灰色の狼と小さな白猫 (鯵開き)
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春の出会い
プロローグ


初めての二次創作、エタらないように頑張ります。


かつて、天使・悪魔・堕天使に間で起きた大戦争

 

その最中、堕天使陣営では他勢力への兵器として、三本のベルトを作り出した。

 

デルタギア

 

カイザギア

 

ファイズギア

 

これを使用することであらゆる生物に有毒な【フォトンブラッド】を巡らせた戦士【ライダー】へと変身することができる。

 

しかし、三本のベルトには欠点があった。

 

適合者でなければ運用不可能──ということだ。

 

デルタギアは適合者以外が変身すればその者を凶暴化させる。

 

カイザギアは適合者以外が変身すれば変身解除後に灰化し死亡する。

 

ファイズギアは適合者でなければそもそも変身すらできない。

 

この欠点により適合者探しは難航した。

 

デルタギア、カイザギアは下級堕天使を使い捨てにする案も出たが実現はしなかった。

 

そしてとうとう、適合者が現れないまま二天龍の出現という異常事態によって戦争は終結。

 

用済みとなった三本のベルトはお蔵入りとなり、二度と日の目をみることはない……

 

 

 

 

 

 

……はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

─千年後 冥界 グリゴリ─

 

 

「何?ファイズギアとデルタギアが紛失?」

「はい」

 

冥界にあるグリゴリの一室にそんな声が響いた。

 

「マジか、面倒なことに」

 

部下の報告に─アザゼル─は頭を抱えた。

 

「すぐに探せ!ファイズギアはともかくデルタギアなんて危険物を野放しにしておく訳にはいかねぇ!」

 

立ち上がり、血相を変えて叫ぶアザゼル。

 

「は、はッ!」

 

部下の堕天使は即座に部屋を飛び出して行った。

 

「くそ!見つかってくれよ」

 

アザゼルは深刻な顔で呟いた。

 

しかし、アザゼルの思いとは裏腹にこの後に行われた大々的な捜索も虚しくファイズギア、デルタギアが見つかることはなかった。

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────────── ─────────

 

 

─三年後 日本 駒王町─

 

「眠みぃ」

 

風吹きすさぶ中、昼下がりの道を歩く少年が一人、呟いた。

容姿は比較的整ってはいるものの、無造作に切った黒髪と鋭い目付きが威圧感と危険な香りを与えており、まるで狼のような印象を醸し出している。

 

彼の名前は【乾巧真(いぬいたくま)】。高校二年の16歳だ。

彼はつい先日にここ【駒王町】にある【駒王学園】の二年に進級したばかりであり、今日はホームルームだけであったため早めに帰宅したのである。

路地を曲がった時巧真に声が掛けられた。

 

「ひさしぶりだな」

 

その声に振り向いた巧真の前に5歳ほど年上の青年が立っていた。

黒髪の整った顔立ちで漢服に身を包んでいる。

 

巧真は青年を一目見るなり言った。

 

「曹操か」

 

そう言うと、男─曹操─は頷き肯定した。

 

「何の用…と聞くまでもないか」

「そうだな。単刀直入に言う。戻るつもりはないか?」

 

曹操はそう言って巧真を見つめた。

 

「言ったはずだ。俺はもう戻らない」

「そう、か。ならば君を殺そう」

「……」

 

曹操と巧真の間に張り詰めた空気が流れる。

が、それは一瞬のことだった。

すぐに曹操から発せられた殺気が霧散する。その様子を巧真はどこか他人事のように静観していた。

 

「やめておこう、今の君に殺す価値はない」

「用がすんだらとっとと帰れ」

「手厳しいな。今回はこれで去ろう、また来るよ」

「二度と来んな」

 

巧真の声を背に受けて曹操は去っていった。巧真はその背中が消え去るまでじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

巧真は自宅へと入った。ごく普通の一戸建てに彼は一人で住んでいる。前はともに住んでいた保護者がいたのだが高校に入ると同時に「旅に出る」と言って出ていったのだ。

 

「あいつもしつこいな」

 

ラフな格好に着替えた巧真はソファに体を預けるとどこか懐かしそうにつつ呟いた。

 

電気を消し、安物のパイプベッドに潜り込む。

 

 

「“殺す価値はない”か。その通りだな」

 

どこか悲しみを称えた顔で彼はぽつりとそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第一話 出会い

溢れ出る駄文感。
ご注意を


雨の中、二つの影が対峙する。

 

─遂に本性を現したな!化物が!─

『違う!俺は……』

─黙れ!殺してやる!変身!─

『クッ!やるしかねぇのか?変身!』

 

二つの影が姿を変える。

一つは白いラインを巡らせ、もう一つは赤のラインを巡らせる。

 

白いラインの影が赤い影に向かって走り出した。

 

 

───────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

「ッ!!」

 

俺は、飛び起きた。身体中が脂汗をかいていて気持ち悪い。

 

「最悪な目覚めだ」

 

額の汗を手の甲で拭いながら吐き捨てる。

あの頃の夢か、もう見ることもないと思っていたが。

曹操にあったせいか。

 

「はぁ、シャワー、浴びるか」

 

俺は再びため息を吐くともぞもぞと怠い体を動かし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「眠みぃ」

 

一言呟きつつ通い慣れた道を歩く。

 

「あ、乾!」

 

そんなこんなで寝不足の俺の耳にそんな声が響いた。

振り返るとそこには赤いシャツに学ランを羽織った男が立っていた。

こいつは、兵藤一誠。一年から何かと俺に絡んでくる。

めんどくさいのが来た。

 

「…………」

「って、おい!無視すんなよ!」

 

俺がさっさと先に行こうとすると慌てて走りより、無遠慮に肩を叩いた。

 

「……ハァ、なんの用だ?」

 

ため息を吐いて改めて兵藤の方に振り替える。何やら期限が良さそうだ。顔がだらしなく歪んでいる。

 

「フ、これを見ろォ!」

 

兵藤はそう言って俺にケータイの画面を向けてくる。

そこには、黒髪の清楚な印象の美少女が写っていた。

 

「彼女が、俺に、彼女ができたぜぇ!」

 

兵藤は、自慢気に満面の笑みでそう言った。

 

茶髪にそれなりに整った顔立ち。人当たりもよく熱い性格。

これだけなら、好青年そのものだ。彼女の1人や2人、黙っていてもできるだろう。

 

だがしかし、兵藤には唯一にして最大の欠点がある。

 

 

「良いおっぱいだよな!」

 

 

変態なのだ。

口を開けば「おっぱい、おっぱい」言うような変態なのだ。

このせいで、十分イケメンで通じる顔も、人当たりの良い性格も、何もかもが相殺、いやマイナス方向に突き抜けてしまっている。

 

「そうか、良かったな。で?何で脅したんだ」

「ひどッ!」

 

不服そうな兵藤がさらに突っかかってくるが聞き流し、学校へと向かった。

 

この後、兵藤が親友の松本と元浜に殴りかかられるのだが、どうでもいいことなので割愛する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─昼休み─

 

「ここにするか」

 

俺は、学校の端にある茂みを抜け人気のない場所に来ていた。日が当たりなおかつ静かな場所だ。少々狭いが俺一人なのでちょうどいい。一年かけて見つけた俺のリラックススポットでもある。

 

「いただきます」

 

ポケットから黄色いパッケージの携帯食料を取り出す。包みを明け、チョコレート味のそれを口に運ぶ、噛み締める毎に口の中の水分が無くなっていくので持参した牛乳を啜り飲み込む。

 

「ご馳走さま」

 

ゴミをまとめ立ち上がろうとしたときだった。

背後に気配を感じて振り返る。

 

そこには少女がいた。

 

白い短めの髪と猫のような栗色の瞳の可愛らしい容貌。小学生並の華奢で小柄な体を白のYシャツと赤のスカートの駒王学園の女子用制服に包んでいる。

そして、悪魔独特の魔力の気配。この地は確かグレモリーの領地だったはずだから、眷属か?

 

「なにか、失礼なことを考えてませんか?」

「別に」

 

そんなことを考えていると少女にジト目を向けられた。とりあえず否定したが、女の勘は恐ろしい、ということか。

 

「じゃあな、ここ、空けるから好きに使え」

「……はい」

 

背中に、少女の視線を感じつつ俺は元来た道を戻った。

 

 

 

 

これが、俺がこれから非常に長く、それでいて非常に濃い付き合いをすることになる【塔城小猫】との出会いであったとこは今の俺には知る由もないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─一週間後─

 

 

 

 

 

 

─朝 駒王学園─

 

「イヤァァァァァァ!」

「なんだ?」

 

朝の学園に響いた悲鳴の発信源─校門─に視線を向けると信じがたい光景があった。

兵藤がリアス・グレモリーと登校していたのだ。

アイツ、彼女はどうした?

 

「あんたの驚く顔なんて初めて見たんだけど」

「桐生か」

 

声に振り返ると、そこには眼鏡で三編みの少女がいた。名前は【桐生藍華】、クラスメートだが何となくこちらの思考を読んでいる節があるため警戒している。

 

「いや、流石にあの光景は、な」

「まあ、確かにね」

 

桐生は窓の外を一瞥し、頷く。

 

「兵藤には、彼女がいなかったか?」

 

そう聞くと桐生は首を傾げ、訝しげな表情で答えた。

 

「いないと思うわよ?いたらアイツは自慢しまくるでしょ。ねえ?」

 

桐生が横を向くと窓に張りつき号泣する男子が二人いた。眼鏡の方が【元浜】坊主の方が【松田】だ。

二人は涙とその他もろもろの液体で汚れた顔で此方へ向くと同時に言った。

 

「「いねぇ!いてたまるか!イッセーに彼女がいたら俺たちが知らないはずがない!」」

 

そう叫んで再び窓に張りついた。

桐生は「ね?」と顔で問いかける。

 

「そう、だな。勘違いだった」

 

桐生は頷くと去っていく。

どうなっている?

兵藤は一週間前に彼女ができた。と自慢してまわっていた筈だ。元浜松田にそれで殴りかかられていたのを俺ははっきりと覚えている。

しかし、その疑問は兵藤が教室に入ると同時に氷解した。

 

「お前らは、生乳を見たことがあるか?」

 

元浜松田を戦慄させている兵藤を見ながら確信する。

悪魔独特の魔力の匂い。転生したのか。

おそらく、彼女ははぐれ悪魔かなにかで、それに殺られて死にかけている兵藤を発見したリアス・グレモリーが転生させた。

そう考えると納得がいった。

 

「まあ、いいか」

 

深入りはすまい。俺はもう裏に関わるのは御免だからな。

俺は考えを終わらせた。

 

 

─昼休み リラックススポット─

 

 

「巧真先輩、毎日それで飽きませんか」

「別に」

 

黄色いパッケージの携帯食料(チョコレート味)を噛み下していると塔城にそう訊かれた。飽きてはいるが他のは不味い。

あれから昼飯の場所がかぶるせいで少女─塔城小猫─とほぼ毎日会っている。

初めは場所を変えようかとも考えたが、塔城は別に騒がないし、何よりこれ以上の場所を知らないので、なし崩し的に塔城とともに昼飯を食うのが日常になりつつあった。

もっとも、お互い口数が少ないので基本は挨拶とたまに今の塔城のように質問をし合う程度のコミュニケーションしかしていないが。

 

「塔城、飯くらい友達と食ったらどうだ?」

「巧真先輩こそ」

「悪いが俺はここが落ち着くからな」

「私もです」

 

会話が途絶える。互いに話題がないためこのように話が毎度途切れるのだ。

俺としては別にどうでもいいし、塔城としても別に問題はなさそうなので放置する。

 

「小猫、ここにいたの」

「部長」

 

がさり、と茂みが蠢き、人が入ってきた。

茂みから現れたのは赤い髪と塔城とは対照的なプロポーションの女子生徒。リアス・グレモリーだ。今朝の一件で校内で今最も注目の的になっている女子生徒。

三人になった途端にこの場所が狭く感じる。いや、リアス・グレモリーの肉体的な圧迫感によるものかもしれない。

 

「先輩」

 

塔城の視線が痛い。まあ、とにかくリアス・グレモリーは何をしにここに来たのだろうか?塔城は部長と呼んでいたから部活の連絡かなにかだろうか?

 

「あら?貴方は?」

「人に名前を訊くときは自分から名乗れ、と教わらなかったのか?」

 

無論名前は知っているが、昼の一時を邪魔されてイラついているので生意気な返答をした。

目もとが一瞬ピクリと動いただけで表情はさほど変わらない。

 

「悪かったわね。私は三年のリアス・グレモリーよ。小猫の所属している部活の部長をしているわ」

「乾巧真だ。二年」

「そう、巧真と呼ばせてもらうわね」

「お好きにどうぞ」

 

再び生意気に返すと流石に頬がひきつった。

しかし、リアス・グレモリーか、何となく察してはいたが上級のそれも純血悪魔か、めんどくさいし、とっとと退散するか。

 

「それじゃ、ここ、空けるんで、話をどうぞ」

 

そう言って教室に向けて歩く。俺が茂みを抜けるまで二つの視線が俺の背中を刺していた。

 

 

 

 

─side小猫─

 

 

「それじゃ、ここ、空けるんで、話をどうぞ」

 

そう言って、巧真先輩は去って行きました。

巧真先輩は不思議な人です。食事は毎回同じな上に時々皮肉を言います。冷たい人なのに、何だか温かい。

 

「まったく。携帯にもでないし、探したわよ」

「すみません」

「いいわ。ちょっと連絡があっただけよ」

 

部長はそう言って微笑みました。

 

「小猫、今日、イッセーも加えてはぐれ悪魔を討伐しに行くわ。放課後、すぐに部室に来てちょうだい」

「はい」

 

部長はそれだけを伝えにわざわざ来てくれたようです。

伝え終えると、部長は朱乃さんと同じようなイタズラっぽい笑顔を浮かべました。

 

「さて、と。今の巧真について教えてもらおうかしら?」

「お昼仲間です」

 

そう答えると、部長はさらに笑みを深くしました。

 

「そう、小猫が随分懐いているみたいだから珍しいと思って訊いてみたのよ」

「懐いている、ですか?」

「ええ」

 

部長はそう言って元の微笑みに戻り、続きを促しました。

“懐いている”

確かに、毎日昼食を一緒に摂るのは嫌いな人とでは無理です。

どうして?

