魔法の世界にこんにちは (ぺしみんと)
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Act.1 『hello』
1話 目が覚める


わたくし、初の物書きでございます。

どうぞよしなに。


 気が付くと、そこは病院でした。

 

「!?」

 

 あ……ありのままに今起こったことを話すぜ! 俺は大学生として何の変哲もない日々を送っていた。だが、いつもどおりに就寝し、目が覚めたら……

 

 体が縮んでしまっていた!

 

 なにこれ。ここは……病院か? どこのだ? あーもう、「知らない天井だ」って言えなかったじゃないか! 違う、そこじゃない。パニクってるね。まあ、いきなり病院のベッドの上で、しかも体が縮んてるとか、普通パニックになるよね。むにーっとほっぺをつねる。痛い。普通に痛い。夢じゃないのか。まじかよ。

 

 落ち着け、俺。koolになるんだ。

 

 どうしてこうなった?

 

 1.タイムスリップ

 

 2.転生、または憑依

 

 3.APTX4869を飲まされた

 

 まともな選択肢がない件について。

 

 脳内で騒いでいると、誰かがノックしてきた。返事をしようか迷っていると、ドアが開く。ノックの意味は?

 

「おや? 目が覚めたようだね。よかったよ」

 

 そう言って入ってきたのは、外人っぽいお爺さん。やべえかっけえんだけどこの人。いかにも英国紳士って雰囲気。でも、なんか軍人みたいなガッチリとした体格。強そう。ビッグボスかと思ったよ。

 

「驚かせてしまってすまない。私の名はギル・グレアム。君のお父さんとお母さんの上司だよ」

 

 ん? 両親の職場は違ったはず。となると……まさかこれは憑依か? 選択肢2なのか?

 

 まじかい。んな馬鹿な。まさかそんなことがあるわ

 

「どうかしたのかい、晃一くん?」

 

 俺は、晃一くん……じゃなーい! 憑依決定ですねありがとうございました。

 

 

 

 

 

 というわけで記憶喪失ということにしました。本人の振りとか無理だもん。この体の子の記憶は本当にないし、嘘はいってないよね!

 

 グレアムさんは驚いていた。そりゃそうか。

 それでも、信じてくれたかは別にして、色々丁寧に説明してくれた。なんとなく雰囲気とかで察していたのかな? 何にせよありがたい。

 

 そこで語られる驚愕の事実。

 

 グレアムさんや俺の両親は魔法使いなのだそうだ。マジ異世界。最初は宗教かと思ったけど実際に魔法を見せられたら否定のしようがない。

 

 魔法かあ。これはあれだな、アニメやゲームのあんな技やこんな技が再現可能ってことじゃないですか。燃えるね!

 

 古夜晃一君の外見だが、まあ普通。イケメンではないけどブサイクでもない。ただ普通じゃないのは、なんと、左目が紅かった。虹彩異色症ですよ。

 

 まさかのオッドアイである。他が普通なおかげで、なんか目立つ。あと真っ赤で怖い。

 

 良い(?)話ばかりではなかった。

 

「父さんと母さんが、殉職?」

 

 両親はどうやら管理局というここでいう(ここは普通に地球の日本だった)警察のようなものに勤めており、犯罪者グループとの戦闘中、相手の自爆特攻から他の局員を庇い死んでしまったらしい。

 

 憑依よりも衝撃的だわ。そりゃ自分の両親とは違う人なんだろうけど、それでもこの体の子の両親は居ないのか。いきなり前途真っ暗だ。

 

 ……僕を主人公に作品を書くとすれば、それは『悲劇』だ。

 

 ふざけるのはやめとこう。

 

 ショックを受けた古夜晃一君は錯乱し、病院に運ばれ、今に至るというわけだ。

 

 晃一君の精神はどうなったんだろうか。

 …………考えんのはやめとこ。こういうの、答えが出る訳じゃないだろうし、泥沼にはまるだけだな。

 

 まずは自分のことだ。

 

「俺はいったいどうなるんですか?」

 

「お金の面では私が管理、支援させてもらうよ」

 

 グレアムさんいい人そうだしその辺は安心か。

 

「他に何か要望があればできるだけ応えさせてもらうよ」

 

 なんかやけに甲斐甲斐しい気がする。……いや、これは疑いすぎだな。厚意は素直に受け取っておこう。

 

「ありがとうございます。じゃあ、ひとつだけ」

 

 どう生きてくにしろ、これは絶対に譲れない。

 

「俺に魔法を教えてください」

 

 やっぱ憧れるじゃん、魔法。

 

 

 

 

 

 退院してから数ヶ月が経ちました。絶賛一人暮らし中の古夜晃一4才です。魔法の練習に精を出す日々を送ってます。

 

 といっても、グレアムさんも忙しいので、週末に使い魔である猫のロッテリア姉妹に魔法の基礎を教わっています。

 

「略すんじゃないよ」

 

 何故わかったし。姉がリーゼアリア、妹がリーゼロッテである。

 

 今日の講師は妹のリーゼロッテ先生。かわいい。

 

 使い魔は人型になれるのだが、なんとこの姉妹、人になっても猫耳は残っているのである。ネコミミ、ケモミミ、ケモノミミである。超かわいい。

 

「よーし、じゃあ始めるよー」

 

 そんなことを考えてるうちに修行スタート。

 

 といってもまだ基礎なので、そこまでスパルタになることはないはず……なのだが。

 

「いやーなんというか、ぎこちないねー。才能無いんじゃない?」

 

 ひでぇ。容赦ない。

 

 まあ実際その通りなんだけどね。悔しい、でも感じちゃう!

 

「頭はそれなりにいい自信はあるんだけどなあ」

 

 この世界の魔法は、なんというか理系なのである。プログラムだのなんだの。

 

 これでも理系の大学生だったし、4才のこの体としては十分すぎる頭だとは思うのだが。

 

「そりゃあ、まあ、そうだけど」

 

 何でだろうか。

 

「ん~……何となく理由は分かるわ」

 

 kwsk。

 

「あんた頭が固いのよ。子供の癖に」

 

 頭が固い、とな? まあ確かに。中身わりと大人だし。それはあるかも?

 

 どうすればやわらかくできるか。

 

 ……はっ! そうか、成程ね。

 

 俺が閃いた、というよりは思い出したのは某風祝さんの言葉である。

 

『常識にとらわれてはいけないのですね!』

 

 そうだな。魔法が俺の常識に当てはまる訳がない! このセリフは真理をついている!

 

 常識を捨てろ。

 

「わかった。次はいける」

 

「急にどしたの?」

 

 

 

 

 

 結果からいうと、コツをつかみました。

 

「何があったの?」

 

「真理を悟った」

 

「馬鹿言うな」

 

 怒られちった。

 

「まったくもう。……今日はもうおしまい。しっかり三食食べて、健康に過ごしなさいよ?」

 

 なんだかんだいって面倒見のいいリーゼロッテさん大好きです。

 

 そうしてリーゼロッテは帰った。来週はアリアが先生だね。

 

 さ、買い物にいかなきゃ。

 

 

 

 

 

 買い物をしながら、そろそろ体も鍛えなきゃな~なんて考える。

 

 やっぱ漫画の技を使えるようになるためには、それなりの体が必要だと思うんだ。

 

「すんません、そこのドレッシング取ってくれませんか?」

 

「これですか? はいどうぞ」

 

「あんがとなぁ。車椅子だとどうしても届かなくて」

 

「大変ですねえ」

 

 でも何したらいいんだろ。体の鍛え方なんてわかんないからなぁ。

 

 

 

 

 とりあえず、逆立ちで町内一周でもするか。

 

 

 

 




主人公はわりとのんきです。

感想批評誤字報告よろしくお願いいたします。


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2話 体を鍛える

お気に入り登録ありがとうございます。

感謝感激です。


 オッス! オラ晃一! 体造りのために山籠り中だぞ!

 

 冗談です。籠ってません。普通に家から通ってます。

 

 最初は逆立ちで町内一周しようかと思ったけど、流石に他人の目がねえ?

 

 なら人の居ないとこ行こうぜってわけで山の中。修行っぽいね。オラワクワクすっぞ!

 

 で、何しようか迷った結果

 

 

 

 逆立ちで山登りしてます。

 

 

 

 これがなかなかきつい。坂道で逆立ちするのが、こんなに大変だとは。

 

 これなら、腕力は鍛えられるし、体幹は鍛えられるし、いい修行法だな!

 

「それでこんなに手が傷だらけなわけね」

 

「まことにもうしわけない」

 

「はあ……。無茶しすぎよ」

 

 リーゼアリアに治療魔法をかけてもらってます。いやあ便利。流石魔法。

 

「治療魔法があるからって傷ついていい理由にはならないわ」

 

「以後気を付けます」

 

「本当でしょうね?」

 

 ジト目で睨んでくるネコミミ娘。かわええのう。

 

 治療魔法に頼っちゃいけないってのはその通りだよなあ。手負いの状態でも最大限のパフォーマンスを発揮できるようにならなければ。

 

 ちなみに逆立ちの後は、ひたすら正拳突き。いわゆる感謝の正拳突きです。一万回は無理だけどね。

 

 他何したらいいかなって考えてるけど、手ぶらじゃなあ。木刀が欲しいな。あわよくば真剣。

 

 

 

 

 

 そんなふうに体を鍛え、魔法を練習する日々が続いていたある日のこと。

 

「こんなところに子供とは、迷子か?」

 

「君、大丈夫?」

 

 何か美男美女二人組が来ました。

 

 何だよリア充かよこんな山奥に何の用だよとか思ったけど、木刀持ってるし。これはまさか修行仲間ができるのかな?

 

「親はどうした? その眼帯、大丈夫か?」

 

 そういえば俺、眼帯してるんだった。やっぱあの赤目は目立つからね。朝寝ぼけたまま鏡見ると自分にビビるもん。喰種かと思ったもん。

 

「全部大丈夫です。おにーさんたちこそこんな山奥にナニしにきたんですか?」

 

「言い方に何だか他意があるような……」

 

 気の所為だと思います。

 

「俺たちは剣術の修行にな」

 

「何それかっこいい!」

 

 まさかマジで剣術の修行とは。いやはや、浮世ばなれしとるね!

 

「ふふっ。きみは何してたのかな?」

 

「体鍛えてました」

 

「ほう、こんなに小さいのに偉いな」

 

 偉いのか? あと小さい言うな。縮んだのは結構ショックやったんやぞ。

 

「で、おにーさんたちはどんな修行するんですか?」

 

「折角だから、見てみる?」

 

「まじで!」

 

「おい、美由希」

 

「いいじゃん恭ちゃん、ちょっとくらい」

 

 ふむふむ、美由希さんに恭ちゃんさんね。

 

「お願いします! 剣術も覚えたいんです!」

 

 

 

 

 

 結局恭ちゃんさんが折れて、見せてもらいました。あとこの二人は兄妹でした。

 

 やべえよ、この二人。小太刀二刀流とかまじかよ。

 

「すげえ! かっけえ!」

 

 小学生並みの感想。

 

「なんか流派とかあるんですか?」

 

「流派なんて言葉よく知ってるな。御神流だ」

 

 名前もかっけえ。

 

「やっぱ道場でやるのとは勝手が違うねー」

 

「まだまだ修行が足りないな」

 

「ううっ。手厳しい」

 

 いいなあ。俺もやってみたいなあ。

 

「……御神流は流石に教えられないが、剣術の基本なら、俺が少し手解きしてやろうか?」

 

「まじで?」

 

「いいの恭ちゃん?」

 

「ここで会ったのも何かの縁だ。流石に御神流は教えられないが」

 

「いやいや充分。是が非でも!」

 

 やったぜ!

 

 

 

 

 

 今俺の手には、一本の木刀。目の前には、腕をだらりと下げ、リラックスした様子の恭也さん。(恭ちゃんって呼んでみたら睨まれた)

 

「よし、好きに打ち込んでこい」

 

「いきなり過ぎやしませんか」

 

 何も教えられてないんすけど。それは甘えですかそうですか。

 

「とりあえずどのくらい動けるのか知っとかないとね」

 

 美由希さん、苦笑い。

 

 この体では竹刀すら握ったことないんですが。

 

 まあ、やるしかないならやりますよ。

 

「じゃあ、いきます!」

 

 時雨蒼燕流 攻式一の型 車軸の雨

 

 を元にした突き!

 

「!」

 

 驚き顔の恭也さん。初手から突きとは思ってなかったみたいだ。

 

 突きというのは面が小さく当たりにくそうだが、存外、避け辛いのだ。

 

 相手の視線と刀身を完璧に重ねれば、相手は遠近感を失い、更に避け難くなる。

 

 まあ、俺にそんな技術はないけど。

 

 そして恭也さんはあっさり避けました。予想はしてたけど、あっさり過ぎやしませんかねえ!

 

 ただ予想はしてた。(2回目)

 

 声を張って、突いた木刀を恭也さんが避けた方に薙ぐ。

 

 刀で受ける恭也さん。

 

 俺は止められた方の逆側に打ち込み、斬り下がる。

 

 恭也さんは詰めてこない。

 

 間合いが切れる。

 

 ……さあ、作戦はここまでしか考えてない。どうしようか。はいそこ、全然考えてねえなとか言わないの。

 

「……まさか、いきなり突きで来るとはな」

 

「あっさり避けといてまさかとはなんですか」

 

あとはひたすら斬りかかるしかないな。

 

 突っ込み木刀を振るう。

 

 唐竹、右切上、逆袈裟。

 

 振るう、振るう、振るう。

 

 その全てが簡単に受け止められる。

 

 イップスになりそう。辛くなってきた。

 

「そろそろ、こちらから攻めようか」

 

「!!」

 

 やばいやばいやばい! 当たり前だけど、勝てる気がしねえ!

 

 恭也さんが一歩、踏み込んで来る。

 

 左右の木刀で攻撃してくる。手加減はしてくれてるんだろうけど、4才児には速すぎる。

 

 できるだけ左右の木刀を線で結ぶように構えて防ぐ。

 

 てて手がし、痺れるぅ。

 

 くそ! 反撃しなくちゃ。

 

 大きく一歩跳び下がる。

 

 小太刀の間合いから離れる。

 

 そこから間髪入れず俺は木刀を地面にぶっ刺し、体を鞭のようにしならせ、飛び蹴りをかます。

 

 だが。

 

「勝負あり、だな」

 

「……ぬう」

 

 普通に避けられ、地面を転がって起き上がった時には首筋に木刀が添えられてました。

 

 わかってはいたけど悔しいねぇ。超悔しい。

 

「ここまで動けるとは思わなかった」

 

「ほんとにね」

 

「美由希より動けてたかも知れないな」

 

「うぅ、ひどいよ恭ちゃん」

 

 むう、これはいつかリベンジせねば。

 

「これは教え甲斐がありそうだな」

 

 そういえばそういう話だったな。勝負に夢中で忘れてた。

 

「あはは、忘れてたって顔してるよ」

 

 よし、ガチでマジで頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 もう夕焼け小焼けのお時間だ。

 

 結構スパルタだったなぁ。逆立ち山登りがなければギブアップ待ったなしだったわ。

 

「驚いた。最後まで音を上げないとはな」

 

「すっごいねー君」

 

 恭也さんと美由希さんが意外そうにこちらを見ている。

 

 後半はもう根性だけで頑張ってました。

 

「……いやもう動けないっす」

 

「よくここまで耐えれたねぇ」

 

「そうだな。今まではどんな修行をしてたんだ?」

 

「逆立ちで山登りしてました」

 

二人は揃って何ともいえない顔。何よ?

 

「それはなんとまあ、無茶なことを」

 

 ですよねー。無茶も承知です。

 

「だめだよ。子供がそんな無茶しちゃ。家の人だって心配してるよ?」

 

「あ、その辺はだいじょぶなんで、お気になさらず」

 

 親居ないんで、とは言わない。面倒なことになりそうだからね。

 

「そろそろ帰らなくちゃな」

 

「ありがとうございました」

 

「こっちこそ、いい気分転換になったよ」

 

 割りといっつもここ居るし。また会うだろうな。

 

 さて俺も帰ろう。疲れたし今日はがっつり肉を食おう。

 

 

 

 買い物しながら考える。

 

 なんだかんだいって初めての実戦だったな。良い経験になった。

 

「あ、眼帯君。そっちのお肉の方が新鮮でお得やで」

 

「まじかい。よくわかんね」

 

 いやしかし恭也さんも美由紀さんも強かったなー。あの二人の戦いはなんかもう侍っつーよりニンジャって感じだったし。

 

「ぼくは今日もお使い? お利口さんなのね」

 

「それほどでもあったりなかったり」

 

「どっちやねん」

 

 やっぱ実戦練習は大事だな。もっと経験を積まなければ。

 

 本格的に山籠りをするべきかなぁ。

 

 ……あ、いいこと考えた。

 

 

 

 

 

 グレアムさんに頼んで無人世界でサバイバルしよう。

 

 

 




ちなみにこの日、なのはの公園でブランコイベントが起きてたりします。


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3話 旅行をする

「馬鹿じゃないの?」

 

いきなり罵倒とはなんですか。

 

「5才の子供が山にひとりで籠りたいとか、イカれてるわ」

 

 ひどい言われようだ。まあ、その通りだとは思うけど。

 

 無人世界でサバイバル生活できないかなってロッテリア姉妹に聞いてみたらこれだよ。

 

「魔法だってまだまだ未熟なのに、焦るんじゃないの」

 

 そうなんだけどさあ。

 

「馬鹿言ってないでとっとと準備しなさい」

 

 はい。何の準備かというと、魔法の資質の検査とのこと。

 

 ミッドチルダっていう異世界で魔力量調べたり魔力変換資質、簡単に言うと属性魔法の適正を調べたりするらしい。

 

 初の異世界旅行である。正確には次元世界っていうらしい。

 

「どうやって行くの?」

 

「転移魔法で近くの次元航行艦に飛んで、ミッドチルダまで乗せてもらうのよ」

 

 次元航行艦とな。

 

「そ。次元空間航行艦船アースラ。知り合いがそこの提督をしてるの。あんたの兄弟子も居るはずよ」

 

 兄弟子が居たんすか。初耳なんだけど。

 

「クロスケっていってね。頑固だけど弄り甲斐があるのよ」

 

「確か今年執務官試験を受けるって言ってたわね」

 

 執務官って?

 

「事件の捜査で現場の指揮をとったり、裁判にも関わったりするわね。簡単に言うとエリートよ」

 

 随分と簡単に言いましたね。

 

 てか仕事多そうだな。クロスケって何才よ?

 

「たしか今、11才だったかな?」

 

「管理局がどう考えてもブラックな件について」

 

 こっちじゃ元服すらしてない歳じゃないですか。

 

「長く続く、管理局の問題なのよ。人材不足でね」

 

 へえー。まあ、異世界には異世界の事情があるってことか。

 

「そろそろ行くわよ。こっちに来なさい」

 

 ほーい。

 

 お、すげえ。結構大きめの魔法陣。

 

 うわっ!! 眩しい! 急に光った! 目が! 目があああああ!

 

 

 

 

 

 気がついたら景色が変わってた。

 

「知らない天井だ」

 

「涙目で何言ってんの?」

 

 フラッシュに目をやられたんだよ。

 

 

 

 

 

 そんなわけでアースラの中。提督のリンディさんにご挨拶。

 

「久しぶりね、リンディ。元気?」

 

「ええ、元気よ。久しぶりね。そちらの子が、新しいお弟子さんかしら?」

 

「そうよ。ほんとに無茶ばっかするんだから」

 

 …………髪が、緑色、だと?

 

「こんにちは。あなたのお名前は?」

 

 それに何この部屋。ジャパン文化を履き違えてない? どこのエセ日本通外国人だよ。

 

「何ボケッとしてんの」

 

「……はっ! 古夜晃一5才です。どうぞヨロシク」

 

 インパクトが大きすぎて呆けてたわ。

 

「ふふっ、よろしくね」

 

 穏やかに笑うリンディさん。美人やなあ。

 

「クロスケの調子はどうだい? 執務官試験、受けたんだろ?」

 

「ええ。……でも、落ちちゃってね。今は、大分荒れてるの。エイミィが一生懸命慰めてるわ」

 

「あちゃー。やっぱ厳しかったか」

 

「手応えはそれなりにあったみたいでね。尚更悔しかったみたい」

 

「そっかあ、今回はちょっかい出すのは止めて、そっとしとこうか」

 

 落ちてしまったのかクロスケよ。まあ、どんまい。

 

「この後はどうするの?」

 

「時間に余裕はあるし、ちょっとこの子を鍛えようと思ってるわ。訓練室は空いてる?」

 

「ええ。場所は分かるわね?」

 

「もちろん。行くわよ晃一」

 

 ここでも修行ですか。いいぜ、やってやんよ。

 

 

 

 

 

 てなわけで、訓練室。なんと今回はロッテリア姉妹と実戦訓練だそうで。

 

「準備はいい?」

 

「もうちょい待って」

 

 いきなり訓練用のストレージデバイスを渡されて戸惑ってる。デバイスってのは、持ち主の魔法の補助をしてくれる、「魔法の杖」のことである。一人じゃできない魔法もできるようになったりするとのこと。

 

 ちなみに今俺ができんのは、射撃、誘導弾、身体強化に治療魔法。基本的な魔力の操作のみ。

 

「もういいでしょ。……それじゃあ、始め!」

 

 ロッテは審判をしてくれる。そこはかとなく心配なんだけど。

 

 試合開始。身体強化をかけて、アリアに突っ込む。

 

 おお、確かにいつもよりも力が漲ってる感じがする。デバイスすごいな。

 

 そしてアリアはというと、空中に飛んだ。……って、え?

 

「アリア飛べたの!? ていうか、飛ぶのありなのかよ!」

 

 初めて知ったよ! つくづく魔法すげえな。そしていきなり超不利になったんだけど!

 

「無しとは言ってないでしょ。はい攻めるわよー」

 

 誘導弾を4,5個操って撃ってくる。

 

 目を凝らして、弾道を見極める。一番に飛んできた弾を避けて、それと同時にこちらからも攻める。

 

「フォトンバレット!」

 

 初球の射撃魔法。誘導弾のように操る必要はないので、スピードは出せるし、段数も増やせる。

 

 俺の撃ったレモン色の弾がアリアに向かってく。

 

「甘いわ!」

 

 アリアは空を飛び回り、全ての弾を避ける。2発目、3発目が来る。先に来た方をかわし、もう片方はデバイスで受け止める。畜生、重いなっ。

 

「ほら、当たるわよ」

 

「ぐっ!?」

 

 痛っ! どっからだ!?

 

「誘導弾なんだから、避けた弾にも意識は残しておきなさい」

 

 避けた1,2発目か! クソッ、忘れてた!

 

「まだ残ってるわよ」

 

 弾は追加されて襲ってくる。

 

 跳ね回りながらデバイスで防御し続ける。攻める余裕なんざない。

 

「攻めてこないと勝ちの目は出ないわよ」

 

分かってて言ってんなちくしょうめ。

 

 ……どうする? このままじゃジリ貧だ。アリアの言う通り、なんとかして攻めなければ。だが、アリアは空中だ。この距離じゃあ、フォトンバレットはさっきみたいに避けられる。誘導弾を使うか? 俺の練度で当てるのは難しいな。

 

 やっぱり、空中のアリアになんとかして近づく必要がある。飛行魔法は使えない。全力で身体強化して跳べば……厳しいかな。……いや、待てよ?

 

 ……覚悟を決めるか。

 

「っぐうっ!」

 

 全力で身体強化をする。そっちに集中する分、防御は疎かになる。どんどん当たる。いだだだだだだだ!!

 

「もう限界かしら?」

 

 言ってろ。吠え面かかせてやる。

 

 誘導弾の間を掻い潜り、距離を詰めていく。そして、俺はアリアに向かって思いっきり跳んだ。

 

「足りないわ、これで終わりね」

 

 やはり高さが足りない。アリアが笑っている。

 

 ……いいや、こっからだ!

 

「ぅお おォ!!」

 

「なっ!?」

 

 俺は足元にプロテクションを展開、それを足場にしてもう一度全力ジャンプ。二段ジャンプである。

 

 アリアは飛行魔法が使えないので極端に距離を詰められることがないと思っていたはずだ。それに俺は防御魔法は習ってなかった。プロテクションを使うとも思ってなかったはず。デバイスさまさまだ。

 

 すぐ目の前に、驚いたアリアの顔。

 

 今しか、ない!!

 

 強くイメージしろ、あの技を。重要なのは、回転、威力、留める。手に魔力を。集中しろ、他のことは考えるな。魔力の操作に意識の全てを。この一発に、全部の魔力をつぎ込め!

 

「 螺 旋 丸 ! 」

 

 

 

 

 

 どうだ!!?

 

「……惜しかったわね。いい攻撃だったわ」

 

 目の前にはプロテクション。……そりゃあ、アリアも使えて当然、か。

 

 俺の攻撃は、届かなかった。

 

「……ちっ、くしょう……め……」

 

 やべ、魔力、残って、ねえ。

 

 ……あ、着地のこと、考えてなかった。

 

 これは……本格的に……マズ……

 

 そこで俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 目の前で、魔力を使い切って気絶した晃一が落ちていく。

 

「ロッテ、お願い」

 

「はいよ。……っと」

 

 ロッテに頼んで、晃一をキャッチしてもらう。

 

「いやー、最後のは結構焦ってたでしょ?」

 

 ニヤニヤしながらロッテが話しかけてくる。

 

「……そうね、ちょっとヒヤッとしたわ」

 

 飛行魔法は教えてなかったし、デバイスを使っても近づかれることはないと思っていた。まさか、あんな特攻をしてくるとは。

 

 プロテクションを足場にするなんてね。防御魔法自体初めて使ったはずなのに、本当に無茶をする。

 

「……にしても、こいつの攻撃、思った以上だったね」

 

「ええ。予想以上の衝撃だったわ」

 

 最後の攻撃。とっさのことだったので手加減してなかったのに、私のプロテクションにはヒビが入って砕かれる寸前だった。

 

「掌に魔力を圧縮、だけじゃないわね」

 

「そんなので破られるほど、私の防御は甘くないわ」

 

 ということは魔力を操作して、それを圧縮、か。それなら私にもできるかもしれない。……でも、気になる点がもう一つある。

 

「あの魔力の玉は青色だった」

 

 今まで晃一が魔法を使う時、魔力光は鮮やかな黄色だった。魔力光の色は変わったりしない。この子のレアスキル、なのだろうか。

 

「ほんとに、変な子だよねー」

 

 まったくよ。

 

 父様から魔法を教えてやって欲しいと頼まれた子は、はっきり言って変な子だった。

 

 なんというか、言動の予想がつかないのだ。年相応にはしゃいだり、妙に達観してみせたり。魔法の才能は無いと思っていたら、急にコツを掴んだり。

 

 今回の模擬戦もそう。突然予想外の動きをして、教えたことのない魔法の使い方をしてくる。

 

 ただ、

 

「面倒見てて、退屈はしないわね」

 

 どうなるか分からない。だからこそ、将来が楽しみな子だ。

 




この主人公、全然勝てねえな(笑)

戦闘シーンって書くの大変ですね。おもしろい掛け合いなんかも書けるようになりたいです。


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4話 まったり過ごす

魔力量のランク分けは魔導士ランクと同じにしました。

SSS SS S AAA AA A B C D

「AAA以上は管理局全体の5%、Bランクが一般の武装局員の壁」というのを魔力量にも持ってきた感じです。


 やってきました。ミッドチルダ。魔法の世界ですよ皆さん! さあ、どんなファンタジーがお出迎えしてくれるのか!?

 

 とか思ってた時が、俺にもありました。

 

「魔法、世界……?」

 

 目の前に広がっているのはまさにSFといった街並み、ビル群。

 

「何期待してたのかは想像つくけど、アースラとかデバイスとかのデザインの時点で察しなさいよ」

 

 まったくもってその通りで。

 

「ほら、さっさと検査終わらせるわよ」

 

 あらほらさっさー。

 

 

 

 

 

 それにしても。

 

「もしかして、リーゼ達って結構有名?」

 

 現在、局内を移動中。すげえ視線感じるんですが。

 

「まあね。父様が管理局の重鎮だから」

 

 中には俺に嫉妬の眼差しを向けてくる奴も居る。子供相手に向けて良い視線じゃなくね? ……あ、でも。子供でも働いてるし、そこら辺の区別はないのかも?

 

 てかグレアムさんて、予想はしてたけど相当なお偉いさんだったのね。ビッグボスってのはあながち間違いとも言えなかったのか。

 

 ……うーむ。俺が目覚めた時一番最初に会ったのがグレアムさんだってのは何か引っ掛かるな。もしかしたら、古夜家とは個人的な関係があったのかも。ただの局員の子供に、管理局の重鎮が1人で会いに来るとは思えない。

 

 ま、記憶喪失ってことになってる俺には関係ないだろう。

 

「さ、ここよ。とっとと検査してらっしゃい」

 

 ぱぱっと済ませちゃいます。

 

 

 

 

 

 あっという間に検査終了。いやー、検査機械もSFぽくて、でも魔法技術っぽいのもあって割りと楽しかった。

 

 結果はというと、魔力量はB。将来的にはAにもなるだろうとのこと。魔力変換資質は無し。まあなくても属性魔法は使えなくはないしいいか。その他変わったレアスキルもなかった。

 

「この結果、どうよ?」

 

「「微妙ね」」

 

 ハモったね。

 

「魔力量がBってのはまあ、平均よりは多いわね。将来Aにもなるっていうんだから、それなりの量ではあるわ」

 

「ただ、適正が特にないってのはねー」

 

 それな。

 

 魔力の圧縮だったり放出だったり、どんな魔法が向いてるなどの適正の検査もしたのだが。

 

「どれもそれなりにはあるのよね。でも、才能があるかというと、やっぱり微妙なところね」

 

 何とも言えない結果だった。

 

 まあ、才能がなかった訳じゃないし、良しとしましょう。

 

「で、この後はどうすんの? 観光?」

 

「父様に会いに行くわよ」

 

 おお。やっぱこっちに来たからにはご挨拶しないとね。

 

「あんたの通うことになる小学校も決めなくちゃね」

 

 そういやそうだね。幼稚園には行ってなかったからなあ。……あれ、俺小学校入れる?

 

「その辺はどうにでもなんのよ」

 

 まじですか。

 

 

 

 

 

「久しぶりだね、晃一君」

 

「お久しぶりです、グレアムさん」

 

「あんたはなんで敬礼なんてしてんのよ」

 

 やっぱり目上の人には敬意を表さなければということで。

 

「局員でもない子供に、そんなことは求めんよ」

 

 グレアムさん、苦笑。やっぱこの人いい人だよな。

 

「いろいろ、話を聞かせてくれるかね?」

 

 もちろん。

 

 

 

 

 

「不自由なく暮らしてくれているようで何よりだよ」

 

「リーゼ達もなんだかんだ優しいので」

 

 かわいいし。

 

 グレアムさんは嬉しそうだ。

 

「……それで、小学校はどこに行きたいか希望はあるかい?」

 

 悩ましいとこなんだよなあ。やっぱ私立はお金かかるし、グレアムさんから資金援助を受けてる身としては、やっぱり公立にしとかないと、とは思う。

 

 まあ、ぶっちゃけどこでもいい、どうでも良すぎて決められないってのが本音なんだけどね。だって前世は田舎で小学校選ぶとかありえなかったし。幼稚園行ってなかったから友達の居るとこ行こうとかもないし。

 

「どこがいいんですかね」

 

「資料をみる限りでは、聖祥というところが良さそうだね」

 

 いろんな学校のパンフレットを見ながらそう言うグレアムさんは、なんというか、お父さんだなあって感じ。失礼なのかもしれないけれど。

 

「え、でも聖祥って私立ですよね」

 

「そんなことは気にする必要はないよ」

 

 即答。まじかい。

 

「あんたも変なところで遠慮すんのね。ここでいいじゃない」

 

「もうここに決めましょう」

 

 あれよあれよという間に決定。俺は私立聖祥大学付属小学校に通うことになった。

 

 

 

 

 

 地球よ! わたしは帰ってきた!

 

 あの後は特にやることもなく普通に帰ってきた。もちろん帰りの船でもリーゼ達にボコられた。……もう俺、痛みに対する耐性は一流なんじゃね? って思うくらいには盛大にボコられた。

 

 あー、もう疲れたわー。リーゼ達は帰ったし、久々にゆっくり過ごしますかね。

 

 でも何しよ。てきとーに歩き回るかなー。修行ばっかで、町に何あるかとかいまいちよくわかってないからなー。別に修行は好きでやってるから問題ナッスィンだけど。

 

 よし。飲み歩きしようか。

 

 

 

 

 

 色んな喫茶店でだらだらしてます。次のお店は、喫茶「翠屋」である。

 

「いらっしゃいませ! 僕、一人?」

 

 美人さんがお出迎え。つくづく、この世界の美人率はオカシイと思う。

 

 一人で席に座り、メニューを見る。なんかいいのないかな~っと。価格は普通。……いや、ブルマンだけ高いな。ま、まさか! このブルーマウンテン、『本物』か!? だとしたら、このお店、侮れん!

 

 ぶっちゃけ俺コーヒー超知ってるってわけではない。でも、このブルマンは飲んでみたいなあ。

 

 近くを通った男の店員さんに尋ねてみる。この人、強そう(小並感)

 

「すみませ~ん。あの、このブルマン、『本物』ですか?」

 

「……! ああ、そうだよ。運よく仕入れられたんだ。君、そんなに小さいのにわかるのかい?」

 

 ちっちゃくないよ!

 

 てかまじで本物か。ここでいう本物とは、本当にジャマイカの「ブルーマウンテン」という山で栽培された豆のことである。希少価値が高く「コーヒーの王様」とも言われるほどの、レアなコーヒー豆。これは飲まなきゃ。味の違いが分かるわけではないけど、飲んでおきたい!

 

 というわけでこれにしたんですが。

 

「お待たせしました、ブルーマウンテンにな……って、晃一君じゃん!」

 

「ぬ?」

 

 見ると、コーヒーを持ってきたのは、メガネに三つ編みの……て

 

「美由希さんじゃないですか。ここでバイトしてたんすね」

 

「あはは、ちょっと違うかな。ここ、うちが経営してるの」

 

 なんと。表は喫茶店員、裏では剣士ですか。どこのヒロインだよ。

 

 コーヒーを飲みながら軽く雑談する。

 

「へー、さっきの人、お父さんなんですか。道理で強そうだと」

 

「でしょでしょ」

 

「美由希さんは強そうには見えなかったんですけどねえ」

 

「随分容赦ない言葉だね!?」

 

 なんか弄り易い雰囲気してんだよね。

 

「恭ちゃんにもよく弄られるんだよ~」

 

 あ、やっぱり?

 

「そういえば、来年から小学生になるんだよね」

 

「そうなんですよ。聖祥に決まりました」

 

「え、ほんと? うちの妹と一緒だね!」

 

 まじですか。妹居たんすか。そして同い年ですか。

 

「なのはっていってね。とってもかわいいの! 天使みたいでね~」

 

 満面の笑みでそう語ってくる美由希さん。シスコンかよ。

 

 美由希さんの妹自慢を聞き流しながら、コーヒーを飲む。

 

 コーヒーは素人の俺にもわかるほど美味しかったです。




作者はコーヒーに詳しくはありません。ただのコーヒー好きです。

ちなみに紅茶はまるっきりだめです。


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5話 名前を付ける

 小学生になったよ! 友達100人できるかな? 前世は全校生徒すら100人居なかったのでどうあがいても無理でした。

 

 正直、超退屈。覚悟はしてたけどひらがなの練習は辛いです。

 

 休み時間だって遊ぶような子が居ないので暇で仕方ない。それでも、周りの子を観察するのは割りと暇潰しになる。別にロリコンじゃないからね。俺小さい時こんなんだったかなあ、とかそう思うからだからね。

 

 ってことでうろちょろしてると、何やらもめてる声が。

 

 こそっと覗いて見ると、大人しそうな深い紫色の髪の女の子と、金髪のこちらも女の子がケンカ? している。いや、あれは一方的にやられてんのか。

 

 物陰から覗き見し続けてると、新たな刺客が登場した。茶髪にツインテールのまたまた女の子である。

 

 ツインテールはつかつかと金髪に近づくと。

 

 おもいっきりビンタをぶちかました。

 

!?ここでビンタだと!?

 

「痛い? でも大事なものを盗られちゃった人の心は、もっと痛いんだよ」

 

 何それかっこいい。あなたほんとに小学生? 中身カミジョーさんじゃないよね? 俺が女だったら惚れてたぞ(錯乱)

 

 そして始まる、金髪と茶髪のキャットファイト。ずっと続くのかなと思ってると、紫髪の子が一喝! ……そこでケンカは終わった。

 

 仲直りしたみたいでよかったよかった。ああいうのって、ぶつかったあとは親友になるパターンだよね。青春ですな。

 

 べ、別に親友が羨ましいとかそんなんじゃないし。

 

 

 

 

 

 帰宅すると、珍しく平日なのにリーゼ達が居た。どうしたの?

 

「父様から小学校の入学祝を渡すように頼まれてきたわ」

 

 まじで? グレアムさん太っ腹すぎない? なんかお世話になりすぎのような。

 

「父様にも色々思うところがあんのよ。あんたのことにも、それ以外にも」

 

 思うとこがあんのですか。そういうことなら遠慮せず頂きますけど。この箱、中身何?

 

「インテリジェントデバイス」

 

「ふぁっ!?」

 

 インテリジェントデバイスだとぅ!? めっさ高価なプレゼントですね!? 確かにデバイス欲しかったけど、これは予想外だよ!?

 

 箱を開けると、翡翠の色の宝石のネックレスが入っていた。綺麗だ……。

 

「とりあえず、バリアジャケットを展開してみなさい」

 

 バリアジャケットってなんぞ?

 

「防護服よ。あんたの思い描くデザインになるわ」

 

 なるへそ。高機能コスプレってことね。コスプレかあ。なんかちょっと恥ずかしいね。

 

「セットアップ」

 

『起動します。バリアジャケット、展開』

 

 光に包まれてあっという間に変身完了。といっても服装に変わりはない。いきなりコスプレは、ちょっと、ハードル高いです。

 

 ただ顔は違う。右目に黒い眼帯。それと繋がって歯茎むき出しの口と、ネジの装飾といったデザインのマスク。いつもとは逆で、左の赤目だけを出した覆面。

 

 金木研のマスクと同じデザインである。左目が赤いってのでこれにした。

 

「なんか、趣味悪くない?」

 

 迫力はあるだろ。

 

「そういや、このデバイス名前はなんてーの?」

 

「父様が、あなたに付けて欲しいって」

 

 まじかい。俺にネーミングセンスを求められても困るぜ。

 

「どんな名前にするの?」

 

「んー…………保留で」

 

 そんなほいほい思い付いてたまるか。

 

『私はマスターに名付けてもらえれば何でも良いのですが』

 

「駄目だ。名は体を表す。雑に付けたら後悔する」

 

 女性の声でそう言ってもらえるのは嬉しいけどね。

 

 

 

 

 

 

 俺一人で悶々と考えてもなんなので、アイディアを求めて図書館に来た。本のタイトルとか見てたらいいのありそうだしね。こう、ティンと来たってのがあれば良いな。

 

 待機状態が翡翠の色の宝石で、翡翠は英語でジェイドらしいから、それとももう一語をうまく合わせたいなあ。

 

適当に本を探してうろついていると

 

「あれ、眼帯君。こんなとこで会うなんてな」

 

「おお、スーパー以外で会うのは初めてだな」

 

 スーパーでちょくちょく会ったことのある、車椅子の女の子に遭遇した。

 

「本探しにきたんか?」

 

「まあ、そんなとこだね。そっちはよく来んの?」

 

「それなりにな。ちょうどよかった、そこの本取ってくれへん?」

 

 はいよ。

 

「おお、あんがとな。ってこれちゃうやん! なんやねん『生首探し』って! 怖すぎるわ!」

 

 戦慄の表情を浮かべでいる車椅子少女。ナイスツッコミだね。なんでこんな本がここにあったのだろうか。私、気になります!

 

「そんなホラー読みたくないわ。隣や、隣」

 

 はいはい。

 

「逆や逆。わざとやってるやろ」

 

「いやいやこっちの『虚無僧☆フェスティバル』もおもろそうだろ」

 

「明らかに地雷タイトルやん」

 

 だからこそじゃないか。まあそろそろふざけるのもやめよう。

 

「えっと、『夜の貴婦人』か」

 

 本を手に取る。何か聞いたことあるな。なんだっけ?

 

「これ、ほんとに読むのか?」

 

 めっちゃむずそうだけど。

 

「簡単なのはもうあらかた読み終わったからなあ」

 

 どんだけ読んでんのさ。文学少女か。

 

「……今日は、風が騒がしいな」

 

「ここ室内やろ。それに今日は無風や」

 

 泣いていて欲しかった。ネタが通じないのが、これほど虚しいことだとは。

 

 それにしても、貴婦人、ね。……ん~。

 

「ティンと来た。さんきゅ。じゃあの」

 

「え、ちょ、待っ」

 

 

 

 

 

 

「おーい」

 

『お呼びでしょうか、マスター』

 

「うんにゃ。お前の名前、決まったよ。『レディージェイド』、翡翠の貴婦人って意味だ」

 

 俺のオサレ力ではこれが限界。

 

『レディー……ジェイド。……素敵な名前ですね』

 

 おお、良かった。ちなみに普段はジェイドと呼ぶつもりである。

 

「気に入ってくれて何よりだ。これからよろしく頼むよ、ジェイド」

 

『こちらこそ。よろしくお願いします、マスター』

 

 

 

 

 

 しゃあ、いつものようにやってきたぜ山の中! ジェイドも居ることだし修行にバリエーションを増やせるぜ。

 

「じゃあ、まずは逆立ちで山頂付近まで行こうか」

 

『分かりました。身体強化ですね』

 

「ん? 何いってんの? 魔法は使わないよ?」

 

『え?』

 

 それじゃ修行にならないじゃん。

 

「そのあと、素振り一万回ね」

 

 正拳突きじゃなく木刀の方である。今日からはデバイスがあるので、ジェイドで魔力刃をつくって真剣の素振りのようにしようと思う。

 

『……無茶な』

 

 慣れればなんとかなるもんだよ? 最近やっと一万回こなせるようになってきたし。

 




デバイスの名前はグラーフアイゼンと同じ雰囲気を意識して3時間くらい悩んだ末のものです。

晃一君が真剣で素振り一万回。これでティンとくる人はいるだろうか。


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6話 意地を張る

今更ですが、UA1,000超えました。
感謝感激でございます。


 やあ。2年生になったよ。特に代わり映えのない日々を送っているよ。学校生活に触れておくと、テストは全教科77点をとることに全力を注いでいます。これがなかなか難しい。配点がわからないと、どこを間違ったらいいのかわかんないからね。体育なんかは、幻のシックスメンになれるよう頑張ってます。ミスディレクションを駆使して縁の下の力持ちを演じてます。

 

 最近は何をしてるかというと、サバイバルの知識を蓄えてます。何の為かは勿論、無人世界でのサバイバル生活の為である。まだ諦めてないよ、サバイバル。

 

「だめだっつってんでしょうが」

 

「そこをなんとか」

 

 デバイスもあるんだし。

 

「そんな危ないマネ、許せるわけないでしょう」

 

 つったってねえ。全然勝てねえんだもん。できることはジワジワ増えては来てるけど、このままじゃいつまでたっても勝てる気がしねえよ。俺には特にやらなくちゃいけないこととかはないけどさ、猫とはいえ、女性に負けっぱなしってのはね。せめて一回は勝ちをもぎ取らなきゃ。

 

 このままじゃ、ダメなんだよ。やっぱり、一つ殻を破る必要があると思うんだよ。その為には実戦を、訓練じゃない本当の実戦を経験しなくちゃ。

 

「命を落としたらどうすんのよ」

 

「覚悟の上」

 

 ぶっちゃけ俺の存在自体生きてんのか分かんないしね。俺の元の体は生きてんのか、『晃一』の精神は生きてんのか、さっぱりわからん。ある意味では、俺は死んでんのかもしれない。

 

「あんた、本気で言ってんの?」

 

「無論」

 

「ふざけないで頂戴」

 

「ふざけてない。命を賭ける」

 

 命を賭けるのくらい、なんでもないさ。それよりも、俺のちっぽけなプライドと、二次元への憧れを優先したいだけ。

 

 リーゼ達とにらみ合う。ここは退かんよ、絶対に。

 

「……そこまで言うなら、しょうがないわね」

 

 アリアが、ため息を吐きながら言う。

 

 ktkr!

 

「ただし」

 

 what?

 

「私と模擬戦をして、一撃でも当てて見せなさい。こっちは手加減なし。全力で行くわ」

 

 ……really?

 

「生き抜く力があることを、証明して見せなさい。卒業試験よ」

 

 ……ちょちょ、ちょっと待って。俺はリーゼ達に勝てるほど強くなる為に、今交渉してなかったっけ? その為に本気のアリアに一撃当てろとか、

 

 アリアの卒業試験がルナティックすぎる。

 

 

 

 

 

 

 ……もう、やるしかないならやってやんよ。

 

 場所は我が修行の場、名も知らぬ山!

 

「準備はいいかしら?」

 

 いつかのように、審判はロッテ。ただ前回とは違い、俺もアリアも、最初から空中である。

 

「準備はいいな? ジェイド」

 

『……本当にやるんですね?』

 

 勿論。

 

 俺は大きく息を吸い、ゆっくり吐き出す。そして、叫ぶ。

 

「当方に迎撃の用意あり!!」

 

 いくぜ。

 

「 覚 悟 完 了 」

 

 

 

 

 

 

 

 まずは先手必勝。

 

『フォトンバレット ディバインシューター』

 

 直射弾と誘導弾を同時に打ち出す。アリアも飛び回りかわしつつ、誘導弾をメインにして打ち込んでくる。いつもより量が多い。ほんとに手加減なしのようだ。

 

 俺は弾幕の中をかいくぐり、距離を詰めていく。

 

 アリアは後退しようとする。そうはさせない。誘導弾をアリアの後ろから向かわせる。誘導弾はプロテクションで簡単に受け止められる。だが、一瞬動きが止まった。その隙に俺は距離を詰め、近距離からバスターを撃とうとする。しかしその瞬間、俺の背後から誘導弾が襲ってきた。昔は背後からの攻撃には全く反応できなかったが、今はある程度は反応できる。体を捻り、誘導弾を避ける。アリアはもう離れている。俺も一旦距離をとる。

 

「……背後からの攻撃にも、反応できるようになったわね」

 

「……そりゃあ、あんだけボコられ続ければな」

 

 何度後ろからぶっ飛ばされたことか。

 

「意地でも当てる!」

 

 俺が攻撃を当てれるとするなら、やっぱり近距離だな。近づくとそれだけ避けるのが厳しくなるけど、懐に潜り込めれば、勝機は少しはある。

 

 ……はあ、やっぱり、俺には特攻しかないのかねえ。

 

『フォトンスラッシュ』

 

「おおおお!!」

 

 魔力刃を生み出しアリアに向かって全速力で突っ込む。目を凝らして、襲い来る魔法を切り落として突っ込む。ある程度の被弾は覚悟して、一気に決め……!?

 

「ぐぁ!?」

 

「簡単に距離は詰めさせないわよ」

 

 いっだぁ!? 威力も本気かよ!? 今までと比べ物にならないぞ!?

 

 堪らず引き下がる。アリアはここぞとばかりに畳みかけてくる。痛みに気を取られている場合じゃない。防御しながら後退する。

 

「随分と容赦ない攻撃だなあ、おい」

 

「馬鹿には良い薬になるでしょ。それに、非殺傷にしてるから死にはしないわ」

 

「苦しんでも死ねないとか。それなんて拷問?」

 

 くそっ。当たり前だが、向こうは近距離警戒しまくってんな。意表をついて遠距離から……いや、最初と同じ展開になるだけだな。結局のところ突っ込んで攻撃をぶち当てるしかない、かな? あとは騙し討ちか。

 

 根性見せるしかねえか。畜生め。

 

 もう一度、全速力で突っ込む。当然のようにアリアが誘導弾を撃ってくる。もっと集中しろ。一つ残らず切り落とせ!

 

「おおおお!!」

 

 どんなに頑張っても、何発かは当たってしまう。それでも歯を食いしばり、右手を突き出す。

 

「マスタースパァァァク!!!!」

 

 思いっきり魔力を込め、砲撃を撃つ。

 

「なかなかの威力ね。でもこれじゃ、最初とおなっ!?」

 

アリアの「後ろ」でジェイドを振りかぶる俺。やったことは初めての模擬戦の時と基本は同じ。マスタースパークでアリアに攻撃をし、かつ視界をつぶす。その時に突っ込んだ勢いを殺さないよう、進行方向と斜めにプロテクションを展開、壁を蹴って跳弾のようにアリアの背後にまわったのだ。

 

 ここだっ!!

 

「飛天御剣流 龍槌――!?」

 

『マスター!!』

 

 な!? 体が、動かなっ!

 

「どんな時も後ろに注意よ」

 

 勝ち誇った表情のアリア。これは、バインドか。まさか。

 

「近づいて来たら確実に決める為に背後から攻めてくると思ってたわ!」

 

 やばい、読まれてた!!

 

 超至近距離からアリアの本気の弾で撃たれまくる。

 

「があああ!?」

 

 痛いなんてもんじゃない。全身の感覚がこそぎ落とされていくようなおぞましい感覚になる。治療魔法をかけようとしても回復が追い付かない。バインドを解除する余裕もない。ただ只管、一方的に撃たれ続ける。

 

 

 

 

 

「……もう、限界ね」

 

 しばらくして、俺は全身ボロボロになっていた。辛うじて、ジェイドは落としてないが、ぎりぎり引っかかってるような状態だ。

 

「……う゛ぁ」

 

『マスター! これ以上は危険すぎます!』

 

 意識がはっきりとしない。全身の感覚がない。

 

「ほんとに一人でサバイバルをするなら、これより危険なことになるかもしれない。私ほどの相手は居ないだろうけど、沢山の魔法生物に囲まれることもあるでしょうね。向こうは非殺傷設定なんてしてこない。本当に死ぬかもしれないのよ」

 

 アリアが、近づき、語りかけてくる。

 

「あんたは確実に強くなってる。だから、焦ってはいけないわ」

 

 優しく、諭すように。

 

「だから、ここは負けを認めなさい」

 

 

 

 

 

 

 

「 だ が 断 る 」

 

 

 

 ポスッと。アリアの背中で音がした。

 

「……え?」

 

 アリアが驚き、背後を見ると、魔力球が一つ、背中にくっついていた。

 

「……あなた、まさか」

 

「……へ、へ……当たったぞ、攻撃……」

 

 そう。マスタースパークで視界を潰した時、俺は回り込むのと同時に、実は魔力球を一つ生み出し忍ばせていた。ろくに魔力の籠ってないミソッカスな魔力球を、機会が来るまで、ずっと待機させていたのだ。

 

 どんなに撃たれ続けても、魔力球が消えないよう、必死に意識を繋ぎ止めていた。

 

「この勝負……俺の、勝ち、だな!」

 

 そこで俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 これは驚いた。ここ数年で一番の驚きだ。

 

「まさか、アリアに勝つとはね」

 

 アリアはぶすっとしたまま晃一を抱きかかえている。

 

「認められないわ、あんなの」

 

「でも、攻撃は攻撃、一発は一発でしょ?」

 

 黙り込む。黙って晃一に治療魔法をかけ始めた。ふふっ。相当悔しいみたいね。

 

「いやー、あんだけボロボロになってもチャンスを狙い続けるとか、相当な馬鹿だね」

 

「馬鹿ってレベルじゃないわ。異常よ」

 

『……マスターの名誉の為に、馬鹿に留めておいて下さい』

 

 それで名誉は保たれるのだろうか?

 

 ぶっちゃけアリアの方が正しいと思う。あそこまでボロボロになっても意識を保ってるのがまず異常。更に、魔法を保ち続けてるなんて。

 

「ま、それはそうと、勝負は晃一の勝ちだからね。色々大変だよ?」

 

「……そうね。約束は約束」

 

 お。割とあっさり負けを認めたな。

 

「しょうがないでしょ。あそこまで意地を見せられて、認めないわけにもいかないでしょう」

 

「お、デレ期?」

 

「からかわないで頂戴。……それに、このくらいは応えてあげないと」

 

 ……それもそうだ。

 

 私たちは晃一を利用している。私たちの、悲願の為に。

 

 『監視』の保険、カモフラージュに晃一を利用してるだけだが、必死に強くなろうとするこの子を見てると、どうしても、罪悪感が燻る。

 

 だから私たちは、悲願の関係のないところでは、できるだけこの子の、力になろうと思うのだ。

 

 

 

 

 

 

 祝! サバイバル決定!

 

 あの勝負から数ヶ月、季節はもう冬になった。何をしてたのかというと。サバイバルの為の準備をしてました。リーゼ達に知識を叩き込まれたのよ。サバイバルは認められたけど、危険すぎるのは認められないってことでいくつか条件を付けられた。

 

 期間は半年。行く世界の情報はしっかりと身に着ける。ってことです。どんな魔法生物が居るとか、何が食えて何が毒かとかね。

 

 その他にも対集団戦の訓練にリーゼ達にボコられたりとか。そんなこんなのうちに大分時間が経ってしまった。

 

 そして今日。ついに出発の日。

 

「無茶はしないように」

 

「生きて帰んなさいよ」

 

 見送りに来てくれたリーゼ達。ほんとにご迷惑をおかけしました。自覚はあります。

 

「サンキュー、ロッテリア! 愛してるぜ!」

 

「「とっとといけ」」

 

 解せぬ。

 

 




季節は冬。そして半年間のサバイバル。何が言いたいかというと

無印編に主人公は関わりません。A’s編からの参加になります。

主人公の現在のステータスは
肉体は戦闘民族高町家に及ばない、それなりのレベル
魔法の才能はなのはたちに遠く及ばない、でも無印のなのはたちには良い勝負できるレベル(勝てるとはいってない)

くらいの感じです。

あんだけ無茶な修行してこのくらい。前世は一般人なんで妥当かと。


おまけ 無印編の時

地球 

なのは「スターライト、ブレイカァァァァァ!!」

どっかの世界 

主人公「フタエノキワミ、ア゛ア゛ア゛ア゛!!」


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Act.2 『calm』
7話 帰ってくる


そろそろプロット作った方がいいのか思い始めてきました。


 地球よ! 私は帰っt(ry

 

 二度ネタは駄目だね。

 

 いやー半年ぶりの地球だ。この長閑な雰囲気よ。やっぱここは前世含めて故郷だからね。帰って来た~って感じがするよ。さて、

 

 学校になんて説明しようかな。

 

 

 

 

 

 わりと簡単にどうにかなりました。半年間、俺は不登校と言う扱いになっていた。リーゼたちがうまく処理してくれたらしい。ありがとうございました。

 

 というわけで、久しぶりの小学校である。皆ちょっと背が伸びたね。それにしてもなんか騒がしくない?

 

「いや、半年間不登校の奴が急に来たら、皆結構驚くと思うけど」

 

 クラスメイト君が話してくれる。確かに、そうか? それだけじゃない気もするけど。

 

「そりゃあ……」

 

 まあいいや、どうでも。クラスメイト君の話を聞き流して、自分の世界に引き籠る。

 

 皆からの注目が辛かった。居心地がすこぶる悪かったとです。

 

 

 

 

 

 

 学校が終わった。今日は修行はお休みということにしてある。今日くらいゆっくりしろとジェイドに怒られた。

 

 という訳で、帰りにまっすぐスーパーに寄る。食材が買える。この感動! 今日の夕御飯は豪勢にいきますか!

 

「あれ? 眼帯君やないか。随分と久しぶりやな」

 

 食材を選んでいると、背後から声をかけられた。この声は、車椅子娘か。

 

「……よう、半年ぶりだな」

 

 振り返りながら言う。今の俺はさながらイェーガー。

 

「いきなりキメ顔で何言っとんね……が、眼帯君が、眼帯君やない、やと……?」

 

 失敬な。いつもニコニコあなたの背後に這いよる眼帯君ですよ。背後に這いよられたの俺だけど。って

 

「あ。眼帯し忘れてた」

 

 紅蓮の左目剥き出しである。もしかして、学校で皆が注目してたのはこれか。サバイバル生活の間は眼帯してなかったから、すっかり忘れてたわ。面倒だし、もうつけなくても良いかなぁ。

 

 それはそうと。

 

「流すんかい」

 

「後ろの二人は誰なの?」

 

 めっちゃこっち睨んできてるんですが。ポニーテールと三つ編みツイン。俺なんもしてないよね?

 

「ああ、つい最近うちに来た、外国の親戚や」

 

 いやいやダウトだろそれ。言わないけど。お前らのような親戚が居てたまるか。

 

「……よろしく頼む」

 

「……フン」

 

 えー。警戒心マックスだね。特に気にしないけど。

 

「ごめんなぁ、二人ともまだ日本に慣れとらんから」

 

 その割りに流暢な日本語、とは突っ込まない。

 

「それにしても、眼帯君が眼帯君やなくなっとるからな。何て呼べばええか分からへんし、折角やから、自己紹介せえへん?」

 

 そういや、名乗ってませんでしたね。

 

「いにしえのよると書く古夜晃一です。以後よろしく」

 

 名前の方はなんて言ったらいいか思い付きませんでした。

 

「八神はやてです。はやてでええよ。よろしゅうな、こういち君」

 

 夜神とな。そうか、新世界の神になるのか。

 

「よろしくやがみん」

 

「ナチュラルにスルーされたんやけど」

 

「てめー! はやてを馬鹿にしてんのか!」

 

 ロリッ娘に怒られたでござる。

 

 

 

 

 

 特筆すべきこともなく。時間は穏やかにすぎていく。

 

 サバイバル生活の苛酷さが嘘のようである。あの時の刺激のある生活も楽しかったなあ。

 

 今居るのは我が愛すべき山の中。久しぶりに恭也さんと美由希さんとのお稽古である。

 

「しばらく見ないうちに随分と強くなったな」

 

「ほんとほんと。びっくりだよ」

 

 褒められた。嬉しい。でもさ。

 

「それでも全然勝てないとか、どうなってるんですかねえ」

 

 良い勝負はできるようになったよ。そこは間違いなく進歩だよ? でも勝てるイメージが全く浮かばないんだよ!

 

「まだまだ、追い付かれるわけにはいかないさ」

 

「私たちだって頑張ってるからね」

 

 まだ強くなんのかYO。

 

 命をかけてサバイバルしても特に変わったことはなかった。い、いいしぃ?↑ 結構色んな技再現できるようになったしい?↑

 

 すこしだけ、むなしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 更に時間が進んで。夏の終わりといった頃。

 

 ここ最近は夜神家と買い物で一緒になることが多い気がする。やがみんの今日の連れはポニーテールのシグナムと金髪のシャマル。

 

 

 

 買い物が終わり、お別れといったところで、

 

「はやて。私はこの者と少し、話があるので。シャマルと先に帰って下さい」

 

 と、なんかシグナムさんに拉致られた。そして人気の無いところへ。え、何? 超不穏。

 

 そしてシグナムさんは立ち止まり、

 

 

「貴様、主に何の目的で近づいた?」

 

 

 殺気を放ってきた。

 

 反射的に構える。いつでもジェイドをセットアップできるよう用意する。

 

「やはり、それなりの腕はあるようだな」

 

 まあ、それなりに鍛えてますから。それよりもこの状況が理解できないんだけど。

 

「大分前、シャマルに調べて貰った。貴様魔導師だろう」

 

 え? やがみん魔法関係者なの? てか、やがみんと居る時は魔法一切使ってなかったのに。シャマルさんそんなことできんの?

 

「どんな輩か、見極めようとしていたが、いまいち掴めなかったのでな。直接、確かめることにしたわけだ」

 

 なるへそ。たださあ。

 

「……こーいち知ってるよ。こういう時、何言っても結局信じてもらえないってこと」

 

「ああ、その通りだな」

 

 うわぁお。潔いな。

 

「ただ」

 

 シグナムさんが一瞬で甲冑っぽい姿に。手には何やら機械的な剣。

 

「斬れば分かる」

 

「そんなみょんなこと言わないでもらえますかねえ!?」

 

 

 

 

 

 

 シグナムさんが斬りかかってきた。ジェイドを構える。

 

『フォトンセイバー』

 

 魔力刃を出して斬撃を受けとめる。重っ。

 

 更に攻めてくる。連撃が続く。こっちは伊達に恭也さんにボコられてない。身体強化をして全て捌く。

 

 決め手に繋がらないと判断し、シグナムさんが下がる。

 

 俺は追わない。

 

「どうした、反撃してこないのか?」

 

「いやいや、まず俺は戦いたく無いんですけど」

 

 俺は修行は好きだが、バトルジャンキーではない。修行になるような戦闘なんかは好きだけど、こういうのはちょっと……。

 

「ならば、無理矢理にでも攻めさせるさ」

 

 やだ、シグナムさんたら強引。全く嬉しくねえよ。

 

『マスター。さっさと攻めて、認めてもらった方が楽なのでは?』

 

 そうなんかねえ。……しょうがない。

 

『二幻刀』

 

 片手にもうひとつ魔力刃を生み出す。神田ユウのイノセンスを元にした、柄も魔力で作った魔力の剣だ。

 

「じゃあ、こっちからも攻めるから、お手柔らかにね」

 

 今度は俺が突っ込み、両手の剣でシグナムさんに斬りかかった。反撃させないように色んな場所を斬りつける。シグナムさんは冷静に全ての攻撃を受けとめる。

 

「なかなかの攻撃だ」

 

 そういうと、反撃してきた。俺は片方で受け止め、片方で攻撃する。シグナムさんは身を翻して躱す。

 

 向こうは近接特化のようだ。後退し、弾幕を張る。

 

「この程度」

 

 全て避けられた。だが、向かうが撃ってくる様子はない。やはり遠距離からが安全策か?

 

「シュランゲバイセン」

 

「うわっ!?」

 

 シグナムさんの剣が蛇腹剣のように伸びて襲ってきた。なんだあれ蛇尾丸かよ!? ある程度は遠距離も対応してるわけか。

 

 落ち着け。ああいう武器は、伸びきったとこを狙うんだ。

 

 更に距離をとり、追いかけてくる刃から逃げる。

 

 ここだ!

 

「ヴォーパルストライク!」

 

 突進して突きを繰り出す。

 

「むっ!」

 

 紙一重で躱された。SAOだったら硬直があったが、ここでは関係ない。振り返り、大きく一歩、踏み込んだ。

 

八 花 螳 蜋(はっかとうろう)!」

 

「ぐぅっ!?」

 

 身体強化を全開にして一気に八連撃。剣では防ぎきれないと判断したのかプロテクションを張られ防がれた。シグナムさんが後退する。

 

「……今のは、危なかった」

 

 惜しかったね。ぶっちゃけ、子供だと思って力を見誤ってたろ。

 

「子供と思って侮っていたようだ」

 

 プロテクションで防がれたけどな。

 

「次の一撃には全力を込めよう」

 

 勘弁してつかぁさいよ。

 

 ガシャコッと。なにやら不穏な音がシグナムさんの機械剣から鳴った。目を凝らしてみると、剣から何かが飛び出た。……あれは、薬莢か?

 

 ちょ!! まてまてまてウェイトウェイトウェイト! あれは、まさか、ガンブレードじゃないか? やべえ超かっけえ!!

 

「紫電一閃‼」

 

 あ゛

 

 見るからにヤバそうなのが迫ってくる。

 

 咄嗟に剣を十字に構え、防御する。尋常じゃない威力。魔力刃を砕かれ俺は吹っ飛ばされた。

 

 そうして壁に叩きつけられ、俺は気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚まし、体を起こす。体感的にはそこまで意識を失ってはいないと思う。ジェイド、どんくらい寝てた?

 

『5分ほどです』

 

 5分か。

 

 いやー負けたわー。何最後のアレ。やっべえ威力だったぞ?

 

『変なことに気をとられるからです』

 

 何故わかったし。インテリジェントデバイスにはサトリ機能もあんのか?

 

「目が覚めたようだな」

 

「あ、シグナムさん。いやー見事に負けました」

 

「シグナムで良い。なかなか楽しい戦いだった」

 

 楽しんでたんですか。

 

「どうやら、悪い奴では無いようだ。主の為とはいえ、今までの非礼、どうか許して欲しい」

 

 いや、それは良いんだけど。途中からは殺気もほとんど無くなってたし。

 

 ところで、その主っての何さ?

 

「……闇の書のことも、知らないのか?」

 

 闇の書とかどう考えても黒歴史じゃん。いや待て。夜神……闇の書……成程。つまり、デスノートか。

 

「できれば名前を書かないで頂けると嬉しいのですが」

 

「どうやら何も知らないようだな」

 

 え?

 

 

 




帰ってきたけど勝てない主人公。

彼の中では八神家は夜神家です。


追記 シグナムとの決闘の時期を変更しました。秋→夏の終わり


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8話 飯を食う

難産でした。ラマーズ法をしながら書きました。


 シグナムさん改めシグナムから夜神家について簡単に説明された。

 

 シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。やがみんと暮らしてる四人? は人間じゃないらしい。魔法のプログラムでできた存在とのこと。

 

 ようはあれだろ? AIM拡散力場でできた風斬氷華みたいな。

 

 で、肝心の闇の書のことだが、

 

「知らないままでいてくれないか」

 

 はい?

 

「できれば、闇の書については何も知らないまま主と友人でいて欲しいのだ」

 

 知らないままでいて欲しいって、まあ、デスノートに関わったら死にそうだから嫌だけど。

 

「とりあえず、古夜が考えているようなものではない」

 

 じゃあやっぱ黒歴史ノートのことかな。

 

『それとも違うと思います』

 

 そうかい。まあ、聞いて欲しくないみたいだし、深くは聞かないでおきましょう。ところでシグナムよ。時間、大丈夫か?

 

「む!? まずい! あまり遅くなっては主が心配してしまう!」

 

 大急ぎで帰っていった。自分のことプログラムって言ってた割には随分と人間臭いなあ。立ち居振る舞いとか古風だけど。

 

 さ、俺も帰ろう。急な戦闘で腹減った。

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして。10月に入りたてのある日のこと。

 

「飯?」

 

「そうや! 夕ご飯、ごちそうするで! こういち君も一人暮らしなんやろ?」

 

 あれ、言ったっけ?

 

「こんなに頻繁に一人で買い物に来てたら、普通そう思うやろ」

 

 そりゃごもっとも。

 

「一人は寂しいしな。ご飯は皆で食べた方がずっと美味しいんやで」

 

 その言い方、やがみんも一人暮らしの経験があるのだろうか。同い年くらいなのに? 俺はともかく、やがみんみたいな子が一人暮らしはいけないでしょ。でもその辺は明らかに地雷なので、触れはしない。

 

「俺は割と平気だけどなあ。学校でも基本一人だし」

 

 勿論クラスメイトと全く話さないわけではない。友達というほど一緒に行動するクラスメイトが居ないだけです。

 

「友達いないんやなあ」

 

 いや、その憐れむような視線はやめてくれ。せめて笑ってよ。

 

「それよりも、来るやろ?」

 

 えーでもなあ。やめてシグナムその断ったら斬るみたいな視線。

 

「あの子に嫌われてるしなあ。押しかけちゃ悪いだろ」

 

 あの子とはヴィータのことである。プログラムでありながらロリータ。ロリコン歓喜のエターナルロリータである。ヴィータ以外はシグナムとの決闘以来態度が柔らかくなって大分打ち解けたんだけどね。ヴィータだけは未だに当たりがきついんだよ。

 

 多分、顔見知り程度だったとはいえ自分たちより先にやがみんと知り合っていたのが、気に入らないんだろう。切っ掛けさえあれば態度を軟化させてくれると思う。生理的に嫌われてたら、その時はしょうがない。俺が枕を涙で濡らすだけである。

 

「だから今日を切っ掛けに仲良うなればええやろ」

 

 むーん。そーかね。

 

「じゃあちょっと待ってて。差し入れを買ってくる」

 

 そんなんええのに、というやがみんをスルーして目的のものを買いに行く。買うのは、対ヴィータ用。もので釣る気まんまんである。

 

 

 

 

 

 夜神家に到着した。そこで俺は重大な事実に気付く。

 

「八神、だと……?」

 

「いやいや私のことやがみんって呼んどったやん驚くとこないやろ」

 

 夜神じゃなかったのか。じゃあやがみんはキラではないのね。

 

「はやて、おかえり!! ……ってなんでてめーがいやがる!?」

 

 ヴィータがお出迎えしてくれた。俺以外に。

 

「夕飯頂きにきました~。ごちになります」

 

「おまえなんかにはやてのギガウマなご飯をやれるか! かえれ!」

 

 完 全 拒 否

 

 だが想定済みだ。その為の差し入れだ。

 

「まあまあヴィータよ。お前の為にアイス買ってきたぞ」

 

 アイスが好きというのは、はやてから聞いた。

 

「な!? ア、アイス! ……はっ!? い、いや、あたしはア、アアアイスなんかで釣られたりにゃんかしねーぞ!」

 

 大分ぎりぎりである。見たまんま子供じゃん。

 

「ふっ。アイスなんか、とな? お前はこいつが何なのか知らないようだ」

 

「な、なんだと!?」

 

「こいつは他のアイスとはまさに一味違う。その人気ゆえ、店によっては売り場すら違う、アイスの枠を超えたアイス!!」

 

「アイスの枠を超えた、アイス……!」

 

 そう、これが、

 

「ハーゲン〇ッツだ」

 

 

 

 

 

 打ち解けた。喜んでくれたようで何より。

 

「おいこういち! もういっこ食べたい!」

 

「はいはいヴィータ、あとは明日のお楽しみにしとき。夕ご飯できたで」

 

「うっ。わ、わかったよ。はやてのご飯も食べたいしな」

 

 大人しく諦めるヴィータ。良い娘やなぁ。

 

「運ぶの手伝おう」

 

 車椅子の子にやらせるわけにはいかないね。

 

 

 

 

 

『いただきます!』

 

 テーブルの上には豪華な料理たち。ザッフィー除いても五人。それなりの量がある。これ一人で作ったのか。すごいなやがみん。あ、美味しい。

 

「誰がザッフィーだ」

 

「うまうま」

 

「良かった。今日はお客さんがおるからな。特に気合を入れたんよ!」

 

「こういちが来てくれてよかったぜ!」

 

 いつもよりも豪華な夕ご飯に大喜びのヴィータ。現金なやっちゃな。

 

 っと、これはミネストローネか。あっちにはパスタもあるし、ほんとに小学生が作ったとは思えないな。

 

「これは将来遠月学園かな」

 

 レベルわかんないけど、やがみんなら十傑だって狙えそう。

 

「遠月学園? そんな学校あったっけ?」

 

 ごめんなさいスルーして下さい。

 

「お、これ、ロールキャベツか。ほんと凝ってんな」

 

「あ、それ、私が作ったんですよー」

 

 シャマルさんがそう言ってくる。へーシャマルも料理できんのか。いただきます。

 

「あ、こういち君、気を付けた方が……」

 

「ゴパアッ!?」

 

 体を内部から破壊されるこの感覚、これは、ポイズンクッキング!?

 

「は、謀ったな、シャマル……!」

 

 毒を盛ってくるとは思わなかったぞ……!

 

「盛ってません!?」

 

「あちゃーやっぱり失敗やったか」

 

 シャマルの言い訳は聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 あれ……小町さんじゃないか。またさぼってんのかい。え? 初対面だろうって? まあそんなことは良いじゃないか。閻魔さんに怒られるよ? はい? あたしがさぼってるうちにあんたは帰んなって? そういや、小町が居るってことは……。

 

 

 

 

 

 

「……はっ!」

 

「あ、目が覚めた」

 

 気が付くと、目の前にやがみんが居た。

 

「……まさか、死神に会うとは思わなかったぜ」

 

「どんだけやばいとこまでいっとんねん」

 

 いやーあそこまで死を覚悟したのはサバイバル以来だな。

 

「今、何時だ?」

 

「もう10時や」

 

 大分意識を失ってたな。シグナムにやられた時よりはるかに時間が経ってるって、シャマルの料理怖すぎだろ。

 

「ごめんなあ、うちのシャマルが。私が料理教えてるんやけど、ああやって自分一人でがんばってみると、未だにダークマターができんのや」

 

「ごめんなさいぃ」

 

 いや、良いけど。生きてたし。

 

「遅くなっちまったな。もう帰らんと」

 

「小さい子がこんな遅くに一人で帰っちゃ危ないやろ、泊まっていき」

 

 小さい子って、あなた同い年でしょうに。

 

「へーきへーき」

 

 何の問題もない。恭也さんとかに襲われない限り無事に帰れる。

 

「主はやて、私が送っていきましょう」

 

 シグナムがそう言ってきた。ナイス手助け。

 

 むう、とつぶやくやがみん。お泊り会もしたかったのかな? まあ流石に悪いし、今日は帰らせてもらおう。

 

「じゃあの。ご飯、美味しかったよ」

 

「またな、こういち君」

 

 

 

 

 

「別に家の前まで送らなくても。別に大丈夫っての知ってるだろ?」

 

「主はやてに申し出たからには最後までやり通さねば」

 

 真面目か。

 

「……ありがとう」

 

 ん? 急にどうしたよ?

 

「私たちが現れるまで、主はやてはずっと一人で暮らしていた。お前の存在は、主の支えになっていた」

 

 そりゃあ無いよ。お互い名前すら知らなかった。買い物の時に少し、話すくらいだ。そんな大層なもんじゃない。

 

「いや。主ははやくからお前が一人暮らしだと気づいていた。自分と同じく、幼いのに一人暮らしという境遇のお前に、親近感を感じていたよ」

 

 たとえお前がなんとも思っていなくてもな、とシグナムは付け足す。

 

「同じ境遇の、仲間が居ることは、確かに主の支えになっていた。だから、主に仕える騎士として、はやてと共に暮らす者として、礼を言わせてもらう。ありがとう、古夜」

 

「……そうかい」

 

 ストレートに感謝されると、どうにもこっぱずかしいね。

 

 

 

 

 

 シグナムが帰り、俺は一人、家に入る。

 

「結構楽しめたな」

 

 考えてみたら、友達? と遊んだりなんだりしたのって前世以来だな。

 

『ぼっちのマスターには嬉しいイベントでしたね』

 

「お前最近言動に容赦なくねえ?」

 

『マスターの所為です』

 

 ええー。

 

「ま、こういう日常も良いよね」

 

『少なくとも、魔法生物に襲われ続ける日常よりは』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時の俺は、こんな日常が当たり前のように続いていくと、そんな甘ったれたことを、本気で考えていた。

 

 

 

 

 

 今夜の天気はくもり。曇天は月を隠し、闇は深くなる。




主人公は周りのことは割りとどうでも良いと思ってます。だから友達がいなくても特には気にしません。

あと、シャマルのメシマズレベルはバカテスの姫路さんくらいだと勝手に思ってます。


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9話 闇が近づく

かけあしで話が進んでいきます。


「あれ? やがみんが居ないのは珍しいな」

 

 また買い物で八神家と遭遇した。ただ、今日はシグナムとシャマルの二人のみである。

 

「ああ、古夜か。主は今日、少し体調が優れなくてな」

 

 二人とも、表情が硬い。何かあったのか? やがみんが心配なだけかな?

 

 

 

 

 買い物が終わったあと、シグナムに呼び止められた。

 

「古夜。……話がある。この後、少し、良いだろうか?」

 

 この前のような強引さはない。

 

「……決闘はごめんだぜ」

 

 ただ、断れる雰囲気じゃなかった。

 

 

 

 

 

「古夜には、話しておかなければと思ってな」

 

 そう、シグナムが語り始めた。

 

「やがみんの命が、危ない……?」

 

 シグナムたち守護騎士の大本である闇の書。なんと、その闇の書が、やがみんの命を蝕んでいるのだそうだ。足が動かないのは、その所為だったらしい。

 

 気づいたのはつい最近。このままでは、やがみんの命が危ない。

 

「だから我々は闇の書を完成させ、主はやてを治療することにしたのだ。たとえ、それが主の命に背くことだとしても」

 

 ……なるほどね。まあ、良いんじゃないの?

