世にリリウムのあらん事を (木曾のポン酢)
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AC4編
プロローグ


ACfAやってたら書きたくなった。

とりあえずお付き合いお願いします


事実は小説よりも奇なり。とは良い諺だと私は思う。25年という短い人生だったが、書物よりも突飛な出来事には両手両足の指では足りないくらい巡り合った。

なぜ私が、白装束を着て頭の上に天使の輪を乗っけているというわけのわからん状況でこんなふうに考えているかというと、人生のクライマックスにて最高に奇なる出来事と顔を合わせてしまったからだ

 

「……書類ミス、ですか」

 

先ほど、目の前に現れた大柄で父性溢れる白ひげの男に言われた言葉を繰り返す。どうでもいいが、なぜ顔付きやら服装は某イタ飯屋の壁にかかっている絵画に描かれている神のような姿なのに、頭には閻魔様の帽子を被っているのだろうか。宗教観がメチャクチャだ。これで天国がコーラン的な上にラグナロクに備えて戦いを繰り返すような場所だったらワシャ笑うぞ。

 

「本当にすまない……」

 

白ひげはそう頭を下げる。お付きのものの数を見る限り、冥界ではなかなかの重役であるらしい。

 

「君の人生は、あと105年ほど残っていたんだ。だけど、こちらのミスで癌にかかってしまって」

 

そう、癌。私の死因は胃癌だ。だが、後悔の無い人生ではあったので満足だと思う。刹那的享楽的に楽しく過ごした。両親も先に逝き、愛犬も既にこの世にはいない。まぁ死ぬならこのタイミングかなぁとは思っていた。彼女を作れなかったのはあれだが。

 

「ふむ、そうですか……」

 

しかし、そんな心情を無視して顔ではコンビニで店員のミスによりレジが長くなっている壮年のサラリーマンみたいな苦い表情を作る。まぁ、世界最高齢になる可能性があったのに死んだってのは惜しいし。

その表情を読み取ったのか、白ひげが申し訳なさそうな顔をする。おら、そっちのミスなんだからお詫びをプリーズせぇや。プリーズ。プリーズオワービ。お詫びくれんとワシャ許さんぞ。

 

「償えるかどうかはわからないが、私の権限で君には優先的に転生、もしくは転成の権利をあげよう。いま生きる世界以外でも構わない。出来るだけ希望通りの転生先にしよう。それに望むなら幾つかの特典も与える。それでどうだい?」

 

赦そう

 

「それで大丈夫です。すいませんがお願いします」

 

私は即、礼をした。交渉は苦手であるし、わたしの皆無な想像力でもってこれ以上のお詫びは思い付かない。

 

「では、こちらへ。君の新たな人生をどのように生きるかを決めよう。」

 

ホッとした表情で白ひげが言う。こういう表情をされると、ゴネないで良かったと感じる。さて、ではキャラメイクをしようか。興奮から歩幅が大きくなる。当然だ。今から私は、人生という世界最高のロールプレイゲームを、チートキャラでもって駆け巡ることができるのだ。同級生から初めてバグアイルーを受け取り、一瞬でアカムトルムを撃破した時以来の心のときめきが、身体全体を支配する。

 

待ってろよ新たな世界

私が滅茶苦茶にしてやるからな

 

 

 

目を開く。視界が狭い。口を開く。呼吸をする。空気が不味い。いや、あの世の空気が清廉で美味すぎたから比較して不味く感じているだけかもしれない。

まず周囲を見る。

コンクリートで出来た体育館みたいな建物だ。部屋には、幾つかの大きな機械と自分。そして初めて生で見る愛しき相棒の姿がある。

 

「クレピュスキュール……」

 

歓喜のあまり口から言葉が零れ落ちる。そこに立つのは、ACfaにおける私の愛機であるクレピュスキュールだ。私がいままで見たヘッドパーツの中で一番美しいと確信している063ANと、流麗なボディ。右手には金色の名刀、左手には蒼色のハイレーザーライフルを見て確信する。そして、彼女が背負う凶悪なそれをみて、さらなる歓喜に包まれる。

 

「白栗コアにOIGAMIを背負えている!!」

 

私がfaに抱いていた一番の不満である白栗コアにOIGAMIが背負えないという仕様。それが素晴らしき神様パワーにより消滅していた。

目の前に立つ美しき巨人は、その2つの羽根の付け根の間に強大凶暴な大型グレネードを背負っていた

 

「良かったァァァァ!!OIGAMIを背負っても重量過多にならないようアセンやチューンして良かったァァァァ!!!」

 

うっきうきだ。身体が勝手に踊りだす。

 

「あ、そうだ。自分の姿はどうなっているかしら」

 

気づいたように一人呟く。まぁ、喉から発せられているのが美しいソプラノ声なのでほぼ問題はないが、一応念のためだ。

まず、先ほどから一切見えてない左眼の辺りを触る。

そこには、皮でできた眼帯がされていた。それを外す。やはり左眼は見えない。クリア。

次に髪を触る。サラサラとした素晴らしい手触りだ。一本抜いてみると、輝く美しい金髪。クリア。

そのまま腕。白く、細いが引き締まった右腕と、白魚のような美しい右手。そして、肩と肘の間でちぎれ、痛々しい傷跡を残す左腕。クリア。

胸……………………………………………………

 

はぁ〜母親以外の胸ってこんなのなのかぁ!!前の人生で触りたかったなぁ!!小さいがこれからの成長が期待できる良い胸だなぁ!!クリア!!!

次腹筋!引き締まってる!割れてる!クリア!

脚!!細い!白い!綺麗!引き締まってる!クリア!

足!こっちも綺麗!香りはフローラル!クリア!

よし!とりあえず肢体は完璧だ。これで顔が破滅してたらあれだが、最悪の場合は整形がある。神様にも恩はあるが。詫びでもらった身体なので親の恩よりは薄いはずだ。身体を弄るのに躊躇はない。

と、手元に手鏡が落ちているのに気がついた。痒いところに手が届くサービスだ。

では、顔を見よう。なんの心配もなく鏡を覗いた私の目の前にいたのは……

 

美しい少女だった。簡単に言うと、FGOのジャンヌ・オルタをロリ化して左眼に眼帯をしたような顔立ちだ。白い肌、整った顔立ちに性格の悪そうな目付き。眼帯をどかすと、光のない義眼が不気味に光る。

完璧だった。すべて要望通りだった。最高だぜ神様、このクソッタレな世界において、私は貴方の永遠の信徒となる事を約束しよう!そう心が叫んでいた。

さて、では初試乗と洒落込むか。

階段でもって壁にあるキャットウォークへと登り、そこから機体に近づく。

周囲の整備メカは自らの主人が愛機に乗り込もうとするのを感じたのか、自動で離れていった。素晴らしいAIだ。

クレピュスキュールのコアに乗り込む。手元には説明書が置いてあった。

それに従い、自らの身体を接続する

 

『パイロットの接続を確認。メインシステムを起動します。』

 

突如視界が飛んだ。

いままでよりも、高い、高い視点から万物を見下ろす。間違いない、これはクレピュスキュールが見ているものだ。

 

「そうか!リンクスってのはこんな景色を見ながら戦争をしていたのか!」

 

あぁ素晴らしい。閉じた右眼からとめどなく涙があふれるのを感じる。ネクストと同期している間は身体を上手く動かすことができないので、この涙を拭けないのが少しもどかしい。

さて、とりあえず初フライトだ。

 

「少し飛んでくる。隔壁を開け!」

 

そうマイクに向かって言うと、ゆっくりと目の前のシャッターが開く。

よし、まずは歩くことに集中しよう……と考えたが。思った以上に素直に一歩がでた。

そのまま二歩、三歩と歩みが進む。つけてよかった、史上最高のAMS適性という設定。自分がゲームで出来るレベルのことは最初から出来るという設定。自分、努力嫌いなのよ。

そうして秘密基地から出て、さらに洞窟の中を歩き、外へと出る。

名も知らぬ山の、八合目あたりにある洞窟から出た自分の目の前には荒廃した世界が広がる。枯れた大地。萎れた建物。空だけがやたらと蒼いのがなんともアンバランスだ。日本から来た自分にとっては、地獄のような場所だ。

だが、それがいい。第二の人生なのだ、これくらい変わってなければ。

ブースターに火を入れる。身体は驚くほど軽い。直ぐに空を飛べた。

 

「ククッ……」

 

あぁダメだ。もう、ダメだ。こりゃ、ダメ、だ。

 

「クハッ!クハハッ!!クハハハハハハハハッ!!!」

 

まるで地獄の大魔王のような笑い声が自然と身体中からこみ上げてくる。こんなに、こんなに楽しいことがあってたまるか!!

 

「クレピュスキュール」

 

『はい』

 

呼ぶと、クレピュスキュールのAIが応えた。要望通りのマー○ボイスだ。設定だと、自分の声を編集したのがクレピュスキュールのボイスとしているので、自分も他人が聞いたらこの声なのだろう。流石だな神様。CVすら指定できるとは。

 

「いまこの世界で起こっていることを説明して」

 

『了解しました』

 

そういうと、クレピュスキュールは年表に従い歴史を語る。

 

曰く、企業との戦争により国家は解体されたと。

曰く、企業の勝利は、ネクストACのお陰だと。

曰く、今は企業の統治によって世界は成り立っていると。

曰く、今オーメル陣営とアクアビット・レイレナード陣営は、コジマ技術をめぐって緊張状態にあると。

 

クリア……

そう口が勝手に呟いていた。

世界も完璧である。AC4が始まる直前。アナトリアのレイヴンが、世界を破壊する直前。そんな最中に私はいる。

楽しみだ。なんたってすぐに、リンクスによる血に塗れた闘争が始まり。その後数年で、夢想家によるテロが世界を席巻する。

そんな中に、イレギュラーとして存在できる。こんなに心躍る状況はそう無い。年齢もできるだけ若く設定した甲斐があったってもんだ。わたしじゅうにちゃい!

 

そうして10分ほどビュンビュンとフライトを楽しんだ私は、そのままガレージへと舞い戻った。

 

 

ガレージに併設する自室(指定通り、前の人生の自分の部屋が完璧に再現されていた。いたせりつくせりすぎる。お客様は神様の精神かしら)のベッドに横になった私は、これからの人生の目標を紙に書いた。

 

1つ、リリウム・ウォルコットを手中に収める。

1つ、世界を滅茶苦茶にする。

1つ、AFを手に入れる。

1つ、生き残る。

 

うん、紙に書くとやろう!頑張ろう!って気が湧いてくる。

まず1つ目。リリウムを手中に収める。

 

いいよね、リリウムいいよね。fa三大萌えリンクスとはよく言ったものだ。なんたってたおやかだもんたおやか。たおやかだよ?たおやか〜。

だけどリリウム、fa本編だと2つのルートで敵対してしまう。まぁどっちの戦闘でもセリフが素晴らしいんから良いけど。いいよね、人類種の天敵ルートでのあの無感情を装いつつも怒りがこもった声良いよね。可愛い!月光で真っ二つにしたけど。

でもやっぱりキャワイイ女の子とは一緒にいたい。だから今回の人生では、私はリリウムをなんとか自分の仲間にして、一緒にこのクソッタレな世界を生き抜くのだ!くぅ〜〜勃つぅーTSしてるからもう無いけどおっ勃つよね。あ、昔知り合いの女性作家さんが言ってたセリフを思い出した。心のち○こが勃ってる状態だ。心のち○こ!ここちん!ここたま!ここが……私のち○この場所よ!!マギー!!?

 

つぎ、世界を滅茶苦茶にする。

いやぁ、こんな戦争、戦争、雨、戦争な世の中にいるんだ。滅茶苦茶にしなきゃ損でしょ。基本的に自分は後先考えず、その場その場で楽しいことをして生きるを是としているので、分裂した行動を同じ人格で行える。例えば旅団員にクラニアムの襲撃命じといて自分はクラニアムの防衛やるとか。

楽しみだ、好きに生き、好きに死のう。理不尽に死んでも良いけど、好きには生きたい。

……キャラはハイテンションなのがいいな。ベースはふざけてる主任+ハイテンション財団。そこにヴァオーやらをお好みで足しつつ。とりあえず新武器を手に入れたらOBしながら「扱いづらいパーツとかって話だが、最新型が負けるわけねぇだろ!!行くぞおおぉぁあ!!」とか叫ぼっと

クソ傭兵がぶっ殺してやる……は使い所あるかしら。

まぁとりあえず、楽しくいこうぜを目標に頑張る。

 

次、AFを手に入れる。

理由は簡単。わちき移動要塞だいちゅき。だから欲しい。シンプルだね。

 

生き残るも理由としてはシンプルだ、やるからには生きて全てを見たい。残念ながら自分はオールドキングとは違い、死について悟れていない。殺しはする。でも死にたくは無い。そんなテンションだ。頑張ろ。全てを焼き尽くそう。もがれる翼の断末魔ろう。

 

さて、目標も持ったので。早速始動だ。

この部屋の隣には、自分がacfaで稼いだ金が置かれている金庫を置くようにお願いしている。そう、2つのルートをクリアしたら一切の使い道が無くなる金がだ。全ミッション埋めた後もストーリーミッションをやり続け、金のカンスト目指して頑張り続けた甲斐が、いま私の隣にある。

 

一旦部屋から出て、隣の分厚い金庫の壁へと歩みを進める。指紋や瞳孔から本人確認をすると、扉が開いた。

ゆっくりと入る。深呼吸する。部屋から出る。

 

 

インクと紙の匂いが混ざった濃厚な空気がとても美味しかったです(こなみ)

 

 




バトルはまだしません。多分


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お買い物やら情報収集やら今後の方針やら

デイアフターデイと名前の無い怪物を聞きながら書いた


オードドライブの自動車の中で部屋にあった漫画を読みながら、街へとお買い物に行く。

ちなみに車種はハイエースです。最悪王大人が先にリリウムちゃんの後見人になっちゃった場合は、リリウムちゃんハイエースしなきゃいけないからね。

しっかし、王大人も女性の趣味が最高である。だからこそなんだかんだいって自分は彼が好きだ。てかACfaのプレイヤー結構あの人嫌いだけど、あれほぼほぼ羨望や嫉妬やろ。それにあの重量過多機体もカッコよくて好きだ。四脚重スナイパーいいよね。

というわけで、自分は別に王大人を滅せようなどとは考えていない。それに、もし彼がリリウムがゲットできなかった時にどんな娘っ子を新たな女王にするか気になるし。どんな娘だろうなー。楽しみだなー。

 

と、そんなこんなやってたら街についたとカーナビが告げる。駐車場に車を止め、アタッシュケースを右手で持つ。横には秘密基地から連れてきた買い物かごのついたロボが付き添っている。うん、いいね。SF世界はこうでなくちゃ。

さて、人類は未だ空へと逃げていない。このクソッタレな大地で健気に生きている、ど根性大根のように。

カーナビ曰く、ここはBFFが管理する街だ。となると旧イギリスのどこかだろう。よし、外食はやめておこう。

とりあえず、いまやるべきは買い物だ。家具や家電とかも新しく買いたいが、カタログだけもらって後で考えよう。近未来だからっていまの家具より便利とは限らない。

まずはスーパーを覗くか……と見てみる。

 

……第1問題発生である。金の単位がコームではない。あるるぇ〜おかしいぞ〜!

何故だと考えようとしてふと動きを止める。あれか、もしやここにかかれている数字は、コームがドルだとするとセント的な意味合いを持つ数字なのかもしれない。そうだそうに決まってる。だってあの金、数百コーマでミサイル一本買えちゃうもん。おかしいって絶対。

というわけで、諸々の単位が高いであろう宝石屋に来てみた。

………あ、そこそこな大きさのダイヤモンドが1コームで売ってらぁ。テレビであれくらいのダイヤモンドが100万で売られているの見たことあるぞ。

やばいなこれ、やばすぎるだろこれ。これ自分がいまアタッシュケースを落として誰かに拾われるだけで、ここらの貨幣価値大変なことになるんちゃうか?

そんな危機感を抱きつつ、とりあえず両替的な意味で0.8コームのエメラルドのついたネックレスを購入する、店員は私みたいな少女がこんな大金を持っていることに大層驚いたが、すぐに商品を持ってきた。おおかた、どっかの企業のドラ娘とでも思ったのだろう。

ネックレスを首からかけ、意気揚々と店から出る。うん、いいね。生前は縁がなかったが、宝石は心を煌びやかにさせてくれる。もっと大人になって不審がられない歳になったら、すごい高い宝石買おう。

そう考え、とりあえず崩した0.2コーム分の札束を後ろのロボットに渡し、籠の中にはメモ書きを置く。

 

「店員さんへ。とりあえず食材をこの金額で買えるだけ、栄養のバランス良く詰めてください。0.01コームはチップです……」

 

これでよし、盗まれたらそん時はそん時だ。0.2コームなんて痛くも痒くもない。

 

「じゃ、お使いお願いね。」

 

そうロボに言うと、彼はトコトコとスーパーに向かって動いて行った。かわいい。それを見送り、自分は目的の場所へと歩みを進める。

企業の統治がしっかりしてるのか、治安は良い。女の子一人で歩いていても、拐われるなんて事はない。まぁ、これは事前に調べていてわかっていたのだが。

しかし……いま、自分の目の前にある真っ暗な路地は、そんな美しい常識は通用しないだろう。

一歩中に踏み入るだけで、クソみたいな匂いが鼻をつく。いやぁいい、最高だ。二歩歩いたら可愛い娘ちゃんはすぐに娼館か好事家の家にワープできるだろう。

まぁ、そんな事を気にせずに二歩目を踏み出す。

と、目の前に大柄なスキンヘッドでマッチョなお兄ちゃんが近づいてきた。

 

「おいおいお嬢ちゃん迷子か?ここは君みたいな娘が入るような場所じゃないよ」

 

驚き桃の木山椒の木である。第一エンカウントは親切なお兄さんであった。貴方にはこれからも麻薬とかに染まらず、常識ある悪事を行うように私は願う。

 

「違います。私は用があってここに来ました」

 

丁寧に、常識ある少女の役柄となりきりセリフを読む

 

「は?」

 

「この街で、一番腕の良い情報屋を教えてください」

 

自分がそう言うと、男は何かに気がついたのか自分の顔をしかめる。恐らく、自分の眼帯と左腕に気がついたのだろう。

 

「……なるほど、そう言う事かい。」

 

どう想像したから知らんが、それに乗る

 

「ここでの流儀はどのようなものか知りませんが、失礼にならないだけの金額は持ってきたつもりです。貴方にも報酬は払います。だから、案内してください」

 

ペコリと頭を下げる。さて、どうだ?襲いかかってきたらガレージに置いてあった拳銃が火吹くだけだ。一応、ここに来る前に訓練はやった。卒業旅行で貯金はたいて射撃場で撃ちまくった甲斐もあり、片手でもなんとかぶれずに撃てることがわかった。

まぁダメだったら死ぬだけだ、そんときゃそん時である。次の人生は鮒になりたい。

 

「……ついてきな」

 

「ありがとうございます」

 

男が背を向け、歩き始める。心の中のガッツポーズをおさえながら、自分もひょこひょことついていく。

 

「……警戒のつもりかもしれないが、懐の銃に気を向けすぎだぜ」

 

おっとこりゃ失敬。うむ、まぁプロじゃないからそういう動作には疎いのだ。

 

「すみません……あまり慣れてなくて」

 

「いや、いい。……だけどな、お嬢ちゃんみたいな美人さんに武器はあわないぜ……」

 

トクン……

やだ、なにこの人イケメンやん。惚れたわ。ワイの心の雌が恋に落ちたで今。これじゃあまるで抜きゲーのヒロインだよ。

あ、ちなみに私は武器を持つ女性は大好きです。ペロペロ。

 

 

 

30分ほど歩き、綺麗なビルに入る。そしてエレベーターに乗り、最上階へと向かう。

 

「ここだ、事前に連絡は入れといたからすぐに話はできる」

 

「ありがとうございます。お兄さん。」

 

ペコリと頭を下げて、扉を開ける。

 

中には、スーツ姿の男に挟まれた痩せたの男性が座っていた。こけた頬に四角い眼鏡。帽子は目深に被っているが、なかなかのインテリヤクザ顔だ。

 

「エドから話は聞いた。自分はシンというものだ。一応、ここら一帯は自分が取り仕切っている。子飼いの情報屋もそこそこいる。お嬢ちゃんの助けにはなるだろうよ」

 

シン。ならほど、私の顔だけで人を判断するセンサーが、切れ者だと告げている。

 

「……調べて貰いたいことがあります。私の名前は……」

 

「いや、いい。こっちの情報網の精度を確かめて貰うためにも、初見のお客さんの情報はこっちで調べることにしている」

 

なんと、大した自信だ。だが残念ながら、私には過去が無い。あるのは何色にでもなれるまだ見ぬ未来だけだ。

 

「そうですか……。ですが、私は徹底的に過去を消してもらいました。調べるのは難しいと思います。それに、名前を名乗らなければ呼ぶのに苦労をすることになります。……ジャンヌ・オルレアン。これが私の今の名前です」

 

「なるほど、ジャンヌちゃんね。よろしく頼むよ」

 

ちなみにこの偽名は顔がFGOのジャンヌ・オルタに似てることから考えました。700%偽名なのが超クールだと思う。本名は西山恭一です。長男です。

 

さて、この人は自分をどう見るのか。一応、自分の中では国家解体戦争により家族を失った元特権階級の一人娘という設定である。いまつくった。

 

「よろしくお願いします。では、早速ですが依頼です。」

 

男の目を見て口を開く。人の顔を見ない人は信用されない。誰の言葉だったかしら。

 

「ウォルコット家について。それが私の知りたいことです」

 

 

 

任務は果たした。エドさん含め何人もの護衛に囲まれ、裏路地から出る。シンさんはBFFのこともあるのか、最初は軽く渋るような素振りを見せたが、前金としてアタッシュケースの中にある一万コーム渡すとすぐに頷いてくれた。ぬふふ、交渉など弱者のすること、強者は一撃でもって勝負を決するのだ!

札束で人の頬を叩くのは気持ち良い。私の心の諺である。

シンさん曰く、エドさんは金を嗅ぎつける嗅覚に関しては一級品らしい。そんなエドが連れてきたんだからと期待してたが、予想以上だと。

あったりまえじゃ、こちとら人類種の天敵やぞ。何べんクレイドル03落としてカーパルスで地獄の饗宴開いたと思ってんねん。

どうでもいいけど、ようオールドキング100万も出してくれたな。あの気前の良さには初見の時とても驚いた。ウィンDなぞ30万ぽっちじゃぞ。お前クレイドルがどうなってもええんかい。

 

「シンの親父曰く、一週間待ってもらえれば第一報は渡せるとのことです」

 

「わかりました。では来週、またこれくらいの時間にここにお邪魔します。では、お願いします」

 

そう言って裏路地を後にする。さて、とりあえずの仕事は済んだかな。

 

駐車場に戻ると、大量の荷物を抱えたロボットが待っていた。鍵を開けて食材を詰め込む。いやぁ、誘拐から食材の輸送まで、なんでもできるよハイエース。素晴らしいねハイエース。

……ふと、車のエンブレムを見てみたら有澤のエンブレムが刻まれていた。うん、とりあえず実弾防御に関しては問題ないな。

 

車に乗る。カーナビで位置指定。オートドライブ。

食材の値段は……ふむ、どうやらそこまで高騰してはいないらしい。まぁ、これからネクスト戦争が起こるので、大変なことになるのだろうが、いまはそんな兆候は見て取れない。

 

とりあえずお家に帰ろう。隻腕だから料理は難しいかもしれないが、自分の設定の萌え度からすれば些細な問題である。

 

 

あぁ〜萌えだ。この、隻腕の女の子が頑張って料理してる姿、第三者視点から見たら正しく萌えだ。

作ってるのは水炊きだが、いや、買ったもの見たらなかなかの鶏肉が入っていたのよ。だから……ね?

 

隻腕だと食べながら本が読めないが、まぁ行儀が悪いからしゃーない。なのでテレビを見る。

あの世での要望通り、ちゃんとテレビはお外の電波を捕まえていてくれた。

色んな企業がスポンサーの番組やらCMやらが出てくる。あ、BFFの専務とかいう人がテレビ出てる。あんた本社と共に沈むで。

そんな風に適当にチャンネルを回していると、一瞬気になる文字が目に入る。

 

霞スミカ

 

すぐにチャンネルを戻す。と、どうやらインテリオル・ユニオンのプロパガンダ番組らしい。そこでは、自社のネクストの戦果の喧伝を行っていた。で、今回出演しているのが霞スミカっと……

綺麗だな。座っているから身長はよくわからないが、胸はデカくて脚はスラリと長い。目鼻は鋭く整っている。髪型は……黒の腰まで伸びたロングっと……。うん、CVも変わってないな。安心した。

ふむ、ほぼほぼイメージ通りだ。歳は高校生くらいだろうか。おそらく日本じ……この世界だと、極東出身とでも言った方が良いのかしら。

他にめぼしい番組もないし、とりあえずこの番組を見続ける。

うん、しっかりとしたお嬢さんだ。少し表情が硬いが、受け答えはハッキリしている。faの事を思い返すに、こういう番組が好きとは思えないのにようやるもんだと勝手に感心する。

まぁ、リンクス。特にオリジナルともなるとそれぞれの企業を象徴するような存在だ。広報活動を行うことも少なくないのだろう。

この番組では、国家解体戦争における彼女の戦いについて解説していた。

そうそう、あのレールガンが痛いんだよなぁ。カーパルスではそこそこ痛い目を見た。最終的にカノサワで貫いたが。

……霞スミカか。

よくわからんが鍋にあいそうという理由で鍋にぶち込んだ野菜で鶏肉を巻いたものをポン酢につけ、頬張る。

そうだな、彼女とは何かしら因縁を持ちたいな。ACfaの為に。颯爽と首輪付きの前に登場した時に、彼女に「お前は……あの時の!?」とか言われたい。

しかし、問題としてはこの霞スミカさん。AC4では直接出張ってこない為に狙って出会うことが出来ないのだ。どうしよう、リンクス戦争のどさくさにレオーネメカニカ強襲するか?でも、湖の上に建ってたり本社が船だったりしないと難しそうだなぁ。いや、そもそもそんなお偉いさんがいるところに汚染ばら撒くネクストは配備しないか……。

まぁ、またこの事はあとで考えよう。インテリオル・ユニオンの基地をしらみ潰しにしていくのも良いかもしれない。

スミカの出番が終わったので、チャンネルを変える。

後の時間はGA系のチャンネルでネクストが主役のアニメがやってたのでそれを見ることにした。この世界の子供達は、将来の夢がリンクスだったりするのかしら。

 

 

ネクストというのは、強大な戦力である。何の冗談でもなく、一機一機には戦術的・戦略的に高い価値がある。

そんな中で、自分みたいなイレギュラーが現れたらどうなるかというのを考えてみて、まぁ十中八九消されるだろうなぁと結論付けた。

一応、出撃した時に目立たず帰還できるような道は用意してもらっているが、だからといってここがバレないなどと考えるのは虫が良い話だろう。

とりあえず、初出撃までは大人しくしとこう。そう考えるとテンションのままにフライトしたのは迂闊だったかもしれないが、楽しかったからしゃーない。

さて、初めての獲物は何にしよう。この時代に出て来るネクストの顔を思い浮かべ……

 

「アマジーグだな」

 

即決する。うん、とりあえずあいつなら後腐れなく殺れそうだ。イクバールの支援を受けているのでは?とかいうフロム脳患者の話もあったが、まぁ別に好きな企業ではないので嫌われてもどうでも良い。好きな企業はトーラス有澤BFFです。もともと重量級AC好きなのよね。faではビュンビュン飛ぶのが楽しいから中量二脚乗ってるけど。恨むなよアマジーグ。恨むなら自分の弱さを恨め。企業とかぶっ潰したいんならせめて首輪付きくらいの腕はもってもらわないと困る。

とりあえず、レイヴンが襲撃する時にご一緒しよう。そういや、死神部隊のJさんも来るな。4の二大重要人物の動きとかを見れる機会だ、絶対に行かなきゃ。

 

…………fa後はコールドスリープとかしてV世界に至るまで休止し、ネクストで俺TUEEEEEするというアレを思いついた。

いやまぁ、うん。とりあえず置いておこう。

 

その後の時間は、シミュレーション代わりにAC4をやる事にした。外装やら武装やらAAやら、faに無い物も多いが、これからの予習の為にもやっておく。

 

 

問題発生。隻腕だからハイスピードアクション出来ない。

ヤベェ、何も考えてなかった。設定を考えるのに夢中でデメリットを考えてなかった。

……と、とりあえず落ち着こう。いっちゃんカチャカチャやる右手は無事だ。ならなんとか方法はあるはずだ。最悪動きさえすれば……

 

足か。足だな。足しかない。

靴下を脱ぐ。左足の親指と人差し指の間にLスティックを挟み、右手を添える。うん、ピョンピョン戦闘は出来ないが、オンラインじゃないから多分大丈夫。やってやる……やってやるぞ……!穴だらけにしてやる!!!!

 

 

っべーわ。これまじっべーわ。人間の可能性だわ。戦いによって人間の可能性が証明されちゃったわ。

うん、腕は多少落ちるが、まぁなんとかハードでだいたいのミッションが行けることが証明されちゃった。クレイドル03系のミッションとかの強制的に飛びながらネクストと戦うミッションは難しいかもしれないけど。

というわけで、今はハイダ工廠に来ています。いえーい!内部粛清いえーい!!

お、メノちゃんきた。いやぁ、君もかわいそうだね。多分GAEに騙されて来ちゃったんだよね。依頼主はいつものGAE、依頼はハイダ工廠を襲撃した不明ネクストの撃破だ。みたいな感じで。まぁ、だからといって容赦はしないが。おら!おら!!オラァッ!!!こちとらカノサワだぞォ!!!!

はい、撃破。うーん、かわいそかわいそなのです。まだまだお若いのにこんな所で、しかも自分の会社が依頼したネクストに殺られてしまうなんて。多分、生き残ってたらfaでローディ先生やメイちゃんと一緒にGAの看板を背負えていたのに……

 

待てよ、別に生き残らせてもええんちゃうか?

うん、もともとリンクス戦争ではGAは勝者の側に立つ存在だ。そこのリンクスが余分に一人二人生き残ってたって政治的には問題があるかもしれないが、旧レイレナード出身のオッツが作るORCA旅団の存在にかかわるとは思いにくい。まぁバタフライエフェクト的にかかわるかも知らんが、そんときゃそん時だ。あの情熱的な夢想家が、半端な障害で諦めるとは思えんし。

よし!やろう!救おう!巨乳でも美人でもないかも知れんが声が可愛いからノープロブレムである。

やはり生きるからには爪痕の20や30は残したいしね。こちとら人類種の天敵やぞ、舐めんな。

さて、そうと決まればシミュレーションをもう一回するか。いやまぁ、ハードじゃなかったらハイダ工廠に来ることすら無いんですけどね。ハードであってくれぇ〜レイヴンに七難八苦を与えたまえ〜。

 

 

「絢辻さんは裏表のない素敵な人です!」

というわけで、今私はリリウム攻略の練習の為に仮面優等生ルートをプレイしています。おそらくキャラは全然違うと思うけど、声優同じだからセーフ。

いや良いよね。個人的にアマガミ内では上崎さんと一二を争う。てか上崎さんルートでの絢辻さんがいい。エビコレ+だと全員上崎さんを撃退できるらしいけど、持ってないからなんともなぁ。

まぁしかし、実を言うと自分はそこまでリリウム攻略に危機は抱いてない。接触は恐らく困難だろうが、接触すれば一撃でもって撃墜する自信がある。

いやほら、今の自分超美人じゃん?

欠損によってAPPが下がっている可能性もあるが、自分が欠損フェチであることを差し引いても17以上はある自信がある。APP×1の判定でもそこそこの成功率は保証されているのだ、美人は辛いぜ。

そんな美女が迫ってくるのである。落ちる。性別関係なく落ちるね。ソフトウェアの方に自信は一切無いが、ハードウェアには全幅の信頼がある。リリウムがアンビエントだとしたら、こちとらPS3版のハードアンサラーだ。ま、余裕ですね。あ、スタルカさんは帰ってください。

やめて!ハラショーやめて!

あ、そうだ。リリウムと接触した時のセリフとか考えとかなきゃ。どうしよ、どんなキャラで行こうか。カンテレでも弾こうかしら。それとも第九の鼻唄歌いながら接近しようかしら。

……どっちも相当な不思議ちゃんだな。

 

 

と、そんなこんなをしていたら結構な時間になった。夜更かし上等主義だが、今日はお出かけして疲れちゃった(はーと)……やべぇ、美少女になったお陰で可愛いセリフを考えても吐き気が来ない。

とりあえず、とっとと寝よう。

 

今日はとっても楽しかったね!明日はもっと楽しくなるよ!ね、ハム太郎!!

 




オルレアンちゃんの脳みそはQBしてるかのような不規則な跳躍を繰り返しています。かわいいですね。


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状況開始

バトルやりたい分を実際のACfaで解消中

VDを一緒にやってる友人に布教したらfaを購入しちゃったらしい。今日の午前4時頃からずっとやってる。今は白栗攻略中とのこと

はやすぎでは?


あれから一週間経った。その間に自分はACに乗って動きのシミュレーションをしたり。足でゲームする練習をしたり、好きな漫画のセリフを役になりきって読んでたりした。楽しかった。

さて、第二回お出かけである。食材の他に、今回は暇つぶしの為に漫画とかこの世界のゲームとかを買いたい。

 

金を詰めたアタッシュケースを2つ。それとお手伝いロボを乗せて有澤ハイエースに乗り込む。

 

オートドライブはホント楽である。速度はそこまで出ないが、旅のお供はそこそこの数積み込んでいるので問題はない。

 

 

さて、はるばる街に来たわけですが。駐車場に行くとこの世界の第一知り合いが立っていた。

 

「エドさん、どうしたんですか?」

 

「親父から、うちの事務所の駐車場に車を入れろとのお達しがありましてね。まぁそっちの方が中心街にも近いですし」

 

「あら、ありがとうございます」

 

「事務所までは私が運転します」

 

「お願いします」

 

自分が助手席に移ると、エドさんが身体を折りたたんでハイエースに乗り込んできた。

 

「ジャンヌちゃんは、いったい何者なんだ?」

 

シートベルトをしながら、エドさんが言う

 

「……やっぱり、私の事はわかりませんでしたか?」

 

「あぁ、親父も驚いた。……親父は元々国軍の情報将校でな。そこらのヤクザとは、それこそ情報網の質も量も違う」

 

そういや、まだ国家解体戦争からそこまで時間が経ってないから、そんな人間がワンサカいるのか。

しかし、元国軍か、エドさんもそうなのかしら?

 

「えぇ、ここに来る前に徹底的に変えましたから、親からもらったもの全てを捨てて」

 

性別もだよ!とは言わない

 

「……大変だったんだな。」

 

「……」

 

何も答えずに窓の外の風景に目を移す。街路樹や電柱が後ろへと飛んでいく。エドさんはまたもや何かを察したのか、無言で運転を続けた。

うん、良い人だ。今後も長いお付き合いをしていきたいね。

 

 

「さて、これが調査結果だ」

 

事務所に着くと、シンさんから分厚い紙の束を渡された。

 

「とりあえず、一週間でやれるだけのことはやった。質問があるなら聞いてくれ」

 

「ありがとうございます。成功報酬の方は既にエドさんに渡しています」

 

「……嬢ちゃん。人生の先輩からのアドバイスだが、そんなに簡単に人を信じちゃいけないぜ?特に俺たちみたいなヤクザ者が相手の時は」

 

この辺りには聖人君子しかいないのか?いや、それともこの痛ましくも美しい見た目のお陰か?

 

「ご忠告感謝します。ですが、今の私に出来ることはお金を渡す事と人を信頼することだけですので」

 

本音は人を疑うのが面倒くさいだけである。騙されたらそん時はそん時よ、ケ・セラ・セラの精神は大事。

 

「そうかい……ま、まだ報酬分は働いてないからな。調査は続けるよ。携帯端末は持ってるかい?」

 

「いえ」

 

使ってたスマホが部屋にあったけど、電話やネットが使えなかったのでゲームや音楽流す為の箱と化している

 

「なら、これを持って来な」

 

そう言うとシンが携帯を投げよこした。無意識に左腕を出しそうになり、慌てて右手で受け止める。

 

「連絡用の端末だ。今後、情報を渡す時はそれにメールする。充電器はこれだ。」

 

いま自分の手の中にあるのは、少し大きめのスマホといった風情の端末だ。

触ってみる。……ヤベェ、ネットに繋がるぞこれ

 

「あ、ありがとうございます!」

 

思わず声を張り上げてしまう。やっべやっべ、これじゃあまるでパパからプレゼントを貰った少女みたいじゃ〜ん

 

「通信料はこっちで払う。なに、嬢ちゃんから渡された額からしたらチンケなもんだ。連絡以外にも好きなだけ使うと良い」

 

…………ちょっとイケメンすぎない?これが私の顔と金の威力?

まぁ、戸籍がない自分にとってこのプレゼントは最高に嬉しい。こりゃ今後とも贔屓にせねばまなるまい。

 

 

さてさて、資料を読み始める。

ここには、つらつらとウォルコット家についての様々な情報が書かれている。

なるほど、国家があった時代からのAC乗りの家系なのか。ふーむ、んでもってなかなかの貴族らしい。だからこその名家、ウォルコット家か。

現当主はオリジナルリンクスであるフランシスカ・ウォルコット。隠し撮りであろう写真がついている。金髪ロングの綺麗な姉ちゃんだ、優しそうな表情をしている。他には弟のユージーン・ウォルコット、こっちにも写真がある。これは自分の乗機と一緒にいる姿だ。プロパガンダ用の写真だろうか、こちらも姉と同じ整った顔立ちの金髪の青年が、ニコリと微笑みかけてる。あとは、妹とということになっているリリウム・ウォルコット……と。これには写真がついていない。どちらかというとこれが本命なのだが…………………ん?

 

ということになっている?

 

ページをめくる。

 

 

リリウム・ウォルコットは、戸籍上では前当主の娘ということになっているが、彼に次女がいたという情報はない。これは元々彼の部下だった人間複数にも聞いているため、情報の信頼度は高いと言える。

また、現当主のフランシスカとユージーンは、兄弟という関係にしては異常に仲が睦まじいことで知られている。最近までウォルコット家に勤めていたメイドによると、姉弟は時々同じ寝室で眠ることもあり、使用人達の間では「リリウムは二人の娘なのでは?」という噂が流れていた……

 

 

…………………………………………………え、あ、はい

 

「その顔は……リリウム・ウォルコットについてか?」

 

「まぁ、はい……」

 

マジか、マジにマージか。いくら弟好きて言っても子供産んじゃったらあかんやろ。てかなんか昔こんなラノベ読んだ覚えあるぞ。あれは確か強制されてだが。

 

「まぁ、噂話程度に聞いておいてくれ。自分の常識だとどうも信じられなくてな」

 

「はい……」

 

となると、リリウムにとってはレイヴンは父母の敵となるのか。お、ヤベェ、ラインアーク襲撃しなきゃ。

 

さらにペラペラとページをめくる。etc.etc.etc……ん?

 

ふと目が止まる。ウォルコット家の見取り図があった。

 

「この見取り図は?」

 

「そこに書かれている元使用人からの証言を元に作ったものだ。奴さん、だいぶ金に困ってたのか少し握らせただけで喜んでそれを描いたよ」

 

守秘義務とは一体。まぁ、自分も百万もらえるんだったらペラペラ喋っちゃいそうだからなんとも言えないが。

 

ほーん、へー。デカイ家だこと。リリウムちゃんは……こんなとこに住んでるのね。把握把握。警備体制は……まぁ、そりゃ結構いますよね。BFFの重要人物が住んでるんだから。

となると外出時を狙うのが良いかも知れんな。

 

「リリウム・ウォルコットの行動パターンについての資料はありますか?」

 

「ないな」

 

シンさんが言葉をつなぐ

 

「何人か人間を家の周りに付けてるんだが、この一週間一切外出をしていないらしい」

 

「……ほほう」

 

「元使用人曰く、教育などはすべて屋敷の中でやっているらしい。その上、彼女自身も殆ど家から出ることはない」

 

なるほど、籠の中の小鳥ちゃんというわけか。

 

「やっぱり、狙っているのはこの娘なのか?」

 

無意識にコクリと頷く。

 

「はぁ……。世も末だな。」

 

確かに彼の頭の中で起こっている事象は世も末な物事だろう。両親の復讐のために、何の罪もない仇の娘を手にかけようとする幼い少女。どこにも救いがない。

 

「ま、こっちだって正道なんて歩けない人間だから大きくは言えないが。だけど嬢ちゃん、何事も命あっての物種だ。それだけは覚えておいてくれ」

 

優しい人だ。このセリフを金ヅルだから言うのか、自分の外見が幼いから言うのかはわからないが、それでも心配の言葉は素直に受け取るに限る

 

「はい、ありがとうございます」

 

ニコリと笑ってそう返した。

 

 

買い物を終えてハイエースに戻る。

資料を助手席に置き、買い漁った漫画を読み始める。

とりあえず人気なのや巻数が多いのを纏め買いしてきたのだが、やはりというかなんというかロボットものが多かった。中には、実在のネクストについて描いた漫画もある。

 

セルフのガソリンスタンドで給油しながら、少し考える。

……そういや、いまの自分って外見女児なんだよな。これ警察に捕まったら一発でアウトなのでは?

危ない危ない。ギリギリ気づいた。セーフだ。秘密基地から人気のない道は兎も角、ウォルコット家まで行くとしたらリスクが大きすぎる。

しょうがない、とりあえず電車で向かうか。だが、いつまでも電車ってのは困る。もしもの時の誘拐ができない。

一瞬考えた結果、とりあえずシンさんに頼むことにした。頼むだけならタダだし、既に三万コーム渡してるんだ、これだけのお願いは聞いてくれるだろう。

とりあえず、偽造の戸籍と免許とパスポートをお願いしといた。年齢は20くらいでと付け足しとく。

すぐにOKの返信が来た。

うん、まるで四次元ポケットだな。都合の良いものがドンドンと出てくる。莫大な金という対価が必要なのと、完全に法的にアウトっていうん部分が異なるが。

さて、どうしようか。状況は切迫している、いつアナトリアのがレイヴンが動き出すかわからない。行動は早いうちの方が良い。

 

よし、決めた。今からとりあえずウォルコット家のある街に移動しよう。

善は急げ、兵は神速を貴ぶ。行動は早いに越したことがない。

というわけで、車を有料駐車場に置き、ロボットに留守番を頼む。最悪盗まれるかも知れないが、そん時はそん時だ。なんというか、金が大量にあると万物に無頓着になってしまう。これでも前の人生ではなかなかにケチな生き方をしていたのだが、まぁ、苦労せずに稼いでしまったせいだろう。諦めなければ、人間とは変化する生き物だ。

 

10コームと少しが入った財布と携帯、今回買った中で一番気に入った漫画、シンさんから貰った資料。そして、いつ作戦を決行しても良いようにと車に乗せてた小道具やらを鞄の中につっこみ、意気揚々と高速鉄道に乗り込む。

 

約一時間ほどして目的の街についた。さてさて、ウォルコット家は……

すぐに目に入った。ビル街に石造りの城が建っているというのは、なんともアンバランスだ。まぁ、イギリスの貴族というイメージにぴったりではあるが

 

さて、じゃ、やるか。作戦はプランDで行こう。

はい、いわゆるピンチ用の作戦です。

 

 

 

 

パタリ

少女はいままで読んでいた絵本を閉じ、立ち上がり本棚に戻す。そして、その横からまた違う絵本を取り出して、机に持って行き、読み始める。

全身が宝石のように美しい少女だった。

白金色の輝く髪が、窓から吹き込む風によって揺れる。真珠を想起する滑らかな指が、本のページをゆっくりと捲り、紅玉のような瞳に無数の文字が映る。

 

少女の名は、リリウム・ウォルコットと言う。ウォルコット家の秘蔵の娘。姉弟の禁断の愛の結晶。

彼女は自分の出自を知らなかった。知る由も無かった。彼女が自我を持つ直前に、訓練中の事故によって両親は他界していたし、歳の離れた姉や兄が向けてくる愛を、純粋な妹へ向ける類のモノだと勘違いしていたのだ。

 

ページを捲る。

本の中では、お姫様の病気を治すために冒険する青い鳩の物語が綴られている。

少女は紅い瞳だけを動かして、青い鳩と共に病気を治す魔法の木の実を求めて旅をする。様々な出会いを経験した鳩は、ついに求めていた魔法の木の実を手に入れる。

 

ページを捲る

だが、青い鳩は間に合わなかった。帰ってきたときには、お姫様は永い旅を始めてしまっていた。

だが、鳩は後悔しなかった。お姫様が安らかに眠っていたからだ。希望を持ちながら、世界を愛しながら、彼女は旅立った。

長旅で疲れた鳩は、そのまま眠ってしまった。

そして……

 

「…………」

読み終えた本を閉じる。

彼女は、ほとんど外に出たことが無かった。

リリウムはアルビノだった。身体の造りに異常は無かったが、肌の弱さはどうにもならなかった。

だけど、なんの問題もない。リリウムは、家の中で旅をする術を知っていた。

リリウムは絵本を戻すと、一番のお気に入りの本を机の下から取り出した。

ネクストACについて書かれた本。愛する姉や兄が自らの手足のように動かす鋼鉄の巨人。そして、叶わないだろうけど、願ってしまう夢。

 

本を読みながら、いろいろな事を想像する。

だがその中に、ACの本来の仕事を思い描くものはない。

純粋に、ただ純粋に。少し規模の大きい人形遊びを、彼女は頭の中で楽しんでいるだけなのだ。

 

 

「あら?」

ふと、リリウムが横を見ると。小さく首をかしげる雀と目があった。

「ここには、貴方のご飯はありませんよ?」

少女は雀にそう優しく諭すと、カーテンを開けた。

太陽の光によって少し目が眩む

部屋の中から空の青を確認した雀は、そのまま自らの居場所へと帰って行く

 

その様子を眺めていると、庭の外、街路樹の上に、人が座っているのが目に入った。

美しい人だ。遠目から見てもわかる。流れる深緑の中にいる黄金色の姿は、物語の姫君という表現がよく似合う。

彼女は、片手で何かを吹いているようだ。澄んだ風に乗り、美しい旋律が微かに少女の耳に届く。

と、視界の中の姫君は、演奏を止めじっとこちらを見つめてくる。

どうしたのだろう?私が見ているのに気付いて止めてしまったのだろうか。リリウムがそう考えていると……

 

 

彼女は優しくリリウムに微笑みかけた

 

 

少女は、自分の大きく心臓が飛び跳ねるのを感じた。慌ててカーテンを閉める。

何故か身体が熱い。自らの肌が、上気するのを感じる。

恐る恐るカーテンを開け、もう一度街路樹の上の姫君の姿を眺める。

彼女はこんな自分の姿を知ってか知らずか、ただただ何かを演奏し続けていた。

 

 

 

 

APPクリったな(確信)

 

 

 

 

 




AC7はPSVRと共に購入します。


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隻腕の少女は木の上にて女王を待ち、傷付いた烏はただ羽撃く時を待つ

友人がACfaで初期機体でカラード制覇してて「これがドミナントか」と震えた。
いまは居合ブレを中心にした高速軽量機体使っているらしい。オルレアやスプリットムーンもそうだが、あぁいう機体ほんと好き。
なんとかACfa編までやって、そんな彼女らの活躍を書きたい




というわけでプランDは、「リリウムの目に入りそうなところで不思議ちゃんな感じ出しつつ片手でオカリナを演奏し、リリウムが出てきたら微笑みかけて恋に落とす」という作戦でした〜!いえーい!!

 

 

不確定要素が多すぎるわ

 

 

まぁ、何日か滞在すりゃ一度くらいチャンスはあるだろ、などと考えていたのだが……。まさか1日目から釣れるとは。チョロインか?チョロインなのか?

 

ちなみに、演奏していた曲はエポナの歌である。64のゼルダの伝説やってオカリナ買っちゃうのは多くのプレイヤーが通る道だと思う。片手オカリナにしたのはただの趣味である。まさかこんなるとところで役に立つとは思ってもみなかったが

どうでもいいけど、椅子の上でスタルキッドステップかましながら迷いの森のテーマ吹いてたらすっ転んで頭強打した人間って自分だけなのかしら。大変気になる

 

木の上で物憂げな表情でもってウォルコット家を観察する。うーん、絵になる。

とりあえず、第一目標は達成できた。よし、メシ食べに行こう

 

 

手を油でデロデロにしながら、フィッシュ&チップスを頬張る。高そうな店で買った甲斐もあり、そこそこのものが手に入った。指をしゃぶりつつ、コーラを口に含む。

あぁ〜いい。いいよ。いい。毛細血管の末端まで害悪な物質が廻る感覚だ。

あ、場所はさっきの木の上です。いえーいリリウムちゃん見てるー?白身魚のフライ投げ込むぜー。

 

……さっきから、カーテンの隙間から人影が見えるような感じがするのだが、本当に見てるのか?

 

まぁでも、さっき見たリリウムちゃんは想像以上に可愛かった。強く触れてしまったら折れてしまいそうな儚さが良い。そそる。食べちゃいたい。

それに透き通る肌の白さとか凄い良かった。すべすべしてそう。膝枕で寝たい。うつ伏せに寝たい。

っと、気がついたら揚げ物が消えてしまってた。指を綺麗にしゃぶり、コーラで油の後味を消す

ゲフゥと口と鼻からげっぷをだす。

なかなかに美味かった。余は満足じゃ。

 

さて、では腹も膨れてきたのでお昼寝でもするか。

どうせ本作戦は700パーセント受動的に進行するのだ、向こうの防備が固い以上こっちからは何もできない。全ては天の采配次第だ。

というわけでおやすみ〜

 

 

起きたら夜でした。時間は午前一時。ワァオ。

光合成しながら寝たからだいぶ身体がじっとりしてる。シャワー入りたい。

 

……虐待を受けて親元から逃げてきた子供を装ってウォルコット家に潜入するという案はどうだろうか。

……いや、やめとくか。こちとら誇るべき所は能天気さと無鉄砲さである。電気マッサージ器のように震え続ける演技など到底できるとは思えない。自分みたいな体力の無い役者は、一時間しか舞台に立つことは出来ないのだ。

さて、シャワーに入りたい。リリウムの事を諦めてシャワーの為に帰ることも選択肢に入るくらいだ。

 

…………電車で一時間とか割りかし近いから家に帰っても良かったのでは?

あーーしゃった!!帰れば良かったんだ!!なんでこんなところに宿無しでずっと滞在しようなんて無茶苦茶な計画立ててるんだ俺!!

さてどうしよう、どう考えても終電は消えているだろう。……うん、この夜の間はこの木の上で巡回する警官等に怯えながら過ごすしか無いな。

しゃーない、もう一眠りするかー。それじゃーおやす…………

「あの……」

ざんねん‼︎ じゃんぬの ぼうけんは ここで 終わってしまった‼︎

と、一緒思ったが、そんな雰囲気を感じさせないほどに声がか細く小さい。

声の方向をちらりと右眼で見る

 

 

たおやかな少女がこちらを見上げていた。

 

 

さて、展開が唐突すぎる。エロゲで、前日まで明らかに敵対感情を示していたヒロインと、次の日お互いを求めあってる級に急だ。

 

「どうしたんだいお嬢さん?こんな夜中になんで出歩いているんだい?」

 

CVの○まみを意識しながら、心のカンテレをポロロンと鳴らす。

 

「貴女は、ここで何故ここにいるのですか?」

 

おっと会話が成り立たないアホがひとり登場〜!質問文に対し質問文で答えるとテスト0点なの知ってたか?マヌケェ〜〜!!

とは言わない

君を攫う算段をたててたんだよ(ポロロン)

とも言わない

 

「さぁね、風に流されて気がついたらここにいたんだ」

 

大変な不思議ちゃんである。

 

「そうなんですか……」

 

「それで、君はどうしてこんなところにいるんだい?こんな遅い時間に外をうろついていると怖い狼が君を攫っちゃうかもしれないよ?」

 

私とかな

 

「私の名前はリリウム・ウォルコットです」

 

知ってる、ちらりと見ただけであるが眼が昇天しそうなほどの美貌と、脳がシェイクになりそうな落ち着いた声で判断できる。

 

「実は……貴女の演奏を近くで聴いてみたくて」

 

「おやおや、こんな遅い時間に、こんなにも可愛らしいお客様が来てくれるとは。」

 

クスクスと笑う。

 

「やめておくよ、聞きたいならまた明日来て欲しい。音を出して、怖い怖い人に見つかりたくないからね」

 

夜間に演奏し、苦情によって警官に捕まるなんて御免被る

 

「な、なら……私の部屋で演奏してもらえませんか?」

 

……は?

 

「え?」

 

「この時間なら、家のものは皆寝ていますので入って来ても大丈夫です。それに私の部屋の近くで寝ている人はいないので、バレることもありません」

 

おいおいちょいとガード甘すぎるんちゃうかこの少女。それともマジに惚れたんか此奴。APPスペシャルしたのか?

 

「そうか、なら折角のお誘いだ。君の部屋にお邪魔させてもらうよ」

 

ストン、と木の上から飛び降りる。リリウムの綺麗な銀髪が、自分の胸のあたりで輝いている

そんな彼女の紅い眼は、驚愕で見開かれていた。おおかた、自分の左腕や眼を見て驚いたのだろう

 

「え、あ……」

 

月明かりがリリウムを照らす。なるほど彼女は妖精である、動揺する姿だってこんなにも美しいんだ。その表情が、顔に出来た小さな皺の1つ1つまで、美しく、愛おしい。そんなことを思える人間に、私はただ一人として出会った事は無い。

瞳の中に嫌悪が含まれていない事を確認すると、なんとも無いように左肩を振る。

 

「あぁ、これかい?……まぁ、聞かないで貰えると嬉しい……かな?」

 

欠損フェチだから消してもらいましただなんて理由がサイコすぎるから言いたく無い。ギャルゲとかなら好感度が上がれば理由を話すかもしれないが、無いものは話せないのだ!!

死神部隊のリーダーにやられました〜それでACからも降りました〜ここたま〜

……これが理由でも良いかもしれない。ACには乗れてるが

 

「……はい、わかりました」

 

動揺をおさめ、リリウムが頷く。

 

「ありがとう。優しいんだね」

 

自分だったら好奇心のままになんでなんでと聞いていた。

 

「じゃあ、君の部屋に案内してもらおうか。」

 

 

というわけで場面の転換です。暗転からの場転です。inウォルコット家です。

巡回するガードロボの横をすり抜け(リリウム曰く、登録されていない人間でもウォルコット家の人間と一緒にいるなら攻撃はしないらしい)リリウムの部屋に辿り着く

女の子の部屋に入るなんて小学校ぶりである。少しばかり緊張しながら、彼女の部屋に入った。

ふわぁ〜濃厚な女の子の匂いがしゅりゅぅ〜‼︎‼︎

 

「じゃ、演奏させてもらうよ」

 

そんな雰囲気は一切出さずに、窓に腰掛ける。

リリウムはこんな不思議ちゃんな自分にツッコミもせずに、椅子に座り期待を込めた眼差しをこちらに向ける

そろそろ心配になってきたぞこの子。社会常識が大いに欠損してるんちゃうんか?なんや、全世界の箱入り娘はみんなこんな感じなのか?マジかよ前の人生の勝利条件は木の上でオカリナを奏でる事だったのか。

と、さて。曲はどうしようか。深夜に妖精のような少女と同じ部屋である。どうせだからスーパーにウルトラでハイパーな上にミラクルでロマンティックな曲を一発かましたい。どうしよう。浪花節かな?

 

「じゃあ、聴いてください」

 

無難にゼルダの子守唄にした

 

 

演奏し終えると、リリウムがパチパチと拍手をしてくれた。

 

「はじめて聴いた曲ですが、とても、心に響きました」

 

そりゃそうだ、フロムソフトウェアの世界に任天堂の曲があってたまるかって話である。

しかし、学校や友人との集まりにおいて鉄板芸と化していた一人ゼルダの伝説小芝居をやるために練習したこの曲で、こんな感動を呼び覚ませるとは……

それともあれか、大任天堂の威光は別会社のゲームにも届くのか?うん、そっちの方が納得できるわ

 

「気に入ってくれたようで嬉しいよ、この曲はね、ある遠い遠い国のお姫様の子守唄なんだ」

 

「お姫様……ですか?」

 

「そう、お姫様だ。私が吹くのは、その国に様々な形で伝わる曲なんだ」

 

あと抜刀隊とか雪の進軍とかできるけど、現状況に全くそぐわないので止めとく

 

「じゃあ、次の曲といこうか。一度入ったら二度と戻れぬ深き森。そこに伝わる曲を」

 

スタルキッドステップは勘弁な!!

 

 

 

『システム、戦闘モード起動』

無機質な女の声が、脳に響く。

ネクストACに乗る感覚には、いつまで経っても慣れることが出来ない。

結局は、そういう事なのであろう。烏はいつまでも烏のままで、どうあがいても山猫になる事はない。恐らく、死ぬまで。

だが、それで構わない。

『状況設定終了。これより、状況を開始します』

OBを起動し、一気に作戦エリアへと侵入する。

目標は、ビル街に展開するノーマルAC部隊の排除。リンクスにとって、苦戦すらも許されない仕事だ。

定められた目標たちが、各々の得物をこちらに向けてくる。

銃口から光が放たれる。考えるより先に身体が動く。

瞬間、身体に大きな負荷がかかり、機体が右に大きく吹っ飛んだ。

QB、機体についた高出力の小型ブースターを使った瞬間的な加速により迫り来る砲弾を回避する。

エネルギーが切れ、OBが停止する。距離は充分。

接地する、エネルギーが回復する、大きく息を吸い込み、全神経を戦場に集中させる。

 

前方、ノーマル二機。

QBにより接近。左側のノーマルにすれ違い様にマシンガンを叩き込む。

コアを貫く。ひとつ

そのまま速度を利用し、右足を支点にターンする。

再び加速。こちらの動きについてこれないノーマルを、後ろから袈裟斬りにする。ふたつ

後方より発砲音。左に回避。爆発の規模が大きい……グレネードか?

そのままOBを起動し、壁を破壊してビルに突っ込み、天井を破りながら、屋上へと向かう。

先ほどこちらを攻撃したノーマルは、そんな自分を撃破すべくグレネードを放つが、ネクストの速度には追いつけない。

外へ出ると、別の狙撃型ノーマルがいた。これのコアをブレードで貫く。みっつ。そしてOBでもってグレネード機へと接近する。前方に大型のシールド、半固定型か。左には、護衛のためかガトリング砲を装備したノーマルがいる。

機関砲から飛来する砲弾をいなし、プラズマキャノンを叩き込む。よっつ。グレネード機はこちらの動きに対応できていない。

そのまま横をすり抜け、コアの部分をブレードで貫く。いつつ。

あと一機、レーダーを確認する。

と、ゆっくりと残りの目標がブースターで上がってきた。ブレード機らしい。

こちらを確認すると、ブレードを構え単調に突っ込んできた。

その腕を切り落とし、コアにマシンガンを突きつける。

乾いた音が数秒続く。その後、隻腕のノーマルは力なく地に伏した。

『全目標の撃破を確認。状況終了、状況終了』

むっつ。ここで、やっと息を吐いた。

 

一切の手応えも無い訓練を終え、シミュレーターから出る。

 

「お疲れ様です」

 

すっ……と横からタオルを差し出される

 

「ありがとう、フィオナ」

 

翼に傷のついた私を助けてくれた恩人、フィオナ・イェルネフェルトがそこに立っていた。

 

「見ていたのか?」

 

タオルで汗を拭いながら、横にいる少女に尋ねる。

 

「はい、いつ見ても素晴らしい動きです」

 

少し顔を青くしながら、少女がそう言葉を発する。

男はそんな彼女の様子には触れず、ゆっくりと歩き始める

 

「開業して一月。未だ仕事は1つも無し……か」

 

「どうしてでしょうか……」

 

「俺みたいな粗製の傭兵にまわすようなものが無いのだろう。GAだって数は少ないが自前の戦力は持っている。綺麗な仕事は、誰だって自分の手でやりたいに決まってる」

 

カツ、カツ、カツと、少女に合わせるように男は歩く。

 

「傭兵に来るのは汚い仕事か危険な仕事さ。敵対する企業を狙ったテロ行為かもしれない。強大な要塞やネクストに、単騎で突っ込めっていう無茶苦茶な命令かもしれない」

 

「そんな……」

 

フィオナの顔が更に深く沈む。

優しい娘だ。彼女は、本気で自分を心配してくれている。恐らく、ずっと自分に対して負い目を感じているのだろう。だからこそ、オペレーターへと志願してくれたのだ。せめて、男を一番側で支えるために。彼と、最期の時まで共にいるために。

 

「安心しろ、傭兵にだって仕事を選ぶ権利くらいはある。明らかに報酬と釣り合っていなければ、断ったって何の問題も無い」

 

そう、少女に言葉をかける。

 

「ですが……」

 

「それにな」

 

男は後ろを歩く少女の方を向き、品良く整えられた金髪を撫でる

 

「フィオナに助けられた命だ。自分だけのものじゃ無いものを、粗末に扱ったりはしないさ」

 

唐突な男の行動に、フィオナは虚を喰らったらしい。一瞬、呆けた顔をした後、ポンっと顔を赤くし、あたふたと慌て始めた。

その動作が余りに可愛らしく、思わず笑ってしまう。

フィオナはそれが気に障ったのか、ズンズンと肩を怒らせて歩いて行ってしまう。

これはマズイかも知れない。ランチを奢らなければ、許してくれないかもしれないな。

男は少女を追いかける。

いままで人生の多くを過ごしてきた戦場で学べなかった女性の扱い方に苦戦しつつ、烏は今日も生きる。

 

彼らの仮初めの平和の終わりは、すぐそこに迫っていた。

 

 




レイヴンはアリーヤに乗っています。
ジャンヌのクレピュスキュールの詳しい機体説明は、また後々やります。しっかし大口径砲しかないなこの機体(脳内で動かしながら)


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バタフライ・エフェクト

遅れた理由はhoi4が面白すぎた為であり、私は一切悪くありません。

てかソ連軍強すぎるだろ、土地を核爆弾で耕しながら1000個師団で前進するだけで大体の国が消滅するぞ


バタフライ・エフェクトという言葉がある。

 

『ブラジルでの蝶の羽ばたきは、テキサスでトルネードを起こす可能性はあるのか?』

 

どんな小さなきっかけだろうと、その結果として大きな災厄を呼び寄せる可能性がある。そのような例えのことだ

 

そう、世界とは不確定の連続である。ほんの少しの行動の違いで、例えば、スパゲティを箸で食べるかフォークで食べるか……これだけの違いで、世界は驚くほど姿を変える。

 

では、そんな不安定な世界に、巨大なイレギュラーが現れた場合はどうなるだろうか?

そう、例えば羽ばたきで竜巻を起こすような蝶のような、そんな存在が

 

結局の所、彼女がこの世界に存在するだけで、何も成さなくても世界はその姿を変えていくのである。

本来この世界に存在しない者とは、そこまでの影響力を持っているのである

 

彼女は災厄の蝶、ただいるだけで世界にトルネードは起こる。

 

 

「そうか、用意ができたか」

窓の外に見える数多のネオンに目を向けながら、男は低い声で語りかける

「あぁ、そうだ。こちらも問題はない。上の人間も全て認めてくれた。……なに、遅かれ早かれ必要なことだ。それに、ネクスト相手のテストこそが必要な筈だ。」

短く刈りそろえられた金色の髪、鋭く理性的に光る瞳。鍛え抜かれた肉体は均等で美しく、その造形はまるでギリシア彫刻のような完成された気品ある美しさがある。

「では、頼んだ」

そう言い、男はゆっくりと電話を切った。

そのままソファに深く腰掛ける。一度、大きく息を吐く。

 

こんなにも次の日が楽しみなのは久しぶりだ。

傍に置かれたミネラルウォーターの蓋を開け、喉を潤す。

 

彼と会う事が出来る。あの戦争では、ついに縁の無かった彼。ネクストという圧倒的な戦力の前に、なす術もなく消えていった数多の国家の唯一の希望。伝説の鴉。そんな、彼と。

 

この感覚は何なのだろうか、あの男を知った時から仄かに心に芽生えたこの感覚は、そしてこの電話によって、大きく燃え始めたこの感覚は。

 

考えたが、結論は出ない。

まぁ、兎も角明日だ。会社には無理を言ったが、技術者達はデータを欲していた。自分と鴉のデータだ、満足できるだろう。アレの製造・強化は、こちらの陣営においての死活問題だ。来るべき企業間戦争。それに、ネクストを倒し得る可能性を持つアレはジョーカーになり得る。

 

向こうには偽の依頼という形になる。それを察知し、断られるかもしれない。そして、もしかしたらこの戦いで彼は果てるかもしれない。

だが、不思議とそうはならないと心が確信している。なぜ、会ってもいない人をここまで信用できるのだろうか。わからない。わからないが、そうなのだ。

 

「これは我々の理想の為にも必要な事だ。世界の為に、罪の清算の為に……」

 

男はそう呟くと、ソファから立ち上がり、そのまま寝室へと向かっていく。

 

 

男は知らない。隣にいる自分は、あの戦いで鴉に討たれた自分はこのような行為はしなかったという事を。

 

蝶の存在が気流を変える。降る筈の雨が降らず、見えなかった筈の空が見える。

 

 

 

「レイレナード社から依頼が……?」

 

「はい」

 

自分もよくわかっていない。といった表情でフィオナが頷く。

 

「依頼は、レヴァンティーン基地を強襲してきた謎の武装組織の撃退です」

 

オペレーターの言葉を聞きながら、コーヒーを喉に流し込む。何故だろう、いつもより苦く感じる。

 

「敵集団に対しての情報は一切不明です。その為、レイレナード社は僚機としてベルリオーズをつけると言っています」

 

「ベルリオーズを!?」

 

流石の男も、これには思わず大きな声をあげた。ベルリオーズ、レイレナード社……いや、現世界における最精鋭の戦士。オリジナルのNo.1。最強の山猫。黒の処刑人。国家の断頭台。

そんな男を、なんの実績も無い自分とペアに?

 

「今のうちに、GAの戦力を削ろうということか?」

 

レイレナード社は、オーメル陣営にいるGAとは敵対関係にある。もともとこの傭兵稼業は、自社のネクスト戦力が少ないというGAの弱みに付け込む形で始めたビジネスだ。フリーランスと言っても、必然的にGAなどを含めたオーメル側の依頼を受けることが多くなるだろう。

貴重なネクスト戦力、それを予め潰しておく……そういうことなのか?

 

思考が回る。受けるべきか、受けざるべきか。少なくとも、提示された金額は少ないものでは無い。それが更に男の疑念を加速させる。彼の経験から言って、依頼金の高いものと前金の払われる任務にロクなものは無い。

 

だが、実績の無い我々が仕事の選り好みをできる立場だろうか?

 

「やろう」

 

男が立ち上がった

 

「ですが……」

 

「折角の依頼だ。今は少しでも早く実績を作りたい。それに、あのNO.1を近くで見る事ができる機会だ。行って損は無い」

 

男はフィオナに有無を言わせない様にそう宣言する

 

「……わかりました。では承認のメールを送ります。すぐに出撃の準備をお願いします」

 

「頼む」

 

自分の言葉を聞くと同時に、フィオナが立ち上がり、格納庫の方向へ歩いて行った

 

それを確認し、自分も戦争の準備をしに行く。ネクストでの初めての戦いに、恐れは無い。どうせ、いつもやってきた事だ。持つ者が変わっただけでは何も変わらない。目の前に立ち塞がるものを、ただ撃ち、斬る。それだけだ。そこに何の感情も挟む余地は無い。ただただ心を氷の様に冷やし、金の為に殺す。

 

彼の顔に笑みは無い。男にとって、戦闘とはただの仕事である。スーツを着てクーラーの効いたオフィスでキーボードを叩くのと、鋼鉄の巨人を纏って砂漠で兵隊を撃つ。彼にとって、この2つの間に一切の違いはなかった。

 

 

「フィオナです、聞こえますか?現在状況の報告をお願いします」

 

「〝ワルキューレ〟よりフィオナへ。感度は良好、問題は無い。作戦地域には2分後に到着予定」

 

巡航速度で進みながら、フィオナにそう返信する。

ワルキューレというのは、彼の乗機の名だ。彼が鴉を始めた時から、機体名はそれで統一している。

 

「了解しました。シュープリスは既に到着しています。合流後、ミッションを開始してください。……どうか、ご無事で」

 

「あぁ、生きて帰るさ」

 

通信機の向こうのフィオナの笑いかける。

自分にとっては第二の家への帰還だが、彼女にとっては初めての戦いだ。やはり、緊張しているのだろう。

ただ、そんな彼女の気持ちを和らげようと先ほどまで努力していた為、落ち着いてはいる。致命的な失敗をしたりはしないだろう。

 

「……ワルキューレよりフィオナへ。シュープリスを肉眼で視認した。」

 

「こちらもレーダーで確認しました。あれが、No. 1……」

 

メインカメラを通し、シュープリスの姿が見える。黒く塗られたレイレナードの標準機、アリーヤが立っていた。両手にはライフル、肩には有澤製のグレネードとフレアが背負われている。

 

「本当に、友好企業以外の武装を使用してるんですね」

 

「エースの特権って奴か。……こちらワルキューレ、どうやら待たせてしまった様だな」

 

無線の周波数を、レイレナードと事前に決めておいたものにする。

フィオナもチャンネルを合わせたのか、声が聞こえてきた。

 

「こちら、オペレーターのフィオナ・イェルネフェルトです。今回はよろしくお願いします。

「こちらシュープリスだ、こちらはオペレーターを連れてきていない。こちらのオペレーションもよろしく頼む」

 

ベルリオーズの声が聞こえる。戦場の中にあるのに、平常そのものといった声だ。

 

「そして……初めましてレイヴン。」

 

「よろしく、こういう形で会えて幸運だ」

 

シュープリスの近くに機体を着地させる。AMS適性の劣悪な自分では、思い通りにネクストを動かすなんて夢のまた夢だが、シミュレータ漬けの生活のお陰でこれ位の操作は何とかできる。細部は違うが、大まかな使い方はネクストもノーマルも変わらない。

 

「優秀な戦士と聞いている。こちらも、こうやって会えて嬉しい」

 

ベルリオーズが言う。傭兵にとって、初めての対面が敵味方だというのは珍しいことではない。そして、それが最初で最後となることも良くある。

レイレナードのNo. 1。GA側の傭兵である自分にとって、そんな彼と会うのは戦場以外ではありえなかった筈だ。

 

「シュープリス、ミッションプランの打ち合わせを行いたいのですが」

 

「レヴァンティーン基地は狭い。最奥部なら兎も角、通路では連携した戦闘はむずかしい」

 

フィオナの言葉に、ベルリオーズは答える。

 

「見る限り、どちらも前衛型のアセンブルだ。二機で警戒をしつつ進み、それぞれで戦闘するというのはどうだ?」

 

「まぁ、それしかないだろうな」

 

男は頷いた。こちらは急造チームだ、連携した戦闘など出来るわけがない。

 

「なら決まりだ、私が先行する。レイヴンは付いてきてくれ」

 

そう言うとシュープリスのブースターに炎が入る。

 

「了解した、後方の警戒はこちらが行う。」

 

「では、ミッションを開始します。……お二人とも、幸運を」

 

 

「……敵、反応ありません。シュープリス、本当に武装組織というのはいるのですか?」

 

レーンを降り、警戒しながら前進する。だが、襲撃は無い。

 

「間違いないはずだ。本社はレヴァンティーン基地からのSOS信号も受信した。」

 

なら、どうして防衛部隊の痕跡が無いんだ?

心の中で男が言う。それなら、ここまでのあいだに撃破された兵器の1つや2つあって然るべきだろう。

 

臭う、やはり罠か?しかし、シュープリスはこちらに背を預けている。ワルキューレは、マシンガンにブレードなどを装備した、近距離特化型の機体だ。後ろから襲撃をすれば、短期間で大きなダメージを与えることが出来る。確かに警戒はしているが、それは敵からの襲撃に対するもので、こちらに対するものではない。

 

罠にかけているのなら、もう少しは警戒が見えるはずだ。それとも、警戒しなくとも倒せるだけ腕の差があると?

 

「では……これはいったい……」

 

フィオナはこの状況のおかしさには気付いていない。なぜ敵がいないかについて考えているようだ。

自分は、一応の注意をシュープリスに向けながら周囲の警戒を行う。とりあえず、意図が見えるまでは攻撃はやめた方が良いだろう。襲撃が本当のものだとしたら、No. 1への攻撃はまずい。レイレナードからの報復もありえる。

 

あの〝鴉殺し〟を含め、レイレナードにはまだまだネクスト戦力が多い。いつか戦うかもしれないが、いま、まだネクストに慣れていないのに戦うわけにはいかない。

 

「ここを進むと基地の最奥部だ、普段は実験場として……」

 

「待って下さい!前方に反応……これは……まさか!?」

 

ベルリオーズの言葉を遮り、フィオナが叫ぶ

 

「落ち着けフィオナ。何があった」

 

興奮したフィオナに語りかける。

 

「ネクストが……六機?これは……なんでこんな数のネクストが……?」

 

少女はこちらの声が聞こえていないのか、ブツブツと一人呟いている。

ネクストが六機……どう考えても、ありえない状況だ。

 

「応答しろフィオナ!俺をほっといて殺すつもりか?」

 

「え……、あ、ごめんなさい……私、取り乱して……」

 

やっとこちらに戻ってきたのか、フィオナが謝罪をする

 

「オペレーター、状況の説明を」

 

ベルリオーズがフィオナに尋ねる。ネクストが六機と聞いたのに、一切焦りが見えない。やはり、何か知っているのか……?まぁ、この状況のおかしさに気づいているだけかもしれないが。

 

「……施設最奥部に、ネクストの反応が六機あります。全機、こちらを待ち構えているようです」

 

少女の不安がよくわかる声で説明がされる。

 

「シュープリス、こちらはミッションの放棄を提案します!ネクスト六機では此方に分が悪すぎます!」

 

「それは出来ない。現在、レイレナードにはこの基地の奪還に使える戦力は私しかいない。アナトリアの傭兵には付き合ってもらわねば困る」

 

「そんな……!彼に死ねと言うのですか!?」

 

フィオナの悲痛な声叫びが無線から聞こえる

 

「なに、こちらも全力でやる。ただでさえ不利な状況だ、これ以上味方の数が減るのはこちらとしても困る」

 

「ですが……!」

 

「フィオナ、仕事を受けたのはこちらだ。敵と戦ってもいないのに逃げ出したら、信用問題にかかわる」

 

フィオナの言葉を遮り、男がそう言う。それを聞いた少女は絶句する。

 

「信用なんて……貴方の生きていなければそんなもの何の意味も……!」

 

「こんな商売だ、信用が命よりも価値がある状況は多々ある。」

 

男が語りかける。そう、逃げるわけにはいかない。たとえ罠の可能性があってもだ。開業して間も無い、そして実力も無い傭兵にとって、依頼主からの信用は何にも代え難い。

 

「フィオナ、わかってくれ」

 

「……わかりました」

 

渋々、といったフィオナの肯定が聞こえた

 

「ありがとう、フィオナ。……さて、シュープリス、待たせてしまったな」

 

「問題は無い。良いオペレーターじゃないか、大切にしろよ、傭兵。」

 

「あぁ……。さて、どうする?」

 

男はベルリオーズに尋ねた。

 

「レーダーを見る限り、向こうは動く気は無さそうだ。吶喊して撃破する。それで構わないだろう?」

 

「いまから六機のネクストを相手にしようって作戦では無いな」

 

「そうは言うが、そちらだってこの状況のおかしさには気づいているだろう?」

 

「おかしさ……ですか?」

 

フィオナの言葉が聞こえる。男は「まぁな」と言った後、少女に対し説明をはじめた

 

「そもそも、どこにネクストを基地の襲撃に六機も投入できる勢力がいるんだ」

 

「え、あ……」

 

「まず、六機ものネクストを保有する企業自体が少ない……それにだ。ベルリオーズ、レイレナード社とあろうものが他社のネクストの動きを把握できてないなんてことは無いはずだろう?」

「あぁ、本社からは他のネクストが動いたという情報は来ていない」

 

「なら、ありゃ何らかのペテンだ。ネクストの反応に偽装する他の兵器か、もしくは……無人化されたネクストかな?」

 

「自律ACですか……」

 

「だったら、恐れる事はない。いま現在、ネクストに勝る戦力は無い。自律ネクストだってシミュレータなら兎も角、現実でAIが動かすACには限界がある。ノーマルだってそうだったんだ、ネクストなんて単調にならざるを得ない。まぁ、それでも通常兵器なら脅威になり得るが……」

 

俺たちならやれる。彼はそう確信しているようだ。

フィオナは男がそう言うのならそうなのだろうと納得した。彼は、自分の実力を客観的に見る事が出来ていた。だからこそ、伝説などと呼ばれているのだ。

 

「さて、では行くかレイヴン。」

 

「了解だリンクス。まぁ、やってやるよ。」

 

そう言って男たちは部屋の中に入っていった。

 

 

コジマ粒子が雪のように降り注ぐ神秘的な光景。

その中に、奴らはいた。

レイレナードが自社の通常兵器不足を補うために作り上げた自律ネクストが。

【002-A】

高出力のエネルギーブレードを持ったその異形のACは、部屋の中に2つの異物が混ざったことをセンサーにて感知する

いま、彼らの頭にインプットされているのは単純明快な命令である。

排除、排除、排除、排除、排除、排除

次の瞬間、6つの自動人形は跳躍した。

が、右端の一機のメインカメラが吹き飛び、動きを一瞬止める

シュープリスの放った有澤製のグレネードが原因である。

自律ACはすぐにパニックから回復し、サブカメラによるセンサーによる感知のみで周囲を確認しようとする。

そして気付いた、自分の目の前にネクストがいることを

 

「破ッ!!」

 

ワルキューレの斬撃により、一撃でプライマルアーマーが削られる。

そしてコジマ粒子回復しきる前に、マシンガンを叩き込みながら機体を引く。

マガジンの4分の1を叩き込んだあたりで、漸く動きが止まる。

 

「ワルキューレ、六時方向より敵が!」

 

チェックシックス、チェックシックス。クイックブーストをふかし、振り向きながら斬撃を叩き込む。

 

敵もブレードを振りかぶっていた。

2つの濃縮されたエネルギー同士がぶつかり合い、双方の腕が弾かれた。その隙に、コアめがけて蹴りを放つ。

コジマ粒子のせいで殆ど傷は与えられないが、それでも少しは吹っ飛びはする。

そこへ向かってマシンガンを撃ちながら突っ込もうとし……

嫌な予感がした、反射的にクイックブーストで右に跳ぶ。

 

次の瞬間、先ほどまで自分がいる立っていた場所に緑色の爆発が起こった。

 

「コジマキャノンか!?」

 

一撃必殺の武器ばかり持つんじゃねぇ馬鹿がと罵声をぶつけたくなるのを我慢し、先ほど切り掛かってきたネクストに視点をあわす。

 

あのブレードはヤバイ、この機体では、掠っただけでも戦闘不能になりかねない。

できればそんな機体とは斬り合わずに、射撃にて仕留めたいのだが、このアセンブルは近距離での斬撃にこそ価値を発揮する機体だ。マシンガンとプラズマキャノンだけでは、ジリ貧になるのは目に見えている。

 

「斬り合うしか無いってかッ!!」

 

叫びながら急接近する。そうだ、さすがにブルーオンブルーをするわけにはいかないだろう。コジマを防ぐにはそれしかない。

加速して接近する。敵のブレードの振りは単調だが力強い。まともにぶつけあったら負けるのはこちらだ。

 

自律ACの一閃をかわす。

速い、速い、確かに速い。しかし、隙が無いわけでは無い。パターンも単調。なら、餌を撒けば……

ワルキューレのコアを狙った突きが放たれる。

安易な一撃だ、やはり中身はAIだろう。もう少し応用ができるプログラムでなきゃ、闘争には不向きだな。

その腕を狙ってブレードで斬りつける。腕部のPAはそこまで強力なものではないらしい。クルクルとブレードごと腕が舞う。

 

「シュープリス、敵ACを撃破。残り四機です」

 

速い、これがオリジナルの力か。

そんな思考と同時に、敵のコアに向けてブレードで突きを繰り出す。

龍殺しの名を与えられたブレードが、無理やりコジマの装甲を引き剥がし、黒い人形に突き刺さる。

そしてそのまま、腕を振り上げる。コアから上を真っ二つにされたACは、そのまま爆散した。

 

「ワルキューレ、シュープリスの救援を。残りのACに囲まれています」

 

いや、あれは恐らく援護はいらないだろう。

シュープリスは敵を圧倒している。法則性を感じないランダムな回避でもって照準を合わせることを許さず、腕部のライフルでもって確実にAPを削っている。

まぁ、見ているだけでは給料泥棒だ。折角こっちに無関心なのだから、楽にやらせて貰おう。

 

OBでもってシュープリスに合流する。その間に、一機を後ろから斬る。ブレードはメインブースターを貫き、その爆発によってACは吹き飛んだ。トドメにプラズマキャノンをその背中にぶち込むと、バラバラに落ちていった。

 

これで二対二だ、無傷の山猫とボロボロの人形。もはや決着はついていた。

ワルキューレとシュープリスがそれぞれ近くにいた一機をいとも簡単に屠り、戦いは終わった。

 

終わってみれば簡単な任務だった。おそらく、心の底から不安だったのはフィオナだけであろう。

 

少女はホッと一息を吐き、そのまま戦士たちに仕事の終了を伝えた。

 

 

 

レイレナード社の輸送機内、割り振られていた部屋の中で男が端末をいじっていると。ドアが突然ノックされた。

 

「どうぞ」

 

入ってきたのはベルリオーズだった、彼は部屋の中に入るとベッドに横になりながら端末を触る男に目をやった。

 

「あぁ、ちょうど話したいことがあったんだ、そこに座ってくれ」

 

男が起き上がり、椅子の1つを指差す。

ベルリオーズはそこに座ると、男に尋ねた

 

「何を書いてるんだ?」

 

「レイレナード社へ提出するレポートだ。あの自律AC、甘い部分が多すぎる」

 

男はなんでも無い風に言う

 

「あれはまだ試作品のようなものだからな。あれだけ揃えても、まだネクストの相手はキツイ」

 

「……少しも動揺しないんだな」

 

「そこに気付くかどうかも含めてもこの依頼だよ」

 

ベルリオーズの言葉を聞き、男はついため息を漏らす

 

「で、今回の依頼はどっちのテストだったんだ?あのACか、それとも俺か」

 

「どちらもだ」

 

その言葉を聞いて、男はベルリオーズの瞳を覗き込んだ。

理性を感じる目だ、だがその中に、違う光を感じる。情熱、そうだ、何かの理想の為に突き進むものが持つ、特有の光だ。

 

「近いうち、間違いなくこの世界では企業間での戦争が起こる」

 

「まぁ、だろうな」

 

ベルリオーズの答えに男が同意する。国家が解体されて数年。既に、企業間での軋轢は爆発寸前となっていた。兵器産業、コジマ技術、資源採掘権、食糧問題、歴史的な対立……、全ての企業が、他の企業に対して戦争をする理由を持っている。

いま、戦いが行われていないのが奇跡なのだ。おそらく、理由はマグリブ解放戦線などの反体制組織の存在だ。あの英雄アマジーグに、企業同士で戦争をしていて対抗できるわけが無い。

しかし、結局彼らは弱い存在だ。いつか、企業によって潰されてしまう。その時に、世界は戦争へ向けてカウントダウンを始めるだろう。

 

「我が社はネクスト技術に関しては、他の企業よりもリードしている。だが、反対に通常戦力に関しては……」

 

「BFF等に頼らざるを得ない……なるほど、その状態を改善するため、自分たちの会社だけになっても戦い続ける為のあの自律ACか」

 

「そうだ、我々は次の戦争に生き残る為に手段を選ばない覚悟だ。」

 

「傭兵を使う事もか?」

 

「あぁ」

 

なるほど、と口の中で呟き。男は頭を掻いた。

 

「レイレナード社の人間はみんなそんな目をしているのか?その、理想へと突き進む情熱を持った目を」

 

「……半々だな。この理想に、利益があるからついて行く者もいる。」

 

「理想に関して否定する者はいないのね、なら結局一枚岩ってことか。なるほど、若い企業ってのは強いね」

 

男は立ち上がり、ベルリオーズの前へと歩く

 

「その理想については聞かん。俺は傭兵だ。自由に戦場を飛ぶのが俺たちだ」

 

理想なんて重い物を背負ってしまっては、飛べなくなる。我々はただただ戦場を渡り、ただただ殺し続ける。意志がないからでは無い、そんな生き方が好きだからだ。

 

男の言葉を聞いて、ベルリオーズは笑った。

まるで、その言葉を待っていたかのように

 

「なるほど、それがレイヴンの誇りか」

 

「他の奴の事は知らない、これは俺の信念だ」

 

そう言って男も笑う。何故だかわからないが、ベルリオーズといると自分らしくある事ができた。

 

「なら傭兵、君に1つ頼みがある。」

 

「なんだ?癒着ならお断りだぞ。ただでさえGAという重りが有るんだ。」

 

「そうじゃない。……友に、なってくれないか?」

 

そう言うと男は一瞬目を大きく開け、次の瞬間大きく笑い始めた。

 

「友、友、そうか、友か。そういえば、子供の頃以来、戦友しか作ってなかったな。」

 

楽しそうに男が言う。

 

「戦場で対峙すれば殺し合うしかない我々だが、友にはなれるだろう?」

 

ベルリオーズも、男につられて楽しそうに言う。

 

「喜んで、ベルリオーズ、我が友よ」

 

そう言って男はベルリオーズへと手を差し出す

 

「よろしく頼むよ、傭兵。……そういえば、名前は?」

 

「あぁそうだな、友に向かって本名を名乗らないのは失礼だな」

 

そう言って、男は自らの名前を名乗る。

 

それを聞いたネクストは、その名でもってレイヴンを呼び、手を握る。

 

 

こうして、1つの友情が成立した。

隣り合う世界ではあり得なかった友情。二人の戦士が、別の出逢い方をしたから、起こった奇跡。

 

世界は多くの変革を遂げる。最早今の世では、オーメルやGAの勝利すら、確定された未来ではない。

あらゆる場所で、竜巻が起こる。

自覚なき蝶、その存在によって

 

 

「ッシャオラァァァァ!!!カーパルス占拠ハードを居合ブレオンでクリアしたぞオラァァァァァ!!!どうだフロム!!俺こそがイレギュラーだ!ドミナントだ!!ネクストだぁぁぁぁ!!!隻腕なめんなァォァァァァァ!!!!」

 

 

 

鴉は飛び立った

蝶も、ゆっくりと翅を広げている。

 

彼女が舞う日は、近い




先日、友人がノーマルですがカーパルス占拠をブレオンでクリアしてたので、ドミナントって本当にいるんだなぁと感心してた。

ちなみに私はレギュ1.0の分裂ミサイルでクリアしました。カッコいいよね分裂ミサイル。クレピュスキュールにも装備させたかったよ分裂ミサイル。


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フラジール10機の断末魔聴いてたら頭痛くなってきた

突然ですが、最近四脚にハマっています。
地上を高速で疾駆しながら撃ちまくる。なるほどこれは楽しい。
レッドラム脚がお気に入りです。

ふと、第1話を読み返しました。

うん、二脚とは書いてないな。うん。


よし


いやまて、まだだ、もう少し待とう。逆脚にハマる可能性もある。


というわけで、クレピュスキュールは既に描写しているパーツ以外は作者の中でも未定です。今のところ第一候補は軽量四脚ですが。


こーんにっちわんこそばー!どうも!グーテンモルゲン・佳子ことジャンヌ・オルレアンでーしゅ!!!いえーい!!どんどんぱふぱふー!!ぶおおおおおおおおお!!!

というわけで、わちきは情報屋のおやびんに会う為に街に来ているでござるにそうろう。テンションはいつもの倍でお送りしてまーす!!

 

「まさかなぁ、なるほどなぁ」

 

これには理由がある、それは私がいま手にしている新聞に書かれた記事を読めばわかる

 

「ベルリオーズ、アナトリアの傭兵と共に武装組織を撃退」

 

そこには、二機のアリーヤが並ぶ写真が載っている。このブレードを持った機体がこの世界のレイヴンの乗機だろう。

機体名はワルキューレ……黒い機体でワルキューレ……いいねぇ……そそるよ……黒いワルキューレってラーズグリーズ感あるもん……計画を破壊する者とかイレギュラーに最高に似合う2つ名だよね

 

よし、こいつの事はラーズグリーズの悪魔って呼んであげよう。AC的には4はリボン付きの死神だが、細かい事は……

 

あれ?Vの黒い鳥ってそれこそ最高にラーズグリーズじゃね?いやそれともVDの方がラーズグリーズか?財団の計画ぶっ壊してるし。

 

まぁ、そんなことはどうでもいい。私が気に入ったのは、あの二人がこうして別の出逢い方をした事だ。

どうやら、自分が何もしなくても世界は動くらしい。これもう何の介入もしないでテレビ見てるだけで良いのでは?と一瞬思ったが、台本持ってメイクてるのに舞台に上がらんのもつまらない。

 

まぁ、この調子だとなかなかのアドリブ舞台になりそうだが。

 

そんなこんなを考えつつ、シンの兄貴の元に行く。

そろそろ顔馴染みになってきたヤクザな兄やん達に挨拶しつつ、てけてけ可愛く部屋に入る

 

「驚いたよ、ウェルコット家にあぁも簡単に入り込むなんて」

 

開口一番、シンが言った

 

「どれもこれも、シンさんの情報のお陰です」

 

私はお淑やかに礼をした

 

そう、私は素晴らしいことにリリウムちゃんと仲良くなることに成功していた。

いやぁ、アレだね。運が良かったのもあるけど、万人から好かれる顔だという自覚があると振る舞いにも落ち着きや余裕が出てくるね。ウィットに富んだジョークもポンポン出るもん。

余裕だよ、余裕、やはり人間には余裕が必要なんだ。

 

「で、この後はどうするんだい?」

 

「焦っても仕方がありませんからね、ゆっくりと信用されるよう頑張りますよ」

 

ニコリと笑ってそう返す。無邪気に、そう無邪気にだ。笑顔ほど人の心が見えない不気味なものはない。笑みは仮面だ、この人には、自分は復讐の鬼と勘違いしていてもらいたい。その方が楽だ。

 

「そうかい、幸運を願うよ」

 

「シンさんは、ネクストに恨みを持ったりはしてるんですか?」

 

ふと、気になったのでシンに尋ねてみる。この組織の構成員は殆どが元国軍の彼の部下らしい。だとすると、ネクストや企業に思う事があってもおかしくない。

 

「うーん、そこまでだな。あの戦争で妻や息子が死んだわけでも無いし。自分の大隊だってそんなに被害にあったわけではない。まぁ、国に対しての忠誠なんてものも殆どあったわけじゃないしな」

 

聞き捨てならない言葉が耳に入った

 

「……ご家族が?」

 

「あぁ、こんな世の中で息子も小さいが、ピンピンしてるよ」

 

「そうなんですか……」

 

意外だ、なんとなく独身だと思っていた。まぁ、顔は兎も角なんだかんだ優しいしねぇ。部下を自分の組織で雇ったりしてるし

 

「だから、まぁ、俺はあんまり奥深くでジャンヌちゃんの気がわかるわけじゃねぇが……」

 

大丈夫大丈夫、自分も復讐に狂う人間の心情わからないから

 

「そっちが顧客である限り、こっちは出来る限り手助けをするよ」

 

「あら、じゃあ良いお客さんでいなきゃいけませんね」

 

うふふ、そう笑ってシンさんとの話を終えた

 

 

こせきを てにいれた !

 

というわけで偽造された身分証明証を幾つか手に入れた。やったぜ!!名前はジャンヌ・オルレアンにしてくれたのね。良きかな良きかな。

これで自由度が大きく上がった。免許証もあるのが嬉しい。楽しくドライブができる。

 

ウッキウキしながら街を歩く。今日の目的はこれで終了である、最近の日課であるリリウム訪問は今日はいかない。曰く、久しぶりにお兄様とお姉様が帰ってくるから家族水入らずで過ごしたいらしい。

人と話すことに飢えていたのか、リリウムからは色々な事が聞けた。

自分の事、家族の事、暮らしの事、そして夢の事。

どうやら、リリウムの夢はネクストに乗る事らしい。良かったね!夢は叶うしネクストの中で死ねるよ!!だいたいコジマ塗れだけどね!!!

そうか、叶うと良いねと応えると、リリウムは自分にこんな事を尋ねてきた

 

「ジャンヌ様、ネクストに乗るというのはどのような感じなのですか?」

 

リンクスって事がばれてりゅ!?と一瞬驚いたが、よく考えたら自分の背中にはAMSに接続するための端子が埋め込まれている、それを見て気づいたのだろう。

 

「いや、自分はまだ殆どネクストに乗った事がないんだ」

 

「候補生ってことですか?」

 

「そんな感じかな?」

 

ボロロンと心のカンテレを弾く。

 

「あまり、自分の事はお姉さんたちに言わないでおくれよ?ここにいるってバレるとマズイからね」

 

「ジャンヌ様は、訓練をサボってここに来ているんですか?」

 

「違うよ、少し休憩しているだけさ。息抜きは大事なんだよ」

 

そう言うとリリウムは少し呆れたような顔をしていた。まぁ、BFFの中では性以外についてはマトモなウォルコット家に暮らしていたら、自分みたいなネクストは信じられないのだろう。

 

「訓練は、ちゃんとやった方が良いと思います」

 

「リリウムは真面目だね」

 

そう言ったリリウムに、私は笑顔でそう返した

 

 

訓練、そうか訓練か。そうだな、ゲームだけじゃなく実機で訓練してみても良いかもしれない。確か、クレピュスキュールにはトレーニングモードがあった筈だ。

 

そうと決まれば早速帰宅だ、少しは努力しなきゃ、この世界で埋もれる可能性は多々ある。幾らチートじみた補正を持ってようと、死ぬ時は死ぬんだ。

そうだ、なんたってこの世界には、アナトリアの傭兵が……イレギュラーがいるんだから。

 

 

帰宅後、パイロットスーツに着替えた私はすぐにクレピュスキュールに乗り込む。

あ、パイロットスーツはプラグスーツみたいな感じです。ほんとはもっとフルアーマーなのが良かったんだけど、成長のことも考えてどんな体型でもフィットするこいつにしました。

で、緩衝材もりもりなヘルメットを装着。AMSを接続し……

 

『パイロットの接続を確認。システム、通常モードを起動します』

 

「OK、トレーニングを行いたい。」

 

『了解、トレーニングモードを起動します。設定を行ってください』

 

画面に無数のACが表示される。4やfAに登場したネクストの他にも、他のAC作品の特殊兵器や現実で自分が組んだ機体のデータ(AIは色々と4系にふった感じのUNACがぶち込まれていた。いいよね無人ACって、4系に出てくるのは大体動きが単調なのでアレだな。)、そして特別なAIを採用したある機体がぶち込まれていた。

 

「敵のレギュは……こいつなら1.15だな。マップはバーチャルBで、数は………物は試しだ、3でいこう。」

 

ピッピッピと決めていき、ウキウキと準備をする

 

「いやぁ楽しみだ、前の世界だとこんな無理な対戦はできないからね」

 

さぁいこう、始めよう。自分がどれだけACを動かせるのか、練習には最適だ。

 

一面に広まるは無機質な世界。地面は六角形のパネルにて構成され、空は絵の具で塗り潰したかのように青い

ここは少女たちの遊技場。彼方に立つのは、全てを惑わす魅惑のローレライ

 

「それじゃあ、行きますか」

 

パキポキと、指の骨を鳴らす。溢れんばかりの笑顔が、顔中を支配する

 

「天使とダンスだ!!」

 

次の瞬間、クレピュスキュールは駆け出した。

 

空を舞う三人の乙女、黄昏の蝶はそんな彼女たちに向けて、素早くグレネードの照準を合わせた

 

 

銀髪の少女がスーツ姿で帰ってきた姉達に抱きつき、フランシスカ・ウォルコットとユージン・ウォルコットの二人は心底嬉しそうに自分達に良く似た妹の頭を撫でた。その柔らかな感触を楽しみながら、リリウムは久方ぶりの姉達との再会を実感した。

 

メイドも控えさせず、三人だけで整えられた庭にて紅茶を楽しみながら、リリウムは仕事の話をして欲しいと姉達にせがむ。

彼女に対して、蜂蜜漬けのパンケーキ並みの甘さで接しているこの姉弟は、機密事項にあたることや醜い現実を省きながら詳しく話す。

その一々に対して首肯し、相槌をうち、ある時は目を輝かせながら質問するリリウム。

 

話はどんどんと進んでいく、彼女にとって一番の憧れは勿論姉達だが、他のBFFのリンクスにも憧れを持っていた。

王小龍、アンシール、そしてメアリー・シェリー。

どのリンクスのお話も、彼女からしたら物語の主役のようにキラキラとしたものだった。(この姉弟は、特に後者二人の性格的欠損についてオミットしてから妹へと話していた)

 

ふと、リリウムはある事が気になって質問した

 

「BFFのテストパイロットとかで、優秀な方はいらっしゃるんですか?」

 

「テストパイロットか……」

 

ユージンが記憶の中のクローゼットを漁りながら、誰かいないかと探し出す。

 

「うーん、あまりパッとしたのはいないわね」

 

姉が口を開く、弟も頷いた

 

「だね。簡単に良いリンクスは見つからないからね」

 

「あ、そういえば……どうしたのリリウム?」

 

フランシスカがリリウムの顔を覗き込んだ

 

「え、なんでもありませんけど……」

 

「そう?何かに怒っているように見えたけど……」

 

「テストパイロットの不甲斐なさにじゃない?」

 

「い、いえ違います。少し眠くなってしまって……起きようとしたら……」

 

焦りながらリリウムは姉達に言い繕う

 

「ふふ、まぁ今日はいい天気だからね」

 

ユージンが銀色の小さな頭を撫でて言う。フランシスカが妹のカップが空な事に気付いて紅茶をいれた。

 

そんな温かな幸せを感じながら、リリウムは頭の隅で不思議な隻腕の女性について考える。

ジャンヌさんに、訓練は真面目に行うよう注意しなくては……

 

 

OIGAMI

有澤重工の技術の結晶とも言えるこの超大型グレネードは、多くのネクストから愛される存在だった。

両肩のスロットを占有するその大きさ、あの凝った展開ギミック、そしてその長砲身から放たれる大威力の砲弾。まさに浪漫だった。

だがしかし、その余りに大きすぎる射撃反動や展開時のスピードの遅さなど、使いにくい部分も多い。

そのため、このOIGAMIは、殆どのネクストにはネタ武器とされる類の武器だ。

 

 

機動する、機動する、機動する。

砂の上を、ビルとビルの間を、そして空を、あらゆる場所をかけながら、敵の攻撃を回避する。

 

現在状況

場所 旧ピースシティ

敵AC フラジール

数 10

 

あらゆる方向から弾丸が飛来する。

それをかわしながら、攻撃の隙をうかがう。

いま、クレピュスキュールの持つ武器は、OIGAMIのみだ。カノープスもムーンライトも、開幕早々パージした。

絶え間ない機動の隙間、ついに射撃の為の時間を作り出たクレピュスキュールは、クイックターンでもって振り向いた。

 

刹那、2つの爆発音がほぼ同時に響く。

1つはクレピュスキュール、砲口からはゆらゆらと煙が立ちのぼり、真鍮製の薬莢が砂の中に落ちる。

1つはフラジール。OIGAMIの直撃を受けたこの軽量機は、いまは無数の破片を地面に突き刺すだけの存在と成り果てていた

 

あるネクストは考えた、確かにOIGAMIは使いにくい、ロックは安定しないし、弾も殆ど入っていない、そもそも威力を求めるならば、ロケットやブレードを積めばいいのだから、こいつを使う必要は無い。

だが、それでも、使いたいのだ。ならどうする?こいつを使えるよう、特訓すればいいのだ。

 

そして山猫は特訓した。なんとしてもこいつを使いこなせるように、なんとしてもこいつで活躍できるように。

 

頭のおかしくなるような試行錯誤と特訓の末、彼はある境地に達した。

 

 

 

そうだ、反動高くてロック外れるならノーロックで当てればいいんだ。

 

 

 

そして彼は実現した、オフラインはもとより、オンラインの戦場を飛ぶ猛者達にさえ機動しながら、ノーロックでOIGAMIをぶち当てるようになった。

リアルのACコミュニティや掲示板で彼の存在を知った人々は、尊敬と畏怖の念から彼のことをこう呼ぶようになっていた。

 

 

 

 

 

 

超機動高射砲と

 

 

 

 

 

 

「つまらん」

 

無数のフラジールの骸の上で、少女は一人そう呟く。

 

残弾は0、敵は0。一発一殺でもってトレーニングを終了させた。

 

「うーん、あとでもう少し逃げに徹するUNACを組んでみようかしら」

 

視界が戻る、ヘルメットを外し、クレピュスキュールから降りる

 

「まぁでも、動かすことについてはこっちの方が楽しいな。」

 

そう言うと、スーツを脱ぎながら歩き始める。

汗をかいてしまった、風呂に入ろう。

あぁくそ、早く生でACと戦いたいな。

データというのはどうも単調すぎる、やはり戦いというのは、生の人間とやってこそ楽しい

 

もはや、彼女の中に殺人というものに対する忌避の感情は無かった。機動兵器同士の戦いでは、人間が死ぬという実感が薄いのが第一の理由。

第二の理由、折角の第二の人生だ、やれなかった事をやりたい。クズなロールは最初からするつもりだった、そこから殺人までの道は遠いようで近い。大丈夫大丈夫、死んでしまった動物を見ている時よりも、抱く悲しみや罪悪感は間違いなく薄いだろう。

 

この感情に気付いた時、少女は成る程と頷いた。

 

「あいむしんかーとぅーとぅーとぅーとぅとぅー……あいむしんかーとぅーとぅーとぅーとぅー……」

 

そうそう、我々人類種の天敵達唯一の同志も言ってたではないか。

刺激的にいこうと

 

人に優しく、人に厳しく、時にはいたぶり、時には希望を示し、時には助け、時には殺し、時にはグレネードで、時にはレーザーで、時にはブレードで……

殺れば殺るほど楽しくなるかもしれない、もしかしたら、人道的なロールな方が楽しいかもしれない、それはわからない。わからないならとりあえずやってみよう、

 

「リリウムにバレないようだったらクレイドル30億人殺しとかやっちゃおっかなぁ」

 

縁起でもないことを呟きながら、少女は風呂場へと入っていった。曇りガラスの中では、彼女の楽しそうな歌声と、お湯がタイルに落ちる音のみが響いていた

 

 

あ、やべぇ、タオルと着替え出してねぇ

 




サイコパスの方が書きやすい問題
いきいき動きやがる

てかこれこいつ拷問とかしそうだな。どうしよう、念のためアンチ・ヘイトタグもつけようかしら。うんそうだな、そうしよう。

愛ある拷問はアンチ・ヘイトなのか?(哲学)


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砂漠の狼

久しぶりにAC4をやったのですが、体感速度が違いすぎてまともに動かせなかった。危うくススにも負けかけたし。

ストレス発散にACfAの二足クレピュスキュール(両肩をガトリングに換装)でシエラジオ狩りしてきた


世界とはしりとりのようなものだ。

間に一人入るだけで、その流れは大きく変わる。

「りんご」から「ごりら」の間に、「ごま」と答える者がいれば、本来「ごりら」と答えていた人間は「まんとひひ」と答えを変えざるをえない。

こんな風に、たった1つの変化で世界はどんどんと姿を変化させる。

 

アナトリアの傭兵の任務は、元々来るはずだったモノとは違うような者が流れ込んでくるようになった。

GA・GAE・インテリオルなどの元から依頼があった企業の他に、レイレナードやオーメルなどといった企業の任務も混ざるようになっていた。

各地で奮戦する最後の鴉。その勇名は、急速に世界に広まっていった。

 

変わらないものもある。

マグリブ解放戦線は各地で活発に動いている。彼らにとって、企業への反抗という目的は変わりようのないものだ。

末端を潰そうが、基地を襲撃しようが、彼らは止まらない。

なぜなら彼らの先頭には、企業という力に立ち向かう象徴がいるのだから。

 

 

 

ならば、それを狙おう。

 

 

 

結局のところ、この世界でも同じ結論に至った。

当然といえば当然だ、頭を失ったらどんな生物でもいつか死ぬ。それを叩かない道理はない。

だが、彼らの頭は強い。あの狼が相手では我々の出血は免れない。

 

少し頭をひねり、彼らはあることを思い出した。

丁度良い駒がある。どんなに傷ついても、誰の懐も痛まない。それにあの男は、さらなる金を求めていた、ならば簡単に食いつくだろう。

 

そうして、アナトリアにその依頼は届いた。

鴉はすぐにそれに了承した。

 

 

 

第7話 砂漠の狼

 

 

 

「目標は未だ来ず……か」

 

アフリカ、砂の中にワルキューレを隠した男は一人静かに獲物が来る時を待っていた。

今回のミッションは単純なものだ。

砂漠の狼、アマジーグの撃破。

依頼はGAからだった。マグリブ解放戦線内部のモグラから、バルバロイの輸送計画が漏洩された。

GAはこれを千載一遇のチャンスと捉え、襲撃作戦を立案する。

しかし、GA社の最高戦力であるメノ・ルーはその時極東にて作戦行動を行っていた。

彼女以外に、GAに信用の置けるコマはいない。いや、一人だけ磨けば光る可能性のある男はいるが、彼が宝石となれる日はまだもう少し時間が必要である。

 

「GAの粗製には荷が重すぎるか」

 

ブロックタイプの高栄養食品を口に放り込み、水で流し込む。

完全なる奇襲を行うために、レイヴンは何日も前から砂の中に潜んでいた。

アンブッシュは得意だ、昔から何度もやった。

卑怯だという思いは無い、楽に稼げる方法だ。

 

しかし、アマジーグに何も思わないわけではない。

砂漠の狼。たった一人で、企業と戦い続ける男。最悪のAMS適性を、最悪の精神負荷で持って補う戦士。

この生き方を救えぬ阿呆だと切り捨てることはできない。自分だって、女のために精神を削りながら戦ってるのだ。

 

自嘲の笑みを浮かべる。無線封鎖を行っているため、フィオナの声は長い間聴いていない。

彼女の声を次に聞くときは、ミッション開始の時である。

 

穏やかに、ただただ穏やかに始まりの時を待つ。

頭の中で無数の状況を想定する。

そのパターンはゆうに3桁を超える。中には、援軍としてオリジナルネクストが来るというものも含まれていた。

ありえない、なんてことは戦場においてありえない。先の弾道ミサイル破壊任務では、テクノクラートのネクストが妨害の為に現れた。問題無く撃破は出来たが、今回のミッションにも護衛として現れる可能性はある。

 

その場合、どっちを最優先で叩くか。目標はバルバロイの撃破のみだ。護衛がノロマなら輸送中の奴を叩き、離脱するのが吉だろう。軽量機の場合は、そちらを潰してから、早急に料理すると……

 

結局、その日もバルバロイは来なかった。電子タバコを吹かした後、男はゆっくりと眠りについた

 

 

状況が変わったのは2日後だった

 

「フィオナよりワルキューレ、聞こえますか?」

 

ほぼ一週間ぶりのオペレーターの声を聞き、少しほおが緩む。

 

「こちらワルキューレ。感度は良好、来たか?」

 

「はい、予測通りのルートです。護衛も確認できません。バルバロイは三分以内に作戦エリアに入ります」

 

「了解した、ワルキューレを起動する」

 

コンソールをいじる。眠り続けていた戦乙女が目を覚まし、身体を覆っていた多量の砂を吹き飛ばす。

 

ワルキューレは、最初の任務からその姿を変えていた。

プラズマキャノンはMSAC製の分裂ミサイルに、肩には近距離迎撃用の散弾兵器を搭載している。

 

そろそろ、ブレードの種類や腕のアセンブルも変えたい。アリーヤの腕もいいが、EN兵器を扱うにはインテリオルユニオン製のものが一番だ。

 

この仕事を終わらせたら、その辺りの買い替えも考えなくてはいけない。そう考えながら彼はブースターをオンにする。

 

「バルバロイ、作戦エリアに入ります!」

 

コジマ粒子が周囲に展開する、これで敵もこちらの存在を認識するだろう

 

ワルキューレは飛び立った、英雄の死に立ち会うのだ、遅刻しては失礼だろう

 

 

だがしかし、物事はそう上手くはいかない。

 

「な……ワルキューレ!北からネクストが一機接近中!!これは……まさか……?」

 

なるほど、パターンDか。さて、相手は誰だ?