巧真先輩の顔を思い浮かべます。

 

仏頂面で気怠げな顔。

でも、少しだけ寂しそうで悲しげで何かに怯えた顔。

 

そこまで思い浮かべてふと、気付きました。

 

「巧真先輩は似ているんです」

「似ている?」

 

部長が疑問符が浮いた顔で言いました。

 

「はい、少し前の私に似ています」

 

姉様が力を暴走させて主を殺して一人いなくなった時の私と同じ顔。

 

「そう、眷属以外の仲間、大切になさいね」

 

部長はそう言って元の微笑みに戻りました。

 

「はい」

 

私の返事を聞くと部長は校舎に向けて歩き出しました。

 

私はそのあとに続きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




駆け足感がすごいですが、主人公の介入はコカビエル戦を予定しているので、そこまでは駆け足で強引に進めます。




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第二話 日常

あいかわらずしっくりこない。
見苦しいものですが、三話です。

プロローグを若干修正しました。


「あ、アーシア・アルジェントです。まだ、日本に来たばかりでふ、不慣れですがよ、よろしくお願いします!」

 

イッセーリアス・グレモリーと登校事件から二週間、クラスに転校生が来た。また悪魔か、リアス・グレモリーの新しい眷属だろう。

アーシア・アルジェントと名乗ったのはブロンドの長髪に純粋そうでなおかつ可愛らしい顔立ちの美少女だ。

 

「アルジェントさんの席は、乾の隣です。乾、兵藤。学校の案内を頼んだぞ」

「はい!」

 

兵藤が声高に返事をした。

 

「あ、あの、よろしくお願いします。あう!」

「ああ」

 

隣に座ったアルジェントが座ったまま礼をして頭を机にぶつけていた。天然か、コイツ。

 

「あの、お名前は」

「乾巧真」

 

名前くらいは教えておくか、世話は勝手に兵藤がやるだろう。

 

─昼休み リラックススポット─

 

 

アルジェントによる“イッセーさんのお家にお世話になっています”という爆弾発言により兵藤が追われる身になっているのを尻目に、俺は何時もの場所へと来ていた。

 

「こんにちは」

「ああ、塔城か」

 

例の如く塔城と出会ったのでともに食事をとり始める。

塔城の機嫌が良さそうだ。いつも通りの無表情だが嬉しそうなオーラが滲んでいる。

 

「なにか、良いことでもあったか?」

「はい、部活の仲間が増えました」

「そうか、よかったな」

 

アルジェントのことだろう。

兵藤が増えてすぐに新しい眷属ができたか、兵藤に何かを惹き付ける力でもあるのだろうか。

例えば、神器がドラゴン系とか。

まあ、いいか。

 

「巧真先輩は何時も仏頂面ですね」

 

塔城は新しく開けた焼きそばパンをとりだしながら言う。

無愛想で仏頂面なのは仕方がないだろう。

“笑い方なんてわかんねえんだよ”

 

「生まれつきこの顔なんだよ。放っとけよ」

 

喉まででかかった言葉を抑えて、俺は咄嗟にそう言った。

塔城は少し目を見開いていた。無意識に声を荒らげていたらしい。

 

「悪い。熱くなった。先に行く」

 

それだけ絞り出して俺は逃げるようにその場を後にした。

 

 

─side小猫─

 

 

「悪い。熱くなった。先に行く」

 

そう言って巧真先輩は去って行きました。

 

「巧真先輩」

 

一人になった私は思わずそう呟きました。

 

“生まれつきこの顔なんだよ。放っとけよ!”

 

巧真先輩が声を荒らげ、悲しげな表情が顔を支配しました。何時もとは違う泣きそうな顔。初めて見たその光景が目に焼きついて離れません。

立ち去る巧真先輩の背中はふとした瞬間に消えてしまう程に小さく見えました。

 

「巧真先輩の過去」

 

気になります。

巧真先輩の過去、先輩は触れられたくないようでした。本来なら、そっとしておくべきなのに。

どうして気になるのでしょうか?

先輩の顔が前の私に似ているからでしょうか?

 

「そう、ですね」

 

私は結論付けて何も考えずに昼食を再会しました。

 

明日、巧真先輩に謝ろう。

 

 

─深夜 巧真宅─

 

 

「はぁ、完全に吹っ切れたと思ったんだが」

 

風呂上がり、部屋の椅子に座って、俺は今日の俺の行動を反省していた。

“巧真先輩は何時も仏頂面ですね”

あの言葉、ただの会話だった筈だ。塔城は俺の過去を知らない。ただの好奇心によるものだ。それをあんなガキみたいな言い方で。

 

「馬鹿か、俺は。流せよ普通に」

 

明日、塔城に謝ろう。

 

そう考えて俺はベットに向かった。

 

 

─────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

部屋の中の灰の山。

 

『どうなっている』

 

部屋の入り口で、アタッシュケースを持った少年が茫然と立ち尽くす。

 

─なんだ!これは!─

『坂上か』

 

部屋の入り口に現れた違うアタッシュケースを持った青年は中を見ると慌てて入っていった。

 

─乾!そうか!─

『坂上?ぐわ!』

 

坂上と呼ばれた青年はアタッシュケースを振るい、乾を攻撃する。突然の一撃に、乾は踏ん張ることも出来ずに外へと叩き出された。

雨が乾の体を濡らす。

 

 

坂上はアタッシュケースを開けると中からベルトのようなものとデジタルカメラのようなものをとりだし、腰へと取り付けた。

 

乾は困惑した表情のまま、しかし、反射的にアタッシュケースを開けると中からベルトのようなものとガラパゴス携帯のようなものをとりだし、ベルトを腰に巻き付けた

 

雨の中、二つの影が対峙する。

 

─遂に本性を現したな!化物が!─

『違う!俺は……』

─黙れ!殺してやる!変身!─

『クッ!やるしかねぇのか?変身!』

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

「またか、ここ最近続けてだな」

 

不快感が纏わりついた体を起こす。

 

「くそ!」

 

一言悪態を吐くと、学校の準備を始めた。

 

 

─通学路─

 

「乾ィ!!」

「なんだ兵藤」

 

通学中に兵藤が非常に興奮した様子で走りよって来た。アルジェントはいないようだ。

聞くと、何時も一緒に登校しているが、今日は先に登校したらしい。

しかし、前にも見たなこの光景。

 

「リアス部長に夜這いされたぜ!」

 

こいつは何を言ってるんだ。

とうとう夢と現実の区別もつかなくなったのか?

 

「そ、そうか、それはよかったな」

「おい!なんだよ、その可哀想な人を見る目は!」

 

兵藤は不服なのか突っかかって来た。

出来るだけ淡白に返答し、興味の無さをアピールするが兵藤は構わず隣でいかにリアス・グレモリーの裸体が素晴らしかったかを語っている。

 

「それでな、──」

「そうか」

 

そんな相づちを打ちながら校門まで来た時だった。

 

「巧真先輩」

「ん?塔城か」

 

校門の前で立っていた塔城に声をかけられた。

 

「小猫ちゃん!乾!お前小猫ちゃんと知り合いだったのかよ!!」

「イッセー先輩は黙ってください」

「あ、はい」

 

塔城は興奮気味の兵藤を黙らせると俺に近づく。

 

「おはようございます。昨日はすみませんでした」

「おはよう、気にするな。熱くなりすぎた。すまない」

 

互いに謝罪を終えて昇降口へ向けて歩き出す。右側に塔城が立ち、反対側に兵藤が立つ。

 

「私はここで」

「ああ」

 

昇降口で別れて歩き出す。隣の兵藤が問い詰めて来るが放置した。

 

「「乾ィ!!」」

 

教室のドアを開けると元浜松田が殴りかかってきた。

 

「え、ちょ、まっ、うわあああ!」

 

咄嗟に背後にいた兵藤を盾にして回避し、席へと着く。

 

「おはよう、乾」

「おはようございます。乾さん」

「おはよう」

 

桐生とアルジェントが横合いから声をかけてきた。

桐生はニヤリと笑うと続けた。

 

「で、あんた、小猫ちゃんとどんな関係なの?」

「今朝のを見てたのか」

「それもだけど、今朝あんたが来る前に一回小猫ちゃんが尋ねてきたのよ」

 

なるほど、朝に一回クラスに来たのか。だからあの二人が怒り狂っていたわけか。

 

「いない、て言ったら残念そうに去ってったけど、で?どういう関係?」

 

何と説明するか。正直に昼飯を一緒に食べている。と言えば三人がめんどくさくなる。

 

「別に、たまに話すくらいの知り合いだ」

「そう、そういうことにしておくわ」

 

桐生はそう言って兵藤の方に向かっていった。

 

 

 

 

 

─放課後 巧真宅─

 

「そうか。わかった」

 

俺はそう言って電話をきる。つい最近連絡先を交換した塔城からだ。

 

「二週間、ね」

 

塔城からは二週間程オカルト研究部で合宿に行くから学校には行かない、だから、昼は行けないとのことだ。

わざわざ報告するとは律儀な奴だと思う。

 

「明日から一人か」

 

別にどうと言うことはない。塔城と会うまではあの場所で一人で食っていたのだ。

 

「まあ、いいか」

 

俺は夕食を買いに外へと出た。

 

 

─二週間後 昼休み リラックススポット─

 

 

「塔城、随分機嫌がいいな」

「はい、良いことがありました」

「それはよかったな」

 

二週間振りに塔城と食事をとっていた。どうやら俺は思っているより塔城との食事を楽しんでいたようだ

何時もとは比べ物にならない程話している。

 

「巧真先輩楽しそうですね」

 

塔城のそんな言葉にハッとする。

“楽しそう”か、そんなことを言われたのは何年ぶりだろうか?

少なくともここ1~2年ではない筈だ。

 

「巧真先輩?」

 

そんなことを考えていると塔城が訝しげに俺の顔を覗き込んでいた。

“考え事”と返すと塔城は新なパンにかじりついた。

 

まあ、そんなことを考えていても仕方がないか。

俺は昼飯に戻った。

 

 

 

 




やっと出会い篇が終わりました。次回から聖剣篇です。


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月光校庭のエクスカリバー
第三話 復讐とは


久しぶりの投稿。
お待たせして申し訳ないです。
そして、感想をくださった方、お気に入り登録してくださった方ありがとうございます。

相変わらずの駄文ですがよろしくお願いします。


─昼休み リラックススポット─

 

何時ものように塔城と昼飯を食べている。が、塔城の様子がおかしい。パンを口に運ぶペースが遅い。その上どこか悲しげな顔をしている。

 

「何か悩んでんのか?」

 

訊いた途端に視線をさ迷わせる塔城。

 

昨日も木場祐斗がいないと答えたら、目に見えてしょんぼりしていたしな。

 

じっと見つめていると観念したのかやがて意を決したように深く息を吸うとゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「巧真先輩は復讐についてどう思いますか?」

「復讐?」

 

はい、と塔城が頷く。

その顔は悲しげな色が濃く出ていた。

 

復讐、か。思い出すな。

 

──────────────────────────────────────────

『なんだよこれ!』

 

家に帰ると血溜まりが出迎えた。

深紅の中に見覚えのあるモノが沈んでいる。

 

今朝、玄関で別れたばかりのモノが。

 

『なんだよこれ!』

─けけけ!─

『ッ!化物!』

 

耳障りな笑い声とともに家の奥から化物としか形容できない、人といそぎんちゃくの間の子のような長身の人影が現れた。

 

─見ラれチゃった?─

 

何がおかしいのかけけけ、と嗤いながら此方に近づく化物。

 

『お前が、やったのか』

─ソーだよ─

 

けけけ、と化物は言う。

 

そうか、お前が。

殺す。殺してやる。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すころすころすころすころすころすころすコロスコロスコロスコロスコロスコロス。

 

─けけ、遅イよ─

『ッ……ぐあ』

 

四本の触手が俺の胸を貫いている。

幻でも見ているかのように感じた。

そして、引き抜かれる。

 

『ゴフ』

 

体を支えられず崩れ落ちる。

 

血溜まりに沈んだ俺を眺めると、ヤツは満足気に立ち去った。

 

その背を見つつ俺は意識を失い……

──────────────────────────────────────────

 

「た………い。………ぱい?……先輩!……くま先輩!巧真先輩!」

「ッ!」

 

気がつくと塔城が呼び掛けていた。

いつの間にか思考の海に沈んでいたようだ。

 

「悪い。考え事してた」

「そうですか」

 

塔城が安堵した様子で息をつく。それはそうと……

 

「塔城、近い」

「ッ!すみません!」

 

慌てて塔城が下がる。見たことない顔だったな。

 

「さて、復讐について、だったか」

「はい」

 

気をとり直して続ける。

塔城はこちらを真剣な眼差しで見ている。

 

「俺としては、復讐は止めようとして止めれるもんじゃないと思ってる」

「そう、ですか」

 

悲しげに目を伏せる塔城。

構わず続ける。

 

「復讐で大事なのは止めるかどうかじゃない。果たしたあとどうするか、だ。」

「あと、ですか?」

「ああ、復讐が良い悪いは別として、するやつにとっては生きる理由になってる」

「理由」

「そうだ。果たせば生きる理由を失うことになるからな。そのあとに生きる理由が見つかれば、そいつは希望とともに生きれる」

「だが、見つからなければ、そいつは生きる理由を失い、ろくな人生を歩まない」

 

言い終わると塔城は深く何かを考えだした。

そっとしておくか。

 

「塔城、俺は次が移動なんでな、先に行く」

「はい」

「じゃあな」

 

振り返ることなく俺はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

─side小猫─

 

一昨日は旧校舎の清掃があり、代わりにイッセー先輩の家で部活がありました。

 

「小さいイッセー小さいイッセー小さいイッセー小さいイッセー小さいイッセー小さいイッセー小さいイッセー」

「はうぅ、わかりますその気持ち」

 

部活の途中にイッセー先輩のお母さんが持ってきたイッセー先輩のアルバムによってリアス部長とアーシア先輩が壊れましたが、イッセー先輩のアルバムで私たちはとても楽しい時間を過ごしていました。

 

「最悪だ」

「家族って良いね」

 

イッセー先輩の呟きにすかさず祐斗先輩がアルバムを見ながら答えます。

 

「イッセーくん」

「なんだよ?」

「これ、見覚えある?」

 

イッセー先輩と話ながらページをめくった祐斗先輩の雰囲気が変わりました。

指を指した写真には小さいイッセー先輩と男の子、そしてその後ろに剣が一本写っていました。

 

「これは聖剣だよ」

 

剣を恐ろしい目付きで睨み付けながら祐斗先輩は憎しみの隠った低い声で言いました。

 

部活が終わると、祐斗先輩は一人でどこかに行ってしまいました。

 

 

 

 

次の日、何となく心配で、巧真先輩に祐斗先輩について聞こうとしましたが、祐斗先輩はお休みしているようでした。

 

 

 

 

「何か悩んでんのか?」

 

祐斗先輩が休んだ次の日、昼食を食べていると巧真先輩が言いました。

 

相談できるならしたい。でも、巧真先輩は人間です。悪魔も堕天使も知らない普通の人間です。それなのに復讐についての相談なんてしても良いんでしょうか。

 

でも、巧真先輩なら。

 

私をじっと見つめる巧真先輩の目を見てそう決意すると、心を落ち着かせるように深く息を吸いました。

 

 

「巧真先輩は復讐についてどう思いますか?」

「復讐?」

 

はい、と頷くと巧真先輩は考え始めました。

 

……

…………

………………

……………………

…………………………

 

長すぎませんか?

