デジモンアドベンチャー BLAST (アドゥラ)
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序章・橘カノンとドルモン
1.誕生! その名はデジモン


待っていた方、長らくお待たせいたしました。
改定版となりますが、どうぞお付き合いください。


 これは、僕の運命が始まった時の物語だ。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 この時のことは少し記憶がおぼろげだが、細かいことは覚えている。そう、あれは僕がまだ5歳のころ。1995年の春休みのことだ。あの日、ボクはおばあちゃんが住む光が丘へ遊びに行っていたんだ。

 夜、少し外を歩きたくなりおばあちゃんの家から抜けだしてしまったんだけど、その時の街はひどく静かであったことだけは覚えている。まるで人が誰もいなくなったみたいに静まり返った東京は今思い出してみてもとても気味が悪かった。

 歩道橋の真ん中まできて疲れが出てきた僕は、そろそろ戻ろうかと思った。その一瞬、何かに呼ばれたような気がして振り返ってみると――――どこからとも無く大きな音が響いてきた。

 

 

 

 空を見ると、大きなタマゴが浮いていた。

 そして、大きな音をたてワレたんだ。

 

 

 

 ボクは何が起こったのか気になり、走ってタマゴが割れた現場に向かったんだ。壊れた自動販売機などがあり、現場を見つけるのは簡単だった。

 そこで見たのは巨大なオレンジ色の恐竜と、巨大な緑色の怪鳥。両者が組み合って戦っている現場だ。

 恐竜の傍にはボクより少し年上の男の子と同い年くらいの女の子がいて、恐竜のことをコロモンと呼んでいたのが聞こえた。不思議と、その名前が耳に残ったのを覚えている。

 ボクは少し離れたところから見ていたから少しだけ状況がよく見えた。

 近くのマンションに6人、子供がいた。遠くて顔や性別は良く分からない。ただ、何かに惹かれるように彼らを見つけたのだけはハッキリと分かった。

 

 

 恐竜の……コロモンの傍にいた子供達は必死にコロモンを呼んでいた。そして男の子が女の子——おそらく妹——の笛を力いっぱい鳴らした。すると、その呼びかけにこたえるかのごとくコロモンが立ち上がり、雄々しく吠えると共にあたりに閃光が満ちた。

 まるで夜明けのように輝く炎のブレス。僕はただただ、その光に魅入られて立ち尽くすのみであった。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 しばらくすると、恐竜も怪鳥もどこかに消えたかのようにいなくなっていた。女の子がコロモンを呼ぶ声だけがあたりに響くのみで、あの巨体は姿かたちもない。僕は道の真ん中にいる二人に声をかけようとも思ったが、パトカーの音が聞こえてきたのでとりあえず、大騒ぎになる前にボクは家に帰ることにした。それに、流石に結構距離があったし。

 だが、その時あるものを見つけた。路地裏に、あったのだ。大きなタマゴが。色は藍色で上の方が白い。なぜだか、そのタマゴに呼ばれたような気がして、タマゴを持ち帰った。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 僕が謎のタマゴを拾ってから一週間が経った頃のことだ。それまで、親にあのタマゴはなんとか見つからずに済んでいた。まあ、僕の親は色々と規格外な人だから、僕が何かを隠していることに気がついていながらあえて僕に任せていたんだと思うけど。

 あの後すぐに僕たち一家は自宅のあるお台場に帰ってきていた。光が丘での出来事は爆弾テロということになり、結構色々な被害を出していたようだ。

 その影響で隣に引っ越してくる人たちがいるってその時母さんが言っていたのを覚えている。その時に、それとなく「猫でも拾ったのかしらー」って言っていたのも覚えている。やっぱり感づいていたんだろう。実際にはネコよりも大きいタマゴだが。で、その件のタマゴなのだが……その時はものすごかった。

 激しく動き出していたんだ。うん。しかもブレイクダンスを踊るかの如くグルングルンと。驚いて腰を抜かしかけたのは苦い思い出である。

 だけど、それ以上に僕はそのタマゴから出てくる何かがとても楽しみでワクワクしていた。だって、どんな図鑑にも載っていないんだ。誰も見たことが無い生き物が出てくる。そう思うだけで、僕の心の底から言い知れぬ興奮が湧き上がってくるのを感じていた。

 殻を破って出てくるのはどんな生き物だろう。

 父さんの本にも載っていないような生き物なのは間違いない。

 父さんは大学の教授でたくさんの本を持っていて、僕も好奇心から父さんの書斎で読書をしていた。わからないことがあれば父さんに聞いていたが、図鑑や辞書などを貰い、使い方を教わって他の本も読めるように頑張っていたらいつの間にやら色々なことを覚えていたという感じだ。

 だからこそ、僕にはこのタマゴが地球上でまだ誰も見たことが無いタマゴだと思ったんだ。いや、確信したと言ってもいい。

 ボクは期待に胸を膨らませてタマゴから何かが出てくるのを今か今かと待っていた。その時の母さんは買い物に出かけていて良かったと今でも思う。この時ばかりは注意が散漫になっていて、タマゴを隠すこともできなかっただろう。

 

 

 

 そしてついに、タマゴが割れた。

 

 

 その生き物は地球上で類を見ないだろう。

 まず、足が無い。

 全身は青色の体毛に包まれていて、口の周りだけは白い。

 耳が二つ、頭にくっついていて、目は体に比べて少し大きい。

 毛には覆われているが、なんかゼリーみたいにプルプルしているような気もする。まるで、ゲームに出てくるスライムみたいな感じだ。

 はたして、スライムは卵から生まれるのか。そもそもスライムに毛なんて生えているわけが無いかと結論にたどり着く。では、この生き物はいったい何なのか。

 我ながら思う。やっぱり混乱していたと。

 

「…………」

「え、えっと……こんにちは」

「ガプッ」

 

 噛み付かれた。とりあえず挨拶したら顔にがぶりといかれた。

 

「!?!?!?」

「はむはむ」

 

 

 ただ、噛み付かれているが痛くは無い。

 

 

「あ、歯がないのか」

「……ど」

 

 良く触ってみると分かるが、体毛は意外と硬い。バリバリしているとかそんな次元ではなかった。かなり硬い……金属並みに。むしろ、質感が金属だった。金属の毛、果たして生き物と言っていいのか迷うレベルである。

 

「えっとボクは(たちばな)火音(かのん)……君の名前は?」

 

 言葉が通じるわけが無い。そう思いつつも、僕は自己紹介せずにはいられなかった。

 なんとなく、そうするべきだと思ったのは間違いないけど。

 

「……ドドモン」

「…………」

 

 未確認生物改めドドモンは人語を理解できたのである。もう何度驚けばいいのかわからないまま、色々な問題は後回しにして僕は一番必要な言葉をひねり出した。

 

「よ、よろしく」

「…………よろしく」

 

 そんな一言を出すのにものすごく緊張をしたことだけは覚えている。その時の僕はきっと、とても面白い顔をしていただろう。

 目を白黒させて、曖昧に笑った顔を。

 まあ、ファーストコンタクトは成功ではあったと思う。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 さて、ドドモンとのファーストコンタクトから二週間がたったある日のこと。

 ドドモンは基本雑食で何でも食べる。果物が好物らしく、とてもおいしそうに食べている。

 

「……カノン、あれは、なに?」

 

 そして、コイツは結構好奇心旺盛で何でも知りたがる。僕も最初はこんな感じで父さんにアレコレ聞いていたんだろうなと思わせてくれるほど、あらゆるものに目を輝かせていた。

 

「あれは新聞だよ。最近のニュースが書いてある紙だよ」

 

 ニュースについては教えてあるのですぐ分かったようだ。

 最初は色々と苦労した。ニュースと聞いて「どんなデジモン?」と聞き返してきてどんな知識に基づいて話しているんだとも思った。

 デジモンってのはこの前のコロモンや怪鳥を総称した呼称らしく、ドドモンの他にも多くの種類がいるらしい。ただ、まだ赤ん坊なのかドドモンの知識は要領を得ない部分も多く、この時の僕はここまでしかわからなかった。

 と、そこでくぅと何とも可愛らしい音が聞こえてきた。

 

「……カノン、おなかすいた」

「あーそういえばもうお昼だね」

 

 その日、母さんはパートに行っていたので適当に何かたべてねーと冷蔵庫を指さしていた。

 うちは結構な放任主義で、まだ小さいのに色々と自由にさせてもらっていた。まあ、僕が同年代と比べて早熟過ぎたのもあったんだろうけど。

 我ながら小さいのによくもまあぁ、可愛くないほどに色々と知り過ぎていると後に思った。この10年後ぐらいに。

 

「よく考えたら、ウチの親にドドモンのことがばれても案外平気な気がする」

 

 父さんは「実に興味深い」とかいって受け入れそうだし。

 母さんは「あら~はじめまして~スライムっぽいわね~」とか言いそうだな。なんて思う。いや、実際に後にこの予想は的を射ていたんだけど。

 まあ、あの二人はすぐ受け入れそうだけど……もうちょっとよく考えてから言うことにしようと僕はとりあえず現状の方針を維持することに。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 お昼を食べ終えて、父さんの書斎から何か面白そうな本はないかなと、探してみる。割とこの頃は毎日こんな感じで暮らしていた。

 あまり外で遊ばず、家の中で難しい本を辞書を片手に読み漁る毎日。どんな子供だよと10年後ぐらいに以下略。

 ただ、この日はその日課をする余裕はなかったけど。

 

「ん、なんだ?」

 

 突如パソコンの画面が光り出して、画面から何かが出てこようとしていたのだから。

 

「う、うわぁ!?」

 

 ビックリして腰を抜かしてしまった。流石に不意打ちでは僕も驚くことしかできない。

 

「な、なんなんだ?」

 

 光が消えると、パソコンの前に二つの物体が現れていた。手に取ってみると、ちょっとヒヤッとしたけどどこか暖かい感触と共に僕の手に馴染む様に思った。

 

「……ポケベル……か? それに、ペンダント?」

 

 ポケベルのような物体と、ペンダントらしきものがあった。ペンダントには∞のようなマークが書かれていた。いや、Sを横倒しにしたと言ったほうが分かりやすいか?

 マークが書かれている部分は白色で、その周りは金色。

 ポケベルのような物体は全体的に白色。アンテナのようなものと液晶画面があるし、ボタンが三つ存在していた。

 僕はもしかしたら何か関係があるんじゃないかと思って、とりあえず、自分の部屋に戻ってドドモンに二つの物体を見せてみた。

 

「ドドモン、なんだかわかる?」

「……デジヴァイスとなんだろう?」

 

 ポケベルのような物体はデジヴァイスと言うらしい。

 ペンダントのほうは分からなかったみたいだが、彼らデジモンに関係のある品というのは間違いない。

 

「って、ドドモン知ってるの?」

「うん、ボク達、デジモンを進化させる道具……らしい」

 

 ドドモンの知識はブツ切れのようなもので、何か関連する事柄からしか引き出せない。

 

「進化って……?」

 

 ドドモン自身生まれたばっかりで自分が何者かも良く分かっていないらしい。

 ただ、なぜか基本的なことは知識として持っている。不思議であるが、これ以上の解明はできなかった。

 

「進化は進化だよ」

「……」

 

 ○○は○○だよ。このセリフが出るとこれ以上の回答は得られない。これまでも、デジモンはデジモンだよだったり、イグドラシルはイグドラシルだよとかそんな風にそれ以上の引き出しがなくなることが度々あった。

 

「……はぁ」

 

 ちょっと、脱力してから息を吐く。これ以上は何も答えられないのだから、無理に聞くのもできない。

 とりあえず、パソコンから出てきたんだからパソコンに関係ある程度に思っておこう。パソコンから物が出てくるとかサイエンスなのかオカルトなのかどっちなんだと言いたいが。

 

「コレをどうすればいいんだろう?」

 

 ボクはデジヴァイスを握り締め、とりあえず力をこめた。進化というのが、言葉通りの意味ならドドモンに何か変化をもたらすのではないかと思ったわけだが……

 

「んぎぎぎぎぎぎぎご……だめか」

「?」

 

 流石にそう簡単にはいかないらしい。

 なんだろう、どっかのアニメみたいに気合をこめればいいのか? 精神を集中させてドドモンのことを考える。

 今のままじゃ何も始まらない。まだワクワクする何かがこの先にあるのなら、僕はそれを見てみたい。

 

「ドドモン進化だ!!」

 

 だから純粋に、その願いを込めて僕は叫んだんだ。

 すると、ドドモンが光に包まれてその形を変えていった。

 まん丸の体から小さな足が生えて、体は少し大きくなる。

 

『ドドモン進化!

 

       ドリモン!!』

 

 目にはよりはっきりとした意識が現れて、彼の存在が大きくなったのを感じた。

 

「……本当に、進化した」

 

 茫然となりながらも、ワクワクする何かが待っている。その事実が、とてつもない昂揚感を産んだのだ。まるで、僕の中から突風が吹き荒れるように。

 




変更箇所として、主人公カノンの年齢を一つ上げました。これで初代選ばれし子供に同い年がいなくなる寸法です。
あと、すいませんが恋愛描写は極力なくしていく方針です。というわけで、原作キャラからヒロインをというのはやりません。
02終了後にオリジナルで何かやるかもといったレベルなので、その方面に期待している方がいらっしゃったら申し訳ない。

あと、triにアルファモンが出てきましたが、元々ここでは通常進化でアルファモンにはなりませんのであまり変わらずに行きます。


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2.知識との出会い

改定作業中、改めて選ばれし子供の設定を見ていたら……重大なミスをしていたことが判明。誰もつっこみが入らなかったし、そのままで流していたぞと反省。
あとはあとがきで語ろう。


 ドドモンがドリモンに進化した次の日の出来事。最近、マンションの隣の部屋にこしてきた家族が挨拶に来ていた。例のガス爆発として処理された事件で多くの人が引っ越したわけだけど、どうやらその家族もその事件で引っ越してきた人たちらしい。

 まあ、初めてみた時はビックリした。遠くて顔をはっきり見たわけじゃないけど間違いないだろう。あの恐竜のような姿をしたデジモン、コロモンの傍にいた二人だ。後になって思えば、コロモンって名前の割に厳つすぎるけど。

 

「始めまして八神といいます」

 

 八神さんのお母さんがウチの母と挨拶している。見た目は普通のお母さんと言う感じ。

 

「どうもー、橘ですー」

 

 ウチの母さんはのほほんとした人で、なんか、こう……比喩表現抜きでフワフワした人。というイメージだ。

 大抵のことは笑って許すが、怒ると笑顔で迫ってくるからかなり怖い。ちなみに、元軍人らしい。あまりイメージにそぐわないが、昔の部下と街でばったり出くわしたりすると、相手が直立不動のびしっとした格好でものすごい綺麗な敬礼をするのだ。一体、昔の母さんは何者だったのだろうか。

 

「どうも、橘カノンです」

 

 僕もとりあえず挨拶しておく。父さんの書斎で見つけた正しいマナーとか書いてあった本を参考にしてみたのだがあっているだろうか? お辞儀の角度に気を使ってみたけど。

 

「あら、ウチのヒカリと同じくらいなのに礼儀正しい子ねー」

 

 まあ、好印象。というよりは、驚きの色が強い。

 のちに知ったことだが、僕は同年代と比べても異色過ぎるタイプであった。まあ、遊ぶ友達もいなかったから比べようがなかったのだけど。

 

「ほら、二人も挨拶しなさい」

 

 そう言って、八神さんが子供たちに挨拶を促す。兄の方はやんちゃそうな少年。僕よりもいくらか年上。女の子の方は、とてもおとなしそうで何だかはかなげな印象。僕と同じか少し年下ぐらい。

 

「八神太一です」

「……八神……ヒカリです」

「えっと、よろしくお願いします」

 

 その後、お母さん達は雑談をやめ、八神さんたちは家に帰っていった。

 ただ、ヒカリちゃんがその時、「コロモンみたいなにおいがする」って言っていたのには驚いた。同じデジモンであると言っても、大分異なる姿だし、においが同じなわけないんだけど……

 そんなちょっとヒヤッとした一幕もあったけど、とくにドリモンのことはばれずに済んだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 部屋に戻ると、ドリモンは鼻提灯(フーセン)を出しながら眠っていた。そういえば今日は結構陽気がいい。それに、ドリモンに進化してから足と尻尾が生えて動きやすくなったのがうれしかったのか、元気いっぱいに遊んでいたから疲れたんだろう。

 どうやらデジモンは進化することで大きく、強くなるようだ。体重も増えて、体も頑丈になっていた。

 頭も良くなっていくらしい。現に、ドリモンに進化してから知識が増えたみたい。

 

「ねえ、ドリモン。このペンダントが何か分かる?」

「うーん、よくわかんない」

 

 しかしながら、ペンダントのことは最初から知らないらしい。

 

 ただ、デジヴァイスについては色々分かった。

 どうも、聖なるデバイスと呼ばれるアイテムで、デジモンを進化させる以外の機能もあるらしい。

 時計機能など、デジモンに関係ない機能もあったけど。しかも時刻を合わせる必要がなく、普通に日本の標準時間が表示されている。設定とかしていないんだけど……自動的に合わせてくれるってハイテクすぎやしないだろうか。

 だけど決められた持ち主とそのパートナー以外には反応しないらしいので、ボクとドリモン用ってことになる。機能の全てを把握していないし、進化も自由ではない。使えるのは今のところ時計と歩数機能ぐらいだ。

 あと、出会ったデジモンを自動的に記録するみたいなんだけど……表示させる機械が無いのが悔しい。まあ、出会ったのはドリモンとこの前に二体だけだけどね。一応、ノートにドドモンとドリモンのスケッチを載せた手製の図鑑を作っている。コロモンと怪鳥も覚えている限り特徴を記載してあるけど、夜だったし記憶がおぼろげだ。色ぐらいは覚えているんだけど。

 

 

 そういえば、このペンダントは一体なんなんだろう? 金属っぽいんだけど、なんだか妙な感触がある。

 中に白色のプレートが入っているんだけど…………はぁ、気になるけど保留にするしかないか。

 

「カノン、どうかした?」

「ううん、なんでもないよ」

 

 ドリモンも隠し続けるわけにはいかないし、どうやって親に言えばいいかが最近の悩みどころである。

 いや、あの二人なら普通に受け入れるとは思うんだけど。変人だ……変人だし。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 その日の夜、とりあえず父である橘業火(ごうか)と母、橘四音(しおん)にドリモンのことを話した。ある日拾ったタマゴから還ったこと、もとはスライムのような形で、進化をしてこの姿になったことも含めて。

 話せることもほとんどないんだけどね。しかし、僕じゃこれ以上考えても仕方がないし、父さんなら何かわかるかもと期待していたんだけど……

 

「ふむ、実に興味深いな。これは地球上ではありえない形の生物だ。いや、もしかしたらこの宇宙でさえも無理かもしれないな。生物学に詳しい知り合いに見せたら食いついてくるだろうが……」

「あらあら、よく食べるわねー」

「むしゃむしゃ」

 

 うん、ドリモンのこと自体はあっさり受け入れた。って、ドリモンもなじむの早いな。

 ちなみに、母は今では専業主婦である。昔のことはあまり教えてくれない。恥ずかしいわーってはぐらかす。

 

「しかし、カノン。まだほかの誰にもドリモンのことを話していないだろうね」

「それはもちろん」

「ならいいのだ。これほど珍しい生き物だ。どこかの馬鹿が実験と称して非道なことをしかねん」

 

 父は心理学などを教えているらしいが、それと同時に非道なことは許せないくちのため、何が正しく、何が悪いのかを説いている。むしろ、そっちのほうが人気が高く、大学生達も父の影響で更生した人物がたくさんいる。どちらかと言うとカウンセラーとかのほうがあっているかもしれない。

 ちなみに変人。

 

「きゅうり食べますかー?」

「もう、おなかいっぱい」

 

 

 いや、いつまでやってんだよ母さん。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ただまあ、親がすんなりドリモンのことを受け入れてくれたおかげで色々と調べやすくなった。

 ドリモンも進化したことで知識が増えたのか色々と教えてくれて、数日で一気に色々なことが分かった。

 

 彼らの総称デジモン——正式名称はデジタルモンスター。

 その名のとおり、デジタル体を持った生命体で、デジタルワールドと呼ばれる場所に住んでいる。

 心臓や脳といった器官に当たる電脳核デジコアを持っており、そこに様々なデータが蓄積されているらしい。

 データの集まりから生まれたのか、デジモンがすむ世界……デジタルワールドにながれたデータをもとに形作られたのか。真相は分からないけど、色々と分かってきたこともある。

 ドリモンの話からの推察と、父さんが大学の知り合いから借りてきた機材を使ってドリモンの体毛を調べた結果、色々と面白いことが分かった。

 

 彼らはデジタマと呼ばれるタマゴから生まれる。

 死んだ場合、デジタマに戻る……人間で言う、輪廻転生と同じようなものだと思う。

 記憶は基本的に引き継がないが、こうして知識があるということは、引き継がれるものもあるのだろう。

 

 デジモンにはいくつかの成長段階がある。

 現実世界の生き物みたいに徐々に変わるのではなく、一気に変わるようだ。

 たとえるなら、イモムシがいきなり蝶に変わるようなものだろう。

 

 成長段階は

 

 幼年期Ⅰ

 幼年期Ⅱ

 成長期

 成熟期

 完全体

 究極体

 

 の六つらしいが、一部例外もいるとのことだ。ちなみにドリモンは幼年期Ⅱである。進化するごとにデータ量が膨大になっていくらしく、究極体ともなるとどれほどの大きさのデータか予測もつかないらしい。

 ちなみに究極体は滅多にいないらしく、その名のとおり絶大な力を持つデジモンである。正直お目にかかりたくない。

 そういえば、コロモンは幼年期Ⅱらしい。恐竜の姿はおそらくコロモンが進化した姿だと、ドリモンが言っていた。コロモンという名前の知識はあったみたいだ。どうも幼年期はバリエーションが少ないらしくて、名前だけならドリモンも言えるほどだとか。あと、幼年期のデータ量は少ないのでバーコードリーダーを当ててみて表示される分のデータが幼年期のデータ量らしい。

 それほど多くなかった……の割に、こうやって自分で考えて動けるというのは現代の科学に照らし合わせてみてもあり得ぬことだと父さんが言っていた。

 更に知りたければデジタルワールドに行くべきなんだろうけど……

 

「デジタルワールドってどうやったらいけるんだろう?」

「さあ?」

 

 どうやらドリモンもそれは知らないらしい。

 相変わらず、自身の知識は単語ばかりで意味までは分からないらしい。デジタルな存在ゆえか、単語自体がデジコアに刻み込まれていると父さんが推察していた。

 あと、イグドラシルという単語も度々でてくるんだけど……どうにも気にはなるが、他の言葉以上に何のことだかわからない。ただ、ドリモンはその単語についてどこか怖がっているように見える。

 イグドラシル……北欧神話に出てくる樹の名前らしいけど、それとは違うってのはなんとなくわかる。

 

「うーん……これ以上考えても仕方がないかぁ」

「カノン、おやつたべたい」

「そうだね。何か冷蔵庫にないか探してみるよ」

 

 冷蔵庫を開けてみると――なんとそこには大量のソーセージが。

 

「――――いや、多すぎでしょ母さん」

「わぁい、ソーセージ大好きー」

「確かに好きだけど……なんでこんなに大量に」

 

 少なく見積もっても百本はあるんじゃないだろうか。正直、食べきれないと思う。というかなんでこんな大量に……まあ、これだけあれば少し位貰っても大丈夫か。

 とりあえず二、三本とりだしてドリモンと二人で食べる。

 おいしいけど……やっぱり数が気になるな。

 

「……変人の嫁は変人か」

「なんのはなし?」

「いや、こっちのこと」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 流石に家の蔵書だけでは調べ物もはかどらない。図書館に出かけて、アレコレと本を読んでみるけど……

 

「うーん、どこから手を付けたものやら」

「カノンー苦しいよー」

「ちょっと我慢しててね。流石にみられるとマズいから」

 

 動かないでもらえればぬいぐるみとごまかせるんだけど、一度走り出したら止まらないドリモンは下手に外に出せないのである。それはこの数日で嫌と言うほど味わった。

 おかげで生傷が絶えない……一回、ちょっとやり過ぎた(ドリモンが)ことがあって母さんに怒られてからはおとなしくしてくれているけど。

 

「北欧神話……ダメだ。全然手掛かりにならない。むしろパソコンとかそっち系の本を読んだ方がよさそうだ」

 

 あと、漢字ばかりの本を僕が読むのはやはり目立つのか、さっきから兄弟と思しき二人に見られている。兄の方は眼鏡をかけていてツンツン頭。弟はサラサラか……当たり前だけど黒髪だな二人とも。

 ちなみに、僕は赤毛である。母方の祖母が外国の人でその血を受け継いでいるかららしい。そのため母の髪も同様です。

 

「場所変えるか」

「……そろそろ出してほしい」

「我慢してねー」

 

 とりあえずパソコン関係、パソコン関係……棚はすぐに見つけたけど、どうやら先客がいたらしい。年のころは僕よりも少し上の男の子だ。

 なんというか……本当に子供かと言いたいぐらいに、難しい本を読んでいる(人のことは言えない)。

 まあ、別段問題ないだろうということで、僕も適当に一冊とってみて読んでみる…………だめだ、とっかかりの知識がないと分からない。

 

「むぅ……」

「どうかしましたか?」

「あー、すいません。うるさかったですか?」

 

 先に本を読んでいた人に声をかけられてしまった。唸り声がうるさかったのかとも思ったが、どうも彼の顔を見ると違うらしい。

 

「いえ、ボクよりも小さい子がこんなところにいるのが珍しくて」

「あー……お互いさまなんじゃ」

「ふふ、そうですね。でもわかるんですか? 漢字も多いですし」

「とっかかりがわからないと……専門用語以外なら大丈夫なんですけど」

「へぇ…………それなら、この本がおすすめですよ。ボクも最初はここから始めました」

「ありがとうございます……えっと」

「ボクの名前は泉光子郎。君は?」

「橘、カノンです」

 

 この時は思ってもみなかっただろう。この人と、長い付き合いになるとは。この時の僕はただ、人のこと言えないのに子供らしくない感じの人だなぁと思っていたんだけどね。




色々と出会いの部分を変えていきます。あと、光子郎は無印開始時点ではサッカー部だってのを知らずににじファン時代で最初からパソコン部にしてしまっていたっぽい。
太一と知り合いっぽいのはなぜかと思ったら、そこのつながりだったのかと今更ながらに知る情けなさ。
パソコン部を立ち上げたのは無印での冒険後だったと。

にじファン時代では時間を飛ばしていましたが、色々と出会いの部分を考えて構築し直します。
あと、分かり難いけど他にも邂逅。


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3.断片

今日はデジモンの新プロジェクト、アプリモンスターズの情報公開らしいですね。
デジモンアドベンチャーのころはデジタル機器がここまで身近どころか生活に根付きすぎる世界になっているとは思わなかった今日この頃。

今回の話は完全新規となります。
改定前と比べて新しい設定やデジモンたちも増えましたので、色々と資料をチェックする感じです。


 光子郎さんと出会ったことで、色々と作業がはかどるはかどる。

 まだ資料を纏めてみないとわからないけれど、デジモンのことを理解するにはコンピューターやネット関連のことから勉強するのが一番みたいだ。

 現実世界とデジタルワールドの違いについてはまだ何とも言えないが、ドリモンの体は問題なく現実世界に適応しているらしい。毛も普通に抜けてたし。

 デジモンには属性があるらしく、ジャンケンみたいに優劣があるというのも聞いていたんだけど、なんとなく理屈が分かった。

 ワクチン、データ、ウィルスの三種がほぼすべてのデジモンに割り振られており、

 データはウィルスに侵されるため、ウィルスには弱いがワクチンには強い。

 ウィルスはワクチンに駆逐されるため、ワクチンには弱いがデータには強い。

 ワクチンはデータを守るためのものなので、データには弱いがウィルスには強い。

 このような力関係になっているみたいだ。中には例外があったり、同じ種類のデジモンでも属性が違う場合もあるらしい。ちなみに、幼年期はまだ属性が大きく分かれていないため属性はない。

 進化はデジモンが多くの経験を積むことで成長するということをデータのアップデートとして表しているのか……父さんがこの前取ったバーコードを読み取るアレで出たデータを言語データに置き換えてみたところ、獣や竜みたいな単語がいくつか見て取れたらしいけど、現段階じゃまだなんとも言えないか。

 

「うーん……目が疲れてきた」

「でもすごいですね、もうこんなに読み込んで理解しているなんて……」

「あー、片付けないとなぁ」

 

 僕の横には読み終わった本が色々と積まれている。時間にして結構な時間が経っているし、そろそろ片付けないとダメだな。ちなみに、ドリモンは眠った。寝息が静かで助かったけど。

 光子郎さんも人のこと言えないとは思うんだけど……今読んでいるの、プログラムの製作ってどういうことなのだろうか。え、作れるの?

 

「まあ、まだ勉強している段階ですけど」

「へぇ」

 

 少し読んでみたけど、まだ僕には無理なようだ。なんというか言語が違う。数字や文字の羅列をみてそこに意味があるのを理解できていないというか――

 

「そっか、そういうことか」

「ど、どうかしましたか?」

「ううん。こっちの話」

 

 そうだ。まだ言語を習得していないから読めないのだ。彼らがデジタルな生命体というのなら、バーコードリーダーで読み取れた情報を置き換えるのではなく、そのまま読むのだ。

 必要な情報は既にそこにある。ならば、あとは簡単。

 

「さてと――ちゃっちゃっと片付けますか」

 

 本を全て元の位置に戻し、帰る支度をする。光子郎さんはいきなり僕がすっきりした顔で動き出したのに驚いていたけど、生憎と僕はするべきことが分かって前しかみていない状態だった。

 タイミングよく、父さんが迎えに来たところで光子郎さんのことを思い出してお礼を告げる。

 

「今日はありがとうございました。おかげで、なんとかなりそうです」

「そ、それは良かったです……えっと」

「では!」

「あ――――なんというか、変わった子だなぁ」

 

 ◇◇◇◇◇

 

「カノン、一緒にいたあの子は?」

「泉光子郎って人。パソコンとかに詳しくて色々とおすすめの本とか教えてもらった」

「そうか……知人に似ているとも思ったのだが…………まさかな」

「父さん? どうかしたの」

「いや、何でもない。少し昔のことを思い出しただけだ」

 

 帰りの父さんの車の中で、どこか寂しそうな父さんの横顔が印象に残った。

 この時の僕はその顔に感情を言い表すことはできなかったけど、後に思い浮かべたとき、こういうだろう。それは、哀愁であると。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 父さん曰くデジモンは、データであるはずなのにそこに生き物として存在している。すなわち、この世界とは違う法則で成り立つ生き物である。そう評していた。

 イグドラシルという単語からヨーロッパ方面で調べれば何かわかるかもしれないとも考えていたが……学会で向こうに行く用事があり、少し調べてくれたらしいが、やはりデジモンについては何もわからなかったそうだ。お土産を持ってくると言っていたが……変な民芸品じゃないだろうな。あの人はそういうの好きだし。今日の夜に帰ってくるみたいだけど……期待しないでおこう。

 

 まあ、別世界の証明でもある以上、色々と世間に知られたら危うい存在でもあるらしいそいつは、とてものんきなものであるけどね。

 

「うがぁ……負けるなぁ!」

「戦隊ヒーローを応援する謎の生物、か」

 

 日曜朝の特撮を真剣に見ているし……幼年期デジモンは中身も幼いようだ。こいつを見ていると、僕が子供としていかに間違っているかを思い知らされる。そもそもこういう事を考える時点でおかしい。

 

「んー、やっぱり意味のない文字や数字の羅列だと思っていたけど……」

 

 そのままでは文字化けした文面だと思っていたバーコードリーダーを当てて出てきた文字だが、ドリモンの体毛だけを読み取ったり、デジヴァイスやペンダントも調べてみたりである程度の単語は理解できるようになった。

 日本語への変換が恐ろしく面倒で、ここまで来るのにもう半年も経ってしまっている。あれ以来、図書館で光子郎さんと出会うことも多く、色々と面白い話を聞けている。彼は僕の一歳上で、来年小学校に入るらしい。お互い、まともな幼稚園児じゃないよなぁ……

 

「ふぅ、とりあえずまとめてみると……」

 

 獣や竜という単語はドリモンのデジコアに蓄積されている属性データらしい。DNA(DIGIMON NATURAL ABILITY)という進化の方向性を決めるためのものみたいだ。あと、ドドモンのデータも内部に残っていたため、進化の道順をデジコアに記録しているのもわかった。

 DNAは全部で8種類で、獣、竜、鳥、虫、水、機械、聖、暗黒が存在しているみたいだ。データを日本語に直すと、それぞれの単語の後ろにパーセンテージで表示できた形の言葉になった。ちなみに、ドリモンはこのうち獣と竜のDNAで構成されている。他のDNAもなくはないのだが、表示するほどの量ではなかった。

 

「ふわぁ……なんだか、眠く…………」

 

 唐突に、意識がぼやけてきた。最近、考え事をしていると急に眠くなることがある。

 なんでかは分からないが、抗えないぐらいに力が抜けて……

 

「……」

「カノン?」

 

 ドリモンの声が最後に聞こえて、僕の意識はどこか遠くへ行くかのように真っ暗になっていき――

 

 ◇◇◇◇◇

 

 僕はどこか知らない場所を走っていた。ココがどこかは分からないが、ただ目的地だけを目指しているのは確かだ。

 空は燃えるように赤く、あたりに何かの機械の残骸が落ちてくる。

 黒い影があたりにたくさん見え、逃げまどっているのがわかる。

 不安に駆られそうになるが、腰に提げた笛に手をあて平静さを取り戻す。走りながら周りを見回してどこかを把握しないと……

 

「ここは……いったい」

 

 見回してもわからない。だけど、どの方向に行けばいいのかは分かったから更に速く走る。

 そこで、誰かが助けを求める声を出していた。

 

「危ない!」

 

 助けなければいけない。そう思っても、僕にはどうすることもできなかった。なぜかは分からないが、彼らに触れることができない。触れようとすれば、僕の体がまるで立体映像のように透けて彼らの体を突き抜けるからだ。彼らも、僕らを認識できていないらしい。

 ……結局、立ち止まってはいられないのか。

 

「――ッ」

 

 黒い影たちの悲鳴が上がる。爆炎に包まれて彼らが細かい粒子になるように消えていく。

 なんだこれは……こんなことがあっていいのか。誰ともわからないが、こんな非道なことをしている奴がいる。それだけで、僕の中から何かが湧き上がってくるようだった。

 立ち止まるしかないとあきらめかけた自分が嫌になった。そんな無力感が許せない。

 (ひづめ)を鳴らし、地面を蹴り上げる。左腕に力が集まって来て、ビリビリと(いかづち)が迸っていた。

 飛び上がった先にいたのは、巨大な始祖鳥のような怪物。力の差は歴然だった。だが、不思議とどうにかなるような気もしていた。

 心の内から言葉が出てくる。ただその言葉と共にこの力をぶつければいい。それだけは分かったから――

 

「スタンビー 』

 

 ブツリと、何かが切れるような感覚があった。

 意識が再び遠くなる。まだ早い。これは過去にあった出来事。そして、僕がいまだ経験していない出来事。

 これはただの断片。可能性の夢の話。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「カノンッ!」

「――うわっ!?」

 

 耳元で大きな声で叫ばれて、飛び上がってしまう。いったい何事であるか。

 

「どうしたの? なんかすごいうなされていたよ」

「…………大丈夫、変な夢を見ただけだったから」

「変な夢?」

「……あー、ごめん。もうよくわからないや」

 

 とても大事なことだったようにも思えるのだが……とてつもない疲労感が襲ってきて、どんな夢だったのか忘れてしまった。なんか、視点がいつもより高かったのは分かるのだが……

 どうにもスッキリしないまま、日は登り、そして暮れていった。母さんもどうしたのーといつもの調子で聞いてきたが、夢見が良くなかっただけなので何も言うことができずにそのまま夜を迎えた。

 

「ただいま帰ったよ」

「おかえりなさいー。今度はまたながかったわねー」

「息子の頼みもあったからね。まあ、そちら自体はそれほど時間がかからなかったが……デジモンについてはグレムリンのような都市伝説染みた話として残っているのではないか、ぐらいしかわからなかったよ」

 

 父さんが帰って来て開口一番、そんなことを言い出したけど……それってたしか機械に悪戯する妖精だか妖怪の名前だっけか?

 

「ああ。もしもデジモンがコンピューター内に入り込むことができるのなら、そういった話として残っているかとも思ったのだが……ドリモンがコンピューターの中に入ったりといったことは?」

「イエネコのごとくのんびりしてるよ。今日は特撮みてたよ。ずいぶんと気にいっている」

「一般的な子供レベルの思考パターンというところか。内面は人間とさほど変わらないのかもしれないな」

 

 むしろ、僕以上に普通の子供だからなぁ……中身だけならだが。

 

「そうだ、カノン。お土産だ」

「また変な民芸品だろうけど――なにこれ、笛?」

「ああ。パンフルートという立派な楽器だ。向こうではシュリンクスとも呼ばれていたな」

 

 ――不思議と、その笛はどこかで見覚えがある気がした。初めて見るハズなのに、何故だか惹かれるものがあっておもむろに口に近づけて息を吹きかける。

 

「――――」

 

 初めて使うはずなのに、どこか悲しいような、懐かしいような旋律を奏でる。聞いたことも無いような曲なのに、なぜか楽譜が頭に浮かんでその曲を奏でていく。

 

「……驚いたな。どこで覚えたんだい、その曲」

「不思議な曲ねーなんだか涙がでてきそう」

「…………わかんない。自然に出来た」

 

 父さんのお土産にしてはあたりだなーと思うけど、他が変なお面やなんか長い棘のようななにかだったりだからこの笛とは比べようがないけど。

 

「だけど、どうやら気にいってくれたようで良かったよ」

「うん。今までのお土産の中じゃ一番かな……っていうかあの長い棘はいったい何なの? 母さんが怖い顔してたよねその時」

「うふふー、子供は知らなくていいのよー」

「……若気の至り、かな」

「?」

 

 何だかわからないが、その棘については気にしない方が良いらしい。ジャングルの奥地的な雰囲気がある一品なのはわかるのだが。

 その後も、なんとなく笛を吹き続けていた。何かを思い出しそうで、思い出せないモヤモヤした気分もありながらその日は終わろうとしていた。

 寝る前になってようやく思い出せたが、アレは変な夢の中で僕が腰から提げていた笛にそっくりだったのだ。




というわけで、主人公カノンに新たな設定が付与されています。
最近の関連作品はあまりプレイしていないのですが、設定を拾うのもちと大変。

この当時はまだポケベルだったんだよなと今更ながらに戦慄。
パソコンも地方にはあまり普及してなかったですからね。
きっと、今の子供が窓98の画面とか見たら驚くんだろうなぁ……


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4.進化の光! 最初の戦い

もうここら辺はほとんど新規に書いています。
改定に当たって、色々とネタを探しては盛り込む感じで。あと、マイナーデジモンも出せれば出していく予定です。

半ば予想はしていましたが、アプモンはこれまでのデジモンとは関係ない感じですね。従来のデジモンと関わる場合は、別次元のデジタルワールド設定を持ち出すのかどうかというところか。たぶん関わらないんでしょうけど。ハックモンがかぶってますし。
今までのデジモンだと、もう旧来ファンしか食いつかないんだろうか。


 陽射しも強く、蒸し暑いこの国の嫌な季節。その名も夏。そんなある日の昼下がりの話だ。

 

「がぁ……」

「むぅ……」

 

 互いに唸り合うこの二人――いや、一人と一匹。先ほどから膠着状態が続いているが、これは一体どういうことなのか。というか、なぜこんなことになったのだろうか。

 バチバチと火花が散るとまではいかないが、なんでさっきから互いに視線を外さないのか問い詰めたい。

 っていうかなんでドリモンとお隣のヒカリちゃんが遭遇しているのか疑問ザ疑問。

 

「――――やべえよエンカウントしてるじゃないか!?」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 なぜこんな状況に陥っているのか。少しばかり時計の針を巻き戻そう。

 夏場でアイスが食べたくなったカノンとドリモンだったが、冷凍庫を除くとそこには大量の保冷材のみであったのがそもそもの原因。

 流石にカノンも「バッカじゃなかろうか」とキレた。しかしその母もさることながら。元軍人の謎の気迫を出しながら迫る。

 

「ハイお金。初めてじゃないけど――お使いガンバってね」

 

 いつもの伸びた口調ではない。マジの口調だった。「イエスアイマム」という事しかできないのは息子であるが故か。ちなみに、母の機嫌が悪かったのはそのマイスイートダーリンが再び学会で長期間帰ってこないからである。少しの間かと思いきや、3カ月と聞かされた時の彼女の心境やいかに。

 

「帰ってきたら覚えてなさいよー」

 

 野性的な勘からか、ドリモンはそれとなく回避し続けていた。そのため、全ての被害がカノンに行っていたために彼は熱い中一人でコンビニまでアイスを買いに行く羽目になったのである。ついでに、他にも色々。

 そんなわけで、カノンはこの場からいなくなったのだが……まさにそんなタイミングであった。

 お隣の八神家で太一が虫歯になったから一緒に歯医者に行かなくてはならないためにヒカリを橘家に預けるため、件の一家がやって来てしまったのだ。

 

「あらー、困ったときはお互いさまよー」

 

 その時、うっかりドリモンが部屋にいるのを忘れてヒカリを招き入れてしまうという事態が発生。当然、何の対策もしていなかったためにヒカリとドリモンは遭遇してしまう。

 ちなみに、母である四音は先ほど息子に対して行った怒りの波動でいくらか溜飲が下がったのか「いい陽気ねー」と言いながら昼食の準備を始めだしてしまった。

 そして、目的のブツを手に入れて帰宅したカノンが見てしまった光景(冒頭)へとつながる。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 サッ(捕まえようとする音)

 ダッ(跳んで逃げる音)

 

「え、なにこれ」

 

 なぜか両者が動き出したかと思うと、ヒカリはドリモンを捕まえようとし、ドリモンは逃げようとする。

 両者互いに引かぬ攻防。果たしてどちらが勝つのか、目が離せぬ一戦である。

 

「って違うだろオイ」

 

 そこまでにしようねと、お互いの間に入って攻防を止める。何がしたいんだ二人とも。

 お互いにキョトンとした顔をするが、何をしているのか聞きたいのはこっちだ。

 

「ドリモン、何してんだよ」

「……なんとなく」

「ああそうかい。で、ヒカリちゃんはどうしたんだよ一体」

「……コロモンのお友達?」

「――――覚えているの?」

「カノン、さんも知っているの?」

 

 前に太一さんにそれとなく聞いたとき、彼はデジモンのことを覚えていなかった。だからヒカリちゃんも覚えていないと思っていたんだけど……

 

「別にさん付けしなくていいんだけど……こいつはドリモン。コロモンと同じデジモンだよ」

「でじ、もん?」

「デジタルモンスターっていう生き物で……説明してもわかんないか」

「?」

 

 さっきからずっとキョトンとした顔をしている。どうやら、コロモンのことは覚えているけど彼らが何者なのかというところまでは考えがいっていないらしい。まあ、それが普通か。

 だから、かみ砕いていった方が良いだろうな。

 

「コロモンの仲間、かな」

「……うん」

 

 どこか嬉しそうにヒカリちゃんは笑、ドリモンを掴んで撫でだす。最初は嫌がっていた風なドリモンだったが、すぐに気持ちよさそうに目を細めて動きが止まった。

 と、そこで母さんがこちらをほほえましそうに見ているのに気が付いたけど……

 

「母さん、もう少し気を付けてよ」

「ごめんー。でもドリちゃんも動かなければぬいぐるみでとおせるしー」

「そりゃそうかもだけど」

 

 確かに変わったぬいぐるみにしか見えないか。

 

「でも、ヒカリちゃんすごいわねー。後光がさしてるわー」

「なんでだよ……」

 

 思いっきり脱力してしまうが。それは窓から入った光がそういう風に見せているだけだと思うよ。

 キラキラと、光の粒子が飛んでいるなんでないない。

 

「――あれ?」

 

 一瞬、本当に光っているように見えたんだけど……目をこすって改めて見ると、普通に窓からの光が入っているだけだった。やはり、気のせいだったようだ。

 

「ほらご飯よー。手を洗ってらっしゃいなー」

「はーい」

「……はい」

 

 何だか引っかかるものを残しながらその日は普通に終わった。ヒカリちゃんもドリモンのことは内緒にしてくれるようだし、見つかったのが彼女で良かったと思っておこう。

 ただ、太一さんは忘れているのになぜヒカリちゃんは覚えているのか。それが妙に頭に残った。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 翌日、なぜかドリモンの体調がすごくよくなっている。体を動かしたいらしく、人目の付かない場所を探すことに。母さんに連れられて採掘場っぽい所に来たんだけど……なぜ今場所を知っている。

 

「まあいいや……ドリモン、どんな感じだ?」

「すっごく気分が良いよ。今ならもっと強い技も出せそう!」

「技? そういえば、デジモンはそれぞれ固有の技を持っているって言ってたっけ……使わないから忘れていたわ」

 

 幼年期であっても戦うための技を持つあたり、デジモンは元来戦闘するというルーチンが備わっているのかもしれない。

 ドリモンは口から鉄粒を吐き出して攻撃することができ、他の幼年期よりも強いと自称している。他の幼年期は酸の泡が基本攻撃だから比べるなよとも言いたいが。

 

「ブッブッブッブッ!」

「スイカの種みたいに吐くなー。汚いぞー」

「もっと強く、もっと早く!」

「聞いちゃいねぇし」

 

 さて、どうしたものかと思ったら――何か悲鳴が聞こえてきた。いや、あの声はどう考えても……

 

「母さん!?」

「何かあったの!?」

「わかんないけど、行くぞ!」

 

 ドリモンと二人で母さんのところまでいく。幸い、母さんは無事だったようで特に怪我もしていないようだけど……

 

「どうかしたの?」

「急に、車が向こうからきたのよー」

 

 間延びした口調はそのまま。それほど危ないわけじゃないけど、驚いている。誰かがスピード違反していたのかとも思ったが――何か、嫌な予感がした。

 一瞬、嫌な光景が浮かぶと同時に強烈な悪寒が体中に駆け巡る。母さんも青い顔をして僕と同じ方向へと顔を向けるが――そこには何もいない。だけど、確実に何かいる。

 ドリモンも殺気ともいえるほどに強くそちらを睨んでいる。彼には何がいるのかわかるらしく体を小刻みに震わせながらも決して目を放そうとしていない。

 

「ドリモン、何かいるのか?」

「たぶんデジモン……だけど、この感じ、何かがおかしい」

 

 彼がそう呟いたと同時に――道路の真ん中が歪む。まるでその部分だけ別の空間に置き換わったみたいに。電線から見えるほどに電気がほとばしり、そこへ集まって何かの形を作り出す。

 バチリバチリと嫌な音があたりに響き、そこに難とも奇妙な存在が現れた。

 緑色の線だけで構成された体。雪だるまのような体系で、ずんぐりとしている。線は骨子状に編まれていて、何もないはずなのに、そこにいるのがわかる。

 

「デジモンみたいだけど、コアが無い……なんなのあれ」

「僕に聞かれても困るなぁ……母さん、今すぐ逃げられる?」

「ちょっと難しいかなぁ…………お母さん、今まで色々な化け物みたいに強い人見てきたけど、こういう不気味なのは初めてよ」

 

 口調が伸びてない。それほどまでにマズい相手ってことかな。

 デジモンのような何かは、こちらの方へ歩んでくる。というか前はどちらなのかわからないんだが。

 

『――ハッケン。モクヒョウノハイジョ』

「ああもう、ドリモンとりあえず牽制!」

「うん――メタルドロップ!」

 

 ドリモンの口から鉄の粒が大量に吐き出される。流石にこれは決まったかと思ったが――奴の体に当たった途端、鉄粒は細かい粒子になって消えた。

 

「嘘だろ!?」

「アイツ、成熟期以上みたいだ!」

「二段階上――母さん!」

「分かってる!!」

 

 母さんが僕たちを抱きかかえて、走り出す。流石にあれには勝てないと思っての行動だが、僕らは見誤った。奴のずんぐりした見た目から、アイツは遅いものだと決めつけていたのだ。

 母さんよりも早く動き、回り込んで掴まれる。気が付いたときには遅く、叩く投げ飛ばされてしまっていた。その際、母さんには強い衝撃が加わったらしく、嫌な音と共に僕たち以上に高く投げ飛ばされて――

 まってくれ、あのまま落ちたらどうなる? 下はアスファルト。叩きつけられたら……

 

「母さん!?」

「――――ッオオオオオオオ!」

 

 ドリモンが雄たけびを上げる中、僕は思った。僕の好奇心が嫌なものを呼び込んだのだろうか。頭に、いつか夢で見た嫌な光景が浮かび上がる。そして、先ほど一瞬だけ浮かんだ嫌な光景がはっきりと頭に浮かんだ。

 それは見るも無残な母さんの――――

 

「そんな運命、受け入れられるかぁあああああああああああ!!」

 

 僕の叫びと共に、デジヴァイスとドリモンの体が光り輝きだす。それは、かつて見た光だった。

 

「ドリモン、進化――――

 

 ――――ドルモン!!」

 

 ドリモンの体はより大きく、獣とも恐竜ともつかない姿へと変化していく。色は前と変わらないが、四肢はがっしりとし、大きな尻尾が生えている。背中には小さな竜の翼が生えていた。

 

「しっかりつかまって!」

「わかった!」

 

 ドルモンにつかまり、地面に降り立ってすぐに母さんのところまで跳ぶ。なんとかキャッチして再び着地して一息つくが、奴はまだいる。

 

「うう……油断した………私も鈍ったわね」

「母さん、大丈夫?」

「ええ。アイツはまだ……いるみたいね」

 

 不気味な謎の存在は相変わらずこちらを狙っている。時折聞こえる合成音声がひどく不快に感じる。

 

「ドルモン、やれるか?」

「――大丈夫。あいつ、たぶん思ったよりも強くないよ」

「そうか……なら、いくぞ!」

 

 ダンッ、と駆け出すドルモン。それに合わせて奴も動き出すが、素早く動くドルモンを捕えることができていない。何度もつかみかかってくるようだが、必ずかわしている。

 

「そうか……見た目と同じで行動パターンも単純なんだ」

 

 近くにいるのなら掴みかかって投げ飛ばす。逃げようとすれば追い、離れていればまた別の何かがあるかもしれない。だが、それ以上はない。

 故にドルモンはいともたやすく避け続けているのだ。

 

「少し距離をとってデカいのを撃て!」

「わかった――メタルシュート!」

 

 口から鉄球が吐き出され、奴に直撃する。バチリと嫌な音が一瞬響いた後、断続的にバチバチと言うオトが響いてきた。今度は消されずに奴を貫通するかのように鉄球が押し続けている。

 そして、すぐに均衡は終わった。

 

『――カツドウゲンカイ。ソンザイケイセイシュウリョウ』

 

 そんな音声と共に、奴は消えてなくなっていく。もとの電気へと変換されたのか一瞬強く輝いて消えて終わったが……

 

「一体、なんだったんだろう」

「……ふぅ、もう安心みたいねー」

「二人とも、大丈夫?」

「おかげさまで。だけど凄いな、ドリモンの時と比べたらずいぶんと大きくなって」

 

 母さんよりは小さいけど、僕が見上げる形になってるから……だいたい小学生半ばぐらいの大きさか。

 

「ドリちゃん、じゃなくてこんどはドルちゃんかしらー。ホント大きくなったわねーたくさん食べそう」

「おなかすいたなぁ……」

「ふふ、じゃあ帰ってご飯にしようかー」

「わーい!」

 

 まったく、のんきなもので……まあわからないものはわからない。アレが何なのかはまた今度考えることにしよう。

 いきなり進化できたり、デジモンともつかぬ何かが現れたり、大変な一日だった。

 

「だけど、アイツはいったい誰を狙っていたんだろう」

 

 ふと、そんな疑問が浮かんだ。普通に考えればデジモンであるドルモンなんだが……どうにも納得のいかぬまま、最初の戦いは幕を閉じた。

 




今回の敵の元ネタは、僕は実際に見たことはないのよ。件のゲーム機持ってなかったし。
分かりにく過ぎるだろうか、昔のゴーレモン。流石にあの見た目でデジモンというのは無理があり過ぎると思い、ちょっと変更。それにゴーレモン(岩)は02で出てきていたしね。

改定前は進化するのに駆け足過ぎたから、ちゃんと段階踏んでいきます。それでも他の子どもたちより圧倒的に速くなるだろうけど。


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5.デジコアインターフェース

設定の改変につき、改定前と比べると大分変っています。
改めて時系列を見てみると、ちょっと面白いことが分かりますね。


 謎のデジモンらしき存在と戦った翌日。流石に疲れがでて遅くに起きたのだが、改めてアレが何を狙っていたのか考える余裕が出てきた。

 普通に考えればドルモン。もしくは僕自身。母さんを狙ったという可能性は低いだろう。いや、元軍人らしいし誰かに恨みを買っていてというのもあり得なくはないが……

 

「ドルちゃん、体は大丈夫ー?」

「うん。でも昨日よりは元気じゃない感じかな」

「そういえば、昨日はどうしてあんなに元気だったんだ?」

「なんか、ヒカリちゃんに撫でられた後から凄く体の調子が良かったんだよ。それで、その時の元気が体の中で暴れまわっているみたいだった」

「……そうか」

 

 まさかとは思うのだが……ヒカリちゃんを狙っていた? かつて怪鳥が現れたときも誰かを狙っていた可能性もあるけど……

 

「いや、アレはどうもそんな感じはしなかったんだよなぁ」

「どうしたのー?」

「最初にデジモンを見た日を思い出して……そういえば、なんであの時大人は誰も目撃していなかったんだろう」

「そういえば不思議ねー。その日は電波障害とか電子機器が誤作動を起こしていたらしいけどー」

 

 デジモンが電子機器に対して悪影響を与える可能性があるって父さんが言っていたけど、それだろうか? でもドルモンは別段そういう事を起こしていないんだよな。むしろ安定し過ぎているというか、馴染み過ぎている。

 なんかあるんだとは思うけど。

 

「そういえば、その頭のソレは何だ?」

「頭の?」

 

 鏡の前に連れていき、ドルモンの頭についている水晶体のようなものを見せる。おでこのあたりについており、形は逆三角。先は丸まっている。

 色は赤色で少し透き通っている。黒い淵がついていて、機械を埋め込まれているようにも見えるけど……

 

「ああ、これ……これって、なんだろう?」

「知らないのかよ!?」

「あ、思い出した。コレはインターフェースだ」

 

 インターフェースって……パソコン用語とかの二つの間に立って情報のやりとりを仲介するものの事だったっけ?

 

「なんでそんなものが頭にくっついているんだよ」

「えっと……たぶん僕がプロトタイプデジモンだからだと思う」

「プロトタイプ?」

「うん、最初期のデジモンってことかな」

 

 つまり、色んなデジモンの原型って事なのだろうか。どうやら成長期に進化したことでドルモンの知識は以前よりも大分増えたらしい。ハッキリと意味をわかった上でしゃべっている。

 

「情報のやりとりを仲介するってぐらいなんだからデジコアにアクセスしてデジモンのこと調べられたりして」

「まさかー」

「だよなー」

 

 ドルモンも流石にそこまでできないとは思っているみたいだ。でも、ものは試しだからとりあえず行動してみようと思います。

 

 

「とりあえず触ってみるぞー」

 

 左手にデジヴァイスをもち、右手でインターフェースを触ってみる。

 

「「!?」」

 

 途端に、頭の中に直接、情報が入ってきた。一瞬頭痛が走ったかと思ったら、明確なイメージと共に頭の中に様々なデータが表示されていく。

 

 デジモンの基本情報や、デジモンの生態系。

 デジタルワールドがデータで成り立っている世界であり、現実世界とは違う異空間であるということ。

 単純な電脳空間ではないこと。

 データから成り立っている以上、こちらの世界の文化もある程度知られていること。

 そして、いままでであったデジモンたちの詳細が流れ込んできた。

 

『ドドモン

 幼年期Ⅰ

 スライム型

 口から小さな鉄粒を吐いて攻撃する』

 

『ドリモン

 幼年期Ⅱ

 レッサー型

 ドドモンが進化した姿

 突進しながら鉄球をはいて攻撃する「メタルドロップ」という技を持つ』

 

『ドルモン

 成長期

 獣型

 データ種

 ドリモンが進化した姿

 額にあるのは旧式のインターフェースであり、プロトタイプデジモンの情報の書き換えなどに用いられたものの名残

 ドルシリーズと呼ばれるプロトタイプデジモンの一体

 必殺技は「メタルキャノン」』

 

『デジコア・インターフェース

 最初期のデジモン プロトタイプデジモンの持つ情報の書き換えを行うインターフェース

 コレを用いることで様々な姿になることが出来るが、最悪の場合デジコアが機能停止するため、現存するプロトタイプデジモンはほとんどいない

 書き換えを行う手段は現在残されていないため、デジモンとの情報の共有等にしか使えない

 デジヴァイスを解することでデジヴァイスに記録されたデジモンの情報を閲覧可能』

 

名称不明(アンノウン)

 成熟期相当

 ウィルス種

 プロトタイプデジモン以前の試作データの一つ』

 

『アイギ――――ユピ――――――イグドラシルの実験データ――秘匿レベ――――エラー

 エラーコードXXXX

 情報に対する干渉を確認 排除行動開始――エラー

 プログラムコードX ナンバー0を登録

 マテリアルコードの解凍を行います』

 

 バチリと嫌な音と共に、互いの体がはじかれる。その瞬間、体の中に電流が走ったかと思うと何かが書き換わったかのような感触が体を駆け巡る。

 

「うぐっ!?」

「気持ち悪いー」

「だ、大丈夫!?」

「うん……あれ? 何ともない」

「こっちも大丈夫だよ。別に変な感じはしなかったけど……」

 

 なんだか、つながってはいけない場所までつながってしまったかのような感覚だ。干渉を受けたような気もするが、悪影響を受けたというよりは歯車の間に入っていた異物が取り除かれて正しい場所に戻されたという方があっている。元々悪かった部分を直されたと言うべきか。

 

「なんか、前よりも体の調子がいいよ」

「こっちもそんな感じだな」

「二人とも大丈夫ならいいけどー。心配させないでねー」

「分かったよ……」

 

 その後、母さんがご飯の支度をしている間に僕とドルモンは先ほどの出来事を話し合うことにした。

 インターフェースを介することで情報を閲覧出来たことは大方の推察ができている。デジコアの中に蓄積されている情報を閲覧したのだろう。

 閲覧した情報の中に、デジモンは死ぬとデジタマに還元され、再び幼年期から生まれ変わるのは分かった。その際、死ぬ前の情報も引き継がれるものがあるらしく、デジモンの基本情報は常に引き継がれ続けているのだろう。だからこそ、生まれたときから言語を理解できるし会話も成り立つ。

 

「名称不明ってなってたのはワイヤーフレームのアイツだよな」

「うん。でもわからないのは最後のだね。なんか見たことも無いようなデジモンが見えたような気がするんだけど」

「どっかで見たことがあるような気もするんだけどなぁ……どこだっけ?」

 

 怪鳥やコロモンについては分からなかったし……ドルモンが記録している情報というより、デジヴァイスの方が出会ったデジモンを記録していて、ドルモンのデジコアから該当するデータを検索しているのかな?

 まあ気にしても仕方がないが……イグドラシルがここでも出てきたか。

 

「イグドラシルについては何か思い出したか?」

「大事なことだったと思うんだけど――ごめん。思い出せないや」

 

 まるで、そこだけは思い出せないかのようにうんうん唸るドルモン。プロテクトでもかかっているのだろうか。

 まあ、思い出せないのなら仕方がないか。

 

「でも、なんでドルモンがこの世界に来たとか、デジタルワールドへの行き方とかは分からなかったな……肝心な部分は分からずじまいかよ」

「そうだね……」

「はぁー、行ってみたかったんだけどなあ、デジタルワールド」

「僕も見たことないけどねー」

 

 そういえば、ドルモンはこっちで生まれたのか。普通に育っているけどデジモンってこっちでも普通に生きていけるのだろうか? それともドルモンが特殊なのか。プロトタイプデジモンってのが他のデジモンと比べなくてはいけない要因になっているのもあって答えが出せません。

 その後は再びインターフェースに触れてみて何か起こらないか試してみたが、さっきとほぼ同じ情報しか閲覧できなかった。ただ、最後のノイズのような断片だけは見ることができなかったけど。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 食後、更に色々試してみたけど進展はない。とりあえずドルモンの姿をスケッチしながら情報を纏めていくが……そういえば、閲覧した基本情報に面白いのがあった。

 

「なあ、ドルモン」

「どうかしたのカノン」

「昨日見た情報の中に、デジモンは進化だけじゃなくて退化も出来るってあったんだけど」

「あああったねそういえば」

 

 ちなみに、あの情報は現実世界ではほぼ一瞬の出来事であり、ドルモンとボクは同じ情報を同時に見ている。

 それと、疲れるからできる限りやりたくない。

 

「ドリモンになら退化できるんじゃないか?」

「うーん、よくわかんない。っていうかそんなことする必要あるの?」

「食費が助かる」

 

 ドルモンに進化してから結構な量を食べてますよ。

 

「……」

「あと、デジモンは現実世界に居続けると負担があるんじゃ無いか?」

「ああ、それなんだけど……」

「ん?」

「さっきのアレで、現実世界に完全に対応できるようになったみたいなんだよね。それで調子が良くなった感じ」

 

 ああ、情報の書き換えが出来るってやつか。

 さすがにそこまでは行かなくても、ある程度の修正や、バージョンアップみたいなことは出来ると。

 

 

 まあ、出来るに越したことは無いんじゃいの? ということで、ドルモンからドリモンに退化できないかやってみることにした。

 といってもすぐにどうこうなる問題ではなく、逆に進化を試してみたりと色々やっていたのだが……結果はお察しの通り進展はない。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 その後、いろいろと試しているうちに出来るようになるまで半年ほどたってしまった。

 あと退化した後は、成長期になら自由に進化できることが分かった。どうやらドルモンは環境に対する適応能力がとても高いらしく、少しずつではあるが現実世界に対してより馴染んでいるらしく、毛並みの質感が増している。

 それとやはりドリモンに退化可能にしたのは正解であった。家の中からあまり出せなかったドルモンの姿と違って、ぬいぐるみで通せるから割と自由に連れ出せる。

 

「いやぁ、便利だなこの姿」

「だねー」

 

 デパートの屋上。ヒーローショーを見ながらの会話である。こいつの特撮好きも慣れてきたなぁ……

 

「そういえばもうすぐお前の誕生日だっけか」

「デジモン的には祝う風習ないけどねー」

「生きていることよりも互いに戦う方を主としているみたいだしな」

 

 どうもデジモンってのは戦闘種族としての面が強いらしく、好戦的な連中が多いみたいだ。中には例外もいるそうだけど。

 しかし、母さんも遅いな……もうヒーローショーも終わる時間だっていうのに。

 

「探しに行くべきか、否か」

「どうしたの?」

「母さんが買い物終わったらこっちにくるって言っていたのに遅いなと思って」

 

 探しに行こうかと思って立ち上がった、その瞬間だった。

 

(――――ッ)

 

 声を出せない。体を動かせないほどに、嫌な視線を感じる。

 ドリモンも同じようで、体がこわばってしまっていた。

 

「カノン……なんかヤバいのがいるよ」

「分かってる。だけど、動いたらマズそうな気もするんだよ……」

 

 カツン、カツンと足音が響いてくる。それ以外の音が耳に入らず、静寂があたりを支配していた。

 カツンという音が真後ろにまで届いて――そのまま、僕の横を通り過ぎていく。視界に入ったその後ろ姿は、黒だった。黒いジャケットに金属製のブーツ。着こんでいるのはおそらくライダースーツ。髪の色は金髪なのはわかったが……そこで、そいつが僕たちの方を向いた。

 赤い瞳がまるで、こちらを射抜くように――――

 

「――――ま、俺には関係ねぇか」

 

 ――一気に、緊張が解けた。

 彼はそのまま階段の方へ向かい、この場所から出ていく。何事もなく平然と。

 

「…………ぷはぁっ。生きた心地がしなかった……なんなんだアイツ」

「分からないけど、デジモンのにおいがしたよ」

「だったとしても関わらない方がよさそうだな。戦ったら絶対に勝てないぞアレ」

 

 それほどのプレッシャーが出ていたのだ。いや、プレッシャーというより存在感と言った方が正しいか。

 彼がデジモンだったのか、僕みたいにデジモンを連れた人間なのかはわからないが……もう二度と出会わないことを祈ろう。デジモンについて調べるときはもう少し慎重にしよう。海外で目撃情報があったらしいけど、日本で地道に調べた方が良さそうだ。

 

 その後、母さんは普通にやってきた。なんでも旧友に出会って話し込んでしまっていたらしい。

 結局その日のことはその後特に問題を残すこともなく、釈然としないながらも一つの経験として僕たちの糧となった。あと、インターフェースに触れても存在感の主は分からなかった。レベルが足りないのか、デジモンじゃなかったのか……

 

 そうして、僕がデジモンと出会ってから一年の月日が流れた。

 ヒカリちゃんもドルモンと遊びにきたり、父さんが相変わらず民芸品を持って来たり、太一さんが卵料理は作れることに驚いたりと色々なことがあったが、それなりに楽しい時間が過ぎていく。

 まあ情報的にはなかなか進展しない日々だと思っていたが、思わぬところから事態が動きだすこととなる。

 

 

 

 そう、あれはヒカリちゃんが風邪をこじらせて入院した日の出来事だ。

 真の意味でデジモン同士の戦いを体感する話――

 

 




彼はデジモン界でもトップクラスの人気キャラだと思う。さすがにそのままの姿では出しませんが、特徴がわかりやすすぎるか。

02で及川の過去やダゴモンの海に封印されちゃったアイツのことを考えると、本編に出ていないけど色々なデジモンが過去からいたことになります。

イグドラシルからホメオスタシスに管理者が変わっているってことは、アドベンチャーの世界って、ロイヤルナイツや七大魔王など他勢力の戦いは全て終わった世界なんじゃないかと思っています。


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6.決戦! ドルモン進化

 ――始まりはそう、ヒカリちゃんが倒れて病院に運ばれたときのことだ。

 僕たちは現場に居合わせなかったのだが、風邪を引いたヒカリちゃんが無理をし過ぎて風邪をこじらせたらしい。太一さんも何か関わっていたのか、酷くショックを受けた様子で茫然自失していたのを覚えている。

 生憎、僕たちは何があったのか知らないので後日お見舞いに行ったぐらいで詳しいことは知らないのだが――きっと、この時の出来事がきっかけだったのだろう。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「ヒカリちゃんは大丈夫ですか?」

「カノン君……お見舞いありがとうね。でも、まだヒカリは寝てるわ」

「まあ、見ればわかります」

 

 少し容体が落ち着いたのか、八神さん――太一さんたちの母親は普通にお見舞いに持ってきたフルーツを受け取ってくれた。この人も慣れたもので、僕が一人でこんなところにいてもあまり驚いた様子はない。

 ちなみに、ドリモンが病院内の電子機器に悪影響を与えないとも限らないので、庭の方に隠れてもらっている。

 

「太一もカノン君ぐらいよく考えてくれる子だったら良かったのに……」

「僕ぐらいって大分普通じゃないですよ……むしろ他の家なら何考えているかわからないって言われそう」

 

 ちなみに、僕はもう一人普通じゃない人を知っている。言わずと知れた光子郎さんである。この前ハッキングスキルについて勉強していたのを見たときは正直ひいた。

 

「ふふ、そうね……ちょっと太一に言い過ぎたかしら」

「…………」

 

 正直なところ、僕にはどうすることもできないし首を突っ込むわけにはいかない。

 なんとなく居心地が悪くなってどうするか悩んでいると――一瞬、電気が消えた。

 

「あら? ……気のせいかしら」

「蛍光灯が切れかかっているのかもしれませんね」

 

 誰か職員を呼ぼうかとも思ったが、何かすこし騒がしい声が聞こえてきた。ノイズがーとか、停電みたいな感じで。どうやら病院内の電子機器が一瞬消えたらしい。データが飛んだりとか壊れたとかではないようですぐに静寂が戻ってきたが……なんとなく、嫌な予感がした。

 八神さんはどうしたのかしらと、廊下の様子を見に行ったまさにその瞬間だった。

 

「――ッ」

 

 時間にして一秒あるかないか。ヒカリちゃんから光の粒子が噴き出たのだ。同時に、胸に付けたペンダントとデジヴァイスが反応するように光り出す。

 慌ててデジヴァイスを見てみると、エラー表記が一瞬出てすぐに元に戻るところだった。

 

「なんだ、今の――――まさか」

 

 僕の頭の中に、かつて襲ってきたワイヤーフレームのデジモンらしき存在がよぎる。あの時は気のせいだと思っていた。だが、どこか疑い続けていた事をここで見せつけられる。

 あいつが狙っていたものが何なのか。もし、今この場で浮かんだことならば――――

 

「急いで合流しないと!」

「カノン君!?」

「ごめんなさい! お見舞いはまた今度きます!」

 

 なるべく迷惑にならないようになんて考えがすっぽり抜け落ちていた。看護師さんに怒られそうになるが、その時の僕は自分でも信じられない速度で走っており、すぐにドリモンを待たせていた庭に入る。

 木が隠してくれそうと、人目につかない場所にしておいて良かった。すぐにドリモンを掴んで病院の敷地内から出る。

 

「ちょ、カノンどうしたの!?」

「ドリモン、デジモンのにおいがわかるか?」

「そりゃわかるけど、こんな場所にデジモンが――――近づいて来てる。この前のヤバいやつほどじゃないけど、嫌な感じだ」

「それだけわかりゃ十分。においの方に近づいてひきつけるぞ」

「!? 大丈夫なの!?」

「わかんないけど、そのまま放っておいたら病院が危ない」

 

 かつて、デジモンは電子機器に悪影響を与えていた。ドリモンは別段そんなことはないが、あの時の二体が例外なのかドリモンが例外なのかはわからない以上、ここは人気のない場所に誘導するしかない。

 

「でもどこに誘導するの?」

「ここらへんで暴れても大丈夫な場所っていうと――第六台場ぐらいしか思いつかないんだよなぁ」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ドリモンの嗅覚と、僕が感じる嫌な感覚をたよりにデジモンの気配をひきつける。あの時、デジヴァイスやペンダントにヒカリちゃんから出た粒子が入っているのなら、デジモンがこちらにひきつけられる可能性に賭けてみたんだけど……どうやらビンゴだったらしい。なんかビンビンに嫌な予感がする。

 スケボーを使って移動するが、問題はこの先の海をどうやってわたるかだ。いや、方法はひとつだけど。

 

「泳ぐしか、ないよな」

「結構距離あるけど……」

「四の五の言ってられないだろ。ドルモンに進化して何とか運べないか?」

「やってみる――進化!」

 

 エネルギーは十分。すぐにドルモンに進化して、海を渡る。海と言っても、広い川を渡るぐらいの距離だ。流れもあまりないし、予想外の冷たささえ我慢すればいけそうである。

 

「ドルモン――なんか変な雲みたいな靄が近づいてきている。スピードあげてくれ!」

「わかってる。しっかりつかまっててよ!」

 

 一気にスピードが上がり、海上を進んでいく。後ろの何かも追ってくるが、それよりも早く陸地が目の前に来た。ずぶ濡れになっているせいで動きにくいが、なんとか陸地に這い上がり先に進む。

 たしかこの島は立ち入り禁止だったはずだから誰もいない。木々がデジモンを隠してくれるだろうし、現状ココ以上に迎え撃つのにふさわしい場所を思いつけなかった。

 

「――――くるぞ!」

 

 奴が追い付いてきたのか、目の前に黒い靄が現れた。すぐにドルモンと共に奴にたいしてすぐに行動できるように身構え、ドルモンの額に手をあてた次の瞬間だった。

 電気がスパークする音と共に0と1のデータの羅列のようなものが黒い靄の隙間に見え始めた。靄の中から大きな爪が伸びた。ゾクリと、濡れた体に嫌な汗が噴き出てさらに不快感を増していく。

 次いで現れたのは顔。上半分を隠すようにつけられた金属製のマスクだ。そして靄の形が変わり、炎のように揺らめきだす。

 形はまるで、人型の竜のように――

 

「グァアアアアアアアア!! ヨコセ、ヨコセッ!!」

 

 ――成熟期、邪竜型。ダークリザモン。

 すぐに奴の情報を得ようとドルモンの額に触れていてよかった。必要最低限の情報だけだったが、わけもわからないままよりはましだ。

 

「ドルモン、距離をとるぞ!」

「うん。落ちないでよ!!」

 

 ドルモンの背に乗り、ダークリザモンから距離をとる。奴は体に炎を纏っている。更に、攻撃に使用する炎を喰らうと肉体のダメージだけでなく精神や魂といった部分にまでダメージを与えてくるらしい。

 見誤っていた。デジモンの戦闘能力はとてつもなく強力だった。

 

「とりあえずは距離を取って撃ちまくれ! 現状はそれしかできない!」

「わかった――メタルシュート!」

 

 まずは牽制。放出された鉄球が奴にヒットする。奴もその巨大な爪を揮ってくるが、ドルモンがあたりを駆けまわることで何とか躱していく。

 そこを僕が方向と距離を伝え、次の攻撃に繋ぐ。

 

「ダッシュしながら! 右!」

「ダッシュメタル! メタルシュート!!」

 

 ステップを踏みながらダークリザモンの関節部を狙うように指で目標を指す。少しでも動きを鈍らせていかないと、奴には勝てない。

 そして、十分に距離をとりつつ奴の動きが止まった最大のチャンスが来た。 

 

「いまだ!」

「すーッ、メタルキャノン!」

 

 チャージされ、ドルモンの口から吐き出された強力な一撃が、奴の体に迫るが――炎が、噴き出た。

 まるで爆風。思わず顔を覆うほどに、体を焼け焦がすかと思うほどの熱があたりを支配する。一気に服が乾いていくのを感じ、そしてその事実が体中から嫌な汗を放出させ、再び濡れていく。

 

「グルルルル……」

「おいおい……うそだろ」

「成熟期ってここまで強いの?」

 

 みると、鼻から息を噴射したようで――ドルモンの最大の一撃がそれで消されていた。

 そう……今のは、ただの鼻息なのだ。今度は、口から放出されるブレスが迫ってくるだろう。

 

 

 

 

 

 

 だから、ここで終わり。僕らの冒険は幕を閉じてしまう。

 なにもなせずに。無駄に命をかけるだけ。そして、こいつが本来狙っているであろう人物の下へ行く。

 ただ漠然と、今も病院で眠っている彼女のことが頭に浮かんだ。こいつが彼女の下へ向かったらどうなるだろうか。きっと、二度と家族と会えないのだろう。兄が妹に謝ることはできずに終わる。温かい家庭が一つ失われる。

 いや、二つか。僕も二度と帰れないのだから――――そう、諦めかけたとき腰につけていた笛に手が当たった。父さんに貰った、パンフルート。

 

 

 ふと、どこか遠いところで似たような思いをしたことを思い出した。

 

 

「こんなところで、諦められないよなぁあああ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 眼前には炎が迫っていたが、その一瞬だけは不思議と恐怖を感じなかった。

 ただ、黄金の鎧をした誰かの姿が見えて――――

 

 ◇◇◇◇◇

 

 その一瞬を感知できた人はどれだけいただろうか。強い風が吹いたと思ったら、急に土砂降りになってその日のお台場周辺は視界がとても悪かった。

 多くの人はそれだけ。使っている電子機器の調子が悪くなり、悪態をつく程度。

 しかし、その一瞬にとてつもない何かが潜んでいると思った人はどれだけいたのか。感知で来た多くは子供だろう。彼らは大人では感じれない何かを感じ取れる。しかし、大人であってもその何かを感じ取れるものもいるのだ。

 

「――――今のは……まさかな」

「及川、濡れたくなかったら急げ!」

「わかりました」

「まったく、急に機械の調子も悪くなるしどうなってんだよ」

 

 今はまだ交差しない。彼らの物語はまだ始まったばかり。いや、スタートしてすらいないのだ。

 この一瞬をよりはっきりと感じった者たちもいる。だが、その全てがカノンとドルモンが出会うには速すぎる。彼らが出会うのはもっと先だろう。

 しかし、この時が真の意味での始まり。今、冒険のゲートが開く。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 初めに感じ取ったのは大粒の雨粒だった。体中に打ち付けてきて痛いとも感じたが――それが、奴の炎を喰らわなかった証でもある。

 次の感じ取ったのは体が上下する感覚。まるで飛んでいる何かに乗っているような……違うな。

 

「実際に、飛んでいるんだよな!」

「ドルモン進化――――

 

 ――――ドルガモン!!」

 

 体はより大きく、ドラゴンに近づいた風貌。鬣のような毛、大きな翼。強靭になった肉体。

 ドルモンが進化し、成熟期のデジモンへと変貌を遂げた。

 

「スゲェ……ドルモン――――いや、ドルガモン。いけるか?」

「――――もちろんだ!!」

 

 ドルガモンはそう言うと、雄たけびを上げてダークリザモンに迫る。雨で視界が悪くなっているが、こちらには関係が無い。

 ダークリザモンは暗い色をしていても、体からは炎が噴き出ている。つまり、視界が悪かろうが光っていて位置がわかる。というより、目立つ。

 

「隙だらけなんだよッ!! キャノンボール!」

 

 突進しながらの、鉄球攻撃。より強くなったそれはダークリザモンの腹部にあたり、くぐもった声を上げさせる。そのままドルガモンが体を回転させ、尻尾でやつを薙ぎ払う。

 それでも倒れないあたり、タフであるが――

 

「デカいの!」

「パワーメタル!」

 

 さらに巨大な鉄球が吐き出される。しかし、距離が離れていたからがダークリザモンも巨大な爪を使って鉄球を切り裂こうとする。火花が散り、バチバチと嫌な音とともに鉄球が細かい粒子に変貌していった――だが、それも織り込み済みだ。

 全てを諦めかけた一瞬。僕たちは過信し過ぎていたことに気が付かされた。今度は油断しない。鉄球に隠れるように、ドルガモンと共に奴の懐に入り込んだのだ。

 

「――ッ!?」

「止めだ!」

「ああ。キャノンボール!」

 

 0距離攻撃。今度こそ、鉄球は奴の体を貫通し戦いに終止符を打った。

 ズシンと奴の体が崩れる音が聞こえ、そのまま奴は消滅して細かい粒子になって消えていった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 気が付くと、ドルモンと二人して空を見上げていた。戦いが終わったらすぐにドルモンは退化してしまい、こうやって動けなくなってしまったのである。

 まあ僕も色々と緊張の糸が切れたりで動けないけど。

 

「……勝ったな」

「だねー。でも、疲れたよ」

「僕もだ…………またこんなことが起こるのかな」

「かもね……僕がいない方が、良かったのか…………カノンを危ない目に合わせたし」

「バカいうなよ。お前ひとりで勝てんのかよ」

「むー……ガブリ」

「イタッ!? いきなり噛むな!!」

 

 その後、不毛ながらもお互いに今回の反省点を罵倒しあい、日常の些細な不満に至るまでをぶつけ合った。

 なぜそんなことになったのかわからなくなったが、色々言い合ってスッキリし、気が付くころには空には月が登っていて――――

 

 

 

「「お、怒られる……」」

 

 

 ――結局、デジモン以上に母さんの方が怖いという結論に至ったのである。

 




第六台場は漫画版クロスウォーズで使われているのをみて、出てきました。
現実世界が戦いの場になると、周辺の被害がヤバい。


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7.未来へ進むために

描いている途中、10回ほどバグってヤバかった今日この頃。

色々と改定作業をしていく中、時間の穴埋め作業を始めました。


 風邪をひいた。暖かくなってきた時期とはいえ、海の中に入ってそのまま激しい運動(戦闘)をしたあと夜まで寝転がっていたら……そりゃあ風邪をひくに決まっている。

 ちなみに、ドルモンまで風邪をひくという始末。適応し過ぎやしやしませんかね。

 

「カノン、うるさい……」

「あー頭に響く」

 

 ちなみに、ドルモンに進化しているのは体力の低いドリモンよりかは治りやすいのではという考えの下からである。エネルギー消費を抑えて幼年期とも考えたが、抵抗力を下げるよりかはいいかと判断した。

 僕はそんな便利なことできないので、普通に薬をのんで安静にするしかないのだが。

 

「あぁ……暇だな」

 

 でも、眠気が出てきた。寝た方が治りが良いだろうしとっとと寝た方が……

 意識が遠くなってきたのを感じる。これなら、すぐにでも眠れるだろうと――――意識が暗転し、僕の意識は再びどこか遠いところに旅立った。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 気が付くと、巨大な樹の目の前にいた。あたりには石碑のようなものも存在しているし、ファンタジー物のRPGの世界みたいだ。

 樹を見上げてみると、先の方はまるで焼け焦げたのか枯れたのか、ボロボロになっているのがわかる。

 

「なんだ、コレ」

 

 僕はこれを知らない。だけど、どこか懐かしいと同時に何か言い知れぬ悪寒が駆け巡る。

 これに触れてはならない。そう思うのだが、これに触れなければならないような気もするのだ。触れたが最後、後戻りはできないというのに――――体が勝手に動き出し、樹に触れようとして――

 

 ――――強烈な悪寒が、その場から僕を後ろに下がらせた。

 

「――誰だッ!」

 

 言葉に応える声はない。だが、悪寒の主はすぐに現れた。

 全身を緑と銀の鎧に身を包んだ悪魔。十枚の悪魔の翼を持った謎の人物――いや、カノンにはそいつが何者かが分かった。以前感じたプレッシャーにも似た雰囲気。

 

「デジモン……しかも、究極体?」

「――――排除スル」

 

 反撃しようと、左手が雷に包まれ――――

 

 

 一瞬で間合いを詰められた。

 すぐにドルモンを呼ぼうとしたが、何もすることができずに奴の攻撃を喰らっている自分に気が付く。

 

「――――あ」

「排除、完了」

 

 肩から腰まで、斜めに切り裂かれた。がくりと、力が抜けていく。膝をつき、意識が消えていくのを感じる。

 ドルモンを探すが、あたりにはいない……そもそも、ドルモンって誰だっけ?

 自分の名前がわからなくなる。自分はいったい誰だったのか、何者なのかがわからない。そこで、奴が止めを刺そうとしてくるのを感じた。

 だからここで終わり。これでおしまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、なかなか面白い旋律(コード)を感じたかと思えば……君はまだここへ来るべきではない魂の持ち主だ。あるべきところに帰るといい。幸い、君はただ魂だけが迷い込んだだけに過ぎない。

 私の力で元の場所に戻してあげよう……まだ君の物語は幕を開けたばかりだ。これから先、過酷な運命が君を待ち受けるだろうが――今度ここに来るときは、一人じゃないはずだ」

 

 

 最後に、巨大な右手を持つ誰かの姿が見えたが――すぐに視界が暗転した。だけど不思議と恐怖はなく、誰かのあたたかな手の中にいたような気がする。

 天高い場所に光が見え、元あるべき場所へと戻るのがわかる。

 

「がんばりなさい――自分たちの可能性を信じるのだ、その先に進むべき道が見えるだろう」

 

 背中を押されるように、僕の魂はあるべき場所へ、あるべき姿で戻っていく。

 どこかでずれた歯車が元に戻っていくのを感じる。まだ、この場所にくるには速すぎたのだろう。次に来るときは、なすべきことをした後だ。まだ、やるべきことがある。

 不思議なことだが、肉体から魂が離れている間は僕がすべきことやこれから起こることを文章の形で読むことができる。もっとも、肉体に魂が戻ればそのことを思い出せなくなるが。

 ただ、大事なことだけは予感としてもっていくことができた。

 三年後。僕だけじゃない。本当の戦いはその年に始まる。世界を揺るがす大事件まで、あと三年。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「――――ッ」

 

 何か大事な夢を見ていた気がする。体をなでてみるが何ともない。いや、何を不安がっているんだろう。何もないはずなのに、なにか恐ろしい目に遭った気もする。

 前回の戦いでは勝利したはずなのに、なぜか敗北感を感じている。

 

「……三年」

 

 不思議と、その数字が出てきた。具体的な意味は分からなかったけど、それだけは忘れてはならないというかのように頭に残り続けている。

 握る手に力が入る。ああ、僕らはようやくスタートラインに立った。三年も時間がある。その間に出来ることは多いだろう。ノートを取り出し、頭に浮かんだものを書き出していく。

 今までみたデジモンの姿と、デジコアインターフェースに触れたことで得た情報を合わせながら目標を定める。

 

「んぅ……カノン? どうかしたの」

「ああおこしちゃったか……今回のことで痛感したけど、こっちにデジモンが出てきた以上デジタルワールドとつながるゲートみたいなのがあるんじゃないかと思って、今まで見たデジモンの特徴を照らし合わせていた」

「ふーん……で、何かわかったの?」

「ああ。そこらへんは特に関係ないってのが分かった」

「ってそれだけ?」

「それと、成熟期で満足していちゃだめだなって」

「?」

「やっぱりさ……目指すなら、究極体だろ」

「――――うん。そうだね」

 

 口には出さず、お互いの拳を付き合う。先は長いだろうけど、僕らは信じている。目指す先にあるものを。この胸のワクワクは止められないのだから。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 まあ、そんな決意も新たにまずは風邪を治したわけだけど、そんな光景を見られていたのだろうか。元軍人の母の琴線に触れてしまったのか、今とんでもない所にいます。

 

「さあ、二人とも頑張って!」

「いやいやいやいやいや、何言ってんですか貴女は!?」

「ママさん正気!?」

 

 セスナから飛び降りろと無茶ブリされています。いや、6歳の息子になに言ってんのこの人!?

 

「ママはねー、カノンちゃんはパパみたいに学者さんになるかなーなんて思ってたのー……でもねー、やっぱり男の子なのねー。あの男らしい顔を見たとき、私の軍人魂に火が付いたわ。さあ、頑張ってらっしゃい!!」

「スパルタ!?」

 

 ドルガモンの背に乗って空を飛ぶ訓練がしたいんだけど、人目につかない場所を知らないかと相談しただけだった。そのはずだったんだ。その際、かなり心配されたし無茶ばっかりしてと怒られたんだけど……自分の決意とか、思いとか色々語ったせいなのだろうか。さらに斜め上の無茶を強要された。

 いきなりハワイに連れてこられて、セスナの中に……で、落ちて進化させて飛べと。

 

「さあ、プレゼントした飛行帽は被っているわね! それがあれば風を受けても大丈夫!」

「子供用だよねこれ――ねえ、革製だけど子供用の市販品なんだよね!? そうだと言ってください……」

「ママさん、あのこの高さから落ちたら流石に死ぬと思うんだけど」

「大丈夫、ドルちゃんには翼があるでしょ」

「淡白!?」

「さあ――レッツゴーよ二人とも! 下でお父さんが待っているから頑張りましょう! 大丈夫! 落ちてもキャッチできるわ!」

「「物理的に無理――――ああああああああ!?」」

 

 いきなり機体が動いて、外に放り出される。嫌な浮遊感の後、落下する感覚が――――

 

「ど、ドルモン!」

「分かってる――――進化ッ! ドルガモン!」

 

 ドルモンの体が光に包まれ、肥大化していく。すぐに僕の体をキャッチし、空に羽ばたく。っていうかこんな無茶しなくても普通にしてくれれば良かったのに……

 

「極端すぎるな……よし、ちょっと懲らしめるか」

「分かってる――ガアアア!!」

 

 流石に攻撃はしないが、母さんの操縦するセスナを追いかける。母さんも慌てて逃げる――どころか、軽やかにかわすんですが。え、どういうこと?

 こちらが追いかければ、それに合わせるように機体を巧みに動かして躱す。操縦技術が予想の数倍上なんだが……それでも逃げたくはない。ドルガモンに進行方向の指示をだし、母さんの動くルートを予測しながら追走していく。

 

「風で体がうまく動かないのに、なんであんなにアクロバットな動きができるんだよ!?」

「慌てるなドルガモン! 風の動きを読んでいるとしか思えないけど、どうやって読んでいるのか――たぶん経験からかな。だったらこっちは肌で感じた風で予測するしかない」

 

 母さんはどうやって緩急の付いた動きをしているんだ? っていうか普通のセスナじゃないよなアレ。どんな伝手で軍用機っぽいのを借りてきたのか……慣れ過ぎているあたり、自分のと言い出しても驚かないよ。

 でも風が強いのに逆らっても――いや、逆らわなくていいのか。

 

「ドルガモン、翼の角度だ! 風を受ける角度を調節しているんだよ! 風に逆らうんじゃない――風の力を使うんだ」

「――――ッ!」

 

 その言葉と同時に、ドルガモンの動きが変わる。一気に加速して意識が飛びそうになるがしっかりとドルガモンにつかまると同時に、集中する。

 母さんに追従し、そのまま追い越す。一瞬、母さんの顔が見えたが驚いていた気がする――でも、それをしり目に僕らは更に前へと進む。

 

「負けてられるかッ!」

「――――グオオオオオオ!!」

 

 ドルガモンが咆哮を上げ、一気にスピードが上がる。先ほどまでとは飛行スピードがケタ違いだ。ただ翼で飛んでいるわけではない。まるで、見えないジェットがついているようにスピードが上がっているのだ。

 デジモンについて勝手に限界を決めていた。翼があるからと言って、そのまま飛んでいるわけでなかったのだ。翼はいわば飛行能力をもつという象徴なのだ。ドルガモンというデジモンは飛行能力をもっており、その能力によって飛行を可能にしている。

 

「すげぇ……」

 

 その後は一通り空を飛んで、飛行の感触を確かめた。少々飛ばし過ぎたからか、大分疲れたけどこの感触はかなりいいものだと思う。ドルモンも同じみたいで、さっきから興奮しっぱなしだ。

 だけど……飛行場に戻った時に母さんが父さんにガチで怒られているのを見たときは冷静になった。うん、流石にアレは人としてどうかと思う。後で聞いた話だと、母さんはどうも大分スパルタな方だったらしく、昔はその筋じゃかなり有名だったとか。今でも伝説になっているみたいだ。ああ、それで現職の方がキッチリした敬礼をしていたのか。

 まあ、母さんが暴走したのも最初のうちで、あとは色々と教えてもらった感じだ。飛行場についても場所を確保してくれたのはうれしかったし。

 

 その後はみんなでハワイ観光をして日本に帰ることとなる。火山を見て回ったり、ビーチで泳いだり。

 それなりに楽しかったし、面白かったのだが……僕は生粋のトラブルメーカーなのか、なんかよくないものでも憑いているのか……

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ちょっと一休みと、何か飲み物でも買おうとしていた時のことだった。

 奇妙な電子音が聞こえ、デジヴァイスが何かに反応を示しているのに気が付いた。というか、こんな反応初めてなんだけど。

 

「デジヴァイスが反応しているって、初めてだよな」

「だね。近くに何かあるのかな?」

「……行ってみるか」

「うーん……嫌な感じはしないし、大丈夫だと思うよ」

 

 ドリモン(基本的に人が多い所では、常にぬいぐるみのふりをしている)もそう言うので、反応を頼りに進む。それほど遠くない場所に、洞窟を見つけたのだが……あからさまに怪しい。

 しかし、ドリモンも嫌な感じはしないと言っているし、僕も危険な予感は全くしない。

 

「だけどなんか関わらない方が良いような気もしなくもないんだ」

「どっちなのそれ」

「……ここで帰った方が気になるか。仕方がない。いくぞ」

「はーい」

 

 ドリモンを一応進化させ、奥に進んでいく。真っ暗だけど大丈夫かな――と思っていたら、少し進んだら急に先が見えるようになってきた。まるで、3Dのゲームでマップを移動した時みたいな感じだ。現実世界にそういうテクスチャを貼ったらこういう風になるんじゃないか?

 

「ん? テクスチャ?」

「くんくん……デジモンのにおいがする。結構強いみたいだよ」

「嫌な予感は?」

「まったくしない」

「なら大丈夫だろ」

 

 まあ、たぶんデジモン関連だとは思っていたが、本当にデジモンがいるとは思わなかった……そのまま進んでいくと、なんか部屋っぽい場所にでて……ソファーの上に人が眠っていた。

 中東とかアラビアンナイトに出てきそうな服装の女性。年のころは10代後半から20代前半にみえるが、なにより特徴的なのは頭の上の耳と、二つの猫の尻尾。よくみると下半身は人間のそれではない。明らかに未確認生物――違った、たぶんこの人がデジモンだ。

 

「人型のデジモンもいるのか――なんだろう、どこかで人型も見たような気がする」

「っていうか、なんでこんなところにデジモンがいるの?」

「僕に聞かれてもなぁー」

 

 っていうか、人が来たのにこのネコミミデジモンは寝続けているし……ふみゃぁという声も時々聞こえる。

 と、そこで流石に気が付いたのか彼女は目を開けて……

 

「…………ぐぅ」

「「二度寝すんのかよ!?」」

 

 世の中には、危なくはないけど面倒なことがある。ひとまず、その教訓だけは得られた。

 結局彼女はいったい何者なのだろうか……




原作開始まで、ちょっと色々とやっていきます。

色々なところからネタを引っ張ってきていますが、名前を出していないで特徴だけ書いたデジモンが数体出ました。さあ、名前がわかるかな。


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8.自由奔放! ネコ神バステモン

サブタイトルでネタバレする方向かどうかで悩みました。


「みゅう……んー、どなた?」

 

 どなたと言われても困るのだが……この人? こそ一体何者なのか。

 

「あら? 人間さん……初めましてーバステモンは、バステモンだよ」

「ど、どうも……カノンって言います」

「ドルモンです。バステモンさんはどうして人間界にいるの?」

「んー……どうしてだっけー?」

 

 いや、こっちに聞かれても困るんだけど。なんだろう、この普段の母さんを思わせるのほほん具合は。

 というかデジモンが普通に人間界にいるのにかなりの疑問がある。そして、この洞窟の内装の生活臭漂う具合が、長い間ここにいることを伝えてくる。

 

「おもいだしたー。探し物があったの」

「探し物、ですか」

「うん。でも見つかるといけないから、ちょっとついて来てねー」

「「?」」

 

 バステモンに連れられて、海岸を歩く。人目が無かったためバステモンは堂々と歩いているけど、ちょっとは気にした方が良いような……

 というか、見つかるといけないならもう少しこそこそすると思うんだけど。

 

「うーん。人間に見られても、バステモンは別に驚かれないよ?」

「まあ、コスプレぐらいにしか見られない見た目だけど」

「それに見られたら困るのは人間にじゃなくて、イグドラシルにだからー」

「……そういえば、何度か聞いたことがあるけど、イグドラシルって何なの?」

「――――んー、デジタルワールドの神様みたいな奴かなー。アイツ結構カゲキって感じなの。だからこっちに来ているデジモンとかは問答無用で消されたりとか色々あるんだよねー」

「……でも、そんな奴見たことあったっけか?」

「うーん、なんだかそんなような話があったような無かったような……」

 

 ドルモンの記憶にその名前はあったが、これまでそのイグドラシルに何かされたことはない。第一、そんな奴がいるのならダークリザモンの時に出てきただろうし、コロモンの時にも何かあったはずだ。

 ……ダークリザモン自体がそのイグドラシルが送り込んできた奴かもしれないけど。その前に出てきたワイヤーフレームのアイツも怪しいが。

 

「君らは大丈夫よー。そのデジヴァイスがあるからねー」

「……これ?」

「それがあるなら問題はないってことなんだしー。だからバステモンはあなたたちの近くにいれば安全なのー」

「そんな無茶な……」

「カノン、とりあえずバステモンの情報を見ておく?」

「だなぁ……」

 

 ドルモンのインターフェースに触れて、バステモンの情報を引き出すと……えっと、完全体でウィルス種。うん、勝てないねこれ。

 ダークリザモンの時にさんざん懲りた。格上相手に戦うのは後に引けない時だけだと。

 

「別にバステモンはそんなに強くないよ。完全体って言っても、上は究極体レベルだけど一番下は成長期より弱いってのもいるしー」

「進化しても必ずしも強くなるわけじゃないってことか」

 

 とりあえず先に進んでいくと、巨大な岩壁にたどり着いたけど……行き止まり?

 

「えっと、行き止まりなんだけど」

「行き止まりじゃないよ。デジヴァイスをかざしてみればわかるから」

「う、うん……」

 

 ちょっと怪しいと思いつつ、デジヴァイスをかざしてみると――――岩壁に不思議な文字や図形が浮かび上がったと思ったら、洞窟が出現していた。

 あまりの出来事に茫然としているとバステモンは先に進み、はやくはやくーと呼びかけてくる。

 

「一体、どうやっているんだこれ」

「バステモンがまだウィッチモンだった時に覚えた魔術を使ったのよ。今も色々使えるよー。面倒だけど」

「ま、魔術……」

 

 デジタルモンスター……だよね?

 そんなファンタジーなことができるのだろうかと思うだが、バステモンが手のひらに魔法陣を出して見せた。そこから小さな炎が出て、あたりを照らすことで実際に使えるところを見せられる。

 

「これ、どうやってるの?」

「炎を出すプログラムを構築して、その術式をこうやって投影しているの。このぐらいならコツさえつかめば簡単にできるよ」

「コツ?」

「んー……デジタルワールドの文字で書いてあるね」

 

 独自言語……これ、文字から覚えないとダメじゃないかな? ただ、その後も続いたバステモンの解説から察するにパソコンとかのプログラムみたいな感覚で使用しているっぽいことだけは分かった。

 あと、その気になれば僕も習得できる可能性があるらしいのだが、本当だろうか……

 と、そんな風にしゃべっていたら最奥にたどり着いた。池と言うかそこから先は水に潜らなければいけないらしく、これ以上先には進めなくなっている。

 

「イグドラシルの監視も最近緩くなっているし、行けるかなと思ったんだけど……やっぱりそう簡単にはいかないよねー」

「――――ッ、ドルモン!」

「分かってるよ!」

 

 バステモンとは異なるデジモンの気配が近づいてくるのを感じた。ドルモンもすぐに対応できるようにしてもらいあたりを警戒をすると――水の中から、何かが飛び出てきた。

 そいつの見た目はバステモンと同じく人に近い。だけど、下半身は完全に人のそれとは異なったシルエット。先にはヒレが付いており、人魚と聞けば彼女のような姿を思い浮かべるだろう。

 

「お久しぶりねー、マーメイモン」

「あらぁ……バステモンじゃないの。また性懲りもなくきたってわけ?」

「いい加減、お仕事終わらせないとねー」

「貴女も懲りないわねぇ……何、おかしな助っ人まで連れてきて再挑戦?」

 

 それってもしかしなくても僕たちだよなぁ……しかし、この場所に何かがあるのか?

 

「あんたが盗んだデジメンタル、いい加減に返してもらうわよ!」

「アレは別に誰の物でもなかったはずよ。古代デジタルワールドの秘宝。もう使われないんだから、別に頂いたってかまわないじゃない」

「だからってあんたが盗んでいいものじゃないのよ! 人間界とデジタルワールドの境界の崩壊を少しでも食い止めるためには、デジメンタルを回収しないといけないの」

「相変わらず、スイッチが入るとウザいッたりゃありゃしない――そんなに欲しけりゃアタシを倒してみな、ホメオスタシスの犬が!」

「バステモンは猫! それに、イグドラシルに管理されるだけの日常なんてまっぴらごめん!」

 

 交渉は決裂とばかりに、お互いがぶつかり合う。すさまじい衝撃波が僕らを吹き飛ばそうとし、体がふらついてしまう。

 

「うごッ!?」

「マーメイモンも完全体だよ! どうするのカノン!」

「どうするって言ったって……」

「カノン君、お願い水の中にあるデジメンタルをとって来て! こいつはバステモンが食い止めておくから!」

「ええい――だったら先にそのガキからッ」

 

 そう言うと、マーメイモンは手に持った錨をつかい僕の体を吹き飛ばそうとして――ドルモンがかみつき、それを防ぐ。たしか、あの技の名前は……

 

「ダイノトゥース! カノン、よくわかんないけどとりあえずデジメンタルっての取って来て!」

「――分かった!」

 

 どういう事情があるのかわからないが、なんとなくバステモンは信じていいように思えた。

 水の中にもぐり、先へと進んでいく。その間も上では戦いが続いているのだろう。急がなければいけないが――ふと、首から下げていたペンダントが光っているのに気が付いた。

 

(――――、紋章が光っている?)

 

 ペンダントの中央に、紋章が描かれたプレートが付けられているのに気が付いたのはいつだっただろうか。こいつについてはドルモンも知らなかったが、これが反応を示したのは初めてだ。

 この先にあるデジメンタルに反応しているのだろうか……デジヴァイスも光を強くしていく。やっぱりか…………少しすると、デジメンタルらしきものが見つかった。

 四角い台座の上に、卵型のオブジェが鎮座されている。色は真っ黒になっていて元の色がわからないが、これで間違いないだろう。

 

(なんだろう――不思議な暖かさを感じる)

 

 手を触れてみると、ドクンと脈打つように熱が体中に駆け巡る。

 紋章とデジヴァイスの輝きが更に強まっていき、そして――――

 

 ◇◇◇◇◇

 

 洞窟内ではドルガモンに進化すると、移動範囲が狭まり余計に戦いにくくなるため進化せずにいたドルモンだったが、二体の完全体の力の前では時折援護をするしかできない歯がゆさを感じていた。

 

(――いくら進化できるようになったからって、進化して不利になるんじゃ意味がない……どうすればいいんだよまったく!)

 

 縦横無尽に駆け回り、マーメイモンの攻撃をかわしつつ、バステモンの攻撃を援護する。バステモンはとても素早いデジモンで、マーメイモンの攻撃をかわしながら互角の戦いを繰り広げていた。

 マーメイモンもその華奢な外見に似合わず、重い一撃を連続で繰り出してくるなどパワータイプの攻撃を仕掛けてくる。早さではバステモンが勝るが、流石完全体。一撃当たれば勝てるとでもいうように、次々に攻撃を仕掛けてくる。

 

「ほらほら! 避けてばかりじゃ勝てないわよ!」

「勝つ必要はないわ! デジメンタルさえ手に入ればそれで……」

「ふふん。なら、こうするまでよ!」

 

 マーメイモンは錨を投げ飛ばし――水路をふさいでしまった。これでもう、カノンは上がってこれない。

 

「――ッ、カノン!?」

「こんの外道!」

「ハハハ! ウィルスの貴女がよく言うわよ。この化け猫。ホメオスタシスの飼い猫になるなんてお笑いだわ」

「属性なんて関係ないわよ……ただ自由なのがバステモンのウリ! ホメオスタシス様のために動くのもバステモンの自由! 自分がやりたいようになるのがバステモンよ! あんたこそデータ種のくせしてやることなすこと……」

 

 ドルモンが急いでカノンを助けようと駆け寄っていくが、その隙を逃さないマーメイモンではなかった。

 

「――さあ、消えなさい!」

「逃げてえええ!!」

「え――――」

 

 

 

「あ、あああああああああ!?」

 

 すでに握られていた錨が振り下ろされ、ドルモンの頭へと振り下ろされる。まさに、その一瞬だった。

 崩落した岩が赤く染まり、炎が噴き出した。その炎がマーメイモンへと直撃し、彼女を吹き飛ばしたのだ。

 

「なんなのよ……何なのよ、いったい」

「あれって……デジメンタルが、起動したの!?」

 

 炎はすぐに収まり、その中から人影が歩み寄ってきた。

 右手には赤い炎のような模様の卵型の物体を手にしてる……胸の紋章は金色に輝いており、その光を浴びるとドルモンとバステモンの体の疲労は回復していった。

 

「これは……」

「凄い。これっていったい?」

「なんなのよ……あんた、一体全体何者なのよ!?」

「さあな。ただ、お前の中にあるそのいかれたデータを見逃すわけにはいかないな」

「――――ッ」

「行くぞ、ドルモン――進化だ!」

 

 デジメンタルを掲げ、ドルモンへその力が注ぎ込まれる。

 カノンにとって不思議だったが、自然とデジメンタルの使い方が頭に浮かんできた。デジモンを進化させるアイテム。普通なら使うことはできないかもしれないが、ドルモンはプロトタイプデジモン。

 デジメンタルで進化させることの出来るデジモンは古代種のみだが――ドルモンは更にその大元であり、インターフェースによる書き換えが行われ、すぐに適応した。

 

「デジメンタル、アップ!!」

「――グオオオオオッ! ドルモン、アーマー進化!!」

 

 ドルモンの体が炎に包まれていく。

 体は大きくならないが、形が変化していく。

 より四足で歩く形へ、以前とは全く異なる姿への進化を遂げた。

 

「――サラマンダモン!」

「うそ、アーマー進化しちゃったの!?」

「クソッ――だけど、すぐにはその力を使いこなせないハズよ!」

 

 マーメイモンが再び錨を振り下ろすが、サラマンダモンがするりと体を錨に合わせて巻き付くように避けてマーメイモンの懐に入り込む。

 

「なっ!?」

「にぱぁ――ヒートブレス!」

 

 口から炎を放出させ、マーメイモンの動きを止める。データがほつれはじめ、体内から黒色の0と1の数字が噴き出始める。

 

「しま――」

「見えたッ! バステモン、錨を弾き飛ばしてくれ!!」

「オッケー! いっくよー!!」

 

 バステモンがその爪で連続で切り付け、隙の生まれたマーメイモンから武器を吹き飛ばす。体勢が崩れ、武器も失ったマーメイモンは既に丸裸だ。

 あとは、データのほころんだところに最後の一撃を加えるだけ。

 

「サラマンダモン!」

「分かった! バックドラフト!!」

 

 爆発。連続で強力な一撃を浴びせ続け、マーメイモンへと攻撃を仕掛ける。次第にマーメイモンの姿がぶれていき、そして黒い靄のようなものが噴き出した。

 

「ガアアアアア――――ッ」

「マーメイモン!?」

 

 マーメイモンのデータと黒いデータが残り――マーメイモンのデータが崩れ、デジタマへと再構成されていく。

 そして、黒いデータは小さな種となって落ちた。

 

「……マーメイモン、操られていたってこと?」

「それは分からないけど、悪いものは出したみたいだね。根本的な部分に根付いていたのか、デジタマになっちゃったけど」

「始まりの町に戻らないでここでデジタマになるなんて……でも、この種って何なのかな」

「さあね……残しておくのもマズイ気がするし、サラマンダモン。焼いちゃって」

「分かってるよ。ジューっとね」

 

 サラマンダモンが火を吹き、種を焼き消す。

 その後、ドルモンに戻りデジメンタルはカノンの手の中に戻り――彼の体の中へと入っていった。

 

「グオ!?」

「カノン!?」

「わああああ!? デジメンタルが!?」

「――――あれ? 別に痛くもない……」

「驚かせないでよ」

「いやいや、デジメンタルどうするの?」

「どうするって……どうしよう」

 

 戦いは終わった。されど、まだ問題は片付かない。

 しばしの間、三人は茫然とするしかなかった。

 




今回登場したデジメンタルについては、次回で補足いたします。

改めてアドベンチャーの設定を見たら四聖獣でビックリ……tryで語られるのだろうか。
というかアドベンチャーって語られてない部分多過ぎんよ。

まあこの作品内でネタを拾うのは難しいからあらかじめ言っておくと、先代の子供たちのパートナーのその後が四聖獣とファンロンモンとのこと。パタモンもいたけど別の役割になったとか。
15周年のドラマCD聞いてないから詳しくは知らないデス。

で、自分が問題にしているのは……時系列どこだよ。1995年から1999年の間ってのは分かるんですが……いや、及川の例があるから更に前になるのか?
少なくとも異常気象が起きる前だから99年はない。準備期間とかダークマスターズの活動とかあるからもっと前になる可能性も――いやそもそも時間の流れ方が――――以下、考察が長いので略

とりあえず、分かり難い部分ですので今後は――ボカシていきます。


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9.別れと新たな出会い

改定前と比べると、大分変ってきているなぁ……
主人公に設定が加われば加わるほど、調べることが多くなっていく。


 前回のあらすじ。デジメンタルが体内に入りました。

 

「……さて、どうするか」

「どうするかじゃないよ! デジメンタル回収しないといけないのにどうしよう……」

 

 なぜ、僕の体に入ってしまったのかはわからないが……物理的に入ったというよりデジメンタル自体が僕の体にインストールされてしまったと考えるべきだろう。

 とりあえず取り出せないか集中してみると、すぐに手のひらに出現した。

 

「ふぅ、これで大丈夫か」

「…………ダメ。デジメンタルの力は外に出てきているけど、大本の部分はまだ君の体の中」

「出力できるってだけで取り出せてはいないのか……困ったな」

「うーん、とりあえず寝床にもどって通信してみないと」

 

 そういうバステモンに連れられ、再び彼女の寝床に戻る。ちなみに、岩壁を封印していたのはマーメイモンが人間に余計なちょっかいを出さないようにするための物だったようだ。

 この周辺にも彼女の仕掛けた魔術が色々と仕込まれていて、これが結構面白い。

 最初にきた彼女の寝床も、テクスチャを貼っていたアレとか色々と手が込んでいる。

 

「みゃぁ……やっぱり通信状況がよくない。バステモンは本格的に魔術使っちゃおうと、疲れて頭が弱くなるんだけどなぁ」

「通信、機?」

「なんか…………すごくデジモンっぽいんだけど」

 

 テレビっぽい形のデジモン……幼年期か成長期か、どっちかは分からないがたぶん強くはない。

 

「こいつはモニモンって言って、通信機の代わりに置いておいたんだけど…………この子ずっと寝てるから静かなの」

「そいう問題じゃないと思うけど」

「ちょっと待ってて。モニモンのリンクをたどって通信を試みるから」

 

 バステモンはそう言うと、モニモンを中心に魔法陣を展開していく。そこに書かれている文字は相変わらず読めないが……あれ? なんとなく、理解できている。

 最初に見たときはわけがわからなかったのに、なんとなく力の流れがわかるというか……

 

「……?」

「きたきた。通信来たよぉ……ホメオスタシス様たち最近忙しいみたいだし、つながってくれるといいんだけど」

「なあドルモン、ホメオスタシスって知ってる?」

「うーん……ごめん。記憶にない」

 

 ドルモンも知らないのか。イグドラシルと合わせて語られているし、神様みたいな存在なのだろうか? それとも賢者みたいな人……いやそもそも人かどうかもわからないか。

 その後もバステモンは通信を試みているが、やがてえっという驚きの声と共に魔法陣が消える。

 

「……むぅ」

「どうしたの?」

「なんか、向こう側も大変みたい。こりゃ一回帰った方がよさそうねぇ。デジタマも持って帰らないと」

「え、デジメンタルは?」

「取り出せない以上、そのままにしておくしかないって。まだ未調整の素体だったから進化の方向が決まっていないものなのに使えたんなら、そこに意味があるんだろうって」

「未調整の素体って……危険なんじゃ」

 

 そうなると速く取り出してほしい。え、大丈夫だよね?

 かなり心配になって顔が青くなっているのがわかる。ドルモンも大丈夫なのかと睨んできているぞ。

 

「大丈夫大丈夫。デジメンタルを使えるようにしたのは君の力だから。君がしっかりしていれば、危険はないよ」

「僕の力?」

「それに、おまけもついてきたみたいだしね」

 

 おまけって何だろうか。バステモンは悪戯っぽく笑うと、僕の顔に手を当てて顔を近づけてきた。直後、僕のおでこに何か柔らかい感触が――

 

「って、何をするんですか!?」

「むふふー。バステモンからのお別れのプレゼント。きっと役に立つよ」

「いや、意味が分からない……あれ?」

 

 なんだか知識が増えたというか、バステモンが使っていた魔術が唐突に理解できるようになった。それだけでなく、デジ文字も読めるように……どういうことだ?

 

「ちょっとカノンの頭にバステモンの知識をインストールしたの。デジメンタルが魔力炉の代わりをしてくれるから、魔術も色々使えるよー」

「…………なんか、いきなり危ないものを渡されたような気がする。っていうか渡したよね」

「むふふー。それじゃあ、二人とも。また会おうね!」

 

 それだけ言うと、バステモンの足元に魔法陣が現れて、眠ったままのモニモンと回収したマーメイモンのデジタマを持ちながら――一瞬、まばゆい光に包まれたと同時に、彼女はこの場から消えていた。

 あたりには静寂が戻り、この場も普通の洞窟へと変貌していく。

 

「なんだか、どっと疲れたな」

「そうだねぇ……今のってデジタルワールドに戻ったのかな?」

「たぶんな。疲れそうなことをして……向こうに戻ったらこっちでのこと忘れてないだろうな」

 

 頭が弱くなるって言っていたし。最初、寝ぼけているどころか大事なことを忘れていたのはそういう事だろうし。

 

「でも、少ししたら思い出すんじゃない?」

「だといいけど。はぁ……帰るか」

「だね」

 

 洞窟から出ると、日が傾いていた。夜になっていないだけマシ……というか案外時間が経っていなかったな。結構濃密な感じだったが。

 父さんたちのところへ戻ると、おでこについたマークを母さんが見つけてアレコレ聞いて来てとてもウザかったというオチが付いたが……まあ、それはどうでもいいことだろう。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 日本に戻り、インストールされてしまったデジメンタルについて考えている。デジメンタル自体はいつでも取り出せるが、特に指向性を持たせないと最初の真っ黒いタマゴのようなオブジェが出てくるだけだった。

 デジメンタルというのは通常進化とは異なるらしく、強制進化というか、一時的なパワーアップのようなものらしい。属性や性質はデジメンタルの種類に左右され、デジモンとの相性もあるみたいだ。

 

「サラマンダモンに進化した感じ、相性はどうだった?」

「うーん……悪くはないけど、良くもない感じだと思う。ドルガモンの時と比べるとなぁ」

「なるほどね。この前みたいに狭い場所でなら優先するけどそれ以外ならドルガモンに進化した方がいいか」

 

 今回のことでこっちの世界にもデジモンがいる可能性は高まったというか、他にもいるんだろう。ダークリザモンみたいにすぐさま襲ってくるばかりじゃないというのが分かっただけでも良かったが……

 

「…………となると、アイツもデジモンだったのかな」

「アイツって?」

「ほら、ヒーローショーを見に行ったときに会ったアイツだよ」

「見た目は人間だったけど……」

「魔術を使えるデジモンだったんだろうな。人間に擬態する魔術もあるみたいだ。結構難しいみたいだからバステモンは鋭い爪とかを隠す程度しか使えなかったみたいだけどね」

 

 デジモンのにおいまでもごまかしていたんだろう。それでも完全ではないらしいが……

 できれば二度と会いたくないが、いつまでもスルーし続けるわけにもいかないか。

 

「来年からは僕も小学生だし、日中に動ける時間が無くなりそうなんだよなぁ……今のうちにやれることはやっておくか」

「やれることって?」

「うーん。せっかく貰ったんだし、ちょっと練習もかねて街に出てみるか」

 

 デジヴァイスを掌に載せて、魔法陣を展開させる。この間バステモンに反応を示した時はどういった理由なのかはまだ分かっていないが……デジヴァイス自体にまだ使われていない機能が多く存在しているのは分かっている。

 まだ使えない機能があるが、習得した魔術を使用して何とか使えないか試してみる。

 

「んー、近くにはドルモン以外の反応が無いな」

「デジモンが近くにいるか調べているの?」

「ああ。まあいないっぽいけどね。この前のアイツも近くにはいないみたいだし」

 

 あんな強烈な気配だったら引っかかると思ったんだけど……もう周辺にはいないみたいだ。まあいないならいないでいいんだが。

 とりあえず外に出てみてアレコレ試してみたのだが、人前で使うには目立つものも多い。それに、術式の構築がやたら面倒である。オカルトとかファンタジーなものではなく、魔力というエネルギーを使って情報の書き換えを行っているというべきか……書き換え前と書き換え後の状態をちゃんと計算しないといけないのだ。

 前に調べたコンピューター関連の知識と照らし合わせると、デジモンの使う魔術というのは高級プログラム言語で構成されているのがわかる。やろうと思えば色々と幅広いことができるのだろうが……

 

「くっそめんどい」

「カノン、顔がひどいことになってるよ」

「分かってる」

 

 身体強化するなら、使われるエネルギー量と強化値、体に負荷がかかり過ぎないように防御も設定しないと行けなかったり、意識をそらす魔術なら盲点に入るように自分の体にステルスをかけるのだが……体を動かしても大丈夫なように設定するのがかなり大変だった。

 とまあ、一朝一夕じゃどうにもならない技術であることが判明したのである。これ、魔術を使えるデジモンは最初からサポートされるソフトみたいなのがインストールされているんじゃないか……演算をしないといけないとかひどすぎる。バステモンが疲れるって言った意味が分かった。ウィッチモンだった時にって言っていたが名前の響きからするに魔女を模したデジモンが進化前の姿だったんだろう。

 最初から使うための素養があったから色々出来たんだろうなぁ……

 

「知識をくれただけでも大助かりだけどさぁ……テンプレを用意するしかないか」

「テンプレ?」

「テンプレート。まあ、身体強化の数値をあらかじめ作っておいて、用意しておくみたいな感じかな。いちいち計算しなくてもあらかじめ数値を覚えておけばその通りに使えばいいわけだし」

 

 実際に利用できるのは身体強化とデジモンのサーチ機能ぐらいだけど。サーチ機能の方はデジヴァイスの機能を増幅した形だしなぁ……

 三年の間にやることが増えたよ。ハァ……

 

 ◇◇◇◇◇

 

 その後は特に大きな事件もなく日々が過ぎていった。ドルモンは相変わらず特撮好きで、テレビを食い入るように見ているし、ヒカリちゃんもドルモンに会いに時々来ていた。ドルモンも悪い気はしないらしく、撫でられると気持ちよさそうだった。

 あと、エネルギー効率が上がったのかドルモンに進化しても大食漢じゃなくなっていたのには驚いた。おかげで、この方が良いからと家の中ではドルモンになったままである。

 僕の方は他にも魔術を使えないか色々と試してみたが……なぜか電気を発生させる魔術だけはすぐに習得できてしまった。適正でもあるのだろうか?

 デジメンタルについても調べているが……どうにも上手くいかない。前みたいにバーコードを読み取るみたいに解析してみたけど……複雑すぎてさっぱりだった。ドルモンのインターフェースに触れて何かできないか試したときには、指向性を僕が入力している形というのは分かったのが収穫だろう。

 これでサラマンダモン以外のデジモンにも進化できる可能性が見えてきた。

 

 そんな風に日常が過ぎていったが、ついに僕は小学校に入学する日がやってきた。

 ……正直なところ、自分でもひくが勉強の方は復習と呼ぶには初歩的すぎるのですが。

 憂鬱だなぁ……ドルモンは流石に連れてこれないから家にいてもらっている。一応、自衛の手段は確保したし。

 とまあそんなわけで、残り二年。それまで何事も起きなければいいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 だけど、そううまくはいかないのが世の常である。

 選ばれし子供たちがそろう、あの事件の前に起こった出来事。これは僕とドルモンが出会った不思議な少女との思い出だ。

 小学校に入学して、周りとのギャップに悩みながらもなんとか慣れようとしていた、梅雨のある日の話。

 そう、たしかあの日は梅雨時で珍しく快晴だったけど、一人教室に残ってどうしようか考えていた時のこと、彼女に話しかけられたのはその時だった――――

 




デジモンの使う魔術は高級プログラム言語。これ、公式設定ね。
そのためチラッと調べてきたけど……無理だわ(笑)

なので無茶苦茶なことはできません。作中でも言っていた以上のことは厳しいという感じに。

デジメンタルについても、D-3ではないですが使用できているのは理由があります。


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10.うたかたの少女

改定前をみつつ、大分変ったなぁと。
ちょいマイナーなデジモンも出せれたら出していく所存。


 じめじめしてて暑い。梅雨時に晴れると不快指数が一気に高まる……

 もう6月になったが……休み時間でみんなが外で遊ぶ中、僕は一人教室の中にいる。半ば予想していたことだが、価値観が違いすぎるというか、話が合わないというか……浮きに浮きまくった僕はこうしてボッチ街道まっしぐらである。

 光子郎さんや太一さんなど知っている人もいるが、二人とも学年は違うしなぁ……サッカー部に入るってのもアリだろうけど、二年後のために時間を使いたいし。

 

「悩みどころであるなぁ」

「どうかしたの?」

「いやぁ、なかなか上手くいかないものだなって――って、どなた?」

 

 いきなり話しかけられたから答えたが、僕に話しかけてきた人は初めて見る顔だった。

 

「ウチ? ウチは久末(くすえ)蒔苗(まきな)よ。よろしくね!」

「よ、よろしく」

「むふー」

 

 いきなり息を噴き出したかと思えば、そのままこちらをずっと凝視し続けているが……いったい何なのだろう。

 

「ねえ、君の名前は?」

「橘カノン」

「カノン君かぁ。カノン君は外で遊ばないの?」

「いや、別に――っていうか、君はどのクラスの子なの? 見かけない顔だけど」

「んー、わかんない」

「いやわかんないって……!?」

 

 転校生なのかなと思ってふと彼女の首元に目が行って、思わず絶句した。ペンダントをつけているだけかと思ったら……ペンダントの先が薬莢になっている。なんという物騒なペンダントだよ……

 その筋(・・・)の人の子供かな。うん、関わらない方が良いんじゃないかとも思ったがばっちりロックオンされている。手首をつかまれて外に連れ出されそうになるが――

 

「――あ、ごめん。もう行かなきゃ」

「え、行かなきゃって……」

 

 それだけ言うと、彼女は走り出して行ってしまう。

 どうしたんだろうと廊下を覗き込むと、そこに彼女の姿はなく、外からクラスのみんなが戻ってくるところだった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 家に帰ってランドセルを下ろす。あの後ちゃんと授業聞きなさいと先生に怒られてしまった……おかげで帰るのが少し遅れた。これからはバレないようにしよう。

 それにしても、薬莢なんてものを首から下げた女の子か……それなりに噂になっていてもよさそうなものだが、そんな話は聞かないのがどうにも気にかかる。

 いや、薬莢なんてものを見たことがある人の方が少ないだろうからそれも当たり前な気もするが。

 

「でもあの薬莢……なんか見覚えのあるような無いような」

「カノン、どうかしたの?」

「なんか今日、変な子に絡まれて……」

「ふーん。ん? カノン、なんかデジモンのにおいがするよ」

「――――え?」

 

 デジモンのにおい? でも別にデジモンなんて見ていないが……特に変わったことだって…………いや、一人いたか。

 

「あの子がデジモン……そんなわけないよな。普通に名前を言ってきたし、どう見ても人間にしか見えなかった」

 

 デジヴァイスも反応しなかったし。

 しかしドルモンの様子からするに、今日デジモンと接触したのは間違いない様だ。

 となると怪しいのはやはりあの子なのだが……

 

「どうするかなぁ」

「危険なにおいじゃないから大丈夫だと思うけど、どうする?」

「うーん、明日はドリモンになってついて来てくれ。もしかしたらまた会えるかもしれないし」

 

 とりあえず、そのことは明日考えるとして――今はいつもの練習を行う。

 床に座り、意識をデジメンタルに集中する。今の僕がデジモンと同じ魔術を使えるのはコイツがエネルギーを生み出してくれているからだ。だからこそ、いざという時にエネルギーを引き出せなければならない。

 次に、術式の構成を行う。身体強化と視覚強化を起動し、すぐにカットする。何度も繰り返し行うことで感覚的に使えるように練習しているのだ。

 

「……ふぅ」

「今日も頑張るねー」

「まあ、もう日課だしな」

 

 ただ、術式を開発できないかと色々試したりもしているがそっちはあまりうまくいっていない。実際のプログラム言語から色々と応用してみたりもしたが、事象の書き換えというのがいかにオーバーテクノロジーな代物かを知るだけである。ハッキリ言って地球上での技術で実際にその領域にたどり着くのは何年先になることやら……単位は3桁で足りるだろうか?

 というわけで、本当に簡単なところしかどうにかできていない。

 

「一応、壁をだすってのはできるようになったんだけど……」

「凄いじゃない。でも、なんで不満そうなの?」

「…………不完全過ぎて三秒しか持たない。盾として構築したかったんだけど、上手くいかなくて」

「ああ……ちょっと短いね」

「目くらましに使えたら御の字かなぁ」

 

 ままならない世の中である。

 しばらく使っていると、ちょっとした倦怠感が体に出てくる。走った後などの運動をした感じではなく、たとえるならばサウナから出た後の脱力感というべきか。

 少し深呼吸して気持ちを切り替える。

 先に息を吐いて精神を落ち着かせ、続いて平常道理に呼吸を行う感じで整えていく。

 

「ふぅ……このぐらいでいいか」

「使いすぎて体に悪影響とか出てないよね?」

「そっちは大丈夫。別段影響はないよ……ただ」

「ただ?」

「…………確証はないから、言わないでおくよ。今のところ気にする必要もないし」

 

 ただなんとなく、魔術ってのがこの世界ともデジタルワールドとも違う世界の技術なんじゃないかなと思っただけなのだ。デジタルワールドが異世界にあるというのなら、他の異世界も存在するのではないかとも思ったのだが、確証はないし確認のしようもない。

 技術として存在していて、使えるなら今のところは良いかと思っているし。

 

「まずは、確認できるところからやっていくしかないしね」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 翌日、ドリモンをナップサックに入れて学校へ。誰かに見つかると厄介だからとりあえず隠れてもらっているが……久末さんは見当たらない。

 他の学年の子かなとも思ったが、探すのも大変そうだ。まあ、とりあえずは授業を受け続けておくしかないけど。

 

「…………今のうちにサーチでもしておくか」

 

 デジヴァイスを使い、デジモンがいないかサーチする。反応はなし…………ちなみに、ドリモンはサーチ対象外になっているらしく、反応しない。

 その後も特に何事もなく時間は過ぎていき、昼休みになった。

 給食のパンとかをいくつかとっておいてドリモンの分を確保しておく。流石に何も食べないってのもあれだろうし、見つかるといけないからと屋上へ行く。

 

「風が気持ちいな」

「だねぇ……」

「誰かに見つかるといけないから、ナップサックにはいっとけよ」

「わかってるよ」

 

 まあ、ナップサックを背負ったまま屋上にくる僕も見られたら目立ちそうだが。

 結局見つからないが……見つからないなら見つからないで仕方がないか。

 

「勘違いだったのかねぇ」

「何が?」

「いやこっちの話――――うお!?」

「ふふふ。また会ったね」

 

 突然、後ろに彼女が現れていた。急に出てきたけどどういうことだ?

 目を白黒させていると、なぜか彼女はトランプを取り出してきて笑顔になる。

 

「さあ、遊ぼう!」

「ふ、二人でトランプかよ……」

 

 あまりにも唐突で、無邪気に笑うものだから拍子抜けしてしまう。ドリモンの方を見るが、別段アクションは起こしていない。彼女はデジモンに関係ないみたいだ。

 となると、どこでデジモンのにおいが付いたのかだが……

 

「ねー、あーそーぼー」

「……わかったわかった。やってやるよ」

「ふふ、わーい!」

 

 まるで、そうやって遊ぶのが初めてみたいに彼女は大喜びする。二人だけのトランプってのもアレな感じだが……よく考えたら僕も人のこと言えないか。

 やがて、昼休みの終わりを告げるチャイムが聞こえてきた。

 

「……」

「もう戻らないといけないなぁ」

「そう、だね――それじゃあまた明日!」

「お、おう」

 

 普通に屋上から出ていったあたり、別の学年の子だったのだろうか? なんか釈然としないものもあるが……

 

「ドリモン、どうだった?」

「んー、わかんない。別に危ない感じもしないし」

「そうなんだよなぁ……でも、デジモンのにおいがしない(・・・)んじゃなくて、わかんない(・・・・・)んだな」

「う、うん……なんかそんな感じ」

「……そっか」

 

 やはりどこかに違和感を感じる。勘だけど、やっぱり何かがあるんじゃないかと思う。

 彼女自体に危険性はなさそうだが……

 

「まあ、遊び友達が出来たってのは良いことかな」

「カノン、楽しそうだね」

「悪い気はしないからな」

 

 そろそろ戻らないとヤバいなと思いつつ、教室へ向かう。ココからは、僕の日常に彼女と遊ぶことが加わるだけだった。

 授業中は先の予習を行い、休み時間になると唐突にマキナ(そう呼べと言われた)がやってくる。念のため、ドリモンにはいてもらっているが、時折妙な感じがするだけで何事もなかった。

 妙な感じというのも、マキナと会っている時ではなく、日が暮れてきたあたりで感じるらしい。そういえば、あの日は少し帰りが遅かったな……

 

 マキナのことは唐突に現れるのが少し気になるが、それ以外はとくに何もない。毎度色々と持って来たり遊んでとせがんできたりと忙しないなと思うけど。

 何事に対しても朗らかに笑い、楽しそうにしている。僕とは違ったタイプだけど、とても面白いやつだと思う。あと、会話の端々から年上だというのは分かったので、おそらくは上の学年の子。まあ、その割には子供っぽいんだが……この場合は僕がおかしいんだろうけど。

 本当に難に対しても笑うこの子だが、どうして薬莢なんてものを首から下げているんだろうか?

 ちょっと嫌な想像をしてしまう要素だが……

 

「どうしたのカノン君、難しい顔して」

「いや……こっちの話」

 

 マキナと出会って一週間ほど。いまだ梅雨時だから仕方がないとはいえ、雨が続いていた。朝は晴れていたし、天気予報でも今日は大丈夫だと言っていたから油断して傘を持ってきておらず、雨が止むか弱まるまで図書室で時間をつぶしている。

 マキナも一緒にいるが、帰らなくていいのだろうか?

 

「……ううん。ウチもいるよ」

「親とか心配しないのか?」

「大丈夫、だと思う……」

 

 そう言うと、蒔苗はどこか悲しそうな顔をして顔を下げる。

 

「マキナ?」

「何でもない。ちょっと嫌なことを思い出しただけ」

 

 聞かない方が良かっただろうか。

 改めて自分の対人経験のなさというか、人付き合いの苦手さを思い知る。

 

「えっと、ごめん」

「ううん。大丈夫。それよりもさ、何して遊ぶ?」

「こんな時までそれかよ……」

 

 まあ、校内から出られそうにないのだから仕方がないのだが……例のごとくトランプとか色々持ってきており、それなりに時間をつぶせるのはまあいいかな。

 しばらくして、ちょっと違和感を感じ始めた。なんというか校内が静かすぎるのだ。流石に先生が見回りに来てもよさそうなものだが、一人も見ないし……あれ? 図書室なのに司書の人もいないってのもおかしいよな。

 

「……?」

「どうかしたの?」

「なんか静かすぎるって言うか、他に誰も見ないのがおかしいなって」

「…………あ」

 

 なぜか、マキナは少しおびえたような表情をした。ふと、彼女の提げていた薬莢に目が留まる。なにか見覚えがあると思っていたが、その薬莢の底の部分に見覚えのある文字が見えたのだ。

 この世界ではまず見ることはない文字――――デジ文字が。

 

「その薬莢……マキナ、君はいったい?」

「こ、これは――」

 

 マキナが何かを言おうとした、まさにその瞬間だった。

 ブツンと、電気が切れてあたりが真っ暗になる。それと同時に、悪寒が体を駆け巡り、冷汗が流れ落ちる。

 

「――――これは!?」

「ひっ――いや、嫌!!」

 

 マキナが取り乱し、後ずさっていく。真っ暗になった部屋を黄色い光が照らし、光そのもの――いや火の玉が襲い掛かってきた。

 

「危ないッ!」

「きゃ――」

 

 マキナを抱きかかえ、とっさに身体強化を行う。デジヴァイスが反応した音も聞こえだした。間違いなく、デジモンの仕業。

 ドリモンがナップサックから飛び出し、デジモンと思しき影に体当たりをする。小さな声だけが聞こえ、襲い掛かってきたデジモンの気配を感じないが……

 

「マキナ、しっかりつかまっていろよ!」

「え、ええ!?」

「ドリモン進化――ドルモン!」

 

 マキナをいわゆるお姫様抱っこの形で抱きかかえ、ドルモンと共に走る。狭い教室の中じゃ対処ができない。目指すべきなのは体育館か――

 

「ここからなら、屋上!」

「カノン、窓からでもグラウンドに行った方が良いんじゃないの?」

「できるならそうしている! でも校舎中の正規の出入り口以外がロックされてるよ! 妙な力が校舎全体に流れているから窓から出るのは無理だ!」

 

 毎日の積み重ねが生きてきた。急いで屋上まで駆けあがり、ドアへと向き直る。

 何が狙いかはわからないが、奴は確実に追ってくるだろう。

 

「――――存外、頭が切れる童よのう」

 

 黄色い炎と共に現れたそいつは、妖怪とでも呼ぶべき見た目だった。

 紫色の体に、九本の尻尾。黒と白のしめ縄をしたデジモン……

 

「このヨウコモンからは逃げられぬえ……さあ、堪忍し」

 

 唐突に、僕らの日常は終わりを告げた。

 もう後戻りはできない。後は、先へ進むだけ。それが、どのような形になろうとも。

 




色違いデジモンってマイナーなの多いですよね。
ただ、初期からいる色違いじゃないのにマイナーなのもいますが。
あとは見た目も名前も同じでも世代が違う例があったりと(ミノタルモンやホエーモン)
同じ名前でも姿が違うのがいたりと、デジモン界隈はややこしいのが多い。


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11.襲撃! ヨウコモンの焔

『ヨウコモン、成熟期、データ種』

 

 ドルモンとの間にラインを構築し、情報を閲覧するが……やはりそう多くの情報は引き出せないらしい。

 弱点とかわかればいいなとは思ったが、そううまくいくわけもないか。

 もう一つ気になったのは屋上にたどり着いたというのに、濡れないことであるが――どうやらアイツが何かしかけていたらしい。

 

「ドルモン、迎え撃つぞ!」

「うん! ドルモン進化――

 

 ――ドルガモン!!」

 

「わらわにたてつくつもりかい? 面白い、相手になろう」

 

 対峙する二体のデジモン。屋上という狭いフィールド内でどこまでやれるか……それにあたりが暗い――ここでも奴が何かしかけているとも思ったが、単純に夜になっているようだ。

 というよりは夜になるまで足止めされていたというべきか。

 

「油断し過ぎた! 隠ぺい能力が高い相手だっているだろうに」

「反省は後だ――来るぞ!」

 

 ドルガモンの呼びかけに合わせ、マキナを抱えて走る。ヨウコモンの放つ炎が迫っており、回避に専念する。ドルガモンも食らいつこうとするが、ヨウコモンはしなやかな動きでかわしていく。

 ドルガモンに進化したことで力は増したが、相手は素早さで優っている。

 

「それに、狡猾だこと! さっきから火の玉が狙ってきすぎやしませんかね」

「おほほ。策略家と言ってほしいわ」

 

 ずっとこっちを見ているのも不気味だっての。しかし、奴の狙いは僕というよりは……

 予測の域を出ないが、狙う理由もわからない以上このまま撃退を狙うしかない。炎を操る相手である以上、サラマンダモンには進化できないな。

 

「ドルガモン、風をつかえ!」

「わかった――はあああ!!」

 

 ドルガモンが強く羽ばたき、あたりに突風を起こす。ヨウコモンもそれで動きが止まり、体が硬直する。

 僕たちはすぐさまドルガモンの背に乗り、屋上から離脱した。

 

「――な、逃げるんかえ!?」

「こんな狭いところじゃ不利だからな! ドルガモン、あの場所で迎え撃つぞ」

「と、飛んでる!? 空飛んでる!?」

「マキナしっかりつかまってろよ!」

「う、うん」

 

 マキナを抱えて、僕らは再びあの場所へと降り立つ。

 ダークリザモンと戦った場所、第六台場へと。

 

「やっぱ追いかけてくるよな」

 

 顔を上げれば、ヨウコモンが空を走るように飛んできていた。ほどなくして地面に降り立ち、こちらを睨んでくる。殺気もきているし、こりゃ怒っているな。

 だけどこちらもただでやられるわけにはいかない。

 

「焔玉!」

 

 炎の塊が僕らめがけて襲い掛かってくる。マキナは頭を抱えて身を縮ませるが、僕らはそれに真正面から向かい、迎え撃つ。ドルガモンがとびかかる――前に僕が右手を突き出し、魔力を循環させる。

 いつもの通りに、術式を構築してこの場における情報を書き換えていく。

 

(ウォール)!」

 

 炎の塊と壁がぶつかり合い、データの火花が飛び散っていく。持って三秒。その間に僕はマキナを抱きかかえ、横へと飛ぶ。

 そして、ドルガモンは上空に飛び上って急降下を行い、ヨウコモンへとめがけて突撃する。

 

「なっ――ただの人間が異界の術を使うだと!?」

「隙だらけだよ!」

 

 急降下からの蹴り。ドルガモンの一撃がヨウコモンに決まり、ヨウコモンは弾き飛ばされる。

 もちろんこれで倒せたとは思えない。次の攻撃に備え、すぐに術を起動できるようにしておく。

 どこから来るのか――しかし、流石にこれは僕も予想外だな。

 

「あちっ!?」

「全体攻撃かよ……」

 

 僕らの周囲が炎の円を作り、迫ってきた。流石にこれはまずいとドルガモンの背に乗り飛び上がってもらうが――地面に集まった炎が龍の形になり、追いかけてきた。

 

「マズイなこりゃ」

「どうするのカノン?」

「短期決戦しか、ないだろ!」

 

 炎めがけて突っ込む。そして、当たる直前でドルガモンは体を回転させて炎の周りをグルグルと螺旋を描くように飛行する。

 以前、サラマンダモンの時に使った動きを体で覚えていたんだろう。軽やかに攻撃をかわし、ヨウコモンへと肉薄する。

 

「なっ――」

「生憎と、この程度なら前に戦った奴らの方が強いよ!」

 

 至近距離から鉄球を放つ。すでにチャージが完了しており、強力な一撃がヨウコモンに炸裂した。

 断末魔をあげる暇もなく、ヨウコモンは炎に包まれて消えていく。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「ふぅ……なんとか撃退出来たかな」

「そうだねぇ」

 

 ドルモンも肩を回し、ふぅと一息ついていた。

 あとは、おそらくあいつが襲ってきた原因だけど……

 

「なあ、マキナ……やっぱり話せないか?」

「…………ごめん、なさい。わからないの」

「そっか……なら仕方がないか」

 

 おそらくは彼女を狙ってきたのだろうが……理由がわからない以上、何もできない。

 まあ一つ気になっているものがあるからそっちを片付ければいいのか。

 

「じゃあその薬莢は? デジモンに関連するものだと思うけど」

「このペンダントのこと? 気がついたら首から下げていたからよくわからない……それに、デジモンって?」

「デジモンを知らない?」

 

 それに、気がついたらって……記憶喪失なのか?

 いぶかしむ僕の視線に気が付いたのか、マキナはすぐさま訂正してくれた。

 

「ウチ、体が弱くて病院にいたんだ。でもこうやって自由に動けるようになってはしゃいでいたらカノン君に会ったの。で、色々遊びたくなってトランプとか持ってきたんだ。だから、ペンダントもお母さんか誰かがお見舞いでもってきてくれたものだと思う」

「それにしては物騒な代物なんだけど」

「ぶっそう?」

「だって、それってピストルとかライフルの銃弾の――」

 

 と、そこで再び体中に悪寒が走る。

 マズイと思う暇もなく、黄色い炎が縄のようになりマキナの体を捕えた。

 

「うわあああ!?」

「マキナ!」

「なんで、確かに倒したはずだよ!」

 

 そう、手ごたえはあったし強さ的にもあれ以上はないはずだ。

 しかしヨウコモンは再び現れた。いや、現れたというには語弊があるだろう。

 

「ウグォオオオ……よくもやってくれましたなぁ…………キッチリ落とし前はつけてもらいますえ」

「テクスチャが、はがれている?」

 

 ヨウコモンの体のあちこちがまだらのようにテクスチャが剥がれていて、ワイヤーフレームが見えている。満身創痍なのは違いない。確かに倒せていたのだ。それでも執念で奴は起き上がってきた。

 目を血走らせて、マキナを捕えたまま放さない。

 

「マキナをどうするつもりだ! デジモン由来の物をもっているが、その子自体はなんの関係もないだろ!」

「関係ない? 本当にそう思っとるんか……くくく、偉い滑稽やわぁ」

「何がおかしい……」

「それに、この子もこの子や……まさか気が付いておらんとはおもいもしませんで」

「な、なに……ウチをどうするつもりなの?」

「なぁに――その体の中にある電脳核をいただくまでです」

 

 ――――電脳、核? しかしそれはデジモンにしかないはずだ。人間の彼女にあるはずがない。

 茫然とする中、ヨウコモンは言葉をつづける。

 

「まったく覚えておりませんようですが、この子は既に死んでおるんよ」

「う、うそよ……でたらめ言わないで!」

「本当は分かっておるはず。病室の中、外にも行けずに寂しく死んでいったことを」

「あ――ああ」

「友達もできずに、暗い暗い世界へ消えていこうとしたことを」

「やめて…………やめてよ」

「病気は治らなかった――――もう、この世の住人じゃないのにまださまよっているんとは悪い子」

「やめてぇええええええええええええええ!!」

 

 絶叫と共に、マキナの体が光を放出していく。

 体から電気がスパークし、あたりを照らすが――その体の中央に光り輝く球体の何かが見えた。

 

「――うそ、だろ」

「この子は死んだあと、魂が体に繋がれていた機械を通してデジタルワールドに迷い込んだんよ。あんさんならしっとるはずや――二体のデジモンが戦った日のことを」

「――――ッ」

「まさにそのタイミングで死んだこの子は、あの時の時空の歪みに巻き込まれた。すぐにこちらに戻ってきたけど擬似電脳核を手に入れてしまったがゆえにさまよい続けて――あんさんに反応して出てきたってことや」

「…………それで、マキナをどうするつもりだ」

「死人をどうしようが別にあんさんには関係のないこと。今ならみのがすえ」

 

 死人。マキナが……この数日の思いでは嘘だったのか。そう思うほどに言い知れぬ無力感が体を駆け巡る。

 ヨウコモンの背後に炎の輪が出現し――その先に空間のひずみが現れた。

 

「それでは――さいなら」

「いや――」

 

 死人一人いなくなる。別に世界には何の損失もない。もう戦わないと言っているのだから、無益な争いはここまで。すでに死んでいるのだから、マキナをどうしようとヨウコモンの勝手――――

 

 

 

 

「――――なわけ、ないだろうがッ!!」

「カノン君、助けて!!」

 

 彼女がそこにいて、助けを求めるのならば答えよう。

 たとえ死人だったとしても、この数日に築き上げた友情は決して、偽物などではないのだから。

 

「ドルモン!」

「ああ――いくよ!」

 

 体の内側から、光と共に卵型のオブジェが現れる。今度の色は青。炎を纏ったような前回とは異なり、電を纏ったような模様をしたデジメンタル。

 紋章とデジヴァイスが輝きだし、新たな進化をここに誕生させる。

 

「デジメンタル、アップ!!」

「ドルモン、アーマー進化!

