い残した。

 

「さあ、とどめを刺すがいい、ビルダー。我は闇の集合体…この世界に闇がある限り、我もまた蘇る」

 

確かにまだ闇の元凶であるアレフが生きているので、再び闇の力が満ちてきたらエンダルゴも復活することがあるかもしれない。

だが、俺がアレフの奴と決着をつけるので、そんなことにはならない。

 

「アレフの奴も俺が倒すから、あんたが復活することはない。みんなと一緒に、これからも楽しい世界を作っていくぜ」

 

俺は必ずアレフも倒すと言って、エンダルゴにとどめをさすために…数百年世界を支配し続けていた闇の力を祓うために、ポーチからまほうの光玉を取り出していった。

そして、エンダルゴの両翼と胴体を爆破して、跡形もなく消し去っていく。

 

エンダルゴが消滅したことを確認すると、俺は両腕の武器をポーチにしまっていった。

 

「長い戦いだったけど…終わったんだな」

 

エンダルゴが消えたことにより、この空間に満ちていた禍々しい気配も消えていた。

一度は絶対に勝てないと思っていた全ての闇の集合体…エンダルゴを、ついに倒すことが出来たんだな。

俺はまだ実感が湧かないが、エンダルゴを倒したのを見ていたゆきのへたちも、話しかけてくる。

 

「ついにやったんだな…!本当によくやったぜ、雄也!」

 

「最後まで援護出来なかったのは心残りだが…見事だぞ、雄也!」

 

「竜王様ヲ倒すダケでナク、闇ノ集合体スラ消しテしまうトは、本当に恐ろシクテ、素晴らシイお方デスね!」

 

重傷を負っていたゆきのへたちだが、今は何とか立ち上がれるようになっていた。

最後に俺だけでエンダルゴに立ち向かっていった時、奴の攻撃がみんなに届かないかも心配だったが、それも大丈夫だった。

みんなと一緒にこの城から出て、みんなの待つラダトーム城に戻っていこう。

 

「みんなの助けがあったおかげで勝てた…本当にありがとう。ピリンたちが待ってるし、早く元気な顔をラダトーム城に見せに行こう」

 

「ああ、一緒に行くぜ」

 

エンダルゴの玉座の間に、長居している理由はない。

俺はゆきのへたちに改めて感謝の言葉を言うと、来た道を引き返してエンダルゴの城から出ていく。

エンダルゴの城はかなりの大きさだが、魔物の姿はないので俺たちはすぐに外に出ることが出来た。

 

エンダルゴの城から外に出ると、俺たちの視界は眩しい光に包まれて来る。

 

「空に…光が…!」

 

エンダルゴが世界中の闇の力を吸収したことで、空を覆っていた闇も消え去ったようだった。

もちろん世界を創った精霊を失った空なので、かつてのような青空が戻ってくることはもうない。

だが、俺たちが見上げるこの空は、間違いなく美しく輝いていた。

 

ひかりのたまとルビスを失い、俺たちに光をもたらす物は何一つ存在しなくなってしまった。

魔物たちの攻撃によってせっかく作った町も破壊され、みんな悲しみに沈んでいた。

だが、そんな状況の中でも俺たちは決して諦めないことで、みんなが楽しく暮らせる世界を作り直すことが出来た。

壊れた町は何度でも作り直せる…大事なのは、そこに暮らす人間だ。

全てが無駄になったとしても…何も救えなかったとしても…世界は何度でもやり直せる、人間の復興の意志がある限り。

 

精霊の加護はもうない…平和が訪れることももう決してない…だが、それでも俺の目に映るアレフガルドの大地は、確かに生き続けていた。

 

ドラゴンクエストビルダーズ…アレフガルドの復興のための、長く苦しい戦い。

永遠に終わることがないであろうその戦いも、一つの節目を迎えようとしていた。

 

俺が輝く空を見て様々なことを考えていると、ゆきのへが船に乗ってラダトーム城に戻ろうと言ってくる。

 

「空の光が戻ったのは嬉しいが、いつまでも見とれてちゃいられねえぜ。戻るぜ、ラダトーム城に」

 

「ああ、もちろんだ」

 

俺は小舟でエンダルゴと戦いに来たので、ゆきのへたちがどこに船を止めたかは知らない。

俺はゆきのへにそう言うと、ルミーラたちの待っている船のところまで歩いていった。

ラダトーム城に戻って戦いの疲れを癒し、アレフとの最後の決戦に備えよう。




次回からいよいよ最終章に入っていきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10章 裏切りの勇者・最終決戦編
Episode218 真の勇者と導きの真相


エンダルゴとの戦いで疲れているので、みんなは交代しながらゆっくり船を進めていく。

行きは1時間ほどでラダトーム城の西の地域に着いていたが、帰りは1時間半以上もかかっていた。

ラダトーム城のある地域が見えて来ると、俺は船を漕ぐ速度を上げていく。

 

「戦いの後に漕ぐのは大変だったけど、ようやくラダトーム城が見えて来たな」

 

「ああ。ヘイザンたちもみんな待ってるし、早く行こうぜ」

 

ラダトーム城でみんなに顔を見せたら、アレフとの最後の戦いに向けても準備を進めていこう。

ムツヘタが魔法台を強化しようと考えていたので、どれくらい進んだか聞いてみないとな。

俺はそんなことを考えながら、みんなと一緒にラダトーム城の近くに上陸して、歩いていった。

 

「無事に戻ってきたな…まだ魔物はいるから、気をつけて進もう」

 

魔物の大軍勢との壮絶な戦いに打ち勝ち、エンダルゴも倒したが、魔物がいなくなったわけではない。

俺は奴らに見つからないように、慎重に城に向けて進んでいく。

みんなも体勢を下げていき、15分くらいでラダトーム城の間近にまでたどり着いた。

 

ラダトーム城に戻って来ると、俺たちはみんなに生きて帰って来たことを伝えようと、さっそく中に入っていく。

すると、ローラ姫たちは希望のはたが立っている場所に集まっており、俺たちの姿を見ると喜びの声を上げながら近づいて来た。

 

「おお、皆様!無事に戻ってきて下さったのですね…!」

 

「なかなか帰って来なくて心配しておったが、勝ったようじゃな!」

 

姫とムツヘタに続いて、ピリンたちも俺たちの無事を見て走ってくる。

サデルンとエファートは、真っ先にラグナーダのところに駆け寄っていた。

俺はエンダルゴを倒してきたと、喜んでいるみんなに大声で言う。

 

「ああ。本当に強力な敵だったけど、ついにエンダルゴを倒してきたぜ。こっちこそ、生きてここに戻ることが出来て本当によかった」

 

「精霊ルビスを失ったはずの空も、あんなにきれいに輝いています…!本当に…本当にありがとうございました!」

 

ローラ姫は闇の力が消えた空と大地を見て、俺たちに感謝の言葉を伝えた。

こっちこそ、ラダトーム城に生きて戻ることが出来て本当に嬉しいぜ。

闇が降った日からラダトーム城を覆っていた闇の力も、すっかり消えていた。

姫は、最後までアレフガルドの復興を諦めなかった俺たちの姿を見て、一つ思ったことがあると言う。

 

「どんな絶望的な状況でも諦めなかった皆さんを見て、私は一つ思ったことがあります」

 

「何を思ったんだ?」

 

「勇者だから何かを成すのではなく、何かを成したから勇者だと言うことです」

 

何かを成したから勇者か…1人の若者を勝手に勇者として持て囃し、厳しい責務を押し付けたことで、今までのたくさんの悲劇が生まれてしまった。

それに、勇者として選ばれなかった者達の力でも、こうしてエンダルゴを倒すことが出来た。

本来勇者とは、偉業を成し遂げて初めて与えられるべき称号なのかもしれないな。

 

「アレフガルドを2度も復興させ、エンダルゴも倒して下さったあなたたちは、間違いなく勇者です。勇者様たちの力があれば、これからも世界は続いていくでしょう!」

 

「私が勇者か…だが、ルビスに選ばれた者でなくても、ここまでのことを成し遂げられるとはな…」

 

かつて勇者に責務を押し付けていた人間の1人であるラスタンは、姫の言葉を聞いてそう言った。

選ばれた勇者かどうかは関係ない…誰であっても、世界を救える可能性はある。

人々の力があれば必ず世界を作り続けられると、ここにいる誰もが信じていた。

俺たちみんなが喜んでいると、ローラ姫はエンダルゴを倒せたことを祝い、アレフとの最後の戦いの士気を高めるために、また宴を開こうと言ってきた。

 

「そうでした。エンダルゴを倒したことを祝い、あの方…アレフとの戦いに備えるために、宴を開こうと思っております。まだ準備の途中ですが、みなさんは休んで待っていて下さい」

 

「そうだったのか。なら、それまでの間休んでるぜ」

 

俺たちがエンダルゴと戦っている間、城に残ったみんなは宴の準備もしてくれていたのか。

ここまで来たので、もうローラ姫もアレフを倒すことにほとんどためらいはないようだ。

みんなは傷を癒すために、教会に入っていこうとする。

俺もゆきのへたちについていき、宴が始まるまでの間身体を休ませようとしていた。

 

しかし、俺が教会の中に入ろうとしていると、後ろからムツヘタが話しかけてきた。

ラダトーム城に戻ってきた直後なのに、何か用事があるのだろうか。

 

「休みに入る前に、一つ聞いて欲しいことがあるのじゃ。いいかの、雄也?」

 

「もちろんいいけど、何かあったのか?」

 

みんなは宴の準備をしているが、ムツヘタは別にしなけれいけない事があるようだ。

俺がそう聞くと、ムツヘタはついに魔法台の改良方法が分かったと言ってきた。

 

「わしはそなたが魔法台の記録を手に入れた日から、ずっとシャナク魔法台を強化する方法を考えていたのじゃが…ついさっき、新たな魔法台を思いつくことが出来たのじゃ」

 

「じゃあ、これでアレフの居場所が分かるってことか…それなら、さっそく作り方を教えてくれ」

 

俺もさっき魔法台のことは気になっていたが、ムツヘタも俺たちがエンダルゴと戦っている間、必死に考えていてくれたみたいだな。

今日改良すれば間違いなく数日以内にアレフと戦いに向かえるだろうし、エンダルゴが復活してしまうこともなさそうだ。

俺はさっそく新たな魔法台を作りに行こうと、ムツヘタから作り方を聞き出した。

 

「今のシャナク魔法台を、変質したブルーメタルとダイヤモンドで改良するのじゃ…詳しい作り方も教えて行くぞ」

 

アビスメタルとダイヤモンドが必要なことを伝えた後、ムツヘタは詳しい作り方も教え始める。

シャナク魔法台は中央に明るい青色の宝玉があるが、新たな魔法台では深い青色になるようだった。

俺は作り方を聞きながら、ビルダーの力を使って魔法台に必要な素材の数を調べていく。

 

予言者の魔法台…シャナク魔法台1個、銀5個、アビスメタル3個、ダイヤモンド3個 石の作業台

 

アビスメタルもダイヤモンドもこの前たくさん集めて来ているので、わざわざ集めに行く必要はなさそうだ。

銀も大倉庫にたくさん入っているので、占いの間からシャナク魔法台を回収すれば、作りに行くことが出来るだろう。

 

「どうじゃ、今すぐに作れそうか?」

 

「他の素材はみんな持ってるから、シャナク魔法台を回収して作って来るぜ」

 

なるべく早くアレフと戦いに行きたいし、さっそく予言者の魔法台を作ろう。

俺はムツヘタにそう言うと、占いの間に入ってハンマーでシャナク魔法台を回収し、ポーチにしまっていく。

 

「頼んだぞ、雄也よ」

 

「ああ。少し待っていてくれ」

 

そして、ムツヘタにもう一度そう返事をすると、石の作業台のある工房の中に入っていった。

ムツヘタは俺が魔法台を加工している間、ローラ姫たちと一緒に宴の準備をしていた。

 

俺は工房の中に入っていくと、すぐに石の作業台のあるところに歩いていく。

そこでポーチから必要な鉱石とシャナク魔法台を取り出して、ビルダーの魔法を発動させていった。

 

「簡単に改良出来そうだし、本当に良かったぜ」

 

