緋弾のoutlaw (サバ缶みそ味)
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四月バカ共の行進曲 
1話 君と僕と桜日和


*注意*

 駄文、オリジナル展開、お砂糖ダバーの展開もあります!
 オリ主がいます!
 銃の知識は皆無に等しいです
 

 『私はいっこうにかまわないッッ‼』じゃない方、ごめんなさい


 朝日を照らすお天道さんの日差しは暖かく、桜は淡い桃色に咲きどこも満開、お空を駆ける雲雀はぴよぴよと飛んで、そよ風は気持ち良い。まさに春爛漫で上々である。

 

「こんな日は遅刻して登校するに限る!」

 

 黒いショートヘアー、学ランを羽織り、『サーモン』と書かれた黒のロゴTシャツ。皆さま初めまして、学生真っ盛りの私、犬塚信綱と申します。

 

「さてと、堅苦しい自己紹介はさておき…」

 

 俺は背伸びをして大あくびをする。今から行く学校、東京『武偵』高校へ歩いていくことにします。武偵とは『武力探偵』の略であり、逮捕権はあるが警察とは違い武装を許可された探偵のこと。探偵らしくお金で動きますのでまんまですね。

 その武偵校には色々な学部がありますが…長くなりますので省きます。高校生と同じような授業はありますが将来立派な武偵や武装検事とか目指すために銃だの刀だの振るい此れ日々鍛錬を行っております。

 

「…春だねぇ」

 

 気持ちいそよ風が通り、桜の花びらを散らしていく。今日は本当に暖かく春真っ盛りである。このまま歩きながら寝ようか、それとも河原まであるいて原っぱで寝転がろうか…

 

 

「うおおおおっ!」

 

 眠気を邪魔するように後ろから自転車を必死に漕いでいる生徒の姿が見えてきた。黒髪のさらっとした武偵高校の制服を着た男子。間違いない、あれは近所の…

 

「おいっす、キンジー!今日は寝坊かー?」

「ノブツナ!そんな場合じゃない、助けてくれ!」

 

 まるで溺れて藁にも縋るように助けを求めて悲痛な叫びを出すキンジ。彼の名は遠山キンジ。金に次でキンジと呼ぶがたいていキンジで。俺の住んでる武偵専用のマンションのお隣さんである。一体何事かと目を凝らせば‥‥なんだか物騒な銃器を付けたセグウェイが数機、キンジを追いかけているではないか。

 

「‥‥」

 

 俺はこっそりと木陰に隠れる。先に言っておこう、面倒です。キンジ特有のスキル『フラグ建築士』。彼は何かと面倒な事に巻き込まれる癖があるようだ。朝っぱから、しかもこんな暖かい日から面倒に巻き込まれるのはゴメンだ。

 

「ちょ、薄情者ぉぉぉっ‼」

「許してやキンジ?今日は桜餅を食べたい気分なのだ」

「知るかぁぁぁぁっ‼」

 

 どうにでもなれとキンジはやけくそに自転車をこぐ。俺は気配を消して自動追尾の武装した無人セグウェイが通り過ぎるのを待つ。

 

「…行ったな。さて行こうとしますか」

 

 決めた。道中にあるいつも通っている和菓子屋さんでお団子と桜餅を買おう。

 

__*__

 

「…なんじゃこりゃ」

 

 俺が見たものは。薬莢があちこちに散らばり、破壊されガラクタと化したセグウェイがスクラップされていた光景だった。火薬と硝煙の臭いがたちこむ。どうやらここでドンパチしたのだろう。

 

「キンジか?いや、こんなことができるのは条件が限られるし…」

 

 キンジがやったとすればこの有様は間違いなく女絡みだ。なぜ女だかって?アイツは女がいると強くなるからな。何台か損傷が少ないセグウェイを見る

 

「…そうだ、これを直して通学用に使ってみるか」

 

 残りの部品は売りつけれるし儲け儲け。俺はセグウェイを2台担いでのんびりと歩みを続けた。

 

_20分後_( ◜◡^)_

 

「うん、やっぱ帰ろうかなー」

 

 去年まではバイクで通学していたから遠くねえと思ってたんだけど、意外に遠いのな。え?そのバイクはどうしたかって?言わせんなよ。おとといの任務で悪い奴等にダイレクトアタックしておじゃんさ。

 

「レインボーブリッジ到達できません!」

 

 どこかのサンバディトゥナイしてる警察官っぽく愚痴っていると、爽やかな風が吹く。そしてほのかに香る草原のような優しい香り。ああ、今日も彼女は道中にある公園のベンチでぼーっとしている

 

「‥‥」

 

 ミント色のショートヘアーに琥珀色の瞳。ゼンハイザーのヘッドホン、PMX990をつけ、SVDことドラグノフ狙撃銃を背負っている武偵高校の制服を着た少女。無表情で何を考えているかわからないポーカーフェイス(?)。俺はそんな少女を知っている。つか同じ学校の生徒だし。いつも見かけたり、会うたびに風が吹く。

 

「おいっす、レキ。こんな所で何してんだ?」

 

 レキと呼ばれる少女は俺の呼び声に気づいてこっちを見る。うん、本当に無表情なのよな。そんな彼女は生徒からは『ロボット・レキ』と呼ばれるほど。しかし、そんな彼女はドラグノフを使えば天才的なスナイパーになる。去年は彼女とバディを組んだから進学できました(ニッコリ)。

 

「…『風』の声を聞いてました」

 

 あちゃー…いうの忘れてたぜ。レキ、絶賛厨二病なんだよね。去年も『風』がどうのこうのでさイタイのよねー。

 俺だけしか知らないからいいんだけど、他の人が聞いたらドン引くぞ。なので俺がしっかり治してあげなくてはな(`・ω・´)

 

「で、風はなんて言ってたんだ?」

「『ここにいれば待ち人あり』と」

 

 …神社のくじ引きですか?時折よくわかんないことがあって正直くじけそう。

 

「…もしかして俺がくんの待ってた?」

「?」

 

 おおい、首を傾げるな、傾げるな。こっちが聞きたいわ!レキを待たせるとはけしからん野郎だ。懐から懐中時計を確認する。もう始業式は始まってんなぁ。その待ち人Aはどっかで女をつるんで学校に行ってるに違いない。まったくけしからん!

 

「しゃあない、どっかでタクシーを拾うか。レキ、そんなとこで待ってないで俺と一緒に行かないか?」

 

 レキは俺とは別の方向を向いてじっとしている。うーん、これは考え中か?

 

「…そういう選択肢もありますね。わかりました、一緒に行きましょう」

 

 お前は脳内でルート選択してんのか。まいいや、去年と変わらずいつものように俺だけ駄弁りながら一緒に登校するなら構わないさ

 

「和菓子屋で桜餅買ったんだ。食うか?」

「ありがとうございます」キリッ

 

 あ、そこは素直なのか…

 

 もっもっもっ‥‥

 

「‥‥かわいい食い方すんのな」

「?」

 

 とりあえず撫でよう。とりあえずレキに駄弁りながらタクシー乗り場まで歩いていこう。一週間の間、師匠と一緒に日本アルプスに上って修行したこととか、その山中にゴリラよりでけえ猿とサバイバルしたり、『私は一向にかまわんッッ!』とかよく言う師匠の友達の人とごはん食べたり色々…

 

 

 この日を境に、物語は始動する。リリカル…じゃなかった、『緋弾のoutlaw』、始まります

 




レキは癒し。

 そんなテンションで作ってみました。
 更新ペースはゆっくりとします。


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2話 ダイヤボーは突然に

レップーケーン、シップーケーン

時折ファイナルファイトとかメタルスラッグとか懐かしの2Dアクションとかをやりたい…


__東京上空__

 

「副社長!?さすがにパラシュートを付けた方がよろしいのでは!?」

「なにを言っている!食パンを咥えて『ちこくちこくーっ!』をスタイリッシュにやりたかったんだ!オレは絶対にやるぞ!」

「副社長!?それとパラシュートなしの関連性が全く分からないのですが!?」

「わからんのか戯け!これをやれば友達に自慢できるんだからな!」

「副社長、目的を忘れずに‥」

「ああ、わかっている。では行ってくるぞ!」

「…ですのでパラシュー」

「Yeaaaaaaaaaaaaaっ!」

「‥‥パラシュートどころか食パンも咥えずに行っちゃったよ…」

 

__________

 

キンジside

 

「…」ムスーッ

 

 皆さま、遠山キンジと申します。まさか入学して早々今噂されている『武偵殺し』に襲われて、その道中に見つけた親友に見捨てられ、挙句の果てには神崎アリアという見た目は中学生中身は高校生の女の子に助けられて、かくかくしかじかで俺はヒスッてセグウェイを撃退して…そして今に当たる

 

「…」

 

 なんということでしょう。まさか同じクラスになってしまうとは。しかも隣の席になってしまうとは。『アリアを守る(キリッ』とか言ってたヒステリアモードの俺をぶん殴りたい。そんでもって周りの野郎共は羨ましいとか愚痴るし女の子たちは女たらしだと愚痴るし…なんなのこれ、俺は普通にいたいのに出鼻をくじかれた気分だ

 

「…ところで」

 

 こちらを不機嫌そうににらんでいた神崎が第一声を開ける。

 

「キンジの隣のそこの席、空席なんだけど。私、そっちの席がよかったわ」

 

 ザワッ

 

 …え?なんでみんなぎょっとしたような顔をするんだ?…ちょっと待て。まさかと思うけど、嫌な予感がするんだけども…。近くにいる俺の親友2号の武藤に聞いてみる

 

「…もしかしてこっちの席は…ノブツナか?」

「…ああ、『狂犬』ノブちゃんだ。」

 

 ご愁傷さまと武藤は肩を叩く。余計なお世話だっつーの‼項垂れる俺に神崎が興味津々な顔してこっちを見る

 

「誰?そのノブちゃんって人?」

「ノブちゃんについて教えて進ぜよう!」

 

 悪乗りで話に入ってきたのは、金髪のツーサイドアップの童顔の女の子、俺の親友かつ腐れ縁の峰理子だ。周りからはロリ巨乳だと言われているが果たしてその通りである。

 

「本名、犬塚信綱‼マイペースな雰囲気を醸し出すけど…授業は常にさぼる!机の中に手榴弾、弁当と見せかけC4‼昼寝の邪魔する輩は磔拷問‼強襲科でもやることえげつないことから『狂犬』と呼ばれる男、それがノブちゃんだ!」

「そして始業式も2年生初日も早々にさぼりやがった…」

 

 理子は相変わらずオーバーに説明するが、8割方その通りである。しかも1年の頃俺は信綱と同じクラスだった。授業中、あいつの机の中に隠れていた催涙ガススプレーと唐辛子の粉塵が漏れて教室が煙に包まれて死にかけたのははっきり覚えている…まさか今年もそんな目にあうのだろうか…

 

「やべえ。キンジの奴、遠い目をしてやがる」

「よっぽどひどい目にあったんだよねー」

 

 ま、まあ信綱なら気を付ければなんとかなるだろうな…うん、頑張ろう…

 

「と、ところでさ、俺の後ろの席も空いているんだけど…誰かくんのか?」

 

 ザワッ

 

 …え?うそでしょ。まだなんかあんのかよ。またクラスのみんながザワついてるし、武藤はマジでご愁傷様とか哀れみを持った顔してるし、なんなんだよ!

 

「キンジ…お前の後ろは…ジークなんだ…」

「‥‥マジで?」

 

 

____

 

信綱side

 

 本日は晴天なり。タクシーに乗って着いたものの、クラスがわかんないから結局は授業をさぼって屋上で過ごすことにしました。

 

「あは~、こんなことなら枕を持ってくればよかったな~」

 

 チラッと隣を見る。レキは相変わらず外の景色をぼーっと眺めているだけだ。うーん、なにを考えているのかよくわからない。まあ見て愛でるのもこれまた一興…じゃねーよ。暇すぎんだよ。

 

「な、なあレキ。今日さ暇だったらラーメン食いに行かね?いつもの『一文字百太郎』ってとこでさ」

「…」

 

 はい、いつものスルーですね。と思う方、レキ観察検定3級は取れませんぞ?最近になって瞬きの回数でyesかnoかわかるようになった。奇数なので今日はOKということだ。もちろん俺のおごりで

 

「さーて、そうと決まればぁ、今日はさっさと早退‼あとはまたーりしようずぇ!」

「‥‥」

 

 ん?レキが空を見上げたぞ?俺もつられて見上げると上空に飛行機が飛んでいるのが見える。まあ近くに飛行場もあるしごく普通なんだが…

 

アアアアアア…

 

 …空耳かな?空から誰か叫んだ声がする。気のせいか通り過ぎた飛行機からなんか黒い点がこっちに近づいてきてねえか?

 

Yeaaaaaaaaaaaaaッ‼

 

 あ、気のせいじゃねえや。明らかに誰か急降下してくるのが見える!しかもこの声聞きおぼえがあるぞ!

 

「Die yabooooooooooo!!」

 

 嗚呼、此奴は知っている。同年齢ながらも金髪で白と赤の袴を着た、日本かぶれのアホ‼

 

「シップーケーン‼」

 

 このまま屋上に落下してミンチになるかと思ったんだが、いつものようにあいつの手から出される風の気弾で相殺してうまく着地をする。おかげで目を覚ますような強い風が吹く。‥‥あ、レキさん今日はグリーンなんですね

 

 

「HAHAHAHA‼久しぶりだな!レキ、ついでにノブツナ‼」

「俺はついでかこの野郎」

 

 紹介しよう。俺の腐れ縁のダチであるジーク・ハワードだ。アメリカ出身で、今や世界的有名な大企業『ハワード・コネクション』の副社長である。ちなみにジークの爺さんはサウスタウンとかいう町に住み、マフィアより恐ろしい存在だったとか。今は孫にぞっこんな好々爺であるらしい

 

「で、なんかようか?」

「どうだ?オレのかっこいい登場シーンは。まさにブシドーであろう?」

 

 あと『古武術』を習っているのだがどこどう見たら『武術』なんだか。ブシドーだのオモテナシだの色々と間違った日本の知識を持っている。こういうのは突っ込んだら負け。

 

「はいすごいすごい」

「フハハハ、もっと褒めてもいいのよ?」

「殴るぞ」

「ショボーン」

 

 しょぼくれんな。お前がショボーンしても可愛くねえよ。

 

「で、何の用だ?」

「どうだ?オレのかっこry」

「無限ループにはさせんぞ?」

 

 此奴の悪乗りには毎度疲れる。レキに至っては退屈なのかうとうとしてるし、さっさと要件を言わして片づけよう。

 

「で、本当に何の用だ?」

「うむ。実はな…」

 

 むむ。珍しくこいつが深刻な顔をしている。まあ世界的大企業だし、爺さんマフィアよりすげえしよっぽどなことなんだろう。内容によっては手伝えるか否かだが

 

 

 

「‥‥忘れちゃった☆」

「‥‥」

 

 

 よし、片づけよう。俺はさっそくこいつを足払いでこけさせ両足を持ってジャイアントスイングの如くグルグルと回る

 

 

「そおおいっ‼」

 

 そして屋上から思い切り投げる!

 

「Nooooooooっ!?」

 

 投げ落として大丈夫かって?地上から数百m離れた上空から着地して無事なんだし、大丈夫だろ。ん?ありえないって?そもそも高校生が銃でドンパチする時点でおかしいしから気にすんなって

 

\シップーケーン‼/

 

 \キャアアアアッ/\スカートがっ‼/\親方、空から外国人が‼/

 

 ほらな?大丈夫だった。…たぶん。さてとレキのほっぺをつついて起こすか。マシュマロみたいに柔らかいほっぺだな

 

「おーい起きろ、レキ。今日はもう帰ろうぜ」

「‥‥」コクコク

 

 無表情で無言ながらも頷いてついてきてくれる。1年もこんなやり取りだったが少し進歩できて嬉しい今日この頃。




もうちょっとほのぼの回は続きますかも
はやくドンパチトリガーハッピーをしたい
でも戦闘描写うまくないのよね(´;ω;`)ウゥゥ
頑張らなくちゃ…


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3話 犬塚信綱はクールに去るぜ

DVDで緋弾のアリアAAを借りてみました

‥‥で、レキの台詞はいつになったらでるのかね?


「絶対にいやなのだ!」

「なーそこんとこ頼むよー」

 

 武偵高校にはいくつかの学部学科がある。拳銃や刀剣など武装して強襲逮捕を行う強襲科、車輌や船舶、航空機の運転、整備に特化した車輌科、探偵術や推理学による観察、分析に特化した探偵科などがある。

 で、俺達がいるのは武貞の装備品のメンテやカスタマイズを行う装備科ってとこにいる。そして俺の頼みを断っているショートカットの小柄な女の子は平賀文。俺が知る限り一番腕のいい装備科の生徒だ

 

「だからさーちょいっと修理するだけじゃん?いい値を出すからさー」

「…とか言って、以前修理してあげたドローン覚えてる?」

「あー、銀行に引きこもってる強盗どもに向けて爆弾装備して神風アタックしたあれか?」

「どうせハチャメチャに改造するつもりなのだ!」

「ままま、そう怒んなって。今回の代物は通学用に使おうって思ってるからさー」

 

 うまいぐあいに機嫌をとらなくては話を聞いてくれない。なんとか宥めて話に乗ってくれた

 

「‥‥で、直してほしいのは何なのだ?」

「ああ、このセグウェイなんだけどな…」

 

 ごとりとテーブルの上にセグウェイを2台置く。すると平賀の奴は驚いたように目を開いた

 

「ちょ、これって『武偵殺し』の証拠品じゃない!?」

「あ?なんじゃそりゃ?」

「見てないの?最近話題になってる武偵を襲う殺人犯‼」

 

 つまるところ今朝キンジを襲っていた無人セグウェイは武偵殺しの仕業らしい。さらには自転車に爆弾がしかけられていたとか。あいつの悪運は呆れるほど強いようだ。それで現場に行った鑑識科は残りの残骸を回収して鑑識しているところとの話だ。

 

「まさか勝手に現場から証拠品を持ち去ってたの!?」

「んー、知らね。奴さんの証拠が欲しけりゃやるけど、そのセグウェイはしゃんと修理してくれよ」

「仕方ない…値段はこれでいい?」

 

 平賀は仕方ないと観念して、電卓に値段を打って俺に渡す。わーお、結構なお値段で。

 

「ぼったくってねえよな?」

「何言ているの?当たり前の値段なのだ!」ドヤァ

 

 仕方ないな。財布から払えるかどうか残金を確認するけども…やっべぇ、足りねえ

 

「あ、後払いでもいいか?」

「まいど~♪」

 

 やっぱりぼったくられているような気がする…。まあ腕は申し分ないし明日には完成しているとかいうからしっかりやってくれるんだろうな。用は済んだしさっさと出よう。

 

「レキ、待たせちまったな」

「…」

 

 装備科の棟を出て入り口の近くでレキは待っていた。しばらく待ちぼっけをさせちまったのに構わないと首を横に振ってくれた。

 

___

 

「おたく渋いねぇ!」

 

 そう言ってラーメン屋の店員は俺とレキに本日のラーメンを運んできてくれた。ラーメン屋『一文字百太郎』は俺がよく通う所である。つか、金髪、グラサンにダウンベストでジーパンの店員や厨房では「破壊力ぅぅぅぅっ!」って叫び声が聞こえるし、この『芽多留巣羅ッ具ラーメン』て大丈夫なのこのお店は…

 

「…替え玉ください」

「あいよー!」

 

 はや!?レキ食べるの速っ!?そうだった、こいつは見た目に反する大食いキャラだということを忘れてた。お財布、大丈夫かな…

 

「信綱さん…」

「あ?ちゃ、ちゃんと食べるぜ?俺の分は…」

「最近『武偵殺し』が話題になっていますが、信綱さんはどうしますか?」

 

 レキは寡黙なところが多いのだが、任務の打ち合わせや仕事の相談とかこういった時はやや饒舌になる。

 

「…私の友人はそれを追っています。他の生徒も調べているようですが…」

「うーん、俺は知ったこっちゃねえな。そいつとは関係ねえし。…まあ俺の私生活の邪魔をするなら絞めるけど」

「…」

 

 あれま、俺が動くのか気になっていたのかな?動かないとわかった途端黙ってうなずいてるし…まあやられた連中にはドンマイとしか言いようがない。いつかは自分が死ぬかもしれん道を選んだんだ。それぐらいの覚悟はするべきだ

 

 

「あいよ、替え玉ひとつ!」

「…あと餃子を5人前」

「おたくよく食べるねぇ!」

「レキさん、やめてください、俺の財布が死んでしまいます」

 

___男子寮__

 

「さようなら諭吉様…こんにちは小銭…」

 

 なんということでしょう、軽かったお財布が今やいっぱいの小銭で膨らんでいる。次からはレキとごはん食べに行く際はお財布に余裕を持たしていこう…

 

「あ、そうだ。キンジの奴はどうなったのかな?」

 

 今朝会って以降あいつを見ていなかった。あいつは無事に学校に着いたのかまたはた病院でまずい病院食を食べる毎日を送るハメになったか。俺は口笛を吹きながら隣のキンジさんのドアの前に立つ。そして腰につけてるポーチからピッキング道具を取り出して開ける。なんで持ってるかって?武偵だからさ(ゲス顔)

 というかこいつは本当に警戒心ないんだよなぁ。あ、簡単に開いちまった。さてと今頃何してるんですかねぇ

 

 

「キンジ!あんたは私の『奴隷』になりなさい!」

 

「」

 

 なんということでしょう。キンジさん宅にお邪魔すると部屋にはピンクのツインテールのガキンチョと元気にぴんぴんしているキンジさんがいらっしゃるではありませんか

 

「‥‥マジカ」

「!?ちょっと!?あんた誰よ!?」

「ゲッ!?ノブツナ!?」

 

 俺のとっさの一言に気づいたピンクツインテロリは驚いたような顔をして、キンジさんは『げぇっ!?関羽!?』みたいに絶望した顔をして俺の方を見た

 

「…ま、まあキンジさん。世の中にはいろーんな趣味や趣向があるんだけどさ」

「ま、待ってくれノブツナ!これは誤解だ!」

「…さすがに幼女と『奴隷』プレイはアウトでしょ…」

 

 ちょっと引くわー。マジで引くわー。だが人にはいろんな思考がある。共感はあるがそれを否定することも肯定することもできない。なのでキンジのこの先を案じながら犬塚信綱はクールに去るぜ

 

「ま、待ってくれー‼」

「達者でな。あと教室、隣の席だったら…とりあえず殴るわ☆」

 

 キンジも男だから仕方ないんだ。…でも幼女はねえわ。俺はそそくさと部屋を出ていく。嗚呼、明日からアイツは『女たらし』から『幼女たらし』になっちまうのか…

 

 その夜

 

「……」

 

 眠れん。今日は疲れたから早く寝ようと思っていたのだが…

 

バン‼バン‼\風穴ぁぁぁぁっ‼/バン‼バン‼\ちょ、アリア…ギャーっ!/

 

 隣からアリアという子が起こりながら銃を乱射している音とキンジの悲鳴が聞こえる…

 

「‥‥銃声とか、あいつらどんなプレイしてんだよ…」




独自設定も多い…原作は…少し無知です、ごめんなさい



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4話 ジークと朝食&『暗殺者』っス!

漫画版悪魔のリドル、今何巻あるのかな…まだ少なかったような…

*注意
 
 オリ主がいます!ご注意ください!
 
 話の展開は蝸牛並、戦闘描写力はあまりありません、ごめんなさい!

 多作品のキャラもいます!

 『私は一向にかまわんっっ‼』の方、ありがとうございます!


 なんということでしょう。目が覚めたのは朝の9時ですよ。結局寝付けなかったからな。お隣のおバカ共がドンパチするわで耳が痛い。

 

「どーしよ…さぼろっかなー」

 

 掲示板じゃテストもねえし、ろくなクエストもねえし強襲科にいってもすることねえし、今日は寝過ごそう!と思った矢先に携帯が鳴る。

 

「もしもし?」

『ユーキャンノッ』

 

 速攻で切る。なんでジークの野郎にモーニングコールされなきゃなんねえんだよ!てかまた鳴ってるしよ!

 

「んだよジーク!なんのようだ!?」

『HAHAHA!ノブツナ、おはよう!』

「5秒以内に言え。切るぞ」

『なに、頼み事を思い出したのだ。朝食も用意しているぞ』

「…仕方ねえな。ちょっと待てっろ」

『40秒で支度しな!』

「やかましいわ!」

 

 言われるもなく、40秒以内で支度はしました。

 

「で、どこで待ってんだ?」

『このままベランダまで来てくれ』

 

 指示通りにベランダに出てみると、ジークがクルーザーに乗ってドヤ顔で待っているのが見えた。豪華なクルーザーを見るところさすがは『何でもやるわよ』をコンセプトとしたハワード・コネクションだな。

 クルーザーへと飛び乗っていざ学校があるメガフロートへ。ジークの部下の人が朝食を運んできた。牛乳にトーストにシーザーサラダとハムエッグ。うん、コメントするまでもない

 

「朝食セット、590円でございます」

「とるのかよ!?」

 

 安くもなく高くもねえ料金だなおい!…まあおいしいけどさ

 

「頼み事はなんだ?碌でもねえことだったら今すぐ金返せよ?」

「そう急かすな。話は簡単だ。『武偵殺し』の共犯者を捕まえるのを手伝ってくれ」

 

 また『武偵殺し』か。気になったから昨日ちょろっと調べたけども、犯人はとっくの前に逮捕されている。…まあ昨日の朝にキンジを襲った輩が『武偵殺し』だとすれば模倣犯か共犯者かもしくは…

 

「…世間様は犯人は捕まったと思っているが、あれは明らかなフェイクだろう」

「だよねー。手がかりはあんのか?」

「サウスタウンで爺様が似た様な事件に襲われてな。まあ無事なんだけど」

「お前の爺さんが死ぬ姿は思い浮かばねえよ」

「それで爺様が調べたところ、『マッドギア』の残党の仕業ときた」

 

 マッドギア。たしかサウスタウンの隣町、メトロシティとかいう街であれこれやってた犯罪組織。市長の娘を攫ったことで市長の逆鱗に触れてしまい、筋肉もりもりマッチョの市長に潰されたというお茶目な組織だったな。

 

「てか、お前の爺さん狙うとか命知らずだろ」

「オレもそう思った。で、爺さんが残党の一人をとっちめて問い詰めたらジャパーンで『武偵殺し』とつるんでいることがわかった。爆弾の手口もそいつに教えられたようだ」

「ようはその奴さんに雇われたってところか」

「良く調べないとわからんな。偽名で依頼を出している。Sランクだ。頼めるか?」

 

 さて、報酬はあまり期待しないがどうしようかなー。こちとら退屈はしているが…

 

「とりあえずは乗ってやるよ。」

「うむ。助かる。…ところで、学校はどっち方面だっけ?」

「え?」

 

 この後めちゃくちゃ迷ってめちゃくちゃ遅刻した

 

__職員室

 

「あー、やっぱり乗るんじゃなかった…」

 

 学校に着いたものの、まさか先生たちがスタンバっていたとは…案の定捕まり職員室へ連れて行かれたンゴ。ジークの野郎は笑顔で俺を囮にして逃げやがった。会ったら殴る。

 

「犬塚ぁ、始業式早々さぼるたぁいい度胸してんじゃねえか」

「あ、犬塚君は2年A組ですよ?」

 

「いやー教室わからんかったんですよねー、高天原先生、かんぴょう先生」

「蘭豹だ!ぶっ殺すぞ!」

 

 俺を心配してくれる眼鏡の笑顔を絶やさない穏やかな女神なのが高天原先生、『ぶっ殺す』とかぶっそうなことを言うのがらんぴょう先生。てか教師が物騒な事言っていいのかいな

 

「よかった、教室が分からなかったんですね。これで来てくれますね?」

「あー、どうしよっかなー…」

「ゆとり、こいつを甘やかすな。去年なんか半年も授業をさぼっていたアホだぞ?」

「ままま、そう怒らないで下さいよ、伝票先生」

「蘭豹だ!」

 

 ウガーと俺に怒鳴る信憑先生。そんなに怖いから彼氏が…おっとその話はやめておこう。マジで殺されるかもしれん

 

「どうせお前は2年生になっても屋上でさぼるんだろ?」

「さっすが蘭豹先生。わかってるー」

「そこで、罰としてお前に課題を与える」

「あ?課題ですと?」

「今月中にSランク任務を最低3つこなしてもらうぞ」

 

 あ、なーんだ余裕っすよー。それならゆっくりやっても怒られはしねえし、存分に屋上で寝過ごせる。

 

「それだったらお茶の子さいさい。軽ーくジャブ程度で片づけてやりますよ」

 

 時は金なり。俺は早々に去って屋上でシェスタでもしたいのだ。職員室を後にしようとすると思い出したかのように蘭豹先生が付け加えた。

 

 

「あ、今週中に1つやらないと退学にするからな」

 

 

「鬼!悪魔!バツイチ!」

 

 『誰がバツイチだ!ぶっ殺す!』と叫んでS&W M500を発砲する寸前に俺はダッシュしてその場を離れた。スマヌ高天原先生、あの野蛮人を止めてくれ。つか今週かよ!?今日は木曜だし早くやらねえとやべえ!こうなったら…頼めるのはあいつしかいねえ!俺は走って屋上へ向かう。そして扉を蹴り開けて、いつも屋上で景色を眺めているあの子に話しかける

 

「レキィィィッ‼手を貸してくれぇぇぇっ‼」

 

 俺は三回転半・空中スピン・ジャンピングスライディング土下座をレキの前でやった。去年はトリプルアクセルフライング土下座をしたんだっけな。

 

「…」

 

 あれ?無言?あれか、レキの前まで滑り込んでの土下座はまずかったのか!?恐る恐る見上げると…あ、やっぱり無表情ですね。というか驚いたり、苦笑いしたり、養豚場の…それはいいや、なにかアクションしてくれないとこっちが困るんだが…

 

「…ノブツナさんが早かったですね」

「ん?それはどういう…」

「…わかりました。手を貸しましょう」

「嗚呼、なんというご慈悲!さすがはレキ大明神!いや女神さま!」

 

 まさかすんなりOKとは。まあ去年もこうやって組んだんだけども。それにしても…俺が早かったってどういうことだ?

 

___

 

「『武偵殺し』の捜査ですか?」

 

 とりあえず、今週中にSランク任務を適当にやるのと並行してジークの頼み事である『武偵殺し』について調べることをレキには話した。ジークの言う通り、偽名で依頼をはっつけてあるけども…『しょうゆ・ハワード』は明らかにバレバレなんですけどねぇ。

 

「おう、親友の頼みだ。真犯人とその協力者をとっちめる」

「そうですか…それで今はどこへ向かっているんですか?」

 

 レキも気になったか。今は学園の離れの教室、いわば空き室と特進クラス『X組』がある棟の3階の端っこにある『文学部』とかいう教室の前に着いた

 

「まず捜査するには情報と証拠が必要だ。『虎穴に入らざれば虎子を得ず』、ということで『虎穴』をよく通っている奴に会う」

 

 いわゆる同じ穴の狢?そっち側に詳しい奴に協力を要請するところだ。俺は古い木製のドアを押し開ける。鍵もかかってない上に入れば誰もいない空き部屋に見えるが…

 

「おーい、いるんだろ?隠れてねーで出てこいや」

 

 俺の声が虚しく響く。けどもそうしないとあいつは出てこないんだよな

 

「いやー誰もいない教室で男女が入ってナニをするか楽しみにしてたんっスけどねー」

 

 ほら来た。誰もいない教室に第三者の声が響く

 

「んなアホな。お前に用があるんだっての」

「はいはいっと。ノブちゃんがうちに会いに来るのは遊びじゃなくて仕事の話だけなんっスよー。レキレキは羨ましいっス」

 

 俺とレキは近づいてくる声の方に視線を向けばそこにそいつはいた。いや、最初からそこでじーっと見ていたといった方が正しいのかな。レキより慎重は低く、ツンとしたアホ毛が目立つふんわりした金髪のショートに赤い瞳。彼女は武偵の生徒とは違う制服を着た少女。

 

「よっす、鳰(にお)っち。おひさ」

「はーい、皆さんこんにちわーッス!強くて可愛い、走り鳰ちゃんっスよー!」

 

 走り鳰。俺の腐れ縁2号。去年まではミョウジョウ学園とかいう学校の生徒で生徒会長とかやってたとか聞く。でもそのミョウジョウ学園、実のところ暗殺者とかがよく集まる学校である。前までは何かチートじみた能力を持つ学生をターゲットに暗殺しろとか物騒な事をしていたらしい。で、その走り鳰も案の定、暗殺者でもあるのだがどういう風の吹き回しか武偵に入学してきた。

 鳰の業なのか、彼女を知る人は教師陣とごく一部の生徒だけのようだ。

 

 

「それでノブちゃん、ウチに協力要請っスか?」

「話が早くて助かる。『武偵殺し』と『マッドギアの残党』について調べてくれるか?あと手伝え」

 

 おっと、これを聞いた鳰のやつすんげえゲスい笑みをだしやがった。どうやったらバイ〇ンマンみたいなギザギザな歯になるんですかねぇ

 

「へー、ノブちゃん。いきなりハードな頼みをしてくるっスね」

「文句を言うならジークに言え」

「仕方ないっス…でもそれ相応の報酬は頂くっスよ?」

「ほれ、メロンパン。お前の大好物だ」

 

「yes、マイロード。うちに何でも任せるッス!」

 

 

 ちょろい、大丈夫なのかこいつ‥‥

 

「…情報は早く欲しい。んで確実な証拠は集めれそうなら集めてくれ」

「ラジャ―ッス!」

「…犯人お前じゃねえよな?」

「やだなー、そんなことしたらウチ、ノブちゃんに『ブチ☆コロ』っスよー」

「「あはははははは‼」」

「‥‥」

 

 ‥‥やっぱ不安だ。




用語集

マッドギア: ファイナルファイトという2Dアーケードゲーム。メトロシティという町を暴力と恐怖で脅かす犯罪組織。筋肉もりもりマッチョな市長の娘を攫ったことで市長とその彼氏の逆鱗に触れて壊滅。哀れマッドギア

市長: 本名、マイク・ハガー 筋肉もりもりマッチョな市長。投げ技が得意。市長の娘がさらわれ激おこプンプン丸でマッドギアと戦う(本当はコーディ―というキャラが主人公なんだけどね!)

土下座: 日本の礼式の一つ。単なる謝罪と侮るなかれ。嘆願・敬服・崇拝など、あらゆる自身の『心の深さ』を顕示する姿勢である。そのためフライング土下座、ジャンピング土下座など様々な土下座のパフォーマンスがあり、作品によっては土下座で相手を一撃でKO(心身的に)させる程


ミョウジョウ学園: 『悪魔のリドル』より。見た目は普通の学園。しかし『10年黒組』となるクラスがあり、一人の生徒をターゲットに暗殺をするために暗殺者が集うというトンデモクラス。標的を仕留めれば何でも願いが叶うとかいう『神龍システム』があるから仕方ないね

走り鳰: はしりにお 「悪魔のリドル」より。ふんわりとした可愛らしい見た目の女の子。でも、暗殺者。どういう能力かは『緋弾のoutlaw』で(ごめんなさい!)


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5話 達人は保護されているッッ

刃牙道を古本屋で読みました。烈さん…(´;ω;`)ウゥゥ

*注意‼
 
 この物語にはオリ主がいます!
 独自展開のため色んなキャラが出てきます
 戦闘描写はあまりうまくありません、ごめんなさい!

 『それでも私は一向に構わんっっ‼』という方、ありがとうございます!


「さてと…次はっと」

 

 あちら側の情報と証拠の方は鳰に任せてお次は自分なりに捜査してみるか。というわけでレキを連れてやってきたのは警視庁。

 

「警視庁…?」

 

 レキが珍しく首を傾げた、かわいいな。たしかに警察と武偵じゃほとんどが違うし、武偵の方が武装してあちこち動けるから武偵庁とは仲があまり良くない。だから捜査としてここに来るのは誰もがお門違いだと思うだろう。

 

「なに俺の師匠の知り合いに会うだけだよ。アポなしだけど…」

 

 あの人は物好きだから大丈夫だと思う…。さっそく中に入って手帳を見せる。時折師匠と一緒に遊びに来ているからすんなり入れた。そして、いつもの場所、警察官の柔道場へ向かう。柔道場では警察官の方たちが柔道着を着て柔道の組手の真っ最中だ

 

「はへ~、やっぱ気合入ってんな~」

 

 俺は感心しつつ目的の人を探す。いたいた、背の高く筋肉質な警察官の中にちょこんと身長が低く、袴を着た分厚いべっ甲の眼鏡をかけたご老人の姿が。

 

「やっはろー!渋川さん、こんにちはー!」

 

 俺が大声であいさつすると組手の真っ最中だった警察官達が一斉にこちらを見る。渋川さんはくるりとこちらの方を見て分厚い眼鏡をくいっとして確認するとまじめだった顔が和らいでニッと笑った

 

「おお、誰かと思えば犬塚か!」

「渋川さん、お久しぶりです」

 

 俺はぺこりとお辞儀をする。この人の名前は渋川剛気。年齢75歳にして今も尚警視庁で逮捕術を指導している。渋川流合気柔術の使い手で実戦合気道の達人で、「近代武道の最高峰」とか言われる行ける伝説ともいわれる方だ。東京ドームにある地下闘技場で大健闘したとか誰かが勝手に放った凶悪な囚人と戦ってたとかいろいろ俺の師匠からいろいろ聞かされた。

 

「おや?犬塚の隣にいる子は初めてみるな?」

「…レキです」

 

 レキも俺と同じように渋川さんにお辞儀をする。それを見ていた渋川さんはにやにやと俺の方を見て小指を立てる

 

「もしかして…犬塚のこれかい?」

「いや、ちょ、もー、渋川さーん」

「?」

 

 俺はにやけながら渋川さんを小突く。悲しいかな、レキは意味を分かってなくて首を傾げている…

 

「どうだい、今日も見学した後じっくり組手でもするかな?」

「あいや、今日はちょっと聞きたいことがあって…」

 

 さすがに警官の前で『武偵殺し』の話をしたら睨まれるよなぁ…。とりあえずきょろきょろしてここでは話しにくい雰囲気をだしておく。

 

「…よっしゃ、わかった。わしらだけにしよう」

 

 さすがは渋川さん、わかってらっしゃる。警官の人たちに出てもらって、柔道場内は俺達だけにしてもらった

 

「で、話ってのはなんだい?」

「実は…親友の頼みで『武偵殺し』のことを調べててさ」

 

 ぴくりと渋川さんは反応した。まあ武偵殺しの事件は警察がもう一月前にその犯人を逮捕したんだもんな。今さらぶり返しても警察の面潰れになり兼ねないだろう

 

「…犬塚も警察が逮捕した犯人は違うと思うのだね?」

「ええ、不自然というぐらい証拠が揃っていますからね。今逮捕されている人の名前はたしか…」

「神崎かなえ。わしも一度見かけたが、一目でわかるよ。あの人はシロだ。人を殺めるような性じゃない」

 

 やっぱりわかるんだ。と俺は感心しつつ渋川さんに資料を渡す。一昨日の朝にキンジが襲われたという自転車ジャック事件の資料だ。

 

「武偵が調べてるチャリジャック事件です。共通点があるとすれば爆弾が仕掛けられたことぐらいですけどね」

「ふうむ、爆弾か…わしはそっちの方は詳しくはないが、警察の方は密かに武偵殺しの事件を調べていたな」

「え?どんなことです?」

「たしか、可能性事件とか…資料室に詳しく載っている。見るかね?」

 

 というかわしも参加したいと言い出す渋川さん。うん、あなたが出ちゃうとワンパンで終わってしまいます。見るだけでいいですとなんとか宥めて資料室に向かう。さすがは達人、警視庁の上に話すとすんなり入れてもらえるとは。さっそく資料室に入ると、渋川さんはぴたりと止まった

 

「…犬塚、お前さんもわかるかい?」

「ですね、俺達しか入ってないのに誰かいる気配がもんもんと」

「…右奥に潜んでます」

 

 

 レキはドラグノフを構えていつでも撃てるようスタンバっている。渋川さんは右へ、俺は反対方向から隠れている奴を追いこむ。最初は悟られないように気配を消して忍び足で、そして一気に駆けて相手に虚をつかせる。

 

「うひゃぁっ!?」

「な、理子!?」

 

 資料室に潜んでいたのはなんと理子でした。なんというかこのまま気配を消して潜んでいれば逃げれると思っていたのか本棚の後ろで座って伺っていたのか。

 

「も、もー、びっくりするじゃない!理子、心臓が止まるかと思ったよ!」

「いや、なんでてめーがいるんだよ」

 

 理子は探偵科でトップクラスの情報操作、収集に長けているけどさ…

 

「おやおや、お嬢ちゃんや。気配バレバレでうちに黙って忍び込むなんて無理があるんじゃないかい?」

「うそ、理子誰にもバレてないと思ってたのにー!」

「お前の潜入じゃ渋川さんにはバレバレだ。あと俺も」

 

 がおーっとほほを膨らませる理子を無視してレキに武装解除の合図を送る。まあ武偵が渋川さんにバレずに潜入するのは無理ゲーだな。さてと改めて聞かなくては

 

「それで、お前はどうしてここにいるんだ?」

「えーと、キーくんに頼まれたんだよー!『武偵殺し』について調べてくれって」

 

 なんだお前もか。確かに当被害者のキンジも気にはなるだろうしな。

 

「だったら話は早いな。俺らも調べてんだ。」

「げっ!?ノブちゃんとレキュも!?」

 

 おい、なんだその嫌そうな顔は。こちとら今週中にSランク任務を済まさなくちゃ退学されるかもしれねぇんだぞ

 

「丁度いいじゃないか。えーと資料は…これだ」

 

 渋川さんは孫をあやす様に笑いながら宥めて資料を出してきた。『可能性事件』というのは今起きた事件が前にあった事件と関連性があるかもしれない事件のことである。

 

「警視庁が『武偵殺し』の事件と関連性があるかもしれないって言うのが一年前に起きた『豪華船舶沈没事故』だ」

 

 一年前の12月、豪華客船アンベリール号に爆弾が仕掛けられ爆発を起こし沈没した事件。乗客は全員脱出できたが、彼らを脱出させて爆弾の解体をしようとしていた武偵が1人犠牲になった。確か名前は…

 

「遠山金一…キーくんのお兄さんが亡くなった事件だね」

「あー、確かそんな名前だったな。俺、男女?女男のイメージしかなかった」

 

 金一さん、結局男なのか女なのかわからないままいなくなっちまったもんなー。キンジ、あの時はまいってたよな。あいつを叩くマスゴミがあまりにもうるさいんで俺が消火器を噴射させまくって爆竹と腐った卵を投げまくって追い払ったことしか記憶にない。

 

「警察の方は一年前に起きたこの事件とこれまでの『武偵殺し』の事件を関連のある物として神崎かなえを取り調べているようだぞ」

「つまるところ、一年前の事件と武偵殺し、そんでチャリジャック。関連するものは…」

「…乗り物?」

「おおっ、レキュ鋭いね!」

 

 確かにこれまでの事件を通してみると乗り物に爆弾を仕掛けているところだろう。手口が同じだとすればチャリジャックの犯人は1年前の豪華客船を爆破した野郎だな。

 

「船ときて、車にバイク、そして自転車とくる。次に仕掛けるとしたら…」

「次はタクシーかバスだったりしてな‼」

 

 渋川さんが笑いながら答える。うん、冗談どころじゃないですよ。マジで起こりそうで恐いんですけど

 

「よし、レキ。明日から徒歩で登校するぞ」

「…わかりました。一緒に行きましょう」

「いや二人とも用心しすぎだよ!?」

 

___

 

「いやー、ノブちゃんのおかげでスムーズに調べることができたよ!」

「今度はアポ取ってから来やがれ」

 

 ばいびーと手を振りながら理子は走って去る。それにしても理子の奴、いつから警視庁に忍び込んでたんだ?気配を探ればすぐに見つけてたけど、入るまでそんな気配はなかった。まあいいや。あいつがいることでもう一つ聞くことができなかったし

 

「渋川さん、もう一つ聞きたい事があります」

「なんじゃい?あれか、レキちゃんをおとすテクかね?」

「だから茶化さないでください!」

「?」

 

 悲しいかな、やっぱりレキは分からず首を傾げている…

 

「『マッドギア』っていう犯罪組織を調べてんですけど…最近、やたらと強い武器で武装している強盗集団を捕まえるのに手を焼いている事とか聞かれてませんか?」

 

 その話を聞くと渋川さんはにやりと笑って頷く。そして俺に耳打ちして話す。

 

「…ということじゃ。いいな~、犬塚は。わしも久々に大暴れしたいわい」

「これ以上暴れちゃうと怒られますよ?渋川さん、今日はありがとうございました」

 

 俺とレキは渋川さんにお辞儀をする

 

「なに構わんさ。久しぶりに犬塚の顔を見れてよかったわい!お前さんの師匠にもよろしく伝えてくれい!」

 

 じゃ、またと渋川さんは手を振って警視庁へ戻る。…たぶんあの人絶対いつか乱入してきそうな気がする。

 

 

\ツッパルコトガオトコーノー/

 

 おっと携帯が鳴っている。電話の相手は鳰からだ。

 

「もしもし、鳰か?」

『はーい♪みんな大好き鳰たんっスよー』

「…早かったな。どうだった?」

 

『うーん、証拠は消されてたんっス。でも、マッドギアについてはマシマシっス‼』




用語集

渋川剛気:『刃牙』より。渋川流合気柔術の使い手で達人。75歳と身長の低いご老人であるが老いをみせない立派な体格、そしてなにより合気道、柔術に長けた腕前を持つ。自分の2倍ある身長の大男さえ軽々と投げ飛ばし倒すほど。ムサシが出るまで強かった(白目
 余談ながら作者が一番好きな刃牙のキャラ

ツッパルコトガオトコーノー :男の勲章。 めちゃ〇け の数取ゲームを思い出す‥


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6話 ダイ・ハード(笑)

UZIくらうと普通は運転手さん気を失うどころじゃすまんぞ?
と思いながらアリア3話を見ていました

*注意
 
 この物語にはオリ主がいます!
 独自展開で色んなキャラがいます!
 戦闘描写はうまくありません、ごめんなさい!

 『私は一向に構わんっっ!!』という方、ありがとうございます!


「と、いうことがこれまでわかったことだ」

『そうか、ご苦労』

『いや~、うちがとっても頑張ったっスよー‼』

『‥‥』

『お、おーいレキレキ?回線繋がってるっスか?』

『…大丈夫、聞こえています』

 

 各々下宿と自宅に戻ったその夜、スカイポを通して報告を行っている。

 

『すいません、この使い方がまだわからなくて』

『全然OKっス‼そのうち慣れるッスよ~』

「それで、鳰はどう思うんだ?」

『そうっスねー、爆弾犯は単体っス。ノブちゃんが聞いた神奈川港で不法入国した武装集団を警察が取り逃がした事件の前日にチャリジャックが起きたことから、そうとう準備をしていたとみるっス』

 

 その爆弾犯がマッドギアと関連があるとすれば、次は手を組んで仕掛けてくるだろう。準備をしていたのすれば明日にでも事件を起こすに違いない

 

『…でも、今回の『武偵殺し』の狙いはなんでしょうか?』

「確かに気にはなるな。武偵をターゲットにするんなら一人での犯行で十分だ。」

『ましてやマッドギアと手を組むなら武偵の大量殺害?いや、ありえんな』

 

 たくさん殺したいのならバスとか電車に爆弾を仕掛けて爆発させればいい。

 

『ウチの推測だと、ターゲットは一人だと思うッスよ?』

『ほほう、そのこころは?』

『去年、ウチのクラスでも一人の生徒を狙うためにクラス全員を巻き込んだ生徒がいたッス。似たようなもんッスよ』

 

 となると…チャリジャックの件から考えて、ターゲットはキンジ、もしくはそれ以外の誰か。一年前の豪華客船沈没事故が関連すればキンジの可能性が高いが…

 

「まだそう決めるのは早いかもな。手を組んでるマッドギアの方を捕まえればわかる」

『明日、探しますか?』

「ああ。と、言うわけで明日はレキと一緒に学校さぼりまーす。鳰は引き続き情報と証拠集め、ジークは…適当にしててくれ」

『任せろ!ごろ寝してて待つ!』

 

 いや、ごろ寝して何を待つんですかねぇ…。とりあえず解散してひと眠りつこう。銃と刀のメンテと準備も終わったし明日に備えて寝る!

 

__*__

 

\ツッパルコトガオトコーノー/

 

 ああ、五月蠅い。この電話は鳰からか…何時だと思ってんだ。朝の8時じゃねえか、またモーニングコールかよ。

 

「どしたー?こちとらねむry」

 

『ノブちゃん‼起きたッスよ!』

「いや、お前のせいで目が覚めたんだけど?」

『違うッス‼バスジャックッスよ!』

 

 ハア!?さっそく起きたんですかい!?あれか、俺がフラグびんびんに立てたせいか!?俺はキンジのようにフラグを建築するような輩じゃなかったのに…

 

「都合がいいな、おい。現状は?」

『バスに爆弾が仕掛けられているのと、ZUIをつけた無人ルノーに追い回されてるッス』

 

 セグウェイの次はルノーか。壊した後、拾えるかな?証拠としてすぐに回収されるだろうし拾うのはあきらめるか

 

「武偵の応援は来てるか?」

『今のところ、遠山とアリアが向かってるみたいッスよ?』

「あいつらか…キンジがターゲットなら寄ってくる可能性はあるな。…鳰、その任務はSランクか?」

『え、まあ緊急のSランクがたった今ついてッスけど?』

 

 今日は金曜だし…丁度いい。ちゃちゃっと片づけてやるか。

 

「鳰、俺の名義で書いといてー」

『あ、まさか遠山達から横取りッスか!?せこいっス!』

「勝てればよかろうなのだ‼」

 

 電話を切ってすぐさまジークに電話を掛ける

 

『ふがほは‼ひっひゃいふぉいあしたこわ‼(訳:おはよう‼一体どうしたのだ‼)』

「…飯食いながらでもいいや。すぐにヘリを用意してレキを乗せてってくれ」

『ふぉうひゃい‼ふぉふぉへへ、ふぁひふぉへry(訳:了解した!ところで何の話ry)』

「うっさい、詳しい事はレキに聞け!」

 

 何言ってるのかわからないので速攻で切る。そして黙々と電話をかけた

 

『ノブツナさん、どうかしましたか?』

「レキ、今すぐ出れるか?」

 

___*

 

キンジside

 

「アリア‼しっかりしろ!」

 

 状況はまずい。爆弾はバスの機体の下に仕掛けられアリアはその爆弾の解体を試みていた。だが、俺がバスの屋根に取り付けられていた通信装置を外していたところ一台の無人ルノーが来てUZIで俺を狙撃。そしてアリアが俺を庇って負傷した。

 

「アリア、アリア‼」

 

 アリアの身体を揺らすが気を失っている。アリアが捨て身で撃ち無人ルノーを落としたが未だ爆弾は解除されていない。

 

 

ブロロロロロロ…

 

「‼まさかもう一台いたのかよ…」

 

 本当にヤバイ。今度はフェラーリか。今の俺にあれを撃ち落とす腕はないし、バスに乗っている生徒たちも負傷していて応援要請することもできない

 

「このままじゃぁ…」

 

 

\ギャバ~ソ‼アバヨナーミダ‼/

 

 …ん?なんか遠くから特撮ヒーローの曲が聞こえてくるぞ…。目を凝らして視るとフェラーリを追うように何か来ている。あれは…セグウェイ?そしてそれを運転しているのは…

 

「ノブツナ!?」

 

 武偵庁指定の防弾制服を着ないでCIRASというボディーアーマーを着て、左腰に刀を提げ、大音量で曲を流しながらこちらに向かっている。あれ、ノブツナが腰のポーチから何か取り出したぞ?あれは…M24型柄付手榴弾!?さっそくフェラーリに向かって投げやがった!