 

 ケンキモン!!」

 

 今までの進化は生物を基にした姿だった。しかし、今度の姿は全く異なる。

 フォークリフトと大型ショベルの腕を持ち、足ではなくキャタピラを装備している姿。尻尾はプラグとなっているその姿はまさに機械(マシーン)

 

「ヨウコモンを引きずり出せ!」

「オウよ!!」

 

 頭の後ろについたクレーンを振り回して、ヨウコモンめがけて飛ばす。あっという間にヨウコモンの下へたどり着いたロープはぐるりと彼らを巻き取り、こちらへと連れ戻した。

 

「なっ――――アーマー進化だと!?」

「マキナを、放せ!!」

 

 電撃を拳にまとわせ、ヨウコモンを殴る。テクスチャが剥がれて弱っているのが見てわかる。僕の一撃でも、ヨウコモンは体勢を崩してマキナを落す。

 すかさず、マキナを抱き留めて離脱してケンキモンに任せる。

 

「おりゃぁ!」

「グぬ――負けぬ、負けられぬのだ!!」

 

 激しい攻防が続く。炎と重機の腕がぶつかり合い、轟音を響かせる。

 ケンキモンは力こそ強いが、スピードだと更に遅くなっているようだ。

 

「どうする……どうやってアイツを倒す」

 

 しぶとさなら今まで見たデジモンで間違いなくトップ。いったい何が奴をそこまで突き動かすのかはわからないが――やがて均衡が崩れた。

 流石に、限界が来たのかヨウコモンが倒れかけたのだ。その隙を逃さずにケンキモンが強力な一撃を浴びせる。

 

「どっしゃぁああああ!!」

「――――ガアアアア!?」

 

 吹き飛ばされ、木に激突してそのまま落ちていく。

 これならばもうやつは……いや、まだだった。

 

「まだだ――勝たねばならない。わらわはさらなる高みへ上るのだ。そのためには、そのおなごの電脳核を喰らわなければならない。よこせ、電脳核を寄越せぇえええ!!」

「他人を喰らってまで強くなろうってのか? そんなことをする前に、やることがあるだろうよ」

「黙れ! 貴様らにはわからぬのだ! 進化の過程で切り捨てられていく者たちの思いが――無念が!」

「だからって他人の思いを奪って強くなったって未来はない!」

「――――ふはは、はははははは! 消す。人間界とデジタルワールドのバランスなど知らぬ。イグドラシルもホメオスタシスも勝手に踊っていればよいのだ! いずれ、全てが取り返しのつかぬ事態となるだろう! どうせ滅びるのだ、今すぐに消し去ってくれる!!」

 

 バチリとショートする音が響いた。ヨウコモンのテクスチャがすべて剥がれ、まるで赤黒い龍のような姿となって空へと飛び上がる。

 それと同時に、嫌なビジョンが頭を駆け巡った。

 地上に落ちてくる赤黒い光。そして、街は炎に包まれて――――

 

「マズイ、アイツここら一体を焼け野原にするつもりだぞ!」

「でもオレたちのスピードじゃアイツには追い付けない」

「だったら――――追いついてみせるしかないだろ! ケンキモン、根性見せろ!!」

「……合点承知!」

 

 デジヴァイスが再び輝きだす。いつもの進化とはまた異なるが、不思議と次にすべきことが頭に浮かんだ。

 ケンキモンの背に乗るように飛び乗る。そして、ケンキモンの体が光に包まれていった。

 

「ケンキモン、スライド進化!」

 

 形が劇的に変化していく。アーマー体なのは変らず、同じ属性のデジメンタルのままだ。

 しかし、まったく別のデジモンへと姿を変えていく。大きな翼に、稲妻を模した鎧。

 

「サンダーバーモン!!」

 

 巨大な翼をもった鳥形のデジモンへと、その姿を変えたのだ。

 

「鳥になった……」

「いくぞサンダーバーモン! あいつを追いかけろ!」

「分かってるさ」

 

 大きな羽ばたきと共に空へと飛び上がる。今までのスピードなんて比じゃない。とてつもない速さで、高く飛び上がっていたヨウコモンのところにたどり着いたのだ。

 もう奴の顔は見えない。しかし、驚愕したのは分かった。

 

「――――ッ」

「勝手な悪意で無茶苦茶にしようってんなら、自分が破滅する覚悟ぐらいできているんだろうな」

「――――」

 

 往生際悪く、奴は焦りを見せて逃げ出そうとした。

 ……後追いするべきなのか否か。それは分からないが――勘がつげた。こいつは狡猾に執拗に狙い続けるだろう。そして、最後にはすべてを巻き込んで多くの命を消し去ると。

 

「サンダーバーモン!」

「サンダーストーム!!」

 

 雷撃が奴を消し去っていく。執念深く、生き延びようとする奴であったが――もう、再生もできなかった。

 数秒もすればデータは崩れ、粒子となって消えた。こうしてヨウコモンというデジモンは姿を消し、月下の戦いは幕を閉じるのであった。

 




マキナについては次回で。


アドベンチャーの物語には黒幕がいますが、tryより前にそいつはすでに倒されている。
となると、tryの黒幕って一体誰なのか。02で倒されないまま消えた奴なのか……さあ、どうなるのか。


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12.また会う日まで

とりあえず一区切りです。


 結局、終わってみるとあっけないものである。しかし僕の心中には苦いものが込み上げてきている。

 今まで戦ったデジモン、もしくはそれに類するものはどこか邪悪さというかこのまま生かしておくのはいけないというのがなんとなくわかったのだ。

 最初のワイヤーフレームのアイツは生き物とすら呼べないプログラム体であり、その後ろに何らかの悪意を感じた。

 ダークリザモンにしても似たような感じであり、マーメイモンは内部にそのままにしておけない何かがあったし、別の要因でデジタマに戻った。

 だけど今回は別だ。自分たちの意思で、アイツを消してしまった。

 

「カノン、大丈夫か?」

「うん……なんていうかこれで良かったのかなって」

 

 地上に降り立ち、サンダーバーモンからドルモンへと戻る。

 さっきから頭が回らない。本当にこれで良かったのか。そんな疑問が浮かんでは消える。

 そして、まるで暗い闇の底に意識が落ちそうになって――――

 

 

 

「カノン君、ありがとう」

 

 

 

 ――――彼女の一言で意識が浮上した。

 涙を浮かべて、僕の両手を握ってきている。まるで氷のように冷え切っていた僕の体が熱を取り戻していく。

 僕が言葉を発せずにいると、マキナはゆっくりとだが言葉を紡いでいく。

 

「ウチ、怖かった……このまま消えてなくなっちゃうんじゃないかって、すごく怖かった」

 

 その手には確かに熱があった。

 だからこそ、アイツの言葉は今でも信じられない。だけど……それはすぐに否定される。

 

「それに、思い出したんだ。ウチは本当に死んだんだって」

「でも――たしかにこうして体が」

「今なら、わかるよ…………あの時、どこか遠い所に行った後、学校の中にいたんだ。たぶん学校に行ったことが無かったから行ってみたかったんだと思う」

 

 そう言うと、マキナの体が一瞬ぶれて――二の腕のあたりにノイズが走り、0と1のデータの羅列に変化した。

 

「なっ――」

「カノン君の近くにいるとね、こうやって元気な体を作れたんだけど……もう、限界みたいだね」

「うそだろ……これって」

「カノン、マキナからデジモンのにおいがする。それも二つ分」

「二つ?」

 

 一つはおそらく、ヨウコモンが言っていたマキナの電脳核だろう。

 だが、もう一つは? と、そこでデジモンに関連するものをマキナが身に着けているのを思い出した。

 そう……彼女が首から下げている薬莢だ。

 

「――――流石に、潮時か」

「そっか……夢じゃなかったんだね、クダちゃん」

「クダモンだ。橘カノン、ドルモン。お初にお目にかかる」

 

 薬莢の中から、小さなデジモンが姿を現した。白い色の小動物型のデジモン。今まで見たデジモンとは異なりどこか神聖な空気を纏っている。

 悪いデジモンではないのは分かるが、それだけに意味が分からない。なぜ、彼女が危ない時にも姿を現さなかったのか。

 

「私はイグドラシル直属の者だ。といっても、君らは詳しく知らないようだが」

「デジタルワールドの神様みたいな存在って認識しているけど、間違っているのか?」

「似たようなものだ。我々の世界の管理者であるからな。まあ今となっては意味がないが」

 

 それはどういう事だろうか? しかしクダモンはその問いには答えずに簡潔にマキナについてだけ答える。

 

「私は擬似電脳核を宿してしまったマキナの監視の任務を与えられている。最初、彼女と会話したこともあるのだが……マキナは君に出会うまで不安定な存在だった。ゆえに、今の今まで私との出会いや魂だけになったことさえも忘れていたのだ」

「……だとしても今の今まで黙っていた理由になるのか?」

「私は過度な介入を禁止されていたのだ……それに、マキナの電脳核が悪い方向へ進化しないとも限らなかった」

 

 進化――それはつまり、マキナは……

 

「ああお察しの通り。人間というよりはデジモンに近い存在だろう。君の力に当てられて人の側に近づいたがな」

「僕の力って……僕に一体どんな力があるって言うんだよ」

「……君を見つけたのはホメオスタシスだからな。私も特殊な何かがあるとしか言えない。デジメンタルをその身に宿す時点で、異常なことだとは思うが…………自覚はしているんだろう」

「…………ハァ。わかってるよ、僕が何らかの例外というか特殊な何かがあることは」

 

 でなきゃこうして次々に厄介ごとがこないっての。お隣にもう一人特殊な何かを持っている人がいるけどね……前はそっち狙いの奴らだったし。

 というより、僕狙いで現れるデジモンって今までいたっけか?

 

「成り行きでおかしなことにはなっているけど、僕自身が直接狙われたことってないと思うけど?」

「いや。今は安定しているから大丈夫だが……君もかつては危うい立場だったよ」

「……そんなことあったかな」

 

 何だろう。なんか記憶にもやがかかっている……

 

「話を本題に戻そう。私自身もマキナを見ていて助けたいと思っていた…………個人的には彼女に好感を覚えるからね」

「……でも、助けなかった――――いや、もしかして攻撃能力が無いのか?」

「監視のため、私の存在は隠ぺいされていたからね。干渉がほとんどできないように封印されていたんだ。できるのは連絡ぐらいだ」

 

 どこか悔しそうに、クダモンは歯を食いしばる。

 その言葉で安心した。マキナは感極まったのか、クダモンを抱きしめてしまう。

 

「ま、マキナ!?」

「……ずっと見ていてくれたんだね」

「私は、君を監視していたと言ったはずだが?」

「ううん……だって、ずっと暖かったもの。カノン君と会うまでウチがウチでいられたのはクダちゃんのおかげだよ。一人になっても不思議と怖くなかったんだ。誰かと一緒にいるみたいで……しゃべれないのは寂しかったけどね」

「マキナ……」

 

 泣いて、笑って、誰かを大事に思う気持ちがあって……これのどこが死んだ人間だと言うのだろうか。感情を持って、今ここにいる。僕たちと何の違いがあるというのだろうか。

 ああ、僕は彼女を助けてよかったんだ。心からそう思える。それでも僕たちのエゴでヨウコモンを撃破したことは変わりない。だったらそのことを受け止めよう。

 

「ドルモン……迷いは吹っ切れたよ」

「うん。大丈夫――カノンは強いから」

 

 きっときっかけはこの時だった――僕はもう迷わない。善や悪とかよくわからないけど、全てを受け入れて先へ進もう。どんな運命が待ち構えていようとも、きっと乗り越えられるから。

 淡く、紋章が輝きを放つ。輝きとしては小さいものだったし、この時は誰も気が付いていなかった。だけど、それが小さくも大きな一歩だった。

 と、話はそこで終わればきれいに終わったのかもしれない。でも、何の解決もしていない問題が一つ。

 

「さてと……それじゃあウチはもう行くね」

「え――どういうことだよ」

「やっぱりさ、もう死んじゃっているのにこの世界にいていいわけが無いって思うんだ」

「…………マキナ」

「大丈夫。ちゃんと行くべき場所に行くだけ。元あるべき姿に戻るだけ――だから、そんな悲しそうな顔をしないで」

 

 彼女は覚悟を決めた顔で、僕を見る。何故と思うと同時に理由が分かった。

 

「もう、限界なのか?」

「うん……やっぱり、本当に体があるわけじゃないからこうやって崩れちゃったんだ。あとどのくらいもつかはわからないし、もう行かなきゃ」

 

 にっこりと笑い、マキナは一歩僕らから離れる。ほんの一歩の距離。だけど、僕にとってはこの距離がもう取り返しのつかない距離なんじゃないかと思えるほどに遠く感じた。

 すると、マキナは困ったような顔をして口を開く。

 

「最後に、一つお願いをしてもいい?」

「……なんだ」

「カノン君、いつも笛をつけているからさ。一度でいいから聴いてみたいんだ」

「ああ、わかったよ」

 

 パンフルートを取り出し、頭に浮かんだ楽譜を演奏する。

 それに合わせて、マキナが言葉を――いや、メロディーを紡ぐ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 演奏が終わり、別れの時間がやってきた。

 名残惜しいが――もう行かなければいけないのだろう。

 

「……それじゃあ、またね!」

「――――」

 

 マキナは最後に、それだけ言い残して去って行った。まるで、世界に溶けるように消えていき――あたりには静寂が戻る。

 結局、友達が出来たんだか出来なかったんだか……

 

「カノン、きっとまた会えるよ――カノンの最初の友達と」

「何言ってんだよ――最初は、お前だろ」

「……ありがと」

 

 空には星が浮かんでおり――やがて、街が光りを放ち始める。どうやら、停電が起きていたようだ。どうりでデジモンが空を飛んでいたというのに騒がしくなかった――いや、デジモンの影響で停電を起こしてしまっていたというべきか。

 そんなことにも今の今まで気が付かないとか切羽詰っていたみたいだ……

 

「またね、か……そうだよな――きっとまた会える」

 

 信じ続けていれば、きっと……

 

 ◇◇◇◇◇

 

 初めて出来た友達と別れた。強がりを言っちゃったけど、本当はもっと話したいことがたくさんあったし、遊び足りないし、未練たらたらである。

 ……ふと思うが、ウチはこのまま消えてしまうのだろうか。

 

「それはちょっと、嫌だなぁ」

「……何を勘違いしているか知らないが、私は別にマキナは消えなくてはならないとは言っていないぞ」

「でも、こうして体が崩れているし……」

「ああ崩れている。リアルワールドで体を保てていたのは単にカノンから漏れ出していた力をお前が吸っていたからに過ぎない。限度もあるし、お前が自分の存在を死んだものとして自覚したからこうして崩れたのだ」

「え、でも――」

 

 ウチは思い出した。最初にクダちゃん――クダモンと出会った日のことを。

 あれは死んですぐ後だ。どこかわからない森にいたウチの目の前に出てきたクダモンはいきなり「魂だけでさまよっているのか……電脳核まで形成しているな」って言い出したんだっけ。

 

「そうだ。だが私は君が死んだとは一言も言っていないぞ」

「……あれ?」

「肉体という面で見れば確かに死んでいるのだろう。だが、偶然が重なったこととはいえ電脳核を得たことで魂が死んだわけではないのだ。さらに言えば、橘カノンの力を微弱ながらも取り入れたことでお前の電脳核は特殊な変化を遂げた……だが、お前自身の意識がまだ定まっていないからこそ、体が崩れている」

「……ウチはまだ死んでないの?」

「きわめて特殊な形だがな。それに、まだ半死半生といった方が良い。きちんとした形を手に入れるにはお前自身が頑張らなければならない……そのために私が力を手に入れるための場所へといざなおう」

「…………そっか、また会えるんだ」

「それは君のがんばり次第だ」

 

 クダモンはそう言うと、にっこりと笑う……なんだか素直じゃないの。

 

「でも、クダモンはなんでウチについてきてくれるの?」

「まあ私も帰る場所はなくなってしまったみたいだからな。それに、存外君と一緒にいるのも悪くない」

「そっか……ありがとね。でも、帰る場所って……イグドラシルって人はいいの?」

「人ではないのだが…………それについてはまた今度にしよう。まずは、このゲートの先へ向かう」

 

 クダモンは寂しそうというか、飽きれているというか……不思議な表情で溜息を吐いた。イグドラシルがどうかしたのだろうか?

 ……そういえば、どこに向かっているのだろうか? なんとなく消えようかなぁなんて思ってみたけど変な場所にいるし。

 

「ここはいわば時空のはざまだ。色々な世界の間にある異空間というべきか。君が向かうべき場所へは私がルートを知っている。私たちの住んでいる場所とは違うデジタルワールドへ向かう」

「デジタルワールドっていくつもあるの?」

「ああ。一般のデジモンは知らないことだが……私たちがこれから向かうのは、ウィッチェルニーという世界。魔法使いの世界だ」

「ま、魔法?」

「そこに行けば、君が自分の力で自分の存在を確立する術を身に着けられるだろう」

 

 こんな時だけど、ウチは魔法使いの世界と聞いてワクワクしてきている自分を感じていた。

 不安もある。それでもこのワクワクは止められない。まだ見ぬ未来がある――未来があるだけでウチは頑張れる。

 だから、また会おうねカノン君。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 話にオチをつけるならば、また母さんに怒られたことだろうか。帰ったのは夜中だったし……まあ僕の表情から何かを察してくれたのか小言もそこそこだったけど。

 それに今回はほとんど怪我をしていなかったことも大きい。停電の理由もなんとなく察してくれたらしく、追及は無かった。

 だから、その次の日の話を語ろう。

 それは太一さんがおたふくか何かになったらしく、ヒカリちゃんを少し家で預かることになったんだけど……思わず僕がつぶやいた一言だ。

 

「結局、人間の友達は0か……」

「? わたしはカノン君の友達じゃないの?」

「……ありがと」

 

 後日、光子郎さんに僕らって友達ですかねって聞いたけど……「ボクは友達だと思っていますよ」って返してくれた。別に嘘は言っている様子はないし、同じ話題で話せる同年代の子供はお互い、大切だと思っている。

 結局のところ、僕の方の問題だったのだろう。別に無理して周りに合わせようとは思わないし、友達も少ないけど――この時以来、普通に外で遊ぶようになったし周りと会話できるようにもなった。

 

「…………次に会ったときは、お礼を言わないとな」

「カノーン! ボール行ったぞー!」

「オーライ!」

 

 ――またいつか会おう。

 




あと少しで原作に入りますぜ旦那。

タグの追加をどうするか悩む今日この頃。


ドルモンを育てたいなとペンデュラムエックスの現在の値段を見たけど……手が出ねぇ…………
リンクスは始めると歯止め効かなくなりそうなので避けております。

…………中古で最近のデジモンゲームをどれか購入しようかと検討中。密林も半額ぐらいになってたし。


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13.安息の日々

繋ぎ回。普段こんなことしていますという感じで。


 マキナとの別れから力のコントロールが向上したのか、不穏な気配はなくなったようである。

 あれ以来、デジモンが現れることもなく平和そのものだ。

 予感として感じ取った時期まで何事も起きなければいいとつくづく思う。

 そして、これはただの普通の日常の物語。

 

 ◇◇◇◇◇

 

〇特訓風景

 

 ヨウコモンとの戦いを経験して、僕自身のレベルアップも必要だと痛感した。

 まだまだ魔術に改良の余地がある以上、努力を怠るわけにはいかないのだ。というより、成熟期相手でなんとか実戦に使えるレベルだと心もとないものがある。

 

「特訓って言うわりにはずっと机に向かっているよね」

「まあデジモンの魔術はプログラム言語で書くからなぁ……パソコンの画面に文字とか羅列が動いているシーンの映っているドラマとか見たことあるか?」

「そういえばこの前の特撮でやってたね」

「相変わらず特撮好きだな……簡単に言うと、僕が使っているのはアレだな。何もない所に壁があると言う風に上書きするためのプログラムを作っているんだよ…………条件設定とか面倒だし、根本的に別の作り方を模索しているんだけどね」

 

 これがなかなか上手くいかない。原理というか近いものでデジモンの技があるが、アレは本能的にやっているみたいだし……

 壁とか物質的な感じじゃなくて、もっとエネルギー体をそのままバリアーみたいに構築できる方法を考えた方が良いかもしれない。

 

「身体強化の方は上手くいくんだけどなぁ」

「前にやっていた電気が出てたあれは?」

「…………あー、あれはもういいや」

「?」

 

 電気の発生と着弾地点の指定で雷を簡単に落とせた時点で、危険すぎるからあまり手を出したくないのだ。

 もうちょっと被害が大きくならない利用法も考えているのだが……相性が良すぎるのも考え物である。

 

 

 新しいコードが書きあがれば、あとは実戦してみる。上手くいかないときはその都度修正し、望み通りの性能を出すまで繰り返し実戦あるのみだ。

 これまでのことで防御手段がいかに大事かは分かっている。だからこそ、こうやって色々と試してみているのだが……

 

「うーん、牽制用に魔力弾みたいのも作っておくか?」

「おれが言うのもアレだけど、カノンってどこを目指しているの? 本当に人間?」

「……自分でも自身が無くなってきたからやめてくれ」

 

 おそらくは母方の血のせいだと思う。母さんも大概だし。

 とりあえずは成果もそこそこにこうやって日々開発と習得を行っている。

 筋トレ? 小学生じゃどうあがいても普通に鍛えたところであまり意味がない。身体強化をかけ続けて負荷に耐えられるようにするだけでかなり強化されているから大丈夫である。

 

 

 

 

〇隣のヒカリちゃん

 

 唐突だが、八神ヒカリという女の子について語ろう。

 太一さんとは異なりデジモンと出会ったことを覚えており、何らかの特殊な力を宿していると思われる。マンションの隣の部屋に住んでいるので、何かと遊んだりと家で預かったりなど多いので色々知っているのだが、時折僕もよくわからない部分がある。

 辛くても人に言わないで自分でしまい込むというのは、性格的に分からなくもないのだが……

 

「だからって熱が出ても何も言わないってのもなぁ」

「? どうかしたの」

「いやこっちの話……ドルモンもなんで腹をなでられてんだよ」

「なんか気持ち良くて」

 

 流石に生死の境をさまようまで我慢するってのはどうなんだよ。いや、僕も人のこと言えないんだけど。

 あと、その撫でテクは自分ちのミーコによって培われたのだろうか……

 

「カノン君、いつもパソコンいじっているけど怒られないの?」

「いや別に……いつものことだし」

「でも、お父さんとかが使えなくて困らない?」

「……ああ、そういうこと。大丈夫だよ。これ僕のだから」

「――――え」

 

 初めてヒカリちゃんが面白い表情をするところを見た。そういえば、この子も年齢の割には頭良すぎるよな……太一さんを見てみろ。リーダーシップを取れたりとかスゴイなと思う時もあるけど、基本的に普通だから。

 しかし、すぐにヒカリちゃんも納得したのかドルモンをなでる作業に戻る。

 

「気持ちいい?」

「うへぇ」

「……ドルモン、だらしない顔すんなよ」

 

 下ベロを垂らして……お前は犬か。

 しかし改めて考えると、この子についてもよくわからない。

 ワイヤーフレームのアイツとダークリザモンはおそらくヒカリちゃんの内にある何かを狙っていたとは思うんだけど……しかし最近はデジモンも襲ってこないし、結局確かめようがないわけだけど。

 今思うと見間違いという気さえしてくる。

 だけど……見間違いじゃないというのなら、あの時ドルモンに進化することができたきっかけって……いや、ドルガモンの時だって影響はあったと思う。

 

「まあ考えても仕方がないことかな」

「そういえばカノン君は他にデジモン見たことあるの?」

「あるけど……あんまり人に話すようなことじゃないしなぁ…………いや、アイツがいたか」

「アイツ?」

「バステモンって言ってな、ヒトみたいな見た目のネコのデジモンで……ヒカリちゃん? なんで機嫌悪そうなの?」

「よくわかんないけど、その名前を聞いたらなんとなく」

 

 …………なぜ機嫌が悪くなるのか、わけがわからない。

 しかし、どうも本能的な部分というか何かがバステモンに対して拒否反応を起こしているらしい。

 いったいなぜなのか……あんまり突っ込んでもアレなのでこの話題はここで打ち切ろう。

 

「また、コロモンに会いたいな……」

「会えるさ、きっと」

 

 まあ普段はこうして、普通の子供だし。

 色々と見ていて心配な部分も多いし、聡明ではあるけど……ただの女の子だと思う。

 とまぁ……そこで話は終わっていれば綺麗だったんだろうなぁ…………

 

「それじゃあ、お兄ちゃんが帰ってきたから戻るね」

「お、おう……」

 

 …………何の音も聞こえなかったのに、なんでわかったんだろうなぁ。

 

 

 

 

〇ドルモンの一日

 

 普段カノンが学校に行っている間、ドルモンが一日何をしているのかを追ってみよう。

 

 朝。まずはカノンが起床する。その間ドルモンは眠ったままである。

 その後、カノンが朝食を食べ終わり着替え始めてもまだ起きない。

 カノンが学校へ行く前に忘れ物が無いかチェックしている間にようやくドルモンが起床し、あくびと共に挨拶をする。

 

「ふわぁあ……おはよう」

「はい、おはようさん。相変わらず起きるの遅いぞー」

「別に普通だと思うけど……今日はベーコンエッグか」

「……お前、本当ここでの暮らしに慣れたよな。案外デジタルワールドも変わらないのか?」

「さぁ?」

 

 ドルモンはそう言うと、見た目とは裏腹に器用に箸を使って朝食を食べ始める。

 カノンはもう慣れているが、改めて考えるとこれはいいのだろうかと疑問に思い始める。こう、色々な法則に喧嘩を売っているような気がして。

 

「カノンー、遅刻するわよー」

「時間もないか。それじゃあ行ってきます!」

いっふぇらっふぁい(いってらっしゃい)

 

 もぐもぐと、ちゃんと咀嚼しながら朝食を食べ進める。見た目とは裏腹に綺麗な食べ方をするものだから、奇妙なシュールさを演出していた。

 ほどなくして食べ終わると、箸をおいて手を合わせる。

 

「ごちそうさまでした」

 

 その後は食器を流しに持っていき、水に浸ける。

 のっそのっそと歩いていき、流れるような動作でテレビのスイッチを入れた。

 

「この時間は何がやってたかなぁ」

 

 人間の文明の利器を熟知した思考。しっかり新聞のテレビ欄をチェックしつつ、面白そうなテレビ番組が無いか探している。

 ちなみに、教育テレビやニュース、趣味の特撮などとみているものは幅広い。

 

「あ、パパさん映ってる」

「あら本当……何か発掘でもしたのかしらねー」

「パパさんって……何の教授だっけ」

「さぁー?」

 

 趣味の民芸品集めなどもあって、他の分野の知り合いも幅広いためやっていることが多岐にわたっているため家族のだれも詳しいことは知らないのである。

 カノンが大まかに聞いたことがある程度で、詳しくは知ろうとは思わない二人が適当に済ませるのも無理はないことだ。興味がわかない上に、理解はできないのに聞きたいとは思わない。

 

「お寿司でも取ろうかしらー」

「この前も取らなかった?」

「そういえば、そうだったわねー……えっと、あの時はー」

「結婚記念日」

「そういえばそうだったわねー」

「……言わせたでしょ絶対」

 

 ドルモンは溜息をつくと、やれやれと言った表情で部屋に戻る。お目当ての番組は特になかったらしい。

 

「今度はピザの方が良いと思うけど。あと、パパさん帰ってくるまでしばらくかかるんじゃない?」

「あー、そうねー」

「急にテンション下げないでよ」

「だってマイダーリンが帰ってこないんだものー」

 

 マイダーリンって……思わず口から出そうになったドルモンだが、それを言うと面倒になるのは目に見えていたので呑みこむ。

 こういう時はスルーが一番と学習しているのだった。

 部屋に戻ると、適当に漫画を一冊取り出し読み始める。ちなみに、買ったのはカノンである。別段漫画やアニメに興味が無いわけでもなく、普通にいくつか部屋に置いてある。

 ゲーム機も置いてあるあたり、部屋だけ見れば普通の子供と何ら変わりはない。一部区画(パソコンや専門書籍の数々)を除けばだが。

 

「……うーん、読みつくした感じがあるんだよねぇ」

 

 流石に何度も読んだからか、飽きが出てきた。

 となると、暇をつぶせる物はあと一つとなるわけだが……

 

「チャレンジするべきか――ショートカットなしで制覇を」

 

 ドルモンが挑もうとしていたのは、横スクロールというよりテレビゲームで最も有名な存在であろう一本。赤い配管工を操って姫を助けに行く名作である。

 ショートカットの裏技などもあるが、それらを一切使わない場合は意外と時間がかかる……その挑戦が今まさに、始まった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「ただいまー」

「おかえりー。手を洗ってドルちゃん呼んできてー」

「…………母さん、何やっているんだよ」

「ホットケーキ焼いているのよー?」

「それはいいんだけど……椎茸をトッピングするのはやめてね。人参とか野菜入りなのは別にいいから」

「椎茸体にいいのにー」

 

 物事には限度がある。そう言い残し、カノンは手を洗って部屋に入ると――そこには、やりきった顔で倒れているドルモンの姿があった。

 

「いったい何をしていたんだよ……」

 

 そんな風に、ドルモンも色々なことをして日々を過ごしている。

 基本的に家から出られないので、家で暇をつぶしていることがほとんどではあるのだが。

 

 

 

 

 

 こうして、穏やかな日々は過ぎ去っていく。

 そして三年の猶予は終わった。話はカノンが三年生になった後、ゴールデンウィークのことだ。

 世界中で異常気象が発生し始め、カノンの予感が間違いではなかったことが分かり、テレビ中継でみた影が否応にも異常の中心に何があるかを実感させる。

 

 異常気象が起こる場所には、デジモンのような影が現れ始めていたのであった。

 




別に息抜きをしていないわけでもない。

しかしドルモンが……どこかの腹ペコみたいになってしまうんじゃないかと。


あと、やっぱりヒカリさんはブラコンの方が似合いますね(オイ


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14.1999年の始まり

ようやく時系列が原作に近づいてきた。
改定前をみていると、色々未熟だったなぁと……


 1999年、5月のことだ。

 世界中に異常気象が発生し始めていて、3年前に感じた予感が本物だというのがわかり、これからどうするかなと考え始めた今日この頃。色々と母さんにお小言というか話し込まれていた朝のことである。

 一応、やることは決まったけどすぐには動けないから家でニュースを見ていたのだが……

 

「なあドルモン……あれ、どう見えるよ」

「デジモンだと思うけど……なんかノイズが走っているね」

「お母さんには良く見えないー」

 

 異常気象が起きているポイントで、デジモンのような影が見えている。ただ、ハッキリとその影が見えているのは僕とドルモン。あと、ヒカリちゃんも見えているって言っていた。

 父さんと母さんはデジモンの存在を認識しているからか、なんとなく何かがいるような感じはするらしいけど。

 父さんの見解では妖精を見ることができるのは子供だけという言い伝えのように、感受性の高い子供だからこそ見えるのではないかと言っていたが……別の条件があるようにも思える。太一さんや他の子供は見えていないみたいだし。

 

「カノンー、そろそろ迎えが来るわよー」

「分かってる。ドルモン、移動するから退化しておいてくれ」

「オッケー」

 

 今はゴールデンウィーク。この期間を利用して異常気象の現場に行くつもりだ。まあ、流石に一人じゃいけないから父さんと一緒にだけど。

 というわけで、父さんが車を用意してきたみたいなので駐車場まで来た――のはいいんだけど、なにこれ?

 

「父さん、このゴツイ車は何?」

「装甲車みたいなものだ。法律もあるから、一応一般の車の範疇だがな」

「……どこで調達したんだよこんなもの」

「なに。色々なコネがあるだけさ」

 

 そのコネを一度詳しく聞いてみたいものである。

 っていうかそういうコネは母さんの領分だとおもうんだけど、そこのところどうなの?

 

「母さんのコネを使うと――本物の戦車が来るが、それでもいいのか?」

「だからあの人何者だよ」

 

 そこのところ一度詳しく――いや、やっぱりいいや。世の中には知らない方が幸せなこともあるのだから。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 異常気象自体は世界各地で起きており、季節感がおかしなことになっている。農作物とかの被害とか大丈夫かな……早いところ何とかしないといけないかもしれない。

 とりあえず近場のポイントに向かう間に、ノートパソコンを開いて今まで集めたデータを整理する。なにかわかるかもしれないし……

 

「万里の長城に、イースター島……こっちはモンサンミシェルかな」

「やはり、名所や史跡はすぐに画像が集まるみたいだね。しかし……デジモンたちはいったい何の目的でこの世界に現れているのか……」

「うーん……」

「どうかしたのかい?」

「いや、異常気象のあるところに現れるデジモンって、本当にデジモンなのかなって」

 

 なんというか、意識が無いように見えるというか……デジモンの形をしているだけで、まったくの別物というか。

 たとえば、砂漠に雪が降っている画像があるが、その中に雪だるまのような姿のデジモンが見える。ノイズが走っているというか、妙に現実感のない姿だが。

 他には赤い恐竜のような姿のデジモンや、炎で出来た体を持つ人型のデジモンなども確認した。それぞれの場所の異常気象と同じような属性を持っているようにも見えるし……

 

「やっぱり、何かの歪みがデジモンの形になっているだけでデジモンそのものには思えないんだよね」

 

 なんというか、現実味がない。それにすぐに消えているし……

 実体が存在しない虚像なんじゃないか?

 

「考えるのは良いが、ついたぞ」

「意外と近かったね……ここは、紅葉か」

 

 葉っぱがすっかり赤くなって……ちょと肌寒い。

 基本的には季節通りの気候なんだけど、世界各地でものすごい異常が起きるのだ。

 車から降り、紅葉の木々の中を歩いていく。人はいないみたいだし、ドリモンもドルモンに戻ってもらった。

 父さんのついてきているけど……危なくなったら大丈夫だろうか。

 

「別に心配しなくても平気だ。危険だと判断したらすぐに下がる」

「息子を守る、ぐらいのことは言ってほしかったんだけど」

「お前が守られるようなタマか。それに、邪魔しない方が安全だろう」

 

 まあ、自分の身を守る手段はあるからね。

 自分でもヒクぐらい色々と習得しちゃったし。

 と、無駄話もそこそこに目的というか探していたモノが見つかった。やはりノイズのような姿をしたデジモン、見た目は枯れた樹に手足が生えたような姿。その眼には意思が感じ取れず、ただじっとそこに立っている。

 

「ドルモン、このデジモン知っているか?」

「たしかウッドモン。成熟期だね」

 

 成熟期か……何もしてこないのなら観察だけにとどめようかと思っていた、次の瞬間だった。ウッドモンが突然、巨大な腕を振り上げてこちらに突進してきたのは。

 

「ッ!? いきなりかよ!」

「カノン!?」

 

 とっさに魔法陣を展開し、攻撃を受け止める。しかし衝撃はものすごく、吹き飛ばされそうになってしまう。だが、僕は一人ではない。ドルモンが奴の横っ腹に突撃して弾き飛ばしてくれた。

 すぐに体勢を立て直し、距離をとる。少し後ろを見ると――父さんは既に避難していた。

 

「早いよ!?」

「ふむ、奴が動くと同時に周囲の電柱がスパークしているな。電力を供給しているのか――電子機器がある場所に出現しているともとれるが、範囲などの条件も不明。こうなると地球上に安全地帯はないのかもしれない」

「冷静に分析していないでくれますかね」

 

 こうなると倒すしかないか……昔戦ったワイヤーフレームさん以上に意思を感じないし、やっぱり現象にしか思えない。なんといえばいいのだろうか、データのバグとかノイズがこの形に固まっているというかなんというか…………

 しかしそうなると、言うなれば悪性情報の塊だけでもダメージを与えられるということになるわけだが――――

 

「――――ん? 悪性情報の塊?」

 

 一瞬、思考がそれる。頭の中でジグソーパズルの最後のピースがそろったように、パズルが組みあがっていく。足りなかった情報が書き足され、ようやく完成形へと昇華する。

 しかし、ここは戦いの場。その隙を逃さずウッドモンが迫る。と、同時に首が引っ張られた。

 すぐにドルモンが僕の首根っこを捕まえて距離をとってくれたため、奴の攻撃は当たらなかったが……

 

「カノン、よそ見をしない!」

「悪い。助かった……」

 

 しかしおかげで距離が出来た。

 奴との相性的にはサラマンダモンが一番なのだろうが、周囲に燃え移りそうだしやめておくか。

 

「ドルモン、アイツはそこまで強くないとみた! ドルガモンで行くぞ!」

「ドルモン進化――

 

 ――ドルガモン!」

 

 進化が完了し、ドルガモンはウッドモンに突撃する。体格差もほとんどなく、パワーだけで見ればこちらが勝っている。

 しかしウッドモンの方は痛みを感じないようでドルガモンの爪で切り裂かれようとお構いなしで前に突っ込んでくる。さすがに、ドルガモンも奴が組み付いてくる状態では攻撃しにくいみたいだ。

 

「コイツ、不気味!」

「ドルガモン――下がれ」

 

 それだけ言うと、ドルガモンは尻尾を振り回してウッドモンにぶつけてその反動でこちらまで下がる。

 ウッドモンにも隙ができたが、すぐにこちらへと突っ込んでくる――と、それに合わせて指先にチャージしたものをウッドモンの目に照準を合わせる。

 

「か、カノン?」

「悪性情報の塊でダメージを与えられるってのを知れただけでも良かったよ。そうだよな、バグの塊を撃ちこまれたら痛いよな!」

 

 これまで、攻撃手段は物理的なダメージを考えていたけど――別にその必要はなかったのだ。例えば、病気のデータを撃ちこむだけで良いのだ。もっとおおざっぱに言えば、こういう適当に作ったバグの塊を撃ちだすだけでも良かった。

 必要なのは射出の式だけ。別に形をとどめる必要はない。それをウッドモンの眼球めがけて打ち出す。

 

「SHOT!」

 

 掛け声と共に、チャージされていたデータの塊が撃ち込まれる。綺麗に奴の目に着弾し、奴の体に走っていたノイズが更に大きくなる。

 まるで処理落ちのように一時的に動きが止まり、大きな隙が出来た。

 

「ドルガモン!」

「分かった――パワーメタル!」

 

 流石に僕の攻撃じゃ威力はでない。しかし、この隙があればドルガモンが倒しきれる。

 ほどなくしてウッドモンは消滅し、あたりには静寂が戻った。

 と、肌寒いなと上着を着てきていたんだけど……ちょっと暑苦しく感じてきた。

 

「……気温が戻ったみたいだね」

「やっぱり原因はデジモン?」

「うーん、アレは歪みが可視化しているだけじゃないかな」

 

 原因はもっと別のところにあるんだと思う。そもそもの原因がどこにあるのかがわからないと対処のしようがない。まさか世界各地に行っていちいち潰して回るわけにもいかないし。

 

「終わったようだが、大丈夫か……大丈夫だな」

「ちょっと油断したけど、怪我ひとつないよ。ハァ……これからどうするかなぁ」

「カノン、母さんに出かける前に言われたことは覚えているか」

「……覚えているよ」

 

『命は平等、たとえそれが自分とは違う存在であってもね。だから、命を奪う覚悟をしなさい。その命を無駄にしないよう、奪った命の上で成り立つ運命を覚悟しなさい』

 

 いつもの間延びした口調とは違う。何かを思い出しながら、実感のこもった言葉だった。

 母さんの過去に何があったのかは知らないし、僕も詳しく聞こうとは思わない。きっと、母さんも話そうとはしないのだろう。

 

「それに――そこはとっくの昔に考えていたよ。一つ、苦い思い出もあるしね」

「そうか……だが、その割にはすっきりした顔だが?」

「まあ、苦いだけじゃないから」

 

 マキナ(あの子)のことはこれから先忘れることはないだろう。

 彼女のおかげで今の僕があるのだから。

 

「さてと、とりあえず近くの旅館に宿をとってある。一度荷物を置いたら近くを回ってみるか」

「それもそうだね」

 

 少しの間だけど、休日は続く。やれることはとりあえずやっておくには越したことはないけど……今は疲れたから、ちょっと休憩といこう。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ゴールデンウィークの間は虚像のようなデジモンを倒して回っていた。

 おかげで、僕たちは実戦経験を積むことができた。ドルモンの技のキレも上がっていくし、僕の方も術を実戦で使えるレベルまで調整完了した。総合的に見れば、良い成果だろう。

 僕自身も覚悟は出来てきたと思う。いや、本当はこの覚悟は人間が誰しも持たなくてはいけないものなのかもしれない。

 僕達は動植物を自分達が生きるために殺して食べている。直接的でなくても、そこに変わりはない。

 そう考えると、生き物の命を奪わない人間なんていないのだ。いや、生き物というべきか。

 ただ、自分の手で奪うか、人の手で奪ってもらっているかの違いなのだ。

 

 だったら、覚悟して自分で倒すほうがいい。

 あいての怨みも辛みも一身に受けるが、そのほうが相手を忘れない。

 そのほうが自分の運命を見つめることが出来る。

 

 

 そして、ゴールデンウィークが終わり、家に戻ってきた。

 流石に疲れたから、すぐに眠りに落ちたんだけど――久しく感じていなかった、僕の意識が遠く離れてどこかへ行く感覚。だけど、今度はハッキリと覚えている。

 

 僕とドルガモンが黒色と濁った白色の体を持つ手の長い悪魔のようなデジモンと対峙する夢だ。

 雨が降っていて、場所は森の中。時折、悪魔のつけた仮面が光を反射していて不気味に輝いている。

 悪魔のようなデジモンはとても強く、ドルガモンは圧倒されていた。

 僕はドルガモンに駆け寄った。そして――

 

 ――悪魔のようなデジモンが腕を振り上げ、長い爪で僕らを切り裂こうとしたところで目が覚めた。

 

 

 

 

 

 

 

「――ッ、ゲホッ!?」

「ど、どうしたのカノン!?」

「な、なんでもない……大丈夫だ」

 

 

 今の夢は一体何だ……?

 光景そのものは黒い靄がかかっていたみたいで、ハッキリと見えるわけじゃなかったけど……夢とは思えないほどにリアルな光景であった。

 まるで、実際に起きた出来事であるかのように。

 




カノンは新技を習得。まあ、見た目はガンド撃ちです。
一応改定前のも一部そのままコピペしてたりしますが、ほとんど新しく書いているなぁ……

さて、改定前のを覚えている人は分かると思いますが――次は、アイツです。


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15.悪夢の戦い! 決戦ネオデビモン

ようやく話をここまで持ってこれたか……序盤ヤバいことになっています。あと、文字数最大かな。


 あの悪魔の夢を見た日から何度も同じ夢を見続けている。細部に違いがあるのだが、決まって最後は奴に切り裂かれるところで目が覚めるのだ。

 あまりにも長い間続くため、一度病院に行ったが体には何の異常もない。心配事が夢という形で出ているのではとも言われたが、アレはそんな生易しいものじゃない。

 あまりにもリアルで、ハッキリと記憶に残っているのだ。

 不気味な仮面と、長い両腕。赤色の翼。ギロリと六つの瞳がこちらを射抜いて来て――

 

「ゲホッゲホッ!?」

「カノン、大丈夫……またあの夢?」

「……悪い。流石に一か月以上も続くときつくてな」

 

 毎日でないのが救いだが、それでも嫌にリアルな死ぬ寸前を味合わされる夢だ。

 眠っても体力が回復しないどころか余計に疲労することになる。

 夢の中でも一応は自分の意志で行動できるらしく、悪魔との戦いの中でドルガモンではなくアーマー体に進化させていたが――――結果は悲惨なものだった。

 どうやらあの悪魔相手にはアーマー進化では太刀打ちできないらしく、正直見るに堪えない光景を見せられ続けている。

 ドルガモンならまだマシな状況に持ち込めるとはいえ、打開策が見いだせない。

 

「何を怖がっているの……ただの夢でしょ」

「夢だよ…………でも、なんとなくわかってきたんだよ」

 

 夢を見た後に起きると、紋章が少しだが光っていた。

 どう説明したらいいのかわからないが、アレはただの夢ではない。

 

「確実に起きる出来事だよ――場所は三度目になる第六台場。天気は雨……時間は昼頃かな」

 

 日にちまでは分からないが……おそらくは夏。異常気象で暑いのかもしれないのであてにならないけど、夢の中の僕は半そでを着ていた。

 みたことない服だけど、今後その服を母さんが買ってくるようなことがあれば――さあ、どうだ。

 

「……カノン、すごく怖い顔している」

「そりゃ怖い顔にもなるよ……ごめん、ちょっと頭冷やしてくる」

 

 ひどい汗を掻いている。シャワー浴びに風呂場へ向かう。

 ただの夢だと決めつけて気にしないように努めるのも一つの答えだろう。だが、僕にはできそうもない。

 少し温い水を出し、汗を流す。ドルモンにも最近きつくあたってばかりいる……どうにも考えがまとまらない。対抗策の一つでも思いつければなんとかなるのかもしれないが、手詰まりな以上どうすることも…………

 

「ハァ……」

 

 風呂場から出て、タオルで体を拭く。部屋に戻ると……母さんが買い物から帰ってきていた。そういえば、今日は日曜日だったか…………いけない。大分まいっているのか、曜日の感覚が抜け落ちて――――!?

 

「あらー、カノン。シャワー浴びてたのー? ほら、最近暑くなってきたでしょう。だから新しい服を買ってきて……どうかしたの?」

「ううん。なんでもないよ、母さん」

 

 母さんの手には、僕が夢の中で着ていた服があった。

 その時の僕の表情から何かを察したのか、ドルモンがこっちを見ていたけど……僕にはただ母さんに心配をかけないようにそうやって誤魔化すことしかできずにいた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 悪魔の両腕が僕らを捕えようと動く。僕も援護を続けるが、奴には効果がなく、必死に防御してもいともたやすく破られてしまう。

 これまで戦ったデジモンの比じゃない。まさに格が違う。

 それでもドルモンが闘いを続け――やがて、目の前が真っ暗に……

 

 

 

 場面は最初に戻り、悪魔と対峙するところから始まる。

 スライド進化を多用していき、一度も攻撃を喰らわないように立ち回る。それも、意味をなさない。基本ステータスに差があり過ぎる。奴の能力を一つでも上回ることができなければ、勝つことは不可能だ。

 今度は僕が進んで防御をしようとして――爪が迫り、場面は暗転する。

 

 

 

 初めから空中戦を挑む。しかし、それは愚策だった。

 悪天候なのもあって、僕らにとっては不利な条件すぎる。ただ、今度はすこしだけ意識があった。僕たちを倒した後は奴は更に強大になっていく。

 もはや手が付けられない。より最悪な形で、未来は壊される。

 

 

 

 なら初めから諦めればいい――どうして諦められるのか――逃げ出してしまえばいい――その先に未来はない――嫌だ。死ぬのは嫌だ。痛いのは嫌だ。どうして僕が戦わなくてはいけないのか。どうして僕ばかりがこんなにつらい目に遭わなければいけないのか……

 考えが堂々巡りを起こして、頭の中がぐちゃぐちゃになる。僕は――もう動けない。

 

 

 

 

 

 

 

「この、バカカノン!!」

「ッ――グホッ!?」

 

 突如、思いっきり殴られた。

 たぶん顔は腫れているだろう。痛みもひどい。

 

「――のやろう、何しやがる」

「ウダウダして、そんなのいつものカノンじゃないよ。おれの知っているカノンは、そんな弱虫じゃなかった!」

「……お前はアレを見ていないからそう言えるんだよ! 力の差があり過ぎる、戦えば僕たちは死ぬんだぞ!」

「それでも――カノンなら逃げなかったよ」

「――――ッ、なら証明してやるよ!」

 

 ドルモンの額にふれ、夢でみたデジモンを明確にイメージする。何度も見てきた。何度も味わってきた。その姿はすぐに頭に描かれ、ドルモンのデジコアと接続される。

 

『ネオデビモン、完全体』

 

 出てきた情報はそれだけ。詳細は不明。それでも、彼我の戦力差は絶望的。完全体のデジモンは前にも見たことはあるが、戦闘能力に特化した存在ではなかった。それに一対一ではなかったのだ。

 だからこそ付け入る隙があったが、今回は違う。

 今度は生易しい相手じゃない。

 

「今のドルモンが勝てるかよ……勝てるわけ、ないよ」

「……この、大馬鹿!!」

 

 今度はドルモンが頭突きを仕掛けてくる。あまりの痛みに頭を押さえるが、それはドルモンも同じだった。

 

「この、石頭」

「お互いさまだろうが……っていうか、先にそっちが殴って来て頭突きして、どういうことだよ!」

 

 思わずドルモンを殴ってしまう。もう無意識に身体強化がなされており、普通に殴り飛ばしてしまった。

 それでもドルモンは僕につかみかかってきた。今までにない気迫で、僕を真正面から睨んで。

 

「マキナとの約束はどうした! 今までだってピンチはあっただろ! 次に戦う奴の方が強いから諦める? そんなのカノンらしくない――それに、なんでおれに頼らない!」

「――――」

「今までだって一緒に戦ってきたんだ……カノンは一人じゃない。おれがいるだろ――おれを信じてくれよ、カノン!」

「…………そうだよな、何一人で悩んでいたんだよ」

 

 死を意識し過ぎていた。それに、敵の方が強かったことなんていつものことだったじゃないか。最初の戦いもギリギリだった。ダークリザモンの時だって、死ぬかと思った。

 マーメイモンの時もバステモンと一緒だったから無傷で済んだ。

 ヨウコモンの時は無事に方が付いたものの、今までの経験があったからこそだ。油断していたら危なかった。

 ウッドモンや異常気象で出た幻影との戦いで僕は戦えるようになったと判断してしまっていた――でも、ただ調子に乗っていただけなのかもな……

 

「いつものカノンなら、どんな運命だって真正面から向き合っていたよ。小さいのにどこまでもまっすぐに、自分の足で歩いてきた」

「……小さいは余計だっての。でも、おかげで目が覚めたよ」

 

 僕がそう言うと、ドルモンはニカッと笑って拳を付きだした。それに合わせ、僕も拳を突き合わせる。

 迷いは晴れた。うじうじ悩んでいるなんて僕らしくもない。

 理屈っぽくなりすぎた。時には、真正面からぶつかることも必要なんだろう。

 

 

 その後、見舞いに来たヒカリちゃんに腫れた顔を見られてびっくりされて、ドルモンと喧嘩したことが母さんにばれてしまいこっぴどく叱られたけど……

 この日以来、あの夢を見ることはなくなった。ただ漠然と何かが近づいている予感へと変わっていったが……もう不安はない。

 来るならば来るといい。僕はもう逃げない。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 7月20日、海の日。

 あの夢と同じ、雨。全国的に雨で海水浴を楽しみにしていた人は残念である。

 不思議なことだが僕はやけに落ち着いていた。

 

「……まあ、せめてもの抵抗ってことで」

 

 何から何まで夢の通りにするのも癪なので別の服を着ることにする。夢の中では半そでだったから……ダウンジャケットを着よう。

 首に紋章をつけ、デジヴァイスとパンフルートも持っていく。頭には飛行帽をかぶり、フル装備になる。

 

「ドルモン……準備はできたか?」

「うん――とりあえず、ドリモンに退化しておくね」

 

 そう言って、退化してすぐに僕の頭の上に乗っかる。ある意味目立ちそうな気もするが……いや、傘をさしていくから大丈夫か。大人からは見えないだろうし。

 家から出るとき、少しばかり後ろめたさを感じたけど……ゴメン。やっぱり何か言うのは無理だった。

 

「これで歪みで出た幻影だったらいいのにねー」

「だな。でも、不思議とわかるんだよ……アレは本物だってな」

 

 玄関を出てエレベーターへ向かう。一歩一歩歩くたびに色々な思い出が頭をよぎる。今までの戦いのこと、何気ない日常。マキナとの思い出、ドルモンと出会った日――と、そんな時だった。ふいに視線を感じた。

 後ろを振り向くと、こちらをじっと見つめるヒカリちゃんがいたのだ。

 

「ねえ……二人とも、どこへいくの?」

「ひ、ヒカリちゃん……」

「どこに……行くの?」

 

 こてんと首をかしげるヒカリちゃんを――初めて怖いと思った。生理的な恐怖とかではなく、何と言い表せばいいのか……心の奥底に響くような怖さ。害悪なものではないのに、なぜか体が動かない。

 純粋過ぎるゆえに見続けていられないというか……だけど、それに呼応するかのように僕の奥底の何かが目を覚ました。

 

「――ッ」

「ヒカリちゃん……ごめん、ちょっと散歩してくるだけだよ」

「うそつかないでよ。すごく、危ないことしようとしているでしょ」

 

 僕は困ったように笑って、ヒカリちゃんの顔を見つめる。

 この子はとっても優しい子だ。僕がとても危ない目に遭うというのをわかってしまったからこそ、止めようとしてくれている……だけど、それはできない。

 

「僕が行かないと、もっと大変なことになるから……」

「なんでカノン君じゃないとだめなの? 誰か、他の人でも――」

「僕が選んだから。僕が自分で決めたことだから」

 

 僕が彼女をどこか他人に思えないのと同じように、彼女も僕を他人とは思えなかったんだろう。今この時はそれがどういった意味を持つのかわからなかったけど……それでも、これだけはハッキリと言えた。

 

「ここで何もしなかったらすごく後悔するんだ。ここから先に進めば、もう後戻りはできない。それでも――デジモンを始めて見たあのワクワクが僕を動かしてくれる。体の底から熱くなるようなこの感じ……結局、こうやって危ない道に進んじゃうんだろうね……だから、いくね」

「あ――」

「それと、夕飯までには帰るって母さんに言っておいて!」

 

 僕はそれだけ言うと、エレベーターに乗った。ヒカリちゃんの顔はもう見えない。でも、約束したから。

 

「ドリモン――絶対に帰るぞ! 今日はハンバーグだ!」

「うん!」

 

 

 

 

 ほどなくして、第六台場にたどり着いた。人に見られないように移動するのが一番苦労した……ドルガモンに進化して低空飛行してもらったけど、結構きついね。

 

「きついのはおれだっての」

「悪い悪い……無駄話をしている時間はなさそうだな」

 

 ここでは三度目の戦いになる。目の前の空間が歪み――その奥から悪魔、ネオデビモンが姿を現した。

 金色の仮面からは六つの瞳がこちらを見つめている。腕だけが異様に長い歪な人型。赤く染まった翼、今までのデジモンの比じゃない存在感――いや、一人例外がいたな。

 昔デパートの屋上で出会ったアイツに比べれば月とスッポンか。

 

「グ――オオ!!」

 

 奴が雄たけびを上げ、その爪を怪しく輝かせる。それと同時に僕らも打って出た。

 

「いくぞ、ドルガモン!」

「うん、パワーメタル!!」

 

 鉄球がネオデビモンに迫る。しかし、それはいとも簡単に切り裂かれていた。

 それは想定内。悪夢を克服してから必死に開発を続けていた術式を解凍していく。時間がかかるが――その間、ドルガモンがネオデビモンに組み付いて奴に攻撃をさせないようにしてくれていた。

 

「カノン!」

「大丈夫――解放!!」

 

 地面に手をついて、ネオデビモンへ向かって強力な雷撃が放たれた。ドルガモンもすぐに離れてくれたので巻き添えを喰らわずに済む。

 これで倒せるわけはないが――ほんの少しの隙が作れる。その間に、ドルガモンが渾身の一撃を準備し始めた――――だが、奴は僕の予想を超えていた。

 

「ガアアア!!」

「――――え、嘘だろ」

「ドルガモン!?」

 

 奴の体に電撃はまとわりついている。デジモンの構成情報そのものに痺れという状態異常を加える特殊な術を開発した。ドルモンも協力してくれて、これで大丈夫だと思ったが――奴は、その痺れでも体を無理やり動かしていた。

 効果があるのは見てとれている。奴の皮膚が痙攣をおこしていた。だが、それでも体を強制的に動かすなんて――と、そこで奴がドルガモンにトドメを指そうとしているのが見えて……

 

「――この、離れろぉおおお!!」

「か、カノン……」

 

 轟音が鳴り響く。奴も防御を行ったが、そのまま後ろへと飛ばされていた。僕の右手には何かのハンマーのような姿が重なって見えていたが……すぐに消えていく。

 何が起きたのかはわからないが、体の中のデジメンタルが力を放出しすぎて休眠した気がする。どうやらエネルギーを一気に放出したらしい……ということは、今何らかの術が発動したという事か。

 

「いや、そんなのはどうでもいい」

 

 今大事なのは――ただ、この窮地を脱することだけ。考えるのは後だ。

 僕たちは乗り越えるんだ……こいつに負けるなんて『運命』を! その手で、ぶち壊すんだ!! 自分たちの運命は自分たちで切り開くんだから!

 

 そうして、僕達は光に包みこまれた。奴の爪が迫ってきていたが――光が悪魔の爪から僕達を守っていた。

 

「行くぞ、ドルガモン………………超進化だ!!」

 

 紋章が輝きを増していき――黄金に輝きだす。

 デジヴァイスの色も白から銀に変わっていく。

 

「ドルガモン 超進化ぁアア!!」

 

 ドルガモンを構成する情報が変化を起こしていき、より竜のデータを強くしていく。

 体は紅く染まり、翼はさらに大きくなる。巨大な体に、より力強い姿に。

 

「――――ドルグレモン!」

 

 赤き獣竜が今ここに、誕生した。

 




というわけで次回に続くのじゃ。
たぶん、次々回あたりで原作に入ります。ついに8/1です。


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16.超進化! 赤き獣竜ドルグレモン

とりあえず原作開始前はここで終わります。
次回より、原作突入かな。


 ドルモンの完全体、ドルグレモン。

 カノンのあずかり知らぬことではあるが、進化が行われた一瞬。周囲に電波障害が引き起こされていた。

 現実世界への適合率が高まっているドルモンであったが、完全体への進化の際に放出された波動はそれでも影響を与えるほどに強かったのだ。

 そして完全体へと進化したことによりデジヴァイスの機能が解放されていく。それによって、カノンの側にも変化が訪れた。

 

「――――あれ」

 

 視力強化の術式が変化していく。そもそもエネルギー切れだったはずなのに最大まで回復して――否。最大値が上昇していた。

 デジヴァイスの方からカノンに新たなプログラムがインストールされる。

 

「ドルグレモン、行くぞ!」

「おう!」

 

 ネオデビモンの姿を見ると、いくつかの文字や数字が表示されている。名称と属性、グラフみたいのも見えるがすべてを読み取ることはできない。

 それでも――奴の性質を掴めた。

 

「そいつに高度な知性はない! 誰かは知らないけど、個体の意思をはく奪した戦闘人形だ!」

 

 デジモンはデジタルデータで構成された生命体。それゆえに、体に自分がどういったデジモンなのかという情報を持っている。ドルモンが生まれたときからデジタルワールドなどの情報を持っていたり、進化してすぐに技が使えたりなどというのはここに由来する。

 今、カノンはその情報を閲覧する力を身につけた。視界にとらえたデジモンの情報を見るアナライズ能力。それが新たに獲得した力の一つだ。

 

「ギルティクロウ!」

 

 ネオデビモンもすぐさま攻撃を仕掛けてくるが、ドルグレモンは翼でネオデビモンの爪をいなす。デジモンの中でも悪魔を模した者は特に強い力を持つが――ドラゴンを模した者も同格かそれ以上に強い力を有する。

 

「薙ぎ払え!」

「うおおおおおおお!!」

 

 カノンの指示でドルグレモンが体を回転させ、その強靭な尻尾でネオデビモンを弾き飛ばす。

 とっさに腕を交差させて防御するものの――そのパワーはドルガモンとは比べほどにもならない。ゴキリという嫌な音と共に飛ばされたネオデビモンは木に激突してしまった。

 嫌な方向に曲がった腕を眺め――バキバキと音を響かせながら腕が再度曲がっていく。

 無理やりに折れた腕をもとの形へと戻していく。まるで痛みなど感じないように、再び正常な状態へと戻っていった。

 

「キモイっての……ドルグレモン。もう一度吹き飛ばせ」

 

 今度は奴も学習したのか、空へと飛びながらその爪を振り下ろしてきた。ドルグレモンは再び尻尾を振り回すだけ。先ほどと同じ行動ゆえに対処法を見出し、模範通りに動いた。

 

「――だけど、それが命とりだ。自分の意思がないってことは機械みたいにしか動けない。だからこそ、そこに付け入る隙がある」

 

 カノンが右手をネオデビモンに向けて構えていた。チャージされた魔弾は放電をしており、あたりにラップ音が響き渡っていた。

 ネオデビモンの構成情報を見抜き、それに合わせてアンチプログラムが組まれていく。

 気が付いたときにはもう遅い。ネオデビモンの眉間に弾丸が迫っていた。

 

「特製クラック弾。お味はいかがかな」

「――――グッ、ゴッ」

 

 ネオデビモンの全身が痙攣していく。無理やりに体を動かそうとするが――体を動かすという命令をブロックされる。復帰ができない。行動を起こそうとするたびに別の命令が無理やり挟まっていく。

 デジモンがデジタルデータやプログラムで構成された生命体ならば、体を動かすという挙動一つ一つにプログラムが存在するはずだ。

 腕を動かそうとすれば、その前に体が痙攣する命令を挟まれる。そんなウィルスを仕込む弾丸を作り出して放ったのだ。その影響でネオデビモンの動きが止まった。

 

「ドルグレモン――貫けぇ!」

「ハアアア……ッ」

 

 ドルグレモンが飛び上がり、ネオデビモンにとびかかる。赤く染まった角が突き刺さり、鮮血のようにデータの破片が飛び散っていく。

 声は上がらなかった。表情もわからないが、そこには確かに苦悶の表情がある。

 ドルグレモンはそのままネオデビモンを地面へと投げ飛ばす。土煙が上がり、ネオデビモンが転がっていく。

 想定外の事態が起こり続けてネオデビモンにエラーが蓄積されていく。最適解を導き出そうとするが――その全てが失敗し、やがてネオデビモンは何かに突き動かされるように行動を起こした。

 

「ゴ、オオオオオ」

 

 仮面に手を当て、はがそうとする。黒い靄のようなものが仮面の下から広がろうとしており――そのままにしておくのは危険だと告げていた。

 

「コロス――エラバレ、シ…………コロス。エラバレシコドモ、タチ、コロス!!」

「仮面を外して制御から外れようとしている? でも、選ばれし子供って……」

 

 何か気になることを言っているが――その隙にドルグレモンがネオデビモンに迫っていた。流石に無防備になり過ぎたと判断したのか、仮面をはがそうとするのをやめて、迎え撃ってきた。

 爪と翼がぶつかり合う。何度か金属音があたりに響きわたり、ネオデビモンの爪がドルグレモンの頬を傷つける。

 

「――ッ」

「ドルグレモン!」

「大丈夫。次で、決める!」

 

 ネオデビモンの伸びきった腕にかみついた。体を振り回しネオデビモンの体の自由を奪っていく。遠心力で体勢が崩れきってしまったネオデビモンは混乱の状態にあった。それでも、反撃を行おうとしたまさにその時。

 ドルグレモンが上空に向かってネオデビモンを投げ飛ばしたのだ。

 

「――メタルメテオ!」

 

 巨大な鉄球が吐き出され、ネオデビモンの体を直撃する。

 最後のあがきとばかりにギルティクロウを発動させて迎え撃ってくるが――その爪もすぐに砕け、やがてデータの塵へと還元されていった。

 

「――――ふぅ」

「やったなドルグレモン」

「おう!」

 

 バシッと、お互いの手をハイタッチさせる。今ここに、運命を乗り越えた。

 

(まあ、気になることはいくつかあるけど上々だな)

 

 ほどなくしてドルグレモンの体が光に包まれて小さくなっていく。流石に体力を使いすぎたのだろう、どんどん小さくなっていって、そして――――

 

「あれ?」

「……むぅ」

 

 ――――ドドモンにまで、退化してしまった。

 

 茫然とするカノンだが、ある意味当然かもしれない。完全体のあのパワーだ。消耗も激しいものだろう。今後力を使いこなせるようになれば幼年期まで退化する必要はなくなるかもしれないが……

 

「さて、どうやって帰るかぁ」

「…………頑張って泳いでね」

「せめてちょっと休ませてくれ」

 

 ダウンジャケットやめておけば良かったと後悔するカノンであった。

 夢の通り薄着の方が良かったかもしれない……また、びしょ濡れで帰ることになるのかと憂鬱になる。

 

「雨でびしょ濡れだから今更」

「そうだけど、海水には海水の悪さってあるだろ」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 その後、なんとかマンションにまで戻ってこれたが……ヒカリちゃんが玄関のあたりで待っていた。最初に安心して走り寄って来て……立ち止まる。

 

「……おさかなくさい」

「暖かくなってきても、海水は冷たいのさ」

 

 あと魚に突撃されまくった。

 

「また、戦った後が大変なことになったね」

「それを言うな……毎度のパターンになってきたのが嫌だ」

 

 結局のところ、一番の被害は帰る時に泳がざるを得なかったことだった。ドドモンの回復のためにお菓子でももっていけばよかった……

 詰めの甘さを感じつつ、びしょ濡れのまま帰ってきたけど……さて、ラスボス(母さん)はどうするか。

 

「あらぁー、あらあらー、あらまぁ……二人とも随分と遅い御帰宅ねぇ。将来は女泣かせかしら?」

「た、橘さん……」

「ヒカリちゃん、お母様が呼んでいらしたわよー」

「――」

「まって、逃げないで!」

 

 おいていかないでくれ――――そんな叫びもむなしく、ヒカリちゃんは自分の家へと入っていく。そして、僕らの目の前には母さん()が残された。

 

「また、無茶したのね」

「でもほら、無傷ですよ!」

「(コクコク)」

「ふぅん……ドルちゃん、なんでそんなに小さくなっているかしらねぇ」

 

 ――――あ、詰んだ。

 結局僕らにどうすることもできずに、説教コースとなったわけである。

 あ、夕食は普通に出してもらえました。ハンバーグおいしかったです。

 

 

 

 夕食後。雨に海水に、戦いの疲れとかなりへとへとになっている……もうすぐにでも眠りたい。

 だけど、父さんがまた面白いものを持っていくから楽しみにしていろと言っていたのを思い出して、待っていることにしたんだが……

 

「帰ってこないなぁ」

「どうしたんだろうね? いつもならすぐに帰ってくるけど」

 

 もう先に寝るかと思っていると――玄関の開く音がした。帰ってきたのかと思い、玄関に向かうと……父さんと誰か知らない大人がいた。ドドモンには隠れていてもらい、僕だけが向かう。

 父さんも気が付いたようで、ただいまと言ってくるが……なぜか隣にいた男に目がいく。白衣を着ていて、少し猫背だ。眼鏡をかけており、光を反射して瞳が見えにくい。

 

「これはこれは……御子息ですかな」

「……こんばんわ」

古崎(こざき)、いい加減に帰ってくれないか。私は何も知らないと言っているだろう」

「そうですか……まあ、いいでしょう。4年前に観測した揺らぎと似た波形を感知したんですがねぇ」

 

 4年前……ドクンと、心臓が強く鳴るのを感じた。

 この人の瞳の奥に何か言い知れぬ悪寒を感じる。だけど、蛇に睨まれた蛙のように体が動かない。何か、得体のしれない気味の悪さがそこにあるのだ。

 

「私の名前は古崎崇人(むねひと)。しがない電子工学の教授です。今日この付近で強い電波障害が観測されましてねぇ……原因を調べていたところなんですよ」

「――――へぇ」

 

 何かを探るようにこちらを見ている。値踏みするような、ねっとりとした顔。

 一通り観察するような視線はほどなくして逸れる。

 

「まあいつまでもここにいてはお邪魔なようですね。ですがまたお会いする日もあるでしょう……御子息、お名前は?」

「……橘、カノン」

「そうですか――ではまた、いずれ」

 

 それだけ言い残すと、古崎教授は帰っていった。と、同時に母さんが奥から出てくる。

 苦虫をかみつぶしたような表情をしていて、まさに虫唾が走るといったところか。

 

「わたし、あの人嫌い」

「……あれでも優秀な科学者なんだ。それなりの社会的地位もあるしね…………性格に難があるのは否定しないが」

「ねえ、4年前のことって?」

「…………ちょうど、光が丘の爆破テロの時に奴が観測したという電磁波の揺らぎだよ。電子工学とは言っているが、奴の研究は多岐にわたるんだ……それこそ、オカルトともいえるようなものまでね」

 

 ドクンと、再び心臓が鳴る。あの爆破テロは――僕が初めてデジモンに出会った日。二体のデジモンが戦ったあの日の電子機器の異常の原因はデジモンだ。

 まさか、デジモンに気が付いているのか?

 

「デジモンについてまでは気が付いていないと思うが……カノン、気を付けるんだぞ。彼らの力を悪用する人間は必ずいる。同僚みたいなものだから、あまり悪く言いたくないが……奴もその口の人間だからな」

「う、うん……」

 

 だけど、今日観測したという揺らぎは――心当たりが一つ存在する。

 本当にデジモンに気が付いていないのだろうか……疑念は晴れないが、僕に確認する術はない。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 流石に疲れと濡れたことにより風邪をひいてしまった。それも、かなりヤバいレベルで。最後に変な心配事が増えたのも原因だろう。

 ちなみに、父さんの持ってきたお土産はなんか民族衣装を着た胡散臭いオッサンがお札とか小物をくっつけている人形でした。あんた、どこまで行っていたんだ……

 

 怪我はしなかったものの、予想以上に体力を持っていかれたりでサマーキャンプには参加できなくなってしまった。

 少し楽しみにしていたんだけど……仕方がないか。一応検査入院することになっちゃったし。

 まあ、やるべきことも出来たし今回は諦めよう。

 

「超進化したとき、紋章が輝きを増した」

 

 完全体に進化するためのアイテムだったと考えるべきなんだろうが……結論をすぐに出さない方がいいか。

 退院したら完全体に自由に進化できるように特訓することも必要かもしれない。戦っているたびに幼年期まで戻るようだと危険かもしれないし。

 

「やること山積みだなぁ……しかし、あの時のネオデビモンの言葉…………」

 

 仮面を外しかけたときに聞こえた言葉。片言で分かり難かったが……ちゃんとした言葉に直すとおそらく――殺す。選ばれし子供たち、殺す。となるはずだ。

 選ばれし子供たち……『たち』か。

 

「何人いるんだろうなぁ……」

 

 空は快晴。すっかり夏だった。願わくば何事もなければいいのだけど……

 運命の歯車はもう止まらない。8月1日。本当の戦いはもうすぐ幕を開ける。

 




最後のお土産については、知っている人がいたらなぜ知っているしと返します。

サマーキャンプに行かない理由? メタ的に言えば無双しちゃうか、いきなりダークマスターズ戦になるかだから。


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1章・えらばれし子供の冒険譚
17.8月1日


ついに原作開始――改定前とは結構変わっているな。



 退院まで少し時間がかかってしまったが、ようやく体を動かせるようになった。

 ドルモンを再び完全体に進化させるために人目につかないところを探しに行ったのだが……第六台場以外で人目につかない場所ってお台場にあるのだろうか。

 あちこち探し回ってみて、運よく廃工場を見つけた。

 

「というわけで、ここで特訓するか」

「いつもみたいに第六でいいんじゃないの?」

「…………また泳いで帰るオチがつきそうだからヤダ」

 

 コンビニでおにぎりやお菓子も買って来てあるから、エネルギーの補給は大丈夫なんだけど、再三戦った場所で特訓というのもなんだかなと思う。

 というわけで、人目につきにくい場所を探していたのだ。それに、昼間から第六台場に行こうとすると目立つし。

 

「まずは普通に」

「進化――ドルガモン!」

 

 ここまでは普通に進化できるようになった。

 最初のうちは自由に進化が行えなかったし、エネルギー消費も激しかったんだよなぁ……

 ドルモンがウチに来てから4年。まあ、色々なことがあった。

 

「で、問題は次なわけだが……」

 

 紋章が光りもしない。予想はできていたが、完全体への進化は容易ではないのだろう。

 感覚としては覚えている。なんとなくだがわかっているのだ。デジヴァイスの力でデジモンを進化させるとき、僕の感情に反応していることは。

 成熟期までなら任意で発動はするのだけど……完全体になるよより明確に、強い思いが必要なんだろう。

 

「あの時の感情……なあ、ドルガモン。予感がするって言ったよな。何かが起こるって」

「ああ……でも、それがどうかしたのか?」

「たぶん、もうすぐそこまで迫っている。異常気象もそうだし、嫌な気配が近づいている気がするんだ」

 

 デジヴァイスを握る力が強くなる。頭をガシガシと掻いて、唸りながら次の言葉を探す。手のひらを見ると、母さん譲りの赤毛がちらほらと。

 ふぅと息を吐いてドルガモンの顔を見る。

 

「やっぱりさ、決意表明って言うかなんていうか――”運命ってのは自分で切り開くもの”だよな」

「何をいまさら。俺たちが今までやってきたことだろうが」

「そうだよなぁ……今までそうやってきたんだよな。だから、何も変わらないんだ」

 

 そう。僕たちはいつだって自分たちで切り開いてきた。ピンチの連続だったし、自分たちで選択した。

 最初から必要なものはここにあったんだ。

 僕がそう思うのと同時に、紋章が輝きだす。デジヴァイスの色も変化していき、ドルガモンの体がスパークし始めた。必要なものはそろっていた。あとは、それを自覚するだけだった。

 

「ドルガモン 超進化――ドルグレモン!」

 

 再び進化が完了する。

 まだまだ慣れていないのか、ドルグレモンは体をひねって自分の体を見ている……しかし、結構でかくなったよなぁ…………

 

「体の調子はどうだ?」

「まあ、ぼちぼち。なんか重たい……」

「そりゃ体重も増えているだろうし」

「そうじゃなくて、なんていうか……無駄な部分が多いっていうか」

「無駄な部分? 頭下げてくれ。インターフェースに触れば何かわかるかも」

 

 ドルグレモンに頭を下げてもらい、額にふれる。

 いつものように情報が頭の中を駆け巡るが――これといった異常は見当たらない。

 

「うーん……ちょっとまっててくれ。今の構成情報が――――ああ、これのせいか」

「何かわかったの?」

「今まで倒したデジモンは覚えているか?」

「まあ、覚えているけど……暗黒系が多かったね」

「そうだな。そのせいでドルグレモンの取得したDNAのバランスが狂っている」

「それって大丈夫なの!?」

 

 進化の方向性を決めるデータだし、別段悪影響があるわけではないのだが……暗黒だけでなく、他の数値も変動しているし。

 

「進化先が不安定って感じだな。デジヴァイスがドルグレモンに進化するように促しているからドルグレモンに進化しているだけかもしれない」

「ってことは、適切な進化じゃないから重いってこと?」

「処理に時間がかかっているだけかも……進化と退化を繰り返して最適化していけば大丈夫じゃないかな」

「そんなのんきな……」

 

 しかしながら、何度か繰り返しているうちに本当に最適化されてしまったのでドルモンは閉口してしまうのであった。人間だって慣れる生き物なのだ。ましてやデジタルデータで構成されているデジモンだ。慣れるレベルが段違いであろう。

 もっとも、消耗が激しいのは変わらないので幼年期にならないようにするのには数日かかったのだが。結局7月も終わりの31日までかかったからなぁ……

 

 ◇◇◇◇◇

 

 特訓もひと段落してゆっくりと眠れる――そう思っていたのだが、その日はまたおかしな夢をみた。

 とてもリアルな夢で、真夏だと言うのに雪が降っている。この時点でリアル? と言いたくもなるが、またいつもの異常気象だろう。デジモンの姿が見えないが――視点を自由に動かせない。

 オーロラが輝いていて、その奥から光が落ちてきた。太一さん含めて周囲には七人の子供がおり、その足元に同じ数の光――デジヴァイスが落ちる。

 デジヴァイスは各々の手の中に入り、そして――――ゲートが開かれた。

 

 

 

 

 

「――――ッ」

 

 ビックリしてとび起きたが……時間は4時半。

 ただ、あの夢にヒカリちゃんはいなかった。たぶん風邪がひどくなったからいけなくなったのだろう。

 前にもあったしわかる。コレは予知夢……確実に起こるであろう未来。

 となると問題はこの予知夢に対してどうすればいいのかだが……

 

「サマーキャンプはいかないことになっているし、ヒカリちゃんも心配だからなぁ」

 

 あの光景がサマーキャンプの時の出来事とは限らないわけだが……いや、それはないか。たしか、丈先輩だったかな。彼が災害救助袋みたいなの持っていたし。

 光子郎さんがパソコン持っていたのが気にかかるが――――彼なら持っていくか。

 というか今更サマーキャンプに参加できないっての。当たり前だが申し込みはとっくに締め切られている。

 

「またヒカリちゃん狙いのデジモンが出てこないとも限らないし、このまま家にいるのが無難か」

 

 

 

 というわけで数時間後。お母さん達が太一さんたちを見送っていた。夢の映像で見た限りだと、同じサッカー部の仲間で一緒にいたのは……光子郎さんと、太一さんと空さんか。空さん、少し苦手なんだよなぁ……太一さんの幼馴染だから顔を合わせることもあるんだけど、基本家に引きこもりがちな僕を連れ出そうとするのだ。

 それ自体が嫌なわけじゃないのだが、こうぐいぐいこられると……ちなみに、太一さんも一緒にいると倍プッシュ。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

 おっと思考が逸れた。せめて、コレだけは言っておくか。

 

「太一さん」

「ん、どうしたカノン」

「気をつけてくださいね」

「? ああ……(変な奴だなーただのキャンプだぞ)」

 

 表情で変な奴だなって思っているのは分かっている。この人は本当に顔に出やすいな…………本当に、気をつけてくださいね。たぶん大変な目に遭いますから。

 いぶかしんだ表情ではあったものの、すぐに気に留めなくなったのか行ってしまった。

 

「……賽は投げられた、か」

「カノンー、本当にいいの?」

「どうすることもできないよ。まあ、僕は僕でやれることをやるしかないさ」

 

 風邪は治ったし、周囲からは暇を持て余しているとみられている僕は、ヒカリちゃんが無理をしないように見張っているように頼まれているしね。八神さんに。

 まあ、僕も無理はしたんだけど……検査のためだったし、入院する必要もなかったわけだが。一応原因は不眠症からの雨に打たれて体調壊したコンボということになっている。あながち間違いじゃないし。

 ヒカリちゃんの面倒を見ている理由は、今日は両家共に日中家にいられないから僕にお鉢が回ってきたからである。病み上がりはとっくに過ぎて元気だし。

 

「というわけで、おかゆ作りに来てやったぞー」

「カノン君……料理できたの?」

 

 失敬な。ヒカリちゃんはなぜ時々毒を吐くのか。

 

「母さんに一通り叩き込まれたんだよ……おかゆぐらいならそんなに難しくないっての」

「ふーん……ドルモンもおはよう」

「おはよう。体は大丈夫?」

「それなりに」

 

 ……相変わらず独特な雰囲気なことで。

 しかし、今頃太一さんたちはどうしていることやら……おかゆを作る前に、薬の確認もしておいた方が良いだろうか? しっかりと薬もあるし、問題はなさそうだ。

 というわけでおかゆを作ることにする。

 居間の方ではヒカリちゃんとドルモンがテレビを見ているけど……ニュース番組か。どうやらまた異常気象についてやっているらしい。

 

「……なんでみんなにはデジモンがみえないのかな」

「さぁね。理由はよくわからないけど……今は気にしても仕方がないよ」

 

 ほどなくしておかゆも出来上がり、少々遅めの朝食となる。

 使ったお米? 自分の家から持ってきたものです。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ヒカリちゃんに薬を飲ませて寝かしつけたので……まあ、なんともやることが無い。

 携帯ゲーム機を持ってきて遊んでいるが……うーん、これも結構やりこんだからなぁ…………テレビも変わり映えしない内容。少々飽きてきた。

 あの子時々とんでもないことをするから下手に外に出れないし……

 

「もうそろそろ昼っていうか、12時半か……どうしたものか」

「――カノン、デジモンのにおいがする」

「本当か!?」

「うん……でも嫌な感じはしないよ」

 

 それってどういう事だろうか――そう思った時だった。玄関が開く音が聞こえた。とりあえず、ドルモンには下がっていてもらって見に行くと……太一さんが帰ってきていた。腕になんか珍妙な生き物を抱えて。

 

「た、太一さん? サマーキャンプはどうしたんですか」

「あははは……えっと、ただいま。ヒカリの面倒見てくれてありがとうな」

「いや、それはいいんですけど……それ」

「こ、これはヒカリにお土産で」

 

 いや、でもそれ……

 

「デジモン、ですよね」

「な――――なんで知っているんだよ!?」

 

 あー、いきなり言うのはまずかったか。

 どうしたものかと思っていると、太一さんの声に気が付いたのかヒカリちゃんが奥から出てきてしまう。

 

「おにい、ちゃん?」

「ひ、ヒカリ!?」

「ねえ、あの子太一の妹?」

「あ、コラ、バカ!」

 

 ヒカリちゃんの前でしゃべらせたくなかったのだろうが――ヒカリちゃんは驚く様子もなく、どこか懐かしむような瞳でそのデジモンを見つめていた。

 

「コロモンも一緒なの?」

「――――なんで、コロモンのことを……」

 

 アレがコロモンなのか。ということは、あの恐竜のようなデジモンはこのデジモンが進化した先の姿ということか。たぶん、成熟期くらいかな。しかし面影が全然ない。

 僕がのんきに考察している間も、二人の会話は続く。

 

「な、なんでコロモンのことを……」

「コロモンはコロモンでしょ?」

 

 それじゃ伝わらないと思うのですが。しかし、まだ4年前のことを忘れたままなのか……誰かが意図的に忘れさせたのか? いや、それだと僕とヒカリちゃんが覚えていることに説明がつかない。

 うーん……どういうことなのだろうか。ただ単に太一さんが忘れているだけ? 一番それっぽいな。

 

「なんでお前ら、デジモンのことを知っているんだよ」

「うーん……」

「か、カノン?」

「……ああすいません。ちょっと考え事を。まあ、デジモンについてはほれ――いま出てきましたよ」

 

 奥にいたドルモンがお盆に麦茶を入れて持ってきた。数は5つ。しっかり自分の分まで入れているよオイ。というかどこから持ってきた麦茶。

 

「――――は?」

「で、デジモン!?」

「はじめまして。ドルモンです。麦茶どうぞ」

 

 唖然とする二人をしり目に麦茶を配っていくドルモン。うん、良く冷えている。

 

「や、八神太一です」

「ぼくはコロモン……」

「って――なんでデジモンがここに!?」

「それはまぁ、こういう事で」

 

 僕がデジヴァイスを見せると、太一さんは驚いた顔をした。そりゃぁ、驚くよなぁ。

 しかし話も進まないし、いい時間だからまずはやることを先にやるべきか。

 

「とりあえず、お昼にしませんか?」

「……それもそうだな。腹減ったし――――よし、俺が作ってやるよ!」

 

 そう言うと太一さんはオムライスを作り始めたわけだが……この前と比べてすごく上達している。こんなに短い間にここまで上達するだろうか?

 味もいいし……

 とまあ、そういうわけで食べながら今までの経緯を話す。ドルモンとの出会い。戦ったデジモンについてなど。まあ、マキナのことは自分の胸にとどめておきたかったのでそこは省いたが。

 

「まさか、こっちの世界にもまだ選ばれし子供がいたなんて……しかも、俺達よりも早い段階で。それに、デビモンの進化系のネオデビモン……」

「そっちもなかなか大変だったみたいですけど……数時間しかたっていないハズですよ」

「そうなんだよ――なあカノン、俺は夢でも見ているのか?」

「……生憎と、僕が何を言っても答えは出ないと思います。僕にとっては現実だと思っていても、実際にどう思うかは太一さんだ」

「…………相変わらず、難しい言い回しだなぁ」

 

 太一さんたちに何があったのか。詳しく聞いてみたいが……今の太一さんは心の整理をする必要がある。椅子にもたれかかってぐだっとしていた……

 

「……クーラーが気持ちいい」

「おい」

「随分と久しぶりなんだぜ。そう思うのも無理はないだろ」

「いや何があったのか聞いていないんでわからない――――久しぶり?」

 

 もしかして、デジタルワールドとこっちの世界って時間の流れ方が違うのか?

 

「太一さん、デジタルワールドで何日過ごしましたか?」

「何日って言うか……何カ月?」

 

 となると、一分で向こう側はどれくらいたつんだ? 太一さんがデジタルワールドに行ってからこっちは数時間程度……数か月ってことは、多く見て100日ぐらい? 正確な数字は出せそうにないから置いておくとしても……放っておくと浦島太郎状態になるのか。

 

「ちょっとマズいかなぁ――」

「マズイってコロモン! はやくトイレトイレ!」

「うがぁ、うぐぐぐぐ」

 

 ……思考の海にダイブしていたら、なんかマズイことになっていた。別の意味で。

 ドルモン、あれどう思う?

 

「トイレぐらいちゃんと使おうよ」

「それができるデジモンは君ぐらいだと思うんだ。今のところ」

「あん……おいしい」

「ヒカリちゃんまだ食べてたのか……薬ちゃんと飲むんだぞ」

「うん」

 

 なんかしまらないなぁ……

 




改めて時系列とかイベントの順番を確認。
そしておもったんだ――光子郎のパソコンってアップルのものがモチーフだよねたぶん。



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18.二つの道

今回の話を書くにあたり、もう一度21話を見直しました。やっぱりボレロはいい曲ですね。


 少し落ち着いてきて、太一さんはどうするかまだ決めかねているようだった。

 

「ねえ、お兄ちゃん……また、どこかいっちゃうの」

「ヒカリ……」

 

 ヒカリちゃんが太一さんを引き留めようとするのは、風邪をひいて心細いからだけではないだろう。他人に心配をかけまいと無理をする子だが、太一さん相手にだけはどこか危ういほどに甘えるのだ。いや、依存しているともいえるかもしれない。

 だからこそ、一歩を踏み出そうとしている太一さんを止めようとしている。

 そんな中、テレビでは世界各地の異常気象を再び映し出していた。以前は見ることができなかったが、太一さんにもデジモンの姿を確認できるようになっている。

 

「…………俺、俺は」

 

 デジタルワールドに戻るべきか。それとも、このままこの世界にとどまるべきか。

 正直なところ、この場にいていいのか悩むのだが……

 

「お兄ちゃん」

「……」

「ねえ、コロモン。このままここで――」

 

 ヒカリちゃんが何かを言いかけたその時だった。バチンという音と共にこの部屋にあったパソコンが作動する。ノイズが激しくて分かり難いがあの姿は……

 

 

『太一さん……そこに……いるんですか?』

「こ、光子郎!?」

「光子郎さん……なんで」

『た……いち……さん』

「光子朗! オレだ、太一だ!!」

『太一……さん……いま、どこに』

「人間界だ。あのあと、こっちに飛ばされたんだ!!」

『……では……もど……ブツッ』

 

 音と画面が消えた。でも確かに光子郎さんだった……なんか元気がないというか、どこか様子がおかしいようにも見えたが……

 

「やっぱり、夢なんかじゃない――どっちも現実なんだ。この世界も、デジタルワールドでのことも……それに、光子郎がこうして連絡をとってきたってことは、まさかみんなはまだ向こうに――」

 

 太一さんは何かを逡巡したあと、電話にとびかかるようにして番号をプッシュしていく。見覚えのある番号だなと思っていると、光子郎さんの家の電話にかけたようだ。

 半ば予想していたことではあるが、光子郎さんは家には戻っていない。続いて、空さん。そのほかにも何人か。だけどその全てで帰ってきていないと返される。

 

「……やっぱり、まだ帰ってきていないのか」

「太一さん……」

「悪い、一人にさせてくれ」

 

 そう言うと、太一さんは自分の部屋に戻っていった。

 横を見るとコロモンがスイカを食べている。その様子をヒカリちゃんはじっと眺めていた。

 

「ねえ、おいしい? コロモン」

「うん!」

「そう。よかった」

 

 そう言って、にっこりと笑う。邪魔するのもなんだし、そのままにしておいた方が良いかな。

 とりあえず太一さんに見せてもらった紋章や、他の子供たちについても気になる。

 7人……いや僕を含めれば8人の子供たちとそのパートナーのデジモンがいる。太一さん以外はまだ成熟期までにしか進化できないこと。太一さんも体感時間ではつい先ほど完全体に進化できるようになったばかり。

 

「僕の予感がデジタルワールドで起きている脅威を指しているのはまず間違いないわけだけど……なんか引っかかるんだよなぁ…………」

「どうかしたの、カノン」

「いや。なんで僕はデジタルワールドに呼ばれなかったのかなって」

「そういえば……なんでだろうね」

 

 なにか理由があるのか――そう思った、その時だった。

 部屋の中が揺れ出す。同時に、外から大きな音が鳴り響いてきたのだ。

 

「な、なんだ!?」

「とにかく行ってみましょう! ドルモン!」

「うん――わかった」

「退化した!?」

「説明はあと! とりあえず外に出ます!」

 

 窓の外を見ると、赤色の恐竜型のデジモンの姿が見えていた。しかし、ノイズだらけで情報がわからない。

 

「あれは――ティラノモン!?」

「とにかくエレベーター……は動いているか怪しいんだよなぁ」

 

 電子機器に作用しているとすると、バグっている可能性もあるし……階段を走るか。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 外に出ると、ティラノモンの姿は霞のように消えていった。そこには何もいなかったのように。ただ、何かが爆発したような痕が残っているのが、ここに奴がいたことを裏付けている。

 出ては被害を残して消えるって質悪すぎ。

 

「……さぁて、これで終わりならいいけど――肌がびりびりする。あたりの空間が歪んでいる?」

「お前、そんなことわかるのか?」

「そりゃぁ4年もデジモンに関わっていれば慣れもします――――来ます!」

 

 ズドンと更に大きな音が聞こえる。近くのコンビニの向こう。ドリルが付いたモグラのようなデジモンの姿が見える。やはりこちらもノイズだらけで名前がわからない。

 

「今度はドリモゲモン!?」

 

 まるで地震が起きたかのような衝撃。周囲の人たちは何事かとあたりを見回しているが、ただの地震だと判断して各々が普段通りの日常へと戻っていく。

 すぐそばで起きている非日常にはまるで気が付かず、僕たちだけがデジモンの姿を認識していた。

 ドリモゲモンと呼ばれていた影もすぐに消え、崩れた地面だけが見える。

 

「他の人には見えていないのか――普通の人間にはデジモンは見えないのか?」

「太一さん、コロモンは見えていたんでしょう……だったらこの場合、異常なのはデジモンの影の方だと思いますけど……電気屋のテレビの速報曰く、地震としか思われていませんね」

「爆発しておいて地震ってオイオイ……」

 

 ほら、向こうの信号のさきのテレビのニュースでも……あれ、砂嵐…………

 

「お兄ちゃん!」

「ヒカリ!? なんで出てきたんだ!」

「だ、だって……」

「ここは危ないから、早く戻って――」

「そんな暇はなさそうですよ」

 

 砂嵐の起こっているテレビの前。横断歩道の信号が赤になっているため人が集まっている。その中に、緑色の鬼のような姿のデジモンが経っていたのだ。

 その眼には意思はなく、ただ佇んでいるだけだが……

 

「オーガモンだ!」

「ど、どうすれば……こんな街中じゃみんなを巻き込んで…………」

 

 不思議と、奴に動きはない。すぐに動けばいいだろうになぜかその場から動かなくて――信号が青なった瞬間、こちらへと飛び出してきた。

 

「――ものすごく単純なデジタル処理なわけね!」

 

 とっさに防御の式を組み立てて二人の前に出る。その瞬間、ドリモンとコロモンが飛び出しており、オーガモンをひきつけるように建物を飛び上がっていた。

 

「お前、それ――」

「説明している時間はなさそうです。早く追わないと――」

 

 上空では、二匹の幼年期がオーガモンと戦っていた。幻影とは言っても強さはそのままである可能性が高い。となると、オーガモンは……

 

「成熟期に見えるよな――」

「みんなここから離れて!」

「コロモン……何言っているんだよ! いままで一緒に戦ってきただろ、これまでそうして二人で一緒にやってきたじゃないか!」

「太一……」

 

 太一さんのデジヴァイスを握る力が強まっていく。それに呼応するかのように、デジヴァイスから光があふれていく。もう何度も見た。その光が引き起こすものを。

 

「こっちも行くぞ! 流石に被害がでかくなるからサポートで頼む!」

「了解ッ!」

 

 二匹のデジモンが光を纏い、体の形が変化していく。それと同時に、上空に光の穴が開いた。体にビリビリと電流が走るように痛みが駆け巡った。

 あの先にあるものがわかる。だが、この方法ではダメだ。僕が通るにはこれではダメだというのが理解できた。

 

「デジタル、ゲート……」

 

 二体の成長期のデジモンがオーガモンとぶつかる。コロモンが進化したデジモン――小さな黄色い恐竜のようなデジモン、アグモンは見たところドルモンと似たような体躯のデジモンらしい。口から炎を噴き出しており、オーガモンへと命中する。

 ドルモンの場合、鉄球を吐き出すためぶつかってもあらぬ方向へ飛ぶ可能性がある。そのため、ドルモンは飛び上がってオーガモンの棍棒をはたき落としていた。

 

「ベビーフレイム!」

 

 最後に、アグモンの火球が命中してオーガモンは上空へと飛ばされていった。そして、アグモンの体も透けていく。ふわりと体が浮き上がりゲートへ吸い込まれようとしているのだ。

 

「太一、先に行っているね……」

 

 ゲートはいまだ閉じていない。そう、次は……

 

「ヒカリ……俺、行くよ」

「待って――お兄ちゃん、このまま……」

「大丈夫。必ず帰るから…………だからさ、留守番よろしくな」

「……うん」

「カノン、お前は……」

「このゲートじゃ向こうに行けないみたいです。だから、一旦お別れです」

「わかった――ヒカリのこと、よろしくな」

「ええ――それに、すぐに会えますよ」

 

 僕の側はもちろん、太一さんの方も長くて1カ月というところだろう。なんとなく、すぐにこちらに来ることになるのではないかと思うのだ。

 

「僕の予感って結構当たりますよ」

「そっか――じゃあ、またな」

 

 太一さんのデジヴァイスを握る手が上がっていく。デジヴァイスの力でゲートが開いたのだ。しかし、ここで戻れるのは一人だけ。

 やがて、太一さんの体も透けていき――この世界から消えた。

 

「……お兄ちゃん」

「すぐに会えるよ……とりあえず」

 

 ガシッとヒカリちゃんの体を背負う。ぴょんと頭の上に重さが加わり、ドリモンが乗ったことを確認する。すぐに退化してくれて助かった。さて、この後僕たちがしなければならないことは何でしょうか。

 

「えっと、カノン君?」

「周りを見るんだ――アスファルトが壊れたり、マンションの壁が崩れたり…………さあ、目撃者がいないうちに逃げよう。幸い、ゲートが開いていたことで、僕たちの姿もデジモンの影のように認識されなかったっぽい」

「まって、悪いことしているみたいな感じが……」

「器物破損。普通にアウトなんだよなぁ……」

 

 というわけで、やっぱり僕らはしまらない終わり方をするのであった。

 

「いつものことだね、カノン」

「こうなりたくないからフォロー頼んだんだけど、最初の時点でアウトだったか」

 

 ◇◇◇◇◇

 

「ねえ、太一。これからどうする?」

「まずは、みんなのところへ行こう。カノンがデジヴァイスを持っていて、まだ人間界にいることも言わなくちゃいけない」

 

 デジタルワールドに帰還した太一とアグモン。

 戻ってきたのは彼らがエテモンと戦った地。あたりは砂漠で、地平線が見えている。

 

「こっちと向こうの時間の流れが違うのなら……こっちじゃ結構時間がったのかな」

「かもねぇ……とにかく、どっちにいく?」

「そうだな…………とりあえず向こうの方に、うん?」

 

 太一が歩き出したその時だった。デジヴァイスから電子音が鳴り響いていた。何度か聞き覚えのある音だが……いったいなぜ反応しているのだろうかと、画面をみると地図のようなものが表示されていて、二つの光点が表示されていた。

 中央のものと、上の方に一つ。

 

「これ……もしかして他のデジヴァイスってことか?」

「きっとそうだよ! 向こうにみんながいるんだよ!」

「ま、あてもないし行ってみるか!」

 

 デジヴァイスの反応を頼りに二人は進む。少しばかり長い道のりだが、目的地がわかっているだけで気の持ちようが違う。

 数時間もすれば反応のあった場所にたどり着けた。湖が広がっており、砂漠とは違って涼しい気候だ。

 

「ついたー!」

「でも誰も見当たらないね」

「そんなはずは……アグモン、あれ!」

 

 太一が湖のそばを指さす。アグモンもその方向を見てみると、白い何かが倒れているのが見えた。いや、アレが何かを彼らは知っている。

 

「「トコモン!?」」

 

 これは幕開けに過ぎない。完全体への真価が可能となったことによりデジヴァイスの機能は拡張され、彼らは散った仲間たちを集めることとなる。

 しかしそれは彼らの物語。今一度、地球の光景へと戻ろう。

 

 

 

 

 

「ふぅ……無事に終わったな。ヒカリちゃん、お昼のあとの薬飲んでないんだから早く飲むんだぞー」

「うん」

「まったく、体調崩しているのに無理をして」

「……カノン君にだけは言われたくない」

 

 カノンは「まあ、それもそうだけど」とつぶやいて水と薬を準備する。自分がいかに無茶なことをしているかは熟知していた。

 椅子に座ったヒカリの前に薬と水を渡したその時であった。奇妙な電子音が聞こえてきたのは。

 

「あれ? デジヴァイスが反応して――――え」

「どうかしたの?」

「……太一さんってこれと同じの持っていたよな。持ったままデジタルワールドに行ったよな?」

「う、うん……えっと、デジヴァイス? だっけ」

「そう……なんだけど、なんでデジヴァイスがここにもう一個あるんだよ」

「ホントだ……」

 

 カノンの目の前には、誰のものかもわからぬデジヴァイスが鎮座していた。カノンもまた、完全体に進化させたことで機能が拡張されていた。

 二人が出会ったときは歪みの影響だったのか、反応を見せなかったが、あるべき場所に戻ったことにより正常に作動を開始させている。

 片方はデジタルワールドで。もう片方は人間界で。二つのデジヴァイスは、それぞれ新たな道を指示していた。




何かのネタになるかなと脳内メーカーでカノンの頭の中を調べる。
橘カノン 橘火音
両方の表記共に、休一色。思わず笑ってしまいました。


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19.日本へのゲート

今回、アドベンチャー28話とそう大きな違いはありません。流石にそのままはまずいので微妙に変えてありますが。


 ここまで起こったことをまとめよう。

 

 デジタルワールドに太一が戻り、少しばかりの時が過ぎた。結論から言えば子供たちは全員合流を果たしたのだが、新たな敵ヴァンデモンとの戦いが幕を開けたのである。

 ヴァンデモンは強く、子供たちを追い詰める。仲間たちの絆を引き離し、バラバラにすることで倒そうとしていたが、子供たちは苦難を乗り越えてさらなる成長を遂げた。

 そして、ガブモン、テントモン、ピヨモンは完全体への進化を可能としたのだ。また、紋章にはそれぞれ意味があり、その意味を正しく理解する必要があるという情報を手に入れ、子供たちも自身の紋章の意味を知る。

 

 

 それでもヴァンデモンは強く、完全体に進化できるようになってから日が浅いアグモンたちでは歯が立たずに敗北してしまう。

 それでも何とか戦ってきたが――ヴァンデモンは8人目のえらばれし子供を抹殺するために人間界へと向かう。もちろん食い止めようとした子供たちだが、ヴァンデモンを取り逃がしてしまう。

 

 ゲンナイから、8人目の存在を告げられていたため、カノンが危ないと判断していた太一だったが……話はそう簡単に済む問題でもなかった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ヴァンデモンの城から脱出し、ゲンナイの家にたどり着いた子供たち。

 

「やいジジイ! いいから早く人間界への生き方を教えやがれ! 流石にヴァンデモン相手に一人だとカノンが危ないんだよ!」

「まあまちんしゃい。ワシの話を聞いてからでも遅くはないじゃろ」

 

 ゲンナイの家にあるプロジェクターに投影される日本地図。それが拡大していき、練馬区のとある場所を示す。その地図に対し、太一とヤマトが反応を示した。

 互いに顔を見合わせ、どういうことかと尋ねる。

 

「いや、大したことじゃないんだが……」

「俺も……光が丘だなぁって」

「うむ、ここがヴァンデモンが向かった地じゃ」

「でもカノンはお台場に住んでいるんだぜ?」

「確かに……デジヴァイスを持っているのなら彼が8人目のはずですし、何故光が丘に?」

「太一はそのカノンの紋章を見たようじゃが……どのような図形かわかるか?」

「あ、ああ……Sを横倒ししたような感じだった。こういうかんじで」

 

 太一が指で紋章を描くと、ゲンナイはやはりかとつぶやいて顎を撫でる。その様子に、子供たちも疑問符が浮かぶ。ただ一人、光子郎が何かを思案してはいたが。

 

「どうしたんだよジジイ」

「ゲンナイさん、どうかしたの?」

「うーむ……また妙なことになっておると思っての。そいつは8人目ではない」

「――――は? ど、どういうことだよ!?」

「そうか、すでにデジヴァイスを持っていたのなら僕らと一緒に来るはずなんです。でもそうじゃないということは……」

「光子郎の言う通り、彼に関しては少々事情が違う。言うなれば9人目……いや、0人目と言った方が正しいじゃろう」

 

 0人目? 妙な言葉に頭が混乱するのも無理はない。1人目という言い方ならわかるが、0人目と言うのはどういう事だろうか。

 

「もちろんえらばれし子供であることに変わりはないのじゃが、特殊な事情が絡んでいての。これがまた複雑かつ厄介な事情でワシもおいそれと話すことはできん」

「じゃあ、カノンは大丈夫なのか?」

「いんや、もちろんヴァンデモンは0人目も狙っておるじゃろう。その運命の紋章の持ち主を」

 

 じゃあ結局変わりないじゃないかよと太一が突っ込む。それどころか、8人目も含めて狙われている人物が二人になっただけではないかと憤慨しそうである。

 他の子供たちもやるせない表情になっていた。

 

「でも運命の紋章ですか……なんだか僕らのとは異質と言うか」

「じゃから事情が違うといったじゃろ。まあ後々わかることじゃ」

「後々って……」

「でもあの子は確かに普通の子とは違うわよね」

「頭もいいですしね」

 

 この中でカノンと交流のある光子郎と空を中心に他の子供たちが彼について尋ねるが――それよりもやることがあると太一が話を切り替える。

 

「とにかく、人間界へのゲートの開き方を教えろよ」

「それもそうじゃな――たしかこっちじゃったかな」

 

 ゲンナイはたくさんの棚の中から一つを選び、中に入っている物を取り出す。それは10枚のカードで、表にはデジモンのイラストが描かれていた。

 それを机の上にならべていく。

 

「これは?」

「カードじゃ」

「それだけじゃないだろうが」

「うむ。ヴァンデモンの城にあるゲート前の石板を覚えておるか?」

「たしか九つの穴が開いているものですよね」

「そうじゃ。そこにこのカードの内9枚を正しい場所にはめ込むことでゲートが開く」

 

 しかし、カードは10枚。

 

「1枚よくわからんのが混じっているがの」

「それじゃあ適当にはめてみようぜ」

「イカンイカン! そんなことをすればどんな世界にたどりつくかわかったものではない! 正しいやり方でゲートを開かねばどんなところへたどりつくのか見当もつかんし、正しい形で復元される保証もない」

 

 例えば、ミミとパルモンの体がミックスされた状態で復元されてしまったり。そんな状況になってしまいかねないのだ。

 

「い、いやぁ!!」

「まあそれもマシなほうじゃが。デジタルワールドに合わせて構成されているおぬしらの体をあちらの世界に合わせて再度変換する工程が必要じゃしな……太一もちゃんと帰ってきてくれてほっとしておるぞ」

「…………え、俺って危なかったの」

「まあ言うほどではない。しばらくすればあちらに馴染んで元に戻っておったが……万が一と言うこともある。現にそのカノンという少年はこちらへは来られなかったのじゃろう?」

「ああ、なんか拒絶されていたっていうか……」

「アヤツの報告通りならば今いてくれると助かったんじゃがのう……」

「どういうことですか、ゲンナイさん」

 

 光子郎がすかさずゲンナイへと尋ねる。彼の紋章は知識。こういう場面ですぐさま聞きにくるのは彼だ。それにゲンナイも知っていることを伝えてくれた。

 

「太一はその子が以前デジモンと戦ったことは知っておると思うが、その時に共闘したデジモンと知り合いでな。まあいろいろあってデジモンの魔法を使えるようになったと聞いておる」

「そんなことできるのか!? そうか、ヴァンデモンがやったみたいにゲートを開けるんだな!」

「あらゆる要素が絡み合った結果、使えるようになったんじゃよ。おぬしらにはどうやっても無理じゃ」

 

 なんだ、と子供たちが落胆する。ゲンナイ曰く、ヴァンデモンが魔法でやったことを子供たちは自分の力でやらなくてはいけないのだ。

 カードと石板のルールを解き明かし、正しくゲートを開く必要があると。

 

 その日はゆっくりと休み、翌日はヴァンデモンの城へと向かう。幸い、デジタルワールドでの1日は人間界の1分ほどの時間となる。

 そのため、彼らは休むことができたのだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ヴァンデモンの城の中には、ヴァンデモンの手下のデジモンが多数おり、アトラーカブテリモンが蹴散らしていた。中の空間が歪んでおり、アトラーカブテリモンの力によって空間のねじれが解かれる。

 

「はやくゲートへ向かいましょう!」

 

 子供たちはゲートへたどりついたものの、やはりゲートを開く必要がある。

 ゲートの前には石版がおいてあり、窪みが9つあった。

 石版の窪みにはそれぞれ上の列から一つ星、二つ星、三つ星が書いてあり、右の列の上にライオン、真ん中の列の上にケンタウロス、左の列の上にサルの絵が描いてある。

 

「どれをはめればいいんだ?」

「いい奴、悪い奴、汚い奴」

「大きいの小さいの中くらいのかしら?」

「強い、弱い、まあままとかか?」

「それ微妙過ぎー」

 

 お互いが意見を出し合っていくが、なかなか話が進まない。

 カードのイラストにあるデジモンは誰かしら遭遇したことのあるデジモンで、その時の話を交えながら会議が続く。

 

「って、脱線しすぎだろ! ヤマト、何かいい意見ないのかよ」

「…………もっと明確な基準じゃないか?」

「デジモンの明確な基準って……何よ」

「完全体とか成熟期とかかな?」

「それだタケル!」

「それじゃあこの星のマークがレベルって事ね」

「横の列の意味は分かりましたが……ほかが分かりませんね?」

「なあ、光子朗。ゲンナイのジジイからなんか聞いていないのか?」

「いえ……とくには……あ!」

「なんか思い出したのか!?」

「はい! デジモンにはそれぞれ属性があって、それが3つだそうなんです。それで、もしかしたら」

 

 光子朗はパソコンを起動し、デジモンの情報を見るためのツール。デジモンアナライザーを呼び出した。昨夜ゲンナイが改造を済ませており、デジヴァイスを挿す端子がついていた。

 

「ライオンはレオモン。ケンタウロスはケンタルモン。サルはエテモン……やっぱり、それぞれ属性が違います」

 

 レオモンはワクチン。ケンタルモンはデータ。エテモンはウイルスである。石板の上部に描かれている三つのマーク。獅子、いて座、サルのマークはそれぞれこのデジモンを表しており、3つの属性のことではないかと光子郎は思い至ったのだ。

 

「そして、横にある星のマーク。これが星が増えるごとに進化段階が上がっていることを表しているんです。僕はここにあるデジモンすべてに出会ったわけではないので……たしか先ほどの話で丈さんが僕の見ていないデジモンと出会っていましたので、デジヴァイスを貸してください」

「わかった――どうだい?」

「ええ、やはり思った通りです。これで埋まります!」

「流石光子郎だぜ!」

「……ですが、最後に余ってしまいますね」

「1枚余計だって言っていたよなぁ……ジジイの奴」

 

 成長期ワクチンのカードが二枚。

 それは子供たちのパートナーデジモンでもあるアグモンのカードとゴマモンのカードだった。

 

「最後の最後で……どっちが正解なんだ?」

「……太一、お前が決めてくれ」

「お、俺!?」

「ああ、お前のおかげでここまでこれたんだ。オレはお前についていく」

「そうだね。僕も太一についていくよ……リーダーは太一だと思うからさ」

「丈さんまで……」

「ボク達みんな、太一さんを信じていますよ。だから、お願いします」

 

 みんなが太一の顔を見る。そこには信頼があった。先頭を歩き、どんな困難な状況でも彼がみんなを引っ張ってくれていた。バラバラになっても、彼が再びみんなを引き合わせた。

 だからこそ、子供たちは太一を信じるのだ。

 

「みんな……わかった……」

 

 

 そして、太一が選んだカードは――――

 

 

「ひらけ……ゴマモン!」

 

 

 ゲートが開き、子供達は飛び込む。

 浮遊感と共に体がグルグルとまわり奇妙な浮遊感と共に体にピリピリとした感覚が走り、やがて視界が光で染まっていく。

 時間の感覚がおかしくなるのではないかとさえ思ったが、やがてその感覚もなくなり――――

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「ここは……元のキャンプ場?」

 

 雪が積もったキャンプ場。真夏だと言うのにこの光景は奇妙に映るが、自分たちの感覚で何カ月も前に目にした場所だ。

 

「戻ってきた――俺たち、戻ってきたのか?」

「でもデジモンたちは?」

「まさか、夢だったなんて……」

 

 デジモンたちの姿が見えない。今までのことは全て夢だったのではないか。そう思った時だった。

 

「空ー! みてー! こんなにたくさん食べ物だよ!」

「ほらほらみんなの分もあるよ!」

「……お前たち、まったく何してんだよ!」

「ここじゃそんなことしなくてもいいのよ」

「いっぱい美味しいものあるんだから!」

 

 夢じゃなかった。大変なことも起こるだろうが、夢でなかったことに安堵し子供たちが笑い合う。デジモンたちは首をかしげるが、その中でコロモンだけは――あー、と太一と食べたオムライスの味を思い出していた。

 

「……まあいいか。そういえば太一、なんでアグモンのカードを選ばなかったの?」

「えっと、記念にとっておこうかと思って」

「ホントかなぁ」

「あ、あはは……でもこのカードどうしようか」

 

 結局手の中にはアグモンのカードが残っていた。無用の長物ではあるのだが、使い道があればいいとは思う。

 

「そういえば、カノンが魔法を使えるって言っていたよな……よし、とりあえずアイツにお土産ってことで」

「記念じゃないのー?」

「まあいいじゃないか。ヒカリの面倒を見てもらったお礼ってことで。それより、8人目のことだ」

 

 太一が子供たちに向き直る。顔には真剣さが戻り、みんなもそれに合わせて表情が引き締まった。

 

「カノンも狙われているだろうけど、幸いアイツのデジモンは完全体に進化できる。一応連絡は取ってみるが、まずは俺たちも光が丘へ向かおう。ヴァンデモンよりも先に8人目をみつけるんだ!」

 

 戦いの場は移る。すべての子供たちがそろう日まで、近い。

 

 

 




ところで、アドベンチャーシリーズの黒幕さん……ワンダースワンの方で倒されているって設定ですけど、もしかしてあれ自体が無かったことと言うかそういうパラレルワールドで、triでは倒されていないんじゃないかと思う、今日この頃。

第三章ではついにデジタルワールドにいくっぽいですし、楽しみですねぇ……ラストにデジタルゲートオープンして終わるってオチだろうけどなッ!




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20.よみがえる記憶! 光が丘の戦い

こいつ、無茶苦茶やるな……


 さて、目下の問題はこのデジヴァイスである。僕のではないし太一さんのでもないだろう。だとすると、これは誰のデジヴァイスになるのかということだが……

 

「えっと、カノン君?」

「一人しかいないよなぁ…………どうしたものか」

 

 となるとパートナーデジモンもいるハズなんだろうけど、見当たらない。というかこれそのままでもいいのか? 何か嫌な予感がするのだが、どうするべきか僕たちだけじゃ判断ができない。

 と、そこで電話の音が鳴り響く。いったい誰からだろうと思い、受話器をとってみると聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

『もしもし……えっと、太一だけど」

「た、太一さん!? まだ数分しか経ってない――いや時間の流れが違うんだった。っていうか帰ってこれたんですね」

『ついさっきな。今から光が丘に行くところだ』

「――――え」

 

 なんで光が丘? そのまま帰ってくればいいだろうになぜ光が丘へ行く必要があるのだろうか。

 疑問に思ったものの、電話の向こう側も忙しいらしく用件だけどんどん言っていく太一さん。

 

『ヴァンデモンがこっちの世界にいるもう一人のえらばれし子供を狙っているんだ。で、どうも光が丘にその子供がいるらしくて俺たちもこれから向かうところなんだよ』

「でも、たぶんそのえらばれし子供って……」

『ああお前じゃなくてもう一人いるらしい。なんでもお前だけ少し事情が違うとか――ああスマン、これ光子郎の携帯電話で、そろそろバッテリーがヤバい。後でまた連絡するからな!』

「いやだからその子供は――――切れた」

 

 たぶんヒカリちゃんのことなんだけどなぁ……言う暇もなかった。というかヴァンデモンって誰? え、こっちにデジモンが来たの? なんかヤバそうなの来ちゃったの?

 また厄介ごとの始まりってわけですかそうですか。

 

「……少しは落ち着けよ」

「カノン君、なんか怖い顔している……」

「あちゃぁイライラしている時の顔だね」

「…………結論から言うと、大分マズイことになったらしい。とりあえず僕らの目下の問題はこのデジヴァイスをどうするかだ。たぶんヒカリちゃんの」

「わたしの?」

 

 まあ、おそらく。というか十中八九。いやほぼ確定でもいいだろう。

 光が丘って言っていたし……デジモンと光が丘って言ったら4年前の事件だ。アレの当事者だったヒカリちゃんがえらばれし子供じゃないってのは違和感があったから、これで納得である。

 

「で、ヴァンデモンとやらが狙っているらしいけど……このデジヴァイスどうするか」

「どうするって、どうするつもりなの? ヒカリちゃんのなら渡しておけばいいんじゃないの?」

「……わたしのなら、わたしが持っている方がいいと思うけど?」

「いや、問題が一つ。デジヴァイスを見つけたときに気が付いたんだけど、デジヴァイスには他のデジヴァイスのサーチ機能があるらしい。ヒカリちゃんのデジヴァイス(おそらく)にはその機能が働いていないけど……

 そういえば完全体に進化してから機能が一気に解放されたよな」

「うん。そうだったね」

「となるとサーチは完全体に進化すると解放か……」

 

 まあ、デジヴァイスの反応を検知できるってのがわかればいいのだ。

 

「となると、ヴァンデモンもデジヴァイスをサーチしている可能性が出てきた」

「子供を直接狙うんじゃなくて?」

「いくらなんでもそこまでするかね……光が丘って場所に絞っている時点で事前に調べているのがわかるよ。あそこは以前にデジモンたちが戦った場所だからね」

 

 まあ僕がやるべきことが分かったのだから良しとしよう。あと、心配だから太一さんたちのことも気になるし。とりあえずヒカリちゃんのデジヴァイスを掌に載せて、魔法陣で取り囲む。

 

「え、カノン? どうするつもりなの」

「サーチされないようにプロテクトかける」

「そんなこと出来たんだ……」

「いや、今思いついた。別に難しいことじゃないし」

「さらっと言うね……」

 

 褒めても何も出ないぞドルモン。え、褒めてないって? 知ってる。

 デジヴァイスはそれぞれの持ち主とパートナーをつなぐアイテム。リンクが伸びてるのが感じ取れる……うーん、ヒカリちゃんとの間にリンクがあるみたいだけどパートナーとの方は分かり難い。出会っていないのが原因だろうか。

 まあ今は仕方がない。いくつかのリンクもあるし完全とはいかないが一時的に外部と遮断していく。言うなれば休眠状態に近いだろう。

 

「とりあえず、これで良し」

「……うわぁ、カノンが人間やめちゃってるよ」

「はっはっは。今更だよ――っていうか母さんの息子である時点で諦めている」

 

 あの人の本気って知っているか? 前に戦ったワイヤーフレームのデジモンもどきに後れを取ったの気にしていて鍛え直していたんだけど、この前虎を投げ飛ばしているのを見たぞ。

 

「デジモンにも勝てるんじゃないの?」

「やめろ」

「カノン君のお母さんって……生き物なの?」

「そのレベルで疑うのか!?」

 

 なんともまぁ、しまらない話である。

 と、こうしている場合じゃなかった。とりあえずドルモン、屋上に行くぞ。

 

「なんで屋上に?」

「行ってからのお楽しみ……まあ、迎えに行かないとマズいよなぁとも思うわけで」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 一方その頃、子供たちは全員が過去に光が丘に住んでいたことが分かり、自分たちがこの地にどの程度住んでいたかを話していた。程度の差はあれど短い期間のみであり、同時期に引っ越したことが分かって疑問が浮かんだのである。

 それに、全員が光が丘に住んでいたということはただの偶然とは考えられないことであった。その後引っ越したことも含めて、全員の共通点となるのはやはり何かるのではないかという結論に至った。

 しかしそうなると気になるのは引っ越した原因だが……そのことについて覚えている男がいた。

 

「それについては僕がお答えしよう」

「丈先輩が?」

「君たちが忘れているのも無理はないと思うけど、4年前にここで爆弾テロ事件があったんだ」

 

 一番年長の丈でさえ、4年前と言うと小学生になったかどうか。大きな事件だったとしても、幼稚園児に爆弾テロという話は入ってはこないだろう。

 そのため、みんなは爆弾テロということは知らなかったのである。

 

「そんな理由だったか? うーん……? そういえば、なんか引っかかるような…………」

 

 太一の記憶の中に4年前というのが引っかかっている。つい最近どこかで聞いた覚えがあるのだが……なかなか出てこない。

 

「太一、どうかしたの?」

「……そうだ、カノンの奴がデジモンに出会ったのも4年前って言っていたな。たぶん、同時期――ってまさか、アイツ何か知っているんじゃないだろうな……会ったときに教えてくれれば今悩まずに済むものを」

 

 確かにカノンは当時のことを覚えていたし、色々と感づいている。だが、別に話さなかったわけではない。太一がナイーブになっていたので後回しにしていたら太一がデジタルワールドに帰還しただけだ。

 しかしそんな事情は知らない太一は後でとっちめてやると意気込んでいた。

 

「ま、まあそのことは後でもいいじゃないですか。それよりも先に8人目を――なんでしょう、向こうが騒がしいようですが」

 

 どこかで聞き覚えのある――緊急事態を知らせる音。数か月もデジタルワールドを旅していた子供たちはすぐにその音の正体にたどり着けなかったが、やがて思い出す。

 

「これは、パトカーのサイレン!? もしかして……」

「ヴァンデモン、かもしれませんね。行ってみましょう!」

 

 すぐさま音のする方へ向かうと、轟音と共に巨体が街を爆走しているのが見えた。見た目は巨大な象。しかし、その顔は生き物のそれではない。金属の仮面をつけた巨大な象――いや、マンモス型のデジモン。

 パトカーもどうやら周辺の住民の避難を促すために動いているらしく、すでに遠ざかっていた。あたりに人がいなくなっていき、残されたのは子供たちのみ。そして、デジモンは子供たちに気が付いた。

 

「まってください、今アナライザーで調べます――でました!」

「いいからはやく! あいつ気が付いたぞ!」

「マンモン、完全体のデジモンです!」

「ああもうよりによって完全体かよ!」

 

 現在、完全体に進化可能なのは4体。しかし、日本へ来る途中でのごたごたでピヨモン以外の3体は力を使いすぎて幼年期にまで戻っていた。

 

「ここはアタシに任せて!」

「ピヨモン、お願い!」

 

 空のデジヴァイスが輝きだし、ピヨモンの姿が変化していく。炎を纏った巨大な怪鳥。成熟期のデジモン、バードラモンへと進化していく。そして、二体のデジモンが相対するが――その光景が子供たちの脳裏に焼き付く。既視感と共に目の前の光景が何かと重なる。

 

「怪獣、怪獣が二匹!」

「な、何を言っているんだタケル?」

「そうだ、覚えてる。昔タケルの奴、怪獣を見たって言い張って母さんにしかられたんだ」

 

 ヤマトの記憶に過去の思いでがよみがえる。自分もタケルと同じように二匹の怪獣を見た。しかし、タケルが叱られたことで自分は何も言えず、その時のことは記憶の奥底へと沈んだのだ。

 

「それは、いつのことですか?」

「たしか爆弾テロの時だ……」

 

 そして、バードラモンたちがある場所に来た時、あることに気がついた。

 

「ここは……」

「爆弾テロのあった場所だ」

 

 過去の記憶と今の状況が重なっていく。徐々にだが、全員の記憶の扉が開いていく。

 

「この陸橋は……」

 

 以前も来たことがある。前は夜だった。あの時、ここで何があったのか。太一の脳裏に4年前の出来事が鮮明に浮かびつつあった。

 

「あの時も……こんな感じだった」

 

 デジモンたちが戦っている。バードラモンがマンモンに向かって炎の球をぶつける。その光景も既視感がある。

 

「あの時と同じだ……火の玉が陸橋を壊したんだ!!」

「いや、火の球をはいたのは飛んでたほうじゃない。もう一匹のほうだ!!」

 

 ヤマトの言う通り、火球を放ったのは飛んでいたデジモンではない。大地に立ち、オレンジ色の恐竜のような姿をしたデジモン。

 みていた場所はそれぞれ違う。だが、全員の脳裏にはあの時の出来事が浮かんでいた。

 

「そうだ、戦ってたんだ……何かと何かが」

 

 太一がそう呟いたとき、バードラモンがマンモンの放つ冷気で凍らされ、吹き飛ばされる。

 

「バードラモン!」

「空――――、バードラモン超進化!

 ――ガルダモン!」

 

 ガルダモンへと進化し、再び飛び上がっていく。子供たちはこの時、答えにたどり着いた。そう、あの時の出来事を完全に思い出したのだ。

 

「あの時戦っていたのは怪獣じゃない。グレイモンだ!」

「そうだった――あれはグレイモンだった」

「ボクも思い出しました。たしかに、アレはグレイモンでした」

「あの日、うちのコロモンが来たんだ……コロモンはアグモンになり、そしてグレイモンになってもう一匹のデジモンと戦ったんだ。そうだ、間違いない」

 

 パソコンの画面から出てきたデジタマ。そこからボタモンが孵り、コロモンになって最後にはグレイモンへと進化した。忘れてしまっていた思い出が完成し、同時にガルダモンの必殺技、シャドーウィングがマンモンを貫き、戦いに決着がついた。

 

 あたりには静寂が戻り、戦いの爪痕が生々しく残っている。

 

「あの後2匹のデジモンはどこかへ消えていて、まるで夢でも見ていたんじゃないかって思っていたんだ」

「そうですね……凄い光と音がしたと思ったら、何も残っていなくて……」

「証拠も何もないし、爆弾テロってことで処理されたのかぁ……」

「光の奴がコロモンのことを知っていたわけが分かったよ。アイツは覚えていたんだ……ってことはカノンが覚えていないんですかって言っていたのはこのことだったんだな」

「カノン君も現場にいたってことでしょうか?」

「たぶんな――でも、アイツって生まれも育ちもお台場のはずだけど」

「そういえば以前、親戚が光が丘にいると聞いたことがあります」

「本当か光子郎?」

「ええ。あの時は春休みだったはずですし、遊びに来ていてもおかしくは無いですね」

「そっか……でもコロモン、お前は覚えていないのかよ」

「たぶん別のコロモンだよ。でも、太一と初めて会ったとき懐かしい感じがしたんだ。ヒカリちゃんもなんだか初めて会った気がしなかったよ」

「それ、お前も忘れていたってことなのか?」

 

 もっともコロモンはファイル島の生まれ。過去に来たグレイモンと同個体だとしてもデジタルワールドの時間で数万年以上は経っているであろう。死んでデジタマに還り、何度も生まれ変わった末に今のコロモンになったのかもしれないが、ここでそのことを追求する意味はないだろう。

 今一番大事なことは他にある。

 

「マズイ――パトカーのサイレンが聞こえてきた。捕まると厄介なことになりそうだ」

「そうだな、急ぐぞ」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 近くの公園に避難した子供たち。ここでならようやく落ち着いて話ができそうだと、光子郎が口を開く。

 

「前々から気になっていたんです」

 

光子朗は自分が考えていたことを語りだした。

 

「キャンプ場にはあんなに子供たちがいたのになぜ、ボク達だけが選ばれたのか。でも、今日謎を解く手がかりがやっとつかめました」

「4年前の事件」

「ええ、ボク達には4年前デジモンに会っていたという共通点があるんです」

「ということは8人目も……」

「ええ、光が丘に住んでいたんでしょう」

 

 子供たちの間に沈黙が走る。一つ謎が解け、目的もはっきりした。しかし、それでも不安は残る。まだ解かなくてはならない謎も残されており、ヴァンデモンのことも何とかしなくてはいけない。

 誰かが何かを言おうとしていた、その時だった。子供たちのいる場所が急に暗くなったのは。

 

「あれ――なんでいきなり暗くなっているんだ?」

「キャァアアア!?」

「どうしたのミミちゃん!?」

「あれ! あれ!!」

 

 ミミが上空を指さす。その指の先には、青色の怪鳥がこちらへと降り立つ姿があったのだ。

 

「なっ――新手のデジモン!?」

「まずいですよ、あのデジモンが完全体だったら……」

 

 しかし謎のデジモンは子供たちを視認しているものの、襲い掛かる様子はなく静かに降り立つのみであった。それに、あたりが騒がしくならないのも気にかかる。

 

「おーい、太一さーん! 僕的にはさっきぶりですけど、そっちは久しぶりですかねー!」

「――――え、カノン!?」

 

 怪鳥――サンダーバーモンが光に包まれ小さくなっていく。ドルモンへと退化し、背中に乗っていたカノンもふわりと地面に降り立った。

 

「というわけで、迎えに来ましたよ」

 

 ニコリとカノンは子供たちに笑いかけたが、唐突な展開に反応出来る者はいなかった。




というわけで、カノンやらかしスペシャルでした。

ヴァンデモンの紋章のコピーによる捜索の失敗が決定いたしました。
さあ、思いっきり笑ってやってください。


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21.えらばれし子供たちとの出会い

意外と長くなってしまった。あと、今回のカノン君はいつもより会話相手が多くてテンションが上がっています。


 さて、ステルスの術式を試すのもかねて迎えに来たのはいいけど……みなさん開いた口が塞がっていないようで。うん、やり過ぎたかな。

 

「かなじゃねぇよ、やり過ぎだよ確実に!」

「……すんません」

「って言うか目立つ行動をして大丈夫なんですか?」

「ステルスは問題なく機能しているみたいなんで大丈夫ですよ……ただ関係者には丸見えみたいですが」

 

 色々と準備をしてからサンダーバーモンに進化してもらって、文字通り飛んできたのだが……僕が到着したのはちょうど戦っている最中。いや、決着がつく時だった。

 それで急いで現場から離れるみんなが見えたわけだが……着陸ポイントを探さないといけなかったし。

 

「どうやったんだよそれ……」

「ほら、あの歪みで出てきたデジモンですよ。アレを参考に表面のテクスチャにノイズを発生させているんです。なんで、一般の人には認識できないんです……欠点は電子機器が使えなくなることですが」

 

 おかげで連絡をとる時はいちいち降りる必要があるんだけど。いや、上空じゃどのみち電波の類は届かないか。

 

「本当に無茶苦茶な子ね」

「そうなのよ。昔っから子供らしくないというか」

「そこの女子二人ー、聞こえてますよー」

 

 自覚はあるが、人に言われると少々傷つく。とりあえずゆっくり話がしたいし、どこかにいい場所が無いものか……

 

「とりあえずファーストフードあたりで何か買って食べましょうか。幼年期のままってことはこっちに戻って来てから何も食べてないんじゃないですか?」

「実を言うと腹ペコで今すぐハンバーガー食べに行こうかと思っていたんだよ」

「太一、君ねぇ……電車賃のこと忘れているだろ」

「あ、あはは……」

 

 眼鏡の先輩が太一さんに呆れた顔を向けている……そういえば僕が知っているのは太一さんと光子郎さんと空さんの三人。残りの4人は名前がわからない。僕より年下の子が別の学校だってのは分かるんだけど……僕と同じく、日本人ではありえない髪の色だし。金に近い茶色といったところか?

 僕の赤毛もそうなのだが、ほぼ黒髪、たまに茶色の中ではかなり目立つのだ。おそらく、ハーフ……にしては顔立ちが日本人だからクォーターってところか。

 

「じゃあ、太一さんと……そこの眼鏡の人。買い出しに付き合ってください。他の皆さんは公園内で待っていてくださいね」

「眼鏡の人って……僕の名前は城戸丈だよ」

「りょーかいです。城戸先輩」

「…………城戸って呼ばれるのもなんだか久々だな」

「先生だって呼んでたぜ?」

「まあそれはそうなんだけど……」

 

 何カ月もデジタルワールドを旅していたと言っていたし、その感覚は分からないでもないが……まあとにかく、急いで買い出しに行こう。とりあえずドルモンは退化して僕の頭に乗ってもらった。

 

「って、自分で退化したッ!?」

「おおいいリアクション……そういえば自己退化って普通はできないんだっけ?」

「お前やっぱ無茶苦茶だよなぁ」

 

 遺憾である。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 まあ適当にハンバーガーを買い込む。子供だけでいぶかしげに見られるだろうが、僕が適当にぬいぐるみ同好会の買い出しとか色々言っていたら気にされなくなった。まあ、デジモンもおとなしくしていたらぬいぐるみにしか見えないし。

 こんな奇怪な生物がいるとは誰も思うまい。

 

「慣れているね、君」

「そりゃ4年も一緒に暮らしてますからねー。あ、待ってください。ちょっとそこの電話で父と連絡をとりますから」

「そういえば、お前んちの両親はデジモンのこと知っているんだっけか」

「ええ。そろそろ父の講義も終わって大学から出られる時間なので迎えを頼みます。流石にこの人数じゃ帰るのも一苦労でしょうし……電車なんて使ったら寝過ごすでしょうからねー」

「「ははは、まさかぁ」」

 

 ……知っているんだからな。二人とも、注文を待っている最中少しうとうとしていたのを知っているんだからな。まあ、追及する必要はないか。

 とりあえず父さんへ公衆電話から連絡をとる。数秒のコールののち、すぐに出てくれた。

 

『もしもし、どなたかな』

「カノンだよ。今大丈夫?」

『ああ、そろそろ帰るところだが……どうかしたのかい?』

「うーん説明すると長くなるんだけど、光が丘まで迎えに来てほしいんだ。大型の車で。子供は僕を入れて8人と……あと8匹かな」

『なるほど――――前に言っていた予感が見事的中したんだね』

「そういうことで。光が丘公園のあたりにいるから、迎えは……体育館あたりの駐車場でいいかな」

『わかった。できるだけ近場にいてくれ』

「わかってるよ。とりあえず、頼むね」

 

 まあ、食べ終わって話も片付くころにはつくか……通話を終了し、太一さんたちと共にみんなのところへ戻る。流石にもう驚く様子はないが……なんでいぶかしげな視線?

 

「なあ丈、小学校3年生のころってここまでしっかりと電話の受け答えできたっけか?」

「人によるんじゃないかな。ちなみに、僕は出来た」

「…………」

 

 訂正。太一さんだけがいぶかしげだった。

 まあそれはおいておいて、元の場所に戻るといきなり食べ物へ突撃された。それほどまでにおなかがすいていたのか。

 

「もうこんな食事久しぶりだもの!」

「懐かしいわこの味……」

「ハンバーガーなんて何カ月ぶりだろうな」

「空たちいつもこんなおいしいもの食べてたのー?」

「うめぇー」

「なかなかいけますなぁ」

 

 デジモンたちにも好評なようで、どんどん食べ進める。僕はおやつ程度だからナゲットとアップルパイだけなんだが……ちなみにドリモンだが、目を輝かせて周囲を見ている。そういえば、この公園特撮の撮影に使ってましたね。

 

「そういえばカノン君に自己紹介をまだしていませんでしたね。先ほど丈先輩はしたんですよね……あとは」

「まずは俺からだな。俺は石田ヤマト。お台場小学校の5年生だ」

「アタシは太刀川ミミ。4年生よ」

「ボクは高石タケル。みんなとは違う小学校の2年生だよ」

「それじゃあ僕も改めまして、3年生の橘カノンです。で、こっちが相棒のドリモン。さっきまでの姿はドルモンです」

「どうもー」

 

 それに続いてデジモンたちも自己紹介を始めていく。まあ、僕の場合は情報を読み取れば名前がわかるのだが……今言うと混乱するか。

 

「ヤマトのパートナーのツノモンです」

「モチモン。光子郎はんのパートナーや」

「アタシ、ピョコモン! 空のパートナーよ」

「パルモンよ。ミミのパートナーデジモンなの」

「オイラはゴマモン。丈のデジモンさ」

「ぼくはパタモン。タケルのパートナーだよ」

 

 コロモンも入れて7体……いや、ドリモンも入れて8体のデジモンか。

 

「半数以上は幼年期か……エネルギーの使い過ぎなら完全体に進化できるのは4体以上ですか?」

「鋭いですね。ちょうど4体のデジモンが完全体に進化できたんですが……先ほどのマンモンとの戦いでご覧のとおりに」

「完全体は強いですからねぇ……父さんが迎えに来るまで時間もありますし、どんなことがあったか聞かせてほしいんですけど」

「わかった。いいぜ」

 

 そうして語られるのは太一さんたちが歩んだ冒険譚。小学生7人がするような冒険じゃないよなと思いつつ、彼らの視点で語られる物語はそれはそれはトラブルの連続で満ちていた。

 いきなり飛ばされたファイル島と言う島では黒い歯車がデジモンたちを凶暴化させ、味方であるデジモンのレオモンやアンドロモンなどと戦うことになったり、黒幕であったデビモンとの決戦ではパタモンが進化したデビモンと相討ちになったりなども聞かされたが……そういえば太一さん言っていたなデビモンがどうとか。

 

「デジタマに戻っても記憶が引き継がれるんですか?」

「絶対というわけではないようですが、パタモンの時はちゃんと覚えていましたよね」

「うん。ファイル島のこともはっきりと覚えているよ」

「てっきりオールリセットかと思っていたんだけど……残るデータもあるのか」

 

 で、その後は海を渡って大陸へいったと。デビモンも先兵でしかなく、サーバ大陸に渡るまでも色々あった――とくに驚いたのは、紋章とタグのくだりだろうか。僕の場合普通にデジヴァイスと一緒に出てきたし。

 

「こう、パソコンからにゅっと」

「ゲンナイさんも事情が特殊と言っていましたね。運命の紋章がどうとか」

「……運命、ねぇ」

 

 紋章は完全体に進化させるアイテムであるらしいが、それぞれの心の特質に関わるのだとか。で、僕のは運命か……それ心の特質なの? いや、心当たりあるけど。

 話をもどすが子供たちは大陸でエテモンという敵と戦うことになったそうだ。黒いケーブルでデジモンたちを操るエテモンとの戦いは困難を極めた。エテモンはふざけたなりながら完全体で、正面から戦ってもダメだったそうである。

 

「で、完全体に進化したコロモンと太一さんがその時の戦いの余波でこっちにきたと」

「そういうわけだな……いやぁ、あの時はびっくりしたよ」

「こっちもですよ」

 

 その後は太一さんがデジタルワールドに戻るのだが――デジタルワールドでは更に2カ月以上の時間が経っており、仲間たちはばらばらになっていた。

 その過程で現れた新たな敵こそがヴァンデモンで、その手下の手により何度も仲間割れを起こさせようとしたり、色々と妨害を受けたりした――って、そのヴァンデモンを倒しきらずにこっちに来させてしまったと。

 

「倒しきるどころか歯が立ってないんだけどな。あはは」

「いや笑いごとじゃないって」

「完全体相手にいきなり立ち回っているお前と比べるなよ――っていうか普通立ち回れないだろ」

「今度はカノン君の話を聞かせてほしいなぁ……ほれ、うりうり」

「なんで頭をぐりぐりするんですかッ」

 

 すこし背が低いの気にしているのに――まあいいか。とりあえずどこから話したものやら…………

 

「4年前の事件についてですが……覚えている人は?」

「さっき全員思い出した。その事件を目撃した人物が、えらばれし子供になっているんだ――しかも、全員が引っ越している。それで、同じく光が丘に住んでいて引っ越した人物が8人目じゃないかと思っているんだが……」

「8人目?」

 

 詳しく聞くと、ヴァンデモンは8人目を抹殺するためにこちらの世界に来たらしい。僕は何人目だよと思うのだが0人目って……順番的には1じゃないの? とか0って番外ってこととか色々言いたいことはあるがそれは置いておく。

 

「ああ、だから早く見つけないと……」

「あのぉ……太一さん、一人その条件に当てはまる人がいるじゃないですか。光が丘に住んでいて、その後引っ越した子供。さらにデジモンの事件も目撃している…………」

「…………オイオイ、まさかとは思うけど」

「まあそのまさかってことで――――こうなるとあの術式はやっぱり正解だったか」

「術式?」

「まあ、それも含めて僕が戦った相手とかについても話しますよ。どのみち、父さんが来るまで動けませんし」

 

 光が丘での事件の時にデジタマを拾ったこと。そこから生まれたのがドルモンで、4年間一緒に暮らしていた事。あとは、変なワイヤーフレームに始まり、第六台場では三度デジモンと戦ったこと。ハワイで出会ったバステモンや、マーメイモン。あとはデジメンタルと魔法についてなど。

 

「……他にもこっちにデジモンがいたなんてな」

「というか、アーマー進化ってそんなのがあるの?」

「そんな便利なものがあるのなら俺たちだって使いたかったぜ」

「でも一応はリスクもありますし、単純な強さなら成熟期の方が上ですよ」

 

 それぞれ状況によっては有利になる場合にしか役立たないし。

 

「リスク?」

「ある意味強制的に進化させてますからね。使いすぎると危ないんですよ」

 

 まあ、そこまでの事態にはならないようにしているけどね。

 というわけで、大体の話もおわり、あとは迎えを待つのみかな。

 

「って、おいカノン……本当に、ヒカリがえらばれし子供なのか?」

「太一さんがデジタルワールドへ戻った後、デジヴァイスが出てきたんです。どこからかは分からないけど、あの場にいたのは僕とヒカリちゃんだけ。僕はもうもっているから、残るはただ一人――っていうかあの事件の当事者がそのあと何のかかわりもないわけなかろうに」

 

 太一さんも心配するから言わないが、何度も狙われているんだぞヒカリちゃん。

 

「…………まあ、積もる話はまたあとにしようぜ。とりあえず今日は休もう。疲れた頭じゃ考えもまとまらないさ」

「ああ……そうだな」

 

 数分後、父さんが到着した。先ほどの戦いのせいか、道が混んでいたらしく少し時間がかかったとのこと。父さんもドルモンで見慣れていたから他のデジモンをみても驚く様子はないが――パルモンに対しては非常に興味深そうな視線を向けていた。まあ、植物が動いてしゃべっているわけだからねぇ……

 その後、お台場まで帰ることになったわけだが……みんなは疲れて眠ってしまった。

 

「デジタルワールドか……子供たちだけで随分と大変な思いをしたみたいだな」

「みたいだねぇ……ねえ、父さん」

「言わなくていい。わかっているよ。カノンもそのうち行くことになるんだろう?」

「たぶん――っていうか絶対に行くんだろうな。結局、太一さんたちがデジタルワールドに行くことになった原因がまだ判明していない。それにこっちに8人目がいたってことは……8人目も一緒に行って解決しなきゃならないことがある。僕は特殊な立ち位置らしいけどね」

「そうか――絶対に帰って来いよ」

「まだ行くと決まったわけじゃないけど……ちょっと止まって」

 

 体にピリピリとした電気を感じた。膝の上にのっていたドリモンも目を開き、川の方を見つめている。

 

「――なるほど、分かり難いが嫌な感じがするな。それに、ラジオにノイズが走っている」

「ちょっと片づけてくるよ」

 

 ドリモンが一気にドルガモンにまで進化し、滞空を始める。すぐさま背中に飛び乗り、共に川まで降りていくと――川の中から、巨大なオオイカが現れた。

 展開していた術式により、デジモンの情報を見ていく。ゲソモン、成熟期か……

 

「組み付いて触手を切り裂け!」

「オーライ!」

 

 大きさだけなら、今まで戦ったデジモンで最大だろう。だが、強さなら別だ。まだダークリザモンやヨウコモンの方が強かった。

 ヴァンデモンの手下の中でこいつはどの程度の位置にいつのかはわからないが……

 

「これなら余裕しゃくしゃくかな! ドルガモン決めろ!」

「パワーメタル!」

 

 鉄球に打ち抜かれ、ゲソモンはデータの塵になっていった。願わくば、デジタマに還元されて欲しいものだ。

 すぐさま父さんのところにもどり、車に乗り込んで発進してもらう。

 

「早かったな」

「今まで戦った中じゃ大分下だよ。雑兵か水の中の偵察役だったのか…………案外ヴァンデモンだけがとびぬけたワンマンな組織なのかも」

 

 日は暮れ始めており、あたりを赤く照らしていた。大変になるのはこれから、か。




哀れゲソモン、速攻で消える。
ガンドってからの無双で倒すのとどっちがいいか悩んだ結果、長くなりすぎないようにしました。

改定前以上にカノンが好き勝手やっていますね。たぶん、そのうちしっぺ返し喰らいます。


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22.カノン対ピコデビモン

前半と後半の落差がひどいです。


「マンモンに続いてゲソモンまでやられただと!?」

「まったくテイルモンの連れてきた連中と来たら役に立たない奴らばっかりで――うしし」

「何がおかしいのだ、ピコデビモン」

「――――い、いえ。申し訳ありません」

「さっさと8人目を探しだすのだ!」

「了解しました!」

 

 ピコデビモンが羽ばたき、足にひっかけた光の紋章のコピーを使ってデジヴァイスの反応を探す。しかし、デジヴァイスは探せども探せども見つからない。

 他のデジモンたちも探し回っているが、一向に見つからない。

 

「おのれ……まさか子供たちが何らかの対策をした? いや、奴らにそんな能はない。だとすれば、まさか……」

 

 ヴァンデモンも確保しようと考えていた”とある存在”が脳裏に浮かぶ。本来であれば確保するだけにとどめておくべきかと思ったのだが……

 

「0人目……どうしたものか」

 

 思案が必要になる。情報が足りないのだ。エネルギーの問題もある。ヴァンデモンにとっても、まだこの世界には慣れていないため厳しい展開が続いていた。

 カノンが工作したことにより、更に厳しい展開になっていたのだが――逆に、彼に味方してしまう者もいるのもまた事実だ。

 カツンカツンと靴の音が鳴り響く。白衣をなびかせて、ニタリと怪しく笑う男がヴァンデモンの前に現れた。

 

「――――貴様、何者だ」

「なぁに、強いものの味方さ――あなたみたいな、力の強いモノのね。いい場所を紹介しよう。それに、情報ならこのパソコンを使うといい」

「……何が目的だ、人間」

 

 そう、ヴァンデモンの前に現れたのは人間だった。

 だがヴァンデモンは彼に対して攻撃を仕掛けることはなかった――自分以上に黒い何かを、彼から感じる。

 

「なぁに、ただデータが欲しいだけさね……デジタルモンスターの、データがねぇ」

「…………いいだろう。何か都合がつけば貴様にくれてやる」

「そうですかそうですか――ならば、私も秘蔵のデータを提供しましょう。偶然手に入れたものですが、私には無用の長物ですから」

「――――これはッ、貴様これをどこで手に入れた!?」

「こちらに漂流してきたものを回収したにすぎません。あなたも理解しているようですが、それは私では取り扱えない代物ですからねぇ……もっと扱いやすい素材なら良かったのですが」

「…………なるほど、私の目は確かだったようだな。いいだろう、貴様との取引に乗ってやる」

「ええ、お互いいい買い物にしましょう」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 他の子供たちをそれぞれの家に送り届けたのち、我が家のあるマンションにまでたどり着いた。タケル君だけちょっと離れていたから時間がかかったが、他のメンバーは全員お台場だからすぐに帰宅を確認できた。

 で、残るは太一さんと僕だけ。まあ同じマンションだしね。

 

「ハァ……光が8人目か」

「一応デジヴァイスにプロテクトは仕掛けてあるので見つかりはしないと思いますけど、用心はしていてくださいね。とりあえず明日僕の家に集まりますし」

「まあ、デジモンたちも含めて話し合いができる人目を気にする必要のない場所が、お前んちしかないからなぁ……」

 

 とりあえず、家の前まで来てお互いのデジヴァイスで反応を調べる。太一さんや他の子も完全体に進化できるようになってからデジヴァイスのサーチができるようになったそうで、二人でヒカリちゃんのデジヴァイスの反応を調べてみた。

 

「……反応、ないな」

「成功しているようで一安心です。まあ積もる話は中でしてくださいな」

 

 まあ、太一さんの感覚では両親には数カ月ぶりに会うんだし、これ以上なにかいうのは野暮だな。

 というわけで自分の家に入り、今日のことをまとめる。

 いつものノートを開き、見たデジモンのイラストを描いていく。獣型、爬虫類型、虫型、植物に水棲生物……ヴァンデモンが完全な人型で、吸血鬼のような特徴を持っているという情報もあるし、本当に千差万別と言うか……なんでもありなのか。

 

「でもそれだけに対策を立てやすいな」

「どうして?」

「元となる情報から弱点を推察しやすいからだよ。軽く聞いた話だと、デビモンってのは聖なる力に弱いらしいし……となると、ヴァンデモンは吸血鬼。吸血鬼の弱点と言えば――ニンニクだ」

「…………にん、にく」

「そうニンニクだ。あとは心臓を杭で打たれるとか、銀の弾丸とか、十字架とか聖水とか……まあ、悪魔と狼男あたりの弱点も混ざっているからどれか効かないだろうけど……あらゆる媒体でこれはダメってのがいくつかある」

「それがニンニク?」

「まあ定番ではある。というか吸血鬼って有名だし色々と混ざったせいで弱点もものすごく多いんだよ」

 

 あとは日光か……青白い肌の、大男が、日光に苦しんで急いで日陰に逃げる――そんな光景。

 

「……ぶふっ」

「カノン? 笑いすぎだと思うよ」

「いや、だって――滅茶苦茶強いらしいのに、なんか不憫ッ、だめ、おなかがよじれる」

 

 ――カノンのあずかり知らぬことではあるが、そのときヴァンデモンは無性に腹が立ってピコデビモンをなぶりたくなったらしい。もっとも、ピコデビモンは8人目の捜索中だったのでストレスだけがたまったのだが。

 

「はぁ、笑った笑った」

「まったくカノンは……結構、油断すること多いよね」

「え、なんで?」

「ほらニュース」

 

 みてみると、ゲソモンとドルガモンの戦っている姿が映っていた。幸い、ノイズが走っていて微妙に分かり難い状態だったが。

 

「……やべ、戦闘中にステルス使うの忘れていたわ」

「おれもなるべく短期決戦にしたけど、野次馬やマスコミは早いねー」

「舐めてた。次から気を付けるよ」

 

 すぐに別の話題に変わっていたし、今のところ不思議映像ぐらいにしかとられていないみたいだけど……どうするかと思った、その時だった。

 頭の中に奇妙な映像が浮かんでいく。周辺は暗く、どこかの倉庫の上にいるような映像だ。

 何度か轟音が鳴り響き、ヘドロのような怪物と巨大な昆虫が戦っているのが見えた。近くには光子郎さんがいて――怪物たちの戦いに巻き込まれ、船が転覆して……

 

「ッ、ドルモン……悪いけどまた厄介ごとだ」

「今度は何ー?」

「海の方にヘドロみたいなデジモンが現れる。巻き込まれる人が出る前に倒すぞ!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 光子郎はテントモンが見つからないように自室に鍵をつけたのち、ゲンナイに貰ったパソコンの新機能をチェックしていた。意味がわからないというより、変なムービーが流れるだけのものがいくつかあったが。

 

「ゲンナイさん……何がしたかったんですか」

 

 次も変なのじゃないよなと思いつつ、ファイルを開いてみると――なぜか東京の地図が表示された。

 

「あれ、なんで地図が――それにこの赤い点は」

 

 地図を拡大していくと、ミニゲンナイが表示されて芝浦にデジモンが現れたことを教えてくれた。すでにあたりは暗くなっており、もう寝ようかと思った矢先だ。まだ、今日は終わらない。

 

「大変だ……急いで皆に連絡しないと!」

 

 えらばれし子供たち全員の家に連絡をとる。流石にタケルに連絡をとるのは遠慮したが――全滅である。どうやら疲れからかすでに全員眠ってしまっているようだ。

 

「カノンはんならどうでっしゃろ」

「それが、少し前に飛び出したらしくて……もしかしたら、すでに現場に向かっているのかもしれません」

「完全体に進化できるいうてたし、大丈夫やと思うけど……どうします? 光子郎はん」

「いこう……テントモン!」

 

 

 

 一方その頃、カノンたちは現場上空にたどり着いていた。速度ならサンダーバーモンの方が速いのだが、放電してしまうため夜だと逆に目立つので今はドルガモンに進化している。

 夜で目立ちにくいが、一応ステルスはかけていた。

 

「……寒い」

「そりゃあ夜は冷えるでしょ。それで、大体どのポイント?」

「もうそろそろだと思う――来た!」

 

 海が盛り上がり、ヘドロのようなデジモンが飛び出してくる。どろどろとした体は見ているだけで気味が悪い。

 

「というか気持ち悪い。えっと、レアモン……成熟期か。ウィルスでも仕込んで動きを阻害しようと思ったけど……ダメだ。ドロドロで構成情報の隙間が狙えない」

 

 ある意味今までで一番厄介なのではなかろうかとさえ思える。カノンはドルガモンに地面へ降りてもらい、適当な場所でその背から飛び降りた。

 

「あと頼む」

「はいはい。任された!」

「もう一匹は見当たらないけど一応用心しておいてねー」

 

 ドルガモンが単独でレアモンへ向かっていく。流石に海の上だと自分の出る幕はないかなと思いつつ、カノンは戦いを見守っていた。しかし、ドルガモンの吐き出す鉄球も柔らかいレアモンの体には効きにくいようだ。

 

「こりゃぁ、サンダーバーモンのほうが良かったかな」

「カノンくーん!」

「え――――光子郎さん!?」

 

 呼ばれて振り向くと、光子郎がやってくるのが見えた。隣には、赤色の虫型デジモンがいる。

 

「えっと……」

「モチモンから進化したテントモンや」

「ああそっか。成長期――ってことはあの虫型のデジモンは……」

「カノン君?」

「いえ、こっちの話です」

 

 そう話を区切ると、テントモンが光に包まれて姿が変わっていった。巨大な昆虫、カブテリモンへと。しかしデカいなぁ……ドルグレモンよりもデカい。カノンがそんなことを思わずつぶやくほどに大きかった。

 

「カノン君はどうやってデジモンが出てきたことが分かったんですか?」

「うーん……予知?」

「……えっと、どういうことですか」

「昔から何度かあったんですけど、なんというか未来の光景が見えることがあるんですよ。ネオデビモンとの戦いのひと月前から何度もやられる光景を見せられてひどいことになりましたし」

「…………”運命”の紋章の持ち主だからでしょうか?」

「さぁ……今となっちゃ便利なんでいいですけど」

 

 ただ、時々勝手に見えるものだし、予知夢みたなものなんだよねぇと軽く言っている。そう簡単に済ませていい話なのではないかと光子郎は思ったが、そう言いだす前に何かが飛んでくる音が聞こえた。

 

「――ッ、光子郎さん危ない!」

「うわぁ!?」

 

 とっさにカノンが身体強化を発動させ、光子郎を掴んで跳ぶ。先ほどまで立っていた場所には数本の注射器が刺さっており、当たれば危なかったことがわかる。

 

「いったい誰がこんなことを……」

「これは、ピコデビモンの!?」

「ご明察!」

 

 バサリと小さな影が現れた。丸っこい身体に、コウモリの羽。一頭身のちっさいデジモンがカノンたちの前に現れたのだ。

 

「……うわ、弱そう」

「――テメェ! いきなり何言いやがる!」

「カノン君、あまり挑発しない方が……」

「大丈夫ですって。この程度なら僕でも()れる」

「なんか物騒ですよ!?」

「はっはっは! テメェみたいなガキがこのピコデビモン様を――」

 

 カノンの両足にそれぞれ、三つのリングが展開される。それぞれ、負担の軽減、筋力の強化、スピード上昇の術式が組み込まれており、一気に解放することでピコデビモンの眼前に迫った。

 

「――は」

「オラッ!」

 

 ドゴンと人が殴ることで出していいわけもない音を響かせながら、カノンはピコデビモンを殴り飛ばした。腕からいくつもの(イナズマ)が飛び出しており、ピコデビモンは倉庫の壁に激突してビクンビクンと痙攣してしまっている。

 

「て、テメェ本当に人間か!? 実はデジモンじゃないだろうな!?」

「復活速いなぁ……よし次は構成情報を崩す式を試すか」

「ギャァアアア!?」

 

 カノンの指先から、弾丸のようなデータの塊が射出される。

 幸い(哀れ)にもヴァンデモンのお仕置きで一方的になぶられることになれているピコデビモンはカノンの攻撃をかわし続け、上空へ避難した。流石に息を切らせていたが。

 

「ハァハァ……この悪魔!」

「いや悪魔(デビモン)は君でしょうが!」

 

 光子郎のツッコミが響くが、周囲にむなしく響くのみだった。

 ピコデビモンはここなら攻撃も届かず、自分が一方的に攻撃できると何本も注射器のダーツを投げつけていく。

 

「ピコダーツ! ピコダーツ!!」

「いや、成長期の攻撃なんて今更効かないし」

 

 完全体の攻撃にも耐えられるように汲み上げてきた盾が今更成長期の攻撃で壊されるわけもなく、ピコデビモンの攻撃はむなしく弾かれるだけだった。

 

「……だ、だがそちらの攻撃も盾が出ている間は――――」

「だったら試してみるかボーイ」

「…………」

 

 その時、海の方で爆発が起きた。

 

「メガブラスター!」

「パワーメタル!」

 

 二体のデジモンの技が決まり、レアモンが倒されてしまう。早期に決着がついたおかげで、被害もほとんど出ていなかった。これで残るは、ピコデビモンのみ。

 

「…………さて、決着をつけるか」

「――――お、覚えてろよー!」

 

 古典的な捨て台詞を残してピコデビモンは飛び去って行く。結局、奴は何がしたかったのかと思わせるほどに。

 

「……とりあえずこの注射器回収しておこう」

「ゲンナイさんがカノン君は魔法を習得していると言っていましたが……本当だったんですね」

「色々研究する時間はありましたからねー。ヴァンデモンって本当に強いんですか?」

「ええ、とても強いですよ」

 

 となると、部下には恵まれないタイプなのか……予想通りワンマンなのか。前者なら少し同情してしまいそうになるカノンであった。

 




成熟期の攻撃を防いでいたのに今更成長期に苦戦するはずもなかった。ただしアルカディモン。おめーはダメだ。

ちなみに最後の問いかけは両方ですね。ワンマンだし部下にも恵まれていない。


あと私事になりますが、何故公式はガイオウモンバーストモードは公式化してくれなかったのか。クズハモン巫女モードとかベルスターモンは公式化されたのに……
いや、まだだ。まだデジヴァイスバーストの復刻でワンチャン……あるといいなぁ…………


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23.作戦会議開始

サイバースルゥース買いました。初回特典は諦めロンでチューコさんだけど。


 暗い夜道、一人の女性が歩いていた。会社から家に帰る途中と思われるが、なにか奇妙な音があたりに響いてどこか現実味がなくなっている。

 女性はふと何かが近づいてくる気がして後ろを振り向いた――現代には似つかわしくない、洋風の豪奢な馬車が走ってくるではないか。だが、それだけならまだ奇妙な人がいたものだと言えるだろう。何よりもおかしいのは、その馬車を引く馬がいないことだ。

 

「――――」

 

 お化けか何かか。そう思い、叫びそうになった女性だが、まるで何かに憑りつかれるように体が固まってしまう。やがて馬車が自分の目の前にとまり、自分より頭数個分大きい影が馬車から降りてきた。

 顔は青白く、大きな体をした男。赤い仮面をつけ、黒いマントを羽織ったその姿はまるで――

 

「吸、血鬼」

 

 そこから先の記憶は女性にもない。ただ、首元に噛まれたような痕が残った状態で目が覚めたのだ。道の真ん中に倒れていたので、病院に搬送されたらしいが何が起きたのか自分もよくわからない。

 そんな事件が、その夜だけでも何件も起きた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 河川敷。そこに、女性たちを襲っていたものの正体――ヴァンデモンが馬車を船へ載せてアジトへ帰還するところだった。彼は吸血鬼のデータを持っているため、その伝承の通りに血を吸うことで力の回復や増強が行えるのだ。

 

「ヴァンデモン様、夜が明けてしまいます……ここまでいたしますと、えらばれし子供たちにも気がつかれてしまいますよ」

「かまわん。奴らもこちらへ来た以上、私自身力を蓄えなくてはいけないのだ。それに、ピコデビモン……貴様が戦った0人目のこともある」

「あのー、それなんですが……なぜ0人目は殺さずに捕らえるように命令をお出しになられたのですか?」

 

 ピコデビモンも主の命令には従う。しかし、なぜ厄介な存在に対して抹殺ではなく捕獲を命令したのかがわからない。あれほどの手練れとなると、捕獲の方が難しいというのに。

 

「……奴に関しては元来イグドラシルに連なるものだからだ。私も詳しくは知らないが、かのホストコンピューターにとって0人目は一種の保険のような存在らしい」

「でもイグドラシルはもう稼働していないのでは?」

「たしかにそうだが……件の事件にも0人目は関わっているらしい」

 

 それに、私の推察が正しければ……ピコデビモンにも聞こえない声で、何かを呟くヴァンデモン。彼自身の考えがどこまで及んでいるのかはピコデビモンにはあずかり知れぬことであるが、考えがあるというだけでピコデビモンにとっては全幅の信頼を寄せる理由になる。

 

「とにかく、奴と奴のデジモンは下手に殺すなよ。殺した段階で我々にとっても都合の悪い事態になりかねない」

「かしこまりました」

 

 会話はそこで終わり、ピコデビモンは再び8人目の捜索へ乗り出す。

 ヴァンデモンも根城へ戻ろうとするが……

 

「しかし、打てる手は打っておくに限るか。ソウルモン」

「――ここにおります」

 

 暗闇の中から、白色のお化けのようなデジモン、バケモンの亜種であるソウルモンが現れた。見た目の違いは魔女の帽子をかぶっているかいないかしかないのだが、これでも違うデジモンである。

 

「貴様にこのディスクを託す」

「それは、先日の協力者から頂いたものでは?」

「一応解析は済んでいる――イグドラシルの遺産の一つだったが、貴様なら使いこなせるだろう」

「御意に」

 

 それだけ言うと、ソウルモンは再び暗闇の中へ溶け込んでいった。すでに、自分の持ち場へと戻っていったのであろう。

 もうすぐ夜が明ける。ヴァンデモンはしばし眠りにはいるため暗闇の底へと向かっていく。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 再び、目覚めは最悪であった。なんか炎の巨人が東京タワーに現れる夢をみていたのだが……暑苦しいデジモンもいたものだ。

 

 レアモンも撃破し、その翌日のことだ。えらばれし子供たち全員を集めて作戦会議を行うということで、全員が僕の家に集まっている。ちなみに、ヒカリちゃんも来ているが一緒に連れてきたミーコと戯れていた。一応、君も関係あるんだけどね?