エンダルゴを倒した後に素材を集めに行くというのは大変なので、そうならなくて良かった。

ビルダーの力がかかっていくと、シャナク魔法台と素材が合わさっていき、ムツヘタが言っていた通りの新たな魔法台が出来上がっていく。

ビルダーの力は本当に便利なものだし、アレフを倒した後もこれを使って世界を作り続けていこう。

俺はそう思いながら、魔法台へとビルダーの力をかけ続けていった。

そうして数分間経つと、予言者の魔法台が完成する。

 

「これで新しい魔法台が出来たな…さっそくムツヘタに見せに行こう」

 

これを使えば、ムツヘタならきっとアレフの居場所を特定することが出来るだろう。

俺は一度ポーチに予言者の魔法台を入れて、占いの間に入っていく。

予言者の魔法台はシャナク魔法台と大きさは変わらないので、部屋を改築しなくても設置することが出来た。

 

俺は魔法台を設置すると、宴の準備をしているムツヘタを大声で呼ぶ。

 

「ムツヘタ!予言者の魔法台を作って、占いの間に置いたぜ」

 

「おお!よくやったのじゃ、雄也。すぐに向かうぞ」

 

ムツヘタも俺の声を聞くと、そう言って占いの間のところに足音を立てて走って来た。

すぐに入り口のとびらが開かれ、中に嬉しそうな顔をした彼が入ってくる。

エンダルゴも倒せて、アレフとの戦いへの準備も進んでいる…俺にとってもムツヘタにとっても、今日は本当に嬉しい日だな。

 

「確かにワシが言った通りの魔法台じゃ。これを使えば、早急にアレフを居場所を突き止められそうじゃ」

 

「それなら、見つかったらすぐに教えてくれ」

 

完成した予言者の魔法台を見て、ムツヘタはそんなことを言う。

早ければ明日にはアレフとの戦いになるだろうし、今日はゆっくり休んで身体を休めよう。

ムツヘタは、徹夜で占いの間にこもり、アレフの居場所を探すとも話した。

 

「あまりもたもたとはしておれぬ…今日は、徹夜でアレフを探すつもりじゃ」

 

老人であるムツヘタが徹夜をするのは大変だろうが、それでアレフの居場所が分かるといいな。

アレフガルドのどこにいたとしても、俺が必ず決着をつけに行く。

そう思いながら、俺は占いの間を後にして、宴の準備がどれくらい進んでいるか見に行こうとした。

 

「ありがとうな、ムツヘタ。俺もいつでも戦いに行けるように、身体を癒しておくぜ。これから、宴の準備をしてるみんなのことも見に行ってくる」

 

「待つのじゃ。そなたにもう一つ、話しておきたいことがある」

 

だがムツヘタはその前に、俺にもう一つ話しておきたいことがあると言った。

ローラ姫と同様に、ムツヘタもアレフガルドの2度の復興を通じて思ったことがあるようだった。

 

「どうしたんだ?」

 

「姫と同じで、ワシもそなたの活躍を見て思ったことがあるのじゃ。お主がルビスにビルダーとして導かれた理由についてじゃ」

 

最初にルビスは、俺に魔物と戦うための力や知識があり、魔物から隠れて進む技術もあることを見越して、俺をアレフガルドに呼んだと言っていた。

だが、それ以外にも俺がビルダーに選ばれた理由があったのだろうか。

 

「俺に魔物と戦ったり、魔物から隠れたりする力があるから呼んだって言ってたけど…他にも理由があったのか?」

 

「そなたはルビスが亡くなった後も仲間たちのために諦めず、アレフガルドをもう一度復興させて見せた。そこでワシはふと思ったのじゃ…もしかしてルビスは、そなたが仲間を思いやり、決して諦めない心を持っていることも見越して、ビルダーとして導いたのではないかとな」

 

確かに俺は何度も苦しい目に会いながらも、諦めずに仲間たちと共にアレフガルドを作り続けた。

昔は俺がそんな心を持っているとは全く自覚していなかったが、世界を創った精霊であるルビスはそれも見抜いていたのかもしれないな。

今となってはもう確かめる方法はないが、これが俺がビルダーに選ばれたもう一つの理由なのかもしれない。

 

「もう聞くことは出来ないけど、そうだったのかもしれないな…」

 

「そなたの諦めない心なら、必ずアレフも倒せるはずじゃ。宴の準備はもう出来ておるから、そこで身体を休めるのだ」

 

ビルダーに選ばれた理由の推測を語った後、ムツヘタは宴の準備がもう出来ていることを話す。

最後の戦いへの士気を高めるために、今夜は思い切り宴を楽しもう。

 

「ああ、分かった」

 

俺はそう言って占いの間から出ていき、ムツヘタもそれに続いた。

 

予言者の魔法台を作った後、俺たちはローラ姫たちの準備した宴を心から楽しんだ。

世界の光が消滅し、一度は絶望に沈みかけたみんなだったが、それが嘘だったかのように賑わっていた。

あまり大がかりな宴ではないが、俺は仲間たちとたくさん会話をかわし、食べ物を食べて、戦いの疲れを癒していく。

普段なら宴は翌日の朝方まで続くが、今日はみんなの傷も完治しておらず、体力を回復させるためには寝ることも必要なので、早めにお開きになった。

アレフを倒したら、この宴の続きをしよう…俺は必ずアレフを倒すと決意してから眠りにつき、ムツヘタは奴の居場所を突き止めるために占いの間に入っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode219 闇空の城へ

エンダルゴを倒した翌日、ラダトームに戻って来てから8日目、俺は昼頃になって目覚める。

俺はせかいじゅの薬を使った後にほとんどダメージを受けなかったため、すっかり傷も癒えているが、ゆきのへたちはまだ完全に回復はしていなかった。

みんなはまだ休んでおり、俺もアレフとの戦いに体力を温存するため今日一日ゆっくり過ごそうと考えていた。

 

だが、そう思いながらラダトーム城の中を歩いていると、占いの間からムツヘタの大きな声が聞こえて来た。

 

「おお、ついに見つかったのじゃ…!雄也、いよいよじゃぞ!」

 

次の瞬間占いの間のとびらが勢いよく開かれ、中からムツヘタが出て来る。

ムツヘタは俺を見つけると、そう言いながら走って近づいてきた。

彼は徹夜で予言者の魔法台を使っていたようだが、ついにアレフの居場所を見つけることが出来たのだろうか。

 

「どうしたんだ、ムツヘタ?もしかして、アレフの居場所が見つかったのか?」

 

「そうなのじゃ!昨日の宴が終わってからずっと作業を続けて、今ちょうど奴の居場所を特定することが出来た」

 

徹夜で強化した魔法台を使っていたとは言え、まさか一日でアレフの居場所を特定出来るとはな。

これなら、魔物たちが勢力を取り戻し、エンダルゴが復活する前に奴にとどめをさすことが出来そうだ。

今まで手に入れた全ての武器や道具の力を使い、必ずアレフと決着をつけに行こう。

今のムツヘタの声を聞いて、休んでいるゆきのへとピリンも部屋から出てきた。

 

「今の話は聞いたぜ、雄也。アレフの奴とも、決着をつける時が来たのか…」

 

「また危険な戦いに行くんだったら、わたしにも見送らせて」

 

ピリンたちに続いて、ラスタンたちも俺とムツヘタのところに集まってくる。

今回もエンダルゴの時と同じで、みんなに見送られながらアレフとの戦いに行くことになりそうだな。

みんなの応援の声を心の支えにして、最後まで諦めずに戦い続けよう。

みんなが集まってくると、俺はムツヘタに奴の詳しい居場所を聞いた。

 

「みんなも集まって来てくれたか…俺たちが話していた通り、ムツヘタがついにアレフの居場所を見つけ出したらしい。詳しい居場所を聞いたら、すぐに戦いに行くつもりだ。ムツヘタ、アレフはどこにいるんだ?」

 

「かつてサンデルジュの砦があった場所の近くの高く険しい岩山…そのはるか上空に、奴の潜む場所があるようなのじゃ」

 

サンデルジュの岩山の上空か…それなら、まず旅のとびらでサンデルジュに向かい、そこから上空を目指せば良さそうだな。

空に向かうためには、以前ルビスを助けに行こうとした時と同じで、たくさんのブロックを積んでいこう。

 

「上空か…それなら、この前と同じでブロックを積んで行くしかないな」

 

「アレフがいるのはかつてひかりのたまがあった場所より高いところじゃ。かなりの数のブロックが必要になりそうじゃぞ」

 

ルビスを助けに行く時もかなりのブロックを使ったので、あれ以上となれば確かに用意するのは大変そうだな。

しかし、みんなで協力してブロックを集めれば、あまり時間がかからずにアレフのところに向かえるだろう。

そう思い、俺はみんなにブロックを集めるように指示を出した。

 

「それでも、みんなで協力したらすぐに集まると思うぞ。みんな、一緒にブロックを集めてくれるか?」

 

「もちろんだぜ、雄也。ブロックを集めたら、ワシらも一緒に戦いに向かうぜ」

 

俺の指示にみんなうなずき、ゆきのへはアレフとの戦いについて行きたいとも言う。

確かに今日も魔物の数は少ないままなので、奴らが襲撃してくる心配はないだろう。

しかし、ゆきのへたちは昨日の戦いからまだ完全に回復していないので、アレフとの戦いに行くのはとても危険なことだろう。

それにアレフはエンダルゴより小柄なので、多人数で向かうと大きな動きがしにくくなり、かえって戦い辛くなる可能性もある。

 

「いや、今日はみんなはここに残っていてくれ。みんなは昨日の傷からまだ回復してないし、アレフは人間とあまり変わらないくらいの大きさだから、大勢で行くとかえって苦戦するかもしれない」

 

「確かにそうかもしれねえけど…大丈夫なのか?」

 

ルビスをも殺したアレフに1人で立ち向かうのは、どんな装備があっても相当厳しいことだろう。

だが、ここまでの戦いを生き抜いて来た俺なら、必ず生きて帰って来ることが出来ると信じている。

 

「きっと大丈夫だ。必ずアレフを倒して、生きてラダトーム城に戻ってくるぞ。早く戦いに向かいたいし、ブロックを集め始めよう」

 

「そうか…なら、少しでもお前さんの役に立てるように、出来る限りのブロックを集めてやるぜ」

 

「私も力の限り剣を振るって、ブロックを集めてやろう。みんなも行くぞ」

 

自身の怪我やアレフの大きさを考えると、ゆきのへたちは無理について来ようとはしなかった。

その分も俺の役に立とうと、ゆきのへとラスタンはたくさんのブロックを集めに行く。

二人に続き、ラグナーダたちもブロックを集めに城の外へと向かっていった。

 

「俺も大砲を使って、その辺の灰色の土を集めてくるか」

 

俺も、みんなに任せきりにしておくわけにはいかない。

剣やハンマーを振り回して体力を消耗しないよう、俺はラダトーム城の前の六連砲台を使って灰色の土ブロックを集めていった。

俺が放った6つの赤魔の砲弾は着弾すると、大爆発を起こして広範囲の地面を砕いていく。

そうして砕かれた地面のところに向かい、俺はたくさんのブロックをポーチに入れていった。

 

「みんなもたくさん集めてるし、すぐにアレフのところに行けそうだな」

 

ゆきのへたちもそれぞれの武器を使って、ラダトーム城周辺の灰色の土を回収していく。

アレフのところに向かうには千個以上のブロックが必要になるかもしれないが、それだけ集めるのにもあまり時間はかからなかった。

莫大な数の灰色の土ブロックが手に入ると、みんなはラダトーム城の中に戻っていく。

俺も大砲で砕いた地面を回収し終えると、城の中に入っていった。

 

城の中に戻ってくると、さっそくゆきのへはみんなが集めたブロックを俺に渡してくる。

 

「そっちも集まったみてえだな、雄也。これがみんなが集めた土のブロックだ…受け取ってくれ」

 

「ありがとうな、ゆきのへ。これでついに、アレフと決着をつけに行けるぜ」

 