 

「みんな、伏せろ‼」

 

 すぐさまバスの中にいるみんなに叫ぶ。その後、手榴弾はフェラーリに当たり爆発を起こす。爆風が通り過ぎ、アリアを守りながらしゃがんでなんとか事なきを得る。顔を上げて様子を見ると、ノブツナはセグウェイを加速させこちらに近づいてくる。

 

「よいしょーっ‼」

 

 セグウェイを踏み台にして大きくジャンプをし、俺がいるところまで着地した。

 

「おいおい、なんだその顔は?」

「ノブツナ…助かった」

「助かった?バカヤロウ、運が良かっただけだ。UZIとか普通殺傷力が高いからミンチよりひでえことになってんだぞ?ポンコツでよかったな。」

 

 ノブツナは俺とバスに乗っている生徒たちにゲラゲラとゲスな顔で笑いながら言う。

 

「で、爆弾は?」

「バスの下に仕掛けられている。アリアが解除に試みてたんだが…」

 

 俺はアリアが負傷する経緯まで話した。ノブツナはため息をついて呆れるように俺をみた

 

「そういう時は先にアリアに伝えとけ。独断の行動は時に死にも繋がんだぞ?」

「…すまない」

「しゃあねえ…ここいらはレキに任せるか」

 

 そうつぶやいたノブツナは無線機を取り出した

 

「レキ、行けるか?」

『…ノブツナさん、いつでも行けます』

 

 通信が終えてトンネルを抜けると、ヘリが飛んでいる音が聞こえた。大型ヘリがレインボーブリッジの横を飛行している。ドアが開いており、そこからドラグノフを構えて狙いを定めているスナイパーの姿が…

 

「あれは…レキ?」

 

____

 

レキside

 

『それじゃあ頼むわー』

 

 ノブツナさんの軽い感じがするけれど私を信頼してくれる声を聞く。私は何も言わず無線を切り、狙いを定める

 

 標的はバスの下に取り付けられている爆弾…見つけた。照準を更に絞り込み狙いを定める

 

「私は_一発の銃弾_」

 

 銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない_

 

 _ただ、目標に向かって飛ぶだけ。

 

 

 引き金を引かれ、銃弾は飛ぶ。風のように速く飛ぶ銃弾は、バスの下にしかえられた爆弾の留め金を貫通。爆弾は転がってそのまま海の方へ落ちていく。そして、水中で爆発を起こし大きな水柱を立てた

 

「…任務、完了」

 

 無線で伝えてスコープで覗くと、ノブツナさんはいつものような笑顔で私に手を振る。

 

 ノブツナさんの笑顔を見ると時折感じるこの感覚…何なのだろうか…

 

『サンキュー!じゃあ次に備えてくれ』

「わかりました。…ジークさん、お願いします」

「合点承知の助‼」

 

_____

 

キンジside

 

 大きな水柱が起きて雨のように海水が降りかかる。気を失っているアリアにも当たり、彼女についている血を流してくれる

 

「…」

 

 なんとか爆弾を解除し、バスに乗っている皆を助けることはできた。…だが、俺とアリアの初めての事件の結果としては最悪だ。結局、俺は何もできないまま、アリアを傷つけてしまった…

 

「おい、武藤!なにぼさっとバスを止めてやがる!走らせろ‼」

 

 ノブツナが運転席にいる武藤に怒号を飛ばすのが見えた。

 

「なんでだ、ノブツナ?もう爆弾は取り除いたし、大丈夫だろ?」

「武藤の言う通りだ。やることは終わったんだ」

 

「バカ、アレが見えてねえのか?」

 

 ノブツナが指さす方には黒のハイエースバンが3台近づいてきている。ノブツナはLARグリズリーを抜きリロードをした後、バスの中にいる生徒に指示を出す

 

「いいか!死にたくない奴はしゃがんで頭と上半身を撃ち抜かれんようにしとけよ!」

 

 そうしているうちに3台のバンは窓からアサルトライフルを覗かせ乱射してきた

 

「あぶないっ!?」

 

 俺はアリアを守りながらとっさに身をかがめる。

 

「HK416か。なかなかいいもん持ってんじゃんかよ!」

 

 ノブツナはにやけながら狙いを定めて拳銃を撃つ。銃弾はバンのタイヤに当たり、バンはピンして転倒した。ノブツナはすぐさまリロードして2台目のバンも同じように撃った。3台目のバンはしつこく乱射をしてくるのでノブツナは身をかがむ

 

「しっかり目を隠して耳塞いで、口を開けとけよー!!」

 

 ノブツナはそう言ってバンに向かってスタングレネードを投げた。道路に大きくバウンドしたスタングレネードは閃光と爆音を発した。バンは大きく左右に揺れて柱に衝突して止まった。

 

「さてと、キンジ。バスの方は頼むわ」

「え?ちょ、ノブツナ、どうするんだ!?」

「殿は任せとけ。お前は頑張った、けが人をちゃんと手当しておけよ?」

 

 ニッと笑ったノブツナはそのままバスから飛び降りた。転がってうまく着地。あいつは振り返らず俺に手を振る。…ほんとに無茶苦茶するやつだ

 

 

____

 

ノブツナside

 

 さて、餌につられて本当にやってきた連中のお顔を拝見する前にもう一度確認しよう。残数6発、予備カートリッジ3つ、スタグレ4つと俺の愛刀『八房』、まあ十分かな?

 転倒した車2台、衝突した車1台から、幾人のチンピラ共がドアを開けて出てくる。鳰が調べたリストに載っている顔とほとんど一致する。

 

「ようこそ、マッドギアの皆さん。俺と一緒にドンパチしましょ♪」

 




用語集

ギャバソ:宇宙刑事ギャバンの替え歌のこと。リズミカルな曲で最後は爆発落ち

ハイエース:トヨタの大型車。スペースも結構広いので何人でも乗れる。ウスイホンにもよく出る

UZI:IMI社が製造した、短機関銃。大きいものから小型のものまである。殺傷力は高く、ふつうはミンチよりひでえことになる。武偵の制服が強いのか、威力が弱い粗悪品だったのか…

LARグリズリー:LAR社が製造した自動拳銃、マグナムオート。マグナム弾を発射できる銃だけど反動は強いのでコンペンセイターを付けて抑えるのが多い。弾数は7+1発

HK416:H&K社が製造したアサルトライフル。耐久性、精密度、威力、申し分のない銃。サイズも調整でき身長に合わせて運用できる。

銃火器の知識はあまりありません。間違ってたらごめんなさい!


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7話 ひもきり

アニメ版、グラップラー刃牙を鑑賞中…これじゃない感がはんぱない


*注意!
 
 この物語にはオリ主がいます!
 戦闘描写はうまくないです、ごめんなさい!
 独自展開のため色んなキャラがいます

 『それでも私は一向に構わんっっ‼』という方、ありがとうございます!


「リストに載ってる奴等ばっかり…これは儲けだ」

 

 出てきた面子はもう覚えた。ブレッドにダグにジェイク、ツーピー、アンドレにアンドレの弟、アンドレの兄、アンドレの父、アンドレの祖父、アンドレの伯父…ってアンドレ多すぎだろ!?

 

「…おう、兄ちゃんや。まさかてめえ一人で俺達を相手しようと思ってんじゃねえよな?」

 

 おい言わせんなよ。バスから一人降りてお前らの前に立ってんだぞ?べたすぎるシチュエーションだよね。言っても無駄だろうから、黙ってへつらいの笑みで返す。チンピラ共はあざ笑う顔が一変して睨み付けさっそくHK416を構える。

 

「調子に乗ってんじゃねえぞ、クソガキィィっ‼」

 

 連中は乱射してきた。突然話は変えるけど、豚に真珠、猫に小判という諺はご存知だろうか?いくら価値があるものでも価値を分からない者に与えても意味はない事。いくら性能がいい銃をチンピラ共にあげても戦闘力は上がるけども、それ以上の相手に挑むのには無駄である。

 蛇行するように駆けて飛んでくる銃弾の間を縫うように躱す。LARグリズリーで相手の肩、腕、足を撃ち抜く。一番威力の低い武偵弾だけどもその中でもマグナム系だからそうとう痛いので相手はのた打ち回る。命あっての物種、死にはしねえし後で処置してやっからそこで寝てなさい。

 

「あと16」

「このやろおおおっ‼」

 

 すかさず狙ってくるはアンドレファミリー。あそこでごちゃごちゃされてはなぁ…かっこうの的なんですけど。残りのスタングレネードの全てピンを引き抜き一気に投げつけバンの後ろへ隠れる。

 

\うわああああっ!?/\目が、目がぁぁぁっ!?/\バルスっ!?/

 

「あと10」

 

 はい、アンドレファミリー終わり。そこでゴロゴロしてなさい。

 

「うてうてうてぇぇぇっ‼」

 

 あぶねっ!?連中もしつけえな。あ、さっきのスタグレ全部使うんじゃなかった。テヘペロ☆…じゃねえよ!面倒くさいなぁ、突撃しますか

 

「ひでぶっ!?」

「あべしっ!?」

 

「な、なんだ!?狙撃!?」

「一体どこから‥‥」

「あ、あの向こうに飛んでるヘリか!?」

 

 あと9、8。レキ、ナイスアシスト。遠く離れたところで飛んでるヘリからの狙撃に連中は驚いている。聞いて驚け、俺のパートナーは学園最強の天才の狙撃手、『殺傷可能範囲(キリングレンジ)』は2051mだ。

 

『ノブツナさん、突撃してください』

「ありがとうよ。ぱぱっと片付けるぜ」

 

 拳銃をホルスターに納め、愛刀『八房』を引き抜き駆ける。距離を詰めればこっちのモノ。相手の銃を斬り、横腹を峰打ち。ナイフに取り換えて襲ってくる奴の攻撃を躱して背を峰打ち。もう一人と峰打ちして乱射してくる奴には倒れている奴のナイフを拾って膝小僧を狙って投擲。呻いてる隙に回し蹴りをお見舞い。

 

「あと4」

 

 刀を投擲。相手の股間を掠め相手がちびっている隙に踵落とし、あと3。アサルトを撃つ寸前に間合いを詰めて腹パン、あと2。めんどい、LARグリズリーで肩、足を撃って寝かす

 

「あと1」

 

 俺はグリズリーをホルスターにしまう。あと一人、俺めがけて撃ってくるけど、もう詰み。レキが狙撃でアサルトを撃ち落とし、俺は相手に顔面パンチ。チェックメイトです

 

『標的、鎮圧です』

「ナイスアシスト、助かったぜ。後は片づけておくから戻ってくれ」

 

 俺は背伸びして地面に突き刺さっている愛刀を引っこ抜いて鞘に納める。さてと、後は他の武偵が駆けつけて後片付けしてくれるまでここで待っておこうか。

 

「なかなかやるじゃねえか」

 

 ふと図太い声が聞こえたので振り返…る前に、殺気がしたのでしゃがむ!あぶない、筋肉が結構ついたがたいのいい太い腕が頭上を掠める。身を翻して伺うと目の前に拳が迫っていた。痛ってえパンチだな、両手で防いで下がる

 

「『あいつ』の言ってた通りだ。面白い奴が本当にいやがったぜ」

 

 金髪でグラサンをかけたレゲエ風な筋肉質の大男。リストには…たしかダムドとかいう男だったかな?

 

「隠れてみてるたあ随分といい身分で。」

「はっ、このダムド様をそこらへんの雑魚と一緒にしないでもらおうか!」

 

 見た目に反して速い拳を打ってくる。しまったな、レキを帰らすんじゃなかった。まいた種だ、責任もって片付けておこう。んで、頑張ったとレキに撫でてもらおう

 

「そらそらぁ!ぼさっとしてんじゃねえぜ‼」

 

 そんなことを考えている間にダムドの素早いフックが体に当たる。そして力いっぱい込めたパンチを叩きこまれた。俺は吹っ飛ばされてバンに叩き込まれる。

 

「いたたた…思ったほどやるなぁ」

 

 ダムドは大声で笑い、近くに堕ちていたHK416を両手で握りしめてバキリと二つに折った

 

「はっはっは‼どうだ、このスピード、このパワー‼お前ら武偵なんぞ敵じゃねえ!」

 

 確かに、ダムドは速くて、力強い。…でも、ただそれだけでそれ以上ではない。俺は見てきた…ホッキョクグマを素手で惨殺する男、餌に餓えた虎を空手技で屠殺した男…自分が強いと豪語してきた奴を軽々しく葬る男たちの強さを。そんなん見てたらこんな奴は…低レベルだ。

 

「‥‥敵じゃないのは、お前の方だ。」

 

__

 

ダムドside

 

「ほざきやがれええっ!!」

 

 生意気を言うガキだ。歴戦のダムド様を舐めた様な事を言いやがって。他の武偵が来る前にこのガキをぶちのめして戻ろう。俺はこのガキの顔面に向けてストレートの拳を見舞った。だが、このガキは軽々と躱しやがった。

 カウンターで奴の手刀が目の前に迫る。顔を横へそらして避けてもう一発…

 

プッツン

 

 なんだ今のは?首筋に痛みを感じた瞬間…俺の右目が真っ暗になって見えなくなった

 

「な、なんだ!?み、右目が見えねえ!?右目が真っ暗で何も見えねえ!?」

 

 そして首から激痛が後から来る。手を当ててみるとそこから血が流れている。首に親指が入るほどの穴が開いてやがる!?

 

「て、てめえ!?一体何をした!?」

「それぐらいの痛みで喚くな」

 

 真っ暗な右側から奴の声が聞こえる。右へ右へと向くがあのガキの姿が見えない。

 

「自業自得さ。レイプ、麻薬、暴力、殺害、積もるほどの悪行を重ねたんだ。右目が見えなくなっただけでありがたく思えや」

 

 それと同時に右側の顎に強烈な激痛が走る。脳が揺れる感覚がする。気が付けば目の前に地面が近づいてきている。…いや、俺が倒れているところか。目の前が真っ暗に_

 

「ま、右目の方は知り合いの医者に頼むっからよ、そこでおねんねしとけ」

 

__*

 

ノブツナside

 

「いやー、なんとか?バスジャック阻止して武装集団を捕えたんですよー?」

「確かにな…一応Sランクの任務も熟したし、良しとしよう」

「ですよね、ですよね?だけど…」

 

 はい、今俺はいるところは武偵校の事務室。近くには蘭豹先生の親友、綴梅子先生がいらっしゃる。んで、俺は机に座って目の前に置かれている白紙を目の当たりにしています

 

「始末書を書くことはないんじゃないですか?」

「確かにバスジャックを阻止して武装集団を捕えた…でも、レインボーブリッジを封鎖してどうする!」

 

 あ、そうだった。ドンパチして彼方此方壊しちゃったからレインボーブリッジは交通不可能になって通行に大きな痛手を与えちゃったんだ(笑)

 

 __二十分後__

 

「おい、20分で書いたのが『ゴメンヌ』だけかよ」

「いやー、その一言しか思い浮かべませんね」

 

 綴先生はため息をついて座る。というかその一言しか言えねえんだけど

 

「わかったわかった。あとはあたしがやっとくからよ。どうせ『ちゅどっ』て逃げるんだろ?部屋中を煙幕だらけにすんのは勘弁だ」

「さっすが綴先生!わかってらっしゃる!」

 

 俺は一礼して颯爽と部屋を出る。あーよかった、ちゅどる準備してたし怒られる覚悟でいたから安心したぜ。さてと、そそくさと携帯を取り出し電話を掛ける

 

『はーい、こちたら鳰ちゃんっス‼』

「よう、証拠の方はどうだった?」

『鑑識科が全部回収したみたいッスね。でもそれといった手がかりは見つけられなかったようッス」

 

 まあそうなるわな。犯人はよほどの完璧主義のようだ。

 

『でも、うち面白いものを見つけたッスよ?』

「おっ?どんなの見つけたんだ?」

『ハイエースバンは爆弾魔が用意したものだとわかったッス』

「そう判断したのはなんだ?」

『一台のハイエースバンの運転席に一本だけ、金髪の髪の毛が落ちてたッス』

「おいおい、バンに乗ってたのはチンピラ共だろ?金髪の奴なんて一人や二人いたんだぜ?」

『ふっふっふ、聞いて驚けッス!その髪の毛、DNAで調べたら女性のものだったんっス‼』

 

 女性…?今日戦ったチンピラ共は全員男だったな。リストには女性は載っていないし、となると武偵殺しの犯人は女性、しかも金髪。そうだとすれば、神崎かなえがクロではなくなる

 

「よっしゃ、鳰。次は捕まえたチンピラ共を尋問にかけてくれ。連中の頭を掴むぞ」

『ラジャ―ッス‼』

 

 そのまま携帯を切る。今日の晩飯何しようか考えながら校舎を出ると校門でレキが待っていたのを見かけた

 

「ノブツナさん、ご苦労様です」

「待たせたな。‥‥アリアの奴はどうだった?」

「額に傷がついた以外大きな怪我もなく無事のようです」

「そっかー、まあ聞きこむのは後にすっか」

「それと…まだ武装犯が残っていたのならちゃんと私を呼んでください」

 

 …あれ?レキさん、なんか怒ってます?無表情でよくわからないんだが…

 

「あなたは今、私と手を組んでいます。それは自覚するように」

「ア…ごめんぬ」

 

_______

 

???side

 

『話が違うではないか』

 

 電話がかかってきたからかけてみると第一声がこれ。嫌になるよねー

 

『貴様は『オルメス』を狙うよう我々に指示した。しかもオルメスと組んでいる奴は大したことはないと言っていた』

「…」

『だが、現状は違った。あんな男がいたのは聞いていないぞ。おかげでダムドや我が同志たちがやられた』

 

 責任を取れってことかなー?…ばかばかしくて反吐が出る

 

「…バカじゃないの?組織が壊滅され残党になったあんた達は今、私の部下なんだよ?多少の被害で喚くんじゃないよ」

『…貴様、我らマッドギアを当て馬に使うつもりか?』

「当て馬?面白いこと言うのね。所謂私の兵士、それふらい覚悟がないとイ・ウーには入れないよ?」

 

『…アルセーヌ。我々マッドギアを甘く見るなよ?』

 

 そいつはそう言い残してぶつりと回線を切る。そんなこと言われてもあんた達の器が知れてるよ

 

「…それにしてもノブちゃん、やっぱりえげつないなー。『紐切り』まで使えるなんてやっかいだわ」

 

 

 紐切り…指を皮膚の下に貫通させ、血管・リンパ節・神経などを直接断つというえげつない技。相手の首筋に指を突き込み、視神経をつかさどる神経を切断させ見えなくさせた。そんな技を使える人物は1人か2人ぐらいだけど、まさかノブちゃんも使えるなんて…ますます厄介な奴だ

 

「ま、そのためにマッドギアを雇ったんだけどねー」

 

 ノブちゃんはマッドギアに任せて私は目的を果たすために計画を実行する。




用語集

ダムド: ファイナルファイトのステージ1のボス。体格がでかくパワータイプなのだが口笛でチンピラ共を呼び集団戦に持ち込む。FBIにも通じて金の為ならなんでもやるせこい敵

紐切り: 『刃牙』より、鎬昴昇という鎬流空手の技のひとつ。手刀や足刀など斬ることに特化した鎬の空手の中で、最もえげつない技であり、皮膚の下に指を貫通させ、血管、リンパ節、神経を直接切断する。視神経を切断するけれど、実際には首筋にそんな神経はないの、許してや。指で神経を捕えることにタイムラグが起こるのが欠点。しかし、手を捻りを増して一瞬で引き裂く『新・紐切り』を生み出す。
 ノブちゃんがやったのは後者の新・紐切り


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8話 踊る羽田線


飛行機に乗りたい、ただそれだけ

*注意!

この物語にはオリ主がいます!

独自展開があります!色んなキャラがいます、ごめんなさい!

戦闘描写はうまくないです、ごめんなさい!

『それでも私は一向に構わんっっ‼』という方、ありがとうございます!


チンピラAさんside

 

「うぅ…」

 

 痛みに目が覚める。ここはどこだ?暗くて蒸し暑い部屋だ。身体を動かすが動けない。歯科治療の椅子に手錠や足かせ、鎖が巻き付かれている。

 

「おはよーございますッス」

 

 部屋がわずかに照らされる。椅子のすぐそばにふわりとした金髪の少女が立ってこちらを見ていた。ぎざぎざの牙がちらつく。

 

「な、なんだてめえは…」

「はーい、今からあなたに尋問するッス」

 

 その少女は楽しそうに笑いながらそばに焚いたお香を置く。このきついニオイ、まるで腐った海のようだ。

 

「正直に答えてくれれば助けてあげるッスよ?」

「…はっ、面白いことを言うぜ。」

 

 無駄だ。俺達がそう簡単にペラペラしゃべると思うなよ?

 

「知ってるぞ?武偵は犯人を殺しちゃいけないんだってな。どんな尋問をしたってむださ」

「…ふーん」

 

 そんなことも気にせず少女は両手にゴム手袋をはめてメスとニッパーを取り出す。そしてゲスな笑みでこちらを見た

 

「貴方の言う通りッス。武偵は殺しちゃいけない決まり‥‥でも、死ななきゃ構わないッスよ?」

 

 ゾクリ、自分の背筋に冷や汗が垂れた。やばい‥こいつは脅しじゃあない、ガチだ…。身体をふるわして暴れようとするが身体がピクリとも動かない

 

「あ、このお香、ウチの特性のお香ッス。意識はあるけども動かすこともできず、痛覚もさほどないっス。なのでしゃべってくれるまで拷問にかけるッスよ」

「な、なにをするんだ…っ!?」

 

 少女の笑みから恐怖を感じてしまった。少女は絵に描いたようなギザギザの歯を見せて笑う。

 

「去勢手術って知ってるッスか?」

 

_____

 

ノブツナside

 

「ぬー…次の犯行がわからんなぁ…」

 

 あれから2日経つ。バスジャック事件以降、さっぱりと爆弾犯の事件はなくなってしまった。マッドギアが関連してそうな件もなく、ただ暇な時間が過ぎるばかりだ。

 

「後は鳰からの情報を待つだけか…」

 

 部屋でごろごろすんのも飽きた。コーヒーを淹れて啜りながらパソコンを開いて情報をまとめる。爆弾犯は女性、一年前の豪華客船沈没事故と関連、仕掛けるところは乗り物、ターゲットはキンジ…

 

「…いや、キンジがタゲなのはおかしいな」

 

 改めて考えると少々おかしい。言っちゃ悪いがあいつは腑抜けている。女絡みになると強いが…武装組織などに狙われるほどでもねえ。一年前の豪華客船沈没事故で死亡したあいつの兄、遠山金一と関連性があるかもしれないからピックアップしてたが、それ自体がフェイクの可能性がでてきた。

 

「と、なるとターゲットは別。本当の狙いはなんだろうな…」

 

 そんなことを考えている間に携帯が鳴る。鳰か、いいタイミングだ。

 

「ずいぶんと長かったな」

『もー、ウチの苦労を知らないからそんなこと言えるッス!全員あっさりゲロッた後、潜入捜査して、情報操作、証拠採取そして整理するなどして結構かかったんっすよ!』

 

 電話越しじゃあたぶんものっそい怒ってらっしゃる。まあ俺推理すんの得意じゃないし?突撃バカだし?

 

「で、どうだった?」

『残りのマッドギアの残党のアジトに行ってみたけどもぬけの殻ッス。何処かへ移動したッスね。』

「殴り込みはできないか…後は?」

 

 アジトへ殴り込みしてトリガーハッピーしたかったけどなー、残念だ

 

『幻覚を使っての尋問は大成功ッス!爆弾犯が誰かとは最後まで言わなかったけど爆弾犯が狙っている人物は即ゲロったッスよ」

 

 鳰は相手に幻覚や暗示をかけるのが得意な元暗殺者だからな。奴さん、そうとう嫌な幻覚でも見せられたんだろう…

 

「そのターゲットは?」

『オルメス。そう言ってたッスよー』

 

 …オルメス、ねえ。俺でもわかるわ。あいつが祖国に帰るとか教室で話題だったようだし、時間も場所も明かしていた。だとしたら…急がないとまずいな

 

「ありがとうよ。鳰、悪いけどもうひと頑張りできるか?」

『やっぱりノブちゃん人使い荒いっす!…一応、準備はできてるッスよ』

 

 プンスカと鳰は言いながら電話を切る。さてと、俺は黙々と支度をすませた後、電話をかける。

 

___

 

キンジside

 

 __もし俺の推理が正しければ…アリアが危ない!

 

 理子のおかげでヒステリアモードになり、頭の中で整理ができた。過去の武偵殺し、兄さんの事件、そしてチャリジャックやバスジャック…次に狙うとすれば飛行機、アリアが乗る7時のチャーター便だ。

 

「急がないと…」

 

 今から乗り換えで走っていければぎりぎり間に合うか…いや、武藤に車を借りていくか…

 

\カメーンライダーブラァッ‼/

 

 …特撮ヒーローの曲を大音量で垂れ流しながら道路を走行するバカはたった一人しかいない。音が聞こえる方を見ればノブツナが大型バイク スズキ_HAYABUSA(隼)に乗って俺の近くに止まった。

 

「よっ、探したぜキンジ。乗れよ」

 

 なんで俺を探してたのだろうか。聞く前にヘルメットを投げ渡される。

 

「羽田空港まで行きたいんだろ?連れてってやるよ」

「!?どうしてそれを…」

「お前、アリアと組んで『武偵殺し』の真犯人を追ってんだってな。やるなら最後まで芯を通せ」

 

 ノブツナはニシシと笑いながら俺を見る。…こいつの言う通りだ。俺は頷いてヘルメットを被り、ノブツナの後ろに乗る

 

「いいか、国際線までぶっとばしていくからな。放すんじゃねえぞ!」

 

 そういった途端、ノブツナはバイクを猛スピードで飛ばす。赤信号、遮断機が下りる線路、車が行き交う交差点、高速のインターを全部無視して強引に突っ切る。

 

「の、ノブツナ!?飛ばしすぎじゃないのか!?」

「バーロー、こちとら急いでんじゃい!神風だこらぁ‼」

 

 ああ、やっぱり乗るんじゃなかった…。警察沙汰どころではない、この事件終わったら絶対に先生たちに怒られる。そんな時、バイクに搭載していたのか無線機がかかる

 

『こちら、ジーク‼応答せよ、オバカ』

「おバカじゃなくてオーバーだ、オーバー」

『HAHAHA、そうだったなオーバーダオーバー』

「いやそういうのじゃなくてオーバーな!?オーバー」

『あ、これが所謂オーバーリアクション?』

「やかましいわ!」

 

 なんでこんな時にこいつらは変なコントをしているのか。…突っ込むのはやめておこう

 

「で、どうなんだ?」

『指示通り、湾岸線を封鎖はすでに完了した!もちろん我が社ハワコネの力でな‼』

「ナイス。さすがはハワコネ」

 

 は!?首都高速湾岸線を封鎖しただって!?なにしてんだこいつらは。さらに別の無線がつながる

 

『犬塚、警察に頼んで国道の交通規制をやっておいたぞ!』

「いやー、渋川さん、助かります‼」

 

 渋川さんって誰!?というより警察使って道路規制するとか本当に何考えてんだ!?

 

「気になるか、キンジ?」

「いやというほど気になるんだが」

「お前の邪魔をしようとしている輩をふるいにかけて誘き寄せているのさ」

「俺の邪魔…?」

 

 そんなやついたのか?と問いかけようとした時、俺達の両サイドに黒いハイエースバンが2台並行する様に走ってきた。窓が開いた途端、HK416の銃口が覗かす。

 

「なっ!?」

「しっかりしがみつけよぉっ‼」

 

  乱射される寸前にノブツナがアクセルを強く握って回し猛スピードで切り抜けた。2台のバンは俺達を追いかけるようにスピードを上げる

 

「何だあいつ等は!?」

「えーと、お前とアリアをぶちのめす武偵殺しの下っ端…だったけど、今はそうじゃなさそうだな」

 

 ノブツナはミラーで様子を見て、すぐさま腰のポーチからM24型柄付手榴弾を取り出す。何事かと気になって後ろを振り向くと、一台のハイエースバンの屋根が開いて、そこからRPG-7を撃とうとする男の姿が見えた

 

「マジかよっ…‼」

 

 RPG-7が発射される寸前にノブツナは手榴弾を投げる。RPG-7が放たれて俺達の所へ飛んでくる途中に手榴弾は爆発を起こす。爆風によって軌道が反れ、RPG-7は京浜運河の方へ落ちていき大きな水柱を上げて爆発を起こす。

 

「ほ、本当に危なかった…」

「どうやら武偵殺しと仲間割れを起こしたようだね。連中、飛行機ごとぶっ飛ばす様子だ」

 

 仲間割れって…しかも連中もアリアを狙っているのか。このままじゃ追われるままで埒が明かない

 

「レキ、2台ボッシュート」

 

 ノブツナが無線でそう伝えた瞬間、俺達を追いかけている2台のハイエースバンのタイヤが狙撃されスピンを起こす。そして次々に玉突き事故を起こし追いかけてくるバンは止まった。

 

「レキ、ナイス」

「ノブツナ、レキも来ているのか?」

 

 ノブツナはバイクを止めて向こうを指をさす。はるか向こうに警察の装甲車が2,3台横にして止まっておりの車の陰から顔を覗かせドラグノフで狙いを定めていた

 

『ノブツナさん、サポートをしますので対戦車擲弾の方をお願いします。』

「あいよ!」

 

 ノブツナはそう言ってバイクから降りた。LARグリズリーを引き抜き、リロードをする。腰にはノブツナの愛刀『八房』が提げてある

 

「キンジ、なにしてんだ。早く行け」

「え?…まさかあれをレキと二人で止めるのか!?」

 

 ハイエースバンから軍服、特殊部隊のような武装をした連中が出てきている。後方のバンから次々に降りてくる連中を合わせてざっと50人…無茶だ

 

「気にすんなって。そんなことより‥‥お前がアリアの所に行かねえとこの事件、終わんないぞ?」

「しかし…」

「キンジ、武偵何条だっけ?仲間を信じろって。お前がこの事件に決着をつけるって信じてる、だから俺を信じろ」

「‥‥」

「自分の信じた道を突き進め。…そんでアリアを助けに行ってこい」

「ノブツナ…死ぬんじゃねえぞ?」

「バーロー、俺を誰だと思ってやがる」

 

 俺とノブツナは笑いあって拳を合わせる。拳が離れた途端、ノブツナは敵陣に駆け込み、俺はバイクを走らせた。…ノブツナ、レキ、すまない。ありがとう

 

 



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9話 激闘


*注意!

 この物語はオリ主がいます!

 独自展開のため色んなキャラも出ます

 戦闘描写はうまくありません、ごめんなさい!

 『それでも私は一向に構わんっっ‼』という方、ありがとうございます!


 遠くなるバイクの姿を確認する。あっちの方はキンジに任しても大丈夫そうだ。俺があとやることとしたら、こいつらを倒して、何人たりとも空港には行かせなことだな

 

「それじゃあやってやろうかね!」

 

 相手はカーキ色の防弾服に防弾メット、HK416を持ってこちらに突撃…この人らガチだし。どこのアーミーですかっての。圧倒的な数の差、この戦場は滾るな。

 

「いくぞおらあああっ‼」

 

 LARグリズリーで狙いを定めて撃つ。全発フルに使い切って数人倒す。ざっと8人ぐらいか…補充分の弾は残り3ダース分、足りないぐらいかもしれんが十分だ。飛んでくる弾丸を身を屈んで躱し、転がって横転しているバンの陰に隠れる。

 

「前のチンピラ共より少々手ごわいな…」

 

 弾丸を補充しスタングレネードのピンを抜き、アンダースローで敵陣に向けて投げる。閃光と爆音が巻き起こる数秒後に飛び出して駆ける。連中の方は前線に立っていた数人を盾にしてお構いなしに乱射してきているか。俺は腰の愛刀『八房』を抜く

 

「今宵の愛刀『八房』は一味違うぜ!」

 

 これ、言ってみたかったんだー。弾丸を躱しながら体に当たりそうなところは刀で切り落とす。一発ならまだわかるが数百発もの弾丸をすんごい早さで切り落として駆けているから奴さん物凄く驚いているんだよね

 

「なっ!?弾を斬っているだと!?」

「あいつ、化け物か!?」

「怯むな、撃ち続けろ‼」

 

 怯まずに放たれる弾丸の雨を避けて懐へ迫る。相手の銃を真っ二つに斬り、一人、二人、三人と息継ぎをしないまま間を縫うように駆け、首筋、脇腹、背、腰を峰打ちで叩きのめす。通り過ぎた後はバタバタと倒れていく。

 

「安心せい、峰打ちじゃ…なんちゃっ」

 

 『て』といい終える隙もくれずに新手による乱射が入る。そこは攻撃したらいけないルールでしょ!?俺は慌ててバンの陰に隠れる

 

「いててて…背中に鉄板しこんでよかったー」

 

 防弾ジャケットを脱ぎ見事にへこんだ分厚い鉄板を抜き取る。反撃を与え中の如くしつこく撃ってくる。奴さん、容赦なく乱射してくるね。またスタングレネードを投げた後に突撃するか。

 

_チュインッ

 

「ぎゃっ!?」

 

_チュインッ

 

「ぐぎゃっ!?」

 

 おっと?死角に潜んでいる奴さんが次々と撃たれていくぞ?狼狽している様子がよくみえる

 

「な、なんだ今のは!?」

「狙撃か!?ど、どこから撃ってきた!?」

 

『ノブツナさん、気を抜きすぎです』

 

 レキが無線で俺に注意して引き金を引く。はい、見事に陰に隠れている奴を一人当たる、ナイスショット。

 直線状からの狙撃でどうやって車の陰に隠れている奴を射抜くか。答えは跳弾。レキが撃つのは『跳弾狙撃(エル・スナイプ)』と言って、障害物などを利用して跳弾させて狙撃する技だ。また複数の障害物を経由して跳弾させて狙撃する『二重跳弾狙撃(エル・エル)』もレキは撃てる。

 

「レキ、サンキュー。助かったぜ」

『ノブツナさん、そのまま突撃してください』

 

 レキの跳弾による多方向からの狙撃に狼狽える隙に一気に突撃する。数人叩き伏せ、まだこちらにやってくる連中には刀を地面に突き刺し奴さんが落としたHK416を拾い上げ足と手を狙い撃つ。

 

『ノブツナさん、RPG来ます』

 

 レキからの伝言で前方を見る。あからさまに前に立ってRPG-7を構えてこちらを狙って撃ってきた。地面に突き刺した愛刀を引き抜き、飛んでくる弾頭に集中する。刀身を横にして薙ぐ。弾頭をなぞる様に沿わせ、微妙に押していき機動をずらしていかせる。当たると爆発するところが過ぎれば力を込めて振る

 

 キンッ

 

 乾いた金属音とともにRPG-7の弾頭の軌道を右上へ大きくずらして躱す。当たることなく弾の軌道がはずれたことに相手は驚愕する。装填させる隙は与えない

 

「レキ、シュート」

『了解』

 

 バンに当たって跳弾する音が横から聞こえそれと同時にRPG-7を持ってた野郎は倒れる。さっきの技、すっごく集中力がいるんだよねー。だが愚痴をこぼす暇はない、まだ敵はいる。俺はそのまま駆けて刀を振るう。

 

「どうした、こんなもんか!」

 

 __何十分刀を振るったろうか、すでにこの道路には横転したバン、散らばる薬莢、数々の弾痕、そして倒れているマッドギアの連中。さしずめ3/4は片づけただろう。もうそろそろ終わるかなと思っていた時だ。俺の方に円形の手榴弾が投げ込まれてきた。愛刀とLARグリズリーの弾丸で手榴弾を弾き、周りが爆発する。その刹那、爆炎を突き抜けて数本のナイフが飛んできた。ギョッとした俺は顔を逸らして避けた。

 

「あっぶねー…」

「ほほう、それも巧くいなすか」

 

 スタッと横転したバンを飛び越えて出てきたのは先ほどまでの連中より筋肉でカーキ色の軍服と赤いベレー帽、顔には斜めに切り傷がついた屈強な男だ。軍服には手榴弾を何個か着け、片手には黒色のロッドを握っている

 

「見た感じ、あんたがマッドギアの残党を束ねる親玉だな?」

「いかにも、吾輩の名は『ロレント』。今のマッドギアを束ねている。」

 

 ロレントは倒れている自分の部下たちを見る。悔しそう、いやむしろ今の状況を満足しているのか?

 

「…今は壊滅状態だがな。憎らしいを通り越して貴様たちは称賛に価する」

「そうかい、それでどうすんだ?」

「貴様の戦い方を見ると…よほど戦闘に餓えているらしい。どうだ?殺しを禁じられている武偵なぞ離れて我がマッドギアに来てみないか?」

 

 …これはあれか、アイドルなんちゃらみたいなスカウトってやつか。でもこれに至っては愚問だろ

 

「生憎、潰れかかっている組織を立ちなおす気力はねえよ。それに…レキっていう先約がいんだ。一昨日来な」

「ふっ、断ると思っていた!貴様らを打ちのめし、連れ帰って調教してやろう!」

 

 ロレントはロッドを構えて迫る。調教とか、そんな趣味はないんだけどと言っている場合ではない。気迫で分かる、生半可でやったらこちらが死ぬかもしれない。愛刀を振るいロッドとぶつかり火花が散る。ロッドをバトンのように回して次は下段から打ち上げてきた

 

「そいっ!?」

 

 ロッドの攻撃を躱して上段から叩き込む。ロレントは後転して避けると同時に目の前に手榴弾を投げてきた。やべえ、すでにピンがとれて数秒経ったやつじゃん!?爆発すr…

 

_チュインッ

 

 跳弾して飛んできた弾丸に弾かれて手榴弾は遠くへ飛ばされ爆発を起こす。

 

『ノブツナさん、油断しすぎです』

「わるい‥気を抜いてた」

 

 レキは跳弾狙撃でロレントを狙撃する。跳弾した弾を見切っているのかロレントは軽く躱していく

 

「どこで跳弾したか音さえ聞こえればすぐにわかる!」

「…これはマジで厄介だな」

 

 俺は軽く苦笑いをするがそんなことも気にせずロレントは向こうの方を見ていた

 

「…ふむ、やはり狙撃は面倒だ」

 

 あいつ、何をする気だ…?やられる前にやる!駆けて刀を振るう。ロレントは攻撃することなく後ろ後ろへと下がっていく。LARグリズリーで狙い撃つがそれもちょこまかと後ろへと避けていく

 

「このっ…!」

 

 もう一発撃ち込んだ時、ロレントはにやりとして後ろへ跳躍し横転しているバンの上に乗るや否や窓を割って何かを取り出す。あれは‥‥カールグスタフ!?ということはっ!急いで無線を飛ばす

 

「レキ!走れ!!」

「もう遅い‼」

 

 バスンと砲弾が放たれた音がして弾頭が遥か向こう、レキが狙撃していた場所へ飛び、爆発を巻き起こす。無線からはノイズしか聞こえない。

 

「‥‥っ」

「ふん、その程度で狼狽えるのならまだまだ小童よ」

 

 俺が狼狽えているように見えたのか余裕かまして俺の方を見て不敵に笑う。

 

「…おっさん、何か勘違いしてねえか?」

「…?」

 

 足を軽く屈んで力を込める。最大限までに縮めたバネを放して飛ばすように目一杯に跳躍してロレントの目の前に迫った

 

「っ!?はやっ…」

「俺は今プッツンしてんだぜぇっ‼」

 

 刀で叩き込む方がよかった。ブチギレてるとついつい殴ってしまう。左拳で鳩尾に叩き込む。前へ仰け反らせ二―キックで顔面へ一発。刀で叩き込みを入れるがロレントは大きく下がって俺の方を睨む

 

「このっ、一等兵がぁぁぁっ‼」

 

 ロレントの野郎はありったけの手榴弾を俺へ投げ込む。バウンドしたり、転がったり、宙へ投げてきたりと様々だが、激おこプンプン丸の俺には

 

「…無駄」

 

 ゆらりと前へ倒れかけるように体重を入れてそして駆け出す。ドンドンと横で爆発しているが爆炎より速く、そしてロレントに迫った

 

「ぬううっ‼」

 

 ロッドを振るってきたが、それを真っ二つに斬り、峰を向けフルスイングで叩きいれた。

 

「おおおらぁぁっっ‼」

 

 プロ野球選手がホームランを打ち込むようにぶっ飛ばす。少し遠くへ飛ばされたロレントはコンクリに大の字になって倒れた。相手が動かず気を失っているのを確認し、愛刀を鞘へ納める。パチパチと燃える炎以外、音は静寂だ。

 

「そんなことより、レキを探さねえと…無事でいてくれよ!」

 

 戦闘を終了させ、レキがいるであろうその先へ向かう…

 

「もらったぞ!」

「!!」

 

 一瞬の気が大きな隙となった。地面にワイヤーが仕掛けられており、足をとられその勢いでワイヤーが首に絡まる。

 

「ハァッ‼」

 

 ワイヤーを持ったロレントは高く飛び上がり、柱に取り付けたフックにワイヤーを掛ける。首に巻き付いたワイヤーを必死に解こうとするが堅く取れない。こうしているうちにワイヤーに引っ張られ宙吊り状態に。冷静に解説してるけどすんげえやべえの。

 

「がっ…」

 

 首が一気に締まり、呼吸が苦しくなってきた。

 

「ほほう、首の筋肉で力付くで耐えているようだがそれはいつまでもつかな?」

 

 今必死に耐えているがそろそろ限界に近い。力を振り絞って愛刀に手を伸ばす。あれだ、ワイヤーをピーンされたら確実に死ぬ!

 

「よく頑張ったがもうこれで終わりだ!」

 

 俺が愛刀引き抜くよりも早くロレントがワイヤーを弾こうと手を伸ばす。ヤバイ、マジでヤバイ!

 

 

__キィンッ

 

 その時不思議な事が起こった‥‥じゃねえ、どこからか飛んできた弾丸が取り付けられたフックに直撃しフックが外される。ワイヤーが緩み、ずるりと落ちる。今の狙撃は…

 

『…ノブツナさん、決めてください』

 

 この声はレキ!無事でよかったという前に…着地した俺は解いたワイヤーを握り思い切り引っ張る。力が押されロレントが無防備のままこちらへ一気に引っ張られてくる。もう手加減はしない!

 

「せいっっ‼」

 

 腹部と胸部に強烈な掌底をお見舞いする。ロレントはビクリと全身が痙攣し前のめりになる。この技は『打振』と言って人体に含まれる水分、血液を振動させ筋肉や臓器に衝撃を伝わせる。俺の行きつけの医者がよくやる。そしてトドメに踵落としでフィニッシュ。

 

「ご…この…吾輩…が」

 

 ロレントはそうつぶやいて気を失う。まだあったんかい、本当にしつこいおっさんだった。念のため足と手に手錠をかけて置いておく。これで戦闘終了、そんなことよりやることがある

 

「レキ!無事か!?」

 

 急いでレキがいるであろう方向へ走る。

 

「ノブツナさん、ここです」

 

 レキの声が聞こえ、手を振る姿が見えた。丁度離れたバンの後ろにいた。

 

「怪我はねえか!?」

「多少は大丈夫です。ノブツナさんのおかげで少なく済みました」

 

 無表情で何事も無い様にいうけどさ…服は焦げて敗れている個所もあったり、顔に擦り傷、火傷はなさそうだが、右足を怪我しているし大丈夫じゃねえだろう。こんな状態でここまで駆けてくれたのか…

 

「ほらよ」

 

 俺は上着をレキに羽織らせ、おんぶする。

 

「ノブツナさん…?」

 

 珍しくレキが今の状況に困惑している。

 

「もっと俺に甘えてもいいんだ。もっと自分の身体を大事にしろ。…か、仮でも俺のパートナーなんだからよ」

 

 イタイ!こういうのもなんだけどイタイ!俺が言うようなセリフじゃねえ!ま、まあパートナーを気遣うのは大事だけどさ?それにレキには無茶をさせちまったしな

 

「…ありがとうございます」

 

 レキがきゅっと肩を握る。遠くでパトカーのサイレンが聞こえる、後は警察と他の武偵に任せよう。ポツポツと雨が降ってきた…今夜は荒れるって言ってたな。とりあえず救護班も来るだろうからそっちの方へ行くか。

 そんなことを考えていると携帯が鳴る。鳰からか

 

「もしもーし、こっちは片付いたぞー」

『ノブちゃん、レキレキ、お疲れっス!そんなノブちゃんに速報っス。飛行機ジャックが起き、キンジ&アリアが真犯人と戦闘中ッス‼』

 

 どうやらあっちも頑張っているようだ。キンジ、頑張れよー




用語集

ロレント:2Dアクションゲーム、ファイナルファイトに登場するボス。カーキ色の軍服に赤いベレー帽、ロッドと手榴弾などの銃火器を使う。その後はストリートファイターにも登場する。軍人キャラ

カールグスタフ:FFV M2ともいう。カールグスタフ兵器工場で生産された無反動砲。装甲車輌を破壊するためなど多様に使われ、開発当時は500Mが弾頭の有効射程だったが現在では1000M程らしい

その時不思議な事が起こった:仮面ライダーBlackより。仮面ライダーがピンチになると急に逆転して有利になる不思議現象。ご都合主義?おっと、それ以上言ったらいけない


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10話 エピローグ的なやつ

やりたいことをやった。反省はしている
全国のレキファンの皆さま、ごめんさい…

*注意
 
 この物語にはオリ主がいます!

 独自展開があります!色んなキャラもでます

 戦闘描写は下手です、ごめんなさい!

 『それでも私は一向に構わんっっ‼』という方、ありがとうございます!


「よっし、これでダイジョブだ」

 

 今は救護班の車の中でレキの傷の手当。怪我の方は大丈夫そうだったのでひとまず安心。うん、なかなかのおみ足…ゲフンゲフン、のちの活動に支障はないそうなのでよかった

 

「ありがとうございます。ノブツナさん方こそお怪我は大丈夫ですか?」

「俺か?俺の方は唾でもなめときゃ治るさ」

 

俺達がドンパチして倒した連中は警察と応援にきた武偵達が連行、証拠品などの収集をしている。まあこっちは一件落着ってことで。疲れを癒すかのようにひたすたにレキを撫でる。そんな時にずかずかとジークが駆けつけてきた

 

「なにぃ!?もう片付けただと!?」

「ジーク、来るの遅せぇよ。俺とレキで済ませたぞ」

「んんんんん~っ!許さーん!俺も大暴れしたかったぞー‼」

 

 プンスカしているジークをほっといて、レキの様子を見る。彼女はただただ土砂降りになっている外と真っ暗な空を見ている。声を掛けようとした時に携帯が鳴る。なんだ、武藤からか

 

「武藤、どした?」

『ノブツナ!お前も羽田の方で大暴れしてたんだな!』

「それだけか?切るぞ?」

『いや、ちょ、待てよ!今、キンジが乗ってる600便がエンジントラブルを起こしたらしい!』

「ぬ?キンジ達は無事なのか?」

『ああ!それでキンジが600便を空き地島に緊急着陸させるんだ‼』

 

 空き地島か…高度とか云々聞いてりゃギリギリ、もしくはアウトなのだが…空き地島には照明はないし飛行機から見りゃ真っ暗だ。さしずめ不時着で最悪の状況になるだろう

 

「状況はよくないな…」

『ああ!だから‥‥俺はあいつを死なせたくねえ!』

「…武藤、やることはわかってるな?手を貸すぜ?」

『‼‥さすがノブツナ‼ありがとうよ!』

 

 携帯を切って一息入れる。

 

「レキ、ジーク。悪いがもう一仕事だ」

 

___空き地島

 

「嵐のー中でかがやいーて♪」

「そのゆーめを…って歌っている場合じゃねえっ‼」

 

 武藤はジークに蹴りを入れる。豪雨と暴風の中で俺とジーク、武藤はモーターボートと船と車輌科の車や照明も無許可で持っていき空き地島にて飛行機が安全に着陸できる道になるよう設置している。

 

「おらてめーら急げ!時間がねえぞ!」

「見えました。あと数分でこちらに来ます」

「オラオラァ‼レキがもう見つけちまったぞ!急げ急げ!」

「おう!ってノブツナも手伝えよ!」

 

 俺はちゃっかり車でくつろいでいた。だって車全部俺が動かして終わったし?

 

「車担当は全部片づけたからな!動け動け!」

「ちょ、きたねえぞ!」

「嵐のーなかで…ノブツナ‼設置、配線終わったぞー‼」

「よっしゃ、点灯っ‼」

 

 照明と車輌のライトを全部一気につける。明かりが灯されて一本の道が出来上がった。武藤が持っていた無線でキンジに繋ぐ

 

「キンジ‼聞こえるか‼お前が死ぬと白雪ちゃ…じゃねえ泣く人がいるからよぉ!俺…ノブツナとジークと一緒に車輌科のモーターボートもでっかい照明も無許可で持ってきたんだ!だから…アリアと一緒に無事に着陸してこい!」

「武藤、お前ほんっと熱い奴だなぁ」

「ちなみにこの船は我がハワコネの船だ‼」

「…ところで、私たちがこの道にいたら飛行機の着陸に巻き込まれるのではないですか?」

 

 

「「「…走るぞぉぉぉっ‼」」」

 

 俺達は急いで避難する。そうしている間に、600便は空き地島になんとか着陸を成功した。…暴風にジークは巻き込まれて海へドボンしたそうだ

 

___

 

「一時はどうなるかと思ったな」

 

 昨日の嵐がウソのように晴れた今日。俺はレキと一緒に屋上でのんびりとしている。結局、武偵殺しの事件はキンジの話によると飛行機内で真犯人がいて、もう一息のところで逃げられたらしい。でも、俺が捕まえたマッドギアの残党、警察と武偵の共同の捜査によりアリアの母親の神崎かなえの公判は延期。なんやかんやで無事に事件は終わったようだ。

 

「ノブツナさんは始末書を書かなくて済んだんですか?」

 

 レキが声をかける。そうだ、その後、勝手に道路封鎖したこと、応援も呼ばず道路での戦闘、そして空き地島へ無許可でライトなどを持ち出したことにより俺とジーク、武藤は蘭豹先生に捕まり始末書を書かされていた。あ、俺は面倒なので『ちゅどっ』をしてこの屋上まで逃げてきたんだけどな

 

「面倒だから逃げた。そういえばレキ、怪我の方はもう大丈夫なのか?」

「…はい、狙撃にも支障はないとのことです。ノブツナさんはどうしてそこまでして私を心配してくれるのですか?」

 

 うーん…俺は考えながらレキの頭を撫でる

 

「ま、俺の大事なパートナーだし?それにもっと自分を大事にしなさいな」

「…」

 

 ん?うつむいてしまったな…悪い事言ってしまったか?