 ふとテレビを見ると……昨日のレアモンとの戦いも撮られていたらしい。というか日本のマスコミヤバいな。行動が速すぎる。しかし幸いなことに時間をかけなかったから、遠目に大きな何かが戦っていることぐらいしかわからない程度だ。

 すでに全員集まっているが、昨日の夜についてはまだ説明してなかったからかちょっと驚いている。光子郎さんがすかさず説明してくれているけど。それと、太一さんはこの映像で気になることがあるようで……

 

「俺が前に戻ってきたときは他の人たちにはデジモンの姿は認識されていなかったのにな」

「アレは本物とはまた違う感じですからね。情報もノイズだらけでしたし」

「そういえば、昨日もレアモンについてすぐに理解していたというか……カノン君はどうやってデジモンの情報を調べているんですか?」

 

 光子郎さんがそう聞いてくるが……まあ、例のごとく魔法で。

 

「デジモンは本質的には0と1で構成されているデータの塊ですからね。まずはそのコードを読み取って、一部分だけでも自分の理解できる形にして表示する魔法を、瞳にコンタクトレンズみたいな感じで付与しているんですよ」

「……リアルタイムで情報の閲覧が可能――いえ、デジモン自身に刻まれているデータを可視化していると言ったところでしょうか」

「似たようなものです」

 

 光子郎さんはどうにかして自分たちも使えるようにしたいみたいだけど……色々と研究した結果、無理だと言うのが分かった。

 

「どうしてですか?」

「簡単な話ですよ。頭の中でプログラムを組み立てて演算処理を行ってって具合にやっていくので、僕も基本的には良く使うのを暗記しているだけですから」

「では、演算を肩代わりする機械があればどうでしょうか」

「それなら行けるでしょうけど……現在のスペックでは厳しいですね。携帯できるレベルとなると、あと何年かかることやら」

「なるほど、習得できるかどうかは関係なく、時間が足りないわけか」

 

 どうやらゲンナイさんとやらにみんなは習得できないと言われたらしい。才能の問題よりも時間が足りないと。

 

「まあ、太一なんかはそもそも計算できないだろうけどな」

「なんだと!?」

「一応言っておきますけど、小学生のやっている勉強の範囲じゃどうあがいても無理ですよ」

 

 僕が使えているのだって、デジモンについて調べる傍ら色々と知識が溜まっていたからでもあるし。その後もコツコツとやっているのである。

 

「……マジか」

「だから使えるとしたら光子郎さんぐらいじゃないですかねー……そういえば皆さんはデジモンの情報ってどうやって調べていたんですか?」

「基本的にデジモンたちに教えてもらっていたな」

「先にわかっていればなぁってこともあったよな。コロモンの村の時とか」

「――コロモンの、村」

 

 ヒカリちゃんがなぜか目を輝かせているんだけど……え、見たいの?

 そこで空さんとミミさんがヒカリちゃんに可愛かったわよーと言い出し、女子トークが始まる。いや、会議は?

 

「……まあ気が済むまで放っておこう。幸い、ヒカリが8人目みたいだし探す手間は省けたんだから」

「太一、やけに冷静だな」

「まあヒカリが楽しそうにしているのを見たら、な」

 

 たしかに楽しそうにはしている。デジモン、というより生き物が好きなのだろう。デジモンたちも初めて会うのにすっかり懐いているし……一種の才能だな。

 

「そういえばカノン君の出会ったデジモンの情報も貰いたかったんでした」

「いくつか話しましたけど……貰う?」

 

 光子郎さんはパソコンを取り出して、起動させる。何かのソフトを立ち上げるけど……図鑑のような?

 

「ええ、ゲンナイさんに取り付けてもらったこのアダプタにデジヴァイスをはめ込めばカノン君が出会ったデジモンの情報を見ることができるんです」

「へぇ……それじゃあさっそく」

 

 光子郎さんが指さしたアダプタにデジヴァイスを挿しこみ、僕が今まで出会ったデジモンの情報が入っていく。えっと、通算何体ぐらい見たんだっけ?

 

「ドドモン、ドリモン、ドルモン……カノン君のパートナーの進化系ですね」

「ドルガモンにドルグレモン。本当に完全体まで進化できるんだな」

 

 え、信じていなかったのか太一さん。いや、確かにドルグレモンにはしてなかったけど。

 その次に出てくる情報は、アーマー体のデジモン。そういえば、詳細なデータと技も閲覧できるんだねアナライザー……便利だなぁ。僕の方は名前と世代以上の情報を解読するのに時間がかかるし。

 

「このサンダーバーモンってのは見たな。あとはサラマンダモンにケンキモン……ケンキモン」

「なぜ二回言うんですか」

「だってなぁ……ヤマト、どう思うよ」

「完全にメカなデジモンはあまり見なかったからな。見たとしても兵器が元だったから重機型ってのはこう、意外だった」

「けっこう強いんですよこれでも」

 

 意外と気にいっているんだけどなぁ……ドルモンも微妙だと思っているみたいだし。

 で、次に表示したのは戦ったデジモンか。ノイズのはやはり情報として引き出せないらしく、出てこなかったけど……結構数が出たな。

 

「バステモン、完全体……マーメイモン、完全体。ネオデビモン…………やはり完全体」

「お前、完全体三体と戦っているのか!?」

「いえ、バステモンは味方ですよ……でもこっちで数年も前にデジタルワールドに帰っちゃったんですよね…………」

「あーそういえばそんな話を聞いたような……」

「太一、君ねぇ……」

「いやいや。あの時はこっちに飛ばされて驚きっぱなしで記憶があやふやなんだって、丈先輩」

 

 たしかに慌ただしかったし、太一さんも結構悩んでいたしね。

 

「ですが、完全体二体と戦っているんですね」

「マーメイモンはバステモンとの協力でしたし、事情が違いましたけどね」

 

 なぜデジタマになったのか今でもよくわかんないし。

 ただネオデビモンはガチでやりあいました。

 

「あのデビモンの進化した姿か……」

「見るからに強そう!」

「あの時の第六台場は雨が降っていてなぁ……ドルモンも疲れて泳いで帰るしかなかったんだ……」

「それでお前風邪ひいて入院したのか」

 

 太一さんがあきれ顔だけど、来ると分かっているんだから周囲に被害が来ない場所に行くしかないでしょうが。ここらへんで人がこない所なんてあそこぐらいしかありませんよ。

 

「えっと、他には……成熟期のヨウコモンと……世代が表示されませんが、このモニモンというのは?」

「バステモンが通信機の代わりに使っていたデジモンですね。世代が表示されない理由は知りません」

 

 特殊なデジモンなのかもしれない。世代にしたら幼年期か成長期ぐらいだとは思うが。

 

「ダークリザモン……これは戦った相手ですか? 成熟期のデジモンみたいですが」

「そうですね。たしか、こいつと戦ったときにドルガモンに進化したんだったかな……あの日も、第六台場での戦いでした」

「お前何回第六台場使っているんだよ」

「都合3回です」

 

 本当にお世話になっております。太一さんたちはあきれ顔だけど……周囲に被害を出さないように戦うのって結構大変なんですよ。今はそうも言っていられない状況になりつつあるけど。

 

「成長期もいますね。クダモン……このデジモンは?」

「……ちょっと、ありましてね」

「なんだよ歯切れ悪いな」

「太一。人には誰しも言いたくないとこがある。見たところ、戦ったわけでもなさそうだし追及はしない方がいいんじゃないのか?」

「……カノン、教えては…………」

「すいません。言いたくないわけじゃないんですけど、その時のことは色々とありまして――気恥ずかしいやら長くなるやらで、ちょっと」

「わかった。ならいいや。で、光子郎……他には?」

「妙なデジモンもいますね……初期型ゴーレモンって何ですかこれ。ワイヤーフレームだけですよ」

「デジモンモドキだと思っていたら……一応デジモンなのかそいつ」

 

 説明を見ると、単なるセキュリティソフトみたいな存在っぽいけど。でも、僕が見たのはこれで全部だったかなぁ……一応レアモンとゲソモンも出てきてはいるが――――あれ?

 

「なあ、カノン。このアイギオモンってなんだ?」

「――――知らない。こんなの見たことない……はずなんだけど」

 

 どこか既視感を覚える。それに、なぜか懐かしいような気もする。

 太一さんがさらなる追求をしようとした時だった。更にデジモンの情報が出てきて、それを見た太一さんは口をあんぐりさせた。

 

「バグラモン、ブラックセラフィモン…………僕の目がおかしいのでしょうか? 究極体って書いてあるように見えるのですが」

「こっちも見たことあるような、ないような……いや、そういえば夢の中で見たんだっけ?」

 

 あー、何か思い出してきた。でっかい樹の前に立っていてそこで見たんだ。でもはっきりとは思い出せない……何か大事なことがあったような気もするのだが……

 

「っていうか究極体ってなんだよ!?」

「あれ? 知らなかったんですか――完全体の上に究極体ってのもあるんですけど…………」

 

 女性陣やデジモンたちも含めて空気が凍りついていくのを感じた。そうか、完全体が一番上だと思っていたのか……そうかそうか。

 

「あー、うん。ほら目標は高い方がいいと思いますし」

「不安になっただけだわッ!」

 

 太一さんのツッコミに、皆が頷いていた。なんか、すいません。

 




会議とは、往々にして進まないものである。

原作より早い段階で究極体の存在が判明しました。だからといって特に何かあるわけでもないですが。


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24.チーム分け

よ、予想以上に長くなってしまった。と言うわけで、なかなか話が進んでいません。


 結局さんざん怒られた上、なぜか罰を与えられることとなったが――なんでこんな格好をせねばならんのか。

 

「ぷふっ、可愛いわよ、カノンちゃん(・・・)

「解せぬー」

 

 ひらひらのスカートに、プリティな服。極めつけは頭のリボン……

 

「どうみても女装じゃないですかやーだー」

「とっても似合っているよカノンちゃん!」

「やっぱりアタシたちの見立てに間違いはなかったわね!」

「ヒカリちゃんはなぜノリノリなのー、そしてミミさんもどうしてそんなにほこらしげなのかなー」

 

 あと、男性陣は笑いすぎだと思うのー。というか、見てないで助けてくれよー。

 というか太一さんはさっきからなぜ僕が口を開くたびに笑うのかー。

 

「お前、口調が母親みたいになってんぞ――ヤバい、腹がよじれる」

「そうかー……テメェラも同じ目に遭うがいい」

「ちょ、まて――ヤバい笑いすぎで体が動かなッ、なんでそんなに力が強いんだよ!?」

「こちとら魔法で身体強化しているんじゃぁ!!」

 

 死闘の末、なぜか母さんが持ってきた服を全員に着せていく。色々なサイズがそろっているところを見ると、どうやら僕が成長していくごとに着せようと思ってため込んでいたものと思われる……

 ああ、どっちにしろ僕の運命は変わらなかったわけね……なお、一番女装が似合わなかったのは丈さんだったことをここに記す。ちなみに太一さんはブービー。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 さて、いろいろ話が脱線してしまっているがそろそろ本題に戻らないといけない。

 

「今後どうするかだな」

「まずはヴァンデモンたちをどうにかするべきだよなぁ……」

「でも、どうにかするって具体的には?」

 

 改めてえらばれし子供たちを観察してみると、リーダーシップを発揮しているのは太一さん。太一さんが暴走したりするときにツッコミを入れたり、バランスをとっているのがヤマトさん。なんというかコンビって感じだ。

 ミミさんは空気が読めないタイプかと思ったが、読まないタイプみたいだ。触れたくない話題だったり斬りこまなくてはいけないときは斬りこむというか……一人はいてくれると話がスムーズにいく感じの人である。

 

「やはり手下のデジモンからどうにかするべきでしょうか」

「だからって周りに被害が出たら本末転倒だぞ」

「そうだね。それに僕らにも普段の生活がある――明日は夏期講習があるし」

 

 光子郎さんはやはりというか参謀役。この中じゃ一番頭いいし。丈さんはモラルというか一般常識を一番身に着けている。まあ一番上だからか。おかげでストッパーとして働いていた。

 

「それにヒカリちゃんのパートナーも探さないといけないし……ねえ、カノン君、本当にこっちの世界にヒカリちゃんのパートナーデジモンがいるの?」

「デジヴァイスとパートナーデジモンの間にはリンクがあるんですよ。断線した感じはしなかったので、こちらの世界にいるハズですよ」

「ヒカリちゃんのパートナーか……どんなデジモンなのかな? パタモンたちは何か知っているの?」

「うーん……わかんない。ファイル島でぼくたち以外のパートナーデジモンは見かけなかったし」

 

 空さんはお姉さん的ポジションというか、母親的ポジションというか……背中を押す人って感じ。タケル君は無邪気で、だからこそデジモンたちに一番近い。デジモンたちを入れれば結構な大所帯だけどタケル君っていう存在がある意味緩衝材になっている。

 

「はやく、会ってみたいな……」

「会えるといいね、ヒカリちゃん」

「うん。ありがとう、アグモン」

 

 ヒカリちゃんは半歩ずれた立ち位置だけど――よりデジモンたちと近い場所にいる。彼女の中にある何かがそうさせているのだろうか……確証はないけど。

 で、僕はと言うと…………さらに一歩ずれた位置にいる。いや、仲間内に入っていないわけじゃないんだよ。ただ、何というか……このメンバーに加わるというより外部で協力する感じと言うか……

 

「なあカノン、昔会ったっていうバステモンみたいにこっちに来ているデジモンって他にいないか知らないか?」

「いや知っていたら先に言っていますし、アナライザーで出てこない……いや、それっぽいのがいたな」

「本当か!?」

「ただ、アナライザーに表示されていませんのでデジモンかどうかわかりませんし――――どこにいるのかも知らないうえに下手に手を出すと、死にかねませんよ」

 

 僕がそう言うと、冗談かと思ったのか何を言っているんだよと突っ込まれる――だが、僕の顔が真剣なのを感じたのだろう、みな口を閉じた。

 

「いったい、どういう事ですか?」

「ものすごい力の差を感じた男を昔見たんです。あれ以来見ていませんし、戦うつもりはなかったようなのであまり気にしないようにしていたんですけど……」

 

 昔見た全身黒色の格好の男。まだ日本にいるとも限らないし、出来れば会いたくはないのだが……

 

「ドルモンがデジモンのにおいがするって言っていたので、もしかしたらパートナーデジモンでも連れていたのかもしれないですね。他にデジモンを連れた人間がいないとも限りませんし」

「だったら、お台場のニュースをみてこっちにくるんじゃないのか?」

「あれはそんなお人よしの雰囲気じゃないからなぁ……」

 

 まあ、アナライザーに該当する情報は見当たらなかった以上気にしても仕方がないわけだが。

 

「このアイギオモンは?」

「成熟期ですから確実に違います。というか、なぜかは分かりませんがそれだけは絶対に違う……」

 

 そして否定するとなぜか悲しくなった。本当になぜなのだろうか……

 

 

 結局のところ、ヒカリちゃんに誰かがついていて、他のメンバーで出来る範囲でお台場周辺を調べまわることぐらいしかできそうにないなという結論に至るのだが――僕は一つ情報を入手していた。

 会議も終わりというところで出すことになってしまったが……

 

「東京タワーにデジモンが出てくる夢を見ましたよ。炎を纏った巨人みたいなデジモンが出てくるんですけど」

「炎――メラモンでしょうか? このデジモンなんですけど」

「……オレンジじゃなくて、青色でしたし、なんか鋼の体見たいのも見えました」

「それ、本当に起こるのか?」

「起こるはずですけど……ネオデビモンの時の例もありますし、皆さんがデジタルワールドに行くときの光景も見ましたよ」

「…………出かけるときに意味深なことを言っていたなぁって気になっていたんだけど、それが理由かよ」

 

 そういえば太一さんに言っていたなぁ……忘れてたわ。

 僕がその時の光景を語ったら、やはり同じ状況になっていたので僕の能力が本物と理解してもらえたが……夢で見てもアナライザーに表示されるんじゃないのとツッコまれた。

 

「そういえば表示されなかったな」

「……バグラモンとブラックセラフィモンの時は夢とはまた違ったかもしれません――そうだ、今思えばあれは…………」

「カノン君?」

「まあ気にしても仕方がないか。また行くことになるんだし」

「?」

 

 改めて人に指摘されてようやく思い出せた。バグラモンだっけか……彼が言っていたことを考えるとまたあの場に行くことになるのだろう。まあいつになるのかわからないが。

 とりあえず、これは僕とドルモンの問題になるだろうしみんなは関わらない気がする……結局のところ目先の問題を何とかしないといけないわけだ。

 

「ってことで、今日のところのチーム分けをしましょう。丈さんは夏期講習ってことでヒカリちゃんの護衛……図書館にでも行ってきてください」

「なんか心配だけど丈先輩、ヒカリのこと頼むな」

「……なんだか不愉快なんだけど」

「となると、完全体に進化できる僕らは分けた方が良いでしょうか?」

「いや、暴走しない組み合わせにするべきかと」

「そうだな。お互いの相性を考えて組み合わせを考えた方がよさそうだ」

 

 と言うわけで、太一さんと光子郎さんのリーダーと参謀チーム。ヤマトさんとタケル君の兄弟(髪質そっくりですねと聞いたら教えてもらえた)チーム。

 そして――僕と空さんミミさんの、大丈夫かこれチーム。

 

「――――え、この二人が突っ走りだしたら僕には止められないと思うんですけど!?」

「カノン、頑張ってくれ――――俺たちだって心苦しいとは思う。だが、この組み合わせがベストなんだ」

「何かあればサポートできますしね。頑張ってください」

「それじゃあ、みんな別々のルートで東京タワーを目指すということで。それじゃあ頑張れよカノン!」

「あ、あんまりだ……」

「ちょっと、失礼じゃないの?」

「そうよ。それに心配しなくても大丈夫。ちゃんとやることはやるから」

 

 嫌な予感しかしないなぁ……いや、信じなくてどうする。そうだよ、だから二人を信じて――――あ、やっぱり護衛で……え、ダメ? そうですか。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 肩を落としながらカノンがドナドナと連れていかれた後。ヒカリはミーコが飛び出して行ってしまったので外へ出ていった。丈は図書館に行こうとも思ったが、カノンの家の蔵書を見てもいいと言われたため、そちらを先に見ることにしたので部屋に残留している。一応、ヒカリのデジヴァイスを預かることで8人目と思われないようにしたが。

 

「ミーコ? どこー?」

 

 あまり遠くに行かないように言われているので、ヒカリも近くの公園まで見に行こうと思って、そろそろ引き返すべきかと思った時だった。

 白色のネコが目に入る。どういうわけか、そのネコから目が離せず――ふと、気が付いた。

 

「あなた、アグモンのお友達?」

「――――ッ!?」

 

 なぜか話しかけてしまっていたが、この子は悪い子じゃない。ヒカリには不思議とそのことが理解できた。いや、ヒカリ自身には当たり前のようにそれが理解できたのだ。

 ネコ――テイルモンは固まっていたが、やがて動き出し、鳴き声を上げる。

 

「ニャーオ」

「? なんでネコの鳴きまねをするの?」

「……」

 

 テイルモンはじっとヒカリをみつめ、彼女を観察するが――やがて踵をかえして走り去ってしまった。その様子をヒカリも見つめていたが……別の鳴き声が聞こえてきてその視線も外れた。

 

「あ、ミーコ!」

「にゃぁ」

「もうどこに行っていたの?」

 

 そのままミーコを抱き上げ、ヒカリは家へと戻っていく。あたりには人がいなくなり――再びテイルモンが姿を現した。

 

「……なぜ、アグモンのことを…………まさか8人目の子供?」

 

 だが、テイルモンのもつ紋章――8人目の子供の紋章のコピーは全く反応していなかった。

 どうするべきか、このことを報告するべきか否か……テイルモンが悩んでいる時、背後から人影が現れる。

 

「――ウィザーモンか」

「ええ。テイルモン、どうしたのですか……そんなに悩んで」

「お前も見ていたか? さっきの子供がアグモンのことを知っていたのを」

「…………気になるのならば調べればいいでしょう。あなたが悩んでいるのはそのことではないはずだ」

「………………」

「まあ、こちらへ来たのは別の報告があったからですが」

「別の報告?」

「ええ――ヴァンデモンがあのデジモンを解き放つようです」

「なに? まさか回収した古代種をか!?」

「ええ……0人目に対するカウンターを用意するそうで」

「だがアイツはコントロールできるようなデジモンじゃないぞ!?」

 

 自分よりも圧倒的に強いデジモンだからこそ、テイルモンもヴァンデモンにしたがっている。しかし、そのやることはある種の合理性があることも知っていたのだが――かつてヴァンデモンが回収した古代種のデジモン、それを解き放つとはいったいどういうつもりなのか。

 

「いったいどれほどの被害がこの世界に出ることか……自分たちの行動も阻害されるはずなのに」

「普通に行動を起こせば、0人目は他のえらばれし子供と共に立ちはだかる。件のデジモンはそれほどまでに強力な存在なんですよ」

「あの紫色のデジモンがか? 私にはそこまで強いデジモンには見えなかったのだが……」

「かつて、あの世界でみた文献……その通りの存在だとしたら、とても厄介なデジモンですよ」

 

 テイルモンはいぶかしげにウィザーモンを見るが……そういえば、このデジモンは自分のしるデジタルワールドとは異なるデジタルワールドから来たと言っていたこと思い出した。

 眉唾ものだと思っていたが、時折ヴァンデモンよりも深い知識が出てくることがある。それに今回のことで何か知っている様子となると……

 

「一体、あのデジモンに何があるのだ?」

「古代種よりも更に古きものにして、デジタルワールドに滅びをもたらす存在。ウィッチェルニーでは病原体とも評されていたデジモンですよ」

「……その割には、怖がっていないようだが?」

「ええ、非常に面白いと思っていますから」

 

 ウィザーモンはそう言うと、にこりと笑った。あまり表情を見せないこのデジモンが笑ったことなど、幾度あっただろうか。なんだか気恥ずかしくなり、テイルモンは顔をそらしてしまう。

 

「――まあいい。私はあたりをもう一度捜索してくる……どうせ古代種は捨て駒扱いなんだろう」

「ええ。それも含めて織り込み済みのようです」

 

 結局のところ、自分たちのやることは変わらない。

 そう――何一つとして変わらない。彼らは、ヴァンデモンの手下でありながら、仲間ではないのだから。

 




と言うわけで、デスメラモンと何かは次回へ続く。
そして結局改定後も女装することになるカノン。ただし、他を巻き込むスタイルに。


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25.新たなルート

風邪をひいてヤバかったことをここに記す。


 時間はヒカリがテイルモンと出会う少し前へと戻る。太一がカノンを呼び止め、渡しそびれていたアグモンのカードを彼へと渡したのだ。

 

「えっと、このカードは?」

「俺たちがこっちに帰ってくるときにゲートを開くのに使ったカードのあまりだ。使い道もないし、お前なら何かわかるんじゃないかと思ってな」

「……すごい。プログラムそのものなのに物質化している」

 

 カノンも目を丸くするほどに、とてつもない代物ではあるようだが、太一には彼が何に驚いているのかわからない。

 光子郎も気になって話を聞きに近づくが……カノンは無言でずっとカードを握りながら何かブツブツとつぶやいている。

 

「えっと、カノン君?」

「――――あ、すいません。このカードの解析に集中していて」

「何かわかったのか?」

「他のカードもあれば色々わかるんでしょうけど……これだけでも随分と凄いですね。これ一枚にとんでもない量の情報が入っているんです」

「いったい、どれほどの情報が入っているんですか?」

「うーん……座標情報とかですね。他のカードが無いと起動させられませんけど、この中にはデジタルワールドの座標が入っています。まあ、他にも入っている情報からするにカードの組み合わせを変えることで、他の世界への扉も開けますけど……」

「ゲンナイさんもそのようなことを言っていましたね。しかしアグモンのカードにデジタルワールドへ行くための座標が入っているということは……こちらではゴマモンではなくアグモンのカードを使うことで向こうへのゲートを開くことができると言う事でしょうか?」

「まあ、石板も他のカードもないし意味ないけどな」

 

 太一の言う通り、他のカードが無ければ無用の長物。カノンもこれ一枚でゲートを開けるはずもなく、結局のところ現状では意味がない代物である。

 もっとも、これ単体ではであるが。

 

「でもおかげで課題はクリアできました」

「課題?」

「僕の魔法も一つクリアできていなかった課題がありまして……それがデータの物質化なんです」

 

 以前作った(ウォール)もエネルギーを供給し続けて無理やり限界させていたようなものであり、持続時間も短かった。しかし、太一がデジタルワールドから持ち帰ったカードのおかげでその点をクリア出来たようである。

 

「まあ、今のところ使い道はなさそうですけど」

 

 作りたいものを忠実に再現するために、かなり面倒な計算が必要になる上に、効率も悪い。防御ならバリアーを張った方がいい。実際に物質を構築するより、エネルギー体のまま利用する方が便利なのだ。

 

「このごたごたが全部片付いたら趣味でやるぐらいですかねー」

「そうですか……ヴァンデモンに対抗する武器には…………」

「なりませんね。作る物質一つ一つを構造から理解したうえで作らないといけないので、正直なところ面倒くさいんですよマジで。チョベリバ」

「……なんだか微妙に古いですねソレ」

「だなぁ」

「そうですかね……使われだしたの数年前なんだけどなぁ」

 

 まあ、20世紀も終わるころには死語だよなと思う三人であった。

 と、無体な話をはさみながら各々の準備が終わり、東京タワーへと向かいだす。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 そんなこんなで、空さんとミミさんと共に東京タワーを目指しているのだが――ちなみに、女性陣二人と一緒と言うことで最短距離を歩くルートとなっている。他のメンバーは怪しそうなところを見ながら向かうそうだ――、日差しがきつくて水分補給と休憩を結構な頻度で挟んでいた。

 

「苦しぃ……ピヨモン、あんた飛びなさいよ」

「パルモンが太ったんでしょ」

「まあ失礼ね!」

「二人とも、喧嘩しないの」

 

 ピヨモンとパルモンはどうしても目立ってしまうため、赤ちゃんのフリをしたパルモンがぬいぐるみに扮するパルモンをだっこしてベビーカーに入り、それをミミさんが押すという形に落ち着いた。落ち着いたのか?

 事由に退化できるドリモンはいつも通り僕の頭の上に。空さんは地図を見ながら進んでいる。

 

「まったく、レディーがはしたないわよ」

「……レディー」

「カノン、何か言ったかしら?」

「あまり不穏当なことを考えない方が良いわよ」

「いえ、なんでもないっす」

 

 だからその毒々しい触手を引っ込めてくださいパルモンさん。

 しかし、今日は陽射しが強いなぁ……

 そのまま歩き続けることになるわけだけど、異常気象を吹き飛ばすくらいの猛暑だ。いや、普通ならこの猛暑の方が異常気象扱いされると思うんだけど……まあ、真夏に雪が降るレベルだから比較のしようがない。

 

「あーつーいー。ねえ、空さん、カノン君……ちょっと休みましょうよ」

「もう少しなんだから頑張りましょうよ」

「えー、そこのベンチで休憩させて……」

 

 そう言うと、ミミさんはベンチへといってしまう。空さんの言う通り、そんなに遠くないんだけど……なんだか暑さで距離感がわからない。

 

「ねえ、カノン。ゆっくりで大丈夫?」

「予感って言っても微妙なラインだからなぁ……なんだか黒い靄がかかっているようにも思えてきたし」

 

 なんというか、確定した情報と齟齬が出始めているというか、予測がたたなくなってきているというか……いわゆる一つの嫌な予感というものだ。

 未来予知みたいなものだと思っている、この光景だが……ネオデビモンの時も些細ではあるがいくつものパターンがあったのを思い出した。

 

「……未来は確定しているわけじゃない、か」

 

 そもそも未来が確定していたのなら、僕たちは死んでいるんだし……いったいどういう理屈で未来を見ているのだろうか?

 

「でもカノン君も結構体力あるわよね」

「部活で体力の付いている空さんほどじゃないですよ。僕のはズルしているようなものですし」

 

 身体強化は継続中である。というか、数か月もデジタルワールドを旅していたからか、ミミさんも口では疲れたって言っているけどかなり長い距離歩けているんだよね。むしろ大げさなリアクションをとれるぐらいにしか疲れていない。

 普通ならとっくにばてているだろう距離なのに……

 

「疲れなくなるなら、アタシたちも覚えたいー」

「高校生までの勉強を一か月ほどみっちり詰め込むことになってもいいのなら教えますよ」

「……やっぱり、子供は子供らしくが一番よね!」

「ミミちゃん……でもカノン君もどうしてそこまで勉強ばかりしているの?」

「別にそういうわけじゃないですよ。ドリモンと一緒にテレビだって見ているし、漫画も読みますよ。ゲームも好きですしね……ただ単にうちの親が特殊だっただけだと思うんですけど……」

 

 絵本の代わりに父さんの本を読んでいた、というか寝物語に読まれていたらしいし。僕も相当変わっている自覚はあるのだが。

 

「でも、普通の小学生にそこまでそこまでできるかしら?」

「海外だと飛び級とかもありますし、意外といると思いますが……まあ日本だと横並びに勉強するから仕方がないのか。なんていうか、ハンドメイドじゃなくて工場で作られる大量生産品みたいな感じだなぁ」

「しゃ、斜に構えているわね……」

 

 空さん、あまり引かないでほしいんですが。というか光子郎さんも似たようなものじゃないですか。この年でパソコンをパーツから組めるような人がそうそういてたまりますか。いえ、あの人は斜に構えてはいませんが――どこか悟っている空気はあるかと。

 

「まあそれもそうだけど……でもそうね、なんだか一歩引いているっていうか…………」

「うーん、あまり触れてあげない方が良いんじゃないですか?」

「ミミちゃんがそう言うの珍しいわね」

「まあ、なんとなくですけど」

 

 しかし、ミミさんのようなタイプがそんな発言をするってのは驚きがある。

 さて、そろそろ先に進もう。日差しもきつくてあまり上を向けていなかったが――どうやらすぐそばまで来ていたようだし。

 

「もうこんなに近くまで来ていたのね」

「本当……目の前だったか」

 

 日本一高い電波塔、東京タワー。中には色々とテナントもあり、観光客でにぎわっている。被害を出さないようにしたいけど……予知が外れてほしいなぁ……

 うぅ、近くにいくとなおさら熱い(・・)…………

 

 ◇◇◇◇◇

 

 中に入り、展望台まで向かう。やはり眺めがいいなぁ……晴れている時はかなり遠くまで見えるし、案外ヴァンデモンの潜伏先も見えるかもしれない。

 

「中は涼しいわねー」

「生き返りますねぇ」

「カノン、顔緩んでいるよ」

「本当に二人とも緩み過ぎじゃないの?」

「昨日は二連戦だったし、疲れも残っていたのかなぁ……」

 

 それにしてはドリモンはあまり疲れた様子はないのだが――僕の方がデジメンタルのエネルギー使いすぎたのかもしれない。あまり使いすぎないようにしておくべきだろうか。

 

「本当にデジモンが現れるのかしら?」

「できれば外れてほしいところですが……」

「今のところ手掛かりは何もないのよね――なんだか暑くない?」

「エアコンは……動いていますね」

 

 風もでているし、ひんやりとしたいい温度である。扉があいたりとかして、暑い空気でも入ったのだろうか――と思っていたら、突然エアコンが止まってしまった。

 

「やだ故障!?」

「みたいですねぇ……でも故障にしては異音もなかったし、なんだか強制的に止められたような?」

「暑くなってきたわね」

 

 空さんの言う通り、急速に熱くなってきた……言っていて思ったが、なんだか自分でもニュアンスがおかしい――そんな時だった。ミミさんが唖然とした表情で誰かを見ている。

 

「なによあれ! 真夏に暑っ苦しいコートなんて着て!」

「ちょっとミミちゃん! いきなり指なんて挿しちゃダメ!」

「文句言ってやろうかしら……」

 

 本当に暑苦しいコートをきた大男。というか身長デカいな。2メートルは越しているんじゃないか? なんだか顔も金属製の仮面で――――ちょっと待て。あの顔、どこかで見たことなかったか?

 なんだか足音も金属音でガシャンガシャンいっているし……

 

「二人とも、急いでこの場から――――」

「よし、無理やりにでも引っぺがしてッ」

「ミミちゃん!!」

「――二人ともアレ、デジモンだから!!」

 

 止める(ヒマ)も、逃げる(スキ)もない。男の足元から青色の炎が噴き出し、その正体を現す。同時に、僕の瞳に奴の情報が開いていく。

 デスメラモン、完全体。

 

「とにかく中じゃマズイ――みんな、外に!」

 

 ドリモンが一気に進化していき、ドルグレモンになった。これなら、全員を乗せることができる。空さんとミミさん、パルモンを乗せて外へと飛び出す。

 ピヨモンは進化して、炎の鳥となり共に外へ飛び出していた。

 

「待てぇ!」

「待てと言われて待つかよッ!」

「でも下に降りたらたくさんの人たちが!」

「ならこの上!」

 

 仕方がなしに、展望台の上に降りる。できればこんなところで戦いたくはないが、背に腹は代えられない。東京タワーがアイツの熱で曲がっているし……そりゃ熱いなんて思うわけだよ。炎の熱さだもの。

 パルモンもサボテン型のデジモン、トゲモンへ進化した。なんだろう、このどっかで見たことのある見た目は。

 

「なんでトゲモンをみてやるせない顔をしているのよ」

「いえ、別に」

 

 しかしこちらはすでに完全体に進化しているし、羽音が聞こえてきたのでそちらを見ると――カブテリモンに乗った光子郎さんに、太一さんたちがいた。機動力では劣るのかヤマトさんたちはやってこないが……

 

「いくら完全体でも、この数なら押しきれそう――――ッ」

 

 ふと、悪寒が体中を駆け巡った。上空から飛来する影、ドルグレモンも何かを感じ取ったのかすぐにこちらを見てくる――僕は空さんとミミさんの手を掴み、ドルグレモンから飛び降りた。

 

「ちょ、カノン君!?」

「いきなりどうしたのよ!」

 

 二人の声も無視していそいでドルグレモンから離れる。幸い、デスメラモン相手なら他のデジモンだけで大丈夫だ。グレイモンもとびかかっているが……炎系の攻撃はアイツ相手に相性が悪そうだけど、光子郎さんならすぐに対策を思いついてくれるだろう。

 問題は、新手がやってきたことだ。

 

「ガァアアア!」

「な、なにあのデジモン!?」

「戦闘機――いえ、プテラノドン?」

 

 鋼の体に、翼竜のような姿。瞳は血走っていて、およそ正気とは思えない。

 再び僕の瞳に情報が表示されていくが、これは……

 

「プテラノモン、アーマー体!?」

 

 なぜアーマー体がいるのかはわからないが――ドルグレモンならば勝てる。そう思っていた。

 ドルグレモンの翼や尻尾が赤く輝き、プテラノモンを貫こうとする。一気に加速して、距離を詰めていくが――プテラノモンはその全てをことごとく躱していった。

 

「なにッ!?」

 

 スピードだけなら、ドルグレモンを圧倒しているのだ。横目で見ると、デスメラモンの猛攻も続いており、太一さんたちはこちらの援護ができそうになかった。

 だったら、ドルグレモンが何とかするしかない――しかし、奴はさらに最悪の手を打ってきた。その翼についている爆弾が投げられ、あたりに無差別に飛び立っていって……

 

「こなくそぉ!!」

「――カノン君!?」

 

 電撃を放出させ、被害が出ないように爆破していく。ドルグレモンも僕の意図に気が付いて爆弾に対処してくれた――まさにその時だった。

 奴が、ニタリと笑った気がした。急加速し、ドルグレモンへと肉薄してそして――

 

「あっ――ガァ」

「――――ドルモン!?」

 

 ――奴の攻撃を喰らい、ドルモンへと退化してしまったのだ。そして、飛べないドルモンはそのまま下へと……ああ、僕も何をやっているのだか。

 プールに飛び込む様に、下へとジャンプしていた。空さんたちの驚いた声が聞こえたが……もう動き出したものはしょうがない。

 

「うぉおおおお!」

 

 手が伸びる。瞬間、今までの記憶がよみがえっていった。走馬灯かとも思ったが――ジグソーパズルが完成するように、いくつものピースがつながっていく。

 DNAのこと。今まで進化した姿や、倒したデジモンの情報。目指すべき進化の形――そうだ。奴の方が速いのなら、奴よりも速く進化すればいいんだ。

 僕の中にあるデジメンタルのエネルギーをありったけ振り絞るように、ドルモンへと渡す。再び進化させるため、新たな姿を構築するために。

 

 そして、長い長い一秒が過ぎ――閃光が弾けた。

 

「ドルモン進化――――ラプタードラモン!」

 




チョベリバって、当時は普通に聞く言葉だったよなぁ……そんなことを思いつつ、挟んでみたネタ。いや、当時も古くなりつつある感じだったかな。


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26.空舞う勇者

相変わらず前半と後半で落差がひどいです。
あと、前日の妙な時間に更新しています。


 これは、プテラノモンが放たれる少し前の光景だ。ヴァンデモンのアジト、位相をずらした場所にあるそこでピコデビモンとソウルモンが水晶に封印されているデジモンを解放していた。

 

「なぜこいつを解き放てばならないのか……」

「ヴァンデモン様に忠実なお前らしくもない。何が不満なのだピコデビモン」

「こいつがなぜ封印されているのか知らないのか?」

「知っているさ――かつて、古代種が進化したアーマー体のデジモン。当時はそれは繁栄したそうだが……こいつのように危険な暴走体が生まれてしまったために、現代では残されていない進化だ」

「……だからこそ、こんな我々にとっても危険なデジモンをどうするというのか」

 

 水晶の中に封印されているにもかかわらず、プテラノモンの瞳は血走っている。ただ暴走しただけでなく、厄介なウィルスにも感染しているのだ。

 強力な封印が幾重にも仕込まれており、出てくることはないはずなのに身構えてしまう。

 

「だからこそ、貴様と私が封印を解く役目を任されたのだ――ピコダーツをだせ。プログラムを仕込む」

「まったく……なんで俺様がこき使われなければいけないのか」

「ぼやくな仕事しろ」

 

 ぶつくさ言いながらも、ピコデビモンはソウルモンにピコダーツを渡す。そこへ、ソウルモンは特殊なプログラムを仕込んでいく。暴走をしているのならば、ある程度行動を誘導させればいい。今のプテラノモンはターゲットの定まっていないミサイルみたいなものだ。だったら、ターゲットを定めておけば、勝手に突っ込んで爆発する。

 プログラムが完成し、ソウルモンが封印を解くのと同時にピコダーツが刺さる。

 

「――――ガアアア!!」

「ひぐ!?」

「騒ぐな――ほうら、奴が飛んでいったぞ」

 

 そうして解き放たれたプテラノモンは東京タワーへと飛んでいったのだ。

 あまりにも速く、目標を駆逐するためだけに――しかし、それが新たなる力をカノンたちにもたらしてしまった。ケンキモンに進化したことで得た機械のDNAと、竜のDNAが結びつき、新たなる姿へと進化したのである。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「ラプタードラモン、成熟期。サイボーグ型のデジモン――ドルモンの進化した姿」

「ドルモンはドルガモンが成熟期じゃないのかよ!?」

 

 光子郎がアナライザーを起動し、ラプタードラモンのデータを閲覧する。そこに書かれていたのは、ラプタードラモンがドルモンの進化として扱われていること。

 しかしだからこそ太一には驚きなのだ。グレイモンから進化するデジモンで、メタルグレイモンが正式なルートであり、スカルグレイモンは失敗した姿。そう思っていたのだから――ドルモンのように、違う進化も失敗ではないというのに驚きを隠せなかった。

 

「……進化は一つじゃないのかもしれません」

「なに?」

「確かにスカルグレイモンは間違った進化だと思っていますよ――ですが、進化であることには変わりなかった」

「たしかにそうだけど……」

「そして、正しい進化が一つとは限りません」

「――――」

「もっとも、僕らのデジモンとドルモンは根本的に何かが違うのかもしれませんが」

 

 そこで光子郎たちが自分のデジモンたちの方を見ると、ちょうどメタルグレイモンが生体ミサイルのギガデストロイヤーを使用してデスメラモンを撃破しているところであった。

 生体ミサイルであるがゆえに、周辺に被害を出さないように威力調整がなされていたらしく、デスメラモンだけ倒して戦いは終結した。

 

「このままこの場にいてはまずいです――カノン君たちが上空で戦っていますが、僕らもこの場にいては後々厄介になりますよ」

「……仕方がない、後を追いかけながら戦いが終わるのを待つぞ」

 

 その上で、彼らを回収しなくてはならない。空とミミへ声をかけ、彼らと共に飛び立つ。幸い、カブテリモンには余力が残っており、彼らが乗るには十分であった。

 皆の視線は上空で戦うカノンたちの方へ――その速さは、今まで見たことが無いほどで、目で追うことができない。

 

「本当に成熟期のデジモンなのか?」

 

 太一にも何かが感じ取れていた。ドルモンは、普通のデジモンとは何かが違うと。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ドルモンが新たな姿へ進化した、あの瞬間。ドルモンの中に眠っていた何かが目覚めた気がした。

 プロテクトが解除されていくのを感じ、ドルモン自身の力が増大していく。

 

「ラプタードラモン、しっかり狙いをつけろよ!」

「分かっているさ。カノンこそ、振り落されるなよ!」

「僕を誰だと思っているんだ――母さんの血は伊達じゃないよ」

 

 飛行帽を深くかぶり、ゴーグルを下ろしている。視界がつぶれないようにしたうえで、奴の姿を捕えていた。まるでノイズのデジモンのようにどこか不安定。しかし、デジコアも存在してるようだし――今にも崩れ落ちそうな状態だ。

 言うなれば、寿命が尽きかけているのに無理やり動かされていると言ったところか。

 

「ガアアア!!」

「こいつの装甲、結構硬いぜッ」

「音でわかる! さっきから金属音がうるさい」

 

 何度も激突しあっている。ラプタードラモンは遠距離ではなく近距離に特化した能力を持っているのか、先ほどからこのとてつもない強度をもつ翼をぶつける攻撃しかしていない。

 メタルキャノンの類はなくなっていると見た方がいいのか?

 

「ああ。そっち系の技はどうにも使えないみたいだ」

「ってことは、射撃は僕が担当するしかないか――ラプタードラモン。頼む」

「まかせろ」

 

 一瞬の交差、今度は翼をぶつけずにお互いが交差するのみにとどまったが――その一瞬でカノンは懐に持っていたモノをブーストさせて放つ。残りのエネルギーはほとんどない。しかし、こんなこともあろうかと昨夜回収していたモノの中に特製のスタンウィルスを仕込んでいたのだ。

 

「喰らえピコダーツ!」

「――ッガ!?」

 

 バチリと放電が始まり、プテラノモンの姿が一瞬ぶれて、その場に止まる。そうなれば、帰結する結末はただ一つだ。ラプタードラモンの体が加速していき、体にエネルギーが集まり――必殺の一撃が放たれる。

 内部の力も解放されていき、全身が赤い光に包まれた。

 

「喰らえ――クラッシュチャージ!」

 

 再び、両社が交差する。しかし、此度はラプタードラモンの側のみが動いていた。巨大な風穴を開け、プテラノモンはデータの塵へと還元されていく。

 そのまま、ラプタードラモンは前へと飛んでいき――光を放出して、その姿が小さくなっていった。

 ふわりと空中にその身が投げ出され、そのまま落ちていく。そんな時だった。巨大な手が僕らの下に差し出され、その体をキャッチした。

 

「まったく、えらい無茶しますなぁ」

「本当だぜ……二人とも、大丈夫か?」

 

 カブテリモンが二人をキャッチし、僕らを助けたのだ。その様子に呆れながらも太一さんが声をかけてくる。

 

「え、えへへ……すいません、僕の方もエネルギーを使いすぎて体がロクに動かなくて」

「まったく無茶するわね」

「太一さんも人のこと言えないぐらい無茶するときありますけどね」

「……悪かったな。でも、流石の俺も飛び降りることなんてしねーよ!」

 

 流石にあの時はどうかしていたと思うしかない――もっとも、どこかできるような気がしていたのだ。エネルギーの回復については似たような例はあったし、最悪でもドルガモンになってもらえたと思う。

 しかし新たな進化が起こるとはびっくりだけど。

 

「ドルモン、大丈夫か?」

「なんとか……へとへとだけどね」

「そりゃそうだ――」

 

 僕も大分疲れたし、ひと眠りしたい――眠気が強まっていき、瞼が落ちていく。

 ああでも、ヴァンデモンの捜索もしないと……それに、こんなに騒ぎが大きくなってどうすればいいのやら。

 結局抗えない眠気に負けてしまい、瞼を閉じた。閉じてしまったんだ――

 

 

 ――その光景は、酷いものだった。ヴァンデモンの仲間だったのだろうか? おかしなデジモンが二体。なぜかヤマトさんとタケル君と遊びまわっており、人間界を満喫している。

 やがて、ヴァンデモンに見つかることとなるが、一緒に遊んでくれたヤマトさんたちをかばって、彼らは殺されてしまった。データの塵となっていく。慈悲もなく、ヴァンデモンは彼らを殺していく。

 赤い鞭が、彼らの体を傷つけていく。勝負にもならない。ただ一方的な虐殺――

 

 だけど、まだ変えられる。この運命は、まだ変えることができる。

 ヴァンデモンの手下が死ぬ。だからどうだというのだろうか――彼らはただ楽しんでいただけだ。映像の中には怒られるべきことも見えたのだが、それでも悪い奴らじゃなかった。

 泣いて、笑って、僕らと敵対する必要なんてない連中なのに――なぜ死ななければならないのか。

 僕たちの都合でデジモンを倒してきた。そんな僕に何かを言う資格はないのかもしれない――でも、助けられる命があるのならば、僕らが動くことで何かが変わるというのならば――変えたい。この運命を。

 

 ――そう、強く望んだ時、再び意識は浮上した。

 紋章が輝き、デジメンタルのエネルギーが回復していくのを感じる。同時に、体中に力が駆け巡っていくのも感じた。体が動く。

 目が覚め、飛び起きると――そこは、僕の部屋だった。

 

「そうか……疲れて寝ちゃっていたから運ばれたのか――――って時間!?」

 

 正確なことは分からないけど、アレは夜だったから……もう夕暮れじゃないか。時間がないぞ。渋谷でことが起こるのは分かったが……ドルモンも回復しているかわからないし、どうする?

 そうして立ち上がると、妙に体の動きが悪いことに気が付いた。あれ? まだ疲れている――いや違う。なぜか服装が変わっているのだ。なんかフリフリのたくさんついた服に――っていうか女もの。それは、後の世でロリータとか呼ばれる類の衣装だった。

 

「また女装させられている!? 誰だよ!?」

「また無茶したみたいだからお仕置きよー」

「似合ってるよ、カノン君!」

 

 母さんとヒカリちゃん(最恐のタッグ)だと!? っていうかなんで寝ている間に人の体を剥いているんですかアンタらは……ああもう、時間もないのに着替えている暇もない。

 ドルモンもあくびをしながら起きてくるが、僕の姿を見て唖然とした。

 

「カノン……ついに、目覚めて」

「目覚めてないからー。この二人が眠っている間に着せただけだからー」

 

 くそっ――なんか最近、こんな目にばかり合っている気がする。

 

「っていうかヴァンデモンの出る場所が分かった! 行けるかドルモン?」

「エネルギー自体は大丈夫だよ。見ての通り、ドルモンにまでしか退化しなかったし」

「なら――できるな?」

「モチのロンさ」

 

 さらに古いなそれ……

 

「カノン、また無茶するのー?」

「……流石に、死ぬ奴を見過ごせないっての」

「ハァ、お父さんに似て頭のいい子に育ったかと思ったら、やっぱり私の子なのねー。無茶ばかりするんだからー」

「ってことで、止めてもいくよ!」

「なら――女装したままで行きなさい」

「――――なぜ」

「うん。無茶ばかりするから、罰ね」

 

 こ、この屈辱的な姿で外に行けと? そしてヒカリちゃんはさっきから、何故カメラを回しているんだ。

 

「永久保存」

「やめてくれ……クソッ、これじゃあ太一さんたちに援軍を頼んでも生き恥じゃないか」

「もう、女の子がそんな言葉づかいをするんじゃありません」

「女の子じゃない!」

「でも太一さんたちも力使いすぎて、今回復中だよ。おれは案外イケそうだけど」

「……それでも、直接戦うのはマズそうだからひき逃げアタック作戦で行くぞ」

「えっと、それって?」

「ヴァンデモンに激突して仲間回収したら逃げる」

「不安だなぁ……」

 

 結局のところ、母さんも他の服を死守したために僕は女装で外に出るしかなくなった。

 もはや何のために戦うのかわけわからないことになりながら、渋谷へと向かうこととなる。

 

「この恨み、ぶつけてやるぞヴァンデモン!」

「趣旨変わってる……」

 

 寝起きであることと、こんな目にあわされたことで変な方向にスイッチが入っていたのだろう。後々、恥ずかしさで死にたくなるのだが……まあ、それは別の話である。




Qなぜ女装? A改定前もここで女装させてた

よかったなピコデビモン。大活躍だぞ……ピコダーツは。


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27.ゴーゴーカノンちゃん

ダークマスターズ編は改定前と比べて、色々と変更される予定。
サブタイトルはイイの思いつかなかったので、適当にやりました。


 ヤマトとタケルはタケルの家まで向かっていた。現在は電車の中、ゆらりと揺られている。

 デスメラモンと、プテラノモンとの戦いに決着がついたあと。彼らは遠回りで東京タワーを目指していたため、結局戦いには参戦できなかった。その後、太一たちから連絡もあり、そのままヤマトはタケルを家まで送り届けることにしたのだ。

 会話も少なく、電車に乗りながらゆっくりとした家路である。

 そんな二人の様子を、ツノモンとパタモンは網棚に乗っかりながら見ていた。

 

「ヤマトとタケルの両親は、4年前に離婚したんだって」

「それで、二人は別々に住んでいるんだね……」

 

 タケルはデジヴァイスを取り出し、時刻を確認する。すでに7時をまわっており、もう帰らなくてはマズイ時間だ。

 

「もうこんな時間……お兄ちゃん、次の駅でいいよ」

「いや。三軒茶屋まで送るよ」

「いいよ、別に」

「いいから。送らせろよ」

「……わかった」

 

 二人にしかわからないものがあるのだろう。だからこそ、静かであったのだが――パタモンがそこに声をかけてしまう。

 

「別れがつらいの?」

「――うるさいッ」

「もう、そんな言い方しなくてもいいじゃないか!」

「おいタケル、それにパタモンも冷静に……」

 

 普段なら軽口ですんだ。だが、複雑な感情が入り乱れている今のタケルにはパタモンの言葉が嫌味にしか聞こえなかった。パタモンも、別れがつらいのなら一緒にいればいいのにと、親切心というか無邪気に核心をついてしまったがために、こじれてしまったのだ。

 

「いくらパタモンでも兄弟のことに口を出すなよ!」

「ああもうわかったよ! 口出さない!」

 

 電車も止まり、パタモンは外へ飛び出してしまう。

 ヤマトとツノモンも追いかけようとするが、入ってくる乗客とぶつかりそうになり、足が止まる。

 

「タケル、パタモン行っちゃったぞ」

「いいんだよあんな奴……」

「本当にいいのか?」

「……」

 

 一瞬の逡巡のあと、タケルは踵を返して電車から降りる。

 

「結局、渋谷で降りちまったな――さて、パタモンを探しに行くか」

 

 駅のホームから出て外を歩いていく。

 空は黒いが、街中には光があふれていて暗いという印象は無い。

 

「……」

「タケル、いつまで拗ねてんだ」

「だって……パタモンが本当のことを言うから、つい」

「気持ちはわかるけど……な」

 

 やはり会話は少なく、あたりを探しながらも少し足取りが重い。

 そんな中、何か少々騒がしい声が聞こえてきて――ツノモンが何かに気が付いた。

 

「ヤマト、デジモンがくるよ!」

「何!?」

 

 ツノモンが飛び出し、ガブモンへと進化して着地する。

 そして、人ごみをかき分けて小さなデジモンが二体、飛び出してきた。

 

「パンプモンにゴツモンだ!」

「知っているデジモン?」

「たぶんヴァンデモンの手下だよ! ゴツモンは成長期だけど、パンプモンは完全体だから気を付けて」

 

 そうして、その二体が眼前に迫って来て――

 

「ヴァンデモン様よりも怖い渋谷系女子に追いかけられているんだ!」

「お前も隠れた方が良い。さあ、こっちへ!」

 

 ――ヤマトには彼らが何を言っているのか理解できなかった。

 しかし、あれよあれよという間に状況は進んでしまう。

 ガブモンは二体につかまれて路地裏に入ってしまった。そして、向こうから仮装大賞がどうのと叫びながら鬼のような形相の女性が走ってくるではないか。

 

「仮装大賞、どっち行った!?」

「あ、あっちのほうへ……」

 

 とっさにごまかせた自分をほめたい。そう思うヤマトであった。ちなみに、タケルは目を白黒させて何が起きているのか理解できていない様子だ。

 なんとかその場はやり過ごしたが、問題は二体のデジモン。

 

「お前ら、8人目を探しているのか?」

「そうなんだけど……」

 

 あっさりとバラすパンプモン。ゴツモンも慌てる様子はないが、そのあっさりした姿に警戒心を高めるヤマト。タケルも状況を呑みこめたのか、険しい顔になっている。

 ガブモンがすぐにでもとびかかれるような体勢になった、次の瞬間だった。

 

「「俺たちすっかり渋谷系デジモンになっちゃったー!」」

 

 ――あ、こいつらただのバカだ。

 ヤマトは、そう思ったという。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 一方その頃、カノンはというと――

 

「うぉおおおお!!」

「カノン、久々のスケボーだね!」

「魔法的改造済みのな!」

 

 ――女装のまま、東京を爆走していた。もはややけっぱちである。

 道行く人々が何事かとみているが、そんなことは気にも留めていない。ちなみに、魔法的改造というのは、魔力ブースターで自走できるように仕込んであるということである。某漫画を参考に作った逸品なのだが、ドルガモンなどに進化してもらって飛んだ方が効率も速度もいいので普段は使わない品でもある。

 今回は街中の捜索になるので小回りの利くスケボーを持ってきたのだ。

 

「渋谷ってことしかわかんないからな、ドリモン! においはするか!?」

「分かんない。人が多すぎて近くまで行かないことには……」

「とりあえずヤマトさんたちを探そう。ヤマトさんたちが遭遇するみたいだし!」

「電話で連絡をとれないの?」

「携帯電話なんて代物、光子郎さんぐらいしか持ってないっての! ポケベルも持っていないみたいだし――地道に探すしかない!」

 

 ヴァンデモンと遭遇することになるため、ドリモンには体力を温存してもらわないといけない。そのため、コンビニで適当に何か買って食べてもらっている。

 そのまま街中を捜索するが、一向に見つからない。

 

「渋谷も結構広いからなぁ……ハチ公前にでも行ってみるか?」

「なおのこと人が多そう――デジモンのにおいがするよ」

「本当か!?」

「うん。でもこれ、嗅いだことがある……」

 

 ということは、パートナーの誰かだろうか? きょろきょろとあたりを見回してみても見当たらない。ならば、上かと思って顔を上げると、黄色っぽい色の生き物が見えた。

 およそ地球上の生物には当てはまらないフォルム。まあ見たことがあるから今更驚きはしないが……デジモンって結構無茶な姿しているのも多いよね。

 

「おーい、パタモーン!」

「……あれ? どちら様ですか?」

「僕だよ、カノンだよ」

「――――なんで女の子の格好しているの?」

「……聞かないで」

 

 そういえば僕、女装していたね。ドリモンもハァとため息を一つ。

 パタモンに話を聞けば、どうやらタケル君と喧嘩してしまったらしい。詳しく聞けば、空気を読まない発言をしてしまったみたいだが。

 

「そりゃパタモンが悪い。ちゃんと謝りなさい」

「うん……でも、僕たちには親とかそういうのって基本的に無いからよくわからなくて。兄弟で生まれるデジモンはいるんだけどね」

「デジモンには家族の概念は無いのか?」

「ほとんどのデジモンはそうだよ。ただ、本当に一部例外があるって昔聞いたことがあるけど、見たことが無いから……」

 

 結局、よくわからないと。

 まあ誰しも触れてほしくない部分や、ナイーブになっている時に聞きたくない言葉はあるし、それについてはパタモンも理解している。だからこそ反省しているんだろう。

 

「まあとにかく、みんなを探さないと――もうすぐ、ここにヴァンデモンが来るぞ」

「それ本当!?」

「たぶん――絶対とは言い切れないけど、僕の予知でヤマトさんたちが渋谷にくるってのも見えていたから……そっちが当たったということは、もう片方も当たるよなぁ……」

 

 とにかく速く探さないと。幸い、小回りが利いて空も飛べるパタモンがいれば何とかなるかもしれない。

 僕らに追走してもらいながら、パタモンには上から周りを見てもらうことになった。

 

「何か他にヒントはないの?」

「うーん……戦闘するなら、人目につかないような場所に移動するかもってぐらいかな。路地裏とか、空き地があればいいんだけど」

「分かった、それっぽい場所が無いか見てみる!」

 

 これで見つかるといいんだけど……しかし、いきなり飛び出したからこっちはひき逃げアタックぐらいしか手が無いってのも心もとない。

 何か武器でもあればいいんだが――そういえば、近くにスーパーがあったような……

 

「財布は持ってきている……アレが効けばいいんだけど」

 

 まあとりあえず購入しておくか。

 やがて、パタモンが戻ってくる。どうやらパンプモンとゴツモンが騒ぎを起こしているようで、ちょうどヤマトさんたちも一緒にいるみたいだ。

 

「じゃあ、準備を終えたらすぐに行くぞ!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 パンプモンとゴツモンは当然人間のお金を持っておらず、アイスクリームを盗んでしまっていた。お金での物のやり取りという概念自体をあまり理解していないため仕方がないと言えば、仕方がないのかもしれないが巻き込まれたヤマトたちにはたまったものではない。

 

「まったく、お前たちは何をしているんだ」

「だってぇ」

「アイスクリーム食べたかったんだもん」

「だもんて……」

 

 思わず脱力してしまうヤマトだったが、突如――体中に嫌な汗が噴き出た。

 何かが現れた。場の空気が変わり、パンプモンたちも体が固まる。

 

「――――お前たち、なぜえらばれし子供とアイスクリームを食べているのだ」

 

 ヴァンデモンがこの場に現れた。何故アイスクリームを知っているのかとか一応気にはなったが、元々人間界に詳しいこのデジモンだ。そのぐらいは知っていても不思議ではない。

 鋭い眼光が二体のデジモンを射抜く。

 

「8人目はどうした……」

「そ、それは」

「まだ見つかっておりません!」

「ならばなぜ、そいつらから紋章を奪おうとしない」

「今やろうとしていたところです!」

 

 がおーと声を上げながら、二体はヤマトたちを追いかける。ヤマトたちには急に暴れ出したように見えたが――ヴァンデモンはごまかされていない。

 

「アイツら……余計なことをされる前に、ここで始末しておくべきか」

 

 ヴァンデモンは再び飛び上がり、パンプモンたちの様子を観察する。万が一ということもある。二体が裏切らなければそれでよし。そうでないのなら――やはり、ここで消すのみ。

 二体は子供たちを路地裏へと追い込んでいく。そこまでは良い。だが、問題はここからだ。

 

「やーめた」

「おれも。こんな事よりえらばれし子供たちと遊ぶ方が楽しいし!」

「ハァ……お前たちは、なんでヴァンデモンの手下なんかやっているんだよ」

 

 ヤマトも呆れるほどにあっさりした二体。ヴァンデモンも予想していたとはいえ、少々呆れてしまう。

 しかし、もはやここまで。

 赤い雷撃を巻き起こしながらヴァンデモンは二体の前に現れる。咄嗟に子供たちをかばって隠れるように指示する気概は認めるが……

 

「お前たち、えらばれし子供たちはどうした?」

「それが、逃げられてしまいまして」

「アイツら案外すばしっこいんですね」

「――この大嘘吐きどもめ。私がずっと観察していた事にも気が付かなかったようだな――――お前たちにもう用はない。消えろ! ナイトレイド!」

 

 たくさんのコウモリたちが二体を襲う。成長期のゴツモンをかばうように、パンプモンが前に出て巨大なかぼちゃを呼び出して防御する。

 しかし、同じ完全体でも力量が違いすぎた。ヴァンデモンは本当に完全体なのか、疑わしくなるほどに。

 

「アングリーロック!」

 

 ゴツモンも攻撃を仕掛けるが――まったく効果が無い。ヴァンデモンは彼の攻撃は気にも留めずに、一歩近づいた。

 

「……死ね」

 

 そして、赤い鞭が振り下ろされパンプモンたちに迫る――その瞬間だった。

 赤い何かが猛スピードでヴァンデモンに迫り、ズドンという音を立てながら吹き飛ばしたのは。

 

「必殺ひき逃げアタック! アンドみんな回収して逃げるぞ!」

「思考が犯罪者だよカノン」

「今更だよ。言いっこなし!」

 

 ヤマトたちとパンプモンたちもドルグレモンの背に乗せて再び急発進する。ついでにスーパーで買っておいたブツ、ニンニクをカノンはヴァンデモンへ投げつけた。

 

「グゥオオオオオオオ!?」

「うわっ、予想以上に効いている……でも今のうちに! 飛んでくれドルグレモン!」

 

 そのまま空へと飛翔していくドルグレモン。ステルス効果とカノンが普段使っている身体強化をドルグレモンへ回して全力で逃げるために動いた。

 時間にして数秒。だが、その数秒で二体の命を救った。今まさに、一つの運命を打ち破ったのである。

 

 

 

 

 

「おのれ……アレは0人目か…………奴を殺せばバランスがどう崩れるかわからないから生かしておく予定だったが――ソウルモン!」

「――はい、ここに」

「明日、貴様は0人目を殺せ。最悪、あのプログラムを起動してでも抹殺するのだ……予想以上に厄介な存在だ、他の子供たちとは連携をとらせるな」

「かしこまりました、わが君」

「この私にここまでの屈辱を与えたこと――後悔するがいい」

 

 

 

 

 

 なんとか戦闘を回避できたようで、助かったカノンたち。ヤマトとタケルも最初のうちはカノンが誰なのかわからなかったようだが、やがて気が付いたようだ。

 

「カノン、お前なんて格好をしているんだよ」

「……カノンさん、そんな趣味が?」

「違う違う。母さんに無茶し過ぎた罰でこんな格好にさせられたんだよ……ハァ、もう二度と着たくない」

「っていうかなんでここに? また例の予知夢か?」

「まあそんなところで……そっちの二体のこともなんとなく知っていますよー」

 

 それだけ言うと、ヤマトは何かを察したのか黙り込んだ。カノンとしてもそちらの方が助かるので何も言わないが。

 

「あ、パタモン……」

「タケル、その……ごめんね」

「ううん。ぼくも言いすぎたよ」

 

 パタモンとタケルも仲直りし、ひとまずは一件落着である。

 

「でも、オレたちはどうすればいいのかな?」

「ヴァンデモンのところには戻れないし」

「ならウチにくるか? ウチの親はデジモンのことも知っているし、事情を話せば大丈夫だと思うぞ」

「ホントに!?」

「助かったぁ」

「いいのか? こいつら結構無茶するぞ」

「はっはっは。僕ほどじゃないよ」

「……」

「黙らないで反論してくださいよ」

 

 自分でも無理だとは思っているが、他人には反論してもらいたいカノンであった。

 その後、ついでだからとヤマトとタケルを家に送り届けカノンは家へと戻った――ヤマトたちを送り届けている間に、状況が動いたことを彼は知ることになる。

 ヒカリのパートナーデジモンが誰なのか。一つの運命を変えることはできた。だが、大きな流れは動き続けている。まだ、戦いは終わらない。




パンプモンとゴツモンは生存。
あと、完全にヴァンデモンさんに目を付けられました。


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28.8人目のパートナーデジモン

今回ほとんど原作と変わらんのでご注意を。
あと感想で指摘受けたので前回を修正。カノンが投げつけたブツについての記載がありませんでしたので――アレはニンニクです。


 カノンがヴァンデモンに激突しているころ。八神家の様子をじっと観察しているデジモンがいた。

 向かいのマンションからヴァンデモンの部下のテイルモンがその場でずっとヒカリのことを見ていたのだ。

 

「……なぜ、わたしはあの子供から目が離せないのだ」

 

 どこか哀愁にも似た気持ちがテイルモンの中に駆け巡る。同時に、ヴァンデモンに痛めつけられていた過去がよみがえる。ただその眼が気に入らない。そんな理由で何度も鞭うたれた過去。

 

「この目は生まれつきなんだ……生まれつき、か。わたしはいったいどこで生まれたのだろうか」

 

 ヴァンデモンに出会う前のことが思い出せない。ずいぶんと昔のことのようにも思えるが、どうにもはっきりしない。

 自分はいったい何者なのか、それが全くわからないのだ。

 

「テイルモン、また昔のことを思い出していたのですか?」

「心を読むな……ウィザーモン」

 

 ふわりと、空から魔法使いの格好に身を包んだデジモン。ウィザーモンが降りてきた。

 流石に不躾だと思ったのか、顔を伏せてすぐに謝罪する。

 

「すみません。そんなつもりではなかったのですが……」

「そんなことより、8人目はどうした?」

「それでご報告が。誰一人としていまだ反応を見つけることが出来ていないようですね」

「まったく、どいつもこいつもたるんでいるのではないか?」

「まあ、それについては否定しません。先ほども、パンプモンとゴツモンが渋谷で遊びまわっていたそうですよ」

「アイツらは……」

「それで、ヴァンデモンに殺されかけたとか」

「――――」

「もっとも、0人目が助け出したそうですから無事だそうです」

「……そうか」

 

 口には出していないがテイルモンは安心した様子だ。能天気な奴らではあるが、悪い奴らではない。理不尽に命を奪われなくてほっとしているのに自分でも気が付いていないが……

 

(やはり、あなたはこちらにいていい存在ではない……しかし、どうするか)

「ウィザーモン、それで……わざわざそれを報告しに来たのか?」

「……いえ、来たのは別件です」

「なに?」

「あまりにも反応が無い――そこで、少々調べてみたのですが……八神太一の家の中に魔法で隠蔽された何かがあるようです」

「それは本当か!?」

「ええ……もっとも、微弱な反応しかしませんでしたし、ヴァンデモンが気が付かないのも無理はありませんが」

「……なるほど、0人目か」

「ええ。あの少年はどうやら相当な使い手らしい」

「…………それで、それと8人目がどう関係するのだ」

「それなんですがね、テイルモン」

 

 ウィザーモンは呼吸を置いてから、再びテイルモンへと問いかける。一緒に旅をしてきて、彼女が恐れている物――その奥に、答えがあるのは分かっていた。

 

「8人目の居場所はあなたの心の中にあるのではないですか?」

「心の中?」

「ええ――あなたが忘れようとしている過去。その中に答えがあるはずなのです。何故恐れるのですか、昔の記憶がそんなに怖いのですか?」

 

 過去にウィザーモンはテイルモンに助けられた。その時から、彼はテイルモンと行動を共にしている。その助けられた日の晩のことだ。テイルモンは言っていた。

 誰かを待っている。生まれたときから探している。そんなことを。

 

「わたしが? 誰を待っていたのだろう……誰を探していたのだろうか」

「――やはり、確かめてみるしかありませんね」

「おいまて!」

 

 テイルモンの制止も聞かず、ウィザーモンはふわりと向かいのマンション――八神家のベランダへと降り立つ。遅れて、テイルモンも跳んできた。

 ちょうど、ミーコが外に出ていたので部屋に戻そうとヒカリがベランダへ出ていたところだ。

 

「あなたは、だぁれ?」

「私はウィザーモン――なるほど、0人目もですがこの子もどうやら特異な力を持っているらしい」

「おい先走るなウィザーモン!」

「あなたは昼間の……やっぱりアグモンのお友達なの?」

「わたしはあいつらとは――」

 

 否定しようと、ヒカリに近づいた時だった。ヒカリのポケットから光があふれだした。テイルモンに反応するかのようにまばゆい輝きがあたりを照らす。

 ドクンと、テイルモンの体の奥底に何かが湧きたつような鼓動が響いた。

 

「これは――いったい」

「やはりこの子が8人目のようですね……なるほど、しっかり隠ぺいされている」

「それじゃあこの子のパートナーはどこに?」

「テイルモン……本当は分かっているんでしょう。もう、答えは出ているはずだ」

 

 テイルモンの記憶が開いていく。幼年期のころから何かを待っていた。ヴァンデモンにつかまり、彼の部下として暮らす絶望の日々の中で忘れていたが――心の奥底で眠っていた感情が呼び起された。

 

「そうだ私は――わたしは8人目のパートナーデジモンだ」

「テイルモンが、私のパートナー?」

 

 と、その時だった。ちょうど家に送り届けられたヤマトから太一にヴァンデモンと遭遇した連絡が入っており、電話中だったが騒ぎを聞きつけて太一とアグモンが飛び出してきた。

 

「――テイルモン!? ヒカリ、そいつから離れろ!」

「待ってお兄ちゃん!」

 

 アグモンも臨戦態勢に入るが、ヒカリが飛び出してしまう。

 マズイと思うのもつかの間、アグモンは炎を噴き出そうとしていた口を無理やり閉じてしまい――小さな爆発が彼の口の中で起きた。

 

「い、痛い……」

「大丈夫、か?」

「なんとかね」

 

 しかし、太一にはわからない。なぜヒカリがテイルモンをかばったのか。後ろには魔法使いみたいなデジモンがいる。もしや、8人目のことがばれたのではないだろうか。

 

「テイルモンはね、ヒカリのデジモンなんだよ!」

「――――なに?」

 

 そんな太一の不安を吹き飛ばす一言。予想よりもはるかに斜め上に事態が動いている。一瞬、頭が真っ白になったのも無理はないことだろう。

 そのままテイルモンはヒカリに抱き着き、彼女にもたれかかるようにしている。

 

「……テイルモンがヒカリのパートナーデジモン…………でもなんで、ヴァンデモンの部下なんかに」

「ヴァンデモンの部下を好きでやっているデジモンの方が少ない。私のようにテイルモンや他のデジモンについてきている者の方が多いんです」

「お前は?」

「ウィザーモン。あなた方はピコデビモンのようにヴァンデモンに忠実な部下たちを見てきたでしょうが……実際のところ、恐怖で縛り付けるやり方をとっているので、付き従うというより服従していると言った方が正しい。パンプモンとゴツモンという二体を知っていますか?」

「ああ、さっき仲間から連絡があった」

「ならば説明も不要でしょう。彼らのようにきっかけさえあればすぐに寝返るデジモンも多い。それがヴァンデモンの部下です」

「でもさ、それならなんでヴァンデモンの部下なんてやっているの?」

「……あのデジモンは、ただのデジモンではありませんから」

「? どういうことだ」

「いずれ分かりますよ――それよりも私たちはやらなければならないことがある」

 

 そう言うと、ウィザーモンは再びふわりと飛び上がった。テイルモンも彼につかまり、一緒に行くようだ。

 

「どこへ行くんだ?」

「まずはヒカリさんの紋章を取り戻さなくてはなりません。今現在、私たちにはそのコピーが配られていますが……オリジナルはヴァンデモンのアジトの中だ」

「ヴァンデモンのアジト!? なら、俺もいっしょに……」

「危険すぎる。デジモンだけならともかく、生身の人間はいかない方が良い――それに、彼女を一人にするつもりですか?」

「……あ」

「なら、僕だけでも」

「アグモンはパートナーがいなければ進化できないだろう? 私とウィザーモンだけでいく。それに、お前たちを連れて行ったら寝返ったことがばれてしまう」

「うう……」

 

 それと、と前置きしてウィザーモンはもう一つ言わなければならないことを言い出した。彼らの不安を取り除くためにも、これは必要な言葉だろう。

 

「0人目の施した魔法は素晴らしいですよ。魔法に特化した私だったから気が付けましたが、ヴァンデモンも含めたこちらへ来ているデジモンたちが気が付くことは無いでしょう。8人目が見つかる心配はほぼありません」

 

 それだけ言うと、彼らはヴァンデモンのアジトへと飛び立っていった。なすべきことをするために。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 テイルモンたちは紋章を手に入れた――だが、すぐにヴァンデモンが戻ってきて見つかってしまった。

 そして、すぐに戦闘が始まった。やはり力量の差が大きく、テイルモンたちはボロボロになっている。

 

「貴様ら、私を裏切ってタダで済むと思うなよ」

「ふふふ……元々私はテイルモンに付き従うもの、初めからお前にしたがってなどいない!」

 

 ウィザーモンの魔法とヴァンデモンの赤い鞭がぶつかり合う。何度も火花が飛び散り、ヴァンデモンの攻撃がいま直撃する――その時だった、ウィザーモンの体がノイズのように消え、ヴァンデモンの攻撃が外れたのは。

 

「なに!? ――ぐっ」

「よそ見は禁物ですよ、テイルモン!」

「ああ……ッ!」

 

 ウィザーモンがテイルモンへ紋章を投げ渡そうとしたその一瞬、ヴァンデモンの拳がウィザーモンへ届く。咄嗟に紋章を守ったが、ウィザーモンは飛ばされてしまい――現れたたくさんのコウモリたちに攻撃され、海の中へと落ちて行ってしまった。

 

「ウィザーモン!?」

「少しはできると思ったが……所詮この程度か。さて、次は貴様だテイルモン……なんだ、その眼は」

 

 テイルモンはヴァンデモンを睨んでいた――鋭い眼光ながら、どこか強い光を携えた瞳で。

 そうだ。この瞳が気に入らない。ヴァンデモンはこの瞳が気に入らないのだ。

 

「――その希望の光を宿した瞳。それが気に入らないのだ」

「ああ……わたしは待っていたのだ。それが、わたしに希望を与えてくれた。必ず会えると信じて待っていたからこそ、光を失わなかったのだ」

「――――――待っていた? まさか、貴様8人目の」

 

 ヴァンデモンが一瞬驚愕した、その時だ。大きな火の玉がヴァンデモンを襲った。咄嗟にマントで弾き飛ばしたものの、防御をさせられた。その事実が彼を苛立たせる。

 

「まったく、今日はどいつもこいつも小賢しい日だ……そうは思わないか? 八神太一」

「へっ、どっちがだよ」

「無事かテイルモン」

「ああ、だがウィザーモンが……」

「やはり――貴様が8人目の子供のデジモンなのだな、テイルモン」

「ち、違う! わたしは8人目の子供などでは……」

「こうしてえらばれし子供が助けにくるのが何よりの証拠! 紋章がウィザーモンと共に海の底に沈んだ今、打てる手は打っておかねばなるまい」

 

 ヴァンデモンはそう言うと、テイルモンへ肉薄する――だが太一と一緒に来ていたグレイモンがすぐに進化し、メタルグレイモンとなってヴァンデモンの攻撃を防ぐ。

 一度目は防げた、だが次に振るわれた鞭に打たれたメタルグレイモンはすぐにアグモンへと退化してしまう。

 

「うう、太一……ごめん」

「そうか、昼間にも戦ったし……まだこっちには慣れてないから」

「フハハハ、これは好都合! ナイトレイド!」

 

 コウモリたちが太一たちを襲う。思わず防御に回ったせいで、テイルモンが無防備になってしまった。

 

「うぐぅ!?」

「貴様を使い、8人目をおびき出す……そのための下準備もある。さらばだ、えらばれし子供よ」

 

 そうして、ヴァンデモンは飛び去ってしまった。残されたのは、太一とアグモンのみ。

 しばらく茫然と立ち尽くしていた太一だったが、拳を地面に打ち付け、悔しさに振るえた。

 

「ちくしょう……」

「太一、とりあえず今は戻ろう……みんなにも連絡しないといけないしさ」

「……ああそうだな…………次は絶対に勝つぞアグモン」

「うん! それでこそ太一だよ」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ヤマトさんとタケル君を送り届けるのに結構時間がかかったな……なんだか雲行きも怪しくなってきたし、ドルグレモンも疲れているから急いで戻らないと。

 そのとき、ベランダにヒカリちゃんの姿が見えた。なぜか悲しそうな顔をしていて、ずっと台場の方をみている……第六じゃないよな?

 とりあえずドルグレモンから降りてヒカリちゃんのところへ来てみると……ようやくこちらに気が付いたようだ。

 

「ヒカリちゃん、どうかしたの?」

「……テイルモンが、テイルモンが…………」

 

 さて、何が起きたのかよくわからないが……どうやら、事態が動いてしまったようだ。それも、悪い方向へ。

 事のあらましは後で太一さんに聴くことになるが……多少無茶でも、ヴァンデモンと戦闘していたほうが良かったと後悔してしまう。

 ……こっちも綿密な作戦が必要になるかもしれないな…………

 




デスメラモンの回はあんなに長引いたのに、なぜここはすぐに終わるのか。
さて、次回ようやく8月3日に入れます。

ちなみに、シリアス優先して本文には書きませんでしたが――カノンはまだ女装しています。流石に次回は脱ぐよ。


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29.橘一家

普通じゃない子供の親は、やはり普通じゃないということで。

あとスマヌ。予約失敗で妙な時間に投稿してしまった。意図せず本日は二回更新だ。


 ヒカリちゃんを慰め、部屋で着替えたあと。帰ってきた太一さんから詳しい話を聞いた。なんでもヴァンデモンの部下だったテイルモンというデジモンがヒカリちゃんのパートナーデジモンだったらしい。

 テイルモン個人の仲間のウィザーモンと共にヒカリちゃんの紋章をヴァンデモンから奪いに行ったらしいのだが……ウィザーモンは海に沈み、テイルモンもヴァンデモンにつかまってしまったそうだ。

 結局、ヴァンデモンはいずこかに去って行き、そのまま太一さんも帰ってきたという。

 事態は予想以上に速く進んだらしい。もっと時間がかかるものと思っていたが……ヴァンデモンの行動が性急に過ぎる。こちらでやることをさっさと済ませようとしているような……デジタルワールドの時間の流れの方が速いのが原因か?

 

「うぅ……考え過ぎたかな…………なんか気持ち悪い」

「大丈夫か? カノン」

「太一さん、すいません……もう寝ます」

「ああ……また明日な」

「はい。明日は忙しくなりそうですし、速く寝ましょう」

 

 もうすぐ10時をとっくに過ぎているし……なんか調子が悪い。それに、外には霧が立ち込めていて嫌な感じだ。

 すぐに部屋に戻り布団をかぶる。パンプモンとゴツモンは最初のうちは部屋の中のものが珍しいのか遊んでいたが――母さんに何かされたのか、今はものすごく静かだ。結局、彼らも寝ているし。

 ドルモンは別段平気そうで普通にテレビもみていたのだが……布団に入ると疲れもあったのかすぐに眠ってしまった。頭痛薬でも飲もうか考えるぐらいには頭もガンガンするし――結局、すぐに寝てしまったが。

 

 

 ――この時の僕は知らなかったが、お台場周辺にヴァンデモンが霧の結界を張っていたんだ。その影響で僕の体調にも影響したらしい。それに、霧が立ち込めている間……僕の使っていた予知は一切使えなくなってしまう。

 そのことを知るのは結構後になるんだけど……まあ、それは追々語るとしよう――

 

 ◇◇◇◇◇

 

 日が昇る――しかし、お台場は霧に包まれ薄暗い夜明けとなった。そして、日の光が届かぬことによりヴァンデモンたちも存分に活動を行うことが出来る。

 6時になると同時にヴァンデモンの部下たちは活動を開始した。電車の運行が止まっているため、大勢の人が駅にいたが――そこに、ファントモンと部下のバケモンたちが現れる。

 

「ヴァンデモン様の命令だ。貴様たちを連行する」

 

 何人かは彼らに立ち向かったが、普通の大人では成熟期以上のデジモンには歯が立たない。これが、ゲコモンなどの小さなデジモンならいざ知らず、特異な力を持つバケモンたちにはあっけなくとらえられてしまった。

 そして、彼らは次々に人間たちを捕えていく。お台場各所で人々を捕え、一か所に集めているのだ――場所はビッグサイト。

 えらばれし子供たちと、そのパートナーデジモンも異変に気付き、交戦しているものもいる。しかし、塾に行っていた丈と元々お台場の外に住んでいるタケルは霧の中に入っていなかった。

 そして、カノンはというと……

 

「うっぷ……やべ、吐きそう」

「しっかりしてよー……なんでこんな肝心なときに吐き気?」

「知らない……この霧のせいじゃないのか?」

「これ、ヴァンデモンの霧だ!」

「…………ああチクショウ、魔力が含まれているじゃないかこの霧! 微量でわからなかったけど、これに含まれている魔力と僕の魔力が不和を起こしているのか…………いや、それだけじゃないっぽいけど――さっさと探し出して何とかしないと」

 

 と、その時インターホンの音が響く。カノンは宅急便かな? と思ったが、なぜかカノンの母の橘四音がいつものほんわかした雰囲気と異なり、歴戦の覇者のような雰囲気を纏っていた。

 しかも服装も主婦な感じのエプロンではなく、茶色いジャケットを羽織った出で立ちだ。どこか頑丈そうにみえる……というか、なぜか銃痕のようなものも見える。

 

「――母さん、それ……なに?」

「ちょっと片づけてくるわね。流石に一人じゃ限界があるけど――八神さんちの奥さんがつかまっているわね。なんとかできないか行ってみるわ――とりあえず、あなたはやることがあるんでしょう。母さんは大丈夫だから、頑張ってらっしゃい」

「か、母さん!?」

 

 玄関を開けて入ってきた謎の男――バケモンが化けていただけだが――を一撃でのして、四音は突き進んでいく。元軍人だとは聞いていたが、てっきり自衛隊か何かだとカノンは思っていたのだが……

 

「そういえば、母さんってハーフだから……まさか海外でって話なの?」

「だとしてもなんであんなに強いの? デジモン以上じゃないかな」

 

 流石に真正面から殴っているわけではなく、長物ではじきながら突き進みつつ、攻撃されにくいポイントをとって移動しているだけだが――それでも一般人の動きではなかった。

 カノンの想像通り、彼の母親は海外で軍人として活動していた。

 

「父さんが母さんと出会ったころは、それはそれは荒れていてね……スケバンなんか目じゃないほどに恐れられていた人だ」

「ゴメン、比較対象がよくわからないんだ父さん。そしていたんだね父さん……って、父さん、なんでいるの!?」

「……流石に、私も傷つくぞ」

「オレたち昨日はショーギってのやってたんだぞ!」

「楽しかったよな」

「私も他人と打つのは久々でね、少々盛り上がったよ」

「あ、そうですか……仕方がない。みんなで安全な場所を探すしかないか」

 

 カノンたちはすぐさま外に出る。すでにたくさんの人々がつかまっており――太一たちがバケモンと交戦していた。幸い、アナライズ能力は使えた。魔法自体は問題なく使えるようだけど……やっぱり違和感が存在していて、十全とはいかない。

 太一たちの母を助けようと、四音がなんとかしようとしているのが見えるが――やはり数が多いようだ。

 

「仕方がない――離脱するしかないな。ここはサンダーバーモンあたりで蹴散らした方がいいな」

 

 そして、デジメンタルをとりだして掲げる。青色の光を灯し、デジメンタルは起動した。

 

「デジメンタルアップ!」

「ドルモン、アーマー……あれ?」

「――ドルモン?」

「あ、アーマー進化できない!?」

「なんだって!?」

 

 その叫びを聞きつけたのか、バケモンたちが迫ってくる。その一瞬、茫然としてしまいカノンは動けずにいた。パンプモンとゴツモンも技を撃てる体勢に入っていたが、数秒のラグが存在してしまっている。

 そして、バケモンの魔の手が迫った瞬間だった。あたりに閃光がまき散らされ、バケモンたちが目を覆う。

 

「そないあれば憂いなし……友人に聞いていた閃光弾モドキが役に立つとは」

「と、父さん……」

「まだまだ子供だな。慌てていると、取り返しのつかないことになるぞ」

「…………ハァ。やっぱりウチは普通じゃないよな――仕方がない、ドルモン。アーマー進化が使えないなら通常進化だ!」

 

 デジヴァイスが輝きだし、ドルガモンへと進化させる。カノンも援護を行いつつ、ファントモンと交戦しているグレイモンの隣に並び出た。

 パンプモンとゴツモンは周囲のバケモンの気をそらすことでカノンたちの退路を作ってくれている。

 

「太一さん! 大丈夫ですか!?」

「カノンか――母さんがまだあそこにいるんだ!」

「……流石に、物量が多すぎる」

 

 遠くから、更にバケモンや他のデジモンたちの大群が押し寄せてきている。見立て以上にデジモンがやってきていたようだ。

 唇を少し噛み、血をにじませながらカノンは言葉をひねり出す。それを言うのはためらわれるが――

 

「ここは撤退しましょう。流石に数が多すぎるし、ここじゃ怪我人がでます」

「――くそっ!」

 

 そして、彼らは退避していく。遠くから太一たちの母親の声が聞こえてきた。悲痛な叫びに応えることが出来ずに悔しい思いしかできない。

 橘一家は全員集まっていた――四音も切り上げて、グレイモンに飛び乗っていた――が……母と離れてしまったヒカリは、涙を浮かべていた。

 そんなヒカリの頭を四音が撫でる。その顔はすでにいつも通りの母親の顔。優しげな表情だ。

 

「大丈夫。ヒカリちゃんのお母さんは絶対に助けるからねー。だからー、せっかくの可愛い顔が台無しよー」

「……うん」

「…………橘さんがいてくれて良かったかな」

「太一さん、とりあえずどこかに身を隠した方がいいですかね」

「だな……どこかにいい場所がないか…………」

「それなら、組み立て中のビルか何かがあったはずだ。そこならビニールシートで隠れている」

 

 その時だった――突如として、悪寒がカノンの体を駆け巡ったのは。同時に、ドルガモンにも同じ悪寒が駆け巡る。それは、何度も感じたモノ――殺気。

 ネオデビモンやダークリザモンと同じ、暗黒の気を孕む禍々しいエネルギー。ヒカリも何かを感じ取ったのか、身をすくませている。その様子を二人で確認したカノンとドルモンは、やるべきことが見つかったと頷きあう。

 この場に自分たちがいては皆が危険になる。そう思った次の瞬間には行動を開始していた。

 

「父さん、母さん……みんなのこと頼むね」

「パンプモンとゴツモン、あとよろしく!」

 

 それだけ言うと、カノンたちは一気にスピードを上げて飛び去って行く。太一は一瞬茫然としていたが――やがて意識が覚醒した。

 

「お、おい!? どうしたんだよ!」

「……何かを、見つけたということだな…………ふむ。どう思う?」

「やっぱりわたしたちのこどもねー。頭がいいくせにいきなり飛び出しちゃうのはー」

「そうだな。仕方がない。私たちだけで行くとしよう……それに、アイツの勘はよく当たる。おそらく、この場に自分たちがいない方がいいと判断したのだろう……どうせいつもの場所にいっただけだろうしな」

「いつもの場所?」

「カノンは周辺に被害を出さないように戦う癖があるからな……話に聞いたことが無いか?」

「――第六台場」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 謎の殺気が追いかけてきている。どうやら、姿を隠しているらしいが……第六台場まで律儀に追ってきてくれて助かった。

 もうここで戦うのは何度目になるか……霧の中なのは変らずだけど、ここなら周りに人も建物もないから思い切りやれる。

 

「ドルガモン! ぶっとばぜ!」

「ああ! においで場所は分かっている」

 

 ドルガモンの牙が、目に見えないデジモンに迫る。ステルス能力が高いし、霧のせいで場所がつかみにくい……いや、この霧を逆に利用できないか?

 どうやらドルガモンとは互角ぐらいみたいだし、成熟期ってところだろう。なら――

 

「そこッ!」

「ッ――なぜ、私の居場所が分かった」

 

 僕が指先から魔弾を撃ちこんだ先には、バケモンにそっくりのデジモンがいた。違いは、魔女の帽子をかぶっているだけ――しかし、このデジモンは他の奴らとはどこか違う雰囲気が漂っている。

 こちらをしっかりと見据え、一瞬一瞬を見逃さまいとしているのだ。あまり不用意な動きはできないか。

 

「……霧だよ。微弱な魔力の揺らぎを感じ取って、場所を割り出した」

「ふははは……まさかヴァンデモン様の術を逆手にとるとは…………やはり危険な存在だな、0人目」

「やっぱりそこまでわかっているか……お前、名前は」

「ソウルモン」

「僕は橘カノン――で、こっちがドルガモン」

「……お前、なんでヴァンデモンにしたがっている。相当強いデジモンだろ」

「さてね……だが、こんなところで戦うのも無粋だな」

 

 何? そう思った時だった。ズドンと、大きな揺れと共に津波が押し寄せてきた。すぐさまドルガモンの背に乗って飛び立ってもらう。

 なにか、巨大なデジモンが海の中にいたのか!?

 

「バリエーション豊富だなおい」

「貴様と直接の対決はマズそうだからな……そらそら!」

 

 炎が迫ってくる。ドルガモンが避けるように飛行をするが――第六台場に降りれない!

 どうやら最初は小手調べで泳がせてくれていただけみたいだったらしい。鉄球と、火球が交差する。奴も成熟期にしては異常なほどに強い。何度もぶつかり合うが、奴の方が小回りが利く関係上、こちらが押される場面もしばしばだ。一度バランスを崩して道路の上に落ちてしまうし……

 

「どうした、その程度か!」

「舐めるなよ! 喰らえ!」

 

 ドルガモンの鉄球と、火球がぶつかり合う。エネルギー量は互角――すぐに爆発が起きてあたりに煙がまき散らされた。

 あいつは強い……ならば、こっちも本気で行くしかない。紋章が輝きを増し、ドルガモンの姿が変わっていく。

 体毛は赤へ。体はより長く、巨大に。

 

「超進化、ドルグレモン!」

「いくぞ!」

 

 ドルグレモンが体を浮かせ、ソウルモンに向き直る。そして、奴も炎を放つがそれぐらいなら避けて――

 

「いいのか? 避けると後ろがどうなるか」

 

 後ろを向けば――橋の上に、大勢の人たちがいた。そうか、アイツは避けられないように位置取りをして……

 

「全力で防御する! だから、ドルグレモン!」

「ああ、わかっている」

 

 僕の全力のシールドと、ドルグレモンが翼で盾になるように防いでくれた。おかげで、後ろの人々には当たらずに済んだが――結構、衝撃がデカいな。

 一瞬、意識が飛ぶかと思ったその時だった。目の前に、ソウルモンが迫っていた。

 

「これで、トドメだ!」

「ッ――舐めるなよ、このぐらいでやられるかよ!!」

 

 ドルグレモンが体を前に一回転させる。僕もエネルギーをドルグレモンへ流し込み、その尻尾に集中させていく。ソウルモンは驚きの表情に包まれていたが、もう回避できない。

 

「流石に懐に飛び込んだのは失敗だったな!」

「しま――ッガアアアア!?」

「ブラッディタワー!」

 

 赤く輝く一撃が、ソウルモンを切り裂く。何とか勝てた――そう思って降り立とうと思った、一瞬の気のゆるみだった。

 ――X進化。そんな電子音のような声が聞こえてきたときには、もう遅かったのだろう。

 

「え――」

 

 一撃。目にも見えない一撃が、僕とドルグレモンの体を引き裂いたのは。身体に傷はない、だが別の部分に直接届くような攻撃。

 

「あがあああ!?」

「なんだ、これ――」

 

 地面に落ち、ドルモンへと退化していく。僕の方は紋章が強く輝いて、すぐに痛みが引いていった。

 再び何かが迫る。このままではいけない――ドルモンの姿が再び変わる。今度はより強靭な体を持つデジモン。

 

「ラプタードラモン!」

 

 しかし、ラプタードラモンも吹き飛ばされてしまい――膝をついてしまう。

 

「なっ――ラプタードラモン!?」

「コイツ、普通のデジモンじゃない」

 

 目の前には先ほどまでのソウルモンとは違うデジモンがいた。骸骨のような姿をしているが、その体は金属で出来ている。そして、エネルギー体で出来た鎌を持っていた。

 機械の死神が、僕らを見下ろしていたのだ。

 




カノンの両親はヴァンデモン編以外ではあまり出てきません。改定前だとバケモン倒しちゃっていたんだけど、流石にやめました。

そして最後に出てきたデジモンですが、わかるかな。
たぶんX抗体持ちでは最初にテレビアニメに出たデジモンです。


サイバースルゥース、エンディング見ましたー。いやぁ、ソフト更新してから挑んでいたから最終決戦はシャイングレイモンBMで蹴散らしてた。なぜか最初に貰ったハグルモンが紆余曲折を得てこうなってた。

さて、七大魔王とかアルフォースとかディアナモンゲットの旅とかまだ続くのかぁ……そういえば初代デジストもクリア後に七大魔王だったな。


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30.決意の超進化

実は今までの話でも地図を見つつ位置を確認している。現実世界編だとこれが結構面倒。
しかし今は便利ですね。ストリートビューとか色々とあるし。


 このデジモンが一体何なのか。情報を見ようとするが――普段と様子が違う。デジコアがむき出しになっているからか、より多くの情報が頭に入ってくる。

 メタルファントモン、完全体。データ種。そんないつもと同じ基本情報と共に、X抗体(X‐antibody)という謎のコードが見えた。

 

「これって、いったい……」

「クカカ、まさかこれほどまでに力が高まるとはな」

 

 メタルファントモンは自分の力を確かめるように、手を握ったり閉じたりしている。自分がどれほどの強さとなったのか、その結果に満足したのか高笑いを上げた。

 ハハハハと奴の笑い声が響き渡る。場を支配する圧力が高まり、周囲にいたバケモンたちも静かになった。遠くで、人々のどよめきが聞こえる。当然だ。お化けに襲われている状況で、死神が現れたら自分たちは死ぬんだと思ってしまうだろう。

 その様子をメタルファントモンは少々煩わしそうに眺めている。

 

「――ヴァンデモン様には殺すなと言われているが……耳障りだな」

「ッ、ラプタードラモン!」

「分かってる!」

 

 ラプタードラモンがその硬い身体で体当たりを仕掛ける。幸い、体の硬度なら互角らしい。メタルファントモンも突然の奇襲には防御に出たようで互いの力が拮抗していた。

 その隙に、僕は指から魔弾を放つ。デジコアがむき出しになっているのなら、そこに撃てば効果は見込めるはずだ。

 

「喰らえッ」

「――効かんわ!」

 

 だけど、デジコアに当たった弾は何かに弾かれるように霧散して消えてしまった。メタルファントモンは鎌のエネルギーを消し、槍のように振るってラプタードラモンを弾き飛ばす。

 翼、首、体。各関節に連続で攻撃を仕掛けていき、ラプタードラモンの体からはいやな音が鳴り響きだしていた。

 

「な、ラプタードラモン!?」

「こいつ……強すぎる…………ごめん、おれじゃ無理だ………………」

「弱い。弱い。弱すぎるぞ! そんなものか0人目! それでも私と同じX抗体を持つデジモンだと言うのか!」

 

 X抗体が何なのかわからないが――どうやらそれにはデジモンを強くする力があるらしい。しかし、ラプタードラモンはそんなものを持っていただろうか?

 頭の中で何かがつながりそうな気がした。ラプタードラモンへ進化したときのこと。アーマー進化が使えなくなった理由。ドルモンの奥底に眠る何か――だけど、今それを考えている余裕はない。

 

「これで(しま)いだッ!」

「終わらせるかぁああああ!!」

「――カノン!?」

 

 身体強化を限界以上に発動し、一気に跳躍する。一瞬だが、奴の鎌の情報が頭に入った。どうやら防御力など関係なく魂そのものを刈り取るらしい。さっきは紋章の力で助かったが、次も大丈夫という保証はない。

 だったら、無茶でもなんでも引き出せるものはすべて引き出さないと負ける。

 

「負けられないんだ――喰らいやがれッ」

 

 僕の右手に雷撃が纏わる。薄く、黄金のハンマーのようなものの影が重なっていき、奴の鎌と衝突した。衝撃で突風が吹き荒れる。力は拮抗し、エネルギーが霧散していく。

 

「うおおおおおお!!」

「この力――聖なる力、だと!? ただの人間が生身で発するというのか!?」

「もう、一発――あ」

 

 ガス欠。限界を超えた代償は唐突な体の停止だった。幸い、意識はあるが……全く動かない。どさりと、地面に落ちてしまう。その様子を、奴はただ静かに見ていた。

 

「……貴様が何者なのかは知らない。だが、このまま生かしておくのは危険すぎるな。さらばだ、人間」

「くそっ……負けられないってのに」

 

 体に力が入らない。何度も立ち上がろうとするが、痙攣して倒れてしまう。どうする、ここからどうやって逆転する? デジメンタル――だめだ、こっちもエラーを起こしたみたいに動かない。

 魔法も使えない。ラプタードラモンでも勝てなかった。ドルグレモンに進化したところで、相性が悪すぎる。それに、気迫が段違いだな……

 

「死ね――」

 

 一瞬、僕が死んだ未来が見えた気がした。いや、これは予知とは違う。ただの悲観的な妄想だろう。だけど――周囲の人々がこいつに無残にも殺される光景が見えた。あたりには血の海が広がり、地獄と呼ぶべき光景が広がってる。

 最後のあがきとばかりに――奴を睨んだ時、奴の動きが止まった。

 

「――安心しろ、人間どもの命まではとらん。貴様のその最後まで諦めぬ気迫に免じてな」

「ッ、なん……で…………」

「私にも矜持というものがある――それだけだ」

「…………おま、え」

 

 なんでヴァンデモンの部下なんかやっているんだ。そう聞こうと思ったが――結局その言葉は出なかった。もう奴の鎌は振り下ろされていた。

 思えば、耳障りとは言っていたが怒りは感じられず、煩わしいといっただけだった。結局、このデジモンの本音はどこにあるのか――せめてもの抵抗に僕はずっと奴の顔を見続けていて、そして、目を血走らせたラプタードラモンが奴の鎌にかみついた。

 

「何ッ!?」

「グルウウウアアアアア!!」

 

 体から蒸気が噴き出るほどに、力が放出されている。そのまま体を回してメタルファントモンを投げ飛ばしてしまった。茫然とその様子を見ていたが……ラプタードラモンは僕に背を向けたまま、語りだす。

 

「ゴメン、カノン……おれ、諦めてた。もうダメだ。おれには勝てないって。なのにカノンは最後まで戦おうとしていた。おれ恥ずかしいよ。急に怖くなって、逃げたくなって……こんなカッコ悪いやつじゃダメだって思ったんだ」

 

 その表情は見えないが、どこか声が枯れている。

 悔しそうで、懺悔するような姿。

 

「アイツだって戦う気がなくなったおれなんて見向きもしないで……そうだよな。カッコ悪いおれなんか相手にならないよな……カノン、こんなカッコ悪いおれでもカノンのパートナーでいいのかな」

「なに、言ってんだよ……僕のパートナーはお前だけだっての…………お前だって、僕の目を覚まさせてくれたことがあっただろうが……お互いさまだっての。だから、一緒に強くなるんだろうが!!」

「――ああ!」

 

 直後に、ラプタードラモンの体が赤く輝きだす。その体に表示される情報に、何かが加わった――いや、解放された。Xの文字が見え、デジコアの奥底に眠る何かが呼び起される。

 咆哮と共に僕たちの周囲の霧が吹き飛ばされ――いや、消滅していく。

 

「――まさか、X抗体はまだ解放されていなかったというのか? しかし、反応はあった――――ならば、X抗体も進化するというのか!?」

「そのX抗体ってのが何なのかおれたちは知らない――だけど、これだけはハッキリ言える。おれはもうさっきまでのおれじゃない!」

 

 光が一層強くなり、ラプタードラモンの姿が大きく変化していった。同時に、紋章が強く輝き――僕のデジヴァイスが銀色に変わる。これはドルグレモンの時と同じ……

 

「ラプタードラモン、超進化ァアアアアア!!」

 

 竜の形から、人のような形へ。鎧に身を包んだ騎士のような出で立ち。背には青いマントをはためかせて、双剣を持った姿に。

 その体は金色に輝いていた。

 

「――新しい、完全体」

「バカな……貴様はいったい何者だと言うのだ!」

「――――グレイドモン」

 

 それだけ言うと、グレイドモンはメタルファントモンへ肉薄する。咄嗟に奴も防御するが、グレイドモンはすぐさま次の剣技へ移っていた。奴が鎌で防御するたびに、どんどん切り込んでいく。

 やがて、メタルファントモンにも焦りが見えてきて――左腕が、切り裂かれた。

 

「ガアアアアッ」

「ハァアアア! セイッ!!」

 

 剣の柄で鎌を弾き飛ばし、もう片方の剣で奴の体を切り裂く。デジコアに剣が届きそうになった。これなら勝てる――そう思ったと同時に、なぜか悪寒がした。

 新たな超進化をした影響か、瞳により多くの情報が入ってくる。

 

「ダメだグレイドモン! 奴を殺すな!」

「グオオオオッ」

 

 くそっ――どうやら、グレイドモンの双剣は諸刃の剣らしい。二刀流で戦っている間は、理性が飛ぶ呪いがかかっている。そこまでの情報を引き出せるレベルになったのは幸いか。

 だからこそ、X抗体を持つデジモンが死んだときに発生する事態がわかってしまった。幸い、人間界で消えたのならば他のデジモンに影響は出ないようなのだが……

 

「でも危ないことには、変わりないよな――ッ」

 

 回復したなけなしの魔力で弾丸をグレイドモンへ撃つ。呪いに対するアンチコード。少しの間だけでも理性をと思い、放ったそれに――なぜか違和感を感じた。

 たしかにアンチコードを放ったはずだ。だが、なぜか別のものも付与されていたような――外部から僕自身が干渉を受けたような感覚があった。

 

「まず――失敗した!?」

「クロスブレード!」

 

 そして、メタルファントモンは十字に切り裂かれてしまった――X抗体は何かのプログラムに対する抗体で、そのプログラムがとても危険なものであるのが見えたんだ。しかも、X抗体自体がそのプログラムを取り込むことで獲得できる代物。

 なんでドルモンにそれが宿っていたのかは知らないし、メタルファントモンもどこで手に入れたのかわからない。だけど、持っているデジモンが死んだとき、そのプログラムが放出されてしまう。だからこそ、殺してはダメだと思たんだが――

 

「……どういうことだ」

 

 メタルファントモンの体が輝きだし、その姿を変化させていく。どこかで見覚えのある光景だった……たしか、昔見たことがある。そうだ、ハワイで見たあの光景。マーメイモンがデジタマに還元された時の光景だ。

 やがて、メタルファントモンだったものは一つのデジタマになってしまった。目を丸くしていると、グレイドモンもアンチコードが効いたのか正気に戻る。

 

「――ごめん、意識がとんでいた」

「分かってる。次は二刀流はここぞという時だけにした方がよさそうだな……僕の方でも対策を考えるよ」

 

 とりあえずはデジタマを回収するが……デジタマの中にX抗体が入っているのがわかる。どうやら、デジタマへ直接還元することでプログラムを放出させずに済んだらしい。と言うことは、さっきの違和感はデジタマへ還元するためのコードだったのか?

 助かったからいいけど……なんだか釈然としない。

 

「カノン、バケモンたちが飛んできているぞ」

「流石に多勢に無勢だけど――あれ?」

 

 遠くに、バードラモンが見えた。と言うことは空さんか?

 追いかけた方が良いだろうか――いや、僕がやるべきことがある。この霧はヴァンデモンの使った魔術。なら、解除するために僕が行った方がいい。

 霧の濃度と魔力の量から放出点を探る。意識を集中させ、糸を引くようにたどっていく。

 

「――――」

「カノン、どうするか決めてくれ」

「大丈夫だ――フジテレビへ向かってくれ。バケモンたちに追いつかせるなよ」

「了解だ」

 

 グレイドモンは剣を片方だけ握り、地面に叩きつけて砂ぼこりを上げる。バケモンたち相手には十分な目くらましになり、僕らはフジテレビへと急行した。

 流石完全体、スピードが速いなと思っていると、目の前に見覚えのある影が見えてきた。隣には赤色の虫のようなデジモンもいる。

 

「って、光子郎さん!」

「カノン君、おはようございます――って、そのデジモンは!?」

「ああ。ラプタードラモンが超進化したグレイドモンです。ちょっといろいろあって進化した――――って痛いッ」

 

 どさりと、体が落ちてしまう。デジタマは割らないように持っていたがおかげで背中打った。

 どうやらエネルギー切れになってしまったようで……ドルモンに退化してしまったようだ。

 

「疲れたぁ……」

「そういえば、連続で進化していたからなぁ……」

 

 でもドルモンでとどまっているあたり、成長しているってことだろうか。

 

「と、そうだ。光子郎さんももしかして結界のことが分かったんですか?」

「ええ。と言うことはカノン君もですか……しかし、どうしましょうか」

「さっさと破壊するべきなんでしょうけど……フジテレビ壊すってのもなぁ」

「それに、中にまだ人がいるかもしれませんね」

「なら早いところ中に入って調べた方がええんとちゃいますか? 急がないとバケモンたちも来ますさかい」

「そうですね……とにかく行きましょう」

 

 と言うわけで、中に誰かいないか見に行くことになったわけだが……ドルモンの体力回復のためにも食べ物も探しつつの捜索となった。まあ、そっちはすぐに何とかなったわけだけど。

 

「そういえば、カノン君そのデジタマは?」

「倒したデジモンがこうなりました。原因はよくわかんないですけど……そのままにしておくのもまずいので」

 

 さて、出来れば誰もいない方がいいのだが……

 




と言うわけでグレイドモンへの進化。そして、色々な謎を残しつつ次回へ続きます。

改定前だとこの戦い自体なかったので、もう大幅に変わっていますね。合流相手も変わっていますし。


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31.魔法使い

 しかしデジタマのかさばることかさばること。

 何とか上層まで上がってきたが、人の気配は感じない。バケモンたちがいたことから、社内にいた人たちもつかまってしまったのだろう。

 

「やっぱり、芸能人とかもつかまっているんですかね」

「でしょうね……しかしこの時間って朝のニュースとかやっていますよね。大丈夫なんでしょうか……」

「全国的にフジテレビは映らない事態でしょうねぇ……いやぁ、ヴァンデモンめ恐ろしいテロをしやがる」

 

 各所に被害が出そうで今も怖いです。

 ウチの両親の伝手でどうにかならないだろうか……

 

「そういえば、光子郎さんのご両親は大丈夫ですか?」

「ええ。ゲンナイさんからデジタルバリアというプログラムが送られてきまして。それで、バケモンたちにも見つからずに済んでいます」

「便利なものを……再現できるかな」

 

 たぶんデジモンの視覚情報をごまかす類のものだと思うけど……今考えても詮無き事かな。

 とにかく、人はいないみたいだし結界の起点を破壊する方が先か。白衣がちらっと見えたかと思ったらバケモンが出てきて見つかるところだったし、また見つかるかも――と思っていると、案の定だ。

 

「――バケモンがこっちにきまっせ!」

「なら下がって――しまった、挟み撃ちだ!」

 

 なんと、廊下の前と後ろにバケモンが。進化して迎撃してもいいが結界が破壊される恐れが出てくるとヴァンデモンがやってくる可能性もある。

 ここは見つからずにやり過ごしておきたいところだが――横は窓と扉だけか……扉!?

 

「ここならっ」

 

 開けようとすると、手が届く前に扉が開く。まさか、こっちからもバケモン!? ドルモンも驚いて鉄球を放つ体制に入ったが中から人の手が出てきて慌てて口を閉じた。

 

「こっちだ!」

「うわぁ!?」

「光子郎はん!?」

 

 光子郎さんが引き込まれ、僕も飛び込んですぐさま扉を閉める。

 驚きのあまり、光子郎さんは騒ごうとしてるが大きな人影がそれを抑えていた。

 

「静かに、奴らが去るまで物音をたてないほうがいい」

「――――」

 

 やがて、バケモンたちが去って行くのを感じるとその人は光子郎さんを放した。僕たちもふぅと一息つき、緊張を解く。

 どうやら何とかなったみたいだ。

 

「行った、みたいだな」

「助かった……えっと、ありがとうございます」

「どういたしまして」

 

 しかしこの人何者なのだろうか。ドルモンとテントモンを見ても驚いた様子はないし……それに、どこかで見たような気も……ここで働いている人らしく、首からはカードを提げている。名前は……石田さん?

 

「石田ってどこかで聞いたような……ってもしかしてヤマトさんのお父さん?」

「ええ!?」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ヤマトさんのお父さんに連れられて、広い場所に行くことに。しかし、その途中で外から轟音が響いてきたため慌てて窓の方を見ると――黒い球体にヒカリちゃんがとらわれていた。さらに下の方にはガルダモンと、狼のようなデジモンがいるのが見える。

 

「あれは、ガルダモンとガルルモン! 空さんとヤマトさんもいます」

「何!? ヤマト!?」

 

 よく見ると、パンプモンたちや父さん母さんまでいるが……どうやら、ヒカリちゃんを奪われてしまったらしい。どうする? 今、どうするのが正解だ?

 

「……カノン、自分がやりたいようにやるのが一番だよ」

「そうだな――」

 

 選択肢の一つとして、下に行くというのもある。だけど……ヒカリちゃんはどうやら球体展望台の方へ連れて行かれたらしい。どこか別の場所に運ばれる可能性もあるし、ここは行くか。それに結界の起点はどうやら球体展望台のようだし。

 ドルモンの体力に不安が残るが……

 

「光子郎さん、僕は先に行きます!」

「カノン君!? 一人で行くんですか!?」

「一人じゃありません! ドルモンが一緒ですよ。光子郎さんたちはみんなと合流してください。ウチの両親もいましたから、よろしくお願いしますね! あと、このデジタマも預けておきます!」

 

 それだけ言い残し、僕らは走り出す。

 中にバケモンもいるが、僕らが暴れれば光子郎さんたちが外に出やすくもなるだろう。

 

「いたぞー! えらばれし子供だー!」

「かかれー!」

「邪魔だぁあ!」

「ダッシュメタル! ハイパーダッシュメタル!!」

 

 バケモンを蹴散らしていき、球体展望台を目指す。一旦下に降りて石田さんから近道を教えてもらって全員で乗り込んだ方が良かったか? 道順がよくわからないな……

 とりあえず上がればいいとばかりに上へと上がっていくが……そうだ、一般の人も入れる場所なんだからわかりやすいルートがあるよな。

 

「案内板、案内板……あった! 行くぞ!」

「急がないとヒカリちゃんが別の場所に連れて行かれるかも!」

「分かってる――うん?」

 

 外を見ると、コウモリの群れと共に誰かが飛んできているのが見えた。って、あれってヴァンデモン?

 そういえばいかにも吸血鬼って見た目をしていたよな。

 

「……場所が狭いからサラマンダモン――やっぱデジメンタルは反応しないか」

 

 僕の側ではなく、ドルモンの側で適合できなくなっているみたいだ。もしかしてX抗体の影響なのか?

 今考えている余裕はないのが悔しいところ……

 

「グレイドモンをもう一度使うけど、行けるか?」

「大丈夫!」

 

 そうして球体展望台を目指す。ようやく到着して身を隠しながら様子をうかがっていると、やはりヒカリちゃんが8人目だというのはバレてしまっているようだ。

 やがて、ヴァンデモンがその場に現れた。猫のようなデジモンを手につかんでいるところを見ると――アレがテイルモンか。

 

「さぁて、どうするか……」

 

 デジヴァイスを握り、タイミングを計っているとヴァンデモンがヒカリちゃんに問うた。何故、自ら8人目だと名乗り出たのかと。自分よりも他人を優先するヒカリちゃんらしいが、まったく相変わらず危なっかしい。

 いや、人のこと言えないか……

 

「あなたが、みんなを苦しめるから!」

「……気丈な娘だ――ッ、この気配は!?」

 

 一気に超進化してグレイドモンに進化してもらい、ヴァンデモンへ迫る。突然のことにヴァンデモンも驚いているようで、思わずテイルモンを放してしまっていた。

 

「そうらニンニク投げつけるぞ!」

「ッ」

 

 まあ、(ブラフ)だけど。それでも一瞬の隙をついてヒカリちゃん共々テイルモンを救出。さらに、外から狼男のようなデジモンが入って来て、ヴァンデモンを殴りつけた。

 

「おのれ――貴様、どこまでも私をコケに」

「どこまでだってしてやるよ、この外道が!」

 

 グレイドモンと共に屋上に飛び出る。周りを見ると、続々とえらばれし子供たちとそのパートナーデジモンが集ってきていた。

 父さんたちもここまで来ちゃっているし……デジタマは父さん預かりか。とりあえずは大丈夫そうで安心した。話に聞いたウィザーモンってのはあの魔法使いそのものの見た目の奴か。彼はヒカリに気が付くと、魔法でヴァンデモンを攻撃し、手に持っていた何かを投げ渡してきた。ヒカリちゃんもすぐにそれをキャッチし――ヴァンデモンの顔色が変わる。

 

「それは、8人目の紋章!? ウィザーモン、貴様生きていたのかッ」

「借りは返す主義でね。一矢報いたかな」

「おのれ……それに、パンプモンにゴツモン。貴様たちもおめおめと顔を出せたものだな」

「あ、あわわわ」

「やべっ」

 

 そのまま母さんの後ろに隠れる二人だが……いや、わからなくはないんだが微妙な気持ちになるからやめてほしい。

 しかし、これで形勢逆転。

 ピコデビモンがヒカリちゃんを狙って攻撃してくるが、僕が近くにいるのにそう簡単にいくはずもなく、ふっとばしてやった。

 

「チィッ……ブラッディストリーム!」

 

 赤い鞭が放たれる。グレイドモンがすかさず防御し、他のデジモンたちの攻撃が迫る。さらに、遠くからミサイルまで襲ってきた。

 だけど、その全てをヴァンデモンはいなし、消し去り、はじき返した。

 

「強すぎるだろ!? 本当に完全体なのかアイツ!」

「あきらめるな! 今の俺たちなら勝てる!」

 

 ミサイルの出所――メタルグレイモンに乗って太一さんたちが駆けつけた。ミミさんもいるし、これでえらばれし子供は全員集合したようだ。

 母さんたちの方からまばゆい光がしたかと思えば、天使のようなデジモンが現れた。

 

「ヘブンズナックル!」

「ヴァンデモン様――ギャアアア!?」

「ぐぅ!? 聖なる、力か……だがこの程度では私はやられはせん!」

 

 特徴が合わないが、他の子供のデジモンと照らし合わせると、あのデジモンはパタモンが進化したってところか。タケル君もエンジェモンって呼んでいるし。

 そのエンジェモンの攻撃で、ヴァンデモンをかばったファントモンが消える。ヴァンデモンも多少だがダメージを受けたようだ。

 

「調子に乗るなよ――ナイトレイド!」

「この程度の攻撃で、俺たちがひるむと思ったか!」

 

 グレイドモンが肉薄し、斬りかかる。しかしコウモリを目くらましに使いヴァンデモンは飛び上がった。ワーガルルモンが蹴りを入れるが、その足を掴みアトラーカブテリモンへ投げつける。

 ガルダモンがつかみかかろうとするものの、赤い鞭で子供たちの方へ弾き飛ばしてします。その防御のためにエンジェモンがみんなを守る。パンプモンとゴツモンも一緒になんとかガルダモンの腕をそらそうとしていた。

 メタルグレイモンのミサイルとリリモンやズドモンの放つ技がヴァンデモンへ迫っていくが、全て消え去ってしまう。

 

「おかしい、コイツもしかして……」

「消えろッ! ブラッディストリーム!」

「マズッ!? 全力防御!」

 

 シールドを出して全力で防御するが、やはりヴァンデモンは何かが違う。術式が力ずくで破壊されていくのを感じる。防御力にすべてを注ぎ込んだからか、攻撃は届かなかったが僕の体も弾き飛ばされてしまった。

 

「ぐぅ!?」

「カノン君!?」

 

 慌てて、ヒカリちゃんが駆け寄ってくるが――その隙をヴァンデモンは逃さなかった。

 高笑いと共に、コウモリたちが襲い掛かってきたのだ。

 

「貴様たちさえ消えれば、我が野望は成就する! ナイトレイド!」

 

 今この時、動けるものはいなかった。あまりの強さ、さらにお互いの動きを殺すように立ち回られたために追撃することが出来なかったのだ。

 これでおしまい――そう思った時だった。1人だけ、動ける者がいた。状況を見据え、自分が動くべきタイミングを計り続けていたものが1人。

 

「――――え」

 

 ヴァンデモンの攻撃を全て一人で受けきり、体がぼろぼろになっていく。

 

「ザコが……邪魔しおって」

 

 どさりと、彼が倒れていく。慌てて駆け寄ると……もう、手遅れだ。

 ウィザーモンは僕らをかばって倒れてしまった。

 

「テイルモン……それに、お二人も…………無事でよかった」

「ウィザーモン……なんで」

「私は、テイルモン……貴女に出会えなければ意味のない命を長らえただけ……貴女に会えて、良かった」

 

 そう言うと、ウィザーモンは人が息を引き取るように倒れる。彼が力尽き、その手から小さな光の球がこぼれ僕の中に入って来て、そして――

 

 ◇◇◇◇◇

 

「ここは……」

「あなたの精神世界です」

 

 真っ白な空間。そこに、僕とウィザーモンが立っていた。

 

「私の最後の魔力であなたと話をするために、こうしています」

「なんで、そんなことを……そんなことをするぐらいなら、自分のために使えばいいだろうが!」

 

 ウィザーモンはただ静かに首を振るのみ。

 

「元々、昨夜の戦いで私の体はボロボロでした。あなたの魔法を見てから一度でいいから色々と話してみたかったんですよ……見事な構築でしたが、それだけに残念なことが一つありまして。それを伝えないまま消えるのが心苦しいだけです。だから、これは自分の学者としてのエゴですよ」

「なんだよ、それ……」

「いいですか。私たちの使う魔法はこの世界でいうプログラムと同じものです。しかし、違うものもある。本当なら私がいた世界、ウィッチェルニーへ行くことをお勧めするんですが、生憎追放された身で……と、そのことを話す時間はありませんね」

「……」

「いいですか、我々の魔法は高級プログラム言語で構成されているのです。ですから、基盤さえしっかりしていればもっと抽象的でも発動は可能になる。あなたは、緻密に組み過ぎているのです――もっと結果をイメージし、そこに至るまでの過程を考えれば、おのずと答えは出ます」

「結果をイメージして、過程を考える……」

「と言っても、そう簡単ではありませんか――私の力の一部を残していきます」

「でも、それって人間に扱えるのか?」

「あなたなら大丈夫――自分を信じてください。テイルモンのこと、お願いしますね」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ――時間にすれば刹那のことだった。魔法使いとの邂逅は終わり、元の時間に戻ってきた。

 ヴァンデモンが高笑いをしているが――ああ、癇に障る。

 

「ありがとうよ、ウィザーモン……静かに眠っていてくれ」

「ウィザーモン――ッ」

 

 ヒカリちゃんの瞳がヴァンデモンを射抜く。同時に、彼女の紋章が強く輝きだして――テイルモンの姿が変わっていく。

 

「しまった――この光は!?」

「超進化、エンジェウーモン!」

 

 ならばこちらもいこう。グレイドモンが僕の隣までやって来て――ドルモンへ退化する。

 

「あれ? 戻っちゃった……カノン?」

「デジメンタルとドルモンの規格が合わなくなったのなら、さらに調整すればいい。今までのままじゃダメなら、更に構築し直す」

 

 カタカタと頭の中にキーボードを叩く音が響くようだ。高速でプログラムが組まれていき、結果が引き起こされる。そして、僕の中に渦巻く力に呼応するかのようにウィザーモンから受け取ったデータが可視化した。

 青色のマフラーが首に巻き付き、風邪になびいている。

 

「力、借りるよウィザーモン――デジメンタルアップ!」

「――――ッ、ウオオオオオ!」

 

 大きさは太一さんたちぐらい。完全な人型。そのフォルムはどことなくウィザーモンのようでもあった。

 

「アーマー進化! フレイウィザーモン!」

「――おのれ、どこまでも小賢しい真似を!」

 

 赤い鞭がフレイウィザーモンに襲い掛かるが、彼の操る炎がヴァンデモンの右手を焼き焦がした。防ぐこともかなわず、ヴァンデモンの絶叫がこだまする。

 

「アガァ!? これは、浄化の炎だと!? それに体がッ――」

「ヴァンデモン、我が友ウィザーモンを殺し、あまつさえこの世界にまで侵攻したあなたの罪、悔い改める気はないのですね」

 

 エンジェウーモンがヴァンデモンに問いかける。どうやら彼女がヴァンデモンの動きを止めたようだ。ヴァンデモンも必死に抵抗しようとしているが無駄だ。もう、逃れることはできない。

 

「二つの世界を一つにし支配する、我が野望のためだ! 我が道を邪魔するというのなら、もう容赦はしないッ」

「――――ならば、答えは一つです」

 

 エンジェウーモンが手を空に掲げ、巨大なリングが出現する。

 

「みんな、エンジェウーモンにパワーを渡すんや!」

 

 アトラーカブテリモンの呼びかけに応え、全てのデジモンがそのリングへ技を放つ。まあ、最後になるから僕からも一つだけ言っておこう。

 

「ヴァンデモン。あの甘っちょろい構成の結界は何なんだ? 魔力で逆探知可能とか愚の骨頂」

「0人目ッ貴様どこまでも――」

「うるせぇよド三流。妙に人間に詳しいし、それに信頼とか友情を嫌いすぎていないか――まるで、何か嫌なことがあったみたいに。それか、そう教え込まれたか」

「――――」

 

 一瞬だが、ヴァンデモンの目が見開いた。まるで、触れてはならないものに触れられたかのような――しかし、答え合わせはできないだろう。

 エンジェウーモンは光の矢をつがえ、放とうとしていた。

 

「これで終わりよ、ヴァンデモン。ホーリーアロー!」

「や、ヤメロオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 ヴァンデモンに矢が刺さり、仮面だけ残して消滅してしまった――なんともあっけないが、これで終わりとは……

 

 

 

 

 だけど僕たちはまだ知らなかった。

 本当の決戦はまだ始まってもいなかったと。

 




改めてアニメを見ていて思ったのは、ウィザーモンって体が消えるシーンなかったような……


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32.送られた予言

ヴァンデモン編も佳境に入ります。

タグにオリデジを入れようか検討中。と言っても、完全オリジナルはやらないのでどうするか悩んでいます。精々、クロスウォーズのデジモンに世代をつけるか、既存のデジモンの色と設定の微妙な変化ぐらい。


 流石に暴れ過ぎたのか、球体展望台が崩れ落ちそうになっていた。

 

「いかん崩れるぞ!」

「みんな、この上に乗ってくれ!」

 

 僕が急いで魔法陣を展開して足場を形成する。ゆっくりとしたに降りていくエレベーターみたいに利用可能なものを構築したのだ。

 

「お前、どんどん人間離れしていくな……」

「言いっこなしですよ。とにかく、ゆっくりとですが降りていきます」

 

 全員が乗ったことを確認して、徐々に地上に下ろしていく。球体展望台も崩れて下に転がり落ちていってしまった……形を保っているあたり、意外と頑丈らしい。

 

「あぁ……これからどうするか」

「知り合いに頼んで復興の手配するわねー」

「私も色々と掛け合ってみよう」

「えっと、失礼ですが……どんな伝手が」

「私は元軍人ー。一時期はNGOなんかもやっていましたー」

「まあ私はただの大学教授ですよ。仕事柄色々と伝手があるだけです」

「で、その息子は今や魔法使い――カノン、お前んちどうなってんだ」

「僕に言われましても……魔法使えるようになったのも偶然によるところが大きいですし」

 

 それ言ったらデジモンのパートナーなみんなも結構なものだと思う。太一さんは割と普通の家なのだが、みんな結構裕福な家だよな。

 空さんの母親なんて華道の家元だし、ミミさんはたしか父親がミュージシャンか何かだったと思う。海外にも何度もいけるぐらい裕福らしいし……実はお父様凄い方なのではないでしょうか。あと今更だけどミミさんだけパジャマっすね……ああ、バケモンにつかまったのか。

 あとは丈さんの家は代々続く医者の家系なんだそうだ。

 

「っと、ハイ到着でーす」

「……なんだか驚くようなことばかりだな」

「親父、気持ちは分かるが……カノンは例外だからな」

「ヤマトさんまでひどいです…………」

 

 まったく、霧のせいもあって制御に気を使ったっていうのに……え、霧?

 

「おい、ヒカリにタケル……どうしたんだよ暗い顔をして」

「お兄ちゃん、まだ霧が晴れてない」

「――そういえば、まだ霧が深いな」

 

 ヴァンデモンを倒したのに、まだ結界が解けていない? 起点は破壊したのに魔力が消えていないってどういうことだ……なんだろう、とても嫌な予感がする。

 だが、今のところどうすることもできない。太一さんも苛立って落ちていたヴァンデモンの仮面を蹴り飛ばしていた。

 

 

「くそっ――ヴァンデモンを倒したのになんで霧が晴れていないんだよ!」

「お母さん、大丈夫かな……」

「どうなってんのよー!」

 

 騒いでも仕方がないことだけど……さて、どうしたものか。

 

「カノンー、何かわからないのー?」

「生憎とこの霧のせいで何が何だかだよ」

「そうか……しかし、随分とボロボロになったな」

 

 みんなも結構激しい戦いになったみたいだし、割とボロボロになった場所もあるみたいだ。

 

「みなさん来てください! ゲンナイさんからメールが届いています!」

「なんだって!?」

 

 全員ですぐさま光子郎さんの下へ集まると、彼はメールを開いてくれた。このデフォルメされたおじいさんがゲンナイさんか……

 

『喜べ子供たちよ! ヴァンデモンを倒すヒントが見つかったぞ!』

 

 いや、倒したところなんだけど……やっぱりまだ何かあるのか?

 で、すぐにそのヒントが表示される。画像も添付されており、デジ文字で書かれた石板のようだ。

 

『古代遺跡で見つかった予言の詩じゃ――はじめにコウモリの群れが空を覆った。

 続いて人々がアンデッドデジモンの王の名を唱えた。

 そして時が獣の数字を刻んだ時アンデッドデジモンの王は獣の正体を現した。

 天使達がその守るべき人のもっとも愛する人へ光と希望の矢を放った。

 そして奇跡が起きた』

 

 え、それだけなの――と思ったのだが……これは全てが解読されているわけではなかった。ウィザーモンのおかげか、不思議と文字が読める。

 ゲンナイさんの語った内容と別の文章が頭に入ってくる。文字が崩れているが……悪しきものによる力の解放。獣は――ダメだ。ここらへんはもう読めない。

 他にも文章があるが――

 

『もう一つ、よくわからんのじゃが――(いかづち)と暴食が出会うであろう。

 運命の子は始祖と共に飛び立ち、やがて究極の敵を呼び覚ます。

 先ほどの予言と一緒に書かれているため関連していると思われるが、今のところよくわかっとらん。究極の敵と言うのがどうにも気にかかる。十分注意するんじゃぞ!

 それでは、検討を祈る』

 

 それだけ言うとメールは閉じられた……あ、メールだから一方的にしかしゃべらないのか。

 後半は読む前に言われてしまった……しかし他にも色々と書かれているようなのだが…………ダメだ。よくわからない。

 力の解放ってのも気になるが……意味がかぶっている部分があるし、流してもいいのか? むしろ究極の敵について考えた方がいいだろう。

 

「なんだよ究極の敵って……ヴァンデモンよりもヤバいやつが出てくるってのか?」

「たしかにそうとも取れるんですが……でも運命の子が呼び覚ますんですよね」

「となると、もしかして――」

 

 そこで、子供たちとデジモンたちの顔が一斉にこちらへ向く。いや、パンプモンとゴツモンは除くが。

 

「まあ僕なんでしょうね――でも究極の敵なんてヤバそうな奴、僕が封印を解くとかそんなわけないでしょうに」

 

 呼び覚ますって書いてあるけど、みんなを危険にさらしそうな存在にちょっかい出さないっての。

 というか始祖ってなんだよ……

 

「始祖、最初のもの。カノン君、何か心当たりはありませんか?」

「さぁ……さっぱりですが」

「カノン、最初のデジモンとかそういうのじゃないのか? それも心当たりはないのか?」

「いや、父さんそんなこと言ったって――いるな、ここに」

「ええ!? どいつなんだカノン! 最初のデジモンって!?」

「太一さん揺らさないでください。気持ち悪くなる……」

「あ、悪い」

 

 うっぷ……吐きそう。

 顔を扇いで吐き気をさます……何とか落ち着いた。

 

「まあ、ドルモンのことですよ。こいつ、プロトタイプデジモンの生き残りだから」

「というわけで、プロトタイプです!」

「なるほど、デジモンのプロトタイプ……つまり始祖というわけですね。運命の子が運命の紋章を持つカノン君だとすると、納得はできるのですが……」

「でもカノンが俺たちの敵を呼び覚ますと思えないしな」

 

 たぶんゲンナイさんもそこがよくわからなかったのだろう。結局、究極の敵って何なんだよ。光子郎さんを見てみると、何かを考え込んでいるが……

 

「とにかく、考えていても仕方がない。まずは行動だな」

「太一さんの言う通りよ――それに、アタシはやく着替えたい!」

「そういえばミミちゃんパジャマだものね……ビッグサイトに行ってお母さんたちのところにも行きたいし…………」

「ボクも両親を迎えに行かないと」

 

 となると、ミミさんや光子郎さんの家の方に行ってから、全員でビッグサイトに行くべきだろうか。

 決まると速いもので、すぐさま移動することになったんだが……

 

「おーいカノン! 置いてくぞ!」

「今行きます!」

 

 ……またな、ウィザーモン。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 光子郎さんの両親もすぐに出てきて、ミミさんも着替えが終わった。近くに家があり、荷物を取りに行った丈さんはというと……運よく捕まらなかった兄と合流できたようだ。なんでも、押し入れに入っていたのだと。

 大学生だが、医学知識もしっかりと持ち合わせているらしい。これはこの状況だと心強い。

 

「二手に分かれるか。私たちはお台場から脱出できないか試してみる」

 

 石田さんがそう言い、ヤマトさんとタケル君が一緒にボートで脱出を図るようだ。

 となると、残りの人たちでビッグサイトに行くわけか。

 そういえばさっきから父さんが何か考え込んでいるな……

 

「ふーむ」

「どうしたの、父さん?」

「いや、先ほどの予言だが――どうにも暴食というのが気になってな」

「暴食?」

「獣の数字といい、こちらの神話に照らし合わせているとも考えられるんだ。暴食、七つの大罪……ベルゼブブ…………」

「流石にそこら辺の知識はあまりないんだけど……」

 

 不穏当なセリフが聞こえるんだが。不安になるからやめてほしい。

 しかし、結構な大所帯だな。パンプモンとゴツモン、なんで鼻歌混じり?