ルビスとひかりのたまが失われたためもう平和な世界が訪れることはないが、アレフを倒せば人間を危機に陥れるほどの存在は、ひとまずはいなくなる。

アレフガルド中のみんなのために、今度こそ必ず奴にとどめをさしてやろう。

感謝の言葉を言い、そろそろアレフと戦いにサンデルジュに向かおうと思っていると、ピリンも話しかけてきた。

 

「雄也、わたしからも渡したいものがあるの」

 

「どうしたんだ、ピリン?何か作ってきてくれたのか?」

 

アレフとの最後の戦いに向けて、ピリンも何か作ってくれたのだろうか。

だがそう思っていると、彼女は持ち運び式収納箱から、メルキドでよく食べた桃色の木の実を取り出した。

 

「これは…モモガキの実?」

 

「大変な戦いに行く前に、雄也が少しでも元気を出せるようにって思ったの。大したものじゃないけど、少しでも役に立ちたくて…」

 

モモガキの実は小さいため、腹はあまり満たされない。

しかし、とても美味しい果実なので、食べれば間違いなく元気が出るだろう。

大したものではないとピリンは言うが、厳しい戦いの前にこれをもらえて俺は嬉しいぜ。

 

「ピリンもありがとう。戦いの前に、これを食べて行くぜ」

 

「この用事が終わったら二人でピクニックに行って、またそこで一緒に食べようね」

 

俺はピリンに礼を言って、モモガキの実を受け取る。

そう言えば以前もピリンは、用事が全部終わったら二人でピクニックに行こうと言っていたな。

アレフを倒せば大きな用事は終わるし、行くのが今から楽しみだぜ。

そのためにも、今日も必ず生きてラダトーム城に戻って来よう。

ピリンからモモガキの実を受け取ると、俺はいよいよサンデルジュに向かおうとする。

 

「ああ、もちろんだ。…じゃあそろそろ、俺はアレフと戦いに行ってくる。必ず生きて戻って来るから、信じて待っていてくれ!」

 

みんなにそう言って、旅のとびらのある部屋へと向かっていった。

アレフとの戦いに向かう俺に向けて、みんな手を振って見送ってくれる。

 

「頑張ってね、雄也!」

 

「どんな強力な攻撃をして来ても、最後まで戦い続けるんだぜ!」

 

「お前の勝ちを確信して、宴の準備をしているぞ!」

 

間違いなく厳しい戦いになるが、みんな応援してくれていた。

これからもみんなと共にアレフガルドを作り続けていくために、必ずアレフと…世界を裏切った勇者との決着をつけてやろう。

俺はそう思いながら、緑色の旅のとびらを抜けてサンデルジュに向かっていった。

 

旅のとびらに入ると視界が一瞬真っ白になり、俺の身体はサンデルジュの地へと移動する。

サンデルジュに着くと、俺はすぐに砦があった場所に向かって歩いていった。

 

「砦の近くの山の上空に、アレフの居場所があるんだったな」

 

砦にブロックを積んで空中に向かっていけば、アレフの拠点の姿も見えて来るだろう。

森の近くを通って草原に出て、そこからサンデルジュ砦があった高台を目指していく。

ラダトームと同様、サンデルジュでも生息している魔物の数が非常に少なくなっていた。

 

「ここの魔物の数も減ってるし、早くたどり着けそうだぜ」

 

魔物の数が少ないならより進みやすい…俺はほしふるうでわの力も使って、砦の跡地に急いでいく。

しばらくしたらまた魔物の数が増えるだろうし、今日アレフとの戦いに行くことが出来て良かったな。

少数のブラックチャックなどはまだ生息していたが、それでも7分ほどで砦があった場所にたどり着くことが出来た。

 

「砦の跡地に着いたし、ここでブロックを積み上げて行こう…」

 

そこに着くと俺はポーチから次々にブロックを出して積み上げ、アレフのいる空を目指していく。

二百段ほど積むとサンデルジュの岩山の頂上にたどり着くが、まだアレフの拠点は見えて来ることはなかった。

そこでさらに俺はブロックを積んでいき、そのさらに上空を目指していく。

落ちたら死んでしまうので、俺は慎重にブロックを積み、少しずつ登っていった。

 

そして、ルビスを助けに行った時よりも多くのブロックを積み上げ、サンデルジュとそれを囲む岩山全体だけでなく、その周囲にある海までも広く見渡せるほどの高さまで来た時、俺の目の前に禍々しい気配を放つ城が見えてきた。

これがアレフの拠点で、奴はここからアレフガルド中に闇の力を振りまいているのだろう。

 

「あれがアレフの城か…ついに見えてきたな。早く中に入って、何としても倒してやろう」

 

エンダルゴの城よりは小さく、入ったらすぐにアレフのいる空間にたどり着くはずだ。

俺はさっきピリンから受け取ったモモガキの実を食べて、さらにブロックを置いてその城に近づいていく。

モモガキの実はやはりとても美味しく、身体中に元気が湧いて来ていた。

決戦の時が間近に迫っているが、もう恐れる気持ちは持っていない。

絶対に勝つという強い思いを持ち続け、俺はアレフの城へと入っていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode220 創世者亡き空に煌めく闇剣

みんなで集めたブロックを使い、俺はアレフのいる空中の城に入っていく。

やはり城の中は一本道になっており、奥にある広い空間には闇に染まったロトのつるぎとロトの盾を持つ、暗黒の剣士が座っていた。

 

「この通路の奥にアレフがいるのか…やっぱり強そうだけど、行くしかない」

 

アレフ…竜王に寝返り、世界を創った精霊をも滅ぼし、2度のアレフガルドの滅亡を引き起こした、裏切りの勇者。

俺は今まで3度も奴と戦ってきたが、いずれの時も倒し切ることは出来なかった。

彼が人類を裏切ったのにも理由はあるが、それでも俺やみんなの脅威になる以上、生かしておくわけにはいかない。

今度こそ決着をつけてやるとより強い思いを持って、俺はアレフのいる空間へと入っていった。

 

アレフのいる空間は、エンダルゴの間と同じくらいかそれより少し狭いくらいの場所だった。

奥には3つの玉座が並んでおり、中央の玉座にアレフが座っている。

その空間に入って行くと、奴も俺の存在に気づいて、ロトのつるぎと盾を構えて来た。

 

「お前は…影山雄也…!今まで諦めなかったお前のことだから、必ずここまで来ると思っていたよ」

 

アレフも、俺がこの上空の城に来ることは考えていたようだな。

奴にルビスが殺された時、俺はもう諦めるしかないと思ったこともあった。

だが、それでも戦いを続けた結果、ルビスが最期に言っていた通り、闇を払う最強の武器を作り、アレフと再び戦いに来ることが出来た。

 

「本当に厳しい戦いだったけど、アレフガルド中の人々のおかげで勝ち抜くことが出来たんだ。そのみんなのために、あんたを倒しに来た」

 

「こっちこそ、お前を今度こそ殺してやる…せっかくルビスを殺せたのに、闇に満ちた世界を作り出せたのに…この魔物の楽園で共に過ごした魔物たちも、エンダルゴもいなくなった…お前のせいでな!」

 

このアレフの城は、魔物の楽園と呼ばれている場所みたいだな。

魔物との大決戦の時に来た滅ぼしの騎士と暗黒魔導は、ここで奴と共に暮らしていた個体なのだろう。

確かに彼らはアレフにとっては大切な仲間だったのかもしれない…だが、俺たちにとっては城を破壊し、人々の命を奪おうとする敵…戦って、倒すしかなかった。

 

「魔物の楽園か…この前ラダトーム城を襲った滅ぼしの騎士と暗黒魔導も、ここであんたと暮らしていたのか?」

 

「ああ…あいつらは新たな変異体になるために、オレと一緒に過ごして、修行していたんだ。オレはあいつらのために、玉座も作ってやった。あいつらが強くなって行くたびに、オレも嬉しかったよ…エンダルゴからあいつらが死んだことを聞いた時は、人間どもへの怒りが抑えられなかった…!」

 

アレフしかいないはずなのに玉座が3つあったのは、あの暗黒魔導と滅ぼしの騎士のための分もあったからみたいだな。

2体の修行を見ていたアレフは、彼らが人間に負けるなど考えていなかっただろう。

アレフは人間への怒りで、さらに語勢を強めて話してくる。

 

「人間どもは、どこまでもオレの幸せを奪っていく…!勇者として持て囃し、1人で危険な戦いに行かせ…オレをその人間どもから救ってくれた竜王をも殺し、仲間たちやエンダルゴまで奪っていった…お前を殺した後は、人間どもを皆殺しにしてやる…!」

 

アレフの人間を憎む気持ちは、以前よりも強くなっている。

だが、俺もアレフガルドの復興を続けると決めた以上、奴に負けることは出来ない。

俺はビルダーズハンマーとふめつのつるぎを取り出し、奴に向けた。

 

「こっちも、ここまで来てあんたに負けるつもりは無い。あんたと今度こそ決着をつけて、ラダトームで待つみんなのところに戻ってやる」

 

「お前なんかに勝ち目はない…影山雄也、今一度受けるがいい、全ての光を斬り裂く復讐の刃をな…!」

 

アレフもロトのつるぎを振り上げて、走って俺のところに迫ってくる。

彼をここまで追い詰めたのは俺たち人間だが、だからといって黙って滅ぼされるわけにはいかない。

精霊ルビスを殺したほどの強敵だが、今の俺なら必ず勝機はあるだろう。

そして、俺とアレフとの4度目の戦いが始まった。

 

アレフは相変わらず見た目からは想像も出来ないほどの素早さで動き、ロトのつるぎを叩きつけて来る。

剣からは凄まじい闇の力が感じられ、一撃でもくらったら大きなダメージを受けるだろう。

俺は素早く動いて奴の攻撃をかわし、両腕の武器で反撃していこうとする。

 

「やっぱりすごいスピードと攻撃力だな…でも、今なら何とか反撃出来そうだぜ」

 

以前は剣をかわすのがやっとで攻撃出来ず、ルビスを守ることが出来なかった。

だが、厳しい戦いを何度も乗り越え、ほしふるうでわを装備した今の俺なら、奴の攻撃を回避しながら、剣とハンマーを振り下ろすことが出来ていた。

少しずつではあるが、アレフの身体に傷をつけていく。

暗黒に染まったアレフの身体はかなりの防御力もあるが、伝説を超える武器なら確実にダメージを与えることが出来ていた。

 

「オレの攻撃を避けながら剣を振るとは…お前も少しは強くなったみたいだな。でも、その程度で勝てると思うなよ…!」

 

だが、アレフも腕に力を集中させて、ロトのつるぎのまわりに闇の刃を発生させていく。

攻撃範囲がさっきより広くなり、俺は反撃するのが難しくなってしまっていた。

それでも腕輪の力を最大限に使い、わずかな隙に攻撃を叩き込んでいく。

アレフは生命力も非常に高いだろうが、少しでも弱らせることは出来ているだろう。

 

「ほとんど隙がなくなったけど、まだ何とかなりそうだな…」

 

大きく跳んで回避しながらの戦いなのでかなりの体力を消耗するが、今の武器なら俺が力尽きる前に奴を倒せると信じている。

アレフの攻撃をしのぎながら、俺は剣を振り回し続けていった。

ダメージを与えていくと、アレフは一度剣を振るのを止めて、今まで以上の闇の力を右腕に溜めていく。

 

「闇の刃を持ってしても、まだ耐えて来るか…ならば、お前と同じこの技を使って、斬り裂いてやるぜ!」

 

「回転斬りか…必ず避けないとな…」

 

今までの戦いでもアレフは俺と同様に、回転斬りを使って戦って来ていた。

アレフのロトのつるぎのまわりの闇の刃はさらに巨大になっていき、これが放たれれば絶大な威力と攻撃範囲になるだろう。

俺は必ずかわさなければいけないと思い、すぐに走ってアレフから距離をとっていった。

だが、アレフの回転斬りは溜め時間も短く、素早く走ってもかわしきることは出来ない。

 

「消え去れ、雄也!」

 

俺は回転斬りが放たれる瞬間に大きくジャンプして、何とか攻撃範囲から外れようとする。

アレフの回転斬りはエンダルゴの溜め攻撃よりは範囲が狭く、俺は攻撃を受けずに済んだ。

だが、これで俺はアレフから離れた位置に動いたので、早く近づかなければ奴は魔法での攻撃をして来るだろう。

アレフは回転斬りの後に隙が出来ているので、その間に俺は立ち上がり、奴との距離を詰めていこうとした。

 