 

「闇の書は、様々なリンカーコアを蒐集し、666の項を全て埋めることで完成する」

 

 ふむ。リンカーコアって?

 

『魔力の源、体内にある魔法を扱う為の器官です』

 

 ようはトリオン器官ですね。分かります。

 

「それで、頼みがある」

 

 ん? 何さ?

 

 

 

「お前のリンカーコアを、もらえないだろうか」

 

 

 

 …………。

 

「断られたら、奪うようなことはしない。お前は、主はやての大切な友人だからな。……ただ、主の為に、少しでも多くの魔力が欲しいのだ」

 

「良いよ」

 

「卑怯な頼み方だというのは百も承知だ」

 

 だから良いって。

 

「頼む……!」

 

 聞いてよ。

 

「……良いのか?」

 

 良いよー。

 

「リスクは、分かっているのか?」

 

 わかってるよ。治りきるまで、魔法使おうとすると激痛が走るんでしょ? でもさ。

 

「やがみんの治療の為だろ?」

 

 命かかってんだ。こんくらいリスクの内に入らないだろう。

 

 それに。

 

「お前みたいなやつが、恥を忍んでこんな頼み方してきたんだ。そこは汲んでやらないと」

 

「……っ! ……恩に着るっ!」

 

 良いよな? ジェイド。

 

『しばらくマスターは何もできなくなりますからね。私としてはむしろウェルカムです』

 

 いやいや魔法以外にもできる修行はあるだろう。

 

『絶対安静です。何かしたら私が魔法を使ってマスターに地獄の苦しみをプレゼントします』

 

 ちょ、おま。

 

 

 

 

 

「準備は良いな?」

 

 良いぜ。

 

「できるだけ、苦しくないようにはさせてもらう」

 

 それは助かる。

 

 そしてシグナムは、背後から俺の胸に腕を突き刺してきた。おおう、胸から腕が生えてる。血は出てないし、違和感あるくらいで痛みはないけど、結構ホラーだな。

 

 突き出たシグナムの手の中で、光る球がチカチカと色を変え続けている。これが、リンカーコア。魔力の源か。

 

「蒐集、開始」

 

 シグナムの声と共に、蒐集が始まる。

 

 力が抜けていくと共に、目の前のリンカーコアが段々小さくなっていく。腕を動かし、試しに触れてみる。

 

 今まで魔法を使ってて意識することはなかった。存在自体知らなかった。だが今、確かにその存在を感じることができる。

 

 ……ティンときた!

 

「シグナム、好きなだけとって良いから、できるだけ、蒐集を長引かせてくれないか?」

 

「む? 何故だ?」

 

「ちょっと、思い付いたことがあってね」

 

 何かは秘密である。

 

 

 

 

 

 

 蒐集が終わった。

 

「予想以上にページを埋めることができた」

 

 それはよかった。さて、残りのページはどうやって埋めんのかね。

 

「これから先は、通り魔のように無差別に襲っていくことになるだろうな」

 

 まじか。それじゃ、管理局が出てくるだろうなあ。

 

「管理局の者に何か聞かれても、黙っていてくれると助かる」

 

 良いよ。あ、でも、通り魔の共犯だなこりゃ。

 

「いいや。お前はリンカーコアを奪われたただの被害者だ。罪に問われることはない」

 

 シグナムが苦笑しながら言ってくる。おそらく、もし俺が蒐集を断っていたら、この会話自体をなかったことにするつもりだったのだろう。

 

「私達のことは、幾らでも軽蔑してくれて構わない。……ただ、主はやての友では、居続けてくれないか」

 

 別に軽蔑なんてしないよ。はやての友でも無くなったりしない、というのは少しはずいので、ちょっとふざける。

 

「シグナム知ってるか? ばれなきゃ犯罪じゃないんだぜ? 完全犯罪という言葉があってだな……」

 

 俺はおどけたようにそう言ってみせた。

 

「……ふっ。そうだな」

 

 シグナムは少しだけ、笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 12月になった。

 

 できるだけ俺に負担がかからないようにしてくれたお蔭か、リンカーコアの調子もすっかり良くなった。

 

 俺は今、一人で瞑想をしている。

 

 思い出すのは、リンカーコアを蒐集された時の感覚。

 

 リンカーコアの存在を意識する。

 

 …………。

 

『マスター』

 

 何さ?

 

『どうやら魔法戦闘が起きているようですが』

 

 ん? まあ、シグナムたちだろ。それよりも、あと少しだ。あと少しで掴める気がする。

 

『マスターの言うそれ、実現可能なんですか?』

 

 きっとできる。その為にも、リンカーコアの存在をはっきりと感じられるようにならなきゃ。

 

『まあ、激しいものではないので、私としては良いのですが』

 

 ほんと過保護か。

 

 ちなみに、リンカーコアが調子を取り戻す前に修行しようとしたら、まじで勝手に俺の魔力使って魔法使いやがった。拷問かと思った。

 

 瞑想を続ける。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ……………………。

 

『……ター…………マスター!!』

 

 うっさいなあ。何度も何さ?

 

『朝です』

 

 ……やっべ。

 

 

 

 

 

 

 寝不足である。

 

『馬鹿ですか』

 

 辛辣。学校、きつかったなあ。昼間の記憶がほとんどねえわ。

 

「おや、やがみん。体調は良いのかい」

 

「あ、こういち君。おかげさまでもう大丈夫やで」

 

 買い物にて、やがみんに遭遇した。体調の心配はないようだ。心なしか機嫌も良さそうである。

 

「聞いてや! 今日な、友達ができてん! すずかちゃんて言うてな。図書館で本取ってもらって、読書好きって知って。すぐに仲良うなれたわ」

 

 ほーそれは良かったねぇ。

 

「夢中になって話してもうてな。途中、司書さんに注意されてもうたんよ」

 

 かなり仲良くなったみたいで何よりです。

 

 適当に買い物を済ませて、そこで別れた。

 

 

 

 

 

 その次の週。学校に行くと、なんだか教室がざわついていた。特に男子。今日、何かあったっけ?

 

「昨日、となりのクラスに転校生がやって来たらしいぜ」

 

 クラスメイト君が教えてくれた。

 

「その子がすっげえかわいい娘で、皆お近づきになろうとしてるんだ」

 

 そーなのかー。

 

「金髪ロングに真紅の瞳。しかも聖祥美少女3人組と仲が良いときた! これは聖祥美少女四天王になること間違いなしだな」

 

 美少女3人組て。そんなんあるのかよ。こいつら、変な方向にませてねえ?

 

 俺が小学生の頃なんて、えっと……思い出せないけど。でもこうではなかった気がする。

 

 ほんとに、この世界の子供は年不相応だなあ。俺みたいなのが目立たないのは良いけど。

 

 

 

 

 

 

 

 変わらないように見えても、タイムリミットは近づいている。

 

 

 

 

 

 

 

「はやてが、入院?」

 

 シャマルから沈痛な面持ちで告げられた。

 

「はい。はやてちゃんの足の容態が良くなくて。治療の為、しばらく、入院することになったんです」

 

 ふーん。まあ、気が向いたらお見舞いにいくよ。

 

「是非お願いします。はやてちゃんも喜びます」

 

「……治療は、間に合うのか?」

 

「あと、少しなんです。必ず間に合わせます」

 

 間に合うなら良い、のか? ……なんだか嫌な予感がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも俺には何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 




グレアムさんの支援を受けながら、犯罪者となる人になにも言わない主人公。まあ、グレアムさんには都合が良いのですが。

主人公はSEKKYOUは苦手なんです。


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10話 闇に近づく

お気に入りが100となりました。

感無量です。


 学校帰り、やがみんのお見舞いにきた。入院先は俺が目覚めた場所でもある、海鳴総合病院。

 

 受付にて、やがみんの部屋の場所を聞く。

 

「あら、八神さんのお友達かしら?」

 

 病室に行こうと思ったら、白衣を着た美人さんに話しかけられた。何か用?

 

「私、はやてちゃんの担当医師なの。私が案内するわ」

 

 おお。これはナイスタイミング。

 

 石田先生と一緒にやがみんの病室に向かう。

 

「君の話ははやてちゃんから聞いていたわ」

 

 へえ、なんと。

 

「自分と同じ境遇の、変わった男の子ってね。確かにはやてちゃんの言うこと分かるわ」

 

 あなたも結構ストレートに俺が変だと言ってませんかねえ。まあ、精神が精神だから、しょうがないとも思うけど。

 

「はい、ここがはやてちゃんの病室よ」

 

 あざっす。

 

「はやてちゃんのこと、お願いね。病は気からって言葉もあるんだから」

 

 知ってる。でも俺には無理です。そういうのは、例の友達とやらの役目だろう。

 

 

 

 

 

 ノックして病室に入る。

 

「あ、こういち君! お見舞い来てくれたんやな!」

 

 まあ、修行以外特にやることないし。

 

 入院という割には、やがみんは元気そうである。元気そうなだけで、実際は違うのかもしれないが。

 

「今日は制服なんやな。久しぶりに見た気がするわ」

 

 そういや、そうかもね。学校帰りにまっすぐ買い物にいくことなんて滅多になかったからな。

 

「ところで、その制服、聖祥のやない?」

 

 よくわかんね。俺の場合、制服なんて覚えらんない、覚える気がないのに。

 

「前に言った友達も聖祥なんよ」

 

 へー。そりゃまたなんとも奇縁な。

 

「もしかしたら学校で話したことあるかもなあ」

 

「すずかちゃんって名前、前に言ったやろ。知らん?」

 

「学校の奴で名前覚えてる奴自体居ないわ」

 

「えっ」

 

 信じられないといった表情のやがみん。あ、でも一人、恭也さんの妹の、なのはだっけ? は名前知ってる。翠屋で高町家からかわいいかわいい話されてるからな。それでも顔は知らない。

 

 やがみんは話題を変えてきた。小学生に気を使われたよ。

 

「シグナムたち、ちゃんと暮らしとるかな」

 

「掃除に洗濯は大丈夫そうだろ。シャマルがやってくれそう」

 

「問題は、料理やなぁ」

 

 それな。はやてが居なければシャマルは使い物にならないし、シグナムは……なんかできる気がしないんだよなあ。

 

「なんだかんだいって、ヴィータが一番頼りになりそう」

 

「あはは、そうかも」

 

 

 

 

 

「んじゃ、そろそろ帰るわ」

 

 長居する気も特に無いので。

 

「むーもうちょっとおってもええんとちゃう? 折角、美少女と二人きりなんやで」

 

「美少女と二人きりは気まずいから帰るわ」

 

「え、そういう反応?」

 

 かわいいのはそうかもしれんが、まだまだ子供。10年早い。

 

 とっとと病室から出る。すると、

 

「え?」

 

「あら?」

 

「ん?」

 

 やがみんの病室に女の子二人が入ろうとしてた。例の友達か。

 

「あ、あの、古夜君、ですか?」

 

 紫の髪の娘が聞いてきた。もう片方の娘は明らかに外国の娘っぽい金髪だし、こっちの娘がすずかちゃんかな。

 

「ん、そうですよ」

 

「はやてちゃんの、お見舞いに?」

 

 なんか少し戸惑ってる様子。まあいきなり鉢合わせたら驚きもするか。

 

「はい、でも俺はもう帰るので、それでは」

 

 特に興味もないので、目を伏せる程度に礼をして、その場を去った。

 

 そういえば、あの子達って、いつぞやのケンカしてた女の子達じゃないか。あの時の娘とやがみんが友達になっていたとはね。合縁奇縁とはこのことか。

 

 にしても、二人でお見舞いとは仲良くなったもんだ。もう一人のカミジョーさんは居なかったけど。

 

 やがみんは四人組と仲良くなれたって言ってたし、あの茶髪の娘ともう一人居るんだろうな。

 

 ……じゃあ、その残り二人は? 一緒に来なかったのは何故だ?

 

 

 

 

 

 

 

 そして、聖なる夜、クリスマスイブの日。

 

 

 

 闇の書の蒐集もいよいよ完了といったところらしく、守護騎士たちとはほとんど会わなくなった。それでも今日は、はやてのところにお見舞いに行くそうだ。

 

 クリスマスといっても特にやることがない俺は、いつも通り修行したあと、家でだらだらしていた。

 

 

 

 異変は、突然起こった。

 

 

 

 突如、莫大な魔力を感じとる。

 

「っ! ジェイド、なんだこれは?」

 

 感覚的にそこまで離れてもいなさそうだが、魔力探知が得意でない俺がここまではっきりと感じ取れるって、結構やばくね?

 

『わかりません。位置特定しますか?』

 

「頼む」

 

 聞いといてアレだが、何となく予想はつく。おそらく、これが闇の書の魔力なんだろう。

 

『……特定、完了しました。……これは、海鳴総合病院の近くですね 』

 

 やっぱり、闇の書か。魔力の蒐集が終わって、はやての治療に移るとこなのだろう。

 

 守護騎士たちの言ってたことが本当のことであれば、だが。

 

 なんかモヤモヤすんな。

 

 サバイバルで培った危機感。それが警鐘を鳴らしている。

 

 動こうか迷っていると。

 

『マスター、緊急の連絡です』

 

 ん? この魔力関係かな。

 

 ジェイドに映像を繋げてもらう。そこに写ったのは。

 

『晃一君。久しぶりね』

 

 深刻な表情をしたリンディさんだった。

 

「リンディさん、随分と久しぶりですね。どうしたんですか緊急連絡なんて」

 

『あなたも、この魔力には気づいているでしょう』

 

 まあ、さすがに。

 

『単刀直入に言います。アースラの提督として、あなたに救援を依頼します。今、ロストロギアが暴走してるの。……このままでは、地球が危ないわ』

 

 突然過ぎて、一瞬、理解できなかった。

 

「暴、走……!?」

 

 ロストロギアってのは、闇の書のことだろう。それが、暴走?

 

 どうしたんだよ。治療するってのはどうしたんだよ。

 

「……俺に、頼むようなことなんですか?」

 

 アースラにはリンディさんの息子さんのクロスケとやらも居るはず。執務官試験にも合格してた。俺よりも頼りになるやつは居るだろうに。

 

『クロノ執務官は、今、別件に当たってもらっています』

 

 若干、表情の曇るリンディさん。どうかしたのか?

 

『現地の魔導師や、嘱託の子達に戦ってもらっているけど、とても危険な状態なの。ついさっき、一人、夜天の魔導書に取り込まれてしまって……今は、少しでも戦力が欲しいわ』

 

 ……闇の書が暴走して、そこまで危険な状態に? これは、さすがに、無視できない、かな?

 

「……とりあえず、現場に向かいます。途中で事情を詳しく」

 

『ええ、わかりました。よろしくお願いします』

 

 

 

 

 

 

 

 ダッシュで現場に向かう。その道中でリンディさんから念話で詳しく話を聞いた。

 

 闇の書とは正式には名を夜天の魔導書といい、魔導師の技術を収め研究して後生に伝える為に作られた魔導書だったらしい。だが、歴代のマスターの改変に次ぐ改変によりバグが蓄積、マスターの意思すら食い潰す、凶悪な破壊兵器となってしまった。

 

 話が大分違うぞ畜生め。

 

 シグナムたちが嘘を言っていたようには思えなかった。でも、それをリンディさんに言うわけにもいかない。

 

 それで仕方なく俺も蒐集されたことを教えると、こんな状況なのに怒られた。

 

『何でそんな大事なことを知らせてくれなかったんですか!』

 

 いや、まずこっちから連絡する方法なかったし。

 

 戦闘した時の守護騎士たちの話と少し違っていると言うと、

 

『それは、おそらく夜天の魔導書のバグが、守護騎士たちに少なからず影響を与えているんでしょう』

 

 成程。バグによる記憶の混濁か。あいつらは自分たちが夜天の魔導書ってことも覚えてなかったみたいだし。

 

「……くっそが」

 

 思わず悪態をつく。なんも知らない内に地球が危ないとか、まじで洒落にならん。

 

『晃一君、あの娘たちのこと、お願いします』

 

 リンディさんから切実な声で頼まれる。

 

 いやいや、むしろ俺が危ないと思うんだけど。リンディさんから聞いた今戦ってる魔導師って、ランクAAAレベルとかのバケモンなんだろ。

 

 足手まといになるだけじゃねと思いながらも、何も言わず、全速力で進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺りはすっかり暗くなり、クリスマスの明かりが街を照らしている。

 

 市街地から場所を移し、海上。高町なのはと、夜天の魔導書が、激しい戦闘を繰り広げていた。

 

「リンディさん、エイミィさん。戦闘位置を海の付近に移しました!」

 

 市街地で戦闘を続けるのは被害を大きくするだけだったので、高町なのはは戦いながらも場所を海上まで移動させていた。

 

「それと、闇の書さんは駄々っ子ですが、話は通じそうです! もう少しやらせて下さい!」

 

 絶対に助けて見せると、なのははレイジングハートを構える。

 

「いくよ! レイジングハート」

 

『はい、マスター』

 

 そして、なのはは闇の書の意思に対抗する為、レイジングハートをエクセリオンモードへと変型させる。

 

 エクセリオンモード。レイジングハートのフルドライブモード。デバイスの性能を100%発揮できるが、デバイス自身への負担が大きくなるという切り札。

 

「繰り返される悲しみも、悪い夢も、きっと終わらせられる……!」

 

 対して闇の書の意思は。

 

「………………」

 

 無言で手をなのはへと翳す。

 

 再び激闘が始まる――――――その瞬間。

 

 

 

 

 

 轟音が響く。

 

 

 

 

 

「!?」

 

 なのはは新手かと驚き、音の響いた方を見る。

 

 闇の書の管制人格もまた、新たな敵に目を向ける。

 

 そこに居たのは。

 

 

 

 

「 待 た せ た な 」

 

 黒いマスクに黒い外套の、一人の魔導師だった。

 

 

 

 




最後のをやりたかったから書き始めたといっても過言ではない。


もっかいアニメを見直してきます。


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11話 共に闘う

UA5000いきました。読んでくださった方々に多大なる感謝を。

それと今回はちょっと長めです。



「あなたは!?」

 

「リンディさんに頼まれてきた。助っ人だよ」

 

 茶髪が聞いてきたので、簡潔に答える。てかあなたはカミジョーさんじゃないですか。魔導師だったんかい。

 

 まあ今はそれよりも、

 

「お前が、闇の書の管制人格か」

 

 銀髪に赤目、リンディさんから聞いてた通りの特徴。間違いない。

 

「……お前は、主の友人だな」

 

 ははっ、ばれてーら。白カネキくんスタイルにしてきた意味ねえな。まあ奴にばれても問題はない。顔を隠してるのは後々の為である。

 

「やがみんは、どうしたんだ?」

 

「……主は今、夢を見ている。全てが叶う、優しい夢を」

 

 それなんて無限月読。輪廻眼が相手とか、まじで辛い。

 

「えっと、あなたは、リンディさんに頼まれてきたんですか?」

 

 カミジョーさんがこっちによって来る。

 

「ああ。でも期待すんなよ。俺はカミジョーさんより弱いからね」

 

「え、ええ……? わたしの名前、高町なのはだよ?」

 

「で、どうすりゃ良いんだ? カミジョーさん」

 

「なのはだよぅ……」

 

 名前なんて今はどうでもい……待て、今、予想だにしていない名前が出てこなかったか?

 

「高町なのはだと?」

 

「あ、はい! そうです、なのはです」

 

 まじか。これ、恭也さんの妹か。言われてみれば桃子さんに似てる気が、ってそれどころじゃないわ。

 

「どうすんのさ、この状況」

 

「えっと、とにかく、闇の書さんを説得するので、力を貸して下さい!」

 

 ……説得ね。世界がやばいってのに説得とはやっぱりカミジョーさんじゃないか。

 

 闇の書に向き直り、ジェイドを構える。

 

「……お前も、抗うというのか」

 

「ああ。世界を滅ぼされるわけにゃいかないんでね」

 

 当たり前だろう。

 

「もう、何をしても無駄だ。諦めろ」

 

 諦めんなよ! 諦めんなよ、お前!! どうしてやめるんだそこで! もう少し頑張ってみろよ!!

 

 思わず熱くなってしまいそうだが、ここは堪える。

 

「お前達も主のように眠りにつけ……そうすれば、全ての望みが叶う夢を見ることができる」

 

 闇の書が続ける。それに対し。

 

「いつかは寝るよ。でもそれは今日じゃない!」

 

 高町は強く反発する。

 

「眠るのは、明日! 夢は、自分で見る!!」

 

 俺も叫ぶ。

 

「何をしようと無駄だというのが分からないのか」

 

「……お前が何をしても無駄だって言うのなら」

 

 闇の書の言葉を否定するように、宣言する。

 

「――まずは、その幻想をぶち殺す!!」

 

 

 

 

 

 

 

 古夜となのはが闇の書に突貫する。

 

 なのはは突撃槍と化したレイジングハートで、古夜は二幻刀を使い二刀流で、闇の書と戦う。

 

「はあっ!」

 

 なのはの突きを闇の書は片手で受け止める。

 

『神槍「スピア・ザ・グングニル」』

 

『禁忌「レーヴァテイン」』

 

「うぅらぁっ!」

 

 血のように真っ赤な槍と、燃え盛る剣。二つの武器を古夜はもう片側から叩きつけた。

 

 燃費無視の全力攻撃。しかしこれもプロテクションに阻まれ、有効打とならない。

 

「はああっ!」

 

「ホリゾンタル・スクエア!」

 

 諦めず、何度でも攻め立てる。

 

 空中を飛び回り、跳び回り、何度も衝突する。だが、届かない。

 

 闇の書は静かに魔法を唱える。

 

「……ブラッディ・ダガー」

 

 古夜のスピア・ザ・グングニルと似た、紅蓮の短剣がなのはと古夜を襲う。

 

「くっ!」

 

「ちっ!」

 

 避けきれず、いくつかが着弾してしまう。強烈な攻撃に後退を余儀なくされる。

 

 古夜となのはが闇の書から離れる。

 

「……うっわー、何あれ。ドン引きするレベルの強さなんだけど」

 

 顔を引きつらせながら古夜が呟く。

 

「なんとか、バリアを越えないと」

 

 闇の書を見据え、なのはが言う。

 

「そういや、高町もカートリッジ使えんのかよ。そのデバイス、ミッド式だろ?」

 

「え? あ、はい。レイジングハート自身の要望で、搭載してもらったんです」

 

「良いなあ、俺も使いたいねえ、カートリッジシステム」

 

 古夜は少し考える素振りをした後、ふと零した。

 

「……いっそのこと、ベルカ式デバイス手に入れようかなあ」

 

『この状況で私をいらない子宣言とは、マスターはよっぽど死にたいようですね』

 

「いやいやいや違う違うって。ジェイドを中・遠距離に集中させてもう一個近接特化のを持ちたいなって」

 

「……今は、そんなこと話してる場合じゃないんじゃ……」

 

 突然変な掛け合いを始めた一人と一機に戸惑ってしまうなのは。

 

「ん? ああ、そうだった」

 

 本当に忘れていたのだろうか。

 

「じゃあ、どうやってあの防御を抜くか、だけど」

 

「……私の全力攻撃で撃ち抜きます」

 

 なのはの発言に少し意外そうな顔をする古夜。

 

「……いけるのか?」

 

「私と、レイジングハートなら!!」

 

『抜いて見せます』

 

 言い切るなのはとレイジングハート。その返答に古夜は、

 

「……じゃあ、二人がかりで特攻、だな。燃えてきたぜ」

 

 ニヤリと笑い、ジェイドを構える。

 

「いくぜ、高町」

 

「うん!」

 

 

 

「アクセルチャージャー、起動! ストライクフレーム!」

 

『オープン』

 

 レイジングハートが更に変形、魔力の槍を生み出す。

 

 

 

「俺のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ!」

 

 古夜が右手を掲げて叫ぶ。

 

 

 

「エクセリオンバスターA.C.S!!」

 

「ばあああああくぬぇつぅ……」

 

 魔力が高まる。レイジングハートが翼を羽ばたかせる。古夜の右手に炎が荒れ狂う。

 

 対する闇の書は無言で黒い魔力弾を生み出す。

 

 そして。

 

 

 

「ドライブ!!」

 

「ゴッド……フィンガアアアア!」

 

 激突する。闇の書の魔法となのはと古夜の魔法がせめぎあう。

 

「届いて!!」

 

 なのはが叫ぶ。

 

 

 

 魔力が迸る中、ついに、なのはのストライクフレームがバリアを抜け、古夜のゴッドフィンガーが罅を作る。

 

「ブレイク……!」

 

「ヒート……!」

 

「まさか……!?」

 

 闇の書が目を見開く。

 

「シュート!!」

 

「エンド!!」

 

 古夜がバリアを砕き、なのはが零距離から砲撃を撃つ。

 

 桜色の砲撃が闇の書を包み、爆風が吹き荒れる。

 

 爆発による煙の中から、なのはと古夜が出てくる。

 

「……っ痛~!」

 

「……これでだめなら……!」

 

 自らも傷つきながらも手応えはあった。捨て身の特攻。

 

 

 

 

 しかし、

 

『『マスター!』』

 

「!」

 

「……おおい、まじかよ」

 

 闇の書はほとんど傷ついた様子もなく、そこに佇んでいた。

 

「……永い夜になりそうだな」

 

 古夜がぽつりと、呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして。

 

「ん、うん……?」

 

 古夜となのはが闇の書と死闘を繰り広げている頃、八神はやては、闇の書の中で僅かに意識を回復させていた。

 

「そのままおやすみを、我が主」

 

 だが、闇の書ははやてに眠り続けるように語り掛ける。

 

 心地良いまどろみの中、はやてはぼんやりと考えていた。

 

(……私は、何を、望んでたんやっけ?)

 

「夢を見ることを。健康な体を持ち、家族と共に、穏やかな日々を暮らし続けることを」

 

 はやての思考に、闇の書が答える。まるで子守唄を唄うかのように。はやてが永久に眠り続けるように。

 

「眠って下さい。そうすれば、あなたはずっと、夢の世界に居ることができます」

 

 優しい夢への誘い。

 

 はやては、それに対して、

 

 

 

 

 

「せやけど、それはただの夢や」

 

 断言した。

 

 否定する為か、意識をはっきりさせる為か。どちらにせよ、はやては自分の意志ではっきりと首を振る。

 

「……私な、憧れてる子がおるんよ」

 

 はやてが語り始める。

 

「ちょっと前の私と同じで、一人で暮らしとる子なんやけどな。……小さい頃から一人暮らしのはずやのに全然寂しそうやなかったんや。私かて表には寂しそうな雰囲気は出さんようにしとったけど、あの子はそういうのとは違って、なんていうか、その、自然体なんよ」

 

 はやては続ける。

 

「流石に、学校の子の名前一切覚えてないんはどうかと思うけど……でもな、いつの間にかシグナムたちと打ち解けて、ヴィータにはすっごい嫌われてたのに仲良うなって、ほんまに、すごいと思った」

 

 闇の書は黙って聞いている。

 

「なんていうか、強い子なんやなって。私もこの子みたいに強くなりたいなって、思ったんよ」

 

 その言葉に、闇の書は僅かに目を見開く。

 

「せやからな。このまま眠り続けてはおられんのや。それじゃあ、いつまでたってもあの子のように強くはなれへんから」

 

 八神はやては、意識を完全に取り戻した。

 

「私は、こんなこと望んでへん! あんたも同じはずや!」

 

「……私は」

 

 はやてが闇の書に訴えかける。あなただってこんなことしたくはないはずだと。

 

「……私も、騎士たちと同じです。あなたを愛しいと思っている。……ですが」

 

 闇の書の目から、涙が零れる。

 

「だからこそ、自身が許せないのです。私の中の防御プログラムがあなたを喰らいつくしてしまう。……私には、止められない」

 

 闇の書が懺悔する。自分には、何もできないと。

 

 それに対し、はやては。

 

「……覚醒の時に、あんたのことちょっとは知ったよ。私かて同じや、悲しい思いをしてきた……でもな」

 

 不敵に、それでいて優しく笑った。

 

「今の主は、私や。主の言うことは、聞かなあかん……!」

 

 真っ白な魔法陣が現れる。

 

「……名前をあげる。呪いの魔導書なんて、私がもう、呼ばせへん」

 

「無理です……! 自動防御プログラムが止まりません……!」

 

 はやては目を瞑り、唱える。

 

「止まって……」

 

 闇を祓う、純白の魔法陣が広がっていく。

 

「止まれ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇の書からの攻撃が止んだ。

 

 俺はジェイドを構えたまま様子を見る。高町も急に攻撃を止めた闇の書が気になるようだ。

 

 その時、

 

『そこの、管理局の方……!』

 

 念話が届いた。この声は……!

 

「はやてちゃん!?」

 

「やがみん、生きてたのか」

 

『生きとるわ!! って、なのはちゃんに、こういち君!? ほんまに!?』

 

 あ、名前出ちゃった。まあ、割と余裕そうじゃないか。いやはや良かった。

 

『うん、なのはだよ! 色々あって、闇の書さんと戦ってるの!』

 

 高町が念話で答える。

 

『ごめん、二人とも。何とかしてその子のこと、止めたげて……! 魔導書本体からは切り離したんやけど、その子がそうしてると、管理者権限が使えへんのや……』

 

 切り離した? まじで? やがみんすげえな。

 

『今そっちに出てるのは、自動防御プログラムだけやから……!』

 

 さっきまで戦ってた闇の書の管制人格とは違うってことか? 見た目変わってないけど。

 

 それにこれを止めるってかなり骨なんですが。

 

『なのは! 今から言うことができれば、はやてちゃんもフェイトも外に出せる!』

 

 また別人から念話。あなた誰よ?

 

「ユーノ君、今こっちに向かってる、友達だよ」

 

 律儀に高町が教えてくれる。その友達のユーノ君とやらが教えてくれた作戦は。

 

『目の前の子を、ぶっ飛ばして! 全力全開、手加減無しで!』

 

 おいおい、そりゃあ、また……。

 

「……ふふっ、さっすがユーノ君! わっかりやすい!」

 

『全くです』

 

 笑う高町。ちょっと待て、さっきの特攻は手加減してたっての? あなたも大概バケモンじゃん。

 

 まあ確かに、やること自体は単純明快、実に俺好みだ。

 

 高町が魔法陣を展開させる。全力全開の攻撃の為だろう。

 

「……じゃあ、やることは決まったな」

 

 ジェイドを構える。

 

「高町は全力全開の攻撃。んでもって俺は……」

 

 闇の書の周りから触手が生み出される。

 

「あれから、何が何でもお前を死守、だな」

 

 闇の書自体は動く気配はない、ただ、魔法生物のキメラがどんどん出てくる。

 

「高町、お前は奴だけ見てろ。死ぬ気で守る」

 

「……! わかりました! お願いします!!」

 

 ここが勝負どころだな。

 

「……やるぞ、ジェイド」

 

『わかりました。……どうか、ご自愛を』

 

 切り札を切るならここだ。実戦で使うのは初めてだけど、やるしかない。

 

 高町の前に出る。

 

 

 

 

 

「 『八門遁甲』 第四 傷門 開 !!!」

 

 

 




今回ははやての主人公に対する思いを少し。主人公からしたら誤解だろってところもありますが。

そして切り札使用。仕組みはもちろん本家とは違いますが、その説明は次回。
ええそうです。作者はガイ先生大好きです。


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12話 命を賭ける

前回より長くなりました。

ここだけ見ると主人公強そうに見えます。


「第四 傷門 開 !!」

 

 瞬間、俺のリンカーコアから魔力が溢れ出してくる。

 

 説明しよう! 今俺が発動したのは、ガイ先生を参考にした奥義、八門遁甲である。本来は体内にある八つの『門』を開けることで限界を超えた身体能力を手に入れるものだ。俺の場合、リンカーコアに直接干渉し、リンカーコアのリミッターを外す形となっている。八つの『門』が全てリンカーコアに集中した状態と言えば良いだろうか。

 

 一時的にだが魔力量が跳ね上がり、身体強化の効果も大きく上昇するので、通常ではできない技もできるようになる。

 

 ただ、限界を超えたリンカーコアの使用なので、負担も大きい。『死門』まで開いたら、リンカーコアが消しとんで命に関わること間違い無しだ。

 

 それに身体強化の使いすぎによる肉体への反動も半端無い。悲しいことにデメリットはほぼ完璧に再現してしまった。

 

 だが、これでそれなりには戦える。

 

 ジェイドから出した魔力刃を溢れ出てくる化け物達に向ける。

 

「……いくぜ、バケモン共」

 

 まずは。

 

 

 

 

 

『深弾幕結界 -夢幻泡影-』

 

 開幕ぶっぱは基本でしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 リンディは画面に映るその光景に、圧倒されていた。

 

 色とりどりの、数えきれない数の魔力弾が敵を囲う。ある程度の規則性はあるようで、円を描くように魔力弾が生まれ、避ける隙間も無く襲いかかる。

 

「これはっ……! 魔力測定、推定AAAランクです!」

 

「なんですって……?」

 

 エイミィが出した測定結果に思わず呟くリンディ。

 

 リーゼ達から聞いていた古夜晃一の魔力量はBだったはず。この出力はおかしい。

 

 だが、この魔力弾の数を見れば納得せざるを得ない。一つ一つの威力はそこまで高くは無いようだが、全て集まれば、ひょっとすると、なのはのスターライトブレイカーに匹敵するのではないか。

 

 急に魔力が上昇した。彼が何かしたのだろうか。

 

 古夜の撃ち出す魔力弾は、まるで結界のように、隙間無く相手を包囲する。夜の空で舞う光の球たちは、どこか、幻想的であった。

 

「綺麗……」

 

 呟いたのは誰だったか。あるいは自分だったかもしれない。

 

 戦いは続く。

 

 

 

 

 

 

 

 流石ゆかりん弾幕。あの触手ども大分減らせたよ。まあ調子に乗っていきなり魔力使いすぎた感は否めないけどね!

 

 今度はぶっとい蛇みたいなのが出てくる。サイズ的にはもはや龍だ。刺々しい鱗を生やしてこっちに突進してくる。

 

『二幻刀』

 

 魔力刃を出す。より魔力を圧縮したので、こっちの切れ味もさっきとは段違いとなっている。

 

 俺は両手の魔力刃を逆手に持つ。

 

 小太刀二刀流――。

 

「 回転剣舞 六連!! 」

 

 龍もどきを切り裂く。自分よりはるかに大きい化物を、俺は一瞬で細切れにした。

 

 休んでる暇はない、復活した触手たちが俺を覆い、動きを封じてくる。囲まれ、逃げ場が無くなってしまった。

 

 だとしても、やることは簡単。全方位を斬るのみ。

 

 魔力刃をもう一つ。今度は、口に咥える。

 

 三刀流――。

 

「 竜巻き!! 」

 

 全身を廻し、全方位に斬撃を飛ばす。絡みつこうとしていた触手を全て斬り飛ばす。

 

「ぐっ!」

 

 胸に激痛が走った。魔力の無茶な使用にリンカーコアが悲鳴をあげている。

 

 痛みで止まってはいられない。

 

 触手だけじゃなく獣も生まれてきた。今度の狙いは俺じゃない。高町だ。砲撃のチャージの為動けないので、無防備に近くなってしまっている。

 

 高町が目を見開いている。巨大な獣が飛びかかり、牙を剥く。

 

「ぉおっ!」

 

 すかさず俺は高町の前に跳び出し、魔力刃で牙を受け止めた。俺の後ろにプロテクションを展開し、それを支えにして踏ん張る。

 

「こ、こういち君!」

 

 何でお前が俺の名前知って……そういや、やがみんが言っちゃってたな。

 

「いいから、お前は集中しろ!!」

 

 高町を怒鳴り付け、獣の牙を押し返す。身体強化の掛けすぎで、骨が嫌な音を立てた。それを無視して獣の懐に潜り込む。

 

 斬る、斬る、斬る。

 

 もっとだ、もっと速く!

 

「スターバーストォッ! ストリィィィム!!」

 

 両手の魔力刃を輝かせ、16連撃を叩き込む。獣の巨体が吹っ飛び、霧散した。

 

『90%』

 

 レイジングハートの声が聞こえた。あと少しだ。

 

 そこで、

 

「がぁっ……!?」

 

『マスター!!』

 

 限界がきた。血が込み上げてくる。視界が真っ赤に染まる。手足の骨にはヒビが、ひどいところは折れている。内蔵にもダメージがいってるだろう。もうこれ以上は命に関わる。

 

 だが。

 

「……っ!」

 

 高町が息を飲むのがわかった。

 

 目の前に現れたのは、竜の頭。召喚魔法の類いだろうか。さっきまでの獣たちが可愛く見える。頭しか出てないようだが俺達なんて余裕で丸飲みできるサイズだ。

 

 このままじゃ、やばい。

 

「第五 杜門……!」

 

 もう一つ、『門』を開ける……っ!

 

『だめですマスター死んでしまいます!』

 

 ジェイド五月蝿い。ほんとにあと少しなんだ。ここで退いたら、ゲームオーバー。だったら限界を超えるしかないだろう。

 

 歯を食いしばれ。命を燃やせ!

 

 ここでやんなきゃ、死んでも死にきれねえっ!

 

「……開!!!」

 

 吠える。

 

 リミッターを外したことで、魔力が蘇る。それと同時に、口から血が溢れてきた。

 

 不快な感覚を無視して眼前の竜を睨み付ける。

 

 視界がモノクロになり、竜の動きがスローになる。命の瀬戸際、極限の集中状態。

 

 魔力を捻り出す。目の前の敵を倒す為に。

 

 目には目を、歯には歯を。そして、竜には竜を。

 

「滅竜奥義……!」

 

 炎を纏う。雷を纏う。竜の鱗を砕き、竜の肝を潰し、竜の魂を狩りとる魔法。この技に、今の俺のありったけを!!

 

「 紅 蓮 爆 雷 刃 !! 」

 

 轟音が響く。荒れ狂う炎が竜の牙を砕き、迸る雷が周りの生物諸共に竜の頭を消し飛ばす。

 

 これで、邪魔物はほとんど倒した。

 

『マスター!!』

 

 それでもまだ触手たちが生えてくる。

 

 俺一人じゃ、ここまでなのか。そう思ってしまった時。

 

 

 

 

 

『チェーンバインド!』

 

 どこからともなく飛んできたバインドが触手達を捕らえる。

 

 軋む体を動かして出所を見ると、二人の魔導師が居た。

 

 高町が言ってたユーノ達が合流したようだ。遅すぎるぜ。

 

『100%』

 

 そしてチャージ完了を告げるレイジングハートの声。

 

「エクセリオンバスター……!」

 

護りきったぞこんちくしょうめ。

 

「ブレイクッ! シュート!!」

 

 桜色の光が、爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 光が収まると、黒いモヤモヤみたいなのが海の上に集まっていた。どうだ? これでダメだったら流石に泣くよ?

 

「フェイト!」

 

 ユーノと一緒に合流したケモミミ娘の嬉しそうな声が聞こえた。視線の先には黒衣に身を包んだ金髪の魔導師が。あの娘がリンディさんが言ってたフェイト・テスタロッサって子か。

 

 あの娘の武器かっけえな。強そう。なんだあれ、エクスカリバー?

 

「こういち君、大丈夫!?」

 

 高町がこっちに飛んできた。かなり心配そうな顔をしている。ユーノ達は高町を怪訝そうに見て、更に俺を見て、目を丸くした。

 

 今の俺の状態は目が充血し、外套の隙間から血が零れているような感じ。マスクと外套のおかげでそこまでひどくは見えないはず。

 

「ふっ。大丈夫だ。問題はなごぶふぅ……っ!」

 

 血を吹き出す。つもりがマスクの所為でできない。マスクの隙間から血が溢れてくる。気持ち悪っ。

 

「こ、こういち君!? ユーノ君治療!」

 

「う、うん!」

 

「うっわーすごい血」

 

「えっと、この人、誰?」

 

 かおす。わたわたしてると、エイミィさんから念話が届いた。

 

『皆、あの黒い淀みから暴走が始まるから、近づいちゃ駄目だよ!』

 

 ふむふむ成程。振りですかな?

 

『あと、晃一君は動いちゃ駄目、大人しくしてて!』

 

 エイミィさんから俺にだけ追加のお達し。動くことすら禁止されたんですが。

 

 

 

 様子を見ていると、突如、光が灯った。

 

 突然のことに一同、目を覆う。目を覆うだけで腕に激痛がッ……!

 

 光の収束した場所には、魔法陣。そしてやがみんと守護騎士たちが居た。

 

「ヴィータちゃん!」

 

「シグナム!」

 

 名前を呼ぶ高町にテスタロッサ。あれ? あなたたち守護騎士と知り合いだったのね。

 

 守護騎士たちの中心に立つ、バリアジャケットかな? を着たやがみんが杖を高く掲げた。

 

「夜天の光よ、我が手に集え。リインフォース、セットアップ!!」

 

 掛け声と共に、やがみんの姿が変わる。髪の色が茶色から白に、瞳の色が青くなった。雰囲気変わるなあ。

 

「……おかえり、皆」

 

 やがみんが言う。その言葉に涙を浮かべてヴィータがやがみんに飛び込んだ。泣きじゃくるヴィータ。

 

 感動の一幕。俺たちはやがみんの方へ近寄った。

 

「なのはちゃんにフェイトちゃん、こういち君も、ごめんなぁ。うちの子たちが迷惑かけて」

 

 やがみんが謝ってきた。それに対し平気だと答える二人。と、そこで。

 

「すまない、水を差してしまうんだが。時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ」

 

 肩に棘をつけた真っ黒なバリアジャケットの魔導士が飛んできた。ん? クロノでハラオウンってことは。

 

「もしかしてくろすけ?」

 

「話は聞いてきたが、君がリーゼ達の教え子か。言ってた通り随分と無茶したみたいじゃないか。あとくろすけ言うな」

 

 執務官試験受かったんだねえ。良かったじゃないか。……ん?

 

「話は聞いてきた? 別件ってリーゼ達に会ってきたのか」

 

 クロノがしまった、という顔をした。図星か。てか知られちゃ不味いことだった?

 

 ん~? この状況で、リーゼ達に会ってきたのが知られちゃ不味い、ね。

 

 …………………………………………。

 

「おk把握」

 

「っ!? まさか、分かったのか!?」

 

「まあ、大体は。前々から考えてたことではあったんだよ」

 

 バツの悪そうな顔をするクロスケ。

 

「ま、その話はあとで、だろ?」

 

 詳しい事情なんかは知らんけどね。察しはつくだろ。

 

「……ああ、そうだな」

 

 作戦会議が始まった。俺はもうほとんど動けないのでいらない子扱い。会議にも参加しない。

 

 そうして決まった作戦がこちら。

 

 1,自動防御プログラムの四層バリアを開幕ぶっぱで破壊

 

 2,AAAクラスの一斉砲撃でプログラムのコアが出るまで抉る

 

 3,コアを宇宙空間まで転送。アースラの波動砲アルカンシェルで宇宙の塵に

 

 実際には塵も残らないらしい。この作戦えぐくね?

 

「あ、そうやシャマル」

 

「はい、治療ですね」

 

 阿吽の呼吸。シャマルが魔法を唱えた。俺と高町、テスタロッサが癒しの光に包まれる。

 

 あ^~

 

『ちょ、晃一君!? どうしてこんなに酷い怪我で意識保ってられるんですか!?』

 

 シャマルが驚きの声を挙げた。念話だけど。え、そんな酷いの? 痛みには結構耐性あるからよくわかんないなあ。念話で言ってきたのはやがみんに心配かけない為だろうか。

 

『大体過去五本の指に入るくらいの怪我ですね』

 

 ジェイドが言う。そう言われるとそうかもね。

 

「一番じゃないんですね……」

 

 シャマルがなんとも言えない顔をしている。どうしたのか聞くと、絶対この戦いの後は治療に専念して下さいと言われた。え~。

 

「来るぞ!!」

 

 クロノが叫んだ。皆が身構える。

 

「あれが、闇の書の、闇」

 

 やがみんが呟く。

 

 いつの間にかシリアスに。暴走が始まった。といっても俺は見学のみである。この部外者感。寂しい。

 

 ヴィータ、高町、シグナム、テスタロッサがそれぞれ大技を放つ。すっげー威力。俺は八門遁甲無しであの出力は無理だから羨ましいなあ。

 

 一枚一枚、自動防御プログラムのバリアを砕いていく。

 

 そうしてバリアが消え、自動防御プログラム本体が剥き出しになった。

 

 今度は砲撃。高町、テスタロッサ、やがみんの三人による一斉砲撃である。

 

「スターライト……」

 

「プラズマザンバー……」

 

「ラグナロク……」

 

 

 

『ブレイカー!!!』

 

 

 

 ……町の1つは余裕で消し飛ばせるね、こりゃ。

 

「コア、捕捉しました!!」

 

 シャマルがコアを見つけた。あとは宇宙に転送するのみ。

 

『転送準備!』

 

 シャマル、ユーノ、アルフの三人が転送用の魔方陣を展開する。

 

 だが、

 

「っち! こいつ!」

 

 クロノが舌打ちした。抉られた部分が再生し、転移の邪魔をしてくる。

 

「……ジェイド」

 

『……魔力ほとんど残ってないんですよ?』

 

「明日の分も、捻り出す」

 

『馬鹿ですか』

 

 いい加減、あの再生能力うぜえ。

 

 俺の周りに七つの、七色の光が現れる。意識が遠退くが気合で耐える。ジェイドを向ける。ターゲットはプログラムのコア。

 

 霊符――。

 

 

 

「 夢 想 封 印 ‼ 」

 

 

 

 虹色の光がコアに向かって飛んでいく。

 

 着弾し、再生が一瞬だが、止まった。

 

「今だ!!」

 

 叫ぶ。

 

『転送!!』

 

 シャマルたちがコアを転送した。

 

『転送を確認!』

 

『アルカンシェル、発射!!』

 

 エイミィさんからアースラの方の様子が伝えられる。

 

 空を見ると、一瞬、星が光ったように見えた。

 

 静寂。皆がエイミィさんからの連絡を待っている。

 

 

 

 

 

 そしてついに、

 

『自動防御プログラム、反応ロスト! ……皆、お疲れさま!!』

 

 戦いが、終わった。

 

 




ザフィーラェ・・・・

次回でA’s編は終了予定です。


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13話 夜明けそして、凪

 やっと戦闘が終わった。穏やかな空気が流れる。

 

 そこで。

 

「はやてちゃん!?」

 

 シャマルやヴィータの慌てた声が聞こえた。そちらを見ると、やがみんが気を失って、シグナムに支えられている。高町たちも慌ててやがみんのところへ飛んだ。

 

「大丈夫だろ。初めての魔法使用で限界まで頑張ったんだ。その疲れだろう」

 

 俺が言う。実際、やがみんは呼吸はしてるし、異常は見られない。

 

「……そういうお前は、大丈夫なのか? 大分無茶をしただろう」

 

 あ? そんなの、

 

「大丈夫なわけないだろ。……流石に、もう、疲れた……」

 

 若干言い方が荒っぽいのは勘弁して欲しい。言葉に気を遣う気力も残ってないんだ。

 

「お、おい! 古夜!」

 

 悪い、限界だわ。

 

 俺は意識を失い、海へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。ベッドの上。どうやらアースラの中の一室のようだ。体を起こす。……動き辛い。体を見下ろすと、全身に包帯が巻かれていた。酷い見た目だ。思わずため息を吐く。

 

『治療はシャマルとアースラのスタッフがやってくれました』

 

 そのお蔭か、思ったより怪我が酷くない感じがする。

 

「ジェイド、今回はどんくらい寝ていた?」

 

『二時間くらいですね。今、丁度日付が変わったところです』

 

 ま、この手の気絶には慣れてたし、こんなもんか。

 

 ベッドから降りる。体が軋むが動けないわけじゃない。とりあえず、食堂に行けば誰か居るだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 思った通り、人が居た。高町、ユーノ、テスタロッサ、アルフの四人だ。高町が俺に気付いた。

 

「こ、こういち君!? 動いても大丈夫なの!?」

 

 問題ない。

 

「……治療の前は結構な数の骨に罅が入ってたって言ってたけど」

 

「ま、そんくらいなら慣れてるからな。大丈夫だ、フェイト・ステイナイト」

 

「え、ええっと? 私の名前はフェイト・テスタロッサです」

 

 特にすることもないので雑談になる。

 

「そういえば、なんで顔を隠すような格好だったんだい?」

 

 ユーノが聞いてきた。

 

「あ~身バレすると不味い相手が居るんだよ」

 

 主にリーゼ達のことである。サバイバルの一件から無断であまり危険な真似をしすぎると怒られるのだ。まあ、あんまり意味はなかったみたいだけど。身バレしたし、リーゼ達関係者っぽかったし。

 

「瞳の色、左右で違うんだね」

 

「まあな。でも、お前だって目赤いし、似たようなもんだろ」

 

「あ、そうそう。リンディさんから聞いたよ! こういち君、聖祥なんでしょ? 一緒の学校だったんだね!」

 

 あの人俺のプライバシー考えてなくね?

 

「え? 同じ聖祥で魔導師ってことは、ジュエルシード事件の時はどうしてたの?」

 

 テスタロッサが聞いてきた。まずジュエルシード事件って何よ? と聞くと知らないの? とユーノに驚かれた。

 

 何でも、願いを歪んだ形で叶えるジュエルシードってのがあって、それに関して事件が起こっていたらしく、この4人はその事件の関係者だったらしい。

 

 ジュエルシードか。一個で発動するからドラゴンボールよりすごいと考えるべきか。歪んだ形ってのがあるから劣化版なのか。でも猫の願いはちゃんと叶えたらしいしなあ。

 

 とにかく、その事件が起きたのが4月頃。ん? 4月頃?

 

「ああ。俺その期間は、地球に居なかったわ」

 

「あ、そうだったんだ。ミッドチルダとかにでも行ってたの?」

 

「いや、無人世界でサバイバルしてた」

 

「……君は何がしたいんだい」

 

 ユーノに呆れた顔で見られた。解せぬ。

 

「ああそういや、やがみんはどうしたんだ?」

 

「部屋で寝てる。君の言った通りだったみたい」

 

 テスタロッサが答える。ふーん、じゃあ、あとは問題ない、かな。

 

「その事なんだが……」

 

 声がした方を見ると、いつの間にかクロノが立って居た。険しい表情をしている。

 

 

 

 

 

 

 

「リインフォースが、消えるしかない?」

 

 クロノから語られたのは、どうしようもない現実だった。

 

「そんなっ……!」

 

「折角、暴走が止まったのに……!」

 

 高町とテスタロッサがショックを受けている。

 

 リインフォース本人が言ってたらしい。確かに暴走は止まったが、バグは直ってない。このままでは、再び自動防御プログラムが生まれ、暴走してしまうそうだ。

 

「……バグの修復は、できないのか?」

 

「……駄目だ。改変され過ぎていて元の形が全くわからない。どこがバグなのかも、わからないくらいに」

 

 ……そこまでか。

 

「でも、リインフォースさんが消えちゃったら、ヴィータちゃん達も……」

 

 そうだ。夜天の魔導書の管制人格が消えたら、守護騎士プログラムも消えてしまうんじゃ。

 

 あんだけ戦って、またやがみんは独りになるのか?

 

「いや、その心配はない」

 

 シグナム達守護騎士がきた。

 

「既に、守護騎士プログラムは夜天の魔導書本体から切り離された。消えるのは、管制人格であるリインフォースだけだそうだ」

 

 ……じゃあ、やがみんは一人になることはないのか。

 

「……そして、そのことでリインフォースからお前たちに、頼みがあるのだ」

 

 頼み?

 

「別れの儀式を、手伝って欲しい、と」

 

 ……………………。

 

 高町もテスタロッサも押し黙っている。本当に消えるしかないのか。何か別の道はないのか。納得できないことも多いのだろう。

 

 やがて、二人が口を開く。

 

「……私は、リインフォースさんのお願いなら、引き受けようと思います」

 

「……私も」

 

 高町とテスタロッサは引き受けるつもりのようだ。……そうか。

 

「そうか。……古夜、お前は」

 

 

 

 

 

「駄目だ」

 

 

 

 

 

 皆がこちらを見た。

 

「……! そう、か。すまないな」

 

 シグナムが謝ってくる。高町たちは悲しそうな顔をしている。お前ら何か勘違いしてないか?

 

「違う、俺が駄目だといったのはそこの二人に対してだ」

 

「!?」

 

 高町、テスタロッサが目を見開いてこちらを見てきた。

 

 

 

「その儀式の手伝いは、俺一人でやる」

 

 

 

 

 

 

 

 早朝。冬なのでまだ日は上っていない。

 

 場所は海鳴市のとある公園。見晴らしがよく、海も見える。

 

 深々と雪が降る中、俺は一人、ベンチに腰掛けていた。

 

「……プログラムも魔導書も、随分と人間臭いな」

 

『……そうですね。我々インテリジェントデバイスとは大違いです』

 

 お前も大概だと思うけどな。

 

「プログラムの心とか、機械の心とか、そういうの、考えたことなかったな」

 

 あいつらが人間じゃないことなんか、意識してなかった。

 

『私のことは、どう思っていたんですか?』

 

 ジェイドが聞いてきた。

 

「いやほら、日本には付喪神っていう、物に宿る神が居てだな」

 

 そんなノリで喋ってんのかなって程度だったわ。

 

『成程。私は神だったというわけですね』

 

 そういう納得の仕方すんの? 突然、機械仕掛けの神様(デウス・エクス・マキナ)が誕生したんだが。

 

「仲が良いのだな」

 

 声がしたので振り返ると、そこにはリインフォースが居た。

 

「来たか、リインフォース」

 

 名前を呼ぶと、リインフォースは穏やかに微笑んだ。

 

「その名で呼んでくれるのか」

 

「祝福の風、リインフォース。良い名前じゃないか」

 

「ああ、自慢の名前だよ」

 

 こちらに寄ってきて、リインフォースも隣に座る。

 

「すまないな、最後まで迷惑をかけることになってしまって」

 

「聞き飽きたぜ。こっちこそ、無理言ったろ。悪いな俺一人で」

 

 結局、俺一人で儀式を行うことになった。というか、した。高町とテスタロッサはかなりごねたが、俺が意地でも譲らなかった。

 

「構わんさ。……寧ろ、嬉しいよ。私のことを考えてくれてだろう?」

 

 ……そりゃあ違う。だったら、消さないように努力してたさ。

 

「……理由はどうあれ、あんなガキどもに『殺し』をさせるわけにはいかないだろ」

 

 それが一番の理由。いくらこの世界の子供が早熟だからって、看過できないことはある。

 

「儀式っていったって、死に加担したら、それは『殺し』だろう」

 

 そんなこと、小学生にやらせるわけにはいかんよ。

 

 こんなこと考えてんのは、前世の価値観が残ってるからだろうかね。この世界じゃずれた考えなのかもしれない。

 

「だから、嬉しいんだよ」

 

 リインフォースが言った。

 

「お前は、私のことを『一つの命』として見てくれている。主のように。それが、私や守護騎士たちには堪らなく嬉しいのだ」

 

 ……。そんなの、高町やテスタロッサだって同じだろう。

 

「ああ。だから、安心して逝ける。主はもう、独りじゃない」

 

 どこまでも優しい表情。

 

 リインフォースはやがみんには、何も話していない。

 

 やがみんが目覚める前に、彼女の許を離れるつもりだ。

 

 それじゃあ寂しい気がする。でも俺は部外者だ。口出しする資格はないし、何が正しいのかだって知らない。

 

「……冥土の土産だ。面白いこと、教えてやるよ」

 

 代わりといってはなんだが、俺は話すことにした。

 

 この体は俺自身のモノではないこと。

 

 中身はもっと大人だということ。

 

 前世では魔法なんて存在しなかったこと。

 

 他人に話すのは、初めてだったが、リインフォースは黙って聞いてくれた。

 

「……驚きはしたが、納得もしたよ。確かに、見た目より成熟しているようだったしな」

 

「この世界の子供たちは早熟だから、そうはあまり感じないんだがな」

 

 苦笑する。

 

「俺の中身は架空の世界に憧れる、ただの一般人なんだよ」

 

 そうか、とリインフォースが相槌を打つ。

 

「口調が以前より荒っぽく感じるが、こちらが素か?」

 

「ん? ……ああ、こっちの方が素、というより前世に近いかもな」

 

 そう違いは無い気がするが、前世のことを話したからかな。

 

「……そうか」

 

 俺は漫画の言葉をよく使うけど、今は特にそういうのは意識してないし。

 

「ま、前世の自分がどうなったかは知らんが、今はそれなりに楽しく生きてる。リインの来世もきっと良いもんになるさ」

 

 リインフォースは、少しだけ、意外そうな顔をした。

 

「……ふふっ、そうだな。ありがとう」

 

 リインフォースの笑顔はとても綺麗だった。本当に、人じゃないのがわからないくらいに。

 

 丁度、守護騎士達が来た。

 

 儀式の時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 穏やかな風が、流れていた。

 

 降る雪と同じ白い魔方陣が、仄暗い早朝の空を照らしている。

 

 俺は魔方陣の中心にジェイドを構えた。そこにはリインフォースが佇んでいる。

 

「……良いな?」

 

「ああ、頼む」

 

 儀式が始まる。魔方陣が光る。

 

 その時、

 

「リインフォース!!」

 

 やがみんの声だ。

 

 声のした方を見ると、高町とテスタロッサに支えられながら、やがみんがこっちに向かってきていた。

 

 魔方陣のすぐ傍まで来たやがみんにリインフォースが近寄る。

 

「リインフォース! 消えたら嫌や!」

 

 必死にリインフォースを止めようとする八神。

 

「今までずっと辛い目にあってきたんやろ! なら、これからはもっと幸せにならなあかん!」

 

 これからは自分が幸せにするからと、やがみんが呼び掛ける。

 

 やがみんの説得に、しかしリインフォースは首を振った。

 

 やがみんに視線を合わせ、優しく抱き締める。

 

「主はやて。私はもう、世界で一番幸福な魔導書です」

 

 リインフォースは意志を曲げない。そして、語りかける。

 

「……いつか、あなたは新たな魔導の器を手に入れるでしょう。その子に、私の名を送って欲しいのです」

 

 リインフォースからやがみんへの最後の願い。

 

「私の思いは、その子にきっと宿ります」

 

 そう言い、リインフォースは立ち上がった。

 

 ゆっくりと、魔方陣の中心に戻る。

 

「すまない、待たせた」

 

「構わんよ」

 

『良い旅を』

 

 魔方陣の光が強まっていき、リインフォースが消えていく。

 

「リインフォース!!」

 

 ゆっくり、ゆっくりと。風に流されていくように消えていく。

 

 

 

「……さよなら」

 

 

 

 そしてとうとう、完全に、消えた。

 

 

 

 泣きじゃくるやがみんの元に、空から何かが落ちてくる。

 

 それはリインフォースの欠片。金の十字架のネックレスだった。

 

 リインフォースからやがみんへ。形として残った唯一のもの。

 

「……っ!」

 

 やがみんはそれを強く、抱き締める。決して失うことの無いように。

 

 

 

 気がつけば、風が止んでいた。

 

 

 




一人で儀式を行ったのは、中身は大人の自分がやるべきという、主人公の些細なプライドです。

どうでもいいといえないことは主人公にもあります。


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Act.3 『scramble』
14話 談話とアフター


一話を大きく改変するかもしれません。かもしれないだけかもしれません。



 闇の書事件から、大分時間が経った。年も明けて、冬休みも明け、新学期である。

 

「随分と久しぶりに学校行く気がすんな~」

 

『色々、ありましたからね』

 

 リインフォースが消えた後の話。

 

 はやては思ったよりすぐに立ち直った。リインの分まで、守護騎士たちを幸せにしてやるんだとか。最初は無理してんのかと思ったけど、特にそんなことも無いようで。本当に強い子である。

 

 今は足が治り始めているので、検査とリハビリの日々。まだ車椅子生活は続くみたいだが、何れ歩けるようにはなるらしい。

 

 グレアムさんたちとも話をした。クロノから俺が気づいたことを教えられたらしく、事件の後すぐに話をしないかとのお誘いがあった。

 

 

 

 

 

「我々は、君を利用していたのだ。本当にすまない」

 

 話を始めていきなり土下座しかねない勢いで頭を下げられたので流石にびっくりした。

 

 何でも、グレアムさんは闇の書に因縁があるようで、何とか、闇の書を永久封印しようとしていたそうだ。そしてたまたま、はやてを見つけた。以来、両親を亡くしたはやての生活の援助をし、ずっと監視を続けてきたらしい。俺はその為のカモフラージュに利用されていた。リーゼ達が地球に行く隠れ蓑だったというわけである。

 

「あたしたちは良いから、せめて父様だけは許して……!」

 

「お願い……!」

 

 リーゼたちも懇願してきた。

 

「……いや、まあ特に気にしてないし」

 

 そんな気にするほどのことでもないし、お世話になりっぱだったからね。

 

「はやてには、話すんですか?」

 

 流石に話すべきだと思うけど。

 

「彼女が大人になって、独り立ちした時、全てを話すよ」

 

 どうやら話すタイミングは決めてるようだ。だったら俺から言うことなんてね。一番の被害者ははやてなんだし。

 

「じゃあ、はやて次第で。許すの許さないのは、俺からは何も言いませんよ」

 

 これからも魔法の訓練に付き合ってくれよ? というと。リーゼ達に抱き締められた。

 

 気持ち良かったです(小並感)

 

 

 

 

 

 あと、ここまで来たら流石に気づいたと思うけど、やがみんからはやてに呼び方が変わった。やが……はやての強い要望があったからである。女の子のこと名前で呼ぶのは抵抗あるけど、まあ付き合い長いし。

 

 

 

 

 

 学校についた。教室に入り、近くに居た奴に適当に挨拶をして、自分の席に座る。

 

「久し振りだな、晃一!」

 

「えっと、初めまして?」

 

「お前マジいい加減顔覚えろよ! 結構話してんだろ俺!」

 

 クラスメイト君が話しかけてきたので挨拶したら、突然叫んで頭を抱えた。情緒不安定だな。

 

 なんかごちゃごちゃ言ってたが、適当に聞き流す。担任が入ってきたら静かになった。

 

 久々の授業。かなり面倒くさい。

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み。

 

 弁当を広げる。ごく平凡な弁当である。

 

 入学当初は私立なのに弁当なのかと文句を言っていたがもう慣れた。

 

 いただきますと手を合わせると、俄かに教室が騒がしくなった。なに? 何かあった?

 

「お、おい! 晃一、お前呼ばれてんぞ」

 

 またお前か。今日はやけに話しかけてくるな。てか俺? なんかしたっけ?

 

 教室の入り口を見ると、

 

「あ、こういち君」

 

 高町が居た。そういや、同じ学校でしたね。

 

「高町か。どうしたんだ?」

 

「えっと、ちょっと話があるんだけど、良いかな?」

 

 話?

 

「弁当食ってからで良いか?」

 

 話が長引いて飯が食えないのは嫌です。

 

「え? 一緒に食べようよ」

 

 キョトンとする高町。いやいや、ここでいったら他の三人も居るでしょう。そこで弁当とか流石に気まずい。

 

「悪いけど、先約が居るからね。どこに行けば良い?」

 

「あ、じゃあ、屋上にきて。絶対だよ!」

 

 そう言って、高町は戻った。屋上とか使えたのか。良いな、今度行ってみようか。いや、今から行くんだった。

 

 席に戻る。すると、

 

「お、おい晃一! お前なのはちゃんと知り合いだったのか!?」

 

 クラスメイト君が問い詰めてきた。

 

「知り合いっつーか、知り合いの知り合い?」

 

 はやてだったり恭也さんだったり。

 

「つか、お前も知ってんのか」

 

「ばっかお前、なのはちゃんといったら、聖祥美少女四天王の一人だぞ!?」

 

「馬鹿と言ったな貴様」

 

「あ、ハイ、スミマセン」

 

 まったく。そういや、前にそんなのが居るって言ってたような。確かに、あの四人組はかわいいよね。将来絶対美人になる。

 

 それにしても、高町が美少女四天王、ねえ。これは士郎さんに要報告だな。あの人なら自分の娘がそうな風に言われてたらかなり喜びそう。上手くいけばシュークリーム奢ってくれそう(ゲス顔)ただ失敗すると娘の自慢を一時間以上聞かされることになる。

 

 

 

 

 

 飯を食べ終え、屋上に行くと、予想通り四人組が居た。うっわあ、超アウェー。

 

「あ、来た」

 

「まったく、遅かったじゃない!」

 

 金髪二人が言った。文句言うなよ。

 

「ま、まあまあ。落ち着いてアリサちゃん」

 

 紫、確かすずかとやらが宥める。

 

「で? 話ってのは?」

 

 早速本題に入らせてもらおう。

 

「あ、えっとね。こういち君も魔導師なんだよね?」

 

「一緒に戦っといて何を今更言っとるか己は」

 

 高町に思わず突っ込んでしまった。

 

「わ、わかってるよ! でも、事件の時はあんまり話せなかったでしょ? だから、こういち君のこと、教えて欲しいなって」

 

 はやてちゃんやヴィータちゃんとも仲が良いし、と高町が言う。そっちが本音だろ。

 

「ここに居る人は、皆魔導師なのか?」

 

「あ、私とアリサちゃんは違うよ。クリスマスの時に知ったんだ」

 

 多分すずかが言った。そーなのかー。

 

「話すのは構わないけど、せめて名前は教えてくれ。話し辛い」

 

 

 

 

 

「こういち君、お兄ちゃんたちと知り合いなの!?」

 

 高町驚愕。

 

「ああ。だから高町は名前自体は知ってたよ。散々妹自慢、娘自慢を聞かされてきたからな」

 

 うちの娘はかわいいだとか。うちの妹は賢いだとか。

 

「にゃああああ!?」

 

 悶える高町は放っておく。

 

「そういや、月村って、忍さんの妹かなんか?」

 

 忍さんとは、たまに翠屋でバイトしてる女子大生のことである。なんと、恭也さんと付き合ってるのだ。もげろ。

 

「あ、そうだよ。お姉ちゃんのこと知ってるんだ」

 

 あの人とは、なんというか、ソウルフレンドというか。あの人良い趣味してんだよね。その忍さんの妹か……。

 

「……今日は、風が騒がしいな」

 

「えっと、でも少し、この風、泣いてます?」

 

「急に何言い出してんのよ、あんたたち」

 

 赤目じゃない金髪のバニングスが突っ込んでくるが関係ない。ネタが通じる!

 

「月村! お前って奴ぁ……!」

 

「あはは、まあ、お姉ちゃんの影響だけどね」

 

 ソウルメイトが増えたぜ。やったね!

 

 

 

 

 

 

 

「ってことがあったんだよ」

 

 場所は八神家。買い物帰りに真っ直ぐやって来た。

 

「ええなあ。すずかちゃん達とも友達になったんか」

 

 友、達……?

 

「なんでそこで不思議そうな顔しとんねん」

 

 いや、ただの知り合いって認識だわ。尚、月村はソウルメイト。

 

「すずかちゃんだけ好感度高すぎやろ」

 

 お前はネタをスルーされた時の恥ずかしさと虚しさを知らないな? ネタが通じるというのは重要なんだぜ。

 

「まあそれは関西人として何となくわかるわ」

 

 お前似非だろうが。

 

 

 

 

 

 夕飯をいただいた。今回は安全に食べ終われたのでデザートタイムである。

 

「晃一! 今日は何味だ!?」

 

「聞いて驚け、期間限定の華もちだ」

 

 ソファに座ってヴィータと二人でアイスを食べてると、はやてが隣に座った。なんか話でもあんのかい?

 

「私な、罪を償う為に、管理局の手伝いをすることに決まったんよ」

 

 唐突。あとはやてに罪はないんじゃ?

 

「いやいや、皆に沢山迷惑かけてしもうたからな。晃一君には一応、報告しとこうと思って」

 

 へー。

 

「あとな、私、デバイスの勉強、頑張ることにしたんや」

 

 ……それは。

 

「うん。リイン二世の為に、色々勉強せなあかんと思って」

 

 そうか。

 

「俺も今勉強してるんだよ。ジェイドのメンテを一人でできるようになりたいからな」

 

 あとは、アームドデバイス作りの為に。

 

『後半が本音でしょう』

 

 拗ねんなよ。あと心読むなよ。

 

「だから、まあ、なんかあったら手伝うよ」

 

「……晃一君が優しい」

 

「熱でもあんじゃねえか?」

 

 はっ倒すぞてめえら。

 

 

 

 事件が終わってからは大体こんな感じである。

 

 

 




ここまで読んでくださった皆様に最大限の感謝を。

Sts編ほとんど考えてないのでやるかどうかは分かんないです。やらないならやらないなりに完結という形に持ってきたいとは思っております。

一度も出てませんが主人公は忍とはけっこう仲がいいです。






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15話 進級とサプライズ

山も谷も落ちもない回です。

UA10000とお気に入り200件行きました。初めての二次小説制作でも皆様に読んでいただけて本当にうれしいです。


「管理局で働く?」

 

 翠屋でぐだっていると、高町たち仲良し四人組とはやてに遭遇した。最近ははやてとも一緒に居るのでほぼ五人組になっている。

 

 珍しく翠屋でのエンカウントだったので駄弁っていると、そんな話をされた。はやては本人からは聞いてたけど。他二人もか。

 

「うん、晃一君も一緒にどうかな?」

 

 何故か希望に満ちた目で誘ってくる高町。俺あなたとそこまで親しいつもりは無いんだけど。なんか親密度高くない?

 

 その辺どうなんですか、嫁のテスタロッサさん?

 

「よ、嫁じゃないよ?」

 

 そんな顔真っ赤にしていわれても説得力ないんですが。かわええなこの生き物。

 

「うぅ……。私となのはは戦いを通して友達になったから。こういちの場合も同じような感じじゃないかな」

 

 戦友的な? まあ確かに死線を共に潜ったが。ってか、あなたたちそんな馴れ初めだったのね。あなたたちの青春熱すぎない?

 

「どう?」

 

 どうっていわれても。女の子から誘われてこれほど嬉しくないこともないと思う。何が悲しくて小学生で働き始めなきゃなんないのか。

 

「いや、俺管理局で働く気無いから。普通に地球で就職しますよ」

 

 せめて大学卒業してから働きたい。そう言うと、高町だけじゃなくはやてとテスタロッサも目を丸くした。

 

「……晃一君、それ本気で言っとんの?」

 

「あんな無茶な修行してるのに魔導師として働く気はないの?」

 

 その変なものを見る目をやめろ。

 

 いつだったか、はやてたちに修行風景を見られたことがあった。片手崖登りとか素振り一万回とかである。危ないだとか無茶だとかうるさかった。あんたらの砲撃の方がよっぽど危ないわ。

 

 どうやら俺があんな修行をしてたのは魔導師として働く為だと思ってたらしい。

 

「そんなに無茶な修行してるの?」

 

 俺の修行を見たことがない月村とバニングスはハテナ顔だ。

 

「片手崖登りを見た時は本当に肝が冷えたわ」

 

「何してんのよ」

 

 はやての言葉を聞いてバニングスが俺を呆れた顔で見てきた。いやいや、こんくらいの無茶は無茶に入らんよ?

 

 

 

「あんたはどこへ向かおうとしてんのよ」

 

「幻想郷かな」

 

「時々、晃一君の考えてることが分からんわ」

 

 そこはかとなくバカにされた気がする。

 

「というか、働くってお前ら学校はどうすんのさ?」

 

「お母さんたちと相談して、中学校まではいくことになったんだ。仕事の時は、休むことになっちゃうけど」

 

「まあ、その辺はクロノ君とかが調節して、できるだけ学校の無い日にしてもらうつもりや」

 

「実は、私はもう嘱託魔導師っていう、こっちでいうバイトみたいなものかな?をやってるんだ」

 

 高町、はやて、テスタロッサの順に答えた。義務教育はしっかり修めるってことね。やはりその辺はあの家族ならきっちりやらせるだろうな。進路を決めるには早すぎるわけだし。

 

 嘱託魔導師、バイトみたいなもん、ねえ。それはちょっと考えてみようかね。デバイス製作の為にもお金は欲しいし。

 

「ま、とにかく俺は管理局には入らんよ。まだ小学生だ。時間はたっぷりあるさ」

 

 将来のことを考えんのはまだまだ先だろ。

 

「あんたたまに妙に大人っぽくなるわよね」

 

 バニングスに言われた。まあ、少なくともあなたたちよりは大人ですから。

 

 

 

 てなわけではやてたちは管理局に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 春である。進級して四年生になりもうした。だからといって何かが変わるわけでもないが。ああでもクラスは変わるな。クラスメイトの事をまともに覚えてない俺には関係ないけど。

 

 掲示されてる紙で自分のクラスを確認する。あ、月村と同じクラスじゃん。あとは……え? 何故に?

 

 

 

「お! 今年も同じクラスだな! よろしく!」

 

 教室に入るとクラスメイト君が話しかけてきた。そういえばお前とは去年も同じクラスだったな。

 

 適当に話してると、HRが始まった。

 

「クラス分けの紙を見て知ってるかもしれないが、今年から編入してきた子が一人、うちのクラスにいる。入ってこい」

 

 新しい担任(といっても去年と同じだが)がそういった。え、あれまじなの?

 

 入ってきたのは見覚えのありすぎる車椅子少女。

 

「八神はやてです。見ての通り足がちょい不自由で、今はリハビリしてます。車椅子なんで皆に迷惑かけてまうかもしれへんけど、皆、よろしゅうな!」

 

 はやてが編入してきた。うっそーん。そういえばあなた学校には行ってなかったんだっけ。でも聖祥か。まあ確かに高町たちが居るから選ぶならここだよな。

 

「じゃあ古夜、お前八神に校内案内しろ」

 

「え、ちょ」

 

 いきなりなんですか。そんな面倒くさいの勘弁なんですが。

 

「お前休み時間は色んなところを彷徨ってるだろ? それに友達だって八神から聞いてる」

 

「テヘペロ」

 

 どこでそんな顔芸覚えたてめえ。不覚にもイラッとしたわ。お前俺が面倒くさいの嫌なの知っててやらせようとしてんな? 周りの奴らも俺の友達ってことにかなり驚いてるし。

 

「お前俺以外に友達居たのか!? しかも転校生と!」

 

 クラスメイト君が特に五月蠅い。転校生じゃなくて編入生な。あとお前のこと友達っていう認識はなかった。

 

「orz」

 

 崩れ落ちたクラスメイト君。まあそれは置いといて、

 

「せんせー、月村の方が仲が良いので月村に任せた方が良いと思いまーす」

 

「え!?」

 

 急に振られて月村が焦っている。悪く思うな。

 

「じゃあ月村と二人で案内な。お前はやれ」

 

「横暴だ」

 

 そこまで俺に案内させたいのか。

 

「貴重なお前の友達だろう。友達が居るって聞いて先生感動の涙を流したよ」

 

 いやまあ、確かに友達居ないけど。特に気にしてないし。

 

「ほんとにぼっちやったんやな」

 

 お前後で覚えてろよ。

 

 

 

 

 

 

放課後。仕方なくはやてに月村と校内案内している。

 

「まさか聖祥に編入してくるとはな」

 

「ふふっ驚いたやろ? こういち君には黙っとったからな」

 

「はやてちゃん反応が楽しみって言ってたもんね」

 

 月村は知ってたってことは高町たちも知ってたんだろうな。

 

「屋上で弁当とかええもんやな」

 

 昼は高町たちと食べたみたいだ。仲が良さそうで何より。

 

「こういち君はどこで弁当食べとるん?」

 

 普段は教室だな。クラスメイト君が寄ってくるけど。たまに気が向いたらうろちょろして外で食ったりもする。

 

「相良君と結構仲良いもんね」

 

 相良って誰?