 

「確認した、どうしたフィオナ。知り合いか?」

 

「敵AC、ホワイト・グリントです!そんな、ジョシュアがどうして……」

 

咄嗟に舌打ちしたくなるのをなんとか抑える。想定した中で最悪の状況だ。アスピナがアナトリアに対抗して投入したこの最も新しいネクストは、傭兵として各地で活躍していた。

 

フィオナは彼の事を知っているらしい、どんな人間かについて色々と話していた。

彼はアスピナにて、AMS研究の被験体をやっていたらしい。

最初の山猫、フィオナはそう言っていた。誰よりも長い間ネクストに乗り続けた彼の実力は、ベルリオーズにも匹敵するとも。

 

「リンクス、ジョシュア・オブライエンだ。救援に向かう、持ち堪えてくれ」

 

男の耳に、ジョシュアからの無線が聞こえてくる。どうやら、全チャンネルに向けて流しているらしい。名前を売るためか、それとも仲間を安心させるためか。

 

「お互い傭兵だ、例え知り合いだろうが戦う可能性は大いにある。まさか、覚悟してなかったなんて言わないよな?」

 

「……いえ、大丈夫です」

 

フィオナが答える。

 

「ホワイト・グリントは軽量機です。バルバロイだけを相手して逃げることはできません。二機とも撃破してください!」

 

「了解、バルバロイ起動前に倒す!」

 

ワルキューレがOBを吹かせ、ホワイト・グリントへと接近していく。

 

視界にアスピナの白い閃光が映る。最初の山猫と最後の鴉、天才と粗製、白と黒……ほぼ全てが真逆の存在。一致するのは互いが傭兵ということのみ。

 

ミサイル発射、OB停止、QBを行いながら接近する。

 

「アナトリアの傭兵……なるほど」

 

ホワイト・グリントからの声が聞こえる。その中から、様々な感情が見える。

 

「お会い出来て光栄だよ、ジョシュア・オブライエン。そして……」

 

ブレードを展開、ミサイルをかわしたホワイト・グリントがブレードを構えるのが見える。しかし、構わず、突っ込む。

 

「サヨナラだ」

 

そして、二人の傭兵は激突した。長い長い因縁の舞台は、こうして幕を開けることとなった。

 

 

何もない荒野の中で、白と黒2つの光が交差する。

ライフル弾をいなしながら、マシンガンを撃ち込む。

 

「クソッ!捉えられない!!」

 

ビルに一瞬身を隠し、ライフル弾をかわす。

ミサイルロック完了。ファイア、ファイア、ファイア。

そしてミサイルと共に突っ込んでいく。

が、ホワイト・グリントはQBでそれをかわすと、こちらを迎撃するために突撃ライフルとレーザーキャノンを放つ。レーザーはかわす、ライフル弾は斬りつけることによって消し去る。

そしてなんとか懐に潜り込むが、ジョシュアはそんな自分を渾身の一太刀でもって退ける。

 

「まともに斬り合おうって気は無いということか!」

 

「当然だ、アナトリアの傭兵の噂はこちらでも確認している。わざわざそっちの土俵でやる気は無い」

 

斬りすぎたということか、迂闊だった。相手を無理矢理土俵に連れてこれる技量も無いのに、手札を見せすぎたのだ。

だが、後悔しても遅い。対策はこの戦いと後だ。

 

「なら!!」

 

落ちながら敵をロックする。肩部の散弾兵器とマシンガンの照準を合わせ、放つ。

 

が、これもジョシュアは交わした。マシンガンは何発か当たったものの、PAのせいで効果が薄すぎる。

 

そんな時、最悪の報告がフィオナから送られてきた

 

「バルバロイ起動します!そんな……このままじゃ……」

 

二体一、最悪の状況だ。楽な任務が一転して絞首台への道へと変わった。

 

どちらも決定打を欠いたこの状況で、援軍は致命的だ。男は素早く算盤を弾く。この状況なら、任務放棄しても最低限の言い訳は出来るはずだ。

 

「フィオナ、この任務を放棄して離脱する!」

 

「了解しました、すぐにGAに連絡を……」

 

ホワイト・グリントの猛攻をかわしながら、視界の端に映る赤いイレギュラーを見る。トラクターの上に立つイクバール標準機の軽量二脚は、こちらの姿を見るとブースターに火を…………

 

 

次の瞬間、バルバロイが巨大な炎に包まれた。

 

「な……!?」

 

「なんだぁッ!?」

 

ジョシュアと男、同時に声を上げる。

爆風が機体を叩く、だいぶ離れていた筈なのに異常な風圧が襲ってきた。

 

フィオナも同じだが、戦場にいない分衝撃が薄い。すぐにパニックから回復すると、レーダーに映る情報を報告した。

 

「ば、バルバロイの反応はまだあります。だけど、この攻撃は…………」

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!」

 

「「え?」」

 

その声が響いた瞬間、二人はさらなるパニックに陥った。フィオナの声を遮った声は、フィオナの声だった。

 

「何だ……これは一体……」

 

焦ったようにジョシュアも呟く

どうやら、全員にとってのイレギュラーな状況が今らしい。

そんな中、声は楽しそうに言葉を紡ぐ。

 

「いやぁ、仲間はずれはよくないなぁ!私もいれてくれないと……!」

 

「こちらワルキューレ!そちらの名前を……いや、目的は、目的はなんだ!?」

 

二機とも既に手を止め、この状況がどうなるかを見守っている。

 

「いやいや、ちょっと貴方のお手伝いをね!」

 

フィオナの声で、フィオナが絶対に言わない言葉をを楽しそうに吐く女。いや、それはまるでセリフのようだ、女優が台本を読むように、声を張り上げ、観客に聞かせるように、無線の向こう側のイレギュラーは語る

 

「イレギュラーネクスト、レーダー範囲内に入りました!これは……こんな機体見たこと無い……」

 

 

ワルキューレのカメラに映ったイレギュラーの姿、それは、なんとも幻想的な姿だった。

 

四枚の白い羽根を広げた機体が、高速でこちらに接近してくる。いや、アレは羽根ではない。ブースターの光だ。OB使用時の光が、まるで羽根の様に広がっているのだ……

 

「なに……この音は……」

 

フィオナの声を聞き、耳をすませる。そういえば、この女の声の後ろから、何か音が……いや、これは……歌?

 

–––––– oh,I'm scary.––––––

 

「さてさてさてぇ!ここにおわしますは砂漠の狼、最初の山猫、そして最後の鴉ッ!!」

 

––––––so I'm scary.–––––––

 

女が笑いながら叫ぶ。場にいるすべての存在が、このイレギュラーを注目している

 

––––––all that I see.–––––––

 

「なんだ、なんなんだ、貴様は……」

 

新たな男の声、おそらく、アマジーグだろう。

 

––––––now,I'm scary. –––––––

 

「狼と山猫なんて初陣じゃちょぉっっと荷が重いけど、私が負けるわけないだろォッ!!!!」

 

––––––all is fantasy.–––––––

 

「敵機確認!重量四脚です!一直線にバルバロイに突っ込んでいきます!!」

 

「どうなってるんだ……この距離をOBでだと……」

 

「くっ……!?バルバロイ、今行くぞ!!」

 

「こんな所で死ぬわけには……!!」

 

四者四様の反応が無線に響く、その声を貫き。この世界にとって最悪の幻想は更に速度を上げる。

 

「行くぞォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」

 

 

––––––all is fantasy.–––––––

 

 

 

 

かくして、ホワイトアフリカの地にて役者は揃った。

自らを主役と自称する少女は、第一幕の終わりに堂々と姿をあらわし、頭に浮かんだセリフを読み上げる。他の演者は驚愕し、偉ぶった脚本家たちも目を白黒させる。

だが、幕は既に開いている。誰も逃げることは許されない、そもそも逃げる場所など存在しない。

 

こうしてこの少女は歴史の中に突如としてその名を記されるようになる。

他者から見ればまるで天災の如く暴れ回ることとなる彼女の初舞台は、このように混乱の最中で始まった。

 




いまさっき思いついたの

「これは……なんで、お前が……」

財団との戦いを終えた男、ボロボロの身体のまま帰ってきた男がベットに倒れこむと、そのまま彼は意識を失った。

次に目を覚ましたのは、何故か輸送ヘリの中だった。
そこには、本来いる筈のない人間がいた。

「マギー……なんで……」

「どうしたの?私の顔をずっと見つめて」

「さぁな、腹でも痛いんじゃないか?はっはっは!」

すぐに男は知る、この二人は、過去の二人だと。自分が初めての仕事に赴く直前の二人だと。
そして彼は気付く、いま自分たちがいるのは、別の世界であるということに。

「あれは……AC!?馬鹿な……!速すぎる!!」

「渓谷の中に入る!しっかりつかまっとけよ!!」

「あれは……あの時の……」

見た事もないACに追跡されながら、運び屋たちは逃げ続ける。

彼らは何時しか追い詰められ、崖っぷちにてそれと相対する


だが


「残念だが、俺は一度お前みたいなのを倒してるんでな」

「そんな……ノーマル如きに……!?」

ありえない下剋上が起きる時、歴史は大きくその形を変えた。

そして、さらなる波乱が押し寄せる



「なるほど、ネクストを倒したノーマルがいると聞いてみれば、同じミグラントだったとはな」

「……お前は?」

「そうだな、黒い鳥とでも呼んでくれ。昔はそう呼ばれていた」

最初の鴉と

「すぐにそちらに救援に向かう、持ちこたえてくれ」

「レイヴンだ!伝説のレイヴンが救援に来てくれたぞ!」

「伝説のレイヴン……だと?」

最後の鴉

「なんだ、君たちも来ていたんだ」

「なに?あなた、こいつらを知ってるの?」

「財団……か、久しぶりだな」

人間が大嫌いな人形

「企業のAC……なるほどね、レイレナードでもGAでも無く、お前らの事か!主任!!」

「たっく!なんでこんな所でまでこいつみたいな金にならない奴と戦わなきゃならないのよ!!」

「まぁまぁ、気楽に行こうよぉ!!……まだ、動く時じゃないからな」

人間が大好きな人形



清浄な大地にて、荒廃した大地の戦士達が疾駆する。

「敵ネクストは遠距離狙撃型!やばいぜ!このままじゃ嬲り殺しにされる!」

「UNAC部隊の展開を確認!前線は人形共に任せて早く本命を!」

「ゾディアックと死神部隊が手を組んだ……だと?」

「鴉殺し何ぞに斬られるほど!俺は鈍っちゃいねぇんだよ!!」

「平和のためには、貴方達は消さねばなりません。世に平穏のあらんことを……」

「状況は混沌としている。だが、だからこそ動くには最適と言える。クローズ・プランを開始しよう」

無数の思惑と弾丸が交差する。誰が勝つのか、誰が死ぬのか、そんな事は誰にも予想できない。

そんな中を、彼らは走り抜ける

「好きに生き、好きに死ぬ。それこそが俺たちだろ?」

そこが戦場である限り、彼らが止まる事はない。


アーマード・コア
鴉達の狂想曲

オチすら思い浮かばないので絶対にやりません

でもとりあえずマギーはネクストに乗るし、メノ・ルーは蜜蜂になってるよ。


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oh i'm scary so i'm scary

ノリノリハイテンションでぶっ書いたので恐らく誤字多。校正は一眠りしたあとにやります。でもすげぇ楽しかった。

すきゃーり!!


時は少し遡る

 

 

ホワイトアフリカ、1つの大きなビルの中に自らの分身を隠した少女は、携帯ゲームで暇を潰しながら時を過ごしていた。

 

「あー落ち着く、やはり動物達とのほのぼのライフこそ心の清涼剤よな、あ、ブーケちゃんこんにちは〜」

 

新聞によりアナトリアの傭兵の活躍を追っていた彼女は、弾道ミサイル基地襲撃の話を見つけるとすぐに行動に移った。

 

保存食品を買い漁り、機体に積み込む。そして夜の内に基地から出ると、大西洋を通ってこの地に来たのだ。

ゲーム内で大まかに任務の場所が示されていたこともあり、すぐに決戦の場所を見つけることができた。

そのまま隠れ場所となる所を探すと、ミッション領域外ではあるが1つの大きなビルを見つけた。

ブレードで崩しながら入ってみると、丁度機体がすっぽりと入ったので、そこでゆっくりとアマジーグの到達を待っているのである。

 

「水大量に買っといてよかったぁ。最悪ミイラになってたなこりゃ」

 

今日のランチは缶詰に入った魚介と乾パン、それに乾燥野菜のチップスである。

そいつをむしゃむしゃと頬張った後は、トイレを済ましゆるりと状況の変化を待つ

 

ほんとありがとうGレコ、そうだよね、長距離行軍とかありえるんだから機体内にトイレは必要だよね。

 

ちなみにこの座席にはマッサージチェアとしての機能もある、これも神様に頼んだものだ。長い間座ってると、血流の流れが悪くなる。それを解決する為につけてもらったのだ。

あぁ……身体が休まる……。やっぱシミュレーターでも身体って結構疲れるのね。

 

そんな風に心身の疲れを癒していると、レーダーに反応が現れた。

 

「……んあ?」

 

ゲームから目を離す、この反応は……間違いない、ネクストのものだ。

 

「クレピュスキュール、機体照合お願い」

 

ゲームやら何やらを固定し、私のやる気スイッチを押す。場所は肩甲骨のあたりだ。

 

『機体照合完了、ネクストAC〝ワルキューレ〟です』

 

パァっと顔に笑顔の花が咲く

 

「たっくもぉ人を待たせすぎだよレイヴ〜ン。いや、この場合はアマジーグに怒った方が良いのかしら?」

 

そんなこんなを考えつつ、こっちも戦闘準備を済ませる。

AMSを接続してぇ、武装を選択する。

 

「OIGAMI展開、狙撃視点で撃つ」

 

『了解、視点変更』

 

クレピュスキュールの声と同時に、視界に映る様子が大きく変わる。V系の主観モードみたいな感じだ。カメラをさらにズーム、よしきた。流石BFF製だけあって、カメラ性能は高い。作戦地点がよぉく見える。

 

「Hey、クレ。弾道計算よろしく」

 

『了解』

 

流石に風速等を計算して砲撃することは自分じゃできないので、全てクレピュスキュールに任せる。

 

『弾道計算完了、予測着弾地点と被害範囲を表示します』

 

拡張現実により着弾地点が画面に………デカ!?予測被害範囲デカ!!?

 

「有澤はバカかよ!!!?」

 

これどう考えても戦艦クラスの艦砲砲撃とかそんなレベルである。あれか、俺が爆発範囲のグラとかに文句あったからそこらへんリアルにとか無茶苦茶なこと言ったからか、なぁんだこれ、何売ってんだあの会社は、何撃ってんだあの社長は。失望しました、有澤重工に投資します。

 

素晴らしいね有澤。やはりネクストたるもの一に火力二に火力、三四が火力で五が見た目である。カノサワは見た目で選びました。

 

てかあれだな、やはり有澤にはこのままスクスクとグレネードを作っていて貰わねばなるまい。その為にはGAの勝利が必要だ。よしきた方針決定。有澤さんとこにはネクストに搭載するドーラ砲みたいなの作って貰わなきゃ。

 

さてさて、ではアマジーグを待つ……

ん?

 

「お、白栗来た。ハードモードか。」

 

ホワイト・グリントが介入して来た。本来なら遅刻してくるのだが、どうやら間に合ったらしい。

 

じゃ、まぁ、盛大な花火を見せましょうか

ちょうど、アマジーグも来た

 

「ステンバーイ……ステンバーイ……」

 

大きく息を吸い、目標に集中する

 

トレーラーが止まる、バルバロイの起動は……まだだな。

 

ゆっくりと照準を合わせる。爆発地点のど真ん中に目標をセット。

 

「フォイア……!」

 

OIGAMIが作動する、撃鉄が雷管を叩く、砲弾が……

 

衝撃。機体内にいた自分にすら身体が叩きつけられたように感じる凄まじい衝撃波が周囲に伝わる。

 

クレピュスキュールを隠していたビルがバラバラに吹っ飛ぶ、周囲の砂が空に舞い、クレーター状の跡ができる。

 

反射的に両腕を挙げる。叫び声を上げる。心の叫びだ、ウォークライだ。こんなに心が揺れたのは生まれて初めてである。

 

「ファッ○ンアマジィィィィィグッッ!!!!!!!HAHAHAHAHAHAHA!!!!!!!!」

 

最高にテンションがハイった。理性がブッとぶ。心の中の男の子がブレイクダンスしながら空を飛ぶ。

OIGAMIを格納、右手に最強の剣、左手に最強の銃、心は熱く、頭の中は活火山。

 

脳内麻薬に溺れながらブースターを起動させる。OK、ぶち殺す、ぶち殺す、ぶち殺す、突っ込んでぶち殺す、至極単純明快快刀乱麻、恐悦至極な全人類鏖である。

 

「クレピュスキュール!!BGM!!最高にノッてる奴を!!!」

 

『了解』

 

突如、爆音でノイズの混じったギター音が響く

 

「MECHANIZED MEMORIESか!!パーフェクトだクレピュスキュール!!!」

 

最高だ、心からそう思う。そうだ、このイカれた世界を滅茶苦茶にしてやるんだ!!!

 

あぁ!私は恐ろしい!!

 

脳内を狂ったように音楽が跳ねる。『scary!』だ、私は『scary!』んだ!こ『scary!』を!!

 

OBを展開する、無線の周波数を世界中に聞こえるように設定する!あぁ!!心が!!!笑みが!!!!止まりやしないんだ!!!!!

 

クソ傭兵共ガァッッ!!!

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!」

 

ぶっ殺してやルッッッ!!!

 

 

 

こうして、狂気の少女は戦場にエントリーした。彼に元々狂っていたのか、それともこの世界が彼を変えたのか。それは今はわからない。

 

ただ、この狂気は間違いなく彼女の心の叫びである。もはや彼女は、平穏の人間ではいられなくなってしまったのだ。

 

 

 

QBを噴かす

 

「クソ!なぜ当たらんのだ!?」

 

QBを噴かす

 

焦ったようにアマジーグはライフルを撃つ。しかし目の前の所属不明のACは、一瞬たりともロックを定める時間を与えない。

 

QBを噴かす

 

白い重量四脚は一撃たりとも攻撃を行わない。ただただ余裕そうに、いや、ホワイトアフリカの英雄を煽るように回避し続ける。

 

「このッ!!どんなジェネレーターをつかってるんだッ!?」

 

アマジーグが血走った目で言葉を吐く。この最悪の闘争の中で、彼の精神は限界に至っていた。もはや、生きて帰れたとしても廃人であることは確定だろう。

 

「ハハハッ!!その必死な声さーいっこう!!」

 

狂笑が響く。少女は天才だった。これくらいの機動では、精神に一切の負荷はかからなかった。

 

そして少女はチーターだった。万が一の時の為に、彼はちゃぁんと神様にお願いしておいた。

 

 

 

私の機体のエネルギー関係はレギュ1.15仕様でお願いします。と

 

 

 

というわけでEN無限である、更にKPの回復速度は1.2位なのですぐに回復する。敵は全部最新レギュで固定なのでこのチートは凄まじいアドバンテージになるだろう。

 

あぁ悲しいなぁ、悲しいなぁ!圧倒的な力の前に蹂躙される英雄の姿というのは!!

 

「通せレイヴン!なぜ邪魔をする!!」

 

「状況はよくわからんが、こちらにとって有利ではあるんでねッ!」

 

なお、横ではワルキューレとホワイト・グリントがダンスってる。がんばえ〜、れいうんがんばえ〜。

 

ま、でもそろそろ地獄に叩き落としてあげなきゃ可哀想である。ごめんねアマジーグ!その生き方大好きだよアマジーグ!!だからこそイジメちゃったんだよアマジーグ!!!ちかたないね!!!!

 

クレピュスキュールが跳躍する。連続QBによる不規則かつ高速な挙動でもって狼の喉元に接近する。

 

「なっ………!」

 

「おやすみ……」

 

優しく呟く。

次の瞬間、突き出された紫光の月が、布を切り裂くかの如くバルバロイのコアを貫く

 

「…………………………!!!」

 

断末魔も許さない。一瞬の、慈悲深いトドメである。

 

「さようならイレギュラー、器じゃなかったのよ、貴方は」

 

プレイアブルキャラクターだったら希望はあった。んでもってクレイドル落とした後に企業のトップリンクス四人と元オペレーターを沈める位の実力あったらなんとかなっていた。残念で仕方がない

 

レーザーブレードを抜く。主の蒸発した機体が、力なく落ちていく。

 

「アマジーグ!……ここまでか、離脱する!!」

 

ジョシュア・オブライエンの声。ホワイト・グリントはOBを起動し、白い閃光となって作戦地域から離脱した。

ワルキューレは追撃しない。いや、彼は私を見ている。

大地に降り立った私は、天を仰ぎながら降り注ぐ音の豪雨の中で快感に浸っている。

 

 

 

Minute of the end,and dose it still hurt.

 

 

 

in a rainy day, let's fight for counter.

 

 

 

On the silent way, when do you get a calling?

 

 

 

look into the void. It's scary.

 

 

 

そう、私こそが恐怖なのだ。私は全てを知っている。そして私の事を誰も知らない。

 

「救援に感謝する……。そして、お前は何者だ?」

 

ワルキューレがマシンガンをこちらに向けてくる。

私はヘッドパーツのみを軽く鴉の方を見ると、また空を眺めた。

 

あぁ、美しい空だ。昼と夜が入れ替わるちょうど境目。魔と逢う時。黄昏、トワイライト、そして……

 

「クレピュスキュールよ。アナトリアの傭兵」

 

誰そ彼と聞かれたのだ、応じねばなるまい。

 

「何が目的でここに来た?何故私を助けた?」

 

そりゃ気になるよねー、気になっちゃうよねー、まぁ、教える気はナッシングですが。

 

「私は旅人、風の吹くまま気の向くままに動くのさ」

 

先ほどとはテンション打って変わってCV能登である。

 

なお、んな落ち着いたテンションとは裏腹にBGMはファッキンファッキンしている。リメンバーに変えようかしら、いや、もう離脱するか

 

「さて、また縁があったら逢おうじゃないか」

 

「…………」

 

クレピュスキュールがブースターを噴かす。ワルキューレはマシンガンを下げ、黙ってこちらを見送る

 

「さようなら、だ。」

 

その言葉と同時にOBが起動。白栗コアの特徴である白い羽根が広がり、次の瞬間には全てを置き去りにして飛び去っていった。

 

 

「あれは……いったい……?」

 

呆然とフィオナが呟く

 

「さぁな。まぁ、いくらか写真は撮った。あとの事は、企業に任せればいいだろう」

 

そう言って男はコックピットの中で目を瞑る。

ありゃ、ヤバイ。機動力が桁違いすぎる。少なくとも今の自分じゃどうにもできない。

 

そしてあの行動も、口調も、どう考えても狂人のそれだ。レイヴンやリンクスなんてそんな奴らの掃き溜めだと思っていたが、あそこまで極まったのはなかなかいない。そんな奴だ、いつ敵対するかわからない。もしかして、味方として戦っていたら突然こちらを撃ってくるかもしれない。

 

「離脱する。フィオナ、予定通りのポイントに迎えを置いておいてくれ」

 

「わかりました。……兎も角、貴方が無事で良かったです」

 

そうだ、とりあえず今回は生きて帰ってこれたのだ。それなら、いくらでも対策はできる。

 

男は、クレピュスキュールに背を向けて進み始めた。なんとなく、あの少女とは近い内にまた会う事になるだろうなという漠然とした予感があった。

 

 




クレピュスキュールのアセンブルについては次回書きます

また、彼女のチートの1つに「機能ごとに都合のいいレギュレーションを適応する」というものがあります。
そんくらいやんなきゃアナトリアの傭兵や首輪付きとかに勝てる気しないもん


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蝶が羽ばたき、桶屋はガタガタと揺れ始めた

クレピュスキュールはこんな機体だ!
選出理由もついでに書いときます。

ベッドパーツ 063AN02 1.4
個人的にいっちゃんの美人顔なので。この作品のメインヒロインがリリウムになった理由でもあり、本作品の象徴的なパーツ。

コアパーツ 白栗コア 1.4 (OIGAMIチート)
軽くてOBがカッコいいから。実を言うとバランス的にクレピュスキュールには余り似合っていない、カッコよくするならテルスコアとかアルゼブラの新コアとかの方が良い。

腕パーツ テルス腕 1.4
EN武器適性から、もっと角ばった腕の方がカッコ良いかもしれない。

脚パーツ 061AN04 (レギュは考え次第更新)
大いに迷ったが、速度よりもカッコ良さを重視した。でもなんだかんだ言って速いので最高の選択だったと思う。OIGAMI展開時の美しさは凄まじく、一晩悶えた。重四脚狙撃機は神。よってそれを選ぶ王小龍が私は好き。

右武器 月光 1.0
強い。刀身が美しい。

左武器 カノープス 1.2
圧倒的総火力に惚れた。あと見た目。この武器2つは、どちらもACの象徴的兵装だからというのもある。

背中武器 OIGAMI 1.2
神は言った、力こそパワーであると。そして神は言った、長砲身は美しいと。
51センチか46センチ砲だと嬉しいけどそれだと色々問題が……いやでもACが170トンくらいだと考えて砲身を軽量化かつ短くすればあるいは……

ジェネ LINSTANT/G 1.4
KPのみで選出。エネルギー?あぁこれレギュ1.15だから

ブースター だいたいオルレアのもの。 (レギュは考え次第更新)
クイックで躍動する機体なので、推力重視。重量機をハイパワーでもって動かす

OB ソブレロ 1.4
軽くAAの威力が高いから。

FCS INBLUE 1.4
クレピュスキュールの戦い方は、近距離高速戦において大砲をぶちかまし、全弾発射後はブレードによって斬り刻むというものです。その戦い方には、こいつが一番合致します

こんなところか。
とりあえずこういう機体組んでレギュ1.15で動かしてみよう!性能は色々違うけど、動かすとクッソ楽しいよ!!

カラーリング アンビエイトのをそのまま

6/30 忘れていたFCSを追記しました。

9/17 ジェネレーターのレギュと忘れていたカラーリングを追加しました。


今日の私はとても気分が良かった

 

大西洋からブリテン島に入り、川を遡上すると基地へと繋がる秘密の洞穴なある。そこをのんびりと歩いて行くと、岩肌が露出していた穴がが金属製の整備されたトンネルへと変わる。

 

歩いて行く最中、様々な液体が機体に吹きかけられる。

ここで、ネクストの除染が行われる。身体からコジマ粒子をスッパリと落としたクレピュスキュールは、気のせいか昨日よりも美人さんに見える。

 

清潔になったところで、トンネルの終着点に至る。

そこには巨大なエレベーターが設置されており、自分の存在を感知すると、自動で上へとせり上がっていく。

 

すると、もうそこには愛しき我がガレージだ。

 

整備ロボ達がクレピュスキュールの周囲に纏わりつき、塗装を塗り直したり弾薬の補充を始める。

すべての作業をメカに任せ、私はシャワールームへと入る。

 

シャワーを浴びながら湯を溜める。地獄のように熱いやつだ。身体を泡だらけにし、髪を丁寧に洗い、頭にタオルを巻いて湯船に浸かる。100まで数えた後風呂から出て、そのまま部屋の中に戻っていく。

 

タンスを漁ると、この前のショッピングの時に買っておいた新品のパンツとシャツを取り出す。そいつを身につけて、部屋のクーラーをオンにする。

 

ソファに腰掛ける、大きく伸びをする。

 

そして、一言、彼女は笑いながら口にした

 

おぎゃあ。と

 

そう、ジャンヌ・オルレアンは今日をもって誕生したのである。この世界において、私は山猫として殺人を犯した。

 

右腕を頭上に掲げる。少しだけ重い気がする。

恐らく、これが殺人という罪の重さなのだろう。直接死体は見ていない。ただ、間違いなく、私は人を殺した。

これから、この身体はどれだけの罪に汚されることになるのだろう。この繊細な右腕に、存在しない左腕に、そして頼りなさげな両肩に、私の咎は積み重なっていくのだろう。

 

最高の気分だ。こんなに可憐な少女が自分の何百倍もの大きさの十字架と共に生きて行く、究極に萌えるじゃないか。

 

右手を眺めながら、殺した男の事を想う。

マグリブ解放戦線は跡形もなく消滅するだろう。瀕死の兵隊が甘ったれて言う台詞を吐く男には、万分の一もレイヴンを討てる可能性はない。

その後はどうなるだろう。やはり、始まりはハイダ工廠となるのだろうか。

 

今回で確定したが、この世界はハードモードらしい。ということは、ハイダ工廠にはパイオツキリシタンが来るという事だ。

美人の損失ほど世界にダメージの入るものはない。クレイドル03なんぞの比ではない。

なんとしても助けなくては、まぁその計画はゆるりと考えよう。なんだかんだ言って、この世界に来て4ヶ月は経っていた。ミッションの進行速度から考えるに、すぐにハイダ工廠が血の海になるとは思えない。

 

そうのんびりしてると、途端に腹が悲鳴をあげ始めた。そういや、戦闘以降なにも食べていない。

そうだな、リリウムにも最近会っていない。食事ついでに会いに行くか。夜遅いが、彼女は許してくれるだろう。私の脳には、彼女から提供された警備の穴についての情報もインプットされている。

 

予定は決まった、あとはレッツ行動である。服を着て、偽造免許や金などを車に突っ込む。目的地設定、ゲームを起動。準備はOK。

 

「しゅっぱーつしんこー!」

 

車内に彼女の能天気な声が響く。

夜、空には不自然なほど多くの星が瞬いていた。

 

 

 

一難去ってまた一難。この諺は企業の苦悩を表していた。

いままで自分たちを悩ませてきたアマジーグが死んだ、それは素晴らしいニュースだった。

 

しかし、その戦果を報告してきた傭兵が提出した(もしくは売った)映像により、彼らは新たな胃痛の種を植え付けられた。

 

新たな……それも凄まじい高性能機に乗ったイレギュラーが登場したのだ。

 

その機動を見た技術者やネクストは、一様に目を丸くした。

おぉよそ、現在の常識では考えられない動きである。重量四脚と見られる機体が、右に左にと止まる事なく躍動し続ける。

その前ではあのアマジーグの動きでさえ児戯に等しかった。

 

この問題に関して、一番問い合わせが多かったのがインテリオル・ユニオンである。

ほぼ全てが出所不明のパーツで組まれたこの不明ACだったが、2つだけ良く知られているものが使われていた。

それがレオーネ・メカニカ社の標準機であるテルスの腕部パーツと、メリエス製のハイレーザーライフル、カノープスである。

 

しかし、インテリオル・ユニオングループには当然それらの販売のデータは無い。会社全体で徹底的にルートを探したものの、結局見つかったのは幾つかの全く関係の無い不正のみだった。どんなにどんなに漁ってもデータは出てこない。しかし、このイレギュラーは我が社の製品を装備している、どこかで、どこかに何か残っている筈だ。

今日も多くの社員が右に左に、インテリオル・ユニオンはイレギュラーの正体を探すために駆けずり回っていた。

 

 

だが、このインテリオルよりも大きな衝撃を受けた会社があった。

 

レイレナード社である

 

 

レイレナード社製の輸送機の中で、男は惰眠を貪っていた。

ベルリオーズとの協働ミッションの時から世話になっている機体である。機長含め全ての乗員と顔見知りになっている中での空の旅は、快適な物だった。

リンクスというのは貴重な戦力であるからどこでも丁重にもてなされているが、ネクストこそが主戦力であるレイレナードでの接待は他の企業のものよりも上だ。このベッドなど、アナトリアの自分の部屋にあるものよりも寝心地が良かった。

 

ドアがノックされる。すぐに目を覚まし、起き上がって入室の許可を出すと、副機長が入ってきた。

 

「まもなく着陸態勢に入ります。揺れますので、座席にてお待ち下さい」

 

「あぁ、了解した」

 

ニコリと頷いて副機長に言葉を返す。ネクストでの行軍と違って快適そのものだ。飯が美味いのも良い。こういうサービスの差が、仕事の選択の基準となるのである。

 

座席について、窓の外を眺める。既に輸送機は雲の下へと降りており、滑走路へ向かっている。

 

窓の外を見ると、今回の目的地が目の前に見えた。

 

エグザウィル。レイレナード社の誇るこの大型建築こそが、今回自分が招かれている場所なのである。

 

 

なぜこんな所に呼ばれたか、理由はどう考えてもあの不明ACについてだろう。

GAに提出した後、各企業に高値で売り払ったあの戦闘記録は、各地に大きな波紋を広げていた。

そんなこのデータを最も高値で買ったのは、現在疑惑の最中にいるインテリオル・ユニオングループではなく、このレイレナードだった。

その理由については知らないが、呼ばれたのだから行くしかない。報酬も少なく無い数が支払われているのだ。

どう足掻いても似合わないスーツなどに身を包んだレイヴンは、少ない荷物を鞄に突っ込むと機体から降りる準備をした。

 

 

機体から降りた時に現れた案内人に導かれるまま特異な形の本社ビルの中に入ると、中にいる全ての人間の視線が肌に突き刺さった。

そういう視線には慣れているので、気にせずに進んでエレベーターに乗り込む。

斜め上へと向かっていく円柱の中から、グレート・スレーブ湖を眺める。

……しかし、なんというか、本当に奇抜な形である。あの支柱辺りに攻撃をしたらこのビル容易く崩れるんじゃないか?

隣り合った世界において自分がこの会社を襲撃することを知らない男は、心の底から心配だという風にそう考えた。

 

エグザウィルの最上階層。

まるで高級ホテルのような内装の道を進んでいくと、目的の場所へと着いた。案内人が扉をノックする。そして中から入室の許可が出ると、案内人は扉を開いた。

そこには、久しぶりに会う友人がいた。

 

 

「ようベルリオーズ、息災そうで何よりだ」

 

案内人が退出した部屋にて、出されたワインを傾けながら男は言う。机を挟んで座っているスーツ姿のベルリオーズはそんな彼を眺めながら、申し訳なさそうに言う

 

「まぁ、最近は殆ど会社から出られなかったからな。さて、さっそく本題に入りたい所だが……実は一人遅れていてな」

 

「まだ参加者が?事務屋か?」

 

「いや、リンクスだ」

 

「もしかしてレイレナードではリンクスもサラリーマンの真似事をするのか」

 

「もしかしても何も我々は会社員だよ、会社から命じられたらどんな仕事もしなくてはいけない。戦争屋はあくまで有事の仕事だ」

 

「まぁ、リンクスなんてのは特にそうか」

 

つまらない世の中だ、と言わんばかりに溜め息を吐く

 

「今でも君は首輪をつける気は無いのか?」

 

「あるわけ無いだろ。鴉に鳥籠が似合うか?」

 

馬鹿馬鹿しいとばかりに男は言う。今回、レイレナード社に来てその想いは更に強くなっていた。男にとって、戦争以外に生きる気などさらさら持ち合わせていない。

 

「まぁそうだろうな。……しかし遅いな」

 

「別の仕事じゃ?」

 

「いや、間違いなく会社に居るはずだが……」

 

その時、ノックの音が室内に響く

 

「噂をすれば……か、入れ。」

 

ベルリオーズが入室を促すと、ドアがゆっくりと開いた。

 

そこに立っていたのは女性だった。切れ長な瞳、シャープな作りの顔、黒い髪はバッサリと首元で切られている。

肢体は一見しなやかだが、あの手や肩を見た感じ、全身くまなく筋肉でコーティングされているのだろう。服装はいわゆるライダースーツというものだろう。

ちなみに胸はフィオナよりも大きい、どうせ筋肉だろうが。

 

「すまない、遅れた。」

 

女は入室早々謝罪する。なかなかにぶっきらぼうなもので、客人である自分からしたら怒るべき所なのだろうが、不思議とそのような気持ちは湧かない

 

「紹介する、彼女は……」

 

「いや、だいたいわかる」

 

男は立ち上がると女性の方に向い、手を差し出す。

 

「初めまして〝鴉殺し〟。仲間が世話になった」

 

「あぁ、こちらも楽しくやらせてもらったよ」

 

友好的という言葉とかけ離れた挨拶であるが、二人とも一切表情の中に皮肉などの要素は無い

 

「ベルリオーズもそうだが、会うとしたら戦場でだと思っていたが……」

 

「私もだ、出来ればお互い知らない状況で殺し合いたかった」

 

「初対面でする会話じゃないぞ、それは」

 

ベルリオーズが苦笑しながら言う。

 

「で、トップリンクスが二人して何の用だ?」

 

男が二人の姿を見比べてから言う。この2人はレイレナード社の最高戦力だ、どちらも戦術級……いや、一機で戦略級の価値はある化け物である。

 

「わかっているだろ?あのイレギュラーについてだ」

 

「アマジーグか?」

 

席につきながら男が言う

 

「……すまんが、冗談は後だ。すぐに本題に入りたい。聞きたいことは多いのでな、後で技術者たちが君の話を元にあのACをシミュレーター上で再現したいと言っている。」

 

「それはそれは、そのデータは後でくれよ」

 

「そのつもりだと言っていたぞ。あぁすまんベルリオーズ、席を借りるぞ。」

 

「どうぞ」

 

アンジェはそう言ってベルリオーズと男の間に座る

 

「で、だ。レイレナード社はあいつの何に注目してるんだ?あの映像、ふっかけたらインテリオルの1.5倍は出したぞ」

 

男が尋ねる。ベルリオーズはそれに応えずに、それぞれの前にある物を投影した。

 

「アクアビット社のものが再現した不明ACの3Dモデルだ。これに何か問題は?」

 

「いや、無い。うん、細部の記憶は朧げだがだいたいこんな形だ」

 

3Dモデルを回しながらしげしげと観察する

 

「しかし、何度見てもふざけたデカさだなこのグレネードは」

 

「あの被害半径から察するに、戦艦の主砲クラスの攻撃力を持っているらしい」

 

「そんなもの作るのは有澤くらいだろ。問い合わせたのか?」

 

「奴さん達、悔しがっていたらしいぞ。あんなものを作る会社がいるとはって」

 

「なるほど、アクアビットやGAEと同じ穴の狢ということか。」

 

男が納得したように言う。

 

「で、何が問題なんだ?」

 

「ここと、ここだ」

 

男の問いに、ベルリオーズはある二点を指す

 

不明ACの持つブレードと、メインブースターだ。

 

「これか?たしかに馬鹿げた性能だった。射程は長く、威力はありゃドラゴンバスターよりも高いな。メインブースターも凄まじい出力だった、あの重そうな機体をまるで軽量機体のように動かしていた」

 

「この2つはレイレナードの製品だ」

 

「なに?」

 

男がふざけんなよと言った様子で口を開く

 

「おいおい、となるとそっちのカタログ馬鹿げた重大な記載漏れがあることになるぞ。こんな商品があるのなら、他の装備なんざ買わずにコレを買っていた」

 

「記載漏れではない、そもそもこれらは非売品だ。」

 

「非売品?」

 

「そうだ」

 

今まで腕を組んで黙っていたアンジェが頷く

 

「……こいつは、私の〝オルレア〟に合わせる形で作られた専用のパーツだ」

 

「それはそれは……」

 

わけがわからないといった風に男は呟く

 

「今は生産は?」

 

「していない。そもそもこれは国家解体戦争前に製造したものだ、造った工場はいま別の目的の為に動いている。こんなやたらとコストがかかるものを作る暇は無い、それに、あんなピーキーな代物を他の工場で作れるとは思えない」

 

「予備があるだろ?どこにあるか把握しているのか?」

 

「ムーンライト……このブレードが私が装備しているものを含めて五振り。メインブースターも五組、どれもこの本社にある。念のため全て動作チェックした、間違いなく本物だ」

 

アンジェが淡々と述べる。それを聞いて男は、軽く眉の間を揉むと、自分の考えをまとめるかの様に言葉を吐く

 

「存在する筈のない装備を持つイレギュラーねぇ」

 

謎が更に深まった。ほぼ部外者の自分でさえ少し頭が痛いのだ、レイレナードの上の人間など、胃と頭に深刻な損傷を受けているに違いない

 

「なんなんだ、こいつは」

 

思わず男が呟く

 

「企業が持てる力でもって探っているのに尻尾の掴めないような奴だ、本人以外知りようがないだろうよ」

 

「戦場で聞くしかないだろうな」

 

ベルリオーズの言葉に、アンジェが続く。そして彼女は男の方を見る。良く研がれた刀のような視線が向けられた。

 

「レイヴン、依頼だ。もしもこいつの動きが捕捉できた時、レイレナードでは私が出る事になっている。……その時に、僚機として雇われて貰いたい」

 

「問題無い、俺だって1人で挑んで何とかなるとは思っていないからね」

 

男は頷いた。彼は投影されたイレギュラーへと視線を戻し、語りかけた。

 

「クレピュスキュール……か。お前、本当に何者なんだ?」

 

拡張現実は何も答えなかった。

 

 

おはよーございます……!

えぇ、現在時刻、朝の二時でございます……

私はいま、ウォルコット家のベランダに来ております……!!

では、お邪魔しましょうか……

わぉ、寝苦しい季節だからか窓は開いています。

あぶないにゃあ、自分がゴーカン魔なら人生が詰んでいる状況である。

よし、音を、鳴らさないように……

いえーい……

さてさて……リリウムちゃんは……

寝てますねぇ〜……きゃわきゃわな寝顔です。

さてさてどう起こしましょうか。バズーカは持ってないんですよねぇ残念な事に。

……添い寝ドッキリやな。

じゃ、横に失礼しまぁ〜す…………

あ、良い香りするよ良い香り。女性の良い香りという質問をしたら50人中16人が思い出すような良い香りがするよ。

うふぅ〜、良いねぇ、何が良いってこんな行為をしている自分が美女なのが良い。絵面が華やか過ぎる。

……なんか横になったら眠くなってきたぞ。

うーん、例え使用人とかでもリリウムの部屋に本人の許可無く入ったりしないよなぁ。うん、その筈だ。彼女にだってプライベートがある。

よし、寝んべ寝んべ。こちとら疲労で死にそうなのだ。

じゃ、そゆことで、おやすみ〜〜

 

 

「ん……んん……」

 

揺れるカーテンの隙間から朝日が漏れ、リリウムの顔を照らす。

その眩しさによって意識を夢の中から現実に戻された彼女は、ゆっくりと目を開いた。

 

まだ、少し眠い。時計を見てみると、朝食の時間まで一時間ほどあった。

支度のことを考えても、もう少しだけ余裕がある。

少しだけ……と思いつつ、リリウムが陽の光から目を背ける為に寝返りをうつと……

 

ジャンヌの寝顔があった

 

「!?」

 

驚愕の余り脳が覚醒する、なぜ彼女がいるのだ!?

リリウムがベッドから転げ落ち、なんの遠慮も無く寝ている不思議な友人の顔を見た。確かに、正式な客人で無い彼女には、自分が部屋から抜け出す時にも使用する、この部屋に内緒で来れる方法を伝授してはいるが、それでも朝起きたら横で寝ているというのは予想外である。

 

「ジャ、ジャンヌ様……?」

 

恐る恐る尋ねてみるが、静かな寝息しか帰ってこない。どうやら、完全に寝ているらしい。

なるほど、だから彼女の夢を見たのかと勝手に納得する。今日の夢は、ジャンヌと共にネクストに乗るという内容だった。

 

とりあえず、熟睡しているところを起こすのは忍びない。リリウムは自分が動いたせいで乱れた布団をジャンヌにかけようとした。

 

「……?」

 

ふと、なんとなくジャンヌに違和感を持つ。彼女の顔付きが、なんというか、少し変わっているような気がする。

どういうことだろう、と疑問に思い。こんな気持ちを持ったことが前にもあったなと考える。

なんだったか頭を捻っていると、不意に今のジャンヌが姉や兄と似た雰囲気を持っている事に気付いた。

 

あぁそうだ、アルバムだ。父様と母様が亡くなった時を境に、姉様や兄様の雰囲気が変わったように感じたのだ。これは、その時の違和感だ。

リリウムは、この差異の原因は親愛なる人を失ったからだという結論に達した。

恐らく、ジャンヌも誰か、大切な人を亡くしてしまったのだろう。それで、悲しくなって、人肌が恋しくなって、ここに来てしまったのだろうか?

 

リリウムはジャンヌの頭を撫でた。そう考えると、どこかこの寝顔も悲しいものに見える。

 

「ジャンヌ様……リリウムを頼ってくれたのですね。」

 

リリウムは微笑んだ。いままで少しもその正体が掴めなかった少女の、人間らしい部分を見た気がしたからだ。

 

「ゆっくり寝ていて下さい。リリウムが横にいますから」

 

そうジャンヌに囁き、その手を優しく握る。彼女はそのまま、この客人が起きるまで横でその手を握っていた。

 

 

リリウムは間違っていた。しかし、誰にもその事を責めることはできない。

常人に、狂人は理解できない。双方は常に並行で、一切交わる事なく在り続ける。

 

狂人は眠る。

その顔は、どこまでも安らかであった。

 




ジャンヌの座右の銘は「美人は何をしても許される」です。
なお、これは前の世界から確信している事です。救いようがないね!


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キマシタワーを巡る戦い

短めなので箸休め


吾輩はヘテロ厨である。

だから、女の身体であるから女性を落とそうなんて気は起きない。男の精神であるから男性を受け入れようなんて考えられない。

しかし、同性の絡みの美しさには一定の理解が持てる。特に美女と美女の組み合わせは、見ているだけで幸せになる。

というか、美女は何やっても美しいのだ。吾輩が理解できない物事も、美女がやるなら理解できる。

 

前世において結局女性と深く関わることなく死んだ人間である吾輩は、女性の中にあると言われている醜さには終ぞ触れる事は無かったし、そもそもが自らのこの考え方よりも醜いものがあるとも思えなかった。その為、吾輩は今も女性と言うものに多くの夢と希望と理想を抱いている。こんな転生先でこんなワンダフル美少女になったのも、ほぼほぼその思想のためである。

 

全世界美女なら万物が美しい!!なぜなら美女は歩きスマホやっても音を出しながら物を食べても飲酒運転しても猟奇殺人しても美しいからである!!美しいならそれでいいじゃないか!!

それが吾輩ことジャンヌ・オルレアンが確信していることである。いやぁ、美人というのは罪だね!!

 

 

脳が醒める。高菜をアホみたいにぶっ込んだ濃いラーメンスープを米にぶっかけて餃子と共にかっ込むという素晴らしい夢は、飲み干した冷たい水の甘い味すらも残さずに消え去る。極東にはまだラーメンはあるのだろうか。あるのだとしたら、リンクス戦争が終わった後に旅行に行かねばならない。パンも好きだが、米や麺を食わねばいつか死ぬという確信もある。

 

ふと、自分の手が何かを握っていることに気づく。軽く力を加えただけで崩れてしまいそうな柔らかい感触。あぁ、リリウムの手か。

 

ゆっくりと眼を開ける。横でリリウムがこちらを眺めながら微笑んでいる。

 

「おはようございますジャンヌ様。相当お疲れのようで」

 

「おはようリリウム、お邪魔してるよ」

 

私も微笑み返した。ちょい待て、いまこの様子を第三者視点から見るからな。想像力想像力……

 

やべぇぞこれ。やばすぎる。年齢が2人合わせて19から21くらいってのがヤバい。なぜか周囲に天使の持ち物かと思われる羽が舞ってるもん。財団風に言うならばThe battle for the kimasi towers has begun. It will continue until all is ruin.だぜ傭兵諸君。最高だぞおい。

 

ふふふ、だが残念ながらワシはヘテロ厨なのでな!ここからワシがリリウムを押し倒すなんていう選択肢は無い!あり得ない!CGすら用意されてない!ボイスも収録されていない!内部解析しても出てくるのはセレン・ヘイズのデレデレボイスのみだ!CGは有志の方がpixivにあげてるでしょ。というわけで、残念無念また来週!!

 

「よっと、あぁ今はこんな時間か。そろそろ朝食の時間だろう?行かなくて良いのかい?」

 

起き上がり、手は離さずにリリウムに言う。手は離さずに。ここ重要ね。この身体の触れ合いから心の触れ合いに発展しリリウムは私に依存するという計画なのだから。

 

依存されたら裏切りたい。

 

冗談です。本気ですけど。

 

「えぇ、今から出ても十分に間に合いますので」

 

「ふふ、私の事なんかほっといてさっさと行っておけば良いのに」

 

お、なんかアレを感じる。イベント感。選択肢成功で好感度バク上がりするでこれ。

 

「そ、それは……」

 

白肌に

朱の色混ざり

美しい

 

「なんだい?私にいけない事でもしようとしたのかい?」

 

選択肢決定、攻めて攻めて攻めて吶喊して撃滅する。ドンゴンイこうぜ!!

心のCVを徐々にみゆ○ちに変えていく。イケメンで仕留める、慈悲は無い。

 

「ほら、ずーっと私の手を握っちゃったりして」

 

そう言って右手に少し、すこーーーしだけ力をいれる。

するとリリウムが焦ったように手を引いた。うふ、きゃっわい!

だが、その隙を見逃さない。右手を素早くリリウムの肩に回し、強引に抱き寄せた。

奇襲となったリリウムは、抵抗する間もなくこちらへと引き寄せられる。お互いの呼吸すら感じられる距離、直接決められる距離だ。

 

「そこで手を引いちゃダメだよリリウム。それじゃあ図星だと言っているようなものじゃあないか」

 

なお、この戦術はどちらかというとBL的な絡みでの攻めロールをイメージしている。いや、乙女ゲーのイケイケ系か?まぁどっちもやったこと無いし同じか。

 

さて私の脳が目の前に幾千幾万の選択肢ウィンドウを出す。

ここで「スケベしようやぁ……」を選ぶのはトーシローかルート埋めする人間だけである。パンツの色を聞くのもダメ、トラックの前に飛び出して私は死なないと叫ぶのもダメ、私の味噌汁を作ってくれは限りなく正解に近いが引っ掛け問題だ、これは義男の心情ではなく。義男との触れ合いによって保子の中で生まれた気持ちである。

 

そのため、正解はこれだ。唇をリリウムの耳元によせ、優しく、淫靡に囁きかける。

 

「私にどんなイケナイ事をしようとしたんだい?可愛い可愛い悪戯好きの子猫ちゃん……?」

 

このセリフによってリリウムは私に依存する。

 

「…………!(この時、ジャンヌの目にはリリウムの頭から蒸気が噴き出ているように見えていた)」

 

Q.E.D.

証明終了。

ニイタカヤマノボレ。

 

「ち、ち、ちがいます!り、り、リリウムはそんなことは……へへへへへへんな事を言わないで下さいジャンヌ様!!!」

 

会心の一撃である。あとは自動でドラフト会議後に真・野球超人伝が貰える。さて、肩練習するか。

 

「り、リリウムは純粋にジャンヌ様の心配を……!」

 

「あぁ、そうだったのかい。どうやら私が勘違いしていたようだ。すまないねリリウム。」

 

リリウムがキョトンとした目でこっちを見る。唐突に私が引いたからだろう。

 

「え、あ、はい……」

 

「じゃあ、私はまだ用事があるから出るよ。心配してくれてありがとうねリリウム」

 

そう言って窓から退散する。

子猫ちゃん発言から約一分でのサヨナラバイバイである。リリウムは状況を理解できていないだろう。

心をかき乱しといたら後にほっといて勝手に相手の中で恋が熟成されるのを待つに限る。

 

センサーやカメラの隙間を縫うように走り、ウォルコット家から即座に離脱する。身体が軽い、なかなかに美しい走り方だ。

しかし、心配か。寝顔の中に何かリリウムを心配させるような表情が含まれていたのだろうか?今日の夢であった悲しい出来事といえば、ラーメン屋のポイントカードを忘れた事くらいである。それくらいで余り表情が変わるとは思えないが……。

 

気のせいかもしれないが、リリウムの「ジャンヌ様のばか……」という声が聞こえた気がした。

馬鹿も阿保も間抜けも全て自覚してるから大丈夫である。

 




リリきゃわ


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アグヌス・デイ 前編

なんか朝起きたらお気に入りやらUAやら倍増しててなんじゃあこりゃあ……

すごいありがたいです。やる気出ました。頑張ります。

あとメノ・ルーかわいいね


『状況設定終了、これより状況を開始します』

 

目を開く。無機質なビルが並ぶ中に。私と、〝あいつ〟だけがいる。

 

あいつが動き出す。一切止まる気配は見せない。ビルとビルの間を高速で駆け回りながら、ハイレーザーライフルと巨大グレネードを撃ってくる。

 

ハイレーザーを小さくかわし、巨大グレネードを大きくかわす。

グレネードの威力は凄まじい。当たった場所は大きく抉れ、ビルはまるで紙風船のようにあっけなく吹き飛ぶ。

 

直撃しなくても爆風と破片が無視できないダメージを機体に与える。

 

だが、なんとか、直撃を、避ける。

 

敵がグレネードをパージする。

 

「クソッ……!?」

 

スピードが格段に上がる、機体を目で追えない。

だが、なんとか、カノープスの発射音に集中して、かわ、す

 

「チィッ…………」

 

左腕に直撃、感覚が切れる。バランスが取れない、が、動ける。

 

かわしながら無理矢理使い物にならなくなった左腕を引きちぎる。これで身体が軽くなる。かわす、なんとしても、かわす、かわ、す、か、わ、す……!

 

青い猛攻が止む。カノープスが宙を舞う。

 

 

 

ギアが一段階上がる

 

 

 

死角から、致命傷が、飛んで、くる。

肉を斬らせて骨を断つだなんて甘ったれたことは言えない。この刃には、肉も、骨も、鋼も、コジマも、万物を斬り裂く力がある。

 

 

 

全神経を集中してブレードを弾きかえす。散弾兵器で削ろうとするも、敵はすぐに射程外に逃げる。分裂ミサイルは弾切れ。マシンガンは左腕と共に地面に横たわる。

頼りになるのは、このオーメル製の長刀だけだ。

 

しかし、この剣戟も直ぐに終焉する。ブレードが大きく弾かれた。胴がガラ空きになる。

反射的にもう1つの背中武器を選択する。BVS–50、テクノクラート製の大型ロケット。

 

が、遅い。男が発射しようとした時には、既に敵は懐に入っていた。

 

瞬間、目の前が真っ暗になる。1万強残っていたAPも今はゼロ、これが実戦なら今頃地獄の業火で日焼け中というところだろう。

 

 

「はぁ……」

 

シミュレーターの接続を切り、出る。

外ではフィオナが心配そうな顔で待っていた。

 

「大丈夫だ、シミュレーションで精神磨り減らすような馬鹿なことはしていない」

 

顔を覆う汗をシャツで拭い。近くにあった椅子に座り込む。

 

「やはり……ダメそうですか?」

 

「あぁ、まだ捉えられん」

 

レイレナード社から提供されたクレピュスキュールの仮データとの対戦は、レイヴンの日課になっていた。

 

今の所、勝利した事はない。いくらAIの動きは単調といえど、あのランダムに飛行する機体をブレードで捉えるのは至難の技だ。

 

 

新たなイレギュラーの登場から、既に三ヶ月は経っていた。

その間、頭を失ったマグリブ解放戦線はあっけなく崩壊した。

アマジーグの仇が不明なこともあり、纏まりに欠けたテロリスト達は、ゆっくりと、丁寧に企業にすり潰された。

奴らが保有するもう1人のイレギュラーは自分が倒した。

ネクストによるアナトリアへの強襲作戦。だがそれは、企業への恭順を誓った裏切り者によりこちら側に判明。アシュートミニアとその同志はいま地中海の海底にいる。

 

あっけない最後であった。当然と言えばそうなのだろう。企業に対抗する力が無かった、ただそれだけだ。

 

クレピュスキュールはあれ以来一度も姿を現していない。イクバールなどはあの機体に懸賞金を出していた。魔術師を中心に、多くの兵隊が奴を追っている。やはり、奴らとマグリブ解放戦線は繋がっていたのだろう。

 

男は溜息を吐く。出会って以来奴の事しか考えていない。頭を振り、目の前の少女を見る。そうだ、奴がフィオナと同じ声だってのも、頭から離れない理由だ。

 

「で、仕事か?」

 

「はい、GAからです」

 

GAね。最近、奴らのノーマルとばかり戦っている気がする。どれもこれもGAEからの依頼だったなと思い出し、何となく口にする

 

「GAEへの襲撃任務か?」

 

「…………当たりです。やはり、気づいていたんですね?」

 

なるほど、ビンゴか。

 

「ついに、本格的に内部粛清をやろうってか。何したんだ奴ら。」

 

「どうやらGAEはアクアビットと内密に取引を行っていたようです」

 

「浮気現場に踏み込め……と、なるほど。」

 

GAEもアクアビットも、会社というよりも研究機関と言う方が相応しい集団だ。技術屋同士惹かれる所があったのだろう。

 

「少し夫の邪魔をしすぎたかな……。で、場所は?」

 

「ハイダ工廠です。ここで建造されている巨大兵器を破壊して欲しいと」

 

「昨日は防衛明日は襲撃。なんとも傭兵らしいな」

 

歌うように男が言う。さてさて、確かGAEには子飼いのネクストがいた筈だ。もしかしたらそいつが相手になるかもしれない。奇人と有名な女だ、はてさてどうなるか……

 

「任務を受けてくれ。すぐに用意する」

 

「わかりました。休憩は……」

 

「移動時間の間に寝るからいいさ。……あぁいや、シャワーだけは浴びてくる」

 

「わかりました、では私はワルキューレのチェックをしてきます。」

 

そう言ってフィオナは出て行く。

 

その後ろ姿を見て、男はクレピュスキュールのことを完全に頭から締め出した。これからは、仕事の時間だ。

 

 

 

「こんなものか……」

 

ハイダ工廠内部。逃げ惑う作業員や研究者に気を留めず、ガードメカやノーマルACを1つ1つ潰していく。

 

対象の大型兵器は合計で3機いた。四つ脚の巨兵は、クワルキューレの装備するロケットでもってどれもあっさりと崩れ落ちた。

 

既に完成しており、それでもって抵抗されることも想定していたが……まぁ、楽なのは良いことだ。

 

狭い通路内に立つ有澤製のノーマルは確かに少しは苦戦したが、結局はノーマルだ。すぐに鉄屑になった。

 

「あとは1機だけです。起動する様子もありません。……撃破して、早く帰りましょう」

 

フィオナの声が聞こえる。

アクアビットからの援軍も、GAEのネクストも来ない。

杞憂だったか……。そんなふうに思いながら、最後の巨大兵器を破壊する。

 

これで終わり、だ。

 

「お疲れ様です。さぁ、迎えのトレーラーに……」

 

「どうした?敵か?」

 

フィオナの声が途切れる。増援が来たか?

 

「いえ、違います……これは……レイレナード社から緊急の依頼です」

 

「レイレナードから……」

 

クレピュスキュールか!すぐに結論に達する。

 

「イレギュラーACが再び現れたそうです。同社は既にオルレアを高速輸送機に搭載、現場に向かっています。貴方にもすぐに来て欲しいと……」

 

「こっちは問題ない、マシンガンもミサイルも残弾は多い。ロケットはパージする。回収しておいてくれ」

 

「わかりました、受注します。……座標が来ました。…………これは?」

 

「どうした?」

 

「……イレギュラーネクストは、ハイダ工廠の付近にいます!」

 

「……了解した。レイレナードにメールを送っておいてくれ。こちらは対象に近い。そちらのネクストが到着するまで足止めを請け負うと」

 

OBを起動、亡骸しか残っていないハイダ工廠に背を向け、男は出口を求めて進み始めた。

 

 

 

「こちらプリミティブ・ライト。もうすぐ作戦地域に入ります」

 

GA製の重量機体が地面を疾駆する。

メノ・ルー、GAの最高戦力である彼女は子会社であるGAEからの依頼により、ハイダ工廠を襲撃した不明ACを撃破すべく飛んでいた。

 

「急いでください、既にハイダ工廠の損害は致命的なレベルに達しつつあります」

 

GAE社のオペレーターの声が、聞こえる。

 

 

GA社は、子会社の謀叛という屈辱的な事件を徹底的に隠し通そうとしていた。

GAE社への粛清作戦は、上層部の極限られた者にしか知らぬ事だった。襲撃を行った兵員たちも、将校を除いてはただ「GAE社に潜入したテロリストの排除」としか聞かされていなかった。

知る者が多ければ多い程、外部に情報が漏れる可能性は比例して高くなる。なるべく少ない人間のみで解決するというのが、GAの方針だった。

ネクストについてもそうだ。内部粛清なんて汚れ仕事を、自社のネクストにはやらせたくない。それくらいなら、今まで邪魔をしてきたあの傭兵を雇う方が良い。それに、仕事についての口の硬さには一定の信頼も置いている。

GA上層部は、すぐにアナトリアの傭兵に依頼を出した。

 

そして、それが今回裏目に出る。

傭兵によるハイダ工廠の襲撃を察知したGAE社は、自社のネクストではなく。GA社のネクストに連絡を取った。

 

「GAEのハイダ工廠が不明ACによる襲撃を受けている。我が社のネクストは現在別地域で作戦行動中につき迎撃ができない。なので、本社のオリジナルである貴方に頼みたい。既に、上に許可は取っている。」

 

丁度、欧州で訓練を行っていたメノはこのメールを見てすぐに行動に移る。

 

不幸な事に、彼女の周囲にGAEの裏切りを知る者はいなかった。

 

 

「ハイダ工廠を確認しました、ゲートは破壊されています。そこから侵入を……」

 

メノがそう言おうとした時、耳に何か違和感を感じる。

 

「音楽……?」

 

そう、何か、音楽が聞こえるのだ。

 

「どうしました?」

 

オペレーターが尋ねてくる。

 

「何か、音楽が聞こえてきます。これは…ヴァイオリン?」

 

「……こちらでも確認しました。いったい誰が……?」

 

音が段々と大きくなる。まるで、音源に近づくように。

 

「……プリミティブ・ライト。ハイダ工廠入り口付近にネクストの反応です。どうやら音楽はこのACから発信されているようです。」

 

「それが今回の目標ですか……?いったい、何故音楽など……」

 

「いま機体の照合を……」

 

「昔話をしてあげる」

 

「!?」

 

唐突に発せられる声。おそらく、少女の

 

「世界が破滅に向かっていた頃の話よ」

 

と、そこで唐突に言葉を切り、クスクス笑う。

 

「いや、違う。これは貴女達にとっては明日の出来事か……」

 

「あなたは……何を……?」

 

「神様は人間を救いたいと思っていた。だから、手を差し伸べた」

 

少女は語る。まるで、絵本を音読する子供のように

 

「……照合結果でました。例のイレギュラーです」

 

「これが……?」

 

声だけ聞くと、自分よりもずっと若く感じる。

 

ハイダ工廠前に、四脚の重ネクストが佇んでいる。

資料通りの外見。不気味な四つの目が、こちらをじっと見つめている。

 

「でもそのたびに、人間の中から邪魔者が現れた。神様の作ろうとする秩序を、壊してしまう者。」

 

メノ・ルーは根本主義者である。神を信じ、神からの恵みと救いを待っている。

神、という言葉を聞いて彼女は反応してしまった。

 

「神様は困惑した。人間は救われることを、望んでないのかって。」

 

まるで、こちらに問いかけるかのような口調だ。もしかしてこのイレギュラーは、私のことを知っているのだろうか?

 

「私には……わかりません。」

 

 

メノには神からの救済を邪魔する者の気持ちはわからなかった。彼女は真摯に神を信仰し、その事による自らの罪からの解放を待っていた。

 

彼女は戦争屋である。

なりたくてなった訳ではない。

彼女は教会が運営する孤児院で育った。

貧しい所であったが、神父さまや血の繋がらないきょうだいたちはみんな温かく、とても幸せだった。

 

その暮らしが変わったのは、私が15になった時だった。

その時、まだただの企業だったGA社が行っていた健康診断によって、私に高いAMS適性があることがわかった。

突然教会に来たGAの人間は、私をネクストのパイロットとして迎えたいと言っていた。

その時に提示されたお金は、いままで見たことも無いような額であった。

私は、すぐに頷いた。新しい服を買えない孤児院のきょうだいたちの為に、この歳まで育ててくれた神父さまへの恩返しの為にも、お金は必要だった。

神父さまからは止められた。孤児院にお金を入れたいと何度説得しようとも、彼は頷こうとしなかった。結局、私は家出同然に孤児院から出た。

 

それは、大きな間違いだった。

 

そこからの私は、もう、今までの私では無かった

半年も経たない内に、私は人を殺した。

 

リンクスになる時に、覚悟していた事だった。

覚悟していたと思っていた。

それなのに、猛烈な何日も吐き気に苦しんだ。

 

我慢しながら、ネクストに乗り続けた、何人も、人を、殺した。国家解体戦争。GA本社唯一のリンクスである私に、休む事など許されていなかった。

 

お金は、その殆どを孤児院に送った。一枚だけ送った手紙には、元気にやっていると書いた。

孤児院からの返信は読まなかった。孤児院から逃げ出した私を非難していると思ってしまったからだ。

 

罪が身体を蝕む。寝床に幻覚が立つようになった。私が殺した、名も知らない、だけど良く覚えている、顔が、顔が、顔が。

 

この時に、やっと神父さまが私がリンクスになる事を拒んでいた理由がわかった。

彼は、小さな頃から私を見ていたのだ。

戦争なんて状況に、戦士として、私が耐えられないであろうという事を知っていたのだ。

 

国家解体戦争が終わった。

長い有給を使った私は、GAから割り振られた部屋に引きこもり。誰とも会わないように日常を送っていた。

 

突然、神父さまが私の部屋を訪ねてきた。

私は彼の姿を見て、思わずその胸に飛び込み、泣き出してしまった。

神父さまは優しく私を抱きしめてくれた。

 

彼は、手紙から私の異変を感じ取っていたらしい。

どんなに元気を装っても、やはり育ててくれた親にはわかるらしい。

私達は、夜までお話をした。久しぶりに、楽しい時間だった。

写真を見せてもらうと、きょうだいたちは皆新しい服に身を包み、幸せそうに笑っていた。

彼らは皆、私に会いたいと言ってくれているらしい。

とても、嬉しかった

 

夜、私は、神父さまに自分の罪を告白した。

彼は、それを非難する事もなく聴いていてくれた。

最後まで言い終えて、私はまた泣いた。

神父さまは、ただ一言だけ、私に声をかけてくれた。

 

「神は、メノを赦してくれるよ」

 

その一言でとても救われたような気がした

 

それ以来、私は教会にいた時よりも熱心に神を信じるようになった。暮らし方も、教義に則ったものに変わった。

 

リンクスである事を辞める事は出来ない。これからも、私は多くの十字架を背負う事になるだろう。

そうだ、あの時の私は、孤児院の為と責任を転嫁していたのだ。戦争だからと転嫁していたのだ。

私は罪と向き合う事にした。その時に初めて、私は神から許される。神父さまはそう言っていた。

 

メノ・ルーは戦場に立つ。彼女は逃げない。罪からも、自分からも。

 

 

「人間はね、あれこれ指図されたくなかったの。自由に生きたかった。でも神様は人間を救ってあげたかった。」

 

ヴァイオリンの音が、徐々に盛り上がってくる。それに合わせて、少女の声も心なしか大きくなっていた。

 

「だから先に邪魔者を見つけ出して、殺すことにした」

 

なぜ、こんなにも楽しそうなのだろう。メノ・ルーには理解出来なかった。こんな場所で、嬉々として語るこの少女は、彼女の心に大きな恐怖を植え付けた。

 

「私が……その邪魔者だと……?」

 

「言ったでしょ、これはただの昔話だって」

 

うふふ、と少女は楽しそうに笑う。

 

「なぁんもかんけいのないはなし。ただのたのしいむかしばなし」

 

幼さを強調するように、イレギュラーは舌ったらずで話す。だが、次のセリフで、少女の雰囲気が変わる。

 

「私のやる事はただ一つ。何も知らずに騙された哀れな羊を、天へと返してあげることよ」

 

「…………どういう事?」

 

少女の言葉を聞き、オペレーターが絶句する。事態が把握できない私は、そう問い返した。

 

「そのまんまの意味よ、GAEは本社に反旗を翻していた。貴女は嘘の依頼を受けたのよ」

 

「嘘……?いったい、それは、どういう……」

 

「プリミティブ・ライト。イレギュラーの言葉に耳を傾けないで下さい。奴はこちらの信頼関係を…「騙して悪いが!!」

 

オペレーターの言葉を強引に切り、少女が叫ぶ。

 

「消えてもらうぞ、リンクス」

 

四脚機が武器を構える。来る。反射的にメノ・ルーは全神経を戦場に集中させる。

鼓膜を震わすヴァイオリンの盛り上がりが最高潮に達した、その瞬間。

 

「さぁ、始めましょう。殺すわ、あなたを」

 

イレギュラーが駆動する。

 

歌が聞こえる。

 

Don’t forget a hole in the wall.

 

次の瞬間…四脚機は既に私の目の前にいた。

 

I’m like ghost to turn in on the load.

 

イレギュラーはブレードを高く振り上げる。私に武器を構えようとする暇も与えずに。

 

「でぇい!あぁふたぁ!でぇい!」

 

楽しそうな、本当に楽しそうな歌声が、私を、

 

「あぁい!すてぇ!あらぁんふぁうぇい!!」

 

振り下ろされて

 

光が

 

消える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーめんあーめんごすぺるあーめんあーめんあーめんごすぺるあーめん……」

 

通信機からふざけた祈りの声が流れてくる。

 

目を開けると、なぜか空が見えた。

驚いて立ち上がる。場所はプリミティブ・ライトのコックピット、それはかわりない。

しかし、その装甲は剥がされ私は空気に晒されていた。

 

「あ、おきたぁ〜。ヘッドパーツ貫いただけで動かなくなったから心配したよー。まさか気絶してるとは思わなかったなぁー」

 

イレギュラー機は、私を見下ろすように佇んでいた。そしてそのコアは開き。そこに誰か立っている。距離が遠い、どんな姿か、よく、見えない。

 

「貴女は……いったい……なに……なんなの……?」

 

メノは恐怖していた。彼女は、人間とは思えない。

メノにはわかった。彼女には人を殺すことに一切の罪を感じていない。責任とかそういう問題ではない。これは、人を殺すということに罪などないと考えている。

 

「ただのなぁんの変哲もないリンクスです。種も仕掛けもありません!」

 

クルリと回ってそう宣言する。

 

「悪魔か何かに見えた?まぁ、真の悪魔は人間とはよう言ったもので、確かにそーいう意味では私は悪魔なのかもしれないデビねぇ〜」

 

イレギュラーはふざけた様に語り、コックピットへ戻って行く

 

「じゃ、起きた所でまた寝よっか!」

 

イレギュラー機が起動する。ブレードから、紫色の光が伸びる。

 

「いやさぁ!寝てる子殺しても面白くないじゃん?やっぱり絶望しながら死んでもらわないと!」

 

メノはある事に気づく。愛機、プリミティブ・ライトはコア以外の全てのパーツを引き裂かれていた。

そして悟った。あぁ、そうか、私はここで死ぬのかと。

 

死は、救いなのだろうか、私は、これまでの罪をゆるされるのだろうか。

 

だとしたら、よいのかもしれない。私は、この罪を背負う事を止められる。

 

だが、なぜだろう。

 

涙が、止まらない

 

 

 

「久しぶりだな、クレピュスキュール」

 

唐突に、男の声が響く

 

その瞬間、イレギュラー機は動きを止めてゆっくりと振り返る。

 

「遅かったじゃないかぁ……」

 

まるで、最初からその登場を知っていたかの様に

 




後編に続く


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あぐぬす・でい こーへん

狙撃機を使ったこと無かったので、遠距離浮遊狙撃型ネクスト、アンビエントスナイパーカスタム改三をアセンしたのですが、すぐシエラジオが動かなくなってたのしかった。

でも両手スナイパライフルってなぁんか、こう、なぁんか。ロングバレルは両手で一本が私の信条なので。
少し見た目重視でアセン試してみます。


「あれは……GAのオリジナル、プリミティブ・ライトです。」

 

「酷いな、ありゃ。まるで達磨じゃないか」

 

ハイダ工廠から出たレイヴンは、目の前の状況に対して素直な感想を漏らす

 

「いやぁ〜待ってたよ。暇で暇でさぁ〜サンシャイン切り分けることしかやることなくてさぁ〜」

 

クレピュスキュールが話しかけてくる。

 

「なにやってんだ?こんな所で」

 

レイヴンが問いかける。

 

「戦争の始まりを見に来たのよ」

 

ニコニコと少女は返答した。

 

「……なるほど、こっちの仕事は把握しているってわけか」

 

「戦争が始まる……?」

 

フィオナが問いかけた。

 

「GAEは、アクアビットにとって大切な取引相手だった。そんな所を敵対するGAが襲ったんだ。宣戦布告する理由としては充分でしょ」

 

「まぁ、どこも戦争したがってるからな」

 

男が頷く。複雑に絡み合った各企業の各種問題。そろそろどこも解決したい頃のはずだ。

 

「利益の為なら多少の人的資源の損失には目を瞑る。いやぁ、最高に資本主義って感じね」

 

「で、それを見に来たと」

 

「そうそう、それで貴方とお話しようかなぁと思ってたら、おもちゃがノコノコと」

 

「なんでGAのオリジナルがいるんだ?増援の要請はした覚えがないが」

 

「GAEに騙されたみたい。貴方の事を別企業からの攻撃だとでも伝えたんじゃないの?」

 

「あぁ、なるほど」

 

ネクストの残骸。引き剥がされたコックピットには、涙を流しながらワルキューレとクレピュスキュールを見ている女がへたりこんでいた。

 

「で、だ。どうするつもりだ?まさか、帰ろうとしてないよな?」

 

「帰るに決まってるでしょ」

 

何を言っているんだとばかりに少女は言った。

 

「目的は達した。いまここで私がやる事は何も無いわ」

 

「俺にはある」

 

そう言って、レイヴンはブレードを構える

 

「知ってるか?いまお前の首には懸賞金がかかってるんだ」

 

「……アナトリアの傭兵。それは蛮勇ではありませんこと?」

 

えらく丁寧に、イレギュラーは言う。

 

「確かに、貴方には私を倒す可能性はあります。しかし、それは未だ時期尚早」

 

「ほう、高く評価してくれるんだな」

 

「当たり前ですよ、なんたって私は……」

 

なぜだかはわからない。だがこの時、このイレギュラーの少女は、とてもいい笑顔をしているのだろうなと気付いた。

 

 

 

「私は…………貴方なのですから」

 

 

 

少女は、まるでそれが真理であると言わんばかりに、そう告げた

 

「それは……どういう……」

 

鴉が尋ねる。だがその問いはすぐに蹴られる。

 

「貴方は知る必要が無いことです。そして、知らない方がいいことでもあります……ん?」

 

と、何かに気付いたのか言葉を止める

 

「なぁるほど、増援ですか。これが貴方が私を止めた理由。という事は、中にはさぞ名のあるリンクスが……わぁお!」

 

上空に、レイレナードの高速輸送機の姿が見える。そこから、一機のネクストが投下された

 

「伝説のレイヴンと、鴉殺しが、共闘!!なぁにこの萌えて萌えて燃える展開!!こういうの私だぁいこうぶつ!!!」

 

「嬉しそうだなぁ、おい」

 

「あったりまぇじゃぁないですかぁ!!一介のブレード使いにとって彼女は憧れの人ですよぉ!!いやもうほぉんとに会いたくて会いたくてまさかこんなにはやくあえるっ………あーーーーっ!!!」

 

突然叫び出す。もはや、こんな奇妙な行動に驚かなくなった自分がいる。

 

「そっかそっかそりゃそうか当たり前だよ。こんなもん振り回してたらそりゃ興味持たれるわうっわーー!!」

 

そう叫ぶと、クレピュスキュールのブースターがオンになる。

 

「こんなもんって、それはムーンライトの……」

 

「そうなのよねぇーー。絶対聞かれるよねぇーー!ぁぁっし!!まぁいい!!どぉせまた私たちに相応しい戦場が整えられる」

 

「……相応しい戦場?」

 

「そう!剣士達の戦に相応しい決闘場が!血舞う美しき騎士の庭園が!!……それまでは、お預けね」

 

クレピュスキュールが飛行する。離脱する気らしい。

 

「待て、まだ話は……!」

 

「ダスヴィダーニャ!また戦場で会いましょう。」

 

そう言って、クレピュスキュールは上昇していく。

咄嗟にマシンガンを撃つが、距離が離れていたため殆どがPAに阻まれ。すぐに射程外に出て行ってしまった

 

「……ちっ」

 

「……追撃は?」

 

「向こうがやる気なら何とかできるだろう。だが、追撃戦だとこちらに分が悪い」

 

アンジェの声だ、後ろを見るとオルレアがいる。

 

「遅かったな」

 

「すまない。しかし、アレを見るとなかなかの相手のようだな。」

 

アンジェの視線の先には、地に伏せるプリミティブ・ライトの姿。

 

「あぁ。それに、これから状況は更にややこしくなるぞ」

 

「……どういうことだ?」

 

「すぐにわかるさ」

 

そう言って男は息を吐いた。

戦争か、アナトリアにとっては万々歳だろう。仕事の量は、これまでと比べ物にならないほど増えるだろう。

せいぜい、長引いて貰わねば困る。

 

「…………」

 

そう言えば、戦争の一言を聞いてからフィオナの元気がないように見える。

若い彼女にとっては、やはり大きな規模の戦いというのは不安なのだろうか。

 

「どうした、フィオナ」

 

「……いえ、大丈夫です。お疲れ様でした、アナトリアに帰りましょう。」

 

だいぶ参ってるな、これは。

しかし男はその事を口にせず、彼女の言葉に頷いた。

 

 

 

 

 

おっぱいは大きかったです。

 

パイオツカイデーなチャンネーでした。

 

スイカ。

 

という訳でメノ・ルーちゃんは巨乳でした!!しかも美人でした!!!拍手!全人類拍手!!

いやぁ喜ばしいことですね!巨乳のちゃんねーでしたよ皆さん!全国のラストレイヴンたちぃ!聞いてるかぁ!!おっぱぁぁぉぁぁぁぁい!!!!

 

と、いう訳で秘密の通路からこんにちわー!!帰ってきました!!

 

いやしっかし、大変だったんだから。アレだよ、投降を促している癖に武器全パージしても核ぶち込んでくるようなヘルシングの神父かってレベルの異教徒ぶっ殺すマンなクレイジープロテスタントモンスターにどうやって生きていて貰うか。これもう色んな案を吟味したんだから。

 

選ばれたのは結論は武器やら四肢やらもいで動けなくする案でした。

 

もう!こちとらシミュレーターで練習頑張ったんだからね!腕だとか脚だとかミサイルとかピンポイントで斬ったりするの!なによメノちゃん気絶しちゃって!私の練習はなんだったのよ!ばか!あほ!おっぱい!

 

まぁ、でも、とりあえず目的は達した。レイヴンの登場の仕方も良かった。ありゃ間違いなく主人公の登場シーンだ。

なお、あそこでレイヴンが来なかった場合はコックピット周り刻んで時間稼ぎするつもりでした。

 

さてさて、そしてそろそろ起こるのはリンクス戦争である。

いよいよ、本番である。これからは、さらにやりたいようにやれる。右も左も戦争戦争戦争な、素晴らしく糞ったれな状況がこの地球に出現する。動き出すには最適だ。

計画はなんとなく立てた。方針としては高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変にガンガンいこうぜ!って感じだ。

 

遠足前夜みたいでなんかわくわくする。

 

ふと、そういえば戦争になればリリウムにあまり会えなくなるなと気付く。

あそこはBFFのリンクスの生家だ。どっかの特殊部隊による攻撃の目標になる可能性も捨てきれない。

警備は強化されるだろう。ならば、今のうちにとりあえずのお別れはしておこうかしら。

うん。好感度に関しては充分な筈だ。大丈夫、大丈夫、大丈夫……

 

 

念のため何かプレゼントでも持って行こっと。

 

 

 

 

「では、お休みなさい。姉様、兄様。」

 

「おやすみ、リリウム。」

 

「おやすみ、また明日ね。」

 

休暇で家にいる二人に挨拶をして、リビングから出る。

既に、目はトロンと重い。いつも離れているため、家族と一緒にいるとどうもはしゃいでしまう。

 

「せっかくのお休みなのに、また姉様たちに迷惑をかけてしまいました……」

 

そんな自分に少しばかりの罪悪感を覚えながら、リリウムは自室に向かう。

ドアに手をかけたとき、部屋の中から何か音が流れていることに気づいた。

 

「あら、ジャンヌ様が来ているのかしら」

 

神出鬼没の不思議な人。隻腕隻眼、しかしそんなハンデを一切感じさせないほど明るく、だけど、時々なにを考えているかわからない人。一週間ほど毎日訪ねてくる時もあれば、半月ほど姿を現さない時もある。来てくれた時はとても嬉しくて、会っていないときはとても、寂しい。

今日は、姉様たちが帰っていると伝えていた筈だが……と不思議に思いながら。リリウムは扉を開けた。

 

ジャンヌは、ベッドに寝転んで携帯端末を眺めている。

リリウムが話しかけようとする。ふと、その瞳が今まで見た事がない程真剣なことに気づいた。

 

携帯端末からは、女性の声が聞こえてきていた。たしか、BFFの運営するテレビ局の花形キャスターのモノだ。

 

「ジャンヌ様……いったいどうしたのですか?」

 

その時だった

 

『番組を中断して臨時ニュースを申し上げます。アクアビット社が先ほどGA社に対して宣戦を布告しました。繰り返します。アクアビット社が先ほどGA社に対して宣戦を布告しました。既に各地ではアクアビット社によるGA社の基地による攻撃が……』

 

「え……?」

 

「始まったか……」

 

せん……そう……?リリウムの頭に大きなクエスチョンマークが幾つも浮かぶ。戦争は知っている、国家解体戦争は、どの歴史の教科書にも一番大きく載っている。姉や兄の事がとてもかっこ良く書かれているので、リリウムは歴史の勉強が好きだった。

でも、戦争がどんなものかは彼女は良く知らない。多くの死者が出るということも、イメージがわかない。

 

すると、ジャンヌはこちらの方をチラリと見て、ゆっくりと起き上がった。

 

「良かった。リリウムが間に合ってくれて、できれば直接手渡したかったんだ」

 

そう言うと、ジャンヌは混乱するリリウムの手に何かを握らせた。大きな、丸い、つるつるとした機械だった。

 

「これはね、御守りだ。もしリリウムに危ない事があったら、これを強く握ってくれ。そしたら何があっても、リリウムを助けに来るから」

 

「それは……どういう……」

 

部屋の外から誰かが走ってくる音が聞こえる。思わずリリウムは振り返ってしまう。

 

「じゃあね、リリウム。また絶対会いに来るから」

 

「あ……」

 

その隙に、ジャンヌは窓から飛び出して行ってしまった。それと同時に、姉たちが部屋に飛び込んでくる。

突然、姉がリリウムに抱きついてきた。それは、今まで経験したこと無いくらい強く、だけど、とても温かい抱擁だった。

 

「姉様……?兄様……?どうしたの……?」

 

「ごめんなさい……リリウム、いまから私とジーンは長い間出かけなくちゃいけないの……」

 

「ごめん、明日のショッピングは中止をしなくちゃいけないんだ……」

 

「…………」

 

リリウムは気づいた。二人とも、目に涙が溜まっている。

 

「良い子で留守番していてね、リリウム……」

 

姉様が、私の頬にキスをしてくれた。

兄様が、私の頭を撫でてくれる。

 

とても温かい。

とても優しい。

 

でも、リリウムの心はどんどんと凍えていった。

姉たちの涙。ジャンヌのあの真剣な眼差し。渡された御守り。そして、戦争という言葉。

 

幼いリリウムの心を、分厚い不安が覆ってゆく。

 

気がつくと、三人のよく似たきょうだいは皆一様に涙を流していた。




V系、スナイパーキャノンを構える見た目本当好き。
さらにNo.3や隊長など濃いキャラが多いしね。良いよね狙撃機。出したいね、狙撃機。



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開戦

皆さんから寄せられたアンビエント案試してます、どれもこれも楽しい。

コジマグリーンもいいし、片翼の破壊天気もなかなか……
近距離高速機もいけるし、なかなかバランスいいな063AN

ただ、ブレードだけは、勘弁な!


GAが行った内部粛清から始まった企業間戦争は、アクアビットの宣戦布告から三日も経たないうちに、六大企業全てが参加する世界大戦へとその姿を変貌させた。

各企業は、国家解体戦争時よりも更に強力で、豊富になった戦力でもって他社を潰しにかかる。

 

ノーマルや大型機動兵器が陣形を組み、基地へと進行してゆく。

数百もの艦船が、海上にてミサイルによる戦闘を行う。

護衛を伴った飛行要塞が飛来し、街へと空襲を行う。

 

それまでの当たり前が全て消え去り、非日常が世界を塗り替えていく。

 

企業の人間は、みな会社から出る事は無くなった。

兵器の製造、修理、同盟相手へのレンドリース、襲撃を受けた基地の被害状況の確認、人的被害の計算とその補填、さらに代替要員の選抜。

こなした仕事を上回る仕事が彼らを襲う。各企業のオフィスは、それこそ外の惨状と何ら変わらない地獄となっていた。

 

そして、そんな戦争において最も大きな働きをしたのは、国家解体戦争の功労者でもあるリンクスたちである。

 

彼らは戦った。その相手は、かつて国家の解体を成し遂げた仲間たちである。

 

 

 

「もうすぐ作戦地域に到達します、再度機体の確認を」

 

フィオナの声を聞きながら、男は三度目の愛機のチェックを行う。

 

全兵装に問題はない、AC本体の状態も万全、ネクストとの接続値が低いのは元々。

大丈夫だ、何の問題もない。

 

「ワルキューレよりオペレーター、ノープロブレムだ。」

 

「こちらシュープリス。大丈夫だ、すぐに作戦を始められる。」

 

「了解しました、それではもう一度作戦の確認を行います」

 

フィオナがそう言うと、男の目の前に立体地図が現れる。

 

「今回の目標は、ゼクステクス世界空港に存在するステルス輸送機の破壊。及び同機を護衛するノーマル部隊とネクスト〝タイラント〟の撃破となります」

 

地図上に、予測される敵戦力の位置が表示される。

 

「目標の機体は現在、機体トラブルのため離陸する事ができません。さらに、この機にはGA社の重要人物も搭乗しており、彼にコジマ汚染の被害を出さないためタイラントはPAの展開が不可能です。……速かなミッションの成功を祈ります」

 

何度も脳内でシミュレーションを行う。だが、失敗のイメージは無い。

相手のリンクスはGAの粗製、こちらはNo.1との協働。まさに朝飯前と言う奴だ。

 

戦争が始まった時、一番最初に男に依頼を出してきたのはレイレナード社である。

その後、GA等の他の企業からも依頼は来たが、彼はまずレイレナードの依頼に手をつけた。

 

もはや、今の男に企業の後ろ盾は不必要である。多くのミッション遂行により幾つかの企業から水面下で支援を受けている男は、自由に飛べるだけの立場を手に入れていた。

本能が告げる。この戦争は、今までの人生の中で最も多くの稼ぎを与えてくれるだろう。

男は笑った。そうだ、この感覚こそが傭兵だ。この生き方が好きだから、俺は戦場にいるんだ。

 

「こちら〝ファフニール〟、少し良いか?」

 

機長の声が聞こえる。

 

「どうした?なにか問題があったか?」

 

ベルリオーズが尋ねる

 

「あぁ、問題だ。作戦エリアで既にドンパチが起こっている」

 

「……なんだと?」

 

「……確認しました、先行した無人偵察機の映像によると既に戦闘が……まさか、バーラット部隊?」

 

「なんだって?なんでイクバールの精鋭がこんな所にいるんだ?奴らは同盟のはずだろ?」

 

男が頭を掻きながら聞く。イクバールは、オーメルとの関係もあってGAとは仲が悪くても同盟関係の筈だ。それなのに戦闘?戦争が始まった今?

 

「わかりません。バーラット部隊はGAの防衛部隊を各地で押しています。タイラントも苦戦中、このままでは、GA側の敗北は時間の問題です」

 

「ベルリオーズ、確か本作戦の統括はお前だったな」

 

「そうだ、どうした?」

 

「報酬の上乗せをお願いしたい。バーラット部隊は強敵だ。」

 

「たかがノーマルだろう?それに、今の我々は漁夫の利の格好だ。ミッションの難易度が上がるわけではない」

 

「じゃあ、バーラット部隊の殲滅では?」

 

「なるほど、確かに長期的に見ればレイレナード社の利になるか。仕事が増えるが大丈夫か?」

 

「もちろんだとも。さて、じゃあ……」

 

「待ってください!空港に向けてさらに増援が……ノーマル部隊と……ネクストです!」

 

「どっちの増援だ?」

 

「機体照合完了、イクバールのオリジナルネクスト〝アートマン〟です! さらにレイレナード社からの情報によると、増援のノーマル部隊は特殊部隊バーラットアサドの可能性が高いとのことです」

 

「ベルリオーズ、元から三倍だ」

 

「了解した。魔術師は強敵だ、確実に潰すぞ」

 

「OK。ノーマルは任せた、ネクストは俺がやる」

 

「……生きて、帰ってきてください」

 

「勿論だ」

 

「ファフニールよりネクストへ、10カウントで投下する。準備をしろ!ナイン!エイト!」

 

「了解した。ワルキューレOK」

 

「こちらも準備は完了している」

 

「ファイブ!フォー!スリー!ツー!カーゴ開放!投下!投下!投下!」

 

輸送機から二機のネクストが投げ出される。黒く塗られた二機の死神は、空港にさらなる混乱を巻き起こすべく飛翔する

 

「ミッション開始です。二人とも、幸運を」

 

フィオナの声を背中に受けて、二機は飛翔する。

 

だが、彼らは知らなかった。タイラントのみでは護衛が不十分だと、GAが別のネクストを雇っていた事を

 

白い閃光が空を貫く。遅れてきた傭兵は、空港に展開する全ての部隊に対して通信を行った。あるものには安心を、あるものには恐怖を与えるため

 

 

「ベルリオーズ!四倍だ!」

 

「あぁ、向こうの相手はこちらがする。サーダナを撃破次第手伝ってくれ!」

 

 

こうして、本戦争屈指の戦闘であるゼクステクス世界空港防衛戦が始まった。

メガフロートの空港の上にて、二人のトップランカーと二人の傭兵、場違いな粗製や最精鋭のノーマル部隊、そして無数のGA製ノーマルが入り混じるこの戦いは、初期のオーメル陣営の苦戦の大きな原因となる。

 

 

 

エグザウィル内部。

アンジェは大股で、足早に歩く。

別に不機嫌なわけではない。彼女はいつだってそのような歩き方をしていた。有限な自らの時間を、少しも無駄にしないように。

 

目的地に辿り着くと、アンジェはノックもせずにドアを開けた。部屋の主はそんな彼女に驚きもせず、読書を続けている。

 

「真改、話がある。」

 

真改と呼ばれた男は、読んでいた本に栞をはさむと立ち上がった。

背はアンジェよりも高いが、身体つきが全体的に細いため、ひょろ長いという印象を周囲に与えていた。黒い髪を首元で束ね、目は糸のように細く、口は不機嫌そうに固く閉じられている。

 

アンジェがついて来いと言わんばかりに部屋を出、真改は黙ってついていく。

一切の会話なく二人が廊下を歩く。

周囲を一切気にしないこの二人組みの姿を、レイレナードの社員たちはまたかと思いながら眺める。

無駄な会話を好まないアンジェと、寡黙という言葉に脚が生えたような性格の真改。その二人が組み合わさると、近くにいる者でさえ口を開けなくなるようなプレッシャーを放つようになる。

 

アンジェ達が来たのはシミュレーションルームである。そこにある向かい合わせに置かれたネクストシミュレータにアンジェは乗り込む。彼女らにとって会話とはそれだった。渾身の一振りは万の言葉より価値がある。アンジェはそう信じていた。

 

真改も何も言わずに、アンジェの向かいに置かれているシミュレーターに乗り込もうとする。

と、アンジェから声がかけられた。

 

「本気で来い」

 

元よりそのつもりであるし、そもそもアンジェは訓練でも本気以外の戦いを認めていなかった。

そんな彼女が、わざわざそう口にする。ということは……

 

今持てる全ての力でもって、私を殺しに来い。そういうことか

 

「了…………」

 

真改は頷くと、シミュレーターに乗り込んだ。

 

 

 

無機質な空間の中、二種類のレーザーブレードが交差する。

アンジェは本気だった。彼女の両手には、それぞれムーンライトが装備されている。

 

必殺

 

その心構えが、こちらにプレッシャーとして襲ってくる。国家解体戦争でも見せなかった程の迫力で、女剣士は向かってきた。

 

ドラゴンスレイヤーを構える。真改は落ち着いてアンジェの攻撃を見極める。専用のブースターとFCSによって成される踏み込みは、いわゆる縮地の域を超え、瞬間移動の領域に入っていた。

 

嵐のような猛攻。それを捌き、捌き、捌き、捌く。一瞬でも気を抜けば、この風に食い殺される。

 

マシンガンを放つ。だが、アンジェはすぐに距離をとり、射線を外し、距離を詰め、斬る。

レイレナードの標準機であるアリーヤは、特に機動力に重きを置いた機体だ。その上、専用のメインブースターによりQBの推力を上げているオルレアのヒット&アウェイは、下手な鉄砲など当たらんとばかりに動く。

 

「………………!」

 

ムーンライトの一撃が、浅くはあるがスプリットムーンに届く。

PAが吹き飛び、白いネクストが丸裸の状態になる。

そんな中で、容赦なくアンジェがもう一振りの刀を振りかぶる。

 

咄嗟に真改は、腕の中にあるマシンガンを投げつける。

一瞬、ほんの一瞬ではあるが、アンジェはそれに気をとられた。

 

その間に後部にQB、距離を……

 

周囲を光が包む。

視覚にノイズが走る。恐らく、フラッシュロケット。

離脱する瞬間に咄嗟に撃ったという事だろう。

だが、真改はその動揺を表に出すことなく距離をとる。アンジェとは、それこそ何十、何百とシミュレーターで戦ってきた。その全てが惨敗ではあるが、彼女の戦いは真改の中に刻みついている。

動揺を見せてはいけない、それごと彼女は斬り裂く。

 

オルレアが突進してくる。その様子を見ながら、今こそが勝負を決する時だと真改は考えた。

 

二機が同時にQBを行う。相対速度にして時速2000km以上の速さで接近した二機。

オルレアの懐の中で、真改は自らの刀に全てを乗せて、全てをかけた。

 

今までで最高の一撃が、オルレアの腹を抉る。

いままで、一度も触れることの叶わなかった絶対的存在に、刃が、届く。

 

 

オルレアの刀は止まらない。浅かったのだ、恐らく、彼女の持つ天性の勝負勘が真改の一振りに気付き、機体を少しではあるが後退させたのだ。

 

一撃必殺を狙う大振りによる隙を、アンジェはあっさりと切り捨てた。

結果はいつも通りの、アンジェの勝利だった。

 

 

「踏み込みが足りん」

 

シミュレーターから出てきたアンジェの第一声はそれだった。

 

真改は頷く。確かにアンジェに触れられた達成感はあるが、それよりもやはりまた負けたという想いの方が強い。

 

次は、負けない

 

と、アンジェはそんな真改の眼を見て笑った。

 

「成長したな真改。お前の闘志と、それに見合うだけの腕は見せてもらった。」

 

女はついて来いと真改に言い、シミュレーションルームから出た。

 

 

「戦争が始まった。それぞれの国家が持っていた力を吸収した企業の全面戦争だ。これの勝利は、我々の理想の為に絶対に必要なものだ」

 

エレベーターを降りながらアンジェが口を開く

 

「勝たねばならない、テストパイロット上がりのお前を戦場に出してでもな」

 

「…………」

 

「今回の模擬戦で、お前の戦いは見せてもらった。凄まじい成長だな、そしてまだまだ底は見えん。」

 

心底嬉しそうに、アンジェは話し続ける。彼女の口が滑らかになる時は、機嫌がとても良い時だ。

 

エレベーターが目的地に到着する。ネクストのガレージがある階層だ

 

「真改、お前は私の下について貰う」

 

アンジェがそう言う。真改は驚く事も無く頷く。先程の模擬戦で、そのような雰囲気は感じていた。

 

「我々は、対ネクスト用の特殊部隊となる。レイレナードの刃として、山猫共の首を奪る」

 

ガレージの中を歩く。いま、ここいるネクストは、並ぶように立つオルレアとスプリットムーンのみ。ほかのACは、全て戦場に居る。

 

その前まで移動すると、アンジェは振り返り真改の顔をジッと見つめた。彼女の愛刀のように鋭く、万物を貫く瞳。この前では、自らの心を覆う全ての鎧は意味を成さない。

 

「私の装備を、全てお前に譲る。お前が次の殻を破るには、それは間違いなく必要だ」

 

「応…………」

 

「これからは実地訓練だ。生きるか死ぬかの場所で、私に劣らぬ戦士相手に戦って貰う。生き残れよ、真改」

 

そう言って、アンジェは視線を外して自らの愛機を眺めた。

真改も、スプリットムーンを見る。

 

並び立つ二機の剣士、蒼色と白色の師弟は、ただただ静かに佇んでいた。

 

 

 

あたまが、うるさい

 

GA本社、ネクスト専用の医療施設の中でメノ・ルーは苦しんでいた。

 

命はまだある。だが、それが悪魔の気紛れによって残されていただけだ。

 

あの惨劇の後、GAの人間に回収されたメノはそのままアメリカ大陸に戻り、GAの本社にて治療を行っていた。

 

身体的には大きな問題は無い。

だが、心には大きな爪痕が残っている。

 

あの楽しそうな声が、頭の中を跳ね回っている。

圧倒的な力と、破綻しているとしか思えない心。それを正面から受けた彼女の精神は、壊れていてもおかしくなかった。

プラチナに近い色の髪の生える頭を、メノは押さえる。青い瞳を隠すように伸びた前髪の為に見えないが、彼女の目元には、深い隈が刻まれている。腰まで伸びた髪が、揺れる。

 

だが、彼女はまだ自分を持っている。

その理由は、メノはわからない。

 

白い部屋の中で、メノは時間を過ごしていた。

戦争が始まった事は聞いた。

GAが、早く私に戦って欲しいという事も知っている。

 

だが、まだ戦えない。

メノは、戦う意味を見失いかけていた。

あの少女、楽しそうに私を殺そうとしたあの悪魔。

本当に、いままでの私はあぁでは無かったと言えるのだろうか?