「距離が出来てしまったな…今のうちに詰めて、あいつの体力を削っていこう」

 

今のうちにアレフに近づくことが出来れば、奴に思い切り両腕の武器を叩きつけ、大きなダメージを与えることが出来るだろう。

俺は剣とハンマーを振り上げながら奴に向けて一直線に近づいていき、ふめつのつるぎを胸に向かって、ビルダーズハンマーを頭に向かって振り下ろした。

アレフも体勢を立て直して攻撃を受け止めようとして来るが、俺もすぐにそれに気づいて剣と盾をかわして、奴に渾身の一撃を叩き込む。

 

「くっ…雄也め…!」

 

両腕の武器での攻撃を受けて、アレフはかなり苦しそうな表情をした。

奴は頭や心臓の辺りに攻撃を受けても簡単には倒れないが、確実に弱らせることは出来ているだろう。

俺は反撃を受けないために、奴に突き刺したふめつのつるぎを速やかに抜く。

アレフは再び連続して剣を叩きつけて来るので、俺はそれに構えていた。

 

「ここまで強くなってるとはな…これが、オレの仲間たちやエンダルゴを倒したビルダーの力か。でも、人間どもを全て殺すまではオレも死ねない…!」

 

「弱って来ても、まだ攻撃速度は落ちてこないか…」

 

アレフもダメージを受けているはずだが、闇の刃による攻撃の速度は落ちる気配がない。

俺は再び跳んでかわしながら、わずかな隙が出来た時に確実に反撃していった。

俺もアレフの攻撃をまだ受けてはいないが、アレフもなかなか倒れようとはしなかった。

それでもダメージを与えられているのは間違いないので、俺は体力が持つことを祈って奴への攻撃を続けていく。

 

「ルビスをも殺したオレの攻撃に、ここまで耐えるとはな…だが、どれだけ強い装備を持っていてもお前はただの人間!絶大な闇の力を持つオレに勝てるはずはない!」

 

だが、弱って来たアレフはそう言いながら、再び全身の力を右腕のロトのつるぎにこめ始める。

先ほどより多くの闇の力が集中しており、エンダルゴをも超える強力な攻撃になりそうだった。

その分溜め時間も長いので、俺はまた力の限り走ってアレフから離れていく。

この空間全体を斬り裂くほどの巨大な闇の刃になっていたので、俺はさっき通って来た通路に逃げこんでいった。

 

「すごい闇の力だな…あの空間から離れるしかなさそうだぜ」

 

この魔物の楽園の入り口近くまで逃げた時、アレフは力を解放して今までで最大の闇の刃を放つ。

さすがに俺のいるところにまでは届かなかったが、アレフの座っていた玉座を消し飛ばし、さっきの空間の壁にぶつかっていった。

すると、この魔物の楽園全体が大きく揺れ、俺は体勢を崩してしまう。

 

「くそっ…かわすことは出来たけど、すごい揺れだな…」

 

アレフの人間を憎む力が強くなったことで、それだけ奴の闇の力も強くなっているのだろう。

俺はすぐに立ち上がって走り出し、奴のいる空間に戻っていく。

膨大な闇の力を使ったことでアレフもしばらく動けなくなり、また接近することが出来そうだった。

 

「また近づいて、このままあんたを倒してやるぜ」

 

「オレの渾身の回転斬りまで避けやがったか…だが、お前はもうオレに近づくことは出来ない…!」

 

しかし、今度は距離が開きすぎたために至近距離まで迫るまでに、アレフは体勢を立て直してしまっていた。

奴は後ろに大きく跳んでさらに距離を取り、俺を睨みつける。

剣では俺を倒し切れなかったので、今度こそ魔法で攻撃して来ようとしているようだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode221 創造の剣士と破壊の爆炎

俺から距離をとったアレフは、やはり呪文を使って攻撃して来ようとして来る。

俺はその前にアレフに接近しようと思ったが、奴の呪文の詠唱速度は非常に速く、発動を止めることは出来なかった。

 

「お前の負けは決まっている…ベギラゴン!」

 

奴のベギラゴンはエンダルゴのメラガイアーほどではないが、かなりの攻撃範囲を持つ。

俺は以前奴の呪文に翻弄されてまともに近づけず、ルビスを死なせてしまった。

だが、ここまで戦って今度こそ負けるわけにはいかないと、俺は足に力をこめて走って回避しようとしていく。

すると、腕輪と今までの戦いの経験のおかげで、身体を全く焼かれることなくベギラゴンをかわし、奴に少しずつ接近することが出来ていた。

 

「相変わらず凄い魔法だな…でも、今ならかわしながら近づけるぜ」

 

アレフの魔法の使用を止めることは出来なかったが、魔法にも対応することが出来るようになった。

これなら勝てると思い、俺はアレフとの距離をだんだん詰めていく。

 

「オレの呪文までもかわしきれるようになったか…だが、いつまでも持つはずはない…ドルモーア!」

 

アレフはそう言ってドルモーアの呪文を唱え、闇の力の爆発で俺を吹き飛ばそうとして来るが、ベギラゴンと同様に対処することが出来ていた。

アレフに接近するまでの間、俺はアサルトライフルでも奴にダメージを与えようとする。

サブマシンガンでもかなりのダメージを受けていたので、これなら大きく体力を削り取ることが出来るだろう。

 

「まだ結構な距離があるな…近づくまでの間は、これであいつの体力を削ろう」

 

俺は呪文をかわしながらポーチからアサルトライフルを取り出し、奴の頭や心臓を狙って連射していく。

攻撃を回避しながらの射撃にも慣れているので、かなりの確率で命中させることが出来ていた。

急所を撃ち抜かれてもやはり簡単には倒れないが、奴は苦しそうな表情を見せる。

 

「それはこの前も使った、遠距離を攻撃出来る武器か…しかもあの時より、強化されてるみたいだな」

 

「ああ。エンダルゴとあんたを倒すために、新しい作業台で作ったんだ」

 

弾もたくさん持ってきているので、さらにダメージを与えていくことが出来るだろう。

傷だらけになってきたアレフは、今までよりも声を強めて俺を攻撃して来た。

 

「ビルダーの力というのは、本当にどこまでも忌々しい…!だが、そんな力などなんの意味もないと、今度こそ分からせてやる!」

 

アレフの怒りが強まると同時に、呪文の攻撃範囲が今までよりも広くなる。

奴はさっきまでもかなりの力を使ったはずだが、まだ攻撃が弱まる様子はなかった。

だが、少しは接近が困難になったものの、以前のように全く距離を詰められないということにはならなかった。

アサルトライフルを撃ちながら、確実に奴のところに迫っていく。

アレフとの距離が残り少しになると、俺は再びビルダーズハンマーとふめつのつるぎに持ち替えていった。

 

「本当に強力な魔法だったけど、何とか近づけたぜ…あんたを倒して、みんなのところに生きて帰ってやる!」

 

「オレの呪文をあれだけ受けて、まだ避け続けるとはな…」

 

まだ攻撃速度は落ちていないものの、アレフは結構なダメージを受けているはずだ。

ここで再び近接攻撃で体力を削っていけば、奴にとどめをさすことが出来るだろう。

俺は両腕の武器を振り上げ、思い切り奴に叩きつけようとしていった。

だが、アレフも俺を倒すことを諦めず、自らも巻き込んで強力な魔法を放とうとする。

 

「ここで使ったらオレ自身も巻き込むが、お前を殺すためなら仕方ない…!闇の爆炎を受けて、灰になってしまえ!」

 

そう言うと、アレフはベギラゴンの炎とドルモーアの闇を同時に発生させてくる。

闇の爆炎…炎を呪文と闇の呪文を同時に唱え、超広範囲を焼き尽くす大技。

俺もルビスも闇の爆炎をかわしきることが出来ず、全身を焼き払われてしまった。

奴自身にも大ダメージは入るだろうが、何としてもかわしきらないといけないな。

今までの呪文より詠唱時間は長いので、俺はすぐに走り出してアレフと再び距離をとっていく。

この空間中を焼き尽くすほどの炎になる恐れもあるので、俺はまた通路のところに逃げ込んでいった。

 

「燃え尽きろ!お前の無駄な希望ごとな!」

 

闇の爆炎が発動するまでに、俺は奴と大きな距離をとることが出来た。

しかし、それでもかわしきれるか不安で、俺は全身の力を使って大きくジャンプする。

1度ジャンプした後もすぐに立ち上がり、もう1度跳んでさらなる距離を取っていった。

 

すると、魔物の楽園中を焼き尽くす闇の爆炎から何とか逃れることができ、俺はこの隙にまたアレフに近づいていった。

 

「やっぱりとんでもない炎だったけど、これもかわしきれたか…今のうちに近づいて、今度こそ剣とハンマーを叩きつけよう」

 

アレフは大量の魔力を使った上に、爆炎で自身も大ダメージを負ったことによってさっきの回転斬りの時よりも大きな隙を晒していた。

俺はこの隙に今度こそ近づいて両腕の武器で攻撃しようと、すぐにアレフの間に戻っていく。

闇の爆炎にも対処出来たのであれば、奴を倒せる可能性は大きく上がっただろう。

俺は一気に距離を詰めていき、奴に向かってビルダーズハンマーを振り下ろし、ふめつのつるぎを突き刺す。

 

「闇の爆炎も本当にすごい攻撃だったけど、あれくらいで負けるわけにはいかない…!」

 

「くっ…これほどまでオレと戦えるのは予想外だったな。だが、オレもお前を生かして返すつもりは無い!ルビスが残した世界の希望も、オレの手で消し去ってやる!」

 

アレフは伝説を超える武器での渾身の一撃を受けて、一瞬倒れ込んだ。

だがすぐに立ち上がって、今度はまた闇に染まったロトのつるぎで俺を斬り裂こうとして来る。

残った生命力は少ないはずだが、剣での攻撃速度もまだ落ちて来ない。

だが、さっきまでよりも強力な攻撃はなかったので、俺は今まで通り攻撃を続けてダメージを与えていった。

 

「まだ素早く攻撃して来るな…でも、このままいけばもう少しで倒せそうだぜ」

 

アレフの表情も、さっきまでより苦しそうな表情になっていた。

戦いの終わりは近いと思い、俺は攻撃の手を強めていく。

そうしていくと、アレフもついに力が尽きて来て、攻撃速度が落ち始める。

アレフの攻撃が弱まると、俺は奴の足に攻撃を集中させて、転倒させようとしていった。

 

「オレの幸せを全て奪っていった人間ども…!その人間どもの町を復活させたお前は、オレが絶対に殺してやる!」

 

「攻撃速度もついに落ちて来たな…転倒させて、飛天斬りでとどめをさしてやろう」

 

アレフも怒りをさらに強めて来るが、先ほどまでの素早い攻撃を放つ力はもうない。

それでも俺は油断せずに確実にダメージを与えていき、残った生命力を削りとっていく。

そして、弱っていたところで足に何度も攻撃を受けて、奴はついに倒れ込んで動けなくなっていった。

 

「くそっ…雄也…お前だけはオレが殺す…!」

 

「倒れ込んだな…これで終わらせる…!」

 

アレフが倒れ込んだのを見て、俺は身体中の力を両腕に溜め始める。

ここで二刀流での飛天斬りを放てば、奴の体力を削り切ることが出来るだろう。

アレフも俺を睨みつけて立ち上がろうとして来るが、身体になかなか力が入らないようだった。

俺は力が溜まりきると大きく飛び上がり、両腕の武器を垂直に奴に向けて叩きつけていった。

 

「飛天斬り!」

 

ふめつのつるぎから溢れ出る巨大な紅色の光の刃が奴の身体を引き裂き、さらにビルダーズハンマーが頭を叩き潰していく。

絶大な威力の攻撃が、アレフの残った体力を削りとっていった。

しかし、ここまでの攻撃を受けても、奴はまだ生き続けていた。

そこで俺は最後の一撃として、アレフの心臓に向かって思い切りふめつのつるぎを突き刺す。

 

「まだ生きてるか…でも、これで最後だ…!」

 