 

「ほんまに名前覚えとらんのやな……」

 

 あ、もしかしてクラスメイト君のことか。相良って名前だったのね。まああいつのことはどうでも良いとして。

 

「散策してて一番の発見は、一年の時の高町たちの喧嘩かなあ」

 

「何それ詳しく」

 

「え、ええ!? 晃一君、見てたの!?」

 

 懇切丁寧に説明して差し上げた。

 

「へー。ビンタとはなのはちゃんやるなあ」

 

「それで今親友ってのがすごいね」

 

「そういえばフェイトちゃんの時も同じ感じやろ」

 

「あいつ少年漫画の主人公なんじゃねえの」

 

 衝突から始まる友情とか熱い。

 

「あ、あはは。とりあえず、喧嘩のことはアリサちゃんに言わない方が良いかな。本人の中ではかなりの黒歴史みたいだから」

 

 そんな地雷を踏む気はありませんよ。

 

「あ、そうだ」

 

「なんや?」

 

「俺、嘱託魔導師としてバイト始めることにしたわ」

 

「なんやと!?」

 

 俺からの大したものではないがサプライズ。

 

「えっと、嘱託ってちょっと前のフェイトちゃんと同じってこと?」

 

 月村が聞いてきた。

 

「いや、もっと軽いかな。週末の、俺の気が向いた時に仕事があればやるみたいなもんだから」

 

 多分基本は地上部隊、つまりはミッドチルダでの仕事だろうな。あそこは仕事無い日が無いから。

 

 バイト入れた週は土日どっちも使わなくちゃいけないから面倒くさいけど。お金は欲しいし。グレアムさんやリーゼ達と相談して決めた。嘱託の登録なんかもグレアムさんの伝手を辿った。

 

 まあその辺は内緒のことだが。

 

「じゃあ、一緒に働くこともあるかもしれへんな」

 

 その確率は大分低いと思うけどな。今言ったばっかだけど、基本は地上部隊での仕事だろうし。

 

 

 

 まあ、嬉しそうだし、余計なことは言わないでおきましょうか。

 

 

 




クラスメイト君の名前が判明。あと流石にはやてが仲良し四人組と一緒のクラスはありえねえなと思ったので、知り合いである主人公と仲のいいすずかがはやてと一緒のクラスになりました。

アリサ、フェイト、なのはは一緒のクラスです。


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16話 試験とコネクション

時系列とかいろいろ見直してたら間違いに気が付いたので慌てて作り直しました。まだ間違いあったらご報告願います。


 俺は今、はやてと二人でミッドチルダに居る。決してデートとかではなく、デバイスマイスターの試験を受けに来たのだ。

 

 ここまで真面目に勉強したのは前世含めて初めてだわ。前世は割りと妥協してたし。

 

「晃一君、自信ある?」

 

「ぼちぼち。そっちは?」

 

「まあ、落ちはしないやろな」

 

 周り結構年上多いのに言うじゃないか。

 

「だってマリエルさんに講師してもらったからなあ。これは落ちられへんよ」

 

 確かにね。

 

 マリエルさんとははやてが言った通りデバイスの師匠である。今日俺たちが受けるB級デバイスマイスターの更に上、A級デバイスマイスターなのだ。ミッド式のカートリッジシステムを高町達のデバイスに組み込んだのも彼女。

 

 嬉しいことに、俺たちのデバイス造りも手伝ってくれているのだ。超頼もしい。闇の書事件解決の報酬に手伝いを頼んで良かった。

 

「そろそろ時間やし、行こか」

 

 よっしゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、割りと余裕でした。出来た人から帰って良しとのことだったのでさっさと終わらせた。はやてよりも速く。中身大学生が本気で勉強したんだから負けるわけにはいかないよね。今ははやてが出てくるのを待っている。

 

 つもりだったけど、じっとしてるのは嫌いなぼくちゃん。折角の地上本部ってことで散策中です。

 

「む? 子供が何故ここに居るのだ?」

 

 結果、おっさんに捕まりました。

 

「デバイスマイスターの試験を受けに」

 

「ほう、では何故会場に居ない?」

 

「試験終わって、相方待つ時間潰しに散歩してました」

 

「もう済ませたのか。優秀だな。是非とも地上部隊に入って欲しいが、優れた人材は皆海や空にいくからな……」

 

 なんか一人で落ち込み始めた。俺無所属ですけど、とは言わない。激しく面倒くさいことになる希ガス。

 

「そもそもだな……」

 

 あ、これ長くなるわ(確信)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仲良くなりました。

 

 なんか途中から愚痴聞くはめになって、適当に相槌打ってたら気に入られた。

 

 なんとこのおっさん、レジアス・ゲイズさんは地上部隊のトップ、階級は中将の超お偉いさんである。この人、ミッドチルダの治安維持に相当熱心なのだ。

 

 そこに俺が。

 

「管理局の要である地上部隊に戦力を割かないのは愚の骨頂ですね☆」

 

 とうっかり口にしてしまったので、それが決め手だと思う。失言だった。

 

 まあ、お偉いさんの知り合いが増えるのはプラスなので良しとしましょう。

 

「大分スッキリした。礼を言うぞ」

 

 いやいや、特に何もしてませんよ。

 

「君のような若者も珍しいな。いつか一緒に飲みたいものだ」

 

「その時は是非!」

 

 良い酒飲ませてくれそう。愚痴聞いた甲斐があったね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はやてから結果が出たとの連絡。あとどこほっつき歩いてると怒られた。結構時間経ってたんだね。

 

「大事な相方置いて何しとったんや? ん?」

 

「ちょっと地上のトップと親睦を深めてた」

 

「私が試験やってる時に何があったんや」

 

 あ、しっかり二人とも合格しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、晃一君は古代ベルカ式のデバイスで良かったんか?」

 

 帰り道、はやてに聞かれた。はやてのデバイスに合わせる形で、俺の新デバイスも古代ベルカの予定である。新なのに古代とは如何なものか。

 

「いやだって、古代ベルカ式使えたし」

 

 そう。意外なことに俺には古代ベルカ式の魔法にもそれなりに適正があった。シグナムにちょっと教えてもらったら出来たのだ。

 

 古代ベルカ式の魔法はレアスキルにも認定されるほど希少らしい。俺、才能あったよ!

 

「どんなのにしたいとかは決まっとるん?」

 

 勿論。シグナムのレヴァンティンを見た時から決まってるよ。ガンブレード一択だってね!

 

 いや、ほんとあのロマン武器を再現できるとかまじ胸熱。俺の心がエンドオブハート。被ってるしそれじゃ俺死んじゃいますねぇ……。

 

「なあ、それやったら今度、私の知り合いに会ってくれへん?」

 

 はやての知り合い?

 

「せや。カリムっていって、私が結構お世話になっとる人なんよ」

 

 そーなのかー。

 

「晃一君のこと、幼馴染みみたいなもんですって話してたら、是非あってみたいって言っとってな」

 

 まあ、付き合いの長さ的にはそうだよね。

 

「聖王教会の騎士もやっとるんやで」

 

「あ、パスで」

 

「なんでや!?」

 

 えーだって、ねぇ? 教会とか、宗教柄みはちょっと……。偏見なのだろうが、よく知らない宗教に深く関わるのはちょっと危ないと思う。

 

「むー」

 

 はやてはむくれ顔をしている。そんな顔されてもやだよ。面倒くさいじゃん。

 

 ため息を吐くはやて。

 

「まあ、今回は諦めるわ」

 

 金輪際諦めて下さい。

 

「あ、でも古代ベルカ式の魔法使うなら100%聖王教会のお世話になることになるで」

 

 え。

 

「ガンブレード使うんやったら絶対関わらなあかんしなーだったらわたしの知り合いの方がええと思うんやけどなー」

 

 貴様ッ! 謀ったな……! てかこれ俺に選択権無くねえ? 今度は俺がため息を吐いてしまう。

 

「分かった。会いに行きますよ」

 

「計画通り」

 

 最近お前もネタかますようになったよね。その顔芸はなかなかのもんだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでやってきました聖王教会。広いな。探検したくなってきた。

 

「うろちょろせんといてな」

 

 先手をとられた。ちっ。

 

 仕方ないので大人しく付いていった。カリムさんとやらのところへ行く途中、はやては色んな人に挨拶していく。大変だねえ。印象を良くする為とか、色々ありそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 カリムさんの部屋に着いた。

 

「カリム、あたしや、入るで」

 

 呼び捨てとは、年はそこまで離れてないようだ。

 

 部屋に入ると、二人の女性が居た。金髪の方が口を開く。

 

「あなたが晃一君ですね。初めまして、私はカリム・グラシア。聖王教会の騎士です。はやてとは親しくさせて頂いています」

 

「初めまして。古夜晃一です。どこにでも居る学生です」

 

「ダウトや」

 

 黙らっしゃい。

 

 金髪、カリムさんがにこやかに笑う。

 

「一度話をしてみたかったのよ」

 

 談話タイムというわけですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、良い人だったよ、カリムさん。俺はカリムさんの護衛のシスターシャッハと仲良くなったけど。彼女近接戦のプロだってね。なんと彼女の武器、トンファーである。かっこいいよね、風紀委員長だよ。咬み殺しちゃうんでしょ?

 

 シグナムともよく模擬戦してるんだって。俺のことはシグナム経由で聞いてたそうだ。その流れで模擬戦に誘われたがテストの後で疲れてるので丁重にお断りした。疲れてなくてもお断りしたい。俺は戦闘狂じゃないんだって。

 

「仲ようなれたみたいで良かったわ」

 

 そっちも頼りにしてる人が良い人そうでなによりです。

 

「また会いに行こうな」

 

「あ、それは遠慮しときます」

 

「なんでや!!」

 

 また行ったら今度はシスターシャッハに模擬戦申し込まれそうなんだもん。

 

「晃一君て、あんだけ修行しとるのに、なんで模擬戦は嫌いなん?」

 

 別に誰かに勝ちたいからとか、誰かの為にとかじゃないからね。二次元の技を再現するっていう自己満足の為にやってるだけだから。戦いは目的じゃないんだよ。

 

「変なの」

 

 まあ、自覚はあるよ。だって中身が異常だもの。

 

 




主人公の知り合いが増えました。

主人公についての説明を一つ。

 彼は顔と名前を覚えるのが苦手というよりは覚える気があまりありません。しかし覚えといたほうがいいと思った人、主にお偉いさんであれば覚えます。
 クラスメイトの名前を覚えてないのは、特に関わるつもりも必要もないからです。
 なのは達は闇の書事件がきっかけで覚えました。


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17話 観光とアクシデント

「おお~! すっげー大迫力!」

 

 クラスメイト君、確か相良がバスの窓から見える景色を見てはしゃいでる。他の子も総じてテンションが高い。

 

 五年生となり、季節は秋。修学旅行なうでございます。

 

 

 

 

 

 旅行先は日光。まあ、お約束である。班は俺、はやて、すずか、多分相良の四人。三、四人の班になれとのことだったので自然とこうなった。といっても、自由行動の時はとなりのクラスの高町達の班と一緒に行動する予定なので特に意味はないが。

 

 その事を聞くと相良が泣きながら俺に感謝してきた。美少女五人組と一緒の修学旅行になるのが嬉しかったらしい。ませてんなあと思いつつも、きしょかったので蹴り飛ばした。

 

「やっぱ皆テンション高いな」

 

 この辺は年相応である。その為大変騒がしい。

 

「ビッグイベントだもんね」

 

 そう言う月村も旅行が楽しみそうだ。

 

「私は皆でお泊まりが楽しみやな!」

 

 学校のイベント自体あまり経験してないはやてはカメラを首からぶら下げてテンションMAXである。

 

「晃一君は相変わらずテンション低いね」

 

 それなりに楽しみではあるけどね。でも前世で行ったことあるし。中身が中身だし、これはしょうがないよ。

 

「まあ良い木刀があれば迷わず買うつもりだけど」

 

「ベタか」

 

 定番と言いなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 一日目は自由行動は無く、団体行動で終わった。という事で旅館なわけだが、やべえわ、この学校。流石私立。すっげぇ高級そう。部屋は広いし料理は豪華だし、温泉は半端無く良い景色。ぱないの! 布団もふかふか。これは良く眠れそうだ。

 

 部屋割りはおそらく相良と二人。小学生とはいえ、男女は別の部屋である。

 

 

 

「なあ、晃一」

 

 夜。消灯時間となり布団に入って寝ているとクラスメイト君が話しかけてきた。

 

「なんだ? ひょっとすると相良」

 

「俺はひょっとしなくても相良だ!」

 

 五月蝿い。先生来るぞ。それよりなんだ、急に話しかけてきて。

 

「恋バナしようぜ」

 

「きもい。寝ろ」

 

 ヤロー二人で恋バナとか誰得だよ。

 

「いやだってさー! いっつも一人で居た癖に、急に美少女五人組と仲良くなってさー! 何あったのか気になるじゃん!」

 

「仲良いって、たまに話する程度だろうが」

 

 相良は仲良くなったといってるが、学校に居る時は基本話さない。はやてもすずかもあまり俺が話をしたがってないのを分かってくれてるからだ。

 

 だから五人は五人で固まっていて、そこに俺が入ったりはしてない。たまに、翠屋とかで会った時に話をする程度だ。

 

「充分羨ましいんだよ。男子は話自体できないもん」

 

 もんじゃねえよ。それはお前らが話しかけれないだけじゃん。女子から男子に何の切っ掛けも無しに話しかけることなんて無いだろうし、男子から話しかけないと話すことはできないだろう。

 

「その切っ掛けを教えてくれよ」

 

 えー。

 

 俺があいつらと話すようになった切っ掛けか。はやてはいつの間にかって感じだし。他四人は闇の書事件が切っ掛けだからなあ。詳しいことは言えないし言うの面倒だし、簡単に言うと、

 

「死にかけたのが切っ掛けかな」

 

「全く参考にならない」

 

 じゃあ寝ろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修学旅行二日目。自由行動がメインである。

 

 俺達は二班が一緒になってるので割りと大所帯だ。

 

 コースには特に珍しい物があるわけでもない、定番のコース。今は、お土産を買っている。

 

「ほう、イチイガシの木刀か。形も真剣に近い。買いだな」

 

「ほんまに買っとんのかい」

 

 今は皆バラバラに買っているが、はやての場合車椅子を押す人が必要なので一番力のある俺が一緒になっている。

 

「そっちは守護騎士達に何買うか決めた?」

 

「ヴィータにはぬいぐるみ買って、シャマルとザフィーラの分も買うたから、あとはシグナムやな」

 

 シグナムか。それならもう。

 

「木刀一択じゃね?」

 

「やっぱり?」

 

 なんかめっちゃ喜びそう。嬉々として素振りを始めるよ、絶対。

 

「でもわたしが木刀買うのはちょっと……」

 

 まあ、車椅子の少女が木刀買ってたら確かに変だよね。

 

「俺が代わりに買ってやんよ」

 

 代金はしっかりもらうけどな。イチイガシは高いんだよ。

 

「……なんや、晃一君には世話になってばかりやなぁ。今だってほんまは独りで自由に動き回りたいんやろうし」

 

 突然何を言っとるんだこの小娘は。

 

「特に見たいとこもないし、この程度で気にしてんじゃ無いよ。こんだけ付き合い長いのに今更な話だろう」

 

 魔導師ってのがあるし、これから先も縁が切れることは無いだろう。些細なことを気にしてたら疲れるぞ?

 

「…………おおきにな」

 

 どういたしまして。

 

 

 

 

 

 で終われば良かったのだが。

 

『はやてちゃん、晃一君、大変なの!』

 

 高町からの念話。かなり切羽つまった声だ。

 

『すずかちゃんとアリサちゃんが……拐われちゃった!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのはちゃん!」

 

 全力で車椅子を押して高町達の元へ。

 

「何があった?」

 

「フェイトちゃんと二人でお土産買っててすずかちゃんとアリサちゃんが黒スーツの人に車で人混みが!」

 

「落ち着け」

 

 二人から話を聞く。

 

 高町とテスタロッサは二人で居てお土産を買って月村たちと合流しようとしたところ、人混みの向こうで月村たちが黒スーツの人に車に連れ込まれるのを見たらしい。

 

 人の多いところで魔法を使うわけにはいかず、急いで路地裏に移動してサーチャーを飛ばしたが、月村達は見つかっていないとのこと。

 

「どうしよう……」

 

 まずは保護者に連絡だな。もしかしたら、GPSで月村たちの居場所がわかるかもしれない。

 

 携帯を開き、電話をかける。

 

「もしもし、忍さん?」

 

『おお? 晃一君から電話なんて珍しいっていうか初めてだね、どうしたの?』

 

「簡潔に言います。月村が誘拐されました。携帯のGPS機能で居場所特定できませんか?」

 

『っ! わかったわ。今場所を特定する。わかったらすぐ教えるわ』

 

「携帯、捨てられてませんかね?」

 

『捨てられてても大丈夫よ。こんなこともあろうかと、すずかには内緒で全ての衣類に発信器を付けておいたから』

 

「……oh」

 

 まさか下着もじゃないでしょうね。怖くて聞けないが。何にせよ助かる。

 

『それと、もしもの時の為に知り合いの警察が一緒に行ってるはず。私から連絡しておくから無茶しないようにね』

 

「ありがとうございます」

 

 流石忍さん、頼りになるぜ。それに何もするなと言わない辺り、分かってるね。

 

『……すずかのこと、お願いね』

 

「……了解!」

 

 携帯を閉じる。

 

「どうだった?」

 

 テスタロッサが不安そうな顔で聞いてくる。

 

「場所はすぐ分かる。大丈夫だ」

 

「じゃあ助けに行かないと!」

 

 高町お前はヒートアップしすぎだ。

 

「待て」

 

「待ってられないよ!」

 

「おかしいとは思わないのか?」

 

 何が!? とかなり焦っている高町の横で、テスタロッサが顎に手をやる。

 

「あんなに人が沢山居た中で攫われたのに、騒ぎになってない」

 

 流石は執務官志望、鋭い。ここは観光の名所だ。お土産を買ってたんなら周りにそれなりの人が居たはず。それでもばれてない、騒ぎになってないってことは、相当な実力のプロか、あるいは。

 

「魔法を使ってた……?」

 

 そう。はやての言う通り、犯人が魔導師の可能性がある。

 

「じゃあ私たちがいかなきゃ!」

 

「狙いはお前たちかもしれないんだぞ!」

 

 犯人が魔法関係者であれば、狙いは高町達で魔法の使えない月村達を人質にとった可能性もある。

 

 将来有望な魔導師に夜天の書の主。狙う理由としては充分だろう。

 

「私たちの所為なら、尚更……!」

 

 あくまで可能性としての話だ。普通に身代金目当ての可能性もある。そうであれば拳銃など質量兵器が相手となる。高町達には危険すぎる。

 

「俺が行く。今忍さんの知り合いの警察がこっちに来るから、状況説明は任せたぞ」

 

「……怪我、せんようにな」

 

 わーってますよ。

 

 女に頼むと言われちゃったんだから、ここは男の頑張りどころだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅう……?」

 

「起きたみたいね」

 

 アリサちゃんの声だ。ここは? 確か、アリサちゃんと二人でお土産を買ってて、そしたら急に大人の人に……。

 

「!」

 

「誘拐されたみたいね、私たち」

 

 アリサちゃんは冷静だ。私たちの家はとても裕福で、誘拐された経験も何回かある。普通の人よりは落ち着くことができるのだろう。私も同じだが。

 

 状況を確認する。私もアリサちゃんも手を後ろで鉄柱に縛られている。どうやら、どこかの廃工場のようだ。

 

「それにしても、妙ね。周りの人たち、私たちに気付いてなかったようじゃなかった?」

 

 確かにそうだった。攫われた時、私たちの周りには少なくない数の人が居たはず。だというのに、誰も気づかなかった。

 

 まるで意識を操られていたかのように。

 

「……!」

 

 最悪の考えが頭を過る。

 

 まさか犯人は…………。

 

「気が付いたようだな、月村のご令嬢」

 

『!!』

 

 いつの間にか男が居た。見覚えのある顔。彼は、一族の……!

 

「あんたが犯人ね! こんなことして捕まらずに済むと思ってるの?」

 

 アリサちゃんが強気に言う。

 

「思っているからこうしてるんだろう、ねえ、月村の次期当主様?」

 

 そうだ。彼であれば可能かもしれない。私たちを攫ったのと同じ方法で。

 

「すずか、知り合いなの?」

 

 アリサちゃんが聞いてくる。

 

「うん。家のライバルみたいなとこの人だよ」

 

 前々から小競り合いがあったと聞いている。あまり仲の良くなかった家だ。

 

「聡明なお嬢様なら、もう目的は分かったろう?」

 

「……月村家を支配下に置くつもりですね」

 

「その通りだ。次期当主であるお前を捕らえれば、言うことを聞かざるを得ないだろうからな。海鳴に居る時は、メイド二人にあの剣士が居たが、海鳴を離れるこの時は絶好のチャンスというわけだよ」

 

 ということは大分前から計画していたのだろう。

 

「あんた、すずかにひどいことしたら、ただじゃおかないわよ!」

 

「アリサちゃん……」

 

 

 

 

「五月蠅いぞ、人間風情が」

 

「っ!」

 

 男に睨まれ、息を飲む。

 

「……人間風情とは、妙な言い方をするじゃない」

 

 殺気に当てられながらも、アリサちゃんは負けない。

 

「妙でも何でもないさ、俺は。……いや、俺達はといった方が正しいかな?」

 

「っ!」

 

 男がニヤニヤ笑いながらこっちを見てくる。

 

「なあ、そうだろ? 俺たちは……」

 

 駄目だ。それ以上は言わないで……!

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 突如男の無線機が鳴る。

 

「どうした? 何があった?」

 

『い、今、侵入者が来て、消そうと……ぎゃあ!?』

 

「なんだ!?」

 

 突然のことに動揺する男。

 

『……もしもし、私メリー。今、廃工場の入り口に居るの』

 

 さっきの男とは別の声。この声は……!

 

「誰だお前は!? 警備はどうした!?」

 

 無線機の声の主からは返答がない。一方的に通信を切られる。男は舌打ちをして、他の人に連絡を取ろうとする。

 

 そこで再び鳴る無線機。

 

『もしもし、私メリー。今、廊下に居るの』

 

 さっきよりも近づいているようだ。それも、すごいスピードで。

 

「どうしたんだ! おい! 応答しろ!!」

 

 男の動揺が激しくなっていく。

 

 

 

 

 

『もしもし、私メリー』

 

 何回目かもわからない、一方的な連絡。正直、かなり怖い。男の動揺も頂点だろう。

 

「なんなんだ!? どこに居る!?」

 

「今、あなたの後ろに居るの」

 

 いつの間にか、男の後ろで晃一君が拳銃を構えていた。

 

 

 




この話、もうちょっとだけ続くんじゃよ。


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18話 約束とヴァンパイア

これは、サブタイネタバレ、なのか……?


 スニーキングミッションだ!(正面突破)

 

 ってことでやってきました廃工場。べただね。

 

 警備の連中は皆拳銃を装備していた。多少は怖かったが、まあ弾が曲がるわけでもないし、恭也さんみたいな戦闘民族が居るわけでもないので割とサクサク進めた。今まで基本ボコられていた所為かやけに弱く感じる。

 

 ずっとイメトレしてロッテ相手に練度を高めてきた俺のCQCが火を噴くぜ!

 

 加減の仕方は知らないので、非殺傷設定の魔法を叩き込んでいく。いやー魔法って便利ですねー。

 

 一応、拳銃は回収しておく。使い方は詳しくは知らないが、弾が込められていて安全装置が外れていれば撃つくらいはできるし、ハッタリにもなるからね。

 

 拳銃片手に月村たちが居るであろうところに突入する。

 

 そこには、鉄柱に縛られた月村とバニングス、そして黒スーツの男が居た。どうやらこいつが主犯のようだ。

 

 銃を突きつける。面白いくらいびっくりしてるな。やったね! ドッキリ大成功!

 

「手を挙げろ」

 

 油断せずに。男を睨む。魔法かどうかは知らないが、妙なことができるはず。

 

「くそがっ! 人間如きが調子に乗りやがって……!」

 

「人間如き?」

 

 え、何こいつ。中二病? 邪王心眼が目覚めちゃうの?

 

 何言ってんだコイツと思っていると、男が動いた。

 

 警備のやつらとは違う、結構動きが速い。

 

 まあでも、恭也さんや美由希さんと稽古している俺には余裕で目で追えるんだけどね。

 

 迷わず引き金を引く。銃声が響く。だが、やはり素人には扱いが難しいらしい。外してしまった。

 

「バカめ!!」

 

 男が腕を振るってくる。俺はそれを片手でいなし、距離を取る。

 

 正面に向き合う形となったため、男の顔が見える。真っ赤な瞳。俺の左目やテスタロッサのものとはまた違う赤。瞳の模様が普通じゃないぞ?

 

「目を見ちゃダメ!!」

 

 月村の叫び声が聞こえた。何故?

 

 もう一度男の顔をみると、

 

「ん……?」

 

 男は醜悪な笑みを浮かべていた。

 

 急に視界がボヤける。意識が混濁してきた。なんだ? 何をされた?

 

「ぐっ!?」

 

 蹴られた。誰にだ? いや、あの男に決まっているだろう。

 

 痛くはないが、すごく気持ち悪い。男の笑い声が五月蝿い。蹴りは全然効いてねえのに調子に乗りやがって。

 

「ははははは! 驚かされたが、所詮は人間のガキだな!」

 

「何を、した?」

 

 男を睨み付ける。男は笑いながら話し始めた。

 

「何って、精神干渉だよ。我々、夜の一族の得意技さ」

 

「やめて!!」

 

 月村が叫ぶ。何故そこで月村が反応する? 夜の一族ってのが関係してんのか?

 

 止める月村を無視して、男が言う。

 

 

 

 

 

「俺とそこの女、月村のご令嬢は、吸血鬼の一族だ。下等な人間とは違う、上位種族なんだよ!」

 

 

 

 

 

 

「なん……だと……?」

 

 こいつと、月村が、吸血鬼?

 

「嘘よね、すずか……?」

 

 バニングスもかなりショックを受けている。嘘だろうと月村に確認しようとするが、

 

「…………」

 

 月村は涙を流している。唇を噛みしめ、血が滲んでいるが、何も答えない。答えられない。その沈黙が表すのは、肯定か。

 

「そこの女は、友達ごっこをしながら、心の中ではお前らを見下してたんだよ!」

 

「違う!!」

 

 男の言葉に月村が反応した。

 

「アリサちゃん達は、本当に、親友だと思ってるもん……!」

 

 涙を流しながらも男の言葉を否定する。

 

「すずか……」

 

 いやいや落ち着け? 情報を整理しよう。この世界、元々魔法はある。てか俺使ってる。そして吸血鬼は実在するらしい。ということは、つまり……。

 

 

 

 

 

 幻想郷が実在する可能性が微レ存……?

 

 

 

 やべえまじかよこれは来たよ! よく考えてみたら月村が吸血鬼ってことは忍さんもってことじゃん! 吸血鬼姉妹だよ最高だね! しかもあそこの家にはノエルさんっていう完全で瀟洒なメイドが居るし。何だよあの家!?

 

 待て待て落ち着くんだ俺。素数を数えるんだ。

 

「……誘拐の時もその精神操作を使ったな?」

 

「ほう、まだ頭が働いているとはな。その通りだ。あの人混みの意識を誘導するのは骨だったぞ?」

 

 成程。魔法ではなかったか。これはやっぱりはやて達が来なくて正解だったな。

 

「さて、茶番もここまでだ」

 

 男が俺の捨てた拳銃をこちらに向ける。

 

「晃一君!!」

 

「晃一!!」

 

 そして、銃声が響いた。

 

 銃弾が、俺の心臓を、貫く――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 って、思うじゃん?

 

「なに……!?」

 

 男が信じられないものを見た様な顔をしている。

 

 俺は普通に立っていた。やったことは至ってシンプル。

 

 銃弾をジェイドで斬った。

 

 蘭ねーちゃんは至近距離で躱してるし、キリトくんは対物ライフルの弾斬ってるし、まあ不可能ではないよね。てか恭也さんなら余裕だろ。

 

 斬った弾の欠片が掠ったか、俺の頬から一筋の血が流れる。

 

「まさかっそんなことが……! そもそも貴様、精神干渉はどうした!?」

 

「ネタバレ乙、とだけ言っておこうか」

 

 タネを早々に言ってくれたからね。精神干渉なんて対処のしようは割とある。みさきち系統だったらみこっちゃんみたいに電磁バリアを魔法で張れば良いし。もっとアナログな魔術系であれば強いショックで立ち直れる。あとは相手より精神的に有利なら良いんだっけ? ソースは二次元なので、確証は無かったが。

 

「くそがぁっ!」

 

 銃を捨てて襲いかかってきた。もう底は知れたな。

 

「灰は灰に、塵は塵に」

 

 使うのは、不良神父の技。俺の周りを魔法の焔がうねる。

 

「吸血殺しの紅十字!!」

 

 両手に焔の剣を生み出す。相手が吸血鬼だから何となく使いたくなったんですよ。

 

 目を見開いてる男に、思いっきり叩きつける。

 

 焔に飲み込まれ、男はあえなく撃沈した。

 

 

 

 

 

「安心しろ。非殺傷だ」

 

 どこが、とは聞かないで下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人を解放して、代わりに男を鉄柱に縛り付ける。

 

「お前らも災難だったな。修学旅行で誘拐されるとは」

 

 流石に同情するよ。

 

「…………」

 

 二人とも無言。ん? どうした?

 

「……アリサちゃん。今まで黙ってて、本当にごめん……!」

 

 月村がバニングスに頭を下げる。ああ、そうか。吸血鬼ってのずっと秘密にしてたんだっけ。

 

「……あの時の言葉、嘘じゃないんでしょ?」

 

「え?」

 

「私たちを親友だと思ってるって」

 

「う、うん!」

 

「私も同じ。なのはたちも絶対にね。……だから、すずかが吸血鬼ってことくらいで嫌いになったりなんかしないわ」

 

「アリサちゃん……!」

 

 抱き合う二人。美しき友情かな。

 

 

 

 

「……それで、あんたはどうなの?」

 

 一頻り泣いたあと、バニングスが聞いてきた。俺に。なんぞや?

 

「あんたはすずかのこと聞いて、どうすんのよ」

 

 え、俺にも聞くの? 月村もめっちゃこっち見てるし、これは答えなきゃいけないのかな?

 

「いや、別に……むしろウェルカムとしか」

 

「あんたほんとにぶれないわね……」

 

 バニングスが呆れた目を向けてくる。俺しょっちゅうそういう目で見られてる気がすんな。

 

 ああ、そうだ。良いこと思い付いた。

 

「約束しようぜ」

 

「……約束?」

 

 そう。

 

「酒飲めるようになったらさ、知り合いの吸血鬼とか皆集めて、宴会をしよう」

 

 東方みたいにさ。あれ、夢なんだよね。

 

「……そんなことで良いの?」

 

 そんなこととはなんだ。人外達との飲み会なんて素晴らしいじゃないか! 鬼とか妖精とかとどんちゃん騒ぎしてみたいじゃん!

 

 それに、

 

「ソウルメイトだろう? 重要なのは魂だ。肉体がどうこうじゃないんだよ」

 

「晃一君……」

 

 じゃなきゃ困るよ。

 

「ぶっちゃけ、俺も結構オカルトな存在だと思うし」

 

「えっ?」

 

 あっやべっ。うっかり口に出してしまった。いや、だって転生とかまじオカルトじゃん。

 

 どう誤魔化そうかと考えていると、

 

「どうやらもう終わっちゃったみたいだね」

 

 背後から声。反射的に銃を構える。

 

「こらこら、武器を向けないの。ボクは味方だよ」

 

 そこに居たのは白髪の女性。

 

「忍さんの言ってた、警察の人?」

 

「そうそう。名前はリスティ・槙原。よろしくね」

 

 ハーフさんですか美人ですねー。そう思ってると、なんか頭がチリチリしてきた。電磁バリアを張る。

 

「!」

 

 リスティさんが驚いている。今のあんたですか。

 

「君も、なかなか面白いことができるみたいだね? 電磁バリアか。あまり読めなかったな」

 

「何しれっと頭の中覗いてんですか」

 

「普通なら気づかれないんだけどねー」

 

 まあ、ついさっき正確には違うとはいえ精神干渉を受けたばっかですから。そうでなきゃ気づかなかった。

 

 この人、HGSか。

 

 HGSってのは簡単に言うと超能力者。割と世間でも知られている異能の力である。この辺はやっぱ前世と違うよね。

 

 やべえな、どこまで見られた? はやて達から話を聞いて来てるはずだから、まあ魔法のことはバレてんな。そこは良いとして、前世のことも知られた? それは流石に…………ん? 特に困ることないな。

 

「……んじゃ後始末は任せますよ」

 

「頭覗かれてその反応って、忍から聞いてた通り変な子だね」

 

 失敬な。

 

「あと、発砲した件についてはあとでゆっくり聞かせてもらうからね?」

 

 ははっ、読まれてーら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、誘拐事件は無事に終わった。

 

 月村は結局、高町達にも夜の一族のことを話した。当たり前の話だが、月村を否定する奴は居なかった。それなら、この事件は良い切っ掛けになったんじゃないかなと思う。

 

 夜の一族には秘密を知った者に記憶を消すか、誰にも秘密を話さないことを誓うか選択してもらうらしいのだが、俺を含めて皆が秘密を守る方を選んだ。

 

 あとリスティには前世の記憶があるっていうのがばれた。銃を撃ったりなんだりの説明をしてるうちに頭覗かれた。HGS恐るべし。

 

 そんなわけでリスティのことは呼び捨てに。中身同い年くらいだからね。

 

 それと良いことが一つあった。なんとリスティが銃器の使い方を教えてくれるとのこと。条件は、リスティの仕事を手伝うことである。

 

 やったぜ! これでCQCが完成する!

 

 こんな感じで修学旅行は終わった。

 

 その後変わったことと言えば、月村が前より話しかけてくるようになった。はやては友達同士が仲良くなって何よりと言っている。お前は俺のオカンか何かですか?

 

 大方俺がオカルトな存在っていうのを聞いてシンパシー的なのを感じたんだろう。

 

「つっても、俺は月村みたいに肉体が変なわけじゃないからなあ」

 

「え? じゃあ、幽霊みたいな?」

 

 月村さんそれ肉体が変とか変じゃないとかそれ以前の問題じゃないですかねえ。

 

 違うよ。肉体は普通なはずだよ。俺が言いたいのはこう、魂が普通と違うっていうか、

 

「俺は中身が変なの」

 

 あれ? なんかこれ違くね?

 

『知ってる』

 

 月村とはやてに頷かれた。あるぇー?

 




すずか、友達に打ち明けたことにより体質へのコンプレックスを解消。

リスティ登場。個人的にかなり好きです。アニメに出てないなかで初のとらハキャラでした。

追記
よく考えてみたら敵倒したの初めてですね。おめでとう、主人公。


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19話 聖夜とRe;バースデー

お久しぶりでございます。


「晃一君! はよはよ!」

 

 速い速い。そんなに急がんでもデバイスは逃げないよ。

 

 今日ははやてと二人で本局に来ている。

 

 ついに、俺とはやてのデバイスが完成したのだ。

 

 いやー、長かったよ。なんせ古代ベルカ式だから、資料集めから難航したよ。ましてはやてのはユニゾンデバイス。ほぼゼロからのスタートだった。俺のは大体の構造はイメージしてたが、色々と辻褄あわせが大変だった。二次元の武器だからしょうがないのだけれど。

 

 それにしても。

 

「……何の因果かね」

 

「せやな。まさか、今日になるとは」

 

 今日は地球では12月25日、クリスマス。

 

 リインフォースの命日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、来たか、二人とも」

 

「早いね、くろすけ」

 

「くろすけ言うなと何度言えば」

 

「相変わらず仲ええなあ」

 

 開発室に入るとクロノが居たのでいつものように軽口を交わす。ロッテ姉妹に扱かれた仲間なので結構気が合うんだよね。

 

 仕事で顔を合わせることは滅多にないが、ミッドに来て都合が合えば話すことが多い。ユーノも合わせて三人でね。

 

 古代ベルカの資料集めに無限書庫を使いに行くことも多かったので、ユーノともそれなりに話すのだ。ユーノからはよく高町の学校での様子を聞かれる。青春だよな。本人達はただの友達って否定してるけど。

 

 ユーノはこんな調子だし、高町は鈍そうだし。付き合うってことはあるんだろうかね。二人で話してる時の空気はカップルのそれだったけど。爆発すれば良いのに。パルパルパルパルパルパル…………。

 

 話が逸れた。

 

「完成してるんだろ?」

 

「ああ。今、奥でマリエルが最終調整してるよ」

 

「やっと会えるんやな」

 

 はやてのテンションが上がっている。二年かかったからね。俺も気分が高揚してきたよ。

 

 三人で奥の部屋、新デバイスの居る場所へ。

 

 入ると、満面の笑みのマリエルさんが居た。

 

「ども、マリエルさん。最終調整終わりました?」

 

「うん! 今丁度終わったよ! ついにお披露目! ご覧あれ!!」

 

 マリエルさんが横に移動すると、そこには小さな生体ポッドの中で眠る、一人の少女。そしてその隣にはライオンのネックレス。

 

 

 

 

 

「はやてちゃん命名、『リインフォース・ツヴァイ』と、晃一君命名『グリーヴァ』だよ!」

 

 

 

 

 

 はやてが少女を受け取る。見た目はリインフォースそっくりだ。

 

 少女がゆっくりと目を開く。

 

「認証……完了しました。初めまして! マイスターはやて!」

 

「よろしゅうな、リイン!」

 

 二人とも満面の笑顔だ。ツヴァイの方は先代、この子がツヴァイだからアインスとでも呼ぼうか、より活発化してるな。

 

「そちらの方は、マイスターはやてのお友達ですか?」

 

「そうや。リインの製作にかなり協力してくれたんやで」

 

 まあ、基本は俺とはやてとマリエルさんの三人で作ってきたからな。ものづくりは好きだし、楽しかったわ。

 

「なるほど! よろしくですお父さん!」

 

「誰がお父さんじゃおい」

 

 急にお父さん扱いとか何? はやててめえ笑ってんじゃねえよ。ここら辺の性格の調整お前担当だったろうが。

 

「ぷっくく……いや、間違ってはないやろ?」

 

 そうだけど。確かに産みの親みたいなもんだけど。

 

「産みの親ということは、つまり、お母さんというわけですね!」

 

「あはははは!!」

 

 はやて爆笑。この子は天然なの? どこをどう解釈してそうなったのか。アインスに似てんの見た目だけだわ。

 

「俺はお母さんじゃありません。古夜晃一。名前で良いよ」

 

「分かりました! よろしくお願いします晃一お父さん!」

 

 違う、そうじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 結局、お父さん呼びで固定となってしまった。お父さん以外で呼ばせようとしたけど、『じゃあパパですか?』などと天然を発動させまくったので、もうお父さんで良いやとなってしまった。変に疲れたわ。

 

「あはは、明るい子になってもらおうとは思ったけど、まさかこうなるとはなぁ」

 

「なんで小学生なのに子持ちにならなきゃならんのだ、俺は」

 

 設定年齢ほとんど変わんないでしょうに。せめて兄妹でしょ。

 

 性格ははやてのリンカーコアを少し移植してるからその影響もあるのかもしれない。そのお蔭でツヴァイ本人も魔法を使えるという。あ、これ俺のアイディアね。

 

「晃一君のデバイスも見せてくれへん?」

 

 おっしゃ。ネックレスを手に取る。

 

「それ、ライオン?」

 

「ああ。この世でもっとも強く、誇り高い獣だよ」

 

 このライオンの名前がグリーヴァである。ファイナルファンタジー好きなんですよ。

 

「グリーヴァ、セットアップ」

 

『セットアップ。マスター認証……完了しました』

 

 青年の声。ネックレスが輝き、形を変える。

 

 現れたのは、幅の広い刀身。鍔は無く、刀身にリボルバーが直接繋がっているような構造である。そのため柄も銃のグリップのようになっていて、普通の刀剣類とは違う。そして刀身には獅子の刻印。ここのデザインはかなり拘った。前世の細かいことをどんどん忘れていってるこの頭を捻って絞って完成させた。

 

「変わった形の武器やね」

 

 まあ、シグナムのレヴァンティンよりも剣らしくないからね。

 

「でもかっこいいです!」

 

 ツヴァイわかってるじゃないか。会心の出来だからな。

 

「戦闘では、レディージェイドとの二刀流になるのか?」

 

 クロノが聞いてきた。

 

「いや、ジェイドは近接戦には基本使わなくなるよ。その代わり、遠距離の射撃や補助に特化させる」

 

 その為の改造もジェイドにしてる。

 

「ジェイド、待機状態チェンジだ」

 

『はい。久しぶりの出番、漲ります』

 

 メメタァ。じゃなくて、はよ変われ。

 

 ネックレスだったジェイドが光る。光は移動し、俺の右目へ。

 

「それは、モノクル?」

 

 その通り。翡翠のレンズのモノクロである。

 

「これなら、待機状態でもある程度の機能が使えるからな」

 

 分析だったり視力補助だったり。

 

「確かに。眼鏡型のデバイスはそういう使い方も出来る。では、何故モノクルなんだ?」

 

「そっちのがかっこいいから」

 

「君はそういうやつだったな」

 

 地球ではメガネになると思うけどね。地球でモノクルなんてしてたらただの中二病にしか見えないからね。

 

「それで、この後はどうするんだ?」

 

「すぐに地球に帰るよ」

 

「クリスマスパーティーにリインの誕生パーティーもせんとな!」

 

 翠屋を貸しきってパーティーの予定である。ただ、稼ぎ時なので、営業時間が終わるまでは手伝うことになっている。

 

「パーティーですか! 楽しみです!」

 

「そうだったな。僕とエイミィは家に帰れそうにないが、フェイトは帰れそうだったからな。楽しんで欲しいものだ」

 

 なるほど。そのまま夜にしっぽりと言うわけですな。一年でもっとも多い日らしいし。何がって? おいおい、小学生にそんなこと言わせんなよぉ。

 

「君のそういうところ、ロッテ達にそっくりだな」

 

「褒めんなよ」

 

「照れるなよ」

 

 勿論この辺の会話はツヴァイ達には聞こえないようにしてますよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『メリークリスマース!!』

 

 地球に帰って来て、翠屋でパーティーである。メンバーは高町家、月村家、バニングス家、八神家、ハラオウン家、そして俺と相良である。月村家とバニングス家は親が来ていない。忙しいからしょうがないね。テスタロッサはハラオウン家の扱いである。なんでも、正式にリンディさんの養子となったらしい。名前も『フェイト・T・ハラオウン』となったが、シグナムや俺はそのままテスタロッサと呼んでいる。

 

「今ほどお前と一緒に居て良かったと思った時はないぜ」

 

 相良が言う。ユーノが来られなかったので同年代の男が居ないのは嫌だった俺が拉致ってきた。本人が大喜びなので拉致とは言えないが。

 

 相良は俺と一緒に居ることが多いので、ある程度はここの人たちとも面識がある。

 

「俺は今日、美少女五人組と仲良くなって見せる!」

 

 こいつの場合、無邪気で印象は悪くないからな。高町達もそれを良くわかってる。ぶっちゃけ一番はやて達と仲良い男子だと思う。本人は気づいてないと思うが。

 

 相良が高町達に突貫してくのを見送り、一人で料理を頬張る。流石桃子さん。美味しい。

 

「こんな時でも一人なんだね」

 

 誰かと思えば忍さんだった。

 

「あれ、恭也さんとは良いんですか?」

 

「まあ、パーティーのあとにも二人きりで話す予定だしね」

 

 クロノといい、リア充め。

 

「あ、遅ればせながら、御結婚おめでとうございます」

 

「ふふっ、ありがと」

 

 とうとう恭也さんとの結婚が決まった忍さん。幸せオーラ全開である。

 

 それにしても、恭也さんと忍さんの子供か。吸血鬼+戦闘民族高町の血が混ざったら、えげつない子が育ちそうだな。

 

「晃一君はそういうのないの? 気になる子とかさ」

 

「何分まだまだ子供なもので。まだまだ早いですよ」

 

「その返答は子供のじゃないってことは分かってるでしょうに……」

 

 呆れた顔の忍さん。俺の言ってることは間違ってない、二つの意味で。まあ、その辺の事情を知ってるのはリスティだけだが。

 

「あ、そうだ忍さん。俺そろそろ用事あるんで、その辺の連絡お願いします」

 

「ん、良いけど、用事って?」

 

 

 

 

 

「ちょっと、墓参りにね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は公園。リインフォースの儀式を行った場所である。墓参りとは言ってきたが別にここに墓があるわけじゃない。

 

 いつか座ったベンチに座る。

 

「……無事、完成して何よりだな」

 

『まだ気にしてたんですね。儀式のこと』

 

 ジェイドが言ってきた。あれは、はやてに何も言わずにやったからな。アインスの意志だったとしても、それなりに罪悪感が残る。

 

「ツヴァイにはアインスの意志が宿ってると良いんだけどな」

 

『デバイスに、意志が宿るのですか?』

 

 今日生まれたばかりのグリーヴァには信じられないみたいだ。デバイスなのだから、まあこの反応が当然と言えば当然なのだが。

 

「科学を極めれば極めるほど、それでは説明の付かないオカルトが見えてくるらしいぞ?」

 

『マスターの存在自体がオカルトですからね』

 

 それは前言った。

 

『そうなの……でしょうか』

 

『マスターと居れば自然と分かりますよ。あと私のことはお姉様と呼びなさい』

 

 お前は一体どこへ向かっているんだ。

 

『畏まりました、お姉様』

 

 素直に聞き入れちゃったよ。どうすんのこれ?

 

 ……こいつもツヴァイと一緒に作られた古代ベルカ式なんだよな。

 

 だったら、アインスの意志がこいつにもちょっとでも良いから宿っていれば良いな、なんて。

 

 

 

 柄にもなく、そんなことを考えてしまった。

 

 

 

 

 




主人公はリインフォース・ツヴァイのことをツヴァイと呼びます。

日常に笑いをと思っていたのに気が付けばこんな雰囲気に。解せぬ。


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Interlude~月村すずか~

日間ランキングにちらと入ってましたね。驚きました。
総合評価も1000を超えてうっはうはです。


今回はすずかちゃん視点です。


 私の友達には、少し変わった子が居る。名前は、古夜晃一君。私達の数少ない、男の子の友達である。

 

「晃一君、こんにちは」

「月村か。よっすよっす」

 

 翠屋なんかで会った時は話したりもする。

 

「今日も一人できてるんだね」

「ゆっくりしたいからな」

 

 彼は知り合いが結構多いが、特に誰かと仲が良いということがない。私はその中では、わりと親しい方ではないかと思う。

 

 

 

 

 

 彼と知り合った一番の切っ掛けは、はやてちゃんと友達になったことだろう。

 図書館でお互いのことについて話した時に、彼の名前が出た。

 学校に行っておらず、同年代の子と接する機会のないはやてちゃんの唯一といっていい友達。しかも男の子という事で、結構気になったのを覚えている。

 

 直接会ったのは、アリサちゃんとはやてちゃんのお見舞いに行った時。病室に入ろうとすると、丁度出てきた晃一君と鉢合わせになった。

 

 聞いていた通りのオッドアイ。フェイトちゃんの綺麗な赤とは違う、血のような紅の瞳。それはまるで、私のあの目のようで……。

 一瞬、彼も同族なのかと思ってしまい。動揺してしまった。

 

 それと、もう1つ気になったのは、彼の印象がはやてちゃんから聞いていたものと、少し違うような感じがしたことである。

 

 はやてちゃんからは面白い人だと聞いていた。でもあの時の晃一君は、なんというか、素っ気無い人だと感じたのだ。

 態度が悪かったと言いたいのではない。むしろ、その点に関しては同年代の子よりも遥かにしっかりしていた。

 同い年の私が言うことではないかもしれないけど。

 

 彼は私たちに、何の興味も示さなかった。何の感情も抱かなかったのだ。そこまでわかったのはやはり、私が夜の一族だからだろう。アリサちゃんは私のように感じてはいなかった。

 

 はやてちゃんのボーイフレンドかとは思っていたが。

 

 そこは私も前から気になっていたことではあったので、二人で色々と質問攻めにしてしまった。

 

 女の子だからしょうがないよね。

 

 

 

 

 

 

 

 次に会ったのはそれから少しして新学期に入った時。私とアリサちゃんが、魔法について知って間もない頃。

 

 なのはちゃんが、お昼に晃一君を呼びたいと言ったのだ。彼も魔法使いだから、色々と話を聞きたいんだとか。

 

 なのはちゃんが晃一君を知っていたことに少し驚いたが、クリスマスの時、事件のあの場に晃一君も居たらしい。

 

 はやてちゃんの友達ということもあって、私たちは反対しなかった。

 

 

 

 

 

 晃一君は、お弁当を食べてから来た。

 なのはちゃんはお弁当も一緒に食べるつもりだったようだが、断られたそうだ。先約が居たとか。

 

 ……きっと断る為の口実だよね。

 

 そこで話した晃一君は前とは印象が違った。

 思っていたよりも饒舌で、皆と親しげに話をしていた。

 

 私はソウルメイト扱いされてしまったが。

 ネタが通じるのが嬉しいとかなんとか。

 

 そのこともあって、前の無関心な印象は薄れた。

 

 ただ私は気づいた。

 

 彼は決して距離を詰めようとしないのだ。

 

 例えばなのはちゃんが名前で呼んでと言った時に、それっぽい理由を言って断っていた。

 

 なのはちゃんが気にしないと言っても、自分が気にするなどと言い、巧く躱していた。

 

 ただ相手を不快にさせることは言わない。

 そこには気を配っているようで。

 

 そういうところを見て、なんだか私たちよりもお兄さんに感じるなぁなどと思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 新学期に入ると、晃一君とはクラスが一緒になった。

 なのはちゃん達とは別のクラスになってしまって少しだけ不安だったが、それも直ぐに無くなった。

 

 はやてちゃんが私のクラスに編入してきたのだ。

 

 驚いたが、それ以上に嬉しかった。

 

 私と晃一君と同じクラスだったのは学校側の配慮のようだ。

 

 晃一君と一緒にはやてちゃんの案内をする。

 はやてちゃんと話す晃一君を見るのは初めてだったが、やはり私達と話す時よりも親しげに見えた。

 はやてちゃんも晃一君のことを信頼してるんだろうなっていうのが、やり取りから感じられる。

 

 

 

 

 

 そして、修学旅行。

 

 忘れられない、誘拐事件。

 

 犯人は同族。夜の一族の能力を使っての犯行だった。

 

 私はそこで、ずっと言えなかった秘密が、吸血鬼という秘密がついに知られてしまったのだ。

 一緒に攫われてしまったアリサちゃんと、助けに来てくれた晃一君に。

 

 いつか言わなくちゃと思っていた。なのはちゃん達から魔法のことを話された時、私も言うべきだとは思った。今が一番良いタイミングなんだって、頭では解ってたはずだった。

 

 でも、言えなかった。

 

 否定されるのが怖かったのだ。人間じゃないって拒絶されるのが怖かったのだ。

 

 同じ場に居たアリサちゃんと晃一君の二人は少なからず動揺しているようだった。

 

 頭の中はぐしゃぐしゃで、アリサちゃんの言葉にも反応できない。

 

 だが、その中でも否定しなくちゃいけないことはあった。

 

 私がなのはちゃん達を友達と思っていない? 見下している?

 

 それは違う。皆、私の大切な友達だ。たとえもう、友達ではいられないとしても、私にとって、彼女達は掛け替えのない親友なんだ。

 

 精一杯の大声で叫んだ。この気持ちは真実なのだと。

 

 そんな中でも事態は動く。

 

 男が晃一君に向けて、拳銃を構える。

 

 私の所為で、晃一君が死んでしまう。そう思った。

 

 銃声が響き、そして…………。

 

 

 

 晃一君は、倒れなかった。

 

 何があったのかと思い見ると、晃一君の頬から一筋、血が流れていた。

 

 動揺する男を余所に、両の手から炎を生み出し、男に近づく。

 

 そのまま炎を叩き付け、事件は、呆気なく終わった。

 

 

 

 

 

 

 犯人を捕らえた後、私はアリサちゃんに謝った。今まで黙っててごめんと。

 

 そこでアリサちゃんは、私のことを吸血鬼と知っても、親友と言ってくれた。

 

 本当に、嬉しかった。

 

 晃一君は全く意に介してなかった。……むしろウェルカムというのは少々複雑だったけれど。

 

 そして晃一君の言った約束。

 

『宴会をしよう』

 

 今まで見たことがない、優しく、楽しそうな笑顔だった。

 

 吸血鬼かどうかは関係ない、ソウルメイトに重要なのはあくまで魂だと。

 彼はおどけたように言って見せる。

 

 なんとなくわかった。彼なりの気遣いだろうと。

 大人びているとよく言われる私たちよりずっと成熟している。

 

 先ほどの戦闘での雰囲気と合わさって、なんだか、かっこよく見えた。

 

「ぶっちゃけ、俺も結構オカルトな存在だと思うし」

「えっ?」

 

 最後のは、割と聞き逃せないことだったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 事件が終わって。

 

 なのはちゃんたちは私のことを拒絶しなかった。唯一の負い目みたいなものがなくなり、前よりももっと仲良くなれた。

 現金かもしれないが、こうなってみれば、修学旅行は良い機会になったと思う。

 

 あと、晃一君に私から話しかけるようになった。もっと、仲良くなりたいから。

 

 ――とりあえず、はやてちゃんと同じくらいには仲良くなりたいな。

 

 そう思いながら彼と話す、翠屋での昼下がり。

 




賛否両論あるかと思いますが、こうなりました。

誘拐されて助けられたら、そりゃかっこよく映りますよね。


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Act.4 『adult』
20話 先輩とワーキング


 週末。いつものようにバイトである。

 月村邸の庭にある転送ポートに向かう。これのお蔭でミッドチルダに行くのがかなり楽になった。

 

「あ、晃一君。今週もバイト行くんだね」

 

 転送ポートに着くと、月村が居た。月村家が所有している庭だから、いちゃいけないってことはないが。

 

「まあな。ここ最近、職場の先輩に色々教えてもらってるから」

 

 デバイスが完成して特にバイトする意味もなくなったので、ちょっと前までは行ってなかったのだ。

 

「月村はなんでここに? あっちに用でもあんのか?」

 

「ううん、そういうわけじゃないんだ。今、なのはちゃん達を見送ったところなの」

 

 そういうわけね。の割には、なんだか落ち着かないみたいだけど。

 

「なんだ? 気になるとこでもあんのか?」

 

 月村は少し悩んだ後、頷いた。

 

「……なんだか最近、なのはちゃんの様子がおかしくて……」

 

「高町の?」

 

 高町とはクラスも違うから、滅多に顔合わせないんだよなあ。そういえば、はやても最近高町が働きすぎとか言ってたっけ。ヴィータが心配してるだのなんだの。

 

「なんていうか、焦り過ぎっていうか……ほとんど休んでないみたいだし」

 

 んーそりゃちょっと不味いか? 疲労が溜まって失敗ってのはよくあることだけど。あいつは前線バリバリで戦ってるし、失敗がそのまま命に関わり兼ねないからな。

 

「まあ、その辺はクロノも考えてるだろ。いざとなったら無理矢理気絶させるとか」

 

「そ、それはちょっと……」

 

 そうかね? あいつかなり頑固らしいし。言うこと聞かない奴には丁度良いと思うけどな。

 

 まあ、俺に出来ることはないね。特に何かするつもりもなかったけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミッドチルダの首都、クラナガンに到着した。今日は航空武装隊の手伝いである。

 

「おっ、来たな問題児」

 

「人を見ていきなりそれはないんじゃないですかね、ティーダさん」

 

 この人は最近よく仕事が一緒になるティーダ・ランスターさん。月村に言った、色々と教えてもらってる人とはこの人のことである。主に射撃魔法のコツなんかを聞いている。

 

「まったく、これだからギャル男は」

 

「お前俺には結構毒吐くよな? 大体、俺のどこがギャル男だよ?」

 

 主に名前が。

 

「そこは置いといて、俺のどこが問題児なんですか」

 

 命令違反だってしないし、仕事は真面目にこなしてるよ?

 

「問題児ではないかもしれないが、評判にはなってるぞ? 飛行魔法を使わずに俺ら空隊と同じスピードで空を跳ね回ってるって」

 

 まじですか。俺の場合、飛行魔法よりそっちのが速く動けるんだけどなあ。飛行魔法は加速に時間がかかるから、長距離移動の方が向いてるんだよね。テスタロッサみたいに飛行魔法であんなに速くは動けないのです。

 

「なんでも陸士学校の奴らがお前の真似をして怪我しまくってるとか」

 

「それは御愁傷様です」

 

 空中で、跳びたい方向に跳べるように足場に一瞬だけプロテクションを展開する。あんまり長く展開してるとそれだけ魔力の無駄になるから、難しいのはその辺だけだと思うけど。

 

「俺たちは守る為にしかプロテクションを使わないからな。数回は出来ても、実戦で突発的に使用できるように調整すんのは難しいんだよ」

 

 それだったら、いっそのことその為の魔法作ってしまえば良いんじゃないか? まあ俺は出来るし、関係ないね。

 

「で、今日のお仕事は?」

 

「テログループの摘発。首尾次第では早く終われるぞ」

 

 やれやれ、物騒な世の中だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラナガンの郊外にあるとあるホテル。ここがテログループの本拠地らしい。

 

 作戦メンバーは俺を含めて8人。調べでは敵は約20人。AAAランクが一人居るらしい。

 

「作戦は単純だ。一人を残して7人で突入。AAAの奴に当たった奴は一人で足止め。それ以外の6人で残りを潰す。良いな?」

 

 最初の一人は逃げ道潰しと言うわけですな。

 

「準備は良いな? カウントするぞ」

 

「いけるな? ジェイド、グリーヴァ」

 

『勿論です』

 

『行けます』

 

 

 

「3」

 

 カウントが始まる。グリーヴァを構える。

 

 

 

「2」

 

 身体強化を掛ける。

 

 

 

「1」

 

 軽く息を吐き、

 

 

 

 

「……突入!!」

 

 作戦、開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 窓を割って食堂らしき広間に突入する。広場に居たのは10人ほど。突入に驚いているうちに先制攻撃。

 

『シュートバレット』

 

 近くに居た三人を狙い打つ。二人には命中した。

 

「っ!」

 

 三人目には防がれた。オートのプロテクションか、厄介だな。ということはこいつがAAAランクの奴かな?

 

「当たりおめでとう! そいつ任せたぞ!」

 

 隣のティーダさんがそう言い、俺が最初に当てた二人に追撃をする。俺ともう一人を分断したのだ。嬉しくない当たりだなぁ。

 

「くそっ! 管理局か!」

 

「ドーモ、ハンザイシャ=サン。バイトです」

 

 犯罪者と向かい合う。

 

「さて、投降しなさい。お母さんが泣いているぞ」

 

「ガキがっ! ふざけんなぁ!」

 

 男が魔法弾を乱射してきた。俺はテーブルの陰に隠れる。呆気なく破壊され、破片が飛び散った。威力が高い。盾にも出来ないな。やはりこいつがAAAランクのようだ。

 

 破片に当たらないよう、その場から飛び退く。男がこちらを向く前に魔法弾を撃つ。

 

「効くかよ!」

 

 またしても、プロテクションに阻まれる。だが今度は予想通りだ。動きを止めるのが目的。

 

 男に突っ込む。

 

「グリーヴァ」

 

『はい。カートリッジ、ロード』

 

 薬莢が宙を舞う。カートリッジの消費。蒼い魔力をグリーヴァが纏う。

 

 時雨蒼燕流 攻式八の型――。

 

「篠突く雨!」

 

 グリーヴァで男を薙ぐ。剣筋に追随するようにして飛び散る魔力の飛沫が男を襲った。

 

「ぐっ!?」

 

 浅いな、掠った程度か。バリアジャケットの防御力を考えると、ほとんどダメージは入らなかっただろう。こいつ、それなりに戦闘慣れしているな。魔力量が多いだけでAAAランク認定ってのはないから、当たり前なのかもしれないが。

 

 攻撃が掠ったのが気に入らなかったのか、男は舌打ちをする。そして、先程よりも量を増やして撃ち込んできた。

 

 当たりそうないくつかをグリーヴァで切り捨てる。

 

「うぐっ!」

 

 流石にこの近距離でこの弾幕は厳しい。一つ、被弾してしまった。バリアジャケットのお蔭でそこまで痛くはないが、このままでは不味い。

 

 俺は一先ず空中へ逃げた。三次元に跳び回り、相手を撹乱する。

 

「おらおらどうしたぁ!」

 

 男は調子に乗ってバンバン撃ってきた。こちらも負けじと魔法弾を撃つが、如何せん魔力量が違う。間合いの離れた射撃戦では押されてしまう。やっぱ近接戦だよね。

 

 一旦弾幕が止んだところで地面に降りる。右手を前に突き出し、グリーヴァの切っ先を男に向ける。

 

「グリーヴァ」

 

『カートリッジ、ロード』

 

「なんだ? 特攻か? そんなの当たるわけ――」

 

 男が喋り終える前に突進。その勢いのまま、グリーヴァを突き出す。カートリッジを消費して威力を高めた突き、つまりは牙突である。

 

 バチバチと魔力が鬩ぎ合う。避けられはしなかったが。

 

「……ヒヤヒヤさせやがって」

 

 三度プロテクションに防がれた。くっそ堅えな、おい。

 

「だがこれで終わ――」

 

 まだ攻撃は終わってないぞ?

 

 

 

「ガトチュ・エロスタァイムッ!!!」

 

「がっ!?」

 

 零距離での突き。上半身のバネを使って男のプロテクションをぶち抜き、ぶっ飛ばした。今度は牙突・零式である。

 

 男が壁に激突し、壁が崩れる。手応えあり。確かに防御を抜いた。どんだけダメージが入ったかは分からんが無傷では済まないだろう。気絶しててくれたら嬉しいんだけどなぁ。

 

 やったか?(確信犯)

 

 

 

 

 

 

「……こ、のぉ、くそやろぉがぁああ!!」

 

 フラグだったか(すっとぼけ)。瓦礫の中からこんにちは。顔面を打ったのか鼻血を流し、目は血走っている。うわぁ、ぶちギレてらっしゃる。

 

 まあ良い。

 

「チェックメイトだ、犯罪者」

 

「ふ、ざ、けるなああああ!!!」

 

 男は激昂し、砲撃の構え。腐ってもAAAランク。喰らったら一溜まりもないだろう。

 

 だが、

 

 

 

 

 

 

 

「あ……?」

 

 唐突に男の頭が揺れた。意味がわからない、といった表情。そのまま前に倒れる。

 

「足止めご苦労さん、お蔭で楽だったぞ」

 

「……遅すぎですよ、ティーダさん」

 

 タイムアップで援軍到着。他のメンバーは全て捕らえ終えたようだ。さっきのはティーダさんの狙撃である。流石、ランスターの弾丸に撃ち抜けないものはないって言うだけのことはあるね。

 

 お仕事完了。今日のはしんどかったな。

 

「AAAランクにかなり良い勝負だったじゃないか」

 

「まあ、格上相手の戦いは慣れてますから」

 

 そしてボコられるのもね。周りに格上しか居なくて辛い。

 

「あれ? お前魔導師ランクは?」

 

「特に取ってないです」

 

 下手に取ったら管理局のスカウトが更に来そうだし。ただでさえ、闇の書事件の関係者としてそれなりに名が売れちゃってるからね。

 

「お前それでどうやって仕事もらってんだよ……?」

 

「陸の仕事できませんかねってレジアスさんに聞いて紹介してもらってた」

 

「!?」

 

 最初はそれで仕事もらって、能力を認められてからは、現地の協力者ってことでランク関係なくやってた。だからミッドチルダの仕事が多かったのだ。

 

 ちなみに、デバイスマイスターの資格を取ってからは地上本部でデバイスメンテナンスもやってる。格安で。お蔭で陸の人とはそれなりに仲良くなったよ。

 

「地上のトップと交流あるって、お前何したんだよ……」

 

 大したことはしてないですよ。

 

「もう俺帰って良いですよね?」

 

「ああ。いつも通り、報酬は本部の方でな。俺も早く妹を迎えに行かないと」

 

 相変わらずのシスコン振りで。かわいいかわいい言ってくる癖に、写真とかは全く見せてくれないんだよなあ。

 

 それにしても、迎えがいるって、

 

「妹さん、今何歳なんですか?」

 

「何聞いてんだ、殺すぞ?」

 

 理不尽極まりない。

 

 

 




交友関係は広く浅くな主人公。


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21話 演習とサファリング

原作で正確な描写のないところとなると、どうしてもレベルが落ちてしまいますね。完全に作者の力不足なのですが。


 今回の任務はロストロギアの回収。珍しく、異世界での任務である。回収するのは危険性のない、骨董品みたいなもの。

 

 ロストロギアといっても、闇の書みたいに超危険なものばかりではない。歴史的価値を持つものなんかも多いそうだ。それらはオークションにかけられたりしてるらしい。

 

 というわけで今回は正確には任務ではなく、局員の演習という扱いだ。

 

「なのに何で俺が居るんですかねえ」

 

「にゃはは……ごめんね、連れてきちゃって」

 

 そう言って謝ってくる高町。俺、管理局員じゃないんですけど。これ受ける必要ないよね。

 

 本局で任務の報酬の確認を終え、地球に帰ろうかと言うところで、高町とヴィータに確保された。

 

 この任務、ある一人の急用によりメンバーが足りないということになったらしい。

 

 暇な奴誰か居ないかとなった時、俺の名前が挙がったとか。暇な奴代表みたいなの止めてくんない?

 

「まあ良いじゃねーか、どうせ修行以外やることねーだろ?」

 

 隣にきたヴィータが言う。そうですけど。良いように利用されるのは嫌なの。学校だって休まなきゃいけないし。

 

 はあ、気乗りしないなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 演習は、恙なく進んでいった。この世界では今の季節は冬で、雪が降っている。

 

「バリアジャケットがあると寒くなくて良いねぇ」

 

「暢気な奴だな」

 

 飛行しながら雑談をする。

 

「日本ではまだ夏にもなってない時期なのにねえ」

 

「異世界なんだから当たり前だろ」

 

 そうだけどさ。当たり前でも、なんかこう、日本とは違うなぁって思ってしまうんですよ。

 

「冬といえば炬燵にみかんだよな」

 

「あれはロストロギア認定されてもおかしくはねーな」

 

 ほほう。ヴィータも奴の中毒性を思い知ったようだな。

 

「なのはもそう思うだろ?」

 

 ヴィータがそこで高町に話を振った。しかし高町は。

 

「…………」

 

「なのは?」

 

「……! ごめん、ヴィータちゃん。ちょっと、ボーッとしてた」

 

 にゃはは、とどこか力なく笑う高町。

 

「おいおい、休んだ方が良いんじゃねえか?」

 

「任務中に気を抜くとは、よろしくないな」

 

「ヴィータちゃんは良いとして、雑談ばっかの晃一君には言われたくないの……」

 

「ばっかお前、俺のこれは皆をリラックスさせてんだよ」

 

「ダウト、地球帰ったらアイスな」

 

 勝手に罰ゲームが決定したんですが。

 

「それよりなのは。無理すんなよ?」

 

「にゃはは、ごめんね。私なら、大丈夫だから!」

 

 むん、とガッツポーズをする高町。

 

「なら良いけどよ……」

 

 どこか不安そうなヴィータ。働きすぎって周りの連中が言ってたしな。何も起こらなければ良いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィータの不安も関係なく、無事ロストロギアを回収できた。

 

「これってどんなもんなんだ?」

 

「なんでも、人の耳を完璧なケモミミにしてしまうらしい」

 

「……昔の人間の考えることはわかんねえな」

 

「ヴィータお前も大分昔の人間だろ」

 

 あと俺はむしろこれを発明した人に惜しみ無い拍手を贈りたいね。ケモミミ大好き。

 

「私は、晃一君の考えることがわからない時の方が多い気がするの」

 

 ちょっと高町それどういう意味だ?

 

「まあそれは良いとして。回収完了、あとは帰還だな」

 

 スルーかい。

 

 そんな風に、このまま帰って終わりかと思われた、その時、

 

 

 

 

 

 

 突然、デバイスがアラートを鳴らした。

 

 

 

『未確認の反応です!』

 

『急速にこちらに接近してます!』

 

 ジェイドとレイジングハートが知らせてくる。

 

「っ! なのは! 晃一!」

 

「うん!」

 

「ん」

 

 三人でデバイスを構える。今のメンバーでは俺らが一番の戦力だ。固まっていては意味がない。離れて、敵だった時の為に臨戦態勢に入る。

 

「来たな」

 

 視認できるところまで相手が来た。あれは……タイヤ?

 

『無人機のようです』

 

 ゴーレム兵的な感じか。じゃあ、間違いなく敵だな。

 

 そう思うのとほとんど同時に、謎の無人機が砲撃を放ってきた。

 

「向こうから攻撃してきたから敵だな。破壊するぞ」

 

『シュートバレット』

 

 砲撃を軽く躱し、ジェイドで魔法弾を撃ち出す。相手の動きは単純だ。簡単に当たる。しかし、当たりはしたが、破壊はできなかった。

 

 ……? おかしいな。あのくらいの鉄屑なら破壊できる威力のはずなんだが。

 

 そう思い、相手に近づく。身体強化を掛け、グリーヴァを思いっきり振り降ろした。

 

 その時、力が抜けるような奇妙な感覚が俺を襲う。

 

「!?」

 

 体勢が突然崩れる。飛行魔法の気配が……消えた……? ってふざけてる場合じゃない。後ろから別の一機が刃物を突き出してきた。

 

 身を捻って刃を躱し、逆にグリーヴァを突き刺す。今度も上手く力が入らなかったが、破壊できた。そいつの爆発で少し飛ばされ、そこでやっと飛行魔法が復活する。近いと危険な感じだったので、一旦離れる。

 

「おいジェイドなんだアレ?」

 

『AMFのようです』

 

 えーえむえふ?

 

『アンチ・マギリンク・システムのことで、簡単に言うと、魔法無効化フィールドです』

 

 なんやそれ!? そんなんチートや! チーターやん!!

 

『一定の範囲の魔法は無効化されてしまいますが、物理攻撃を無効化することは出来ません』

 

 丁度視界の内にグラーフアイゼンで敵を粉砕するヴィータが映った。

 

 ……ふむ、成る程。つまりは幻想殺しの範囲が広くなったと考えれば良いわけか。割りと辛くね?

 

『あと、普段よりも多目に魔力を使えば身体強化や飛行魔法も使えるでしょう』

 

 俺は高町達みたいな膨大な魔力は持ってないから、それは厳しいな。

 

「ぎゃあ!?」

 

 局員の一人が攻撃を喰らってしまったようだ。魔法弾を無効化されてしまい、ミッド式の魔導師は攻撃の手段がかなり削られている。他の局員も同じで、防戦一方のようだ。これは不味い。

 

『晃一! なのは! 今の戦力でこいつらを倒すのはきつい!』

 

 今回は演習のつもりで来てた、そこまで実戦経験のない局員がほとんどだから、ヴィータの言う通りだろう。どうしてもあいつらを守りながらになってしまうだろう。

 

『増援を呼んで、あいつらをカバー出来るように固まるぞ!』

 

 ヴィータからの指示。そうした方が良いな。返事を返したところで、違和感に気付く。

 

 

 

 高町が反応しない。

 

 

 

「っ!! なのは! おい! どうした!?」

 

 ヴィータも感づいたようで、念話を使わず叫ぶ。

 

 嫌な予感がして、高町の方を見ると、そこでは。

 

 

 

 

 

 高町が無人機の刃物に刺されていた。

 

 

 

 

 

「なのは!!!」

 

 ヴィータの悲鳴に近い叫び声が響く。無人機はそれを気にすることもなく、高町を振り払う。刃が抜け、飛行魔法を維持できなくなった高町が落ちていく。あの高さから落ちたらバリアジャケットがあっても命に関わる。ましてあの怪我は不味い。

 

 ――八門遁甲 第五 杜門 開!!

 

「っ!」

 

 八門遁甲を解放し、すんでのところで高町をキャッチした。高町を見る。傷が深い。それでも、バリアジャケットがある程度守ってくれたお蔭か、致命傷にはなってないようだ。しかし、出血は多い。

 

「っ……! ごめんね……晃一君……」

 

「喋るな、傷に障る」

 

 意識はあるようだ。ただ只管謝ってくる。

 

「おい晃一! なのはは大丈夫なのか!?」

 

 周りの敵を蹴散らしてヴィータがやって来た。

 

「致命傷にはなってないと思うが、出血が多い。急いで治療しないと」

 

「なのはっ! おいなのはッ!!」

 

 ヴィータが目に涙を溜めながら必死に呼び掛ける。

 

「……ヴィータちゃ……ごめ……失敗しちゃった…………」

 

 高町の息は荒い。口から血も吐いてしまっている。

 

「治療しねえとっ……! おい晃一! お前治療魔法は!?」

 

「俺のはあくまで自分用のだ。他人の治療には使えない。増援が来るまで待たねえと」

 

 増援が来るまでどのくらいだ? ……結構ヤバイな。他の局員が大怪我をしてしまうのも時間の問題だ。

 

「くそっ!! どうする!?」

 

 かなり焦っているヴィータ。……ここは、撤退が一番か。

 

「……ヴィータ。高町連れて、他の局員と一緒に撤退しろ」

 

「は!? ……撤退って、お前は?」

 

「殿、だな」

 

 ここに残って、ただ只管無人機を壊す。

 

「お前は他の奴を守りながら撤退してくれ」

 

 俺の提案に、ヴィータは反対してきた。

 

「危険すぎる! それに、お前がここに残る必要なんて……!」

 

 俺はカバーしながら戦うのは苦手だ。傷を負った高町を運びながら他の局員のカバーなんて、到底できない。だったらここに残って、敵をできるだけ減らすのが一番。

 

 迷うヴィータに、俺は語りかける。

 

「頼むよヴィータ。お前は『守護騎士』だろ?」

 

「……!」

 

「前ので分かった。俺に守るのは向いてないよ」

 

 思い出すのは、闇の書との戦い。

 

 基本一人で戦ってきた俺は、味方との連携や他人のフォローが苦手だ。

 

 守るのは、お前の役目。

 

 そう伝えると、ヴィータは少し唸った後、渋々頷いた。高町の為にも一刻も早くここを離れないといけないのはわかっているのだろう。

 

「……わかった。でもだったら晃一お前! …………負けんじゃ、ねーぞ」

 

「……おうよ」

 

 ヴィータが高町に肩を貸しながら、他の局員を連れて飛び去っていく。

 

「さて、ジェイド、グリーヴァ。……かっこつけるぞ」

 

『やれやれ』

 

『あまり無茶はしないで下さい』

 

 グリーヴァを青眼に構える。

 

 返答するわけがないが、無人機達に吠える。

 

 

 

「悪ィが、こっから先は一方通行だ。 侵入は禁止ってなァ!」

 

 

 

 無人機に突っ込み、切りつける。アームドデバイスのグリーヴァが居てくれて良かった。ミッド式のデバイスだけの時よりもAMFの影響が少ない。

 

 飛び回り、跳ね回り、数秒で十体以上の無人機を破壊する。

 

 魔力の消費が激しいな。今は八門遁甲を開いているが、それもいつまで持つか。相手はまだまだ数が残っている。

 

 無人機達はヴィータ達の後を追うような動きを止め、俺を囲むように動き始めた。接近してきた時ほどのスピードはない。細かい動きはできないみたいだ。

 

 AIのレベルそのものも大したものではないな。厄介なのはAMFとその数か。

 

 射撃魔法との相性が最悪なので、ジェイドはリソースを全て補助魔法に割いている。お蔭でなんとか、AMFの中でもいつも通り動けている。

 

 だが、距離を常に近くとっているので、どうしても小さな傷は負ってしまう。刃が掠ったり、爆発で火傷を負ったりだ。

 

 そしてそれ以上に、内部のダメージがヤバイ。言わずもがな、八門遁甲の反動である。

 

「ッ! しまっ……!」

 

 リンカーコアの痛みによる一瞬の硬直。運悪くそのタイミングで突進されてしまった。

 

「ぐはッ!?」

 

 吹っ飛ばされ、グリーヴァを手放してしまった。体勢を立て直すも、グリーヴァを取りに行ける暇はない。

 

 まだ無人機は大分残っている。魔力刃や誘導弾は無効化されてしまうとなると……。

 

 なら、素手で戦うのみ。

 

「このままやるぞ、ジェイド」

 

『……お役に立てず、申し訳ありません』

 

 何言ってんのさ、お前が居るから、俺でもまだあいつらと戦えてんだよ。サポート、頼むよ。

 

『……はい!』

 

 さあ、いくぜ。

 

 

 

「八門遁甲 第六 景門 開!!」

 

 

 

 更にもう一つ、開放する。そして攻撃してくる無人機を俺は素手で殴り付けた。

 

「~っ!!」

 

 バリアジャケットを着ていても素手はきつい。無人機を殴る度に、激痛が走る。

 

 見てないのでわからないが、おそらく指は拉げ、骨は粉々だろう。

 

 それらを無視し、ただ只管、敵を屠る為に拳を振るう。

 

「ぉォおおおあああ゛あ゛あ゛!!!!」

 

 縦横無尽に跳ね回り、全てを一撃で破壊していく。みるみるうちに数が減っていく。

 

 あと少し、あと少しで全部破壊できる。

 

 残り、3――

 

 2――

 

 1――!