そう思ってチラリと巧真先輩の顔を見ると、普段通りの無表情でした。ですが、その無表情の中に一瞬昨日の祐斗先輩と同じ色が映りました。

 

「巧真先輩。巧真先輩?巧真先輩!巧真先輩!巧真先輩!」

「ッ!」

 

慌てて呼び掛けると巧真先輩はハッとした様子で我に返り、私と目を合わせて言いました。

 

「悪ぃ、考え事してた」

 

そして間髪入れずに目をそらしながら。

 

「塔城、近い」

「ッ!すみません!」

 

「さて、復讐について、だったか」

「はい」

 

慌てて顔を離すと、巧真先輩は気をとり直すように息を吸って続けました。

 

「俺としては、復讐は止めようとして止めれるもんじゃないと思ってる」

「そう、ですか」

 

やはり、できることはないのでしょうか。

悲しくなって、下を見る。

 

「復讐で大事なのは止めるかどうかじゃない。果たしたあとどうするか、だ。」

 

巧真先輩が続けた言葉に顔を上げると巧真先輩は、今まで見たこと無いほど真剣な表情をしています。

 

「あと、ですか?」

 

そう言うと巧真先輩は、ああ、と頷きました。

 

それから、巧真先輩は考えを語ってくれました。

 

復讐が生きる理由になってること。

果たした後が大事であること。

新しい生きる理由を見つけさせること。

 

この考えが頭を回ります。

 

「塔城、俺は次が移動なんでな、先に行く」

「はい」

「じゃあな」

 

考えていると、巧真先輩はそう言って去って行きました。

そっとしていてくれたことが何よりも嬉しかったです。

 

祐斗先輩のために私が出来ることは一体。

 

考え続けてふと気がついたらベルがなっていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

──放課後 オカルト研究部部室──

 

─side 小猫─

 

「会談の了承感謝する」

 

普段は楽しく過ごせる部室に二人の教会関係者が来ています。私たちは祐斗先輩を除く全員が向かい合うように座ったリアス部長の後ろに立っています。

 

「私は、ゼノヴィアだ」

「紫藤イリナよ」

「それで、教会関係者が悪魔に何の用かしら?」

 

二かさ人の自己紹介が終わるとリアス部長が切り出しました。

 

「実は、教会の三つの派閥が所有する聖剣エクスカリバーが盗まれたのよ」

「盗まれた、ですって」

 

紫藤イリナと名乗った女性がそう言うと、ゼノヴィアと名乗ったもう一人の女性も肯定しました。

 

「それで、貴女達の要求は?」

「今回の件について、一切の不介入を約束してくれ」

「私たちが堕天使と組むとでも?」

 

ゼノヴィアと名乗った女性の要求は不介入でした。まるでリアス部長が堕天使と組むとでも言いたげなその物言いにリアス部長は気分を害したように不満げな声で訊きます。

 

「ああ、聖剣をどうにかできるんだ、堕天使と利害が一致するだろう」

 

部長が切れかかっているのがよくわかります。

 

「グレモリーの名に賭けて、そんな魔王の顔に泥を塗るような事はしないわ」

「それだけ聞ければ充分だ」

 

そう言って、二人は席を立ち、出口に向かって歩き始めました。

 

「おや?」

 

中程でゼノヴィアと名乗った女性が此方を見て立ち止まりました。

 

「そこにいるのは魔女のアーシア・アルジェントか?」

「ッ!」

 

アーシア先輩を見つめながら言いました。

もう一人も言葉を続けます。

 

「追放されたのは知っていたけど、まさか悪魔になっているとはねえ」

「元聖女が悪魔になるか、堕ちるところまで堕ちたか」

 

それに呼応するようにゼノヴィアと名乗った女性は嘲るように言いました。

 

「てめぇ!いい加減に「イッセー先輩」……」

 

今にも飛び出しそうなイッセー先輩を止めます。ここで教会関係者と戦う訳にはいきません。

けれど、イッセー先輩の気持ちはよくわかります。

私だってイラッと来ています。それはここにいる眷属皆が同じです。

 

「まだ神を信じているのか?」

「捨てきれないだけです」

 

アーシア先輩が絞り出すように言いました。

 

「そうか、なら、私が断罪してやろう。神の名の元に」

 

その言葉でまた飛び出そうとするイッセー先輩を慌てて止めます。

 

「その辺にしてくれる。私の下僕を貶めるのは」

 

リアス部長の声が静かに響きました。

 

「そんなつもりはない。信徒として当然のことだ」

 

とうとうイッセー先輩が制止を振り切ってアーシア先輩を庇うようにゼノヴィアと名乗った女性と対峙しました。

 

「アーシアが魔女だと!」

「少なくとも今はそうだろう」

「ふざけるな!勝手に祭り上げたせいでな、アーシアは一人だったんだ‼」

「一人が苦痛だったのなら元より資格がなかったのだろう」

 

二人の言い争いはヒートアップしていきます。

 

「アーシアの優しさを理解できない奴は馬鹿野郎だ!」

「君はなんなんだ?」

 

「アーシアの家族で、仲間で、友達だ!手を出すのなら、全部敵に回してやる‼」

 

イッセー先輩が啖呵をきりました。

 

「それは教会への挑戦か?一介の悪魔が、大口を叩いたものだな」

「そろそろいい加減に」

 

二人をリアス部長が止めに入ろうとした瞬間でした。

 

「なら、僕が相手になろう」

「誰だ!」

 

ドアのところに祐斗先輩が立っていました。そして、あのときよりも鋭く、憎悪に満ちた目で答えました。

 

「君たちの先輩だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四話 教会の戦士

いつの間にか、お気に入りが100件に。
読んでもらえていることに嬉しさを感じます。
読者の皆様、評価をつけてくださった方、ありがとうございます。


※イッセーの巧真の呼び方を乾に変更しました。


─side 小猫─

 

 

旧校舎を出てすぐの所でイッセー先輩と祐斗先輩が教会の二人と対峙しています。

 

「ふふふ」

 

それぞれ【破壊の聖剣(エクスカリバーデストラクション)】と【擬態の聖剣(エクスカリバーミミック)】を構えた二人に祐斗先輩が笑いをこぼしました。

 

「なぜ笑っている?」

「壊したくて仕方のない物が目の前に現れたからね」

 

怪訝な表情をするゼノヴィアに祐斗先輩が冷たく憎しみの深い顔で答えると同時に足元に何本もの魔剣が突き立ちました。

 

「魔剣創造か、そう言えば聖剣計画で一人処分を免れた者がいたな」

 

 

 

「イッセー君の罪は私が裁いてあげる」

 

祐斗先輩とゼノヴィアが対峙する横では丁度紫藤イリナとイッセー先輩の戦いが始まりました。

 

「何だかわかんねえけど。赤龍帝の籠手(ブーステット・ギア)!」

『BOOST!』

「アーメン!」

「危ねぇ」

『BOOST!』

 

イッセー先輩は斬りかかってくる紫藤イリナさんの攻撃を避けつつ倍加を続けます。

 

「赤龍帝の籠手か、つくづく異端の神器が揃っているな」

「僕のこれは、皆の怨みが作り出したものでもある」

 

そう言って祐斗先輩は剣を手に取り猛然と斬りかかって行きました。

 

 

 

 

『BOOST』

「くそ。やるか?否、やらなきゃ。やらなきゃ損だ!」

「な、何?そのいやらしい顔」

『TRANSFER』

 

イッセー先輩が手をワキワキと気色悪く動かし始めました。

 

ちょっと見直すとこの人は。

 

先程の啖呵で少し向上したイッセー先輩への評価が再び下がるのを感じながら二人を見つめ。

 

「気を付けてください。イッセー先輩は触れた女性の衣服を吹き飛ばします」

「小猫ちゃん!」

「女性の敵」

 

思わず助言してしまいました。

私の助言を聞いて紫藤イリナはイッセー先輩の手を躱しますが、イッセー先輩は何時もからは考えられない程機敏で無駄のない動きで紫藤イリナを追い詰めていきます。

 

「これで終わりだぁ!」

「ッ!」

「ふぇ」

「あ」

 

飛びかかったイッセー先輩をすんでの所で躱した紫藤イリナ。

そして、勢い余ったイッセー先輩は紫藤イリナの後ろにいたアーシア先輩と私にタッチしました。

 

バリィ!

 

そんな音とともに私達の服が吹き飛んだのでした。

 

「えい」

「ぐわぁぁ!」

 

即座にイッセー先輩を殴り飛ばして後ろを向きました。

 

「いつか、この技を昇華させて、見ただけで服を弾け飛ばしてやる!」

「どうかしてる‼」

 

何時の間にか復活したイッセー先輩が紫藤イリナに飛びかかりますが紫藤イリナは躱してエクスカリバーを一閃させます。

直撃は避けたイッセー先輩でしたがわずかにかすり、負けてしまいました。

 

 

 

「破壊力の勝負だ!」

 

そんな声が響きました。祐斗先輩の方を見ると祐斗先輩が、作り出した巨大な魔剣を振りかざし破壊の聖剣と打ち合う瞬間でした。

 

「グッ!」

「残念だよ。君の持ち味はスピードだろうに」

 

ゼノヴィアの一撃が祐斗先輩のお腹にヒットしました。

一撃を受けて祐斗先輩がうずくまります。

 

「次は、もっと冷静になるといい。先輩」

「ッ!」

 

 

ゼノヴィアが射殺さんばかりに睨めつける祐斗先輩を一瞥してリアス部長に向き直ります

 

「殺されなかったことに感謝しておくわ」

「例の件は頼む」

「ええ、ところで参考までに犯人について聞かせてくれないかしら?」

「…………グリゴリの幹部【コカビエル】だ」

 

まさかのビッグネームが飛び出したことでリアス部長が目を見開きます。

 

「堕天使の幹部相手に二人なんて、生きて帰れると思っているのかしら」

「既に一人やられているが」

「覚悟の上よ」

「ま、て」

 

そう言って、エクスカリバーをしまって立ち去ろうとした二人に祐斗先輩が声をかけます。

 

「なんだ」

「やったのはフリード・セルゼンだ。その場に居合わせたから間違いはない」

「情報。感謝する」

 

祐斗先輩の言葉に一言そう言って今度こそ二人は去って行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─夜 オカルト研究部 部室─

 

「待ちなさい祐斗」

「すみません」

 

リアス部長の言葉に祐斗先輩は小さな声で謝罪するとドアを開けて出ていってしまいました。

 

 

──復讐で大事なのは止めるかどうかじゃない。果たしたあとどうするかだ──

──果たせば生きる理由を失うことになるからな。そのあとに生きる理由が見つかれば、そいつは希望とともに生き──

──だが、見つからなければそいつは…………──

 

 

巧真先輩のそんな言葉を思い出します。

私にできること。

私にできることはいったいなんなんでしょう?

 

ドアを見つめながら私はそんなことを考えていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─side 巧真─

 

─二日後 放課後 商店街─

 

「なんだこれは?」

 

俺は歩き慣れたはずの商店街で困惑していた。

なぜなら、眼前の光景があまりに異様だったからだ。

 

「迷える仔羊に愛の手を~」

「私たちにご慈悲を~」

 

白いコートを着てフードを被った女性が二人で物乞いをしていた。

周りの人間は二人を見ないようにしながらそそくさと早足で去っていく。

 

俺も普段ならそうするがあまりの光景に思わず立ち止まってしまった。

よく見れば二人はじりじりと近寄って来ているようだった。

 

完全に目を付けられた。

 

「はぁ」

 

ため息を吐き財布から札を一枚箱に入れる。

 

「ありがとうございます」

「汝に主の御加護があらんことを~」

 

とりあえず、二人のそんな言葉を聞き流しながらさっさとその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「巧真先輩」

「ん?塔城か」

 

少し離れた所で塔城に声をかけられた。

後ろには兵藤とクリーム色の短髪の…………誰だ?

 

「あ、乾じゃねぇか」

「兵藤と誰だ?」

 

気配からすると悪魔みたいだが。

 

「俺は匙 元士郎。生徒会の書記をしているよ。君は?」

「乾巧真」

 

生徒会か、ソーナ・シトリーの眷属か?

匙は名前を聞いて何かを思い出したのか1つ頷くと言った。

 

「乾ってあの無愛想で有名な」

「悪かったな」

「ああ、いやすまん。よろしく」

「ああ」

 

自己紹介を済ませると塔城が口を開いた。

 

「あの、巧真先輩。白いコートの二人組を見ませんでしたか?」

 

さっきの二人か。

さっき、そこの商店街で見た、と告げると三人は礼を言って去って行った。

 

 

 

 

─side イッセー─

 

─1時間前 とあるカフェ─

 

「ふざけるな!」

 

匙がそう叫んで、周りの視線を感じたのか声を小さくして続ける。

 

聖剣(そんなもん)に関わったら会長にどんなお仕置きされるか。お前の所は優しいが、会長は厳しいんだぞ‼」

 

そう言って匙は席を立つ、やっぱりか、聖剣の破壊なんて嫌だよな。

しかし、去ろうとした匙の足が止まる。

 

「やはりそうでしたか」

「こ、小猫ちゃん」

 

 

 

 

 

 

「そんなことを教会側が承諾するでしょうか?」

「あいつらとは利害が一致しているはずだし大丈夫だと思う。当たって砕けろだ!」

「それに、木場には戻ってきてほしいしな」

 

そう言って見た小猫ちゃんの顔は何かを決心した顔だった。

 

「まずはあの二人に協力を願い出ましょう」

 

小猫ちゃんが立ち上がって言う。匙はまだ乗り気じゃないみたいだけどやってやるぜ‼

 

 

 

 

 

 

「一本なら構わん」

 

あの後、乾からの情報で二人を見つけた俺たちは二人から承諾をもぎ取った。

 

木場は最初は俺たちを遠ざけようとしたけど小猫ちゃんの説得でなんとかなった。

その日の夜から神父の格好をして誘きだす。という作戦を開始することになった。

 

よし、木場がまた俺たちと悪魔業を続けられるように頑張るぜ‼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─side 巧真─

 

─二日後 自宅前─

 

 

学校が終わり、家の前まで来た時だった。目の前に銀と赤のバイクが止まった。

乗っていた男は車体と揃いのフルフェイスのヘルメットを外した。その下から出てきた顔はよく見知った顔だった。

 

「またか、曹操」

「やあ、巧真」

 

曹操は相変わらずの人を食ったような顔で俺を見つめながらバイクから降りた。

 

「また、あれか?」

「ここではなんだ。場所を変えよう」

 

わざわざ、ね。とうとう俺を始末する時が来たのか。

そういう考えのこもった視線を向けると曹操は首を横に振った。

 

「大事な話だ」

 

曹操の目を見て思う。断れない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お粗末さまでした。


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第五話 戦うか否か

お久しぶりです。
投稿遅れてしまい申し訳ごさいません。
言い訳をさせていただきたい。




レポートってやつの仕業なんだ




──side巧真──

 

 

「少し、場所を移動しよう」

 

曹操の言葉に従い移動する。バイクを押しながら歩く曹操とともに町の外れにある公園へと向かった。

 

少し高台にあるこの公園は町を一望できる人気のスポットだが、平日の夜ということもあって閑散としている。

事実、付近には俺と曹操を含めて三人しかいない。

 

一人潜んでんな

 

そんなことを考えつつ、曹操と対峙し、問う。

 

「で?」

「今回は英雄派の曹操としてではない。乾巧真の友人として来た」

「何?」

 

友人として来た。思わぬ展開に俺は戸惑う。

そんな俺を尻目に曹操は言葉を続けた。

 

「乾、まだあの事を引きずってるのか?」

「ああ」

 

なぜ今更確認した?