「うぐっ…!お前ごときに…オレは負けない…!」

 

アレフから感じられた禍々しい闇の力も、もうほとんど感じられなくなっていた。

奴は瀕死のところに心臓を突き刺されても死なず、再び立ち上がって攻撃して来ようとして来る。

俺は奴の体内を剣で引き裂いていき、さらなるダメージを与えていった。

アレフは再び倒れ込み、やっとの力で俺を睨みつけ、激しい怒りのこもった声で言う。

 

「くそっ…くそっ…!人間どもに勇者として持て囃された挙句、オレを救ってくれた竜王も魔物たちもみんな、みんな人間どもに殺されてしまった…!人間としても魔物としても、オレは幸せになれなかった…人間どものせいでな…!」

 

アレフは人々から勇者として…竜王を倒すための存在としてしか扱われず、だんだん人々を救う気を失い、最後には竜王に寝返ってしまった。

だが、世界から…人間たちから隔離された空間も失い、仲間になってくれた魔物たちもみんな殺されてしまい、人間としても魔物としても幸せな暮らしを続けることは出来なかった。

アレフはこの空間中に響く、憎しみと復讐心に満ちた叫び声を上げる。

 

「うあああああ!」

 

このままだとアレフは最期の時まで世界を憎み続けるだろうが、奴が人々にとって脅威になる以上、俺には倒すという選択肢しかない。

俺はアレフにとどめをさすために、奴の身体の中を斬り裂き続けていった。

 

だが、アレフの命が消えるその寸前に、ほとんどなくなっていたはずの禍々しい気配が、急に蘇って来る。

それどころか、俺が魔物の楽園に入った時よりも、アレフから感じられる闇の力が強くなって来ていた。

 

「どうせ幸せになれないと言うのなら…例えオレ自身の人格を失ったとしても、人間どもを皆殺しにしてやる…!」

 

アレフがそう言った瞬間、奴の姿は身体から溢れ出た闇の力に包まれていく。

俺はその闇の力に巻き込まれないよう、すぐにふめつのつるぎを抜いて、後ろに下がった。

闇の力の中で、アレフの姿はだんだん異形の者へと変わっていく。

今までは竜王の力を受けたものの人間に近い姿をしていたが、身体中から赤黒い翼が生えて、心臓の部分には真っ黒な核のようなものが見えて来た。

ロトの血筋の影響か、最後にはロトの盾に刻まれた紋章のような姿となり、少しの生気も感じられない顔が浮かんでいた。

声も若い青年の声から不気味な低い声に変わり、人間が憎いと言い続けている。

 

「ああ…なぜここにいるのかも分からない…何のために生きているのかも分からない。だが、オレは人間どもが憎い…人間どもを滅ぼしたいんだ…!」

 

しかし、この異形のアレフからは、今までの俺との戦いや、勇者として持て囃してきた人間たち、一緒に暮らした魔物たちの記憶は失われているようだった。

恐らくアレフが死の目前に、人間への復讐心から闇の力を暴走させたのだろう。

人間への憎しみが闇の力を増幅させたと奴は言っていたが、まさかここまでのことになるとはな。

暴走した闇の力は身体を異形に変えるだけでなく、奴の記憶や人格までも蝕んでいったみたいだな。

 

「オレはアレフ・ガルデス。まずはお前を滅ぼして、世界中の全ての人間を殺し尽くしてやる…!」

 

暴走した闇の力に飲み込まれたアレフは、自身をアレフ・ガルデスと言う。

アレフ・ガルデス…自身の人格と記憶を失い、憎しみと復讐心が独り歩きした姿。

かつて勇者と呼ばれた青年が、最後に行き着いた異形の存在。

奴をここで止めなければ、今まで作ってきたいくつもの町、そこに住む人々…それら全てが危ない。

 

「こんな姿になってしまうとはな…でも、俺もあんたに負けるつもりはない。あんたをここで倒して、これからも世界を作り続けてやる」

 

「人間1人がオレを食い止めることなど不可能だ…どれだけの抵抗を見せたとしても、滅びを与えてくれる!」

 

俺は特別な血筋の人間でも、勇者として選ばれた存在でもない…だが、それでも自分と自分が今まで作って来た物の力を信じて、戦い続けるしかない。

アレフ・ガルデスを倒せば、人類を滅ぼせる力を持つ存在はいなくなる…これが、アレフガルド復興のための、ひとまずのラストバトルとなるだろう。

俺とアレフ・ガルデスとの、最後の決戦が始まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode222 復讐の果てに辿り着きし滅世の異形

アレフ・ガルデスも、伝説を超える武器の力があれば必ず倒すことが出来るだろう。

俺は再び距離を詰めて、奴に両腕の武器を叩きつけに行った。

アレフも俺に再接近される前に、身体中に力を溜めて攻撃しようとして来る。

 

「そこまでして戦いを諦めないと言うのなら、オレの炎で灰にしてくれる…!」

 

奴は生気のない顔の口から闇の炎を吐き出し、俺を焼き尽くそうとしていた。

アレフは元人間なので今までは炎を吐けなかったが、この姿だと使えるようになるみたいだな。

エンダルゴの炎ほどではないが攻撃範囲が広く、俺は横に大きく飛んでかわしながら少しづつ奴に近づいていくしかなくなる。

接近する前にもダメージを与えられるように、俺はアサルトライフルに持ち替えて奴に向かって連射していった。

 

「こいつもそう簡単には近づけさせてくれないか…まずはアサルトライフルを使って、少しでも弱らせよう」

 

銃で体力を削っていけば攻撃も弱まり、近づきやすくなるかもしれないな。

今までの戦いで、動きながら敵を狙い撃ちするのにも大分慣れて来ている…俺は奴の弱点だと思われる黒い核を、何度も正確に撃ち抜いていった。

1発では僅かなダメージしか与えられないだろうが、まだ弾丸はたくさん残っているので、奴の体力を大きく削ることが出来るはずだ。

アレフ・ガルデスの闇の炎にかすってしまいそうになることもあったが、俺は素早く大きなジャンプを繰り返し、火傷を負わずに攻撃し続けることが出来ていた。

 

「オレの炎をかわしながら、鋼の塊を飛ばして攻撃して来るか…なかなかの人間だが、それでもオレには勝てない!」

 

銃での攻撃を続けるとアレフ・ガルデスもそう言い、炎の勢いを強めて来る。

だが、それだけではなく、俺が狙っていた奴の核が、紫色に光り始めていた。

炎だけならまだ避け続けることは出来るが、それ以上に強力な攻撃が来るかもしれないな。

俺は奴の核にも警戒しながら、アサルトライフルでの攻撃を続けていく。

時間が経つにつれて、アレフ・ガルデスの核の光はだんだん強くなっていった。

 

「だんだん黒い光が強くなって来ているな…何をして来るんだ?」

 

俺がどれだけ核に向かってはがねの弾丸を当てても、黒い光は弱まることはない。

核に魔力が溜まり切り、光が最も強くなると、奴は闇の炎を吐くのを止めてきた。

 

「お前の命懸けの戦いも、全ては無駄に終わる…消え去れ!」

 

そして、アレフ・ガルデスは核から黒い光線を放ち、俺を消し飛ばそうとして来た。

光線はかなりの太さで速度も非常に速かったが、今の俺なら簡単にかわすことが出来るはずだった。

しかし、光線は城の床にぶつかった後炸裂し、ドルマドン並の大爆発を起こす。

俺は一度ジャンプして光線をかわし、爆発を起こしそうなのにも気づいてもう一度大きく飛んだ。

だが、爆発の中心部からは逃れることは出来ていたが、爆風には巻き込まれてしまい、俺は地面に叩きつけられてしまった。

 

「くっ…光線だけじゃなくて、大きな爆発も起こして来るのか…!」

 

アレフの時とは異なる動きが多く、対処しにくくなっているな。

それでも負ける訳にはいかないと俺はすぐに立ち上がり、アレフ・ガルデスの次の攻撃に備えていく。

すると、奴は攻撃の反動で動けなくなっていたので、俺はその隙を見逃さず接近していった。

奴も至近距離に近づかれる前に体勢を立て直し、また闇の炎を吐き始める。

 

「オレの闇を受けてまだ立ち上がれるか…だが、お前の力にも限界があるはずだ!」

 

炎での攻撃を始めると同時に、再び核にも魔力を溜め始めていた。

一度は受けた攻撃なので対処はしやすくなるが、何度も大きなジャンプをしていては体力が尽きてしまうな。

俺は今度こそ接近戦に持ち込もうと、アサルトライフルを撃ち続けながら距離を詰めていった。

 

「またさっきの光線を撃って来るつもりなのか…それまでに近づいて、剣とハンマーで攻撃していこう」

 

少しも弱った様子は見せないが、はがねの弾丸を何度も核に受けて結構なダメージは受けているだろう。

必ず倒すことが出来ると信じて、俺は黒い核を貫いていく。

アレフ・ガルデスとの距離もかなり縮まって来て、このままなら接近戦に持ち込めると俺は考えていた。

しかし、俺が両腕の武器で攻撃する前に、奴は2度目の光線を放ってくる。

 

「どこまでもしつこい人間だな…!」

 

「くっ…間に合わないか…!」

 

ここで再び爆風を受けてしまったら、立ち上がれなくなってしまうかもしれない。

必ず回避して反動で動けない間に近づこうと思い、俺は足に力を込めて回避の構えをとる。

そして、まずは素早く放たれる光線をかわし、すぐにもう一度思い切り大きく飛んで、闇の力の爆発を避けていった。

すると、腕輪の力もあって今度は爆風に巻き込まれることなく、反撃に向かうことが出来た。

 

「強力な攻撃だけど、今度はかわし切ることが出来たか…今のうちに反撃しよう」

 

ポーチからふめつのつるぎとビルダーズハンマーを取り出して持ち替え、一気にアレフ・ガルデスとの距離を詰めていく。

奴もすぐに体勢を立て直すだろうから、その前に俺は連続で両腕の武器を叩きつけていった。

奴の防御力はさっきよりも上がっているようだが、それでも伝説を超える武器なら容易に大ダメージを与えることが出来た。

先ほどの銃弾で傷ついた核には、ふめつのつるぎを深く突き刺しても攻撃していった。

そうしていると、アレフ・ガルデスも体勢を立て直して近接攻撃を行って来る。

 

「炎と光線をかわしきってここまで近づいて来たか…それなら、オレの腕でお前を叩き斬ってやる!」

 

腕から生えた、ロトの紋章のような形をした翼は巨大な剣のようになっており、それを使って俺を斬り殺そうとしていた。

奴は翼を持っていても流石に飛ぶことは出来ないようだが、それでも十分脅威になるな。

さっきと違って両腕で攻撃しているので、俺はさらに避けにくくなってしまう。

 

「この翼は相当強そうだし、何としても避けきらないとな…」

 

だが、アレフ・ガルデスの翼からはアレフの時のロトのつるぎよりも強い闇の力が感じられ、それだけ威力も高そうだった。

人間の力では受け止められるはずもないので、かわし続けて攻撃しないといけないな。

今までの戦いやさっきの爆風で俺の体力も少なくなって来ているが、可能な限りの動きをして奴の攻撃をしのぎ、剣とハンマーで反撃していく。

伝説を超える武器での攻撃を受け続けて、アレフ・ガルデスの身体は傷だらけになっていた。

 

「簡単には滅びを受け入れずに、ここまで戦い続けて来るか…!だが、オレも人間を殺し尽くすことを諦めはしない!」

 

「結構攻撃は出来ているけど、まだ弱って来ないか…」

 

ここまでのダメージを与えることが出来ているので、俺の勝利も確実に近づいているはずだ。

だが、闇の力が暴走して生まれた存在であるアレフ・ガルデスの動きはそう簡単には止まらない。

独り歩きしている憎しみと復讐心のままに、両腕の翼で俺を斬り刻み続けようとしていた。

戦いの疲れで俺の回避力も落ちてきて、腕や腹を何ヶ所か斬られてしまうことも出てくる。

 

「くそっ…結構厳しい状況になって来たな…」

 