 

私は心の底から戦いを忌避している。

しているつもりである。

だが、本当に、そうなのだろうか?

楽しんでなかったと言えるのだろうか?

いままで、笑って人を殺したことが無いと言えるのだろうか?

 

メノは悩み、悩み、悩み。そして疲れて寝てしまった。

 

夢の中でもあくまは出てくる、彼女は囁く。戦いを楽しめと、笑って人を殺せと。

メノは必死にそれを否定する。だが、自分を見失いかけている彼女の声は小さく、すぐに狂った言葉に掻き消されていく。

 

悪夢は消えない。永く、永く、メノを誑かす。

必死に否定する。涙を流し、暖かい人々を思い浮かべながら。そんな筈はない、そんな筈はないと。

 

だが、そんな決意すらも無駄だというように、悪魔は大声で笑いかける。

 

メノは、一瞬諦めかけた。

 

そうだ、闘争を楽しめば、あの苦しみから逃げられるかもしれない。

 

でも、それは逃げである。いままでの私と同じ、何も受け止められないくらい弱いから、逃げているだけ。

 

それではいけない、でも、それでも、これから、こんなに辛い世界から、にげ、ら、れるな、ら……

 

 

爆音が響く。悪い夢から覚醒したメノは、反射的に呟く

 

「敵……!?」

 

ベッドから出て、近くにいた医師に何があったか尋ねる。

 

「レイレナードの部隊です!奴ら、まさか本社を襲うとは……!」

 

それを聞いたメノは、自らの愛機に向かって駆け出した。

すでに、プリミティブ・ライトは搭乗可能な状態になっている。全てのパーツがすぐに手に入るというのは、企業のネクストの特徴とも言える。

 

メノは走る。自分を誘惑する者から逃げるように。

GA本社、このビッグボックスはまさに要塞だ。各所に設置された砲台や、本社直轄のノーマル部隊によって守られたここは、難攻不落と呼ぶに相応しい場所である。

だが、安心は出来ない。レイレナードの部隊という事は、間違いなくネクストがいる。

山猫達は、どんな不可能をも可能にする力を持っている。あの恐ろしい兵器の前に、絶対は存在しない。

 

エレベーターに駆け込み、一息をつく。そして、目指すべき階層を押し忘れたことに気づいてボタンを押そうとした時に……

 

一人の男が乗り込んできた。

 

スーツ姿のその男性は、すぐにネクストの格納庫がある階層を押すと、直立不動の体勢をとった。茶色の髪をオールバックにし、鼻の下には整えられた髭がある。その整った顔は険しく、さらに加齢によるものと思われる皺も幾つか見られる。

 

メノは必死に彼の事を思い出そうとする、確か、同じリンクスの筈だ。あの戦争の後に来た人で、名前は、えっと……

 

駄目だ、思い出せない

 

エレベーターが目的地に辿り着く。男は歩きながら、メノに対して状況の説明を行う。

 

「敵集団は10機のネクストACで構成されている。うち9機は恐らく自律型、残りの1機はオリジナルの〝メメントモリ〟だ」

 

オービエさん……か。

確かに、このような襲撃作戦にはうってつけだろう。味方が無人機なら尚更だ。

 

「対してこちらにいるネクストは、君と私だけだ。ノーマル部隊は既に全滅状態。砲台はその半分以上が自律ACによって切り刻まれている。状況は絶望的という奴だな」

 

「…………」

 

「ようするに、我々が奮戦しないとGAは早々とこの戦争から退場することになるということだ。」

 

男は振り返ってメノを見る。

その瞳に迷いはない。いままで見た誰よりも、軍人の目をしている。

 

「どうやら君は、いま再び戦いに迷いを抱いているらしい。だが、敵は待ってくれない。君が力を行使しない限り、我々の仲間達に多くの犠牲が出る。まぁ、その方が戦争全体としては死人の数は少なくなるかも知れないが。」

 

「それ……は……」

 

「迷っている人間には何も出来ない。……大事な者を守ることすらもな」

 

「……どういう、意味ですか?」

 

「君のお義父さんは優しいな、という事だ。会社が連絡を入れたらすぐに飛んで来てくれたらしい」

 

「まさか!?」

 

神父さまが……ここに……?

 

「脅す形になるかも知れない。だがまぁ、君は敵襲を察知してすぐに走り出せる程には軍人が身に沁みている。それなら、これだけの理由があれば戦うだろう」

 

「あの……あなたは……」

 

「ただの粗製だ。憶えておく必要はない」

 

そう言うと、男は自らの機体の元へと近づいていった。

両腕が手の代わりにバズーカ砲になっている、焦げ茶色のサンシャイン。整備員たちの間を抜けて、男はその機体に乗り込む。

 

メノも急いでプリミティブ・ライトに乗り込んだ。整備員に礼を言い、AMSを接続する。

 

視界がリンクした。そして、男の乗り込んだ機体のデータを読み取る。

 

フィードバック……

 

男の機体は、動きだしたプリミティブ・ライトを確認すると、静かにメノに向かって言った

 

「では行こう。これから我々は反撃を開始する」

 

 

 

「来た、ローゼンタールの輸送部隊だ」

 

遠距離からその様子を監視していたユージン・ウォルコットが、姉に伝える。

 

「わかった、まずは護衛を相手にしましょう。輸送部隊はその後でもなんとかなるわ」

 

フランシスカ・ウォルコットが頷く。彼女らがBFFから与えられた任務は、この輸送部隊の殲滅だった。

 

「わかった姉さん。援護は僕に任せて」

 

弟は笑いかける。そう、なんとしても姉は、自分が守る。そういう決意を含んだ笑みを

 

だが、そのすぐ後。ユージンはある事に気づく。

 

「待って姉さん!これは……」

 

「どうしたのジーン?」

 

「護衛の中にネクストがいる。それも……あれは、レオハルトだ。」

 

「ノブリス・オブリージュが……?」

 

ノブリス・オブリージュ。ローゼンタールの最高戦力で、No.4のオリジナルネクスト。

 

「どうするの?」

 

「やろう、姉さん。いまの僕たちの装備でも十分対ネクスト戦はできる。それに、二人なら勝てない敵はいない。……そうだろう?」

 

「えぇ、そうね」

 

「それに、あのランクのネクストを倒すことができたら。この戦争をはやく終わらせることができるかも知れない」

 

ユージンが呟く。そうだ、私たちは早く戦争を終わらして帰らなくてはならないのだ。あの暖かな家へ、あの、愛しきリリウムが待つ家へ。

 

「駄目だと思ったら引いてくれ。僕が前衛をやる。」

 

「わかったわ、ジーン。……なんとしても、帰りましょう。」

 

「うん、じゃあ、行こう」

 

身を隠していたヘリックスⅠが跳躍する。すでに、背中のコジマキャノンの充填を完了していたヘリックスⅡが、ノブリス・オブリージュに対して砲撃を行う。

 

二人は戦う。愛しき者のために、そしてその結晶のために。

 

 

 

「もぉーえろよもえろぉーよ、ほのおよもぉーえーろーーー」

 

狂人は歌う

 

「ひぃーのこをまきあーげー、てぇーんまでこがせーーー」

 

そこは、燃えていた。施設も、テントも、兵器も、機械も、そして、人も

 

「さてさて、これは狼煙の大きさとしてどんな者だろうか」

 

彼女にとって価値の無いものと化したそれらを踏みながら、黄昏は歩く。

 

「まぁ、こんなもんを色んなところで燃やしたら、流石に向こうも対策をうつでしょう」

 

機体が浮かび、もはやここには用は無いとばかりに飛び立った。

 

「楽しみだ。さて、どっちが先に来るかしら。できれば、とっとと本命の方に会いたいんだけど……」

 

そんな言葉を残して、機体は夜の闇の中に消える。

 

後には、炎と死のみが残されていた。

 

 

戦争は始まった。

 

その姿は、少女が知っていたものからかなり形を変えていた。

 

だが、少女は気にしない。いや、そのことを楽しんですらいた。

 

これくらいわけがわからない方が楽しいと。

 

そしてこれくらい滅茶苦茶じゃないと、こっちも動きにくいと。

 

少女は戦う。

 

自分のために、自分が楽しいと思えることの為に。

 

 

後に、リンクス戦争と呼ばれるこの戦いは、未だ始まったばかりである。

 




貴族VSコジマ、貴族は負ける。(例 アルテリア・カーパルス)


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サクラサクラ

なんか適当に頭に思いついたものを書いていたりしてたけど、世にリリほどモノにならなかった。そんな今日この頃。やはり皆様の感想がブースターになってるのかもしれない。そうおもいましたとさ。


インテリオル・ユニオンは悩んでいた。

当初こそ押せ押せムードのだった同社だが、アナトリアの傭兵にグリフォンに侵攻した部隊が殲滅され、発電施設のメガリスが破壊されると、その雰囲気は一変した。

更に今も、ロベルト・マイヤー大橋に展開している部隊が壊滅的な損害を受けている。サー・マウロスクを増援として派遣したが、どうなるかはわからない。

 

さらにもう一つ問題がある。

開戦した次の日から、レオーネメカニカ社を中心とした幾つもの軍事基地が襲撃を受けていた。

生き残った人間の証言により、下手人は例のイレギュラーだと判明した。

 

その手口はいつも同じだ、大型グレネードによる砲撃をいくつか叩き込むとそのまま突撃、ブレードとハイレーザーライフルでもって残る兵隊を潰していくという形である。

 

前線をいくら固めようとも、この不明ネクストはそれを無理矢理突破して基地を襲っていた。

 

アナトリアの傭兵とこのイレギュラー。インテリオル・ユニオンは、この二つのネクストを始末せねば、継戦が不可能な状態になっていた。

 

上層部は、この二人を討伐するためにネクストを投入することを決定した。

まずアナトリアの傭兵に対しては、アルドラのオリジナルリンクスであるシェリングと、もう一人の傭兵、ジョシュア・オブライエンを投入。

 

そして不明ネクストの相手には……

 

 

第14話 サクラサクラ

 

 

「ありゃ、誰もいない」

 

レオーネメカニカ社の軍事基地、前線にいたノーマル部隊を切り捨てて無理矢理突入した私が見たのは、もぬけの殻な基地の様子である。

 

「罠かしら」

 

さくっ、さくっとそこらへんにある施設を踏み潰しながら、周囲の警戒をする。

 

「ふむ、となると戦争序盤から五月蝿くしていた甲斐もあるってものだ。さて、ではどっちが来る?」

 

楽しみだと言わんばかりに少女は椅子にもたれかかった。最近、ノーマルとか通常兵器とかばかりを相手にしていた。無双系のゲームも楽しいが、やはり少しばかり骨のある敵との戦いもやりたかった。サーでもいいが、やはり、私としては、後々のことも考えて……

 

なんだろう、前から思ってたが、やはり少しばかりウォーモンガー入ってきたな。少し血を吸いすぎたかしら。今宵の月光は血に飢えておる……コココココ……

 

何てことを思っていると、レーダーが接近中の機体を捉える。

 

二機……ネクストだ。すこーしばかり心が震える。そしてその機体の情報を見て、さらなる歓喜が全身を襲った。

 

 

「いたぞ、例のイレギュラーだ」

 

レオーネ・メカニカ社の実質的な最高戦力である霞スミカは、僚機に対してそう話しかける。

 

「確認しました。ヴェーロノーク、支援攻撃を開始します。」

 

エイ・プールはそう宣言すると、イレギュラー機に対してASミサイルによる攻撃を開始した

 

「聞かなきゃいけない事が山ほどある。できるだけ生かしておけよ」

 

そう言うと、シリエジオはレールガンを放ちつつ突撃を開始した。

 

 

馬鹿みたいな量のミサイルが降り注ぐ。右に左にQBをかましながら、ヴェーロノークを眺める。

 

マシンガンがあれば即落ち二コマであるが、残念ながら今の私の武装はミサイルをぶち落とすことには向いてない。

 

そしてさらに面倒なのが……

 

「クソレールガンがぁ……!」

 

シリエジオの武装の最大の特徴は、高い弾速と威力を持つレールガンの存在だ。

このファッキン桜色は、このQBの隙間に上手いこと弾丸を当ててくる。

お返しとばかりにカノープスを当てる。効いている様子はない。それなのに向こうは、無理矢理とPAを破ってこちらを削ってくる。全く面白くない。

 

この機体は武装の特性上、シエラジオの事を苦手としている。

カノサワと月光、共に強力な武装ではあるが、どちらもエネルギー兵器である。

高いEN防御を最大の特徴とするインテリオル機が相手では、どうもジリ貧になりがちだ。

うん、そうなのだ。ほんといっつも戦いが長引く。なんでACテストであんなに長期戦やらなあかんのだ。GA系の相手とやらしてくれよ。

 

まぁ、その為のOIGAMIではあるのだが。こんなミサイルカーニバルの中では落ち着いて狙い撃つなんて芸当はまだ出来ない。

 

となると、ヴェーロノークをとっとと排除すべきなのだが、こいつもテルスタイプだ。武器腕だから少しは耐久性が下がっているが、それでも倒し難いのは変わりない。

ならとりあえず、今は逃げに徹するべきだろう。全弾を撃ち切らせて撤退を待つ。これしかない。

 

「せいぜい弾薬費に苦しめ!レオーネが!!」

 

でもあの機体、どう考えても企業なんてバックがあるからこそ許される機体だよなぁ。

企業戦士恐るべし。

 

 

 

三分経つ

 

未だASミサイルは降り注ぐ、弾幕は厚い。

今見ているのは基本的にシリエジオの銃口だ、光った時に回避、光った時に回避。ASミサイルより先にこっちのAPが尽きるなんて笑い話にもならない。

ミサイルを斬り払う、爆風がクレピュスキュールの繊細な肌を焼き、破片が粒子の衣服を傷つける。さらにそんなところにレールガンが突き刺さる。うわぁー、いたぁーい。

 

最高に不愉快である。

 

 

貧乏ゆすりが止まらない。

 

 

 

ゴミ箱を蹴り飛ばしたい。

 

 

 

 

クソが

 

 

 

 

 

クソがクソが

 

 

 

 

 

 

クソがクソがクソが

 

 

 

 

 

 

 

クソがクソがクソがクソが

 

 

 

 

 

 

 

 

クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソがァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

銀キャップによる介護の必要な鉛筆よりも短い私の堪忍袋が尾がブチ切れる。即殺せねば気が済まぬ、なぁにが首輪付きじゃボケェぇぇぇ!!ワシの物語の主人公はワシだけじゃこの裏切りものガァァァァァァ!?!!?!クレイドルを落とせんオペレータぁぁニィィィイイィィィ!!!!??!!生きてる価値なんてないんですよオォォォォォ?!!?!!!!!

 

「去ねやボケがァァァァァァ!!!!!!!!!」

 

空中戦を仕掛けるボケ共を叩き殺すため、近くの倉庫に左前脚部を突っ込み、蹴る、飛ぶ。

 

四脚タイプの唐突な跳躍に、敵二機は面食らったようだ。空中殺法ビル蹴りジャンプ、V系ニンジャにのみ伝わる秘伝である。

 

クレピュスキュールに対し音楽、及びノーロックモードの設定を要求。殺到するミサイル。敵はどちらも元気百倍、こちらのAPは既に20%減少している。某フランスの将軍曰く、状況は最高という奴だ。いや、あっちの方がどう考えても絶望的だな。まぁ、いい。

 

 

 

さぁ、反撃を開始しよう。

 

 

 

「お空のACと洒落込むぞォ!!レオーネの売女どもがァッ!!」

 

曲はGotta Stay Fly。

私めのセルフカラオケでお楽しみ下さい。

 

「All day longじゃゴミ虫共がァァァァ!!!」

 

 

 

「なっ…………!?」

 

不明ACがミサイルを振り切る。戦闘スタイルが変わった。回避を優先したものから、一転一気にこちらを潰す戦い方に変わる。

 

イレギュラーはカノープスを乱射しながら、わたしのシリエジオに突っ込んできた。映像で見た、連続QBによる三次元的かつ不規則な接近。あれは一部の者たちが信じていたトリックや加工されたものでなく、本当のものだったらしい。上に下に右に左に前に後ろにランダムにかわしかわしかわしてかわす。そして確実に、確実に、こちらの喉元に鎌を突き立てるべく死神は歩み寄ってきていた。

 

「ちっ……!」

 

ロックが定まらない、銃弾が当たらない、距離を取れない。先ほどまでも多くの攻撃を回避されたが、あれはまだ理解できるレベルだった。いま、こいつがやってるのは、中身に人間がいるならば、間違いなくトマトジュースになってるであろう機動だ。

 

「シリエジオ!!下がってください!」

 

ヴェーロノークからの通信。空高くから見ている彼女は、こちらと敵の正確な距離を見ることができているのだろう。下がっている。全力で下がっているのだ。だが、ミサイルよりも速い相手からどう逃げろと?

 

「ここまでか……」

 

四脚機がすぐに目の前に現れた。

唐突にオープンチャンネルで通信が流れてくる。耳が割れそうな程の音の嵐の中を、理性の飛んだソプラノボイスが語りかけてくる。

 

「チェックメェイトォ…………!」

 

怒りと、愉悦と、興奮と、快楽が、言葉から滲み出る。

最早両腕のレールガンとレーザーライフルでは如何にもできない距離だ。

 

「桜はよぉぉぉぉ…………」

 

イレギュラーが右腕を伸ばし、シリエジオのヘッドパーツを掴む、ミシミシと嫌な音が響く

 

「散るからよぉぉぉぉぉぉ…………」

 

イレギュラーはシリエジオを地面に向かって投げつけた。ご丁寧にも、落ちる途中に、こちらのメインブースターを撃ち壊してくれるオマケ付きで。

 

衝撃が全身を襲う。メインカメラは破壊され、サブカメラの視界も悪い。背中のレーダーは使い物にならず、最悪なことにミサイルは先ほどの衝撃により誘爆していた。なるほど、だからPAが一瞬で消し飛んだのか。

 

「美しいんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

直後、不明機がこちらを踏みつけた。その一撃でもって、後頭部を強かに打ちつけてしまった霞スミカは意識を手放してしまった。

 

 

「この!この!このォ!!死ねェェ!!!死ねェェェェ!!!!」

 

動かなくなったシリエジオを怒りのままに踏みつける。当初の目的は怒りと共に蒸発した、ここでぶっ殺しても構わないという覚悟である。色々と想定して家から色々持ってきたが、無駄になるかもしれない。

4本の脚でリズミカルにストンプしてると、ふとまだ上に金のかかる女がいた事を思いだす。

が、どうやら動くに動けないらしい。まぁ、あの機体だと誤爆もあり得るからな。

 

優しい私めは彼女に撤退の理由をあげることにした。OIGAMIを展開、狙いをつける。ヴェーロノークはこちらに気づくと、ロックを外そうと回避行動を起こす。

 

そんな無駄な行為をあざ笑うかのように、私は引き金を引いた。

 

有澤製の巨大グレネードの砲弾が、ヴェーロノークの左腕部を丸ごと削り取る。コアは流石に頑丈で、一撃で破壊とはいかなかった。

エイちゃんは、そのダメージをもって継戦不可能と判断したのだろう。ヨロヨロと撤退していった。

 

さて、デカイのを一発かましたお陰でだいぶスッキリした。足元を見ると、綺麗な桜色の鉄屑が落ちている。あ、コアは無事だ。流石に踏み潰すのは無理だったかぁ。

 

ふと、私の中の悪魔が語りかけてきた。

奴はこっちを殺そうとしたんだから、こっちは相手に何をやっても構わないのでは?と

 

そして、天使が語りかける。

殺すのはやめよう。と

 

 

私はシリエジオのコアを引っぺがした。頭から血を流した霞スミカがおねんね中だ。

 

護身用の拳銃を持ち、コアを開き、眠り姫の元に降り立つ。

ふむ、息はしているな。この血は……少し頭の皮を切ったのか。はわわ、かわいそかわいそなのです。いたいのいたいのとんでいけーなのです!

んでもってまず、霞の目をガムテープでぐるぐる巻きにする。その次にスミカの手を拘束し、足もセレンが座っている操縦席に巻きつけた。うーん、ここでエロ同人ならヘイズのパイロットスーツの胸の部分だけ切り裂くのだが、ざんねん!ここはエロ同人の世界ではなく現実です!!そして私は身体はおんにゃのこなんです!!!きゃは!!!

 

霞スミカの腹を思いっきり蹴る。血と唾液の混合液が、私の身体にかかった。これを瓶詰めしたらいくらで売れるかを考えながら、私はかつての戦友に語りかけた。

 

「へぇい彼女、ロシアンルーレットに興味はない?」

 

アルテリア・カーパルスの恨みを晴らす。慈悲は、無い。裏切り者には当然の報いだ。




戦闘を長く書けないという悩み。


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気の強い女は……

現代兵器書きたい病にかかってガリア公国にダイアモンド・ドッグスのS++の兵士が異世界転成するってSSを書いたはいいが、自分でも面白くないと思ってしまう出来になってしまう今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか?

ハインドが活躍するSSほんと無いなぁ……


「なんだ……貴様は……?」

 

地の底から響くような低い声で、霞エリカは語りかけた。寝起き特有の不機嫌というわけでは無いようだ。

 

「全企業の注目の的な、Ms.イレギュラーよ。うふふふふふふふふ」

 

ヤバい、興奮してきた。圧倒的に有利な状況で、気の強い女代表みたいな人間の前で、小物の如く笑えるという現状に。愉快極まりない。やはり、人間たるもの餌の前では舌舐めずりせねばならない。そう、生きる上ではこういう余裕こそが必要なのである。

 

「そぉんなことよりぃ〜。どう?ロシアンルーレットはお嫌い?それならば喜んで今からガッツリやらせてもらいますがぁ?」

 

自分は感情を隠すといった行為が何よりも苦手なので、どうもストレートな物言いになってしまう。

 

「なるほど、噂通りの狂人か……」

 

吐き捨てるように霞っちが言う。は?ワシ狂人だって噂されてるの?あの中で?あの中の中で?わざわざ?狂人?きょうじん?笑わせる。

 

「程度の差こそあれ、リンクスなんざどいつもこいつも狂人だろ?人殺して平気な顔してんだから。けたけたけた」

 

頬を銃でペシペシする。柔らかい。

 

「少なくとも、誰もお前のように殺す事は目的としてないさ」

 

「あーら?私だって全て目的があるから殺してるのでございますことよ?」

 

「……そのふざけた口調を止めろ」

 

あーら、怖いでありんす怖いでありんす。この人怒ってるでござまんし。

 

「スゥミカちゃぁ〜ん!そんな怖い表情しないでぇ〜!目は見えないけど睨まないでぇ〜!!わたちぃー、震えておもらちしそ!」

 

「その口を止めろと……」

 

「そんな事より」

 

黙れという言葉の代わりに、銃口を霞の口に突っ込む。

あぁもう、腕がもう一本あれば、このよく見たら余り手入れのされていない黒い御髪を撫でる事ができるのに。ジャンヌちゃん大失態!てへ!

 

「答えないんならお好きという事で良いんですね?ロシアンルーレット」

 

てめぇの答えなんざ聞いてねぇよとばかりに言葉を続ける。こちとら前々からやってみたかったシチュエーションが目の前に来て涎が止まらねぇんだ。

ガチガチとスミカの口内で銃を揺らす。少しだけ、彼女の表情が恐怖に歪んだ。かわいい。

 

「ではルール説明をおば。まぁ簡単よねぇ、ここにありますは何の変哲もないリボルバー式の拳銃。入っている弾は一発だけぇー。」

 

銃を口の中から取り出し、ギュルルンギュルルンとシリンダーを回す。

 

「この拳銃を今から貴女のその可愛らしい頭に向けて五発撃ちまーす。もしそれで幸運にも銃弾が出なかったら、私は貴女を殺す事をやっめようとおっもいまーす!!」

 

私の心の声が「うわーなんてやさしいんだー」「天使だー天使だー」と棒読みで言ってくる。

 

「それは……」

 

ガチッ……と乾いた音が響いた。

その音が聞こえた途端、霞スミカは口を閉じる。

 

「いっぱーつ。六分の五は流石に成功するかー」

 

「あぁそうかい、本当にこっちの話を聞こうって気は無いんだな……!」

 

霞っちは怒り心頭っと言った感じだ。この拘束を解いたら牙を剥いてこちらに襲いかかっくるだろう。

 

「そだよぉーん。私はお客様のニーズにあわせた対応ってのは苦手でしてぇー」

 

物事は何事も、自らの脳内の台本通りに進めたほうが楽極まりない。

 

「では二ハーツメー。ゴッブンノヨーン!!」

 

カチッ。これも外れだ。

 

「あらあら、運が良いこと。オリジナルって凄いんでしねー」

 

「ふん……」

 

あら、あらあら。スミカっちゃん。目を瞑ってこちらに反応見せないようにしてらー。下手な抵抗はこっちを楽しませるだけだと気付いたかー。つまんなーい。わちきつまんなーい。

 

カチッ、カチッ

 

というわけで二連続でトリガーを引く。スミカの口元が少しだけ歪んだように見えた。

 

「けっ、四分の三も三分の二もスカかぁー。残念ー無念ーササニシキー」

 

「…………」

 

チッ、本格的にマグロになりやがった…こちらの顔を見せないためとはいえ目隠ししたのはやはり失敗だったか。表情が楽しめない。これが下手なエロ同人なら透けてどんな目をしてるかわかるのに。

 

「へぇーい、霞っちノリ悪いー。何か言っとくれよー。そんなんじゃ友達できないよー」

 

「……さっさと殺せ。」

 

あ!これ進研ゼミで見た奴だ!姫騎士霞!対魔忍スミカ!くっ殺!くっ殺!オーク!オーク!ブヒー!ブヒー!フゴ、フゴゴゴゴ!!

 

「フッゴッゴ……!そうかー、さっさと終わらせて欲しいかー。しゃーないなー。」

 

まぁ、泣き叫ばん相手にこれを続けてもしょくがない。

 

どうせ、霞ルートにおいてこれはまだプロローグなのだ、私という主役兼シナリオ書き兼読者も飽きてきちまってるし、パパパッと終わらせよう。

 

「じゃ、二分の一いっくよー!」

 

本当なら、ここで1000万かかった時のセクハラおじさん級に引き延ばす筈だったのだが。かるーい感じで引き金を引く。

 

カチッ

 

「こんぐらっちゅれーしょん!!おめでとー!!霞スミカさん!貴女にはこれからも楽しい楽しい人生を送るとこができまーす!!ぱちぱちー!!」

 

右手はチャカを持ってるし、左手は無いしで拍手は出来ないが。エア拍手ならできる。

さてさて、やっとのことで死の恐怖から解放されたスミカちゃんにインタビューしてみましょう!

 

「じゃ!生き残った感想を一言!」

 

「……」

 

おうおう、目隠しされながら睨むな睨むな。この美少女がおしょんしょん漏らしちゃってもいいのか?

 

「……ふん、飽きたんならさっさと帰るんだな。だが、次にあった時は何としてもお前を倒す」

 

あー、そっかー、ばれたかー、飽きたことバレてたかー、失態だなー、私としたことがー。

 

「うふふー、そだねー、ゴメンねー、スミスミー見たいな反応無い子だと全然楽しくなくてー」

 

拳銃をもてあそびながら、言葉を続けていく。

 

「じゃ、わちきこれで帰るからー。そこで助けが来るの待っててねー」

 

そう言って私は、スミカの頭に向けていた手を下ろし……

 

 

 

 

 

 

 

 

スミカの腹に向けて拳銃を一発撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……」

 

あ、血ー吐いた血ー吐いた。

 

「なに……を……」

 

「殺さない……とは言ったけどさー」

 

さてさてここでネタバラシです。

手も足も縛られ、身体を硬くして出血を止めようとしているスミカの耳元でささやく。

 

「撃たない、とは言ってないよね?」

 

ちなみに、最初っからこの展開にする為に弾は出ないようにしてました。

 

けたけたけた、と声をあげて笑う。あぁ楽しい。少しばかり安堵しちゃってたもんねー、安心してすこーしばかり弛緩してたもんねーしょーがないよー!

 

けたけたけた。あぁ楽しい。けたけたけた。凄い楽しい。

 

「このォッ……外道がッ!!」

 

「なぁに敵の言うてること頭の横で少しばかり信じてんのさースミカー。案外甘い女だねースーミカー」

 

もひとつおまけにけたけたけた、と笑ってみせる。

そう言う間にも、スミカのお腹からどくどくと赤黒い液体が流れ出てくる。おうおう苦しそうな顔してるねー。きゃわいい!

 

「でも良いとこに当たったねー、ここあれだよねー、赤ちゃんのお部屋だよねー」

 

拳銃をしまい、流れ出る血を指で触れ、嗅ぐ。

あー、キク。こいつぁーキクよ。ソーセージに混ぜたらなかなかのコクが出そうだ。

そして更にお腹を撫でる。んー、良い腹だ。筋肉が詰まってる。もしも子供が宿ったら窮屈だったろうねー。

そんな未来は、おそらく来ないだろうが。

 

「ま!いっか!どうせコジマ漬けの女が子供産めるわけ無いんだし!ノーカウントだ!ノーカウント!!」

 

ごめんなパッチ。多分お前未来でこのセリフ言っても首輪付きのオペちゃん許してくれないと思う。

ま、ハードならちゃんと戦うし大丈夫っしょ!

 

「殺す……!何としても……お前は私が殺すッ!!」

 

「止めときなよー、復讐はー、なにも生みませんからーー」

 

「このォッ!!」

 

ガタガタと操縦席が揺れる。すげぇ力だ。怒りの馬鹿力という奴だろう。

 

「じゃ、そゆことで!わちき帰るから!あ、もうあんたらの敷地襲わんから許してちょんまげってお上に伝えといて!じゃね!またね!戦場とかでまた会おうね!」

 

「待てッ……!グッ……」

 

背中にありとあらゆる罵声が降りかかる。それらを全て無視して、クレピュスキュールの元に戻った。

 

『高エネルギー反応接近中、約五分で作戦領域に到着予定』

 

「おっとっと、インテリオルめ救援をよこしやがったか。まぁ、最精鋭だからしょうがないのかもな。」

 

急いで出発準備を整える。楽しかったしこれ以上たたかうつもりはない。帰ろう、帰って寝よう。うん、それがいい。

 

「OK、離脱しよう。」

 

ブースターを機動、横目でゆっくりと広がる血だまりを見る。うーん、苦しそうだ。頑張れよという気持ちも含め、彼女に対して投げキッスをする。

 

「それではみなさん、さよーならー!!」

 

バイバイと手を振り、離脱する。

さてさて、帰って次の戦場を考えるかー。

 

 

 

 

 

 

目を開く、そこにあるのは白い天井

 

身体が重い。少し頭を上げてみる、白衣に着替えた自分の身体がそこにあった。

 

なんとか生きていたらしい。ボヤけた視界の中で看護士達が、ドクターに伝えろと言っているのが聞こえる。

 

そうか、生きていたか。なら、あの女に復讐ができる。

が、どうも、頭がはっきりしない。

少しばかり、目を瞑る事にした。

 

 

次に目を開けた時、目の前には見知った男がいた。

レオーネの参謀将校だ。常に冷静な男で、焦った姿は一度も見た事がない。自分の直属の上官でもある彼は、複雑そうな視線をこちらにむけてきた。

 

「なんとか生きていたようだな。」

 

人払いをしているため、周囲には医者も看護士もいない。男とスミカ、二人きりだ。

 

「ネクスト二機での作戦で失敗したんだ、言い訳をするつもりはない。降格でもなんでも、罰は甘んじて受けるつもりだ。」

 

そうだ、そもそも自分はそのような地位や名誉や政治などに興味はない。

戦いを渇望していたから、だから私はネクストに乗っているのだ。

 

「だが……あのイレギュラー……あいつは私が……」

 

「すまないが霞、その願いは叶えてやれそうにない」

 

淡々とした男の言葉に、スミカは驚いて視線をそちらに向けた。

 

「それは……どういうことだ?」

 

「理由は二つある。一つ、インテリオル・ユニオングループは本戦争からの完全撤退を決定した」

 

「なんだと!?」

 

思わず叫んでしまう。下腹部が痛むが、気にもせずに言葉を続ける。

 

「まだ、戦争は序盤の筈だ。なぜ撤退などと……」

 

「ロベルト・マイヤー大橋にてサー・マウロスクが落とされ、さらにドルニエ採掘基地を襲撃したシェリングもアナトリアの傭兵にやられた。上層部はこれ以上の戦争継続は不可能と判断し、秘密裏にGAやローゼンタールと停戦交渉を開始した。インテリオル・ユニオンはこの賭けに負けたんだよ」

 

「あの二人が……?」

 

どちらも、スミカよりもナンバーは上のリンクスだ。その二人がやられたということは、アナトリアの傭兵というのはこちらの想定以上の腕利きだったということだ。前時代の化石だと笑っていたあの男がそれに落されたというのは、なんとも皮肉な事だが。

 

「会社の独立は守れる筈だが、その代わりにネクストに関しては大きな制約をかけられるのは逃れられないらしい。対イレギュラーの作戦とはいえ、出撃するのは難しくなるだろう」

 

「ならば……私は今からレイレナードやアクアビットに移籍するよ。あの女を……なんとしてもあの女を……」

 

「完全撤退と言っただろ?それに、だ。もう一つ理由は残っている」

 

「もう一つ……?なんだ、それは」

 

もはや、上官に対する態度などを見せられるほどの余裕をスミカは持ち合わせてなかった。男もその様子を気にしてはいない。参謀将校は、ノーマルではあるが元AC乗りで、この時の彼女の気持ちが理解できた。

 

だからこそ、もう一つの理由を説明することを少しばかり躊躇った。

 

男は、深く息を吸うとしっかりとスミカの方を向いて、言った。

 

 

 

 

 

「残念だが、君はもうネクストに乗ることは出来ない」

 

 

 

 

 

この怪我人の、どこにそんな力があったのだろうか。男は表情を変えずにそう思考した。

 

「どういうことだッ!?」

 

飛び起き、男の胸倉を掴んだスミカが血走った目でもってそう叫ぶ。

 

「そのままの意味だ、イレギュラーの放った銃弾は、君の内臓だけでなく背骨にも損傷を与えていた」

 

あくまでも淡々と、この錯乱した元パイロットに事実を伝える。

 

「検査の結果、ネクストのような大きな負荷のかかる機体に乗ることはもう許可出来ないらしい。」

 

「何が検査だ!!私はこうして生きているんだ!!まだ乗れる!!あいつに復讐ができるッ!!!」

 

「君は優秀な人間だ、パイロット以外にも会社の為に奉仕する方法はある」

 

「そんなものッ!!私には……私にはッ……!!」

 

大きく見開かれた目からポロポロと雫が溢れている。

 

男は一度大きくため息を吐くと、そのまま立ち上がった。胸を掴んでいた手は抵抗なくそのまま床に落ち、スミカは力なくうずくまり、泣いた。

 

「……こんな状況だ、上官への暴行は不問にしておこう。だが、ヤケにはなるな。奴へのリベンジの手段は残っている筈だ。」

 

スミカは答えない、ただ、声にならない嗚咽のみが聞こえる。

 

「君はまだ若い。その事をよく覚えておけ。」

 

そう言って、男は部屋から出て行った。

 

 

静寂が戻った。すぐに、看護士たちが戻ってくるだろう。

霞スミカは、ゆっくりと顔を上げた。その顔には、鍛えられた軍人でも震え上がらせるほどの怒りと憎悪が見える。

 

「殺す…………」

 

そうだ、なんとしても、あのふざけたおんなを、わたしは、ころす、ころす、ころす、ころス、コロす、コろス、コロさねバなラナイ。コロサネバナラナイ。アノオンナヲコロサネバナラナイ。

 

真っ白な病室の中で、一人の女が復讐に囚われる。

 

その事を知ってか知らずか、気狂いは輝く笑顔でもってゲームを楽しんでいた。

 

「はっはっは!!無駄なんだよぉ〜サンズぅ!!人類モンスター全ての想い程度じゃ私の〝決意〟は挫けないんだ!!」

 

 

 

多くの血が流れる。だが、殆どの者は、未だ剣を納める気配はない。

リンクス戦争は、まだ始まったばかりである。

 

 




狂気が足りないのでテンション上がったら書き直すかもしれません。


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疾駆する山猫達

私の中で、本作品がその場の思い付きで進行しているということの象徴となる話になりました。本話だけで数キャラくらいのその後の生き死にの運命が変わった。

これ、AC4編が完成したら一回全話形整えた方が良いかもなー。


西ヨーロッパ、旧イタリア領のパルマコロニー付近に存在する野戦基地。そこのテントにて休んでいたメノ・ルーは、孤児院から来た手紙に目を通していた。

 

神父様の怪我はもう良くなったらしい。怪我と言っても避難の際に転けてしまった為のもので、重いものではなかったのだが、心配していたメノはその報告にホッと息を吐いた。

 

開戦して三ヶ月が経った。欧州にてオーメル社と協同で作戦を行っていたメノ達は、この地にて大きな戦果を挙げていた。

 

アクアビット陣営の軍事インフラの二本柱。その一つであり、GA社にとっては天敵とも言えるエネルギー兵器を主兵装とするインテリオル・ユニオングループは、この戦争において勝利する為には早期に叩いておく必要があった。

 

GA社とローゼンタール社は、インテリオル・ユニオンを構成する企業を集中的に叩いた。対BFFやアクアビットだけで無く、目の上のたんこぶである対レイレナード前線に配備される筈だった戦力をもインテリオル・ユニオンに向け、その早期脱落を目指し行動をしていた。

 

メノも、その対インテリオル・ユニオン作戦に従事していた。ここで、彼女は一機のネクストAC撃墜を成し遂げていた。

レ・ザネ・フォル。移動要塞ともあだ名される彼女の愛機との戦いは一瞬で決した。

 

楽勝というわけではなかった、プリミティブ・ライトは半壊し、基地へと戻るのもやっとという状況だった。

 

彼女も、かつて共に戦った事のある戦友だ。どんな時も冷静な人だった。顔も、声も、ハッキリと思い出す事ができる。だが、それらの幻想を振り払って、メノは引き鉄を引いた。

 

迷いは判断を鈍らせる。迷いを抱かないため、覚悟を持つ為、彼女は孤児院からの手紙を読んでいた。

血の繋がっていないきょうだい達の言葉は、自分にとっての生きる理由に、戦う理由になっている。皆を悲しませない為に、私は生き続けないといけない。そして、いまの彼女にとって生きるということ戦うという事だった。

 

ふと、昔読んだある例えを思い出した。暴走する路面電車の例え、5人を轢くか1人を轢くかを選ぶ例え。小さかった自分は、これを選ぶ事は出来なかった。だが、今は進んでその答えを出している。私という1人を救う為に、何千もの人を殺す。

 

手紙を読み終えたメノは、それらをカバンの中にしまうと、持ってきた十字架に向けて祈りを捧げた。

自分が手をかけた人間に向けたものだ、日課にしているこの行為は、しかしルーチンとはならず、彼女はいつも真摯な姿勢でこれを行っていた。

 

「メノ、いま入っても大丈夫か?」

 

それを終えて彼女が立ち上がると、後ろから声がかけられた。

振り返ると、テントの前に人が立っている。

 

「はい、どうされたのですかローディーさん」

 

かつて粗製と呼ばれていたこの男は、メメントモリの共同撃破以来、メノと共にGAにとって掛け替えのない戦力と認識されるようになっていた。

コジマ防護服に身を包んだローディーが入ってくる。気のせいか、顔はいつもよりも厳し見える。

 

「すぐにここを出る、最低限の荷物だけまとめてプリミティブ・ライトに乗れ」

 

「どうしたんですか?」

 

男の突然の言葉に、いったい何があったんだとメノは尋ねる。

 

「インテリオル・ユニオンがこの戦争から脱落した、それは聞いてるな?」

 

「はい、ですから今週の内にはドーバ戦線へと移動になると……」

 

「それに対し、レイレナードが報復部隊を送った」

 

「報復……?」

 

「鴉殺しの部隊だ、どうやら、ブラインドボルドが奴らにとっての5機目の獲物になったらしい」

 

「ヤンさんが!?」

 

レイレナードのリンクス、アンジェと真改の2人で構成された特殊部隊の噂は、メノも聞いていた。対ネクストに特化した精鋭部隊。息の合った2機のコンビネーションは、BFFのウォルコット姉弟と共に兵士の間で恐怖と共に語られる存在だった。GAでも、有澤重工のワカが襲撃されていた。乗機の頑丈さもあり、彼はなんとか生きていたが、それでもこの戦争の間には完治しないであろう重傷を負っている。

 

「その後、スプリットムーンはオーメルの基地へ向かっているらしい。狙いは、間違いなくアンズーだろう。そしてもう一機、オルレアはこの基地に向かい移動を開始した」

 

「アンジェさんが……」

 

「鴉殺しが相手だ。グローバル・アーマメンツ社は我々の手に余ると判断した。機体の準備はいま急ピッチで行なわれている。他の部隊もすぐに撤退を開始するだろう」

 

「そう……ですか。なら、すぐに出ます」

 

とは言っても、メノは余り荷物は多くない。先程読んでいた手紙に聖書と十字架、それに下着や着替えの類だけだ。どれもこれも基本的にカバンの中に入れたままなので、用意はすぐに終わった。

 

ローディーと共にテントを出る。兵たちは慌ただしく走り回っている、既に幾つかの部隊は出発の準備も出来ているようだ。目の前に止まっているジープに乗り込み、ネクストの整備場へと向かう。

車の中には、メノ用のコジマ防護服が入っていた。それに着替えながら、ローディーと話を続ける。

 

「だけど、粛清だなんて……」

 

「噂だが、アルドラの中で一部の者がこのままこちらの陣営への鞍替えを考えたらしい。」

 

「噂程度でですか?」

 

メノが訝しげに尋ねる

 

「火の無い所に、とも言う。まぁ、この一撃でそんな話も吹き飛んだだろうがな」

 

車が到着し、プリミティブ・ライトとフィードバックが並んで置かれている大きなテントに入る。コジマ汚染の除染や封印が満足に出来ないこの様な場所では、ネクストは必然的に離れた場所で整備を行う事になっていた。

 

「出発の準備は既にできています!」

 

ネクスト整備員の士官が、到着したメノ達に向けて叫ぶ

 

「ご苦労さま、君達はこれからどうするんだ?」

 

「2人が出発し次第、我々もヴァローニュの基地に移動します」

 

「わかった、その時はまた宜しく頼む」

 

「すいません、ありがとうございました」

 

メノが頭をさげると、いえいえ良いですよと整備員が手を振った。

 

「さぁ、早く出てください。すぐにでも出なきゃ鴉殺しが……」

 

『警報、警報、マッターホルンレーダーより緊急入電。BFFの長距離爆撃コマンドがアルプス山脈を超えた。VTOL機及び対空装備を持つ部隊はすぐに迎撃準備を行え。残りはただちに移動を開始せよ。繰り返す、マッターホルンレーダーより……』

 

「なるほど、向こうも連携を取ってきたか」

 

恐らく、足止めの部隊だろう。1分1秒を争うこの状況でこの類の攻撃は嫌になる程有効だ。

 

「バズーカをガドリングに換装してください、私も迎撃を行います」

 

「了解しました、すぐに」

 

整備員が走り出す、武装を変更するだけならすぐに終わるだろう。

 

「BFFめ、焦らないでも次はそっちの番だというのに」

 

ローディーは表情を変えずにそう言い、フィードバックへ向かい歩き始める。メノは、一度大きく何かを振り払うかのように頭を振ると、プリミティブ・ライトへと駆け出した。

 

 

 

「クソッ……姿が掴めん」

 

ノイズだらけのレーダーに唾を吐きたくなるのを抑え、クレパスの中で息を潜める。

コジマ濃度の高さからPAが意味をなさないというのはブリーフィングで聞いていたが、この馬鹿みたいなECMは想定外だ。

 

「無線も出来ん。逃げるにも敵は狙撃型……頭を出せばそれまでか……」

 

BFFのネクストとは何回かシミュレーターでやった事があるが、実戦だとここまで面倒だとは思っていなかった。

 

「こんな戦いばっかやってるからスナイパーは嫌われるんだよ」

 

言葉を吐き捨てる。現状はまさしく蜘蛛の巣に絡まった哀れな羽虫だ。この装備は遠距離の相手と相性が悪い。損害覚悟で突っ込んでも、PAが無い今はその一撃が致命傷になりかねない。

 

とりあえず、どう行動するにも射手の位置を特定せねば動けない。

使い古された手だが、試さないよりはマシだろう。

マシンガンを地表にそっと出す、さて、かかるか……?

 

乾いた発砲音が響く。銃弾は空気を切り裂き、マシンガンを出した場所から一m近く離れた場所に着弾する。

どうやら、だいぶ離れた場所から攻撃しているらしい。恐らく、射程ぎりぎりからの攻撃だろう。

 

「慎重も過ぎればただの臆病だぞ」

 

着弾した角度から、おおよその位置を割り出す。最初のブリーフィングで見たこの辺りの立体図を思い浮かべ、確かあのあたりに狙撃に最適な丘があったなと目星をつける。

 

さて、ならば……。ふと、一つ作戦を思いついた。上手くいくかはわからないが、まぁ、ここで氷漬けになるよりはマシだろう。

 

ブレードを展開、目の前の氷へと突き刺す。その熱量により一気に水蒸気へと昇華した目の前の氷壁を見て、溜息を吐きながら男は進み始めた。

 

「まるでモグラだな、こりゃ」

 

 

ザックザックと氷を斬り続ける。既に5時間以上経過していた。これだけ時間が経てば移動しているかもしれない。その時はその時だ。

 

「お?」

 

手応えが浅い。壁を思いっきり蹴ってみると、氷が崩れて外が見えた。足元には海が広がり、空は未だに闇の中。

 

さて、上手くいったらしい。なんとか狙撃手の注意から脱する事ができた。

ここからは時間勝負、息を吸い。集中力を研ぎ澄ます。

 

定着氷の外縁を飛び、なるべく丘に近い場所まで身を隠しながら進む。

いつ気づかれるかわからない。相手はオリジナルだ、臆病者とはいえ舐めないほうが良いだろう。

 

機体の速度と記憶の中の地図から、おおよその位置を計算する。

ここか?とあたりをつけた場所でブースターで一気に飛び上がった

 

「ここだったか……なぁ!」

 

ビンゴ、間抜けな事に未だにクレパスを眺め続けるバカがいた。

 

OBを機動、一気に接近する。

と、その音でやっと気がついたのだろう。驚いたように旋回し、こちらを向く。

だが、遅い。この機体は機動力と剣での一撃に特化したアセンブルとチューニングを施している。

 

「お……?」

 

敵ACがブレードを構える。どうやら接近戦を挑むらしい。

 

「接近戦の備えがあるのは良いが……」

 

敵の脚部を思いっきり踏みつけ、ブレードを構える左腕をおさえる。

 

「その腕じゃあ俺は斬れないぞ」

 

渾身の突きを敵ACのコアに食らわせる。PAの手応えもなく、まるでバターでも斬るかのようにするりと刃が入る。

糸の切れた操り人形のように、敵ACが力無く項垂れる。

 

「スナイパー対策もやるべきかもな」

 

終わってみれば呆気なかったが、それでも苦戦したことは間違いない。このような開けた場所でスナイパーを相手にする時の事も考えておいた方が良いだろう。

 

さて、敵ACを討ち取った証明に、肩部に貼られたエンブレムを切り取る。

 

「レッドキャップねぇ……まぁ、嫌らしい戦い方ではあったな」

 

男はそう言うと、まずECMの環境下から逃れるために飛行を始めた。この後は、レイレナードからの依頼がある。貧乏暇なしとはよく言ったものだ。

 

「さて、次はローゼンタールが相手か……」

 

そう呟くと男は、すぐに次の戦場へと意識を切り替えた

 

 

 

「アンシールがやられたか」

 

「時代遅れ……か」

 

「何がだ?」

 

レイレナード本社、ベルリオーズの部屋には主の他に出撃から帰ってきたばかりのアンジェの姿があった。既に外は暗いが、エグザウィルはどの部屋も灯りがついていた。

 

「あの男がレイヴンに対して言っていた言葉だ。まぁ、奴らしい言葉ではあるな。」

 

コーヒーを飲み干し、アンジェがそう吐き捨てる。そしてベルリオーズを見ると、仲間がやられたとは思えないほど楽しいそうに言った。

 

「しかし、大活躍だな。お前の友は」

 

「あぁ、彼一人の活躍でこの戦争は誰にも予測出来ないものになっている。どの会社も、使い勝手の良いジョーカーとして彼を雇おうと必死だ」

 

「どこにも属さず、ただその力のみで自らの存在を守り続ける。かつてのレイヴンそのままだな」

 

「血が騒ぐか?」

 

「騒ぐ、が。今は抑えよう」

 

アンジェが口元だけで微笑む。彼女の目からは闘志が溢れているのをベルリオーズは見逃さなかった。

 

「今、彼はローゼンタールの部隊を追撃している。ネクストも含まれた部隊だが、まぁ、楽勝な内容だろう」

 

「酷い話だ。私達より働いてるんじゃないのか?」

 

「休暇なら戦争が終わった後にまとめて取ると笑っていたよ。」

 

「成る程、なら、私もそろそろ休憩を止めにするか」

 

さて、とアンジェが立ち上がる。

 

「もう出るのか?」

 

「あぁ、面倒な報告書も出したしな。メノ・ルー達を逃しておいて本社でのうのうとしているのも性に合わん」

 

「なら、アンデスに向かってくれ。そこにレイレナードへ加わりたいと言っているリンクスが戦っている。彼の救援に向かって欲しい」

 

「アンデス……あぁ、例のゴキブリ男か」

 

「腕は確かだ、そんな言い方は良くない」

 

「褒め言葉だよ、あのしぶとさは見習いたい程だ」

 

そう言いながら、アンジェはベルリオーズの部屋から出て行った

 

報告書を見る。アルドラのヤン、オーメルのパルメット。ここにあのメノ・ルーの名前が載っていないのは意外だった。読み進めていくと、もう一人のリンクスによって足止めを食らったと書いていた。

 

「あのローディーという男、どうやらどの企業も見誤っていたらしいな」

 

この戦争では、低いAMS適性のリンクス達の活躍が目立つ。彼しかり、このローディーしかり。

結局、ネクストの価値を決めるのは腕という事なのだろうか。

 

「この戦争はどう転ぶのだろうか」

 

彼らを含め、この戦争には不確定要素が多すぎる。インテリオル・ユニオンの早期脱落など、誰が予想できただろうか?もし、これでBFFまで脱落してしまえば、まちがいなく、我々は負ける。

 

そのBFFには、現在不穏な動きがある。No.5の温存などがその最たるものだ。あの女帝に限って、戦場へ行く事を渋るなど考えられない。何か、何かBFFの中で起こっている。

 

最早、自分の命という駒ではどうにもならない状況になっていた。レイレナードの解体という最悪の場合も考えておいた方が良いだろう。

 

ベルリオーズは椅子に深くもたれかかり、天窓から夜空を眺める。

 

彼は、その景色へ向かって手を伸ばした。

 

「宇宙……か」

 

ベルリオーズは何かを決心したかのように内線の受話器を取る。

 

「すまん、オッツダルヴァへ伝えてくれ。クローズ・プランはフェーズ0へと移行した。と」

 

受話器を置き、息を吐く。本当なら、彼には宇宙へ行く最初の男となって欲しかった。

 

「大人が成せなかった夢を、子どもへと受け継ぐ……か。全く、なんと無責任な」

 

ベルリオーズはそう呟くと、ゆっくりと立ち上がる。

 

種はまいてしまった。ならば、その種が成長しやすいように土壌を整えねばならない。

 

部屋の灯りを消すと、彼はシュープリスの待つ格納庫へと向けて歩き出した。

 

 

 

「すいません、私です」

 

「イアッコスか……。構わん、入れ」

 

旧アーガイル・アンド・ビュートに存在するビル。イアッコスと呼ばれた細身の男は、その言葉を聞くとゆっくりとドアを開いた。

そこには、スーツを身にまとった一人の男がいた。既に年齢は老年に差し掛かり、頭の殆どが白髪へと変わっているこの男は、一見すると気の良い好々爺のようにも見える。だがその目は未だに鷹のように鋭く、気力に溢れていた。

 

「失礼します。アンシールの件についてです」

 

「どうなった?」

 

「アナトリアの傭兵は見事、あの男を撃破しました」

 

「そうか……」

 

くっくっく、と楽しそうに老人は笑う。

 

「あの小僧、腕だけは確かだったが。流石はレイヴンと言った所か」

 

「えぇ、ウォルコット姉弟もスウィア防衛の為に動けません。事を成すなら今かと」

 

「あぁ、レイレナードから援軍なんて来たらまた面倒な事になるからな」

 

老人は、一度だけ目の前に置かたブザーを鳴らす。するとイアッコスの後ろの扉から一人の女性が出てくる。

 

「アレを流せ、相手は決めていたままで構わん」

 

「了解しました」

 

一礼をし、女性は去っていった。その後ろ姿を見送ると、イアッコスは再び老人の方を向いた。涼しい顔である、自分の会社を売ったとは到底思えない。

 

「やはり、GAに?」

 

「あぁ、新生BFFを育てるには、あの資本力が必要だ。ちょうど、向こうは新しいヨーロッパへの窓口を探している最中だ、利害の一致だよ」

 

「なるほど。で、その新しい象徴はシェリー様だけなのですか?」

 

「いや、もう一つ必要だ。BFFをこれまで以上の組織にする為には」

 

「……例の、ウォルコット家の」

 

「あぁ」

 

その言葉を聞いて、イアッコスはわざとらしく息を吐いた。

 

「あの姉弟も頑なでしたな。あの強情ささえ無ければ、彼女らも生き残ることはできただろうに……」

 

「実の娘だ。やはり、大事なのだろう」

 

「……あの噂は、やはり真実で?」

 

対して驚きもせず、イアッコスが尋ねる。老人は頷くと、カーテンの閉まった窓を眺めながら言葉を続けた。

 

「間違いない。そもそも、私とウォルコット家の先代は古くからの友人でね」

 

「あぁ、そうでしたか」

 

「あの事故の2日前だったかな。忌々しそうに語っていたのを今でも覚えている」

 

「それはそれは……あれほどの美少女になるのも納得ですな」

 

「監視はどうなっている?」

 

「順調です。戦争が始まったせいで警備は厳しくなっていますが、そのお陰かあの隻腕の仔猫はもう出て来ていません」

 

「そうか。」

 

「……本当に、放っておいても良かったのですか?あれがイレギュラーになる可能性も……」

 

「構わない。どうせ、あと数ヶ月もしたら別の檻に入る事になるんだ。その前に友達と楽しい時間くらい過ごさせてあげようじゃないか」

 

老人が笑う。だがその目には、少しも優しさは見えない。

 

「わかりました。あぁそれと、同業者についてはどうします?」

 

「それもそのままだ、私達の存在を気取られてはならない」

 

「了解しました。それでは……」

 

一礼をし、イアッコスが退室をしようとする。

その後ろ姿に、老人は言葉をかけた。

 

「すまんな、イアッコス。便利屋のように使ってしまって」

 

「いえ、傀儡とはいえBFFの社長の椅子に座れるのです。これくらいの苦労は何ともありませんよ」

 

パタリ、と扉がしまる。

その背中を見送ると、老人は立ち上がり、カーテンの隙間から外を見た。

其処には、出港しようとするクイーンズ・ランスの姿があった。

 

「あの馬鹿馬鹿しい艦でも、見納めとなると少し寂しいものがあるな」

 

そう言うと、彼は再び椅子に座った。そんな感傷に浸る時間も、今は惜しい。

オリジナルのNo.8、王小龍の目の前には、膨大な仕事が積み重ねられていた。戦後の絵図を書く為に、新生BFFの繁栄の為に、彼はその仕事に取り掛からねばならなかった。

 

 




勝手にキャラが動くので、これもうどうなるかわからないなって顔してる。


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おまけ壱 16話終了時点での各陣営のリンクスについてのあれこれ

脳の整理代わりに書いたものを投下。


レイレナード・アクアビット陣営

 

No.1 ベルリオーズ

レイレナード陣営最高戦力。開戦時のゼクステクス世界空港襲撃以降は、主にアメリカ大陸において作戦行動を行っている。

タイラントを撃破。その他も多くのノーマル、及び通常兵器を破壊している。

 

No.3 アンジェ

No.33の真改と共に、高速ステルス機を使用した対ネクストの特殊作戦を世界各地で行っている。

リバードライブ、車懸、カノン・フォーゲル、ファイバーブロウ、ブラインドボルドを協同撃破。

 

No.5 メアリー・シェリー

BFF社の最高戦力。同社の兵器開発方針を決定付けた狙撃の天才。しかし、開戦以来殆ど戦場には出ていない。

 

No.7 テペス=V

アクアビット社最高戦力。強力なコジマ兵器を使用した軍需工場への爆撃等を主任務としている。

 

No.8 王小龍

BFF社軍部の重鎮。本戦争には参加せず、BFF社内にて暗躍する。

 

No.9 サー・マウロスク

ロベルト・マイヤー大橋防衛戦において戦死

 

No.11 オービエ

ビッグボックス強襲作戦において戦死

 

No.12 ザンニ

現在北欧戦線においてアクアビット社と協同し、ローゼンタール社との戦闘を行っている。

 

No.14 シェリング

ドルニエ採掘基地防衛戦において戦死

 

No.15 アンシール

サイオン湾における戦闘で戦死

 

No.16 霞スミカ

レオーネ・メカニカ社の最精鋭戦力。同社の軍事基地を襲撃したイレギュラー討伐の為出撃するが撃破される。その時に受けた傷により、ネクストの操縦が不可能となった

 

No.18 スティレット

ミラノ要塞防衛戦において戦死

 

No.19 フランシスカ

BFFの実質的な最高戦力。各地のBFFの重要施設の防衛や、移動中の敵部隊へのアンブッシュ作戦等に従事している

ノブリス・オブリージュを協同撃破

 

No.20 ユージン

姉、フランシスカの支援を主な任務としている。現在はBFFの特殊ノーマル部隊、サイレント・アバランチと共に大規模コジマ施設〝スフィア〟の防衛を行っている

ノブリス・オブリージュを協同撃破

 

No.21 P.ダム

アクアビット社所属のネクスト。テスタメントとの交戦により負傷。現在短期の休養中。

 

No.22 ミセス・テレジア

GAE所属のリンクス。彼女を含め、GAEの社員はその多くがアクアビット社に身を寄せている

 

No.31 セーラ・アンジェリック・スメラギ

アラス遭遇戦おいて戦死

 

No.33 真改

アンジェと共に対ネクスト作戦に従事。

リバードライブ、車懸、カノン・フォーゲル、ファイバーブロウ、ブラインドボルドを協同撃破。アンズーを単独撃破

 

No.34 イアッコス

王小龍の部下。戦場には出ておらず、彼と共に戦後を見据えた作戦を行っている。

 

No.37 エイ=プール

大量のASミサイルを搭載した支援機を操るリンクス。現時点でのインテリオル・ユニオングループ唯一のリンクス

 

No.38 ヤン

ナポリ駐留中に、レイレナード特殊部隊の襲撃を受け戦死

 

No.41 ???

アルドラ社の新しいリンクス。インテリオル・ユニオングループの撤退後も、少数の部下と共にアンデス戦線において戦闘を続けている

 

オーメル・GA陣営

 

No.2 サーダナ

ゼクステクス世界空港空挺作戦において戦死

 

No.4 レオハルト

ローゼンタール輸送部隊の護衛任務中に戦死

 

No.6 セロ

オーメル陣営の最高戦力。恵まれたAMS適性により、各地で多大なる戦果を挙げている天才

ヒラリエスを撃墜

 

No.10 メノ・ルー

GAアメリカの最高戦力。現在は対ドーバ戦線へと移動中

レ・ザネ・フォルを撃破

 

No.13 パルメット

ベネチア軍港において、レイレナード特殊部隊の襲撃を受け戦死

 

No.17 K.K

地中海を移動中、レイレナード特殊部隊の襲撃を受け戦死

 

No.24 ワカ

有澤重工所属のリンクス、浜松周辺でのレイレナード特殊部隊との戦闘により重傷を負う

 

No.25 ポリスビッチ

マグリブ解放戦線との協同作戦中に戦死

 

No.26 ナジェージダ・ドロワ

ジブラルタル駐留中に、レイレナード特殊部隊の襲撃を受け戦死

 

No.27 ミヒャエル・F

ドーバーにおける上陸作戦中、レイレナード特殊部隊の襲撃を受け戦死

ブルー・ネクストを撃破

 

No.28 シブ・アニル・アンバニ

バーラット部隊から選抜された生え抜きの軍人。現在は残存するバーラット部隊のノーマル部隊と共に、アクアビット社へのハラスメント攻撃を行っている

 

No.30 ミド・アウリエル

レオーネ・メカニカ戦線からの撤退中に戦死

 

No.32 エンリケ・エルカーノ

かつては沖縄基地所属だったが、開戦後はGA本社の防衛を行っている。

 

No.35 ユナイト・モス

ゼクステクス世界空港防衛戦において戦死

 

No.36 ローディー

GA社の元粗製。ビッグボックス防衛戦以来頭角を現し、現在はGA社の最精鋭戦力と目されている。

メメントモリを撃破

 

傭兵

No.39 〝アナトリアの傭兵〟

元レイヴンのリンクス。そのバックにはGA社がいるが、本戦争では中立の存在として活動している。

アートマン、ラムダ、クリティーク、レッドキャップ、バガモール、ナル、アシュートミニアを撃破。ホワイト・グリントを三度にわたり撤退に追い込んでいる。

 

No.40 ジョシュア・オブライエン

アスピナ機関所属の傭兵。高いAMS適性を持つリンクスであり、こちらも中立の存在として活動している

 

No.42 ???

アスピナ機関の見出した新たなるリンクス。戦場に出たという情報は無い。

 

イレギュラー

 

OUTER No. アマジーグ

イレギュラーネクストの襲撃を受け戦死

 

OUTER No. スス

GA社への報復の為に機体輸送中、襲撃を受け輸送船ごと沈没、戦死する

 

OUTER No. ジャンヌ・オルレアン

最近は米が恋しいらしい

バルバロイ、シリエジオを撃破

 




なお、本作品では主人公達以外はオリジナルリンクスは出ないはずです。

です。

予定としては。

多分。


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戦乙女の飛翔

うーん、この話は絶対必要なんだけど地味だなぁ。書く気力起きないなぁ。

そうだ!色々増やしまくって派手にしよう!

どっかーん!ごっかーん!

ぶわっはっは!!(投稿)


「正気ですか!?ネクスト一機で第八艦隊を相手にしろと!?」

 

「正確には〝クイーンズランス〟のみ……をです。お嬢さん。我がGA社からの依頼は、BFF本社、〝クイーンズランス〟を、第八艦隊に極力損害を与えずに撃沈することです」

 

「無茶苦茶な……」

 

代理人であるフィオナと、今回の依頼人であるGAの大西洋方面軍の司令官の話し合いを横で聞きながら、男はコーヒーを口に含んだ

まるで高級客船のような一室、GA大西洋艦隊旗艦の司令室にて、この会合は行われていた。

 

やたらと高い報酬、直接会うまで極秘の依頼内容。訝しみながらも、馴染みのGAからの依頼ということもあり、ワルキューレやフィオナと共に迎えの大型輸送機に乗った。

 

そして、蓋を開ければ「六大企業の内の一つを潰せ」という報酬に見合うだけの依頼内容を見せられた。それにしても、少しばかり高すぎるような気もするが。

 

「そもそも、どうして第八艦隊に手を出してはいけないのですか!?」

 

「理由は二つ。……一つは政治的な理由だ。傭兵である君たちには開示できない。」

 

アフリカ系のルーツを持つ司令官の男は、黒く太い指を二本立ててフィオナ達の前に向けた。その内の一つ、中指を折り拳の中におさめる。

 

「もう一つ、時間的な制約だ。我々の入手したとある情報によると、一八○○にはBFF第二艦隊がクイーンズランスの護衛の為に第八艦隊に合流するらしい。君たちがこの依頼を承諾した場合、すぐに我々はある方法でもって君たちをクイーンズランスへと送り届ける。だが、どう余裕を持って準備を行っていても、君たちが辿り着く頃には第八艦隊は三十分以内にBFF第二艦隊と合流する事になる。そんな余裕の無い状況だ、他の艦船に目を向けている暇も惜しい。だからこそ、最初から目標としては排除しておこうというわけだ。」

 

成る程、男は心の中で頷いた。この説明で、政治的な理由というのもだいたいわかった。BFF本社の運航スケジュールなんていう超々々弩級の極秘情報を握っているということは、BFFの高級幹部の中にモグラがいるという事だ。

ならば……少し突飛かもしれないが……GAは、そのモグラと協力して、この戦争の後、BFFの吸収を考えているのだろう。

だとすれば、なるべく戦力を残しておきたいというのも頷ける。こちらとしては、良い迷惑であるが。

 

「それはこちらで判断する事柄の筈です!」

 

「報酬にはその事も加味している。わかってもらいたいね」

 

「一つ、質問がある」

 

いままで口を挟まずに、二人の会話を聞いていた男が腕を組んだまま口を開く。

 

「ある方法をもって送り届ける……と言ったが、それはどんな方法かは教えては貰えないのだろうか?」

 

「あぁ、すまないが、この依頼を受けて貰わない限り伝える事はできない。」

 

「そうか」

 

一度、大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。ちらりとフィオナの様子を伺うと、彼女は不安そうにこちらの様子を見た。

大丈夫だよ。アイコンタクトで男はそう伝えると、そのまま司令官の方を向いた。

 

「この依頼を受けます」

 

「そうか、よく決心してくれた」

 

司令官は頷くと、執務机の上に置いてある受話器を手に取る。短く、しかしハッキリと、司令官は言った。

 

「白き騎槍を砕け。繰り返す、白き騎槍を砕け。」

 

フィオナが息を吐く。ポツリと、天井へ向けて呟いた。

 

「もう……戻れないわね……」

 

「……だな」

 

もう一度だけ、コーヒーに口をつける。その苦さの中に、何となく男はこれからの自らを見た気がした。

 

 

「VOB……ねぇ」

 

アナトリアに対して、緊急の装備の輸送を頼んだ男は、艦に搭載されたシミュレーターの状況設定を行うフィオナに対して言葉をかけた。

 

「確かに理に適ってはいます。大出力の追加ブースターを使用し、超高速で接近すれば。第八艦隊の濃密な防空網をすり抜けることは可能なはずです。」

 

「ロケットエンジンのクーガーらしい発想だ。コジマ技術がダメなら、自社の長所である通常ブースターを伸ばす。ここまでぶっ飛んだ事ができるなら、クーガー社の未来は明るいな。」

 

クーガーの技術者から渡されたVOBについての書類を見る。揚力や空力など一切考えずに、膨大な推力のみでネクストを飛ばすという無茶苦茶な装備だ。

曰く、未だ研究段階のものを、本作戦にあわせて無理やり実用化したらしい。

 

「成功率は70パーセント。有人ロケットを飛ばすとしたら到底許可できない数字だな。」

 

作戦開始は3時間後。今頃、甲板上ではクーガーの技術者達や甲板作業員達が、ワルキューレにVOBを取り付ける為に戦っているだろう。

 

「データ入力完了しました。」

 

フィオナが一息吐いてそう言った。

 

「ありがとう。さて、時間がない。早速始めよう」

 

「装備はどうします?」

 

「届いた場合と、届かなかった場合を5:5で想定する。」

 

「わかりました。」

 

男がシミュレーターに乗り込む。まずは、VOBの操作に慣れなくてはならない。AMSを接続。一体化とまではいないが、ワルキューレと感覚がリンクする。

 

「状況設定、完了ました。」

 

「了解。ワルキューレ、これより状況を開始する」

 

次の瞬間、周囲に夕焼けに染まる大西洋が景色が広がる。

だが、それを認識する前に、暴力的なまでに身体にかかる推力が、男を襲った。

 

「グッ…………!」

 

歯を食いしばる。少しでも油断すれば、意識をまで吹き飛びそうな衝撃。こりゃ、だいぶ苦労しそうだ。VOBの操作へと神経を傾けながら、男は脳の片隅そう呟いた。

 

 

「大西洋司令部から入電。こちらからの出撃はありません。リンクスは第二段作戦に備え待機しろとのことです」

 

「そうか、それは良かった。あんな物に乗ったら、身体がいくつあっても足りないからな」

 

旧フランス領のロリアン、ここでは、二人のリンクスが対BFF作戦の為に集まっていた。

GAのメノ・ルーとローディーである。

ローディーが報告してきた兵に向けて礼を言うと、若い男はそれでは、と敬礼を残して退室した。

 

「この戦争の流れをも決める作戦を傭兵に任せる……か。」

 

待機、と聞いたローディーが懐に入れていた紙巻きに火をつける。そんなセリフとは裏腹に、その顔に深刻さは無い。

 

「……間違いなく、彼は屈指のリンクスです。GA社はおろか、陣営全体でも彼を超えるリンクスは居ません。むしろ、当然の選択かと」

 

「それに、倒れても懐がいたまない……か」

 

ローディーが紫煙を吐き出す。メノは、同じ部隊で過ごす内に、少しずつではあるがこの男の事を理解し始めてきた。

アンジェのような人間とは真逆の存在だ。彼は、戦いが方法である事を知っている。この世界が企業のメリット、デメリットの中で回る事を知っていて、リンクスなどと持て囃されても、自らが企業の駒でしかない事を自覚している。

 

「……成功するのでしょうか、この作戦は」

 

「十割だろうな」

 

「VOBが届けば、確実に成功すると?」

 

メノが紅茶に口をつける。コーヒーもそうだが、孤児院に居た時には絶対に飲めなかったような高級品を、リンクスになってから口にするようになった。

 

「例え、VOBが途中で壊れようとも……さ。あのレイヴンなら、成し遂げかねない。」

 

そう言って、ローディーがまたタバコをくわえる。

 

「随分と、評価が高いんですね」

 

「彼がGA側で遂行した任務の戦闘記録は全て見た。あれを見ると、自分が粗製であることを再確認するよ」

 

くくく、と笑いながら、ローディーがタバコの火を灰皿の中に落とす。

 

「粗製だなんて……」

 

メノが言い返そうとする。ローディーは、間違いなく実力者だ。低いAMS適正を感じさせない巧みな操縦と、緻密な戦術眼。ローディーとは、何度もシミュレーターで訓練を行っているが、メノの勝率は四割五分と、僅差ではあるがローディーに負け越していた。

 

「いや。彼と比べると、殆どのリンクスは粗製になるだろうさ。彼と比べる事ができるのは、レイレナードのトップリンクス二人にBFFの女王様……それと、例のイレギュラーくらいだろう」

 

イレギュラー、という言葉にメノの身体がビクリと震える。

ローディーはそれに気付くと、申し訳なさそうな表情を見せる。

 

「すまない。……やはり、まだ忘れられないか?」

 

「はい……。一時期と比べて、落ち着いてはきたのですが」

 

あの悪魔の笑い声は、未だにメノの脳に染み付いていた。軍医によるカウンセリングは受けているが、それでもマシになったという程度で、完治したとは到底言えない。

 

「正体不明のイレギュラー……か。それこそ、レイヴンがこの任務を失敗するとしたら、件のイレギュラーが関わった場合のみだろうな」

 

ローディーが新しいタバコに火を着ける。

メノは、もう一度紅茶に口をつけた。

霞スミカを撃破して以来、イレギュラーの目撃情報はない。出来れば、二度と会いたくない存在だ。

 

ただ、何となく、彼女には予感があった。望んでいなくても、あの神出鬼没は再び私の前に現れるだろうと。

 

 

因みに、その悪魔はパワプロのマイライフに勤しんでいた。現在、彼女にとっての成すべきことは、弱いに設定されたコンピューター相手に、チート二刀流選手でもって無双プレイをすることだった。

 

「パワポケみたいなドロドロした恋愛してぇなぁやっぱ」

 

自分の周囲のドロドロとした戦争など忘れたかのように、少女は言った。画面の中では、ミスター読売のじゃんぬ選手が、四打席四ホーマーの完全試合によりお立ち台の上でヒーローインタビューを受けていた。

 

 

「エアボスよりワルキューレ。全ての用意が整った。貴機の発艦を許可する」

 

空母艦橋の頂上付近。GA大西洋艦隊の旗艦を務める巨大航空母艦、その飛行甲板上の全ての権限と責任を負う飛行長が、客人へ向けて出撃の許可を出した。

 

「ワルキューレ了解。こちらはVOBの最終チェックへと移る」

 

いま、飛行甲板上には、背中に白い追加ブースターを増設した鋼鉄の巨人が、出撃の時を待っていた。

水平線の彼方、太陽は未だ沈んでいないが、空は徐々に赤色が蒼天を侵食してきている。

 

「了解した。いいか、この空母から発艦する時点で貴様は俺の息子も同然だ。這いつくばってでも帰ってこい」

 

エアボスの言葉に、VOBの接続状況を確認していた男は思わず吹き出してしまう。

なるほど、ベテラン士官というのは、こういう風にパイロットを勇気付けるのか、勉強になった

 

「勿論だ、なんなら土産を持って帰ってくるさ」

 

男は笑いながらそう返した。

現在、ワルキューレの足元では、黄色いジャケットを来た男達が何の障害物も無いか確認している。

すでに、カタパルトへの固定は完了している。このチェックが終われば、発艦は近い。

赤いジャケットを来た兵装要員の男が、ワルキューレの武装が固定されている事を確認し合図を行った。何とか、アナトリアからの装備は間に合った。その装備に少し手間取ったが、慣れないライバル企業の装備なのだから当然であろう。

 

ワルキューレの姿勢を、少し前傾させる。

緑のジャケット、カタパルト関係要員と機体重量の確認を行う。問題無し、ワルキューレの指で合図を送る。

機体後部、ワルキューレのブーストを逸らすためのブラスト・ディフレクターが持ち上がる。発艦の時は近い。

 

「ワルキューレ。聞こえますか?」

 

フィオナの声だ。いつも以上に固い声だ。今頃、彼女は航空母艦の戦闘指揮所に居るはずだ。そこからの直通回線だろう。

 

「本作戦は極秘任務です。本通信の後、全ての回線を封鎖されす。ですから、これだけは伝えておきます」

 

「なんだ?告白なら縁起が悪いから後にしてくれ」

 

「なっ……!?」

 

おっ、照れたな。GAの兵士が周囲にいる中、真っ赤になるオペレーターの姿を思い浮かべる。

 

「そ、そんな事はしません!!」

 

「そうか、まぁ、なんだ」

 

男は笑った。残念ながら、男は軍艦相手に死ぬ予定は無かった。だからこそ、軽くショッピングにでも行くかのような様子で、オペレーターに対して言った。

 

「戻ってくるよ。必ずな」

 

「…………はい。お願い、します」

 

通信が切れる。前方では、カタパルト幹部の男が、ワルキューレにスロットルを開くよう指示してる。

その指示に合わせ、男はブースターを最大推力にし、噴かせる。固定されていなければ、すぐにも吹き飛んでいくだろう推力だ。さらに、VOBにも点火、これで、準備は整った。

男は、ワルキューレの右手の親指を立てた。オールクリア。軽く、敬礼のポーズをとる。

そして、すぐに機体を前方に戻すと、深く呼吸を行い、身体を深くシートに押し付けた。

 

カタパルトが作動した。

 

電磁カタパルトが、一切の無駄なくワルキューレを前方へと運ぶ。すぐに時速三○○キロ近くまで加速されたネクストACは、そのまま空中へと放り出された。

 

さぁ、ここからだ。

男が覚悟を決める。

 

次の瞬間、いままで感じたことの無いほど大きな力が男の身体を襲った。

VOBが噴射を開始したのだ。取り付けられた大型のタンクから、コジマ粒子を供給し、それをプラズマ化させ、噴出する。コジマ技術の低さから、QBやOBなどの燃費の悪く、男の中では下の下のブースター企業に認定していたクーガーだったが。なるほどこのように大量のコジマ粒子が供給される状況という条件はつくが、充分な性能を発揮できるブースターを作るだけの技術力はあるらしい。

 

「こりゃ……コジマ技術という弱点を補ったら化けるかもな……!」

 

加速に耐えながら、男はちらりと速度計を見た。時速2000キロを超え、まだまだ加速していた。

 

既に、発艦した航空母艦は水平線の向こうへと消えていたが、彼にはそれを確認する余裕は無かった。

 

 

レーダーピケット潜水艦〝N2〟は、その日も第八艦隊から遠く離れた海にて、接近する敵を探知すべくBFF製の艦載用大型レーダーでの索敵を行っていた。

艦上早期警戒機や主力艦の搭載する大型レーダーでも、監視には充分だが、第八艦隊の護衛するものの重要さもあり、BFFは何隻かの大型潜水艦をレーダーピケット艦任務に就けるように改修していた。

 

レーダーに反応は無い。せいぜい、大型の鳥を時々捉える程度だ。

緊張感の無い水兵共は、既に今日の夕食が気になりだしてきた。出港してからまだはそこまで経っていないので、冷蔵庫には新鮮な食材がある筈だ。他の潜水艦乗りとは違い、殆どの時を水上で過ごしている彼らだが。大出力のレーダーを常に展開しているという理由で外に出られない為に、他の潜水艦乗りと同じように、楽しみは日々の食事だ。

 

そんな水兵達に喝を入れようと、副長が口を開いた時、レーダー員の報告が室内に響いた。

 

「方位一七○より高エネルギー反応が超高速で接近中!!ネクストです!感は一!」

 

「なんだと?」

 

艦長が反応する。高エネルギー反応?たかだか一機のネクストで第八艦隊を相手に?威力偵察か?

まぁいい、どちらにしろ、こちらは攻撃するのみだ。

 

「主力艦隊に通報しろ!対空要員は対空・対ネクスト戦闘用意!敵勢力の速度は?」

 

「ま、待ってください……これは……」

 

「どうした?何か……」

 

「1900ノットです!敵ネクスト、1900ノットで近づいてきます!!」

 

レーダー員の悲痛な叫びに、他の水兵達が驚愕する。

艦長も、内心の動揺を隠しながら尋ね返す。

 

「1900……?それはネクストか?戦闘機では無く?」

 

「間違い有りません!」

 

他のレーダー員が叫ぶ。艦長は軽いパニックに陥っていた。彼は優秀な男だったが、マッハ3で飛翔するネクストという常識外れなモノに適応できる程、経験を積んだわけではなかった。

 

「データ照合完了しました、ワルキューレです!」

 

「ワルキューレ……あのアナトリアの……!」

 

「敵反応、あと5秒で本艦直上を通過します!」

 

「高射砲及び対空ミサイル発射準備完了!」

 

「全兵装自由!復唱は要らん!撃て!逃すな!」

 

「敵機、本艦直上を通過!なおも主力艦隊へ向け加速しています!!」

 

「艦隊防空ミサイルが回避されました!!」

 

「高射砲の砲撃が追いつけません!!」

 

先ほどまで静かだった艦内が、一気に戦場の様相を呈する。

だがそれも、すぐに絶望の静けさに包まれる事になる

 

「敵機……本艦の射程圏内から離脱しました……」

 

レーダー士官の報告を聞き、乗組員達は呆然と立ち尽くす。

 

「まずいぞ……あんなものが喉元に突き刺さればクイーンズランスが……」

 

副長が呟く。そうだ、あれはただの兵器では無い、ネクストだ、最強を誇る第八艦隊でも、防空網を無理矢理突破し、クイーンズランスのみを狙う機動兵器に対してやれる事は皆無だ。

もし、反撃の機会が与えられたしても、それは間違い無く、 BFFが敗者となるのが決定した後の事だ。

 

「すぐに艦隊に敵の詳細情報を報告しろ!」

 

艦長が叫んだ。冷や汗が止まらない。あのスピードだ、既に、戦乙女は主力艦隊の射程内にいるだろう。

 

もはや、戦闘の中心の彼方にいる事を自覚した艦長は、自らに出来ることが祈ることのみだどいう事を察してしまった。

 

 

とりあえず、もう少しスピードを落とすようにクーガーには行った方が良いだろう。流石に、このスピードは人体というものを無視しすぎている。そろそろ4000キロに達成しようとしている計器を見て、男は思った。中型ネクストをこの速度で飛ばすのは、正気とは思えない。2000キロ超くらいで丁度良いだろう。

 

男には余裕が出てきていた、既に、周囲の風景を確認するだけの余裕も獲得した。ミサイル回避の方法も、先ほどすれ違った潜水艦相手に練習はすませた。万が一の時は、肩にフレアも装備している。

 

「お……!」

 

赤く燃える水平線上に、艦影を視認した。第八艦隊だ。

と、レーダーが濃いモヤに包まれる。艦隊によるジャミング攻撃だ、この海域にいる限り、全ての駆逐艦、巡洋艦を潰さないとモヤは晴れないだろう。

だが、そんな暇は無い。

男は急いで頭に叩き込んだクイーンズランスの姿を探す。駆逐艦、巡洋艦、戦艦、航空母艦、それらの配置から、護衛対象を捜索する。

 

「いたっ!!」

 

巨大な輪形陣の真ん中、この戦場には場違いな程に優雅な客船を見つける。

 

間違いない、クイーンズランスだ。

 

だが、護衛の騎士たちは、姫君を傷つけようとする矢を通さないように、高射砲とミサイルを発射する。だが、男は冷静に、QBとフレアを駆使し、それを回避する。

 

戦艦の主砲がワルキューレ目掛け砲撃を行う。流石のBFF製だ、精度は高い。だが、そのお陰で、かわせば確実に当たらないという安心感もある。

 

GAからの飛矢は届いた。男はシミュレーター通り、VOBパージの為の操作を行う。

 

VOBパージ、大型ブースターが空中でバラバラに崩壊し、ワルキューレは慣性のままに、だが少しずつ速度を落としつつ、降下する。

 

ドン、ピシャリ。

 

ワルキューレが降り立ったのは、クイーンズランス、その艦上だった。

足下から数多の悲鳴が聞こえた気がした。それを気にも留めず、男は、ワルキューレの両腕を振り上げる。

 

その腕には、イクバール製射突型ブレード、ラジュムが装備されていた。莫大な威力を誇る決戦兵器。対大型兵器として、一級の性能を持っていた。

 

両腕に装備されたラジュムを、男はクイーンズランスに突き立てた。そして、撃鉄を引く。

 

次の瞬間、ラジュム内のカートリッジに充填されている炸薬が破裂する。密閉された空間内で発生した力は、唯一の逃げ場である大型パイルのある方向へ殺到する。

 

瞬間的に加速したソレは、音の数倍の速度でもって飛び出る。目の前にある鋼鉄の板など、まるで存在しないかのように突き破り、その下にいた柔らかな存在を衝撃波で消し飛ばした。

装甲など存在せず、中にいるBFFの高級幹部たちの快適さのみを追求したクイーンズランスのど真ん中に、その優雅さとはかけ離れた大穴が開く。

 

その時に気付いた事だったが、彼がイクバール製兵器を突き立てた場所は、クイーンズランスの機関が存在する場所だった。

ラジュムによって開けた空洞の中に、動き続ける炉を発見した。

男は気付いた、ソレは、コジマ粒子の発見により、相対的に安全な技術と化したものだった。

 

男は、それに向かって腕を伸ばし、装填を完了した右腕部の射突型ブレードを撃ち込んだ。

それを制御すべき人員は、最初の一撃でもって吹き飛んでいた。

そして、トドメの一撃が、炉に撃ち込まれた事により、ソレは安全な機関から、巨大な爆弾と変化した。

 

命中を確認した男は、すぐさまクイーンズランスから離れた。そして戦果を確認せず、離脱を図る。

 

数秒後、かつて極東において出現した二つの太陽と同じ類のモノが、第八艦隊中央において発生した。

それは、極小規模なものだった。だが、クイーンズランスの中にいたBFF幹部をこの世から跡形も無く消し去り。白き騎槍を叩き折るには充分な破壊力だった。

 

 

その場にいたBFFの将兵たちは、みな呆然とするしかなかった。

目の前で、BFFの象徴が、美しき槍が、二つに分かれ、海中へその姿を消そうとしていた。

 

ある者は涙し、ある者は怒りを覚えた。下手人を叩き落とすべく高射砲の火が各地で上がるが、戦乙女はそんなものを気にせず飛び去る。

 

クイーンズランスが沈む、真っ二つに割れたそれは、死という輝きを放ちながら、夕陽に共に沈む。

その姿は、まるで一つの芸術のようであり、それを見た者たちの心に複雑な感情と共に刻まれることなった。

 

 

クイーンズランス轟沈の知らせは、一瞬にして世界中に広がった。

 

レイレナード本社に置いてその報を聞いたベルリオーズは、撃沈から30分後にはその報告を受け取った。

 

「流石というべきかな」

 

彼は友に対して苦笑を浮かべると、傍にある受話器を取った。

これからの作戦はもう決定してある。唯一優勢なネクスト戦力での、敵重要施設への直接攻撃。GA本社奇襲は失敗したが、多くの腕利きリンクスが斃れた現在なら、またチャンスもあるだろう。

 

「最早、長期戦はこちらの首を絞めるのみ……か」

 

数コールで相手が出る。相手はザンニ。現在は、アクアビット社との連絡要員として北欧にいた。

 

「狼煙を上げろ。」

 

予め決めていた符丁を口にすると、ザンニは了解しました。とだけ言って受話器を置いた。

 

ベルリオーズは深く椅子に座り込んだ。ギアトンネルを拡張し、内密に掘り進めた秘密通路。当初一部の者の間で話されていたアナトリア襲撃作戦よりも、手間はかかるが、効果は大きい筈だ。

 

状況は絶望的だ。だが、諦める気は無い。人類への緩慢な死を与え続ける企業への懲罰は、夢を託す者たちの為にも続けなければならない。

 

人類が、黄金の時代を迎える為に。男は無数の人々を断頭台へと送り続ける。その目には、煌々と意志の光が灯っていた。

 

 

同日 深夜

 

その日、欧州にいた者達は、大小の差こそあれ、みな一様にその揺れを感じた。

震源はローゼンタール本社、その地下数十メートル下だった。

所属する全てのリンクスが戦場に散ったローゼンタールは、その為に本社の防衛が他の企業と比べてほんの少しだけ、だが致命的な程に甘かった。

アクアビット社は、そんなローゼンタール社の地下に向け、極秘の地下通路を掘り進めていた。

そこに送り込まれたのは、蹂躙兵器ウルスラグナ。だが、その武装は全て取り外され、その代わりに全車両にコジマ粒子が充填されていた。

無人で運行されたウルスラグナは、ローゼンタール本社直下に辿り着くと、唯一可能な攻撃を行った。

 

それははじけた。

戦時中だった事が災いだった。ローゼンタール本社にはまだ多くの人間が残っていた。そして、その周囲にある実験施設や宿舎などにも、多くの人がいた。

 

だが、最早そこには何も無い。まるで隕石が落ちたかのように、そこには巨大なクレーターのみが残っていた。人がいた痕跡など何も残っていない。大量のコジマ粒子のみが、人々の御霊の様に、大地を汚していた。

 

 

その日、六大企業の内二つが消滅した。その報告は、この戦争に関わる全てのものに、この戦いの泥沼化を確信させるには充分な情報だった。

 




最近トーラスマンにハマってます。うーん、オリリンクスはあまり出したく無いけど、トーラスマンが似合う女性リンクスが欲しい。(銀翁はあれはあれで大好き)


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チャプター5は突然に

AC4編、終盤近し。
ACfA編に行く前に、一つ大きな事件でも挟もうかなと構想中。
頭の中でACfAキャラの方がよく動くのは、やはりセリフが多いからだろうか。お茶会ってすごい。


ジャンヌ・オルレアンは、その日もニュースを見ながら朝食を楽しんでいた。なお、今日のメニューは小さなパンにソーセージを挟んだものをオーブンで焼いたお手軽ホットドックである。これが皿にてんこ盛りになっており、片手で掴んでパクパクと食べている。おいちい。

GA系の番組で大々的にクイーンズランス撃沈のニュースをやっているのを見て、あぁもうそんな時期かと一人呟く。多くの者にとっては、驚天動地の大ニュースだが、彼女にとってはただのチャプター4の節目だった。

では、レイレナード系列だとこんなニュースをどの様に報じているのだろう。ジャンヌはNDKNDKと口ずさみながら、チャンネルを変える。

 

ローゼンタールが消滅していた。

 

このニュースには、流石のジャンヌもびっくり仰天だった。詳しく見ていくと、どうやら超特大のコジマ兵器で本社ごと吹き飛ばしたらしい。なるほど、アクアビットか。

 

「しかしまぁ、歴史は変わるなぁ。」

 

オレンジジュースを口にする。流石に、ここまで変わるとは予想していなかった。まぁ、トップリンクスの象徴的装備が他社製品な傀儡企業には当然の結果ともいえる。ローゼンタール製品、デザイン好きなんだけどローゼンタール製品にしか合わないんだよなぁ。特にコアとか。

 

「よし!折角だし、ローゼンタール消滅記念にローゼンタール縛りでACfA回すか!」

 

早速、PS3を起動する。頭の中で破壊天使砲を中心にアセンを組む。あ?破壊天使砲はオーメルだって?だいたいの人間は勘違いしてるからへーきへーき。

 

「そういや、ローゼン消えたらこの戦争はどうなるだろうか」

 

ふっ……と考えて、まぁAC4の史実以上に酷くなりそうだが、どうせGA側が勝つだろうと結論する。軍事インフラが違いすぎる。それに、ローゼンタールが倒れても、本体のファッキン・オーメルは無事だ。結局BFFが倒れた今、傭兵達がレイレナード陣営に肩入れしまくらない限り逆転の目は無いだろう。

……というか、アナトリアの傭兵次第だ。うん、そうだ。そうだな。アナトリアの傭兵がレイレナ陣営に本格的についたらビッグボックスもオーメル本社も無事にすまないだろう。

 

「圧倒的な個で戦略が覆されるってたまらんなぁ」

 

そりゃAFも出来るわ。コントローラーを足で握ったジャンヌは、空いた手でまたホットドックを掴むと、そう呟いた。

 

 

おはこんにちこんばんは、私とアステリズムです。違います、ジャンヌ・オルレアンです。真面目な話、アステリズムのどこに青いイレギュラー要素があるのでしょうか?本当にエンブレムなのでしょうか?私にはわかりません。ですがそれを尋ねる機会は永遠に消えました。さようならローゼンタール、また来てローゼンタール。てかどうなるんだジェラルド・ジェンドリン。おまえはジュリアス・エメリーのなんなんだジェラルド・ジェンドリン。鈍ったものだな、ジェラルド・ジェンドリン。

 

さてさて、適当なことぶっこきまくってないでちょいと気になることがあるので御電話をしようと思います。なお、私がしってる電話番号は一人しかいないです、さびちぃ!だってリリウムたん携帯持ってないもん!!辛い!!

 

まぁ、こんな状況だから忙しくて電話に出ないかもしれないが……

 

「もしもし?ジャンヌちゃんかい、どうした?」

 

でた、シンさんことシンさんだ。

 

「お疲れ様です。いま、街の方はどうなってますか?」

 

そう、気になる事とはそれだ、シンのいる街、自分が生活基盤としているあの街は、BFFの支配地域の筈である。トップが倒れた事が知れれば、混乱により暴動の一つや二つは起こっていてもおかしくない。

 

「あぁ、成る程。いや、心配ない、街はいつも通り平和そのものだ。」

 

あら、マジか。アテが外れた。投げてみたかったのに、火炎瓶。

 

「そうですか、それは良かった」

 

もちろん、そんな内心はおくびにも出さない。

 

「まぁ、街の中は徹底的な情報統制もあるし、別に直接の統治者が倒れた訳ではないしね。まぁ、ちょっとした騒動はあったが……」

 

「あったが……?」

 

「中央から治安維持部隊が送られている、他の街の仲間によると、だいぶ小規模な都市にまで行き渡っているらしい。多少の緊張状態はあるらしいが、どこも平和なものだよ」

 

……治安維持部隊?中央から?沈みましたよね中央。なんでそれなのに混乱せずに落ち着いてるんだお前ら。

 

「確定した情報ではないが、どうも生き残ったBFF軍部の重鎮が指揮権を掌握したとか……まぁ、とりあえず、この辺りは安全そのものだね」

 

BFF軍部の重鎮……?ワシ、そんなもの王小龍しか知らんのじゃけろ?もしかしておぬしがやりおったのか?マ?

 

「そうですか.……。それは良かったです、安心しました。」

 

「心配してくれたのかい?ありがとう。あぁ、それで、実はこっちからもそちらに電話しようとしていた要件があって」

 

要件?なんだ?

 

「はい、何でしょうか?」

 

「すまないが、こんな状態だ。いまは平和だが、今後は何が起こるかわからない。一度、ウォルコット家に張り付いている者達を退かせることになった」

 

あぁ、成る程。まぁしゃーないだろう。ウォルコット家はBFFの重要人物だ、治安維持部隊などがうろついている状況で嗅ぎ回ってるのがわかれば、大変な目にあいかねない。それに、頭が潰れては不安な事も多いだろう。議会中に議事堂潰れたようなもんでしょ?ようやるわBFF。

 

うーん、仕方にゃい。リリウムたんにhshsできない現在。定期報告と言う名のストーキング日誌とそれに伴い送られてくる表情の違う窓辺に佇むリリウムたんの写真は私の数多い楽しみの一つだったのに……まぁ、万物には事情がある。

 

「大丈夫です。こんな状況で、無理にとは言えません」

 

「ありがとうよ。しかし、ウォルコット家の連中もまだ生き残っているらしいし。BFFのネクスト戦力は殆ど健在と聞く。本社が潰れたのに、悪運が強いというか何というか……」

 

「……私にとっても、それはとても運が良いです。」

 

「……そう、だな。まぁ、また仕事を再開する時は電話するよ。それじゃあ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

ピッ、と電話を切る。

ちなみにウォルコット姉弟はそろそろ死にます、とても寒い所で死にます。やったねリリウム!死体は腐らないよ!!

 

さて、どうやら街にはそこまでの混乱は無いらしい。BFF軍部の重鎮……ここでは仮に某さんとしとこう。凄いな某さん。流石、自分の女をカラードなんて魔窟で親会社の粗製を差し置いてランク2に持ってけるだけの政治力だよ某大人。

 

しかし、クイーンズランスが沈んだか。となると、あとはもう終わりが近いだろう。今頃、アナトリアは蹂躙兵器に蹂躙されている頃だろう。ソルディオス含め、ほんとアクアビットの作る兵器はえげうねぇよな。好きだけど。そう考えればあのソルディオス・オービットも、なかなか蹂躙兵器の趣がある。

チャプター5は近い。あそこら辺は、BFF残党共の掃討と、世界最悪の兵器(暫定)ソルディオス軍団の迎撃、んでもってVSレイレナードのネクストという感じか。

 

注目ミッションはブレオンで挑むと屈指の熱さを誇る騎士の庭園だろう。自分も熱さを求めるときは、だいたいあのミッションでオルレアとのダンスを楽しんだものだ。それ以外の時?とっつき。

 

できればこれは見たい、見学したい。となると、あの例の明確な規則性からオルレアの出現位置を見極める必要があるのだが……

 

なんということでしょう。誘い出すもクソも、あいつら元気に奇襲ぶちかましまくってる。

 

あいつら、レイレナード系のニュースを見ればわかるが規則性もへったくれも無く世界中にあらわれ、作戦行動中のリンクスの首級を上げまくってる。

 

そもそも、まず本戦争においてレイレナードは最初っからネクスト戦力を出し惜しみしていない。プロパガンダも多少はあるだろうが、ベルリオーズの戦果や、アンジェと真改の活躍は戦争序盤から華々しく。GA勢力のリンクスはコンスタントに死にまくってる。

 

となると、かち合うのは難しいのでは?と思ってしまう。

 

「やっぱ、一か八かハーゼン工場に行ってみるかぁ」

 

確か、あそこはこの時期には放棄されていた筈だ。なら警備もそこまで厚くはないだろう。アメリカ西海岸はここからだと遠いが……まぁ、頑張ればいけるだろう。これでGA製の核持ちノーマルが溢れてたら笑うけどね!HAHAHAHA!!