俺があの事を引きずっているのは何度も戻るように促した曹操が一番知っている筈だが。

 

「そうか。乾、これから先何があっても戦わないつもりか?」

「ああ」

「例え、この町が消滅することになってもか?」

「どういうことだ」

 

そう問いかけた瞬間に協力な魔力の波動を感じた。

慌ててその方向を見ると、駒王学園を結界が覆い、その一部を貫いて天高く光の柱が上っていた。

 

「なんだ、あれ」

「今この町にコカビエルが来ている」

「コカビエルだと!」

「ああ、あそこでこの町を破壊する術を使い、戦争再開の狼煙にするらしい」

「そんなことをすればこの地の悪魔が黙ってねえだろ」

 

あのリアス・グレモリーとソーナ・シトリーがいるのだ二人とも黙っていないだろう。それにあの二人は魔王の妹だ、そんな危険物に手を出すべきでは……そう言うことか!

 

「なるほどな、魔王の妹。魔王の怒りを買いやすく、かつ楽に倒せる存在、か。戦争の火種には十分だな」

「頭の回転は鈍っていないようだな。乾、君はどうする?」

「何がだ?」

「戦うか、否かだ」

 

曹操の問いかけに言葉がつまる。

 

俺の持つあの力を使えば戦える。やり方によっては勝てるかもしれない。

 

だが、あの力を使って勝ったとしても、おそらくもうここにはいられない。そして、そうなったが最後、俺に安息の地は無くなる。

 

そこまでして戦う価値がこの街にあるのか?

 

「もし戦わないのなら、旧友のよしみだ。君だけはここから逃がしてあげよう」

 

答えない俺に曹操が言う。魅力的な話だ。この町にどうしても守りたいものなんて……

 

─巧真先輩─

─巧真先輩は何時も仏頂面をしてますね─

 

「塔城」

 

何時もの塔城の顔がよぎる。

 

逃げていいのか?

 

塔城はグレモリー眷属の下級悪魔だ。堕天使の幹部であるコカビエルが相手では間違っても勝てないだろう。

もし、俺がここを見捨てたら。塔城もあの場所も確実に消えてしまう。

 

どうやら、俺は思った以上にあの場所が、あの空間が好きらしい。

そこまで至った瞬間に覚悟が決まった。

即座に反転する。

 

「行くのか」

 

反転した俺に曹操が問う。

 

「ああ」

「もう、戦わないのではなかったのか?」

「悩むのにもいい加減飽きたんでな。どう転んでもこの町を去るなら、せめて知り合いの命ぐらいは守ってやる」

「そうか」

 

俺の答えを聞いた曹操は頷く。どこか嬉しそうなのは気のせいか。

だが、構っている暇はない。

 

「待ちたまえ」

「なんだよ。ッと!」

 

走り出した俺を曹操が呼び止める。

振り向いた俺に一抱えほどのアタッシュケースを投げて寄越した。

 

「こいつは」

「現状、これを使えるのは乾、君だけだ。預けておこう」

「そうかよ」

 

アタッシュケースを持ち再び走り出す。

 

「まだある」

「まだあんのかよ!」

 

が、また曹操に呼び止められた。

振り返ると曹操がバイクを指差していた。

 

「これを使うといい」

「いいのか?」

「友人への餞別だ。あのくらいの結界なら体当たりで破れる。それに、元々これは乾の為のマシンだからな。運転はできるだろう?」

「礼を言うぜ」

 

ヘルメットを受け取り、アタッシュケースを座席の後ろに乗せて固定する。

そして、エンジンをかけた。心強いエンジン音が響く

 

「それと、ハンドルに仕掛けがある。心強い武器になるはずだ」

「曹操」

「どうした?」

「ありがとよ」

 

それだけ言って、俺はバイクを走らせその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─side曹操─

 

 

 

 

「ありがとよ」

 

そう言って乾は去っていった。

 

──悩むのにもいい加減飽きたんでな。どう転んでもこの町を去るなら、せめて知り合いの命ぐらいは守ってやる──

 

そう言った乾の目はかつてのものと同じだった。

“誰かのために”ただそれだけのために自分の命をすり減らしてまで戦っていた、英雄と呼ぶべき男の目だった。

尤も、守る対象は変わったようだが。

「よかったのか?曹操」

「ゲオルグか」

 

横の茂みから一人の男が出てきた。

この男─ゲオルグ─はそう言って乾の去った方向を見た。

 

「あれは元々彼の物だ」

「そうか。それにしても凄まじいコストがかかったあのバイクまで渡すべきだったのか?あの男、俺にすら気づいていないようだったが」

「構わんさ。少しスペックを落とせばいくらでも量産できる代物だ」

 

そう言うと、ゲオルグは渋々と言った様子で納得したのか頷いた。

 

「それと、巧真は気づいていなかったわけではない。気づいた上であえて気づいていないふりをしたんだ。いざというときお前の隙をついて逃げるためにな」

「何?」

「あまり、英雄派の初期メンバーをなめるな。巧真は【禍の団】の後ろ楯のなかった黎明期に自らよりも圧倒的に格上の存在達と戦い、生き残ってきた男だ」

 

ジロリ、と睨めつけるとゲオルグは黙った。

 

「帰るぞ」

「ああ」

 

転移用の魔方陣が構築されるのを見ながらチラリと駒王学園を視界に納める。

 

「乾、今回は友として会った。だが、次は敵として会おう」

 

一言呟きゲオルグとともに転移した。

 

 

 

─sideイッセー─

 

 

「あの戦争で神も死んだのさ!」

 

その言葉に空気が固まった。

部長達は驚愕に顔色を変え、ゼノヴィアとアーシアは絶望の表情で座り込んだ。

 

「私達は、何を……」

「そんな」

 

二人は呟く。この状態だとしばらくは動けないんじゃないか。

 

「そこの聖魔剣も、神と魔王が死んだことで聖と魔が融合したんだ。本来ならばあり得ないからな」

「お前達を土産に俺だけで、あの戦争の続きをしてやる!」

 

コカビエルはそう叫んだ。

 

いやだ。そんなことはさせない。

でも、勝てるのか?

ゼノヴィアとアーシアは動けないし、小猫ちゃんは怪我で無理だし、俺と部長と朱乃先輩と木場だけで倒せるのか?

無理、なのか?

 

そう絶望しかけた瞬間だった。

 

けたたましいエンジン音とともに赤と銀のバイクがグラウンドへと入って来たのは。

 

「なんだ?」

 

コカビエルが思わず、と言った様子で呟く。部長達も困惑していた。

 

そのバイクは俺達とコカビエルの間に大きなタイヤ痕を残しながら停まった。

そして、そのバイクに股がっていた人物がヘルメットを外した。

 

「な!」

「そんな」

「巧真、先輩」

 

俺と部長と小猫ちゃんの声が重なる。

バイクに股がっていたのは俺のクラスメートの乾巧真だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

──side巧真──

 

 

「何者ですか!停まりなさい!」

 

駒王学園の前で結界を張っていた支取蒼那が俺を止めようと声をあげる。

が、俺は無視してスピードをあげた。

そして、校門の鉄扉を飛び越え、結界を破る。曹操の言った通りの性能のようだ。

後方から聞こえる声を無視して俺は魔力の集まるグラウンドに急いだ。

 

「あの戦争で神も死んだのさ!」

 

グラウンドに入る直前にそんな言葉が聞こえた。コカビエルの声、だと思われる。

 

神の死?関係ないな。

 

俺はその言葉を気にすることなくグラウンドへと突入した。

 

グレモリー眷属とコカビエルの間に停車すると辺りを軽く見回す。アーシア・アルジェントともう一人がへたり込んでいるのは神の死を知ったせいだろう。他の面子は程度の差があれど怪我をしていた。特に塔城がひどいな。

 

最後にコカビエルを見据えるとヘルメットを外した。兵藤と塔城、リアス・グレモリーが声をあげた。

が、俺はそれを無視しつつバイクからおりた。

 

「神が死のうが俺には関係ないが、なんかあんたはムカつく。おととい俺の服に糞を落としたカラスに似てんだよ」

 

荷台のアタッシュケースから取り出したファイズギアをセットしながら。

 

なんとなく、コカビエルはむかつく。

 

そんな思いを込めて言ってやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お粗末様でした。

久しぶり過ぎて駄文に磨きがかかってるような。


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第六話 変身

本日二話目です。戦闘描写の難しいこと難しいこと。


──side小猫──

 

「神が死のうが俺には関係ないが、なんかあんたはムカつく。おととい俺の服に糞を落としたカラスに似てんだよ」

 

神の死に、アーシア先輩とゼノヴィアさん達が絶望し、部長達も驚愕する中、突然グラウンドにバイクでやって来た巧真先輩は荷台にのせていたアタッシュケースからベルトのような物と赤いラインの入った携帯電話を取りだしながら、そう言ってコカビエルを睨み付けました。

 

「先輩、すぐに、逃げて、「カラスに似ている、だと?」」

 

逃げるように促そうとしたのと同時に、コカビエルが言いました。

 

「ああ、その声もそっくりだ。うざい」

「死にたいようだな」

 

コカビエルは底冷えするような声でそう言うと光の槍を作りだしました。

 

「死ぬ気はねえよ」

 

巧真先輩は持っていたベルトのような物を腰に取り付けると携帯電話を開きました。

そして、ピッ!とボタンを押す音が聞こえました。続けて三回。ピピッ!となりました。

 

《standingby》

 

そんな電子音とともに独特の音が聞こえてきます。

 

先輩は携帯電話を閉じると天へと腕を伸ばします。

 

そして

 

「変身!」

 

《complete》

 

掛け声とともにベルトのバックルの部分にセットすると音声とともに巧真先輩の体を紅いラインが覆いました。

ラインは眩い光を放っていて、目を開けていられずにつぶってしまいました。

 

「久しぶりの感覚だ」

 

目を開けるとそこにいたのは見知った巧真先輩ではなく、赤のラインのはしった黒い人影でした。巧真先輩は静かにコカビエルを見据えていました

 

「貴様!ファイズか!」

 

コカビエルが光の槍を消して驚愕の表情で叫びます。

ファイズ?とはなんなのでしょうか?

 

「アザゼルが躍起になって探していたがこんな極東の片隅にあったとはな。どこで手にいれた」

 

アザゼルが探していた?

それではファイズというのは堕天使の武器なのでしょうか?

でもなぜ人間であるはずの巧真先輩がそれを?

 

「古道具屋でな。安かったぜ。五千円だった」

「ふざけるな。と言いたいところだがまあいい。ファイズに変身したとは言え人間ごときに遅れはとらん。来い!」

 

その言葉に巧真先輩改めファイズは右手を振るうと駆け出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─side巧真─

 

 

「ハア‼」

 

10メートルほどの距離を詰め、俺は右腕振り抜く。

対するコカビエルは作り出した光の剣の腹で受け止めた。

 

「ハア‼ハッ‼セイ!」

 

立て続けに拳と蹴りを繰り出す。しかし、コカビエルはそのすべてを容易く防いでいく。

 

「どうした?その程度かファイズ」

「チッ!届かねえか」

 

俺は最後に剣を蹴った勢いを利用してバイクの横まで下がり、大きく距離を開ける。

「つまらんぞファイズ!最初の威勢はどうした」

 

かてぇ。せめてこっちにも剣があれば

 

挑発するコカビエルを尻目にそう考えてふと曹操の言葉を思い出す。

“それと、ハンドルに仕掛けがある。心強い武器になるはずだ”

 

「ハンドル、か」

 

ちらりと確認すると左ハンドルに親指ほどの大きさの長方形の窪みが見えた。

 

「コイツか」

 

信じるぞ曹操

 

俺は腰につけた携帯電話─ファイズフォン─からメモリーカードのようなもの─ミッションメモリー─を抜き取り、振り返るとハンドルの窪みにセットした。

 

≪ready≫

その音声と共にハンドルを引き抜くとハンドルから紅い刀身が出現した。

 

「武器か?いいだろう。俺を楽しませろファイズ!」

 

剣を構えて俺は再びコカビエルへと突貫した。

 

 

 

 

 

 

─sideイッセー─

 

「武器か?いいだろう。俺を楽しませろ!ファイズ!」

 

黒い体に紅いラインの入った姿に変身した乾がこれまた紅い剣を持ってコカビエルへと斬りかかっていく。

 

 

「部長。乾は一体どうしたんですか?」

「わからないわ。ただ、敵ではないようね」

 

部長に聞いてみたが部長もよくわからないようだった。

 

改めて乾を見る。紅いライトセイバー のような剣はコカビエルの持つ光の剣とも互角に打ち合っている。

 

「すごいな」

「そうだな。コカビエルの速さについていってるな乾の奴」

 

木場が近づいてきて言った。ゼノヴィアはまだ立ち直れていないようだ。

 

「違うよイッセー君。乾君はコカビエルよりも遅い。でも勘と反射で凌いでる」

 

木場のその言葉に乾を今度は目を凝らして見てみる。

 

乾はコカビエルの一方剣を受けて蹴りによるカウンターを繰り出す、コカビエルはかわして乾の死角に回り込むともう一方の剣をつき出す、が乾は見えていないはずの攻撃を回転するようにしてかわした。

 

「スゲエ。見えてないはずなのに全部捌いてる」

「彼からは剣術を習ったようには感じられないけど、恐ろしいほど実戦的で効率的な動きをしている」

 

木場が説明している間も目が離せなかった。部長達も同じみたいだ、皆が乾とコカビエルの戦闘に見入っていた。

 

「おもしろい!おもしろいぞファイズ!」

 

コカビエルがよろこびの声をあげ、さらに速度を上げる。

 

「ッ!グッ!」

 

乾はまだ凌いでるが少しずつ攻撃が通りだした。

 

体を光の剣が掠めて火花を散らす。

 

「そこだ」

 

コカビエルのそんな言葉とともに剣が降り下ろされた。

 

「ウグッ!」

 

なんとか剣で防いだけど乾は膝をついてしまった。

 

「マズい!急いで助けねえと!」

 

駆け出そうとして気づいた。

追い詰められているはずの乾から一切 焦りが感じられない。

 

「終わりだファイズ!」

 

コカビエルがさらに力を入れた瞬間だった。

 

 

 

 

 

乾が腰の携帯電話を開き、何かボタンを押したのが見えた。

 

「お前がな!」

 

《exceed charge》

 

その電子音声ともに紅く光る何かがベルトから乾の体のラインを通って右手に持つ剣へと運ばれる。

剣が更なる光りに覆われる。

 

 

「ハァ!」

 

左手も添えて、気合いとともに乾が剣を振り抜くと甲高い音とともにコカビエルの剣が弾かれ両腕が上がる。

俺でも明確に分かるチャンスだ!