まだ軽傷で済んでいるが、俺の体力が尽きればアレフ・ガルデスは俺を殺し、世界中の人々を全て滅ぼし尽くしに行くだろう。

それだけは避けたいと思い、俺は身体中に走る痛みを我慢して回避を続け、武器を振り回し続けていく。

なかなか諦めない俺の姿を見て、アレフ・ガルデスは両腕に力を溜め始めていった。

 

「しつこい男だが、人間ごときがオレに勝てるはずないと言っただろ…!お前を倒してやった後、八つ裂きにしてやる!」

 

それはアレフが回転斬りを放つ時と同じ力の溜め方であり、アレフ・ガルデスになっても回転攻撃を使って来るみたいだな。

アレフの回転斬りでも非常に範囲が広いので、奴の攻撃はさらに高威力かつ広範囲だろう。

俺は何とかしてかわそうと繰り返し後ろに跳んで、攻撃範囲から逃れようとする。

 

「暴走しても回転斬りは使って来るのか…かわして、その後の隙にさらにダメージを与えよう」

 

回転斬りをかわすことが出来れば、その後の隙に再接近してさらなるダメージを与えることが出来るだろう。

間違いなく体力は削れて来ているので、そこでさらなる攻撃を叩き込めば弱って来て、攻撃速度も落ちてくるかもしれない。

だが、俺がアレフ・ガルデスから十分な距離を取る前に奴は力を溜め切り、この空間中を斬り裂くような回転斬りを放って来た。

 

「かわそうとしても無駄だ…!」

 

「くっ…回避が間に合わないか…!」

 

アレフ・ガルデスは回転斬りの溜め時間もここまで短くなっているとはな。

直撃したら真っ二つになるのでそれだけは避けようと、両腕の武器で衝撃を受け止めていった。

凄まじいほどの激痛が起こるが、俺は手足に力を集中させて踏ん張り、闇の刃を弾き返していく。

かろうじて生き残ることは出来たが、俺がまともに反撃出来ない間に、アレフ・ガルデスは再び攻撃体勢に入っていた。

 

「とてつもない威力だったけど、何とか防ぎきれたか…!」

 

「オレの回転斬りまで防ぎきるとは、本当に大したものだ…!だが、お前の力ももう限界なはず。お前を灰にして、この世界ごと人間どもを滅ぼしてやる!」

 

俺と距離を取った奴は、また闇の炎を使って俺を焼き尽くそうとして来る。

やはり核への魔力の集中も同時に行っているようで、光線も使って攻撃して来るつもりのようだ。

炎はまだかわすことが出来るが、ここで光線を放たれれば爆発をかわしきれるか不安だな。

近接戦も厳しいので俺は無理には近づこうとせず、奴の頭や核を狙ってアサルトライフルを連射していった。

はがねの弾丸はさっきからかなり使っているが、もう少しなら撃ち続けることが出来る。

 

「また炎か…まだ弾も残っているし、アサルトライフルで体力を削ろう」

 

先ほどまでの剣とハンマーでの攻撃のおかげで、アレフ・ガルデスの炎も少しは弱まって来ていた。

しかし、それでも決して油断することは出来ず、俺は力の限界が迫る身体を動かして闇の炎をかわしていく。

そして、少しでも大きなダメージを与えられるよう、奴の頭や核を狙っていった。

痛む腕だがまだアサルトライフルをしっかりと握ることはでき、多くの弾が正確に当たっていく。

出来れば光線の発射を止めたかったが、奴の動きはやはりそう簡単には止まらず、3度目の光線が放たれて来た。

 

「避け続けたところで、もうお前に勝ち目はない!」

 

「弾は当たってるけど、どうしても動きは止められないか…」

 

俺は一度大きく跳んで光線をかわし、その後一瞬の間も開けずにもう一度ジャンプし、闇の力の爆発もかわそうとする。

腕輪のおかげで動きの素早さはまだ保たれており、光線自体は避けきることが出来た。

だが、ジャンプ力が落ちたことで爆発をかわしきることは出来ず、俺は再び地面に叩きつけられてしまう。

体力の限界が近づいている俺が倒れ込んだのを見て、アレフは再び黒い核に力を溜め始めた。

 

「人間としては相当な力を持っているが、それでもオレを倒すことは出来ない…消し炭にしてやる!」

 

光線を放つ時よりもはるかに多くの闇の力が集中しており、絶大な威力の攻撃が放たれそうであった。




次回とエピローグで、今作は完結になります。
後日談ももしかしたら書くかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Episode223 異形との決着と勇者伝説の終わり

弱っていたところにさらに爆風を受けて、俺の身体全体に再び強い痛みが走る。

それでも俺は足に力をこめて立ち上がり、アレフ・ガルデスに立ち向かって行こうとした。

だが、そうしている間にも奴は核に力を溜めて、強大な攻撃を行なおうとする。

 

「あの攻撃をかわせなかったら、俺に勝ち目はないな…」

 

あの攻撃はおそらく、さっきの闇の爆炎並みの広範囲を破壊し尽くすものだろう。

魔物の楽園の入口近くまで逃げ切れば助かるだろうが、今の俺の力ではそこまで走る前に消し飛ばされてしまうかもしれない。

自力ではどうしようも出来ない…俺は何とか生き残るために、ここで何か使える道具がないか一瞬のうちで考えていった。

 

「…極げきとつマシンなら、ここから離脱出来るかもしれないな」

 

そこで、俺は極げきとつマシンでこの空間の入り口側に向かって突撃すれば、アレフ・ガルデスの強力な攻撃を避けられるのではないかと思いつく。

壁に向かって高速で激突すれば俺自身にも相当な衝撃が加わるが、衝撃を軽減するための加工もされている。

俺は立ち上がるとすぐにポーチから極げきとつマシンを取り出し、入り口側に発進させて奴との距離を引き離していった。

 

「消えろ!どこまでもしつこい人間め…!」

 

アレフ・ガルデスもすぐに力を溜め終えて、闇の力を解放して大爆発を起こしていた。

先ほどの闇の爆炎よりも威力が高そうであり、魔物の楽園全体が大きな揺れに襲われる。

だが、考えは上手くいったようで、俺自身は爆風の外に逃れることが出来た。

壁への激突ですさまじい衝撃が走り、俺は車体から投げ出されそうになるが、掴まって必死に耐えていた。

 

「くっ…やっぱりすごい衝撃だな…。でも、これで爆発は回避出来たし、今のうちにあいつを弱らせよう」

 

強力な攻撃を放ったことで、アレフ・ガルデスも反動で動けなくなっている。

この隙を逃してはいけないと思い、俺はすぐに極げきとつマシンから降りて、奴に近づいていった。

激痛の走り続ける足を引きずるようにして移動しているので動きは遅く、距離が詰まるまでの間はアサルトライフルを使って攻撃していこうとする。

 

「結構距離があるし、銃を使って攻撃していくか…」

 

はがねの弾丸も残り少なくなって来ているので、銃だけでアレフ・ガルデスを倒すことは出来ないはずだ。

だが、生命力をさらに削っていくことは出来るだろう。

特に今は奴が動きを止めているので、容易に頭や核を狙うことが出来る。

俺は頭を何度も貫いていき、大きなダメージを与えていった。

アサルトライフルを連射しながらも、俺はアレフ・ガルデスに近づいていく。

 

「銃で弱らせて、両腕の武器でとどめをさそう」

 

そろそろ奴の攻撃速度も落ちて来るだろうから、接近戦に持ち込んでもうまく戦えるかもしれない。

距離が詰まっていくと、俺はポーチのふめつのつるぎとビルダーズハンマーに持ち替えようとする。

しかし、その前にアレフ・ガルデスも再び動き始めて、闇の炎を吐いて攻撃して来た。

 

「お前は終わりだと思っていたのに、あんな兵器まで使うとはな…だが、もう何をしたところで意味は無い!」

 

「また近づけなかったな…でも、炎の勢いもかなり弱まっている」

 

しかし、炎の威力はさっきよりさらに落ちて来ているので、今の俺でもかろうじてかわし続けることが出来た。

闇の炎に燃やされないようにしながら、俺はアサルトライフルを撃ち続けていく。

奴は光線も放とうとしていたので、俺はその前に近づいていこうとしていった。

 

「また光線も来そうだな…それまでに近づいて、あいつに斬りかかろう」

 

光線の炸裂をかわすのはもう不可能だろうし、発射を止めなければ今度こそ俺は動けなくなってしまうかもしれない。

俺は少しは闇の炎に焼かれてしまうことも覚悟しながら、奴との距離を一気に詰めていった。

すると、左腕と左足の1部に火傷を負ってはしまったが、光線の発射される前に至近距離にまで入ることが出来る。

俺はそこでふめつのつるぎとビルダーズハンマーに持ち替え、奴の核に向かって深く突き刺していった。

 

「ぐっ…!ここまでオレの炎を受けても、まだ立ち向かって来るとは…!」

 

「本当に強い敵だけど、ここまで来たからには必ず倒してやるぜ…!」

 

アレフ・ガルデスは元々生気のない顔なので表情の変化は見られなかったが、かなり苦しそうな顔をしていた。

必ず勝てると確信して、俺はハンマーも振り回して奴の頭も叩き潰していった。

奴も再び両腕の翼を振り回して攻撃して来るが、やはり攻撃速度は先ほどより落ちていた。

 

「オレの破壊の邪魔を諦めない人間は、オレの腕で葬り去ってやる…!」

 

「相変わらずの威力だな…でも、攻撃速度は確実に落ちて来ている」

 

だが、すさまじい威力があるのは変わりないので、俺は確実に避けられるように慎重に動いていった。

そうして、奴が僅かな隙を見せたところに大きな一撃を叩き込んでいく。

無数の銃弾で弱点を撃ち抜かれた上に伝説を超える武器での連撃を受けて、アレフ・ガルデスの生命力も残り少なくなって来ていた。

弱らせていくと、奴は俺への、そして人間への憎しみをさらに強めて来る。

 

「おのれ…どこまでも目障りな人間め…!滅びを受け入れ、絶望に沈め!」

 

だが、これ以上の闇の力はもう生み出すことは出来ないのか、さらなる強力な攻撃は放って来なかった。

俺は最後まで油断せずに、両腕の武器を使って奴の残った生命力を削り切っていく。

追い詰められたアレフ・ガルデスは、再び両腕に力を溜めて回転斬りを放って来ようとしていた。

 

「お前がどれだけの力と勇気を持っていようと、最後に勝つのはオレだ…!」

 

「くそっ…ここまで来てまた回転斬りか…!」

 

こいつの回転斬りは溜め時間が短いので、弱った俺が範囲外まで逃げるのは不可能に近いな。

極げきとつマシンを使ったら回避出来るが、また接近するのが難しくなってしまう。

しかし、奴からあまり離れずに攻撃を防ぐ方法を、俺は思い出していた。

 

「こうなったらエンダルゴの時みたいに、闇の刃をブロックで防ごう」

 

エンダルゴとの戦いの時、奴が飛ばしてきた巨大な刃の威力を、俺は砦のカベを使って軽減していた。

そうして軽減することで、俺は両腕の武器を使って闇の刃を受け止め、反撃に転じていた。

アレフ・ガルデスでも同じようにして攻撃を受け止め、反撃出来るのではないかと思い、俺は自身と奴の間に砦のカベを置いていく。

そして、奴が回転斬りを放った瞬間に全身の力を両腕にこめて、受け止める構えをしていった。

 

「そんな壁を置いても無意味だ、斬り刻んでくれる…!」

 

アレフ・ガルデスはそう言って、巨大な闇の刃でこの空間全体を薙ぎ払っていく。

砦のカベは一瞬のうちに破壊され、威力が軽減されたとはいえ俺の腕にはとてつもない衝撃が加わった。

 

「くっ…軽減してもこれほどの威力なのか…!」

 

俺は倒れ込んでしまいそうになるが、この回転斬りの後の隙に攻撃を叩き込めなければ、俺の勝ち目は薄くなってしまうだろう。

俺は歯を食いしばり、足に力をこめて踏ん張って闇の刃を弾き返そうとする。

腕には骨が折れそうになるほどの衝撃が加わり続けるが、必ず勝って生きて帰るという思いで、懸命に耐えていった。

 

「でも…、あんたを倒してラダトーム城に生きて帰ってやる!」

 