 

「…ノブツナさん、話があります」

「お、おう?なんだ?」

 

 レキ、珍しく真剣な眼差しだな…ちょっと焦った

 

「風が…選べと言ってきました」

「か、風?何を選べって言ってきやがったんだ?」

「どちらか二つの道のうち一つの道を選べと」

 

 み、道?…これはもしや、レキの脱厨二病のチャンスかもしれん‼レキは今、厨二病を止めることを考えているはず!

 

「ど、どういう道かわかるか?」

「一つは『ある人』の事を好きになり子を作れと」

「すんげえどストレートだな!?」

「でも…『ある人』を好いている人が既にいて私はその人から奪わなければならないんです」

 

 おうふ…レキさん、それなんていう昼ドラ?このままだとレキがヤンデレなことをやらかすかもしれん…

 

「れ、レキ?聞くけど『ある人』って言う野郎はお前の好意に気づいているのか?」

「いいえ。気づかないようなのでこれからもっとやるつもりです」

 

 あかん、それマジであかん。

 

「レキ、それはやめとけ。『ある人』だけじゃなく、そいつを好いている奴にも迷惑をかける。お互い嫌な思いをするだけだ」

「ですが…」

「じゃ、じゃあもう一つの道は?」

「もう一つは…よくわからないのですが、さっきの道より孤独で、険しく、危ない道を歩むことになります」

 

 …風さんよ、あんたなんてとんでもないことをレキに言わすんだと思ってしまった。

 

「レキ、お前さ自分の道を自分で歩いたことはないだろ?」

「…全部、風の言う通りにしてきました。この学園に来たことも、銃も、生き方も、風の声に従っています」

「…よっしゃ、わかった。どの道もやめとけ」

 

 なんだろうな…レキは、ずっと誰かに言われたままにしてきたんだろう。だから、孤独だ

 

「どの道も?…だとすればどうすればいいんですか?」

「道が無ければ作ればいい。第三の道さ」

「第三の道?」

「そう、『自分の道は自分で切り開け』ってな。誰かにひかれた道を行くんじゃなくて、自分のやりたいことを自分で歩くんだ」

 

 レキは一瞬目を見開いたように驚いたが、すぐにうつむいた

 

「私は…自分で考えたことがありません。それが正しいのかどうか…怖いんです」

「確かに怖いだろうな。でも安心しろ、お前の歩く道に俺がついてる。俺が助けてやるさ」

 

 そう、レキの脱厨二病のためなら俺が手伝ってやろう。

 

「それは…ノブツナさんと共に歩むんですか?」

「ま、まあな?い、一緒にいてあげることぐらい容易いもんさ」

 

 うん?俺間違ってないよな?それを考えているとレキは真剣な眼差しで俺の前に跪き、俺の手を握った

 

「…決めました。ウルスの一族は…ウルスの姫は‥貴方に従い、貴方と共にあることを今ここに誓います」

「お、おおう?…え?え!?」

 

 ウルス?…あれか、邪気眼的なあれか!レキの脱厨二病の道はまだまだ遠いなぁ…

 

__

 

 なんやかんやあって、無事に帰宅。今日はレキが心開いたことが唯一のいい出来事だったかなー。自分から言って来たんだし、十分な進歩だ。さてと鳰にあれ以降、マッドギアの残党から何かイ・ウーについて聞きだせたか聞いてみるか。と思った矢先にインターホンが鳴る

 

「はいはーい、うちは新聞お断りだよー」

 

 と適当に出て返そうとドアを開けると…なんということでしょう、そこにはキャリーケースを引いたレキがいるじゃあありませんか

 

「れ、レキ!?」

「ノブツナさん、遅くなりました。これからよろしくお願いします」

「え…え!?もしかして居候か何か!?」

 

 レキは無言でうなずいて俺の部屋に入ってきた。

 

「貴方と共に歩むと決めましたから」

「いや決めすぎだけど!?つか寛ぐの早っ!?」

 

 入ってきたレキは部屋の壁にドラグノフを抱くように座ってもたれ掛るように寝ようとしていた

 

「あ、あのー…晩御飯は?」

「大丈夫です。もう食べてきました。後は寝るだけです」

「そうじゃなくて…無許可で居候とか…怒られるんじゃね?」

「安心してください。すでに許可は頂いてます」

「わーお、計画的!?…つかもう寝るのか?」

 

 もうつっこむのはやめた方がいいや。レキは制服を着たまま寝るのか…

 

「はい、明日に備えて早く寝ます」

「そ、そうならいいけど…やっぱ寝るなら制服じゃない方が…」

 

 ま、まあ人それぞれだし?でも、制服じゃない方がいいかなーなんて考えていたらレキが制服を脱ぎだそうとしていた

 

「イヤイヤイヤ!?だからと言って脱ぐ必要はねえよ!?」

「そうですか?制服以外は持っていませんし…」

「む、無理にしなくてもいいんだぜ?」

「ですが…ノブツナさん、どういった感じがいいでしょうか?」

 

 なぜ俺に聞く…しゃあない、ここはひとつ冗談こめて…

 

「…裸Yシャツでお願いします!」

「」

 

 あ、やべ、レキが一瞬固まった!でもロマンがあふれる…じゃねぇよ!

 

「い、いや~、冗談だよ冗談!今のは聞いてなかったことに…」

「こうですか?」

 

 なんということでしょう、視線を逸らして改めて戻すとそこには裸Yシャツのレキが…いや一度でもいいからやってほしいと思ったけどさ!?いきなりはだめでしょう!?窓から照らされる夕陽が白いシャツを照らす

 

「ふぁっ!?」

「…ノブツナさん?」

 

 据え膳食わぬは男の恥‼俺はさっそくレキを姫抱っこしてソファーへポイした

 

「あ、あの…」

 

 あかんなこれはキンジだけの特権かと思ったがラッキーだぜ…キンジモード(笑)入りまーす!

 

「レッツ、もっこりィィィィッ‼」

 

 そういってルパンダイブしようとした時だった

 

ガッシャーン\テンチュー‼/ガッチャーン

 

「‥‥」

 

 俺は動きを止めた。隣、キンジの家にヤンデレ巫女こと星伽白雪が帰ってきやがったか!ええい、折角の雰囲気をぶち壊しやがって‼

 

「の、ノブツナさん?」

 

 心配そうにレキが俺を見る。そうだな、お隣なんか気にしている場合じゃない!

 

「モ…もっこry」

 

ガシャーン\風穴ーっ‼/バキューン\テンチュー‼/ガチャーン

 

「‥‥」

 

 ああ、そうだった。ヤンデレ巫女だけじゃなくて喧しいツインテピンクがいたな…。隣で窓が開く音がする。キンジの野郎、逃げやがったな。そこで俺の堪忍袋の緒が切れる

 

「やかましい!ダボガァァァァァ‼」

 

__ノブツナ、怒りの隣訪問




 
 裸Yシャツはロマン…そう言いたかっただけです


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五月のキャンディ
11話 本部が強くて何が悪い


色々ねじ込んでしまった。反省はしてない

*注意

 この物語にはオリ主がいます‼

 独自展開があります!色んなキャラもいます‼

 戦闘描写がうまくないです、すみません‼

『それでも私は一向に構わんっっ‼』という方、ありがとうございます!


キンジside

 

 あれからひどい目にしか会っていない。アリアが日本に残り、俺と組むようになったのは良かった。だが、合宿から白雪とアリアがドンパチして部屋が荒らされ、更にはノブツナがガチギレして部屋に入乱入しさらに状況が悪化。ここは戦場かと嘆くぐらいの惨状になってしまった。

 

「ホント、散々な目にあった…」

 

 その後白雪が女子更衣室から出ていくのを見かけて声を掛けよるがスルーされてどこかへ行くし、白雪も機嫌が悪いようだ

 

「キンジ‼無事だったか!」

「お、武藤。おはよう」

 

 …ん?今武藤の奴『無事だったか』とか言ってたな。なんかあったのか?

 

「よくノブツナに見つからずにこれたな」

「…ノブツナがどうかしたのか?」

 

 なんだろうか、これは嫌な予感しかない。

 

「今朝、ノブツナがチェーンソーを持って教室に入って来るや否やキンジを探し回ってたぜ?」

 

 しかも激怒したままうろついていたようだ。今日も少し遅れて来てよかった!

 

「と、とういかなんで俺を探し回ってんだよ」

「ノブツナ曰く、『俺のもっこりを返せ』と言ってたな」

「…わけがわからねえよ」

 

__

 

ノブツナside

 

「誠に遺憾である。」

 

 実に不愉快だ。折角のチャンスをキンジ達に台無しにされてしまうとは。しかもレキは『裸Yシャツは朝がまだ寒く感じるので昨日だけにして』といってたので当分はレキの裸Yシャツが拝めなくなってしまった。

 

「…」

 

 今日もレキと一緒に屋上でサボタージュ。朝から一緒に登校したり実に嬉しいのだが、まさかレキファンに敵視されるとは思ってもなかった。まあ蹴散らしてやったけど…今後はまさかの敵襲もありそうなので注意しなければ

 

「そういえばアドシアードで話題がいっぱいだったなぁ…」

 

 アドシアード、学校で言うと『体育祭』か『文化祭』みたいなもの。でも武偵校じゃあそれぞれの技能を競う大会でもあるし、外部の人間や武偵局からの人もくる。注目もされるし優勝者にはすんごい単位ももらえるからこそ皆張り切っているのである。

 

「レキは狙撃競技に出場するんだよな?」

「…」

 

 レキは無言で頷く。去年のアドシアードの狙撃競技でレキは優勝し、新記録も作ったしな。今年もレキの優勝で間違いないだろう。

 

「ノブツナさんは今年は出場するんですか?」

「俺か?俺はアドシアード=休日と思ってる」

 

 閑話になるが去年のアドシアードではお弁当配りなどして小遣いを稼いでいた。ぶっちゃけ、師匠の親友達や『地上最強』と呼ばれたあの人を見てたらアドシアードも凄いんだけど、ただレベルが下がっちゃうんだよね。

 

「今年の狙撃競技も応援してるからな!」

「…」

 

 そういって撫でているんだが反応がいつもと違うなぁ?これって照れてんのかそれとも嫌がってんのか?そんなことを考えていると携帯のメール音が鳴る。

 

「‥‥これは…」

「?どうかしましたか?」

「ちょいっと師匠の所に行ってくる。レキ、来るか?」

 

__

 

 いつものように学校を抜けて東京の街中を通っていき、ひときわ静かな町の端にある小さな道場へ行きつく。

 

「ここが俺の師匠のいる道場さ。ささ、遠慮なく入って」

 

 師匠の道場だけどね!道場に入ってみるといつもと変わらず道場に通う生徒なんて一人もいない静寂な空間。そこの空間のど真ん中に瞑想して座っている茶色のスーツにズボン、ぼさぼさの髪型の口回りに髭を生やしたおっさんがいる。

 

「‥‥」

「…師匠、人を呼んでおきながら寝てるのはちょいっと頭に来るんですけどー」

 

 静かに瞑想しているように見えるのはウソ。この人静かにいびきをかいて寝てる。ちょっといたずらで顔に落書きしてやろうよマジックペンを取り出して顔にペンを近づけた。その途端ばっと師匠は起き上がり俺の腕をつかむな否や背負い投げして床に叩きつけた

 

「…おいおい、師匠に対するあいさつがそれか?」

「あっはっは、ジョークっすよ。…ただいまです、本部師匠」

 

 この人の名は本部以蔵。実戦型柔術『本部流柔術』の師範であり、俺の師匠でもある人。見た目は柔術が得意なおっさんに見えるけど、『地上最強』と呼ばれる男と共にいたり、その息子と数々の戦いを潜り抜けたり戦ったり見てたりとすんごいしめちゃんこ強いから。俺は武術、体術、柔術といたりけりと戦闘をこの師匠に叩きこまれた。

 

「ところで、犬塚。そこにいるお嬢さんは誰だ?」

「師匠、紹介します。俺のパートナーのレキです。そんでレキ、この人が俺の師匠の本部以蔵さん」

「…はじめまして、レキと申します」

 

 レキは深々と頭を下げてお辞儀をする。師匠は納得すように優しくうなずく

 

「…今はノブツナさんと一緒に住んでます」

 

 その一言で師匠はカチリと固まる。うん、レキ、それは言わなくてもよかったんよ!?師匠はゆっくりと俺の方を見る。

 

「だ、大丈夫っすよ?まだナニもしてないっすよ?」

「ま、まあそれならいい。レキさん、どうかこのバカ弟子をよろしく頼む」

「はい…ノブツナさんから色々教えてもらいました。女性は『裸Yシャツ』で寝るとか」

 

 その一言で、俺と師匠の道場内での鬼ごっこが勃発した。

 

__30分後

 

「…まったく、お前は何を考えているんだ!」

 

 激闘の末、道場で無様に大の字に倒れている俺の姿が

 

「し、師匠の教えの賜物です」

「はあ…どうしてこうなったのやら…」

「ノブツナさんは師匠と仲がいいんですね」

 

 レキ、これは違うと思う。まあ仲がいいけどさ、師匠は刀振り回すわ鎖鎌振り回すわ、クナイを投擲するわで一歩間違えたら死にかけるから

 

「ところで師匠、俺を呼んだのはなんでですか?」

「そうだったな…実はお前にやってもらいたいことがある」

「やってもらいたいことですか?」

 

 師匠の頼みだ、嫌な予感しかしない。師匠は時計をちらちら見ていて誰か来るのを待っているようだ。

 

「うーむ、そろそろ来てもおかしくないのだが…道に迷ったのかな?」

 

 そうこうしているうちに車の大きなエンジン音が近づいてきて道場の前で止まった。音からして高級車…リムジンだろう。のっしのっしとゆっくりこちらに近づいてくる足音がする

 

「イヤースマナイネ、この街は小さく入り組んでて道に迷ってしまったよ!」

 

 まず一言言わせてほしい。筋肉すげぇ!?気さくに入ってきたのは体格もでかく、筋肉もりもりのマッチョマン以上の筋肉がついたうっすらと口ひげのあるアフリカ系アメリカ人。アロハシャツやズボンで全体は見えなくても見た目で分かる。この人は強いと直感でわかる。もちろん隣で見ていたレキも目を見開いて驚いていた。

 

 

「ホホウ、Mr.本部。彼がMr.トクガワやかの『地上最強』を頷かせた少年かい?」

「ええ。犬塚、紹介しよう。彼はビスケット・オリバ。『ミスター・アンチェイン』と呼ばれる男だ」

「こ、この人があの『アンチェイン』ですか!?」

 

 ビスケット・オリバ。全米の凶悪犯罪者が集う『ブラックペンタゴン』ことアリゾナ州立刑務所に収監された『囚人』でありながら警察が手に負えない凶悪犯を自らの手でハントしたり、刑務所内でビップ待遇、今現在ではアメリカ全州の刑務所を牛耳ったりと、囚人なのに自由奔放である。

 

その自由さ、誰にも抑えることのできない怪力から繋がれざる者(アンチェイン)と呼ばれる。そしてその名故に、武偵局は彼を目の敵にしている。『囚人』が『自由』にしていることが気に食わないらしい

 

「ど、ども初めまして…犬塚信綱って言います」

「ハッハッハ、そう硬くならなくてもいい。気安くしてくれたまえ」

 

 オリバさんと握手をしたんだが…マジででかい手だ。こちらが握りつぶされるんじゃないかってぐらいデカイし力強い。

 

「それで…そちらのお嬢さんはどちらかな?」

「あ、俺のパートナーのレキです」

「レキ…ホホウ、いい名前じゃあないか。よろしくネ」

「…」

 

 レキはオリバさんと握手をするが少し怯えているように見える。そりゃそうだ、自分よりデカイ人にでかい手で握手されたら少しビビるわな

 

「そ、それでオリバさん、俺に頼み事ってなんでしょうか…」

「そうだったネ…率直に言うとある人物を捕まえてほしいのだ」

「ある人物?」

「うむ、『ドリアン』が脱獄してこの東京に潜んでいるのだよ。」

 

 『ドリアン』という名を聞いて師匠はピクリと反応した。俺も師匠から聞いたことがある。かつて東京ドームの地下で行われた地下格闘技の主催者、徳川光成が呼び集めて師匠の友人たちが戦った『敗北を知りたい』と豪語した最凶死刑囚と呼ばれる五人の囚人のひとり。暗器、爆弾、中国拳法などを駆使して苦しめたと言われていたが…

 

「それはおかしい、『ドリアン』は敗北し精神が退行してもう戦うことはできないとされていたはず…」

 

 師匠の言う通りである。最終的には自分が敗北を望んでいたにも関わらず一度も勝っていないと告げられ、戦いに完全敗北し矛盾した人生に耐えきれず精神が幼児退行したと言われていた。

 

「それが…突然治ったようでネ。『もう一度戦いたい』と置手紙を残して日本へ渡っていったんだヨ」

「そんなことが起こるのか…?」

「で、でもそれと俺と関係あるんですか?」

「ドリアンはもう高齢で、幼児退行した身体はもうボロボロに近い。彼らと再びファイトをしたら次は間違いなく死ぬだろうネ。だからこそ、Mr.トクガワや『地上最強』を頷かせた武偵の君に『ドリアン』を捕まえて欲しいのだヨ」

 

 確かにあの人たちからの信頼はあると聞いているのだが…俺にできるのか?元とはいえ最凶と言われた死刑囚を捕まえることができるのだろうか?そう深く考えているとポンとレキが俺の肩を叩く。

 

「ノブツナさん、私も手伝います」

 

…そうだな。お前がいるとなんだかできそうな気がしてきた

 

「…わかりました。できるだけやってみせます」

「そうか、それは助かるネ」

 

 オリバさんはニッコリと満足そうに笑う。隣にいる師匠は少々驚かれているようだ。嗚呼、逮捕できるかな…

 

「犬塚…油断はするなよ?相手は元最凶の死刑囚。様々な手を使って殺しに来るぞ」

「…わかってます。師匠の教え通り、『慢心』と『油断』はしないですよ」

 

「依頼の方は私が回しておく。それでは失礼する」

 

 オリバさんは満足げに帰ろうとした。途中、ピタリと止まってレキの方に顔を向けた

 

「ところで…レキの名前は漢字で『蕾』と『姫』と書くんじゃないかな?」

「‼」

 

 レキはどうしてそれを知っているのかと言わんばかりに目を見開いて驚いていた。

 

「なにか…直系の名前と聞いたのだが、違うかね?」

「…っ‼」

「レキ、ちょ、タンマ‼」

 

 レキがとっさにドラグノフの銃口をオリバさんに向けようとしたので急いで止めた。彼女の手と身体に振れると物凄く震えていた。

 

「お、オリバさん、あまりレキをおちょくらないでくださいよ」

「ハッハッハ、ジョークだよジョーク‼ノブツナくん、成果を期待しているよ?それではまた会おう」

 

 愉快愉快とオリバさんは笑いながら去っていった。ほんと自由奔放な人だなと思う。それよりもレキの震えが止まらない。とりあえず優しく抱きしめてやるか。

 

「レキ、もう大丈夫だぞ?俺がいるし安心しろ」

「…すみません、取り乱してしまいました…」

 

 アスナロ抱きしてそんでもって撫でて落ち着かせる。さてと、とんでもない依頼を受けてしまったけどもこれからどうしようか…ジークや鳰にも伝えておくか。特にジークは喜んで受けそうだしな。

 

 

「…犬塚、イチャイチャするのは構わないが場所と空気を読んでくれ…」

 

 このあと師匠から滅茶苦茶ゲンコツされた




本部はこんなキャラじゃない感があるかもしれません。すみませんちょっとねじ込んでます


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12話 お宅訪問

 
 何年振りかの投稿‥‥こちらはゆっくりと更新していこうと思います。

 これまでのお話となんか書き方が変わっていしまっておりますが、ここから統一していこうと思います。

 あと死刑囚編がアニメ化するという噂を聞いてつい


「ったく、電話をかけたら上空から落ちてくるのはやめろっていってんだろ」

「HAHAHA‼これが私のアイデンティティー‼」

「んなもんいらねえよ!」

 

 ノブツナは呆れながらいつまでも喧しく高笑いをするジークを睨む。脱獄した元死刑囚、ドリアンの捜索を協力するよう鳰とジークに電話をしたところその3分後にジークがスカイダイビングをしてやってきたのだった。天井に穴が開く大事に至らなかったが、ノブツナの師匠である本部から『もっと友達を選べ』と苦笑いをされた。

 

「それにしてもジーク、随分とやる気満々だな」

「当たり前じゃないか!あのドリアンを捕まえに行くのだぞ‼もうドキが胸胸‼」

 

 すでに袴着に着替えてやる気満々ではしゃぐジークとは反対にノブツナは憂いながらため息をつく。言わずもがなあの元死刑囚を探して捕まえにいかなければならないのだからである。

 

 東京ドームの地下にある地下格闘技の格闘家達と、最強最悪と呼ばれた5人の死刑囚の格闘は東京を騒がせた。元々は武器の使用を認めていなかったルールがこの場では武器もあり、戦う場所も戦い方、戦う人数も有限がないノールールで行われたことにより公共の場が危険にさらされたのである。警察のみならず、武偵も出動したのだが、彼らには全く歯が立たず止めることもできなかった。

 

 さらには折角の我々の戦いを邪魔をするなと両陣営から喝を入れられたことにより完全な司法の敗北と化していた。おかげでマスコミや新聞やニュースなどメディアから総叩き。さらにはアメリカの囚人、ビスケット・オリバや地上最強、範馬勇次郎の介入により更に武偵や警察叩きは悪化した。これが原因により、日本の武偵はビスケット・オリバを目の敵にしているのであった。

 

「ほんとなんでオリバさんは俺ら武偵にそんな無茶なことを頼むのやら…」

 

 ノブツナは深くため息をついた。承った以上、やるしかないし戦うしか止める方法はない。気を引き締めて、歩みを止め目的地である高層ビルを見上げた。

 

「ノブツナさん、ここは…?」

 

 気になったのか、レキは高層ビルの壁画を見ながらノブツナに尋ねた。壁画には空手着を着た禿頭の男が虎を倒す絵が描かれていた。

 

「まずはドリアンについて情報収集だ。一応、本部師匠が伝えてくれているけども…やっぱ緊張するよなー」

 

 ノブツナは半ば緊張していた。気合いの入った怒声が外からでも響いてくる。ノブツナ達はそのビルへと入っていった。正面玄関を通り、4階へと上がり練習場と書かれた部屋を開けると、そこでは空手着を着た逞しい体格の男たちが気合いの込めた声を上げながら拳で空を突き、高く蹴りを入れ、再び拳を突く、と空手をしていた。

 

「ここは神心会空手っていうフルコンタクト系空手協会だ。日本全土に100万人もの会員を持つ日本一の格闘団体なんだとさ」

 

 無表情であるが目を丸くしているレキにノブツナは説明をした。厳つい男達ばかりであるが、子供向けの殻て教室だけでなく女子空手等々、老若男女問わず神心会空手は広く伝わっている。中でも東京にある本部には創始者と館長が尋常でない程強いと言われている。そんな空手の様子を見ていたノブツナ達のところに長身で体格もでかく、厳つい顔つきの男が睨み付けながら近づいてきた。

 

「おい…お前達、ただの見学者じゃなさそうだな。俺らになんか用か?」

 

「HAHAHA‼その通りである!俺は道場やry」

「あ、あははは…ちょ、ちょっと武偵の捜査活動でご協力頂きたいことがありまして…‼」

 

 いきなり道場破りだとぬかすジークの口を封じてノブツナは引きつった笑顔で誤魔化した。男はさらにじろりと睨みを利かす。ノブツナはレキにも手を貸してもらおうと視線を向けるが、肝心のレキは興味なさそうにしていた。更には道場内の厳つい男たちが一斉にこちらを睨み付けてきた。このままだと蹴っ飛ばされて追い出されてしまい兼ねない。ノブツナは焦り始めた。

 

 

「末堂、そう睨んでやるな。本部から電話があってな、この子達は俺に会いたいようだ」

 

 ふと後ろから声がかかり、振り向けばかなりの筋肉質な体格をした白のスーツを着た、眼帯を付けた禿頭の男がいた。ノブツナだけでなくレキもジークもその男はただ者ではないという気配を察した。

 

「お前さんが本部が言ってた犬塚信綱だな?俺がこの神心会空手の総帥、愚地独歩だ」

「ど、ども…師匠から聞いています」

 

 にこやかに差し伸べてきた独歩の手をノブツナは恐る恐ると握手をかわす。そんなノブツナの様子に独歩はクスクスと笑う。

 

「なに、取って食ったりしねえよ。ここでもなんだ、場所を変えるかい?」

 

 一見気さくな好々爺に見えるが、かの独歩は虎殺しとも呼ばれるほどの空手の使い手であり、地下闘技場にも出場した男だとノブツナは知っていた。独歩の案内で応接室へと向かい、ソファーに腰かける。独歩はニコニコとノブツナ達に視線を向けながら深く腰掛けた。

 

「さて‥‥武偵の坊や達は俺に何を聞きに来たんだ?」

 

「それは是非とも空手の御指南をry」

「ちげえだろ」

 

 さっそく割り込んできたジークにげんこつを入れ、ノブツナは真剣な表情で独歩に尋ねた。

 

「独歩さん、率直に聞きます…貴方や神心会の方達と戦った死刑囚、ドリアンについて…」

 

 その言葉を聞いた途端、独歩の顔から笑顔が消え、真顔で見つめ、ぞくりと殺気がのしかかってきた。ノブツナとレキが感じたのは明らかな殺意。しかしここで怖気づいてしまうともう顔を見る事さえできなくなってしまう。二人は重い殺気に耐えた。

 

「…冷やかしにきた、と言うわけでもねえみてえだな。なんでそんな事を聞く?」

 

 笑顔のこもった口調ではなく、完全に殺しに来ているような重い言葉にノブツナは答えた。幼児退行していたドリアンが突然回復したこと、アメリカの収容所から再び脱獄しこの東京に潜んでいるという事、ビスケット・オリバからドリアンを捕まえてくれという依頼を受け、自分は探るために情報収集をしているという事を独歩に話した。

 

「俺は一度も会ったことがありません…ドリアンはどういう男だったのか、どんな戦いをしたのか、彼と戦ったことのある貴方に伺いに来たんです」

 

 ノブツナの話を聞いて独歩は無言のまま煙草に火をつけて静かに一服した。自分達に対する殺気は消えたがどう出るかわからない。独歩は煙を吐いてノブツナ達に視線を向けた。

 

「一つ聞くが…もし、俺が怒って正拳突きをしたらどう出る?」

 

「俺なら受けて立つぞ‼かの愚地独歩と一戦交えるのだからな!」

「近接では私は手が出ません。ドラグノフを盾にして防ぐしか方法はありません…」

「えっと…持っている縄かベルトで腕を絞めて一本折ります。正当防衛ですから」

 

 ノブツナ達の答えに独歩は唸る様に考え込み、再び煙草を一服した。一息煙を吐いた独歩は渋い顔で視線を向けた。

 

「まあ60点ぐらいか…ドリアンなら隠し持っているアラミド繊維で俺の手首を切断だ」

 

 キョトンとしているノブツナに独歩はそのままかつてドリアンと戦った時の事全て話した。アラミド繊維でて首を切断されたこと、門下生達が戦って敗れた事、そして顔面に爆弾を叩き込まれたこと、覚えている事限り全てを語った。

 

「あいつは中国拳法だけでなく、ワイヤーや手榴弾、武器を仕込んで戦う。わかるか?ドリアンは手段を選ばず殺しにかかってくる。お前さん達の様な、殺しを禁じられた武偵、剰え血みどろな戦いを知らねえ武偵のガキじゃ捕えることはできねえ」

 

 独歩の言葉にノブツナは何も言わず、じっと独歩を見つめた。そんな彼の視線に独歩はやれやれとため息をついて頭を搔く。

 

「まあ…本部のとこの坊やならそれぐらいは心得ているだろうな。ドリアンが今どうなっているかは知ったこっちゃねえが、元死刑囚と言えども、ご老体と言えども手を抜くな。俺が知っている限りは以上だ」

 

「独歩さん…ありがとうございます」

 

 ノブツナは深く頭を下げた。律儀すぎると独歩は苦笑いをしてノブツナに尋ねた。

 

「逆に聞くが…今のご時世に戻ってきたといっても、ドリアンは何をしようとしているんだろうな?」

 

 それは独歩でもノブツナでも分からなかった。ドリアンは何故、再び東京に戻ってきたか。神心会への再戦なのか、または復讐か、それとも別の理由を抱えているのか、目的が見えない。

 

「リベンジなんなら喜んで受けて立つんだが…お前さん達も十分気を付けてることだな」

「独歩さん、一応渋川さんにも話したんですがくれぐれも再戦だとか言って乱入しないでくださいよ?」

「ははは‼その時は武偵の誇りにかけて全力で止めるんだな」

 

 絶対に暴れないで欲しいとノブツナは頭を抱えた。死刑囚ドリアンだけでなく愚地独歩までも巻き込んできたらたまったものじゃない。

 

 一先ず情報収集することはできた。後は先手を打たれる前にドリアンを見つけて捕えるしかないだろう。後はジークや鳰、レキと連携を取って探していく。ノブツナは独歩に一礼して部屋を出ようとした。しかし、ジークはもう帰るのかと言わんばかりに嫌そうな顔をしてきた。

 

「もう帰るのかノブツナ‼せめて神心会と一緒にカラーテを教えてもらうじゃないか!」

「おいジーク、目的はそれじゃないってば」

 

「うちのせがれは新しく武偵向けに空手教室を開こうかと考えてたところだ。今入門すれば月謝は30%オフに…」

「独歩さん、勧誘しないでください…」

 

___

 

 それから数日が経過した。ノブツナはレキと共にドリアンが潜んでいそうな廃墟のビルや無人になった地下のバーやアパートを捜索して探していた。しかしどこもいる気配がないどころかまったく見つからなかった。

 

「はー…ここも外れだったな」

「これで15件目ですね…」

 

 ボディーアーマーを身に着け、刀を提げ、LARグリズリーの他、スタングレネードやらと重装備で備えて向かっているがどこも空振りに終わってしまった。レキは無表情で見据え、ノブツナは大きくため息をついて項垂れた。

 

 鳰には無人の工場やら廃墟やらと場所の情報と目撃情報を収集させ、ジークにはハワコネ社の製造したUAVを使って探索してもらっているがどれも手応えがなかった。レキの鷹の目をもってしても見つからないとなると本当に潜んでいるのかどうかと疑ってしまう。何かいい手はないかとノブツナは唸りながら悩みだす。

 

 

「あんたが犬塚信綱ね?」

 

 ノブツナが頭が痛くなるほど悩んでいるところに、少し高い音程のアニメ声な少女の声がかかる。面倒くさそうに振り向くと、キンジの部屋で居候しているピンクツインテロリこと神崎・H・アリアがこちらを睨み付けながら歩み寄ってきていた。

 

「何だお前か…今は奴隷の勧誘はお断りだし、すごく頭が痛いから後にしてくんね?」

 

「あんたをあたしの奴隷にしに来たわけじゃないわ」

 

 それなら様がないなら帰れと言いたかったが、どうせ言ったとしてもこういうツンツンした奴は人の話を聞かないと察していた。アリアはムスッとした顔でノブツナに指をさす。

 

「率直に言うわ。レキをよこしなさい」

「はぁ?」

 

 いきなりのことでノブツナは眉をひそめて睨み返した。それにカチンと来たのかアリアは声を荒げながら話を続けた。

 

「もともとレキはあたしと組む予定だったのに…あんたはそれを横取りしたのよ‼今はレキの力が欲しい所なんだから何も言わずよこしなさい!」

「あのさぁ。レキとはこちとら一年間バディを組んでたし、レキは俺の大事なパートナーだ。誰にもやらんぞ!」

「うるさいわね!貸しなさいと言ったら貸しなさいよ‼レキ、あんたはどうなのよ‼」

 

 ノブツナとアリアはギャーギャーと口喧嘩を繰り広げる。そこでアリアはレキの意見は聞こうと鋭い視線を向ける。レキはこくりと頷いて静かに口を開いた。

 

「私は…ノブツナさんのモノです。今はノブツナさんに従います」

「ほれみろ。喧しいやつにレキは渡さん」

「なっ…あんた変な事をレキに吹き込んだでしょ‼もう!こうなったらあんたたちにデュランダル探しを無理矢理でも協力してもらうわよ‼」

 

 アリアはやけくそに喚きだした。『デュランダル』という言葉にノブツナはさらに眉をひそめた。最近噂されている武偵校にある超能力捜査研究科(SSR)の武偵の中でも攻撃的な超能力を持つ者、所謂超能力者(ステルス)の武偵、超偵を攫う誘拐犯のことである。いるのかどうか、存在しているのかどうか疑わしい都市伝説レベルの話だ。

 

 最近我が武偵校の生徒会長である星伽白雪に脅迫状が送られたと話題に上がっていた。そのデュランダルを捕えるために、白雪を守るためにアリアとキンジがボディーガードを務めていると武藤から聞いていた。しかし今のアリアはキンジや白雪と同行してしないし護衛すらしていない。ノブツナはジト目でアリアを見つめる。

 

「お前…白雪の護衛はどうした?」

「あっ…えと…捜査よ捜査‼」

 

 焦るアリアに正直に話せと問い詰めたところ、アリアは直感でデュランダルの存在を信じているがキンジは全く信じておらず、口論になりキンジから白雪の護衛を外されてしまったとの事だった。それを聞いたノブツナは呆れてため息をついた。

 

「馬鹿じゃねえの。護衛の任務をほっぽいて単独で探すなんてよ。てかちゃんと護衛をしろよ。キンジだけじゃぜってーヤバいから」

「だからあんた達に頼んでいるんでしょ‼」

 

 ああ言えばこう言う。ノブツナは面倒くさそうに頭を掻く。こっちだって脱獄囚したという危険な元死刑囚を探しているというのに余計面倒な事を持ち込んでくるなと。適当に言って追い払おうとしてもうんともすんとも言わないだろう。どうしようか考えていると携帯電話が鳴った。電話の主は鳰のようで情報でも入ってきたのかとノブツナは携帯を取る。

 

『もしもーし。ノブちゃん大変そうッスねー♪』

「おまえ…遠くでみてやがるな?」

 

 冷やかしだけならこのまますぐに切ってやろうかと思ったところ鳰はノブツナを止める。

 

『ノブちゃん、ピンクツインテロリの件はうちに任せるっスよ』

「鳰…お前いいのか?」

 

 鳰の言葉にノブツナはぴくりと止まり、尋ねる。鳰はクスクスと笑いながら話を続けた。

 

『デュランダル…その件ならうちは知ってるっス。前にも話したッスよね、うちの故郷の事』

「ああ…葛葉のことだな」

 

 ノブツナは鳰と最初に組んだ時に鳰から自分の正体ことを話していた。元々鳰は関西にあると言われる暗殺に長けた暗部『葛葉』の一族である。『東のアズマ、西の葛葉、北の暁座、南の百地』と呼ばれるほどの暗殺の名門であった。しかし、数年前にイ・ウーという秘密結社の襲撃を受けて故郷は滅茶苦茶にされ一族は離散され、ほうかいされてしまったという。

 

『うちの故郷を滅茶苦茶にしてくれたイ・ファッキン・ウーの中にデュランダルという奴がいたッス。奴を捕まるというのなら、うちは喜んで力を貸してあげますっスよ?』

 

 鳰の証言からデュランダルは存在している事が分かった。しかし、鳰をアリアのわがままに付き合わされるとこちらのドリアン探しがさらに困難になってくる。けれどもアリアを納得させるには鳰に任せるしかない。あとはジークのUAVに期待しつつ、自力で探すしかない。ノブツナは頷いて鳰に指示を出す。

 

「わかった…鳰、面倒をかけてしまうがそっちも頼んだ」

『りょーかいッス‼その代わりメチャクチャ美味しいっていわれる銀座のメロンパンを5個用意するッスよー♪』

 

 

 現金な奴だとノブツナは苦笑いをして電話を切る。ちらりと面倒くさそうにアリアに視線を向けた。

 

「アリア、俺達は別の捜査をしているから手を貸せん。その代わり、そっちに詳しい奴をつけてやるからそれでチャラにしてくれるか?」

「…仕方ないわね。あまり使えない奴だったらすぐに文句を言ってやるわ」

 

 今のお前と組んでいる相棒よりも何倍も頼りになる奴なんだけどなとノブツナは怒りを抑えてニッコリとした。

 

「その代わり、捜査だけだからな。そいつとは電話でやりとりしろ」

 

 ノブツナは鳰の電話番号を書いた紙切れをアリアに渡した。アリアはふんと言ってひったくるように受け取りトコトコと去っていった。

 

「ったく…キンジはなんであんなツンツンした奴とひとつ屋根の下で住んでいるのやら」

 

 こっちは何を考えているのかよく分からないけど可愛らしい奴とひとつ屋根の下だけどなと、ニヤニヤしながらレキの頭を撫でた。しかしレキは一体どうしたと首を傾げたままだった。

 

 

___

 

 この後もドリアン探しにあちこち探し回ったが、結局見つけることはできなかった。ノブツナはへとへとになりながらも夕陽に照らされている男子寮へと帰ってきた。

 

「見つかんねぇ…‼」

「なかなかいませんね…」

 

 レキは全く疲れの色を見せておらず、ホントにタフだとノブツナは項垂れる。このまま見つからないと人のことが言えなくなってしまう。そして先にアリア達がデュランダルを見つけしまうとなるともっと惨めになってしまう。

 

「このままだとアリアに笑われちまう…ああ、鳰をそっちに回すんじゃなかった‼」

 

 何の手掛りもつかめておらず焦りを感じていた。一体何処に潜んでいるのか、何を企んでいるのか、掴めないまま終わってしまうのかとノブツナは悩んでいた。階段を上がり、やっと自分の部屋が見えたと思った時、ノブツナはピタリと止まった。

 

「‥‥?」

 

 自分の部屋のドアが見えている。このままドアを開けて、すぐに寝たい、と見える前までは考えていたのだが違和感を感じていた。レキもそれを察していたようでお互い階段の上で立ち止まったままだった。

 

「なあレキ。俺、出掛ける前に()()()()()()()()()()?」

 

 レキは無言でこくりと頷いた。確かに戸締りして出掛けた。これだけは覚えているのに、明らかにドアのロックが外れているのがわかる。

 

「…レキ、後ろを頼む」

「ノブツナさん、気を付けて」

 

 ノブツナとレキはお互い頷き、ノブツナはホルスターからLARグリズリーを取り出しリロードした後慎重にドアへと進み、レキはドラグノフに銃剣を取り付け、ノブツナと背中合わせであたりを警戒しながら進んで行った。

 

 ドアの前に立つとノブツナは指で『3秒数えて突撃する』とレキに合図をした。レキが静かに頷いたのを見て指でカウントをする。3秒のカウントをし、0でドアを蹴り開けてサイドへ。音もなく、何も起きらない事を確認すると慎重に暗い部屋の中へと入っていく。

 

 目を凝らしてもワイヤーは張っておらず、それに誰もいる気配がない。ノブツナが先頭に進み、レキが後続して入っていく。しかし誰の姿も見えなかった。

 

「‥‥いませんね」

「いねえな。もしかしたらジークのいたずら…」

 

 どうせジークの悪戯だろと言おうとして後ろを振り向いた瞬間にノブツナは血の気が一気に引いた。脱衣所の戸が開き、そこから長身で体格のでかい、グレーのフード付きのジャージと黒のズボンを着た白髪に白鬚の男がゆっくりと出て来てレキの背後から大きな拳を振り下ろそうとしていた。

 

「レキ‼あぶねえっ‼」

 

 ノブツナは咄嗟にレキをこちらへと引っ張って後ろへと倒れる。レキを引っ張った数秒後、男の拳は空を切り、床へと叩きつけた。大きな音を立てて大きな穴を開けた。男は大きく息を吐き、ギョッとしているノブツナにニッコリと笑顔を向けた。

 

「ふむ…日本の武偵はどうもセキュリティが甘すぎる。特に坊や達ような武偵の子供はもっと甘すぎる」

 

 男は床に大名を開けた拳をゆっくりと引き抜き、立ち上がる。拳をさすりながら、大男はにこやかにノブツナとレキに軽く会釈をした。

 

「初めまして、私が君達のお探しの元死刑囚、ドリアンだ」





死刑囚編だけじゃなく、その先の中国武闘会編もやってほしい…(切実

 武偵校の学生寮もセキュリティが甘い気が…なんたって誘拐犯が盗聴器つけてもばれない程だものね


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13話 O Toi La Vie  ①


 刃牙の第二部、死刑囚編がアニメ化すると聞いてテンションマックス。復習ということで第一部のアニメを鑑賞中

 OPはイントロがいいんですけど…歌が(ズコー


 ノブツナは戦慄した。目の前にいる大男はかつて東京を騒がせたかの5人の死刑囚の1人、ドリアン。一時幼児退行をしていたと言っていたが、体はまったく衰えておらず老いを見せないくらいに強く、そして静かに殺気を放っていた。

 

「…いつから俺達の事を知ってるんだ?」

 

 ノブツナは恐る恐る尋ねた。相手が何故こちらの名を知っているのか、何故自分を探しているのが分かっているのか。ドリアンは白髪のヒゲをさすりながら考える素振りを見せ考え込んでいた。

 

「久々にこの地に戻ってきたということで神心会の独歩氏に挨拶に行こうかと向かっていたところ、君達を見かけてね。武偵が何か用かと後を付けてみたら私を探っているというのを知ったんだ」

 

 気配を悟られることなく後をつけられ、しかも簡単に侵入されたことにしてやられたと睨む。そんな事なぞ気にせずにドリアンはヒゲをさすりながら物珍しそうに二人を見つめる。

 

「これまで屈強な警官や戦いを求める格闘家達を相手にしてきたが…今度は坊や達が相手だとはな。私もご老体だとなめられたものだ」

「これでも一応武偵なんですけどね…」

 

 いつ仕掛けてくるか、ノブツナは身構えながらドリアンの様子を伺っていた。かのファイター達ならばったり出会った時が試合開始、もう戦いは始まっている。ドリアンは相変わらずヒゲをさすっているまま。ノブツナはちらりと後ろにいるレキに相手が動いたらすぐに迎撃にまわるよう目で合図をした。

 

 そのノブツナの隙を待っていたかのようにドリアンは動いた。ヒゲをさすっていた手を開き、ノブツナに向けて強く息を吹きかけた。その手から勢いよく飛んできたのは何本もの小さく硬いヒゲの毛だった。目に入らないようにノブツナは片腕で防ぐ。更にドリアンはポケットからライターを取り出し、中に仕込んでいる目視ではとらえにくい特殊繊維のワイヤーを引っ張り出した。防いでいた腕に絡めさせ切断しようとひらりと飛んできたのが見えた。

 

「レキ‼ソファーの下!」

 

 ノブツナは大声で呼びかけた。後ろに下がっていたレキはソファーの下を探り出し、FN P90を取ってドリアンに向けて撃ちだす。レキがP90を取り出したところをみたドリアンは撃たれる前にライターを投げ捨て後ろへと下がった。ノブツナはLARグリズリーを構えて追うがドリアンは待ち構えており、仕込んでいた棘付きのメリケンサックを付けた左手で強烈な拳を速く放った。咄嗟に両腕で防ぐが衝撃までも防ぐことができず腕にミシリと激痛が走り、ブツナは激痛に耐えながらキッチンへと吹っ飛ばされた。

 

 ドリアンは次にレキへと標的を変えて襲い掛かる。レキはP90を撃とうとするが、それよりも早くドリアンの蹴りが振り下ろされた。しかも靴の先端と踵に刃物を仕込んでおり斬りつける勢いで踵落としをした。レキは銃で防ぐがドリアンの力が強く、刃物が次第に顔に近づいてきた。

 

「…っ」

「軽く遊びの程度でやっているのだが…実に残念だよ」

 

 ドリアンはつまらなさそうに見下す。独歩や神心会の連中ならまだしもこんな子供が相手では楽しめない。世も末だとため息をつき、止めを刺そうと力を込めてもう一度叩き込もうとした。

 

 その時、ぞくりと後ろから殺気を感じた。振り向くとノブツナが刀を引き抜いて斬りかかろうとしてきていた。刀が振り下ろされる寸前にドリアンは身をかわす。刀は空を切るが、はらりとドリアンのヒゲと髪の毛が舞い、服に斬られた跡がうっすらとついていた。その刀の速さと今のノブツナの込められている殺気にドリアンは嬉しそうな笑みをこぼす。

 

「そうだよ。これだ!これぐらいの勢いで来てもらわないと!」

「うるせー!てめえをまずい病院食しか食えなくなるようにしてからとっ捕まえてやるからな‼」

 

 苛立って怒っているノブツナに対し、ドリアンはニッと不敵な笑みを見せる。かつて戦った独歩氏程の殺気とまではいかないがそれでも格闘家達の他にこんな殺気を込めた相手がいたことが嬉しかった。

 

 ドリアンは楽しみながらノブツナが振るう刀を刃物の付いた靴で防ぎ、躱しつつ後ろへ下がり、更に挑発していく。

 

「さあもっと、もっと殺気を込めて‼そうでないと私を倒せないぞ?」

「うるせえよ‼あとてめえはもう詰みだ!」

 

 ノブツナが苛立ちながらドリアンを睨んで告げる。その瞬間に顔に弾丸が掠めた。飛んできた先を見ればレキがドラグノフを構えて狙いを定めていた。気付けば自分がいる場所は玄関へと続く長い廊下。

 

「部屋に逃げ込んでも袋のネズミ。踵を返して逃げようとしてもレキがお前のアキレス腱を射抜いてダウン。観念してお縄につけ!」

 

 ドリアンは口笛を吹き、無言で狙いを定めているレキと刀の切っ先を向けているノブツナを見た後にふっと笑いだした。

 

「成程…私が先ほど言った事は謝ろう。君達は殺す勢いで戦いつつ、殺さないようにしているのだね」

「まあ一応武偵法9条があるもんでな」

 

 日本では武偵法9条で武偵は殺人を禁じられている。半ば皮肉を込めてノブツナはぶっきらぼうに返す。しかし、ドリアンは愉悦な笑みをこぼした。

 

「だが…多くの人間を殺めた死刑囚だった私にはわかるよ。二人とも、()()()()()()()()のではないのかい?」

 

 ドリアンの言葉にノブツナとレキはぴくりと反応した。ドリアンはにっこりとしながらノブツナを見つめる。

 

「特に君は‥‥私に向けた殺気とあの目つき。私が推測するには戦場に出て、多くの人間を殺めたんじゃないかな?」

 

 ドリアンの問いにノブツナは無言のまま、じっと睨んだまま答えなかった。何も言わなくてもドリアンは嬉しそうに頷く。

 

「よし、決めた。その気にさせるために今度少し派手なイベントを持ってこよう。それまでに私を殺す気でくるか、それとも武偵や司法の誇りに賭けて私を捕まえるのか答えを用意してくれ」

「いや、あんたはここで捕まえる気でいるんだけど?」

「‥‥」

「そうかそうか‥‥」

 

 ぶっきらぼうに答えたノブツナと無言で狙いを定めているレキにドリアンは少し残念そうにしながらすぐそばにある部屋のドアを開けた。

 

「ところで…君達はガソリンがお好きかな?」

 

 ノブツナとレキはすぐに気づいた。ドリアンが開けた部屋から気化したガソリンの臭いが鼻に伝わってくる。間違いなくあの部屋にはガソリンが撒かれ、気化したガソリンが部屋に充満している。

 

「君達が帰って来るのが遅いから各部屋に撒いたガソリンが気化してしまってね。流石の私もこれは急いでお暇しなければならない」

 

 ドリアンはそう言いながらポケットからM67破片手榴弾を取り出し、ピンに指をかけた。青ざめているノブツナに対してニッコリと笑った。

 

「それじゃあまた会おう!」

 

 ドリアンは笑顔でピンを引き抜いて部屋へと投げ込んだ。それを見たノブツナは咄嗟に踵を返して駆け出し、レキを姫抱っこして窓を蹴り開けてベランダから海へと飛び降りた。

 

 その数秒後、爆炎を吹き荒らしながら爆発が起こる。あと数秒遅れていたら爆発に巻き込まれていただろう。海へとダイブし、もくもくと巻き上がる炎と黒煙を見てノブツナはげんなりとした。

 

「なあレキ、修理費って請求できるかなこれ…?」

「隣にも被害が出ているようですから難しいですね」

 

___

 

「お前のUAV、全然役に立たなかったぞ」

「なん…だと…」

 

 武偵寮で爆発が起きたという事で他の武偵達が駆けつけ、びしょ濡れのまま事情聴取を受けたノブツナはムスッとした顔で野次馬に紛れていたジークに文句を言った。しかしジークは全く反省していないようで他人事かのようにテヘペロとお茶目に返す。

 

「メンゴメンゴー。こんな時もあるさ」

「ぶん殴っていいよな?」

 

 ノブツナはすぐさまジークにげんこつをいれる。人を探すUAVでさえも見つけることができなかったことよりも、すんなりと武偵寮に侵入されるほどのセキュリティの甘さに舌打ちした。このままでは学園にもあっさりと侵入されるに間違いない。

 

「自慢のハワコネ社の製品でも見つけるのは難しいか…やっぱ鳰を呼び戻して捜査するしかねえか」

「ああそれよりもなんだが…我がハワコネ社のUAVには色々な探知機能が搭載していてな。丁度この寮の辺りを飛ばしてたら、部屋に盗聴器が仕掛けられていたことが分かったぞ!」

 

 ドヤ顔して自慢してくるジークにノブツナは面食らった。

 

「は?俺の部屋にか?」

「いや。お前の隣、キンジの部屋だな。そりゃあもうすっごい数。面白そうだったから逆探知も試みたんだ!それからキンジは何処にいるか探してたら、白雪ちゃんと浴衣デートしてやんの!」

 

 ノブツナはキンジの警戒の無さに呆れていたが、ふと気づいた。いちいち自慢してくるジークにまさかとノブツナは恐る恐る尋ねる。

 

「お前、まさかそれに夢中でしばらく飛ばすのを忘れてた、とか言うんじゃねえよな?」

「あっ…」

 

 ふと思い出したかのようにはっとしたジークにノブツナは思い切り頭突きをしてやった。のたうち回るジークにキレ気味に怒声をとばす。

 

「お前何してんだよ!?」

 

 もしかしたらその間にドリアンを見つけ、知らせる事が出来たというのに、ノブツナは大きくため息をこぼした。

 

「はあ…結局何の成果もあげられなかったってか」

 

 ドリアンを探すも、見つける事ができず、しまいには迎撃されて逃げられた。この捜査で得られたのはお隣は盗聴器が仕掛けられていたこと、デュランダルも既に先手を打っていたことがわかっただけ。それよりも白雪の護衛もといデートに帰ってきたキンジにどう説明しようか悩んだ。

 

「隣まで爆発の被害が出てるし、どう言い訳すればいいか…」

「ドーナツ作りに失敗したって言えばいいじゃないか?」

 