 

「いやぁ、ヴァンデモンもいなくなって心配事が一つ消えたからさ!」

「そうそう」

「でも事件は解決していないし、終わったとしてもデジタルワールドに戻らなくちゃいけないだろうが」

「それはそうなんだけどねー」

「帰る前に旨いもの食べたいし」

「そういえば全然ご飯食べてなかったな……かといってこの状況で食べ物なんて……ビッグサイトの売店なら何かあるかな?」

 

 お金はちゃんとおいておくのは当然だけど物色した方が良いかもしれない。まだ何かあるんだとしたら、ドルモンたちの体力も心配だし――と、そこで街中に白衣のようなものを着ている人影が見えた。

 

「え――?」

「どうした?」

「なんか白衣見たいのが見えたような……」

「もしかしてバケモンか?」

「かも、しれませんね――ちょっと追いかけてきます!」

「おいカノン!」

「みんなはビッグサイトへ行ってください!」

 

 デジタマのことが心配だけど……パンプモンとゴツモンがいるから大丈夫か。アイツらも普段はふざけているが、デジタマを見たときは大切に扱おうって感じだったし。

 デジモンの本能にデジタマを傷つけないようにって刻まれているのかもしれない。

 

 そんなわけでドルモンと二人で白衣が見えた方を追っているんだけど……まーた第六台場が近くなっているよオイ。レインボーブリッジも見えてきたが――あちゃぁ、崩れてる。徒歩でお台場から脱出はできそうにないな。

 と、そこでやっとこさ白衣の人物に追いついたわけだが――その人は見覚えのある人物だった。

 

「おやおやぁ――たしか、橘教授のご子息でしたねぇ」

「あなたは……古崎さん、でしたっけ」

 

 なぜこの人がここにいるのだろうか。たしかに白衣は着ていたが――っと、ドルモンが見つかるのはまずいか? とも思ったがこの人は驚いた様子が無い。バケモンたちを見たからか? 丈さんのお兄さんみたいに偶然助かったってところか? でもそれにしては落ち着き過ぎているような……

 妙な違和感を感じ、警戒をするが……どこか飄々としている。

 

「……」

「あまり変な勘ぐられはしてほしくないんですがねぇ……君は杉田マサキという人間をご存知ですか?」

「…………いえ、わからないですけど」

「そうですか。その様子だと本当に知らないみたいですねぇ……不穏な空気ですし、私は退散いたします

 

 それだけ言うと、古崎さんは去ろうとして――そうだ。父さんに聞きそびれていたことを彼なら知っているかもしれない。

 

「獣の数字って知っていますか?」

「黙示録ですね。666が獣の数字とされています」

 

 666……妙な胸騒ぎがする。お台場に戻った方がいいのではと思い、すぐに引き返そうとしたところ――古崎さんの姿が見えなくなっていた。

 

「え?」

「においまで消えている……どこに行ったんだ?」

 

 なんだか不気味な人だったが……とにかくお台場まで戻るしかないか。

 

「666――時刻だとしたら、時間が無いぞ!」

「6時6分6秒だね……」

 

 デジヴァイスを取り出し、ドルグレモンまで進化してもらう。何があるかわからないし、完全体になってもらったが――その時だった、どこかで感じた覚えのある悪寒が、体を駆け巡ったのは。

 

「――――ッ、この感じは……」

「ああ、前に感じたことがある」

 

 ドルグレモンの背に乗り、悪寒の発信源まで行ってもらった……台場公園。そこには、かつて見たことのある全身黒一色の男が佇んでいた。

 殺気とも違う威圧感。体中にビリビリくる、このオーラ。

 

「……また会ったな坊主」

「――――お前、一体何者だ」

「そんなことはいいんだよ……それより知っているか? この場所はヴァンデモンの野郎がアジトに使っていた場所だ」

「こんな近くにあったのか!?」

 

 まったく気が付かなかった……彼は足でトントンと、地面を蹴っている。その様子からするに、地下に異空間か何かを形成していたってところか……

 

「ほう、理解が速いな――なるほど、順調に成長しているようだ」

「……もしかして、わざと僕らを呼び出したのか?」

「ああ。その通りさ。まあ、ある奴に借りがあってな……お前をここに留めておくのが目的だ」

「何を――」

「そうら、始まったぞ」

 

 その声と共に、フジテレビの方で轟音が鳴り響く。空にはコウモリの大群があふれており――巨大なヴァンデモンの仮面へ吸い込まれていっていた。影が起き上がり、人のような形へと変貌していく。

 

「なんだよ、あれ」

「お前だって気が付いていたんだろ……アレがヴァンデモンの正体だ」

 

 瞳に、いつものように情報が入ってくる。ヴェノムヴァンデモン、究極体――ああやっぱりか。アレがヴァンデモンの正体。完全体を上回るスペックを持っていたのは……

 

「本来の姿が、究極体だからかッ」

「ご明察だ――」

 

 すぐさま奴のところへ向かおうとすると、銃声が鳴り響いた。足元には穴……そして、男の手には拳銃が握られていた。

 

「言っただろ。お前をここに留めると」

「なんで……お前、いったいなんなんだ」

「一から十まで説明するのは俺の趣味じゃねぇ――ただ、この場にいろ。あとは時が解決するさ」

 

 ドルグレモンが男を睨むが、顔に冷や汗が流れている。この男、今のぼくたちよりもはるかに強い……

 向こうでは戦いが始まっているというのに、僕らは動けずいる。思わず手からは雷撃が飛び出ているが……速度で勝てるイメージがわかない。

 

 ――雷と暴食が出会うであろう――

 

 その時、なぜかその一文が頭をよぎったが――その言葉の本当の意味を知るのは、何年も後のことだ。今はまだ、知る由もないし、ただ目の前の障害をどうにかするしか考えが回らなかった。

 




自分でも回収しきれるか怪しい伏線の嵐だ。
構想している話をやれれば自然と回収できるように仕込んではいますが……

ウィッチェルニーとイリアス。
アドベンチャーではさらにダゴモンの海や暗黒の世界、02ラストの謎の世界など、いくつ世界があるんだあそこには……
デーモンも別次元から来ているらしいし。

あ、もしかして暗黒の世界かデーモンの次元ってダークエリア?


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33.ドラゴン

ここまで来るのに、長かった。


 まだ銃は突きつけられている。不用意なことをすればアウトか……彼が何者なのかはわからないし、聞いても答えてはくれなさそうだ。

 しかし、この場で立ち止まっているわけにはいかない。

 

「……悪いけど、行かせてもらえないかな?」

「そういうわけにはいかねぇ……お前にこのまま戦い続けられると困るんでな。特に、あんな奴と戦うってのはな」

 

 それがヴェノムヴァンデモンを挿しているのは分かるが、究極体相手では総力戦を仕掛けても勝てるかどうかは分からない。その状況で僕たちがいかないというのはマズイだろう。

 魔法で目くらましをするか? そう思ったが、それも効くのか怪しい相手だ。

 

「それに、お前たちが行ったところで何が変わると言うんだ?」

「なに?」

「お前たちが行かなくても状況は動く。活路を見出す奴らはいる。お前たちだけで戦っているわけじゃないだろう」

「だからこそ、加勢にいかなくちゃだめだ……四体しか戦っていない、もしかして……」

 

 他のみんなはまだエネルギーが回復していないのではないか? 今すぐ駆けつけられない自分が歯がゆい。それに、メタルグレイモンとワーガルルモンらしき姿が消えていく――いや、小さくなっていくのが見える。どうやら退化してしまったらしい。

 

「まあ見てみな――そう簡単にくたばるような奴らなら、とっくにくたばっているさ」

 

 不用意に動くことはできない。彼の言う通り、成り行きをしばらく見守っていたら――エンジェモンとエンジェウーモンの手に光の矢が現れていた。

 あれは……予言の一説か?

 

「なるほど、紋章の力か――複数の紋章でさらなる力を引き出すってところか? 悪くない手だ……」

「お前、妙に詳しいな」

「まあ紋章に関しちゃ、知り合いの受け売りだがな」

 

 エンジェモンたちが地面の方へ矢を放つと――さらなる光があふれ出ているのが見えた。ココからじゃ、何をしたのかよくわからないが……変化がすぐに表れていた。

 二体の今まで見たことのないデジモンの姿が見えていた。それほど大きくはないが――今までとは存在のレベルが違う。

 

「ウォーグレイモンにメタルガルルモン、共に究極体」

「――お前、この距離でもわかるのか?」

 

 なぜかこの男が驚愕しているのだが、何を驚くというのだろうか。

 

「究極体にもなればデータ量は圧倒的だ。ココからでも十分見える」

「それにしたって人の身で――なるほど、そういうことか……お前、体にデータ体を複数宿しているな」

「今更だよ。それに、それがどうかしたのか?」

「……予想以上に進行していやがる。お前、自分の状態がわかっているのか? 今まで何体の暗黒の力を持つデジモンを倒してきた…………」

「さぁね――それに、暗黒だとか光だとか善とか悪とかどうでもいいよ」

「――――」

 

 この男が何を論じているのかはどうでもいいし、何のために足止めしているのかは知る由もない。

 ただ一つ言えるのは――

 

「僕たちは、誰かに決められた運命を生きているんじゃない。自分たちで決めた今を生きているんだ!」

 

 男を睨み、宣言する。その時僕の中で何かが変わった――いや、定まっていなかった方向性が定まったというべきか。不確定な状態で、ある方向に進んでいた力が別の方向に切り替わり固定されたのを感じたのだ。

 それを男も感じたのか瞳は驚愕に見開き、足が一歩後ずさっている。

 

「この土壇場で選びやがった――いいのか? お前が選ばなかったものは、全ての暗黒を消し去ることだって可能なんだぞ」

「そんなもの願い下げだよ。光だけでも気持ち悪いっての――それに、それが本当に必要な力なら必要なときには出てきてくれるよ」

「……まったく、楽観視が過ぎるぜ…………悪いなサクヤモン、俺にはこういう腹芸は無理だわ。キャラじゃねぇっての」

 

 そう言うと、男は銃を下げてしまう。どうやら、行かせてもらえるようだ。

 

「しかし、もう戦いも終わるころだと思うがな。ヴェノムヴァンデモンも押されているだろ」

 

 地面から光の帯が8本出ている。たぶんデジヴァイスの力なのだろう。僕のは少し規格が違うからあのような事象は起きないだろうが……

 これで後は止めを刺すだけ――そう思われたが……

 

「いや――これで終わらないよ。何かが起こる」

 

 僕がそういうのと同時に――ヴェノムヴァンデモンの力の圧力が増した。まるで、デジコアを強制的に解放させたような感じだ。

 ヴェノムヴァンデモンの纏うオーラが増大していき、帯を引きちぎってしまう。

 

「おいおい……どこのどいつだよ。強制的にデジコアを解放しちまいやがった……擬似的ではあるが、バーストモードになっていやがる」

「バーストモード?」

「デジモンの限界能力を解放した姿だ。理論上はどのデジモンでも可能だが……使い手なんて長い歴史でもほとんどいない代物だぞ。一歩間違えばデジコアの方が耐えられないっていうのに」

 

 男の言い方から、誰かが強制的に解放させたらしいが……まったく結局やることは変わらないわけか。

 僕はドルグレモンの背に乗り、今すぐあそこへ向かうことにした。ま、やっぱりまた止めてくるんだねあなたは。

 

「待て。いくら究極体でもあれには敵わないぞ――それでも行くのか?」

「もちろんだよ。僕たちがそうしたいからそうするんだ……ここで立ち止まるのなんて、それこそごめんだね」

「おれたちはいつだって、そうやって進んできた。立ち止まりそうになっても、お互い足りないものを埋めて前に進んできたんだ」

 

 ふわりと飛び上がり、奴の元へと翔けていく。後ろは振り向かない。きっと、彼とはまた出会う時もあるだろう。今度出会うときは敵かもしれないし、味方かもしれない。

 奴の元へ向かう中、ゲンナイさんの送ってきた予言の一文が頭によぎる。二体の究極体が出てくるまでがあたり、その後僕が読んだ部分はバーストモードのことだろう。

 究極の敵にばかり気をとられていた……失敗だったな。そっちのことに気をとられて力の解放の方を言わなかった僕のミスだ。

 

「なあドルグレモン、今まで色々なことがあったよな。辛いことも、楽しいことも、悲しいことも……本当、色々な」

「今更どうしたんだよカノン。この状況でそういう事言うの、縁起でもないよ」

「だな……だったらいつも通り――いや、いつも以上に全力でぶつかるだけだよなッ!」

 

 ドルグレモンの頭の上に飛び乗り、仁王立ちをし腕を組んでヴェノムヴァンデモンを睨む。下で太一さんたちが叫んでいるのが聞こえる。まあ、ものすごく危なく見えるからね……

 しかし、究極体が二体いても押されているこの状況だ――ここでやらなきゃ、男が廃るよな。

 

「いくぞドルグレモン……今までの全てを、ここで出し切る!」

 

 魔力を解放し、ドルグレモンと接続する。デジメンタルが自分の内側でフル稼働するのが分かった。体が熱くなっていき、オーバーヒートしそうだが……それでも動かし続ける。

 ウィザーモンのおかげでより高度な魔法の行使が可能となったおかげで、デジコアの深部にまで意識をたどり着かせることが出来る。それに、さっきヒントを貰うことが出来た。

 

「元々、デジコアの奥に何らかのデータが眠っているのは分かっていたんだ。だったら、今持てるすべての力でそれを解放する! 限界を超えるぞ!」

「ウオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 ドルグレモンの体が発光していき、力が高まっていくのを感じる。自分の中にも多くの情報が入ってくるのを感じ、酔いそうになるが意識を強く保とうと集中する。

 ヴェノムヴァンデモンはこちらに気が付いたのか、その腕を振り下ろしてくるが――

 

「邪魔だムシケラがぁ!!」

「――ッ」

「何ッ!?」

 

 放出されたエネルギーが盾となり、奴の攻撃を防ぐ。その隙にウォーグレイモンが回転しながら腕を吹き飛ばし、メタルガルルモンの放ったミサイルが着弾して奴を氷漬けにした。

 それでももがき、ヴェノムヴァンデモンは侵攻を続けようとする。目線を目的地と思しき場所に向けると……なるほど、ビッグサイト。さしずめ餌を手に入れようってところか?

 

「この――外道がッ」

 

 その叫びと共に、デジコアの最深部へ到達した。その奥に眠っていたのは――あまりにも強大な、ドラゴンのデータ。そのデータとインターフェースの力が合わさり更なる進化を作り上げる――その姿は、究極の敵と呼ぶにふさわしい姿だった。

 

「――なるほど、そういう事ね……いくぞドルグレモン!」

「ドルグレモン――究極進化ァアアアア!!」

 

 内部のデータを解放していく。頭の中に膨大なデータが一気に流れ込む中、過去の記憶がアルバムをめくるように過ぎていった。

 ドドモンが生まれた日のこと。初めての進化。初めて戦った日のこと。毎日がワクワクしていて――そして、出会った女の子のこと。

 あれ以来、心のどこかでもっと強くなろうと思っていたのだろう。戦うことから逃げないために。悲しい思いをしないために。

 デジメンタルを手に入れた時、魔法が使えるようになったとき……実はすごくうれしかったんだ。でもそれだけならいつか道を間違えていたかもしれない――マフラーに手を当て、この力を決して間違った方へ使わないと改めて決意しよう。

 

「グルァアアアアア!!」

 

 咆哮と共に、光が弾けて進化が終わった。皆が言葉を失っていたのだろう――その姿は、巨大なドラゴンだ。銀色の巨体に、人のような形でありながら巨大な翼をもった姿。

 まるで、世界を滅ぼそうとする悪魔のような出で立ち。

 

「ドルゴラモン!!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

「ドルグレモンが究極進化した……でも、これは…………」

 

 光子郎を含め、その光景を見ていたものすべてが愕然としていた。ドルグレモンが進化したデジモン――ドルゴラモン。大きさはアトラーカブテリモンよりも少し大きいぐらい。ウォーグレイモンたちとは違い、より巨大になる進化を遂げたのだろうが……何かがケタ違いに違う。

 

「ねえ、光子郎……あれって何なの?」

「カノン君のデジモンが究極体に進化したのでしょうが――」

 

 アナライザーですぐさまそのドルゴラモンの情報を引き出す光子郎だったが、その情報に思わず目を見開いてしまった。

 

「な、何だって!?」

「おい光子郎、どうしたんだよ!」

「なんでそんなに焦ったような声を出しているんだ?」

 

 太一とヤマトも駆け寄ってきてアナライザーの情報を見ていくと、そこには驚くべきことが書かれていたのだ。

 

「ドルゴラモン、究極体……デジコアの空想が生み出したデジモン。デジコアインターフェースの創造力が極限にまで解放されたことで進化した姿。破壊の権化であり、究極の敵の化身……究極の敵!?」

「予言はこのことだったのか……味方、なのか?」

 

 皆が見上げてみると、咆哮を終えたドルゴラモンは――そのままヴェノムヴァンデモンを殴りつけた。ヴェノムヴァンデモンも攻撃を行ってくるが、子供たちに被害がいかないように立ち回りながら戦ってくれているのがわかる。

 その巨体でヴェノムヴァンデモンに組み付き、奴の動きを阻害しているのだ。

 

「どうやら、理性はちゃんとあるみたいだな――なら、ウォーグレイモン!」

「メタルガルルモン! お前たちも続け!」

 

 その言葉と共に、二体のデジモンもヴェノムヴァンデモンへ攻撃を仕掛けていく。増大したオーラに阻まれつつも、少しづつ押していた。

 

「コイツ――思ったより硬いぞ」

「どうする、ウォーグレイモン」

「……」

「奴の防御を崩す――その隙に、ぶち込んでやれ!」

「――ドルゴラモン!?」

 

 それだけ言うと、ドルゴラモンは体からエネルギーを放出して一気に突撃していった。それこそがドルゴラモンの必殺技。その名も――

 

「ブレイブメタル!!」

「グガァアアア!?」

 

 突き抜けはしなかったが、あまりの威力に一瞬、ヴェノムヴァンデモンの体からオーラが弾け、よろける――その後ろから二体のデジモンが溜めに溜めた力を一気に解き放った。

 

「ガイアフォース!!」

「コキュートスブレス!!」

 

 二つの技がぶつかり、ヴェノムヴァンデモンのデータが崩れていった。そして、断末魔とともにその姿は消え去り、霧散してしまう。

 ここに、ヴェノムヴァンデモンとの戦いは終結した。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 戦いも終わり、ウォーグレイモンとメタルガルルモンは幼年期にまで戻っているのが見えた。どうやら、エネルギーを大分消耗したらしい。

 

「ふぅ、片付いた」

「カノン、お前相変わらず無茶するなぁ……って、進化させた後どこにいたんだ?」

「ウィザーモンのおかげで、浮遊ができるようになったんです。最後は飛んでましたけど……見えませんでした?」

「全然……他のところに気をとられてたし」

 

 あら残念……ドルモンもお疲れさま。

 

「結構疲れたねぇ……」

「まて、なんでお前は成長期なんだよ」

「鍛え方が違う――というより、元々持っていたものの解放だから?」

 

 ドルモンは肩が凝ったように首を回しているが……本当に疲れているのかコイツ?

 エンジェウーモンも力を使いすぎて成長期に退化しているって言うのに……いやそっちも成長期ですか。話に聞くと、やはり予言の通りのことをしたら究極体に進化したそうだ。ただし、僕たちとは違い成長期からのワープ進化だが。

 あと、ヴェノムヴァンデモンを拘束したのもデジヴァイスからではなく紋章から出た帯だそうだが……てっきりデジヴァイスの機能かと思ったんだけど……

 

「ねえ、本当にヴァンデモンを倒したのよね?」

「心配なのはわかりますが、結界の魔力も消えていますから大丈夫ですよ。この分ならすぐに晴れ……る」

 

 霧が晴れていき、空が見えるようになった。時間は既に6時を過ぎている。朝の6時から始まった戦いだから、もう半日以上経っていたな。空がすっかり真っ暗――だったら良かったのに。

 空には帯状に謎の世界の姿が映し出されていた。まるで、空間そのものが壊れているように。

 

 どうやら、事件はまだ終わったわけじゃないようだ。

 




デジモンのモチーフ元を考えたとき、ドルゴラモンのモチーフって何なんだろうかと思い至る。
もちろん、ドラゴンなんだけどそれに加えて何かあるよなって色々調べてみた結果……
ウィリアム・ブレイクの書いた絵じゃないかと思った。結局黙示録ですかバンダイさん!

今回も伏線が多いですが、半分はアドベンチャーで回収すると思います。


ちなみに、暴食さんはカノン自身が知らない秘密を色々知っています。


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34.突入! デジタルワールド

ようやく突入と相成りました。


 すっかり周りは廃墟だなぁ……どうするんだこれ。

 

「ハァ……」

「あの大陸、一体なんなんだろうな?」

「流石にあそこまで飛んでいくのも一苦労だしなぁ……」

 

 とりあえずみんなで集まってどうするか考えているんだが、ヴェノムヴァンデモンとの戦いの疲れもありいい意見は出てこない。というより現実逃避に近いか。苦労して倒したと思ったら、次の問題が出てきて気が滅入っているのだろう。

 僕もどうするか悩んでいるのだが、パンプモンとゴツモン。マフラー引っ張って遊ぶのヤメロ。

 

「だって俺たちが考えたって仕方がないしー」

「なー」

「……」

 

 魔力をカットして、マフラーを消すと二人はどさりと落ちていたそうな声を上げた。うん、真面目に考えてもらいたい。

 

「カノン、それ消せるのか?」

「魔力で編んでいますからね。まあデジタルデータの塊ですし」

 

 と、与太話をしていると見知らぬ女性が駆け寄ってきたが……どうやらタケル君の母親らしい。ヤマトさんとお父さんも一緒にいるが、会話がぎこちない。まあ、他人が首を突っ込んでもいいことはないだろう。

 人も集まってくるかなと思っていると、エンジン音が聞こえてきた。

 

「もしかしてマスコミとか?」

「それならヤマトさんのお父さんがいますよ」

「今更か」

 

 光子郎さんからそんなツッコミが入り、エンジン音の正体が見えてきた。あれってたしか……丈さんのお兄さんか。

 

「シン兄さん!」

「みんな、ビッグサイトのご両親たちは目を覚ましたよ。無事、元に戻った!」

「よかった……」

 

 ヒカリちゃんたちが喜び、家族が無事だったことに安堵していた。母さんたちもほっと一息ついている。結局助け出せなかったから心配だったのだろう。

 口には出してなかったが、ヒカリちゃんを守り切れずにいたのを気にしていたからなぁ……問題が一つ片付いたし、やはり目先のことに目を向けるべきか。

 シンさんがポータブルテレビか何かを取り出し、情報を集め出す。

 

『あの大陸は錯覚なんかではありません。確かに存在しているのです! このままでは世界中の空があの不気味な大陸に覆いつくされてしまうでしょう!』

 

 ニュースキャスターか何かがそう言っているが、そういう根拠はない。しかし、その予測が間違っているともいえないか……霧が晴れたことで魔力の通りも良くなってきた。

 これならもしかして、未来予知が使えるのではないだろうか――――

 

「いったい、どうなっているんだ……」

「ねえ、このままどうなっちゃうの? これもヴァンデモンの仕業?」

「そんなことない! ヴァンデモンは確かに倒したよ!」

「でも実際にこんなことになって……カノン、お前の魔法で何かわからないのか――カノン?」

 

 ◇◇◇◇◇

 

「警告――スパイラルプログラムにより、マップの構造が書き換えられました。警告――デジタマシステムの機能不全を確認。警告――警告、警告」

「おいカノン! しっかりしろ!」

 

 突如として、カノンの様子がおかしくなった。まるで、機械みたいにしゃべるばかりで先ほどから意識がはっきりしていない。

 いったいどうしちまったって言うんだよ……

 

「太一、カノンの奴いったいどうしたんだよ」

「俺にもわかんねーよ……橘さんは、何か知っていますか!?」

 

 カノンの両親に聞いてみたが、二人とも首を振るのみだ。

 

「いや、私たちもこんなカノンは初めて見た……ドルモン、君は何か知っているのか?」

「ううん……おれも知らない。でも、カノンじゃないみたいだ」

「警告――時空の歪みを確認。人間界とデジタルワールドの境界線、崩壊。プログラムロイヤルナイツ――該当プログラムは存在しません。ガードプログラム四聖獣――現在利用できません」

「デジタルワールドとの境界線?」

 

 それって一体――問い詰めようと思ったら、光子郎から声がかかった。

 

「あれ、見てください!」

「こっちもそれどころじゃ――あれはクワガーモン!?」

 

 空の大陸から、クワガーモンが飛んできたのだ。すぐさま単眼鏡で覗いてみると――マズイ。

 

「近くに飛行機が飛んでいる!」

「なんですって!?」

「ワタシが行くわ!」

 

 ピヨモンがバードラモンに進化し、飛行機の元へ行く。どうやら飛行機は墜落しそうになっているようで、バードラモンが下に入り支えた。しかしなぜ飛行機が墜落しそうになったんだ?」

 

「あのクワガーモンが飛行機にぶつかったように見えたんですが……もしかしたら、それが原因かも」

「ワテも加勢してきますわ」

 

 そう言って、テントモンがカブテリモンに進化して飛び立つ。みると、バードラモンもガルダモンへ進化していた。カブテリモンが攻撃をクワガーモンへ仕掛けるが……すり抜けたように見える。

 結局、二体は飛行機を着水させるにとどまりこちらへ戻ってきた。

 

 

 

「やっぱり、あのクワガーモンは大陸から飛んできたのか?」

「――となると、アレはデジタルワールドなのでしょう」

 

 光子郎がそう言い、俺たち全員の顔が光子郎へ向く。そういえばさっきのカノンもデジタルワールドがどうとかって……

 

「みんな、こっちにきてくれ」

「シン兄さん、どうしたの――ってこれは!?」

 

 テレビには、世界各地の様子が映っていた。その全てにデジモンたちが映っており、彼らが触れたものは固まってしまうようだ。

 さっきのクワガーモンも飛行機に触れて……

 

「ねえ、プロットモン。あれがあなたのいた世界?」

「いや……アレはもう私の知っているデジタルワールドではない」

「デジタルワールド時間加速度、人間界換算では――」

「ああもう、しっかりしろ!」

 

 思わず、カノンの頭を小突いてしまった。あ、と思ったときには遅く。カノンはそのままどさりと倒れてしまっていた。

 

「ちょっと太一さん!」

「ヤベ――だ、大丈夫か?」

「……なんか頭が痛い…………あれ? どうかしましたか?」

「覚えていないのか?」

 

 すぐに目を覚まし、正気に戻ってくれたが……大丈夫なのだろうか。どうやら覚えていないようだが……

 

「なんかいつもの予知夢と違うな……頭のなかで進行途中のプログラムやらが一気に開いた感じでした」

「確かに言われてみればそんな感じでしたが、大丈夫なんですか?」

「……これしばらく予知はやめた方が良いな」

「大体、それどうやって使っているんだよ」

「今のでなんとなくわかりました。僕が予知しているんじゃなくて、どこかにアクセスして未来予測していたってのが正しいみたいです」

「アクセス? それがどこかわかりますか?」

「たぶん、デジタルワールドのどこかじゃないかと……理由は不明ですけど、そこと僕の意識がつながっているみたいですね。今のは逆流して色々な情報が流れ込んできたみたいです」

「ということは、カノン君はある種の端末となっていたという事でしょうか。ホストコンピューターみたいなものがあって、そこからデータを受信していたと」

「ま、そんなところですね」

「悪い二人とも。俺も含めてみんなついていけなくなるからそのぐらいにしてくれ」

 

 第一アレだ。長い。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「まあ結論から言いますと、こっちで数日過ごしたせいで向こうでは何年も経ってしまっているんですよ」

「はい。ですからヴァンデモンとの戦いの最中に向こうで何かが起きてしまった、ということだと……」

「そっか。ぼくたちデジタルワールドの歪みを正さないままこっちにきちゃったから向こうじゃ大変なことになっているんじゃないの?」

「その影響で、こうなってしまったということなのね……」

 

 コロモンの言う通り、根本的な歪みの原因は向こうの世界にあるわけだ。必要なのは太一さんたち8人なのだが、ヒカリちゃんがこっちにいたことで人間界に戻って来てしまった。そのため、デジタルワールドで数年の時間が経過してしまっているわけだが……

 元ヴァンデモンの部下の三体にも話を聞いてみるが、何も知らないとのこと。

 

「俺たちは大事な話一切知らないし!」

「なー」

「誇らしげに言うなよ」

「私も、幹部として扱われていたけど重要なことは何も教えてもらえなかったんだ」

「となるとやっぱり……」

「だな」

 

 太一さんが空を見上げ、決意した表情で言う。ま、何を言い出すのかわかっているけど。

 

「もう一度行こう。デジタルワールドへ!」

「でも、どうやって行くの?」

「たしか僕たちがあっちへ飛ばされたときはデジヴァイスに導かれたんだ」

「えらばれし子供が全員そろった今なら、デジヴァイスの力で行けるんじゃないか?」

 

 まあ他に方法が無いわけでもないのだが……それが一番確実か。次元の壁が崩壊しかかっている今、最も安全と思われる方法を使うべきだろう。それに、僕が思いついた方法だとたぶん使えるのは僕とドルモンだけだし。

 とりあえず、全員でデジヴァイスをかざしてみるとすぐさま反応が訪れた。お互いに呼応し、デジタルワールドへのゲートが開かれる。虹色の光の道が現れた。

 

「僕のも反応したってことは……僕たちも行く必要があるみたいだな」

「そういえば、0人目ってことは……歪みとは関係ない使命があるってことなのか?」

「今反応したってことは違うと思いますけど」

 

 今起こっている問題に対しては、僕も行かなくてはいけないんだろう。だからこそ、こうして反応しているわけだし。さて、突入するかという矢先――タケル君を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「タケル!」

「……せっかくみんな揃ったのに、ごめんね。でもちょっとしたらすぐに戻ってくるから――」

「ダメよ!」

 

 まあ親としては当然か、だけどそれをすぐさま止めるものがいた。

 

「行かせてやれよ。俺たちだってさんざん勝手やってきただろ」

「……」

「母さん。色々言いたいことがあると思うけどさ――でも、このままじゃ地球はおしまいなんだ。だから、俺たちが母さんたちを守る!」

「ヤマト……」

「頼んだよみんな。夜が明けるのは当たり前だと思っていたけど、今度ばかりは夜明けは永遠に来ないかもしれないからね」

「そんな縁起でもない! 私はこの子たちを信じています」

 

 シンさんが、光子郎さんのお母さんが言葉をかけてくる。多くの人に信頼され、未来を託されているんだ。

 

「大丈夫だよ兄さん、明日の朝日は僕が昇らせて見せる!」

「丈先輩カッコいい!」

「似合わなーい」

「君たちね……」

「ま、気合だけは十分ってことで」

 

 そんなことを呟いた僕の前に、どさりとカバンが置かれる。置いたのは……父さん?

 

「なんとなく、妙な予感がしていてな。ちょっと色々と集めておいた」

「集めておいたって……食料?」

「クッキーとか乾パンぐらいしか集められなかったがな。それと、風邪薬も入れておいた……お前もヒカリちゃんもまだ風邪が治って日が浅いだろ」

「そういえば……」

「ぶり返すといけないからな。持っていけ」

「ありがとう」

「カノン、このタマゴはおいていくわけにはいかないのよね」

「そうだね……このデジタマも持って行かなくちゃいけないか。パンプモンとゴツモンも行くぞ」

「名残惜しいけど、いかなくちゃだね」

「みんな、元気でね」

 

 デジモンたちも戻らなくてはいけない。丈さんが光に入ってしまい、宙へと浮き出した……

 さて、そろそろ行かなくてはいけないか。全員で光の中に入るとゆっくりと体が浮いて、奇妙な感覚と共にデジタルワールドへ近づいていく。

 

「空ー!」

「ミミちゃーん!」

「お母さん……」

「パパ、ママ」

 

 みると、大勢の人々がこっちを見ていた。その中には見知った顔もいくつか混じっていて……

 

「太一、ヒカリー!」

「お母さん……絶対、戻ってくるからぁ!!」

 

 そうして、僕らはデジタルワールドへ突入していった。まだ見ぬ世界。きっと、大変なことの連続になるだろう……それでも、一人じゃない。僕らはみんなで立ち向かうのだ。

 

「ねえカノン、あれ」

「――、素直じゃないな」

 

 倒れたビルの上に、黒のライダースーツを纏った男が立っていた。まったく……今度会ったらお礼でもいうべきだろうか? と、そう思っていたのだが――彼が突如別方向を向いたのが気にかかった。

 同じ方向を見てみれば……光の筋?

 

「なんだろう、アレ」

「流れ星、かな?」

 

 しかしそれにしては向きがおかしかったようにも見えるが……地上に現れたデジモンの仕業か?

 

「カノン、そろそろ突入するぞ! デジタマ落とすなよ!」

「分かってますよ!」

 

 まあ今はこっちに集中するべきか。拳を握りしめ、空を見上げる。さあ、来るなら来い。この先に待っている者ども。




いよいよダークマスターズ戦に突入しますが、ヴァンデモンでここまで長引いたんだし、ダークマスターズはどのくらいかかるか……
後半、どのチームに入るかは決まっているのですが、カノンは今まで以上に苦労することになるでしょう。


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35.ダークマスターズ

ついに登場ダークマスターズ。そして、明かされる謎が一つ。

あとすいません、また予約失敗して速攻公開です。


 ゲートを通ると、長い長い浮遊感が襲ってきた。体がむずかゆくなる感覚が駆け巡り、一度分解されるような奇妙な感覚に陥る。しかし、すぐに元の状態で復元され、ゲートを通過していく。

 考察できるが、これは……光子郎さんの話からするに、デジタルワールドでは自分たちもデジタル体として存在しているとは思っていた。だからこそ気になっていたのだが、自分の情報がそぎ落とされてしまうのではないかと。とんでもなかった。アナログ情報と寸分たがわないデジタル情報として再構成されるなど、予想できようか。

 いや、デジモンたちが僕たちの世界で潜在できている以上、その可能性は考えてしかるべきだったのだが……だとすると、これだけのことが出来るデジタルワールドのサーバーとはいったい何なのだろうか?

 

 ◇◇◇◇◇

 

 どさりと、投げ出されるように到着した。うーんとうなりながらもみんなは起き上がっていく。

 

「戻ってこられたのか?」

「おそらくは……でもあたりが暗いですね」

「夜、なのか?」

 

 たぶんそうなのだろうと上を見上げたとき、全員は唖然とした。

 

「あ、あれ!」

「北海道!?」

「そうか。向こうからこちらが見えたように、デジタルワールドから人間界が見えるのか」

 

 デジタルワールドに来たからだろうか? 次元の壁の状態が見てわかる。これはかなりマズいな……ほころびどころではない。壊れかかっているんだ。

 冷汗が出てくるのを感じ、首元に風を送ろうとすると何か違和感を感じた。

 

「あれ……マフラーが出っ放しだ」

 

 服装はダウンベストに長袖長ズボンのこちらに来るときの格好だったが、マフラーは魔力で編まなかったはず……消せる感じがしないし、デジタルワールドでは常に出っ放しになるみたいだ。

 体にデジタル情報を取り込んだ影響だろうか?

 

「まあ、不都合にはならないか……ん?」

 

 何かの気配を感じた。がさりという音も聞こえ、丈さんが見にいっている。

 

「ゴマモン? そんなところで何をしているんだ」

「丈、オイラはカバンの中だぜ」

「え――じゃあ、うわあ!?」

 

 突如、草むらの中からピンク色の何かが飛び出してきた。すぐに別の草むらに入っていったため、何だったかはわからないが悪意は感じないし、危険な気配もない。

 しかし、何かが飛び出してきた場所が崩れ落ちてしまい、丈さんが落ちかけている。

 

「丈さん!」

「う、うわぁ!?」

 

 デジモンたちは何かが危険な生き物ではないかと向かって行った――その際に幼年期だった者は進化した――が、ヒカリちゃんも危険ではないと思ったのか、近づいている。そちらは彼女に任せた方がよさそうだ。

 

「丈さん、しっかりつかまっていてくださいよ!」

「あ、ああ――って」

「どりゃぁ!!」

「うわあああ!?」

 

 一本背負いのように、投げ飛ばす形で引っ張り上げる。ゆっくり上げるよりも身体強化して投げ飛ばした方が速かったし、そのまま崩れ落ちたら洒落にならなかったので。

 しかし……地面が端から崩れ落ちている。徐々にだが……崩壊が進んでいるのか。しかし、崩れた断面が見えているあたり、地面にテクスチャを張っているのではなく、土や砂の一粒一粒が構成されているのか……

 

「なんつー世界だよここ」

「カノン君、もうちょっと穏便にいかないのかい?」

「いえ、徐々に崩れていたので早い方がいいかと」

「無事みたいだな……しかし、こりゃヒデェ」

 

 太一さんたちも来てくれて、崩れている場所から離れる。そして、先ほどの生き物だが、どうやらミミさんの知り合いらしい。

 チューモンというピンク色のネズミ型のデジモンで、ミミさんの姿を確認して安心したのか気絶してしまった。

 

「とりあえずは目を覚ましてもらってから話を聞くしかできないですね……ロクに食べずにこっちに来ましたから、とりあえず食事にしませんか?」

「それもそうだな」

 

 いやな気配を感じはするが、まだ余裕はありそうだ。まずは回復することになる。

 とりあえず受け取った食料を分けていくが……今後はこっちでの調達も考えないといけないな。

 

「みなさんは、旅をしていた時は食料をどうしていました?」

「デジモンたちに教えてもらいながら、調達したりしてたな。あと、ヤマトたちはレストランで食べたこともあったっけ?」

「ああ……もっとも、酷い目にあったけどな。お金もドルしか使えなかったし」

 

 ……現実世界のアドレスに合わせると、アメリカかどこかだったんだろうか?

 

「しかしカノン……おまえ、そのお徳用の氷砂糖はなんなんだよ」

「? え、僕の好物ですけど」

「……」

 

 なぜ、皆絶句をするのだろうか。解せぬ。

 ドルモンまでまたかみたいな顔で見てくるのが納得いかない。

 

「ヒカリは知っていたのか?」

「うん……たまに見てたから」

 

 なんだか変な目で見られていたが、とりあえず食事は終わり、チューモンの目が覚めるのを待つことになった。やがて、彼も目を覚まし用意しておいた水とクッキーを与えて回復を促す。

 

「ありがとう……ミミちゃん、帰って来てくれたんだね」

「ねえチューモン、一緒にいたスカモンは?」

「……あいつは、死んだんだ」

 

 そこから語られたのは、太一さんたちが人間界へ帰還した後に起きたであろう出来事。チューモンとスカモンの二人は自由気ままに生活していたが、ある日突然世界を暗黒の力が覆ったらしい。

 そして、世界を自分たちの支配しやすい形に再構成していったそうなのだが――その際、崩れた地面の中にスカモンが呑みこまれ、彼は命を落としたそうだ。

 だけどその支配している奴らって一体何者なんだ?

 

「でも、ここまでする奴らの話なんて俺ら聞いたことないぜ」

「わたしも、ヴァンデモンの城ではそんな話は聞いたことなかった」

「パンプモンたちも知らない、か……」

 

 チューモンの案内で、再構成された世界を見に行くことになったのだが……大きな山が一つ見えてきた。グルグルと四本のラインが螺旋を描くように構成されている構造物。情報量が大きすぎて解析はできないが、物理演算がおかしなことになっているのは分かる。

 

「スパイラルマウンテンって、呼ばれているんだ」

「なあチューモン、こんなことをした奴らって一体何なんだ?」

「ダークマスターズっていう奴らで、逆らう奴は皆殺しみたいなことを言っていたよ」

「じゃあレオモンは? 他にも戦いそうなデジモンはいるんじゃないの?」

「わかんない……オイラはスパイラルマウンテンの外の崩れたエリアにいたから」

 

 となると、僕らのやるべきことは……この山を登っていくわけか。

 

「そのダークマスターズを倒すのが俺たちの使命ってわけか」

「ですね……先が長そうだ」

「そんなあいつらと戦うなんてとんでもない!」

「大丈夫だって、俺らはあのヴァンデモンだって倒したんだぜ!」

「そうよ。えらばれし子供が9人そろえば世界だって救えるんだから」

 

 正確には8人と1人なわけだが。それにタケル君が超進化出来ていない以上、紋章は未覚醒なわけだし……なんだかパズルのピースがまだ足りていないような気がする。

 と、そこで嫌な高笑いが聞こえてきた。

 

「なんだ!?」

「――待っていたぞ、えらばれし子供たちよ!」

 

 水しぶきと共に、巨大な蛇のようなデジモンが現れる。いや、龍と形容すべきか。全身を金属で覆っている姿は――あれは危険だ。データ質量が半端じゃない。

 デジヴァイスを握る手に汗が出る……光子郎さんがすぐに情報を引き出そうとしているが、僕には奴の情報がダイレクトに入ってくる。アイツは、究極体のデジモンだ。

 

「め、メタルシードラモンだ!」

 

 奴がそのまま突進してきて――巨体に似合わない猛スピード。これは、よけきれない。おそらくこのままでは激突する。

 なんとかよけようとしていき、全員弾かれつつもなんとか大きなダメージは避けていた。しかし……これはマズイ。

 全員が成熟期デジモンへと進化させるが、それではだめなのだ。

 

「パンプモンたち、デジタマを頼む!」

「あ、カノン!?」

 

 ドルモンにはラプタードラモンに進化してもらい、背に乗る。スピードだけなら何とか追いつけそうなのがこれしかなかったが……

 

「行くぞ!」

「おう!」

「ええいちょこまかとッ」

 

 何度かのぶつかり合いののち、しびれを切らしたのか顔についているバカでかい砲口から光が漏れ始めていた。

 

「ってマズいだろそれ!?」

「トドメだ――アルティメットストリーム!」

 

 全力で防御しながらも、僕はダークマスターズについて考えていた。もしかして、ダークマスターズは……

 やがて、意識が遠のき――気がついたら別の場所へ飛ばされることとなった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「パタモン、パタモンしっかりして!」

 

 そんな声で目が覚めると、今度はまた別のデジモンが現れていた。ムゲンドラモン、究極体……これは、予想が正しいかもしれない。

 パタモン以外のデジモンが超進化し、完全体へと進化していく。ラプタードラモンもグレイドモンへ進化し、ムゲンドラモンを睨みつけている。

 

「いくら究極体でも、完全体が8体もいれば」

「ダメ、敵わない」

「――ヒカリ?」

 

 ヒカリちゃんの言う通り、いくら完全体が8体いてもムゲンドラモンの火力は更に上を行く。奴の背中の砲台から砲撃が放たれていき、デジモンたちを襲う。

 グレイドモンは双剣を抜いており、砲撃を弾いているが――それもすぐに限界が来るだろう。ならば、出し惜しみは無しだ!

 

(ムゲン)キャノン!」

「グレイドモン究極進化――ドルゴラモン!」

 

 砲撃が放たれた直後、ドルゴラモンがその巨体を活かしてみんなを守ったが――地面の方が耐え切れなくなっていた。

 

「崩れるッ!?」

 

 地面が崩れていき、僕らは全員落ちてしまう。とても嫌な浮遊感があり、どこか途中で何かにぶら下がるように止まった。

 ふぅと一安心……出来ないんだろうな。うん……嫌な予感がビンビンである。

 と、そこで突然ワーガルルモンとガルダモンが殴り合いを始めてしまった。

 

「何やっているんだワーガルルモン!」

「やめてガルダモン!」

「違うんだヤマト、体が勝手に――」

 

 意識を集中させる……先ほどの感覚と、この体にまとわりつく嫌な感覚(データ)。上か。

 

「ドルゴラモン、上空に向かって砲撃!」

「ドルディーン!」

 

 ドルゴラモンから衝撃波が発せられ、上にいたらしきデジモンを吹き飛ばす。

 

「うわぁあああ!?」

「チューモン、あのデジモンは?」

「えっと……ピノッキモン」

「究極体ですね」

「となると、やっぱりダークマスターズは――」

 

 最後まで言うことはできなかった。下の方から爆発のようなものがあり、僕らも上に吹き飛ばされてしまったからだ。

 その衝撃でドルゴラモン以外のデジモンも退化してしまっている。

 

「今度はなにー!?」

「みんな、ドルゴラモンへつかまって!」

 

 全員でドルゴラモンにしがみつき、衝撃に備えると――どこかのコロッセオに投げ出された。

 まったく乱暴な……

 

「イテテ……なんなんだ一体」

 

 しかし、なんだかどこかで覚えのある感覚だったが……この殺意といい、肌にピリピリとくる暗黒の力といい、どこか懐かしい気さえしてくる。

 その時、愉快な音楽と共に誰かがやってきた。

 

「ピエロ?」

「なんでこんなところにピエロなんて――ってカノン!?」

 

 そのピエロを見た瞬間――いや、その気配を感じた瞬間に僕は飛び出していた。やっと思い出した。この肌にくる嫌な感じ。トラウマをほじくり返されそうになる悪寒。

 ネオデビモンの時に感じたものと同じだ。

 

「――ッ」

「おやおや……これはこれは0人目の子供、私がわかりますか」

「――ピエモン、究極体デジモン」

 

 ピエロのような見た目は変わらない。しかし、奴の姿はまるでトランプのジョーカーのような悪魔ともいえそうな風貌へと変化していく。

 そして……もしやとは思ったが、やっぱりなのか。

 

「お前がネオデビモンを差し向けた奴だな」

「やはりわかりますか――しかし、甘い!」

 

 どすんと、腹に衝撃が走る。そのまま殴り飛ばされて、後ろの方でみんなにキャッチされた。

 

「――ゲホッ」

「大丈夫カノン君!?」

「なんとか……でも、アレが出なかった?」

 

 ここぞという時にでる黄金のハンマーが使えなかった。あの男との問答の時からそんな予感はしていたのだが……やはり、意図的にアレを出すのはもう無理か。

 

「ふふふ、愚かな選択をしたものです……わざわざアレを手放すとは」

「手放したわけじゃないんだけど……似たようなものか。僕もアレが何かは知らないけど」

「知らなくていいこと――ここで死ぬのですから!」

 

 そう言うと、ピエモンは攻撃を仕掛けようとするが、ウォーグレイモンとメタルガルルモンが奴に攻撃をしていく。どうやら、太一さんたちがワープ進化させたみたいだな……

 

「究極体が三体もいるんだ! これなら押し込める!」

 

 しかし、その言葉とは裏腹にピエモンは究極体たちの攻撃をかわし続ける。唯一、ドルゴラモンの攻撃だけは何度かかすりはしているものの、それでも届かない。

 

「トランプソード!」

 

 ピエモンが攻撃を仕掛け、三体の究極体は成長期に戻されてしまう。

 

「なんで…………究極体が三体もいるのに……」

「あなた方は究極体に進化できるようになってまだ間がない。その不安定な状態では当然のことです。それに、0人目のパートナーと異なりそちらの二体はどうやら特殊な方法でも使ったようですしね。なおさら、慣れてはいないはず」

 

 ……なるほど、ウォーグレイモンたちの声にノイズが走っているような気がしていたのだが、それが原因か。それにドルゴラモンの場合はX抗体もある。その影響で慣れるスピードがずっと速いのだろう。

 

「ではここで我々のご紹介と参りましょう! メタルシードラモン!」

 

 再び、衝撃と共に巨体が地面から躍り出る。

 

「ムゲンドラモン! それにピノッキモン!」

 

 コロッセオの側面を破壊して、銀色の巨体が姿を現し――どこかイラついた表情の木で出来た人形のようなデジモンも現れた。

 

「ボクとしてはすぐにでもブッ飛ばしてやりたいんだけどね」

「まあ物事には段階と言うものがあるのですよピノッキモン――さて、皆さま。ここにわたし、ピエモンを含めた4体がダークマスターズでございます。さて、楽しい時間と言うのはあっという間に過ぎ去ってしまうものです……さて、どなたから殺して差し上げましょうか」

 

 ピエモンはそう言うと、舌なめずりするかのように僕らを見回す……冗談じゃない。こんなところで終ってたまるか。しかし、みんな恐怖におびえているのか、動けずにいた。

 

「いや……嫌ッ! わたしまだ死にたくない!」

 

 そんな中、ミミさんが声を荒げる。同時に、これはマズイとも思った。

 

「普通の小学生だったのに、なんでこんなところで死ななくちゃならないの! まだやりたいこととかいっぱいあるのに――」

「少々、耳障りですね。でしたら――貴女からと行きましょうか」

 

 ピエモンがナイフを取り出し、投げつける。その場の誰もが動けなかった――少しの例外を除いて。

 チューモンがミミさんの腕から飛び出している。ああ、彼女もデジモンたちに好かれる人なのだろう。ミミさんを守るため、チューモンは犠牲になろうとしていた。でも、それよりも僕の方が速く動けていた。

 ネオデビモンの時に味わったからか、僕はみんなよりもこの恐怖に耐性があったんだ。だからこそ、チューモンをかばい、背中で奴のナイフを受ける。

 

「うぐっ、あがああああああああああああああああああああああ!?」

 

 左肩にナイフが突き刺さり、激痛が走る。ヤバい、思考が途切れる。意識が消えていく。やがて、意識が遠のいていき――――世界が、暗転した。




と言うわけで、なぞ解明のその一。カノンが戦ったネオデビモンはピエモンの部下でした。
なのでそこから起こりうる悪夢が一つ。わかるかなー

チューモンは助かりましたが、代わりに負傷者がでました。


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36.ディープセイバーズ

初代のネーミングセンスのすさまじさよ――グフッ(吐血

あと、再び前日は二話投稿になりました。


 えらばれし子供たちを追い詰めたダークマスターズであったが、あと一歩のところで彼らに協力するデジモン――ピッコロモンの妨害を受け、彼らを取り逃がしてしまった。

 

「完全体で我ら4体を相手にするとは、正気とは思えませんね」

「確かにそうかもしれないッピ。それでも、誰かがやらなくてはいけないッピ」

「……まったく、あと少しであの0人目を殺せたかもしれないというのに」

「なるほど……どうやら、伝説は本当だったらしいッピ」

「――少し、口が過ぎましたかね」

 

 決着はすぐについた。ピッコロモンの抵抗もむなしく、彼はすぐに敗北することとなる。ただし、えらばれし子供たちを送り届けるという目的は果たしたが。

 

「勝負には勝ちましたが、試合には負けた。というところでしょうか……」

「ピエモン、なんでさっさと消し飛ばさなかったんだよ。それにあの0人目とかいう奴もすぐに殺せばいいのに」

「物事には順序というものがあります。それに……」

 

 ピエモンの脳裏に、自分のナイフが彼の肩へ刺さった時のことが浮かんでいた。

 出血もほとんどなく、空気に融けるように消えていったあのナイフが。

 

「…………どうやら、より厄介な存在になってしまったようで――これは作戦を練る必要があるかもしれません」

「どうしてそこまで警戒するのさ? ボクにはそこまで強く見えないけど」

「それで油断して吹き飛ばされたのはどなたですかな? ピノッキモン」

「うっ……」

「とにかくみなさん、それぞれのエリアへ戻ってください。後は自分の領域で彼らを迎え撃ちましょう」

 

 その言葉を合図にダークマスターズは各々が支配する領域へと戻っていく。

 ただ、ピエモンだけはスパイラルマウンテンの頂上へと向かって行ったが――道中、とある場所へと立ち寄ることとなる。

 

「デジモンたちはただ死ぬだけではデジタマに戻り、はじまりの町へ戻ってしまう。しかし、今かの町の機能が停止しているからこそ、デジコアから別のデジモンを生み出すことが可能!」

 

 システムのバグによって引き起こされた悪夢。

 ムゲンドラモンの管轄するエリアとピエモンの魔術が組み合わさり生まれた、さらなる軍団を生み出すための機構。

 

「フフフ……さて、準備だけは進めておいて損はありませんからね」

 

 カプセルのような機械の中には様々なデジモンが入っており、その中には――ネオデビモンの姿もあった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 一方、ピッコロモンのおかげで窮地を脱したえらばれし子供たちであったが、疲弊しており皆、意気消沈した様子であった。

 

「お前ら、無事か?」

「無事じゃないわよ……みんな疲れているし、カノン君だって…………丈先輩、カノン君は?」

「血は出ていないし、荷物の中に包帯も入っていたからとりあえずの手当ては出来たよ」

「血は出ていないって――それ本当なのか丈!?」

「ああ。不思議なことにね……すこし熱が出ているけど、今すぐ大事に至ることはない。呼吸も乱れてはいないし、命に別状はないよ」

「そっか……しかしここはどこなんだ?」

 

 カノンの無事を確認したため、次の問題に移る。今自分たちがいるのはどこなのかと言うことだ。スパイラルマウンテンに入ったことは確認できたのだが、どのあたりにいるのかがわからない。

 

「砂漠――いえ、砂浜でしょうか? 霧が深くてよくわかりませんが」

「霧も晴れてきているし、目印でもあればいいんだが……」

「なあ太一、あれ――見覚えが無いか?」

「あれって……あの黒焦げた残骸か? そういえばどこかでみたような……そうだ、思い出した。あれはファイル島の壊れた電話ボックスだ!」

「ってことはアタシたち、ファイル島に戻ってきたってこと?」

「どうやらそうらしいな――チューモン、お前もファイル島に住んでいたよな。ココはファイル島の海岸で間違いないか?」

「うん。確かに元はファイル島の海岸だよ。スカモンと海水浴に来たことがある」

 

 となると、間違いなくファイル島の海岸ということになるのだが、そうなると一つ疑問が生まれる。

 

「なんでまたファイル島なんだろうな」

「やっぱり意味があるのかしら。ピッコロモンにも言われた、足りないものに関係があるのかしら」

 

 去り際に、ピッコロモンから言われたことがある。今のままではダークマスターズには勝てない。まだ足りないものがあるというのだ。

 それが何かわからないが、子供たちにはファイル島だった場所へ戻ってきたことに意味があるように思えるのだ。

 

「カノンが起きていれば何かわかるかもしれないんだけど……」

「あまりカノン君を頼りにしない方が良いんじゃないかしら……この子、すごく無茶するわよ」

 

 空の言葉に一同が何も言えなくなる。確かにこの少年は無茶をし過ぎる。

 

「おいドルモン、コイツ昔からこんな事ばかりやっていたのか?」

「わりとね。でもカノンが無茶をしていなかったらもっとひどいことになっていた事ばかりなんだよ……それこそ無茶をしたから怪我で済んでいるんだ。まあ、詳しくは言えないかな……カノンにだって人には話したくないことはあるから」

 

 短い間だったが、カノンと遊んでいた少女のことがドルモンの脳裏によぎる。カノンは、あの思い出だけは人に話そうとしないのだ。だからこそドルモンも言わない。

 その意思を感じ取ったのか、太一たちも何も言わずに前に進むことにした。

 

「しかし、いったいどっちに進めばいいのやら――ん?」

 

 何か変な音が聞こえると海の方を見ると、水しぶきが上がっている。助けてくれという声も聞こえてきており、どうやら誰かが溺れてしまい、助けを求めているようだ。

 

「大変だ! はやく助けに行かないと!」

「でもデジモンたちは疲れて動けませんよ」

 

 ならばどうするかとあたりを見回してみると、近くにボートがあった。

 

「アレで助けに行くぞ!」

 

 そうしてデジモンたちを残し、太一たちが助けに行くと――なぜか浮き輪があるのに水しぶきが上がっていた。

 子供たちも流石におかしいと思っていたら、浮き輪の下から巨大な影が躍り出る。

 

「うわ!? シェルモン!?」

「お兄ちゃん、知っているデジモン?」

「アイツには前にひどい目に遭ったんだ! みんな逃げるぞ!」

 

 急いで岸まで戻ろうとするが、シェルモンが追いかけてくる。万事休すかと思われた――次の瞬間だった。

 

「マジカルファイヤー!」

「ポイズンアイビー!」

 

 一時的に退化していたが、成長期に進化したデジモンたちによってシェルモンは押されていく。

 

「プチサンダー!」

「イデェ! 今度は本当に助けてっ」

 

 そう言い残し、シェルモンは海の中へ入っていき逃げていった。その間に、ゴマモンの呼び出した魚でボートを押して子供たちは既に岸へとたどり着いていた。

 どうやら助かったようだと一安心し、太一はデジモンたちを見て思ったことを告げる。

 

「どうやら、えらばれし子供たちのデジモンは格段に強くなったみたいだな」

「どうしてそう思うの?」

「前にシェルモンと戦ったときは、グレイモンに進化してようやく勝てたんだ。でも、今は成長期のデジモンだけで勝てた」

 

 太一はかつて、ファイル島に来たばかりのころを思い出していた。まだわからないことだらけで、冒険も始まったばかりのことであるが、今もよく覚えている。

 

「実はピッコロモンに言われたことが頭を離れていないんだ。まだ俺たちはダークマスターズに勝てるほど強くはなっていない。でも、以前よりは確実に強くなっている。前には進んでいるんだ」

「ねえ空、あたしたち強くなってる」

「ええ、確かにファイル島にいたころよりもずっと強くなっているわね。バケモンたちとの戦いもそうだった。ファイル島にいたころは逃げてたけど、地球で戦ったときは成長期でも戦えてたじゃない」

「そういえば!」

 

 子供たちの明るさが戻り、次へ向かう気力がわいてくる。と、そこで急に陽射しが強くなってきた。どうやら霧が晴れたらしい。

 そこでタケルが遠くに何かを見つけたようで声を上げた。

 

「海の家があるよ!」

「ファイル島に海の家なんてあったか?」

「いえ、蜃気楼ですね。ファイル島に海の家があるのではなく、蜃気楼でそう見えるだけで――――いえ、どうやら本当にあるみたいです!」

「なら、食べ物も――」

 

 ごくりと、誰がのどを鳴らしたのかはわからないが、食べ物があるのではないかと思ったとたん、彼らは一目散に駆け出していった。

 

「おい丈! お前はいかないのか?」

「あっちの木陰でカノン君の手当てをしてから行くよ。あまり動かさない方が良いかもしれないからね」

「分かった――あれ、ミミちゃんは?」

「……ゴメン太一先輩、私もカノン君が目を覚ますまで待つわ」

「そっか――それじゃ何か持ってくるよ」

 

 そう言って、太一たちは海の家へ向かい、丈とミミ、ゴマモンにパルモンとドルモン、チューモンが残された。もちろん、寝たままのカノンもこの場に残っている。ちなみに、デジタマはドルモンが預かっていた。

 

「って、パンプモンたちは?」

「一目散に行ったよ。煩悩に負けて」

「らしいと言えばらしいけど……とにかく、カノン君の手当てをしよう…………これは、どういうことだ?」

「どうしたの丈先輩?」

「包帯がきれいなままだ――もしかして」

 

 すぐさまカノンに巻いた包帯をはがしていく――すると、彼の傷口が塞がっているではないか。

 

「ナイフが刺さっていたわよね! なんで、傷口がもう塞がっているの!?」

「こんなのおれも初めて見た……カノンは魔法で治りを早くできるけど、ここまでは無理だよ!」

「…………これはいったいどういう」

 

 ことなんだ、と言葉を続けようとした時だった。海の家から竜巻のような風が巻き起こり、砂が覆っていく。そして、みんなの悲鳴が聞こえてくる。

 

「あの声は!?」

「みんなに何かがあったんだ……僕たちは海の家を見てくる。二人はカノン君のことを頼んだよ!」

 

 そうして丈達が海の家に向かうと、砂に埋もれているではないか。緊急事態であることはすぐに分かり、物音を立てないように裏から覗いてみると――みんなが、砂にまみれて気を失っていた。

 

「みんっ――んぐ」

「静かに。見つかったらマズイ」

 

 ミミの口を押え、丈はあたりを見回す。すると、メタルシードラモンの姿が見えたではないか。

 

「流石アノマロカリモン。我がディープセイバーズ暗黒軍団の一員よ」

「――――ッ」

 

 思わずそのネーミングセンスで笑いそうになってしまう一同。暗黒をつければいいものじゃないと思いつつ、なんとか声を出さないようにする。

 あいつらは真面目にやってはいるのだろうが……

 

(なによあのふざけた会話は! 私たちあいつらにやられたっての!?)

(いや、あれでも真面目にやっているんだから笑っちゃまずいって)

「さて、褒美をやろう」

「アノマロカリモーン!」

 

 今度はお互いが体をつねることで笑うのを我慢した。ゴマモンとパルモンも口を押え、笑わないように必死になっている。

 ホタテみたいな貝をたくさん出したり、自分の名前を叫びながら食事するアノマロカリモンなど、色々とシュールである。

 しかしそのことに気をとられたせいなのか、頭の上にふってくる貝殻に気が付かず、ゴマモンは思わず声を上げてしまった。

 

「――んん?」

 

 メタルシードラモンが振り向き、なんの姿も確認できない。間一髪ではあるが、木の陰に隠れることで事なきを得たのだ。

 しかし、違和感は感じ取ったのかメタルシードラモンは海の家の中を確認している。そしてすぐに子供たちが6人しかいないのを見てしまった。

 

「どういうことだ、えらばれし子供は9人いるはずだぞ!」

「アノマロカリモーン」

「食ってないで探しに行け!」

 

 尻尾ではたき、アノマロカリモンを動かすメタルシードラモン。隠れて逃げ出そうとしていた丈達もすぐに見つかってしまった。

 

「うわぁああ!? ――あれ?」

 

 後ろを振り向くと、アノマロカリモンがいない。

 

「逃げた……わけないよな」

「たぶん隠れているのよ。今のうちに進化できるようにしないと……」

「ラッキー。貝みっけ」

「探せばあるわね」

 

 すぐに自分の食べられる食料を見つけ、ゴマモンとパルモンは回復を行う。ほどなくしてアノマロカリモンも現れるのだが――タイミングが悪かった。

 成熟期どころか完全体にまで進化し、両者がぶつかり合う。

 

「スティンガー……ッ」

 

 途中、アノマロカリモンが攻撃を仕掛けようとするが大量の貝をみつけてそちらへと夢中になってしまった。

 完全に隙だらけ。これには丈たちも呆れるしかないが……

 

「ズドモン、やってくれ」

「……ハンマースパーク!」

 

 そして、アノマロカリモンは気絶してしまう。

 メタルシードラモンがいつまでも我慢しているわけもない。とりあえず、気絶したアノマロカリモンを海の家の中に入れて囮にした上で丈たちはみんなを救出した。

 そのすぐあと、業を煮やしたメタルシードラモンが海の家を燃やす。本当に間一髪のことであった。

 




大変、カノンが一言もしゃべっていないの。

サブタイトルに暗黒軍団をつけるか悩んだ末に、やめました。
なんだろう、このつけた途端にダサく感じるネーミングは。なにか頭痛が痛いに通じるものを感じる。


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37.ブレイブトルネード!

メタルシードラモン戦終結。そして――


 なんとか丈先輩たちのおかげで助かったけど、まだ油断はできないな……それに、アノマロカリモンとの戦いでも話によるとズドモンやリリモンに進化しないと勝てなかったというし……

 

「これはまだまだデジモンたちの成長進化が足りないらしい」

「太一の言う通り、まだダークマスターズに勝てるほどの成長は遂げていないってことか」

 

 ヤマトがそう言った、次の瞬間だった。

 

「見つけたぞえらばれし子供たちッ!!」

「やばい、メタルシードラモンだ!」

 

 俺たちは走り出すが、奴の方が速すぎる!

 

「みんなはズドモンに乗って! アタシがひきつけるわ!」

「リリモン!?」

 

 リリモンが時間を稼いでくれている。その間にズドモンにのり、逃げ出そうとするが――ほどなくして、リリモンは吹き飛ばされ、パルモンへと退化してミミちゃんの手の中に落ちてしまった。

 

「喰らえ!」

「ぐああああ!?」

 

 ズドモンが突撃を喰らい、俺たちも投げ出されてしまう。すでに海の上、下手をしたら溺れて――マズイ。カノンが気絶したままだ。このまま海の中へ沈んでしまうのではないか、そう思った時だ。海水が盛り上がり、中から何かが飛び出してくる。あれは――

 

「ホエーモンだ! 助かった、体内で守ってくれるぞ!」

 

 ホエーモンが俺たちを呑みこみ、内部へかくまってくれる。横を見ると、ヤマトがカノンを抱き留めていた。デジタマの方もパンプモンたちが必死に支えてくれている。この様子なら、全員ホエーモンの中へ入れるだろう。

 とりあえず、一安心と言ったところか。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 暗い暗い海の底。

 先の見えない道をひたすらに歩いていく。周りには何かの残骸が散らばっていた。もしかしたら、ここはデジモンたちの墓場なのかもしれない。

 だって、ムゲンドラモンの背負っていた大砲――∞キャノンと同じものをつけたデジモンの残骸が見える。他にも似たような機械が転がっているところを見ると、マシーン型デジモンの残骸だろうか。

 他には、巨大な砕けた骨や雷のような衣装を持った巨大な剣、何かのデジモンの武器や体の一部と言ったものが散らばっている。

 あの巨大な骨はどことなくグレイモンに似ているような気もする。

 

「……やっぱり、僕は死んだのかな」

 

 暗い暗い海の底。

 光も届かぬ暗黒の世界。ただ風だけが吹いていた。

 ひたすらに前を進む。諦めろ。もう無駄だ。何もすることはできないと僕の心にむなしい声が響く。

 前に進んでも辛いだけだ。痛い思いをするだけだ。助けられない命はあふれている。犠牲無くして先へ進むことは叶わない。

 マフラーの重みが増す。一つの命がのしかかる。それでも歩みをやめない。

 

「…………」

 

 僕たちが奪ってきた命がのしかかる。それでも歩みをやめない。

 かつて分かれた友達(女の子)の顔が頭をよぎる。それでも先へと進む。立ち止まる暇は無い。

 なぜ僕は前に進むのか。どうして戦うことをやめないのか。

 運命だからと言うのは簡単だ。でも、それが理由になるとは思わない。

 所詮、運命なんて選択肢の連続なのだ。どんな選択肢をとるかで未来は千差万別――だからこそ、自分の選んできた選択肢を恥じることだけはしたくない。

 辛いことも苦しいことも受け入れて進むんだ。

 僕が戦うのは善とか悪とかは関係なく、ただ己の正義に従って動いてきたから。だからこそ、最後まで貫き通すのだ。ここで立ち止まれば今までのことを裏切ることになる。それだけはもうしたくない。

 いつしか、ボレロの音楽と共に光が見えるようになってきた。光の向こう側には、二体のデジモンが立っていた。どちらも赤いマフラーをしているのが見えたが――片方が、黄金の鎧をまとった姿へと変貌する。僕が時折出現させたハンマーらしきものも持っている。もう片方は……逆光でよくわからないが、人型なのは間違いない。

 

「……まだそこまでは到達できないけど、いつかはたどり着くよ。だから、待っていてくれ――ってのもおかしいか。だってお前たちは――――」

 

 意識が浮上していく。僕が最後になんて言ったかはわからないが、嫌な気持ちは全くない。ただ、自分の中で何かが動いた気がする。

 ふと、マフラーを見てみると……彼らと同じ、深紅に染まっていたのだけはわかった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ひとまずえらばれし子供たちはホエーモンに連れられて無人島にやってきていた。体力の回復のため食料の調達をしつつ、体を休めていたのだ。

 ヤマトがハーモニカを演奏していたが、突然それをやめ、溜息をつき始める。

 

「はぁ……俺たちはダークマスターズに勝てるのか?」

「あんまりネガティブになるなよヤマト、気にし過ぎていたら勝てるものも勝てなくなるぞ」

「だが、メタルシードラモン一体にでさえ俺たちは手も足も出ないんだぞ」

「いえ――可能性はあります」

 

 そこで光子郎がパソコンを取り出しながらウォーグレイモンの情報を表示していく。

 

「ウォーグレイモンのドラモンキラーならばあるいは」

「ドラモンキラー?」

「なんだよそれ」

「ドラモン系のデジモンに効果のある武器です、ドラモン系のデジモンに対しては有効な武器で、彼らのデジコアに存在する竜因子に対してアンチコードが仕込まれていると推察されるのですが……」

「とりあえず、ドラモン系――つまり、メタルシードラモンとムゲンドラモンの二体に対して有効ってことだよな!」

「ええ、そう捉えてもらって構いません」

「よし! とにかく可能性が見えてきた――アグモン! お前の出番……だ」

 

 太一たちが後ろを振り向くと、なぜかデカい魚を丸呑みしているアグモンの姿が見えた。どうしてそうなったのかわからないが……コメントに困る光景であるのは間違いない。

 

「と、とにかく頑張れよ」

「――うい」

「大丈夫かよ……」

「カノン君も起きてくれていれば、なおのこと良かったのですが……ドルゴラモンは単純な破壊力で言えば僕らの中でもトップでしょうから」

「たしかに、あのパワーがあれば心強いが……でも起きそうにない――――!?」

 

 そこで太一が寝ているカノンの方を見ると、薄くだが目が開いているではないか。どうやら、起きたらしいが……反応が薄い。それに、なぜかマフラーの色が深紅に変わっている。

 

「カノン、お前起きていたのか?! いったいいつから……」

「ヤマトさんが弱音を吐いたあたりから、ですよ」

「……悪かったな」

「いえ、お気になさらず」

「――?」

 

 どこか様子がおかしい。そう思う太一であるが、何がおかしいのかわからない。別段嫌な感じはしないのだが、違和感だけが付きまとう。

 

「ドラモンキラー……確かに、メタルシードラモンとムゲンドラモンの二体に対して非常に有効です。メタルシードラモンはウォーグレイモンのサポートをしつつ攻撃のチャンスを作る立ち回りが重要になるでしょう」

「あ、ああ……」

 

 まだ寝起きだからだろうか、どこか淡々としているが――そう思って話しかけようとしたが、丈の叫び声で中断させられることとなる。

 

「うわあああ!?」

「みんなー! 敵が来るぞー!」

 

 ゴマモンが敵が来るという情報を持ってきたのだ。

 それだけではどういう事かパニックになる子供たちだったが、ホエーモンがすぐに補足を入れる。

 

「魚たちが後方200のところでメタルシードラモンの手下を見たそうです。ココもすぐに見つかるでしょう、すぐに私の中へ!」

 

 ホエーモンの言う通り、すぐに移動した方がよさそうだと子供たちはホエーモンの中に入る。

 そして、急速に潜航していった。

 

 

 

「おい光子郎、何しているんだ?」

「待っていてください……よしできた」

 

 ホエーモンの中、そこで光子郎はホエーモンと自分のパソコンをコードでつなぐことでホエーモンの視覚情報をパソコンに経由させることに成功していた。

 デジタルワールドでは情報が物質化をしたりと、物理法則などを無視した現象も意図的に引き起こせる。その性質を利用してこうした技もできるのだ。

 

「凄いじゃないか光子郎!」

「やってみてわかりましたが、カノン君の使う魔法も原理は同じですよね?」

「はい。光子郎さんの言う通り、僕の使う魔法もプログラムを組んで現実を拡張、もしくは書き換えているんです。なので、ここでは僕の力も現実世界以上に発揮できます」

「現実世界以上って……あれ以上をか!?」

 

 現実世界でも大分とんでもないことをしていたカノンだが、この世界では更に色々できるという。しかし先ほどから眉間にしわを寄せているのはなぜなのだろうか。太一が疑問に思ったとき、思いがけないところから答えが出た。

 

「うーん……耳が痛い」

「ヒカリ?」

「ああ、気圧が変化して耳鳴りが――って僕も痛いです」

 

 子供たちが全員耳を抑えている。どうやら、カノンもそのせいで眉間にしわを寄せていたようだ。

 

「お前、耳鳴りしているなら言えよ!」

「飛行機に乗ってもならなかったもので……」

「あるのか、乗ったこと」

「ハハハ。すぐに調節しますね」

 

 そうして、ホエーモンが気圧を調節してしばらくして――衝撃がやってきた。

 

「なんだ!?」

「――どうやら、見つかってしまったようですね」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 メタルシードラモンの手下――ハンギョモンに襲われるものの、ホエーモンの策により彼らを撒くことには成功した。ハンギョモンが追ってくることが出来ない深海へ逃げることによるものだ。

 

「どうやらうまくいったようですね」

「ふぅ……とりあえず助かったぜ」

「でもこれからどうするの?」

「……そうだ、ヒカリさん、ちょっといいですか?」

 

 光子郎がヒカリに耳打ちし、次の作戦を伝える。ヒカリも了承して、みんなに一礼してから大きく息を吸い込んだ。

 

「おい、ヒカリ?」

「――ッ」

 

 一気にホイッスルに息を吹き込み、音を響かせる。突然のことにみんなが驚いたが――やがて、光子郎が成功だ! と声を上げた。

 

「なるほど、ソナーですか」

「はい。この先に横穴を見つけました!」

「私も感じました。どうやら、地上へ続いているようです」

「……」

 

 口に手を当て、カノンは何かを考えている様子だが、子供たちは喜び出している――ほどなくして、振動が襲ってきた。

 

「なんだ!?」

「メタルシードラモンです!」

 

 揺れが強くなる。ホエーモンもメタルシードラモンを引き離すように進んでいき、やがて海面へと浮上した。子供たちもすぐにでて、光を浴びる。

 周りは静かで、メタルシードラモンも出てくる様子はない。

 

「ふぅ……風が気持ちいぜ」

「だな。それに、太陽に光がこんなにも気持ちがいいものだなんて知らなかった――おい、カノン!?」

 

 カノンが飛び出し――それに続いて、ドルモンも走っていく。みんなが止めようとするが、すぐにその理由が分かった。海面が盛り上がり、メタルシードラモンが飛び出してきたのだ。

 

「逃げられると思ったのか、えらばれし子供たち!」

「そんな――」

「みなさん、しっかりつかまっていてください! ハンギョモン達をなんとかします!」

 

 そうしてホエーモンが水をかき回してハンギョモン達を吹き飛ばしていく。太一たちがホエーモンにしがみつく中、カノンはドルゴラモンに乗ってメタルシードラモンの眼前にまで移動していた。

 

「ハッハッハ! 馬鹿め、たった一人で何ができる」

「…………さてね。何ができるかわからないし、物事には順序ってものがある。まあおとなしく待てよ」

「――――貴様、何者だ」

「それは自分にもわからない。ただ一つ言えるのは、お前の命運もここまでだメタルシードラモン!」

「下らん――消えろ!」

 

 顔にある巨大な砲口――しかし、それを使う前にしたからオレンジ色の閃光が突撃した。

 すでにウォーグレイモンへと進化をしており、下の方ではハンギョモン達を蹴散らしつつ子供たちが岸へと向かっている。

 

「ぐっ!?」

「硬いッ――」

「馬鹿め、俺はクロンデジゾイドで身を守っている。いかに強力な武器であろうと、そのような攻撃びくともせんわッ!」

「だったら――二倍で行こうか」

 

 とんと、軽くステップをするかのようにカノンがドルゴラモンからウォーグレイモンへ飛び移る。その際、ドラモンキラーへタッチしていた。

 

「カノン!?」

「ウォーグレイモンはとにかく突っ込んでくれ! 援護は任せろ!」

 

 それだけ言うと、浮遊を行いながらカノンは狙いを定める――ドルゴラモンへと。その光景に一瞬言葉を失うが、彼を信じてウォーグレイモンはメタルシードラモンへと突撃していく。

 何か嫌な予感を感じたのかメタルシードラモンもウォーグレイモンへ反撃し、彼を口ではさんでしまう。

 

「しまったッ」

「ハッハッハ! 愚か者どもめ! いかに策をうとうとも私の敵では――」

 

 その瞬間、メタルシードラモンの横っ腹に衝撃が走った。ホエーモンが突撃をしていたのだ。同時に、カノンからドルグレモンへ弾丸が発射された。強化データ(パッチ)を乗せた、一つの弾が。

 

「コピーアンドペースト! ドラモンキラーのデータだ! 受け取れ!!」

「喰らえ――ブレイブメタル!!」

 

 ドルゴラモンへ弾丸があたり、彼にドラモンキラーのデータが追加される。そのままドラモンキラーをコピーするのは一瞬ではできないが、対ドラモン用のコードは付与させることはできる。

 オーラに包まれながらドルゴラモンがメタルシードラモンへと突撃していく。下あごに直撃を喰らい、大きなダメージを受けていた。その部分はメタルシードラモンの数少ない、サイボーグ化がされていない部分。

 

「ガアアアア!?」

「トドメだッ、ブレイブトルネード!!」

 

 高速回転しながら、再びオレンジの一閃がメタルシードラモンを貫く。今度は自ら砲口に入り内側から破壊していく。メタルシードラモンの体から飛び出し、ウォーグレイモンが退化しながら落ちていった。コロモンとなった彼を太一はすぐさま受け止める。

 

「うお!?」

「目が回ったぁ」

「ふぅ……お疲れさま、コロモン」

 

 カノンとドルゴラモンもゆっくりと降り立ち――バチリと嫌な音を響かせて元に戻っていく。痛みもなかったため、少し困惑した表情を浮かべたが、ドルモンも何ともないようだ。

 

「とりあえず一勝ってところか――ホエーモンもありがとうな!」

「ええ、みなさんも無事で何よりです――しかし、メタルシードラモンが倒された今、このエリアは元に戻っていきます。このままここにいるわけにはいきませんが、みなさんの健闘をお祈りしております」

 

 それだけ言うと、ホエーモンは消えていくエリアに巻き込まれないよう海を下って行った。メタルシードラモンも消えていき、スパイラルマウンテンの頂上の方へとデータが流れて行っている。

 

「どうやら、ダークマスターズを倒すことでデジタルワールドは元の形へ戻るらしいな」

「そのようですね――カノン君?」

 

 ふと、光子郎がカノンが目を見開いていることに気が付いていた。確かに今のは驚くべき光景だが、自分たちは海のエリアの隣にいるため巻き込まれずに済んでいるのに――いや、彼が見ているのは違うものだ。

 自分のデジヴァイスをみて、愕然としているのだ。

 

「カノン君――そのデジヴァイス、いったい」

「……さっき、妙な感覚があったんで何か悪いことでも起こったと思ったんですが…………なんか、マズいことになりました」

 

 カノンのデジヴァイスに、大きなひびが入っていた。画面は割れ、その機能を停止させていた。

 どうやら、また一つ代償が生まれてしまったらしい。子供たちの旅はまだまだ前途多難となるだろう。

 




カノンのデジヴァイス壊れる。さて、どうなることやら……


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38.広がる懸念

アドゥラ君、これ以上風呂敷を広げてどうするんだい?


大丈夫さ、現状プロットの書き直しはしていないから。


 ダークマスターズの城、そこでピエモンはメタルシードラモンとえらばれし子供たちの戦いを見ていた。自分の予想以上に速く成長する彼らに一抹の不安は覚えるものの、ムゲンドラモンの戦力として配備したモノを思い出し、より重大なことへ思考が動く。

 

「0人目……やはり懸念通り、暗黒の力に呑まれていませんか」

 

 自分の攻撃を喰らった0人目――橘カノンは体の中に流れる暗黒の力の影響を感じさせていない。刺さったナイフが空気に融けるように消えたのは、彼の体の中へ流れ込んだからだ。傷が速く治ったのも、その暗黒の力が影響している。

 もしもピエモンが手に入れた情報通りに彼の中に眠っている力が覚醒の兆しを見せていたのならば、体内に入り込んだ暗黒の力と反発しあって今頃は暴走を起こしていたハズであるのに……

 もっとも、彼自身は暗黒の力の影響がなぜか出ていないが――彼のデジモンは別だ。さて、今までドルモンが倒した暗黒のDNAを持ったデジモンは何体いただろうか。これまでに蓄積された経験はどのようなものだっただろうか。その影響は確実に現れている。

 予想外の方向からであったが……状況が一つ好転したことにピエモンは笑みを浮かべる。

 

「イリアスの守護者……彼の者の力が出てこなくなったことを喜ぶべきなのか、未知の存在が生まれようとしているのを懸念すべきか――まあ、状況は私たちにとっていい方向へ動いたようですし、ひとまずはピノッキモンに任せるとしましょうか」

 

 えらばれし子供たちが次に向かったのはピノッキモンのいるエリア。彼は0人目のデジモンに吹き飛ばされたことを根に持っており、彼を執拗に狙うだろう。今の彼に何が起きているのかを計るにはうってつけの状況だ。

 となれば――自分はもう一つの懸念を見に行くことにしよう。

 ピエモンはすぐさま行動を開始した。向かうのは自分のエリアに取り込んだ古代遺跡。かつて、デジタルハザードを起こしたと伝えられる魔竜の眠る遺跡だ。

 

 ほどなくして遺跡にたどり着いたピエモンであるが、この場所には進んできたきたくはないと思う。遺跡の入り口に描かれているデジタルハザードの紋様。この力は暗黒とは異なり、善でも悪でもない。ただ純粋に災害そのものと呼ぶべき力を持つ者にのみ刻印されるもの。

 

「……やはり封印がとけている」

 

 遺跡の中に入り、地下へと進んでいく。それほど大きな場所ではなく、情報によれば中には魔竜そのもの、あるいは魔竜であったデジタマが眠っているハズなのだが――最深部にある祭壇には何も残っておらず、デジモンの気配もない。

 懸念が現実になったわけではあるが……この祭壇には封印がされていてたどり着くことが出来なかったのだ。だからこそ、この場所の大きさを直に目にすることで最悪の予想が外れてくれたことにもほっとしていた。

 

「どうやらデジタマの状態で封印されていたようですね。暗黒の力の影響でデジタマがいずこかへ流れて行ってしまったようですが……少なくとも、今すぐにどうこうなるわけでもなさそうだ。いずれ捜索はする必要はあるかもしれませんが……」

 

 デジタマが必ずしも伝説に聞く魔竜になるわけでもない。あくまで可能性の問題だ。だからこそ、今起こっている問題に対処しなくてはならない。

 戦力をそろえ、奴らを迎え撃つ準備が必要なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 その様子を一体のデジモンが見ていることにも気が付かずに――緑色の忍者のような影が、じっと彼を見つめていた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 デジヴァイスが壊れてしまった。うんともすんとも言わず、いつもの感覚でドルモンを進化させようとするが……まったく反応が無い。

 何が原因かは分からないが、どうやら壊れてしまったらしい。

 

「どうするかなぁ……」

「大丈夫だよね、おれ進化できるよね!?」

「うーん……原因を突き詰めている時間はなさそうだし、デジヴァイスを介していないアーマー進化なら何とかいけると思う」

「と、とりあえず何もできないなんてことにはならなそう……究極体になれないのは辛いけど」

 

 ドルモンが落ち込んでいるが、僕もどうしてこうなったのか知りたいところだ。というか今襲われたらヤバいな。残ったダークマスターズと、このエリアの構造から推察するにピノッキモンが支配するエリアだろう。となると……狙われてそうなんだよなぁ……

 目の前で戻っていくエリアを眺めつつ、そんなことを考えていると――何やらもめ事が起きたようだ。

 

「もう嫌、なんで私たちが戦わなくちゃいけないの!」

「ミミちゃん……」

「みんな危ない目に遭って、ピッコロモンだって死んだわ、それにウィザーモンも……カノン君だって、危なかったのよ」

 

 おおう……引き合いに出されると辛いものがある。まあ、無茶をし過ぎているのは自覚しているが……無茶をしないと犠牲も大きかったであろうことも事実だ。実際、僕がナイフで刺されていなければ、間違いなくチューモンが死んでいただろう。良かったとは決して言えないが、最悪の事態にはならなくて済んだことは間違いないのだ。誰も指摘はしないが、最悪の事態とも言うべき僕のデジヴァイスの故障だが……

 漠然とだが、デジヴァイスが壊れたことと僕が刺されたことは無関係だというのは分かる。となると、止めを刺したのは最後のデータ付与か?

 ヤバい。結局自分の無茶じゃないかよ。

 

「それでも前に進まなきゃ、ピッコロモンたちのことが無駄になっちまうだろ!」

「たしかに太一の言っていることは正しいよ。でもな、正しいだけじゃ割り切れないんだよ! もう少し考えることが必要な時だってあるんだ!」

「だからって立ち止まっていたらそれこそ――」

「ああもう! そこまでにしてくれよ! どちらにしろこのままこの場にとどまっているのはマズイ。とりあえず目につかない場所まで行こう」

 

 なんだか不協和音が聞こえるというか……比較的冷静なのは、丈さん、光子郎さん、空さんってところか…………しかし、空さんは不和の起きている間を取り持つ性格だし、そのうち危ないかもなぁ……

 太一さんは正論ばかり言っているが、ヤマトさんの言う通り正論じゃ納得できないこともある。正論は正しいからこそ、追い詰めてしまうこともあるのだ。

 

「というわけで、光子郎さん……デジヴァイスを直せる人っていますかね」

「その問題もありましたね……ドルモンは進化できそうなんですか?」

「アーマー進化は実のところ、僕がデジメンタルを起動させて使っているのでそちらは問題なくできます」

 

 ある程度の制御はデジヴァイスで行っていたのだが、ここがデジタルワールドなのが幸いした。デジヴァイスで行っていた補助をこの世界のリソースを利用して代用できそうなのだ。

 直接の戦闘には不安が残るが、フレイウィザーモンによる魔法やサンダーバーモンによる飛行などできることも多そうだ。

 

「ところでカノン君、左腕大丈夫ですか?」

「何がです?」

「いえ……先ほどから動いてませんけど」

「――――え」

 

 痛みが無かったから気が付かなかった。だらりとぶら下がっており、上手く動いていない……すぐに丈さんに見てもらうと、痛覚は通っていたからナイフの刺さり所の問題らしい。どうも、関節が外れているような状態みたいだ。とりあえず、はめ込むように動かしてもらうと――痛みが走った。流石に叫ぶほどじゃなかったが、とりあえず動きはするようになったものの、痛みが走り続けている。

 

「どうしたものか……」

「とりあえず、この飛行帽で腕を吊りますか。これなら頑丈だし」

 

 ゴーグルだけを取り外して、飛行帽を改造して腕を吊るために使う。いやぁ、流石データで構築されているだけあって、この世界だと魔法でこういったものをすぐに改造できて便利である。

 まったく別の物へ変えるとかはできないんだけどね。

 

「なるほど、構造体の情報の一部を書き換えたんですね……まさかここまで出来るものだとは」

「デジタルワールドだからこそですよ。現実世界じゃここまでうまくはいきません」

 

 しかし……いつもなら太一さんあたりがスゲェと言い、ヤマトさんも口には出さないが驚きの表情を浮かべているんだけど……だめだ。色々と頭の中で考え込んでいて見ていない。

 ヒカリちゃんの呼びかけにも答えないし――と思っていると、ヒカリちゃんが急に立ち止まった。

 

「どうしたのヒカリちゃん?」

「今何か聞こえなかった?」

「ヒカリ、何が聞こえたんだ?」

 

 テイルモンもやって来て、尋ねるが……何が聞こえたのだろうか。

 ドルモンも首をかしげているし。何の気配もしないのだが。

 

「なにか、人の声みたいなのが聞こえたような……」

「人の声ねぇ」

 

 何も聞こえな――何かノイズが走ったような気がした。一瞬だが、予知夢を見ていた時のような感覚が訪れる。しかし、すぐにそれもおさまり何事もなかったような気さえしてくる……

 

「気にしても仕方がないか、とりあえずみんなとはぐれるといけないから行こうか」

「うん」

「人の声なんて聞こえました?」

「全然」

 

 どうやら光子郎さんと丈さんは何も感じなかったようで、ヒカリちゃんだけに聞こえた声のようだ。僕のあの感覚と合わせて考えるのならば……情報が足りない。結局考えても仕方がないことなのだろう。

 太一さんたちと合流すると、ヒカリちゃんがはぐれそうだったことに怒ろうとしていたが、丈さんたちの姿をみて言葉を呑みこんでいた。まあ、一人にならないのならと言ったところか。

 と、そんなことを考えていると――突然地面が前に進みだした。まるで、ベルトコンベアのように。

 

「な、なんだ!?」

「地面が動いているんです! まるでどこかに出荷されるみたいに!」

「縁起でもない表現するな! とにかく横に跳ぶぞ!」

 

 全員で横に跳ぶと、なんとか一安心――なんて暇もなく、今度はこちらの地面が動き出した。

 

「これは間違いなく、この先に敵が待っているんだろうな」

「だまって敵の思うつぼにはまるのか」

「まあそうでしょうねぇ……今進化できるのって誰がいたっけ」

 

 コロモンはしばらく無理っぽいから、ウォーグレイモンはダメ。僕たちもデジヴァイスの不調がなくともエネルギー足りない。

 ゴマモンも海辺では結構戦っていたみたいだから無理そうだし……

 

「たぶんピノッキモンのエリアですから、炎系で一気に燃やしに行くのが効果的なんだけどなぁ」

「か、カノン君が黒いこと言っている……」

 

 おおっと、自重自重。さてと、一番いいのは体力の回復を行うことだが――どうやったら前に進まずに済むかだ。

 

「光子郎さん、どう思います?」

「地面にセンサーがある――いえ、もしかしたら監視カメラのようなものがあるのかもしれません。それでこちらを見ていて、飛び移ったあとに地面を動かしたと考えられます」

「なら賭けになりますけど、手が無いわけじゃないです」

 

 他にも数人は思いついているらしく、木の上を見ていた。まあ、となるとやるべきことは一つと言うわけですぐさま全員で木の上に登っていく。できるだけ木の葉が身を隠してくれそうなところにいくが、ヒカリちゃんやタケル君は登りづらそうにしている。パンプモンとゴツモンがすぐにフォローに入ってくれてよかったけど……

 しかし、デジタマもあるから登りづらくてかなわない。

 

「それでも登り切るんだね……垂直に木を歩いて」

「足の裏を吸盤みたいにしてみた」

「もはや何でもありだなお前」

 

 そこまで言われるとへこむのだが。

 しばらくすると、何度か地面の動く場所が変わっていった。隣のラインが動き出したところで変更は行われなくなり……どうやら向こう側は見失ったみたいだな。

 

「こんなことをするのって……」

「ダークマスターズの一人だろうな」

「メタルシードラモンの例からするにピノッキモンだとは思いますけどね。周りが木だらけですし。それに、他の二体がこんなやり方しますかね」

 

 見た目の印象が多くなるが、ムゲンドラモンは機械系のデジモンだ。植物だらけのエリアにいるとは思えない。まあ、ベルトコンベアで機械系と判断できなくもないのだが……なんか違う気がする。

 ピエモンの方だが……ダークマスターズのリーダーっぽいし、いきなりこういう事をする奴でもないだろう。むしろ頂上で待ち構えているようなタイプと見た。

 

「誰が待っているにせよ、敵に向かって歩いていたってことなんだよなぁ」

「丈さんの言う通りですけどね。ま、対策を立てられるだけマシってことで」

「確かに、カノンが言った通りだ。それにいつかは立ち向かわなくちゃいけないんだ。おんなじことさ」

「分かっているよそんなことは!」

 

 太一さんの言葉にすぐさまヤマトさんが反応した。最初に爆発していたのはミミさんだが、それはある意味いつも通りの光景だ。ミミさんの場合は素直に今思ったことを話し、行動する性格だ。ただいつも通りであったのだが――その言葉にヤマトさんの中で溜まっていたものが爆発してしまったのだ。

 彼がどんなことを悩んでいるかは知らないし、僕が何かすると余計にこじれてしまいそうでもある。

 

「お兄ちゃんたち、喧嘩しないで!」

「……タケル」

 

 なんとかタケル君が止めてくれたが、根本的な解決にはならないだろう。

 

「このまま何もしないわけにもいかない。敵がどこにいるのか突き止めよう」

「太一、ちょっと待てよ!」

「お兄ちゃん!!」

 

 太一さんが行動を起こそうとし、ヤマトさんが反発する。それをタケル君が止めようとして……これ、泥沼になるだろうな――そう思った時だった。太一さんの姿が一瞬で掻き消えてしまったのだ。

 ……え、何事?

 




変なところで次回に続く形に。

そして今回、妙なネタを盛り込んでおります。


デジヴァイスの壊れた原因やのちのことを予想した方もいましたが、これは突然起きた問題ではないのです。冒頭でピエモンが言っていた通りの話。
つまり暴食さんの懸念は……


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39.無邪気な悪意ピノッキモン

しばらく仕事が忙しくなりそうなので更新ペース落ちるかもしれません。


 いきなり太一さんが消えてしまい、何事かと思ったが……まさかとは思うが、位置情報を無理やり書き換えられている? え、そんなことできるの? こんな簡単に?

 と、混乱していると次々にみんなが消えて行って――やがて、僕も飛ばされてしまう。

 突然引き起こされるためすぐには対処できないのが悔やまれるが……とにかくどんな状況になってもすぐに対処できるようにしよう。とりあえずドルモンは掴まえておいたから一緒に転送されたしな。

 

「――カノン何してくれてんの!?」

「道ずれじゃあ!」

 

 空中に投げ出され、お互いにそのまま落下していく。あっはっは。こりゃ相当恨まれているな。間違いなくピノッキモンが相手だろう。うん。

 幸いなのはデジタマは体勢を直すのにパンプモンに預けたから体が動かせることだろうか。

 

「冷静に考察している場合じゃないでしょ! なんでおれまで巻き込まれているんだよ!」

「スカイダイビングとか初めて」

「そのうちママさんにやらされると思っていたけどねおれは!」

 

 まあドルモンの言う通り、母さんならやりかねないわけだが――さて、無駄話もそのぐらいにしておこう。別に空中に投げ出されたからといって何もできないってことにはならないんだけど……ドルモンと離れ離れになるのはまずいし、とりあえずゆっくりと下降していく。

 とりあえず近場の木に降りたが……さっきから変なリンクを貼られたような感覚がある。これ以上の干渉を受けないようにプロテクトしていくが、地味にきついな……ピノッキモン自体が持つ能力じゃないのか、ブロックできているだけマシか。

 

「カノン、何か聞こえない?」

「……なんか揉めてる?」

 

 ちょっと距離があって何を話しているのかは聞こえないが……どうやらヤマトさんとタケル君が揉めているみたいだ。珍しいこともあるなと思ったが――今の状況なら当たり前か。

 ヤマトさんはこの状況下でいつも以上にタケル君を心配している。しかし、タケル君自身も自分の意志がはっきりと出ているようになっているのか、過剰なまでに自分を心配する兄を訝しんでいる。

 

「これは……まーた不協和音」

「どうするの?」

「兄弟の問題に口出しするのはなぁ……」

 

 と、そこであーそーぼ、などというけったいな声が聞こえてきた。

 うん……間違いなく奴が来たのだろう。さて、本当にどうしたものか。気配がたどり難いし、なんて考えているとすぐに奴が現れた。

 

「バァ!」

「う、うわああ!?」

 

 タケル君の背後にいきなり現れ、軽業師のように跳んで一回転してから着地する。身のこなしは思ったより良さそうだな……

 

「タケル、大丈夫か!?」

「う、うん」

「へぇ……タケルって言うのか。ねえ、ボクと一緒に戦争ごっこしようよ」

「戦争ごっこ?」

「そうだよ。君にはこれを貸してあげるからさ」

 

 そう言って、ピノッキモンは何かを取り出すとタケル君の方へ投げ渡す。ってあれ本物のサブマシンガンなんじゃ……タケル君も重くて落としてしまい、その拍子に弾丸がばらまかれる。笑えねぇ……

 

「これ本物じゃないか!? こんなの使ったら死んじゃうよ!」

「そうだよ。だから面白いんじゃないか」

 

 そう言うと、ピノッキモンは無邪気に笑う。悪いことを悪いと思わず、本当に無邪気に笑っているのだ。

 

「でも安心してよ。すぐには殺さないから。だって、すぐに死んじゃったらつまらないもんね」

 

 いっそ狂気すら感じるが、彼は本当にそれが悪いことだとは思っていない。考えてもいない。初めから、それが悪いことだという認識が存在していない。

 無邪気ではある。だが、決定的に何かが間違っている。

 これはまずいと気配を殺しつつ奴へと近づいていく……一応母さんに使い方は聞いたことがあるし、身体強化をかければなんとかなりそうだな…………出来れば銃を回収しておきたいところだ。

 

「タケル、こんな奴のいう事なんて聞くな!」

「なんだようるさいなー。お前は関係ないだろ!!」

 

 ピノッキモンが投げたボールが弾けて、ヤマトさんをからめとる。縄で簀巻きにしてしまい、完全に動きを封じてしまった……まずいな。下手に近づけないぞ。

 本当にヤバくなったらケンキモンあたりで突っ込むしかないかと思っていると、すぐに状況が動いた。

 

「来ないんなら、つまらないし……コイツ、殺しちゃおっかな」

「……わかった、行くよ」

 

 そう言うとタケル君はピノッキモンへついていってしまう。銃を持って行ってしまって……ああ、回収したかったのに。

 さて、ヤマトさんを助けてついていくのがベストなんだが……今のヤマトさんの精神状態だとかえって危なそうだし…………助ける。ヤマトさん話を聞かずすぐに突撃する。ヤマトさん返り討ち、もしくはタケル君が撃たれる。

 

 さて、そのままにしていくか。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ピノッキモンの……こう、アートな家ですね。というか結構大きいな……他のデジモンもいる可能性が高いし、隠れてこそこそと移動しているわけだが……

 ピノッキモンとタケル君が一騎打ちしている――しかし、タケル君が銃を撃てるわけもなく、ピノッキモンはその様子を笑いながらバンッと声で銃を撃った振りをする。

 

「うわあ!?」

「あはは! さあ早く逃げないと本当に撃っちゃうよ!」

「に、逃げればいいんだろ!」

 

 そう言うとタケル君は走って行ってしまう――しめた。銃は置いて行ってくれた。すぐさま回収して、二人の後を追いかける。

 曲がり角も多くて見失いそうだが、どうやらどこかの部屋に入ったらしい。ピノッキモンと部下と思しきデジモンの会話が聞こえてきた。

 

「タケル見なかった?」

「あちらの棚の奥に隠れました」

「そっか…………なんだよ、いないじゃないか。この嘘つき!」

 

 そう言うと、二回ほど銃声が聞こえてきた。ばれないように見ていたが……二体のデジモンが、消え去っていくのが見えていた……どうやら、ピノッキモンに射殺されたらしい。

 無邪気とは思っていたけど、ここまで来るとホント笑えない。まるっきり子供の癇癪だ。それも自分がやっていることが悪いことなのかどうか判別の付けることが出来ない、とても幼い子供の思考。

 恐ろしいのはその思考でありながら、究極体ってところか……ヤバいなマジで。ある意味一番厄介な相手じゃないか。

 

「あ、見つけたー!」

 

 タケル君はどうやらすぐに走り出していったようだ――だったら、ここらで撃っておくか。サブマシンガンを構え、タケル君の横へ飛び出す。彼は驚いていた表情をしていたが、近くの部屋に入っていく。とりあえず、弾をばらまいてピノッキモンの目をくらませて僕も離脱しておいた。

 一応、曲がり角を利用したから見つかってはいないと思うけど。

 

「なんなんだよいったい!」

 

 さてと、すぐに見つかるだろうし速く出ないと――ただ、この部屋が妙に気になるんだよな。みんなそっくりの人形があるし……

 ピノッキモンの様子から、タケル君が撃ったと考えているみたいだし……すぐに行動した方がよさそうだ。

 

「カノンさん、どうしてここに!?」

「静かに。あと、別にさん付けじゃなくていいから。まあ、ずっと木の上から見ていたからね……さてとあのガキどうしてくれようか」

 

 正直勝てる可能性が低いし、どうしたものか悩んでいるんだけど……

 

「ガキ?」

「子供ってこと。まるっきり僕らよりも小さい子供の考え方だからね。幼稚園児かそれ以下って感じの。できればアイツが自分からこの場から離れるようにしたいんだけどね」

「なら、ボクにいい考えがあるよ」

 

 そう言うと、タケル君はこちらをじっと見つめてきた――自分より小さいタケル君に任せてもいいのかと考えたが、この子だってデジタルワールドを冒険してきたんだ。

 だったら、信じてみるか。

 

「危なくなったら援護するけど――任せたよ、タケル君」

「うん!」

 

 そう言うとタケル君は飛び出していく。ドルモンはとりあえず、ここに待機。この部屋をみて彼も思うところがあるらしく、少々いじっている。

 

「謎解き任せた!」

「まあ、わかりやすいけどね」

 

 ドルモンの言う通り、ピノッキモン(子供)が使うための物だからか、わかりやすい仕掛けだ。凶悪だけど。

 さて、タケル君はと言うと……ピノッキモンが銃弾を撃ってくるのをかわしていた――いや、奴に当てる気はないのか。まずいかなと思い銃を後方から構えているが――弾切れになる。

 タケル君はチャンスと見たのか、すぐに口を開いた。

 

「あーあ、なんだか飽きちゃった」

「――え」

 

 思わず僕もピノッキモンと同じような顔になりそうになった。しかし、すぐにタケル君の意図が読めた。なるほど、その手があったか!

 

「だって君ワンパターンなんだもん。同じことの繰り返しでつまんないよ」

「……ボク、つまんないって初めて言われた」

「ええ、ホントにー? あ、もしかして友達いないんじゃないの?」

 

 おおう……結構煽るなタケル君。案外腹黒いんじゃないだろうか彼。

 

「い、いるさ友達ぐらい!」

「じゃあ紹介してくれる?」

「……そ、そのうちに」

「そのうちじゃなくて今紹介してよ」

「…………わかったよ! 連れてくるから待っていろよ!」

 

 そう言うと、ピノッキモンはどこかへ行ってしまった……予想以上に上手くいったな。

 

「ふぅ」

「やったな、タケル君。とりあえずさっきの部屋に――」

「その必要はないよ!」

「ピノッキモンの使っていたおもちゃは壊してきたよ!」

 

 ドルモンがすぐさまやってきたのだ。しかも、パタモンも引き連れて。どうやら、タケルを探しにここまで来たらしい。戦力が増えたのはありがたいことだ。

 とりあえず、すぐにこの家から脱出しよう。ただ、家を出た後デジモンが二体ほど僕らを見ていたと思ったのだが……普通に見て見ぬふりしてたな。もしかして、ヴァンデモン以上に人望がないんじゃ…………いや、確実にないか。あの性格なら。

 

 

 しばらく走ると、ヤマトさんが声を荒げている様子が見えてきた。何だか揉めているようだが、とりあえず全員無事みたいだな。

 

「おーいみんなー!」

「タケル!? 無事だったのか!」

「うん」

「カノンも一緒にいたのか……お前が助けてくれたのか?」

「ちょっと手を貸しましたけど、タケル君一人でも大丈夫だったかもしれませんね、最後は彼のアイデアで脱出してきましたし」

「凄いじゃないかタケル!」

「え、えへへ」

 

 喜ぶタケル君とは裏腹に、どこか意気消沈した様子のヤマトさん。タケル君の無事を喜ぶかとも思ったのだが――想像以上に根が深い問題になったみたいだ。

 

「動く地面とかの仕掛けも壊しておいたよ! あと、この人形でみんなを操っていたみたい」

 

 いつの間に持ってきたんだタケル君……キッチリ全員分あるな。変に触って怪我でもしないようにリンクは解除しておくか。ちょっとデータをいじるだけでそのぐらいはできるし――よし、大丈夫。

 

「凄いじゃないかタケル君」

「しっかし、変なところで芸が細かいというか……」

「ミミちゃんの人形結構似てるわね」

「えー、私こんなに不細工じゃないわよ。でも、お土産にちょうどいいかも」

 

 と、そこで僕も思わず目を放してしまっていたが……タケル君が気が付いた。

 

「お兄ちゃんは?」

「ヤマトなら、さっきアッチに……あれ?」

 

 丈さんが指さした方は、森が広がるのみであった。

 すぐに全員で探すが見つからない……何度も呼びかけるが反応が無いのだ。

 

「ヤマト、どこに行っちまったんだよ」

「もしかしてピノッキモンにさらわれたんじゃないの?」

「可能性はありますね」

 

 光子郎さんが同意し、今すぐにピノッキモンのところへ向かうことになりそうだと思われたが、丈さんが待ったをかける。

 

「いや、それは違うと思う。僕、ヤマトが離れていくのをみていたんだ」

「なんですぐに言ってくれなかったんだよ」

「用を足しに行ったのかと思って……ごめん」

「……まあ、いいか。少なくともピノッキモンにさらわれたわけじゃないみたいだし」

「だとしたらどこに行っちゃったんだろうね」

 

 アグモンの指摘通り、どこへ行ってしまったのか……まあ少しみんなから離れたかったんだろうとは思うが…………これはあの時すぐに助け出して一緒にタケル君のところへ行ったほうが良かったか? いや、やっぱりあの時は余計にこじれていただけだろうし……過ぎたことを考えても仕方がないか。

 

「――え」

「声?」

「二人とも、どうかしたのか?」

「また声が聞こえた」

「ヒカリ、本当か? ヤマトの声か?」

「……」

「……空耳か」

「でも、まだ近いのかもしれませんね、ヤマトさん」

「かもな。とにかく探すしかないか」

 

 すぐに、移動が開始する。しかし、僕とヒカリちゃんはその場から動けずにいた。

 今度は僕にも聞こえた。ハッキリとではないが、確かに誰かの声が。

 

「ヤマトさんじゃない……」

「……なんだろう、何かが引っかかる」

 

 聞いたことがあるわけじゃない。だが、この声が何なのか僕は知っているような気がするのだ。

 結局、考えたところで答えは出ないのだが。

 また一つ問題が増えた感じかなぁ……目先の問題だけでもいくつあるんだって話だよ。ホント、嫌になる。

 




以下、ボツシーン


「なんで銃を撃てるの!?」
「ハワイでおふくろに習ったんだ!」


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40.すれ違い狂想曲

ヤマト側の話はまるまるカット。ほとんど原作と変わらなかったので。


 さて、ヤマトさんがどこに行ったのかはわからないがとりあえず探すことに。とにかく前進あるのみと言う感じで、太一さん先頭の元先へと進んでいるわけですが……正直疲れた。

 

「俺たちは9人そろっていないとダメなんだ」

「でもみんな疲れているよ、ここらで休憩にした方が良いと思うけど」

「丈さんに賛成です。それに、8人と1人ですのでそこのところお間違えないように」

「前から思っていたのですが、何故カノン君だけ例外なのでしょうか?」

「さぁ……そろそろ説明してくれてもいいころだろうに」

「カノン君?」

 

 チラチラと見てきている割には、じれったい……ヤマトさんもそろってからってことかね? となると結局見つけなきゃいけないわけね。ハァ、疲れる……

 

「そろったからってどうにかなるの…………」

「ミミさん?」

 

 なんかこっちもダウナーな雰囲気だな、と思っていると嫌な笑い声が聞こえてきた。そういえば何とかは高い所が好きっていうよな……木のてっぺんに人影が見えるよ。

 

「見つけたよ、タケル」

「なんだよ、ボクもう君とは遊ばないよ」

「いいさ、こっちも遊ぶ気はないから――やっちゃえお前ら!」

 

 その合図とともに、三体のデジモンが現れる。バケツの中に入ったピンク色のナマモノ。ガーベモン、完全体ね……えぇ、あれでも完全体なの? と、思ったがパンプモンの例もあるし完全体でもそれほど強くはないのかもしれない。

 

「カノンが失礼なことを考えている」

「顔に出てたか?」

 

 うんと頷かれるが、そうか……顔に出てたか。

 くだらないことを話していると、ガーベモンがバズーカを構えてくる――なんだろう、このくだらなくも嫌な予感は。

 

「ウンチバズーカ!」

「なんだその技は!?」

 

 思わず突っ込んでしまったが、奴の構成情報で少し納得した。どうやらトラッシュデータというかパソコンのゴミ箱機能のデータが基となったデジモンらしい。だからゴミデータを射出してくるわけか……

 そんな考察もそこそこにとりあえず逃げる僕たち。しかし、ミミさんだけがなぜかそのまま動かずに立っていた。

 

「ミミちゃん!?」

「――ッ」

 

 そのまま顔を上げて、あろうことか発射されたピンク色の汚物を鷲掴みにしてしまったではないか。あまりの出来事に口をあんぐりとさせるが……あ、目が据わっている。というかさっきまで落ち込んでいましたよね貴女!?

 

「何よこんなもん! いい加減にしてよね!!」

 

 そのままガーベモンへ汚物を投げ返すミミさん……空さんが引っ張ってくるが、敵も唖然としていて動くことが出来ていない。うん、仕方がないと思う。

 しばらく逃げたら普通に奴らも追いかけてくる。仕方がない、ここは応戦するしかないか。パタモンとドルモンを除くみんなが成熟期に進化し、応戦しようとするが……

 

「アイツら完全体ですよ!」

「マジかよ……でも、全員でかかれば」

 

 奴らもお互いに背を預け合って回転しながら汚物を発射してくるが、こちらも包囲しながら必殺技を放っていく。しかし、そう簡単に上手くいくとも思えない。とりあえず上のがうるさいから目ん玉に銃弾を撃ちこんでおく。

 

「目がぁ!? 目がぁああああ!?」

「カノン……お前、エグイな」

「そうですかね。それよりも来ますよ!」

 

 地面を掘り進んでいたらしきガーベモンたちが後方から出現する。腐っても完全体、速いな。

 そのバズーカがミミさんに迫るが――

 

「ミミちゃんアブナッ――うわあ!?」

「チューモンが投げ飛ばされた!」

 

 小さいからミミさんがもっていたチューモンを突如、こちらへ投げてよこした。僕は手が塞がっているので太一さんがキャッチしてくれたが……ああ、完全にキレているなあの人。

 

「もういい加減にしなさいよ!!」

「トゲモン超進化――リリモン!」

 

 リリモンへとすぐさま進化し、ガーベモンへと迫る。ガーベモンもうまく連携しており、正面からぶつかり合った一体の後ろにもう一体が隠れており、更に三体目も後方から追撃の準備に入っていた。

 ってあの陣形って……

 

「ジェットストリームアタック!? どこで覚えたんだよそんなもの!」

 

 案の定、一体目をかわしたときに二体目が現れるわけだが、すぐさま一体目を踏み台にして飛び上がったリリモンである。

 

「俺を踏み台にしたぁ!?」

「フラウカノン!」

 

 一体がやられる。さて、とりあえず援護射撃で撃とうとするが……弾切れか。捨てておこう。見ると、メタルグレイモンが対処してくれているし……ギガデストロイヤーと汚物砲では威力が雲泥の差だった。もういっそかわいそうなくらいである。

 あともう一体いたのだが、そっちもそっちでかわいそうなことになっていた。

 

「メガブラスター!」

「メテオウィング!」

「アングリ―ロック!」

「トリックオアトリート!」

「ハイパーダッシュメタル!」

 

 袋叩き……それでもしぶとさだけはすさまじく、ガーベモンはすぐさま逃げていった。あと横目で見ていたが、爆風で流れた汚物がピノッキモンの顔にヒットしているのが見えた。アレは嫌だろうなぁ……

 とりあえず追撃した方がいいかと思っていると、凍えるような息吹がガーベモンを襲った。

 

「これは……メタルガルルモンの?」

 

 光子郎さんたちの話だと、紋章が反応しなくなっていたらしいが……ヤマトさん、心の問題を克服したのか? しかし、あの瞳は明らかに危険な色をしている。ミミさんは色々なことが起こり過ぎて落ち込んでいたという感じだが、いつも通りの彼女でもある。

 しかしヤマトさんの瞳は据わっているどころではない。太一さんを睨みつけるように見続けていて、今にも一戦交えようという空気だ。

 

「……太一、俺と戦え」

 

 あちゃ……マジか。

 

「お、おいヤマトどうしたんだよ」

「そうだよメタルガルルモン、そんなに怖い顔をして」

「アグモン、究極体に進化しろ」

 

 しかしいくらなんでもここまでこじれることはないだろうに……誰かに何かを吹き込まれたか? ありそうではあるが……元々悩んでいたところに付け込まれたってところか。ガブモンが進化しているし、太一さんの話に聞く暗黒進化でもないってのが質悪いなぁ……間違ってないってことだよねコレ。

 

「や、ヤマト冗談はよせよ。なんで仲間同士で戦わなくちゃならないんだ」

「仲間?」

「そうだよ、えらばれし子供たちの仲間だよ」

 

 丈さんがヤマトさんを諫めるが、彼はフッと笑っただけで気にも留めていない。これは言っても無駄かも知れないな。

 

「じゃあ聞くが、誰が選んだんだよ」

「そ、それは……」

「誰が選んだかもわからないのに、仲間だって言えるのかよ」

 

 一緒に旅してきて、困難に打ち勝ってきて、ここまで来た。それだけで仲間と言っていいと思う。しかし、今それを言っても意味はないだろう。今のヤマトさんは正論を受け付けることが出来ない。それはこれまでの行動を見れば明らかだ。

 

「まったく下らねぇ。ようするにいじけているだけだろ」

「へぇ、太一は凄いな。俺には自分のことがわからないのに、お前にはわかるんだな」

 

 太一さんがぶつかり、ヤマトさんもそれに反発する。互いに平行線。いや、衝突しているが正しいだろうか。

 

「二人とも、その辺にしておきましょうよ」

「俺に言うなよ。ヤマトが突っかかってきているだけなんだから。俺はこんな奴相手にしない」

 

 そう言って、太一さんがこの場を離れようとするが、メタルガルルモンが太一さんの前に立ちふさがる。

 

「そうはいかない」

「太一、俺と戦え!」

「だから戦わないって言っているだろ! わかんないやつだな」

「――わからないのはお前たちだ!」

「…………本気か」

「太一、下がって!」

 

 アグモンがメタルガルルモンを睨み――ワープ進化を行う。すぐさまウォーグレイモンへと進化が完了し、二体が激突する。

 せめて僕らも究極体に進化できれば間に入って止めることが出来るって言うのに……

 ただ、僕らに被害が来ないように空中で戦ってくれているのはありがたいが。太一さんは無言でいたが、やがてヤマトさんの前に歩いていく。

 

「やっとやる気になったか――ッ」

「オラぁ!!」

 

 一発、ヤマトさんの顔にいいパンチが入った。

 続けてもう一発。

 

「俺がなんで殴ったかわかるか、ヤマト」

「俺たちもやろうってんだろ」

「――この、バカ野郎!」

 

 何度もなぐり合う二人。太一さんの性格なら、殴った理由はあらかた見当がつくが……ああアホらしい。これはスッキリするまでなぐり合った方が後々いいかもしれない。

 これ止めたら被害受けそうだから適当な木にでも背中を預けておこう。

 

「二人ともやめなさいよ! 太一、やめて!」

「分かってないぜお前ら……これは俺たちが犠牲にしちまったデジモンたちの分だ、ピッコロモン、ウィザーモン……他にもたくさんのデジモンたちが死んでしまっている。今まで出会ったデジモンたち、助けてくれたデジモンたちでまだ再会していない奴らだっているんだぞ、今あいつらがどうなっているかもわからないのに、こんなところで何やっているんだよ!」

 

 そう言って、ヤマトさんにもう一発パンチが入った。そこでヤマトさんの動きが止まり、太一さんも殴る手を止める。

 

「ヤマト、わかってくれたか?」

「――わからねぇよ!!」

 

 今度は逆にヤマトさんが太一さんを殴り飛ばす。

 上の方でも究極体同士がぶつかり合っているし……何もできないし、これを僕が解決したくない。

 

「何とかしたいけど、究極体同士の戦いをアタシたちが止められないし……」

「ねえドルモン、あなた何とかできないの?」

「無理&そうしてもこじれるだけ」

「そうね、好きなだけやらせてあげるしかないんじゃないの?」

「なんだよお前ら、仲間を思う気持ちは無いのかよ!」

「ゴマモン、落ち着きなはれ。二人ともそんなつもりでいっとわけと違いますし」

 

 デジモンたちも途中参戦組との間に亀裂が出来つつある。止めても止めなくても揉めるだけなんじゃないのかコレ? げんなりしていると、また例の声が聞こえてきた。

 どうやらヒカリちゃんの近くにいるらしい……近づいてみると今までよりもはっきりと例の声が聞こえてきた。僕とはチャンネルが違うのか、はっきりとはしてないが……ヒカリちゃんは分かるらしい。

 

「どうしたんですか、ヒカリさん」

「例の声ですよ。今度は今まで以上に近づいてきていますね」

「私たちには何も聞こえないが……カノンは聞こえるのか?」

 

 光子郎さんとテイルモンもヒカリちゃんの様子に気が付いたみたいだが、やはり二人には聞こえないか。

 となると想像通り……僕たちだけが持つ特異な何かが影響しているわけか。そろそろその問題にも向き合う時が来たのかなんて考えていると、ヒカリちゃんの体が光り輝きだした。紋章を掲げ、周囲に光があふれていく。

 

「なんですか、これは!?」

「ヒカリ!?」

「…………思い出した、ホメオスタシス!」

 

 周囲を光が呑みこんでいき、僕らは別の位相へ転送される。

 呑みこむ一瞬のことだが、頭に流れた情報で彼、ないしは彼女の名前を思い出した。ホメオスタシス、かつてバステモンが言っていた名前だ。

 他のところでも何度か耳にしていたが……色々なことがあって今の今まで忘れていた。

 やがて、僕らは真っ白な空間へと引き込まれていた。どんな力が働いたのかはわからないが、究極体たちも幼年期へ戻っている。

 さてと、ようやく説明があるってことだろうか。選ばれた理由やら今まで戦うことになった経緯やら……謎がまだまだ多いわけだけど。

 

 ふと、バステモンのことが気になった。デジタルワールドの時の流れの方が速いからこちらでは何万年も経っている可能性があるんだけど……彼女はどうなったのだろう?

 

 ◇◇◇◇◇

 

 とある遺跡の中、そこに水晶に閉じ込められたバステモンがいた。長らくその状態で今まで彼女の様子を見に来るものはいなかったが――ここに、彼女を覚えている存在が1人。

 

「……バステモン様」

 

 緑色の小さな姿。忍者とテレビを足したようなそのデジモンはバステモンの姿を見ると、何かを決意したかのように踵を返して走り出した。

 脳裏によみがえるのはかつて見た少年の姿。もしかしたら、彼なら助けてくれるかもしれない。自分が手に入れた情報では、彼はこちらへ来ているらしい。

 

「カノン殿……」

 

 かつて言葉を交わしたわけではないが、不思議と彼のメモリーに焼き付いた存在。

 彼ならばもしかしたらと思う。それに自分ではもう手が無い。彼が助けてくれるかわからないが……情報は手に入れた、取引の出来る材料はそろっている。

 一縷の望みに賭けて、彼は走り出す。邂逅はすぐそこに迫っていた。

 




ヤマトはカノンに対しては何も思わなかったのか疑問に思う方もいると思いますが、あまりにも無茶をし過ぎるのと、数年前から戦っていたという事実もありそこまで気にはならなかった結果です。
自分より年下で結果を残していようが、ぶっ飛び過ぎていて逆に気にならなかった感じ。

出る杭は打たれると言いますが、出過ぎた杭は避けますから。


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41.ホメオスタシス

今回、少々カノンとドルモンの秘密に触れます。

あと本編であまり語らないのでカノンの容姿について。
母方の血で赤毛。ヤマトやタケルと同じくクォーター。
服装などもちょいちょい描写していますが、現在はダウンベストに赤マフラーとゴーグル(飛行帽のものなのでゴツイ)。基本長袖長ズボン着用。


「光あるところに闇がある。光と闇はちょうどコインの表と裏のような関係なのです」

 

 ヒカリちゃんはまるで別人のように言葉を発していく――いや実際別人が入っているのか。おそらく、今ヒカリちゃんに入っている存在こそがホメオスタシス。

 

「しかし闇の力が増大すると――」

 

 周囲が暗くなっていき、黒く塗りつぶされていく。闇の力の増大――しかしその逆もまた危険なり。

 僕の思考にノイズが混じりだす。危険と言う感じはしないが、なにか外部から知識が入り込んできている感覚がする。

 

「これって異次元空間なのか!?」

「ここは……あのビル、光が丘か?」

 

 少し明るい場所がみえる。宙に浮かぶ二体のデジモン。グレイモンともう一体は、かつて見た怪鳥――名前はパロットモン。完全体らしい。

 

「パロットモン……完全体のデジモンだったのか」

「やっぱりアナライザーの方が詳細データ多いですね。完全体でもかなり強力なデジモンですよ。ホーリーリング二つって……」

 

 今見ると、悪いデジモンと言うわけではなさそうだ。

 

「4年前、あなたたちの世界に誤って一つのデジタマが流れ着いてしまいました。彼は、そのデジタマを回収するために遣わされたデジモンです」

「ヒカリ、何を言っているんだ?」

「いいや違う。ヒカリの体を通して誰かが語り掛けているんだ」

「はい、今ヒカリさんの体の中には別の存在が憑依しているんです」

 

 テイルモンと光子郎さんが補足し、ヒカリちゃんの中に入っている者が語り掛ける。

 

「私は、デジタルワールドの安定を望むものです。ホメオスタシスとも呼ばれております――カノンさんは名前だけは聞いたことがあるはずですが」

「さっき思い出したよ。本当に詳しいことは何も知らなかったから忘れてたけど」

「もしかして、デジタルワールドの神様?」

「いえ私もデジモンと同じくネット上のデータから出来ています。ただ、デジモンとは違って自分の肉体を持ちません。私たちは物質化できないのです。ですから、こうしてヒカリさんの体を通して語り掛けています」

「どうして、ヒカリなんだ?」

「私の言葉を中継できるのはこの方だけです。カノンさんも近い性質を持ちますが、本質的には異なるため中継はできません」

 

 メッセージを届けることはできますが、と続けるが……だったら届けてほしかったよメッセージ。

 その後、体が浮き上がり戦っている現場へと近づいていく。空からスポットライトのような光が下に照らされ、子供たちの姿がはっきりと映し出された。

 

「これは?」

「あなたたちをスキャニングしているところです」

 

 あれ? 僕がいない……たしかこの時はおばあちゃんの家に遊びに行っていて……で、夜に抜け出したんだよな。それでデジモンたちの戦いを目撃したわけだけど、どこかの歩道橋にいたはずだが――いた、暗くて見えにくいが確かに僕もいる。ってスキャニングはしていないの?

 

「順を追って説明しますが、ちょうどこの時カノンさんが別件でドルモンが生まれるデジタマと出会います。我々がデジモンたちを回収した後、路地裏へ転送されたドルモンのデジタマとカノンさんが引き合いました」

「まってくれ、グレイモンは誤って流れ着いたんだよな? だったらドルモンはどうなんだ?」

「……彼は通常のデジモンとは異なります。プロトタイプデジモンであることは既に承知だと思いますが、この時我々の世界で数年前にとある事件が起きました」

「とある事件?」

「はい。事情があって詳細は語ることが出来ませんが、その時のデジモンの生き残りがドルモンであり、彼の内部に眠るX抗体がそのままデジタルワールドに残り続けていると危険でしたので、適格者であったカノンさんへ預けられたのです」

「つまり危ないから俺たちの世界に捨てたってことなのか?」

「いいえ違います。カノンさんを信じて、デジタマを託したのです。彼ならば間違った進化を遂げないだろうと信じて」

「でも、この時の僕は全然小さかったのになんで……」

「あなたを良く知る人物が託した、とだけしか言えません」

 

 それだけ言うと彼女は悲しそうに目を伏せた。つまり、ドルモンとは意図的に出会うことになったわけか……誰かは知らないけど、0人目だとか事情が違うってのはそこに起因するようだ。

 

「その後、カノンさんに合わせたデジヴァイスと紋章が送られました。他の方とは少々ことなる物になりますが」

「そういえばデジヴァイスが壊れたんだけどこれって……」

「……それについては後でお答えいたします。先に説明しなければならないことがありますので」

 

 そう言うと、上空にあいたゲートへ入っていく。次の場所に移動するってことか――ゲートを通過するとどこかの城に出てきた。色々な機械が置いてあって、研究所とか工場にも見えるな。

 

「ここは……見覚えがあるような気がします」

「オレたちもなんだか懐かしいような気がする」

「そうだな、見たことあるぞここ」

「パンプモンたちも? チューモンは?」

「知らない……オイラは初めてだよ」

 

 パンプモンたちは知っていてチューモンは知らない……光子郎さんたちも見覚えがあるってことは…………なんとなく読めたが、僕じゃ判断はつかないな。

 少し歩くと、何かのケースが見えてきた。近づいてみるとデジタマが8個入っている。その中の一つと、僕が回収したデジタマの柄が似ているな……

 

「うわ!? すいません、お邪魔しています……あれ?」

 

 丈さんが何かに驚いたので振り向くと、半透明の人たちがたくさんいた。フードを被っていて顔は見えないが……気配を感じない。ホログラムかなんかだろうか?

 

「なんだよこら! 返事ぐらいしろよ!」

「いいえ、この方たちは立体映像。遠い過去の出来事をあなたたちの頭の中に送信しているのです」

 

 となると、ここで何をしても意味がないというか……互いに干渉はないわけか。

 パンプモンとゴツモンが面白そうに立体映像に突っ込んでみたり、チューモンが恐る恐る触っている。君ら、結構自由だね。

 こういう時は光子郎さんがいち早く何か見つけるだろうと彼についていくと、何かの石板が見えてきた。

 

「これ、ヴァンデモンの城にあった石板です!」

「それってこのカードを使ったってやつですか?」

 

 アグモンのカードを取り出し、石板と見比べる……だめだ、立体映像だからか情報が読み取れない。

 ピヨモンがみんなが使ったゲートを見つけたと言い、見に行ってみるが……デカいなぁ。

 

「でもここの人たちは何をしているんだ?」

「この世界が暗黒の力に覆われたときの準備をしているのです。みなさんをスキャンして得たデータから紋章とデジヴァイスを作成したりなど、色々な準備をしていました」

「ってことは、俺たちを選んだのはあんたたちなのか?」

「はい、その通りです」

 

 ……なんだろう、少し違和感を感じる。ホメオスタシスたちが選んだというのはいいとして、それって僕に当てはまるのか? なんだかデジヴァイスが作られた経緯が違うような……なんだこの違和感。時期の違い? なんというか根本的に何かが違うような気がする。

 僕がうなっていると、話が進みだした。

 

「どうして俺たちを選んだんだ?」

「あなたたちは人間界に迷い込んだデジモンをグレイモンにまで進化させましたね」

「進化させたんじゃない。勝手に進化したんだ」

「勝手に進化することはありません。あなたたちがいたからこそ、グレイモンに進化したのです」

「でも、あの時は何もしてなかったぜ? デジヴァイスもなかったし」

「デジヴァイスをただの進化の道具とお考えならそれは違います」

 

 え、そうなの?

 

「デジヴァイスはデジモンをあなたたちの特質に合わせて正しく進化させるための物。紋章も同じです。カノンさんの物も多少違いはあれど、基本的に同じです。みなさん、紋章の意味はご存知ですよね?」

「ああ。俺は勇気だ」

 

 それを皮切りに各々の意味を口に出していく。愛情、純真、知識、誠実、希望。ただヤマトさんだけは自ら口には出さずに丈さんが友情だよなと補足したが。

 

「で、僕のが運命……」

「ヒカリさんとカノンさんのは特殊ですので異なりますが、みなさんの紋章は4年前、みなさんがもっていた最も素晴らしい個性なのです。しかし、それが失われていたら? もしかしたらデジモンを悪用するかもしれない。

 また、もしその意味をはき違えていたとしたら」

 

 その時、前に太一さんから聞いた話が脳裏によぎった。太一さんも思い出したのか、少し苦い顔をしている。

 

「そうか、前に俺がスカルグレイモンに進化させたとき……俺は敵の前に飛び出していた。アレは、間違った勇気」

「そうです。やっと、気が付いてくださいましたね」

「それじゃあ僕らは元々持っていた自分らしさを再発見するためにさんざん苦労していたってことか」

「まさに試練ですね」

「笑い事じゃないよ……でも、二人の紋章が特殊ってどういう事? 確かに心の特質と言うには違うけど」

「希望の紋章も少し特殊なのですが、お二人の紋章はそれに輪をかけて異なります。光は我々の世界では進化などと言った意味を持ち、それ自体が進化の力を持ちます」

 

 そういえばヴァンデモンとの戦いの時、みんなの力が一気に回復していたっけ……エンジェウーモンに進化したとき。となると運命ってのは……?

 

「……光と闇、過酷な道のり、螺旋…………様々な意味がありますが、その紋章をその身に宿すということはあなたには他の誰よりも過酷な試練と長い道のりが待っています」

「おおう……いきなりそういう事言いますか」

「あなたも、その一端は目にしているハズです。かの情報樹とつながっているあなたなら」

「…………」

「情報樹?」

「いえ、知らない方が良いですよ。アレは」

 

 はっきりと言われてしまったが、なるほど。やはり僕はいずれあそこに行かなくてはいけないらしい。デジタルワールドの最深部、イグドラシルの眠る地へ……

 もっともそこへ行く前にまずはダークマスターズを何とかしなくてはいけないみたいだが。

 

「太一さんやヒカリさん、カノン君にも何かがあるのは分かりましたが……ボクらはなぜなのですか? ボクらはデジモンを進化させたわけではないのですが」

「あの時、みなさんをスキャンしたときヒカリさんと共通するデータがみなさんにもあったのです。それが何なのかは私たちにも謎ですが」

 

 結局、そこは謎のままなのか。

 そこでみんなの視線はケースの中へ行く。

 

「このデジタマは?」

「ふふ、わかりませんか?」

「もしかしてアタシたち!?」

 

 そうか、これはまだデジタマだったころのみんなか。コードでつながっている紋章をみればどれが誰なのかがわかるな……アグモンのは柄ですぐに分かった。グレイモン柄ってまたベタな。

 と、そこでいきなり爆発音が聞こえてきた。ガードロモンとメカノリモンが襲撃を仕掛けてきて、応戦する人々もろとも破壊していく。

 

「うわああ!?」

「立体映像、立体映像」

「カノン、お前なんでそんなに落ち着いていられるんだよ」

「立体映像って説明があったじゃないですか」

 

 すでに起きたことは変えようがないし、おとなしく見ていることしかできないのだ。歯がゆい思いをしたところで無駄なのだからちゃんと見て何が起きたのか把握した方がいい。

 しかし、そこでピエモンの野郎が出来たのはアレだが。

 

「……立体映像ってわかっていても一発殴りたいですね」

「それでも逃げないのがお前らしいよ」

 

 と、そこでフードを被った誰かがピエモンに斬りかかった。剣をもっているし……こっちは構成情報が何とか読み取れる。この世界なら魔法で作れるかもしれないな。

 

『ピエモン、覚悟!』

『ゲンナイか!』

 

 え、ゲンナイさん?

 

「ゲンナイさんっておじいさんですよね」

「そのはずですけど……」

 

 若かりし頃ってこと? 彼はピエモンと交戦するが、すぐに背後をとられ黒い球を体に埋め込まれてしまう。その時、左肩が焼けるように熱くなった。少し痛みも走るが……ちょっと顔を歪ませてしまったが誰にも気が付かれていないのが幸いか。

 と、その痛みが走るのと同時に感覚が上手く通るようになったらしい。左腕が問題なく動く。

 ゲンナイさんも倒れることはなく、メカノリモンの一体のコックピットからバケモンを放り出し、自分が乗り込んだ。そして、デジタマとデジヴァイスをすぐに回収していった。

 

『追え、奪うのだ!』

 

 すぐに逃げたゲンナイさんではあるが、ガードロモンの攻撃でデジタマが一つ落ちて行ってしまう。あれは……

 

「あれは私だ。だから私は一人離れて育ったのか」

「でも、今は一緒よ」

「そうだな」

 

 なるほど、だからテイルモンはヴァンデモンの城の近くにいたのか。しかし、となるとヴァンデモンとダークマスターズの関係性って……いや、もう確かめようがないか。

 この後はおそらく、ファイル島へ向かうのだろう。

 

「アレは、氷におおわれているけど――確かにファイル島だ!」

「……そして、みんながここへ導かれるか」

 

 そう、こうして今へつながっていく。ホメオスタシスに出来るのはデジタルワールドのバランスが崩れるときに事前に何とかするためのシステムを用意することだけ。彼女たちが干渉できない理由は分からないが、僕たちが選ばれたのはこの世界を何とかするため――人間界のと壁が壊れたところを見ると、他の世界も含めてか。

 

「デジヴァイスは進化させるための物じゃない……なら、進化できない理由は…………」

「光と闇、相反しているようで隣り合っている二つの力。片方だけが強くてはダメなのです。今のドルモンはバランスが崩れた状態。きっと、解決方法が見つかることでしょう」

 

 そして、世界が元に戻っていく。元の森へと帰り――彼女は去って行こうとする。

 

「結局、僕を選んだってのは誰なんだ? あなたたちじゃないんだろ!」

「……いずれ、わかります」

 

 そう言うと、彼女はにっこりと笑って去って行った。口元に人差し指を当てて内緒話をするかのように。とっておきの秘密を隠すみたいに。

 




触れるだけで解決するとは言っていないがな!
ただまあ、カノンを選んだのはホメオスタシスではないです。関わっていないわけではないですが、別の人が選びました。


さて、色々あって休み貰えたのでポケットなほうのモンスターの映画見てきます。
あとゴールデンなライダーのためにライターも集めないと……


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42.カノンの弱点

今回、完璧超人化してきたカノンの最大の弱点が明かされます。


 元の場所に戻り、ヒカリちゃんが目を覚ました。

 

「ヒカリ、大丈夫か?」

「よかった無事みたいだな」

「お兄ちゃん? テイルモン……二人ともどうしたの?」

「覚えていないのか?」

「何の話?」

「いや、覚えていないならいいんだ」

 

 どうやら憑依されている間のことは覚えていられないらしい。

 僕の方は憑依と言うより接続だし記憶が残っているけど……つながるものの精神構造の違いかな?

 とにかくこれで一つ謎が片付いたのは言うまでもない。えらばれし子供たちの選ばれたわけや、どうして戦うのかが分かっただけでも収穫だろう。

 

「ヤマト、これでわかっただろ」

「ああ……」

「やっぱり、この世界の歪みを正せるのは俺たちしかいないんだ」

「……すまん」

「お兄、ちゃん」

 

 太一さんは手をヤマトさんに差し出すが、ヤマトさんはその手を取ることはなかった。

 

「俺、やっぱり間違っているのかな」

「いいや……悪いのは全部俺だ」

「ヤマト……」

「俺さ、偉そうなことは言えないけど……正しいとか間違っているとか関係ないと思うんだ。ただ俺には俺の道があり、お前にはお前の道があるんだよ。自分の道がどんな道なのか俺にはわからない。お前と戦えば自分の道がわかると思ったんだが……すまなかった。

 謝れば許してもらえるとは思わないけど、俺は自分の道をさがしたい。いや、探さなくちゃいけないんだ!

 だから、俺はガブモンと二人だけで行動する。悪いな、みんな」

「考え直してください。だってヤマトさんの紋章は……」

「友情、でも考えてみたら友情って嘘くさい言葉だよな」

 

 自分の内面でありながら、他者との関わり合いの特質でもある。人によって受け止め方が色々あるだけに、僕たちが何を言っても意味はないのかもしれない。

 

「いや、俺が本当の友情を知らないだけかもしれない」

「ねえ何も一人で行かなくても――二手に分かれて行動するのもいいんじゃないのかしら」

「一人で行かせてくれ……悪いな、空」

「ううん。でも、ヤマトなら大丈夫よ、信じてる」

「お兄ちゃん、僕はどうしたら……」

「タケル君は私たちと一緒よ。ヤマトは一人で考えたいことがあるの。だから、行かせてあげましょう」

「……うん」

「ありがとう。それに、タケル……お前なら大丈夫だ」

 

 それだけ言うと、ヤマトさんは歩き出してしまった。ここで一度道は(たが)える。しかし、もう不協和音は聞こえない。これも必要なことであり、前に進んだという証でもあるのだ。

 

「さあ、俺たちも進もうぜ。デジタルワールドの歪みを正さなくちゃ」

 

 太一さんがそう言って、前に進んでいくが……僕とミミさんの足が止まる。理由は異なるが、僕らも先へは進めない。

 

「ごめん空さん、わたし、行かない」

「ミミちゃん?」

「わたし、もうデジモンたちが傷ついたり死んだりするのを見たくない」

「カノン……お前までなんで」

「あー、やっぱり進化できないってのもアレですし、それに…………デジヴァイスも直さないと。このまま前に進んだら、それもできないと思うんです」

 

 進化するのにデジヴァイスは必要ないのかもしれない。しかし、だからと言って壊れたままにもしておけないだろう。僕の体のことも気にかかるし……このまま進んだら、取り返しのつかないことになるかもしれない。

 パンプモンたちも僕らについてくるのか、一緒に立ち止まっていた。

 

「……だったら僕も残るよ」

「丈さん……」

「ミミ君たちだけだと心配だし、カノン君の傷口が開いたりしたら手当てする人がいないとね。説得できたら、すぐに追いかける……カノン君の方がどうなるかはわからないけど、なんとかしてみせるよ」

「ああ……頼んだぞ丈」

 

 そうして、丈さんも残る。

 三つに分かれてしまった僕たちではあるが、目的地は同じだ。世界の歪みを正すことは変わらない。このまま進み続ければいずれ同じ場所へたどり着くだろう。

 

 ◇◇◇◇◇

 

とりあえず、食糧を調達して一旦休憩することに。左手も問題なく動くようになったし、不便さもなくなった。飛行帽はとりあえず修復したけど、被る気にはならなかったので鞄の中に入れている。父さん、母さんたちから渡されたものが色々と入っていたが、もうずいぶんと軽くなった。ほとんど食糧だったしね。

 ちなみに、風邪薬はヒカリちゃんのこともあるから太一さんに預けた。一応、少しだけ自分の風邪がぶり返したときにとってあるけど……たぶん使わないだろう。

 しかし……先ほどからミミさんが何も言わない。いつも元気なだけに調子が狂うが……

 

「……ごめんない、二人とも私のわがままで残ってもらって。カノン君だって本当は自分たちだけですぐにでもデジヴァイスを直す方法を探したいんでしょ」

「いえ、ここしばらく無茶ばかりでしたし……それに壊れた理由、本当はなんとなくわかっているんです。だからミミさんが気に病む必要ないんですよ」

「そうだよミミ君。それに、君のいう事ももっともだ。争いは争いしか生まない」

 

 そう、争いは争い生み、呼び込む。おそらくドルモンが進化できなくなった理由と同じだ。果物にかぶりついているドルモンのインターフェースに触れて、現在のDNAを読み取る……僕の懸念が正しいのならば、たぶん暗黒のDNAが以前よりも強まっているはずだ。

 案の定、竜と獣よりは少ないものの……かなり増大していた。というか大分狂ってしまっている。こうしている今も各データが増減していて不安定である。

 たぶん、ヴェノムヴァンデモンとメタルシードラモンの二体を相手にしたのが増大した理由だろう。そこにドラモンキラーのデータを加えたために竜データが一時的に減少した結果、現在の状態になったのだろう。

 

「ドルモン、ごめんな無茶させ過ぎて」

「ううん。おれは大丈夫……そっか、おれのせいなのか」

「いや、僕も前に出過ぎたかな」

 

 ただ、あの時はああしないと被害がひどかっただろうし……自分の使える札を切った結果ではあるものの、結構キツイなぁ……

 と、会話が途切れてしまったわけだが……丈さんはまだ何か言いたそうだけど、言わないのだろうか?

 

「……」

「丈? 何か言いたいことがあるなら言えばいいのに」

「いや……言わない方がいいときもあるよ」

「そうかな? ……そうだね、丈の言う通りだ」

「言わぬが花。まあ、何事もほどほどが一番ですね」

「君がいう事じゃないだろ、無茶常習犯」

「ごもっともで」

「腕は大丈夫なのかい?」

「病は気から。痛み自体はありましたし、体がびっくりしていただけかもしれませんね」

 

 あの時の映像で、再びショックを受けて動くようになったってところかもしれない。

 まあ詳しく調べるのは無理そうだけど――と、のどかな空気だなと思っていたのもつかの間。この中で誰が一番のトラブルメーカーなのかは知らないが、上空に暗黒の力を感じてしまった。

 

「なんだ!?」

「なにあの黒い穴――いえ、隕石?」

「こっちに向かって堕ちてくるぞ!?」

 

 嫌な気を孕んでいる――思わず左肩を抑えるが、同時にこの場所に直接的な被害が出る軌道でもないことは分かった。不思議と頭は冴えわたっている。

 今は様子見をするしかないか。大きな揺れが起きるものの、破片もなにも飛んでこない。

 

「見にいってみる?」

「なんだかすごく疲れる予感がするんですけど……どうしましょうか。あと、お前らひっつくな」

 

 パンプモンとゴツモンが驚いたのか抱き着いてくるんだけど……痛いからヤメロ。

 

「ごめんよ、すごく大きな音だったから」

「ハァ……デジタマもあるんだから気を付けてくれよ」

「ねえ、それ私が預かっていようか?」

「じゃあお願いします」

 

 ミミさんにデジタマを預けておく。ミミさんは時折首をかしげているが……やがて何か思い至ったのか一つ頷いていた。

 

「ミミさん?」

「これ、パタモンのデジタマにそっくりね」

「そういえばそうだね……デジタマの柄かぁ、そういえばたくさんの種類があったな」

「へぇ……」

 

 はじまりの町、だっけか。デジタマがある場所。そこならこのデジタマを預けても大丈夫かも。ただ、何かが引っかかっているんだが……知っているようで知らないような、何か言い知れぬ不安感。

 とにかく、何もしないというわけにもいかないので隕石の落下した場所へ行くことに。

 煙が上がっているので落下ポイントはすぐに見つかったのだが……

 

「崖の上かぁ……」

「でもどこから落ちてきたのかしら」

「地球ではないと思いますよ、なんか空間が妙に歪んだような気もしますし、暗黒の力みたいなのも感じます」

「まだ、感じるのかい?」

「いえ……反応が愉快というか、奇妙というか、関わりたくないというか…………なんだろう、このどっと疲れそうな感じ」

 

 はっきりととらえられないので言い方もおかしくなっているが、本当にそう感じるのだ。なぜかは分からないが。

 

「クンクン――なんかにおうぞ」

「ホントだ、血のにおいみたいな何かを感じる」

 

 ゴマモンとドルモンが嗅覚に何かを感じたらしく、その方向へ走り出した。すぐさま僕らもついていくが……感覚的に、隕石から感じたモノとは別の何からしい。

 においの元へたどり着くと、誰かが枝に埋もれて倒れていた。怪我をしているようでうめき声も聞こえる。

 

「大丈夫――うわ!?」

 

 パルモンが枝をどけると、そこから緑色の鬼の姿が現れた。血を流してぐったり倒れているが……たしか、オーガモンだっけか? 太一さんたちが一時帰還したときに戦ったデジモン。あの時はノイズだったが、今度のは本物みたいだな。

 

「オーガモン、死んでいるのかしら?」

「いやうめき声も聞こえるし……まだ動いているよ」

 

 枝を外したからか、体が動き出している。

 みんなの反応を見るに、どうやらファイル島で戦ったという個体みたいだ。

 

「ファイル島の時みたいに襲われたら……放っておく方がいい」

 

 丈さんがそう言うが、ミミさんが駆け出してオーガモンの傷を見ている。まあ、ミミさんの性格なら相手がだれであろうと心配するんだろう。だからこそ、デジモンたちにも好かれているのだから。

 

「ひどい傷……パルモンは薬草、ゴマモンは水を持ってきて!」

「わかったわ!」

「お、おう!」

「他のみんなも二人を手伝ってあげて」

 

 デジモンたちは薬草と水を探しに行き、後に残ったのは僕たち。

 

「二人は……」

「分かってる。これでも医者の息子だからね。傷の手当は任せてよ」

「それじゃあ僕はデータの乱れを修復できないか試してみます」

 

 デジモンの怪我とはつまり、データの乱れや欠損でもある。ただ、現実世界で僕らが怪我するのとほぼ同じような状態にしか見えない――いや実際にそうなのだろう。分子や原子の一つ一つまでデジタルデータで構成されているのがデジタルワールドだと、僕は考えている。

 たしかに物理法則を無視したようなことも可能だが、物理法則が無いわけではないのだ。

 オーガモンの怪我を僕の魔法で治すのは厳しいが、みんなが持ってきてくれた薬草と水などでとりあえず処置はできた。包帯とかもいろいろあったし、丈さんも手際が良いからオーガモンの折れた腕をしっかりと固定していたし。

 

「これでよし」

「……なんでもお前ら、ファイル島で俺はお前たちを殺そうとしたのに…………殺されても仕方がないってのに、助けたりしたんだ」

「ハァ、また? 殺すとか殺されるとか……もっと気の利いたセリフ言えないの?」

「あ、あり? あり……」

「ふふ、無理していってくれなくていいわ。それじゃ、またね」

 

 ミミさんがそう言って、僕らは去ろうとするが――うぐぐとオーガモンがうなり、言葉を発した。

 

「ありがとう、よ」

「ううん。どういたしまして」

 

 ミミさんが笑顔でそう言うと、オーガモンの瞳に光る物があった。鬼の目にも涙、か。

 

「オーガモンが泣いている……」

「鬼の目にも涙とはこのことか」

「それこそ言わぬが花なんじゃ」

「こ、これは目にゴミが入っただけだ!」

 

 ……まあ、そういう事にしておこうか。と、そんなところで終っていれば良かったんだろうけど……背筋に嫌な汗が流れる。

 あーそーぼ、と聞き覚えのある声が響いてきた。

 

「なぞなぞしてあーそぼ」

「なんだよなぞなぞって!」

「ボクに足りないモノって何?」

「は?」

 

 ゴマモンが何言っているんだコイツは、みたいな顔をしたらいきなりハンマーから光弾を乱射してきやがった。すぐにゴマモンが避難してくるが……やっぱりこらえ性が無い。

 

「そんなんだから友達がいないんだぞ!」

「うるさい! 答えられないなら殺しちゃうぞ!」

 

 しかし厄介なことになった、デジモンたちも戦おうとしているが――ミミさんが後ずさっている。無理もない。今の彼女は戦うことに関しては疑問を抱いている、いや嫌悪していると言った方がいいかもしれないな。

 となると実質ゴマモンが頼りなんだが……

 

「アーマー進化なら使えるし、行くぞドルモン!」

「うん!」

「ゴマモン、頼んだ!」

「任せてよ丈!」

 

 丈さんのデジヴァイスと、僕のデジメンタルが輝きだす。

 

「イッカクモン!」

「フレイウィザーモン!」

「究極体でも体格は小さい、組み付けフレイウィザーモン!」

 

 フレイウィザーモンが近づいていき、巨大なマッチ棒でピノッキモンのハンマーを抑え込む。その間にイッカクモンがズドモンに進化し、ハンマーを振り下ろす。

 

「ハンマースパーク!」

「ああもう、邪魔だよ! グリットハンマー!!」

 

 フレイウィザーモンが何とか抑え込んでいたものの、地力が違うためかすぐさま押し切られてしまった。ズドモンのハンマーも吹き飛ばされ、光弾が何発も命中してしまい――ズドモンが退化してゴマモンに戻ってしまう。

 フレイウィザーモンは何とか光弾を弾くことが出来ていたため、退化はしていないが……

 

「お前、地力が上がっていないか?」

「ああ……力自体は以前よりも増している」

 

 もしかして、暗黒DNAのおかげか? フレイウィザーモンの構成DNAは確かに暗黒が多いけど……と、そんな考察をしていると上の方から何とも奇妙な声が聞こえてきた。

 アァーアアアァーとターザンのような変な声……なんでかはわからないが関わり合いたくない。

 

「とうッ!」

 

 顔を向けてみると、枝の上に銀色のサルが立っていた。究極体、らしいが……名前を見たくない。何故だ、何故こんなにもこいつの情報を読み取りたくないんだ。

 

「スーパースターの登場よ! 拍手はどうしたのかしら?」

 

 そんな野太い声で女口調はやめてくれ……背筋が、背筋がぞわぞわする。

 

「久しぶりねぇ、えらばれし子供たち。元気だったかしら」

「お前はまさか……エテモン!」

 

 ……メタルエテモン、ああ見てしまった…………オカマ嫌ぁあああああ!!