 

「まぁ、神聖な決闘を邪魔するような不貞な奴らがいたら皆殺しにすればいいだけか」

 

自分が神聖な決闘の見学をしようとする不貞な奴だということは置いておくとしよう。うんうん、他人は他人、私は私。

 

さて、では、準備をしよう。まず、復習の為に騎士の庭園を10週くらいしようかな。

 

ふふふーたのちみーだー

 

 

「…………」

 

リリウム・ウォルコットは孤独の中にいた。

戦争が始まって、多くの時間が過ぎた。あの別れの後、姉も兄も一度も帰ってきていない。毎週のように部屋にやってきていたジャンヌも、姿を現さない。

 

皆が皆、自分を置いていってしまったような。この世界に一人取り残されてしまっているかのような。そんな気持ちにリリウムは囚われていた。

 

「…………」

 

ウォルコット家のメイドや給仕との会話も最低限しか行わず、リリウムはふさぎこんでいた。

 

内容が頭に入ってこない本から目を離し。ベッドから立ち上がり、窓の外を眺める。

 

そこには、いつもと代わりの無い景色がある。だが、そこにあの不思議な少女の姿は無い。

一度、彼女を探しに行こうかと外に出ようとしたが、戦争を理由に外出は禁止されてしまった。

抜け出そうか、とも思った。しかし、もしもの事があって、姉や兄に迷惑をかけたらと思うと、そのまでの行動はとれなかった。

 

ふと、視線を下げると。BFFのマークの入った高級車が家の前に停まっていることに気づいた。

 

最近、この家にBFFの人間が頻繁に訪れることをリリウムは知っていた。

その全てを、ウォルコット家に永年奉仕している家令が応対している為、どのような理由でこの家にいるかはわからない。

だが、時折聞こえる怒鳴り声を聞いていれば、嫌でもそれが好意的な話し合いでは無いとわかった。

 

リリウムは感じていた。自分の周囲の世界が大きく変わっていくのを。そしてそれに対して、自分が余りにも無力な事を。

 

「姉様……兄様……」

 

何処にいるかもわからぬ肉親へ、リリウムは語りかけた。

 

そして、彼女は視線を下げると、腰に下げた御守りに目を向けた。ジャンヌからもらったそれは。この部屋の中では唯一の彼女の存在の証明だった。

 

「これを強く握れば……ジャンヌ様が……」

 

何度か、ジャンヌを呼ぼうかという衝動に駆られた。しかし、いつになく真面目だった彼女の表情が、リリウムを押しとどめていた。

 

押し潰されそうな程の孤独の中で、リリウムはこの御守りを心の支えにしていた。

願えば、絶対に来てくれる。あの時のジャンヌの顔には、そんな確信を抱かせるだけの真剣さがあった。

 

 

 

 

「ふむ、名家ともなると、番犬までもが強情になるか」

 

「どういたしますか?」

 

「これ以上、お姫様に嫌われてもしょうがない。一度退かせろ」

 

「わかりました。……アレを動かしますか?」

 

「いや、あの姉弟が生きている内は手荒な真似はしない。折角、邪魔者たちと寒い所で頑張ってくれているのに、娘の凶報など伝えたくないからな」

 

「では、それまでは待機と?」

 

「何、すぐに時は来る。GAは近くスフィアに傭兵を送るらしい」

 

「アスピナのですか?」

 

「いや、アナトリアの鴉だ。GAはそちらの方を信用しているらしい」

 

「昨日は大西洋、明日は南極ですか」

 

「あぁいう便利屋がBFFにも欲しい所だ。…………ふむ、そうだな、傭兵に首輪をつけるというのも悪くない……か」

 

「何か思いつかれたので?」

 

「なに、実現するとしても数年は後の事だ。この世界が安定し始めてからの……な」

 

「成る程……。では、私はそろそろ元の仕事に戻ります」

 

「あぁ、そっちの事は頼む。私はもう少し、GAの老人達と遊んでくるよ」

 

「まだ、お帰りには?」

 

「もう少しかかりそうだ。まぁ、戦争が終わる頃には帰るだろう。それまでに、全てを終わらせておいてくれ」

 

「了解しました。それでは」

 

「あぁ」

 

 

 

 

コロニー・アナトリア

男は、格納庫内にある自らの愛機の様子を眺めながら、その修理を行うオペレーターへと声をかけた。

 

「どんな感じだ?フィオナ」

 

「ブースター関係の調整も順調です。ピーキーすぎるかもしれませんが……」

 

そう言いながら、フィオナがパソコンを男に見せる。

 

「いや、それくらいでいい。今の機体では、踏み込みの加速が物足りない時があった」

 

現在、二人はFRSメモリを使用した機体のチューンを行っていた。男はいくつかの数値を確認すると口を開いた。

 

「一度、この状態をシミュレーターで再現してくれ。テストをしてみる」

 

「わかりました」

 

二人のチューン作業は、この繰り返しだった。フィオナが調整を行い。男がその機体にシミュレーターの中で乗り込む。そしてそこから男が感じたことをフィードバックし、フィオナが改善を行う。

 

 

結局、その日の作業は、終了までに10時間程かかってしまった。休憩室に入った男は、疲れを癒す為に、いつもより気持ち多めに砂糖をコーヒーの中に投入し、飲む。

甘さが身体に染み込むのがわかった。シミュレーターとはいえ、精神は相応には磨耗する。

 

「お疲れ様です。すいません、こんな時間まで付き合わせて」

 

後ろを向くと、フィオナが立っていた。どうやら、併設しているトレーニング施設でシャワーを浴びてきたらしい。服装がラフなものに変わっている。

 

「いや、その台詞はコッチの言葉だよ。」

 

既に夜も深い。男が立ち上がって窓から外を眺めれば、そこには半端な形の月が輝いていた。

 

「とりあえず、なんとか今ある分のFRSメモリを満足な形で使えたな。これで、また戦っていけるな」

 

男がそう言うと、フィオナは顔を曇らせた。

 

「……無理、させてるよね」

 

気を使うように、フィオナは言う。彼女は男の隣に並び立つと、同じく窓から外を眺め始めた。

戦争が始まってから、彼女はこんな表情をする事が多くなった。

負い目があるのだろう。金の為に、命の恩人という大きな借りに付け込んで、男を働かせるのだと

 

「…………」

 

男は何も答えない。確かに、精神も、身体も、どんどんと削れるような感覚に襲われる事はある。だが、戦場とは、戦いとは、もともとそのようなものである。だからそんなものは、無理の内に入らない。

 

「……ねぇ」

 

フィオナがこちらの方を向く。その碧眼に決意の色が見えたのを、男は見逃さなかった。

 

「この戦争が終わったら、もう、やめよう」

 

嗚呼、なんて優しい娘なんだろう。この死に損ないを、本当に彼女は心配してくれている。

だからこそ、男は嫌になった。この言葉に即答出来ない自分に、そして、こんな答えを出す自分に。

 

「それは……できない」

 

「……どうして?」

 

男はフィオナの顔を見ることが出来なかった。ただただ、罪悪感だけが広がる。しかし、答えは初めて戦場に出た時から決まっていた。

 

「俺はレイヴンだ。ずっと戦場を求めて世界中を飛び回ってきた。」

 

最初は、ただの金儲けの手段だった。入社した小規模のPMCで、オンボロのノーマルに乗り込んで出た戦場。そこに、男は何かを見つけて、囚われてしまった。

 

「心を……いや、魂をな。もう、戦場に置いてきてしまったんだよ」

 

フィオナに助けられた命を、粗末に扱いたくないとあう気持ちは、確かにある。

だが、男は、それでも自分に嘘はつけなかった。

 

「俺は、戦場を生き、戦場で死にたい。自由に、好き勝手、そしてあっけなく、生きて、死にたい」

 

なんと狂った思考だろう。これでは、あの狂人を笑う事は出来ない。

そんな気狂いと、付き合っていたらロクでもないことになる。常識人ならば、間違いなく、幸福はその手から零れ落ちることとなる。

 

「だからな、フィオナ、俺はお前とは……」

 

「じゃあ」

 

男の声を遮るように、フィオナは声を上げた。突然の奇襲に男は驚き、フィオナの顔を見てしまった。それは泣いているようでいて、どこか、笑っているようでもある不思議な表情だった。

 

「……この戦争がおわっても、一緒にいていい?」

 

「それは……どういう……」

 

「アナトリアから離れて。どこか、遠くにいって。それで、また今みたいに傭兵の仕事をしよう」

 

その言葉に、男はさらに驚いた。

 

「……それでいいのか?」

 

「しょうがないよ。……だって……」

 

フィオナが笑った。だが、その目蓋から、一筋の雫が落ちるのを男は見逃さなかった。

そして、彼女は言った。いつものように、優しい声色で。

「私は、あなたの事が好きなんだから」

 

 

 

 

「CP、CP、こちらエルフ03。緊急の連絡だ、応答願う」

 

「こちらCP。エルフ03、どうかしたのか?」

 

「哨戒任務中にとんでもないものを見つけた、レイレナード製のネクストだ」

 

「なに?どういう事だ」

 

「恐らく鴉殺し共の部隊だ。奴ら、放棄したハーゼン工場を根城にしてやがる。最近の基地襲撃はあいつらの仕業だったんだ」

 

「なんだと?」

 

「すぐにデータと位置情報を……あぁ、クソッ!」

 

「どうしたエルフ03、状況が……」

 

「鴉殺しに見つかった!!待ってろ、何としてもこ………………………………………………………………」

 

「エルフ03?エルフ03!応答を願う!エルフ03!!……クソ!レイレナードの売女が!おい!すぐに閣下に報告を!鴉殺し達はハーゼン工場にいる!!」




ACとISのクロスSSが多い事から、IS原作未読アニメ未視聴知識はハーメルンの二次創作のみな自分がISとACのクロスSSを書くという核地雷クラスの行為を一昨日あたりに行っていたのですが。
・主人公のオリ主が「原作展開のままだとつまらないから一夏かヒロインの誰かを殺そう」と考えるクソサイコ野郎になる
・主人公がコジマ粒子を何の躊躇いもなく散布しながら敵と戦う
・主人公の性格がなんか蜘蛛さんとキャラかぶってる
・数多の原作改変SSの情報の擦り合わせによる原作展開予想の作業が辛い
・アンチ・ヘイトとかいうレベルじゃなく、ただのスプラッター
などのクソ煮込みうどんヴォルケーノが完成する要素プンプンで1時間でお蔵入りになりました。私にも自分の作品を客観的に見る視点があるのかとたいそう驚いた。ちなみにその時の主人公さんの決め台詞は「手を差し伸べてくれた人間を奈落に投げ落とす事ほど愉快な娯楽はない(血塗れで笑ってる)」です。かわいい。


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騎士達の庭園

誰でも一度はやってみる

・オルレアのアセンでVSスプリットムーン

楽しい。


薄暗い廃工場の中。以前、テロリストに占拠され、その攻撃によって大規模な破壊を受けたこの場所は、いまは放棄され、朽ちるままに放置されていた。

 

そこで、いま、無数の光線が舞う。

 

オレンジ色の光が走る。

 

我流の剣技を実戦にて研磨し、一流と呼ばれる腕を手に入れた男は、右腕の長刀を低く薙ぐ。

 

それを止めるのは、交差する紫光。

 

多くの鴉を殺し、屠り、討ち取り。数多の山猫を突き、薙ぎ、そして斬った女が、男の一撃をギリギリで受け止める。

 

と、男は気付く。視界の端から接近する影に。

男は目の前に立つ剣士を蹴り飛ばすと、その影に対処する。

その背中には、小型の追加ブースターが装備されていた。高出力のメインブースターを、チューンと追加ブースターにより更に出力を上げた事によって、瞬間移動とも感じられるような速度でその機体は突っ込んできた。

構えから軌道を読み、機体の姿勢を低くする事により、かわす。次の瞬間、渾身の一撃は空間を切り取る。

 

だが寡黙な男は焦らない、そのまま二の太刀を喰らわせるべく。紫色の月を振り上げる。

 

が、その後方からは不規則な動きで接近する四脚機が現れる。二段QBを二段QBでキャンセルしながら一瞬で間を詰めたその機体は。QBターンによる高速回転斬りを放つ。凶暴な煌めきを放つ月光が、満月の軌道でもって襲いかかってきた。

 

しかし、横から接近してくる蒼い機体に気付くと、少女は無理矢理二段QBにより機体を横に吹っ飛ばして、距離を取る。

 

黒い機体に乗る男は、白い機体に乗る男からの二の太刀を何とか逸らすと、こちらもQBによって距離を取った。

 

一瞬、4機が向かい合う形となる。

 

その時、男は口笛を吹いた。

その時、女は微笑を浮かべていた。

その時、男は表情を変える事無く相手を見据えた、

その時、女は悶えんばかりに笑っていた。

 

四者四様のリアクション。だが、その心に無限の歓喜が巻き起こっているという点では一致していた。

 

 

時は、三時間程前に遡る。

 

GA社からオルレア、及びスプリットムーンの討伐依頼を出された男は、レオーネ・メカニカ社から購入しワルキューレの新たな腕部のチェックを輸送機で行いながら、昨晩の事を思い出す。

 

あの後、返事を答える間も無く飛び込んできた緊急依頼の為に、フィオナからの告白が有耶無耶になってしまった事を男は後悔していた。

別に、今すぐに無線を開いて返答を行っても良いのだが、昔の傭兵仲間から聞いた「戦いの前に色恋の話をした奴はだいたい死ぬ」というジンクスが気になったのと、この状況にムードもへったくれもない事から、男は躊躇っていた。

 

とりあえず、男はこの考えを思考の外に放り出し。寝る事にした。先程も睡眠はとったのだが、これから待っているであろう激戦の事を考えると、少しでも休息をとった方が良いと男は判断した。

 

 

二時間後、男はフィオナの声で目覚めた。

 

「そろそろ、作戦地域に到達します」

 

「……あぁ」

 

クソ、気まずい。

脇に置いてある水を飲み、再び固定する。

こんなにやきもきしたのは、ガキの頃以来の気がする。

 

機体が投下され、作戦地域として設定されているハーゼン工場へと接近する。

すでに陽は落ちかけ、夕焼けが空を支配していた。

ネクストのレーダーの性能を考えると、この距離でもこちらの存在には気付いている筈だ。だが、アクションは無い。

誘っているのだろう。ご丁寧に、正門が開いている。

 

「嫌になるねぇ」

 

男は笑いながらそう言った。こんな状況では傭兵たるもの、正攻法では無く搦め手で攻めるべきであろう。馬鹿正直に正門をくぐって侵入するなど、愚の骨頂だ。

 

しかし、男は正門を通った。最低限の警戒は一応していたが、やはりそこに罠などなかった。それどころか、ご丁寧な事に敷地内に入った途端にハーゼン工場のゲートが開いた。

 

「これは…」

 

「どうやら奴さん達は、客を歓迎する準備が出来ているらしいな」

 

男は一度深く呼吸をすると、ゆっくりと前を見据えた。そこにいるであろう強敵の姿を、男はしっかりと感じていた。

 

「ワルキューレ、これより作戦を開始する。」

 

男はそう宣言すると、ハーゼン工場内部へと侵入した。

 

 

男が入った途端、後ろのゲートがゆっくりと閉まった。

成る程、どちらかが倒れるまで続けるという事か。何の問題も無い。

男は構えた。目の前には閉じたゲート。

 

「内部、高エネルギー反応を二つ確認。一機が前進して……オルレア、来ます!」

 

目の前で、ゲートが交差に斬られる。

 

バターに熱したナイフを入れたように簡単に切断されてゆく様子を見ながら、男はブレードを展開した。

 

ゲートが崩れ落ちる。

 

蒼いネクストが、男に襲いかかる。

 

その両腕には紫光の双月。その瞳には紅の殺気。

 

一撃で決める気か。

 

男は、オルレアから放たれた一撃を二つの月光が重なる瞬間に受け止め、マシンガンを構えようとする。

が、アンジェはそれを予想していたかのように、右脚を操作し、マシンガンを思いっきり踏みつけた。

マシンガンを落とす。男はそれを気に留めず、そのまま、右腕を思いっきり振り切る。

 

オルレアは後ろへと飛び退く、と、その後ろから白い機体が接近してくる事に気付いた。

 

スプリットムーン、しかし、装備はシミュレーターの中のものとだいぶ違い、どちかというと、オルレアのデータと酷似している。違いはカラーリングと、背中に背負った小さな翼だけ。

その翼が派手な焔を噴き上げているのを見て、男はそれが追加ブースターである事を見抜いた。レイレナードの試作品か?

 

次の瞬間、急加速したスプリットムーンは、ワルキューレの喉元を噛み砕くべくムーンライトを展開する。

 

縮地だな、まるで。

下手に構えれば、速度とムーンライトの威力によりブレードごと叩き斬られかねない。構えから太刀筋を見極め、最低限の動きでそれを躱す。

 

一閃。三日月の残像のみを残し、月光が振り下ろされる。

残心、その姿に一瞬の隙も無い。男はQBを噴かし、距離を取るためにも工場内に侵入する。

 

そこには、かつて大量に設置されていたノーマルACは存在していなかった。

オルレアと、スプリットムーンと、ワルキューレ。三機の戦士だけが、そこに立っていた。

 

「やはり、お前だったか」

 

オルレアの声が聞こえる。いままで会った中で、一番上機嫌な声だ。

 

「すまんが、やらせて貰うぞ。降りかかる大火は振りはらわねばならん」

 

「そう嬉しそうに言われると、こっちも手加減できねぇな」

 

男がいう、オルレアとスプリットムーンに囲まれた現状は、相当に不味い。だが、それなのに不思議と男の中には高揚感があった。

 

「何、私達に相応しい戦場で。最高の剣士と戦える。これ程までに滾ることは無いだろう」

 

「相応しい戦場……ね」

 

思わず、男は笑う

 

「何がおかしい?」

 

「いや、な。どこぞのイレギュラーが言ってた事を思い出した。俺やお前と戦うのには、もっと相応しい戦場がある……ってな」

 

「ふむ……そうか……」

 

アンジェはそう言うと、少し思案にふける。

その隙に斬ろうなどという無粋な事を、男は考えなかった。ワルキューレの後ろに立つ寡黙な男も、黙って二人の話に耳を傾ける。

 

「お前と戦える事を楽しみで忘れていた。うむ、そうだな。あいつも斬らねばなるまい。……だとしたら、尚更ここで果てるわけにはいかないな」

 

「それはこっちのセリフだ」

 

男は構えた、双方の殺気が増大する。だが、そこに濁りは無い。純粋な、清廉で澄み切った殺気。真水のようなそれは、男にとっては心地良くさえあった。

 

3機は動かない。それぞれが、対する相手の隙を探す。

 

オルレアは嬉しそうだった。二対一、そんな状況でも男は一切の隙を見せずに此方の出方を伺っている。

 

須臾の、しかし永遠にも感じられる時間が過ぎた。

 

最初に気づいたのは、この場にいないフィオナだった。

 

「……高エネルギー反応?」

 

「何?」

 

男が思わず呟く。アンジェと真改も、レーダーに新たな反応が現れた事に気付いた。

 

「何か、これは……ネクスト?高速の……まさか……!?」

 

「成る程」

 

男は、女は、その正体に気付いた。

 

寡黙な男はわからない。だが、それが強者であることはわかった。

 

「間違いありません!これは…………」

 

ゴウンと、重い音が響く。

 

天井を貫き、一機のネクストが舞い降りた。

空は、黄昏。紅く照らされるその機体は、しかし、誰か尋ねる必要は無かった。

 

その右腕に光るは、黄金の月のみ。左腕の恒星も、背中の大砲も、持って来てはいない。どうやら、何もかもお見通しらしい。

 

「遅かったじゃ無いか」

 

男は語りかけた。二度しか会った事は無い。が、シミュレーターで幾度も斬り会ったことにより、ある種の親近感が生まれていた。

 

「いやぁ、ゴメンね。迷っちゃって。果たし状とか送ってくれたら良かったんだけど」

 

狂人はその場にいる全ての者に謝罪の言葉を述べた。そして周りを見渡すと、楽しそうに言う。

 

「どこにいるかもわからん奴に、そんなモノを送れるか」

 

アンジェが応える。その殺気は更に研ぎ澄まされていた。

 

「それもそっか。うん、で、二対二が良いと思うけど、どう?」

 

「無論、構わんさ」

 

オルレアはブレードを構えた。ちょうど、クレピュスキュールが現れたのはオルレアの真後ろだった。

 

「じゃあ、そうね」

 

クレピュスキュールがムーンライトを展開する。気のせいだろうか、オルレアやスプリットムーンの物よりも、光が濃い

 

そして狂人は言った。

 

「殺ろっか」

 

黄昏が跳躍した。オルレアがムーンライトを出す。同時に、スプリットムーンも動いた。目標はワルキューレ。

 

こうして、四人の至高の戦いは、過激な動の中で幕が開かれた。




後編に続く


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GARDEN OF CHEVALIERS

ハイテンション&ハイテンション&ハイテンション


フレイムフライというACを、皆さんは覚えているだろうか?

ACVに登場するACで、脆く、遅く、低火力という三重苦機体に乗り込み、中にいるパイロットはマトモに敵の能力を判断する事もできない粗製中の粗製である。

 

かつて、ミグラント達は幾千幾万ものフレイムフライを叩き落とした。ある者は金稼ぎのため、ある者は新たな武器の練習台として、ある者は、ストレス解消の為、そして、ある者は…………

 

武器育成、というシステムがある。

 

武器を使い熟す事により、その武器の個性を引き出す事ができる。高い威力を発揮するもの、短いスパンで弾を発射できるようになるもの、高い精度を持つもの様々だ。

 

この武器育成の為に、多くのフレイムフライは叩き潰された。

 

ジャンヌ・オルレアンは、男だった頃からこのシステムが大好きだった。自分の組んだACに、自分が鍛えた最高の武器を装備できる。その事に、心はいつもときめいていた。

 

数年後、ACVDでは、そのシステムは武器調整と名が変わり、安定した性能の武器を楽に購入できるようになった。

ジャンヌは喜んだ。彼は面倒が嫌いだったからだ。

彼はドンドンパチパチと自分が調整した武器を使い、オンラインを駆け回っていた。

 

しかし、ACVDを始めたばかりの頃、彼は気付かなかった。かつて狩りまくっていた蝿の亡霊が、彼に対する復讐を求めていた事を……

 

 

と、言うわけでAC4系でも武器調整できるようチートして貰いました。ん?このムーンライト?威力超特化ですけど何か?

 

超高出力のクレピュスキュールのムーンライトが、相対するスプリットムーンを斬り刻むべく振るわれる。ジェネレーターから無限のエネルギーが供給されるクレピュスキュールは、この高燃費ブレードを常に展開しながら戦っていた。

 

対スプリットムーン戦において注意すべき事は、背中の追加ブースターを使用した踏み込みの一撃だ。専用のFCSもあり、長距離から一瞬で間合いを詰めてくるその戦闘スタイルは、慣れるまでは本当に対処に時間がかかった。

 

しかも、今自分がいるのはアルテリア・クラニアムよりも天井の低い核倉庫。上に逃げ道は用意されていない。

 

そもそも、その追加ブースターはfAでオーメルが開発したものだろ。なんでお前が持ってるんだ。

 

そんなツッコミを心の中でしつつ、突っ込んできた真改の一撃を受け止める。

既に、戦闘を開始してから二時間は経っていた。私が開けた穴からは、暗い室内に月明かりが注がれている。相手のマシンガンの残弾は0。アナトリアの傭兵も、ロケットやミサイルは装備していなかったのを確認した。これで、正真正銘全員がブレオンだ。

 

猛攻をかけるスプリットムーンの一撃一撃を全て防ぐ。止める自分をイメージし、相手の動きの隙を窺う。

ゲーム上では、ブレードを受け止めたり、色んな斬り方をしたりは出来なかった為、やはりどうも慣れない事は多い。一応、シミュレーターでの練習で慣れたつもりだったが、生身の人間相手に、それも一流の剣士相手にするには、大いに足りないようだ。

 

その差を、少女は機動で埋めようとする。

後部へ大きく吹っ飛び、右に二段QB。それをキャンセルし前方に大きく二段QB、そしてクイックターンからの前方QB、相手の背目掛けて斬りかかる。

 

中にいる人間が自分じゃなかったら、コックピットがトマトジュース塗れに成りかねない機動である。二段QBを二段QBでキャンセルするというのは、操作するのも難しいが乗ってみるとそれ以上に身体への負担がキツイ。良い子はマネしちゃダメだよ。ドミナントとの約束だ!

 

真改も振り返る。ブレードを展開している。あぁくそ、動き読まれてるな。このパターンは三度程しか見せてないが、それでも対応するとは中々だ。

 

では、パターンを変えよう。

 

クレピュスキュールは、突っ込みながら、思いっきり地面を蹴り付けた。無理矢理上方向へのベクトルを加えられたこの重量四脚機は飛び上がり、丁度真改の真上を通過するように動いた。

 

そこへ、さらにジャンヌは天井を蹴りつける。イメージはワン・フォー・オール・フルカウル。100%のデトロイト・スマッシュだ。想像通りに動く機体というのは、自分のコミック知識をも反映してくれる。こんなに楽しい事はない。

 

「チェストォッ!!」

 

上からの奇襲、真改の対応は遅れた。QBを噴かせるも、時既に遅し。

クレピュスキュールの月光は、スプリットムーンの左肩部を捉えた。

プライマル・アーマーなど存在しないかのように、コアと腕部のジョイント部分を切り裂く。スプリットムーンの白腕は宙を舞った。

 

「見事…………」

 

「ありがとよ……!」

 

狂人は舌打ちした。コアを貫いた筈だったのに、結果として一番持ってかれても良いとこを持ってくだけになってしまった。咄嗟の判断能力が化け物クラスだ。動揺というものが無いのか?

 

ジャンヌは、かつてのNPC達の評価を書き換えた。そうだ、忘れてた。フォグシャドウがいた、シルバーフォックスがいた、ジナイーダがいた。ジョシュア・オブライエンがいた。

間違いなく、主人公以外にもドミナントはいるのだ。才能がある者はいるのだ。それを、ゲームの挙動のみを理由に舐めてかかる。なんと馬鹿馬鹿しい事をしていたのだ。

 

そうだ、彼らは今人間なのだ。戦いにおいて、無限の可能性を持つ人間なのだ。

く、くくく、くはははははははは。あぁくそ、あんなシリアスな声してんのに、狂ってる時より楽しかったんだな、主任は。

 

狂人はスプリットムーンの後ろにオルレアとワルキューレの姿を見た。連続二段QBにより大きく、一瞬でスプリットムーンを迂回し、オルレアに接近する。

オルレアも気付いた。が、左腕でワルキューレを、右腕でクレピュスキュールの攻撃を受け止める。

ワルキューレは一度距離を取り、少女は鍔迫り合いを続ける。女は笑いながら、目標を戦乙女から黄昏へと変更した。

そしてワルキューレに対しては、隻腕の剣豪が襲いかかる。全てが必殺の真改の一撃。出力の低いオーメル製のブレードでは絶対に受け切る事は出来ない。今度も、男は身をかわす事に意識を集中した。

 

庭園にて、騎士達は躍り狂う。剣戟の音楽は鳴り止まない。ただただ己の技量を示す為に。ただただ相手を打倒する為に。

工場は笑い声に包まれていた。

この情景を見なければ、まるでそれは子供達がチャンバラごっこで遊んでいるかのような雰囲気さえ感じられた。

狂っているのだろう。死の境目で踊っているのに。皆が皆、本当に楽しそうだ。

 

「確かに狂ってるな。俺も、お前も、お前らもな」

 

男は呟いた。そうだ、そうだよな。そうだった。闘争の中、魂が潤いに満たされる。こんなもの、常人とほ言えない。男は笑い、目の前の敵へと向かい合う。

 

狂人と同じ声を持つオペレーターは、男の集中を乱さないよう息を飲み見守っていた。手は、自然と祈りの形になっている。

自分に出来ることは何も無い事に気付いた彼女は、それでも、唯一可能な信じる事をやめようとはしなかった。

 

男は低い体勢で、剣を薙いだスプリットムーンの右腕を左腕で抑える。

 

「…………!」

 

真改は脱出経路を探し、それが前にしかない事に気付いた。

 

全力のQB。ワルキューレはスプリットムーンごと大きく後ろに飛ぶ。

 

しかし、左腕は離れない。男は右腕のブレードを展開した。目標はコア。ここしか無い、ここで仕留めなくては、後はない。

 

オレンジ色の大太刀が、スプリットムーンを貫いた。

 

「取っ……!」

 

しかし、次の瞬間男は気付いた。自分が貫いたのは、スプリットムーンのコアの真下である事に。

仕損じた、奴は、まだ生きている。

 

男の身体が動く前に、ワルキューレは紫の光に貫かれた。

男を強い衝撃が遅い。次の瞬間、コックピット内の電灯、映像、デジタルの計器、全てが消えた。

 

「ここまでか……」

 

男は笑った。しかし、成る程、良い戦いの後だと。死ぬ時でもここまで爽やかなものなのか。

男は覚悟を決めるべく目を瞑るが、どれだけ経っても止めが刺されない事を疑問に思った。

 

コックピットを開ける。

其処には、既に目に光の無いスプリットムーンが立っていた。

 

「成る程、相討ちか。」

 

互いが、互いに剣を突き立てて息絶えている。どちらの腕も、心も譲り合わなかった。その象徴のように男は感じた。

数秒後、スプリットムーンのコックピットからもパイロットが出てきた。対コジマ粒子の防護服にもなっているパイロットスーツとヘルメットを着ている為、表情は良く認識出来ないが、こちらと同じく身体にそこまでダメージは無さそうだ。

 

真改は、一度男に視線を留めると。そのまま横を向いた。

 

釣られて、男も横を向く。

 

 

其処には、未だ戦う二人の女がいた。

 

 

アンジェは笑っていた。ここまで、ここまで楽しかったのは、ベルリオーズと初めて演習で戦った時以来だった。

 

アナトリアの傭兵も、このイレギュラーも、間違いなくアンジェが戦った中で最強格のパイロットだった。

 

こいつの正体などどうでも良い。この狂人は強く、そして今ここに存在している。それだけで彼女にとっては充分だ。

 

アンジェによる嵐の様な猛攻。その全ては必殺で、その中に取り込まれては生きては出れない。

 

狂人はそれを、一つ一つ、距離を細かく変えながら、躱し、払い、押さえ、反撃を試みる。

 

だがそれも迎撃される。あぁ!!これもダメか!!!

 

狂人は脳内にてあらゆる方法を思考し、その案を試行する。だがその全てを悉くアンジェに突破され、その月光の嵐にまた襲われる。

 

そしてそれで、狂人は、一瞬、ほんの一瞬だけ、焦ってしまった。

そして鴉殺しは、そんな一瞬の隙を見逃す程に、甘い敵では無かった。

 

次の瞬間、クレピュスキュールのムーンライトが、オルレアのムーンライトによって貫かれた。

 

「なァッ…………!?」

 

しまった……!今まで、常時展開されていたムーンライトが沈黙した。二段QBで距離をとったのに、それでも奴は私の武器を奪った。

攻め手を失った。攻撃手段を失った。

 

「詰みだ。イレギュラー」

 

オルレアが構えた。クレピュスキュールは、自らの傍に置いてあった柱に手を着くと、そのまま下を向いた。

 

「これでお前の最期だ。頼むから、無様に逃げ回ったりはするなよ」

 

それは彼女なりの慈悲だったのだろう。そして、激闘を繰り広げた相手への賞賛の行為でもあったのだろう。ゆっくりと、ゆっくりと、クレピュスキュールに近づいた。

 

「くく…………」

 

「…………?」

 

イレギュラーの笑い声。それに、オルレアは疑問を持った。

それは、全てを諦めたものでも、全てを受け入れたものでもなかった。

まるで、最高の一手を思いついたかのような、そんな希望に溢れる…………

 

「くはははは……………!!」

 

アンジェの全身に、凄まじいプレッシャーが襲いかかる。彼女の本能は警告していた。すぐに殺すか、すぐに逃げろと。

オルレアが突進する。

ジャンヌは笑った。彼女は気付いた、いま、自分の右手には、最強の剣が握られているということに。

 

クレピュスキュールは、柱に思いっきり手を突っ込むと、その中にあった鉄骨を握る。

拳は砕けた、だが、固定はした。

それを、力の限り引き抜く。次の瞬間、鉄骨鉄筋のコンクリート柱は、その形をほぼとどめたまま、クレピュスキュールに装備された。

 

 

MASS BLADE

 

 

ACの、兵器の、全ての常識を超越した兵装。最強で、最悪の、質量の剣。

 

狂人は、向かってくるオルレアに対して全力で斬りかかる。

 

アンジェは悟った。自分が、間に合わなかった事を。

 

次の瞬間、凄まじい轟音と共にオルレアは吹き飛び、工場の壁へと激突した。

だが狂人は安心しない。オルレアの眼には、まだ光。

OBにて接近。

二段QBにて急接近。

トップスピードにて、前脚による渾身の蹴り。

 

まだ、斃れない。

 

オルレアのブレードが展開した、コジマの護りのなんと厚いことか。

 

しょうがない。狂人は、最後の手段を使う事にした。

 

ジャンヌは、イメージした。自らの身に纏うプライマルアーマーを圧縮して圧縮して、圧縮する。

 

その様子を見ていた男達は気付いた。クレピュスキュールを中心に、コジマ粒子が収束していく様子を。

 

次の瞬間、ハーゼン工場に、コジマの光が満ちた。

 

 

 

アンジェは生きていた。コジマ爆発により、オルレアの全身に均等ダメージを受けた、衝撃が分散したのが良かったのかもしれない。コアは無事で、自分も、多くの傷を負ってはいるが生きていた。

 

「は、ははは……ははは……!」

 

女は笑った。持てる全てをもって、このイレギュラーは私を倒してくれた。それが彼女にはわかった。

 

アンジェはコックピットから出た。肉薄しているクレピュスキュールの瞳には翡翠の光が灯っている。それが、彼女の完全な敗北を証明していた。

女は、動く気配のないクレピュスキュールに乗り移ると、そのコックピットと思える所に立った。

もしもの為に、ACには外部からもコックピットを開けられるようになっていた。

アンジェはそれを操作し、コックピットを解放する。

 

そこにいたのは、まだ幼く見える少女だった。

その身体に左腕は無く、ヘルメットから覗く整った顔には左眼は無い。

息も絶え絶え。しかし狂人は、突然の客人の姿を捉えると、右腕の親指をあげ、言った。

 

「すごい……だろ……」

 

女は笑った。そして、最高の戦いをしてくれた少女を抱き上げ、言った。

 

「あぁ……誇ってくれ。それが手向けだ」

 

ここに、ハーゼン工場の激闘は終結した。そこに死人は無い、不思議な終わりだった。

 

 

 

「どうするんだ、これから」

 

男はアンジェと真改に尋ねた。二人は、自衛用の小火器のチェックをしていた。

 

「生き残ってしまったんだ。それなら、また次の戦いに備えるよ」

 

コックピットの上からその言葉を聞いた狂人は、頭の中に嫌な想像が膨らんだ。次の戦い……クローズ・プラン……

 

アルテニア・クラニアムに立つ二人の剣士と一人の革命家。どう考えても、最悪レベルのミッション難度だ。

 

「そうか、なら、またいつか会うだろうな。」

 

「あぁ……。ふん、不思議な感情だ。なんで私達は、殺し合った相手にこんな親しみを抱いてるのだろうな」

 

「殺し合ったからだろ。俺も、エグザウィルで会った時よりも、お前を理解したような気がする」

 

そう言ってると、真改がアンジェを見た。どうやら、外に危険は無さそうだという事らしい。

 

「で、お前は私達を殺さなくていいのか?それが任務なのでは?」

 

「おいおい、今くらいは戦士でいさせてくれよ。敵に敬意を払うのなんて、久しぶりなんだから」

 

「そうか……なら、気にしないでおくことにしよう」

 

アンジェが小火器を持つ。腰には、自衛用の高周波ブレード。真改も同じ装いだった。

 

「じゃあな、アナトリアの傭兵。そして、イレギュラー。またいつか、戦場で」

 

「今度はちゃんとハイレーザーライフル持ってくるか……。うん、またいつか」

 

「じゃあな」

 

二人は手を挙げる。

 

と、鴉殺しが何かを思い出したかのように。鴉に向かって言った。

 

「レイヴン。私からの手向けだ、オルレアやスプリットムーンのパーツ。好きなもの全部持って行け。ピーキーな性能だが、お前なら使いこなせる筈だ」

 

「あぁ、ありがとよ……」

 

「じゃあな。次に会う時は、また鍛えておく」

 

「……………然らば」

 

そう言って、二人は工場から姿を消した。

 

長時間の戦闘。粗悪なAMS適性の為に、疲れ切った男は、先程まで共闘した相手を見上げた。

 

「おい、お前は本当になんなんだ?そんな若くてその腕は尋常じゃ無いぞ」

 

「うーん…………、まぁ、それは、知らなくて良い事かな」

 

「なんだ、そりゃ」

 

男は笑った。まぁ、いまは、そんな事は良いか

 

「じゃあ、私はこれで。見つかったらえらい事になりそうだから」

 

そう言ってクレピュスキュールに乗り込むイレギュラーに、男は自分が一つ尋ねたい事があったのを思い出した。

 

「おい!私は貴方ってどういう意味なんだ?」

 

「え?あぁ、あれは……」

 

コックピットを開きながら、少女は起動の準備をする。その手を止めて、少し考える。

 

「まぁ、それも、あんまり気にしなくて良い事よ。真実だけど、殆どその場のノリだったし。それに、貴方は私じゃないからね」

 

「答えになってないぞ」

 

「そんなもんよ。じゃ、また、こっちも戦場で会いましょう」

 

そう言って、クレピュスキュールも飛び去っていった。ほんとに、わけのわからない奴だ。

 

男は倒れた。今出せる全てを使い切った。疲労感も、また心地良い。

男はそのまま目を瞑った。

 

先程まで、剣戟が響いていたコロッセウムは、いまは驚く程に静かだった。

 

 

フィオナは走った。通信が切れて、既に三十分は経過していた。簡易的なコジマ防護服を着て輸送機から降りた彼女は、工場内部へ走った。

彼女は必死だった、視界の端にいた二つの影にも、空へと飛んで行くACにも気付かなかった。

 

工場内部。明かりは消え、天井から差し込む月の光しか光源は無いが、彼女はすぐに男に気付いた。

 

フィオナは駆け寄る、必死に呼びかける。そして、彼が息をしている事に気付くと、思いっきり泣いた。

 

その泣き声を聞いて、男の意識は覚醒した。

 

そして、泣きじゃくる少女の後頭部へ手を回すと、自分の方に引き寄せた。

ヘルメット越しのキス。コツンという軽い音が、廃工場に響く。

 

そして男は言った。まだ、身体の中にこれ程までの力が残っていたのかと驚く程に、強く、優しく。

 

「フィオナ……俺も、お前の事が好きだよ」

 

 

 

天に昇るは満月。空を見たジャンヌは、思わず呟いた。

 

「月が、綺麗だなぁ」

 

どんなに地球が汚れても、空はそんなこと関係無いってか。そう言って、ジャンヌは笑った。




すごい楽しかった。荒ありそう、誤字いっぱいありそう、後で探す。


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はじめてのおつかい

つなぎ


ガンガンにクーラーの効いた部屋。

最高の戦いも終わり、風呂に入った狂人は一気に疲れが出てきたのを感じた。

 

あーめんどくせぇ、パンツは……ステテコ……シャツは……あ、この一番くたびれた奴を……

 

なんとか布団に辿り着き、毛布にくるまる。

…………うん、もう、騎士の庭園以降は何もやらなくて良いや。ちかれた。とりあえず、リンクス戦争終わるまで寝ても良いかもし……………………………ぐーーーーすぴーーーーZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んが?

あ、なにか、なってる?

めざまし……?んなもんかけたっけ?

まったく、こっちは、よいきもちで、ねてたのに、ど、どこ…………だ、あ、ねむい、ねたい、でも、うるさい、いや、このおとがなってるなかでもわんちゃんねれる………?ねれそう……………いや、でも…………やはり、すこやかなねむりのために…………とめ…………けいたい…………これか…………おと…………なになに…………とうろくされているぼうはんぶざーかられんらくが…………?ふーん…………はぁ………………

 

 

 

は?

 

 

 

布団から飛び起きあ身体いてぇ硬ぇ整体行きたいヨガやりたい。腰を捻れあすっげぇゴキって音がすっげぇこれあいやでも脳が起きたぞ。

ハンガーにかけられた服をいくつか適当に取り、それを全部車の中に投げ込み、乗り込む。

 

ドアロックよし、シートよし、ルームミラーよし、ドアミラー右よし左よし、エンジンよ……面倒クセェ、エンジン始動、出発だ。

 

 

何があったんだ?リリウム……

 

 

 

 

唐突に脳に思いついたセレン・ヘイズとアンテのsunsの共通点をでっち上げてたらウォルコット邸に到着した。Gルートとか人類種の天敵ルートみたいなもんやし、地下世界……AC3だな。まてよ、ということは……アンテはACの完全新作だった……?あとマフェットはシャミア。てててってーてってってーてててててってーてってってー

さてさて、状況はどんな感……じ……

 

リリウムと目があった。

 

あれ、もしかしてブザー鳴らしてからずっと待ってた?私の事?結構時間かかったと思うけど。まーじか、まじか、まじか。

 

うわ、表情こっから見ただけでもわかるよ。笑顔が明るい、可愛い。パァーっていう効果音が出そうなほどの満面の笑みだ。

 

と、とりあえず中に入るとするか。いつも通りのルートを通ったらイイんですかねリリウムさん。あ、いい?なら通ります。はい、それでは。

 

 

泣きじゃくる少女を胸に抱く。というのはお姉さんパワー高いなぁと思う今日この頃。はい、ジャンヌ・オルレアンです。

 

部屋に入った途端こうなりました、これがライトノベルなら暴力系ヒロインに殴られるかクール系ヒロインに嫉妬されるかヤンデレ系ヒロインに刺されるかしていたでしょうが。私が主役を務めるこの人生においてそのようなヒロインは存在していないので何の問題もないです。

 

いや、しかし、うん、いい、強く抱きしめたら壊れてしまいそうなこの繊細さ、きゃわゆい。うむ、王大人、政治的センスだけでなく女選びのセンスもあるとは……流石カラードのランク8か……。

 

とりあえず、リリウムの第一声は要約すると御守り強く握ったら大きな音がしてビックリした。だった、うん、あの御守り、御守りと言いつつ実際は防犯ブザーだからね、鳴ったら登録してある携帯番号に連絡行くタイプの。

もう一度強く握ったら止まったので、多分、家人には気付かれて無い……と思うらしい。ならいいか。

 

「で、どうしたのリリウム?何かあったの?家の警備も薄いみたいだし」

 

女同士という事もあり、ナチュラルかつ大胆にリリウムの背中の感触を楽しみながら、ジャンヌは聞く。あ、髪の毛いい匂い。

 

「ジャ……ジャンヌ…様……に……お…お願いが……あ……あり……ありま…………す……」

 

んー?なんだいリリウムー可愛い君の為ならなぁゆでも聞いてあげるよー。むふふー、美人の涙はズルいよー、あー髪がツヤツヤ、髪フェチの人の気持ちがわかるよこれは………

 

「お姉様……達を……お姉様達を……たす……助けて………下さい………」

 

前言撤回。無茶言うな。てかまだ死んでなかったのかあいつら。

 

 

「お姉さん達がBFFを裏切った?」

 

「はい……」

 

やっと落ち着いたリリウムをなだめると、衝撃の真実がわかった。

 

数時間ほど前、BFFの軍人が来た。

リリウムがこっそりと盗み聞きした所によると、BFFの降伏後、ウォルコット姉弟はそれに応じず、未だに少数の部隊と共に戦っているらしい。その軍人は、これは明確なBFF社への裏切り行為である。と、宣言し。ウォルコット家にいたBFF系のガードマンや警備兵、ガードロボットを引き上げた……と。

 

え、まじ?どういうことそれ。あれBFFとか関係なく奴らが勝手にやってたの?マジで?なんかわかんなくなってきたぞ。

 

「お姉様達は……絶対……裏切りなんかするわけがありません……それなのに……あの人達は……」

 

どうやら、あの二人の事をだいぶ口汚く罵ったらしい。それを思い出したのか、またリリウムの瞳に涙が浮かんでいた。

 

その雫を拭きながら、静かに私は思った。

ありがとう、見知らぬBFFの人。リリウムの涙をありがとう。これは萌えだ。マジ萌えだ。

 

よしよし、大丈夫だよ。リリウムちゃん。お姉ちゃんはそんな罵倒とかしないからねぇー。今の所はねー。うふふふふー。ドメスティックバイオレンスー。

 

「その時……き、聞いたんです……す、速やかな講和の為に……お姉様達は邪魔だって……だから……お、姉様を……お兄様を…………こ、こ、ころ、ころすって………その人が…………」

 

熱くなりすぎだろBFFの人。そこまで口走るか、正義感とか会社愛とか強い人なのかな?

リリウムの頭を撫でながら、さてどうやって諦めるように説得するか考える。人間いつか死ぬんだから、それがすぐ来るだけだと考えよう!とか?ん、どしたリリウム、そんないきなり顔をあげ…………

 

「お願いします!ジャンヌ様、お姉様達を、お姉様達を助けて下さい!!ジャンヌ様はリンクスなんでしょう?リンクスなら、リンクスなら、お姉様達を助ける事もできるのでしょう!?」

 

リリウムが、思いっきり自分の腕を掴む。あぁくそ、目が、目が真剣だ。必死だ。紅い瞳が涙で血走ってる。これが藁をも掴むという事なんだろう。姉たちが生き残るには、自分しか手段はないと本気で信じてる。ここまで信用されたか、それとも、リンクスという肩書きがこの信用を与えたのか、どっちだ?わからん。女心はハードウェアが女になったくらいじゃ理解できない。くそ、目を背けられない。くそ、向き合ってしまう。

 

だが、あー、しかし、なんだ。なんというか、これはギャルゲーで言うと間違いなくルート内で一番重要なイベントだ。選択肢によって、エンドが決まる類の。

 

あぁくそ、死にたくないな。最高に死にたくない。どう考えても相手は奴である。伝説の鴉。ちょっと前に工場で見たばかりだが、あの動きはヤバい。AMS適性なんてモノの高さに、価値が無くなるのでは?というレベルでやばかった。

 

しかし、まぁ、あぁ、くそ。泣くなよリリウム、可愛いけど、可愛いけどなんか、あぁ、ちくしょう、こういう事か。こういう事なのか、おい、ウィン・D。俺にも涙の一つを見せてくれても良かったんじゃないか?そうすれば、ロイの兄貴みたいにホイホイついてったよ。今わかった、今確信した。くそ、ずりぃ、ずりぃよ、俺もいつか泣いてやるよ。

 

ジャンヌは、掴まれた右腕をリリウムの腰に回し、そのまま抱き締める。驚いた事に、この行為に邪な気持ちは無い。

 

そして、リリウムの後頭部を撫でながら、内心イヤイヤ、表面ではやさしくわちきは言った。

 

「わかった、リリウムのお姉さんを、お兄さんを、助けてくるよ」

 

この世界に来て初めてのミッション受諾である。ただ働きで。そして最悪な事にリセットボタンは無い。一発勝負だ、わお、ハードコア。

 

リリウムは顔を上げなかった。それどころか、また彼女は泣き始めた。先程よりも、ずっと強く。

 

私の胸で、彼女は呟き続ける。ありがとうございますと、ありがとうございますと。

 

あぁくそ、もうこれが報酬でいいよ。何百万コームの価値があるよこれには。クソ。

 

結局、私はリリウムが泣き疲れて寝てしまうまで、ずっと彼女を抱き続けることとなった。その間、彼女の感謝の言葉は途切れる事は無かった。それどころか、寝ながらも彼女はありがとうと言い続けていた。

 

狂人は、久しぶりに自分の中に他人が信じる通りに動こうという気持ちが芽生えたのを自覚した。




UA数やらお気に入り数が増える度にやる気が増える今日この頃



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戦士たちの墓標

どうにもならん話になりそうだったので二日寝かせたら、マシな案が出て何とかなったという顔をしている。




私は常々私こそが私の紡ぐ物語の主役だと思っている。

当たり前だ、私が見る事が出来るのは、私の視点のみであるし、私が直接操作できるのも私だけだ。

 

そんな私の物語は、それを発表するのならばコミック、小説、舞台演劇、アニメ、TVドラマを想定している。

これらは、私の意志、私という作者の想いのままに動く事ができる。

第三者たる読み手は、観客は、視聴者は、私の行動を邪魔することは出来無いし。そもそも干渉する事すら不可能だ。(ただ、舞台演劇は演じる私に対して欠伸などによってその気力を奪ったり、ゴミを投げつける事によって危害を与える事が出来る。これは、まぁ、天災の類と考えよう)

 

しかし、ゲームは違う。ゲームは、その世界とは関係無い第三者であるプレイヤーが、私の行動を大きく操る。その後のルートに関係無いような些細な選択肢から、その世界を滅ぼすような虐殺まで。プレイヤーの気紛れによって自分の意思と関係無く行ってしまう。

だからこそ、私はいつも、私の物語はゲームでは無い。と思い続けているし、思い続けていなければやっていられない。

 

さて、なぜ私が、唐突に、大真面目に、そんな独白を、漫画だとすると思考の吹き出しや白枠の中に、小説だとすると地の文に書き。舞台演劇だとするとスポットライトの中で、アニメやドラマだとすると別撮りし加工した声で語り。そして現実として脳の中で思考しているかというと言うと。いま現在、この世界が少なくともアーマード・コアというゲームの世界では無い事が証明されたからだ。

 

そう、これはアーマード・コアではない。現実だ。少なくとも、私がプレイしたACでは、こんな状況はありえなかった。

 

 

 

 

作戦領域到達前に、作戦が失敗している事など。

 

 

 

 

そう、私の初めての任務は失敗していた。分厚い吹雪のカーテンのかかったBFF社最大のコジマエネルギー発電施設であるスフィアは、サイレントアバランチと思われるノーマルの亡骸、力無く項垂れる二脚機に、コアに大穴を穿たれた四脚機のみが立つ墓地へと姿を変えていた。

 

「まーじか……」

 

絶望の表情を浮かべながら、崖を下る。巨人の死骸には、幾分かの雪が積もっていた。

 

どうやら、すべてが、大分遅かったらしい。

 

確かに、主役は遅れてやってくるとは言う。

だが、間に合わなければ何の意味もない。

 

ため息を、吐いた。臓腑が凍えるのを感じる。

 

 

どうすればいいのだろうか。私は、何と言えば良いのだろうか。あの娘に、あの幼い娘に。

言い訳をすれば良いのだろうか、謝罪をすれば良いのだろうか。

 

そんなもの、肉親を失った娘に何の意味があるんだ。

 

あぁ、くそ、ストレスで吐きそうになってきた。そりゃそうだ、そりゃそうだ、世の中そう都合良く回らないというのはわかっている。わかってはいるが、何もいまここで躓かなくっても良いじゃあ無いか。

 

 

私は、ゆっくりと二脚機……ヘリックスⅠに近づく。

もしかしたら生きているのでは?という淡い期待を抱いての行動だ。

BFF製ネクストに密着し、そのコアに乗り込むためにコックピットから出る。

 

「クソ、寒すぎるだろうが」

 

パイレットスーツに包まれた私の身体を、容赦無く吹雪は襲う。この薄く見えるスーツには、幾ばくかの防寒機能は備えてはいるが、これ程の雪は想定してはいないようだ。

 

雪を払い、ヘリックスIのコックピットを開く。

 

「……チッ」

 

暖房機能の働かなくなったコックピット。一眼で、そこにあるのは魂の抜け殻である事がわかった。

 

首が、あり得ない角度を向いている。首から、骨と、血のツララが飛び出ている。

 

「クソ、幾ら美人だからって。死体に欲情する趣味は持ってないんだぞ、私は。」

 

見開かれた目を閉ざす。その下に流れる一筋の薄い氷を見て、やりきれない気持ちになった。

 

「ほんと、美人だわ。近くで見ると本当に似ているな」

 

自分の愚かさに対し吐きたい気分を抑えながら、コックピットを出ようとする。

 

が、嫌な物が見えてしまった。

 

「…………」

 

戦争映画でよく見る物が、コックピットに貼ってある。仲の良い家族写真。ウォルコット姉妹に挟まれて、リリウムが立っている。みんな、楽しそうに笑っている。

 

自分は全力で向かった、それで間に合わなかった、仕方ない。そう自分を弁護する言葉は、空虚に吹雪に吸い込まれていく。自分に対する無限の怒りがハラワタから煮え繰り返り、歯を食いしばった。

 

私は、その写真を剥がすと。フランシスカの胸に置いた。これ以外、やれる事は無かった。

 

 

ヘリックスⅡの胸には、月光に貫かれたと思われる穴が空いていた。コックピットの少し下あたりだろうが、間違いなくこれが致命傷だろう。

 

ここも、コックピットを同じ要領で開く。

 

「うっ……」

 

それは、さらに壮絶だった。

私が、コックピットの下を通ったと思っていたムーンライトは、ちゃんとパイロットにもダメージを与えていた。

ユージン・ウォルコットは。この金髪白肌の美男子は、下半身が消滅していた。

コックピットに床は無く、脚部を直接見る事が出来てしまう。彼の身体が落ちてない無いのは、流れ出た血が凍り、彼と座席を離さないでいるからだろう。

 

誰かの言葉を思い出す。生などと言う汚さの終着点である死が美しいことなどあり得ないというあの言葉。

 

私は、イライラにより歯軋りを立てる。本当に、全ての歯を砕きたい。

 

その時だった。

 

「だ……れか、いるのか……?」

 

ユージン・ウォルコットが声を発した。

 

驚いた私は、一瞬衝動的に駆け寄ろうとし、すぐに下に地面が無いことを思い出した。

 

「います!すぐに助けを……」

 

思わず叫んでしまう。

 

「……すま……ない。どうも……めも………みみ………も…………やら…………れた……よ………う……だ……」

 

「マジかよ……」

 

思わず口にしてしまう。とりあえず、安心させようとコックピットの傍に足をかけ、ユージンの身体を触り、人が居ることを伝える。

 

「あぁ……ほんとうに…………い、いるん……だ……な…………」

 

ユージンの目から、とめど無く涙が溢れ、次の瞬間には凍る。やめろ、やめてくれ、泣くな、こっちは何も出来てないんだ。

 

「た………たのむ……………きみが……だれかは…わからないが……………り、りり、りりう……むを…………むす…………めを…………たの…………む」

 

マジかよ。こんな状況で最悪のカミングアウトを聞いちまったぞ。おい、託すな、重すぎる、重すぎるぞ。おい。

 

だが、私の手は、自分の脳に反し、任せろとでも言いたいのか、強くユージンの手を握った。

 

「そう…………か…………あ……り…………が……とう。それ……………と…………す………ま…………………ない………………が……………ねむ…………………らせ………………てく………れ…………………さむ………くて…………いた……くて…………ねむ……………れ……………な………………」

 

ユージンの右手が、微かに動く。あぁ、おい、お前、なんで拳銃なんかに手を置いた。まさか、そういうことかよ。クソ、勝手すぎるだろ。おい、フザケンナよ本当によ。

 

私は、怒りのままに右を離し、その拳銃をとった。

 

「あり……………が………が………と………………う………………………………」

 

やめてくれ、本当に自分が情けなくなる。くそ、これ程聞きたくないお願いは初めてだ。何だよこれ、いままで好き勝手やってきたどの戦いよりも殺人が辛いぞ

 

「り………りう…………………む………………ご……めん………………………………………ねえさ…………ん…………い……………ま………………………い…………………………………………………………く…………………………………………………………………………………………」

 

クソが

 

 

 

 

 

クレピュスキュールの中で、私は息を吐いた。

ユージンの胸にも、同じ写真を抱かせた。

 

どんな顔をして会えばいいんだ。助けられもせず、それどころか、兄を……親を殺したその面で、リリウムに会えるのか?

 

だが、会わなければならないだろう。逃げる事はできない。ユージン・ウォルコットの今際の言葉は、強力な呪いとして私の心を囚えていた。

 

 

ふと、レーダーが目についた。

数百メートル先に、二つの白点。数キロ先に、無数の白点。

 

GA本隊か。

スフィア占領用の部隊だろうな。

 

私は、イライラしていた。

 

この爆発に、指向性をつけなければならない。

 

それに、あれだ。

 

死者には、平穏な眠りが必要だ。

 

 

 

あるノーマル乗りの少佐は、旅団長周りが騒いでいる事に気づいた。

 

クエーサーに乗り込んでいる旅団長の少将が、部隊に警戒態勢のまま待機を命じたのは10分ほど前だった。今回の作戦目標である、スフィアへはそう距離もない。

 

「どうしたんだ?スフィアの防衛部隊は全て排除したと聞いたが……」

 

一瞬、タバコを吸いに外に出ようかとも考えたが、いま自分が着ている対コジマ用の分厚い防護服と、外の猛吹雪を思い出し、止めた。

 

少佐は、後ろを振り向いた。彼の部下達も、何が何だかわからないといった様子だ。

 

彼の所属する旅団はノーマル二個中隊に、多数の戦闘車両、支援車両、そして機械化歩兵という編成だ。クエーサーも、指揮車両を含め三機はある。これは、その後の防衛の事も考えた装備だ。現在、スフィア内の職員はその全てが脱出しており、撃破されたBFF製のノーマルやネクストしかいないと聞く。

 

何か、たまらなく悪い予感がした。男はベテランだった、こういう時の予感はだいたい当たる事を知っていた。

 

「おい、戦闘準備しておけ。嫌な予感が……」

 

ちょうどその時、旅団本部から通信が入る。

 

「スフィア方面より高エネルギー反応が接近中。偵察小隊は全滅。総員、戦闘準備を……」

 

高エネルギー反応だと……?

 

まさか……!!

 

しかし、少佐が反応するよりも早く、旅団長が乗るクエーサーは爆発音と同時に巨大な火の塊と化す。

 

通信がノイズのみとなる。少佐は叫んだ。

 

「総員、対ネクスト用のマニュアルを思い出せ。マシンガンを持つ奴らは前進してプライマル・アーマーを…………」

 

レーザーに貫かれ、二機目のクエーサーが沈黙する。さらに、機械化歩兵中隊のど真ん中で爆発が起こる。装甲車が爆風によって飛び上がり、付近にいた戦車は横転するか、その熱量に耐え切れずに火を噴いた。三機目のクエーサーは車体を旋回させながら、攻撃してきた相手を探そうとする。

 

が、それは叶わなかった。残った最後の巨大兵器は、吹雪を貫いてやってきたネクストにより真っ二つに斬り裂かれた。弾薬庫もやられたのだろう、車体は爆風によって吹き飛び、四つの脚のみが雪原に突き刺さっていた。

 

「何だと……?」

 

更に、ネクストは雪原を滑りながら全てを消していく。レーザーブレードが、戦車や装甲車、そして歩兵達を蒸発させ。高出力レーザーがパワードスーツを着た兵士達がこの世にいた痕跡を綺麗に消し去り、そして背中に装備された巨大グレネードは数百人単位の人名を一撃で奪い取る。

 

「散開して撃ちまくれ!何とか奴を止めろ!!」

 

男は叫んだ。そいつが何であるか、彼にはわからなかったが、とんでも無い化け物である事は確かだった。

 

ノーマル達は一斉に武装を構え、動き始める。しかし、目にも留まらぬ速さでネクストはその中央を突っ切ると、一気に六機のネクストを切り捨てた。

 

「あ、あんなんに当たるか!!クソ!助けてくれ!!」

 

「止めろ!クソ!何が簡単な仕事だ!!ふざけ…………」

 

「おいロイ!ふざけんな!!なに黙ってんだ!!死んだとか言うなよ!!」

 

無線が混乱する。旅団全体から阿鼻叫喚の声が聞こえる。

 

「落ち着けお前ら!それじゃあ何にもならない!すぐに陣形を組み直せ!!」

 

この中で、落ち着いているのはこの少佐ただ一人だった。一兵卒から叩き上げで佐官の階級を手に入れた男は、焦りこそが死への近道だという事を知っていた。

 

だが、彼一人が落ち着いていても、どうにもならなかった。

 

瞬く間にノーマル部隊は削れていき、ついに少佐含め残ったノーマルACは四機のみとなった。

 

「チィ!」

 

少佐はバズーカを構えた。せめて、一矢でも……

 

正面から突っ込んできたネクストに対して、バズーカを撃ち込む。

 

だが、化け物はそれを余裕の動きでかわすと、ブレードを構えた。

 

「こんな……」

 

こんな馬鹿な事があってたまるか……。

迫ってくるネクストを見ながら、男は呆然と呟いた。

 

「死ぬってのか?俺が」

 

やっと、やっとここまでたどり着いたのに……

 

次の瞬間、少佐の視界は暗転した。

 

 

 

「う……んん………」

 

目を開ける。そこには、すべての電源が死んだコンソールが見えた。

 

「助かったってのか……?」

 

少佐が信じられないように呟く。

 

周囲は静かだ。とりあえず、男は状況を確認するために、自衛用のサブマシンガンを持ち。コックピットを開ける。

 

「なるほど……生き残りは俺一人か……」

 

自分がどれほど寝ていたかわからないが、とりあえず、そこにいたのは死体のみだった。

パチパチと火を上げる戦車、雪原にに突き刺さった装甲車、黒く焦げたノーマル。輸送用のトラックも、燃えるか、消えるかしていた。無事な兵器は無く、辺りに人影は見えない。

 

自分の愛機を見ると、ちょうどコックピットの真下が消えていた。ネクストは、どうやら自分を殺り損なったらしい。

 

「なるほど、この俺の悪運はまだ尽きない……か」

 

呆れたように男は呟いた。自分の悪運には自信があったが、まさか、ここまで死神めいたものとは思わなかった。

 

後方を見ると、そこでも大きな火の手が上がったいた。

多分、旅団を運搬した揚陸艦だろう。ご丁寧なこった。

 

「さて、どうするか……だ」

 

恐らく、いま現在南極にいるGA部隊は俺一人か、もしくは極少数だろう。南極の外にいる部隊に連絡を取れるような強力無線機を積んだ兵器が生きているとは、到底思えない。

 

男は、ニーボードについた戦術地図を取り出した。そこから、近くの陸地までの距離を測る。

少佐は溜息を吐いた。どうにも、絶望的な距離の物しか見当たらない。

 

「ふん、まぁいい。何としても俺は生き残ってやるからな。」

 

男は戦術地図をたたむと、沈んだ揚陸艦の方を向いた。まずは、他に生き残りがいないか探す事が先だろう。大声で周囲に声をかけながら、歩みを進めた。

 

男……周囲から、尊敬の念を込め〝ドン・メイジャー〟と呼ばれている少佐は、決して諦めるという事を知らない男だった。

 

 

 

ジャンヌ・オルレアンは、失意のまま基地へと戻っていた。パイロットスーツのまま機体から降りると(付着したコジマ粒子を確認したのか、整備ロボたちが纏わり付いて何かを噴射してきたが、気にとめるほどの余裕はなかった。)自室に向かい、そのままベッドへと倒れこんだ。

 

リリウムに会う勇気がわかなかった。GA部隊を皆殺しにしたが、何の気力も身体にわいてこなかった。

 

脳内に、あの時みたリリウムの泣き顔がフラッシュバックする。あんなもの、見たくない。絶対に見たくないのに。

 

溜息をつき、ジャンヌは手を放り出した。

 

しかし、それではいけない。私は、依頼主に報告をする義務がある。

 

心の中で、五つ数字を数えようとする。それを数え終えたら、着替えて、リリウムの所に行こう。

 

一つ

 

 

 

 

二つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

携帯が、鳴った

 

 

ジャンヌは怪訝な表情を作る。こんな時間に、何だ?

時は丑三つ時、草木も眠る深き夜だ。こんな時間にシンさんが電話をしてくるとは思えないが……

 

携帯を手繰り寄し、画面を見る。

 

そこには、こう書かれていた。

 

 

「登録されている防犯ブザーから連絡があります」

 




なお、戦争の様子が大きく変わってるので、fA時代の新型標準機が色々と変わる事になりますが、ご容赦ください。


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少女は、少女は、駆けて、駆ける。

これほんとにアーマードコアのSSか?


○一五五

 

BFF特殊作戦軍に所属する兵隊たちは、その時には完全にウォルコット邸の包囲を完了していた。

 

BFF軍部から派遣されていた警備兵が引き上げた後、どうやら彼らは自費で警備を雇ったらしい。庭には数名の兵隊の姿が見えた。

指揮車輌の中で対象の家を眺める男は、刻々と作戦開始の時を待っていた。肩には大佐の階級章がある。あみだにかぶったベージュ色のベレー帽の下には、品良く年輪を重ねた老人の顔があった。

 

「ウォルコット家も今日で終わり……か」

 

感慨深そうに男は呟く。あの姉弟とは知らない仲では無い。それにウォルコットというのは、話を聞けば中世の時代から続く由緒ある家名らしい。

 

○一五六

 

目標は、現在のウォルコット家当主。リリウム・ウォルコット、その確保である。

無論、彼女は自分がそういう立場にある事は知らない。今頃、知らず知らずの内に裏切り者にされ、GAから送られてきた傭兵によって斃れた姉達の無事を祈りながら、ベッドの中で寝ている頃だろう。

 

大佐は、もう一度目標の写真を見る。可愛らしい子供だ。彼には、ちょうどこれくらいの年齢の孫娘がいた。義理の娘の連れ子であるが、素直な子で、妻や息子と共にとても可愛がっている。

 

「こんな小さな子どもでも、あの怪物の前ではただの政治の道具か」

 

一度も見た事の無い目標を相手に、老大佐は同情の念を露わにする。孫に自慢できるような仕事などは殆どしてこなかったが、ここまで気分の乗らない仕事は初めてだった。特に、あのメアリー・シェリー女史との間に流れる噂を考えると…………

 

○一五七

 

いや、よそう。いま自分の頭の中に飛来したロクでも無い妄想を振り払うと、老大佐は再び画面に注意を向けた。BFF製のUAVから送られてくる映像は、同社のカメラ技術の高さもあって、黒づくめの隊員一人一人の様子が良くわかる。

 

その装備は殆どがアサルトライフルやサブマシンガンであるが、中には対人用のロケット砲や軽機関銃などを持つ者もいる。対象の確保をすませれば、それらの重火器による掃討戦が行われる予定だ。

 

○一五八

 

老大佐は、水筒に入っているコーヒーを口に含んだ。土地柄の所為か、周囲は紅茶党が多かったが、学生時代からコーヒーを愛飲してきた彼にとっては、あれこそ泥水のように感じる飲み物だった。

 

頭が冴えてくる。戦争当時、BFFはアフリカや南米などの有名なコーヒー産地を支配する企業の悉くと敵対しているため、豆は貴重だった。GA側に降伏し、少しずつ輸入が再開された今だからこそ、仕事場に持っていくなどという贅沢もできる。戦時中は、家に貯蔵していた古い豆を挽いて、一週間に一度だけ、夜の楽しみとして大事に飲んでいた。

 

その戦争についても、様々な憶測が聞こえてくる。だが、男は気にしない。戦争が政治的であるのは当然だし、一介の軍人である彼にとってはどうでも良いことだった。あんな、戦場よりも血生臭い場所に興味は無い。

 

○一五九

 

時は近い。何も焦る必要の無い、いつも通りの仕事だ。護衛は多いが、彼の部下にとっては稚児と変わらないだろう。かつて国家が存在した時代、最強の特殊部隊と言われたSASの伝統を継ぐBFF特殊作戦軍に所属する兵たちは、イクバールのバーラット部隊にも比肩する高い練度を誇っていた。そして、レディのエスコートに関しては、間違いなく奴らよりは上という自負もある。

 

かつて、英国陸軍の大尉だった男はもう一度コーヒーを口に含んだ。妻から、結婚前の誕生日に送られた時計に目をやる。作戦開始まであと三十秒。男はコーヒーを飲み込むと、マイクを口元に近付けた。

 

静かな指揮車輌内部に、時計の音と心臓の音だけが響く。

 

二十

 

旧スイス製の時計が、四十年前から変わらない速さで時を刻む。周囲に人影は無い、ウォルコット家の警備達は、十数秒後の自分の運命も知らずに欠伸をしている。

 

 

老大佐は息を吸った。そして心の中で、お姫様に謝罪をする。

すいません御嬢さん。貴女の最後の安らかな眠りを邪魔してしまって。

 

○二○○

 

「それでは紳士諸君、楽しいお茶会を始めよう」

 

次の瞬間、男は庭にいた警備員が同時に倒れるのを目にした。

 

 

黒づくめの装束に身を包んだ男達は、周囲の警戒を行いながら突入を開始した。かんしかめらに銃弾を撃ち込み、手早く扉に取り付く。裏では、装甲車に乗ったC分隊が、二階からの突入を行おうとしている時分だろう。

 

ブリーフィングやキルハウスで叩き込んだ家の間取りを思い浮かべながら、分隊長の大尉は指示を行う。

 

「爆薬を」

 

軍曹が頷き、可塑性爆薬を扉に貼り付ける。いつの時代も変わらない、最良のマスターキーだ。

 

「やれ」

 

次の瞬間にはドアは爆音と共に吹き飛んだ。静音性は二の次、速さのみを優先した開錠だ。

 

隊員達が室内にライフルを向ける。煙で曇っているが、赤外線暗視装置を装備する彼らには人影が良く見えた。バババッという短い銃声の後、それらは倒れる。

 

「こちらチャーリー1。部屋にパッケージは存在しない。捜索を開始する」

 

対象の確保の為に直接室内に入ったC分隊の隊長からの無線が入る。トイレにでも行っているのか?と少尉は考えたが、勿論口にはしない。丁寧かつ迅速に一つ一つのドアを開け、中にいる人間を戦闘員や非戦闘員にかかわらず丁寧に処理する。

 

「クリア」

 

ドアにスプレーでマーキングし、次の部屋を捜索する。

 

「廊下にガードロボ!」

 

軍曹が叫んだ。分隊員達は素早く部屋に隠れる。次の瞬間、機関銃の唸り声と共に、銃弾が飛来してきた。

 

「マシンガンを装備しています」

 

頭を上げさせないつもりか。まぁ、手はある。

 

「ニック、UAVに高性能爆薬を括り付けろ。デリバリーのサービスだ。サム、ライトマシンガンの準備」

 

「了解、すぐに用意をします」

 

「ヤー」

 

命令された曹長が、手早く自分の持つ小型ドローンに爆薬を取り付ける。そしてそれを飛ばすと、扉の上の方から廊下に出す。

 

ガードメカはそれに気付くと、機銃を上に向け迎撃を行おうとするが、ドローンは事も無げにガードメカの機銃部にたどり着くと、自爆した。

 

「制圧しろ!」

 

分隊員達が飛び出し、手に持つマシンガンやライフルをガードメカに集中させる。ある程度の装甲を持つそれは、だが7.62㎜や6.8㎜のフルメタルジャケットの雨の前にすぐに沈黙してしまった。

 

「目標を撃破」

 

「タイムスケジュールから遅れている。捜索を再開するぞ」

 

廊下に倒れる使用人や警備兵の死骸を跨ぎながら、男達は再び捜索を再開した。

 

 

しかし

 

 

「パッケージがいない?」

 

老大佐はアルファ分隊の大尉からの報告を聞き、首を捻った。

間違いなく、リリウム・ウォルコットは家にいるはずである。男は少し考え込むと、もしや?と思い口にする。

 

「秘密の隠し部屋でも存在するのか?」

 

「すぐに捜索します」

 

三分後、報告が来た。

 

「ブラボー3が見つけました。ダクト内に人が通ったと思われる跡があります。また、防犯ブザーのようなものも落ちていました」

 

「よし、そこを辿れ」

 

さらに十分後

 

「ブラボー分隊から報告です。どうやら、空気ダクトのみで繋がる地下室が存在するらしいです。外部につながっているらいですが鉄製の扉は閉ざされており、現在テルミットによる破壊を準備中との事」

 

「外だと?」

 

確か、ウォルコット家はかつてはこの辺りの封建領主だったなと思い出す。

 

となると……

 

「UAVの画像を街全体に合わせろ。」

 

老大佐が命じると、ウォルコット邸にピントがあわされていた映像が街全体を映すものに変わる。

夜は遅い、人影は極めて少なく、その一つ一つの中から目標を探すことは造作もなかった。

 

「マイティモーより全分隊員。パッケージはNA-35地点の道路を北上中。総員、速やかに確保に移れ。」

 

 

リリウム・ウォルコットは初めて長時間の有酸素運動を、絶望的な表情で行っていた。

 

リリウムが襲撃に気がついたのは、偶然にも彼女がトイレから自室に帰ろうとする間だった。

反射的にいつも持ち歩いているジャンヌからの御守りを強く握ってしまい、その大きな音に驚いて、再度それを握る事によって音を止める。偶然、下から響いた爆発音によってその音は掻き消されたが、状況が急を要すことに彼女はすぐに気がついた。

 

「もしも、家にいて危ない事があったら……」

 

姉が言っていたことをリリウムは思い出す。彼女はトイレへと戻ると、その天井にある空気ダクトの中へ入った。

 

埃をかぶったダクト内を行く。これは、その存在が使用人にすら隠されている事の証明であった。リリウムは込み上げてくる咳の衝動に耐えながら、下にいる襲撃者たちに気付かれないように進んだ。

 

古びた梯子を降りると、家の設計図にはのっていない地下室に出た。一度だけ、姉に連れてきてもらった事がある。もしもの時はここから逃げるようにと。

 

鉄製の大きな扉を開け、外側から閂をする。この時に、リリウムは腰にジャンヌから貰った御守りが無いことに気づいた

 

「落としてしまったんだ……」

 

だが、戻る時間も余裕も無い。彼女は一目散に、石の廊下を駆けた。

 

 

出た先は、街中を流れる川の横にある未舗装の道だった。周囲を確認したリリウムは、隠し通路への扉を閉めると、ビル街の中へ入る。その何処にも灯りは無く、人の気配も感じられなかった。

 

シルクのパジャマが揺れ、豊かな銀髪が風になびく。その紅い瞳には近頃流れ続ける涙が湧き出し、白肌には多くの汗が浮かぶ。

 

急いで出てきたせいで、リリウムは裸足だった。細かい砂利や舗装された道路がその頼り無い、小さな足裏を傷つけるが、それも気にせず彼女は走り続けた。

 

 

遠くから、車のエンジン音が聞こえた。

リリウムは息を飲む、心臓が張り裂けそうだ。だが、走らなければ。

 

嫌な予感がしていた。ジャンヌに姉達を頼む前から、彼女は自分の身に何かが起こるのではと恐怖していた。

 

 

ソレに気づいたのは、ジャンヌと出会う直前だった。周囲から、視線を感じるようになった。リリウムは余りそれらを気にしなかった、余り、怖いものを感じなかったし、それよりも大きな事件が飛び込んで来たからだ。

 

しかし、戦争が始まり、姉や兄、そしてジャンヌが去ると、その視線の中に多くの悪意を感じるようになった。何かはわからないが、恐ろしい何か、それが、自分の家を囲んでいることを知った。

 

そして、件のBFFとの騒ぎで、その感覚は確信に変わった。何か、恐ろしいものが、戦争よりも恐ろしいものが、リリウム達のすべてを変えようとしている事に。

 

 

リリウム・ウォルコットはきょうだい想いの優しい娘だった。こんな目にあうかもしれないと感じつつも、彼女はジャンヌに姉達の事を頼んだ。彼女にとって、それこそが最も大事なものだったからだ。

 

リリウムは走る。彼女はジャンヌを信じていた、あの人なら、絶対に、姉達を救ってくれると。

 

 

前方に、大きな車が停まった。

 

中から、真っ黒な人達が降りてくる。

 

リリウムはすぐに踵を返した。だが、もう一つの道路にも、同じような車が停まっていて、同じように黒装束の男達がいた。

 

「こちらアルファ1、パッケージを発見。すぐに確保に移ります」

 

あぁ、ここまでか。

 

突然、リリウムの身体に極度の疲労が襲いかかってきた。心臓は滅茶苦茶に動きながら全身に血を送り、身体は酸素を求めて呼吸を続ける。汗が全身より噴き出し、絹製の寝間着を濡らした。もはや、立つ気力も無くなった彼女は、道路にへたり込んだ。

 

コツ、コツと、軍靴が道路を叩く。単調なその音が、ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。

リリウムは、道路に顔を埋めると、ただただ泣いた。彼女には確信があった。彼らに捕まったら、二度と愛しい人に会えないという確信が。

 

ごめんなさい。お姉様、お兄様、ジャンヌ様。

 

リリウムは、もう……もう…………

 

 

 

 

 

 

老大佐のもとに、一人の女が駆け寄ってきた。先程まで、本営との通信を行っていた彼女は、慌てた様子で先ほどの通信内容を男に伝えた。

 

「本土の防空レーダーにネクストの反応だと?」

 

男が尋ね返す、それは何かの間違いでは無いのかと。

 

だが、次の瞬間に信じられないことが起こった。

 

UAVからの映像が、途絶えた。

 

「こちらブラボー1!どういう事だ!?上空のUAVが火を噴いて落ちていってるぞ!?」

 

その理由を確認したのは、屋敷の周囲の捜索を行っていたブラボー分隊の人間だった。

さらに、彼はとんでもない事を続けて報告する。

 

「上空に更に一機!高速で……あれは……AC……?何でだ!?」

 

その無線を聞いていた者達は、反射的に空を見てしまう。

 

そこには、確かにACがいた。

 

月の光を背に受けて、四脚の人型兵器が、四つの瞳でもって世界を見下ろしていた。

 




なお、初期段階ではいろいろあって街が滅びてました。


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リリウム・ウォルコット

4編、筋道決まったんでなんとか勢いに乗って終わらせたい。


エネミーUAVをデストロイし、私は眼下に広がる街を見る。ウォルコット邸には煙が上がるが、そこよりも気になる場所がある。

 

BFF製の高性能カメラでもって、その気になる場所へと視点をあわせる。そしてどんなウォーリーよりも、真剣に、あの娘を、探す。

 

……見えた。装輪装甲車、黒ずくめの男、そしてそれに囲まれる、見慣れた、依頼主。

 

間に合った。彼女は、安堵のため息と共にブースターを切った。

自由落下、位置を調整しつつ。地上へと向かう。

 

怒りよりも、安心と、安らかな気持ちに包まれた乙女は、笑顔すら浮かべながら着地した。

 

ちょうど、装甲車の真上に。

 

 

リリウムは、呆然とそのネクストを眺めていた。

舗装された道路がめくれ、踏み潰された装甲車からはモクモクと煙が上がる。

大地に立つ異形の巨人。その視線が下がり、四つの瞳がリリウムを捉えた。

ふと、リリウムは不思議な気持ちに囚われた。それが何かを判断する前に、巨人の胸が開く。

 

そこには、ジャンヌが立っていた。

 

「リリウム!!走って!!」

 

聞き慣れた声が響く、その声を聞いて、リリウムは急ぎ立ち上がり、その巨人へ向けて走り出した。

 

足が、頭が、心臓が、全身が痛い。だが、不思議と、足は、身体は前に進んだ。

 

後ろから銃声が響く。目標はリリウムでは無く、ジャンヌ。コックピット目掛け、無数の銃弾が飛来した。

 

「クソッ!危ねぇ!!プライマル・アーマーさえ展開できりゃぁ!!」

 

普段からは考えられないような罵声が、ジャンヌの口から飛び出した。それにちょっとした驚きを感じつつも、だが彼女は駆ける。

 

巨人の傍から、男達が飛び出してくる。先ほど、潰された装甲車の周りにいた者たちだ。恐らく、寸前で回避したのだろう。銃は持っていない、リリウムは知らないことだが、彼らの装備は、少女を安心させるためにとの分隊長の判断で装甲車の中に置いておかれたままであり、今現在はスクラップと化していた。

 

彼らは、リリウムを確保すべく走り出す。

 

しかし、必死に、全力で、持てる全てを振り絞りながら、リリウムはそれをかわす。

 

一人の男がリリウムの前に立ち塞がろうとする。

 

パンッと、先程までとは違う類の銃声が前から響いた。男が呻きながら倒れる。

 

ジャンヌが、銃を撃っていた。6発、音が響いたところで、それを後ろに放り、また手を伸ばす。

 

「走れ!早く!こっちに!」

 

身を屈めた巨人から、ジャンヌが叫ぶ。

 

一人がリリウムに飛びかかり、その髪を掴もうとする。だが、その成果は3本程の髪の毛と、リリウムの頭皮にわずかな痛みを与えたのみだ。

 

リリウムは振り向かず、ジャンヌの手を目掛け、手を伸ばし、飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

リリウムの手に、人の温かさが広がった。

 

「とったぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

雄叫びを上げながら、ジャンヌがリリウムを引き上げる。と、同時に、その腕でリリウムを抱きしめると、コックピットの中に転がり込んだ。

 

そして、世界が閉じる。

 

「リリウム!しっかり私の身体を掴んで!絶対に離さないで!」

 

コクリと、少女は頷いた。それを確認すると、ジャンヌはニコリと笑った。

 

「OK、復讐と行きたい所だが。こっちにゃそんな余裕は無いんでな。悪いが、サヨナラだよ諸君」

 

メインブースターが起動、速やかに、二人を乗せたネクストは地上から離れて行く。

 

下からは絶え間無い銃声、だが、PAが無くとも対人兵器程度はどうとでもなる。

 

ロケット兵器がクレピュスキュールの肌を焼く。だがその下、真皮までは、破壊の風は届かない。

 

そして、すぐに彼女たちは、夜の闇の中へ消えた。

 

 

 

「作戦失敗……か」

 

老大佐は部下からの報告を聞くと、口の中でそう呟いた。

 

ベレー帽を目深に被り直し、腕を組む。

 

奇跡的に死者は出なかった。一人、背中に銃弾を受けたが、ケプラーベストが身体を守り、軽症で済んだという。

 

「どうしてネクストが……」

 

とは思うが、与えられた情報のみでは判断が出来ない。最早、自分たちがすべきことは無い。

 

「総員撤収、アルファ分隊はチャーリーの装甲車に乗れ。」

 

そうとだけ言うと、老大佐は上への報告の準備を始めた。

 

まぁ、陰謀家の人形になるよりかは、これで良かったのかもしれないな。男は頭の片隅でそう思った。

 

 

本当はビルを突っ切ってエントリーするという往年のロシア戦車みたいな登場方法を考えてましたが、様々な案を脳内で検討した結果今回は不採用となりました。ジャンヌ・オルレアンです。

 

なんとか、救いました。

 

胸に抱く少女を撫でながら、心の中でそう呟く。

嫌な予感がして、車では無くネクストに飛び乗って良かった。ちなみにスクランブルかけてきた戦闘機を数機ほど叩き落としました。仕方ないね!

 

「うぇっぐ……うぅ……じゃ……じゃんぬさまぁ…………」

 

リリウムは、ずっと泣きじゃくっていた。最近、泣いた彼女しか見ていない気がする。まぁ、仕方がないだろう。今現在、彼女が受けている負担を思えば……

 

先ほど、チラリと見たウォルコット邸の様子を思い出す。何人か、倒れる人影が見えたし、数カ所煙が上がっていた。おそらく、あの場所で戦いがあったのだろう。そして、多くの人間が死んだのだろう。

 

自分にとっては見ず知らずの人間でも、彼女にとっては何年も共に過ごした家族だ。それを一気に失ったとなると、その悲しみは想像できない。

 

私は、意識の多くを自分の身体に割きながら、彼女と背を撫でる。いまの自分にできるのは、こんな事くらいだ。彼女の深い悲しみは、絶対に私には理解できない。そして、そんな彼女に対して泣くななどとは言えない。悲しい時は、泣けば良いのだ。それで中身が空っぽになったとしても、また生きている内に少しずつだが満たされるようになる。

 

……どうして、こうなった。

私の、私の生きる目的の一つである、『リリウム・ウォルコットを手中に収める』は、もはや終局の段階だ。

手順を間違えない限り、確実にゲットできるだろう。

だが、もうちょっと、もうちょっと、計画の中ではメルヘンにことを進めるつもりだった。

 

それこそ、小さいうちに出会ってたのは幼馴染的な属性をリリウムの中でつけようとしたからだし。ほら、ドラクエ5やる人ってビアンカ好きでしょ?え、なに?ルドマンの方がお好き?あぁ、そう。

いや、まぁ、だから、小さい頃に出会っといたらその後の展開も楽だろうになぁって思ってたんですが。

それがいったい、なんでこんなズブズブに。

 

なんでこんな小さい娘が私以外に頼れる人間がいない状況になるんですかねぇ。

確かに世の中というのは過酷で、厳しい試練は何度も襲ってくる。

襲ってくるけど、ここまでは、流石に……

だって、肉親を失って、家もみんな無くなっちゃって、訳のわからんやつらに追っかけられて、ねぇ?過酷すぎじゃ…………

 

…………肉親を失って?

 

…………………………………あ

 

 

………………………………………………………え?

 

 

 

ジャンヌの顔が見る見るうちに青ざめていく。心臓の音は先程とは比較にならないほどに高鳴り、殆ど食事を摂っていないのに吐き気がこみ上げてくる。

 

えっと、それは、きっと、私は、伝え、この娘に、伝え、つ、死んだ、こと、つ、え?マジ?

 

この状態の娘に?

 

肉親が死んだことを伝えろと?

 

私にこの手を汚せとおっしゃられる?

 

ちらりとリリウムの姿を見、再び外を見る。

 

 

 

これ、殺人に分類されるのでは?

 

 

 

 

 

とりあえず、家に帰ってきました。胸の中のリリウムはまた寝ちゃっています。走って泣いて疲れたのだろう。時間もまだ夜だし。

身体は汗でぐちょぐちょだし、顔も真っ赤です。

 

流石にこのまま寝かせるのはどうなんだろう。かと言って、寝てる中に風呂に突っ込んだら。それこそ殺人です。

 

「身体を拭いてあげるかぁ」

 

そう思い立ち、私はバスタオルをとってくる。

リリウムを椅子に座らせると、服を脱がせる。

……綺麗な身体だ。肌は白く、ハリがある。栄養状態が良いのだろう。少しばかり線は薄いが、まぁ、健康の範囲の中だ。

 

なんというか、喉に乾きは覚えるが、流石に性欲は抱かない。それは私の身体が女だからというより、彼女に抱く罪悪感からだろう。というか、エロいことしたらあの姉弟に呪われそう。

 

優しく、繊細な肌を傷つけないように少女の身体につく水滴を拭う。着ていた服は洗濯機に投げといた。

 

リリウムの身体を拭き終わったら、私はとりあえずクローゼットの中から彼女が着れそうな服を探した。

 

…………ワイシャツ着せたい。

 

いや、よそう、やめよう。やめなければならない。

とりあえず、今の身体用に購入した衣服を着せる。

 

……少しばかり、大きいが大丈夫だろう。

 

さて、よっこいしょっと。

しかし、軽いな、自分は確かに身体をいじくりまわしてるが、片手で抱き抱えられるってのはなかなかに。余り、ご飯を食べてないのかな?それじゃあ良いリンクスに慣れないぞ。

 

リリウムをベッドに寝かせて、布団をかける。

その寝顔を眺めながら、私は吐き気の原因と向き合う。

 

あぁ、クソ。逃げ出したい。最高に逃げ出したい。

でも、ダメなんだ。甚だ不本意であるが、私は、この娘と向き合わねばならないのだ。

それが、死者に対する誠意というものだろう。

 

 

 

リリウム・ウォルコットは夢を見た。

平和な昼下がりの光景。庭で、私は姉様や兄様と共にティータイムを楽しんでいる。

 

楽しいお喋りが続く。いつも通りの、でも、なぜか、とても尊い時間。

 

時はすぐに経ち、日は屋敷の向こう側へと隠れようとしている。

 

姉様と兄様が立ち上がる、私もついて行こうと腰をあげかけると、姉様が私の肩に優しく手を置いた。

 

「姉様……?」

 

「ごめんなさい、リリウム。私とジーンはね、もうあなたと一緒にいてあげられないの」

 

「へ…………?」

 

どうして?とは尋ねられなかった。姉様の笑顔には、一種の凄みのようなものが感じられたからだ。

 

「ゴメン、リリウム。本当はずっと暮らしたかったんだけど、でも、ダメなんだ」

 

兄様も、笑顔を浮かべている。だが、その目からは涙が。

 

「いい?リリウム?良い子にしていてね?絶対に、絶対に、こっちに来ないでね?」

 

「姉様……」

 

「じゃあね。……大丈夫、リリウムの事は、ずっと見ているから。」

 

「兄様……!」

 

二人が、屋敷へ向かおうとする。私はそれを追いかけようとして、転んでしまう。

 

私の服を、誰かが掴んでいた。

 

振り返る、必死な顔のジャンヌ様が、絶対に放さないと私の服を掴んでいる。

 

「離して下さいジャンヌ様!リリウムは!姉様たちのもとへ……」

 

「ごめん!本当にごめん!みんな私のせいなんだ!みんな私のせいだけど!でも!ダメなんだ!私は託されたんだ!だから!行かせることはできない!」

 

ジャンヌ様が泣いて、私を止めている。

 

それで、何となくわかってしまった。

姉様や、兄様に、何があったのかと。

ジャンヌ様が泣いている。

向こうへ行く姉様や、兄様も、泣いている。

 

リリウムの目にも、涙が浮かんできた。

あんなに泣いたのに、涙は枯れない。枯れるわけがない。

 

ジャンヌ様は、泣きながら私の身体を抱きしめてくれた。

 

とても、とっても、優しい暖かさだった。

 

 

 

 

 

「取り逃がした……か」

 

グレートブリテン島にある自らの執務室に戻った王小龍は、老大佐からの報告を聞き、呟いた。

 

「はい。責任は全て私にあります。何なりと処分を」

 

「……いや、ネクストの到来はこちらも予想できなかった事。ノーマルも装備していない部隊でネクストを相手にするなど不可能と同義語だ。……それに、BFFは君たちのような優秀な人間を罰するだけの余裕は無い」

 

「……ありがとうございます」

 

電話が鳴る。老大佐は頭を下げると、部屋を出た。

 

王小龍は受話器を取った。相手は、腹心。

 

「私だ。…………………………そうか、残っていたか。で、大丈夫なのか?」

 

老人の口元に、不気味な笑みが浮かぶ。

 

「わかった。そっちは任せる。……あぁ、折角だ。その機会に、できるだけ優秀な個体を残すようにしてくれ。報告は細かく頼む。あぁ、では」

 

そう言って、彼は電話を切る。

 

何の問題も無い。ただ、プランがAからCへと変更しただけである。

 

南極で、あのイレギュラーが何を見たかは知らない。そして、その目的があの少女の保護なのか、BFFへの妨害なのかはわからない。

 

だが、たかが最強の個人の妨害程度では如何にもならない事は、世界には多々ある。

 

陰謀家は笑う。彼の頭にある計画図は、数多の異分子を受け入れる柔軟性を持っていた。




如何しようもない話をします。

fA編の大まかな粗筋を考えて、そうだなぁやっぱり幾つかのルートを書こうかなぁとか思ってまぁだいたいのオチを考えたんですよ。


現時点においてセレン・ヘイズさんは全ルートでバッドエンドになりました。
救いは……私の頭に救いはないの……?


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同時侵攻

4編最終話までこれ含めてあと3話(予定)ですが、なんかどんどんと物語が変異起こしてます。なんだこれ、とりあえず私は凄い楽しいぞ。どうなるんだこれ。

✳︎防衛設備の数を修正


布団に倒れかかるように寝ていたせいで腰が痛い。

どうも、今日も今日とてジャンヌ・オルレアンです。転生しない限りはジャンヌ・オルレアンでしょう。来世?貝になりたい。食用にならないタイプの。毒持ってたりもしたい。

 

と、ふとそんなまとまりも無い感じで脳の覚醒をおこなっていると。自分の上に毛布があり、自分の前にリリウムがいない事に気付く。

 

あれ?と思うと、後ろからトントンと包丁がまな板を叩く音が聞こえた。

 

ん?

 

「あ、おはようござますジャンヌ様。キッチン、お借りしております」

 

声をした方向へと振り向くと、リリウムが台所でお料理をしていた。

 

ほわい?

 

「お、おはよう」

 

とりあえず、挨拶をする。えっと、何をなさってるんでごぜぇますか?

 

「り、リリウム?何をしているの?」

 

「ジャンヌ様がお休みになられているこで、その間に朝食を作ろうと思いまして。あ、心配なさらないで下さい。趣味程度ですが、料理はキチンと姉様たちに仕込まれていますので」

 

そう言いながら、リリウムはテキパキと動いていた。姉様、という単語に吐き気が戻る。しかし、伝える勇気は出てこない。

 

そうこうしているうちに、私の前に朝食が運ばれてきた。

プレートの上にベーコンやら目玉焼きやらトマトのソテーやら様々な食材と、トーストが乗っている。あ、これ昔Twitterで見たやつだ。なんちゃらかんちゃらって奴。美味そう。

 

「ジャンヌ様は何を使って召し上がりに?」

 

「え、あ、私は箸で……」

 

「では、置いておきます」

 

「はぁ……」

 

「あ、待っててくださいね。リリウムの分も取ってきますので」

 

リリウムは再び台所に戻ると、もう1皿、こちらよりも少量のプレートを持ってきて、テーブルの上に置く。

 

「では、いただきましょう。」

 

にっこりと笑った、と思うと。リリウムはナイフとフォークを使い、食事を始める。

 

…………とりあえず、4皿無くて良かった。もし、そうだったら。耐えきれずにストレスで死んでいた。

 

リリウムの様子を伺いながら、とりあえずソーセージをつまみ、口に放り込む。

 

……どうしよう、不安で味が一切わからない。なんかゴムかんでるようにすら感じる。辛い。針の筵。助けて。

 

「ジャンヌ様?どうなさったのですか?」

 

いや、一身上の都合により精神が大変不健康なだけだから大丈夫。うん、大丈夫。ぜんぜんだいじょばない。キルミーベイベー。

 

「いや、なんでもない、うん、おいしいよリリウム」

 

うん、たぶん、うまい。うまいよりりうむ。というかかわいいこがつくったんだからおいしいにきまってるじゃないか。

 

……あれ?なぜか、リリウムがこちらを向いて儚げな笑顔を浮かべている。どうしたんだろう?

 

「……大丈夫です。ジャンヌ様。お姉様たちのことは、聞きました。」

 

気管に咀嚼物が詰まった。

ゴホゴホと咳が出る。は?え?聞いた?誰に?どうやって?なんちゅうふうに?

 

「夢の中で、お姉様たちがお別れを言いに来てくれたんです。それで、わかってしまって」

 

突然の奇襲に、頭はオーバーヒート直前である。何を言うべきかわからない。ただ、体は勝手に箸を置き。床に手を置いていた。

 

「り、リリウム……ごめん、私が間に合っていたら……」

 

「……大丈夫です。ジャンヌ様が全力で助けようとしてくれた事は。わかりますから」

 

「え……?」

 

「ジャンヌ様も、夢におられましたよ。何度も何度も、泣きながら謝っていました」

 

マジかよ。昔、古典の授業で、夢に出てくる人間は、身体から抜け出して何か伝えたいことがあるからとは聞いたが。私はまんまそれをやったのか。

 

「ジャンヌ様は、お姉様たちを助けようとしてくれました。……それだけで、リリウムにとっては充分です。」

 

リリウムが、私の頭を撫でてくれた。そして、顔をあげてくださいと言う。

 

「ジャンヌ様、ありがとうこざいます。姉様たちを救おうとしてくれて、そして、私を助けて下さって。本当に、ありがとうこざいます」

 

…………天使かな?

 

 

「へぇー。リリウムは料理上手だなぁ」

 

吐き出すもん吐き出したら飯がバカみたいに美味い。材料は買いだめているが、そもそも私の身体のつくりの所為で凝った料理が出来ないので、こんなにちゃんとした料理は久しぶりだ。

 

「ありがとうこざいます。姉様たち以外に食べてもらったのは初めてなので……気に入っていただけたのなら良かったです」

 

さくさくむしゃむしゃぱりぱりごくん。

…………

 

「?どうかされました?私の顔に何か?」

 

「いや、なんでもない」

 

可愛い娘を見ながらご飯食べたら美味しいなってだけよ。

 

あっという間に、プレートの上に乗った料理は消えた。私はご馳走様と手をあわせる、椅子にもたれかかる。

 

「そういえば……」

 

「どしたの?リリウム」

 

「ジャンヌ様……、リリウムの家に来ていた時と……なんというか……雰囲気が違うように感じるのですが」

 

あーまぁ、作ってたからね。キャラ。今はすっぽんぽんのジャンヌだから。

 

「あまり気にしなくても大丈夫よ。あれはよそ行きの話し方みたいなものだから」

 

そう坂本真綾ボイスで答える。ふふん、ふはふん。

 

「そうなのですか……」

 

「そうよん。さて……」

 

リリウムの食器も回収しつつ、台所に持ってく

 

「あ、私のは……」

 

「いいのいいの、料理を作ってもらったんだから、片付けくらいは私がするよ」

 

そういって食器を食洗機に入れる。美味しい朝食のお陰で、気分はうきうきだ。この切り替えの早さは、間違いなく私の長所であろう。

 

洗剤等をいれてスイッチをポンと押す。

 

「あの、ジャンヌ様。」

 

「ん?どしたのリリウム」

 

「この本に書かれた言語は何なのですか?全く読めなくて……」

 

ん?本?

 

私は基本的にズボラなので、ベッド周りには常に本が置かれている。動かなくても読書を出来るようにというのがその理由だ。

最近読んでたのは生前やってたゲームの攻略本なので、その辺りだろ。どれどれ……

 

「あぁ、そこらへんのは殆ど日本語で…………」

 

 

 

リリウムがアーマードコアVの攻略本を読んでいる。

 

 

 

セーフか?脳Aが脳Bに語りかける。セウト、脳Bはジャッジした。4系じゃないのでかすり傷である。

 

「アーマードコア。と書かれていたので読んでみたのですが、言葉がわからなくて……。なるほど、日本語なのですか。これはノーマルACなどのカタログなのですか?」

 

「ま、まぁ、そんなもんだね」

 

「ジャンヌ様は、日本語を読むことが出来るのですか?」

 

「まぁ、うん、読めるよ」

 

というかもともとそれが母語だ。ちなみにリリウムと英語で流暢に喋ることができているのは言語チートのお陰である。世界を駆け巡るリンクスには必須だろう。

 

「……よろしければ、私にも教えてもらってもよろしいですか?」

 

魔剤?

 

「え、いいけど……。」

 

「はい、これから、ジャンヌ様と暮らして行く事になるでしょうし。それなら、ここにある本が読めるようになっていても損はないかなと思いまして」

 

うわぁ。なんちゅう可愛い笑顔やぁ。どうしよう。とりあえずACfAとかのパッケージは隠さないといけないな。

 

「あぁ、勿論。」

 

まぁ、勉学を志すならそれを止める理由はない。極東の一言語だが、学んで損する事はないだろう。ほら、どこぞの有澤隆文さんもジャパニーズピーポーだし。

 

 

片付けも終わり、自分は横になってリリウムを眺める。彼女は、私がこっちに来てから買ったACの写真集や、コミックなどを読んでいた。

 

これから、どうしようか。

最初の予定では、一人できままに暴れまわるつもりだった。fAが始まっても、カラードだとかオルカだとか、そんなものたちの外縁で、好き勝手にちょっかい出しつつ楽しむつもりだった。

 

しかし、今は私には保護すべき少女がいる。彼女を一人置いて、暴れまわるというのは、少しばかり無責任かもしれない。

 

首輪を、つける必要があるかもしれない。うん、私は兎も角、リリウムにとっては大きなものの保護の下でこそ、育つ余地があるだろう。

 

だが、少しばかり好きにやりすぎた。幾つかの企業からは、確実に恨みを買っている自信がある。

さてさて、どう売り込むべきか…………

 

なんとなく、リモコンを手に取り。テレビをつける。

 

『今日未明から開始されたGA・オーメル・イクバールの連合部隊によるレイレナード・アクアビット本社への侵攻作戦は、GA側有利に進んでおり……』

 

あ?

 

テレビに注目する。そこには、GA関連のテレビ局のアナウンサーが、淡々と現在の戦況を読み上げていた。

 

『GAは残存する全てのネクスト戦力、及びアメリカ大陸総軍でもってレイレナード本社への侵攻を行っています。関係者によりますと、「全戦線に置いてGA側が圧倒しており、終戦は時間の問題である」との事です。また、アクアビット社方面へと侵攻しているオーメル社、及びイクバール社のネクスト部隊及び特殊ノーマル部隊も、優勢に戦闘を進めているとの事です。この作戦が成功すれば、この長きに渡る企業同士の初めての戦争に終結の目処がつく事に……』

 

…………全戦力による、本社への侵攻作戦?

 

頭の中で、新聞に掲載されていたアナトリアの傭兵の戦果を思い浮かべる。

 

成る程、ベルリオーズやザンニなどのレイレナードのトップ戦力が生きている。撃墜はされたが、アンジェや真改も健在。本社の守りは万全と考えて良いだろう。それに、GA側も唯一のオリジナルであるメノ・ルーは私のお陰で生きている。

 

……両勢力共生存しているリンクスが多いから、傭兵による単騎での襲撃では無く。持てる戦力でもって戦争を終わらせにかかった……?そういう事なのか?

 

…………待てよ?

 

そうか、単騎での奇襲なら間に合わないが……。これなら……成る程。

 

私は、テレビへと目を移したリリウムへと声をかけた。

 

「リリウム、これから出かけるよ」

 

「あ、はい。どこに行くのですか?」

 

「北欧」

 

「…………え?」

 

そこそこの賭けであるが、買い叩かれる事はないだろう。まぁ、もしもの時は、皆殺しにすりゃいいだけだ。

 

 

 

「すいません!弾薬の補充をお願いします!!」

 

ガトリング砲の最後の1発まで撃ち切ったメノ・ルーは、後方の補給基地へと戻った。

 

プリミティブ・ライトが到着した途端、対コジマ防護服を着た整備兵たちが群がり、装備の換装や弾薬の補充。そして被弾箇所などがあった場合は応急処置を行う。

 

「メノか、状況は?」

 

先に補給を行っていたローディーが尋ねる。高い瞬間火力の代わりに、継戦能力が無いフィードバックは、他のGAネクストよりも補給の間隔が短い。

 

「ザンニさんと、例のアルドラのネクストが再び出てきました。いまはエルカーノさん達の部隊が抑えていますが、あのままではすぐに削られてします」

 

「アルドラの……確か、PQとか言ったな。だいぶしぶといと聞く。わかった、私の方はそちらの救援へ向かおう。メノは?」

 

「北部の大型兵器群を相手にします。ノーマルACの大型ミサイルでも、相当数をぶつけ無いと撃破出来ないようで……。近接格闘戦用の兵器とはいえ、被害は甚大です」

 

「ふむ、あの虫か。……そんな構造なら、どこかに無理があっていても良いと思うが」

 

「確かに……。なんとか、それを探ってみます」

 

話している内に弾薬の補充が終わった。ローディーも、完了したのだろう、整備士たちが離れて行く。

 

「では行きましょう。」

 

「あぁ、そっちこそ。こんな戦いで死ぬなよ」

 

「はい、それでは……え?」

 

空中管制機にいるオペレーターから入電が入る。

領域外よりネクストが一気接近中。

 

「まさか……あのイレギュラー?」

 

メノの身体に戦慄が走る。だが、オペレーターはかぶりを降り、それを否定した。

 

「いえ、敵ネクストは二脚機です。いま照合が……完了しました。データ送信します」

 

「これは……」

 

「なるほど。フィードバックよりスカイボーイへ、私が迎撃を行う」

 

「スカイボーイ了解。」

 

「メノ、すまんが。エルカーノの援護を頼めるか?」

 

「……お気をつけて」

 

「何、この装備だ、すぐに勝負は決まるだろう。フィードバック、出るぞ!」

 

そう言って、ローディーは補給基地を後にする。

 

メノは管制機から常時送られてくる戦況を確認しつつ、目的地への最短ルートを探す。

 

「プリミティブ・ライト、戦線へ復帰します。」

 

そう宣言し、彼女はOBを起動する。実弾防御を重視した重量級ACが、その重さからは考えられ無いスピードで飛翔し始めた。

 

 

「……一機か、侮られたものだな、私とアステリズムも」

 

アスピナに所属する二人目の天才は、接近してくるネクストの機数を見てそう呟く。

 

純白に塗装された軽量二脚機は、同じアスピナのホワイトグリントと同じアセンブルであるが、その装備は強力なエネルギー兵器で固められている。

肩には青いスターサファイアのエンブレム。

 

ジョシュア・オブライエンの再来とまで言われた女は、だが表情は変えることなく、自機へ向かうネクストに襲撃をかけた。

 

 

 

旧ピースシティ

傭兵は、そこに一機で佇んでいた。

 

「来ました、高エネルギー反応の接近を確認。数は1です。」

 

フィオナは、落ち着いた声でレーダーから読み取れる情報を男に説明した。

 

数十秒後、黒いアーリヤが現れる。レイレナード製のアサルトライフルに、BFF製のライフル。肩には有澤のグレネード。初めて会った時と同じ装備だな、頭の片隅で男はそう考えた。

 

「やはり、お前か」

 

No.1のオリジナルネクスト、ベルリオーズは目の前の男を確認すると、言った。

 

「よう、精鋭部隊。すまんが、此処は行き止まりだ」

 

「たった一人で部隊は無いだろう。…………さて、いくらだった?」

 

「180万」

 

「こちらの三倍か、なるほど」

 

「すまんな、戦後に金が必要になったんだ。それに……」

 

背中に装備した追加ブースターは煌々と光を溜め、ワルキューレの瞳が輝く。

そしてゆっくりと、断頭台へと剣を向ける。勝てるかはわからない。だが、負けないことは出来るはずである。

男は、言葉を続けた。

 

「これ以上、戦争をやるわけにはいかない理由ができたのでな」

 

 

 

オーメル社が、GAのような総力戦ではなく、少数精鋭による侵攻作戦を選択したのは、アクアビット本社の性質によるものだった。

 

アクアビット本社及びその防衛設備が設置された浮島〝アトマイザー〟は、それを知る者からは最悪の要塞と呼ばれていた。

ボスニア湾の中央、直径30キロの巨大メガフロートの上に並ぶ無数の防衛設備と、それが巻き起こす無数の死の光は、その恐ろしさを知らぬ者からしたら、一種の神話的な美しさを持つ。

 

オーメル社は、その美しさを恐れた。彼らの持つ膨大な軍事インフラでも、この極光の前には無力に等しかった。

 

まず第一の障壁は、湾内に浮かぶ無数のタンカーねある。

 

これらは、元々アクアビット社が保有する資材運搬用の船舶であり、防衛装備などは設置されていない。

 

だが、今はその甲板上に最悪の蹂躙兵器が立っている。

 

ソルディオス

 

太陽神の名を冠するこの大型兵器は、本来はGA勢力に与するコロニーの蹂躙の為に開発された兵器だった。

 

だが、その開発は間に合わず、完成する頃にはこの大型兵器を遠方へと展開することが出来なくなっていた。

 

ならば、とアクアビット軍幹部は考えた。それならば、この強力な装備を防衛へと転用しようと。

 

完成されたソルディオス砲は、来る決戦の為に次々と輸送船に乗せられ、本社へと運ばれた。

少なく無い数は、敵対企業の通商破壊部隊により沈められ、海中にて半永久的に汚染を撒き散らす沈殿物と化したが、半数以上……約100機は本社への運搬に成功した。

 

アトマイザー自体が巨大な浮島の為、たった100機程度のソルディオスでは周囲に薄く展開させることしかできなかったが、それでもこの大型兵器が持つ数多のレーザー砲やミサイル、そしてコジマ・キャノンは敵対者にとって脅威であった。その他にも、BFFから貸し出された幾つかの軍艦が、防衛の為に出動している。

 

それらの兵器とともにアトマイザーの周囲に建ち並び、本社への侵入を拒むのはエーレンベルクの防衛にも使われるパルスキャノン〝インカント〟及び高出力レーザー砲〝イプソス〟である。

 

オーメルの第一陣……つまり、オーメル側のネクスト部隊は外周上に約500mごとに建てられたこれら高射砲塔と、ソルディオスを対処すべく動いた。

 

かけ離れた三つの箇所から突入したネクストたちは、濃密な弾幕と、迎撃に向かったネクストからの攻撃に耐えながら、それらの防衛設備を破壊、第二陣以降の突入経路を開いた。

 

 

第二の障壁とされる地点では、数多の通常兵器や自律ネクストである。かつての同盟企業から流れてきた物の中で、比較的損害の少ない部隊が集結し、侵入してきた敵部隊へと必死の抵抗を行っていた。

 

 

天才は、その様子を馬鹿馬鹿しく思っていた。

 

沈みゆく船で、必死に水をかき出しながら何とか最期の時を長引かせている。彼には、このノーマル部隊による抵抗がそのように見えている。

 

オリジナルのNo.6。天才、セロは自らの駆るネクストAC、〝テスタメント〟によってその抵抗を一蹴しながら、後ろに付く飛行型ノーマル部隊の様子を伺い、心の中で吐き捨てる。

 

こんな簡単な任務なのに、余分な子守が多すぎる。

 

そもそもが、単騎で充分な仕事なのだ。いくら大規模な要塞とはいえ、ネクストを相手に出来るほどに防備が緻密なわけでは無い。確かに、秀才程度のリンクスならば、なす術もなく撤退するかもしれない。

 

だが、俺は違う。

 

自律ネクストを破壊する。単純な機動、単純な思考、シミュレーター内の敵にだって、ここまで退屈な目標は居なかっただろう。

 

彼は天才だった。桁外れのAMS適性により、自らの手足を扱うが如くネクストを動かし、敵を屠る。

 

そもそも、あのノロマなデカ物や、ただただデカイだけの塔も、そしてアクアビットの女リンクスも、彼にとっては欠伸が出る程退屈な存在であった。

 

早く、こんなつまらない戦いを終わらせたい。もっと、相応しい戦いがある筈であるのに。

 

「……………ん?」

 

銃声、爆音、それらの音に紛れて、何か、声が聞こえた。

耳を傾ける。そして、その内容に嘲笑を浮かべる。

 

セロは信じられないような気持ちになった。アクアビットのノーマル部隊が、設置されたスピーカーでもって延々と叫んでいた。アクアビット万歳!アクアビット万歳!と

 

「馬鹿どもが、勝てない戦いだからって、精神論を唱えるか」

 

後天性の不遜さを隠そうともせず、天才は吐き捨てる。まぁいい、すぐに、その愛する会社へと殉じさせてやろう。

 

そんな事を考えた時だった。

 

「テスタメント、応答を。すぐに回避行動をとってください」

 

「あぁ?」

 

オペレーターからの通信が入る。セロは、自らの行動を邪魔する声に対し、不機嫌に尋ねる。

 

「何があった?」

 

「中央、アクアビット本社施設を防衛する大型コジマ・キャノンが起動しています。砲撃の可能性が……」

 

わざと、向こうにも聞こえるように大きな舌打ちをする。

 

「おい、あれは長射程の対空砲でメガフロート内に入れば障害じゃないって話だったが?」

 

「確かにブリーフィングではそう説明しました。しかし、実際にコジマキャノンは稼働を……」

 

「あぁわかったよ、かわせば良いんだろう」

 

オペレーターの声を遮りセロは言った。そしてそのまま、通信を切る。

 

これだから、どいつもこいつも信用ならないんだ。全てを馬鹿にしたように、彼は吐いた。

 

 

衛星破壊砲、という兵器がある。

レイレナードの支配地域に建てられたこの長大な塔状のコジマキャノンは、ある目的を果たす為にその照準を常に天へと向けていた。

アナトリアの傭兵により破壊されたこの兵器の名前を、〝エーレンベルク〟と言う。

この名前は、設計者であるエーレンベルク博士に因んでつけられたものである。

 

これには、夫婦砲となる存在があった。

 

ある会談にて一人の優秀なアクアビットの技術者と交流を持ったエーレンベルク博士は、彼女と共同で一つの設計図を書き上げた。

 

コンセプトは単純。

 

対衛星兵器であるエーレンベルクを、対空兵器へと転用したものだった。

 

これに目をつけたアクアビット社は、すぐにその建設を開始した。

アクアビット本社を直接囲むように建てられた九基の砲は、共同設計者であり、後にエーレンベルク博士の妻となった技術者の名前からつけられることとなった。

 

地対空磁気加速方式自動固定砲。

 

名は、〝ブルンヒルド〟という。

 

 

オーメル、イクバールの管制官たちが、この巨砲にコジマ粒子が充填されている事に気づかなかったのは、彼らの職務怠慢が理由では無い。

 

まず第一に、アトマイザーの中央…………つまり、九基のブルンビルドと、そこに囲まれたドーム状のアクアビット社本社施設は、常に高濃度のプライマルアーマーによって覆われていた。

 

これは、ネクストが近づけばそのPAを無効化する上に、さらに損傷まで与えるほどに強力なものである。まるで閉鎖空間のようなその中では、コジマ濃度の観測など不可能に近かった。

 

木を隠すのには森、最悪の盾の為に、最狂の槍に光が満ちるのを見逃してしまった。

 

そして、もう一つ。

 

彼らには、常識があった。

 

誰が、撃つのかと。

 

軌道上まで届くような高出力のコジマ砲を。

 

この大地に向かってなんて。

 

そんなものはありえないと。

 

彼らは、彼らの奥底にある常識で、断じてしまった。

 

 

 

光が、充ちた。

 

 

 

戦乙女から、三つの光の槍が放たれた。

 

 

一瞬にも満たない時間の後、槍は、地を穿った。

 

 

それは、その光は、鉄を、チタンを、タングステンを、アルミニウムを、ステンレスを、ニッケルを、ウランを、銅を、コンクリートを、プラスチックを、タンパク質を、カルシウムを、炭素を、喜びを、悲しみを、怒りを、驚きを、賛美の声を、怨嗟の声を、男を、女を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、命を、そして、命を。

 

なんの差別も、区別も無く。丁寧に、残酷に、ある種の美しさを持って、消し去った。

 

 

 

その被害は余りにも大きかった。

ボスニア湾の沿岸にいたオーメル社やイクバール社の支援部隊も含めれば、その死者数は膨大なものとなるが、今回はその中でも、ボスニア湾内にいた戦闘部隊の被害についてのみ記す。

 

アクアビット特別防衛海軍……消滅

第一〜十三特殊高射砲連隊……消滅

第一特別近衛師団……消滅

第二十五バーラット連隊……消滅

第八飛行旅団……消滅

第八十八独立飛行連隊……消滅

 

また、第二十五バーラット連隊と共にアクアビット社への侵攻を行っていた、シブ・アニル・アンバニも、GAE社所属のネクスト、カリオンから受けた損傷が原因で回避が遅れ、コジマ砲の直撃により殉職した事をここに追記する。




アクアビット本社防衛設備のイメージは
メソン・カノン

エクスキャリバー

ストーンヘンジ

です。


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終戦

最近逆関節のビジュアルにハマっています。いえーい!ぴょぴょぴょーん!