 

「根性おおおおおおお!!!!!」

 

 そしてついに、

 

 

 

 最後の一体を、俺の拳が粉砕した。

 

 

 




なのはは原作通り撃墜となりました。

追記
時期変更。秋にもなってない→夏にもなってない


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22話 入院とカウンセリング

少し文体を変えてみました。そのため短めです。
物語を書くのって大変ですね。


 戦闘後、グリーヴァを拾ったところで八門遁甲を解除する。途端、疲労感が込み上げてきた。

 手足が痛い。立ってるのもしんどいので、雪原に倒れ込む。

 

 そうして一息ついたところで増援が到着した。

 

「すまない! 遅くなった!」

 

 そういって来たのはシグナム。どうやら増援のリーダーは彼女のようだ。

 

「大丈夫か古夜!?」

「あんま大丈夫じゃないな」

 

 手足の感覚無くなってきたし。

 

「これは……!」

 

 シグナムは周囲の状況を見て息を呑んだ。

 周りには、俺が破壊した無人機の残骸がそこら中に積み上がっている。

 

「……流石だな」

「いやいや、もう無理。切り札使ってやっとこれだよ」

「……模擬戦では頑なに使ってくれないアレか」

 

 それです。

 

 シグナムやテスタロッサとはよく模擬戦をしているが、その時は八門遁甲は使ってない。仕事で使ったのも今回が初めてだ。

 理由は簡単。そんなに何度も使ってたら体が保たないからである。

 動くだけで体が悲鳴を上げるのだ。いくら相手の攻撃を躱せてもそれでは意味がない。

 

 そんなわけで、シグナムは八門遁甲を使った時の俺を知らないのである。生で見たことあるのは高町くらいか。

 

 ちなみに、八門遁甲の仕組みは誰にも教えていない。リンディさん辺りに知られたら使うの禁止されそうだからね。

 

「お前ッ……手足が……!」

「ん? ああ」

 

 シグナムが俺の手足の状態に気付いた。心配そうに見てくる。

 気にしてくれるのは嬉しいけど、これほとんど自滅なのよね。

 

「俺のことは良い。ヴィータ達は無事か?」

「ああ。お前より先に合流したよ」

 

 それは良かった。

 

「……高町は?」

「……今、救急搬送されている。お前が殿を務めてくれなかったら、危なかったかもしれない」

 

 そうか。……なら、一応は任務完了かな。

 

 あ、気を抜いたら意識が遠退いてきた。

 

「お前も早く医療班に……っておい!? 古夜!?」

 

 おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おはようございます。

 ここは……本局の病室だね。ん~結構寝た気がするな。

 体を起こし、背伸びをする。――つもりが、思うように体が動かない。見ると、右手右足が固定されている。

 

「ジェイド、どんくらい時間経った? ……ってあれ?」

 

 動くのを諦め、とりあえず状況確認をしようとしたところで、ジェイドもグリーヴァも居ないことに気付いた。メンテでも受けているのだろうか。

 

 どうしたもんかと思っていると、誰かが病室に入ってきた。

 入口を見ると、はやてとヴィータが驚きの表情でこちらを見ていた。

 

「こ、晃一君……!」

「お、はやてにヴィータか。はよーっす」

 

 とりあえず挨拶をする。しかし、返事がない。

 何やら俯いてぷるぷる震えてる。どうしたのさ?

 

「…………か」

「蚊?」

「軽すぎるわああああ!!!」

「ひでぶッ!?」

 

 はやてから思いっきり右ストレートを喰らった。ちょっ、俺怪我人っ……!

 

「はよっすやないわ! 全身血まみれで運ばれたって聞いて! 急いで来たらボロボロの状態で寝てて! 三日経っても目を覚まさへんしッ……!」

 

 はやてがポカポカと叩きながらまくし立てる。痛い痛い痛い叩かないで!?

 てか俺、三日も寝てたのね。

 

「ほんまに、心配したんやからな……!」

 

 やがて暴れるのを止め、俺の着ている病院服を掴みながら、絞り出すようにそう言うはやて。

 ……これはちょっと迷惑かけちまったかな。

 

「……悪かったよ」

 

 素直に謝る。

 

 それからしばらくの間は、はやてからの文句を聞き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ち着いたところで肝心なことを聞いた。

 

「……で、高町の方はどうなんだ? 目は覚めてんのか?」

 

 ヴィータの表情が動く。

 

「なのはは……まだ目を覚ましてねえ」

 

 そっか。まあ、俺よりも早く目覚めることはないだろうとは思ってたが。

 怪我に慣れてる俺とはわけが違うからね。

 

「容態の方はどうなんだ?」

「……それは」

「その前に」

 

 ヴィータが答えようとしたが、別の人の声に遮られた。

 声のした方を見ると、いつの間にか入口にリンディさんが。

 

「目、覚ましたのなら、先ずは私たちとお話しましょうか」

 

 何故か笑顔のリンディさん。

 ……何故だろう。サバイバルで培ったシックスセンスが警鐘を鳴らしている。

 

 

 

 

 

 

 目の前には笑顔のリンディさん。その隣には、笑顔のシャマル。

 いやはや、美人の笑顔は目の保養になるね。

 

 

 

 ――彼女らの後ろに般若が見えてなければ。

 

 はやて達は帰りました。味方が居ません。

 

「……ねぇ、晃一君? これ、何かしら?」

 

 リンディさんが壁のモニターを指しながら聞いてくる。

 そこには、八門遁甲を開き、素手で無人機を粉砕する俺が映っていた。

 

「無人機相手に、素手で殴りかかるとは、随分と無謀な真似をしたわね」

 

 笑顔を急に真顔に変え、リンディさんは言ってきた。

 ……なんか、迫力が。この人覇王色の覇気使えんのかな?

 

「ジェイドの身体強化のお蔭ですよ」

「あなたの魔力量じゃ、身体強化でこれだけの出力は出ないはずよ」

「根性です」

「なのはちゃんの検査と一緒にあなたの体も詳しく調べました。無理なのは分かっています」

 

 誤魔化そうとしたが、シャマルに一瞬で切り捨てられた。

 ……心無しか般若が大きくなったような。

 

 更にリンディさんが問い詰めてくる。

 

「それに、リンカーコアが酷く衰弱していたわ。……おそらくコレと無関係ではないのでしょう?」

 

 ――説明シロ。

 

 言外にそう言われてるのがびしびし伝わってくる。

 

 利き手利き脚が使えない俺に、逆らう術はありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 八門遁甲の仕組みを説明しました。

 

「なんて無茶なことを……!」

 

 シャマルが信じられないといった表情で言う。

 

「リンカーコアのリミッターを外し、通常以上の出力を引き出す…………なるほど。闇の書事件の時も、これを使っていたのね」

 

 その通りです。流石リンディさん、鋭いね。

 

「どうやってこの技を?」

「闇の書事件で蒐収された時、ティンと来ました。その時に、強くリンカーコアの存在を認識できたので」

「……それで、闇の書事件の時に初めて使用した」

 

 なんか、事情聴取されてるみたいだ。俺、悪いことはしてないんだけどなぁ。

 

「確かに強力だけど、副作用も酷いわね。……あなたの言う『死門』まで開いたら、どうなるのかしら?」

「リンカーコアが消し飛ぶでしょうね。魔導師としては二度と戦えなくなり、最低でも命に関わるでしょう」

「なっ……!」

 

 代償というか、リスクについて聞き、シャマルが声を失っている。

 リンディさんも難しい表情だ。

 

 

 

 

 

 やがて、リンディさんが大きく溜め息を吐いた。

 

「……できれば、もう二度と使わないで欲しいのだけど」

「それは無理です」

 

 リンディさんの言葉に即答する。

 絶対にこれから先も使わなきゃいけない時は来る。

 

「どうして? 貴方はコレが無くても戦えるじゃない」

「でも、勝てない相手は沢山居る。才能の差は覆せない」

 

 はやてや高町のような才能溢れる連中は同じ努力ではるか先に行く。それに、俺より才能のある奴はゴロゴロ居るのだ。

 

「知ってますか、リンディさん。絶対的な才能との差を埋めるには…………修羅になる他ないんです」

 

 仲間と協力とかは俺自身の強さにならない。勝つ手段を選ぶには、強くなる手段は選んでられないのだ。

 

 リンディさんは険しい顔でこちらを見る。俺も見返す。

 自然と、睨み合うような形になる。

 

 少しの間、無言の時は続く。

 シャマルが気まずそうな顔になってきたところで、ナースさんが一人、入ってきた。

 

「シャマル先生! なのはさんが目を覚ましました!!」

「本当ですか!?」

 

 どうやら高町が目を覚ましたようだ。

 それを聞き、お互い視線を外す。

 

「行かないと。俺なんかより、気にしなきゃいけないでしょう?」

「……そうね、今はまず、なのはさんが優先だわ」

 

 話は、そこで一旦保留となった。

 

 

 




無人機を素手で殴ったのと八門を第六まで開いたのとで、闇の書事件の時よりも重傷です。


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23話 青空とエース

主人公が説教もどきや助言をしてるときは、九割九分漫画やゲームの言葉だと思ってください。


 高町の容態は、あまり良くは無かったようだ。

 刃物はバリアジャケットを貫通し、神経を傷つけてしまっていたらしい。

 医療技術は地球よりはるかに進んでいるので治りはするが、歩けるようになるにはきついリハビリが必要なのだとか。

 

 疲労の蓄積も祟った。

 

 高町は闇の書事件だけじゃなく、その前のジュエルシード事件の時からずっと無茶をし続けてきたそうだ。

 

 カートリッジシステムもエクセリオンモードも、幼い高町には大きな負担である。リンカーコアも酷使してきた。

 それが今回の怪我で爆発してしまったということだ。

 

 その為、精神面でも問題が残った。

 かなり動揺していて、危うい状態らしい。

 あそこまでの大怪我を負うのは初めてらしいのだから無理もないが。

 

 今は、ほとんど人に会わず、落ちつくのを待っている状態らしい。

 らしい、とつくのは俺自身入院しててリンディさんとかから聞いたからである。

 

 ちなみに俺や高町の怪我の原因は世間的には伏せられている。知っているのは魔法関係で親しい一部の人のみ。

 高町は将来有望な若手エース、俺は多少なりとも陸のトップと親交がある。変に話が広がらないように、リンディさんが根回ししてくれたのだ。

 

 俺は良いとして、高町の怪我のことは、あまり知られない方が良いだろう。この配慮はありがたかった。

 

 

 

 

 それから一週間ほどして。

 俺は無事、退院した。

 シャマルからはもっと安静にしてろと言われたけど、リハビリとかは地球でもできるし。

 経過観察に定期的に検査に行くのを条件に、俺は地球に帰った。

 

 

 

 

 

 そんなわけで大体二週間振りの学校。

 

「おお! 晃一! 久しぶり……ってなんだその怪我!?」

 

 教室に入った途端、相良が騒ぎだした。お前は相変わらずやかましいな。

 相良だけでなく他のクラスメイトも少しざわついている。まあ、右手右足に包帯がぐるぐる巻きにされてて松葉杖突いてんだから、無理はないとは思うが。

 

「どうしたの? 大丈夫?」

 

 月村が話しかけてきた。月村は原因は知らないが、高町が怪我したことだけは知っている。俺のも魔法関係というのは察したのだろう。

 

 そういうのも込みの心配といった感じだ。

 

「問題ない。ちょっとトラックに吹っ飛ばされただけだ」

「それで問題ないって言えるんだ……」

 

 

 

 

 

 利き手利き足の使えない生活というのはとても不便である。文字は書けないし、歩くのも大変だ。

 

「食べさせてあげよっか?」

 

 昼。慣れない左手での食事に苦労していると、月村がそう言ってきた。

 

「いやいやそれなんて羞恥プレイだよ」

 

 左手でもなんとか食えるし、遠慮しますよ。

 

「晃一お前すずかちゃんがあーんしてくれるチャンスを棒に振るのか!!」

 

 相良やかましい。

 

「くそぅ晃一ばっか……アリサちゃん俺にあーんしてください!」

「あン?」

「ちょっ」

 

 相良にガン付けるバニングス。惜しいけど違うね、それ。

 

 この通り、今は月村、バニングス、相良と弁当を食べている。

 

 はやて達魔導師組が皆居ない時はこのメンツで食べることが多い。クラスの関係上バニングスが一人になるからだ。寂しがりやなのである。

 

「何変なこと考えてンの? ぶっ飛ばすわよ?」

「ちょっ」

 

 あなたの機嫌悪すぎィ!

 

「あ、アリサちゃん、落ち着いて……」

 

 月村が必死に宥める。

 バニングスの機嫌が悪いのは、勿論なのは絡みである。

 バニングスに月村は魔導師ではないから、なのはが怪我をしたということしか知らないし、お見舞いにも行けていない。

 親友としては、気になるのは当然だよね。

 

「晃一! あんたは知ってんでしょ! 教えなさいよ!」

 

 教えろ、とは勿論高町のことだろう。

 相良が居るのにあんまその話に触れちゃダメでしょうが。気持ちはわかるけどさ。

 

「俺からは言えないよー」

「ぬああああああ!」

 

 首をガックンガックンやんのは止めて下さい。俺だって怪我してるんですよ?

 

 

 

 

 

 そんなことがあった放課後。

 修行に行こうかと思っていた時。

 

『マスター、通信です』

 

 ジェイドが通信を知らせてきた。誰だろうと思い見てみると、クロノ・ハラオウンとな。

 

「もすもすひねもす~どったのクロスケ?」

『突然済まないな、晃一』

 

 通信してきたのはクロノだった。アースラの提督となってかなり忙しい日々を過ごしてたはず。まさか雑談しようとかで通信してきたりはしないだろう。

 

『少し、話があってな』

「エイミィへのプロポーズの仕方とかだったらお断りだぜ」

 

 最近やっと付き合い始めたらしいよ。

 

『そんなんじゃない、それは自分で何とかする』

 

頬を赤くしながらもそう言う。ちっ。みんなしねばいいのに。

 

「で、話って? 今なら安くするよ?」

『金を取るのか』

「クロノって金の使い道なさそうだから」

『なんで僕は君の友人をやってるんだろうな』

 

 不思議だね。

 まあ、値段の話は冗談として、本題に入ろうか。

 

『なのはのこと、どうすれば良いかと思ってな』

 

 へえ、なのはのことか。

 

「何か問題でもあるのかい?」

『……中々、立ち直らないんだ』

 

 ほう。結構時間が経ったが、まだへこんでんのか。

 

『今まで、何があっても折れる事が無かったんだ。皆、どうしたら良いか分からなくてね』

 

 ふーむ、そうかい。

 

「特に、何もしなくて良いんじゃないか? 早く立ち直れば良いってもんじゃないだろう。時間を掛けるのが大切ってこともあるぞ」

 

 それはお前だって分かっているだろうに。

 

『それは、そうだが……』

 

 なんだい、渋って。

 

『せめて、愚痴を聞くくらいはしてあげてくれないか。良くやってるだろう?』

 

 確かにレジアスさんの愚痴を聞いてるけどさ。

 まったく、そこまで気にするか。

 

「過保護だねぇ、くろすけ」

『うるさい、自覚はしてるさ』

 

 ……しょうがないから、少しは気にしてあげるよ。

 

 

 

 

 

 それから少し時が経って、俺が怪我の経過観察に本局の病院にきた時。

 そのついでに、高町のお見舞いに来た。

 

「よっすよっす」

「あ……晃一君」

「辛気くさい顔してんなぁ、おい」

 

 病室に入って軽く挨拶をすると、高町は力のない声で反応を返してきた。

 確かに、見事に沈んでんな。

 

「ごめんなさい……私の所為でそんな大怪我させちゃって……」

 

 高町が俺に向かって頭を下げた。

 

「別に問題ないさ。この程度」

 

 下手なフォローをするのもいけないので適当に流す。

 

「……私とは大違いなの」

「俺はそういう鍛え方をしてたからな」

 

 毎日生傷絶えない修行してんだ。このくらいは余裕余裕。

 そう高町の発言に軽くフォローを入れる。

 

 それからは、特に俺が話したいこともないのでしばらく地球の方の近況報告をした。

 

 その間、高町はずっと薄く隈の入った目でこちらを見ていた。

 

「……みんなに迷惑かけちゃったの」

 

 話が一段落付いたところで、ポツリと、高町が呟いた。

 

「良いんじゃねえの? 俺なんて、お前よりはるかに周りに迷惑かけてるぞ?」

 

 前はリーゼ達に、最近はリンディさんやシャマルに。

 

「晃一君には怪我させちゃった」

「さっきも言ったろ、問題ない」

 

 まだ何か言いそうだったので、先んじて言う。

 

「俺の怪我のこと気にしてんならさ。愚痴りなよ。あいつらに話せないこと、あいつらだから話せないこと、沢山あるだろう?」

 

 高町の表情が強ばる。図星のようだ。

 ずっと一人で抱え込んできたから、他人に話す事が怖いのだろう。

 

「……でも」

 

 渋る高町。

 

「気まずいなら、壁に話してるとでも思えば良い。聞いたことは誰にも言わないし、ここを出たら忘れるさ」

 

 肩を竦め、そう、高町に言う。

 

 俺の言葉を聞いて。少し、視線を彷徨わせる高町。

 

 やがて、ぽつりぽつりと話し始めた。

 

「……私ね、魔法と出会うまでは、自信の持てることが無かったの。将来のこととか、よくわからないまま過ごしてた。だから、ユーノ君と出会って、魔法と出会って……」

 

「運命だと思ったの。やっと、自分の誇れるものが見つかったって。これが私なんだって。……でも、失敗しちゃった」

 

「勝手に無茶をして、ここまで皆に迷惑かけて。フェイトちゃんにユーノ君、はやてちゃん達も頻繁にお見舞いに来てくれる。それが嬉しいけど、申し訳なくて」

 

「……こんなことならもう、魔法から離れるべきなんじゃないかって。管理局を辞めるべきなんじゃないかって。……そう思っちゃうんだ」

 

 今まで溜め込んでたものを、吐き出すように。

 ぐちゃぐちゃになった感情を整理できるように。

 そんな高町の話を、俺はただ、聞き続けた。

 

 

 

 そして、高町は縋るように聞いてきた。

 

「晃一君も、辞めた方が良いと思うかな?」

 

 ……大きな失敗をしてしまって、周りに沢山迷惑掛けて。それで魔法を捨てるべきなのか、ね。

 

 俺の個人的な考えを言うならば、失敗云々関係なく、管理局を辞めるべきだ。

 高町に限った話じゃない。はやてもテスタロッサも、クロノやユーノだって辞めるべきだと思っている。

 命を落とすかもしれない職場で働くには、まだ皆若すぎる。

 

 確かにこいつらは皆大人びている。ただ『大人びている』というのは、つまりは『大人じゃない』ということだ。大人に大人びているとは言わないのだから。

 

 あいつらは、俺だってそうだが、まだまだガキなのである。

 

 まあ、そんなことは言ったりはしないが。皆本気でやってるのだ。ガキだから辞めろと言うのは野暮というものだろう。

 ここでの回答には適してない。

 

 そう思い、俺が言ったのは、

 

「ソレはお前が自分で考えて自分で決めなきゃいけないよ」

 

 答えかどうかも怪しいものだった。

 

「……意地悪な答えなの」

 

 当たり前だ。他人にそこまで深く関わるようなことはしたくないからね。

 ま、軽い助言くらいはしてあげよう。

 

「家族だって、友人だって、全ては同じ。自分以外の誰かだ。だから、誰かの都合や助言じゃなく、お前にとって、魔法は必要なのか。考えるべきはそこだろう」

「……私」

 

 高町は、言葉に詰まったような顔になり、俯く。

 

「……ま、ユーノは、お前には空が一番似合うって言ってたけどな」

 

 前に言っていた。高町は他のどんな場所より、青い空が似合うと。

 

「……ユーノ君」

 

 様子を見ると、思うところがあるようだ。

 

「……でもそれ、ついさっき言ったことと矛盾してない?」

 

 高町がジト目で見てきた。少しは楽になったかな?

 確かに高町の言う通りかもね。お前が考えろと言っといて、ユーノの想いを教えてるんだから。

 

 まあただ、他の誰よりも高町を想っているあいつがそう言うんだ。

 

「教えといた方が良いと思ってね」

「…………」

 

 俯いたまま、何かを考える様子の高町。

 

 じゃあ俺はそろそろ帰りますか。クロノとの約束は果たした。

 

 

 

 

 

 高町は果たして、どんな選択をするのかねぇ。

 




煮え切らない答えをだしたり、話を聞くのがうまかったり。
主人公はいい意味でも悪い意味でもなのはたちより大人なんです。

そろそろ、他の人目線で主人公がどう見えるか書いた方がいい気がしますね。


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24話 親心とグロウス

短めでございます。


 俺の怪我の包帯が取れた頃。

 

 高町がリハビリを始めたと、クロノから連絡があった。

 

 もう一度、空へ。その為にきついリハビリに歯を食いしばって頑張ってるらしい。何度倒れても立ち上がろうとするその姿には、鬼気迫るものがあったという。

 

 どうやら高町は魔法を捨てなかったようだ。

 

 精神的にはもう立ち直り、怪我の治り具合も良好とのことである。

 

 

 

 

 

 

「――だ、そうですよ」

「……そうか」

 

 場所は翠屋。定休日で誰も居ない店の中、俺と士郎さんは対面していた。

 

 コーヒーの香りが、空間を満たしている。

 

「すまないな、色々と聞いてしまって」

「いえいえ、士郎さん達は知るべきでしょう」

 

 俺は、士郎さんに高町の様子を教えていた。

 

 士郎さん達は魔法関係者ではないから、直接、高町のお見舞いに行くことは出来ない。

 映像つきの通信で話したりはしてるそうだが、やはり、気になるのだろう。

 

 勿論、あの日高町から聞いたことは話していない。

 俺は約束は守る男なんですよ。

 

「大事な時に娘の力になってやれないとは、親として情けないことこの上ないな」

 

 自嘲するように、士郎さんが笑った。

 

「……俺としては、管理局で働くことを士郎さん達が認めてることがまず意外なのですが」

 

 魔法については知らなくても、危険だってことは分かるはずだ。あんな人外染みた剣術を使えるのだから。

 

 責めたいわけじゃない。なんとなく、気になってしまった。

 親としては、辞めさせるべきなんじゃないかと。

 

「……なのはの意思を、出来るだけ尊重させたくてね」

 

 士郎さんがそう答える。

 命に関わる危険なことだとしても、なのだろうか。

 そう思っていると、士郎さんは語り始めた。

 

「どれだけ危険なのかは分かってるさ。……なにせ、俺は昔、ボディーガードをやってたからね」

 

 まあ、そういうの以外にあんな剣術使ってたらドン引きですよね。

 

「……でもね、俺はそれだけじゃなく、その仕事が、危険な目に遭っている人を直接助けることができるものだってことも知ってるんだよ」

 

 目を伏せながら、話を続ける士郎さん。

 

「俺は他の人よりずっと、命を救うことの喜びを知ってる。大切さを知ってる。達成感を知ってる。だから、危険なだけでは、なのはの意思を曲げさせたりは出来ないんだよ」

 

 士郎さんの言葉には、実感がこもっていた。

 

「まあ、桃子には分からないことだし、俺も心配なのは変わらないんだけどね」

 

 苦笑する士郎さん。

 桃子さんは正真正銘一般人だから、今士郎さんが言ったことは実感できるものではないだろう。

 

「まあそういうわけだから、俺はなのはの好きにさせたいと思っているよ」

 

 そこまで言って、コーヒーを口にする士郎さん。

 とても様になっていてかっこいい。

 

「父親になれば男は変わる。……晃一君も、いつか分かるさ」

 

 士郎さんの言葉を聞いて、なんとなく、俺のことを父親と呼ぶデバイスのことが思い浮かんだ。

 どちらかというとあれは妹だな。

 

「っと、子供に話す話じゃなくなってきたな」

「何を今更」

「コーヒーも冷めてしまったな。もう一杯、入れようか」

「それは是非」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって山の中。

 修行タイムである。

 

『今日はどうするんですか?』

 

 ジェイドが聞いてきた。

 課題はやはり、全体的に攻撃力が足りないところなんだよな。

 機動力は今のところ足りてる。テスタロッサほどのスピードは八門無しでは無理だが、攻撃を避けるのは割りと得意だ。これは、リーゼ達との修行の成果だな。

 遠距離も近距離も、八門無しでは火力不足となってしまう。それはこの前の戦いで明らかになった。

 問題はどうするか。

 

「……やっぱ、体を鍛えるしかないよな」

 

 弾幕の威力は魔力量頼りだからすぐに上げようが無い。

 近距離の攻撃力を上げるには力を付けるのが一番。

 

「よし! 感謝の正拳突き一万回だ!」

『正拳突きだと私の存在意義が無くなってしまうのですが』

 

 グリーヴァが抗議するようにピカピカ光る。

 

「心配要らない。その後で素振り一万回だからな」

『……怪我が治ったばかりなんですから、少しは自重して下さい』

 

 ジェイドの呆れたような声。疲れが溜まんないように治療魔法は使ってくよ? 怪我には使わないけど。

 

 そうすりゃ、魔法のリハビリにもなるから一石二鳥だろう。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、お父さん!」

 

 素振り一万回までなんとか終わらせて。ふらっふらの体を引きずって買い物に来ると、ツヴァイと遭遇した。

 

「お、おおう。ツヴァイか。どうした、おつかいか?」

「はやてちゃんと一緒ですよ!」

 

 そうか、一緒にお買い物かい。

 ちなみに今のツヴァイは人形サイズではなく、小学生くらいのサイズである。

 いつもの人形サイズでは外に出せないので、変身魔法を使っているのだ。

 

「お父さん~」

 

 ツヴァイが抱きついてきた。ちょっと待って、今はとても支えられない……!

 

「はわわ! お父さん!?」

「こらこらリイン、あんま急に飛び付いたらあかんで?」

 

 はやてが来た。

 

「まったく、晃一君も、また無茶な修行してきたんやろ?」

「反省も後悔もしていない」

「凶悪犯か」

 

 なんだかんだ言って落ち着いて話すのは久しぶりかな?

 

「まあ、怪我の後遺症も無いようで良かったわ」

「その辺は俺より高町だろう」

「なのはちゃんにはフェイトちゃんにユーノ君が付いとるやろ。それに、晃一君の方が懲りひん点では性質が悪いしな」

 

 心配性だな。俺は大丈夫だよ。自分のことは自分で面倒見られるさ。

 

「……ほんまに、なのはちゃんのこと、ありがとうな」

 

 どうしたのさ。俺は特に何もしてないぞ?

 

「恍けんでもええんやで? 気に掛けてくれとったやん」

「……何のことやら」

 

 それはクロノに頼まれたからだし、俺がしたことなんて大したことではない。誰でもできることだ。

 

 立ち直ったのは他でもない、高町なのはの強さがあってこそ。

 

「ほんまに謙虚というかなんというか」

「お父さんは優しいですからね!」

 

 ツヴァイの笑顔が眩しい。ごめんね、中身は結構真っ黒なのよ。

 

「まあええわ、夕飯、家で食べてくやろ?」

「作るのめんどいしそうしようかな」

「やったです!」

 

 どこまでも純真無垢なツヴァイに癒されました。

 




士郎さんの心境は作者の想像です。
ただ、ボディーガードをやってたってなると否定するだけではないのかなぁって思います。理念は違っても、仕事は似ているところがあると思うので。


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25話 変わりゆく日常

遅れてしまいました。
少し詰まっておりました。



「もうすぐ、卒業やねえ」

 

 そうですねえ。

 

 もう冬も明けそうな頃。

 

 翠屋でまったりしているとはやてたちが来たので、相席で寛いでいる。

 高町とテスタロッサは居ない。はやて、月村、バニングスの三人である。この組み合わせは地味に珍しい気がする。

 

 あ、そうそう。高町は無事に退院した。今は現場復帰の前段階的な感じの事をしているらしい。

 恭也さん曰く、体も少し鍛え始めたんだとか。運動神経が無くても、体を鍛えるのは大事だから、良いことだな。

 

 テスタロッサは執務官試験の勉強をしているそうだ。前に一回受けて落ちてた。

 まあ、高町の事故のすぐ後だったから、タイミングが悪かったとしか言いようがないね。

 

 それにクロノだって一回落ちてるし。

 

 まあ、次は受かるんじゃないかな(適当)

 

 閑話休題。

 

「中学生になったら、学校で晃一君と会うこともなくなっちゃうね」

 

 月村が言った。

 

 聖祥は中学から男女別の校舎となる。だから、月村の言う通り、学校で会うということは殆んど無くなる。

 一部のイベントは男女混同で行うらしいので、全く会わないわけでは無さそうだが。

 

「まあ元々学校でもそんな話さないし、変わんないだろ」

「またあんたはそういうこと言って」

 

 ジト目でそう言うバニングス。

 だって、月村とはやては同じクラスだったから話すこともまだあったが、バニングスなんかは翠屋で会った時くらいしか話さんだろう。

 

「他に話す人は相良くんくらいやな」

「まあ、あいつはなんだかんだいって長い付き合いだし」

 

 ずっとクラス一緒だったわ。

 あいつも飽きずによく話しかけてきたな。

 

「そういえば、晃一君は相良くんに魔法のことは話さへんの?」

「え? 話す必要があんの?」

「即答なんだね……」

 

 別に隠してるつもりは特にないから、見られたら話すと思うけど。

 でもこっちから話すようなことでもないだろうし。

 

「話したところで、『で?』ってなんない?」

「それは晃一君くらいじゃないかな……」

 

 そうかね。割りと皆そうだと思うが。

 

 あ、コーヒー無くなった。

 

「すみませーん、おかわりお願いします」

「はーい」

 

 美由希さんが返事をしてきた。

 

「中学行ったら唯一の友達になるんやで? それでええの?」

「どうせクラスは別になるだろうし」

 

 でもあいつのことだから、それは関係なく絡んでくるんだろうな。

 

「あんたってやつは……。透もよくこいつと話せてたわね」

「高町並みの不屈の心だったな」

 

 結構ぞんざいに扱ってたんだけどな。マゾなんだろうか。

 

 ちなみに透というのは相良のファーストネームである。

 

「はい、コーヒーお代わり」

「どうも……ってあれ、忍さん?」

 

 コーヒーを運んできたのは今は翠屋を休んでるはずの忍さんだった。

 

「お姉ちゃん、どうしたの?」

 

 月村が驚いた顔で忍さんに尋ねた。

 

「ちょっと、家で大人しくしてるのにも飽きちゃってね」

「あんま恭也さんを困らせないようにして下さいよ」

「大丈夫大丈夫」

 

 忍さんは翠屋のチーフウェイトレスだったが、現在は休んでいる。その理由は忍さんを見れば一目瞭然。

 

 お腹が大きく膨らんでいるのだ。

 

「あとどんくらいで出産でしたっけ?」

「2ヶ月ないくらいね」

 

 丁度中学に入ったくらいに出産の予定なのか。

 

 恐る恐るといった感じで忍さんのお腹を撫でながら、バニングスが尋ねた。

 

「名前は、もう決めたんですか?」

「ええ。『雫』って名前にしたの。かわいいでしょ?」

「はい。とっても」

 

 月村雫、いや、正確には高町雫か。どんな子になるのかね。金髪碧眼のスーパーサイヤ人とかでもおかしくない気がする。

 

「それはそうと、晃一君。女の子三人とお茶してるなんて、モテモテじゃない」

 

 ニヤニヤしながら忍さんが言ってきた。

 

「恭也さんほどじゃないでしょう」

 

 俺は特に反応することもなく返す。

 

 あの人、かなりのイケメンで頼りになる人だから相当モテるんだろうな。

 リスティの知り合いも何人かは恭也さんの事が好きだったらしいし。

 

「晃一君はからかい甲斐が無いなあ」

「いやそんなつまらなそうな顔されても」

 

 俺はからかわれるよりからかう側の人間だからな。

 

「そういうのは高町とかテスタロッサの役でしょう」

「そうね。なのはちゃんもフェイトちゃんも、毎回すごくかわいい反応してくれるわ」

 

 毎回て。会う度からかってるんですか。

 

「すずか達、男子から人気でしょう?」

「そうですね。美少女五人組って認識されてるらしいですよ」

「ふふん、なんせ私のかわいい妹だからね」

 

 俺の言葉を聞いて忍さんは誇らしげに胸を張った。

 

「その割りに、男子は話し掛けてこないのよね」

「私たちは特に拒絶してるつもりはないんだけどね」

 

 そんなことを言う月村にバニングス。

 

「相良くんも晃一君と知り合うまでは話したことなかったもんね」

 

 そういやそうだっけ。

 

「まあ、お前らの場合、男の方が気後れして寄ってこないだろうな。全員かわいいわけだし」

 

 仲良し五人が五人ともレベルが高い。内二人はモノホンのお嬢様。残りの三人は魔法使い。なんだこの五人組。

 

 近寄り難いんだろう。本人たちにその気は無くても。

 相良もそんなことを言ってた気がする。

 話すようになってからは気にしなくなったようだが。

 

 そう思ってると、場が静かになっているのに気付く。

 どうしたのかと見ると、三人がポカンとした顔でこちらを見ていた。

 

「何さ?」

「……晃一君の口から、かわいいって言葉が出てくるなんて」

「……あんた、普通に人のこと誉められたのね」

「……心臓が止まるかと思ったわ」

「よろしいならば戦争だ」

 

 何を言っとるかこの小娘どもは。俺だって誉めることくらいできるわ。

 バニングスとはやてはともかく、月村まで言うか。

 

「晃一君は口説くのが上手そうね」

「そこは誉め上手と言って頂きたい」

 

 誑しみたいに言われるのは不本意です。

 

 

 

 

 

 翠屋からの帰り。

 

 俺とはやては夕飯の買い物に来ていた。

 

「なあ、晃一君」

「どうした?」

 

 買い物が終わり、袋を両手に持ちながら歩いていると、

 

「私、中学校を卒業したら、ミッドチルダの方に引っ越そうかと思ってるんよ」

 

 不意に、はやてがそう切り出した。

 

「……もしかして、高町とテスタロッサもか?」

「うん。私は守護騎士の皆と、なのはちゃんはフェイトちゃんと暮らすつもりや」

 

 はーん。

 

 ……高校には行った方が良いと思うけどなぁ。青春時代を捨てちゃあいかんでしょう。

 

「それでな、晃一君も、どうかなって」

「……」

 

 どう、というのはミッドチルダで暮らさないか、ということだろう。

 

 まっすぐにこちらを見てくるはやて。

 

 

 

 

 

「俺はミッドチルダで暮らす気は無いよ」

 

 きっぱりと断らせてもらった。

 

「……そっか」

 

 はやても断られるとは思ってたようだ。やっぱりかといったように笑う。

 

「言って無かったっけか。俺、嘱託の仕事は辞めるつもりなんだよ」

 

 元々、グリーヴァを造る為の金が欲しくて、バイト感覚で始めたものだ。グリーヴァが完成した今、続ける理由は無い。

 

「気紛れにクロノとかからの依頼は受けるかもしれないがな」

 

 それでも、管理局に所属するつもりはない。だから、ミッドに引っ越す意味が無いのだ。

 

「……じゃあやっぱり、今みたいに会うことも減ってしまうんやろうなぁ」

 

 少しだけ寂しそうに、はやてが呟いた。

 

「何言ってんだ」

「え?」

 

 一生会えなくなるわけじゃないだろうに。中学を卒業するまでは買い物で会うだろうし、卒業してからも俺は月村達とは違ってミッドチルダに遊びに行ける。

 

 結ばれた縁は消えないって、侑子さんも言ってたし。意味は違うのかもしれないけれど。

 

「どうせ今日みたいにばったり会って、話をするんだろうさ」

「……そうかな」

 

 俺はもう帰るぞ。

 

 別れを告げて、はやてに背を向ける。

 

「晃一君!」

「何だ?」

 

 

 

「……中学生になっても、皆でお話ししよな!」

「……はいよ」

 




第3部、完!!的な。

次回からは時間が飛び飛びになると思います。

相良透君。ついにフルネームが明らかに。そして地味に原作キャラと仲良くなってるという。

学校では彼の方が主人公よりも原作キャラと話してます。


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Act.5 『blank』
26話 中一の夏


遅くなって申し訳ございません。日間の一桁台まであがっててびびってました。
読んでくださった方々、本当にありがとうございます。

章管理してみました。


 中学生になった。

 かといって、何かが変わるわけでもない。周りは男だらけになったけど。これ結構変わってますね。

 

 相良とは予想通り、別のクラス。サッカー部に入るとか言ってた。

 

 ……ちょっと相良に魔法を教えて超次元な必殺技を使わせてみたくなった。ちょっとだけ。

 

 実は、士郎さんがコーチをしてるサッカーチームに入ってたらしい。あの人がコーチだと、疾風ダッシュくらいは出来るようになりそうだよね。

 

 俺は勿論帰宅部ですよ。修行優先だもん。何か最近はやらなきゃ落ち着かなくなってきた。

 

 

 

 

 

 季節は流れて、夏。

 

 真っ直ぐ家に帰ろうかと思っているとケータイが鳴った。どうやらメールのようだ。

 

 ちなみにこのケータイは中学生になった記念にリーゼ達からプレゼントされました。最新モデルですよ。ガラケーだけど。

 最新でもスマホじゃないって言うのはなかなか懐かしいものがあるよね。

 

 閑話休題。

 

 メールを確認すると、相良からだった。

 

『待って下さい』

 

 絵文字も顔文字も無しの敬語の文。お前キャラ間違ってないか?

 

 

 

 

 

「よっしゃ! 行くぞ!」

「メールとのテンションの差が」

 

 校門前で相良と合流して、河川敷に向かう。

 

 今日は皆で花火大会に行くのである。

 

「ヤベエよ! 久しぶりの美少女五人組とのエンカウントだよ!」

 

 テンションが高い。すごくうるさい。

 

「すずかちゃんみたいにお淑やかさがある浴衣が王道だけど、アリサちゃんやフェイトちゃんみたいな金髪の子の浴衣もミスマッチ感があって良いよな! なのはちゃんにはやてちゃんは可愛く着こなしそうで見るのが楽しみだな! 美少女五人組だけじゃなくて、忍さんや美由希さんの浴衣も大人の魅力があがががが」

 

 やかましかったのでアイアンクローをかまして黙らせた。

 

 

 

 

 

 花火大会の会場に到着。

 そこで丁度、美由希さんを見つけることができた。

 

「どうも美由希さん」

「あ、晃一君に透君! 皆来てるよ!」

「美由希さん! 浴衣、似合ってますね!」

「ありがと。浴衣に着替えるなら、あっちでレンタルしてるから」

 

 折角なので、浴衣に着替える。

 

 俺はこっそりバリアジャケットを使ったので、かなり早く着替え? ることができた。

 

「着替えるの早くねぇ?」

「着なれてるから」

「そっかー」

 

 何も知らない相良に適当に嘘を言うとあっさり信じた。

 こいつ、勉強はできないわけじゃないのに、わりと⑨なんだよな。

 

「お! 来たな晃一君!」

 

 そこには浴衣姿のはやて達が。クロノ達ミッドチルダの奴らも居る。

 

 とりあえず男が固まってる所へ行く。

 

「よう、久しぶりだな」

「そうだね、久しぶり」

「相変わらずのようだな」

 

 クロノとユーノにご挨拶。

 

 この二人はよく来られたな。はやて達よりもはるかに忙しいだろうに。

 

「卒業パーティーの時は来られなかったからな。何とかなのはの様子を見に来たいって、ユーノが」

「何とか妹の様子を見に来たいって、クロノが」

 

 擦り付け合わないで下さい。

 

「クリスマスパーティー以来だな、ユーノ! クロノ!」

 

 相良が二人に言う。

 

「そうだな、元気そうで何よりだ」

「久しぶりだね、透」

 

 クリスマスパーティーの時しか会ってないはずなのによく物怖じせずに話せるな。

 こいつのコミュ力はそれなりだと思う。

 

 そのまま少し話していると、ふと、相良が言った。

 

「そういやさ、クロノさんはフェイトちゃんの兄さんだけど、ユーノって何者なの?」

「高町家のペット」

「その悪意に塗れた紹介は止めてくれないかな……」

 

 相良の疑問に即答する。強ち間違いでもなかったっていうのが恐ろしいよね。本人が当時のことを話したがらないので詳しいことは知らないが。

 ふざけてる俺の代わりに、クロノが答える。

 

「ただの高町のパートナーさ」

「ちょっと。悪ノリしてない?」

 

 (人生の)パートナーですね、分かります。

 

 俺とクロノの話を聞いて、ぷるぷる震える相良。

 

「くそぉ! 羨ましいな! どっちも!!」

「え? どっちも?」

 

 素でびびった。

 こいつ、こんなに業が深かったのか。

 

「だって、女の子に甲斐甲斐しく世話してもらってみたいじゃん!」

「飼われるならバニングスじゃないか?」

「君は何で便乗してるんだ」

 

 いやだって、なんだかんだ言って面倒見良いし。ペットにはデレてそう。

 

 そんなことを話す俺たちを呆れた目で見るクロノとユーノ。

 

「仲が良いんだな」

「仲が良いんだね」

 

 揃って言われた。お前らも大概だよな。

 

 

 

 

 

 

「どや! 似合ってるやろ!」

 

 はやてが浴衣を見せびらかしてきた。

 

 はやてが着ているのは白を基調とした浴衣。帯は黄色だ。淡い紫で撫子の柄がシンプルなデザインにアクセントを加えている。

 

「似合ってる似合ってる」

「もう少し感情込めてや」

 

 むー、と不満顔。

 

「まあ、前よりも大人っぽく見えるな」

 

 何というか、皆成長したよね。小学校低学年の時からすると背もかなり伸びた。少し、感慨深いものがある。

 

「ほんまに!?」

 

 少し褒めると一瞬で笑顔になった。チョロいな。

 

「晃一君も似合っとるね、浴衣」

「ん、ありがとさん」

 

 女の子に褒められるのは、悪い気はしない。

 

「お父さん! リインはどうですか!」

 

 浴衣姿のツヴァイが飛び付いてきた。

 ツヴァイの浴衣はピンクが基調の子供向けのデザイン。

 

「うん、かわいいぞーツヴァイ」

「えへへ~」

 

 何この子可愛い。てかちょっと待て、何かさり気なく爆弾を投下されたような気が。

 

「おい晃一。お父さんってどういうことだ?」

 

 気が付いたら、後ろに相良が。え、全く気付かなかったんですけど。

 

 あ、こいつリイン見るの始めてか。

 

「お前お父さんってどういうことだ誰だその子お前の子なのかかわいいなおい羨ましいな畜生おおおお!!!」

 

 ちょっ、うるさっ。

 

「銀髪ってなんだお前あの人の子なのか知ってんだぞ修学旅行の時の警察のお姉さんと仲良くなってたじゃねえか銀髪ってことはあの人の子かそうなんだな!!?」

 

 待って君なんでリスティと親しいこと知ってんのさ。

 

 誤魔化すのが大変だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 露店巡りをする。

 

「お父さん焼きそば食べたいです!」

「はーい、あっちねー」

 

 ツヴァイを肩車しながら、移動して歩く。

 八神家の血筋故か、食べるのが好きなんだよね。

 

「お父さんが板に付いているね」

「それはあまり嬉しくないのだが」

 

 笑顔で言う月村にそう返す。

 だって、彼女できたことすらないんだぜ?

 それなのにお父さんとか、少し虚しく空しくなる。

 

「晃一君! 射的あるで射的!」

「狙撃だったら高町じゃないか?」

 

 あいつは砲撃か。

 

 折角なのでやってみる。

 

「やっぱり当たってもなかなか倒れないね」

 

 高町が苦笑しながら言う。

 俺や高町は当てることはできた。ただ倒れるかとなると別なわけで。

 

 ちょっと悔しいな。

 

「高町。狙撃が巧くなるおまじない教えてやるよ」

「?」

 

 

 

 

 

「なあ、なのはちゃんめっちゃ景品とっとるけど、何あれ?」

 

 はやてが聞いてきた。

 

 そんな高町の様子はというと。

 

「ステンバーイ……」

 

 うん、凄い集中力。

 

「あんたなのはに何教えてんのよ……」

 

 

 

 

 

 

 俺は少し飽きたので戻ると言うと、月村も付いてきた。

 はやて達はまだ露店を見て回るようだ

 

「あ、晃一君! 丁度良かった!」

 

 戻るとすぐに、忍さんにそう言われる。

 

「ごめん、ちょっと席外したいんだけど、皆居なくてさ。少しの間、雫のこと見ててくれない?」

「え」

 

 有無を言わさずに俺に雫を預けて行ってしまった。

 何今の答えは聞いてないけどねスタイル。

 

 仕方ないので面倒を見る。

 

「ごめんね、お姉ちゃんが」

「いやぁ、良いよ」

 

 雫は大人しいので、特に何かする必要は無いし。

 世話をする側には助かる。

 

「あ、花火上がったよ!」

 

 雫を抱いていると、一瞬、辺りが明るくなった。

 月村の言うとおり、花火が始まったみたいだ。

 

「綺麗だね!」

「そうね」

 

 色とりどりの火花が夜の空を彩る。

 あんまりしっかりと花火を見ることなんて無かったなあ。

 

 そんなことを思ってると、

 

「いって!?」

 

 急に痛みを感じた。

 見ると、雫が抱いている腕に噛みついている。

 

 あ、これ血吸おうとしてるわ。

 

 見られちゃ不味いので向きを変えて雫を隠す。

 

「こ、晃一君ごめん。大丈夫?」

「あーいや大丈夫。ビックリしただけだから」

 

 何で月村が謝ってるのだろうか。

 不意打ちだったから痛かったが、慣れればなんでもない。

 

 前々から何回か抱かせてもらってるけど、何か血吸われるんだよね。

 嫌われてんのかな。だったら泣くと思うんだけどなあ。

 

 あれか、血に飢えておる! 的な。

 

 

 

 

 

 しばらくすると、はやて達も戻ってきた。

 随分と幸せな時間を過ごしたのか、相良が菩薩みたいな顔してる。

 

 てか、ん?

 

「あれ? ツヴァイはどうした?」

「え? あ、あれ!?」

 

 戻ってきたメンバーの中で、ツヴァイだけが居ないのに気付いた。

 

「さっきまでおったはずなんやけど……!」

「人混みに流されたかな」

 

 探しに行かなきゃ。

 

『会場の皆様に、迷子のお知らせを致します』

 

 あ、迷子放送。

 

『晃一様、古夜、晃一様。娘さんのリインちゃんがお待ちです。本部の方までお越し下さい』

 

「…………」

 

 何で俺呼んでんだよ。はやて呼べよ。

 

 というか、魔法、使えよ。

 

 皆ある程度は同じ事を考えてたのか、しばし、無言になる。

 

 

「……ほら、行ってきなさいお父さん!」

 

 バニングスお前丸投げしやがったな。

 あんた覚えてなさいよ。

 

 

 

 何か振り回された一日でした。

 




お父さん回でした。


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27話 主人公君の非常に平常通りな日常

今回の話は設定紹介みたいな感じです。世界観の補足的な。


 朝。早く起きる。

 

「…………」

 

 寝起きはあんまりよくない。眉間にしわを寄せたまま顔を洗いに洗面所へ。

 

「!? ……ああ」

 

 鏡を見て自分の顔に驚く。未だに慣れない。

 

 癖のない黒髪。二重にタレ目であまりやる気があるようには見えない。そしてオッドアイ。真っ赤な左目が激しく自己主張している。

 

 パーツひとつひとつのわりに整って見えるのは母方の血のお陰だろう。

 

 『古夜晃一』の母親は地球出身ではなく、どっかの魔法世界の生まれだったらしい。遺影に写っていたのは西洋風でオッドアイの美人さんだった。俺の目はこっちの血のようだね。

 

 父親の方? まあ、日本人って顔だったよ。こっちがオッドアイだったらさぞかし似合わなかったろうね。管理局で出会っての職場結婚だそうだから、よく捕まえたものである。

 

 閑話休題。

 

 顔を洗い、ジャージに着替えたら朝のマラソンである。勿論、重りありありで。

 

 朝のさっぱりとした空気の中、走る。

 

「お、晃一じゃねーか」

「お、ヴィータにザッフィーじゃないか」

「ザッフィー言うなと何度言えば」

 

 朝の散歩中のヴィータ達に遭遇することもある。よくある。

 

「相変わらず阿呆みたいに鍛えてんな」

「阿呆とは失敬な」

 

 これでも足りないくらいだと考えてるんだけど。

 

「そういえば、シグナムが模擬戦をしたいと言っていたぞ」

「まじですかい」

 

 ザッフィーから天国行きのチケットを渡された。

 

「大袈裟だな。最近は良い勝負するようになってきたじゃねーか」

「そう言ってもらえるのは嬉しいんだがね」

 

 わりと命懸けだから嫌なのよ。

 まあ、色々と試すのにはもってこいだから、今度受けましょうか。

 

 

 

 

 ランニングが終わったら朝食を食べ、学校へ。聖祥はスクールバスがあるが、俺は使わない。徒歩での登校である。

 

 今日何かあったっけ?

 

『進路相談の面談がありますね』

 

 面談か。懐かしいね。やったやった。

 

 

 

 

 

 

「古夜は……高校変えるのか?」

「はい」

 

 進路指導室にて面談なうである。

 

「風芽丘か……レベルの高いところだが、なんでまた?」

「野郎だらけの環境に嫌気が差したので」

「お前先生なめてんだろ?」

 

 結構重要だと思うけど。やっぱり華がないとね。ぎぶ、みー、おなご。

 

「で、真面目な方の理由は?」

「自分、工学系の仕事がしたくて。聖祥だと、工学部がありませんから」

 

 エスカレーターで大学まで行かないのであれば高校は変えた方がいいかなって。高校も聖祥にする意味があまりないだろうし。

 

「意味がないって……。あながち間違ってないが……」

 

 魔法とか環境の影響で、理系科目に関しては明らかに前世より出来る。それを活かさない手はないしね。

 

「はあ……先生お前のことがよく分からんよ」

「愚痴なら聞きますぜ」

「あまりふざけるなよ……削ぐぞ?」

「ヒッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。部活に入ってない俺は、修行をしに行くか、翠屋に行ってから修行行くかである。今日は気分的に翠屋だな。

 

「という訳で美由希さん、いつもので」

「君頼むのランダムだよね……」

 

 そうだっけ。そう言われればそんな気もする。

 

 ここに来る客は聖祥の生徒が多い。放課後という事でお客もちらほらいるが、ピーク時に比べたら余裕がある。

 

 カウンターの美由希さんと話をする。

 

「美由希さんのコーヒーも美味しいですね。さすが次期店長」

「たくさん修行したからね。お母さんにはまだまだ勝てないけど……」

 

 最近は美由希さんはウェイトレスではなく厨房で働くことが多い。士郎さんによると、次期店長、桃子さんの後釜は彼女だとか。昔は料理下手だったが、桃子さんにしごかれたらしい。

 

「私、恭ちゃんの修行より辛いものはないって、思ってたんだ……」

 

 遠い目になりそう呟く美由希さん。この戦闘民族のヒエラルキーの頂点が桃子さんとか、恐ろしいな。

 

「あ、そうだ晃一君。週末またうちの道場で模擬戦したいって」

 

 天国行きチケットおかわりですか。

 恭也さん魔法使ってないのに近接戦ならシグナムに勝ちそうだから怖い。だいたいなにあの神速ってやつ。見えなくなるとかマジ瞬歩じゃん。

 

「そんなこと言って初見で反応した晃一君は何なのさ……」

 

 反応しただけで普通にやられたけどね。俺は速いのに慣れてましたから。八門遁甲を使ったときあれに近い状態になったし。

 魔法無しであの速度とか。バグキャラじゃん。

 

「そういや美由希さんは神速出来るんですか?」

「数秒くらいなら」

 

 もうやだこの家族。

 

 

 

 

 

 翠屋に行った後はおまちかねの修行である。

 夕飯前までひたすら筋トレ。昭和式熱血トレーニングだ。

 素振りに正拳突き、最近は蹴りの訓練もしている。

 ただひたすらに腕を、剣を、脚を振るう。一つ一つの動作を迅速に、でも疎かにしないよう意識する。回数はだいたい一万回が目標。夕飯までの時間を考えると無理なんだけどね。でも続けてればいつかは全部一万回こなせるようになるかもしれないじゃん。ネテロみたいに。

 

 終わったら、直ぐに治癒魔法を使って休む。疲労を残さないようにするためである。俺の資質じゃ限度があるけどね。

 

 俺はスポーツ医学になんて詳しくはない。ただ時間は有限なので、修行はとにかく密度を濃くするようにしている。トレーニングも、休息もだ。感じとしては、アイシールド21のデスマーチだろうか。

 

 日が暮れてきたら夕飯の買い出しへ。今日はなに食べようか。メニュー考えんのめんどくさいんだよね。栄養バランスにはある程度は気を使わなきゃいけないし。なんだ俺、ボディビルダーにでもなる気か?

 

 

 

 

 

 夕飯を食べ終わったらまた修行。

 

「よし、やるぞージェイド、グリーヴァ」

『はい』

『いきます』

 

 空中にて、グリーヴァを構え、魔力を集中させる。

 

 ――凍符「パーフェクトフリーズ」

 

 色とりどりの弾幕が俺の前方に現れ、俺めがけて襲いかかってきた。

 

 それに驚くことなく、身体強化をかけ、かわしていく。

 

 一つ一つの弾の動きは全て直線。

 だが向きは違う。

 弾をできるだけ多く目に捉え、弾筋を読む。どれが当たるか。どこに避けるか。考え、動く。

 

 少し避けていたところで、突然弾幕が停止する。その状態のまま、蒼色の次弾がやってきた。

 

 弾が静止しているせいで、動きが制限される。

 避けにくくなるが、隙間を縫うように動き続ける。

 

 そこからもうひとつの変化。静止していた弾幕が動く前とは違う方向に動き始めた。

 

 周り全体から弾幕が襲いかかる。

 何回か当たりそうになるが、グリーヴァは使わない。

 首を曲げ、体を捻って回避する。

 

 一度全てを避けきってからは、先程のパターンを繰り返しである。

 

『残り10秒』

 

 ジェイドからのアナウンス。それを聞き流しながらも、動くのは止めない。

 

 三次元に向かってくる弾を避けるのには、空間を三次元に把握しなければならない。前後左右、そして上下。故に意識を研ぎ澄まし、全ての弾を意識する。

 

 やがて、

 

『2……1……0、終了です』

 

 カウントがゼロになったところで弾幕が消えた。

 

『お疲れさまでした』

 

 身体強化を止め、地上に降りる。

 

 今のは修行のひとつ。自分に向けて弾幕を張り、自分で避ける。スペルカードの動作確認と、回避訓練である。

 

『このレベルは余裕を持って避けられるようになりましたね』

「つっても、弾道が真っ直ぐだからな」

 

 出来て当たり前という感じである。

 

『弾幕の方はどうでしたか?』

 

 ジェイドが聞いてくる。

 んー。チルノのはほぼ完璧に再現できたと思うんだよね。

 

 スペルカードの再現というのは、他の近接技の再現よりもいくらか楽だ。方法が、魔力弾の動きをプログラミングしていくという簡潔なものだからである。

 勿論、動きに変なところがでないよう、細かい調節は繰り返す。

 

「じゃあ次、近接技だな」

 

 これが難しい。まだまだ模倣の域を脱してないんだよね。螺旋丸とかはやり方がわかってるけど、それでも失敗は多いし。三刀流とかは単純っちゃ単純だけど、技として成り立たせるのが大変だ。

 

 何回も何回も同じ事を繰り返す。技として昇華させるために。確実に成功させられるように。

 

 

 

『マスター、そろそろ時間です』

「ん? もうか、早いな」

 

 夜も大分ふけてきた頃に帰宅。

 帰ったら風呂に入って汗を流す。少しの間、アニメやゲームをする。魔法で体を癒しながらだ。

 

 アニメやゲームは、前世とは若干違っていて面白い。技名だったり、ストーリー進行だったり、名言だったりだ。前世と通じるものもあるのでネタが分かるってのはいいな。

 

 睡眠時間は取りたいので、あまり遅くなりすぎないうちに寝る。

 

「おやすみ、ジェイド、グリーヴァ」

『良い夢を』

『夢日記はつけますか?』

 

 つけるわけないだろう。なぜ聞いたし。怖いわ。

 

 

 

 わたくしはこんな毎日を過ごしております。




聖祥大に工学部がないってのは独自設定です。
作者的に聖祥大は女子大ってイメージだったので工学部はないのかなと。

……あれ?これってすずかも聖祥大じゃなくなる?


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28話 イギリスにて

申し訳程度のとらハ回でございます。


「ボディーガード?」

 

 いつも通り、山で修行していると、リスティが来た。

 

「うん。ちょっと、知り合いに歌手がいてね」

 

 なんでも、リスティの住んでる寮にいた人に留学して歌手になった人がいたらしい。名前は椎名ゆうひ、芸名はSEENA。すげえ、俺でも知ってる。あの人海鳴市出身だったんだ。

 

「正確には違うんだけどね」

 

 そーなのかー。

 

 その人が、留学してた時の親友とチャリティーコンサートをやるんだと。それで友人の安全のためにボディーガードが欲しいらしい。

 リスティも護衛につくから守るのはリスティに任せればいいので、俺は別にやっても良いけど。

 

「ボディーガードなら、高町家では?」

 

 あそこ、それが本業じゃないっけ?士郎さんは怪我で引退したらしいけど、恭也さんや美由希さんがいるだろうに。

 

「恭也と美由希にも頼んでるけど、あっちに頼んだのは親友のほうの護衛だからね」

 

 そーなのかー。

 なんでも恭也さん達には毎年頼んでたそうで。

 SEENAさんの親友ってのは、恭也さん達の知り合いらしい。というか、翠屋の店員だったらしい。そういえば昔、外国人っぽい人がいたような?

 

「あ、でも俺、武器無いわ」

「そのガンブレードがあるじゃん?」

 

 いやいや、魔法ってあまり人の目に触れちゃ駄目らしいし。特に、魔法技術のない世界では。リスティと会ったときは非常事態だったからためらわず使ったけど、今回はグリーヴァは使わない方がいいだろう。

 

 ジェイドならサポート用に連れていけるんだけどな、モノクルとして。

 

「だったら恭也が何か貸してくれるさ」

 

 さいでっか。何か今回かなり親切じゃない?

 

「コンサートにさざなみ寮のみんなも来るんだよ。せっかくだから、寮のみんなに晃一のこと紹介したくてね」

 

 成程、そういうわけね。

 さざなみ寮とはリスティの住んでる寮のことである。

 

「決まりだね。じゃ明日イギリス行くから、ちゃんと準備してね」

「え」

 

 急すぎやしませんか。てかイギリスて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 来ちゃったよ、イギリス。

 12時間フライトはキツイ。体がバッキバキなんだけど。

 予定ではコンサートは明日。今日はフリーだ。

 

 まだリスティの両親達とは会ってない。俺達は仕事絡みということで移動は別だったからだ。高町兄妹と一緒でした。

 

「という訳で折角のイギリスだけど、どっか行きたいとこある?」

 

 リスティが聞いてきた。

 あるある。イギリスだからこそのがありますよ。

 

 

 

 

 

「おひさ!」

「急すぎんのよ馬鹿」

 

 それは俺に言わないでください。

 俺が来たのはグレアムさんの実家である。あの人、イギリス出身だからね。管理局を辞めた後はここで静かに暮らしてたそうだ。リーゼ姉妹と一緒に。なにそれうらやま。

 

「まさかあなたがこっちに来るとは思わなかったわ」

 

 アリアがそう言う。確かに。この件が無ければ来てなかっただろうね。

 

「だいぶ身長も伸びたじゃないか」

 

 グレアムさんのお言葉。そうなんですよ。クロノなんか俺が小学生の時は同じくらいだったのに、少し前から急に身長が伸びてさ。あいつに見下ろされるのはちょっとイラッとするって、ユーノと話してた時期もあった。

 

 身長はやっぱり欲しいよね。目指せ180センチ。

 

「それにしても、SEENAのチャリティーコンサートとはね」

「いいなーサインもらってきてよ」

 

 ロッテリア達も彼女のことは知ってるようだ。まあ、イギリスで有名になったらしいからね。

 

「だが、大丈夫なのかね?」

 

 グレアムが心配そうにこちらを見てくる。

 大丈夫だろう。俺の存在関係なしに、高町兄妹とリスティがいるんだ。

 

「SEENAさんの親友の、フィアッセさんだったかな。彼女のコンサート、何年か前にテロが起きてるそうだよ」

 

 え゛?

 

 

 

 

 次の日、つまりコンサート当日。リスティ達に聞いてみた。

 

「あー……それね」

 

 少しだけ困った顔になるリスティ。彼女のこういう表情は珍しい。恭也さんも美由希さんも表情が変わった。二人も知ってたのか?

 

 だったら毎年頼んでたのは、テロがあったからなのだろう。言葉は悪くなるが、たかがコンサートにあの二人の護衛は過剰戦力だろうからね。

 

「まあ、色々あったんだよ」

 

 言葉を濁してきた。話せないことでもあるのかね。

 

「そうか」

 

 なら聞かないさ。

 

 それからはコンサートの話に。

 

「忍にサインをせがまれててな」

 

 恭也さんは忍さんにおねだりされてきたようだ。忍さんはSEENAの大ファンらしい。それは知らなかった。

 

「なのははフィアッセに会いたかったみたい」

 

 そっか。翠屋の店員だったんだからそりゃ高町とも面識あるのか。あ、フィアッセってのはSEENAさんの親友さんの名前ね。

 

「それじゃボクは晃一をみんなに紹介してくるよ」

「ああ」

「いってらっしゃーい」

 

 コンサート会場の近くで一旦高町兄妹と別れ、リスティの両親がいる所へと連れられていく。

 

 歩きながら、リスティに尋ねる。

 

「そういや、寮の人達ってどんな人達なのん?」

「お、晃一が他人に興味をもつとは珍しい」

 

 

「んーと、寮の管理人に獣医なその妻、私の両親ね。後は超能力者と漫画家の姉妹、バスケ少女に猫耳に霊剣使いかな」

 

 色々とおかしかったぞオイ。霊剣とかオカルトかよ。科学と魔術が交差して物語が始まっちゃうの?

 

「バスケ少女は高一でダンクできてたし、漫画家のほうはケンカがめっぽう強いよ」

 

 まじでか。ほんとさざなみ寮ってなんなの?人外魔境?

 

「お、いたいた。おーい!」

 

 そんなことを話してるうちに、リスティがさざなみ寮の面々を発見したようだ。

 あの人達か。……なんか、女性ばっかじゃないですか。

 

「そりゃそうだよ、女子寮だもん」

 

 あれそうなの? 初耳なんですけど。てか管理人て男じゃないっけ。

 

「うん。ボクのお義父さんだよ」

 

 …………これだけは言わせて。

 

 それなんてエロゲ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 さざなみ寮の人達と少しだけお話しした。美人揃いで耕介さんが羨ましいね。もげろと言いかけたのはしょうがない。

 どうやらリスティは俺の精神のことを言ってなかったらしく子供のままで通させてもらった。あまり沢山の人に知られるのもどうかと思うからね。

 何となく予想はしてたけど、リスティは養子のようだな。耕介さんと愛さんからリスティが生まれるとは思えないし、名前も英語? だし。

 

 そんなわけでコンサート。細かい打ち合わせなんかは恭也さん達に全部任せている。俺は不審人物がいたらぶちのめすか、捕まえればいい。

 

 武器は恭也さんから借りた小太刀二本。刃は潰してない。峰で使う予定だ。後はリスティから渡された拳銃。こちらは使う予定はない。コンサート会場は人が多く、流れ弾が危険だからね。

 

 武器は全て隠している。この技術は恭也さんに教えてもらった。

 今の俺は黒スーツ姿。グレアムさんが急遽用意してくれた一張羅である。せっかくだからとプレゼントしてくれたのだ。スーツの割りには動きやすい。

 

 今、俺は会場をパトロールしている。SEENAさんとフィアッセさんには常にリスティと美由希さんがつき、恭也さんと俺でそれぞれ不審人物がいないか見張ってるのだ。

 

 ジェイドのサーチをオンにして会場の客を見て回る。

 つっても、チャリティーコンサートだしな。人気歌手のライブとはいえそんな物騒な物持ち込むやつなんかいないだろう。

 

『探知に反応がありました。拳銃のようですね』

 

 …………いたわ。

 

 

 

 

 男を付けながら、どうしたもんかと考える。男は最初は受付の回りをうろついていたが、どこかに連絡すると、会場を離れた。

 取り敢えず恭也さんに連絡だな。

 

「銃を持ってるっぽい人見つけました。アジア系の顔で堅気には見えません」

『なに? 場所は?』

「さっきまでは受付のとこでしたが、今はだいぶ外れの方まで来てますね」

『……そうか。俺がそっちへ向かう。そのまま見張っていてくれ。後、戦闘になってしまうかもしれない。準備も頼む』

 

 あいさー。

 

 電話を切り、男の観察を再開すると、男は路地裏に入り、集団と合流した。数は10人以上。そのほとんどが銃を所持しているようだ。

 

「…………げ」

 

 男達の内の一人が持ってるあれ、まさかダイナマイトか?

 

「どうした?」

「ピッ……」

 

 恭也さんですか驚かせないでくださいよ何か変な声出ちゃったじゃないですかというか来るのはやいですね!

 

 色々言いたかったが黙る。恭也さんの顔が怒気に染まっていたからだ。怖っ。

 

「あいつらは……!」

「知ってるんですか」

「前にリスティさん達が潰したはずのマフィアだな。恐らくその残党だろう」

 

 へえ。

 

「好き勝手させてたまるか………潰すぞ」

「アッハイ」

 

 

 

 

 

 

 瞬☆殺

 

 恭也さんマジ恐るべし。敵は八割方恭也さんが倒してくれたわ。いや俺も頑張ったんだよ? あいつらの爆弾処理したし。でもあの人相手がマシンガン使ってきたのに全弾弾くとか。まじで人間じゃないわ。

 

 会場から離れた所でドンパチやったので、コンサートに影響は無かった。無事、成功である。よかったよかった。

 

 コンサートを見ることはできなかったが、嬉しいことにSEENAさんと直接話せたしね。お礼にオリジナルのCDも作って貰えた。オリジナルといっても前世の人気曲なんだけども。

 なんとも報酬がおいしい仕事でしたね。

 

 

 

 後日、ネットでイギリス人間花火の記事が出回ったことの説明は省かせて頂きます。

 




カットされてるところはいつか他の人視点で書けたらいいですね。


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29話 好奇心は猫を

新しい奴書きたいけど書き始めたら絶対こっち進まなくなるので我慢します。

サブタイが雑になってきている希ガス。

追記
この話の時期を中3の夏から中2の夏に修正しました。


 夏休み直前の放課後。俺は相良達と翠屋で勉強会をしていた。

 

「わからーん! 晃一君助けてぇー!」

「少しは自分で考えろや」

 

 はやてからの救援要請を断る。

 見ると、特に魔導師組のはやて、高町、テスタロッサは苦戦しているようだ。仕事で忙しく、学校の勉強する時間があまりないのだろう。それを言い訳にはできないが。

 

「そういえば、晃一って最近成績上がってきたわよね」

 

 最近、髪をばっさり切ってショートカットにしたバニングスがペンの先をこちらに向けてきた。

 

「まあ、それなりの成績出さなきゃいけないからな」

 

 俺はエスカレーターで高校に進学するのではなく、高校を変えるつもりである。それで教師達を納得させるため、以前よりも成績を上げているのだ。

 

「晃一君、頭良さそうなのに順位はそうでもなかったよね」

「勉強してるとこほとんど見ないのに普通にテストで点取っとったな」

 

 高町とはやてが『ずるい』と言いたげな視線を向けてくる。そういえば、高町も中学生になってから髪形をツインテールからサイドポニーへと変えた。心機一転ということらしい。

 

「何言ってんだお前ら、今まさに勉強してるじゃないか」

「その本何の本なんや?」

「サバイバル教本」

「なんの勉強よ……」

 

 夏休みに入ったら短い間だけどまたサバイバルしに行く予定だからね。これはそのための資料というわけだ。

 

「晃一、ここおせーて!」

 

 相良に聞かれた問題を見る。多少は難しいが、解けなくはないな。とっかかり方だけを簡単に教えてみる。

 

「ああ~なるへそ!」

 

 どうやらそれだけで分かったようで。教えるのが楽でいいね。

 

「晃一君助けてやぁぁ……」

 

 はやてから再びの救援要請。まったくしょうがないなあ。

 

「晃一君の説明、分かりやすいね」

 

 はやてに解説をすると、一緒に説明を聞いていた月村が褒めてくれた。素の頭はバニングス達の方がいいだろうけどね。ここは年季の差というやつである。 

 

「私達にも教えてくださいぃ……」

 

 バニングスに教科書の内容を叩き込まれてる高町が助けを求めてくる。高町とテスタロッサは文系科目が苦手なんだっけか。教えてくれって言われても、社会は覚えろとしか言いようがない。

 

「あ、高町ちょっとこれ見て」

「?」

 

 高町に見せたのはフランシスコ・ザビエルの肖像。教科書に載ってる一般的なやつね。興味を持ったのか、高町の隣にいたテスタロッサも覗き込んできた。

 

 ザビエルの顎ヒゲの間にペンで点を二つ描く。

 

 逆さにする。

 

 ペンギンの完成。

 

「「ふふっ!!」」

 

 お、うけたね。

 

「何遊んどるかああああ!!」

「にゃー!?」

 

 バニングスに怒られちった。

 

「まあまあバニングスこれ見てみ」

「何よまったく……ふふっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 期末テストが終わり、中学二年の夏休み。

 予定通り、俺はサバイバルをしに別次元世界に来ていた。無人世界であり、管理外世界なので自然保護隊とかもいない。

 

『くれぐれも怪我には注意してくださいよ』

「わかってるって」

 

 ジェイドから再三の注意を受ける。前は幼かったのもあったし、よほどイレギュラーなことが起きなければ何の問題もないだろう。

 

『それにしても、なぜサバイバル』

 

 サバイバルが初めてであるグリーヴァがそうこぼす。

 

「感覚を鍛えるのには、野生の中で生活するのが一番だからな」

『その理論が理解できません』

『マスターの理論は穴だらけのボッコボコですから、流すのが一番ですよ』

 

 穴だらけじゃないよ。そこは夢と希望、そしてロマンで補うのさ。

 

「よし、まずは水の確保と拠点作りだな」

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだここ」

 

 拠点にしようとした洞窟で、妙なモノを発見してしまった。ぱっと見の感じは研究所か、工場といったところ。

 

 やけに簡単に物事が進むとは思っていた。行動を開始してすぐに飲める水の流れる川を見つけることができたし、そのすぐそばに洞窟を見つけることもできた。

 

 それでイージーモードかと思ったらこれだよ。

 

『どうしますか?』

 

 ジェイドが聞いてくるけど、どうしようか。そこらじゅうにある機械は動いてるみたいだし、ちょっと面倒な感じがする。

 でもこんな感じの施設の場合、何かしらのセキュリティがあって然るべきだと思うんだがなあ。

 

『特に何もありませんね』

 

 そうね。安全なのかな。となると少しだけ探検してみたくもなる。

 

 ちょっとだけ、奥に行ってみよっか。ね? 先っちょだけでいいから。

 

 

 

 

 

 

 正直に言おう。後悔している。

 

「待てッ!」

「いやああああ!!」

 

 何も考えず進んで迷う

 朝食セットらしきものを持った女性と出会う

 襲われる←今ここ

 

「どうやってここに侵入した!!」

「普通に入り口開いてたって!」

「そんな訳ないでしょう!!」

 

 本当だって! 誰でもウェルカム状態だったって!

 

「ISを発動してもセキュリティに接続できない……!? 貴方、何をしたの!?」

「俺は無実だ!!」

 

 てかアイエスってなにさ。無限の成層圏?