 そんなレベルじゃねえとツッコミを入れて項垂れる。そんな時、ふとノブツナは思い出す。

 

「あれ?レキのやつ、遅いな…」

 

 ノブツナは不思議そうにあたりを見まわした。レキの事情聴取もすでに終わっているはずなのに中々戻ってきていない。

 

「ノブツナさん、こっちです」

 

 キョロキョロしているノブツナに後ろから声がかかる。振り向けば大きなバスタオルを羽織っているレキがいた。しかし、レキも未だにびしょ濡れのままで、濡れた制服がぴったりと肌に引っ付いたままだった。

 

「あれ?レキ、替えの服とかは…?」

「すみません。どうやら替えの制服も焼失してしまったようです」

 

 レキは無表情のまま鎮火したであろうノブツナの部屋の方へ視線を向けていた。ノブツナもやっちまったなと遠い眼差しで同じくその方へ視線を向ける。

 

「あちゃー…制服も請求できっかな…というか明日からどうしようこれ」

 

 とりあえず、ドリアンの追跡を続けつつもう一度対策を立てなければならない。直ぐにでも何処かで鳰を呼び戻して話をしようと考え込む。移動先を決めたノブツナはレキに伝えようとチラリと見ると濡れた制服を脱ごうとしていた。ぎょっとしたノブツナはすぐに引き留めた。

 

「ちょ!?何してんの!?」

「いえ、濡れたままではいけないので脱いで水気を取ろうと…」

「うん、わかるけどさ!?他の人達が見てるからやめような!?」

 

 事情聴取で来ている教務科の他に、爆発を聞いてやってきた野次馬や他の武偵達も来ている。こんな面前で脱がさせるわけにはいかない。写真を撮ろうとしているジークを殴ってからレキを説得する。

 

「なら…ノブツナさんだけの時ならいいのですか?」

「うん、そういう問題じゃなくて…いや寧ろ嬉しいけど、やっぱだめだからな!」

 

 ノブツナはこの先大丈夫かと頭を抱えた。





 狭い場所でスナイパーライフルで撃つか、それともアサルトで撃つか、そこら辺は知識はありませんので申し訳ございません…
 
 


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14話 O Toi La Vie  ②

 少しばかり押し込みすぎとご都合主義なところが…
 あと色々と違う所もあったりと、申し訳ないです


「よーし、じゃあ最初から改めて整理するぞ」

 

 ノブツナは熱いコーヒーを啜りながらドリアン追跡の為、情報を1から整理してまとめようとした。始めようとした矢先にジークが手を挙げる。

 

「ノブツナ!おうどんたべたい」

「よし、殴られたいようだな」

 

 ひとまずやる気があるのかとツッコミを入れたいのでジークに一発げんこつを入れた。

 

「…じゃあ気を取り直して(ry」

 

 ジークは懲りないようで再び手を挙げた。これ以上話を遮らないでほしいと睨みをきかすが動揺せずにジークはドヤ顔で語りだした。

 

「ところでノブツナ、レキに衣類を渡したんだが…どう思う?」

 

 にやにやしているジークが指をさす方向にノブツナは視線を向ける。学校の制服が乾くまでの間、ジークが渡したのは体操服。体育座りをしてドラグノフを抱えているレキはキョトンとして首をかしげた。それを見たノブツナはにんまりとする。

 

「すごく…かわいいです」

「だろぉ?本当はブルマーにしたかったんだが、そこはベタにはせずぴっちりスパッツタイプを穿いてもらった!」

「ジーク、でかした!ちょっと保存用に一枚撮っておこう…」

 

 ノブツナとジークはどこぞのエロオヤジのようなゲスな笑顔をしながら写真を撮ろうとした。そんな二人にげんこつが下された。のたうちまわる二人を見て、げんこつをいれた本部は呆れたように溜息をついた。

 

「まったく…人の道場で何をしているんだお前たちは。というかなんでここで集まったんだ」

 

 ノブツナ達が集まった場所はノブツナの師匠である本部以蔵の道場。頭をさすりながら答える。

 

「師匠が道場なら安全って言ってたし、それに地味そうですからうってつけかなーって」

「確かにそう言ったが相手はそうはいかんぞ…って地味とはなんだ‼」

 

 そこから暫く道場内でノブツナと本部の武装鬼ごっこが始まった。

 

__

 

「うぃーっす!鳰ちゃんがお土産のメロンパンを持ってきたッスよー。ってなんでノブちゃん縛られてんです?」

 

 鳰が袋に入ったメロンパンを沢山持って道場に入ると道場のど真ん中でグルグルに縛られていたノブツナがいた。レキはじっとノブツナを見つめ、ジークは腹を抱えて爆笑しており、状況が掴めないので鳰はきょとんとしていた。ノブツナは芋虫のように動きながら鳰に助けを求めた。

 

「そんなことより助けて‼」

「はいはい、仕方ないッスねー。そんなことより進展はありました?」

「レキのコスプレは超絶カワイイ」

「うん、進展は期待できないようっすね…」

 

 ドヤ顔で答えるノブツナに鳰はそんな気がしたと呆れながら縄を解いてあげた。

 

「まだ整理ができていない。ぶっちゃけってと武偵校内のセキュリティをどうにかしろと愚痴ってるだけだが…そっちの仕事はどうだ?」

 

「ノブちゃんの報告通り部屋に盗聴器が仕掛けられていたとアリアに報告すると、アリアは『もし白雪が誘拐されたと仮定してそれが可能な時期と場所。攫った後逃げるのにうってつけの場所を探してくれ』って。遠山を囮にしてデュランダルをおびき寄せるみたいッスよー」

 

 ノブツナはそれを聞いて低く唸る様に考え込んだ。アリアはただ癇癪を起してむやみやたらに銃を引き抜いて撃ちまくるだけではないと感心した。後は彼女の直感と行動に遠山がどう合わせていくべきか、それさえ合えば馬が合うだろう。そして鳰はニシシと笑いながら付け加えて報告した。

 

「それからアリアも武偵寮襲撃事件の事を聞いて『協力してもらってるからあんたの一件も手伝ってあげなくないわよ』ってさ」

「けっ…他人事のように言いやがって」

 

 ノブツナは渋る様にそっぽを向いた。そっちはただ誘拐犯から白雪を守りながら捕まえるのにこちとら脱獄した殺す気満々の元死刑囚ことドリアンを追っている。しかも今度は何をやらかすのかわからない。

 

「確かドリアンは二等兵として戦後の東京に来ていたんだっけな…かつて日本兵やアメリカ兵達のたまり場や集会所だった場所を洗い浚い探そう。鳰、頼めるか?」

「はーい!ドリアンがアジトにしていた場所や戦後、アメリカ兵たちがたまり場にしていた地下や廃屋とかはピックアップしとくッスよ」

 

 鳰はメロンパンを頬張りながら笑顔で手を振った。次にノブツナはジークに視線を向ける。

 

「ジーク、レキに弾薬の提供とドラグノフのオーバーホールができるように用意をしてくれ。それから明日からお前も連れて行く」

「キタコレ‼ついにオレの出番だな!」

 

 やっと出番が来たとジークは大はしゃぎをしてウォーミングアップをし始めた。まだ早いとノブツナはツッコミを入れた。これで大丈夫なのかと軽くため息をついた。ドリアンが言っていた『イベント』とやらはどういうことなのかさっぱり検討もつかない。

 

「‥‥」

 

 ノブツナは怪訝そうな面持ちで頭を掻いた。今でもドリアンに言われたことが頭から離れない。今は言われたことと昔の自分を思い出すのはやめようと頭を横に振った。

 

「鳰、甘くないメロンパンとかねえのか?」

「何言ってるんッスか。甘くないメロンパンとかもうメロンパンじゃないっすよ」

 

___

 

「‥‥」

 

 レキは無言のままビルの屋上から辺りを一望していた。風が体を突き抜けるように吹き、髪やスカートが靡く。風向きや風の強さを測定し、屋上のから見える景色を構いもせず、何も考えていないように無言でドラグノフのスコープを覗いた。

 

「おっつー!レキレキ、ご苦労さんッス!これ餞別ですよー」

 

 レキの下へ鳰がコンビニの袋を携えながらにこやかにやってきた。鳰は笑顔で袋からカロリーメイトを取り出すがレキはこちらに振り向くことなく無言でスコープを覗いたまま動かなかった。

 

 レキがスコープで覗いている先にはノブツナとジークが廃屋へと入っていくところが見えた。鳰がピックアップしておいた戦後アメリカ兵がたまり場にしていた場所の一つであり、レキは狙撃かつその近辺の見張りをしていた。

 

「アタリが出たらいいッスねー」

 

 レキの隣で鳰は他人事かのように能天気にコンビニで買ったメロンパンを食べながら眺めていた。実のところこれで3件目になる。ノブツナとジークのツーマンで突撃し、レキが後方支援、鳰がレキの護衛とナビをする組み合わせで行っているが手応えは無く、何か手掛りになるものでもいいから見つかってくれとノブツナは少しやつれ気味に愚痴をこぼしていた。

 

「ノブちゃんは焦り過ぎッス。もう少し状況を楽しめばいいのに」

 

 考えすぎだと鳰はケラケラと笑った。その横でレキは終始無言で微動だにしていなかったが、ゆっくりと口を開いた。

 

「鳰さん…少し聞いてもいいですか?」

「おおっ!?あ、あのレキレキがうちに質問ッスか!?何でも聞いてくださいな!好きな相手を堕とすテク?それともうちのスリーサイズっすか?」

 

 突然レキが尋ねてきたことに鳰は嬉しそうに驚き、ハイテンションかつオーバーリアクションで身構えた。そんな鳰とは正反対でレキは冷静に、静かに尋ねた。

 

「…ノブツナさんの過去をご存知ですか?」

 

 その言葉を聞いた鳰は無邪気さが無くなり真剣な眼差しで軽く笑った。

 

「へー…意外っすね。あのレキレキがそんな事を聞くなんて。何故です?」

「ノブツナさんは多くの人間を殺めたと言われました。それは本当なんですか?」

 

 鳰の方に視線は相変わらず向けておらず、ずっとスコープを覗いたままレキは聞いてきた。鳰もレキの方に視線を向かず、屋上の景色を一望した。

 

「…レキレキは気になったんですね。率直に言いましょう。答えはYesッス」

 

 鳰の答えにレキは初めてスコープから離れて鳰の方に視線を向けた。レキは驚く表情はなく、ただ物静かに鳰を見つめていた。

 

「確かにうちはノブちゃんの過去を本人から教えてもらったッス。そうじゃなきゃうちは組んでませんしね…ただ、よっぽど面白くない話になりますよ?いいっすか?」

 

 鳰はちらりと視線を向けた。レキは無言で静かに頷く。

 

「レキレキは聞いたことありますか?『武器の子供達(ウェポンズチルドレン)』を」

「‥‥数年前、メディアにあげられ問題になった中東やアフリカにいる子供の兵士達のことですね?」

 

 事の発覚はとある中東のアメリカ兵の駐屯地に武装勢力が侵入してテロを起こしたことによる。このテロは深夜に勃発したが一夜で鎮静させることができた。侵入した武装勢力10名の遺体を回収したが、全て10代にも満たない幼い子供達だったのだ。

 

 そんなニュースに衝撃を受けた兵士達やメディア、戦場カメラマン達が足を踏み入れ深く探っていくと中東のみならずアフリカ、内戦や内紛が起きている地域などの各地に同じような子供の兵士達が戦場に出て戦い、テロを起こす武装勢力の一員にもなっていたのであった。

 

「メディアや政府はそれを問題視して無くそうとして取り組んでいったけども、結局メディアも取り上げなくなり年を重ねるにつれて消えていった…と、まあ『武器の子供達(ウェポンズチルドレン)』とはそんな5歳~18歳代ぐらいの子供の兵士達っす」

「それとノブツナさんとどう関係が…?」

 

 『武器の子供達(ウェポンズチルドレン)』については聞いたが、ノブツナの過去とどう関わっているのかレキは気になっていた。鳰は頷いて話を続けた。

 

「ここからがノブちゃんが教えてくれた事っすよ。11年前まだノブちゃんが6歳の頃、4人家族でベトナムに海外旅行に行き家族とベトナム観光を堪能しいざ帰ろうかっていう最終日の夜の事、ノブちゃんファミリーはそこで運悪く強盗殺人に遭うッス。父は鉈で頭を割られて無残に殺され母と姉はレイプされて殺され、いざ自分が殺される番になったと思いきや、こいつは金になると言われてノブちゃんは拉致され人身売買されて奴隷として中東へ連れていかれたッス」

 

 気軽にノブツナの過去のことをさらっという鳰の話にレキは無表情に見えるが驚いたように目を見張っていた。

 

「中東へと渡ったノブちゃんはそこである武装勢力へと買われるッス。連れていかれた場所は薄暗く、血なまぐさく、不衛生で汚くて臭い場所だった。そこにはノブちゃんと年齢が変わらない子供達や自分よりも年上の子供達がいて、爆弾の製造や銃器に刀剣の扱い方、そして人の殺し方を教えられていたと」

「つまり…武器の子供達(ウェポンズチルドレン)の養成所ですね」

 

「その通り。ノブちゃんはそこで爆弾の製造や銃器や刀剣の扱い方と人の殺し方を学ばされ、戦場へ、テロを行う場所へと駆り出された」

「ノブツナさんは怖くなかったのですか‥‥?」

 

 レキの問いに鳰は首を横に振った。

 

 

「『泣いたら殺される』と言ってたッスよ。泣きわめたり、恐怖を抱いて怖がる子は使いもにならないというわけでその場で殺されるか、犯されて殺されるか、犬の餌にされるか。それに常日頃戦場に出るわ、地雷原の荒野を駆けて近くで走しっていた子が地雷を踏んで肉塊になったり、戦場で隣にいた子がスナイパーに頭を吹っ飛ばされてアートになるわ、暗殺を失敗して捕まって拷問されないように必死に逃げたり、いつ自分が自爆テロを起こす番にされるか…恐怖を捨ててただ無情に引き金を引いて戦ったと」

 

 レキは静かに頷いた。彼女の瞳には驚きの色が見える。彼がそんな過去を持っていたなんて知らなかった。

 

「ですが…そのノブツナさんがどうして日本に戻れて、武偵に?」

「転機はノブちゃんが5年後、11歳の頃っス。ノブちゃんは他の子供の兵士達と他の武装勢力に雇われてアジトで武器の準備をしていた時の事、突然外が騒がしくなったとノブちゃんは気になっていると…そこへ『奴』が現れたんっすよ」

「奴…?」

 

 レキが首を傾げると、鳰はゲスな笑みを見せて答えた。

 

 

「『地上最強』と呼ばれた男…範馬勇次郎ッス」

 

 範馬勇次郎。『地上最強の生物』と恐れられ、警察や武偵、更には自衛隊等、国の司法も兵力でさえ恐れられている化け物。なぜそんな怪物がそんなところに現れていたのか、鳰は話を続ける。

 

「『運動しているところに目障りなのがいたから壊そう』っていう理由でその武装勢力を潰しにかかったんだですって。言葉通り、勇次郎に壊滅され、大の大人達は抵抗して殺され、残りはノブちゃんを含めた子供達だけ。子供達は初めてみる怪物に蜘蛛の子を散らす様に逃げ、目の前でばったり出会ってしまって立ち尽してしまったノブちゃんだけに。そんな怪物にノブちゃんは‥‥勇次郎の手に噛みついた」

 

 あの勇次郎に噛みついたと聞いてレキは呆気にとられた。どうしてそんな事をしたのか、自殺に近い行為に違いない。

 

「今までため込んでいた恐怖と怒りが爆発して咄嗟に出てしまったと言ってたッスよ。指を食い千切るぐらいに、歯が折れるかもしれないぐらいに噛みついたけども無論、勇次郎には無駄だった。案の定、ノブちゃんは勇次郎に思い切りビンタされてノックアウト…自分は死んだかと思いきやノブちゃんは目を覚ますと勇次郎に担がれて空港に連れてかれていたッス。なぜ自分が殺されずにいるのか分からなかったところ、勇次郎は『ガキの癖にいっちょ前に持っていた殺意とその眼が気に入った。教育してやる』とか言って日本へ。徳川財閥のコネで新しい戸籍と名前を与えられ、ノブちゃんは本部以蔵の道場へ預けられあれやこれやと教えられたそうっすよ。そして徳川光成の希望と『今の自分の力で何ができるのか』、答えを見つけるためにノブちゃんは武偵に入ったッス」

 

 これがノブツナの過去…鳰はそう語り終えると大きく息をつき、珍しそうにレキを見つめた。

 

「ほんと珍しいっす…あのレキレキが人の事を気にするなんて。明日は雪が降りそうッスね」

「『風』がノブツナさんの過去を知りたいと言ってきたので…」

「『風』ねぇ…そっちも大変そうっすね」

 

 レキが言う『風』について鳰はそれ以上何も言わず、ビルの景色の方へと視線を変えた。レキも死線を変えてスコープを覗く。

 

「‥‥でもこれで納得しました。私は『銃弾』でノブツナさんは『銃』。だからノブツナさんは私を必要としているのだと」

「うーん…それはちょいと違うと思うッスよ」

 

 鳰は苦笑いをして首を横に振った。否定されたレキは何が違うのかと再び鳰の方へと顔を向けて不思議そうに首を傾げた。

 

「ノブちゃんなら『じゃあ誰が引き金を引くんだ』と笑って言うッスよ。ノブちゃんはそんなややこしい事を抱えず、ただ単純にレキを『大事な人』だと思ってレキの力を必要だとしてますよ」

「人…ですか。私は一発の銃弾。人の心とは無関係です」

 

 銃弾は人の感情も心も持たない。そう言い張るレキに鳰は笑ってレキの額に軽くデコピンをした。

 

「もう鈍いっすねー…うちの経験上、自分を『モノ』だとか『心や感情が無い』とかいう人間はいないっすよ。誰も心や感情をちゃんと持っていて、それをただ隠して偽って着飾っているだけ」

「そう…なんでしょうか…?」

「その通りッス。レキレキは素直になるべきっすよ」

 

 そう言い終わると鳰は再びコンビニの袋からメロンパンを取り出して美味しそうに食べ始めた。

 

___

 

 

「ヘックショォォンッ‼」

 

 誰かが噂をしているのか、埃っぽい部屋にいるからか、ノブツナは大きくくしゃみをした。鳰がピックアップしたこの廃屋ももぬけの殻のようでハズレのようだ。警戒を解いたノブツナはため息をついて頭を搔く。

 

「ここもハズレか…これまた見つからないな」

「またか‼もう疲れた!」

 

 未だに戦闘がないとジークは駄々をこき始める。駄々をこねたいのはこっちだとノブツナは項垂れた。このままだとまた何も成果を得られない。ジークがプンスカしながら後ろの壁を叩こうと手を押すと、押戸のように開いた。

 

「マジか、隠し部屋か。ジーク、でかした!」

「HAHAHA‼どうだ、そこを予測して駄々をこねたんだぞ!」

 

 ドヤ顔で自慢するジークを無視して隠し部屋へと入る。隠し部屋も埃まみれだったが、明らかに埃が被っていない机と最近使ったと思われるランプ、半田鏝や空き瓶、炸薬が抜かれた大量の銃弾や砲弾が置かれていた。そして机の下にはキャンディーの包み紙が2つ捨てられていた。

 

「…手掛りは見つかった」

 

 昨日まで、若しくはついさっきまで、ドリアンはここに潜んでいた。そしてここで何をしていたのか見当がついた。

 

「IED‥‥即席爆弾を作ってたのか」




 IED、即席爆破装置はこんな感じかなーと…よくフィクションや映画である隠し部屋か暗い所で爆弾の製造。そんなシーンも好きです


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15話 O Toi La Vie  ③

 書き方がちらほら変わったり、展開がすこしゴリ押しになったり、試行錯誤…それでも私は一向にかまわないっ‼(オイ


「手掛かりはIED、即席爆発装置を作っていたってことがわかっただけだ」

 

 ノブツナは少ししけた面でラーメンを啜る。そんなノブツナに対し、相席で座っているレキは黙々ともやしが山盛りのデカ盛りラーメンを食べていた。二人はいつものラーメン屋『一文字百太郎』にていつものようにラーメンを食べていた。無論、ノブツナのおごりである。

 

「問題はその爆弾をどのくらい作って、いつ、どこに仕掛け、爆発させるかだ。ドリアンの言っていたイベントとかいうのも未だに分かんねー」

 

 あの後、大量の基板も見つかり、ドリアンは時限式かもしくは携帯やリモコンを使って爆発させるタイプの即席爆破装置を作ったと思われる。ノブツナは頭を抱えながら唸る様に考え込む。一方のレキは気にもせずに黙々と食べ、替え玉を注文していた。

 

「また寮に忍び込んで爆弾を仕掛けるのか、それとも武偵校に忍び込んで教室に仕掛けてんのか、色々と考えなきゃなんないんだけど…どうしても腑に落ちないことがあるんだ」

「腑に落ちないこと、ですか?」

 

 レキは箸を止めて訝しそうに首を傾げているノブツナを見つめた。

 

「かつてドリアンはかの地下格闘技場の格闘家達と闘って、一度も勝負には勝っていない事、自らの敗北による自分の人生の矛盾に精神が耐えきれずに幼児退行した。でも再び自我を取り戻し、こっちに戻ってきた」

 

 敗北を知りたい。ただそれだけの為に戦い、勝者となっていない自らの矛盾に耐えきれずに堕ちていった。その後オリバに連れられブラックペンタゴンの収容所へと収容されていたのだが、今はこうして東京に戻り爆弾を作って潜んでいる。

 

「何故、ドリアンは戻って来たのか。もう一度戦いたいというものの、独歩さん達にリベンジするのか、それともかつて死刑囚と格闘家との戦いを企画し、自分達を完全敗北へと陥れた徳川光成の暗殺なのか、それとも俺への当てつけなのか…目的がさっぱり分からないんだよなー」

 

 敗北を知りたい為に身を投じて戦ったのに本当は一度も勝ったことがない敗者であり、もう勝つことは無いと自覚し敗北したのになぜ再び戻って来たのか、何をするつもりなのか、ドリアンの目的が分からない。何故自分達の前に現れたのか、何故爆弾を作ったのか、ドリアンは何をしようとしているのか見当もつかない。すると悩みに悩んでいるノブツナにレキは静かに口を開いた。

 

「ノブツナさん、私は死刑囚と地下格闘技場の格闘家達の戦いは見た事はないので分からないのですが…ドリアンは戦いを望んでいるのではないでしょうか?」

 

 ふとそう聞いてきたレキにノブツナはきょとんとして見つめた。こうもレキが自ら乗って来るとは思いもせず、珍しいと目を見張る。

 

「一度私達に襲撃してきたドリアンは戦いに純粋に興じていたように見えました。サシとの勝負ではなく殺し合い、または戦場のような無法の戦いを欲していると…」

 

 レキはそう言い終えると視線を下へとわざと逸らした。戦場と言う言葉でノブツナの過去の話を思い出したからであり、鳰から聞いたことを隠した。もしかしたらドリアンはノブツナの過去を知っているのかもしれない。だから彼の前に現れたのだろうか、レキは静かに考え込んだ。一方のノブツナはレキの話を聞いてふと思い出す。

 

 確かにかつての死刑囚達と格闘家の戦いはルール無用の何でもあり、どちらかが倒れれば負けの戦いで、彼らは純粋にこの闘争に興じていた。しかし警察や武偵といった司法の連中やビスケット・オリバと範馬勇次郎の乱入、更には一部のメディアにも見られ、最終的にはあやふやなまま戦いは終わっていった。

 

 この闘争の中で、ドリアンは最後は敗北と勝利を受け止め、今までずっと勝ったことがないことを知り、勝者になることを望んで挑み、敗北していった。ならば今のドリアンは何を望んでいるのだろうか?

 

 純粋な闘争か。そうとなるならば今の彼には戦いのルールやら司法やら縛るものや遮るものは何もない。ただ単に一般市民も周りもお構いなし、勝者や敗者などこだわりを捨てた戦いを楽しもうというのなら…

 

「死人も出ようが関係ない戦いを望んでいるというのなら…一つ思い当たるぞ」

 

 ドリアンは何を望んでいるのか、そのために何をしようとしているのか、はっきりしてきた。彼が言っていたイベントとやらも一体何なのかも見えて来て、答えがすべて繋がった。

 

「俺への挑戦か…受けて立とうじゃねえか。レキ、そうと決まればすぐに動くぞ」

「すみません、その前におかわり頼んでもいいでしょうか?あと餃子を5人前も…」

「やっぱり食べすぎぃ!?」

 

 こうしてまたしてもノブツナの財布から野口と諭吉が消えていった。

 

___

 

 アドシアードが開催されると武偵校は一般公開され、会場には報道陣や一般市民等々多くの人であふれていく。武偵校の生徒達はアドシアードに出場する選手の他、受付や会場の案内または屋台で販売を行っている。生徒会のテントでは白雪がてきぱきと他の生徒達に会場の準備や競技のプログラム等々指示をしており、その隅で彼女の護衛を務めているキンジが退屈そうにしていた。

 

 あれからずっと白雪の護衛をしているのだがデュランダルとやらは一向に現れないし、彼女が攫われるような事態にもなりそうにない。ましてや彼女の周りには他の生徒達もいる。そろそろ受付の交代する時間にもなるしここは周りの生徒達に任せておけば大丈夫だろう。キンジは白雪に一声かけてその場を離れようと動いた。

 

「おまえ、まさか職務放棄するわけじゃねえよなぁ?」

 

 突然背後から声を掛けられキンジはビクリとした。焦って振り向くとノブツナが鬼の形相で睨み付けていた。

 

「の、ノブツナか…びっくりするじゃねえか」

「で、まさかボディーガードをやめようとしなかったか?」

「アリアの言う存在するわけがないデュランダルの事だろ?白雪の周りには俺の他にも生徒がいるんだし、任せても大丈夫だろ」

 

 どうせ白雪に対する嫌がらかストーカーの仕業だろう。白雪の護衛をしても変わったことは(とりあえず)無かった。キンジはムスッとして告げるが、ノブツナはすぐさまキンジに頭突きを入れた。

 

「お前馬鹿なの?死ぬの?誘拐犯はそう気が緩んだ隙を狙って攫ってくんだよ」

「いってぇ…だ、だからと言ってデュランダルがこの学園に忍び込めるわけが…」

「寮に簡単に忍び込んで俺の部屋に入ってガソリンまいて爆発させやがるほどセキュリティがザルだぞ?そんで今は一般公開させて簡単に紛れ込めちゃうくらいのザル警備だぞ?」

 

 キンジは「あっ…」と口をこぼす。先日にノブツナの部屋が爆発された時はまた部屋の修理をしなきゃと項垂れていたが、寮に忍び込んでノブツナの部屋に容易く侵入した者がいるというのならばこの会場にすでに侵入しているのかもしれない。

 

「教務科は事態が起きてから動くから頼りにならない。今の白雪を守れんのはお前だけだぞ?自分の務めの事の重大さを理解しろ」

「ったく、わかったっての…で、サボっているお前は何してるんだ?蘭豹先生が怒鳴り散らしながらお前を探していたぞ?」

 

 キンジは面倒くさそうに返して話を逸らそうとした。ノブツナも強襲科であり、競技に出場するれば好成績を得られるというのに当の本人は去年も抜け出してさぼっていた。狙撃科の競技に出場するレキの応援に行くのか、それとも冷やかしに来たのかとしかめっ面で様子を見る。

 

「俺は白雪に校内放送を頼もうと思ってたんだが…忙しそうだし、お前に言伝を頼むわ」

「言伝?何を伝えればいいんだ?」

「とりま会場内や茂みに不審物や未開封の缶とか怪しいものがあったら触らずに直ぐに離れて武偵に報告するよう伝えてくれや」

「不審物?一体なんだ?」

「うん、それIED。爆弾だから」

 

 キンジは爆弾と聞いて思わず驚愕して叫びそうになった。武偵殺しの件で爆弾はもう懲り懲りだったのだが、短い間にまた爆弾に関わるなんて思いもせず項垂れた。

 

「なんで爆弾が仕掛けられてんだよ!?」

「それはきっとゴルゴムの仕業…」

「やかましいわ‼」

 

 キンジはノブツナにツッコミを入れる。理子の一件まさかまたイ・ウー関連の事件なのか、本当にデュランダルが存在してデュランダルが仕掛けたのか、会場にいるすべての人を人質にしようとしているのか、キンジは至高を張り巡らせる。

 

「今は打ちの面子と頼れる後輩とで回収をしている。そろそろ途中経過の報告が来る頃だと思うが…」

 

『ノブちゃんお待たせーっス‼』

 

 丁度そこへ人混みを搔き分け、重厚な対爆スーツを着こんだ鳰が手を振りながらやってきた。小柄ながらも重たそうな特殊服を着こんだ姿にキンジはギョッとしていた。どかどかと対爆スーツ姿で重たそうに走る鳰の隣には金髪で背の高い少女、強襲科一年の火野ライカがいた。

 

「二人ともご苦労さん。今のところどうだ?」

 

『そりゃもうヤバイっすよ!ライカちゃんとその友達と手分けして探してたら、缶のタイプやら紙袋に入ってた時限式やら携帯電話を使ったものやら…もう5個ぐらい見つけたッス』

「まさか本当に仕掛けられてたなんて…あたしやあかり達で人が近づかないよう誘導してから鳰先輩が対処してくれますけど、教務科に報告しなくていいんですか?」

「いいのいいの。どうせ先公なぞすぐに動いちゃくれんし。()()()にできるだけ回収しなきゃ」

 

 時間内?キンジは首を傾げた。IEDは時限式、有線式、無線式など様々なタイプもあり対処に時間が掛かる。解除にも時間はかかるのだろうし、ノブツナは何を気にしているのだろうか。

 

「悪いなライカ、急に頼んじまって。引き続き鳰と協力して探してくれ」

「任せてくださいノブツナ先輩!先輩とのミッションも楽しいし、悪くないですよ!」

『さあうちについてくるっすよ、未来の後輩!爆弾処理はこの鳰にお任せ…って言ってもこのスーツ、重いしムシムシするし、早く全部片付けたいっすー‼』

 

「文句を言うなって。俺はドリアン探しで忙しいし…キンジが白雪に付きっきりなら問題がない。キンジ、お前が真面目に護衛を務めるかどうか、お前がカギなんだからな?」

「あれ?白雪先輩…いないように見えるんですが…」

 

 ライカの言葉にキンジとノブツナは首を錆びた機械を動かすようにゆっくりと動かし振り向いた。生徒会のテントには白雪の姿が無かった。

 

『あちゃー…遠山が未だに自分から離れないから、ノブちゃんと駄弁っている隙にこっそり出て行ったようッスね』

「おい嘘だろ!?白雪…っ‼」

「落ち着けキンジ‼まずは素数を数えろ」

 

 それどころじゃないとキンジは怒鳴るが、ノブツナは落ち着きながら無線機を取り出し、無線を掛けた。

 

「レキ、白雪が動いた。対象2として急ぎ探してくれ」

『了解です…ノブツナさん、対象1を発見しました。場所は車輌科棟の船場です』

「でかした。俺はそっちに行く。レキは白雪を見つけ次第キンジに知らせてくれ」

 

 『わかりました』とレキは答えて無線を切った。ノブツナは続いてもう一度無線繋いで、今度は少し急ぐように声を荒げた。

 

「ジーク、急げ‼白雪がデュランダルに連れ去られる前にデュランダルを見つけろ‼」

『任せろ‼折角の大役だ。見事任務を遂行してみせるぞー‼』

 

 ジークは『HAHAHA』と五月蠅く笑いながら無線を切った。本当に大丈夫かとノブツナは肩を竦める。

 

「と、いう訳だ。鳰、事態は事を急ぐ。残りの爆弾も探してくれ」

 

『ラジャッ!人混みのど真ん中で爆発しない事を祈るっすよ』

 

 状況を楽しんでるようで、鳰はウキウキしながらライカを連れて人混みの中へと走っていった。ノブツナは見送った後、一息ついて焦っているキンジのケツに蹴りを入れた。

 

「いでっ!?何しやがる!?」

「何ぼさっとしてんだ。お前は急いで白雪を追いかけろ。ジークとアリアがデュランダルを探しているが…お前が白雪を守らなきゃ。デュランダルに連れ去られる前に助けに行け。じゃないと…」

「じゃないと‥‥?」

 

「白雪を誘拐したと同時に仕掛けられた爆弾は爆発される。会場の人間も死にまくるし、デュランダルに余計な罪が乗せられちまう」

 

___

 

 イ・ウーの一人、デュランダルことジャンヌダルク30世は自慢の魔剣を提げ、車輌科の倉庫の地下で待ち続けた。ジャンヌは確信していた、白雪は単身でここへ来るだろう。言う通りにしなければ遠山キンジを殺す、そんな脅迫のメールをすれば言う事を聞くはず。変装して護衛の者と護衛対象者の信頼関係を崩し、そして仲間で内輪もめさせ捜査を攪乱、ずっと身を潜み続けて相手を油断させたりと順調だ。

 

 多少、予想外な事もあったが白雪を誘拐するには差し支えない。相手の連携の無さ、学園内の警備の薄さ、全くもって脅威にならない。このまま行けばすぐに遂行できる、ジャンヌはほくそ笑んだ。そうしているうちにこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。恐らく、白雪が言われた通り一人で来たに違いない。

 

「‥‥?」

 

 しかしジャンヌは不審に思った。明らかにこの足音は物凄く急ぎながら走っている。心なしか足音と共に次第に何かが叫んでいるような声が聞こえてきた。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオッ‼」

 

 この喧しい声は明らかに白雪ではない。喧しい何かがこちらに近づいてきている。ジャンヌはすぐさま魔剣を構えた。

 

「Die yobboooooooッ‼」

「誰ぇぇぇっ!?」

 

 暗闇から飛び出して来たのは巫女の服を着た白雪、ではなく白い道着と真っ赤な袴を身に着けた金髪オールバックのドヤ顔をした男ことジークだった。白雪でもなくアリアでもなくよく分からない奴とまさかの変化球にジャンヌは思わずギョッとして叫んでしまった。

 

「むむっ‼怪しい奴だ!」

 

 お前も明らかに怪しい奴じゃないかとジャンヌはツッコミを入れる。ただのコスプレ外国人なのかそれとも武偵なのか、ジャンヌは警戒しながら身構える。

 

「貴様、何者だ…!」

「オレはジー…星伽白雪ですわぜ‼」

「嘘をつくな!」

 

 ジャンヌは即ツッコミを入れる。お前のような喧しい巫女がいてたまるか。

 

「むぅ…渾身の演技も見破られては仕方あるまい。オレはジーク・ハワード、東京武偵高校2年A組、SSR。好きな物はステーキ。好きな女性は銀髪のポニーテールのry」

「そんなことはどうでもいい‼どうしてここに辿りつたのかは分からないが、どうやら貴様は私の邪魔をするつもりのようだな」

 

 ジャンヌは魔剣の切っ先をジークに向ける。何を考えているのかよく分からないが自分の障害になるのは確かだ。敵意に満ちたジャンヌにジークは不敵に笑った。

 

「よかろう、オレが相手になってやる。ノブツナに早く済ませるよう頼まれているからな」

 

 ジークは白い道着を脱ぎ捨てて逞しい筋肉を露わにして拳を構えた。

 

「白雪ちゃんを攫おうとするなんてこの白雪ちゃんファンクラブ会長のオレが許さん!エクスカリバー、逮捕してやる‼」

 

「エクスカリバーじゃない、デュランダルだ‼」

 

 ジャンヌはプンスカとジークを睨んだ。




 途中でてんやわんやになった気がする…もうどーにでもなーれ☆

ジークがSSRなのは…祖父が手からレップーケンしたりレイジングストームしたりと…波動拳みたいな気を使った攻撃だから、いいよね?


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16話 O Toi La Vie  ④

 今更だけでもKOF14でギース様が登場。ヌルヌル動くし、烈風拳もレイジングストームもかっこいい…またCVSとか無いかな…

 


 ジャンヌは魔剣を構えて相手の動きを伺う。相手は上半身すっぽんぽんで武器すら持っていない物腰の状態。静かに拳を構えているジークにジャンヌは鼻で笑う。

 

「ふっ…まさか素手で私と戦うつもりか?」

 

 こちらは氷の能力と鋼を断ち切る魔剣デュランダル。相手の力は未知数だが、ジャンヌは勝てる自信があった。一方のジークはそんな事は気にもしないようで、静かに闘気を高めていた。

 

「…武器が持った奴が相手なら覇王翔吼…じゃなかった、えーと…本気で戦わせてもりゃう」

 

 戦う前に台詞を考えてないし、しかもドヤ顔で噛む。緊張感が無いように見えて逆にやる気を削がれてしまう。ジャンヌは手っ取り早くこの邪魔者を片付けて白雪を誘拐せんとジークに襲い掛かる。

 

「Yhea!」

 

 振り下ろされた魔剣をジークは躱して裏拳をおみまいする。ジークの裏拳を魔剣で防ぎ、横薙ぎをして相手を退けさせる。

 

「凍り付けっ‼」

 

 ジャンヌは魔剣を地面に突き刺す。突き刺した先からパキパキと音を立てながら凍りつき始め、ジークに向かって勢いを増して一気に凍っていく。それに対しジークは恐れる様子もなく右手に力を込める。彼の右手から白く光る何かが見えた。

 

「レップーケーン‼」

 

 ジークが右手を振り上げると風の衝撃波が地を這って進み、ジャンヌが放った凍てつく氷を相殺させる。自分の技が塞がれたことよりもジークの力にジャンヌは目を丸くさせ、少し驚きながらも鼻で笑った。

 

「ふっ…どうやら只者ではなさそうだな。闘気と風を使う超能力者(ステルス)か。気に入った。星伽の巫女を連れ去るついでにお前も頂こう…!」

「え゛っ!まさかデートのお誘い!?それほど私の肉体美が気に入ったか!見よ、この筋肉!」

 

 うん、やっぱりやめとこう。目の前でマッスルポーズをとるジークを見て前言撤回した。こいつはいち早く氷漬けにして見なかったことにしておこう。さっさと白雪を攫い、この場をすぐに去ろう。

 

「見つけたわよ、デュランダル‼」

 

 自分の背後から大声が聞こえたとともに颯爽と駆ける足音が近づいてきた。振り向くとアリアがこちらにめがけて日本刀を振り下ろしてきた。ジャンヌは魔剣で防ぎ押し返す。押し返されたアリアは宙返りをしてスタリとジークの隣に着地してジャンヌを睨み付けた。

 

「デュランダルが学園内で白雪を攫ってバックレるにはうってつけの場所をあちこち探し回った甲斐があったわね。いい時間稼ぎにだったわ」

 

「神崎アリア…!何故ここにお前が…!」

「あんたは対象を攫う時、こちらの連携を崩してから攫う。あえて外れて探してたけども…彼がキンジの部屋に盗聴器を隠したのを見つけてくれたおかげでいつ攫ってくるか待ち構えてることができたの」

 

 ジークは嬉しそうに胸を張るがアリアはそれに一向に構わず日本刀の切っ先をジャンヌへと向ける。

 

「さあ観念しなさい、デュランダル!あんたはあたしが捕まえてやるんだから!」

「ふっ…それで勝ったつもりか?お前なぞ相手にもならん」

「おっと、その前にデートはどこがいい?浅草?秋葉原?それともノブツナの部屋?」

「そんな事はどうでもいい‼ええい、いちいちこっちの気を削ぐな‼」

 

 ジャンヌはもう一度魔剣を地面に突き刺す。今度は先ほど放ったものよりも強い氷撃が放たれる。

 

「ダブォーレップーケン‼」

 

 ジークは両手で烈風拳を放ち、迫りくる氷柱を相殺させる。両者の間に氷の破片が飛び散り、その間を縫うようにアリアが駆けてジャンヌめがけて日本刀を振り下ろした。ジャンヌは魔剣で受け止めると一歩下がる。

 

「そんな鈍で私を倒せると思ったか‼」

 

 魔剣を強く握りしめ、思い切り薙ぎ斬りをする。ガキンッと金属音を響かせアリアを弾き飛ばした。アリアは「きゃっ」と声を出して後ろへと下がる。手は先ほどの受けた衝撃でふるふると震え、持っていた日本刀は上半分がスッパリと切られていた。

 

「やっぱり噂通り、鋼を断ち切る魔剣というわけね…」

 

 アリアはしかめっ面で持っている日本刀を投げ捨てる。腰のホルスターにある2丁のコルトガバメントですぐにでも引き抜いて撃ってやりたいが、ここは弾薬庫。間違って風穴開けてしまったらまずい事になる。バリツでどうにかするか、もしくは頼りになるのかどうかわからないジークに頼るかどうか迷った。

 

「デュランダル‼言われた通り、独りで来た…ってジーク君、アリア!?」

 

 アリア達の後ろにジーク達の姿を見て驚愕していた白雪がいた。まさかもう来たのかとジークは目を丸くし、アリアは焦りだした。

 

「白雪…!?もう、何してんのよバカキンジ‼」

「むっ、このままではまずい。早くデュランダルを倒さねば」

 

 白雪が来たことでこれは好機だとジャンヌはほくそ笑んだ。

 

「ようやく来たか、白雪。さあ、私と共にこい」

「分かってる…アリア、ジーク君、私を止めないで。デュランダルの言う事を聞かないと…キンちゃんが殺されるの」

 

「ま、待ちなさい白雪!そいつの言う事なんて聞かなry」

「ええっ!?デュランダルってそっち系だったの!?」

 

 キマワシタワーと叫ぶジークにアリアとジャンヌはずっこける。そういう意味じゃないと何度言えばわかるのか、というよりもなんて緊張感がない奴だと二人は呆れた。

 

「あんた、今そんな事言ってる場合じゃないでしょ!?」

「HAHAHA、絵にもなるしいいんじゃないかな?」

「やかましいわ!というか真面目にやりなさいよ‼」

 

 後で終わったらノブツナにどうしてこんなバカをよこしたのか、ありったけ文句を言ってやろうとアリアは決めた。そんな事よりも白雪は既にデュランダルの言うようになってしまっているし、間違いなくデュランダルは白雪を人質にとってこちらが手を出せないようにしてくるはず。兎に角やる事は白雪を説得することだ。

 

「白雪!こんな奴の言いなりになっても何も変わらないわ‼」

「そうだぞー。悪い奴のいう事を聞いてもいいことは無いぞ」

 

 呑気に言っているジークはどうでもいいとして、白雪はゆっくりとジャンヌの方へと近寄っていく。アリアがいくら説得しても白雪は首を横に振った。

 

「ごめんなさい…私、キンちゃんを守りたいの…」

 

 このままではまずい。こうなれば力尽くでも白雪をこちらに戻すしかない。アリアはジークにすぐにでも飛び掛れるよう目で合図をした。

 

「白雪‼待て‼」

 

 白雪ははっとして歩みを止めて声のかかった方へ振り向く。そこへキンジが駆けつけて来たのだった。ようやく来たかと待ち焦がれたのが半分と事態がまたややこしくなると悩むのが半分でアリアは肩を竦めてキンジをジト目で見る。

 

「キンジ!遅すぎるわよ‼」

 

「アリア…悪い。俺のミスだ。ノブツナにこっぴどく言われてわかったよ…」

 

 キンジはすまなそうにアリアに視線を向けて謝る。自分が白雪を守ってやらなければいけなかった。護衛とか関係なく、大事な人として守ってやらなければ白雪を救う事ができない。普段ならば皮肉を言うキンジが素直に謝ったことにアリアはキョトンとするが少し照れながらそっぽを向く。

 

「ま、まあ、分かったんならそれでいいわ…兎に角、白雪を助けるわよ」

「さー盛り上がってまいりました!三角関係って見てて面白いよね!」

「というかなんでジークがいるんだよ…」

「絡むとややこしくなるから気にしない方がいいわ…」

 

 にやにやしているジークをキンジとアリアはジト目で流してデュランダルを睨む。

 

「白雪!こっちに戻ってこい‼」

「さあ観念しなさい、デュランダル!」

 

 キンジ達はすぐにでも白雪を助けようと身構える。その時、下の方から大きな爆発音がしたと同時に地価が揺れ出した。何事かと思うと下から勢いよく水が流れ出てきた。

 

「なんだと…!?爆発にはまだ早すぎる…!」

 

 ジャンヌは内心焦った。仕掛けていた爆弾はスイッチを押せば爆発するはずだったのに急に爆発をしたのだ。しかも思った以上の威力のようで水の流れ出る量が多い。このまま長居してはまずい。ジャンヌは咄嗟に白雪の腕をつかむ。

 

「こい…っ‼」

 

 人質として連れ去ってやりたかったが、この数ではすぐに追いつかれてしまう。もう星伽の巫女を攫うよりも自身の安全を取るべきだ。途中で彼女を縛り、逃走の時間稼ぎにしてしまおう。ジャンヌはスモークを投げ、そのまま白雪を引っ張りその場から離れていった。

 

「白雪っ‼この…っ‼」

「キンジ、焦ってはダメ!追いかけるわよ‼」

 

 耳を澄ませ、遠くでバシャバシャと駆けていく音のする方へと走った。白い煙を潜り抜け、気づけば膝の半分まで水位が上がってきた。流れ出てくる水量が多い。二人は急いで白雪を探して駆けていく。

 

「キンジ!いたわ!」

 

 アリアは白雪を見つけてキンジに呼びかける。白雪は3つの鉄の鎖で体を縛られいた。

 

「白雪、無事か‼」

「…キンちゃん、アリア、ごめんなさい…皆に内緒でデュランダルのいう事を聞かないと学園島を爆発させキンちゃんを殺すと脅されて…いう事を聞くしかなかったの…」

「いいんだ、白雪。俺こそ謝らなきゃなんない。お前を守らなきゃいけなかったのに…助けてやるからな!」

「そ、そうよ。今はあんたを助けるのが先だから」

 

 キンジは白雪を慰め、アリアと共にロックされている錠を解こうとする。だが今の自分のアンロックスキルでは到底外すことができない。一方のアリアも焦っていた。自分は泳ぐことができないため、どんどん水位が上がっていることを恐れていた。焦るアリアを見て、キンジはアリアには今逃げているデュランダルを追ってもらおうと判断する。

 

「アリア、先にデュランダルを追ってくれ」

「そ、そんな。あんた達を見捨てて行くわけにはいかないわよ」

「ここは俺がなんとかすry」

 

「えい」

「あっ…」

 

 ジークが鎖を気合いと素手で千切り、白雪を自由にさせた。ぽかんとしているキンジとアリアにジークはドヤ顔をする。

 

「HAHAHA‼ピッキングなぞよりも男なら素手でやるべきだぞ!」

「「「‥‥」」」

 

 白雪は苦笑いをし、キンジとアリアはジト目で睨む。そこは空気を読んで欲しい。あとでノブツナに文句を言っておこうと二人は決めた。

 

「水位も腰まで上がっておるし、水の勢いも増して流されるよりかはマシだろう?さあともに追いかけるぞ!」

「ま、まあ…一応良しとするわ」

 

 アリアは気を取り直して、デュランダルを追おうと乗り出す。追いかける途中、ハッチが開いた音がしたから上へと逃げたのだろう。鉄の梯に手をかけて登ろうとした。しかし、それを遮るかのようにまた爆発が起き、ジークが言っていたとおり流れ出る水の勢いと量が増しだした。勢いを増した水流に白雪が流されそうになり、キンジは咄嗟に身を乗り出して白雪を助け出す。

 

「キンジ‼」

「アリア、ジーク、先に行ってくれ‼」

 

「おう!任せておけ!」

 

 ジークはアリアの襟を掴んで上へと投げた。上への階へと投げられたアリアはギョッとするが猫の様に着地をする。後から登ってきたジークにゲンコツを入れた。

 

「ちょっと!驚かせないでよ‼」

「そうかっかするでない。あまり怒ると首が切れるぞ?」

 

 ジークに言われてアリアはハッとする。目を凝らしてみると薄っすらと見えにくいケブラー繊維のワイヤーが自分の首の近くに張られていた。背中に隠していた日本刀を引き抜きワイヤーを断ち切る。

 

「見る目があるのか、ふざけているのか、よく分からないわね。それよりもデュランダルを追うわよ」

 

「…やはり追ってきたか。しつこい連中だな」

 

 暗い通路からゆらりとジャンヌが姿を現した。ふんと鼻で笑ったアリアは日本刀を構える。

 

「それが私の売りよ!兎に角あんたをとっ捕まえて罪を償ってもらうわ!」

「ふっ…リュパン4世が言っていたとおり威勢がいいな。その姿は我らとよく似ている…そう、美しく勇敢な一族、ジャンヌ・ダry」

 

「ジャエーケン‼」

 

 ジャンヌが言い切る前にジークが気を込めた肘打ちで突進してきた。ジャンヌは驚いて油断してしまい、直撃をした。受け身を取りジークを睨み付ける。

 

「く…卑怯だぞ‼」

「卑怯もらっきょもあるもんか!なんか話し長くなりそうだから隙をついてやっただけだぞ」

「いいだろう…‼ならばこのジャンヌ・ダルク30世の…オルレアンの氷華となって散れ‼」

 

 ジャンヌは怒りを込めてジークへと襲い掛かる。さらっとジャンヌダルクだと名乗ったことにアリアは驚いていた。

 

「いや、ちょ、ジャンヌダルク!?しかも30世!?というかあんたそれでいいの!?」

 

 




レップーケーン→烈風拳
ダブォレップーケン→ダブル烈風拳
ジャエーケン→邪影拳

 ジークの戦闘スタイルはまんまギース様です…はい…


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17話 O Toi La Vie  ⑤

 ゆっくり更新。
 ちょっとキンクリしてたり、キャラの性格が少し違ってたり、展開と違う所もあります、どうかご容赦ください。(焼き土下座)


 ジャンヌは細かい事は気にせず剣を振るい、ジークはその攻撃をひたすら躱していた。

 

「どうした?先ほどの勢いがないぞ!」

 

 一行に攻撃をしてこないジークにジャンヌは不敵に笑う。一瞬の隙を見つけ、ジークに向けて突きを放った。しかし、ジークはそれを待っていたと言わんばかりにひらりと躱し、ジャンヌの腕を掴んだ。

 

「Too easy‼」

 

 ジークは当て身投げをしてジャンヌを地面へと叩きつける。更に追い打ちをかけるかのようにもう一度投げ飛ばす。ジャンヌは受け身を取り、よろめきながらもドヤ顔で構えるジークを睨み付ける。

 

「くっ…本当にふざけた奴だ…」

「HAHAHA‼オレはいつでも真面目だ!」

「真面目に見えるか‼」

 

 ジャンヌは怒鳴りながらジークへと剣を振るう。魔剣には氷の冷気が帯び、躱すたびに凍てつくほどの冷たさがよぎった。先ほどよりも勢いが増している。いち早く邪魔者を始末するつもりだ。ジャンヌの殺気にジークは不敵ににやりと笑う。

 

「よかろう!ならばオレも本気の本気でいくぞ!デッドリー…」

 

 ジークは拳を強く握りしめ力を込める。高まった闘気をジャンヌへとぶつけようとした。しかし、それを遮るかのように再び下の階から爆発音とともに大きな揺れが起こる。下の階にはまだキンジと白雪がいる。彼らは無事なのかとアリアは気をそっちの方へ向けた。ジャンヌはその隙を見逃さなかった。