 絶叫しそうになる自分を抑えるが、体の鳥肌は収まらない。なんでこの世で最も苦手な存在がここで現れるのか……ひどく疲れる予感が現実になるのを感じつつ、僕はどうやってこの場から逃げ出そうか考える自分に気が付いた。

 

 

 

 この運命、逃げ出しちゃだめですかね?

 

 




カノン、実はオカマが大の苦手。
話に聞くだけだたり、テレビで見るだけならいいのだが実際に遭遇すると逃げ出そうとします。

ちなみに、完全に女にか見えないのなら平気。


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43.刻まれたデータ

前半はギャグ回となります。


 あれは、いつの話だっただろうか。

 僕の親戚にはいわゆるオカマ、というより怪物がいて……別に人の趣味にとやかく言うつもりはないし、そういう価値観もあるよねと思っていたんだが…………

 あの怪物がいけないのだ。いきなりハグしてきて処理の甘い青髭でじょりじょりじょりじょりじょりじょりじょり――――ああ、身の毛がよだつ。

 しかも危うく口にはだせないことになりそうで……ううっ(ただのキスです)

 お前けに服を脱がされそうになって……気持ち悪くなってきた(ただ風呂に入れられそうになっただけです)

 あの時から男なのか女なのかどう判別していいのかわからないナマモノと遭遇すると、僕は体中に鳥肌が立って混乱してしまうようになりました。

 

 ちなみに、見た目が完璧にどちらかに判定可能なら平気です。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「……あはははははは」

「ヤバい、カノンが壊れちゃった」

「ちょっと大丈夫なのカノン君!?」

「カノンって、見た目がアレなオカマさんとかムキムキな女性ボディビルダーとか、性別判定が難しい感じの相手に出会うとエラー起こしちゃうんだよ」

「でも確かにアレは関わりたくないタイプだけど……」

 

 一行(いっこう)の目の前には究極体のメタルエテモンが歌にのせて自分がなぜよみがえったのか語っている。

 要約すると、メタルグレイモンとの戦いで暗黒世界に流れ着き破壊と再生を繰り返し続けた結果、現在の姿へ進化することが出来たという話だが。

 ほとんど逆恨みだが、その執念は本物だ。いや、怨念と言ってもいいかもしれない。

 そのすさまじいまでの思いが彼(彼女?)を一つの境地へたどり着かせ、今こうして次元の壁を突き破って舞い戻らせるまでに至ったのだ。

 

「センキュー!」

「誰も呼んでもいないし感謝もしていないけど」

「……あ、もう終わった?」

 

 あまりのアレさにピノッキモンも呆れていたが……メタルエテモンはまだまだ好き勝手している。

 

「まだ終わりじゃないわよ。ボウヤ」

「ぼ、ボウヤだって!? ボクをバカにすると――」

「邪魔ねぇ、バナナスリップ!」

 

 メタルエテモンがバナナを投げ、ピノッキモンが見事にそれにひっかかる。まるでコントのようだ。

 

「よくもやってくれたなぁ!!」

 

 それに怒ったピノッキモンがハンマーをメタルエテモンに叩きつけた。

 それも脛に。

 

「ミョガ!? ――い、痛いじゃないの!!」

「やーいやーい」

「この、へこきアタック!」

 

 ブォオオと下品な音と共にあたりに悪臭がまき散らされる。丈達もこれには苦い顔をするのみ。というかもはやコントそのものになってきており、二体の究極体(バカ)はえらばれし子供たちのことなど目に入っておらず、お互いに戦い始めた。

 

「あはは――はははは!?」

「ヤバい、カノンがもうヤバい」

 

 カノンは魔力を放出させ、手にナイフを出現させる。それを見たドルモンは一瞬、とても驚いた顔をするがすぐに正気に戻り、カノンの首根っこをつかまえた。パンプモンとゴツモンも飛びつき、ひょいと持ち上げる。

 丈たちも今がチャンスだとすぐに逃げ出す。メタルエテモンとピノッキモン共に互いしか目に入っておらず、不毛な争いは続くのみである。

 

「なんで僕たちあんな奴らに苦戦していたんだろうか」

「丈先輩、言わないでください。かなしくなるから」

 

 思わずミミも真顔になってしまうほど、くだらない争いを続ける二体だった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 気が付くと、木の洞の中だった。どうやらキャパシティーをオーバーしてしまっていたらしい。

 

「この借りは必ず返すからな」

「もう、別にそんなの気にしなくていいのに」

 

 前を見ると、オーガモンとミミさんが言い争っていた。いや、そこまでのものではないが。

 案外律儀な奴らしい。

 

「いや返させてもらう。出ないと俺の気が済まねぇんだ。仁義は通さなくちゃいけねぇ」

「仁義って、おひけぇなすって奴?」

「あら、時代遅れ」

「どうせ俺は古いデジモンでぇ」

「――――オーガモン、デジタルワールド古来より存在する種である。また、イリアスのデータの一部を持つためタ――モンへと至る可能性を秘めている」

「あれ? カノン君、目が覚めて……」

「どうも様子がおかしい。ピエモンの剣を出したことといい、何かが変だ」

 

 どうも頭がすっきりしない。というかなんで僕がピエモンの剣を出せるんだろうか?

 さっきから何かがかみ合わない。

 

「っていうか、イリアスって?」

「デジタルワールド・イリアス。別次元(サーバー)に存在するデジタルワールドの一つ。サーバー管理者――――現在、閲覧不可。守護者(セキュリティ)、現在不明」

「まるで機械みたいというか……コンピューターみたいなしゃべり方になっている…………オーガモン?」

 

 なぜだ。何故オーガモンは僕を怖がっているのだろうか? いや、ありえないモノを見ているような感じだ。

 

「嘘だろ……コイツ、なんでこんな状態になってやがるんだ!?」

「ちょ、静かに! メタルエテモンがまだうろついている」

 

 ……自分の状態がいまいちよくわからない。ドルモンのデータのバランスが狂っているように、僕も何かが狂っているのだろうか? 体を動かそうとするが……手は動いてくれる。

 とりあえず文字を魔力で作ってだして会話をしてみるか。

 

「オーガモン、何か知っているのか?」

「……コイツ、イグドラシルに接続していやがる」

「イグドラシルって?」

「この世界の管理者だったモノって話だ。俺もデビモンから聞いた話だから詳しくは知らない。ただ、俺たちは本能的にそいつに対して萎縮しちまうんだよ。イグドラシルには善も悪もない。本当に機械みたいな存在だって話だからな」

「そういえば俺たちもヴァンデモンに聞いたことがあるような?」

「あんまり覚えていないけど、今のカノンは近づきたくないなぁ」

『なるほど、そいつに体の自由を乗っ取られているのか』

「……カノンくん!? 意識があるのかい?」

『なんとか……体が動かせないですけど、意識はありますよ』

 

 みんな驚きはしているが、一応意識はあることにほっとしてくれていた。

 

「それじゃあ、どうやったら元に戻れるかはわかる?」

『それがわかったら苦労はしないんですが……』

「検索――該当項目発見。橘カノンのデータにピエモンのデータが混入しています。解決方法、デジヴァイスのエネルギーの注入が最も効果的」

『――――って、体の方が勝手に解決策をたたき出した!?』

「体って言うか、イグドラシルだな。この世界のことがすべて記録されているって話らしい。もっとも、そこへ行くことはできないが」

「なんでそんなすごいものがあるのに? デビモンやヴァンデモンも知っていたなら手に入れようとするよ思うんだけど」

「この世界の根っこみたいなものなのが一つ、もう一つは普通のデジモンじゃいくことが出来ないんだとよ。というより、もう既に破棄されていて生きたまま行くことはできないんだ。俺たちは死んだらデジタマになっちまうから、どのみち行くことはできないしよ」

「なるほど……ほとんど不可能だから手出しはできなかったわけか」

「破棄されていて、使うことが出来ないって方が理由としては大きかったと思うがな。でもよ、解決方法が分かったんだから何とかしてやれよ」

「ああそうだった! ミミ君」

「うん――」

 

 丈さんとミミさんが僕に向けてデジヴァイスを掲げ――光が僕の中に入ってくる。同時にピエモンのデータが反応し、中和されていくのを感じたが……ダメだ。完全に消すのはマズイ。

 光をある程度受け取ったら、今度はそれをシャットアウトするようにしていく。

 

「カノン君!? なんで拒むんだい?」

「普通ならそれでいいんですけど……僕の場合はマズそうですね。どちらかにより過ぎてもダメっぽい」

 

 相反しているわけじゃない。バランスをとらないとダメなのだ。

 片方だけになっても一応は解決するだろう。だが、嫌な予感がした。聖なる力だけになった瞬間に僕が僕じゃなくなるような予感が。

 

「……とりあえず大丈夫ですんで」

「なら、いいけど」

 

 イグドラシルとの接続もそれで解除されたらしく、情報は引き出せなかった。ちょっともったいないことをしただろうか。

 結局それ以上は話の進展もしないので、今度はオーガモンの話を聞くことに。

 

「なぜレオモンと戦うのかだって?」

「そう、あなたたちの戦いにいったいどんな意味があるのか。それが知りたいの」

「意味なんてそんな難しいこと知らねぇよ」

 

 じゃあさっきのイグドラシルについては何なのだとも言いたくなったが、以前のドルモンやパンプモンたちの様子を思い出して聞くのをやめた。どうもイグドラシルについては知識として最初からある程度インプットされているらしい。

 しかしミミさんも僕たちが考えている以上に前に進もうとしているようだ。

 

「レオモンとは宿命なんだ。永遠のライバルっていうか……」

「じゃああなたたちのどっちかが勝つまで終わらないってこと? それで、勝ったとしてどうなるの」

「そりゃあ、やったって気分になるだろうな」

「それからその後は?」

「その後って……」

「それってライバルがいなくなるってことなのよ?」

「レオモンがいなくなる――――よしてくれ、そんなこと考えたくもねぇ」

 

 悲しことではあるが、オーガモンは元々レオモンの敵対者、というより彼と戦うために進化したデジモンというか…………デジコアの基本情報に刻み込まれていることはそう簡単に覆せない。

 

「レオモンとの戦いは俺の生きがいなんだ。レオモンがいなくなったら、俺は……」

「それって論理的に矛盾しているわ。もっとよく考えないと」

「ええい! そういうことは倒してから考える!」

「結局そういう結論に達するわけか……」

「まあ、それがオーガモンというデジモンなんですよ。種の本能には逆らい難いというわけか」

「? 種の本能って?」

「まあ、僕らの世界のデジタル技術が進歩したらそのくびきからも解放されるかもね」

 

 デジモンの自己進化はすさまじい。それが僕らの世界のデジタル機器の進歩も反映されている結果なのだとしたら、人間界で数年もすれば彼らの基本情報すらも発展していくかもしれない。

 たとえば、同じアグモンでも個体ごとに色々な個性が付与されたりとか。

 

「まだ僕らに言っていない何かを隠していないかい?」

「デジモンはデジタルデータで出来た生命体。だからインプットされている基本情報ってのがあるんですよ。ドルモンみたいに割と自由なのもいれば、オーガモンみたいに生き方に至るまで定められているのまで」

「それって……」

「もっとも成長進化しますので、絶対ではないですよ?」

 

 と、そのとき何かの爆発音が聞こえてきた。

 また誰かが戦闘でもしているのだろうか?

 

「なんだろう? ちょっと見てくるよ」

「あんまり深追いはしないでくださいね。下手したら見つかりますし――」

「みぃつけた♡」

「――まあ、三十六計逃げるに如かず」

 

 すぐさまメタルエテモンに見つかった。というわけで、全員ですぐさま脱走することに。

 急いで走っていくがすぐに追いつかれてしまうだろう。というわけで、すぐに茂みに隠れたわけだが……

 

「どこいったの子供たちー! あとお初にお目にかかるボウヤー!」

「ひぃいいいい……ロックオンされとる」

「カノン、顔が青いぞ?」

「こうなったらゴツモンシールドでなんとかいくしかないのか」

「ヤダよッ」

 

 冗談である。心情的には逃げ出したいが。

 こうなったら先ほどの感覚を思い出してピエモンの剣を再現できないかやってみるしかないか……いや、闇系に闇系ぶつけてもあんまり効果が無いかもい知れない。

 だったら僕の知っている武器データというと……ドラモンキラーは開いてドラモンじゃねぇよ。グレイダルファーはダメだ。意識が消える。あとは……そうだこれなら――

 

「なんでカノン君はウィザーモンの杖を出しているの?」

「全力砲撃なら吹っ飛ばせるかなって?」

「やめておきな。出来て精々成熟期までだぜ」

「だよねー」

 

 自分でも相当慌てているらしい。それでも普段よりとんでもないことをしているような気はするのだが……

 

「パンプモン、完全体なんだから何とかできないか?」

「無理無理無理無理」

 

 うん……わかってはいたけど。チューモンは……ごめん、ゴツモンよりも弱いんだった。

 あとはデジタマが一つ。戦えるわけないっての。

 ダメだ。ドルモンが究極体に進化できない以上、今の戦力だと厳しい。

 

「そういえばなんでお前らデジタマなんてもの持ってんだよ――いや、こんな時に聞くことじゃないけど」

「人間界でいろいろあって回収したんだけど、そんなに珍しいものなのか?」

「いや珍しいっていうか――」

 

 オーガモンの言葉は続かなかった。なぜなら、急に強い力の持ち主が走ってきたからだ。

 奥の森から駆け抜けてきたその生き物は、ライオンに似た姿をしていたが……

 

「今度は何!?」

「な、お前は――」

 

 オーガモンの唖然とする表情。僕もそのデジモンのデータを閲覧しようとして――――え、これって……

 どうやら、話は思ったよりも複雑になっていきそうだ。

 




カノンは復帰しました。
なお、カノンの親戚のオカマについては……ローラーのコーちゃんで調べてみてください。イメージ元です。


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44.目覚め

50話までにアドベンチャー終わらせられるかどうか悩んでいたが、無理ですね。

リアルの8月1日が近づいてきました。今年は何やるんだろうか。


 目の前に現れたライオンのようなデジモン……僕はそのデジモンの名前とレベルをすぐに知ることが出来るため、彼が誰なのかおおよそのあたりはついたのだが、話に聞く彼とは面識がないから判別がつかない。

 

「こんどはなんなんだ!?」

「もう嫌!」

「ここはオイラが――」

「ゴマモン、まってくれ……彼は」

 

 僕が彼の名前を言おうとしたとき、アーアアーと雄たけびが聞こえてきた。

 あと、待ってなさいよーとか絶対見つけるわよーとか。

 

「……うわぁ」

「時間もない様だ。君たち、私の背中に乗りなさい」

「って、その声ってもしかして!?」

「れ、レオ――」

「話はあとで。人数が多いし、ケンキモンなら追走できるか?」

 

 アーマー進化はまだ使えたのが幸いだった。すぐにドルモンに進化してもらい、パンプモンとゴツモン、オーガモンを乗せて彼に追走する。

 彼には丈さんたちと、チューモンがしがみついている。

 メタルエテモンはどうやらまだ離れたところにいるらしく、近づいた気配はない。

 

「……くそっ」

「オーガモン、話は後にした方がいいよ」

「分かってるよ。あと、こいつらどうにかしてくれ」

「こっちもデジタマ持っているから無理」

 

 ミミさんたちはしがみつかないといけないから、腰かけられるこっちで預かっているんだよ。

 ちなみに、オーガモンはパンプ&ゴツに絡まれている。危ないから静かにしていてほしいが……落ちないようにしてくれればいいか。

 景色が流れていき、やがて森のエリアを脱した。廃墟のような場所にたどり着き、あたり一面灰色の世界だ。生気を感じない無機質なエリア。ムゲンドラモンか、ピエモンか……無機的ってことはムゲンドラモンかな?

 歩みがゆっくりになり、ケンキモンもドルモンに戻る。キャタピラの跡も気になるからね。

 

「丈、あそこ!」

「あれは――!?」

 

 とそんな時にいきなり声が上がり、ゴマモンが指さした場所。何かの建物みたいだが……デジ文字で看板が出ている。えっと…………レストラン?

 

「ここって僕とヤマトが働かされていたデジタマモンのレストランじゃないか!?」

「それってドルしか使えなかったって話の?」

「ああそうだよ。でもあそこは湖のそばだったはずなのに」

「スパイラルマウンテンに統合されてしまい、いまやどこもかしこもおかしくなっている。とりあえず、あそこに身を隠そう」

 

 彼がそう言い、僕たちも後に続く。

 レストランの中は随分とボロボロで、色彩のデータも消えていた。ほとんど灰色……気が滅入るねコレ。

 と、その時。デジモンが退化する時の音が聞こえてきた。彼の姿が変わっていき、人型へと変化する。

 

「やはり、すぐに戻ってしまうか」

 

 彼――レオモンが苦い表情をしながら僕たちを見回していた。

 ミミさんは驚きと、喜びが入り混じった表情になり、彼に抱き着く。

 

「レオモン……よかった、生きていたのね!」

「君たちも、無事でよかったよ。それに、同郷の者に会うのも久しぶりだな」

「進化できるようになっていたんだね」

「以前、デジヴァイスの光を浴びたことで備わった能力だ。しかし、すぐに戻ってしまう。まだコントロールが出来ていないらしい。それで、そちらの子供は……」

「ああ、彼は橘カノン君。それとそのパートナーのドルモンだよ」

「どうも。話には聞いています」

「――――おいオーガモン、どういうことだ?」

「俺が知るかよ。それより、おれと勝負しろ!」

 

 ? 彼らは何かを知っているのか、少しだけ言葉を交わしたがすぐにオーガモンがレオモンに勝負を挑むことで聞きだせる感じじゃなくなった。

 

「たとえ進化できるようになったからといっても俺が負けるとは思わねぇ、それと勝負だ!」

 

 そういってオーガモンがレオモンにとびかかるが、すぐに組み伏せられ、床に叩きつけられてしまう。

 

「まったく怪我を治してからにしろ。スカルグレイモンの骨で作られた棍棒が泣くぞ」

「……くそっ」

「それ、スカルグレイモンの骨で出来ているの!?」

「あー確かに構成情報がスカルグレイモンだ」

 

 この二体、僕たちが思った以上に強いデジモンらしい。オーガモンもここまで怪我しても生きていられるのがその証拠だ。

 

「そういえばさっきは何に驚いていたんですか?」

「いや、君自身からデジモンの気配を感じたのでね」

「ああ……以前、とあるデジモンからデータを受け取ったので、たぶんそれです」

 

 マフラーに手を当てて彼のことを思い出す……僕が彼と会話したのはほんの少しだけだが、おかげで色々と助かっている。マフラーの色がなぜか変わってしまったが、ちゃんと残り続けているものもある。

 

「……む、何者だ!」

「なんか手が出ていた!」

 

 レオモンが何かの気配に気づき、パルモンが”何か”の手を見てしまったらしく、驚いてミミさんに抱き着く。その拍子にチューモンがぐえっと声をだしたが……大丈夫か?

 

「ひぃ!? 命だけはお助けゲコ!」

「助けてタマ!」

「カエルとオタマジャクシ?」

 

 成熟期と成長期のデジモンではあるが……データ量が少ない。パンプモンたちといい、デジモンの成長進化はどういう基準でレベル分けされているのだろうか?

 

「って、あなたたちゲコモンにオタマモンじゃない!」

「本当だ、あなたたちも無事だったのね!」

「お、お姫様?」

「わーいお姫様タマ!」

 

 ……姫? なんだか不穏な単語が聞こえるが、ミミさんに抱き着いた彼らは再会を喜ぶのみ。丈さんが苦い顔をしていたが……これは何かあったな。

 しかし名前、そのままだな。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 落ち着いた後、彼らの話を聞くことに。

 丈さんに事のあらましを聞いたが……太一さんが戻った後、みんながバラバラになっていた時にミミさんは彼らの城の姫をやっていたらしい。なんだよまんまかよ。

 ゲコモンたちには慕われていたものの、その殿がアレな奴だったそうで大変だったとか。

 

「なんでここに隠れていたの? お城は?」

「お城はダークマスターズのせいで崩れてしまったゲコ」

「それで命からがらここまで逃げてきたタマ」

 

 涙ながらに語られる彼らの動向。ダークマスターズは自分たちの支配しやすいように世界を書き換えている。小さな島に城があったことから推察するに建物のデータはこの灰色のエリアに、その周りはメタルシードラモンのエリアに統合されたとみるべきか。

 

「アイツら、自分たちに従わないデジモンは片っ端から皆殺しだ……ふざけやがって」

 

 話に聞く限り、オーガモンは善の側のデジモンではない。しかし矜持は存在するのだろう。彼らのやり方は、オーガモンにとって許せるものではないのか。

 ダークマスターズ……やっていることが完全に恐怖による支配だ。それも、かなり古いタイプの。

 

「恐怖政治とか笑えないっての」

「それって昔のドイツみたいな?」

「うーん、国と言うより個人でのことですからね……議論したら長くなるんで帰ったら自分で調べてください」

 

 ちなみに、気が滅入るから僕はやめました。ただ一つ言えるのは、ロクなことじゃない。

 もしかしてダークマスターズを構成するデータって、そういった負の面の情報なのだろうか? それぞれが特質のある負の情報の塊だとするのならば……

 

「……確かめようがないか」

 

 僕の中に入ったピエモンのデータも、ダークマスターズのピエモンのデータではなく闇の属性を持っているだけのほんの一かけらなのだ。これから探ることはできない。

 

「ああ……彼らのすることはまさに恐怖を与え、力で抑え込む。そんなものだ。だからこそ、私はお前たちを探していた。ダークマスターズを倒し、闇を払うにはえらばれし子供たちの力が必要なのだ」

「だったら……なんで最初からダークマスターズのところに行かなくてファイル島に私たちは呼ばれたのよ」

「ハッハッハ! 馬鹿か? いきなりダークマスターズの目の前に出たら、あっという間にお陀仏だったぜ」

 

 オーガモンの言う通り、いきなりダークマスターズと戦って勝てるわけはないのだ。それに8人そろっていない状況だったらなおさら。

 

「でも、その代わりにたくさんのデジモンたちが死ぬことはなかったわ」

「ミミ君……」

 

 いや、ミミさんには悪いがそれはないだろう。彼らのやり方をみるに、僕らがいなかったらもっとひどいことになっていた。それは間違いない。

 それどころか地球もどうなっていたか……ヴァンデモン一人でさえ、結構な被害が出ているのだ。

 もっとも、それを今のミミさんに伝えたところで話が平行線になるだけだが。

 

「よくは分からないが、お前たちがファイル島に現れたのには理由があるのかもしれない。一種の試練だったのではないだろうか?」

「試練?」

「ああ、お前たちが本当にこの世界の救世主になるのかどうか……様々な試練が降りかかり、そしてダークマスターズと戦えるまでに成長した」

 

 たしかに、途中合流の僕もここまで来るのに色々なことがあった。ネオデビモンの一件などはまさに試練とよべるのではないだろうか。未来を変える力があるのかどうか、その試練……

 ふと、ホメオスタシスの言葉がよぎる。僕の運命の紋章……他のみんなよりも過酷であるというのならば、このダークマスターズとの戦いは? 過酷な戦いではあるが、まさか僕にとっては通過点でしかないというのだろうか?

 

「…………まあ、この一件が終わってから考えればいいか」

「それで、他の子供たちはどこに? すぐに集めなければ」

「いや、今別行動中なんだ」

「別行動? なぜ」

「まさに試練の真っ最中ってところかな」

「こっちも試練の真っ最中ですよ」

 

 ホント、デジヴァイスどうするか……

 

「そうだ、レオモンはデジヴァイスを直せるようなところ知らないか?」

「なに? デジヴァイス――な!? 壊れているではないか!」

「うん……ちょっと色々あってね。幸い、僕は0人目で他の8人とは違うらしいから数には入らないっぽいけど」

「0人目……0人目、どこかで聞き覚えのある言い回しだが」

「え、本当に!?」

「そうだ、思い出した。情報屋に聞いたのか」

「情報屋?」

「近くにまだいたと思うが……彼ならデジヴァイスの修復方法を知っているかもしれない」

 

 そんな奴がいるのか。だったら、すぐにでも会いに行った方が良いかもしれない。

 

「ただひとつ気になるのは、君のデジヴァイスからは聖なる力をまったく感じないということだ」

「壊れているからじゃなくて?」

「ああ。なんといえばいいのか、光でも闇でもない異質な力だ。だが、悪いものではないな」

「……異質、ねぇ」

 

 と、その時――嫌な感じがした。外の方からねちっこいオーラと言うか……来たみたいだな。

 

「来たな。気をつけろ」

「後ろに下がってな……お前、前に出て大丈夫なのかよ」

「流石に逃げてばかりなのもまずいかなって」

 

 ウィザーモンの杖を出し、迎撃準備をしておく。正直アイツ苦手だけど、戦うしかないか。

 ドアをけ破り、メタルエテモンが入ってくる。にやりと笑って、なめまわすように見てきやがって……

 

「うふふ、ついに見つけたわよえらばれし子供たち!」

「ここは私が相手をしよう――レオモン、ワープ進化!」

 

 レオモンが究極体、サーベルレオモンに進化し、外へ躍り出る。それに追従してメタルエテモンも飛び出した。どうやら、挑戦は受けるタイプのようだ。

 

「みんなは逃げろ――ネイルクラッシャー!」

「ナンバーワンパンチ!」

 

 互いの技がぶつかり合い、爆発を起こす。究極体同士の激突だ。技ひとつをとってもとてつもないエネルギーを秘めている。

 

「レオモン一人に任せておけないよ!」

 

 ゴマモンが進化し、イッカクモンに進化するが……丈さんがそれを制した。

 

「やめるんだイッカクモン! レオモンの言う通り、ここは逃げた方がいい!」

「で、でも丈」

 

 たしかにここは逃げの一手が一番だろう。今の僕らじゃ勝ち目がない。

 サーベルレオモンでは相性が悪い。メタルエテモンの体はクロンデジゾイドでおおわれている。この世界ではデータそのものが物質化する。だから、現実世界ではありえない硬度を持つ、クロンデジゾイドという金属が存在しているのだ。

 全員がイッカクモンに乗り、脱出を図る。ただオーガモンとミミさんだけがまだ乗り込んでいなくて……

 

「ああもう!」

「ミミ君はやく――ってカノン君!?」

「引っ張ってでも連れて行くしかないでしょう!」

 

 だが、それよりも先にミミさんが戦っている彼らの前に躍り出ようとしていた。

 サーベルレオモンが膝をついており、その前にオーガモンが出ている。そうやら、ミミさんよりも先に飛び出していたらしい。

 

「待て! レオモンを倒すのは俺だぜ!」

「なによ。あんたなんてお呼びじゃないわ!」

「なにぃ!?」

「待って! その怪我じゃ無理よ!」

 

 ミミさんがオーガモンをかばうが、メタルエテモンはニヤリと笑うだけで――――唐突に、嫌な予感が駆け巡った。力の圧力が強まっていき、全身から冷汗が出る。

 すぐに僕も飛び出し、防御式を発動させるが……ダメだ。僕じゃこれを防ぐことはできない。

 

「心配しなくても、あんたたちまとめてあの世に送ってあげるわ――ダークスピリッツデラックス!」

 

 空から黒い雷が降り注ぎ、僕らに直撃しようとしたその時――僕らの上に一つの影が躍り出た。

 

「があああああああああああ!?」

「――え」

 

 レオモンが僕たちをかばい、メタルエテモンの攻撃を受けたのだ。

 そのまま彼は倒れていき――生命データが消えていくのを感じた。

 後ろではイッカクモンがズドモンに進化し、メタルエテモンと戦っている。そうか、ズドモンのトールハンマーはクロンデジゾイドの塊。だったらメタルエテモンにも効果があるだろうが――――

 

「――――だったらもっと早く気がつけよ」

「カノン、君?」

「そうやって情報の取得が速さで戦ってきたってのに肝心なところで失敗してんじゃねぇよ」

 

 頭の中に後悔が駆け巡っていく。もうレオモンは助からない。

 一概に僕のせいとは言い切れないだろうが、それでも油断があったのも事実だ。無茶をし過ぎたツケが回ってきたのかもしれない。だけど、頭の中がぐちゃぐちゃになっていって体の奥底から何かが爆発しそうになり――そして、抑えきれなくなった。

 

「うわああああああああああああああああああ!?」

 

 体から力の奔流が始まり、紋章が強く輝きだす。

 デジヴァイスがショートを起こし、ドルモンのインターフェースが呼応するように赤く輝いていた。

 僕の体から光が爆発的にあふれ出して――デジモンたちに降り注ぐ。

 

「なんだ――これは、力があふれて……!?」

「なんだか体があつくて――――あああ!」

 

 ズドモンとパルモンの体が輝きだし、姿を変質させていく。それだけでなく、メタルエテモンとサーベルレオモン以外のデジモンたちの体までもが変質を開始した。

 

「なんなんだ、これは!?」

 

 丈さんが叫んだと同時に、突風が吹き荒れる。

 

 

 

 

 

「――ブラスト進化」

 

 言葉の意味は分からなかったが、僕の口からその言葉が漏れた時……ついに、光が爆発をおこした。

 




ついにタイトル回収。改定前だとあまり活かせていなかったけど、今度は違うぞ。

BLASTはブラストエボリューションのブラスト。
アドベンチャーに合わせてブラスト進化と表記しています。


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45.生きる力

ダークマスターズ編も後半に突入。カノン以外の視点も盛り込みだしますが、ムゲンドラモンのエリアでは原作とは異なる展開となるかも。


 ブラスト進化。丈達にもメタルエテモンでさえもその仔細は分からなかったが、ただ一人。命が消えいくサーベルレオモンにだけは何となく理解できていた。今、この瞬間に彼の命が消えて行っているからこそ気が付くことが出来たというべきか。

 

(……なるほど、彼のデジヴァイスにあったのは生きる力そのものか。光でもあり、闇でもある。だからこそ異質に感じたが…………ある意味どこにでもある力だ)

 

 異質なのはそれを反発するでもなく表裏として存在させているわけでもない。当たり前のように併せ持っているのが他の誰とも異なるところだ。

 昔聞いた伝説に、そんな力を持った魔王の存在がいたことを思い出したが……それとは違う。調和のとれたものだった。だが、サーベルレオモンの犠牲をきっかけに、その奥にある何かが目覚めてしまった。

 奥底に眠っているものが今この現象を引き起こしている。

 

(性質は光だ――だが、身を焦がす太陽のような輝き……あまりにも危険だぞ)

 

 しかしもう止めることはできない。

 カノンからあふれ出した光はデジモンたちに降り注ぎ、彼らを強制的に進化させてしまう。

 

「うぉおおお!!」

 

 まずオーガモンの姿が変わり、巨人のような姿へ変貌する。手に持っていた棍棒は大剣へと変化し、鬼神のような出で立ちだ。

 

「ガアアアア!!」

「なんなのよ!?」

 

 メタルエテモンはその攻撃をかろうじてかわすものの、今度はいばらの鞭が彼を捕える。

 赤いバラのような姿をした、女性型のデジモンだ。彼女がメタルエテモンを捕まえたのだ。

 

「――この、ふざんけじゃないわよ」

「――ッ」

「ってまたぁ!?」

 

 次に攻撃したのは巨大な鉄球を二つ背負った獣人のようなデジモン。鉄球には棘が付いており、それらが射出されメタルエテモンへ迫る。

 

「この――調子にのるんじゃないわよ! どうやって進化したのかは知らないけど、所詮付け焼刃――なっ!?」

 

 黒い雷撃を放出し、攻撃をそらそうとしたが効果が見られない。慌ててかわそうとすれば、黄色い鎌が突き立てられる。黄色い忍者のようなデジモンが、組み付いてきていたのだ。

 すぐに身をからめとられ、地面へ叩きつけられてしまう。

 

「ごはっ――!? この、ダークスピリッツデラックス!」

 

 とっさに攻撃を仕掛け、体勢を立て直そうとするが――オタマモンの姿が変わり、イカの様な触手を生やしたデビモンのようなデジモンとなって攻撃を防ぐ。

 その後ろから、鎧を着た男の人魚のようなデジモンが手に持った武器を使い子供たちへ襲い掛かっていた雷撃を全て弾き飛ばしていた。

 

「そんな、このメタルエテモン様の攻撃をいとも簡単に!? こんなのありえないわ――ッ」

 

 その直後。地面が盛り上がり、噴火する。巨大な大岩に手足をはやしたようなデジモンが叫んでいる。彼の咆哮により大地の力が解放されたのだ。それにより、メタルエテモンは再び吹き飛ばされてしまう。

 そのあと光の鎖がメタルエテモンを捕える。それを行ったのは、緑のローブに身を包んだ鏡のようなデジモンだ。二体が息の合った連携を見せ、メタルエテモンを捕縛したのである。

 

「なんなのよ……なんなのよこれは!」

 

 わけがわからない。その一言に尽きるだろう。

 カノンから発せられる光は更に大きくなり、より大きな力を放出しようとして――途端に、弾けてしまった。紋章が一際大きく輝いたと思ったら、光を発さなくなったのだ。それどころかカノンから放出される力を吸っているようではないか。

 

「ふふふ……あはははは! 何だかわからないけど、どうやら打ち止めのようね! だったら今度こそあんたたちの……ッ」

 

 悪寒。いや、死の恐怖と言うべきか。

 体に駆け巡ったのはいったい何なのか。メタルエテモンにはわからなかったが、なにかとても恐ろしいものが現れたのだけは分かった。

 急いで逃げなければいけない――だが、体は依然としてとらえられたまま。身動きが取れない。

 

「あ、あああああ……いや、やめて――嫌アアアア!?」

「グル……メタルインパルス」

 

 直後、メタルエテモンのデータは消し飛んだ。ただ、デジコアのデータだけを残して。最後に現れたドルゴラモンにも似た竜はそのデジコアを見続けていたが――それはいらないとでもいうかのように、指でひとはじきして消し飛ばす。

 そして、全員の姿が元に戻っていく。みな驚きに目をまわしており、首をかしげていた。

 

「みんな大丈夫かい!?」

「あ、ああ……なんだったんだ今の? なんだか急に体か力が湧いてきたと思ったら、いつの間にか……?」

「そんな感じだった。強くなった――かと思ったら気がついたら元に戻ってて……あれ?」

 

 全員が先ほどまでのことを覚えていないらしい。通常の進化とは違うのか、ゴマモンもズドモンのままだ。まさに、”元”に戻ったのである。

 

「……あ」

「カノン君!」

 

 丈が走り、カノンを抱き留める。体からどっと汗が流れ出しており、顔色も悪い。だが、意識が飛んでいるわけではなく正気を保っていた。

 

「さっきのは、いったい……」

「僕にも、わかりません…………体の奥底が暑くなったと思ったら、頭の中に色々な情報が流れてきて、それ以上はなにも……それより、レオモンは?」

「……」

 

 丈は黙って首をふる。サーベルレオモンからレオモンに退化しており、どんどん息吹がなくなっていっていた。ミミが泣いて彼にすがり、死なないでと叫んでいるが……もう長くない。

 

「……森が、戻っている」

「え……」

 

 レオモンの瞼が開き、彼の目線の先を見るとたしかに森が戻っていっていた。誰かがピノッキモンを倒したのだろう。これで、また一つデジタルワールドが元に戻っていった。

 

「すまんな、私はここまでのようだ」

「諦めないで! まだ助かる方法はきっと……」

「いや、自分の体のことは、自分がわかっている……」

「なんで、なんでそんな風に笑えるんだよ」

 

 ドルモンの言葉にレオモンは彼の額をトンとつき、言葉を続ける。

 

「命は受け継がれる。ここで私が倒れもお前たちがあとを継いでくれる」

 

 そして、今度はオーガモンへと向き直った。彼にも、まだ言わなくてはならないことがあるから。

 

「すまんなオーガモン、決着をつけられなくて。はじまりの町でまた生まれ変わる時まで、勝負は……お預け、だな」

「レオモン……」

 

 オーガモンが涙を流し、レオモンに手を伸ばすが――その手をレオモンが握る前に、彼は消え去った。

 

「ちくしょう!!」

「……結局、こうなるのかよ!」

 

 丈もカノンも自分の無力さが嫌になった。もっと何かできたであろうに、結局はまた一つ命を失っただけだ。

 

「…………二人とも、はじまりの町へ行こう」

「そうね、あそこならレオモンも生まれ変わる。それに、ピッコロモンたち今まで死んでいったデジモンもきっと――」

「残念だが、それは無理だぜ」

「――え」

 

 淡い希望。だが、それはオーガモンの口から否定された。

 

「俺はこの前行ってきたんだよそのはじまりの町に。だが、ダークマスターズのせいではじまりの町は死んじまった。デジタマは黒く染まり、孵化することはない」

「そんな……でも、カノン君の持っているデジタマは!?」

「それは向こうの世界で手に入れたデジタマだろう? こっちになかったから影響を受けなかっただけだ……俺も最初に見たときはもしかしたらと思ったが、そいつは運よくそのままだっただけさ」

「そんな……」

「それで、どうするんだ? ダークマスターズを倒さない限りレオモンたちは生き返れねぇぜ」

「オーガモンの言う通りだ。今はダークマスターズを倒すしかないんだよ」

「ねえ、ミミ……アタシも戦わせて。戦わなくても仲間が死んじゃうんなら、戦った方がいい」

「――――わかったわ。はじまりの町を元に戻すためなら、私なんだってするわ!」

 

 ミミも戦うことを決意した。カノンもその姿をみて、疲れた体を叩き立ち上がる。立ち止まっている暇はない。落ち込んでいたらそれこそダメだろう。

 

「ねえオーガモン、あなたも手伝ってくれる?」

 

 ミミはオーガモンに問いかけるが、彼は少しの驚きと照れで横を向く。

 

「本当ならお前らに手は貸さねぇんだが……まあ、しょうがねぇか」

「ありがとう! 心強いよ!」

「そうと決まったらまず仲間を集めねぇとな。あちこちにダークマスターズに抵抗しているデジモンたちがいるはずだ。まずはそいつらを集めるんだ!」

「なるほど……」

「ねえお姫様。おれたちもついていっていいタマか?」

 

 オタマモンとゲコモンもミミにそう聞いているが、なぜかミミは顔を険しくして彼らの申し出を断った。

 

「ダメよ!」

「なっ――」

「ミミ、って呼んでくれなきゃダメ」

「――ミミ!」

「うん!」

 

 もうお姫様ではない。これからは仲間なのだから、ちゃんと名前で呼ばれなくてはだめだ。一つの決意を新たに、彼らは先へすすむ。

 今この時、他のえらばれし子供たちもそれぞれの道を歩み始めていた。

 太一たちは次のエリアの主であるダークマスターズを倒すためにまっすぐ進み、ヤマトとガブモンは自分を見つめ直すために仲間たちから離れ、進んでいる。その過程で、彼らがピノッキモンを降した。

 そして最後に彼ら。一度後方に下がったものの、目的のために再び前へ進みだしたものたち。

 

「乗り掛かった舟だし、オレたちも最後まで行くよ!」

「また渋谷に遊びに行きたいからな」

「スカモンが生まれ変われるように、オイラも頑張る」

「それじゃ、準備をととのえて先に――――およ?」

 

 同行者たちも決意を新たにしたとき、唐突に異音が響く。

 ぴきぴきと音が鳴り、デジタマがグラグラと揺れて暴れ出しそうになっていた。

 

「もしかして、生まれるの!?」

「なんだか激しく動いているけど、これ大丈夫なのよね?」

「たぶん……オーガモン、デジタマってこんなだっけ?」

「いや俺も初めて見る――っていうか生まれたばかりのデジモンもここまで激しくは動かないぞ!?」

 

 そしてついにデジタマが割れ、中から白い何かが飛び出した。そいつは歯茎をむき出しにし、カノンの顔にかぶりついてしまったではないか。

 

「――――」

「カノン、君?」

「えっと……このデジモンどこかで見覚えのある…………でもデジタマから出てきたにしては大きいような?」

「――生暖かい!」

 

 顔から引きはがし、そのデジモンをみると……なぜか、すでに一段階進化した状態で生まれてきていた。

 

「トコモンよね、そのデジモン」

「ああ、そのはずだけど……デジタマからうまれたのなら、ポヨモンのはずなのに…………それに、触覚の形も変だな」

 

 パタモンの進化前であるトコモンではあるのだが、触覚の形が微妙に違うのだ。おでこのあたりで交差しており、Xのように見える。

 トコモンとは違うデジモンかとも思うが、ゴマモンたちがそれはないと首を振る。

 

「確かにそのデジモンはトコモンだよ。なんだか違うけど」

「でもなんでトコモンの状態で……カノン君? どうしたんだい、なんだか顔が怖いけど」

 

 カノンの目が驚きに見開かれていたが、やがて何かに納得したかのように落ち着いていく。

 

「いえ、そっか……元々X抗体を持っていたんだから生まれ変わっても当然持ったままか」

「そういえば前にも聞いたことがあるような気がするけど、そのX抗体ってなんなんだい?」

「文字通り、抗体ですよ。僕も詳しくは知らないですが」

 

 それも出来れば調べたいものだが……と、そこでカノンがレオモンの言っていたことを思い出した。

 

「そうだ、情報屋。そのデジモンに聞けば何かわかるかも」

「でもその情報屋に会いに行くにしても、どこにいるのかわからないんじゃ探しようが……」

「そうなんですよね。オーガモンたちは何か知っているのか?」

「いいや。知らねぇ……俺はアウトローだからよ、そういう奴らとはあまりかかわらなかった」

 

 オーガモンは知らないという。そのことに落胆しかけたが、思いもよらないところから話が出てきた。

 

「オイラ、風の噂で聞いたことがあるよ」

「チューモン、本当に?」

「うん。緑色の忍者みたいなデジモンがそういう事をしているって話だけど、詳しくは知らないんだ」

「そっか……でも見た目が分かっただけでも――――って、アレ?」

 

 ミミが首をかしげる。何だろうと思って全員が視線をミミが向けている方へ持っていくと――テレビのような顔をした緑色の忍者デジモンがぽつんと立っていた。

 

「い、いたー!」

「あのう、すみません。出て行こうと思っていたんですがタイミングを逃してしまいまして。ワタシ、直接戦うのは苦手でしたので」

「まさか向こうから来るとは……でも、本当に情報屋とは限らないし」

「いえいえ。その情報屋であっていますよハイ。えらばれし子供の城戸丈さん、太刀川ミミさん。お二方の紋章のことも知っていますし、デジモンの情報もわかっております」

「な――そんなところまで!?」

「ついでに、ピエモンの居場所と歌っていた鼻歌も教えて差し上げますが?」

「……居場所は知りたいけど、なんで鼻歌?」

「この前後ろをこっそりつけていた時、いきなり鼻歌を歌っていたのでびっくりしました」

 

 おそらくは実力を示すために言ったのであろうが、なんだか途端に胡散臭くなった。

 しかしどうやら彼が情報屋というのは間違いないようだが……急にカノンの目の前に膝をつき、土下座せんばかりの勢いになる。

 

「お久しぶりでございます、カノン殿」

「え、僕君に会ったことあったっけ?」

「ええ……ドルモンさまも、お懐かしいかぎりです。以前お会いしたときはワタシはしゃべりませんでしたし、まだ進化前の姿でしたからわからないのも無理はないと思いますが」

「進化前――そういえば、似たようなデジモンにあったことがあるけど……」

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。ワタシの名前はモニタモン。以前、人間界でカノン殿と出会ったときはモニモンでしたね」

 

 えらばれし子供たちはそれぞれの道を歩みだした。カノンもまた、自分の道を歩みだすこととなる。

 

「カノン殿、どうかお力をお貸しください――バステモン様を助けるために!」

 

 運命がまた一つ、動き出した。

 




というわけで、モニモン改めモニタモン再登場。
デジタルワールド時間では何万年、下手したら何億年と時が過ぎているのに彼がいる理由については次回。

デジタマから孵ったのはトコモンXです。


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46.カノンの行く道

ダークマスターズ編も後半、ここから原作とは異なった感じになると思います。


 モニタモンの頼みというのはこのエリア――ムゲンドラモンの支配領域の先にあるピエモンの支配領域の下の方に統合されてしまっている遺跡にいるバステモンを助け出してほしいということだった。

 なんでも、かつての戦いでバステモンは凍結封印されてしまったらしい。そのため、今も生きてはいるが動けない状況にいるのだ。

 モニタモンは無事ではあったのだが、あのゲンナイさんがピエモンに何かを埋め込まれた際のごたごたに巻き込まれていたらしく、長らく休眠状態だったとか。

 

「バステモンには僕も世話になったし、助けに行きたいのは山々なんだけど……」

 

 丈さんたちの方をみる。仲間を集める旅が始まろうという時に僕だけ別行動するってのもなぁ……

 

「カノン君、デジヴァイスが壊れた状態でドルモンと二人だけで行こうと思っていないかい?」

「あちゃぁ……見抜かれてましたか」

「そのバステモンを確実に助けるためにも、全員で行くべきだと思うんだけど……それでも、自分たちだけで行くというのかい?」

「まあ、個人的なこともありますし。それに、安定を望むものも言っていたじゃないですか。進化にデジヴァイスは必要ないって」

「それって……」

 

 そうだ。デジヴァイスはあくまで進化の補助をしてくれるだけだ。ドルモンの場合は他のパートナーデジモンと違って蓄積された経験も関わってくる。現在のドルモンが進化できないのは蓄積されたデータのバランスが狂っているからだ。

 だったらどうにかしてそのバランスを直すことが出来ればドルモンは進化が可能になる。それに、デジヴァイスの修復もバステモンを助け出せればどうにかなるかもしれない。

 

「バステモンは僕に魔法を教えてくれたデジモンですから……一縷の望みがあるんです」

「……でも、何もカノン君たちだけで行くことないじゃない」

「ミミさんの言う通り、全員で行った方が速いかもしれませんが――何かあった時に、8人がそろわなかったらマズイです」

「度々言っているけど、8人と1人って分ける理由って……」

 

 推測の域を出ないが、デジヴァイスが宿す力が異なることから暗黒の力に対抗するために選ばれたのが8人の子供。つまり、この戦いには僕以外の8人がそろっていなくてはだめなのだ。

 

「どうにかして進化できるようになれば、すぐに追いつけますから……だから、お願いします。行かせてください」

「…………わかった。元々、止められるような君じゃないしね。でも約束してくれ……必ず無事に戻ってくるって」

「わかってます――それじゃあ、モニタモン案内してく、れ――いてっ!?」

 

 後頭部に何かがひっついてきた。その衝撃で頭が揺れてしまう。

 白い触角が垂れてきたことから……どうやらトコモンが頭にへばりついているらしい。

 

「モン!」

「いや、お前は先輩たちと一緒にいてくれよ」

「ムー!」

「……嫌だと申すか。パンプモンたち、コイツ引きはがしてくれ」

「いいけど、禿げるよ?」

「中止。即刻中止。っていうかトコモンはなんでついて来ようとするんだよ」

「親だと思っているんじゃないの?」

「デジモンに親兄弟という概念は基本的に存在しないハズなんですが」

 

 しかしトコモンを引きはがすことが出来ないのも事実。メタルファントモンだったころの面影が一切ありませんね。なんでここまで懐いているのか……

 

「致し方ありませぬな。このままいきましょうぞ」

「えー……大丈夫なのかな」

「それでカノン、どうやって行くの?」

「アーマー進化は使えるから……サンダーバーモンが一番手っ取り早いか」

 

 すぐにサンダーバーモンの上に乗りこみ、目的地向かうとしよう。

 パンプモンたちは丈さんと共に残り、仲間を集める道へ。僕らはモニタモンの顔に表示されたマップを頼りに進むこととなる。

 サンダーバーモンの飛行能力のおかげで空から進むことが出来るわけだが……まずはどっちに行くべきか。

 

「でしたら、戻ったエリアの空中をお進みくだされ。街のエリアを突き進むとムゲンドラモンの部下に見つかる恐れもありますし」

「なるほど……サンダーバーモン、行けるか?」

「任せてくれ。この程度へでもないさ」

 

 重力データが元に戻っているからエリアを飛び立つときに姿勢が崩れたけど……すぐに体勢を直したあたり、言葉通り大丈夫だったか。

 しかし改めてデジタルワールドの状態をみるが……虫食いだらけみたいだな。海は戻っているし、陸地も結構な部分が戻ってはいるが、所々消えているのはまだ二体のダークマスターズが残っているからだろう。

 ほどなくしてピエモンの支配する闇のエリアにたどり着く。再び重力データがスパイラルマウンテン側に引っ張られるため、気持ち悪くなる……急に重力が変わるから衝撃もあるし。

 

「うぷ……」

「とりあえず着陸するぞ」

 

 サンダーバーモンが地面に降り立ち、ドルモンへと戻っていく。

 モニタモンが肩を回しているが……こったのだろうか? あと、トコモンは僕の頭の上に乗っかったまま動かない。いい加減降りてほしい。

 

「つきましたな。それでは、こちらに続いてください――あと、ピエモンの部下にはお気を付けくだされ。強力なデジモンも多くいますので」

「知ってる。前に戦ったことがあるよ。ネオデビモンとか」

「おお、あの軍団のことをご存知でしたか」

「――――は? 軍団?」

 

 え、どういうこと?

 

「む、ネオデビモンとはどこで戦いましたので?」

「人間界で、襲ってきた一体とだけど」

「なるほど……ゲートを無理やり通れるように改造したのでしょうね。ですので、その一匹だけと戦ったのでしょうが……ピエモンはネオデビモンを軍団で用意しております。お気を付けください」

「マジで……あんなのがまだたくさんいるのかよ」

「他にも様々なデジモンがいます。幸い、デジタルハザードは手に入れられなかったようですが」

「デジタルハザード?」

「このようなマークを持ったデジモンのことです。過去に何体か確認されておりまして、そのうちの一体。邪竜と伝えられているデジモンを確保しようとしていたらしいのですが……」

 

 モニタモンの顔に丸と三角を組み合わせたような図形が表示される。なるほど、ハザードシンボルね。デジタルハザードってことはデジタルワールドそのものの危機になる存在という認識でいいのだろうか?

 

「おおむね合っております」

「でも、ダークマスターズにはついてなかったな」

「闇だとか光だとかは関係ありませぬ。そのデジモンの持つ力そのものが非常に危険なものである場合に刻まれるものですので」

「力そのものねぇ……」

 

 いったいどういった質の力を指すのかはわからないが、相当危険な存在らしい。

 

「確保できなかったのは幸いだな」

「ええ。しかし、件のデジモンはデジタマの状態で封印されていたらしいのですが……いずこかに消えたようですね」

「そのデジモンって究極体だったのか?」

「おそらくは」

「……それほどに強力なデジモンだったら、いたらすぐにわかるだろうし…………ダークマスターズももっと積極的に探すはず。なら、今そいつのことは心配する必要はないと思う」

 

 デジタマがなくなっているのなら、孵化しているかどこかへ流れついたのだろうが……ダークマスターズとの戦いが終わった後で探せばいい話だ。今そのことまで考える必要はない。

 ダークマスターズが狙っているのなら話は違ったが、ピエモンが積極的に探していないのならとりあえず放置で大丈夫だろう。

 

「しかし、こちらが積極的に動こうとするとピエモンも動く可能性があるのですが……今更ながら、いきなり突撃して良かったのでしょうか?」

「自分で言いだしたことだろうに……まあ、そこは大丈夫だと思うよ」

「それはまた、何故?」

「ピエモンってかなり昔から生きているデジモンなんだよな?」

「ええ。存在は大分前から確認されております」

「ってことは……事前にアレコレ手を打てたはずなのに打っていないってことだ」

 

 あまりにも長寿過ぎるんだろう。僕たちにとっての一秒が奴にとっての一年、十年なんだ。奴のナイフに刺されたときに、多少だが奴の考えが流れ込んでいた。本当に少しだけだったが、奴が考えていたことを覗き見ているのだ。断片的すぎて解読はできなかったけど、ホメオスタシスに見せてもらった映像やモニタモンの話を合わせれば推察はできる。

 

「つまり、いつでもできるから後回しにしているんだよ。たぶん、頂上に行くまで動かないんじゃないのか?」

 

 モニタモンの話では、ピエモンは頂上にいるらしいし……ダークマスターズを二体倒しても現れないのがその証拠だ。

 メタルシードラモンは血気盛んなタイプ。先鋒にくるのも納得だ。次に来たのはピノッキモン。中身が無邪気な子供な彼は遊び感覚で戦ってきていた。我慢が効かなくて飛び出してきたってところだろう。

 次に太一さんたちが向かったのはムゲンドラモンのところだろうが……見た目通りの印象ならば合理的に詰めてくるタイプ。準備を整えて迎撃するってところか?

 で、ピエモンはゲームのラスボスのようにどっしりと構えて待ち受けているってところだろう。デジモンたちはデジタルデータから構成されているから、案外こういう”らしい”設定に縛られてしまう生き物なのかもしれない。

 

「とりあえず、そのバステモンの封印されている神殿って近いのか?」

「ええ、それほど遠くはないですが――たしか、このあたりに目印があったはず」

 

 しかしあたり一面不毛の大地というか……殺風景な地獄って言えばいいのか? 嫌な空気が充満している。

 木々も枯れており、生命の息吹を感じない。デジタルデータであるはずなのに、他のエリアには多少なりとも命を感じたのだが……ここにはそれが無い。

 

「案外、ピエモンにとっては他のダークマスターズすらもどうでもいい存在なのかもしれないな」

「カノン、なんだか悲しそうな顔してるよ」

「モーン……」

「そうか?」

 

 悲しそうな、顔か……

 

 ◇◇◇◇◇

 

 モニタモンの言っていた遺跡というのはすぐに見つかった。話に聞いていただけではどういう状態なのかはよくわからなかったが……なるほど、これは厄介だな。

 

「わかりましたか?」

「ああ、スリープ状態……というよりは、電源を切られたパソコンみたいな…………データはあるんだけど、起動できない状態にあるって感じかな」

「カノン、戻せるの?」

「……まずはデジタルワールドのリンクを復旧させる必要がある。解凍もしないといけないし…………とりあえず、遺跡の中の改造から始めるか」

「改造、ですと?」

 

 使えるリソースは全て使わないといけないだろう。

 とりあえず壁画データを崩して、別のデータへ書き換えていく。こる必要はないから基盤そのままでいいか。

 

「随分と腕を上げられましたな」

「力をくれたデジモンがいたんだよ。まあ、他にも色々とね……とりあえず配線を作ったから僕の指示通りに繋いでいってくれ」

 

 みんなの手を借りてコードをつないでいき、この遺跡を解凍を行うための施設へ作り替えていく。途中、ケンキモンでバステモンの入っている水晶を運びながら場を整えていき、準備が終わるころには丸一日が過ぎていた。

 なかなか手こずったし、結構時間もかかったからトコモンは熟睡している。ドルモンも眠気が強くなってきたらしく、うとうとしていた。

 

「先に寝ていいぞ。どうせ解凍はひと眠りしてからになるだろうし」

「……ううん、手伝うよ」

 

 そうか、と返事をして作業を続ける。

 しかし長い間バステモンを閉じ込めていた水晶だけど……少しサンプルをとることが出来た。詳細は分からないが、かなり特殊な物質らしい。なんというか、デジタルワールドのデータのはずなのにこの世界由来のものとは思えないような何かを感じる。

 

「……これ、使えるかもな」

「? どうしたの」

「いや…………何が回り巡ってくるかわからないなって思ってさ」

 

 準備はほどなくして終わり、僕らは眠りにつくことに。

 今頃みんなはどうしているだろうか? 太一さんたち、無事だといいけど……

 

 

 翌日の朝、ついに解凍を行うこととなった。

 見た目は転送装置っぽくなってしまった解凍装置だが、ちゃんと使えればいいのだ。

 

「なんか不安になる見た目だね」

「それを言うなドルモン。モニタモン、始めるけど準備はいいか?」

「分かっております。お願いします、カノン殿」

「オーケー。デジメンタルをセットして、準備は完了」

 

 エネルギーの確保にはデジメンタルを直接用いることに。装置を起動させて、解凍を行う。解凍というよりは凍結に使われている水晶とバステモンを分離させると言った方が正しいのだが、見た目的に解凍と言った方がいいか。

 エネルギーの供給が始まり、水晶が発光を始めた。バチバチと電気がほとばしり、データの分離が開始される。

 

「……カノン殿」

「安心しろ。制御は問題ないし、ちゃんと水晶データも剥がれている」

 

 ほどなくして、データの分離が終わった。発光が終わると白い煙があふれ出たが……視界が悪くて成功したかがわからない……

 

「バステモン様!」

「――――」

「バステモン! 無事なら返事をしてくれ!」

 

 煙が立ち込めて確認できない――だが、返事がない。まさか失敗? そんなことが頭をよぎった時、すぅすぅと寝息が聞こえてきた。

 煙も晴れると、バステモンが気持ちよさそうに寝息を立てているではないか。

 

「……バステモン様」

「そういえば、初めて会った時もこんなだったな。好意的に見るなら、スリープすることで自分のデータを守ったってことなんだろうけど……」

 

 ま、成功してよかった。

 それに……水晶データもキッチリ確保できたし。

 機材も作れそうだし、何か知っているかもしれない人もいる。

 いよいよデジヴァイスの修復に乗り出せそうだ。

 




カノンは再び戦えるようになるために、えらばれし子供たちとは別行動に。

ダークマスターズ後半戦は別メンバーの様子も描写します。


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47.新たな試練

カノンとドルモンの新たな試練が幕を開けます。


 ムシャムシャゴックン。とてつもない咀嚼の音が聞こえる。

 

「お久しぶりの食事だよぉ……手が、手が止まらない」

「落ち着かないと喉詰まらせるぞ」

「大丈夫大丈夫。バステモンがそんなミスをするなんて――んぐッ!?」

「言わんこっちゃないな!」

 

 すぐに目が覚めたバステモンであったが、お久しぶりーなどとのんきな挨拶のあと……すぐにおなかを鳴らした。凍結状態だったとはいえ、かなりの長い間何も食べていないわけだから当然と言えば当然だが。

 

「しかししばらく見ないうちに大きくなったねー」

「そっちはお変わりないようでなによりだよ」

「あははー、可愛げないー。モニタモンもおひさだね」

「バステモン様もお元気そうでなによりです」

「あははー。お堅いなぁもう」

「君は真面目な時は真面目にできるのに……ったく、時間もあまりないし単刀直入に聞くよ。これ、直せると思うか?」

 

 僕はそう言って、デジヴァイスを彼女に見せる。一瞬、バステモンの顔が驚愕に染まるが注意深くデジヴァイスを見てふぅと一息ついた。

 

「見た目よりは壊れていないよ。症状からするに、デジヴァイスとリンクしているドルモン側の影響だね。オーバーロードしちゃっているみたい」

「やっぱりか……特殊な素材で出来てるから直せるかわからなかったんだけど、バステモンを閉じ込めていた水晶を使えば直せると思うか?」

「うん。でも、それだけじゃ足りないと思う……他のデジヴァイスのデータって持ってる?」

「それならこの前僕が受け取っているよ」

 

 狂ったバランスを治す際にデジヴァイスの光を受けておいたのが幸いした。体の中にその時のデータが残っているから、それを流用できるはずだ。

 

「じゃあとりあえずバラそう」

「……いきなりすごいこと言い出すね」

「ちゃっちゃっとやらないとねぇ」

 

 ということでデジヴァイスの外装をはがしていくことに。

 中の基盤は初めて見たが、案外普通なんだな。

 

「…………」

「どうかしたのか?」

「なんか、カノンが作った解凍装置の基盤と似ているなぁってバステモンは思うのです」

「そうか? 別に基盤なんてどれも似たようなものだと思うけど」

 

 基本は同じなんだし。

 とにかく作業を急がないと……えっと、水晶をデジヴァイスのデータで加工していって…………中身が壊れていなかったのは幸いだった。大事な部分は無事だし。

 

「――――あぁあああああ!?」

「ど、どうかしたのかバステモン!?」

「こここここ、このデジヴァイス!」

「だから、どうかしたのか?」

「これ、イグドラシルの破片が組み込まれている!」

 

 イグドラシルってデジタルワールドの管理者だよな?

 名前は何度も聞いているし、僕も接続されているけど……って、何でバステモンはデジヴァイスを見ただけでそんなことがわかるんだ?

 

「……ちょっと事情があって、廃棄されたイグドラシルを見に行ったことがあるのよ。裏道とか裏技を利用しまくった荒業だけどね。でも、基盤のプレートが情報樹から削り出されているなんて……」

「イグドラシルの破片が組み込まれているから、僕はイグドラシルと接続されることがあったのかな?」

「――カノン、ちょっとおでこかして」

「おでこって……」

 

 バステモンが僕のでこに自分のでこを当ててきた。見た目は女の人だし、ちょっと気恥ずかしいんだけど……

 

「――――そっか、そういうことだったんだね」

「バステモン?」

「……ごめん、バステモンの口からは何も言えない。君は自分で知らなくちゃいけない…………一つ言えるのは、君がイグドラシルと接続されるのは別の理由だよ。つながりやすくはなっても、根本的な理由は違う」

 

 バステモンはそれだけ言うと、トコモンの触角をいじりながら食事を続けだした。

 ……いったい何なんだろうか? 聞いても答えてくれなさそうだし。

 とりあえず水晶体を変換していって外装を作っていく。完全に元通りとはいかないが、とりあえず使用できるようにはなるだろう。

 

「――――色が変わっちゃったけど大丈夫かな」

 

 薄緑色のクリアな外装になってしまった。中の基盤が丸見えやで。

 とりあえず起動してみると、以前と同じように普通に動いてくれた。

 

「ふぅ……とりあえずデジヴァイスは大丈夫か」

「これでおれも進化できる?」

「あー、そっちはドルモンの内部データのバランスが狂っているせいだからなぁ……竜のDNAの回復をしないとマズいかも」

「竜データに関連するものは持っていないの? デジモンのデータが記録されたものとか」

「そんな都合のいいもの持って……たな、そういえば」

「本当に!?」

 

 荷物の中に確かあったハズ……どこにしまったかなと探してみると、かばんの奥の方に入っていた。使わないなと思っていたからなぁ……

 

「それってゲートを開くのに使うカードよね。どこで手に入れたの?」

「太一さん――他のえらばれし子供に貰ったんだよ」

 

 アグモンのカード。このカードにはデジタルワールドの位置情報のほかに、アグモンのデータも入っているのだ。ゲートを開く際に石板に配置して使っていたが、鍵の役割をするためデジモンのデータ自体がその鍵となっているのだ。

 そう、竜のDNAを持つアグモンのデータが。

 

「なるほど、それをドルモンにインストールすれば問題は解決すると思うよ」

「よし。ドルモン……やってみるか?」

「今のところ手はないんだし、それしかないんならやるしかないでしょ!」

 

 ドルモンのインターフェースに触れてカードのデータをドルモンが取り込めるような形にしたうえでインストールしていく。

 データ量はそれほど大きくないからすぐにインストールが完了したが……

 

「どうだ、ドルモン?」

「――自分じゃよくわからない。進化できないか試してみて」

「わかった――!」

 

 デジヴァイスに力を送り込む様な感覚が起こる。すぐにデジヴァイスが光り輝き、ドルモンへ力が流れ込んでいくが……

 

「――――ダメだ、進化できない」

「失敗なのか?」

 

 ドルモンの額に触れてみたが、DNAの狂いは治っている。獣のDNAも増加しているのが気になるが……いや、ドルモンは元々獣型だったか。

 だとすると、なぜ進化できないんだ?

 

「……あなたたちは暗黒に触れている」

「バステモン?」

「光も闇も受け入れて進んできた。だけど、まだ足りないの。だから、足りないものを見つけに行きましょう」

 

 バステモンが立ち上がり、外へ行く。慌てて僕たちもついていくけど……いったいどうしたのだろうか?

 すっかり変わったデジタルワールドに少しの戸惑いを見せたが、バステモンはなぜか行くべき場所が分かっているようでまっすぐに歩いている。

 いったいどこへ向かおうというのか? そう思ってしばらくのあいだついていったが……どうにも目的地が見えない。

 

「バステモン、どこへ向かっているんだ?」

「……デジタルハザードの力を持ったデジモンは邪竜以外にもいるの。モニタモンから邪竜メギドラモンの墓所にはデジタマがなくなっていたことを聞いたけど、もう一か所のハザードの眠る地へ行くわ」

「ハザードの眠る地って……」

 

 デジタルハザードシンボルが付けられたデジモンって他にもいるのか?

 

「ハザードシンボルをつけられたデジモンの有名どころね……メギドラモンの他には、ルーチェモンがいるわ。七大魔王の一体だけど、随分と昔に倒されたデジモンよ」

「へぇ……」

 

 七大魔王ってまた不穏な響きの単語だな。できれば会いたくないんだけど。

 

「ルーチェモンは倒されて、デーモンはどこに消えたのか行方知れず。そうそう、リリスモンも倒されたんだっけ……たしか、前にこっちに流れ着いた人間と、彼と一緒に旅をしていたデジモンに」

「え……僕らの他にもデジタルワールドに来た人間がいたのか!?」

「歴史を紐解けば、結構いるものよ。まあ、件の彼は変わり者で、今も旅をしてるんじゃなかったかしら……たしか、名前は…………なんだっけ、モニタモン」

「杉田マサキ、そう申しておりましたな」

 

 ……あれ? その名前どっかで聞き覚えがあるような…………

 うーん、あったことはないと思うし、名前を聞いたような気はするのだが、どこで聞いたのか思い出せない。

 

「でも今も旅をしているなら、ダークマスターズと戦ったりはしていないのかな」

「別のデジタルワールドに行ったから……こっちの事情しっているかはわからないのよねー」

「結局、行方知れずなのか」

「そうなるわね。で、他の魔王だけど……ベルゼブモン以外はどこにいるのかも分かんないのよ」

「ベルゼブモン?」

「孤高の魔王とも呼ばれているんだけど、一応は味方かな。七大魔王といっても、一種のセキリュティみたいなところもあるし。まあ、何事もバランスなのよー。彼らは存在することに意味があって、デジタルワールドの闇側のバランスをとるための存在なの。まあ、腹に一物抱えた奴らばかりだから対抗するために色々といるんだけどね」

「戦わなくちゃいけないってわけじゃないよな?」

「それは大丈夫よー。少なくともベルゼブモンはそんな奴じゃないし。ただ、デジタルワールドにいると力のバランスを狂わせる可能性があるって話で、今は人間界にいるって聞いたよ」

「それって……もしかして黒いライダースーツを着ているデジモン?」

「そうだよー」

 

 ……あ、アイツかー!?

 ヤバいよ……下手したらダークマスターズよりもヤバい相手とエンカウントしていたよ。

 っていうか完全に人間に見えなかったんですけどそれは?

 

「サクヤちゃん……ああ、サクヤモンってデジモンなんだけどね。彼女が手伝ったみたい。一応、バステモンが使っていた認識をごまかすアレをベースに製作したデジモンを人に化けさせる魔法らしいんだけど、詳しいことは聞いてない」

「そんなものもあるのか……いや、出来なくはないのか」

 

 僕もステルスとかやっているし。ただ、非常に高度な魔法だから僕が習得できるまで何年かかることやら。

 今の科学技術に魔法を落とし込む方が簡単かもしれない。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 結局、目的地にたどり着くまで結構時間がかかった。

 というより数日が過ぎたような気も……あたりは黒と灰色の世界だし、空も地球が写っているから時間がよくわからない。

 それでも目的地にはたどり着けたのだからいいのだが……

 

「ここがその遺跡?」

「ええ、そうよ」

 

 遺跡というよりは祠だが……むしろ洞窟っぽい。

 中に入ると、壁一面にびっしりとデジ文字が書かれている……だが、このデジ文字を解読することが出来ない。いつも見ている物とは形が違うし……なんというか、言語体系が違う?

 それよりも異彩を放つのは中央にあいている穴だ。そこが見えないほど暗い穴で、ここから落ちたらどうなることか。

 

「うわぁ、そこが見えない……」

「ほんとだね」

「もー……ん?」

 

 頭が急に軽くなったと思ったら、トコモンがバステモンの手にあった。どうやら僕からはがしてくれたらしいけど……なぜ、背中に嫌な重みがあるのでしょうか。そして、隣りではなぜモニタモンがドルモンの背中に足をかけているのかな?

 そうか、この重みはバステモンが僕に足をかけているからで……

 

「それじゃ、いってらっしゃいみゃーご」

「ご武運をお祈りしておりますぞ!」

「なんでさぁあああああ!?」

「うわああああ!?」

 

 僕とドルモンは奈落の底へまっさかさま。

 どうにか上へと上がろうとするが、魔力を練ることが出来ない。

 

「なんだこの空間!? 魔法が使えない!」

「それじゃあ着地どうするの!?」

 

 くそッ――アーマー進化も厳しい。デジメンタルを具現化しているのも、魔法によるところがあるし……なるほど、バステモンの奴荒療治に出たのか。

 バランスは改善された。しかし、まだ足りないものがある。バステモンはそれを解決するために荒療治を行ったのであろうが……

 

「だからって落とすことはないだろうか!?」

「落ちる落ちる――ッ」

 

 唐突に、落下のスピードが収まった。いや、収まったというよりは風の膜が何層にも張られており、だんだんと減速していっているのだ。

 最後にはゆっくりと底へと降り立つことが出来た。だが……見事に真っ暗だな。不思議なのはドルモンの姿がはっきりと見えていることだが。僕の姿も見えているし……

 

「光源が無いというよりは、あたりに貼られているテクスチャが黒一色ってところかな。なんというか雑な仕事だな……」

「ここでどうしろっての……風も強いし」

 

 そうなのだ。もう暴風と言っていいレベルの風が吹き荒れており、なんとか飛ばされないようにして入るのだが……

 試しに魔法を使えないかいくつか術式を試してみるが、ダメだ。魔力が霧散してしまう。体内だけで留めるのならまだ消耗は抑えられるが……

 

「身体強化も厳しいぞこれ」

「何か出てきたらヤバいんじゃないの?」

「たしかにそうだけど――なんで言ったし」

「へ?」

 

 ドルモンがそう言った瞬間に、嫌な予感がしたのだ。それも特大の。

 風が一瞬止まり、キンッキンッと甲高い音が聞こえてくる。これは、金属音か?

 何かが高速で動いているらしく、僕とドルモンはあたりを見回すが……姿が見えない。

 

「真っ暗で何も見えないんじゃ……」

「違う。真っ暗なわけじゃないんだ。これは――相手のスピードが速すぎる!」

 

 幸い、アナライズ能力はまだ機能していた。データの乱れみたいのが見えていたから、どういった動きをしているのか後で追うことはできる。

 そして、ついに動き回っていたものの正体が姿を現す。

 

「――――」

 

 唐突に現れ、しかし静かに僕らを見下ろすもの。胸にハザードシンボルをつけた青色の鎧を着た騎士にもみえるデジモン。

 究極体、ミラージュガオガモン。

 今ここに、新たな試練が幕を開けた。

 




進化できない状態で挑むミラージュガオガモン戦。さて、ムリゲーにもほどがある。
しかし公式はミラージュガオガモンにハザードシンボルがついている理由を公開してくれないのだろうか。
……くれないどころか忘れてそうだわ。


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48.開戦前の小休止

といいつつ開戦済みな奴らも。


 現れた青い騎士、ミラージュガオガモンはただ僕らを静かに見下ろしているだけだった。だが、一歩でも動けばマズイ。そう思わせるほどに、奴の放つ力が僕たちをとらえて離さない。

 冷汗がポトリと流れ落ちて――それが、開戦の合図となった。

 

「――逃げるぞドルモン!」

「逃げるって――うわあ!?」

 

 衝撃波が僕たちのいた場所へ巻き起こる。奴の放った斬撃が衝撃波となって降り注いでいるようだが……一度でも食らえばひとたまりもないんじゃないのか!?

 いくらなんでもこんな奴相手に持ちこたえるなんて――

 

「カノン、来るよ!」

「分かってる!」

 

 ――四の五の言っている暇は無い。奴の攻撃を何とか避けて策を考えるがどうにも上手くまとまらない。

 実力の差があり過ぎる上に、こちらの手札はほとんどないのだ。

 

「たのむ、デジヴァイス……応えてくれよ!」

 

 デジヴァイスに光を灯すが、すぐに霧散して消えてしまう。

 何かが足りない。まだ、何かが足りないのだ。

 

「くそっ、なんで……」

 

 思考の海へダイブしようとするが、奴はそれを待つことはない。眼前に迫る刃。一瞬、ダメかとも思ったがドルモンがマフラーを噛んで引き寄せてくれた。

 

「絞まるッ」

「贅沢言わない! それに、動き回るだけで精いっぱいだっての!」

「こりゃ作戦会議できそうにないよな」

 

 ミラージュガオガモンが再び高速で移動を開始し、こちらの様子をうかがっている。奴がいまだ本気で殺しに来ていないのが幸いだが……それもいつまで続くことやら。

 ダメもとでも魔法をぶつけるしかないか? だけど、魔力弾を作ろうとしてもすぐに霧散してしまう。

 どうすればいいのか。何かを考えつかないといけない。

 

「フルムーンブラスター」

 

 ミラージュガオガモンの声が聞こえた――いや、電子音に近いかもしれない。無機質な声で技の名前を呼び、胸部が口のように開く。

 全身のエネルギーが集束していき、発射された。

 

「――ッ」

 

 とっさに身体強化をおこなったが、いつも通りのやり方ではすぐに霧散するだけだった。だからこそ、普段ならありえないことではあるが、体への負荷を無視した超強化を行う。

 体へ流せる魔力の限界を超え、肉体が悲鳴を上げようとも魔力を流し続ける。

 それでも奴の攻撃をかわしきることはできない。直撃は免れたが、爆風で体中に痛みが走る。

 

「がああああ!?」

「くそっ……コイツ、強すぎる」

 

 地面に叩きつけられ、何度もバウンドする。

 ドルモンも避けることは出来ていたが、体中傷だらけだ。

 僕の方も汗とは違う熱いものが体を伝っているのを感じていた……バステモン、恨むぞ流石に。

 

「ははは、笑えねぇよ」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 場所は変わり、遺跡内部のバステモン達。

 

「モーン……」

「ごめんね、必要なこととはいえ荒療治過ぎたかなー……無事に戻ってくるといいんだけど」

「バステモン様。自分も蹴り落しておいてあれなのですが、なぜハザードの一体であるミラージュガオガモンの元へカノン殿たちを? 下手をすれば……」

「うん。たしかに下手をすれば死んじゃうかもしれないね」

 

 あっけからんと言い放つバステモン。流石にモニタモンも驚きを通りこして怒りを感じてしまう。

 

「あなた様とはいえ、いささか無責任なのでは?」

「それでも、ダークマスターズとの戦いでは二人はたどり着くことはできない。暗黒のDNAを持っていないデジモンかつ、本気で殺しに来る相手と戦わないといけないんだよ」

「それはいったい、どういう理由で……」

「そもそも根本的に間違っているからね。他のえらばれし子供のデジモンは調整されているから定められた進化を行うようになっている。でも、ドルモンにはそれはないんだよ。あくまで、デジヴァイスで制御しているだけなのであって、本来は取得したDNAの進化を行うんだ」

「……ならば、今の二人の状態は?」

「今のドルモンは今までの進化を行うことが出来ない。それは間違いないんだけど、二人は暗黒の力を無意識のうちに切り捨てようとしているんだ」

 

 おそらくは呑みこまれることを恐れている。カノン、あるいはドルモン……いや、両者の内にある力と暗黒の力が結びついたときに起こることを恐れているのだろう。二人とも自分の中に眠っている力を知らないが、本能的に危険なラインを察知している。

 

「でも、それじゃぁダメなんだ。暗黒をも超えて行かないと、二人はいつかつぶれてしまう」

 

 暗黒を切り捨ててしまえば残るのは強すぎる光だけ。あまりにも強すぎる光は周囲のものを燃やし尽くす太陽のようなものだ。

 カノンはその危険性を察知し始めていたからこそ、ピエモンから受けた攻撃の際に体内に入り込んだ暗黒の力を残している。

 であるのならば、根本的な問題は……

 

「ドルモンの方なのよねぇ……究極体に進化したことで、自分の到達点はそこにあると思いこんでいるのよ」

「難儀なことですな。ですが竜因子を取り込んだのであれば以前の進化が使えるハズでは?」

「バステモンも最初はそう思っていたんだけど……トラウマって奴なのかもしれないわね」

 

 一度進化できなくなったことで、進化できないと思い込んでいるのか。

 いかなる理由があるにせよ、カノン以上にドルモンの成長進化を促さないことには先へ進めない。

 

「でもまぁ、あの子たちならなんとかなるかな」

 

 今まで彼らも多くの戦いを繰り広げてきた。

 それでもこれから先、より辛い戦いが彼らを待ち受けているだろう。

 

「だからこそ、モニタモン――二人を守るよ」

「御意に」

 

 トコモンを下ろし、二人は外へ出る。トコモンは首をかしげるが、穴のそばでカノンたちを待つようだ。流石に、彼も中へ入ろうとは思わないのだろう。

 

「……大丈夫よトコモン、二人は絶対に戻ってくる。バステモンたちも信じているから」

「うむ――それでは、邪魔者を退治するとしましょうか」

 

 バステモン達が外へ出ると、空から悪魔の大群が舞い降りてくるところだった。イビルモンにデビドラモン、それにネオデビモンの軍団が攻めてきたのだ。

 

「にゃははは……カノンの予想も外れるんだね。いや、自分の評価が案外低いのか」

「おそらくは、ピエモンもカノン殿の正体を知っているのでしょう。本人が直接こない上に、彼の軍の中では雑兵でしょうが」

「まったく、舐めてくれるわね――それで、カノンの正体がアレだってのは本当なの?」

「正確には、因子の一部を受け継いでいるそうです。いったい何があってそうなったのかは不明ですが」

「そう……イリアスの御子。デジタルハザードなんて生易しいほどの試練がこの先に待ち構えているんでしょうね……あの基盤、もしかしてアイツが関わるのかしらね」

「アイツ、と申しますと?」

「確証はないんだけど……中立も動くかもしれない」

「そこまでの事態が起こっていると申されるのですか?」

「そう考えると、色々説明がつくんだけど……詳しく解説している暇はなさそうね」

 

 もう大群はすぐそこまで迫っていた。遺跡に侵入されてはいけない。そうなっては、元も子もないのだ。

 

「助けてもらったこの命、せめて二人のためにつかわせてもらうわ!」

 

 直後に、戦闘が始まる。

 二体だけで勝てる見込みはない。それでも、戦うしかない。未来への希望をつなぐために。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 一方その頃、太一たちはムゲンドラモンのエリアを突き進んでいた。

 街のエリアというだけあって、道路が続いているためそこを進んでいたのだが、どうにも熱いため体力を持っていかれていたのだ。

 

「あちぃ……なんでこんなに暑いんだよ」

「地面がアスファルトだからじゃないですか? そういった部分まで再現しているんですよ」

「そういうところぐらいは変えてもいいだろうに。変なところで忠実になるなよなぁ」

 

 文句を言っても仕方がないのは分かるのだが、口に出さないとやっていられない。と、そんな時だった。

 

「――――」

 

 どさりと、声もなくヒカリが倒れてしまう。その音で振り返ったときには太一の顔に暑さとは違った汗がどっと流れ出た。

 

「ヒカリッ!?」

 

 慌てて駆け寄るが、ヒカリは顔を赤くして息も荒い。

 意識もはっきりしていないようで、太一の呼びかけにも反応せず、うなされている。

 

「どこかに休める場所は――太一、単眼鏡かして!」

「あ、ああ……」

 

 空が太一から半ばひったくるように単眼鏡を借り受けると、周囲を見渡す。すると、何かの影がみえた。あまり見たことない形ではあるがおそらくは――

 

「バス停! 向こうにバス停があるわ!」

「だったらすぐにいきましょう。太一さん、大丈夫ですか?」

「――わかってる。すまん、急ぐぞ!」

 

 暑さで像が歪んでいたからか、思ったよりも近くにバス停はあった。しかし、この世界でバスが通っているわけもなく、ただ形として存在しているらしい。

 しかし子供たちにとって幸いなのは屋根があったことだろう。空がヒカリの様子をみて、おそらくと前置きしてから彼女の容態を告げる。

 

「夏風邪がぶり返したのね。しつこいっていうし」

「太一さん、カノン君から風邪薬を預かっていましたよね?」

「ああ――たしかここに……あった」

 

 風邪薬を取り出し、ヒカリに飲ませる。水や食料は余裕をもっていたため何とかなったが……

 

「ヒカリ、また無茶をして……」

「また?」

「…………いや、何でもない」

 

 首を横に振り、光子郎の追及をかわす。光子郎も触れてほしくない話題なのだろうとそれ以上は聞かなかった。

 であるからこそ、この後どうするかになるのだが。

 

「向こうの街なら休めそうな場所もありますし、ヒカリさんの様子が落ち着いたら行きましょう」

「ああ、そうだな」

「……太一さん、気持ちはわからないわけじゃないですが、あまり気にし過ぎても」

「わかってる……でも、そう簡単には整理はつかない」

 

 唇をかみしめ、祈るようにヒカリのそばに座る太一。空も光子郎もいつもの様子の違う太一に困った顔を向けるばかりだ。タケルは周囲にデジモンがいないか単眼鏡を受け取ってあたりを見回している。

 ぐるぐると周囲を一周するが、何も見えない。

 

「他のデジモンもあまりみないなぁ……あれ?」

 

 何かが光った気がする。もう一度単眼鏡で見てみると、それは以前に見たことのあるデジモンであった。しかし、どこか遠くへ飛び去っていくようでもある。すぐに見えなくなった上にこちらへは来なかったことから気にしなくてもいいかとタケルは自己完結をした。

 

「あれって、メカノリモンだっけか? でもなんであんなところを飛んでいたのかな?」

 

 ダークマスターズの手下にしては様子がおかしいとも思ったが、確かめるすべもないし仮に手下でも自分たちが見つかったわけではなさそうなので結局みんなには言わないことに。

 その後も特にデジモンが現れることもなく、静かに時間が過ぎていくばかりであった。

 ヒカリの容体も良くなってきており、呼吸も安定しだした。この様子なら大丈夫だろうと、空がヒカリをおぶさる。

 

「それじゃあ行きましょうか」

「ヒカリは大丈夫なのか?」

「安心して。薬も効いているし、そのうち目を覚ますと思うわ」

 

 テイルモンにそう言い、一行は再び歩いていく。

 それなりに距離はあったものの、無事に街へとたどり着く。

 その街はビルが多く、ゆっくり休めそうな場所が無いかと見て回るとよさそうな場所がすぐに見つかった。

 

「あの家なんてどうでしょうか?」

「たしかに、あそこならゆっくり休めそうだな」

 

 大きな家が一軒。中に入ると、当然のごとく誰もいない。デジモンの気配もしないらしく、とりあえずベッドにヒカリを寝かせることに。

 空がヒカリの様子を見ることになり、他のみんなで家の中を探索して回っているが……どうやら人間界の家と大差はないらしい。

 

「デジタルワールドに流れ着いたデータはどこか破損していたり、おかしな形になっていたりするのですが……完全な形で再現されることもあるみたいですね」

「たしかに、向こうでみた家ににておりますけど……大きさが違うでんがな」

「東京はマンションが多いですから。日本の一軒家もここまで大きいものは少ないですが、アメリカなどではよく見かけるタイプの家ですよ」

「それにしたって大きいと思うけど……」

 

 タケルの指摘通り、家と言うよりはお屋敷だろう。しかし、お屋敷という言葉だとこの家よりも大きいものを想像してしまうため、適切な言葉が見当たらないが。

 

「豪邸って言うほど豪奢でもありませんしね」

「そういえば太一さんは?」

「少し、一人になりたいそうです」

 

 おそらくは何かトラウマがあるのだろうが、無理に聞くことはできない。

 幸いにして、休む時間が出来た。デジモンたちも体力を回復させなければ進化ができない。子供たちもその日は休むこととなる。

 

 

 

 その地に潜む悪意に気が付かぬまま。

 

 

 




しばらくムゲンドラモン戦になると思います。カノンが風邪薬を渡していた時点で原作通りに行くはずもなく……

なお、諸事情で書き溜めが尽きました&忙しいので明日は次話を用意できるか未定。



そろそろ名前だけ出ていたキャラをだせるかも?


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49.放浪者

名前だけ出ていたあの人登場。そして、裏で起きていた出来事に少し触れてます。


 デジタルワールドにおいて、デジモン以外の生き物は以外と多い。ゴマモンが時折使役している魚や、ゲンナイ達など様々である。デジモンとの違いは属性データやデジコアを持たないこと――そのため、街のエリアには小鳥のさえずりさえもするのだ。もっとも、それが本当に小鳥に当たる生き物がいるのか、小鳥の鳴き声が再生されているだけなのかは確認をとることはできないわけだが。

 なぜか? それは子供たちの目覚めが唐突なものとなったからだ。

 地面が突如として隆起し、轟音と共に砂煙が上がる。ぐっすり眠っていた子供たちも何事かと飛び起きてしまう。

 

「な、なんだなんだ!?」

「地震でしょうか……いえ、あれは――――」

 

 光子郎が窓をのぞくと、外には砂煙の中に蠢く者が見えた。銀色の巨体、背中についた二門の大砲。

 

「ムゲンドラモン!?」

「なんだって!?」

「太一、何があったの」

 

 空たちも集まり、全員が太一たちが寝ていた部屋に集まってきた。太一はヒカリの様子を見るが、眠気眼ではあるものの、熱は下がっているように見える。

 とりあえずその心配はせずともよさそうだと判断し、自分の頬を叩いて気合を入れた。

 

「太一?」

「よし……外にムゲンドラモンが現れた。急いでこの場から――」

「待ってください!」

 

 離れるぞ、と太一が言葉をしめようとした時だった。光子郎が待ったをかける。アグモンが鼻を動かして何かを感じた表情になり、戦闘を行おうと腕を回し始めた。

 

「どうしたんだ、光子郎?」

「ムゲンドラモンと戦っているデジモンがいます……アンドロモンです!」

「なんだって!?」

「この感じ、ファイル島にいたアンドロモンだよ!」

 

 アグモンが光子郎の言葉に続き、太一の中で葛藤が生まれる。心情としては助けに行きたい。しかし、今後のことを思えば一度離脱するべきだとも思うが……

 

「太一さん……」

 

 その時、タケルが太一の腕をつかんだ。名前以外には何も言わないが、その瞳は揺れていて何かを伝えようとしていて――再び、太一が自分の頬を叩く。

 何を迷っているのだろうか。

 

「アンドロモンを助けるぞ!」

「はい!」

 

 外へ飛び出し、ウォーグレイモンとアトラーカブテリモンがムゲンドラモンへ突撃していく。どうやらムゲンドラモンにとっても子供たちがいたことは誤算のようで体を押されてしまい、アンドロモンの身が自由になった。

 

「無事かアンドロモン!」

「あなた方は――ご無事そうで何より」

「そっちも大丈夫みたいだな。いけ、ウォーグレイモン!」

「ああ……ブレイブトルネード!」

 

 ウォーグレイモンの体が高速回転をはじめ、ムゲンドラモンへと迫る。しかし、どこから現れたのかガードロモンたちが現れてウォーグレイモンの進路を阻む。成熟期では歯が立たないため、当然彼らは消えていくが数が多い。さらに、メガドラモンとギガドラモンという、サイボーグ型のデジモンが現れてウォーグレイモンの動きを封じようとする。

 アトラーカブテリモンも応戦するものの、メカノリモンが群がり、タンクモンという戦車のようなサイボーグ型のデジモンが砲撃を続けて手が回らない。

 ドラモンキラーの作用により、ウォーグレイモンへ絡みつこうとした二体は倒されるが――ムゲンドラモンのチャージが終了した。

 

「∞キャノン!」

「――ッ」

 

 ウォーグレイモンの回転とムゲンドラモンの砲撃がぶつかり合い、爆発が起きる。幸い退化はしていなかったものの、ウォーグレイモンが弾き飛ばされて地面へ叩きつけられてしまった。

 その様子に握りこぶしを作る太一であるが、一筋縄でいかないのは予想通りだ。

 

「アンドロモン、他に仲間はいるか?」

「いえ、私は一人でレジスタンス活動をしていましたので……運悪くムゲンドラモンに見つかりこのようなことになりました」

「よし、空!」

 

 太一が叫ぶと、後ろの林からガルダモンが飛び出す。すぐさま太一たちを回収し、アトラーカブテリモンに群がっていたメカノリモンを蹴散らして飛び去ろうとする。初めから二段構えの作戦だったのだ。ウォーグレイモンがムゲンドラモンを倒しきれなかったときはすぐに離脱し、体勢を立て直すという手筈なのだ。

 メカノリモンはすぐに吹き飛ばされ、タンクモンもガルダモンが蹴り飛ばした。ガルダモンの肩にはエンジェモンとエンジェウーモンが控えており、それぞれが援護をしている。

 

「状況が悪い! 離脱するぞ!」

「――逃がさんぞえらばれし子供たち」

 

 ムゲンドラモンの言葉に合わせて、更に状況が変化する。

 上空に金色の巨大な物体や、大きな飛行船のようなものがいくつも現れたのだ。更に、そこからたくさんの黒い点が飛び出してくるではないか。

 

「あれはバルブモンにブリンプモン!?」

「知っているのかアンドロモン?」

「……どちらも中に多数のデジモンを搭載可能なデジモンです。特に、バルブモンの搭載数は他の乗り物デジモンと比較しても多い。それが複数も……軍団が舞い降りてきます」

「なんだって!?」

 

 上空は包囲された。すでに地上も新たな軍勢が地下から湧き出てきている。

 さらにはムゲンドラモンまでもが目の前にいるのだ。

 

「これでチェックメイトだ。おとなしく倒されるがいい」

 

 ムゲンドラモンの背中にエネルギーが集まっていく。数秒の時間があるが――その時間がひどく長く感じられた。

 

「すいません、私のせいで」

「いやアンドロモンのせいじゃない……全員でムゲンドラモンを攻撃するべきだった。俺のミスだ」

「ううん。太一のせいじゃない」

「そうです。太一さんは本当に短い時間で有効な作戦を考えてくださいました……」

 

 唇をかみしめ、死の瞬間が今にも迫ろうとして――

 

「お兄ちゃん……」

「ヒカリ、ごめんな」

「ううん……手、握ってて」

「ああ――」

 

 もはやこれまでなのか。そう思った……次の瞬間であった。

 バチリと電気が走る音が聞こえ、子供たちが振り向こうとしたときにはムゲンドラモンが吹き飛ばされてしまう。

 

「な、何なんだいったい!?」

 

 あまりの出来事に茫然となるが、追撃は終わらない。空を飛ぶデジモンたちも地面からの砲撃に吹き飛ばされ、蹴散らされていく。

 チャンスは今しかない。しかし、この砲撃の嵐の中を飛び交えばどうなるのかわからない。

 彼らが悩んでいる、そんな時であった。

 

「――――何が起きているかはわからねぇ。久々のデジタルワールド、大きく変わっちまったが……まあ、それはご愛嬌。こちとら根無し宿無しただ一人と一匹の、旅人でェ」

 

 足音がこちらへと聞こえてくる。

 煙の中から少年とも青年ともつかない外見の男が歩んできた。所々ほつれたジーンズに長年着ているのであろうジャケットが目に入る。みすぼらしいというわけではなく、まるで傷跡だ。長年戦い続けたもの特有の空気を纏っているのだ。

 

「見たところ、同じ人間さんだ。久々のデジタルワールド、暴れるぜ相棒!」

「おうよ!!」

 

 彼の背後からムゲンドラモンに匹敵する巨体が躍り出る。全身は機械の体で赤い色をしている。よく見てみれば、錆のようなものにおおわれているのだ。

 背中には巨大な大砲を背負っており、それでデジモンたちを吹き飛ばしたのだろう。

 

「もう一発、デカいのをお見舞いしてやんな!」

「テラーズクラスター!!」

 

 背中か極太のビームが放射され、デジモンたちを蹴散らしていく。あまりの出来事に子供たちは唖然とすることしかできないでいた。

 一仕事終えたかのように男はでこを腕でぬぐい、子供たちを手招きする。

 

「お前ら! ぼーっとしてないで速くこっちにこい! 流石に俺たちも全部相手にするのは面倒だからよ! とっとと逃げるぞ!」

「え、逃げるってどこへ!?」

「んーとりあえずついてこい!」

 

 一体何者なのだろうかと疑問は尽きないが、悪い人ではなさそうなのは分かった。

 とりあえず、子供たちは彼の後をついていくが……人間であるはずなのに、デジモンと同じスピードで走れる彼はいったい何者なのだろうか?

 

「あなたはいったい……」

「俺か? 俺の名前は杉田マサキ。旅人さ!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 その日の夜のことだ。なんとか窮地を脱した子供たちではあるが、やはり目の前の男――杉田マサキのことが気になるようで、なんて切り出すか悩んでいた。そんな中、ヒカリが前に出てマサキに頭を下げる。

 

「危ないところを助けてくれてありがとうございました」

「なに、困ったときはお互いさまってね」

「いや……本当に助かりました、ありがとうございます」

「別に堅苦しくしないでいいぜ。まあ、これでも30は過ぎていると思うけどな」

「え――冗談、ですよね?」

 

 彼はどう見ても高校生ぐらいなのだが……どうみても30過ぎのオジサンには見えない。

 

「俺はずっと人間界とは違う世界を旅していたからなぁ……時間の流れが違うんだっけ? そのせいなのかこんなふうに見た目は年取らないんだよ。まあ、元々向こうに帰るつもりはないからいいんだけど」

「ずっと旅をしているって……家族が心配しないんですか?」

「うーん、家族はいないんだけど……いけ好かないやつと顔を合わすつもりもないし」

「いけ好かないやつ?」

「いや、こっちの話」

 

 それだけ言うとマサキはでかい肉にかぶりつく。どこから取り出したのかはわからないが、彼がもっていた食糧だ。ほれ、食べなと子供たちにも渡してきたが……

 

「いや、デカ過ぎんだろこれ」

「ははは……」

「それにしても、大きなデジモン」

「ぼくたちも知らないデジモンだよ」

 

 アグモンたちもこんなデジモンは見たことが無いと口々に言う。別のデジタルワールドのデジモンなのか? そう思って光子郎がアナライザーで調べると――思わず驚きの声を上げてしまった。

 

「ええ!?」

「どうしたんだよ?」

「ら、ラストティラノモン……ティラノモンの最終進化形態。究極体です」

「――こいつがティラノモンの最終進化形態!?」

 

 ティラノモンといえばえらばれし子供たちも何度か戦ったことがある相手だ。亜種もそれなりに多く、ヴァンデモンの配下にも一体いたほどである。

 しかも究極体とは……

 

「でも、ウィルス種のデジモンなんですね」

「? それがどうかしたか? 俺の仲間には属性なんて気にしている奴はいなかったぜ」

「仲間って……他にも仲間がいるんですか?」

「おう。今はみんなでちょいと大きな戦いの準備をしていてよ、俺はこっちにある宝石を手に入れるために戻ってきたんだ」

「宝石、ですか?」

「ブルーディアマンテっていう珍しい宝石でな、向こうじゃ手に入らなくてよ……こっちにならあるかなと思ったんだが、まさかこんなことになっていたとはなぁ」

 

 いやぁ、まいったまいったと頭を掻くマサキ。あまりにも軽い様子で子供たちは皆拍子抜けしてしまう。

 と、そんな様子に気が付いたマサキは話題を変えるべきかと思案し……

 

「そういえば、お前もアグモンを連れているんだな。俺とは違って黄色だけど」

「お前もって……もしかして、そのラストティラノモンが?」

「ああ。最初はこいつもアグモンだったのさ。まあ、色は黒かったが」

「黒いアグモン……出ました。ウィルス種のアグモンみたいですね」

 

 そのラストティラノモンであるが、ぐぅぐぅと寝息をたててぐっすり眠っている。どうやら子供たちのパートナーとは違って退化はしないようである。

 

「マサキさんもデジヴァイスを持っているんですか?」

「デジヴァイス……ってなんだ?」

 

 力強くそんなことを言うマサキにがくっ、とずっこけてしまう太一と光子郎。突然現れて戦況をひっくり返した凄い人、という認識だったのだが……どうやら結構な天然らしい。

 

「えっと、僕たちが持っているこれです。僕たちはこのデジヴァイスの力を借りてデジモンたちを進化させているんです」

「ほへぇ、それで成長期に戻るのか……そっちのアンドロモンは?」

「私は彼らと協力関係にあるデジモンで、だれか特定のパートナーというわけではありません」

「なるほどなるほど……まあ、似たようなものは持っているかな」

 

 ほれ、と彼は腰につけていたキーホルダーを光子郎に投げ渡す。いきなりで驚いたが、小さなものであったし難なくキャッチしてその機械を眺めてみる。

 

「これって……さらに小さいデジヴァイス?」

「俺はペンデュラムって名付けた。俺がこっちにきた最初のころに作った機械で……まあ、色々なことが出来る。簡易的だがデジタルワールドの地図を表示したり、デジモンの状態を調べたり、出会ったデジモンの情報を記録して名前ぐらいはわかる」

「他にも、時計機能とか色々入っていませんよね?」

「よくわかったな。入っているぞ」

 

 ……それ、僕たちのデジヴァイスにも似たような機能が多数入っていますが…………という言葉が出てきそうになったが、光子郎はそれを呑みこんだ。

 

「おい、光子郎。俺たちのデジヴァイスの方が多機能だけど……言わなくていいのか?」

「たぶん、マサキさんが旅している世界とこの世界では時間のずれがあります。おそらくこちらの方が速く流れているんでしょう……彼はデジヴァイスが誕生する前のデジタルワールドを旅していたんですよ」

「なんでそんなことがわかるんだよ」

「デジヴァイスは聖なるデバイスとして伝説が残っています。旅をしていたのなら耳にしていると思いますし……それに、機能を聞いてみてわかりました。おそらくは僕たちの使っているデジヴァイスにはこのペンデュラムのデータが流用されています」

「それって……」

「まあ、今は気にしても仕方がないでしょう」

 

 そう言って光子郎はペンデュラムをマサキに返す。

 結局、答え合わせをするには判断材料が足りないのも事実。それでも、真実に一つ近づけた。

 

「僕にはそれがうれしいので……しかし、カノン君がいてくれればもう少し何かわかったかもしれませんね」

「カノン?」

「どうかしたんですか?」

「その名前聞き覚えがあるような、ないような……うーん? そいつもパートナーを連れているのか?」

「ええ。太一さんのアグモンと同じく、究極体に進化が可能だったんですが……今は諸事情で別行動中です。パートナーはドルモンという成長期ですね」

「究極体の姿は、黒い騎士か?」

「? いえ、ドルゴラモンという巨大なドラゴン型のデジモンですけど」

 

 正確には獣竜型なのであるが、見た目は完全にドラゴンなので光子郎はそう言った。他に、銀色や鉄の属性の攻撃を得意とするなどと情報を加えるものの、マサキの眉間にしわが寄るばかりだ。

 

「あの、どうかしましたか?」

「いや……前にあったことがある奴かななんて思ったんだが…………そいつのデジヴァイスもお前らと同じ形なのか?」

「はい。そうですよ」

「なら違うか。俺が出会ったドルモンのパートナーは板みたいな感じの機械を持っていたからな……アレもデジヴァイスって名前なのかは知らないけど」

「まだ他にもデジタルワールドを旅している人が……その人はどこに?」

「さぁ? あの頃は大変だったからなぁ……俺がこっちに来て一年ぐらいで、世界の危機だとか、Xプログラムだとかよくわからん感じの出来事がたくさん起きていたし。結局、イグドラシルの機能を停止させるためにてんやわんやで……」

 

 いくつか強烈な単語が聞こえた気もするが、マサキはあくびをするとすぐに横になって眠ってしまう。

 

「寝る前にあれこれ考えてもまとまんないぜ。とりあえず、休んでおけ。今はそれが一番大事だ」

「そうですね。太一さん、今は休むのが一番です」

「…………だな。それじゃあ、また明日」

 

 そうしてその日は終了する。遠くまで逃げてきたこともあり疲れからかみんなはすぐに眠りにつくこととなった。

 ただ一人、悩める太一を残して。

 




ちらほらと情報を小出しにしていましたが、イグドラシルは現在機能しているわけではないです。ごく一部の機能のみが例外的に稼働している状態。

マサキはカノンのやるべきことや戦うべき相手をつなぐキーパーソン。彼自身がカノンと直接関係があるわけではないのですが、彼の行動を紐解くことでカノンの使命も明かされる形になっています。

というわけで、今までの話と彼の語った過去からカノンたちの身に今後何が起きるのか予想がついた人もいると思いますが、出来ればそっと胸にしまってください。

……ネタバレし過ぎたかな。


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50.大進撃! 都市解放戦の始まり

ついに50話到達よー。


 結局、太一は眠ることが出来そうにないとみんなから少し離れて夜風に当たることにした。

 空を見上げてみれば、そこには地球が映し出されている。

 

「……俺、どうしたらいいんだろう」

「悩んでいるなぁ、少年」

「――なっ、マサキさん!?」

「おいおい。大声出すと起きちまうぞ」

 

 口に指をあてて、静かにしなと言う。太一も慌てて口をふさいで皆の方を見てみるが……どうやら、誰も起きた様子はない。ほっと肩をなでおろすと……今度はなぜ彼が起きてきたのかが気になった。

 

「なんで、起きて……」

「悩んでいるみたいだったからな。ついでに、あの空のことも気になるし……昼間は分かり難かったが、今こうしてみるととんでもないことになってんなぁ……」

「ダークマスターズのせいで時空が歪んで……こんなことになったんです」

「俺が年上だけど、別に堅苦しくしなくていいんだが……ま、君がそうするならいいけどな。しかし、知らない間に世界はとんでもないことになってたんだなぁ」

「……」

「なあ、何を悩んでいるんだ?」

「…………」

 

 太一は言うべきか言わないべきか悩む。あったばかりの人に話すことでもないし、自分でもどうすればいいのかわからない。そんな様子を見たマサキは首筋をトントンと叩きながら、何を話すべきかと思案し――ポンと手を打った。

 

「そうだ、一つ昔の話をしてやろう」

「昔の話?」

「ああ。まあ、俺がこの世界に来たばかりのころ……ちょいと後悔したことがある」

「後悔?」

「――スーパーファミコンやってみたかったな、って」

 

 がくりと太一は肩を落としてしまう。この人、いきなり何をいいだすのか。

 

「っていうかそれもう10年近く前のゲームですよ……」

「いやぁ、一度空気をかえようかと。そうか、向こうじゃそんなに経っているのかぁ……古崎の野郎くたばってくれてると助かるんだが」

「古崎?」

「いけ好かない男だよ。君らも気をつけな。特に、アイツにデジモンを見せたらどうなることやら……」

 

 心底嫌だという顔でその人物のことを話すマサキ。本当に嫌な相手らしい。苦虫をかみつぶすとはこのことか。

 

「マサキさんがこっちに来たのって……」

「90年だな。今は何年だ?」

「99年、8月3日でした」

「…………浦島太郎ってこんな気分なんだな」

 

 どこか遠くを見るようにつぶやくマサキ。その横顔を見て何かを言うべきかとも思う太一であるが、何も言葉が出てこない。

 

「……さて、本題だ。何を悩んでいるんだ? なーに、ここはお兄さんに話してみな」

「お兄さんって……俺、不安なんです」

 

 太一の頭の中に今日の出来事がグルグルと回り続ける。いや、それだけでは無い。仲間たちも別々に行動し、自分がどうしたら良かったのか。タケルたちまで危険な目に合わせて、自分が情けない。

 

「正しいと思った行動をして、それで結局みんなを危ない目に遭わせて……今日だって、マサキさんたちがいなかったらと思うと…………それに、妹の風邪がぶり返して倒れたとき、俺が出来たことなんてほとんどない。カノンが風邪薬を持ってきてくれていなかったらどうなっていたか。看病をし続けてくれたのだって空だし、俺が不安な時助けてくれるのは光子郎で……俺、助けられてばかりだなって」

「…………君は凄いな」

「な、何でですか!? 俺、助けられてばかりで自分が出来たことなんてほとんど……」

「いいや。君は凄いよ。仲間のことをしっかり見ている。誰がどんな時に何をしたのか。しっかりと見て、学習している。人間、他人のいいところを見ることは出来てもそれを認めることは難しい。人ってのは自分を良く見せようとする生き物だからね」

 

 マサキの瞳に灯る色が変わる――いや、これこそが彼の本来の色なのだろう。知性的で、長年生きた賢者のような雰囲気を纏っている。

 

「たしかに君の言う通り、今回出来たことは少ないのかもしれない。でもね、君が取るべき行動は何かを直接行う事かな?」

「……」

「分かっているはずだ。君がやるべきことは決まった形はない。なぜなら、君は先陣を切る者だからだ。後に続く仲間の道を作っていくのはとても困難で勇気のいることさ。今も不安なのは、ムゲンドラモンとの戦いをどうすればいいか悩んでいるから――そうだろう?」

「――はい」

 

 マサキは太一の頭をくしゃくしゃと撫でると立ち上がる。体をほぐし、空を見上げた。

 

「俺の仲間たちも待っていることだし、こっちに長居をすることはできない。それに、この戦いは本来君たちのものだ。君たちが、乗り越えるべきものだ……それを大人の俺が代わりにやっちまったら、嫌だろう?」

「嫌だろうって……」

「男なら、自分でやってこそだ。それに仲間に頼るのは悪いことじゃないさ……俺も結構助けられた口だしな」

 

 そう言ってニカッと笑う。

 太一にとってのトラウマ。それはかつて自分のせいでヒカリが生死の境をさまよったこと。今回の件でその時の出来事が何度も思い返されていたのだが……パンと自分の頬を叩き立ち上がる。

 

「ありがとうございます……いつまでもくよくよしていたって仕方がない。前に、進まないと…………」

 

 拳を握り、決意を新たにする。乗り越えなくてはいけない。過去も、今も。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 翌朝、全員で作戦会議を行うこととなった。

 

「みんな聞いてくれ。たぶん、このまま逃げていても状況は悪くなる一方だと思う。俺はこっちから打って出ようと思っているが……みんなの意見を聞かせてほしい」

「僕は賛成です。アンドロモンとも話をしたのですが、あれでもムゲンドラモンの軍勢の一部だそうです。それに、何か秘密兵器らしきものも存在しているそうなので……叩くなら、奴らが僕たちを探しているこのタイミングしかないと思います」

「……正直、私は危険じゃないかと思う」

 

 空の言う通り、危険なことには変わりない。いや、もしかしたら真正面から行っては一方的にやられるだけかもしれないのだ。

 

「太一、何か作戦はないの?」

「…………一つ、思いついたんだが……」

「太一さん?」

 

 太一の脳裏によぎるのは昨日の戦闘。確認をとった方がいいと判断し、アグモンに声をかける。

 

「なぁアグモン、お前の攻撃をムゲンドラモンは防ごうとしたよな?」

「うん。ぼくもそう思ってたんだ。仲間を盾にしてでも防ごうとしてきて、変だなぁっておもってたけど」

「――よし、勝機が見えた」

「…………そうか、ドラモンキラーですね!」

 

 そこで光子郎も気が付く。ドラモン系デジモン特攻武装であるドラモンキラー。デジコアの竜因子が高いデジモンの多くはドラモンと名がついている。すなわち……

 

「ムゲンドラモンにも効果を発揮するってわけだ。だからアイツはウォーグレイモンの攻撃を防ごうとしていたんだよ。だったら、ウォーグレイモンを送り届けて一撃でも食らわせることが出来れば」

「勝機がある、というわけですね」

「ああ……問題は、どうやってウォーグレイモンを送り届けると言う事なんだが……」

「でしたら、いい案があります」

 

 そこでアンドロモンが光子郎のパソコンに地図データを表示させる。サイボーグ型のデジモンだからこそコードで機械と接続が可能ゆえの裏技だ。

 

「あの街には地下都市があります。ワタシも昨日はそこに潜入していたのですが、偶然ではあるもののムゲンドラモンに見つかってしまいました」

「地下都市か……うまく使えればなんとか行けるか?」

「でもムゲンドラモンに見つかっているんだよね?」

 

 タケルの言う通りだ。ムゲンドラモンに知られているのなら、再発見されるリスクも高い。

 

「だったら、俺たちが手伝ってやるぜ」

「マサキさん?」

「俺たちが上の都市で派手に暴れてやる。つまり、囮役をやってやるよ。アイツらも相棒を警戒しているだろうしな」

「でも、危険なんじゃ……」

「たしかに数が多いとちと厳しいな……俺も成熟期相手なら殴り飛ばせるんだが、完全体以上は骨が折れる」

「この人間か疑いたくなる感じ……誰かを思い出しますね」

 

 今頃は何をしているのでしょうかと光子郎はぼやく。ちなみに、現在光子郎の脳裏によぎった人物は試練の真っ最中だったりする。

 話が少しそれたものの、現状ではその作戦が一番いいだろう。しかし、それだけでは危険なのもわかる。

 

「……よし、光子郎と空はマサキさんと一緒に上側を頼む」

「しかしそうしたら太一さんたちは?」

「考えてもみろ。地下でアトラーカブテリモンとガルダモンが戦えるか?」

「たしかに、進化してもそこまで大きくならないデジモンの方が良いでしょうけど……戦力の分散は危険なのでは?」

「俺もそう思ったんだが……あいつ等は空を飛ぶデジモンたちも大勢いるんだろ? だったら追加戦力をそろえられて囲まれる危険性をどうにかしたい」

「……わかりました」

「そうね……結局、それが一番か」

「よし。タケルとヒカリは俺と一緒に地下都市に。アンドロモン、案内役を頼む」

「わかりました」

 

 よしと立ち上がり、再び街を目指す。目標は一つ、ムゲンドラモンだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 街には静けさがある。道中、敵の哨戒部隊がいたもののアンドロモンからもらった地図と光子郎による監視をごまかすプログラムを都市のローカルネットに流すことでやり過ごすことに成功した。

 おかげですぐに都市に入ることは出来たのだが、どうにも嫌な予感がする。

 

「静かすぎる……」

「ええ、それに何でしょうか……このひんやりとした嫌な空気は?」

「――――どうやら、秘密兵器とやらを投入したらしいな」

 

 そこでマサキがあたりを見回し――手ごろな場所を見つけたのか、思いっきり殴りつけた。地面に穴が開き、あまりの出来事に子供たちは目を丸くする。

 

「こっから突入してくれ。5分経ったら埋めるから迅速にな」

「……本当に人間なのかよ」

「見た目以上に年取ってるからな。長年冒険していたらこれぐらいできるようになる」

「ハァ……いちいち気にしていたら身が持たないな。よし、行くぞ!」

 

 太一たちが穴の中に突入し――きっかり5分後に穴をふさいでいく。

 

「これでよし……これから来る奴らはヤバそうだからな。俺たちに任せて君らは上に飛んでいるのを頼むわ」

「ですが、全員で戦った方が……」

「君らはまだ経験が足りないなぁ……まあ仕方がないか。究極体ってのは独特の空気を纏っていてな、そいつが複数もいればこんなひんやりとした気迫みたいなのが漂うんだよ」

「それじゃあ、この体にピリピリくるのは……」

「光子郎はん……どうやら、おそかったようでっせ」

 

 ガシャン、ガシャンと機械が動く音がする。

 すぐに目を向けるが――ミサイルがいくつも飛んできて爆風を広げ、視界をふさいできてしまう。

 

「これは……!?」

 

 煙の中から見覚えのある大砲――∞キャノンが飛び出してくる。まさか、ムゲンドラモンがこちらの来たのかと驚く光子郎であるが、マサキが前にでて大砲に飛びつこうとして、すぐに蹴り飛ばしてその反動で元の位置に戻る。

 そのすぐあと、大砲のすぐ前を炎のカッターのようなものが通り過ぎる。その際、緑色の体が見えたが……どうやら、機械系のデジモンらしい。

 直後に、稲妻がほとばしり煙を吹き飛ばした。それを引き起こしたのは機械で出来たデジモン。黄色いカラーリングに、銀色の腕をもったデジモンだ。背中のタンクのような物体には雷神の文字が書かれている。

 

「あのデジモンは――ライジンモン、究極体!?」

「∞キャノンを持ったデジモンがムゲンドラモンと違う?」

 

 使っている武装は同じだ。長い腕に、四足をしたデジモン。赤色の体で肩に∞キャノンを取り付けていた。

 

「アレはスイジンモン。究極体です……」

「それじゃあ最後の一体。緑色の奴もか?」

「ええ――そうです。名前はフウジンモン」

「秘密兵器……なるほど、骨董品ってところか?」

「骨董品?」

「俺はおそらく大分昔のデジタルワールドを旅していたんだろうが……その頃は究極体ってのは結構いたんだ。今はどういうわけか、そんなにいないみたいだけどな。で、そん時の生き残りか――いや、マシーン型ってことは休眠状態で死蔵されていたのをどこかの誰かが引っ張り出してきたんだろうぜ」

 

 まったく、阿呆なことを考えやがるとマサキは構えをとる。流石に究極体相手に真正面から殴りつけるようなことはしないが……正直なところ、厄介なのが三体もいるとは思わなかった。

 

「お前ら、さっさと行け。こいつらはお前らの叶う相手じゃねぇ……」

「ですが――」

「いいから行け。なーに、子供の背を押してやるのが大人の役目ってな! それに、俺たちを舐めるなよ。この程度の修羅場は、幾度もくぐったさ!」

「……行きましょう光子郎君」

「ですが、空さん!」

「今私たちがやるべきことはこれ以上の戦力をここに集中させないことよ。確かに究極体相手は無理でも、他のデジモンの相手をしてマサキさんの負担を減らすことが出来るわ。それに、太一たちを追う戦力も減らさないといけない」

「――――わかりました。それじゃあ、お願いします!」

「任された!」

 

 戦いが始まる。三体目のダークマスターズ、ムゲンドラモンの軍勢との決戦が。

 それぞれの思いを胸に、自分のなすべきことをするために。

 




こちらも原作よりヤバくなっております。地味に伏線は張っていた戦力強化フラグ。
38冒頭でピエモンが言及していました。

というわけで難易度ベリーハードどころかアルティメットなムゲンドラモン戦、開幕です。


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51.ヒカリ

今回、原作とあんまり変わらないかも。


 振動が伝わる。太一たちが地下都市を突き進んでから少しして、大きな音がこちらまで響きだしてきたのだ。

 

「どうやら、戦闘が始まったようですね」

「ああ……アンドロモン、それでどっちに行ったらいいんだ?」

「そうですね。こちらへ来てください……道中は入り組んでいますから、ムゲンドラモンのいるであろう管制室まで先は長いです」

「途中で敵に見つからないようにしなくちゃね」

 

 タケルの言う通り、ムゲンドラモンにたどり着くまでに消耗してしまっては元も子もない。しかしもう一つ気になるのはこの地下の構造だ。

 

「まるで、世界中の地下を寄せ集めしたような感じだな」

「日本のはすぐにわかるけど……英語の看板とかもあるし、なんだかごちゃごちゃしてるね」

「でもちょっと汚くない?」

 

 確かに、どこか薄汚れている。淀みというかあまり長いしたくない感じの場所だ。

 

「先を急ぎましょう――こちらへ行くと近いです」

 

 アンドロモンの案内で先を急ぐが……思った以上に距離が長い。その間あたりを見ながら進んでいるが、本当に無作為というかどうやったらこんな構造になるんだと思える風景が続く。

 以前、光子郎がデジタルワールドの構造物に対して考察をしていたが……なるほどと太一も思う。

 

「俺たちの世界から流れ着いたデータが形作っている、か」

「お兄ちゃん?」

「いや……近くて遠い世界だよなって思ってさ…………むしろ逆かな」

 

 遠くて近い。世界の距離は次元を隔てている。それでもコインの表と裏のように隣り合った世界なのだ。ふと、以前どこかでその例えを聞いたような気がしたが……

 

「どこだったっけか」

 

 ただ、もはや切り離して考えることはできないというのは間違いない。こちらが危機に陥れば地球も危うく。その逆もまたしかり。

 だからこそ、自分たちがこうして戦うことになったわけなのだろうが――

 太一が思考の海へダイブしかけていた時だ。唐突に、アンドロモンが子供たちの進行をとめる。

 

「どうしたのアンドロモン?」

「静かに――何かが奥にいます」

「たしかに……デジモンのにおいがする」

 

 アグモンが鼻を動かし、気配を探る。その様子に子供たちも身をひそめながら先へとゆっくりすすんでいった。何か機械が動くような音が聞こえる。

 また、バシッという音も響いてきていた。まるで、何かをたたきつけるような……

 大きな部屋に出たのだろう。視界が開けてきたが、見つかる危険もある。身を隠しながら様子をうかがうと――たくさんのヌメモンが機械を動かしていた。まるで、奴隷のように……いや、まさに奴隷なのだろう。首輪のようなものをつけられ、黒い熊みたいなデジモンが鞭を打って働かせている。

 

「オラッ! 働け働け! でないと容赦しないぞ!」

 

 何度も何度も彼らにむち打ち、ヌメモンたちを無理やり働かせていた。

 

「ひどい……」

「あれはもんざえモン? でも、もんざえモンは良いデジモンのはずなのに」

「いえ、アレはワルもんざえモンです。もんざえモンとは異なります」

 

 太一が以前出会ったデジモンの名前を告げるが、アンドロモンによると別種のデジモンらしい。もんざえモンと同じく完全体のデジモンである。

 彼はムゲンドラモンの部下らしく、労働力であるヌメモンを無理やり働かせているようだ。

 

「――許せない」

「ヒカリ?」

 

 ヒカリは涙を浮かべて彼らを見る。心の中で何かが強く胎動を始めた。体が風邪をぶり返したときのように熱くなるが、その時とは違いふらつくことはない。

 紋章の輝きが強まり――ヒカリ自身の体が輝きを放ち始める。

 その光に反応をしたのか、ヌメモンたちの動きが止まる。そして、ヒカリの様子をみて全員の動きが止まった。

 

「な、なんだお前たち!? 働け! 働かないと容赦しないぞ!」

 

 その様子に困惑したワルもんざえモンであるが、パニックに陥っている。

 チャンスは今しかないと、太一は声を上げた。

 

「突撃! エンジェモンとエンジェウーモンはワルもんざえモンを頼む!」

「分かった!」

「任せて!」

 

 進化した二体がすぐさまワルもんざえモンを攻撃する。咄嗟のことに反応できなかったらしく、ワルもんざえもんは壁まで叩きつけられた。

 

「こ、この……お前ら覚悟はいい――――」

 

 すぐさまアンドロモンが追撃に動いていた。流石に多勢に無勢と判断したのか、言葉を中断して避けることに専念をし、脱兎のように逃げ出してしまった。

 追おうとするものの、逃げ足がとんでもなく速い。

 

「目標ロスト。すいません……我々のことがムゲンドラモンに知られてしまうでしょう」

「……いや、これでいい。どのみち途中でばれることは想定の内だったんだ。それに…………いい作戦を思いついたぜ」

 

 太一はそう言うと、ヌメモンたちを見回してにやりと笑う。

 

「サッカーと同じなんだよな。1人でやっているわけじゃないんだ……みんなそれぞれの役割があって、うまくかみ合うことでチームとして回る。だからこそ、みんなを信じないとな!」

 

 あたりを見回しながら手ごろなポイントが無いかと思案し……すぐに答えが出た。

 

「アンドロモン、このあたりを爆破することってできるか?」

「はい、可能ですが……いったい何を?」

「ヌメモンたちがここを動かしていたってことは、ここは都市にとって重要なポイントなのか?」

「おそらくは電力の供給などを行っていたのかと」

「だったら、ここをつぶせばムゲンドラモンは困るよな。それこそ、自分で出張るぐらいには」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 直後に爆発が起きる。子供たちはただまっすぐに突き進む。ヌメモンたちも解放し、避難させておいた。流石に、ヒカリを教祖のようにあがめていたのには苦笑するしかなかったが。

 

(でも、やっぱりヒカリにもなにか特殊な力があるってことなのか……)

 

 太一にはどうにもそこが気にかかる。妹の身にはどんな力が眠っているのか。ハッキリとは分かっていないが……とても大きな意味を持った力なのは間違いないだろう。

 それに、もう一人……

 

(カノンも一体何なんだろうな……今日改めて分かったが、ヒカリとはまた違う)

 

 似ているようで違う。根本的な何かが異なっているように感じられるのだ。

 今考えても答えは出ないのだろうが……いつかは明らかにしないといけない。

 

「みなさん、止まってください――来ます!」

 

 アンドロモンが制止する。直後に、壁を壊しながら銀色の巨体が躍り出た。それを合図にアグモンもウォーグレイモンへ進化する。

 砂煙が晴れ、奴の姿がはっきりと映し出された。

 

「やっぱり出やがったな、ムゲンドラモン!」

「えらばれし子供たち……抹殺する!」

 

 背中の大砲に光が集まりだし、発射準備に入ろうとしていた。その様子を黙って見ているわけもなく、エンジェモンが飛び込んでいく。エンジェウーモンが光の矢で援護し、ウォーグレイモンが一撃を決めるための隙を計っていた。

 

「邪魔だ」

「ぐっ!?」

「エンジェモン!?」

 

 だが、腕の一振りでエンジェモンが吹き飛ばされてしまう。すぐにエンジェウーモンが牽制で攻撃を仕掛けるものの、全て弾かれてしまっていた。

 今度はアンドロモンが組み付きに行くが――ムゲンドラモンは咆哮を上げ、彼らを吹き飛ばしてしまう。

 

「――ウォーグレイモン!」

「分かってる! ブレイブトルネード!!」

 

 すぐにウォーグレイモンが攻撃を仕掛けるがムゲンドラモンは左腕を前に出し、ウォーグレイモンへ発射した。

 

「トライデントアーム!」

「――ッ、この技は」

 

 メタルグレイモンと同じもの。それもそのはずだ。ムゲンドラモンの体は様々なサイボーグ型デジモンのものなのだ。特に、両腕は元のデジモンと同じ技が使える。

 

「ジェノサイドアタック!」

 

 続いて右腕からメガドラモンと同じ有機ミサイルが発射される。流石にウォーグレイモンも突然のことであり対処ができなかったのか、弾き飛ばされてしまい――アグモンへと退化してしまう。ここまで戦わなかったことと、十分なエネルギーがあったことから幼年期にはならなかったが……状況は最悪だ。

 

「ごめん、太一」

「いや……甘く見ていた。ムゲンドラモンがここまで強いだなんて」

「昨日のことで警戒されたのでしょう……有機ミサイルを搭載している情報は無かったのですが」

 

 自分の落ち度だとアンドロモンが悔やむ。しかし、その暇もなさそうだ。ムゲンドラモンが再びチャージをはじめ――体が緑色に覆いつくされていった。

 

「なんだ?」

「ヒカリさまたちを守れー!」

「れー!」

 

 緑色――ヌメモンたちが駆けつけてきたのだ。自分たちを助けてくれたヒカリや、子供たちのために。普段は臆病なデジモンのヌメモンたちだったが、勇気を振り絞ってムゲンドラモンへぶつかっていく。成熟期どころか成長期のデジモンと比較しても弱いデジモンであるのに、ただがむしゃらに前へと突き進んでいた。

 

「――邪魔だ」

「――――ッ」

 

 とっさに、ヒカリが前へ飛び出す。一番体の小さかったヌメモンを抱きかかえてると……その眼前に爪が迫っていた。すぐさまエンジェモンとエンジェウーモンがヒカリを守るが、彼らはまとめて吹き飛ばされてしまう。

 

「キャア!?」

「ヒカリ!?」

「ヌメモンたちも、消えろ!!」

 

 一撃。それでムゲンドラモンへ絡みついていたヌメモンは消え去った。その様子を見たヒカリは涙を浮かべて、悔しそうに顔を歪ませる。

 なんでこんなひどいことが出来るんだと。他人を傷つけて心が痛まないのか……

 

「こんなのひどいよ……わたし、絶対にあなたを許さない!」

 

 再びヒカリの体が輝きを増していく。その光が周囲を照らし、ムゲンドラモンが少し後ずさった――しかし、彼の後方から黒い影が飛び出す。

 先ほど、子供たちに撃退されたデジモン。ワルもんざえモンだ。

 

「このいい加減にしろよ小娘!」

 

 ヒカリを殴り飛ばそうと、ワルもんざえモンの拳が迫る。しかし、それよりも早く動くものがあった。ムゲンドラモンに消し飛ばされたヌメモンたちのデータだ。それがヒカリが抱きかかえるヌメモンへと集っていく。

 そしてヌメモンはその形を変えていった。ヒカリの力の後押しを受け、ヌメモンは進化を果たす。

 

「――ッ」

「なっ――!? お前は!?」

 

 ヒカリを守るように立ちふさがるのは黄色い熊のようなデジモン。ワルもんざえモンに姿は似ているが、その性質は異なる。

 ワルもんざえモンの拳を受け止め、今度は彼がワルもんざえモンを殴り飛ばした。

 

「うわあ!?」

「ヌメモンが、もんざえモンに進化した――」

 

 茫然とするタケル。ヌメモンが弱いデジモンだと言うのは知っていたが、彼が進化したもんざえモンはワルもんざえモンを殴り飛ばして、更にムゲンドラモンへとぶつけてしまったのだ。

 しかもすぐにムゲンドラモンにも殴りかかり、彼の攻撃をかわしてアッパーカットしてしまう。

 

「凄く、強い――!?」

「この――ザコが、調子に……!?」

 

 ムゲンドラモンは苛立ち、反撃に出ようとするが――なにか嫌な予感が彼の脳裏によぎる。無機な存在であるはずなのに、嫌な予感が駆け巡った。

 すぐに腕を振り、反撃したが……どうやら自分は勘もすぐれていたらしいとほくそ笑む。

 

「再び究極体に進化したのは驚きだが、どうやら無意味だったようだな」

「それは、どうかな」

 

 ヒカリの力を受け、再びウォーグレイモンへと進化したようだが……すぐにコロモンへなってしまった。どうやら進化してすぐにとびかかり、攻撃を仕掛けたみたいだ。

 だが、彼の額には切り傷があり、反撃を喰らったことを如実に語っている。それでも、コロモンは不敵に笑って見せた。

 

「ぼくには、太一やヒカリ。みんながついているんだ……お前なんかに、負けるもんか」

 

 コロモンがそう言うと、ムゲンドラモンの腕が切り落とされた。一瞬、何が起きたのかわからなかったが――すぐに∞キャノンが切り落とされる。

 ムゲンドラモンはまさかと思うものの、足の感覚もなくなり――やがて、思考能力すらなくなった。

 そう、すれ違いざまに斬られていたのはムゲンドラモンの方だったのだ。

 

「…………勝ったよ、太一」

「ああ……よくやったなコロモン!」

 

 太一がコロモンを抱き上げた直後、地面が大きく揺れ出す。

 ムゲンドラモンも消滅し、このエリアの崩壊が始まったららしい。

 

「みなさん、すぐさま脱出しましょう。ここも長くない」

 

 アンドロモンの言う通りすぐに逃げた方がよさそうだ。もんざえモンがみんなを抱き上げて、地上へと飛び出していく。

 ほどなくして、ガルダモンとアトラーカブテリモンが迎えに来た。どうやら、あちらも乗り切ったようだ。

 

「太一さーん!」

「光子郎! 無事でよかったよ」

「ほとんどマサキさんのおかげですけどね。あの人たち、かなり強くて……探し物の反応がスパイラルマウンテンではなく下の方にあるそうなので分かれることになりましたが……空を飛べませんので地上に降りるしかないそうですし」

「あー、ラストティラノモンも巨体だしな……」

「ところで、そのもんざえモンは?」

「話せば長くなるけど……とりあえず、次のエリアに行かないとマズいな。光子郎に空、頼む」

「わかってるわよ。みんな、お疲れさま」

 

 こうして、ムゲンドラモンとの戦いは幕を閉じた。彼らが空を飛んで次のエリアに進む際、赤色の巨体が見え、手を振っておいた。彼らもそれが目に入っていたらしく振り返してくれたが……次に会えるのはいつのなるのか。

 

「今度また、お礼言わないとな」

「ええ……いてくれたら心強かったんですけど」

「そうだけど……これは俺たちの闘いなんだ。だったら、誰かに頼ろうとしないでみんなで力を合わせて先に進もう」

 

 決心を新たに先へと進む。

 次に待ち構えるのは、最強のダークマスターズ。ピエモンだ。

 




マサキさんと三体の戦いはどうなったのか?
圧勝過ぎたんでカット。

作中ではほとんど語っていませんが、もっとヤバい状況を乗り越えています。
リリスモンとの戦いもリリスモンのネームバリューが凄いので彼女単体っぽく登場人物が語っていましたが、もっとヤバいのを含めた集団として戦っています。

……この時点でわかる人にはわかるんだろうなぁ…………


今後語る機会があるか微妙なので、今のうちに。


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52.バースト

ようやく長かった氷河期が終わる。


 斬撃の音が聞こえる。どれだけの時が過ぎたのだろう。暗い昏い夜道を行く様にただひたすらに前に向かって跳んでいく。一歩でも踏み外せば命は無い。一手でも間違えれば勝利は無い。

 詰将棋ならぬ、詰み将棋とも言うべき状況。一瞬の判断を間違えればすぐに詰んでしまう選択肢の連続だった。

 

「この――突破方が見つからないッ」

 

 青い巨体が風となり僕たちを襲う。僕とドルモンもかなり疲弊しており、あと一時間もしないうちに体が動かなくなってしまうだろう。

 極限状態の中で僕は魔力の効率的な運用法を見出し、ドルモンもX抗体の力を引き出すことが出来たのか格段に身体能力が上がっている。

 それでも、進化できないというのは圧倒的な差を生んでしまっているのだ。

 

「ドルモン……まだバランスは治らないのか?」

「ゴメン、気持ちの問題だと思っているのに――この状況でも進化のしの字も出てこないんだ!」

 

 ……ドルモンのメンタル面での問題だと結論が出ようとしていたが、まだ何か要素が足りないらしい。その要素を満たす何かを見つけないとこの状況を打破することはできないのだろう。

 と、一瞬思考が逸れたのがいけなかった。

 眼前に奴の凶刃が迫り――咄嗟ではあるが、魔力を放出して防御を行う。イメージするのは強靭な金属。クロンデジゾイドの構成をまだ理解していないため再現することはできないが、奴の攻撃を一瞬でも防げればそれでいい。

 

「――ッ!」

 

 ガリガリと防御壁が削られていく。同時に、体の内側からごっそりと力が奪われていくのも感じるが……命あっての物種、ギリギリ攻撃を回避して――唐突に、青い何かが目の前に迫っていた。体に衝撃が走り、気が付いたときには激痛と共に地面を転がっていた。

 

「あっ、ぐぅ……回し蹴りか?」

「カノン!? 大丈夫か!?」

「何とか意識は飛んでいない……そっちこそ大丈夫か?」

「大丈夫だけど……ひどい傷だよ。どうにかして上まで戻ろう。それで…………」

 

 いや、それも危ない。この空間に長くいたからか、それとも極限状態の影響かはわからないが、上の方から轟音が聞こえる。

 

「どうも、ピエモンあたりが何かやらかしたみたいだな……」

「そんな――それじゃあ、なおのこと戻らないと」

「バカいうなよ……今戻っても足手まといだ。それに、男が目の前の困難から逃げてどうするよ…………まあ、時には逃げることもあるけど、今はその時じゃない」

 

 乗り越えなくてはいけない。この壁を。しかし、壁が高すぎる……

 意識も飛びそうだ……今こうして会話している間にも、奴は次の一手を打ってくるだろう。

 

「そろそろチェックメイトかよ……笑えねぇ」

「笑い事じゃないっての!」

 

 ドルモンに肩を貸してもらい、なんとか起き上がるが――奴の胸に閃光が……どうやら、またデカいのを撃ちだすつもりらしい。これはヤバいな……

 

「カノン、どうする?」

「どうするって言ってもな――ん?」

 

 奴の放つ光を反射して、何かが輝いている。赤色の光が目に入って眩しいとおもったのだが……これは、ドルモンの額のインターフェースか?