そうしていると、闇の刃はついに消えていき、俺はすぐさま奴に飛びかかる。

俺の体力ももう限界だが、何とかして耐えることが出来た…今のうちにさらに体力を削ろうと、アレフ・ガルデスの身体に渾身の連撃を放っていった。

回転斬りの後の隙をさらしている奴に向かって、さらなる大ダメージを与えていく。

アレフ・ガルデスも体勢を立て直すが、奴はもう瀕死の状態になっていた。

 

「どこまでも忌まわしい人間が…滅びろ、滅びろ…!」

 

「…大分弱って来ているし、最後まで油断せずに倒そう」

 

奴は翼での攻撃を続けて来るが、その速度も威力も大幅に落ちてきている。

俺ももう動くのがやっとの状態なので、回避し続けるのはかなり難しかった。

しかし、それでも腕輪の力や必ず勝たなければいけないという思いで少しでも素早く動き、確実にダメージを与えていく。

そして、瀕死のアレフ・ガルデスに連続で両腕の武器を振り回していくと、ついに奴は力尽きて倒れ込んだ。

 

「これで動けなくなったか…今のうちにとどめを刺さないとな」

 

これ以上戦いが長引けば俺ももう動けなくなり、アレフ・ガルデスに殺されてしまうだろう。

生きてラダトーム城に帰るためには、ここで奴にとどめをさすしかない。

俺は奴にとどめをさすために、両腕に力を溜め始めていく。

そして、力が溜まり切ると大きく飛び上がり、思い切り垂直に両腕の武器を叩きつけた。

 

「飛天斬り!」

 

ふめつのつるぎからは紅色の光の刃が生み出され、アレフ・ガルデスの身体を叩き斬っていく。

ビルダーズハンマーでも頭を叩き潰し、相当なダメージを与えられていた。

だが、伝説を超える武器の二刀流での飛天斬りを受けても、アレフ・ガルデスはまだ死なない。

俺はそこで再び力を溜めて、奴の身体を薙ぎ払っていった。

 

「回転斬り!」

 

アレフ・ガルデスは起き上がろうとしていたが、回転斬りも受けてさらに大きく怯む。

今までの攻撃を受けて、奴はもう全身が傷だらけの状態になっていた。

後一撃与えれば、今度こそ生命力を全て削りきることが出来るだろう。

俺は身体に残った力を全て腕に溜めて、今まで以上に大きな紅色の刃を生み出していく。

そして、再び大きく飛び上がり、アレフ・ガルデスの身体を二つに引き裂いていった。

 

「これが最後の、飛天斬り!」

 

回転斬りと2度の飛天斬りを受けて、アレフ・ガルデスの生命力はついに完全に消えていく。

奴からは青い光が放たれ、闇の力の暴走によって変異して出来た異形の肉体は、だんだん崩壊していった。

 

アレフ・ガルデスは倒れ、これで人々の脅威となる強大な存在はいなくなった。

ルビスやひかりのたまが戻って来ることはないが、これで世界を作り続けられる可能性は少しは上がっただろう。

 

「本当に厳しい戦いだったけど、ついに終わったんだな…。みんなの待つラダトーム城に戻ろう」

 

俺はポーチに両腕の武器をしまい、みんなのところに戻ろうとする。

だがそうしていると、崩壊したアレフ・ガルデスの中から1人の人間の姿が見えてきた。

 

「ん…?あれは…!?」

 

俺より身長の高い、兜と鎧を身にまとった青年。

この姿を見るのは初めてだ…しかし、これが恐らくアレフの元々の姿なのだろう。

暴走した肉体を消し去ることは出来たが、アレフ自身はまだ生きているみたいだな。

 

「倒したと思っていたけど、まだ生きていたのか」

 

「…オレは全ての力を使い果たした、放っておいても死ぬ…」

 

ここまで来て逃がすわけにはいかないと、俺はアレフにとどめを刺そうとする。

だが、アレフは息をするのもやっとの状態になっており、彼の言う通り放っておいても時期に死ぬだろう。

力を失ったアレフは、俺を憎そうに、そして羨ましそうに睨みつけた。

 

「…お前はいいよな、人間どもと仲良くすることが出来て。オレは人間どもに世界を救うための存在としてしか扱われず、次第に追い詰められていった。オレに初めての選択肢を与えて救ってくれた竜王も倒され、最後にはオレ自身もこうして負けてしまった…」

 

暴走した闇の力が消えたことで、アレフ自身の人格も戻ってきているみたいだな。

アレフも俺もルビスに導かれたという点では変わらない…しかし、アレフは人間に絶望して世界を裏切り、俺は人間と仲良くして世界を作り続けた。

仲間の魔物たちも自身も人間によって倒され、彼は人々を憎みながら死ぬだろう。

どうすれば良かったのかと、アレフは涙を流しながら叫ぶ。

 

「人間どものせいで、人間としても…、魔物としても幸せに生きられなかった…!…オレは、オレはどうしたら良かったんだよ…!」

 

もしかしたら、もっと強く人々に言えば、どこか人々のいない場所に逃げ出せば、勇者としての責務から解放されていたのかもしれない。

だが、何を言っても人々は聞いてくれなかったかもしれないし、逃げ出しても人々が勇者を探し出そうとしたかもしれないので、確実に逃れられる方法は思いつかなかった。

人々に持て囃されるままに竜王を倒したとしても、新たな厳しい責務を押し付けられたかもしれない。

 

「それは、俺にも分からないな…」

 

「…オレの幸せを奪っておいて、結局それかよ…!まあ、オレを倒したところで、どうせ人間どもは滅びる運命にあるんだけどな」

 

「確かにこの世界にはもうルビスもひかりのたまもない。でも、俺たちはこれからも世界を作っていくから、簡単に滅びる気はないぞ」

 

アレフは俺の答えに怒り、彼が死んだところで人間が滅びる未来は変わらないと言った。

この世界には確かな希望など存在していないが、それでも俺たちは物を作り続けていく。

だが、アレフは俺たちの世代はそうでも、未来の世代はどうなるか分からないと話した。

 

「お前たちが生きている間はそうかもしれない…でも、お前たちの子孫の世代はどうだ?お前たちのような力は持っていないかもしれないし、また誰かを勇者として持て囃すかもしれない」

 

確かに俺たちの子孫が、世界を作り続けられるかは不安なところがあるな。

アレフが死ねばロトの血筋は途絶えることになるが、それでも勇者の伝説があれば、誰かがまた勇者として選ばれる恐れもなくはないだろう。

 

「そうなれば、第2、第3のオレがまた人間どもに絶望し、世界を滅ぼそうとするまでだ…。それでも世界を作り続けたいと言うならば、作り続けるがいいさ…」

 

世界のためにも、その人自身のためにも、アレフのような人が今後現れないようにしなければならないな。

そこまで言ったところでついにアレフは、話す力もほとんどなくなってしまう。

 

「…どうせ…、無駄な努力に終わるん…だろう…けど、な…」

 

アレフは最後にそう言うと、頭を地につけて少しも動かなくなってしまった。

もう息もしておらず、力を完全に失って死んでしまったみたいだな。

魔物になっていた影響か、アレフの遺体は小さな青い光を放って消えていった。

 

「…これで今度こそ終わったみたいだな…みんなに、アレフを倒したことを伝えよう」

 

これで長きに渡ったアレフとの戦いは終わり、数百年続いたロトの血筋は途絶えることになる。

だが、伝説がある限り、勇者は生まれ続ける可能性がある。

そして、人々はアレフの悲劇を繰り返してしまうかもしれない…そうなれば、俺に出来ることは一つだ。

俺はそう思って、ラダトーム城に戻るために魔物の楽園を後にしていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Epilogue 繰り返す破壊と再生

今回で今作は完結になります。
こんな大した内容も文章力もない作品を最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました。


俺は魔物の楽園を後にして、ラダトーム城に戻るために積み上げたブロックを降りていく。

戦いで俺の体力はほとんど残っていないので、落ちないように慎重に進んでいった。

しばらくしてサンデルジュの砦の跡地にまで降りて来ると、俺は旅のとびらに向かって歩いていく。

 

「すごい高い場所だったけど、何とか降りて来られたか…旅のとびらからラダトーム城に戻ろう」

 

草原をうろついている魔物の数はさっきと同じで少なく、俺は腕輪の力もあって素早く歩いて進むことが出来た。

アレフが死んだとしても奴らとの戦いは終わらないだろうが、復興の意志と強力な設備を持った俺たちなら、これからも勝ち続けるだろう。

俺はそう思いながら、疲れた足を動かしていく。

 

「ラダトーム城に着いたら、宴の続きを楽しまないとな」

 

ラダトーム城では、俺の勝利を確信したラスタンたちが宴の準備をしていることだろう。

エンダルゴを倒した時の宴はあまり長く続かなかったが、今回は明け方まで楽しもう。

10分ほど歩いて旅のとびらにたどり着くと、それを抜けてラダトーム城に戻っていった。

 

ラダトーム城に戻って来ると、俺は旅のとびらが置いてある部屋から出て、希望のはたのところに向かっていく。

すると、そこには不安そうな顔をした、ピリンたちが集まっていた。

俺の勝利を祈ってはいたが、どうしても心配な気持ちを隠しきれないのだろう。

そこで、俺はみんなを安心させるために、アレフを倒して生きて帰って来たことを大声で伝えた。

 

「みんな!無事にアレフを倒して、ここに帰って来たぞ!」

 

俺の声を聞くと、ラダトーム城の全員がこちらの方を向く。

そして、不安げだった顔が消えて一気に笑顔になり、それぞれが俺に声をかけてきた。

 

「無事だったんだね、雄也…!」

 

「思ったより遅いから心配してたが、本当に良かったぜ」

 

「キミなら、絶対に生きて帰ってくるって信じてたぞ!」

 

アレフが闇の力を暴走させてアレフ・ガルデスになるという不測の事態も起きてしまい、ずいぶんと時間がかかったが、こうして生きて戻って来ることが出来た。

ピリンとゆきのへ、ヘイザンは俺が希望のはたのところに来るまで待ちきれず、嬉しそうな顔のまま走って近づいて来る。

3人の後ろにいるチョビたちも、俺の勝利を讃え、無事の生還を喜んでいた。

 

「さすがデス、雄也ドロル!」

 

「どんな強い敵だとしても、心配は無用だったみたいだね」

 

「ボクも雄也が戻って来てよかったよ…!」

 

俺も、ラダトーム城に戻り、みんなの笑顔を再び見ることが出来て本当に良かった。

ローラ姫たちも俺の帰還を喜んでいるだろうが、彼女らの声を聞く前にピリンに話しかけられる。

 

「生きて戻って来てくれて、本当に嬉しいよ…!これで、大きな用事はみんな終わったんだね…!」

 

「ひとまずのところはな。でも、しばらくの間は大きな用事は出来ないと思うから、ピクニックに行けると思うぜ」

 

アレフとの戦いの前も、この用事が終わったら二人でピクニックに行こうと言っていたな。

もう世界に平和が戻ることはない…また大きな用事が、厳しい戦いが幾度となく待ち受けているかもしれないが、しばらくの間は大丈夫なはずだ。

二人でのピクニックにも、きっと行けることだろう。

 

「それなら、私が雄也のために美味しい料理を作ってくるから、楽しみに待っててね」

 

その時には、さっき言っていたモモガキの実だけでなく、ピリンの手料理も食べられそうだ。

最初は料理とは思えない謎の物体しか作れなかったピリンだが、2度目のメルキドの復興の中で彼女が作ったハンバーガーは、とても美味しかった。

 

「ああ、すごく楽しみだぜ」

 

二人で一緒に手料理を食べるのが、今から楽しみだ…俺はピリンにそう返事をした。

ピリンとの話の後、ゆきのへとヘイザンも改めてアレフへの勝利を喜んで、感謝の言葉も言ってくる。

 

「本当に見事だぜ…雄也。お前さんのおかげでワシはアレフガルド中を巡り、鍛冶屋としての腕をさらに高めることが出来た。弟子のヘイザンも一人前になったし、感謝してるぜ」

 

「ワタシからも言うが、本当にありがとう、雄也」

 