 

「隙だらけだぞ、アリア‼もらった‼」

 

 魔剣に冷気を帯びさせ振るう。青白い光が辺りを凍りつかせながらアリアへと飛んでいく。とっさの事でアリアはすぐに動くことができずにいた。

 

「しまっ…!」

「ぬうううんっ‼」

 

 アリアの前にジークが立ち、両手で魔剣から放たれた冷気を防いだ。気合いの掛け声とともに腕を振るって弾く。何とか防ぐことはできたものの、ジークの両手は白い氷がまとわりつき、凍瘡を起こし始めていた。

 

「あ、あんた大丈夫なの!?」

「ふん、心頭滅却すれば火もまた涼し…って、冷たっ!?いたっ!?」

「それ火じゃないから!?」

 

 使い方を間違っているとツッコミを入れたかったが今はそれどころじゃない。ジークは凍傷で素手ではもう戦うことはできないし、相手は異能者。ただの武偵では相手が厳しい。ジャンヌはこちらが有利になったと確信し不敵に笑った。

 

「もうその手では戦う事は出来ん。これで勝負あったな」

「なんの!気合いを込めれば治るし、まだ足があるぞー!」

 

 不利な状況になっているのにそれでも勝つ気でいるジークにジャンヌは額に青筋を浮かべて睨み付ける。なんて減らず口の男か。これ以上耳障りになるので一気に片付けようと襲い掛かる。

 

「デュランダル!これ以上はさせないよ!」

 

 暗い通路からアリアとジークの間を通り過ぎ、白雪がジャンヌに向けて刀を振り下ろした。ジャンヌは魔剣で防ぐが、白雪が強く押してゆき弾いて後ろへと下がった。

 

「アリア、ジーク君、遅くなってごめんね!後は私に任せて!」

 

 白雪は先程までの弱気だった様子が一変、真剣な表情になり覚悟を決めた様子だった。これまでにない強気の白雪にアリアは驚く。ジャンヌはもう一度魔剣を振るおうとするが、今度は暗い通路から銃声と共に弾丸がこちらに飛んできた。舌打ちして魔剣で銃弾を防ぐ。

 

「アリア、ジーク!待たせたな」

 

 少し遅れてベレッタM92Fを構えたキンジもやって来た。こちらもこちらで、先程との様子と雰囲気が変わっていた。そんなキンジにジークは納得して頷き、アリアは少し顔を赤くして頬を膨らませる。

 

「もう…‼キンジ、心配かけさせないでよね!」

「ふ…どうやらお前も本気とやらになったようだな」

 

 キンジの『本気』についてジークは予めノブツナから聞いており、ノブツナ曰く『キンジは色気に弱いが、興奮したり、女関係のヤマとなると人が変わったかのように強くなる』と聞いていた。下の階で()()()()()のだろうが、ジークは気にはしなかった。

 

「ジーク、手は大丈夫なのか?」

「何、動かす程度なら問題は無い。それはともかく、お次はどう出るのだ?」

「俺達は白雪の援護だ」

 

 今は白雪がジャンヌと剣を交わして戦っている。青白い冷気帯びた魔剣と赤い炎と熱気を帯びた刀がぶつかり合い激しい音をなり散らしていた。

 

「二人とも、白雪は全力でぶつけて戦ってる。タイミングを間違わないようにいくわよ」

 

 アリアはキンジとジークに援護に出るタイミングを話す。SSR、異能者同士の戦いは長くはならない。全力をぶつけた戦いならどちらかがガス欠を起こす。それまでの間に白雪は後一撃だけ全力でぶつけるだけの力を出す隙を伺っている。彼女がそれを出せるよう、こちらがタイミングを間違ってはならない。ぶつかり合う剣戟も次第に白雪が押されていった。ジャンヌは魔剣に力を込め、魔剣は空色に光り凍てつくほどの冷気を帯び始めた。

 

「その程度か、星伽の巫女‼このまま銀氷となって散るがいい‼」

 

「今よっ‼」

 

 アリアは掛け声とともに駆け、それに続いてジークとキンジが続いていく。こちらに近づいてくると気づいたジャンヌは白雪を魔剣で弾き、空色の冷気をアリアに向けて放った。

 

「ジークっ‼」

「おう!レップーケーン‼」

 

 アリアの合図に答えるようにジークは片手を振り上げ地を走る風の気弾を放った。風の気弾は凍てつく冷気を相殺させる。それに続いてキンジがベレッタM92Fでジャンヌに向けて狙い撃つ。ジャンヌは銃弾を防ぎ、その間にアリアが刀を振り下ろした。

 

「このっ…舐めた真似を‼」

 

 ジャンヌはひらりと躱し、キンジへと飛び掛り魔剣を振り下ろした。目の前に振り下ろされる魔剣にキンジはベレッタM92Fを前へ投げ、白刃取りで受け止めた。受け止められたことにジャンヌは驚愕する。

 

「なっ…‼」

 

「ジャンヌ、もう終わりよ。剣を捨てなさい!」

 

 前へ投げられたベレッタM92Fをアリアが受け取り、ジャンヌの後頭部へ銃口を向けた。これでもうジャンヌは身動きができず、決着がついた。なんとか魔剣を止めたキンジはふっと笑う。

 

「もういい子にした方がいい。これにて一件落着だよ、お嬢さん?」

「まだだ…武偵法9条、武偵達は人を殺せない。だが私は違う‼」

 

 ジャンヌはこのまま力を込めた。魔剣が氷を帯び始めキンジを凍らせようと迫る。そこへそうはさせまいと白雪が駆けだす。

 

「星伽候天流、緋緋星伽神(ひひのほととぎがみ)‼」

 

 刀に紅蓮の炎が帯び、ジャンヌの魔剣にむけて強く振り上げた。白雪の炎の刀は魔剣を断ち切り炎の渦が巻き上がる。炎の渦は天井にぶつかり小さな火の粉を降り注いだ。ジャンヌは折られた魔剣を目を丸くして見つめていた。

 

「そんな…私の聖剣が…」

 

 鋼を断ち切る聖剣はこれまで絶対に折れることは無かった。だが、たった今炎の刀に断ち切られたのだ。斬れぬものは無い魔剣が逆に斬られたのは己の敗北を意味する。ジャンヌはするりと魔剣を落とした。

 

「デュランダル、逮捕よ!」

 

 アリアは敗北を喫して呆然とするジャンヌに手錠をかけた。これで戦いが終わったと白雪はへたりと座り込む。

 

「白雪、大丈夫か?」

「キンちゃん…私、怖くなかった?さっき…私…」

 

 力なく、怯えるように見る白雪にキンジは微笑んだ。

 

「怖いもんか、とても綺麗で強い火だったよ。昔一緒に見た打ち上げ花火みたいにね」

「キンちゃん…っ!」

 

 優しく微笑んでくれたキンジに白雪は目を潤わせ抱き着いた。これで一件落着とキンジもアリアも安堵の笑みをこぼす。

 

「さてこっちは片付いた。次へ行くとするか」

 

 ジークは肩を回して踵を返した。まだ何かあるのかとキンジとアリアはジークを見つめた。

 

「次って…デュランダルは逮捕したのよ?他に何があるのよ?」

「ジーク、もしかしてノブツナが言っていたデュランダルに罪を着せようとした奴のことか?」

 

 キンジはノブツナが言っていたことを思い出した。ノブツナの部屋に侵入し、ガソリンで爆破させ、ジャンヌより先に学園内に侵入して爆弾を仕掛けた犯人がまだいる。

 

「うむ…今は鳰が爆弾を回収し、ノブツナとレキがそっちの方に向かっている。気を緩めるな、まだ終わっておらんぞ」

 

 白雪を攫おうとしたデュランダルは逮捕した。しかし、まだ学園内にはIEDが仕掛けられている。その犯人を捕らえない限りこの一件は終わらない。

 

___

 

 ドリアンは波止場でじっと海を眺めていた。足元には古い小さなテープレコーダーが置かれ、レコーダーからはフランス語で歌う男性歌手の曲が流れており、ドリアンはポケットからキャンディーを取り出し飴玉を口の中に入れて舐めながら鼻歌で歌っていた。

 

「O Toi la vie…『おお、我が人生よ』、ですか」

 

 ドリアンはふと後ろを振り向く。そこにはノブツナがゆっくりと歩いてきており、静かに落ち着いて様子で見つめていた。待ちくたびれたと言うでもかのようにドリアンは軽く笑って、飴玉をガリッと嚙み砕いて飲み込む。

 

「やあ、待っていたよ。答えは…決まったようだね」

 

 ドリアンはノブツナを見て察する。彼からあの時のような殺気と殺意は見えない。寧ろ落ち着いた雰囲気に少し嬉しさが募った。

 

「これほど嬉しい気持ちはいつ以来だろうか。最後に烈海王と対峙した時以来かな…」

 

「ドリアンさん…色々と聞きたいことがあります。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ドリアンはイ・ウーすら、デュランダルすら、そして白雪を誘拐することが計画されていたことすら知らないはず。それが知っているかのようにデュランダルより先に学園内に即席爆発装置を仕掛け、デュランダルが白雪を攫った後に爆発させ罪を着せようとしていた。

 

「それに、貴方にIEDの材料を用意させたのは誰なのか…」

「…残念だが、私はそれを答える気はない。というよりも私は君にそんな質問を期待していない」

「…そうでしたね。これは貴方を捕まえてから聞きますよ。じゃあどうして戦いたいがためにこんな大掛かりな事を?」

 

 かつて元死刑囚だったドリアンは勝つためなら、暗器や人質の誘拐と手段を厭わず手早く姑息に勝ちに執着して戦った。最後は本当に勝ちたい為に真剣に戦っていたが、今再びこの地に戻って来た彼は元死刑囚だった頃や最後に勝ちを望んでいた時のような様子が見られない。ドリアンはポケットから金属のウイスキーボトルを取り出して、酒を飲んだ。

 

「‥‥長い夢を見ていた。老いぼれた私が突然、子供に戻った夢だ。キャンディーを欲しがり、幸せそうにキャンディーをお腹いっぱい食べる、子供の夢だった。まるでもう一度人生をやり直しているような感覚だったよ」

 

 ドリアンは静かに海を眺めながら、酒を飲み続ける。

 

「夢から覚めた私は思い返したよ。薄汚れた町角でキャンディーをせがんだ貧しい子供時代。血塗られた戦争へと駆り出された青年時代。人を殺め続け道を外し最悪の死刑囚とされ、勝利の為に戦って無残にも負けたあの頃…私の人生は一体何だったのだろうかと」

 

 敗北を望み続けて戦い続け、自分は一度も勝利をしたことがない敗者だという矛盾で、自分の人生はその実、暗黒に満ちていった。本当は知っていたのだがずっと目を背け続けたこの人生は無意味だったと。

 

「長く眠っている間に周りは変わって私は年老いた。この先長くはないだろう。だからこそ…一度でいい、一度でもいいから最期は昔の事なんて関係なく人生を楽しみたかった。戦う事しか知らない私にできるとすれば、かつての私になかったただ闘争を楽しむこと、『勝ち』も『負け』も関係なく拘らず単純に戦いを楽しむことにしたんだ」

 

「…だからこんな事を。でも、本当の貴方の気持ちは押し殺してはいないのでは?」

 

 ノブツナに言われ、ドリアンは少し目を丸くするが、ふっと笑ってライターと煙草を取り出して火をつけて一服する。

 

 

「‥‥本当は『勝ちたい』なぁ‥‥戦いを楽しんで、ついでに勝ちたい。こんな老いぼれの我儘に付き合ってくれるかい?」

 

「ええ。かつて貴方が戦ってきた人達には及ばないけど、俺でよければ」

 

 ドリアンの問いにノブツナは静かに笑って頷いた。そしてノブツナから感じる静かな殺気と闘気にドリアンは片手に火のついたライターを持ったまま、嬉しそうに笑った。

 

「そうか…ありがとう」

 

 そして先ほどまで飲んでいた酒を一気に吹きかけた。高度のアルコールの酒はライターの火を経て火炎放射器のように勢いよく炎があがりノブツナに襲い掛かった。

 

 ノブツナはひらりと躱して懐に迫り、ドリアンに向けて拳を放つ。ドリアンも拳を振り下ろし、拳同士が衝突した。ドリアンはニッと笑い、しびれる拳にノブツナは痛みながらも笑い返す。

 

「さあ、楽しむとしよう!」

「…お手柔らかに…!」




 O Toi La Vie、曲はとても好きです。聞いてて落ち着きます(コナミ感)


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18話 キャンディ


 少しゴリ押した感じがあります。このキャラはこんな事しない、こんなこと言わないわ‼なことがあります‥‥スミマセン


 最初に動いたのはドリアンだった。ぶつかり合った拳同士を下げ、仕込んでいたメリケンサックをつけたもう片方の拳を放った。ノブツナは相手胃の攻撃をまともに受けず体を左へ傾けていなし、左の拳でボディーブローを狙う。

 

 ドリアンはその拳を片手で受け止めるや否や、その手を握り絞めだす。ミシリと拳に痛みが走ると完全に骨まで粉々にする気だという殺気を感じたノブツナは地面を蹴ってその勢いで両足で蹴り飛ばす。蹴とばされたドリアンは受け身を取って嬉しそうににんまりと笑った。

 

「そうこなっくちゃね!」

「正直怖すぎなんですけど…」

 

 握りつぶされそうになった左手をさすりながらノブツナが苦笑いする。ただ闘争を楽しむただの殴り合いとはいっても相手は元死刑囚であり、中国武術の最高峰の者に与えられる『海王』と呼ばれる称号を持っていた男。生半可の覚悟ではこっちが圧倒的にやられてしまう。

 

「そう畏まるな。君の持ちうる全力を遠慮なくぶつけるといい」

 

 色々と頭の中で考え込んでいるノブツナに対してドリアンは気楽に話しかけていく。ため息をついたノブツナは大きく深呼吸をして再び拳を構えた。少し身をかがめていつでも素早く懐へ迫って先手を打てるように膝に体重をかけていく。

 

「いきますよ…」

「いつでもきたまえ」

 

 余裕綽綽に突っ立っているドリアンに対し、ゆらりと前へ倒れるように体重をかけ膝に力を入れて地面を蹴り上げる。爆発的な跳躍力でドリアンの懐まで一気に迫った。少し驚いたように目を丸くしていたドリアンが何をしてくるか何も考えずこのままの勢いで相手の鳩尾めがけて拳を撃ち込む。

 

 しかしその寸前に目の前でドリアンはパンッとノブツナの顔間近で両手を叩いた。所謂猫騙し。相手に虚を突いてきたのだった。その猫騙しに思わず目を瞑ってしまった。虚を突かれたノブツナは一瞬びしりと止まる。

 

 目を瞑ってしまった隙をつき狙われたようで、横腹に激痛が走る。横腹に蹴りを入れられた。このまま蹴り飛ばされてたまるかとノブツナは踏ん張って耐え、目を瞑ったまま思い切り拳を放つ。手応えはあったが威力が低く浅すぎる。ノブツナは後ろに下がって目を開き、痛みに耐えながら拳を構える。一方のドリアンは何事もなかったかのように突っ立って、感心しながら髭をさすっていた。

 

「見た目に反して鍛えているのだな」

「おっかないおっさん達に嫌と言うほど鍛えられましたからね」

 

 ノブツナは苦笑いをして答えた。範馬勇次郎然り、師匠の本部然り、師匠の友達の中国拳法家だの柔術の達人だの空手の師範代だのにあれやこれやと叩き込まれたことを思い出す。あの地獄の特訓はもう懲り懲りだと遠い目をした。

 

「君の様に多く学べる人生が羨ましい」

「‥‥人生それぞれです。俺も羨ましがられるほどなもんじゃないですよ?」

 

 気軽に笑いながら話してくるドリアンはすかさず拳を振り下ろしてきた。早い拳を顔スレスレで避け、腹部めがけて掌底を撃ち込んだ。体内の水分や血液を振動させて内部から臓器や筋肉にダメージを与えていく『打震』。今まで余裕の表情を見せていたドリアンが初めて痛みで顔を歪ませた。

 

 手応えがあり。相手が怯んでいる隙にありったけの攻撃をしかけていく。今度は顔を狙ってくるかと両手で防いでいる隙にもう一度腹部を狙ってボディーブローを打ち込む。がら空きになったボディーを更に攻めていく。体重をかけて一発、体重をかけてもう一発。それでもドリアンは倒れることなく反撃をしてくるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。確かに気になる事なのだが、今は考える暇はない。ノブツナは攻め手を緩まず、拳を蹴りを入れていった。

 

____

 

「‥‥若いというのは羨ましいな」

 

 ()()()()()()()()()()()()ドリアンは羨ましそうにノブツナを見つめていた。彼の見つめている先ではノブツナがドリアンとは反対の方向で空を切りながら拳を振り、蹴りを入れていた。時には防ぐ態勢になったり、その瞬間に反撃に入ったり、まるでシャドーボクシングか見え何かと戦っているように見えた。

 

「しかし驚いたな…1回で私の催眠術が効かなかったのは君で初めてだ」

 

 催眠術。ドリアンの得意とした技の一つである。手段はいたって簡単、相手の意表を突かせること。さっきやっていた猫騙しや不意打ちをやって相手の気を一瞬で緩めさせればかけることができる。術にかかった相手は『最も自分が望んでいるシチュエーション、もしくは望んでいる勝ち方』という妄想に取り込まれていく。ノブツナは1回目は効かなかったが、2回目の催眠術にかかってしまったのだ。『打震』をくらった腹部をさすりながらドリアンは感心していた。

 

「やはり術にかかっても尚、隙あらば本当に狙ってくる姿勢は侮れん」

 

 かつて愚地独歩に催眠術をかけても、彼は『戦いとは不都合なもの、思い通りにならないもの』とかみしめていて、術にかかっている事すら記憶にないまま戦って催眠術は全く無意味なものとされてしまった。あの時程ではないが、一瞬でも油断して殺しにかかって行けば逆に襲い掛かってくる。まるで臭いで獲物を嗅ぎ付けて噛みついてくる猟犬の様だ。

 

「身に潜んでいる闘気と殺気…君は大したものだったよ。だが、ここは私の勝ちとしてもらおう」

 

 短い組手であったが楽しむことができたし、ここで仕留めるのも惜しい。しかしここで長居しても他の武偵が来てしまうかもしれない。静かに殺気を込めて近づいて仕留める事にする。頸椎を折るか、脳天を砕くか、何処で止めを刺すか拳を握った。

 

「さあ、今見ているものを永遠のものとするために…行きなさい、夢の世界へ!」

 

 ドリアンは止めを刺そうと拳を振り下ろした。その時、彼の腕にどこからともなく弾丸が掠める。ドリアンはピタリと止め、飛んできた方向を見るや否やすぐに下がった。

 

「狙撃…!?彼の付き添いの子か…‼」

 

 ノブツナの傍にドラグノフを持っていた翡翠色の髪をしたレキとかいう少女がいたことを思い出す。何処から狙って撃ってきたのか見抜いたドリアンはすぐにノブツナから離れて倉庫の物陰へと隠れる。

 

「あの子も見た目に寄らず中々の腕だな…」

 

 この物陰からなら射程外であろう、ここは惜しいが戦いを一先ずお預けにするかと身を引こうとした。その時どこからかチュインッと金属を弾いた音がしたかと思いきや弾丸が右肩を掠める。一瞬何が起きたのかと驚いたが、腕と同じ痛みからしてレキが跳弾を狙って撃ってきたということに気付くと肩を竦めて苦笑いをした。

 

「ははは…逃がさないというわけか」

 

 それならば今度は物陰からノブツナを仕留めようかと、ケブラー繊維を仕込んだライターを試しにちらりと見せた。その瞬間にライターは弾丸に射抜かれて粉々になる。彼を殺させはしない、という事も分かったドリアンは苦笑いしながらため息をついた。

 

「やれやれ、逃げるなだったり殺すなだったり私はどうしたらいいのか困りものだ」

 

 ここから出られないまま待ち惚けをするか、強引にでもノブツナを仕留めるか、もしくは全力をもって逃げるかどうするか悩みだした。しばらく悩んでいると、跳弾を狙った狙撃も全く来ないしこっちを狙っているような気配すらも消えた。物陰から様子を伺うと、催眠術に取りつかれて今も尚拳を振っているノブツナから離れた場所でドラグノフをもったレキが待っているのが見えた。

 

「これは珍しい…どういう風の吹き回しかな?」

 

 少し珍しそうにドリアンは見つめた。スナイパーならばあのまま狙い撃ちを続けていればよかったはず。それなのに彼女はそのまま姿を現して自分の下へとやって来たのだった。ゆっくりと近づいてくるドリアンにレキはドラグノフを構える。

 

「‥‥本当ならばそのまま貴方を狙って撃てばよかったのかもしれません。でも、それでは意味がない」

「ほお?それは油断と慢心か?」

「いいえ。命を賭してでも主を守るのが私の務め」

 

 そのまま静かにドラグノフの弾丸をリロードして狙いを定める。

 

「…こうでもしなければノブツナさんは起きないので」

 

 ドリアンはちらりとノブツナの方へ視線を向ける。ノブツナは息を切らせながらも見えない敵に向けて拳を、蹴りを入れていた。あれはまだ術を解くことはないだろう。

 

「ここまで近づいても撃ってこないとは…君の引き金が先か、私が避けて君を仕留めるのが先かな?」

「‥‥私は一発の銃弾。何も考えず目標へ飛んでいくだけ」

 

 面白いことを言う、とドリアンはふっと笑い、レキの指が引き金を引く瞬間を見逃さなかった。彼女の指が動いたと同時にドリアンは向けられた銃口から左へと避けた。発砲音とともに放たれた弾丸はドリアンに当たることなく通り過ぎる。ドリアンはステップを踏んでその勢いでレキに向けて拳を振るう。このままぶつけてしまえば簡単に折れてしまうぐらい細い体は耐えきることはできないだろう。この勝負は勝ったとほくそ笑み拳を振り下ろした。

 

 その刹那、ドリアンの脇腹にミシリと激痛が走る。痛みに表情が歪みと驚きが混じり、痛みがする方へと視線を向けた。催眠術にかかって見えない自分とシャドーボクシングをしていたノブツナが全体重をかけた拳を入れていたのだった。驚きが隠せなかったドリアンは大きく後ろへと下がった。あの様子は完全に催眠術が解けている。一体どうやって彼は催眠術を解いたのか焦りながら考えた。よく見ると彼の頬に一筋の赤い傷がついて血が流れている。

 

「さっきの銃弾は私ではなく彼へと向けたものだったか…‼」

 

 レキがノブツナに向けて発砲して強制的に催眠を解いたのであった。頬を拭うノブツナにレキはジト目で見つめる。

 

「ノブツナさん、気を抜きすぎです」

「いてて…サンキュー、レキ。次は気を付けるさ」

 

 そんな二人の様子を見ていたドリアンは突然大きく笑いだした。

 

「はははは‼こんなに面白いことは久しぶりだ‥‥人生とは色々とあるものだな」

 

 大きく笑い終えたドリアンは何かすっきりしたかのような、何かを悟ったかのような落ち着いた表情をしていた。

 

「…私も一瞬でいいから誰かの為とかを抱いて戦ってみたかったものだ。ノブツナ君、君はまだまだ多くを学ぶことができる。私の人生は短い…羨ましいものだ」

 

 こぶしを握り締め、静かに殺気と闘気を高めていくのが分かった。どういう事か、これで最後にするつもりのようだ。

 

「‥‥レキ、後ろへ。もしもの時は頼んだ」

 

 ノブツナはちらりと視線を向けて指示を出した。相手がその気ならこっちも同じようにこれで終わらせる。どちらも間合いに入り、ドリアンの拳がゆらりと動く。

 

「これまで私の人生は矛盾した喜劇だと蔑んでいたが‥‥君らに会えて悪くは無かったよ…!」

 

 嬉しそうに、誇らしそうに、ドリアンはこれまでよりも早く、強く拳を振り下ろした。しかし、ドリアンのよりも早く、強く、ノブツナの拳が入っていた。

 

 足の親指から始まり関節の連動を足首へ、足首から膝へ、膝から股関節へ、股関節から腰へ、腰から肩へ、肩から肘へ、肘から手首へと8箇所の関節を同時加速をかけて目にもとまらぬ高速の正拳突き。師匠の友人である空手の師範代から教わった技。大きく深呼吸をしたノブツナは前のめりへと倒れるドリアンに向けてもう一発放った。

 

 顔へと直撃したドリアンは後ろへと倒れる瞬間、意識が薄れる寸前、ノブツナに向けてふっと笑った。

 

「‥‥良い夢を見させてくれて、ありがとう‥‥」

 

_____

 

 

 ドリアンは仰向けに大の字に倒れて動かなかった。これで静かになったと、終わったと察したノブツナはマッハ突きを放った拳を痛そうに振りながらへたりと座り込んだ。

 

「‥‥な、なんとか勝った…‼」

 

 やつれながら大きく息を吐く。正直かなり緊張した。自分で止めることができるかどうか分からないながらも戦った。安堵と共に緊張と焦りが今更ぶり返して来た。

 

「ノブツナさん、お疲れ様でした」

「いやもう疲れた。あっちも終わったみたいだし、はやく教務科の連中が来てほしいわ」

 

 このままあとは後から来る教務科の連中に押し付け事情聴取をすっぽかして帰りたいぐらいだった。レキは静かに倒れているドリアンを見つめていた。

 

「‥‥自分の人生は変える事はできない。それなのにどうしてこうまでして変えたかったのでしょうか」

「そいつは違うな、レキ」

 

 疲れ気味ながらもノブツナは首を横に振った。

 

「変える事ができないと諦めているから、変えれない。誰だっていつ時も変えるチャンスがあり、変える事はできる‥‥あの人は立ち向かって、変わったよ」

「…私も変える事ができるのでしょうか…?」

「?ああ、変わろうと思えば変われるもんさ。まあその気になるんなら、俺が手伝ってやるさ」

 

 『ウルス』とか『風』とかよくわからないレキの中二病を脱出して変わろうとしているのなら良い方向に向かっているのだろうと、ノブツナはニッと笑った。

 

 その時、これまで仰向けに倒れていたドリアンがむくりと体を起こした。突然のことでノブツナとレキはギョッとし驚くが、ドリアンの様子がおかしい。先ほどまでの殺気は感じられないどころか、彼の目はおどけたようにあたりを見ていた。レキはドラグノフを構えていつでも撃てるようにするが、ノブツナは止めた。そしてノブツナはゆっくりと近づく。

 

「ノブツナさん、何を‥‥」

 

 近づくノブツナに気付いたドリアンは子供の様に困った表情を見せた。

 

「‥‥キャンディ‥‥」

「…えっ?」

 

「‥‥パパがね…2つしかくれないの‥‥キャンディ…ボク、たくさんほしいのに…」

 

 これはまさかとノブツナは目を丸くした。かつてのドリアンは最後、勝負に負けて精神が崩壊し幼児退行をしてしまった。それはもう戻ることのない永遠の症状。これは『本来』の彼に戻ってしまったのではないだろうか。

 

 

「ボクね、ずっとゆめをみてたんだ…」

「夢を…?」

 

「ボク、スーパーマンみたいにつよくなったゆめをみたんだ…でもさいごはたたかってまけちゃった…」

「‥‥その夢は怖い夢だったかい?」

 

 ノブツナの問いにドリアンは大きく首を横に振った。

 

「ううん…とってもたのしかった‼」

 

 ノブツナは目を見開いてしばらく考え込んでいたが、頷いてドリアンに向けて笑った。

 

「そっか。そいつはよかった‥‥そうだ。キャンディ、俺が買ってやるよ」

「ホント!?」

「ああ。好きなだけ、山ほど買ってやるさ‥‥」

 

 もうさっきまで戦ったドリアンはいない。彼は残りの人生をかけ、最後は楽しんでいった。

 

「‥‥もっと拳を交えたかったな…」





 これでドリアン編は終わりでございます。後はエピローグへ…


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19話 訪問者

お久しぶりーフ‥‥ほっとくのも何だかと思ったのでひっそりと続けて行こうと思います。

 思いつきとかでかなり更新速度は遅いですがそれなりに進めて行こうと思います



「こちらの病院にドリアンを保護してあります」

 

アドシアードから数日後、学園島を一望できるとある防波堤でノブツナはしかめっ面でメモを渡した。普段は釣り人もよく訪れるスポットなのだが今日に限って釣り人は少ない。

 

 それもそのはず、ノブツナの目の前で成人男性よりも筋肉の量も体格も桁違いのアフリカ系アメリカ人が釣りをしている。アロハシャツを着てサングラスをかけ、黙ったまま釣り糸を垂らして微動だにしない。その威圧もあって釣り人達は近づこうとしなかった。

 

「Hum…釣りというものは難しいナ」

「オリバさん、餌をつけてないと釣れませんよ」

 

 ノブツナは乾いた苦笑いをする。その通りだと笑う男性はアメリカのブラックペンタゴンことアリゾナ州立刑務所に収監されながら囚人として扱われずにアメリカの警察を牛耳る自由奔放の男、繋がれざる者(アンチェイン)ことビスケット・オリバである。オリバはノブツナが渡そうとしたメモを受け取ると満足そうに頷く。

 

「助かったよ。流石はMr.本部の弟子というわけだ。これで安心して祖国へ帰れるヨ」

「いえいえ…俺だけの力じゃ成し遂げれませんでした。仲間達の協力のおかげです」

 

 褒められるのが慣れていないようで、ノブツナはニヘラと笑って頭を掻く。

 

「さて…魚も釣れないことだし、私はすぐにドリアンを連れてアメリカへ帰るとしよう」

 

「…オリバさん、その前に少しばかり質問していいですか?」

 

 ニコニコと釣り具を片付けようとするオリバにノブツナは真剣な眼差しで見つめていた。その様子を見たオリバは静かに頷く。

 

「いいとも、今回は君に任せっきりだったからネ、好きなだけ質問してくれてかまわないよ」

 

「じゃあ‥‥ドリアンを差し向けたのはオリバさん、貴方ですね?」

 

 その言葉を聞いたオリバから笑みが消えて真顔になり、ピクリと腕の筋肉が動いた。オリバの拳は強く握られている。このまま殴り掛かってくるのではないかとノブツナはごくりと息を呑みいつでも避けれるよう足を静かに動かす。躱しきれるかどうかは分からない状況で背中に嫌な汗が流れる。

 

「‥‥何故、そう思うのかネ?」

 

 オリバは落ち着いた口調で恐怖で威嚇する獣をあやすかのように尋ねてきた。緊張の糸を解してはいけない、そう考えつつノブツナは答えた。

 

「ドリアンは学園島に爆弾を仕掛け学園島を爆発させようとしていました。彼はデュランダルという誘拐犯がこの学園に潜みある武偵を誘拐しようとしていた事を知っていた。ドリアンは意図していませんでしたが、誰かがデュランダルにすべての罪を擦り付けようとしていたことは分かりました」

 

「‥‥」

 

 オリバは何も言わず黙ったままじっとノブツナを見つめている。沈黙したままでも伝わる静かな威圧に耐えながらもノブツナは話を進めていく。

 

「当時はアドシアードというイベントがあり、武偵校は一般開放され一般人の他にメディアやお偉いさんも来ますからね…もしもし獏は事故でも起き大きな被害がでれば武偵の不祥事として叩かれますし、信頼も落ちる。そして爆弾を仕掛けたとしてデュランダル‥‥いや、イ・ウーとかいう組織も締め上げれる。武偵と犯罪組織、どちらも蹴落とされて得する人と言えば…アンチェインと呼ばれている貴方も得しますね」

 

 ずっと黙っていたオリバが何か言おうするのを遮り、ノブツナは一枚の紙を渡した。その紙には誰かの指紋の画像が添付されていた。

 

「憶測ではありません、ちゃんと証拠もあります。ドリアンがIEDを製造していた部屋にキャンディの包み紙がありました。俺の仲間に鑑識も得意な者がいまして‥‥その包み紙の一つに、貴方の指紋がありました。勿論、包み紙だけでなくIEDのパーツの一つにも…貴方はドリアンに会っていた。そしてデュランダルの事もドリアンに教えた」

 

 更にノブツナはもう一枚資料をオリバに渡す。

 

「そして、貴方がドリアンに渡したであろう彼が持っていたキャンディも調べました。成分に多量のメタンフェタミンが含まれていました。メタンフェタミンは精神刺激薬としても使われますがこの量は覚醒剤よりも危険な劇薬になりうる。それに、該当不明の成分も検出‥‥こんな薬を製造できるとすれば、アメリカにあるロスアラモス機関、貴方が関与したのでは?」

 

 ロスアラモス機関、アメリカの政府と関連した最先端技術と最先端科学を駆使した兵器や研究をしている研究機関。アメリカ政府と通ずるならば大統領すら司法すらお構いなしのこの男も一枚噛んでいるはずだ。ノブツナは威圧に怯むことなくオリバを見つめた。どう答えるか、いきなり殴ってくるか、どう動くかじっと見据える。

 

 しばらく沈黙していたオリバだったが遂に堪え切れなかったのかプルプルと震え出した途端、大きな声で高笑いをした。予想外の反応にノブツナは呆気に取られてポカンとする。

 

「HAHAHAHA‥‥‼すまないすまない、どうやって話を逸らそうと考えていたが君には誤魔化すことができないようだナ」

「では…」

「その通り。ドリアンを一時覚まさせたのも、デュランダルの事を教えたのも、彼に学園島に爆弾を仕掛けるよう教えたのも私だ」

「‥‥何故、ですか?」

 

 何故オリバがこんな事をしたのか理由を聞こうとした。するとオリバはノブツナが渡した資料を片手で何度も何度も握り潰し、A4サイズの紙が噛み続けて味が無くなったガムを包んだ包み紙ほどに小さくなった。

 

「―――私はね、武偵が大嫌いなんだよ」

 

 オリバは満面の笑みで答えた。その瞬間、ノブツナは伸し掛かるような殺気を感じて引きつる。彼の笑顔の裏に莫大もの怒りが込められているのが感じられた。

 

「アメリカ、日本、ヨーロッパ…世界中どの司法もこの私を縛るものは無い。だが武偵の連中は私をどうしても逮捕したいようでね、何度も何度も私の寝首を掻こうとし、私の邪魔をしてきた。実に愚かで小賢しいと思わないかね?」 

 

 熱く語るオリバに今度はノブツナが黙って聞く番になった。アメリカの警察、FBI、軍、司法さえも牛耳る彼に唯一抵抗を続ける武偵。何が何でも司法を取り戻すために法に縛られないこの男を捕まえたいようだ。

 

「それだけではない、イ・ウーの様な長く存在し、司法に囚われていない組織…私の存在は有るものとし、奴らは無かった事にされる‥‥実に片腹痛い。繋がれざる者(アンチェイン)は私一人で十分だ。『イ・ウー』、『藍幇』、『覇美』、そして『ウルス』…かび臭い連中は私が潰さなくてはネ」

 

 ウルス…その言葉を聞いたノブツナは見開く。以前、レキも同じように『ウルス』という単語を言っていた。それを何故、繋がれざる者(アンチェイン)は知っているのか、驚きを隠せなかった。

 

「おっと、そろそろドリアンを連れて帰らないと飛行機に乗り遅れてしまう…では、私は失礼するよ」

 

「ま、待ってください!オリバさん、『ウルス』って一体何ですか!?それだけじゃない、デュランダルの事をどうやって知ったんですか!?」

 

 話は終わりと釣り具を片付けて去ろうとするオリバを呼び止める。まだまだ聞かなければいけない事もあるし、知らなければならない事も山積みに残っている。オリバは歩みを止めるがこちらに振り向くことは無かった。

 

「少しだけ教えてあげよう‥‥君の見ている物全てが真実ではないのだよ。情報というものは奥深い、君が知らないものがあり、君が知らないうちに物事は進んでいく…そしてその中にはとんでもない怪物も潜んでいる」

 

 オリバはどう言いたいのかノブツナには分からなかった。だがこれだけは分かる、今自分が関わろうとしているのは野暮な事件とは比べ物にならない程の厖大な厄介事だと。

 

「そして全てを知った時、君は彼女の傍にいてやれるの事ができるかナ?」

 

 恐らくレキの事をさしている。オリバの言っている事とレキに何か関連しているのだろうか、もしかして本当に『ウルス』とかいうものに関連しているのか、考えても今は思いつかない。するとオリバは振り向いてニっと笑った。

 

「まあ、君に『愛』があればの話だがね…それではサラバだノブツナ君。いずれまた会おう」

 

 愛?それはどういう意味なのか、キョトンとしているノブツナにオリバは軽く手を振って去って行った。結局オリバから詳しい事は教えてもらえなかった。ノブツナは途方に暮れ、静かな海を眺めてため息をついた。

 

「結局、分からず仕舞いか‥‥」

 

 ただ分かったことがあったとすれば自分の情報収集力の無さくらいだろうか。まだまだ知らない事がありすぎる。

 

「ったく、一つ一つ整理していくかな」

 

___

 

 

「うぃーっす、ただいまー」

 

 オリバさんとの対話はめっちゃ怖すぎた。正直オリバさんが怒った時はちびりそうになったぜ…なんかまた会おうとか言ってたよな。あの人と戦いたくねぇな。

 

 普段ならば一仕事終えてくたびれた時はこのまま布団に籠って一日を終えたいと思っていた。でも今は違う。玄関開けたらサトウのごはんのようなもとい実家のような安心感で癒してくれる存在がいるのだ。

 

「ただいまー、レキ待たせちまったな。今日の晩飯は『百太郎』でラーメンを食べに行こうぜ」

 

 今のこの俺の部屋には居候をしているレキがいるのだ。今日は留守番をさせて正解だった。オリバさんがあれやこれやと言ってたもんだし、きっとレキが聞いちゃまずい事もあった。この事は黙っておこう‥‥

 

 それにしても返事が無い。俺はどうしたのかリビングを見回すと‥‥いました。ソファーにドラグノフを抱えてうずくまって寝ているレキさんが。

 

「‥‥」

 

 はいカワイイ。俺はすかさず携帯の写真を撮る。これ待ち受け画面にしよう。すっげえ癒されるんですけど。あ、カメラにも撮っておこう、焼き増ししてオークションに出せばバカ売れ…いや永久保存しなきゃ。

 

「ん‥‥ノブツナさん…?」

 

 シャッター音で目が覚めたのかゆっくりと目を開けてレキは起き上がる。長らくぐっすり眠っていたようで少し寝ぼけている。カワイイ、もう一枚撮っておこう。

 

「悪い、起こしちまったか?」

「いいえ…構いません‥‥」

 

 なんだろうか、ドリアンとの戦闘や捜査、そしてオリバとの会話、長くのしかかっていた疲労がスッキリと取れた様な気がした。どことなくレキはミステリアスな雰囲気があるけども何となく癒される気がする。俺は笑って彼女の頭を撫でようとした。

 

―——全てを知った時、君は彼女の傍にいてやれる事ができるかな?―――

 

 オリバさんが言っていた言葉を思い出し、俺は思わず手を止めた。

 

 確かにあの人の言う通りだ。俺は‥‥レキの事実を一ミリも知らない。一年間バディを組んでいたがお互いの事は深く知ろうとしなかった。

 レキ‥‥知っているとすれば彼女の名前と狙撃の腕前、ただそれだけ。彼女は一体何者なのか、何処から来たのか、詳しい事は知らない。

 彼女が本当に中二病患者でなけば『ウルス』とは一体何だろうか、彼女がよく言う『風』とは一体何なのか、俺が知らない厖大な存在なのか、オリバさんが敵視するのならばレキも狙われるのではないのか。

 

 ぐるぐると思考が巡り俺は石像の様に固まる。いうなれば考える人の像ってやつか。混乱する思考の中である事が思いつく。

 

 そういえば‥‥俺は彼女が笑ったところを見たことがない。

 

 

「‥‥ノブツナさん?」

 

 レキは微動だにしない俺を見て不思議そうに首を傾げる。ロボットのような無表情の顔―――というかなんでそんな笑ったりしないんだろうな。

 

 よくよく考えると、俺は何も知らないじゃないか。いや、知らなければならないのではないか?

 

「アー…すまん、ちょっと考え事さ。気にしないでくれや」

 

 いかんいかん、落ち着けノブツナ。これ以上悩んでいたらレキが心配する。いや違う、腹を割って聞かなければいけないんじゃないのか?いや、真実を知るのが怖いのか俺?

 

「―――『風』は警告しています。これ以上、関わってはいけないと」

 

 唐突にレキは俺に告げる。俺が何か悩んでいるのを察したのか、それともここにいる事が迷惑ではと思ったのだろうか。

 

「…関わり続けるとどうなる?」

「―――貴方は死ぬと」

 

 なんという事でしょう。風さんとやらは俺に死の宣告をしてきましたよ。というか相当風さんに嫌われてんな。

 

「そして私に戻れと‥‥これ以上『あの子』を目覚めさせないために『あの人』を奪えと言ってきました」

 

 何て事をしやがるのでしょうか。風さんとやらは相当昼ドラがお好きなのかそれとも重度のヤンデレなのでしょうか。ただ分かるとすれば‥‥レキも相当悩んでいる。表情に表さないけれど、悩んで悩み切ってそんで思い切って俺に相談してきたんだ。

 

「レキ…ごめんな、俺くよくよしてた」

 

 俺は微笑んでレキの頭を撫で、しゃがんで顔を合わせる。どうかしてたぜ‥‥真実を知らないとか、知るのを恐れようとしているとか、今は悩んでいる場合じゃない。今すべきことはレキを支えなきゃいけないんだ。

 

「お前が本当は何者なのか、ウルスとか『風』とかはよく分かんねえ‥‥でもこれだけは言える。何があろうとも、俺は裏切らねえし見放さねえ、俺がずっと傍にいてやるよ」

「‥‥!」

「俺はバカだからさ、詳しい事は知らん。でも、お前が悩んでいるのなら迷ってんなら助けてやる。『風』の野郎が何を言おうとも、俺がちゃんと導いてやる」

 

 レキが何者なのだろうか今は関係ない。知ろうとすればいつか知れる。

 

「だから心配すんな」 

 

「‥‥分かりました。私は、ウルスの姫は、貴方に従います…」

 

 気のせいだろうか…少しレキの表情が赤く、恍惚している気が…うん、夕陽のせいだな!そうだね!ごくりと生唾のんだけど気にしない!

 

「お、おし!もうこの話はお終い!これからラーメンでも食いに行こうぜ‼俺の奢りだ、好きなだけ食え‼」

 

 そう!シリアルなお話はもうここまでにして、楽しい事を考えなきゃね!レキはよく食うからなー、お財布と相談しなきゃ!

 

 その時、そそくさと行こうとする俺をレキが袖をクイッと掴んで止めた。俺は恐る恐るゆっくりとオイルの切れたロボットのように振り向く。

 

「ノブツナさん…私は貴方に委ねます。だから―――」

 

 おかしいな?なんだか今日のレキは色っぽいぞ?うん、これは夕陽のせいだ。ノブツナ、あなた疲れているのよ。レキは俺に構いもせずシュルリとネクタイを外し、ボタンを開けていく。

 

「――――貴方のモノであると、その証を私にください」

 

「はっ!?そ、それって‥‥ここっ、こっ、こっこ、こっ、こここっ、こここづっ‼」

 

 ストォォォップ!はいストォォォォップ‼まずいですよ‼これは本当にまずいですよ!?

 

 これは一体全体どういう事なんだ!?レキと会話していたらなんやかんやで変な雰囲気になっているでござる。いかん危ない危ない危ない…これは流石にまずいんじゃ‥‥

 

「‥‥」

 

 なんという事でしょう、レキは目を瞑って待っています。その瞬間、俺の天使と悪魔の戦いに悪魔が囁く。

 

 逆に考えるんだ‥‥やっちゃってもいいじゃないかと

 

 これはもしかしてレキの一世一代のプロポーズ!?いや、考えすぎだバカ。だが据え膳食わぬは男の恥。ここで逃げたら男が廃る。

 

「い、い、いいんだな?」

 

 俺の問いにレキは何も言わず頷く。これ以上、待たせてはいけない…俺は震えながら、恐る恐る、ゆっくりとレキに近づき、己の唇を彼女の唇に触れあわせていく。

 

 あと3㎝

 

 心臓がバクバクと鼓動が早くなる。まずいなこれ、師匠から破門されるんじゃねえのかな‥‥

 

 

 あと2㎝

 

 どうしよう、俺初めてだからこの後何をすればいいのか分かんねえ…

 

 あと1㎝

 

 あ、ゴry

 

「俺は帰って来たぞぉぉぉぉぉノブツナぁぁぁぁぁぁっ‼」

 

 そいつはリビングの窓をぶち破って乱入してきた。銀色の十字架のエンブレムのがついた真っ白なオーバーコートを着た、ツンツン頭で目つきが悪く蛇のような瞳の赤目の青年。どっかの特攻野郎の様なマスクをつけて提げている刀を抜かず、両手に持っているセロリを振り回し喧しく叫ぶ。

 

「中学以来だな!俺はバチカンで長い間修行をして帰って来た‼今の俺は貴様よりも何倍も強いぞ‼そんで土産にお前の嫌いなセロリを持ってきてやったぞ‼」

 

「‥‥」

 

 突然の乱入してきた輩にレキはポカンとするが俺は何も言わずにソイツに近づく。

 

「はっはっは‼ちょっといい雰囲気になってて伺うたタイミングを逃したが、ぶち壊してやったぜざまあみろ‼そして俺の持ってきたセロリに苦しむがry」

 

「ふんっ‼」

 

「オゴポコォ!?」

 

 そいつはセロリを振り回して襲い掛かて来たが構わず俺はそいつに有無言わずボディブローをする。

 

「ふんふんふんふんふんふんふん‼」

「ちょ、まっ、やめっ」

 

 ソイツの弁論する暇すら与えず俺はデンプシーをし続ける。そして俺は力一杯にソイツを持ち上げる。

 

「カエレ‼」

「あああああああっ!?」

 

 ベランダから外の海へと投げ込んむ。高々と水しぶきが上がり片付いたと俺は一息入れた。

 

「ノブツナさん…今のは」

 

 あ、レキが尋ねてきた。無かった事にしたかったけど、教えてなきゃな。

 

「あいつは神田スヴェン‥‥人間と吸血鬼のハーフ、ダンピールだ」

 

 二度と会うことは無いだろうと思ってた奴だったんだけど何で帰って来やがったんだ。




緋弾のアリアでダンピールってできればやれるんじゃないかと思い、ダンピールを出しました。ええ、思い付きですはい

『吸血鬼すぐ死ぬ』、面白いです(オイ


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6月ヴァンパイア
20話 セロリ


 セロリは苦手です。

 独特な臭いと苦みが


 ノブツナは激怒した。必ずかのクソ野郎を仕留めなければならないと決意した。

 

 6月の上旬で梅雨入りし、外はシトシトと雨が降っている。屋上でサボることができないので仕方なしに教室に行くと自分の机に大嫌いなセロリが生け花の如く派手に飾られていた。

 

「‥‥」

 

 ノブツナは無言で己の机を凝視する。よく見ると机の上だけではない、机の中にもセロリが何本も入れられており葉っぱがひょっこりと覗かせていた。セロリ独特の匂いが教室に蔓延する。ざわつく教室をノブツナは見回す。

 

―————やばい、めっちゃ怒ってる。

 

 キンジも武藤も、生徒の誰しもが彼が静かに激昂しているのが一目で分かった。

 

 表情を一切変えず恐ろしい程の真顔なノブツナの視線が生徒達の目に映る。キンジも武藤も、教室の生徒達も一斉に首を横に何度も振る。

 

 誰が彼の逆鱗に触れるようなことを、核爆弾のスイッチを押すようなことをするものか。彼を怒らせては教室が戦場となる。アリアが怒って『風穴!』と言ってガバメントを乱射するレベルではない。

 

 ノブツナを怒らせる、そんな愚行をするような輩は一体誰だ。主犯は一体何者か、生徒達はざわつきながら見回していると、突然掃除ロッカーがガタガタと音を立てながら揺れ始めた。

 

 そして中から白いオーバーコートを羽織ったツンツン頭の目つきの悪い男が蹴り開け、勝ち誇ったような笑みをみえながらノブツナを指さしてあざ笑った。

 

「ふぅーははははぁっ‼どうだノブツナ!貴様の大嫌いなセロリを教室においてやったぞざまあみろ‼そして苦しむがいい!お前はそのセロリの匂いがべったりとついた机と椅子で授業を受け――――――」

 

―———のちに遠山キンジ氏はこう語る。

 

 ええ、あっという間でした。突然ロッカーから飛び出して来た男がノブツナを嘲笑い台詞を言い終える前に、ノブツナが真顔でその男の顔面を思い切り殴ったんです。何と言いますか‥‥プロボクサー顔負けの速さでこうストレートで。

 

 それで、男が怯んで後ろに倒れそうになったところを今度は顎を狙ってフックをしたんですよ。殴られた男は「あふんっ!?」とか言って駒の様にギュルンッてすごい勢いで回転してましたね。本当に起きるものなんですね‥‥

 

 でもそれで終わりじゃありませんでした。倒れた男の両足を掴むと、ジャイアントスイングして窓へ、いや外へと放り投げました。勿論窓ガラスは割れましたけど、やらかした当の本人は物凄く嫌そうな顔をして『二度と来ねえように仕留める』とか言って教室を出て行きましたよ。まあロッカーに籠ってた男が一体何者だったのか知りませんが‥‥ノブツナ、セロリが嫌いだったんだな‥‥

 

 

―———そう言い終えた遠山キンジ氏は教室に蔓延しているセロリの匂いと、ノブツナの机に置かれているセロリの生け花をどうしようか途方に暮れていた。

 

 

____

 

 

 

「さて、言い残すことはねえか?」

 

「おいちょっと待て、俺とお前の仲じゃないか。勝手に殺そうとするなよ」

 

「うるせえよ‼てか、何で来た!?どうやって来た!?」

 

 ノブツナは物凄く嫌そうな顔をしてずぶ濡れになっている、腐れ縁3号ことダンピールである神田スヴェンの胸倉をつかんで揺らす。屋上からもう一度投げ捨てたかったのだが生憎今日は雨。仕方なしに雨天時のサボりスポットである鳰がいる文学部の教室で尋問している。同じサボり仲間のジーク、鳰、そしてレキまでもがこの教室でサボタージュしていた。

 

「ほうほうほう、そいつがダンピールとな‥‥ところでダンピールって何?」

「吸血鬼と人間のハーフだ。ちなみに俺はめっちゃ強いぜ」

「なんと!?もう一戦やろうぜ!」

 

「すんなバカ。というか話を逸らすな」

 

 ノブツナはジークとスヴェンにゲンコツを入れる。のたうち回るジークを無視して再びスヴェンの胸倉をつかんだ。

 

「もう一度質問する。どうやって来た、どうして来た」

「俺に質問するな!」

「やかましいわ‼というかこのくだりもう5回目だぞ!」

 

「まあまあノブちゃん、そうかっかせずにー。あ、コーヒー飲むッス?」

「あ、ども。お前いい奴だな」

 

 にこやかにコーヒーを渡して来た鳰にスヴェンは色目を使う。これでは埒が明かないとノブツナは項垂れる。レキに至っては無関心なようでずっと窓から雨が降っている外を眺めていた。

 

「本当に何しに来たんだお前は‥‥」

 

「お前の嫌がらせに来た」

 

「鳰、ペンチ持ってきて。こいつの歯全部引き抜いてやる」

 

「待て待て待て話す話す」

 

 ノブツナが完全に殺る気でいるので流石にヤバイと感じたスヴェンは慌ててノブツナを止める。漸く真面目に話す気になったかとノブツナはため息を漏らした。

 

「俺は仕事でこっちに戻って来たんだ。ついでにお前も誘おうと思ってここまで来た。まあお前に嫌がらせするのが主だったけど」

 

「仕事?確かバチカンから来たと言っていたよな。それと関係あんのか?‥‥それからあとでお前殴るわ」

 

「まあ半分あってるな。お上からの指令が半分、私怨が半分」

 

「ったく‥‥事の次第にゃ乗るがなんだ?」

 

「流石は俺のライバル。それでこそ競い甲斐があるぜ!ノブツナ、ブラドを〆に行こうぜ!」

 

「はーいみんな解散、おつかれっしたー」

 

 そそくさとノブツナは鳰たちを連れてスヴェンを置いて出て行こうとした。そんなノブツナをスヴェンが全力で止める。

 

「まあ待てライバル!俺の話を聞いてくれ!」

「うっせえバーカ‼どうせ碌な事じゃねえと思ったけどもやっぱりじゃねえか!」

「碌でも無くはないぜ!俺もお前もお手柄で褒め称えられるくらいやべえから!」

 

「ノブちゃんノブちゃん、そのダンピールのお方の言う通りでもあるっすよ?」

 

 苛立つノブツナに鳰がひょっこりと二人の間に割って入った。

 

「鳰、お前なんか知ってんのか?」

「ブラドって聞けばそりゃあもう有名っすよー。なんたってイ・ウーのNO.2の吸血鬼なんっすよ?」

 

 またイ・ウーかいな。ノブツナは面倒くさそうに頭を抱えた。しかも相手は吸血鬼で、イ・ウーの二番目にえらい奴。先月のジャンヌ・ダルクといい、イ・ウーにはそんなおかしい奴等しかいないのかと愚痴をこぼす。

 

「でもなんでそのブラドを〆に行くんだ?」

「簡単な話だ。あいつ、母ちゃんを馬鹿にした」

「すっげえ私怨だなおい」

「‥‥それもあるが、事実バチカンのシスター、『殲滅師団(レギオ・ディーン)』はブラドやその娘と長い事戦っていてな、ブラドの奴日本に潜んでいるからいっちょぶちのめしてこい、と俺に指令を下してきた。俺に命令してきたメーヤとかいうシスターの顔がメッチャ怖くてな、いやホント怖かった」

「つか物騒な連中だな」

 

 ノブツナは引き気味に苦笑いをした。スヴェンもかなり面倒な目に遭っているのだと、こいつなりに少しは苦労いているのだと分かった。

 

「まあ安心しろ。ここの武偵法じゃ殺しは禁じられているからな、死なない程度にのめして逮捕で済ましてやるさ」

 

「それで、そいつを捕えるのに俺達に協力を求めてきたってわけか」

 

「どうだ?のるか?」

 

 どうしたものか、ノブツナは腕を組み唸りながら深く考えた。人ならまだしも、今回の相手は吸血鬼。驚異的な回復力をもつとは聞くがどれほどの力を持つのかは分からない。そしてそれはとてつもなく面倒だというのが嫌程分かる。

 

(レキは‥‥興味なさそうだし、ジークは‥‥寝てるし、鳰は‥‥)

 

 とりあえず他の奴の意見を聞こうとしたが幾人か人の話を聞いてないしやる気は無さそうにしている。鳰は果たしてどう考えているか視線を合わせると鳰はにへらぁと笑顔を見せる。

 

「ノブちゃん、めっさ楽しそうじゃないっすか。ファッキンイ・ウーをまた一人ぶちのめしせるなら鳰ちゃんは喜んで承りーっす」

 

 ああこいつイ・ウーが大嫌いだったな。

 

 そんな事を考えていると鳰がギザギザの歯を見せて下衆そうな笑みを浮かべてノブツナに歩み寄る。

 

「ねえねえノブちゃん、ノブちゃんもやりましょーよ」

「あのなぁ…俺がやってもこいつが得するだけだぜ?」

 

 鳰がギザギザの歯を見せて下衆そうに笑う時は必ず碌な事がない。これだけは確信できる。クスリと笑った鳰は耳元でささやいた。

 

「――――手伝ってくれたら、ノブちゃんの知りたい事、教えてあげるっすよ?」

 

 やはり碌でも無かった。ノブツナはお茶目に笑う鳰を見つめた後、仕方ないと肩を竦めてため息を漏らす。

 

「しゃあねえな‥‥手伝ってやる。その代わり、報酬は弾めよ?」

 

「流石は俺のライバル。きっとやってくれると信じてたぜ!」

 

 スヴェンは嬉しそうにノブツナの手を握って何度も振る。果たしてブラドとやらはどんな御仁なのか、どうやって捕えるか、自分達で倒せる相手か、考えることが山ほど増えた。今月ぐらいはレキとただ只管サボってのんびりしたかったのだがとため息をつく。

 

「じゃあ詳しいことは後程知らせる」

「おう、ちゃんとやりやすいプランを考えろよ?」

 

「「‥‥‥」」

 

 

「‥‥コーヒーおかわり」

 

「帰らねえのかよ!?」




 今回はレキ成分薄め

 次回から頑張ります(オイ


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21話 悪魔城ドラキュラ(誤

 

 


「はぁ‥‥何か疲れた」

 

 数える事おそらく239回目のため息だ。こんなにもくたびれたのは久しぶりだろうか。あの後「用がないならカエレ!」とスヴェンを追い出したのだが、その後も休憩時間や授業をサボる度にスヴェンがどこからともなく現れてセロリを使って嫌がらせをし続けてきやがった。

 

 教室の俺の机にセロリの生け花は置かれたままだし、セロリの着ぐるみを着て教室に入り込んだり、セロリを振り回して追いかけてくるし、下校するまでの間あいつは何度も俺にセロリを食わせようとしてきた。

 

 漸く学生寮へと辿り着くとどっと疲れがのしかかってきた。もうあれだ、セロリとあのクソ野郎のせいだ。部屋に着いたらレキに抱き着いてレキレキ成分を補充しよう。ぎゅっと抱きしめて、スンスンして‥‥ほ、ほらスキンシップって大事だからな!