 こいつを使ってデータの書き換えを行うってのがプロトタイプデジモンの特徴で――ふと、一つ大きな賭けを思いついた。

 この極限状態ではインターフェースを使って悠長にデータのチェックや書き換えを行う時間はない。しかし、それは正攻法ならの話だ。

 外法であるのならば案を思いついたが……

 

「なあドルモン、一つ賭けがあるよ」

「本当に?」

「ああ……失敗したら、お互いに死ぬよりもひどいことになるかもしれない。それでも、賭けてみるか?」

「何をいまさら――おれたちは一蓮托生。これまでだって、二人で乗り越えて……ううん。壁をぶち壊してきたんじゃないか。だったら、今回もおれはカノンを信じて突き進むだけさ」

「ありがとうな……だったら行くぜ、この橘カノンの一世一代の大魔法ってやつをよ!」

 

 体に力を入れ、立ち上がる。全身に魔法式を張り巡らせ体を構成しているデータを分解し、ドルモンのインターフェースへ流し込んでいく。

 激痛が走るが、四の五の言っていられない。やるしかないのだ。世界がスローになっていき、僕の体は0と1のデータへ分解されていく……いや、この言い方は正しくないだろう。この世界では僕たちの体もデジタルデータで構成されているのだから、形式を変えると言った方が正しいだろうか。

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 やがて、意識は遠い所へと運ばれる。景色が目まぐるしく変わっていき、頭の奥底にある知らない何かが目の前に現れる。

 黄金の鎧をまとった天使のような何か。僕の運命が始まった時から結びついている存在だが、今は関係ない。続いて現れるのは赤いマフラーをした誰か。いまだ出会うことは叶わない存在。いずれ目にすることになるだろうが彼を振り切って先へと進む。

 続いて現れるのはワイヤーフレームで構成された巨大な何か。僕ではなくドルモンの運命に結びついている存在。しかし、こいつもいまだ出会うことはないだろう。そして、最後に見えたのは黒い騎士。邂逅は迫っている。だが、まだ先にやるべきことがある。

 奇妙な浮遊感と共に、ドルモンのデジコアの最深部へとたどり着く。長い管のようなイメージを落下していき、やがて青い海の中のような空間に躍り出た。

 

「意識をしっかり保たないと……ドルモンと僕のデータが混ざり合って、二人とも消えるぞ」

 

 自分を保つためにも言葉に出して言い聞かせる。長くい続けると互いのデータが混ざり合ってしまって意味のない羅列へと変化してしまう。そうなれば、もう二度と元には戻れない。

 だからこそ必要なことだけをしなければならない……底の底、丸い球体のような物体に手を触れる。おそらくはこれこそがドルモンの根源(ルーツ)。危険な賭けであるが、このデータを解き放つことが出来れば――そう思い、触れた瞬間であった。

 

「――――ッ、アガアア!?」

 

 体中に電流が走ったように、激痛が走る。同時に、何か気味の悪いものが僕の体を這いずり回っているような感覚さえしてきた。

 これは……Xプログラムか!? どうやらデジモンのデータを破壊するためのプログラム……いや、病原体と言った方がいいだろう。ドルモンのX抗体の中にあるXプログラムが僕の体を駆け回っているらしい。

 しかし、僕はデジモンではない。体中を駆け回るこのプログラムもすぐに鎮静化し、体から消えていった。

 デジコアを持たぬ僕に効かないのは道理ではあるけれども。しかし、今のは少し危なかった……ちょっとだけだが、ドルモンの内部のデータが入りそうになってしまった。配列を学習した程度で、混ざることはなかったけど。

 

「まったくおどかしてくれて……ドルモン、ちょっと我慢してくれよ!」

 

 データを解放する――開示されていくすべてを読み取ることはできないが、どうやら暗黒のデータと取り込んだウォーグレイモンのドラモンキラーのデータによる影響で究極体どころか成熟期への進化も定まっていない状態になってしまっていたらしい。

 よりわかりやすく言うのならば、経験値はそのままに次の進化がリセットされた状態になっている。ドルモンの内部でどのような処理が行われてしまったのかはわからないが、体の方がドルガモンやラプタードラモンに進化したことを覚えていないのだ。心は別であったのが幸いだ。すぐにデータを修復していき、内部の不和を取り除いていく……それでも、取り込んだデータが消えるわけではないのでまた同じ状況になってしまうかもしれない。

 

「それは、マズいよな……だったら、使えるものはとことんまで使ってやろうぜ!」

 

 僕の言葉にうなずく様に、球体が光り出す。暗黒のデータとウォーグレイモンのデータが結びついていく。もちろん、ドラモンキラーのデータだけでは不完全のためアグモンのカードのデータも合わせる。さらに、潜在的なものを引き出すX抗体の力が合わさりアグモンというデジモンの持つグレイモン種のデータをベースに、新たな進化を構築する。

 と、そこでまだ取り込んだデータがあるのに気が付いた。これは……

 

「そっか、レオモンの置き土産か……だったら、ありがたく使わせてもらうよ!!」

 

 デジヴァイスを握り、データの構築を加速させる。さらに、必要な情報を引き出す。ドルモンというデジモンの持つ可能性を最大限に引き出し、途中をすっ飛ばして一気に更なる究極へ。

 ドルモン自身のデータも多少変化がみられる状態になってしまったが……まあ、この程度ならどうということはないか。

 

「それじゃあ、反撃と参りますか!!」

 

 意識を浮上させていく。体が浮遊感と共に上がっていき、やがて光が見えてきて――――

 

 ◇◇◇◇◇

 

 戻った先には、今にも攻撃を放とうとしていたミラージュガオガモンがいた。

 

「カノン!? 一秒も経ってないんだけど!?」

「時間が加速していた? いや、更に細かいデータへ変換したことで時間の流れ方が……まあ考察は後だ! 行くぞドルモン!」

「行くって……おれ、もう進化できるの?」

「ああ……それに、おまけつきだよ。後、悪い。今までデータ種だったお前のデータを直すときにバランスをとる都合でワクチン種に変化してる」

「え……そうなの?」

 

 どうやら本人に自覚は無いらしい。まあそれほど大きな問題にはならないってことか。とにかく、今この状況で有効なのは一撃の突破力。

 

「行くぞ――ドルモン、ワープ進化だ! 最初はこっちでアシストする。思いっきり暴れて来い!」

「分かった――――うぉおおおおお!!」

 

 ドルモンの額が光り輝き、彼の姿を変化させていく。体の色は黒に。どこかウォーグレイモンにも似た姿ではあるが、鎧と袴が侍のようなイメージを持たせている。

 そして、二本の刀を持ったそのデジモンの名は――

 

「ワープ進化、ガイオウモン!」

 

 今ここに、新たな進化が誕生した。

 すぐさまミラージュガオガモンの光弾が発射されるが……ガイオウモンはその光弾を切り伏せてしまう。

 

「――スゴイ、何だこの力は?」

「別に暗黒も全て拒絶する必要はないってね。昼が来れば夜も来る。光と闇は表裏一体、どちらも切り捨ててはいけないものなんだ……だったら、むしろ受け入れて自分の力にしてしまえばいい。ガイオウモン、今ならわかるよな?」

「ああ……俺は自分が自分じゃなくなるみたいで怖かったんだ。まったく別のデジモンになって、カノンたちを襲うんじゃないかって……今も体に湧き上がる力がすさまじいものなのを感じている。でも、それなら乗りこなすだけだ!」

 

 ガイオウモンがとびかかり、ミラージュガオガモンの両腕を刀ではじく。奴も負けじと高速で動きガイオウモンへと迫るが――

 

「遅い!」

 

 ――その右腕を一瞬で切り伏せる。移動スピードではガイオウモンは勝てないだろう。しかし、その斬撃の速度だけならばガイオウモンは更に上を行く。

 

「――ッ、コード解放。バーストモード!」

 

 ミラージュガオガモンの声が響き、彼の姿が変化していく。

 右腕も合わせて閃光に包まれ、完全に復元された状態で再び出現する。しかし、その姿は劇的に変化していた。マントは消え、長い髪が見えている。更に光り輝く武器を手に持っていた。話には聞いていたが……

 

「これがバーストモードってやつか……肌にビリビリ来るこの感覚…………ヤバいなこりゃ」

「カノン、策はあるの?」

「そんなものない!」

「……この状況でいう事かな?」

「策は無いが……僕たちも、もっと先に行こうじゃないか。もっと強く、究極も越えて」

「――そうだね。究極も越えて……どこか、究極体で満足していたのかもしれない。まだまだ先へ、進化するんだ!」

 

 紋章が光り輝きだす。デジヴァイスからあふれる光も力を増していき、ガイオウモンのデジコアが脈動を強めた。もっと強く、さらなる次元へ突き進むんだ。

 運命だとか未来だとか、今この時にどうするべきかなんて考えている暇はない。

 

「「もっともっと、上げていくぞ!」」

 

 デジヴァイスが更なる輝きを放ち、バースト進化の文字を表示させた。

 

「うおおおおお!!」

 

 ガイオウモンの体が炎に包まれていき、その姿を変化させる。より力強く、より強大な存在へ。

 そう、僕らも到達したのだ。デジモンの限界能力の解放、バーストモードへと。

 

「――ッ!」

「行くぜ、必殺の一撃!!」

 

 直後に二体の究極を越えたデジモンがぶつかり合う。

 爆発と轟音と共に、決着がついた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 バステモン達は疲弊していた。流石に多勢に無勢……いくら魔法が扱えると言っても限度がある。かなり健闘した方ではあるが、すでにネオデビモンたちに取り囲まれていて万事休すだ。

 

「モニタモン……ごめんね、バステモンがふがいなくて」

「いえいえ。あれだけの軍勢……三桁相手にすさまじい戦果ですぞ。ネオデビモンも10体以上は倒されていましたし……それに引き換え、私は隙を作ることしかできませぬし」

「それでも十分だよぉ……ああ、でも…………ここまでかぁ」

 

 いきなり無茶な試練を出してしまったが、一言謝りたかったなとバステモンが思った、その時であった。

 遺跡がいきなり爆発し、中から何かが飛び出してきたのだ。

 

「いきなりどういうこと!?」

「あれは……あのデジモンは!?」

 

 中から飛び出してきたのは銀色の巨竜だ。その巨竜が咆哮を上げるとネオデビモンたちはいっせいに彼の方へと飛んでいく。しかし、巨竜の色が紅く染まった次の瞬間には――彼らは全てデータの塵へとなっていた。

 

「強すぎ……なにあのデジモン」

「該当データなし。未知の存在です」

 

 巨竜が地面へと降り立つと――光に包まれて小さくなっていく。その背から人影も飛び降り、やがて見慣れた姿が現れた。

 

「カノン……カノン!」

「ご無事で何よりです――ッ!?」

「あびゃぁ!?」

 

 戻ってきた彼ら――カノンとドルモン――に抱き着こうとした二人であったが、いきなり殴り飛ばされてしまう。地面をずさーっと滑り、体中が砂だらけになる。

 

「なにするの!」

「いや、いきなり突き飛ばしたお礼に」

「同じく」

「……すみませんでした」

「で、でも試練だったし……」

「他にいう事は?」

「……ごめんなさい」

 

 よろしい。とカノンたちは頷く。元々必要な試練ではあったと分かっているものの、それでも事前告知無しがむかついただけである。

 と、その時遠くに見えていた街並みがズルズルと音を立てて横に流れていくのが見えた。

 

「あれは……」

「どうやら、ムゲンドラモンが倒されたみたいね」

「そのようですな」

「そっか、太一さんたちやったんだ……」

 

 これで残すは一体か。もーんとトコモンも声を上げてカノンの頭に飛びついてくる。見れば、カノンたちが飛び出したときの影響で砂まみれだ。

 みんなの大なり小なり傷だらけで、砂まみれである。

 

「どっかで体を洗う場所さがすか」

「だねー」

「ふふふ、そうですな。それに、皆疲れておりますし……次はいよいよ正念場ですぞ」

「ああ……ピエモンに借りを返さないとな」

 

 決戦の時は近い。

 今試練を乗り越え、カノンとドルモンは再び立ち上がった。

 




進化復活&、超強化。
さらに未使用の力も残しつつ、カノンとドルモンが完全復活しました。

今後はドルシリーズはワクチン種になります。といっても、作中で属性が重視されたことってあまりないですけどね。


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53.モラトリアム

レディーデビモンの回は強烈でしたね。というか、テイマーズまで強烈な印象を残しまくっていたよな……


 ムゲンドラモンを倒した太一たち一行ではあるが、ピエモンのエリアに入ったはイイものの……現在地がよくわからない。とりあえず休憩を挟みながら進んではいたのだが、見た目以上に広大なスパイラルマウンテンで方向感覚も鈍くなりそうである。

 

「一本の帯の上を歩いているってのに、普通に重力を感じるし……地球上を歩いているのと感覚が変わらねぇな」

「そういう風にプログラムされているんですよ。エリアの端に行けば端だと言うのは認識できるんですが、ある程度離れるとその認識も薄れますし……たとえるなら、ゲームのフィールドでしょうか。

 デジタルワールドは地面を四角いパネルで区切っているみたいなんです。それがたくさん集まってデジタルワールドを形成しているんですよ。この世界に宇宙空間はないと思いますが……そこのところはどうなんですか?」

 

 光子郎がアンドロモンに尋ねると、少しの思案ののちに回答をする。彼もそこまで考えたことはないがメモリーに該当する項目が見つかったのだ。

 

「別のエリアが広がっていると思われます。天使系デジモンの住まう天界、あなた方で言う地獄のような場所であるダークエリアなど、地表エリアとは異なる層に存在する場所もありますから。しかし、通常はいく手段がありませんし……どちらもこちらへ干渉することが困難なのです」

「天使系デジモンが住んでいる場所があるなら助けてくれてもいいじゃないかと思ったけど……そういうわけにもいかないのか?」

「ええ。そもそもかつて存在したルーチェモンに関わることですので……天界は存在こそしていますが、今も天使系デジモンがいるとは限りません」

「場所はあるけど、住人はいないと? ダークエリアは……聞かない方がいいですかね?」

「通常行くことはありませんし、死んだデジモンがデジタマになる際に通るのですが……アヌビモンというデジモンがそのシステムをつかさどっています」

「でも、今そのシステムは……」

「正常に機能していません。ダークマスターズが何をしたのかはわかりませんが、彼らのせいではじまりの町の機能は停止しています」

 

 アンドロモンから彼らは聞いていたのだ。死んだデジモンたちがデジタマとなることが出来ないのを。

 ヌメモンたちの墓を作り、手を合わせていたが……彼らのためにも先へ進まなくてはならない。

 

「ヌメモンさんたち……」

「――」

 

 ヒカリが涙を浮かべそうになっていたが、もんざえモンが彼女の頭をなでる。どういう力が働いたのかはわからないが、彼はこの姿で固定されたらしい。

 

「しかし、貴方無口ねー」

「……」

「なんとなく、手ぶりで言いたいことは分かるのだが……徹底してしゃべらないな」

「進化すると性格まで変わるの?」

「そうだな。そういうデジモンも数多いぞ」

 

 長らく色々なデジモンを見てきたテイルモンが空の疑問に答えた。

 デジモンは進化すると属性が変化する者もいるため、性格まで変貌する者も数多い。オーガモンなどのデジモンのように種族自体に性格の方向性が刻まれている者もいるぐらいだ。

 中には例外もいるようではあるが。

 

「進化前の性質を引き継いでいるデジモンもいると聞く。珍しい事例ではあるがな」

「へぇ……例えば?」

「そうだな…………タンクモンを覚えているか?」

「うん。ムゲンドラモンの仲間にいた戦車みたいなデジモンだよね」

「ああ。アイツはゴツモンなどから進化することがあるんだが……ゴツモンの性質を残したまま進化すると、岩を砲弾として発射出来たりするんだ」

「それだけ?」

「例えばの話だ。組み合わせ次第では強力な力となる例もあるが、私たちが見たデジモンで例えるとこれぐらいしか出てこなかった」

「……そういえば、カノン君がそんなデジモンと会っていたよね?」

 

 そこでヒカリがあることを思い出す。たしかカノンの過去の話を聞く際に聞いたことだと思ったが……

 

「バステモンって言うデジモンが、進化前のウィッチモンの力を使えるって」

「……」

「テイルモン?」

「なぜだかは分からないが、あまり会いたくないなそのデジモン」

 

 むずむずするとテイルモンは首をかしげる。

 会えばわかるかもしれないが、少し嫌な予感がしてきた。

 

「話を戻すけど、今はどのあたりにいるんだろうな?」

「そういう話でしたっけ……」

「悪い。いい加減場所を把握しないとと思って俺が話しかけたんだ……光子郎、何かいい案はあるか?」

「そうですね……アンドロモンとパソコンをつなげて、スパイラルマウンテンの地図を表示することはできますか?」

「可能でしょう。ムゲンドラモンのエリアでやったようにやればいけるハズです」

 

 光子郎のパソコンとアンドロモンが接続され、アンドロモンを通してスパイラルマウンテンの地図を構築する。CG画像に光点を表示することで自分たちのいる場所を示したのだが……

 なんと、スパイラルマウンテンの帯の部分ではなく頂上の皿のような部分にいたのだ。つまり、スパイラルマウンテンの頂上にたどり着いていたのである。

 

「もう頂上についていたのか!? でも、まっすぐ歩いていたし、こんな直角に曲がった場所なんて……」

「僕たちから見ればまっすぐ歩いているように見えるんですよ。見た目通りの空間というわけではないようですね。これはデジタルワールド自体が球体ではない可能性も……」

「と、とにかくそういう難しい話は全部終わってからにしようぜ。もう頂上についていたのなら気を引き締めないと……」

 

 それに、ピエモンも俺たちに気が付いているはずだ。そう言おうとしたが、何かの気配を感じて太一は振り向いた。見ると、黒色の影が空から降りてきているではないか。

 ボンテージ風の格好をした女性型のデジモン。どこかデビモンに似ているのが気になるところだ。

 

「光子郎、あのデジモンは?」

「レディーデビモン、完全体ですね」

「オーッホッホッホ! よく来たわねぇ、えらばれし子供たち」

「なんかヤな感じのデジモン」

 

 女性陣はものすごく嫌な顔をしている。自分たちの中の何かに触れたようだ。もう睨んでいると言ってもいい。

 

「疲れたでしょう? ゆっくり休んでいきなさい! 永遠にね!」

「いいじゃない――やってやろうじゃないのよ!」

 

 空が今にもとびかかろうと前に出るが、それを太一が止める。

 

「何よ、止める気?」

「ああ……悪いんだけど空には他にやってもらうことがある」

 

 ゴーグルをつまみながら太一が真剣な表情で語り掛ける。その様子に空も闘気を収め、耳を傾けた。

 

「残るダークマスターズはピエモンただ一人……だけど、何が起こるかわからないし、簡単に勝負がつくとは思えない。ムゲンドラモンの時はドラモンキラーがあったから良かったけど、アイツ相手じゃそうもいかないからな」

「太一、何の話……まさか」

「ああ。お前には、ヤマトを迎えに行ってほしい」

 

 ここから先は今までのようにはいかないだろう。

 完全体一体だけなら他のデジモンでもなんとかなるが、ピエモンとの戦いでは確実に究極体が複数存在していないと厳しいでは済まない。

 

「できればカノンたちも探したいところだが、先へ進んでいたヤマトの方が近いはずだ。だから、頼む……アグモンは温存しないといけないしな」

「ぼく、戦っちゃダメなの?」

「お前はピエモンって大仕事が残っているからな……」

 

 上を見ると、すでにエンジェウーモンとレディーデビモンの戦いが始まっていた……なぜかキャットファイトの様相を呈してきたが。ヒカリも興奮しているようで、やっちゃえやっちゃえとか言っている。我が妹ながらこんな一面もあったのかと冷汗が出てしまう太一だ。

 

「……あ、あとのことは任せろ。ここから先のことを考えるとブレインの光子郎は残しておかないといけないんだ……だから、頼む」

「そうね。まったく、リーダーらしくなっちゃって。それじゃあ、行ってくるわ。ピヨモン!」

「うん。任せて!」

 

 ピヨモンが進化し、空たちはヤマトを探しに向かった。

 最後の戦いが近い。すぐにでも仲間たちを集めなくてはいけないのだ。

 

「頼むぞ空……それにしても、なんて泥沼な」

「アトラーカブテリモンも援護に入っていますが、邪魔者扱いされていますね」

「がんばれ、アトラーカブテリモン」

 

 男性にはわからない、女の戦いが繰り広げられていた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 一方その頃、カノンたちは休息と食事を終わらせて準備運動していた。

 

「体を良くほぐしておけよ!」

「わかってるよ」

「それで、ムゲンドラモンが倒された以上ピエモンもすぐに動くわけだけど……どうやって向かうつもり?」

「あの紅いドラゴンのような姿で飛ぶのですかな?」

「ああ、ドルゴラモンのバーストモードか? あれ消耗が激しいみたいだから移動には向かないんだよ。バーストしなくても飛行能力こそあるけどスピードはいまいちだし」

「ドルゴラモン……なるほど、あの銀色の竜ですな」

「バーストモードを使えるようになったの!?」

「コンディションが最高である必要と、消耗の激しさがネックだけどな。進化できない状態でため込まれていたから長く続いていたけど、本来は短期決戦用だよ」

 

 本当の意味で切り札なのだ。そう簡単には使うことが出来ない。だが、手に入れた力はそれだけではない。

 アグモンたちとは異なりドルモンは今までワープ進化を行うことはできなかったのだが、今回のことでそれは解消された。更に、第三の究極体まで獲得したのだ。

 

「いくぞ、ドルモン」

「うん。レオモンの置き土産、みんなを守るために使わせてもらおう!」

 

 カノンのデジヴァイスが光り輝き、ドルモンの姿が変化していく。

 四肢は強靭に、竜ではなくより獣らしく。超硬質化した体をもつ究極体、その名は――

 

「ワープ進化! ディノタイガモン!」

「み、三つめの究極体!?」

「すさまじいですな……」

「これで三属性そろい踏みってね。サーベルレオモンのデータも取り込んでいてくれて助かったよ……ガイオウモンの時よりは楽に構築できた。それじゃあ二人とも乗ってくれ。全速力で突っ切るから」

 

 バステモンとモニタモンもその背に乗せ、ディノタイガモンは駆けだした。その際トコモンが彼の頭の上にしがみついた。

 サーベルレオモンに比べればスピードは劣るものの、十分速い動きでスパイラルマウンテンを駆けあがっていく。

 

「速い速い! すごいスピード!」

「これは、まことにすさまじいですぞー!?」

「このまま一気に行くぞ!」

 

 景色が目まぐるしく変わっていき、廃墟、森、おもちゃの街並み――が見えたところで一旦止まった。

 

「もーん?」

「どうかしましたか、カノン殿」

「デジタマがいっぱいある……でも、機能が停止している?」

「ここははじまりの町。死んだデジモンがデジタマになって戻ってくる場所」

「……ダークマスターズのせいで、機能が止まっているのか?」

「うん。本当にひどい……同じデジモンとは思えない。七大魔王だってここまでのことはやらないのに」

「本当にデジモンなのかも怪しいな。特にピエモンは」

「カノン?」

「まあ、直接見ていないとわからないか……」

「――カノン、知ったにおいが残っている。たぶん、ゴマモンたちだ」

「丈さんたちはここにきたのか……」

「どうする? 追いかけるか」

 

 ディノタイガモンの言う通り、合流することも選択肢の一つなのだが……

 どうにも嫌な予感がする。もっと先の方で、良くないものが生まれようとしている。そんな気がするのだ。

 

「……いや、先へ行こう。残されたエリアがピエモンのエリアだけである以上、奴も動いているかもしれない。それに、まだ戦力を持っていても不思議じゃない。前線に出ている太一さんと合流することを考えるべきだ」

「その方がよろしいですな。ピエモンもダークマスターズ以外の究極体を確保している可能性がある以上、カノン殿たちがいかなくては大変なことになるでしょう」

「それに、その子たちも太一って子に合流しているかもね」

「その可能性もあったか……でもまあ、最短ルートで突っ切るぞ!」

 

 カノンは左肩を抑えて感覚を研ぎ澄ませる。依然受けた傷を使い、ピエモンの暗黒の力を探っているのだ。

 微弱なもので方角がなんとなくわかる程度のものだが……それでも最短ルートを進むのならばそれで十分。

 

「よし、進路まっすぐ突っ走れ!」

「了解!」

 

 再び風のように突き進む。

 景色は森となり廃墟となり、黒い大地に変わった。空も黒く、暗黒の力に満ちている。

 やがて、目の前に小さな山のようなものが見えてきた。おそらくは、あれが……

 

「ピエモンの居城」

「まったく陰気なところだな」

「封印してくれやがった借りを返すときね!」

「最後まで、おとも致しますぞ!」

「もーん!!」

 

 ダークマスターズ、最後の1人との戦いが今始まろうとしていた。

 




ドルシリーズがワクチンに変化したため、ドルゴラモンがワクチン種。
ディノタイガモンがデータ種。ガイオウモンはウィルス種。
これで三属性の究極体になれるようになったドルモンです。


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54.闇の魔人

もうすぐアドベンチャーも終わりか……ウォーゲームにはすぐにいかず、色々と挟む予定。


 レディーデビモンを降した太一たちであったが、その直後に最後のダークマスターズ。ピエモンが姿を現した。

 その顔には不敵な笑みを浮かべており、ゆっくりとした足取りで太一たちの元へ歩み寄ってきている。

 

「おやおや、まだ全員そろっておりませんでしたか。それに、厄介な0人目もいないようで……これはネオデビモンたちが上手くやってくれましたかね?」

「ピエモン……ついにここまで来たぞ」

 

 まだ全員そろったわけではない。しかし、今この場で戦えるのは自分たちだけだ。

 

「いくぞ、アグモン!」

「アグモン、ワープ進化!」

 

 太一のデジヴィスがオレンジ色に輝き、アグモンの姿を変化させる。

 急速にデジコアの情報が更新されていき世代をとばして究極体、ウォーグレイモンへと進化させたのだ。

 

「……たしかに、あなた方で私と戦える可能性があるのはウォーグレイモンだけですが――ぬるい。ぬるすぎる。メタルシードラモンとムゲンドラモンがたまたま相性の上で有利だっただけのこと。この私も同じように見てもらっては困ります」

「そんなことは分かっている――でも、やるしかないだろ」

 

 ウォーグレイモンとピエモンがにらみ合い、両者が相手の出方をうかがう。緊張感が増していき、そして――激突した。

 

「ドラモンキラー!」

「効かぬ! トランプソード!」

 

 四本の剣がウォーグレイモンを狙い、飛び回る。何とか紙一重でかわしていくものの、スピードが速すぎてかわすのだけでもかなり危ない状況だ。

 

「――ハッ!」

 

 その隙を突き、ピエモンがウォーグレイモンへ掌底をぶつける。

 体が弾き飛ばされ、何度もバウンドするが受け身をとって再び立ち上がった……力の差は歴然。他のデジモンの援護があれば別かもしれないが……

 

「太一さん、僕たちも援護を!」

「ダメだ。光子郎はヒカリを守っていてくれ……それに、アイツまだ何か隠していやがる」

 

 空と、兄を迎えに行くためついていったタケル以外、光子郎とヒカリがこの場に残っている。それにアンドロモンともんざえモンもいる。彼らもいる以上援護を頼んでもいいのだが、ピエモンの余裕そうな表情が気にかかるのだ。それに、奴が漏らした言葉。

 

「ネオデビモンたちって言っていたよな……お前、まだ手下が控えているんじゃないか? それとも、光子郎たちに聞いた他の究極体でもいたりしてな」

「――ふふふ、失言でしたね。制御できない代物ですので使わないつもりでしたが…………楽しい余興にはなってくれますかね」

 

 そう言うと、ピエモンは飛び上がり指を鳴らす。それに合わせて上空にデータの粒子と何かのパーツらしきものが集まりだしてきた。

 

「ちょっと太一さん! 余計なことを言ったんじゃないですか!?」

「いいんだ……少しでも時間を稼がないとマズイ。それに、ピエモンを相手するよりかはマシだろうぜ」

「でも、あのパーツ……僕たちが見た三体のマシーン型のような」

「…………予想以上に、マズいか?」

「スカルグレイモンみたいにマズイ感じがしてきたんですが……」

 

 バチバチと放電が始まり、パーツ同士が結びついていく。更に、破損したデータが絡み合い別の形へと変貌を遂げていく。その際にピエモンが懐から取り出したのは真っ黒い球体。

 

「これはシェイドモン。絶望や闇の力を吸収し、凶悪なデジモンへと進化しますが……このようにデータの残滓を利用し、核として使えばこの通り!」

 

 球体にたくさんの眼が現れ、影のような形になったかと思うと次の瞬間にはその姿をより巨大なものへと変化させていた。緑色の体に巨大な両腕。右腕は銃の形をしている。

 戦車か、戦闘機のようにも見えるデジモン。

 

「三体の究極体の力が一つとなることで生まれる、さらなる究極体。それがこのライデンモンです。もっとも、あの男によって倒された三体のデータの欠片とシェイドモンの特性を利用して誕生しているので本来のスペックよりは劣りますが……あなたたちに倒せますかな?」

「太一、コイツ……危険だ」

「ああ――アンドロモン、もんざえモン。援護を頼む!」

「了解しました」

「――!」

 

 二体の完全体の援護を背後に、ウォーグレイモンが飛びつく。

 しかしライデンモンはその腕を振り回し、彼を吹き飛ばしてしまう。

 

「――ガァ!?」

「ウォーグレイモン!?」

「――――ハイジョ。デリートシマス」

 

 ライデンモンの合成音声が響く。その銃口をウォーグレイモンへと向け――腕の下からもんざえモンがアッパーを喰らわせてウォーグレイモンを助ける。

 続いて、アンドロモンが左腕を殴り飛ばして顔の付近を無防備にした。

 

「いまだ!」

「ガイアフォース!」

 

 濃縮されたエネルギーの塊がウォーグレイモンの両手に作られ、ライデンモンへと放たれた。そして、そのまま着弾し爆発が起きる。煙があたりにまき散らされ、視界が塞がるが……

 

「やったか?」

 

 直後に、銃声が響き渡る。悲鳴と共に三体のデジモンが弾き飛ばされ、煙の中から飛び出してきた。

 言葉も出ず、ただ見ていることしかできなかった。ウォーグレイモン達の攻撃にもびくともせず、感情の無い瞳でその銃口にエネルギーをチャージしていく。それは自身の限界すらも上回っており、今にも爆発しそうな勢いだ。

 

「やはり暴走しましたか――しかし、これでえらばれし子供たちもジ・エンドですね」

 

 そして、その砲撃が放たれようとして――――銃口が巨大な爪に潰された。

 

「――――は?」

 

 ピエモンも何が起きたのかわからない。ただ、見たこともないデジモンがライデンモンの右腕を破壊したのだ。すぐにライデンモンも反撃をしようと左腕で殴り飛ばそうとするが、デジモンから数人の人影が飛んだのと同時にデジモンの姿が変化する。

 ウォーグレイモンにも似た姿だが、侍のような出で立ちをしている。二本の刀でライデンモンの腕を切り裂き、蹴り飛ばす。

 

「――――キケン。タダチニ、マッサツ………ツ、ツツ」

「無駄だ。お前の中にエネルギーを送り込んだ……消えろ。ガイアリアクター」

 

 直後に、ライデンモンの体が爆発する。内側からガイアフォースのようなエネルギーの渦が巻き起こり、彼の体を粉々に粉砕した。後に残ったのはデータの塵のみで……もう再生もできないだろう。

 

「つ、つえぇ……なんだあのデジモン」

「ガイオウモン。究極体……グレイモン系の亜種です。先ほどのはディノタイガモン、究極体。でも、他の究極体に変化するなんて――」

「そんなことできるの、一人しかいねぇだろ……なあ、カノン」

 

 そう、先ほどディノタイガモンから飛び降りたのは彼、橘カノンであった。頭に白い物体を乗せ、ネコ型の獣人デジモン、バステモンとテレビのような忍者っぽいデジモンのモニタモンを連れている。

 

「やっぱわかりますか」

「もん?」

「それに、そのトコモンはどうしたんだ……」

「デジタマから生まれました。ずっとくっ付いてきます」

「それにそっちのデジモンたちは……」

「バステモンはバステモンだよー。よろしくねえらばれし子供たちー」

「モニタモンと申します。どうぞよろしく」

 

 とりあえず引っ付いていられてもなぁとカノンはトコモンを引きはがし、ヒカリに預ける。

 

「はいヒカリちゃん、こいつお願い」

「それはいいけど……あれがバステモン?」

「うん」

「やっぱり――なんかムカつく」

「ああ、私もだ。何か心の奥底で泣かせてやるって気持ちになる」

「お二人さん!?」

 

 なぜと思うが、深く突っ込まない方がよさそうだと彼女から離れることにしたカノン。太一と光子郎は先ほどのキャットファイトを思い出し、顔を青くしていた。ちなみにバステモンはよくわかっておらず、首をかしげている。

 

「ははは、感動の再会といったところですね」

「まあそういう事で。だから邪魔すんなよピエモン」

「そういうわけにも参りません……しかし、予想外の展開で驚いていますよ。あの大部隊からよくぞ逃げてきましたね」

「大部隊? ああネオデビモンとか色々いたあれか……すぐに片付いたぞ、アレ」

「――――」

 

 流石にピエモンもそれには予想外だったのか、目を丸くしている。

 カノンはなんてことないように言っているが、実際にとんでもないことであるのだ。バステモンが数を減らしていたとはいえ、それでもまだ大勢のデジモンがいた。それでも障害にもなっていないというのだ。

 

「ガイオウモンだと相性が悪いか……暗黒属性も入っているし、同じ属性でぶつかっても仕方がないな」

「なら、スライド進化――ドルゴラモン!」

 

 今度はドルゴラモンへと姿が変わる。これでえらばれし子供たちの側には究極体が二体――いや、三体だ。

 後方から青色の影が見えてくる。すぐに到達し、ウォーグレイモンの横に並んだ。

 

「ガルルモン!? ってことは……ヤマト!」

「太一! みんな!」

「ヤマト君、連れてきたわよ――って、そのデジモンは!?」

 

 ガルルモンはすぐにメタルガルルモンへ進化し、ピエモンをにらみつける。空たちもドルゴラモンの姿に驚くが、カノンが手を振り状況を把握した。彼も問題を解決し、ここまでたどり着いたのだ。

 

「……八神太一、君の目論見通り時間稼ぎは成功したようですね。まったく、ここまで誤算が続くとは思いもしませんでしたよ」

「へっ! そりゃよかったぜ。でもこれで形勢逆転だな」

「それはどうでしょうね……どうやら、本気を出さなくてはいけないようだ」

 

 ピエモンが手を上に向けると、どこからともなく白い影が飛来した。剣のようにも見えるが、放電をしており、クワガタムシのような姿に見える。

 

「デジモン――?」

「ブレイドクワガーモン。成熟期のデジモンですが、全身がクロンデジゾイドで出来ている希少種です。このように、武器として使えば――!」

 

 ピエモンがブレイドクワガーモンを揮うと、真空の刃が発生する。すぐさまドルゴラモンが防いだものの、体が下げられてしまっていたことから、とてつもない威力だというのがわかる。

 どうやら、ピエモンの力でブレイドクワガーモンの技を増幅して使っているようだ。

 

「さて――楽しいバトルの始まりです」

「んー、クロンデジゾイドときたか……いきなりトップギアで行くのもまずいし、二人ともどうしますか?」

「カノン、まだ何かあるのか? 究極体三種類だけじゃなくて他にも?」

「いえ、進化できるのは三種類ですが……短時間だけならピエモン以上の出力が出せますよ。使ったらしばらく戦えない諸刃ですけど」

「だったらここぞって時まで温存しておけ、道は俺たちが作る!」

「ああ――頼むぞストライカー!」

「それ太一さんの役目じゃないかな!」

「生憎、俺はキャプテンだよ! ヤマトはリベロな!」

「何でもかんでもサッカーで例えるなよ! とにかく行くぞ!!」

 

 そう言って、三体の究極体と共に三人が動く。ウォーグレイモンが最初に動き、ピエモンの攻撃をけん制し始める。単純に考えれば、手に持った武器の威力が増しているのだ。さらに、電撃の攻撃まで加わっている。

 メタルガルルモンがコキュートスブレスで地面を凍らせてピエモンの動きを阻害する。そこに、ドルゴラモンが衝撃波で攻撃を仕掛けていった。

 

「なかなかの連携です――しかし、これならどうだ!」

 

 ピエモンの背から剣が飛び出していく。彼の周りを回転し、近づいてくるウォーグレイモンを迎撃するのだ。しかしそれに合わせてメタルガルルモンからミサイルがいくつも飛び出していき、剣を打ち落としていく。ドルゴラモンが体を回転させ、尻尾を振り回し――そこにウォーグレイモンが飛び乗った。

 

「いっけぇ!!」

「――ブレイブトルネード!!」

 

 ドルゴラモンの力で加速し、ピエモンの知覚を越えてウォーグレイモンが突撃する。流石に咄嗟の防御しかできずにピエモンは押され切って岩壁へと激突してしまった。

 

「――この、調子に乗らないで頂こう!」

「だったら、こいつはどうかな――ガイアフォース!」

「コキュートスブレス!」

 

 ウォーグレイモンとメタルガルルモンの攻撃が混ざり合い、ピエモンへと迫る。しかし、それを見たピエモンはにやりと笑って――ブレイドクワガーモンへ闇の力を注ぎ込んでいった。

 

「デジモンの限界能力を突破した末に現れる姿、それこそが――」

「バーストモード!」

「――!?」

 

 ドルゴラモンの姿が紅く染まっていく。バーストモード、それはデジモンの持つ限界能力の解放であり、デジコアの奥底に刻まれている情報が引き出されることで、その外見にも持つデータの特徴が現れる。

 彼の場合は黙示録の赤き竜の姿に酷似したものへと変化する。さらに、とある可能性(・・・・・・)も併せ持った存在へと変化しているのだ。よって、この技に正しき名前は無い。しかし、二つの特徴を合わせたことでつけられた名前は――

 

「ブレイブインパルス!」

「――ッ!」

 

 ピエモンもブレイドクワガーモンを強制的にバーストモードにしたうえで、合体攻撃を切り裂いたままドルゴラモンの攻撃を迎え撃つが――押されていたのは、ピエモンの方だった。

 

「まさか、バーストモードまで会得していたとは……甘く見過ぎていましたね! だったら……ッ」

 

 ピエモンが何かを呟いたのと同時に――彼の周囲にいくつもの魔法陣が出現する。そこからあらゆる魔法が放出され、ピエモンの体を拭き飛ばして攻撃を回避してしまったのだ。直後に、ドルゴラモンはすぐにドルモンの姿へと戻ってしまう。

 

「――カノン、ごめん」

「一歩届かなかった! でも、確実にダメージは入っている。それに、ブレイドクワガーモンはいない。手のうちも明かさせた!」

「いけ、ウォーグレイモン!」

「メタルガルルモン! 止めを!」

 

 ドルモンが倒れるものの、いまだ二体は健在だ。すぐに追撃にうつるが……ピエモンは鋭い眼光で睨みつけ、ウォーグレイモンを殴り飛ばして二体を地面へと叩き落としてしまう。

 

「――なにッ」

「コイツ、まだこんなパワーが!?」

「こんなやり方、私の流儀に反するんですがね……そうも言っていられないようで――――」

 

 ピエモンが白い布を取り出した。子供たちは手品デモするのかと思ったが、ただ一人。ずっとピエモンの行動から次の動きを予測しようと彼を見ていたカノンだけは、その危険性を見抜いた。しかし、止める間もなく太一とヤマトが飛び出す。ウォーグレイモンとメタルガルルモンに布が覆いかぶさろうとしていた時、何かの危険を感じたのかもしれない。

 

「ダメだ! その布から離れて――」

「もう遅いわ!」

 

 ウォーグレイモンとメタルガルルモンだけではない。太一とヤマトにまで布は覆いかぶさり、そして――彼らの姿が消えてしまった。

 




改定前は諦めていたネタなどを盛り込みまくり。
あと、シェイドモンは前々から使おうと思っていたんだけど公式サイト覗いたら図鑑がシェイドモンで笑ったわ。

もしかしたら今後も出番あるかも。設定的に便利なシェイドモン。実は成熟期。


ちなみに、ドルゴラモンのバーストモードはねつ造ですのであしからず。技は通常とデクスのを合わせた。


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55.ピエモンの最後

8月4日までにはアドベンチャー編が終わりそうだけど……気が抜けないな。


 ピエモンの使った布に包まれた結果、太一さんたちは消えてしまった。いや、あれは……何か別の形に変換されたようにみえる。しかし、何が起きたのかははっきりとはわからない。

 

「ふはははは!」

「お兄ちゃん!? そんな、消えちゃって――」

「いいや、消えたわけじゃないさ……ほうら、頑張ったご褒美に私のコレクションに加えてあげたのさ」

 

 ピエモンの手の中にはキーホルダーにされてしまった4人が握られている。あの布をかぶせられると強制的に体のデータが変換されてしまうらしい。

 なんてでたらめな能力だよ……

 

「マズイ、一旦逃げよう!」

「逃がすと思うかい? 君たちも人形にしてあげよう!」

 

 ピエモンが迫る。丈さんの声に合わせてみんなが逃げ出すが……僕とドルモン。それに完全体の3体がピエモンに突撃する。みんなは驚いた表情をしているけど……体が動き出していたんだから仕方がない。

 なんというか、結局無謀だなとも思うんだけど……こういう時に逃げるのって僕らしくないしね。

 

「貴様――その剣は」

「魔法剣、名前は付けていないけどとりあえずそう呼んでいるよ」

 

 ドルモンのデジコアに触れた際に僕に流入したデータはグレイダルファーだったのだ。完全ではないし体に残り続けるようなものでもなかったが、それを基に魔力で剣を形作ることに成功した。それが、この剣だ。

 

「消耗はでかいけど――ぶっ飛べ!」

「ッ」

「いくよー! バステモン必殺の一撃!」

「スパイラルソード!」

 

 僕がピエモンの体をとばし、バステモンとアンドロモンが追撃する。僕もすぐにドルモンに飛び乗り、続いていく。もんざえモンがすでに次の攻撃を仕掛けるために動いていた。

 

「みんなは逃げて! モニタモン、先導よろしく!」

「任せてくだされ。この居城は既にマッピング済みですぞ!」

「小癪な……それに、いつの間にマッピングを」

「あの子は弱いデジモンだけど、隠密に関してはすさまじいのよ。封印してくれたお礼、たっぷりしてあげる」

「私たちでは及ばないかもしれませんが、それでも食い止めさせてもらいます」

「――!」

「つーわけだ。悪いけど、先へは行かせないよ」

「しばらく進化できないけど、みんなとは鍛え方が違うんだよ。カノンの足代わりにはなれる」

「…………本当に、甘く見過ぎていたようですね。0人目、どうしてあなたはこうまでして戦うのです? 誰よりも過酷な運命を持つあなたが――この戦いはあなたにとって寄り道みたいなものであるのに。よもや、自分が何者なのか本当に理解していないとでも? 心の奥底では、感づいているはずだ」

「寄り道とか……勘違いするな。それは僕が決めることだ。つーかグチグチうるさいんだよ陰険ピエロが。自分が何者なのかわかっていないのはお前の方だろうが――この道化」

 

 少しの静寂ののちに、ピエモンが動く。数十本の剣が僕たちに殺到するが、その全てを同じ見た目の剣で迎撃する。そこそこ消耗が激しいが、直接喰らったからワクチンプログラムは作ってある。

 バステモン達が僕のことを冷めた目で見ているが、ずっと我慢していたのが一気に噴き出したのだ。反省はしないし後悔もしてない。

 

「カノン、おれもどうかと思うんだけど……キレすぎじゃない?」

「うっさい。アイツだけはどうにも合わないというか――ブッ飛ばしたい」

「――奇遇ですね、私もですよ!」

 

 攻撃が効かないと判断したのか今度は直接殴りに来るものの、もんざえモンが組み付いて動きを阻害する。そこにアンドロモンが攻撃を仕掛けるが、ピエモンは体を回転させて両者を吹き飛ばした。

 しかし、そこにバステモンが魔法を使ってピエモンの動きを拘束しようとする。

 

「この程度の魔法で私を止められるとでも?」

「生憎、バステモンはダメでも弟子ならどうかな――いって、カノン!」

「オーライ! 魔力全開!」

 

 ドルモンと共にピエモンに突っ込んでいき、加速プログラムを連続で付与していく。さらに、剣の形が突撃槍(ランス)に変化していった。流石にピエモンもマズイと思ったようだが――すぐに、にやりという笑いに変化する。

 なんだ? 何を笑っているんだ?

 

「――まったく驚かせてくれる! だが、貴様らの相手をしている暇はないようだ」

 

 ピエモンがそう言った瞬間――ぞくりと、嫌な予感が走った。すぐに目標を変えて突撃槍を投げつける。方向としては明後日であったものの、何かに着弾して爆発が起きた。

 

「貴様らの相手はそいつにしてもらおうか! ついでに、お前はコレクションに入ってもらおう!」

「しま――」

 

 体に布がかぶせられる。体が変換されていくのを感じるが――これ、前にも感じたことあるよな。というか自分で変換したじゃないか。とすればあの時の感覚で自分の体を再変換するように構成して……布を切り裂いて、ピエモンへとびかかるが……逃げられていた。

 

「はったりかよ……チクショウ」

「カノンをよっぽど足止めしたかったみたいだね」

「……太一さんたちを戻されるのを嫌がったってところか」

「ねえカノン、無駄話はそれぐらいにして……こっちを見てくれるかな?」

 

 バステモンの言った方向を見ると……三体のデジモンが出現していた。その全てに言えるのは、骨で体が構成されていることだろうか。あと、ヤバい感じがする……おそらく先ほど感じた嫌な予感は真ん中にいるグレイモンっぽいやつが撃ってきたミサイルだろう。

 

「スカルグレイモンにスカルサタモン!? それにスカルマンモンとか……ピエモンのやつ、どんだけ戦力を隠し持っていたのよ!」

「うひひひひ! ピエモン様は0人目のことを知った日からもしもの時のために我らのようなデジモンをご用意されていたからなぁ! もっとも、貴様らのせいで大半を失ったが」

「だったら出てくんな! はた迷惑!」

「そうもいかんのよさ!」

 

 まずい事態になった――それにスカルマンモンは究極体。ドルモンの回復には一時間ほどかかる……これは逃げ続けるしかないか?

 と、僕が思案していると無駄無駄! とスカルサタモンが大笑いしだした。

 

「このスカルマンモンはな! ”ウィルス種”を執拗に狙うぞ! そこのバステモンを集中して狙うだろうなぁ! それにスカルグレイモンだって通常の個体よりも強化されてんだ! 逃げたって無駄さ」

「……敵味方じゃなくて属性で判定してんの?」

「おうよ!」

「それじゃあバステモンにジャミングかけて……バステモン、自分でかけられる?」

「なるほどー、属性データを隠ぺいしたのかー……これでバステモンは狙われないね!」

 

 ってことは、この場にいるウィルス種は……

 

「――あら?」

 

 直後に、スカルグレイモンとスカルマンモンがぶつかり合う。オブリビオンバードという究極体に匹敵する技を持ったスカルグレイモンと、元々究極体のスカルマンモンのぶつかり合いは熾烈を極めた。流石にこの場から離脱しようものなら巻き込まれそうになるので注意しながら回避に専念するしかなかったものの、直接戦うことはまぬがれたのである。

 ただ、ピエモンは見た目で部下を選んではいやしないだろうか? いや、スカルサタモンが集めた気もする。

 

「ぐえぇ!?」

「……あれでネオデビモン100体レベルの闇の力があるのみたいなのになぁ」

 

 ゲンナイさんに埋め込まれた黒い何かを使われているのだろうか? とても強い力を感じるのに……

 

「耐久度はすさまじいね。究極体の攻撃を喰らっても生きてるよ」

「みんなを助けに行きたいのに――アホなのに強いとか厄介だな」

 

 スカルサタモンの攻撃も時折飛んできているが、割とシャレにならない。このエリアの暗黒の力が同じ属性の力でかき消されているレベルなのだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 その一方でタケルたちは窮地に立たされていた。1人、また1人と仲間たちがピエモンの魔の手にかかっていく。みんなが人形にされる中、残されたのはタケルとパタモン、ヒカリとトコモンだけであった。

 

「もん……」

「どうしよう、もう逃げ場がないよ!」

 

 道中はモニタモンの案内でスムーズに逃げることが出来ていたのだが、ピエモンもそのままにしておくはずもなく彼を集中的に狙っていた。エンジェウーモンが彼をかばったものの、人形にされてしまった。

 その時の隙を突いてゴマモンがヤマトの人形を奪い、それはタケルへと届けられたが……

 

「――」

 

 今、なんとかできるのは自分しかいない。ピエモンの腰にカノンたちの人形が無かったのは見ていたが、この場に来ていない以上なんらかの妨害を受けているはずだ。

 

(僕がヒカリちゃんを守らないと……)

 

 現在はベランダのような場所に出ている。下に降りるにも崖みたいになっており、飛び降りるのは無理だ。何かの爆発音も聞こえてくることから、どこかで戦闘が起きているらしい。

 

「この音……」

「たぶん、カノン君たちだよ」

「ねえタケル! これ使えるんじゃない?」

 

 パタモンが何かに気づき、ツボのようなものからロープを取り出した。なるほど、これで下に降りれば――と思ったが、そのロープが勝手に上に登っていき、黒い雲の中に入ってしまう。

 タケルはそのロープを引っ張ってみるが、どうやらしっかりと固定されているらしい。

 

「固定されている……ヒカリちゃん、とにかく上に逃げるんだ!」

「う、うん!」

「急がないとピエモンが――来た!」

 

 ゆっくりとピエモンが歩み寄ってくる。あたりを見回してにやりと笑い、もうゲームオーバーだと告げる。

 

「もう逃げ場はありませんよ。おとなしく、人形になってもらいましょうか!」

 

 白い布を投げつけ、それが彼らにかかろうとしたところで――トコモンが飛び出した。彼が自ら布に包まれることでタケルたちを守ったのだ。

 

「トコモン!?」

「素晴らしき自己犠牲精神です。しかし、その程度で私を止められるとでも……?」

 

 ピエモンが何か違和感を感じ、その動きをとめた。その隙にタケルたちは上に上がろうとするがピエモンがそれを許そうとするはずもなく、彼らを捕えようと――その手を伸ばしたときに、トコモンにかみつかれてしまう。

 

「――ッ、この!」

「もーん!?」

 

 淡くだが、白く輝いていたトコモンは流石にパワー差があり過ぎたためピエモンが腕を一振りしただけで遠くへ飛んで行ってしまう。

 そして、ロープを登っていた彼らもトランプソードでロープを斬られ、下へと落とされてしまった。後には彼らの悲鳴のみが残る。

 

「……手が火傷している――聖なる力だと? それに、私の術が効かなかった…………それに通常のトコモンとは特徴が異なって――まさか、X抗体を持っていたのか!?」

 

 X抗体をもつデジモンは潜在的な力を引き出された姿に変化する。通常種のデジモンとは一線を画す力を持つためか、ピエモンの力が効かなかったのであろう。現在のデジタルワールドに彼らは存在していないハズであったため、あまり詳しく知ることはできなかったが……

 

「だが、それももう終わりか……ふふふ、ふははははは!」

「――生憎だが、終わるのはお前の方だ」

 

 高笑いを上げていたピエモンであったが、唐突に目の前に天使型のデジモンが現れる――一瞬、冷汗が流れ出したもののすぐに攻撃を仕掛けようとしたが、すでに時遅し。

 

「ハァッ!」

「――ッ!?」

 

 下へと落ちていき、ピエモンは何度も地面を転がってしまう。

 

(えらばれし子供、最後のデジモンが完全体に進化したのか。それに、人形を奪い返されてしまった……おのれ、だがこの場にはまだアイツらが――――まて、音が聞こえない?)

 

 すぐに立ち上がり、スカルサタモンたちを呼び出そうとするが……反応が無い。

 それに、何やら大勢の足音が聞こえてくる。

 

「…………そうか、8人そろってしまったか」

 

 1人足りないとは思っていたが、どうやらダークマスターズに反抗していたデジモンたちを集めてきたらしい。もっとも戦いに向かない性質の子供だと思っていたのだが……どうやら、とんでもない才能を持っていたようだ。

 たしかに自身が戦うには向かないだろう。だが、彼女を中心に軍団とも言える数のデジモンたちが立ち上がったのだ。これは歴とした一つの力だ。

 

「太刀川ミミ、侮っていましたよ……それに、完全体、ホーリーエンジェモン。私の術を解呪しましたか」

「どんなもんよ! ついでに、カノン君たちも助けたしね」

「いきなりスカルサタモンが吹っ飛ばされたときはびっくりしましたよ……おかげで、他の二体も何とかできましたし。消耗した状態なら、究極体も対処できるってのがわかりました」

「ってわけだ――行くぞみんな! 総攻撃だ!」

 

 太一の号令にあわせ、みんながピエモンに向かって行く。彼も指を鳴らし、残っていた部下を集めるが――

 

(イビルモンたち、だけか……ネオデビモンは0人目に倒されていたな。だが、ただでやられるつもりは――――?)

 

 ふと、誰かの視線を感じた。ピエモンが上空を見上げてみるとメカノリモンらしき影がみえる。ムゲンドラモンの部隊の生き残りだろうか? そう思ったがすぐにどこかへ去って行ってしまった。

 

(別に気にする必要はありませんか……危ない予感はありませんでしたしね、さあ――最後の戦いです)

 

 ピエモンがえらばれし子供と応戦するものの、イビルモンたちは倒されていく。

 彼も子供たちのパートナーデジモンを弾き飛ばし、蹴り上げ、切り刻もうと今まで以上の力で戦うが――ここにきて、彼らの連携が上がっている。

 

(これまでの戦いで得た経験が彼らを成長させたのか――ッ)

 

 ならばせめて、0人目だけでも抹殺せねばなるまいと彼に向って剣を投げつけようとして――逆に、自らの額に剣が刺さった。

 

「な、に――?」

「左肩を狙ったんだけど、外れたか――だけど、これでチェックメイトだな」

 

 ドルモンがタックルを仕掛け、ピエモンの体が後退していく。ダメージを負うほどではなかったが……その隙が命取りとなった。

 

「ヘブンズゲート!」

 

 ホーリーエンジェモンが展開したゲートにイビルモンたちが吸収されていっている。ピエモンも踏ん張らねば吸い込まれそうで――そこで、ウォーグレイモンとメタルガルルモンが自らに攻撃を放ったことに気が付いた。

 

(なるほど――いいでしょう、私はここまでのようだ……だが、いずれ必ず貴様らを――――)

 

 ゲートへ吸い込まれる直前、0人目――橘カノンをにらみつける。この屈辱を忘れはせぬと。そして、自らの運命に押しつぶされる様を見れなくて残念だと、最後にほくそ笑んだ。

 

 

 そして、ダークマスターズ最後の1人はこの世界から消えた。亜空間へ葬るホーリーエンジェモンの必殺技、ヘブンズゲート。もうこの世界からピエモンはいなくなったのだ。

 ダークマスターズとの戦いは終わり、暗黒のエリアも元のデジタルワールドへ還元されていく。

 こうして、えらばれし子供たちの戦いは終わったのだ――――

 

 

 

 

 

 ――ダークマスターズとの戦い、は。

 




明日はついにメモリアルですね。
あと、サブタイは別に誤字ではないです。



福袋、ダブり……うっ、頭が


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56.化身

8月1日、この記念すべき日に感謝。


 最後のダークマスターズ、ピエモンを倒した僕たちであったが……特に何事も起こらない。いや、空は青くなっているが…………

 

「やったな!」

「ああ、俺たち勝ったんだよな」

 

 皆がそれぞれ喜んでいるなか、僕は何かとてつもない悪寒が体中を駆け巡っているのを感じていた。息苦しく、違和感のようなものが続いている。

 周囲を見回してみても、何も見えないが……先ほどと同じ、スパイラルマウンテンだ。

 

「――――え」

「どうしたの、カノン?」

 

 ドルモンが心配して話しかけてくるが、僕にはこの光景がひどくおかしなものに見えたのだ。手を地面に当ててスパイラルマウンテンの状態を調べるが……暗黒のエリアは消えている。しかし、何故この頂上部だけは残っているのだ?

 ――唐突に、頭の中にピエモンのことが浮かんだ。僕は奴に対してなんて言っていた? 知識を得たわけではないのになぜ僕は奴が道化だと分かったんだ?

 

「そうだ……ピエモンだけであれだけの暗黒の力を扱う事なんてできるハズないんだ」

 

 これだけのことを起こしておきながら、今までの黒幕がアイツだなんてありえない。

 顔が青くなるのを感じる。それと同時に、光子郎さんのパソコンにゲンナイさんからメールが入った。みんなは祝電か? と言っているが……嫌な予感が強まっていく。

 

「――うそ、ですよね?」

「どうしたんだよ光子郎。そんな青い顔をして……それに、カノンもなんでそんなに怖がって…………」

「太一さん、ゲンナイさんからのメール――本当の敵は、ダークマスターズじゃないそうです」

「……え」

「本当の敵は、存在そのものがとんでもない奴で……ダークマスターズはあくまでもそいつから力を得たに過ぎないって……」

「じゃあ本当の敵ってのは――」

 

 唐突に、世界が揺れた。

 皆が状況を飲み込む暇もなく周囲の空間が崩れ始める。さらに、再び暗黒の力が満ちていくのを感じる。いや、それよりももっとどす黒い――怨念がこの世界を包み込もうとしている。

 

「この感じ……前にも感じたことがある。でも、あの時よりももっと強い――ッ」

 

 昔、ヨウコモンと戦ったときに感じたあの感じ……強い無念。

 あの時の記憶(トラウマ)が体中を支配する。

 

「う、あ――」

 

 どうする。どうすればいい。何が起きるかわからない、速く対策を――でも、すでに時遅し。もうこの悪寒の主のテリトリーに僕たちはいたんだ。

 いや、もしかするとデジタルワールドの全てが奴のテリトリーとなっていたのかもしれない。この場が崩れていき、僕たちは闇の底へと落ちていく。

 

「もーん!?」

「カノン、みんな!」

「――僕たちだけを取り込んでいるのか!?」

 

 バステモンたちの姿が遠くなっていく。空間がねじ曲がっていき、位相のずれた世界へ落される。闇の中を降下していき、やがて動きが止まる。

 落とされたのは子供たちだけだったようだが、デジヴァイスのつながりがあるパートナーデジモンはそのまま追いかけてきており、みんなが彼らに受け止められていた。

 

「うわわわ!?」

「よっと……ドルモン、そういえばまだ進化できなかったな」

「ゴメン。エネルギーが足りなくて」

「そっちは大丈夫か?」

「なんとかー! 魔法は使えないってわけじゃないです!」

 

 しかし、使いにくい感じはする。これ、事前にミラージュガオガモンの時の空間に入っていなければアウトだったかも。

 だが、周囲の情報は全く解析できない。ここは本当にデジタルワールドの中なのか?

 

「あ、またゲンナイさんからのメールです――いえ、直接通信が入りました!」

『うむ。えらばれし子供たちよ……その闇に終わりはないじゃろう』

「おいジジイ! 一体全体どうなっているんだよ!」

「ダークマスターズは全員倒したのに、なんでこうなっているのよ! それに他のデジモンたちは!?」

 

 ミミさんの心配ももっともだろう。オタマモンとゲコモンの大群やら、他にも色々と仲間を集めたみたいだし。詳しくは分からなかったが、オーガモン以外にも結構な数の成熟期がいた。流石に完全体はバステモン達だけみたいだが。

 

『そちらは心配いらん。バステモンやユニモン、下からホエーモンなどが動いてくれて全員無事じゃ……話を戻すが、まだ背後に控えていた根源のような奴を倒せていないんじゃろう』

「ええ!?」

「まだそんな奴がいるのか!?」

『――火の壁からやってきた、暗黒の元』

「火の壁?」

『古代の碑文の一節でな、こう書いてある。

 昔、デジタルワールドには火の壁があって、その向こう側から何かがやってきた。

 その生き物は存在するだけで時空を歪める存在であって、世界は崩壊の危機に見舞われた。

 デジモンたちだけではそいつを倒すことが出来ず……現実世界から子供たちを招き、そいつを倒したとある』

「ということは……」

「僕たちの前にもえらばれし子供たちがいたのか!?」

「カノン君やマサキさん以外にも、すでにデジモンと出会い、戦っていた人がいたんですね……ということは、マサキさんが言っていたイグドラシルが?」

『彼はまた別件での。むしろこっちに偶然落ちてきたんじゃよ。で、そのまま色々な世界を旅しておる。イグドラシルに関してはたまたま暴走やらの現場に居合わせただけなんじゃ。実際には破壊した人物はもう一人いたが』

 

 なんだかその時のことは色々と込み合っている状況だったのかゲンナイさんの歯切れが悪い。しかし、今の状況と関係ないようだし流した方がいいだろう。それに、子供じゃないだろうその人。

 

「前任のえらばれし子供たちがいたのは分かりましたけど、この怨念の正体がその火の壁からやってきたものなんですね!」

『――おぬし、わかるのか?』

「なんとなく、悪寒だけ……前に似たようなものをぶつけられたことがありますから」

 

 皆には詳しくは語らなかった事件。アレと同種でありながら桁が違うこの感覚……すでにこの場にいるようにも思えるが……

 

『碑文には予言が記されていての、やがて大きな闇が火の壁からやってくるとある』

「大きな闇……」

「それじゃあ、この闇がそいつの正体?」

『そうともいえる。じゃが、実体もあるじゃろう』

「なんか他に手掛かりはないのかよ!」

『そうじゃのう、情報は他にはないが、ヒントでも出してやれれば……そうじゃ、橘カノンよ』

「なんですか?」

『おぬしの持つデジメンタルは属性が定まっておらん。そして、それはおぬしたちの紋章と――――』

 

 唐突に、ブツリと通信が途切れた。何らかのヒントを出そうとしたようだが、空間がさらに不安定になってしまったらしい。ノイズが走っていたからなぁ……

 

「肝心なところで! でも、お前のデジメンタルって……」

「そういえば特に気にもしていなかったけど、進化先決めるときに色が変わっていたような?」

 

 フレイウィザーモンとサラマンダモンは同じ属性で、サンダーバーモンとケンキモンが同じ属性なのはわかるんだ。それぞれ赤……いや、オレンジと青か。

 でもこの配色って――何かが掴めそうと思った、その時だった。

 空間が悲鳴を上げる。魔法を習得していた影響なのか、僕にしか聞こえなかったようだが、轟音があたりに響いていた。

 

「――なんだ!?」

「カノン? ――まて、何か聞こえる」

「笑い声?」

「やだ、すごく気味が悪い……」

 

 体がまるできしむ様に痛む。内側の何かがここに現れようとしている物を拒絶しているようだ。いや、内側だけじゃない。僕自身もこの悪寒の主を拒絶している。

 

『そうだ……我々の無念を』

 

 まるで画面の向こう側の声だ。肉声に感じられない。デジモンの声も似たような性質があるにはあるが、これはそれとも違う。まるで別の世界からここまで響いているような声なのだ。

 そして、正十二面体で構成された巨大な黒い物体が出現する。

 

「無念?」

「これが火の壁から出てきたデジモン……」

 

 本当にデジモンなのだろうか? まるで情報が読み取れない。それに、今まで見てきたデジモンの容量の比ではない。

 マイナスそのもの……それに、見ているだけで込み上げてくるこの悲しさはいったい?

 黒い塊は変形をし、巨大な触手と上部に人のような影が現れた。触手はまるで遺伝子の螺旋のようになっている。

 

『私を醜いと思うか? そうだろう。お前たちはそう思うだろう。所詮我々は進化の過程で道を阻まれたもの』

「進化の過程?」

『デジモンたちは長い年月の中で進化を繰り返してきた。その中で、消えていったものがいるのを知っているか? 古くはそこにいるプロトタイプの生き残りの仲間、それに古代種となってしまった者たち、天界のデジモン――さらには闇をつかさどる魔王さえももう二柱も失っている』

「ですが、進化の過程で消えていく種があるのは仕方がないことのはずです。地球の歴史でも、長い時間の中で環境に適応できずに絶滅した生き物は――」

『黙れェ!!』

 

 光子郎さんの反論に、奴は激昂した。邪悪な波動がまき散らされ、吹き飛ばされそうになる……そして、奴の名前が頭に浮かんだ。

 力に少しだけ触れたからか、断片的ではあるが知ることが出来たのかもしれない。

 アポカリモン、究極体……しかし、それは既存のルールに合わせた場合だ。実質名前以外は何もわからないのだ。

 

『仕方のないこと――その一言ですべてを済ませるつもりか? お前は、我々が生き残る資格のない種だと決めつけるのか!?』

「いえ、僕は決して……」

 

 そうか……少しだけだが理解できた。アレは怨念そのものだ。あいつ自身に心と呼べるものはない。

 ただ、悲しみや無念、進化していった者たちへの羨ましさなどの集合体。この世界はデータで出来ている。光子郎さんの話では感情すらも取り出してデータ化してしまう世界――ならば、元々データ体で構成されているデジモンの感情データ、それも負の部分が集まってしまったら?

 

『私は、デジモンたちがその進化の過程で消えていった……無念や憎しみ、その集合体だ』

「だからさっき我々って言っていたんだな――お前は一個人の存在じゃない。群体、いや総意か?」

『……えらばれし子供たち、それにそのデジモンたちよ。私はお前たちに出会えるのをずっと楽しみにしていたのだ』

「なに?」

「どういうことだ」

『いいか、我々が暗く冷たい暗黒へ葬り去られる時、その傍らで楽しく笑いながら暮らしているお前たちがいる――なぜだ。なぜ我々が葬り去られるのだ! 我々が一体何をしたというのだ! 我々がなぜ泣かねばならない!』

 

 アポカリモンは自らの体に爪を立てて、体を引き裂いていく。緑色の体液が飛び散り、その体を濡らしていく。

 

「イヤ……なんで、こんなにも気味が悪いの」

「体の底が冷えるような……すごく冷たい、この感じって」

『我々には涙も、感情もあるというのに! なぜ我々はこの世界から葬り去られなければならないのだ! 生きたかった、生きて友情を語り合いたかった、この身を世界のために使いたかった、我々は世界に必要のない存在だというのか!?』

 

 暗黒そのものと言っていい存在である彼だが、その本質は悪ではない。僕の奥底の何かがそう語り掛けてくる。

 アレは闇だ。善や悪といった性質の前に誰もが必ず持っている側面。異常であるのは、あれが闇の側しかないこと。闇の局地。

 でも、ここにきてようやくわかった。アレは決定的な部分で間違っている。

 

「うるさい――だからって他人を巻き込んでいいはずがない。それに、その無念がわかるのならどうして更なる無念を生み出そうとしているんだ! そうしても結局解決はしない! むしろ、より大きな無念の塊になるだけだ!」

「カノン?」

『――私を直視するか、0人目の子供よ』

 

 みんなは目をそらしていた。だが、僕だけは奴を正面から睨む。

 理由なら色々あった。以前に味わったことがあるとか、もう逃げないと決めたからとか色々と。でも、一番大きな理由を上げるならば――

 

「たしかに、その無念は悪ではない……でも、そこに悪意があるとするのならばそれはお前だ。指向性のない念を束ねて使っているお前は一体、誰なんだ!」

『ふふふ、ふはははははははは!』

 

 狂ったように笑う。まあ、結局のところ僕を突き動かしたのは疑問だとか、形の見えない誰かに対する怒りだとかそういうあやふやな感情なのだ。

 いや、もしかしたら総意が作り出した端末のようなものかもしれない。主体は総意の方で、僕らに語り掛けているのは端末なのかも。

 

『――この世界は我々が支配する。我々の居場所を確立するのだ。光あるところに呪いあれ。0人目、その気概に免じてまずは貴様からだ!』

「ドルモン!」

「合点承知! 乗って!」

 

 ドルモンに騎乗し、駆け出す。奴が赤い鞭を振るってくるが――これはヴァンデモンの!? 何とか魔法剣ではじくが、この重さ……今までとはけた違いだぞ!?

 まさか無念の集合体ってことは……

 

「消えていったデジモンたちの技を使えるのかよ!」

「こいつ、ヤバすぎるでしょ!」

『成長期のまま突っ込むか――だが、後ろがおろそかだぞ!』

 

 奴の触手の一つがメタルシードラモンのように変化していく。そして、そこから放たれた光線が後ろへ突き進んでいく。

 

「――テメェ」

 

 攻撃はヒカリちゃんへと迫り、エンジェウーモンがかばった。

 

『子供たちよ、今のは私の友情だ。次は愛! ギルティクロウ!』

 

 今度はネオデビモンの技か!? すぐに剣で切り裂いていくが、横が眩しくなって――

 

『次は正義! ∞キャノン!』

 

 ――すぐにバリアを張ったが、吹き飛ばされてしまう。

 更に、奴の触手が次々と変化していきみんなを狙っていく。ダークマスターズやその配下たち、さらには見たこともないような技まで使ってくる。

 何とか攻撃を回避してみんなのところに戻ってきたが……どうする? 対策が見えない。

 

「カノン、無茶し過ぎだ!」

「すいません……近づけばデカい触手も意味がないかと思ったんですけど、人型の部分だけでも厄介です」

「もしかして、アイツは今までのデジモンの技をすげて使えるんでしょうか?」

「考えられるとすれば、死ぬ時のデータの破片が集まっているってところですかね……だから死んだデジモンの怨念の塊みたいな感じがするわけですけど――」

 

 ならば、先代のえらばれし子供たちが倒したときは今より弱かった可能性さえある。

 

「それじゃあ勝ち目がないってこと!?」

「みんな惑わされるな!」

「そうです。アイツの言動からして、今まで倒したデジモンの技を全て使えるとしてもあいつ自身は一体だけです!」

「それに、突っ込んでみた限りでは触手と人型の部分だけでしか攻撃が使えないみたいですし、一つの触手につき一種類だけです」

 

 メタルシードラモンに変化した触手からはメタルシードラモンの攻撃だけ。ムゲンドラモンに変化したら、ムゲンドラモンの攻撃だけしか使えないのだ。それも、一部分だけ変化させている。

 しかし戦闘が始まった途端に総意ではなく端末の方が語りだしているが……ああもうわけがわからない!

 

『いいや、私の恐ろしさはこれだけではない――デスエボリューション!』

 

 奴の触手が伸びていき――ドルモン以外のデジモンを掴んでしまう。あまりのスピードに対応できなかったが、すぐに効果が表れてしまった。

 なんと、みんなが退化させられてしまったのだ。

 

「そんな……」

「みんな、退化しちゃった!?」

「ゴメン……」

「いや、謝ることはない! 退化させられたならまた進化すればいい話だ!」

「ああ。いくぞ――」

 

 だけど、アイツがおとなしくそれを許すはずもなかった。

 触手から黒い腕が大量にのびてきて、みんなの首元へ突き進んでくる。嫌な予感がして魔法剣で叩き切ろうとするが、別の触手がそれを阻む。

 

「――紋章が!?」

「とられて……これじゃあ進化できない!」

『これで進化できない我々の苦しみが少しは理解していただけたかな? さて――仕上げだ』

 

 そうしてアポカリモンは何か呪文のようなものを呟き――マズイ。すぐに何とかしないといけない。しかし、今からアンチコードを組むこともできない。

 再変換コードも咄嗟では以前に使ったことがある自分の分と、デジコアの最深部にもぐったことで知っているドルモンの分しか作れない。ならば、再び突撃するしか――

 

『貴様は別だ。お前も他の子供たちど同じ空間に送ってしまうと危険だからな――さらばだ、0人目の子供よ。そして、憎きXの申し子よ』

 

 突如、強い衝撃があったと思ったらどこかへ弾き飛ばされていた。最後に見えたのは、みんながデジタルデータに変換していくところで――気がついたら、真っ暗な空の元、嫌な浮遊感と共に落下していくところであった。

 そう、あの空間から放り出されて再びデジタルワールドに落とされたのだ。しかも、ピエモンの居城があった位地そのままらしく……いきなりパラシュートなしのスカイダイビングとなったのである。

 

「うわああああ!?」

「そんなのってありかよぉおおおおお!?」

 

 現実逃避気味になるが、スパイラルマウンテンって結局何キロぐらい歩いたんだっけ……

 どうにも策を思いつけない状況であるが……まずは無事に着地する方法か何かを考えた方がよさそうだ。

 

 

 

 その時、僕たちに向かって一筋の光が突き進んでいたのだが、あまりの出来事に僕はそれに気が付かないでいた。

 未来へとつなぐ、希望の光が。

 




誰も予想していなかったであろう、カノンたちへの仕打ち。
そして最後の光とはいったい? 色々な謎を引っ提げて、次回――決着。


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57.ブラスト

 ――唐突に暗黒の空間から弾き飛ばされ、再びデジタルワールドへと舞い戻ってしまった僕たちであるが……かなりの高所から落ちているため、なんかゆっくりと降下している。

 いや、実際には違うのだろうがそんな感覚になっているのだ。

 

「落ち着いていないで魔法で何とかしてよ!」

「そうしたいのは山々なんだけど……デジタルワールドのデータが不安定になり過ぎていて術式が砕けていってるんだよ。アポカリモンが出現した影響だろうけど」

「そんなー!?」

「それこそ専門的に何年も修行した人じゃないとこの不安定な世界で魔法なんてつかえな――ぐほ!?」

「カノンー!? なんでくの字に折れ曲がってるの!?」

 

 いや、なんか腹に強い衝撃が……光の矢みたいなのがいきなりぶつかって来て…………なんだろう、小さな光の球みたいだが――僕がそれに触れると、光の球は形を変えて四角い板のようなものになる。手のひらより少し大きい程度だが……

 

「――封筒、みたいだな。手紙を入れておく感じの……メールアイコンがこんな形か」

 

 いやむしろまんまメールアイコンだ。ということは、誰かが送ってきた手紙?

 

「こんな時に手紙とか誰だよ一体……」

「ねえ、カノンもうあきらめてない?」

「全力で魔力放出して激突だけは避けようって方針だ。今んとこそれしか思いつかない」

「そんなー!?」

 

 今更しょうがないんだよ。とにかく、地面に激突するまで時間があるしメールを開くことに――差出人の名前を見た瞬間、言葉を失う。

 まさかとは思った。だけど、そこに書かれている名前は間違いない……

 

「嘘だろ……これ、マキナからの手紙だ」

「――――え」

 

 ドルモンも言葉を失い、すぐに手紙を覗き込む。そして差出人には間違いなく久末蒔苗の名前が書かれていた。

 そうか……生きていたのか。すぐに手紙を読み進める。

 

『カノン君へ。お元気でしょうか? ウチは元気です。

 今、ウチはウィッチェルニーという世界で魔法の勉強をしています。今日は、その成果の披露とか色々と……言いたいことはいっぱいあるし、何から言っていいのかわかりませんが、今まで連絡を入れられなくてすいません。

 いざこうやって連絡をとろうとするとどうしても会いたくなってしまって、色々と手が付けられなくなって師匠に怒られたり、クダモンに怒られたり……話が脱線してすいません。

 なんか謝ってばっかりだね。でも、こうして言葉にするといい感じのが思いつかなくて……

 こちらには魔法使いのデジモンたちがたくさんいて、彼らと一緒に魔法を学んでいます。世界を越える魔法は大変で、ようやく手紙を送れるようになりました。師匠たちは厳しいけど、とても面白い人たちです。

 最近、時空の歪みが観測されるようになってそちらでは大変なことが起きているんじゃないかと心配です。こっちからだと何が起きているかはわかりませんし、カノン君が今どうしているのかなとか色々と気になることはありますけど、言いたいことは言っておきますね。

 あの時助けてくれてありがとう。今ウチがいるのはカノン君のおかげです。だから、いつかまた会いましょう。ウチの最初の友達。

 それに、ドルモンにも会いたいです。あの時はあまり話せなかったから、今度は色々話してみたいな。

 毎日が大変なことばかりで、諦めそうになることもありますが……絶対に、そっちに遊びに行って見せます。だから、楽しみにしていてください』

 

 言いたいことを詰め込んだ手紙だな……それに、腹パンするとか良い度胸じゃないか。今度会ったら文句言わないと。

 だから、この程度のことで負けていられないよな。

 

「なあ、ドルモン!」

「うん!」

 

 マキナの手紙の中の言葉と、ゲンナイさんの言葉が結びつく。デジメンタルをとりだしてみると、青色に輝いていた。そうだ、これは友情の力だ。恐れを抱いても前へと進もうとする力は? 今度はオレンジに輝き、勇気を示す。

 

「いや、それだけじゃない――えらばれし子供たちの紋章は、どれも人が当たり前のように持っていながら純粋に持ち続けるのが難しいものだ。でも、誰もが持ち得る力なんだ」

「おれにもわかったよ。これは心の力なんだ……どんな時も、前に進もうとする心の強さがおれたちの進化の力なんだ」

「ああ――どんな困難な運命にだって、立ち向かっていく。そこに明日があるのなら、突き抜けて行こう」

 

 ホメオスタシスが言っていた、進化にデジヴァイスや紋章が必要ではない理由。これらはただの道しるべだ。首からぶら下げた紋章を握り、思い出す。

 未来へと進むことを決意し、一歩を踏み出す。それが僕たちの力となった。

 だとしたらアポカリモンは失敗したかもしれないな。みんなの紋章を破壊してしまったことで、みんなは応えにたどり着いたかもしれない。いや、たどり着いただろう。だって、あたたかな光がよみがえったのを感じるのだから。

 と、そこで何か違和感を感じた。いや、悪寒とかそう言うのではなく……

 

「――――なあドルモン。僕の紋章ってここにあるよな?」

「うん……あれ?」

「そうなんだよ、アポカリモンは僕の紋章だけは壊さなかったんだよ」

 

 壊せなかった? 僕が抵抗すると思ったから? いや、それにしては最初から狙っていなかったような気も…………もしかしてわざと壊さなかったのか?

 そこで少しだけ聞いた、僕からあふれた光がゴマモンやオーガモンたちを謎の姿に進化させたときのことを思い出す。あの時は紋章が力を吸っているみたいになったって……そういえば、僕の紋章はみんなと少し違うらしいが――まさか。

 

「基本的な機能はみんなと同じでも、これってリミッターだったのか!?」

「どういうこと?」

「一定数値まではみんなの紋章と同じように機能するけど、限界以上になると止めてくるんじゃないかってこと。ならつまり――」

 

 僕は紋章を引きちぎり、ポケットに入れる。これだけで機能しなくなるとは言えないかもしれないが、そうするのが正解のような気がしたんだ。

 

「カノン!?」

「ドルモンとのリンクのために、デジヴァイスは使うが――紋章はもう必要ないかもしれないな。いや、感覚としてはデジメンタルを使う時と同じだ。でも、それよりももっと強く……」

 

 胸に手を当てて、思う。

 皆との思い出がそれぞれの紋章の意味と共に反芻される。どれもが当たり前のようにあるもので、僕一人じゃ理解することは難しかったかもしれない。

 でも、短い間でもこの旅でそれぞれの紋章に相応しき者たちとの思い出がある。

 

「カノンの胸に紋章が――でも、他の子供の紋章も次々に」

「――べつに僕のものじゃない。でも、その性質は誰もが持っている。いこう、みんな(・・・)。明日を掴むために、今こそ立ち上がる時だ」

 

 そして再び、運命の紋章が胸に輝きだし――虹色に変化した。

 いや、変化したのは色だけではない。力を振るうにふさわしい形へと変化する。今、ここにある力は心の特性だけではない。心の意味を示す紋章ではなく、僕の放つ力を表したものへと変化したのだ。

 

「∞……なんだ? 力があふれて」

「さあ、号令を上げよう! 進化できなかった? 淘汰された? 滅びた? ふざけたことを言っちゃいけない。ここはデジタルワールド。今までの進化は全て記録された世界だ! だったら引き出せ! その全てを。過去も未来も明日も今も、全部全部巻き込んでブッ飛ばせ!!」

 

 直後に、僕を中心に突風が吹き荒れた。

 同時に世界中へと号令が響き渡る。大気が震え、声がこだまする。呼びかけに応えデジモンたちが立ち上がっていく。1人、また1人と次々に。

 そのほとんどは僕が見たことないデジモンたちだろう。それでも、自分たちの世界を取り戻すと立ち上がった。ダークマスターズやこの闇におびえ、隠れていた彼らも勇気を胸に立ちあがった。

 仲間のため、友情を胸に飛び上る。大切なもののため、愛情をもって戦う。

 間違ったことを伝えるため、純真なものが立ち向かう。誠実なものが奮い立つ。

 この世界は多くの情報から成り立つ。知識の塊と言ってもいい世界だ。この世界を守りたいと静観を見めていたものですら集う。

 明日への希望を胸に、光を携えてデジモンたちが集結した。

 

「――――スゴイ、デジモンたちがこんなにいっぱい」

「バステモンたちも来たな……さぁ、行こうぜドルモン。みんなで起こそう、未来を変える大旋風を」

 

 体から力があふれてくる。1人だけではここまでの力は使えない。それに、行き場やレールが無いと暴走するだけかもしれない。でも、利用できるものは利用させてもらおう。

 スパイラルマウンテンの残ったデータを使い、道を作る。

 

「行くぞ、みんなまとめて――」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 アポカリモンの空間、えらばれし子供たちは帰還していた。それぞれの紋章の意味を知り、その心の力で再びデジモンたちを進化させていた。

 自らの力だけではない。みんなの心が1人に集まり、より大きな力を産む。

 

「さあ、お前の思い通りにはならないぞ!」

『――だが、0人目ももういない。今頃はデジタルワールドに叩きつけられてしまっているだろうがな』

「いいや、アイツがそんなタマかよ。絶対に戻ってくるさ!」

『小賢しい――アルティメットストリーム!』

 

 アポカリモンがメタルシードラモンの技を叫び、触手の一つを変化させようとして――――何も起きなかった。子供たちも、アポカリモンも何が起きたのか理解することはできない。

 少しの沈黙ののち、暗黒の世界にまばゆい光が灯る。

 

『――なんだ!? この光は』

「これは……カノン?」

「なに、これ」

「なんだろうこの光……暖かい、でもどこか懐かしい」

「まるで、神様みたいな大きな……」

 

 光の中から誰かが歩いてくる。黄金の鎧をまとったデジモンのようだが……実体のない幻影のようで、すぐに消えてしまった。そして、彼がいた場所を中心に空間が割れていく。

 

『――まさか、だがありえない。それはあってはならない。世界の法則そのものを書き換えるつもりか? 人のみでありながらその力を使うというのか? 何故だ! 何故貴様はそんな進化を遂げることが出来たというのだ!』

「それは、僕たちが未来を信じているからだ。どんな過酷な道であろうと前へ進むからこそ進化するんだ。結局、お前は諦めた者たちの嫉妬や無念の塊でしかない。だから前に進む僕たちと違ってお前には未来がない。常にその姿で完結している以上、滅びたデジモンの能力を持つ世界を歪める存在、その前提が変わることが無い!」

 

 空間のほころびが大きくなっていく。中から巨大なクジラのようなものに乗って、一人の少年と多数のデジモンたちが現れる。

 クジラ――いや、ホエーモンと言うべきだろう。しかし、えらばれし子供たちが知っているデジモンのはずなのに見た目が異なる。大部分は同じだが、まるで飛行船のような姿なのだ。

 他にも、空を飛ぶデジモンたちに乗って様々なデジモンたちが現れたのだ。何よりも驚くべきことは、敵であるはずのメタルシードラモンがいることだろう。しかも複数いるのだ。

 さらに、ムゲンドラモンや今まで戦ったデジモンの姿も見える。同一個体ではないだろうが、一体なぜ究極体も多数いるのか。見たこともないデジモンたちもいるが、放っている力が究極体のそれだ。

 

「デジモンの情報ってのはデジタルワールドそのものに記録されている。だからこそ、そこから情報を引き出して進化できるんだ。滅びた種? 何を言っているんだ――こうやって願えば進化できる。心の底から自分を信じて、前に突き進んだ者にこそ進化の力は与えられる! こうして、みんなが進化すれば滅びた種も少なくなってお前も力も削がれる!」

『忌々しい、やはり貴様はここで消さなくてはならない!』

 

 ならば直接消すまでだと触手が伸びていくが、ウォーグレイモンとメタルガルルモンがその全てを弾き飛ばす。アトラーカブテリモンとリリモンが砲撃し、ズドモンとガルダモンが仲間を守る。

 ホーリーエンジェモンとエンジェウーモンが闇の力を削いでいっている。

 

「俺たちを忘れんなよ!」

「そうだぜ、ここまできてカノンにばかりいいカッコさせられるかよ!」

「まったくいつもいつも無茶をして」

「ここでそれ言いますか……無茶をしたのはみんなも同じだろうに」

 

 そこで、ドルモンが飛び出し――咆哮を上げる。

 

「決めるときは、みんなで決めましょう。見せてやるよアポカリモン。未来を信じる力を、進化の力って奴を」

 

 カノンから光があふれ、子供たちへと注がれる。

 それぞれの紋章がより強く輝きだし――デジモンたちの姿がさらに変化していった。

 それは通常ならばありえない進化だ。本来ならばたどり着かない姿だ。それでも、みんなの想いが一つとなったこの時においてはどんなありえないことも実現する。みんなの力が集まり、奇跡を起こす。

 

「究極を越えろ――ブラスト進化!」

 

 カノンの叫びに合わせ、進化が完了する。

 

「ウォーグレイモン進化――ビクトリーグレイモン!」

「メタルガルルモン進化――ズィードガルルモン!」

「アトラーカブテリモン進化――タイラントカブテリモン!」

「ガルダモン進化――ヴァロドゥルモン!」

「ズドモン進化――イージスドラモン!」

「リリモン進化――ロトスモン!」

「ホーリーエンジェモン進化――ドミニモン!」

「エンジェウーモン進化――マスティモン!」

「ドルモン進化――アルファモン!」

 

 その全てが究極体でありながら、本来であれば到達することのない姿。

 それに合わせてデジモンたちの大群までもが進化をしていく。みんなの光を浴びたことで、彼らもより強く、さらなる進化を遂げていったのだ。

 

『新たな進化だと? おのれ忌々しい! 死ねぇ!!』

「太一やみんなの勇気が流れてきた――力があふれてくる!」

「ああ……この世界を守りたい、みんなやデジモンたちのそんな思いが集まってこの力を与えてくれたんだ!」

 

 ビクトリーグレイモンとズィードガルルモンがアポカリモンの触手を破壊していく。

 他のデジモンたちが一斉に攻撃していき、アポカリモンの力を削っていっている。反撃も行っているが、その全てをイージスドラモンが相殺する。

 

「おおっと! 皆は撃たせないぜ!」

「そうよ、私たちがみんなを守る!」

「絶対にこの世界は終わらせへん!」

 

 タイラントカブテリモンとヴァロドゥルモンが子供たちや後方のデジモンたちの守りにつく。子供たちを空母ホエーモンにおろし、その時十の光がアポカリモンへと突撃した。

 

『十闘士だと!? 伝説の究極体までも呼び覚ましたのか!?』

「それがたとえ一時的なものだとしても、可能性は0ではない。いや、デジモンに決まった進化はない。だったら、自由に願った姿になればいい。僕もどんなデジモンか知らないのも数多いけど、みんながそれぞれ願ったんだ。未来のため、仲間のため、過去に打ち勝つため!」

 

 ドミニモンとマスティモンが巨大な光の球を作り出し、アポカリモンへぶつける。必死に抵抗するが、彼の力はどんどん浄化されていってしまっている。

 

『我々は――私は負けるわけにはいかないのだ! 何故、何故そんな可能性を見せつけるのだ!』

 

 もはやそこに残ったのはただ一つの人格。光を呪う暗黒だけが残る。滅びた無念はこうしてデジモンたちに自らが残っていたという可能性を見せられて浄化された。

 嫉妬の心は道を示されて旅だった。

 アポカリモンは悪ではない。負の感情の塊ではあるが、悪ではないのだ。そこに囚われたものも理由があり、こりかたまってしまった何かなのだ。だったら解きほぐせばいい。一つ、また一つとデジモンたちの思いが彼にぶつけられることで解放されていっている。

 

『まだだ、まだ終わらない――この呪いだけは、終わらせてならぬ!』

「ホントしつこいな……ヤマト、カノン! 決めるぞ!」

「分かってる!」

「あれだけは、ブッ飛ばさないといけませんからね! 行ってくれアルファモン!」

 

 黒い騎士、アルファモンがコクリと頷く。そしてビクトリーグレイモンとズィードガルルモンと共にアポカリモンへと突撃していった。

 

「トライデントガイア!」

「フルメタルブレイズ!」

「デジタライズ・オブ・ソウル!」

 

 ビクトリーグレイモンの放つ強力なエネルギー、ズィードガルルモンの放つ武器の一斉掃射。そして、アルファモンが展開した魔法陣より放たれる、光の奔流。

 その全てがアポカリモンへと降り注ぎ、彼の力のほとんどを吹き飛ばしてしまった。

 

『ガアアアア!?』

 

 煙が立ち込め、アポカリモンは最初の正十二面体になる。いや、最初よりも小さな塊になってしまったのだ。

 

「やったぞ!」

「これで終わりだ!」

『――――それで、勝ったつもりか……確かにこれで滅びる。だが、ただでは滅びん。貴様らだけではない。この忌々しい世界、全てを道ずれに! グランデスビッグバン!』

 

 アポカリモンの体が更に収束していく。

 自らを犠牲にして発動する最期の大技。いや、世界を巻き込んだ自爆。

 

「そんな、これで終わりなの!?」

「いいえ終わりじゃない」

「ああ、終わらせない――」

「だって俺たちには」

 

 明日があるから。みんなの声が一つとなり、デジヴァイスから光が飛び出していく。カノンのデジヴァイスを除いた8つの光がアポカリモンの力を閉じ込め、封ずる。

 更に、カノンのデジヴァイスからは光のシャボン玉が噴き出して――暗黒の世界そのものを包み込んでいった。デジモンたちと子供たちを包み込み、アポカリモンの放つ暗黒の気の欠片から守っているのだ。

 

『――許さぬぞ、0人目』

「…………それがどうした……いつだって相手してやるよ。嫌なもん溜まったら、吐き出させてやる」

『…………』

 

 ただ一人、カノンだけは包まれておらず彼にだけ言葉が届けられた。

 それでもここにアポカリモンは滅びたのだ。最後の一かけらも、言葉だけを残して消えていく。

 こうして、9人の子供の戦いは一つの幕を閉じることとなった。

 




ついに決着です。
次回、アドベンチャー編のエピローグと次章について少し触れるかな?


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58.再生する世界

アドベンチャー編、これにて閉幕。


 アポカリモンが消えた。デジヴァイスの力で自爆を防ぎ巨大な力の塊は消滅してしまったのだ。

 そして静寂が訪れたわけだが……

 

「えっと、どうなったんだ?」

「デジヴァイスの力で爆発を封じ込めたみたいですね」

「と、いうことは――勝ったの?」

「はい。そのようです」

 

 光子郎さんは流石に冷静だな。みんなまだ実感がわかなかったが、すぐに喜びを表す。

 手を上げて、やったー! 勝ったぞーとかあちこちから聞こえてくる……僕が呼んだとはいえ、かなりの数のデジモンがいるなぁ……

 

「う、うるせぇ……おいカノン、このデジモンたちどうしたんだよ!?」

「なんか呼んだらいっぱい来ました」

「呼んだらって……」

「ええ、その通り。彼の号令が皆を集めたのです。そして、どういったわけかは分かりませんが進化してここまでやってきました」

「ってホエーモン? さっきまで飛行船っぽい感じだったのに元に戻ってる」

 

 僕も詳しくは分からないが、ブラスト進化は一時的なものらしい。自覚的に使用したことでなんとなくではあるがどういったものなのかはわかった。

 アレは、ありえたかもしれないIFの姿へ進化させるのだ。と言っても、通常……というより現在ではまずありえない姿ではある。それに、特殊な要因さえもカバーしてしまう。たぶん、デジタルワールドのサーバーから無理やりに近い方法で情報を引き出して進化しているんだろうけど……

 

「色々と条件がそろって奇跡的に使えたようなものですからね。僕がやったことではありますけど、自由に使えることじゃないです」

「すごく強かったのに勿体ねぇなぁ」

 

 太一さんのいう事は分かる。ドルモンが進化したあのアルファモンというデジモンはそれほどまでにすさまじい力を持っていたのだ。他のみんなが進化したデジモンもすさまじい力を秘めていた。

 まあ、もう戦いは終わったんだし気にすることは無いのかもしれない。

 と、緊張感もぬけてきたところに何かのジェット音が聞こえてきた。こちらへ飛来してくるが――どうやらメカノリモンらしい。すぐに降り立ち、中から人が降りてくる。

 猫背姿の老人……そう言えば直接見るのは初めてか、ゲンナイさん。

 

「よくやったなお前たち。こちらも、人間世界も救われたようじゃ」

「じゃあ本当にアポカリモンを倒したんだな!」

「うむ。それに足元をみんしゃい」

 

 ゲンナイさんに言われるままに足元を見てみる。そこには一つの島が復元されていっている様子が映し出されていた。

 黒い粒子と白い粒子が飛び交い、デジタルワールドを創りなおしている。

 どういうことかと思っていると、ゲンナイさんの隣にいたデジモン――ケンタルモンが補足してくれた。

 

「デジタルワールドは新たな天地創造の時を迎えたのだ」

「あの島はファイル島?」

「それにあの光は……」

「おそらく、デジモンたちも復活しているのだろう。徐々にではあるが、これでこの世界も元通りになっていく」

「なぁみんな、行ってみようぜ」

 

 太一さんがそう言い、みんなで頷く。流石にデジモンたち全員がついてくるのは無理であったし、それぞれの故郷へと戻っていったが僕たちについてくるデジモンもいた。

 バステモンとモニタモン、パンプモンにゴツモン。もんざえモンと、それにオーガモンも。チューモンやアンドロモンも一緒に来たし、エレキモンってデジモンもだ。彼ははじまりの町でデジモンたちと世話をしていたらしい。

 僕たちがファイル島に降り立ち、再生が始まった場所へ行くと――そこは輝きを取り戻したはじまりの町があった。

 

「デジタマがいっぱい! まだまだ空から降ってくるよ」

「ここからデジタルワールドは再び再生します。時間をかけてですが」

「これみんなデジタマ?」

 

 気の遠くなる数だな……

 

「これでみんなもよみがえるのね、ピッコロモンやスカモンたち。他のデジモンたちも」

「レオモンもよみがえるんだな」

「ああ、いずれは」

 

 それに、たぶんダークマスターズも。

 敵として戦ったが、彼らもそういう風に進化してしまっただけで最初から悪だったわけではない。生まれ変わった後どうなるかはわからないが、今度はもっと違う形で出会いたい。

 ただ……別次元へ飛ばされたピエモンだけはおそらくここへは来ないだろうが。

 

「もーん!」

「トコモン、お前どこに行ってたんだよ……いきなりくっ付いて来て――って」

 

 トコモンの体が光り輝いていく。体が大きくなり、四足歩行なのは変らないがより動物らしいフォルムに変化していった。

 そして、その首には大きな首輪を下げている。

 

「トコモン進化――プロットモン!」

「進化した……」

「おそらくは、カノン殿の力を浴び続けた影響でしょうな。最後のブラスト進化の際もこの子だけは力を蓄えておりましたから」

「……どうもです」

「だが、私とは姿が違うようだが」

 

 テイルモンがそう言うが……そう言えば、テイルモンの進化前がプロットモンなんだっけか? 彼女の進化前のプロットモンとは細部が異なるらしい。どうも首輪が違うとか。

 

「それがX抗体の特徴でな、デジモンの潜在能力を引き出す力を持つ。故に通常のデジモンとは姿も異なる。ただし、危険な力でもあるがの……まあ、こうして安定しておるし別段問題はないじゃろうて」

「へぇ……でも結局頭の上にのるのね」

「特等席です」

 

 しゃべるようになったのは結構だが、重くなったので自重してほしい。その輪っかが当たるんだけど。

 皆が笑っているが、こっちは結構キツイ。

 

「そうだ、みなさん記念写真を撮りませんか?」

 

 アンドロモンがそう提案してくる。まあ、断る理由がないか。

 そうして全員で並ぶが……結構多いな。パンプモンたちが前に出ようとしてもんざえモンが掴んで止めている。バステモンが眠くなってきたと寝ようとしてテイルモンがひっかいてキャットファイト的な……なんで太一さんと光子郎さんは顔を青くしているんだろうか?

 他のみんなもわらわらと……シャッターがきられる瞬間、ヒカリちゃんの持っていたデジタマが孵って煙が飛び散って……カオス過ぎるだろう。

 

「あはは……笑うしかないなぁ」

「だねぇ」

「です」

 

 プロットモン、いい加減降りてくれない? 嫌です。って言わないで……無理っぽい。

 

「さてと、ここにもう用はない。俺は旅に出るぜ」

 

 そう言うと、オーガモンが三度笠などを着て今にも旅に出る感じの格好に……お前は清水の次郎長か何かなのか? っていうかどこから出した。

 

「そんな、行っちゃうの」

「私たちと一緒にいましょうよ!」

「いいや。俺は誇り高きウィルス種。ワクチンやデータのお前らと一緒にいられるかよ。じゃあな!」

 

 そう言うと、オーガモンはこの場を後にしてしまう。

 彼にも思うところはあるんだろう……レオモンもいなくなり、旅をすることで何かを探したいのかもしれない。

 

「バステモンもウィルス種なんだけどー」

「あら、お似合いじゃない」

「んーこの白いモドキちゃんは何を言っているのかなー」

「ハイそこ喧嘩しない」

 

 なんで喧嘩しているんだあそこの猫二匹は。っていうかモドキってなんだろう。

 

「ウィルス種ってよくわかんないなぁ」

「まあそう言うでない。以前、アグモンが暗黒進化したときに間違った進化と言ったことがあるが、アレは間違いじゃ。おぬしたちの旅の目的から見れば間違っているからそう言ったまでで、進化には本来いいも悪いもないのじゃよ。それに、自ら暗黒の力を受け入れて使いこなしておるものもおるしの。光も闇も、ワクチンデータウィルスもあくまで要素の一つにすぎん」

「さーて、そんな無茶苦茶やってる人は誰かなぁ」

「お前しかいないだろうが規格外バカ」

 

 バカとは何かバカとは。

 まあ、無茶ばかりしているあたり否定はできないけど。

 

「おぬしたちのパートナー8体はあらかじめ想定された姿があるが、ドルモンにそれはないのも影響しておるじゃろう。経緯が特殊だったからじゃが」

「そう言えばずっと気になってんていたんです。敵もカノン君のことをある程度理解したうえで狙わないようにしたりしていた時もありましたし」

「うむ……それについて言わなくてはならないこともあるんじゃが…………どこから話したものやら。他のものたちにはいう事も禁じられておるし」

「なんだろう、ものすごく嫌な予感がしてきたよ僕」

 

 何かを忘れているような気もする。こう、達成感が凄くて記憶があやふやになったというか。

 とりあえずと前置きして、ゲンナイさんは続きを語る。

 

「まあぶっちゃけて言うならば、カノンとドルモンはアポカリモンではなく別の相手と戦わなくてはならないんじゃよこれから」

「まじかー。予想はしていたけどまじかー」

「そんなおれたちはまだ帰れないの!?」

「って、そもそもドルモンはこっちに残るんじゃないのか?」

「特撮見れないとか嫌だ!」

「すっかり現実世界の暮らしに馴染んでいますよね彼」

「いや、Xデジモンはこちらの世界にいては少々まずいんじゃ。よって、彼らは人間界へ戻ることとなる」

 

 え、そうなの? Xプログラムがこっちで解放されたらマズイからだとは思うけど……

 しかし現実世界で生まれ育ったシティボーイのドルモンがこっちで大自然の中生き残れるとは思えないから良いのか?

 

「そのことも含めて、おぬしたちに話さなければならないことがあるのじゃ。ちょっと、向こうで頼む。それに、他のものも積もる話がお互いにあるじゃろうて」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ゲンナイさんに連れられてやってきたのは、みんなから少し離れた場所。

 どこから切り出すべきかのうと悩んでいるようだし、一つ気が付いたことを先に片づけるか。

 

「ゲンナイさん、ゲートが開いていますよね」

「うむ。見えるか?」

「はい……それで、座標というか時間のスピードが完全に一致しているように見えるんですけど」

 

 空、というより太陽を見上げる。日食がおきているが、あれがゲートとなっているらしい。

 そこに見えるコードから推察するに、時間のスピードが同じなのだ。この世界と、向こうの世界の。

 

「アポカリモンの影響じゃろうな……おそらく、子供たちはまだ冒険を続けたがるじゃろうが、今すぐにでも帰らねばなるまいて。この世界にい続けたらどんな影響があるかわからんしの。おぬしみたいにデジモンのデータを内部に宿しているのなら別じゃろうが、そのような特殊な例は数少ない」

「まあそうですよね。ゲートがまた開くことは?」

「わからん。イグドラシルを利用すれば行き来は自在かもしれぬが、普通は使えんからの」

「やっぱり……」

 

 ここでみんなの冒険は終わりってことか。それじゃあ、本題。

 

「僕たちはどうすればいいの? っていうかプロットモンもついてきているけどいいのかな?」

「ホーリーリングを持っておるし、おぬしのそばにいた方が後々よさそうなのでな。よいか、これから話すことは誰にも言ってはならんぞ。ある意味ではアポカリモンよりも危険な存在と引き合わせる――どうやら、来たようじゃ」

 

 アポカリモンよりも危険な存在……どれだけヤバいのだろうか。

 そう思って身構えていると、やってきたのは目覚まし時計みたいなデジモンだった。クロックモン、成熟期のようだが……あまり強そうには見えない。

 

「チチチ、仕事の時間ダ」

「このデジモンがアポカリモンよりも危険な存在ですか?」

「うむ――このデジモンはの、時を操ることが出来るのじゃ」

「……は?」

 

 え、どういうこと?

 僕もドルモンも開いた口が塞がらない。え、それって……

 

「時の巻き戻し、時間旅行、その他諸々。色々とできる」

「…………歴史の書き換えも?」

「好きにできるわけではないがな。1900年から99年の間なら自在じゃ。ゆえに、この世界の戦いには関わらないんじゃがな。光と闇、双方が手を出さぬようにしてきた。あのダークマスターズでさえ、クロックモンには手を出さないようにしておったしの」

「能力が続くのはあと1年?」

「うむ。であるから、おぬしをアポカリモンとの戦いに参加させたと言っても過言ではない。クロックモンの力が及ぶ範囲でおぬしたちの成長を促さないといけなかったのじゃ」

「…………合点がいった。っていうかなんとなくわかった。僕たちは、過去に戻って何かをしなくちゃいけないのか」

 

 何かを知っている奴らがいたのはそういうわけか。僕たちが過去に戻っているから、何かをしてその結果が今も残っているんだ。歴史が変わる恐れがあるから教えてはくれないだろうけど……

 その歴史が変わる可能性があったから僕に対してだけ対応が違うってところか。まあ、結局ピエモンとかは殺しに来てたけど。

 

「そう、過去に行ってもらう――時空の歪みはまだ観測されておる。未来から過去に向かって何かがさかのぼってしまい、今の歴史を書き換えようとしておる。おぬしたちはそれをどうにかするために呼ばれたのじゃ」

「他のみんなは?」

「…………おぬしを送る時代にはXプログラムが存在しておっての、他のデジモンたちでは消滅する可能性もある」

「それでプロットモンも一緒にってわけか」

 

 X抗体があるのなら活動は可能だから。

 でも具体的に何をどうすればいいのだろうか?

 

「わしも詳しい話は聞かされておらぬが、今回の特例の時間移動、クロックモンにはイグドラシルが暴走を起こした時代へおぬしたちをとばすようにプログラムされておる。おそらく、最終的にその問題を解決すればいいじゃろう。こちらへはあるデジモンが送り返してくれると安定を望むものが言っておった」

「あるデジモン、ねぇ……そのデジモンのところまでたどり着けばゴールなんだろうけどもうちょっとヒント解かないと」

「具体的に何を解決すればいいのかまでは知らないんじゃ……すまん。ただ、そのデジモンは魔王型とは聞いておる」

 

 魔王型……また魔王型かい。

 

「さて、わしは他の子供たちのところへ行く。スマンがもう一仕事、頑張ってくれ」

「歴史が書き換わってアポカリモンが復活しても嫌だし、仕方がないか。ドルモン、腹くくれよ」

「そっちも疲れたなんて言っていられないよ」

「プロちゃんもがんばりますです」

 

 さぁて、もうひと踏ん張りしますかね!

 




そして、新章イグドラシル編開幕。

以前言っていた中立はクロックモンのことでした。
各所にネタというかヒントはちりばめていたんだけど、わかった人はいましたかね?

というわけでカノンとドルモンの戦いはこれからが本番です。
むしろ今後のためのレベルアップや力の覚醒を行うのがアドベンチャー編の目的という長いプロローグ……

イグドラシル編は少しプロットを練りたいので、投稿が遅れるかもしれませんがご了承ください。そんなに長くやるつもりはないですが。


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2章・追憶のイグドラシル
59.時空の回廊


今回から新章突入ですが、前半は他の子供たちなど。


 カノンに話を告げた後、すぐに時間移動を行うというわけにもいかないのでゲンナイは他のえらばれし子供たちのところへ来ていた。

 そして、やはりと言うか彼らはまだ冒険を続けるつもりであった。悲しいことではあるが、それはできない。

 

「すまんの子供たち……話さなければならないことがある」

「なんだよもったいぶって」

「ねえ、それって悪い話?」

「まあそうなるじゃろう……悪いことだけではないのじゃが、今この時においては悪い話じゃろうな」

 

 どこから話したものやらとゲンナイも悩むが、やはり直球でいくしかないと結論が出る。話を先延ばしにしてもいいことはない。

 

「アポカリモンの影響でこちらの世界と向こうの世界の時間の流れが完全に同期した。よって、今すぐにおぬしたちは帰らなくてはならない」

「――ちょ、ちょっと待ってくれよ! それってどういうことだよ!?」

「アポカリモンは存在自体が世界を歪めることは伝えたな? その歪みの方向性が、二つの世界の時間の流れに現れたのじゃ。いや、もしかしたら元に戻ったのかもしれんが……」

 

 以前にアポカリモンが現れた際にも時間の流れが変化した可能性もある。今となっては確認のしようがないが。クロックモンもそういった話はできないことになっているので聞くこともできない。

 

「でも、夏休みはまだ続いていますし一か月ぐらいなら……」

「それもダメなんじゃ……みよ」

 

 そう言って、ゲンナイは天に登っている太陽を指さす。日食が起こっており、欠けた太陽になっていた。

 

「アレはこの世界とおぬしたちの世界をつなぐゲートじゃ。もう、長くないじゃろう……次にゲートが開くのがいつになるのか皆目見当もつかん。そもそも、ゲートが開く保証もない」

「そんな……それじゃあ、本当にここでお別れだなんて」

 

 デジモンたちと子供たちの間に沈黙が走る。

 唐突にだが、冒険が終わりの時を迎えた。当然だ。別れまで時間があると思っていたのだから。

 

「一つだけ、好意的にみるとするのならばおぬしたちが人間世界に帰っても今生の別れとは限らなくなったことじゃろう。時間の流れが同じになれば、永遠の別れとは言えぬからの」

「…………たしかに、そうかもしれないけど」

「すまんの。ワシにはどうにもしてやれんのじゃ……すぐにでもおぬしたちを送り返す準備を始める。光子郎、スマンが手伝ってくれんか?」

「はい。わかりました」

「光子郎はん……」

「テントモン、大丈夫です。それに、手を動かしていた方が気が楽ですから」

 

 せめてもの救いは、二度と会えなくなるという話ではないことだ。それでも、ゲートが開くかは未知数なのであるが。

 

「ねぇ、ゲンナイちゃん。バステモンの魔法でゲートを開いてあげるってのは?」

「現在のデジタルワールドは不安定じゃ。おぬしの魔法でも開けるかはわからん。どのくらいで安定するかはまだ未知数じゃからの……というかちゃん付けって」

「だってバステモンより年下じゃないの」

「……それもそうじゃの」

「そうだ。魔法ならカノンはどうだ? って、いないし」

「アヤツにはこれからやるべきことがある。重ね重ねすまんがこの後は別行動となるじゃろう」

「別行動って……それじゃあカノンはどうやって帰るんだよ」

「あやつらだけなら別の方法で人間界へ行く方法がある」

「そういえば、ドルモンたちだけは人間界に行かなくちゃいけないとも言っていたけど……アグモンたちはダメなのか?」

「デジモンが長く人間界にいるとどうなるかはわからないんじゃ。一部の特殊な例を除いては」

 

 それこそ、X抗体種という通常種よりも高い生命力と適応能力を持ったデジモンや七大魔王のような高次元の存在でなければ世界の違いで自らの体を亡ぼす可能性さえもある。今の地球ではデジモンは暮らしにくいのだ。

 その逆もまたしかり。

 

「杉田マサキには出会ったのじゃったな……ならばわかるじゃろう? 違う世界にい続けるリスクが」

「ッ……ああ」

 

 なんてことのないように言っていたが、マサキは実年齢と肉体年齢が齟齬を起こしている。自分でも人間かどうかも怪しいと思っていながらそれを悔いていないから明るかったが……子供たちは同じ道をたどることはできない。

 

「なんかしんみりしちゃったわね……カノンのところに行っているね」

「バステモン様、お待ちくだされ」

「どうする? 俺たちもいくか?」

「だな」

 

 バステモンたちはカノンのところへ向かう。

 結局、この問題に自分たちは関わることはできない。別れが来るわけではないカノンとドルモンも他のみんなに言葉をかけることはできないだろうし、彼の様子を見に行くしかないのだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 とりあえず、クロックモンからこれから行うことについて話を聞いた。

 まず僕たちは過去のデジタルワールドへ向かわなくてはならないこと。その際、クロックモンが時空の回廊という時間軸を飛び越えることのできる道への扉を開いてくれるということ。

 その時空の回廊だが、普通のデジモンではかなり危険な道らしい。X抗体を持つデジモンなら通れるのだが、それでもかなりのスピードが必要だとか。

 

「というわけダ。一番速く飛べるデジモンに進化して通行しロ」

「一番速い……やっぱラプタードラモンか?」

「だね。でも、成熟期のデジモンだけど大丈夫かな」

「それはさしたる問題ではなイ」

「なら大丈夫か。今すぐにでも出発した方がいいんだろうけど……みんなになにか言っておいたほうがいいかな?」

「それはやめた方がいいんじゃないかなー」

 

 ん? なんか後ろからいきなり抱き着かれたが……この長い爪はバステモンか。

 

「いきなり抱き着いて来て、どうしたんだよ」

「一度やってみたかったのよー。うん、よしよし」

「何が良し何だか……で、やめた方がいいって?」

「結構ブルーな感じよ。ヒカリって子だけは違っていたけど」

「たぶんゲートはまた開くって確信してんだろうな。僕もそうだけど、別に永遠に別れるわけじゃないと思うし」

「ふーん……案外あっさり言うね」

「近い未来、また何かありそうな予感もするんだよなぁ」

 

 ダークマスターズとの戦いでは発動していなかった未来予知であるが、ここにきて多少は回復した。イグドラシルに会えばこの力の詳細がわかるかもしれないな。

 で、予知というか予感ではあるんだけど……

 

「アポカリモンとダークマスターズを結び付けて考えてみたけど、ピエモンの使っていた暗黒の力との間に違和感を感じるんだよ」

「違和感?」

「そのうち解決しそうな気もするんだけど、なんだかスッキリしない部分があるんだ」

 

 下手に手を出すと藪蛇どころじゃすまない気もするし、とりあえずやるべきことを片付けるだけだが。

 でもまあ、ゲートの問題はそれとは関係なく解決すると思う。

 

「そのぐらいの報酬はあって当然だと思うよ。僕が神様なら、それぐらいは何とかするさ」

「……そうだね、その通りかもね」

「それでカノン殿はこれからどうなさるので? そちらのデジモンから推察はできますが……」

「時計みたいなデジモン……なんか聞いたことあるような?」

「どこだっけか?」

「パンプモンにゴツモン……いたのね」

 

 いたよ! と怒られてしまった……すまん。素で最後の方忘れていたわ。というかゲコモンたちに混じって戦っていたから目立ってなかったし。

 

「にゃはは……たぶん、これから先も大変なことが待っていると思うけど、頑張ってね」

「分かってるよ」

「それじゃあ、これは激励とお礼ね」

 

 そう言うと、バステモンは僕に近づいて……なんかおでこのあたりに暖かい感触がしたんですが。

 プロットモン、ぺしぺし叩かないでくれ。痛い。

 

「それじゃあ、行ってらっしゃい!」

「……まったく自由だなぁ。でも、ありがとうな。行ってきます!」

「ドルモン進化――ラプタードラモン! 準備万端、エネルギーも大丈夫!」

「はやくいきましょうです!」

 

 ラプタードラモンにまたがり、プロットモンを抱えてゴーグルをつける。

 すぐにクロックモンが何かのコードを起動させ、たくさんの青いリングで作られた道が完成する。チューブのようになっているその先には、時空の歪みみたいなものが見える。

 

「あれが回廊の入り口ダ。心してかかれよ。これから先はお前たちだけで何とかしなければならないのダ。仲間を見つけることもあるかもしれないガ、今までと同じかそれ以上に過酷な旅となるだろウ」

「分かってるよ――ラプタードラモン発進!」

 

 一気に加速していき、道を通っていく。リングを一つ通るたびに座標データなどが付与されていき、目的地までのルートがインプットされる。

 そして、すぐにゲートを通過した。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 時空の回廊は幻想的な空間となっていた。たくさんの光の粒子が飛び交っていて、とてもきれいである。しかし、同時に危険な場所ということもわかるが。

 体の表面にノイズが走ったようになることがあるのだ。長くい続けると、意味のないデータの塊になってしまう可能性すらある。

 

「確かに危険な場所だな……」

「カノンは大丈夫か? おれはちょっとこそばゆい感じだが」

「プロちゃんもです」

「僕も似たようなものかな。しかしタイムスリップを可能にする能力とか……絶対に他の人に知られてはいけないな。太一さんたちにも言えないかも」

「どうしてだ?」

「それこそ、死んだ連中を助けるために使うとか言い出しそうなんだよ……それで歴史が悪い方向に変わる可能性だってあるんだ。僕たちが使うことが出来るのは、すでに過去に行くことが決まっていたからなんだろうけど」

「どういう話なんです?」

「タイムパラドックス系の話はややこしいんだけど、これまでに出会った奴らの言動とかから推察するに、僕たちが過去に戻って何かをやったのを知っている奴らがいたんだよ。だから、僕たちが過去に戻って何かをするのは歴史上ですでに定まっているってこと。それこそ運命ってやつ……なんだ、ろう」

 

 まさか、僕が運命の紋章に選ばれた本当の理由は――いや、確証がない。今はまだ判断をする時じゃない。

 とにかくやるべきことをやらないと。

 

「カノン?」

「ああ悪い。まあ、今まで歩んだ歴史がそもそも僕たちが過去に戻って何かしている前提の歴史なんだって話。だから僕らが過去に戻るのは決定事項なんだ。

 で、ここからが本題。太一さんたちが仮にクロックモンの力をしって、過去を変えると今まで起きた出来事と矛盾する。この時点で歴史は書き換わるんだ……そうなると味方の誰かが死んでいなかったり、違う人が死んでしまったり、最悪アポカリモンが生きていたりする」

「それってマズいよな?」

「ああ。とてもマズイ。光子郎さんなら危険性を理解してもらえるだろうけど……話がややこしすぎるから他のみんなだとどこまで理解してもらえるか」

 

 ヤマトさんと丈さん、空さんは良いとしても太一さんは納得するまでに時間がかかるか。一番聞かせてはいけないのはミミさんだな。優しい分暴走しやすいだろう。

 

「っと、見えてきたぞ。アレが出口だな」

「しっかりつかまっていろよ二人とも。衝撃があるかもしれない」

「わかったです!」

「ラプタードラモンも安全運転頼むな!」

 

 そして、ゲートを通り抜けた。

 体が奇妙な浮遊感に襲われ、三半規管が刺激されたが……ヤバい、ちょっと吐きそうなんだが。

 

「うっぷ」

「大丈夫か?」

「なんとか……それで、ここはどこだろう?」

 

 ラプタードラモンもドルモンに戻ってもらい、先へと歩いていく。デジヴァイスを見ると時間表示は……91年ぐらいかな? よくわからないけど10年近くは昔に戻ったらしい。現実世界換算でだけど。

 デジタルワールド換算だと相当昔だろうなぁ……ドルモンと僕が出会う前だし。コロモンが光が丘に現れる前かぁ……そもそも僕が1歳になっているかいないかってぐらいか。

 

「なんていうか研究施設みたいな場所だね。ココは通路って感じ」

「だなぁ……」

「デジモンのにおいもほとんどしませんです」

 

 地面に手をついて、データコードを読み取るが……嘘だろ。今まで旅したエリアのどこよりも頑強だ。しかも暗号化がすさまじくて解析もほとんどできない。

 何とか断片的に情報を読み取っていくが……

 

「デジタルワールド中枢部。言うなれば、デジタルワールドのサーバーそのものってところか」

「なんかいきなりとんでもない所にきちゃったね」

「……気をつけろよ、そうなると警備が厳重だぞ」

「カノン、言っているそばから来たみたい」

 

 ドルモンがそう言うと、これまた懐かしいのが団体で出てきた。ワイヤーフレームだけの人形っぽい何か。ずんぐりした体系のそれは、ミミさんの仲間にいたユキダルモンに少し似ているだろうか?

 成長した今なら名称が見える。ゴーレモン・プロト。おそらく、プロトタイプデジモンの一種なのであろう。

 

「さっさと蹴散らすぞ!」

「了解!」

 




アドベンチャー最後の別れのシーンですが、カノンたちは別れるわけではないので、彼らがいると無粋すぎるんでカット。

ゴーレモン・プロトはデジワーに出ていたっていうあれね。画像検索でゴーレモンって打てばでるんじゃないかな?
すさまじい見た目からプロトタイプの一種として扱います。

というわけで2章・追憶のイグドラシル。開幕です。


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60.エラーコード

風邪をひいてしまい、グロッキー状態。


 廊下っぽい場所で目の前には謎の珍妙物体Aから……何体いるのか数えるのも面倒だな。わらわらと出てきて鬱陶しいけど一度下がるべきか? とも考えたわけだが、なんとなーく後ろの方にはいかない方がいい予感。それに、前に進んだ方が目的を達成するのが速そうだ。

 防衛システムがこうたくさんってことは、こっちに見られたくないような何かがあるんだろうし。

 

「ってことで行くぞドルモン!」

「それはいいけど、ここ狭いよッ」

 

 僕が魔法剣、ドルモンが体当たりで蹴散らしていくものの……確かに狭いのがキツイ。プロットモンは頭にのせているのも結構キツイ……リュックにでも入っていてください。

 

「狭い通路なら、こいつだな。デジメンタルアップ!」

「結構久々かな! アーマー進化、サラマンダモン!!」

 

 たしかに、使いどころ少なかったからなぁ……だが、体格が小さくなるってのも利点の一つ。今まさにその利点が必要な状況だ。

 サラマンダモンは床と壁などに尻尾を叩きつけて飛び回り、ゴーレモン・プロトに体当たりしては燃やし飛ばしている。体から放出している炎の出力が以前よりも上がっているな……

 

「こっちも熱いんだけど!」

「贅沢言わない! 一気に吹っ飛ばすから離れていて!」

「ば、バカ! その技は危険――ッ」

 

 慌てて退避すると、サラマンダモンは体を丸めていく。そして、ゴーレモン・プロトがわらわらと集まっているその中心へと飛んでいった。

 全力で防御壁を展開しつつ、衝撃に備えると――

 

「バックドラフト!」

 

 サラマンダモンを中心に、この場の空間が爆発していった。

 ゴーレモン・プロトもガラスが割れるように粉々になっていき全滅してしまう。というか、こっちの防御もきついぐらいの衝撃が来るんだが!

 

「こわいですー!」

「あのバカやり過ぎだよ……」

 

 もくもくと煙が立ち上る中、ゲホッとせき込みながらドルモンが出てくる。どうやら力加減をミスったらしい。

 

「何してんだよお前」

「いやぁ、なんだか前よりも力が強くなっていて……うまく加減が効かなかった」

「アポカリモンとの戦いでまた強くなったってことか?」

「そうみたい。アルファモンに進化したからかなぁ」

 

 おそらくはそうだと思うが……光子郎さんのアナライザーで情報を確かめた方が良かったか。

 なんというか、普通のデジモンとは異なる何かをアルファモンからは感じたのだ。あとは、エンジェウーモンが進化したマスティモンもイレギュラーな存在だろう。見た目の時点で丸わかりだったけど。

 ブラスト進化はそういったイレギュラーな存在すらも制御した状態で一時的に進化させることが出来るみたいだ。もしかしたら、あのアポカリモンにすら進化可能かもしれない。

 

「まあ、形質が離れすぎている場合は無理だろうけど」

「それより、どうする? あたりが黒焦げになっちゃったけど」

「そうだなぁ……時間もないことだし、さっさと先に進むか」

「時間が無いの?」

 

 たぶん。これだけの騒ぎを起こしているのに増援が無いのも気にかかる……いや、そもそもここが黒焦げのままなのがおかしい。

 

「デジタルワールドの中枢なら、すぐに自己修復しそうなものなのに黒焦げのままになっている」

「確かに、ちょっと変だね」

「なんだか嫌な感じがするです」

「……急ごう。思ったよりも悪いことが起きそうだ!」

 

 すぐさま先へと進みだす。神経を研ぎ澄ませて、少し入り組んだ廊下を走っていく。

 何度も経験した感覚。イグドラシルと接続したときの感覚を頼りにして進んでいるが……ほどなくして、巨大な研究施設のような場所にたどり着いた。

 周囲の壁はガラスのポッドのようなもので埋め尽くされており、中央は円形の巨大なフィールドが存在している。まるで、SF映画に出てくる生物兵器のプラントと闘技場か何かを合わせたみたいな場所だ。

 

「案外、間違っていないかもな」

「コンソールがあってますます研究施設みたいだね」

「みたいじゃない。むしろ研究施設そのものだ」

 

 近くにコンソールがあったので操作してみたが……厳重にプロテクトがかけられている。しかし、デジヴァイスを接続して簡単に解除が出来た。

 

「そんなにあっさりといくの!?」

「このデジヴァスの基盤はイグドラシルの欠片から作られているからな。デジタルワールドのロックのほとんどを解除できるんだろうよ」

 

 生憎と予知能力の方は使えないため、完全に勘となっていたが。イグドラシルが健在な時間軸では使うことが出来ないのも当たり前だけど。

 とにかく、コンソールを使って情報を引き出していく。どうやら、現在のデジタルワールドは総容量の限界近い状態まで使用してしまっているらしい。原因はデジモンの進化スピードに追い付けなくなったからみたいだが……

 デジタルワールドに何が起きたのかまでは分からないが、これは時間が解決するはずだ。イグドラシルの方でも予測演算を行い、現実世界側の技術発展の結果デジタルワールドの容量も増えると出ている。そのため、現実世界との時間の流れ方が近しくなっているのがわかる。

 

「変だな……別に問題は無いはずなのに、なんで残ったリソースをこのプログラムだけに集中させて――――ッ!?」

「どうしたの、カノン」

「これ……Xプログラムを実行しようとしているのか」

 

 更に進めていくと、増えすぎたデジモンを消してデジタルワールドをリセットしようとしているらしい。そこまでしなくても解決すると出ていたのに?

 デジタルワールドの容量はどうやら現実世界から流れ着いたデータで増えるみたいだ。現実世界の技術発展のスピードが速まるため、デジタルワールドがパンクするということにはならないはずなのに……デジタルハザードに対する対策としてXプログラムを発動しようとしている。

 これが発動してしまえば、デジタルワールドの消滅だってありうる。それほどまでに危険なプログラムなのに……

 

「とにかく防がないと……幸い、まだ実行はされていない。何とか発動前に潰さないと!」

「何か手伝えることは?」

「妨害が入るかもしれないから、周りを見ておいてくれ。とにかく時間との勝負だから」

 

 幸いなのはイグドラシル側も圧迫されている状況のため簡単に動けないところだろう。

 おかげで何とか作業を進められるが……全部消去することはできない。すでにX抗体の存在も確認しており、何体かサンプルが存在しているらしい。

 

「こっちはどうにもできないし、手を出さない方がいいか……しかしなんでこんなバグった行動をしているんだ?」

 

 Xプログラムを発動させないように色々と書き換えていくが……完全に自滅しようとしている感じだ。

 それに気になるのは、ドルガモンなどに似たデジモンのデータも表示されたこと。どうやらプロトタイプデジモンをベースにしたXプログラムを散布させるために作られたデジモンみたいだが……アンデッド型には嫌な思い出が…………

 

「……ふぅ、とりあえずプログラムの発動は阻止したか。後は、保管されているX抗体のサンプルを回収してプログラムが放出されないように潰しておくか」

「案外早かったね」

「向こうも使えるリソースがほとんど残っていないみたいで助かったよ……ん?」

 

 なんだろう、何か違和感があるんだが――ッ。

 その時、頭に強い衝撃が走った。体の感覚が途切れていき、目の前が暗くなっていく。

 ドルモンとプロットモンが僕を呼んでいるが……ダメだ、声が――

 

『汝、世界の改革を妨げるものなり』

「……誰だ、僕に話しかけるのは」

『我が世界終焉の時。回避行動の開始。エラー発生。容量増加』

「イグドラシル?」

 

 この感覚……イグドラシルが僕に語り掛けている? だが、思考パターンが違いすぎる。頭の中に違和感が吹き荒れているように言いようのない不愉快さが駆け巡る。

 何を考えているのかがわからないどころではない。そもそもの精神構造が違いすぎて、頭の中がしっちゃかめっちゃかになりそうだ。

 

『デジタルワールド移行作業進行率0パーセント――エラー。100パーセント』

「おい、それはおかしいだろう。なんでデジモンの移行作業が終わったことに――」

『エラー。エラー。自己防衛プログラムの増設。過剰プログラムのため消去実行――エラー』

 

 ダメだ。話にならない――しかし、少しだけ分かった。

 イグドラシルに何かが起きているのかとも思ったが……予想以上に悪い事態だ。何とか読み取れる範囲でイグドラシルから情報を引き出していくが、頭痛がすさまじい。

 

「――ッ、良いから端的に答えろ。イグドラシルが使用しているリソースはどれくらいだ?」

『デジタルワールドの総量、その半分となります――エラー。アポトーシス、実行不可』

「そういう、ことかよ!」

 

 ブツリと僕とイグドラシルが切断される。とたんに感覚が戻っていき、心配そうにしているドルモンとプロットモンが目に入った。

 体中から汗が噴き出ているが……大丈夫。感覚は戻っている。

 

「カノン、大丈夫なの?」

「ああ……イグドラシルが話しかけていた。ずいぶんとマズイことになっている」

 

 もしかしたら、今のはイグドラシルからのSOSだったのかもしれない。しかし、もう手遅れだ。

 歯車がずれているだけなら直しようもあったのだが、これはそんなレベルじゃない。何か外部の手で歯車そのものを破壊されている。歯車がかけている状態で動いているため、エラーが取り返しのつかないところまで来ているのだ。

 

「なるほどなるほど、イグドラシルを直接叩けってことかよ」

 

 とにかく先へ行かないと――そう思っていた時だった。空中に、何かの文字が出現する。

 デジ文字であったが、幸い読むことは出来た……Xプログラムと書かれた文章と、デジコアのような物体が続いて出現した。それらはグルグルと回転をはじめ、別の形へと作り替わっていく。

 

「なんだか嫌な予感がするよ」

「僕もだ……どうやらXプログラムを一つだけ、すぐにでも発動できる状態で隠していたらしい」

「それってマズいです?」

「こっちがX抗体持ちってのを見抜いたのか、別の形で使うつもりらしいけどな」

 

 とにかくアレをつぶさないと――そう思っていると、更にゲートのような穴がたくさん開いていった。丸い形の……そう、ホーリーエンジェモンのヘブンズゲートに似ているだろうか。

 そこから、真っ黒な影がたくさん飛び出してくる。一つは、僕たちも良く知っているものだけど……色が違う。

 

「黒いケンキモン!? それに、あのライオンみたいなのは」

「ローダーレオモン。重機系のデジモンを引っ張り出してきたってところか。どういうわけかは分からないけど、セキュリティ役のデジモンは出てこれなかったみたいだな」

 

 それでも、一番後ろにいるでっかいドラゴン型の重機デジモンはヤバそうだが。全部真っ黒にカラーリングされているのも怖い。

 

「ブレイクドラモン。アレ別格だね。下手したらダークマスターズ並みかも」

「ちょっとどうするんだよ!?」

「そりゃぁいきなり究極体に進化するしかないだろうが!」

 

 デジヴァイスを構え、紋章も持つ。なんだかんだでエネルギー増幅には役立つから捨ててはいなかったのが良かった。すぐにドルモンへ力が送られていき、彼の体を急速に変化させていく。

 数が多いし、バーストモードでケリをつけたいところだけど……それは得策じゃない。実行されかかっているプログラムを止めなくてはいけないし、しばらく進化できなくなるバーストモードはやめた方がいいだろう。エネルギーを数日間ため込んでいるのなら別だが、なんだかんだでアポカリモンとの戦いから時間も経っていない。

 

「スピード勝負で行くぞ!」

「ワープ進化! ディノタイガモン!」

 

 ディノタイガモンはすぐに駆け出していき、黒いケンキモンの群れを吹き飛ばす。ローダーレオモンが削岩機の鬣を回転させながらとびかかって来て、ディノタイガモンの体に激突していくが――

 

「――オラァ!!」

 

 そんなものにもびくともせずに、ローダーレオモンを返り討ちにした。流石に数が多いと思ったが、それでも圧倒的な力の差でローダーレオモンたちを薙ぎ払う。だが、そこに巨大なドリルが降りかかってくる。

 

「ブレイクドラモンの攻撃範囲が広い! 注意するんだ!」

「分かった――ドリルが触手みたいにのびるとか反則じゃねぇか!?」

「まずはスピードで攪乱しつつ周りのデジモンを!」

「オーケー!」

 

 ディノタイガモンが加速していき、雑兵を蹴散らしていく。そして、彼が一気に飛び上がり地面へと向かう。牙に力が集中し、巨大な刃のような一撃が繰り出された。

 

「ハイランドファング!」

 

 強力な衝撃と共にデジモンたちは消滅していく。そして、残るのはただ一体。

 ちょっと、厳しい戦いになりそうだな……

 




誰も予想はしていなかったことでしょう。そもそもXプログラムの散布を阻止しようとは。


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61.時間の輪

そろそろ過去に戻ることとなった本当の理由が見えてくるころだと思います。


 プログラム解凍速度が上がっている……そうか、デジモンたちを倒したことでリソースが回されているのか。それに少しづつ場に慣れてきたのか、近いエリアで戦闘が行われているのが分かった。

 ディノタイガモンたちの戦闘とは異なる振動が続いている。そちらでの動き次第では更に早まるだろう。

 

「時間が無い――ブレイクドラモンが守っている限り、僕じゃプログラムを壊せない。スライドするぞ」

「ああ。スライド進化――ガイオウモン!」

 

 スピードは三つの究極体の中でも一番低いが、相手を考えるならばこちらを使う方がいい。ガイオウモンに向けて、強化データを付与する。

 ガイオウモンはウォーグレイモンの亜種。ドルゴラモンの時はドラモンキラーのデータでバランスが崩れたが、すでに調整はしてある上にガイオウモンならそのリスクも最低限に出来る。

 ガイオウモンが駆け出していき、ブレイクドラモンと激突――いや、刀で奴のドリルを受け流して横へと飛んでいく。

 

「コイツ、機械的にしか動かないぞ!」

「構成DNAのほとんどは機械系だ。ドラモンとはついているけど、ムゲンドラモン以上に機械に近いデジモンなんだと思う。その分、破壊力はムゲンドラモン以上だぞ」

 

 同じドラモン種の機械系でありながら、更に際立った存在だ。

 奴の左右にあるショベルアームが高速で動き出し、ガイオウモンへと振り下ろされる。刀で受け流して回避を続けているものの、パワーの差があり過ぎる。

 

「なんでガイオウモンなんだ!? ドルゴラモンでパワー勝負するかディノタイガモンで攪乱するべきだと思うぞ!」

「いや、これが一番の選択なんだ! 瞬間的な反射能力ならガイオウモンが優れている。もうすぐ、もうすぐ来るはずだ!」

 

 やがて、ブレイクドラモンはそのまま続けていては無駄だと思ったのかショベルアームを止めて、ドリルを回転させ始める。

 来た……先ほど見た、ドリルの動きを見て判断したガイオウモンが一番有効だと思った理由。

 ドリルが射出されてガイオウモンへと突き進んでいく。触手、いやワイヤーで接続されたそれは執拗に狙ってくるが……奴が機械的な動きしかできないからこそ、そこに付け入る隙がある。

 

「ドリルの根元を狙え! 今の反射能力ならできる!」

「そういう事かッ――いくぞ、燐火斬!」

 

 ガイオウモンの刀、菊燐の軌跡に炎が現れドリルの根元へと向かう。炎の斬撃が飛び交い、奴のワイヤーを焼き切っていく。流石に耐久度も高いが……異常な数値を感じ取ったんだろう。奴の動きが変わる。

 ガイオウモンを狙ったものではなく、自身の防御へと。

 

「ぶち込め!」

「ガイア、リアクタァアアアアア!!」

 

 刀の先、一点に集中させたエネルギーを飛び上がりながらブレイクドラモンの背中へと叩き込む。

 爆発が起き、悲鳴のようにブレイクドラモンからノイズが上がった。

 

「やりましたです!」

「よしっ」

 

 ブレイクドラモンの瞳がぶれて、消える――そう思った次の瞬間だった。

 腕、尻尾、頭。すべてを地面に叩きつけてブレイクドラモンは飛び上がったのだ。マズイ。そう思ったが、奴は次の攻撃に移っている――ガイオウモンは地面に着地しているが、これは間に合うか――

 

「いいや、間に合わせて見せる!」

 

 ブレイクドラモンは全体重と落下スピードを合わせた技を繰り出そうとしている。改めて上を見てみたが、天井までかなりの高さがあった。そこから落ちてくればただではすまない……それでも、ガイオウモンは奴を見据えて刀を連結させた。

 二刀が一つとなり、弓の形へ。

 

「燐火撃」

 

 まるで隕石のように落下するブレイクドラモンに対し、ガイオウモンはその弓から一筋の光を解き放った。

 二つがぶつかり合い、衝撃波が発生する。力が拮抗しあっているが、どちらが勝つのか――いいや、勝たせて見せる。

 

「力を貸してくれ、ウィザーモン」

 

 右手に杖を出し、デジ文字の魔法陣を展開させる。同時にブレイクドラモンがドリルのあった部位を爆発させて無理やりに加速した。どうやらデータをわざとクラッシュさせてジェット噴射の代わりにしたようだ。

 だけど、こっちも負けていられない。

 

「ガイオウモン!」

「第二射――喰らえ!」

 

 再びガイオウモンの弓撃が放たれ、魔法陣を通過してブレイクドラモンと激突する。今度は更に力が強まっている。

 魔法によるブーストで燐火撃は強化され、ブレイクドラモンと削り合っているのだ。

 

「ッ、こっちの制御も持ってかれそう――」

 

 魔法陣が消えたらブーストも切れる。あの一撃に力を集中している以上、即席魔法の制御を失敗したらアウト。

 脳内でデータの雨が降り注ぐ。一瞬でも集中が切れればお陀仏だ。

 

「カノン、このままじゃ――バーストモードを!」

「ダメだ……そいつは次に取っておけ!」

「それって――」

 

 今はここでこいつを倒さないと――もっと踏ん張れ。気合を入れろ。もっと前に押し込め!

 

「でりゃあああああ!!」

 

 一瞬、何かが弾けてブレイクドラモンが勝ち誇ったような笑みを浮かべた。いや、そう見えただけだろう。奴にそんな感情はないハズ……それでも、その時の僕にはそう見えた。しかし、次の瞬間――奴の体に大穴が開いた。

 さらに加速した矢は奴の体を貫き、奴を打ち倒したのだ。

 

「――――ッ」

「カノン!」

「大丈夫です?」

「ああ……でも、やっぱダメか」

 

 みると、デジコアとデータの融合は終わっているようだった、真っ黒いデジタマに変化していき、異常な数値が引き起こされる。

 その姿がどんどん変質していき、0と1の羅列で出来たデジタマのような殻にこもって肉体を形作っていく。

 殻を突き破り、最初に見えたのは手だった。続いて翼、赤い羽と悪魔の様な。紫のアーマーと全身が黒いベルトで拘束……いや、黒いベルトで肉体の形を作っている。

 でもそのシルエットは僕たちがよく知っているものだった……でもこの特徴、以前に見たことがある…………はっきりとは覚えていないが、丈さんたちが言っていたデジモン。

 

「ドルゴラモン?」

「いや、デクスドルゴラモンって名前みたいだ……詳細はハッキリわからないけど、前にお前も進化したことがあるって聞いてるよ」

「それっていつの――メタルエテモンの時か?」

「ああ……」

「アイツ怖いです……まるでデジモンじゃないみたい。食べる、食べてやるっていってるです」

 

 プロットモンがおびえ、リュックの中に籠ってしまう。

 僕にもわかる……体の奥が底冷えするような感覚。僕はデジモンじゃないからか、そこまで強い恐怖を感じるわけではないが、アポカリモンとも違う本当にデジモンなのかと疑いたくなる存在。

 

「二人とも、こいつが怖いのか?」

「? どうしたんだガイオウモン」

「なんていうか、別に俺は怖くもないというか……不思議な感覚なんだ」

 

 どういうわけかわからないが、ガイオウモンはこのデジモンに恐怖を感じていないらしい。

 しかし、腑に落ちない点があるのか頭をひねらせている……しかし、こいつをこのままにしておくのも危険だ。今にも飛び上がっていってしまいそう――――まて、先ほどコンソールで見たドルモンの進化系に酷似したデジモン、その特徴と記載されていた機能。

 

「ガイオウモン――ヤバい、一気に決めるぞ! 飛行能力のあるドルゴラモンにスライドだ!」

「どうしたんだそんなに慌てて――」

「改めて解析しても間違いない。コイツ、Xプログラムそのもので出来ているんだよ!」

 

 隔離されているこの空間ならまだいいが、外に出したらどうなるかわかったもんじゃない。

 すぐにデジヴァイスを起動させて、ガイオウモンをドルゴラモンにスライド進化させる。

 

「――まったく、一難去ってまた一難かよ。カノン、どうする?」

「とりあえず発動していたXプログラムは全てそいつに集約している。そいつさえ倒せば少なくともXプログラムは阻止できるんだ! だから、最初っから――」

「全力全開だな。任せておきなッ」

 

 ドルゴラモンが咆哮を上げると、その体の色が深紅に染まる。

 デジコアの最深部からデータを引き出していき、一時的に限界能力を解放していく。

 

「ドルゴラモン、バーストモード!」

 

 ドルゴラモンがデクスドルゴラモンに突撃し、殴りつける。だが奴はそんなこと歯牙にもかけずにその尻尾でドルゴラモンの体を拭き飛ばした。攻撃が当たった瞬間、ドルゴラモンの体にノイズが走ったが――何事もなかったかのように体を回転させて、蹴り上げた。

 

「サマーソルトキック!?」

 

 あいついつ練習していたんだ……しかし、いいのが入った。流石に堪えたのかデクスドルゴラモンは後ずさり、こちらを睨んでいる。

 続いて、体から衝撃波を発生させて――マズイ。アレはドルゴラモンがバーストモード時に使っていた技と同種のデータを吹き飛ばす大技だ。

 

「うおおおおお!!」

「ドルゴラモン!?」

 

 だが、その攻撃をものともせずにドルゴラモンは前へと突き進む。爪で切り裂き、尻尾で叩き潰す。

 どういうわけかは分からないが、ドルゴラモンに奴の攻撃は通用しないみたいだ。まるで、何らかのバグが良い方に作用しているみたいに。

 

「……バグというより不具合? 何だろう…………いったい何が起きて?」

 

 わからない。だが、好都合なのも確かであるが――しかし上手くいき過ぎている。途中から、デクスドルゴラモンの動きが明らかに鈍くなってきていた。

 それをチャンスと思ったのかドルゴラモンは奴に止めを刺そうと――――

 

「ダメだ!」

「ッ――急には止まれねぇよ!」

 

 仕方がない。体を一気に加速させて、ドルゴラモンの体にタッチする。データを流しこんでドルゴラモンの放ったトドメの一撃に付与データを乗せる。

 かすかにしか覚えていないが、まるでそうすることが正しいと言わんばかりに頭の中で付与データが完全な形で組みあがっていた。

 デクスドルゴラモンはその体を崩壊させて――そのままでは消え去り、Xプログラムがまき散らされていただろう。だが、お台場の時やハワイの時と同じだ。奴のデータを内側に向けさせて変換が行われる。

 

「これは、デジタマ化か!?」

「あぶねぇ……Xプログラムがまかれたら本末転倒だった」

 

 勝てないと思って自爆の方向にシフトしたのか……しかし、直接デジタマにしてしまえば――――え?

 どうなっているんだ? そう思ったが、あまりの驚愕に声も出ない。その様子に退化したドルモンが訪ねてくる。

 

「どうしたのカノン? そんなに驚いた顔をして」

「これ……ドルモンのデジタマ?」

「何言っているの? おれはここにいる…………でも、ここって」

 

 そう、過去の世界なのだ。でも、僕とドルモンが出会った時間は人間世界だと何年か先だからこのデジタマとドルモンのデジタマが同じ柄なだけだと思うのだが――ただ、一つ気になることも。

 

「はじまりの町じゃ見なかったんだけどなぁ……同じ柄」

「どういうこと?」

「単純に考えるなら、同種のデジモンだからなんだろうが……」

 

 なんだか、話はそう簡単じゃないかもしれない。

 考察を続けようと思ったが――爆音が聞こえてきたことで中断することに。

 

「まだ他の場所で戦闘があったんだよな。この場所も気になるし、デジタマのこともあるけど……」

 

 プロットモンをリュックから取り出し、デジタマを詰める。こんなところにおいておけないし、プロットモンの抗議を無視して先へと進む。

 いかんせん時間が無いのだ。事件が片付いたら何か買ってやるからと約束して、音の元へと向かって行く。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 イグドラシル、この世界のホストコンピューター。管理者、様々な呼び名があるが今の彼の存在を表す言葉は一つだけだろう。

 終末。その一言だ。巨大な白い鎧のような物体が幾体も現れては彼らの進軍を止めている。今まで出会った仲間たちに送り出してもらったというのに情けない。

 

「クソッ――相棒、あと何発撃てるかわかるか」

「すまねぇ……弾切れだ」

「畜生、やっぱ俺が殴り飛ばすしかないか」

「無理だ。アイツらの硬さ見ただろう? チャージが完了するまでどうにかして持ちこたえないと」

「だと言っても……さっきの動きの悪さはどうしたんだよまったく」

 

 イグドラシルの用意した化身体と戦っていた彼らであるが、途中なにかで処理が遅れたのか動きが鈍くなっていた。今はその様子もないが……

 

「俺らの他にも戦っている奴がいるのか?」

「かもしれないが、デジタルワールドにそんな奴がいたか?」

「俺と同じようにこっちに来た人間かもなぁ……まあ、今まで見たことないしそれは無いだろうが」

 

 結局のところ、自分たちで何とかするしかないのだ。

 これは命を懸けてでも先へ進むしかない――そう、決断しようとした時だった。

 唐突に後ろから何か強力な波動を感じ取る。振り向こうと思ったが、それよりも早く黒い騎士が彼らの前に躍り出た。肩には赤毛の少年を乗せており、こちらをひと眼だけ見たかと思うとイグドラシルの化身体を次々に破壊していってしまう。

 

「つ、強ェ……なんだあの子供とデジモンは」

「見たこともないが……聖騎士型のようだ」

「アイツらの仲間か?」

「違うみたいだが……マサキのほかにも人間がいたんだな」

「ああ……なあラストティラノモン、どうやらツキが回ってきたらしい」

 

 今ここに、時を超えた邂逅がなされた。

 運命の歯車がまた一つ、回りだす。

 




まだはっきりと明言はしていませんが、なんとなーく見えてきたものがあると思います。
イグドラシル編はある一つの出来事に至るための物語です。
まあ、今後のこともあるから色々と他にもやるんですがね。


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62.デストロイ

思ったよりも速く終わりそうだな第2章。


 デクスドルゴラモンを降した僕たちは、先へと急いでいた。爆音や何かが崩れ落ちる音などが響いているが、色々な方向から聞こえてくる……どうやら戦闘は数か所で行われているらしい。

 とりあえず、X抗体のサンプルデータをフロッピーディスクの形で封じ込めたのち、先へ進みながらでも何かわからないかとコンソールから板状の端末を作って情報を逐一確認しているが……

 

「一体全体どうなっているのかさっぱりだな!」

「デジタルワールド中枢がこんなことになっているってヤバくない?」

「そりゃヤバいだろう。むしろ、下手したらこの世界が崩壊するっての!」

 

 幸い世界のバグ化は起きていないようだが。データで構成された世界だ、何か一手でも悪い方向へ行ってしまったらギリギリのラインで保っている世界が壊れる恐れさえある。

 地球ならコアの位置にあるのがこのエリアなのだろうが……たぶん、マントルかマグマの層にダークエリアがあって、その更に奥がこのエリア。

 

「地獄の更に先が機械的な空間ねぇ……」

 

 今突き進んでいるのは廊下っぽいエリア。研究所のようになっているのは、実際にデジモンの進化や生態などを研究する施設としての側面もあるからだろう。といっても、実際にデジモンを使うというよりデータのシミュレートを行っている感じではあるが。

 ブラスト進化を発動させた際にわかったことがいくつかある。デジモンのデータはデジタルワールドの中枢に記録され続けている。あくまでデータベースにだが。デジモンは進化する際、2つのパターンが存在しているようだ。

 既存の形態のデータを引っ張りだして進化するか、新たな姿を構築するか。前者はこの中枢にアクセスしてるようなのだが、後者の場合はデジコア自体が構築しているらしい。そして、この中枢にデータが記録される。

 パートナーデジモンは少々異なるが、基本は変わらない。

 

「その情報を基に、世界が崩壊しないようにバランスをとり続けるための研究施設ってところなんだろうけど……何らかの要因で暴走しているってところか」

「どういうこと?」

「さっきの黒いデジモン、ケンキモンを見る限り通常種とは違うんだろうな」

 

 重機系ばかりだったのはエリアが壊れた際の修復などに使われていたデジモンなのだろう。黒いカラーリングになっているのはその証と言ったところか。

 イグドラシルへ近づいているからか、頭の中に情報が断片的に入ってくる。ノイズが走っているが……この感じ、悪意ある改変を受けている?

 

「誰かがイグドラシルにウィルスを仕込んだ? でもこの世界でイグドラシルを改変できるような存在なんて……」

「どうしたんです?」

「なあ、プロットモン。お前って生まれ変わる前のことを覚えているか?」

「全然覚えてないです。でも、この感じ……どこかで?」

 

 半ば予想はしていたが、プロットモンはメタルファントモンの時のことは覚えていないらしい。まあ、記憶を引き継ぐ方が稀なんだろうけど。

 ヴァンデモンって意外と情報はたくさん持っていたし、何か伝えていたかもと思ったんだが……でも、プロットモンの感覚に何かがひかかっているのか。

 

「なんだか嫌な気分です」

「ああ、僕もだ……このねっとりとした感じ、暗黒の力?」

「ねえカノン、この感覚……どこかで見たことが無いかな」

 

 ドルモンの言い回し、見たことがある――それで思い当たった。

 これは、ゲンナイさんが黒い球を埋め込まれた時の感じだ。

 

「そうだ、あの暗黒の力だ。ピエモンがもっていた、アポカリモンとは別種の暗黒の力を感じるんだ」

 

 やがて、開けた場所に飛び出た。

 水晶の床の様な空間に、たくさんの白い鎧の様な物体。その前には巨大な機械デジモンと一人の人間が見えた。

 

「――ラストティラノモン、究極体……もしかして、あれが杉田マサキさん?」

「光子郎たちの話に出ていた人だね。でも、この時代にいるの?」

「いや、光子郎さんたちの話から逆算するとちょうどこの時代だよ。そうか、戦闘音は彼らか!」

 

 僕は直接会ったことはないからどういう人かは分からないが、悪い人ではないらしいし……それに、あの白い鎧はイグドラシルの端末か。防衛プログラムか何かの一種みたいだが――あんなに大量にあるなんて。しかも全部究極体クラスだぞ。

 どうやらラストティラノモンはかなり消耗しているらしい。究極体でもあれだけの数が相手じゃ……いや、戦闘音から考えるとすでに戦ってきた後なのかもしれない。その消耗した状態でここまで来たのか? 周りを見ると、他にも入り口があったらしい。

 僕たちもこの奥に用があるわけだが……

 

「ドルモン、行けるか?」

「エネルギーないよ」

「だよなぁ……」

 

 どうする? どうやって行けばいいんだ? 

 バーストモードを使ったのは失策だっただろうか……いや、Xプログラムを阻止できなかった可能性を考えるとあの場はあれでよかった……結局、一手足りないということか。

 

「――ここはプロちゃんの出番です!」

「プロットモン?」

 

 唐突にプロットモンがそんなことを言い出し、その体が光り輝きだした。この感じ――ブラスト進化の時の!?

 

「使わなかったエネルギー、今返すです!」

「そうか――プロットモンはブラスト進化をしないでそのままエネルギーを溜めていた」

「はい! ドルモン、これを使ってくださいです!」

 

 プロットモンから光の球が撃ちだされ、ドルモンの中へ入っていく。急速にドルモンのエネルギーが回復していき、限界を突破してさらなる力をもたらす。

 

「カノン、これならいけるよ!」

「ああ――ぶちかませぇ!!」

 

 ドルモンに飛び乗り、彼の体が変質していく。巨大化し、その形は獣から人へ。

 黒い鎧に、巨大なマント。圧倒的な力と共に顕現したその姿の名は――

 

「進化、アルファモン!!」

 

 まずは一発、近くにいた鎧を殴り飛ばした。

 奴らのターゲットが僕らに移ったらしく、次々に動いてきている。

 

「聖剣グレイダルファー!」

「気をつけろ、こいつら一体一体が究極体レベルだぞ!」

「分かっている――カノン、弱点は分かるか?」

「防御プログラムに近い。一撃で決めないとすぐに修復を行うみたいだ……中心部、コアの部分を狙え」

「オーケー!」

 

 アルファモンはその光の剣で鎧の中心部、赤いバイザーの様な部分を狙って斬りつけていく。睨み通り、その奥がコアらしく次々に沈黙していく。

 情報はハッキリと読み取れないが、ただの端末なら対処できる。

 

「次くるぞ、右だ!」

「――セイッ!」

 

 数が多いが、やはりこういったプログラムを自分で消せないのが不具合の一つなのか。しかも一体一体の容量がデカい。一体倒すごとに動きが速くなっていく……

 

「まとめて吹き飛ばすぞ! 一体ずつだとスピードの上昇に追いつけなくなるかもしれない!」

「わかったッ――デジタライズ・オブ・ソウル!」

 

 アルファモンが魔法陣を展開させ、そこから巨大な腕を召喚する。

 その腕がまとめて鎧たちを握りつぶし、ミシミシと悲鳴のような音が響かせた。

 

「――ッ、流石に硬い」

「ならダメ押しッ!」

 

 魔力強化を行い、腕の力を解放していく。火花が飛び散っていき、鎧たちがついに崩壊した。

 予想以上に硬かったが……これで、全部か?

 

「この場はな……この先に、まだ何かいるみたいだが」

「ああ……そっちの二人は大丈夫かな?」

 

 下にいる、彼らに話しかける。見たところ、結構ぼろぼろだがまだ戦えるって感じだな。

 

「危ないところを悪いな、まさか俺以外にも人間がいるとは思わなかったぜ。俺の名前は杉田マサキ。こっちは相棒のラストティラノモンだ」

「僕は橘カノン。で、こっちはアルファモンだ。元はドルモンってデジモンだけどね」

 

 元はと言ったところ、彼は首を傾げたがまあ気にすることはないかとそれ以上は追及しなかった。

 しかし、ここまでどうやってきたのだろうか。

 

「マサキさんはなんでこんなところに? デジタルワールドの中枢なんて普通の方法じゃ来れないだろうに」

「そりゃぁ、ダークエリアを突っ切ってきたんだよ。この奥にこの世界を狂わせている奴がいるらしいしよ。まあ、神様だろうが何だろうが、俺たちはぶん殴ってでも止めてやるってな」

「ああ、そうやって最高セキュリティの騎士どもを倒したのはいいんだが……見ての通り、連戦がたたってな」

 

 やはり戦ってきたのか……しかし、相当強いみたいだな。エネルギーはあまり残っていないようだが…………でもこのぐらいならいけるか。

 僕はアルファモンから飛び降り、ラストティラノモンの体に触れる。デジメンタルからエネルギーを分け与え、少しでも回復を図る。

 

「――――エネルギーが回復していく?」

「なッ――お前、何もんだよ」

「うーん……魔法使い、かな。僕たちの目的はこの先にあるイグドラシルの機能を停止させること」

「そうかこの先か――はやいところXプログラムも止めないと、この世界がぶっ壊れちまうし」

「そっちは僕たちが止めました。ただ、データ容量の問題を解決しないとこの世界が危ないですけど」

「…………マジでスゲェなお前。こんな小さいのに」

 

 小さいのは余計だ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 話している時間も惜しいということで、先へと進む。

 迷路のような構造になっているが、端末を使用してルートを確認している。幸い、アルファモンの状態で長続きしているが……

 

「残り進化時間がわからない。短期決戦になるな」

「ああ――それに、奥に行けば行くほど圧力みたいな感じがある。気合を入れないと後ろに下がりそうだ」

「俺もだ、デジモンは本能的にこの先へ行くのを拒否したくなるのだろう」

「そういうもんかね……しかしなんだってイグドラシルは暴走なんかしやがったんだ」

「結構事情を知っているみたいですけど、何があったんですか?」

「俺も一年近く旅をしているが、イグドラシルとのいざこざはこれが初めてじゃない。ただ、色々と決着もついてこの世界の管理者が移行されるはずだったんだよ。その矢先にこれだ」

「……管理者の移行」

 

 本来ならホメオスタシスへ安全に引き継がれたってことか?