 

 女の放ってくる魔力弾を躱しながら走る。精度が恐ろしく高い。一発一発がギリギリだわ。

 

『もう迎撃した方が楽では?』

 

 ジェイドがそう言ってくる。確かにそうね。何か前にも似たようなことあった気がするけど。

 グリーヴァを構え、女と相対する。

 

「おとなしく捕まる気になった?」

「散々攻撃されたからもう正当防衛だよね!」

 

 今度はこちらからも魔力弾を放つ。

 女は特に動じることもなく全て避ける。

 

「甘い」

 

 当たるとは思ってないさ。俺の戦いは近接、短期決戦が基本。

 八門遁甲を四門まで開く。

 

「革命舞曲ボンナバン!」

 

 真っ直ぐに。離れていた距離を一気に詰め、女へと刺突をくり出す。

 

「くっ!?」

 

 これまた避けられた。でも距離は詰めた。ここからは近接戦。俺のが有利。のはず。

 

 剣と拳がぶつかり合う。力、強いな。見た目と合ってない感じがする。

 

「ふっ!」

「っ!」

 

 大きく振るわれた蹴りを左腕で受け止める。重い。腕が軋む。だが散々戦い続けてきた俺の経験値を甘く見ないでいただきたい。

 右手に持ったグリーヴァを振るい、左手に雷を纏う。

 

「千鳥!!」

 

 初撃を躱して上体がぶれた女の隙を突いた攻撃。

 

「チッ!」

 

 突き自体は当たらなかったが、迸る雷電が幾らかヒットした。女が顔を顰めた。

 後退しようとするのが見えたが、そうはさせない。

 

 踏み込み、もう一度右腕で攻撃。

 女は両腕を上げ、防御の構えをとる。

 

 しかし。

 

「!?」

 

 何の衝撃もないことに、女が目を見開く。

 右腕はフェイク。グリーヴァは持ってない。

 

 ――時雨蒼燕流 攻式 五の型

 

「 五 月 雨 ! 」

「ガッ……!」

 

 クリーンヒット。

 

「……っと」

 

 倒れていく女を支える。

 

『女性相手に一切の容赦のない攻撃。本当にありがとうございました』

「うっせえ、しゃあないだろ」

 

 さて、どうしようか。

 

「ウーノ……そろそろ何か食べないと、さすがのドクターも餓死してしまうのだが」

「ん?」

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 餓死寸前の博士に食料を分けてあげた。焼き魚。

 

「いや~助かったよ。研究に夢中になると三食抜きとかザラだからね」

 

 この博士、スカさん。自称天才科学者。通称は無限の欲望と書いてアンリミテッドデザイア。

 

「エロゲの悪役のようだ」

「性欲に限った話ではないのだよ」

 

 ということは性欲も含むってことですかそうですか。

 

 今いるのは研究室の一つ。ソファに座って博士と対面中である。

 ちなみにさっきの女(スカさん曰くウーノ)は博士の横に寝かせてある。

 

「スカさんはここで何してんのさ」

「落ち着いて好きなものを作れる場所が欲しくてね」

 

 へー。なんかちょっと怪しい気がするけどスルーします。

 

「そういう君はなんでこんなところに?」

「ちょっとサバイバルしに」

「ふむ、中々興味深いじゃないか」

 

 何故に。どこが。

 

「ウーノさん強かったね」

「この子は本来戦闘向きではないのだがね」

「まじかい」

「情報処理が専門で、私の身の回りの世話もしてもらっているのだよ」

 

 それでセキュリティに接続云々言ってたのか。美人さんに世話してもらってるとかスカさんうらやま。

 

 

 

「ぅ……ん……?」

 

 お、ウーノさんが目を覚ました。

 

「……ッ!」

「まあまあ落ち着きたまえウーノ」

 

 また襲ってきそうなウーノさんをスカさんがなだめる。

 

「しかしドクター!」

「大丈夫大丈夫。焼き魚美味しかったし、大丈夫だよ」

 

 俺が言うのもなんだけど大丈夫かそれ。

 

「セキュリティに接続もできませんし……!」

「ああ、それは私がセキュリティを全部切ったからだね」

「え」

「ちょっと改造したくなって」

「…………」

 

 場が静寂に包まれる。

 

 ……全部切る必要はなかったんじゃないかな。こう、少しずつ変えていくみたいな。

 

「一気にやった方が効率がいいだろう?」

 

 効率だけな。他大事なとこがいくないけどな。

 

「…………すまない」

「……いえ、いいです」

 

 この人、苦労人だわ。

 

 

 




終わらなかったです。

Sts本編前に関わらせるかすごい迷いました。UNOのキャラも迷いました。

あと、セキュリティに必死に呼びかけてUNOが涙目になるとか考えてましたが、キャラ崩壊は作者の本意ではないのでボツになりました。

感想批評誤字報告その他諸々お願いいたします。


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30話 びっくりどっきりとっておき

わりとはやく書けて良かったです。
サブタイは頭空っぽにして考えてしまったものです。

前話のウーノのセリフを修正しました。マシになってればいいなあ……。


 不意にスカさんが立ち上がった。

 

「せっかくの来客だ! 私の研究を見せてあげようじゃないか!」

 

 え、それ大丈夫? 俺消されたりしない? ちょっと見たいけど。

 チラリとウーノさんを見る。難しい表情。

 

「ドクター、見せるといっても、何を?」

「戦闘機人に決まってるじゃないか」

「ドクターそれは明確にアウトです」

 

 戦闘鬼神? やべえ超強そう。というか明確にアウトってスカさん何見せようとしてんのさ。

 

「説明しよう! 戦闘機人とは、調整された人体へ機械部品をインプラントした、人と機械のハイブリッドなサイボーグなのだよ!」

「何いきなり説明始めちゃってるんですか……」

 

 ウーノさんがスカさんの隣でため息混じりに言う。

 成程、鬼神じゃなくて機人か。サイボーグと聞いてみなさん何思い浮かべます? 俺はサイボーグ忍者です。

 

「機械埋め込むとか拒絶反応みたいなの無いの?」

「そこは私のクローン技術を使ってほほいのほいだね!」

「やっべぇモロ倫理違反だわ」

 

 マッドサイエンティストじゃないですかやだー。

 

 

「……思ったより反応が薄いわね」

「まあ、知り合いにもいましたし」

 

 リスティね。あれ、あいつは正確にはクローンではないんだっけ? でも妹さん達はクローンだったはず。フィリスには度々お世話になってます。

 

 俺の言葉にスカさんが反応した。

 

「なんと! それはまさかプロジェクトFではないか?」

「たぶん違うわ」

「なんと……」

「似たような技術はどこにでもあるだろ」

 

 そんながっかりした表情すんなよ。

 

「因みにプロジェクトFというのは、先程ドクターが言ったクローン技術のことね。正確には、その基盤だけれど」

「説明はありがたいけどそれ知って俺消されるとか無いよね?」

「大丈夫よ。少し調べれば出てくることだから」

 

 あらそうなの。ならちょっと安心。

 

「戦闘機人のことも、知ってるだけなら何の問題も無いわ。……ここで見たことを言ったら殺すけど」

「はっははーさっき俺に気絶させられたくせに何を言っとるのかね」

「ドクターが電源切ってただけで質量兵器は腐るほどあるのよ?」

「すいません調子乗りました絶対言いません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 スカさんがとっておきとやらを見せてくれるらしい。

 そうして連れてこられたのは、生体ポッドが並んだ空間。不気味ですわ。

 

 スカさんはその前に立ち、両腕を大きく広げた。

 

「見たまえ! コレが私の最高傑作! 戦闘機人『ナンバーズ』だ!!」

 

 おお~。

 

「あんまりよく見えないんだけど」

「そうだろうそうだろう!」

「ぱっと見何がすごいか分からないし」

「そうだろうそうだろう!」

 

 ちょっとコイツ殴りたくなってきた。

 

「抑えて下さい。テンションが上がっているだけなんです」

 

 ウーノさんになだめられる。この人はあれか、割りと簡単にハイになっちゃうタイプの人か。

 

 ……というかさ。

 

「全員女性なんだけど」

「野郎に興味はないからね」

 

 いっそ清々しいな。

 

「実はウーノも戦闘機人なのだよ」

「えマジで!?」

 

 そう考えると完成度高えな! ここまでの美人さんをスカさん一人で作ったのか。

 

「必要とあらば、君の遺伝子を使ってさらにもう一人作ることができるが?」

「やだよ遺伝子提供なんて、おっそろしい」

「可愛い女の子にして『おにいちゃん☆』とか言わせることも可能なのだよ?」

「スカさんの言い方が気色悪かったから却下で」

 

 鳥肌が立ったわ。

 そんなことより、何人いんのさ?

 

「ウーノが長女で、既に稼動してる子が後五人ほどいる。予定では合計12人姉妹だね」

「大家族かよ」

 

 男一人に女12とはマハラジャも良いとこだな。ウーノさんに世話してもらってるし、メイドロボじゃないんだぞおい。

 メイドロボと言えば月村んとこのノエルさん達がいたね。彼女達はロケットパンチができたっけ。

 

「じゃあウーノさんロケットパンチできるのか」

「貴方は何を言ってるの……?」

「ロケットパンチとな?」

 

 スカさんが食いついた。ノエル達について懇切丁寧に説明して差し上げる。勿論個人情報は控える。俺も名乗ってないしね。

 

「メイドロボとは、いやはや燃えるじゃないか!」

「むしろ萌えるよね!」

「「ハァーッハッハッハッハ!!」」

「なんでドクターのテンションについていけてるんですか……」

 

 珍獣を見るような視線を向けてくる。残念、俺は常に思考はしてもノリとテンションに身をまかせちゃう系男子なのさ!

 

「これはさっそくウーノに搭載しなければ」

「待って下さいドクターそれ冗談ですよね?」

 

 ジョーダン、ジョーダンだよぉ……。

 

「この娘達はそれぞれ、固有技能と固有装備を持っていてね。詳しい能力についてはまあ秘密なのだが、強いよ」

「この人なんで聞いてもないこと喋っちゃってんの?」

「自慢したかったんですよ……」

 

 ウーノさんがぐったりしてきた。俺もテンション高いのが長続きする訳じゃないのでぶっちゃけしんどい。

 

「この戦力ならば、管理局の崩壊も夢じゃない!!」

「テロ発言しやがったぞコイツ」

「どうかね!?」

「ここで俺に振るの? テロ発言されて俺は何を言えば良いの?」

「点数でもつけてあげれば良いんじゃないですかね」

 

 ウーノさん投げやりになってるけどコレ多分大事故よ?

 

「まあまあ、採点してくれたまへよ」

「√3点」

「切り換えの速さとまさかの無理数に流石のドクターも戦慄を禁じ得ないのだが」

 

 何点かって聞かれたらそう答えたくなるもので。あと自分で言っといてアレだけど、これ何点満点だ?

 

「ふむ、採点理由を聞いても?」

「興味なし、以上」

「即答ですか……」

 

 いや、俺管理局所属じゃないし。はやて達に関しては、まあ、何とかなるでしょう。あいつらなら何があってもダイショーブさ。既に2回程、地球救ってるし。彼女達が主人公と呼ばれる人種なのだろうさ。

 

「面白いもん見れたし、俺はそろそろ帰るよ」

「もう行くのかい? 一杯酌み交わしたいと思っていたのだが」

「残念、まだ俺未成年」

 

 もともとサバイバルをしに来たんだ。あんまり道草食ってばかりではいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古夜が研究所から出ていき、ジェイル・スカリエッティとウーノが残る。古夜の出ていった研究所の入り口を見ながら、スカリエッティが言う。

 

「なかなか面白い人間だったじゃないか」

「はあ……しかしドクター、いいのですか?」

「何がかね?」

「計画のことです。戦闘機人も見せてしまっては、支障が出てしまうのでは……?」

「問題ないだろう」

 

 ほぼ断言するスカリエッティにウーノが眉を潜めた。ウーノの疑問に答えるためか、スカリエッティは言葉を続ける。

 

「彼にとって、管理局は本当にどうでも良い存在のようだ。というより、周りのことは殆どがどうでも良いのだろうね。それに……」

「それに?」

 

 

 

「彼は狂ってる」

 

 

 

 スカリエッティの言葉に、ウーノは目を微かに見開いた。変わったところはあったが、話していておかしな点は無かった。ドクターとの会話以外ではむしろ平凡な男だと感じていたが。

 

「私とは方向性が違うから、『狂っている』という表現は正確には違うのかも知れないがね」

 

 言外に自分は狂ってるというスカリエッティ。彼には狂人としての自覚があった。倫理や道徳を簡単に捨てる狂気を理解していた。

 

「だから、計画の邪魔はしてこないと?」

「少なくとも、ここをチクったりはしないだろうね。勝手にやってくれと言うだろう」

 

 聞きはしなかったが、聞けばきっと、あの男はそう言う。スカリエッティはそう確信に近いものを感じていた。

 

「私の『欲望』も、どのように進んでいくかは分からない。どの欲が台頭してくるのだろうかねぇ。それによって計画のフィナーレも変化してくるだろう」

 

 自分のことのはずなのに、どこか他人事のようにいう。

 

「果たしてそこに、彼はどう絡んでくるのだろうか……」

 

 そして心底愉しそうに、顔を歪める。

 

「……本当に、面白い男に出会ったものだ」

 

 直後、研究所に高笑いが響いた。

 




狂人に狂ってる言われちゃった主人公。ドンマイ☆
意味深なこと言ってるけどとりあえずは頭空っぽにして読んでいただけたら幸いです。

次でsts前は終わりの予定でございます。


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31話 縁

時系列ミスったああああ!!!!
というわけで前話をほんの少し修正しました。

sts前最後のお話し。漫画版の内容です。


 HRが終わり、放課後。高町なのはは管理局の仕事の為、転送ポートへと向かう。そこには既にフェイト・テスタロッサと八神はやての姿があった。

 

「フェイトちゃん、はやてちゃん、お待たせ!」

「私達も今来たところだから、大丈夫」

「問題ないでー」

 

 3人とも、管理局の魔導師だ。ただ、同じ管理局員といっても勤め先は違うので、3人が揃っての出勤というのは、最近では珍しいこととなっている。

 今日の場合、さらに珍しいことが1つ。

 

「今日は晃一君も来るんだっけ?」

「そうなの? 珍しいね」

「レアキャラ扱いやからなぁ」

 

 古夜晃一。一応嘱託魔導師だが、たまにしか依頼は受けず、まして仕事で一緒になるというのは滅多にない。そのため、彼が仕事に参加するときは自然と話題に上がるのだった。

 

「あれ、じゃあその晃一は?」

「私服に着替えてもうアースラらしいで」

 

 フェイトの疑問にはやてが答える。どうやら、向こうにもういるらしい。

 

「じゃあ、行こっか!」

 

なのはの呼び掛けに頷く2人。

 

今日も、仕事が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『それじゃ、今日の任務の確認ね!』

 

 通信指令であるエイミィ・リミエッタからの通信。今日の任務は、2つの遺跡発掘先でロストロギアを回収、その後、本局まで護送するというシンプルなものだ。また、アースラから本局まではアースラの提督であるクロノ・ハラオウンが請け負う手筈の為、なのは達の仕事は少ない。

 現在、エイミィ達のいる次元航行艦アースラから観測指定世界に転送されたなのは達は、目的地に向かって飛行中である。晃一は何やら別件だとかでまだアースラらしい。

 

「今日は平和な任務だねぇ」

「一応、ロストロギアなんやけどな」

「皆、普段はハードだから」

 

 なのはの言葉に二人は相槌を打つ。3人とも魔導師としての戦闘力はトップクラスだ。普段の任務もそれに合わせて、中々危険度の高いものとなっている。

 

『でも、なのはちゃん達3人に、守護騎士の皆もいるわけだから、大抵の任務は平和になっちゃうと思うよ?』

『晃一という劇薬がいるがな』

 

 クロノの言葉に3人は苦笑する。

 晃一、クロノ、そして無限書庫司書長のユーノ達3人はいつも軽口を叩き合っている。なんだかんだ仲が良いというのが周りの評価だ。

 

「お父さんは頼りになるですよ!」

「わかっとるわかっとる」

 

 健気で可愛いリインの主張。何故か古夜を父親と慕うユニゾンデバイスにはやても顔を綻ばせる。

 

『ま、油断しないでね~』

『よろしく頼む』

「「「了解!!」」」

「です!」

 

 

 

 

 

 暫くの飛行の後、なのは達は現地の基地に到着した。先に派遣されていた局員が迎える。

 

「お疲れ様です!本局管理補佐官、グリフィス・ロウランです!」

「シャリオ・フィニーノ通信士です!」

 

 2人の敬礼に、3人も敬礼で答える。

 

「休憩の準備をしております。こちらへどうぞ」

「休憩なんて。こんくらいの飛行がなんでもないの、グリフィス君は知っとるやろ?」

「まあ、そうですが……」

 

 はやての言葉に苦笑するしかないグリフィス。知り合いのようなやり取りになのは達がハテナ顔になる。

 

「あ、2人は初めてやったっけ。グリフィス君て、レティ提督の息子さんなんよ」

「あー!」

「すっごい似てる!」

 

 レティ・ロウラン提督はクロノの母、リンディ元提督の友人である。

 

「じゃあ、晃一君が来るまで少しだけおはなししよっか」

「ま、直ぐに来るやろうしな」

「本当ですか!?」

 

 なのはの提案にシャリオは大喜びだ。憧れのエース達との会話、滅多に無い機会だろう。

 

「フィニーノ通信士とは初めましてだよね」

「はい! でも皆さんのことはすごーくよく知ってます!」

 

 大興奮といった様子で話す。

 

「本局次元航行部隊のエリート魔導師、フェイト・T・ハラオウン執務官! いくつもの難事件を解決に導いた本局地上部隊の切り札、八神はやて特別捜査官! 武装隊のトップ、航空戦技教導隊所属! 不屈のエース、高町なのは二等空尉! 陸海空の若きトップエース達とお会い出来るなんて光栄です!!」

「あ、あはは……」

 

 正にマシンガントーク。すさまじい勢いのシャリオに、なのは達は苦笑してしまう。

 

「勿論、リインフォースさんも優秀なデバイスだって聞いてますよ!」

「ありがとうございますです!」

 

 リインフォースと笑顔で握手。初対面でここまで話せるのはもはや才能だろう。少し暴走気味だが。見かねたグリフィスがブレーキをかける。

 

「こらシャーリー、失礼だろう」

「あ、いけないつい……」

 

 どうやら無事ブレーキが効いたようだ。

 

「シャーリーって呼んでるんだ。仲良し?」

「あっ……と、すみません。子供の頃から家が近所で……」

「幼馴染みだ!」

 

 幼馴染みという言葉になのは達が反応した。

 

「いいね! 私達も幼馴染みなんだよ」

「私の場合、一番付き合いが長いのは晃一君やな」

 

 そこでシャリオが少し前から気になっていた疑問を口にする。

 

「あの……失礼ですが、晃一さんって?」

「あれ、そっか、フィニーノ通信士は知らないんだ」

「一時期有名になってたけど、最近は何もしてへんからなぁ」

 

 古夜は、闇の書事件のあたりでは少しだけなのは達と一緒に有名になった。しかし彼は管理局に正式に入局しなかったため、フェードアウトしていったようである。

 

「魔導師ランクは……何だっけ?」

「嘱託になったときに取ったCやな。あかんコレ大丈夫やろか」

「え、ええ……」

 

 評価が高いのかいまいちよく分からない。

 

「リインのお父さんですよ!」

「「ええ!?」」

 

 お父さん!? と驚きをあらわにする二人。何回か見た反応にはやて達はくすりと笑った。

 

「ど、どういうことですか?」

「ふふ、今来るから、直接本人に聞いてみたら?」

 

 なのはがそう言った所で、通信が入った。

 

『もこたんインしたお!』

「いや誰やねん」

「もこ、たん……?」

 

 はやてから謎の声にノータイムで突っ込みが入った。手慣れた様子のやり取り。それから間をおいて現れたのは、パーカー姿で右目に翡翠のモノクルを着けた男。古夜晃一である。

 

「悪いな、少し遅くなった」

「大丈夫だよ、こちらシャリオちゃんとグリフィス君ね」

「よろしくお願いします!」

「よろしくー。古夜晃一、普通の魔法使いだぜ」

「晃一君30才やったんか」

「おいちょっと待てそれどこで知った」

 

 自己紹介のつもりが話がそれた。ちなみにはやては晃一の影響かネットサーフィンが結構好きである。

 

「お父さん!」

「おーツヴァイ。一緒の仕事はかなり久しぶりだな」

「はい! 良いところ見せるですよ!」

 

 リインが古夜の指先でじゃれる。

 

「あの、すみません。お父さんって……?」

「ん? ああ、製作者の一人ってだけさ」

 

 深い意味はない。本人は未だに何でなついてるんだろうと思っている。

 シャリオ達は納得。というか、何故その考えが出なかったのかと思ったようだ。

 

「よっしゃ! 晃一君も来たことだし、行こか!」

「よろしくね、シャーリー、グリフィス君」

 

この時古夜は、もう愛称で呼んでるとかコミュ力高えなあ、と思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、私達ももう六年目になるんやなー」

「今年で中学も卒業だしね」

 

 目的地に向かいながらも、しみじみといった様子で話す。

 

「お前ら皆、向こうに引っ越すんだろ?家はどうすんだ?」

「私は卒業の少し前にクラナガンに引っ越す予定や。今は良い家を探してるとこやな」

「私とフェイトちゃんは一緒の家に住む予定なんだ」

「最初のうちは、リンディ母さんの所でお世話になるかも」

「良い家見つかったら、皆でお互いの家に遊びに行こな!」

 

 ハードな仕事で報酬が多い上、なのは達は皆無駄遣いしないため、貯金は中々のものとなっている。まして八神家は一家全員が管理局で働いているため、一軒家の購入もそこまで苦では無いのだった。

 

「晃一君も是非来てな」

「行けたら行くわ」

「それ行かないやつやん」

 

 古夜はなのは達の家に遊びに行くということが殆どない。本人曰く『俺は引きこもりなの』とのこと。それを聞いた皆が、修行してばかりの人間が何を言ってるのかと思ったのだった。

 会話している内に、目的地までもうすぐというところまで来た。

 

「ん? ありゃあ……」

 

 古夜が異変を察知した。目的地の遺跡から黒煙が上がっている。

 

「現場確認!機械兵器らしき未確認体が多数出てます!」

「現場の人の救助には私が行くよ!」

「じゃあ私が指揮するから、フェイトちゃんと晃一君は遊撃頼むで!」

 

 古夜達に指示を出したところで、はやてがリインとユニゾンする。

 

『シュートバレット』

『プラズマランサー』

 

 古夜とフェイトによる魔法攻撃。それに対して機械兵器は魔力フィールドを形成した。

 

「あれは……AMFか」

 

 古夜が呟く。

 アンチマギリンクフィールド。魔力の結合を妨害するフィールドのことである。魔法は魔力の結合によって成り立つ。AMFはそれを妨害することで魔法を封じるのだ。

 

「発掘員は私が守るから、なのはちゃんは攻撃に回ってや!」

「了解!」

 

 はやての指示で、なのはが前線に回る。

 

「スターダスト……!」

「サンダー……!」

 

「「フォールッ!!」」

 

 なのはは石を加速して打ち出し、フェイトは雷を落とす。二人の魔法が機械兵器達を蹂躙した。

 AMFは質量を消すことは出来ない。二人はそこを突き、魔法によって発生した効果で攻撃したのだ。

 

「相変わらずのバカ魔力。羨ましいわぁ」

 

 一方古夜はアームドデバイスのグリーヴァによる物理攻撃。一体一体を順に破壊していく。

 

 敵の殲滅に、時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 ロストロギアの回収が完了した。

 

『こちらシグナム。そっちは大丈夫か?』

「ん、問題ない」

 

 目標を護りながら転送ポイントへと向かう。飛行中、シグナムから通信が入った。

 

『機械兵器の集団がそちらに向かってるようだ。これから破壊する』

「まじか。俺そっち行こうか」

『いらねえよ。なのはも晃一も黙って見とけ!』

 

 シグナムと一緒にいたヴィータから頼もしい言葉が届いた。向こうには、ザフィーラとシャマルもいる。戦力では申し分ないだろう。

 新たな敵は守護騎士達に任せ、飛行を続ける。

 

「そういえば、晃一君は広域魔法使わんかったな」

「まあ、俺の使う弾幕は消費が激しいし、AMF相手じゃ相性が悪いからな」

 

 先程なのは達が使った系統の魔法は、なのは達の魔力量があってこそのものだ。古夜が同じように使えば直ぐにガス欠してしまう。

 

「あの弾幕かぁ……初めてみたときは驚いたな」

「私が見たときはもっと凄かったよ?」

 

 スペルカードを経験したことのあるフェイトの言葉になのはが返す。なのはが見た時というのは闇の書事件の時だ。八門遁甲を使って底上げした魔力を配分を一切考えずに使用したのだから、物量は桁違いだろう。

 

「見た目のわりに威力はそこまで無いぞ?」

「質より量なんやっけ」

「もっと質に回しても良いんじゃない?」

「美しさと思念に勝る物は無し、だよ」

「晃一君が言うと違和感半端無いの……」

 

 そこからは特に何もなく、無事、転送ポイントに到着した。目標を転送し、任務完了である。

 

『任務お疲れさま! 食事の準備してるからね!』

 

 せっかく大勢集まったということで、今日は同窓会的なものがある。

 

 

 

 

 

「ただいま戻りましたー!」

 

 古夜達がアースラ内に帰還すると、リンディやエイミィが食事の用意をしていた。美味しそうな匂いがする。

 そこからは各自、自由に食事となった。

 

「すっげー量だな」

「アコース君からの差し入れだって」

 

 豪華な料理達の半分程は彼からのプレゼントである。

 

「アコース?」

「あれ、古夜君知らないんか?カリムの義理の弟や」

「そういえば、話したことがあったような無かったような……?」

「相変わらず人のこと覚えんのやなぁ」

 

 わいわいと賑やかな雰囲気の中、パーティーを楽しむ。

 

「あ!そういえばフェイトちゃん、あの子達の新しい写真持ってきてる?みんなに見せてあげようよ」

 

 ややあって、皆が食事よりも雑談がメインになってきた頃、なのはが言った。

 

「あの子達?」

「ほら、フェイトちゃんが仕事先で会った子達よ」

 

 フェイトが担当する事件では、子供が巻き込まれてしまっていることも多い。フェイトは助けた子供達から良くなつかれていた。

 

「この子は、私が保護者ってことになってるの」

「エリオ・モンディアル、か」

「元気で優しい子なんやで」

「その年で子持ちとか色々大丈夫なのか?」

「子持ちって……」

 

 

 

 

 

 

 

 時間が大分たち、盛り上がりのピークもすぎて暫くという頃。皆が片付けを始める。

 

「こーいっち君!」

「ん? どーしたはやて」

 

 古夜が周りの片付けを一通り済ませ一段落していたところ、はやてが声をかけてきた。

 

「いやいや、晃一君とゆっくりお話しできるの、もうなかなか無いかなと思ってな」

 

 今のうちにお話しとかんとな、とはやて言う。

 

「……なあなあ、なのはちゃんとフェイトちゃんのリボンあるやん?」

「ああ、あの髪結んでるやつか」

 

 なのはが黒の、フェイトが桃色のリボンである。

 

「あれな、二人がジュエルシード事件の後、お別れする時に交換したらしいんよ」

「……へー」

 

 お別れの時、その言葉を聞いて、古夜ははやてが何を話したいのか大体を察した。

 

「いいなあって思って。晃一君とは、一番付き合い長い幼馴染みやし……」

 

 そこまで聞いたところで、古夜はため息をつく。

 

「……あのなあ、交換するような物、俺は持ってねえぞ?」

 

 着けているアクセサリーはジェイドとグリーヴァだけだ。流石にそれをあげることはできない。

 

「うぅ~……でもなぁ……」

 

 はやては納得できないようだ。まったく、と珍しく古夜の方が呆れ顔になる。

 

「……そんなんしなくても大丈夫だよ。お前の新しい家にも遊びに行くし、困った事があったら手を貸すぐらいはするさ」

「……ほんまに?」

「ああ。幼馴染みだからな」

 

 笑う古夜。それを見て、少し暗い顔になっていたはやても笑顔になる。

 

「……しょうがないから、勘弁したるっ!」

「へいへい、ありがとーごぜーます」

 

 大人になるにつれ、知人とは連絡を取らなくなることが多くなってしまうのかもしれないが。

 

 こういうのも悪くはないな、と古夜は思った。

 




ここまで読んでくださったすべての読者様に最大限の感謝を。

はやてがヒロインっぽく見えてれば作者の勝ち。

総合評価が5000を突破しまして、嬉しい限りです。漲ります。
予定では次回に幕間を挟む予定です。


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Interlude~古夜晃一という男について~

はやてちゃん視点です。
時系列は高校生の劇場版的なものと思っていただければ。


 晃一君について、私はどれだけ知っているのだろう。

 

 他の人よりは知っている自信がある。何せ一番長い付き合いだ。生まれてから今まで、彼と知り合ってからの方が長い。

 

 彼には、幼い頃の記憶が無いそうだ。

 

 これはグレアムおじさんから内緒で教えてもらったことだ。私が知っているのを彼は知らない。恐らく、周りでも知っているのは私くらいではないだろうか。

 私と初めて会ったときはちょうど記憶を無くして間もない頃だったらしい。何でもない出会いだったので、正直もう殆ど覚えていないのだが。

 

 そんな彼は、普通の子供のように振る舞っている時もあれば、私たちよりずっと大人びている時もある。

 何やら秘密もあるらしいが、聞いてものらりくらりとかわされてしまう。

 

 ……もう少し、話してくれてもいいじゃないか。幼馴染みなんだし。

 

 ……とにかく、だ。

 

 彼のことを、もっと知りたい。

 

 だから私、八神はやては古夜晃一という人間について、知り合いに聞いてみることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 シグナムの場合

 

「古夜ですか?」

「せや。シグナムから見てどうなんかと思ってな」

 

 まずは一番身近なシグナムから聞いてみた。

 

「私は、模擬戦のことしか語れませんが……」

「いいからいいから」

 

 私は晃一君とは模擬戦を滅多にしないから、それはそれで貴重だ。

 

「そうですね……古夜と戦う時は、毎回が初見のようで、楽しいです」

「毎回が初見?」

「はい。戦い方が戦う度に変わるのです。当然のことですが、人は戦いなれていくと共に自分の戦い方というものを完成させていきます」

「まあ、せやな」

「ですが古夜は、戦いなれることはあっても、完成されていくという気配が無いのです。毎回新しい技を繰り出し、戦い方が変わる。もちろん、古夜は近接が中心ではありますが」

「なるほど」

 

 確かに、晃一君はいつも新しい技を使っている気がする。あまり使えそうになかったり、えげつない技だったりと様々だが。

 

「もっと言えば、戦っている最中にも変わります。戦いの中で成長しているというよりは、戦いの中で別人になっているのです」

 

 シグナムの言う別人とは、見違えるように成長しているということではないのだろう。戦い方が別人のものになる、ということか。

 

「ですから、読みづらい。だからこそ、戦っていて楽しいのです」

 

 目を爛々とさせながら語るシグナム。相変わらず、バトルジャンキーである。

 

 

 

 

 

 恭也・忍夫妻の場合

 

「晃一君?」

 

 今度は翠屋にて、なのはちゃんのお兄さん達に聞いてみた。

 晃一君は翠屋の常連だし、最近はバイトを始めたらしいので、話す機会は多いのではないだろうか。

 

「気になる彼について知りたいのね?」

「ぅえっ!?」

「こらこら忍。あまりからかいすぎるなよ」

 

 不意打ちだった。どこを打たれたかとか、忍さんの真意については、まあ、流そう。

 

「晃一といえば、修行の量がすさまじいところ、だな」

 

 恭也さんが言う。……うん、私もあの特訓には色々言いたい。ぶっとんでるのも本人は分かってるみたいなのに止めないのだ。心配するこっちの身にもなって欲しい。

 

「あの修行のお陰か、単純な身体能力なら、そのうちに俺や美由希を追い越すかもしれないところまで来てるな。……ただ」

 

 恭也さんはそこで言葉を区切る。

 

「その分、体を壊さないか心配ではある。……あいつはかなり気を使ってるようだから、大丈夫だとは思うが」

 

 恭也さんの言う通り、無茶をするわりには身体を壊さないよう自分で治療魔法をかけてるようだった。

 

 さて、忍さんの場合はどうだろう。

 

「そうねぇ……ソウルメイト、かしら」

 

 あ、忍さんもその認識なんですか。

 

「ロマンというものを良く理解してるわ。ネタを振ればネタで返してくれるのは、話していて楽しいわね」

 

 晃一君も前に同じようなことを言っていた気がする。

 

「私達の体質のことも、まったく気にしなかったしね。心置きなくすずかのボディーガードを頼めるし、助かるわ」

 

 確かに。すずかちゃんの体質について聞いたとき、私達は皆驚いた。晃一君も驚いてはいたらしいけど、驚きの度合いというか、ベクトルというかが、私達と違っていたみたいだった。

 

「こーいち?」

「あら雫、どうしたの?」

「こーいちってきこえた」

 

 話してると、いつの間にかちっちゃな子が近くに来ていた。恭也さん達の子供、雫ちゃんである。可愛い。可愛い、けど。

 

 ……まったく気配を感じなかった。何それ怖い。

 

「こーいち、いる?」

「残念、今日はいないわ」

 

 忍さんの言葉を聞いてしゅんとなる雫ちゃん。何この子、天使か。

 

「雫はほんとに晃一君になついているわね」

「俺よりもなついてそうで、少々心配だが」

 

 恭也さんが苦笑する。

 そういえば、何故か晃一君は雫ちゃんに良くなつかれている。ヴィータとも直ぐ打ち解けていたし、もしかしたら、小さい子の扱い方が巧いのかもしれない。

 

 ――別にヴィータが子供とか思っとるんやないんやで?

 

 

 

 

 

 なのは・フェイトの場合

 

 今度は私の魔導師仲間であり親友、なのフェイコンビだ。

 

「晃一君かぁ~」

 

 魔導師としての彼を知ってる二人の印象はどうなのだろう。

 

「たまに、すっごく大人っぽく見えるよね」

 

 なのはちゃんが言う。

 

「なんといいますか、お兄ちゃんと同じ雰囲気に感じる時があるといいますか」

「うん、確かに」

 

 うん、私も同感だ。なのはちゃんは特にあの事件で晃一君にお世話になったから、余計にそう思うのだろう。

 

「フェイトちゃんは?」

「私は……えと、その……」

 

 少し言いづらそうなフェイトちゃん。

 

「その……苦手ってわけじゃないけど、凄いびっくりした時があって……」

 

 これは珍しい。なのはちゃんも意外そうな顔をしている。理由が気になる。

 

「その、私が何かされたわけではないんだけどね。あの事故の時、クロノに頼まれて、晃一のところにお見舞いの品を届けに行ったことがあったんだ」

 

 あの事故とは勿論、なのはちゃんと晃一君が入院した時のことだろう。

 

「私が病室に入ったとき、晃一は寝てたんだ、ぐっすり。それでお見舞いの品を置いて、何となく、晃一の寝顔を見てたんだけど」

 

 晃一君の寝顔はレアである。お泊まり会には絶対参加しないし、入院中も人と会うときは殆ど起きてたようだった。私も彼の意識が無かったときしか見たことがない。

 

「ちょうどそこで、晃一が起きたんだ。……それで、その時の晃一が、その……寝起きが悪かったみたいで」

 

 その時のことを思い出しているのか、フェイトちゃんが腕をさする。

 

「すごい無機質な目でこっちを見て、聞いたことがないくらい低い声で、『誰?』って言われて……」

 

 思わず敬語で自己紹介をしてしまったらしい。直ぐ後に晃一君が覚醒したらしく、その後はいつも通りだったらしいが、どんだけ恐かったのだろう。

 

「でもフェイトちゃん結構晃一君と模擬戦してるよね」

「せやな」

「晃一との接近戦は参考になるから」

 

 それはそれ、これはこれらしい。

 

 

 

 

アリサ・すずか・透の場合

 

「はやてが一番知ってるんじゃないの?」

 

 アリサちゃんに言われた。一番知ってたいとは思うけど、晃一君を見てると、何か自信が無くなってくるといいますか。

 

「そういえば、学校での晃一君ってどうなのかな」

 

 それだ。さすがすずかちゃん。丁度相良君もいる。

 

「つってもなー。アリサ達が知ってる小学校の頃と殆ど変わってねーぞ?」

「基本的に自分からは話しかけず、独りでいる感じ?」

「そうそう。基本独りでいるのに、浮いてるわけじゃないんだよなあ。ありゃすげーわ」

 

 それはきっと、無愛想というわけではないからだろう。話しかけないだけで、話しかけられたら丁寧に返事をしている。悪印象を抱かせないようにしている。大人の対応というやつだ。

 

「あと、そういえば、この前告白されてたな」

「「「何それ詳しく」」」

 

 えなに晃一君が? 告白された? 女子?

 

「いやーいつも通り晃一にからみに行ったらさ、あいつが翠屋のお客さんの内の一人に告られてんの見ちゃったんだよ」

「かわいい?」

「年は?」

「学校は?」

「ちょっ、食い付きすぎ」

 

 質問攻めにした結果、告白は断ったということが分かった。『誰かと付き合う気がない』とのこと。修行優先なのかこら。

 

「ていうか、晃一ってそもそも空いた時間何してんだ?」

 

 魔法のことを知らない相良君が言う。修行か、魔法関係の仕事のはず、だけど。

 

「私生活が気になるね」

 

 激しく同意。

 

「この前はSEENAの新曲聞いてたけど、あの曲、探しても見つからないのよね」

「草薙まゆこのサイン色紙も持ってたよね」

「あの銀髪のお姉さんとの関係も気になるな」

 

 謎が謎を呼んでいる気がする。

 

 

 

 

 

 

 色んな人に聞いてみたけど、収穫があったのか無かったのかは微妙なところだった。『分からないことが分かった』的な部分も多い。

 

「なーんで教えてくれんのやー」

「まあまあいいじゃないか。謎の多い人の方が魅力的だろう?」

「かっこつけんなや」

 

 まあでも、今のこの距離も心地いいし。

 

 しばらくは、このままでもいいか。

 




ここで一旦、区切りとなります。高校編はカットの予定。
正直ここまで続くとは思ってませんでした。皆様の感想や評価のおかげです。本当にありがとうございます。
これからもエタらないよう頑張ります。


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Act.6 『life』
32話 頼み事


素人でも! 二番煎じでも! 厨二くさくても!

かっこいいオリ主を書けるって、証明したい!!


 

 声が聞こえる。

 

――ああ…………また、これか。

 

 目の前に映る映像はモヤがかかっていて、声もうまく聞きとれない。

 

 何度も見てきた夢。

 

――いや、違う…………?

 

 気づいた。()()()()()()()()

 

 なら、これは……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピピピピ、ピピピピ。

 

 電子音が鳴っている。

 

「ぅ、ん……?」

 

 やかましく鳴るそれによって、俺は目を覚ました。ゆっくりと身体を起こし、背伸びをする。

 その間も電子音は鳴り続ける。

 

「なんだ……?」

 

 目覚ましは特に設定してなかったと思うが。

 

『マスター、通信です』

「ん?ぁあ、通信か」

 

 なんだこんな朝早くに、などと思いながらもジェイドの通信画面を開く。

 

『おはようさん、晃一君』

「あぁ……はやてか」

 

 画面に映ったのはもはや見飽きた幼馴染み。割と早く身長が伸びなくなった八神はやてである。

 

『なんやそのやる気の無い反応。というか、寝起き?寝癖ひどいで?』

「まだ早いんだから寝起きに決まって……」

 

 そう言いつつも時計を見ると、短針は9と10の間。窓から外を見れば、太陽はもう大分高くなっていた。

 

「……寝坊したわ」

『ホンマ?珍しいなぁ』

 

 起こせよジェイド。

 

『たまにはゆっくりした方が良いと思ったので』

「……はぁ……」

 

 ため息。

 

『授業は大丈夫なん?』

「入ってないから大丈夫のはず……ってか、お前は知ってんだろ」

 

 でなきゃ通信してこないだろうに。

 

「で、何の用だ?」

 

 早速本題へ。いつものように雑談をするつもりなら、夜、仕事終わってから通信してくるはず。

 

『ちょっと晃一君に、お仕事をお願いしたくてな』

 

 はやての言葉を聞いた俺は、軽く頭を振り、意識を覚醒させる。お仕事ということで、ほんの少しだけ頭を真面目に切り替えるのだ。

 

『私、今度部隊を持つことになったんよ』

 

 嬉しそうに、そしてどこか誇らしげにはやてが言う。そういや、少し前から自分の部隊を持ちたいって言ってたな。

 

「なるほどねぇ。子狸も偉くなったもんだ」

『子狸言うなや』

 

 命名したゲンヤさんはいいセンスだと思う。

 それにしても、部隊か。偉くなきゃ持てないだろうけど、どんくらい凄いかは正直よくわからんな。

 

『そんでな、晃一君にちょっと、その部隊に入ってもらいたいんよ』

「却下」

『はや!?もうちょい聞いてくれてもええやん!』

 

 わたわたと慌てるはやて。

 

「管理局に入るつもりは無いって言ってんだろうが」

 

 以前からはやてや高町、クロノやリンディさんなどから誘われてはいるが、全て断っている。頑固な高町なんかは結構しつこくて断るのが大変だ。

 

『別に入局してもらうわけやないから!』

「ならそう早く言いなさいよ」

『なんやろこの理不尽……』

 

 んじゃ、部隊に入ってもらうってはどういう意味なんだ?

 

『ほら晃一君て嘱託やろ?だから私の部隊で晃一君を雇いたいって話や』

「あーなるほど」

 

 早い話、専属になって欲しいってことね。

 

「どんな部隊なのさ?」

 

 部隊にも色々あったはず。高町が確か教導隊だっけ。テスタロッサは執務官だからよくわからん。

 

『名前は古代遺物管理部機動六課。レリック事件の解決がメインの対ロストロギア部隊や』

 

 はやての説明によると、高エネルギー結晶のロストロギア『レリック』を狙う輩がいるらしく、レリックの回収と狙ってる連中の逮捕がメインミッションとのこと。その他、ロストロギア事件を専門にして、部隊としての機動力を上げる目的で設立されたのが『機動六課』らしい。

 

『晃一君にお願いしたいのは部隊の予備戦力になってもらうことと、あとはデバイス関係やな』

「デバイス?」

 

 予備戦力の方は分かるが、デバイスってのは?

 

『新人達の内、特に二人のデバイス製作に協力して欲しいんよ』

「マリエルさんあたりに頼めばいいんじゃ?」

『勿論頼んどるけど、人手は多いに越したことはないし。それに晃一君のアイデアも欲しいねん』

 

 正確には俺のアイデアではないんだけどね。ソースは二次元である。

 

 デバイスに関しては受けるにしろ受けないにしろもう少し知りたい。そう思い、はやてから新人二人の情報を貰う。

 

 スバル・ナカジマにティアナ・ランスターか。

 

「スバル・ナカジマってもしかしてゲンヤさんの娘か?」

『そうそう。ギンガの妹さんやね』

 

 陸上警備隊第386部隊か、こことは仕事したことなかったから知らなかった。ゲンヤさんのいる第108部隊とは何回かあったんだけどな。

 

 ……んでもって。

 

「ティーダさんの妹、か」

『そういえば、晃一君は何回か仕事一緒になってたんやっけ』

「……まあな」

 

 あの人、狙撃に関してはやばかったから、色々教えて貰ったりもした。面倒見の良いシスコンだった。全てが過去形。

 

 ……ティーダさんは数年前、殉職した。職業上、仕方ないことと言えばそうなのかもしれないが。

 

「……16才、何歳差だよ。そりゃ見せねえわけだ」

 

 話を仕事の方へ戻す。

 

『で、どうや?受けてくれへん?』

「んー………………」

 

 悩む。いや別に良いんだけど。なんかこう、もやっとするというか、わだかまりというか。迷う。何だろうな。やはり寝起きだからだろうか。

 

「ちょい保留で。今晩までには結論だすよ。間に合うだろ?」

『うん、分かった。それでええよ。考えてくれておおきにな』

 

 寝惚けた頭で考えるのもどうかということで、返事を待って貰うことにした。

 

『あ、そうそう』

「なんだ?」

 

 通信を切ろうとしたところで、はやてに止められる。

 

『六課の設備なんやけどな、結構新しいのが揃えられそうなんよ』

「へー」

 

 何が言いたいのだろうか。

 

『トレーニング設備は最新のVR式で、新人達の訓練時以外は自由に使えそうなんやけど』

「その仕事乗ったわ」

 

 さっすがはやてよくわかってらっしゃる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕事を受けることになっても学校には行く。基本は土日の通勤ということになった。通勤とか働いてるみたいね。今更な感じだけど。

 支度をして、海鳴大学へと向かう。授業は午後からなので、昼食を学食で済ませるつもりだ。

 俺は海鳴大学に進学した。俺以外にも月村とバニングス、あとは何故か相良もだ。縁とは切れないものである。

 ちなみに学部は俺と月村、バニングスと相良が同じ。

 

「あ、晃一君。こっち席空いてるよ」

 

 キャンパス内の食堂にて席を探してると、月村達がいた。月村が手招きをしている。

 

「いや、どうぞごゆっくり」

「何断ってんのよ」

 

 いやだって、めっちゃ視線集めてるし。相良に集まってるヘイトがこっちに来そうだし。

 

「独りにしないでくれ!」

「いいじゃないっすか相良さん。両手に花ですよ」

「敬語ヤメテ!」

 

 なんやかんやあって、昼食を一緒に取る流れに。

 山菜うどんをすすりながら、雑談する。

 

「二人組になってから大分話しかけられるようになったんじゃないか?」

「そうね、高校のあたりから増えてたんだけど、ここ最近は多すぎて疲れるわ」

 

 面倒そうにバニングスが言う。月村も困ったように笑っている。本当にめんどくさいらしい。

 

「晃一はよくこの視線の中で平然とできるな」

「まわりの奴らは背景だと思えばいいのさ」

「それ、結構ひどいこと言ってるんじゃ……」

 

 そうかね? 基本無関心だから慣れたもんだけど。

 

「ねえ晃一君。雫が遊びたいってせがんでるんだけど」

「またか? 翠屋でしょっちゅう会うだろうに」

「ほんと、雫ちゃんはあんたになついてるわよね」

「遊ぼうって言って真剣持ってきたときはどうしようかと思ったわ」

 

 あと恭也さんがどんな教育してんのかも。

 

「週末、私の家に来れる?」

「あ、悪いあっちのバイト入ったわ。しばらくは無理だな」

「あっちって、魔法関係か?」

 

 相良の言葉に頷く。

 

 いつの間にか、相良は魔法について知ってた。付き合いも長いし、言いふらすような奴じゃないってことで、高町達から教えてもらったらしい。数年間はぶられてた疑惑が発生して大分ショックを受けてた。

 

「しばらくって、珍しくない?」

「まあな。だから翠屋のバイトも休みがちになるかもな」

「雫ちゃんが怒るわよ~?」

 

 バニングスがニヤニヤ笑いながら言う。止めてほしいわ。雫の機嫌が悪くなると恭也さんが殺気を帯び始めるんだから。

 

「相良が相手してくれるさ」

「真顔で『違う』って拒否られる俺の気持ちを少しは考えて」

 

 相良は雫に嫌われてるらしい。

 

 雫のことはともかく、忍さん達に連絡いれなきゃな。

 

 

 

 

 

 

 

 少し時間を戻して。

 

「…………ふう」

 

 古夜との通信が終わり、はやては一息ついていた。

 

「晃一君の協力が得られて良かったわ」

 

 機動六課には守護騎士達やなのはにフェイトにも協力して貰う予定だ。戦力としては申し分ない。

 しかし、部隊には能力制限がある。そのため、彼女達には出力リミッターをして貰う必要があるのだ。

 その点、古夜は嘱託な上、登録してある魔導師ランクがCのため、引っ掛かる心配がない。

 遊撃戦力として、頼りの存在となってくれるだろう。

 

「物で釣るみたいになってもうたな」

 

 苦笑しながら一人で呟く。

 

 

 

 事態は、動き出していた。




Sts編、スタートです。

お手柔らかにお願いします。


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33話 クリエイター

スカさんの髪を切るウーノに萌えた作者が33話をお送りします。




 週末。古夜はミッドチルダに来ていた。機動六課の新人二人のデバイス製作に協力するためである。

 

「ここが機動六課か」

 

 機動六課の施設を見上げ、古夜が呟く。

 

 新しくできた部隊なだけあって、隊舎も新しく、大きい。ここのトップが知り合いとは、中々感慨深いものがある。

 

「あ、そういえばレジアスさんは地上本部のトップだったっけ」

 

 もっとすごい首領が知り合いにいた件について。

 

 隊舎に入り、受付で手続きを済ませる。私服姿を見られて一瞬部外者かと思われたが、正式なパスを持ってるので問題はなし。

 

 目的地に向かう。

 

「あ、晃一さん!お久し振りです!」

 

 はやてから渡されたマップを見ながら歩いていると、どこかで見たような女の子と遭遇した。

 

「……誰だっけ?」

「シャリオ・フィニーノですよ!?」

 

 一緒にお仕事したじゃないですかと言うシャーリー。確かに一緒に仕事をしたことはあるのだが、一回きりだったのですっかり古夜は忘れていたのだった。

 

「デバイスルームまで案内しますね!」

「おお、さんきゅー」

 

 方向音痴ではないが、案内があるのは助かる。そう思い、素直に厚意を受けとる古夜。

 

 デバイス製作が目的で来ていたので、自然と話題はデバイス関係に。

 

「製作の進行自体は順調なんだろ?」

「はい。ただ……」

 

 ナカジマの方は固有魔法『ウイングロード』をデバイスに対応させるのが、ランスターの方は射撃型ということで軌道、照準修正の細かい調整が大変で、人手が欲しいかったらしい。

 

「ウイングロード、先天系ねぇ……」

 

 簡単に言うと彼女オリジナルの魔法。故に、今まではデバイスに頼ることなく使ってきたそうだ。

 空中に道を作り出す。空を飛べない陸戦魔導師には有難い魔法だ。

 

「使い方は、晃一さんの戦い方と似ていますね」

「正確には違うんだがな」

 

 古夜がプロテクションを足場として展開するのはあくまで一瞬。跳び回るのが目的。対してウイングロードは道を作る。つまり走り回るのが目的なのだ。

 

 ただ、空中に足場をつくるという点では同じ。古夜が力を貸せる部分も多いだろう。

 

「訓練施設はどうなってるんだ?」

「今は新人達が使ってますね。見に行きます?」

「いや、いい」

 

 空いてたら使いたかったと思ってただけである。

 

 

 

 

 

 

 

「晃一君、久しぶりね!」

「どうもマリエルさん、ご無沙汰してます」

 

 デバイスルームに到着。入ると、マリエルさんが作業していた。

 早速作業に取りかかる。俺、マリエルさん、あとはフィニーノもだ。

 

「2丁拳銃と、ローラースケートですか」

 

 2丁拳銃はともかく、ローラースケートて。

 

「スバルさんにはリボルバーナックルもあるからね。走るためのデバイスだよ」

「なるほど」

 

 それならウイングロードとの調整も比較的簡単になりそうだな。時間はかかりそうだが。

 

 リボルバーナックルはその名の通り、カードリッジシステム搭載の近代ベルカ式拳装着型アームドデバイスだ。

 

「ナカジマ姉の方が左手、ナカジマ妹の方が右手か」

 

 そういえばギンガは左手にしか装備してなかったな。

 拳は左右揃ってこそだから勿体無いとは思うが、あれ母親の形見らしいしなぁ。

 

 姉妹で戦ったらそれはもう完璧なコンビネーションなんだろうね。写輪眼的に考えて。

 

「リボルバーナックルは今も使ってるので、スバルちゃんが訓練してないときに進めているんです」

「じゃあナカジマ妹の方は後にしてランスター妹の方先にいきますか」

 

 魔導師ランクB昇格試験の時の映像を見たけど、アンカーを飛ばしてたり、幻術魔法使ってたり、面白い戦い方だ。

 

「とりま立体機動だよね!」

 

 試験のときに足をぐねってたけど、アンカーをもっと使えるようになればあの状態でも結構動けたと思うんだよね。

 

「あの、なのはさ……高町教導官からのお願いなんですが」

「ん、なにー?」

「近接フォームも頼まれてるんです」

 

 にゃるほど。確かに、クロスレンジで戦えるようにはしておきたいよね。流石教導官。

 

「となると、小回りの効くダガー系かな」

「はい、マリエルさんが作業を行ってます」

 

 じゃあそっちは任せますか。

 

「フィニーノは幻術魔法の演算補助の方頼める?」

「はい!おまかせください!」

 

 じゃあ俺は立体機動の方いきます!

 

「あ、待機状態の形態が未定なんですけど、何かありますか?」

「カードで」

「ネックレスで」

 

 即答。先が俺、後がマリエルさん。

 

「カードの方オサレじゃん」

「なのはさんと同じ方がロマンがない?スバルさんは憧れてるんだし」

「じゃあランスターがカード、ナカジマがネックレスで」

「はい決定ね」

「……はや……」

 

 はよ完成させないと。新人達の訓練が始まってるんだから。せめて初出動までには完成させたいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぶっ通しで作業して、気がついたら昼に。デバイスルームで昼食を食べながら作業を続けようと思ってた時、通信が入った。

 

 あれ、珍しい。

 

「どうも。お久し振りですね、オーリスさん」

『ええ、久しぶり』

 

 オーリス・ゲイズ。レジアスさんの娘さん。娘さんって言っても年上だけどね。

 

『父から、あなたがこっちに来てると聞いたの。久しぶりにご飯でもどう?』

「ちょうどいいですね。今昼食を取ろうと思ってたところです」

 

 実は今まで何回かレジアスさんに奢ってもらったことがあったりする。地上の首領なだけあって、おいしいお店知ってたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼食場所はクラナガンのちょっとオシャレなフレンチ風レストラン。別世界だからフレンチも何もないけど。

 

「ごめんなさい、遅れてしまって」

「いえいえお気になさらず」

「急用で……父も来れなくなってしまったの」

 

 あらら。まあ陸のトップだし、あってしかるべきだよね。

 

「そっち優先でも良かったのに」

「誘ったのはこっちなんだから、そんな無責任なことはしないわ」

 

 相変わらず真面目な人である。というか二人きりですかあらやだ緊張するわ。いやほんとマジで。

 

「そういえばあなた、新設の六課に出向してるんですって?」

「出向って。俺はあくまでバイトですよ」

 

 きりりとした目でこちらを見据えてくるオーリスさん。

 

「貴方から見て、六課はどうかしら?」

 

 質問。さっきまでとは雰囲気が少し違う。

 

「どう、とは?」

「主観の印象でも良いのよ。教えてくれないかしら」

 

 食事をする手が止まり、視線が合う。

 

「そんな見てませんし、知りませんよ」

「……本当に?」

 

 オーリスさんからの再度の問い掛け。

 

 そして暫しの沈黙。

 

「……勘弁してくださいよ。本当に何も知りませんし興味も有りません。俺は腹芸は苦手なんです」

「…………そう」

 

 オーリスさんが食事を再開した。

 

 取りあえずは信じてもらえたみたいだ。良かった。本当に何も知らないけど、適当なことを言ってボロが出たらはやてに申し訳ないからな。知らぬ存ぜぬが一番だろう。

 

「ごめんなさいね。職業上のクセみたいなものよ」

「今日の昼食も、これが目的ですね?」

 

 恨みを込めた視線を送る。ホイホイ着いていった俺も悪いけどさ。

 

「それも含めてごめんなさい。お詫びに奢るわ」

「……女性に奢ってもらいたくはないので割り勘で」

 

 男のプライドは別物なのよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勤務時間も過ぎ、夜が更けた頃。

 八神はやては、六課開設に関わる雑事をやっと終わらせ、ゆっくりとしていた。補佐のグリフィスは先に帰らせた。他のみんなはとっくに帰り、リインも彼女専用のドールハウスでぐっすり寝ている。

 

「ん~……すっかり遅くなってもうたな」

 

 背伸びをして、帰り支度をする。リインを起こさないよう、そっとドールハウスを持ち、部隊長室を出た。

 

「あれ……」

 

 エントランスに向かう途中、まだ明かりが点いている部屋があった。デバイスルームである。

 

「そういえば今日は」

 

 古夜が手伝いに来てくれる日だった。顔を見せに来て欲しかったのに、忙しすぎて忘れてしまっていたのだった。

 

 ルームに入ると案の定、古夜が独りで作業していた。

 

「こーいっち君!」

「おー」

 

 後ろから飛び付くはやて。

 驚かせようとしたつもりだったが、古夜はまったく動じなかった。

 

「まだ作業しとったん……あー! 酒飲んどる!」

 

 古夜が片手に持っていたコップ。そこから仄かにアルコールの香りがしたのだ。

 

「未成年が飲んだらあかんやろ!」

「こっちじゃ合法だぜ?」

 

 涼しい顔で答える古夜。

 

「今の作業も仕事関係ないし、勤務時間外だ。多目に見てくれよ」

「まったくもう……」

 

 ここら辺は言っても聞かないことは分かってるので、はやては仕方なく流すことにした。

 

「何しとるん?」

「ランスターのアンカー系魔法、俺のにも組み込めないかと思ってな」

 

 マリエルさんから少しだけなら私用で使っても良いと嬉しい許可を頂いたので、ジェイドとグリーヴァをカスタマイズしていたのだ。

 

「立体機動の練習しなきゃな」

「まった修行か」

 

 ジト目で古夜を睨む。

 

「このかわいい幼馴染みが頼んでも渋るのに、修行が絡めば即了承してな」

 

 美少女5人組と言われていたのは知っている。他のみんなと比べてどうかは自信がないが、それでもそれなりにルックスには自信がある。

 

「幼馴染みがかわいいと距離を取りたくなる男子もいるだろう」

「またそういうこと言って」

 

 古夜の背中に問い掛ける。

 

「なんでそんな修行ばっかやねん」

 

 今まで何度も聞いてきた。真面目に答えてくれたことはなかったけれど。

 

「レベルは100にしないと」

「ゲーム脳か」

「そりゃ意味違うだろ?」

 

 いつも通り、適当にはぐらかされる。

 

「……言うならば、フィクション脳だろうかね」

「え?」

 

 古夜が呟いた言葉を、はやては聞き取ることが出来なかった。

 

「いや、なんでもない。少し酔ったみたいだ」

「なんて!? すごい気になる!」

「ハイハイ騒がないツヴァイ起きちゃうよー?」

 

 作業を止め、帰り支度をする古夜に付き纏うが、結局教えてはくれなかった。

 




設定に穴がでないように気を配ってはいますが、ここおかしいだろってところがあればお教えください。

感想評価誤字報告よろしくお願いいたします。


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34話 海鳴市

 

 ティアナ・ランスターとスバル・ナカジマのデバイスが完成した。ミッドチルダ式デバイス、クロスミラージュと近代ベルカ式デバイス、マッハキャリバーだ。

 週末しかいないので俺がいる間に完成させるのは時間的に厳しく、徹夜だった。辛い。でも俺頑張ったよ。

 

「疲れた」

 

 辛いね。何が辛いかって、こっから大学行かなきゃいけないってのがね。さぼりたくなってきた。

 

『さぼるのはいけないと思います』

「分かっとるわ」

 

 金出してもらってるんだからな。グレアムさんに顔向けできなくなっちゃう。

 

 疲れて寝てしまったマリエルさんとフィニーノに毛布をかけ、デバイスルームを出る。二人とも完成したとたん崩れ落ちていた。

 

 若干寝惚けながら歩いていると、高町とテスタロッサの二人と遭遇した。

 

「あ、晃一君、おはよう!」

「おはよう、晃一」

「オハヨウゴザイマス」

 

 おやすみなさいと言いたかった。

 

「デバイス完成したぞ」

「本当!?ありがとう!」

 

 俺の報告に高町が顔を綻ばせる。ランスター妹とナカジマ妹は高町の部下だったっけ。テスタロッサの方にも部下はいるんだったか。

 

 そういえばまだ大分早い時間だが、この二人はどうしたのだろう。

 

「私達は、訓練場に」

「これから新人達の朝練を見に行くんだ」

「ああ、成程」

「どうする?晃一も参加する?」

 

 朝練か。精神力ばっか使ってたから、体を動かしたいところではあるんだがな。

 

「俺はこれから大学だ」

「そっかあ。大学生なんだもんね」

「大学なめんなよ中卒共」

「「辛辣!?」」

 

 眠いので多少口が悪くなっております。

 

 

 

 

 

 

 

 眠気に負けそうになること数回。やっと授業が終了。寝てないし。ちょっと意識が飛んだだけだし。

 

「お疲れさま、晃一君」

「あいお疲れ」

 

 月村とは一緒の授業が多い。学部が同じだし、忍さんにお守りを頼まれてたりするからだ。同じような理由でバニングスと相良も一緒の授業が多い。

 

「この後はどうするの?」

「山に行くか、翠屋に寄って休んでから山に行くか」

「結局山には行くんだ……」

 

 疲れてるけど精神的なものだし、体を動かさなきゃ気がすまなくなってきたもので。

 

「アリサちゃんたちもきっと向かってるし、雫が会いたがってるよ」

「そうかね」

「そうだよ」

 

 じゃあ、行きますか。ゆっくりしたいってのはあるしね。

 

「レポート提出してくるから先行ってて」

「じゃあ、出口で待ってるね」

「そう? 悪いね」

 

 まあ提出してくるだけだし、そこまで時間はかからないだろう。

 一旦月村と別れ、レポートを提出しにいく。

 

「お、古夜じゃん」

 

 今日は何頼もうか。ブルマン入ってたら良いな。

 

「古夜~」

 

 でもよくよく考えてみたらバイト休んでるのに客としていくって気まずくね?

 

「古夜!」

「ん、ああ俺か」

「いやどう考えても古夜はお前だろ……」

 

 話しかけてきたのは茶髪の男。確か、学部が同じだった気がする。何の用だろう。

 

「月村達の事紹介してよー」

「無理」

 

 即答。そういうの俺ができるわけないだろうに。ちょくちょくこういう輩がいるから困る。

 

「えー独占すんなよ。ずるいぞ」

 

 独占て。それ言うなら俺より相良の方だと思うが。あいつの方が一緒にいるわけだし。

 

「連絡先教えてくれるだけでいいから!」

「個人情報保護だ」

 

 適当にあしらう。というか、こいつの名前なんだっけ? まあ、どうでもいいか。

 

 

 

 さっさと提出を済ませ、月村のところへ。

 そこでは、月村がナンパされていた。取りあえずちょっと観察しようか。

 

「あ、晃一君」

 

! すぐ気づかれた。

 

 月村の一言で俺の存在が明らかに。男達はすぐに立ち去っていった。

 

「またナンパかい」

「ナンパって、そんなのじゃないけど」

 

 困ったように笑う月村。

 

「アリサちゃんも言ってたけど、下心が丸見えすぎて」

 

 相手にするのが少し大変らしい。

 この年で月村みたいな美少女に話しかけるって、普通下心があるもんだと思うけど。丸見え過ぎるのがいけないのかね。

 

「それだと、よく相良と仲良くできたよな」

 

 下心の塊だと思うが。

 

「相良くんは、なんか、純粋な感じがしたし。それに……」

「それに?」

「なんというか、なのはちゃんと、雰囲気が似てたから」

「……ああ」

 

 確かに。相良の方がバカっぽい感じがするけど、どこまでも真っ直ぐなところとかな。主人公気質と言いますか。本質が似てるんだろう。

 

「ま、高町も馬鹿なところはあると思うけど」

「今日、刺々しいね……」

 

 寝不足なので、いつもよ(ry

 

「まあそれはそれとして。さっき思ったけど翠屋に顔だすのちょっと気まずい気が」

「いいからいいから」

 

 月村に引きずられていく。

 痛い痛い手首がメリメリいってるって!

 

「目赤くなってる!?」

「カラコンカラコン」

 

 貴女も大分強かになりましたね。

 

 

 

 

 

 

 

 翠屋に到着した。

 

「ん、来たわね」

 

 もはやほぼ定位置と化した隅っこの席。そこにバニングスと相良が座っていた。

 

「こーいち!」

「おお雫久しぶり?」

 

 雫がお出迎えしてくれた。忍さんも恭也さんも翠屋で働いているので、自然と雫もここにいることが多い。

 ちなみに疑問系になってしまったのは、そこまで久しぶりでもない気がしたから。

 

「いらっしゃい晃一君。バイト休んで顔だすとはいい度胸ね」

「こんにちは忍さん。だから寄るつもりはなかったんですけどね」

 

 忍さんと軽口を交わしながら月村共々席につく。

 

「注文は?」

「いつもので」

「エスプレッソね」

 

 注文を済ませる。流石はチーフウェイトレス、仕事が早いね。

 

「いつもエスプレッソだっけ?」

「いや適当言った」

「またあんたは……」

 

 ここらへんのアドリブが効くのも流石である。

 

「こーいち遊ぼう!」

「少しゆっくりさせてくれないかね」

「だいじょうぶ、おままごと」

「……俺は何役?」

「こーいちがお父さん、トオルが家畜」

「おい晃一雫ちゃんにどんな教育してんの」

 

 俺に聞くなや。小太刀二刀流使いこなすスーパー六才児だぞ。恭也さん曰く剣の才能ぱないらしいし、忍さん曰く夜の一族としての力も申し分ないらしいし。

 

「むー……じゃあいっしょに山に行く!」

「勘弁してくれ……」

 

 万が一にでも怪我させたら殺されるわ。それに寝不足のこの状態じゃ面倒見きれない。

 

「こーら雫。あんまり迷惑かけちゃダメよ?」

 

 コーヒーを運んできた忍さんが雫をたしなめる。

 

「はいコーヒー。雫も一緒にジュース飲んでなさい」

「……はーい」

 

やはり母親には逆らえないのか、雫のわがままはそこで終わった。オレンジジュースを手に、月村とバニングスの間に座る。

 

「そうそう、なのは達の方はどうだった?」

 

 バニングスが尋ねてきた。

 

「ほとんど話してないんだがな」

 

 変わったところはなかったと思う。相変わらずの仕事中毒っぷりだった。

 

「あんたは簡単に行き来できていいわね」

「めんどくさいから頻繁に行き来はしないよ」

 

 それでもバニングス達より多いか。俺は独りでうろついてるけど、バニングス達の場合は高町達と予定を合わせたりしないといけないからな。

 

「最近は家の方も忙しくなってきたからね」

「そうなのよ」

 

 もうすぐ成人だからね。バニングスと月村は家の事に関わることが増えている。食事会に顔を出したりだ。

 

「晃一君、またボディーガード頼める?」

「予定が合えば」

「信頼できる護衛がいるのは羨ましいわね。あたしにも頼めないかしら?」

「予定が合えばな」

 

 お金たくさんもらえるから他の予定よりある程度は優先しますぜ?

 

「くっそ、俺もボディーガードできるようになりてえな」

 

 話に入れなかった相良がこぼす。

 

「その心は?」

「はぶられてるみたいで悲しい」

 

 ド正直か。

 

「護衛したいなら高町道場に通うことをお勧めするぜ。女の子の頼れるナイトになれること間違いなし」

「ちょっと恭也さんとこ行ってくる」

 

 相良、ログアウト。

 言っといてあれだけど、教えてもらえるかな。暫くは雫の練習相手とかになりそう。

 

 六才児にボコボコにされる大学生か。合掌。

 

 

 

 

 

 

 

 夜、はやてから通信が来た。いつもの雑談である。何でも今日、高町達フォワード陣の初出動だったらしい。

 

「無事任務は完了か」

『うん、レリック無事回収。スバルもティアナもデバイスに大満足やったで』

「そりゃ重畳」

 

 徹夜した甲斐があったというものだ。

 

「デバイスメンテの方はフィニーノが殆どやってくれるだろ」

『せやな。となると来週は多少時間に余裕が生まれるはずや』

「お待ちかねの訓練場だな」

 

 使いまくるぞー!

 

『結局修行かい。……仕事ちょっと手伝ってくれへん?』

「やーだね」

『むう……』

 

 めんどくさいだけなのはごめんです。

 

「愚痴ならいくらでも聞いてやるさ」

『それは頼りにさせてもらうわ』

 

 やはり部隊長というだけあって面倒事も多いのだろう。俺の言葉に即答するはやての顔には若干疲労の色が見える。

 

「無理無茶無謀をするなとは言わないが、体壊すなよ?」

『……まさか晃一君に心配されるとはな』

 

 苦笑するはやて。失敬な。

 




海鳴側のことも書きたかった。あと雫の性格がまったく分からない。

感想募集中です。


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35話 ファースト・コンタクト

また書き方を少し変えてみました。

修正しました。


 よし、今週もお仕事といきますか。

 

『先週行ってませんよね』

「何のことやら」

 

 先週はリスティの方を手伝ってたからね。あくまで非常勤の嘱託だから、行ける時に行けばいいのさ。

 今週こそ訓練施設を使いたい。早くVR訓練を体験したい。そしてあわよくばSAOやりたい。

 

 いつも通り、月村家の所有地にある転送ポートへと向かう。慣れたもので、最早顔パスである。元々猫ちゃんくらいしかいないけど。

 

 光に包まれ、いざ転送。もう目はやられない。そう、ジェイドがいればね!

 

『私モノクルですけど』

「プラシーボプラシーボ」

 

 スパシーバスパシーバ。イミワカンナイ?俺も分かんない。

 

「……っと、お?」

「あれ?」

 

 ミッドチルダに着いたと思ったら、目の前にはやてがいた。後ろには守護騎士達の姿も見える。皆同じく管理局の制服姿だ。

 

「晃一君、ちょうどよかった!」

「え、なに」

 

 鉢合わせたことに一瞬はやてが驚くが、あくまで一瞬。直ぐに笑顔になり、俺の手を取る。

 そして特に説明もないまま手を引かれ、再び転送ポートの中心へ。光に包まれさあ転送。

 

 ちょっと、俺来たばっかなんだけど?

 

 

○○○○○

 

 

 どういうことか説明キボンヌ。

 

「いやー海鳴市にロストロギアの反応があったみたいでな。レリックの可能性があるから機動六課に出動要請が来たんよ」

 

「 ま た 海 鳴 か 」

 

 ジュエルシードもロストロギアだったんだろ? フィクションじゃあるまいし。まじでなんなの海鳴市。

 

「せっかくこっちに来たことやし、機動六課のみんなに海鳴のみんなのこと紹介しようってことや」

 

 成程。そういえば俺もフォワード陣と会ったこと無いな。高町率いるスターズ隊の二人は顔だけ知ってるけど、テスタロッサ率いるライトニング隊の方は一切知らない。

 

「ザッフィーとツヴァイが見当たらないが」

「ザフィーラは六課の護りをお願いして、リインはなのはちゃん達の方についてるんです」

 

 俺の疑問にシャマルが答える。じゃあ俺は六課にいた方がいいんじゃ?

 

「晃一君は非常勤やし、私達がいないと訓練施設使わしてあげれんよ?」

「じゃあ俺帰るわー」

「ちょい待てや」

 

 なにさ。要は今日オフってことだろ?

 

「紹介っ、するって、言った、やん!」

 

 痛い痛い脛を蹴らないで地味にくるから。脚が自由に動くのが嬉しいからってその使い方は止めてください。

 

「紹介するのは月村達で十分だろ」

「スバル達のデバイス作ってくれたやん」

 

 まあ、そうだけど。正直、めんどくさいです。

 

「いいから行くぞ。久しぶりに剣を交えようじゃないか」

「ちょいシグナムさんお仕事は?」

「調査の合間は暇になるで」

「さすが主」

 

 ちょっと。

 

 シグナムに首根っこを掴まれ、ずるずると引きずられていく。否、ドナドナされていく。

 

 ヴィータちゃんへるぷ。

 

「諦めろ」

 

 んな殺生な。

 

 と、そこへ。

 

「はやてちゃん!」

「すずかちゃん!」

 

 月村がやって来た。あれ、何でここに?月村家の所有地だからいてもおかしくはないけど。

 

「久しぶりだね〜」

「ほんまに」

 

 俺の疑問を他所に、笑顔で抱き合う二人。

 俺と違って月村達は魔法関係者ではないから気軽にミッドチルダに行くことはできない。これは嬉しい再会だろう。

 

「なんや悪いな。わざわざ迎えに来てもらって」

「ううん、気にしないで」

 

 ん? 迎えに来てもらった?

 

「月村ははやて達が来るの知ってたのか?」

「うん、連絡もらったよ」

 

 俺の質問にあっさり答える。あの月村さんシグナムにドナドナされてるこの状況に突っ込みはないですかそうですか。

 まあいい、それよりもだ。

 はやてを見る。視線を逸らされた。おいまて。

 

「俺だけ言ってなかったな?」

「会う前に言ったら来なかったやろ?」

「そりゃ勿論」

 

 質問を質問で返すなよ。思わず正直に答えてしまったじゃないか。

 

「そこ否定しないと駄目なんじゃ……」

「相変わらず適当に生きてんなお前は」

 

 別にいいだろ、別に。

 

 月村家の車に皆まるごと乗せてもらい、拠点へと向かう。なんでも、バニングス家の所有地に仮の指令本部をたてたらしい。高町達はそっちの方に直接転送され、人数の問題ではやて達はこちらの転送ポートに転送されてきたそうだ。

 

 さて、そろそろ仕事の話をしよう。

 

「ロストロギアの居場所は分かってんのか?」

「細かい場所はまだ。反応があった場所の付近をフォワード陣に探索してもらう予定や」

 

 高町達はおそらくもう探索を開始してるだろうとのこと。シグナムとヴィータも向こうに着いたら探索にでるそうだ。

 

「晃一君も探索頼める?へんなの見つけたら報告してくれるだけでええんやけど」

「この町で変じゃないものを見つけられる自信がない」

「晃一君はこの町を何だと思っとるん?」

 

 人外魔境。

 

 

○○○○○

 

 

 仮拠点に到着した。丸太造りのコテージである。綺麗な湖の畔に建っており、仕事の拠点というよりはキャンプ場といった方がしっくり来る気もする。

 

「はやて!」

「アリサちゃん!」

 

 バニングスが駆け寄ってきた。はやてが先ほどと同じように抱き合う。バニングス以外の人影が見えないので、おそらく高町達はもう探索を始めたのだろう。

 

「無事晃一は捕まえれたみたいね」

「おかげさまでな」

 

 まるで俺がペットかのような言い草だな。

 

 そういえば、相良もいないのか。月村とバニングスの二人が来るの知ってたら、あいつもこの場にいそうなものだが。

 

「透はなにか用事があるみたいよ?」

 

 バニングスが誘ったが、断られてしまったらしい。珍しいな。バニングスに誘われてたら何が何でも来そうなものだが。

 

 と、そこで着信音。はやての端末である。

 

「お、なのはちゃんから最初のデータが送られてきた。そろそろ私たちもお仕事開始せなあかんな」

 

 シグナムとヴィータが探索に出た。

 

「じゃああたしはみんなの夕ご飯の食材を買ってくるわ」

「ごめんなあ、アリサちゃん」

「いいのよ。せっかくこっちに来たんだから、おいしいもの食べていきなさい」

 

 バニングスは笑いながらそう言う。こういうとこほんとかっこいいと思います。

 

「私も行くよ、アリサちゃん」

「いいの、すずか?」

「うん。バーベキューなんてどう?」

「いいわね!」

 

 こうして、月村とバニングスは食材の調達へ。あの二人だとA5の肉とか当たり前に買ってきそうだな。

 

 さて、俺はどうしようか。探索しても見つけられる気がしないんだよね。こういう類の事はやったことないし。

 

「……やっぱり山に行こうかな」

「なんなん? そんなに山が恋しいん? 野生に帰りたいん?」

 

 いやだって、フォワード陣も結局いなかったし。

 

「じゃあここで私達と一緒に待機で」

 

 拒否権はナシや、と告げられてしまった。にべもない。

 

 今日はやけにグイグイ来るというか、強引だね。どうしたのさ。

 

「最近仕事が忙しすぎるし晃一君は全然顔を出さないし。強引やないと会うこともなくなるやろ」

 

 ジト目になり、責めるようにはやてが言う。……まあ、放浪してる自覚はあるけど。

 

 リインフォースの一件のせいか、あるいはそれより前の一人暮らしが原因か、はやては関係が切れるということをひどく恐れている。大分前から、薄々気づいてはいたことだ。そして恐らく、これは治るということはない。

 

 特にリインフォースの件は俺も関わってるからなあ。リインを殺したのは俺なわけだし。

 

「しゃあない、事務仕事なら手伝ってやんよ」

「ホンマに?というかできんの?」

「エイミィさんから手解きを受けてたからな」

 

 だからどうしても、はやて相手には甘くなってしまうんだよね。

 

 

○○○○○

 

 

 探索開始から時間が経ち、フォワード陣から送られてくるデータを解析すること数時間。どうやら一通りの調査が終わったようだ。

 

「さ。細かい分析はお願いしたし、暫くはお休みやな」

「ん」

 

 俺達も送られてきたデータの整理を済ませ、管理局の本部の方にデータを送った。ロストロギアの詳細を調べてもらうのだ。結果が出るまでは休憩となる。フォワード陣もこちらに向かってるだろう。

 

「結果が送られてくるまでどんくらい?」

「多分、夜までかかるんやないかな」

 

 今は昼と夕方の間くらいだから、結構時間あるね。

 

「夕ご飯はやっぱりこっちで取ることになりそうやね」

「月村達が買ってきた食材が無駄にならなくて良かったじゃないか」

 

 BBQですねBBQ。

 

「よし!じゃあなのは達が来る前に準備始めちゃいましょ!」

 

 パンと手を叩き、バニングスがそう提案する。そのまま、バニングスの指揮で準備に取りかかることになった。

 

「晃一君、バーベキューセット運ぶの手伝ってくれないかな」

「あいよー」

 

 ちまちま運ぶのも面倒なので、バインドでグルグル巻きにして一気に運ぶ。

 

「おー。5つ一気に運ぶとは力持ちやね」

「鍛えてますから」

「晃一、この鉄板も運んでくれない?」

「おーう」

「お、鉄板もあるんか。これは本場の鉄板焼きを皆にふるまわなあかんな!」

「だからお前似非だろ?」

「似非やっ、ないっ、わっ!」

 

 突っ込みで執拗にローを狙ってくるのは止めてって。

 

 仕事が一段落ついているのもあり、弛緩した雰囲気の中セッティングをしていく。

 

 そして、はやてが張り切って鉄板焼きをし始めた頃。

 

「ただいまー!」

「お、帰ってきたな」

 

 高町とヴィータが戻ってきた。スバル・ナカジマとティアナ・ランスターもいる。皆制服ではなく私服姿だ。ヴィータはいつの間に着替えたのだろう。まあ制服で徘徊してたら目立つだろうけど。

 

「この匂い、バーベキュー!!」

「って、部隊長が鉄板焼いてる!?」

 

 ナカジマ妹が肉の焼ける匂いに顔を輝かせ、ランスター妹がはやてを見て驚く。部隊のトップが張り切って料理してるのは、新人からしたら驚きだろう。

 

「そんなに驚かんでも」

「あれだよ、レジアスさんが屋台ラーメンやってるような感じだろ」

「……想像してみると結構しっくり来るんやけど」

 

 もう少し痩せないと屋台にはまらないかもしれないけどね。

 

 部隊長とバーベキューに気をとられていた二人だったが、そこでようやく知らない顔がいることに気づいたようだ。

おずおずといった様子で、ランスター妹がはやてに尋ねる。

 

「……あの、部隊長。そちらの人達は?」

「ん、初対面やね。自己紹介といこか」

「あたしはもうしたからいいわ」

 

 バニングスが言う。高町達が転送されてきたときに済ませたのだろう。じゃあ俺と月村か。

 

「何度もするのもあれだし、ライトニング隊が来てからで良くないか?」

「来たで」

 

 あら。

 

 見ると、テスタロッサとシグナム、そして子供3人がこちらに歩いてきていた。え、ちっちゃ。一人はツヴァイだけど。あれがライトニング隊の新人か。

 

「……お兄さん!?」

 

『え?』

 

 え?