 

 鍵で開錠しドアを開けて部屋へと戻る。あれ?おかしいな、部屋が明るい。部屋の電気はつけっぱなしにしてたっけか?

 

「おうおかえり!一日中雨で少し冷えたろ。コーヒー作っておいてやったぜ!」

 

 リビングにはスヴェンがコーヒーを飲みながら寛いでいた。

 

「えーと、レキだっけか、お前さんはミルクか?それともブラック?」

 

「‥‥私はブラックでかまいません」

 

「そうかそうか!ほんとノブツナにはもったいねえ女だなぁ!」

 

 スヴェンはゲラゲラと笑いながらレキにコーヒーを渡す。そして俺にはいたずらっぽくギザギザの歯を見せて嘲笑う。

 

「残念だったなノブツナ!てめえのコーヒーはねえ!お前にはこの特性セロリジュースをry」

 

「どっから湧いてきた」

 

 セロリジュースを飲まそうとしてきたスヴェンの攻撃を躱して容赦なくアイアンクローをお見舞いする。

 

「つか、なんでお前がこの部屋にいるんだ!?」

「あだだだ、そんなこと言うなよ。俺達ソウルメイトじゃねえか」

「てめえのようなソウルメイトいらねえよ‼」

 

 とりあえず俺に飲ませようとしてきたセロリジュースを此奴の口の中へと流し込ませる。スヴェンは「まずっ!?」と叫んでしばらく咽た。

 

「ふっ‥‥さ、さすが俺のら、ライバル‥‥」

「だから何でお前がこの部屋にいる。正直に答えろ」

 

 またふざけて話を逸らせないようにいつでも〆れるよう組み伏せておく。するとスヴェンはもじもじしだした、なんかキモイ。

 

「そりゃぁお前‥‥こんな可愛い子と一緒に住んでてさぁ‥‥俺にヤラシイもん見せようとしてんだろ!?」

「逆切れかよ!?」

 

「当たり前だ!俺の前でイチャイチャしやがって‼しかも、ホテルとか滞在する場所を取り忘れてしまって野宿になるからどうしようかと迷ってたから仕方なーしにノブツナの所にいさせてもらおうとついでに思ってた俺にこんな仕打ちとか鬼畜だなお前‼」

 

「理由!理由をついでにするな!」

 

 ホテルの予約をとっていなかったお前が悪い。もうこれ完全に俺に対する八つ当たりじゃねえか。やはり強制退去させようかな‥‥

 

「まあそれもあるが‥‥ブラドの件でな、色々と話しておこうかと訪ねてきたまでだ。あとついでに居候させて」

 

 やっと真面目に理由を話す気になったか。イ・ウーのNO.2『無限罪のブラド』、吸血鬼とかいうファンタジー野郎のようだが詳しい事は聞いていない。スヴェンはバチカンの指令でブラドを捕えに日本まで来て、俺達に協力を依頼してきた、吸血鬼がどういうものか知っておく必要があったし今後の作戦も決めておく必要もあったから丁度いい。居候は余計だが

 

「まあ、俺とレキに話しておく必要があるが‥‥あと鳰やジークらにも伝えるべきじゃねえのか?」

 

「ああ、それなら問題ねえぞ?」

 

「は?」

 

 どういうことかとキョトンとしていたが、突然別の部屋と洗面所の扉が開きジークと鳰がウキウキしながら出てきた。

 

「ノブツナ、レキ!今日はお泊り会らしいな!もうワクワクしてUNOとかトランプとか持ってきたぞ‼」

「ノブちゃん、洗濯物畳んでおいたッスよ。自分の下着とレキレキの下着を一緒に洗濯してたとか変態っスね!」

 

 

「お前ら‥‥」

 

俺はがくりと膝をついた。なんでお前らまでいるんだよ、もうツッコミ切れません‥‥

 

___

 

「っしゃあ‼ウノっ!」

 

 スヴェンは叫んでカードを置いて俺に向けて勝ち誇った顔を見せてきた。俺は無視してカードを置きウノと呟く。

 

「ドローツーっす」

 

 鳰がゲスな笑みを浮かべてドローツーを置く。

 

「ふははは‼ドローフォーだ!」

 

 ジークはやかましくドローフォーを置いた。

 

「‥‥」

 

 そしてレキが静かにドローフォーを置き、スヴェンはがくりと膝をついた。

 

「くそおおっ!せっかく上がれると思ったのに‼流石はノブツナの新しい相棒だな!だが、次こそは負けんぞ‼」

 

 スヴェンは悔しそうに合計8枚のカードを引いていく。どちらにしろ俺の上がりなんだけど‥‥って

 

「違ああああうっ‼」

 

 俺は思い切り手札を机に叩き付ける。のんびりウノをしている場合じゃねえだろ!?スヴェンは呆れた様な顔をして俺を見てきた。

 

「なんだなんだノブツナ、俺に勝てないからってヤッケになるのはよくねえぜ?」

「違うだろ!?作戦とかブラドの情報とか話すんじゃないのかいな!?」

 

「ノブちゃん、そう焦んなくていいっすよー。あ、コーヒーおかわり欲しいっす」

「ノブツナ!あとお煎餅欲しい」

 

「お前らは人んちで寛ぎすぎだよ!?」

 

 そしてお前ら二人は勝手に人んちで寛いでんじゃねえって。しかもジークにいたっては人のお菓子を食うんじゃない。ようやく観念したのかスヴェンはやれやれとため息をついた。

 

「仕方ない、嫌がらせはここまでにして‥‥そろそろ話をしないとな。まずノブツナ、吸血鬼についてだが‥‥」

 

 漸く真面目に話す気になったかとほっとひと息つく。真剣な眼差しになったスヴェンは俺にある物を渡した。

 

「‥‥ナニコレ?『吸血鬼ドラキュラ伝説』?」

「年代物の映画だ、詳しくはこれを見て学ぼう。DVDプレイヤーとポップコーンの用意をしてくれ」

「殴るぞ?」

 

 そろそろふざけないで欲しい。もうこいつ追い出していいよね?

 

「ノブツナ!コーラは何処に入っている!?」

「お前は人んちの冷蔵庫を漁るんじゃない‼てかなんでワクワクしてんだよ!?」

 

「まあ彼のやる事は分からんでもないっすけど‥‥ノブちゃん、ブラドら吸血鬼はよくイメージされてる普段の吸血鬼とは違うっすよ」

 

 普段の吸血鬼とは違う?それはどういうことだ?とりあえずコーラをラッパ飲みしようとしているジークを蹴とばして尋ねた。鳰の答えにスヴェンは頷いて口を開く。

 

「吸血鬼は血を吸うことで食事をすると言われているが、本来の吸血鬼は吸血をすることによって血を吸った対象の遺伝子を取り組み、自分の遺伝子を上書きをする。要は種の生存するために血を吸って進化をするようなもんだ」

 

 主としての生存する手段が変わっている種族だな。上書きできるということは優れた遺伝子を上書きすることで己がより高位な主として進化し続けることが可能だということだ、だが遺伝子の上書きを計画的に組まないと…

 

「ノブツナお前の察しの通りだ、自分は上位種だと自惚れた吸血鬼たちは無計画に吸血をし続けて滅んだ。その中でもブラドは優れた遺伝子を計画的に組み込み生き延びた。今世界中に生存している吸血鬼はブラドとその娘、そして俺の母ちゃんだ」

 

 自分は人間との混血種だから数は入れないとスヴェンは述べた。ファンタジックな種族が本当の意味でファンタジックになりそうになるとは、なんとも皮肉な話だ。

 

「あと、奴らが違う所は対処法だ。ニンニクとか十字架とかはほぼほぼ無意味だ。吸血鬼には『魔臓』という4つの急所があってな、そこを同時に潰さねえ限り何度も体を再生できる。だが個体によって箇所が異なっているから何処を狙えばいいか分かりにくい」

 

「ずいぶんとせこい体質だな」

 

「そうでもねえぞ?ブラドとその娘は過去にバチカンの聖騎士との戦いで魔臓が何処にあるか分かるように目玉の紋章をつけられた。ある程度戦って苦にはなねえだろう」

 

 

 ある程度ってどの程度だ。スヴェンは気楽にわらっているようだが、話から聞いて爆弾とか機関銃とか用意しないと苦戦を強いられるのではないかと思えるのだが。

 

「それにあいつは取りんだ遺伝子を利用して吸血鬼の姿をくらましている」

「となると更に見つけるのが面倒くさいじゃないか」

「そう焦んな、ダンピールである俺には姿をくらましても何処に吸血鬼がいるか、変装してるのか臭いで分かる。というか武偵校内にブラドが潜んでる臭いがしたぞ。ここの武偵校の警備はどうなってんだ、ザルすぎるじゃねえか」

 

 まじか!?ブラド、うちの学校内に潜んでたのかよ!?ジャンヌダルクの件やドリアンの件といい、どうしてうちの学校は対犯罪の学校のくせに犯罪者をすんなり校内に潜入されてるのか。

 

「スヴェン、校内を散策すれば誰がブラドか分かるのか?」

「難しいな。相手の正体を分かるってことは相手も分かってるってことだ。奴はバレないように慎重に行動するようになるだろう。たぶん、刺客を放ってくるな」

 

 刺客か‥‥その時は返り討ちしてやる。でもドリアンの時みたいにドッキリお宅訪問はやめて欲しい。だが相手が隠れるのなら見つけるのがより困難になりそうだ。

 

「少し気になってんだが、なんでブラドは日本にいるんだ?」

 

 いの一番に気になっていたのがイ・ウーのNo2の吸血鬼が何故日本にいるのか、そしてなぜわざわざ変装してまで武偵校にいるのか。遺伝子の上書きが目的ならこんなところいないで世界中でも回っとけと疑問に思っていた。

 

「それはたぶん、自分の奴隷を見張っているからだ」

「奴隷‥‥?」

 

 吸血鬼のくせに奴隷を持っているのか。まあ考えられるとすれば自分に相応しい優れた遺伝子を手に入れるための育成だろう。

 

「ブラドは過去にフランスで初代怪盗リュパンと3代前の双子のジャンヌ・ダルクの子孫との戦いで引き分けたその後、現代のリュパンの曾孫を拉致し奴隷にした」

 

 

 リュパン?もしかしてフランスの大怪盗といわれたアルセーヌ・リュパンか。ジャンヌ・ダルクは‥‥確かあいつは30世と名乗ってたよな、同じイ・ウーだしもしかするとブラドの事を知っているだろうな。スヴェンは煎餅をかじりながら話を続けた。

 

「上司から聞いたのだがブラドがイ・ウーに入る前の話だ、リュパンの曾孫は隙を狙って脱走しイ・ウーへ辿り着きイ・ウーのリーダーに匿ってもらった。無論、己の奴隷が奪われたのだから当然怒りイ・ウーのリーダーに勝負を挑むが敗北。以後はリュパンの曾孫を監視を含め身を置いてリュパンの曾孫諸共イ・ウーの一員になったわけだ」

 

 結局はどちらのしてもブラドの奴隷の首輪から逃げられなかったという訳か。どちらにしろイ・ウーだから哀れと思わねえがな。

 

「うちの学校にリュパンの曾孫がいて、そいつを逃がさねえように監視してるってわけか」

「まあな、弱みを握ってる可能性もあるし意のままに操れる駒でもあっから面倒だ」

 

「つまり‥‥どういうことだってばよ」

 

 『吸血鬼ドラキュラ伝説』を見ながらポップコーンを頬張りキョトンとしているジークにげんこつを入れる。もう最初から聞くのは面倒なんだからな。というかレキ、お前もポップコーンを食べながら映画を鑑賞してたのかいな‥‥すると鳰が何か閃いたかゲスな笑みを浮かべた。

 

「ブラドにとってリュパンの曾孫は至高の餌‥‥ということは、そいつ逆に利用すれば出てくるんじゃないっすかね?」

 

「なるほど、餌を横取りすれば怒って化けの皮を剥がすかもな。お前考えることゲスいな!」

 

 鳰の提案にスヴェンもニヤリと笑った。気が合いそうで何よりです、でも俺に嫌がらせしたら容赦しないが。ジークはポップコーンを頬張りながらワクワクしていた。

 

「よく分からんが楽しそうだな!俺も賛成だぞ‼で、ノブツナとレキはどうする?」

 

「‥‥私はノブツナさんに従います」

「別に反対意見も反対する理由もねえし‥‥のるぜ。さっさと済ましてお前を追い出したいからな」

 

 早くこの一件を片付けないとこのおバカ二人も居候しだしそうで怖いし。そうと決まればさっそく作戦を練らねば。まずはブラドの奴隷であるリュパンの曾孫が誰なのかを見つける必要があるな。

 

「それでスヴェン、今後の対象であるリュパンの曾孫の本名は分かってんのか?」

 

「それなら問題ない。リュパンの曾孫‥‥リュパン4世の名前は峰・理子・リュパン4世だ」

 

 

 それを聞いて俺は盛大にズッコケた。どうしよう、そいつクラスメイトです。






 マイペースでひっそりと進めていきます‥‥


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22話 くっころ系姫騎士

 漸く署から出たジャンヌ・ダルク30世は大きくため息をつく。弁護士を通して政府と司法取引を行い、パリ武偵校から留学してきた生徒ジャンヌ・ダルクとして釈放された。

 表向きは一般の武偵として活動することにはなったが、それでもイ・ウーのリーダーの気質を継ぎ純粋に己の鍛錬を目的とするイ・ウー研鑽派として裏では活動するつもりだ。だが司法取引したことでイ・ウーの中でも過激派で世界に対して侵略行為を行うイ・ウー主戦派からは裏切り者のレッテルを張られ目の敵にされるだろう。

 

 しかしそんな事を今気にしている場合ではない。ジャンヌはどうしたらいいか考え込んでいた。弁護士との面会時、面会に来たのは弁護士に変装していた理子だった。武帝殺し事件を起こしたがアリアとキンジとの戦いで失敗に終わった理子はイ・ウーから脱退し、警察に出頭して司法取引し武偵校に戻って来たという。

 

 理子はジャンヌにこれから行う事を話した。理子はアリアの母親の裁判に有利な情報と証拠の提供、自らが出て証言する代わりに、ブラドの日本での活動拠点の一つである横浜の『紅鳴館』の宝物庫に隠されたブラドから奪われた母親の形見を取り返すのに協力するようキンジとアリアに頼むと。

 

 イ・ウーから脱退し、一時的ではあるがブラドからの監視は逃れた。だからブラドが自分を拉致監禁していた証拠を手に入れ仕返しする。そしてもう一度アリアと戦い、ホームズの末裔を倒し初代リュパンを超えようと理子は計画していた。だが理子の計画を聞いたジャンヌは心配でならなかった。

 

(理子は焦っている‥‥)

 

 表は余裕綽々、計画にウキウキしながら話してはいたが彼女には時間がなかった。ブラドが理子がイ・ウーを脱退し逃れていることに気付いていないはずがない、いつまた攫いに来るか分からない。

 

 本当はアリアとキンジに助けを求めているのではないのか?だが彼女のプライドがそれを許していないのだろう、例え正直に言おうとしても嘘で偽って誤魔化すだろう。

 

(理子を助けなくては‥‥!)

 

 ジャンヌは理子を助けようと考えた。だが自分には何ができる、先代もそして当代である自分や理子の力でもブラドには勝てなかった。だからと言って理子の計画に自分が介入することを理子は断るだろう。

 どうしたらいいかジャンヌは悩んだがふとアドシアードでの戦いを思い出した。異能の力には勝てないだろう、不可能だったことを覆した男、遠山キンジ、そして彼の相棒であるアリアがいる。

 

(やはり遠山キンジに託すべきなのか‥‥)

 

 キンジ達が理子に協力するのならばブラドとの戦いは避けられない。彼らはブラドの力も弱点も知らない、ならば彼らに吸血鬼、そしてブラドの事を伝えなくては。決意したジャンヌは武偵校に向かうべく署の前に停まっていた黒いメルセデス・ベンツ、迎えの車へと乗り込んだ。

 

(‥‥?)

 

 車の前で迎えていた黒服の男、恐らく監視員であろう男に誘導されて乗り込んだのその瞬間変わった香りがしているのに気付いた。車内で香を焚いたのかそれとも香水の匂いなのか、気にはなったが両サイドには黒服の男が座ってる為動く事はできなかった。何か香水でも吹きかけたのかと尋ねても彼らは無言のまま何も答えなかった。

 

 ジャンヌは違和感を感じていたがその間に車は動き、進んでいく。このまま武偵校へと向かえればそれで構わないと考えていた。

 進むこと数十分、道路の標識で右折をすれば目的地である武偵校のある学園島へと向えるところを車は左へと左折して進んでいった。

 

「‥‥?学園島へと向かう道を間違えているのだが?」

 

 不審に思ったジャンヌは再び両隣の黒服の男と運転手に尋ねたが彼らは何も答えなかった。これはおかしい、何かが変だとジャンヌは気付いた。彼らは本当に監視官の人間か?今ここで氷の能力を使っておくべきかと考えていたら車は3階建てのパーキングエリアの屋上で駐車した。ここから降りて歩いていけというつもりなのか、それとも‥‥とジャンヌは警戒しようとした。

 

 

 

「‥‥こんなチョロイのがジャンヌ・ダルクの末裔とか、ジル・ド・レェが草葉の陰で泣いてるっスよこれ」

 

 検察官ではない、少女の声が聞こえた。ハッと気づいて振り向こうとした瞬間、自分の首にジャックナイフの刃がが当てられていた。

 

「無暗に動いたら危ないっスよー。あ、でもウチは今すぐにでもキルしたいから斬っちゃうかもしれないっス」

 

 自分の左隣に座っているのは黒服の男ではなかった、黒服を着た少し小柄の金髪の少女だった。少女はギザギザの歯を見せてゲスな笑みを浮かべる。何時からいたのか、そして何故気づかなかったのかジャンヌは驚きを隠せなかった。その時右からゴリッと右側の頭に金属の塊が当てられる。横目で見ると少女と同じように黒服を来た目つきの悪いツンツン頭の青年がFP-45を当てつけていた。

 

「能力を使って暴れようとすれば撃つ。バチカンから殺しのライセンスを貰っている、武偵と違って俺は容赦ねえぞ?」

 

「‥‥何時からいた?」

 

「もー最初からっス。ウチの焚いた香を嗅いでちょーっと惑わらせてもらったスよ。警戒心0で呆れてビックリっす」

 

「幻術か‥‥お前、何者だ?」

 

「おい鳰。そのお香、腐った海みたいな臭いで鼻が曲がりそうだったぞ」

「むー、いい香りだと思うっスけどねー!スヴェンは鼻がおかしいじゃないっスか?」

「ジャパーンのお香はようわからねえな」

 

 ジャンヌの問いを無視して鳰とスヴェンがプンスカと言い争いだす。彼らが一体何が目的なのか、何がしたいのか分からなくなってきた。

 

「‥‥お前達の目的は何だ?」

 

「それはウチらのリーダーがご教授いたすっス」

 

 鳰がジャンヌにウィンクして答えると、運転席からノブツナが助手席からジークが顔を覗かせてきた。

 

「ジャンヌ、ちょーっと俺達に協力してもらおうか」

「よっ!久しぶりだな!これからデートしにいかない?」

 

「っ!?貴様はあの時の‥‥‼」

 

 ジャンヌは目を丸くして驚愕する。ジークの事ははっきりと覚えていた。あの無茶苦茶でこちらの調子を崩してきた男の事を忘れるわけが無い。

 

「貴様‥‥っ‼何のつもりだ‼」

「まーまーそう怒らずにさぁ。それでどこ行く?あっ皆でこれからネズミーランドにでも行こうぜっ!」

「バカ」

 

 大はしゃぎするジークにノブツナはげんこつを入れる。話が進まないのでノブツナは率直にジャンヌに話した。

 

「峰理子が何処にいるのか、これから何をしやがるのか、知ってるだろ。教えてくれねえかな?」

 

「‥‥教えろと乞うならばこの待遇はないのではないか?」

 

 ジャンヌはジロリと睨み返す。彼らの狙いは理子なのか、ジャンヌは警戒して答えようとしなかった。

 

「理子はもう司法取引している、お前は武偵のようだが理子をつけ回す必要がないはずだ」

「これがあるんだな。俺達はその上、ブラドを狙っている。ブラドを捕えるのに彼女の存在が必要なんだよ」

 

 ノブツナの答えにジャンヌはノブツナを鋭く睨み付けた。要はブラドをおびき寄せるため理子を餌として利用するつもりだ。

 

「お前達武偵は仲間を売るのか!?」

「んー‥‥俺は理子がイ・ウーだったとかブラドの奴隷だったとか、正直どうでもいいし気にはしてない。けど鳰とスヴェンが許してねえみたいでさー」

 

 怒って声を荒げるジャンヌにノブツナは宥めるように笑った。

 

「イ・ウーがうちら『葛葉』にやった所業はもう絶許っス。こちとらファッキンイ・ウー精神なので」

「それに峰理子がやった武偵殺し事件‥‥最後の航空機ジャックの件だが、日本政府は許しても外の連中は許してねえみたいだがな」

 

 スヴェンの言葉にジャンヌはどういう事かと視線を向けた。するとジークがジャンヌにファイリングされた書類を渡した。

 

「あの時600便に乗っていた乗客者のリストだ。その中に中東のお偉いさんを始め各国のお偉いさんも乗ってたみたいだねー」

 

 ノブツナは他人事かのようにわざとらしく話してきた。

 

「中にはイ・ウーをぶっ潰したい諜報機関とかの知り合いとかいるお偉いさんもいるみたいでさー‥‥スヴェンはその知り合いだという上司がいるみたいだし、理子のことちくるかもしれないねー」

 

「貴様‥‥‼それでも武偵か‼」

 

「だから言ってるだろ、俺は知ったこっちゃねえって。事を荒げずに穏便に済ましたいから頼んでるじゃねえか」

 

 怒るジャンヌにノブツナは呆れるように肩を竦めて答えた。ジャンヌは目の前にいるこの男は本当に武偵なのか、疑えて思えてきた。もし話せばこいつらは理子に何かしでかすだろう。ジャンヌは首を横に振った。

 

「‥‥断る。貴様らの要求は飲まない」

 

「‥‥あーうん、そうだろうと思った。『シュート』」

 

 ジャンヌの答えにノブツナはやっぱりと苦笑いし、無線機を持って誰かにつなげた。その瞬間、ジャンヌの横顔に何が掠めた。一瞬事でジャンヌは見開くが掠めた先を見ると弾痕があり、車のフロントガラスにも同じように弾痕があった。

 

「狙撃‥‥!?」

 

「俺の相棒に狙撃のプロがいてさー‥‥だからお話の場所を屋上にしたんだよ。お前ら元イ・ウーさんは司法取引されても死ななきゃ問題はねえよな?肩を射抜いて、膝を射抜いて二度と剣を持たせないよう車いすか病院のベッドでの生活になっちまうけどいいか?」

 

「司法取引されても()()()()()()()()かもしれないっスよ?世の中には法律に守られても()()()()()()()()()()人とかいるしね!」

 

 ノブツナに続いて鳰もゲスな笑みを浮かべた。彼らの言葉に、彼らは本気でやるつもりだと確信した。きっと黙秘を続けて殺されてもこいつらは力尽くで理子を見つけ、売るに違いない。ジャンヌは悔しくノブツナを睨み付ける。

 

 

「‥‥わかった、話す。その代り、理子には手を出すな」

 

「いいだろう。ま、協力してブラドを捕えるつもりでいたし?鳰、スヴェン、文句は無いな?」

 

 ノブツナの問いに鳰は物足りなさそうに、スヴェンは無言のまま頷き武器をしまった。ノブツナはにこやかにジャンヌに手を差し伸べる。

 

「じゃ、取引成立ってことで」

「‥‥理子を傷つけてみろ、私が貴様を殺しに行くぞ」

 

 ジャンヌは殺気を込めて睨み付け力強くノブツナと握手をした。

 

____

 

「おー‥‥こわかったー」

 

 ノブツナ達は屋上に車とジャンヌを置いて去った。漸く一仕事終えたとノブツナは背伸びをし、無線機を繋げる。

 

「手伝わせてすまなかったな、レキ。先に集合場所の『ラーメン屋百太郎』で待っててくれ」

『ノブツナさんの頼みですから‥‥私は従ったまでです。あと、先に食べてていいですか?』

「お願い、大量に注文しないでね?諭吉消費する程の量を頼まないでね?」

 

 ノブツナはひやひやしながらレキに懇願する。レキの事だからこうでも言っておかないと幾人の諭吉が犠牲となる事か。一方でジークはとてもうれしそうに語っていた。

 

「女騎士独特の睨み付けだったよな!あのくっころの表情‥‥そそるっ!」

 

「もっといたぶってやりたかったスけど‥‥まさかあそこまで騎士(笑)だとは思わなかったっスよ」

 

 鳰は呆れながらため息をついて肩を竦め、ノブツナの方を見て苦笑いをした。

 

「まさかノブちゃんのでっち上げた情報をまるまる信じるなんて、チョロすぎじゃないっスか?」

 

 ジークがジャンヌに渡した情報はまったくの嘘であり、別に理子を売るつもりもなかった。ノブツナはニッと笑ってうなずく。

 

「相手を信じ込ませるには雰囲気づくりが大事だ。スヴェンや鳰もいたし、上手く信じてくれてよかったぜ」

 

 鳰はイ・ウーの事を知っていたし、スヴェンには諜報機関に知り合いがいる上司は本当にいる。だがどちらにしろ理子のことはちくるつもりも仲間を売るつもりも全くなかった。

 

「司法取引しているとはいえ奴は元イ・ウー‥‥あっち側の連中に突き出す気はないのか?」

 

 スヴェンの問いにノブツナはニヤニヤしながら笑う。

 

「おまえ、貴重なロリ巨乳を売り飛ばすようなことするわけねえだろ!あいつのブロマイド写真は高く売れるからな!」

 

 ノブツナは過去に写真部と協力してブロマイド写真を武偵校の生徒達に高く売り飛ばしていた。特に白雪、理子、他特殊捜査科通称CVRの学生は売れている。真実を知ったジークと鳰はプンスカと怒りノブツナに飛び掛かる。

 

「なぬぅ!?バイヤーは誰かと調べていたがお前だったのか‼もっとよこせ!」

「むー!ノブちゃん!うちというバストサイズDの隠れロリ巨乳をほっとくとかありえないっスよ‼」

 

 ノブツナはゲラゲラと笑いながら躱していく。そんな彼らを見てスヴェンは肩を竦めてため息を漏らす。ふとノブツナの携帯からメールが届いた。内容を見たノブツナは顔面蒼白しだした。

 

「ノブツナどうした、作戦がもうジャンヌにばれたのか?」

 

「違う‥‥レキから『まだまだ足りないのでラーメン15人前頼んでいいか』ってメールが‥‥急がねえと俺の諭吉がとぶぅぅぅっ!?」

 

 ノブツナは必死な形相で走り出した。初めて見るノブツナの焦りようにスヴェンは嘲笑いながら追いかけ、写真ヨコセと、隠れロリ巨乳なめんなとジークと鳰が追いかけていった。

 

 尚、ノブツナの財布から幾人かの諭吉が天に召されたという




 
 ダイジョーブ、理子もジャンヌもそこまでひどい目には合わないからダイジョーブ(オイ


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23話 激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム

「それで鳰、首尾はどうだ?」

 

『まずまずってところっスね』

 

「上々じゃねえか」

 

 人工浮島の市街地の喫茶店のオープンテラスでノブツナとスヴェンはコーヒーを啜りながら鳰に電話で状況の確認を行っていた。鳰のウキウキしてそうな声色からして先手は打てただろうと確信をする。

 

『ノブちゃん、人使い荒いっスよー。いつバレるかもうハラハラドキドキしてるッスからね!』

「可愛く文句を言ってもしゃあねえだろ、お前にしかできな仕事だし、最初に作戦提案したのお前だからな?」

『だからと言って遠山キンジ達より先に紅鳴館に潜入しろって無茶苦茶すぎるっスよ‼』

 

 ジャンヌから得た情報で理子はキンジとアリアと協力してブラドの拠点である紅鳴館に執事、メイドとして潜入しその館の宝物庫にあるであろう理子の母親のロザリオを盗むことを知った。

 すると鳰が先に紅鳴館に潜入して彼らよりも先にロザリオを盗んでやろうと言い出したのだ。一応、峰理子には手を出さない方針でブラドをおびき寄せるか考えていたのでブラドの矛先がこちらに向けれるのならそれで良しとした。

 先手を打つべくまず紅鳴館に鳰を潜入させることにした。鳰はハウスキーパーに変装し館の内装やセキュリティ、電子回路、在館にいる人数の確認、各部屋に盗聴器を仕掛けてる等屋敷内に仕掛けを設置していった。

 

「不在の主にその館の管理人、そんでハウスキーパーは2人か‥‥」

『ハウスキーパーの2人は休暇を取るみたいで不在になる代わりに管理人が帰ってくるっス』

「紅鳴館から急募があったみたいだな。来週にキンジとアリアが代理としてくるとジークから聞いた」

 

 ジークが回収してきた情報で来週頃に1週間の間その二人がハウスキーパーの代理としてやってくる。盗むとすればこの間だろう。準備は6日、決行は最終日に違いない。

 

「しかし‥‥横取りはマジでやんのか?」

『ノブちゃん、遠慮しないほうがいいっスよ。というか寧ろどうやって盗み出すのか気になるッス』

 

 なんたって大怪盗の末裔であるリュパン4世が計画するのだから、と鳰はニシシと笑いながら答えた。正直に言うと横取りにはあまり気が乗らない。理子を助けるつもりもないし、あの二人の潜入を邪魔する気もない。

 

『まあノブちゃんはノブちゃんなりになってけばいいじゃないっスか?それはさておき、帰ってくる管理人は誰だと思うっス?』

 

 クスクスと笑う鳰にノブツナはいささかムスッとする。この様子からすると報酬のメロンパンを倍に要求してくるに違いない。

 

「知るかよ。勿体ぶってねえで教えろ」

『はいはい、なんと‥‥武偵校の非常勤講師、小夜鳴徹先生っス!』

 

 ノブツナとスヴェンは顔を見合わせる。ブラドら吸血鬼は吸血し取り組んだ相手の遺伝子を使って変身をする。そしてスヴェンはダンピールの力で吸血鬼の臭いで吸血鬼が誰に変装しているのか暴くことができ、武偵校内にブラドの臭いを探知した。そしてそのブラドの拠点である紅鳴館の管理人が非常勤講師と聞いてノブツナは改めてスヴェンに尋ねた。

 

「スヴェン、お前はどう思う?シロかクロ、どっちだ?」

「恐らくだがその非常勤講師の男がブラドの可能性は高いな‥‥」

 

 小夜鳴はクロ、そいつがブラドの可能性大と決まるとノブツナは大きくため息を漏らした。もし小夜鳴がブラドだとすればキンジ達はただブラドの手のひらの上で踊ることになる。ノブツナと同様にスヴェンも呆れ気味にジト目で見つめてきた。

 

「お前の学校、裏でイ・ウーと絡んでるわけねえよな?」

「知らねえよ‥‥」

 

 理子が元イ・ウーだし脱イ・ウーのジャンヌが転入するし、講師が実はイ・ウーの一員でしたとなるとなんだか疑ってしまう。

 

『それでそれで、うちはどうしとけばいいッス?まだ潜入し続けとくっスか?』

「あー‥‥一旦戻って来てくれ。もう少し作戦を練る」

『リョーカイ!あ、新宿の高級メロンパン4つちゃーんと用意してくださいッスよー』

 

 鳰が電話を切って通話を終えるとノブツナはダメ息をついて脱力した。そんなだらけてだしたノブツナにスヴェンがニヤニヤする。

 

「どうした?そんなに気を詰めるたぁ珍しいな。セロリ食うか?」

「当たり前だろうが。どうやってロザリオを奪うか、どうやってブラドを倒そうか‥‥色々と考えなきゃなんねえっての。あとちゃっかりセロリを食わそうとすんな」

 

 スヴェンが食わせようと手に持ってるセロリを奪ってスヴェンの口へとぶち込み、ノブツナは大きく椅子にもたれかかる。

 

「あ゛ぁ~‥‥癒しを、癒しをくれぇぇ‥‥」

「セロリ」

「いらねえよ!」

 

 ますます気疲れしてきてもう帰って寝ようかとノブツナはやっけになって立ち上がる。その時、遠くから何やら人がざわついている声が聞こえてきた。何事かとチラリと見た瞬間、白銀の毛並みをした大きな体躯の狼が颯爽と道路を駆けて通り過ぎて行った。

 

「狼‥‥?なんでこんな所に?」

 

 何故こんな街中で、しかもあんな綺麗な毛並みをした大きな狼が駆けているのかノブツナは首を傾げた。動物園から逃げ出したのかと思ったが、あれほどの狼は何処の動物園にはいないだろう。

 

 狼が通り過ぎたその数秒後、狼を追いかけるかの如くBMW・K1200R、世界最強のエンジンを搭載したネイキッド・バイクが通り過ぎた。そのバイクに乗ってる人物を見てノブツナは瞬く間に静止した。

 

 バイクに乗っているのはキンジと‥‥何も飾りっ気のない純白の下着姿のレキがドラグノフを背負ってキンジの後ろに乗っていた。

 

「」

 

 ノブツナは呆然としてバイクを目で追って立ち尽くす。そんな突っ立ているノブツナにスヴェンはニヤニヤと嘲笑いながら小突いた。

 

「おいおい、あのバイクに乗ってた下着姿の子お前のバディじゃねえか。取られちまったのかー?」

 

 何も答えないノブツナに更に嘲笑おうとスヴェンは顔を覗かせた。その瞬間、スヴェンはビクリと凍り付いた。今、ノブツナは一度も見た事も無い顔をしていた。目も口も鼻も微動だにしない、怒りも悲しみも妬みも見えない全くの無。こんな顔、初めて見るスヴェンは恐る恐る後退りする。

 

「‥‥」

 

 ノブツナはゆっくりと動き出した。途中で無言で無表情でスヴェンの方へとグルリと顔を振り向かせる。言葉にしなくてもわかる、ノブツナは「ついてこい」と言っていることを一瞬で理解したスヴェンはおどおどしながらノブツナについて行った。

 

 

 キンジは保健室に襲撃してきた狼、コーカサスハクギンオオカミを追いかけている。何故、何処から、何の目的で武偵校に忍び込んで襲い掛かって来たのか色々と疑問に思うが今はそれどころじゃない。早く捕えないと民間人にも被害がおよび大事になる。保健室での理子のいう()()()()()()()()()()()()()絶賛ヒステリアモード中のキンジはBMW・K1200Rのスピードを上げて狼の追跡を続ける。

 

「キンジさん、なるべく早めに終わらせた方がいいです」

 

 ふと後ろに乗っているレキが伝えてきた。彼女の視力のおかげで狼が何処へ逃げるのか教えてもらい引き離されることなく追いかけれている。彼女の言う通り、大事になる前に終わらせなければならない。

 

「勿論、そのつもりでいるよ。あの狼を街へ出させないさ」

 

「それもありますが‥‥」

 

 それも?とキンジはレキの言葉に何か引っかかるような気がしてきた。どういう事か尋ねようとしたが先にレキが話を続けてきた。

 

「キンジさん、後ろを見ないで集中することをおススメします」

 

 後ろ?何故後ろを見てはいけないのか、キンジは不思議に思った。まさかあの狼とは別に追手が追いかけているのか、キンジはレキの忠告に従わず後ろをちらりと見てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロry‼」

 

 

 後ろからアプリリアSR25に乗っているスヴェンとその後ろに立ち乗りして呪詛の如く叫びながら鬼の様な形相でキンジを睨んでいるノブツナが追いかけていた。ノブツナの片手には鉄パイプを持って道路に引きずらせて火花が散らせている。

 

「見るんじゃなかった!見るんじゃなかった‼」

 

 キンジは物凄く後悔した。あのノブツナの形相は間違いなくガチで殺しにかかってきている。何故怒っているのか理由は分からないが捕まったら間違いなく『死』が待っているだろう。キンジは更にスピードを上げて逃げようとした。

 

「فإنه لا يسمح‼Unverzeihlich‼Это не позволяет‼불허‼我永远不会允许你‼」

 

「何て言ってるの!?あれ何て言ってるの!?滅茶苦茶怖いんだけど!?」

「落ち着いてください、あれは全部『許さない』と言ってます。最後の中国語は『お前を絶対に許さない』と言ってますが」

 

「これ絶対に捕まったらダメなやつだ!?」

 

 ノブツナに捕まったら最期、ミンチよりもヒドイことになるだろう。一体何がノブツナの逆鱗に触れてしまったのか、キンジは考えを張り巡らせるが全身に冷や汗が流れて頭が回らなかった。

 

「人工浮島の南端、工事現場です。工事現場の中に足跡が見えました」

「ナイスっ‼」

 

 今は狼に集中したい。キンジは更にスピードを上げてノブツナを引き離して狼を追いかけていった。遠くからノブツナの激昂とこの世のものとは思えない叫びが聞こえたが次は絶対に後ろを振り返らないとキンジは心に決めた。

 

____

 

「―――主を変えなさい。今から、私に」

 

 フェンスが一つない新棟の屋上にて、レキは横に倒れもがいている狼に声をかける。無人の工事現場へと追い込んでからは一瞬の様に流れた。

 物陰に潜んでいた狼が隣の新棟へと跳んで逃げようとしたその刹那、狙いを定めていたレキがドラグノフを発砲、放たれた弾丸は狼の背中を掠めて外して逃げられたかのように見えた。しかし弾丸は脊椎と胸椎の中間、その上部を掠めて瞬間的に圧迫、脊髄神経を麻痺させ、5分と短い時間ではあるが首から下を動けなくさせた。まさに神業、レキの狙撃の腕前にキンジは改めて驚く。

 

 レキの問いに狼はしばらくじっとレキを見つめたまま動かなかった。このまま逃げても2キロ四方はレキの範囲内、次は間違いなく狼を射抜くだろう。

 すると手負い狼はよろよろと立ち上がるとゆっくりとキンジの前を通り過ぎ、レキへと近づいてゆっくりと彼女の脹脛、彼女の柔肌に頬張りした。まるで犬のように恭順しているようだ。

 

「すごいな‥‥猛獣を手懐けるなんてな。だがその狼はどうするんだ?」

 

「手当して、飼います」

 

 即答したレキにキンジは目を丸くする。まさか飼うといいだすとは思いもしなかった。だが武偵寮はペットの飼育は禁止されている。それにこの狼はでかすぎる。

 

「厳禁はされていないが、ペットはダメじゃなかったか?」

「武偵犬として登録すれば問題はありません」

 

 警察犬と同じような武偵犬なら飼育は問題ない。だが狼だという事以前よりも狙撃科が武偵犬を飼うのは聞いたことがない。だがこの狼はすでにレキに服従しているようで素直にお手している。

 

「ま、まあそういうのならいいんじゃないのか?」

 

 この様子なら問題はないだろう。キンジは一件落着とほっと安堵した。

 

「それとキンジさん、今すぐ逃げた方がいいですよ」

 

 レキの一言にキンジは思い出した。わずかに残っているヒステリアモードのおかげで背後からぞっとするような殺気を感じた。

 

「ファッキュウウウウウウウウウッ‼」

 

 振り向けば鬼の様な形相をしているノブツナが鉄パイプを思い切り振り下ろして来た。

 

「あぶねえええっ!?」

 

 キンジはギリギリのところを躱した。それでもノブツナはキンジを殺さんと目をぎらつかせガンガンと鉄パイプを叩き付けながら近づいてくる。

 

「今死ねっ‼すぐ死ね‼骨まで砕けろぉぉぉっ‼」

「待て待て待てぇぇぇ!?」

 

 振り下ろしてきた鉄パイプをキンジは真剣白刃取りで受け止めた。どうにか弁解しないと間違いなく病院送りにされる。

 

「ノブツナさん、落ち着いてください。キンジさんはこの子を街へと出さないようにするために手伝ってもらっただけです」

 

 レキの鶴の一声か、彼女の言葉を聞いたノブツナは怒りがふっと解けたようでゆっくりとレキの方へと顔を向けて歩み寄る。

 

「‥‥本当か?変な事されてないか?チョメチョメされねえか?ポンポン痛くねえか?」

「私は大丈夫です」

 

 静かに頷くレキにノブツナは空気が抜けたように大きく息を吐いてレキを撫で、ジト目でキンジを睨んだ。

 

「あぁー‥‥そっかー。なんだよ、キンジそれならそうと早く言えこの野郎」

「絶対言える状況じゃなかったろ!?」

 

 あの怒り様じゃ絶対に話を聞かないだろう。キンジは必死にツッコミを入れる。しかしノブツナは無視してレキの傍にいる狼の方へと視線を向けていた。

 

「そんでこの狼は?」

「私の武偵犬にする予定です」

「ちょ、俺の部屋で飼うのか!?」

「ダメですか‥‥?」

 

 じっと見つめてくるレキにノブツナはドキリとたじろぐ。今まで他の物ごとに真剣になって尋ねてくることは一度も無かった。ノブツナはしばらく考えて諦めて首を縦に振った。

 

「世話、ちゃんとできるのならいい。しっかり面倒見ろよ?」

「大丈夫です、熟して見せます」

 

 ノブツナは狼を撫でようとした。狼は彼の手を嗅いで、しばらくじっと見つめてきたが。ゆっくりと近づいてプイッとそっぽを向いた。

 

「あっ、てめっ!飯抜きにすんぞ‼」

 

 やっといつものノブツナに戻ったとキンジはほっと安堵した。そこへ漸くスヴェンが追い付いた。

 

「おまえ、着いた途端に俺を踏み台にして走り去るんじゃねえよ‥‥む、その狼は‥‥」

 

 スヴェンはレキの傍に座り込んでいる狼を見てノブツナに耳元でキンジに聞こえないように話した。

 

「ノブツナ、ブラドは手下に狼を従わせている。こいつは多分その一頭だ」

「マジか」

「何があったが知らねえが敵意はない‥‥問題はないがな」

 

 完全にレキに従順しているのでこの狼はもう襲い掛かってくることはないだろう。だが手掛りの一つを手に入れたのは嬉しい成果だ。スヴェンはちらりとレキに視線を向けて尋ねる。

 

「レキ、誰かルーマニア語で喋ってたやつはいなかったか?」

「一人‥‥小夜鳴先生が聞こえないよう呟いていました」

 

 レキの答えにスヴェンは確信したかように深く黙って頷いた。

 

「ところで、なんでお前下着姿なんだ?」

 

「保健室で検査ということでアリアさん達と服を脱いでました。小夜鳴先生はただの血液検査ということで服を脱ぐ必要はないと言ってましたが‥‥そこに獣の気配がしたので狼が窓を突き破って襲い掛かってくる前に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を助けて狼を追っていましたので着替える暇がありませんでした」

 

 

 

「ほぉ~‥‥どういう事かなぁキンジくーん?」

 

 

 レキの話を聞いたノブツナは瞬時にこの場から逃げ出そうとしていたキンジに笑顔で尋ねた。口は笑っていたが目は笑っておらず激怒に燃えた目をしていた。命の危険を感じたキンジはノブツナが襲い掛かってくる前に振り返らずに必死になって逃げて行った。

 

 

___

 

「鳰、あいつ等からロザリオを横取りすっぞ。ぜってえに横取りすっぞ」

 

「あー‥‥ノブちゃん?やる気になってくれたのは嬉しいっスけど‥‥ずっとレキレキに抱き着いたまま言っても説得力がないっスよ?」

 

 ノブツナの部屋に集合し、作戦会議となったのだがノブツナはずっとレキを後ろから抱きしめたまま動こうとしなかった。肝心のレキは嫌がることなく、気にすることなくただ静かにカロリーメイトを食べていた。

 

「スヴェンさん‥‥な、なんかあったんスか?」

「まあな。やりたかった事を先にやられて怒り狂ってた。見てて面白かったがすっげえ怖かった」

 

 どこか遠い目で語るスヴェンに鳰は首を傾げる。

 

「ふはははは‼このワンコすごいな!めっちゃ賢いワンコだな‼」

「ジーク、ワンコじゃない。狼だ」

「あと名前はハイマキです」

 

 ジークは離れてレキの武偵犬こと狼のハイマキと戯れていた。ハイマキはジークの頭をガジガジと甘噛みしている。

 

「そんで話を戻すぞ?小夜鳴の正体はブラド、人間の殻にこもった状態というのかスヴェン?」

「間違いねえな。もともとブラドの僕のこいつらはルーマニア語で指示を聞く。完全にクロだ」

 

 だとすれば本当にキンジ達はブラドの手のひらで踊ることになる。何とも皮肉なことかとノブツナはため息をつくがどうでもよかった。今はどうやってキンジ達より先にロザリオを奪うか考えなければならない。

 

「鳰、プランはあるか?」

「任せてくださいっスよ。ちゃーんと考えてるッス」

 

 鳰がギザギザの歯を見せてゲスな笑みを浮かべた。

 

「でも‥‥その前にそろそろレキレキから離れてくれないっすか?なんかもう見ててシュールっス」

「やだ」





 コーカサスハクギンオオカミは絶滅危惧種とキンちゃんは言ってたけど、武偵犬にしてレッドデータとか法律に引っかからなかったのかな‥‥まあ武偵犬なら大丈夫!なのかなー…あと狂犬病の予防接種とか、ブラドさんちゃんとしてるのかな


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24話 泥棒大作戦(誤

 紅鳴館に潜入して4日、キンジは紅鳴館の玄関内の掃除の最中であった。掃除とはいってもこの防犯カメラ等のこの館内の防犯設備やこの館の管理人である小夜鳴の行動を観察をしていた。

 事前に理子が調査した通り、あちこちに防犯カメラがしつこいと言っていい程に設置されている。防犯カメラの視界を避けつつ行動パターンを調べるのは骨が折れる気がしてならない。それに加えて泥棒の準備までやらねばらないというのだから少しぐらいアリアも手伝ってほしいとため息をついた。

 

 その刹那、ふと腐った海のような臭いが漂ってきた。何の臭いかと不審に思ったキンジは辺りを見回す。だが周りには今自分一人しかいない、その上腐った海のような臭いはいつの間にか消え失せていた。

 

「キンジ!何ぼさっとしてるのよ!」

 

 先程の臭いは何だったのかと不思議に思っていたが、アリアがプンスカしながら階段から降りてきたので気にするのはやめた。どうやら今日もアリアは何か不機嫌らしい。キンジはやれやれと肩を竦める。

 

「大丈夫だってアリア、怪しまれないようにちゃんとやってる。そっちはどうなんだ?」

 

「問題はないわ。でも事前調査した時よりもセキュリティが厳重になってるのって気持ち悪いわよね‥‥ほら、部屋の掃除で見つけたのだけど、盗聴器があったわ」

 

 アリアは回収した盗聴器を見せ、キンジは「マジか」とため息を漏らす。この館に潜入してその翌日にアリアが掃除した際に地下金庫のセキュリティが事前調査された時よりも強化されていたことに気付いたのだ。物理的なカギを筆頭に、磁気カードキーや声紋キー、指紋キーに網膜キー、更には室内の赤外線に加えて感知床と厳重に守られていたのだ。当初の予定であった地下金庫へ正面から盗みに行くはずが変更にされた。

 

「それでキンジ、そっちは順調なの?期日まで間に合うのかしら?」

 

 ハウスキーパーの仕事の期間が近づいている。だからアリアは不機嫌になって急かしてきたのかと悟ったキンジは少しムスッとなって言い返す。

 

「こっちは只管掘っているっていうのにお気楽だな。理子のプラン通り、最終日に決行できるよう掘り進めているから問題ない」

 

「へぇー‥‥そう」

 

 一瞬、アリアがつまらなさそうに目を細めギザギザの歯を見せて笑った仕草が見えた。見間違いかとキンジは目をこすって確かめるがアリアは背を向けて去ろうとしていた。

 

「邪魔して悪かったわね。キンジ、ちゃんと頑張りなさいよ?」

 

 そう言ってアリアは去っていった。彼女の態度と様子にキンジは不思議に思い首をを傾げた。普段の彼女なら子供の様にプンスカと喚くのだが今日はどこか大人しく、艶めかしかった。まだ昨日のアリアの苦手な雷の事を引きずっているのだろうかと考えたが、アリアの事だからどうせすぐに元気になるだろうとキンジは結論を出し、自分の仕事を取り組むことにした。

 

___

 

「鳰、ずいぶんとお冠だな」

『ノブちゃん‼当ったり前じゃないっスか‼怒るのは当然っスよ‼』

 

 今日も夜の定時報告の電話を行うのだが、今回の鳰は物凄く機嫌が悪い。よほど気に障ることがあったのか、キンジ達が何かやらかしたのだろう。今も尚鳰には幻術や変装を駆使して紅鳴館内に潜入してもらっており、キンジ達から情報を盗んだりして報告をしている。

 

「で、セキュリティが強化された結果、あいつらどう出るって?」

 

『あいつらの考えた計画なんだと思うっスか‼なんと地下金庫の真上、遊戯室から掘って穴開けてそっから釣り上げるっスよ‼』

 

 あぁ、そういう事ね‥‥地下金庫のセキュリティが厳重になったから今度はそのセキュリティが掛かってない場所、地下金庫の真上から攻めると。まあ確かにセキュリティを回避する為にはそれらしい考えではあるが、デメリットが多すぎる。『私達がやりました』という証拠が残ってしまうし、発覚した際内部犯行だと疑われ真っ先に容疑者にリストアップされる。また地下金庫なのだから壁や天井は頑丈にされているはず、どうやって穴をあけるのやら。

 

『痕跡や疑われる証拠を残さないようにするのが怪盗でしょ!?ナニコレ!?学芸会じゃねえんだぞ!?』

「鳰ちゃーん、鳰ちゃーん?素が出ちゃってる」

 

 鳰がこんなにもブチギレてるのは珍しい。彼女から見て稚拙な作戦だったのだろう。鳰は深呼吸して少し沈黙する。

 

『‥‥ノブちゃん、取り乱してごめんっす。リュパン4世にものすごーーーーく失望しちゃったっスよ。きっとブラドも分かってて見逃してるっスねこれ』

「気にすんなって、報酬のメロンパン増してやっから」

 

 今キンジ達はブラドの手のひらで怪盗ごっこを演じている。これだけ強化されたセキュリティをどう掻い潜るか見ものだったのだろう。

 

「で、話は変わるがどうだ?盗れそうか?」

『赤外線と鍵だけだったらうちの変装でもバレないし、指紋や磁気カード、声紋だったら余裕っスけど網膜は厳しいっスね。目玉を抉るのはダメだしレプリカの作成は期日に間に合わないッス』

 

 網膜は流石に厳しいか。後は感知床も設置されているから管理人の小夜鳴の足、靴のサイズ、体重等々、それらに合わせて足のレプリカも作成しなければならない。それらを作っている間にキンジ達がロザリオを盗んでいくから間に合わない。

 

 

 

 

 まあ予想の範疇なんだけど

 

 

「そんじゃ鳰、でっちあげるとするか」

『了解っス!』

 

 携帯の通話を切り定時報告を終えて、俺のコーヒーをセロリのジュースにすり替えようとしているスヴェンに拳骨を入れ、ハイマキと戯れているジークにテーブルに置かれいるセロリを投げつけ、うたた寝をしているレキを起こす。

 

「スヴェン、ジーク、予定通り進めていく。大使館と警察の方にはちゃんと知らせているよな?」

 

「モチの論だぞ!何時でもオッケーだと渋川さんが言ってた」

「事前に伝えておいた。あちらは是非ともやってくれと大層喜んでいたぞ」

 

「よし‥‥後は任せとけ」

 

___

 

 

「ほぉー…キンジがこんな所におるとは思いもしなかったなー」

 

 インターホンが鳴って客人化と確かめに向かうと紅鳴館の門前にノブツナとレキがいた。レキはまだしもよりにもよって今会いたくない奴に出会ってしまうとは‥‥ノブツナは俺を見ながらニヤニヤしながら笑って小突いてくる。

 

「ノブツナ、お前何しに来たんだよ」

「あぁ、小夜鳴先生に課題のレポートを提出しに来たんだ。この館の管理人だと聞いてたのだけど、小夜鳴先生はいらっしゃるのかな?」

 

 ノブツナは「お前執事の方が似合ってるじゃん?」と茶化してくる。皮肉にしか聞こえていないのだけど?