「こっちこそ、今までアレフガルドの復興を手伝ってくれてありがとう。二人の応援、戦いの時の支援、考えてくれた武器…それらがなければ、俺は厳しい戦いを生き延びられなかった」

 

アレフガルドの復興を通してゆきのへ自身の腕も成長し、ヘイザンは伝説の鍛冶屋を継ぐにふさわしい一人前になった。

俺も鍛冶屋の二人のおかげで、ここまで勝ち残ることが出来た…いくら感謝しても、しきることは出来ない。

これからのアレフガルドの復興でも、彼らと協力して物を作り続けていこう。

そう思っていると、ゆきのへはそろそろ鍛冶屋を引退しようかとも言ってきた。

 

「そうだ、雄也。ワシももうかなりの年だ…ひとまずの厳しい戦いも終わったことだし、そろそろ鍛冶屋を引退しようと思う」

 

「そんな話もしていたな…引退した後は、リムルダールで農業をして暮らすのか?」

 

そう言えば今までもゆきのへは、そろそろ鍛冶屋を引退して、リムルダールで農業をして暮らしたいという話をしていた。

確かな希望など何も無い世界ではあるが、幸せな余生を過ごせるといいな。

 

「ああ。ワシの家系の技術も、ヘイザンが受け継いでくれるからな…農業をしながら、ゆっくり過ごそうと思うぜ」

 

「親方から一人前の鍛冶屋としては認められたけど、さらなる高みを目指して、これからもワタシは修行をしていくぞ」

 

ヘイザンの鍛冶屋の腕も、これからさらに上がっていくだろう。

また新たな武器が必要になった時には、ヘイザンのところに相談しに行こう。

 

「ヘイザンなら、きっと最強の鍛冶屋になれると思うぜ」

 

俺はヘイザンにそう言うと、希望のはたのところに立っているローラ姫のところに向かう。

アレフの悲劇をもう繰り返さないようにみんなに言ってから、勝利を祝う宴を楽しもう。

ローラ姫やムツヘタも、近づいて来た俺の勝利を祝っていた。

 

「私からも言いますが、アレフと決着をつけて下さってありがとうございます…最後まであのお方を連れ戻せなかったのは残念でしたが、とても感謝しています」

 

「宴の準備はもう出来ておる…今夜は、朝日が登るまで楽しむのじゃ」

 

みんなのおかげで、宴の準備ももう出来ているみたいだな。

ローラ姫にとっては結局アレフを助けられなかったのも心残りのようだが、これで人々の脅威は去ったと喜んでもいる。

勝利の喜びに満ちているラダトーム城のみんなに、俺は頼み事をした。

 

「宴を始める前に、一つ頼みたいことがある。みんな、聞いてくれるか?」

 

「どうしたのですか、雄也様?」

 

勇者の伝説というものがある以上、これからも勇者として導かれる者が現れる可能性がある。

そうなれば、またその勇者もアレフと同様に、苦しみの果てに世界を裏切ってしまうかもしれない。

その悲劇を生まないためには、勇者の伝説をなくしてしまう他ないだろう。

 

「アレフは勇者に選ばれたことで、人々から世界を救うための存在としか見られなくなり、人々に嫌気がさして竜王に寝返った。俺たちは、このようなことを繰り返さないようにしなければいけない…でも、俺たちの時代は大丈夫でも、未来の世代はまた誰かを勇者として持て囃してしまうかもしれない。…だから、勇者とビルダーの伝説をなくして欲しいんだ」

 

これから生まれて来るであろう次の世代に勇者の伝説を語り継がず、俺たちの世代で消し去ってしまう。

勇者の伝説がなくなれば、もう2度と勇者として選ばれる人間はいなくなるはずだ。

 

「確かに勇者の伝説が消えれば、アレフ様のような方はもう現れないでしょう。ですが、ビルダーの伝説もですか?」

 

「ああ。俺はみんなと仲良く協力しながらアレフガルドを復興出来たけど、次の世代はどうなるか分からない」

 

俺はアレフのようにはならなかったにしろ、ビルダーも人々の希望を背負わされた存在というのは変わらない。

ビルダーの伝説も、勇者の伝説と一緒になくしてしまった方が確実だろう。

伝説のビルダーとして語り継がれたいという思いもなくはないが、未来の世代の人々の方が大事だ。

 

「勇者もビルダーも、もう現れない世界か…ワシも、どのような世界になるか想像がつかぬな」

 

伝説をなくすという話を聞いて、ムツヘタはそんなことを言う。

人々の希望を背負った存在がいなくなるというのは、不安なところもあるかもしれない。

だが、人々が力を合わせて戦い続け、物を作っていけば、勇者やビルダーがいなくても、きっとこのアレフガルドの大地を守っていくことが出来るだろう。

 

「確かに不安はあるかもしれないけど、人々が力を合わせて戦えば、どんな敵が来ても負けはしないと思うぜ」

 

「私もかつては世界を救うのは勇者の役目だと思っていたが、今回の戦いを通じて、誰であっても強大な敵を倒せる可能性があることを思い知った。私もアレフを追い詰めた1人として悲劇を繰り返さぬようにしなければならぬし、雄也の意見に賛成だ」

 

勇者でなくても竜王やエンダルゴを倒すことは出来たし、ビルダーの俺がいない間もラダトーム城のみんなは城を壊されるとその度に作り直し、戦い続けることが出来ていた。

ローラ姫も言っていたが、勇者だから何かを成すのではなく、何かを成したから勇者である…これからは、そんな時代を作っていこう。

姫やラスタンは俺の意見に賛成であり、みんなにも異論はないか聞いた。

 

「私もアレフ様のような方をもう出したくないので、雄也様の意見に賛成します。皆さんはどうですか?」

 

「もうこんな悲劇は起こしたくねえし、もちろん賛成だ。みんなもそうだろ?」

 

すると、まず最初にゆきのへがそう言って、それに続いてみんなもうなずく。

最も勇者やビルダーの責務にこだわっていたムツヘタも、反対することはなかった。

 

「若干の不安はあるが、ワシもお主たちがいくつもの強大な敵を倒して来たのを見た…勇者やビルダーがいなくても、大丈夫だと思うのじゃ」

 

これでみんなが賛成したことだし、勇者とビルダーの伝説はもう語り継がれないことになる。

これから先は誰かに厳しい戦いを押し付けるのではなく、1人1人が力を出し切って戦いを挑む世界へと変わっていくだろう。

アレフガルドを復興し続けて、勇者やビルダーがもう2度と現れない世界を作るなんて、思ってもいなかったな。

俺の頼みを聞き入れた後、みんなはいよいよアレフを倒したことを祝う宴を始めようとする。

 

「どうやら、皆さんも賛成ですね。勇者やビルダーがいなくても素敵な世界は作れると、私は信じております。…一つの大きな戦いは終わりましたが、この先もいくつもの厳しい戦いが待ち受けていることでしょう。その戦いに備えるためにも、今日は宴を楽しみましょう」

 

「昨日の宴は早く終わっちゃったから、今日は夜遅くまで楽しまないとね」

 

ローラ姫に続いて、ピリンもそう言った。

勇者とビルダーの伝説をなくすこと以外にもしなければいけないことはたくさんあるが、まずは今日の宴で戦いの疲れを癒そう。

 

「これからのことは明日考えるとして、俺もたくさん盛り上がるぜ」

 

今まで通りあまり大規模な宴は出来なかったが、俺たちはたくさん会話をして、用意された料理を食べた。

ひとまず人々の脅威となる存在はいなくなり、みんなも傷が癒えて来ているので、昨日よりも盛り上がっている。

エンダルゴやアレフがいなくなったところで、この世界に確かな希望はない…だが、みんなとの楽しい時間が、それを少しは忘れさせてくれていた。

その勢いは深夜になっても衰えず、翌朝になるまで勝利の宴は続く。

宴がお開きになった後はこれからのアレフガルドの復興を考えながら、俺たちは眠りに着いた。

 

先ほどローラ姫が言っていた通り、これからも俺たちは厳しい戦いを生きぬかなればいけないだろう。

激しい戦いの中で、せっかく作った町や城がまた壊されてしまうことがあるかもしれない。

だが、その度に俺たちは復興の意思を持ってブロックを積み上げ、アレフガルドの発展を続けていく。

破壊と再生を繰り返しつつ、この世界はこれからもずっと生き続けるはずだ。

確信を持つことは出来ないが、俺はそう強く信じ続けていた。

 

 

 

アレフとの決着から数日後…メルキドの町近くの岩山の上

 

アレフとの戦いの疲れも癒えて、俺とピリンはゆきのへとヘイザンをリムルダールに送った後、メルキドの町に戻って来ていた。

そして、宴の前の約束通り、二人でピクニックに来ている。

 

「うわあ、こんな眺めのいい場所があったんだ。ここからならメルキドの町も森も見えるし、美味しく食べられそうだよ!」

 

「俺もここに来るのは初めてだけど、確かにいい眺めだな」

 

岩山の上からメルキドの町やその周りの町を眺めて、ピリンはそう言う。

この岩山はメルキドの町の東にありながらも来るのは初めてだが、こんなに景色がいいとはな。

メルキドの町はロロンドたちのおかげでさらに大きくなり、ゴーレムの力で魔物たちから守られている。

発展したメルキドの町を見ていると、ピリンは嬉しそうだが、少し不安そうでもある顔になった。

 

「メルキドのみんなが仲良くなって、町も大きくなって本当に良かったよ。…でも、怖い魔物はまだたくさんいるし、また大きな戦いがあるかもしれないんだよね…」

 

「まあ、それは避けられないな」

 

メルキドの町の周りにはまだドラゴンがいるし、魔物との戦いは終わることはない。

ピリンも俺と同様に、これからの世界がどうなるか心配しているみたいだな。

みんなが楽しく暮らせる世界を追い求め続けるピリンだが、その夢が叶うという保証はない。

 

「雄也…わたし、これからもみんなが仲良く暮らせる町を作れるのかな?」

 

「俺にも分からない…でも、俺たちとピリンならきっとうまくいくと思うぞ」

 

でも、世界から光が消えた後でも希望を捨てず、仲良く町を作り続けて来た俺たちなら、必ず作り続けられるはずだ。

発展したメルキドの町を見ると、そういった思いが強くなって来ていた。

ピリンも不安な気持ちを振り払い、持って来た食べ物を俺と一緒に食べようとする。

 

「そうだといいね。…それじゃあ、持って来たハンバーガーを一緒に食べよっか!」

 

「ああ、そうしよう」

 

今日持って来たのはいくつかのモモガキの実と、ピリンの手作りのうさまめバーガーだ。

うさまめバーガーはメルキドの2度目の復興の時も作ってくれていたが、あの時よりもピリンの料理の腕前は上がっているだろう。

俺はピリンのハンバーガーを手に取って、景色を眺めながら食べ始める。

 

すると、以前よりも肉の食感が柔らかくなっており、パンもとても食べやすい形になっていた。

料理が上手くなったことで味もさらに良くなり、一口食べただけで口の中に美味しさが広がっていた。

肉と一緒に俺の好物である枝豆も食べることができ、このピクニックに来ることが出来て本当に良かった思えるほどだ。

 

「どう、美味しい、雄也?」

 

「ああ。この前のうさまめバーガーも美味しかったけど、もっと上手になってるぜ」

 

感想を聞いてきたピリンに、俺はそう答える。

ピリンのハンバーガーと一緒に、俺は持って来たモモガキの実も食べていった。

モモガキの実は小さくてお腹はふくれないが、甘くて美味しい木の実だ。

メルキドの町を眺めながら食べていると、これからもアレフガルドの復興を頑張らなければならないという気持ちが強くなる。

 

「本当に美味いな…。これで元気をつけて、また世界を作り続けないとな」

 

ルビスが死んでしまった以上、俺は生涯アレフガルドで暮らしていくしかない。

だが、この世界にはたくさんの仲間たちがいる…元の世界に帰るという選択肢があったとしても、俺はこちらに残り続けていただろう。

みんなの笑顔を見るために、そして、世界の光を守れなかった罪を償い続けるために、出来る限りの物作りをしていく。

 

世界は、ブロックで出来ていた。

さあ、アレフガルドを創りなおす冒険へ旅立とう!



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。