乾は立ち上がると同時に踏み込み剣をコカビエルの胸に目掛けてつき出す。

 

「くッ!ぐあ!」

 

コカビエルはなんとか剣を盾にすることができたが、その威力に剣が粉々に砕かれ、大きく後ろへと吹き飛ばされた。

 

それを油断なく見据える乾は、剣からメモリーカードのようなものを抜き取って刀身を消すと柄を投げ捨てた。

 

 

 

 

 

なんで?

 

 

 

 

 

 

──side巧真──

 

 

剣持ってコカビエルに突貫したは良いが久しぶりの実戦に体が追い付かない。

なんとか覚えている勘と体に備わった反射神経で凌げているが正直時間の問題だ。

 

「おもしろい!おもしろいぞファイズ!」

 

お気楽なもんだなこっちは必死だってのに。

コカビエルがペースを上げる。

少しずつ少しずつ体が追い付けずに数発くらってしまった。

 

「そこだ!」

 

一瞬の隙をつかれ二本の剣が降り下ろされる。

 

「ウグッ!」

 

なんとか防いだが、少しずつ押し込まれている。

元々ファイズのスペック自体はさほど高くない。精々力自慢の中級堕天使程度だ。上級の、それも幹部クラスと真っ向からやり合うようにはできていない。押し込まれるのもそう遠くはないことだろう。

 

やるしかないか

 

俺は覚悟を決めてファイズフォンのenterを押す。

 

《exceed charge》

 

ファイズフォンからフォトンブラッドが身体中を巡るフォトンストリームを経由して右手の剣へと充填された。

 

「ハァ!」

 

気合いとともに全身の力を込めて剣を振り抜く。

 

すると、コカビエルが大きく剣を弾かれ隙をさらしている。

 

立ち上がりつつ踏み込み剣をつき出すとコカビエルは咄嗟に剣を軌道へと差し入れた。

 

「くッ!ぐあ!」

 

つきだした剣はコカビエルの剣を砕いたもののコカビエルを吹き飛ばすに止まった。

何十秒もしないうちに復活するだろう。

が、それだけ時間を稼げれば充分だった。

 

俺はすぐさまミッションメモリをハンドルから外すとハンドルをすて右の腰から銀色のポインターのようなもの─ファイズポインター─を外すと側面の窪みにミッションメモリをセットする。

 

《ready》

 

の音声とともにポインターが伸びる。

 

それを確認して、右脚のふくらはぎの側面へと取り付ける。

 

コカビエルを見据えつつファイズフォンを開き、enterを押す。

 

《exceed charge》

 

新たなフォトンブラッドが今度は右脚のファイズポインターへと送られる。

 

充填完了とともにコカビエルへ向けて回し蹴りのように足を向ける。

すると、ファイズポインターから紅いフォトンブラッドの線が発射され、コカビエルの眼前で円錐形に広がる。

 

「む!」

 

コカビエルが慌てて翼で体を包んでガードの体勢に入る。

 

「ハァ!」

 

俺はコカビエルへと駆け出し、空中で宙返りをしつつ円錐へと飛び蹴りを放った。

 

フォトンブラッドの円錐は俺の飛び蹴りとともにコカビエルの翼を回転しながら貫いていく。

 

「終わりだ!コカビエル!」

「ぐぅうう!」

 

とうとう貫いた。

 

コカビエルの背後に出た俺は背後からの爆発音を聞き、すぐさま振りかえる。

 

「チッ!仕留めそこなった」

「うう。ぐぅ。おの、れファイズ」

 

そこには、翼をすべて灰にしながらも未だ獰猛に俺を睨み付けるコカビエルの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主観で書くキックの微妙さが凄い。もしかしたら書き直すかもしれません。

なんとか今月中に聖剣篇を終わらせたいです。


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第7話 事後処理

いつの間にかお気に入りが160件を越えていました。嬉しさで小躍りしてしまいそうです。ありがとうございます。



なんとか聖剣篇完結です。


「おの、れ。ファイズ!」

 

コカビエルは翼を失った痛々しい姿でなお獰猛に俺を睨む。

俺は油断なく構えながら思考する。

 

さっきの蹴り─クリムゾンスマッシュ─は間違いなく当たった。確実に貫いたはずだ。現にコカビエルの翼は灰化して消えている。ならば奴の体は万物にとって有毒なフォトンブラッドに侵されているはずだ。

事実、コカビエルはふらつき、時おり血反吐を吐いている。つまり、いかにコカビエルといえどフォトンブラッドの毒性は堪えると言うことだろう。

即死しなかっただけで時間の問題か?

 

「まさか、俺が、ここまで追い詰められるとはな。おもしろい。ひどくおもしろいぞ!ファイズ!」

 

俺の思考はコカビエルのそんな言葉によって中断させられた。

狂ったように笑いながら奴は手に光の槍を生み出し構えだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ。コカビエル」

 

 

 

 

 

 

上空から、結界を破壊する轟音とともに静かながらもよく通る声が聞こえた。

 

 

「白龍皇(ヴァニシングドラゴン)か!」

「アザゼルから叩きのめしてでも回収するように言われてきたが、叩きのめす必要はなくなったな」

 

そう言って白い龍のような全身鎧を着た男─白龍皇─はコカビエルとの距離を一瞬にして詰めると拳を振るった。コカビエルはその一撃で気を失ったらしい。

同時に地面の魔方陣も粉々に砕け散った。

 

「あの男も回収するか」

 

コカビエルを肩に担ぐと倒れていた神父の服を掴みぞんざいに持ち上げ、飛び上がった。

 

『無視か白いの』

 

さっさと飛び去ろうとする白龍皇を兵藤が、正確には兵藤の左手の籠手が呼び止めた。

 

『起きていたのか。赤いの』

『ああ』

 

白いのやら赤いのやら言い合っている点と籠手と鎧から感じる龍の気配から二つの声を二天龍か、とあたりをつける。

 

『久しぶりだがこれではな』

『ああ、だがたまにはいいだろう』

『そうだな。いずれ、改めて』

『ああ、いずれ、な』

 

そんな会話を最後に二つの声は止み、今度は宿主同士が話始めた。

 

「お前はなんなんだ?」

「全てを知るにはお前は弱すぎる。強くなれ、赤龍帝」

 

兵藤からの疑問をぶったぎり、白龍皇は飛び去って行った。

 

彼方へ消えたのを確認し、俺はベルトのファイズフォンを外すと解除キーを入力し変身を解除する。

 

「待ってちょうだい」

 

ハンドルを回収し、バイクに向かおうとするが、リアス・グレモリーが俺に声をかけた。

 

「なんだ?」

「巧真、だったわね。貴方のことについて色々聞きたいのだけれど」

 

リアス・グレモリーの目的はそれらしい。まあ、当然だろうな。

とはいえ今はまずい。久しぶりの変身と戦闘に体が疲労を訴えている。

 

「悪いが放課後にしてくれ。今日は疲れた」

 

正直面倒だが、最低限しなければならないだろう。

 

「……分かったわ。放課後にイッセーと一緒に来て頂戴」

 

少し考えてリアス・グレモリーは了承した。

俺は頷くとアタッシュケースにファイズギアを仕舞う。

その様子を見ていたリアス・グレモリーが再び口を開く。

 

「それも持って来てくれるかしら」

「なんなら今預けるが」

 

そう言うとリアス・グレモリーはポカンとした表情に変わる。

 

「兵藤」

「ん?何…っておおう!」

 

それを尻目に俺はアタッシュケースをリアス・グレモリーの近くで話を聞いていた兵藤に投げ渡すとバイクに跨がりエンジンをかけた。

 

「じゃあな」

「あ、おい!ちょっ、乾!」

 

慌てて呼び掛ける兵藤の声をシャットダウンするようにヘルメットを被るとちらりと塔城を見やって無事を確認し、さっさとバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─side イッセー─

 

「なんだったんだ?あいつ」

 

俺は抱えていたアタッシュケースを見る。

乾の奴が持っていたものだ。これで、あいつは変身して、コカビエルを追い詰めた。

 

「とにかく、イッセーはそれを部室に置いてきて頂戴。あと、明日は巧真を連れて来てくれる」

「あ、はい部長。あの、乾と知り合いだったんですか?」

 

巧真と呼び捨てにしているから知り合いだと思うけど、乾と部長がどうやったら知り合うんだ?

 

「ええ、でも一度話しただけよ。むしろ小猫の方が知り合いと言えると思うわ」

「小猫ちゃんとですか?」

 

そういえば小猫ちゃんと親しげだったな。

小猫ちゃんを見るとじっと乾が去った方を見ていた。

 

「小猫ちゃん、乾なんだけど」

「巧真先輩は、無愛想ですが、悪い人ではないと思います」

 

小猫ちゃんはいつもの無表情だったけど信じているようだった。

だよな、よくわかんないけど、俺もあいつは悪い奴じゃねえと思う。

 

さて、木場にも声かけるかな。

 

俺は木場のいる方へと歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

『なんだよこれ』

 

乾は困惑していた。目の前のアタッシュケースの中身の説明書を読んで。

 

─ファイズギアとデルタギア、だそうだ。そこに書いてある通りなら武器として非常に強力だ─

─これを俺たちに着けろと?─

 

曹操の言葉に坂下が続く。

 

─そうだ、俺は神器があるがお前たちにはないだろう─

─わかった─

『ああ』

 

乾と坂下がそれぞれベルトを巻く

 

乾がファイズ、坂下がデルタだ。

 

乾はファイズフォンに≪555≫とコードを入力する。

《standingby》

 

坂下はデルタフォンに≪変身≫と音声を入力する。

《standingby》

 

乾は腰のバックルに坂下は右腰のデジタルカメラ型のデルタムーバーにそれぞれセットする。

 

《complete》

同時になったその音声とともに部屋を紅と白の閃光が埋め尽くした。

 

 

 

 

 

───────────────────────────────────────────

 

─side 巧真─

 

「今度はあの夢か」

 

今日は不快感が少ない。少しだけ機嫌をよくしながらちらりと時計を確認し、眠気は吹き飛んだ。

 

15時23分

 

「遅刻、というより欠席だなこりゃ」

 

正直このまま家にいたいが、放課後に説明すると言った手前すっぽかす訳にはいかないだろう。

 

適当に飯を食い、制服に着替える。時計は15時42分。

いっそ放課後につくように行こうかと考えつつ携帯を確認する。

 

「……」

 

言葉を失った。

 

着信122件未読メール98通

 

差し出し人は兵藤と塔城。塔城からは昼に少しだが、兵藤からはほぼ毎時間数件ずつ来ている。

 

俺が休んだせいだと思うが、かけすぎだ。

 

と、考えていると携帯が震えた。相手は兵藤一誠。

 

「もしもし」

『あ、おい乾!お前今どこに』

「家だ。寝坊って奴のせいでな」

『そ、そうか。早く来いよ』

 

兵藤は言いたいことを言うとすぐ切れった。

 

 

行くか。

 

俺は鞄も持たずに家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─side 小猫─

 

─オカ研部室─

 

 

「お茶ですわ」

「楽にして頂戴」

 

イッセー先輩につれられて巧真先輩がオカルト研究部の部室へとやってきました。

出された紅茶を巧真先輩はじっと見つめています。なにかを警戒しているのでしょうか?

 

「心配しなくても変なものは入れていないわよ」

 

部長がそう言っても目は変わりません。ようやくカップを手に取り口元に運びました。

 

「さて、「フー」呼んだの「フー」は他「フー」でもない「フー」わ。うるさいわね」

 

部長の話に耳を傾けることもなく巧真先輩は一心不乱に紅茶を冷ましています。

 

「フーフーフーフー」

「話がしたいのだけど」

 

部長の言葉を気にせずフーフーし続けています。

 

「フーフー……ズズッ、熱。フーフーフー」

 

まさか。

 

「こ、これは」

「ええ」

「あらあら」

「フム」

「ええっと」

「なるほどね」

 

イッセー先輩部長朱乃さんゼノヴィア先輩アーシア先輩祐斗先輩が呟きました。

 

「猫舌」

「るせぇ」

 

私たちの反応に巧真先輩がイラつきを声にのせて吠えました。

 

道理で肌寒い日も冷たい牛乳だったんですね。

 

 

 

 

 

 

「さて、聞かせて頂戴、貴方のことを」

 

巧真先輩の意外な一面を知ってから五分後部長が改めてそう切り出しました。

 

「……わかった」

 

入れ直してもらったアイスティーを飲みながら巧真先輩そう言って話出しました。

 

2年前まではぐれ悪魔を狩る組織にいたこと。

 

昨日の力はそのときに手にいれたこと。

 

力─ファイズ─が堕天使のものであることを聞いたのは昨日が初めてであること。

 

組織を抜けてからは平穏を求めてここに住み始めたこと。

 

 

 

「以上が俺の過去だ。質問はあるか」

 

巧真先輩は一周見回すと再び部長へと視線を戻しました。

「いくつか聞くわ。その組織の名前は?なぜ組織に入ったの?止めた理由は?そして」

 

部長は一度切って続けました。

 

「私達と敵対する意思は?」

 

巧真先輩は普段通りの仏頂面でため息をつくと口を開きました。

 

「悪いが言いたくない」

「ふざけて「だが」」

 

「敵対するつもりはない」

 

巧真先輩はそう言ってじっと部長を見つめました。

 

部長も反らすことなく巧真先輩を見つめます。

 

空気がどんどん張りつめ、重くなっていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、分かったわ。信じましょう」

「そうか」

「ただし、監視はつけさせてもらうわよ。あと、オカルト研究部に入部してもらうわ。いい?」

「……ああ」

 

たっぷり3分見つめあってようやく決着しました。

ゼノヴィア先輩に続いて新しい部員が増えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うん、滅茶苦茶。

見捨てないでいただけると幸いです。

次回から、三大勢力会談篇です。


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停止教室のヴァンパイア篇
第八話 参加依頼


今回から停止教室のヴァンパイア篇です。

お気に入り登録してくれた方々、感想をくれた方々、評価してくれた方々 本当にありがとうございます。


「冗談じゃないわ!」

 

夏のある日、部室に入ると兵藤の頭を膝の上にのせたリアス・グレモ……部長が憤慨していた。

 

「何かあったのか?」

「やあ、巧真君。実は堕天使総督のアザゼルがイッセー君を度々呼び出していたことをイッセー君から報告をされたんだけど、それが部長の癇に障ったみたいなんだ」

 

手近にいた木場に話を聞く。

ああ、なるほど自分の眷属に手を出されかけてご立腹なのか。

 

「巧真先輩、今日はサボらないできたんですね」

「今日は何となくな」

「サボる時は連絡をください。家までついていきます」

「わかってる。ちゃんと連絡する」

 

塔城が寄ってきて俺を見上げつつ言う。

 

オカルト研究部に入部した時につけられた監視役は塔城だった。

俺と仲がよく、その方が双方にストレスが少なくて済むだろうというのが理由だ。

学年が違うため授業中は兵藤が監視役を代行している。

小猫は監視役をしっかりこなしていて、入部からすでに数週間経つが毎朝は一緒に登校。昼はいつも通り。帰りは家まで一緒。という毎日を送っている。

おかげで毎日松田と元浜に殴りかかられるが、かわすか兵藤を盾にして凌いでいる。

 

「どうしましょうか。相手は堕天使総督だし、下手に動く訳にも」

「アザゼルは昔からそうだよ」

 

突然の声に思わず身構えつつ声の発生源を見ると、紅い髪の男が立っていた。抑えてなおすさまじい魔力を放っている。

こんな近くにいて気づかなかっただと?