 

 




地の分を意識して増やしてみたら一話で終わらなかった。前より分かりやすくなってたら幸いです。

感想批評誤字報告お待ちしております。

追記

ツヴァイを書き忘れていました。


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36話 セカンド・コンタクト

初めて5000字越えました。前回の続きです。


「お兄さんですよね?!」

 

 ピンク色の髪の女の子が言う。テスタロッサと一緒に来てたところを見ると、ライトニング隊だろう。視線は明らかに俺の方に向いている。

 

「……隠し子?」

「いやいやいやいや」

 

 手を振り、全力で否定する。

 そんなわけないだろう。高町さん適当なこと言わないでもらえます?周りの目が痛いんですけど。特にはやて。

 

「……晃一君、妹おったん?」

「いない……筈」

「断言できないの……?」

 

 『俺』には妹がいたなんて記憶は無いけど、『古夜晃一』にはもしかしたら生き別れの妹がいたかもしれないし。あ、でも年の差的にあり得ないか。

 

 何とも言えない空気も女の子は分からないようで、明るい表情のまま話を続ける。

 

「私ですよ!サバイバルの知識を教えてもらったキャロです!」

「ん?サバイバル?」

 

 あごに手をやる。

 懸命にアピールしてくるキャロと名乗った女の子の言葉に、引っ掛かるものがあった。確かに、このピンク髪に見覚えがあるような。

 

「……あ、竜召喚できるって言ってた子か」

「はい!その私です!」

 

 思い出した。そういえば昔、サバイバルしてた時に子供の面倒を見たことがあった。その時の子だ。

 

「知り合いなん?」

「知り合いってほどのもんじゃ無いけどな」

 

 一緒にいたのは一ヶ月もない。キャロって名前も正直忘れてたし。

 

 反応があった人もいた。

 

「キャロの言ってたお兄さんって、晃一のことだったんだ」

 

 納得といった表情でテスタロッサが言う。一方、他の面々はいまいち理解ができないようだ。

 

 キャロと出会ったのは、中3の夏休み。竜がいると聞いて、その年のサバイバルは人のいる世界でやったのだ。キャロとはその時に出会った。

 

 森の中、サバイバルをしていて近くに気配を感じたから敵かなと思い構えると、茂みから出てきたのはピンク髪の女の子。何事かと思ったわ。

 

 なんでも、キャロは竜召喚の力が強すぎたため、住んでいた集落を追われてしまったそうだ。集団ネグレクトとか恐いよね。

 

 幼い子を放置とか流石に出来ないので、独りで生きることが出来るよう、サバイバルの手解きをしたりした。そして一ヶ月弱一緒に暮らした後、別れたのだった。

 

 かいつまんで説明する。

 

「別れたんかい。引き取るとかは考えんかったん?」

「んな無責任なことできるか」

 

 独り暮らしな上未成年で定職に就いてるわけでもないんだぞ。面倒見切れない。そりゃ預かるってなればグレアムさんも力を貸してくれるかも知れないけどさ。それは少し違うだろう。

 

 それでもほっとくのは気が引けるからサバイバルの手解きをしたのだ。最低限独りで生きていけるようにはしたし、施設までは送ったから、それで勘弁してほしい。

 

「お兄さん!私竜召喚できるようになりましたよ!」

「そうかそうか。成長したな」

 

 嬉しそうに話すキャロ。

 俺と会った時は追い出されたばっかだったからな。暴走するとかで竜召喚は一度も見なかった。

 

 場の皆もある程度は理解できたようで、今は嬉しそうなキャロを微笑ましげに見ている。

 

「じゃあ、感動の再会を済ませたところで……」

 

 仕切り直しとはやてが手を叩く。ぶっちゃけ感動はしてないけどね。

 

「改めて自己紹介といこか!」

 

 

 先に六課のフォワード陣から自己紹介をする。先ずはスターズ隊の二人。

 青髪で短髪の女の子がスバル・ナカジマ。オレンジ髪でツインテールのがティアナ・ランスター。この二人は知ってた。

 

 その次にライトニング隊。やはり子供二人がメンバーのようだ。

 赤髪の男の子がエリオ・モンディアル。そしてキャロ・ル・ルシエ。

 

 続いて月村が自己紹介。高町達の親友と述べる。はっきり親友だと名乗れる関係って素敵だよね。

 

 そしてまわってきてしまった俺の番。

 

「とんぬらです。よろしくね」

「真面目にやれや」

 

 今度は蹴りではなく手刀を頂いた。身長差の関係で後頭部が痛い。

 

「リインのお父さんです!」

『ええええ!?』

 

 この流れデジャビュなんだけど。

 

 簡単に説明する。

 

「かくかくしかじかで」

「まるまるうまうまというわけやな」

「部隊長、まったく分からないです……」

 

 仕方ないので多少真面目に。

 

「古夜晃一。大学生。一応嘱託魔導師で、六課に雇われてたりします。後は……一応、デバイスマイスターの資格も持ってるよ」

「魔導師だったんですか?」

「しかもデバイスマイスター……」

 

 ナカジマ妹とランスター妹が驚いてる。リインのことについても納得がいったようだ。

 

「古夜、晃一さん……」

「あれ、キャロも知らなかったの?」

「名前、聞く機会が無かったから……」

 

 お兄さん呼びで定着してからな。仮に聞かれても答えてなかったと思うけど。

 

「あの……失礼ですが、魔導師ランクは?」

「ん?えっと…………何だっけ?」

「Cやね。ちなみに晃一君。ティアナとスバル、エリオがBでキャロはC+やで」

「あらやだ一番低い」

 

 子供だからっていうのはあれだけど、エリオとかキャロにまで負けてるのはちょっと恥ずかしいわ。

 

「まあ、古夜の場合は強さと無関係だがな」

 

 シグナムが言う。確かに上のランクとってないだけだけど、そう言われると過大評価されそう。

 

「晃一君の強さは……模擬戦でもしよか?」

「よしやるぞ晃一」

 

 いきなりすぎるだろ。体を動かしたいとは思ってたけど。あとシグナムさんは目を輝かせないでください。

 

「時間はあるし、フォワードの皆にもいい経験になるやろ」

 

 見取稽古か。それだと恥ずかしいとこ見せられなくなるな。

 

 まあ、ストレス発散にはなるか。

 

「じゃあ晃一君準備して。私達は夕御飯食べながら観戦するから」

 

 その扱いはないんじゃないかと思うんだ。

 

 

 対面する古夜とシグナム。古夜の手にはグリーヴァが、シグナムの手にはレヴァンティンが、それぞれ待機状態で握られている。

 

「剣を交えるのは久しぶりだな、古夜」

「ま、お互い忙しかったしな」

 

 シグナムが騎士甲冑を展開する。それに合わせて、古夜もバリアジャケットを展開した。

 

 スーツを少しカジュアルにしたようなデザイン。ネクタイは邪魔になるのでつけていない。

 

 両者が剣を構える。

 

「ねえねえティア、晃一さんってどのくらい強いのかな?」

「さあ……シグナム副隊長が負けるのは想像できないけど、あの人のこと認めてるみたいだったし……」

 

 フォワード陣は少し離れたところで観戦、勝負の行方について考えている。

 

 ……片手に肉の盛られた紙皿は持っているが。

 

 審判ははやて達隊長陣だ。

 

「クリーンヒットが入ったら試合終了な。ルールは、晃一君は身体強化のみ、シグナムは身体強化とレヴァンティンのフォルムチェンジのみ」

「シグナムは出力リミッターもかかってるから、このくらいで」

 

 はやてとフェイトによる説明が入る。

 

 合図を出すのはなのはだ。

 

「それじゃあ、よーい……」

 

 ジェイド越しにシグナムを見据える。古夜もシグナムも前かがみに、体重が前にかかる。

 

 

 

 

 

「スタート!!」

 

 瞬間、金属音が響く。

 

『速い!?』

 

 フォワード陣が驚きの声を挙げた。

 お互い距離を詰めての一撃。火花が飛び散り、鍔迫り合いとなる。

 

 そのまま近距離での攻防へ。

 

――飛天御剣流 龍巣閃

 

 古夜による乱撃。シグナムはレヴァンティンで一撃一撃を受け止める。

 

「……フッ!」

「ッ!」

 

 乱撃が止んだところで、シグナムの反撃。攻撃後のほんの少しの硬直を狙い、斬りつける。

 

 古夜はそれを体を捻ってかわした。更にシグナムが攻撃するが、これはグリーヴァで防御。

 

 攻撃し、回避し、反撃し、防御する。

 

 ガンブレード同士の応酬。

 

「……ハッ!」

 

 シグナムが至近距離での突きをくりだす。古夜はそれを、横に逸らし、回るように回避。

 

――飛天御剣流 龍巻閃

 

 更にそのままシグナムの背後に回り込むようにして一撃を加える。

 

 シグナムは振り返ることなく前方、つまりは古夜から離れる方向に前転し、これをやり過ごした。

 

 一旦、間合いが切れる。

 

「……フフ」

「……楽しそうだなおい」

 

 シグナムの心底楽しそうな笑みに、若干古夜の顔がひきつる。

 

「……さて、余り長引かせるのもなんだ」

 

 シグナムの持つレヴァンティンから空薬莢が排出される。カートリッジをリロードしたのだ。

 

「よっしゃ」

『カートリッジロード』

 

 古夜もシグナムの言葉に応じ、リロード。グリーヴァのリボルバーが回転し、薬莢が飛んだ。

 

 二人の魔力が一時的に高まる。

 

「紫電……」

「破魔……」

 

 

 

 

 

「 一 閃 !!」

「 竜 王 刃 !!」

 

 衝突。そして魔力の衝突による爆風が吹き荒れる。

 

「きゃあ!?」

「うわぁ!?」

 

 風はある程度距離をとって見ていたフォワード陣の方まで届いた。

 

「あらら……」

「カートリッジのこと、ルールに入れ忘れてたね」

 

 なのはとはやてがプロテクションを展開、風圧から食材達とフォワード陣を守る。

 

「さて、勝敗は……?」

 

 爆風によって立ち込めていた砂煙が晴れていく。

 

 消えていく砂塵の中、現れたのは。

 

「ウボアー……」

 

 木にぶつかり、うめき声をあげている古夜と、

 

「……私の、勝ちだな」

 

 レヴァンティンを鞘に戻す、シグナムだった。

 

 

 背中が痛い。

 

「シグナムの勝ち!」

 

 試合終了。俺の負けである。ちくせう。

 

 立ち上がり、バリアジャケットを解除、はやて達のところへ。

 

「愉しい試合だった」

「そらようござんした」

 

 シグナムはイキイキとしてる。こんにゃろめ。

 

「最後のあれ、晃一にしては珍しいね」

 

 テスタロッサが言った。最後のというと、シグナムと真正面からかち合ったやつか。

 

 確かに、俺は終始真正面から向かってくというのはしない。動き回るのが基本である。

 

「シグナムには出力リミッターかかってるんだし、正面からぶつかっても勝てるかなって」

 

 目論みは外れたけど。冷静に考えてみたら、カートリッジ使うのに出力関係ないんだよね。

 

「お父さ〜ん、大丈夫ですか〜?」

「大丈夫大丈夫」

 

 木にぶつかっただけだし、バリアジャケットが守ってくれたからね。

 

 高町達の方を見ると、高町がフォワード陣に感想を聞いていた。

 

「フォワード陣の皆はどうだった?」

「凄かったです!」

「特に最初の接近戦ではシグナム副隊長とほとんど互角に見えましたし……」

 

 良かった。あいつダッセーみたいな感想なくて。

 

「おつかれさん、晃一君。はいお肉」

「おお、さんきゅ」

 

 はやてが皿にお肉を盛り付けて持ってきてくれた。丁度空腹感が出てきたところだったんだよね。

 

「一段落ついたら皆で銭湯行くで」

「銭湯?」

 

 銭湯というと、何年か前にできたスーパー銭湯か。行ったことないな。

 

「お前ら海鳴満喫しまくりじゃね?」

「仕事はちゃんとしとるし。せっかくやから、休暇っぽくしたいしな」

 

 成程ね。

 

 

 やって来ましたスーパー銭湯。こういうのは初めてなのか、新人達もテンションがあがってるっぽい。

 

「エリオ君!一緒に入ろうね!」

「ええ!?」

 

 キャロの発言にエリオが驚く。

 

「でもほら、僕は男湯の方だし……」

「お前らの年なら行き来自由だぞ?」

「晃一さん!?」

 

 なんで!?とエリオがこちらを見てきた。大丈夫、お兄さんは分かってるよ。

 耳元で、小声で言う。

 

「素直に行っとけ。大人になった時後悔するぞ?」

「晃一さぁん!?」

 

 必死の説得により、エリオは男湯に入ることに。なんだぁ勿体無い。

 

「キャロ」

「はい?」

 

 いいこと教えてあげよう。

 

 

「ふぃ〜……」

 

 湯に浸かる。少し高めのお湯が身に染みる。

 

「凄い体ですね……」

 

 エリオがこちらを見て呟く。

 

「ま、鍛えてるからな」

 

 それなりどころじゃなくらいには。それでもムキムキのマッチョにならず、細身に見えるのは体質か、この世界の人の特徴なのか。

 

 恭也さんとかも身体能力の割に細身だしね。

 

 と、そこへペタペタと足音。子供のものだ。

 

「エリオく〜ん!」

「キャ、キャロォ!?」

 

 やって来たのはキャロだった。顔を真っ赤にさせて驚くエリオ。ウブな反応やねぇ。

 

「ど、どうしてこっちに……!男湯だよ!?」

「行き来自由だから私もこっちにこれるって、晃一さんが」

「晃一さぁぁん!」

 

 てへぺろ。

 

 何してるんですか! というエリオの言葉を華麗にスルー。こっちに呼んだのは面白そうだったからだ。

 

「何だかんだ言って照れ臭いんだろ。キャロ、お前があっちに連れて行ってやれ」

「はい、お兄さん!」

「晃一さぁぁぁぁん!!?」

 

 そうして、エリオはキャロに連行されていった。

 

 ……のせといてあれだけど、キャロの羞恥心の無さがお兄さんすこし心配です。

 

 それはさておき、一人になったので、露天風呂にてゆっくりとくつろぐ。

 

 やや涼しげな気温のなか湯に浸かり、俺はゆっくりと息を吐いた。

 

 まだ夜空というには早いが、こんな空も、なかなか風情がある。

 

「……もう、こんな年か」

 

 大学生にもなり、もう前世の記憶にある年とほとんどおなじとなった。

 

「……………………」

 

 空を見上げ、感慨にふける。

 

 

 

 月は、見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 あ、ロストロギアは無事回収できました。俺はすることまったく無かったです。

 




キャロと知り合っていた主人公。サバイバルさせてたのはこれが理由だったり。

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37話 ガードマン

 いつかと同じ、声が聞こえる。

 

 いつかと違い、視界は良好だ。

 

――ああ、これは、いつもの方だ。

 

 何てことのない、大学での日常風景。

 

 ただし、海鳴大学ではない。前の大学だ。

 

 講義室、食堂、誰かの家。定期的に変わる景色のなか、顔のぼやけた誰かと話す『俺』。

 

 あいつはあんなやつだ。講義がだるい。飲みすぎた。レポートやらなきゃ。就活だ。

 

 内容は下らない、聞く価値のないもの。

 

 それを俺はしばらくの間、ながめ続けた。

 

 魔法も戦いもない、平淡な日常。

 

 

 

 やがて。

 

 視界は黒く塗りつぶされ始める。墨が染み込んでいくように。

 

 夢の終わりだ。

 

 定期的に見る、夢の終わり。

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。カーテンの隙間から射し込む日光が目に染みる。

 

 朝の日射しが鬱陶しく、俺は思わず寝返り、枕に顔をうずめた。

 

 ここは…………自分の家だな。当たり前か。

 

 体を起こし、半目のまま枕元を見る。そこにはピカピカと点滅して自己主張をする、翡翠色の宝石があしらわれたネックレスが置いてあった。

 

『いい夢、見れましたか?』

「……何の皮肉だ、くそったれ」

『?』

「いや、なんでもない」

 

 インテリジェントデバイスに夢の内容が分かるわけないな。

 

 部屋を出て、洗面台へと向かう。顔を洗い、自分の顔に驚いた後、キッチンへ。朝ごはんを作るのだ。

 

 調理と平行して支度をしながら、ふと思う。

 

 未だに見る、前世の夢。

 

「……グリーヴァを作ったときは、色々忘れてきたと思ったんだがな」

 

 意外にも、覚えているものだ。2次元関係はもとより、その他のことも。

 

 

 さて、今日の予定を確認しよう。仕事が入ってたはずだ。

 

「………っと、ユーノの手伝いか」

 

 ユーノの仕事を手伝うときは地味に注意が必要だ。特に、無限書庫の司書長としてではなくスクライアの発掘員としての時は。ロストロギアが絡むことが多いからである。

 

 クロノと二人で女体化させられたのは一生忘れない。

 

『内容は護衛ですね』

 

 ジェイドが言う。護衛だったら慣れたものだな。月村やバニングスのボディーガードならよくやってるし。

 

 今日はロストロギアのオークションがあるらしい。勿論、危険性のない、安全が保証されたものである。そこでユーノはロストロギアの説明だったり、物品の鑑定を担当している。

 

 俺の仕事はユーノの護衛だ。一応、物品の方も頼まれてはいるが、あくまで優先順位はユーノが上である。

 

「オークション開催中とあるが」

『無限書庫から会場までの行き帰りはまた別の方が担当するようです』

 

 成程ね。恐らくその別の方は会場では別の用事があるのだろう。

 

 じゃあ俺は会場に直接向かえば良いわけだ。

 

『ある程度はフォーマルな服装が良いかと思われます』

 

 ま、ロストロギアは骨董品だからな。オークションに来る人もそれなりに格式の高い人が来るのだろう。

 

 ジェイドのアドバイスに素直に従い、スーツに着替える。グレアムさんからもらった一張羅である。

 

 家を出て、月村家の所有地へ。

 

「お、晃一!」

「……うげ」

 

 まさかの相良と遭遇してしまった。ジャージ姿で、ランニング中らしく額に汗がにじんでいる。

 

 なんでお前とここで遭遇するんだよ。

 

「恭也さんとランニングしてたんだよ」

「そういうことだ」

 

 別の人の声。

 振り替えると、いつのまにか恭也さんがいた。いちいち気配消して登場するの止めてもらえません?

 

「ほら透」

「あざっす!」

 

 どうやら相良のためにスポドリを買いにいってたようだ。ペットボトルを相良に投げ渡す。

 

「朝から一緒にランニングて。恭也さんはともかく、相良はどういう風のふきまわしだよ」

「弟子入りしたからな!」

「えまじで?」

 

 そういや前、弟子入りしてくるとか言ってたな。あれ本当に頼みに行ってたんだ。

 

「すすめたのお前だよ!?」

「いやまさかほんとにいくとは」

 

 そして恭也さんが受け入れるとは。

 

「御神流教えるんですか?」

「まさか」

 

 首を横に振る恭也さん。まあ、ですよね。後継者にしても雫がいるし。

 

「ボディーガードになりたいって聞かなくてな。正直、その辺りのことは教えたくはなかったんだが、どれだけ言っても意志を曲げないもんだから、結局、雫の練習相手として鍛えるってことで押しきられてしまったよ」

 

 肩をすくめながら説明してくれた。恭也さん相手に押しきるて。そこまで意志固かったんかい。

 

 相変わらず変なところで頑固な奴である。

 

「なのはを彷彿とさせたな」

「ああ、それは分かります」

 

 俺がつきまとわれてた時も似たような感じだった。

 

「それはそれとして、雫はどんな感じです?」

 

 相良だって運動神経はかなり良い。そんな大学生を練習相手にする6才児ってどうなんだろう。

 

「はっきり言って、やばいな」

「やばいっすか」

 

 それはやばいね。何がヤバイかって、恭也さんをしてヤバイって言わせるのがもうヤバイ。

 

「言っておくが、お前のせいでもあるんだぞ?」

「え?」

「晃一の血を小さいときから飲んでたからな。夜の一族としての力が忍やすずかちゃんよりもはるかに強くなってるんだ」

「…………マジすか」

「マジだ」

 

 将来は恭也さんよりも確実に強くなるらしいとのこと。どうやら私はあかん子に血を与えてしまっていたようだ。

 

「晃一はその格好、仕事か?」

「はい、あっち関係ですが」

「そうか、気をつけろよ」

 

 あいさー。

 

 

 会場に到着。ミッドチルダの首都であるクラナガンの南東。そこに位置するホテルだ。名前はホテル・アグスタ。

 

 受付にて手続きを済ませ、中へ。地図をもらい、ユーノが待っているであろう部屋へ向かう。

 

「あれ、ヴィータじゃん」

 

 ホテルの廊下を歩いていると、見慣れた赤い髪のチビッ子がいた。

 

「晃一じゃねーか。何でここにいんだよ」

「そりゃこっちのセリフだ」

 

 ヴィータの格好は管理局の制服。多分、六課の仕事だろう。

 

 今日行われるのは朝も言ったがロストロギアのオークションだ。そしてロストロギアはいくら安全を確認したといっても結局のところはアンノウン。危険物を紛れ込ませることもできるだろう。

 

 あとは、確か無人機はレリックの反応を自動でおってるんだっけか。ロストロギアにつられて来るかもしれないし、あるいは本当にレリックが骨董品に紛れてるかもしれないな。

 

「だからきっとそれ関係で仕事に来たのかな?」

「……ほとんどわかってんじゃねーか」

 

 六課の業務内容は知ってんだし、このくらいは少し考えれば分かるさ。

 

「晃一の方はどうしたんだよ、その格好。今日は六課に出勤してなかったよな?何でここに?」

「俺個人の仕事だよ」

 

 業務内容は教えない。ユーノの護衛だし、後で分かることだから、別に知られても構わないのかもしれないけどね。ささやかなプロ意識である。

 

「あ、ヴィータに……晃一君やん!」

 

 聞き慣れた声がした。

 

「はやてか……ってその恰好」

 

 一瞬言葉に詰まったのは、はやてが予想と全く異なる格好をしていたからだ。

 

「ふふん、似合うやろ?」

 

 管理局の制服ではない、ドレス姿のはやて。

 

 青色のドレス。この色のはやては珍しいな。ハイヒールを履き、耳には十字架の、恐らくはイヤリングを付けている。チョーカーも装備している上、外行き用に丁寧に化粧をしているようで、いつもよりも大人の雰囲気だ。

 

 上から下へ、頭からつま先までじっくりと見る。

 

「……うん、似合ってるな」

「……ストレートに褒めんなや」

 

 悔しそうに、若干頬を染めて顔を背けるはやて。はは、まだまだだね。

 

「晃一君の方は……なんや、着なれてる感じがするなあ」

「ああ。なんせ着なれてるからな」

 

 ボディーガードはよくやってたし。

 まあでも魔法関係で着ることは滅多に無かったし、はやてにスーツ姿を見せるのは初めてか。

 

「もしかして、晃一君もオークションに?」

「まあ、そんなとこだ」

「そっか、奇遇やね」

 

 ほんの少しだけ雑談をしたあと別れる。あまりユーノを待たせてもいけないからね。

 

 そんなわけでクライアントと対面。

 

「晃一、久しぶり!」

「おう、久しぶりだなユーノ」

 

 待機室の様なところでユーノと合流。隣にいるのが護衛してきた人だろう。知ってる顔だ。

 

「ヴ……ア……久しぶりだな」

「君今名前思い出すの諦めたよね?」

 

 ヴェロッサ・アコースだよ、と緑髪のロン毛が名乗る。そうそう、そんな名前だった。

 

 だって義弟だっつってカリムさんと苗字も名前も違うじゃんか。カリムさんの苗字は……確かグレイシア。ん? それポケモンか?

 

「まったく。かわいい妹分の幼馴染みなのにつれないねぇ、晃一君」

「宗教関係はお断りしてるので」

「僕は査察官なんだけど……」

 

 苦笑するアコース。

 

「じゃあ、今日はよろしくね」

「ん?交代じゃないのか?」

「いや、その予定だったんだけどね」

 

 なんでも、アコースの用事は六課の仕事と被る部分もあるらしい。はやてと仕事のすり合わせをした結果余裕ができたので、そのまま俺と二人でユーノの護衛をすることになったのだとか。

 

「ごめんね、連絡が遅れて」

「いやいい。俺の方は雇われだしな」

 

 俺はユーノに個人的に雇われている立場だ。管理局との都合を優先されても別に構わない。

 

 真面目な話をすると、護衛は二人の方がいいし。一人が護衛対象を守っている間、もう一人が危険物の確認もできるからね。

 

 俺は面倒なことは嫌だが、仕事をするとなればそれなりに真面目になるのである。

 

 

 オークションが始まった。ステージ上で、ユーノのスピーチが始まる。

 

 アコースはユーノのすぐ後ろに控えている。俺はというと、会場を静かに見て回っていた。ほとんど警備員に近くなったね。

 

 どうやらはやての他に高町とテスタロッサもホテル内の警備のようだ。はやてと同じようにドレス姿で徘徊している。

 

 そしてオークションが進み、しばらくたった頃。

 

 空気が変わった。

 

 いや、正確にははやて達の表情か。

動きは変わっていないが、何か別のこと、恐らくは念話に集中してる様子だ。

 

『はやて。なにかあったか?』

『晃一君。無人機がこっちに近づいてるって連絡があったんや』

 

 来たか。

 

『会場内の動きは?』

『進行を遅らせはするみたいやけど、混乱を防ぐためお客さまに伝えるのは控えるみたいや』

 

 外の警備をしているフォワード陣が迎撃に向かったそうだ。守護騎士が四人勢揃いしてるようなので、そちらは任せて大丈夫だろう。

 

 会場内もはやて達がいる。ロストロギアでも投入されない限り……いやされても大丈夫か。

 

『アコース。ユーノの方は問題ないな?』

『うん、ノープロブレムさ』

 

 だったら俺はサブの方の骨董品の警備に回ればいいのかな?でもあくまでユーノ優先だし、どうしようか。

 

『晃一、骨董品の警護頼めるかい?』

 

 少しだけ迷ってる俺を知ってか知らずか、アコースの方から言ってきた。ただ、先程とは声色が若干違う。

 

『何かあったか?』

『倉庫で爆発があったみたいだ』

 

 成程。外に意識を持っていかせてから中を攻めるか。

 

『無人機って割には理性的だな』

『きっと今回は誰かが意図的に操ってる。気をつけてね』

 

 オークション会場を出て地下にある倉庫へ。構造としては地下駐車場と言った方がいいかもしれない。

 

 異変はすぐにわかった。煙が立ち込めている。モヤの中には機械の影が。

 

「無人機だから、とりあえず壊すぞ」

『サーチアンドデストロイ!』

 

 なんでテンション高いのこの子。

 

 セットアップし、グリーヴァを構える。

 

 突っ込んで破壊したいとこだが、向こうもこっちを捕捉してるはず。視界も悪いし、下手に戦って骨董品を傷つけてしまうのも不味い。

 

 面倒だな。煙をはらさなければ。

 

 とそこで、煙の中から、触手のようにケーブルらしきものがつき出されてきた。

 

 避け、これを切断する。

 

 続々と無人機が出てきた。とりあえずは近いものから破壊していく。

 

 戦闘をしているうち、煙がはれてきた。骨董品を狙っている無人機があらわになる。

 

 見ると、骨董品が入っていると思われる木箱をケーブルを使って運ぼうとしているようだった。便利ねそのケーブル。

 

 優先順位を変更。近い敵を無視し、箱にまとわりついているケーブルを切断する。

 

 無事、目標を確保できた。

 

 取り返そうと無人機が襲いかかってくる。

 

「ちっ。庇いながらは戦いにくいな」

 

 舌打ちをしながら呟く。いちいち箱に触手を伸ばしてくるから鬱陶しい。闇の書事件の時のしつこさを思い出す。

 

 多少燃費は悪いが、仕方ない。

 

「ジェイド」

『はい』

 

 箱を置き、プロテクションを張る。壊れないよう念入りにだ。箱が緑色のドームに包まれる。緑色なのはユーノから教わったからだったり。

 

 防御魔法を恒常的に結界を張るのは疲れる。一気に決めなければ。

 

――八門遁甲 第五 杜門 開

 

「グリーヴァ」

『はい、カートリッジロード』

 

グリーヴァの刀身が赤い魔力光で輝く。

 

――フェイテッドサークル

 

回転。

 

魔力を圧縮した斬撃を全方位に飛ばす。

 

八門を使った上、カートリッジを使い威力を底上げした一撃だ。無人機達のAMFを貫通し、そして破壊する。

 

多数の爆発。同時に多数の無人機が破壊されたことによるものだ。

 

直ぐに八門状態を解除し、構える。また視界が悪くなってしまった。

 

少し時間がたった後、視界がクリアになる。敵の影はない。

 

訪れる静寂。第2波もないようだ。

 

「……お仕事、完了」

 

お粗末。

 

 

「おや?破壊されてしまったのかい」

「はい。申し訳ありません」

 

 場所はどこかの研究所。女性から報告を受ける白衣の男は、それが良くないものでありながらも気にした様子は無かった。

 

 別にあってもなくても計画には支障はない。趣味の範疇だったのだ。あったら良かった程度にしか思っていない。

 

「ドクター。これを」

「なんだいウーノ」

 

 女性がモニターに映像を送る。そこで映されたのは、翡翠のモノクルをつけた高身長の男。

 

 それを見た白衣の男は、

 

「成程。これはこれは、面白いことになってきたじゃないか」

 

可笑しそうに、愉しそうに笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白いことじゃないですよ思いっきり邪魔されてるじゃないですか」

「クククッ。これだから世界は面白い」

「…………はぁ」

 

 

 

 




頑張って今年中には終わらせる所存です。

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38話 無理、無茶、無謀

遅れて申し訳ございません。


 ホテルの地下。山積みになっている無人機の残骸の中、俺は構えていたグリーヴァを降ろした。

 

「………ふう」

 

 一息つく。取り敢えずは守りきったかな。

 

 木箱を囲っていたプロテクションを解除する。

 最低限の固さで一瞬しか展開しない普段のものと違い、出来るだけ固いバリアを張った。こういう本来の使い方は魔力の消費が激しいからあまり使いたくはない。

 

 ぶっちゃけ守る類いの魔法苦手だし。俺が使うと燃費悪くなってしまうのだ。

 

 もう敵が来る様子はないが、念のためバリアジャケットとグリーヴァはそのままにしておく。残心は大事。

 

 しばらくすると、ホテルスタッフ達が駆けつけてきた。管理局員らしきのもちらほら。六課かどうかは知らんが。

 

 少しのやり取りの後、骨董品の入っていると思われる木箱を引き渡す。そういえば中身なんだったんだろう。私、気になります!

 

 なんてくだらないことを考えている内、ユーノとアコースが現場の確認に来た。多分、箱の中身の確認とかだろう。

 

 どうやらこちらのゴタゴタを片付けてた間にオークションの方も終わったようだね。

 

「お疲れさま、晃一」

「おー、そっちもな」

 

 お互いに軽く労いの言葉を交わす。

 

「オークションは無事問題なく終わったよ」

「そりゃ良かった」

 

 これでミッション完全完了ですな。

 

「こっちにも、やっぱり無人機が来てたみたいだね」

「ああ」

 

 周りの状況を見て、ユーノの隣にいたアコースが俺に声をかけてくる。

 『も』ってのは六課が対応した外の方を指しているのだろう。

 

「外の方はどうだった?」

「防衛ラインは一機も割らせなかったって。流石、はやての部隊だね」

 

 笑顔で答えるアコース。優秀そうでいいじゃないですか。

 六課の戦果を聞いてると、ユーノが戻ってきた。箱の中身の確認を済ませてきたようだ。

 アコースがユーノに尋ねる。

 

「中身、どうだった?」

「予想通り、密輸品だったよ」

「密輸品?」

 

 どっかの犯罪者が紛れ込ませてたのか? 

 

「中身は質量兵器だったよ。……多分、戦闘機人のパーツだと思う」

「戦闘機人だと?」

「知ってるの?」

「まあ、一般的なことならな」

 

 実際に見たというか、戦ったこともあるけど。まあこれは言えないね。

 

 ともあれ、密輸品なのでホテルスタッフではなく局員が回収。アコースが責任を持って本局に護送するそうだ。

 

「今から外の方の現場検証に行くけど、一緒に行くかい?」

「いや、いい」

 

 アコースから誘われたが、断らせてもらった。俺の仕事はオークション中の護衛だ。もう仕事は終了。ここにいる理由はない。

 

「俺は帰るよ。疲れた」

「顔を出さなくていいの?」

 

 いいでしょ、別に。話す程度ならオークション前にしたし。

 あ、でもそうだ。

 

「ユーノはきっちり高町の好感度あげてこいよ」

「そんな晃一の好きなゲームじゃないんだから……。あと、なのはとは別にそんなんじゃないって」

 

 いやギャルゲー特に好きでもないけどね。あとギャルゲーだったらお前らとっくにゴールインしてると思います。

 

 

 

 

 そんなことがあったオークションから数日がたち。

今日も今日とて、俺は六課を訪れていた。

 

 今週は訓練場を使うつもりだ。この前は使えなかったし、今度こそがっつり使いたい。

 

 スケジュール的に俺がいる時間とフォワード陣が訓練場を使ってる時間が重なりやすいらしいんだよね。

 

 それに使えるときでもデバイスルームにいたりすると、デバイス調整を優先しちゃえんだよね。設備が整ってるし、色々はかどるのである。

 

 そんなわけで来ました訓練場。

 

「あ、晃一さん!訓練場を使いに来たんですか?」

「ああ。フォワード陣は?」

 

 訓練場の管理室には、何故かシャリオ・フィニーノがいた。端末で何かやっている様子。

 

「えっと、今は訓練レポートを書いてると思います。ヴィータ副隊長から指導を受けながら」

 

 作業中のようだったから使用中かと思ったが、違ったみたいだ。どうやらフォワード陣は事務処理の訓練中らしい。頑張れ社会人。

 

「じゃあ今ここ、使えるかな」

「あ、はい。ちょっと待ってください。今、フォワード陣の訓練メニューを送ってるので……」

 

 端末をいじりながらフィニーノが答える。

 

 恐らくは訓練用にVR空間に形成するデータを送ってるのだろう。

 

 この訓練場、データを送れば自由に空間をつくれるのだ。割と簡単に。

 しかもフィールドだけでなく、魔法弾なども設定して生み出すことができる。科学の力ってすっげー!ん?魔法の力か?

 

 何で知ってるのかというと、実は初体験ではないからである。何回か少しだけ使ったことはあるのた。

 

 やべーよ、VR空間。まじでソードアートできそうだったもん。

 

「時間がかかるなら別にいいが」

「あ、大丈夫です!もう終わります」

 

 そう答え、数秒したところで端末から出ていたウインドウが消えた。作業は終わったらしい。

 

「じゃあ、どうぞ!」

「はいどうも」

 

 フィニーノがどいたので、ありがたく使わせてもらおう。

 

 ジェイドからデータを端末に送る。

 

 今日は思いっきり弾幕ごっこといこうか。

 

 

 

 

 

 

 古夜が修行を始めてからしばらくして、暗くなってきた頃。

 

 事務処理を終えたティアナは、スバル達と夕食を取った後、一人で訓練場に向かっていた。

 今日はもう予定はない、フリーである。それでも訓練場に行くのは勿論、自主練のため。

 

――頑張らないと。

 

 ヴァイス陸曹には止められたが、どうしてもティアナは訓練をしたかった。

 

 思い出されるのは、先日のホテルでの一件。無人機、ガジェットドローンが襲来した時のこと。

 

 戦闘時、ティアナはガジェットを一掃しようと、限界まで量を増やした誘導弾を使った。その試みは失敗。スバルとフレンドリー・ファイアをおこしかけてしまったのだ。

 

 防衛ラインを割らせることはなかったが、それはほとんどヴィータ達隊長陣のおかげ。

 

 自分のミスで、スバルを危ない目にあわせてしまった。

 

――自分に、力が足りないから。

 

 フォワード陣の中で、自分だけ何もない。

 

 でもそれを言い訳になんてできない。

 

「……頑張らないと」

「うん!頑張ろうティア!」

「うひゃあ!!?」

 

 こぼれた言葉に、反応する声。一人だと思っていたティアナは驚きのあまり飛び上がった。

 

「ス、スバル!?なんで……」

 

 ティアナに声をかけたのは、彼女と同じスターズ隊のスバルだった。ティアナとは訓練生時代からの相棒である。腐れ縁とも言うが。

 

「自主練でしょ?私も行くよ!」

 

 やる気満々と、拳を握りしめながら言うスバル。その様子を見て、ティアナはため息をついた。

 

「……あんた、さっきまで撃沈してたじゃない」

「うっ……」

 

 さっきまでというのは、事務処理が終わるまでのことである。訓練レポートや、他の部隊への小さな出動などをまとめていたのだ。事務処理が苦手なスバルはヴィータにしごかれまくっていた。

 

 ティアナの指摘につまりながらも、スバルは言葉を重ねる。

 

「で、でもほら、体も動かしておきたいし、それに……」

「?」

 

 

 

「私、ティアのパートナーだから!」

 

 

 

 屈託のない笑顔で言う。

 

「……はぁ」

 

 再び、ため息。

 この相方はいつもこうだった。そのくせ、見かけによらずわがままで頑固で。

 

 ここ数日もなんだかんだいって一緒に自主練をしている。ティアナが一人でやると言っても中々聞かないのだ。

 

――敵わないわね。

 

 心の中で苦笑する。

 

「……クロスシフトの練習、するわよ」

「うん!!」

 

 そんなこんなで二人、足並みを揃えて訓練場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「あれ……誰か使ってる?」

 

 スバルが言った。

 

 訓練場の上空で、光が瞬いている。

 目を凝らすと、魔法弾らしきものが飛び交っているのが分かった。

 

「…………なにあれ」

 

 ティアナがそうこぼす。

 

 膨大な量の魔法弾が蠢いている。よく見れば、いくつかの集団が規則を持って動いているのがわかった。

 

 まるで流星群のように、夜の空を光が流れる。

 

「あれは……晃一さん?」

 

 視力に自信のあるスバルが先に気づいた。飛び交う魔法弾の中に、男が一人、入っている。古夜晃一のことだ。

 

「……晃一さん、空戦魔導師だったんだ」

「……そうね」

 

 スバルの呟きに、ティアナも相槌をうつ。

 古夜の戦いを前に見たのは、シグナムとの模擬戦一度きり。その時は地上での斬り合いしかなかったので、古夜が空を飛べることは知らなかったのだ。

 

「凄い」

 

 自然とこぼれた。

 

 古夜はあの数の魔法弾の中でも被弾することなく動き回っている。前後左右だけでなく、上下にも。三次元に空間を把握し、回避し続けていた。

 

 やがて。

 

「…………ん?」

 

 古夜の方が二人に気づいた。回避訓練を止め、地上に降りる。

 

「なんだ、自主練か?」

「あ、はい!お疲れさまです!」

「止めろよ、俺は管理局の人間じゃないんだ」

 

 こちら、スバルとティアナの方に歩いてきたのであわてて敬礼すると、古夜は苦笑しながら手をひらひらと振った。

 

「晃一さん、ミッド式も使えたんですね」

「ん?ああ、むしろミッド式の方が使って長いよ。古代ベルカはグリーヴァができてからだからな」

 

 ミッドチルダ式はジェイドで、古代ベルカ式はグリーヴァで魔法を使う。マルチデバイスは最近では使い手が減っている。特に、ミッド式と古代ベルカ式の組み合わせは中々貴重な存在だ。

 

「……どうして、あんな訓練をしてたんですか?」

 

 ふいに、ティアナが古夜へと尋ねた。

 

 古夜の行っていた訓練はティアナ達が普段行っているものよりもはるかに過激だった。

 

 古夜は既に、シグナムと引き分ける事ができるほど強い。魔導師ランクこそティアナ達よりも下だが、実力は比べ物にならない。隊長達に匹敵するだろう。

 

 それなのに、あれだけ無茶な修行をする必要がわからない。理解できなかった。

 

「……ティア?」

 

 スバルが心配そうにティアナの顔を覗きこむ。

 

 ティアナの瞳には、疑問と、そして言い表せないような感情が映っていた。

 

 一方質問を受けた古夜は難しい顔になる。何と答えるか、少し迷ってるようだ。

 

「……そりゃあ、そうでもしないとできないことがあるからな」

 

 やがて、語り始める。

 

「あいにくと、俺は魔法の才能があるわけじゃないんだ。魔力量なんて今はCだし」

「才能が、ない?」

「ああ」

 

 肩をすくめながらそう言う古夜。

 それを見てティアナは意外そうな、というより信じられなさそうな顔になる。

 

 古夜には、才能があるといわれるほどのものはない。魔法の適性はどれもそれなりにはあるものの、なのは達ほどのものはないのだ。

 

 強いて挙げるとすれば、生命力だろうか。魔法とは一切関係がなくなるが。

 

 そんなことを考えながらも、古夜は話を続ける。

 

「無茶の1つや2つ、しなくちゃいけない、して当然なのさ」

 

 無理無茶無謀は百も承知。だがそれを重ねてきたからこそ、今はそれなりの強さでいられるのである。

 

「……そうですか」

 

 古夜の答えを受け、何を思ったのか。目をつぶり、ティアナはそう言った。

 

 もっとも古夜の場合、強さはあまり求めてはいないのだが。修行そのものが目的という部分もあるのだ。

 

――いや、それも正確には違うのか。

 

 心の中でそう呟く。

 

 ともあれ、質問には答えた。

 

「じゃあ俺は帰るから」

「あ、はい!お疲れさまでした!」

「……お疲れさまでした」

「あいおやすみー」

 

 古夜が訓練場を去る。訓練場にはティアナとスバルが残された。

 

「……無茶の1つや2つ、して当然」

 

 古夜の言葉を反芻する。

 

――あの人は、私と似ているのかもしれない。

 

 ティアナは思う。

 

 才能が無いのを知りながらも、上を目指すその姿は。

 

 ティアナには、理想のように映っていた。

 

――あの人のように、生きることができたら。

 

 無茶を重ねてでも、前に進み続けたら。

 

 

 

――あの人のように、強くなれるのかもしれない。

 

 

 




前回で言っておいてあれですが、年内に終わらない気がしてきました。

大☆誤☆算


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39話 リスク

まさかの7000字越え。


 次の日。

 

 昨日に引き続き、俺は訓練場へと足を向けていた。

 

 時間帯は昼。今は新人達が訓練に使ってるだろうと、はやては言っていた。

 

 つまりは修行に使うことはできないということだが、足は止めない。修行をしにいくつもりではないのだ。ランスターの様子を見に行くつもりなのである。理由は、ちょっと、気になったから。

 

『珍しいですね』

「自覚はあるさ」

 

 ただ、俺に何故無茶をするのかと聞いてきたあの時、ランスターは確実に焦っていた。

 

 あの時の俺の答えはほぼ紛れもない本音だけど、余計なことを言ってしまったような気もするのだ。

 

 焦燥に駆られたような、道に迷ってしまったような、あの眼。危うげな雰囲気は、まるで、『あの時』の高町のようで。

 

 だから少し、嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練場に到着。現在展開されているのはビル街のフィールドらしい。高めのビルの上にテスタロッサ、ヴィータ、キャロ、エリオの四人の姿を発見したので、とりあえずそちらに向かう。

 

「よう、おつかれ」

「お兄さん!?」

 

 キャロが驚きの声をあげた。ヴィータとエリオも意外そうな顔をしている。ま、当然の反応か。

 

 3人は皆、バリアジャケットを解除していた。どうやらこいつらは今は訓練中ではないようだね。

 

「珍しいじゃねーか、お前が来るなんて」

「ま、なんとなくな」

 

 ヴィータに適当に返事をしながらも、ここにいないスターズ隊の方へと目を向ける。俺達のいるビルから少し離れたところで向かい合う3人。上の方では高町が空中に浮き、それと対面するようにして地上にランスターとナカジマが構えていた。

 

「今、なにしてんの?」

「分隊ごとのツーマンセル実戦をするとこだ。今はスターズ隊の二人だな」

 

 ヴィータが説明してくれた。成程、実戦か。ちょうど良かったかな?

 

「準備は良い?」

「「はい!!」」

 

 高町に対し威勢良く返事をする二人。どうやら始まるみたいだ。

 

『レディー……ゴー!!』

 

 レイジングハートから発せられる合図。模擬戦、スタート。合図と同時にランスターとナカジマが動いた。

 

 高町が挨拶とばかりに魔法弾を数発放ったが二人はこれを難なく回避。ランスターがすぐさま離脱をはかり、ナカジマは空中に光の道をつくりだす。

 

「あれがウイングロードか」

 

 空中に形成されていく帯状の魔法陣。その上をナカジマが駆けていく。いやローラースケートだから滑ってくか。

 

 実際に見るのは初めてだが、中々便利な魔法だな。陸戦魔導師でも高さのある動きができるんだから。

 

 高町の方は特に動き回るということはせず、ナカジマへ魔法弾を放つ。走り去るティアナはひとまず置いておくようだ。どう攻めてくるか、お手並み拝見というわけね。

 

「ん?立体機動は使ってないのか?」

「ああ。まだ早いって、なのはがな。アンカーは今まで通り使ってんだけど」

 

 走って移動するランスターを見て俺がふとこぼした疑問にヴィータが答えてくれた。そっか、まだ使ってないのね。勿体ない。せっかく俺頑張ったのに。

 

 ちなみにだが、立体機動ができるように俺がしたのは2つ。1つはアンカーの射出と回収を早くすること。もう1つは銃を推進力として利用できるようにすることだ。

 

 前半はともかく、後半は結構苦労した。思った方向に進めるようにデバイス側でサポートできるようにしたり、放出する魔力を効率良く推進力に変えれるようにしたりするのが大変だったのだ。

 

 まあ、それは置いといて。

 

 高町がナカジマへ攻撃していると、背後からオレンジ色の誘導弾が襲ってきた。ランスターがビルに隠れながらも操作しているのだろう。

 

 高町は全ての誘導弾を回避していく。流石というべきか、動きに無駄がないね。

 

 大きく動き回るナカジマとは対照的に、高町はあまり位置が変わっていない。これは、戦闘スタイルの違いもあるかな。ナカジマは近接戦闘がメインで、高町は砲撃魔導師だし。

 

 高町の桃色の魔法弾とランスターのオレンジ色の魔法弾が飛び交い、ナカジマがその間を動く。

 

 と、そこで不意に、扉が開いた。

 

「あ、もう模擬戦始まっちゃてる……ってあれ?晃一?なんでここに」

「遅刻かテスタロッサ?」

「ち、違うよ!」

 

 来たのはテスタロッサだった。息を乱しているところを見ると、結構急いで来たらしい。

 

「……ほんとは、私がスターズの相手も担当しようと思ったんだけど」

「あいつ、ここ最近訓練密度が濃すぎるからなあ」

 

 テスタロッサとヴィータが言う。訓練密度が濃いってのはそれだけ高町が新人達の訓練に当ててる時間が多いということだろう。

 

「なのは、直接訓練に関わらないときも、ずっとモニターと向かい合って訓練メニューを考えたり、皆の陣形チェックしたりで」

 

 若干困ったように言うテスタロッサ。なんというか、ワークホリックは相変わらずのようだね。

 

「修行してばっかのやつが言うか?」

「ずっと修行してるわけじゃないぜ?」

 

 休みはしっかりとるようにしてるよ。全力で休むのも修行の効率を上げるためには大切だからね。

 

「素振りは欠かさないようにしてるけどな」

「何回?」

「一万回」

 

 グリーヴァの素振りと正拳突きに蹴り。合計三万回は欠かしません。

 

「相変わらずだな……っと、お。クロスシフト」

 

 呆れた顔になっていたヴィータだったが、戦ってる高町達の方を見ると真剣な表情に戻った。話をしてるうちに戦況が変わったようだ。

 

 目を向けてみれば、隠れていたランスターが出てきていた。本格的に攻めるつもりなのだろう。

 

 走りながらも十数個の誘導弾を一度に生み出すランスター。

 

「クロスファイア……シュート!!」

 

 そして放たれる魔法弾。うねるように動きながらも上昇し、高町へと向かっていく。

 

 その時、高町の表情が少しだけ変わった。俺の隣にいるヴィータとテスタロッサもである。

 

「どうした?」

「いや、クロスファイアのキレがいつもより悪いような……」

「コントロールは悪くないんだけど……」

 

 そうなのかね?俺は普段のクロスファイアを知らないから良くわからんが。

 

 探るような目をしながらも魔法弾をかわしていく高町。一度避けられても旋回してまた高町へと向かう魔法弾。

 

 高町は魔法弾の量の割にはあまり動いていないように見える。恐らく、これは高町の動きを制限する目的だろう。

 

 とそこで、高町へと向けて光の道が生み出された。ナカジマのウイングロードだ。動きを制限したところへ大きな一撃をぶちこむ作戦のようだね。

 

 それに気付いた高町は誘導弾を数発生み出し、ナカジマへと撃った。

 

 だがナカジマは進行を止めない。正面から突っ込みながらも紙一重で避けようとした。当然、避けきるということはできず、いくつかの誘導弾がかすってしまう。

 

「こらスバル!危ないでしょ!」

「すいません!ちゃんと避けますから!」

 

 当然高町からの叱責が飛ぶわけだが、それに対してのナカジマの返答が少し妙だった。

 

「ん、あれは……」

「どうしたの?」

「高町の顔見てみろ」

「なのはの?……あ!」

 

 テスタロッサが声をあげた。他の3人も気付いたようだ。

 

 高町の顔に、赤い点がゆらめいていた。多分、狙撃用のレーザーポインタだと思われる。

 

 高町自身も気付いたらしく、すぐさまポインタの出所へと目を向ける。

 

 そこは、ビルの上。いつのまにか移動していたらしいランスターが銃を構えていた。使おうとしているのは恐らく砲撃魔法。

 

 再びナカジマがウイングロードを作りながら高町へと突貫していく。先ほど言った『うまく避ける』とはこちらのことを指していたのか。

 

「うおおおお!!」

 

 リボルバーナックルからカードリッジを排出させ、ナカジマが正拳突きをくりだす。プロテクションを展開し、受け止める高町。

 

「ティアッ!」

 

 ナカジマが叫ぶ。撃つ気か? そう思うと。

 

 ビルの上で構えていたランスターが消えた。フェイク・シルエット、幻影魔法だ。

 

 本物は……………上。

 

 高町の頭上高くまで広く展開されていたウイングロードの上を駆けていた。

 

「あれは、魔力刃!」

「ッ!」

 

 テスタロッサが声をあげた。エリオとキャロは息を飲んでいる。

 ランスターはクロスミラージュの一方をリロードさせ、魔力刃を作り出したのだ。

 

「……!」

 

 ウイングロードから飛び降り、ランスターがもう一方を後ろの方へと向けた。ジェットエンジンの要領で推進力をつけるつもりだろう。

 

「何してんだアイツッ!」

 

 ヴィータが叫んだ。……あれは、特攻かます気だね。

 

 ダガーもジェット噴射も俺がデバイスに設定したものじゃない。明らかに不安定だ。

 

 重力も合わさり、強い勢いをつけたランスターが高町へと急降下する。

 

 そして。

 

 

 

 激突と共に、爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅん……、ん?」

「あら、起きた?」

 

 ベッドの上で、ティアナは目を覚ました。傍らにはシャマルが座っている。

 

「あれ……」

 

 まだ意識がはっきりしていないのか、少しだけボーッとしているティアナ。まばたきをしながら、シャマルを見る。

 

「ここは医務室よ。何があったか、覚えてる?」

「ッ!!」

 

 シャマルの言葉で意識が完全に覚醒した。思い出した。

 

 なのはへと特攻をかけたティアナ。その結果は、失敗だった。

 

 モードリリースをしたなのはに片腕で止められてしまったのだ。

 

『私は! もう誰も傷つけたくないから! 無くしたくないから!!』

『……少し、頭冷やそうか』

 

 もう一度攻撃を仕掛けようとして、撃墜された。

 

「……ッ!」

 

 拳をきつく、握りしめる。

 

 悔しい。悔しくてたまらない。

 

 あれだけのことをしても駄目だった。なのはには理解してもらえなかった。才能が無い自分には、ああすることしか、できなかったというのに。ああしてでも、自分は強くなりたかったのに。

 

 無力感に苛まれる。

 

 しばらくうつむいたまま固まっていると、足音が聞こえてきた。医務室に誰かが入ってきたらしい。

 

 なのはかと思い、ティアナは少しだけ体を強ばらせたが、来客は予想していた人物とは違った。

 

「ランスター起きたんだって?」

「ちょ、ちょっと。今はダメですよ晃一君!ティアナちゃんまだ……」

 

 古夜だった。

 

 慌てた様子のシャマルに見られてきょとんとするティアナ。ふと、自分の体を見下ろす。

 

 現在のティアナの格好は、下着の上にシャツを一枚着ているだけ。寝てる間に脱がされたのか、ズボンは履いていなかった。

 

「きゃあっ!?」

 

 慌ててシーツで体を隠す。古夜を睨むのも忘れない。エリオ相手とは違い、年上の男性に見られるのは流石に恥ずかしい。

 

「少しは頭冷えたんじゃねーの」

 

 一方古夜は、からからと笑うだけ。ティアナのにらみつけるは効果がなかったようだ。あと頭はむしろ熱くなったと言いたい。

 

「着替えるんですから、早くでてってください!」

「着替えたら、もう一度訓練場に来い」

 

 シャマルに背中を押され追い出されていく古夜が、そう言葉を残した。

 

「心配すんな、高町教導官は呼んでねえよ」

 

 

 

 

 

 

 訓練場に向かうティアナ。その足取りは重い。あのことがあって訓練場に戻るのは、気が進まなかった。

 

 気を失ってから大分時間がたっていたらしく、辺りは暗い。涼しい

 

 そこにいたのは古夜と、シグナムだった。

 

「で、どういうことだ古夜?」

 

 シグナムが古夜に尋ねた。それを見てティアナが眉をひそめる。シグナムは何も知らないのだろうか。

 

 気にする様子もなく古夜が話を切り出す。

 

「模擬戦するぞシグナム」

「それは、構わんが……」

 

 いまいち、状況がわからない。そう言いたげなシグナムだったが。

 

「こっちは八門遁甲もつかうからさ」

 

 古夜の言葉を聞いて、表情を変えた。

 

「な……!それは、本当か!?」

「本当さ」

 

 騎士甲冑へと変身し、レヴァンティンを抜くシグナム。古夜もバリアジャケットを展開してグリーヴァを構える。

 

「しっかり見とけよランスター」

 

 シグナムを見据えたまま、ティアナに言う。

 

「――八門遁甲 第6 景門 開」

 

 古夜が何かを呟いた瞬間、彼の全身から青い魔力が溢れだした。

 シグナムはどうやらこの状態を知っているようだ。

 

「その状態のお前と戦えるのを、心待ちにしていたぞ」

 

 嬉しそうに、だが目付きは鋭く真剣な表情のまま言う。

 

 向かい合う両者。武器はお互いに剣だ。中段に構える古夜と、刀身をさげ脇に構えるシグナム。

 

 緊張感が高まる。

 

 古夜の目的はわからないが、ティアナは自然と真剣に両者を見ていた。見なければならないような、そんな気がしたのだ。

 

 最初の構えから動かぬ両者。

 

 そして、古夜が。

 

 

 

 

 

 グリーヴァを手放した。

 

 

 

 

 

「な……!?」

 

 古夜の手のひらから落ちていくグリーヴァ。やけにスローに見える。

 

 あまりに予想外。シグナムもティアナも、状況が理解できなかった。

 

 だからこそ、思考に空白が生じた。

 

 致命的な一瞬の隙。

 

 はっと、気付いた時にはもう、古夜は懐まで入り込んでいた。

 

「ッ!」

 

 右の正拳突き。左の掌底。さらには両手での掌底。

 

 とっさにレヴァンティンが張ったプロテクションも踵落としで砕く。

 

 そこから膝蹴り上げでレヴァンティンを弾き飛ばし、浮いた体に両の手で手刀を叩きつける。

 

 最後に、腰を捻り力を溜めての貫手。シグナムを吹き飛ばした。

 

 

 

「――虚刀流 奥義 七花八裂」

 

 

 

 一瞬の勝負だった。

 

 

 

 

 

 

「さて。今俺は、隙を作るためにグリーヴァを手放し、そのまま素手で攻撃したわけだが」

 

 古夜が突如ティアナの方を向き、そう切り出した。

 

「騎士甲冑を素手で殴ったからな。何ヵ所か骨にヒビが入ってる」

 

 手をひらひらと振る古夜だが、その手には血がにじんでいた。

 

「何が、言いたいんですか」

「リスクの話だよ」

 

 昼の模擬戦でのお前の戦い方のこと、とそう付け足す古夜。

 

「リスク覚悟の特攻。まあ、大体はお前が昼の模擬戦でとった戦法と同じようなもんだ」

 

 ティアナのおこなった特攻。あれは外していたら、あの勢いのまま地面に激突していただろう。リスクの大きさでは今の古夜の戦い方とほとんど同じ。

 

 古夜がティアナを見つめ、告げる。

 

「はっきり言っておくぞティアナ・ランスター。あの戦い方では、絶対にお前の夢は叶わない」

「……ッ!あなたになにがッ!!」

 

 わかるんだ。そう言おうとしたが。

 

「俺の魔力量なんだがな、Aランクまでなるって言われてたのに、Cまで下がっちまった」

「なっ……!」

 

 古夜の言葉を聞いて、詰まってしまった。

 何でもないことのように言ったが、魔力量が減るとは、魔導師にとって致命的だ。

 それに老衰ではなく、古夜の若さでそれほど下がるというのは異常だ。自然に起こることではない。

 

「原因は明白。最初に使った八門遁甲だよ。分かりやすく、魔力ブーストって言うか。あれはリンカーコアの過剰使用だからな」

 

『死門』を開けばリンカーコアが消し飛ぶし、八門遁甲を使うだけでリンカーコアへの負担は溜まっていく。

 

「それ抜きにしても、あの動きだ、人の体で耐えられたもんじゃない」

 

 呼吸を1つおいて、古夜が言う。

 

「そう遠くない内に、俺は魔導師としては戦えなくなるだろう」

「そ、んな」

 

 何故平然と言えるのか、ティアナには理解できなかった。魔導師として戦えなくなるのは、ティアナにとっては夢が潰えることと同義だからだ。

 

「無茶を重ねるってのは、お前が歩もうとした道ってのは、こういう道だ。少なくとも、執務官向きじゃない」

 

 八門遁甲を使う使わないの話ではないのだ。ティアナが模擬戦でやろうとした特攻。あれを続けて、長生きできるわけがない。ほぼ間違いなく早死にするだろう。

 

 もっともそれは、古夜にも言えることなのだが。

 

「俺は確かに、無茶を続けてここまで強くなったと言った。でもな……」

 

 ティアナを見据える。

 

「強くなりたいっつって、俺の真似をするのは止めろ」

 

 

 

「でも、じゃあ私は……」

 

 肩を震わせ、ティアナが言う。

 

「私は、どうしたらいいんですか!!」

「知らんよ」

「このッ!?」

 

 ティアナの質問をコンマ数秒で切り捨てる古夜。思わす彼女が彼に掴みかかろうとすると。

 

「俺は教導官じゃない。そういうのは……」

 

 古夜が、ティアナの後ろを指した。

 

「そこにいる、高町教導官に聞け」

 

 はっとして、振り返る。そこにはいつのまにか、なのはがいた。

 

「な、なのはさ……!呼んでないって……!」

「呼んではいないな。勝手に来たらしい」

 

 思わず顔を前に戻し騙したなと古夜を睨むが、やはり効果はないらしい。またもからから笑っている。

 

「ティアナ……」

「な、なのはさん……」

 

 なのはの方へと向き直るが、かなり気まずい。どうしたものかと迷うと、ばん、と古夜がティアナの背中を押した。よろけてなのはの方へと2、3歩近づく。

 

「ちゃんと話してこい、お前の言う才能云々。後悔しないようにな」

 

 

 

 

 

 

 まあ、こんなもんでしょうか。

 

 バリアジャケットを解除する。こんだけお膳立てすりゃ、しっかり話し合うだろ。

 

 ランスター達のもとを離れ、吹き飛ばしたシグナムのところへ。

 

 シグナムはもう立っていたが、騎士甲冑は砕けていた。全力で殴ったからね。腕超痛いよ。

 

「悪かったなシグナム」

「いや、構わんさ」

 

 興味深げな視線をこちらへ向けてくる。

 

「それにしても、どういう風の吹き回しだ?」

 

 ああ、まあ今回のは特例というか。ぶっちゃけ個人的な理由だよ。

 

「あいつがあんなことしたの、若干俺のせいっぽいからな」

 

 かなり焦ってたから、俺の言葉が無くてもああなってたかもしれないけど。

 

 でもそれはIfの話で、俺の言葉が引き金になったのは確かだと思うから。

 

 そういうの、嫌なんだよ。

 

 どっかの知らない誰かが無茶やって死んでもなんとも思わないけどさ。

 

 自分の言葉のせいで、あんな生き方を決められるのは嫌だ。

 

「ましてランスターの場合だと、ティーダさんに呪い殺されそうだからな」

 

 いつぞやと同じようにおどけて言うと、シグナムはそうか、と言い笑った。

 

「それよりも古夜。先程の話、本当なのか?」

「ん?どの話?」

「お前が魔導師として戦えなくなるという話だ」

 

 ああ、あれね。

 

「まじまじ。魔力量のこととか全部丸ごと真実だよ」

 

 魔力量の減少はいつだかの検査のときに発覚した。知ってたのはハラオウン親子とユーノだけ。

 

「オフレコで頼むぜ?」

 

 あまり知られたい内容じゃない。

 

「それは……いや、了承した。だが……」

 

 若干顔を伏せ、申し訳なさそうな顔になるシグナム。何さ?

 

「それなのに私は、お前にアレを使わせてしまったのか……」

「やめろよ」

 

 シグナムが何やら変な勘違いで謝って来そうだったので先んじて止める。

 

 そこで謝られても困るだけだ。

 

「誰のためとかじゃなく、俺が使いたい時に、俺のためだけに使ってんだから」

 

 今回のランスターの件もそう。

 

 俺の言葉のせいで、ってのが嫌だったから。だから、教導関係の話には全く触れなかった。

 

 

 

 俺はいつだって、自分のために動いてきた。今回も、同じことなのである。

 

 

 




うちのティアナ撃墜はこんな感じになりました。

そして空気を呼んだスカさん。彼は彼でやりたいことやってたり。


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Interlude〜とーきんぐ・ナイト〜

幕間です。
結構色々しゃべってます。


「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

「3名で」

 

 クラナガンにある、とある居酒屋。ここに、なのは、フェイト、はやての3人が集結していた。

 

 日本が意識されているであろう内装。ミッドチルダでは様々な文化が交わるため、この店のようなものもちらほらと見られるのだ。

 

 「わびさび」の文化は、ミッドチルダでも人気が高かったりする。

 

 なお交わりすぎて、リンディのように若干ずれた認識をしている者も少なくはないようだが。

 

 店員に案内され個室の席へ。

 

「3人で夕食ってのは久しぶりやな~」

「最近は六課の皆が一緒だったから」

 

 席に座りながら言うはやてに対し、そうフェイトが返した。

 

 はやては食事をとるときに六課のメンバー達に時間を合わせるようにしている。これはコミュニケーションを大事にしたいという彼女の意向だ。

 

 そしてなのはとフェイトも六課の食堂で新人達と食べることが多い。そのため3人が一緒に食事を取ることはあっても、今回のように外に3人だけで食事に行くというのは珍しいのだった。

 

「いい雰囲気のお店だね」

「ふふっ、そうやろ? ゲンヤさんに教えてもらったんや」

「外で和食って、久しぶりかも」

 

 先にドリンクの注文をする。なのはがオレンジジュース、フェイトがレモンソーダ、そしてはやてがジンジャエールだ。

 

 3人ともこっちの世界では成人してるのだが、酒を頼みはしない。皆真面目なのである。どっかの男は迷わず酒を頼むところだが。

 

 食べ物も頼み、程なくしてジュースが運ばれてきた。

 

「それじゃあ、かんぱーい!」

「「かんぱーい♪」」

 

 はやての音頭で、コップをつき合わせる。カラン、と氷が小気味のいい音をたてた。

 

「くぅー!! やっぱこれやなぁ!」

「はやてちゃん、それちょっと親父くさいんじゃ……」

「ひどっ!?」

 

 にゃはは、と笑いながら指摘をするなのは。フェイトもどうやら同じ事を感じていたらしく、苦笑いのみでフォローは無かった。神は死んだ。

 

 ちなみにではあるが、同年代の本当に親しい者達だけの時、なのはは昔のように猫言葉が出る。本人は意識していないようで、親友達の間でのちょっとした秘密となっていた。

 

 さて、喉を潤した3人。料理が運ばれてくるまでは、雑談タイムとなる。

 

「ティアナの調子はどうや、なのはちゃん?」

「うん、完全に吹っ切れたみたい」

「そっか。よかったぁ」

 

 あの夜の後、なのはとティアナはじっくり話し合った。教導の意味や、目指す未来について。お互いに納得がいくまでだ。

 

 でも、となのはがコップを置く。

 

「私の失敗談が知られちゃったよう……」

「あはは、まあいつかは知られちゃうものやったと思うで?」

 

 危険性については、古夜が教えてあげていた。それでもなのはとしては教導官としてのけじめとかプライドとかがあるわけで、苦渋の決断ではあったが、あの事故について教えることにしたのだ。

 

 これはティアナだけでなく、フォワードメンバー全員にである。俗に言う黒歴史の公開だ。

 

「まさかシャーリーが映像用意してたなんて……いや見られちゃったのは言葉だけで説明しきれなかった私の責任だけど……」

「なのはちゃん国語苦手やったもんなぁ」

「そ、そこは突っ込まないでよ!」

 

 あーうーと何かに悶えるなのは。本人は出来るだけ言葉で物事を解決したいとは思っているのだが、なかなかそううまくはいかないわけで。

 

 実際に言葉だけで解決できたことは少なかったりする。幼少期から今に至るまでずっと。

 

「なんか晃一君に負けた気分……」

「ほ、ほらなのは、料理きたよ!」

 

 がっくりとうなだれるなのは。隣に座るフェイトが必死に呼び掛ける。

 

「あ、おいしそう」

 

 運ばれてきたのは焼き魚。香ばしい香りに誘われて、なのはが顔を上げた。食べ物の力は偉大である。

 

 食事に入りながならも話は続く。

 

「でも、やっぱり晃一君て教えるの上手いよね」

 

 魚をつつきながらもなのはが言った。

 

「まあ、あれは言葉巧みって感じやな。あ、刺身も美味しい」

「私は刺身はちょっと苦手かな」

「フェイトちゃんはナマモノが苦手だったっけ」

「少しね。生臭いのが苦手なんだ」

 

 そう言うフェイトの前にはから揚げが。レモン汁をかけて頬張る。

 

「晃一には私もお世話になったからなあ……」

「ああ、執務官試験の時だっけ?」

 

 フェイトは執務官試験に一度落ちている。その時、知り合い達による特訓が行われた。

 

 実技試験対策の先生はクロノ。そして筆記試験対策の先生がユーノと、まさかの古夜だったのだ。

 

「『お前は馬鹿正直に挑みすぎだ』って、最初はなんのことか分からなかったよ」

 

 若干遠い目になるフェイト。

 

 古夜が教えたのは勉強というよりは『試験の受かり方』だ。大学受験までを経験した上での、知識を詰め込むだけでない点を取るテクニックを叩き込んだのである。

 

「晃一君、エスカレーターで中学にあがってた割には、やけに試験慣れしてたしな」

 

 そう言うはやてもデバイスマイスターや上級キャリア試験の際、古夜からテクニックを教えてもらっていたりする。

 

「そういえば、ハチモントンコウ、だっけ?初めて生で見たなぁ。すごかったねあれ」

 

 フェイトが思い出したように言った。

 

「私もかなり久しぶりに見たなぁ」

 

 なのはも頷き、フェイトに同意する。

 

「まさかシグナムを一瞬で倒しちゃうなんて……」

「あれ、ストライクアーツなのかな?」

「師匠がリーゼロッテさんだし、そうなのかも?」

 

 二人で話が進んでいく。黙ってないのははやてだ。

 

「ちょ、ちょい待ち。晃一君、全力で戦ってたん?」

「ハチモントンコウ使ってたし、多分……ね?」

 

 ふるふると、若干様子がおかしいはやて。どうしたのかとなのはとフェイトがハテナ顔になる。

 

「私、生で見せてもらったことないんやけど……」

「「えっ?」」

 

 空気が、固まった。

 

 実は、そうだったりする。はやてが八門遁甲状態の古夜の戦いを見たのは、映像でのがほんの数回のみだ。本人はどれだけいっても見せてくれないのである。

 

「てっきり、はやてちゃんはいつも見せてもらってるとばかり……」

「わ、私も」

「何で私には見せてくれないねん……」

 

 なのは達は意図せずして地雷を踏んでしまったらしい。はやてが机に突っ伏す。

 

 もぞもぞと身じろぎし、コップ片手にいじけモードへ。

 

「最近全然話す機会ないねん……せっかく同じ部隊に勤めてんのに……」

 

 愚痴るはやてを苦笑いで眺める二人。飲んだくれのように見えてきたと内心思う。酒は飲んでないのでシラフのはずなのだが。

 

「この際だから聞いてみるけど、はやては、晃一のことが好きなの?」

「ちょっ、フェイトちゃん!?」

 

 いきなりドストレートの質問。なのはが驚きの声をあげた。

 

「……そりゃ勿論」

「おお……」

 

 特に躊躇う様子もなく、意外にもあっさり言ったはやて。思わずなのはが感嘆の声をもらす。

 仕事ばかりとはいえ、まだ十代の女の子だ。興味をもってしかるべきなのである。

 

「え、と、なんで?」

 

 おずおずと、フェイトが尋ねる。隣のなのはも興味深々といった様子だ。

 

「……特にきっかけらしいものは無かったんやけどな。晃一君はずっと私の憧れやったし、小さい頃からの知り合いやったし。まあ自然と、な」

 

 最初の気持ちは憧れだった。彼のように強くあろうと、その気持ちが心の支えにもなった。

 

 だが成長するにつれて、彼の強さに疑問を持ち始めたのだ。彼は、彼の生き方は、本当に強いものなのかと。

 

 自分はアコースに生き急いでいると言われたが、古夜のそれは、まるで死に急いでるようで。

 

 それからはどうにも古夜のことが心配というか、そんな感じで。

 

 結局終始古夜のことは気になっていたわけで。

 

 一番付き合いの長い異性の幼馴染み。それに対する気持ちが恋慕となるのは、自然なことであったのだった。

 

「つ、付き合いたいとは思ったり?」

 

 今度はなのはが質問する。

 

「関係を変えたいとは、思っとるんやけどな」

 

 本当に山も谷もない関係が続いてきたと、はやては思う。

 

 はじめましての頃から特に進展といえるものはない。距離は近づいてはいると思うが、それと非常に緩やかなもの。

 

 また、雰囲気が暗くなってきたはやて。どうしたものかと二人が考える。

 

 そこで、はっと、フェイト気になっていたことを口にする。

 

「……でも、同年代の女の子で晃一が名前で呼ぶの、はやてだけだよね」

「そうそう。私、名前で呼んでって言っても聞いてくれなかったもん」

「……そうかなぁ」

 

 にへら、となのは達の言葉を聞いてはやての顔がだらしなく弛んだ。

 

 そう、古夜はあまり人をファーストネームで呼ばない。正確には同年代の異性を、だ。年上か年下しか下の名前で呼ぶことがないのである。

 そんな中で自分だけが名前を呼んでもらえる。これははやてにとって優越感に浸れるものであった。誰にたいしてかは知らないが。

 

 嬉しそうにジンジャエールを口にするはやてだったが、ふと気付いたようにその動作が止まった。

 

「……というか何で私だけこんなこっぱずかしい話してんねん!」

 

 大分ぶっちゃけてしまった。思い直すとすごく恥ずかしい。

 

「なのはちゃんとフェイトちゃんも暴露しいやああああ!!!」

「「キャー!?」」

 

 この後、おっぱいマスターはやての手腕が遺憾なく発揮されたとか。

 

 

 

 

 

 

 

「で、あんたはどうなのよすずか?」

「え?」

 

 すずかは唐突な親友の言葉にまぶたをぱちくりとさせた。

 場所は月村邸のすずかの自室。アリサは久しぶりにすずかの家に泊まりに来ていたのである。

 

「え?じゃないわよ。晃一のことよ。実際どうなの?」

 

 用意されたベッドに寝転がりながら、ニヤニヤと笑うアリサがすずかに尋ねる。

 

「うーん……どうかな?もっと仲良くなりたいとは思ってるけど」

 

 よく分からないかな、と苦笑しながらもそう答えるすずか。

 そんな彼女をアリサはじっと見つめる。どうやら嘘をいっているわけではなく、本音らしい。

 こんな様子ではからかおうにもからかえない。

 

「なぁーんだ、つまんないわね」

「……あとは、たまに襲いたくなっちゃうくらいかなぁ」

「え?」

「うん?どうしたの?」

 

 今、親友の口から信じられない言葉が出てきたような。

え、襲う? すずかが? 晃一を? いやいやそんなまさか。

 

「教えてなかったっけ?私たちの一族って、発情期があるんだよ」

「は、ハツジョウって……」

 

 あの発情のことよね? と自問するアリサ。夜の一族のことは知っていたが、そこからさらにカミングアウトがあるとは。

 

「じゃあ、ちょくちょくあんたが熱っぽくなって生活してたのって……」

「うん、発情期だったんだよ?」

 

 なんてこったい、とアリサは頭を抱えた。体調が変な時があるとは前から思っていたが、まさか親友が、その、アレな状態だったとは。

 

 様々な習い事をしているモノホンのお嬢様といえどやはり生娘。そっち方面に鋭いわけもなかったのだった。

 

「今まではそうでもなかったんだけど。大学生になってから『重く』なってきちゃったんだよね」

「おお……」

 

 『重い』とは、つまり……。アリサの顔が赤くなる。からかうつもりが思わぬ反撃を受けてしまっていた。

 

「お姉ちゃんが言うには好きな人がいるとそうなるって話だけど……」

「けど?」

 

 核心に迫るかと、アリサが続きを促す。

 

「私としては、夜の一族の本能なのか私の本心なのか、どっちなのか自信がないんだ」

 

 すずかはそこで困ったように笑った。

 

「もっとガツンと距離縮めに行けばいいんじゃないの?」

「それは駄目なんだよ、アリサちゃん」

 

 アリサが言ったが、すずかは首を横に振った。

 

「晃一君はね、誰かと深く関わることを避けてるの。たとえそれがはやてちゃん相手でも。彼はそうなることがないように行動してる」

「それは……確かに……」

 

 古夜はいつものらりくらりと放浪している。いつも特定の誰かといることはない。

 

「理由は分からないし、無意識の部分もあるみたいだけど。そんな彼に急に迫ったら、きっと彼は逃げちゃうと思うんだ」

 

 多分、嫌われることはないけど、距離を取られてしまうだろうなと、すずかは思う。他人に興味を持たないのとは違うところで、彼は人との接し方に気を張っている。

 

「だから今は、今まで通り。ゆっくり距離を詰めたいと思ってるよ」

 

 笑顔で言うすずか。

 

「……あんたも色々大変なのね」

 

 アリサはそう言うのが精一杯だった。

 

「……ああでも、晃一君の血は美味しかったなあ」

「とりあえずこの話はここまでにしましょうか」

 

 パンパンと手を叩き、トリップしそうになった親友を先んじて引き戻す。これ以上この話題はまずい。

 

「ほら、飲むわよ今日は!」

「ジュースだよ?」

「気分よ気分!!」

 

――この子、結局は本能でも本心でも晃一が好きなんじゃ?