ローディーは、無数のレーザーとPMミサイルに囲まれたいまの自分の状況が、ジュリアス・エメリーから両取りをかけられている状況だという事に気付いた。

当然の如く、ローディーはクイーンを捨てる事を選択する。QBによる緊急回避。予想通り、レーザーと変わらぬ速さで突っ込んできたアステリズムが、ならば貰っていくぞと左腕を構える。

 

ハイレーザーの蒼い光がフィードバックを貫く。右腕損傷、誘爆の危険性は無し、しかし攻撃能力は損失、それまでの数々の被弾での損害も含め、APはついに四桁の数値を示し始めた。

ミサイルを発射するも、敵機は既に中距離への離脱を開始している。

 

確かに、敵の武装はGA社のパーツで構成されたフィードバックに対して、最悪の相性と言える。

だが、どんなに強力な武装でも、かわせば何の問題も無い。品質の低いクーガー製のブースターでも、時を見極めれば回避は造作も無い。

 

しかし、このネクストは……。

 

その軽量機は冷静にして獰猛、苛烈な程に俊敏に、猛禽の如くローディーの喉元を狙う。

 

 

アスピナの新しい天才、ジュリアス・エメリーの乗機〝アステリズム〟は、ジョシュア・オブライエンの乗機〝ホワイトグリント〟とパーツについては多くの共通点を持っていたが、その武装という点については大きな違いがあった。

 

その象徴とも言えるのが、アステリズムの左腕部に装備されたハイレーザーライフル〝ベガ〟である。

 

継戦能力を放棄し、瞬間火力のみに特化したこの火器は、こと対ネクスト戦闘においては必殺の魔弾となり得る。

 

 

強い。ローディーが断じる。射程ギリギリからミサイルやレーザーを撃っていると思えば、次の瞬間には肉薄し、こちらを狩るべく最強の火力を叩きつける。ジョシュア・オブライエンとはまた違う。攻撃的なリンクスだ。

 

高い機体負荷が予想できる機体を、あそこまで動かせるのは、そのAMS適性の高さからだろう。壮年の軍人はそれを羨ましく思う。それだけの才能があれば、戦争も簡単であろうよ。

 

だが、才能は全てでは無い。

 

左腕、残ったバズーカを構える。

 

確かに、動きは良い。回避の動きも機敏で、慣れていなければ肉眼で捉えるのすら難しいだろう。

 

しかし……

 

「な!?」

 

ジュリアス・エメリーは驚愕の声を上げた。アステリズムの左腕を、旧ミシガン州のGA傘下の工場で製造されたバズーカ用徹甲弾が貫く。

 

動きが余りにも素人だった。リンクスとしてのデータは登録されていたが、その戦果についての情報は皆無。恐らく、これが初めての戦闘だろう。どうネクストを学んだかは知らないが、馬鹿のひとつ覚えのように同じ動きを繰り返していれば、一撃を与えることなど容易い。

 

機動性に特化した機体の左腕は、そのエネルギーに耐え切れず、まるで木の葉のように吹き飛び、更にその全身は衝撃により操作が出来なくなる。

 

そして、殺到するミサイルたち。

 

女はなんとかコントロールを取り戻し、回避行動をとろうとするものの、多くの被弾を許してしまう。

 

これは、アステリズムにとって初めての傷であったが、戦闘続行に不安が残るほどの重傷であった。

 

「粗製が……!」

 

幾度も自分に投げかけられた言葉が、混線した通信機から聞こえてくる。男は気にも留めない。

 

 

AMS適性と、リンクスとしての腕は何も関係が無い。男がそれを確信したのは、アナトリアの傭兵の多大なる戦果によってだった。

 

伝説と呼ばれるまでに研がれた経験の剣により、数多の才能を斬り伏せるその姿に、粗製は羨望と希望を抱いた。

経験を糧に、ひたすら己を鍛える。

 

この戦争が始まる前、男は多くの戦場へと投入された。GAにとって、メノ・ルー以外のネクストは、頼りになりはしないが使い易い駒だった。

土壌は整っていた。男は、それに肥料を与えるべく、数多のリンクスの戦闘記録を見た。特に、アナトリアの傭兵のものを。そうして、自らの弱点を把握し、修正し、また戦場へ出る。

 

男のリンクスとしての才能は、こうして開花した。

 

 

「侮りすぎだ、天才」

 

もう一撃を放つべく。バズーカの装填を待つ。

だが、それよりも先にアステリズムは撤退を開始する。判断が早い。どうやら、こちらが想定したよりも被害は致命的だったらしい。

 

追撃はしない、追っても無駄であるし、フィードバックの現状は、下手をしたらノーマルにすら落とされかねないような損害状況である。無駄な事はすべきではない。

 

「フィードバックよりスカイボーイ、損傷を受けた。すまないが、また戻らせてもらう」

 

「スカイボーイ了解、エグザウィルへの包囲は徐々に狭まっていますが、未だラフカット及び鎧土竜は健在です。すいませんが、休憩はなるべく短くで」

 

「了解した。」

 

ローディーは去りゆくアステリズムを振り替えらずに、急いで補給基地へと戻った。いくら構造の単純なサンシャインでも、腕部の修理・換装には相応の時間がかかるからだ。

 

 

 

051ANNRから放たれた105㎜口径の完全被甲弾は、旧ピースシティに並ぶ数多の廃ビルの内の一つへ向けて突き進む。

風化し、脆くなった壁を一つ、また一つ貫き、その衝撃により破壊しながら進むそれは、その速度を殆ど落とすことなくビルを貫通する。

 

「チッ……!」

 

男は、その余りにも精巧な射撃にウンザリとした。ビルに隠れている自分に向け、正確に叩きこんで来やがる。

 

銃弾が接触する直前に、QBによりまた他のビルへと身を隠す。その行動により、またシュープリスへの距離が遠ざかり、自分が手の平で踊ってることを自覚した。いや、この場合は断頭台の上でと言った方が良いだろうか。

 

先程まで隠れていたビルがグレネードによって吹き飛ばされる。

その行動の理由を考える。陽動か、目眩しか、煙幕か、零に等しい思考の後。男はQBによりビルの中へと突っ込む。

 

連続した銃声。MARVEの90㎜弾が、ワルキューレの残像を貫く。

その角度からシュープリスの高度を思考、その音からシュープリスの距離を思考、その姿を廃ビルの壁に浮かび上がらせ。そこへ向かいワルキューレは躍動の準備を行うを

ワルキューレに取り付けられたS04-VIRTUE及び試製背部追加推進装置は、周囲の空気を一気に取り込むと、同時に驚異的なベクトルを巨人に加えた。

衝撃波崩壊したビルから、瓦礫と煙を突き破って男は飛ぶ。アクアビット製FCSがここでやっと対象を捉え、計算を行い、弾き出す。この斬撃に進行方向に修正の必要は無し。ブレードを展開、いや、グレネードがこちらを……

 

横方向へのQB、ワルキューレのプライマルアーマーを滑り、榴弾が崩壊した廃ビルを、跡形もなく消しとばした。身体が押し潰されるような衝撃の代わりに、身体が押し潰される危険からは逃げる事ができた。新しく購入したイクバール製のコアパーツは、機動力以外の装甲を破棄している。

 

落下中、ブースターを斬り、エネルギーの回復を待ちながらマシンガンをばら撒く、シュープリスがライフルを構えるまでの間に8発が放たれたが、そのどれもギロチンの刃に傷を付けられない。再びQB、1番近いビルに身を隠す。

 

一瞬たりとも気が抜けない。あのイクバールの魔術師や、鴉殺しのどれとも違う、変幻自在の戦い方。遠距離、中距離、近距離では当然敵わず、勝機を見出すなら近接格闘戦を挑むしかない。しかし、面倒くさいことに……

 

遠方からOBの音。廃ビルから距離を置き、マシンガンを構える。

爆音、今度はシュープリスがビルを突き破る。構えるはMARVE。なるほど、銃剣突撃か。マシンガンの弾幕を滑るようにかわし、渾身の突きが繰り出される。あぁ、クソ、本当に、近接格闘戦まで超一流かベルリオーズ、QB、身体は、間に合う。

金属が金属を貫く不愉快な音。レイレナード製のマシンガンはレイレナード製のライフルによって二度と弾を撃てないスクラップへと形を変える。

 

が、そこで見えた隙を男は見逃さなかった。傭兵は、は一瞬だけブレードを展開する。なんとか、延長線上にあったBFF製のライフル、その銃身に傷を付けた。

 

これで、おあいこだ。

 

シュープリスの突撃により未だ砂ぼこり止まぬ廃ビル跡地へと逃げ込む。光学ロックを外さなければ、またあのMARVEの弾幕が……

 

「チッ!」

 

チラリと、砂塵が視界を塞ぐ前、ライフルを捨てたシュープリスの手にオーメル製の小型ブレードが見えた。野郎、最初から俺と戦うことを疑ってなかったな。

男は笑った。上等である。そもそも、最初からトコトンやるつもりでこの仕事を受けたのだ。

 

そう、この戦いが終わるまで、この戦争が終わるまで、闘争を続ける為に。闘争を続かせる為に。

 

 

 

「…………」

 

その惨状を見て、テペス=Vはただ祈る事しか出来なかった。

確かに、我々には夢がある、信念がある、目指すべき場所がある。あそこに立っていた者たちは、それを継続する為にならばとあの場にて、喜んで足留めを行い、消えた。

ベルリオーズの言葉を思い出す。我々が行う事は、数多の骸を血で塗り固め、神の怒りで塔を建てているようなモノだと。

 

最早、引けない。既に、次の種を蒔いたとは聞いた。しかし、あの種は汚染された大地では無く。あの天でこそ芽吹く必要がある。その為にも、ここで勝ち、反撃の時を引き寄せる。この老骨に出来ることなど、それくらいしかないのだ。

 

「あの稚児は私がやる」

 

「……なら、私は残りの相手をするわ」

 

唯一の僚機、ミセス・テレジアの高く透き通った、しかしどこかに影のある声が聞こえる。

 

「できるか?アスピナの傭兵は噂通りの別格だぞ」

 

「……撹乱に徹するわ。なんとか、もたせる」

 

「ならば、頼んだ。」

 

アクアビットとレイレナードの部品で構成されたシルバーバレットの全身に、強力なPAが展開してゆく。

 

アクアビット本社中心部にあるネクスト用ガレージ。そこから外部へと繋がる数多の隔壁が開いてゆく。

 

「シルバーバレット、行くぞ」

 

「……カリオン、出ます。」

 

 

 

「アクアビットの気狂い共が……」

 

セロは、目の前の状況を眺めながら吐き捨てた。

 

アクアビット本社からは、放射状に三つの線が伸びている。射線上にあったメガフロートとは大規模なコジマキャノンにより削り取られ、汚染された海が流れ込んできている。弾着したボスニア湾の沿岸には、まるで星でも落ちてきたかのようなクレーターが出来ていた。あそこには、確か補給部隊や長距離砲撃部隊が展開していた筈だが、どう考えても生きているようには思えなかった。

 

砲撃の名残りだろう。周囲にはコジマ粒子が満ちている。PAが使い物にならないレベルだ。

 

「こちらオーメルHQ、無事なものは早急に応答せよ。繰り返す、無事なものは……」

 

「こちらテスタメント。ノーマル部隊は敵味方含め殲滅状態。ルートαの生き残りは俺だけだ」

 

「ホワイトグリントだ。ルートγもノーマルたちが皆やられた。」

 

あの傭兵も生きていたのか。セロは舌打ちをする。あのいけ好かない男こそ、真っ先に死んでもらいたかったのだが。

 

「キャリオン・クロウは?キャリオン・クロウ、応答を願います。ルートβの状況を……」

 

そして、イクバールの田舎者は戦死か。無様な事だ。

 

「HQ、アクアビット本社から二機出てきた。ネクストだ」

 

ジョシュア・オブライエンが言う。セロもレーダーを確認すると、ネクストを表す赤い点がこちらへ向けて移動していた。

 

「……確認しました。キャリオン・クロウの生存は絶望的です。現在予備隊の出撃準備を進めています。それまで敵ネクストを……」

 

ふん、そもそも、ノーマルなんかを作戦に参加させたのが間違いだったんだ。この世界は、AMS適性の高さと、ネクストの性能によって決まる。この俺がいる時点で、勝つのは決まってるようなモノなのだ、それを……

 

銃声が響く。セロの意識が外側へと戻り、先程までレーダーでしか確認できなかったネクストが、目の前を飛んでいた。

 

「戦場で考え事とは、呑気なモノだなぁ坊や」

 

マシンガンか殺到する。それを回避し、ライフルと機動戦闘用のレーザーを構える。

 

「よう、耄碌ジジィ。まだ生きてたか」

 

テペス=V。ランクは7、古強者など評されたいるが、所詮は老いぼれのノロマだ。

 

「ふん、天狗が。口の利き方も知らんとはな」

 

シルバーバレットは既にコジマライフルのチャージを完了している。一撃で怪物を葬る銀の弾。上等だ、そんなものに当たるわけがない。

セロは、未だ不機嫌そうな表情を崩さず。だが目前の老人に引導を渡すべく動き出した。

 

 

 

「ここまでか……」

 

エグザウィル地下ガレージにて自機の補給を行っていたザンニは、最終防衛ラインの突破を報告したジェット部隊の隊長の言葉に、最早レイレナードの命運は風前の灯火である事を悟った。

 

オーメル社への襲撃を敢行したベルリオーズからの報告はまだ無い。逆王手はもう間に合いそうに無い。

 

留守を任されておきながら、何も出来なかった自分を恥じながら、しかしまだやれるべき事が有るはずだと男は顔を上げる。

 

「こちらザンニ。ジュリアス・エメリーの容態は?」

 

ザンニは医務室へと通信をかける。軽傷は無傷と判断され、重傷でさえ簡易的な処置しか行われないようなこの場所で、ジュリアス・エメリーは治療を受けていた。ネクストとの一騎討ちに敗れ、撤退中にGAの高射砲部隊からも攻撃を受けた彼女は、帰ってきた頃にはすぐに治療の必要な状況になっていた。

 

「意識はまだありません。しかし、峠は何とか……」

 

「移動させても大丈夫か?」

 

「……はい」

 

「なら、頼んだ。何人かの部下と共に北極のセーフハウスへ飛んでくれ」

 

そう言って通信を切る、そして、もう一人、未だ外で戦い続けている男に対しても無線をかける。

 

「PQ、撤退しろ。最早時間の問題だ、オーメルが落ちようとも、GAは止まらんだろう。潮時だ」

 

「……やれやれ、まだまだこれからなんですがね」

 

PQの、常に余裕をうかがわせる声が聞こえる。乱戦を好むこの男は、GA相手にザンニ達を軽く上回る損害を与えていた。

 

「アルドラから義理で来てもらったお前を死なせるわけにはいかない、お前なら、楽に逃げられるだらう?」

 

「まったく、そんな事は気にしなくても構わないんですが……」

 

そう言うと、PQの声が一瞬止まる。

 

「まぁ、良いでしょう。詳細は知りませんが、何かまたやるつもりなのでしょう?その時に呼んでもらえれば構いませんよ。」

 

「……すまない、その時は頼んだ。あと、お前のペットについてだが……」

 

「あぁ、大丈夫です。既に脱出させてますので。……では、ザンニさんもお気をつけて」

 

「そうか……。あぁ、じゃあな」

 

そう言って無線を切る。ザンニは息を吸った。他の社員や技術者たちも、既に脱出を始めている。大丈夫だ、茎は折れようとも、まだ根さえあれば草花は育つ。それに、あいつらもいる。残念ではある、しかし、覚悟をしていた事だ。

 

「すまん、補給はいま完了してる分のみでいい。……お前たちも逃げてくれ」

 

多くが脱出した中、自分の為に残ってくれた者たちにそう声をかける。銃弾の供給を行っていた整備士たちはその声を聞くと、涙を浮かべながら頷いた。

 

少し経つ、無人のガレージに一人立ち、男は深く息を吸う。

 

「ラフカットよりレイレナードの全社員へ、出来る限り時間稼ぎを行う。その間に離脱できる者は離脱をしろ。」

 

そう短く告げ、ザンニはレーザーライフルを撃つ。

光は出撃用通路の向こう側、進撃していたGA製ノーマルのコアを貫き、中にいた人間もろとも霧散した。

 

「最期の花火だ。付き合ってもらうぞ、GA」

 

ブースターを稼働させる。奥にはネクストの反応すら見えた。この閉所で、逆関節の中量機でもって相手するのにGAのネクスト程相性の悪い敵はいない。

 

だが、やらねばならない。ザンニはアサルトライフを放ちながら、最後の戦いに身を投じた。

 

 

 

剣には、その打つ者の性質が多分に出る。

アンジェの剣は正剣だった。磨きに磨いた技量で、真正面から相手を圧倒する剣。

真改の剣は剛剣。受け止めた剣ごと叩き斬りかねない必殺の一撃でもって、万物を断ち切る剣。

イレギュラーの剣は変剣。敵の裏をかき、敵の意表を突き、周囲を惑わす剣。

そして、自分は柔剣であろう。相手の剣を受け止めつつ、必殺の時を逃さず仕留める剣。

 

だが、剣士としての理想は、この四つのどれにも偏らず、全てを変幻自在に使い分ける事だとなっている。

 

 

懸待表裏は一隅を守らず。

 

敵に随って転変し、一重の手段を施す。

 

あたかも風を見て帆を使い、兎を見て鷹を放つがごとし、

 

懸を以て懸となし、待を以て待となすは常の事なり。

 

懸は懸にあらず。

 

待は待にあらず。

 

懸は意待にあり、待は意懸にあり。

 

 

敵を見て、それに合わせて自分の剣を変える。それこそが完成された剣士の条件であり。それが可能なのは、間違いなく最高の戦士と呼べる者だろう。

 

男は知った、いま目の前にいる男は、ベルリオーズは、その最高であった。

 

 

両腕をブレードに換装したベルリオーズは、二振りの刀を叩きつけ、男はそれを受け流そうと刃を出す。

が、メインカメラの前にシュープリスの脚部が迫った事により、この一撃が陽動であることを知る。

蹴りはコジマ粒子によって防いだものの、衝撃は逃げ切らず後方へと機体が下がる。

そこへさらに間髪入れず第二撃、迎撃の体勢を整えようとするが男の目がある事に気づいた。

 

サイドブースターに光が集まっている。

 

シュープリスが視界に消える。男は自らが先程見た視覚情報を脳で処理し、迎撃のためクイックターンを行った。

 

一秒にも満たない間に後ろへ回ったシュープリスが斬りかかろうとしている。

 

何とか間に合う、男はそのムーンライトでもってその剣先を思いっきり叩きつけた。

 

シュープリスの身体がズレる。だが、男は気付いた。衝撃の多くは受け流された。 まるで、水に剣を立てたかのような手応えのなさ。さらに、追撃は許さないとばかりにシュープリスはQBによって距離を離し、OBによってこちらの必殺距離から離脱していく。

 

呼吸を整える余裕もない。旧ピースシティの戦闘は5時間以上も続いていた。精神も、身体も、磨耗の限界はとっくに超えていた。もはや、何が自分を動かしているのかわからなかった。

 

再びシュープリスが接近してくる。OBによる剛の一撃、だが、迎撃のために斬りかかれば風にはためく布を棒で打つかの如く受け流されるだろう。限界など考えぬ挙動で接近して斬りに行けば、堂々と受け止められ、ここで待ち構えても、蝶のようにひらりとかわし、視界の外から打ってくる。変幻自在、そしてその全てが一流の強者。

 

No.1とは良く言ったものである。こんなのに勝てる奴が、どこにいるってんだ?

 

 

あぁ、俺か。

 

 

男は、全てのブースターを下へ向けて噴射した。砂塵が舞い上がる。これで、視界を塞ぐ。

 

腰を落とす、構えは見た。挙動の予想をつける。一瞬でそこからの斬撃のパターンを全て想像し、その最適解を見つけ出す。

 

煙幕を抜け、双刀の断頭台が処刑の刃を上げた。

だが、その紐が離される直前。ワルキューレのOBは光を噴いた。

 

目標は前方、腕を広げた戦乙女は、断頭台を抱き締め、そのまま飛行を続ける。その身体を無限にも思える砂漠へと擦り付けながら、駆け続ける。

 

エネルギーが切れる。シュープリスはこちらを引き剥がそうとする。だが、切ろうとすれば間違いなく自らの肌をも傷付ける位置にワルキューレはいた。

 

ムーンライトを展開できるようになるまで、あと数秒だけ時間がかかる。

 

左手で右腕を押さえる。そしてそのまま右脚を上げ、シュープリスの左腕を思いっきり踏みつけ、駄目押しとばかりに身体全体のブースターを天へ向けて噴射した、これで、拘束は完了した。

 

五秒、右手のブレードを、コアにあわせる。

 

四秒、シュープリスはもがく、だが、流石のレイレナード製のブースターも転がった状態でAC二機分の重さは持ち上げられないらしい。

 

三秒、エネルギーが戻るのが、嫌に早く感じる。もう少し、もう少しだけ遅くても構わない。時が止まってしまっても構わない。

 

二秒、もはや戦士の理性や本能も身体を止めるだけの力は残していない。ただただ傭兵の自分が、任務の遂行のみを目的に身体を支配していた。

 

一秒、あぁクソ、脳が勝手に想像してやがる。紫色の光を、時間切れか、くそ、ここまで……

 

〇秒、指が、かかり「ワルキューレ、GAから通信です!」

 

止まった

 

「エグザウィルは陥落しました!繰り返します、エグザウィルは陥落!レイレナードは倒れました!」

 

「…………だとさ」

 

コアから剣を離し、男は言った。

仕事は終わった。依頼は、レイレナード陣営陥落まであらゆる脅威からオーメル社を防衛すること。

 

「…………間に合わなかったか」

 

目の前にいる存在は、今は脅威ではない。彼だって、後ろ盾なく戦い続ける事が不可能であることを知っている。確かにアクアビットはまだ存在はしている。だが、もはやその運命も日が変わる前に尽きるだろう。

 

「どうする?まだやるか?まだ逆転の目はあるかもしれんぞ?」

 

男は言う。勿論、これっぽっちもその気はない。傭兵は、友が馬鹿ではないことを知っていた。

 

「知ってるだろ?我々の目的はそこには無い。」

 

「知ってるよ。で、どうするんだ?アクアビットか?それともアンジェの所か?」

 

「…………そう、だな。少し、考えるか」

 

ワルキューレは拘束を解く。シュープリスは立ち上がると、ゆらりと傭兵の姿を見た。

 

「…………何年後なんだ?次は」

 

「早くて五年、遅くても十年だ」

 

「成る程、さて、それまで俺は生きているかね」

 

「安心しろ、居なくても大丈夫なシナリオは整えられてる筈だ。」

 

「あぁ、そうかい、そりゃ安心だ。さて、じゃあな」

 

「あぁ、またな。」

 

シュープリスが離脱してゆく。男はそれを見送る。その表情は、何かを成し遂げた、満ち足りたものの顔であった。

 

 

「……本当に、良かったのですか?」

 

「何がだ?」

 

「確かに、オーメル・サイエンスからの任務は本社の防衛です。ですが、あの中には間違いなくベルリオーズの排除も含まれて……」

 

「なぁ、フィオナよ」

 

「……はい」

 

「俺は、人間だよな?」

 

「……どういう意味ですか?」

 

「そのままだよ。俺は、人間だ。狂っちゃいるかもしれないがな」

 

「そんな、狂ってなんか……」

 

「人間ならな、超えちゃいけない線は絶対あると思うんだ。例えば、ただただ殺す事を目的にしちゃいけないとか。仲間は大切にするとか」

 

「……」

 

「俺は、あいつを死地に行かせない為にこの依頼を受けた。いや、初めてだよ。自分を騙しながらとはいえ、最初から失敗する事を目的に任務を受けるなんて」

 

「…………そう、だったのですか」

 

「すまないな、話さなくて。なんというか、とりあえず、話したら色んな奴に失礼な気がしたんだ。」

 

「いえ、大丈夫です。…………お疲れ様。これで、きっと戦争も終わるわ。さ、帰ろう」

 

「あぁ、帰るか……」

 

 

 

だが、彼らの予想に反し。この戦争は後数日間だけ続くこととなった。

 

「あー!あー!マイクテスト〜マイクテスト〜!オーメル!イクバール!そしてアクアビットの皆さん!聞こえてますかー???」

 

「ジャンヌ様……?これは一体……」

 

「こんにっちわんこそばー!!みんなのアイドル、イレギュラーネクストことジャンヌ・オルレアンちゃんでーし!!!みんな拍手!!ほら、拍手拍手」

 

「へ?え、えっと……ぱちぱちぱち……」

 

「はい!ありがとー!!これから私は、ここでコジマ塗れになって頑張っているみなさまにニュースを伝えたいと思いまーす!!それはーーなんとーー!!デレレレレレレレレレレレレレ…………………………………………」

 

「??????」

 

「ジャン!!なんと!!私!!ジャンヌ・オルレアンは…………!!ドドンッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからアクアビット側に立って戦う事を宣言いたします!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十日後、レイレナードとGA。二つの勢力による血と汚染の戦争は、レイレナード最後の企業、アクアビットの〝降伏〟によって幕を閉じる事となる。




次回、4編最終話。



いつかまとめて心理描写やら含めて書き直そうと思う今日この頃です。


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プロローグは未だ続く

4編終わり!やった!とりあえず区切れた!


「すまんな、アスピナの。それじゃあ俺には勝てねぇよ」

 

汚染されたアナトリアの地に立つ異形のAC、そのコアに深々と突き刺さるムーンライトを抜く。

 

哀れな男の亡骸を乗せたソレは、光ない瞳を地に向け、全身からコジマ粒子が噴出させながら、少しずつ崩壊していく。男は距離を取る。ここにいたら、爆発に巻き込まれかねない。

 

爆発。緑色の光が機体全体を包んだ。最早、そこに生者は存在しないだろう。

 

「あんたは死ぬ気かもしれんが、こっちは終始生きる事しか考えてなかったからな」

 

だが、疲れた。あの戦闘以降、自身の活動限界が目に見えて短くなっていくのが感じられた。

 

まぁ、それならば長期戦など考えなくて良いくらい強くなれば良いだけだ。

 

男は目を瞑る。少しばかり時間が経ち、ワルキューレのコアが開いた。

 

対コジマ防護服。顔は全く見えない、しかし、わかる。

 

「ねぇ……聞こえる?」

 

「イレギュラーか?」

 

「……ばか」

 

「ははっ……」

 

フィオナを抱き寄せる。彼女の身体の感触は全くわからない。だが、とてもあたたかい。

 

「……ありがとう。生きていてくれて」

 

「当たり前だよ。大事な人は傷付けないのが俺のポリシーだ」

 

強く、強く、抱き締める。やっと戦いが終わった実感と幸福を離さないように。

 

 

「幸せそうだな、二人とも」

 

突然、外から声がかけられる。

 

驚いたように男とフィオナは声の方向を見る。そこには、この前に命のやり取りをしていた巨人が立っていた。

 

「ベルリオーズ……!?なんだってここに!?」

 

「油断しすぎだ。オーメル社は二の太刀を用意してたぞ。」

 

「なんですって!?」

 

フィオナが声を上げる。

 

「奴ら、散々世界中を荒らしまわったお前の事を許すつもりは無かったらしいな。大事な大事なNo.6を差し向けてきていたよ」

 

「どこもかしこも荒れてるのに、一つだけ豊か極まりない街だなんて存在するだけで目の敵か。……で、そいつは」

 

「あぁ、代わりに仕留めといたぞ。……さて」

 

シュープリスの赤い瞳が光る。なんとなく、その向こうにいるベルリオーズの表情が男には見えた気がした。

 

「何も、私は二人の蜜月を邪魔するハエを落としに来たわけじゃない」

 

空からエンジン音が響く。見覚えのあるレイレナード製のネクスト輸送機。貪欲な龍のエンブレムが描かれたその機体は、間違いなくあの見知った男たちが乗り込んでいるそれだ。

 

「どうだ、独立傭兵。一人、首輪の外れた相棒を雇う気は無いか?」

 

「…………腕を盗もうってか?」

 

「何、来たる時まで効率よく磨くには、伝説のアナトリアの傭兵の近くに居続けるのが一番かなと思ってな」

 

「成る程」

 

男は笑った。まぁ、いい。一人でやるより楽になるというのは、歓迎すべきことだった。

男は、シュープリスに向けて手を伸ばす。ちょうど、握手の形になるように。

 

「よろしく頼むよ」

 

ベルリオーズも、コアの中で手を伸ばした。シュープリスが握手の体勢をとる。

 

「あぁ、こちらこそ」

 

 

 

「これより稼働実験を開始します。試験場にいる全ての作業員は速やかに撤収して下さい」

 

サイレンが鳴り響く中、狂人は楽しそうに鼻歌を歌う。

 

シナリオの変更加減はそこそこ、ブレイクはしない程度に、だが大きく変わっている。これくらいが、個人的には丁度良い。

 

上を向くと、幾重にも重なる強化ガラスの向こう側に、白衣の大人達と並んで心配そうにこちらを眺める少女の姿が見えた。

 

そこへ向けて、コックピットで投げキスを一回。いや、しかし、本当に負荷が強いな。クレピュスキュールに慣れてると、視界のリンクだけでもそれを感じてしまう。

 

まぁ、余裕ですけどね。なんたって私はチーターですもの。

 

「全職員の退避を確認。隔壁の閉鎖を開始。」

 

うん、そうだな、一つここらでAC4を区切るとするか。脳の中でThinkerを流す。エンディングロールが流れる。主要人物一覧、デカデカと流れる私の名前。あいむしんかーとぅとぅとぅとぅー、あいむしんかー……………

 

「隔壁の閉鎖を完了」

 

「聞こえるかいジャンヌ君。カウントダウンが終わったらソレを起動させてくれ」

 

「あいあい」

 

ふんふふんふーんふんふんふんふーん、ふふふふんふーんふふふふんふーん

 

「10、9、8、7」

 

ふぅうふぅ〜〜〜〜

 

 

「6、5、4」

 

あー、この先の歌詞殆どおぼえてないな。帰ったら聞き直すか。

 

「3」

 

なんだっけ、深海魚とか言ってたよな確か。

 

「2」

 

まぁいっか、また曲聴いてたら思い出すだろう。

 

「1」

 

さぁ、行くか。うん、とりあえずの、第一幕のオープニングとしてのインパクトは満点だろう。いや、それとも、まだ世界は長いプロローグの中だろうか?フロムゲーだし。

 

「0」

 

「〝ラグナロク〟稼働します。」

 

上機嫌にそう宣言する。次の瞬間、決して狭くは無い試験場にコジマ粒子が一気に満ちる。

 

あぁ、心地良い。なんの問題も無い。うん、少しくらい負荷がある方が動きやすい。自転車だってそうだろう?

 

「No problem. このまま宇宙にだって行けそうなくらいには快適な乗り心地だ」

 

狂人は笑った。うん、素晴らしい、チーターなんだ、やっぱり狂武器の一つや二つは持っとかなきゃね?




とりあえず、4編これにて完結です。皆様お付き合い頂きありがとうござあました。次回からは、アアクアビット本社で何があったのかや、fAに続くまでの数多の戦いと日常についてやっていきたいと思います。

それではみなさん!世にリリ!!(たった今思いついたあいさつ)


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ACLR編
それは、二次創作においてクロスオーバーを愛する男による思いつき。


やった!4編の総合評価が1000を超えた!!みなさまありがとうございます!!嬉しい……すごい……何故だ……

自分の好き勝手に書いたこのSS。500人以上の方が気に入ってくれているというのはとても嬉しいです。こっからまた展開は二転三転し、作者の思い描くゴールとはかけ離れた道を進む事になると思いますが、皆様が面白いなと感じる限り、続きが気になる限り、読み続けてくれたら幸いです。


まだジャンヌ・オルレアンになっていない男は、おそらく最も天国や地獄に近い場所で延々と書類を書いていた。

 

「うーん、流石に魔法とか使うのは世界観的にマズイよなぁ……やはりここらへんの雰囲気は壊さないようにしないと……」

 

思いついては書き、全体を見直し、整合性の無いものを消し、その代わりに思いついたものを再び書く。

 

一つ書く事に、自らを構成する要素が増えてゆく。うんうん、素晴らしい、米とジョークと設定は、盛れば盛るほど愉快痛快。何が楽しいって、対価が鉛筆の芯くらいしか無いのが良い。そうそう、力や才能の差ってのは、本来これくらい理不尽でなくてはならない。

 

そんなこんなを書いてみて、まてよ、逆にいっそこれから生きる世界も変えてみようかなと筆を止める。

 

何となく思いついたのは鉄血のオルフェンズ。ガエリオ・ボードウィン特務三佐をチョコの人の魔の手から救うために、ナイチンゲールあたりに乗り込んで無双する。うむ、楽しそう。楽しそうだが……まぁ、やめておこう。あそこは、AC以上に何が起こるかわからない。人類が地球の中だけでおさまっているほうが、状況把握は楽極まりない。

 

やはりAC4である。アーマードコアは、どんな自由な発想でアセンしても大丈夫なのである。

設定もりもり、能力もりもり、たとえ世界が滅んでも、私は寿命で死んでやる。そんな感じに身体を補強。

 

また、筆が止まる。そういえば、AC4とACfAの間って地味そうだな。企業連、カラード、色んなものが設立されるだろうが、戦争のかほりは薄そう。

 

なんか、イベントぶち込みたいな。

 

少しばかり思考する。自らを読者とし、これから紡がれるであろう栄光の物語のページをめくる。

 

そうだな、登場人物を増やそう。それも、出てきただけでちゃんと自分の意思で動きやすそうな奴らを。二次創作小説におけるクロスオーバーという奴だ。いいねいいね、燃えるね。僕ちんそういうの大好きなの。

では、誰を入れてやろう。濃いキャラでなくては、AC4世界の住人達に対抗できない。まるで鮫皮でおろした上等なワサビのように、ネタの味を上げるような奴をぶち込もう。

 

思いついたのはインフィニット・ストラトス。しかし、あまり彼女達について私は把握していない。それに、戦いを知らない学生を入れるというのも……出会う前に死んでくれてもつまらない。

 

と、脳が何か答えを見つけた。そうだ、ACにぶち込むならやはりACだろう。うん、ACに馴染むのはなんだかんだいってカラスや山猫やストーカーが1番に決まってる。

 

さてさて、ではでは誰を連れてきましょうか。まぁ、私がガッツリやったACはそもそも少ない。それに、一人一人のキャラの描写が比較的マトモにやられてるのなんてACでは限られてる。よし、アレだな。三キャラほど連れてこよう。AMS適性もつけちゃえ!数値はランダムでね!あ、あと、アレも、連れてこよう。

 

オーライ、決まった。では、リンクス戦争終わった頃にカモンベイビーしてもらおうか。

 

さてさて、じゃあ一度戻って自分の設定を練り直すか。そうだなぁ、CVは誰にしようかなぁ。

 

 

 

離れた世界。

同じ時間に、三つの、同じだけど違う場所で、同じ類いの光が煌めく。

 

一つの光は、己の策を成功させ。満足の中、鴉として死のうとする男を包んだ。

 

一つの光は、己を知り、自らが認めた鴉の為に戦い、果てようとした男を包んだ。

 

一つの光は、己を見極める事なく、鴉としての道半ばで何も見つけ出す事のできなかった女を包んだ。

 

最後の鴉になれなかった者たち。彼らの、彼女らの魂は、その身体と共に、気まぐれな狂人によって違う世界へと連れて行かれた。

 

そして。

数多の時間軸の一つ。それは、意志のない兵器による殺戮の起こらなかった世界。

ただ、一つ、その世界では大きな災害が起こった。

 

ナイアー産業区において大規模な地表の陥没が発生した。その当時、世界を支配していたとある企業の本社ビルを含め、多くの建物が倒壊、多数の死者が出た。

 

その後の調査において、地質学者たちはその光景に首をひねることとなる。

 

それは、まるで、地下にあった何か大きなモノが丸々消滅して。その空間へ都市が丸ごと落ちたかなような。そんな様子。

巨大な穴の中に落ちた無数の瓦礫。それを見て、彼らはそんな印象を受けた。

 

 

だが、それがなんであるのか。そしてそれがどうして起こったのか、結局彼らは解明する事ができなかった。

 




鉄血のオルフェンズにジャンヌが入り込んだら、とりあえず高笑いしながらレーザーライフルとファンネル振り回す事になると思います。


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入社面接、及び身体検査

本日の葛藤

・うーん、チートーどんなチートーこんなチートでホンマにええんかなチートー

・うーん、オリジナル設定がなんか多すぎやしないかうーん

その解決方法

・神様転生なんだからセーフでしゃ

・そもそもAC二次創作でオリジナル設定が皆無なものこそ皆無でしょ。長く書くんだからしゃーない

というわけで、リンクス戦争終盤に何があったか編、始まります。


ネクストACは、パイロットであるリンクスの脳との間にデータの共有を行う事で動く。AMS適性が高い者は、頭の中で思い描くだけで、そのイメージ通りにネクストACを動かす事ができる。

 

その為、極めて高いAMS適性を待つジャンヌのクレピュスキュールのコックピットの中は簡素な作りである。座席と、携帯ゲームや食料などを収納するラック。それくらいしか存在しない。

 

クレピュスキュールのコックピットで、ジャンヌの膝の上に座るリリウムは、その何も無い空間の中でただただ混乱していた。

 

唐突に狂ったようにマイクに何かを言ったかと思うと。今度はヘッドホンをつけて鼻歌混じりに足踏みをするジャンヌ。スクリーンも無く、外で何が行われているかを知らないリリウムは、この親しいと思っていた人間の突然の変調についていけないでいる。

 

……もし、ここで外が見えていたらリリウムは更なる混乱に陥っていただろう。

ジャンヌがノリノリに行っていること。それは、紛れも無い大量殺人であった。ビートを刻んでグレネードを放ち。ギターソロに合わせてハイレーザーを放つ。リリウムは知らない。ジャンヌがその右腕を使って時たま優しく少女の肩を揉むたびに、数百人単位で人が死んでいることを。

 

時折響く身体全体を震わす衝撃。その度にリリウムは驚きジャンヌの胸に顔を埋めてしまう。

リリウムは、この時のジャンヌの顔こそ眺めるべきなのだ、有澤製グレネードの炸裂する光を眺めるこの女の顔は、見ているものに恐怖すら抱かせるほどの恍惚とした顔をしていた。自らの行為により人命が消し飛ぶ快感は、彼女の脳を支配し尽くしている。その脳内麻薬の接種を理性で制御できているからこそ、彼女は獣では無く狂人であるともいえるのだが。

 

放送から十数分後、周囲が静かになった。と、ジャンヌがヘッドホンを外し、収納ラックの中に入れる。

 

「オーケー。リリウム、移動しよう」

 

「え、あ、はい……」

 

ブースターの駆動音と振動が下から響く。身体がジャンヌの身体に押しつけられ、その暖かさに安心を覚える。

 

いきなりネクストに乗せられて、北欧が目的地と伝えられたものの、詳しい場所などわからない。

本当なら、疑いを抱くべきなのだろう。まだ小さいとは言っても、リリウムもある程度の常識はわかる年齢だった。

 

だが、疑ってどうなるというのだろうか。この世界に、リリウムを守ってくれるのはこの人しかいないのだ。それなのに、疑ってもしも嫌われてしまったら、その時こそ真の意味で一人ぼっちになってしまう。それに、こんなにもこの人は暖かいのだ。それでいいではないか。

 

ジャンヌすら気づいていない事だったが、リリウムは狂人への依存を始めていた。当然といえば当然かもしれない。事実として、彼女を守り通したのは彼女なのだから。

 

数十分後、減速しながらネクストが動きを止める。

 

「よし、ついたよ。降りよっかリリウム」

 

いつもの、リリウムが知るジャンヌに戻る。

優しい、いつも家を訪れていた時のその表情。奥の見通せないその顔に、リリウムは笑顔で頷き返した。

 

 

「イレギュラーは今どこに?」

 

「機体は第四格納庫に、パイロットは第二格納庫にいます。何人かが監視の為についてますが……」

 

「わかった、すぐに行く。」

 

無線を切ったテペス=Vは、すぐにシルバーバレットから降りると第二格納庫へと向かった。

機体は、先ほどの戦闘で大規模な損傷を受けていた。間違いなく、あのイレギュラーがいなければ死んでいた。

 

直接見て、その異常性がわかった。あのイレギュラーは、一歩も動かずにあのオーメル・イクバールの連合部隊を退けた。通常兵器だけで無く、セロやジョシュア・オブライエンにさえもあの大型砲を直撃させて二機を撤退させている。

 

だが、決して感謝を言いに行くわけではない。

イレギュラーの狂気は、テペスも聞き及んでいた。霞スミカへの凶行を始め、その動きに一切の一貫性は見出せていない。それが、唐突に仲間になろうだなんて言ってきても信じられるわけがなかった。

 

通路を抜け、第二格納庫へ入る。

まず1番はじめに目に入ったのはミセス・テレジアの不健康な顔つきと色の抜けた長髪。前に、あの暗さと陰のある雰囲気が良いと語っていた研究員を見たが、テペスはGAEにいた頃の、あの朗らかな姿の方が好きだった。

 

そして、幾人もの兵士に囲まれた童女と幼い少女。

 

「まさか、アレがイレギュラーだというのか?」

 

「……らしいわ、あのACから一緒に降りてきたのだって」

 

どちらも、見た事のないパイロットスーツを着ている。それに、とても容姿が良い。

まず、大きな方……といっても、背は140程度であろう……で目につくのは、その左腕と右眼だ。左腕は肩から先が無く。室内を循環する空調に合わせでヒラヒラと中身の無い袖が揺れていた。

右眼は眼帯で隠されていた。対になる左眼には黄金に輝く瞳があり、童女の眼帯の下には同じ色の瞳がある……もしくは、あったのだろう。

 

身体つきは、細いが服の上からでもわかるほどに筋肉が付いている。髪はくすんだ金色。肌は白く、生気も微かにしか感じられない。だが、その顔が浮かべる笑顔には嫌というほど人間味に溢れていた。

 

もう一方……童女の傍に隠れるようにし周りを警戒している幼い娘の方は、それこそ人形のようだった。手入れの良くされた銀色の髪、ルビーを思い浮かべる緋色の瞳、向こう側まで透けて見えそうなほどに薄い白い肌。そのどれもが人間などという愚かな生物に与えるには不相応な程に美しい。その身体細さもガラス細工の如く繊細な印象を与え、一種の触れがたい魅力を醸し出していた。

 

「おっと、また一人。そちらのご婦人と同じパイロットスーツを着ておられるようで……ということは、テペス=Vさんでしょうか?」

 

大きな方がえらくかしこまった喋り方で話し出す。先ほどの、あの万物を馬鹿にしたような放送とは真逆だ。右腕は頭に添えている。おそらく、抵抗の意思は無いことを示しているのだろう。

 

「……あぁ、そうだ」

 

テペス=Vは不快感を隠さずに返答をする。一言、言葉を交わしてわかった。評判通り、こいつは狂人だ。

 

「あら、なにドン引かれてるんですか。まさか貴方までも私めを狂人だとおっしゃりたい?」

 

あぁ、そうだ。そんな気味の悪い笑顔を浮かべるのが常人であるものか。

 

「……まぁ、良いでしょう。個人的には、リンクスなんざ全員狂人だと思うのですが」

 

「狂気の類が違うよ。お前は」

 

「……そう言われたらなにも言い返せないですねぇ」

 

ふっ……と、先程までとは違う笑顔を浮かべる。年相応というか、そんな表情を。

 

「……で、その小さな子どもは?」

 

ミセス・テレジアが、人形のような娘を指差す。

 

「あぁ、この子ですか?」

 

自らに話題が移ったからだろうか。状況を理解しきれてないらしい少女は軽い震えと共にイレギュラーと思われる女に抱きつき、その影に隠れる。

 

「私の被保護者ですよ。まぁ、そうですね。この子こそ、私がアクアビットに身を寄せようだなんて考えた理由の一つですよ」

 

イレギュラーが、少女を抱きかかえる。少女はそれに抵抗せず、それどころかその胸に顔を押し付けていた。その姿から、少女がイレギュラーに対して多いに信頼を寄せていることが分かる。

 

「理由……だと?」

 

「えぇ、まぁ、アレです。」

 

と、ここでイレギュラーは少女に耳打ちをした。少女はそれを聞くと驚いたような表情を作り、そして頷く。

それを確認すると、イレギュラーは笑った。また、あの気味の悪い笑顔。この世界の万事が楽しいといった、そんな酔いすら見える表情。それを崩さずに、彼女は言った。

 

「私達を保護していただきたい。対価は私と……このリリウム・ウォルコットのリンクスとしての腕です」

 

 

 

場所を移動する。平時は来客用に使っている部屋だ。

 

「ふぇー、お洒落な部屋」

 

……こいつは、思った事を口に出さずにいれないのか?

 

応対するのはテペス=V。残念なことに、技術者集団たるアクアビットには、見知らぬ狂人と面と向かって話せるような人材は枯渇していたし、同じリンクスだからこそ話せる事があるだろうという理由から彼女の扱いはこの老兵に一任された。

 

少女の方はミセス・テレジアが相手をしていた。これも、小さな子供に対して1番自然に触れ合えるのが彼女しかいなかったからだ。

 

他にも、何人かの研究員や将校が同席する。

 

イレギュラーは席に座ると、表情以外は面接に臨む新入社員のような姿勢をとった。

 

「さて、なんでも質問をどうぞ?」

 

「……まず初めに、どうして今、アクアビットの側に立つなどと?」

 

将校の一人が質問する。テペスが気になるのもこの部分だ。なぜいきなり、それもこんな敗色が濃厚になって……

 

「理由は三つ。一つ、こっちが企業の庇護が必要な状況になったから。一つ、受け入れてもらうなら後が無さそうな所ほど可能性が高いと考えたから。一つ、アクアビットに対して直接的に敵対行動をとったことはない為に感情的に比較的受け入れてもらいやすいと考えたから。以上」

 

スラスラと述べていく。こんな状況だというのに、この女は余裕すら漂わせている。

 

「庇護が必要な状況とは?」

 

「あの少女、リリウム・ウォルコット。アクアビットは大企業なんだから知っているとは思いますが。私実は南極に行きまして……」

 

南極、スフィア。BFFが脱落した中、サイレントアバランチと共にレイレナード陣営に残ってくれた二人のリンクスが散った地。

 

そこに、イレギュラーが現れたという情報があった。占領の為に南極に上陸したGAの陸上部隊を殲滅し、去っていたという情報。数時間後、今度はブリテン島のある街に降り立った。これに関しては、BFFが徹底的に情報を秘匿している為に詳細はわからない。ただ、その街にウォルコット家の屋敷があるというのはわかっていた。

 

「そこで、頼まれたんですよね。ウォルコットさんから、リリウムを頼むって」

 

「頼むというのは?知り合いだったのか?」

 

「いや、今際の言葉なので。1番大事なものを目の前の人間に託したってだけだと思います」

 

「なぜ南極にいたんだ?」

 

「リリウムに兄や姉を護ってくれと頼まれたから。リリウムとは知り合いだったのよ」

 

「……なぜ、ウォルコット姉弟が南極にいたと分かったんだ?リンクスの配備状況は極秘事項だが……」

 

イレギュラーの表情が変わる。しかし、それは焦ったような種類のものではない。

どちらかというと、その言葉に楽しさすら感じているようだった。

 

「うーーーん!!そうだねぇーーー!!そこ気になっちゃうよねーーー!!」

 

唐突に口調が変わる。本当に予想ができない女だ。

 

「……勘かな?なんか、こう、匂った?」

 

「……ふざけているのか?」

 

思わず、口を挟んでしまった。

 

「いやまぁ、なんというか、それ以外に伝えようがなくて……。できれば他の質問を……あー。うん、同様の理由によりアマジーグやアンジェとかの件も聞かないで欲しいです……」

 

途端にしおらしく答える。感情の上下の起伏が全く予想できない。何なのだこいつは。

 

その後も質問は続く。なぜレオーネの基地を襲撃したのか。あのネクストは何処から提供されたのか。どこに身を隠していたのか。などなど。

 

「レオーネの霞スミカに恨みがあった。誘い出して復讐しようと思ってたから。まぁ、向こうは覚えてないだろうけど」

 

「ノーコメント。あぁ、でも、どんな機体で構成なのかとかは解析してくれても構わないよ」

 

「グレートブリテン島に隠れ家がある。どうやって用意したかについてはノーコメント。あぁ、色々と残しているものがあるからいつか荷物取りに行きたいなぁ」

 

イレギュラーも、聞いた内容に殆ど答えてゆく。(なお、研究者たちは機体の解析をしても構わないという言葉を聞いた途端に一人を残して飛び出して行ってしまった)

 

「さてさて、こんなものかしら?」

 

1時間ほどの聞き取りを終える。イレギュラーは自らの首をもみながら、他に質問は?と視線を投げかけてくる。

 

「……とりあえずはこんな物だ。また後で聞く事になると思うが」

 

「ふむふむ、了解いたしました。で、私はこれからどうなるの?今からビックボックスでも襲撃する?それとも私の高〜いAMS適性を活かした実験素体?もしかして世の中そう上手くはいかないから監禁して飼い殺し?」

 

……本当に、落ち着きというものを知らないのだろうかこいつは。

 

「テペス=V、彼女の身体の検査をしても良いですか?AMS適性もですが、あの機動を出来る身体というのが気になります」

 

そう言ったのは、唯一この場所に残った研究員だ。瓶の底のような分厚いメガネにモヤシのように細い身体という、アクアビットの多くの研究員を象徴する姿を持ったこの男は、リンクス部門の主席研究員をしており、テペスとも付き合いが長い。

 

「あぁ、大丈夫だ。この機会に調べられるモノは調べ尽くせと言われている。準備は進めているのか?」

 

「えぇ、勿論。すぐにでも」

 

「では移動しようかイレギュラー。」

 

そう言ってテペスが立ち上がろうとすると、イレギュラーから声をかけられる。

 

「あ、AMS適性を調べるなら。ついでにリリウムのも調べてもらいたいんだけど」

 

「……リリウム・ウォルコットをか?さっきも言っていたが、何故彼女をリンクスなどにしようと?あの姉弟に護ってくれと頼まれたのだろう。リンクスなんざ、そんな状況からはかけ離れた職業だと思うが?」

 

「理由は二つ。ひとーつ、彼女の夢はリンクスなのよね。さっきも聞いたけど、その夢は変わってなかった。幼い子どもの夢を叶えて上げようと思うのも被保護者の役割でしょ?そしてひとーつ、匂いでわかるけど、ありゃなかなかの玉よ。それこそ、BFFで例えるならメアリー・シェリーすら超えかねない才能を持ってるね」

 

 

 

一連の検査を終えたイレギュラーとリリウム・ウォルコットを待たせ(ミセス・テレジアは…未だリリウムに付きっ切りである、どうやら少女の事を気に入ったらしい)データ解析中のリンクス部門の研究室に入る。

 

と、そこには呆然と……だが、どこか興奮した面持ちの研究員達に溢れていた。

 

「あぁ、テペス……これを見に?」

 

主席研究室……名前は、ルークと言う……が、薄気味悪い笑顔を浮かべながら二枚の紙を掲げる。

 

「そうだ、で、どうだったんだ?お前らがそんな顔をする時は大概ロクでも無い時だが。」

 

アクアビットの研究員全てに言える事だが、彼らは自らが飛んでも無い発見をした時に凄まじく気持ちの悪い笑顔をする傾向がある。しかし、ここまで気持ちの悪いのは兵器開発部門がネクスト搭載用のコジマキャノンの理論を発表した時でも見た事が無い。

 

「常識的に素晴らしい方と非常識的に素晴らしい方どちらから見ます?」

 

「……じゃあ、常識的に素晴らしい方から」

 

「では、これを……」

 

そう言って渡されたのはリリウム・ウォルコットの検査結果。身体的特徴を示す欄には殆ど何の問題も無い。だが、注の欄に肌のメラニン色素の含有量は極めて少ないと書かれている。

 

「視力に問題は無かったんですがやはり日光には弱いようですね本人のヒアリングでも日傘無しでは外に出なかったと言っています」

 

ルークの興奮が口調でわかる。慣れてないと、彼の捲したてるような口調は聞き取る事さえ難しい

 

そして、肝心のAMS適性は……

 

「A+だと?」

 

AMS適性は、それぞれAからDまでに分けられていた。Dがギリギリ適性がある程度で、これに該当するのがGA社のローディーやアナトリアの傭兵などの、粗製と言われていた者達である。

殆どのリンクスはC、BランクのAMS適性だ。Dなどは戦場に出しても殆ど戦力にならず、Aランクになると殆ど存在しない。だからこそ、このレベルのリンクスが各社の中心戦力となる。

Aランクにもなると、レオーネの霞スミカ、イクバールのサーダナ、レイレナードのアンジェ、BFFのメアリー・シェリー、ローゼンタールのレオハルト……などの、どれもオリジナルの中でも上位に位置する猛者や、企業の切り札となっているようなエースばかりになる。

そして、それらよりもAMS適性が高く……だがランクを変える程の差異は無い者には、+の数によってその能力を表している。A+の数は四人、ベルリオーズ、アスピナの二人のリンクス、そしてこのテペス=Vのみ。

ちなみに、A++に分類されるのは現状ただ一人。オーメルの天才坊やのみだ。

横に書かれた詳細情報も、テペス=Vと並ぶほど優秀な数だ。

 

「この結果が常識的だと?世界にAMS適性が無い人間が何億人いると思ってるんだ。天才の一人をこんなに早い段階で見つけたというのに?」

 

「えぇこんなの見た後にはそれは驚きこそすれ常識的ですよ」

 

そう言って、ルークはもう一枚の紙を渡す。気のせいだろうか、あの瓶底メガネが一瞬煌めいたように感じた。

 

テペスは紙を受け取り、それに目を通す。

 

そこには、彼の常識とはかけ離れた結果が並んでいた。

 

 

 

ジャンヌ・オルレアンになろうとしている男は、書類に自分の未来の姿を書き記していく。

 

「うーん、血中にナノマシンとか人工筋肉だとかそんなのはなんか生温いなぁ」

 

自分の作る自分の身体である。どこをどういじっても良いというのはなかなかに楽しい。

 

「神経系は光ファイバーに換装したしー、色々と弄り回したけどー、身体になんかもうちょっとなんか良い感じの強化をなんかかましたいなぁー」

 

むむむと記憶のページをぺらぺらり、と、良い感じの強化をかました人間該当一人

 

「アームストロング上院議員!!!」

 

そうだ、あれくらいやっときゃネクストの殺人的な加速にだって耐えられるだろ!副産物的に身体がクッソ硬くなるけどもんだい無いよね!人工筋肉や骨もガッツリカーボンナノチューブあたりで強化!より人体を効率的に!よりマッチョに!メンテナンスフリーで!ぐはははははは!!ぐぇっはっはっはっはっ!!!よぉし!!あと不老つけよう不老!!呪いじゃねぇぞ!!人体が殆ど人工物だからだ!!!ニェッヘッヘッヘッヘッ!!!!

 

 

 

あ、あと早死にしたく無いからコジマや放射能は無効っと。

 

 

 

ぐぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!!!!

 

 

 

当時、その部屋の近くを歩いていた天使やら鬼やらに、「あそこの部屋に地上の大罪人か悪魔を監禁してるのでは?」という噂が立っていたのはまた別のお話である。

 

 

 

・人体の殆どが人工物で構成されている。臓器、筋肉、骨格はおろか、神経系まで徹底的な置き換えが行われているのが確認できた。←スキャンで確認できた部位のみ。

 

・血液中にナノマシンの存在を確認。これにより対G耐性を高めてると思われる。しかし、血液の採血は唐突な身体の硬化により不可能。被験者曰く、これもナノマシンの効果という。要検証。←あらゆる衝撃に対応するナノマシン?

 

・毛根細胞から数種類の未発見の遺伝子を確認。さらに、コジマ汚染によるダメージが皆無である。←遺伝子との関係性を要検証←新人類の可能性?

 

・左眼も義眼であり、超小型のカメラの存在が確認されている。(被験者曰く暗視、赤外線感知等々の機能を持つ。)右眼はガラス玉。

 

・自己申告であるが脳内にレーダーやセンサーが埋め込まれており、これによる感知も行えるとのこと。

 

 

 

「サイボーグ……ということか?」

 

テペス=Vは、まるでコミックの中の住人のようなイレギュラーの情報に眩暈を感じつつ、そう尋ねる。

 

「極めて近いですねおそらくACの操縦に最適な身体改造を繰り返した結果だと思われますしかし使われている技術はほとんどが未確認のものでいったいどこのだれがこんな素晴らしいものを……………」

 

テペス=Vも、ネクストの操縦のために幾らか身体を弄っていた。肉体の年齢も、実際の年齢を考えたらずっと若い。だが、これは、これほどまでに身体をいじるというのは……

 

数多の注釈がつけられた診断結果を読みつつ、1番最後、AMS適性についての欄が目に入る。

 

そこには、他の真っ黒になるまで字が埋め尽くされた枠と違い。ただ一つの記号のみが記されていた。

 

 

 

∞ と

 

 

 

「……ルーク、このAMS適性についてだが」

 

未だにイレギュラーの身体について語る主席研究員の言葉を遮り、テペスは震えた声で尋ねる。

 

「ん?あぁそれですか簡単な話ですよ数値を書いたら永遠に終わらないので記号で済ませました。」

 

「……桁が違うということか?」

 

「桁?それは違いますよテペス」

 

「……違う?とは」

 

「貴方は車の速度と光の速度を比べて桁が違うだなんて評するのですか?」

 

その余りに突飛な喩えに、だがルークの真面目そのものな瞳に、思わずテペスは天を仰いでしまった。

 

なんなのだ、奴は。

 




次回、ジャンヌの取り扱い等について


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第30話

私事ですが、先日やっとACfAオールSクリアしました。(最大の障害はノーマル第八艦隊。ハードカーパルス占拠?壁抜きした)

AC4とACfAの挙動の違いは、そのままアナトリアの傭兵と首輪付きのAMS適性の違いなのかな、なんて思います。


深夜、アクアビット社第一会議室には、大将級の軍高官や主席研究員、アクアビット社のCEOを含めた本社勤務の会社首脳陣が集結していた。もちろん、テペス=Vも参加している。(ミセス・テレジアは扱いが未だGAE所属のままの為、参加していない。)

 

議題は一つ、イレギュラーの取り扱いについて。

 

「……リンクス部門からの報告は以上です。なお、詳細については未だ調査中です。その為、質問などはまたの機会に」

 

ルークからの報告を聞き、他の参加者が一気に騒ぎ出す。当然だ、あんな報告、素面では到底聞けない。

 

「……到底信じられんな」

 

「だが、逆にこれで納得できたとも言える。あんな機動、リンクスになる際の人道的な強化手術程度では不可能だと思ってたからな」

 

「しかし、こんなAMS適性がありえるとは……」

 

「これも身体改造の結果なのか?」

 

「だとしたら人為的にリンクスの製造が可能だという事になるが」

 

「そんなの出来る訳ない!何年こっちが苦労してると思ってんだ!」

 

「確か、身体の機械化や精神の電子化によるAMS適性発現の計画をCPU部門が主導でやっていたよな、あれはモノになったのか?」

 

「いえ、全く。どれもこれも無駄に終わってますね」

 

「だから、あれは計画が悪いんだ。完全に電子化した上に思考の洗脳を施してネクストの操縦のみに特化したデータにするべきなんだ!」

 

「こちらとしては、このナノマシンも気になる。どれだけの衝撃に耐えられるかを検証する必要が……」

 

「いやそれよりも、このコジマ汚染の痕跡が皆無な点を……」

 

「しかし解剖はどうすれば……」

 

「いっそレーザーブレードで……」

 

「もしそれで殺したらどうするんだ!大事な被験者だぞ!!」

 

「そうだ!いままでリンクスを潰しかねないからと自粛していたアレやコレが出来るんだ!解剖するなら使い切ってからにしてくれ!」

 

「それよりも戦力としてだ!これだけの能力があれば間違いなくこの戦況を……」

 

「それよりもだ!?軍事屋共は俺らの研究の成果で戦ってるんだろ!!」

 

「その軍事屋に身を守ってもらってるのはどこのどいつだ!!そもそも貴様らが……」

 

「止めろ!こんな所で幼稚な喧嘩をするな!!」

 

……恐怖や疑問よりも、好奇心が勝ってしまっているのは流石アクアビットと言った所だろうか。

 

「とりあえず、報告の続きが聞きたい。次は……ネクスト部門だな」

 

この場でも最も若いCEOが、関係者が静かになった一瞬の隙に話を進めるよう促す。夢想家が多いアクアビットでも珍しい現実主義者のこの若者のお陰で、この会社は過度の暴走をせずに済んでいる節がある。

 

「はい。本人の許可があり、ネクストAC……名前はクレピュスキュールですね。これの解析を行いました。」

 

クレピュスキュール、フランス語で黄昏の意味。まさに、正体不明のイレギュラーにはピッタリな名前であろう。

 

ネクスト部門の主席研究員であるパトリックが、溌剌とした様子で報告を行う。学生時代は研究の傍らでラグビーに打ち込んでいたスポーツマンであり、その鍛え上げた体力により365日不眠不休で研究しても倒れないと噂される化け物だ。

 

「性能に関しては驚くべき事柄は余りありません。ヘッドパーツ、コア、脚部、それにOBなどの見覚えの無いパーツも、その殆どは既存の技術の延長線上といったような印象を受けます。ただ、コアパーツは変形機構を採用するなど面白い作りになっていますね。あと、腕部の武器には通常よりも威力が上がるようにチューンされていました。グレネードに関しては、アクアビットに専門家が少ない為に詳しいことはわかりませんが、GAEの研究員に聞いた所『有澤ほどの技術レベルが無いとこのレベルのグレネードは作れない』との事です。」

 

参加者たちが資料をめくる。そこには、クレピュスキュールを構成しているパーツについての情報が書かれていた。それを眺めながら、一人の将校が発言する。

 

「ジェネレーターとFCSはアクアビット製品なのか……。販売履歴の中にイレギュラーと思われるモノは無かったのか?」

 

「そもそも、我が社のパーツは同じ陣営だった企業以外には流れていない筈です。それに、気になることが一つ。」

 

「気になること?」

 

はい、とパトリックが頷く。

 

「製造ナンバーやアクアビット社の刻印が無いのです。我が社で正規に生産したものなら、必ず入っている筈の。これは他のパーツにも言える事で、どれにもどの企業が生産したかを示す刻印は押されていません」

 

「……それは、どういう事だ?」

 

「精巧なコピー品の可能性があります」

 

「コピーだと!?」

 

また会議室がざわつき始める。アクアビットの研究者は誰も彼も、自らの研究を至高の芸術品と捉えている節がある。だからこそ、そのコピーを嫌うものは多いし、誰にもそんな事は出来ないだろうと考えている。

 

と、一人の男が驚愕の声を上げた。ブースター部門の主席研究員だ。

 

「おい、パトリック。このOBについて話がある」

 

彼が見ているのは、OBの簡易的なスケッチだ。

 

「いったいどうしたんですか?」

 

「ここ、多分お前も気づいていると思うが、通常のOBなら不要な機構が付いているよな」

 

「あぁ、そうですそうです。後でそちらに行って聞こうと思ってたんです。それがどうかしたんですか?」

 

「こりゃ、あれだ。ウチが研究しているアサルト・アーマーの発生機構とソックリだ」

 

これまた、驚愕の声が聞こえくる。

 

「なんだって!?アレを思いついて実用化した奴が他にいるっていうのか?」

 

「嘘だろ……ウチだって四苦八苦してたってのに……」

 

「それは、本当ですか?」

 

兵器部門やコジマ部門の研究員の声を上げ、パトリックが尋ねる。

 

「間違いない。見ただけでわかる。このイレギュラーのOBは恐らく威力に特化したタイプだろう。推力や燃費を犠牲にしているが、アサルト・アーマーをやるには最適だ」

 

アサルト・アーマー。ネクストが防御用に纏うPAを圧縮させ、コジマ爆発を発生させるといった類の兵器だ。既に、技術としては完成している。それをいかに実用レベルに持っていくかにブースター部門は血道を上げていた。

 

さらに、イレギュラーに対しての疑問が深まる。ブースター部門の研究員などは、イライラにより貧乏ゆすりが止まらないでいた。

 

「あぁ、それと、機体には凄まじいレベルでチューンがかかっていました。FRSメモリに換算して1400。非常識なんてレベルじゃありませんね」

 

……どんどんと、頭が痛くなってきた。

 

 

 

アクアビットからあてがわれた部屋を使う。どうやら、そこそこ高級な部屋のようだ。少なくとも、寝心地は悪く無い。

 

外には衛兵が立っている。こっちの監視の為だろう。まぁ、余りにも怪しすぎるからな、しゃーない。

 

「…………」

 

リリウムはというと、今は同じ布団で、というか私の胸の中で横になっている。別の部屋を提供すると言われたが、本人の希望によりこのような形になった。

 

目を瞑って、寝ようとしているのだろうか。その髪をそっと撫でる。綺麗な髪だ。いい匂いもする。こういうときに、TSしたの失敗かなぁと思う。

 

「……ジャンヌ様」

 

「ん?」

 

リリウムが声をかけてきた。笑顔を浮かべ、どうしたのと尋ねる。

 

「本当に、大丈夫なのですか?いきなり、こんな場所に……」

 

「大丈夫大丈夫、リリウムは安心していいよ」

 

そう大丈夫、失敗しても結局死ぬだけだし。うん、大丈夫じゃないなそれ。

 

「何があっても、私はリリウムを守るから」

 

言葉とは便利なものである。言うのは無料だ、まぁ、本気ではあるが。

 

と、リリウムは笑顔を浮かべた

 

「ジャンヌ様がそう言って下さるなら……」

 

「そうそう、だからリリウムは安心して寝ていいよ」

 

やさしーく、やさしーく、まるで小型犬を触るかの如くにやさしーく撫でる。

 

「……ジャンヌ様、お願いがあるのですが」

 

「なんだい?」

 

クレイドルでも落とす?

 

「……キスを、してもらえませんか?」

 

…………はえ?

 

「……いつも、姉様や兄様は、リリウムが眠れない時にはキスをしてくれたので……」

 

き、キスなんてしたら子どもが出来ちゃうじゃないか!?(純粋無垢)よっしゃ!舌入れた濃厚な奴をぶちかましたるぜ!!(本心)

冗談はさておき、なるほどおやすみのキスか。やっぱりそこらへんは欧米である。そーいう文化とわちき接してきてなかったからね。

 

とりあえず、ふふ、リリウムはまだ子どもだなぁ的な笑みを浮かべて、キスの場所をさが…………胸……………却下…………………唇………………………………キャベツ畑にコウノトリ…………………………………デコ…………………………………最適解と言える…………………………………………

 

「いいよ。おやすみ、リリウム」

 

音の出ない程度に軽いキス。あ、うめぇ。こりゃうめぇよ。なんかよくわかんねぇけどうめぇよ。

 

「ん……ありがとうございますジャンヌ様。おやすみなさい……」

 

リリウムの目がとろんとしている。可愛い。もしこれで自分が男だったらもうダメだったね。R-18展開だったよ。いやぁ、女で良かった。ただの尊い触れ合いだもの。ぬふふ。

 

と、リリウムの瞼がゆっくり閉じた。落ちたらしい。じゃあ私も寝ようかと、リリウムの香りを愉しみながら意識を手放した。

 

 

 

「イレギュラーは受け入れる。」

 

CEOの言葉に、まぁそれしかないなとばかりに参加者たちが頷く。最早、アクアビットが生き残る為に他の手は考えられない。次に攻めてくるのが、あのアナトリアの傭兵の可能性もあるのだ。

 

「そして、これからの方針だが。イレギュラーの存在を手札に加え、GAとの和平交渉に移ろうと考える。」

 

「同胞たるレイレナード社は崩壊、エーレンベルクも破壊された。悲願の成就は今は不可能……か」

 

テペス=Vが呟く。ブルンヒルドは大気圏内での使用を考えられた兵器だ。計画に使う為には大規模な改造が必要である。

 

「あぁ、そうだ。ならば、これからは我が社の力を少しでも残しつつ、クローズ・プランへの支援を行えるようにするべきだど考える。」

 

そう言うと、若者は立ち上がった。そしてそこに座るものたちを一瞥し、言う。

 

「残念ながら、今回は我々の負けだ。諸君にはこれから暴れまわったツケを払ってもらう事になる。次の戦争の為にも、アクアビットの為に戦ってくれた数多の人間の命を無駄にはしないでくれよ」

 

「は!」

 

「今回はコレで終わり、各自解散後すぐに休め。明日からは間違いなく今日までよりも忙しくなるぞ」

 

その言葉を合図に、すぐに参加者たちは部屋を出て行った。残ったのは、テペスと、CEOのみ。

 

「不満か?テペス=V」

 

「……私は、奴を信用できません」

 

「だろうな」

 

若者が立ち上がり、そのままドアへとつかつかと歩いて行く。そしてかちゃりとノブをひねると、老兵の方を向き、言った。

 

「だが、あれくらいの劇物は必要だ。お前らの夢を実現させ、あんなに大きなフロンティアを閉ざした奴らを罰するというのならな」

 

そう言葉を残し、彼も部屋を後にした。

 

腕を組み、テペス=Vは誰もいなくなった部屋で一人思考する。

 

それで納得して良いものなのか、確かにあれは劇物だ。上手く使えば、アクアビットを救う薬になるだろう。あれだけのものを、人間を、本当に制御できるのか?あの毒で死ぬのは、本当にアクアビットだけで済むのか?

 

おそらく、皆警戒を解いた訳では無いだろう。頼らなければどうにもならない。だから受け入れた。

 

ならば、私も彼女に対する警戒を続けよう。例え化物だろうと、奴はリンクスだ。リンクスを抑えられるのは、リンクスしかいない。

 

そして、彼女を仲間と認めよう。決まった事でもある。それに、彼女がいなければ、間違いなくオーメル社の連中を引き止めるべく散華した者たちの命は無駄となっていた。そして、私も倒れていた。あの時点で、間違いなくあの劇物はアクアビットの死を救った。それを認められないようでは、ただの頭の固い老人だ。

 

テペス=Vは立ち上がった。そして無人の会議室の明かりを消すと、ゆるりと自らの部屋に戻った。

 

 

 

朝、私たちの部屋に唐突にアクアビットの将校が訪ねてくる。

 

「ジャンヌ・オルレアン。君の処遇が決まった。こらからの扱いはアクアビット社所属のリンクスということになる。ようこそ、アクアビットへ」

 

あら、案外早かったな。もう少し揉めると思ってたのだが。まぁ、余裕が無いのだろう。

 

「それに伴い、貴官にはこれから仕事を行ってもらう」

 

…………は?

 

「30分後、第八ブリーフィングルームに来てくれ。仕事の説明がある。場所については外の衛兵が案内する」

 

いや、え、早過ぎない?え、なに?

 

え?

 

「では、私はこれで」

 

そして、唐突に去っていった。

 

「えー…………」

 

後ろを振り向く、リリウムはまだおねんね中だ。

 

と、とりあえず用意して行くか。起こしちゃ面倒くさいし。昨日はミセス・テレジアが相手してくれたらしいし、今日もそうしてくれるだろう。エンブレム含め変態臭漂う方だが。あ、でも見目麗しい方だったよ!幸薄そうだったけど。なんというか、未亡人風?

 

静かに服を着替え、部屋を出る。まぁ、折角の新しい生活なんだ。これくらい急なくらいが楽しいだろう。

 

部屋を出る……の前に、リリウムの寝顔を眺める。かわゆい。

 

「じゃ、ごめんねリリウム。行ってくるよ」

 

そして額に優しく行ってきますのキス。がはは、役得じゃ役得。

 

静かに部屋を出る。……まさかこれが、ジャンヌ・オルレアンとリリウム・ウォルコットの永遠の別れになるとは……予想して無かった……おぉジャンヌ……まさかコジマ爆発により死んでしまうとは……情けない……

 

そんなナレーションを頭でかましつつ、私は衛兵と共にブリーフィングルームに向け歩き始めた。




次回、初めてのお使い(リベンジ)



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AkvaVit Club March

本作、なんだなんだでヒロイン多いなと思う今日この頃


という訳で南極です。なにがという訳かはわかりませんが。なんだこれ。

 

場所はちょうどスフィアにならぶコジマタンクの一つ、その真上に立っている。なので、うん、まぁ、見える訳だ。何がって?アレが

 

「リンクス!こちらの回収は終わった!あとはそちらのネクストやノーマルの残骸を収容するだけだ」

 

「了解。……しかし、来て早々の仕事が釣り餌とはなぁ」

 

 

 

ブリーフィング室に入ると、一人の軍服を着た男が待っていた。どうでもいいが、こういう軍服のデザインは支配体制が変わった程度では変化したりしないのだろうか。まぁ、国家が崩壊してからそんなに時も経ってないし。更新する意味もないのかもしれないが。

 

「よく来てくれた、すぐにブリーフィングを開始する。まずはこれを見てくれ」

 

そこそこお年を召した将校が、拡張現実でもって作戦地域を空間に映し出す。おぉ、ハイ……テ……ん?

 

「これは……スフィアですか?」

 

映し出された空間は、みんな大好きスフィアだ。氷に閉ざされた大地に並ぶ大型のコジマタンク。色んな意味で死の世界感が強い。

 

「あぁ、そうだ。君の任務はスフィアに向かう部隊の護衛だ」

 

「部隊って……もしかして、再占領でもするんですか?」

 

思わず尋ねてしまう。確かに電力インフラは大事だが、今することかそれ。

 

「いや、違う。この部隊の任務は我が軍の秘密基地から物資を運搬する事だ。」

 

「秘密基地?」

 

小学生とかが空き地につくるあの?

 

「あぁ、実は南極にはアクアビットのネクスト基地が存在している。ウォルコット姉弟やサイレントアバランチの隊員も、そこで整備などを行っていた。今はもう既に放棄しているがな。」

 

なふほど、そこからスフィアの防衛などをやっていたのか。

 

「ここにはヘリックスIやヘリックスⅡのパーツやサイレントアバランチ仕様のノーマル機、それに豊富な火器弾薬が放置されたままになっている。本作戦の主目的はそれらの物資を回収し、本社へと運搬することだ。君には、その護衛を行ってもらいたい」

 

なるほど、理解した。

 

「回収という事は……ヘリックスⅠやⅡの残骸もですか?」

 

「あぁ、パーツの回収も理由にあるが。我が社の為に戦ってくれたリンクスやパイロット達を野晒しにしておく訳にはいかない。……それにだ、あの子は二人の妹さんなんだろ?それなら、最期の別れくらいはさせてあげるべきだろう」

 

…………おや?なんだこれは?思ったよりも、なんか、思考がまともだぞ?わちきのイメージだとアクアビットって「くけけけけけ!!!コジマァァァァァ!!!!コジマ吸引しなきゃやってらんねぇぇぇぇぇ!!!!ぐぇぇぇぇ!!!!キックゥ………………………!!!!」

みたいな奇人変人の集まりだったのに……。あ、あぁ、あれか。同志は大切にする系の企業なのか?

 

「現在、君がGAの占領部隊を殲滅してくれたお陰で、付近には敵対勢力の反応は無い。だが、ネクスト反応があるとなると間違いなくどこかから戦力が向けられる事になるだろう。……いや、どちらかというと向かって来てもらわねば困るのだが」

 

将校が自らの顎を撫でながら言う。

 

「というと?」

 

「今回の任務には三つの目的がある。一つは主目的でもある物質の回収。一つは、君がアクアビットに帰属した事を喧伝する為。そして三つ目は、君という餌に釣られたGA側の戦力をできる限りに削る事だ。」

 

……随分丁寧に説明してくれるな。いや、企業に所属したからか?

 

あ、そっか。傭兵と違って企業戦士って使い捨てなんて出来ないやん。そら丁寧に説明するわ。(自分で言うのもなんだが、私は取り返しのつかない存在でもあるし)はーまじかよ首輪付き最高。

 

…………ん?アクアビットへの帰属を喧伝?それは、いったい、どんな手段で…………

 

「宜しい、では君の機体へ案内しよう」

 

………………なんか嫌な予感がしてきたゾ

 

 

 

びっ、びびっ、びびびっび〜〜

そーいつーはやってきたー!きーたからやってきたー!せっかいをまもるためー!じーんるいをまもるためー!

(ここでコジマライフルのチャージ音)そーいつーの名前はー!みーんなーがあっいすーるー(びびび)ビットマン!ビットマン!あーっくあー(びびびっ!)ビットマァン!!(ここでコジマライフルの発射音)(爆発音)

 

デデデ!説明しよう!アクアビットマンとはPA整波性能19103&KP出力999を誇る最強のヒーローである!全てのパーツを可能な限りアクアビット製、ムリな物は同志レイレナードで構成してみよう! (CV坂本真綾)

 

ビットマァン!アクアビットマァン!!うてぇ!!プラズマライフル!!唸れ!!コジマライフル!!殺れェ!!コジマキャノォン!!!

 

ビットマァン!!アクアビットマァン!!!砕け!悪の超人GAマン!潰せ!嫌らしいオーメルマン!!捻れ!田舎もんのイクバール虫!コジマ!正々堂々ローゼンタールマン!!

 

ビットマァン!!!アクアビットマァン!!!!

アクアビットマンは今日も戦い続ける!みんな!応援頼むぜ!!

 

 

 

ようするに、そういう事です。

 

「……クレピュスキュールには乗れないの?」

 

「乗り慣れた機体が良いのはわかる。だが、今回はこのランスタンに乗ってもらおう。大丈夫だ、何の心配もいらない。こいつは間違いなく他の企業標準機よりも性能は圧倒している」

 

脳みそまでカビたのか?いや、コジマ汚染したのか。納得。わはー、ウケるー、何がウケるってあの将校の顔がクソ真面目なのがウケるよねー。すげぇなアクアビット、マトモだと思ったさっきの一瞬を返してくれよ。

 

いやまぁ、大丈夫なんだけどね?だって、間違いなく今この世界で1番うまくアクアビットマンを扱えるのは自分だしね。

 

「OK、じゃあ武装の指定はさせてくれる?」

 

「勿論だ。あぁ、残念だが君の機体に搭載しているものはつけられないよ。今は研究員たちが解析中だから」

 

……ランスタンに乗せられる真の理由はそれでは?

 

 

 

ハハッ!僕の名前はアクアビットマウスだよ!ハハッ!!今からこの僕アクアビットマウスの容姿について説明するよ!ハハッ!もしもこの愉快な東京アクアビットランドに遊びに来ている皆の中でAC4かACfAを持っているお友達がいたら是非組んでみてね!ハハッ!

まずスタビライザーはアクアビットかレイレナードの大型のものを余さずつけるよ!ハハッ!!ユニコーンアクアビットマウスだ!!ハハッ!!処女!!ハハッ!!

そして背中にはキノコを両積みだ!!!肩?決まってるだろ!!!追加整波装置を倍プッシュさ!!!ハハッ!!!

 

…………どうでも良いけどこの辺りから周りにいた整備士やら研究員やら軍人やらが拍手したり泣いたりして「そうだ!これこそがアクアビット精神だ!魂だ!!」とか叫び始めたの純粋に気持ち悪かったと思う。

 

ハハッ!!!ゴメンね!アクアビットマウス少し素に戻っちゃった!!!ハハッ!!!

そして武器にはアヘ顔コジマダブルピースだ!!!そして格納庫にはプラズマライフルも入れちゃおう!!!ハハッ!!ハハハハッ!!!!

 

あ?エネルギー負荷が凄まじくて出撃できねぇだろって?

 

ハハハハハハハハッ!!ハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!!!!!

 

 

 

レギュ1.15にそんなものは無い。

 

 

 

ちなみに他のパーツのレギュについては割愛するけどジェネレーターはfA1.40のフルチューンだよ!!ハハハハッ!!!!KP出力1399!!!!!ハハハハッ!!!!!

 

 

…………なんで命が関わる実戦でこんなネタアセンしてるんだ私は

 

 

 

というわけで、今は回収部隊を待っています。あ、ちなみにこの子の名前はトワイライトです。

 

敵が出てこないと暇なので、某ネズミのマーチを聞きながら、なんとなくアクアビットマーチの作曲をする。ぼっくらの企業のリーダーは〜アクアビット!アクアビット!アッカアッカビット!!うーん、語呂が悪い。

うーん、やっぱり鼠マーチは燃え盛るベトナムの中で海兵隊が歌ってこそだな……何かノれる曲は……

 

…………ボカロでも聴くか。せやな、脳漿炸裂ガールと洒落込むか。

 

機体内部でエアギターを弾く。しかし、左腕が無いとどうも決まらない。

 

「異質なデザインの義手でも作ってもらおうかなぁ」

 

そういえば、AMSの技術はもともと障害者の為の義手などのために開発されたというのを聞いた覚えがある。ならば、AMSで接続できるタイプのを作ってもらうのも一興かもしれない。

 

ヘドバンし、腰を振り、エアギターをかき鳴らす。頻繁に足を踏み鳴らし、脳をテンションで染め上げる。あぁ、マカロンが食べたい。

 

『高エネルギー反応が接近中。感は2』

 

…………あ?

 

トワイライトのコンピューターが告げる。テンションはそのまま、だが脳が戦闘モードに切り替わる。ふむ、なかなか戦争に慣れたな、私。

ネクスト二機だと?どこの企業だ?まぁ、いい。結局のところ殺るだけだ。

 

「こちらトワイライト!ネクストの接近を確認した!こちらが迎撃するので皆さんは安心して仕事を続けて下さい!!」

 

コジマライフルに粒子をチャージ。あぁ、なんと禍々しい姿だろうか。コジマダブルピースとは……

 

「頼んだぞリンクス!此方にはネクストを迎撃できる装備など無い!君だけが頼りだ!! 」

 

うーん、素晴らしいシチュエーションだ。機体がちょいとばかしキュートすぎるのが難点だが。マカロン食べたい。

 

「オーライ、アクアビットの初仕事だ!総員五体満足で返してやるから安心しな!!」

 

OB機動。敵、レーダーで確認。単横陣。うわぁ、なんだこれ、このアセンOBしながらコジマライフルチャージしても驚くほどKPの減りが少ないぞ、トチ狂ってんじゃねぇか

 

目視で確認。向こうもOBをしているらしい。あれは……あのシルエットは……うん!距離600でんなもんわからん!どうする?二機共に撃つ?いや、確実に一機を落とそう。550、二次ロックが完了した。そいつに、かます。パワーを……コジマにッ……………!!!

 

「アクシィィィィズッ!!フォイアッ!!!」

 

少し見えた、あれは、GAマン?となると、あの二機は……

 

シルエットがハッキリわかる。武器腕はいない。ローディー先生はいないっと……。未だどっちがだれかはわからない。マカロン食べたい。

 

コジマライフルが、右を進む一機に直撃する。哀れな事に頭が潰れ、コックピットがひしゃげ、四肢が吹き飛び、空中でスクラップとなって落ちていく。だが、どちらかは……武装が……見え……「エルカーノさんッ!!」

 

………………聞き覚えのある声。とても、プリミティブなお声。

 

コジマライフルをパージ。格納庫からプラズマライフルを取り出す。

 

未だ動揺から回復しきっていない、GA重量機の懐に飛び込み、互いのヘッドパーツを近づける。

 

無線をオープンチャンネルに。マイクに熱い吐息を吹きかけながら、甘い声でささやく。

 

「お久しぶり、可愛い可愛いメノ・ルー……」

 

今日もたっぷり可愛がってあげるよ。甘く、甘く、男ならきっとどこまでもとろけてしまうようなボイスで。でも、気のせいだろうか?プリミティブ・ライトから、まるで地獄で救いをもとめるかの様な悲鳴が聞こえた気がした。

 

どうでもいいけどマカロン食べたい




というわけで!次回は第二のヒロインとの逢瀬だよ!やったね!(初稿ではローディー先生とコジマライフル武器腕で熱い一騎討ちしてた)


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てんしはあくまのようにわらう

時たま読み返したりすると、ジャンヌの話し方にすごいムカつく時がある。


「どうして……お前が……そんな……こんな……」

 

全ての反応が遅い。両腕のプラズマライフルをプリミティブ・ライトへと向け。放つ。曲?せやな、裏表ラバーズかな。

 

「グッ…………!?」

 

これで一万は削ったかな?

 

思いっきりプリミティブ・ライトを蹴りつけ、さらに後方へのクイックブーストを行って距離を取る。

 

「なーにぃーひっさしぶりだっちゅうのにその言い方はー?こちとら命の恩人さんよー?」

 

絶えずQB、煽りの高速反復横跳び。ヘイヘーイ!!

 

「何が……この……!」

 

怒り、恐れ、悲しみ、etc、etc、もひとつおまけにetc……。いろんな感情がごちゃ混ぜになった呟き。

 

「コジッ!プルプルだね!武者震いかな?臆病者の怯えかな?どっちだろうね!コジッジッジッ!」

 

「悪魔がッ!!」

 

悲痛にすぎるメノ・ルーの叫び…放たれるは大型ミサイル。稼働するガトリングガンの音。さらに重バズーカまで!?あーん!こんなのアクアビットマンに当たってしまったら一撃でスクラップだよーん!

 

当たればね。

 

核をプラズマライフルで撃ち落とす。ガトリングの射線を外し続ける。重バズーカ?あぁ、いい奴だったよ。

 

「ざ・ん・ぞ・う・☆」

 

なお、この言葉は残念それは残像だきゅん☆という言葉を略したものである。がはっ!

 

クイックターンが間に合っていないおっぱいに、背後からプラズマライフルをプレゼントフォー・ユー。また一万くらい削れたかな?

 

「ッ……!」

 

んー!声になってない!悲鳴が声になってない!諦めて!お願い!!まるで私がイジメでもしてるみたいじゃない!!

 

やっとプリミティブ・ライトが振り返る。私?もう射程外に離脱してるわよ。

 

「このォッ……!」

 

おぉ、いい……。乙女の怒りが溢れてる……!どこぞの霞・ユーティライネンとは違った怒りだ。でもなんでそんなに怒られてるのかな?ぼくがやったのは初対面で滅多切りにして同僚をコジマ塗れにしてぶっ殺しただけなのに!ハハッ!そりゃ怒るわ!!

 

「ノォッロマェー!!」

 

煽りのQB!ガッハッハ!粗製以外のGAマンにこの最強災厄アクア☆ビットマンが負けるわけなかろうがァッ!!

 

……しかし、かわいそかわいそさんなのです。折角私が助けてあげた尊い命なのに。私によって奪われようとしている。皮肉!らせん階段!カブト虫!廃墟の街!

 

放たれるは核ミサイル、溢れんばかりのガトリング弾、そしておまけに重バズーカ!うん!GAマンが放つに美しい弾幕のオーケストラ!イチジクのタルト!カブト虫!ドロローサへの道!カブト虫!!

 

「特異点ッ!!!」

 

核?迎撃。ガトリング?何よりも厚いコジマの守りと連続QB。重バズ?なんであんな事に……!ジョット!天使!紫陽花!カブト虫!

 

「特異点ッ!!!!」

 

はい!プリミティブ・ライトの懐へ瞬間移動〜!パイタッチ〜!プラズマライフル〜!

 

「………………!!!」

 

プリミティブ・ライトは肉薄した距離を上手く戦えるような武器は持っていない。正直、この時点で詰みだ。

 

だが、もうちょい遊びたい。わちきが救った命だし、わちきが好きにしていいよね?

 

秘密の皇帝

 

 

 

加速する

 

 

 

世界が、アクアビットマンが、私が、二段QBを、二段QBで、連続し、キャンセルし、吹き飛び、跳躍し、加速し、さらに加速し、驚くべき事に加速する。

 

いまごろ、プリミティブ・ライトには、あのおっぱいちゃんには私のことはどう見えているのだろうか。ちゃんと、消えられただろうか?うーん、ジャンヌ!自己を客観的に見ることができないからわかんにゃい!!!

 

「こんな……そんな……!」

 

どんな?と言わんばかりに真正面から頭にタッチでぽぽぽぽーん!1発おみまいプラズマぼーん!わーい吹き飛んだ!

あー大変!GAちゃんの薄いPAが剥がされてダイナマイトボディがこの蒼天の下に露わに!!コイツァ18禁だ!!エロ画像だッ!!スケベェッ!!!

 

………………この時、私に天才的な発想が浮かんだ。普段から天才だと思ってたが、まさか本当に天才だったとは。さすジャン。

 

そう、一石三鳥くらいの妙案。私のお陰で未だ健気に頑張る命とおっぱいを救い、私の評価を上げ、アクアビットが徹底抗戦するとしても降伏するとしても使い勝手の手札を手に入れる妙案。とりあえず、PAを切ろう。あー、コジマが消えるー。

 

プラズマライフルを、プリミティブ・ライトの関節に合わせる。せーの!えい!

 

ボンッと爆発音、ECM、ついでに弾ける両腕

 

「まッ…………!?」

 

さてさて、ワシャワシャと高速で指を動かしながら、再びおっぱいを……たしか、この辺りに。うーん、まるでブラジャーのホックみたいだなぁ。外した事無いけど。

 

まぁでも!これは一度は外したことある……か……あった!

 

神から与えられたAMS適性。トワイライトをまるで自分の身体のように……いや、自分の身体以上に繊細に扱える。指の先まで神経が通ってるかのようなこの感覚。つまみを潰さないように、ゆっくりと、回す。

 

御開帳〜〜〜!!

 

「……………………!!!?」

 

うーん!パニック!プリミティブ・パニック!そりゃそうだ!戦闘中に御開帳されたら誰だってそうなる、俺もそーなる!

 

でだ、暴れんなよ?暴れんなよ?

 

その胴を、メノ・ルーの胴を、やさしく、やさしーく摘む。

 

「…………!!…………!?!」

 

叫んでる、暴れてる、でも、聞こえない。ヘルメットのお陰で表情も見えない。シュレディンガーのメノ・ルー。どんな顔をしてるかはわからない。たぶん、喜んでる。0コーム賭ける。

 

ゆーっくりとネクストとのリンクするコードをぶち切り。暴れるメノを近くに寄せる。

 

自分の身体がプリミティブ・ライトの残骸から離れ、落ちたら確実に死ぬ場所まで引き上げられる。ここで、メノの身体が固まった。諦めたのだろうか?それとも、恐怖で硬直したのだろうか。あ、気絶してら。

 

まぁ、いい、リンクスなのに捕虜になっちゃったおマヌケさんとはいえ、死んでもらったら困る。

 

「こちらトワイライト、敵ネクストは撃滅した。こっちの残骸も使い物になるかもしれないから回収した方が良いと思うわ。あぁ、あと捕虜一名。上物よ」

 

うーん!大量大量!これにて今週の絶対☆殲滅☆コジマ☆ビットマンは終わり!!来週もまたみてねー!!コジコジィ!!

 

 

 

十数時間後、輸送機が高速だからか。それとも私が乗ってるからか。もしくは人質を載せてるからか、理由はわからないが追手はかからなかった。

 

降りた時の周囲からの賞賛の声、抱きついてきたリリウムの暖かさ、そして……ヘリックスIとヘリックスⅡの残骸を見た時のあの顔。まぁ、色んなことがあった。葬式は、姉弟の姿を綺麗にしてから行うらしい。当然だ、あんなものは小さな子には見せちゃあいけない。

 

さて、私はとことことアクアビット本社を歩く。どうも、広いので迷いそうだ。リリウムには部屋で待ってもらってる。ほら、教育に悪いし?

 

一度全体の地図を見せてもらったが、この会社は地面に埋まったソルディオス砲のような構造をしている。地上から上よりも、地下空間の方がスペースとしては大きい。

 

エレベーターに乗り込み。地下へのボタンを押す。素晴らしいことに、監視カメラによって常時チェックはされてるらしいがそこそこの自由に動く権限を与えられていた。

 

チン!と到着する。場所は収容所。ここには、ダウンタウンなどによく落ちている類の人間が多くいる。

人生の1発逆転を目指してアクアビット社の門を叩き、命以外に価値が見出せなかった為にここで道徳とは掛け離れた実験の生贄になるのを待つ者たち。まぁ、確かに成功したら1発逆転であろう。

それらの様々な視線を無視し、少しばかりの慈悲から「彼らが死んだ後に異世界転生あたりで幸せになりますように」などと祈ってあげる。優しい!天使!

 

……なんだろう。ここ最近、どうも命というものを軽く見るようになってきた気がする。

 

さて、そんな廊下の果て。他よりも少しばかり豪華な部屋の前に立つ。

 

まずドアを開ける。もう一つドアがあり、守衛が二人座っている。自分の姿を見ると礼をしたので、こちらも返す。

 

「少しばかりお邪魔するよ」

 

あぁ、どうぞと守衛が先に進むよう促す。ありがとうと返し、ドアを開いた。

 

入った部屋の向こう側、歩幅にして三歩ほど先に、設備の整った牢屋があった。ここは、士官やら重要人物を収容する為の部屋らしい。

 

いま現在、そこの住人は一人壁に向かい祈ってある。おぉ、十字架のネックレスか。いいね、戦うクリスチャンの鏡だ、

 

「…………」

 

こちらに気づいてないのだろうか。それとも、無視をしているのだろうか。どちらにしても、入ってきたのは誰かはわかってないだろう。

 

ゆーっくりと息を吸う。そして、渾身のメロメロボイスで語りかけた

 

「めーのーちゃん、あっそびましょー」

 

瞬間、メノ・ルーが振り向く。あー、おっぱい、プラチナブロンド、長髪、おっぱい、前髪メカクレにより瞳にかかる陰、おっぱい、普段は温和そうな雰囲気、おっぱい。うん、これが印象だな。なんというか、オタクが好きそう。なんか、こんなキャラどっかで見たことある。なんだっけ、デレマス?うーん、記憶が薄い。え、私の好みなのかどうなのかって?大好き。てかおっぱい生で見るとバカみたいにデカイなおい。

 

メノは驚きの余り目を皿の様に丸くし、そして目の前の情報を処理しようと四苦八苦してる様だ。

 

「どーしたにゃー?折角遊びにきたのにー」

 

彼女を追い詰めた者の声を、このどっからどう見てもただの隻腕隻眼の美少女の声帯から放つ。それを聞いてメノは、腰を抜かし、だが這うようにこちらに近寄ってきた。

 

「こ……こんな……こんな小さな娘が……」

 

ちなみに中身は25.6の男の子だにゃん。へけっ!

 

 

 

その日は、ほんとうに一瞬で過ぎ去った。

 

アフリカでのレイレナード残党との相当任務中。GA本営から連絡があった。

南極のスフィアにネクストの反応あり。すぐにネクストは急行せよ。

 

ローディーさんは、エグザウィルでの最後のザンニさんとの戦闘で怪我を負っていた。命に別状は無かったが、それでも数ヶ月は戦線復帰は難しいらしい。

だから、南アメリカにいたエルカーノさんと合流して、一緒にリンクスの討伐へ向かった。

 

それからは、あっという間だった。エルカーノさんは落ち、私もやられてしまった。あの悪魔に、あの、人を人と思っていないであろう化け物に。

 

コックピットを開かれて、身体をつまみ上げられて、私は恐怖のあまり失神してしまった。目が覚めたら、アクアビット本社の中。そこで、自分が捕まってしまったことに気付いた。

 

尋問は紳士的なもので、そこまで強く証言を強要されたりはしない。1時間ほどで終わり、私は残りの時間を祈る事ですごした。

 

頭が真っ黒に塗り潰されたような感覚。霧は払う事ができる。だが、闇は?光すら飲み込む闇は、どう払えば良いのだ?

 

何も思い浮かばない。神父様の姿も、子どもたちの姿も、ローディーさんも、エルカーノさんも、何も、誰も、みな闇の中にいる。

 

少しでも思い出そうと、少しでもこの恐怖から逃げ出そうと。祈り続ける。

だが、声が跳ねる。耳が煩い。私の祈りなど関係ないとばかりにあの嘲笑うような声が身体全体を支配する。

 

食事をする気力も無い。寝るだけの体力も無い。ただただ祈り続ける。

 

「めーのーちゃん、あっそびましょー」

 

あの、声。しかも、真後ろから。

 

驚いて振り返る。だが、そこにいるのは恐ろしいあくまではなく。まるで天使のような少女の姿。

一瞬、自分の頭を疑った。まだ思春期すら向かえていないような、幼い女の子が立つには。ここは余りにも不自然な場所だ。

 

メノは気付いた。左腕が無い。右眼も無い。

ここで、ある可能性が思いつく。……アクアビットからは、余り良い噂は聞かない。非人道的な実験を行ってるとも聞く。もしや、この娘はそんな実験から逃げてきたのでは?しかし、そんな娘が、こんな純粋な笑みを浮かべるだろうか。

 

少女は微笑みながらこちらを眺めている。まるで、私の事を観察しているように。

 

そして、ゆっくりと口を開け……

 

「どーしたにゃー?折角遊びにきたのにー」

 

あの声が聞こえた。

 

恐怖の余り、身体が立つ事を拒否する。膝が床を叩き、身体が重力によって地面へと押さえつけられる。

 

だが、目前に何としても滅さねばならない相手がいる。メノ・ルーは、身体に残った全ての力を振り絞り、少女へと近づいた。

 

近くで見ても、その姿は変わりようが無い。だが、気付いた。この純粋にみえた笑顔は、いや、余りにも純粋で、純粋だからこそ、そう、なんだ、なんだこれは、なんで、こんなに

 

なんでこいつの笑顔はこんなにも真っ黒なんだ

 

「こ……こんな……こんな小さな娘が……」

 

闇だった。メノ・ルーは、常人にはこの少女から覗き込むことすら不可能な闇を見た。

 

なぜそんな物が見えたのかはわからない。メノ・ルーが、イレギュラーへの恐怖のために勝手に彼女の中にそのようなイメージを見たのかもしれない。もしくは、本当にジャンヌの中にそんな闇があるのかもしれない。

 

だが、間違いなく。彼女はそこに闇を見た。自らの頭の中にあるものよりももっと黒く。そして万物を吸い込み、破壊する真の闇を。

 

「へけ?どうしたんだい?」

 

あくまは、てんしは、わたしにちかづいてくる、そのあいだには、てつのはしらしか、わたしのてがとおりぬけるだけのすきまが、わたしは、すべてを、すべてをふりしぼり、おそれるな、そうだたちあがれ、こいつはけさなきゃいけない、みんなをまもるために、みんなをしあわせにするために、みんなのために、みんなのためにみんなのためにッ!!