謎の人物に警戒心を高めていると近くにいた塔城をはじめとしたオカ研部員が跪いた。兵藤とゼノヴィア、アルジェ……アーシアだけがキョトンとしている。

 

「お、お兄様!なぜここに」

 

部長が立ち上がりつつ叫ぶ。兵藤が床に激突したんだが。

お兄様、ってことはこの男が魔王サーゼクス・ルシファーか。

 

「いやなに、授業参観が近いようなのでね。妹が勉強する姿を見たいと思ってね」

 

光輝く笑顔で魔王が言った。

 

「そんな、魔王ともあろうお方が一悪魔のために時間を割くなど」

「いやいや、これも仕事だよ」

 

慌てる部長に魔王が言う。ポカンとする部長を尻目に続けた。

 

「三大勢力の会談をここで行うから、その下見も兼ねているのさ」

 

流石に驚いた。

まさかここでやるのか。三大勢力の会談を。

 

「魔王の妹が二人。赤龍帝と聖魔剣使いに聖剣使いが所属し、コカビエルと白龍皇が襲来し、そのコカビエルを退けたこれまたここに所属していた堕天使の兵器ファイズ。この巡り合わせは偶然ではないだろう。故に、あらゆる力が渦巻くこの場所は会談にふさわしいと思うんだがね」

 

驚きつつ聞いた魔王の説明で納得する。

 

「私はゼノヴィアという者だ。初めまして」

 

ゼノヴィアが自己紹介をし、魔王と一言二言話した。

 

俺もすべきか。

 

「君がファイズこと乾巧真君かな?」

 

口を開こうとした瞬間に魔王が話出した。

 

「ああ」

「君のおかげでリアス達が助かった。礼を言うよ」

 

魔王はにこやかに言う。が、目はしっかりと俺を見据えている。

しっかりと見つめ返すとフッと苦笑し、微笑みながら続けた。

 

「試すような真似をしてすまない。堕天使の兵器を使いこなすと聞いたから一応ね」

「別に」

 

どうやらひとまず魔王のお眼鏡にかなったらしい。

 

「さて、君にお願いがあるんだ。今度の会談に君も参加して欲しいんだ」

「なに?」

 

安堵した瞬間にかけられた新たな言葉に今度は驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第九話 プールにて

本日二話目


まさかの参加依頼から数日。

 

炎天下の中、曹操にもらったバイクを走らせる。

 

風を切ると僅かな涼しさを感じる前面とは裏腹に、背中から温もりを感じるのは後ろに乗っている塔城によるものだろう。

いつだったか遅刻ギリギリに家を出た時、監視役である塔城を後ろに乗せて登校したのだが、それ以来風を切る感触が好きになったらしく主に休みの日に乗せてやっている。

 

「先輩は泳げるんですか?」

 

信号待ちの最中に塔城が話しかけてきた。今日俺を含むオカ研のメンバーはプール掃除を兼ねた一足早いプール開き行うらしい。

 

「まあな」

「そう、ですか。……よかった」

 

風防を上げてそう答えると塔城はどことなくホッとしたように呟く。

信号が青に変わった。

 

「しっかり捕まれよ」

「はい」

 

塔城の腕がしっかりと俺の胴に回されるのを確認してバイクを発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「1、2のテンポで足を動かせ。1、2、1、2……」

 

俺の声に合わせて塔城が足を動かす、所謂ばた足の動きだ。これで腕も動かせばクロールだがその腕は俺がつかんで引いていた。

 

まあ、要するに塔城に泳ぎを教えていた。

 

事の発端は数分前のリアス・グ……部長の一言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて巧真、悪いのだけど小猫に泳ぎを教えてくれないかしら」

 

軽く体操を終えた俺にリアス・グレ……部長が言う。

苦手なんだが。

 

「なんで俺が」

「泳げるのでしょう?」

 

拒否の色を混ぜつつ言うがリアス部長には通じていない。

だから苦手なんだよ。

 

「泳げるが。兵藤がいるだろ」

 

兵藤ならば変態なのは置いておくとして面倒見は良さそうだが。

 

「あら、小猫は巧真の方がいいみたいだけど」

「…だめ、ですか?」

 

リアス部長の言葉に追従するように塔城が言う。

 

教えるのは苦手なんだよ。

 

そう、言おうとしたが、続いた部長の一言によって飲み込まざるを得なかった。

 

「まさか、教えることもできない程下手な泳ぎしかできないのかしら」

 

教えるのは苦手だが、そこまでバカにされて堪るか。

 

「やってやるよ」

「あら?無理しなくていいのよ?」

「無理じゃねえ。完璧な泳ぎを教えてやる」

「そう、よかったわね小猫」

「はい。よろしくお願いします巧真先輩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

口車にのせられた気がする。

 

「すみません、先輩。せっかくのプールなのに」

 

そんなことを考えていると25メートルが終わり、塔城がすまなそうにしていた。

 

「気にすんな。どうせプールに来てもそんなにすることもねえしな」

「……そうですか。じゃあもう少し教えてください」

 

再びばた足の練習が始まった。

塔城は飲み込みが早く、ばた足を覚えると数分でクロールまで覚えた。

 

 

「なあ、乾」

「なんだよ」

 

部長と副部長による兵藤争奪戦が痛み分けで終わった直後。

用を足し、トイレを出てすぐのところで手を洗っていると、一緒にトイレに立った兵藤がいつになく真剣な顔で声をかけてきた。

 

「お前に、聞きたいことがあるんだ」

「なんだよ」

 

珍しく思い詰めた顔だ。気になったので先を促す。

 

「あの、さ。もしもの話なんだけどよ……」

「ああ」

 

含みを持たせて溜める兵藤。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしも、赤龍帝の籠手で倍加した力をさ。部長のおっぱいに譲渡したらどうなると思う?」

「知るか」

 

頭が痛くなってきた。散々溜めてなにいってんだよ。

 

「待てってくれ。頼む。俺一人じゃ想像できねえんだよ!」

 

放置して出ようとすると兵藤がすさまじい力ですがり付いてきた。

 

「離せ!知ったことかよ!」

「頼む。頼むよ!この数日それのせいであんま寝れてねえんだよ!」

「離せって!」

「イッセー、巧真、そろそろ帰るわよ」

 

腰にすがり付く兵藤に苦戦していると洗い場に部長と他のメンバーが現れた。

 

時が止まる。

 

 

「「「「「「「あ」」」」」」」

 

俺と部長達の声が重なった。

 

「頼むよ~。一生のお願いだって……ぶ、部長!」

 

やっと気づいたか。

 

「そう、そう言うことだったの、道理で私やアーシアに手を出さない訳ね」

 

部長が絞り出すように言う。

 

「ち、違いますよ!俺は普通におっぱいが大好きですって!」

 

俺から慌てて離れつつ兵藤が叫ぶ。兵藤、叫ぶにしてもおっぱいって、女ですらないのか。最低だな。

 

「最低です」

「ぶべら!」

 

塔城が兵藤を殴り飛ばした。妙に力の籠った一撃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「塔城、悪いな。買い物まで付き合わせちまって」

「……いえ、監視なので。それにイッセー先輩が迷惑をかけたお詫びです」

 

プールの帰りに二人で買い物を済ませて帰る。

兵藤の件はなんとか誤解も解け、質問についても適当に誤魔化した。

塔城を乗せたうえで食材も乗せるスペースがなかったためバイクを押しつつ歩く。

 

 

「やあ、ファイズ。あの夜ぶりだな」

「お前は」

 

談笑しつつ歩いていると声をかけられた。

銀髪で整った顔立ちの男だ。

見たことのない顔だが、その滲み出る威圧感と龍の気配で検討がついた。

 

「白龍皇、か」

「その通り、白龍皇のヴァーリだ」

 

白龍皇の言葉に塔城の雰囲気が強ばるのを感じる。

 

「白龍皇が俺になんの用だ」

 

睨み付けながら言う。

 

「用はない、ただ、コカビエルを追い詰めたファイズの顔を見に来たんだ」

「用が済んだらとっとと帰れ」

「ああ、失礼する」

 

そう言った白龍皇が俺の横を通り抜けようとした瞬間に耳元で囁いた言葉に思わず顔が強ばる。

 

 

「君ほどの男が何に怯えているんだ」

 

 

慌てて振り返るが白龍皇は振り返ることなく去っていった。

 

「先輩?」

「ッ!いや、なんでもない」

 

塔城の声に正気に戻った俺はチラリと白龍皇の背中を見ると家路を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十話 授業参観

先程確認したところお気に入りが200件を超えておりました。この話を読んでいただけていることに感謝いたします。


 

「粘土を自由に使って作りましょう。そういう英会話もある」

 

 

無えよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業参観のこの日、英語の授業が図工になった。

 

「何作ろうか」

「「おっぱいだな!」」

「粘土もまたローマである」

「そもそもそんな英会話あるのか?」

 

周りの奴も困惑気味だ。何人かネタに走った奴がいるが。

 

「なにを作るか」

 

適当に粘土を捏ねつつ考える。

曹操に貰ったバイク、名前はオートバジンと言うらしい。

あれを作るか、いや面倒そうだしやめとくか。

 

──君ほどの男が何に怯えているんだ──

 

ふと、白龍皇の言葉を思い出す。

 

怯えている。か、特に覚えはないが。

 

それにしても、白龍皇、ヴァーリとかいったか。兵藤のところにも現れたらしいが、コカビエルとの戦いがあったあの夜の様子からみて、白龍皇は堕天使の関係者、それも総督アザゼルに近しい立場だろうに、それが会談前のデリケートな時期にこうも頻繁に接触してくる理由はなんだ?

 

 

「乾、乾」

 

考えていると桐生が声をかけてきた。

 

「なんだ」

「もうすぐ時間だけどどうすんのよ?あんた何も作ってないじゃない」

 

いつの間にかそんなに経ってたのか。チラリと手元を見ると非常によく練られた粘土の塊があった。

 

「なんだあの人だかり」

 

桐生に視線を移す途中に人だかりが見えた。

 

「ああ、あれね。兵藤がリアス先輩の全裸像作ったのよ。これが完成度高くて、オークションすら始まった訳」

「そうか」

 

人だかりができるとはな、よっぽど完成度が高かったんだろう。

 

とりあえず兵藤、なぜ部長を作った。よっぽど恋しかったのか。

 

「で、そんなことよりあんたはどうすんの?」

「適当に作るさ」

「あそ、ま、頑張んなさい」

 

桐生はそれだけ言ってさっさと人混みに紛れていった。

 

 

 

 

 

「なんでしょうか。あの人だかり」

「さあな」

 

いつも通り食事を終えた俺と塔城は二人で校舎に戻ってきたのだが、なぜかできている人だかりに遭遇した。

 

「あ、小猫ちゃんと乾。二人揃って何やってんだよ」

「兵藤に、部長」

「皆揃っています」

「こんにちは二人とも」

 

声をかけられ振り返るとそこには兵藤と部長、それからゼノヴィアを除くオカ研メンバー全員がいた。

 

「あれなんだ?」

「それできたんだよ。俺たちも」

「ええ、祐斗が言うには魔女っ子の撮影をしてるみたいだけど」

 

兵藤の言葉に続いて補足する部長。

そうか、兵藤達もあの人だかりに用があったのか。にしても魔女っ子ね。どこの誰だか。

 

「俺も気になるからな、ついて行くぜ」

「乾がそんなこと言うなんて珍しいな」

「ほっとけ」

「えっ!」

 

オカ研で人だかりに近づくと、部長が狼狽し始めた。

人だかりの中心を見ると確かに魔女っ子、というか魔法少女がいた。ひらひらした日曜朝8時半みたいな痛々しい格好だが、素体が良いため非常によく似合っている。

そんな魔法少女に、なぜ部長が狼狽したのかがわからないが。

 

「はいはい、生徒会だ。校内での撮影は禁止。散った散った」

 

その時、生徒会の匙が現れて人だかりを散らせた。

 

「あの、そのような格好では困ります。場に合わせた衣装をですね」

「これが私の正装だもん」

 

全く聞く耳を持たない魔法少女に匙の顔がひきつっていた。

 

「匙、何をしているのです」

「ソーナちゃん見っけ☆」

 

そこにやって来た生徒会長に魔法少女が抱きついた。

この人は一体。

 

「やあセラフォルー、君も来ていたのか」

 

会長の少し後からやって来たのは、赤い髪の魔王と同じく赤い髪のダンディなおっさんだった。

セラフォルー、ね。聞き覚えがあるが、まさか、な。

 

「レヴィアタン様よ」

「えええええ!」

 

部長からの補足に兵藤が驚愕していた。そりゃそうだ、魔王だぜ目の前の魔法少女。

それから、部長の父親とサーゼクス・ルシファー、それからセラフォルー・レヴィアタンが何言か会話をしていたが、セラフォルー・レヴィアタンこちらを向いた。

 

「君たちが赤龍帝くんとファイズくんだね。私はセラフォルー・レヴィアタンだよ!レヴィアたんって呼んでね♪」

 

頭が痛くなってきた。

これが魔王なのか?

 

俺の頭の中の魔王像が崩れていく。

サーゼクス・ルシファーもどちらかと言えば軽めだが、まさか残り人も軽いのか?さすがにセラフォルーほどじゃねえはず、だろ?