 だが、何らかの外的要因でイグドラシルが暴走した。

 

「そろそろ見えてきたぜ」

「デジタルワールドの中枢、その最深部……イグドラシルの心臓部」

「……なにかいるです」

 

 プロットモンが何かを感じ取り、僕らもその異質な気配をすぐに理解した。

 幾何学模様の空間、その中心部にクリスタルのようなもので出来たコアがある。しかし、そのコアに悪質なウィルスデータが群がっていた。いや、ウィルスデータというよりは悪意そのものだ。

 

「これが暴走の原因か」

「……やっぱり、あの時の暗黒の力」

 

 シェイドモンのデータにも似ているが、その性質は更に邪悪。

 黒い靄の様なものがイグドラシルのコアを侵食しているのだ……このままではいけない。

 

「アルファモン、行くぞ!」

「ああ」

「相棒、気張っていくぜ」

「任された!」

 

 二体の究極体が戦闘態勢に入り、同時にコアが変質を始める。

 この場に敵性反応を感知したことで、戦闘形態へ移行したのだろう。

 

『――警告。警告。警告』

 

 バグったイグドラシルは警告の言葉しか継げない。何を警告するのかも定まらず、ただ同じ言葉だけを繰り返していた。

 そして、コアの目の前に黒い影が現れる。

 騎士の様な姿をしたデジモンが何体も現れるが……その全てが黒い靄の様なもので出来ている。

 

「あれは、ロイヤルナイツか? しかし、それにしてはあまりにも……」

「ロイヤルナイツ?」

「知らないのか……結構有名だと思ったけど、まあこの世界の守護者みたいな連中だ。もっとも、ほとんど俺と相棒で倒したんだが」

 

 マサキさんのいう事が確かなら、この場にいるのはおかしいのだろう。

 でも、アレはデジモンじゃない。

 

「アレはただのプログラムの塊、デジモンのデータをコピーしただけの分身みたいな存在です」

「なるほど……だから黒い靄なわけか」

 

 形と能力を同じにしているだけで、デジモンじゃない。奴らはアルファモンたちに攻撃を仕掛けていくが、アルファモンが切り伏せ、ラストティラノモンが叩き潰した。

 何度もわいてくるが、その度に彼らに叩き伏せられる。

 

「この程度のザコ、俺の敵じゃねぇ!」

「元は高潔な騎士かもしれないが、こんな影に俺は負けないぞイグドラシル!」

 

 やがて、この方法では無駄だと判断したのか次の手を打ってくる。

 イグドラシルのコアを中心に黒い靄と集まってきたクリスタルが形を変えていく。

 どうやらイグドラシルのコアをデジコアの代わりにし、何らかのデジモンを模しているらしい。

 体は赤色に、鳥か竜のような姿。力の圧力が段違いだ……

 

『データロード、完了。クロノモン・デストロイモード』

「うそ、だろ……超、究極体?」

 

 予想すらしていなかった。デジモンの世代に更に上があるなんて……

 しかも、現在のイグドラシルのリソースの限界までしようしている。

 

「それでも、諦めない。俺たちの未来のために」

「神様だろうが、超究極体だろうが、目の前の壁なんかぶち壊せ!」

「正真正銘、これが最後の砦だ。全力でぶつかるのみ!」

「勝ちましょう、です!」

 

 ああ、そうだな……

 

「絶対に、勝つぞ!」

 




イグドラシルとの戦闘がついに始まりました。

色々と矛盾が出ないように調整するのが何とも……


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63.終着、そして始点へ

イグドラシル戦もいよいよ大詰め。


 イグドラシル・コアがクロノモンの姿へ変化した瞬間、この一帯のフィールドも変化した。

 まるで水面の様な床、天井はなくなり夜空のようなものへと変貌を遂げる。果ての見えぬ広大な空間。その中で動く者は自分たちのみ。

 

「これは一体――」

「空間を改変した? 自分の戦いやすいように作り替えたのか!」

 

 すぐにカノンが起こった事象を分析するが、これは口に出したほど簡単な話ではない。一瞬のうちに、自らの望む形へと世界を書き換える。それがいかに強大な力か。

 アポカリモンでさえ自在に書き換えられるわけではない。ダークマスターズも入念な準備が必要だった。

 

「ホメオスタシスと同レベルの権限かと思っていたけどとんでもない、コイツ……デジタルワールドならほとんど何でもできるのか」

「デジモンたちからは神様みたいに扱われているからな……どうする? 対策はあるのか?」

「幸い、イグドラシルも全力を出すことはできない。これもあいたリソースと自分のデータを利用して書き換えただけだ」

 

 今までの戦闘の中でも、イグドラシルが自分自身を増築することはなかった。おそらく、管理者の移行が不完全ながら行われていたのだろう。増築に関しての権限は失っているのではないだろうか。カノンはそうあたりをつける。

 増築できたのなら、それこそ自分に手を出させないような何かを作ったりすればいいのだ。でも、それをしなかったということは……

 

「どれだけの力の差があるかはわからない、それでもやるしかないんだ!」

「聖剣グレイダルファー!」

 

 アルファモンの持つ剣の輝きが増していき、巨大な奇跡となって放たれる。クロノモンは腕を交差させてそれを防ぐが、すぐにラストティラノモンが追撃を行う。

 背中のキャノンにエネルギーがチャージされて、解き放たれた。

 

「ぶっ飛びなッ」

『――損傷率、1パーセント』

「なっ――1パーセントしか削れていないのか!?」

「それでも、ダメージは通っている」

 

 問題は自己修復がどこまで通用しているか。クロノモンの体の表面にはノイズが走っているように見えるが、すぐにそれも消える。

 おそらく自己修復能力は健在。

 

「こっちは消耗しても回復しないってのに、アイツは平気なのかよ!」

「いや……無限じゃない」

「そうは見えないが」

 

 アルファモンとラストティラノモンが連携を行いクロノモンを攻撃する中、彼らの攻撃を上回る速度で回復している。

 二体の究極体の力を合わせても麓に届いている気配もない。

 

「そんな状況で、無限じゃないってか?」

「確かに再生能力は圧倒的だし、力の差もあり過ぎる」

 

 クロノモンが腕を一振りしただけで、二体は吹き飛ばされてしまう。それでもなおたち上がり、攻撃を仕掛けていくが……ジリ貧どころではない。詰みにも近い状況だ。

 マサキは何か突破口は無いかと殴りつけようと動くが――炎の塊が降り注いできた。

 

「うおお!?」

「ッ――」

 

 すかさずカノンが防御壁を貼り、攻撃を防ぐ。しかし、一撃ですべての力を持っていかれそうになるほどの威力。手が震え、視界がかすむ。

 

「おい、大丈夫か!?」

「なんとか……質量が段違いだ」

 

 直後に奴の両腕に力が集まっていく。炎のような形をしたエネルギーの塊が、今にも爆発しそうな勢いで膨張している。

 一撃一撃が必殺と言っていいほどの力を持っているのだ。大質量なんてもんじゃない。一つのドットに無理やり大容量のデータを押し込んでいるようなものだ。通常の法則では考えられないことをやっておきながら、それをただ破壊のためだけに放出するつもりである。

 あれが解き放たれれば、アウトだ。

 

「アルファモン!」

「このッ――」

 

 すぐにアルファモンが組み付いて、その腕を止めようとするが……近づくことさえできていない。高密度のエネルギーがまるで壁のようになっているのだ。

 無理やりにでも押し通ろうとしても一歩も先へは進めない。それどころか、壁に押されて距離を離されてしまう。

 

「コイツッ――」

「なら、これならどうだ!!」

 

 ラストティラノモンの体が放電をはじめ、体中がショートしていく。それでも動きを止めず、背中の大砲へとエネルギーを集めていった。

 現状ではどうすることもできない。その前提を崩す。そのためにはどうするか。

 

「俺の全部、持っていきやがれぇえええええ!!」

 

 オーバーチャージ・テラーズクラスター。名付けるとしたらそんなところだろうか。限界を超えて、自らのデータも力に変換して放った文字通り捨て身の一撃。

 体からは黒い煙を放出して倒れ伏すが、より高密度のエネルギーを解き放つことで壁に穴をあけたのだ。

 

「こっちも、全力で行くぞアルファモン!」

「ああ――わかった。うおおお!!」

 

 アルファモンがわずかな穴へと突入し、剣を突き刺す。わずかに届かない、それでも諦めない。

 両手で剣を握り、前へと突き進む。カノンの胸に紋章の輝きが現れ、光を増していく。

 

「――――ッ、まだだ……まだ終わりじゃない!」

「そうだ、諦めなければ道はできる。どんな絶望的な状況だろうと、活路を見いだせ。前に向かって突っ走れ!!」

 

 アルファモンの背後を駆け抜け、マサキが飛び上がる。人のサイズだからこそ通れたわずかな隙間。それを突き進んでいき、クロノモンの顔面を殴り飛ばした。

 まるで効いた様子もなく、歯牙にもかけぬ様子であるが――それでも、マサキは前に進むことをやめない。

 

「あんたが何を考えてこんなことをしたのか知らねぇし、事情があるのかも知れねぇが――それでも、世界を滅ぼそうとしてんじゃねぇよ! もっと、気張りやがれ!!」

 

 徐々に、その拳がクロノモンを押し始める。

 ありえない。ただの人間がここまでの力を発揮することなどありえない。イグドラシルの予測演算能力に初めて自らが認めるエラーが発生する。これまでのエラーは外的要因によるものだった。

 合理的、機械的な思考で動くイグドラシルにとっては自らの演算が狂う事こそ深刻なエラーとして処理される。外部からのウィルスということが分かっている以上、今までのエラーはイグドラシルの思考を止めるバグとはならなかった。だが、今度は違う。

 

「うおおおおお!!」

『理解不能。理解不能』

 

 正常な状態であっても処理をすることが出来ない事象。故に、イグドラシルの動きが止まった。クロノモンとしての力の発揮にノイズが走り、一瞬の隙が発生する。

 その隙を利用し、アルファモンが前へと更に進む。だが、それでも剣先は届いていない。

 

「だったら、こいつでどうだ!!」

 

 カノンが地面に手をつき、プログラムを書き換えていく。頭の中に激痛が走るが、それでも演算をやめない。

 無理のある改変を行えば自らが危険になるだろう。だが、それでも彼は止まらなかった。

 

「この空間の支配権を奪うことはできなくても、お前のリソースを減らすことはできる!」

 

 紋章の輝きが増していき――再び、無限のマークを示した。

 叫び声をあげ、彼を中心に世界が反転する。空は青空に、水面は草原へと。

 クロノモンにすら何らかの影響を与えたのか、体の一部が白く染まる。

 

「いっけえええええ!!」

「うおおおおお!!」

 

 更に前へと踏み込み、剣を振り下ろす。しかし、その一撃を後ろに跳ぶことでクロノモンはかわした。

 地面に剣がぶつかり、砂ぼこりが上がる。

 

『――――』

 

 理解ができなかった。人の心が見せるポテンシャルと、デジモンの新たな可能性を。

 人とデジモンの心が一つとなった時に、自らの演算能力をはるかに超え、これほどの力を示すなどと。

 アルファモンの放った斬撃は確かにかわされた。だが、その剣の軌跡から炎のような斬撃が放たれたのだ。それは、ガイオウモンの燐火斬。

 アルファモンに進化しても、今までのデータは残っている。バステモンがウィッチモンだった時のデータから魔法を使えたように、アルファモンもガイオウモンのデータからその技を使用したのだ。

 

「これで、終わりだ」

 

 クロノモンの体が真っ二つになり、中からコアが飛び出す。すぐにそのコアを破壊しようと、アルファモンが手を伸ばすが――時間切れだ。ドルモンへと退化していき、体が落ちてしまう。

 

「こんなときに――!?」

「上出来、だよ!!」

 

 まだだ。カノンが走っている。いや、プロットモンがカノンの足代わりをしていたのだ。彼の体もまだ回復していないが、適当にプレートの様なものを作り出し、プロットモンがジェット噴射のように口からエネルギーを放出することで加速していた。

 

「――ゲホッ、あと……おねがい、です」

「ありがとうよ! これで、終わりだアアアアアア!!」

 

 カノンが飛び上がり、コアまで一直線に突き進む。最後の抵抗とばかりに黒い霧が触手のようになり、カノンへ向かうが――カノンの姿が変化する。マフラーの形状が変化し、翼のようになった。触手を避け、コアの目前へ迫る。

 

『理解不能、解析不能、照合――――』

 

 カノンの拳がイグドラシルに届き、甲高い音が響く。

 一瞬の静寂ののち、コアが粉々に砕け散った。その中から何かの機械が出現する。おそらくこれが――

 

「ウィルスデータの塊、でも――――」

 

 カノンの体も動かない。何とか破壊しようと魔法剣を出現させて、斬ろうとするが……カノンの腹部に、何かのカプセルがぶつかってしまう。

 そして次々に色々なパーツが噴き出して彼の体を拭き飛ばしてしまった。せめてデジタマだけは守ろうと鞄を抱きかかえ身を丸める。

 

「――ッ!?」

 

 地面に激突し、荷物がばらまかれる。

 ウィルスデータの塊は、周囲のデータを利用して再生を図ろうとしていた――このままでは、元の木阿弥。

 

「くそっ――せめて、あと一撃」

 

 だが、体が動かない。

 黒い触手を動かし、ウィルスデータが再起動を行おうとしたときだった。光弾が命中し、消滅してしまった。

 

「――――え」

「えへへ、やった……です」

 

 プロットモンが、残った力を振り絞って止めを刺したのだ。まさかの展開だな、と思いつつも気が緩みカノンはどさりと腰を落とした。

 ドルモンも体を引きずってきており、もう動く体力もほとんど残っていないらしい。

 

「……終わった?」

「ああ、完全消滅。時間はかかるかもしれないけど、デジタルワールドの管理者の移行もちゃんと行われる……それに、イグドラシルのリソースをあれだけ削ったんだ…………これで、パンクすることはないだろうな」

 

 体を大の字にして、倒れる。これで、ようやくやるべきことも終わったか――疲れたとこぼすがどうにも様子がおかしい。

 マサキたちは無事だろうかと顔を上げたが、空間に亀裂が走った。

 

「な、なんだ!?」

「これって――」

 

 マサキたちも驚いており、こちらへ向かって来ようとしていたところ――この空間が崩れていった。0と1のデータに分解され、お互いのいる床の間が文字化けしたように奇妙な状態へと変化する。

 

「なんだ、これ」

「マサキさん、こっちに来ちゃいけない!」

「でも、そのままじゃ……」

「大丈夫。僕たちは何とかするから、二人は早く地上を目指してくれ!」

 

 みれば彼らはまだ出口と床がつながっているらしい。ラストティラノモンが動けるかが心配だったが、彼の体が光と共に小さくなっていき、黒色のアグモンへと変化した。

 どうやら、力を使いすぎて退化してしまったらしい。でも、まだ動けるようだ。

 

「はやく、手遅れにならないうちに!」

「でも――」

「僕たちはそっちとは違うところから来ました、だから……未来で会いましょう。いつかまた」

「――――約束だぞ」

「はい」

 

 マサキたちは先へと進む。彼らと一緒に行っても自分たちが帰れるわけではない。それに、不思議と嫌な予感はしていなかった。その様子を見たからこそ、マサキも先へと進めたのだろう。

 この場で真に危険だったのは彼らだ。

 

「カノン、どうするの?」

「なるようになれってところで」

「でも、色々と落ちて行っているよ!」

「フロッピーディスクとかも落ちちゃってます!」

「しまった! さっき落して――――いや、あれでいいんだ」

 

 X抗体のサンプルが入ったフロッピーディスク。それが崩れた空間に落ちていく。時空が歪んでいる。この時空の歪に落ちればどうなるかはわからないが、おそらく別の時空へ飛ばされてしまうのだろう。

 

「なにをのんきなことを言っているです!?」

「そうだよ! おれたちどうなるかもわからないんだよ!?」

「いや、あのフロッピーはたぶん未来にいったんじゃないかな……それで、回り巡ってソウルモンが使ったあのデータになった」

「え……まって、それって」

 

 何故X抗体を彼がもっていたのか疑問だったのだ。どこかで手に入れたにしろ、現代のデジタルワールドに残されているのかも定かではない。残っていたとしても、ヴァンデモンですら手出しできなかった場所にあるはずだ。

 だったら、何らかの偶然で回り巡って彼の元までたどり着いたのだろう……そして、今それはここにある。

 

「でもそれってどこが始点かわからない問題に――」

「そうだ……でもそのために僕たちは過去に来たんだ。だから、他の始点を作るためにまだやることがあるんだな」

 

 時空の歪に落ちていき、彼らは落ちていく。先に落ちたフロッピーディスクを道しるべに進んでいく――小さな物体故にすぐに見えなくなったが、もう大丈夫。方向はあっている。時間軸も問題は無い。

 カノンには自分たちがどこへ向かうのかがわかっていた。

 

 

 そして、全てが始まったあの日へと向かう。

 1995年、光が丘へと。

 




そろそろカノンたちが過去へ戻った本当の理由がわかってきた頃でしょうか。



水着、ガチャ……うっ、頭が。


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64.リスタート

第2章も半分ってところかなぁ。


 気が付くと、涼しい風が頬をなでていた。

 息を吐くと少々肌寒さを感じることが出来る。それに、この肌にピリピリとくる感じ……デジタルワールドとは異なる、大気の息吹。

 ただ、この場に出た瞬間頭に電流が走ったような感じがしたが……すぐに収まったか。

 しかしこの周りの風景、なんかもう懐かしい。

 

「現実世界に戻ってきたみたいだな――で、あのでっかいタマゴは何かな?」

「なんじゃありゃぁ!?」

 

 空が歪み、巨大なタマゴが落ちてきている。いや、アレはタマゴというよりはカプセルと言ったところか。表面は何らかのデータの羅列に見えるが……遠くてよくわからない。

 そして、そのタマゴが割れて中から巨大な何か――緑色の怪鳥が現れた。

 

「あれ、デジモンです?」

「ああ――パロットモン、完全体のデジモンだな」

 

 ということは、ここは……

 

「ねえカノン、この状況って見覚えがあるんだけど」

「分かってる。僕も実際に見ていたしな。それに、改めて教えてもらったし――とにかく、近くまで行くぞ」

 

 ドルモンとプロットモンを抱きかかえ、身体強化をフルに使い走る。この時はどういうわけか人目につかないから全力を出せる。

 とりあえず、手ごろな屋上まで駆けあがればいいだろう。見ると、見覚えのある赤毛の子供が走っているのも見えたが……

 

「あの時は何かに呼ばれたような気がしたんだけど……もしかして、僕がこの時代に移動したのを感じ取ったのか?」

 

 やはりここは1995年の光ヶ丘なのか。小さい時の僕がいるし。

 時間移動をした場合、自分に会ってはいけないという話もあるぐらいだ。何らかの反応を示しても不思議じゃないけど。とにかく、自分に見つからないようにしないといけないな。

 手ごろな屋上から戦いの様子を見る。まだアグモンのままみたいだが……

 

「カノン、そんなに足速かったの?」

「身体強化をフルに使えばこのぐらいはな。流石に悪目立ちするし疲れるからやらなかっただけだよ」

 

 あのミラージュガオガモンとの戦いの中で魔法の腕も上がったからってのもあるが。より効率的な使い方ができるようになったおかげである。

 

「しかし、アグモンなのに結構でかいな……」

「なんか不思議な感じだね、成長期のデジモンのはずなのに異常進化しているっていうか」

 

 通常の個体とは明らかに異なる。あの時はグレイモンとパロットモンしか見ていないし、小さかったから周りもちゃんと見ていなかった。

 太一さんたち8人以外にも、結構子供が見ていたようだ。

 

「……たしかホメオスタシスはヒカリちゃんのデータと共通するものを持つ子供を選んだって言っていたか」

「どういう事なんだろうね?」

「さぁな」

 

 やがて、アグモンは劣勢となり歩道橋か何かが崩れ落ちてしまった――何らかの力の波動を感じ、その直後にグレイモンが姿を現した。横を見ると、ドルモンも眠気眼だったのがしゃっきりしている。

 

「復活!」

「ってことはヒカリちゃんか。それか、太一さんとの相乗効果。異常進化させたのはヒカリちゃんだろうけど」

 

 この後の決着は知っているし、準備をした方がいいだろう。デジタマを取り出して記憶から思い出せる限りの状況をひねり出す。たしか、あの時は……どこかの路地裏でデジタマを見つけたんだよな。

 おばあちゃんの家と、この場所の位置関係からするに……よし、大体の目星はついた。

 この場を立ち去ろうとして、ふとグレイモンの方を見ると決着がつくところだった。メガフレイムなんてもんじゃない。言うなればメガバーストってところか。炎のブレスがパロットモンを吹き飛ばしていた……よくよく考えたら、あのグレイモンって世代とか無視しまくりの個体だな。データもはっきりと読み取れないし。

 

「見入っている場合じゃなかった。僕たちも仕上げをしないと」

 

 屋上から降りて、先回りをする。この時代の僕が来る前に目的地にたどり着いて、デジタマを下ろす。

 確実に持って帰って貰わないといけないから隠れて様子をうかがうが……

 

「ねえ、やっぱりあれっておれなの?」

「そのはずだよ。過去に戻ったのはドルモンが誕生して僕と出会うという出来事を果たすためだったってことなんだろうな」

 

 随分と回りくどいが、イグドラシルの暴走よりもそちらが重要なことだったらしい。すでに歴史では起きたことだが、その起きたことを僕たちがやらなくてはいけないというのは……

 

「ってそれじゃあカノンはえらばれし子供って言うよりも――」

「自分で選んだことになるな。だからアイツらしきりに0人目とか言っていたのか」

「……それでいいの? 自分でわざわざ戦う道を選んだりして」

「決めたことだし、自分から飛び込むんだ。後悔なんてないさ――それに、ほら」

 

 この時代の僕がやって来て、デジタマ――ドルモンを持ち上げた。その顔は、未知なるものへの期待や興奮で彩られていた。

 

「……案外、恥ずかしいな自分のあんな顔見るのって」

「うれしそうな顔です!」

「あ、あはは……ノーコメントで」

 

 なんだろう、若干後悔してきた……

 

「でもよくわかったね。あのデジタマがおれだって」

「最初に見たときにそんな予感はしていたし、それにお前ってプロトタイプデジモンじゃないか。そんなデジモンが、あの中枢以外にいるとは思えなかったんだよ」

 

 全部の区画を見て回ったわけじゃないが、他にも保管されているデジモンやらがいたみたいだ。バステモンに施されていた封印も元はあそこで使われていたプログラムか何かじゃないかな。

 助け出すという選択肢もなくはなかったのだが、中には危険なデジモンもいるだろうし……それに過去に過度な干渉をするのは危険だ。

 

「丈さんたちにお前がデクスドルゴラモンに進化していたのを聞いていたってのも大きいかな。でもこうしてこの時代の僕がデジタマを持って帰ったことで色々と確定したわけだけど……」

 

 まさしく、ホメオスタシスの言っていた通りに僕を良く知る人物がデジタマを託したわけだ。そりゃそうだよ、だって自分自身だもの。それも未来の。

 この先に起こることを知っているんだから、間違った進化はさせないもの。

 この時代の僕、これから先大変なことがいっぱいあるし、辛いことや苦しいこと、逃げ出したくなることはたくさんある。それでも、たくさんの出会いや冒険、大切な思い出ができるんだ。

 だから、頑張れ。

 

「さてと、パトカーもやってくるだろうしいかにも怪しい格好の僕らがいるとマズいよな」

「だねぇ……それで、どこに隠れる?」

「光が丘だし、公園の近くにでも行けばいいかなとは思うけど」

 

 しかし他にやるべきことがあるんじゃないかとも思うわけで、これで終わりとはあっけないというか。

 

「これでいいんだよなぁ……たぶん」

「たぶんって……」

 

 いや、流石に確証がないというか推察に推測を重ねて予測で行動したみたいな頭の悪い感じの出来事だし。

 なんか流れに身を任せていたらこうなっていたというか……

 

「なるようにしてなった、ってことだろうね。あんまり気にし過ぎてもしょうがないよ」

「なんだかなぁ……で、どうやって帰るんだよ。流石にノーヒントじゃキツイ」

「また時間移動です?」

「手段がないからなぁ…………この時代にベルゼブモンがいるかはわからないし、あったところで時間移動に関して知っているかは微妙なところだし」

 

 いくらなんでも時間移動を僕自身が行う事なんてできない。っていうかそれこそ神の所業を越えている。

 と、悩んでいるといきなり目の前の空間が歪み始めた。これって、デジタルゲート? しかし、そこから骨で出来たような巨大な腕が伸びてきたことで僕たちは放心してしまう。

 

「――え」

「ちょ、逃げ――――」

 

 とっさに逃げようとするも、すぐにその腕に掴まれてしまい歪んだ空間の中へ引きこまれてしまう。

 妙なねじれと圧迫感を感じながら僕たちはその腕によってどこかへ連れ去られてしまったのだ。

 

「ただ、これ骨じゃなくて木で出来ているね!」

「それこそどうでもいいだろうが!!」

 

 むしろそんなくだらないポイントでも考えていないとこの状況にパニックになりそうだった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 再び体が変換されていく。妙な息苦しさを感じながら、次元の壁を突破しようとしていた。

 体がミシミシと悲鳴を上げて、やがて霧の立ち込める丘へと放り出される。

 

「うわぁ!?」

「――げふっ」

「ですぅ……ここ、どこです?」

「乱暴な転送だな……デジタルワールドみたいだけど、なんだか妙な場所だな」

 

 なんとなくデジタルワールド中枢に似た空気を感じるが、微妙に異なるというか……位相(・・)が異なるといった感じがする。自分たちの知っているデジタルワールドなんだけど、次元が半歩ずれているとでもいえばいいのか?

 とにかく、通常空間ではないみたいだ。

 

「…………どこなんだろうな、ここ」

「さぁ? 石碑がゴロゴロしているし、木の根っこみたいなのが飛び出ているね」

 

 解析してみればわかるかもと思ったが……なんだろう、ハッキリ見えない? もっと集中すればわかるだろうか――――ッ!?

 集中してデータを読み取ろうとしたとたん、強烈な頭痛が駆け抜けた。頭が割れるどころじゃない。まるで、銃弾を受けたような突き抜ける痛みだ。

 

「カノン!?」

「しっかりするです!」

「……大丈夫、ちょっとびっくりしただけだ」

「それにしてはひどい顔だよ?」

「…………そりゃあ、あれだけの情報量を一気に読み取っちまえばな」

「あれだけの情報量って……」

 

 一瞬だけでも頭がパンクするかと思った。今読み取ったのはおそらく、歴史のデータ。それも、数万年分を一気にだ。しかも詳細な部分を含めた膨大なテキスト。あまりの量に記憶すらできていない。

 それにこの根っこ……ようやくわかった。

 

「ここはイグドラシルのサーバー本体だ」

「本体って……コアはおれたちが壊したはずだよ!?」

「ああ、そのはずだったけど……元々根底にあるシステムだ。あのコアもデジタルワールドに出力するためのもので、記憶装置やら演算装置やらの本体は別にあったんだよ。それが、このバカでかい樹だ」

 

 霧が立ち込めているが、ようやく見えてきた。上を見上げると葉っぱは無く、焼け焦げたような枯れたようなそんな大樹が存在していたのだ。根っこはまさしくこの大樹の根だったということ。

 情報樹イグドラシル……そうだ、僕は前にここへ来たことがある。夢の中でのことだったはずだが……

 

「はっきりとは覚えていないけど、ここで何かがあったんだよな」

「で、どうするの? こんなところに連れてこられて……あの右手、なんだったの」

「その右手も見たことあるんだよ……光子郎さんがいればすぐに調べられるんだけど、僕じゃ直接データを見るだけで検索まではできないんだよなぁ……まてよ? イグドラシルを使えばすぐに調べられるんじゃないか?」

 

 なにせデジタルワールドの情報がすべて刻まれているんだし。

 歴史データは危険だから触れたくないが、デジモンの情報を検索するだけならいけるんじゃないだろうか? そう思って意識をイグドラシルに接続しようと――――

 

『――――イグドラシルへのアクセスを確認。不明なコード。殲滅を開始します』

「なんだ!?」

「不用意に触るからぁ」

「触ったわけじゃない! 意識をつなげようとしただけだ!」

「同じことだ!」

「来ますです!」

 

 流石に言い合いをしている場合じゃない。何かが転送されてくるのを感じる。

 小さなキューブが集まって、デジモンの形へと変換されていく。緑色の鎧に、悪魔の様な翼。それが10枚。そしてバッテン印みたいな顔の兜……オイオイオイオイ。

 

「あれも夢で見たことあるぞ――名前は、ブラックセラフィモン」

「殲滅対象発見。排除スル」

「カノン、どうする?」

「現代へ戻るためには倒すしかないだろうな……どのみちイグドラシルを使わないと帰れなさそうな気がするし、魔王型のデジモンもどこにいるのやら……ドルモン、時間を置いてないけどいけるか?」

「回復してるから大丈夫! いつでもオーケー」

「そうか。なら、昔のリベンジだ――ぶっ倒す!」

 

 サイズは人間大。ホーリーエンジェモンと同サイズってところか。だったらこいつで――

 

「ドルモン、ワープ進化――ガイオウモン!」

 

 かつての出会い、はじまりの日。そして、最初の敗北。たくさんの出会いがあった。戦いがあった。別れがあった。辛いことも悲しいことも、楽しかったことも、今僕たちがここにいるのはその全てがあったからだ。

 これがはじまりではない。されど、最後でもない。道半ばの戦い。それでも、これは再出発のためのものだ。ココから再び始まる。

 

「今までの全部を乗せて、お前に勝つ!!」

 




ようやくこの戦いに持ってくることが出来た。
序章時点でこの場面まで持って行こうと色々やっていたけど、結構長くかかった……

そして、巨大な右手の正体とは――いや、バレバレでしょうけどね。名前は前に出しているし。


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65.霧の中の戦い

とりあえずどのくらいで完結するか試算……アプモン最終回よりも遅いだろうなとあきらめる。


 最初に動き出したのはどちらだったか。ガイオウモンの刀とブラックセラフィモンの拳がぶつかる。手にまとった暗黒のエネルギー。その力と拮抗し、周囲の空間が歪みだす。

 

「ぶつかり続けるな! そいつ、ただのデジモンじゃないぞ!」

「わかった――切り替えていく!」

 

 距離をとるように動き、燐火斬を使用して遠距離から攻めていく作戦みたいだ。

 だがブラックセラフィモンも斬撃を弾き飛ばし、距離を詰めていく。

 何かできないか? この状況、僕にもできることを……

 

「天使なのに悪魔みたいです……」

「プロットモン? それって――――ッ!?」

 

 プロットモンの発現が気になりブラックセラフィモンの情報を引き出そうと、更に見続けたことで眼球に少し痛みが走った。だけど、それもすぐに収まり奴の情報がより多く引き出される。

 ブラックセラフィモン、究極体。熾天使型のデジモン。ウィルス種。元来は天使系高位のデジモンであるセラフィモンが変質した姿。完全な堕天ではないため、現在でも熾天使型のままである。

 なお、この個体は情報樹イグドラシルのセキリュティとして在中している存在。イグドラシルと接続されていることで、瞬間回復能力をもち、エネルギー値が無制限。

 

「ってなんだそのチートは!?」

「イグドラシルヘノ不正接続ヲ確認、排除シマス」

「カノン、そっちに行ったぞ!」

 

 って、どうやら情報を引き出そうとするあまりにイグドラシルに接続してしまったらしい。スムーズにいくもんだから……とにかく、防御しないと――

 

「”ブレイブシールド”!」

「――異常ナ数値ヲ確認。個体名――――モン、エラー。エラー。個体名ノ認識不能」

 

 魔力を放出し、半透明のブレイブシールドを構成していた。咄嗟のことだったのに、成功するなんて……間違いない。この空間では、僕の魔法の性能も底上げされるんだ。情報を多く引き出してしまったのもそれが原因。

 だったら、最大限利用してやる。

 

「プロットモン、危ないから離れてて!」

「わかったです!」

「ガイオウモンはスライド――スピード勝負で行くぞ」

「スライド進化――ディノタイガモン!」

 

 ディノタイガモンの背に乗り、一気に加速していく。奴のエネルギーはほとんど無限。それに、回復力を考えると……一撃でぶっ倒さないとダメだ。

 奴が黒い光弾を放ってくるのを避けていき、チャンスをうかがう。

 

「どうするんだ? 俺がバーストモードでやった方が速いと思うが」

「確かにそれも一つの手だけど、膨大なエネルギーで防御されたらアウトだ。だから、まずはあいつの優位性を崩す」

 

 手に魔法剣をだし、奴とぶつかる。ディノタイガモンがうまく立ち回ってくれる中、奴の右腕に狙いを定めて剣を投げつけた。

 

「――ッ!」

「野郎、はじき返したぞ!」

「計算の内――背中が、がら空きってな!」

 

 クルクルと回転し、魔法剣がブラックセラフィモンの背中に突き刺さる。麻痺プログラム封入の一品だ。流石にすぐに治癒されるだろうし、そう長いこと足止めはできない。

 だから、次の一手を打つ。

 ディノタイガモンの背中を蹴り、前へと飛び出す。流石に抗議が来たが今は気にしていられない。奴のマヒが解除される前に、次のプログラムを打ち込まなくてはいけないんだ。

 

「排、除――」

 

 奴の腕が動き出し、僕を切り裂こうとして――

 

「生憎だけど、その技は前に見ている!!」

 

 ――それは、僕が夢で見た攻撃だ。以前の失敗を二度も繰り返すかよ。

 小さなものだが、防御力を上げまくった障壁を展開してそらす。イメージはウロコ。小さな鱗がたくさん集まった盾を纏い、奴の攻撃を受け流したのだ。

 さらに右腕に、貫通力のある武器をイメージする――いや、もっと貫く様にえぐるように――――魔法剣を出現させ、更に変質していく。螺旋を描く様にグルグルと回転するそれは、ドリルのようにも見えた。

 そして、ブラックセラフィモンの腹部へと突き刺さる。

 

「ブレイクドラモンのイメージが入ったけど、これならどうだ!」

「――――、エラー。エラー。供給率、ゼロ。エラー。復旧開始――」

 

 ノイズが走るように、ブラックセラフィモンの様子が変わる。これでももって数秒。今もイグドラシルのバックアップは受けている。

 ただ、この一瞬でもイグドラシルと僕は更につながった。だからこそ、わかったこともある。今のイグドラシルには意思と呼べるものはほとんどない。ブラックセラフィモンもイグドラシルに指示を扇いでいる形になるが、実質ブラックセラフィモンからのリクエストがそのまま通っている。

 セキリュティとして破たんしているし、イグドラシルも物言わぬ機械の様な状態だ。僕たちが過去でコアを破壊したからか? いや、それにしては静かすぎる……

 

「でも、このタイミングで決めるしかないぞ――スライド、」

「進化ァアアア!!」

 

 ディノタイガモンの姿が変化する。巨大な銀色の体、ドラゴンの姿。僕たちが最初に到達した究極体、ドルゴラモン。そして、さらにその姿が変質する。

 紅蓮に染まり、膨大な力を放出する。ドルゴラモンの持つ破壊の力が更に強化された姿。

 

「バーストモード!!」

「――未知ナル力ヲ検知。対抗策――――無シ。プログラム復旧、ウ……」

 

 機械的に処理し続け、最後はドルゴラモンの一撃で腹部を貫かれていた。奇しくもそれは僕が剣を突き刺した位置と同じだった。彼の拳が、ブラックセラフィモンを貫通している。

 泡が膨れるようにブラックセラフィモンの体が崩れる。何とか自らの体を保とうとするが、すぐにそれも終わる。やがて静かに空気に融けるように消えていった。

 こうして、過去に決着をつけるための戦いが終わったのである。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 流石に疲れたため、地面に腰を下ろした。ドルモンも体を伸ばしてほぐしている。

 

「疲れたぁ……普通に戦っていたら勝てなかったかもね。回復されまくって」

「だな。早々に気が付いたのは良かったよ。しかし結局アレは何だったんだ? っていうか今って時間軸どの辺なんだろう……」

 

 僕が夢で見たときは確かダークリザモンとの戦いの後だっけか。やばい、もう何年も前で記憶があやふやだ。たしか、あの時は巨大な腕を持った誰かが……巨大な、腕?

 

「まさか、あのセキリュティを突破する者がいるとは……人間、とデジモン? それもX抗体を持った存在のようだが――なんと、別時間の存在がいるとは面白い」

「――あんたは、確か……バグラモン」

 

 そうだ、光子郎さんのアナライザーで見たことがある。どこで会ったのか記憶があやふやで忘れかけていたが……思い出した。僕は彼の力で夢から脱出したんだ。いや、今思えばあれも夢とは思えない……

 

「私を知っているようだが……生憎、君の認識とは異なり私は初対面だよ」

「魔王型……なるほどホメオスタシスが言っていたのはあんたのことか」

 

 僕がそう言うと、バグラモンは少々苦い顔になった。なんだろう、地雷を踏んだのか?

 

「……その様子では私とホメオスタシスの関係は知らないようだな。しかし、終わったことだ。気にする必要はない」

「そう言われると余計気になるんだが……」

「……杉田マサキという男を知っているか?」

「一緒に戦ったこともある。それに、今より未来で仲間を助けてもらった」

「そうか……私はホメオスタシスに反旗を翻し、戦ったのだが彼に倒され、この空間に封印されているのだ。もっとも、ホメオスタシスの元に戻るのを断り、ここに隠居していると言った方が正しいがね」

 

 ……なんだろう、この感じ…………ちょっとひねくれているおじいちゃん的な空気を感じる。魔王型のはずなんだが、悪っぽくないというか……たぶん元は高位の天使型デジモンだったと思うんだけど、その右手の圧力やら纏っている雰囲気から奇妙な印象を受ける。

 絶大な力を持っているのに、それが表に出てきていないというか……って言うか、マサキさんアンタ何をしているんだよ……僕と戦う前なのか後なのか――

 

「ってその右手、イグドラシルの一部なんじゃ」

「ああ。廃棄されたイグドラシルの一部を使い、欠けた体を補っている。イグドラシルと接続することで色々なことが出来るので、元の体以上に重宝するよ」

「やっぱりかぁ……ってことは僕たちがイグドラシルを破壊した後かよ」

「どうやら君は色々なことを知っているようだ――それに、イグドラシルと接続をしている。私の様な媒介なしで」

「? 媒介ならこのデジヴァイスがあるけど……中にイグドラシルの破片から作った基盤が入っているし」

「――――なるほど」

 

 なんだろう。この人の眼が光った途端じろじろ見られているというか……読まれているって感じたんだが。ドルモンたちも冷汗を流して後ずさっているし。

 

「なんだか、このデジモンってカノンに似ている」

「ひどくね!?」

「ふはは……確かに、君と私はある意味ではとても近しい存在だ。時間軸上ではこれが最初の出会いとなるだろうが……なるほど、これから先、幾度と出会うことになるだろう」

「っていうかさっきから未来を見ているような感じを……もしかして、その眼」

「ああ。イグドラシルの機能も合わせているが、未来予測を行うことで擬似的に未来を視認できる。君は非常に数奇な運命の元に生まれているようだ……」

 

 バグラモン。賢人とも称されるデジモンで、魔王型でありながら賢者に近い気質の存在。

 詳しいデータは不明だが、七大魔王クラスの力を持っている。

 

「だから私と似ていると言われるのだ。そうやって、イグドラシルの力を使い情報を読み取る」

「――あれ、無意識に……」

「まだ未完成の器とはいえこれほどか……なるほど、ホメオスタシスは私に君を押し付けたようだな――いいだろう。以前騒がせた借りを返そうじゃないか」

 

 バグラモンは何かに納得すると、歩き出した。ついてきたまえと言い、僕たちの先を行く。

 まあ彼についていくしかないし……仕方がないか。

 

「行くぞドルモン、プロットモン」

「結局そうするしかないのかぁ……一体何者なのかな?」

「あんまり怖い感じはしないです」

 

 プロットモンの言う通り、怖い感じはしないのだが……油断ならない感じはするんだよな。

 バグラモンの後をついていくこと十数分。そこそこ歩くな……傾斜もきついし、霧も出ていて歩きにくい。

 森の様なエリアに近づいていくと……目的地と思しき場所が見えた。霧の中に出てきた影は風景に合っているけどこの場所に存在していていいものなのか迷うところだが……

 

「なんでロッジ? しかも湖まで……」

「私の家だ。都合四人で暮らしている」

「同居者もいますと!?」

 

 封印されたーとか言っていた割にはのんきな感じである。

 いや、自分から隠居しているみたいだし合っているんだろうけども……なんだろう、結構お茶目な方?

 と、近づいてようやく気が付いた。四人で暮らしているとは言っていたけど……他の三体も究極体クラスだ。力を大分抑えているのかここまで来ないと察知できないなんて……

 

「あまり気にすることはない。我々のように長い間研鑽を積むと最終的に力を抑える方法を模索しだしてしまうのだよ。なまじ存在が大きすぎるのも考え物でね」

「力の差があり過ぎる……」

「いや。それはどうかな?」

 

 ? それってどういう……尋ねようと思ったが、その前にロッジの中から誰かが出てきた。

 バンッ、と大きな音を立てて人影が迫ってくる。和服の様な格好に、黒い髪。女性みたいだが……この人もデジモンだ。やはり、究極体――それも魔王型。

 

「なんだか騒がしいと思ったら、変わったお客さんねぇ……なかなかの魔力、味見してもいいかしら?」

「な、七大魔王――リリスモン!?」

「ちょ……どういうこと!?

 

 情報が入ってきたが、あまりのビッグネームに驚いてしまう。いや、どこかで聞き覚えもあるような……そうだ思い出した。前にバステモンが言っていたんだ。マサキさんがリリスモンを倒したって……

 

「倒されたって聞いていたけど……」

「アンタ、あの男の知り合い?」

「共にイグドラシルの破壊を成し遂げた少年たちだ」

「ふーん……ま、いいわ。アタシと他の二体もそうだけど半死半生の状態でここに封印されているの。帰れなくはないんだけど、色々と面倒なのよ。アンタもアタシ達七大魔王並みに相当面倒な存在みたいだけど」

「さっきも気になったけどそれってなんの話なのか……」

 

 さっぱりわからないんだけど、と続けようとしたらリリスモンが僕の頭を掴んだ。いや、貴女に触れられるのはアウトだと思うのだが。しかも右手……

 この右手で触られると、腐食するハズだぞ。

 

「それをどこで知った?」

「――あれ? いま検索かけたっけ?」

「カノン……なんだか、この世界に来てからどこかおかしいような…………」

「ちょっと、別の人みたいです」

「なるほどなるほど、この子借りて行ってもいいかしら?」

「そのつもりで連れてきたのだ。私よりも君の方が専門だろう」

「そうね――それじゃあついていらっしゃい。稽古つけてあげるわ」

「え、ちょ!?」

 

 いきなりリリスモンに連れられて、別の場所に。ドルモンたちが置き去り何ですが!?

 っていうか何だか厄介なことになったような……

 




バグラモンが校長陛下みたいになってるな……

ここでリリスモンとは誰も思っていなかっただろうと(ry
あらかじめ言っておくと、バグラさんちの他二体もいます。そっちもたぶん次回で。


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66.ステップアップ

色々と独自設定マシマシ。


 リリスモンに連れられてやってきたのは、草原のような場所。なんだか見覚えがあるような気もするが……

 

「さて、どうしたものかしらねー」

「それよりも頭を放してください! 死んじゃう、僕死んじゃう!」

「ちゃんと魔力コーティングして腐敗しないようにしているわよ。流石に何でもかんでも腐敗させたら不便だもの」

 

 それでも精神衛生上悪いです!

 ほいっと無造作に投げ捨てられ解放されたが……怖かった。かつてないほどに。

 

「まったく情けないわね」

「いや、貴女のことを知っていたら誰だってそうなりますって」

 

 リリスモンの右手は触れたものすべてを腐敗させるという強力な力を持つ。七大魔王に恥じぬ力の持ち主だ。触れられたらアウトとかすさまじいにもほどがある。

 

「……で、それはどうやって知ったの?」

「――――あれ?」

 

 言われて疑問が浮かんできた。いや、イグドラシルから引き出しているのは分かっているのだがあまりにもスムーズに情報を引き出していやしないかと。

 

「アンタのその力は、陛下と同種……いえ、根っこは違うわね。やっていることは非常によく似ているけど」

「……七大魔王なのにバグラモンの下についている?」

「そこはどうでもよろしい。まあ、昔色々とあったのよ。こんどあの男に会ったときにでも聞きなさい」

 

 あの男って……マサキさんのことかな? まあ、事情は知っていそうだし会えればその時でいいか。リリスモンは教える気ないみたいだし。

 リリスモンは顎に手を当てて何かを考えると、それしかないかとつぶやいて手のひらに魔法陣を展開した。

 

「コレがどういう魔法かわかる?」

「……闇属性、下位砲撃。魔力弾を打ち出す魔法」

「素質は十分みたいね。魔法の知識はどうやって手に入れたの?」

「ほとんどは独学だけど、ウィザーモンのデータを貰って彼の知識を譲り受けた」

「見たところそのようね。でも、まだ器が完成していない……」

 

 器? 体がまだ子供と言う事だろうか。いや、そんな感じじゃないみたいだが……どういうことなのかさっぱりわからない。

 

「言葉で説明するのは難しいのよねぇ……アタシ、基本人に教えるタイプじゃないし」

「というかさっきから何の話なのかがさっぱり何ですが」

「簡単に言えば、アタシが教えてやるって言っているのよ。魔法をね」

 

 ……え゛?

 

 ◇◇◇◇◇

 

 一方その頃、ドルモンたちはというと……

 

「カノンがー!?」

「お、おいかけるです?」

「まあ待ちたまえ。君たちにも話がある」

 

 バグラモンがそう語りかけ、この場に留めていた。

 ドルモンたちとしては早いところカノンを追いかけたいのだが、この魔王の力はとてつもない。下手をしたらアポカリモンに匹敵するほどだ。

 だからこそ、ドルモンはそれが疑問となった。

 

「そんなに強いのに、マサキたちに負けたのか?」

「ああ。力の強さだけがすべてではない。君たちもそれは知っているのではないかな」

「……」

「沈黙は是。昔、彼らと戦争の様な事をしてね……私、リリスモン。それにタクティモンとブラストモン。それから配下のデジモンたち……イグドラシルからホメオスタシスへ管理者が移行し、様々なことが起きた。私は私の理想に従い戦った。破棄されたはずのイグドラシルシステムを発見し、それを用いていたためイグドラシルとホメオスタシスの対立と当初は思われていたがね」

「……それって、バステモンが言っていた?」

「デジタルワールドと人間界では色々なズレがあるから何とも言えないが……君の言うバステモンはホメオスタシスに仕えているバステモンか?」

「うん。魔法の使えるバステモン」

「ああ、彼女か……少しだけ知っているよ。なるほど、今は人間界にいるはずだが……いや、君たちには時間軸は関係のない話だったな。今も、昔も。未来でも」

 

 バグラモンが何か意味深な言葉を言っているが、ドルモンたちにはそれが何を意味しているか知りようもない。カノンならば何か思い至った可能性もあるが。

 

「それで、なんでカノンを?」

「彼はまだ自分が何者なのかをまったく理解していない。器も未完成、それに魔法の使い方も甘すぎる。ようやく入り口に立ったレベルだ」

「でも、究極体にも効くんだよ?」

「一時的に麻痺させたりが限度だろう? 彼が自分のうちに眠る力を理解したのならば、今の状態でもダメージを与えることすら可能になる」

 

 まさか。そう思ったがドルモンだって何度も見たことがある。カノンが人間の範疇をはるかに超えた力を持つことを。魔法を使い、ブラスト進化を引き起こした。同年代の子供よりもはるかに高い知能。

 

「…………」

「おそらくは、彼が生まれる際に何らかのアプローチ――いや、そうじゃないな」

 

 バグラモンがその右目を光らせている。この目を使うことで彼は様々な事象を知ることが出来る。故に、カノンのことも見ただけで何者なのかを知ることが出来た。彼が持つ運命も含めて。

 

「器が完成してしまえばもう後戻りはできない。それでも彼は突き進むのだろう……その先に、彼が彼たる理由を知るはずだ」

「理由?」

「ああ。物事には必ず理由がある。君が生まれた理由は既に見てきたのだろう? Xプログラムの化身よ」

「――――」

 

 それは、ドルモンが見ないようにしていた事だった。

 プロットモンも不安そうにドルモンを見ている。デクスドルゴラモンはプロトタイプデジモンのデジコアとXプログラムを融合させることで誕生していた。その際に使われたXプログラムは、デジタルワールドに残されたXプログラムをすべて注ぎ込まれている。ならば、そのデクスドルゴラモンが転生したドルモンは一体どんな存在なのか。

 

「……そうだよ。おれは、この世界を滅ぼすために生まれたデジモンだ」

「私が言っておいてなんだが、そう悲観することはない。君の出生にも必ず理由がある。この時間退行は君が君である理由を見つけることが重要なのだ。いずれ、この旅が必要なものであったことを知る時が来るだろう」

「…………なあプロットモン、カノンには言わないでくれよ」

「はい、です」

 

 カノンもその点には気が付いているハズだ。それでも、何も言わない。

 いかなる理由があろうとも、直視することは困難な話だ。それに実際にXプログラムから生まれたX抗体の力が無ければ危ない場面だってあった。

 

「分かってはいるんだけどなぁ……」

「デジモンも、自身の存在を疑問に思い壁にぶつかる時がある」

「……バグラモンも、壁にぶつかったの?」

「ああ……大きな壁にな。もっとも、その壁を壊してしまった人間もいたのだが。人とデジモン、双方の力が合わさった時に生まれる可能性は無限だ。良い方向にも悪い方向にもいってしまうが……」

 

 バグラモンが空を見上げる。そこには様々な思いが込められているのだろう。

 もう終わった話であるし、語って聞かせることでもない。ただ、戦いがあった。それだけだ。

 

「…………いかんな。一つ失敗したことも思い出してしまった」

「失敗?」

「ズワルトのデジコアが無事にデジタマになっていることを祈るばかりだが……こればかりは私にもどうなるかわからない」

 

 詳しく聞かせてくれるつもりはないようだが、少し顔に苦さが浮かんでいる。

 大失敗というほどでもないようだが、何か心配事でもあるらしい。

 

「ズワルトってデジモン?」

「ああ。コードネームのようなものだがね。正式な名前は私も知らない。データベースも文字化けしていて読み取れないのだ……ブラックデジトロンという物質を取り込んだ聖騎士というのは分かるのだが…………タクティモンと共に討ち取ったのはいいのだが、力の調整がまだ完璧ではなかったために時空の歪にデジコアが落ちてしまってね。通常ならばデジタマへ転生するはずだったのだが……おそらく、別の時間に飛ばされたのだろうが」

 

 未来ならばまだいいが、過去だと少々マズイ。

 現代に影響が出ていないことを踏まえると未来に飛ばされたと思うべきなのだが……ちなみに、消滅はまず無いと考えている。アレはX抗体以上の力を持った存在だった。次に生まれ変わる時にどんなデジモンになっているかはわからないが。

 

「そこまでして倒すデジモンだったの?」

「ああ。イグドラシルが自ら封印したイレギュラーな個体だったようでね。そのままにしておくのも危険だったのだよ。デジタルハザードに匹敵する存在だったため、メギドラモンやミラージュガオガモンのように私自ら封印を行う必要があったのだが……想像以上の力を持っていたため、やむなくという形だ」

「あのミラージュガオガモンよりも強いデジモン……」

「それって、あの遺跡のです?」

「君たちはアレと戦ったのか」

「むしろ倒しちゃったけど――――バグラモン?」

 

 ドルモンがそう言うと、バグラモンは目を丸くしていた。いったいどうしたのだろうかと思うと、はははと彼が笑いだす。ツボにはまったという感じではないようだが、何が面白いのだろうかと首をかしげる二匹。

 

「いやなに。バーストモードを習得していることからもしやと思ったが、そうかそうか……誇りたまえ。君の力はデジタルワールドでも最上位に近いものだろう。通常のデジモンならば歯が立たないほどに。立ち向かえば、ことごとぐが破壊される」

「破壊神か何かになったのかおれは」

「ドルゴラモンの力を考えれば、似たようなものだ。そういうデジモンだからな」

「そんなぁ……」

「もっとも。持続時間はいまだ短いようだが……そうだな、ブラストモンだと加減ができない。タクティモンと戦ってみればいいだろう。君の力を引き出してくれるはずだ。それに、デジヴァイスを最適化させる参考になる」

「……へ?」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 場所はカノンたちのところに戻る。

 カノンの周囲にはいくつものリングが展開されており、それぞれ違う属性の魔法だった。

 

「並列操作がこんなに難しいだなんて……」

「まだ計算に頼り過ぎているわよ。アタシたちの魔法は高級プログラム言語。もっと抽象的でも発動可能。それに、アンタのうちに眠る力を少しでも引き出せればもっと強力な魔法だって使えるのよ」

「そうは言われても、これ結構キツイ」

「文句を言う前に反復練習」

 

 スパルタだなぁと思いつつも、それを口に出したら何をされるのかわからない。

 カノンは今まで実戦の中で力を伸ばしていたが、実はこうした本格的な特訓は初めてだった。というのも、現実世界では特訓できる環境が無かったのだが。

 いつものように第六台場を使用してもいいのだが、流石に派手なことはできない。そのため、日ごろからちまちまとした作業で訓練していた。

 

「大規模な処理はあまりやったことなかったっけ……で、これでどうすればいいんですか?」

「まあまあね。ウィザーモンのデータに頼らずに、アンタのやり方を模索しなさい。魔法剣はいい線行っているわよ。元になったデータはあるようだけど、自分のオリジナルになっているようだしね」

「そういえば、アルファモンの聖剣グレイダルファーに似ているけど……なんか関係があるのかな」

 

 双剣グレイダルファーが元となっているが、見た目はアルファモンの聖剣に似ている。しかし、あの魔法剣を使いだしたのはアルファモンを見る前だった。

 偶然なのだろうかとも思うが……リリスモンは少し考えた後おそらくと前置きして話を続ける。

 

「偶然ね。蓄積したデータを光の剣として使うのに最も適していた形にたどり着いたのよ。込められた属性は違うみたいだけど」

「込められた属性?」

「そう。アルファモンについては一応知っているんだけど、あくまでデータ上ね。それを踏まえても聖属性の力しか使えない剣よ。でも、アンタのは違う。属性の部分は好きに変えられるハズ」

「それって……」

「ええ。炎の剣でも水の剣でも自由にね。言うなれば、”魔法剣グレイダルファー”ってところかしら。人間の身でデジモンの技を生み出すって時点ですさまじいのだけれど」

 

 もっとも、普通の人間じゃないからいいのか。最後にそう呟いたが、カノンの耳にはそれは届いていなかった。

 自分の力の新たな可能性を見出されて、頭の中に構想が編まれていく。今までの戦いと手に入れた力。苦い思いも含めて――両手に剣を生み出していた。

 

「――――、一言でここまで化けるだなんて。それに、その力は」

 

 カノンの右手には光で出来た剣。左手には闇で出来た剣が握られていた。

 

「まったく、ルーチェモンかアンタは」

「……前に、僕がブラスト進化させたエンジェウーモンがマスティモンってデジモンに進化していたのを思い出したんです。相反した力であっても両立できないわけじゃない、ってね」

「だとしても普通は実行しないわよ……それに、ブラスト進化か」

「知っているんですか?」

「ええ。陛下も調べていたけど……デジモンのリミッターを外部から解放することで行う進化よ。デジモンだけでは不可能だから陛下も詳しくは調べていなかったようだけど…………バーストモードの方に注目していったのよね」

「バーストモードは確か……内部から解放しているんだっけか」

「ええ。どっちもリミッター解除だから併用はできないけど」

 

 となると、アルファモンバーストモードは無理か。そう思うカノンであった。もっとも、負担が大きすぎるとは思うので出来ても使わなかっただろうが。

 




リミッターの解除云々は独自ですからねー。

というわけで、感想でも指摘がありましたがアルファモンはバーストモードになりません。


トライの特番、ニコ生やるみたいですね。タイムシフトは忘れずにね。


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67.三者三様

「そういえばなんとなく使っていたけど属性って全部でいくつあるんですか?」

「十種類ね。デジタルワールド最初の究極体である十闘士がそれぞれ持っていた属性。それがそのまま属性データとして存在しているわ。火、水、風、土、雷、氷、鋼、木、光、闇。魔法を使うデジモンにとってこれらは重要な要素であるし、そうでなくとも進化の過程でこれらの属性を無視することはできない」

 

 十闘士って聞いたことがある単語だけど……どこだっけか? まあ、とにかく属性が十種類と。それぞれの優劣は分からないがデジモンごとにこれらの属性のどれかは持っているらしい。中には例外もいるらしいが。

 また、DNAデータごとに適合しやすい属性もあるとか。

 

「例えば、アタシたち魔王型は基本的に闇属性が強く発現するけど……別の属性を併せ持った奴もいるわよ」

「DNAデータは暗黒ですしね」

「属性とDNAデータの比率で進化先が決まると言ってもいいわ。まあ色々な要因もあるから一概にとはいかないけど。陛下なら光属性ももっているし、イグドラシルの義肢をつけているから木の属性も入っている。あとは同僚のタクティモンは闇と鋼。ブラストモンは……土、かしらね?」

「なんで疑問形……」

「アイツ体が宝石の塊なのよ。それにバカだから何にも考えていないし」

「ひどい言いようだな!?」

 

 でもバカなものは仕方がないじゃない。強いんだけど大馬鹿なのよ……と、その言葉にはどこか哀愁がこもっていた。一体、何があったのだろうか?

 しかし属性か……そっちはあまり注目していなかったんだよな。知っているデジモンだと……ドルモンは鋼だろう。火属性の技もいくつか使っていたが。

 アグモンなどの例を見るに、竜型のデジモンは火属性が多いよな。なるほどDNAデータというか竜だから火の属性ってイメージか。

 手のひらにアグモンが使っていた炎のイメージを――いや、それよりも強烈に印象に残っている光が丘のあの熱線が頭に浮かぶな。

 

「……呑み込みが早いわね。火の属性の魔法剣を使えるようになったじゃない」

「大事なのはイメージか……過程を緻密に計算するんじゃなくて、結果に至るためのルートを構築するべし」

 

 演算も必要になるが、それよりも明確に力の方向性を定める必要がある。まるで、思いが実体化するように構築されていく感覚だ。

 

「それじゃあ、他の属性もちゃっちゃっとやるわよ」

「結構、きついんですが……」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 さて、属性ごとの魔法剣を使えるようになった上に反属性を同時に発動させたりもできるようになったわけだが……そういえばバーストモードを調べていたのなら、バグラモンたちもバーストモードを使えるのだろうか?

 

「無理よ。アレは下手をしたらデジコアが爆発したり暴走を起こしてしまう可能性があるからうかつにリミッターを外せないの。それに、コントロールするには強い精神力が必要になる」

「僕ら普通に使ってますけど……」

「だからアンタらは普通の範疇じゃないっての。最初に使ったとき、大きなきっかけでもあったんじゃないのかしら」

「もっと先へ行きたい、強くなりたいって願ったけど……」

「まあそのあたりかしらね。デジモンは人の想いを受けることで強くなる。プラスでもマイナスでも。強いプラスの想いがバーストモードへ押し上げたってところか」

「マイナスだと、どうなるんです?」

「ルインモードっていう暴走状態になるわ。しかも暴れまわった挙句に死ぬわよ」

 

 ……これからはバーストモードも注意して使おう。元々リスクもデカいから切り札だったけど。

 あとはブラスト進化も制御できればいいんだけどそっちは無理だろうか。

 

「無理ね。器が完成してもその力は自由に引き出せる類のものじゃない」

「結局運任せってことなのかな……」

「そう言うわけじゃないんだけど……そうね、アンタ自分の力を少しだけでも引き出せていることに気が付いている?」

「未来予知とか、そういうのなら」

「それはイグドラシルの機能を引き出しているに過ぎないわ。未来予測の演算を行っているの。デジタルワールドの予言や陛下の力も同じ類のものよ。アタシが言っているのは、アンタの魔力のこと。デジメンタルから供給していると思っているんでしょうけど、すでに自分のエネルギーで使っているのよ」

「――――そういえば、デジメンタルが機能停止していないな」

 

 ここ最近は特に。結構無茶な魔法も撃っているけど、デジメンタル自体は動いている。いつもなら回復にしばらくかかるのに。

 

「その回復も、アンタの中の力を使っているんだけどね。まあ自覚が無くて当たり前だけど」

「でもこれってどういう……」

「そもそも”その力”が人間の体の中にどうやって入るのかが疑問なんだけど……そこはそのうちわかるんじゃない?」

「いや、僕は自分の中に何が入っているのかも知らないんだけど」

「それも含めていずれ知るべき時に知るわよ。今は七大魔王クラスの力が入っているとだけ知っていればいいわ」

 

 え、それはそれで不安なんだけど。

 

「でも今までのアンタはそれを撃ちだす能力が無かった。そこでデジメンタルを手に入れたことで、撃ちだし方を知ったわ。でも、アンタの力に対して銃口が小さすぎるのよ」

 

 たとえるなら、デリンジャーでロケットランチャーの弾を撃とうとしているようなものと言われた。そこまで言いますか? そこまで……

 

「本当はもっと差があるわよ」

「ええぇ……」

「話を戻すけど、魔法っていう改造手段を手に入れたことでロケットランチャーの弾をデリンジャーの弾に加工できるようになったのよ。もっとも撃ちだす機構もデジメンタルによるものだったからデジメンタルの消耗が速かったでしょうね」

「確かに、最初のうちはガス欠になることが多かったけど」

「でも慣れてきて、スムーズにいくようになった。そこでウィザーモンのデータによりあんた自身がデリンジャーの部分を担当できるようになった」

 

 エネルギー効率が上がり、魔法の技術も上昇。それにより今度はデリンジャーの部分をロケットランチャーに改造することが出来るようになった。

 

「大出力の魔法も撃てるようになった。この時点で、あんた自身のエネルギーも使えるようになっていったってこと」

「無意識のうちに色々と変わっていたんだな……」

「で、今現在のアンタは自分自身ですべてのプロセスを行っているのよ」

「ってことはもうデジメンタルのエネルギーは……」

「使っていないわね。ついでに言うと、ウィザーモンのデータもね。その赤いマフラーはあんた自身に最適化したからってところ」

「もう、いないのかな……」

 

 何だか寂しいものも感じるが、リリスモンは少々眉間にしわを寄せている。

 

「でも何だか違和感があるのよね……人間界で消滅したから? それにしては、こう……ウィッチェルニーのことは詳しくないし」

「魔法使いのデジタルワールドか」

「本場なんだけど、アタシみたいに強すぎると世界の壁をこえるのも一苦労なのよ。まあ、もうここから出ることはないだろうし、いいんだけどね」

「軽いなぁ……」

「長生きしていれば色々とあるのよ。まあ、半分死んでいるけど」

「重いなぁ……」

 

 言葉は軽いけど。

 

「さてと、ここまでで質問は?」

「今のところは……」

「そう。なら本題。ブラスト進化のことね……こっちはそもそも副次的に生まれた力だと思う。イグドラシルへの度重なる接続、たまりにたまった力。他にも様々な要因が重なったことで使えたってところね」

「結局、単なる偶然の産物?」

「でも制御して見せたんでしょう」

「まぁ……」

「だったら必要な時には使えるハズよ。アタシは、バーストモードの発動と同じプロセスをアンタが行っていると思うのよ」

「同じプロセスって……リミッターの解除?」

「ええ。習うより慣れろ――さあ、お姉さんが相手してあげる」

「――――え」

「発動まではいけなくても、これまでに教えたことの復習よ。さあ、本気でかかっていらっしゃい」

「ちょ、まって!?」

 

 結論、魔王型は規格外。色々な意味で。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 さて、ところは変わってドルモンたちであるが……今、彼らの目の前に現れたのは一体の武士のような出で立ちのデジモンだった。ガイオウモンに進化できるドルモンにはこのデジモンの規格外さがよくわかる。

 

「……強い」

「ほう、見ただけでそこまでわかるとは……陛下、彼らは?」

「イグドラシルの縁者たちだ。かつて、イグドラシルを破壊した者たちでもある」

「…………なるほど、例の予言の者たち」

「予言?」

「この世界の予言は未来予測演算の結果だ。その中で、私でも完全に見通すことのできない予言がある。この世界だけでなく連なる世界すべてを崩壊させる予言と、その崩壊に立ち向かう者たちのな」

「それって…………」

「もっとも、ピースがすべてそろっていない上に不明瞭な予言であったし、私の生きた時代よりも先の出来事だったので調べようもなかったのだが……こうして、目の前に予言に該当する者たちが現れたのだ」

 

 ドルモンは自分の毛が逆立っていくのを感じていた。嫌な予感と言い知れぬ使命感。頭の中で何かががっちりとはまっていく。

 プロットモンも不安そうにしているが、首のあたりがもぞもぞしてきたのを感じていた。

 

「どうやら、何かを感じ取ったようだな――君たちのデジコアに刻まれし使命を」

「でも、おれはともかくプロットモンは……」

「彼女が生まれた要因はどうだった? そこに君たちが関係してはいなかったか?」

「それは……確かに、そうだけど」

「であるのならば、それもまた必然なのだ。これから先も、きっと逃れられぬ運命が君たちを待ち受ける」

 

 その言葉にドルモンとプロットモンは無言となる。

 わかっていた事ではあるのだ。カノンと共にあるということは、これから先今まで以上にとてつもない何かが待ち受けていると。

 

「運命の紋章に適合する者たちはいずれも過酷な道を歩むこととなる。光と闇の螺旋にからめとられ、決断を迫られる日が必ずやってくる。その中でも、彼のは特大だ。何度もその選択肢が現れることとなるだろう……それでもなお、自らの道を選択した彼には畏怖さえ覚えるよ。私ではできなかったことだ。それは、彼が人間だからこそ選ぶことが出来た道だ……彼の存在のままであったのなら、無理であっただろうな」

「――彼の存在?」

「おっと、口が滑ったかな……これは、彼自身が見つけなくてはいけないことだ。さて、タクティモンを呼んだ理由がまだであったな――なぁに、簡単なことだ。プロットモンはともかく、君は更なる力を身につけなくてはいけない。いまだX抗体の神髄には至っていないからこそ、引き出してあげよう」

 

 バグラモンは右手をドルモンにかざし、イグドラシルを利用して彼の力をブーストしていく。

 ドルモンのインターフェースが輝きだし、その姿を変化させていった。黒い身体に袴や鎧。二振りの刀。

 

「――ガイオウモンへ強制的に進化させた!?」

「この空間でのみ可能な荒業だがな。ドルゴラモンやディノタイガモンでもいいのだがタクティモンと打ち合うのであればその姿が一番だ。色々な意味でな」

「しかし陛下、よろしいのですか? やれとおっしゃるのならば、かまいませぬが……潰してしまうやもしれません」

「と、タクティモンは言っているが――どうする?」

「……いいや、もう逃げないって決めたんだ。だから、全力で叩き斬る」

「ほう――面白い、このタクティモンを叩き斬るとは……こちらも、真剣に参ろうぞ」

 

 いまだ未覚醒の力。今までドルモンの力の解放はカノンの力の後押しによるものが多かった。

 だからこそ、彼自らの成長が必要なのだ。二体の武者がぶつかり合い、強大な力の波動が吹き荒れる。バグラモンは涼しい顔だが、プロットモンにはたまらずに転がっていってしまう。

 

「――――キケンです!?」

 

 そのまま駆け出していき、森の奥へと進んでいく。バグラモンはその姿を一瞥し、戦いの余波で周囲に被害が出ないようにシールドを構築していく。

 

「まったく、私の身にもなってほしいな……しかし、プロットモンよ。君に課せられた使命も確かに存在するのだ。いまだくすぶっているであろうが、何も直接戦うことはない。君自身の力はそんなものではないのだ。世界をひっくり返すのは、案外君の様な存在かもしれないぞ?」

 

 面白そうに笑い、今はただ戦いの行く末を見守るのみ。

 それに、プロットモンが向かった先には”彼”がいる。いささか不安が残るが、それもまた一興だと。

 

 

 

「うう……頭、うったです」

「――――んあ? なんだぁ……」

「お、おっきなデジモンです!?」

「おっきなデジモンなんて名前じゃない。ブラストモンだ!」

「いやそういう意味じゃないです……」

 

 少しだけ、バグラモンの不安が強まった。流石に右目はこちらに注目させようとも。

 

 三者三様の邂逅は進む。彼らの更なる成長のために。

 




属性については、十闘士から使っているだけで公式ってわけじゃないヨ。

あと、別に修行編が始まるわけでもないです。すぐに三章へ行けるようにしますが、ウォーゲーム前に閑話を少しだけ挟みます。


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68.心技体

とりあえず修業は終わりかなぁ


「むぅん……」

「た、食べないでです……」

 

 プロットモンの目の前に現れた巨大なデジモン。その名はブラストモン。かつてはバグラモンたちと共に戦ったデジモンであるが、今現在の彼はというと……

 

「俺が食べるのは宝石だけだぁ……それに、毒など食べんぞ」

「誰が毒です!? プロちゃんは毒なんかじゃありませんです!」

「? だが何か悪いものが入っているような――まあいいか」

「軽いです……重そうな見た目なのに軽いです」

 

 一体何なんだコイツはとも思わなくはないが、毒について心当たりがあるのも事実。

 X抗体はデジモンを殺す死のウィルスプログラム、Xプログラムを内包しているのだから。

 

「……これから先、二人は大変な戦いに向かって行くのに…………プロちゃんは弱いままでいいんです?」

「知らん! 俺はお前のことなど何も知らないし、別段興味もない!」

 

 なら話しかけんなです。そう思わなくもないが、それを言うとこじれそうなので放っておく。

 独り言のようなものだったのだが、反応を返してくれる当たり悪い奴でもないらしいとプロットモンはブラストモンを見上げるが……もぐもぐと宝石を塊を食べている様子が見えるだけだ。

 

「……うわぁです」

「むぅん。それに強くなる必要などあるのかぁ?」

「?」

 

 何を言うのだろうか。強くなる必要がないとでもいうのか。でもこれから先彼らと共にあるためには強くなるしかない。プロットモンはそう思っているが……

 

「貴様が共にいたい者たちは、貴様に強くなってほしいのか?」

「……それは」

「俺はバカと言われるが、これだけは分かるぞ。一緒にいるのに強くなる必要などない!」

「あ……」

 

 ブラストモンは簡単に騙される大馬鹿である。過去にそれで何度も失敗しているが、それでもバグラモンの仲間であり続けたのは彼がバグラモンを自分の大将と認め、タクティモンとリリスモンもバカではあるが実直で先陣を切って戦う彼を認めているからだ。

 強さも理由のうちに入るのだろうが、それは最大の理由ではない。

 

「それにその首の輪っかは飾りかぁ?」

「これです? 別にそう言うわけじゃないです」

「ならそいつを使えばいいではないかぁ……えっと、名前なんだっけ?」

「ホーリーリングです!」

「そうだそうだ。ホーリーリングデスだ」

「なんか違うです……でもこれが何なんです?」

「たしかぁ……あー忘れた」

「結局ダメじゃないかです!」

 

 ホーリーリングを使えばいいということしかわからなかったプロットモンであった。とりあえず、ホーリーリングに力をこめてみるが……クルクルと回転し始めるだけであった。

 

「…………」

 

 これって、ダメな感じじゃないのだろうか……そう思っていた時だった、ホーリーリングのデータが変質し始める。

 光輪は徐々に巨大化していき、プロットモンの体から――飛び出した。

 

「外れたです!?」

「外れたなぁ……ほれ、今度は飛ばすんじゃないぞぉ」

「あ、どうもです……え、これだけ?」

「それで飛ばしてぶつけるのか、なるほど」

「絶対に違うです!」

 

 何らかの機能があるのは間違いないだろうが、絶対にそういう使い方ではない。それだけは核心を持って言えるプロットモンだった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 タクティモンとガイオウモンの戦いは終始圧倒的な実力を持つタクティモンへガイオウモンが打ち込むのみにとどまっていた。

 その攻撃の全てが完全に見切られている。

 

「――ッ、」

「これまで幾度の激戦を潜り抜けてきたのか。いやはや、力の入ったいい太刀筋だ」

「全部防いでおいていうセリフじゃねぇよ」

「もっともだな」

 

 カカカと笑い、タクティモンは腰に刀を構える。

 

「なんだ――刀を抜く気になったのか?」

「いや、この刀はおいそれと抜けぬ代物でな。陛下にいくつもの封印を施してもらっている……」

 

 タクティモンの刀、蛇鉄封神丸は抜刀すれば星を両断するほどの力を持つ。ゼロアームズ・オロチのデータが使われており、全ての力を解放すれば時空さえも切り裂いてしまうのだ。

 

「究極武神、スサノオモンにはいまだ届かぬが……貴様たちならば至れるやもしれんな」

「? 一体、何の話だ……」

「なぁに、かつての感傷だ。我が魂に刻まれた記憶(データ)の欠片が見せた夢とでも言っておこうか……さぁ、往こうか。我が武と技、貴様に受け止められるか?」

「……受け止めるんじゃない。ものにして見せるさ!」

「大きく出たな――ならば、いざ!」

 

 タクティモンが飛び出し、ガイオウモンと打ち合う。

 今度は互いの剣技がぶつかり合い、拮抗している。いや、わずかにだがタクティモンが押している――しかし、その都度にガイオウモンの動きが速くなる。

 

(ほう……これがX抗体の生きる力か。通常種をはるかに上回る生命力をもつXデジモンは、デジコアの力をより高いレベルで引き出す。その力を持って我が技を盗むか)

 

 それでもまだ差は歴然だ。タクティモンの動きがさらに速くなっていき、ガイオウモンを引き離す。そして、タクティモンがこれでトドメだと渾身の突きを放ち――その刹那、ガイオウモンから赤い粒子が放出される。

 

「――ッ!?」

「ウオオオオオ!!」

 

 今度はタクティモンが押されていく。突きを右の刀で受け流し、左の刀で手を切り払いに来た。

 思わず少しだけ封印を解除し、力を放出してしまうほどにタクティモンは彼の力に押されてしまったのだ。

 

「なるほど――面白い!」

「まだだ、まだ上げていく――!」

 

 ガイオウモンの動きがさらに早まり、その姿が変化していく。

 炎に包まれ、より荒々しい姿へと――今、自らの力でバーストモードへと進化したのだ。

 一気に加速していき、タクティモンへと迫る。

 

「――陛下!」

「うむ。良いだろう――許可する」

「ありがたき幸せ。一介の武人として、受けてたとう。そして、これが我が奥義――無の太刀、六道輪廻!」

 

 螺旋を描く剣筋と、ガイオウモンの振るう紅蓮の太刀がぶつかり合う。すでにタクティモンは刀を抜き放っているが、バグラモンが空間の保護を行っていた。

 それでも、強大な力のぶつかり合いは空間を歪めていく。

 

「――――ゥアアアアア!!」

 

 最後の一押しだと言わんばかりに、ガイオウモンが叫ぶ。その瞬間、彼の体がぶれていった。重なるように、ドルゴラモンとディノタイガモンの姿が浮かび上がっていく。

 もっと前へ。もっと先へ。タクティモンへその一撃を叩き込もうと――唐突に、その体が小さくなっていく。

 

「なに――!?」

「ッ、ダイノトゥース!!」

 

 時間切れ。バーストモードの持続時間を越えたことでドルモンに退化したのだ。それでも、残った力を最後の一撃に籠めることでタクティモンの顔に一筋の傷をつけた。

 ドルモンの体はボロボロで、タクティモンには傷が一つ。打ち合いの中でも彼にダメージは届いていなかった。むしろ、余波も含めてドルモンには多大なダメージがあったのだ。それでも、一撃。

 

「なんとか、一発入れたぞ……」

「まさか、ここまでに至るとはな……これから先が楽しみだ」

「ま、まだ……終わったわけじゃ――――」

 

 ばたりと、ドルモンは倒れてしまう。自身の限界を超え続けたのだ。疲労も相当なものだろう。

 それに、これ以上は体が危険でもある。

 

「……陛下、やはり彼らが?」

「ああ。予言にあったのは彼らで間違いないのだろう……ドルモンのX抗体は次の段階へ進んだが。プロットモンは…………ふむ、予言にある巫女が彼女かとも思ったのだが……いや、そうではないのか。橘カノンとドルモンが対の存在であるように、他にも必要な要素がある」

 

 世界を越える終末。星を呑みて終焉をもたらす。

 雷の御子と破壊の化身、巫女の願いによりて聖なる光輪が奇跡をもたらす。

 

「予言の最後の一節、そのほとんどが解析できなかったが……わかった範囲でも彼らがその予言の該当者であると思っていたのだが……」

「もしや、まだ足りないのですか?」

「ああ……我が右目で発見できないということは、別の世界にいる可能性もある。もしくは、まだこの時代では誕生していな――――ッ」

「陛下?」

「…………これはこれは……なぁタクティモン。人とデジモンのデータが融合した時、何が起きるかは知っているかね?」

「たしか、多大な力をもたらすと。精神データの干渉も強まるため暴走の危険性も高まりますが」

「ああ……だが、そのリスクを無視する方法があるのだ」

 

 実例が現れるとは思っていなかったがね。最後にそう言い、バグラモンはその瞳に写した者をそのままにする。カノンが解析しきれなかった歴史データ、その中に答えもあった。

 古代デジタルワールド、ルーチェモンの生きた時代。彼を倒した者たちの名前……

 

「なるほど。そういう事か」

 

 歴史データにプロテクトをかけ、カノンが解析できないようにする。これは、彼の眼には触れてはならない。

 万が一にも歴史が歪む可能性は避けなくてはいけない。ここに書かれていることは、彼らの旅路においての一つの答えだろう。だからこそ、先に知ってはいけないのだ。

 

「さて……肝心の彼はどうなっているのだろうな」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 リリスモンの展開する魔法陣から闇の力が濃縮された砲弾がいくつも発射されていく。その全てをカノンは両手に展開した剣ではじいていくが、いかんせん数が多すぎる。何度も剣が折れていき、その都度あたらたな剣を召喚して戦っていた。

 

「ハァ、ハァ……数が多すぎるだろ!」

「ほらほら、どうしたの? まだまだこんなもんじゃないでしょう」

 

 魔法陣に右手を突き出し、リリスモンの右手が肥大化する。いや、魔力で作られた巨大な右手を召喚したのだ。それが自分の右手と接続されたことでナザネイルの腐食エネルギーを増大している。

 腐食の津波がカノンへと押し寄せ、その体へと降り注ぐ。

 

「――ッ、この!!」

 

 カノンの体から魔力が放出されていき、バリアーとなって展開される。青白い色の魔力の壁が彼を守るが、すぐに崩れていく。

 これではダメだ。出力が足りない――更に力を放出していき、魔力の色が黄金へと変化した。

 リリスモンの魔法とぶつかり合い、放電現象が始まる。魔力と魔力の衝突により濃密なエネルギーが放出されているのだ。

 

「これを防ぐなんてねぇ……でも、ちょーっと出力が足りないわよ」

「……腐敗、腐食。ならこれで――ッ」

 

 カノンの右手に小さな火が灯る。左手をかざし、小さな円を描きながら炎となって回転していく。炎の輪が高速で回転して破壊力を高めている。

 その間にもバリアーは削られていくが、突如そのバリアーを解除してしまった。

 

「――!?」

「バックドラフト!」

 

 炎の輪が収束し、大爆発を起こす。腐食のエネルギーと衝突し、互いに打ち消していった。サラマンダモンの技、バックドラフト。カノンの体の中にはデジメンタルが宿ってる。そのため、アーマー体の技のデータもそこに刻まれていたからこそ再現出来たのだ。

 その隙にカノンは腐食の波を潜り抜け、リリスモンの懐へと飛び込んだ。右手には光の剣を召喚し、左手には闇の剣を召喚している。

 

「――アタシに、闇の属性が効くとでも」

「これは、こうするんだよ!」

 

 二つの剣をぶつけ、光と闇のエネルギーが混ざり合う。

 二人を取り囲むように半球状にエネルギーフィールドが展開されていった。

 

「名付けて、ケイオスフィールド!」

「この、なんて無茶な使い方をッ」

 

 カノンはまだ止まらない。リリスモンへ拳を振り上げ、叩き込んでいく。究極体相手にそれだけでどうにかなるものでもないが、カノンの攻撃は止まらない。いや、リリスモンの動きが鈍くなっておりカノンが押してさえいる。

 

「相反する属性を組み合わせることで、デジモンのデータを一時的にバグ化させる空間を作り出した!?」

「そして、これが――クロスファイアー!」

 

 火と風の属性を組み合わせ、火のエネルギーを増大させていく。拳に巨大な炎を纏い、リリスモンへ突進していった。リリスモンも全力で障壁を貼り、防御するが彼らはそのままフィールドを突き抜けて飛び出していってしまう。

 

「――力み過ぎた!」

「調子に、乗らない方がいいわよ!!」

 

 リリスモンがぐるりと回転し、カノンの背中に強烈な衝撃が走る。踵落とし。言葉にすればあっさりとしたものだが、空中で身動きが取れない状況でのアクロバットな技。カノンの右手を起点にリリスモンが行った神業だった。

 

「――ごほっ!?」

「さぁて、オイタした子供にお仕置き……え」

 

 一瞬、一瞬だけカノンの意識が飛んだ。地面に激突して次に使おうとしていたであろう魔法も中途半端な形となったため暴発し――デジメンタルが飛び出す。

 カノンの周りに十色の剣が周りはじめ、デジメンタルへと入っていく。

 

「ちょ、ちょっとまってよ――そのデジメンタルは――――!?」

「あ――」

 

 虹色の巨大な剣が出現し、そして――――

 

 

 

 ちゅどーん

 

 

 

 

「……リリスモン、詰めを誤りましたな」

「いや、アレはそういう類のものではないと思うが……しかし、無事に目覚めを迎えたようだな。仕方がない。回収しに行くとするか」

「ですな」

 

 やれやれといった形でバグラモンたちが彼らを回収しに行くと、目をグルグルと回した二人の姿があった。

 どうやら、最後の最後でカノンの力が暴発してしまったらしい。

 なんとも情けない幕切れではあったが、これでカノンは自らの力の一端を知ることが出来たであろう。

 

「うぼぇ……」

「お、覚えてなさいよぉ……」

 

 本当に一端であるが。

 




皆さま、夏風邪にはご用心ください。
最近落ち着いてきましたが、ここ数日きつかった……まだ喉痛い。夜寝る時が地獄。

カノンが使用していた技はたぶんどこかで見たことがある人もいると思う。


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69.デジヴァイス

そろそろ、現代に帰還かな。


 その後、数日にわたり修行が続くこととなった。

 正直なんでこんなことになったのか疑問に思うし、夕食に毎度豆腐が出てくるのも疑問だし、プロットモンがホーリーリングを高速回転させてドヤ顔するのも疑問だし、なんかもうわけがわからない。

 そう言うわけで今晩も豆腐である。

 

「色欲の魔王。なんで豆腐を作れるんだ」

「色々と暇なのよここにいると」

 

 だからってなぜ豆腐……気にしても仕方がないのだろうが。

 修業の成果はそこそこ出ていて、複数の属性の組み合わせや新たな魔法の習得などをしている。ドルモンも着実に戦闘能力が上がってきていた。ダークマスターズ戦の終盤は力押しが多かったからなぁ……修行相手のタクティモンは優れた戦術眼を持っており、理論詰めて戦うタイプのデジモンだ。ドルモンも彼から様々な技を吸収している。

 プロットモンに関してはよくわからないが、力の解放を第一にやっているんだろう。たぶん。修行相手と思しきブラストモンであるが……恐ろしいほどのバカである。大丈夫なのだろうか?

 と、そんなけったいなことを考えていると突然バグラモンが口を開いた。

 

「さて、そう長居するわけにもいかんだろう……最後の仕上げを行う。時間的にもいい頃合いだからな」

「また全力で戦うのか……ハァ」

「いいや。君のデジヴァイスを作るのだよ」

「――――え」

 

 それは一体どういうことなのだろうか。

 疑問に思ったものの、詳しい話は明日にすると今日は寝ることとなった。

 なかなか寝付けない夜になりそうだけど……ドルモンたちは疲れも溜まっていたのか、すぐに寝てしまっている。

 まったくのんきなものだな。

 

「ハァ……ちょっと涼むか」

 

 外に出て、体を動かす。我流で拳法ともいえない動きだが、なんとなく体を動かしていくたびに動きが良くなっていっているようにも思う。

 この空間、イグドラシルの力が作用しているのか一つ一つの動作が最適化されているようなのだ。

 

「……ふぅ」

「まったく、精が出るね」

「おわ!?」

 

 いきなり話しかけられてびっくりしたが、バグラモンが背後に立っていたのだ。

 というか気配を感じなかったんだが……

 

「すまないね。邪魔をしては悪いと思って」

「それはいいけど……そういえば、なんで僕たちを鍛えてくれるんですか?」

「そうだな……私には弟がいてね。私とは違い、生まれながらに暗黒の力を持って生まれてきた。そのことや他にも思うところがあり、私はホメオスタシスに反旗を翻したのだよ。

 イグドラシルの時とは違い、安定を望む彼の存在の管理するようになってからのこの世界は、多少の異端も受容される。そのため、人間もこの世界へやってこれるようになった……進化も更なる多様性を見せるようになった。だが、同時に強すぎる暗黒が暴走を起こすこともある」

「…………」

 

 たしかに、アポカリモンの根底にあったものを考えれば、その通りなのだろう。

 彼はとても生真面目なデジモンなんだ。自分が間違っていると思ったことを正そうとし、そして魔王にまでなってしまった。

 

「結局、私自身が可能性を信じ切れていなかっただけなのかもしれないがね……結局、私を倒したのは人間と…………彼によって成長した、私の弟だったよ」

「杉田マサキさんと……そのパートナーのデジモンが?」

「いや、彼のパートナーのラストティラノモンではない。おそらく、今も彼と共に旅をしているだろうが……彼の仲間は相当な面子がそろっているからね。今頃は何をしているのやら」

 

 どうやら、件の弟はラストティラノモンとは別のデジモンらしい。今もマサキさんたちと一緒に旅をしている……そういえば光子郎さんがそんなことを言っていたな。他にも仲間がいるって言っていたって。

 でもそれと僕たちを鍛えるのにどんな関係が?

 

「……なに、私でもこうして感傷に浸ることはある。ならば、誰かを助けようと思うのも不思議なことではないだろう? 理由など、後からついて回るものさ。まあ、今のために君たちを助けなくてはいけないのも事実なのだが」

「結局、理由はあると……」

 

 というか、今のためにってどういうことなんだろうか。

 話は終わりだと言わんばかりに、彼は去ってしまう。君も早く寝たまえよと言われたが……

 

「…………最後に、これだけ試しておきたいんだよな」

 

 雷と光の属性を合わせた魔法剣――やっぱり、これが一番使いやすい。

 属性には向き不向きがあるらしいが、僕が一番しっくりくるのはこの二つだ。他の属性も使えることには使えるのだが。

 

「まあ向いている属性が分かったからってどうってことは無いんだろうけど――僕が使っていた、電撃のパンチとかを考えると……なんかあるんだろうな」

 

 ドルモンと出会ったときに何かを得たんじゃない。デジメンタルを手に入れたとき? いや、それも違う。

 色々な場面を思い出すが、僕自身の中にある力はどこかで手に入れたものではない。最初から持っていたものだ。それが、ドルモンと出会ったことで覚醒していった。

 

「…………今はまだ、わからないか」

 

 結局のところ、そこにいきつくんだろう。

 この問いに答えが出るのは、しばらく先のことであった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 翌日、イグドラシルの根元へとやってきた。さて、デジヴァイスを作るとはいったいどういう事なのだろうか?

 

「まず最初に君のデジヴァイスを改造する必要がある」

「そんなことが出来るんですか?」

「リリスモンに魔法の手ほどきをしてもらったんだろう。ならば大丈夫だ。デジヴァイスは製法こそ特殊なものであるが、機械だ。作れないことはないし、この場なら改造も容易だ」

「それはそうなんだろうけど……」

 

 とりあえず、パーツごとに分解……そこまでする必要はないか。外装は自分で作ったんだし。

 外装を外して、基盤を取り出す。画面部分とアンテナを外して……ボタンとつながっているし、色々とくっ付いている部品もあるんだよな。

 よくよく見てみると……使われていない配線がある?

 

「前に修理したときは急いでいたから気が付かなかったけど……改造できるように組まれているのか」

「なるほど、やはりこの時のために拡張できるようにしてあったのか」

「なんだか含みのある言い方……」

「そういえば、これってイグドラシルの破片から出来ているんだよね。バグラモンの義肢と同じで」

「あー、そういえば」

「素材としては一級品だからね。さて、君のデジヴァイスにはひとつ足りないものがある。それが何かわかるかね?」

「足りないものって…………聖なる力とか?」

「いや、確かに他のデジヴァイスには搭載されているが必須の機能ではない。言うなれば、君とドルモンにのみかかわりのある物に対しての機能だよ」

「……X抗体の制御プログラムか何かってこと?」

「ああ。より正確に言うなれば、今までのデジヴァイスではX抗体の力を進化の際に利用できないようになっていた。君たち自身の力で無理やりにこじ開けてようやく使えていたのだよ」

「なんでそんな仕様になってんだよ!?」

 

 改造の余地が残っているのなら普通にX抗体対応版にしてくれやしませんかね!?

 

「いいや。自分が使うことになるデジヴァイスは君自身が作るのだよ。君が作って、この時代の君自身に贈るのだ」

「犯人は自分!?」

「カノン、落ち着いて……ねえ、もしも最初からX抗体を解放していたら、どうなっていたの?」

「デクスドルゴラモンよりもよりXプログラムそのものに近い存在になっていたかもしれないな」

 

 ……ああなるほど。暴走の危険性もあるか。混乱していてそこまで頭が働かなかった。

 それに、他のえらばれし子供との兼ね合いやアナライザーを使用する時のことを考えると同じ型にしておいた方が色々と都合が良かったのだろう。後で壊しちゃったし、修理の時に他のみんなのデータを使ったことを考えれば……ってこれって…………

 

「タマゴが先なのかニワトリが先なのか」

「あまり悩まない方がいい。君たちに関してはその命題は終始付きまとうだろう。むしろ、始点は無いと考えた方がよいだろうな」

 

 あ、頭が痛くなる……

 とにかくこれでようやくX抗体に対応したデジヴァイスへとバージョンアップができるというわけだ。

 あと、並行してこの時代の自分が使うデジヴァイスも作っている。基盤にはイグドラシルから削り取った木片の様なものを使っているが……イグドラシルに接続するきっかけになることを考えると、自分の力の覚醒を促したのは自分自身ということに……うん。考えるのはやめよう。

 

「とりあえず、この時代の自分用のデジヴァイスは完成。プログラムはまだ入れてないけど……そういえば、紋章とタグは?」

「タグに関しては用意がある。紋章も君自身のデータから作り出せるが……そのままでいいのかね」

「いや、力の暴走を抑えるための機構が必要なんだ」

 

 ブラスト進化がリミッター解除を行うことを考えると、やっぱり必要なんだろうな。

 そちらも並行して作業を進める。なお、データの同期にはドルモンにも協力してもらい、この時代のドルモンに接続することで進化先をある程度コントロールする機能もデジヴァイスに付けておく。

 鉱物データはブラストモンに用意してもらい、リリスモンにも手伝ってもらって紋章を作る。ほどなくして、デジヴァイスと紋章は完成した。あとは、僕自身のデジヴァイスの改造だけだ。

 

「このデジヴァイスと紋章は私が送り届けておこう。君の家のパソコンでよいかね」

「うん。たしか、父さんのパソコンから出てきたはずだから」

 

 小さい時のことでよく覚えていないけど。

 まあ、大丈夫だろう。実際に過去で起きた出来事なんだし。いや、今の時間だとこれから起こるのか。

 何ともややこしい話になってきたが――無事に、デジヴァイスと紋章は送り届けられた。それにミスをしていたら僕のデジヴァイスと紋章が消えている……どころかこの歴史も書き換わるんだから知覚することすらできないか。

 それもないんだから平気だったんだろう。

 

「さてと……どうするかなぁ」

「どうしたの?」

「アナライザーには接続できないなこれ」

 

 むしろ今までのは他の8人との旅を見越してデチューンされていたのだ。そのおかげで、ある程度の互換性が生まれていたのだが……改造している過程で、つけれるだけ機能をつけていったのだが――接続端子の形が変わりそうである。

 いや、それは変換アダプタを作ればいい話か。

 

「…………いや、そもそもイグドラシルへの接続能力が上がったんだから、アナライザーでいちいち検索する必要ないじゃないか」

 

 一目見ればわかるんだし。アナライザーの方が詳細なデータが見れるけど、最低限必要な情報は分かるから大丈夫だった。それに端子もアナライザーとの接続にしか使っていなかったし。変換アダプタ作ればいい話だし。

 というわけで続行。外装は……板状にしよう。カード型のマシンにするのだ。

 

「カノン、鼻歌なんて歌いながら……」

「楽しそうです」

「クロスローダーの図面引いていた時の陛下にそっくりであるな」

「小さい陛下だ。小さい陛下がいるわ」

「妙に放っておけないとは思っていたのだが……そうか、そういうことだったか」

 

 周りでみんなが何か言っているが、そんなことには気にも留めずに作業を続ける。

 ただ、一つ気になったので……

 

「クロスローダーって何ですか?」

「ほう、耳ざといな」

(むしろなんでそれだけ聞き取れているのよ。しかも作業しながら)

(陛下も楽しそうであるな……良いことだ)

(ええぇ……)

 

 なんだか周りの様子がおかしくなったが。まあ、いいか。

 それよりもそのクロスローダーについて聞きたい。

 

「私が作った、デジヴァイスの様なものだ。様々な機能を付けた高性能機なのだが……理論実証機も完成し、実験も行ったのだが……肝心の機能が使えなくてね」

「肝心の機能?」

「デジクロスという、デジモン同士の合体を行うのだよ。ジョグレスというデジコア同士の融合現象が存在するのだが、融合失敗を起こし、不完全な状態になってしまう存在がいる。それをカオスモンという名で我々は呼んでいるのだが……このデジクロスは、デジコアが融合させずにかつ、カオスモン化しない方法の合体なのだ。

 デジモン同士の能力の組み合わせで、強力なパワーアップが可能だったのだが……使用するために、人間の中でも特異な資質を要求してしまっていてね。結局、試作品がいくつか存在するのみだ。

 スペックも高すぎて、現在のデジタルワールドではパーツを集めるのも困難だ……実用できるようになるには、人間界でのデジタル技術の発展が必要であろうな」

「なるほど……やり過ぎたのか」

 

 ちなみに、僕はその特異な資質を持っていないらしい。クロスローダーに触れれば資質のあるものだと反応するらしいが……無反応であった。

 まあ、別段必要もないからいいか。それに、まだ実用に耐えられる代物ではないらしい。とりあえず、理論実証のためってことか。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 そんなこんなで、僕の方も完成した。

 カード型のデバイスでカラーリングはドルモンに合わせてある。メインカラーは紫で、ふちは白。

 左上に画面を持ってきて、その右にX抗体を模したランプが搭載されている。左下にボタンを三つ配置してみた。

 

「これが、Xデジモン専用デジヴァイス。その名も、デジヴァイスXだ!」

「名前、まんまだね」

「うるさい。いいんだよ、こういうのはシンプルで」

 




というわけで、デジヴァイスX(ペンデュラムエックス)へ改造完了。
カードゲームではこの名称だったのよ。

修理したときに見た基盤とバステモンの解凍に使われた基盤が似ていたのは、製作者が同じだったから。


あと、さらっとデジクロスについて言及しているけど――作中で出す予定はないです。
もちろんカノンは使いません。というか使えません。


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70.いつかの日へ

なんとかたどり着いたぜ……


 さて、デジヴァイスXも完成したことだし……どうやって元の時代に帰ればいいんだろうか?

 

「そういえばそれがあったね……人間界へのゲートを開くんじゃだめなの? 新しいデジヴァイスでゲートを開けるようになったって言ってたよね」

「言ったけど……時間軸が違うだろうが」

 

 色々と機能をつけれるだけつけてみたが、やはり自在にデジタルワールドへゲートを開けるようにした方が都合がよさそうだったので付与してみた。ただ、X抗体制御プログラム第一だったので開けるゲートも小さいものとなってしまった。人間1人とデジモンが数匹が限度だろう。デジモンもサイズが小さくないとダメだ。

 まあ、その方が空間へ与える影響も小さそうだけど。

 

「ふむ。君たちは人間世界での時間でいつから来たのかね?」

「えっと……ダークマスターズとの戦いが終わったのってどのくらいだっけ…………デジタルワールドに突入したのが1999年8月3日の夜で、デジタルワールドでそれなりに過ぎたから……8月4日の日の出ぐらいか?」

「たぶんそうだよね。アポカリモンを倒したのがそのあたりだから」

「出発地点は……お台場のどこだっけ?」

「廃墟になっていたからなぁ……」

 

 アポカリモン出現時に時間の流れが同じになったと仮定しても……まあ8月4日よりも後ということは無いな。

 

「ならば、私がクロックモンの能力をイグドラシルから引き出して送り届けよう。君のデジヴァイスの力と組み合わせれば直接人間界に出られるはずだ。デジタルワールドが再構築中ならば人間界へ直接帰った方がいいだろう。

 場所もこちらで都合がよさそうな場所へ送る」

「何から何までありがとうございます」

「稽古つけてくれて、ありがとう」

「楽しかったです」

 

 ドルモンたちも頭を下げ、お礼を言う。

 短い間だったけど、本当に助かった。

 

「なに。礼はいいさ。君たちが前に進むことで、今の私たちがあるのだから」

「? それってどういう……」

「いずれ分かる時が来る。その時を楽しみにしているといい」

 

 結局、それ以上は教えてくれずにバグラモンは微笑むのみだった。ただ、少し嫌な予感もするんだが……何だろう。また厄介ごとが待ち受けているような気がする。

 しかしいつまでもここにいるわけにもいかない。バグラモンが右腕をかざし、空間が歪む。僕もデジヴァイスを歪んだ空間に向けて光を照射する――すると、X抗体の様な紋様が浮かび上がり、ゲートが開いた。

 

「正確な時刻がわからないため、日の出のあたりに設定しておいた」

「ありがとうございます……でもこれ、普通に飛び込んで大丈夫なんですかね?」

「たしかに……普通に飛び込んだだけでは危険だな。最高速度が出せるデジモンは何かね」

「ラプタードラモンだけど……大丈夫かな」

 

 来る時よりも不安定に見える。なるべくデータサイズは小さい方がよさそうだ。

 

「ならば、アーマー進化を使うといい。君のデジメンタルは特殊なものだ。製作者はおそらく彼の十闘士、エンシェントワイズモンだろう。君の能力と組み合わせれば新たなアーマー体を構築することも可能なはずだ。もっとも、イグドラシルの補助も必要だろうが」

「でもこれ、プロトタイプだって聞いていたけど……」

「いいや。これはそういう風に偽装されてはいるが、きわめて特殊なものなのだ。バステモンならば知っているかとも思ったが……なるほど、彼の偽装は完璧だったというわけか。私もイグドラシルシステムが無ければ気が付かなかっただろうな」

「これ、そこまでの代物だったんだ……でも、他のデジメンタルを知らなかったから気が付きようもないんだけど」

「確かにそうだったな。バステモンが気が付かなかったのも無理はないか」

 

 とにかく、こいつを使えばいいわけか。でも、どの性質にすればいいんだろうか。

 

「君本来の特性を使いたまえ。ラプタードラモンのデータをベースにすればいけるはずだ」

「帰る前にまだやることが出来るとは……」

 

 イグドラシルに精神を集中し、ラプタードラモンのデータとデジメンタルを同期していく。

 運命の紋章に意識を集中……するまでもないか。元来の特性なんだからすんなりといく。そして、ドルモンの額に触れてデータを構築する。

 プロトタイプデジモンのインターフェースは本来こういう使い方をしていたんだよな。直接データを書き換える。失敗すれば大変なことになるが……元々持っているデータをベースにしているため難なく終わる。

 肉体データはドルモンのまま、上から鎧を装着する形になるし。デジメンタルの形も変わっていき――黄金のデジメンタルへと変化した。球体に翼のような飾りが一つ。

 

「運命のデジメンタル……なんだか今までのよりもはっきりとした形になっているな」

「君本来の特質を利用したからだろう」

「これでやっと帰られるんだね」

「ようやくな――いくぞ、デジメンタルアップ!」

「ドルモン、アーマー進化!!」

 

 ドルモンの姿が変化していく。

 体が大きくなり、体に黄金のアーマーが装着されていく。シルエットはラプタードラモンのままだ。ただ、カラーリングが以前とは異なり、体毛はドルモンと同じで機械化している部分は金色だ。そして、胸のあたりに運命の紋章が追加されている。

 

「ラプタードラモン!」

「って、ラプタードラモンのままなんだ」

「ああ。力もX抗体を解放する前と同じぐらいだな。安定感も結構ある」

「普段の戦闘でもそれなりに使えそうだな。それじゃあ、いくか!」

 

 ラプタードラモンにまたがり、ゴーグルをつける。そういえばこれも久々につけたな……あー、ヤバい。飛行帽どこかになくしちゃったんだ。母さんになんて言われるか……

 他の荷物は……よし、大丈夫。

 

「それじゃあみなさん、色々とありがとうございました。いつか、未来で会いましょう」

「ああ。その時を楽しみにしているよ」

 

 そして、僕たちはゲートへ飛び込んだ。

 体が奇妙な浮遊感に包まれ、時の流れの変化に酔いそうになるが……しばらくすると、時空の回廊へ飛び出した。

 

 

 なんだか懐かしい気もするこの光のトンネル。加速によりGがかかっている……

 

「結構、長く感じるな!」

「疲れるです……」

「二人とも、口を開かない方がいいぞ」

 

 ラプタードラモンは涼しい顔しているけど、こっちはそうもいかないんだ……というか、速いところ出口へ――その時、何かの気配を感じた。いや、空間の歪みというか……前から、誰かが来ている!?

 

「僕たち以外に時間移動している人がいるぞ!?」

「なに? 本当だ、すぐに接触する――間に合わないッ」

 

 攻撃されるか――バリアーをすぐに張ろうとしたが、それは杞憂に終わった。だが、むしろそんな緊急事態の方が良かったかもしれない。

 目の前にあった光景は、僕たちを混乱させるには十分だったからだ。

 背丈は太一さんと同じぐらいだろう。特徴的な赤毛は見慣れたもの……ただ、違和感はある。

 

「――え」

 

 そいつは、僕を見てにやりと笑いすれ違っていく。またがっていたのは……黄金のラプタードラモン。プロットモンも連れており、ただ気になったのは同じ年頃のフードを被った人影も一緒にいたこと。

 赤毛の方に気をとられてそっちまではハッキリ見えなかったが……たぶん黒いフード付きのパーカーを着ていた。スカートをはいていたから女性だろうけど……

 

「あの赤毛、僕だったよな?」

「ああ。俺たちも一緒にいたな……もう一人、誰かいたが」

「よく見えなかったけど、女の子だったです」

 

 あれは一体誰なんだろうか……それに、少し成長した僕。というか、逆方向に行ったってことは……

 

「また、過去に戻って何かしないといけないのかよッ」

「バグラモンが言っていたのはこのことなんだろうな」

「です」

 

 わかってるよ。なんかまた厄介ごとが待ち受けているのもわかっているよ。

 そして未来の僕よ。隣にいるの誰だよ。

 結局スッキリしないというか新たな謎というか待ち受けている試練が一つ増えて僕たちは現代へ帰還する。

 まあ、少なくとも1年以上は先のことだと思うし。その時になってから考えれば。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ゲートを飛び出し、地上に降り立つ。周囲の森というか見慣れた光景に出くわす。というか第六台場(いつもの場所)だった。

 なんかもう実家の様な安心感さえある。そして、空を見上げるとちょうどデジモン軍団がアポカリモンを倒しているところ――ってオイ。

 

「早く戻ってきちゃったみたいだね……」

「だねぇ……どうする?」

「みんなの眼が上に行っている間に海を渡るか」

 

 手段が増えたから色々と迷うところだが、マフラーを具現化して翼形態に変化させて飛んでいくことに。ふわふわと漂うだけだが、今はこれで十分か。

 というわけで、向こう岸にたどり着きフジテレビ跡地まで歩いていく。ドルモンもドリモンになってもらいプロットモンに乗せる。プロットモンは普通に犬に見えるからそのままでもいけるし。

 

「ここが人間の世界……建物が崩れてるです。でも見覚えがあるようなです?」

「そりゃあ生まれ変わる前に見ていたからなぁ……人格とか完全に違うから覚えていなくても無理はないけど」

「そろそろ決着がつくね」

 

 ドリモンの言う通り、すぐに決着がついた。アポカリモンを倒し――そして自爆しようとしたがすぐにそれも封じ込められてしまう。

 そして、空間の歪みが直っていく。急に一筋の光が出てきて眩しさに顔を歪ませるが……どうやら日が昇ったらしい。

 

「これで、一件落着か」

「あらー……カノン、いつ帰ってきたのー?」

「うお!? 君、さっきまであっちにいなかったかい!?」

 

 保護者たちが集まっているところまでやってきたのだが、急にしゃべったから驚かせてしまったらしい。丈さんの兄のシンさんが驚きのあまりに腰を抜かしかけている。

 あと、母さんはマイペースすぎると思う。

 

「カノン、流石に戻るのが速すぎないかい? それに、他のみんなはいないようだが」

「あー、諸事情で帰ってくる時間がずれたんだよ。大丈夫、数時間以内にみんなも帰ってくるだろうから」

 

 だから他のご両親方、詰め寄らないでください。怖いです。

 八神さんちも心配なご様子……いや、ヴァンデモンに眠らされていて起きたら旅立ったところだから混乱しているんだろうし説明したいのは山々なんだけどね。

 

「ミミちゃんは無事なの!?」

「空は、空は帰ってくるんですよね?」

「お母さんたち詰め寄らないで頂きたい! 帰ってくるから! すぐに戻るから!」

 

 結局、太一さんたちが帰ってくるまでカオスな状況となってしまったのである。本当疲れた……

 皆が帰ってきた後の各々の家族の様子は割愛しよう。僕が語っていいものでもないし、語るのも無粋だ。

 我が家は割と緩い所があるから意外とすんなり話も終わったんだけど、やっぱり帽子のことは追及された。まあ、流石に激戦続きだったため怒られずにすんだんだけどね。

 あと、廃墟になってしまった場所を立て直すために父さんたちが色々と手配してくれたらしい。少し時間はかかるだろうけど何とかなるだろう。

 こうして、僕たちの夏休みの冒険は幕を閉じることとなる。最初の冒険譚の幕が。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 冒険は終わったが、夏休みは続いている。被害もそれなりだったので色々と大変な日々だが、人間は意外とたくましい。母さんたちを見ていると結構順応しているのがわかる。八神さんたちも井戸端会議で苦労しますねーなんて言っていたけど案外何とかなっていたし。

 

「カノン君、どうしたのこんなところで」

「んー……いや、なんとなく」

 

 家にいるのも何だったのでドリモンとプロットモンを連れて海浜公園まで来ていた。アイツらは熱いと言いながら寝そべっているが……

 僕も動く気になれなかったので座って海を眺めている次第だ。

 そんな感じでぼーっとしていたらヒカリちゃんに話しかけられたのである。ちょうど気になっていたこともあるし、太一さんもいないときならいいかな。

 

「そういえばヒカリちゃんはみんなとわかれたのに、残念そうじゃないよね」

 

 そう。他のみんなはデジモンたちと別れたのがショックだったからか、すぐにデジタルワールドの話はしないようになった。僕たちは一緒に帰ってきちゃったからなんとなく顔を会せるのが忍びなくて最近はあまり会話していない。

 ただ、ヒカリちゃんだけはそんなそぶりが無いのが気になっていたのだ。

 

「だって、また会えるから」

「……そうだね」

 

 ヒカリちゃんの言う通りだ。ゲートが完全に閉じたわけではない。僕のデジヴァイスでゲートが開けるといってもそれはこちらとあちらにつながりがあればこそだ。

 今は無理でも、いつか必ず再会できる時が来るだろう。

 

「まあ、また厄介ごとじゃないといいけどね」

「そうだね……それだけは心配かな」

 

 そう言って、ヒカリちゃんはにっこりと笑った。

 




ようやく現代へ帰還したカノンたち。
なんか不穏なフラグもいくつかありましたが、とりあえず2章の本筋は終了。
あとは小ネタな話などをいくつか消化して、ウォーゲームへ突入します。

というわけで、3章・無垢と憎悪のウォーゲーム
近日公開予定です。


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71.日帰りデジタルワールド

シリアス続きだったのがイカンかったんや。いや、最近もギャグ挟んでいたけど今回は終始軽いノリです。
分かる人にはわかるネタが多いというか……ドラマCDネタ多しですのでご注意。


 さて、現実世界に帰還してもう結構たつ。すでに葉っぱの色も変わり、すっかり秋だ。おでんのおいしい季節になってきた。破壊されたお台場も立て直されて以前の生活に戻ることが出来た……夏をクーラー無しで過ごすことになって、かなり大変だったな。

 僕たちはというと、地道に色々とやっている。魔法の開発や特訓にデジヴァイスXでどこまで出来るのか試したり。あと、忘れないうちに今までの冒険のことを纏めたりなど。

 

「なあドルモン、バステモンと出会った島ってどこだっけか?」

「ハワイのどこかしかわかんないよ」

「そうなんだよなぁ……いいや、ハワイってだけ書いておこう」

 

 細かいところは色々と忘れているんだよな。マキナとのことはハッキリと覚えているんだけど。

 あと、流石にショッキングな部分とかは覚えている。グロイこととか痛いことって記憶に残るんだよね。

 話は変わるんだが、ショッキングと言えば話はこの前、丈さんの家族と遭遇したんだが……全員同じ声だった。母親も含めて。あまりのショックに丈さんを身体強化して全力で殴りそうになってしまった。

 いかんいかん……根を詰め過ぎたのか思考が逸れている。

 

「……んー、気晴らしに行ってみるか」

 

 こっちではすでに9月。向こうでは季節はどうなっているんだろうか? 何も日本と同じとは限らないが……そもそも季節があるのかが怪しいが。エリアごとに気候はあるだろうけど。

 太一さんたちの様子を見に行ってもいいが、相も変わらずヒカリちゃん以外は燃え尽き症候群みたいになっている。言葉としては正しい使い方と言っていいか微妙だけど、やっぱり一番しっくりくる言い方だな。

 とまあ、そういうことでいまだにみんなとはちゃんと会話することが出来てい。こういう状況だからこそ、向こう側の様子も見ておきたい。

 

「ドルモン、プロットモン。デジタルワールドへ行ってみるか」

「? 行ってもいいのかな。一応、僕たちが悪影響を与えないようにってことでこっちにいるのに」

「それはそうなんだけど……復旧はほとんど終わっているみたいで、数日前からゲートは開けるようになっていたんだよ。すぐにいく必要もなかったから言わなかったけど」

 

 というわけで、行ってみるかどうか二人に尋ねたが……どうやら乗り気なようで体をほぐしていた。

 さてと、それなら行ってみるか。トラブルがあるかもしれないから一応準備はしてみた。すぐに帰ってくる予定だから水筒とちょっとおにぎりとかを入れておく。あとは絆創膏とか。

 

「さて、ゲート展開」

 

 僕がそう言うと、床にX抗体を図式化したような見た目の魔法陣が展開される。

 

「……え、パソコンを使うんじゃないの!?」

「このままいけるです!?」

「そうだけど……やり過ぎたかな?」

 

 直後に、二人からやり過ぎだよと怒られた。だって、パソコンを介したとしてもゲートサイズは変わらないんだからいいじゃないか。え、そういう問題じゃない?

 少々呆れられたが、今はデジタルワールドへ行くことが先だと言わんばかりに魔法陣の上に乗る。僕もゲートに乗って――僕らは再びデジタルワールドへ飛び立った。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 奇妙な浮遊感が起こる。グルグルと体が回転して、気分が悪い。しかも体中にビリビリと電流が走るような……これ、僕たち以外は使えないな。X抗体の力や魔力などの防壁がないときつすぎる。ちなみに、デジヴァイスXにはX抗体の抵抗力を組み込んだ障壁プログラムが備わっており、所有者を守るシールド機能が備わっている。まあ、そこまで強くないからデジモンの攻撃から守れるわけじゃないけど。

 それに床にゲートを展開したのは失敗だった。出口へ出るときに体勢が変わるから錐もみ回転してしまう。しかもデジタルワールドへ来ると自動的にマフラーが具現化するから更に遠心力が……

 そしてゲートを出た直後――うっぷ。

 

「おぇ……」

「気持ちわりぃ」

「うぅ……です」

 

 スマナイ。もうちょっと出口の計算をしておくべきだった。

 とりあえず座標は分かっているはじまりの町へ来たが……相変わらずデジタマが多いな。

 右を向けばデジタマ。左を向いてもデジタマ。そして正面を向けば目を見開いているエレキモン。

 

「さて、僕は何も見なかった」

「いや誤魔化されねぇからな!?」

 

 スルーして逃げようと思ったけどダメだった。

 結局エレキモンに捕まってしまい、なんでここにいるのか吐かされてしまう。さっき吐いたけど。

 

「カノン、うまくないからね」

「しかも汚いです」

「なんか、すまん」

「で、結局なんでここにいるんだ? お前たち帰ったんだろう……ってそう言えばお前は最後は別行動だったな。帰ってなかったのか?」

「いや、帰ったんだけどちょっと様子を見に来てみた。僕だけだったら自由に来れるし」

「……お前、結構無茶苦茶な奴なんだな」

 

 自覚はしている。

 

「それで……なんでここに?」

「いや、僕ってデジタルワールドの座標ここしか知らないし」

「そういえば再構築はファイル島からだったし、お前はスパイラルマウンテンに統合される前のデジタルワールドには来ていなかったんだよな……なあ、タケル元気か?」

「離れたところに住んでいるから最近会っていないけど……元気ではあると思う」

 

 ヒカリちゃんの次には。

 希望の紋章の持ち主だからか、他のみんなよりも前向きに再会を信じているし。もっとも、ヒカリちゃんは確信しているから落ち込んですらいないんだが。

 

「そのうち会えると思うよ。世界のつながりが完全に閉じていたら僕もこっちに来れないし」

「そうか……ありがとうな」

「ううん、どういたしまして……それで、他のみんなってどこにいるか知ってる?」

「あの後それぞれ好きに移動したからな。えらばれし子供たちのデジモンはたぶんファイル島の中にいると思うが、他はよくわからないな……いや、チューモンはファイル島のデジモンだし、ここにいるはずだぜ」

「そうか。パンプモンとゴツモンがどこに行ったか知りたかったんだけど……」

「うーん……しばらくは俺を手伝ってくれていたんだけど、ある日突然――」

 

『俺たちは食の明日を作るぜ!』

『デジタルワールドの料理チャンピオンを目指すんだ!』

 

「――とか言って旅立った」

「なんでだよ!?」

「わけがわからないです」

 

 いやもうホント、わけがわからない。ヤマトさんたちと出会った時も渋谷系デジモンとか言っていたし。今度は何に影響されたんだろうか?

 とりあえずアイツらはよほどのことが無ければたくましく生きていけそうだし、とりあえず放置で。

 あと知っておきたいのは……バステモンたちはどこにいるんだろうか?

 

「バステモンなら、モニタモンの隠れ里に一緒に行ったぜ。どこにあるかは知らないが……たぶんフォルダ大陸だな」

「サーバ大陸じゃなくて?」

「ああ。フォルダ大陸だ」

 

 ちょっとまって……持ってきたノートPCにデジヴァイスを接続して地図データを表示する。えっと……結構でかいな。WWW大陸じゃなくて助かったが。そっちだったら探しきれないぞデカすぎて。

 えっと……どうする? ゲンナイさんを探した方がはやいかもしれない……いや、あの人の家はサーバ大陸か。となるとアグモンたちを探した方がいいか。

 

「……面倒になった。帰るか」

「諦めるのが早いよ」

 

 そうは言ってもこのまま探しても疲れるだけだし。

 というわけで、いったん帰ろうかとも思ったが……そう言えば僕たちってデジタルワールドをまともに見て回っていないよな。

 

「うーん、せっかくだし少しだけ見て回るか」

「そうだよ!」

「まあなんにせよ気をつけろよ。お前らなら大丈夫だと思うが、クワガーモンとかいきなり襲ってくるぞ」

「分かった。ありがとうなー!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 はじまりの町を出て、とりあえず適当に見て回る。

 ファイル島も結構広いし、ラプタードラモンに進化してもらって……いや速すぎるか。

 

「プロちゃんも進化したいです」

「と言ってもなぁ……普通に経験値を積むしかないんだろうけど…………かといって進化しちゃうと家に置くのも難しくなるジレンマ」

「うーん、今の姿気に入ってるです……戻れないのは嫌、です」

 

 普通は戻るわけじゃないからなぁ。アーマー進化ならいけるかもしれないが……アレって暴走の危険性もあるんだよな。ドルモンは自己改造で調整出来たから何とかなっていたが、プロットモンにはそういう事はできないし。

 

「まあそれは追々考えればいいか」

「です」

 

 確かに進化すれば強くなるが、データ量が大きくなると弊害が生まれるかもしれないし。それに、何も進化するだけがすべてではない。

 究極体にまで進化すると、存在自体が空間に作用するようになってしまうみたいだし。場合によってはひどいことにもなる。完全体や成熟期であってもデジタルワールドを壊せるようなデジモンはいるんだし……スカルグレイモンやクロックモンとか。前者は物理的にで後者は特殊能力って違いはあるけど。

 

「今は研究してシミュレートするしかないか」

「それはいいんだけど、次はどこに向かうの?」

「そうだなぁ……適当に歩いているけど森ばっかりだな」

 

 ムゲンマウンテンに登ろうか? いや、疲れそうだし……飛んでいけばいいんだろうけど、今日はとりあえずデジタルワールドを見て回るだけだしそこまでガチにならなくてもいいか。

 しばらく歩いていると草原地帯に出てきたが、聞きなれた声が聞こえてきた。

 

「あれって……アグモンたちみたいだな」

「本当だ。声かける?」

「うーん……太一さんたちよりも先に会うのもなぁ」

 

 集音魔法で聞き取ってみる……気がつかれないようにステルス魔法も。

 盗み聞きだけどね。

 

『サッカーってどうやるんだろうね』

『えっと、確かボールを蹴ってゴールに入れ合うんだよ』

 

 ……なぜサッカー? とりあえず邪魔しちゃ悪いしここは離れておくか。

 チューモンはファイル島にいるらしいし、彼を探す方がいいかもしれない。

 あと確認しておきたいのはオーガモンなんだけど……たぶん見つからないな。放浪の旅に出ているし。

 

「というわけで次はどこへ行ってみようか?」

「うーん……海岸は?」

「それもいいかもね」

 

 まあ移動手段は欲しいのでラプタードラモンへ。海岸までひとっとびである。ちなみにアーマー進化。エネルギー効率と加速力が通常よりも良いのだ。

 しかし海岸にやってきたのはいいが何もない。電話ボックスが並んでいる以外に見るところもない。壊されていたはずの電話ボックスはデジタルワールドの再生と共に復活したらしいが……至極どうでもいい。

 

「……あ、わかった。これチューモン見つからないパターンだ」

「簡単にあきらめないでよカノン」

「そうです」

「でもなぁ……」

 

 というか目的のない旅ってどこへ行けばいいかわからないから。

 唯一目的地というか居場所が判明しているのはモニタモンの隠れ里なんだけど……隠れ里って言うぐらいだし、見つけ出すのは――いや待てよ?

 僕のより能力はいわばイグドラシルの未来予測演算をわかりやすい形で見ていただけだ。つまり、イグドラシルへの接続能力による副産物。

 ならば……イグドラシルに接続して隠れ里の座標を知ることが出来るんじゃないか?

 

「――――」

 

 精神を集中してイグドラシルへ接続する。周囲の音が遠くなり、あの情報樹のイメージが脳裏に浮かび始めた。

 同時に、アレに接続している別の存在も検知。どうやらバグラモンはいまだ健在らしい。ただ、あの空間は位相が少々異なるからそれ以上は分からないが。

 とにかくデータベースへアクセス。えっと、検索ワードが必要なのか……モニタモンの隠れ里、位置。検索エンジンの画面が脳裏に浮かぶんだが。

 まあ、位置は分かったけど……ゲートを開いていくのは無理だな。直接飛んでいかないといけないみたいだ。僕のデジヴァイスでは一度行ったことのある場所じゃないとゲートを開けないかもしれない。

 

「主要なポイントをあらかじめ登録しておいてショートカットを作っておくか」

 

 とりあえずファイル島ははじまりの町に作っておいて、モニタモンの隠れ里にも作りに行こう。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「というわけでやってきました……高速で飛んだから寒い」

「いきなりやってきてそれなの?」

 

 唐突にやってきたからか、バステモンの眼が丸くなっている。流石に唐突過ぎただろうか。

 

「それはまあ、皆さま人間界に戻られてしまいましたし、カノン殿もあれからどうなったのかわかりませんでしたから」

「あーそう言えばそうか。心配かけたかな?」

「いえ、むしろまた何かとんでもないことをやらかしたのではないかと思っておりました」

 

 モニタモン、それはさすがにひどいと思うんだ。いや、イグドラシル破壊しちゃったけど。

 

「やはり案の定ではないですか!?」

「にゃぁ……相変わらず無茶するねぇ。そっか、その問題を解決したのカノンたちだったんだね」

「どうやらそうみたいで。でも、本来は安全に管理者が移行されるはずだったんだよね?」

「うん。そう聞いているよ。なんか深刻なバグか何かで外部から無理やり停止させて復旧やら移行処理に時間がかかったらしいけど」

 

 ……なんかすいません。あと、バステモンにデジメンタルの件を伝えると自分がデジメンタルの処理に回されたことに納得がいったらしい。どうも、いくらなんでも人間界へ派遣される理由には弱すぎるなと思っていたそうだが、エンシェントワイズモンの作ったものなら納得だそうだ。

 一体何者なんだよエンシェントワイズモン……

 

「デジタルワールド一の賢者だね。知らないことは何もないっていうぐらいスゴイデジモンだったんだって。まあ、今はもういないけどね」

「一説では、イグドラシルの持つ未来予測演算機能や一部のデジモンが持つ未来予知能力は彼がオリジナルだったとも言われております」

「そこまでなのか……イグドラシル以上って大丈夫なのか?」

「十闘士の時代のイグドラシルには大きな力はないと思うよ。むしろ、デジモンたちを観測して学習していた段階なんじゃないかなぁ? まあ、バステモン的にはどうでもいいかもー……みゅう」

 

 そのままバステモンは寝てしまい……だめだ。爆睡してやがる。

 

「これはしばらく起きませんな。まったく、その気になれば優秀な賢者になれるでしょうに」

「それはそれでバステモンらしくないけどな」

「だねぇ」

「むしろ寝てないバステモンなんてバステモンじゃないです」

「あなた方も結構言いますな……」

 

 とまあ、そんなこんなで近況報告と様子見も終わり、里の位置情報をデジヴァイスに登録しておく。

 変なところにゲートを開かないように細かい設定をしておかないと次が大変だし。

 

「ってわけで今日はもう帰るよ」

「またくるです」

「他の皆さまにもよろしくお伝えくだされ」

 

 それはゲートの問題が解決したらになるかなぁ……

 




あとはゲートが開くくだりとパンプモンたちかなぁ……あと現実世界で一本やってウォーゲームへ行く予定です。

02を見直してカノンの絡み方を考える日々。
とりあえずゲートに関しては使い勝手を調整した結果こうなりました。どんどん集団行動に不向きなっていく……ある意味一番の欠点ですね。


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72.過ぎ行く日常

今回は短編集的な感じです。
あと、作者も忘れがちですが今回の話でカノンもまだ小学生ということを再確認していただきたい。


 11月になった。

 あれからもちょくちょくデジタルワールドへ行っては各地を見て回っていたのだが、いまだにパンプモンたちは発見できていない。バステモン達とは連絡を取り合い、色々と復興作業を行っている。

 チューモンについてはファイル島に帰ってきたのを見つけた。ただ、なんかメタリックな汚物に乗っていたが。彼の相棒であるスカモンの生まれ変わりというわけではないのだが、亜種のプラチナスカモンと知り合ったそうな。無口な奴で趣味は各地の風景を描くことらしい……見た目に反して雅な。

 彼に乗って各地を回りつつスカモンやレオモンの生まれ変わりを探しているらしい。パートナーデジモンたちとも連絡を取り合っており、ゲンナイさんらとも何度か交信しているとか。プラチナスカモンは互いの目的の都合がいいから一緒に行動しているってところか。

 

「へぇ……でも、まだそう時間は経ってないからなぁ」

「そうなんだ。今はデジタルワールドの再生を進めているって」

「何とかゲンナイさんと通信したいところだけど……ゲートが完全に復旧したら光子郎さんから通信してもらった方が早いか?」

「それなら、もうすぐ回復するって聞いたよ。アグモンたちも、メッセージを届けるのにサッカーをやるって」

「それでこの前練習していたのか……よし、そろそろ顔を出してみるか」

 

 というわけで、アグモンたちのところへ。

 全員でサッカーをやっているが……微妙に間違っているような? まあ、それでもいいのか。どうも太一さんの家にメッセージを届けるようだ。はじまりは太一さんの家にデジタマがやってきたことだからな……ここから再スタートってことか。まあ、太一さんも気落ちしてサッカーから離れちゃっているし、これがいいきっかけになると思う。

 と、そんなことを考えているとボールがすっ飛んできた。胸で受け止めて、アグモンたちに返したが……やべぇ、顔出しするつもりはなかったんだが。

 

「か、カノン!? ドルモンたちも……どうしてここに!?」

「いやぁ……僕たちは自由にこっちに来れるから」

「みんな、久しぶりー」

「アンタたち、相変わらず無茶苦茶なのね」

 

 テイルモン、それはどういう意味だ。というかドルモンたちも無茶苦茶認定されているし。爆笑していると、いきなりドルモンが殴りかかってきた。

 

「おま、なにすんじゃ!?」

「こっちまで規格外認定だよ! どうしてくれる!」

「今更だろうが!!」

 

 というわけで、殴り合いの喧嘩に発展していったのだが……みんなは止めることもなく、サッカーへ戻っていってしまった。ちなみに、プロットモンはそっちに行ってしまい僕たちはそのまま泥沼の戦いへと陥ってしまう。

 

「大体、外面ばかり良く見せようとし過ぎなんだよカノンは! 素は荒っぽい癖に!」

「なんだと!? お前だって特撮見た後は暴れまわって大変なんだぞ!」

「カノンだって同じようなものだろうが! ライダー派がッ」

「なんだとこの戦隊派がッ」

「みんなに趣味隠しているとか恥ずかしいわー。マジ恥ずかしいわー」

「テメェ……いい加減にしろよ」

 

 結局、互いに殴り合い罵り合い、日常生活の小さなストレスが一気に噴き出しただけだった。そして最終的に、映画館へ行こうという話で落ち着いたわけである。

 いやもう、喧嘩の理由なんて忘れていたわ。ダブルノックダウンで頭が冷えたともいう。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「というわけで、向こうに行っていました」

「何がというわけだよこの野郎!」

 

 後日というかその日の夕方、アグモンたちがサッカーしている様子を自宅のパソコンから見ていた太一さんに僕たちがあの場にいたことを問い詰められました。あと、後ろでヒカリちゃんが終始笑顔なのが怖いです。無言はやめてほしい。

 

「お前、向こうに行けたなら教えろよ!」

「でも他のみんなを連れて行けるわけでもなかったですし、ヒカリちゃん以外落ち込んでいたので……なんか、すいません」

「ハア……まったく、ゲートがまた開いたからいいけど…………あんまり秘密にしすぎるのもどうかと思うぞ」

「というか太一さんたちだって僕たちを避けていたでしょうに」

「それは、まあ……」

 

 ゲートが開いたおかげで、そこらへんのわだかまりは解けたのだが、やはり変なしこりは残ったままで太一さんも言いよどむ。

 よし、今のうちに脱出を……しかし、ヒカリちゃんが回り込んだ。

 

「どこに行くのかなー?」

「……」

「あ、カノン。おれたち晩御飯の時間だから帰るね」

「がんばってです……」

「う、裏切り者!?」

「ほら、早く全部白状した方が身のためだよ?」

「あー……ヒカリは怒ると長いぞ。頑張れ」

「そんなご無体な!?」

 

 流石に時間移動に関しては言えなかったが、デジヴァイスXのこととかは色々と言わなくてはいけませんでした。太一さんもデジヴァイスの改造についてはあきれ顔を通り越して、無表情になるレベルだったことだけは伝えておく。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「とまあ、そんなことがありました」

「太一さんからゲートが開いた連絡を貰った時より驚いていますよ……デジヴァイスの改造なんてそんなことが出来るんですか?」

「まあ、僕のは色々と例外だったので」

 

 後日、光子郎さんの家でゲンナイさんと連絡が取れないか聞いてみたついでにデジヴァイスの話に。

 子供たち全員にゲートの話は行っているみたいだ。光子郎さんもここ数カ月よりは落ち着いていた。

 

「カード型にしたんですね」

「ええ。機能は基本的に同じですけど、他のデジヴァイスと違って聖なる力はないですけど」

「聖なるデバイスのはずだったんですが……」

「目的の違いですかねぇ……僕ら、戦う相手が暗黒系とは限らないので」

 

 むしろ利用する時さえもあるし。というか今後もまだ戦いは続くことが確定しちゃっている身だし。

 

「ハァ……数年後にまた厄介ごと確定してるんですよ僕ら」

「な、なんというか……頑張ってください」

「がんばりますけどねぇ……それで、ゲンナイさんは?」

「まだ連絡はつきません。カノン君たちはデジタルワールドへ行けるんですよね?」

「はい。こうなったら直接ゲンナイさんの家に赴いた方がよさそうだなと」

「その方が早いでしょう。デジタルワールドの地図を出してもらえますか?」

 

 持ってきたパソコンでデジタルワールドの地図を表示し、サーバ大陸を拡大する。光子郎さんがあの時はこう進んだから……と冒険のことを思い出しつつ大体の位置を教えてくれる。

 

「たぶん、この湖がゲンナイさんの家があった場所です」

「湖の中か……ありがとうございます」

「いえ。でも以前とは少々地形が異なっているようにも思えますから今もそこにあるかは……それにしても、他の大陸などもあったんですね」

「まあ僕もほとんど回ってませんが。フォルダ大陸にバステモンが行っていたのでそっちに行ったぐらいですね。目的地無しだとキツイですし」

「確かにそうかもしれませんね。そういえば、テントモンは元気でしたか?」

「元気でしたよ。パートナーデジモン全員、ファイル島で仲良くやってました。他のみんなも探しましたけど、オーガモンは放浪の旅に出ているのでどこにいるのかわかりませんけど、そのうちパンプモンたちの顔を見に行く予定です」

「そうですか……あの二人は何をしているんですか?」

「なんか、デジタマモンに弟子入りしておでんの屋台を引っ張っているらしいです」

「……なぜ?」

「さぁ……」

 

 一定の場所にいないから噂話などから場所を推察するしかない。ただ、元気にやってはいるみたいだ。

 ちなみに、彼らの屋台ではドルではなく円を使用する。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ゲンナイさんの家に押しかけました。

 

「おぬし、無茶苦茶すぎやせんか?」

「そうですかね?」

「カノン、水中にそのまま歩いていくのは色々と怖いよ」

「です」

 

 まあ自分でも水中にあるゲンナイさんの家に入るために湖の中を歩いていくのはどうかとも思ったが……ここにあるかもわからなかったし、とりあえず中を調べるしかなかったから。

 バリアーを張りつつ歩いていくと、すぐに見つかったけど。

 

「でも日本庭園とか良いところに住んでいますねー」

「まったくいきなり押しかけてきおって……じゃが、ちょうどよい。ワシもおぬしとは一度ちゃんと話をしたかったんじゃ」

「それはまたどうして……」

「ワシに埋め込まれた暗黒の力、おぬしなら取り出せるんじゃないかとおもっての」

「あー」

 

 そう言えばそんな話もありましたね。

 というわけで、ゲンナイさんの体を調べてみたのだが……ダメだ。時間が立ちすぎていて僕じゃ無理だわ。

 

「すいません、長いことこの状態だからか僕の魔法だと無理です」

「いや、ダメ元で言っただけじゃから気に負わんでもいい。それに別の対処法もある。ピエモンの力を入れられても無事だったおぬしならもしやとも思ったんじゃが……」

「埋め込まれた直後なら外せたかもしれませんけどね。まあ、精神データとも結びついているから、当人が本気ではずしたいと思わないとダメですけど」

「そこまでわかるのは予想以上じゃったが……」

 

 バグラモンやリリスモンとの特訓でスキルアップしまくったから。

 あと、色々と見せてもらったりゲートを開く際には一応注意してほしいなどと言われたりなどした。イリアスやウィッチェルニーのような別次元のデジタルワールドと接続されてしまう可能性もなくはないらしい。

 

「それに、中にはとても危険な世界もある。それこそ、暗黒の力に覆われた場所なども」

「世界ってどれくらいあるんですか?」

「そうじゃのう……わかっている範囲では7種類ほど。その7種類ではデジモンも人間も比較的安定して存在を保てる世界じゃ。人間界、デジタルワールド、ウイッチェルニー、イリアスの4種類は安全な方じゃが他の世界には気を付けた方がいい」

 

 場合によっては入るだけで存在が希薄になる世界もあるとか。座標の打ち込みは慎重に行おう。

 それと、今後の方針についても話すこととなった。

 

「今後また騒動が起こるやもしれんが、おぬしは極力手を出さんように」

「見てるだけで我慢しろと?」

「というより、おぬしたちの力は規格外すぎる。被害が大きくなりそうだったりすれば別にいいが、下手をしたら他のものの成長の機会を奪いかねん。まあ、状況を見て決めてくれ」

「アバウトな……」

「でも仕方がないんじゃないの?」

「それはそうかもしれないけどね」

 

 もしかしたらパートナーデジモンを持つ子供も増えるかもしれないらしい。そうなった場合、僕たちがいちいち手を出すのも良くないだろう。

 まあ、世界の危機とかだったら別段止めないらしいが。

 

「あと究極体に対処できるのは基本的におぬしたちだけになりそうじゃし、スマンが何かあったらよろしく頼む」

「太一さんとヤマトさんもいるけど……どういうこと?」

「まだ未定な部分もあるんじゃが、準備や調べ物もあるし詳しい話は来年になるじゃろうな。まあ、どうなるかはわからんから記憶の隅にでもとどめておいとくれ」

 

 よくわからないが、究極体による問題が発生したら対処してほしいってことだろう。

 今のデジタルワールドで自然発生的に究極体が現れることは少ないみたいだし、すぐに何かあるわけじゃないだろうけどね。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 現実世界では1月になり、寒い日が続く。

 2000年問題なんて話もあったが何事もなく日々が過ぎていった。いや、正確にはデジタルワールドで何か騒動があったらしいんだけど、その件に関しては僕たちは全く関わっていない。

 

「炬燵でミカンもいいもんだ」

「です」

「だねぇ……」

 

 なんか色々とあちらでも騒動は起きたりしたけど、基本的に僕らは人間界にいる。まあ、冬休みは冬休みで色々と忙しかったが。大晦日の騒動には関わっていないだけで、結構大変な目には遭っていたからなぁ……

 究極体のゴクモンってデジモンがいるんだが、そいつがどこからか脱走して大変な被害を出しているから止めてくれって言われたり。結構素早かったので、ディノタイガモン・バーストモードを初使用したりした。

 サーベルレオモンのデータが顕著になり、メタルボディも強化された姿でスピードもかなり速い。

 

「ただ、自分のスピードで目を回すってどうなのよ」

「面目ない……」

 

 まあその騒動は割と楽に終わったし、特筆することもないんだけどね。

 あとは……サッカー部で怪我人が続出して助っ人を頼まれたりとかあったな。身体強化をしてなかったから手を抜ていないかって太一さんに言われたけど、流石にそんな時にまで魔法は使いませんって。ドーピングみたいなものですよって言ったら納得したからいいが。

 ただ、助っ人のあとで監督とかに勧誘されたのには困ったが。

 

「そう言えばカノン、光子郎の言っていたパソコン部には入るの?」

「一応ね。しかし光子郎さん小学校にパソコン部を立ち上げるとは……」

 

 それもあってサッカー部のことは丁重にお断りさせていただいた。その時は他にやることもあったし。

 パンプモンたちも発見できたし、あとやるべきことか済ませておくことはあっただろうか……あ、アレを忘れてた。いや、別にすぐにどうこうする問題でもないけど……

 

「どうしたの、難しい顔をして」

「いや、ベルゼブモンってどこに行ったんだろうって思って」

「あぁそう言えば」

「結局お台場にはもういなかったし……どこで何をしてるんだろうなって思ったんだけど…………居場所の心当たりもないし、探しようもないんだよな」

 

 まあ、心配する必要もないし遭遇したらそれはそれで面倒なんだろうけど。

 となるとやはり、数年後にくるであろう厄介ごとのために準備しておいた方がいいか。

 

 

 だけど僕たちは知る由もなかった。2か月後、世界中を巻き込んだ大騒動が起こるだなんて。

 

 




というわけで、次回ついにウォーゲーム開幕。
他にも予定していた閑話はありますが、時期的にウォーゲームの後がいいと判断したので早々に次行きます。

triのハックモン、声優さん決まりましたねー……サイスルとは違って歴戦の戦士っぽい感じになりそうなんだが。



私的なことになりますが、エアコンが水漏れしてヤバい。


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3章・無垢と憎悪のウォーゲーム
73.開幕


3章突入。


 3月になった。去年の事件のせいで学校側のカリキュラムの調整やらなんやらで少々早いが春休みに入ったある日のこと、母さんの妊娠が発覚し父さんと共に検診で家を空けている。

 光が丘のおばあちゃん家に報告に行ったりなどでしばらくかかるだろうし、帰るのはいつになるのやら……ついでとばかりに我が家のネット回線は修理中である。ネズミめ…………まあ、父さんのパソコンも買い替えとかで現在家にあるのは僕のノートだけだったけど。

 最近はデジタルワールドでの用事もなく、平和なものである。太一さんと空さんが喧嘩するという実にくだらない騒動もあったりするのだが。理由? くだらないのでスルーした。当人たちでどうにかしてほしい。

 

「ねえカノン、なんかこの試合おかしくなってるよ」

「点数がおかしいです」

「どうしたんだよドルモン、プロットモン……ホントだ」

 

 野球の試合みたいだが、点数がおかしなことになっている。100点近い点数を片方のチームが取っているが……野球でそれはありえないだろう。というか途中でコールドになるだろうに。

 点数表示がバグっただけだろうけど……なんだろう、この嫌な予感は。

 と、同時に我が家のインターホンが鳴り響く。ドアを開けてみると、光子郎さんの姿があった。

 

「どうしたんですか光子郎さん」

「ネット!」

「はネズミのせいで切断されております。業者が来るのは夕方かなぁ」

「じゃあ太一さんの家に速く!」

「は、はい」

 

 なんかすごい剣幕で迫られたので太一さんの家に向かう。

 ドルモンたちもついてくるが、君たち普通にしすぎじゃないだろうか?

 ごめんくださいと太一さんの家にいくと、タマゴを持って太一さんが現れた。えっと、料理中ですか?

 

「た、タマゴが……タマゴが孵ったんです!」

「タマゴって……」

「太一さん、それ無精卵」

「そっちのタマゴじゃなくてデジモンのタマゴです!」

「ならデジタマって言っておかないと」

 

 というか光子郎さんも断片的すぎてわけがわからないですよ。

 とにかく詳しい話をするために太一さんと共に彼の部屋へといく。八神さんちのお母さんにも挨拶をするが……ドルモンたちも普通に挨拶しているこの光景、良いのかいつも不安になるんだが。

 

「慣れって大事だよね」

「おかげさまでな。とにかく何が起きたのかだけでも知っておかないとね」

 

 光子郎さんが携帯とノートパソコンを接続して画面に画像を一つ表示させている。一つ目のクラゲの様なデジモンみたいだが……情報が全くわからない。なんだコイツ?

 

「なんだかカワイイ見た目してんな」

「見た目はそうですけど、一つ目って不吉な感じしません?」

「まあな。で、こいつがどうかしたのか光子郎」

 

 アイスを食べながら問いかける太一さん……まあ、全員食べているけどね。まだ肌寒い季節だが暖房が効いた中食べるアイスはおいしいものである。人としてダメな気もするが。

 

「このデジモンは、バグなどが寄り集まって生まれたデジモンみたいなんです」

「なんでそんなことがわかるんだよ」

「ボクの知り合いがタマゴの殻のデータ構造を解析したんです。そいつはまだ小学生ですが、大学にも籍を置いているんですよ」

「…………」

 

 太一さん、絶句。いや、気持ちはわかるけども。

 

「俺も小学生だけど、小学校にしか通ってないぞ。なあ、カノン」

「いえ、僕は海外にいって飛び級するのが面倒なだけです。父が大学教授だから色々と見てもらってますよ」

「…………」

 

 そんな裏切り者を見るような目はやめてほしいんですが。大丈夫ですよ、歴史の授業とかは年相応の範囲しか知らないです……いや、この年で歴史勉強している時点でおかしいのか?

 

「だめだ、どこがおかしいのかすらわからねぇ」

「カノン君……あ、見てください!」

 

 なんか光子郎さんからも哀れみの視線を感じたが、パソコンの画面が切り替わった。というより、クラゲの姿が変わったのだ。爪の生えた手に目玉が付いたような姿になったけど……幼年期Ⅱか。

 

「進化したのか」

「クラゲから、メールが来ましたよ……オナカスイタ、とだけ書かれていますね」

「腹が減った!?」

「コイツ、データを食べて成長しているんですよ!」

 

 それってかなりマズいんじゃ……

 

「このまま進化していったらあらゆるデータを食い尽くしてしまいますよ!」

「そうなったらどうなるんだよ」

「世界中の、ありとあらゆるコンピュータが暴走してしまいます」

「世界滅亡の危機ですねぇ……真剣にヤバいなコレ」

「それじゃあ、さっきの野球の試合の得点って」

 

 ドルモンの一言であちゃぁとつぶやきが漏れた。太一さんたちにも説明しつつ状況をまとめると、すでに影響は出ているという結論に達した。あれ、データを食われたせいで得点表示がおかしくなったのか。

 

「どうすんだよ!?」

「とにかくネット回線につないで準備だけでも整えないと」

「僕、家に戻って自分のノートとってきます!」

 

 というわけでいったん部屋に戻って必要なものを持ってくる。八神さんにはすぐに戻ると言い、パソコンとついでにケーブル類、あと作っておいたデジヴァイスの変換アダプタを持って再び八神家に戻る。

 光子郎さんもすでに準備をおえたようで、回線に接続されていたが……そこに表示されたのは、大きくなったクラゲの姿。手がついており頭身も上がっている。

 

「進化しちゃったのか……」

「カノン君、そちらも準備をお願いします!」

「分かりました……なんつー厄介な事態だよまったく!」

 

 ゲンナイさんからは色々言われていたけど、よほどの事態じゃないかコレ。

 

「成長スピード速すぎるぞ!」

「今のうちに倒さないと、大変なことに……」

「結局、黙って見ているしかないのかよ! ――そうだ、カノンならどうにかできないのか!? 魔法で直接入るとか!」

「ネット回線に直接入れと? デジヴァイスの力で僕の肉体をデジタルデータ化することはできますし、やろうと思えば可能でしょうけど座標とか回線への接続とか色々とやらないといけないんです。そんなこと今まで思いつきもしなかったんで、やろうにもやり方がわかりませんよ」

 

 ぶっつけ本番でそんなことしたら別次元のデジタルワールドに飛ばされかねないし、肉体が消し飛ぶかもしれない。

 

「スマン……じゃあ、ドルモンたちは?」

「行けないことは無いけど……X抗体種ってデータサイズが大きいので、変換に時間が…………」

 

 結局、今のところは観測するしかできないのが歯がゆい。そう思っていたら、八神家のパソコンに変化が現れた。

 

「こんな時、アグモンがいてくれたら……」

「いますよここに」

「何!?」

 

 画面を見ると、太一さんの名前を呼ぶアグモンの姿があった。

 ゲンナイさんもいて、ガブモン達も続々と集結する。

 

『太一!』

「あ、アグモン!」

「テントモン、それにみんなも!」

『うむ。久しぶりじゃな二人とも。カノンもこの前はスマンな』

「いえ……それよりも、今ネットに現れた新種って」

『知っているのならば話は早い。特大の緊急事態じゃ』

『そいつはとても凶悪なデジモンなんだ。このままじゃ大変なことになっちゃう』

「でも、俺たちじゃどうすることも……」

『だから、オレたちがネットにはいって戦うよ!』

 

 ガブモンがそう言い、みんなが続いて僕たちの世界のために戦うと言ってくれる。

 デジタルワールドを守ってくれたからこそ、今度は僕らの世界の危機のために戦うと。

 

「みんな……」

「お前ら……よし、そうと決まったら俺たちがデジヴァイスで進化させてやるぜ! 光子郎、デジヴァイスは持ってきているよな!」

「もちろんです」

「僕たちは何とか突入できないか調整してみます」

 

 すぐにとはいかないが、自分の体のデジタルデータ化はどうになるはずだ。以前、ミラージュガオガモンとの戦いの時にやったことだしあの時のログを利用できればいける。

 

「後は奴の動向とか目的を探れないか試してみます」

「頼むぜ……そうと決まったらみんなに連絡だ!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 とまあ、意気込んだのはいいんだが何ともまあ間の悪い日があったものだ。

 

「城戸さんのお宅ですか? えっと、丈は……え、受験?」

「そう言えば私立中学を受験するとか言っていましたっけ」

「試験日今日だったんですね」

 

 丈先輩、参加できないなコレ。

 

「なら次はヤマト……え、出かけている? タケルも一緒に? …………島根?」

「島根……」

「うわぁ……」

「光子郎君、カノン君、ウーロン茶飲む?」

「あ、いただきます」

「とりあえず一杯だけ」

 

 八神さん、マイペースですね。いや、事件を知らないからだけど。

 ちなみにドルモンは奥でデータ調整中。

 太一さんが島根のヤマトさんたちに電話をかけるが……なんか相手が要領を得ない、そして切れた。

 

「切りやがった……」

「二人とも、春休みはどこかいかないの?」

「いえ、とくには」

「うちも母さんが妊娠しましたから」

「ぶほっ――そうなんですか!?」

「ええ……あ、八神さんケーキ作るの手伝います」

 

 というわけで光子郎さんと共にケーキ作りの手伝いをしながら太一さんを待つ。

 ミミさんの家、留守電。これは無理っぽいな。絶対に無理な気がする。

 続いてヒカリちゃん……お友達の誕生日会だとか。

 

「……誕生日会って都市伝説じゃないんだ」

「カノン君、そんな悲しいこと言わないでくださいよ」

「冗談ですよ……半分は」

「半分って」

 

 正確には、クラスメイトのと頭につくのだ。

 

「結局悲しい話じゃないですか」

「その哀れみの視線はやめていただきたい」

 

 その後、太一さんはロウソク消したら帰って来いよと言っているが……そんなご無体な。

 と、残るは空さんだが……ああ、面倒な。

 

「光子郎、空んちに電話してくんない?」

「空さん? 太一さんが電話した方が……」

「いいから頼むよ」

 

 そんなわけで光子郎さんが電話したが、居留守をつかわれる始末。

 

「まったく喧嘩なんてくだらない」

「お前が言うなよな!?」

「でも、なんで喧嘩なんてしたんですか」

「そ、そんなことよりそろそろ時間じゃないのか?」

「露骨に話そらした……何が原因なんですか?」

「くだらないので僕の口からは言いません」

 

 太一さんが空さんに誕生日プレゼントを渡したら、それが原因で喧嘩しただなんて僕の口からは言えない。というか言いたくない。

 

「とにかく行くぞ!」

「まったく意固地な……八神さん、どうかしましたか?」

 

 なぜか八神さんが玄関を開けて外を見ていたので、僕ものぞき込んだら……観覧車が高速回転していた。

 

「いつもより回っているわねぇ」

「そんなのんきな!?」

 

 というか実害出ているじゃないか、人命にかかわるから急がないと!?