 

メノ・ルーは鉄格子を支えに、それをよじ登りながら、無理矢理立ち上がる。そして身体を持たれかけながら、手を、てを、のばす。てんしはのほそいくびに、てがカカる。二つノ手ガかカル。全力デ、全力疾走デ力をかける。おれろ、おれろ、おれろ、オレろ、おレロ、オれロ、オレロ、オレロ、オレロ、オレロ、オレロオレロオレロオレロオレロオレロオレロオレロオレロオレロオレロオレロオレロオレロオレロオレロオレロオレロッッッッッ!!!!!!!!シネェェェェェッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!

 

「つんつんっと。おー、おっぱいやわらけー」

 

ナゼだ!?なんでこんなに力を入れてるのに!?なんでこいつのくびは!!こんなにも硬くて!全く!まったく何も無いかのようにしゃべるんだ!?なんだこいつはッ!?

 

「悪魔がァッッッッッ!!!!」

 

「いやぁ、そのきょだいマシュマロっぱいの魔性には勝てませんわ」

 

力を込める。込める。なんとしても、折る。バキボキと、音が聞こえる。やった!おレテル!悪魔の首を…………!!

 

「わー、すげー、手が砕ける音してんのにまだ力が弱まらないや」

 

なんだ……!なんなんだお前は……!!

 

「さて、このくらいかな?いやー、大人の女性の触れ合いはやっぱりいいね。こんどミセス・テレジアにとかによしよししてもらおうかな。」

 

「…………ッァ!?」

 

激痛が走る。左腕が掴まれ、無理矢理首から引き剥がされる。そして右腕も。手に、激痛が、痛い、あぁ、骨か、血が、痛い、なんで、こんな、

 

「もー、大事な人質なんだからご自愛お願いしますよー。じゃ、わたしはこれで。元気そうで安心したよ!」

 

まて、という声も出てこない。手を伸ばすだけの力も残っていない。あくまは、ひらひらと手を振り、去っていく。

 

ドアが閉じる音を聞き、メノ・ルーは意識を手放した。それから三日間ほど、彼女は寝続けた。酷い夢を見た。崩れ去った教会の中で、ただただ祈り続ける夢を。




どうしてこうなった……信じてくれ……本当はもっとフレンドリーな形で触れ合いがすすんでfA編のカラードにあるカフェでメノ・ルーが嫌な顔をしながらもジャンヌは無理矢理同席してコーヒー飲んでるみたいな描写をやる予定だったんだ……かってにメノが首をしめたんだ……


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決意

(何かに成功した音)


「…………で、メノ・ルーの容態は?」

 

「はい、腕の怪我の処置は終わっています。食事も、ここに来た当時とは比べものにならないほどしっかりとっています。」

 

「それは良かった。……なら、手札は揃ったという事だな」

 

「えぇ。……しかし、あの女が来てからここまで状況が変わるとは思いませんでした」

 

「それだけの劇物という事だよ。まぁ、その毒にあてられてしまう者も出てきてしまうがな」

 

「……あれは、あの収容所でのあれは、何だったのでしょうか?」

 

「さぁな。だが……」

 

「どうしました?」

 

「あれは、この世の全てから恨まれようとも、何も気にせず思いのままに喰らい尽くすのだろうな」

 

「…………それは」

 

「……俺とした事が妙に散文的な表現をしてしまった。さて、出るか。……ビッグボックスか。ひとつ、あのご老人たちを脅してみるかな」

 

「ほどほどにしてください、我々は、降伏を願う側なんですから」

 

「地べたに這って願うのと、立って願うのではだいぶ違うよ。あぁ、そうだ、今度はあのオーメルのいけ好かないガキをイジメてやろうか?」

 

「……できれば、そういう子どもっぽい所をなおしてもらいたいんですがねぇ」

 

「下にいる者はどいつもこいつも幼児性の塊みたいな奴ばっかりなんだ、たまには、こんな事だって言いたくなるよ」

 

 

 

こんにちこんばんおはおやダンケシェン。ジャンヌ・オルレアンです。いやぁ、お肌ツルツルです。

 

と、まぁ、こんな冗談ばっかり言っても始まらない今日この頃です。時間的には、あの蜜月の時から約1日後です。たのちかった。ふふ!ハハッ!

 

さて、なぜ一人で廊下にいるかというと、まぁ、アレです。いま同室の娘が家族と最後の別れをしているからです。

 

…………泣き声が外まで聞こえます、誰もここを通ろうとはしません。

 

今日知った事ですが、どうやらリリウムはアクアビットでなかなかの人気者になっているらしいです。まぁ、私と違って本当に可愛くて本当に良い子だからね。リリウムからも聞いたのですが、みんなから良くしてもらってるらしいです。その良くしてもらっているのがAMS適性が高いからかどうかは知りません。

 

…………耐えられない。本心としては部屋に帰りたいが、リリウムを一人ぼっちで置いて行くことなど出来るわけがない。

 

こういう時はメノ・ルーをイジメて気分転換をするべきなのかもしれないが、接触禁止を命じられてじった。まぁ、しゃーない。

 

少しばかり床を見て、前を見る。

 

最近、人の不幸が楽しい。

悶え、叫び、泣き、苦しむ。その様子を見るたびに、その姿を見るたびに、心が煌めく。

 

ただ、それは身内以外の者に限る。リリウムや、そして驚くべき事にテペス=Vやミセス・テレジア、そしてあの数多のおかしなアクアビット社員たちが苦しむ姿は見たくないと考える私がいる。

 

「愉悦の中の理性なのかなぁ」

 

などと、呟いて見る。愉悦、愉悦、愉悦。リリウムを傷つける。それは、愉悦?

 

チラリと、ドアの方を見る。私に呪いをかけた亡骸と、その呪いの結晶。

 

なんとなく、アクアビットよりもあの子こそが私の首輪であり、私が人間なんてやれている理由な気がする。

 

「頼みますよウォルコットさん……!あんた方がかけた呪いこそがリリウムを守るんですからねぇー……!」

 

だなんて死者に祈ってみる。あんたらだって自分の娘を無残に死なせたくないでしょ?え、自分でなんとかしろって?やだなぁ、その時になったら絶対に楽しんでやってますよ私。ははは、笑えねぇ。

 

まぁ、そもそも、リリウムを守るならリンクスにするなって話かもしれないけどね。

 

でもね、こうね、やっぱ彼女見て思ったのよ、あぁこの子はネクストに乗せなアカン!ってね。……まぁ、大丈夫よ。相当変な事にならない限り衛星軌道掃射砲での戦いまでは死んだり……いやまてよ、現状こそ相当変な状況だよな。だってリリウムBFFにいないじゃん。アクアビットじゃん。あれこれダメなのでは?いや、でも、え、あ、これ、うん、もはや原作知識で予想もクソもねぇな。うん。

 

と、なると、だ。ある程度はリリウムに自分で自分を守ってもらう必要がある。

 

…………ちょいとだけ、離席する。まぁ、すぐ帰るさ。

 

 

ただいまー。出てから1時間くらいしか経ってないな。リリウムは……うん、まだ泣いているしセーフやね。

さて、と。

 

うん、そうだよな。会った時がたしかそのくらいで、んであれからなんだかんだ……二年、うん、二年は経ったな。なら、多分、11か、11だな。リリウムはもう11か。それにしては少しばかり背が小さな気もするが、まぁ、誤差の範囲だろう。

 

11か。

 

…………本当に、良いんだろうか。とは思う。思うが、しかし……

 

なんか、あんな事言っといてなんだが。迷っている自分がいます。リンクスなんて危ない仕事に就かせてもいいのだろうか。

 

……えぇ、はい。この泣き声でだいぶ心が迷ってます。というか、あの時は頷いてたけど、今回のこれで心変わりしてたらどうしよう。

 

……うん、その時は、素直に認めてあげよう。

 

…………なにが、認めてあげようなのだろうか。何様なんだろうか。認めなくてはならない。

 

まぁ、あれだ、入社時の約束を違える事になるが、アクアビットにとっては自分一人でお釣りもくるんだ。うん、アクアビットは贅沢を言っちゃいけない。こちとらジャンヌ様やぞ。

 

…………気がつくと。泣き声が聞こえなくなっていた。

 

そろそろだろうか。立ち上がり、リリウムを待つ。

 

五分ほどして、扉が開いた。

 

…………気のせいだろうか、表情が、なんか、大人びている。

 

リリウムは、あぁ、胸にあの写真を抱いている。真っ赤に泣きはらした目に涙は見えない。そして、なんだか…………自分がとても子供っぽく見えてしまう。

 

「申し訳ありませんジャンヌ様、長い間お待ちさせてしまいました」

 

なにか、あれ、なにか……

 

「あぁ、いや、大丈夫だよ。どう、お別れは終わった」

 

「はい、もう大丈夫です。」

 

……ほんとに、吹っ切れた顔だ。完全に吹っ切れてる。そして、なんだこれ、ちょいと怖いぞリリウム。

 

「そしてジャンヌ様。一つ、お願いがあるのですが。」

 

「…………お願い?」

 

「はい」

 

リリウムは頷いて、そして一切表情を変えずに言った。

 

「ジャンヌ様、もう、二度とネクストには乗らないで下さい」

 

………………………………………………ひゅい?

 

 

 

確かに、魂との別れは済ませた。

だが、やはり、姉や兄達と対面をすると、涙が溢れてきてしまった。

見慣れている姉達の、記憶の中のどれともちがうその姿。

 

そのどちらの胸にも、写真が抱かれている。姉達と最後に会った時に撮った写真だ。

 

リリウムは泣いた。二人の身体にすがり、おおいに泣いた。

 

だが、いままでと違い、彼女の中にはある決意があった。

 

これは儀式だった。

 

彼女にとっての成人の儀、姉や兄の庇護にいた自分との別れ、これから自分の力で生きて行くために。

 

そう、ジャンヌには頼らない。いや、頼ってはならない。

 

リリウムは気づいた。ジャンヌの危うさに、儚さに。

 

あの人は、一人で生きていたらどうなってしまうのだろう。もし放っておいてしまったら、もし目を離してしまった。あの人は、あの人も、死んでしまいかねない。

 

だれが、あの人を気にしてくれるのだろうか。アクアビットの人たちは、もうみんなあの人の仲間だと言う。でも、ずっとずっと、片時も目を離さずにいる事ができるだろうか?

 

あの人は、最初から風だった。気ままに現れ、気ままに翻弄し、気ままに去る。

 

そして、多分、最初からあんなに危うかったのだろう。そうだ、きっとそうだったんだ。なのに、そう、それなのに、何も考えず、自分の事しか考えず、姉を、兄を、助けてなどと言ってしまった。もしかしたら、そこであの人も死んでしまってたかもしれないのに。しかも、だれも見送ってくれない場所で。そんな事はもうあってはならない。無責任に放り投げてはいけない。

 

リリウムは全てを吐き出した。

 

そうだ、私が、私こそがあの人を守らなければいけない。あの人を危険な目に合わしてはいけない。あの人を止めなくてはならない。あの人と一緒にいてあげなくてはならない。

 

袖で、雫を拭う。そして、姉に、兄に、礼をする。今までの、礼を。

 

「フランシスカお姉様。好きなお方のために作る料理や、紅茶の淹れ方など、様々な事を教えて下さいありがとうございました。ユージーンお兄様。小さい頃から、リリウムといつも遊んで下さってありがとうございました。お兄様からしてもらった色々な物語やお話は、いまでもリリウムの胸の中に残っています」

 

そして、顔を上げる。

 

「……リリウムからお姉様に最後のワガママを言わせて下さい。……写真を、いただきます。でも、大丈夫ですよね。ユージーンお兄様が持っていますから、一緒に見る事ができますよね……」

 

雫が、落ちた。あぁ、これでもう枯れたのだ。もう、リリウム・ウォルコットが流せる涙は枯れたのだ。

 

リリウムは、フランシスカの抱く写真を受け取った。そしてそれを胸に抱き、亡骸を背にする。

 

儀式は終わった。リリウム・ウォルコットは、前を向くと、ゆっくりと、だが確かな足取りで扉へと向かった。

 

 

 

「そ、それって、どういう……」

 

「そのままの意味です。ジャンヌ様は、もう二度とネクストには乗らないで下さい。」

 

出てきた途端の唐突な奇襲に気圧されてしまう。いや、奇襲だけが理由じゃない。なんというか、リリウムが、いままでのリリウムじゃなくて……

 

「お願いします、ジャンヌ様」

 

芯を感じる。リリウム・ウォルコットという存在を、この少女から感じる。

 

………いや、だめだ、うん、いくらリリウムのお願いといっても、それは無理だ。だけど、そう言うのには、いままでよりもずっとずっと力がいる。

 

シリアスに、真面目に、リリウムの目を見る。あぁ、理由など問う必要の無い瞳をしている。決意を感じる。それが何かはわからない、だが、決して折れない、折ってなるものかという力を感じる。

 

「それは、出来ない」

 

ハッキリと言う。だが、少しだけ声が震えたような気がする。あぁクソ、本当に真面目にするのは苦手だ。

 

「…………わかりました、なら、もうこの事については言いません」

 

言いませんというのに、じゃあなんで瞳の決意は未だに燃えてるんだ?リリウムよ

 

「では、私は今すぐにリンクスになります」

 

…………………………………は?

 

「これはもう決定したことです。さ、ジャンヌ様、すぐにルーク様に話をしに行きましょう」

 

え、いや、ちょい、ちょちょちょいのちょい

 

と、止める間もなくリリウムは歩いて行ってしまう。

 

「あーんもう!」

 

ジャンヌは追いかける。何が起こったかはわからない、だが、何となく、首のあたりがとても窮屈に感じた。

 

 

 

「お疲れ様です」

 

「あぁ、本当に疲れた。……ふん、どいつもこいつも、もう戦う余裕も無いのに欲の皮は突っ張らせやがって」

 

「……では、終わりましたか?」

 

「あぁ、終わった。支配地域の多くは失い、多くの研究を禁止された。まぁ、三年は身動きが取れないな」

 

「それは……」

 

「ふん、なに、やりようはある。公に動かなければ良いだけだ。それに、こっちにはネクストがいる。テペスをあの夢想家に貸し出したとしても、優秀なのがまだ三人もな。あれだけいれば、色々な手が使える」

 

「……じっとしている気は無いと」

 

「勿論だ。最初は、わざわざ市場を狭めたバカ達に痛い目を見せてやりたい程度の気持ちだったが、今はもっと徹底的にやりたくなってきている」

 

「では……」

 

「古今東西の事例を見よう。抜け穴なんて馬鹿みたいにある。煙幕発射器などと言ってロケット砲を作っても良い。水槽の話をしているフリをして戦車の話をしても良い。禁止されていない事例で全く新しい技術を作ってみても良い。それに、だ。何のために、先代はアトマイザーを浮島にしたと思ってるんだ?」

 

「何か、あるんですか?」

 

「あぁ、湖底にな。まぁ、俺も詳しくは知らないがな。とりあえず、帰ったら早速チェックを行う。」

 

「わかりました。」

 

「さぁ、帰るぞ。戦争は終わった、今からは、平和という戦間期の時代だ。」




次回からようやく戦後編始まります。LR編はもう少しだけ待つのじゃ


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スシ・テンプラ・グレネード

そろそろ、毎日投稿が終わりそうです。


光陰は矢の如く流れ行くとは良く言ったもの、そして毎日が何らかのイベントに溢れるているようなそんな濃厚な人生は歩んでおりません。私です。ジャンヌ・オルレアンです。終戦から半月が経ちました、毎日がエブリデイです。ちなみに今日はイエスタデイです。え、違う、アフタヌーンだって?それはサムバディトゥナイやないかい!とぅでーい!

 

というわけで、グレートブリテン島にあった秘密基地は引き払いました。なかなか長い間住んでいた気もしますが、中身さえ持ってくれは用済みです。

基地にあったコジマ粒子の洗浄装置や整備ロボについてはアクアビットの皆様が大変気になっておいででした、ロボはともかく、洗浄装置は持って帰ることが不可能だったので、皆さん再現の為に四苦八苦されております。まぁ、神様に頼んだもんなのでどんな機構かは知らんし。

そして、金庫に入れてある大量の現金についてはアクアビット社に預けておきました。どうせ、個人で使うのには限界があるし、恭順の意思は所々で見せておく方が良い。

 

しかし、なんであんなもの見て、私はノーコメントで通しているのに、誰も深く突っ込まないのだろうか。なかなかに不思議なのだが。思考停止してるのか、それとも私という素体さえいればいいのかしら。

 

あ、ちなみに所属している会社が変わりそうです。トーラス社所属のジャンヌ・オルレアン(予定)です。

今回、アクアビット社は崩壊こそしませんでしたが、まぁ本土決戦までいっちゃうくらいにはボコボコにされました。その状況を立て直す意味も含め、リンクス戦争で消滅してしまったGAEの職員や戦力などを吸収しているようです、役員の編成などし直す為に名前も変えるのかな。

 

まぁ、ゲームとは母体とするものが変わっただけで、殆ど変わってないのでは?と思います。……いや、アクアビット本社が壊滅しなかったので、人材的にはこっちの方が豊富なのかしら。

 

あと、インテリオル・ユニオングループからの支援は無かったっぽいです。いやまぁ、詳しくは知らないけど、少なくとも私は気づかなかった。なんでだろう、アクアビットにレオーネ・メカニカの基地を襲撃しまくってそこのリンクスで遊んでたりした人間がいるわけでもないのに。ははは。

 

あ、諸事情により愛機が変わりました!またいつか紹介します!

 

「すー……すー……」

 

なお、私の横で寝ているリリウムはリンクスになりました。弱冠11歳、問答無用に最年少です。ただ、終戦後、アクアビットがリンクス・ネクスト部門の研究をする事を禁止されたので、公にはその事はまだ知られてない……はずです。

 

……リリウムがリンクスになって以来、なんというか、こう、強くなった気がします。いや、正確にはその直前から。

何があったのか?と聞いても「いえ」とはにかんでかわされてしまいます。

 

周りからは、「ジャンヌの方が被保護者のようだ」とよく言われます。まぁ、良いんですけど。楽ですし、そういうシチュエーション好きだし。ほら、ヤン・ウェンリーとか。

 

……まぁ、なんだかんだいって、無理してるようには見えないし、たおやかだし、普通に楽しそうだから気にしないようにしてます。

 

…………こんなものか。

さて、ここが誰もいない自室か観客で埋め尽くされた劇場なら「そして今は!」と高らかに叫び、明るい音楽に合わせてダンシング&ミュージカルと洒落込むのだが、残念ながらここは小さな同居人が出来た我が自室でも、ブロードウェイでも無く。極東行きのGA関連の航空会社が所有する人民輸送用航空機のファーストクラスの座席の一つだった。なんと!ジャンヌちゃんはいま出張中なのです!

 

まぁ、出張といっても今回は私の存在は説明書代わりに過ぎないし。リリウムについては完全なるおまけである。今回の極東出張の本命は、既に有澤重工へと輸送されているであろう背部用大型グレネード〝OIGAMI〟だ。

 

アクアビットは、降伏に際し幾つかの技術の開示を要求された。

その殆どは同社が最前線を行くコジマ技術であるが、ソルディオスの基部などのその他の技術についても公開を余儀無くされた。

無論、アクアビット所属になったクレピュスキュールについてもである。しかし、社長や外交担当官の尽力により、他の企業に渡ったパーツは二つだけで済んだ。

 

一つ、ジェネレーター。多くの企業の狙いはこれだっただろう。イレギュラーの機動を支える鋼鉄の心臓。これを解析できれば、間違いなくネクスト部門で他社からリードすることが出来る。

 

まぁ、中身はただのアクアビット製のコジマタンクなんだけどね。私がいなきゃただのエネルギー供給も貯蔵も少ない小型ジェネレーターだ。え?これを掴んだ企業?オーメル・サイエンス。

 

そして、そのもう一つというのが、GAが情報の開示を要求したOIGAMIである。それを解析するのは当然ながらグレネードの有澤重工なのだが、その有澤からアクアビットにメールが来た。

 

前後に書いてある数多のビジネス用の慣例句を取っ払って要約すると「使用者の話も聞きたいからイレギュラーを招待したい」……といった内容である。

 

私は大いに賛成した。久しぶりに日本に行きたかったし、有澤は好きな企業だ。ここで顔見知りになっておいても損はない。

 

と、いうわけでここだ。結構な反対意見等もあったが、GAEにとって仇敵であるGAとは違い、極東の同類として戦友の様な想いを抱いている有澤重工が行き先だった為、最終的に行っても良いということになった。(

 

さて、到着の時は近い。私は、左腕で首すじを揉むと、シートベルトを閉めた。

 

……そう、左腕、左腕である。

 

素晴らしい事に、アクアビットの技術者が義手を作ってくれた。私の第二案の要望通りに作られた、渾身の逸品だ。AMS適性の高さとその繊細さから、利き手である右手よりも使いやすい。

 

いやーいいね、ホントいい。ランスタンの腕部を人間にくっつけるとここまで気味が悪いんだな!最高だと思う。色があのメタリックな水色なのも不気味で素晴らしい。

 

なお、第一案はコジマ武器腕でした。リリウムに怒られました。

 

流石にコジマは満ちてないが、起動しているときはコジマ色のLEDが妖しく光っている。かわいい。

 

本当は、色々と機能をつけてもらいたかったが、AC世界で生身の戦闘力を上げてもしょうがないとオミットし、精度や耐久性を追求してもらった。

 

いや、ほんと、いい、ほんとに、いい……

 

っと、そろそろだな。アナウンスも入ったし、リリウムを起こすか。

 

しかし、久しぶりだなぁ日本。牛丼とか食べたいなぁ。

 

 

「やぁやぁ遠いところからワザワザお疲れ様です!」

 

空港に降りた私たちを迎えに来たのは50代くらいのスーツ姿の男性、つるりとした頭は剃ったのものだろうか抜けたものだろうか。

 

「いやいや、わざわざありがとうございます。自分もこっちの方に来るのは楽しみにてしましてねぇ。」

 

英語での挨拶に、日本語で返す。

 

「おや、日本語がお上手で」

 

「そうですか?いやこっちの方に言ってもらえるなら自信持てますねぇ」

 

久しぶりのネイティヴなジャパニーズの会話である。いままで基本的に英語で過ごしてきたので、20年以上共に過ごした母語での会話に喉が喜びを感じている。うんうん、言葉を発する喜びという奴だ。

 

「あぁ、紹介します。こっちが私の連れで、名前はリリウムです。ほれ、リリウム挨拶挨拶。」

 

日本語と英語を器用に変えながらリリウムに挨拶を促す。この少女は、どうやら異国後を流暢に操る私に驚いているらしい。まぁ、日本語を喋るのは知っているのと実際にペラペラ喋っているのを見るのは違うか。

 

「り、リリウム・ウォルコットです。よろしくお願いします。」

 

二人の雰囲気にのまれたのだろうか。リリウムのたどたどしい反応を久しぶりに見た。こういうのを眺めてると、なんとなく安心する。

 

「やぁ、宜しくリリウムちゃん。話はアクアビットの方から聞いとります。何でもお目付役だとか」

 

「いや、若輩者のせいか全く会社から信用されてなくて」

 

というか、リリウムにこそ1番信用されてないんだけどな。がはは、なんか怖いんだけどこの娘、一緒に寝たりずっと付いてきたりするのはまぁわかるけど、最近、お風呂も一緒に入ってくるんだぜ?可愛いから問題ないけど。

 

…………あれ?これ病み入ってね?

 

…………………………あれれ?

 

 

有澤製の高級車に乗り、やって来たのは富士のお山の麓の演習場。アクアビットにいたときは、あまり季節は気にならなかったが、外に出てくると懐かしい不快な暑さと降り注ぐ蟬しぐれが全身を襲う。そうか、夏なんだな。

 

「いま、担当のものは彼処のプレハブで見とります。」

 

そう指差されたのは演習場の端に建てられたプレハブ小屋だ。ならばと案内のままに入る。

 

…………あぁ、クッソ懐かしい日本の風景だ。名が机にパイプ椅子、クーラーはガンガンに効いており、扇風機からはヒラヒラとビニールテープが待っている。テレビは薄型だけどなんだろう、京都とか奈良よりも、こういう光景に日本を感じてしまう。

 

中でテレビを見ていた作業着の男たちが、こっちを見てガヤガヤと立ち上がる。

 

「初めまして有澤重工の皆さん。アクアビットから来たジャンヌ・オルレアンと申します」

 

これまた、ネイティヴの日本語を話してみると大人気だ。いやぁ、ちやほやされるって楽しい。

 

そこにいた人たちと一通りの挨拶を終える。ここにいるのは有澤の根幹たるグレネードの開発部門の設計者たちらしい。どうやら隆文社長はおられないらしい。

 

「で、グレネードの試射は……」

 

「あぁ、いま彼処でやっとります」

 

そう言って指差されたのは、並べられた薄型テレビ。そこには、我が愛しきOIGAMIを搭載した有澤重工の標準機体、霧積の姿があった。

 

「あれで試射を?」

 

「えぇ、いまはウチのリンクスが動けない状況なんで。外部からのコンピュータ入力でやっとるんです。撃つだけならそれだけでも大丈夫なので」

 

なるほど、と画面を見る。うん、やはり良く似合う。流石に有澤の精神なだけはある。

 

霧積の砲撃、目標として置かれているのは……あぁ、有澤製のタンクタイプのノーマルだ。たしか、銭がめだっけ?……うん、一撃で吹き飛んだ。何度見ても思うが、榴弾の威力ではない

 

その場で見ていた有澤の人間たちは、皆渋い顔をしている。

 

「いやぁ、しかし、ありゃほんと凄まじいですなぁ」

 

「両背部を使用することによって本来ネクストに搭載不可能な大口径火砲の装備を可能とするとは……」

 

「ジャンヌさん、本当にアレがどこから提供されたかは教えて貰えんのですか?」

 

「すいません、コレだけはどうしても言えなくて……」

 

「んー、これ程重火器に通じている企業は限られてくるのだが……アルドラが本当にこのレベルのものを製造できているとすると……間違いなく、この分野において我が社と遜色ない技術力を持っていることになる」

 

「本格的に奴らが重火器市場に参入してくると、ネクスト部門だけでなく通常兵器についてもいままでのシェアが奪われかねないぞ」

 

「…………少なくとも、次の製品はアレを超えんといかんわけか」

 

……あれ?何かおかしな事を言っていないかこいつら。

 

「やってるな」

 

ガラリ、とプレハブ小屋の戸が開く。入ってきたのは矢鱈とゴツいガテン系の男。背は190程だろうか、作業着から露出した肌は黒々と陽に焼けて、顔つきは…………ゴリラ……うん、ゴリラだな。精悍なゴリラ。

 

「あれぇ、若。もう怪我は良いんですか?」

 

私を案内してくれたツルピカさんが声を上げる。

 

「あぁ、さすがにこれからの有澤の方針を決めようという時に寝てはいられん」

 

…………会社の方針とグレネードの砲身をかけた激ウマギャグやな。ジャンヌちゃんわかるで。

 

さて、若か。と、なると……

 

「初めまして、アクアビット社のリンクス、ジャンヌ・オルレアンです」

 

立ち上がりニコリと笑って手を差し出す。それを見て、若と呼ばれた男も笑みを浮かべてその手を握った。

 

「有澤重工、副社長の有澤隆文です。ご足労いただきありがとうございます」

 

………………………あぁ、そっか。私の立場は客人か、唐突な敬語に動揺してしまった。




長ければ3話、短ければ次話で日本編は終了します。


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外伝壱 狂人は世に平穏をもたらすことが出来るのか?

コメントでACVD編までやってくれという発破をかけていただきました。
その結果、なぜかACV編の導入が思いつきました。忘れないうちに投下しておきます。もし、ACfA編が無事完結したら、あるルートの内の一つの結末が、こんな感じにV編の始まりにつながります。でも多分絶対変わります。


荒廃した大地

 

天は分厚い雲に覆われ、風が吹くたびに水気の無い砂が舞い、何十年もの間、雨風に曝され続けた人間のものと思われる骨が、カラカラと砕けながら転がる。

 

そこには何もなかった。かつては栄えた街のあったその場所も、ある人災により滅びた後は一切の人間が近づけず、そこに立っていたビルや民家も全て砂塵も化していた。

 

……その人災を巻き起こしたのは、閉ざされた空をも貫きかねない巨大な塔だった。いつかは詳しい事はわからない。だが、唐突に空を突き破って現れたそれは、その周囲に存在した営みを悉く、そして永遠に滅ぼした。とだけ伝えられている。

 

だが、それが何かはわからなかった。近づけば、一切の生命を拒否する汚染により身体が蝕まれ、たちまち果ててしまうからだ。

 

汚染が届かない地域で、その塔を眺めるもの達は、みな各々でその塔に対し想像を膨らませていた。

 

曰く、アレには旧世代の遺物が残っているのだと。

 

曰く、あの中には異なる空から来た化け物が巣食っているのだと。

 

曰く、あそこは理想郷である。あそこでは、日夜清浄な空気の中で宴が行われているのだと。

 

様々な、勝手な、出所不明の噂話。だが、誰にも確かめようの無いそれらは、時が経つごとに膨れ上がる事となった。

 

 

 

「…………………………」

 

そんな死の大地に、少女が立っていた。

 

少女は腕を組み、片側しか無い瞳で太陽の見えない天を睨んでいた。

その右腕は華奢ながら強靭、その左腕はこの時代では解明の出来ないほどに高度な技術で造られた義腕がはめられている。

 

少女は、息を吸う。まともな生物ならば一秒たりとも耐えられないそれを肺いっぱいに吸い込み、叫ぶ。誰もいないその地で、まるで世界中にその産声を聞かせるように。

 

 

 

 

「トーラスのクソ馬鹿技術者どもがァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!コールドスリープから起きたらテラフォーミングされた火星だって話だったじゃねぇぇぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

大地を震わすその罵声と共に、世界を滅ぼした原因の一人は、再び地球に立った。

 

 

おはようございます、朝起きたら目の前に崩壊した世界があったらどう思いますか?私?とりあえず壁を蹴りました。ジャンヌ・オルレアンです。

 

話が全然違います。違い過ぎます。全部説明したら広辞苑が完成するので控えますが、これは詐欺です。訴えます、誰を?今頃火星でほのぼの開拓ライフかましてる奴らを?どうやって?

 

もう一度壁を蹴る、ガキンという音ともに破片が飛んだ。ザマァ見やがれ。

 

……ただただ狂っていてもしょうがない。とりあえず、現状把握をするか。さて、まずは生き残りの捜索かね。

 

 

「はい!生き残り0!解散!どこにだよ!」

 

探した結果、同乗者全員墜落のショックで死んでいたか起きた瞬間汚染で死んでまちた!わーい!

 

壁を蹴る。

 

「あークソ、リリウムたちが同乗してなかったのは不幸中の幸いか。生きていてくれよ本当に……」

 

そう、私はリリウムたちとは別の宇宙船に乗っていた。理由は簡単、リスク分散のため。私たち優秀なパイロットは、AMS技術を施したハイエンドノーマルによりバリバリ火星でも仕事をする予定だった。え?その仕事道具はって?ボロボロ、コアはまだギリギリ無事だったけど、意味ないよね?

 

それが、これだ。

 

「しかし、この汚染は酷いな。大気圏脱出してコジマブースターを破棄する前に落ちやがったな。」

 

船内に残っていたコジマカウンターは、最大値をしめしたまま止まっている。計測不可能と言うことだろう。そりゃそうだ、みんな大好きトーラスのロケットだぜ?墜落して無事に済むわけないじゃないか。

 

「うーん、どうしよう。別にここで暮らし続けて死ぬまで待っても良いが……」

 

奇跡的なことに、食糧や私が娯楽として持って行くつもりだったゲーム、そしてロケットの炉心などは無事だった。それらと私の命が擦り切れるまでここにい続けても良いが……。

 

「それじゃあつまらんよなぁ」

 

とりあえず、此処から出て街でも探してみよう。折角なんだし、ポジティブに生きねばならない。

 

「ふふふん、なんたってわちきには、この神から与えられた天性の肉体が有るんだからね!」

 

なお、これは転成とかけた爆笑ギャグである。私の脳の観客はいま腹を抱えて倒れてる。死因はコジマ汚染だろう。

 

「さて、行くかぁ。歩きでどんだけかかるかなぁ。食糧も割ともっていくかぁ」

 

そう呟き、私はロケットへと戻った。

 

 

 

 

うっふぅん、あっはぁーん。どぉーもぉー、じゃぁんぬ・おるれぇあんでぇーす。歩き続けて半月経って見つけた街で商売初めて3ヶ月でぇーす。え?なんのしごとしてるかって?

 

売ってるのよ、はーるーを

 

「や、やめてくれ…………!」

 

「じゃ、これ最後ね」

 

そう言って客の頭を叩き潰す。しゃ、終わり。いや良いね、無法地帯って、死体がそこらに転がってるから隠す必要が無い!

 

というわけで、わちきの美貌につられて路地裏に来た客を殴り殺して身包み剥ぐ仕事してます。ストレス解消と金稼ぎが同時にできる天職です!ヤクキメてるイカれ殺人男からレズの姉さんまで美味しくいただきました!!いやぁ!労働!!最高!!!

 

「さぁて、今日はあと一人くらい剥いでからホテルに戻るか。うーん、最近なかなか効率良くなってきたねぇ」

 

そんな風にブラブラと街を歩いていると(血なんか気にしない。ここにいるこはどいつもこいつも身なりの汚い奴らばかりだ)また一人見事にフィッシングされた。

 

「おい姉ちゃん、お前ヤレんだろ?幾らだ?」

 

「気持ち良くさせてくれるんなら幾らでも」

 

「マジかよ最高だな!へへへ、俺のなんか食らったら一銭も払わせようって気は起きないぜ」

 

最高に小物なセリフだ

 

「それは楽しみね、どう?ホテル代もったい無いし、あそこの路で……」

 

「良いねぇ、俺そっちの方が興奮するんだ……」

 

「ふふふ、じゃあ行きましょう」

 

 

 

ほんと、なかなかに耐えやがるなこいつ。こりゃ、楽しい。

 

「やべでぐれぇぇぇ!!」

 

そう言う人間殴ると楽しいって知ってる?

 

「お願いだッ!!何でもヤルから!!!そうだ!!昨日見つけたアレをヤルから!!どうが!!どうがだじげでぐでぇぇぇ!!!!」

 

「アレって?」

 

腹を蹴る。男の身体が浮かぶ。楽しい。

 

「ACだッ!!スクラップ場でうごぐのを一機みづげだんだッ!!」

 

……お?

 

 

全身腫れ上がった男を案内させると、崩れた建物に隠されるように一機のACが隠されていた。

 

…………あれ?やたら見覚えあるぞこのジャンク塗れの機体。というか、エンブレムが、これは……

 

「ぐぞ…………武器もあづめだら一旗あげる積りだったのに……」

 

「あんた、名前は?」

 

「え、なんでぞんなごど……」

 

「名前は?」

 

「ジャ、ジャッグ・ゴールディング……」

 

なるほど。私は、ポケットをまさぐる。そこには、私が根城にしているホテルの鍵が入っていた。

 

「ほれ、これ上げるよ。私の部屋の鍵。金たんまり貯めてるから、それを治療費と今後の生活費にしな」

 

「へ……?」

 

「代金よ」

 

いままで殺しまくった分のな。

 

「あぁ、あとあんた傭兵なんて絶対向いてないからやめたほうが良いよ。それじゃ、ありがとね!」

 

 

 

 

「いた、3機。あれは……トラック?」

 

目を凝らしカメラに映る情報を読み取る。うん、ジャンクでもそこそこ見やすいじゃん。見えたのは、3機のACが一台のトラックを追ってる様子。

 

軽量二脚二機、四脚一機。三対一、まぁ、リハビリには良いだろう。

 

「よっと」

 

グラインドブーストを起動する、うーん、無理矢理AMSを取り付けてみたけど、やっぱりネクストほど上手く動けんなぁ。なんか、関節の節々が痛い感じ。

まぁ、ちゃんと思い通りビュンビュン動くからええけどね。

 

さて、接敵した。遅いよゴーミ。俺より遅いよ。

トップスピードで蹴り飛ばす、衝撃によりトラックが吹き飛んだが、まぁいいや。ここでやっと残りの奴らも気づきやがった。さて、蹴った相手の装備を見る。お、ムラクモ持ってんジャーン!

 

背中に置かれたブレードをもぎ取る。おーけ、馴染む、じゃ、もらってくよっと、それ!がっきーん!

 

鉄が鉄を切り裂く不快な音、抜いてみると剣先に油と血の混合液がぴっちゃりと。あ、ついでにこの実弾ライフルも貰ってくよ。

 

もう一機の軽量機に向けライフルを撃ちまくる。おや、まだ混乱してるぞこいつ。トーシローが、そんなんじゃこの先生きのこれないぜ、なんたってここで死ぬんだからな!

 

ドドドと撃ちまくる。あ、弾切れた。まぁ、いい、やっと!それ!

 

ハイブーストからのムラクモ突き。いや良いねぇ!柔らかいコアを突き抜けるこの感触!!

 

あっと、残りはいっきと……

 

お?残りの四脚がコアを開けて何か叫んでるぞ?なんだろ、あ!両手あげてる!降参してるのか!

 

ならそれ相応の対応をしないとね!よっこいしょ、テクテク……えい!ぷちっ!

 

はい、三分クッキング!!

 

 

「なぁんだこれ、女ばっかじゃねぇか」

 

ACから降りて転がったトラックを見学してみる。運転手は見事に死亡、貨物に何が入ってみるかと眺めてみると、粗末な格好の女性の死体がゴロゴロと転がってる。さっきの衝撃で死んだんだな、南無三。

 

ちららと死体の一つを見てみると焼印が押されていた。奴隷か何かかな?どっかの有力者への貢ぎ物とか?流石世紀末やな!俺たちが頑張ってそうしたんだけどな!!

 

まぁ、こんなもの見ててもどうにもならない。とりあえず武装とか剥ぎ取ろう。四脚のACも無傷でゲットしたし、アレに乗り換えて気ままなライフを……

 

「……た……………………………す……………………」

 

「ん?」

 

気のせいだろうか、声が聞こえた気がする。うん、気のせいだろう。さ!お家に帰ろう!

 

「…だ………だれ…………………………か…………………」

 

……………風の音かな?なんか日本語に聞こえる風の音だ。

 

うん、風の音だな!!

 

…………………………そういや、最近何か人に対して冷たかった気がする。最近というか、この世界きてからだけど。

 

……しょーがないにゃあ。

 

 

声が聞こえた方の死体の山を掘る。何が出るかな、何がでるかな!

 

「お」

 

「………………あ」

 

美人だ。

 

 

死体の海から出てきたのは黒髪ロングの涼やかな瞳の美人だった。肌は白く見えるが……黄色人種か?

色々と粗末かつ不潔な格好なのに、こんだけの美しさは相当だ。

 

「ありがとう………ございます………………」

 

ぺこりと礼をするその美人に(背は170ほどだろうか、胸?なかなか)かまへんかまへんと言って、ほなそれじゃあと手を振る。いやぁ、良いことをすると気持ちが良い!

 

「あ…………あの…………………………」

 

「ん?どしたの?」

 

「た、たす……たすけて………くだ……………さい…」

 

「……それは、どういう意味の?」

 

「わ、わ、我は………」

 

「我!?」

 

「え、あ、は……はい……」

 

なんやこいつ、こんな身なりで一人称が我って新しすぎて逆に使い古されてるぞ。

 

「は………え、えっと……我は…元いた街でも独りで…………それで……………家が……家を用意してあげるからと…………乗せられて…………でも………ひっくりかえってしまって…………………」

 

把握、要するにどっかの誰かがホームレスの女を騙して大量に攫ってたのね。羨ましい。

 

「我は………ここがどこか………わからなくて………どうか………たす…………たすけて…………………」

 

うーん、そう言われてもなぁ

 

「別にいいけど、私の家って汚染まみれのところよ?私はともかく、あんたらみたいなのが来たらすぐ死ぬよ?」

 

「そ………それでも………それでも良いです………………もう…………………こんな……こんな世界…………もう…………嫌………………」

 

あー、完璧に心やられてんなこいつ。ずっと身体震えてるし。こりゃ相当酷いことされてたんだろうなぁ。

 

「うーむー、そうだなー」

 

ちらり、と後ろを向く、先ほど倒した四脚機と、わちきのフレイムフライ。ふむ、まぁ、せやな。

 

「じゃ、死ぬまで運搬係しもらおう。あの四脚のACに乗って」

 

「へ……………?」

 

「私の家まで荷物運んでもらうから、死んだらその場所で埋めてあげるし、もしも万が一生きてたらそのまま私の家で暮らして良いよ。それでどう?」

 

「えっと……でも…………我はあんな…………」

 

「あぁ大丈夫、動かすだけなら簡単極まりないし、四脚ならコケることもないでしょ。それとも、ここでそこらに転がる死体の腐臭にまみれて死ぬ?」

 

「え……………あ……………………」

 

「どうするん?」

 

美人さんは数秒ほどうつむくと、そのままこくんと首を下げた。

 

「それはOKの意味?」

 

「は、はい…………………」

 

「大変結構、ほれ、じゃすぐ乗りな。こっちは腹減ってんねん。そっちもどうせ腹ペコだろ?生きて来れたら飯食えるぜ」

 

「しょ、食事が……………」

 

「そうだ、ほれ、早速行くぞ」

 

自分があのコックピットで潰れた死体を取り除くために四脚機に近づくと、美人も歩いてきた。……裸足か、痛そうだな。少しだけ、スピードを緩める。

 

 

諸々の準備に時間がかかった。出発したのは、あれから約30分後。使えそうなものだけ貰っていって詰め込んで、トーラス製ロケットのもとへと向かう。

 

「あーあー、聞こえるか?」

 

先ほど、取り決めたチャンネルに合わせて無線をかける。と、向こうも応じた、

 

「は………はい……………」

 

「OK、死ぬ時は死ぬって言ってから死んでね」

 

「はい……………」

 

「じゃ、行こっか」

 

そう言って、二人の旅が始まった。向こうがブースターを使うことが出来ないので、歩いての旅である。まぁ、ここはまだ比較的近いからそこまで時間はかからんと思うが…………

 

「あ………あの……………」

 

「ん、なに?」

 

「貴方の……お名前は…………?」

 

「ジャンヌ・オルレアン」

 

探偵さ

 

「ジャンヌ……さん……」

 

………久しぶりにさん付けされた気がする。だいたいどいつもこいつも呼び捨てか様付けだし。

 

「うん、そっちは?」

 

「え…………?」

 

「そっちの名前は?」

 

「え、えっと……我は…………な、名前が……なく……て…………」

 

「ふーん、そりゃ相当悲惨な生まれなのね」

 

凄い時代だなぁ、あの時代が夢のようだ

 

「じゃ、私が名前をつけてあげよう。せやな、一人称が我なんだから姫やな!姫ちゃんと呼ぼう!」

 

「姫…………?」

 

「うん、姫ちゃん。それでいいでしょ?」

 

「は、はい………………ひ、ひめ……か………」

 

 

「ジャ、ジャンヌさんって……どうして……ACに?」

 

「ん?あぁ、いや、なんというか、まぁ、元々こういうのに乗る仕事してたから」

 

「そ、そうなん……ですか…………。あの、なにか、理想とかそういうものの、為じゃなくて……?」

 

「あぁ、理想?うん、そんな尊いものはないね。好きなように生き、好きに死ぬ。ただそんな生き方がしたいだけなの」

 

「そ、そうなの………です………か…………」

 

「どしたん、いきなりそんなこと聞いて」

 

「いえ…………あの………………我が、我が行こうとして、していたところは…………ACに乗る人が、い、いて……それで、それで………戦争をする人たちを………倒して……それで戦争を終わらせようと………して、してるって………………」

 

……………どっかで聞いたことあるなそいつら

 

「わ、我も、それを聞いて…………こんな、こんな世界を変えられるならって………トラ、トラックに………トラックに乗ったのに……………」

 

…………もしや、とは思うが。

 

「こ、この世界に……平和を………… 平穏を…………それを……………求めて………………でも………でも………………」

 

「世に平穏のあらんことを……」

 

「…………へ?」

 

……ビンゴか?

 

「なんで……それを……?」

 

ビンゴね

 

「私も好きなフレーズよ。ふむ、良いね。あーんまりこの世界でどう生きるか考えて無かったけど、この世界の平穏を求めるってのもいいかもね」

 

「え…………あ……………」

 

「ま、とりあえず今は帰ろうや。ここから先は汚染もだいぶキツくなる。死ぬ時はちゃんと報告しろよ」

 

「は…………はい………………」

 

ん?なんだ?少しばかり声に元気が出たぞ?希望でも持ったか?

 

まぁ、希望を持ったとしても、悲しい事にこっから汚染で死んじゃうのよねーん。ま、できるだけ歩いてちょ

 

 

 

この時、ジャンヌはまだ知らなかった。

姫が、この汚染された大地を歩ききり、ロケットまでたどり着くことを。

 

そして、彼女こそがこの世界におけるジャンヌのパートナーになる事を。

 

遠くで、狼煙が上がった。

ある支配者に対して、一人の腹心が反乱を起こしたのだ。それは、名もなき傭兵達こそが主役の時代、その始まりを示す狼煙だった。

 

 

 




あくまで予定です。さて、このパートナーの娘は誰なんだろうね!(Vのキャラです)


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テロリズム

今日も今日とて泥縄式執筆法(事件を書いてから解決方法を考える)により重大事項が決定する。

あとで細部を整えるために描き直す可能性あります。


「いやぁ!楽しかったね、リリウム!」

 

有澤重工が用意してくれた高級ホテル。そのスウィートルームにあるベッドに飛び込んだ。一週間の日本出張も、明日で終わりである。いやぁ、色々あった。うん、将来のシャッチョサンとOIGAMIを超えるグレネードが出来たら購入する約束もしたし。接待で食べた懐石も、その帰りに食べた牛丼も、締めのラーメンライス餃子付きも、みんな美味かった。うん、やっぱり米だよ米。米食わな死ぬよ我々は!

 

「……ジャンヌ様は、あんなに味が濃いものが好きなのですか?」

 

そして、こっちがそれらの私の荒れた食生活に付き合ってくれたリリウム・ウォルコットちゃんです。え?どんだけ荒れてたかって?男子高校生が泣いて喜ぶタイプの生活をしてただけよ?

 

「うーん、なんというか、ただの味の濃さじゃないんだよね。こう、心に染み入るグルタミン酸というかイノシン酸というか。こう、何か、あるんよね」

 

「そう……ですか……ジャンヌ様はあのような料理がお好き……」

 

「いや、リリウムの料理も好きよ?優しい味がして。ただあぁいう料理も好きってだけだから」

 

そう、アクアビット社で私が食べるものは三食みんなリリウムが作っている。リリウムもリンクスとしての訓練で忙しいハズなのに、いつもいつも手の込んだ料理を食べさせてくれる。ありがたい、かわいい、出来れば身体が男の時に出会いたかった。

 

「……では、たまにあのようなものも作った方が?」

 

「あぁいや、大丈夫だよ。自分で料理するから」

 

うん、あの繊細なまでに雑な味はチェーン店か7年間の一人暮らしで得た自炊スキルでしか再現できない。ちなみに米は大量に買ってアクアビットに送りつけた。うん、まぁ平和になったし住所も手に入れたんだから、通信販売とかで買ってもいいかもね。

 

「さ、お風呂でも入って寝よっかリリウム。今日も背中を流してもらおっかなぁ」

 

「はい、わかりました。では、用意をしてきます」

 

あー、くそ、今だけ脂ぎったオッさんになりてぇ。美少女が美人の身体を洗っても尊いだけじゃねぇか。こう、背徳感というか、こいつ悪いことしとるのぉ〜的な何かが欲しいよーカミえもーん。

 

 

そして夜である。すんすんとリリウムの匂いを嗅ぐと本当に良く眠れるので、テレビの前のみんなは試してみてね!

 

しかし、ほんと綺麗な髪だなぁ、なんというか、こう、月の光をいっぱいに受け止めたような、そんな色。

 

うん、ほんと、なんか、尊い、とうとい、とおとい、ねむい、ねむ…………

 

くー………………

 

 

 

「ジャンヌ様、ジャンヌ様。」

 

んー

 

「ジャンヌ様、起きて下さい」

 

「起きてるー、起きてるよー」

 

「起きてる人は起きてるだなんて言いません。」

 

「起きてるー」

 

「ほら、ジャンヌ様。いま大変な状況なのです」

 

「……生理?」

 

頭に衝撃、飛び起きる。

 

「そういうデリカシーの無い発言は色々と疑われますよ?」

 

どうやら、リリウムがホテルに置いてあるタイプの聖書の角でぶん殴ったらしい。

 

「あ、はい、ごめんなさい」

そもそも常日頃から正気を疑われてるので何も問題は無いのだが、リリウムの気迫に思わず頷く。

 

「で、大変な事って?」

 

「テレビを見てください。内容はわからないのですがどうやらこの近くにネクストが出たようで……」

 

「何だって?」

 

そんな熊みたいな感じに出るものなのか?とテレビを眺める。

 

…………本当だ、アリーヤがいる。あれ?しかも、この場所は……

 

「私たちが帰りに使う予定の空港じゃん」

 

そう、ここから車で5分くらいの位置にある。流石に直接見えはしないが……

 

「そうなのですか?すいません、日本語はさっぱりで……」

 

さてさて、何が起こった?

 

 

 

ニュースで見た情報を合わせると、どうやらこういう事らしい。

今日の未明、一つの不審な大型船が極東地域の領海に侵入した。すぐにGA極東艦隊が出動し、勧告を行った後にこれを撃沈したが、そこから一機のネクストが出てきた。そいつはGA艦隊の包囲から抜け出すと、そのまま上陸し、空港……あぁ、はい、成田です。成田空港に突入した。

 

さらに、これと同時期に大規模な武装グループが数機のノーマルACやMTと共になだれ込み、空港を占領した。それが、今から一時間ほど前。

 

三十分前、犯行声明が全世界に対して流された。下手人は反パックス系の武装組織〝蒼天の審判〟。その要求は「企業が拘留する同志の解放」24時間以内にこれを行わないと、空港にいる人質は皆殺しにするとのこと。

 

「機体はアリーヤか……レイレナードの亡霊とは考えられんし……まぁ、相当数が流れたとは思うが」

 

さて、誰の鈴がついている?オーメル、イクバール、インテリオル、どこもかしこも復興の途中だろうが、テログループへの支援により嫌がらせするくらいの余裕はあるということだろう。

 

「いったい、どうなるのでしょうか……」

 

その内容を聞いて、リリウムが心配そうに尋ねてきた。

 

「まぁ、少なくとも私たちに出番はないでしょうね。やれる事はテレビの前で見てるくらい」

 

「…………」

 

「……なに、その目」

 

リリウムが驚いたようにこちらを見てきたので、思わず突っ込んでしまう。

 

「いえ、ジャンヌ様の事なので嬉々として首を突っ込みに行くと思っていましたので……」

 

「私を何だと思ってるんだ……」

 

これでも、結構面倒は嫌いなのよ?

 

「ジャンヌ様がこの場所で事態の推移を見守るなら安心です。どうしましょう、ホテルには延長の申し出を?」

 

「そうして、追加の料金については後で考えよう。まぁ、有澤かアクアビットが払ってくれるでしょ」

 

企業戦士万歳やね

 

 

 

一時間経過した。ルームサービスで頼んだコーラを飲みながらテレビを眺める。ふと、やった事は無いが何かのゲームで放射能コーラみたいなのがあるのを思い出した。コジマ・コーラ、ふむ、提案してみるか。などと考えてると、その間に有澤から電話があった、どうやら追加で滞在する費用も向こうが出してくれるらしい。曰く、「ここに上陸させたのは有澤の責任でもあります。」との事。素晴らしい。さらにアクアビットから安否確認の電話も、大丈夫ですよー、貴方の素敵な実験素体は無事ですよー!

 

「しかし、いったい誰が対応するのか」

 

「GAや有澤のネクストでは?」

 

「まず有澤は無いな。これを解決するには電撃的な対応の必要がある。ネクストはGAか有澤の対テロ特殊部隊と同時に突撃し、アリーヤや通常兵器に暴れる隙を与えずにこれを制圧しなくちゃいけない。そんな作戦に、遅いタンクタイプかつ、空港に被害を与えかねない有澤のネクストは向いていない」

 

それに、リンクスであるワカ……有澤隆文副社長も、怪我がまだ治りきっていないらしく、砲撃は兎も角リンクスとしての動きはまだ出来ないようだ。

 

「となるとGAのリンクスだが。まずメノ・ルーはダメだな。背負った武装が凶暴すぎる。まぁ、他の武装に換装したらその限りじゃあ無いとは思うが。と、なると、まぁローディーだろうなぁ。」

 

腕バズの瞬間火力だと相手に動く暇も与えずに削れるだろう。相手が機動こそ装甲のアリーヤなら尚更だ。まぁ、ハイアクトミサイルは使えないだろうが……

 

「そういえば、PAはしてないっぽいな」

 

テレビを見ていて気付く。コジマ粒子の妖しい輝きが見えない。

 

「……恐らく、GAが約束を違えたらすぐに展開するのでは?」

 

「あー成る程。そうか、そう考えるとネクストって動くコジマ爆弾だなぁ」

 

と、いう事は。相手が攻撃を認識してPAを展開する前に倒さねばならないのか。まぁ、PAが無いということは装甲が無いということだが。

 

しかし、動かんなぁあのアリーヤ。警戒行動などもとってるように見えない。ノーマルやMTはサクサクと歩いているのに……まぁ、結局は、テログループで潰されても問題が無い程度の腕という事なのだろう。そういや、アマジーグやススもAMS適性は低かったな。

 

「うーん、もうちょっとピョンピョン動いてくれたら楽しいのに」

 

「……ジャンヌ様」

 

呆れたような声色。えっと、なになに?事件を面白がるのは不謹慎だからヤメろって?うん、顔見たらだいたいわかるよ。

 

「へいへい」

 

素直にやめる。べ、別に反省したわけじゃなくて、リリウムが怖かっただけだからね!!

 

しかし、腹減ったな。どうせ今日はこのニュース見ながら過ごすつもりだし、ルームサービスで済ませよ。

 

受話器を取ってメニューで目に付いたのをいくつか注文する。うん、なかなかにセレブで資本家な生活だ。文明だな、ベッドで寝てるだけで食事が運ばれてくる現状はまさに文明だ。この数百年後にモヒカン共がヒーハーしながらACで「サッカーやろうぜ!ボールはお前な!」とガッキンガッキンやってるとは思えない。

 

ははは、絶対生きたくねぇなそんな所で。私みたいに繊細な人間にはまったく向いてないもん

 

 

 

「ピッタリ向いとったやないかーい!!」

 

「え…………?あ、あの……………………えっと……………何です…………か………………?」

 

「いや、何というか、暇だから自分の半生を思い浮かべてたらツッコミ所が出てきたから。やるなら今だなぁと思って」

 

「は、はぁ…………………」

 

 

 

さて、ばくばくむしゃむしゃごくごくである。状況は動かず、日は西へ向かって落ち始めてきた。

 

「……動きませんね」

 

「まぁ、こんなん体力勝負だしな。企業が屈するとも思えんし、何らかの動きがあるとしたら夜だろ。視界は悪く、判断能力も落ちる。それこそ、あのネクストだって警戒のためにずっと火を入れてるとしたらそれくらいにはもうへとへとだろし。」

 

疲れるからって起動してなかったらスクラップだし。

 

「ま、もうちょい暇でしょ。ゲームでもしようかね」

 

取り出したるはPSP、入っているのはAC。エースなコンバットの方ね、Xね、ナイアッドね。

 

私がそいつを持ってベッドに寝転ぶと、リリウムは寂しそうな表情を一瞬だけ見せて、またテレビへと目を戻した。

 

……いや、じりじりと近づいてきてるぞ。

 

 

 

夜になった。その間のニュースとしては、蒼天の審判の活動について(主に反社会的なものを)紹介したり、空港の様子を伝えたりした程度だ。

 

「さぁて、そろそろかな」

 

ゲームの電源を切って、起き上がる。リリウム?なんか私の身体にずっともたれかかってたよ。

 

「そうなのですか?」

 

「うん、露骨に空港の映像が少なくなってきた。今頃、対テロの特殊部隊が包囲してる感じだと思う。だからそろそろ始まると……ん?」

 

ジャンヌが何かに気づいたように首をあげる。その原因が外にある事に彼女は気付くと、ドアを開けて外を見回した。

 

「どうしたのですか?」

 

「……何か、音がする。」

 

その原因を探すべく、ジャンヌは首を動かす。

 

音は、どんどんと近づいてきた。ジャンヌは一度瞬きをする。左眼に埋め込まれたセンサーが周囲の暗さを読み取り、暗視モードへと切り替える。便利。

 

……いた、西側、近い、低空を飛行中の大型航空機……あれは。

 

「レイレナードの高速輸送機だと?」

 

そうだ、一度戦場で見た事あるし。アクアビット社にも数機ほど配属されている。ネクスト二機を同時に、高速で運搬できる優れものだ。

 

なぜそんなものがこんな所に、と一瞬だけ考えてすぐに理由に気付く。あぁ、そういう事か。

 

「なるほど、あの二人ならすぐに終わるだろうよ」

 

ベルリオーズがアナトリアの傭兵と合流し、傭兵稼業を始めたのは有名な話だ。なんたって、この世界において三本の指に入る実力者の内、二人が組んだのだから。(なお、もう一本の指は言うまでもなく私である)

 

こいつぁ楽しみだとヨダレを飲む、二人がどのような連携を行うかは興味がある。まぁ、夜だからテレビで見てもハッキリと映らないのは残念なのだが……

 

と、航空機から一機のネクストが飛び出す。ん?あれは……あのシルエットは……まさか……!!

 

「ホワイト・グリント!?」

 

マジか、もう新白栗できたのか!んで乗り換えたのか!終戦から六ヶ月、どこもかしこもネクスト関連において新たな商品が出たという情報を聞かないのに、天才アーキテクトはもう設計と製造を終わらせたらしい。ヤバい。

あれ?でもあのコアってうちのクレピュスキュールと同じじゃん!そしてどう考えても世間に日の目を浴びたのはこっちが先じゃん!パクリだ!パクリ・マーシュ……………ん?

 

…………断頭台のエンブレム?

 

脳みそが大混乱を起こす。なぜホワイトグリントにシュープリスのエンブレムが付いているんだ?おかしい、ホルスの目じゃないのはまだわかるが。いや、でもアナトリアの傭兵って確かエンブレムを付けてなかったよな……、じゃあ、あれか?シュープリスのエンブレムで統一したってことなのか?なんで?うーん、わからん……

 

 

 

だが、私のそんな疑問は、輸送機から投げ出されたもう一機のACを見て吹き飛んだ。私の全身を、疑問などという知性的な行為を不可能にさせる巨大な興奮が駆け巡ったからだ。

 

最初、私はそれが何なのか理解できなかった。

一瞬して、それが何であるかに気づき、何故それがここにいるかを疑問に思った。

そして、その肩に描かれたホルスの目を見て、理解を放棄した。それは、いまの自分が考えても答えに辿り着ける物事では無いと悟ったからだ。それに、あんなもの見て、思考できる余裕がある程に冷静な性格では無い。

 

あぁ、うん、そうだよな。あの武装構成ってお前にピッタリだよな、アナトリアの傭兵よ。

 

「ジャンヌ様……?いったいどうなさい……きゃっ!」

 

リリウムの声を聞いて、ジャンヌは窓を閉めると後ろに立った少女を思いっきり抱きかかえ、そのまま背中から布団へと倒れこんだ。

 

「ど、どうされたのですか!?」

 

突然の行動にリリウムが焦りだす。見ると、ジャンヌの顔は喜色に溢れていた。こんなに楽しそうな顔を、少女は初めてみる。

 

「リリウム!」

 

「え?は、はい」

 

「最高だな!」

 

「????」

 

リリウムには、彼女が窓の外に何を見たのか、そして、何故こんなに興奮しているのかはわからなかった。

 

 

 

 

その日、旧日本領上空に二条の閃光が煌めいた。

 

一つは、狂人が知る未来において、空へと逃げた企業と対峙し続け、地上の為に戦い続けた一人の最強が乗っていた白き閃光。

 

そしてもう一つは、その遥か未来において、人間を滅ぼすため、闘争に身を焦がす為に、狂ったナニかが駆った黒き閃光だった。




次回、『閃光が瞬く時』


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閃光が瞬く時

まーた物事を解決するためにキャラを増やすー!




時を少し遡る

 

「ベルリオーズさん、ちょっといいですか?」

 

高度7000M上空

ネクスト専用輸送機、ファフニール号機内のアセンブリルームにて自機の調整をしていたベルリオーズは、戦友の妻であり、彼らが設立した傭兵会社の社長となっている女性の到来に首を上げた

 

「どうした、フィオナ。あいつなら今は自室に籠ってると思うが。」

 

彼らが運営する傭兵会社〝レイヴンズネスト〟は、実働戦力がネクスト二機のみという少数精鋭を売りにした会社だった。

普段は、このファフニール号で世界中を飛び回りながら、依頼を受けた場合は作戦地域まで直接輸送、投下される。

ファフニール号は、もともとレイレナード社が目指していた「常時ネクストを空中待機させておく為の飛行基地」というコンセプトで製造された輸送機の内の一機であるため、武装の変更やチューン程度の簡単な調整は可能だった。

 

「そうですか……、では調整が終了したらブリーフィングルームへ来てもらえますか?」

 

「何かあったのか?」

 

「はい、彼が来てからお話しします。」

 

そう言って、フィオナは部屋から出て行く。

ベルリオーズが、この夫婦の下へ自社の輸送機と共に合流した理由は二つ。

 

まず一つは、彼を追う者の多さだ。

ベルリオーズは、リンクス戦争時のレイレナード社の戦争を主導する立場に立っていた。GA社やローゼンタール社への直接攻撃についても、彼がその責任を持っていた。

 

その為、企業の中では彼を戦犯として処理しようという動きがあった。

だが、ベルリオーズはそんな要求を認める気はハナから無かった。だが、常に一人で行動していると、企業からの襲撃の可能性がある。

 

だからこそ、彼はレイヴンのもとへと身を寄せた。最強が一人のみなら、終始監視をすればいつかは隙を見せる可能性もある。

 

だが、最強が二人となると話は違う。ベルリオーズが休んでいだとしても、彼と同等以上のリンクスがそれを守っているのであれば何の意味もなかった。

 

企業は複数のリンクスによる襲撃なども考えたが、そもそもがこの二人は特別だった。オーメル社の切り札二枚が、彼らの機体に引っかき傷すらつけることが出来なかったことが、その異常性を示している。リンクス全てを動員しても彼らには勝てない、それが企業の判断だった。(実際には一人いるのだが、そもそも撃破対象である二人よりも信用されておらず。またレイレナードの同胞であるアクアビットに所属している為に意図的に無視されていた)

 

そして、もう一つの理由はベルリオーズがこのような生き方に憧れを抱いたからである。

その所属企業への奉仕含め、〝リンクスの完成系〟と言われた彼だったが、アナトリアの傭兵と交流し、時には利用し、時には苦渋を舐めさせられる内に、その姿に羨ましさを抱いた。

身を隠すならもう一つ、鴉の巣よりも目立たない組織があった。

そこを選ばなかったのは、首輪が外れた今、少しだけでも戦友のように自由に空を駆ける気分を味わってみたかったのだ。

 

リンクス戦争後の傭兵の仕事は、ある意味では戦争時のソレよりも忙しかった。

 

コロニーや企業の庇護が公には無くなり(GA、そして新たにアクアビットは水面下で支援を続けていた)自立の為に多額の費用が必要になったのもあるが、その理由の多くは企業の弱体化による反パックス勢力の台頭だった。未だリンクス戦争以後の新しいリンクスは誕生しておらず、どの企業も外側を気にする余裕が無い。その隙間を狙い、各地で息を潜めていた反パックス勢力が一気に動き出した。

 

それらの討伐に、傭兵たちは東西南北駆け回る事となった。東でゲリラを討伐したと思えば、西で武装の受け渡し現場を襲撃する。反パックス勢力からの依頼も時にはあったが、ほとんどがその報酬の旨味のなさから見送られてきた。

 

独立から半年、レイヴンズネストはその力によって世界中から恐れられる存在となっていた。

 

 

調整を終え、ブリーフィングルームへ行くと、既に二人が待っていた。リンクス戦争で多くのネクストを撃破し、この世界でも伝説と呼ばれるようになったレイヴンと、フィオナ・イェルネフェルトである。仕事についてのブリーフィングならば、これにファフニール号のクルーも加わるので、どうやらそれ以外の話らしい。

 

ベルリオーズが席に座ったのを確認し、フィオナは頷いた。

 

「実は、コロニー・アスピナのアブ・マーシュからレイヴンズネストに参加したいとの申し入れがありました」

 

「アブ・マーシュ?」

 

誰だそれ、と言わんばかりに首をかしげる男に対し、ベルリオーズが口を開く。

 

「アスピナの天才的なアーキテクトだ、確か、ホワイト・グリントとは何度か相対してたな?あれを設計したのも彼だ」

 

「あぁ、あれか。」

 

男が思い出したように頷く。

 

「あれはいい機体だったな。アスピナの傭兵の戦闘スタイルにも良くあっていた。あの木偶の坊よりも、あれに乗っていた方が俺は苦戦してたろうな」

 

ホワイト・グリントの洗練された姿を男は思い出す。全ての戦場で何とか撃退できたが、そのどれもギリギリの戦いであった。どれも、殆ど運による勝利だったと言える。

フィオナが言葉を続ける。

 

「このメール内に理由は書かれていませんでした。合流の意思を示す文章と、その日時と場所の指定。あと、土産があるという追伸だけです」

 

「そりゃ怪しいな。まぁ、天才だってちやほやされてる内に常識を無くしたのかもしれんがな」

 

「私は罠の可能性を疑っています。一応二人には相談をしましたが、本来はこちら側で破棄すべき内容でしたが、流石に何の相談もしないのは……」

 

「いや、行こう。了解と返信してくれ」

 

フィオナの言葉を切り、男が立ち上がる。

 

「ベルリオーズもそれでいいだろ?」

 

「あぁ、異論は無い」

 

「ど、どうしてですか?」

 

流石にフィオナも、男が認めるとは思っていなかったらしい。何故と自分の夫に尋ねる。

 

「単純だ、最近こっちを罠にハメようだなんて仕事は少なかったからな。罠だとしたら、どんな恐れ知らずが相手か顔を見てみたい」

 

「そんな……」

 

無茶苦茶なと言おうとする。だがその前にベルリオーズか口を開く。

 

「このメールの信憑性を上げる情報が一つある。そもそも、アブ・マーシュはアスピナがオーメル勢力に近づくのをよく思っていなかったらしい。それに、その上、お気に入りのジョシュア・オブライエンをオーメルに殺され、その恨みは大変深いとも聞く」

 

「いつも思うが、お前のネットワークはどこまで広がってるんだ?」

 

男が呆れたように言った。もともとレイレナードという六大企業の中で、トップに近い位置にいたベルリオーズは、独自の情報網を世界中に広げていた。依頼の真偽の確認も、このベルリオーズの情報を使って行われることが多い。

 

「ですが、それならば直接手を下した彼にも相当の恨みがあるのでは?」

 

「アブ・マーシュは優れたリンクスを異常なまで愛している。それは無いだろう、なんたってレイヴンはジョシュア・オブライエンを超えるリンクスなのだからな。一度、私にもラブレターが来たことがあるよ。あぁ、その時のアドレスと比べたら本人かどうかはわかるのでは?」

 

「ですが……」

 

ベルリオーズの言葉に、フィオナの語気も弱くなる。それを勝機と見た男は、フィオナの肩を叩いた。

 

「安心しろ、俺たち二人がいる。罠だとしても誰も死なせんよ」

 

そう言って男はブリーフィングルームから退出した。恐らく、睡眠の続きだろう。彼は三時間前まで、数十機のノーマル相手に一人で大立ち回りをしていたのだ。

 

「……もう」

 

「アナトリアから出て、自由に飛べる空を手に入れた。だから、勝手気ままに飛びたいという事なのだろうな」

 

さて、とベルリオーズが立ち上がる。話し合いは終わった。今からはトレーニングの時間だ。

 

「少しは夫を信用したらどうだ?罠にかかるのを楽しみとは言っていたが、あれは相当に鼻が利く。」

 

「信用するのと心配しないというのは別です。」

 

「なるほど、そう言われると何も言えないな」

 

そう言って、ベルリオーズも部屋を出た。

 

 

 

アブ・マーシュのメールにあった日が来た。

指定された座標には、放棄された飛行場があった。まず最初にPAの起動していないネクストを投下し、安全確認の後にファフニールが着陸する。

 

主翼を変形させ、垂直に降りるファフニール。さて、待ち合わせ時間まであと30分はあるが……

 

「遅いッ!遅すぎるよッ!!」

 

…………古びたガレージの方から、そんな大声が聞こえる。あぁ、なるほど、やはり常識を失ったタイプの天才だったか。

 

ガレージから出てきたのは、ネクスト運搬用のトレーラーが二台。

 

……その内一台の上に立ってメガホンを持っているのがアブ・マーシュだろう。

 

「こっちはそちらが指定してきた30分前に到着したんだぞ。批難される覚えは全く無いが。」

 

「新しい彼女との初デートなんだから一時間前に来るのが当然だろう!?」

 

男が外部スピーカーを使って言った言葉に、訳のわからない反論を行う。なるほど、才能が無いと生存が許されない程度にはおかしいらしい。

 

「初デート……ですか?」

 

ベルリオーズが尋ねると。そうだよそうだよとアブ・マーシュは頷いた。

 

「さぁ!早速君たちの彼女のお披露目をしよう!そんな機体から降りてこっちに来なさい!」

 

有無を言わせない言葉、そもそも彼女が何なのかについても説明していない。まぁ、あのトレーラーと布を被された10m程の何かでだいたい予想は出来るが……

 

仕方なく、男とベルリオーズは機体から降りた。フィオナもファフニールから降りる。と、アブ・マーシュはトレーラーから降り、まずベルリオーズに近づく。

 

「やぁベルリオーズ!君に会えるのを楽しみにしてたよ!やっとお互いフリーだ!君にピッタリのを用意したから是非……」

 

「やはり、アスピナから離脱を?」

 

「当たり前さ!あんなリンクスを使い潰す事を何とも思えないオーメルと関係を持った時点で吐き気がしてたが、ついにジョシュアまで捨てたのだから!全く!あれ程の才能なんて世界中にどれだけいると思ってるんだ……あぁ!君が噂のレイヴンか!」

 

と、今度は男のもとへと近づいてくる。丸メガネにボサボサの髪と手入れのしていないヒゲ、身体は細くそのくせ異様にキビキビと動いている。人種はユダヤ系だろうか?

 

「まさか君みたいな才能がいるとは思っていなかったよ!低いAMS適性を技術と経験で補うなんて!いやぁ感動した!ジョシュアは残念だったが、それを超える君と会えたのだから何の問題も無いよ!!ただ…………」

 

ここで、一度アブ・マーシュは言葉を切り。男の愛機を見上げる。

 

「このセンスの無いアセンブルは褒められないね。アリーヤの美しさを完全に損なわせている!何でよりによってレオーネの腕部パーツなんて……」

 

腕を上げ、そんな風に叫び散らかす。いや、それどころか涙すら流していた。

その言葉に、ワルキューレの設計を行ったフィオナが反論する。

 

「お言葉ですが、彼の戦い方にはEN武器適性の高いこのタイプの腕部が最適なのです。」

 

「最適なわけあるかい!!」

 

ずずいと、アブ・マーシュの首がフィオナを向く。

 

「いいかい!企業標準機体は自社のパーツにぴったりと合うように見た目も含め設計されてるんだ!それなのにまぁよくもこんなに無造作に組み合わせて……美しさが皆無じゃないか!」

 

「美しさ……ですか?」

 

天才の異常性を真正面からくらい、フィオナが若干距離をとる。しかしそんな事は構わずに、アブ・マーシュはつかつかと近づいていった。

 

「そう!美しさだ!そもそも兵器とは人を殺す事に特化したものだ!だからこそドンドンと洗練され機能的な美しさを持つようになった!!強く無い兵器に美しさは無く!美しくない兵器に力は無い!力と美は一体と言っても良い!ならば!この世界で最も強大な兵器たるネクストはこの世界で最も美しい存在でなければならないのに……!!」

 

あぁ、また泣き出した。だが、何となくどんな人間かはわかってきたぞ。あいつとはまた違うタイプの狂人だ。

 

「君は、確かイェルネフェルト教授の娘だったね……?」

 

「父の事を知っているのですか?」

 

「一度だけ話したことがある程度さ、だが、彼の造ったプロトタイプネクストは荒々しい美しさがあった。その娘なのに、こんなに美術的センスが壊滅的だとは……確かに、他社のパーツ同士で組み合わせていると思えないワルキューレの動きを見る限り優秀なアーキテクトなのだろうが……」

 

ほう、と男は感心した。このタイプには珍しく、他者の実力を認める程度の思考能力は有るらしい

 

「だが安心したまえイェルネフェルトくん!私が設計した愛娘に君の技術と二人のリンクスの腕が加われば何の問題も無い!!最高に美しく!!最高に強い!!そんなネクストがこれから世にでるんだ!!では!早速紹介しようじゃ無いか!!」

 

誰もこの男を止めようとはしない。フィオナは呆然としてるし、ベルリオーズは淡々と待っている。レイヴンはというと、その一々の動きにコミカルささえ感じ初めており、止めようという気が起きなかった。

 

「さて!ではまずベルリオーズの方からだ!」

 

そう言って、天才はトレーラーに合図を出した。すると被せられた布が解け、その中身が露わになる。

 

それは、本当に美しい機体だった。

各所の雰囲気はアリーヤと共通したものを感じるが、全体としては大きく異なっている。例えるとしたら、アリーヤをレーシングカーとすると、まるで新幹線のような……そんな雰囲気の違いだ。

 

「WGⅨ/v ホワイト・グリント。本来ならジョシュアの為に設計した機体だったんだけど、ベルリオーズの戦闘スタイルにも合致する筈だ。」

 

ふと、男はある違和感を抱く。そしてその原因を見つけると、天才に尋ねる。

 

「これは、イレギュラーの機体のコアによく似ているように見えるんだが……」

 

「おぉ!よく気付いたね!!」

 

アブ・マーシュが瞳を輝かせる。あ、これはまずい。

 

「いや、僕もあのコアに感銘を受けたんだ。OB時の変形機構なんかはやられたッ!と思ったね。だけど、君のワルキューレちゃんと一緒で全く機体全体が調和してない!折角どれもこれも美しいパーツなのに……!!」

 

まるでレイレナード製のマシンガンのような早口だ。誰にも口を挟む間を与えずにまくし立てていく。

 

「このホワイト・グリントは、あのクレピュスキュールのコアを僕ならばどのように活かすかをコンセプトに設計したんだ!断言しようッ!!これは最高に美しく最高に強い機体だ!中近距離での射撃戦なら間違いなく敵は無い。さらに!今どこの企業でも躍起になってるAA……あぁ、PAのコジマ粒子を攻撃に転用する技術さ、君もアレサで見た筈だろう?あれがもし実現した時に備え、カメラアイには保護機能をつけている!更に足裏には衝撃緩和用に……」

 

一切止まる気配は感じられない。だが、このタイプは下手に止めてしまうと話が長くなってしまうので、黙って話を聞く。ベルリオーズなど微笑すら浮かべている。いや、あれは少し興奮しているのか?まぁ、美しい機体だからその気持ちは大いにわかる

 

「あぁ、あとエンブレムはシュープリスと同じものを貼り付けていたよ。本当はジョシュアと同じものをつけたかったけど、エンブレムはリンクスの象徴だ。勝手に変えてはいけないと思ってね」

 

「ありがとうございます、今つけている武装は……」

 

「ジョシュアのホワイト・グリントと同じものだよ。まぁ、オマケだと思ってくれたまえ。さて!次は君の機体だよレイヴン!ほら、開けてくれたまえ!」

 

もう一つのトレーラーに合図を送る、同じように被せられていた布が落ち、男の新たな機体が太陽の下に立った。

 

男は、一目見てその機体を気に入ってしまった。

先ほど、ホワイト・グリントを新幹線だと例えたが、目の前に立つネクストを例えるとすれば、戦闘機……それも音速を超えるタイプのそれに見えた。

ホワイト・グリントの各パーツを鋭角に尖らせ、極限まで速さを追求したようなボディ。腕には、まるで鴉の羽根のように黒く塗られたその機体は、一瞬で男の心を掴んでしまった。

 

「N-WGⅨ/v ブラック・グリント。ホワイト・グリントを君に合わせる形で改造した機体さ。ホワイト・グリントの違いは単純!より靭く!より疾く!速度性能を追求して装甲は殆どがPA頼み、腕部も銃器の使用は想定していない代わりにEN適性を極限まで上げ、ブレードのみを使う事に特化させた君だけの機体さ!どうだいレイヴン?」

 

男は、魅入られたようにその機体を見つめていた。あぁ、なんと美しいんだろう。これに乗りたい、これに乗って飛び続けたい、これに乗って戦い続けたい、これに乗ったまま死んでしまいたい。

 

「ふむっふ!どうやらお気に召していただけたようだ!いまは一応オーメル製の長刀をつけているが、君の持ってるムーンライトの方がぴったり合うだろうね!いや良いと思うよ、合うと思うよ!あぁ、あと確か君はエンブレムを付けてなかったね?」

 

「あぁ、まぁ」

 

男は、ワルキューレにエンブレムを付けていなかった。理由は様々あるが、彼の接近戦を中心とした戦い方ではすぐに塗装がハゲてしまう為に、塗り直すのが面倒になってつけなくなったからだ。それまでは、兜をつけた女神のエンブレムを貼っていた。

 

「君みたいな名のあるパイロットがそれじゃあ勿体無い!だから、この黒いホルスの目を象ったエンブレムを貼っておいた!勿論、気に入らなかったら外してくれても構わないが……」

 

「いや、これで良い。これが良い」

 

「それは良かった!」

 

アブ・マーシュはニコニコと笑う。

 

「さぁ、試しに乗ってみてくれたまえ!あぁ、いままで乗っていた機体がもういらないのならこのトレーラーに乗ってる男達に言ってくれたまえ。彼らはそれ専門の業者でね。ネクストの部品を横流しして稼いでるんだ。なかなかの値で買ってくれるよ」

 

「すまん、フィオナ。我慢できないからちょっと乗ってくる。機体については武装とブースター以外は売る方向で進めてくれ」

 

「私も試してみたい、どうだ?軽く模擬戦と行くか?」

 

「いいね、ただ飛ぶよりそっちの方が速く慣れる」

 

「……わかりました、まぁ、新しい機体にのりかえるのなら重要なことですしね」

 

フィオナは、はしゃぎ始めた男達に対しため息を吐くと、アブ・マーシュの方を見た。

 

「ですが、よくこんな荷物を持ってアスピナから出てこれましたね。追手はかからなかったんですか?」

 

「いや、来てるはずだよ。君たちが来る少し前にアスピナに残してる部下から『実験用のネクストが出撃した』って連絡があったから」

 

「…………え?」

 

その時だった。

 

「フィオナさん!すぐに機体に戻ってください!ファフニールのレーダーが四つの高エネルギー反応を捉えて……」

 

ファフニールのレーダー員が窓を開けて叫ぶ。

 

「なんですって!?」

 

「おぉ、どうやら見つけたらしいね」

 

「そんな大事なことを何で速く言わないの!?」

 

「いやぁ、忘れてたんだよ。ごめんごめん」

 

「あぁもう!あなた!すぐにワルキューレに戻って、迎撃の準備を……」

 

「いや、問題ない」

 

男はそう言って、ブラック・グリントのコックピットに収まる。AMSを接続、本当に刀を振るう事のみに特化させたのだな。補助に使う為の操縦機器も、ワルキューレの半分以下におさえられていた。

 

機体に火を入れる。あぁ、これは良い、自分の身体にピッタリと機体が合うのを感じる。大丈夫だ、全く負ける気を感じない。

 

「ベルリオーズ、行けるか?」

 

「大丈夫だ。なるほど、天才の噂は本当らしい」

 

「あぁ、ありゃあの性格を差し引いてもお釣りが来るレベルの才能だ」

 

二つの機体に光が灯る。

一つは蒼、一つは紅。

それぞれのコアが変形し始める。羽根を広げた鳥のように自由で、雄大な姿は、ある種の美しさの極限と言っても良かった。

 

 

次の瞬間、二条の閃光はその名に違わぬ速さで空を駆けた。

 

 

 

 

 

時は戻り、そこから少し時計の針を進める。

 

空港を占拠していたテログループは、通常兵器やネクストだけなら10秒も経たずに、全体は30分で殲滅された。人質に多数の怪我人は出たものの死者は無し、企業の勝利と言える内容だった。

 

翌朝、ファフニールを空港に駐留させ、燃料の補給などを行う。仕事が終わってからずっと寝ていた男は、とりあえずコーヒーを飲んでから始動しようと扉を開けると

 

 

天才が狂人と談笑していた

 

「そうなんですよぉ!クレピュスキュールはどうもまとまりが無い機体になっちゃって……」

 

「本当だよ!それぞれのパーツの美しさを全く活かしきれてない!僕だったら……」

 

「…………何やってんだお前ら」

 

「おぉ!レイヴンじゃん!工場ぶり!」

 

「いやぁ、君に会いたいと言ってたから独断で通したのだが、まさか彼女がイレギュラーだったとはねぇ。いま熱いネクスト談義を……」

 

助けを求めるつもりで周りを見るが、このおかしな連中意外に人はいない。見ると時計の針は既に昼過ぎを指していた。フィオナは依頼主と報酬の確認を、ベルリオーズは昨日言っていた砲弾の調達のために有澤に向かったのだろう。

 

最悪である。天才は、ネクストを設計していない限りはただの変人であるし、狂人はほぼ全ての時において予測不可能なまでに狂っている

 

「……なんでお前がここにいるんだ?」

 

「有澤から接待されてたのん。で、ホテルに泊まってたら空港がテロリズムでー、んで貴方達がすっごい綺麗なネクストに乗ってたから、なんでこんなもん持ってるんだと会って尋ねようと思ったらこのマーシュさんが……」

 

「盛り上がってねぇ、設計秘話から色々と話しちゃったよ!実は僕は君にも大いに興味を持っていてねぇ!どうだい?一機君専用に機体を設計しようか?」

 

「それは大変嬉しいんですけど、実はアクアビットから新しい機体を提供してもらう予定で、こんな機体なんですけど……」ポケットから写真をペラリ

 

「ほほう!なるほど、確かにこれは君にピッタリだろうねぇ。武装はどうするんだい?」

 

「何やら、アクアビット内でコンペをやるらしいです。それで各部門が争うらしくて……」

 

「じゃあ、こういうのはどうだい?実は前からあっためていた武装の設計案があったんだ。アクアビットの技術力なら間違いなく実用化できるだろう!それをコンペの時にアクアビットに送るから、もしそれが勝ち残ったら是非使って欲しい!」

 

「あーそれもう最高です!ありがとうございますマーシュさん!あ、これ私のアドレスなんで、色々と相談乗ってもらっても良いですか?」

 

「勿論勿論、君みたいなリンクスとの交流は創作意欲をガンガン刺激してくれるからねぇ!!」

 

社長達が預かり知らぬうちに突然レイヴンズネストに狂人とのラインが出来上がってしまった。おそらく止めるべきなのだろう。止めるべきなのだが、間違いなく事態が更にややこしくなるためにやめておく。

 

「おおっと!話し込んでしまった、実は今からの飛行機でアクアビットに帰る予定で。連れからはトイレに行くと言って逃げてきたんですよ。そろそろ帰らないと雷落ちるなぁ」

 

「へぇ、連れが。どんな人なんだい?」

 

「優秀なリンクスの卵なんですよ。またいつかマーシュさんにも会っていただきたい。あのウォルコット家の……」

 

ウォルコット家……と聞いてふと戦時中に戦った姉弟を想い出す。抜群のチームワークで、なかなか苦戦を強いられた記憶が……

 

イレギュラーの動きが止まる。と、首だけ動かして男の方を向いた。

 

「…………ミスターレイヴン」

 

「なんだ?」

 

「…………スフィアであの姉弟を倒したのはもしかしなくても貴方?」

 

「……そうだが」

 

何故その事を知ってるかは聞かない。聞いても、答えが返ってくるわけないと確信があるからだ。

イレギュラーが頭を抱える。

 

「どうした?仇の事を追ってるのか?」

 

「いや、そういう事は言ってないけど、心の中では思ってるかもしれない」

 

焦ったように言葉を続ける。義手で頭を抱え、右腕は親指の爪を噛みながら、どうしたもんかと頭をひねる。

 

「…………もし今後、私の連れのリリウム・ウォルコットと会っても、絶対にその事は言わないで」

 

「別に傷に塩を塗り込む趣味は無いよ。だが、知って復讐させても良いんじゃないか?」

 

「負ける気一切無い癖にそんな事を言うな。わたしゃあの娘を守らなきゃ行けないんだから」

 

イレギュラーが溜息を吐く。

 

「まぁ、一人で会った時にその事を知れて良かった。じゃ、またねレイヴン。できればまた、こんな感じの平和な時に」

 

「またなイレギュラー、俺は戦場でも構わんぜ」

 

「それもそれで楽しそうではあるんだけどねぇ……あ、あと名前はジャンヌよ。ジャンヌ・オルレアン。もう首輪がついたんだからそっちで呼んで」

 

ひらひらと、手を振りジャンヌは去って行った。

 

「……なんか疲れたな、また寝るわ」

 

「おやすみなさーい。しっかり休んで心も身体も休めると良いよ」

 

アブ・マーシュがナプキンになにかを書きながら言った。おそらく、さっき言っていた武装の話だろう。

男は二度三度首を揉むと、再び寝室へと戻った。




そろそろLR編が本格的に始まります。

ただ、その前に1話だけ、ある重要キャラの現状について書くと思います。


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ペットを飼いはじめました

初期段階から設定の量が(まだ書いてないのも含め)50倍くらいに脹れ上がっている本作です。

今回はみんな大好きあの人回です。


霞スミカは完全に自己を見失っていた。

 

引き止める声を振り払い、彼女は逃げるようにレオーネ・メカニカから去った。一人ヨーロッパを放浪していた彼女は、今は一人西欧のダウンタウンに建つボロアパートに隠れるように暮らしていた。

 

その部屋には必要最低限の家具すら揃っていなかった。あるのは安酒の空瓶と小汚い毛布、そして部屋の隅に固まった乾いた吐瀉物だけだ。

 

スミカは、ただただ酒を飲むことのみに時間を費やしていた。朝起きてからひたすら浴びるように酒を飲み、気絶する。そんな生活をもう半年は続けていた。

 

今の彼女に、自分を慈しむだけの余裕も理由もなかった。できれば、このまま酒に溺れてしまいたい。何も考えられなくなって死んでしまいたい。あぁ、ゲロを喉に詰まらせて死ぬのも良いかもな。そんな風に毎日考えていた。

 

彼女の身体は、あの時の傷によりネクストの機動に耐えられなくなっていた。もし乗れば、まず間違いなく脊髄に傷が入るという。良くて半身付随、最悪では死の可能性もあるとの事だ。

 

それでも、レオーネ・メカニカは彼女を捨てようとはしなかった。彼女に士官やアーキテクトの道を指し示し、リンクス養成施設での教官という職も案内した。

 

だが、霞スミカはネクストに乗れなくなった自分に価値を認める事が出来なかった。

 

もはや、狂人に対して彼女が復讐を行う機会は永遠に失われた。

自らをこんな姿にしたあいつを殺せない、そんな人生に一体何の価値があるのか?

 

酒をあおる。度数の高さのみが売りの安酒だ。味など無いに等しく、ただ質の悪い酔いのみが身体を支配する。

 

彼女は死にたかった。だが、何度天井に縄をくくっても、その度に聞こえる狂人の嘲笑う声により、彼女は怒りのままに縄を引き千切ってしまう。握ったナイフはぼんやりとしたイレギュラーの幻影に突き刺してしまい、身を投げるにしてもその様子を楽しそうに眺めるクソッタレを相手しているうちに、気がついたら気を失っている。

その他の方法を試しても、まるで弱い自分を馬鹿にしたようにあいつは笑い狂い、スミカは怒りのままに暴れてしまう。

 

結局、彼女は酒に逃げ続けた。酔っている間は、少なくともあの声には靄がかかっていた。このままこの霧が濃くなって、何もわからなくなって死ねたらどれだけ幸せだろうか。

 

もう一度酒をあおる。と、瓶が空になった。代わりを探そうと周りに手を伸ばすが、中身の入った瓶は無い。

 

舌打ちをする、まだ頭に酔いは回っていない。

 

「買いに行くか…………」

 

壁に手をついて立ち上がりながら、スミカは床に放り出された衣服を拾う。レオーネから逃げ出して以来洗濯などしていなかったが、この町ではそんな格好の方がよく馴染んでいた。

 

ぞんざいに靴を履き、フラフラとドアを開く。空はどんよりと曇っていた。ここに来てから、空に太陽を見た覚えがない。

 

柵にもたれながら階段を降りる、部屋の一つから、男女のものと思われる喧騒の音が聞こえた。どこからか子供の泣き声が響き、正気のものとは思えない笑い声が上から降ってくる。

 

それら全てを無視して、うつむきながら階段を降りる。看板だけが煌びやかなアダルトショップの前を通り、霞スミカは曇天の下を歩き始めた。

 

 

 

インテリオル・ユニオン関連の銀行に存在するスミカの口座は未だに凍結されていなかった。未だに潰れずしぶとく残っているチェーンのハンバーガーショップの向かいにあるATMで、限度額いっぱいまで金を引き出して財布に突っ込む。

 

右肩を壁に預けながら、酒屋を目指して歩く。自分を追い抜く人間も、自分とすれ違う人間も、露骨に目をそらして歩いており、車道の向かいを歩く人々は好奇の目でこちらを眺めている。

 

ここに来てから、ずっとそのような目で見られていた。だが、そんな事はどうでも良かった。他者からどう見られようとも、自分が何も成せないクズだという事実は変わらないからだ。

 

ドンッと、何かが身体にぶつかった。

後ろを見る。ボロ衣をまとった子どもが裏路地へと消えたのが見えた。ふと、左の衣嚢をさぐる。

 

やられた、突っ込んでおいた財布が無くなってる。別に、あの程度の金が無くなっても何でもないが、だからって見知らぬ子どもにくれてやるほど彼女は優しい人間では無かった。

 

幸い、酔いはまだ少ない。霞スミカは、自らの財布を奪った物を追うべく走り出した。

 

 

15分ほどかけて裏路地を回り、ついに下手人を見つける。傍にはスミカの財布もあった。

ゴミ箱の上に座ったその少年は、目の前にあるサンドイッチに目を輝かせており、周りが見えていないようだ。

 

ゆっくりと、少年の前に立つ。自分に影が差した事に気がついた子どもは、サンドイッチを頬張ろうと開けた口をそのままに、上を向いた。

 

次の瞬間、少年の青白い顔に霞スミカの足が突き刺さった。

ライ麦で作られたパンと、萎びたレタス、色の悪いハム、黒ずんだ玉子、そして血と乳歯が空を舞う。

 

少年は一度背にしていた壁にぶつかると、そのまま地面へと倒れる。色の悪い血が路地に広がり、椅子にしていたゴミ箱がその上に倒れこんだ。少年のくすんだ金髪の上に腐敗した生ゴミが雪崩れ込む。

 

「財布を盗む相手を選ぶべきだったな」

 

財布を拾う、どうやらサンドイッチの代金程度しか減っていないようだ。まぁ、こんな町で無警戒にしていた自分への罰金だと考えよう。

 

そう思い、彼女は路地から出ようとした。

 

何かが左脚を掴む。スミカは振り返らず、それを思いっきり踏みつけた。

 

「ガァッ!?」

 

まるで獣のような悲鳴を上げ、だがそれはまだ手を離そうとしない。

 

「…………ほう」

 

二度三度と踏みつけ、四度目は踏み躙る。だがそれでも腕は離れず、それどころかますます力を増し、脚へと抱きついた。

 

「かえ……せっ……!!」

 

「阿呆が、もともと私のだ。」

 

左脚に力を入れる。抱きついた少年ごと、それを持ち上げたスミカは、そのまま壁を蹴りつけた。

 

「グァッ!?」

 

全身に強い衝撃を与えられ、やっと少年は手を離し……

 

いや、違う、少年は自分が叩きつけられた壁を蹴ると、スミカの首元へと飛びかかってきた。

 

咄嗟に右腕で首を庇う。鋭い痛みが襲った。重さに耐えられず、思わず倒れてしまう。

 

「離せ!この犬がッ!」

 

右腕に少年の血とスミカの血が混ざる。いくら振り払おうとしても、口を離そうとしない。

ふと、少年と目が合った。

剥き出しの獣性、怒り、飢え、数多の感情が混ざり合った混沌の焔、そんなものがそこでは燃えていた。

 

そこには、あの時の自分と同じ感情があった。あの狂人に対して、自分が抱いたあの感情と。こんな目は、普通の人間にはできない。

 

空いた腕で、少年の首を絞める。流石に死に瀕する苦しみには耐えらなかったのか、少年は口を離した。歯抜けの噛み跡が、生々しく腕に残っている。

 

スミカはそのまま少年を組み伏せる、少年は暴れて拘束から抜けようとするが、体格にも格闘の経験にも劣る子どもではどうもならない。首を絞める。

 

「おい、どうやってそんな目を手に入れた」

 

「………!!」

 

もがき、もがいて、なんとか逃げ出そうとする。だがスミカは少しも緩めず、ますます力を増した

 

「何に対する怒りだ?親か?暮らしか?企業か?世界か?それともそんな相手に対して何もできない自分に対してか?」

 

さらに力をかける。と、ピタリと動きが止まった。

 

落ちたな。それを確認したスミカは少年を担ぐ。

その顔には、久方ぶりに浮かぶ笑みがあった

 

「気に入ったぞガキ。喜べ、このクソッタレな暮らしから抜け出させてやる。」

 

 

 

霞スミカの元上司である参謀将校は、説明された住所にあったアパートの前に立っていた。

 

半年前に姿を消した自社の最精鋭から、私用の携帯電話に公衆電話からの連絡があったのは昨日の深夜の事だった。

 

「もしもし……?」

 

「私だ」

 

「……霞か?」

 

「あぁ、そうだ」

 

「いまどこにいるんだ?ヤケになるなと言った筈だが……」

 

「すまんが、いま説教を聞くつもりはない。明日は日曜だろう?今から住所を言うからそこに来てくれ」

 

「…………わかった、言え。」

 

そして、彼女は住所と、住んでいるアパートの名前と部屋番号を言うと、「では、待っている」とだけ言って通話は切れた

 

次の日の早朝、男は高速鉄道に乗り込んだ。言い方に難はあるが、あの霞スミカが他人にモノを頼むというのは相当の事態だと考えたのだ。

 

インテリオル・ユニオンの支配地域、その西の端のダウンタウンにたどり着いたのは、昼頃の事だった。彼は錆びた階段を一定のリズムで登ると、指定されたドアの前に立ち、ノックし、言った。

 

「霞、いるのか?」

 

中からドンドンという足音、少しして扉が開く。

半年ぶりに会う部下の姿を見て、男は顔をしかめた。

人に会っているというのに下着姿、ボサボサで重力を無視して跳ね回る髪、体臭と吐瀉物と酒気の混ざった臭い、彼女がまだ新人で、自分も使い走りの頃、何度か朝に弱い彼女を叩き起こす為に部屋に行った事があるが、ここまで酷い状況は初めてだった。

 

「若い女の格好じゃないぞ」

 

「22だ。もう若くない」

 

ぶっきらぼうにスミカは言うが、男は表情を変えずに言葉を続けた。

 

「22は充分若いよ、で、何なんだあの電話は」

 

「まぁ入れ、何もない部屋だがここよりは話しやすい」

 

そう言って、スミカは室内に戻った。溜息を吐き、男も部屋に入る。

 

軋む廊下を歩き、ガラスの割れたドアを開いて居間に入る。

 

「…………おい、何だこれは」

 

そこには、霞の他に見知らぬ少年がいた。だが、その様子はただごとではなかった。

この年端もいかぬ子どもは口に猿轡、腕には手錠、首には犬用と思われる首輪が巻かれ壁につなげられていた。何とかそれから抜け出そうともがき、獣のように唸る。

 

「あぁ、それか、下の店で買ったんだ。なかなか似合ってるだろう。特にこの首輪なんか……」

 

「そっちじゃあない」

 

男は溜息を吐く。

 

「言っとくが、ユニオンの支配下で人身売買は許可されてないぞ」

 

「あぁ、そっちについては問題ない。これは拾ってきただけだからな」

 

こんな格好の人間から問題ないと言われても、一切安心などできない。拾ってきた?誘拐ではなくてか?

 

「あぁ、誘拐でもないぞ。警官に聞いたらここらでは有名なストリートチルドレンらしい。だから、誘拐じゃあ無かった。」

 

「……で、何の用なんだ?」

 

男は無理矢理話を続けた。言いたい事は多々あったが、これ以上続けてもマトモな会話になると思えない。

 

霞スミカは笑った。その暗い笑みに、男は暗澹たる思いを抱いた。昔の彼女は、苛烈ではあるもののもっと明るい笑い方をする少女だった。

霞スミカは言った。自信満々に、彼女の見つけた復讐の為の答えを。

 

「なに、単純な話だ。こいつをリンクス候補生の訓練施設に入れて、私をその教官にしろ」

 

 

 

 

 

「リンクス候補生が増える?」

 

アテネにあるインテリオル・ユニオングループのリンクス訓練施設の廊下にて、ウィン・D・ファンションは、前を歩く自分を見出した男に対して尋ね返した。

 

「あぁ、そうだファンション。さらに付け加えると、教官も変更になる」

 

先月から少しばかりやつれた様にも見える男は、頷く。

 

「一体誰をだ?私の見た限り、他にモノになりそうな人間はニューメキシコにはいなかったが」

 

「いや、彼処で見つけた訳ではない。今から紹介する教官が連れてきたんだ」

 

「……何だと?」

 

ウィン・Dが動きを止める、短く切られた真鍮色の髪が揺れる。男は振り返ってその表情を見る、あぁ、怒ってるなアレは。

 

「ふざけているのか?アレを通さずにリンクスになるだと?」

 

「本人は至って本気だったよ。無茶苦茶な課程だったが、一月で養成施設のカリキュラムを終わらせた。それに……」

 

「それに?」

 

「……AMS適性検査において、その新しい候補生はセロ並の結果を叩き出した。」

 

「……天才ということか?」

 

「紛れも無く……な。流石にあの結果は驚いた。全く、最初は何を妄言をと思っていたが……」

 

何事かをブツブツ唱えながら、男は再び歩き始めた。ウィン・Dも付いて行く。

 

「で、その二人は?」

 

「そこのトレーニングルームにいる。……前の教官みたいな態度は取るなよ」

 

「無能じゃなかったらな」

 

男はその言葉を聞くと苦笑を浮かべ、まぁ、頑張れよと去っていく。ウィン・Dは一度扉を睨むと、一歩前に進んだ。自動扉が彼女の姿を感知し、扉が開く。

 

「ウィン・D・ファンション候補生、入室します」

 

そこには、異様な光景が広がっていた。

 

「958、959、960、ペースが落ちてる。終わりが近いらしいからって手を抜くな。」

 

赤い首輪を付けたは少年が、足でもって鉄棒にぶら下がり、滝の様な汗を流しながら腹筋を行っていた。

 

スーツに身を包んだ女は、その様子を見ながら淡々と数字を数えている。

と、入ってきたウィン・Dに気づいたのか、顔をチラリと上げる。

 

「あぁ、お前が例のもう一人か」

 

女は立ち上がり、ウィン・Dに近づいた。背は、170のウィン・Dと同じくらいだろう。

 

「…………言っておくが、前任者のような甘い指導をするつもりは毛頭無い。貴重なリンクス候補生だからって、使えなきゃ意味は無いんだからな」

 

「こちらも最初からそのつもりです。厳しいご指導を期待しております、教官殿。」

 

「ふん、口の達者さだけは一人前らしい」

 

と、後ろで腹筋を続けていた少年が叫んだ。

 

「おいセレン!1000回終わったぞ!!」

 

「ほう?私が見ていない間にペースを倍にしてか?追加、100回だ。やっていない20もキチンとやれよ」

 

「クソが……!」

 

少年は唾を吐き捨て、再び腹筋を続ける。

 

「さて、ウィン・D・ファンション候補生。貴様も指導するというのは私にとって本意ではなかったが、条件として出された以上容赦はしない。こいつと一緒にこれから卒業まで人生において最悪の時を過ごしてもらう事になる。私を甘い女だと思うなよ?」

 

そして、目の前の女は口元だけで笑みを浮かべた。その表情を見て、ウィン・Dは自身の身体が少しばかり震えたことを感じた。

 

「セレン・ヘイズだ。この名前を一生忘れられないものにしてやる。戦場で出会うどんなリンクスよりも、地獄の獄卒共よりも恐ろしい存在だったとなと」




なんでこのSSは登場人物がどんどんと歪んでゆくんだ。


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渡鴉は山猫の夢を見るのか?