 

二人目の魔王はかなりの衝撃を俺にもたらした魔法少女、いや、魔王少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日からよろしくお願いします」

「ああ、こっちこそな」

 

自宅の居間でテーブル越しに向かい合いながら塔城が言う。

そんな塔城の隣には何やら大荷物が置いてあった。

 

なぜか、それはつい二時間前までさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「乾君。白龍皇が接触してきたそうだね」

「まあ」

 

放課後、オカ研の部室で魔王サーゼクスがそんなことを聞いてきた。

 

「そういえば、報告を受けたわね。それからはどう?」

 

部長も続けて言う。あれから接触はない。

 

「特に」

「そう」

 

そう答えると魔王サーゼクスは思案顔になった。

 

「乾君、僕は君に護衛をつけるべきだと思うよ」

「何?」

 

思わず声が出た。

 

「理由としては、乾君がコカビエルを追い詰める程の実力者だと言うことだ。それは白龍皇も同じだが、君との違いは後ろ楯の有無なんだよ。つまり、組織もしくは個人が乾君もしくはベルトを狙って多少強引な手段をとる、可能性がある」

「なるほど」

 

後ろ楯のない俺は狙われ易い、ということか。故に護衛を。

 

「問題はその護衛を誰にするか、ということだね」

 

確かにな、知らない奴が周りをうろちょろしてたんじゃ落ち着かない。

数秒考えて、魔王サーゼクスは何かを思い付いたのか塔城を見つめた。

 

「そういえば、塔城君は彼の監視役をしていたんだったかな」

「……はい」

 

塔城が答える。

やな予感がしてきた。

 

「リアスちょっといいかい?」

「はい」

 

少し離れて二人が話す。

ややあって戻ってきた二人の内の部長が一歩前に進み出て言った。

 

「小猫、新たに命令を下すわ」

「はい」

「巧真の監視役を続行しつつ住み込みで護衛役も兼任なさい」

「おい、ちょっと待て!」

「どうしたの巧真。何か不満が?」

 

あるに決まってんだろが!

 

「監視役の続行は構わない。護衛役も問題ない。だがな、なんで俺の家に住むことになる!」

「その方が効率がいいのよ。調べたけれど部屋が余っているのでしょう?」

 

確かに余っている。だが、突然人を住まわせる何てことをそうやすやすと納得できるか。

 

「塔城だっていやだろ」

 

本人が嫌がればなんとかなる。そんな思いで塔城に問いかけた。

 

「…………いいです」

「なん……だと」

 

裏切られた気分だが、本人が嫌がらない以上どうしようもない。俺は住まわせられない理由があるわけでもない訳で。

 

「さて、決定したわね。小猫すぐに支度をして頂戴」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけだ。ごねたが知らない奴が住み込むよりましか、ということで納得した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




無理矢理ですが、なんとか同居まで持っていけました。


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第十一話

お久しぶりです。
なかなか執筆時間が取れず遅れてしまいました。
申し訳ありません。

なんとか三が日の間に更新できてよかった。

間が空くと口調が思い出せなくて苦戦しました。


「先輩、今日の部活はサボらないでください」

「わかってる。部活のもう一人の僧侶を解放するんだろ」

「はい、それではまたお昼に」

「ああ」

 

翌朝、昇降口で塔城と放課後について話していると兵藤とアーシア、部長の三人が現れた。

 

「おはよう、乾」

「おはようございます。乾さん」

「おはよう、巧真 」

「ああ、おはよう」

「おはようございます」

 

挨拶を交わし、軽く放課後の打ち合わせをするとそれぞれの教室に向けて歩き出した。

 

 

 

 

「「乾ィ!!」」

 

教室のドアを開けると例の如く元浜松田が殴りかかってきた。

 

「おいバカやめr・・・ウグァ!」

 

いつものように兵藤を盾にして回避する。

 

「何で、いつも、俺を」

 

最近鍛えてるせいか頑丈になった兵藤は床に這いつくばりつつも声をあげた。

 

「近くにいた。お前が悪い」

 

そんな兵藤に冷たく言い放つと兵藤は今度こそ力尽きた。

 

そんな兵藤にアーシアが駆け寄っていくのを尻目に俺は席についた。

 

 

─放課後 旧校舎 開かずの教室前─

 

俺は言われた通り開かずの教室前にいた。『KEEPOUT』とかかれた黄色いテープの貼られたそのドアの前には俺以外のオカ研の面子も集まっていた。

 

「夜にはこの校舎内限定で封印が解けるんだけど、一日中この部屋の中にいるのよ」

 

なるほど、引きこもりか。

しかし、副部長によるとパソコンを介して契約することで眷族の中で一番の契約率を誇るらしい。

 

「さて、開けるわよ」

 

兵藤達と僧侶について聞いていると部長が扉に手をかけつつ言う。

 

全員が再び扉を見つめるとと同時に開けた。

 

「イヤァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

途端、凄まじい悲鳴が響く。

唖然とする俺や兵藤達を除く部長や古参のメンバーは慣れた様子でため息をついている。

 

「もう封印は解けたのよ」

「お外にでられますわよ」

「ひぃ!イヤァ!お外嫌いィィ!」

 

やがて手慣れた様子で突入した部長と副部長の声と小女らしき声が聞こえてきた。

どうやら、外に出そうとする部長達に必死に抵抗しているようだ。

 

「うひょう!女の子!僧侶は金髪尽くしか」

 

俺は兵藤とアーシアと顔を見合せそっと中を覗いてみると薄暗くもかわいらしい装飾のなされた小女の部屋、その一角に部屋の主はいた。

その姿を視界に納め兵藤が歓声をあげた。

 

「見た目は女の子だけれど、この子は男の子よ」

 

部長の言葉に俺と兵藤は目を見開いた。

金髪に赤い瞳、華奢で人形のような美貌でなおかつ女子用制服に身を包んでいた。完全に女子だが。

 

「女装癖があるのですよ」

 

部長の言葉とその完成度に驚きつつも副部長の言葉に俺はどこか納得できた。が、兵藤はそうもいかなかったらしい。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

絶叫しつつ踞っている。

そして僧侶へと詰めより魂を燃やすような声で慟哭する。

 

「部長が外に出ろって」

「ひぃやぁぁ」

 

そして、兵藤が僧侶の腕を掴んだ瞬間だった。僧侶の絶叫とともに一瞬、意識がとんだ。

 

「なに?」

 

兵藤が掴んでいたはずの腕の主が視界から消えていた。

探してみると部屋の片隅に移動し、踞っている。

 

「なにがあった?」

 

古参のメンバーを除く全員が奇妙な顔を見合せる。

 

僧侶は未だに叫んでいるが何が起こったのか一切理解できなかった。

 

「その子は興奮すると神器『停止世界の邪眼』で視界に映るすべての物体の時間を止めてしまうのですわ」

 

副部長の説明で納得する。

神器に関しては理論とか考えるだけ無駄なのは曹操で既に体験済みだった。

 

 

 

「つまり、強力な神器をこいつは上手く扱えなくて、封印されてたと」

「ええ」

 

お互いの紹介を終え、僧侶─ギャスパー・ヴラディ─についての説明を受ける。

リアス・グレモリーの僧侶で人間と吸血鬼のハーフで悲惨な過去を持っている。

また、神器で無意識に時間を止めてしまうため外に出られない。

 

「ギャスパーの神器の制御の訓練を手伝ってほしいのだけど、いいかしら?」

「もちろんです!部長のお願いとあらば」

「ありがとう、イッセー。巧真の監視と護衛も兼ねるから、巧真にも参加してもらうわよ」

 

断る、のは無理なんだろうな。

 

「はぁ、わかった」

 

いやいやながらも俺は同意する。

こうして、俺達は後輩の訓練に付き合うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうら走れ!デイウォーカーなら走れるだろう?」

「ひぃぃぃ!滅されるぅ!」

 

よく晴れた空から射す太陽が夏を先取りしたように輝く放課後、旧校舎の前ではゼノヴィアがショートの金髪の小女らしき生徒をデュランダルを振りかざし追いかけ回す。

 

「これを食べると元気が出るよ。ギャーくん」

「ニンニクいやぁぁぁ!」

 

それが終わると今度は塔城が山盛りのニンニクを抱えて追いかけ回す。心なしか生き生きとしている。

 

ゼノヴィア曰く、健全な精神は健全な肉体に宿る、らしい。

 

まあ、正しいは正しいんだろうな。

 

だが、この様子を見ると・・・。

 

「これは、あれだな。訓練じゃねえな。拷問だな」

 

嫌いなものを持った奴に追いかけ回される何て拷問としか言いようがない。

俺も鍋焼きうどんが迫ってきたら逃げる自信がある。

 

「お、やってんな」

「匙か」

「おっす」

 

匙がやって来た。

やってくるなり、ギャスパーを見て鼻の下を伸ばした匙の肩を兵藤が優しく掴む。

 

「なんだよ?」

「きれいな顔してるだろ?うそみたいだろ?男なんだぜ。それで」

「そんな、ことが、あっていいのか」

 

兵藤の言葉に匙が崩れ落ちた瞬間だった。

 

 

「悪魔の皆さんは仲良くお遊戯か」

「誰だ!」

 

ハッとしたように叫び、声のした方をみる。

 

そこには、ワイルドな印象の着物姿の男が立っていた。

 

「久しぶりだな、赤龍帝」

「あんたは」

 

サーゼクスに続きまたも気配を察知できなかったことに警戒を強めていると兵藤と男が会話を始めた。

知り合い、にしては剣呑な気配だ。まさか、とは思うが否定はできない。

 

「アザゼル」

 

兵藤のその言葉に場の空気が固まった。

ゼノヴィアはデュランダルを構え、兵藤は赤龍帝の籠手を出現させ、アーシアを守るように立った。

匙も神器を出現させて構える。

俺はとりあえず拳を構えて油断なくアザゼルを見た。

 

「やめとけ。ここの全員がまとまっても俺には勝てねえよ」

 

アザゼルが軽く言った。確かにその通りだろう。俺は警戒しつつも構えをといた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の神器にそんな使い方が」

 

数分後、アザゼルから匙の神器─黒い龍脈(アブリーブション・ライン)─に他の神器の力も吸いとる力があることを教えられた。

これでギャスパーの訓練が捗ると盛り上がる匙と兵藤。

 

「さて、お前がファイズの適合者だな」

「ああ」

 

二人から視線反らし俺を見るアザゼル。

 

「ファイズについてなんだが」

「返してほしけりゃ勝手にしてくれ」

 

俺がそういうとアザゼルは驚いた顔をする。

 

「そうか?ま、会談の時にでも持ってきてくれよ」

「なぜだ?」

「んや、ちょっとな」

 

アザゼルはそういうと俺の返答も待たずにさっさと去って行った。

俺はじっとその背中を見つつ、アザゼルが何を考えているのか思考していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございます。


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第十二話 三大勢力会談 前編

二年ぶりぐらいの投稿です。長らくお待たせいたしました。
本当に申し訳ありません。

駄文は変わりませんが、今話もよろしくお願いいたします。


アザゼルの思惑がわからないまま、三大勢力の会談の日がやって来た。

 

放課後、俺は部室にて久しぶりに渡されたファイズギアを抱えながら塔城と話をしていた。

 

「つまり、ギャスパーは留守番になるわけか」

「はい、ギャー君はまだ神器を制御できてませんから」

 

ギャスパーは留守番だというが、一人で問題ないだろうか?いや、今まで一人で引きこもっていられたんだ。数時間の留守番くらいなんてことはないだろう。兵藤がギャスパー用にゲームを持ってきているみたいだしな。

それにしても、あれからいろいろあって、ギャスパーは随分兵藤になついたようだ。まあ、もともと変態なことを除けばいい奴だ。兵藤との依頼でミスって凹むギャスパーを励まして、オカ研男子で夜通し猥談した結果だろう。

 

「さ、行くわよ」

 

部長の言葉に従い、ギャスパーを除く全員が会場である新校舎の職員会議室へ移った。

 

 

 

 

 

「さて、お次はファイズ。いや、乾巧真。お前についてだ」

 

和平交渉の終盤。話も纏まった辺りでアザゼルが水を向けてきた。俺はその言葉に従いテーブルへとファイズギアを置いた。

 

「お前の持つファイズギアについて詳しく話しておこう」

 

アザゼルの言葉に興味深そうに、魔王二人と天使二人(ミカエルとガブリエル)が先を促した。

 

「まず、ファイズギアってのは、俺が戦争中に何でも殺せる兵器として作った強化スーツのことでな。これの他にあと二本、カイザギア、デルタギアの三本のベルトがある」

「何でも殺せる兵器?」

 

兵藤が不思議そうに首を傾げた。何日か前にサーゼクス、立ち会いのもと性能の調査を行ったが、パワーは普通のルーク、スピードもポーンよりは速いがナイトには及ばない。スペックだけなら精々力自慢の中級悪魔といったところという結果だった。

 

「ああ、ファイズはスペックこそ大したこと無いが、こいつの真骨頂はそこじゃねえ。万物に対する毒フォトンブラッドが各攻撃に付与されてるのさ」

 

フォトンブラッドという言葉にその名を知る連中が凍りついた。

何人か知らない奴が不思議そうに首を傾げている。

 

「フォトンブラッドってのはさっきも言ったが万物に対する毒だ。どんくらいかっつうと、毒で想像できる一番強い奴の数千倍かつ超速効性で浸透性を高い。そしてくらうと灰になっちまう」

 

想像したのか兵藤の顔がひきつっている。

ここでサーゼクスから何故戦争で使わなかったのかと質問が出た。

 

「使わなかったのは単に使える奴が居なかったからだよ。ちょっとファイズギア借りるぞ」

 

アザゼルは立ち上がってベルトを腰に巻き付けてコードを入力し、ベルトにセットした。

その瞬間、轟音と共にスパークを放ちながらベルトが吹き飛んだ。兵藤が慌ててキャッチする。

 

「とまぁ、こんな感じでだ。ファイズギアの場合、適合しない奴は変身出来ねぇのさ」

「ファイズギアは、ってことは他の二本はどうなの?」

「死ぬぞ」

 

ファイズギアを受け取って再びテーブルへと戻しながら、セラフォルーの質問に対してあっけらかんと答えたアザゼルにミカエルが詳しく説明するように促す。

 

「カイザギアは適合しない奴は変身することはできるが、解除後に灰になって死ぬ。デルタギアは変身できるが解除後に精神に異常をきたして自滅するってわけだ」

 

これが解決しないまま戦争がおわり、そのままお蔵入りになったのだと説明するアザゼル。

「それがどうして乾君の手元にあるんだい?」

「それが三年前、紛失したんだよ。デルタとファイズの二本がな。そこからは乾が知ってるんじゃないか?」

 

話を振られた俺はようやく呼ばれた意味を理解した。要するに俺の経歴とファイズギアの入手経路について聞くためだったのだ。こうして三大勢力の長の前に出すことで逃げ道を塞いだのだろう。

 

俺はため息をついて口を開いた。

 

「わかっ……わかり、ました。説明します」

 

流石にこの状況で敬語を使わないわけにはいかない。おい塔城。俺の敬語がそんなに面白いか?肩震わせて笑ってんじゃねえよ

 

「俺は、つい二年前までとある組織に所属してました。その組織で戦闘員をしていた俺に当時のボスが武器として渡してきたんです」

「ボスはどこで、ファイズギアを見つけたんだ?」

「さあ、古道具屋で売ってたとは言ってましたけど」

 

その説明に不承不承といった様子でアザゼルが頷く。ついで、話は組織の方にシフトしていった。

 

「組織は二年前に壊滅しました。生き残りはボスと俺だけです」

「どんな組織だったのかな?」

 