 

 そんなことを思うアリサであった。

 

 

 




なのははオレンジジュース、フェイトはレモンソーダが好きそうなイメージ。はやては特に思い付かなかったので作者の好きなジンジャエールとなりました。

みんな女の子してる。作者の精神が削られていく。

総合評価が7000を越えました。皆様のお陰です。書き始めたころはここまでに多くの方に読んでいただけるとは思ってませんでした。昔より文章が上手くなっていれば良いのですが……。

とにかく、皆様、本当にありがとうございます。

次話から最終章です。頑張るぞい。


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Last.act 『Soul and Spirit』
40話 バイト


最終章です。どうぞ。


 

――…………。

 

 声がする。また夢だ。

 

――………………。

 

 でもこれは、いつものじゃないほう。最近になって、見るようになった夢。

 

――……………………。

 

 声はこちらに向けてのもの。それは分かるのに、肝心の内容が分からない。

 

 聞いたことがあるような無いような、そんな声。

 

 

 

 結局今回もよくわからないまま、夢は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

「何なんだろうかね」

 

 目が覚め、首をバキバキと鳴らしながら呟く。

 

『? どうかしましたか?』

「いんや、ちょっとゆめにっきをつけた方がいいのか悩んでただけだ」

『それ大丈夫なんですか?』

 

 ジェイドに適当に答えながらも、物思いに更ける。

 

 音じゃなく、あれは確かに『声』だった。何故かそれは分かった。でも内容が分からない、理解できなかった。

 

 ……まるで、斬魄刀だな。内なる自分の力に気付いて、ついには霊も見えちゃったり?

 

 あ、でも十六夜だったらもう見えてるしなあ。あれは特別なんだっけか。

 

 十六夜ってのはリスティの知り合いの霊祓いの人の愛刀、霊剣だ。知ってた? 霊ってマジでいるらしいよ。

 

 てか十六夜ってまさに斬魄刀じゃん。卍解はなんだろう。

 

 思考が逸れてしまった。

 

「まあ、考えたところでどうしようもないことなんだろうな」

『頭、大丈夫ですか?』

 

 とりあえずは保留ということで思考を打ち切る。ピカピカと光り、失礼なことをのたまうジェイドは華麗にスルー。

 

 さ、朝練といきましょうか。

 

 

 

 

 

 

 朝練はランニングが中心だ。距離は数キロ程度。重りも数キロ程度である。

 

「こういちだ!」

「おおう?」

 

 走ってると飛び付いてくる小さな人影。冷静にキャッチする。見ると、黒髪の少女、いや幼女が活発そうな目でこちらを見上げていた。

 

「雫か、おはよう」

「おはよう。血ちょうだい」

「脈絡が無さすぎるぞおい」

 

 何であなたはそう本能の赴くままなのさ。

 

 雫がよじ登ってきて首もとに噛みつこうとする。俺は血を吸われるのは何とも思わないのでされるがまま。

 しかしそこで、てし、と雫の頭に手刀をして止める人がいた。恭也さんだ。

 

 親子でランニングしてたみたいだね。気配がほとんどなかったのにはもう突っ込まないよ。

 

「こらこら雫。だめじゃないか」

「お父さん」

「外でそういうことしたら駄目だってお母さんも言ってただろう?」

 

 雫をたしなめる恭也さん。雫もあまり本気ではなかったのか、大人しく俺から降りた。残念そうではあったが。

 

 しかしこの子こんなに吸血行為をして大丈夫なのかね。こう、覚☆醒みたいなこと起きないんだろうか。カリスマが爆発するとか。

 

「そこんとこどうなんです?」

「俺も忍も問題無いと思ってる。元々必要な栄養補給だからな。それに、雫自身も一族としてのことは理解してるさ」

 

 そう答えた恭也さん。

 ま、この子もその辺はしっかりわかってるか。一族のことがばれるようなヘマはしないだろうな。

 

「力のことは確かに心配だが、血を摂取してれば発育も良くなるからな。俺達も晃一の血なら遠慮せずに飲んでいいと言っている」

「ちょっと」

 

 俺はサプリメントじゃないんですけど。

 

「お父さん大好き!」

「はっはっは、俺も大好きだぞ雫」

「こやつら……」

 

 ジト目で恭也さんを見る。

 娘のために知り合いの血を差し出す父親が目の前にいた。別に構わないけど、なんか釈然としない。

 

「こういちも大好きだよ!」

「はいはいありがと」

 

 まあ、雫の笑顔に免じて不問としますか。

 

 

 

 

 

 

 大学帰り、真っ直ぐ翠屋へと向かう。今日は久しぶりに翠屋でバイトの予定だ。休みの人が出て人手が欲しくなったので忍さんから来てくれとの連絡があったのである。

 

 従業員用の出入口から翠屋に入る。するとそこには、忍さんが仁王立ちして待ち構えていた。

 

「遅いわよ晃一君。五秒で着替えなさい」

「着替えました」

「よし」

 

 流れるような動作、もなくバリアジャケットを使って翠屋の制服に着替える。ジャスト五秒。我ながら完璧だな。

 

「振っといてアレだけど、迷わず魔法使ったわね」

「減るもんじゃないですしおすし」

「まあそうね」

 

 この場には魔法のこと知ってる忍さんしかいないし、別にいいかなって。

 それに今は特段忙しくて時間が無いわけでもない。つまり、忍さんのノリに合わせただけである。

 忍さんもそのつもりだったはずだ。でなきゃここで俺を待ち構えたりなんてしないだろうし。

 

「ま、あなたも来たことだし、これから混み始めるわよ。魔法じゃなくて、ちゃんと制服に着替えてから出て来て」

「あいさー」

 

 時間帯は丁度放課後となった頃。学生達がやってくる稼ぎ時だ。

 

 今度は魔法を使わず制服に着替える。カッターシャツの上にロゴつきの黒いエプロン。シンプルだが結構気に入ってるデザインだ。

 

 着替えたら厨房の方に出て、他の店員と軽く挨拶を交わす。

 

 翠屋の店員は基本的に身内というか、桃子さんや忍さん達の友人なので、全員と顔見知りなのだ。知り合いで固めてるのは、そちらの方が気楽にできるからとのこと。

 

「あら晃一君、来てくれたのね」

「どうも桃子さん、相変わらずお若いですね」

「あらあら、誉め上手ね」

 

 ニコニコと笑う女性。桃子さんである。若い。かなり若い。というか、初めてみたときからまったく見た目が変わってない。この人も実は夜の一族だったとかないよね?

 

「桃子がいつまでも若くて俺も嬉しいぞ」

「まあ、あなたったら」

「いきなりいちゃつかないでもらえます?」

 

 士郎さんの言葉でピンク色の空間が出現。目の前でいちゃつき始めた。万年新婚夫婦とはまさにこの二人のことだな。

 

ケッ

 

「どっち手伝います?」

 

 桃子さんに尋ねる。厨房か、ウェイターか、どちらを手伝うかだ。

 

 独り暮らしやはやての影響で、料理の腕もそれなりになった。その為、俺は人手が必要な方のシフトに臨機応変に入るのだ。

 

「じゃあ、ウェイターの方手伝ってくれるかしら」

「了解です」

 

 丁度お客さんが来たみたいなので、俺が出迎える。

 

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

「3名です」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

 

 笑顔で接客。手慣れたものだ。

 

 あ、この子達の制服聖祥のじゃん。懐かしい。子供から大人までいるけど、やっぱ立地的に学生のお客さんは聖祥生が多いね。大学生らしき人もちらほらといるな。

 

 そんなことを考えながら接客してると、ふと、視線を感じた。忍さんがこちらを見ていたのだ。

 

「どうかしました?」

「いや、晃一君の営業スマイル、気色悪いなって」

「普通に傷つく」

 

 丁寧な接客でしょうが。

 

「ごめんごめん、冗談よ」

「はぁ……あ、いらっしゃいませ」

 

 次のお客さんが来たので接客へ。今度は見知った顔だった。

 

「や、晃一君!」

「どうもエイミィさん。リンディさんにアルフも。カレルとリエラは久しぶりだな」

「こんにちは」

「おっす!」

「「こんにちはー!!」」

 

 ハラオウン一家である。カレルとリエラはクロノとエイミィさんとの子供。エイミィさんの髪の色にクロノと同じ瞳の双子だ。カレルが兄でリエラが妹ね。

 

「晃一君はバイト? 六課の方は大丈夫なの?」

「基本週末しか向こうには行きませんし。今日は臨時の手伝いです」

 

 エイミィさんの質問に答える。そっちも、今日はリンディさん休みなんですね。

 

「ええ。孫と触れ合える時間があって嬉しいわ」

 

 笑顔で言うリンディさん。

 リンディさんは提督を引退し、内勤中心となっている。提督の時と比べたら、そりゃ休みは増えるだろうな。ちなみにエイミィさんも今は育児休暇中だ。

 

「それとすいません、今はカウンター席以外空いてないので待ってもらうことになりますが、大丈夫ですか?」

「ええ、分かったわ」

「「はーい!!」」

 

 リンディさん達は快く了承してくれた。子供達はごねるかと思ったが、教育が行き届いてるらしい。ええ子たちやな。

 

「悪いなちびっこたち。アメちゃんやるから、これで勘弁してくれ」

「「ありがとー!!」」

「アルフはいる?」

「いるー♪」

 

 ちびっこ達にアメを配る。ここら辺はサービスだ。アルフは子供モード、正確には省エネのための子犬フォームの人間モードだが、まあ子供にカウントしていいだろう。

 

「やっぱり晃一君は子供に優しいね」

「子供に優しくするのは当たり前では?」

「いやいや、きっといいお父さんになれるよ」

「ツヴァイにはもうお父さん呼ばれてますけどね」

 

 エイミィさんの言葉に俺は苦笑しながら返した。相変わらずお父さん呼びは変わらない。

 

 席が空いたので掃除をし、ハラオウン家を案内する。

 

「六課の方はどう? 無茶してない?」

「無茶するほど仕事ありませんって」

 

 リンディさんが聞いてきた。実際、向こうに行ってもやることがあるわけじゃないので、無茶のしようがない。

 

 ランスターの件はあったけど。

 

 次のお客も顔見知りだった。バニングスと相良の二人である。月村はいない。この二人で来るのは珍しいな。

 

 忍さんも気になったらしく二人に聞く。

 

「いらっしゃい。すずかはいないのね。デートかしら?」

「やっぱ忍さんもそう思います!?」

「違います」

 

 相良のテンションが高い。あいつはその気で来たみたいだ。尤も、バニングスの方は完全否定してるけど。バッサリ切り捨てたな。相良が崩れ落ちてるぞ。

 

「あれ、晃一の格好。あんた今バイトしてるの?」

「まあな、助っ人だ」

 

 相良のことは放っておいて、バニングスが聞いてきた。

 ちなみにすずかはまだ大学にいるらしい。先に二人で来たとのこと。

 

「ご注文は何でしょうか? うさぎですか?」

「ここ喫茶店よね? あと私は犬派よ」

 

 流石バニングス。突っ込みがキレてらっしゃる。

 

「スマイルください!」

「500円になります」

「そこはプライスレスじゃないのね」

 

 相良にイラッときたんでつい。野郎に言われるとムカつき5割り増しだよ。

 

「ほら透。男の見せどころよ。甲斐性見せなさい」

「アリサ……! よし、その笑顔、買ったぁ!!」

 

 うわこいつマジで払ってきやがった。バニングスに乗せられすぎだろ。男の見せどころが500円っていいのかそれ。

 

 まあ払うと言うなら仕方ない、100%の輝く笑顔を見せてやろう。

 

 キラッ☆

 

『…………うわぁ』

 

 不評だった。

 




不評だったのは普段の主人公と違いすぎるから。初対面の人からは違和感はないです。
頑張って終わらせます。よろしくどうぞ。


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41話 オッドアイ

遅れました。
最近年のせいか涙腺が緩くて困ってます。


 季節はもう初夏。気温は暖かいというよりも暑いという感じになってきた。セミはまだ鳴いてないが、もうすぐやかましくなることだろう。

 

 暑くなってくると、クーラーの効いてる場所にたまるもんだよな、などとどうでもいいことを考える。

 

「となると定番は図書館だと思うんだよね」

「それでここに来るのはおかしいんじゃないかな」

 

 あきれながらも言葉を返してくるのはユーノ。ここ、無限書庫の司書長である。偉くなったもんだ。

 

「だってここ涼しいやん」

「外よりはね。でも快適ではないと思うよ」

 

 それはそうか。なんせ、地図の無い無限の空間だ。遭難者も出るらしいしね。ここを使えるようにするとはユーノ、やはり天才か……。

 

「それで、何の用だっけ?」

「ああ、デバイスの資料返しにきたよ」

 

 何のデバイスかというと六課のフォワード陣の、だ。中々普通のデバイスにはない機能が多かったからね。ここから資料を借りていたのだ。地球には無いから必然的にここで借りることになる。他にもグリーヴァとジェイドの細かい調整のためのものもいくらか借りていた。

 

 バッグから本を取り出す。どの本も専門書だけあって分厚く、重い。バッグが一気に軽くなった。

 

「データだけデバイスに入れて持っていっても良かったのに」

「本に関しては俺はアナログ派なんだよ」

 

 そっちの方が雰囲気出るからね。

 

 資料を渡す。ユーノは確認を済ませると魔法で元の場所へと返していく。流石、司書長だけあって仕事がスムーズだ。

 

「それで、晃一はこれから六課かい?」

「ああ」

「そっか、じゃあもう週末なんだね」

 

 時間が経つのが早いなあ、などと呟くユーノ。お前はじいさんか。いや、ここに籠ってて曜日の感覚が麻痺ってんのか。

 

 といっても休みはしっかり取っているらしい。最近は人員も増え、余裕も昔よりはあるとのこと。つまり、たまたま今忙しいのか。

 

「なんだ、急ぎの仕事でも入ったか?」

「急ぎって訳じゃないけど…………六課関係だよ」

 

 晃一も知ってるでしょ?と言われるが首を横に振る。俺は六課の仕事にはノータッチだからね。今週は忙しかったのかはやてからの通信も無かったし。

 

 六課について俺が知ってるのといえば、レリックを集めてるよーって程度だ。あとは無人機、ガジェットもレリックを狙ってて、そこと争ってることだな。

 

 そう言うとユーノは相変わらずだね、と苦笑した。それに対して変わらないのが俺のみりき、何て返してみる。実際は多少変わってるだろうけどね。

 

「でも、知っといた方がいいんじゃない?」

 

 ユーノが言う。曰く、敵対勢力に関してらしい。敵の情報か。それなら、聞いておこうかね。

 

「この前、六課のフォワード陣がレリックを狙う勢力と戦ったんだ。その相手、ガジェットじゃなくて、戦闘機人だったんだって」

 

 戦闘鬼神?何それ強そ……何かこの流れにテジャビュが。

 

「…………ああ、戦闘機人か」

「あれ、知ってた?」

「一般常識程度ならな。あれだろ?クローニング技術使ったサイボーグ的な。確か、プロジェクトFだっけ」

 

 思い出すのは変態科学者のスカさん。戦闘機人技術の生みの親とか言ってたけど、実際どうなんだろうね。天才っぽくはあったけど、天災っぽくもあったし。

 

 俺が戦闘機人について知っていたことにユーノが意外そうな顔になった。

 

「プロジェクトFのことまで……よく知ってたね」

「まあ、たまたまな」

 

 戦ったこともあるんだけどね。言わない方がいい気がするのは何ででしょうか。

 

 とにかく、ユーノが今調べてるのは戦闘機人について。どうやら以前、ホテル・アグスタで回収した密輸品も戦闘機人関係だったらしい。そういえばそんなことをアコースと話してたような。

 

「まあ、晃一も知ってる見たいだし、大丈夫かな………あ」

 

 思い出した、というようにユーノが手を叩いた。どうした?

 

「そういえば、その時に子供も一人、保護したんだって」

 

 

 

 ○

 

 

 

 空腹を感じる。思ったよりも長居してしまったらしい。適当な店で昼食を済ませてからのんびりと六課にやって来ると、時計はもう3時過ぎを指していた。

 

 取り敢えず一服するかな――煙草吸わないけど――と思いながら休憩室へと足を向ける。

 

「あ、晃一君!」

「ん、はやてじゃないか。それにテスタロッサも」

「こんにちは、晃一」

 

 はやてとテスタロッサだった。どうやら彼女達も休憩室に行くところのようだ。

 

 横に並んで歩く。こうすると身長差が目立つ。高い順に俺、テスタロッサ、はやてである。俺が180センチ近くで、テスタロッサが女性にしては高身長なのもあり、はやてがなお小さく見える。あと結局、俺の身長は180センチに届かなかった。かなしみ。

 

「……?」

 

 休憩室の前まで来たところで、異変に気付いた。なんだか騒がしい。これは……泣き声?

 

 休憩室の自動扉が開く。そこにはフォワードの新人達と、金髪の幼女に泣きつかれている高町の姿が。

 

 高町と目が合う。

 

「……隠し子?」

「違うよ!?」

「相手はユーノか、わんちゃんテスタロッサか」

「「違うよ!!?」」

「いやあああああ!!!」

 

 はやての説明によると、この子が先日保護した子供らしい。六課で面倒を見ることになり、病院から高町が連れて来たそうだ。その時に懐かれたのこと。

 

 金髪の幼女は高町に抱き着いて離れようとしない。どうしたらいいのか分からないようだ。新人達も子供の扱いには慣れていないのか、おろおろと様子を見るばかりである。まあこの子たち自身子供だものね。

 

「エースオブエースにも対処できないこと、あるんやなあ」

『ちょ、ちょっと、たすけて~』

 

 念話で高町が助けを求めてきた。狼狽える彼女を見かねたのか、テスタロッサが幼女の方へと歩み寄った。

 

「こんにちは。あなたのお名前は?」

「ひぐっ……、ぅ……?」

 

 床に落ちていたウサギのぬいぐるみを手に取り、幼女の気を引くテスタロッサ。手慣れている。うまく幼女の興味を引けたようだ。そういえば、テスタロッサはエリオとキャロの保護者だったな。経験が豊富なのだろう。

 

 テスタロッサとの会話を聞くに、幼女の名前はヴィヴィオというらしい。高町が困ってしまうという説得をうけて、次第におとなしくなっていく。相当高町が気に入ったんだね。

 

 やがて、高町からその手が離された。その様子を見ていると、ちょんちょんと誰かに触れられる感触が。はやてだ。

 

『晃一君、面倒見てくれへん?』

『はあ?なんで俺が』

『私、これから聖王教会に行かなあかんのや、なのはちゃんとフェイトちゃんと。年の近そうなエリオとキャロに見てもらうつもりやけど、晃一君がいると安心できるし。……な? お願い!』

『…………貸しだからな、高町』

『え私!?』

 

 当たり前だろう。

 ヴィヴィオに近づく。

 

「ちょっといいかいお嬢さん」

「……?」

 

 ヴィヴィオが怪訝な顔をしてこちらを見てきた。

 

 ――これは。

 

 改めて顔を見て分かった。この子、オッドアイだ。右目が翡翠で、左目が真紅。左目だけ俺とおそろいである。それに――いや、どうでもいいか。

 

 警戒している様子のヴィヴィオに視線を合わせるため腰を下ろす。

 

「ほ~らヴィヴィオ、ちょいと注目」

 

 そういって、ヴィヴィオの目の前で青い球を生み出す。魔力球である。大きさは手の平にすっぽり収まるサイズ。

 

「?」

「これをこうして」

 

 両手で魔力球を包み込み、隠す。そうした後、手を開いて見せると……。

 

「……わぁ!」

 

 ヴィヴィオの目が見開かれた。魔力球の色が黄色へと変わっていたのだ。

 

「……なにしたんですか?」

『俺のレアスキルみたいなもんだよ。戦闘で役立つことはほとんどないけど』

 

 ランスターの呟きに念話で答える。

 通常、魔力光というのは個人で決まっていて、変えられるものではないらしい。だが俺はある程度はこれを変えることができるのである。ロッテリアに指摘されて気づいた。二次元の技を再現するのに重宝している。

 ただ、自由自在ではない。変えれる色には制限がある。変えれなくて悔しい色筆頭が黒だ。月牙天衝と叫びたかった。

 

「ほ~れほれほれ」

「すごい!すごい!」

 

 テスタロッサから受け取った人形を操り、魔力球でジャグリングをする。時折、赤、緑、紫と魔力球の色を変えるのも忘れない。球も魔法で操ってるだけだが、まあ大事なのは見栄えだ。

 

 ウサギのぬいぐるみのジャグリングにヴィヴィオは顔を輝かせる。喜んでいただけたようで何より。

 

「晃一さんも、子供の扱い上手ですね」

「……なんか、すごく意外」

『おいおい、一か月弱とはいえ、キャロの面倒だって見てたんだぞ?』

「……うぅ」

 

 昔を思い出したのか、恥ずかしがって顔を赤くするキャロ。

 

「……ほら、さっさと行ってきな」

 

 ヴィヴィオの機嫌がいいうちに。

 

「ありがとうな、晃一君」

「ヴィヴィオのこと、お願いね」

 

 そうして、はやて達は休憩室を出ていった。

 

「ヴィヴィオ、飴ちゃん食べる?」

「食べる!」

「飴ちゃん常備ですか……」

 

 何とも言えない視線を送ってくるランスター。俺じゃなくて隣見ろよ。飴ちゃん見てナカジマがよだれ垂らしてるよ?

 

 

 

 ○

 

 

 

 聖王教会。永く続いた古代ベルカの戦乱を終結へ導いた人物、聖王を祀っている教会である。

 

 そこに仕える騎士であるカリム・グラシア。はやて達は彼女の元へと来ていた。クロノ・ハラオウンとシスターのシャッハ・ヌエラも同席している。

 

「……それで、話は六課の本当の設立理由、でしたね」

 

 お互い自己紹介を含めた挨拶を済ませた後、カリムが切り出す。そしてクロノが話し始めた。

 

「まずは表向きの理由。これはレリックの対策と独立性の高い少数部隊の試験運用だ。後見人は僕と騎士カリム、そして僕の上官でもあるリンディ・ハラオウン。言わずもがな、僕とフェイトの母さんだね」

「ですが裏では、かの3提督も設立を認め、協力を約束してくださっているんです」

 

 レオーネ・フィルス、ラルゴ・キール、ミゼット・クローベル。時空管理局黎明期の功労者として伝説視さえされてる3人である。ヴィータは普通の老人会などと言っているが、正真正銘、管理局の重鎮だ。

 思わぬ大物が背景にいることを知り、なのはとフェイトの目が見開かれる。

 

「その理由は……私の能力、預言者の著書(プロフェーティン・シュリフケン)

 

 レアスキルについて説明される。彼女のレアスキルは、半年から数年先の未来を預言書として生み出すというものだ。預言の中身は古代ベルカ語の詩文形式であり、解釈によって意味が異なってしまうため、本人曰くよく当たる占い程度とのこと。しかし、大規模事件に関しては的中率が高く、信頼度は高い。

 

「……そして、現在解読を進めている預言がこれです」

 

 カリムが預言を読み上げる。

 

 

旧い結晶と無限の欲望が交わる地

 

死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る

 

死者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち

 

それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる

 

 

 

「……これは」

「……まさか」

 

 

 

――管理局地上本部の壊滅と、管理局システムの崩壊

 

 

「気を付けてください。今回の予言は、少し、変なんです」

 

 神妙な面持ちで、カリムが言う。

 

「もとの古代ベルカ語の文章。これの文法が滅茶苦茶というか、支離滅裂というか……解釈以前に、解読が正しいのかも、正直自信がないんです。ただはっきりと分かるのは、何か大きな事件が起きようとしていること。そして……」

 

 

 

「それは管理局の、次元世界の危機であるということ」

 

 

 




ヴィヴィオとご対面。なお主人公、地球の子供たちのために飴ちゃんを常備してます。
預言はそのままになりました。ただぶれっぶれです。


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42話 強さ

正直に言うと、さぼってました。
申し訳ありません。


 朝。

 

 六課に泊まった俺は、例のごとく朝の鍛錬をしていた。週末は基本ミッドチルダで、六課で寝泊まりしているのである。勿論何かあったときのために眠りは浅くしてるよ?

 

 場所は訓練場ではない。フォワード陣が朝練に使ってるからね。

 

 清々しい空気の中、素振りをする。

 

 黙々と続ける中、ふと、数週間前のことを考える。ヴィヴィオのことだ。

 

 あの後、キャロ達とヴィヴィオの面倒を見た結果、彼女になつかれた。少なくとも、顔を会わせたときに笑顔になってくれるくらいには。あの子超可愛いね。月村家といいハラオウン家といい、俺の子守りスキルが天元突破しそうである。

 

 もっとも、高町ほどではない。高町といるときは本当にベッタリだからな。

 

 そしてはやてからはヴィヴィオの事情について教えられた。こちらが中々深刻だったのである。

 

 ヴィヴィオは、プロジェクトFの技術によって造られた人造生命体だそうだ。しかも元になった遺伝子は何と古代ベルカ時代のもの。

 

 つまり、人造生命体であるヴィヴィオ自身の母親も、元の人物の母親も、存在しない。

 

「……世知辛いねぇ。なあ、高町?」

「わっ!?」

 

 ビクッと、俺の背後で驚く気配。振りむくと、にゃははと誤魔化すように笑う高町がいた。

 

「お、おはよう晃一君。……よく気付いたね」

「おはようございます。気配で何となくな」

 

 恭也さんに比べたら気配の消し方はまだまだだね。俺でも気付けたよ。まあ、消してるつもりもなかったんだろうけど。

 

 そうそう、高町といえば、彼女、ヴィヴィオの保護責任者になったんですよ。でもってテスタロッサがその後見人。簡単に言うと、二人がヴィヴィオの母親になったのだ。2つの違いはよく分からんけど、ヴィヴィオがママって呼んでたからまあ合ってるでしょう。

 

 ……母親が二人て。いやとやかく言うつもりはないけどさあ。……ユーノ、強く生きろよ。

 

「で、どうしたんだ?朝練もあったろうに」

「朝練ならさっき終わったよ。それでちょっと、晃一君にお願いがあって……」

 

 ほう、お願いとな?

 

「うん。ちょっと、訓練に付き合って欲しいんだ」

「えぇ……」

「うわ面倒そうな表情」

 

 だって面倒そうじゃありませんか。

 

 まあまあ話だけでも、と高町が話す。

 曰く、模擬戦の相手をして欲しいとのこと。普段は高町とヴィータがやっていて、暇があればシグナムも参加するとか。テスタロッサは基本忙しいので中々時間が合わず、参加できないそうだ。

 

 ただ新人達には色んな経験をさせたいというのが教導官としての心情。そんなわけで、俺に手伝ってもらいたいらしい。

 

「みんなメキメキ力をつけてきてるし、良い経験になると思うよ?」

「良い経験というか、普通に負けそうでやだ」

「えぇ……」

 

 うわ面倒そうな表情。というか面倒臭い人を見る表情。

 

「まあ模擬戦なら単純だし、ぶっちゃけ最近暇だしいいけど」

「ほんとにぶっちゃけたね。給料泥棒はダメだよ?」

「余計なお世話だ」

 

 しょうがないので了承する。

 

 じゃあ、そろそろ切り上げて朝御飯を食べに行きましょうか。

 

 

 

 

 

 

 約束通り、訓練の手伝いをしに来た。訓練場にはフォワード陣。高町、ヴィータもいる。

 

「というわけで、今回の模擬戦の相手は晃一君です!」

「お手柔らかにね~」

 

 高町はどうやら俺が相手をすることは秘密にしていたらしい。フォワード陣が驚いてる。

 

「晃一さんと、ですか……」

「頑張って勝とうね、ティア!」

 

 スバルが瞳を燃やしているが、ティアナは苦い表情だ。多分、俺とシグナムの戦闘を見たときのことを思い出しているんだろう。八門遁甲は使わないから、そんな心配せんでもいいと思うけど。

 

 ライトニング隊の二人は驚いたくらいだ。いや、キャロは中々にやる気を漲らせている。成長を見せたいのかな? ほほえましい。

 

「晃一君は本気で勝ちにいってね!全力全開で!」

「りょーかい」

 

 全力全開はあなたの専売特許だとは思うんですけど。そういうなら勝ちに行きますよ、ガチで。

 

 模擬戦の相手は俺一人だ。つまり1対4。戦闘フィールドはビル街で、俺は空中に飛んでる状態からスタートである。

 

「ジェイド、準備はいいな?」

『イエス、マスター』

 

 フォワード陣を見下ろし、構える。

 

「それじゃあ、スタート!」

 

 高町の掛け声で模擬戦が始まる。

 

「スバル! エリオ! 打ち合わせ通り――」

 

 

 

「 死 ぬ が よ い 」

 

『――「紅色の幻想郷」』

 

 

 

 空間が、ルナティックな「紅」で埋め尽くされた。

 

 

 

 弾幕が止み、視界がクリアになると、そこには目を回して倒れている4人の姿が。

 

 右手を掲げて、Ⅴサインをして叫ぶ。

 

「勝オオオォォォォ利!!」

「阿保かァ!!」

「あべしっ」

 

 ヴィータにグラーフアイゼンで殴られた。

 

「何すんだよヴィータ。痛いじゃないか」

「思ったより平気そうで腹立つなおい! じゃなくて、開幕ぶっぱしてんじゃねえよ! 模擬戦だぞ!?」

「だって全力全開で行けって高町が言うから……。それにテスタロッサと模擬戦やるときは大抵開幕ぶっぱだぞ?」

「マジかよ……」

 

 マジマジ。高速機動で防御力の低いテスタロッサ相手だと弾幕はかなり効果的だからね。勝ちたいときは大抵使う。

 

 今のはレミリアたんのスペルカードを再現したものである。威力は控えめ、八門は開いてなかったからね。ただしその分、量は申し分なく、難易度ルナティックである。ひたすら物量で押した感じだ。4人もれなくもみくちゃにしてやってぜ。

 

 いやぁ、魔力ほとんど使い切ったわ。実は飛んでるのがやっとだったり。八門遁甲抜きでスペルカードを使おうってんだからしょうがないことだけど。

 

「まったくもう……」

 

 ヴィータに遅れて高町も飛んできた。

 

「どういうことか、説明してよ?」

「どうもこうも、勝ちに行っただけよ?」

「へえ……」

 

 あ、やべえ。これはちょっと怒ってる。なんか目が据わってきた気が。

 

「まあ冗談は置いていて。こういうの経験しとくのも大事だとは思うぞ? 実戦じゃあ何あるかはわからないってのはその通りだと思うし。予想外の事態ってのは絶対に訪れる。そういう時、こういう理不尽なのを経験してりゃ、呆けて動けなくなるのも無くせるだろうからな」

 

 とってつけたように話してはいるが、正真正銘本音だ。実戦で硬直しちまうってのはかなり危険だからな。こういうのに「慣れる」ってのは必要なことだと思う。

 

 ちなみにだが、硬直時間はランスターが一番短かった。ある程度は予測してたんだろう。守りきれてはいなかったが。一人で防ぎきれるほどじゃあないが、それでも3、4人がかりでプロテクション張ってれば防げてた。

 

 一度八門遁甲を見ただけのランスターでも効果は出てる。てんで的外れって訳じゃあないだろう。

 

「……成程ね。……確かに、その通りかも」

 

 高町も納得してくれたようだ。高町の所属する教導隊は打ちのめすのが基本らしいし、納得はしてくれると思ってたよ。

 

「じゃあ私も今度、スターライトブレイカーを経験させようかな。私の一番の大技といったらあれだし」

「お前それは」

「やめてさしあげろ」

「ええ!?」

 

 ヴィータと2人で高町を止める。お前は教え子にトラウマを刻み込むおつもりか。威力控えめの俺の弾幕とは訳が違うぞ。

 

 以前一度だけあれ経験したけど、やばいねあれ。こう、視界がピンク一面になって、気が付いたら医務室だよ? 軽く星をぶっ壊せるってあれ。

 

 納得のいってない不満顔の高町は置いといて、ヴィータがこちらを向く。

 

「高町は置いといて、今度やる時はもうちょい戦えよ?」

「今度あんのかね」

「なきゃ呼んだ意味が無くなっちまうだろうが」

 

 ため息をつくヴィータ。もっと違う戦闘を予想してたのだろう。それはまたの機会に、ということか。

 

 まあ気分転換になったし、たまにならいいかな?

 

 

 

 

 

 

「――なんてことがあったのさ」

「なるほどなぁ」

 

 部隊長室にて、はやてに模擬戦のことを語る。ツヴァイは俺の肩に乗ってビスケットを頬張り、グリフィスははやての後ろに控えていた。

 

「なのはちゃんのスターライトブレイカー体験、フェイトちゃんがおったら必死になって止めてたろうなぁ」

「違いない」

 

 はやての話に笑いながら頷く。昔アレを喰らったせいで、テスタロッサはピンク色が少し苦手らしい。

 

「フォワード陣を瞬殺かあ……自慢の子達やったのに」

 

 はやてがジトッとこちらを睨んできた。実際問題、あれ防がれてたら負けてたけどね。魔力なくてフラッフラだったから。

 

「だからやろかね。六課最強候補に、晃一君も上がってたで?」

「んな馬鹿な」

「本当本当。なあグリフィス君」

「はい。挙げたのはティアナのようですね」

 

 はやてに振られて、グリフィスが答えた。

またランスターか。あいつは俺を過大評価しすぎなんだよなあ。

 

「だいたいなんだその六課最強って」

「言葉通りやね。だれが六課で一番強いかーって、フォワードとメカニック陣が盛り上がってたで」

 

 私のところにもティアナが来たんよ、とはやてが話す。

楽しそうで何よりです。

 

「で、なんて答えたんだ?」

「私は弱いよーって。フルバックやしな」

「歩くロストロギアが何言ってやがる」

 

 魔力量は高町すら凌ぐ夜天の主様じゃないですか。

 

「ツヴァイもいるしなー」

「はいです!」

 

 耳元で元気な返事が帰ってくる。はは、愛い奴め。

 

「晃一君だって、聞かれてたら弱いよーって答えてたんやろ?」

「事実弱いだろ。隊長陣との模擬戦は余裕で負け越してる」

「うちのシグナムのこと吹っ飛ばしといて何言うとんねん」

 

 同じようにはやてに返された。グリフィスが目を見開いて驚いてる。やっぱり俺が隊長陣に勝てるってイメージは無いんだろうね。いや、どちらかというと隊長陣が負けるイメージが無いのか。

 

 それにシグナムの件というか、八門遁甲は例外だろ。『死門』まで開けば、多分八神一家まとめて相手にしても勝てると思うけど、反動が大きすぎる。

 

 そんなことを考えてると、はやてがパンと手を叩いた。

 

「あ、それじゃ晃一君。『自分より強い相手に勝つためには、相手よりも強くなければならない』ってどういうことでしょう」

「『勝てるとこに勝負どころを持ってくる』ってことだろ」

「即答かい」

 

 俺の即答を受け、少しだけ残念そうにはやてが言った。答え知ってたからね。ヒル魔がそう言ってたもん。あれ言ったのヒル魔だったっけ?よく覚えてないや。

 

 カードの弱さをカードの切り方でカバーする。はやての質問の答えにはなってるだろう。

 

「でなに?その言葉遊び」

「なのはちゃんとフェイトちゃんが昔教えられた言葉なんやって。なのはちゃんがフォワード陣に言ってたんや」

「へえ……先生してんだね、高町」

「ずっと教導のこと考えてるですよ」

 

 仕事熱心だこと。

 

「それにしても、晃一君がフォワード陣の相手をしたんやね。珍しい」

「最近は暇だったしな」

 

 デバイスルームでデバイスいじんのにも飽きてきたというか、やること無くなってたからね。

 

 それに、とコーヒーを一口飲んだ後、話す。

 

「来月、でかい仕事があんだろ?そんくらいは手伝うさ」

「……晃一君」

 

 地上本部公開意見陳述会。来月のビッグイベントだ。詳しいことはよく分からんけど、管理局のお偉いさん達が地上本部に集まるらしい。

 

 六課もこれには関わっている。はやては部隊長として参加するし、フォワード陣はこれらの警護の仕事があるのだ。

 

 はやてによると、この時のために六課が設立されたと言っても過言ではないらしい。なんでも、カリムさんのレアスキルで大規模テロが予測されたとか。それが起こるタイミングとして、陳述会が有力なのだとか。

 

 管理局員じゃない俺はこれには関われない。関わるつもりもないけど。ただ念のための戦力として、六課には待機する予定だ。もとよりはやてはそのつもりで俺を雇ったそうだ。

 

「だけどまあ、付き合い長いしな。少し手を貸そうってくらいは、俺だって思うさ」

「ありがとうです、お父さん!」

「はいはい、どういたしまして」

 

 ツヴァイを撫でる。

 

「……なんや、晃一君には世話になってばっかりやなあ」

「……こんだけ付き合い長いのに、今更だろ」

 

 自然と目が合い、笑う。いつかもあったやり取りだ。

 

 

 

 大丈夫。お前らなら、どうせ大丈夫だよ。

 

 

 




フェイトとの模擬戦に使われるスペルカード筆頭が勇儀姐さんの「三歩必殺」です。初見殺しの極み。

感想批評誤字報告お待ちしております。


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43話 その日、その男(前編)

――…………。

 

 音、いや『声』が聞こえる。

 

 またかと、俺は内心ため息をついた。夢の中でここまで意識がはっきりしているのも珍しいと思う。

 

 よく分からない空間のなかで、よく分からない声が聞こえてくる。こちらの方は、最近になって頻度が増してきた。

 

――…………。

 

 以前よりも、見るたび聞くたびに声が明瞭になっているのがわかる。それに、頻度が増すのと同じようにクリアになっている気がする。

 

――…………。

 

 いや。

 

 今までとは違う。これはただクリアになっているんじゃない。

 

 『声』の意味が理解できそうな気がするのだ。まるで外国語から日本語に変わったかのような、そんな感じ。

 

 そこまで考えたところで、ふと気づく。

 

 目の前に、いつの間にか『影』がいた。

 

 思わず身構える。夢だというのに。

 

 そうして、眼前の『影』は――。

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

 はっと、目を開く。

 

 目に入ってくるのはカーテンの隙間から入ってくる陽光。聞こえてくるのは声ではなく、小鳥のさえずり。

 

 どうやら、夢から覚めたらしい。

 

 「…………ふう」

 

 横になったまま、微かに乱れていた呼吸を整える。賢者タイムとかそんなんじゃないです。

 

『おはようございます、マスター』

『おはようございます』

「……ああ、おはよう」

 

 ゆっくりと体を起こし、デバイス達と挨拶を交わす。

 

『……大丈夫ですか?顔色がよろしくありませんが』

「……いや、問題ない」

 

 ジェイドにそう答え、ベッドから出る。

 

……気、引き締めなきゃな。

 

 着替えながらも、静かに気合いを入れる。

 

 今日は、地上本部の陳述会だ。

 正確には明日なのだが、警備は前日から行うということで高町達は今日から出発する。それに合わせて俺も今日から六課に出るのだ。

 

 平日だが、しょうがない。今日は授業が終わり次第ミッドチルダに向かうつもりだ。多少遅くなってしまうが、高町達が地上本部へと出発する頃には着くだろうし、問題はないだろう。

 

 朝食を食べた後、ランニングへ。その間も、どうしても夢のことを考えてしまう。

 

…………あの夢の最後。『影』から聞こえてきたのは。

 

 

 

 永く聞くことの無かった、『俺』の名だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大学での授業が思ったよりも長引いてしまった。いや単に俺が課題の存在を丸っと忘れてしまっていたのだが。月村に見せてもらい、ぎりぎりのところで提出できた。ここら辺のミスは滅多にしないので変に心配されちゃったよ。

 

 そんなこんなのことがあり、六課に着くころにはもう大分遅い時間となってしまった。

 

「あ、晃一君。遅かったやないか!」

「悪い悪い」

 

 外、ヘリポートにはやて達が集合していた。ざっと見渡してみたが、高町達はいない。直ぐに出発しそうなヘリも無いので、どうやらフォワード陣はもう出発したようだ。

 

「なのはちゃん達なら、たったいま出たとこやで」

「ありゃ、やっぱり少し遅かったか」

 

 入れ替わりになったっぽい。

 

 はやて、シグナム、そしてフェイトはまだいる。向こうに行くのはフォワード陣出発の9時間後、つまりは明日らしい。

 

「……で、なんでヴィヴィオがいるんだ?」

「……こーいち」

 

 とてとてと、眠そうに目を擦りながらもこちらへ寄ってくる幼女。寮母で普段ヴィヴィオのことを看ているアイナさんもいる。

 

「もうおねむじゃないのかヴィヴィオ。どうしたんだ?」

「……ママが」

「ん? ああ、高町か」

 

 少ないヴィヴィオの言葉から察するに、高町のことが心配になって出てきたのだろう。

 

「よっ……と。それで、見送りはできたか?」

「うん。約束した」

「そかそか、よかったな」

 

 ヴィヴィオを抱き上げ、話を聞く。約束の内容は聞かない。ぶっちゃけ聞いてもそっかで終わるだろうし。

 

「それじゃ、ヴィヴィオはいい子でお留守番してなきゃな」

「うん!」

「なんや、そうしてると親子みたいやなぁ」

 

 俺とヴィヴィオの様子を見て、はやてがそんなことを言ってきた。

 それを聞いてヴィヴィオがこちらを見てくる

 

「……こーいちママ?」

「なんでやねん」

「ぷはっ」

 

 素で突っ込んでしまった。はやては腹を抱えて笑うのを必死にこらえている。なんかデジャビュを感じるぞこれ。

 

 いや正直流れ的にパパと呼ばれるのは覚悟してたよ?それなのになんだよ、ママって。

 

 ……まあ恐らく、本人は親子と言われて高町達と同じようにで呼んだつもりだったのだろう。

 

 変に誤解を生まないよう、ゆっくり言葉を選んで語りかける。

 

「……ヴィヴィオには、なのはママとフェイトママがいるだろう?」

「?うん」

「じゃあ俺はママじゃないなあ。ママは充分いるじゃないか」

 

 充分すぎると思うけど。色んな意味で。

 

 ヴィヴィオはあまり理解してないようだったが、取り敢えずママ呼びは止めれた。ツヴァイの前例があったので正直ほっとしてる。

 

「でも、ほんとに親子みたいだよね」

 

 今度はテスタロッサがそう言ってきた。

 

「テスタロッサまで言うか」

「だって、ヴィヴィオと晃一、似てるもん」

 

 似てるか?そもそも俺は金髪じゃないし、テスタロッサの方が似てると思うがね。

 

「なんとなく、顔のパーツがというか……。それと、瞳の色」

「…………」

「ヴィヴィオは右目が翡翠で、左目が真紅でしょ?晃一も左目は真紅で同じ色だし、こっちにいる時は右目にはジェイドをつけてる。そっくりだよ」

 

 …………まあ、確かにね。

 

「でも俺はママじゃない」

「それは、うん。…………ふふっ」

 

 お前も笑ってんじゃねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 9時間後。9月13日、未明。はやて達の出発時間となった。

 

 場所は再びヘリポート。出発待機中のヘリがプロペラをうるさく回している。

 

 先程とは違い、ヴィヴィオはいない。まだ寝ているからね。

 

「残念だったな、可愛い見送りがいなくて」

「平気だよ。……うん、ほんとに」

 

 テスタロッサを軽くからかうが、全然平気そうじゃねえなこれ。

 

 六課スタッフ達の見送りを受け、ヘリに乗り込んでいくはやて達。シグナムが乗りテスタロッサが乗り、最後がはやてだ。

 

 乗り込む前にこちらを向くはやて。

 

「それじゃ、私達も行ってくるわ」

「おう」

 

 …………………………。

 

「……なんか、もうちょいないんか?幼馴染にエール的なのは」

「ファイトだよ!」

「もうちょい心込めて言って」

 

 ため息をつくはやて。テスタロッサから若干非難の視線が送られてくるが、無視。シグナムはやれやれといった表情だ。

 

「……六課のスタッフは優秀なんだろ?」

「うん」

「それに向こうには高町達がいる」

「うん」

「だったら、大丈夫だろう?精々、頑張ってきなさいな」

「……うん」

 

 頷くはやて。

 

「晃一君」

「なんだ?」

「……頼んだで」

「まかせな」

 

 こうして、はやて達は地上本部に向けて出発。

 

 

 

 陳述会が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 それから、暫くの時間が流れた。

 

 陳述会はもうスタートしているだろう。休憩室にてテレビをつけてみれば、生中継で地上本部の様子が流れていた。

 

 司令部、ロングアーチは現地の高町達と連絡を取ったりで忙しいが、一介の嘱託魔導師にすぎない俺はやることがない。自然とテレビを眺めることになる。

 

「何も、起こらなければ良いのだがな」

 

 ずっと流れているリポートを見ながら、ふとザフィーラがそう呟いた。

 

「起こるよ、絶対」

 

 断言する俺。ザフィーラが僅かに目を見開く。

 

「……なにか、心当たりでもあるのか?」

「いんや、何も」

 

 何度も言うが、俺は犯人の事は聞いてない。戦闘機人が相手ってのは流石に知ってるけどね。

 

 ……訂正。戦闘機人が相手となると、若干心当たりが無くもない。けどまあ、俺が知ってる程度の事ははやて達だって知ってるだろう。

 

 テロが起きるかどうかには関係ない。

 

「ただ、『予言』があって、『そのためにあいつらが動いてる』んだろう?……なら、絶対に事は起こる」

 

 

 

 

 

『見てください! 地上本部に向けて謎の無人機が!! ……ああっ! 砲撃まで!』

 

 ほら。

 

 中継映像がにわかに騒がしくなる。映るのはかなりの数のガジェットドローンに、煙を上げる地上本部。中の様子も映るかと思ったが、映像が途切れてしまう。一気に砂嵐。

 

「……まさか、本当に来るとは」

「そうね」

 

 まあ来るとは思ってたけど。

 

 他の番組でもっと情報を得られないかとザッピングしてみるけど。どこも似たり寄ったりだ。

 

 ロングアーチに聞けば一発だろうけど、今頃大忙しだろうし。局員じゃない俺が聞くのもどうかと思うしな。

 

「どうやら地上本部が強力なハッキングを受け、中枢との連絡が取れなくなってしまっているらしい。他にも戦闘機人からの攻撃などが報告されている。今は警備にあたっているフォワード陣が緊急時の集合場所に向かっているところだそうだ」

 

 ザフィーラがロングアーチスタッフの一人から情報を聞き出してくれたみたいだ。懇切丁寧な説明どうもありがとう。

 

「フォワード陣とは連絡取れてるっぽいけど、地上本部にハッキングとかやべえな。よほどのプロか、あるいは――」

 

 そこで、言葉は途切れた。

 

 鳴り響くアラート。直後にロングアーチからのアナウンスが入る。

 

『こちらに高速で接近する無人機群を確認!敵襲です!!』

「……まじかい」

 

 こっちにまで来るのか。想定してなかったわけじゃないけど、ちょっと意外。

 

 慌ただしくなる機動六課。敵襲だから当然か。地上本部と同じく、ここが攻められることは無かったしな。

 

『晃一さんとザフィーラさんは最前線で迎撃お願いします!シャマルさんは他の戦闘員のサポートを!』

『りょーかい』

『心得た』

『わかりました!』

 

 バリアジャケットを展開し、ザフィーラと共に外へと向かう。

 

「……あ」

「おっと」

 

 休憩室を出ると、ヴィヴィオがいた。アイナさんといっしょだ。避難するところだろう。

 

 ヴィヴィオに袖を掴まれた。

 

「こーいち、大丈夫?」

 

 不安そうなヴィヴィオの顔。

 

 幼い娘を危険な目に遭わせてしまうというのは申し訳ない。安心させるように頭を撫でる。

 

「……ヴィヴィオは自分とママ達の心配してなって」

「……こーいちも、ザフィーラも」

「アイナさん。頼んます」

「ええ」

 

 アイナさんに連れられていくヴィヴィオ。

 

 最後の『も』って、俺らのことも心配してくれるってか?あの娘良い娘すぎるでしょ可愛いなぁ。

 

「こりゃ頑張らないとねザッフィー」

「ザッフィー言うな」

 

 

 

 

 

 ザフィーラと外に出ると、だいぶ先の方からたくさんの点滅する光が近づいてくるのが見えた。もう捕捉されてるとはいえ、こそこそ隠れる気はないみたいだな。

 

 テレビに映っていた無人機達に負けず劣らずの数。

 

 暗くなった空に浮かぶガジェットドローン達。その先頭にいるのは二人の戦闘機人。

 

 グリーヴァを向け、口を開く。

 

 

 

「ようこそ、機動六課へ」

 




Party out → シャマル

Party in → 主人公

主人公がいれば多分こうなってたんじゃないかと。多分。

多分後編へ続く。


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44話 その日、その男(後編)

大ボリューム(当社比)

(笑)


 身構える俺とザフィーラ。

 

 しかし、意外にも戦闘機人二人が攻めて来ることはなく、前方で静止している。

 

「古夜晃一、ですね」

 

 戦闘機人がそう言った。

 名前が知られている。そのことに俺は眉を潜めた。攻めてこないことといい、どうしたもんかと戦闘機人を見る。

 

 どちらも髪は暗めの茶色で、一人がロングで一人はショートだ。顔立ちは似ている。双子だろうか。いや、相手が機人ならクローンの可能性の方が高いか。

 

 その片方、髪の短い方が手を前にかざすと、その先に大きなスクリーンが現れた。そこに映るのは紫色の髪の男。

 

『いやぁ〜乱世乱世。新暦74年のミッドチルダのお話。天才、スカさんのガジェットを連れた娘達が管理局地上本部の中を駆け回――』

 

 魔力刃をぶん投げた。

 

 ほんの一瞬だけ顔が真っ二つになるが、ホログラム映像なのですぐに元に戻ってしまう。男の顔が再び映し出される。

 

『何をするんだい晃一君。当たらないとはいえビックリするじゃないか』

 

「まず俺はお前に名乗った覚えは無いんだけどねスカさんや」

 

 ザフィーラからの視線が痛い。

 

『……晃一、お前』

 

『いやいや違うよザッフィー俺は無実だよ』

 

 念話でザッフィーに言い訳をする。別に俺はあいつらの味方じゃないし手伝ったりなんかもしてないです。更に言えば名乗ってすらいなかった。

 

『いやー中々情報が集まらないと思ったら、君、正確には管理局所属じゃなかったのだね。道理で管理局にハッキングしてもほとんど情報が得られないわけだよ』

 

「普通にハッキング言いやがったぞコイツ」

 

 地上本部もハッキングされてるし、大丈夫なの管理局の情報管理。あ、でもあれか。どっちもこいつらの仕業か。こりゃもうだめかもしれんね。

 

「やっぱスカさんがこの騒ぎの犯人なのか」

 

『おや、逆に今まで知らなかったのかい?』

 

 知らなかったよ。ノータッチだよ。でも戦闘機人の話は聞いてたし、なんとな~くはね。

 

 まあ正直、うすうす感づいてはいた。

 

「……で、地上本部に喧嘩吹っ掛けたばっかのスカさんはここに何の用なのかな?」

 

 俺がそう聞くと、画面の向こうのスカさんはにやりと笑みを浮かべた。

 

『色々、だよ。これから邪魔になりそうなここの施設を破壊しておきたかったのもあるが……晃一君のことも気になってね』

 

 うへえ、俺も理由に入ってんのかい。

 

 

 

『単刀直入にいこう。晃一君、そっちではなくこっちを手伝う気はないかね?』

 

 

 

「……本当に単刀直入にだね」

 

 スカさんが切り出してきたのは、端的に言えばスカウトだった。

 

「この状況で人材発掘とは、アホなのスカさん?」

 

『おや、待遇は保証するよ? 三食昼寝におやつは約束しよう』

 

「控えめに言って馬鹿にしてるね」

 

 ククク、と笑うスカさん。このやり取りを楽しんでいるのだろう。心底楽しそうに笑っている。

 

『さあ、どうかね晃一君?』

 

 ふむ、と構えたまま考える。

 

 スカさんは笑みを張り付けたまま。しかし分かる。あれは本気の目だ。

 好みの問題で言えば正直な話、管理局に所属するよりは良いと思ってる。じゃあリスク、リターンはどうか。

 

 ザフィーラや戦闘機人二人の注目も俺に集まる。

 

 数秒の思考ののち、俺は――

 

 

 

「断る」

 

 

 

 力強く、宣言する。

 

 スカさんは顔に笑みを張り付けたままだ。

 

『理由を、尋ねてもいいかな?』

 

「犯罪者になるつもりは無い」

 

 割と真面目に色々考えはした。でも結局、それ以外に理由なんていらないでしょ。誰が進んで法を犯す真似をしなくちゃならないんだっていう話。

 

『ルールは破るためにあるものだろう?』

 

「だが約束は守るためにあるものだ」

 

 スカさんの言葉に即答する。

 お留守番は任されちゃったからね。俺はこう見えても、仕事には誠実なんです。

 

 約束を守らずに犯罪者ルートなんて、そんなダサい男にはなりたくはない。

 

『……残念だよ。君とは良い酒が飲めると思ってたのだがね』

 

「それに関しては同意するよ。どう? テロ止めて世界お花畑計画でもやってみない?」

 

『大変魅力的だが、遠慮するよ』

 

 俺からの提案も断られてしまった。そこで、笑みばかりだったスカさんの顔から表情が消える。

 

『私は、結構本気で管理局を潰したいのでね』

 

「そりゃ残念」

 

 良いと思うんだけどね、ロ〜〜〜マンティックで。

 

 お互い交渉は決裂。ならば残る道は一つ。

 

 ホログラム映像が消え、戦闘機人が構える。俺もグリーヴァを構え直す。

 

 

 

――ただ、ぶつかるのみ。

 

 

 

 

 

 

 戦闘が始まった。

 

 髪が長いの方の戦闘機人、ディードが双剣で斬りかかり、古夜は左手に出した魔力刃と右手のグリーヴァで受け止める。

 

『俺は前衛、ザフィーラは後衛頼む』

 

『了解した!』

 

 刃をぶつけ合い火花を散らせながらもザフィーラと念話を交わす。そして数回斬りあった後、鍔迫り合いとなった。

 

「やりますね」

 

「ッ!クソが」

 

 無表情でそう言ったディードに古夜は舌打ちを返した。左手の魔力刃の方にヒビが入っていたのだ。グリーヴァに力を込めディードを押し飛ばし、ヒビの入った魔力刃をガジェットへと投げ付ける。

 

 爆発でガジェット数機が破壊されるのを尻目に古夜は素早く退避。直後、魔力弾が殺到した。もう一人の戦闘機人、オットーが放ったものだ。

 

『向こうも前衛と後衛に分かれてるみたいね』

 

『そのようだな』

 

 施設を破壊しようとするガジェットを相手にしているザフィーラと戦力を分析する。奇しくもお互い前衛一人に後衛一人のようである。

 

 ただし、戦闘機人側には大量のガジェットがいるが。

 

『俺ができるだけ戦闘機人二人を抑えるから、ガジェットは頼むよ』

 

『後衛の方は無理して相手取る必要はない。そのかわりガジェットは晃一も頼む』

 

『あいさー』

 

 素早く作戦会議を終わらせ、再び古夜とディードが刃を交える。しかし、先程と同じように古夜の魔力刃にはヒビが入ってしまう。やはりディードの武装に対してはただの魔力刃では強度が足りないようだ。

 

「二刀の練度は負けて無いと思うんだけどねッ!」

 

「ぐっ!?」

 

 二刀流のことを口にしながらも、古夜は虚空を踏み締めディードを蹴り飛ばした。そしてオットーが放つ魔力弾を掻い潜り、カートリッジをリロード。

 

「剣伎「桜花閃々」!」

 

 空間を切り刻むようにグリーヴァを振るいながら突進。後退したディードに畳み掛けるようにして攻める。

 

 この技は魂魄妖夢のスペルカードを参考にしたものだ。普通の弾幕とは違い、カートリッジの魔力が主体なので魔力を節約しつつも範囲攻撃を行うことができる。ベルカ式主体なので威力は高いが、反面、ミッド式で放つ弾幕よりも攻撃範囲がイマイチという側面を持つ技だ。

 

 斬撃の弾幕に巻き込まれたガジェット達が爆発。古夜はディードの方を睨むが、弾幕に当たった様子はなく、ダメージが入った様子もなかった。

 

『避けられた、か』

 

『ああ。初見のはずだが、やけに動きに迷いがないというか、視野が広い。もしかしたら二人で視野を共有してたりするかも』

 

 そう分析する古夜。

 

 先程の弾幕は範囲こそ普段のものに敵わなくとも、密度はそれなりであった。死角から殺到するものもあったはず。そのため、古夜はディードが別の視点を持っているはずと予想したのだ。

 

――ペイン六道的に考えて。

 

『どうだ、晃一?』

 

『……正直、厳しいね。戦闘機人二人だけならともかく、ガジェットが多すぎる』

 

 古夜が考えていたのはもう一つ。八門遁甲を使うかどうかだ。

 

 八門遁甲を使えば、戦闘機人二人か、あるいはガジェット群のどちらかは確実に無力化できる。しかし問題はその後だ。どちらかを無力化した後、古夜は使い物にならなくなってしまう。

 

 それでは六課を守りきれない。

 

「――IS発動」

 

 そして古夜達の念話を断ち切るように。

 

 オットーの右手が魔力で輝く。今までとは明らかに違うその魔力に古夜とザフィーラの顔色が変わる。

 

「まず――」

 

「レイストーム」

 

 閃光に包まれ、轟音が響いた。

 

 オットーが放ったのは数本のレーザー。光の帯がうねり、空中の古夜や機動六課を襲ったのである。

 

『ザッフィー、大丈夫?』

 

『……ザッフィー、言うな』

 

 オットーによる攻撃が収まったとき、古夜はレーザーがかすったのか右肩から血を流し、ザフィーラは大きく息を乱しながら立っていた。

 

 六課には、被害が少ない。ザフィーラが守ったのだ。

 

 ただの砲撃ではない、圧縮された光線である。当然の事ながら貫通力は高い。『盾』で防ぐのはかなりの負担だ。

 

『連続で放たれたら、守りきれない』、古夜とザフィーラが同じ考えに行き着く。

 

 だが、休ませてくれるほど敵は優しくない。

 

「IS発動、ツインブレイズ」

 

 刹那、背後から2つの刃が古夜に殺到する。ディードが固有技能を使ったのだ。

 

 高速で死角にまわってからの、強力な斬撃。

 

 墜とせる、そうディードは思った。――が。

 

「なッ!!」

 

「……見えてるぜ、戦闘機人」

 

 飛び散る火花。そして不敵に笑う古夜。彼は両の刃を確かにグリーヴァで受け止めていた。

 

 回るようにして背後のディードをはじく。

 

 古夜が初見で防げたのは単純に高速で動く相手に慣れていたからだ。テスタロッサしかり、なのはの兄の恭也しかり。

 

「……なんだ。思ったよりも表情豊かじゃねえの?」

 

 再びディードと向かい合った古夜の目は、彼女の顔が僅かに、だが確かに悔しそうにしているのを捉えていた。

 

 

 

 一進一退の攻防が続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古夜の頬から汗が一滴、落ちていく。

 

 戦闘開始から、大分時間がたった。幸いにもまだ六課に大きな被害は出ていない。ザフィーラの守護のお陰である。

 

 ガジェット達の数も減らせたが、古夜達も無傷ではない。直撃こそ受けてないものの、少なくない数の傷を負っていた。

 

 そして何より、消耗が激しい。戦闘機人二人とは疲労の度合いが明らかに違うのだ。

 

 これは古夜とザフィーラが一番優先させなければならないのが六課の守護だからである。どうしても攻めより守りがメインとなるのだ。

 

「でも、ガジェットどもはあらかた片付いた」

 

 ここから六課の施設破壊は厳しいだろうと、そう判断する古夜。ザフィーラも同意見であった。

 

「……予想以上に、やりますね。仕方ありません」

 

 ディードがそう言った、その数秒後。

 

「……なぁにそれぇ」

 

「召喚魔法!?」

 

 突如現れた魔方陣から、ガジェット達が現れたのだ。一機ではなく、大量に。古夜の頬がひきつる。

 

「まさか、例の召喚師がいるのか!?」

 

「……それって、なんか前キャロが遭遇したとか言ってた?」

 

 古夜の質問に頷くザフィーラ。

 彼等の言う召喚師とはルーテシアといい、六課からはスカエリッティの協力者と認識されている少女である。

ディード達は彼女と連絡を取り、増援を呼んだのだ。

 

 数を増やしたガジェット達が再び攻撃を開始する。

 

「くっそが!」

 

 否応なしに戦いが激化する。

 

 ガジェットを破壊しつつ戦闘機人二人を相手取る古夜と、六課を守りつつガジェットを破壊するザフィーラ。

 

 必死の防衛戦が続くが、戦力差というものは大きく、次第に押されはじめてしまう。

 

――妙だ。

 

 劣勢の中、眉間に皺を寄せ、縦横無尽に飛び回りながらも古夜は考える。

 

 いくらなんでも戦力を六課に割きすぎだ。あのガジェットの量といい、協力者である召喚師が来ていることといい。まるでこっちがメインではないか。

 

 いや流石にそれは違うはず。管理局を潰す気なら、地上本部を壊滅させる方が重要のはずだ。

 

 では、こういう時はどういうパターンか?

 

 …………地上本部の壊滅と同じくらい重要な目的がこっちにある、かも?

 

 では、それはなにか?

 

 こんな時は特異点が怪しいというのがお約束。一番に挙がるのは、自分か。でも俺への用件はもうすんだはず。なら他。普段の六課とは違う、あるいは違うであろう要素。

 

「……ヴィヴィオ!!」

 

「ぐぉあああ!!」

 

「ッ!! ザフィーラ!!」

 

 古夜が答えに至ったところで、ザフィーラが吹き飛ばされてしまう。オットーのレイストームに対し、とうとう『盾』が限界を向かえたのだ。

 

「くそっ!!」

 

――第六 景門 開

 

 ザフィーラのカバーするため、八門遁甲を使う古夜。

 

 戦闘機人達の目的は施設の破壊だけじゃなく、主力の気を引くこと。そしてその間に別戦力、恐らくは召喚師がヴィヴィオを確保する。

 

 そこまでは分かったものの、余力はない。情けないなと悪態をつく。

 

――シャマル達を信じるしかない。俺はここを守らないと。

 

 底上げした魔力を放出する古夜。

 

「レイストーム」

 

『境符「四重結界」』

 

 巨大な壁が現れ、オットーやガジェットの攻撃を防ぐ。

 

「……それが切り札か」

 

「おおおおッ!!」

 

『桜符「完全なる墨染の桜 -開花-」』

 

 六課の前に現れる巨大な扇。そこから放たれる藍と紫の弾幕。西行寺幽々子のスペルカードだ。

 

 桜吹雪のごとく魔法弾が吹き荒れ、ガジェット達が破壊されていく。

 

「……んのやろうッ!」

 

 しかし、戦闘機人二人を撃墜させることはできなかった。

 

 二人は弾幕を見るや否や後退、ガジェットを固めAMFを全開にすることによって防いだのである。流石に防ぎきることはできず、多少の被弾はあったようだが、決定打とはならなかった。

 

 スペルカードルールとは違い、当てただけでは勝利じゃない。

 

「まだまだ……!」

 

――『式神「十二神……

 

「ぅあ゛……ッ!?」

 

 リンカーコアが軋み、悲鳴をあげる。ふらつき、血を吹き出す古夜。八門遁甲の反動が来たのだ。

 

 以前よりも反動が来るのが早い。それは元々魔力を消費してたからか、リンカーコアの限界だったからか。

 

 立つことすらままならない古夜に、倒れ伏したザフィーラ。二人を見下ろすオットーとディード。

 

「二人でよくここまで守ったものだ。だがそれもここまで……」

 

 冷酷に、オットーが告げる。

 

 そして。

 

「諦めろ」

 

『マスター!!』

 

 ISを発動したディードが、古夜の左腕を斬り飛ばした。

 

 

 

 

 

――決まった。

 

 ディードは確信する。

 

 視界の端に映るのは、宙を舞う古夜の左腕。咄嗟に動かれ体に食らうのは避けられた。だが既に多く数の傷を負い、さらには自分の技の反動で苦しんでいた。これで、倒れる。

 

 ディードの予想通り、左腕を失い、ぐらりと体勢を崩す古夜。そしてディードは倒れていく古夜と目が合い……。

 

 

 

 突如、得体の知れない感覚が彼女を襲う。

 

 

 

 手足が熱を失っていき、心臓が大きく脈打ち、背中に冷たいものが走り、口の中が乾く。

 

 今までは、姉達との模擬戦では決して感じることのなかった感覚。

 

「……俺が」

 

 気付くと、倒れようとしていた古夜の右手に、蒼い魔力が集まり魔力弾が生み出されていた。

 

「っ!!」

 

 反射的に双剣を振るう。

 

 しかし。

 

「なっ!?」

 

「諦めるのを」

 

 古夜に当たる直前で双剣が何かに阻まれる。間にあったのは、なんと直径数センチ程しかないプロテクション。古夜は極限まで小さく、圧縮させたプロテクションで受け止めたのだ。

 

 思わぬ形で攻撃を防がれ体勢が崩れるディード。大きく一歩、古夜が踏み込む。

 

 

 

「 あ き ら め ろ 」

 

 

 

 蒼い魔力が吹き荒れた。

 

「ディード!!」

 

 古夜の攻撃が直撃しディードが吹き飛ぶ。オットーは回り込み、彼女を受け止めた。

 

――第七 驚門 開

 

「よくも、ディードを…………ッ!?」

 

――『反魂蝶ー八分咲ー』

 

 

 

「ああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 弾幕が、六課の空を埋め尽くした。

 

 

 




ディードが感じたのは「恐怖」です。恋ではないのであしからず。

最後のを書きたくてこれを書き始めたと言っても過言ではない(二回目)
言ってないだけでまだたくさんありますが。

感想批評その他諸々お待ちしております。


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45話 夢、そして追憶

めりーくるしみます


 管理局本局の、とある病室。その部屋のベッドに、一人の男が寝ていた。全身に包帯が巻かれ、ピクリとも動かないまま眠っている。

 

 その傍らにはやてはいた。地上本部襲撃にジェイル・スカリエッティの捜査で忙しい中、少しでも時間があるときはここを訪れているのである。

 

 地上本部公開陳述会から数日。未だに古夜の容態は優れない。

 

「……晃一君」

 

 古夜の頬を撫でるはやて。

 

 傷は、一番ひどいのが左腕。それ以外でひどい外傷は無いらしい。問題は、内部のダメージ。七門まで開いた反動というのは大きく、リンカーコアがひどく衰弱していたのである。命に関わるほどに。

 

 古夜のデバイスであるジェイドに残っていたのは壮絶な戦い。敵の軍勢に古夜とザフィーラのたった二人で立ち向かう映像だった。

 

 そして残っていた、古夜が左腕を失う瞬間。思い出すだけで胸が痛む。

 

 無意識に唇を噛んでいると、ノックをする音がした。扉が開く。

 

「あ、はやてさん」

 

「スバル。検査はもう終わったんか?」

 

「はい! もうバッチリです!」

 

 入って来たのはスバルだった。彼女は地上本部襲撃の際怪我を負い、その関係で本局を訪れていたのである。本局に来たついでに、古夜の様子を見に来たのだ。

 

「……晃一さん、まだ起きませんか」

 

「ほんまに無茶したみたいやからなぁ」

 

 呆れたような口調ではやてが言う。

 

 敵の勢力からは信じられないほど、六課そのものの被害は少なかった。ひどい怪我を負ったのは古夜、ザフィーラ、そして六課内部の戦闘で負傷したヴァイスの3人。シャマルがいてくれたお陰か、内部のスタッフはそこまでひどいことにはならなかった。

 

 ヴィヴィオは、さらわれてしまったが。

 

「これからは、アースラを拠点に、ですよね」

 

 スバルの言葉に頷く。これからは動くことのできるアースラを拠点にして捜査を進めていくことになっている。

 

「……晃一君達は、私達の帰る場所を守ってくれたんや」

 

「……そうですね! 頑張りましょう! みんなで六課に帰って、ただいまって言えるように!」

 

「……せやな」

 

 スバルと共に、病室を後にする。

 

 自分が依頼しなければ、彼が隻腕になることなんてなかった。こんなひどい怪我を負うことなんて無かった。どうしても、考えてしまう。

 

 それでも悪い考えを振り切り、前を見る。余計なこと考えてたら、それこそ晃一君に会わせる顔が無くなってしまう。

 

「……ここが、無茶のしどころなんや」

 

 はやてはポツリと呟く。その瞳は強く、前を見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 奇妙な感覚だ。体が浮いているような、そもそも体がないような、不思議な感覚。目を動かしてみれば、確かに俺の手足は存在していた。無くなっていたはずの左腕も、である。

 

 本当に左腕があるならいいけど、多分違うよなあ。思いっきり切り飛ばされてたし。

 

 『夢』の中だと、自然とそう思った。この空間にも見覚えがある。『夢』の中だから見覚えというのはおかしいかもしれないが。

 

「やあ」

 

 声がした。振り返ると、そこにはいつ現れたのか、一人の男が。微かに笑うその顔は、俺と同じ。

 

 いや――

 

「……『古夜晃一』、か」

 

「初めまして、僕」

 

 俺の前に現れたのは、正真正銘の『古夜晃一』だった。

 

 

 

 

 

 

「まったく、人の体で随分好き勝手やってくれたね」

 

「……悪いな」

 

 呆れたように、そしてわずかに攻めるような口調で『古夜晃一』が言った。そこに関しては本当に謝るしかない。散々無茶してきた挙句、左腕を失くしてしまったからね。

 

 最近になって見るようになった方の夢。あの中で俺に呼び掛けてたのは、他でもない俺自身というか、俺の中の『古夜晃一』だったのだ。

 

「……で、今更になって、なんで出てきたんだ?」

 

「今更ってのはその通りだけど、まあ条件が色々とそろったのさ。最初は言葉すら通じなかったし、いやはや、苦労したのなんの」

 

 そのような『古夜晃一』の解答。そういえば、この夢を見始めたころはなんて言ってるか分からなかったのに、だんだんとクリアになっていってたな。

 

「そういや、六課とかって今どんな感じなんだ?」

 

「外かい? 騒がしくなってるよ。地上本部は壊滅的被害。六課の方は君やザフィーラの頑張りのおかげで大きな被害は無かったし、重傷者は少なかったけど、ヴィヴィオちゃんが攫われてしまったしね。ジェイル・スカリエッティは彼女を利用してロストロギア『聖王のゆりかご』を起動。今は管理局を潰すべく進撃中ってとこかな」

 

 ……やっぱり、狙いはヴィヴィオだったか。誘拐自体を止めることはできなかったが、きっと高町達が取り返すべく動いていることだろう。『聖王のゆりかご』がなんなのかは知らないが。

 

 外の状況について考えていると、『古夜晃一』が「で」と何の脈絡もなく切り出す。

 

「君はこれから死ぬところだけど、そこんとこどうなの?」

 

「……どう、ってのは?」

 

 余りにもストレートに死の宣告を受けてしまった。確かに今回はやべえなと思ったけど。左腕が飛んでから意識も飛んだ感じはあるけど。

 

 もう少しオブラートに言うみたいなのはないのだろうか。そんな気持ちをこめて『古夜晃一』を見るが、こちらを見つめる視線の強さに、たじろいてしまった。

 

 

 

「君は本当に死んだら『元の世界』に戻れると思ってんのかって聞いてんの」

 

 

 

「っ……!」

 

 言葉が、出なかった。

 

「人は忘れる生き物だ。見る機会聞く機会がなくなれば、よっぽどの思い入れでもない限り殆どのことを忘れてしまう。どうでもいいことをなぜか覚えてることもなくはないけど、それはごく少数だ。……でもね、君は『前の事』を覚えていすぎなのさ。漫画やゲームの知識しかり、その他の思い出しかり」

 

 突如語り始めた『古夜晃一』。こういう時に出てくる奴って大抵もったいぶった言い方するよなと、関係ないことが頭に浮かんだ。

 

「君は未だに『元の世界』を捨てることができていない。渇望し、執着している。それこそ、夢にまで見るほどに、ね」

 

 何も、返すことができない。そんな俺を一瞥した後『古夜晃一』は振り返ると、再び淡々と語り始める。

 

「誰とも一定以上の距離を保ち、深い関係になろうとしなかった。理由は簡単、誰かと深い関係になればなるほど、『元の世界』に戻ることができなくなりそうだったから。『元の世界』での関係を否定することになりそうだったから」

 

 …………正解。

 

「どんなにきつい修行にも耐えることができたのは、ゲームのレベリングと同じように当然のことと捉えていたから。そして何かに没頭することで振り切ろうとしたから」

 

 ……正解。

 

「命を賭けた戦闘で瀕死になっても平気だったのは、HPが0にならない限りゲームオーバーではないから。それに心の奥底で『死』を望んでたから」

 

 正解。

 

「とどのつまり、君はこの世界でゲームのロールプレイをするかのように生きていた。君は『この世界』を、認めたくなかったのさ」

 

 全部、正解。

 

「……ああ」

 

 

 

 俺は……死ねば、ひょっとしたら、『元の世界』に戻れるんじゃないかと。これが何かのゲームで、ゲームオーバーになれば前の生活に元通りなんじゃないかと、確かにそう、思っていたんだ。

 

 

 

「……だって、認められる訳が無いだろ」

 

 絞り出したような声が俺の口からこぼれる。

 

「寝て目が覚めたら子供になってて、しかも知らない奴の体で、両親のいない天涯孤独。挙句の果てには『魔法』だと?」

 

 抑え切れない感情が溢れだす。

 

「それで…………それでこの世界が現実だなんて、思えるわけが無いだろうが……!」

 

 それだけじゃない。

 

 ……あいつらを、はやて達を見てると思うんだ。

 

 例えば、認知された超能力。

 

 例えば、忍者の国家資格。

 

 エトセトラ、エトセトラ。

 

 この世界で暮らせば暮らすほど、『元の世界』とは違うということを思い知る。

 

 そしてこんな世界のごく一部で、彼女達は大きな事件に遭遇し、乗り越えていく。

 

「この世界は、何かの物語の舞台。彼女達が主役の、そういうストーリーなんじゃないかって。そう、思ってしまうんだよ」

 

 『元の世界』でよく読んだ、よくある異世界もの。俺がいるこの世界はその創作上のものなのではないか。そう考えてしまうのだ。

 

「死んで転生したんじゃない?」

 

「『俺』は死んでない!!」

 

 叫ぶ。『古夜晃一』の言葉を拒絶する。

 

 死ぬ瞬間のことだけ覚えてないとかじゃない。あの日俺は確かに普通にベッドに入って寝た。それだけだったんだ。

 

 俺はあの世界に、確かに生きてたんだ。

 

「……トラックにでも引かれてりゃ良かったのに」

 

 ぼそりと呟く。せめてちゃんと死んでれば……いや、それでも吹っ切れることができてたかは分からない。夢に見るほど『元の世界』に執着してたからな。

 

 俺は、一般人だ。特殊な才能を持ってるわけでもなく、ごく平凡な生活をしていた。何のドラマもない人生だったさ。

 

 それでも俺は、あの日常に満足してたんだ。失いたいないて、思ってなかったんだ。

 

「……なあ、『古夜晃一』。何で俺は、お前に憑依したんだろうな?」

 

「……さあ、ね。原理も理由も、僕にだって分からないよ」

 

「だよなぁ……」

 

 何も無い空間で崩れる落ちるように座り込む。

 

「いいの? さっき言ったことは本当だよ。君はこのままじゃ死ぬ」

 