 

 果たしてこのまま通していいのかと悩む。こいつのことだから何かしでかしてくるに違いない。そんな事を考えてたら小夜鳴先生がやってきた。なんとタイミングが良いのか悪いのか‥‥小夜鳴先生はニコニコと二人を迎え入れた。

 

「いらっしゃい犬塚くん、レキさん。ご用件は何かな?」

「溜まりに溜まった課題が漸く終わったので提出しに来たんですよー」

 

 ノブツナがそう言うと鞄から分厚すぎるファイルを3つ程取り出した。一体何をしたらそんな分厚いレポートが出来上がるんだよ。小夜鳴先生も流石にこれは苦笑いのようだ。

 

「それなら学校で提出してくれれば助かるのだけどね‥‥」

「何言ってんすかー、俺とレキはサボり魔なんですから学校で出せるわけないじゃないすか」

 

 ノブツナは笑いながら答え、レキはうんうんと何度も静かに頷く。いやお前らそもそもサボるんじゃないよ。

 

「こ、ここでお話するのもあれですし、二人とも折角来てくださったのですから中で紅茶でも飲みませんか?」

 

「え!いいんですか!いやー一度でもいいからこんな立派なお屋敷で寛いでみたかったんだぜー!」

「‥‥いただきます」

 

 小夜鳴先生のご厚意でノブツナとレキは紅鳴館の中へと入っていった。途中、メイド服を着ているアリアを見てノブツナが大爆笑をしだし、アリアに蹴られた。

 

「やべえ、アリアのやつぺったんこ。それ着るとぺったんこが分かりやすいなおい」

「あんた‥‥もう一度風穴地獄を味わいたいの?」

 

 アリアの逆鱗に触れたノブツナはアリアのチョークスリーパーの餌食に。ノブツナが悲鳴を上げている間にレキは黙々と紅茶を飲みながらケーキを平らげていく。本当にこいつら何しに来たんだよ。何とか解放できたノブツナがほっと安堵しながら辺りを見回す。

 

「それにしても小夜鳴先生、お一人で住むには広すぎなんじゃないです?」

「あははは‥‥私は研究に没頭してますから確かに私一人では広すぎですね」

 

「それと、中も随分と古そうですし‥‥年代物もありそうですよね?持ち主の方は結構年配の方じゃありません?」

「お恥ずかしながら‥‥彼とは直接話したことが無くて。ですが君の思った以上の方と思いますよ」

 

 気のせいだろうか、ほんの一瞬だったのだが小夜鳴先生がピクリと眉間にしわを寄せたような。ノブツナの事だから教員に容赦なく気を逆撫でる事を言うからな‥‥

 

「ところで‥‥もしかしてメイド服とか沢山あります?」

 

 ノブツナが物凄く真剣な眼差しで尋ねる。たぶん、碌な事を考えてないな此奴。ノブツナの謎の威圧感に小夜鳴先生は押されて引きつった笑みで頷く。

 

「え、ええ、ありますが‥‥」

 

「‥‥レキに着せちゃってもいいっすか?」

 

 うん、やっぱりか。

 

「ま、まあ‥‥か、構いませんが、て、テイクアウトはできませんよ?」

 

「っしゃあ‼ありがとう小夜鳴先生!本当にありがとう‼レキ、メイド服に着替えてくれ、いや着替えてくださいっ‼」

 

 ノブツナが黙々とノブツナの分のケーキを食べているレキに向けて土下座をしだした。おい、どんだけレキに着せたいんだお前は。というかレキ、お前は平然としすぎだ。

 

「‥‥ノブツナさんが望むのなら」

 

「おぉ…メシア…!」

 

「レキ?一度でもいいから断ってもいいんだぞ?」

 

「じゃ、じゃあ私は研究の続きをしますので‥‥犬塚くん、レキさん、ご自由に館を楽しんでください。遠山くん、神崎さん、後はお願いしますね?」

 

 あ、小夜鳴先生の奴、ノブツナの暴走に巻き込まれる前に逃げた。ノブツナはレキがメイド服に着替えてくれるからと言って喜びの舞いをしだしてどっか走り出して行きやがった。

 

「ほんとあいつ自由すぎるわよ…キンジ、私はレキの着替えを手伝うからあんたはノブツナを捕まえておきなさいよ?」

 

 げっ、アリアの奴も面倒事を俺に押し付けてレキを連れてメイド服のある自室へと向かっていった。仕方がない、あいつが何かしでかす前に探さないと。

 

 螺旋階段を上がって二階へ、一階のフロアへ、廊下や各部屋を覗くがノブツナの姿が一向に見つからない。本当に何処へ行った。確かにあいつの言う通り、改めて見ると本当に広すぎる屋敷だ。いたずらで隠れているんじゃないかとあちこち見渡しながら進んでいると、どこかで写真を撮る音が聞こえた。

 音がしたのはいつも小夜鳴先生が食事をとる広い食堂だ。駆けつけてみると、ノブツナが食堂の奥に置かれている真鍮でできた如何にも年代物と思えるような燭台を持っているカメラで写真を撮っていた。

 

「ノブツナ、ここで何をしてたんだ?」

「おうキンジか、写真を撮る準備だ。メイド服のレキの写真は永久保存しておかねえと」

 

 お前どれだけレキのメイド服姿を見たいんだ。欲望丸出しのノブツナを呆れて見ているとそこへアリアがやってきた。

 

「あんた達探したわよ。ほらノブツナ、お望み通りレキを着替えさせてあげたわよ?」

 

 アリアがやれやれとため息をついて、レキを連れてきた。レキは赤いリボンのついた襟元にレース素材を組み合わせた長袖のワンピース、白いフリルの付いた丈の短いスカート、小さなお帽子のようなヘッドドレスと理子のいうクラシカル調なメイド服を着ていた。そんなメイド服のレキを目の当たりにしたノブツナは案の定喜び発狂した。

 

「FOOOOOOOOOOOOOっ‼」

 

 ノブツナはアリアがその場でドン引きするくらい、あらゆる角度からレキを激写していく。

 

「ノブツナさん、どうですか‥‥?」

「いいっ…めっちゃいいっ!すっげえ似合ってるぜ!」

 

 国宝級だとか言ってノブツナは大喜びしてレキを撫でる。もうこれ以上つっこまんぞ‥‥

 

 この後ノブツナはメイド服のレキを館内へとあちこち連れ回したり、遊戯室でビリヤードしたり、メイド服を持ち帰ろうとするノブツナを全力で食い止めたり、二人が帰るまで俺とアリアは振り回された。夕方になって二人がやっと帰る気になって門前まで送る。

 

「ねえメイド服、こっそり持って帰っちゃダメ?」

「ダメに決まってんだろうが」

 

 どこまで執念深いんだ、お前は。諦めてないノブツナは無理にでも持ち帰るかもしれないので俺とアリアで足蹴して追い出した。

 

「や、やっと帰ったわね‥‥本当に何しに来たのよあいつ」

 

 アリアも今回ばかりはかなりくたびれた模様。ノブツナの奴、自由すぎるやつだからな‥‥願わくばまたやってきて欲しくないのだが。

 

「というか、今日の分掘り進めれなかったのだけどどうするの?」

 

 そうだった‥‥ちくしょう、ノブツナ達のせいで明日は倍に掘り進めなきゃならなくなった。あれ結構力仕事なんだよなぁ‥‥

 

___

 

 何日か過ぎて、遊戯室の下を掘り進んで何とか地下金庫の天井に孔を開けることができた。そして理子がお待ちかねと泥棒作戦を決行しようとした。

 

 そのはずだった。その泥棒作戦当日、またしてもノブツナがやってきた。

 

 だが、今日はレキを連れてきていない。その代り、幾人かの警察や黒いスーツを着た外国人達を連れてやってきたのだ。ノブツナの後ろにいる警察とスーツを着た外国人達が異様な圧を放っていて俺とアリアは圧される。

 

「の、ノブツナ‥‥そいつらは何だよ」

 

「‥‥キンジ、アリア、騙して悪いが仕事なんでな。黙って通してくれねえか?」

 

「どういうつもりよ!?ちゃんと説明しなさい!」

 

 異様な事態に小夜鳴先生が慌てて駆けつけてきた。まさか生徒が警察を連れてくるとは思いもしなかったであろう。

 

「い、犬塚くん‼これは一体どういうことなんです‥‥!?」

 

「小夜鳴先生、説明をする前に先に紹介しておきますね。こっちが警視庁の方々と渋川剛気先生、そんでこちらがルーマニア大使館とバチカン大使館ローマ法王庁大使館の方々です」

 

 和服姿の分厚いべっ甲の眼鏡かけた男性が軽い笑みで頭を下げ、後ろのいかつい警察官達もそれに続く。大使館の人間たちはじっと館の方を見ていた。渋川と名乗った男性が前へ出て口を開いた。

 

「詳しい内容はわしが説明しましょう。小夜鳴さん、この館の主であるブラドさんをご存知ですかね?」

「え、ええ…ですがお会いしたことがないので詳しい事は分かりません‥‥その彼が一体何を?」

 

 渋川がちらりとノブツナの方を横目で見つめ、ノブツナは静かに首を横に振る。

 

「実はですな、そのブラドという男はルーマニアを始めあらゆる国から宝を奪い盗んでいるのですよ。その宝は各地の拠点にコレクションとして置いている‥‥この紅鳴館もその一つだと。そしてそんブラドが日本におるとバチカン教会からバチカン大使館を通して知らされ、ルーマニア大使館の方々が被害届を出してわしらと犬塚に依頼してきたわけですよ」

 

 話を聞いてまさかとアリアがノブツナを睨んだ。あの時紅鳴館へ訪れたのはその捜査が本当の目的だったのか。

 

「で、ですが‥‥その物品があるとは思いもしませんが‥‥」

「小夜鳴先生、それがあるんですよ。ここへ訪れた日、捜査して見つけました」

 

 ノブツナは懐から真鍮の燭台の写真を見せた。その写真は間違いなくノブツナが食堂で撮ったあの燭台が写っていた。

 

「ルーマニア大使館の方に確かめてもらったところ、60年前にブラドが奪っていったという教会の燭台と一致しました」

 

「他にもこの紅鳴館にブラドが奪ったと思われる物品がある可能性がある。悪いですが家宅捜査させていただき、物的証拠として押収させてもらいますよ?ああ勿論令状もありますがね」

 

 警察の一人が令状を取り出して俺達に見せてきた。令状がある限り門前払いにするわけにはいかない。小夜鳴先生は苦虫を嚙み潰したような顔をして彼らを中へと入れていく。何だろうか、嫌な予感がしてきた。アリアも同じ予感をしているようで額に冷や汗を流している。ノブツナはずかずかと進んでいき、ちらりと小夜鳴先生の方へと視線を向けた。

 

「それじゃみなさん‥‥まずは地下金庫から行きましょう。小夜鳴先生、案内をお願いしてもよろしいですか?」

 

「「「 !? 」」」

 

 俺とアリア、小夜鳴先生は目を見張って驚愕する。何故ノブツナが地下金庫の事を知っているんだ!?いや、それよりも非常にマズイ、地下金庫にある理子のロザリオまでもが押収されてしまう。

 

「な、何故犬塚くんが地下金庫の事を‥‥?」

 

「バチカンにブラドを追ってる腐れ縁と優秀な潜入捜査官がいましてね。彼らの情報で地下金庫にブラドが奪った宝を保管していると聞きまして‥‥開錠をお願いしてもいいですか?あ、できなかったら俺らで爆弾とかで爆破してこじ開けますから、鳰ちゃーん!」

 

 ノブツナが呼びかけるとノブツナの背後から金髪の少女がひょこりと出てきた。いつの間にいたのか、気配すらしなかったぞ…!?

 

「鳰、用意できた?」

「モチの論っス!ドリルと火薬‥‥あ、C4はダメっスよね?」

「んー‥‥いいんじゃない?小夜鳴先生?」

 

「‥‥今すぐ開けますので待ってくださいね‥‥」

 

 屋敷内が爆破されて大惨事にはなりたくないだろう、小夜鳴先生は静かに警察官と大使館の人間を地下金庫へと案内していった。ノブツナと鳰も向かおうとする前にアリアがノブツナの腕を掴んで睨み付けた。

 

「あんた‥‥最初っからわかっててやってたの?」

 

 今すぐにでも殴り掛かる勢いだったので慌ててアリアを止める。アリアがここで手を出し怒りに任せてしゃべってしまうと自分達が地下金庫のロザリオを盗もうとしたことがバレてしまう。

 

「何の事かわらんな‥‥まあお前らのおかげでルーマニアの奪われた宝が戻ってくるんだ、協力感謝するぜ」

 

 明らかに皮肉だ。これには俺もムッときて睨み付ける。ノブツナは苦笑いして首を横に振った。

 

「あー…悪い、これはヒドイ言い方だったな。だがこれも武偵として仕事をしたまでだ」

 

 ノブツナと鳰はそのまま地下金庫へと向かっていった。理子にどう伝えるべきか‥‥今、理子にこの状況を伝えるべきじゃない。すると立ち尽している俺にアリアが思い切り蹴ってきた。

 

「いでっ!?ちょ、何すんだよ!?」

「突っ立ってる暇はないでしょ‼私達も行くわよ。隙をついてロザリオを盗るしかないわ‥‥!」

 

 もう泥棒作戦は失敗して滅茶苦茶になっている。意地でもなんでもロザリオを取り返すしかない。急ぎ俺達も地下金庫へと向かった。

 

 セキュリティがすべて解除された地下金庫では警察官や大使館の人達があれやこれやと写真や資料を見比べながらブラドが奪ったであろう品々を段ボールへと入れて押収していた。言っては悪いと思うがまるで魚市のようだ。

 

「こんなにも奪われた宝があるとはのう‥‥犬塚、ブラドって何もんじゃ?」

「あー‥‥渋川さん、気にしない方がいいです。絶対に徳川さんとか愚地さんとか喰いかかてくるから、面倒になるから」

 

 その中にノブツナも混じって物品を調べるながら押収していっていた。ノブツナがあんな苦笑いして誤魔化そうとしているのは珍しい。

 

「ノブちゃーん!これはどうするっスかー?」

 

 ふとそこへ鳰がノブツナに駆け寄って奪われた物品を見せた。それは青い十字架のロザリオだった。ふとそこへ携帯が鳴ってた。おそらく理子からだろう、本当は聞くべきじゃないのだが‥‥俺はインカムをつけた。

 

『キーくん‥‥状況は最悪だよね‥‥滅茶苦茶だよね‥‥?』

 

 理子の声に力がない。いつもなら茶化してくるが、理子も外から状況を察しているのだろう。

 

『どうして‥‥どうして!?理子の計画にミスはないはずなのに‼なんで、なんであいつがいるんだよ‼」

「理子、落ち着いてくれ‥‥!」

『キーくん…お願い‥‥理子の大事なロザリオをあいつらに押収される前に奪って‥‥‼』

 

 無茶な頼みだ。だが、もうこれしかチャンスがない。確か理子の大事なロザリオは‥‥青い‥‥十字架のロザリオ‥‥最悪だ、最悪の状況だ。今そのロザリオはノブツナが持っている。

 

「どうすっかなーこれ」

 

 ノブツナはまじまじと青いロザリオを見つめている。どうする‥‥どうやってあいつから奪う‥‥警察や大使館の人達に渡ってしまったらおしまいだ。するとノブツナは懐から小さな小箱を取り出してその青いロザリオをしまった。嫌な事に俺達を見ながら、だ。

 

「渋川さん、ちょっとバチカン協会から来た腐れ縁に確かめてもらわないと分からないものがあったんでこれだけ押収して先帰りますね」

「おーう、でも調べたらちゃーんと返すんじゃぞー」

 

 ノブツナは鳰を連れて先に帰ろうとしだした。

 

「待ってくれノブツナ!そのロザリオは‥‥!」

 

 帰ろうとするノブツナを止めようとしたがアリアが腕を掴んで止められる。アリアは悔しそうに首を横に振る。俺達は表向きではハウスキーパーとして来ただけでロザリオの事なんて知らない。この場には小夜鳴先生もいる、もしロザリオの話でもしたら怪しまれてしまう。

 ノブツナはピタリと止まって俺達の方へとちらりと顔を向ける。

 

「ロザリオ…?これにどれだけの価値があるのかは俺は知ったこっちゃねえがな」

 

 これ絶対理子が聞いたら怒り狂うだろうな‥‥インカムからは理子の涙の慟哭の声しか響いてないから聞こえてはないだろう。悔しいが今は何も言い返せない。

 

「‥‥だが、誰かの大事な家族の大切な物だったのなら、謝って返すさ」

 

「それはどういう‥‥」

 

 ノブツナがどういう意味で言ったのか、分からなっかったがノブツナは俺の耳元でささやいた。

 

「――――深夜、人工浮島の南、道路工事現場に来い。持ち主連れて来いよ?」

 

 それだけ告げるとノブツナは手を振って帰っていった。ノブツナが何て言ったのかアリアは不審そうに首を傾げて尋ねてきた。

 

「キンジ、あいつなんて言ったのよ‥‥?」

 

「――――くそっ‥‥あいつ、全部知ってやがった」

 

 

 

 

 

 

「ノブちゃんも甘すぎっスよー。」

 

 鳰は相変わらずギザギザの歯を見せてゲスな笑みを浮かべる。鳰の嫌いなイ・ウーの奴等に一杯食わせたのだから上機嫌のようだ。

 

「別に蹴落とすつもりもないし、助けたまでだ。それにこれでブラドが釣れるんならいいじゃねえか」

 

「まあそうっスね。でも今夜が山場っスよ?」

 

 たぶんブラドの野郎は怒り狂ってるだろうな。間違いなく今夜あいつは殺しにやってくるだろう。

 

「後は餌に誘き出されてくれればいいさ‥‥準備は怠らねえよ」

 




 
 理子ファンの方々、本当にすみませんでした(焼き土下座

 次はいよいよブラド戦‥‥


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25話 ひと狩りいこうぜ(ゲス顔

 もう間もなく約束の時間だ。人工浮島の南、深夜の無人となっている道路工事現場にて外灯の真下で待ち惚けていた。欲を言えば30分前ぐらいには来てほしいと思ったのだが取引じゃないからいいか。時間ジャストに無線が繋がる。

 

『ノブちゃん、撒き餌がもう間もなくそっちに到着するっス』

「おっけー‥‥」

 

 鳰の連絡を受けて軽く背伸びをする。今はボディーアーマー重ね着してポーチに手榴弾をいくつか入れ、普段使っているLARグリズリーに加えてS&WM500、グレネードランチャーM203を装着したM727、そして愛刀八房と装備は多めにつけた状態だ。ほんとこれからハンティングでもするのかといいたい気分だがこれが冗談ですまされない。

 

『みなさーん、配置はちゃーんとできてるっスかー?今夜の天気は曇り時々雨!雨や風、天候を含めて仕留めるタイムリミットは30分、張り切っていきましょー!』

 

『必ず仕留めます』

『フハハハハ‼任せておけ!吸血鬼と戦えるなんてもうドキがムネムネ!』

『ぬかりはない』

 

 レキ達の返事に全員やる気満々であることを確認する。これなら30分でも十分に仕留めることができるだろう。

 

「おし‥‥()()()()ができしだいかかれよ?」

 

 全員に伝えて無線を切る。深呼吸入れて足音のする方へと視線を向ければキンジとアリア、そして理子がやって来たのが漸く見えてきた。3人とも無言のままじっと俺を睨んでいる。見るからして怒ってるなこれ。

 

「よう、時間通りにちゃんと来てくれたみたいだな。ちなみに持ち主は‥‥聞くまでもねえか」

 

「そんなことはどうでもいい!それをさっさと返しやがれ!」

 

 どうしよう、普段の理子ちゃんなら絶対に言わない口調だ。こっちがイ・ウーでの峰理子か、随分とワイルドなことで。ゆっくり近づく3人に懐からロザリオの入っている小箱を取り出してLARグリズリーの銃口を小箱に当てる。

 

「ちょっとノブツナ!何の真似よ!?」

 

「このままはいどうぞって渡すわけにはいかないんだ。彼女からの報復が怖いんでね、理子はそのまま待ってキンジとアリアが受け取りに来てくれないか?でないとこのロザリオを壊さなきゃならん」

 

 キンジとアリアは理子に伺う。理子はイラッと俺を睨み付けてから頷き、二人が俺の下へと向かって来た。

 

「ノブツナ、どういうつもりなのか後でちゃんと説明しろよ‥‥?」

「その前に一発殴っていいかしら?」

 

「ドードー、そんなに怒るな。俺だってこんな真似したくはない‥‥が、友人の頼みは断れない」

 

 俺は理子めがけて小箱を投げた。一瞬呆気に取られた理子はハッとなってこちらに飛んできた小箱を慌ててキャッチする。理子は小箱を開けて中身を確認した。中身は正真正銘、理子の大事な青い十字架のロザリオだ。

 

「よかった‥‥帰って来た、私の大切な、お母様の大切なロザリオが帰って来た‥‥‼」

 

 理子は嬉しそうにロザリオを胸に抑えるように抱きしめてからロザリオを身に着けた。そして可愛らしい表情が失せ、悪魔の様な表情へと変わる。完全に俺達を殺す気満々という表情だ。

 

「紆余曲折あったがこれで遠山キンジとオルメスを倒せる‥‥それから私のプライドを散々傷つけた邪魔者も殺せる‥‥!」

 

「ようやく本性現したか、でもまあ‥‥けじめつけさせてもらうな」

 

 その直後、理子の背後でバチバチと小さな雷鳴が響いた。小悪魔的な笑みの表情が一変、苦痛な表情を見せた理子は前のめりになって倒れた。俺はジト目で彼女の背後にいる人物を睨んでやっと来たかと苦笑いする。

 

「来るの遅すぎじゃないですかねぇ‥‥小夜鳴先生?」

 

 彼女の背後に立っていた小夜鳴はにこりと笑って手に持っていた大型のスタンガンを捨てて懐からクージル・モデル74を取り出して理子の後頭部に銃口を向けた。どうしてこの場に小夜鳴がいて何故理子に攻撃をしたのか、キンジとアリアは驚いていた。小夜鳴はやれやれと呆れながら理子を見下す。

 

「まさかここまで愚鈍であったとは、つくづく失望させてくれますねぇ、リュパン4世」

 

「うる‥‥さい‥‥!その名で、呼ぶな‥‥!」

 

 苦痛に震えるからだで睨む理子に小夜鳴は容赦なく彼女の頭を踏みにじっていく。あいつの目は完全にサディストな眼差しだ。いたぶるのがお好きなようで

 

「つくづく愚かで無能ですねぇ、凡人に出し抜かれその上私を誘き出す餌として利用されていることすら気付かなかったなんてねえ!」

 

 小夜鳴は理子を嘲笑いながら何度も踏みにじり、横腹を蹴っていく。

 

「4世、人間は遺伝子で決まる。優秀な遺伝子を持たないお前がいくら努力をしようが所詮はこの程度だ!」

 

「や、やめなさい!理子を虐めて何になるのよ!」

 

 耐えに耐えきれずアリアが怒ってガバメントを引き抜いて撃とうとした。威嚇射撃だろうが俺はアリアを止める。

 

「なっ…!?なんのつもり!?もしかしてあんたもグルなの‥‥!?」

「んなわけねえだろ。俺だって早くぶん殴ってやりたいさ‥‥でもまだだ、まだ耐えろ」

 

 今すぐに助けたい気持ちはわかる。でもそれでは意味がない、奴の化けの皮が剝がれのとあいつがちゃんとけじめをつけるまでは動いてはいけない。

 

「いい加減化けの皮を剥がしたらどうだ、ブラド?それとも女の子虐めないと気がすまない小物なのか?」

 

 俺の発言にアリアとキンジが目を丸くして驚き、小夜鳴は理子を蹴るのをやめてこちらをジロリと睨んできた。小夜鳴、いやブラドの野郎も相当俺にキレてるみたいだな。

 

「の、ノブツナ、小夜鳴がブラドってそんなでたらめな話‥‥」

 

「ブラドの野郎は絶滅寸前の吸血鬼だ。吸血する相手の遺伝子を取り組んで生き延びてるようでな、ブラドは人間の血を吸って今は小夜鳴という人間に成りすまして潜んでいた。最初からお前らの泥棒ごっこを一部始終見てたってわけだよ」

 

「ブラド。ルーマニア、吸血‥‥そういう事だったのね。なんですぐに気がつかなかったのかしら、イ・ウーのNo2はドラキュラ伯爵だったなんて」

 

 俺の簡略した説明にキンジは戸惑っていたがアリアは納得してくれた。流石はシャーロックホームズの曾孫娘ってところだ。小夜鳴の方は俺を殺さんと言わんばかりに睨み付けている‥‥心なしか獣の様に鼻息が荒くなってちょっと体格がでかくなってません?

 

「どうして私がブラドだと分かった‥‥?」

 

 落ち着いた口調が一変、野太い声へと変わっている。スヴェンが言っていた本性現す兆候ってやつか、ならもう少し気を逆撫でてやっか。

 

「お前を捕まえたい奴がいてな、協力したまでだ。ところでどんな気分だった?下等と見下していた人間に、目の前でお前の宝がどんどん奪われていく様は。お前も凡愚と見下していた人間に出し抜かれたポンコツじゃねえのか?」

 

 ねえどんな気持ち?ねえどんな気持ち?挑発し続けていくと、先ほどまで理子をいたぶって嘲笑っていた小夜鳴がギシギシと獣の様な牙を見せて歯軋りしてギロリと睨んできた。眼光がもう獣そのもの、それから一段と体格が大きくなっていく。うん、やっぱり気のせいじゃなかった。

 

「だまれ‥‥!」

 

「そんで理子をいたぶるって‥‥お前、それ八つ当たりってやつだぜ?イ・ウーのNO2がこんな小物だとはおかしくてたまらねえや、なあ吸血鬼(笑)」

 

「だ ま れ‼」

 

 小夜鳴が大声で叫んだ。もう小夜鳴の声じゃない、獣が咆哮するかのような化け物の声だ。もう少し挑発してやりたいがアリアが焦って俺を止める。小夜鳴、いやブラドの奴が怒り任せに理子をついやっちゃうしれないからな。

 

「いちいち気に障る野郎だ!そんなにオレに殺されてえのなら、喜んで成ってやるよ‼」

 

 そう叫ぶと小夜鳴が変貌した。洒落たスーツが紙のように破れ、黒く剛毛のついた獣の肉体へと変わり巨躯な化け物へと変貌した。目の前で姿が変わったことに俺達は驚きを隠せなかった。そんな姿を見た小夜鳴…もうブラドか、ブラドは汚い笑い声を飛ばして嘲笑う。

 

「ガハハハ…よう、オレがブラドだ。どうだ?初めて見る吸血鬼に足がすくんだか?」

 

「めっちゃゴリラじゃんお前‼」

 

 はっきり言わせてもらおう、全然吸血鬼じゃない。顔が狼で体格がゴリラって‥‥吸血鬼の風貌は何処へやったんだよ!?俺の発言にブラドは青筋を浮かべ、キンジとアリアはずっこけそうになった。

 

「お前それ言う事か!?」

「いやだってあれゴリラじゃん!筋肉の塊じゃん!吸血鬼っぽくねえし!遺伝子組み換えすぎだバカ野郎このやろう!」

「思ったとしても言わないの!私も吸血鬼がどんなのかと期待したらなんか脳筋だなーってがっかりしたけど!」

「アリア!?」 

 

 まさかアリアまで言うとは思ってなかったようでキンジは慌ててアリアにツッコミを入れた。たぶんキンジも思ってたんだろうなぁ。出鼻をくじかれてブラドさんはかなり機嫌が悪い模様。

 

「お前ら‥‥目の前でトマトを潰したらどうなるか見てみたいのか‥‥?」

 

 ギロリと睨んだブラドは大きな獣の手で理子の頭を鷲掴みにして持ち上げた。あのでかさと筋肉だから間違いなく強く握られれば理子の頭はトマトのように潰される‥‥

 

「4世は知らなかったみてえだな、俺が人間になれるってことを」

「ブ…ラド‥‥!騙した‥‥なぁ…!お、オルメスの末裔を倒せば‥‥解放‥‥してくれるって…約束したのに‥‥!」

 

 怒りと悔しさで睨む理子をブラドはニヤリと嘲笑う。

 

「お前、犬とした約束を守るのか?」

 

 そしてブラドは薄汚さそうな獣の笑い声を放った。ゲババババて、耳障りな笑い方をしやがるな‥‥

 

「無能なお前は所詮優良種を産むための種馬がお似合いだ!お前はオレから一生逃げられない!何処へ行こうとも何処へ逃げようとも、お前の居場所はあの檻の中なんだよぉ‼」

 

 ゲババババとまた獣の声で理子を嘲笑う。振り回される理子は言い返す力さえなく強がることすらできなかった。キンジもアリアもブラドに怒りを燃やしている、今すぐに拳銃を引き抜いて撃ちたくてたまらないようだ‥‥だがまだだ、ブラドの化けの皮は剝がれた。後はアイツのけじめだけだ。

 俺達の視線に理子は泣き顔を見せまいときつく目を閉じるが、それでも彼女の頬には大粒の涙が流れていた。

 

「あ、アリア‥‥キンジ‥‥の、ノブツナ‥‥」

 

 本当はライバルであったであろうアリアとそのパートナーのキンジ、そして今すぐにぶん殴りたかったであろう俺にに向けて声を振り絞る。

 

「‥‥た、す、け、て‥‥」

 

「「言うのが遅い‼」」

 

 理子の本当の声に待っていたかのようにキンジとアリアが拳銃を引き抜く。その間に俺は無線を取り出す。

 

「お許しがでたぞ‥‥遠慮なくやれ」

 

 

 アリアとキンジがブラドに向けて撃つよりも速く、ブラドの背後からスヴェンが飛び掛かり携えている刀を引き抜いて理子を鷲掴みしている方の腕を斬り落とした。

 

「‥‥っ!?」

 

 腕を斬られブラドは苦痛に顔をゆがめる。解放され落ちる理子をスヴェンが抱き留めアリア達の方へと下がる。その間に俺はM727に装着しているグレネードランチャーM203の引き金を引く。放たれた弾はブラドの体へと当たり爆発を起こした。

 

「ちょ、あんた達やりすぎじゃないの!?」

 

 ブラドの腕を斬り、グレネードランチャーをぶつけたことにアリアはギョッとしていた。確かに武偵としてはやりすぎだが問題はない、スヴェンは首を横に振った。

 

「心配すんな、弱点を攻撃しない限り奴は死なん」

「そうだぜアリア、相手は人間じゃない。理子、動けるか?」

 

「‥‥遅すぎだっつうの‥‥バカが‥‥」

 

 キンジに支えられよろよろと立ち上がる理子は俺になんども足蹴してきた。これなら問題はなさそうだな。そんであっちも問題はないようだ、体に大穴を開け片腕を斬り落とされたブラドは苦痛に歪みながらもこちらを睨んでいる。そして体の大穴が赤い煙を立ち上らせながら塞がり、腕は問題がなかったように接合された。

 

「よう、久しぶりだなブラド。随分と落ちぶれたなお前」

 

「そうか、バチカンの協力者は貴様だったのかスヴェン‥‥だから奴がオレの正体に気付いていたわけか。この汚れた血めが、一族の恥さらしめが‼」

 

「汚れた血…?どういう事‥‥?」

「理子、スヴェンは吸血鬼と人間のハーフ、ダンピールだ。ダンピールは吸血鬼の臭いが分かっててな、ブラドが小夜鳴に成りすましてるのをいち早く気づいていた」

 

 そういう事だったのかとアリアと理子は納得してくれたようだ。キンジはまだ分かっててないみたいだが。おらぁ、早くいちゃついいて本気になれよバカ。

 

 一方のスヴェンはブラドの罵詈雑言になんの怒りも感じていないようで、寧ろ呆れていた。

 

「俺の母は人間と共存する道を選んだ。お前達はどうだ?人間を下等と見なしていたお前らは今風前の灯火の存在となっている。生きるために優秀な遺伝子に拘り必死にかき集めているお前の方が随分と無様だと思うがなぁ」

 

「黙れ‼今ここで貴様らを殺せば、オレが正しいとあのクソアマを嘲笑うことができる!」

 

「母は人間に恋をし人間を愛した。俺を嘲笑うのはいいさ、母を侮辱するのなら俺はてめえを許さん‥‥‼」

 

 スヴェンは一気にブラドへと迫り斬りかかっていく。ブラドに向けて振り下ろされた刃はブラドの片手に食い込む。ブラドは片方の拳でスヴェンへと殴りかかろうとした。

 

「させっかよ、ゴリラ野郎が‼」

 

 俺はすかさずM727を掃射していく。ブラドは体に被弾しつつも片腕で防ぎ、剛腕を振るってスヴェンを下げさせる。

 

「そんな豆鉄砲、オレに効くかよ‼」

 

「そんなもん百も承知だ‼だから手始めにてめえをいたぶるんだよ‼ジーク‼」

 

 俺の合図にアリア達の背後の物陰からジークが飛び出してブラドめがけて突っ走る。ブラドが爪で引き裂こうと腕を振り下ろす、その前に俺はホルスターからS&WM500を引き抜いて一発撃った。反動は大きいが放たれた弾丸はブラドの片腕に穴をあける。

 

「デッドリィィィィレイブ‼」

 

 ジークはブラドの体に何度も何度も殴る蹴ると乱舞を撃ち込んでいく。

 

「HAAッ‼」

 

 最後に気合いで撃ちこんだ両手の掌底から気の衝撃波が放たれブラドはぶっ飛ばされた。予定通り、決められたポイントに飛ばされたな。俺は無線機を取り出して無線を繋ぐ。

 

「鳰、ゴリラがポイントについた」

『りょうかーい!では、爆破っ‼』

 

 無線機からカチカチとスイッチが押される音がしたと同時にブラドがぶっ飛ばされた場所で爆発が起きた。鳰曰く、ミョウジョウ学園で爆弾作ってた生徒を真似て作った爆弾だとか。というかどんな爆弾作ってたってどういう学園なんだよ。

 

 見事な爆発にアリア達は唖然としていた。我に返ったアリアと理子が俺に足蹴していく。

 

 

「ちょ、ちょっと!?やりすぎでしょこれ!?」

「そ、そうだよ!?確かにブラドざまぁって思うけどさぁ!?」

 

「大丈夫、死なない程度にしてっから」

「いや絶対あれ死ぬでしょ!?」

 

 あの爆発でも火力は控えて目にしてるんだぞ?ブラドを殺さない程度に痛めつける、これが俺達の目的だ。案の定、立ち上る煙の中でブラドのシルエットが見えた。肉体をぶっ飛ばされても魔蔵を潰さない限り再生をするか‥‥厄介な相手だ。

 

「俺達でブラドを弱らせる。キンジ、アリア、理子、倒して逮捕するのはお前らの役目だ。理子、あいつの倒し方はちゃんとわかってるな?」

 

「え‥‥う、うん‥‥」

 

 戸惑い、自信なさそうに俯く理子にデコピンをしてやる。

 

「心配すんな、今のお前にはキンジとアリアがいる。自由に慣れるチャンスだ‥‥キンジ、後は任せたぜ」

 

 俺は肉体が再生され襲い掛かってくるブラドと対峙しているスヴェンとジークの援護をすべく駆けつけて行った。

 

 

 

「理子、理子は理子なんだ。お前は数字なんかじゃない。過去に怯えちゃダメだ、過去を塗り替えるんだ!」

「キーくん‥‥」

「ノブツナも言ってたろ、俺がいる。理子、俺達であいつを倒すぞ…!」

「キーくん‥‥!」

 

 理子は強くキンジを抱きしめた。その様にアリアはムスッとしたがふんと照れ隠してそっぽを向く。

 

「‥‥今回だけ、今回だけよ!キンジを貸すのはね!さっさとブラドを倒してアンタとの決着をつけるんだから!」





 魔蔵潰さない限り何やっても死なないんだから、遠慮しなくていいよね!(ゲス顔

 弱らせてから仕留める、狩りもこんな感じだもんね(オイ


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26話 ブラドとの戦い、嵐の前の静けさ

 
 ブラドとの決着、そして次へのエピローグです


 ブラドの傷の回復は思ったより速い。刀剣による切り傷も弾丸による銃創や風穴も見る見るうちに傷が塞がれていく。

 

「ゲババババ!何度やっても無駄だぞガキ共‼」

 

「んなもん知ってるつってんだろ!」

 

 ブラドは傷一つすらつけることができていない俺達を嘲笑う。弱点である魔蔵を潰さない限りこいつは倒れない、そんな事は知ってる。というよりもそれが目的で攻撃をしてるわけではない。

 

「スヴェン!腹の辺りかっ捌けるか?」

「容易い!」

 

 俺の合図にスヴェンがブラドの真正面へと駆けていく。無駄な事をとブラドはほくそ笑んで爪で斬り裂こうと腕を振るう。

 

「ジャエーケンっ‼」

 

 ブラドの爪がスヴェンに当たる寸前、ジークの気を込めた肘打ちの突進により腕を弾き受け流した。スヴェンは勢いを止めずブラドの腹部を狙って十字に切り刻んだ。ブラドは一瞬の苦痛に顔を歪めるがこの程度の傷もすぐに修復される、無駄の事の繰り返しだと嘲笑おうとした。

 しかしスヴェンの後ろからノブツナが続いていた。ノブツナはポーチからM67破片手榴弾のピンを引き抜いて傷が修復されている最中のブラドの傷口めがけてM67手榴弾をぶち込めた。ノブツナとスヴェンは一気に後ろに下がったその直後、ブラドの体の半分が爆発で吹っ飛んだ。

 あちこちに肉片を散らし、右半分の体が消し飛んでいてもブラドは健在でノブツナ達を絶対に殺すと言わんばかりに唸り睨む。

 

「これでも元気ピンピンとか…しばらくゴア表現のあるクソ映画を見ないで済むな」

「なぬぅ!?キノコ人間は別の意味で面白いだろ!ワスカバジだぞ!」

 

「次はどうするんだノブツナ!回復させる暇を与えない方がいいぞ!」

 

 散らばっていた肉片が血の煙を出しながら消えていき、みるみると筋肉と骨が修復され傷と怪我が治っていていた。スヴェンの言う通りだとノブツナはキノコ人間を語りだすジークを無視して無線機を繋げた。

 

「鳰、次の爆発だ」

『ラジャーッス!巻き込まれないように注意してくださいねー!』

 

 鳰が楽し気に応え、再びカチカチとスイッチが押される音が聞こえた。その直後にブラドの背後にあった工事中のビルから爆発が起きた。すぐ下の辺りで連続した爆発が起きていたようでぐらりと工事中だったビルがブラドめがけて倒れていった。こちらめがけて倒れてきたビルに気付いたブラドであったが傷の修復の最中だったため動けず、ビルに叩き付けられ瓦礫に埋もれてしまった。鳰は爆弾を仕掛けていたと事前に言ってはいたがここまで派手にやるとはとスヴェンは呆気にとられ、ジークはガッツポーズをとっていた。

 

「やったか‼」

 

「いややってねーって」

「こんなのでくたばったら本当に落ちぶれたとしか言いようがねえよ」

 

 ジークは喜んでいたがノブツナとスヴェンはいつでも迎撃態勢であった。二人の予想通り、瓦礫が蠢くとブラドが吠えながら勢いよく飛び出して来た。もはや吸血鬼というよりもこれではまるで狼男だ。

 

「いくらやっても無駄だと言っておろうが‼小賢しい真似をしおっry」

「うっさい」

 

 ブラドが言い切る前にノブツナはTH3焼夷手榴弾を3つピンを抜いて投げ込んだ。放り投げだされたTH3焼夷手榴弾はすぐさま爆炎を発し、ブラドの体を業火で焼き包んだ。

 

「グゥオオオオオッ!?」

 

 炎に包まれたブラドは火だるまになって体をよじらせ悶えだす。その間にノブツナはM727を立ち続けに撃ち込んでいく。

 

「いやいやいやいや!?あんた達やり過ぎでしょ!?」

 

 漸く準備が済んだようでアリア達がノブツナ達の下へ駆けつけるとアリアはギョッとしてノブツナにツッコミをいれようとした。爆発で倒れたビルを叩き付け、出てきたところを焼夷手榴弾で焼き尽くす、ハチャメチャな戦い方に流石の理子も引いていた。

 

「十分すぎるだろ。相手は吸血鬼、幾十年も人間の血を吸い剰え理子を奴隷にしてたんだ。ツケを払うにはまだまだ少ない方だ」

「そうだぞ!りこりんを痛めつけて‥‥りこりんファンクラブ会長の俺が絶対に許さん!」

 

「いやジーク、あんた白雪ファンクラブの会長じゃなかったのよ」

 

 そんなやり取りをしている間にブラドが喧しい程の咆哮をあげた。身を焦がした炎は方向の勢いで消し飛び、全身の火傷が血の煙をあげながら修復されていった。だが傷の回復はできても受けた痛みまでは消えなかったようで歪んだ顔のままノブツナ達を睨み付けていた。

 

「ハァ‥‥ハァ‥‥図に乗るなよクソガキ共がぁぁ‼」

 

 ブラドは叫ぶと瓦礫の中へと片手を突っ込み何やら手探りで何かを探し出した。そして勢いよく手を戻すと4mほどの長さの鉄骨を握っていた。金棒のように持ち迫って来た。流石にあの鉄骨を馬鹿みたいな怪力で振り回されたらまずい、ようやく本腰を入れてきたかとノブツナはキンジの方へ視線を向ける。

 

「キンジ!俺達でブラドの注意を逸らして弱らす、その隙にお前らは魔蔵を狙い撃て!」

「分かってるさ、だが見る限り3か所しか見えてないが‥‥」

 

 ブラドの弱点である魔蔵は4か所存在し、同時にその魔蔵を潰さない限りブラドは倒せない。一か所でも仕留め損ねたらほんの数秒で3つの魔蔵を修復させ振り出しに戻される。

 今視覚で分かるとすれば右肩、左肩、右の脇腹の目玉の様な模様が付いた箇所。4つ目の魔蔵の箇所が分かっていない。ブラドの何処かの箇所に4つ目の魔蔵が隠されているはずだ。すると理子がぴょこんとキンジとノブツナの間に割って入って来た。

 

「視線でバレないようにするためにあえて言わないけど‥‥理子は4つ目の箇所を知ってる、アイツとずっと暮らしてたから‥‥」

「‥‥分かった、それじゃ頼んだ。チャンスは俺達で作る、弾の無駄使いはすんなよ?特にアリア」

「わ、分かってるわよ!ちゃんと狙い撃ってやるんだから!」

「ノブツナ、無理すんなよ‥‥?」

 

 ノブツナはニッと笑ってブラドと応戦しているスヴェンとジークに加勢しに駆けていった。

 

「まずは汚れた血!貴様から叩きのめしてやる‼」

 

 ブラドは怒り任せに鉄骨をスヴェンめがけて叩き付けていった。スヴェンは刀で受け止めるが相手の怪力による打撃に腕に振動と鈍い痛みが響く。

 

「っ!これだから脳筋はむかつくんだ‼」

 

 スヴェンは力を込めて鉄骨を弾かせる。だがその刹那、正面からブラドの拳が迫った。隙をつかれたスヴェンは目を見開く、直撃するかと思いきやノブツナが刀を抜いて受け止めた。

 

「ノブツナ!助かった、流石は俺のライバル!」

「―――――っ!めっちゃ痛てえ!?受け止めても痛いとかどんだけ怪力なんだよこの脳筋ゴリラは!?」

 

 スヴェンの嬉しい一言を無視してノブツナは痛そうに怒鳴っていた。その隙にブラドは思い切り鉄骨を横へと薙ぐ。二人で防ぎ受け止めるが、それでもブラドの力が強く力任せに吹っ飛ばされた。さらに追い打ちをかけようと二人へと迫っていく。

 

「っってえなあ!」

 

 ノブツナは起き上がってM727を撃っていくが弾丸を両腕で防ぎながら迫っていく。その刹那、ノブツナの背後から火の付いた酒瓶が弧を描くようにブラドめがけて飛んできた。酒瓶はブラドの顔面に当たると轟々と燃えだした。

 

「ふぅ‥‥ちょっと焦った。サンキュー、鳰」

 

 ノブツナが後ろを振り向くとモロトフカクテル片手に可愛げにウィンクする鳰の姿があった。鳰はもう一本モロトフカクテルをブラドに投げ込んでノブツナに歩み寄った。

 

「ノブちゃん、ちょっと時間が押してきてるッス」

 

 気づけば遠くで雷が鳴っており、雲行きが怪しい。いつすぐ近くで雷が響いてもおかしくはない、鳰の言う通り時間が徐々に押してきている。

 

「キンジ達もいつでも撃てるようだし‥‥一気に短期決戦で終わらす」

 

 十分に痛めつけれた、後はもう仕留めるだけ。ノブツナはS&WM500をホルスターから引き抜きリロードする。

 

「ジーク、強い一撃をぶち込め。俺とスヴェンであいつを足を止める、鳰は援護を」

「OKっす!」

「ふっ、俺の足を引っ張んなよライバル!」

「任せておけ!」

 

「‥‥せめて返事を統一してくれ」

 

 ノブツナの呟きは虚しくスルーされ、ジークがいの一番にブラドへと迫った。顔に焼き付く炎ををかき消し修復をし終えたブラドは正面から迫るジークを嘲笑う。

 

「わざわざ潰されに来たか、虫めが‼」

 

「白雪ちゃんファンクラブ会長兼りこりんファンクラブ会長の怒りの鉄拳を舐めるなよ‼」

 

 思い切り叩き付けようと振り下ろされた鉄骨を躱し、ジークはブラドの懐まで一気に迫った。

 

「フドォォォォケンッ‼」

 

 ブラドの鳩尾にめがけて愛と怒りと力と気を込めた両手の掌底を叩き込んだ。強力な一撃を撃ち込まれたブラドはカハッと乾いた悲鳴を上げてよろめいた。回復させる暇を与えさせまいとノブツナとスヴェンが駆ける。ブラドは態勢を建て直そうとするが顔面にカラーボールが当たり、視界を遮られ鼻に悪臭がまとわりついた。

 

「うちの特性カラーボールッス、獣のお前にとってはちょー臭いだろうなぁ!」

 

 カラーボールを投げつけた鳰はギザギザの歯を見せてゲスな笑みを浮かべる。獣の姿となっているブラドは視覚も嗅覚も人よりも優れている、だがそれが仇となり人よりも倍の悪臭はブラドを苦しめた。

 ブラドが悶えいる隙にスヴェンはブラドの左脚の脛に峰打ちで思い切り叩き込み、ノブツナは右脚を狙ってS&WM500で撃ち込んだ。両足を損傷したブラドはガクリと膝をついた。

 

「今だ!ぶちかませ‼」

 

 ノブツナの合図でキンジ達はブラドの魔蔵に狙め、引き金を引いた。だが最悪のタイミングかいたずらか、引き金を引いたと同時に稲光が起き、雷が轟いた。アリアは雷が苦手だったようでその刹那彼女は驚いて銃口が逸れた。2丁のガバメントのうち1丁はブラドの右肩に当たる、しかしもう一発の弾丸は逸れてしまう。

 アリアは雷が苦手だったことを既に知っており、彼女の撃った弾丸が逸れてしまう事に気づいたキンジはすかさずその弾丸を狙って撃った。キンジの撃った銃弾はアリアの撃った弾を掠め、彼女の弾丸の軌道を修正させた。

 修正はできたが焦りを募らせた。同時に4つ魔蔵を狙い撃たなければならない。今の一発で4つ目は当たらない、このままでは仕留めることができない。

 

「――――今だ、奴の舌を狙え」

 

 キンジ達を見ていたノブツナは無線機を繋げていた。理子とアリアが撃った銃弾はブラドの左肩、右肩、右脇腹の目玉の模様へと撃ち込まれたその直後、何処からか飛んできた銃弾がブラドの分厚い目玉の模様がついた舌を射抜いた。

 

「ウグゥ!?ウヴゥゥォォォッ!?」

 

 射抜かれたその直後にブラドは苦悶の表情を浮かんで叫び、体中から血を噴かせ悶えたのちに大きな音をたてて倒れた。

 一体何が起きたのかとキンジ達はポカンとしていたがノブツナは満足そうに4つ目の弾丸が飛んできた方向に顔を向けて満足げな笑みを見せて無線機を繋いだ。

 

「ビューティフォー、上出来だぜレキ」

『私は一発の銃弾、貴方の銃弾。必ず仕留めます‥‥』

 

 4つ目の銃弾を撃ったのはレキだった。最初から離れた場所で待機しており、4つ目の魔蔵の場所が分かるまでずっと狙いを定めていたのだった。ノブツナが撃っていた銃弾をブラドは頑なに顔だけは撃たれまいとガードをし、焼夷手榴弾や火炎瓶を顔に受けた時は只管顔を優先的に炎を消そうとしたため、4つ目の魔蔵が顔の何処か、或いは内にあると気付いた。

 

 武器を収めた頃には遠くからパトカーのサイレンとヘリの音が聞こえこちらに近づいているようだ。ようやく吸血鬼を倒せたとノブツナは安堵した。

 

___

 

 やっとひと段落ついたと学園島の公園のベンチでリーフパイを食べながらため息を漏らす。吸血鬼、ブラドの逮捕の手柄はアリアに譲った。スヴェンがバチカンへと連行しようとしていたところをアリアが『こいつはママの裁判の為の重要参考人‼』と怒鳴り散らして譲ろうとしなかったので面倒なので其方を優先させた。お前の母ちゃん、イ・ウーと何か関係あんのかよと思ったが変に突っかかるのはやめた。面倒事はもうこりごりだ。

 

「また授業をサボってるのか、お前は?」

 

 そこへスヴェンが呆れながらやってきた。よし、セロリは持ってないな‥‥?スヴェンはそのまま俺の隣にどかりと腰をかける。

 

「良かったのか?あのツインテピンクロリにブラドを譲っちまって?」

「いいさ、バチカンに連れてこられるよりかは大分マシだ。俺の先輩のシスター・メーヤさん、容赦なく首ちょんぱするだろうし」

 

 首ちょんぱって‥‥バチカンのシスターは怖いなおい。そうだとすれば日本に収容されるのは大分マシだと思えてきた。

 

「久々にお前と組めて楽しかったぜ、ライバル」

「次来るときはセロリ持ってくんじゃねえぞ」

 

 正直言って久々にスヴェンと組んでドンパチやったのは楽しかった。セロリを持ち込んでなければの話だし》レキの方がもっと楽しいがな!だがもうバチカンに帰るのは少し寂しいな、せめてもっとゆっくりしていけばいいのに。

 

「‥‥まだ帰らんぞ?」

「む?何かやる事があんのか?」

「ああ、大使館に行って報告した後、公安0課に言伝をしに行く」

 

 公安0課?確か警視庁公安部にある職務上殺人を容認している『殺しのライセンス』を唯一持つ公務員達のことだ。全員化け物と言わんばかりの強さを持ってるし、一度無理矢理と言わんばかりのヘッドハンティングをくらったことがある。チュドって逃げたけど。そんな公安0課に何か用事でもあるのだろうか‥‥

 

「言伝って何を言うんだ?」

「ああ‥‥『アーカムが動いた。奴等は日本に来る』ってな」

「アーカム‥‥?」

 

 アーカム?聞いたことがないな‥‥まさかそいつもイ・ウー関連じゃないだろうな?