これは、天才で無かった者たちの新たな戦いの物語である。

実を言うと、1番好きなレイヴンはエヴァンジェです。私はあのラストで泣きました。

❇︎サブタイトル変更しました。


これが……本物か……

 

エヴァンジェは、一人コックピットの中で自嘲した。

最早、勝敗は決した。オラクルのAPは尽きたも同然。いくつかのパーツは火花を噴き、まともに動くともできない。

 

機体を壁にもたれさせ、一人息を吐く。

 

「……笑わせる、偽物は私の方だったか…」

 

外装だけでなく、コンソールからも火花弾けるオラクルの中で、エヴァンジェは相対する鴉に向かって言った。どちらの姿もボロボロだ、レイヴンは右腕とヘッドパーツを失っていた。だが、彼の腕なら問題なくやり遂げるだろう。

 

その時、唐突な爆発音と共に独特の駆動音が響いた。二人が同時に空を向く。

パルヴァライザー……ただただ全てを粉砕し続ける無人兵器。その姿は、もはやACとはかけ離れた姿になっていた。

 

エヴァンジェは、それに対し右腕のリニアライフルを放つ。パルヴァライザーはそれを躱し、空へと舞う。

 

扉が開く。インターネサイン、世界を破壊し尽くした元凶への道がこの先にある。

 

エヴァンジェはレイヴンの方を見る。ここで、共倒れする訳には行かない。どちらかがインターネサインを破壊し、世界を救わねばならない。

そしてそれは、間違いなくドミナントである彼が為さねばならぬ事だった。

 

「奥の施設を破壊してくれ、ここは任せろ…‼︎」

 

レイヴンは頷き、そのまま奥へと進んで行く。

 

「お前ならやり遂げるかも知れん…」

 

いや、やり遂げるだろう。男は心の中で言った。あれは、間違いなく戦闘の天才だ。ジナイーダも強かった、だが、彼はモノが違う。彼こそが、彼だけが、全てを終わらせる事ができる。

 

再び、鴉がこちらを向いた。何も知らずに潰しあったもの、ジャック・Oに選ばれなかったもの、それぞれの想いの為に戦ったもの。この24時間の間に、多くの命が散った。もはや、この世界に鴉は彼と……いや、彼しか存在しない。

 

エヴァンジェは笑った。ジャックから見れば、自分の行動は道化のようだっただろう。だが、真のドミナントを見る事ができた。そして、彼を護る為、世界を救う為に死ぬ事が出来る。凡人に用意される最期としては、充分過ぎるほどだろう。

 

「後は頼んだぞ、レイヴン!」

 

扉が閉ってゆく。鴉は前を向き、もうこちらを振り向く事はなかった。

 

エヴァンジェも前を向く。ライフルも、イクシードオービットも、そして肩部に背負った〝決戦兵器〟も、残弾は少ない。頼りになるのは、世界がこんな姿になる以前から使い続けた左腕のブレードのみだろう。

 

エヴァンジェは、ムーンライトをゆっくりと天へと、空を飛ぶ破砕者へと向けた。

たとえこの命尽きようとも、この無人兵器を通す訳にはゆかなかった。それが送り出した者の責任であり、彼の凡人としての意地だった。

 

「行くぞパルヴァライザー。人間を…レイヴンを……舐めるなよ…!」

 

ブースターが稼働する。EOが展開、リニアライフルが唸り、エヴァンジェはブレードを振りかぶった。

 

パルヴァライザーとそのオービットキャノンによる全方位からのレーザー攻撃、大きなものはかわせるが、小さなものまで気にする余裕は無い。既に500を切っていたオラクルのAPが二桁台に突入する。しかし、それでも彼は動きを止めない。

 

遂にAPが一桁代に突入した。機体が、身体が、悲鳴をあげる。だが、何とか刃の範囲にたどり着く。

 

ブレードを展開する。黄金の鞘から、蒼月の刃が現れる。エヴァンジェは、燃えんばかりに熱せられた操縦桿を握り。ムーンライトでもって……

 

次の瞬間、彼の身体を激しい痛みが貫いた。オービットキャノンによる一撃が、ブースターを貫き、背後からオラクルのコアを襲ったのだ。

反射的に、エヴァンジェは下を向く。彼の半身はそこにはもう存在してなかった。

 

さらに、パルヴァライザーの両腕のブレードが、オラクルの頭部とコアを貫く。エヴァンジェの右腕も、それと同時に蒸発した。

 

APが0を指し示す、エヴァンジェの身体が限界を叫び、脳が次々とその働きを停止してゆく。視界が闇に閉ざされる。

 

だが、瞳が暗闇に包まれる直前に映した福音を、エヴァンジェは見逃さなかった。

オラクルのジェネレーターは、未だ左腕にエネルギーを供給し続けていた。そして、強化人間としてオラクルと繋がっている彼の身体は、左側の稼働が可能なことに気づいていた。

 

エヴァンジェは口元に笑みを浮かべ、倒れるように、だが自らの意志でもって、操縦桿に焼け付いた左腕を押した。

 

彼が意識を手放す直前、エヴァンジェが最後に知覚したのは、ムーンライトが振るわれる音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっちゃな頃からレイヴンで〜、15で異端と呼ばれたよ〜〜」

 

両耳に異なるイヤホンをつけたジャンヌ・オルレアンは。左耳から流れるチェッカーズの名曲を歌いながら、傍に置いてあったコジマ・コーラを喉に流す。

 

「月光みたいに尖っては、戦う者みな……切り裂いたぁ〜〜」

 

日本から帰ったジャンヌが冗談交じりに提案したコジマ・コーラだったが。恐ろしいことにアクアビットの社員はそれを冗談とは捉えなかった。傘下の清涼飲料水の開発を行う企業との協力により、コジマ・コーラの試作品は完成してしまった。アクアビット驚異の技術力により、王冠により封印されている時は一切のコジマ漏れは起こっていないが。一度蓋を開けると、爽やかな香りや炭酸と共にコジマ粒子が漏れ出すこの革命的な飲料は、数名の被験者とジャンヌによって試飲が行われた。

飲んだ被験者10名の内10名は、全身から血が噴き出し、喉と臓腑を掻き毟り、しかし顔だけは恍惚として死んでいった。唯一無事なジャンヌは、「いままで飲んだどんなドリンクよりも美味い」とその味に太鼓判を押した。

 

さらに、アクアビットの研究員からの評判も良かった。「あの美しいコジマ粒子を近くに置いておける」とインテリアとして評判となったのだ。

そのため、コジマ・コーラは少量ではあるが量産されることとなった。

 

ジャンヌが摂取したコジマ粒子は、排泄される事なく全て彼女の身体にとどまっているらしい。

「いつか、私も光り出すかもね」と笑ったときの、あのリリウムの苦々しい表情はいまでも頭に残っている。

 

「あぁ↑あぁ↓わかってくれとは言わないがぁ!そんなに俺が悪いのかぁ!?」

 

超絶技巧でエアギターを掻き鳴らす。いいね、最高に乗ってきた!へい!盛り上がってるかいアリーナ!!

 

「カラサワ カラサワ お休みヨォ!!ピーピピボボボボ(デデデデデデデデン)子守唄ァ〜!!」

 

でれすてってってでーでん!でれすてってってででででで!!

 

「恋した主任と二人して〜、世界を壊そと……」

 

「ジャンヌ様!!」

 

唐突に、右耳にリリウムの声が突き刺さる。ジャンヌは驚き、エアギター(1965年のジャンヌオリジナルモデル。ストラディバリウスと同じニスが塗られている)を落としてしまった。

 

「ど、どしたんリリウム。犬の糞でも踏んだ?」

 

「違います。真面目にして下さいと言っているんです」

 

ジャンヌとリリウムは、現在アクアビット社の近く、ネクスト演習用の敷地内で、ランスタンによる機動訓練を行っていた。

この訓練用ランスタンは、コックピットが複座に改造されいた。普段はリリウムが操縦し、もし危険な動きが見えた時はジャンヌがコントロールを掌握し、立て直すという方式で訓練を行っていた。

 

「だってー、リリウムが訓練でガチガチだから、緊張ほぐすために歌の一曲でも贈ろうとおもって……」

 

「ジャンヌ様はいつも歌っているように記憶しているのですが」

 

リリウムがジト目でそう言う姿がありありと頭に浮かぶ。可愛い。見たい。

 

「まぁ、アレだよ、リリウムは操縦は上手いけど、緊張しすぎるのはダメなところだね。適度な緊張感と適度なゆるみ。これがネクスト操縦に最重要な事だ。」

 

外付けされたカメラから外部の様子を確認しているジャンヌが、これまでのリリウムの動きをそう評する。なかなかモノになって来てはいるが、まだ少しばかり視野が狭い。

 

「では、どうしましょうか?」

 

「操縦しながら私と会話しよう。多くの事を同時に処理できるようになれば、不思議と余裕も出てくるし、リンクスとして戦うにもマルチタスクが可能というのは重要だ」

 

たまには真面目に訓練内容を指示してみると。なるほど、確かにそうですねとリリウムか頷いた。

 

「では、どんなおしゃべりをいたしますか?」

 

「うーん、そうだねぇ。そういえば、リリウムってテレジアさんと仲良いよね」

 

ミセス・テレジア。旧GAEの女リンクスだ。幸の薄そうな銀髪で見た目は妙齢の美人だ。同じリンクスなので時たま話したりするが、そこまで深くは関わった事はない。

リリウムは、アクアビットに来て以来よくミセス・テレジアと過ごしていた。ジャンヌといない時は、テレジアと共にいると言っても過言ではない。

 

「えぇ、テレジア様にはここに来て以来色々とお世話になったので」

 

ブースターで規定のルートを飛行しながら、リリウムが言う。ジャンヌは計器を見る、少しばかり、エネルギー管理に敏感すぎるかな。まぁ、いまコントロールを奪うまでのものでもない

 

「テレジアってどんな人なん?ミセスなんて言われてるんだから旦那さんもいるんでしょ」

 

「……それは」

 

「……あれ、聞いてはいけない系の質問だった?」

 

「……一度だけ、話してもらいました。GAE社のメカニックで、GA社からの粛清の際に、とだけ言っておりました」

 

ぐげー、未亡人かテレジアー。くそー、萌えるー。

 

「ジャンヌ様、くれぐれもテレジア様にデリカシーの無い言葉をかけないで下さいね。ジャンヌ様は、良く人の気持ちを無視するきらいがあるので。」

 

「ははは、まぁ、うん、善処するよ」

 

「徹底してください」

 

ぴしゃりとリリウムが言って、そういえばと言葉を続ける。

 

「最近テレジア様を見かけないのですが、本社から離れておられるのですか?」

 

「あぁ、何でもアクアビット領内で大規模な資源埋蔵地が見つかったらしくてね。そこの採掘部隊の護衛に行っているらしい」

 

恐らく、B7だろう。これからコジマが漏れたり首輪付きに襲撃されたりコジマが漏れたり首輪付きに襲撃されたりと血が多く流れる場所だ、なるべく早いうちに資源を取り尽くさねばならない。

 

「そうですか……。ならば、長期の仕事になるのですか?」

 

「さぁねぇ。そこまでは流石にわからんねぇ。」

 

などなど、楽しくリリウムとの会話を行う。コジマ・コーラを飲み、なんか漫画でも持って来れば良かったかなぁ。

 

そんな事を思っていた時だった。

 

「……ジャンヌ様」

 

「ん?どないしたん?」

 

「前方、何か倒れていませんか?」

 

「どれどれ」

 

リリウムの言葉を聞いて、ジャンヌも目を凝らす。確かに、向こう側に青い何か……人型の……ACか?が倒れていた。

 

「どういう事だ、行き倒れか?」

 

「……どうしますか?」

 

「コントロール代わるよリリウム、確認しに行く」

 

移動訓練用のネクストであるこの機体に、武装やPAの発生機構は搭載されていない。もし不明のものの正体が敵の場合は、すぐに逃げなくては撃墜されてしまうだろう。

 

「わかりました」

 

リリウムの承諾を確認し、AMSを接続する。っし、これでよく見える。

 

警戒しながら不明機に向かい飛行する。

 

少しして、その正体がわかった。

 

「……これは」

 

「ノーマルAC……ですか?」

 

いや、違う。ジャンヌは心の中で否定した。

 

そこにいたのは、エヴァンジェの愛機〝オラクル〟だった。何故こんなものがAC4の世界に?と一瞬疑問が浮かび、すぐに消え去る。そういや、LRのキャラとインターネサインを異世界転成するよう願ってたな。既にここに来て三年以上は経過しているのですっかり忘れていた。へけ!!

 

と、いうことは。隊長は運良く私の近くに転成したという事か。今頃、他の二人やインターネサインも、何処かに飛ばされている事だろう。

よしよし、これで少しばかりはこの4とfAの幕間の時間も楽しいものになるな。そんな事を考えながら、ジャンヌはオラクルの姿を確認した。

 

左腕には光り輝くのドミナントブレード、右腕には隊長リニア。そして背には、あの絶対撃墜軽リニアではなく、何故かグレネードが積まれ……

 

ここで、ジャンヌの視線が止まった。

 

えっと、うん、えっと、あれ、なんで、なんだ、どぼじて?

 

「……?どうかされたのですか?」

 

「あ、いや、とりあえず動かないらしいし、降りて確認しよう」

 

そう言って、ジャンヌはランスタンを地面に降ろす。

 

…………間違いない。これは、あれだ。LRでお世話になりまくり、なおかつ辛酸舐めさせ続けられたこの武器を見間違えるわけがない。

 

だけど、なぜ?

 

 

 

なぜ隊長が、ライウン砲を装備してるんだ?




LRをやった事がない人!とりあえずこの機会に買ってやってみよう!最初は報酬金の高い管理局強行偵察をクリアしておけば後々が楽だよ!


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それは異世界転成においてテンプレ的な触れ合いである。

PSPを買い直して未所持の3からやろうかなと思う今日この頃。

ちなみに好きなレイヴン第2位はリム・ファイアーです。強くてカッコいいキャラに憧れる傾向がある。


「リリウム、ハイエンドノーマルという言葉に聞き覚えは?」

 

「国家解体戦争以前に存在したハイエンドモデルのノーマルの事ですね。リリウムの読んだ本では、コストの問題から企業統治時代になってからは製造されていないと書かれていました」

 

「うん、そう」

 

流石、よく勉強している。

 

「これが、そうだと?」

 

「恐らくね、企業量産のノーマルにしては造りが複雑すぎる。」

 

AMSの接続を解き、ハッチを開く。

 

「リリウムは本社に連絡して、私が確認してくる」

 

「は、はい。わかりました」

 

ひょっこりと体を機体から出し、オラクルへと飛び移る。ガギンという鈍い音。痺れはあるが痛みは無い。うん、さすがに信頼と実績のクレスト製品だ。私という実弾攻撃じゃビクともしない。

 

……ほんと、美しい機体だ。こいつがいなければ、私がインターネサインにたどり着く事も無かったと思うと涙が出てくる。

 

さて、外部から開くハッチは……っと。これか。ふむ、やはりネクストとは構造違う……なっと!

 

オラクルのコア、ビョビョビョンと伸びた銃身のようなモノが開く。うわ、装甲あっつ。うーん、良いねぇ。ミラージュは重量級が好きなんだけど、クレストは中量級が良いよね。なんか、こう、主人公っぽくて。

あ?キサラギ?虫。

 

さてさて、コアにいらっしゃるのはあらイケメン。パツキン細身のモデル顔。色付きのスタイリッシュなサングラスがイカすね。

 

口元に手を近づけて呼吸を確認。OK、生きてる。流石にオラクルだけ来ても面白みが半減だからね。

 

と、なると。起こさねばならぬだろう。へいへいはりーはりーどみどみどみなんとー!!

 

ぱんぱんぱんとエヴァンジェの顔近くで手を叩く。

 

「ん……あ……」

 

オーイェイ。目が覚めたらしいな。おはよう、くそったれなこの世界へ。

 

「起きたみたいね」

 

イメージはクール系ツンパイロットです。デレたその回に無惨に死にます。コックピットに突き刺さったミサイルの推進剤で焼き殺されるパティーンです。

 

「き、君は…………」

 

大混乱中らしい。そりゃそうだ、なんたって国境の長いトンネルを抜けるとそこは雪国だったんだからな!!

 

「ただのしがないAC乗りよ。こんな所で寝ている不審者に職務質問に来たね」

 

「寝ていた…………?」

 

そこで、ハッと何かに気がついたように周囲を確認するエヴァンジェ。まず自らの右腕や脚を確認して頭を押さえた後、こちらを向く。

 

「パルヴァライザーは?インターネサインは?」

 

何言ってるのよ!パルヴァライザーならあんたが乗り込んでインターネサインはジナイーダが破壊したわよ!!

 

「パルヴァライザー?インターネサイン?何の話だ?」

 

もちろん、そんな思考などおくびにも出さずに怪訝な表情を作る。だってんなもん知ってたらやばいもんげ!

 

「知らないのか……?いや、しかし……」

 

ここで、エヴァンジェが私の後ろを覗き込む。クレスト本社ビルはそこになく、ただただ広がる平原はさぞ彼の度肝を抜いた事だろう。

 

「どこだ……ここは……?サークシティは……レイヴンは……?」

 

「どこって言われても……」

 

私は困惑した表情を作りながら、言葉を続ける。

 

「ここはアクアビットの主権領域内よ。サークシティってのは知らないわね。それにレイヴンなんて……アナトリアの知り合いなの?」

 

少しばかりセリフ選びがわざとらしいかとも思うが、まぁ相手は混乱中、この程度の怪しさには気付かんだろうと高を括る。

 

「サークシティを知らない……?アナトリア……?いや、だが、私は……」

 

混乱しているエヴァンジェを眺めながら、私は肩を竦めて後ろを見る。そしてランスタンに乗り込むリリウムに向かって……あ、ハッチから心配そうに頭だしてる。可愛い……ハンドサインを送る。

 

まず右腕中指で頭を二度ノック。そのあと人差し指を三周ほどくるくる回し、一度拳を作り。ぱぁーっと広げる。

「よくわからんがこいつ頭がおかしいらしいぞ」のサインである。

 

「グダグダ言ってないで、とっとと立ちなさい。あんたが何者かは知らないけど、アクアビットの敷地内に入ったんだから事情は聞かせて貰うわよ。いったいどうやって前線の警戒網を抜けてここまで侵入してきたとか……」

 

「……先程から言っている、そのアクアビットというのは?」

 

驚愕の表情、それもだいぶ大袈裟のを作る。なお、アクアビットとはポテトの蒸留酒の事らしい。

 

「アクアビットを知らない!?なんの冗談!?ここら一帯地域を支配する大大大企業よ!!赤ん坊が最初に使う言葉でママの次にアクアビットが多いって程の有名企業なのに……」

 

端的に言うとキサラギみたいな所よ。生物兵器は作ってないけど。

 

「この辺りを支配する企業……?アクアビット……?」

 

ここで、エヴァンジェはもう一度頭をかかえる。そして、自分の右腕や脚に触れ、もう一度周囲を見る。何があったんだ右腕と脚に。

 

そして、天を仰いだ。何かに気づいたのだろう。

エヴァンジェはこちらの顔を見ると、一つ尋ねたい事があると口を開いた。

 

「クレストやミラージュ、そしてキサラギといった言葉に聞き覚えは?」

 

ハマーン・カーン、消えろイレギュラー女子、AMIDA

 

「何それ。聞いた事も無いけど?」

 

私はもう一度肩を竦めた。すると、エヴァンジェは何かを悟ったように笑った。自らの運命の数奇さにだろうか。それとも現状のおかしさに?あ!わかった!ジャンヌ・オルレアンちゃんの可愛さにほおが緩んじゃったんだ!!もぉうダメだぞ、このえっち!!

 

「すまないが、今から君にとって信じられ無いような事を言っていいか?」

 

「なによ。まさか、私は宇宙から来たエイリアンです!だなんて言い出さないでしょうね」

 

エヴァンジェはその言葉を聞き、自分も困惑してるんだと言わんばかりにはにかむ。

 

「まぁ、近いな」

 

「……と、言いますと?」

 

「どうやら私は、別の世界からここに飛ばされたようだ」

 

その言葉を聞いて、まず私はため息を一つ。そしてあーハイハイといった理解のポーズを示し、優しい笑顔を浮かべて言った。

 

「成る程、頭の病院から脱走してきたという事ですね」

 

我ながら失礼な言葉である。許せエヴァンジェ、でも常識的にそんなこと信じられるわけないだろ?

 

 

 

本社からやってきたトレーラーやらMTやらに乗り、エヴァンジェとオラクルはアクアビット社内に運ばれた。今頃、オラクルはバラバラに解体され、エヴァンジェはどう説明すれば良いかと頭を抱えている事だろう。

 

「あの人は、異世界から来たと言っておられたのですか?」

 

訓練が途中に終わり、部屋の中で一緒にゴロニャンしていたリリウムが尋ねてくる。久しぶりにドラクエ5をやりなおしていた私はポーズボタンを押すと、リリウムの方を見た。

 

「そうそう、ふざけた事言うよね。あんな科学的にありえない言い訳する奴初めて見た」

 

全身神様チートとかいう非科学的極まりないアドバンテージをもらって転成した奴が絶対に言ってはいけないセリフである。しかもエヴァンジェが来た原因私やし。

 

「…………」

 

「ん?どないしたんリリウム。」

 

まさか隊長を嫌いになってしまったん?やめて!今は側から見たら変な事言ってるけど最高のイケメンなのよ!あんたも命救われたらわかるって!ACだなんて過信してる奴は過信したまま死んでいくのが常なのに、隊長は自分の間違いに気付いてなおかつ彼のドミナントが為さねばならぬという気持ちに基づいてレイヴンを庇って一人勝ち目の戦いに挑むのよ!あんなかっこいい奴いないよ!!

 

「……いえ、異世界というのが本当にあるのではと少し胸をときめかしてしまったので」

 

そういえば、イギリスといえば指輪物語とかハリポタとかファンタジー文学のイメージあるな。ナルニア国物語とか異世界との行き来の物語だし。リリウムは文学少女だから、その辺りに夢を持ってるのかしら。何それ可愛い。まぁ、まだ12歳くらいやもんなぁ。

あぁ、それなのに私は!サンタクロースを純粋に信じる子どもに向かって、親が枕元にプレゼントを置く写真を突きつけるような、そんな情緒の無い事をやってしまうとは……あぁ……私の馬鹿……ゴメンねリリウム。異世界はあるよ。コジマ粒子なんて存在しない異世界や、特攻兵器によって壊滅状態になってる異世界があるんだよ!ライオン?喋らないよ!

 

「それに……」

 

「ん?」

 

「ジャンヌ様、何か隠してきますよね?」

 

今更何を、私なんて魂以外は全てが嘘だぞ。

 

「どうしてそう思うの?」

 

「ジャンヌ様の喋り方がおかしい時や芝居掛かっている時は、だいたいそうです。あのノーマルのパイロットに対して、何か思う事があるのでは?」

 

ふむ、せやな。意識的に三流芝居の大根役者をやってるってのもあるけど。

まぁ、喋る気は無い。だが、否定する気も無い。こういうのは余裕ぶって適当言っとけば良いのである。私は冷蔵庫から緑色の瓶を取り出す。これを見ると、リリウムは目に見えて身体を引く。大丈夫大丈夫、開けない限りは絶対安全安心よ。

 

「さぁね」

 

私はそう呟き、部屋を出ようとする。そうだな、地下のコジマ試験場あたりで飲もうかな。あそこの光景は幻想的で綺麗なんだよねぇ……。

 

「まぁほら、女は謎と秘密の分だけ綺麗になるって言うしね。じゃ、私は一杯飲んでくるから。」

 

ロリロリ幼女には全く似合わないセリフとついでに回収する気の無い伏線を残し、部屋を去る。今から行くのがジャンヌ以外にとっては死の世界である事を知っているのでリリウムは追ってこない。

うん、いい逃げ道を手に入れた。味もそうだが、持つだけで誰も追ってこないと言うのは素晴らしい。感謝しなくちゃな。

 

私はコジマ・コーラの瓶を上に放る。クルクルと空中で舞うそれを、私は余裕を持ってキャッチす……

 

あっ

 

…………

 

……………………

 

………………………………そーっ……

 

セーフ!!セーフ!!流石アクアビットの技術力!!素敵!!最高!!

 

久々に恐怖で高鳴る心臓を無理矢理奮い立たせ、私は急いでコジマ試験場へ向かった。もう、コジマ・コーラの瓶を投げたりはしなかった。




クロスオーバーものにおいてオリキャラによって目覚め異世界と確信するのはテンプレなのかという顔をしてる。


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アクアビットは成長する その1

オラクル解析編 前編




恥の多い吾輩の長いトンネルを抜けると、激怒した。

 

おはようございます、ジャンヌ・オルレアンです。朝起きた時に文学的に有名な一文を付け加えると、近代文学の名作のような人生を送れる健康法を実践中です。カンパネルラ。まてよ、名作近代文学ってどれもこれもだいたいオチがロクでもなくないか?なんでKとのみ刻まれたシュールな墓にしがみつきながら咽び泣かねばならぬのだ?終了!お疲れ!というわけでジャンヌ・オルレアンでしたー!ちゃんちゃん!

 

ちなみに現在時刻は午前2時です。リリウム寝た後ずっと布団に横になりながらACLRやってたので寝ていません。

 

しかし、なんであんな装備をしていたんだろうか、隊長は。確かに両肩バズ装備の隊長そんな強く無いけど。うーん、まぁACの良い所は自由なアセンブルにあるからなぁ。行き着いたのかなぁライウン砲に。辛かっただろうなぁLRのレイヴン。

 

などなどと適当な事を考えながら、とりあえずルートを一つクリアする。いやぁ、やっぱり、バーテックスルートは最高だよ。ほんと、泣けるね!!特にあいつの最期はもう号泣したもん!!

 

最高だよね、レビヤタン。特に量産型の勇姿は……よき……

 

しかし、暇だな。目が冴えに冴えている。このまま寝るというのもなんだかつまらない。どうせ明日はそこまで予定もないし……

 

むくりと起きる。リリウムを起こさないようにそーっと布団から抜け出し、ヘッドホンを装着。

音楽プレイヤーをポケットに詰め込み、深夜のアクアビット散歩と洒落込む。

 

 

 

アクアビット社はどこもかしこも常に清潔に保たれている。きゅっきゅきゅっきゅとリズミカルに床に足を擦らせ、道を行く。

10分ほど歩いた後、本社中央を貫く人間用エレベーターに乗り込んだ。10秒ほどどこを歩くか考えた後、そうだな最下層から色々覗こうかと、ボタンを押した。

 

アクアビット社は、大きく分けて三層に別れている。ネクストや兵器類のガレージ、そして実験場(4で自律ACと戦った所を思い浮かべてもらいたい)の存在する下層。アクアビット社の誇る精鋭研究員達が日夜技術の発展と次の戦争の為に命を削る中層。そしてそれらの人々の住居スペースや、商業区の存在する上層だ。湖底までのエレベーターで繋がっている広大な実験場も存在してるのだが、そこではもっぱらネクストの本格的な戦闘訓練や機動実験に使われており、今行っても何も面白いことは無い。

 

 

 

下層についてみると、丑三つ時とは思えんほど騒がしい。まぁ、理由は明白だが。

 

解析しているのはノーマルの筈なのに、嬉々として指揮を執るネクスト班の主席、パトリックに話しかける。

 

「おぉジャンヌさん!どうされました?」

 

昼の三時くらいじゃなきゃ耐えられないレベルの声である。タチの悪いことに、どうやら昨日は睡眠したらしい。いつもは120%程度のテンションが5倍に跳ね上がってる。自分もテンションは高い方なのだが、この体育会系の前に立つとどうも尻込みしてしまう。

 

「お疲れ、どう?何か発見は?」

 

「……実はね、私は思い始めたんですよ。彼の言ってる事は本当なのではってね」

 

藪から棒にどうした。

 

「……あの、異世界から来たってやつ?」

 

「えぇ!それくらいにこのノーマルには謎と技術が詰まっています!見ます?見ましょう!特に貴女は見るべきです!」

 

そう言って、早送りでもしているかのようにたったとパトリックは歩き始めた。私もついて行く。

 

 

主に、コジマ兵器以外の試験に使う地下試験場に来た。いま、そこでは解析を終え、各種兵器類の試験を行うオラクルの姿がある。

 

「ジャンヌさん。ハイエンドノーマルについての知識は?」

 

「殆ど無いわね。ネクストみたいにアセンブル可能ってくらい」

 

4系の公式小説、全然読んで無いのよね。

 

「まぁ、アセンブル可能なノーマル程度の認識で大丈夫です。国家解体戦争前に一時期流行はしたんですが。高コストな割に企業が量産するノーマルとは性能があまり変わらないのですぐに廃れたのです。ですが……」

 

ガン!とパトリックが強化ガラスを叩く。彼は笑みを浮かべながら、オラクルを指差した。

 

「あのノーマルAC……いえ、オラクルにはあんなハイエンドノーマルとは比べ物にならない程の技術が詰まっているんです!高威力かつ、ノーマルに搭載可能なまでにコンパクト化された背部レーザーキャノン。リニア効果を利用し、高い弾速や衝撃を持つライフル。コアに装備された、自律、攻撃を行うオービット兵器、そしてあのブレード……!」

 

「ブレードに何か秘密が?」

 

「そうなんです!もうレイレナードのブレード開発に関わってた技術者が悔しがる程の技術が彼処には詰まっていたんです!」

 

そこから、パトリックはブレード光波の話をし始める。

私はというと、レイレナード……と聞いて、そういえば最近研究者が増えてきたなと思考していた。ACfAでは多くはオーメル社に吸収されていたが、同胞が比較的元気なこっちの世界では、なかなかの数がアクアビットにも流れているということなのだろう。

 

「これらの技術を次期主力ネクストACや、計画中の量産型ノーマルに使う事ができれば!間違いなくアクアビット社の復興に大きな力となるでしょう」

 

……モロモロ聞き逃してはいけない言葉が聞こえたぞ。まず自社ネクストだって?トーラスマンにEOでもつけるのか?ただでさえ死んでいるEN周りにトドメを刺すつもりなのか?そして量産型ノーマル?トーラスがノーマル作るの?正気?本当にやるの?

 

 

最高だな、おい。

 

 

「あぁ、勿論!ジャンヌさんの新型にも詰め込みますよ!」

 

「新型?」

 

尋ね返す。技術研究の為にバラバラになったクレピュスキュールの代わりに、私には新たな乗機として、ラグナロクが回されていた。今は湖底の試験場で各種試験や調整をしているのだが……

 

「あれじゃなくて、また新しく建造するの?」

 

「そうです!ネクスト班で拡張の為のパーツ等を考えていたら、どう考えても新しく設計し直したほうが効率的になると判断しましてね」

 

どんだけ無茶苦茶な改造をしようとしたんだよ

 

「完全新規にジャンヌさんの為に設計、調整をする事になりました。えぇ、完全にジャンヌさん専用機です。安心してください、他の天才程度のリンクスでは、間違いなくAMS接続をした途端に廃人になります。あ、違うな。搭乗した途端コジマ汚染で死にますね。訂正します。」

 

頭おかしいのか?

 

恐ろしい事に、アクアビット社は現在開発分野において、資金という唯一のストッパーが解除されていた。理由は単純である。私が持ち込んだ大量の金だ。

 

……自分が言うことでは無いが、もう少し色んなものを疑ったほうが良いと思う。何度か研究者達に私の身体の出所が気にならないかなどと尋ねたことがあるが。「そんな事に気を揉む時間があるなら、その技術を研究・発展させることの方が多いに効率的だ」と真顔で言っていた。……まぁ、私としては気楽で良いのだが。

 

速足で歩いてきた元GAE社の技術者とすれ違う。手には、オラクルと思われる機体の図面。プラズマライフル等を開発している技術者達が、レーザー部門の立ち上げ上申をすべきかどうかを話し合っている。新型ネクスト開発のコンペにおいて、見事量産を勝ち取った若いアーキテクトは、目を輝かせながらオラクルの姿を眺めている。技術者達は興奮した面持ちで、このもたらされた技術を吸収し、応用しようとしている。

 

アクアビット社は、急速に回復している。もたらされた数多のイレギュラーを駆使し、その力と発想を、企業の罪の清算に、人類の未来の為に使っている。

今後、トーラス社として彼らが完全に一つにまとまれば、それこそかつてのレイレナードやアクアビットを凌ぐほどの力を持つ事になるだろう。

 

fA、ロクでも無い事になりそうだな。ジャンヌは心の中で笑った。

 

「ですが、問題がありまして……」

 

ん?

 

「出力を上げすぎて、QBを連続して使用すると自壊する可能性があるんですよ」

 

頭おかしいのか?

 




テンションが落ち着いてきたので、のんびり2日ごとの投稿になりそうです。


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アクアビットは成長する そのACNX

前書き1
お気に入りが1000突破していて頭がおかしくなったのかと思いました。
皆さま、ありがとうございます。今が序盤なのか中盤なのか筆者にすらわからない本作です。せめて、失踪しないよう頑張りたいです。

前書き2
執筆に使ってる携帯の挙動が不安定です。壊れたり治ったりを繰り返しており、今後どうなるか全くわかりません。なんとか、2日に1話程度のペースは維持したいのですが。

前書き3
携帯を触らない期間プロットを練り直したのですが。この作品、時間をかければかけるほど死者数が増えるのでは?となってる。

前書き4
脱字大量発見により修正。うーむ。


下層の一通りの散歩を終えたので、エレベーターに乗り込んで中層の研究棟へと踏み込む。ほとんどの技術者が休んでいるか下層でお楽しみの為に、廊下は薄暗い。

 

ここはあんまり面白いものが無いかなと思いながら歩いていると、会議室がやたらと騒がしい。培養室の横を通り抜け、ひょこっと開いた扉から顔を出す。

 

「おぉジャンヌ良いところに」

 

そこには、ルーク率いるリンクス班と、色々あって最近お世話になっている生物理工学班。そして数人の軍人がいた。プロジェクターをいじりながら顔をこっちに向けたリンクス班主席研究員ルークは、にこやかに私を部屋に招く。

 

「今から面白いものの上映会をやるんです是非見てください」

 

句読点の聞こえない声からルークの興奮が良く分かる。部屋に入り、座った場所の右横にいた技術者に何を上映するのか尋ねてみる。

 

「例のノーマルACのヘッドパーツに搭載されていたブラックボックスに記録されていた映像です。AIなどの他の詳細データの解析はまだですが、映像は見ることが出来たので、その分析等も含めて今から見ようとしていたのです」

 

「……本来なら、軍部のみで確認する筈だったのだが、どこからかこいつがやってきて無理矢理この場の全員での視聴を決めたんだ」

 

ジャンヌの左横にいた軍人の呟きも聞き、成る程何が行われるのかを理解する。ようするに、今から楽しいドミナントの一生が始まるというわけか。

 

「それは楽しみね」

 

私もワクワクしながら画面に注視する。ポップコーンとコーラが欲しくなってきた。

 

「よしでは始めるぞ……!!」

 

ルークが興奮した様子でスイッチを押す。私は席に深く身体を預けると、リラックスしてその映像を眺め始めた。

 

 

 

 

映像には彼がレイヴンになった頃からの、戦いの全てが記録されていた。

 

彼の最初の戦いは、ミラージュのMT部隊の襲撃だった。リニアライフルや月光を駆使して何の問題もなく成功させ、そこで一端映像が途切れる。

 

研究員や軍人達は動揺している。見たことも無い場所で、見た事も無い敵に戦いを挑む謎のノーマル。CGにしては余りにも精度が高すぎる。同じものを作るには、いったいどれくらいの金がかかるのだろうか。

 

エヴァンジェは、次々と任務やアリーナでの戦いを勝利していった。さすがアライアンスの隊長だ。その自信溢れる声やAIのボイスからは殆ど危機的な情報は流れて来ず、彼は仕事をやり遂げる。てかこいつOP級にキビキビ動いてるぞ。

 

任務は敵を見た限りクレスト、キサラギ、ナービス、そしてミラージュと、どの仕事も満遍なくやっているらしい。これから先にクレストに与する……もしくは、もう契約しているのかもしれないが、そんな風には到底思えない。レイヴンとして理想的なバランス感覚と思えた。

 

アリーナにいたな程度の微かな記憶しか無いレイヴンとの対AC戦や、見知らぬ場所での輸送部隊護衛など、主人公とは違う仕事を多く行っているのがわかる。こういう風に、あの時代では色んなACが戦ってたのだろうな。そんな風に私が思っていた時だ。

 

 

 

すごく見覚えのある場所が映し出された。

 

 

 

別に、良くACNXで戦場になった場所というわけではない。ただ、私があるものに会いたくてフリーミッションでやりまくってだけだ。あぁ、そうか、お前この任務受けたんか。やめてくれよ……

 

次の瞬間、画面に映し出されたのは。アクアビット社の存在以上に非常識なモノの姿だった。

 

「何だあれは!?」

 

何人かの技術者や軍人が思わず声を上げてしまう。中には、露骨な嫌悪感を表情に出している者もいる。というか、私も少し気分が悪い。画質が良すぎる。

 

ダンゴムシのように段差のある深い緑色の外殻、前方から伸びた紫がかった3対の関節肢、不気味に光る6つの瞳は、見た物に言いようの無い恐怖を心の中に植え付ける。

 

 

AMIDA。キサラギをキサラギたらしめた最悪の生物兵器であり、その容姿の可愛さからレイヴンのマスコットとして愛されるムシキングである。

 

おいリアルに見るとクソキメェぞこいつ。あ、オラクルがリニアライフルを…………あれ、でもNXのAMIDAって…………

 

「爆発したぞ!?」

 

グロいどころの騒ぎではない。外殻やら肉やら体液やら酸やらハードの関係上演出をオミットされたであろう様々なものが飛び散る。あ、誘爆した。うわぁ、スプラッタ。

 

というかこれ、ACの視点から見てるから大型犬程度の虫に見えるだけで、実際は民家程度の大きさがあるんだよな。ふざけてんのかキサラギは、頭おかしくなるぞ。

 

「対AC用の生物兵器ということか?」

 

「さっきまでの映像もワケがわからなかったが、いや、だが、これは……」

 

「しかし、理に適ってはいる」

 

かなってねぇよ、どこにもかなってねぇよ。

 

「昆虫の高い繁殖力を上手く活かす方法があれば、それをこのように巨大化して兵器にする事が可能なのでは?」

 

「しかし、そんなノウハウは生理班には無いぞ」

 

「そうだ、それにコジマ汚染下で活動できる生物だなんて……」

 

「ノウハウが無ければ引き抜いてでも作ればいい。いま、どこの企業だってこんな分野を考えているとは思えない。在野の研究者だって相当な数になるだろう」

 

「おいまて、冗談だろ。流石に、流石にこれはやめてくれ」

 

「それに、だ。そんな生物がいないのなら新しく作れば良いんだ」

 

……なんで私を見たのカナ?

 

「話を聞け!正気とは思えんぞ?」

 

「だが!我らの悲願達成の為にはどんな手でも取れるものは取るべきだ!!」

 

「お前らその言葉を言えばなんでも許されると思ってるな!?」

 

うん、絶対そうであろう。悲願が何かについて私は説明を受けていないが(どうせ宇宙)、研究者たちは何かを無理矢理通そうとする場合、この言葉を印籠の如く掲げて反対意見を抑え込んでいた。

 

軍人たちと生理班の面々の終わりそうに無い口論を無視し、映像を目を戻す。他に、ルークも目を離さずにオラクルの一生を食い入るように見ていた。

 

AMIDAとのランデブーは間も無く終了し、また通常の任務に戻る。嫌だなぁ、こっから更に跳ねたり飛んだりするんだろう?見たく無いんだけど。

 

さて、まぁ、こんな感じに戦いは進んでゆく。っと、またアリーナ任務か。どれどれ次の相手は〜……

 

……ナインボール?アリーナのトップがどうして…………

 

よくわからないが、どうやらACMoAの世界に紛れ込んでしまったらしい。ははは、へへへ、うん、カラーリングやエンブレムもナインボールだ。ははは、にょほほほ。

 

おいまじか、ACNXの主人公はハスラーワンかよ、どういう事だ。わけがわからんぞ。なんか頭の中に9が流れて来たし。てかなんでこいつ再現機体なんか組んでるんだよ。うわ始まっ……きゃー!!小ジャンプにょわぁ〜〜!!!こいつレイヴンにゃぁぁぁぁぁ!!!!!

 

目の前のナインボール君は、目にも留まらぬ機動でエヴァンジェを翻弄する。鬼ロックでエヴァンジェはナインボールにリニアを放つが、やはり火力不足か……んにゃ?

……なんでこのナインボールは止まってグレネードを構えてるんだ?え、まじ?未強化?いやそらN系なんだから当然なんだろうけど。え?なに?未強化ナインボール?なにそれカッコ良い。え、じゃあこの雨のように放たれるパルスは何なの?んでもってこの機動力はなんなの?どんなエネルギー管理してるんだこいつ。あ、ブレード来た。うーむ、オラクルの負けかぁ。エヴァンジェの悔しそうな声が聞こえる。まぁ、仕方がないよね。こんなの勝てるわけないよね。というか結構削ったじゃん。敢闘賞ものだよ。だってこいつ、自分のN系の愛機〝ミッドナイト〟でも勝てるかどうか微妙だ。

 

「凄まじい機動だこれがノーマルだと?」

 

いいえ、イレギュラーです。ルークの言葉に思わずそう返しそうになる。

 

アリーナでの敗北後も、エヴァンジェは変わらず任務を遂行する。少しばかり動きが良くなった。まぁ、同期とあれだけ差を開けられたのだから、意識の変化があっても仕方ないのかもしれないが。

 

再びナインボールとの再戦。だが、同様に相手も強くなっている。うーん、差が縮んだかどうかこれもうわっかんねぇなぁ。ただ、やはりその後の戦いでは前よりも動きにキレがある。

 

さてさて、ミッションは進む。未だに後ろで殴り合いに発展しかねない罵倒合戦を繰り返す研究者・軍人達を置いて、エヴァンジェは戦い続ける。……っと、対ミラージュ系の任務が多くなって来たな。いや、そうか、たしかこの時期か、エヴァンジェが追放されたのは。ということは、今はクレストの専属としてやっているのだろう。ミラージュ側の部隊やACを次々と狩っていく。その姿を見て、自分こそがドミナントだと勘違いしても仕方の無いなと思ってしまう。間違いなく、このエヴァンジェはナインボールを抜いて最強格のレイヴンであろう。ジノーヴィーがどんな動きをするか見ていないが、所詮ジノーヴィーである。ジノーヴィーのような動きをするに決まっている。……っと、これは、クレストの反乱軍か?なるほど、エヴァンジェは本社側だったのね。ポコポコと狩られて行く支社の羊達に、哀れみすら覚える私。そういえば、任務ごとに映像が切り替わるとはいえ中々の時間が経過したな。少しばかり疲れが溜まってきた気がする。部屋に戻ってもう一眠りしようかな?などと考えて、一度腰を捻ってパキリと音を出す。そして、ビル群にて、支社のMT相手に無双しているエヴァンジェに目を戻し

 

………………ジノーヴィーがいる。

 

……………………………………ジノーヴィーがいる。

 

わけのわからなさがここに極まってしまった。ナインボールがこんな奴に負けるとは思えない。考えられる事としては、ミッション放棄かミッション放棄かミッション放棄の三択である。マジで意味がわからん。なんでこんなピンチベック野郎がこの先生きのこってるんだ……てか森よ、こんな機体だから負けるんだよ。

 

『今 この瞬間は、力こそがすべてだ!』

 

NX屈指の名言である。相手が相手なだけにネタセリフでもあるが。

 

『私を超えてみろ!』

 

はいはい、すぐ超えるすぐ超え……え?え、え??

 

画面の中のジノーヴィーが躍動する。重量過多だとは到底思えない高い機動性だ。フロムマジックどころの話では無い。例のミッション失敗時のジノーヴィーすら霞む動きでジノーヴィーが動いている。じょ、冗談じゃ……!

 

何が起こったか、このフロムマジックの原因を探る。アセンブルや腕部武装は変わっていない。ということは内装に何か秘密が?そして背中には彼を産廃たらしめている大グレが変わりなく……

 

まて、違う。あれは両肩グレだ。まさかジノーヴィーは自分の弱点に気づいたのか?なんだこれ、なんだこの世界観。わけがわからんぞ。なんでランク1がランク1の動きをしてるんだ!?お前もしかしてマジにナインボールに勝ったのか?

 

降り注ぐグレネードとライフル弾。ビル群を駆け抜け、死角からタガーを構えて斬りかかる。イケメン機体がイケメンな機動をしているなんて、もしやこれはACでは無いのでは?そんなことすら考えるようになってきた。

 

しかし、エヴァンジェも負けていない。ジノーヴィーがフロムのデモムービーならこいつはOPである。凄まじい高機動で動いている癖に、一切ロックは外れない。なんちゅう鬼ロックだ。タガーの一撃をかわし、オラクルのリニアライフルが、リニアガンが、唸りを上げてピンチベック……いやもうデュアルフェイスだな、こりゃ……に殺到する。

 

激動は30分に渡り続いた。口論をしていた者達も口を止め、この戦いを息を潜めて観戦する。

 

デュアルフェイスが両肩グレをパージさせる。すると、更に速度が上がる。その動きに、その戦いに、なんとなく、私はネクストの姿を重ねてしまった。

 

だが、決着は唐突についた。アサルトライフル、そして格納グレネードすらも撃ち切ったジノーヴィーが、火花を散らしながら特攻してきた。エヴァンジェは、それを落ち着いた様子で迎撃する。リニアライフルを二発、そしてガンを一発受けたデュアルフェイスは、その動きを止めた。震える声で、ランク1は第二の名言を放った。

 

『小さな存在だな……私も……君も……』

 

どっちも私にとっちゃ大きな存在すぎるんですが。そこらへんはどうなんでしょうか?というかあんたその後にセリフ無かったでしたっけ。もしかして君もなんちゃらかんちゃらって。

 

そして、デュアルフェイスは爆散した。謎を残したまま死んだランク1、だがエヴァンジェは自らの実力をやっと証明できたと喜んでいる。いや、喜んでいいよ。お前はドミナントだよ。ここのお前はパルヴァライザーに乗り込んだって許されるよ。でもここのエヴァンジェは私の希望通りなら漢の中の漢だからなぁ、実力と性格両方が揃ったレイヴンの中のレイヴンと言うことになってしまう。主役かな?

 

…………と、次の映像から特攻兵器との戦いが始まった。どうやら、ナインボール君が起動させちゃったらしい。特攻兵器の雨あられを迎撃しながら、悪態を吐くエヴァンジェ。これからLRまでの数ヶ月間は、こんな映像ばかりになるだろう。

 

「この兵器はいったい……?」

 

「くそ、映像だけじゃあ何をやってるか全くわからない。CPUの解析を早く進めなくては……」

 

短調な映像の連続に、先程の戦闘で吹き飛んだ眠気がまた戻ってきた。とりあえず、一眠りする程度の時間はあるだろう。私は軽く腰をあげると、研究者達の間を抜けて会議室を出る。

 

 

部屋に戻る。真っ暗な室内を暗視センサーでもって危なげなく進み、微かな寝息を漏らすリリウムの隣に再び潜り込む。明日は暇な時はNXでもやろうかな、などと考えながら私は寝た。

 




クレスト中量二機はイケメン集団


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アクアビットは成長する そのトゥウェンティフォー

AC3Pをやる
「うーん、動かしやすいし、骨脚は早くて強いし。やりやすいね!」

ACSLPをやる
「強化人間最高!!銀狐はバグるまで勝てなかったけどそれ以外は楽勝だ!」

ACLRPをやる
「ライウンに勝てねぇ……。てかLRにこそ強化人間は必要だろう……。」

そんな感じの数週間でした。あとやっぱレイン可愛い。


「オペレーター、中間地点を通過した。情報より敵は少ない」

 

ディルガン流通管理局。数人のレイヴンに対し、この地への強行偵察任務を依頼したが、そのどれからも良い返事を聴くことは出来なかった。

 

仕方なく、アライアンス戦術部隊は手持ちの戦力でこの仕事を行う事にした。バーテックスの襲撃予告時間まで残り24時間。幸運にも、未だ戦力を他に回すだけの余裕が戦術部隊にあった。

 

 

二脚型のMTの攻撃をかわし、そのコックピットに向かってリニアライフルを放つ。

ACですら耐えられない衝撃に、MTの脚がふらつく。その隙を見逃さず、エヴァンジェは左手のムーンライトで切りかかった。

 

 

強行偵察任務には、エヴァンジェ本人が行うこととなった。その時に余裕があったレイヴンは彼の他にはトロット・S・スパーとゴールディ・ゴードンのみ。どちらも能力に申し分は無いが、ディルガン流通管理局の重要性を考えると、最精鋭戦力であるエヴァンジェこそが最適だと考えられたのだ。

 

「レーダーを確認していますが、反応は少ないです。そのまま偵察を続けて下さい」

 

アライアンスから派遣されて来たオペレーターの声に頷き、そのまま作戦を続ける。

 

 

道の半ばにバリケードとして置かれているトラックなどを跨ぎ、爆風による破片すらも気にしながら、エヴァンジェは進む。

 

「その奥の扉を開けば外に出ます。迎えのヘリとはその広場で合流して下さい」

 

「あぁ、了解した。……ん?」

 

エヴァンジェがレーダーを確認する。ミラージュ製のヘッドパーツに内蔵されたレーダーに、先程までは確認できなかった反応が見えた。

 

「オペレーター、前方に何か反応がある。確認してもらえないか?」

 

「いま確認します……これは、AC?」

 

「なるほど、守備隊が少ない理由はこれか」

 

エヴァンジェは、自分と繋がるオラクルのチェックを軽く行う。AP、及び弾薬に問題は無し。ACの出力も充分。ならば、行くか。

 

「撤退しますか?」

 

「いや、この時点でバーテックス側のACを削れるのならば戦況は大きくこちらに有利になる。戦闘が終わってから迎えに来てくれ」

 

「了解しました」

 

ライフルを構え、ゆっくりと扉に近付き身を隠す。そして、開放しようとスイッチを……

 

「!?」

 

オラクルに備え付けられている音声センサーが、広場から発せられた巨大な音を捉えた。

反射的に、エヴァンジェは機体を通路内へと避難させた。

 

次の瞬間、扉が爆音と共に吹き飛んだ。

青い爆風、エヴァンジェは舌打ちした。こんな威力を誇るレーザー兵器は1つしかない。そして、それを装備しているレイヴンは……

 

崩れようとする廊下を高速で駆け抜け、広場へと出る。

 

『敵ACを確認 ストラックサンダーです』

 

カメラに敵ACの姿を捉えた新鋭のコンピューターが、内部に搭載されたデータから該当する機体を解析し、その説明を行う。

 

『敵は複数のエネルギー武器を装備、被弾時の熱暴走は危険です。特に高火力の肩武器に注意して下さい。』

 

「やっと来たか。命令だ、死んでくれ」

 

「ライウンか……!」

 

紫色の逆関節機体。稲妻を抱く雷雲のエンブレム、肩部に背負う大口径のクレスト製レーザー兵器。

晴天の下に出現したバーテックスの尖兵は、アライアンス戦術部隊の長を討ち取るべく、自らの持つ雷をオラクルへと放った。

 

リニアライフルを放ちながら、エヴァンジェは右に建ち並ぶ倉庫へと身を隠した。

だが、そんな障害物などまるで存在しないかなように、着弾したレーザーはそれらを一瞬で吹き飛ばす。強大な熱量をマトモに食らった倉庫群は、まるでもとからその場には存在していなかったとでも言うかのように溶解し、蒸発した。

 

エヴァンジェはその攻撃を紙一重でかわす。少しでもかすれば、オラクルもこれらと同じ運命を辿る事になるだろう。

 

……まずは、動きを止める必要があるな。

 

エヴァンジェは、オラクルの武装の中から肩部のリニアガンを選択する。さらに、EOを展開。ライフル弾を使用した実弾タイプのオービット兵器、これも、補助としては充分な威力を持っている。

 

カメラを操作、オラクルを高速で移動させつつ、高度を頻繁に変えるストラックサンダーを中心に捉え続けロックの完了を待つ。

 

紫色のACに表示されていた黄色いサイトが、赤く変わる。

 

瞬間、クレスト製の傑作小型リニアガンから、中口径榴弾が次々と放たれた。

 

「グッ……!」

 

ライウンの苦悶の声。重量の逆関節機体は旋回、そして安定性は高くない。装甲性能を考えると、APに関しては微々たる損害だろうが。機動性に関しては致命的なダメージを与えているはずだ。

 

ガシャン、という重い音と共に。ストラックサンダーは地に堕ちた。だが、エヴァンジェはリニアガンの射撃を止める事なく、左腕のブレードを展開する。

 

ミラージュ製のイレギュラーナンバー。月色に塗られた鞘から、蒼い光が伸びる。

 

「……?」

 

接近しながら、エヴァンジェはリニアガンの爆風の中に立つストラックサンダーの姿を見る。選択している武装は大口径レーザー。一撃を狙っているのか?

ならば、とエヴァンジェは本来なら斬撃の為にブーストをかけるべき位置で、オラクルに対して右方向へのベクトルを加えた。

 

爆音が響く。先程までオラクルがいた場所を、蒼色の轟雷が貫いた。

やはり、ライウンは一か八かを狙ったらしい。確かに、あれが命中すれば勝負は五分に戻っていただろう。直撃によりダメージを受けるパーツの事を考えると、そのまま敗北になることすらも考えられる。

 

だが、ライウンはその賭けに負けた。ならば、その運命はもはや1つだ。

ブーストを一気に噴く。機体が宙に浮き、オラクルは地に張り付いたストラックサンダーへと斬りかかった。

 

手応え、あり。黒煙のあがる紫色のACを眺めながら、エヴァンジェはエネルギーで形成された刃を格納する。

 

「やはりな……」

 

その言葉を最期に、ストラックサンダーは爆散した。

 

「やはり……?」

 

ライウンの末期の言葉が、エヴァンジェの頭にひっかかる。何がやはりというのだ、最初から、負けるのがわかって勝負を挑んで来たとでも?

 

少し思考を巡らせ、エヴァンジェはすぐに頭を振った。いちいち、死者の考えに想いを馳せるほど時間は残されていない。

 

「オペレーター、作戦終了だ。施設の防衛部隊は殲滅。このまま施設を占拠する。トロットに連絡してくれ、第六MT大隊をここの防衛にあてる」

 

「了解しました。お疲れ様です、すぐに迎えのヘリを送ります」

 

「あぁ、頼む」

 

エヴァンジェはゆっくりと息を吐く。CPUが作戦の終了を告げ、システムが通常モードへと移行する。

 

とりあえず、いまは休もう。この24時間はキツイものになる。休める内に休んだ方が良い。

 

迎えのヘリの音を聴きながら、エヴァンジェはゆっくりと瞳を閉じた。

 

 

 

「なんでこいつは管理局を強行偵察してるんだ?」

 

コジマ溢れる湖底実験場、売店で買った矢鱈と味の濃いポテトチップスとコジマコーラをお供に、床に置いたタブレットPCから流れる情報に一人突っ込んだのは私ことジャンヌ・オルレアンです。

カラサワでの砂漠のモグラ叩きの手を止めた私は、まず横に置かれたポテトチップスを二枚摘む。それを口に放り込むと、指をしゃぶり、横に置いてある資料をめくる。

 

仕事をする事こそが安息と言い放つ生粋の社畜であるアクアビットの技術者たちが、全精力をかけて解析したオラクルの内臓データ。新鋭コンピュータなだけあって、情報量や精度が高いそれらデータを纏めた紙束をぺらりぺらりとめくりながら、私は少し考える。LR時代のレイヴンリストは意図的に見ないようにしている、サークシティで会うまで、どんなアセンか見ないようにしているのだ。

 

しかし、オラクルが管理局強行偵察ということは、レイヴンは前線基地でも襲撃したのかしら。でも、そしたら隊長は部隊のメンバー引き連れて「次も敵とは限らんだろ」とか言ってる筈だからなぁ。

 

パソコンを操作して、少しばかり映像を巻き戻す。うん、やはり一人で見るためにデータをもらっといて正解だった。見直しできるのはありがたい。……むむ、やはりこいつはライウン。見間違いでは無いな。

 

どうしてこのエヴァンジェは原作通りの行動をしてないのだろうか……いや、そっちの方が面白いから個人的には良いのだが……。

あれだろうが、世界線的なアレなのだろうか。確かに、あのバーテックスルート以外にも隊長がイケメンになるルートはあるのかもしれない。あれか、「レイヴンこそがドミナントであると認め、彼を庇いパルヴァライザーへ特攻したいった隊長」という指定をしたから、ラストだけ一致した私の知らない隊長が来たのかしら?

 

だとしたら、そんな隊長がどんな24時間を過ごしたかはとても気になる。

2本目のコーラに手を伸ばし、フタを開ける。今度、アイスクリームでも持って来てコーラフロートでも作ろうかな。そんなことを思いながら、PCを眺め続ける。

 

ヘリコプターに乗せられ、ACの電源が落とされたのか映像が一旦途切れ、すぐに新しい映像が流れ始める。

 

……今度はルガトンネルか。まぁ、バーテックスルートに行ったレイヴンが受けるとは思えんな。

 

10時、12時、そして14時にも動きは無い。まぁ、だが、そろそろ…………

 

 

 

 

「隊長!ACの反応です!」

 

ガラブ砂漠。AC輸送用のヘリには、バリオス・クサントスとオラクルの二機が繋がれていた。

 

「私がやろう。トロットは先にバーテックスと合流してくれ」

 

その言葉と共に、オラクルはヘリから切り離された。

 

『メインシステム 戦闘モードを起動します』

 

砂嵐の向こう側、多数のヘリ部隊や重量型のMTと共にACが一機確認できる。

いま、アライアンスが使える戦力を頭の中で検索する。本部直轄のあの臆病者、戦術部隊のAC、二人組の傭兵、ジナイーダ、そして……

 

あのレイヴンだったら、ここまでかも知れないな。そんな事を思いつつ、エヴァンジェはライフルを構える。

 

機影を捉えたコンピュータが、この戦いの前に入力されたACデータの中から、目の前の機体の正体をエヴァンジェに伝える。

 

『敵ACを確認、ヘヴンズレイです』

 

エヴァンジェの頭に、あの若者のあどけない笑顔が浮かぶ。アライアンスの汚れた実体を見ることができず、ただ彼らが掲げる正義の看板を盲信する哀れな猟犬。

 

成る程、裏切り者の討伐には丁度良い駒だ。

 

『敵はECMメーカーを装備、敵補足が困難と……』

 

いや、ヘヴンズレイ自体のECMは問題無い筈だ。だが、このノイズに塗れたレーダーは……

 

重MTに対し、ノーロックでリニアライフルを放つ。衝撃により動きを止めたその相手に対し、すれ違い様に一撃を加える。

 

間違いない、あれは、奴の隊のMT。

 

金と自らの命を優先するあいつが、アライアンスの命令でも僚機を貸し出すとは考えられない。と、なると……

 

砂塵を突き破り、黒いACが突っ込んでくる。ブレードレンジと引き換えに、絶大な威力を手に入れた短刀が、目視さえ困難な戦場でも妖しく光る。

 

「うぉぉぉッ!!」

 

ジャウザーの、正義に酔いしれた声。

それをマトモに受けず、受け流すようにムーンライトを振るう。

こいつだけに、意識を集中するわけにはいかない。この砂塵の何処かに、奴が……!

 

瞬間、エヴァンジェのレイヴンとしての勘が、反射的にオラクルをヘヴンズレイから離れるようにブーストさせた。ほぼ同時に、ジャウザーも身を引く。

 

一瞬の後、数発のライフル弾が通り過ぎた。その動きから、エヴァンジェはもう一機のACの位置に見当をつける。

 

漠然とした影、だがミラージュ製の新鋭コンピューターは、それだけの情報で敵ACの情報を解析してしまった。

 

『敵ACを確認、レイジングトレントⅣです』

 

「すまんな元隊長、賞金は貰っていくぜ」

 

「隊長!どうしてバーテックスなんかに……!」

 

2つの声が同時に響く。エヴァンジェは一度息を吐く、ACだけでも二対一。さらに、この視界の悪さだ。

 

だが、彼奴と相対する事と比べると、何の問題もないに等しい。

 

エヴァンジェは機能しないレーダーの代わりに、脳内に敵の位置を記すとまずは目隠しをするMTを撃破する為に動き出した。

 

 

 

「……………」

 

何故ジャウザーが、とは最早突っ込まない。本当に、いま見ている24時間は、私の知っているソレとはまるっきり違うらしい。くそ、アライアンスの良心が。何も言わずに潜入した隊長やら早い段階でヤられる他の戦術部隊のACと違って最後の最後までアライアンスの為に頑張る健気な子なのに……こんなに早い段階で出てくるなんて……

 

さらにもう一機は干な重量二脚のゴールディか。W鳥かつ高火力なEOを装備している。援護機としては充分だろう。自分でも、ほんの少しは苦戦するかもしれない。

 

だが、隊長は、現実と電子の双方の砂嵐を一切気にせず砂の海を進む。

 

鮮やかなもんだ。MTやヘリを落とすその洗礼された動きには、ある種の美しさすら感じられる。

 

重MTが全滅したからか、ECMが解除された。私は新たなコーラに手を伸ばす。あぁ、ポテチも新しいのを開けるか。

 

小ジャンプの繰り返しと、強化人間特有のエネルギー効率の良さから、接敵以降一瞬足りとも停止せずに機動し続けるオラクルに、他の二機は翻弄されているようだ。時たまレイジングトレントのEOからの射撃が飛んでくるが、後はその姿を捉える事すら出来ていないらしい。

 

格が違うってか、私は呟いた。まぁ、あのジノを倒し、特攻兵器の襲撃からも生き延び、ライウンに対しても圧倒的な差で完封してみせた隊長からしたら、この二人程度は歯牙にも掛けない程度の存在なのだろう。

 

選択武装が切り替わる。軽量リニアだ、こいつには嫌な思い出しかない。最初に隊長と戦ったときに、こいつの連射を食らったせいでマトモに戦う事すら出来なかった。その程度もクソも無いじゃないか!とジャックに叫んだあの時のことは今でも記憶に残っている。

 

ピョンピョン飛びながらリニアガンを撃ち続けるその姿はまさに変態。爆風でよく見えないが、相手は恐らくジャウザーだろう。コア損傷、頭部損傷、コア破損、腕部損傷、脚部損傷、さらに頭部破損

何も抵抗できずに、若者の機体は削られていく。

レイジングトレントも僚機を救いに行こうとするが、頻繁に動き方を変えるオラクルについていけないらし。見当違いの場所を通り過ぎるレーザーから、映像を見ているだけの私でもその事はよくわかった。

 

「隊長……あなたは……」

 

爆音、黒煙を吐いたヘヴンズレイは、正義に酔った若者と共に砂漠に散った。

 

「ジャウザー!!」

 

ゴールディの声。まぁ、ほぼほぼチェックメイトだろう。オラクルは冷静に、冷酷なまでに、先程までヘヴンズレイだったものから視線を外し、レイジングトレントⅣへと照準を向ける。

 

私が、ゴールディ程度の腕だったら間違いなく逃げるだろう。アライアンスからの罰則があるかもしれないが、それでも命あっての物種だ。それこそ、自分もバーテックスに逃げても良いかもしれない。

 

だが、結局レイジングトレントは撤退しなかった。リニアガンの猛攻の中。動けなくなった重量二脚のACは、最期はそのコックピットをムーンライトに貫かれ、果てた。

 

「死にたくな……!」

 

生々しい声である。しかし、アライアンスはこれで二機のACを失った事になる。残りは…………あぁ、森か。これはもうバーテックスの勝利で決定ですね。クラッカーでも鳴らそうかしら。

 

「すまん……」

 

ポツリ、と呟いたエヴァンジェの声が聞こえる。まぁ、この時は秘密でバーテックスに潜入する事が目的だったからな。バレない為とはいえ、少しは葛藤があったのかもしれない。

 

「トロット、こちらの戦いは終わった。すぐに合流を……」

 

エヴァンジェが無線に対しそう声を入れる。だが……

 

「隊長!すいません!もう……」

 

ノイズの混じった声。これは……襲撃を受けているのか?

 

「誰の襲撃を受けている?」

 

珍しく、焦った風な様子でエヴァンジェが尋ねる。もしや、わりかし奴さんの事を信頼していたのかしら。

 

「奴です!ジナイ……ぐぁっ!?」

 

直後、爆音が響く。エヴァンジェは二度、トロットを呼びかけるが、彼から返事が返ってくる事は無かった。

 

ジナイ……一体何イーダなんだ……?

 

 

 

24時間は、未だ始まったばかりである。これからどんなドラマが起こるのか、私はちょいとばかりワクワクとしながら、4本目のコーラの栓を開けた。




PSPでACとか向いてないにも程がある。(四年ぶり二度目)

でも楽しい。


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アクアビットは成長する その隊長ルート

長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
理由としては大きなもので二つ。

・モンハンストーリーズにハマった為。
・脳のクールダウン。

創作やりたい欲も戻ったので、のんびり再開します。絶対に失踪なんてしない。たぶん。


少し前から狂人に対するソレから、重要人物に応対する際のソレへと態度を変えたアクアビットの調査員との会話の後、エヴァンジェは体感にして数日ほど前の自分の行動へと想いを馳せた。

 

成人してからの麻疹というのは将来に致命的な傷を残すとはよく言ったものである。他者を見下し、自らが特別であることを確信してしまっている。運が悪ければ、間違いなく日を跨ぐことも許されずに死んでいたであろう。

 

そう、あれは運が良かったのだ。運が良かったから、レイヴンとして死ぬことが出来た。

 

 

 

「ドミナント……?」

 

サークシティ

旧クレスト本社に設置してあるバーテックス本営。各地から届く戦況報告は、一人のレイヴンの本格的な介入によりバーテックスに有利なものへと少しずつ、だが確実に傾いていった。

その報告を横目で眺めながら、バーテックス主宰であるジャック・Oは、目の前の男へと言葉を続ける。

 

「ドミナント仮説……という論文がある。聞いた事は?」

 

「いや、聞いた事は無い」

 

エヴァンジェ。アライアンス戦術部隊を裏切ったこの実力派レイヴンは、こちらの真意を伺うような視線を向けている。

 

「先天的に戦闘に対して才能のある人間……つまり、戦闘の天才が存在するという事を提唱したい論文だ。発表されたのは今から30年ほど前。だが、肝心の内容を証明できずに廃れた論文でもある」

 

「戦闘の天才……?」

 

エヴァンジェの目の色が変わったのを、ジャックは見逃さなかった。自己顕示欲の強い男、何よりもレイヴンとしての名誉を追い求める男。やはり、興味を持ったか。

 

「だが、私はある理由によりこのドミナントを探し求めている。」

 

ジャックはそう言うと、ちらりと右に貼られたレイヴンリストを見た。既に、10機のレイヴンの撃破情報が送られていた。その内の3機を、このエヴァンジェは撃破していた。

 

アークの時代から、彼には目をつけていた。企業との癒着による追放が無ければ、間違いなくジノーヴィーを超えてランク1となっていたであろう。

それほどの実力者だ。

 

彼には、その可能性がある。

 

そう考えたジャックは、エヴァンジェに対し未だ誰にも伝えたことのないドミナントについての話をした。エヴァンジェは、アライアンスからのモグラの可能性もある。ならば、早い内に自分の真意を伝え、アライアンスから完全に心離れさせる必要がある。

 

予想通り、功名心が強いエヴァンジェはドミナント理論に乗ってきている。

もう一押し、そうすれば彼という駒は自分の物になる

 

「私は、君がドミナントかどうかを見極めたいと考えている。今後君には、アライアンスやその他の武装勢力のみじゃなく、バーテックスのレイヴンとも戦って貰いたい。」

 

「……バーテックスの掲げていた理想は、ドミナントを探すためのフェイクだったという事か」

 

「そうだ。彼らは、君や彼女たちのような可能性ある者の養分となるだけの存在だ。」

 

「彼女たち……?」

 

予想通り、エヴァンジェは彼女たちという言葉に反応した。

 

「可能性あるものは、22人の中で3人いると私は考えている。君とジナイーダ、そして君も良く知っているであろう彼だ」

 

「あいつも……」

 

エヴァンジェはそこで言葉を止める。無理もない、彼には、あのレイヴンに対して並大抵ではない因縁が存在している。

 

「だが、ドミナントは同じ世代にそうそう多くは存在していない。この三人の中で、真のドミナントはただ一人。私はそう考えている。」

 

そう言うと、ジャック・Oは立ち上がった。ついさっき新たに来たメールには、アライアンスのモリ・カドルが撃墜されたとの情報が書いてあった。

これで、残りのレイヴンは半分になった。

 

「エヴァンジェ、君にはこれからある手術を行ってもらいたい」

 

「手術?」

 

「あぁ、強化人間手術の発展系だと思ってくれて構わない。……成功率は、それよりも低くなるがな」

 

 

それは、未だ三企業が地上を支配していた時代の末期に、ミラージュ系の子会社から考案されていたものだった。

成功すれば、更に効率的にACを動かす事が出来る革新的な強化人間。パイロット保護の為にかけられている各種パーツのリミッターを解除しても問題無く操作できるように人間を徹底的に作り変えるその技術は、しかし成熟する前に特攻兵器によって考案した子会社と共に叩き潰されてしまった。

 

ジャックがその技術を手に入れたのは偶然だった。バーテックスとして数多の人材を雇用していた際に、偶然その子会社の人間が資料と共にやってきたのだ。

その資料を閲覧し、ジャックは頭を抱えた。

確かに、その手術によって産み出される戦士は彼の目的達成のために魅力的だった。

だが、余りにもリスクが高すぎる。

特攻兵器による蹂躙爆撃以前に行われたテスト、五三名の被験者のうち無事に手術が成功したのはただ一人であった。

その一人さえ、特攻兵器の混乱の最中にロストしていた。成功率は2%に満たず、その成功例さえ何故成功したかの原因がわからずに失ってしまった。

 

しかし、そんな計画にさえ縋らなければいけない程、状況は悪い。

 

サークシティに作られた特殊研究棟でかつて強化人間手術に関わっていた者と共に、かつてを上回るペースで人体実験を繰り返した結果。成功率は3割を上回るまでに改善した。

 

しかし、そのどれもが戦場では目立った戦果を挙げる前にアライアンスによって潰された。

理由は明白、それら成功例はどれもレイヴンでは無く。人的資源の少なさから、素材を低コストで済む

MTにすら搭乗した経験の無い底辺の戦闘員を使ったこと。

訓練を行えば、一流の戦闘力にはなるだろう。しかし、そんな時間は存在してなかった。

 

ならば、待つしかない。彼が求めるレイヴンが来るまでに。

 

ジャックは、計画実行のタイミングまで、技術の熟成のみに努めた。

多くの人間を喰らいながら成長した新しい強化人間手術は、エヴァンジェがバーテックスに参加する頃には成功率が5割を超えていた。

 

 

「わかった、受けよう」

 

手術の説明を行うと、欲に燃える男は一も二もなく頷いた。

 

「ならば付いて来てくれ、既に準備は整っている。」

 

ジャック・Oは立ち上がると、返答を聞かずに実験棟へと歩き始めた。

 

時間は無い。インターネサインから生産された〝自衛用の機動兵器〟の活動も、既に本格的なものになっている。

エヴァンジェ、ジナイーダ、そしてあのレイヴン。

はやく、本物を探さなければならない。

エヴァンジェに行う手術は、成功さえすればレイヴンの剪定の為に素晴らしいカードになるだろう。

仮に、失敗しても構わない。ジャックは、あの三人の中で彼は本物である可能性が一番薄いと考えていた。

 

世界を救う為に、世界から孤立した男は進む。

既に、多くの死者が出ていた。人類を救う為に、数多の人が死ぬ矛盾。もはや、戻る事など不可能だろう。

 

赦しを求めるつもりは無かった。結果がどのような形になろうとも、あの予告から24時間後には、彼は死ぬつもりであったからだ。

 

せめて、レイヴンとして死にたい。

ふと、そんな気持ちが心に浮かんだのを感じた。真の強者と戦い、果てる。はじめてレイヴンとしてACに乗った日から考えていたその願いを、だがジャック・Oは自らの使命の陰へと押し込んだ。

 

残りおよそ12時間。それまでに、全てを終わらせねばならない。

 

 

 

アライアンスは斃れた。

戦術・戦略面において劣り、早期に全てのレイヴンを失い、最後の大駒であるレビヤタンはタートラス司令本部跡地にて散った。

 

エヴァンジェは1人、サークシティ地下に立っていた。ジャック・Oはパルヴァライザーをおさえるべく囮として地上に出ていた。彼の計画を知る一部の腹心が、ここからインターネサインへの道を切り開くべく調査を行なっている。

 

決戦の時は近い。しかし、エヴァンジェの心は不思議なまでに落ち着いていた。

彼の自信は、最早揺るがないものとなっていた。

 

ここ数時間、ドミナントのテストとしてあらゆるACを排除した。

 

ジャックの友人、バーテックスの古強者、レイヴン嫌いの一匹狼、そして、あの女。

 

新しいオラクルと、新しい自分。その前に、最早敵は存在しない。それを確信した彼は、来たる最後の戦いに向けて、一人その時を待っていた。

 

そう、敵はいない。もし、いま、ここに彼奴が現れても。間違い無く私が…………

 

「……ん?」

 

瞑想をしていたエヴァンジェが、片目を開く。

前方、地上と此処を繋ぐエレベーターが始動している。

 

「誰だ……?」

 

心の中で、インターネサインに向けていた闘気を、未だ見ぬ侵入者へと向ける。

 

ゲートが開いた。反応はAC、現在データ照合中。

 

エヴァンジェは、その正体を確かめるべく振り向いた。

 

「…………!」

 

そこには、見知った相手がいた。

 

「……なにをしに現れた?」

 

エヴァンジェは尋ねる。恐らく、目の前の男は答えないだろう。

 

「ここはただのレイヴンが来るべき場所ではない。」

 

そう、お前はただのレイヴンだ。私とは違う。お前にも、可能性はあったかもしれない。だが、選ばれたのは私だ。

 

「ドミナントである私が……私が為すべきことなのだ!」

 

強く、そう宣言する。だが、目の前の男はこの言葉に何の反応も示さない。

 

彼奴は、いつもそうだった。最初も、二度目も、無数の戦いの中でも、決して何も語らず、ただその圧倒的な力だけで自らを証明し続けていた。

 

「理解できんと見える……」

 

静かに、闘志に殺意を混ぜる。そうだ、こいつだ、こいつは殺さねばならない。自分が特別である為に、私がドミナントであると証明する為に。私は、私を踏み越えたお前を、何としても踏み越えねばならない。

 

「ならばその証を見せてやろう!」

 

システム、戦闘モードを起動。

新生 オラクルの末端、その隅々まで自らの神経が行き渡っていく。

 

そうだ、私は、もうお前とは違うのだ。ドミナントとして相応しい肉体と、相応しい機体を手に入れた。

 

今までのような敗北を喫する気は無い。

 

エヴァンジェは叫ぶ。

かつての敗北を清算するために。

 

「決定的な……違いをなッ!!」

 

 

 

 

 

『敵ACを確認 ナインボール・ルシファー・ノワールです』

 




AC力を高めなければならない。


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アクアビットは成長する その未確認AC排除

おまたせしました。難産でした。なんとかなりました。


爆音

 

着弾したグレネード弾が生み出した破壊の風が、サークシティ地下の閉鎖空間を暴れまわる。空を飛び、それを回避したエヴァンジェは、相対するACに目を向ける。

 

反動による弾着のブレを最低限にすべく、腰を落とし、グレネードランチャーを構えるナインボール。そこに向けて、エヴァンジェはリニアライフルを二発放つ。

 

それに対するレイヴンの反応ははやい。彼は銃口に光を見た瞬間、射撃体勢を解除し、跳ぶ。

 

(またアレか……ロックが……ッ)

 

エヴァンジェは心の中で舌打ちをする。あのレイヴンが使う、独自の、奇妙な回避機動。

 

短時間のうちにブースターの稼働と停止を繰り返す。小刻みな跳躍は、非強化人間にとっての悩みの種であるエネルギーをある程度無視し、相対するACのCPUは、秒単位で変化する敵の速度に対して、まともに未来予測位置を割り出すことができない。高速機動と回避の両立。特攻兵器による災厄以前から、彼の代名詞とされている起動であった。

 

かつてのエヴァンジェも、この機動に相当苦戦した。

満足に攻撃を当てられず、ミサイルとリニアライフルによって嬲られ、グレネードによって砕かれ、ブレードによって刻まれた。

 

苦い、敗北の記憶。

 

だが……

 

エヴァンジェは武装を変更する。

 

CR-WBW98Lx <<<

 

クレスト製の、高出力レーザーキャノン。ライウンが装備していたこの兵器を、オラクルは搭載していた。チャージが始まる。エネルギーが収束する。

 

幾度かのシミュレーションの際に、エヴァンジェはこの装備が自分の戦闘スタイルに合致していることに気が付いた。

高機動のACを、常にサイト内に捉えておくのは、エヴァンジェにって造作でもないことだった。正確な射撃、リニア兵器による足止め、そして高出量ブレードによる一撃。それが、エヴァンジェの戦い方だ。

 

しかし、このレーザーキャノンを使用した戦法はそれとはまったく違う。

 

単純な理屈であった。射撃を当てる自信があるなら。その射撃を必殺の一撃とすればよいのである。

 

この戦法は、エヴァンジェと驚くほどかみ合っていた。長いロックタイムも、常に敵をサイト内に入れておけるのならば関係ない。莫大な消費も、強化人間であるならば無視できる程度だった。

 

チャージ完了。レドーム内の各種機器が集めた情報から、最適な弾道を計算……完了。

 

発射。

 

蒼い破壊の槍が、黒衣の鴉を貫かんと放たれた。その狙いは、微かに、通常の弾丸であるなら致命的なほどに狂っていた。

 

が、次の瞬間に発生した爆発は。この兵器にとって、その誤差など関係ないということを証明していた。

 

着弾。先ほどのグレネード弾のそれとは比べ物にならないほど凶暴な爆風の嵐と、エネルギー弾の着弾によって発生した瓦礫の雨が。弾丸となりレイヴンに襲い掛かった。

 

動きが鈍った。エヴァンジェはそれを見逃さなかった。リニアライフルを構える。

 

改造手術により、彼の反応速度は人間の限界を超えていた。通常の高速ACとは比較にならないほどの速度と、高い旋回性能を持つようになった新生オラクルのパイロットとして、当然の処置であった。

 

だから、何とか気付けた。破片と砂煙の間を縫い、飛来する弾丸に。

 

「なぁッ……!?」

 

コアに対して放たれたそれを、ブーストにより無理矢理回避する。が、一瞬間に合わない。オラクルの脚部に命中する。

 

衝撃が機体を揺する。刹那、オラクルが自分のイメージに従わない。

 

その隙を逃さんとばかりに、鴉は肉食獣の笑いめいた駆動音を発した。右肩、ミサイルランチャーの開く音と発射音が同時に奏でられる。

 

まるで破壊神の奏でるオルガンのような暴力的音をまき散らしながら、拡散し、殺到するマイクロミサイルの弾幕。まともな回避では、傷を大きくするだけなのは間違いなかった。

 

無論、いまのエヴァンジェならば回避は容易い。コアのミサイル迎撃機能に問題は発生していないし。オラクルの速度をもってすれば楽にミサイルは引き離せる。

 

だが……

 

「ドミナントを……」

 

エヴァンジェは、操縦桿を思いっきり前に倒す。ブースターから発生した推力に落下速度が足され、機体のトップスピードを超えた速さでもってオラクルは弾幕に突っ込んだ。

一撃、右腕に被弾。問題は無し。

 

「舐めるなぁッ!!!」

 

エネルギーブレードを機動。月の女神が如き刀身が伸びる。

レイヴンは……グレネードを展開した?一瞬、反応に困る。構えずに、当たりは……

 

が、次の行動で考えが読めた。レイヴンは、反動を殺さずにグレネードを放つことにより、その衝撃によって回避を狙ったのだ。

 

爆風と共に、おかしな体制でレイヴンが吹っ飛ぶ。天井の方向に飛んでいくグレネード弾。反動によって飛んで行ったナインボールは、普通のACが行う突進が相手なら問題なくかわせただろう。

 

が、オラクルの機動は鴉の予測を大きく超えていた。

 

月光の一閃は、空気と共にナインボールの右腕を切り裂いた。リニアライフルが、腕と共に力なく空を舞う。

 

これで、レイヴンは高速射撃戦が封じられた。

 

エヴァンジェはブレードを収納せず、そのままナインボールの方向を向く。

 

起き上がったレイヴンも、ブレード……CR-WL69LBを稼働させていた。リニアライフルを失った今。オラクルに決定打を与える方法は、それしか無い。当然だ。

 

ならば、得意な白兵戦を押しつける。エヴァンジェは、再び速度を上げた。突進による。一撃、これにより全ての決着をつけようとしていた。

 

ムーンライトを構える。出力で無理矢理切り裂ける。エヴァンジェには確信があった。勝利の女神が、すぐ目の前にあらわれていた。

 

その時、彼には慢心があった。傲慢でもあった。心の中で、一瞬緊張がゆるんでしまった。

 

だから、彼は気付けなかった。ナインボールが担いでいたグレネードが、ゆっくりと展開していたことに。

 

ナインボールは突進した。殺し場を飛び越え、長刀の死角へと、自らの飛び込んだ。相対速度にして優に音速を超える二つの鉄塊同士の衝突。轟音。軋み、砕き、弾ける音。

 

『コア損傷』

『脚部損傷』

『頭部損傷』

 

エヴァンジェは衝撃に耐えた。オラクルも、ある程度の被害をだけで耐えた。

 

だから、彼は気付いた。ナインボールのグレネードが、オラクルのコアに突き刺っていることに。

 

「まさか……貴様ッ!!」

 

それは、クレスト製品の頑丈さを表しているかのように。砲身も砲口もまっすぐに伸びていた。

 

グレネードの0距離射撃。衝撃がオラクルの全身に破壊をもたらす。矧がれたコアパーツが跳ね、ナインボールの頭部パーツを損傷させ、吹き飛び地面に叩きつけられそのまま破損した。オラクルは、火花こそ吹いてるものの、全身無事だった。しかし、それは何の慰めにもならない。エヴァンジェは、レイヴンとしての質が、決定的に違うことを確信してしまったのだ。

 

「…………」

 

何が起こったか、すぐには判断できなかった。ただ、負けたことだけしかわからなかった。

 

「そんな、ドミナントである私が……」

 

信じられなかった。何故、自分が、ドミナントである自分が、負けたのか……

 

あぁ、そうか。違うのだ。ドミナントなのに負けたのではないのだ、自分に才能など無かったのか。

 

真の天才は、ドミナントは……

 

唐突に、エヴァンジェは笑いたくなってきた。そう考えると、自分の滑稽さに笑えてきたのだ。こんなに機体の性能が違うのに勝利できない自分が、何故ドミナントであると錯覚できてたのだろうか?

 

レイヴンが起き上がる。未だに戦い続けようとしていた彼は、しかしエヴァンジェの様子が変わったことに違和感を覚えたのか動きを止める。

 

エヴァンジェは、ふらつく機体を支えるためにオラクルを壁にもたれかけさせた。

 

彼なら、間違いなく成すだろう。そんな確信と共に、エヴァンジェは口を開いた。レイヴンに、自らの目的を話すために。彼に、世界を救ってもらう為に。

 

 

 

 

 

「AI職人の朝は早い。

 

「まぁ好きではじめた仕事ですから」

 

はにかみながら、少女は答える。最近はアセンがマンネリ化してきているから、新しいものを色々と試したいですよ。

 

彼女のアセンブルは、パーツの入念なチェックから始まる。

 

大変なことは?と尋ねる。

 

「やはり、アクアビットの装備をいじるときは大変ですね。癖が極めて強いですが、ハマると強い。オリジナルリンクスにコジマキャノンをぶち当てられる機体とAIを作れたときなんかは、それはもう嬉しかったですよ。」

 

なる程、と頷く。

 

「リンクスの皆さんの練習になるよう、AIには皆個性……癖を付けています。すると、どんどん可愛くなってきて、自分の子どものようにも思えますね」

 

 

そう言いながら、彼女は無心にコンソールをいじる。 

 

「毎日毎日温度と湿度が違う 機械には任せ……」」

 

「いったい何をやってるんだ?ぶつぶつと」

 

唐突に声をかけられ、驚いたように私は顔を上げた、何をって、日課のプロジェクトXごっこである。

 

 

「AIの調整よ、不審者さん」

 

 

神に願った自分がゲームで出来るとこは頭っから出来るというチートは、FFやVDで鍛えたAIの調整にも影響を及ぼしていた。この技能を駆使してさいきょーのAIを組むのは、自分に支払われる高給の一部を構成していた。

 

エヴァンジェのまわりには、2人の男が立っていた。リンクス担当の研究者とネクスト担当の技師。

 

あぁ、成る程。

 

「エヴァンジェだ、これからは君の同僚となる。覚えておいてくれ」

 

もう覚えている。しかし、よくもまぁよくわからん奴を戦力として雇おうとおもうもんだ。流石アクアビット  

 

「そんなに適性が高かったの?」

 

隣に立つ研究者に尋ねる。

 

「えぇ、既存のリンクスの中でも上位に入る適性でした。いまから、ここのシミュレーターで彼に最適な機体のアセンブルを行います」

 

アセンブル?アクアビットマン一択では?  

 

「なに?他社のパーツを使って機体を組むの?」

 

「いえ、違います」

 

技師が首を振る。確か、GAEから流れて来た男だ。

 

「アクアビット社の時期主力ネクスト……その中量機を彼に合わせて作ろうと考えています。彼のAMS適性とACの操作技能は、既存の軽量機や計画中の重量機には合致していません。いま、新たにプロジェクトを立ち上げています。おそらく、これまでのアクアビット社のネクストACのイメージとは、大きく離れた機体となるでしょう!」

 

おーおー興奮してらっしゃる。

 

私は笑った。うん、良いね。とんでもない世界になりそうだ。

 

私はエヴァンジェに対して手を伸ばした。

 

「まぁ、そういうことならよろしくエヴァンジェ。私の方が先輩だけど、別に敬語はいらないわよ」

 

エヴァンジェは、その手を握った。

 

「よろしく、ジャンヌ・オルレアン。私がどれだけやれるかわからないが。まぁ、生きてるということは私にも成すべき事が有るのだろう。全力でやらせてもらうよ」

 

こうして、アクアビット社に新たな山猫が生まれた。

彼が、どのような影響を世界に与えるか。それが判るのは、もう少し先のことである。




つぎはなるべく早く書きたいなぁ


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二人目

リハビリの為にばりばり書くぞー。というアレです。フレームアームズ買ったりしてロボ熱も戻ってきました。輝鎚乙狙撃型、早く四脚にしたい。


「搬入は以上です。数は大丈夫ですか?」

 

「ちょっと待って下さい。いま確認を……」

 

書類と輸送機に運び込まれたコンテナを交互に睨みつつ、フィオナは言った。 

 

北アメリカに存在するGAの大型基地。照りつける太陽が肌を焼き、不快な汗をじっとりとかく。つばの広い帽子を被ってはいるが、余り効果があるようには感じない。

 

「ガトリング用の弾薬良し……ミサイル良し……予備パーツも……」

 

チェックリストにマークをつけながら、コンテナの確認を行う。レイヴンズネストの大口スポンサーの一つであるGA社からは、多くの武装を購入していた。アナトリア時代は、レイヴンの主兵装がブレードだったため、GA製品を使用するとしてもミサイル兵器程度だったが。ベルリオーズと共に行動するようになると、ガトリングガンやハンドガン、バズーカにグレネードも必要となった。

 

作業服の裾で、顔に付いた汗を拭く。えっと、これはBFF規格の……

 

「あぁ、そう言えば……」

 

GA側の担当の人間が口を開く。アナトリア時代からの馴染みの男で、GAからの仕事は基本的に彼を通して伝えられる。

 

「BFFの工場、いくつか再開させたらしいですよ」

 

「本当ですか!」

 

フィオナが顔を上げた。リンクス戦争の終戦以来、敗北した企業の装備・弾薬は入手し難くなっていた(弾薬の製造工場など全てがストップした為)。BFFもその例外ではなく。かつての同盟企業出あったアクアビットや、現在の親会社であるGAが放出する数限りある在庫を、定価よりも高値で購入しているのが現状であった。

 

「たしか、弾薬の製造はもう始めてたはずだからそろそろ価格も落ち着くと思うよ。」

 

「良かった……」

 

独立し、二人のリンクスと共に行動し始めて以来、常にフィオナは弾薬費について頭を悩ませていた。

 

レイヴンズネストでは、基本的にレイヴンよりもベルリオーズの方が人気があった。当然である。接近戦一本、高速で突っ込んで叩っ切るという戦法のみに特化したレイヴンのブラックグリントよりも、あらゆる戦い方を極めて高い水準で行うことができるベルリオーズのホワイトグリントの方が、クライアントにとって使いやすいのだ。

 

すると、自然と弾薬費がかさむようになってきた。反企業組織は、質は兎も角、量が多くしぶとい。確実な殲滅と自機の安全の確保の為には大量の弾薬は必要だとはわかってはいるが、それでもキツいものはキツい。

それに、リンクス戦争が終わった為に、全体的に報酬金が少なくなってきているのも痛い。どの企業も(その勝敗関係なく)、復興の為に多額の資本が必要となっており。自然と軍事費の削減を行っている。流石に赤が出るような任務は無いが、新たな装備の購入などは厳しい。

 

……また、頭が痛くなってきた。とりあえず、今はいくつかの弾薬を安く仕入れられるようになることを喜ぶとしよう。レイヴンズネストでは、精度の高いBFF製の火器の使用頻度は高い。

少しばかり、気分が晴れへと近づいたフィオナは、そのまま最後までコンテナのチェックを終えた。

 

と、一つ。リストに入ってないコンテナが存在していた。

 

「これは?」  

 

「あぁ、ほら、いまお宅のベルリオーズさんが話してる奴ですよ。」

 

「ベルリオーズが……あぁ」

 

それで思い出す。ベルリオーズはいま、MSAC社の社員と仕事の話をしている。なんでも、新型ミサイルのテストを行って欲しいらしい。何でも、高速戦闘の際の使用感などを確認したいのだとか。まぁ、GAのネクストには向かない仕事だろう。

 

「契約が成立したのなら、これの積載もお願いします。とりあえず、契約期間中は弾薬は無料で提供することになると思います。」

 

「普通に買うとしたら弾薬費はどれくらいかかるんですか?」

 

「んー、詳しくは知りませんが。分裂系の……あぁ、シャイアンタイプですね。……だった筈なので……まぁ一発あたりは結構な値段になると思いますよ」

 

「そうですか……」

 

まぁ、契約期間中はタダな上に、データを送れば報酬も貰える。ありがたく使わせてもらい、ベルリオーズが気に入らなければGAに返せば良い。

 

「なら、これで大丈夫ですね。代金はいつものように……」

 

微かに電子音が聞こえる。たしか、昔のコミックの主題歌だ。男の携帯の着信音らしい。

 

「っと、失礼、電話が入りました。」

 

「あぁ、どうぞ」

 

フィオナが電話に出るように促すと、男は頭を下げ端末を懐から出した。

 

「俺だ。あ?うん、そうだ、いるよ。…………えっと、ベルリオーズはMSAC棟の方だ。もう一人は……」

 

男がこちらに視線を向ける、もう一人……あの人のことだろう。

 

「彼なら、今は寝室で休んでいるはずです。」

 

「輸送機にいるらしい。うん、ブラックグリントの方も大丈夫な筈……」

 

頷きながら、フィオナは考えた。仕事か。それも、速度が重要な。

 

「大丈夫らしい。……あぁ、うん、とりあえず概要と報酬を……武装組織の基地を襲撃、確認されている戦力は……ノーマルが主力ね、うん、うん、それに戦車と……」

 

その呟きを聞きながら、フィオナは自分の端末を操作する。一番上に登録されている番号にかけると、三コールで相手が出た。  

 

『……仕事か?』

 

仕事の時以外は起こさないでくれと念押しされていたため、レイヴンはすぐに察した。

 

「はい、すぐにブラックグリントに乗り込んで下さい。即応状態にしてあるので……」

 

「フィオナさん、ネクストはいないらしい!30万で……」

 

「大丈夫です。詳細な内容は機内で?」

 

「えぇ、参謀部曰く時間が重要らしいので。ベルリオーズさんにはこちらから伝えときますので、もう出て下さい!」

 

輸送機のエンジンに火が入った。おそらく、レイヴンが伝えてくれたのだろう。

 

フィオナは、貨物室内に存在する内線の受話器を取った。機長室につなげる。

 

「了解しました!すいません、カーゴ閉めて下さい!速やかに出発します!」

 

『了解。とりあえず、作戦行動に必要なだけの人間はいます』

 

「わかりました!では……」

 

「えぇ、ご武運を!」

 

機内から下りた男が、不格好な敬礼を行う。フィオナも小さくそれに返すと、ゆっくりと機体が浮き上がり、カーゴが閉まった。

 

 

 

 

「GAのお膝元で反企業活動とは、気合いの入った連中だな」

 

朝食代わりに食料庫から持ち出したブロックタイプの栄養食とペットボトルに入ったミネラルウォーターを飲みながら、送られてきたブリーフィング内容を読み込む。

 

数十分前、哨戒中の無人機が森林地帯で活動する武装組織の姿をとらえた。十分ほど偵察したところで哨戒機は撃墜されたが。送られてきたデータからは、武装組織はノーマルや戦車、ヘリコプターなどを装備し、さらに大型トレーラーも複数持っているらしい。

 

「えらく、機動力のある武装組織だな。」

 

『GA参謀部曰く、旧アメリカ軍やカナダ軍の残党で組織された集団らしいですね。自由アメリカ連合を名乗り、ゲリラ的にGA社の関係施設に襲撃をかけているようです』

 

「成る程ね、逃げられる前に叩きたかったと。」

 

フィオナから言われた話に返しながら、ブリーフィング内容を読む。なかなかに規模の大きな集団らしい。まぁ、かつての世界最強の軍隊の残党となると、この規模も納得ではある。

 

『今回は、同組織の殲滅が目標設定です。徹底的に叩いてくれとのこと』

 

『アメリカ製のノーマルACかぁ。米軍って、自分の兵器こそが世界のベーシックだって顔してたけど、何だかんだ結構おかしなものを造ってたよね』

 

唐突にフィオナの声を遮ってアブ・マーシュの声が響いた。あいつ、基地で降りてなかったのか。

 

『とれもこれも、今の時代じゃあ骨董品みたいなものだけど、脅威であることには間違い無いからねぇ。んー、でも破壊は勿体ないねぇ』

 

「なんだ?もしかして、博士はアンティークを集める趣味でも持ってるのか?」

 

『まぁさかぁ。兵器は使ってこそだよ。並べて集める趣味なんてないない』

 

そう言って朗らかに笑う。

 

『まぁ、ネクストにとっては歯牙にも掛けずに倒せる相手だね。んー、退屈な戦いになりそうだなぁ』

 

「あのなぁ、仕事なんてのは何の危機も無くて稼げるようなので充分なんだよ。常に命を張ってちゃ心と身体がもたん」

 

『あ、そうだね、それはそれで困るね。んー、AMS適性を無理矢理引き上げる方法とか無いのかなぁ』

 

それを出来れば苦労は無いが、どうしてだろうか、非人道的な手法しか思いつかない。苦労をしすぎたせいだろうか。

 

『あの、すいません。そろそろ作戦区域に……』

 

『っと失礼。じゃ、コーヒーでも入れてこようかな』

 

アブ・マーシュの声が遠ざかってゆく。なんというか、自由な人間だ。

 

「博士、俺の分も入れといてくれ。さて……そろそろかな?」

 

『三分後に投下します。現在観測中ですが、敵集団は南東に向かい逃走中です。すぐに追って下さい』

 

「了解。ま、気楽に……」

 

と、ブラックグリントのアイカメラから、外を眺めていたレイヴンが何かに気付いた。

 

「フィオナ、目標地点に煙が上がっている。何が起こっている?」

 

『こちらでも確認しました。現在解析を…………AC?ACが武装組織を襲撃している……?』

 

「ACだぁ?ネクストか?」

 

『いえ、コジマ反応はありません。恐らくはノーマルですが、見たことのないタイプです。』

 

「映像をこっちに回してくれ」

 

レイヴンがそう言うと、すぐにフィオナから映像が送られてきた。サーモで見ているために機体本来の色はわからないが、シルエットはわかる。

 

スマートな機体だった。武装組織の兵器など相手では無いとばかりに森林を疾駆しながら、ひとつひとつ敵を狩っている。

 

『ハイエンドノーマルかなぁ?』

 

アブ・マーシュの声が聞こえた。戻ってきたらしい。

 

「コーヒーを入れに行ったんじゃないのか?」

 

『いや、何か面白いことが起こってる気がしてね。ほっぽってきちゃった』

 

どういう勘をしてるのだろうか。時々鋭くなる変人に対し頭痛を感じながら、尋ねてみる

 

「とりあえず、俺は見たことないタイプだ。……うん、思い出せない」

 

『んー。僕も色々と調べてたけど。このフォルムは見覚えが無いなぁ。レイヴンって、現役時代何に乗ってたの?』

 

「ドイツ・アメリカ・ロシア……この辺りのパーツを組み合わせていた。カタログも一通り見てたが……うん、ダメだ、記憶には無い」

 

国家解体戦争以前の記憶を思い出しながら呟く。レイヴン時代は、各国に顔が売れていた事も有り基本的にどんなパーツでも手に入る環境にいた。

 

「新規開発か?」

 

『このご時世にかい?確かに、弱いものいじめには最適だろうが……コストがバカにならないよ。そんなものを戦力化できる組織なら、もうちょっと賢い使い方できると思うけど……』

 

驚いた。ブレードしか装備出来ないACを設計する人間が、兵器開発のコストパフォーマンスについて語るとは思ってもみなかったからだ。

 

『レイヴン、GAに現状のメールを送りました。現状、我々はこのアンノウンと敵対する要素はありません。よってこのまま敵集団を襲撃してください。アンノウンACに対しては鹵獲で追加報酬を出すそうです。……2万ほどですね』

 

「鹵獲……ね。ま、確かに。このご時世に、ハイエンドノーマルに乗る奴の顔は気になる。おそらく、どこかのコロニー所属の兵隊だろうが……」

 

『エチナ・コロニーの戦訓では、状況によってはノーマルはネクストを打倒しうるとされています。どうか、油断はしないでください』

 

(同業者)に対して油断してたら、それこそ命がいくつあっても足りんよ。」

 

『ファフニールよりレイヴン。10秒後に作戦区域に侵入する。カウントダウン。7.6.5.4.3.2.1.投下、投下、投下。幸運を!』

 

カーゴが開く。お伽話に出てくる魔王などとは比べものにならないほどの凶悪さを備えた兵器が姿を表し、獲物へと向かって飛翔する。

 

『ブラックグリントの投下を確認。……無事に帰って来て下さい』

 

「了解。さて……と!」

 

OBを稼働。周辺の空気を一気に取り込み、エンジンから大量の炎とコジマ粒子が噴出される。レイレナード製のブースターから与えられる推力を全身に感じながら、男は戦闘態勢へと移った。

 

 

 

 

 

『高エネルギー反応を確認。識別不能、該当データなし』

 

「!?」

 

そのCPUボイスを聞いた瞬間、彼女の体内に生々しい死の感覚が蘇った。

 

ほんの数十分前に味わった絶対的なソレ。自らの誇りなど理解しない相手から与えられた永遠分の痛み。

 

距離をとろうとする攻撃ヘリに対し銃撃を放った彼女は、レーダーが新たに捉えた対象へと視線を向けた。

 

そこには、神話的な光景が広がっていた。蒼天の下、緑色に輝く光を纏い、二対の羽を広げた死天使。破壊と暴力の権化。私には辿り着く事の出来ない……

 

その瞬間、彼女は気付いた。私は、最早レイヴンとして生きていけないのだと。

 

ジナイーダは力無く笑った。彼女の身体は、目の前に迫る恐怖の前に、生娘のように震えていた。




ジナイーダの設定漁ってたらジノーヴィーの妹説を見て成る程ねと首肯している。


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アクアビットにおける非人道的実験と、とある災いの始まり

この世界のどこかにつくられた
超巨大総合動物園「コジマパーク」。
そこでは神秘の物質
「コジマ粒子」の力で、
動物たちが次々とアクアビットマンの姿をした
「コジマガール」へと変身――!
訪れた人々と賑やかに
楽しむようになりました。

しかし、時は流れ……。

ある日、パークに困った様子のトーラスマンの姿が。
帰路を目指すための
旅路が始まるかと思いきや、
コジマガールたちも加わって、
大冒険になっちゃった!?

新番組 こじまフレンズ!このあとすぐ!
あ!頭に羽根があるから、貴方は烏のフレンズだね!そこの君は……山猫のフレンズ!!


てれびのまえのみなさん こんにちは 

 

きょうは みなさんに たいせつなことを おしえようと おもいます。

 

いいですか?よくきいてくださいね?

 

普通の生物はコジマを浴びりゃ死にます。

 

 

 

めんそーれアクアビット。今日も今日とてジャンヌ・オルレアンです。おそらく明日にはジャパリパーク・オルレアンに変化し、明後日にはジャミトフ・オルレアンに変化してるでしょう。ちなみに昨日はジャンヌ・きらりん・オルレアンでした。

 

さて、なんで私がテレビの前のぼーい&マダムに対し、突然コジマ粒子が危険だという事を解説したのでしょうか。わかる人いますか?え?わからない?そうかー。

 

「あー、あー、博士?聞こえてます?」

 

『こちらパトリック。どうしました?』

 

どうしましたって大問題だ。というか、てめぇらはこれに対し何の疑問も抱かんのか?

 

私は、深ぁく溜息を吐くと、上から私の姿を眺めているであろう阿呆共に対して口を開いた。

 

「コジマ粒子の濃度が高すぎて前が見えないんだけど」

 

そう、現在、私の目の前は一面のクソ緑である。五里霧中ならぬ五里コジマ中。一寸先はコジマ。コジマ、コジマ、コジマ。上も下も右も左も後ろも前もコジマである。

 

もし、このテレビを御覧のみなさまの中で、AC4系をやった事がある人がいるのであれば、コジマタンクの中二入ったりコジマエネルギープラントの中に入った経験はある筈です。その時、どうでした?前が見えなかった事ってありましたか?いえ、ありませんね?テロリスト共の特殊MTや、プラント内の風景はしっかりと確認できていた筈です。

 

うん。なんだこれは。なんなこのこれは。なぁ、ここに存在するものの中で、コジマ粒子を発生させている存在って私の乗るこいつだけだよな?

 

『こちらも同様です。現在、試験場内全域に極めて高濃度のコジマ粒子が蔓延しており、そちらの様子は愚か、内部の一切の観測ができません』

 

馬鹿なのか?

 

「どうするの?本当に何も見えないんだけど……試験中止するの?」

 

『いえ、そちらのカメラを赤外線モードへと変更して下さい。それで一応は視界を確保できる筈です。こちらでも、いくつか赤外線カメラを用意するのでそれまで待機していてください。』

 

あぁ、サーモなんてつけてるのか。ならマシなのかな?

 

「了解、カメラはどうやって操作を……あ、出来た。」

 

すると、視界がクソ緑からボンヤリと何かが白く浮かぶ

クソ緑に変化した。

 

『こちらも君の姿を確認しました。どうです?プライマルアーマーですが、それで足りますか?』

 

「あー、博士。それは冗談ですよね?そこまで常識を失ってませんよね?」

 

『酷いなぁ。でも、開発部の理想値から言うと、まだそれでもコジマ粒子の生成量は足りてないんだよ。その程度では、地上で敵ネクストのプライマルアーマーを減衰する事が出来ないんだ』

 

…………それは、あれか?ワシにアンサラー並のコジマを放てと言うのか?

というか、閉鎖空間なら敵のPAを剥ぎ取れるって事か?