サーゼクスの質問に俺は一瞬逡巡したものの答えることにした。あまり思い出したくはないのだが。

 

「神器や異能なんかで身寄りのない子供たちを保護する組織でした。ボスと俺ともう一人の三人で立ち上げた小さい組織で、山奥の古い屋敷を買い取ってアジトにしてました」

「確かに二年前までそんな組織があったな日本を中心に活動してたみたいだが。何て名前だったか」

 

アザゼルが俺の話に思い出したように言った。それでも組織が小さ過ぎて名前すら定かではないらしいが。

 

俺の過去の話を皆興味深そうに聞いていた。さらに話は壊滅のきっかけに向いていく。

 

「あれは、組織の一周年記念のパーティーの日でした。創設した俺達三人は所用でそれぞれ出掛けてたので、遅れてアジトに向かったんです」

 

 

 

────────────────────────────────

──────────────────

 

部屋の中の灰の山。

 

 

 

『どうなっている』

 

 

 

部屋の入り口で、アタッシュケースを持った少年が茫然と立ち尽くす。

 

 

 

─なんだ!これは!─

 

『坂上か』

 

 

 

部屋の入り口に現れたアタッシュケースを持った青年─坂上─は中を見ると慌てて入っていった。

そして呆然と中を見回す。ややあって、男は何かに納得したのか乾を見る。その顔は憤怒に歪みながらも目だけはドロリと濁っていた。

 

 

─乾!そうか!─

 

『坂上?ぐわ!』

 

 

 

坂上はアタッシュケースを振るい、乾を攻撃する。突然の一撃に、乾は踏ん張ることも出来ずに外へと叩き出された。

 

雨が乾の体を濡らす。

 

 

 

 

 

坂上はアタッシュケースを開けると中からデルタギアをとりだし、腰へと取り付けた。

 

 

 

乾は困惑した表情のまま、しかし、反射的にアタッシュケースを開けるとファイズギアをとりだし、ベルトを腰に巻き付けた

 

 

 

雨の中、二つの影が対峙する。

 

 

 

─遂に本性を現したな!化物が!─

 

『違う!俺は……』

 

─黙れ!殺してやる!変身!─

 

『クッ!やるしかねぇのか?変身!』

 

 二つの影が姿を変える。

 

一つは白いラインを巡らせ、もう一つは赤のラインを巡らせる。

 

 

 

白いラインのデルタがファイズに向かって走り出した。

 

 

『落ち着け!俺じゃない!』

─黙れ!貴様が皆を!─

 

揉み合いになる二人の前に新たな人影が現れる。それは黒い髪青年だった。彼の登場に二人は思わず静止した。

 

─ねぇ。二人とも。なんでかなぁ?─

 

青年は泣きそうな声で続ける。

 

─声がするんだ。頭の中の声がやれって、仲間を増やせって。だからさ。俺、やっちゃったよ─

 

次の瞬間、青年の姿が変わる。灰色の馬と騎士が融合したような怪物へと変貌した。

 

─────────────────────────────────

──────────────────

 

「原因は仲間の一人がオルフェノクの声に支配されたせいだった。そしてその戦いで二人は死んで、俺は組織を抜けた。もう、死んでく奴を見たくなかったんです」

 

語り終えると沈黙が満ちた。

ややあって、サーゼクスが口を開いた。

 

「聞かせてくれてありがとう。乾君」

 

その言葉で俺への質問は終わった。他のメンバーのところまで下がると、隣の塔城がソッと袖を掴んだ。

 

「なんだよ」

「いえ、なんとなく、です」

 

塔城のことはとりあえず放っておこう。

 

「あの、オルフェノクってなんなんですか?」

 

兵藤が質問する。まぁ、裏に関わったことのない奴は知らないのも当然か。

 

「オルフェノクってのは、並の悪魔や堕天使並の力を持つ人間の進化体のことでな。人が死んだとき、低確率で進化して蘇生するんだ。ただ、あまりにも急激な進化に体が付いていかなくてな、短命の奴が多い」

 

アザゼルの説明になるほど、と兵藤は頷く。それを確認してアザゼルは続けた。

 

「ここまでなら寿命の短い転生悪魔みたいなもんなんだが。コイツらは恐ろしことに殺し方が確立してねぇのさ」

 

その言葉に兵藤は疑問符を浮かべた。その様子に苦笑してサーゼクスが口を開く。

 

「そのままの意味だよ。現状彼らを倒すには超強力な火力で消し飛ばす以外に無いんだ」

 

その方法だと周りへの被害が尋常じゃないという弱点がある

 

「そして、もう一つ、俺でも食らえば死にかねない力を連中は持ってる。短命のオルフェノクが仲間を増やすための方法として、使徒再生ってもんがあるんだ。これをくらうとオルフェノクになれる奴以外は灰になって死ぬ。しかも人の進化体だからな、人以外の種族がくらうと確定で灰になる」

 

その言葉に兵藤が青ざめる。さっきからコロコロ表情の変わる奴だ。

 

「でも、それならやらない奴もいるんじゃ」

「ああ、いる。でもな、そういう奴の頭の中に、声が聞こえるらしいんだ。仲間を増やせ。ってな。乾の所のもそれに支配されたんだろう?」

 

アザゼルの言葉に頷く。あれは抗い難いものらしいからな。

 

オルフェノクの講義を終えてそろそろお開きかと思った瞬間だった。

 

 

 

 

世界が静止した。

 

 

 

 

 

 

 




完結はさせるつもりです。本当にお待たせいたしました。



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第十三話

明けましておめでとうございます。またお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

不定期かつ駄文な拙作ですが、本年もよろしくお願いいたします。


────

英雄派本拠

 

「曹操」

「どうした?ゲオルグ」

「どうもこうもない。乾巧真がファイズギアを手放し、悪魔側に渡ってしまったことについてだ」

「何、心配するな。乾は必ずまた変身する」

「なぜそう言いきれる?」

「簡単に言えば、彼が英雄だからだ」

 

────

 

 

 

 

 

 

世界が止まった

 

同時に、【禍の団】の【旧魔王派】によるテロが始まった。時間はギャスパーの神器を利用されて止められたらしい。龍や魔王なんかの力の強い連中とそいつらに触れていた奴は動けるようだが。

何気なく白龍皇を見ると、何やら意味ありげな視線を浴びせてきた。俺が動けることに何か関与しているのか?塔城は俺に触れていたから無事だったようだが。

 

「おっと、オルフェノクまで来やがったか」

 

アザゼルが校庭を見ながら言う。見ると一体のオルフェノクがゆっくりと歩を進めていた。

 

「俺が行くか?アザゼル」

「いや、ここはもっと適任がいる」

 

白龍皇を制して、アザゼルはニヤリと笑うと俺に近づいてきた。

 

「乾の話じゃ、ファイズでオルフェノクを倒したって言ってたからな。フォトンブラッドなら周りへの被害を気にせずオルフェノクを倒せる訳だ」

 

いやまてまさか。

 

「乾。お前にこのファイズギアをやる。対オルフェノク戦力になってくれないか」

 

嫌だ。俺はもう戦いたくないんだ。

 

「頼む!お前が過去の影響で戦いたくないのはわかってる。それでも、被害少なくオルフェノクを倒せるって存在は貴重なんだ」

 

頭を下げるアザゼル。だけど、俺は。

 

「巧真先輩。代わりに私が戦います」

 

塔城が、拳を構えて、オルフェノクに攻撃を仕掛ける。だめだ。決定打を持たない塔城では連中の相手には不利過ぎる。

 

─乾さんが戦えなくなったら、今度は俺が代わりに守りますよ!─

 

塔城の姿が、声に支配される前のアイツと重なる。

 

─何で、こうなったんだろう。守りたかった筈なのに。俺は、皆をこの手で。お願いします乾さん!俺はもう誰も傷つけたく無いんです!─

 

逡巡しているうちに塔城が押さえ込まれた。

 

俺は、また失うのか?

俺は、また人を殺すのか?

 

声に操られただけかも知れないのに?

そいつにも大切な誰かがいるかも知れないのに?

 

だけど、今は!

 

アザゼルの持つファイズフォンを引ったくると銃形態にしてオルフェノクを撃つ。

顔面への銃撃に怯んだオルフェノクはたまらず塔城を解放した。

 

「わかったよ。迷ってる間に、また失うくらいなら、俺が戦う」

 

二人の間に割り込むとベルトを取り付ける。そしてコードを入力すると、天高く掲げ、

 

「変身!」

《complete》

 

ファイズフォンをセット。

 

同時に俺の体を赤の閃光が包み、ファイズへと変身した。

 

 

────

英雄派本拠

 

「英雄?」

「そうだ」

「どういうことだ?」

「乾巧真という男は優しすぎる。どれだけ過酷でも、どれだけ自分が傷ついても、どれだけ迷おうとも、目の前で倒れる誰かを見捨てられずに手を差し出す。まさに王道の物語の英雄のように」

「まさか、そんなお人好しが」

「存在する。乾が戦うことをやめてからも観察し続け、コカビエルとの戦いで、あの時の乾がまだ死んでいないことを確信したんだ」

 

────

 

 

 

─side小猫─

 

 

ファイズへと変身した巧真先輩が、バッファローのようなオルフェノクへと突撃する。

 

─わかったよ。迷ってる間に、また失うくらいなら。俺が戦う─

 

巧真先輩はかつて、必死に守ろうとした仲間を失い、戦うことをやめた。それはトラウマとなってまだ巧真先輩を蝕んでいる。

ああ、なるほど。あの時似ていると思ったのはこういうことだったんですね。

 

私は仙術を暴走させることで姉様のように誰かを傷つけ、失うことを恐れ、

 

巧真先輩は戦うことで誰かが傷つき、失うことを恐れている。

 

「オラッ!セイッ!」

 

格闘でオルフェノクを少しずつ圧倒していく巧真先輩。

 

立ち止まっては迷って、思い出しては傷ついて、うまく笑えなくても、それでも、目の前に倒れる誰かを放って置けない。

 

その姿はまるで物語の英雄みたいで。

 

格好よくて、少しだけ妬ましい。

 

私は立ち止まっているのに。

 

いえ、今はそんな場合ではありませんでした。

 

「ハァッ!」

 

巧真先輩がとうとう、オルフェノクを蹴り飛ばし、止めを刺すべく、ファイズポインターを右足へとセットする。

 

しかし、必殺の一撃を加える瞬間、背後からの攻撃が巧真先輩の背中を捉えました。火花をあげながら大きく吹き飛ばされる巧真先輩。

 

「巧真先輩!っ、くっ」

 

駆け寄ろうにも先程のダメージが私を縫い止めてしまう。

巧真先輩の背後にはサボテンのようなトゲの生えたオルフェノクが立っていました。体中に生えたトゲを飛ばして攻撃したようです。

 

「ハァ~何やってんの?」

「うるさい」

 

二人のオルフェノクは仲良さげに話し合うと、揃って巧真先輩へ攻撃を仕掛けようとします。

 

なんとか立たなければ、私がもがいた瞬間でした。

 

聞き覚えのあるエンジン音と共に巧真先輩の頭上に銀色の人形が飛来し、二体のオルフェノクに銃撃を浴びせました。

この銃撃にたまらず二体は、左右へとそれぞれ回避する。

 

「チッ。あの野郎こんなもん隠してやがったのか。まあいい。助かった」

 

この期を逃さず巧真先輩と人形に変形した巧真先輩のバイク。オートバジンが背中を合わせながら二体の間に割り込みます。

巧真先輩は角の生えたオルフェノク。オートバジンはトゲの生えたオルフェノクにそれぞれ相対し、戦闘が再開。

 

オートバジンはトゲの銃撃に対してタイヤのマシンガンを撃ち込んで相殺すると、機械のような音をたてながらパンチを撃ち込んでいき、

 

巧真先輩は相変わらずのラフファイトで、ダーティにオルフェノクを追い詰めていきます。状況を知らなければ巧真先輩が悪人のようです。

 

一瞬の隙をついて反撃にでたオルフェノクの拳をかわすと、足に付けていたファイズポインターからすばやくミッションメモリを抜き取り、左腰からカメラのような道具を取り出してメモリをセットして変形させ、右手へと装備して、ファイズフォンを開きenterを押しました。

 

《exceed charge》

 

ファイズフォンから体の線を通って右手へとフォトンブラッドが供給される。

 

そんな巧真先輩に再びオルフェノクが攻撃を仕掛けましたが、またもやかわすと、カウンターのように右手をオルフェノクへと叩きつけました。

 

赤いΦの字が浮かび、オルフェノクが大きく吹き飛び、そして青い炎を上げて爆発、灰へと変わって崩れ落ちていきました。

 

それを見届けると、巧真先輩はミッションメモリを、足に着けたままのファイズポインターに付け替えてenterを押して振り向き、オートバジンへと駆け出す。

 

《exceed charge》

 

フォトンブラッドが供給されると同時に巧真先輩はオートバジンの肩を踏み台に跳躍し、ファイズポインターを向けると赤い円錐形のフォトンブラッドを発射し、その場に拘束しました。

 

「ハアァァ!」

 

そして気合いと共に飛び蹴りを見舞い、円錐形のフォトンブラッドで貫きました。コカビエルに使ったあの技です。

 

背後で、青い炎と共に爆発、灰化するオルフェノクをチラリと確認すると、ファイズフォンを外して、変身を解除しました。

 

同時に時間の停止も解かれたようです。

 

巧真先輩はそのまま私に近寄ると、何やら確認して頷きました。

 

 

────

英雄派本拠

 

「ならばなおのこと!なぜファイズギアを渡したんだ!このままでは敵になるだけだぞ!」

「だろうな。だが、王道の英雄は必ず悲劇の末に死ぬものだ」

「何を?」

「それはまあ、置いておこう。時にゲオルグ。デルタギアの副作用を知っているか?」

「もちろんだ」

「デルタは使い続けることで精神に異常をきたして自滅する。我々は持っていないが、もう一本のベルトにも副作用が存在するそうだ」

「それがどうしたと?」

「ならば、ファイズはどうなのだろうな?」

「まさか!乾を実験台にするというのか!」

「それが、ファイズギアを渡した理由だ。どうした?ゲオルグ」

「乾を気に入っていたと思ったが?」

「気に入っているとも、彼もまた、俺が目指す英雄だからな。だが、俺が目指すのは覇道だ。そのためならば、利用できる全てを利用するまでだ」

────

 

 

 

 

 

─巧真side─

 

どうやら、塔城は無事らしい。ひとまず、安心した。

 

「立てるか?」

「はい。ッ!」

「無理すんな。じっとしてろよ」

 

足を押さえて踞る塔城を抱え上げ、会場に戻った。

 

 




令ジェネを見てきましたが、ジオウが一年前、ビルドから継承した【仮面ライダー】をゼロワンに継承してるのがとても感慨深かったです。

PSイズたんのヒロイン力が止まるところを知らないので、今後への期待が半分、死亡フラグではないかという不安が半分といろんな意味でドキドキが凄いです。


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