 

「スヴェン、そのアーカムってなんだ?」

「‥‥ノブツナ、悪い事は言わん。もし武偵を続けたいのなら、アーカムには関わるな」

 

 いつもふざけているスヴェンがここまで真剣な表情で言ってくるとは思いもしなかった。スヴェンの形相に俺はたじろいでしまった。

 

「そ、そんなにヤバい奴なのか‥‥?」

「ハッキリ言ってイ・ウーがごっこ遊びなら、アーカムはガチだ。アーカムは中東、アフリカの裏社会を牛耳り、各地でテロや破壊活動をして暗躍している」

 

 テロや破壊活動て‥‥そんな派手なことをして何故公に明かされない?俺の疑問にスヴェンはポンと肩を叩いて立ち上がる。

 

「ノブツナ、世の中には()()()()()()()()()()()()()()()()()が起きている。アーカムはそういった戦いをする、『N』と並ぶヤバい連中だ」

 

 今度は『N』とか知らんワードまで出てきた‥‥そんなヤバい連中が日本に来るって‥‥

 

「何でそいつらは何で日本に来るんだ」

「考えるとすれば恐らく、緋緋色かウルス‥‥いや、これ以上話すとお前が首突っ込む」

 

 緋緋色?そしてスヴェンも『ウルス』と口にした。もしかしてスヴェンなら『ウルス』の何か知っているんじゃないのか?

 

「なんだよ、ブラドを手伝えって言ったくせにそいつは手伝えって言わねえのか。俺でも力になるぞ」

 

「‥‥願わくばそんな事がねえといいがな。じゃあな」

 

 俺に関わってほしくないようで、スヴェンは軽くあしらって去ろうとした。が、ピタリと止まってジロリと俺の方へ顔を向けた。

 

「‥‥もし、アーカムやN‥‥世界に喧嘩売れる覚悟があんのなら、力を貸してくれ」

 

 そのままそっぽを向いてスヴェンは手を振って去っていった。世界に喧嘩を売る‥‥あいつはそんなにヤバい連中と戦うつもりなのか。あいつ一人だけ戦わせるわけにはいかない、俺も何かできないのか。

 悩んでいると携帯が鳴った。こんな時に電話を掛けてきたのは誰かと確認したら、電話の主は鳰だった。

 

____

 

 場所を移動して今度は人工浮島の南端の廃ビルの屋上へと向かった。ドアを開けると風が少し強く吹いており、屋上には鳰がメロンパンを食べながら待っていた。

 

「ノブちゃーん、遅いっすよ。待ちきれなくてノブちゃんの分も食べちゃったっすよ」

「いらねえよメロンパン‥‥」

 

 こんな事の為に呼んだわけじゃないだろうに。肩を竦めて呆れていると、鳰は察したのかいそいそとメロンパンを食べて完食させた。

 

「‥‥さて、ノブちゃん。うちとの約束覚えてる?」

「忘れた」

「ひどすっ!?」

 

 ジョークだジョーク、そのしょげたアホ毛をどうにかしろ。鳰との約束は覚えている。ブラドの一件を手伝ったら鳰が俺の知りたい事を教えてくれる、という約束だ。

 

「つっても知りたい事ねえ…思いつかないがなー」

 

「またまたー、とぼけちゃってー‥‥‥‥ノブちゃんはレキレキの秘密とウルスの事を知りたいんでしょ?」

 

 鳰はふざけた表情から一変して企みを込めた笑みを見せた。図星はできない、本当はレキの事やウルスの事を知りたい。だがもしレキの秘密を知ってしまったら俺はレキにどう表情を見せたらいいのだろうか、今だに迷いがあった。

 

「ノブちゃん‥‥避ける事はできないっすよ、もう片足突っ込んじゃってるんだから。レキレキをずっと傍にいさせたいのなら、知っておくべきっす」

 

「‥‥鳰、教えてくれ。ウルスってなんだ、ウルスの姫ってなんだ?」

 

 もう引き返すことはできない。スヴェンもウルスの事を知っていて、鳰もウルスの事を知っている。俺だけ知らないという訳にはもうできないのだ。

 

「そうっすね‥‥まずはウルスから。ウルスってのはロシアとモンゴルの間の場所に隠れ住んでいる少数民族。ウルスは弓や長銃に長けた部族であり、レキレキはその出身っす」

 

 本当に存在していたとは。レキが時々言っていたので中二病的なものかと思っていたが彼女が本当にウルスの民とかの存在だとは思いもしなかった。

 

「レキはウルスの姫と言っていたが‥‥」

 

「どっかにいるとは思ってたけどうちもレキレキがウルスの姫だったとは知らなかったス。これはびっくりしたけど‥‥ウルスの姫の役目は知ってるっすよ」

 

 役目‥‥?レキに何か役目か何かあったのか?

 

「まあ簡単な役目ッス。ウルスの姫は『ある物』の為に共にあらなければならなかった。それは心を無にする必要があったっス。いわば無感情、無表情ってこと、そうじゃないと『声』を聴くことができないと」

 

 声‥‥?まさかレキが言っていた『風』というやつなのか?そんな物の為にレキは無表情になっていたというのか‥‥なんだろうか、考えるだけでなぜかムカッときた

 

「鳰、その『ある物』ってのは知ってるのか?」

「モチの論!でもノブちゃん、それを知ったらノブちゃんは世界に喧嘩を売る事になるけど、覚悟はできてるっす?」

 

 世界に喧嘩を売る‥‥スヴェンも言っていた。それはそんなにヤバイのか?もし知ったらレキはどうなる‥‥何故かどこかで心の迷いが生じた。迷いに気づいたのか鳰はヤレヤレと肩を竦めた。

 

「ま、腐れ縁のよしみで特別サービスで教えるっす。レキ、これは漢字で『蕾』と『姫』と書いてモンゴルじゃ超有名な人の直系の姫の名前で、そしてウルスの民は彼女を奉り『ある物』と姫の為守り戦ってるっす。そんでそのある物ってのが‥‥璃ry」

 

 鳰が告げようとしたその時、俺の背後からハイマキが鳰めがけて牙を剥いて飛び掛かって来た。鳰は慌てて避けて距離をとる。ハイマキは唸り声をあげ、牙を剥いて殺意を込めて鳰を睨んでいた。いきなりのことで俺は驚いていたが鳰はヤレヤレと肩竦めて苦笑いをした。

 

「ノブちゃんごめん‥‥これ以上話すとうちがレキレキに殺されるっす。てなわけで後は自分でググってくださいねーっ!」

 

 鳰はウィンクして懐から煙玉を取り出して俺とハイマキの足下に投げつけた。バフンと白い煙が噴き上がり視界を遮った。風が吹いてやっと視界が鮮明になった頃には鳰の姿は無かった。

 レキが鳰を殺す勢いとか‥‥よっぽど知られたくないことでもあるのだろうか。ある程度の事は知れたが、まだまだ知らない事が多い。どうやって調べるか‥‥立ち尽して考えていたらハイマキがワン!と吠えてきた。分かったって、今は調べないから吠えるなって

 

 

「ノブツナさん、大丈夫ですか…?」

 

 気が付けば俺の後ろにレキがいた。ハイマキがいたという事はレキもいるだろうと考えていたがこんな近くにいたとは‥‥レキはドラグノフのスコープを覗きながら辺りを見回す。

 

「鳰さんはもうこの辺りにはいませんね‥‥次、ノブツナさんに近づこうとするのなら今度こそ仕留めます」

 

 ちょ、レキ、怖いよ!?本当に殺す気満々じゃねえか!?ギョッとしている俺にレキは歩み寄って来た。

 

「けがはないですか?」

「あ、ああ‥‥大丈夫、です」

「私は貴方のモノ、貴方の武器であり銃弾。私は貴方に害するものには守る為に容赦なく戦います」

 

 レキさん?それを世の中ではヤンデレっていうんですよ?お願いだから物騒な事は言わないで‥‥と言おうとしたら、レキがポンと俺の胸へと寄りかかって来た。

 

「‥‥ノブツナさん、私の事を知ろうとしていましたか?」

「っ!あー‥‥ナンノコトカナー」

 

 今はレキに本当の事を話してもらおうとは思えなかった。もし知ってしっまたら‥‥俺はどうなるんだ。俺にそんな覚悟があるのか‥‥心の中では迷いがぐるぐると渦巻く

 

「ノブツナさん、約束してください‥‥私を、本当の私を知ろうとしないでください」

 

 レキは俺の顔を見上げて告げた。無表情で無感情と言われた彼女の琥珀色の瞳が揺らいでいた。これは不安だ、不安と何か怯えているような表情をしていた。心がないなんて嘘だ‥‥彼女には今、感情があった。

 

「今‥‥今の私は貴方を失いたくありません」

 

 レキが静かに懇願してきた。だが今後、俺は本当の彼女の事を知らなければいけないはずだ。知るべきなのか、知らない方がいいのか‥‥迷いは止まることがなかった。

 

「‥‥もし知ろうとしたらどうなる」

 

「『風』が告げてきました‥‥貴方が本当の私を知ろうとするのなら‥‥貴方は死ぬと」

 

 

 また死ぬて‥‥風さん、相当俺を殺したいらしいな




 
 無理矢理繋げてしまいましたが‥‥シカタナイネ

 パチスロでレキによるブラド討伐の演出、超感動した(オイ
 レキにもっと活躍を‥‥


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7月クライシス
27話 予兆


「はぁ‥‥どうしたもんかなー‥‥」

 

 今日も授業をサボって食堂のテーブルに突っ伏す。ようやく初夏の暑さが近づいた今日この頃、憂鬱気味にこれで数百回目のため息をつく。気分がどうも授業とか任務どころじゃない、色々と悩んでいるせいで何も気乗りがしない。

 原因はレキのことだ。レキからは私の事を知らないでくれと無表情ながらも真剣な眼差しで言われたのだから今は無下に調べようとはしていない。彼女の事もあって最近はあいつがいる屋上へにも行ってはいない。でも気になるし、知らなければいけないという事は分かっている。

 

 知っているであろう鳰からは電話しても留守電になるし、スヴェンとも連絡が取れていない。ジークは‥‥そういえばあいつどこいった?最近会ってないような気がする。

 

 重要そうな情報を手に入れたがそれはほんの一握りで後は自分で調べろと言われても彼女の裏に潜む物がなんだか巨大すぎてどこから手をつければいいのか明け暮れている。本当のレキを知りたい、でも本当の彼女を知って俺はどうすればいいのか迷っている。

 

「はぁ‥‥」

 

 今日はよくため息をつく、自己新記録が更新しそうだ。いや、ここでくよくよしている場合ではない。本当の事を知らなければいけないんだ。そうと決まれば‥‥どうやって調べてようか。さっそく出だしで行き詰った。

 

 鳰という最大の情報源がいない今、手っ取り早く情報が得られそうな相手はいるか記憶を辿る。いや確かにいるっちゃいるけどさ、素直に聞いてくれるかどうかが問題か。兎に角当たってみるしかないと立ち上がって情報を持ってそうな奴の所へと向かおうとした。

 いや待て、ふと思い出した俺は辺りを見回す。前回、鳰から聞き出そうとしていたところにハイマキが現れ、その後すぐさまレキがやってきた。もしかしたら俺の行動を監視しているんじゃねえだろうか‥‥やっぱりもしかしてヤンデレ!?いやいやいや、レキがヤンデレなわけが無い、はず!どうにかしてレキの監視を避けて行けれないか思考を張り巡らせ、敢て遠回しして向かうことにした。

 

___

 

 遠回りに遠回りして、ハイマキが尾行している事を考えて匂いの強い香水を振り撒いて時間をかけて漸くあいつがいるであろう音楽室に辿り着いた。

 音楽室に近づくとピアノを弾く音が聞こえてくる。音楽は詳しくはないが結構上手に弾いているな。今日もあいつが弾いているのだろうなと窓を覗く。

 

 音楽室に武偵校のセーラ服を着た銀髪のポニーテールの少女、元イ・ウーのジャンヌ・ダルクがピアノを弾いていた。随分とまあ上手な事。彼女はこの武偵校に転入してからテニス部に入るわ、ピアノの練習するわとアグレッシブで瞬く間に女子の人気者になったとか。理子といいこいつらって相手を順応させるのは得意だよなー‥‥

 

「よぉ、騎士様。久しぶり」

 

 さっそく音楽室に入って気さくにジャンヌに声をかけると、ジャンヌはピアノの弾く手を止めて声に気づいてこちらに顔を向けた途端親の敵とでもいいたくらいの凄く嫌そうな顔をしだした。

 

「貴様‥‥何しに来た」

 

 ずいぶんと嫌ってんなぁおい。敵意剝き出しで、ここが戦場だったら間違いなく襲い掛かってくる勢いの剣幕で立ち上がる。

 

「別に嫌がらせしに来たわけじゃあない、少し聞きたい事があって尋ねてきたまでだ」

「貴様に話すことはない、と言いたいが理子をブラドから救ってくれた件もある。理子に免じて話ぐらいは聞いてやろう‥‥だがその前に」

 

 ジャンヌは俺を睨んでずかずかと歩み寄ってくると思い切り俺の頬をひっぱいた。パーンと乾いた音が音楽室内に響く。

 

「私を騙した事と理子のプライドを傷つけたツケだ。これで水に流してやる」

「お、おうふ‥‥」

 

 ビンタは結構痛かったがグーパンじゃなくて良かった!取りあえず話は聞いてくれるということで俺はすぐさま音楽室のカーテンを閉め、ドアと窓のカギを全てロックした。これでよし‥‥って、ジャンヌが顔を引きつらせて身構えだした。

 

「な、何のつもりだ!?私にナニをするつもりだ!?」

「ナニもしねえって。こうしないとレキに見つかっちまう」

 

「レキが?確かお前とバディを組んでいる奴のことか」

 

「ああ、目が利く上に鼻も利くからな」

 

 鷹の眼と言わんばかりの彼女の眼でどこへ隠れていようとも見つかってしまう。そんな目が利く彼女にハイマキという鼻も利くセットがついてからこの上なく厄介になった。付け焼き刃な隠れ方だからここもバレるのも時間の問題、兎に角本題に乗ることにした。

 

「元イ・ウーのお前なら知っているかもしれねえと思って尋ねる。ジャンヌ、『ウルス』って知っているか?」

 

 怪盗リュパンとかジャンヌダルクとか吸血鬼とかトンデモ人材が揃うよく分からん秘密結社だ、恐らくウルスの事も知っているに違いない。それを狙って尋ねてみたらジャンヌはピクリと反応した。よし、アタリだ。

 

「‥‥なぜお前がウルスの事を知っている」

「あまり他の奴等にも口外すべきじゃないのだが、レキがそのウルスの民でしかもウルスの姫なんだ」

 

 するとジャンヌは驚いて目を見開くと俺の胸倉を掴んで揺らして来た。

 

「う、ウルスの姫だと‥‥!?貴様、事の重大さを分かっているのか!?」

「分かるも何も知ったのは先週だぞコラ‼どのくらいヤバイのか分かんねえからお前に聞いてるんじゃねえか!」

 

 鳰の話から聞いてひとまずヤバイ一件だという事は自覚している。その規模を知りたいから尋ねて来た。ジャンヌはため息を漏らして興奮を沈める。

 

「‥‥すまない、気付かなかった私も落ち度もある。だが、レキがウルスの姫だとは‥‥いや、十分納得はできるか」

「ウルスの民は狙撃が得意な所とか?」

「‥‥ちょっと聞くが何故知ってる?」

「あー‥‥今は行方知れずでこういった事に詳しい腐れ縁から聞いた」

 

 鳰さんはレキから出禁をくらって音信不通だ。たぶん生きてるだろうけど顔を出したらレキに狙い撃たれるだろうなぁ‥‥

 

「あとレキは何かの直系の末裔だとか?」

「ウルスの民はもともと弓と矢でアジアを席巻した蒙古の王、チンギス=ハン。彼の戦闘技術を濃く受け継いだ末裔の一族なのだ」

 

 ‥‥は?チンギス=ハンってあのチンギス=ハン!?衝撃の事実を知ってもう愕然とするしかない。同居しているバディがスーパー有名人の末裔でしたー、って笑い事じゃねえ。

 

「マジか‥‥いやマジか!?」

「大マジだ。何故そのウルスの姫が此処にいるかは分かり兼ねるが‥‥私の憶測だが婿を探しに来たのかもしれないな」

「たしか今女性しかいないんだっけか?」

 

 これも鳰から貰った情報だ。何故女性しかいないのかは分からないが。ジャンヌは「なぜお前がそれを知っている」というような疑いの眼差しを向けるが頷いた。

 

「ウルスは元々閉鎖的な民族だからな、同族の血が濃くなりすぎて異常をきたし女しか産まれなくなったかもしれない‥‥だがそれが原因なのだろう」

「どゆこと?」

「今、ウルスは『藍幇』という中国の武装組織と抗争が起きている。『藍幇』の狙いはそのウルスの優秀な血、それとウルスの奥に在る物だ」

 

 つまりはブラドと同じように優れた遺伝子を欲しいというわけか。連中のことだから拉致や略奪もやろうとしているのだろうなー‥‥ん?ウルスの奥に在る物‥‥?それは後から聞くとしよう

 

「レキはお前か、力のある者との子を成してウルスを建て直そうとしているのやもしれん」

「そうさなー‥‥あいつの行動を考えると心当たりがありまくるな」

 

 これまでの行動と言動を振り返ると、レキは自分の意思で動いていない。どちらかと言えば『誰か』に命令されて動かされているような‥‥そうだ、『風』とか言うクソ野郎だ。

 

「レキは『風』っていうクソ野郎に言われるがまま、自分の意思で考え動いたことがなかった。だから俺は自分の意思で選ぶよう教えた結果、ヤンデレ寸前なことになっちまったんだが‥‥」

「恐らくレキは迷っているのではないか?『風』とやらが痺れを切らして今すぐにお前を奪えとでも言ったのだろう。だがお前に自分で考えろと教えられたレキはどちらに従えばいいか考え、悩んだ結果そのような行動をしたのだろうな」

 

 確かにレキは俺を失いたくないとも言って、自分に関われば俺が死ぬとも言った。無表情、無感情故に誰とも繋がりを持たず孤独だったレキがやっと仲間ができて自分だけの自分の道を歩もうとしているところを『風』がまた孤独の道へと連れ戻そうとしているわけか‥‥

 

「ジャンヌ、どうやったらレキを『風』のクソ野郎の呪縛からひっぺ剥がすことができる?」

「お前、本気で言っているのか‥‥いや、お前だからだろうな。ノブツナ、一つ方法がある。レキの、ウルスの姫としての役目を奪え」

「奪えて‥‥まさかはじめてを!?」

「バカ」

 

 ジャンヌは呆れて俺に再びビンタをした。顔を赤らめてるところお前もウブのようで

 

「ウルスの姫は『声』を聴くために心を無にして育てられたと聞く‥‥『声』を聞こえなくさせるためにレキに感情を芽生えさせればいい」

 

「感情ねぇ‥‥難しくね?」

 

「難しいが、難しく考えるな。そうだな‥‥レキを笑わせると考えればいい」

 

 笑わせる、か。確かに一度もレキが笑う所は見たことがねえな。『笑えばいいと思うよ?』と言えるシチュエーションを造れば勝ち確だが‥‥レキの場合は難易度が高そうだ。だがその分きっといい笑顔になってくれるはず。

 

「いいだろう、やってやろうじゃねえの。散々俺に死ね死ねっていってる『風』のクソ野郎に仕返しができる」

 

 この作戦を考案してくれたジャンヌに感謝せねば。まず最初のお礼にさっきからジャンヌの足の周りに飛んでいる奴を思い切り蹴とばす。

 

「む、どうかしたのか?」

「いや気づいていなかったのか?お前の足の周りにカナブンみたいな虫が纏わりつこうと飛んでたぞ?」

 

 のびている虫をティッシュで何重にも包んでゴミ箱へ放り投げる。なんだろうかこの虫、フンコロガシみたいな見た目をしてんな‥‥新種か?

 

「だからさっきからちらちら私の足を見ていたのか‥‥」

 

 睨むな睨むな、スカートを抑えて睨むな。見たいとは思うけど今は見てる場合じゃねぇって。それはさておき、少し気になっていた事をジャンヌに聞かなくては。

 

「イ・ウーの場合、そんな情報はどうやって手に入れてんだ?」

「私は聞いたまでだ。イ・ウーのリーダーが一度ウルスを訪れた事があったようでな、あの時はイロカネ絡みの交渉だったが‥‥」

「『イロカネ』?」

 

 なんだそのイロカネとか言うのは。こればかりは初めて聞いたな。ジャンヌは『余計な事を言った』というような顔をしだす。

 

「もしかしてそのイロカネとやらがウルスの奥に在る物とか『声』の正体なのか?」

「い、いやそれは‥‥」

 

 ジャンヌがどもりながら何か喋ろうとしたその時、ドアを激しく叩く音とワンワンと吠える声が聞こえた。

 

「くそっ!ハイマキの野郎、もう嗅ぎ付けやがったか‼」

 

 こうしちゃいられない、このままだとジャンヌまでもがレキの狙撃対象にされちまう。貴重な情報源を失う訳にはいかない。最後のガラスをぶち破るような勢いで窓ガラスへとぶち破って音楽室から脱出した。

 

「ジャンヌ・オルタ!貴重な情報サンキューな!今度飯奢ってやっからな!」

「オルタじゃない、普通のジャンヌ・ダルクだ‼」

 

 ハイマキの追跡はなし、レキの狙撃もなし‥‥何とか逃げ切れそうだな。ジャンヌのおかげ他にも情報が手に入りそうな人を見つける事ができた。ウルスは中国の藍幇と抗争‥‥こういった事情とか、あの人が知ってそうだ。

 

 あとはレキを笑わせる、か‥‥いっちょやってみるか

 

__

 

 ドアが開く音とハイマキの呼吸の音が聞こえる。レキがハイマキの散歩から帰って来た。リビングへと進む足音が近づいてくる、さあここから本番だ。

 

「ノブツナさん、ただいま帰りました」

 

「Hai、レキ!待ってたYO~!」

 

 俺は鼻眼鏡をかけて、某海産物家族のジャンケンをする面白い髪型の人のカツラを被って、両手に某夢の国のネズミの手袋をはめて、ドテラを着てヘリウムガスを吸って変な声をだしてレキを迎えた。このいきなりの場面でレキはきっと吹き出すだろう、どや‼

 

「‥‥‥」

 

 が、ダメ。レキは笑う事無く無表情でじっと俺を見つめていた。

 

 なんでや!なんで笑わないねん!渾身のギャグやぞ!?というかハイマキ、お前までそのチベットスナギツネみたいな顔をして俺を見るんじゃない。

 

 ええい、こうなったらゴリ押して吹かしてやる!

 

「お、お帰り!御飯にする?お風呂にする?それともぉ、わ・た・し?」

「ノブツナさん」

「あっはい」

「今日、音楽室でジャンヌさんと何かお話されていたようですが‥‥何を話していたのですか?」

 

 レキは俺のギャグをことごとくスルーしてずいずいと俺に歩み寄って来た。怖い!?無表情だけどもじっと見つめるその瞳がなんか怖いよ!?

 

 まずいぞ、このままでは本当にレキがヤンデレ少女になって俺が安心して寝ることができなくなる‥‥!

 

 そして何よりも本当のレキを調べようとしている事がバレればレキはジャンヌを本気で殺しにかかるかもしれん、これだけは避けなければ‥‥!

 

「じ、実はなー、レキの誕生日プレゼント何がいいかなーって相談してたんだ!」

「誕生日プレゼント‥‥?」

 

 俺の疑いの眼差しがふっと消え、レキはキョトンと不思議そうに首を傾げた。

 

「‥‥私は誕生日なんて無縁に育てられたのでいつ生まれたのかは覚えていません」

「だ、だからさ!それも踏まえて俺が決めていいのかなーってジャンヌに相談したんだ」

「ノブツナさんが決めてくれるのですか‥‥?」

 

 レキはどこかハッとした顔で俺を見つめる。よ、よしまずは回避はできたか‥‥?

 

「お、おうよ!そろそろ俺の誕生日が近いからそれに合わせてプレゼントしよっかなーってな。楽しみにしてろよ?」

「‥‥」

 

 レキは静かに頷いた。どこか安心と不安が混ざった複雑そうに迷っているのか瞳が泳いでいる。ジャンヌの言う通り、レキは悩んでいる。不安を払ってあげるように俺はレキを撫でた。

 

「サイプライズは後ほどにして‥‥今日はレンタルDVDが半額の日だったんだ。これでもみて気分を吹き飛ばそうぜ!」

 

 俺は『エンタメ』をはじめ『爆笑ヒット〇レード』や『笑ってはいけない武偵校24時』、『20時だよ、全員集合!』そして『〇本新喜劇』のDVDを用意して上映することにした。よし‥‥!これならきっとレキも大爆笑間違いなしだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DVDの上映中、うんと笑った。大爆笑した、腹を抱えて大笑いした

 

 

 

 主に俺が

 

 

 

 レキは笑うどころか顔色一つ変えることなく何も言わずじっと映像を見続けた。

 

 ハイマキは爆笑している俺をチベットスナギツネのような顔をして見つめていた。

 

 

____

 

「――――ってなことがあってな、レキは笑わなかった」

「お前はバカか」

 

 電車内で俺の報告を聞いたジャンヌは呆れてため息をついた。早朝からジャンヌは部活の朝練に向かうので俺もそれに合わせて朝早く起きてアドバイスを貰うために彼女の下へと向かったのだ。

 

「そんなので笑うと思うかバカ者」

「笑うと思うけどなー、24時の蝶野にビンタされるところとかエンタメは陣内さんとかおススメだぞ」

「お前の情報なぞいらん!というかお前が女心を知らないと予想はしていたがそこまでとは‥‥」

「レキはラーメンが好物だけど?」

「そういうことじゃない‼」

 

 ジャンヌは怒鳴ると呆れて頭を抱えた。うーん、乙女というものはよく分からんな。

 

「お前じゃなくてレキが喜びそうな事をしろ。そうだな‥‥贈り物とか何か美味しい物を奢るとか」

「ラーメン」

「ラーメンから離れろ‼スイーツ!甘くておいしいものとか‼」

 

 ラーメンはダメ、とジャンヌはプンスカ怒りながら頑なに言ってきた。ラーメン好きな女子も可愛いと思うんだけおどなぁー。まあジャンヌのおかげで女性が喜びそうな物を贈るとか選択肢が増えた。

 

「ありがとなジャンヌ。ところでさ、朝から人が多すぎじゃねえの?」

「お前は通勤時間に学校に来ないからわからないのだ。少しは早起きして早めに登校しろ」

 

 それなら誰もいない教室で朝からダラダラすることができるからいいな。だがこうも人が沢山乗り込んでくるのは‥‥‥ん?

 

 電車が駅に着いて扉が開き、電車を待っていた人達が乗り込んでくる中俺は奇妙なものを見た。

 

 乗り込んでくる人混みの中、一人だけおかしい奴がいる。鎖帷子のついた顔まで覆う忍び装束を着て、日本舞踊に着ける仮面‥‥あれは翁とか言うやつだっけか、そんな仮面をつけた変な奴がいた。何故誰も気づかないのか、変に思ってじっと眺めていたら―――――――そいつと目が合った。

 

「――――っ!?」

「?どうしたノブツナ?」

「な、なんか変な奴と目が合った‥‥」

「変な奴?通勤のサラリーマンや武偵校の生徒しか見えないが‥‥?」

 

 もう一度そいつがいた方を見たら、そいつの姿はなかった。確かに俺は見たはずなんだが‥‥いや気のせいだったのか?変に朝早く起きたからまだ寝ぼけているのだろうか‥‥

 

 電車の扉は閉まって出発をする。やっぱり朝の電車は乗り込んでくる人が多い、ジャンヌは早起きはいいものだと言うが明日から普通通りに遅く起きてのんびり歩いていこう。

 

 そう考えて今だ眠たいあくびをしながらちらりと後ろを振り返った。

 

 

 

 

 

 

 背後には忍び装束を着て翁の仮面をつけた奴が俺とジャンヌの首を狙って分厚い刃を持った小太刀を薙ごうとしていた。

 

 

 いたじゃねえか!?

 

 

 俺はすかさずジャンヌを押し倒して躱す。小太刀は空を切ったが翁の仮面の奴は俺めがけて刀を振り下ろそうとしてきた。慌てて避けて凶刃から逃れる、空振りに終わったが空席の場所は見事にバックリと割れていた。どんだけ鋭い切れ味なんだよ!?

 

 異変に漸く気付いたのか、女性の悲鳴で辺りが騒然となり乗客はパニックになって逃げ惑いだす。翁の仮面の野郎はゆっくりと俺とジャンヌの方へ顔を向けて小太刀を構えた。

 

「じゃ、ジャンヌ?あれイ・ウーのお知り合い?」

「し、知らん!あんな奴、見たことがないぞ‥‥!」

 

 ジャンヌも知らないとなると‥‥一体誰だ?すると翁の仮面の野郎は俺の方へと視線を向けてきた。

 

「君が‥‥犬塚、ノブツナくんでしたな‥‥?」

 

 ゆっくりとした落ち着いた男性の声だ。いやそれ以前に何で俺の名を知っているんだ?

 

「子供相手に大人げないと思うが、これも命令でね。君を殺させてもらうよ?」




 
 新章突入

 シリアスは下手だけどシリアスになるかも

 エンタメとかヒットパレードは陣内と超新塾とオードリーが好き
 最近はどんなのがいるのか見てないからわからない‥‥


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28話 再会

 朝から忍者みたいな奴に襲われた。やっぱり早起きは碌な事がない。

 

 早朝から通勤通学の人々の悲鳴が電車内に喧しい程響く。乗車していた武偵の幾人かが一般人を安全な車両へと避難誘導していき、他の幾人かは銃を構えて仮面の忍者に動くなと銃口を向ける。

 

「‥‥ふん」

 

 仮面の忍者はそんな彼らを鼻で嘲笑い、ゆっくりと俺に近づいていく。あいつは俺が狙いで周りの相手は眼中にない、いや銃で撃たれるよりも早く相手を仕留めることができる自信があるのだ。

 

「銃は人の命を奪う事もできる‥‥君達は自分が死んでも構わない覚悟があるかね?」

 

 仮面の忍者は挑発しながらゆっくりと近づく。俺は絶対に誰も撃つなよと他の武偵達に睨みをきかす。

 

「ジャンヌ、お前エクスカリバーはどうした」

「エクスカリバーじゃない、デュランダルだ。生憎だが今は修理中で持っていない、だが剣以外にも銃の心得はある」

 

 ジャンヌは剣の代わりとCz・Cz100を引き抜きリロードをする。どちらかと言えば剣の方がありがたかったがないよりかはマシか。

 

「そういうお前は刀はどうした?」

「早起きしたせいで忘れた。ったく、こんなんだったら早起きすんじゃなかった」

 

 LARグリズリーを引き抜いて銃口を忍者へと向ける。仮面の忍者はゆっくりと歩んでいた足をぴたりと止めた。これ以上進んだら撃たれると悟ったのか、軽くため息を漏らした。

 

「私もこんなごっこ遊びをしている連中に舐められたものだ、死と隣り合わせだということを今一度教えなくてはな‥‥!」

 

 仮面の忍者は肩を竦めて声を低くした。あいつ怒っているのか? 

 そしてそいつは身を低くし、握っている小太刀を突きの構えのままゆっくりと手を引いていく。

 

 このまま突進して突いてくるのか?いやそれならば動いた瞬間銃を構えている此奴らのハチの巣にされる、それじゃあなぜ‥‥?考えている合間に武偵の生徒の一人が痺れを切らして構えている銃の引き金を引こうとした。

 仮面の忍者は瞬時に小太刀の後ろ先端を左手でトンッと押したような動作をした。その刹那、あいつが持っていた小太刀が消えた‥‥

 

 いや、消えたんじゃない、飛んだんだ‥‥‼

 

「伏せろ‼」

 

 咄嗟に後ろにいる連中に叫んだ。が、叫ぶよりも早く勢いよく飛んだ小太刀は引き金を引こうとした武偵の顔面に突き刺さった。彼は銃を撃つことなく鮮血を飛ばして倒れた。倒れた武偵の隣にいた武偵の女子は悲鳴を上げた。

 

「ほら言わんこっちゃない」

 

 仮面の忍者はやれやれと肩を竦めて呆れたようにため息をついた。俺とジャンヌはただ驚くことしかできなかった。どうやってあの構えのまま飛ばしたのか、ジェット噴射のような勢いを出して飛ばしたのか想像もつかない。

 

「あいつの狙いは俺だ!死にたくなかったら下がれ‼」

 

 これ以上被害を出すわけにはいかない。朝ッパから武偵が死にまくったらシャレになんねえって!仮面の忍者はフンと鼻で笑って他の武偵達が下がるのを待った。なんかなめられてる‥‥

 

「ノブツナ、どう出るのだ?相手はもう得物は持っていないぞ」

 

 ジャンヌはそう言うが俺はうかつに手を出せない。ああいった奴はまだ他に武器を隠し持っているはずだ。こちらは銃を持ってるから距離は牽制できる‥‥と思いきや、仮面の忍者はどこから取り出したのか両先端に重量のある分銅がついた長い縄を取り出した。

 

「‥‥大人げないと思わんでくれよ?」

 

 仮面の忍者は嘲笑うかのように告げると、両手に紐をもって勢いよく振り回した。ただ手で回しているだけで風が巻き上がるだなんて‥‥しかも速い!先端につけられている分銅が全く見えねえ。

 

「‥‥ふんっ!」

 

 仮面の忍者が投げるような動きで腕を伸ばした。飛んでくる分銅は速すぎて見えねえが相手の腕と手で軌道を読むしかねえ‥‥!俺は急ぎ身を屈めたその刹那頭上で空を切るような音が二度通り過ぎた。間違いなく分銅が俺の顔面を狙って飛んできたのと忍者がすぐに分銅を引き戻した。急いで動かねえと次が来る‥‥!

 仮面の忍者は低めを狙うかのように手を横へ薙いだ。次は膝だ、後ろへと飛んで避けて先手を打たれる前にLARグリズリーを撃った。放たれた弾丸は俺の顔面を狙って飛んできた分銅を弾かせる。

 

「‥‥いい目だ」

 

 仮面の忍者は関心したかのように呟いた。紐や鎖を介して使われる武器は先端の速度が目にも止まらぬ速さになるが、全ての軌道は術者の手に伴われる。武器本体が何処から飛んでくるか、術者が教えてくれる‥‥本部師匠から教わったいつ使われるのかなーって思ってた賜物だけど今すっごく役に立ってる。

 

 そして今回はジャンヌがいる。とても好都合だ。

 

「ジャンヌっ!」

「分かってる!銀氷よっ‼」

 

 俺の横でジャンヌは床に手を置くと床が凍り付き始め、彼女の能力で発現された氷は忍者の足下めがけて広がっていく。相手に異能者がいる事に気づいた忍者はすぐさま後ろへと下がる。相手の足に氷を張り巡らせて足止めさせる作戦は失敗したが牽制はできたはずだ。

 

「ふむ‥‥異能者もいたか」

 

 相手は想定内だとでもいうかのような余裕綽々な様子だ。ちょっとなんか本当にムカつくな‥‥

 

「残念だ、少しは遊んでやろうと思ったが時間はなさそうだね」

 

「当たり前だこの野郎‼てめえはもう袋のネズミだっての!」

 

 ここは今も走行中の電車、そして行先は学園島。もう連絡はされているだろう、他の武偵も向かっていたり待ち構えていたりしている。俺とジャンヌがいるし、こいつには逃げ場はねえ。どういった料簡で俺を殺そうとしたのかとっ捕まえてみっちりと絞ってやらねえと。

 

「それならば―――――」

 

 忍者は持っていた長い縄のついた分銅を投げ捨てた。何をするつもりだ?このままお手上げか?ふと不審に思ったその直後、忍者の雰囲気が変わった。一瞬、冷たい殺気を感じた。

 

「―――――本気で殺さなければね」

 

 言いだしたと同時に仮面の忍者が一気に動いた。1歩、2歩、そのわずかな歩数で間合いを一瞬にして縮ませ数秒でジャンヌへと迫って来やがった。

 忍者は右手を貫手の構えにしてジャンヌへと突こうと動く。まずい、忍者野郎はジャンヌを殺す気だ‥‥!すぐさまLARグリズリーを奴の右手に狙いをつけて引き金を引いた。放たれた弾丸は奴の右手を―――――――貫かず弾かれた。

 俺は見開いて驚くが忍者はそれを待っていたかのようにジャンヌの体を貫こうとしていた右手を大きく開かせ、腕を脱力させたようにしならせて体を横に動く勢いで俺の体めがけてその右手を打ち込んできた。

 

「っっでぇっ!?」

 

 その威力は引っ叩かれたのと比べ物にならない程の威力だった。ビンタじゃない、まるでデカイ鞭で思い切り叩かれたような痛さだ。

 

「ノブツナっ!?」

 

 ジャンヌはすぐさまCz・Cz100を撃とうと引き金を引こうとしたが忍者は彼女よりも速く右手による掌底を打ち込まれ吹っ飛ばされた。やばい、本当にマジで殺しにかかってきてる‥‥起き上がろうとしたが忍者が俺を抑え込んできた。

 

 

「っ‥‥何が目的なんだ、てめえは‥‥‼」

「君が知る必要はない。君が死ねば好都合だと言われているだけだ」

 

 俺が死ぬと好都合‥‥いやいやいや、本当に心当たりがないんですが!?いや、あるとすればまさかレキ関連か!?

 

「少しクイズを出してあげよう‥‥‥‥この地球上で最も強力な毒ガスは何か分かるかね?」

 

 最も強力な毒ガス?それって一体‥‥と考えている間にも忍者は左手をゆっくりと俺の顔へと近づけようとしてきた。その左手を見た瞬間、ぞくりと冷たい気配が‥‥いや、気配じゃない。これは予感、これをくらったら間違いなく死ぬかもしれない予感だ。

 

 あ、やばい――――これマジで死ぬ

 

 

「―――――朝から早々事を起こすだなんて、相変わらずねノブツナ君」

 

 どこからか聞き覚えのあるような声が聞こえた瞬間、忍者の仮面と体に何か弾丸の様なものが当たった音が聞こえた。忍者は痛みを耐える声を漏らして俺から離れる。拘束された身が自由になったと同時に俺はすぐさま転がって離れ、声のした方へと振り向いた。

 

 武偵校の女子制服を着た、茶髪の綺麗な三つ編みと絹のように白い肌に華奢ながらも力強さをも感じる凛々しさを持つ人物がいた。どこの馬の骨とかいうレベルじゃない、あいつは間違いなく見覚えのある人だ。

 

「カナ‥‥さん!?」

 

「久しぶりね、ノブツナ君。キンジとは仲良くやってるかしら?」

 

 カナは驚く俺にウィンクをした。彼女、否彼は遠山金一、あの遠山キンジの兄である。どういう訳かは分からないが女性に変装している時は遠山カナと‥‥なんかややこしいがれっきとしたキンジのお兄さんである。驚くのも当たり前だ、彼女‥‥いや彼は、いや今は彼女か‥‥ああもうややこしい、カナは一年前の豪華客船沈没事件で行方不明になっていたんだ。メディアや他の武偵は死んだとされていたが‥‥まさか生きてて帰って来たとは驚きだ。

 

 カナは微笑むと持っているコルトS.A.Aの銃口を仮面の忍者へと向ける。

 

「何方か知らないけど‥‥次は狙いを外さないわよ?」

 

 見たことはあまりないのだがカナの撃つ銃弾は仕掛けは分からないのだが不可視レベルの速さで放たれる。いわば不可視の銃弾、軌道を読まれることなく確実に仕留める超強力な技だ。静かに見つめるカナに対して仮面の忍者はため息を漏らすと左手を電車の扉へとぺたりと密着する様に押し付けた。

 

 

「邪魔が入ったか‥‥まあいい、まだ時間と余裕がある」

 

 左手を強く押し込んだ直後、電車の扉がベコン‼と大きなお音を立ててひしゃげて吹っ飛んだ。な、なんつう力だ‥‥!?というかどうやって左手だけで扉をぶち開けたんだ!?

 

「また今度会いに行くとしよう」

 

 忍者はそう言い残して飛び降りていった。追いかけようとしたがカナに止められた。電車はかなりの高さのある場所を走ってる。ここから追跡は不可能ってか‥‥

 

「ノブツナ君、取りあえず今はけが人の手当てと事態の収拾をしましょう」

「‥‥カナさんの言う通りっすね。それと、この後時間はあります?」

 

 カナがどっか消えてから色々と面倒な事が起き続けているんだ、積もりに積った鬱憤を聞かせてやらなければ。察したカナは苦笑いして頷いた。

 

___

 

「なんで死んだふりしてたんです?おかげでメディアに騒がれてうざかったんですから」

 

 学園島の公園のベンチでリーフパイを食べながらジト目でカナを睨む。勿論、学校はサボりだ。それよりもカナが死んだと思われたその後が本当に面倒だった。メディアは武偵を叩いてマスコミ連中はキンジの部屋の前まで押しかけてきやがった。おかげでキンジはノイローゼになりかけるし、隣に住んでた俺は連中がうるさくて居眠りすらままならなかった。まあ腐った生卵ぶん投げて追い払ったけど。

 

「ノブツナ君やキンジには迷惑かけたのは謝るわ、でも死んだふりをした理由は話せない」

「俺にも言えない理由っすか?」

「ごめんなさいね‥‥どうしてもやらなきゃいけないことだから」

 

 様子から見てとても重要な事なんだろうな。キンジのお家にキンジを奴隷扱いしてるピンクツインテロリ、ドエロい下着を身に着けてる幼馴染の巫女と最近じゃ金髪ロリ巨乳な怪盗までにも色使ってて修羅場になってるし‥‥ああ多分それがお兄さんにバレて家族会議ものになったんだろうな。

 

「‥‥なんというか、お察しします」

「?」

「そうだ、カナさん。今朝の忍者野郎、心当たりはありませんか?」

「あの忍者ね‥‥」

 

 カナは静かに首を横に振った。武器や暗器の使い手の上に徒手空拳もかなり強い曲者、いったい何者だったのか。気になるのはあいつの手。右手は弾丸を弾いたことから恐らく頑丈な義手だろう。そして蹴り開けることすらできない電車の扉をぶっ飛ばした左手。あの左手からはぞくりと嫌な気配を感じたが一体何を仕掛けていたのか‥‥

 

 というか、また今度会おうと言ってきやがったし下手したらすぐにでも再会しそうで怖い。どういう理由かは分からないが俺を狙っている。

 

「次はいつ貴方に襲いかかってくるか‥‥警戒しておいた方がいいわ」

「勿論っす。トラバサミや地雷とかトリップマインとか仕掛けておきますから!」

 

 警戒は万全にしておかければ。カナは苦笑いして頷く。

 

「さてと、私はそろそろキンジに会いに行くわ‥‥そうだ、ノブツナ君。貴方に伝えなければいけない事があるの」

 

 するとカナは真剣な表情で俺を見つめてきた。去年、一度手合わせをしてくれた時と同じ様に、キンジの前からいなくなる前日の時と同じ様に、重大な事をやる覚悟を決めたような顔をして見つめる。

 

「急ぎなさい、世の中は貴方を待っててくれない。貴方がやるべき事を、決断を下す日はもう目の前に迫って来ているわ」

 

「それって‥‥もしや」

 

「ごめんなさい、貴方に力を貸してあげたいけれど私にも時間がないの。教えてあげれる事はこれだけ‥‥」

 

 カナはそう述べて武偵校に向かって去っていった。ジャンヌといい、仮面の忍者といい、カナさんといい、誰もかれも意味深な事を言い残すよなぁ

 

 急ぎなさい、か‥‥はやくレキを笑わせないとな




 
 今回は少し短め

 諸事情で更新が遅くなります
 申し訳ございません(焼き土下座


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