 

「…………あー、まぁー、うん、そうですね」

 

たすけてりりうむ、わちきなにもわるいことしてないのに、非人道的な殺人機械に乗せられてる。何をしたってんだ。色々してたわ。

 

『では、これより試験を開始する。ジャンヌ。機体への接続を開始してくれ』

 

「ジャンヌ了解。事故らんでくれよ~」

 

深く目を瞑り、座席に身体をゆだねる。一瞬の痺れ、AMSにより、自らの脳と脊髄に様々な信号が送られてくる。機体の隅の隅まで、人体に例えるならば、足の爪先から髪の毛の先端まで、神経が通っていくようなそんな感覚が、身体中を駆け巡る。

 

視界が黒からクソ緑に変わった。アイカメラから送られてきた電気信号を、脳が受信し、私に見せてきたのだ。人の限界を超えた高画質の瞳。そこに映された白く光る目標を眺めながら、ゆっくりと身体の調子を確認する。

 

不思議な感触だった。本来、自分の身体に存在しない筈の部位が自由に動く。元から存在している指などのパーツも、何の障害もなくダイレクトに、なめらかに、機敏に、繊細に動く。前の指では、集中してセンチ単位の作業が出来たくらいだが。これならマイクロ単位の動作だって行えそうだ。

 

うん、やっぱり楽しい。

 

「こちらジャンヌ。接続完了。いつでもどうぞ。」

 

『うん、ではとりあえずまっすぐ歩いてみてくれ。』

 

「了解した」

 

さて。歩く……か。これまで乗った機体だと、当たり前に出来た事だが。今回は少しばかり緊張する。

 

息を深く吐き、ゆっくりと吸う。右脚と左脚に神経を集中させる。あぁクソ。身体中にギチギチに詰められたブースターとジェネレーターが干渉してくる。配置に一切余裕を持たせないからこんなことになるんだ。

 

全身に蜘蛛の巣の如く張り巡らされた人工筋肉に命令を与えながら、歩行を行う。おいっちに。おいっちに。まぁ、とりあえず、歩くだけなら、問題は、無……くせる。

 

すぐに、普段の歩行と変わらない速度で歩けるようになる。ワシ天才かもしれへんな。  

 

『よし、歩行はそれくらいにしよう。次に、ブースターを起動してください』

 

「りょーかい」

 

さて、ここからが本番だ。事前にシミュレーションは行っているが、それでも緊張はする。

 

この、仮称試作一号機は、ある面白い試みにチャレンジしている。エネルギーなど無視して、コジマの発生能力のみに特化したジェネレーターを複数搭載しているため。常識では考えられないほどのKP出力を誇る機体に仕上がっている。普段は、それを防御用に回しているが、ネクストACの戦場は一般的に重戦車のような装甲よりも戦闘機のような機動性が求められる。かつての巡洋戦艦や巡航戦車と違い、速度が防御力にも直結するからだ。

 

そのため、研究者たちはこの機体にある工夫を加えた。それは……

 

「メインブースター稼働。全ブースターへのコジマ粒子供給を確認。」

 

メイン・バック・サイド。これらのブースター全てを、コジマをプラズマ化させて噴出するものにしていた。

 

つまり、ブースター稼動中は常時OB状態である。(オーバードブースターを使用してるわけではない、それにQB機能を足した、新開発のブースターだ。これの開発には、旧レイレナードの技術者が多くかかわってるという事から、出力は察して欲しい。)消費エネルギーでいうなら、GA製の大型ジェネレーターだって、立ってるだけですっからかん。レギュ1.15だからこそ許される荒技だ。(ちなみに、研究者たちはこれを、体内のナノマシンの影響であると結論したらしい。それは思考停止では?)

 

ただし、だからといって常に時速2000kmだしているってわけではない。通常状態では、出力はある程度デチューンしてあるし。機体の強度を限界まで高くするために、ネクストには余り使われない高強度の複合チタン装甲などを使っているため。とんでもなく重量が高くなっていた。なんと、質量でいったら雷電よりも重い。

 

まぁ、軽量のACと同程度には動けるのだが。前進速度は1024。うん、速い。速すぎない?(この後、部屋に戻ってACfAを起動して気づいたのだが。クーガー製のメインブースターを搭載したフラジールの速度が800ほどだった。は?)しかし、機体の調整はとんでもなく面倒くさい。常に体内に気を向けて、異常が発生しないように注意し続ける必要があった。

 

右に左に前に後ろに、全身のブースターから噴出されている緑色の粒子の勢いのせいで、体感速度は速度計が示すそれよりも速く感じる。

 

さて、まぁ、とりあえずは問題はないだろう。なめらかに動く。武器は装備してないが、いまさらちょいとばかし重量が上がったところでそんなに変わるとは思えない。

 

うん、第一関門はクリアだろう。真の問題は、次だ。

 

『よし!ここまでは順調です!ジャンヌさん!次はクイックブーストをお願いします。』

 

すーーーーはーーーー。深く、ふかぁく、二三度呼吸を行う。覚悟を決める。まぁ、うん、なんとかなるのだろう?なら、信じるしかない。

 

ブースターに集中する。狙うは音速の向こう側。無論、二段QBだ。神よ、どうか、どうか…………!!

 

「我を救いたまえッッッ!!!」

 

 

 

 

 

その瞬間、何が起こったか。正直思い出したくもない。

私は、会心の二段QBを出しました。サイドブースターからは特大の光の尾が伸び、耐えるとかそんな、そんな生易しレベルじゃないGが私に襲いかかりました。

 

まぁ、うん、そこまではまだ良いんだ。問題は、私の視界の隅っこに映し出されている速度計だ。コンマ単位で変わる速度を正確に把握することは流石にできなかった。うん、そこまで余裕があったわけじゃないしね。

 

ただ、ほんの一瞬だけ、そこに映された数値の四の位が、5になったのを見た。うん、この、空力とか抵抗とか全く考えてねぇだろって機体で。うん、どいうことでしょうね?

 

ま、ま、そこはまだ良しとしよう。わちきはチーターだ。その程度なら、普通に、損傷なく、耐えれちゃった。

 

うん 自分は 耐えることが できた。

 

 

 

 

 

同時だった。コアにジョイントしてあった全てのパーツが、クイックブーストをかました瞬間に吹き飛んだ。脚部など、腰と脚で別れてたし、膝でも、足でも分解してた。腕は引きちぎれ、何本か指が単独で舞っている。多種多様なパーツが無理矢理発生した推力により空を飛び、試験場の壁に突き刺さっていく。

 

ちなみに、頭部はコアに固定していたため。そんな様子をちゃんと見る事ができていた。きゃー!幻想的!

 

「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぃぁいぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

なお、口からは悲鳴しか出ていません。おしっこ?あぁ、試験前にすましといたからなんとかなった。

 

エネルギーだけを与えられ、ソレを止める為の装置が全て吹き飛んだ私を乗せたコアは、音速で壁に激突しましたとさ!めでたし、めでたし!

 

 

 

「私を殺す気かぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

全力で長机をぶん殴る。怒りによって制御できなくなった人工筋肉から発生したパワーと、衝撃により硬化した拳によって伝えられたエネルギーは、哀れな長机を破壊するのに充分だった。ばきりと、机が割れる。

 

場所は、アクアビット本社に存在する会議室。そこでは、ネクスト研究者たちが渋い顔で並んでいた。

 

なんとか自力で脱出し、除染を終えて試験場を出たときは。生きてることへの感謝以外が出来ないような状況であった。そのまま会議室へと移動し、実験を振り返ってる中で怒りが再燃し、発言を求められた事で爆発した。

 

「……返す言葉もありません」

 

なんとか、発言するだけの元気が残っているパトリックが答えた。

 

「で、何が問題なのアレは。というか、問題じゃない所はあるの?」

 

「実際の所、問題しかありません。」

 

パトリックの野郎断言しやがった。

 

「ですが、その殆どをジャンヌさんの特異体質により無視しています。通常の生物の致死量を無視したコジマ粒子の濃度、ジェネレーターによるエネルギー生成能力を無視したエンジン出力、人体の構造を無視した速度など……」

 

無視してばっかりやないかい。なんだそれ。中学生の物理か?

 

「ですが、やはり、機体の強度だけはどうにもなりません。新設計のチタン合金や炭素素材を使用しておりますが……結果はこの通りです。」

 

「シミュレーションではうまく行ってたんでしょ?原因は?」

 

「コジマ粒子による劣化です。閉鎖空間で、高濃度のコジマ粒子を浴び続けた事により、機体の損傷が進んだのだと考えています」

 

……ようするに、アレか。ハードのB7やアンサラー状態ってことか。

 

いや、でも待てよ?

 

「だけど、APに問題は無かったような」

 

そうだ、いくらバカみたいなAPしてるからって。削れてるんなら自分は気付く。私の記憶では、クイックブーストの瞬間まで少しもAPは減っていなかった。

 

「おそらくですが、通常のPAでも機体損傷を……それこそ、目に見えないくらいにですが……受けていたのでしょう。ですが、今回はマッハ4を超える程の推力を一気に受けた為……」

 

何度聞いてもおかしいよなそれ。何だよマッハ4て

 

「……それらの小さな傷が原因となり、分解が始まったのでしょう。」

 

「はぁ、なるほど……」

 

私は、目の前においてある冷たい水に手を伸ばし、一気に飲み込んだ。うん、とりあえず怒りはおさまってきた。……さ、て。

 

「で、解決策は?」

 

「新素材の研究……それも、コジマ粒子の影響を受けないようなソレを開発するか。出力を落とすかです。」

 

「なぁーるほど。なるほど。うん」

 

「正直言うと……ネクスト部全員の意見ですが。性能を落とすことはしたくありません。本プロジェクトは、我がアクアビット社の全ての技術を集結させた、理論上最強のネクストを設計することにあります。ならば、これ以上スペックを下げたくはありません」

 

それは私も同意見だ。最強。最強。最強。凄まじく良い響きだ。最も強いネクストAC……素晴らしい。本当に素晴らしい。

 

「うん、まぁ、私も、ほかのネクストなんて歯牙にもかけないような化け物ACに乗りたいもん」

 

「ですから今後は、新たな装甲素材やフレーム素材の開発。それに機体のデザインの見直しを中心に設計を仕直すことになります。それまではどうかお待ちを」

 

「了解。ま、うん、アレだ。とりあえず、ラグナロクがあるからね、気楽に待っとくよ」

 

周囲には聞こえないよう、溜息を小さく吐く。このままじゃ、fAが始まっても製造に成功せんかもしれんなぁ……

 

 

 

 

 

「こちら第38区画!本部、聞こえてるか?」

 

『こちら本部、どうした?事故か?』

 

「いや、事故なんかじゃない。ドリルが貫通した!」

 

『貫通だと?どういう事だ?』

 

「わからん、掘っている最中、唐突に手応えが無くなったと思ったら。大きな空洞にぶち当たったんだ」

 

『空洞だと?事前の地質調査では、こんな所に空洞なんて……。とりあえず、何人か送る。そのまま作業を停止してくれ』

 

「了解した!……しかし、なんなんだろうなぁこれ」

 

「監督!ちょっと来て下さい!」

 

「あ?どうした?」

 

「それが……何か、下から音が聞こえるんです。」

 

「音だと?どんな?」

 

「それが、何か、飛んでいるような……」

 

「飛んでいる……?どういう……いや、待て。こっちでも聞こえた」

 

「えぇ、何か、段々近づいてくるような……」

 

「なんだ?風にしてはおかしいよな。いった……」

 

 

 

「本部!本部!こちらラットリーダー!調査予定地の第38区画において爆発らしき音が!一体何が起こってる!」

 

『こちら本部。こちらでも確認した。いま呼びかけているが、第38区画からは一切の反応がない。一旦引いてくれ』

 

「了解した!クソ、何だってんだ……。ん?」

 

『どうした、ラットリーダー』

 

「おい、何か、向こうから何か飛んでくる」

 

『何か飛んでくる?何かというのはなんだ?』

 

「わからん、見たこともないものだ。赤い、これは……こっちに突っ込んで……まずッガッ!!………………」

 

『ラットリーダー!どうした!応答を……!』

 

 

 

「クッ!至急、全区域に警報を!私は全隔壁の閉鎖を行う!それとミセス・テレジアに連絡を!B3階層において問題発生と伝えろ!緊急だ!!」

 

 

 

 

to be continued

 




重量級の機体をハイパワーのエンジンでぶっ飛ばしながら高機動かますのってロマンですよね。


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「酒の席」「目覚め」

資料集買いました(金が吹き飛んだ)序盤の話はそこから生まれました。


「では、一国一城の主となったフリードマン・レイに……乾杯」

 

「乾杯」

 

ガラス製のジョッキがぶつかる澄んだ音が響く。そのまま、よく冷えたビールを一気に喉に流し込んだフリードマンは、その瞬間だけ先ほどまでの夏の暑さに感謝をした。

 

「さて、どうだ?フリーになって本を出した感想は」

 

フリードマンよりも先にビールを飲みきり、つまみへと手を伸ばし始めていたジョージ・オーニルが尋ねてきた。

 

「まぁ、前よりは企業に気を遣わなくても良くなったな。……その分、本一つ分の取材するのに大分手間がかかったが」

 

ソーセージに手を伸ばしながらフリードマンがぼやく。

昨日、フリーとなって初めての仕事である。 リンクス戦争について取り上げた著書を出版した彼は、ここ数ヶ月は世界中を飛び回っていた。

 

「なに、お前さんならすぐに新しいコネを見つけるだろうさ。」

 

GAへの取材の際に出会い、そこで意気投合してしばしば飲むようになったジョージは、気楽そうに言った。

 

「まぁ、とっかかりは出来たな。今度はリンクスからの証言も取りたいが……」

 

「今は難しいだろうな。そもそも数が半減した上に、その少ない戦力でもって戦線を守らなければいけないから、どこの企業も相当に無理させているようだ。」

 

「戦間期……か。ふむ、となると、やはりネクスト戦力を充実させるのがどこも急務という訳か……」

 

「ま、ネクストだけでは無いが……。そうだな、餞別といっては何だが、いくつか聞いていくか?」

 

「なんだ?GAの今後の戦略か?」

 

フリードマンは胸ポケットからボイスレコーダーを取り出す。ジョージはソレを見ると、まぁそのようなもんだ。と身体を乗り出した。

 

「GAアメリカの今後の戦略的拡張の方向は二つ。ネクスト戦力の更なる拡大と……ネクストに頼らなくてもすむ戦力の生産、この二つだ。どっちから聞きたい?」

 

「まずはネクストの方から頼む」

 

ジョージのグラスにビールを注ぎながら、フリードマンは言う。先のリンクス戦争の結果からわかるように、ネクスト戦力はそのまま企業のパワーバランスになりうる重要なものだ。今後、世界の覇権を握ることとなるGAが、どのように動くかは、個人的にも気になった。

 

「わかった。……とりあえず、GAの次期標準ネクストだが……3機出すらしい。」

 

「3機?それはあれか。武器腕換装型も含めてとか……」

 

「いや、違う」

 

ジョージは首を振り、ニヤリと笑って言った。

 

「それぞれ別のフレームで3機だ。重量二脚タイプのサンシャイン2。中量二脚タイプのニューサンシャイン。そして、軽量二脚タイプだ」

 

フリードマンが驚愕の表情を浮かべた。

 

「えらい思い切ったな。いったいどうして。」

 

「まぁ、詳しいことは聞こえてこないが。恐らくはアクアビットに対抗するためだろうな」

 

ジョージが手元の端末で追加の注文を打ち込みながら言った。

 

「なるほど、例の狂人か。」

 

アクアビットの狂人……。先の大戦で、世界中を相手に暴れ回った怪物リンクスの事は、突然フリードマンも把握していた。残念ながら、全企業に衝撃を与えたというアフリカでの映像については見てはいないが……。

 

「あぁ。前の戦争で奴には相当にやられたからな。そうでなくても、ネクストの質と量のせいでだいぶ戦いにくかったと聞く。恐らく、ネクストの技術研究の面もあるんだろうな。」

 

「各タイプの特徴とかは……」

 

「その辺りになると流石にまだ聞こえてこないな。話すとしても、信憑性の怪しいものになるぞ」

 

「いや、それで良い。そうだな、まずは重量級の奴から聞かせてくれ」

 

「わかった。サンシャイン2だが、現行のものを更に発展させたタイプだ。より堅く。より強力な重火器を装備出来るようにするらしい」

 

「有澤の霧積を二脚化させたようなタイプか?」

 

「だろうな。ワカの戦訓から、相当に丈夫な機体なら撃墜されてもリンクスへのダメージは少ないという事がわかったからな。有澤も新型のタンクタイプを造るらしいから、その辺りと協力して造るんだろうな」

 

「成る程ね……」

 

追加で運ばれてきたビールに手を伸ばす。どちらもアルコールには強いので、この程度ではどうという事は無い。

 

「で、次は中量級だが。まぁ、こっちが生産の中心となると思う。なんでも、NSSプロジェクトというのを開始するらしい」

 

「NSS?」

 

「ニューサンシャインの略だな。こっちは、リンクス戦力の充実の為にやろうとしているらしい」

 

「ネクスト戦力の充実……」

 

フリードマンは少しばかり考えると、あぁ、なるほどと顔を上げた

 

「サンシャインのセールスポイントの一つだったな、操作の簡単さは。そっちを発展させていくのか」

 

サンシャインは、厚い装甲と重火器がウリで有るために、複雑な操作を必要としないと言う特徴があった。

 

「あぁ、フィードバックやアナトリアの傭兵の成功もあったからな。AMS適性が低くても、一流の戦力になり得るって事に気付いたらしい。そんなのを集めて戦力にしようってのがNSSプロジェクトの肝なんだと。まぁ、又聞きだが……」

 

「ふーむ。しかし、この二つを考えると、クーガーのあの動きも納得だな。」

 

「聞こえてるのか?」

 

「あぁ、だいぶえげつない手で引き抜いてるらしいな」

 

GA傘下のクーガーによるコジマ技術者の引き抜きは、業界の人間ならば誰でも知っている話題だった。様々な企業から、時には強引な手を使いながら人間を吸収していた。

 

「まぁ、コジマ技術はGA全体のウィークポイントだからな。ここをどうにかしないと今後生き残るのは難しいだろう」

 

 

「っと、話がそれたな。で、最後だ。GAが軽量機体を造るってのは、どんな機体なんだ?」

 

「これに関しては一切わからん。どうやら、相当上の連中が進めているらしい」

 

「何か、本当に出所の怪しいのでもいいから聞こえてこないか?」

 

「あー……そうだな……。……信憑性というか、俺の予測も入ってくる話だが……」

 

「なんだ?」

 

ジョージが声を一段階落とす。

 

「カレッジの同期にレオーネに就職した人間がいるんだが……そいつを、この前ビックボックスで見かけたんだ」

 

フリードマンが唸る。それは、つまり……

 

「レオーネとの協力関係を復活させるということか」

 

「まだわからんがな。だが、あり得ない話ではない。どちらもリンクス戦争で受けたダメージは小さくない」

 

そう言いながら、ジョージは更に言葉を繋げる。パブの喧噪もあり、声はフリードマンたちの席にしか聞こえない。

 

「それに、だ。レオーネ含めたインテリオルグループとGAはコジマ技術に関しては弱い。向こうは、アクアビットをなんとか取り込もうとしていたらしいが……」

 

「アクアビットの反インテリオル感情は凄まじいぞ。奴ら、あいつらを裏切り者だと思ってるからな。」

 

現在のアクアビットは、レイレナードやGAEなどのリンクス戦争での敗者を多く吸収していた。アクアビット単体での力は戦前よりも上がっていると言う話もある。

だがそのために、リンクス戦争において敵側だった企業への恨みは凄まじい。

 

「それに、GAはBFFを取り込んだせいでオーメルとの対立も深くなるだろうし……。あぁ、となると二つが協力して研究を……ふむ……」

 

BFFは金融関係においてオーメルと、民族主義の観点から再建中のローゼンタールと対立している。

 

「まぁ、どっちも得意分野が違うからな。実験的な要素が強いと思うが、噛み合えば良い機体が出来るんじゃないか?」

 

「ふぅむ」

 

兎も角、いい話を聞いた。すぐに記事には出来ないだろうが、追う価値はありそうだ。

 

「なるほどなるほど。で、次だ。ネクスト以外の戦力ってのは……」

 

「まぁ、とりあえず続きはこのグラスを開けてからにしようや。」

 

「っと、そうだな。」

 

話に夢中になりすぎて、酒もつまみもすすんでいない事にようやく気がついた。フリードマンは新たに運ばれてきた酒を口に含むと、今度は他愛も無い話に花を咲かせた。

 

 

 

 

 

 

 

「こちらカリオン、現在現場に急行中。状況は?」

 

B7……アクアビットの掘り進めている大規模採掘施設。そこの中のAC用通路を愛機と共に進みながら、ミセス・テレジアは状況を尋ねた。

 

『こちらHQ。現在、警備のノーマル部隊が防衛線を張っている。』

 

「了解。」

 

自分が警報を受けたときとオペレーターが変わっていた。おそらく、軍務経験者を引っ張り出してきたのだろう。

 

『防衛戦を行っている地点をマークする。現在、38区間と直接ルートが繋がっている地点……三箇所あるのだが、そのどれもが苦戦中だ。まず貴女には、そこから最も近い防衛線Aへ向かってもらいます』

 

「了解したわ。で、敵の情報は?」

 

マーキングされた地図を参考に、通路を進んでいく。本部から操作しているのだろう。最短ルートの隔壁刃事前に空けられていた。

 

 

『現在解析中だ。既に、数枚の画像が本部に送られているが……攻撃方法含め、特異な兵器だ。現時点で得た、画像データと行動パターンをまとめたレポートを送信する。参考にしてくれ』

 

送信されてきたレポートに目を通す。そして、向こうが特異と言った理由に気付く。

 

奇妙な兵器だった。甲虫や甲殻類を思わせるようなフォルム。攻撃方法は体当たりによる爆発のみ。

 

「人工知能を利用したミサイル……という所ね。まるで虫みたい」

 

『上も同じ考え方をした。本兵器の呼称はこれよりバグで統一する』

 

「了解。バグね……さて、そろそろ現場に到着するわ」

 

『防衛部隊の周波数を教える。コールサインはクローバーだ』

 

少々天井の低い通路を高速で駆け抜け、防衛線へと向かう。教えられた周波数に無線を合わせる。

 

「カリオンよりクローバー隊。これより救援に向かう。状況は?」

 

『ネクストか!助かった!こちらはクローバーリーダー。現在、ノーマル二個小隊で防衛中だ!まだ離脱者は出ていないが、弾薬が足りていない。一度退かせてもらいたい!』

 

「任せなさい」

 

現場に到着する。リンクス戦争時代にレンドリースを受けたBFFやインテリオル製のノーマル部隊が見える。

受けた BFFやインテリオル製のノーマル部隊が見える。

 

「ノーマル部隊は退きなさい。バグはこちらで受け持つわ」

 

テレジアがその時、装備として持ってきたのはいつもの高火力兵器では無く。ライフルやガトリングガンであった。施設防衛が仕事だった為に、いつも使用している兵器では施設にダメージを与えかねない……というのがその理由であった。

 

FCSが、闇の中から浮かび上がってきたバグを見つける。奇妙な機体だ。テレジアはライフルを放った。

 

耐久性はそれほどでも無いらしい。銃弾の一撃を受けて、暴散した。だが……

 

「数が多いわね……」

 

FCSが、次々と敵の姿を捉える。弾丸をばらまくわけにはいかない。B7は軍事施設ではないので、保管している弾薬は少ない。無駄遣いする余裕は無い。ガトリングガンを一発一発、注意しながら放つ。

 

リロードの間、背中に装備したプラズマキャノンを使ってバグを排除する。

 

アクアビット製のプラズマキャノンの爆風とバグの炸薬が反応し、大きな火の玉が発生する。

 

ブースターを切り、射撃に専念する。

 

『こちらクローバーリーダー。補給が完了した!すぐに向かう』

 

「了解」

 

単調な作業だが、だからこそ大変ではある。とりあえず、私も一度さがって補給を……

 

『カリオン。こちらHQ、早急に防衛戦Cに向かってくれ。防衛部隊が突破された。予備部隊を回すまでの間ここを守ってくれ。』

 

「……了解」

 

成る程、休む暇は無いらしい。とりあえず、最低限の補給だけを済ませて向かうしかない。

 

カリオンのブースターを再起動させる。浮き上がった機体を操作し、新たな防衛線へと向かう。いまはまだ大丈夫だが、これが続くといつあの訳のわからない兵器を取り逃すかわからない。

 

「本社からの援軍が来るまでは頑張るしかないわね……」

 

深く息を吸い込み、気合いを入れ直す。長い戦いになりそうだった。

 

 

 

 

ジャンヌ・オルレアンにより無理矢理この世界へと連れてこられたインターネサインは混乱の中にあった。地質調査によると、周囲の状況が、休眠状態に入っていた時と比べ大きく変化していた。特に、いくつかの通路より漏れ出している微粒子状の物質については初めて観測する物質であった。

 

インターネサインは思考した。とりあえず、周辺の調査をする必要がある。現在、自律兵器の放出を行っているが。敵性兵器の妨害により未だ日の光は見えない。

 

インターネサインは新たな自律兵器の製造を開始した。刹那の間に完了した自律兵器の設計では、耐久性の高いモデルが選択されていた。

 

周辺から採取された様々な金属を加工し、自律兵器の建造を開始する。質も量も、休眠前のものより良い。内部に貯蔵されていたデータを参考に、開発を進める。製造工程に無駄が多い。次回建造時に改善すべきポイントをカウントしつつ、インターネサインは建造を進めた。

 

 

 

パルヴァライザーが、この世界において初めて産声を上げたのはこれから五時間後のことだった。インターネサインは、通路の一部に自律兵器を集中し、強力な敵機動戦力が防衛に来る前に防衛線を破壊することに成功した。その隙に、パルヴァライザーを突破させる。微弱な抵抗はあるものの、耐久性を重視した為にある程度は無視できる。

 

閉ざされた隔壁を、レーザーブレードの一閃でもって突破する。太陽を観測したパルヴァライザーは、そのまま西へと針路をとった。

 




パル。4系の世界でもちゃんとラスボスできる貫禄がありますよね


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5:35  エイ=プールの受難

(LR編ラストまでの道筋が)見えました


「はぁぁぁぁぁぁ…………」

 

エイ=プールは深く、深く、深く、溜息を吐いた。溜息と貧乏揺すりが癖となって一年以上が経った。

少し強めに脂の浮いた頭を掻く。はらりはらりと、青みがかった黒髪が抜け落ちた。

もう、一週間も自室に帰れていなかった。シャワーも浴びていないし、睡眠も食事も満足に取っていない。先ほど、用を足しに行く際に見た鏡の中の自分は、まるで屍者のようであった。

 

 

 

現在、インテリオル・グループは、正規のリンクスを一人しか持っていない。

 

先のリンクス戦争で、早期の単独講和によってインテリオル・ユニオンは、致命的な被害を受ける前に他の企業よりも一足早く平和を手に入れる事ができた。

 

が、致命的な被害を受けなかったのは、軍事インフラのみであった。

 

インテリオル・ユニオンは、現代戦において必須で有り、その世界において最強の戦力とされているネクスト戦力のほぼ全てをこの戦争で失った。

インテリオル・ユニオンにとっても、エイ=プールにとっても笑えない話であった。七人いたリンクスの内、五人が戦死、一人が二度とネクストに乗れない程の傷を受けて戦線離脱。唯一無事だったのが、支援用のネクストに乗る新人リンクス。

 

その混乱は凄まじいものだった。ネクスト部隊壊滅の責任を取るため、軍事部門のトップ級は軒並み首をはねられ、連鎖的に各所で人事異動が行われた。

 

エイ=プールは、その煽りをモロに受けた。唐突に同社の最高戦力にされ、それに相応しい責任と階級と仕事を与えられた。

 

はっきり言って、迷惑そのものであった。

エイ=プールは、別に理想や使命感に燃えてリンクスになったわけでは無かった。勿論、ウォージャンキーという訳でも無い。

 

大学生のころ、パックスによる支配体制が確立された後に義務化されたAMS適性検査で、C-という値をたたき出した彼女は、拉致スレスレの強引な手段によりレオーネに確保された。

しかし、エイ=プールは別に嫌と思ったりはしなかった。

将来に対して何の夢も持ち合わせていなかったし、戦争に対してもそれほど忌避感を持ち合わせていなかった。さらに、提示された報酬も破格であった。まともに働いていたら一生かけてしか稼げないような額を、一年で受け取ることが出来た。

エイ=プールは二つ返事でレオーネへの入社を約束した。三年以上に渡る訓練の後、リンクスとして戦力化された彼女は、低いAMS適性を補うために支援用の機体が回された。ヴェーロノークと名付けた機体に乗り込んだ彼女は、旧政府の残党部隊の掃討戦で一定の成果を挙げた。

 

思えば、この時期は彼女にとって一番楽しい時期であった。最強の兵器に乗って、ぷかぷかと空中浮遊を楽しみながら、ミサイルを放つ。それだけで、ほとんどの戦闘が終わっていた。

 

が、リンクス戦争がそんな彼女の平穏をぶち壊した。アナトリアの傭兵、アクアビットの狂人、レイレナードの特殊部隊、GAのネクスト。あらゆる牙がインテリオル・ユニオンに一斉に襲い掛かり、その四肢を食いちぎってしまった。

 

エイ=プール自身も、狂人から一撃を受けていた。しかしそれは、幸運(不幸)な事に致命的なものではなかった。

彼女の受難は、一応の検査入院の後に現場に復帰してから始まった。

 

彼女を待っていたのは、今までとは比べ物にならないほどに広く綺麗な執務室と(別に今までのものが汚かったという訳ではない。)真新しい少佐の階級章(これまでは少尉であった。)、多くの肩書、部隊、そして多種多様な仕事と指揮官としての教育であった。

 

そこからの一年は、激務に次ぐ激務であった。指揮官としての教育を受けながら士官としての仕事を行い、パイロットとしての職務をこなしながら、与えられた部隊と共に訓練をする。

 

すさまじい負荷がエイ=プールにのしかかった。給金も跳ね上がったが、だからと言って耐えきれる仕事量ではなかった。退職も考えたが、唯一のリンクスにそんなことが許されるとは到底思えなかった。

 

 

 

指が、剥き出しになった頭皮を掻く。円形脱毛症の為に綺麗に髪が抜け落ちたコイン型の地肌を撫でながら、もう一度溜息を吐いた。

 

脂を纏った左手が、勢いよくエンターキーを叩いた。新型ネクスト試験の報告レポートと題名の着けられたそれを保存すると、勢いよく伸びをしながら立ち上がった。

 

終わった、という声は出なかった。あまりに疲れていて、歓喜の声を上げる体力も残っていなかった。今はただただ眠りたかった。ここ最近、反企業勢力の相手の戦闘やプロパガンダの為の撮影などで、まともに休めていなかった。

特に、反企業勢力による襲撃はここ最近やけに多い。平和などただの戦間期とでも言いたいのか、どの企業も自らの息のかかった武装勢力に武器を流し、各企業の復興を邪魔しようと非対称戦をしかけている。企業の崩壊により、行き場を失った実験機のテストパイロットなどを確保してリンクスに仕立て上げ、同じく流出したネクストに乗せて戦力としているグループも、少なくない。

一昨日、エイ=プールが相手したのもそんなテストパイロット崩れだった。まぁ、徹底的に爆撃してなんとか被害を出さずに倒すことはできたが…。

 

 

 

エイ=プールはすでにシャットアウトしかけている脳から、明日の予定を検索する。多分、きっと、おそらく、午前は予定がないはずだ。ゆっくりと、ねられるはず。

 

ふらふらとおぼつかない足で、ソファへと歩き出す。もう、ダメ。ぱたりと、倒れるように寝転んだ。柔らかな衝撃に包まれたエイ=プールは、一分もたたないうちに深い眠りの中に旅立った。

 

 

 

 

 

習慣というのは恐ろしかった。五年で、身体がここまで教育されるとは思ってもいなかった。

 

部屋に鳴り響いたスクランブル警報を聞き、反射的に飛びエイ=プールは、部屋にかけられたパイロットスーツをひったくるように掴むと、隣接するエレベーターに乗りこんだ。カーテンの隙間から、ほのかに明るい陽光が漏れている。

 

時計を見ていないせいで、何時間寝たかはわからなかった。陽は昇っているので、ある程度休めたとは思いたいが……

 

格納庫行きのエレベーター内でパイロットスーツに着替えながら、しかし一体何なんだと思考を回す。グループ唯一のリンクスを叩き起こしてまで、迎撃せねばならない敵。この近くのネクスト持ちはあらかた叩き潰したはずだが……。

 

格納庫にたどり着くと、ヴェーロノーク目指しキャットウォークを駆けた。虹彩認証式のロックを解除し、コジマ粒子を完全に密閉できる特殊カーゴの中に入って、コックピットに向けて伸びた通路から機体に乗り込む。体感で、起きてからここまで約5分で行うことが出来た。

 

手早くAMSを接続する。機体に火を入れ、いまいち不明瞭で、反応の鈍い第二の身体との接続をONにした。

カーゴが動き出す、輸送機への搬入が始まったのだ。

と、その途端に通信が入る。

 

『すまないな、エイ=プール。こんな朝っぱらに』

 

声は、聴きなれたものだった。先の人事異動で少将の階級と共に、本社直轄部隊の指揮官に任命された男は、申し訳なさそうに詫びの言葉を口にした。

 

「別にかまいませんよ。貴方が命令したんですから、理不尽なものでは無いことはわかってるわ。」

 

エイ=プールは、彼女にしては軽めの口調で言葉を返した。元々ノーマルACのパイロットであったことから、戦前はリンクスの教育係であり、戦中は参謀将校としてレオーネのネクスト部隊の作戦立案に関わり、戦後は責任を取らされて飛ばされた将軍の代わりに本部直轄の精鋭部隊の指揮を任されたこの男は、レオーネ入社以来、最も世話になった人間の一人だ。

 

『なら、ブリーフィングを始めるぞ。30分前、我が社の東部管轄地がUNKNOWN一機による領土侵犯を受けた。これを受け、東部方面隊は迎撃の為に第三八防衛中隊を派遣した』

 

視界の端に、第三八防衛中隊についての情報が流れ込んでくる。GOPPERT-G3を配備された部隊で、先の大戦での実戦経験もある。

 

『が、同部隊はものの数分で壊滅した。現在、東部方面隊に所属する部隊達が敵の進撃阻止の為に行動中だが……戦況は芳しくないようだ。君には、この不明目標の撃破を行ってもらいたい』

 

「数分で……、というと、敵はネクスト?」

 

中隊規模のノーマルを数分で壊滅させるとなると、相当な質の差があることになる。現在存在する兵器の中で、そんなことが可能なのはネクストくらいであろう。

 

『いや』

 

しかし、その言葉に男は首を振る

 

『形は確かにAC型だが、ネクストとは違うらしい。だが、現場は混乱していて、詳細な情報は未だ流れてきたいない。すまないが、詳細は現地で確認してくれ』

 

「了解しました」

 

まぁ、多少の理不尽は会社勤めにはつきものだ。エイ=プールは息を吐いた。ちょうど、上のほうでは輸送機にカーゴを接続している音が聞こえる。彼女は瞳を閉じた、作戦地域到達までは、まだもう少し時間がある。それまでに、もう少しだけでいいから寝ておきたかった。

 

 

 

 

 

戦況は目に見えて悪かった。

 

輸送機から投下された瞬間、エイ=プールは悟った。このままでは、間違いなく突破される。

戦車や武装ヘリ、MT、アルドラやBFF製のノーマル。多種多様な兵器の残骸が火を噴きだしながら転がっていた。

 

『リンクスだ!リンクスが来たぞ!』

 

生き残っている兵の歓声が無線を通して聞こえてきた。空から援軍が来るのを今か今かと待ち望んでいたのだろう。

 

「こちらヴェーロノーク、作戦地域に到着しました。通常兵器及び、損害を受けたノーマル機は撤退してください。撤退を確認次第、攻撃を開始します」

 

冷静に周囲の状況を確認したエイ=プールは、下で行動する部隊に向かって命令を送る。その中で、敵と思わしき機影を見つけた彼女は、それを観察しようとカメラをズームさせた。

 

『どこの機体だありゃ、データベースには記録されてないぞ』

 

男の言葉の通り、見たことのない奇怪な機体だった。全身はオレンジに塗装されているが、ところどころが妖しく蒼く光り、なんとも不気味だ。

フォルム自体は、タンクタイプのACといった姿だが、その動きは他のノーマルとは比べ物にならないほどに速い。

武装は、四門装備された背部レーザーキャノンと両腕に備え付けられたレーザーブレードの二つ。どちらも、威力は高い。狙撃戦でもって対象の撃破を図っているBFF製のノーマルを、キャノンの一撃でもって破壊する。接近戦を挑んでいたアルドラ製ノーマルが、手に持つシールドごと袈裟切りにされ倒れ伏す。

 

攻撃可能距離まで接近する途中、通信が入った。

 

『こちらハルトマン中佐、即応防衛連隊の指揮官だ。リンクス、敵ACはこちらの機体では太刀打ちできん。すぐに攻撃を頼む』

 

「了解しました」

 

まぁ、どんな敵が相手でもやることは変わらない。もともと支援用の機体であるヴェーロノークは、たった一つのことをやるための機体だ。

 

折りたたまれていた武器腕が展開し始める。ヴェーロノークの両腕が、戦闘機の主翼の様に伸び、左背部、肩部…搭載された全武装を発射可能な状態に持っていく。

 

敵がこちらの存在に気が付いた、レーザーキャノンをこちらにむけて指向し始める。エネルギー兵器ならば、ある程度の被弾は気にしなくていいなと割り切りながら、ヴェーロノークに不規則にQBを繰り返させながら接近する。

 

二度、レーザーが脚部に被弾する。PAがある程度威力を散らし。対EN兵器を重視した装甲が、青白い閃光をいなす。APの減少数値は許容範囲内、このまま突っ込んでも構わないだろう。

 

敵がこちらに気を取られているうちに、地上部隊は距離を取り始めている。そろそろ良いだろう。

 

エイ=プールは、味方に対し警告を行った。

 

「ヴェーロノーク、攻撃を開始します」

 

次の瞬間、全身に搭載されたミサイルランチャーの蓋が一斉に開く。ヴェーロノークの姿が白煙に紛れ、一瞬の後にそれらを突き破って多数のミサイルが放出される。

 

発射されたASミサイルたちは、ミサイル先端部分に搭載されたIFFをフル稼働させ、敵を探知し始める。

数秒後、一機だけ応答の無い兵器を見つけたミサイルは、パッシブ方式の赤外線センサーを稼動させその目標に狙いを定める。様々な方向へ向けて放たれたミサイルたちは、ほぼ同時に、敵へ向けて自らの弾頭を向けた。

 

ミサイルを視認したのだろう。敵兵器は回避しようと動き出す。どうやら、QBは装備していないらしい。

 

ならば、全て躱すのは不可能だ。絶え間なく第二波・第三波を放ちながら、エイ=プールは考える。

彼女の戦い方には、一切の遊びが無い。空中からの徹底的なミサイル爆撃。分厚い弾幕により敵を圧倒し、一気に敵を制圧する単純明快な戦法。

そんな単調な戦法だからこそ、対抗手段がない相手に対しては一切の逆転の隙も与えずに粉砕することが出来る。

 

敵不明機には、どうやら機銃も、フレアも装備されていなかったらしい。一発被弾し動きの鈍ったところを、容赦などプログラミングされていないミサイルたちが襲い掛かる。

 

 

 

戦闘は、そこから数十秒で終了した。哀れな不明機はネクストに対応する事無く沈黙し、何の価値もない醜悪なスクラップと化した。

 

「なんだか、あっけないですね。」

 

機体を上昇させ、戦域に戻ってきた輸送機へと接近する。

 

『ノーマル相手に無双したといっても、その程度ではネクストの相手にはならないという事だろう。敵は、ミサイルに対する対策を全くとっていなかったようだしな。』

 

男の言葉にうなずく。ともあれ、これで仕事は終わった。

 

地上部隊から、感謝の通信が無数に上がってくる。それを聞いていくらか気分を良くしながら、エイ=プールは呟いた。

 

「では、帰りましょう。」

 

『そうだな。あぁ、叩き起こしてしまった埋め合わせという訳ではないが。午後と明日の予定は何とかしておいたぞ』

 

「え!?」

 

エイ=プールは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「本当ですか?」

 

『あぁ、なんとかお前の移動中に都合着けておいた。どれも軍関係の仕事だったからな。たまにはちゃんと家に帰れ』

 

通信機の向こうに神を見た気がした。無意識に手が祈りの形を作ってしまう。

 

『その代わり、昼は少し付き合ってもらえないか?』

 

「昼……ですか?まぁ、一日以上の休みの為には頑張れますが……」

 

なんとなく嫌な予感がしたが、背に腹はかえれなかった。ここで頷かなかったら、次の一日休みは三日後だ。輸送機が視界の端に移り、ぐんぐんと近づいてくる。

 

「わかりました。付き合います」

 

エイ=プールがそう言うと同時に輸送機の格納庫が開いた。速度計を位置に気を回しながら、機体をなんとか滑り込ませる。正直言って、戦闘よりずっと気の張る作業だ。

 

『ありがとう。詳しい説明は帰ってからする。いまはゆっくり休んでくれ。お疲れ様、ミッションは終了だ。』

 

どしん、という音と共に格納庫に何とか着地する。カーゴが閉じ始めた。

 

エイ=プールは言葉に甘えることにした。席に深くもたれかかり、目を瞑る。身体に刻まれた疲れは深い。ごつごつとしたパイロットスーツに包まれている上に、決して楽な姿勢でないのに、すぐに睡魔が眠りに誘うべく彼女に誘惑を始めてきた。

 

 

 

 

 

一号機は面白いデータをインターネサインに与えてくれた。先ほど戦闘を行った敵性兵器は、この青緑色のエネルギー粒子を活用し高い戦闘能力を発揮していた。

調べてみると、なかなかに応用の効きそうな物質だ。次に開発する機体では、いろいろとテストしてみる必要がありそうだ。

 

そしてもう一つ、ミサイルに対して見過ごせないレベルでの脆弱性があることもわかった。次のモデルでは、機体の高速化と迎撃兵装の充実を行う必要がある。

 

インターネサインは、さっそく機体の設計を開始した。先ほど得たデータを全てインプットし、最適なモデルを選択する。

 

刹那の間に数千数万のモデルが提案され、数秒の間に二個まで選択肢が絞られる。

 

四脚モデルと二脚モデル。一秒間の熟考の後、インターネサインは二脚モデルを選択した。先ほどの戦闘は、インターネサインに上空を取ることの利点を教育していた。

設計と建造を開始する。先ほど改善したことにより生まれた問題や、エネルギー粒子を活用するために新たに取り付けた装置の設計等により、幾つかの部分で効率の低下が見られたが、全体の作業速度は前回と比較しても2.38倍は上昇していた。

 

 

 

新たな殺戮兵器の完成は、近い。

 




ついでにfA主のカップリングも見えました。


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再構成 AC4編
新 一話 プロローグ


後々の展開を決めていなかったことによる、序盤との設定の矛盾に苦しんだため、一回最初っから物語を書き直して再構成します。今現在掲載している話までは、そう展開は変わらないはず・・・

今の展開が気に入っていた方は申し訳ありません。作者の自己満足の為、再構成にお付き合いください。


現実には伏線など存在しない。全てが唐突に始まり、何もかもが唐突に終わる。

私の人生の終焉も唐突なものであった。ACfAのデカール製作の際に、なかなかどうして上手くいかず、イラついていると唐突に意識が遠くなっていったのだ。自らの美的センスの不足による墳死だった。今頃私の部屋には、PS3のコントローラーを握りしめながら倒れる私の亡骸が転がっているだろう。そしていつか腐り、蛆が湧き、異臭により近隣住民から苦情が出てきて、大家が部屋を開けることにより、私の孤独死が発覚するのだ。テラウケる。

 

そして、第二の人生の始まりも唐突であった。

 

「サーバーダウン…ねぇ」

 

私は、顔にどのような表情を作るべきか迷いながら、説明にあらわれた天使を名乗る見目麗しい少年の言葉を聞いていた。(某イタ飯屋にかけられている宗教画に、良くいるタイプの身なりである。)

 

「はい、大変申し訳ありません。先日天界において大規模なサーバー障害が起きてしまいまして……多くの生物の命を強制終了してしまいまして……」

 

どこからであろうか。意味は分からないが怒りに溢れた叫び声が聞こえてきた。右隣では、美しい見た目をした女性の天使が、懇切丁寧にバッタに対し事の詳細を説明している。背中の方では呑気そうな牛の鳴き声が響き。左隣では赤ん坊による悲痛な泣き声が響く。幾千幾億もの命が、私と同じように事情説明を受け、様々な感情を吐き出している。

 

私はというと、別にどうとも感じていなかった。先の人生、刹那的かつ享楽的に楽しくすごした。後悔はない。齢25にして肉親は全て旅立っているし、アーマードコアの新作は恐らく出ないので、現世にとどまる理由もない。まぁ、ぽっくり死ぬなら今かなぁ……?程度に考えていたら本当に死んじまった。それが今の状況である。

 

「……で、それに対する補填なんか当然あるんでしょうね?」

 

が、表情にはそんな気持ちはおくびも出さない。死が天命なら受け入れるつもりであったが、ヒューマンエラーであると言われると、途端に詫び石が欲しくなるのが私という人間だ。いや、ゴッドエラーか?まぁいい。

私が渋い顔を作ると、それに反応して天使も申し訳なさそうな表情を作る。おら、申し訳ない思うんなら誠意を見せろや誠意を、天上ではそんな当然のことも教わらんかったんかいなおい。謝るだけならガキでもできるんやぞ。許されたい思うんなら……

 

「無論、あります。現世への生き返り。別世界への転生。天国に庭付き一軒家の提供。望むのならば、いくつかの特典もお渡しいたします。この度は本当に、本当に申し訳ありませんでした……」

 

赦そう

 

「わかりました。では、別世界への転生を願います。特典というのはどのように決めれば?」

 

私は一転して、自らの表情を笑みへと変えた。転生……転生……別世界……異世界への転生……異世界転生!!素晴らしい響きだ。美しい響きだ。心躍る響きだ。

ゴネたりはしない。交渉は苦手だ。今提示されたもので満足できるのならば、それ以上を目指し足掻くことなく妥協する。それが私だ。

 

「そうですか!ではこちらへ、貴方の新たな人生をどのようなものにするか決めましょう。特典もそこで……」

 

喜びの表情で天使がそう言う。うんうん、大失敗した上層部のケツ拭いてるってのに、その上ごねられたりしたら面倒この上ないものね。うん、いちゃもんつけんでよかった。

 

さて、ではキャラメイクをするとしようか。興奮からか、自然と歩幅が大きくなる。当然だ。今から私は、人生という世界最高の自由度を誇るロールプレイングゲームを、チートキャラでもって駆け巡ることができるのだ。同級生からバグアイルーを受け取り、一瞬でアカムトルムを撃破した時の興奮が、HoI4にチートMODを導入し、一瞬でソヴィエト連邦を飲み込んだ時のときめきが、身体全体を支配する。

 

待ってろよ新たな世界。

 

私が、全部めちゃくちゃにしてやるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユージン・ウォルコットは、一人手術室の前で祈っていた。

この中では、彼の最愛の女性が、姉であるフランシスカ・ウォルコットがいる。

 

あぁ、どうか……

 

ユージンは呟いた。その独白は、無人の廊下に響くことなく、彼の口元で消えていく。

 

俺はどうなってもいい。どうか、姉さんと、俺らの子どもを、助けてください……

 

彼は、後悔していた。愛しているからと、姉とまぐわったことを。肉親を手にかけたこと。

 

ぐるぐると、思考が回る。螺旋階段を転げ落ちるかのように、ぐるぐると、ぐるぐると。

 

互いが、互いを求めていたことなどは理由にはならない。何故俺はあの日、姉さんの部屋の扉を開けてしまったのだろうか。何故俺はあの日、姉の隣に座ってしまったのだろうか。何故僕はあの日、姉の胸に飛び込んでしまったのだろうか。何故俺はあの日……

 

だが、その時は、ただただ最愛の人と繋がれた喜びだけが支配していた。やっと、姉さんと一つになれた、いままで姉弟だからと隠していた感情を、全て伝えることが出来た。姉さんが微笑んで、私もよ、ジーン。 そう言ってくれた。本当に、本当に幸せだった。

 

この時にはもう、罰は下されていたというのに。

 

その罰を認識したのは、それから五か月後のことだった。

 

突然、フランシスカが倒れたのだ。

ユージンは慌てた。時期は、国家解体戦争の終結から二か月後であった。このごろ、フランシスカは、訓練の他にも、プロパガンダ用の番組や広告撮影の為に、働きっぱなしであり、ユージンはかねてよりそのことを心配していたからだ。

 

姉さん、病院で診てもらおうよ。最近、働きすぎだよ。プロパガンダなんてメアリーシェリーにでもやってもらってさ。ゆっくりと休もうよ。

 

ありがとう、ジーン。そうね、病院で診てもらうわ。

 

ユージンが何度も何度も頼み込み、根負けする形でフランシスカは頷いた。倒れた次の日に、ウォルコット家のかかりつけの病院へ行くこととなった。

 

 

 

結論から言うと、フランシスカが倒れた原因は疲労ではなかった。彼女は身籠っていた。いうまでもなく、ユージンとの子を。

 

ユージンは狼狽した。ここで初めて、自らが犯した行為の罪深さを認識した。

帰りの車中、ユージンは深く沈んでいた。フランシスカは、そんな弟を優しく抱きしめ、こうつぶやいた。

大丈夫よ、ジーン。私、本当にうれしいのだから。だって、貴方との間に出来た子供なんだから。それに、二人の間で出来た子だと言ったら怒られるでしょうけど、子宝を授かったと言えば、きっとお父様も、お母様も、祝福してくださるわよ。

 

 

 

だが、二人は、フランシスカの妊娠を許しはしなかった。父も母も、姉さんを口汚くののしり、手ひどく暴力をふるった。売女だと、薄汚いドブネズミだと、お前など、もうウォルコット家の人間ではないと、幾度も叩きながら、叩きながら……姉さんを、叩いて……罵って……姉さんが、泣いていて……

 

そこで、ユージンの記憶は一度途切れていた。

 

次に意識を取り戻したときには、父も、母も、物言えぬ存在になり果てていた。フランシスカは、必死に弟の体に縋り付きながら、もういいのよ、ジーン。 とすすり泣いていた。

 

ユージンは最初、警察に自首しようと考えていた。だが、フランシスカに止められた。お願いだから、私の前からいなくならないでと。あなたがいなくなったら、私たちきょうだいは、おなかの中の娘は、いったいどうやって生きていけばいいのかと。

 

結局。両親の死は、家を襲撃した強盗による凶行という事になった。BFFからの圧力もあったのだろう、警察は深く調べようとしなかった。数日後、国軍出身のテロリストの罪状の中に、ウォルコット家の当主と、その夫人の殺害が加わった。

 

 

 

祈る手を強く握りしめ、天へと祈る。

勝手な人間だとわかってる。そんな資格が無いこともわかっている。国家解体戦争では何百万もの人間を殺戮し、実の姉に手を出し、肉親を怒りのままに殺した自分には。

だが、それでも、願ってしまう。それらの罪は、全て自分が受けまるから。だから、どうか、あの二人には、なんの罰も与えないでくれと。

 

「お兄ちゃん……」

 

ユージンが顔を上げる。本来なら、この病院で聞こえてはいけない声が、耳に入ったからだ。

 

驚いて、声の方向に顔を向ける。そこには、家で留守番をしているはずの彼の妹が立っていた。

 

「ジャンヌ!何をやってるんだ!家で待っているように言ったじゃないか……。それに、どうして病院にいることが……」

 

「だって、家、一人だから、寂しくて……。お姉ちゃん、最近具合悪そうだったから。病院にいったのかなーって。」

 

ユージンは言葉に詰まる。フランシスカの秘密を広げないために、父と母の死以降、全ての使用人を解任していた。名門といっても、今持っている土地はそこまで大きなものではない。ユージンやフランシスカだけでも、十分に手入れができるという判断であった。

 

しかし、妹からの一言によって、ユージンは自らの身勝手さに気づかされた。そうだ、姉と、自分のことばかり気にしていて、妹のことを……、一夜にして、両親を失ってしまったこの少女のことにまで気を付けていなかった。

 

ユージンは、不安そうにこちらを眺める妹の方に歩み寄ると、その体を抱き寄せた。

多くの障害を抱えている子だった。生まれた時から左腕を欠損し、右目は光を喪っていた。

だが、そんなハンデを感じさせないほどに、彼女は元気で有った。ユージンも、フランシスカも、この年の離れた妹のことが大好きであった。

 

「ごめんな。ジャンヌ。姉さんが元気じゃなくなっちゃって、いっぱいいっぱいになっちゃったんだ。ジャンヌは、寂しがり屋だもんな。ごめんな。いまから、一緒に姉さんが元気になるように待ってような」

 

父の思い付きによって、何故かフランス系の名前をつけられた少女は、ならしょうがないなぁと微笑んだ。

 

良く食べ、良く動いているからだろうか。細く見える外観と、五歳という年齢にそぐわない重さを感じながら、ユージンはゆっくりと、手術室の前、自分が座っていたベンチに戻った。

 

「お兄ちゃん。お姉ちゃんは、大丈夫なの?」

 

「あぁ、きっと大丈夫だよ。」

 

「本当?また、料理作ってくれる?お母さんやお父さんみたいに、いなくなったりしない?」

 

不安そうな、本当に不安そうな声。ユージンは、自らの心を襲う痛みを甘んじて受けながら、頷いた。

 

「あぁ、大丈夫だよ。それにな、ジャンヌ。もしお姉ちゃんが元気になったら。一緒に、新しい妹も来てくれるんだぞ。」

 

妹。その言葉を聞いて、ジャンヌの顔はぱぁっと明るく輝いた。

 

「妹!妹が私にもできるの?どうして?コウノトリさんが運んできてくれるの?」

 

「あぁ、そうだよ。」

 

一度、ジャンヌの頭を強く撫でる。くすんだ金髪がわしゃわしゅとかき乱され、くすぐったそうに少女は喜ぶ。

と、何かに気づいたのか、唐突に天井を眺め、そのままユージンの顔を見つめた。

 

「ねぇ、その妹は、何て名前なの?」

 

「名前かぁ。そうか、名前かぁ……」

 

そういえば、まだ考えていなかった。ここ数か月、いろんな工作の為に走り回っていて、そんな余裕がなかったのだ。

 

うんうんと悩みだした兄を見て、ジャンヌは、「じゃあこういう名前はどう?」と言った。

 

「どんな名前だい?」

 

ユージンは尋ねた。

 

「リリウム!」

 

「リリウムかぁ……」

 

リリウム・ウォルコット……言われてみると、これ以外に選択肢は無いように感じられるほど、すとんと体の中に入ってきた。リリウム、リリウム……

 

「うん!お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、ジャンヌも、百合の花好きでしょ?だから、リリウムもきっと百合の花が好きだと思うの!だから、リリウムなの!!」

 

「うん、そうだね。新しい妹の名前は、リリウムだ」

 

きっと、姉さんも気にいるだろう。ユージンは確信した。

 

その時だった。手術室から、赤ん坊の声が聞こえてきた。

 

「あ!この声、リリウム?コウノトリさんが、リリウムを運んできたの?」

 

「あぁ、そうだよ。」

 

ユージンは、天真爛漫に笑う妹のお陰で溶かされた自分を自覚しながら、そう頷いた。

 

ありがとう、ジャンヌ。君のお陰で、ちゃんと前を向けそうだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転生先の兄が姉を犯す近親相姦変態野郎な上、あまつさえ妊娠させてしまい、バレるのが怖くなって両親を殺しちまうような鬼畜野郎なんだけど質問ある?

やべぇなこれ、字面だけ見たらアウトの中のアウトだぞ、実際の行動もアウトの中のアウトだけど、これあれでは?わっちもいつか犯されちまうのでは?こわいわー。怖すぎるわー。一回り以上離れた妹に欲情は無いわぁ。近親相姦ロリコンとか救いの無さが天上天下唯我独尊だわー。

ま、とりあえず貞操の危機は置いておこう。

やっと、わたくしジャンヌ・ウォルコットの、転生目的の一つであるリリウム・ウォルコットちゃんがこの糞ったれな世界に生まれてくれました。

楽しみだー。これからいっぱい可愛がって、依存されちゃうぞー!きゃっわいいーリリウムたんを、味わい、しゃぶり、むさぼりつくすぞー!!

 

ウフフ……アハハ……イヒヒヒヒ………

 

世にリリウムのあらん事を

 

世にリリウムのあらん事を

 




今回の変更点

・ジャンヌ・オルレアンが、ウォルコット家の一員になりました。(唐突な設定大規模改変)


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新 二話 プロローグ

コンビニの「美味しくなって新登場」って、だいたいスケールダウンしてるよね。

遅れた理由はニンテンドースイッチのせいです。ゼルダの伝説が面白過ぎた。


いつも、いつも、同じ夢を見る。あの日からずっと。

 

大地から空まで、全てが赤く燃える世界。ヘッドホンからは、同じ言葉が流れ続ける。作戦の失敗と、撤退を指示する暗号。しかし、永遠にリフレインし続けるかに思えたその言葉は、唐突に響いた爆音とノイズにより、聞こえなくなった。

 

国軍による乾坤一擲の作戦は、パックスが投入したリンクスにより破綻した。アナトリア半島に集結した陸海空軍はその六割を損失し、現在はイスタンブールにおいて絶望的な撤退戦を行っている。

 

醒めた目で、レーダーを眺める。あの時と同じ順番で、友軍のレイヴンたちの反応が消えていく。

傭兵たちに与えられた仕事は、風前の灯火である国軍の命運をただただ数日、いや、数時間程伸ばすための、無意味な救命活動の為に死ぬことである。

 

報酬は破格だった。自らの命よりも大切な存在を持っていた傭兵は、この仕事を受けた。

 

 

 

例外は自分だけだった。

 

 

 

二度、三度、首を鳴らす。幾度目かの挑戦かも覚えていない。あの日以来、瞼を閉じるたびにこの日の記憶が戻ってくる。

 

息を吸う、ヘッドホンから響く悲鳴、戦友からの死に際の警告。しかしあの時は、その警告が脳に届く前に、それは現れた。

 

爆音、目の前で横たわっていたGA製の大型兵器が、高温により融解、内部に保管された火薬に着火し、爆散した。

 

その炎と煙の中から、ゆらりと、蒼い影が現れる。

 

その眼は、この燃える世界の中でも不気味な程に紅く輝いていた。

 

その肢体は、自らが乗り込む相棒よりもしなやかで、強靭で、美しかった。

 

その腕には、二つの刃が握られていた。まるで月光の様に、持ち主の狂気を表すかのように、妖しく輝く紫光の名刀。

 

目の前に現れた死神からかけられた言葉は、いまでもハッキリと、その声色まで思いだせる。

 

彼女は、本当に、本当にうれしそうな声で、こう語りかけてきた。

 

『逢いたかったぞ、伝説のレイヴン。できる、と聞いている。』

 

轟音。必殺の踏み込みの為の、ネクストACによる刹那の呼吸。メインブースターへと、空気が、コジマ粒子が、収束していく。

 

反射的に、機体を屈める。次の瞬間、爆音と共に、弾丸のような速度で彼女は突進してきた。

 

『いくぞ』

 

この時の得物はマシンガンとブレード。しかしそのどちらも、今まさに自分を殺そうしているソレを迎撃する力はない。

 

ハイエンドノーマルが持てる程度の火器では、ネクストACを最強の兵器たらしめるコジマの護りを突破できない。

ハイエンドノーマルが持てる程度のブレードでは、目の前の紫光の直刀と鍔迫り合いが出来るほどの出力は出せない。

 

よって、勝つためには、目の前の剣戟の嵐をかわし続けるしかない。それが、幾たびも夢の中で戦い続けることにより、自分が得た結論である。

 

頭上を二条の光が通り過ぎる、意識には止めない、刹那の逡巡を楽しめるような贅沢を、目の前の剣士は許さない。

 

右腕に装備したマシンガンを放つ。殆ど0距離に近いこの距離でも、プライマルアーマーは放たれた弾丸の運動エネルギーを霧散させる。本当に、馬鹿げた兵器だ。

だが、これで少しはコジマも減衰されたはずだ。男は、左手に握られたトリガーを押し込んだ。次の瞬間、文字通り高速で、純エネルギーを濃縮した刃が・・・

 

衝撃、機体が大きく揺れる。けたぐりか。こいつ、白兵戦の技量に全てをかけてやがる。

わずかな穴を穿つべく伸びた剣は、レイレナード製ネクストの細身な胴体の横を拡散しつつ通り過ぎ、マシンガンによって開けられたコジマ粒子の綻びは、高出力ジェネレーターにより一瞬で修復された。

 

そして、こちらの姿勢は現在進行形で崩れている。さて、どうするか。

 

急速に近づく地面を他人ごとの様に眺めつつ、ブースターを操作する。体勢を立て直すためではなく、現在進行形で迫ってるであろう追撃をかわすために。

 

衝撃、ブースターの爆音、空気を斬る音、鉄の溶ける音、ブザー、頭部コンピューターが右腕破損を伝え、モニターがマシンガンとの接続が断ち切られたことを伝えてくる。

 

QBのような瞬間移動ではない。ただのブースターによる回避。宙に浮いていたことによって、スムーズに横へと逃げることが出来た。

 

しかし、そもそもの姿勢が崩れているため、その着地は無様だった。二度三度転がり、ガツンと、放棄された戦車にぶつかって止まる。

 

と、同時に、左腕に着けたブレードを突きだ・・・・・・

 

『成程、流石だ。惜しむらくは・・・・・・』

 

あぁ糞、追撃が速すぎるだろう。

 

目の前には、今まさに剣を突き刺すとするネクストACの姿、死に際、ちらりと機体に取り付けられた時計を確認する。

 

ちっ、どれだけ繰り返しても、あの日を超えられないか。

 

次の瞬間、視界は闇に覆われた。

 

 

 

 

 

 

清々しい朝だった。夢の中での何百度目かも覚えていない死の瞬間。かつて味わったそれは、いまだに生々しい実感として夢の終わりに現れる。

 

上体を起こした男は、まずは二度、三度、首を鳴らす。ごきり、ごきりと鈍い音が鳴り、思考が覚醒した。

 

「やはり、ハイエンドノーマルじゃ届かんか・・・」

 

首を揉み、此度の夢を振り返る。今回は台風の目を目指し、あえて嵐に手を突っ込んだが、結局そこに存在したのも暴風雨であった。

 

「まぁ、そもそもNo.3に真正面から挑むのがアホだって話なんだろうがなぁ。」

 

しかし、夢の中でアンブッシュなど試せない。あの時の戦闘は、全てが急だった。ネクストの投入も、その到達速度も、友軍の崩壊の速さも。一切の準備の暇なく、彼女と相対せざるをえなかった。

 

男は立ち上がると、テーブルに投げ出された新聞記事に目を通した。エチナ・コロニーにおける戦闘の記事。レイヴンによる山猫狩りの大金星。

 

だが、幾度シミュレーションしても、自分はこの奇跡を起こせそうにはない。戦場を演出する時間はなかった、友軍は蹂躙されていた、そして相対するパイロットは、ネクストの力を自らのそれと勘違いした小娘ではなく、闘争に狂い切った歴戦の戦乙女であった。

 

「蟻は戦車にゃ勝てねぇか・・・」

 

ノーマルとネクストの差は、蟻と象などという次元の話ではない。蟻の顎では、戦車の複合装甲に傷を与えられるわけがない。そんな次元の話だ。

 

と、コンコンとドアがノックされる。どうぞと伝えると、遠慮がちに扉が開かれた。

 

「おはようございます。朝食ができましたよ」

 

にこりと、命の恩人であるフィオナ・イェルネフェルトは言った。風と共に、トマトや香辛料の芳香が鼻をくすぐり、寝ぼけ眼の食欲を刺激する。

 

「ありがとう。いま、降りるよ」

 

男がそう応じると、フィオナはまた嬉しそうな顔で、では下で配膳をして待っています。と言い残して、扉を閉めた。

 

頭を掻く。いったい、どうしてこんなことになったのだろうか。

 

あの日、何とか死に損なった自分は、満身創痍の身体を労わりながら、芋虫の様になった相棒から這い出て、護身用のライフルを杖代わりに、兎角、戦場からの離脱を目指した。

 

その最中、出会ったのが彼女だった。後から聞いた話であるが、アナトリアで募集された赤十字活動の為に来ていたらしい。放射線・コジマ防護服を着たゴツゴツとした姿であったが、あの時は確かにそれが天使に見えた。

 

あの戦場で発見された傷病者は、付野戦病院や付近のコロニーで治療を受ける。自分が運ばれたのはここ、コロニー・アナトリアであった。

 

彼女の献身的な看護は、この時より始まる。その眼には、少女が、二回り上の男に向けてはいけない色があった。

 

「吊り橋効果って奴・・・・・・なのかねぇ」

 

結局、患者と看護者の関係のまま、今日まで過ごしてきた。既に満足に動けるようになってはいたが、現状は殆どがヒモのような状態だ。

 

彼女の父親よりあてがわれた自宅の階段を下りる。イェルネフェルト教授。アナトリア繁栄の立役者であり。ネクストAC技術研究の第一人者。その娘が、彼女、フィオナ・イェルネフェルトである。

 

「さ、座ってください。温かいうちにいただきましょう」

 

此方の姿を確認したフィオナが、爛漫な笑顔を向けてくる。汚れも、死も、何も知らない純真なそれ。戦場では、見ることのできないそれ。

 

少しぎこちなくだが、自分も微笑みを返す。

 

「今日は、トマトで煮込み料理を作ったんです。最近はこの辺りも寒くなってきましたからね。温かいものが良いと思って。パンも焼けています。えっと、お皿は・・・・・・」

 

まるで新妻の様に、ぱたぱたと動き回るフィオナを目で追う。いったい、彼女は自分をどう思っているのだろうか。何となく気付いているが、どうにも、口に出して聞こうとは思えない。自分にその気があるのかと言えば・・・まぁ、ないと言えば嘘になる。フィオナは若く、みずみずしく、美しい。透き通り、短く整ったブロンドヘア、碧く輝く大きな瞳、はりのある白い肌。目鼻立ちも整っており、その肢体も・・・・・・

 

「?どうしたんですか?何か、ついていましたか?」

 

フィオナから声をかけられ、ハッと自分が、娼婦を品定めする目で命の恩人を見ていたことに気付く。少しばつが悪くなり、「いや、何でもない」と視線を窓の外に移した。

 

アナトリアは、美しい町である。イェルネフェルト教授と、彼のIRS/FRS研究がもたらした繁栄は、町全体に感じられた。国家解体以降の世界で、ここまでの栄えているのは、六大企業の城下町を除けば、同じくネクストAC研究を主産業としているコロニー・アスピナくらいであろう。

 

街を歩く人々は、みな、幸せそうな顔をしている。まるで、この繁栄が永遠に続くことを確信しているかのように。

 

無論、永遠の繁栄など存在しない。かつて世界を支配していた国家群がいま存在していないことからもわかるように、盛者必衰の理から逃れることなど不可能なのだ。

 

特に、その繁栄を、個人に依存しているアナトリアでは・・・・・・

 

あるいは、だからこそ自分は未だに、アナトリアから離れられないのかもしれない。

 

このコロニーの未来には、自分が慣れ親しんだ混沌と汚泥が見える。その時が来るのを、じっと待っている。

 

自分の罪深さに呆れる。ここ数年の平和で豊かなリハビリ生活は、戦場で負った傷は癒したものの、戦場に慣れ切った精神を回復させるには至らなかったのだ。

 

「お待たせしました。さぁ、いただきましょう!」

 

フィオナが、パンとサラダを自分の前に置く。男・・・・・・かつて、伝説のレイヴンと呼ばれていた傭兵は、視線を前に戻した。

 

とりあえず、今はこの束の間の平和を楽しむとしよう。筋肉量も、いまだ現役時代のそれと比べると見劣りがする。その時までに、なんとか身体を戻さねばならない。

 

フィオナが食前の祈りをささげる、自分もそれにならった後、まずは煮込み料理を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男の予想は当たっていた。これから数か月後、アナトリアを揺るがす大事件が起きた。

イェルネフェルト教授の死と、それを契機とした研究員一団による、研究データの持ち出し、コロニー・アスピナへの亡命。

 

アナトリアの失陥・没落。その序曲が、始まろうとしていた。




なお、新装版を書くきっかけとなったのは首輪付きの登場時期に大きな矛盾があり、そこに耐えきれなくなったためです。

ついでに、色んなキャラの掘り下げをしたいと思っている今日この頃です。


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新 三話 プロローグ

また更新は数か月後かと思った?残念!その日のうちでした!


真っ暗だった世界は、暴力的に鳴り響く無機質なアラームによってかき消された。

覚めぬ眠気と、前日の深酒によりガンガンと痛みを訴える頭という二つのストレスにより、半ば無意識ながらキレていた彼女は、手探りで捕まえた目覚まし時計を強く握ると、できるだけ遠くへと投げ捨てた。

 

ガンガンガラガラとぶつかり跳ねた時計は、しかし自らの役割を忘れることなく、今が設定された時刻であることを伝え続けた。

 

三分、布団にくるまり音を遮断することに努めたが、過去の自分が自らの朝の弱さを考えて買った品物である為に、羽毛の装甲など何の苦でもないかのように貫通して音響兵器が到来する。

 

それからさらに一分は耐えようとしたが。限界は一気に来た。

 

布団を跳ね飛ばし、常に近くに置いている護身用の拳銃を掴み、安全装置を外し、構え・・・我に返る。

 

「何をやってるんだ・・・私は」

 

軽く自己嫌悪に陥った女は、安全装置を再びかけた拳銃をテーブルに置くと、大きく伸びをし、立ち上がる。地面に転がる目覚まし時計を持ち上げると、アラームを消し、枕元に戻す。

 

身長は160cmの後半くらい、黄色い肌と、手入れが放棄され黒く傷んだ長髪が、彼女の人種的な起源がアジアに存在することを教えてくれる。

 

現在、喉の渇きを癒すために水を求め歩く彼女の姿は、極めて開放的だ。上は色気のないインナー、下は短いジーンズ。そのメリハリある身体と、少しキツイが、整った顔でも補いきれぬほど、その姿はだらしがない。

 

冷蔵庫を開ける。酒と保存食品で溢れたそこから、飲料水を見つけ出した女性は、それを取り出しキャップを開けると、そのままラッパ飲みしはじめた。

 

2ℓのそれを半分近くまで飲むと、再び冷蔵庫に戻し、トイレに向かう。

 

レオーネメカニカの最高戦力である霞スミカの、いつもとそれほど変わりのない、そんな朝である。

 

 

 

排泄とシャワーをすまし、一応の身だしなみを整えたスミカは、トースターにパンを突っ込み、椅子に座るとTVをつけ、手元の携帯端末のロックを解除した。

 

流れてくるニュースを聞きながら、夜のうちに来たメールを確認する。昨晩は、飲酒に集中するため、タイトルに緊急性の無かったメールは全て無視していたのだ。

いくつかのメールに短く返信を送っているうちに、パンが焼けた。とりだしたそれにバターとジャムをつけてかぶりつき、眉間に寄せた皺を深くしながら、メールを処理する。

 

と、一つ。気になる内容のメールがあった。ぴたりと指の動きを止め、メールの内容を確認する。

 

「ほう、あいつが帰ってくるのか。」

 

インスタントコーヒーで口内に残るパンを流し込み、額を掻く。

 

「まぁ、あれでレオーネは世界中に恥を喧伝したからな。なんとかしたいのはわかるが・・・」

 

だからって、私にまわさなくてもいいだろうに。そう不満を呟く。

 

無論、今の自分の立場を考えると仕方がない話ではあるが。現在の彼女は、レオーネメカニカの機動装甲兵器戦略教導隊の筆頭教官である。つまり、レオーネメカニカに配属されたテストパイロットたちが実戦に耐えうるかどうか判断するのは、彼女の仕事である。そのため、失態を犯して帰ってきたひな鳥を鍛えなおすのも、また彼女の仕事であった。

 

なお、彼女は、スミカがこの職に任命される以前の卒業生なので、その責任は前任者にあるのだが、その前任者は、大きく世話になっている人間であり、また信頼するには十分な有能さを持った人間でもあるので、不満を直接言ったりはしない。

 

「まぁいい、折角だ。たっぷりと可愛がってやるとするか。」

 

コーヒーを一気に飲み干したスミカは、鬼も震え上がるような笑顔でそう呟くと、勢いよく立ち上がった。

 

時刻は8時30分。迎えの車が、下で待っている頃だ。

 

レオーネメカニカから提供された自室から出て、エレベーターへと向かう。マンションではあるが、霞スミカの政治的・戦略的重要性から、周囲の部屋は全てレオーネメカニカ所属の警護部隊が抑えている。お陰で、近所付き合いなどという煩わしいものからは解放されている。

 

強化ガラス張りのエレベーター。外の景色を無感動に眺めながら、今日一日の予定を組み立てる。

 

下に降りると、既に迎えの車はドアを開け待っていた。ご苦労と声をかけ、車に乗り込む。

 

 

車に乗っている間も、ぼうっと外の景色を眺める。

 

六大企業の一つである軍産複合体、インテリオル・ユニオン。その盟主であるレオーネメカニカ本社が存在するここローマは、かつて存在したイタリア共和国の首都時代よりも、大きく発展・整備されていた。

 

自らの所属する組織の力を見ながら、しかしその存在のばかばかしさに思いをはせる。

 

結局のところ、これは目隠しなのだろう。無知な市民たちに、地球が楽園であると錯覚させるための。

 

 

 

霞スミカがリンクスとしてレオーネメカニカに発見されたのは、国家解体戦争の三年前のことであった。彼女の両親がレオーネメカニカの社員で有り。当時まだ高校生で有ったスミカに検査を行ったところ、彼女に高いAMS適性があることが認められた。

 

それからは、リンクスとしての活動するために血反吐を吐くような訓練が行われた。今でも世話になっている上官曰く、その戦闘センスにも非凡なものが会った彼女は、同社の切り札として見られるようになった。

 

リンクス戦争において、彼女の戦闘記録が少ないのは、その切り札をなるべく他社に見せないようにするためであった。レオーネは、来る企業間戦争の為に、彼女を温存したのだ。(その少ない戦闘において挙げた戦果で、オリジナルのNo.16に名を連ねていることが、彼女の非凡さの証明となるだろう。)

 

 

 

欠伸を噛み殺しながら、レオーネに到着する時を待つ。あと十分くらいかな、スミカは口の中でそう呟いた。

 

 

 

セーラ・アンジェリック・スメラギは、刑の執行を待つ死刑囚の様な面持ちで訓練所に置かれたソファに座っていた。

 

エチナ・コロニーで彼女が犯した失態は、パックス・エコノミカを揺るがす可能性のあるものだった。これまで無敵であったネクストが通常兵器たちにより撃破される。不敗神話の揺らぎ。これは、いまだ存在する民主主義国家の残存勢力にとっての希望となりかねない。レオーネはこのせいで、インテリオル・ユニオンを構成するメリエスやアルドラからすらも批判を受けた。

 

弱冠14歳のセーラにも、現状の拙さはわかっていた。無論、それは世界の平穏とやすらぎの時が遠ざかってしまったという、彼女の若さゆえのある種の楽観性と、企業至上主義的な思想に加工された拙さであり、自らの失敗が、政治的・戦略的にどれほどの影響を与えたかまでは思い至っていない。

 

兎も角、少女は、ブラウンの瞳に悲しみを宿し、落ち着きなくウェーブがかったライトブロンドの髪をいじりながら、自分を再訓練するという教官の到着を待っていた。

 

「霞スミカ・・・いったい、どんな人なのかしら」

 

レオーネのNo.2のオリジナルリンクスということしか知らない、謎の多い女性。一応は同僚であるが、各地での国軍残党やテロ組織の掃討の為に世界中を飛び回るセーラは、彼女との面識はなかった。

 

心配半分と、楽しみ半分。そんな心持でスミカの到来を待っていたのだが・・・

 

訓練室の自動ドアが開いた。顔を上げる。

 

そこには、これまで見たことのないような美しい女性がいた。セーラも、容姿では幾度も褒められたことがあったが、目の前の女性のそれは、完成された、大人の女としての美しさであり。セーラに向けられる人形的なそれとは違う。

 

さて、そんな美しい大人の女は、セーラの姿を認めた途端、開口一番こういった。

 

「霞スミカだ。とりあえずシミュレータールームに来い。まずは、お前の腕を確かめる。」

 

有無を言わさぬ迫力があった。セーラは挨拶も忘れ、こくこくと頷くと、スミカの後ろについていった。

 

シミュレータールームまでの道、スミカは終始無言だった。コツコツと高圧的に感じられる足音のみが響くこの時間と空間は、セーラの不安をどんどんと増していく。すれ違うテストパイロットの敬礼する姿に、尊敬のほかに恐怖の色も見えたことも(どちらかというと、恐怖の色の方が大きい)、セーラの不安を増やす要因となっていた。

 

 

シミュレータールームに到着すると。スミカは対面する形で設置されてるシミュレーターの、よりドアが近い方に乗り込んだ。

 

「すぐにアセンブルを決めろ。お前の勝利条件は……そうだな、私に一発でも当て見ろ。」

 

「一発……ですか?」

 

思わず聞き返してしまう。いくら機動兵器であるACとはいえ、ネクスト同士の戦いで、一撃の被弾も無く戦闘を行うというのは至難の業だ。

 

セーラは、実戦経験も豊富なリンクスだ。いくらオリジナルが相手とはいえ、一つも攻撃を当てられない何というのはあり得ない話だ。

 

もしや、ノーマルに負けたことから、自分の実力を見くびっているのだろうか。だとしたら心外である。

 

セーラは、シミュレーターに腰掛けると、武装の選択を行った。装備に、マシンガンとレーザーライフル、ASミサイルを選択する。

 

まぁ、抗議はシミュレーション内で行おう。戦闘準備を手早くすませた少女は、対面に座るスミカに向けて合図を出した。

 

 

 

 

 

結論から言えば、セーラは一発の弾丸もスミカに与える事無く撃破された。

 

APが0になった自分の操縦機体をぼう然と眺めていたセーラにスミカは近付くと、厳しい表情を崩さずに評価を下した。

 

「視野狭窄かつ柔軟性の無い戦い方だ。この調子だと、エチナのような失態は遅かれ早かれやっていただろうな。全く、レオーネは何を考えてるんだ。AMS適正と見た目だけでリンクスを選んだのか?プロパガンダ以外に使えない駒なんか持っていてどうするつもりなんだ」 

 

頭に衝撃が走る。スミカの口から出たのは、セーラのこれまでを全て否定する過激な言葉であった。視野狭窄かつ柔軟性の無い戦い方?適正と見た目だけのリンクス?プロパガンダ以外に使い道が無い?

 

反論すべきであった。しかし、シミュレーションにおける惨敗と、スミカから受けた言葉の暴力が原因である目まい・頭痛・吐き気が、セーラから反抗する気力を奪っていた。

 

「これを鍛え直せと言うのか……。全く、頭が痛くなるな。エイ=プールの方が、AMS適正は劣っているが使えるぞ」

 

罵倒に相対評価の罵倒を乗せ、セーラの心を削る。無遠慮どころの話ではない。明確な意志を持って言葉のナイフで斬りかかっている。

 

「泣こうとは思うなよ。お前の失態はそれ程迄に大きい。お前には、ネクストが世界に40機程度しかいないという事実が、何を示しているかわかってないのだからな」

 

そう言うと、スミカはセーラの肩に手を置いた。ぶるりと、寒気により少女の身体が震える。

 

「まぁいい。これも仕事だ。……喜べ、エチナ以上の地獄など、この世に溢れていると言うことを、お前に教えてやろう」

 

悪魔の声ですら、ここまで恐ろしくは響かないだろう。セーラは、恐怖と衝撃と悲しみの混ざる頭のまま、スミカの言葉に頷いた。

 

あるいは、この時点で逃げ出しておくべきだったのかもしれない。スミカがこれから、数ヶ月にわたって行った訓練は、セーラ・アンジェリック・スメラギの深層心理に、霞スミカと言う存在の恐ろしさを刻み込むには充分な苛烈さを持って行われたのだから。




前回、なんだかんだリンクスを掘り下げていたのはGAやレイレナードらへんばかり。今回は、インテリオル等も掘っていきたいなと思い、どうせfA編で重要ポジをになうであろうスミカにも視点を合わせて4編をやっていこう。そう考えました。 

プロローグはこれで終わりです。次回から、ゆっくりと世界は戦争に向けて動いていきます。


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新 四話 孔子曰く「隠し部屋って男のロマンだよね」

やる夫スレを楽しみ過ぎていた。待っていた人、本当に申し訳なかったです。


つん たか つん たか

 

 

指を規則的に動かしながら、自分のリズムを作っていく。

目の前・・・というか、周囲を覆うスクリーンに見えるのは、果てしない砂漠。

右を見ても、左を見ても、砂漠、砂漠、砂漠、砂漠、あ、朽ち果てたビル、砂漠。

美しい景色。何十度もここにきているが、これが仮想現実だとは到底信じられない。

私は、エスコンのVRモードを楽しんでいる時のことを思い出した。

あの時は感動しつつも、どこか画素の粗さが気になったが・・・いま、ここにそのような意識は無い。

脳にとってはただの現実。何をやっても、私の愛機は壊れないが。それでも現実。

 

色々詰め込んだせいで乙女とは思えないほどに強張った首筋を親指で揉みながら。さて、始めるかと独り言ちる。

 

レーダーが2つの光点を捉える。方位060より高速で接近中の敵機発見。迎撃せよ、迎撃せよ、ゲイゲキセヨ…

ぶつぶつと呟く、自分をトランスさせていく。今ここにいる喜びを噛みしめながら。

 

私は跳躍した。私の調整したAIを、一分以内に仕留めるべく。

 

 

 

 

 

 

 

 

ブンブンハローアーマードコアァ……

 

こんにちはからこんにちはまで、暮らしに健やかさを提供します。ご存じ、ジャンヌ・ウォルコットです。  

 

そんな一人言と共に、私は愛機の胸から出てくる。ぐっもーにんえべりわん。あぁ、太陽が心地よいわね奥様。

そうね、ここは地下だけど。

 

自らの眼前に広がる光景をそこそこ満足げに眺めながら、私はごっとごっとタラップを降る。

 

無機物に囲まれた心地よい空間だ。大型の整備機器が、気を使いながら我が愛機をチェックしている以外、

何の音も聞こえない。

 

その様子を数秒間眺めると、更に気分が盛り上がってくる。

 

やはり、ロボは飽きない。美人は三日か四日か五日か六日で飽きるというが、ロボを眺めていても全くそんな気は起きない。真に美しいからね。しょうがないね。

 

「と、わったいむいずぃっとな~う?」

 

げ!六時半!!?

 

まずった、思ったより楽しみ過ぎていた。私は焦りながら私室に繋がる梯子に走った。

まっずいまっずい。朝だ夜明けだリリウムが起きちゃう!!なんでいつもより一時間長くやっちゃうのよ馬鹿シンジ!!(※自主規制)!(※自主規制)!!(※自主規制)!!!!!

 

梯子に手をかけ、飛ぶように、跳ねるように駆け上がる。シミュレーションの興奮がまだまだ続いている。

いい感じに恐怖を感じる回路の電源が切れている。

ヤケクソに近く私が叫び歌うのはスネークイーター。オーライ!レディゴー!ほーきーどーきー!!

 

 

 

 

 

だぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!まっにゃった!!!!!!!!!!!

 

隠し扉のハッチを開き勢いよく自室にエントリってっもいっきりベッドに頭ぶつけた痛くねぇ!!!

時計を見る。オーライまだ大丈夫。さっすが自分。ビバ自分。

とりあえず、ベッドに潜り込む。よし、あとは寝たふりをして10分後に来るであろうぐー・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝は、そこまで嫌いではない。

確かに、夢の中には優しいお兄さまもお姉さま達もいるし、ゆっくり一緒にお話もできる。

だから、その夢から覚めると少しだけ悲しくなる。

でも、朝は急ぎ足とはいえユージンお兄さまが起こしてくれるし、すぐフランシスカお姉さまがキスもしてくれる。そして少し歩くだけでジャンヌお姉さまには会える。

 

だから、朝はそこまで嫌いではない。

 

緊急の仕事が入ったと既に着替え終わったお兄さまから、寝坊助のお姉さんを起こしてやってくれとお願いされた私は、早足にジャンヌお姉さまの部屋に向かう。少し乱れた息をそのままに、ノックを三回。

 

……

 

返事はない。熟睡しているのだろう。

 

ゆっくりと扉を開けると、ベッドに膨らみが見えた。

 

 

 

 

 

気配を感じた。扉が開く気配。布団の中で少し瞼を開けたわっちは、さて、どうするかと考える。

眠い眠くないでは全く眠くない。でも、だからといってフートンの魔力に抗えるかと言ったら別。

判決。二度寝。おやすぐー・・・・・・・・

 

「ジャンヌお姉さま。起きてください。もう朝ですよ。」

 

あと三世紀は寝かせて。

 

「・・・・・・リリウム、おはよう」

 

「おはようございます」

 

落ち着いた、品のある名塚ロリボイスが鼓膜を震わす。こんな目覚め方をしたいランキングの第六位に入る理想的な目覚めだ。あ?一位から五位はなんだって?目覚めないことだよ!!!

 

かぶっていた布団から頭を出し、をゆっくりと瞼を開ける。いまだ焦点の定まらない左目に、あぁ、可愛らしい少女が映っている。

全身が宝石のように美しい少女だった。白金色の輝くミドルロングの髪がふわり、と揺れる。真珠を想起する滑らかな指が、私の胴に触れている。紅玉のような瞳には、絶世の私の姿が映っている。

 

少女の名は、リリウム・ウォルコットと言う。ウォルコット家の秘蔵の娘。姉弟の禁断の愛の結晶。わちきの戸籍上の妹であり、事実上の姪である、近親相姦によって実った禁断の果実。

 

ゆっくりと身体を起こす。きゃわいさを演出する為に、動作は小さく、あ、ちょっと眼とかこすっちゃおう!

 

わっちのやっとこピントのあった金色眼がリリウムの姿を完璧に捉えた。ゆん、いつも通りかわかわゆい。よかったね!両親に似て!!

 

「お姉様とお兄様は?もう出てしまった?」

 

「はい、なんでも、緊急のお仕事が入ったと・・・」

 

あぁ、最近どっこも彼処も治安悪いからなぁ。

 

「じゃ、今日も私がご飯、作るからね」

 

にっこりと、エンジェルスマイルを浮かべてリリウムにいう。

 

「はい、お願いします。ジャンヌお姉さまの作る食事は、フランシスカ姉さまのものとは違った美味しさがあるので、リリウムも楽しみです。」

 

リリウムも純粋な笑みで、言葉を返してくれた。自分の生まれの歪さなど知らぬ、汚れなき笑顔である。

 

 

 

 

 

ウォルコット家は複雑な家系である。いや、近親相姦のことだけじゃなくて。

 

ウォルコット姉弟はリンクスである。この世界において、核兵器よりも価値のあり、そして(その汚染に目を背ければ)使い勝手の良い戦略兵器であるネクストACの操縦者である二人は、常に多忙だった。

 

企業による独裁的な統治の為に、力は不可欠なものであった。何せ、世間には未だ民主主義というかつての夢を忘れられずに暴れる人間がいる。そして企業は、かつての共闘など忘れ、(一応、非公式にだが)水面下で熾烈に争っている。

 

その結果、どこもかしこもテロ祭りである。BFFのお膝下であるこの周辺の治安は良いが、ウェールズやスコットランド、それにアイルランド辺りでは、それはもうドッカンバッカンやっている。

黒幕はほぼ間違いなく、ローゼンタール。あっことBFFは、商売敵である他に、民族対立という名の、底の存在しない泥沼の問題を抱えている。妥協の存在しえないこの二社は、それぞれが子飼いのテロ屋に金を撒き、武器を流し、非対称戦を繰り広げている。そしてテロが発生すると、それぞれの地域の支配企業がリンクスを派遣し、その力・・・・・・イコール企業の力を喧伝する。

 

互いに争いつつ、企業支配という現体制は盤石であろうとする。なかなかに楽しい関係性だ。

 

他にもリンクスは、プロパガンダの為の企業放送に出演するという仕事もあるが・・・・・・

 

「ま、今日は普通に仕事だろうな。」

 

ホットケーキをひっくり返しながら、ひとりごちる。この家は、名家であるのにお手伝いさんはいない。姉弟の爛れた関係を知られない為だ。

 

ファンキーなことに、彼奴等は懲りずに求めあっている。一応、避妊はしている(以前、不安になったために寝室に忍び込み、ゴミ箱を確認した)ようなので、新たに妹か弟がこの世に生を受ける心配はなさそうだが、それにしてもお盛んなことだ。罪の意識というのはかように燃えるものなのだろうか。

 

焼き目を確認しながら、手早く付け合わせのおかずを作っていく。

 

大人のいないウォルコット家では、基本的にわっちが家事を行う。

 

ジャンヌ・ウォルコットは、現在年齢以上にしっかりとした女として認識されている。当然だ。もともと、ひとり暮らしを行っていた成人男性だったのだ。一通り家事は行えるし、妹(姪)の世話もできる。

 

姉たちは、そんな自分に甘えていた。使用人のいないこの家で、自らの子の世話を私に任せている。十歳の妹にそんなこと任せるとかほぼほぼネグレクトだが、まぁ、気にしない。あの二人は忙しいし、親としては未熟だ。それに、ちゃんとリリウムや、私にも愛情をもって接してくれているのはわかる。(そこに、男女としてのそれが無い・・・はずだ。怖い。わっちも近親相姦の対象になるかもしれない)まぁ、子を産む気も覚悟もなかったのだろうし、親を殺す気もなかったのだ。しょうがない。

 

それはしょうがないことなのか?

 

独り言と思考を楽しんでいるうちに、料理は完成した。と、いっても簡単なものだ。パンケーキにスクランブルエッグととソーセージ、あとはちょいとしたグリーンサラダ。そんなものを二皿こしらえ、食卓で楽しみに待っているであろうリリウムのもとへ持っていく。

 

リリウムは可愛らしい娘だ。容姿は両親のものをそのまま受け継いでおり、可憐で、どこか儚さのある美しさをもっている。食べちゃいたい。

 

「お待たせ。待った?」

 

「いえ、そこまでは」

 

手にしていた本を置き、こちらに笑みを送ってくるリリウム。

どんな本を読んでいるか気になり、配膳の際に表紙を見る。・・・わぁお、哈→利↓波→特→かよ。

五歳児にして、ファンタジーとはいえ小説を読むのか。感心しながら自分も食器を置き、座る。

 

「じゃ、いただきましょうか」

 

「はい、では・・・」

 

そうして、祈りの言葉をささげ。(心の中でいただきますをし)食事に臨む。

 

私は当然として、リリウムもなかなかに大人びている。(設定上)両親が物心つく前に死んでおり、なおかつ大人が家を離れることが多いからだろうか、自分という保護者に甘えたりはするものの、どこか自立をしなければいけないという考えがあるように感じる。子供は子供らしくしてればいいのにねー。

 

テーブルマナーに気を着けつつ、食事を楽しむ。教育とは恐ろしい、たった十年で、ここまで作法が体に染みつくとは思ってもいなかった。

 

ちらり、とリリウムの方を見る。

幸せそうに食事をするかわいこちゃんを見ると、本当に心が癒される。食べちゃいたい。

 

 

 

 

食事を終えると、リリウムと共にリビングに向かう。

 

と、言っても特にこれをやる~ということはない。二人で遊んだり。たまに勉強したり。また遊んだりするだけだ。テレビをつけると、多種多様、隠したり露骨だったりする様々なBFFのプロパガンダ的番組が流れる。

いい気なもんである。本社が沈むとも知らずに。

 

私はリリウムに、何かしたいことは無いかと尋ねた。リリウムは少し考えるように、俯くと……

 

『次のニュースです。本日未明よりアイルランド島で発生した武装勢力による大規模蜂起に対し、BFF社は№19、及び№20の投入を……』

 

「!」

 

弾かれるように顔をあげた。BFFのナンバー19と20。間違いない、二人だ。

リリウムの目がテレビに向けられる。そこには、この家の二人の主人の顔と、機体が映されている。

 

これか、今日のお急ぎの理由は。輝く瞳でテレビに目を向ける妹(姪)をソファに座らせ、私も情報を頭に入れる。

 

元国軍を吸収した大規模武装勢力。幾つも流れる写真には、どうしてかわからない(すっとぼけ)がローゼンタール製品に身を包んだテロリストが写されている。

 

いつもの・・・である。BFFは見せしめとして、こいつらの鏖殺を命じたってわけだ。

 

時間を計算する。二人が家を出る、直近の基地に向かい、機体に乗り込む。機体は輸送機に運ばれ、その中でブリーフィングが行われる。輸送機は高速だ。すぐに作戦空域に到達する。ここから先は対空ミサイルが飛んでくる可能性があります。ご武運を、降下、降下、降下・・・

うん、そろそろかな?

 

その時、テレビの映像が切り替わる。キャスターが淡々と、新たに渡された原稿を読み始める。

 

『BFF社より速報が入りました。先程、BFF社が投入した№19 フランシスカ・ウォルコット。及び№20 ユージン・ウォルコットの活躍により。アイルランド島において蜂起を行った武装勢力が壊滅したとのことです。繰り返します、アキ程、BFF社が……』

 

ありゃりゃ、最初のニュースが入った時にはもう投入された後だったのか。

私は、軽くアイルランドに思いをはせる。様々なルートによって流れ込んできた兵器はBFF製のライフルによって無価値な鉄屑に変えられ、反企業の正義に燃えて武器を取った人間の殆どは物言わぬ肉塊となり果てただろう。打ち負かされても何とか生き残り、更に企業への憎しみを募らせた少数のテロリストも、降り注いだコジマ粒子に侵されて、遺伝子を強制的に変異させられ、理想叶わず倒れてゆく。

 

かくしてパックス・エコノミカは安泰でしたとさ。めでたしめでたし。

 

「ジャンヌお姉さま!お姉さまとお兄さまが!」

 

リリウムが興奮しながらこちらへと顔を向けてくる。姉と兄の活躍を純粋に喜ぶその表情を見ていると、こちらも嬉しくなってくる。

 

「うん、流石ね。悪い奴らを、こんなすぐにやっつけるなんて」

 

「はい!本当に凄いです…」

 

そういって、再び食いつくように画面を眺める。そこには、二機のヘリックスが映し出されている。いつかの対テロ作戦の時に撮影されたものだ。それをバックに、キャスターが二人の功績を賛美する。

近接戦闘を行う姉、遠距離狙撃により支援を行う弟。いつ見ても惚れ惚れする様なコンビネーション。

 

その様子を、純粋に、まるでおとぎ話の王子様かのように見つめるリリウム。きっと世界には、こんな風に、純粋無垢にあの殺人兵器に憧れる子どもがたくさんいるのだろう。

 

映像が終わり。ニュースも異なるものへと変わる。ただ、リリウムはその残像を未だ脳で楽しんでいるのかテレビに目を向けたままだ。

 

「ねぇ、リリウム」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「二人みたいに、ネクストに乗りたい?」

 

「はい!私もいつか訓練してリンクスになって。お姉さま達と一緒にリンクスに乗りたいです!」

 

「そっか」

 

「その時は・・・・・・」

 

「ん?」

 

「ジャンヌお姉さまも、私と一緒に戦ってくれますよね?」

 

「・・・うん、そうだね。」

 

 

 

 

 

 

 

二人は、今日は帰れないらしい。しかし、明日は何とか休暇をもぎ取ったとも報告してきた。

明日は四人でゆっくりできると知ったリリウムは、安心して眠り始めた。

時間は夜七時。ふと、窓から外、空を見上げる。そこには雲と、星と、月と、アサルト・セルがある。

 

この世界はどうなるんだろうな。企業が勝つのかORCAが勝つのか。それとも奴さんは獣となるのか。

いや、もしかしたらレイレナードが勝つかもしれない。そうなったら、人類はそこそこの痛みで空を手に入れることができる。

 

私は軽く未来に思いを馳せた後。さて、訓練訓練と自室に戻る。

ベッドの下。だいぶ奥。エロ本代わりに隠されている床の扉を開け、私はそこに潜りこんだ。

 

呆れるほどに長い梯子。防音材も張り巡らされたこの場所は、何かあった時でも、音が上に伝わらないようになっている。

そこをゆっくりと降りていく。疲れはない。私の身体はそんなものは感じない。

数分をかけて梯子を降り切る。

通路を歩き、認証式のゲートを開く。

 

そこにあるのはガレージ。ここに来る時にお願いし、家主も知らぬ間に人知を超えた力で作られた私だけの軍事基地。

 

隣接して、私が前世で住んでいた自室も設置されているが、今日はそっちに向かう気は起きない。

まっすぐと、愛機に向かい歩き始める。

さぁて、今日も訓練だ。なんにも知らない可愛い妹(姪)に、悲しい想いをさせない為に、頑張って練習をしなくちゃね。全く、なんだかんだ湧くもんなんだね、肉親の情って奴は。

 

私は、目の前に聳え立つ愛機に語り掛けた。

 

「じゃ、今日もいっちょ訓練に励みますかっと。……今日も一晩付き合ってね、愛しきクレピュスキュールちゃん。」

 

 

 




これから頑張って投稿しよう・・・


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新 五話 さよなら平穏 

誠意は言葉ではなく投稿


「雨は、天が流した涙・・・ねぇ」

 

自室から窓の外を眺めていた男は、似合わないと思いながらもそんな言葉を呟いた。

確かに、この街は泣いているのかもしれない。教授の死に。

…いや、それとも。自分たちの未来が唐突に闇に閉ざされたことにか?

 

一か月前、イェルネフェルト教授が死んだ。長くコジマに関わったものに待ち受ける、逃れられぬ運命に捕らえられた教授の死は、コロニー・アナトリアに大きな衝撃を与えた。そして、その後にアスピナへと鞍替えをした研究者によってネクスト技術が流出したことがわかると、その衝撃は収拾不可能な混乱へと発展した。

 

降ってわいた存亡の危機。コロニーの有力者たちは、この危機をいかに乗り越えるかを連日話し合っていた。その中にはフィオナもいる。父のもとでネクスト研究に関わっていた彼女も、末席ではあるがアナトリアの有力者の1人であった。

 

いったい、そこではどんなことが話し合われているのであろう。少なくとも、フィオナにとって都合のいい話ではないのだろう。会議の度に、彼女の顔色は悪くなっている。

明るく振舞おうとしてはいるが、そこには無理が見える。

 

「まぁ、少し歴史を見ればわかる事か」

 

特産品も魅力も無い国が、外貨獲得の為に商品にするものは限られている。

素晴らしいことに、ここには今の世界でもっとも供給が待ち望まれている商品が存在し、その商品を、なんとか動かすことが出来る居候が存在している。

 

なぜ、それを未だ決断できないのか。

 

……きっと、彼女が必死に抵抗しているのだろう。

そう想うと、男の中に罪悪感が産まれる。

 

すまない、フィオナ。俺は……

 

 

 

 

「なんで強行したのですか!!」

 

デスクを叩いた掌がじんじんと痛む。だが、自らの中にある抑えきれない怒りが、それを無視しろと脳に命令する。

フィオナ・イェルネフェルトは激怒していた、目の前の男に対して。

エミール・グスタフ、コロニー・アナトリアの代表者となった男は、静かにフィオナを見つめていた。

 

「エミールは、彼がどうなってもいいと思っているんですか?」

 

「あぁ、そうだ。」

 

「ッ!?」

 

突き放すようなエミールの一言に、思わずフィオナの言葉が詰まる。

 

「フィオナ、君だってわかっているだろう。アナトリアの崩壊は時間の問題だ。我々は、新たな商品を売らなければいけない」

 

「商品って……」

 

「あの男はレイヴンだった。商品として扱われるのは彼の日常だろう」

 

「ですが、彼はもう傭兵は止めました」

 

「彼がそう宣言したのか?怪我をして、今の今までここで休んでいただけなのではないか?……なに、ただ働きをさせるわけじゃない。多くは我々の取り分となるが、彼にも、レイヴンだった時とは比較にならないほどの報酬が入る。君たちも、先立つものは必要だろう?」

 

「そういう問題では……」

 

「そういう問題だ。子供の駄々はやめろ。もう、決まったことだ。」

 

フィオナの言葉を切り、エミールがそう言い切る。その眼を見てフィオナは悟った。彼は、そうやっても私の説得には靡かない。喉から声が出ない。フィオナは、エミールの迫力の前にすくんでいた。

 

「……」

 

「話はそれだけか?なら、すぐに彼に伝えてきてくれ。アナトリアに、立ち止まっている時間は無い。」

 

エミールに退室を促される。フィオナは、一度だけ彼の顔を見、その後は振り返ることなく部屋を立ち去った。

 

 

 

 

 

フィオナ・イェルネフェルトには好きな男がいた。殆ど一目惚れだった。戦場で助けた男に心奪われた彼女は、そのまま男を付きっきりで看病することを決めた。

恋は、人生を豊かにする。国家解体戦争が終わったあの日から、フィオナの心には多くの喜びがあった。

大学院を卒業し、父であるイェルネフェルト教授の手伝いを行うようになったころには、男は退院できるようになっていた。フィオナはそんな男に、自宅への居候を提案した。

 

彼の話は、今までの自分の仕事についてが中心だった。やれ、どこは給料の支払いが悪い。やれ、どこは任務の発注の際に秘密が多すぎる。誰々は戦友だったが、任務中の裏切りによって殺した。誰々は酒代のツケを払ってやったのに、返済の前に死んだ。

 

私は、彼を絶対に守ると決めた。この平穏を、私が守る。彼を、二度と戦場へなど行かせない。

彼が平穏に馴染むように、彼の世話を続けた。穏やかな、何もない、平和な、楽しい時間。

こんな時間は永遠に続くと信じていた。父の手伝いをし、家に帰ると好きな人がいる。充実した生活。それを、今から私は壊さねばならない。

 

自宅への道は遠かった。傘が弾く雨の音が、どこまでも気分を憂鬱にしていく。

 

家に入る。一階に明りはついていない、あの人は二階にいるのだろう。

一段一段、ゆっくりと昇っていく。永遠に、あの人の部屋に辿り着きたくない。

なぜ、誰も彼を気遣わないのだろう。なぜ、誰も彼を商品としか見ないのだろう。

彼は、やっと戦いから解放されたのに。なぜ誰も、彼に平穏を与えてくれのだろうか。

 

 

 

フィオナの足音が聞こえた。男は窓の外を眺めながら、彼女を待つ。

弱々しいノック。振り返り、どうぞと声をかける。

扉が開き、フィオナが入ってくる。

彼女は泣いていた。男は立ち上がり、彼女を迎えた。

フィオナは男の胸に飛び込み、さらに大きく泣いた。

 

彼女は言った。ごめんなさいと、貴方を護れなかったと。

男は応えた。大丈夫だと、フィオナのその気持ちが嬉しいと。

 

 

 

男の口元には笑みがあった。無意識の、戦争中毒者の笑み。

男は知っていた。渡り鴉の心は、戦場から永遠に離れられないという事を。




と、いうわけで言い訳を……

更新が遅れて申しわけありませんでした。

理由として、2017年ごろから創作の主軸をやる夫スレに移していた…というのがあります。
ただ、やっぱりここまで更新して、ここまで多くの人が待ってくれているのにエターはダメだ!となり(あとスレが荒れてて更新停止して創作欲が発散できていなかった)こっちの投稿を再開しました。

初期とはプロットだったり色々変更してますが、とりあえず完結を、んでもって面白くなるように、ゆっくりのんびり更新していきたいと考えています。よろしければ、今後もごひいきにお願いします。



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