「……いいさ。この夢の空間なら、思ってたよりも苦しまずに逝けそうだ」

 

 

 

――手足の感覚が消えていく。

 

 

 

 大の字になって寝てみれば、走馬灯のように『この世界』での日々が蘇ってくる。

 

 二回目の学生生活。魔法世界での出来事。『元の世界』とは違う、非日常な日常。

 

 

 

――視界が真っ白になっていく。

 

 

 

 次に思い出すのは『この世界』の知り合いたち。信じられないくらいお人好しで、優しい人達ばかり。本来一般人でしかない俺には、とても眩しかった。素直にかっこいいと思った。

 

 

 

――存在が希薄になっていく。

 

 

 

 『この世界』ではいろいろあった。世界滅亡の危機に立ち会ってみたり、その解決に関わったり。いろんな世界を見てみたりもした。……割と、楽しかったな。

 

 

 

そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ」

 

 駄目だ。

 

「……やっぱり、俺さ」

 

 声が、震える。

 

 

 

「…………死ぬの、怖えわ……」

 

 

 

 大人しく消えていくことなんて、出来なかった。

 

 むくりと起き上がる。すると零れていく雫。

 

「はは、は……つくづく、情けねえな」

 

 涙が止まらない。消えていっていたはずの手足が震える。

 

 死ねば戻れるかもしれないって、確かにそう思っていたはずなのに。いざ死ぬとなれば怖くてたまらない。

 

「死ぬのが、怖い?」

 

 こちらを見つめる『古夜晃一』の言葉に頷く。だって、そうだろ? 俺は死んだことがないんだ。『元の世界』に戻れる保証なんて何もない、俺が勝手に期待してるだけ。死んでどうなるかなんて、結局わからないんだ。

 

「……それに、さ」

 

 顔を伏せれば、あの消えていく感覚が蘇る。あの時浮かんできたのは、『元の世界』じゃない『この世界』だったんだ。

 

「どうやら、俺は自分で思ってる以上に、『この世界』が気に入ってたらしい」

 

 怖いのは、死ぬことだけじゃなかった。『この世界』から消えるのも、俺は怖かったんだ。『この世界』での関係も失いたくなかったんだ。あれだけ『元の世界』に執着してたのに、俺は醜く、欲望深く、『この世界』にも執着しているのだ。

 

 思い浮かぶのは、『この世界』で一番付き合いの長い幼馴染。

 

 少なからず好意を寄せられてたのには、うすうす気づいていた。こんな俺なんかに、憧れてたことも。ずっと気にしてくれてたことも。

 

 どこまでも俺と関わろうとした。無関心な俺の事なんて気にせず、ずっと歩み寄ろうとしてくれた。

 

 あいつに誇れる自分でありたいなんて、らしくもないことを考えていた。そのために頑張ることができていたのも事実なのだ。

 

 駄目なのだろうか。今になって、『この世界』の思い出を失くしたくないなんて。

 

「……今更、生きたいだなんて」

 

「いいんだよ」

 

 顔を上げる。するとそこには、『古夜晃一』が穏やかな笑顔で俺を見下ろしていた。

 

 しゃがみ込み、俺と視線を合わせる『古夜晃一』。

 

「人なんて、元々矛盾を抱えた生き物だ。死にたいって気持ちと生きたいって気持ちが両方あったっておかしくなんかないんだよ。君は『この世界』も『元の世界』も大切だった、それだけのことさ。じゃなきゃ、今までの無茶で君はとっくに死んでる」

 

 肩を叩かれ、立ち上がらされる。俺と『古夜晃一』が向かい合う。

 

「生きたい?」

 

「ああ……生きたい」

 

「じゃあ、力を貸してあげよう」

 

 俺の返答に満足そうに頷くと、『古夜晃一』はそう言った。

 

「いいのか? 元々お前の体だろうに」

 

 思わず尋ねる。そこで初めて、俺は『古夜晃一』の右目が翡翠色であることに気付いた。少しだけ悲しそうに、『古夜晃一』が笑う。

 

「僕は、残滓でしかないんだ。君の中の片隅で一緒に育ってきた『古夜晃一』の精神の欠片が、血筋とかの影響で一時的に力を得ているだけ。この体はもう、とっくに君のものなんだよ」

 

 ……じゃあ、今までのは全部、俺のための。

 

「……なんだ。全部お前の手のひらの上ってか」

 

「ずっと一緒にいたんだよ?全部まるっとお見通しさ」

 

 俺の目の前の『古夜晃一』が透けていく。先程の俺のように、存在が希薄になっていく。

 

「……悪いな」

 

「いいよ。君は、僕なんだから。僕の方こそごめんね」

 

「いいさ。……お前は、俺なんだから」

 

 空間そのものが白くなっていき、目を開けていられないほどの光で満たされる。

 

「最期に一つだけ、お願い……」

 

 『古夜晃一』の声が脳内に響く。

 

――僕の血に、決着をつけて。

 

「……ああ、任せろ」

 

 

 

 

 

 一人の男が目を覚ました。静かに体を起こし、辺りを見回す。

 

 男はすぐそばのデスクの上に翡翠の宝石と獅子のアクセサリーがあるのを見つけると、無造作にそれを掴んだ。

 

 

 

「…………行くか」

 

 

 




転生者の悩みって結構色々あると思います。

多分年内最後の更新。つまり、年内完結、無理でした。ごめんなさい。

良いお年を。


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46話 想い

 薄暗い空間の中、刃と刃がぶつかり合い、幾度も衝撃波を生む。目にも止まらぬ速さで飛び交い刃を重ねるのは、フェイト・テスタロッサと戦闘機人ナンバー3のトーレ。

 

 フェイトはライオットザンバーの二刀流で、トーレはライドインパルスは発動し手足の八つのブレードで。斬撃の応酬が続き、お互い血が流れ、それでも攻撃は止まらない。

 

 

 

 スカリエッティ一味によるテロは本格化し、各地にガジェットドローンが襲来、戦闘が激化していた。

 

 一番の問題は『聖王のゆりかご』である。聖王が鍵となり起動する、超巨大空中戦艦。衛星軌道上に達すればほぼ破壊は不可能になる上、次元跳躍攻撃も可能になってしまう。つまり、管理局全体が崩壊の危機ということだ。

 

 だが、機動六課を筆頭とする管理局員達の奮闘もあり、ガジェットによる被害は抑えられ、戦闘機人達も次々と撃破されていた。

 

 

 

 そしてここは、アコースの調査により特定された、ジェイル・スカリエッティのアジトである。首謀者であるスカリエッティを逮捕するべく、シスターシャッハとフェイトを筆頭とした部隊が突入していた。

 

 ナンバー7のセッテはフェイトが切り札である真・ソニックフォームを使い、既に倒した。ここに残るは戦闘機人達の実戦リーダーであるトーレと、主犯であるジェイル・スカリエッティのみ。

 

 ここの戦闘も、終わりが近い。

 

 フェイトは空中で体を捻り、右脚の蹴りでトーレの右腕を弾く。そして右脚が傷つくのを気にもせず、左腕のブレードに両の刃を叩き付けた。

 

 トーレのブレードが砕け、隙が生まれる。

 

「はああああッ!!」

「ッ!?」

 

 怒涛の連撃。二刀の刃から稲妻が奔り、嵐の如き乱舞を見舞う。トーレは残ったブレードで防御するが、勢いに負け、次々にブレードが破壊されていく。

 

 そして遂に、フェイトの斬撃がトーレを吹き飛ばした。スカリエッティのすぐそばに落ち、そのまま意識を失う。

 

 荒い息をしながらも、すぐさまバルディッシュをザンバーフォームに変形させ、スカリエッティへと向けるフェイト。

 

「……あとは、あなただけです」

 

 刃を向けられても笑みのまま動じないスカリエッティ。余裕綽々といった様子である。

 

「……チンクとディードは既に損傷。オットー、ノーヴェ、ウェンディもやられてしまったか」

「アコース査察官とシスターシャッハもそれぞれ戦闘機人を捕縛しています」

「……劣勢のようだね」

 

 スカリエッティはそこで残念そうにため息をつくが、直ぐに不敵な笑みに戻る。

 

「君といい晃一君といい、私の仲間になってくれないのが本当に残念だよ」

「あなたのような変態が父親なんて嫌だと、そう言ったはずです」

「ククク、成程、これが反抗期か……おっと、そのゴミを見るような目はやめてくれたまえ」

 

 バルディッシュがバチバチと鳴る。若干先程よりもボルテージ上がってる気がしなくもない。逆にフェイトの視線の温度は急降下しているが。

 

 それをスカリエッティは意にも介さず、手を大きく広げて語り始める。

 

「まあいくら劣勢といっても、『ゆりかご』は止まらんよ」

「止めます。なのは達が、絶対に」

 

 フェイトはバルディッシュを振りかぶり、そして叩き付ける。右手に装備したデバイスを使い受け止めるスカリエッティ。

 

「……残念だよ、本当に」

 

 その言葉を最後に、デバイスは破壊され、スカリエッティは吹き飛ばされた。壁に激突し、ずるずると落ちる。

 

「ジェイル・スカリエッティ。貴方を逮捕します」

 

 

 

 

 

 

 

 聖王のゆりかご、その玉座にて。

 高町なのはと戦闘を繰り広げていたのは、他ならぬヴィヴィオだった。

 

 ヴィヴィオは、聖王として無理矢理覚醒させられてしまっていた。幼い少女だったはずの体は成人のそれへと変貌。なのはを『ママの敵』と刷り込まれ、排除しようと攻め立てる。彼女を傷つけるわけにはいかないなのはは、一方的な戦いを強いられていた。

 

『レストリクトロック』

 

 桃色のバインドが出現し、ヴィヴィオを捕らえる。三重、四重もの拘束に少しの間ヴィヴィオの動きが止まるが、

 

「効かないっ!」

 

 僅かな硬直の後、破られてしまう。聖王の力が覚醒した彼女の持つ高いラーニング能力によって、一度受けた魔法の効果が半減されてしまっているのだ。

 

「はあっ!」

 

 お返しとばかりに放たれる虹色の魔力弾。プロテクションで防ぐ。

 

 切り札であるブラスターシステム、デバイスによる能力の底上げは既に第二段階まで解放されている。4つのブラスタービットには多くの魔力がかかり、体への負担も大きい。

 

『とっとと諦めればいいのにねぇ~』

 

 響く声の主は戦闘機人ナンバー4であるクアットロだ。他の戦闘機人は全員倒れ、それを知りながらも全く動じることのない彼女からは、スカリエッティの因子を色濃く受け継いでいることがよく窺える。

 

『傷つけたくないって母親面するならさっさと殺されてくれないかしらん♪』

「……レイジングハート、サーチは?」

『もうすぐエリア3です』

 

 煽るようなクアットロの声を無視し、『別作業』に集中するなのは。

 

 彼女の目に、諦めが浮かぶことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、玉座とは対角に位置する、ゆりかごの駆動炉。ここでは、ヴィータが駆動炉を破壊するべく奮闘していた。

 

 防衛システムによる妨害を受け、多くの血を流しながらも、何度もグラーフアイゼンを駆動炉に叩き付ける。

 

 しかし、駆動炉の防護バリアは恐ろしく強固だった。鉄槌と駆動炉が激突するが、その度に弾き返されてしまう。

 

「くそ……!!」

 

 弾かれ体勢の崩れたヴィータを狙い砲撃が殺到する。隙間を縫うようにしてかわすヴィータ。

 

 着地し、再び飛ぼうとするが、思うように力が入らず、膝をついてしまう。

 

 グラーフアイゼンは傷だらけを通り越してヒビだらけ。柄には血が滲んでしまっている。状況は絶望的。

 

だが、それでも。

 

「諦めるわけには、いかねえんだ……!!」

 

 歯を食い縛り、グラーフアイゼンを杖代わりにしながらも立ち上がる。

 

 脳裏に甦る、あの時の事故。護ることができず、彼女を連れて退くことしかできなかった。自分は、なにもできなかった。

 

 そんなのはもう、嫌だから。

 

 主も友も護れないなんて、絶対に嫌だから。

 

「あたしは……」

 

 紅く輝く駆動炉を睨み付け、グラーフアイゼンを突きつける。

 

「あたしは『鉄槌の騎士』だ!! 障害はぶち抜く! 敵は打ち砕く! それがあたしの『守護』! それが、あたしの『騎士』としての在り方だ!!」

 

 気高く、吠えた。

 

「アイゼン!!」

『Jawohl!』

 

 グラーフアイゼンを高く掲げる。

 

 ツェアシュテールングスフォルム。巨大化したヘッドの片側がドリル、もう片側はジェットとなる、攻撃力極振りのヴィータの切り札。

 

 ヒビだらけのそれを、ジェット噴射で勢いをつけ、駆動炉の上から隕石の如き一撃を叩き込む。

 

「おおおおおおおおおおおお!!」

 

 カートリッジをいくつも排出し、限界まで威力を上げる。魔力も誇りも、全てを破壊力に変えて、全身全霊の一撃を。

 

 ドリル回転が、ジェット噴射が、グラーフアイゼンを障壁を越えて駆動炉へと捩じ込んでいく。

 

 グラーフアイゼンのヒビを広げながらも、ついに駆動炉に小さな亀裂が生まれる。ヴィータの咆哮が響く中、亀裂はどんどん広がり、そしてついに、

 

「ぶち抜け!!!!」

 

 爆発と共に、砕き割った。

 

 同時にグラーフアイゼンも砕け散り、爆風にあてられたヴィータは吹き飛ばされる。

 

「やっ、たぜ……」

 

 それでも、ヴィータの表情は満足気だった。限界を向かえた彼女は、飛行魔法もままならず、そのまま真下へと落ちていく。

 

 その時、黒羽が舞い散った。

 

 ヴィータの体が、優しく受け止められる。

 

「はやて……リイン……」

「お疲れ様、ヴィータ」

「おつかれさまです」

 

 受け止めたのは、他でもないヴィータの主。リインフォース・ツヴァイとユニゾンしたはやてだった。

 

 彼女はゆりかごの外で指揮をとっていたが、リインと合流すると、指揮を任せて自身も乗り込んできたのである。

 

「ごめんな、無茶させて」

「へ、へ……晃一に比べたら、こんなの、無茶に入らないぜ」

「ふふ、確かにな……ありがと」

 

 重傷にもかかわらずヴィータはニヤリと笑い、はやても微笑む。

 

「あと、もう少し、もう少しや。なのはちゃん、晃一君……!」

 

 決着の時は近い、はやてはそう確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

「駆動炉が……!?」

 

 最深部でゆりかごの制御をしていたクアットロだったが、駆動炉が破壊され、ここで初めて、彼女の顔に焦りが浮かんだ。

 

「いや、焦ることじゃない。AMF濃度を下げて、より多くの魔素を取り込めるようにすれば、駆動炉がなくても十分……!」

 

 航行は可能。そう言おうとしたが、口が動かなかった。

 

 いつの間にか目の前で、桃色の魔力球がふわふわと浮かんでいたからだ。クアットロの目が驚愕で見開かれる。

 

「これは……!?」

 

 

 

 

 

 

 

「……見つけた」

 

 静かに呟くなのは。

 

WAS(ワイドエリアサーチ)、成功です』

 

 仕掛けをしたのは玉座にたどり着くよりももっと前、ゆりかごに突入し、ヴィータと別れてすぐである。サーチ用のスフィアを数個を放ち、ゆりかご内のどこかにいるであろうヴィヴィオを攫った主犯をずっと探していたのだ。

 

「ちょっと動かないでいてね、ヴィヴィオ」

「っ!?」

 

 動きを止められるヴィヴィオ。すぐさま破ろうとするも、鎖と縄が複雑に絡み合い、今までのように簡単には振りほどけなかった。チェーンバインドとレストリクトロックの併用、このタイミングのためにとっておいた技だ。

 

「一気に抜くよ、レイジングハート……!」

『はい、マスター』

 

 力強く踏み込み、レイジングハートを敵がいる方向へと向ける。

 

 やることは一つ。

 

『壁抜き……!?』

 

 信じられないといった様子のクアットロ。彼女のいる場所はゆりかごの最深部だ。駆動炉とほどではなくとも、玉座とはかなり離れている。この距離の砲撃など、常人にできることではない。

 

 だが、やろうとしているのは少なくとも常人ではないのだ。圧倒的破壊力の砲撃による壁抜きは、彼女の十八番。クアットロもすぐそのことに思い至る。

 

「ブラスター3!!!」

 

 なのはの周りに浮いていたブラスタービットが一斉に壁の向こうのクアットロの方に向く。そして広がる5枚の翼。

 

「ディバイン……!」

 

 砲口に桃色の魔力が集まる。光が強くなっていき、溜められた魔力が大きく広がっていく。

 

「バスター!!!」

 

 砲撃。

 

 何枚もの壁を貫いていき、一直線に進んでいく。逃げることなど許しはしない。

 

「あ、や……あああああああああああ!!!!」

 

 桃色の光の奔流が、絶叫するクアットロを呑み込んだ。

 

 

 

 

『……命中です』

「っ………やった……!」

 

 なのはの顔に安堵の笑みが浮かぶ。ヴィヴィオを洗脳した事件の主犯は倒した。これで――。

 

 そう、気を抜いてしまった。

 

『マスター!!』

「え?……うっ!?」

 

 殴り飛ばされるなのは。大きく飛ばされ、壁にぶつかる。不意をつかれ、まともにくらってしまった。起き上がり、ごほごほと咳き込む。

 

 攻撃してきたのは、なのはの拘束を振りほどいたヴィヴィオだった。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

 泣きながら謝り続けるヴィヴィオ。だが言葉と表情とは裏腹に、体が止まる気配は無い。

 

 何故と思うが、直ぐに答えに行き着く。

 

「レリック……!」

 

 そう。ヴィヴィオが聖王として覚醒するために埋め込まれたレリック。彼女がクアットロから受けていたのは主に精神干渉であり、クアットロが倒れてもヴィヴィオの中のレリックが消えたわけではないのだ。

 

「ヴィヴィオ……今、助けるから!」

「ためだよ……! 止められない……!」

 

 虹色の魔力を両腕に纏い、なのはへと殴りかかるヴィヴィオ。なのはは咄嗟にプロテクションを張るも、打撃の威力が凄まじく、再び吹き飛ばされてしまう。

 

 直ぐに起き上がりレイジングハートを構えるなのは。

 

 そんな彼女を見て、ヴィヴィオが悲痛な面持ちで口を開いた。

 

「私、思い出したんだよ。私は昔の人のクローンで、心も体も、造り物なの……。本当のママなんて、どこにもいない……!」

「それは違うよ」

「っ!?」

 

 なのはは迷うことなく、即座に否定してみせた。予想してなかったのか、ヴィヴィオが言葉に詰まる。

 

 僅かに目を伏せるなのは。

 

「確かに私もフェイトちゃんも、ヴィヴィオと血は繋がってない。そういう意味では、本当のママじゃないよ……でもね」

 

 彼女は顔を上げ、真っ直ぐにヴィヴィオを見つめる。

 

「大切なのはね、血の繋がりじゃないんだよ。心が繋がってれば、そんなの関係ないんだ」

 

 彼女は知っている。産まれ方が他人と違っていても、人に愛情を注ぐ事ができる親友を。血が繋がってなくても、家族と強い絆で結ばれている親友を。

 

「……私は、ヴィヴィオの本当のママになるよ! なってみせるよ! ヴィヴィオとの繋がりを、失いたくなんてないから!」

 

 そして、なによりも。

 

 

 

「ヴィヴィオの事が、大好きだから!!」

 

 

 

 ヴィヴィオの体が震え、一筋の涙が流れる。どこまでも真っ直ぐななのはの言葉が、ヴィヴィオの心に響いていく。

 

「……ヴィヴィオだって、なのはママが大好きだよ……!」

 

 ぽつりと、言葉がこぼれた。

 

「もっと、一緒にいたいよ……!!」

 

 それを切っ掛けに、心の奥底にあった本当の願いが溢れ出す。

 

 

 

「なのはママ……たすけて……!」

 

 

 

 一人の母親が、不敵に笑う。

 

「助けるよ。……いつだって、どんなときだって!!」

 

 想いは、確かに届いた。

 

 ブラスタービットが弧を描きながらバインドを形成し、ヴィヴィオに巻き付いていく。

 

「ちょっと痛いけど、我慢できる?」

「うん……がんばる……!」

 

 なのはが優しく問い掛け、ヴィヴィオは強く頷いた。

 

 これから行うのは至極単純。純粋な魔力ダメージのみを与えてレリックを破壊するのだ。

 

「全力……全開!!」

 

 魔力を収束する。彼女の元に集った魔力が、優しい星のように光り輝く。

 

「スターライト……ブレイカー!!!!」

 

 

 玉座が、光に包まれた。

 

 

 

「うぅ……あ……!」

 

 ヴィヴィオの体から浮かび上がる深紅の宝石。

 

 

 

跡形もなく、砕け散った。

 

 

 

 光が収まる。肩で息をし、レイジングハートを杖代わりにして立つなのは。ボロボロの彼女の目に映ったのは、自身の力で立ち上がろうとする、一人の少女だった。

 

「ヴィヴィオ……!」

 

 ヴィヴィオは痛みに耐えながらも、一歩、また一歩と、懸命に母親の元へと足を進める。なのはもまた、娘の元へと駆け出す。

 

「なのは、ママ……!」

「ヴィヴィオ!!」

 

 そして、ついに二人の距離がゼロになり、

 

 

 

 ゆりかごの中、親子は固く抱き合うのだった。

 

 

 




前回から1ヶ月はギリギリたってないからセーフセーフ。気がついたら時間がたってたなんて言えない……。

初めて主人公が一切出ない回でした。そして原作通りという……今更か。


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47話 虹

 時は少しさかのぼり、地上本部近郊。

 

 拐われた姉を救出したスバルに戦闘機人二人を捕縛したティアナとヴァイス、そしてオットーやガジェット達への対応に当たっていたザフィーラとシャマル。それぞれがそれぞれの戦いを終え、合流していた。

 

「なのはさん達が!?」

「ああ。予想できたことだが、念話が全く通じねえ」

 

 ヴァイスから状況説明を受けるスバルとティアナ。ゆりかご内のAMFのせいで状況確認ができないため、なのは達の様子が全く分からないのだ。

 

「なのはさん達なら、大丈夫だと思うけど……」

 

 そうは言っても、と不安が顔に出るスバル。彼女達の強さは百も承知だ。……だけど、それでも、やはり、心配なものは心配だ。

 

 自分は戦闘機人モードがあるからAMF下でも走れるし撃てる。でも自分がなのはさんを助けるなんておこがましいんじゃないかなというか、いやでも連絡つかないから何が起きてるかは分からないしもしかしたら、でもでも──

 

「何迷ってん、のっ!」

「いったぁ!?」

 

 突然の衝撃。ティアナにクロスミラージュのグリップで後頭部を思いっきり小突かれたのである。いきなりのことに混乱しながらも涙目でティアナを見るスバル。

 

「行きたいんでしょ?なのはさんを助けに」

「ティア……」

 

 相棒が、呆れた目でこちらを見ていた。

 

「今更なにごちゃごちゃ考えてんのよ。それは私の役割でしょうに」

 

 言いながら、ティアナが視線をヘリの方へと向ける。その先では、担架に寝かせられたギンガがネックレスを手に起き上がっていた。

 

「スバル……これ」

 

 ギンガがスバルへと差し出したのは、彼女のデバイスであるブリッツキャリバー。スバルのマッハキャリバーと対になる、母親の形見の入ったデバイス、左の拳。

 

「ギン姉……」

「必要でしょ?」

 

 スバルの手を取り、ブリッツキャリバーを握らせるギンガ。

 

「ゆりかごまでは俺が運んでやる」

「ヴァイス陸曹……」

「お前の力量なら、心配はいらん」

「きっと待ってますよ、なのはちゃん達」

「ザフィーラ、シャマルさん……」

 

 皆が、スバルの背中を押す。

 

「ワガママに自分貫くのがあんたでしょうが。そんでそれに付き合うのが私。そうでしょ?」

 

 不敵な顔で笑って見せるティアナ。つられるように、スバルの顔も笑顔になる。

 

「なんだかティア、男前になったね」

「ちゃかさないの。……行くわよ」

 

 顔を両手ではたき、気合いを入れる。そうだ。私はなのはさん達を助けに行きたい。幼い私を救ってくれた、あの時のなのはさんのように。

 

「うん!行こう!」

 

 ヘリに乗りこむスバルとティアナ。勢いよく回るプロペラ。いざ出発という、そのとき。

 

「? 待て、何か近づいて──」

 

 ヴァイスが言いかけたところで、その何かがヘリの直ぐ前へと飛び降りてきた。新手かとザフィーラ達が構えるが、現れた人物に驚愕する。

 

 

 

「そのヘリ、相乗りしていい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ゆりかご内部。

 

「うわぁ……」

 

 なのは達のいる場所に到着したはやての第一声である。玉座は砕かれ原型を留めておらず、壁はヒビだらけの上トラックが余裕で通れる程の穴まで開いていた。更には地面に大きなクレーター。

 

 ぶっちゃけ、少し引いていた。

 

「あっ!はやてちゃん!」

「無事にヴィヴィオは救出できたみたいやね、なのはちゃん」

 

 そのクレーターのそばで抱き合っていた二人。なのはとヴィヴィオである。二人共ボロボロではあったが、とても晴れやかな顔をしていた。

 

「……派手にやったなぁ」

「えへへ……」

 

 ぶち抜かれた壁に目を向け、ため息混じりに呟く。砲撃によって開けられた穴は見えなくなるまで続いていた。高濃度のAMF下でやったとは思えない。

 

 当の本人は照れくさそうに笑っている。かわいいけど背景と合わない。普通に怖い。

 

「あ、そうだ!ゆりかご内の戦闘機人達は?私、二人倒したはずなんだけど」

 

 思い出したようになのはが尋ねる。

 

「一人は後続隊が保護したで、もう一人も今頃捕縛されて、ヴィータ達と揃って脱出しとる頃やと思う。様子からして、ガジェット以外の敵はもうおらんみたいやな」

「……そっか」

 

 ふう、と一息つくなのは。先程よりも幾分、顔色がよくなっている。事件の終息が見えてきたからだろう。

 

「……無茶のしすぎはあかんで?」

「大丈夫、ヴィヴィオのためだもん」

 

 そう言って、ヴィヴィオに頬ずりする。嬉しそうに笑うヴィヴィオ。暖かなその光景に、はやてとリインもつられて笑顔になった。

 

「……母は強し、やな」

『まったくもってその通りなのです』

 

 はやての感想に、リインも同意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……と、和やかなまま終われれば良かったのだが。

 

 けたましく鳴り響くサイレンが空気を一変させる。

 

「これは……!?」

 

 一同に緊張が走る。そして流れるアナウンス。

 

『聖王陛下、反応ロスト。システム、ダウン。これより、ゆりかごは休眠モードに移行、艦内復旧の為、魔力リンクをキャンセルします。繰り返します──』

 

「あっ!」

 

 なのはの飛行魔法が解除され、桜色の羽が消失する。はやても、リインとのユニゾンが解除されてしまう。驚き声を上げるリイン。

 

「……若干だけど、ゆりかごの高度、落ちてない?」

 

 一方、なのはは魔法が解除されたことを気にすることなくそう呟いた。この中で最も空戦魔導師としてのキャリアがある彼女だからこそ気づいた、些細な違和感。

 

 思わずはやてが顔をしかめる。自分たちには分からないのでほんのわずかだろうが、なのはの感覚が間違ってるとは思えない。

 

「……確かに、ゆりかごにとってクアットロは脳、駆動炉は肺、ヴィヴィオは心臓みたいなもんやろうし。人なら休眠どころか永眠やろなぁ」

 

「言ってる場合じゃないですよはやてちゃん!」

 

 なのはの感覚が正しければ、ゆりかごは、落下する。

 

 計画では、駆動炉を破壊しヴィヴィオを救出することでゆりかごの速度を落とし、宇宙空間で待機しているクロノ達がアルカンシェルの発射態勢を完了させるまでの時間を稼ぐつもりだった。

 

 どちらも完遂でき、ゆりかごの速度は確かに激減しているが、こうなるとは。休眠モードでも自動航行は維持されるはずなのだが、スカリエッティが何か細工でもしたのか。

 

「ほっといてもダメだし止めてもダメとか。ほんっと腹立つ……!」

 

 魔導砲であるアルカンシェルはAMFと相性が悪いため、確実に破壊できるようにと数台掛かりでの発射予定だ。破壊の規模は計り知れない。もしかしたら、現在の高度であっても地上に被害が出てしまうかもしれない。

 

 一番ピンチなのは他でもない自分たちなのだが。

 

「兎にも角にも、脱出せな。……なのはちゃん」

 

「……うん、大丈夫。走れるよ!」

 

 何をするにしても魔法が使えなければどうしようもない。まずはゆりかごから脱出するべきだと判断するはやて。不安なのがなのはの体調だが、ヴィヴィオの手前、弱い姿は決して見せない。

 

 脱出するべく、なのはの開けた穴へと走る一同。しかし、

 

『艦内の応急処置を開始』

 

「しまった!」

「壁が!?」

 

 無情にも、システムによる自動修復によってなのはが開けた穴が塞がれてしまう。突入時に開けた穴も、戦闘中に開けた穴もだ。

 

「くっ……!」

 

 出口が閉じられる。ほぞを噛むはやて。

 

 諦めるな考えろ。自分はまだまだ魔力に余裕がある。なんとかして魔法を使って、なんとかして壁をぶち抜けないか。だがユニゾンも解かれてしまった。それに自分はシグナムやヴィータのようにアームドデバイスは持っていない。こうなれば本格的に魔法抜きで壁を壊すしか……。いやいやそんな晃一君じゃあるまいし。

 

 堂々巡り。諦める気などさらさらないが、打開策が思い浮かばない。

 

 なにかないのか、なにかなにかなにか──

 

「──ん?」

 

 ふと、気づく。

 

 何かが、轟音をたててこちらに近づいている。モーター音というか、人の声というか……。

 

 

 

 

「──ぅうぉぉぉおおおお!!!」

 

 雄叫びと共に、壁がぶち抜かれた。

 

 飛び散る瓦礫や爆風に紛れ、玉座の間に突入してく来たのは。

 

「なのはさん!」

「助けに来ました!」

「ティアナ、スバル!」

 

 そして。

 

「──あ」

「よっ、こんにちは」

 

 左の袖を爆風ではためかせる、紛れもない古夜晃一だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺、参上!ってね。

 

「よっ……とと」

 

 乗ってきたバイクから飛び降りるが、よろめいてしまった。グリーヴァを杖代わりにしてバランスをとる。やっぱり、隻腕ってのは不便だね。

 

「晃一君、なんで、ここに」

「ちょっと野暮用でね。ランスター達のバイクに一緒に乗せてもらってきたのさ」

「取り敢えずこの事件が終わったら晃一さんはセクハラで訴えます」

「しょうがないじゃん。AMFもあるんだし、直接掴まるしかないだろ?」

 

 片腕でバイクに乗るのは大変なんだから。それにやらしいとこには触ってないって。

 

「こういち!」

「おお、ヴィヴィオ。無事だったか。ごめんな、守ってやれなくて」

「大丈夫!なのはママが助けてくれた!」

「そっか。…………良かったな」

「うん!」

 

 なのはに抱かれているヴィヴィオの頭をよしよしとなでる。六課や『あいつ』から聞けば、中々に酷なことをされただろうに。元気そうでよかった。

 

「よし、じゃあお前ら。とっとと脱出──」

「ちょい待てや」

 

 ぐえっ。はやてに首根っこを掴まれた。危ない、転ぶとこだった。

 

「晃一君の用事って、何?」

「ゆりかご関係」

 

 はやての肩に乗っているツヴァイが驚いているが、はやては予想がついていたらしく、さほど驚いた様子はなかった。

 

「落下しつつあるんは知っとるやろ?」

「心配すんな。落下もなんとかする」

 

 ぴくりと、はやての眉が動く。

 

「また、無茶するんやろ」

 

 咎めるような、怒気を含んだ言葉。

 

「……まあな」

 

 グリーヴァを一旦待機状態に戻し、はやてへと向き直る。……ここは、ちゃんと説得しておかなきゃならないところだから。

 

 一歩踏み出す。はやてとの距離が縮まる。

 

 そして、俺は。

 

 

 

 

 

 はやてを、抱きしめた。

 

 

 

 

 

「――え?」

 

 ポカンと、まぬけな顔になるはやて。突然の事に、頭がついていっていないのだろう。

 

「おぉ……」

「?」

「……」

「わー」

「わぁ!」

 

 なのは達が見てるが気にしない。右腕で抱きしめ続ける。やがて状況が理解できてきたのか、みるみるうちにはやての顔が赤くなっていく。

 

「……な、ななにゃな……!」

 

 なんでこんな事を。真っ赤なはやての顔がそう物語っている。

 

「……まあ、あれだ」

 

 覚悟を固めたいというか、気持ちの整理をつけたいというか。心配すんなと伝えたいというか。あとは……ちゃんと、向き合おうかなとも。色んな事にね。

 

 こっぱずかしくて口には出せないが。

 

「状況のやばさは理解してる。でも、それでも、俺自身がやりたいんだ。やらなくちゃいけないんだ」

「……晃一君」

 

 抱きしめてるのも流石に恥ずかしくなってきたので、いったん離れる。

 

「ダイジョブダイジョブ。……俺は、思い出にはならないさ。過去形で語られるのは、嫌だしな」

 

 不敵に笑いかける。

 

 束の間の静寂。そしてその後。

 

「…………あ~もう!」

 

 頬が赤く染まったままのはやては、頭をガシガシとかくと、大きなため息を吐いた。

 

「……スバル、ティアナ。なのはちゃんとヴィヴィオを連れて脱出や。頼むで」

「「はい!」」

「リインも一緒に行ったげてや。指示、よろしく頼むで?」

「はいです!」

「私は晃一君と残る」

「おい」

 

 反射的に突っ込む。お前は残るんかい。今の説得の意味よ。抱き締め損?

 

「やりたい放題の晃一君には、監視が必要やからな」

 

 吹っ切れたように笑うはやて。

 

「……お前は、トップだろうが」

「せやな。だから残る。私は部下を見捨てない、絶対に」

 

 即答し、肩に乗っていたツヴァイを高町へと預ける。言葉に迷いがなかった。

 

「…………はぁ」

 

 今度はこちらがため息をつく。これはもう引かないやつだ。

 

 ……もう、そうもたもたしてられないな。

 

「……ほら、お前らはさっさと脱出しろ」

 

 しっしっと手を振り、高町達に脱出を促す。高町は一瞬残りたそうな顔をしたが、やがて頷いた。ヴィヴィオを抱えたまま、バイクに乗る。

 

「いきます!」

 

 そうして、ナカジマがウイングロードを展開。ティアナ達はフルスロットルで玉座の間から消えていった。

 

 残るのは、俺とはやての二人だけ。

 

「……で、晃一君の作戦は?」

「……なに、簡単なことさ」

 

 そう言いつつ俺はグリーヴァを再びセットアップし、ガンブレードとなったそれを構えた。

 

 ──八門遁甲 第四 傷門 開

 

 全身から溢れ出す()()の魔力。

 

 はやての目が見開かれる。

 

「晃一君、それ。その魔力光……」

「俺の本来の色だよ」

「ええええ!!??」

 

 はやてが驚くのも無理はない。虹色の魔力光とは、すなわち聖王の証だ。

 

 これは『あいつ』の置き土産。聖王としての力。ジェイドに隠れてよくわからないだろうが、右目の色も翡翠に変わっている。今の俺は、聖王として覚醒しているのである。

 

 だから。

 

『──聖王反応、検出しました。ゆりかご、起動します』

 

 こうなるわけだ。

 

 聖王反応さえあれば、ゆりかごは起動する。そうなりゃ、少なくとも一気に落下ってのは防がれる。ゆりかご側が勝手に頑張ってくれるってことらしい。『あいつ』の入れ知恵である。

 

「じゃあ、ゆりかごの操作も出来たり?」

「あ、それは無理だわ」

「無理なんかい!?」

 

 今俺がやったのは自分の魔力をゆりかごに()()()やるという簡単なことだ。だからこそ俺にでもできたわけで、操作とかそこまで高難度なことは厳しいです。

 

 だが、出来ることはもう一つある。

 

 俺が操作できないとなると、ゆりかごは先ほどまでと同様に、目的地までの航行を再開することになる。となると、魔法で航行しているゆりかご内は――

 

「AMFが弱くなり、魔法が使えるようになるわけだ」

「……なにするか、分かった気がする」

 

 額に手を当て、はやてが呟く。流石はやて察しがよろしい。

 

 ニヤリと笑い、宣言する。

 

「ぶっ壊すんだよ。ゆりかごを、跡形もなくな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆音が響く。

 

「――来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ。『フレースヴォルグ』!!」

 

 はやてが展開した魔法陣から、白銀の光が放出される。光は分裂し、壁一面を破壊していく。

 

「おおおお!」

 

 周囲に魔力刃を生み出す。百、二百と数を増やしていく。

 

 ――八門遁甲 第五 杜門 開

 

 魔力を底上げし、更に剣を生み出していく。その数、千。

 

「いけっ!」

 

 全方位に向けて射出。着弾し爆発し、床も天井も関係なく全てを破壊する。

 

「ちょ、晃一君あぶなっ!殺す気か!」

「文句はあとで聞くから」

 

 はやてからの抗議を流しながらも次の魔法の用意に移る。

 

「『デアボリック・エミッション』!」

「うお!?」

 

 黒に染まった空間が広がり、ゆりかご内を消し飛ばした。危なっ。巻き込まれかけた。いきなり広域魔法ぶっぱなしやがったぞコイツ。

 

「ちょっと」

「はいはい、文句は後で聞くからっ!」

 

 どや顔でこちらを見つつも攻撃を続けるはやて。倍返しってかおい。まあいい。

 

 実際問題、お互いそこまで余裕はない。

 

 俺はリンカーコアが悲鳴を上げているし、はやては魔法の負荷に耐え切れずに杖にヒビが入り始めている。

 

 ――八門遁甲 第六 景門 開

 

 痛みを振り払うように、八門をさらに一つ開く。

 

 破壊が進むにつれ、ゆりかごのシステムにも相当ガタが来ている。いや、相当ぶっ壊して回ってんのにまだダウンしてないのは流石ロストロギアとしか言いようがないのだが。落下スピードは徐々に、だが確実に増えている。

 

「急がなきゃ、なあ!!」

 

 上から崩れてきた天井を避けながら、砲撃を放つ。

 

 ある程度の大きさの瓦礫なら落ちていく間に流れ星にでもなってくれるだろうが、今のゆりかごの大きさじゃまだ駄目だ。もっと粉々にしないと。

 

「それにしても、すごい魔力やなぁ」

 

 あれ、はやてに八門遁甲を生で見せるのは初めてだったか。聖王として覚醒しているのもあって、八門遁甲の効果も増大しているし、驚かれるのも無理はないか。はやてに魔力で驚かれるとはなぁ。

 

「まあ、その分負担もえげつないけどね」

「……あとで説教」

「あっ」

 

 失言だった。

 

「響け、終焉の笛。『ラグナロク』!!」

 

 今度ははやてが砲撃を放つ。いくつもの壁を貫通していく白い波動。

 

 破壊が進むにつれ、AMFが薄まっているようだ。魔法の行使が徐々に楽になっているのがわかる。

 

 それにつれて破壊も進む。上側は夜空が一望できるまでになった。

 

「よし、次ィ!」

 

 ――八門遁甲 第七 驚門 開

 

 グリーヴァに魔力を込め、特大の斬撃を飛ばす。カートリッジを無くなるまでリロードし、ゆりかごを切り刻む。

 

 聖王として覚醒しているおかげか、いつもより八門遁甲の負担が軽い。それでもめっちゃ痛いけど。

 

「ふふっ」

 

 ふと、笑い声が聞こえた。見ると、肩で息をしながらも、はやての表情は笑顔だった。

 

「なあ、晃一君。私今、すっごく嬉しいんや」

 

 魔法陣をいくつも展開し、大規模な魔法を行使しながらも、彼女は続ける。

 

「晃一君、ちょっと変わったでしょ?」

 

 グリーヴァを振るう右腕が止まる。

 

「見てて思った。何かは分からないけど、でも初めて、本当の晃一君が見えた気がする。……だから」

 

 はやてが魔法を放つ。白い光がまばゆく輝く。

 

「……だからな。晃一君のこと、止めちゃ駄目だって。そう、思ったんや」

 

 夜空を背に飛ぶ夜天の主。彼女は優しい笑顔で、こちらを見ていた。

 

「……そうか」

 

 そうとしか、口に出せなかった。

 

 彼女は、俺の意志を尊重してくれているのだ。無茶だと知って、無謀だと分かって。それでも、俺の背中を押してくれると。

 

 心の中で礼を告げる。……口に出すのは、全てを片付けてからだ。説教を受けた後、改めて。

 

 ゆりかごの下方へと回る。システムはもう機能していないらしく、本格的な崩壊と落下が始まろうとしていた。

 

 さあ、最後の一息だ。覚悟はとっくに完了してる。

 

 ……いくぜ!

 

 ――八門遁甲 第八 死門 開

 

 

 

「 八 門 遁 甲 の 陣 !!!!」

 

 

 

 今までとは比較にならない量の魔力が溢れ出す。

 

「はやて。俺の後ろにまわれ!」

「うん!」

 

 グリーヴァを高く掲げる。ジェイドとのデバイス二つがかりで処理を進める。

 

 俺とはやてで散々魔法を使った。そのおかげで、今俺たちの周辺には魔力がまき散らされている。八門遁甲と夜天の主の莫大な量の魔力がだ。

 

 ――収束砲

 

 だが高町の代名詞であるスターライトブレイカーとは少し違う。俺が自分で構築した魔法である。貫通力ではなく攻撃範囲に重点を置いた、広域破壊魔法。スペルカードを再現し続けてきた俺の、魔法使いとしての極致。

 

 全身から流れ出る虹色の魔力だけでなく、周囲から少しずつ魔力が集まり、俺の前方に球を作っていく。虹色の塊は膨張し、あまりの魔力に紫電がほとばしる。

 

 ピシリと、右目のジェイドにヒビが入った。扱う魔力の大きさに、デバイス側にも大きな負担が出ているのだ。

 

 しかし、まだ足りない。ゆりかご全体を消し飛ばすなら、もっと魔力を集めなければ。

 

「チッ!」

 

 思わず舌打ちしてしまう。

 

 焦る思考。胸の痛みが嫌に響く。このままじゃ、失敗……?

 

 

 

 ――不意に感じる柔らかい感触。少し遅れてやってくるほのかに甘い香り。

 

 

 

 はやてが、背後から抱き着いていた。

 

「えへへ。さっきのお返しや」

 

 顔は見えないが、笑っているのだろう。そんな声色だった。

 

 ……頭が冷えた。胸の痛みも、意識の外へ。

 

「これで決める。後のことは、お前に任せた」

「任された!」

 

 失敗する気がしなかった。

 

 

 

「いっけえええええええええええ!!!!!」

 

 

 

 グリーヴァを振り下ろす。瞬時に爆発する閃光。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 光は広がり、ゆりかごを包み込み、天を突き抜け、そして――

 

 

 

 

 

 その日、ミッドチルダ全土に、虹色の光が降り注いだという。

 

 

 

 

 




遅れて申し訳ございませんでした。色々あったりなかったりしましたが半年経ってないのでセーフですよね。

ゆりかごのAMFはかなり薄まってる設定。理由については捏造ですのであしからず。

聖王のことは初期から考えてました。バレバレだったみたいですが。

主人公の使った収束砲は言ってしまえば闇の書の意思さんが使ったスターライトブレイカーです。

恐らく次回が最終話かなあ。はやての誕生日までには終わらせたい。

感想批評その他諸々お待ちしております。


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48話 風そよぐ

 ──…………

 

 声が聞こえる。あいつの、俺の声だ。

 

 耳を澄ます。ささやくような、小さな声。

 

 そして、古夜晃一は。

 

 

 

 ──ありがとう

 

 

 

 ただ、それだけを言って。

 

 

 

 これが最後の、夢だった。

 

 

 

 

 

 

 海の底から浮かび上がるような感覚。意識が段々とはっきりしていく。

 

「……眩し」

 

 閉じられた瞼を光が貫通してくる。眉間に皺を寄せ、俺は目を開けた。

 

「……ここは」

 

 視界に入って来たのは知らない天井。本局の病院ではなさそうだ。

 

 確か……そう。ゆりかごの破壊に挑んだんだった。最後の砲撃で力を使い果たして、そこで意識を失ったんだっけ。

 

 ゆりかごは、どうなったんだろうか。

 

 首だけを動かし、周りを確認。コキリと小気味のいい音が鳴る。

 

 やはり本局の病院ではない。海鳴の病院も違うな。雰囲気からして、恐らくは聖王教会関連の病院だろう。

 

 ジェイドとグリーヴァは見当たらなかった。……当然か。八門遁甲の陣を使い、あいつらには限界まで負担をかけた。はやての杖だってボロボロになってたし、今は揃って修理中だろうな。

 

 そこまで考えたところで、気づいた。

 

 ジェイドとグリーヴァ。二機との繋がりが、全く感じられなくなっていた。半生を共にした、あの魔力的な繋がりがである。

 

 それに、と胸に手を当てる。……胸の奥の、リンカーコアの感覚も無い。あるのはうずくような痛みだけ。

 

 それは、つまり。

 

「…………ま、分かってたことだ」

 

 とりまナースコールかな。体に力を入れて起き上がると、俺は枕元のボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿じゃないんですか!?」

 

 ナースは十秒で飛んできた。ナースっていうかシャマルだったけど。そして第一声がこれである。ひどい。

 

「やっと目が覚めたと思ったら、もう立とうとして!今は起き上がるのもダメです!てか何で起き上がれるんですか!?」

 

 信じられないとシャマル。相当重傷だったらしい。

 

 すぐさま検査へ。車イスにバインドで固定されて運ばれた。絶対に動くなとのこと。犯罪者じゃないんだから。

 

 その間もずっと説教である。

 

「本当に八門まで開くなんて!リンカーコア消し飛ぶって自分で言ってたじゃないですか!?」

「ああでもしなきゃ、ゆりかご壊せなかっただろうし」

 

 アルカンシェルでの破壊予定だったものを、個人でぶっ飛ばそうってんだから。ま、是非もないよね!

 

「まず何故個人でゆりかごを落とそうなんて考えたんですか……」

 

 検査が終わると病室に戻り説明を受ける。

 

 驚くべきことに、事件から既に1ヶ月も経っていた。つまり、俺もそれだけ眠っていたということである。

 

 尤も、容態は安定していたらしく、特に心配されるようなことはなかったそうだ。長く眠っていたのは、それだけ体が休眠を必要としてたからとのこと。

 

 外傷の治療が終わった時点で、本局の病院からこちらに移送されたらしい。

 

 次に体のことについて。

 

 左腕は肘から先を切断されたが、ここは治らないと言われた。当然だ。魔法技術がいくら高くても、なくなった部分は戻らない。他の外傷は殆ど治っているらしい。

 

 ただし、1ヶ月も寝てたので、体は思うように動かないだろうとのこと。そんな感じはあまりないんだけどね。むしろ調子が良いというか。

 

 最後に、リンカーコア。

 

 眠っていた間に何度か検査したが、リンカーコアは検出すらされなかったらしい。予想通り、消し飛んでいたようだ。

 

 つまり、俺にはもう、魔導師としての力は残っていない。

 

 暫くは、胸の痛みが発作的に続くそうだ。

 

 以上が、今の俺の状態。

 

 あ、それと目が覚めて分かったことだが、右目が翡翠色になってた。人体の神秘だね。

 

「……皆本当に心配したんですからね」

「……そうか」

 

 はやてやヴィヴィオ、高町達もしょっちゅうお見舞いに来てくれていたそうだ。てことは、ヴィヴィオに後遺症は特にないみたいだね。良かった良かった。

 

「あんな傷だらけの状態でゆりかごを壊そうとするなんて、正気の沙汰じゃありません!」

「まあまあそれは後で聞くから」

 

 説教は程々に聞き流し、事件の顛末を尋ねる。

 

「事件のことなら……」

 

 説教を流されたのが気に障ったのかムッとした表情のシャマル。それでも説明してくれるらしく口を開くが、話す前に扉が勢いよく開かれた。

 

「私が説明するッ!」

 

 入って来たのは、肩で息をするはやてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 はやては、俺の意識が戻ったことを聞くと、すぐさま仕事を切り上げて飛んできたそうだ。シャマルに廊下は走らないでと注意されていた。

 

 そして現在。俺たちは、病院の中庭を散歩している。

 

 寝てる間に時は過ぎ、季節はもう秋。木の葉も紅く色づき始めている。

 

「まさか、こんな日が来るとはなあ」

 

 背後から感慨深げなはやての声が聞こえてくる。

 

 俺は拘束されたまま、はやてに車いすを押してもらっていた。昔は逆だったからね。確かに奇妙な縁だと思う。

 

「……別に俺は動けるけどね」

「絶対安静ってシャマルに言われとったやん」

 

 体の感覚的に、バインドが無ければ歩けるとは思うんだけどね。シャマルにもそう言ったのだが、全然聞き入れてくれなかった。

 

「一か月も寝てたんやで? 少しは安心させてな」

 

 そう言われると、何も言い返せなくなっちゃうぜ。

 

「……で。事件は、どうなったんだ?」

 

 雑談もそこそこに、本題に入る。

 

「その前に」

 

 ……入ろうとしたのだが、はやてに遮られた。俺の前に回り込むと、懐から取り出す。

 

「はい、これ」

 

 俺の膝の上に置かれたのは、翡翠色の宝石と獅子のネックレス。

 

『おはようございます、マスター』

『お久しぶりです』

「……ジェイド。グリーヴァ」

 

 ジェイドと、グリーヴァだった。

 考えてみれば、1ヶ月も経ってたんだから、修理も終わっていて然るべきか。

 

 にしても、この距離でもジェイドとグリーヴァとの繋がりは感じられない。改めて、魔力を失ったということを実感する。

 

「それじゃ、事件のことを話そっか」

 

 はやてはそう言うと、再び俺の後ろに回り、車イスを押し始めた。

 

 

 

 

 

 

 古代ベルカ時代のロストロギア、『聖王のゆりかご』は無事破壊され、地上の方に大きな被害は出なかったそうだ。

 

「よかった」

「何がよかったやねん。砲撃放った後すぐに気絶したから、一瞬死んじゃったかと思って凄い焦ったし。その後は晃一君寝てるせいで私だけみんなから怒られるし。散々だったわ」

「悪い悪い。助かったと思ってるよ」

 

 わざとらしい、すねたような声が聞こえてくる。……まあ、ゆりかごの破壊は、きっと俺一人では失敗していた。はやてがいたからこそできたことだ。純粋にそう思ってる。

 

「ありがとな」

「むう。……分かればよろしい」

 

 素直に礼を告げると、はやてはすんなりと許してくれた。

 

 

 

 一連の事件は、ジェイル・スカリエッティの名前を取って、JS事件と名付けられた。

 

「JSか……」

「どうかした?」

「いや何でも」

 

 女子◯学生とか考えてないですよ? ……後でスカさんに会ったらからかってやろう。

 

 主犯のジェイル・スカリエッティはテスタロッサによって逮捕。一味もとい娘である戦闘機人達も全員が捕縛されたという。

 

 管理局への協力という減刑の交渉をジェイル・スカリエッティと娘達の内の数人は拒否、今は勾留されている。

 

 一方、正しい教育が行われていなかったと認められ、かつ管理局に対して協力的な姿勢を見せた数人は、更正プログラムを受けた後、釈放されるそうだ。

 

 そこでふと思い出す。

 

「召喚師の協力者っていなかったか?そっちはどうなった?」

「その子なら後者。シグナムが引き取ることになったユニゾンデバイスの子と一緒に更正プログラムを受けとるよ」

 

 なるほど、そっちも捕まったのか。

 はやてによると、ガジェットを大量召喚してくれやがったのは、ルーテシアという名前のまだ幼い少女だったそうだ。

 

 というか、あれ?

 

「ちょっと待て。ユニゾンデバイスだと?」

 

 ただでさえツヴァイがいるのに? 激レアの古代ベルカユニゾンデバイスを一家で二人?

 

「炎熱の魔力変換資質持ちで、シグナムと相性良くてなぁ。資質の面でも、その他でも」

「あのサムライまだ強くなんのか」

 

 八神家の戦闘力が留まるところを知らない件について。新世界の神にでもなるおつもりか。

 

「それと、アギトのことなんやけど……」

 

 そこから、話はアギト周辺のことについてになった。僅かに、声のトーンが落ちる。そこには触れず、俺は黙ってシグナムが引き取る前の主人のことや、事件とのかかわりについての話に耳を傾けた。

 

 アギトの前の主人、ゼスト・グランガイツは、もとは管理局の魔導師であり、古代ベルカ式使いの騎士だったという。グランガイツはルーテシアやアギトの面倒を見る傍ら、己の目的のために動いていたのだとか。

 

 その目的は、旧友であるレジアス・ゲイズとの対話。……だが。

 

 両者は対面することは出来ても、対話は成されなかった。

 

 理由は一つ。

 

「……レジアスさんが殺された、か」

「……うん」

 

 何かを語る前に、不意を突かれ、戦闘機人の一人に背後から刺されたのだ。

 

 致命傷を負い、レジアスさんはそのまま死亡。グランガイツは戦闘機人を撃破した後、居合わせたシグナムと一騎打ち。シグナムは騎士の騎士としての最期に立ち合い、アギトを譲り受けたそうだ。

 

 レジアスさん……悪い人では、なかったんだけどな。

 

「もう、うまい飯も奢ってもらえないな」

「……晃一君……」

 

 クロノは黒い噂が絶えないなんて言ってたが、管理局に所属してない俺にはあまり関係なかったので何だかんだよくしてもらった。地上を想う気持ちは確かに本物だと感じたし、状況を打破しようと、あの人はずっと頑張っていたのだ。

 

 ……墓参り、行かなきゃな。

 

「……さて、事件に関してはこんなもんか?」

「うん、晃一君に関係してそうなのはあらかた話したかな」

「そうか」

 

 ふと顔を上げると、空は綺麗な夕暮れ模様となっていた。だいぶ長く話し込んでいたらしい。気温も大分涼しくなり、頬を撫でる風が気持ちいい。

 

「……それで」

「ん?」

 

 はやてが口を開いた。他に何か、話すことでもあったのだろうか。

 

 

 

「晃一君のことは、話してくれないの?」

 

 

 

 風が、一際強く吹いた。木々のざわめきが沈黙を埋める。

 

 はやては黙って、俺の言葉を待っている。

 

「……大したことじゃないさ。聖王の血が流れてたってだけだ」

「……むー」

「にゃにさ」

 

 答えが気に入らなかったのか、ほっぺをつねってきた。今日はよく唸りますね。

 

()()()()()

 

 分かっとるくせにと、むにむに抗議してくる。……ああ、分かってるさ。何を聞いているのかも、何を言うべきなのかも。

 

 顔を逸らして、はやての手から逃れる。

 

「……そのうち話すさ、そのうちな」

「ほんとやろな?」

 

 なぜだろう。顔を見てないのにジト目で見られてると分かるぞ。

 

「……ふふ」

「……ちょっと」

 

 急に目の前に現れる細い腕。こっちがバインドで動けないのをいいことに、彼女は後ろから抱き着いてきたのだ。

 

「ふふふ、お返しや」

 

 何の、とは聞かない。

 

 息遣いも柔らかな感触も、密着しているとそのまま伝わってくる。恥ずかしくなるから勘弁して欲しいのだが。

 

「晃一君」

「なんだよ?」

 

 抱きついたまま、はやてが口を開いた。吐息が耳にあたってくすぐったい。

 

「やっぱりちょっと、雰囲気変わったな」

「……かもな」

 

 そこは否定しない。色んな事があって。色々とけじめを付けた。変わったんだろうなと、自分でも思う。

 

「これなら、遠慮はいらんかなー?」

「何のだよ?」

「ふふ、分かっとるくせに」

「…………」

 

 とぼけてみるが、お見通しのようだ。即座に返され、押し黙る。

 

 そんな俺を見て、はやては満足そうに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

「さてと! 晃一君、これから大変やで?」

「は?」

 

 なんかあったか?聖王関係なら魔力失ってるし、面倒事はヴィヴィオの方にいくと思ってたんだけど。

 

「ほら、大学とか」

「──」

 

 めのまえが まっくらに なった

 

 

 




八門遁甲+聖王の力の影響で主人公の肉体は活性してます。1ヶ月寝てたのにすぐに起き上がれたのはそのせい。

次で最終話になります。あとがき書くのが楽しみです。


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最終話 夜風に吹かれて

 無機質な建物の中を歩く。

 

 両脇には、武装状態の男が二人。会話はなく、足音と杖が床を打つ音のみが木霊していた。

 

 しばらく歩くと、一行はとある扉の前に到着した。その扉の前にも局員が二人。緊張感が漂う中、扉が開き、俺は部屋に入る。

 

「……やあやあスカさん。ひさしぶり」

「これはこれは晃一君。よく来てくれたね」

 

 檻越しに、スカさんの笑い声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「テスタロッサから聞いてるだろうけど、戦闘機人達の一部は更正プログラムを受けてる。ここに来る前に軽く見てきたけど、元気そうだったよ」

「ああ、他の娘達はどうだい?」

「絶賛勾留中。意志は変わらなそうだね」

「そうかそうか」

 

 ここは、第9無人世界『グリューエン』の監獄。現在、俺は絶賛勾留中のスカさんに会いに来ていた。表向きの目的は事情聴取。担当執務官であるテスタロッサに頼んだら、思いの外すんなり了承してくれた。スカさんの方も俺と話したがっていたらしい。

 

 透明な壁越しのスカさんとの対面。スカさんは檻の中のベッドに座っており、俺は用意された椅子に座っている。この檻は、魔法的にも科学的にも鉄壁とのこと。スカさん相手なら、ダイヤモンドくらいの強度がないと逃げ出しそうだけどね。

 

「娘達とは話したのかね?」

「全員とじゃないけどね。ウーノさんと、あとは……チンクだったか。5番目の娘とは話したよ」

「おや、他の子達はともかく、オットーとディードとは話さなかったのかい?」

「いや、顔合わせはしたんだけどさ……」

 

 俺が戦ったあの二人とも一応会いはした。ただ、オットーは敵意マックスで睨みつけてくるし、ディードはその陰でおびえてるしで、会話どころじゃなかったんだよね。オットーはとにかく、ディードはどうして恐がってるんだろうか。こっちは腕斬られてるんだけどなあ。

 

 そんなわけで、更正組の中での長女的存在だったチンクとだけ話してきたのだ。……アメちゃんあげようとしたら怒られたけど。

 

「……腕に関しては、何もなかったのかい?」

「いやぁ、特に何も。怨むならスカさんを怨むし」

「ククク、それは何よりだ」

 

 何よりなのか? 自分で言っておいてなんだが。

 

 それにしても、と背もたれに体重を預ける。

 

 改めて考えてみると、腕を切断されたというのに、大して怒りを抱いていないことに気付く。

 

 ──ま、俺にとって重要だったのはその後だったってだけだな。

 

 そう結論付けていると、再びスカさんが口を開いた。

 

「それはそうと晃一君、学校はいいのかい?何やら危ないと小耳に挟んでいるのだが」

「おいそれどっから聞いた?」

 

 なんで独房の中で俺の情報掴んじゃってんだよ。全然密封できてないじゃん。プライバシーどうなってんだ。訴訟するぞ。

 

「ククク。天才の私にかかれば調べようなどいくらでもあるのさ。……それで、実際問題どうなんだい?」

「おかげさまで留年確定じゃボケ」

「ハッハッハッハ」

 

 素直に殺したい。

 

 目が覚めてから直ぐに地球に帰ってたらギリギリセーフだったかもしれなかったのだが、腕のこともあり、自由に出歩けるようになるまで時間がかかってしまった。今はもう11月下旬。めでたくチェックメイトである。

 

 ――やっぱ怨めしいなコイツ。

 

 そんなこと考えていると、ニヤニヤと笑みを絶やさなかったスカさんが、不意に真顔になった。

 

「……聖王の力を利用してテロを起こしたはずが、聖王の力によって邪魔されるとはね」

「その辺はご愁傷様としか」

 

 スカさんはクローンを造ればいいと考えていただろうからな。滅んだはずの王家の血。それが管理外世界で生きていたとしても、見つける必要があまりなかったはずだ。

 

「ましてその王が晃一君だったとは……何とも皮肉な話じゃないか。笑ってくれて構わないよ」

「はははははは!!」

「成程、いざやられると腹立つ」

 

 やり返してやりましたとも。ちょっとすっきりした。

 

「まあ第一目標はクリアしてるのだが!その点私は負けてないのだがね!」

「え、そうだったの?」

 

 それは初耳だな。なんだろ、ヴィヴィオの誘拐とか? だったら本格的にJS事件だね、このロリコンめ。

 

「晃一君は、最高評議会の存在を聞いたことはあるかい?」

「すごい嫌な予感がするから黙って欲しいんだけど」

 

 俺の制止も聞かず、スカさんは語り始めた。

 

 表向きには存在しない、管理局のトップ。それが最高評議会。管理局をあらゆる面から支配する存在。地上本部のトップであるあのグレアムさんよりも強い権力を持つとのこと。要は『らりるれろ』ってわけだ。

 

「何を隠そう、この私も縛られていた身でね」

「え、スカさんが? 信じらんねえ」

「もちろん、『枷』は引きちぎってやったとも」

 

 デスヨネー。やっぱりこの檻じゃこの人閉じ込めておけないんじゃないだろうか。

 

 更にスカさんの話を聞くと、最高評議会の正体は管理局の創設者本人達なのだという。脳ミソだけとなりながらも、ずっと生き続けていたのだ。

 

 そんな奴らによってスカさんは生み出された。つまりスカさんも人造生命体というわけで。

 

「ってことは、スカさんの第一目標は……」

「お察しの通り、奴らの殺害さ」

 

 ニヤリと笑うスカさん。

 

 安く言ってしまえば、スカさんの目標ってのは復讐だったというわけだ。自分を縛り、弄んだ連中の削除。んでもって、これは達成されたと。

 

「よかったじゃん、おめでとー」

「えらいアッサリしてるね」

「そっちの方は俺関係ないからな」

 

 正真正銘、他人事だもの。六課には犠牲者は一人も出なかった、俺にとって重要なのはそこだけだ。殺したいほど憎い奴がいたわけでもないから、復讐に燃える人間に言えることはない。

 

 ただ、復讐について自分の意見を言うならば。

 

「『復讐は何も生まない』なんてのはよく聞く言葉だけどさ、『復讐をしないこと』が何かを消してくれるわけじゃないだろ?」

 

 俺はそう思う。復讐しないことを選んだとして、そこに救いはあるのだろうか。

 

 それに、と少しだけ想像してみる。殺したいと心から思う存在がいて、そいつをこの手で消せたら。復讐に成功したら。

 

「……うん、やっぱり普通に喜んじゃうと思うんだよね」

 

 そんな俺は、やっぱりあいつらとは違って、汚れて捻くれているんだろうな。

 

「ククク、そうかい」

 

 だけど、スカさんは嬉しそうに笑っていた。

 

「というか評議会あたりの情報は、知ると消されそうだから教えないでほしかったんだけど」

「その心配はないだろう。知られて一番困る者は既に死んだ。トップを失くしたこの状況で、残された連中に『ゆりかご墜とし』の聖王様をどうにかすることなど、出来はしないさ」

「……その聖王様は、ヴィヴィオってことになってるんだがな」

 

 古代ベルカ時代において『聖者の証』とされたらしいこの両目はあるものの、リンカーコアを失った俺に魔力光が虹色であったと示す術はない。一方、ヴィヴィオは聖王教会で祀られているオリヴィエ・ゼーゲブレヒト本人のクローンだ。

 よって、聖王のゆりかごの破壊に俺は関わってないことになった。機動六課と聖王の力に目覚めたヴィヴィオの奮闘によってゆりかごは破壊された。表向きにはそういうことで落ち着いたのだ。こちらの話の方が信憑性があるし、これ以上ない美談にもなる。

 何が言いたいかというと、俺には基本的に後ろ盾はない。不安要素しかない件について。

 

「まあ、殺されてんなら話が広まっても存在が明るみに出ることはない、か」

 

 それなら大丈夫かな。……大丈夫だよね? スカさんの言葉を信じるよ?

 

「あーもうこの話は止めだ、止め! 俺はスカさんに頼みごとがあってきたんだよ」

「ほう?」

 

 スカさんの眉がピクリと動いた。言ってみたまえと、視線で促される。

 

 それを確認した俺は、ゲンドウポーズをとり、依頼を口にした。

 

「俺の左腕を造ってほしい」

 

 

 

 

 

 

 

「──あほなんか!?」

 

 至近距離で叫ばれて、耳を塞ぐことの出来ない古夜は顔をしかめる。

 

「ご近所迷惑だぞ、うるさいなあ」

「うっ……最近、晃一君の当たりが強い……」

 

 古夜の容赦ない物言いに、はやては言葉に詰まり、肩を落とした。

 

 場所は変わって、ここは地球。スカリエッティとの面会の後、その足で古夜は海鳴市へと帰ってきていた。ちょっとした目的があってのことである。何処から聞きつけたのか、はやてもついてきたが。

 尚、ジェイドとグリーヴァはマリエルに預けていた。

 

 スカリエッティとの話が長引いたこともあって、時刻はもう夜遅い。暗くなった道を二人は歩く。

 

「腕斬られた相手に義手造ってって、何言うてんねん」

「いやいや、生体工学においてスカさんの右に出る人間はいない。合理的な判断じゃないか」

「変態的なマッドサイエンティストなんやけど……」

 

 スカリエッティはテロを起こしたばかりの、歴史に名を残すであろう凶悪犯である。はやてからすれば合理的とは言えない選択だ。

 

「返事は、どうだったん?」

「快く承諾してくれたよ。あとは環境づくりだけだな」

「心配やなあ……」

 

 古夜がスカリエッティと顔見知りであったことが未だに信じられないはやて。しかし、古夜は特に裏切られる心配はしていない。スカリエッティを信じているようにすら思える。

 

「……むう」

「うおっと、なんだよ?」

 

 古夜に左側から抱き着く。はやては端的に言えば嫉妬していた。自分の知らないところで古夜と分かりあっているようであるスカリエッティに。あんな変態科学者に負けた気になってしまうのもまた腹が立つ。

 

 杖を突きながらもはやてをしっかりと受け止めていた古夜は、そんな彼女の様子を見て微かに笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「……もしかしたら、俺はスカさんの仲間だったかもしれないからな」

「え?」

 

 思いがけない言葉に、はやては自分の耳を疑った。

 

「その話は後だ。着いたぞ」

「あ、うん。……ここが」

 

 古夜はそこで話を切り、足を止めた。はやても古夜から離れる。

 

 二人がたどり着いたのは────墓地。

 

 そこは、古谷家の墓石のある場所であった。

 

 

 

 

 

 線香に火をつけ、墓前に供えた後に合掌。古夜の場合は杖を置き、座りながら片手で拝む。

 

 少しの間、辺りが静寂に包まれる。

 

「……思っていたよりも綺麗だな」

 

 拝むのを止めた古夜が、ぽつりとこぼした。はやても拝むのを止め、古夜の方へと向き直る。

 

「墓参りに来るの、久しぶりなん?」

「久しぶりっていうか……初めてだな」

「え、ほんまに!?」

 

 事実である。今まで古夜はリーゼ達の誘いを断り続け、墓の手入れも任せ続けていた。

 

「どのツラ下げて墓参りに来たらいいか、分かんなかったしな」

「あ……」

 

 古夜の言葉ではやては思い出す。古夜には、両親との記憶がないのだ。グレアムに保護されてからの記憶しか、彼は持ち合わせていない。

 そして『彼』からしてみれば、乗っ取ったかもしれない子の両親が眠る墓である。墓参りに行く気にはなれず、ずっと避け続けていた。

 

「でもまあ、それももう終わりだ」

 

 杖を手に取り、立ち上がる古夜。避け続けるのはもう終わり。

 

 

 

 彼は、この世界に生きることを選択した。

 

 

 

 その為に、()()()()()()()()()()()()()()と、そう思ったのだ。あの時彼は人生に、そして世界に区切りを付けようとしたのである。今日ここに来たのは、『古夜晃一』ともう一人を弔うためでもあった。

 

 ──『死門』を開いて死んだのは、『あの世界の自分』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道。夜の帳が下りた町を歩く。

 

「それで晃一君、さっきの話なんやけど……」

「ん?ああ、スカさんの仲間になってたかもって話か」

「うん。……どうして?」

 

 おずおずと切り出すはやて。古夜と敵対するビジョンが、はやてには浮かばなかった。

 

「俺は、この世界を認めたくなかったからな」

 

 笑みを浮かべながら古夜はそう話した。

 

「世界を否定する側に立って、スカさんと一緒に、欲望のままに。……暴れまわってたかもしれない」

「でも!晃一君は私の味方をしてくれた!」

「ああ、そうだな」

 

 頷き、古夜は優しく微笑んだ。今まで見たことのない古夜の表情に、はやての頬が熱を持つ。完全に不意打ちだった。

 

「俺ははやて達のおかげで、この世界が好きになれたんだよ」

 

 この世界は良い人ばっかりで、格好いい人ばっかりだった。真っ直ぐで、強くて、眩しい人ばっかりだった。

 

 はやて達は、彼の憧れだったのだ。

 

 この世界を否定することは、出来なかった。この世界で生きようと、その為に覚悟を決めようと、そう思えたのだ。世界を受け入れることができたのは、好きになることができたのは、はやて達のおかげであった。

 

「だから、まあ、俺ははやての敵にはならないよ」

 

スカリエッティのように、復讐の道を選ぶこともないだろう。

 

『悲しみや憎しみは、誰かが歯を食いしばって断ち切らなければならない』

 

この言葉は綺麗事なのかもしれない。でも彼女達は、悲劇も理不尽も知った上で、それでも断ち切ろうとするだろうから。だったら自分も、たとえそれがつらい道だとしても、歯を食いしばって生きていく。

 

スカリエッティの誘いを断ったのも、結局ははやて達のお陰であった。

 

「……そっか」

 

 どうやら、古夜と敵対する未来は訪れないらしい。安心したように、はやてはほっと息をついた。

 

「さ、はやてはそろそろ向こうに戻らなきゃな」

「え、今日は私、帰らんよ?」

「なんだ、月村の家にでも泊まるのか?」

 

 古夜がそう聞くと、はやては満面の笑みで口を開いた。

 

「泊めて!」

「は?」

 

 今度は古夜が自分の耳を疑う番だった。思わず立ち止まる。

 

「俺、お前のこと泊めたことあったっけ?」

「初めてやな!」

「泊まり道具はどうした?」

「一泊分なら大丈夫!」

 

 最初からそのつもりでついて来たらしい。間髪入れずに返答する。

 

「ほらほら、晃一君の身の回りの世話もせんといかんし!」

「なんか押しが強くなってないかお前……」

「これからはグイグイいくって決めたんや!」

 

 再び古夜に抱き着くはやて。オッケーしてくれるまで離さないと、そうアピールする。

 何と言って断ろうかと考えていた古夜だったが、しがみついたまま動こうとしないはやてを見て、やがてゆっくりとため息をついた。

 

「……はぁ。仕方ない。今回だけだぞ?」

「やったぁ!」

 

 喜ぶはやてに引っ張られるようにして、自宅へと歩き始める古夜。

 

 

 

 風が、二人を優しく包んでいた。

 

 

 




これにて、本編は完結とさせていただきます。
番外編的なものは今のところ一切書いてませんが、いつか出せたらなあと思ってます。
書きたいことはたくさんありますが、それらはあとがきにて。ええ、あとがき書きたかったんですよ。
ひとまずこの場ではこの程度で失礼させていただきます。

ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。


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あとがき

ここは本編には一切関係のない作者のお話です。


 こんにちは。書くのをさぼってたにもかかわらず、いっちょ前にあとがきを投稿する作者です。

 

『魔法の世界にこんにちは』、無事かどうかはともかく、完結出来てほっとしております。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。これ、去年のクリスマスには終わってる予定だったんですよねえ……。全てはさぼっていた作者の責任ですが。

 

 さて、あとがき書いてみたいとは思ってましたが、いざ書くとなると何を書いたらいいのか迷っております。

 

 とりあえずは、書くことになったきっかけから。

 

 有り体に言えば自分の好みのなのは二次が読みたかったからです。自家発電です。あとは単純に『二次小説を書いてみたい』と思ったのもあります。

 自分の場合、なのはのアニメはstsすらリアルタイムで見てませんでした。なのはを見るきっかけは二次創作、それも『魔法少女リリカルなのは』ではなく『とらいあんぐるハート』です。リリなのとの関係を知って、二次小説を読み漁っているうちに、書きたい欲がこうムクムクと膨らみまして、衝動のままに書き始めておりました。

 

 次に、テーマについて。

 

 テーマと呼べるものはぶっちゃけありませんでした。ただ、何を書きたかったか、というのははっきりしてます。『かっこいい主人公』を書きたかったのです。俗にいうオリ主、原作沿いに進む話の中では圧倒的なオリジナルの要素です。『このキャラかっこいい』と思ってもらえれば、それがこの作品の魅力につながると思いました。古夜君に少しでも魅力を感じていただけたら幸いです。

 

 そうして書き進めていく内に『転生者の悩み』がテーマとして浮かんできたのでした

 

 次は、オリキャラについて。古夜晃一と、相良透の二人ですね。

 

 相良君はもっと書きたかったなあ。進行上の都合で彼の話は結構削られていたりします。設定としては『ギャルゲ主人公の親友』ですかね。今考えましたが。あと古夜君はギャルゲ主人公ではないです。

 

 古夜晃一はまず名前から。二次元らしい名前にしたいとは思ったのですが、いい感じのが思い浮かばず、普通にある名前を漢字だけ変えるという形にしました。作者にネーミングセンスはないようです。

 主人公のキャラについては、上でも書いているようにかっこよくしたかったので、『かっこいいキャラとは』をまず考えました。一番最初に思い浮かんだのは『ハードボイルド』でしたね。子供からやり直させんのにこれはねえなと思いました。ただ、若干ですが意識はしてます。女性陣とあまり距離を詰めなかった(作者側の)理由の一つだったりします。

 あと、主人公にいろんなキャラの技や名言を使わせたのもかっこよくするためですね。いわば強化パーツです。

 

 あとは、ヒロインでしょうか。

 

 実は、書こうと思った当初は、ヒロインはなのはの予定でした。ただ、それでちょっと書いてみたら、読み直したときになんだか鳥肌が立ちまして。アニメを見直して、やっぱユーなのだなあと思った後、なのははヒロイン枠から外れました。

 そうしてヒロイン枠に上がったのが二期一番のキーキャラであるはやてちゃん。絡ませやすく、使いやすかったです。訛りについては別の話ですが。それと、結局最後まで明確に結ばれた描写は書きませんでした。これは作者の実力不足が大きいです。恋ってよくわかんない!

 問題はサブヒロイン? のすずかです。彼女との絡みは、魔法世界関係ない生活を示す為にももっと書きたかったのですが書けませんでした。?を取るかどうかで最後まで悩んだことが大きいです。取ってしまうと恋愛要素が強くなり、そうなると主人公を動かしづらくなってしまったんですよね。

 ハーレムは主人公のキャラ的に無いです。ただ作者はハーレムもの好きですよ? いいじゃないですか、夢があって。

 

 さて、拙作についての話はこの辺で。

 

 ここまで沢山の方に読んでいただけるとは思ってもみませんでした。物語を書くのは初めてのことで、拙い部分も多々あったとは思いますが、評価に感想、すごくうれしかったです。少しはましな文を書けるようになったでしょうか。

 ランキングに載っていたのを初めて見た時の、あの誰かに報告したいけど秘密にしてて誰にも言えず悶々とした感覚、今でも覚えております。皆様の評価や感想が作者の背中を蹴り飛ばしてくれました。次回作も書けたらいいですね。その時はまたお付き合いしていただけらばと思います。

 

 改めて、皆様本当にありがとうございました。

 




いつの日か……また会おう!


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