 すぐに太一さんたちの後に続き、パソコンを操作して状況を見る。アドレスを見ると、案の定観覧車のデータを食べているところだった。

 

「アグモンたちの転送が完了しました!」

「カノン、そっちはどうだ?」

「今の転送で要領は分かりましたが、やっぱりドルモンだとデータ容量が……幼年期だと変換に耐えられるか不安だし、このままサポートに回ります!」

「仕方がない、二人とも頼む!」

『任せて!』

「奴はこっちに気が付いていません、先制攻撃です!」

 

 アグモンたちが攻撃し、続いて進化する。パソコンの画面には進化ムービーが流れているが……どうやらネット世界で進化すると画面にこうやって処理状態が表示されるらしい。

 そして、グレイモンたちの攻撃がヒットしていく。奴もろくに動けないのか攻撃を喰らい続けているだけだったが……

 

「やったか?」

「いえ、どうやら違うみたいですよ……」

 

 奴の姿が変わっていた。紫色の体が、白を基調にしたものへ変化しており、四足のクモのような姿になっている。動かないことで進化に専念したってところか。

 

「なんか、非常にまずい予感がプンプンなんだけど……」

 

 まだ、短くも長い一日は終わりそうにない。

 




今までカノンたちを助けてきたX抗体の力でしたが、ここにきて逆に邪魔することとなりました。そうそう上手くいってばかりではないのです。

というわけで、ウォーゲーム開幕。


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74.混乱

ウォーゲームは数々の名言がありましたね。


 新種デジモンの構成情報が一気に増大したが、やはりデジモンの名前は分からない。というか他のデジモンとはファイル形式が異なり過ぎて解読ができないと言うべきか。

 デジ文字のコードも見えたが……意味のない羅列にしか見えない。

 

「なんなんだこのデジモン……嫌な予感がします、十分に気を付けてださい」

 

 既存のデジモンとの照合を行い、一番近い種類からどのような種か割り出しているが……やはり、どれとも当てはまらない。完全なる新種だ。

 グレイモンたちも攻撃を仕掛けていってはいるものの、まったくダメージが入っていない。

 

「なんだよコイツ、グレイモンたちの攻撃を弾いていやがる」

「既存の種とは全く異なるデジモン――いや、進化段階だけは共通している、ヒット!」

 

 本当に断片的な部分しかわからなかったが、成長段階だけは他のデジモンと共通になっていて助かった。

 

「太一さん、光子郎さん、アイツ完全体です!」

「なんだって!?」

「ボクの方でも確認しました。先ほどのは二段階進化です!」

 

 おそらくはこの新種だけが持つ特性の様なものなのだろう。進化段階をとばすことが可能という性質のようだが、飛ばしたことで構造的には脆い面が見える。一応、リスクはあるみたいだな……

 

「だったら、光子郎!」

「ええ、こちらも完全体に進化して――」

 

 グレイモンとカブテリモンの姿が変わっていく。だが、奴は笑いながら突っ込んできた。そして、その口から砲口が現れて――

 

「ってマズイ! シールド展開!」

 

 キーボードを打ち込み、魔力接続を全開にする。グレイモンたちの周囲にシールドが展開されるが――奴が砲撃から触手による攻撃に切り替え、そのシールドも突破されてしまった。とたんに、頭に電流が走ったような痛みが来る。

 グレイモンたちも進化を完了させることが出来ずに、攻撃を喰らってキャンセルさせられてしまった。そして、奴は笑いながらどこかへと逃走してしまう。

 ケラケラと笑って、実にムカつくが……

 

「痛い……」

「アグモンに戻っちまったか」

『太一、ゴメン』

『光子郎はん、アイツえろう危険ですわ』

「いえ、テントモンたちもありがとう……しばらく休んでいてください」

 

 結局奴の逃走を許してしまう結果になるとは……これ、追跡がきついな。

 

「カノンも大丈夫か? 何かやったみたいだけど」

「魔法でシールドを張ったんですけど、データごと食われました……その反動で頭痛がします」

「カノン、休む?」

「大丈夫だよドルモン……お前を送り込む準備も進めないといけないし、休んでいられないよ」

 

 変換プログラムと、他にも色々と打ち込まないと……ただ単にゲートを開いただけじゃ無理なんだよな。

 デジタルワールドを経由するという案もなくはないのだが、あのデジモンのせいなのかそっちはそっちで不安定となっている。僕のデジヴァイスでも今ゲートを開くのは難しい。

 

「二人とも、これを見てください」

 

 光子郎さんが唐突にそう言いだして、彼のパソコンをのぞいてみると……メールが届いていたようだ。

 どうやら、この戦いは世界中で見られているようで、海外から送られてきたメールらしい。

 デジタルモンスターって初めて見ました……去年の事件は結構な人が目撃したと思うんだが、見ていない人もいたのか。

 

「というか普通にメールが届いているとはどういうこっちゃ」

「アドレスを普通に見たんでしょうね」

 

 あ、非公開じゃないのね。いや、戦いを見ているんだから見えちゃっているのか。

 しかし2対1で負けるとか弱すぎるとか好き勝手言っている人もいるし……こうなれば意地でも奴を止めるしかない。

 

「あ! クラゲからもメールが来てます!」

「なに!?」

「あの野郎なんのつもりだ! そして今の姿は蜘蛛だと思う」

「んなことどうでもいいからメール……なんじゃこりゃ」

 

 メールの文面はもしもしもしもし……とそれだけしか書かれていない。怖いわ!

 

「何が言いたいんだコイツ」

「見てください、このアドレスのところ」

「アドレス? がどうかしたのかよ」

「――――嘘だろ、オイ」

「カノン?」

 

 光子郎さんに言われてアドレスを見たが、絶句するしかなかった。パソコンに疎い太一さんがわからないのも無理はないが、僕たちが指さした場所。その英文字を太一さんも読み上げる。

 

「NTT……えっと、それって」

「はい。日本の電話会社です……つまり、奴がデータを食い散らかす前にみんなと連絡をとらないと」

「連絡つかなくなりますね」

「やべぇだろそれ――まずはヒカリ!」

 

 太一さんがすぐにヒカリちゃんへ電話をかける。幸い、すぐにつながったようだが……

 

「来れると思います?」

「無理でしょうねぇ……ヒカリちゃん、空気読んじゃう子だし」

「そんなのいいから早く帰ってこい!」

「やっぱダメか」

「カノン君、プログラムの打ち込みは?」

「何とか――よし!」

 

 あとは座標データの処理さえ何とかなれば……そっちもそっちで非常に面倒だが。

 でも電話回線が乗っ取られたのか……何だろう、このとてつもない嫌な予感は。

 

「なあ、みんな話し中なんだが」

 

 太一さんがやべぇって顔でこっちを見てきているけど、光子郎さんが冷めた顔で空さんの家は? と聞き返している。

 

「かけたよ、でもつながんねぇんだよ」

「そんなわけないじゃないですか」

「いえ、もしかしたら……」

 

 そして僕の嫌な予感が的中したかのように、電話がかかってくる。太一さんがすぐに出るが――もーしもし、もーし、もしと言葉にすればこんな感じだが、実際は電子音を組み合わせてこの音を出し続けたようなものが流れ続けるのみ。

 

「や、やべぇ……」

「嫌な予感的中」

「どうなんてんだよ、これ」

「奴が交換機に潜り込んで片っ端から電話をかけて回線をパンクさせようとしているんです」

「どうすんだよ、みんなと連絡つかないし、インターネットだって電話回線を使っているとかって話だったよな!?」

「ええそうです……だから、もう間もなくですかねー」

 

 僕がそう言った次の瞬間、ウィンドウがいくつか閉じた。インターネットから切断されたからだね。

 

「はい、パンクした」

「……」

 

 きっと、僕たち三人はもうダメだみたいな顔だったんだろう。というか突入するぞって時にこれかぁ……ハァ。

 

「ボクちょっととってくるものがありますので――すぐに戻ります!」

「あ、光子郎……どうする?」

「光子郎さんの作戦まちですね」

「カノンの魔法でどうにかならないのかよ」

「インターネットの電脳空間にアクセスする道が無いことには僕もお手上げです」

 

 せめて、奴が今いるアドレスさえわかればなんとかなるかもしれないんだが。

 

「とりあえずプログラムの打ち込みを続けますね」

「何もしないよりはマシかぁ……」

 

 リビングに戻り、テレビを見るとやはり電話がつながらないという話をやっている。

 電話会社の人たちも復旧作業を行っているが、原因は全く分かっていないんだから直しようもないな。

 

「父さんたち、大丈夫かなぁ」

「ああ、もうダメかも……」

「なによ太一、おかしな声出して」

「ちょっと大変な状況ってだけなんで」

 

 だけって表現もおかしいけどね。

 と、そこで一般の電話は控えるようにというニュースキャスターの言葉の後にどうしても伝言がある場合は災害用伝言ダイアルの説明があった。171という番号をつけて、別のサーバーか何かに伝言を保存する形式のものみたいだ。まあ、声の伝言板って奴か。

 

「こ、これだ!」

「確かにこれなら連絡つくかもしれませんね……うちも使っているかもしれないので、ちょっと確認してきます」

 

 というわけでいったん自宅へ。というか隣だが。

 確認してみると、流石行動が早いな僕の両親は……すでに伝言がはいっていた。

 

『父さんたちは騒ぎが収まるまで、こちらにいる。大丈夫だとは思うが連絡を入れておいてくれ』

『ごめんねー、一応身重だからー』

 

 とりあえず無事っぽいからこっちも心配はいらない旨と、騒ぎは何とか解決するからと伝言を残しておく。

 まあたぶん父さんたちもデジモン関連の可能性があると思っているだろうし、これで大丈夫だろう。

 伝言を残して隣に戻ろうと、部屋を出たら……エレベーターが閉まるところだった。人影が見えないってことは、誰かが降りているのだろうか? なんか見覚えのある人影が見えた気もするんだが……空さんっぽい人影が。

 

「向こうも向こうで意固地になっているのかねぇ……今は仲裁している場合じゃないし、伝言を聞いてくれることを祈ろう」

 

 扉を開けると、太一さんがちょうどミミさんに伝言を入れていたところだった。

 これでほとんど全員に連絡を入れたのかな?

 

「ミミちゃん……うーん、あ、思い出した」

「どうかしましたか?」

 

 八神さんが何かを思い出したようで、はがきを取り出してくる……何だろう、見覚えのある風景が見えたんだが。とてつもないほどの嫌な予感がする。こう、脱力系の。

 

「はい、ミミちゃんから」

「いったいどこにいるんだよ……」

「この切手ってまさか」

「カノン、なんでそんなに青い顔――は」

 

 太一さんがはがきをひっくり返すと、そこには青い海の写真が――っていうかハワイだった。

 

「はわっ……」

「ハワイかぁ……そっか、海外旅行かぁ…………」

 

 何故だろう、ミミさんが「ハワイってやっぱいいわぁ!」って叫んでいる気がする。

 もうラプタードラモンに乗って無理やり拉致ろうか……いや、流石に時間が無さすぎるか。

 と、そこで光子郎さんが戻ってきた。

 

「ただいま戻りました」

「あら、おかえり」

「光子郎さん……もう、アカン」

「ダメだぁ……」

「どうしたんですか、二人とも、疲れ切った顔をして」

 

 ほらよと太一さんが光子郎さんにはがきを渡す。それを見て、なるほどと苦笑するが……いや、この状況でこれ見たら疲れ切りますよ。

 

「と、とにかく準備がありますから行きましょう」

「おおぉ……」

「太一さん、しっかりしてださい」

 

 奥に戻ると、ドルモンたちが体をほぐしていた。いや、プロットモンは連れて行かないからな。

 

「です!?」

「そりゃそうだろうが。アイツ危険すぎるっての」

「もうダメだぁ」

「太一さん、本当にしっかりしてくださいよ」

 

 床に寝そべって嘆きを表現している。こっちまで気が滅入るからやめていただきたい。

 

「ボクらっていまいちまとまり無いですもんね」

「光子郎さん、それは流石に……だめだ、否定できない」

 

 年齢性別もバラバラだし、冒険中もまとまっていた時より別行動の方が多かったな。

 

「それこそエテモンとの戦いの間だけでしたからね、まとまって行動していたの」

「それも僕とヒカリちゃんを除きますが」

「チームワーク大事……」

「太一さんの言う通りですが……結局、なんだかんだでまとまって行動するのはサッカー部の3人ですしね」

 

 まあ、今は空さんがいないが。そこに太一さんのお隣だったり光子郎さんとパソコン繋がりの僕が加わる形となっている。あとはヒカリちゃんがついてくるぐらいか。

 他のメンバーは……デジモンに関わらなかったらそこまで接点なかっただろうな。

 

「結局、今はこの三人で何とかするしかないのかよ」

「ですね」

「ところで光子郎、お前何しに行っていたんだよ」

「これをとりに行っていたんです」

 

 そこで光子郎さんが見せてくるのは携帯電話――いや、まさかその端末は!?

 

「衛星携帯です!」

「マジか!?」

「これを使えば、外国のアクセスポイントへ直結できますからNTTの交換機を通らずに行けます」

「なら、それを使えばヤマトたちに連絡がとれるんじゃ」

「ダメですね。国内だと結局交換機を通りますし」

 

 なんだよと言いながら、太一さんが再び床に寝転がる。気持ちはわかるが、回線に接続できるだけでも御の字なのである。

 こっちも変換プログラムの準備を進める。デジヴァイスのゲート機能を使い、僕とドルモンを送り込む準備を進めていく。

 

「そう言えば見られているんだったよな……ゴーグルで顔を隠さないと」

「直接入るとかカノン君、規格外すぎませんか?」

「やろうと思えば光子郎さんたちもできますよ。アポカリモンのデータ分解と原理は同じですし」

「あ、なるほど」

 

 アレは攻撃として喰らってしまったらしいが、僕は自分自身でそれを行っているだけなのだ。そうやってデジタルデータ化した自分を直接回線に流し込んで適した形に再構築しているのである。デジヴァイスの補助があれば、光子郎さんたちも可能ではあると思う。まあ、変換する手段が今のところないのだが。

 

「そういえば太一さん、171に伝言入れたんですよね。そろそろ返事が来ているんじゃないですか?」

「そうだ忘れてた」

 

 というわけで、光子郎さんのおかげで伝言のことを思い出したためすぐに聞いてみることに。

 入っている伝言は、一件だけ。

 

「頼むぜ、聞いていてくれよ」

「……」

『もしもし、ヤマトだけど……急ぎの用ってなんだよ』

 

 よし、最大戦力(究極体)確保! タケル君もいるから戦力がさらに増えた!

 

「やった!」

「やっぱアイツら頼りになるぜ!」

 

 こうして171を利用して互いにメッセージを伝えあう形で話していったのだが……デイヴァイスは持っているが、パソコンが無いと。

 

『おばあちゃん家だからパソコン無いよ』

『無いよなぁ……島根にパソコンなんか』

 

 おいマジか。

 

「ダメだぁ!?」

「お願いします! 何が何でもパソコンを探してください!」

「島根にだってパソコンあるだろうが!」

「頼みますから何としてでも見つけてください!」

 

 結局、メッセージで発破かけるしかできないのか……

 なんというか、無事に解決できるんだろうかこの騒動。

 




むしろ迷言だけどね。
ここら辺のくだりはカオスだったなぁ……


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75.衝撃

いやぁ、濃密だなこの映画。


あと台風すさまじかったですね。仕事行くときヤバかった……まだ影響がある地域もあるでしょうが、皆さまお気を付けくださいませ。


 ヤマトさんたちにパソコンを何としてでも見つけてくれと頼んだ後、電子データ化変換のための最終準備に入った。

 デジヴァイスの補助さえあればできなくはないことなのだが、意図的に行うのは難しい。というより前例がないので似たような事例であるドルモンのデジコアへ侵入したときのログを流用しているわけだが……安全に変換するための処理と同時にドルモンも電脳世界へ突入させるための準備が大変である。

 よし、アドレスの記入も終わったからあとは突入――

 

「あれ……NTTを出ていますよ!?」

「――出鼻ッ」

「どこに行ったんだよ!?」

 

 謎のデジモンは既に別の場所に移動しているみたいだが、ご丁寧にメールを残していやがる。このアドレスからすると……あれ? おかしいな。僕の眼が疲れたのかな?

 

「カノン君、現実を見てください。アメリカです」

「アメリカ!?」

「野郎なにするつもりだよ」

 

 ニュースやら色々とわかる範囲で調べてみても、現地は大混乱になっているらしい。

 手当たり次第にデータを食い散らかしているようで、追跡もままならない。

 

「あと一歩だったのにッ」

「あいつ、面白がってやがるのか」

「完全体とはいえ生まれたての子供ですからね。頭の中は無垢な子供なんでしょう」

「これで無垢とか冗談きついですよ……いや、実際にそうなんだろうけども」

 

 アレに悪気はないのだ。本当に遊んでいるだけ。ピノッキモンを更に純粋にした感じだ。純粋過ぎる故に、まったくためらいも手加減もないのが恐ろしいが。

 力と精神のバランスが狂いすぎている。

 

「どうやったらあんな生き物が生まれるのか……」

「そうですね……確かに気になりますが、まずはどうにかしないと」

 

 そう言って、光子郎さんがコップをグイッと傾けてウーロン茶を飲み干す。あなたさっきから飲み過ぎじゃありませんか?

 ツッコミたい衝動に駆られるが、僕の作業も手が離せない。奴の足が速すぎてプログラムの打ち込みが終わらないのだ。

 

「ただのコンピュータの不調ではないことに気が付いている大人もいるハズです……ただ、原因がこのデジモンだとは思ってもいないでしょうが」

「母さんに連絡入れて、伝手を使うのも無理だろうなぁ……アメリカ相手だと戦争の引き金になりかねないし」

「もっと早くに連絡入れればよかったんじゃないか?」

「うーん……奴の移動スピードを考えると、それも無駄だったと思いますから言っても意味ないですね」

「結局、俺たちでどうにかするしかないのかよ」

「ええその通り、アグモンたちに頑張ってもらうしかありませんね」

 

 光子郎さんがそう言うと、画面に新しいウィンドウが表示される。

 そこに映っていたのは、金色が混じったような髪色の兄弟だった。

 

「ヤマトにタケルか!?」

「良かった、パソコンが見つかったんですね!」

「何とか望みがつながった……」

『待たせたな、お前ら!』

『デジヴァイスも接続したよ』

「島根にもちゃんとあっただろ、パソコン」

『ま、まぁな……』

 

 ……なんだろう、ヤマトさんの眼が泳いでいる。県を越えたのか? いや、流石にそこまでの時間は無かったからそれは無いか。でもなんで居心地が悪そうにしているんだろうか……

 

「おい! どうしたヤマト、おい!」

『い、いや……なんでも、ないけん』

 

 島根弁?

 

「でもこれで何とかなりそうですね」

「そうだな……おい光子郎、さっきから飲み過ぎじゃないのか?」

 

 太一さんがそう言っているが、また光子郎さんはウーロン茶を一気飲みしたのか。本当大丈夫か?

 しかしそっちにかまっている暇はない。こっちもプログラムの打ち込みが終わった。それに、今度こそアドレスを完全に捕捉したのだ。

 

「よし! 僕とドルモンも突入します! 何かあったらサルベージ出来るように僕のパソコンにプログラムを入れておいたので、あとお願いします!」

「わかりました、気を付けて行ってきてください!」

「ガブモン達もすぐに合流すると思うから、頼むぜカノン!」

「了解! 行くぞドルモン!」

「合点だよ!」

 

 ドルモンと共にパソコン画面に展開した魔法陣へと飛び込み、一瞬の意識の空白ののち、電脳世界へとダイブする。ドルモンのデジコアへ潜った時というより、デジタルワールドへ突入するときに近い感覚が体を走る。

 そして、すぐに世界が切り替わった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 デジタルワールドとは違い、実際のネットワークの電脳世界は妙に息苦しく感じる。存在を保つために色々と手を回しているが、ここまで息苦しいとは思わなかった。

 それに、回線そのものを破壊しないためにバーストモードは使用できない。

 

「ってわけだ。ドルゴラモンを使うのも危険かもな……」

「わかった。みて、アグモンたちが見えてきたよ!」

 

 先行していたアグモンたちが目の前に見える。ゴーグルをつけ、マフラーで口元を隠す。見られているみたいだし、出来る限り顔は隠しておきたい。

 と、ようやくアグモンたちに追いついたな。

 

「やっほー、手伝いにきたよ」

「ドルモン! それにカノンまで」

「相変わらず、無茶しますな」

「それが僕だからね。ガブモン達も来たみたいだよ」

 

 極彩色のレーンを通り抜けていくが、右側のレーンと合流した。ガブモンとパタモンが到着したのだ。

 

「待たせてゴメン!」

「ぼくたちも戦うよ!」

 

 よし、これで戦力はそろった。

 上部に画面がいくつも表示され、光子郎さんたちの顔が映る。

 

『合流したみたいだな。頼むぞお前たち!』

『ここからはボクが誘導します!』

「オーケー!」

「みんな気を引き締めていくぞ!」

 

 アグモンの号令におうと返し、僕たちは光子郎さんの誘導に従い突き進む。

 工事中と書かれた看板のある回線を通り、どこかのアドレスへと突入した。そこは、鉄骨が散乱する場所だったが……なるほど、”工事中”ってわけね。

 

「奴はどこに――」

「あそこだ!」

 

 みると、あのデジモンが鉄骨の上にいる。コッチダヨーンと書かれたウィンドウを表示させ、頭上に矢印を出していた。

 

『あの野郎、ふざけやがって!』

『一気に行くぞ! 二人ともいけるか?』

『究極体だな!』

「分かってますよ! バーストモードは使えないけど、ここは高火力!」

 

 デジヴァイスが輝きだし、三体の姿が変質していく。

 ワープ進化により、究極体へと進化していくのだが……やはり、ネット世界だと進化中の情報が色々と表示されるようだ。あれ? それってつまり奴もそれを見ることが出来るというわけで……

 

「ウォーグレイモン!」

「メタルガルルモン!」

「ガイオウモン!」

 

 三体が飛び出して、奴へ攻撃を仕掛けていく。

 短期決戦を仕掛けるため、怒涛の連続攻撃であったが……

 

「――ッ」

 

 間にあえと走り出す。いや、蹴り上げて跳んだというべきか。

 魔法剣を手に出し、奴の動きを阻害するプログラムを仕込んで攻撃を仕掛け――だが、奴が砲弾のように迫ってくる。

 

「カノン!」

「まずい――ッ」

 

 炎を噴射して、緊急回避を行う。魔法剣に奴の体がかすったが……剣が分解されてしまった。

 薄々わかってはいた事なのだが……

 

「やべぇ、アイツとの相性最悪なんだけど!」

 

 それでも、今の動きはウォーグレイモンたちが攻撃する隙となった。

 上方ではパタモン達も進化をしようと――奴の体が変質する。ウォーグレイモンたちが攻撃をしかけていたが、瞬きをした一瞬で奴の姿が変わる。

 そして、ウォーグレイモンとメタルガルルモンを振りほどき進化途中のパタモンへと迫った。

 

「ガイオウモン!」

「分かっている!」

 

 ガイオウモンが奴の前に躍り出て、その動きをふさぐが――奴が体を回転させて、長い腕を振り回す。

 両者の攻撃がぶつかり合うが、奴がニタリと笑った気がして気が付いたときには、鉄骨に体がぶつかっていた。

 

「ガッ――」

 

 あいつ、腹から砲撃を出しやがった。

 ガイオウモンも共に叩きつけられており、奴はパタモンとテントモンをはたき落としている。どうやら進化完了は無理だったようだ……それに、パタモンが進化をしようとしたときに是が非でも防ごうとしていたみたいだ。

 

「ってことは、アイツも暗黒系なのか? ガイオウモン!」

「分かっている!」

 

 刀を連結し、射撃を放つ。加速用魔法陣を展開し、奴が避けることのできないスピードで攻撃を放った。

 ウォーグレイモン達も連携して攻撃を仕掛けており、パタモンは何とか止めを刺されずに済んでいる。

 

「とりあえず僕はパタモンの回復をやってみる!」

「分かった! 奴は任せてくれ!」

 

 一気に下まで降りていき、パタモンを抱えているテントモンの元へとたどり着く。

 やはり、奴は究極体に進化しているのか……いくら進化中でエネルギーが供給されていたとはいえ、パタモンは成長期だ。かなりのダメージがあったのであろう。

 

「カノンはん、すいまへん」

「いや、こういう時のために僕も突入したんだ……あいつとの相性が悪いから、戦闘補助よりもこっちの方を何とかしないと……テントモンは大丈夫?」

「はい。何とか」

「よし――パタモンの回復に集中しないと」

 

 データの破損はそこまでじゃない。大丈夫、致命傷には至っていない。

 僕に出来るのは応急手当ぐらいだけど――とりあえず、なんとか動けるようなレベルへ回復させた直後、頭を殴られたような衝撃が走った。

 

「――ッ」

「カノンはん!?」

「だ、大丈夫……変な衝撃がはしった、だけ……!?」

 

 上を見上げると、ウォーグレイモンの動きが止まっていた。いや、処理出来ていないと言うべきだ。

 今の僕たちはパソコンを使って体の動きや思考を処理している。電脳世界での行動を行う上で必須事項とも言っていいだろう。

 たとえるなら、体は電脳世界内にあるのだが脳みそはパソコン内にあると言ったところか。

 

「まさかパソコンがフリーズしたのか!?」

「なら、なんでワイらは動いて……」

「たぶんウォーグレイモンを処理していた太一さんの家のパソコンがフリーズしたんだ! 通信は太一さん家のパソコンを使っていたけど、僕とガイオウモンを処理をしているのは自分のパソコンだし、テントモンも処理しているのは光子郎さんのパソコンだから……」

 

 とにかく、ウォーグレイモンたちが危ない。

 魔法陣を足に展開し、一気に加速する。空を飛ぶというよりは、階段を駆けあがるような動き。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 ガイオウモンも奴へ攻撃を仕掛けているが、やはり動けないウォーグレイモンをかばいながらでは満足に戦うことが出来ていない。

 なんでパソコンがフリーズしたのか議論している暇はない。大方、太一さんがフリーズさせたんだろうが、光子郎さんがそんな暴挙をみすみす見逃すとでも――――

 

「あの人ウーロン茶飲み過ぎていたじゃないかッ!」

 

 ――なんか頭の中で向こうの状況が手に取るようにわかってしまった。

 これは電脳世界へ入ったのは失敗だったかもしれない。しかし、今更そんなことを言っても仕方がない。なんか今日は裏目に出まくりの厄日だ。

 

「喰らえ!」

「――ッ」

 

 奴へ肉薄し、魔法剣を放つ。斬りつけるのではなく、投げつけていく。次々に召喚して奴の動きを封じる。

 その隙にメタルガルルモンとガイオウモンが攻撃を仕掛けるが……奴の爪からウィルスデータが発射される。それでも、奴が暗黒系の存在ならば――

 

「光属性最大出力ッ」

 

 ――極大砲撃。両手の魔法剣を一つに束ね、展開した魔法陣に叩きつけて内部のエネルギーを一気に放出する僕の切り札。リリスモンとの特訓で習得した技であるが、これが決まれば倒すことはできずとも奴のエネルギーを乱すことが――

 

「効いて、ない?」

 

 ――完全に判断を誤った。奴は僕たちの常識(ルール)から逸脱した存在だ。

 データを分解することはできずに、攻撃を喰らったもののそれだけだ。大したダメージにはなっていないだろう。本当に、少しの間だけ時間を稼げただけ。

 

「――ッ、ウオオオオオ!」

 

 ガイオウモンが奴へ斬りかかる一瞬を、稼ぐことが出来ただけだ。

 刀が肉薄していき、奴の頭上へ――しかし、奴の体が発光を始める。そして、周囲のデータが吹き飛ばされた。

 

「カノン!」

「――ッ」

 

 とっさに、ガイオウモンが僕をかばってくれたが……あまりの衝撃に僕たちは吹き飛ばされてしまった。

 メタルガルルモンもウォーグレイモンをかばって満足に動くことが出来ておらず、今の衝撃で体の動きが更に鈍ってしまっており――奴に、切り裂かれた。

 

「メタルガルルモン!」

 

 そのまま奴は鉄骨のデータを食い荒らし、壁際へたどり着いて――逃走した。

 くそっ……逃げられた。

 

 

 ほどなくして、太一さんたちの通信が回復したが……ウォーグレイモンたちはボロボロだった。

 ヤマトさんが太一さんたちを叱咤し、場には重い空気が立ち込める。

 だけど、これでもまだ最悪の状況ではなかった――更なる絶望と、戦いはこれから始まる。

 

 奴とぼくらのウォーゲームが。

 




実はカノン、ディアボロモンとは相性が悪すぎます。どれほどかというと、アポカリモンとのタイマンの方がマシ。
本人はそこまで相性が悪いとは思っていません。

あと1、2話でウォーゲームも終わります。
と言っても3章はまだ終わりませんが。


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76.転送

とりあえず、映画の内容はこれで終わりかな。


 とにかく、ウォーグレイモンたちを回復させないことにはどうにもならない。

 幸い、見た目よりかはダメージも通っていないため再起不能というレベルではない。何とか復旧しないと。

 流石に完全に破壊されたドラモンキラーを直すのは無理だからそっちは手を付けていないが。

 

「悪い、手間かけて……」

「大丈夫、応急処置にしかならないけどサポートのために僕が入っているんだし」

 

 ウォーグレイモンも意識をすぐに取り戻してくれたし、これなら少し休めばある程度まで回復すると思う。

 メタルガルルモンの復旧作業に取り掛かり、データの復元を行う。

 

「これなら、すぐにでも完全回復できるんちゃいますか?」

「いや、それは無理だよ。僕がやっているのは破損したデータの復元……とも少し違うな。言うなれば、絆創膏を貼っているだけなんだ。これ以上の出血を抑えたり、動かなくなった部位を無事な部分とつなぎ合わせて動かせるようにしているだけだから」

 

 回復ではなく復旧。動けるようにするだけで体力などはそのままなのだ。

 一応自己治癒力を高めたりはできるし、ある程度の回復も行えるのだが……一気に回復させると体力をかなり削るリスクもある。そのため、戦闘中に使うのは控えている。

 

「この場合は、動けるようになるのが第一だからね……よし」

「助かった。ありがとう」

「うん、どういたしまして……アッチはまだ揉めてるのか」

 

 手元にウィンドウを表示すると、太一さんと光子郎さんが喧嘩している様子が見える。それをヤマトさんが諫めているが……ハァ、まったくもう。

 どうやら原因はメールのようだな。えっと……また負けちゃったのとか、弱すぎるとか、何やっているんだとか色々とコメントが……あと、ジャパニーズニンジャってのも見えたけど、これもしかして僕のことなのか?

 

「…………いや、見えなくもないけど」

 

 しかしアイツもどこへ逃げたのか。アドレスを追っているが、まだ見つかって――と、そこでメールがさらに一通。アドレスは……やっぱりアイツは中身子供なのか。また挑発のメールだ。

 でもなんだか様子がおかしい。カタカナで読みにくいが……

 

「時計を持っているのは誰って聞いているんだよな……いや、どういう意味だよ」

 

 なんかカウントダウンも始まったし、10分ぐらいの。それに、背景で奴が増殖するアニメーションを流している。手が込んでいるが……何だろう、このものすごく嫌な感じ。というか、確実に増殖していやがる。

 

『た、大変です!』

「光子郎さん?」

『ペンタゴンに潜り込んだ台湾の中学生が知らせてくれたんですが、今から30分前にアメリカの軍事基地から核ミサイルが発射されたらしいです……』

 

 え、それっていわゆるハッキン……じゃなくて、核ミサイル? いや、ハッキングも気になるけど。というか何目的で潜り込んでいたんだそいつ!?

 いやいや、それを追求するのは後だ。今問題なのは核ミサイルの方。

 

『発射管制コンピュータのミスとなっていますが、もちろん奴の仕業です!』

『じゃ、じゃあこの数字は!?』

「――そういう、ことかよ」

 

 刻一刻と減るカウントダウン。

 10分の制限時間は……間違いなく、ゲームオーバーまでのタイムリミット。

 

『ミサイルが目的地へたどり着く時間、ですね』

『う、嘘だろ!?』

『核ミサイルは一発、射程は2万キロ……ほぼ地球全体ですね』

 

 名称はピースキーパー。マッハ23で進む死神。

 このレベルの代物になると、どこに落ちるのかすら予測できない。

 

『落ちる場所は分からないのかよ!』

『ダメです……時間もない、9分後には地球上のどこかで爆発します』

「どうにかしないと……いや、もしかしたら」

 

 奴のアドレスを利用して現実世界に出れば爆弾へ直接干渉できるかもしれない。

 ただ、そのためには奴自身に接触するまででなくても、確実に視認する必要がある。

 それでもひどい絶望感が僕たちの動きを止めていた。その間にもメールは届き続け、あの怪物を倒してくれやら頑張ってなどの応援が届き続ける。

 

「といわれても、残り8分切った……」

『どうやら、この爆弾は信管さえ作動させなければ爆発しないそうです。奴のメールからするに、ゲームとして行動しているのなら時計を持っているのは一体。そいつさえ止めれば……』

『どうやってその一体を見つけるんだよ』

『それは……一体ずつ倒すしかないです』

『そんなことしていたら日が暮れちまうよ!』

『でも、それしかないでしょう……』

 

 光子郎さんの言う通り、結局は一体ずつでも倒していくしかない。

 どれほど絶望的な状況だろうともやるしかないのだ。進化することが困難であろうパタモンとテントモンを下がらせ、僕たちは更に先へ進む。

 

「太一!」

『ウォーグレイモン……』

「俺たちはまだ戦える」

「ああ。アイツの居場所は分かるか?」

 

 メタルガルルモンも立ち上がり、準備をおえた。

 彼らの言葉に太一さんたちも覚悟を決めたのか、目の前にリンクが開く。

 

『奴のアドレスを送ります!』

「よし……気を引き締めていくよ。出来る限りブーストをかけておくけど、気休めにしかならないかも……」

「いや、助かるよ――準備はいいか?」

「ああ! 行くぞ!」

 

 回路を再び通っていく。すでに7分を切った。

 今度は黄色い光に照らされた、警戒色の通路。

 危険を知らせるその道を進んだ先には――絶望なんて言葉が生ぬるいほどの、衝撃が待っていた。

 

「嘘だろ……なんだよ、コレ」

 

 解析もほとんどできないが、コピーし続けた末に奴はあたり一面を埋め尽くすほどの数に増殖していた。

 倍々ゲーム……某有名漫画のヤバいアイテムじゃねーんだぞ…………

 

『4千、8千、1万6千……どんどん増えてます!?』

「は、ははは……ここまで来ると笑えて来るな」

『カノン君、このままだと――ッ』

 

 わかっている。僕の方も危ない。だが、これはもう最終手段をとるしかない。

 ドルゴラモンへスライドさせ、一気に力を解放していく。こうなればもうバーストモードでエリアごと破壊してしまうしかない。ウォーグレイモンたちに防護壁をはり、少しでも身を守ろうと――だが、それもできなかった。

 

「――ッ、処理が追い付かない」

 

 ドルゴラモンにスライド進化は出来た。だが、奴が次々に火の雨を降らせる中のバーストモードへの移行は困難であった。それでも、なんとか隙を見つけてバーストモードを起動させようとするが――そのための処理が格段に遅くなっている。

 ウォーグレイモンたちも動きが鈍くなっており、次々に攻撃を喰らっていた。僕のはっているバリアもすぐに破壊され、ダメージを負っていた。

 

「カノンッ」

「――――ドルゴラモン!?」

 

 ドルゴラモンが僕の体を包み込み、奴の攻撃を防ぐ。

 何発もの着弾音が聞こえ、ドルゴラモンの体が落下していくのを感じる――まだだ、せめて、せめて一撃でも与えねばならない。

 

「――――ッ!」

 

 その思いがドルゴラモンに届いたのか、右腕だけがバーストモードへ変化している。

 僕は彼の左手に守られながら下の方にいる奴らへとその拳が叩きつけられたのを見届けたが――それでも、カウントは止まらない。結局、倒せたのはコピーのみ……ドルゴラモンもそれで力を使い果たしたのか、ドルモンへと戻ってしまった。

 そして、奴らが再び増殖し、僕たちを埋め尽くそうと迫ってくる……

 

「動きが鈍くなったのは……メールが送られ過ぎたか」

 

 塵も積もれば山となる……悪い方向に作用してしまったか。

 これ、どうにもならないかな……上の方ではウォーグレイモンたちもボロボロで…………ははは、夢でも見ているのかな……太一さんとヤマトさんがこっちに入ってきている。

 力も使い果たして、僕も限界がきて……諦めるのか?

 

「夢、じゃないみたいだな……」

 

 絶望的な状況だ。それでも太一さんとヤマトさんは諦めていなかった。だからこそ、この世界までやってこれたのだろう。

 ここで諦めたら5分を切ったカウントダウンがやって来てしまう。そうなれば、大勢の人が死ぬ。父さんや、母さんたちが犠牲になるかもしれない。そうなったら、新しく生まれるであろう家族はどうなるのだ?

 

「こんなところで諦めるわけにはいかない」

 

 二人がデジモンたちへ届いたとき――世界中の祈りが届いた。

 単なるデータとしてのメールは僕らの動きを阻害してしまった。だが、そこに籠められた祈りは違う。デジモンたちは人の想いを受け取り、進化する。ならば、多くの祈りが一つに集約したのならば?

 メールが光となり、二体のデジモンを覆う。光り輝くデジタマとなって彼らを包み込み、その姿を変化させていく。この進化に名をつけることはできない。きわめてイレギュラーな現象であり、奇跡としか言いようがなかった。

 光が晴れた後に現れたのは白い聖騎士。マントをはためかせ、左腕はウォーグレイモン。右腕はメタルガルルモンが変化したものとなっていた。

 

「――究極体、オメガモン」

 

 ただ、名前だけが見えた。それ以上のことは分からない。

 今まで見てきたどんなデジモンよりも圧倒的で、光り輝くその存在は未来を願う祈りそのもの。

 その光を浴びたことで、僕の中の力も回復していく。

 

「カノン――力が、あふれてくる!」

「ああ……いまなら、行ける!」

 

 胸の紋章が∞へと変化し、力があふれ出てくる。

 そしてドルモンの姿が黒い聖騎士――アルファモンへと変わる。

 周囲のコピー体を消し飛ばし、殲滅する。オメガモンも剣の一振りで奴らを消し飛ばし、右の砲撃で次々にコピー体を消していた。

 

「あと残り時間は――見ている暇ないッ」

 

 次々にコピーが消えていき、そして残るは一体。

 あれがオリジナルで、時計を持っている!

 

『あれが最後の一体――お願いします!』

 

 光子郎さんも方でも捕捉してくれたか。

 だが、奴の動きが速すぎる。縦横無尽に飛び回り、こちらの攻撃を回避し続けていた。

 

『奴の動きが速すぎる……パワーで勝っていても、レスポンスの差でアウトだ!』

「それを差し引いてもこっちの動きが……」

 

 たぶん、処理が追い付いていないのだろう。いや、普段なら気にならないほどだけど大量のメールもあるしオメガモンとアルファモンの二体を処理し続けるのは大変なんだ。

 だったら電脳世界の裏技を使えば――ッ、そうだ。手っ取り早い方法があった。

 

『もう時間が無いよ!』

「光子郎さん! 僕とアルファモンごとメールを!」

『そうか、その手が――でもカノン君たちまで――――』

「いいから早く! 爆弾が誤作動しないとも限りませんし、そっちを対処します!!」

『分かりました――転送!!』

 

 急に加速する。同時に、デジヴァイスを使って僕らのデータを再分解した。

 奴を通して核ミサイルへ接続し、アルファモンのデジタライズ・オブ・ソウルを応用したゲートを展開する。

 

「流石、わかっているじゃないか!」

「付き合いも長いからな! こうすればいいんだろう!」

 

 一瞬だが、奴の体に砂時計が表示されたのが見えた。

 顔色のわからない顔に、苛立ちやら怒りみたいのが見えた気がしたが……もう気にする必要もない。これで、チェックメイトだ。

 少しの嘔吐感があったが、強風によりそれも霧散する。

 太陽の光を見てしまったのか、目がくらんだが――成功したのを感じた。

 

「よし、現実世界に出たぞ! ついでにミサイルに張り付いた!」

「まったく無茶する――で、どうする!」

「異空間に転送!」

「オーライ!!」

 

 アルファモンが魔法陣を展開し、そこにミサイルをぶち込む。

 流石に僕たちが減速するよゆうは無いが……この見覚えのある街並み、というかさっきまでいた場所。

 

「アイツお台場にミサイル落すつもりだったの――うぼっ!?」

「かの――ゴッ!?」

 

 水面にマッハで叩きつけられると普通に体が粉々になるんだろうが、流石にバリアもはっていたしアルファモンも全力で防御に回ってくれた。

 だが、それでも衝撃を完全に殺しきれたわけでもなく水面へとぶつかる。というか溺れる……

 

「――――ゲホッ!?」

「うぬぅ……」

 

 衝撃を殺すのにエネルギーを使い果たしたのか、ドルモンに戻ってしまっていたが……どうにかなったみたいだ。

 っていうか、寒い……あと見つからないようにして陸に上がらないと……ミサイルを消したわけだし、後始末も大変だなぁ……

 

「太一たち、やったかな?」

「大丈夫だと思うぞ。最後まで見ていたわけじゃないけど、確実に止めを刺してくれただろうな」

 

 あの状況で失敗することはないはずだ。さて、陸に戻らないと……手ごろなボールがあったので浮き輪代わりに使うと掴んだが……なんだろう、この奇妙な感触。

 あと、生暖かい。

 

「……カノン、それ」

「なんだよドルモン、青い顔をして――――は?」

「――」

 

 クラゲのようなカワイイ外観だが、一つだけついた目が不気味に光る。

 その紫のデジモンは……名前だけ、やっとわかったな。

 

「幼年期Ⅰ、クラモンって言うんだって」

「そんな場合じゃないでしょうが!」

 

 とりあえず麻痺させて、家に持ち帰ることにしたが……やべぇ、どうしよう。

 




カノン、ディアボロモンとの相性の悪さによりほとんどいいところなしでしたが……彼がこの事件で真に活躍するのは後始末ですので。
というわけで、妙な問題を残しつつ次回へ続きます。

ところで誰かディーターミナルの配布時期を知っている人っていますかね?
詳しい時期がわからなくて扱いにくい……あれも結構謎なアイテムなんですよね。


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77.会合

これで3章は半分が終了。
あと、新キャラが出ます。


 びしょ濡れのまま戻った僕たちであるが、近くに落ちたため光子郎さんたちもすぐに駆けつけてくれた。

 

「対処するのはいいですが、外国だったらどうしていたんですか!」

「……あ、考えてなかった」

「まったくお前は……で、その手に持っているのって――」

 

 太一さんも気が付き、顔が青ざめているが……まあ無理もないだろう。

 奴の幼年期、クラモン。名前が分かったということはデジモンの種族として定着した……というよりデータベースに登録されたんだろう。あとでアナライザーを使えば調べられるかもしれない。

 

「転送時にデータの欠片か何かがくっ付いてきちゃったのかもしれません……他には反応がありませんでしたし、気絶させているので一応は大丈夫ですが」

「でもまた大騒ぎになるんじゃないか?」

「そうですね……でもデジタルワールドへ持っていくのも危険ですし…………」

 

 とりあえず僕の部屋へと運び、どうするかを考えている。あとで母さんたちに連絡して核ミサイルの件も片付けないといけないし。

 うーん……試したことないけど、封印魔法を試してみるか。

 

「封印魔法?」

「前にバステモンが凍結させられていた時のデータを参考に作ってみたんですけど、流石に実験するわけにもいかなかったので使ってなかったんですよね……ただ、媒介が必要なのでちょっと手間取るんですけど」

 

 とりあえず適当に何かないか……これでいいか。机に置いてあった引き出し付きの箱から一枚の黒い板を取り出す。

 

「それって……フロッピーディスクですか?」

「買ったのはいいけど使わないでいたのがありまして、これの中に入れて封印します。回線からも切断した状態になりますし、とりあえずの措置としてはいいかなと」

「そうですね……ゲンナイさんにも相談した方がいいと思いますが、とりあえずはそれで行きましょう」

 

 フロッピーディスクに魔法陣を展開し、クラモンを押し込む。

 データ変換され、中に入っていくが――同時に、凍結封印を施す。ネット回線につながっていない状態で更に動けないようにしたが……これで済めばいいんだけど。

 

「どうですか?」

「成功、しましたね。幼年期だったのが幸いでした。ただ、デジタルワールドへ持っていくのは危険かも」

 

 データを食べる性質を持つ以上、あの世界に持っていくのはX抗体以上に危険だ。

 とりあえず今はこうやって保管するしかない。

 

「解析もしばらくはしない方がいいですね」

「パソコンに入れたら……想像もしたくありません」

 

 結局、この問題は先送りするしかないのであった。

 なお、後日ゲンナイさんから届いたメールでも対処法が無いため僕の方で保管しておいてくれという話になった。向こうに持っていけない以上、現状のままにしておくのが一番だったという事である。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「そんなことがあったのねー」

「うん、それで母さんには伝手のほうでちょっと何とかしてほしくてね」

「わかったわー。貸しのある相手もいるし、ちょっとなんとかしてみるねー」

 

 ずぶぬれになった際、結局風邪をひいてしまった。ひどくはないのだが鼻水が止まらないので病院に行くことになったのだが、ついでに母さんに後始末のことを相談している。今は病院からの帰り道、ドルモンたちは留守番している。流石に病院には連れて行けないし。

 誤発射された核ミサイルについてはゲンナイさんの手も借りて何とか大事にならないように色々と情報操作しているんだけど……やっぱり限界はあるし、本職というか詳しい人が身近にいるから力を貸してもらうことに。

 

「母さんも身重なのにこんなこと頼んでゴメン」

「いいのよー。カノンったら頭良すぎて母さん的には頼ってほしいしー」

「あ、あはは……そういえば、おなかの子って性別わかっているの?」

「たぶん女の子だろうってー。カノンももうすぐお兄ちゃんねー」

「あんまり実感ないけどね……うちには似たようなのいるし」

「そうねー。あんまり心配していないけど、仲良くしてあげてねー」

「分かっているよ……」

 

 少し不安というか、これから来る未来に対してなんだか言いようのない感覚がある。胸の奥がチクチクするというかなんというか……

 ちなみに、生まれるのは7月か8月ぐらいになるらしい。

 

「それにしても、強い日差しねー。新学期、準備はできているの?」

「まあ、そっちは大丈夫だよ。特に問題はないし」

 

 風邪も治っているだろうから、普通に行けるよ――と、続けようとしたが体が硬直してしまった。

 母さんもどうやら同じ感覚に陥っているようで、体が動かなくなっている。いや、それどころかこれは……冷汗?

 

「母さん?」

「静かに……しゃべらないで、母さんに任せて」

 

 静かに後ろを振り向き、この感覚――強烈な殺気の主の顔を見る。何度も味わってきたからこそ感じることが出来るようになってしまったが……どこか恨みの様なものも感じる。

 後ろに立っていたのは、いかにも軍人か裏稼業の人間と言った風貌の男だった。金色の短髪で、身長は高い。左目に大きな傷があるのも厳つさを増す要因となっている。イメージで言うなら、ライオンだろうか。

 

「随分と久しぶりだが……この距離でようやく気が付くとは、ずいぶんとふぬけたようだな」

「……久々に会った先輩に言うセリフかしらね」

 

 どうやら、母さんの昔の後輩らしいが……たぶん、仕事の後輩だろうな。というか絶対に。

 しかしこの感じ……ピエモンやムゲンドラモンに近い感じがする。どこまでも非常になれるタイプというか、殺すことにためらいがみじんもない感じ。とても嫌な感覚だ。

 

「そいつはお前の息子か……それに、妊娠しているようだが…………平和ボケしたか?」

「あら、私が子供を産んじゃいけないかしら。ジャック」

「いいや……最初は憤りさえ覚えたさ。あんたは俺の憧れだった。女の身でありながら、どこまでも強かったあんたを尊敬さえしていたんだ」

「私としては、元教え子が外道になったのは人生唯一の汚点とさえ思っているけどね」

 

 母さんは今まで見たことない眼をしている。刺すような視線という表現すら生ぬるい、射殺す視線とでも言うべき、ギラギラとした眼だ。

 

「久々に見たぜ、その眼……考えの対立から袂を別った身だったが…………」

 

 唐突に、男の視線がこちらを向いた。

 ゾクリと体に嫌な感覚が走る。思わず、魔力を放出しそうになるが――ダメだ、そんなことをしてはいけない。この場で僕が何かアクションを起こしたら、最悪の事態になる。

 

「――ほう、あんたの息子なだけはある。かつて憧れた化け物を越える逸材とは……この国には鳶が鷹を産むなんてことわざがあるが、これは鷹が竜を産んだな」

「言うに事欠いて人を化け物呼ばわり……それに、息子に手出しする気?」

「いいや……それは面白くなさそうだ。それに、クライアントに迷惑をかけるわけにもいかないからな…………久々にあんたの顔を見たくなっただけだ。もっと面白いものを見つけたが――ふはは。いつかまた出会う日が楽しみだ」

 

 そう言って、男は去って行った……嫌な汗も止まり、奴がいなくなったことでようやく動けるようになる。

 母さんもどっと疲れたのか、近くのベンチに腰を下ろした。

 

「ふぅ……ごめんね、母さんの昔の知り合いが」

「ううん、それはいいんだけど……あいつって?」

「名前はジャック・コバルト。昔の後輩、というか部下かな? 一応教え子だったんだけど……あいつ、色々と問題のある奴でね、考え方の違いから袂を別ったのよ」

 

 母さんもまだ落ち着いていないのか、普段の口調ではなく偉く饒舌になっている。いや、おそらく昔はこの口調だったんだろう。父さんと結婚して今の感じになったのか。

 しかし、とてつもない危険人物に見えるが……国内にはいって大丈夫なのか?

 

「一応、場はわきまえる奴だからそこは心配ないわ。テロをする奴じゃないし……ただ、カノンもわかっていると思うけどバトルマニアというか、戦闘好きというか……まあ、そう言う類の奴なの。放っておくと戦いを引き寄せると言うか……」

「うん、なんとなくわかった」

 

 そして、そんな奴に僕が目をつけられたということも。

 

「アイツを観察し過ぎよ。それに、何かしようとしたでしょ」

「……踏みとどまったよ」

「考えただけでアイツは察知するの。ハァ……」

 

 願わくば、もう出会わないことを祈るのみだが……不思議と、予感はした。

 アイツとはいつか必ず戦うことになる。それがいつになるかはわからないが、きっとその日は間違いなく来る。

 イグドラシルの未来予測演算を使用する手もあるにはあるが、それも完ぺきではない。というか、未来が決められている感じがして積極的に使わないだけだが。まあ、未来をあらかじめ知っていると変にこりかたまった考えしかできないからこれでいいと思う。

 

「…………アイスでも買って帰ろうかー」

「そう、だね」

 

 僕が戦うべき相手が何なのか、その一端に触れたのはこの時なのだろう。

 他のえらばれし子供たちがデジタルワールドで起きた問題を解決する存在ならば、僕の持つ役割とは――ただ、そのことを知るのは大分後になってのことなのだが。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 クラモンの進化先の情報も集まり、僕の中でディアボロモン事件と呼ぶようになったあの事件から2週間が過ぎた。ハワイに行っていたミミさんも帰ってきており、真っ白に燃え尽きていた丈さんも復活したのでようやく全員で集まることが出来たある日のことだ。

 こういう時の集まりには大抵僕の家か光子郎さんの家になる。パソコンを使って作業できるからなぁ……あと、大っぴらにデジモンの話ができるし。

 

「太一さん、遅いですよ」

「悪いな。サッカー部が忙しくて」

 

 この前見に行ったとき、かなり盛り上がっていたんだよな。あと、タケル君と同じ年頃の子が太一さんのことを見ていたっけ。アレは尊敬のまなざしっぽい。たぶんサッカー部に入部するな。

 

「光子郎もぬけてパソコン部を立ち上げるしよ」

「あ、あはは……どうしてもやりたいことがありまして」

「いや、それはいいんだけど……カノンも入るんだよな?」

「一応は。僕は頻繁にあっちに呼び出されているんで、いない時も多いですけど」

「そうよね。カノン君だけデジタルワールドとこっちを何度も行き来して、大変じゃないの?」

「…………この前、究極体と戦いました」

 

 僕がそう言うと、場に沈黙が走る。僕は割と慣れているとはいえ、流石に究極体相手に頻繁に戦うというのは色々とおかしいんだよな。

 ちなみに、僕たちが戦っているのは自由に行き来できるのとバーストモードがあるため対処可能だからだ。詳しいことは聞かされていないのだが、何らかの要因で究極体が発生しやすくなっているらしい。そのままにしておくのも危険な場合に呼び出されている。

 まあ数年もすれば落ち着く見通しみたいだが。

 

「と、僕の話はいいんですよ。とにかく事件の詳細とその後のことを話すために呼んだんですから」

「ええ、一応事件の詳細をまとめたものをプリントアウトしていますが、説明もさせていただきます」

 

 と言っても、簡単なあらましだけなんだけどね。バグやらのデータが集まって生まれた新種のデジモンが暴れまわった今回の事件、本当に薄氷の勝利だった。

 まあ僕はいてもいなくてもあんまり変わらなかったかもしれないけど……ディアボロモンとは二度と戦いたくない。

 

「なんかカノン君、やさぐれているんだけど」

「アイツ、今回はあんまり活躍してなかったからなぁ……」

「へぇ、生身でもデジモンと戦えるのに?」

「相性最悪でしたからね」

「すいません、これでも落ち込んでいるんで追い打ちやめてください」

 

 とにかく、僕の方からは後始末の方も説明しておかないと。

 

「核ミサイルの件は母さんの伝手とゲンナイさんの手を借りた情報操作で何とか終息させました。数日はニュースとかで見るでしょうけど、たぶんすぐに鎮静化します」

「色々と無茶したみたいだけど、本当に大丈夫なのかい?」

「丈さんの心配もわかりますが、問題は無いです。この件に関しては蒸し返す方が危ないですし」

「たしかに、その通りよね……近くにそんな危ない爆弾が残ったままってのも怖いし」

 

 異空間にしまってあるので、一応周囲に被害が出る心配はない。ただ、あのまま放置しておくのも問題だしそのうち手を考えておかないといけないか。そもそもどうやって取り出すのかって問題があるが……何とかアルファモンへ進化する手段を考えておかないと。

 

「あとは、カノン君が発見したもう一匹のクラモンですが……こちらは静かなもので、目覚める様子もないです」

「ただ一つ気になるのは、なぜか属性が微妙に変質していたことなんですよね……」

 

 ちょっとだけ調べてみたが、聖のDNAを持っていたのだ。

 どこで入り込んだのかはわからないが……そういうデジモンじゃないのになぜだ。

 

「それって、お前があのビーム砲みたいなのを撃ったからじゃないのか?」

「砲撃魔法? 確かに光属性の魔法でしたけど……でもそれ以外に考えられないか」

 

 まあ、結局のところは調べて目覚められても困るし、封印したまま放置ということで話はついたが。

 あとはミミさんがお土産渡して来たり、太一さんと空さんの喧嘩の理由に呆れたりなど。ただ一つ言えるのは、不参加組の顔が渋かったことだ。事件の規模と自分たちがその時何をしていたのかを考えればねぇ……ミミさんが狼狽していたのは面白かったけど。

 こうして、ディアボロモンの引き起こした事件は一旦の幕を下ろすこととなる。

 

 

 そして、新学期がやって来て僕は4年生へ。

 ……もう一つのウォーゲームが、幕を開けようとしていた。

 

 




そろそろカノンがなぜ戦う運命にあるのかも出していく時期かなと。

ジャックさんとカノンが再び出会うのはしばらく先ですが、彼にはすぐに出番が来ます。


というわけで、3章後半戦に突入。改定前のを読んでくれていた方は、次の敵がわかると思います。


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78.異常

というわけで3章後半戦開始です。
改定前とはだいぶ変わったかな。


 様々な計器が動く音がする。クライアントに言われて奴を見に行ったが、なるほど予想以上の収穫だった。

 男――ジャック・コバルトにとってかつての上司は憧れと同時に失意の象徴であった。しかし、その息子は異常な精神性を持つ彼からしても異常な存在に映っている。

 

「どうすればあんな人間が生まれるんだろうな。アレはそもそも本当に人間なのかも怪しいが……そこのところどうなんだ、博士?」

「そうですねぇ……橘カノンは一種の抗体なんでしょう。次元という意味での世界は意外と脆いものでしてねぇ、彼はそれを修復するために存在しているんだと思います。しかし、いまだ未完成なんでしょう。観測している範囲では究極体のデジモンに匹敵する力を持つんですが……自分の力を使いこなせていませんねぇ。おかげで、研究を邪魔されずに済んでいますが」

「……だが、そのうち気が付かれるんじゃないか? この間の事件、お前も一枚かんでいたんだろうに」

「不慮の事故ですよ。いやはや、暗黒の権化があそこまでの力を持つとは思いませんでした。千年魔獣のデータを回収したのは失敗でしたね。アレは私としても廃棄すべきものだと思いますよ。世界にとって害悪でしかない。単なる滅びは私としても望むところではありませんからねぇ」

「まったく、お前も大概いかれているな」

 

 ジャックは博士と呼ぶ彼に雇われ、ボディーガードのまねごとをしている。実際には利害が一致し、彼の研究に協力しているのだが。時間はかかるだろうが、ジャックの望むものを彼が提供すると確信しているからこそ、協力の手は惜しまない。

 その中で研究資料を見ることもあったが……

 

「日本じゃ今はゴールデンウィークとかいうんだろう? 気の緩んだ隙にえらばれし子供とやらを調べたらどうなんだ?」

「いえ、彼らは今デジタルワールドへ行っているようでしてねぇ。むしろこういう時期の方が狙いにくいんですよ。それに、今は動く時ではありません。研究を重ね、このデバイスを完成させることが第一の目標ですから」

 

 ニタリと笑い、板の様な機械を調整し始める。

 小さな画面がついており、左側には端子のようなものと銃の引き金の様な部品がついていた。

 

「デジコアに干渉する人造デジヴァイス、DNAアクセルか……まったく、ロクな代物じゃないな。それに、同胞を利用されているというのに顔色一つ変えない、そこのドラゴンも」

「……」

 

 そこで、ジャックの目線の先にいたのは赤色の小さな竜だった。

 その腹にはデジタルハザードの刻印が刻まれている。

 ただ静かに、彼らの様子を見ていたが――奥に行き、体を横にして眠ってしまった。

 

「オイオイ、反応なしかよ」

「彼は少々気難しい性格ですからねぇ。それに、滅びを呼ぶ存在ですから、デジモンたちのことは気にも留めていませんよ。ただ、寝ているのを起こすのはやめてくださいねぇ。彼、凶暴ですから」

「了解しましたよ。それで、例の事件の顛末ってどうなんですか?」

「橘カノンが解決したアレですか……試作品とはいえ、DNAアクセルを見られてしまいましたからねぇ…………私としてはこれで長いこと表に出られませんし、少々苛立っていますね。千年魔獣に関しては関わらない方がよさそうですし、いやはや……私としたことが失敗でした」

 

 もっとも、色々と興味深いデータも集まりましたがと続けて、彼は作業の手を進める。

 白衣を纏い、ニタリと笑った男は何を考えるのか。

 

「…………いずれ、彼と戦わねばならない日が来るでしょうが………………何らかの対策は練っておいた方がよさそうですねぇ」

 

 4月の半ばに起きたあの事件、以前に観測した暗黒の世界に似た力が充満した中、彼らは勝ち目などなかったハズなのだ。それでも、死闘の末に勝利し、未来を守った。

 彼らはどんな絶望的な状況でもわずかな勝機を見出し、そこから突破してしまう力を持つ。

 

「いや、どれほどの準備を重ねれば彼らに勝てるのか。私の挑戦はまだ始まったばかりということですか」

 

 

 

 

 

 彼らにとっても、断片的にしか観測できなかった事件。

 これから語られるのは、世界の時間が静止した日の出来事だ。

 橘カノンが、死を迎えた日の物語――

 

 ◇◇◇◇◇

 

 新学期が始まり、去年とあまり変わり映えのしない日常が過ぎていた。

 まあ光子郎さんとパソコン部を立ち上げたりとか色々とやることはあったんだけどね。

 デジタルワールドへはディアボロモンの事件後に一度だけ行った。ちょっとした封印を解除するために向かったのだが、少々力技になったのを反省している。まあ、封印自体は解除出来たからあとは経過観察かな。

 他にも封印された存在を解放する予定だとゲンナイさんから聞いているが、そちらは僕ではなく他のみんなの力が必要らしい。詳しくは聞いていないが、僕は僕で忙しくなってしまったからちょうどいいか。いや、その忙しくなった原因というか頼みごとをしてきたのもゲンナイさんだけど。

 

「カノン、何をやっているの?」

「ゲンナイさんに頼まれたんだけど、また変な力の波動が出ているらしいんでその調査。お台場周辺から暗黒の力のようなものを検知したらしい」

「それってまた厄介ごとです?」

「だろうねぇ」

 

 微弱というか、奇妙な反応が続いているからどうにもよくわからない。

 ドルモンたちと街へ散歩がてら調べているが……反応が出たり消えたりしている。

 ちなみに、ドルモンはついにドドモンまでワープ退化可能になった。いつの間に練習してたんだお前……

 

「まあそんなことよりもこの調査だな。気になるからさっさと何とかしたいんだけどなぁ……」

「光子郎たちに手伝ってもらえば?」

「危険かもしれないから、デジモンがいない状態のみんなを連れまわすわけにはいかないよ。それに新学期で色々とあるだろうし」

 

 特に丈さんを巻き込むのは遠慮したい。中学に進学したばかりで呼び出すのは忍びないのだ。

 太一さんたちも忙しいし、年下二人を呼ぶのもなぁ……

 一番暇そうなのは……ミミさんだが、彼女だけを呼ぶと事態がひどい方向へ行くから無しの方向で。

 

「結局僕が動くしかないんだよね」

「カノン、目が死んでるよ」

「ちょっと疲れがたまったかな……しばらく休憩するよ――」

 

 なんか飲み物でも飲もうかと部屋を出た瞬間、強烈な暗黒の力が噴き出したのを感じた。

 とっさに魔力を放出し、胸の紋章が強く輝きだしたが――とてつもない息苦しさを感じる。ドルモンたちも息苦しいのか不快な顔をしており、体からは赤い電流みたいなのが飛び散っていた。

 

「ドルモン、プロットモン!?」

「だ、大丈夫……X抗体が過剰に反応しているみたい」

「気持ち悪いです……これ、なんです?」

「この感じ……近いぞ」

 

 外からか? そう思って部屋を飛び出すと――母さんがキッチンで微動だにしていなかった。料理中のようだが……なんだ、これは。

 

「ねえ、なんでママさんの動きが止まっているの?」

「分からない……でもおかしいのはそこだけじゃないだろう。卵をフライパンに落としているみたいだけど……空中で止まっている」

「――――!?」

 

 外を見ると、空を飛んでいる鳥も、走っている車も、ありとあらゆるものが動きを止めていた。

 まるで、世界の時間が止まってしまったみたいだ。

 

「むしろ、この場合は僕らが時間の流れの外に出たと表現するべきかもしれないけど……」

「何が起こっているんです……?」

「分からない。でも、この強い暗黒の力――あそこだ!」

 

 何度も戦った場所。僕らと縁深い第六台場、そこから黒い瘴気が噴き出している。

 そういえばあそこはまだ調べていなかったな……これは、真っ先に調べておくべきだったか。

 

「とにかく、行くぞ――!」

「うん。ドルモン進化…………あれ?」

「どうしたんだドルモン」

「進化できないよ!?」

「――――え」

 

 どういうことだ。ドルモンが進化できない? デジヴァイスを取り出して、起動させようとするが……ダメだ。確かに進化することが出来ない。

 パニックに陥るドルモンだが、原因は何だ? 時間の流れから外れているから? いや、そうじゃない。

 

「この濃密な暗黒の力か」

「進化できないって戦えないじゃん!」

「……いや、一つ方法がある」

 

 デジメンタルをとりだすと……問題なく起動した。どうやら、この濃密な暗黒の力の中でもデジメンタルは使えるらしい。それならば、アーマー進化はいけるはずだ。

 

「とにかく第六台場へ行くぞ――デジメンタルアップ!」

「アーマー進化! ラプタードラモン!」

 

 ベランダから外へ飛び出し、ラプタードラモンの背に乗る。

 プロットモンを抱え、第六台場へと向かった。彼女を置いてくるべきだとも思ったが、静止した時間の中に置き続けるのも危険だと判断したのだ。

 

「――ッ!」

 

 その時、プロットモンのホーリーリングが強い輝きを放ち始めた。

 そして僕らの周囲に光のバリアが貼られていく。

 

「これって……」

「プロちゃんも色々がんばったです!」

「なるほど、ブラストモンとの特訓の成果か」

 

 これなら濃密な瘴気の中でも活動が出来る。進化はいまだできないが、行動不能になることは無いはずだ。

 そして、そのまま僕たちは瘴気の中心へと突入し――

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ――そこは、廃墟の様な世界だった。

 崩れ落ちた建物が並ぶ、小さな町。そこだけを切り取ったかのような小さな世界だ。

 イメージで言うなれば、バチカンが近いだろうか。

 

「ここは……一体どこだ?」

「たぶん位相のずれた世界だ。どこかにこの世界を作った存在がいるんだと思う」

 

 入ってみてなおのことこの世界が異常な場所であることがわかる。

 息をするだけでも苦しい世界だ。プロットモンも防御に専念しているため、動くことが出来そうにない……とりあえず、カバンの中に入ってもらうしかないか。

 

「……なあカノン、この感じ前にも」

「ああ。なんだか懐かしい気もするけど、まだ一年経ってないんだよな。この暗黒の力……アポカリモンのものだ」

 

 あの暗黒の世界で感じた気配と同じ、だが奴は消滅したはずだ。

 それでもどこか確信にも似た感覚で僕たちはこれがアポカリモンの力だと思っている。

 先へ進むと、黒い球体の様なものがあった。卵の殻のように崩れ落ちていき、中から山羊のような姿の悪魔が現れる。

 

「――――」

「なんだ、このデジモン……」

 

 完全体。メフィスモン……名前は分かったが、それ以上のことは分からない。

 今は目を閉じているが、じろじろと見られているような感覚さえする。

 

「……待っていたぞ、0番目のえらばれし子供よ」

「その声……やっぱりアポカリモンなのか」

「ああ。もっとも今ここにいる私は断片だがな」

 

 たしかにあの時感じた気配に近いが、こいつは総体としての人格ではない。最後まで僕を睨み続けた、恨みそのものだ。

 どこで欠片だけでもデータが流れ出たのかは知らないが、もう一度戦うことになるなんて……

 

「アポカリモンであることは終わり、今ここにいる私はメフィスモン。すべてを無に帰そう――さあ、ゲームを始めよう。貴様と私で、世界をかけたゲームを」

「……本当、粘着質な奴だな」

 

 魔法剣を出し、奴を睨む。同時に、奴の背後にも魔法陣がいくつも展開されていった。

 

「ルールはシンプルだ。相手のデジヴァイスを破壊した方が勝者だ」

「何――?」

 

 奴がその手握っているのは一つの機械。デジヴァイス、だって? だけどその形は見たことのないものだった。

 それにネジや外装の感じからするに、デジタルワールドで作られたものに見えない。

 

「お前、それをいったいどこで!?」

「――それを知りたくば、勝ってみせることだ!」

 

 直後に、奴の魔法が襲い掛かる。

 ラプタードラモンが急加速し、攻撃を避けていくが……

 

「マズイな、完全体相手だとアーマー体のままじゃ不利だ」

「そんなこと言っても、どうすることもできないぞ!」

「進化できないってのもまずいし……とにかく、作戦を考えるから飛び続けてくれ!」

 

 ゴーグルをつけ、思考をつづける。

 奴の能力がいまだはっきりしない以上、真正面から突撃はできない。

 プロットモンの体力もある。そう長いこと時間は無いだろう。それこそ、制限時間があるようなものだ。

 

「――まったく、なんでこう苦労することになるかね!!」

 

 それでもやるしかない。

 作戦もしっかりと練ることはできないが、わずかな勝機で活路を見出すしかないのだ。

 




というわけで復活のアポカリモンさん改めメフィスモンです。
冒頭も合わせて色々とネタバレというか、アレなことになっていますね。

不穏なセリフがちらほらとありましたが、バッドエンドにはならないので。


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79.進化

今回が最グロ回かも。


 ラプタードラモンが加速し、奴の攻撃をかわしていくが――奴の動きが予想以上に速すぎる。

 アポカリモンの時とは能力が大幅に異なっているのだ。あの強力なマイナスのエネルギーの塊であった時とは違い、おそらくは主観を持っていた意思のみ。なおかつ、戦闘力――それも魔法戦に特化したものへと変化し、格段に上昇しているのだ。

 

「どうした――逃げてばかりでは勝てはしないぞ」

「だからって、建物を落すとかッ」

 

 ビルの様な何かを僕たちの真上に召喚し、落下させて来る。休息旋回により回避するも――眼前には、メフィスモンの腕があった。

 

「――シールド、全開!!」

「槍よ!」

 

 奴の手に黒い炎で形作られた槍が出現し、それが投擲される。

 シールドが削られていっている音が聞こえる。というか、魔力そのものが腐食している!?

 

「リリスモンと同じ腐食系の固有能力――!」

「ほう、良く気が付いたな。だが、すでに遅いぞ」

 

 ――体が勝手に動いていた。ラプタードラモンは驚いた顔をしていたが……大丈夫だ。運命のデジメンタルで進化した今ならこの暗黒の世界でも一人で動けるだろう。

 ならば、僕がすべきことは一つ。ラプタードラモンの背中を蹴って飛び、奴へととびかかった。

 

「魔法剣、グレイダルファー!」

 

 手に魔法剣を生み出し、奴へと斬りかかる。それに槍を持って応戦するメフィスモン。

 二つの力がぶつかり合い、周囲の建物を吹き飛ばしながら力のフィールドが形成されだした。

 

「闇と光がぶつかり合えば、反発して力場が発生する……わかってはいたけど、キツイな」

「なかなか研鑽を積んできたようだが、後ろががら空きだぞ」

 

 僕の後ろに炎の槍が出現し、僕を貫こうとする。だけどそれは言われなくてもわかっているんだ、メフィスモン。結局のところ、こいつは他者を信じる心が無い。

 だからこそ、僕が彼から飛び降りたのだ。

 

「――ッ!」

 

 上空からラプタードラモンが落下してくる。いや、蹴り降りると言うべきか。槍を消し飛ばし、メフィスモンへととびかかっていった。

 流石に驚いたのか、つばぜり合いが終わりフィールドも解除される。ラプタードラモンの体にはフィールドを突き破ったからか、焦げ跡が残っていたが……

 

「ッ、肩が!?」

「後ろががら空きってね!」

「――なるほど、貴様は死にたいらしい」

 

 奴の口から呪文が聞こえてくる――体中に悪寒が走り、意識が遠のきそうになる。

 おそらくは呪文そのものを聞くことでダメージか何かがあるタイプの技。途切れそうになる意識を何とか繋ぎ止め、力を解放していく。

 

「なんだと?」

「生憎だけど、リリスモン直伝の解呪魔法があるんだ。今更呪い程度でどうにかなると思わないでくれ」

「フハハハハ! まさか七大魔王の一角から手ほどきを受けていたとは――光の力を持ちながら、闇の存在に師事するか! それがどういう意味を持つのかわかっているのか」

「お前こそわかっているのか怪しいんだけどな。光も闇も、誰しもが持ちうる性質だ。日が昇り、沈み、また昇る。そうやって繰り返してきたからこそ僕たちは生きている」

 

 光が降り注ぐ世界で生き物は生きられないだろう。光無き闇もまた同じだ。

 二つがそろって初めて生命は創られる。

 

「命ってのは、そうやって生まれたんだ――だから、お前みたいな暗黒で世界を覆いつくし、世を終わらせようとする奴をを野放しにするわけにはいかない」

「カノン――?」

 

 ラプタードラモンが息をのむのが伝わるが、どうにもわからない。なぜ、僕を見て驚いた顔をしているのか。

 

「…………貴様、気が付いているのか? それは人の身に余る代物だぞ。使えば使うほど、貴様の人格を蝕み別の何かへ作り替えてしまうだろう」

「黄金の姿をした誰かのことか?」

「――――」

 

 その瞬間、メフィスモンは初めて理解できないものを見る目をした。

 何故それを知っていてなお力を使うのか。何故それを知っていて、その程度の侵食で済んでいるのか。

 

「理解できないだろうな……僕だって、全部を知っているわけじゃない。でも、そんな道理なんて知るか。僕は僕だ。無茶苦茶だろうが何だろうが、全部ひっくるめて僕――橘カノンなんだよ!」

 

 右手に光が集まり、閃光となって弾けた。拳から放たれた力が、ビーム砲のような一撃となりメフィスモンへと迫り、我に返ったかのように奴が攻撃を避ける。

 だが、その進路には相棒――ラプタードラモンがいた。

 

「――ッ、貴様がいたか!」

「カノン、無茶し過ぎなんだよ! でも、結局いつも通りってか!」

 

 ラプタードラモンの一撃が決まり、僕も追撃を行う。今度は魔法弾。奴も応戦するがラプタードラモンとのコンビネーションで奴の攻撃を封じた上でこちらの一撃を決めていく。

 

「おのれ……見誤った。よもや貴様が人の身でありながら、その力を引き出せるとは思いもしなかった――使えば確実に、別の存在になり果てるはずだと言うのに、すでに別の何かに変貌しているとはッ」

「別の何かとは失礼だな! 何も変わらない。たとえどんな存在になろうとも、僕の心がここにある限り、僕は変わらない! どんな壁が立ちはだかろうとも、全部ぶっ壊して前に進むだけだ!」

 

 右手に光の剣、左手に雷の剣を召喚し、奴へ突っ込む。それだけでは奴の障壁を破ることはできないだろう。

 ラプタードラモンが突撃し、障壁を削っているがそれでも足りない――奴の障壁は玉ねぎのような何枚もの層となっているのだ、ならばもう一撃を加えるだけだ。

 

「プロちゃん、全力全開です!!」

「なんだと!?」

 

 プロットモンが飛び出し、声を上げると同時に彼女のホーリーリングが飛び出した。僕たちの目の前で巨大化していくそれは光のゲートへと変化する。輪の中には薄い膜の様なものが貼られており、そこを僕たちが通過したとたん――力が増大し、加速する。

 

「ハアアアアアッ!!」

「進化もしていない存在が、新たな力を手に入れるというのか!?」

「成長するってことは進化するだけじゃない。デジモンも人間も関係ない、前に進み続けたからこそ新たな道が見える。未来ってのは、突き進んだ奴にしかつかめないものだ!」

「だが、それは最早奇跡と呼んでいいレベルの力だ。他者の能力を増大させるなど――」

 

 わかってないな。奇跡なんて誰にだって起こせるものだ。だけど、誰にだってやろうと思ってできることじゃない。諦めない心。負けない強さ、立ち向かう勇気。それらが集まって突き進み続けた奴が奇跡ってのをつかみ取るんだよ。

 奴の障壁へと斬りかかり、削り取る。

 奴も魔力弾を撃ち続け、ぶつかり合う。かするだけでも結構な痛みが走る――それでも、前に進むんだ。体の痛みが何だ。こんなもの、ミラージュガオガモンの時の方がよっぽど痛かったぞ。

 それでも一歩届かず、光の剣が砕け散った。

 

「――これで、終わりだ!」

「まだだ――まだ、終わりじゃない!!」

 

 砕けた光の剣の欠片が雷の剣に集まりだし、一つになっていく。その形をかえ、雷の大剣へと進化した。

 

「オオオオオオオオオオ!!」

「そんな大ぶりの攻撃が――ッ!?」

 

 だから何度も言っているんだ。僕たちは一人で戦っているわけではない。本質的に一人であるメフィスモンでは理解もできなかった絆の力。

 みていなくてもわかる。彼なら、このタイミングで来てくれるって。

 

「デリャアアア!!」

 

 ラプタードラモンがプロットモンのリングをくぐり、一気に加速して障壁を全て突き破ったのだ。メフィスモンとぶつかり、奴の左腕を弾き飛ばす。奴が撃とうとしていた魔法を消し飛ばしたのだ。

 

「それでも、まだ右が――ッ!?」

「一瞬でも……プロちゃんだっていけるです!」

 

 プロットモンが体当たりで奴の右腕をそらす。それにより、魔法の発射が遅れた。本当にわずかな時間。それでも、この一瞬は僕たち全員で作り上げた一瞬だった。

 奴の懐に入り、大剣を振るう。

 肉を絶つ感触が手に伝わり、ぐるりと何かが飛んでいった。

 

「私の、右腕が――」

「ぶ――ッ飛べ!!」

 

 剣で突き飛ばし、魔力を全開放する。大剣が雷撃の塊へと変化して奴を吹き飛ばしてしまった。

 同時に、体が倒れる。何とか意識を保とうと膝をつくだけにとどめたが……瘴気が立ち込める空間だったな……ちょっと無茶し過ぎたか。

 

「カノン!」

「大丈夫です?」

「あ、ああ……何とか無事だよ」

 

 プロットモンたちも駆け寄ってきて、とりあえずこれで勝った。あとはデジヴァイスを破壊出来ているか確認して――そう思った瞬間だった、おなかに何か熱いものが流れる感触があった。

 そして、背中に違和感が走る。いや、体の中、腹と続いて違和感が出てきた。

 

「――カノン!?」

 

 ラプタードラモンが駆け寄ってくるが――黒い波動が彼を吹き飛ばしてしまう。プロットモンも蹴り飛ばされ、壁へと激突して動かなくなる。

 体を動かそうとするが、巨大な棘が腹に刺さっていて動けない。

 

「ゴフッ――」

 

 口から血が流れ出る。意識が遠のく。魔力を体に巡らせ、無理やりにでも意識を留める。

 腹に刺さった棘を抜こうとして――それが、ひとりでに出て行って体に大穴があいた。

 

「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 痛い。頭の埋め尽くすほどの激痛。遠のく意識の中、痛みをシャットアウトするために術式を組む。

 体を動かすために、自己治癒――失敗。ある種の呪いを付与されている。それでも、これ以上の出血を防ぐために体の回路を無理やりにでも魔力で組み直す。

 眼前にはメフィスモンがゆっくりと歩いてきていた。切り裂かれた右腕を再びつなぎ直し、ゆったりとした動きで。

 

「なん、で……」

「不思議かな。だが、それを考え答えを出し、対策を考えるのが君の強みだ。ならば私もそれに習おう。貴様たちがどうあがこうが、どうすることもできない絶望を与えよう」

 

 左手にDNAアクセルを持ち、奴はトリガーを引く。何度も連打し、奴へ力が供給されていく。

 いや、供給なんてもんじゃない。これはリミッターの解除に近い。それに、僕はこれを知っている。

 デジコアへ直接アクセスし情報を引き出した上での強制的な可能性の解放。

 

「――まさか」

「そのまさかだよ――メフィスモン、ブラスト進化!」

 

 直後に闇が増大した。

 奴の体が肥大化していき、そのデータを変質させる。

 形も変化し、人型からケンタウロスのようなシルエットへ。

 とてつもなく大きな体、山のような巨体が僕を見下ろしていた。

 

「ガルフモン!!」

 

 咆哮が上がり、その叫びだけで僕の体が吹き飛ばされた。

 何度も地面を転がり、やがて建物へぶつかったところで止まる。

 出血もひどい……生暖かい血が不快感を増大させる…………と言っても、感覚がどこか鈍くなってきたが。

 

「……これ、本格的にまずいかもな」

 

 さっきの棘は斬りとばした奴の腕か。それを変化させて僕を貫いたってことだろう。

 完全に僕のミスだ。奴を甘く見過ぎていた。散々偉そうなことを言っておいて、こんなミスって……

 

「でも、諦めるわけにもいかないよな……」

 

 奴から放たれる魔力砲撃。僕を消し飛ばそうとしてくるが、全力のシールドで何とか防ぐ。魔力がガリガリ削れていく、力が抜ていく。意識が遠のいていく。

 それでも、奴の攻撃が終わる気配はない……これ、本格的にヤバい――

 

「まだです!」

 

 ――足に力が入る。支えるように、プロットモンが僕を押していた。リングがシールドとくっ付き、強靭な盾となる。

 

「そうだ――まだおれだって戦える!!」

 

 ドルモンに戻ってしまっていたが、それでも僕を支えてくる。

 そうだ。まだ終わったわけじゃない。勝機が見えなくても諦めることはしない。諦めてしまえばそこで道は途絶えるのだから。

 僕が諦めてしまったら、その後はどうなる? 脳裏に浮かぶのはみんなの顔。太一さん、ヒカリちゃん、空さん、光子郎さん……それに、去年であったえらばれし子供。ヤマトさん、タケル君、ミミさん、丈さん。

 父さん、母さんだって――生まれてくる妹だってここで僕が踏ん張らなかったらどうなるって言うんだ。

 

「それに、マキナとまた会うって決めただろうがッ!!」

 

 あの手紙のお礼を言わなくちゃいけないんだ。あの時、あれがあったから前に進めたんだ。

 絶対に――諦めるもんかッ!!

 

 その時、ガルフモンの体から8つの光が飛び出した。あまりの痛みに、奴の攻撃が止まり悲鳴が上がる。

 

「――なぜだ! 何故、えらばれし子供たちの力がここにあるのだ!?」

 

 勇気、友情、愛情、知識、誠実、純真、希望、光。8つの紋章がグルグルと飛び交い僕の体へと入っていくる。

 一つ一つが入るたびに、アポカリモンにデータへと変換されれた時のみんなの記憶が入り込んできた。

 

「そうか……これは、お前が破壊したみんなの紋章の欠片だ。お前が復元されたときに一緒に復元されていたんだ!」

「――ッ」

 

 僕の胸の紋章が大きく輝き、今再び∞を示した。

 

「バカな――この空間で進化だと!?」

「お前がやって見せただろうが……ブラスト進化は通常の進化じゃない。光にも闇にも属さないものだ。それ自体はリミッターの解除でしかない。だからこそ、僕たちだって出来る!! いくぞ、ドルモン!!」

「ドルモン、ブラスト進化ァアアアアアアア!!」

 

 暗黒を吹き飛ばし、黒き聖騎士が今再び現る。

 更に8つの紋章の力が彼に更なる進化をもたらした。

 

「アルファモン――究極戦刃王竜剣!!」

 

 8つの紋章が一つになり、アルファモンの展開した魔法陣へと集い一つの武器へと変化したのだ。

 強力な波動を放ち、アルファモンも巨大な翼を展開する。

 

「さぁ……決着をつけよう」

「えらばれし子供たち……やはり、どこまで行っても私の邪魔をするかッ!!」

 

 憎悪の化身と僕たちの願いを乗せた騎士がぶつかり、轟音があたりに響き渡る。

 僕たちとアポカリモンの真の決着の時が来た。

 




王竜剣の登場ってところで次回に続く。


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80.試練

3章の大筋はこれで終わりかな。
たぶん誰も予想していなかったデジモンの登場です。


 アルファモンとガルフモンの激突。それは両者のデータを削り合うものだった。

 互いの一撃一撃に籠められた力は通常の究極体のそれとはまったく異なる。

 

「おおおおお!!」

「ガアアア!!」

 

 叫び、吠え、持ちうるすべてをぶつけ合う。もはや存在するだけで世界を歪めてしまうほどに強大な力を持ったデジモンが二体。かろうじて己の力を制御しているからこそ、ぶつかり合う都度にデータの削り合いで済んでいるが……そうでなかったのならば、空間ごと消し飛んでいただろう。

 

「――――ッ」

 

 紋章の力はえらばれし子供の心の資質から生まれたもの。故に、カノンを通してアルファモンへと供給されている。王竜剣はあくまで紋章のデータとアルファモンの展開した魔法陣により具現化したものだ。

 力の供給そのものはカノンから行われている。8つの紋章が力を与えているとはいえ、カノンの生命活動を維持しつつ力の供給も行うのには無理がある。

 

(このままじゃジリ貧だ。それに、アルファモンもそう長くはもたない)

 

 ブラスト進化はごくわずかな時間の一時的な進化だ。ガルフモンも同じ制約があるだろうが……どちらが先にガス欠になるかがわからない。ガルフモンが先に進化解除されればいいが、もし逆だったのならばどうなるか。

 

(火を見るよりも明らかだよなぁ……それに、気になることもある)

 

 今も激突を続けている二体だが、ガルフモンは自己再生しているように見えるのだ。

 いや、確実に自己再生能力がある。それは、メフィスモンの時にも使われていた。

 

(あの右腕を再生した能力……それに、ブラスト進化を行うだけのエネルギー)

 

 血が流れ落ち、思考能力が落ちていく。それでもカノンは考えることをやめない。

 断片的にでも見てきた光景を思い出す。

 自分が切り落とした腕。この空間の性質。奴の言動。その全てから奴の能力を割り出していく。

 

(イグドラシルシステムは今の状況で使えそうもない……というかこの空間では無理か。暗黒の力が充満し過ぎている。吸い込むだけで息が苦しくて――)

 

 暗黒の力。その点に行き当たった時、カノンの中で何かが弾けた。

 周囲を見渡し、地面に手をつく。残った力はあとわずかだ。その中で奴を倒す方法を割り出していく。今もアルファモンは力を使い続け、自らのダメージを覚悟の上でガルフモンへと突撃する。腕や翼を斬り落とすものの――それも再びくっついて再生してしまう。

 

「そういう、ことか」

 

 その修復される光景。最後の魔力を使って解析を行う。それにより奴のからくりを見抜く。

 だが、対策法が……あまりにも危険である。アルファモンに進化している今だからこそ可能であろうが、これは下手をしたら自分たちも跡形もなく消え去ってしまうだろう。

 

「それでもこれに賭けるしかない――アルファモン!!」

 

 カノンは走り出し、プロットモンの元へといく。アルファモンの名前を呼び彼へ作戦をインターフェースを通して伝えた。その内容にアルファモンは驚愕するが――理由も伝えられてこれしかないかと、覚悟を決める。だが同時に、カノンの力が尽きかけているのも知る。

 

「カノン――ごめん」

 

 王竜剣を握る手に力がこもり、その一瞬の隙をついてガルフモンの腕がアルファモンへと迫った。

 

「戦いの最中によそ見か聖騎士よ!」

「――ッ」

 

 ガルフモンに掴まれ、アルファモンの動きが止まる。

 これでトドメだとガルフモンの腹の口が大きく広がり――そこに、王竜剣が突き刺さる。

 

「が、あああああああ!?」

「生憎だけど、お前を縫い止めるにはこれしかないみたいでね!!」

 

 王竜剣を押し込んでいき、ガルフモンを貫通して地面へと突き刺す。

 文字通り縫い止められたガルフモンは絶叫し、周囲から黒い霧のようなものを吸収していく。

 

「やっぱり、この街そのものがお前の力の起点なんだな!」

「――なぜそれを」

「カノンが見抜いてくれたんだ。お前が再生する原因、ブラスト進化に使ったエネルギーの出所」

 

 それは全てこの街そのものがガルフモンの力の源だったからだ。

 どういう原理であるのかまでは見抜いていないが、この街自体が暗黒の力の塊のようなものであり、ガルフモンの核でもある。

 この街がある限りガルフモンは消滅せず、力を供給され続ける。

 

「だが、それが分かったところでどうすることも出来まい! 私がいる限りこの街もまた消えない! この世界の狭間に作られた私の空間は確かに小さいが、この世界がある限り私もまた消えないのだ!」

 

 それが彼の自信の表れ。

 この世界がある限り自分は無限とも言うべき暗黒の力を持ち、自分が核となっているこの世界は自分が消えない限りなくならない。

 

「故に私を倒すことは不可能だ!」

「そいつは……どう、かな」

 

 どさりと、倒れながらカノンが現れる。腕には気絶したプロットモンを抱え、ここまで戻ってきたのだ。

 それをアルファモンが抱えて飛び去っていく。その光景に茫然としたガルフモンだが――やがて、彼らを嘲笑する。ここで逃げるのか。臆病風に吹かれたのかと。

 

「ふざけるな0人目! それは全てに対する裏切りだぞ。貴様がしたことはただの逃げだぞ」

 

 無言。アルファモンは翼をはためかせて無言で飛び去ってしまう。魔法陣を展開し、その中に入りこの空間から飛び出していった――巨大な何かを、落として。

 

「――――」

 

 それは、数か月前にアルファモンが異空間に転送したものだった。使い道もなく、どうやって処理しようかと色々と考えてはいたものの、アルファモンに進化できないためとりあえず放置という形で対処されていたものだ。

 使えば多くの命を消し去る、人間が作り出した怪物。その名称は、ピースキーパー。

 直後に――死の炎が小さな世界を消し去る。いかにガルフモンといえどもデータの塊であることには変わりない。いくら実体を持った存在であろうと――いや、実体を持つからこそすべてを破壊する光に呑まれてしまえばどうすることもできない。データが砕け、意識が消え、全てが消滅する。

 逃げることさえかなわず彼と、この世界は跡形もなく消え去り――この狭間は無くなる。アポカリモンの残滓も消滅した。

 怨念である彼は皮肉にも、人の業という悪意によって消えることとなったのだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 世界を越え、王竜剣のリンクが消えたことを感じったアルファモンはガルフモンが消え去ったことを知る。

 それに、世界ごと消し飛ばせば奴のデジヴァイスも消し飛んだはずだ。

 

「勝ったよカノン……だから、目を開けてくれよ」

 

 もうアルファモンの姿を保つ力もほとんどない。もはや気力だけで世界の壁を越えているのだ。急がなければ腕の中のパートナーがどんどん冷たくなっていってしまう。

 彼の眼はもう開いていない。アルファモンが抱えたときから、すでに彼の意識が無い。

 

「ッ――」

 

 それでも助けなければいけない。たとえ心臓が止まろうとも、血が足りなくなっていようとも、そこに生気が欠片も存在しなくとも助けなくてはいけないのだ。

 

「――オオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 嘆き。そんな叫びがアルファモンから上がる。

 プロットモンもその声を聴き目を覚まし――目の前の少年を見て愕然とした。

 

「…………カノン、なんで………………です」

「頼む、生きてくれ。こんなところで、死なないでくれ!!」

 

 必死に前へと進む。自分たちがどこにいるのかもわからない。だが、それでも助けなければいけないのだ。

 願い、祈り、涙を流しながらどこともわからぬ道を進む。

 すでに世界の時間は元に戻り何事もなかったかのように回っている。

 彼らだけが絶望の手前にいた。彼らだけが終わりの瞬間に近づいていた。

 世界は救われたというのに、一人の少年の命が尽きようとしていた。

 

「――――嘘だ……こんなの、嘘だッ!!」

「ダメです……絶対に、ダメです!!」

 

 ――――その叫びを聞き届けるものがいなかったらの、話であるが。

 彼らの叫びを聞き届け、黄金の光が彼らを導く。

 

「なんだ!?」

 

 体が引き寄せられ、世界の壁を飛び越えていく。自分たちが知らない場所。感覚はいつものデジタルワールドに近い。だが、今まで行った場所とはどこか異質。一番近いのはバグラモンたちがいた場所であろう。

 あの空間のようにどこか現実味がないようでいて確かな実態がある。まるで、自分たちの感覚では計り知れないほどの力を持っているかのようだ。

 そして、光のゲートを通り抜けその世界へとたどり着いた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 その空間は光に満ちていた。データの残滓が浮かび、デジタルワールドの一エリアであることは分かる。だが、こんな場所がデジタルワールドに存在していていいのかというほどに力に満ちている。

 

「なんだこの世界……」

 

 あのアポカリモンさえも凌駕するデータ質量だ。一番近い存在を上げるならばイグドラシルだろう。

 アルファモンの眼前にいたのは、巨大なデジモン。だが、本当にデジモンなのか疑わしくなるほどに強大な存在感を放っている。

 人型ではあるが、その姿が本当なのかもわからないほどに。

 

『――――』

 

 その存在がアルファモンたちを視認する。言葉を発してはいないが、この存在に逆らってはいけない。それだけは分かった。

 アルファモンたちも何も言わずに、この存在へと近づいていく。

 

『試練を越えしものたちよ、案ずることはない。その者の魂はいまだ消えていない』

「――!?」

 

 その言葉通り。カノンの魂はいまだ体にとどまっている。いや、カノン自身が留め続けていた。

 残されたごくわずかな魔力を使って無理やりに魂を肉体に留めているのだ。肉体的には死んだも同然であるし、魂も奇跡的に欠損していないだけでほとんど消えかけている。

 それでも、まだ一筋の希望がそこにあった。

 

「それじゃあカノンは……」

『――』

 

 頷きを持って返す。同時にこの空間に新たなデジモンが現れた。

 その色は黄金。この空間の主ほどではないが強大な力を持つ存在――その名を、ファンロンモンという。

 

「あなたは……確か、カノンが封印を解いた…………」

 

 ファンロンモンは何も言わず、ただ一つのデジコアを残す。借りを返しに来たと。

 カノンが少し前にデジタルワールドへ行ったときに解除した封印とは、彼にかけられたものだったのだ。

 そして、デジコアを残してファンロンモンは帰っていき――あとは、この場の主の仕事だ。

 

『我が名はシャカモン。世に試練を与えるものなり。

 橘カノンよ、そなたはいまだ死ぬ運命にあらず。この先に待ち受ける試練はさらに過酷なものとなるであろう。この死もまた試練なり――この死を乗り越え、本来の力を取り戻す時が来た』

 

 カノンの中にデジコアが入り込んでいき、体が光に包まれて再生を始める。いや、再誕と言ってもいい。

 肉体とデータが混ざり合い、カノンの体を修復していく。

 

「これは――ッ!?」

「カノンの中に何かがいるです――とても大きい、とても強いデジモンです!!」

 

 黄金の鎧をまとった何者か。今までもその幻影はたびたび見てきたが、今度はハッキリと見える。

 両手にハンマーを持ったシャカモンやファンロンモンに近い存在の何か。それが、カノンの中にいたのだ。

 

『これは彼が生まれ持った力の根源だ。されど、それは彼の本質にあらず』

「でもこの力は明らかにデジモンのものだ――なんでそれがカノンの中に?」

『それを知る時はいまではない。今より未来――いや、遥かな過去において直面する時がいずれ来るであろう』

 

 そして、カノンの体が元に戻る。いや、デジコアを与えられたことで純粋な人間とは呼べない存在になってしまっただろう。しかし、肉体は再生しており息も吹き返した。ただ一つ、デジコアを宿したこと以外は。

 

「…………マキナと同じ?」

 

 アルファモンにはそこが気にかかる。人でありながら、デジコアを宿してしまった存在。これが意味するのは何か。カノンならば何か気が付くのかもしれないが、彼にわかったのは違和感だけだ。

 これらが意味するのは何か。その疑問だけが浮かぶ。

 

『試練を越えし者たちよ――さあ、帰還の時だ。しばしの休息もまた一つの試練なり』

 

 その言葉の直後、彼らの前に巨大な何かが現れ――

 

 ◇◇◇◇◇

 

 波の音が聞こえる。目を開けると、海浜公園のあたりで寝そべっているのが分かった。ドルモンたちが僕を覗き込んでいたが……人目についたらマズいと思うんだ。

 

「カノン! おれたちがわかる?」

「ああ……ごめん、心配かけた」

「本当です!!」

 

 プロットモンにも本気で怒られ、流石に今回は無茶じゃすまないレベルだよなぁと反省。

 ドルモンにも散々心配をかけてしまったのだろう。

 

「……それにしても、シャカモンか」

「――記憶があるの!?」

「言ってただろ。魂はつなぎとめていたって。その間のことも認識は出来ていたんだよ。あの黄金のデジモンのこともわかってる」

 

 天使系に近い雰囲気もあったが、アレはそんなものではない。

 自分が知るデジモンで一番近いのはやはりシャカモンか……あるいはバグラモンであろうか。イグドラシルの化身体にも似ているかもしれない。

 

「…………一つ分かったのは、アレは僕が生まれたときから……いや、生まれる前から持っていた力だ」

「どういう事? 何か変な感じはしたけどデジモンのデータをなんでカノンが?」

「分からん。母さんに僕が生まれたときのことを聞いてみた方がいいかもしれないな……」

 

 ただ……解析魔法を試しに使ってみたところ――今までよりも遥かに効率が上がっているのが分かった。

 デジコアを宿した影響……いや、もしかしたら…………

 

「これが、器ってことか?」

 

 バグラモンの言っていた言葉が、妙に気にかかったのだ。

 今までの僕は器が未完成だった――ならば、今は?

 どうやら聞かなくてはいけない相手はもう一人いるようだ。

 

 

 

 

 …………よし、そろそろ現実を直視しよう。

 

「なあ、アレなに?」

「おれたちアレに乗って帰ってきたんだ。そっか、そっちは知らないんだね」

「大丈夫です。すてるす? がかけてあるです!」

「うん、そういう問題じゃないんだよ…………なんであんなのがお台場にいるって話なんだよッ!!」

 

 海の上に浮かんでいた巨大な何か。というかデジモン……ギガシードラモン、究極体。

 

「しかもX抗体持ちってどういうことじゃああああああああ!?」

 

 僕のシャウトがあたりに響き渡り、春の風がまるで慰めるように僕をなでていた。

 なんかもう色々どうでもよくなるほどの厄介ごとが目の前にあるんだけどどういうことだよ!!

 




ファンロンモンはチラッと伏線入れていたんだけど、わかり難かったと思う。すいません。

あとは後日談みたいなのと、間の日常などを入れて4章へ入ります。もちろん、目の前に現れたどでかいのも解決します。
まあ、2章あたりに入れていた色々と地味な伏線と、アポカリモンが現れたときの影響などを踏まえますと答えが出る人もいるかもしれません。

4章ではシャカモンの言及していたことなどを解決していくこととなります。
02編を期待している方、すいません。02編は5章からとなります。

ただ、4章に行く前に02キャラは1人先行登場する予定ですので。
ヒント:カノンの所属クラブ。


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81.誕生

時間もとびとびでスマンな。


 さて、現実逃避もそこそこに目の前のギガシードラモン(コイツ)を何とかしないと……

 ドルモンたちに詳しく聞くと、どうやらシャカモンのエリアでは力が供給されていたからかアルファモンの姿を維持できていたものの、ほとんど限界に近かったため地球に帰ってくるのにエネルギーが足りなかったらしい。

 世界の移動には多大なエネルギーや防壁などが必要となるためそのままでは帰ってこれなかったのだが、そこで現れたのがこのギガシードラモンというわけだ。

 

「でもなんでXデジモンが?」

「イグドラシルがサンプルとして保存していたXデジモンが何体かいたんだって。それで、メフィスモンが時間を止めた影響で封印が解除されて各々が飛び出したらしいんだ」

「……それ、かなりヤバくないか?」

「大半は再回収できたらしいし、もしもの時のためにX抗体を取り除くプログラムも用意してあったみたいだよ」

「そんなのがあるなら、ドルモンたちにも使うんじゃ……」

「なんか、おれたちみたいにX抗体の解放段階が高いと無理なんだって」

「というかそんなのどこで知ったんだ……いや、もしかして」

 

 僕の懸念は当たっているだろう。どうやらギガシードラモンの内部に入れるらしく、まるで宇宙船の中か何かみたいだな。SFものの。色々な計器や扉が並ぶ中、モニターもあった。そこには見知った顔が映っていた。

 やっぱりアンタか。

 

「バグラモン」

『久しいな。私からすれば随分と長い時を感じるが』

「こっちはまだそんなに経っていないけど……X抗体の削除ツールなんて作っていたのか?」

『ああ。君たちが元の時代に帰ったのちに必要になると思ってね。時空の歪みや封印されていたデジモンたちが解放されたのを検知して私が彼を遣わせた』

「このギガシードラモンか……随分とおとなしいけど、どういうことだ?」

『もしもの時のための保険だからだろう。母艦としての役割を与えられたイグドラシルの兵の一体というわけさ』

「前にみたブレイクドラモンたちと同じか……」

『もっとも、自らが暴走したときの保険に用意したみたいだが……結局使われずに封印されていたところ、今回の騒動で封印が解けてしまったのだ。そこをイグドラシルと接続している私が利用したのだよ。

 君もイグドラシルとつながっているから主人と認めているのだろう。利用可能範囲は私の方が上だが、権限は君の方が上なのも一つの要因だ』

「え、僕の方が権限上なの?」

『当然だろう。君は生者なのだからな』

 

 その言葉に、ストンと胸の奥のつかえが落ちた。そうか、僕は”生者”なのか。

 おかげで懸念が一つ消えた。しかし、彼にはもう一つ聞かねばならないことがある。

 

「今回のことで一つ聞きたいんだけど……器ってどういうことなんだ」

『…………予測はついていると思うが、君の中にある力は人間のままでは十全に使うことは出来ない代物なのだよ。故に、今回の様な事態にならずともいずれ君がデジコアを体内に宿すことは分かっていた』

「そう、か」

 

 僕は一度死んだのだろう。それでも、この一度だけは生き返ることが出来た。

 バグラモンはああ言っているが、デジコアを宿したときのことを考えると死ななければここまでの適合はできなかったかもしれない――つまり、僕が一度死ぬことは決まっていたのだ。

 

「…………死ぬことでデジコアを宿す。いや、死んだからこそ肉体から魂のデータが分離することでデジコアを受け入れる余地が生まれる」

 

 マキナも死んだことにより魂と擬似デジコアが結びついた。

 今の僕も彼女と同じ、半分は人間だが半分はデジモンという中途半端な状態なんだろう。もっとも、僕の場合は肉体が残っているからほとんど人間であるのだが。

 

「まあそれはもういいとして……結局、このギガシードラモンはどうすればいいの?」

『ふむ。次元の狭間に待機させておくといいだろう』

「ステルスが切れる前に作業しないとなぁ……」

 

 幸い、内部に次元移動可能をするための機械が積まれていたため何とかなった。デジヴァイスXを利用して座標を登録しておいたので対処は後々時間がある時にでもいいだろう。

 それと、Xデジモンはまだ数体確保できていないらしい。結局そっちも今後調査することとなるのだが……ああ、それでギガシードラモンを移動手段にしろということなのね。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 結局、今回の事件は誰にも言う事は無かった。というか言えない。

 実は一回死んだんだよねーとか言えるわけないって。

 母さんに僕が生まれたときのことも聞いてみたが……結局、何もヒントになるようなことは聞けなかった。

 

「夢でも見ているのかしらねー、とは思っていたけどねー」

「夢?」

「うん。どこか、生まれたばかりもそうだけど、とっても静かな子だったから。おなかの中にいるときも、静かすぎて少し心配だったぐらい」

 

 懐かしむ様に言う母さんだが、そこに悲哀は無かった。心配とは言っているが、大丈夫だと確信していたようでもある。

 

「? 安心していた感じがする、かぁ……そうねー。ちょっとおかしな夢を見て安心したからかな」

「おかしな夢?」

「ええ。白いような緑の様な不思議な髪の色をした男の子が出てくる夢。あんまり覚えていないんだけど、その子が大丈夫って言っている気がしたの」

 

 結局、それ以上のことは何もわからなかった。

 僕がデジモンのデータを持って生まれてきた原因は母さんには無い。父さんにそれとなく聞いても、何もわからなかったし、結局のところ答えが出るのはしばらく先になりそうだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 体も再生されたので、しばらく疲れが残っただけで済んだのだが……流石に疲れも溜まっており、しばらくだるい日々が続く。

 そういえばまだ4月だったなと、先の長さに落ち込んでしまう。

 

「Xデジモンの捜索もしないといけないし」

 

 気分転換に外でデジモンの目撃情報が無いかパソコンで調べてみているが、芳しくない。

 いやぁ、お台場が修復される際にどうせならと無線通信網が張り巡らされていたりなど、前よりも利便性が上がっているなと実感。

 

「……やっぱり情報は何もないか」

 

 んー、と体を伸ばしてほぐすと耳に聞きなれた声が聞こえてきた。

 ミーコ、と自分の家の飼い猫を呼ぶ声が聞こえる。そういや前にも何度かどこかへふらっといなくなったことがあったっけ。

 

「おーい、ヒカリちゃーん!」

「あ、カノン君! ミーコ見なかった?」

「見てないけど、散歩に出かけただけじゃない? たぶん夕飯までには帰ってくるとおもうよ」

「だといいんだけど……カノン、君?」

 

 その時、ヒカリちゃんが僕を見て首を傾げた。何かとてつもない違和感を感じたかのように。

 目を見開き、僕を見続けて――嘘、とつぶやくように後ずさる。

 

「別に、気にすることは無いことだよ」

「でもこの感じって……」

「なるようにしかならないし、僕は僕だから」

 

 そう言って笑うと、ヒカリちゃんも納得したようにうなずく。ハッキリと口に出したわけではないが、僕の体がどうなっているか見抜かれてしまったのだろう。

 その後、僕の言った通りにミーコは夕飯前には帰ってきたようだ。

 僕の方はその後もXデジモンについて調べていたが、やはり情報は集まらない。それにDNAアクセルの製作者のことも調べないといけないし……

 海外にいる可能性もあるし、これは時間かかりそうだなぁ……

 

 ◇◇◇◇◇

 

 そんなこともありつつ、まとまった休みとなるゴールデンウィークがやってきた。

 おかげでギガシードラモンの調査もとい改造がはかどるぜ。ちなみに、デジタルワールドへ行くときと同じく座標を入力したゲートを作ってこれるようにしてある。電脳世界に行くよりも簡単だった。

 

 

「改造だ、ふへへへへ」

「カノンが久々にマッドモードだよ」

「こ、怖いです!」

「コラそこ、人聞きの悪いこと言わない。改造って言っても内部のスペースを少しいじるぐらいだよ」

 

 元々マシーン型やサイボーグ型のデジモンってのはそういうところ融通効くんだよ。プログラムをいじりやすいというか、改造前提な部分が存在しているというか。

 まあ、過度なことをすると危険だけど内部の発艦スペースなどをいじるぐらいなら別段問題は出ない。

 

「それに、整備しないとどのみち危険だしねぇ……」

「危険ってどういうこと?」

「いや、ちょっと調べてみたら色々と壊れている部分やバグ化しているエリアが多くてさ、どうも長いこと封印されていた影響みたいなんだよ。で、完全修復はできないしとりあえず問題ない程度にいじろうかって話に」

「なんだよ。びっくりさせないでよ」

「です」

「というかドルモンの方がよっぽどな改造をされているだろうが」

「されている、っていうかカノンがしたんでしょうが」

「必要だったからだぞー」

 

 と、軽口もそこそこに内部を改装する。

 居住スペースやら簡易ゲートなどを設置し、ギガシードラモンの中からデジタルワールドへ行けるようにしてみる……いや、こっちは無理だわ。僕のデジヴァイスではゲートを開くプログラムを上手く組み込めない。

 

「別のアプローチが必要だな。まあ、基礎の部分は出来たし使うってわけでもないから気長にやるか」

「カノン、この冷蔵庫どこに置く?」

「居住スペースに頼む」

「ギガさんは平気なんです?」

「むしろ適度にいじってやった方がうれしいらしい」

 

 改造、修理、メンテなどのことをされている時が一番好きなんだそうだ。

 しかしこの広い空間を三人で改造するのは骨が折れる。

 

「っていうかヒカリたちも呼べばいいのに。デジタルワールドのゲートを開くより簡単だったんだから連れてこれるんじゃないの?」

「それはそうなんだが……なんか他8人はデジタルワールドに呼ばれているんだよ」

 

 何があったのかはわからないが、僕以外のえらばれし子供たちはデジタルワールドに行っているのだ。

 なんで僕たちだけ呼ばれていないのか。そのうっ憤を晴らすべく、改造を続ける。

 

「カノン、拗ねないの」

「拗ねてなんかいないやい」

 

 ただちょっと寂しいだけだ。

 それと、用意したパイプをとってくれ。耐水処理が壊れていたから直す。

 

「水中活動するデジモンだよね!?」

「だからこうやって作業しているんだよ」

 

 幸い、魔法を使えば結構速いスピードで作業が進むからゴールデンウィーク中に改造が終わるだろう。

 母さんたちにはぼかしつつ説明し、しばらく外泊することを伝えてある。まあ、何度か帰っているけど。ポスターで固定ゲートを作って自室に貼ってあるし。

 

「完成したら他の国をまわってXデジモンの反応を探れるしな」

「どうやって反応を検知するの?」

「ドルモンたちのデータをベースにX抗体を探す感じ」

 

 モニターを表示し、近くにいるXデジモンを表示すると二つの光点が映っているのが見える。

 

「おれとプロットモン?」

「いや、プロットモンとギガシードラモンだよ。デジヴァイスとリンクしていると制御されて普段はX抗体が沈静化しているから」

「へぇ」

 

 プロットモンの場合も長らく僕や他のえらばれし子供の力を浴びたからか色々と変質している部分もあるのだが。進化とは別の成長を遂げそうな予感がしてきて……

 まあそれはなるようにしかならないというか、プロットモン自身の意思に関わるからなぁ。

 

「とにかく、さっさと作業を終わらせよう」

「そうだねぇ……」

「です!」

 

 その後、無事に作業も終わり試運転を行ったわけだが…………結局、Xデジモンが見つかることはなかった。

 実は全部回収していたのか? あるいはデジタルワールド側に落ちたのか……結局のところ地球で反応を見つけることはできなかったのである。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ちょくちょく調べて回る日々が続き、結局Xデジモンの反応を発見できず、DNAアクセルを作った人間も見つからない毎日。デジタルワールドの側も探してみたが、データサイズが大きすぎてギガシードラモンは連れて行けないのでラプタードラモンに乗ってしらみつぶしに探してみたり……

 どれも成果が出ずに何事も無い日常が過ぎていくばかりだった。

 そして今日――8月1日。太一さんたちがデジタルワールドへ旅立ってから1年となる今日。みんなで集まろうかという話もあったのだが、僕は別の用事が出来てしまいそちらへ行くこととなった。

 父さんと二人、車で急いで向かっている。

 

「父さん、そこ道違う!」

「すまん……どうにも焦ってしまっている」

「気持ちはわかるけど」

 

 ドルモンたちには留守番してもらい、僕自身も全力で能力の封印を行っている。デジコアを宿した状態だからこれから向かう先では注意しないといけない。

 

「カノン、病院はどっちだっただろうか」

「……はぁ、この先の信号を右折」

「わかった」

「左折じゃないよ右折だよ!?」

「しまった!?」

 

 ここまでテンパっている父さんを見るのは初めてだった。

 それもそのはずだ。母さんが産気づき、もう間もなく妹が産まれるというのだ。

 その後も道を間違えそうになったり、スピードの出し過ぎで危なかったりなどと色々とあったが、なんとか病院にたどり着く。

 

「えっと、どこへ向かえば……」

「僕が産まれたときはどうしたんだよ!」

「お前の時は緊張し過ぎていて逆にスッキリとしていたんだ」

「他に考えることが無いぐらい余裕がなかったってことね」

 

 とにかく、父さんの手を引っ張って母さんの元へ。

 そして聞こえてくる――赤ん坊の泣き声。

 

「――――ああ、そうか」

「うん。みたいだね」

 

 そして看護婦さんだろうか? 女性が僕たちを呼びに来て、母さんの元へ向かう。その手に抱かれていたのは、小さな命。

 

「あら……二人とも、きてくれたの?」

「あたりまえじゃないか」

「カノンも、約束……」

「大丈夫。むしろこっちに来なかったら怒られてたよ」

「ふふ、そうね……ほら、橘ありあちゃんよ。私たちの、新しい家族」

 

 ――――ああ、こういう時は本当に言葉も出ないものなんだ。

 色々なことが頭をよぎり、ただ思う。産まれてきてくれてありがとう、と。

 




カノンの妹、橘ありあ誕生。

あと少し閑話を入れたら4章の開幕となります。


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82.少女

今回はギャグ回かな?


 ありあが産まれてからしばらく、お台場の復興具合をみんなと見て回ったり、ウィザーモンの命日に花束を供えに行ったりなど色々なことがあった。

 どれも騒動とは程遠いことではあったが、大切なことだ。

 今日はみんながデジタルワールドへ行くことになっていたので僕も一緒に行こうとおもっちたのだが、本日もまた別行動することに。

 

「なんでまた時空の歪みが発生しているんだろうなぁ……しかもまた第六台場かよ」

「あそこ呪われているんじゃないの?」

 

 かもしれない。真面目な考察をするならば何度も戦闘やらゲートの展開やらがあったせいで歪みが発生しやすいんだろうけど。

 半分ぐらいは僕たちのせいだし、ちゃんと調べないと。

 ちなみに、他のみんなは何らかの封印を解くために行ったらしい。ファンロンモンと同種の存在みたいだけど僕も詳しくは聞いていない。向こうで万が一があると困るから僕がこっちにあてがわれたんだけど。

 

「でも嫌な感じはしないです?」

「うん……確かに何らかの要因で時空が歪んでいるんだけど、別に悪い予感とかは無いんだよな」

 

 時空の狭間かどこかで大爆発でも起きたのか? そうでもしないとここまで妙な歪み方はしないと思うんだけど……第六台場に到着して、様子を見てみるが歪んでいるだけでしばらくすれば沈静化しそうだった。

 どうやら僕の見立て通りどこかで歪みを発生させる何かが起きて、その余波でこうなっているらしい。

 

「とりあえず沈静化したら大丈夫だろう」

「原因は調べなくていいの?」

「うーん……もうどうにもできないだろうな。それに、持続的に歪みが起きているわけじゃないし、原因もまだ残ってはいないみたい」

 

 歪みから原因を探知してみるが……元がなくなっているな。

 これは何かが起きた後、みたいだ。それこそアポカリモンの自爆みたいなことが起こった後なんだろう。

 誰かは知らないが、何かと戦っていたのか……すまないが、もう手遅れというか僕には手の出しようもない。

 

「というわけで、しばらく観察を……うん?」

 

 なんか目の前の空間が歪み始めた。水面の波紋みたいにぐにゃりとまがり、何もないはずの場所から何かがはい出ようとしていた。

 

「なんです!? これなんです!?」

「か、カノンおばけだ!? これ、なんかマズイ感じのアレだ!」

「この前読んだクトゥルフ的な感じのアレなのか!?」

「――――誰がダゴモンじゃぁああああ!!」

 

 と、はい出たナニカが何かを叫びながら僕を殴り飛ばした。ドルモンたちが僕を呼びながら驚いていたが、それよりも魔力強化している僕を殴り飛ばせるこの子の方がびっくりだよ!

 

「いきなり何すんだ!」

「それはこっちのセリフよ! いたいけな少女に向かってあんな邪神を話題に出すなんて!」

 

 現れたのは、白いパーカーの少女。黒髪で年齢は僕とそう変わらないぐらいだろうか? どこかで見たような顔をしている気もするんだが……誰だ?

 それによく見たらパーカーもウサミミがついているし。なんか服装もフリフリが多いというか……なんだろう、この時代を先取りし過ぎている感じの格好をした子は。

 

「なによその痛い人を見る目は。アタシはね、アンタを倒しに来たのよ橘カノン!」

「……え、僕?」

「そうよ! たまたま開いた時空の回廊、ホント運が良かったわ。ママに今日この日に道が出来ることを聞いておいてよかった! 同い年のアンタを倒してこそ、パパの高くなった鼻をへし折れるってものよ!」

 

 なんかアグレッシブな娘さんだなぁ……親の顔が見てみたい。

 そして鼻が高くなっているのは君じゃないのかとツッコミたい衝動に駆られるのはなぜだろう。というかチョップを一発叩き込みたいんだがなぜだろう。

 

「カノン、なんか力が抜けているね?」

「そりゃぁな……」

「えっと、どうするです?」

「アタシはパートナーデジモンとの2対2を望むわ。だからプロットモンは後ろに下がってもらえると助かるけど」

「……仕方がねぇ、プロットモンは下がっていてくれ。別に悪い奴でもないみたいだし、ちょっと相手すれば満足するだろうし」

「話が早くて助かるわね」

「で、お前の名前は?」

「た…………グロリアよ」

「どう見ても日本人顔だろうが嘘をつくな!」

「しょうがないでしょ! 名前を言うわけにはいかないのよ!」

 

 時空の回廊を通っているってことは別時間の存在だろうし、なんとなく名前を言えない理由は分かったが……だからってグロリアって…………

 

「ないわー」

「その反応、予想通りすぎてムカつくわね!!」

「いきなり殴ってくるな!?」

「リロード、シャウトモン!!」

「!?」

 

 殴ってきた瞬間、もう片方の手に握っていたものを見て驚愕した。それは、ここにあっていいはずのものではない。僕も実物を見たのは一度だけだし、それも未完成の代物だった。だけどそれは、黒いそれは完成品だった。

 僕たちのデジヴァイスよりも大きく、その内部に入った機能はすさまじい。いまだ地球側のスペックが追い付いていないから製造はされていない代物。この前それとなく聞いてみたが、やはりまだ作られていないというのに――

 

「クロスローダー!? それに、そのデジモンは……」

 

 黒い色の小竜型デジモン、頭にヘッドホンをつけて、三白眼をしたデジモン――アナライザーも機能しない? 現代には存在しないはずのデジモンってことか!? いや、だとしても情報ぐらいは見えるハズなのにプロテクトがかけられているだと!?

 

「この子がアタシのパートナーデジモンのシャウトモンよ! さあ行くわよシャウトモン!」

「ま――「名前を言うなバカ!」――相変わらずレスポンス速いね。というか本当にやるの? 勝てないと思うけど……」

「なせばなる! それにパパの鼻っぱしを折るためだもの!」

「相変わらず素直じゃないね」

「うるさいわね! 行くわよ!」

「ええ、戦いたくないんだけど……」

「来なさいよ! 臆病風に吹かれたっていうの!?」

「うん」

「ハッキリと言うな!!」

 

 ……なんでコントやってんだこの二人。

 ドルモンも呆れてえぇ、って顔しているし。

 というか戦わないなら帰ってほしいんだが。回廊がいつまでも開いているわけじゃないんだぞ。

 

「おっと、そうだった。シャウトモン、アタシのことはグロリアと呼んでね」

「なにそのネーミングセンス……まあいいや、グロリア(仮)が最初に突っ込んでね。オレは後から追いかけるからさ」

「分かったわ! ってことで覚悟!!」

「本当に行ったよ……」

 

 少女――グロリア(仮)は手に槍を具現化させて僕に突っ込んできた――ってやっぱり魔法使えるのかよ!

 まさかとは思っていたが、シャウトモンにプロテクトをかけたのもこの子か。

 

「あなたのことは前もって調べてあるからね、カンニングとはズルいんじゃないの?」

「必要だからしているまでだ! それに、戦っている最中にそんなこといっていられないだろうが!』

 

 魔法剣で受け止めるも、地力が負けている? いや、エネルギー効率は彼女の方がいいのだ。僕はまだデジコアを宿してからの本格戦闘はしていなかったから以前とのギャップで力加減が上手くできていない。

 それにこの感じ……この子もデジコアが体内にある?

 

「なんでデジコアが……」

「んー、やっぱり気が付くのねぇ……まあいいや。精々悩んで隙を見せなさい!!」

「なんか外道!!」

「戦っているんだからそれぐらいの作戦は使うわよ!!」

 

 これ加減できないかも。

 横を見ると、シャウトモンも嫌々戦っているのかなと思ったが――案外積極的だった。というかさっきとは気迫が違いすぎる。先ほどまでは無かったマイクを持っており、それを棍棒か何かのように振り回してドルモンを追い詰めていた。

 

「オラオラオラ! どうしたどうした!! このオレに恐れをなしたのかぁ!?」

「なんか性格違いすぎない?」

「あ、その子マイクを持つと性格が変わるのよ。だから気を付けてね」

「早く言えや!!」

 

 剣を苦無の形に変化させて、投げつける。彼女も槍ではじくが、その隙に強化倍率を上げた右こぶしを叩き込む。それでも光のバリアーの様なものが展開されて、逆に弾き飛ばされてしまった。

 体をバク転のように回して受け身をとり、すぐに体勢を立て直すが……いきなり突いてくるか!?

 

「あぶなっ!?」

「ほらほら、どうしたどうした!」

「ちょっと危険なことし過ぎやしませんかね!?」

「大丈夫死にやしないわよ!」

「信用できない気迫ッ」

 

 むしろ鬼気迫ると言う感じなんだが。

 ドルモンの方も火の球が襲ってきたりしていて、避け続けているが――流石にむかついてきたな。

 魔力の強化ラインを変更する。体から雷がほとばしり、彼女の背後へと加速して回り込む。まだ未完成な高速移動技だが、上手くいって良かった。

 

「――ッ!?」

「インパクトアタック(仮)!」

 

 拳に魔力を集中させて、強力な一撃を見舞いする。

 彼女も防御するが――それを越えて、ダメージが入ったことだろう。横でもドルモンが鉄球でシャウトモンを吹き飛ばして近くの木に激突させていた。

 

「これで気が済んだか?」

「ぐぬ……ここまでとは予想外だったけど、勝負はまだ終わってないわよ!」

「もうやめようよ……なんというか、君とは本気で戦いたくないんだ」

「…………それでも、アタシは負けるわけにはいかないのよ!! シャウトモン、進化!!」

「分かった。君が、そう言うのなら――進化、オメガシャウトモン・ズワルト!!」

 

 ――――え、ズワルトって確か……その思考の一瞬の空白をついてか、漆黒の体をしたデジモンが僕たちの眼前に迫っていた。

 

「カノン!」

「ッ、ドルモン進化だ!!」

 

 ドルモンの姿が変化していく。この状況、一番適しているのはグレイドモン。姿が変化していき、デジヴァイスXが強く反応する。グレイダルファーによる暴走を引き起こさないためにこちらからのサポートも上手く機能しているみたいだ。

 何合か打ち合っているが、問題なく戦えている。これなら一気に勝負を決められそうだ。相手は強いデジモンだが――経験が足りない。明らかに、僕たちの方が圧倒的な数の修羅場をくぐっている。

 

「よし、行くぞ!!」

「オーケー。この頑固娘に鉄槌を降そう」

「いやそこまでしなくても……」

「生憎、アタシはそこまでされても反省しないわ! もう何十回もパパに怒られているもの!」

「なんだろう、この子の父親に同情したくなってきた……アレ? 涙が…………」

 

 というかこの子、実はそうやってお父さんにかまってほしいだけなんじゃ――僕がそう思ったとき、空間の歪みからバグラモンの右手――の様なものが飛び出してきた。

 

「――パパ!?」

「アンタのお父さんってどんな人や!? っていうか人!?」

「べ、別にパパなんてカッコいいな、とかもっと甘えたいなとか、いつも素直になれなくてアタシのバカとか思ってないわよ!!」

「ゴメン、そこまで聞いていないというか語るに落ちているんだが」

「い、今のなし!」

 

 といっても――というか君たちその右腕に掴まれていますよ。

 

「うわあああああ!?」

「やっぱりこうなるのか」

 

 シャウトモンは達観したようにそう言ったが……もしかして、何度もこういったことはあるんだろうか。

 そして、彼女らが消えて――歪みもなくなった。どうやら帰れなくなる前に彼女の父親が連れ戻したらしい。何だか気苦労が絶えなさそうな人なんじゃないかと思う。

 

「……ああ、そうか」

「同化したのかグレイドモン」

「あの子どこかで見たことあるなと思ったら、カノンに似ているんだ」

「そうかぁ? そんなことないと思うけど」

「結構似ていると思ったんだけどなぁ……カノンはそう思わないの?」

「うーん……見たことあるような、ないような?」

 

 結局わからずじまいである。

 この時の騒動が後に何か起こる前フリということもなく、結局のところよくわからんイベントの一つという感じで終ることとなった。

 ヒカリちゃんたちが紋章を使って封印を解除して完全体以上の進化が出来難くなったという話で驚いてそれどころでもなくなったし。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「それでお前たち、何をしていたんだ? いや、シャウトモンは言わなくていい。どうせいつものことだろう」

「えっと……てへ?」

「――――」

「痛いッ!? なんで愛娘にいきなりチョップを叩き落とすのよ!」

「いや、なんとなくこうした方がいい気がして。というか、安易に時間さかのぼるなよマトイ」

「パパがこの前遊園地に連れて行ってくれる約束破ったからよ!!」

「それだけで歴史を変えようとすんなよな!! それに遊園地に連れていけなくなったのもお前がやらかしたことの後始末があったからだろうが!」

「しょうがないでしょうがパパたちに似て巻き込まれ体質なんだからッ!」

「二人とも、ご近所迷惑よー……静かにしないと、撃ち抜いちゃう♡」

「「……すいませんでした」」

「うん、よろしい。それじゃあご飯出来たから手を洗ってきてね」

「結局一番怖いのはママだったか……」

「何か言ったかかしら、マトイちゃん?」

「いえ、何でもないデス」

 




一体この少女は何者なんだろうなー(棒)
あ、クロスローダーなどのことはこれ以上やりません。

とりあえず、次回で3章は終わりの予定。
4章の大まかなプロットも完成しましたので、そう時間を置かずに投稿できると思います。


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83.再会

これにて3章終了。
カノンが普段何をしているかなど、色々と盛り込んでいます。


 波の音が聞こえる。20世紀最後の日、僕は今年は日の出を見るぞと意気込んで外に飛び出したのだが……どうやら位相のずれたどこかへとたどり着いてしまったらしい。

 ドルモンたちは寝てしまっており、完全に一人だし……

 

「なんていうか全体的に暗い場所だよなぁ……」

 

 それに暗黒の力に満ちている。耐性があるとはいえ、なんというかとても気持ち悪い。それに、デジヴァイスが機能していない。ずっと沈黙したままだし……

 魔力も上手く練り上げられないし、なんでこんなことになったかなぁ。

 

「それで、今度は何に巻き込まれたのやら」

 

 漁村っぽいところを歩いているのだが、この町はひどく不快になる。

 そこで、町中で看板を見つけることが出来た……けど、デジ文字じゃないか。

 

「いつの間にデジタルワールドに来ていたんだ? というか、こんなおどろおどろしい場所がデジタルワールドにあったかな?」

 

 バステモンにもそんなことは聞いたことないし、暗黒の力がここまで残っている場所に町があるなんて……でもデジタルワールドならば話が早い。家においてあるポスターにゲートをつなげば帰ることが出来る。

 とりあえず看板には――インスマウス?

 

「どこかで見たような……どこだっけか?」

 

 このデジタルワールドはアメリカのアドレスに重なっているようだが、何というかこのアドレス本当にあるのか? って感じだし……

 これかなり変な場所に来ちゃったんじゃないかな。

 

「むしろ神隠し的な感じだよなぁ……波の音が聞こえる方に行くか」

 

 心情的には行きたくないのだが、なんかあの灯台も気になるんだよな。真っ黒な光を出しているという矛盾しまくった灯台が。

 歩いていくが、やはり人の気配は無し。海岸まで降りてくると、やはり人の気配は無いが……

 

「うげぇ、気持ち悪い」

 

 胸の奥の方が、灯台に近づいたことで強烈な不快感を訴えている。

 それに人の気配は無いけど似たような何かは感じる。デジモンのようでいて、人の様な何か。僕やマキナのような感じではなく、また別の生き物にも思えるが……これ本当に生き物か?

 それに海の中にもバカでかい気配を感じる。時折、こちらを睨んでいるような気もする――っていうか水平線にデカい影が見える。いやぁ、デカいね。

 

「怒っているのか何なのかは知らないけど、お前ら何かやらかしそうだよな……もし、僕の目の前で何かやらかしたら覚えておけよ、ぶっ潰すから」

 

 どういう理屈かはわからないが、この世界では僕のうちに眠る何かが暴れ出しそうになる。

 むしろ今までは扱えていなかった力が解放され、手には巨大な大剣が呼び出されていた。力すべてをこの剣に集約したみたいな感じだが……

 ふと、悲鳴が聞こえたのでそちらの方を見ると――魚の様な人影が見えた。どうやら、僕の剣をみて腰を抜かしたらしい。

 

「まあ、もう来ないことを願うけど……」

 

 言って聞くような連中じゃないよな。

 視認して分かった。こいつらの視線がヒカリちゃんを向いている。いや、紐づけされたデータがヒカリちゃんの力へと向かっていると言うべきか。別次元ではあるが、デジタルワールドだからログをたどることが出来たみたいだ。

 まあ何もしないうちに攻撃するつもりもないし、結局僕はゲートを開いて帰っていった。

 それよりも新世紀の初日の出が見たかったし。

 

 あの世界が何だったのかは知らないし、後日単語を調べてうわぁと引いたり、これ以上調べるのはやめておいた方がよさそうだと切り上げたりなどといったこともあったが、最終的にこの世界のことは僕の胸の中だけに留めることとなる。一応釘は刺したし、下手に関わるとろくなことにならない予感もしたのだ。

 ……翌年、ちゃんと対策しておくべきだったかなぁと後悔することとなったが。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「デジタルワールド含めて異世界って幾つぐらいあるんですかねー」

「どうかしましたか?」

「いえ、大みそかの時にちょっと色々とありまして」

「また無茶したんでしょう」

 

 新学期。かつての太一さんたちと同じ5年生になった。今日は光子郎さんと共にパソコン部のパソコンの調子を見ることに。我が部もこれだけの設備をそろえたりと小学校のパソコン部だよな? と首をかしげる毎日である。

 まあ、教師以上にパソコンに詳しい僕らがこうやって問題が無いか見ることになったりもするんだが。顧問の先生は急用でちょっとだけ外している。

 

「別に戦ったわけじゃないんだけどなぁ……」

「今までが今までだけに信用できませんよ。何度死にかけましたっけ?」

「はっはっは」

「……笑ってごまかさないでください」

 

 ヤダなぁ光子郎さん。死にかけたんじゃなくて一度本当に死んでますよ。いや、もっと笑いごとにならんけども。

 とりあえず作業を早く終わらせようということで、色々と進めていくが……

 

「光子郎さん、デジモン関連のソフトを入れようとしないでくださいよ」

「あ、あはは……つい癖で」

「まったく。見つかったら厄介ですよ。ゲートセンサーはアドレス打てば出たと思いますけど」

「そうですね……テントモンたち、元気でしょうか」

「元気なんじゃないですか? 向こうも広いですから僕もしばらく見てないですけど」

 

 結構色々と様変わりしている面もあっていざ探すとなると大変なんだよな。パンプモンたちとはこの前会ったけど。あと、偶然オーガモンを見つけた。まあ、その時は別の用事があったから声もかけられなかったが。

 

「この前カノン君がデジタルワールドに行ったのはどういう理由でしたっけ?」

「この前だから……ちょうどバレンタインか。なんかガーベモンを筆頭に汚物系が暴れていて大変だから何とかしてくれってゲンナイさんに呼ばれたんです」

 

 久々にゲンナイさんに会ったけどびっくりしたね。若返っていやがるの。

 光子郎さんも若返っていること自体は知っているし、あれには驚いたことだろう。

 あと汚物系に混じってチューモンが暴れていたからずっこけてしまった。なんでもミミさんに会えないことでフラストレーションが溜まっていたとかなんとか。

 

「なんでミミさんって汚物系に好かれるんでしょうね?」

「本人に言わないであげてくださいね」

「言いませんよ。てか言えませんよ」

 

 後が怖くて。それにあの人今は日本にいないし。

 それこそ笑い飛ばそう――と思っていたら、ガラリと扉開いた。先生が戻ってきたのかな? と思っていたら、見知らぬ少女が立っていた。大きな眼鏡をかけており、歳は同じくらいだろうか?

 

「京君じゃないですか。今日はどうしました? パソコン部はメンテがあるのでしばらく休みのはずですけど」

「ああそっか、すいません。忘れてました」

 

 てへ。と語尾につけておどけてみせているが……何なのだろうか、この子。

 

「泉先輩、それは分かりましたけどそっちの人は? どこかで見たことがあるような気もするんですが……どこだっけ? 学校では見たことないですけど」

「こちら、我がパソコン部の副部長の橘カノン君。まあ、いわゆる不登校児です」

「人聞きの悪いことを言わないでください光子郎さん。調べ物があるから学校にあまり来ないだけです」

 

 DNAアクセルの件やXデジモンの捜索やらで。特にDNAアクセルの方は研究施設みたいなのを見つけるところまで来れたんだから。いや、もぬけの殻というか廃棄された後だったんだけどね。

 Xデジモンも依然として見つからず。もうそもそもいないんじゃないかとさえ思う。

 

「なんだか落ち込んじゃいましたけど……そっか、隣りのクラスに頭がすごくいいけど全然学校に来ない問題児がいるって聞いていたんだけど、この人が」

「ええ。その問題児が彼です」

「アンタら人を貶して楽しいか!?」

「ごめんごめん。アタシ、井ノ上京。隣のクラスに今年転校してきたの。よろしくね」

「……まあいいか。さっきも説明があったけど、橘カノン。一応部の設立にも関わったから副部長をやらされている。さっきも言った通り、調べ物があるから学校にはあまり来ないけどね」

「うわぁ……問題発言。というか先生たちは怒らないの?」

「もうあきらめていますよね」

「私立に行けばいいのにとさえ思われていますね。厄介すぎて」

 

 自分で言うんだ……と呆れられているが、こっちにも事情があるのだ。最近、クラスメイトの一太郎からもなんでそんなに神出鬼没なんだよとつっこまれるし……自重した方がいいだろうか? 成果も出てないし。

 あと、よく神出鬼没なんて知っていたよな……

 

「っと、そうだコレ渡すの忘れてました」

「……なんですか、これ」

「この前行った場所の土産です。いやぁ、大変でした」

「なんでマトリューシカとポンチョを一緒に渡すんですか?」

 

 にこりと笑うと、光子郎さんも察したのかハァとため息を一つだけついた。

 京さんがいるからハッキリとは言えないが、一日で行きましたから。ギガシードラモンのことをみんなにハッキリと言ったわけではないのだが、独自の移動手段があることだけはえらばれし子供たちも知っている。ただ、密入国関連の話題になるとみんな顔をそらしていた当たり、共犯にはなりたくないと見える。

 

「どうせそのうち、みんなもやるのに」

「不安になるようなこと言わないでくださいよ!」

「なんか、本当に聞いていた話のイメージと違うわね……」

 

 おそらく元クラスメイト達が面白半分に広めた噂が独り歩きしたんだろう。というか僕とまともに会話したことのある奴なんて一太郎ぐらいだし、後でアイツとっちめるか。

 しかしそれにしても……井ノ上京さん、だっけか。どこかで見たことあるような気がするんだよなぁ…………

 

 ◇◇◇◇◇

 

 その後も各地で調査を続けたりしたが、そろそろ色々な機関に目をつけられそうだなとしばらく活動をおとなしくする。あと、なんか見覚えのある黒いライダースーツの男を一度だけ見かけたこともあったのだが、流石に面倒なことになりそうだったからスルーした。

 

「というわけで積みゲーの消化もしなくちゃねー」

「カノン、ゴールデンウィークに入ったからって気楽そうだけどいいの?」

「いいのいいの。むしろしばらく気の休まる暇もなかったから」

 

 DNAアクセルの方は調べないといけないなと思い、ゲンナイさんの協力もあって現実世界側の誰かの仕業ということまでは判明したのだが、メフィスモンの件以来何もしてないというのが発覚した。

 というより、見つかるのが厄介だと思ったのか表だって何かをすることが無いのだ。元々、研究だけしていたというオチもありそうだが。

 

「作った本人は何のアクションも起こしていないんだよなぁ……デジモンの協力者がいる可能性が高いってゲンナイさんは言っていたけど」

「ゲンナイさんたちが見つけられないってことは、妨害している奴がいるってことみたいだしね」

 

 プロットモンは昼寝をしているが、ドルモンは僕の隣でプラモを作っている。君、結構多芸になったね。

 こんな会話をしながらでもお互いに手は止めない。

 

「そろそろ昼ごはんの時間だけど……母さんたち遅いな」

「ありあの検診だっけか?」

「まだ1歳にもなっていないからなぁ……色々と心配なんだと思うよ。アイツはアイツで全然泣かないけど」

「………カノンに抱かれているときはね」

「? ドルモン、何か言ったか」

 

 なんかよく聞き取れなかったんだけど。

 

「別に何でもないよ。自分で作れば?」

「出来るけど、何か材料あったかな――ッ、ドルモン気をつけろ!」

「どうかした――!?」

 

 ドルモンがプロットモンを抱えて飛び退く。

 僕も直前まで気が付くことが出来なかった。まさか、この部屋のポスターに設置してあるゲートを魔法でハッキングするような奴がいるなんて!

 増大する魔力反応、ゲートを通って何者かがこの部屋に入ろうとしている。

 

「魔王クラスでも破れないように色々と思考錯誤を重ねた渾身の逸品をいともたやすく、何者だ?」

「気を抜かない方がいいよ、一体どんな奴が飛び出してくるのか」

 

 最初に、頭が見えた。黒い耳の付いた頭で、ずぼっという音とともに頭が床に激突する。そして、下半身は壁に埋もれたかのように出てこない……え?

 もう一度言おう。下半身は壁に埋もれたかのように出てこない。

 

「……えっと、どちら様?」

「痛い……それと、お久しぶりカノン君。ウチだよ。マキナ!」

「――――ま、マキナ!?」

 

 久末蒔苗。かつて、僕とドルモンが出会った少女。そして、アポカリモンとの戦いの時に手紙を送ってくれた子だ。黒い耳の付いた頭だと思っていたのは、黒猫を模したパーカーのフードだったらしい。

 そしてゲートから出てきたはいいが……上半身だけで下半身は出てこれなかったと。

 

「とりあえず、助けて」

 

 苦笑いする彼女であるが、こんな再会になってむしろこっちが苦笑いだよ。

 

 

 

 

 そして、この再会がこれから始まる長い旅路の始まりとなるとは……この時の僕たちは、夢にも思っていなかったんだ。

 

 




というわけで02からの先行登場は京さん。いや、カノンもパソコン部だからね。一応。

そしてマキナの再登場。
これから4章の始まりとなります。

4章・遥かなる旅路

今までとは毛色が大分異なる話になるかと。あと、長いです。


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4章・遥かなる旅路
84.デジコアを宿す子供たち


新章突入よー。



「ふぅ、酷い目に遭ったよ」

「というかなんであんな風に引っかかったんだよ」

「いやぁ、まだまだ未熟なもんで」

 

 照れたように頭を掻くマキナであるが、僕としてはあまり直視できない。

 スカートでひっかかっていたものだから、引き抜く時に……これ以上は言うまい。

 

「ウィッチェルニーって世界で魔法の修行をしながら暮らしていたんだけど、ゲートの固定化と自分の体を保ち続けることが出来るようになったの。それで、修行の成果を確認がてら会いに来たんだ」

「そういえばそんな魔法の世界があるって聞いていたけど……」

「これでも師匠に筋が良いって言われているんだ! 魔法発動に使うのがコレなのがちょっと不満だけど。可愛い杖とかが良かったんだけどなぁ……」

 

 そう言ってマキナが取り出したのは、二丁の拳銃。え、拳銃?

 なんでそんな物騒な見た目なのか。

 

「ウチに一番適合しているのがこれなんだって。デジコアの特性とかから調べたらそうなっちゃって……ミスティモン様も厳しすぎるんだよねぇ」

「そうは言うが、マキナはまだまだ未熟だがな。見たところ、カノンの方が腕は上だぞ」

「そう言われるとショックだけど仕方がないじゃないの」

 

 首からぶら下げた薬莢――クダモンも相変わらず健在なようで。マキナの魔法の腕ってそんなに上達していないのだろうか? 僕も異世界への移動はやっていないのだが。いや、無意識に別の世界に飛んだことあるけど。

 

「ウチ、これでも存在が安定したのはつい最近なんだよ。今もまだ半電脳体だし、肉体は無かったから」

「人としての姿を保ち続けられると判断されたのもこの間なのだ。だから、今までこちらとのコンタクトは撮らなかったというわけだ」

「へぇ……確かに、妙なコードで形成されているね。遺伝子情報は残っているのが幸いか」

「見ただけでわかるの!?」

「イグドラシルシステムの恩恵だけどね」

「――――そうか、彼の存在に出会ったのか」

「今はもう稼働していないし、僕たちがぶっ壊したんだけどね。というか、クダモンは知っていたよな?」

「ああ。詳細までは知らなかったが、君たちが特異な存在であったことは承知していた。私たちの未来において重要な指針の一つであることも」

 

 やっぱりか。どうもクダモンに前聞いたことと、イグドラシルを破壊した時期のずれなどから違和感があったんだ。僕たちが時間を越えることに関して、色々な思惑を持った連中がいるらしい。

 結局はなるようになると言った感じみたいだけど。

 

「なんかよくわからないけど……」

「マキナが気にする必要のない話だ。それに、この世界の色々あったみたいだな」

「わかるか……あとドルモン、なんでだれているんだよ」

「えー、おなかすいたよー」

「ですー」

「プロットモンまで……仕方がないか、何か作るよ」

「カノン君、ご飯作れるの?」

「なんか微妙な言い方だけど……料理できるよ。冷蔵庫の中身と相談して――マキナも食べるか?」

「うん!」

 

 デジモンたちも電脳体だし、やはりマキナも食事は普通に大丈夫なようだ。少し心配していたんだが、問題なく食べれるのか。

 冷蔵庫の中を確認すれば、中にあるのは鶏肉か。後は卵と玉ねぎもあるし……

 

「親子丼でいいか」

「ご飯は?」

「炊いてある。問題はなさそうだし、大丈夫かな」

 

 というわけで親子丼を作ることに。

 マキナが物珍しそうに家の中をみたり、テレビを見ていたが……ウィッチェルニーにはその類のものは無いのだろうか?

 

「ないねぇ。集落が一つある感じの世界だし。あとは遺跡が多かったり、偏屈な人は辺境に住んでいるけど」

「へぇ……」

「そっちは今までどんなことがあったの?」

「うーん……世界って何回ぐらい崩壊しかけたっけかドルモン」

「おれに聞かないでよ。えっと、アポカリモンが2回で、他には誰がいた?」

「イグドラシルもヤバかったとしても……僕以外が片づけた話もあるみたいだし、5回ぐらいは滅びかけたんじゃないかな」

「まって、受け止めきれないよ!」

「すさまじいな……」

「です」

「そしてこのワンちゃんはデジモン?」

「ワンちゃんじゃないです! プロちゃんはプロットモンというデジモンです!」

 

 なんかマキナ、しばらく見ないうちにアグレッシブな感じになったな。いや、こっちが素なんだろうけど。

 しかし改めて口に出すとヤバいな。世界は何度崩壊しかけたんだ。

 

「それにカノンも一回死んだしね」

「――――え」

「ドルモン、食事時にいう事でもないだろうが。まあ、マキナなら気が付くと思うけど、僕の体の中に何があるかわかるか?」

「…………デジコア? でも、なんで」

「お前と似たような理由だよ。僕の場合は肉体は残っているけど、蘇生のためにデジコアを体内に入れたんだ」

「なるほど……それにそのデジコア、特殊なデジモンから受け取ったな」

「クダモンには分かる?」

「ああ。元ロイヤルナイツだからこそわかるが、とても特異なデジコアだ」

 

 ファンロンモンって今のデジタルワールドの守護者の一角らしいから、それでだろうね。

 それと元ロイヤルナイツなのか……たしか、マサキさんが戦っていた相手がそいつだっけ。

 

「ってことは、クダモンは杉田マサキって人は知っている?」

「ああ。ついていた任が違うから詳しくは知らないが、名前だけなら」

「僕も一度あったぐらいだし詳しくはしらないんだけどなぁ……今はどの世界にいるんだろう」

 

 よく考えたら、単独で異世界に飛んでいるんだからとんでもない人なのは間違いないんだよね。

 まあ僕たちも今後会うことがあるかはわからないが。

 

「というわけで、もしかしたらそっちに行っているかも」

「……ウチ、その人に会ったことがあるかも」

「本当か!?」

「私は知らないが、本当なのか?」

「うん。ウチが修行だって言われて一人で薬草をとりに行っていた時に……なんか機械出来た恐竜みたいなデジモンの背中に乗って、いびき掻きながらデジモンたちとどこかに向かって行ったんだけど……特に何も起きなかったから夢かとおもったんだけど……ウチ以外に人間がいるハズもないし」

「ラストティラノモンだなそれ。間違いない」

「普通の人間があの世界にいて無事とは思えないのだが……」

「あの人規格外だぞ」

 

 端々に聞いただけでも色々とおかしい人であるみたいだし。

 しかし本当に何していたんだ? 悪い人ではないんだけど……

 

「気にしても仕方がないか。はい、親子丼出来たぞ」

「おいしそうだね……料理はいつも自分でしているの?」

「そういうわけじゃないけど、一人の時も結構多いし。ここ数カ月は母さんが妊娠していたから大変だったってのもある」

「へぇ、お兄ちゃんになったの?」

「その言い方むずかゆいんだが……妹が産まれたんだよ。今は検診だけど」

「会ってみたいなぁ……」

 

 マキナの前で家族の話題を出したのは失敗かなと思ったんだが、どうやら気にしている様子はない。

 そもそも覚えていないのか? とも思ったが、そんな僕の視線に気が付いたのかマキナは首を横に振った。

 

「カノン君、心配しなくてもウチは大丈夫だよ。今はみんなもいるし、寂しくないから。それに、あの時のことはもう受け入れているから」

「あの時?」

「ドルモン、あまり不用意に聞くことじゃないよ」

「ううん、大丈夫。簡単に言うと、ウチにはこの世界に帰る家が無いんだ」

 

 マキナの両親は彼女が入院している間に事故死した。その時のショックだったんだろう。マキナは生きる気力をなくしたのか、すぐに衰弱して死んだ。

 しかし、そのタイミングでグレイモンとパロットモンの戦いが起きた。その結果魂とデジコアの融合が起きたのだ。いや、マキナのは擬似だったか?

 過去に戻った際もその理由はよくわからないままだったが、確認のしようもないからなぁ……

 マキナの家族については彼女と別れた後色々と調べていたのだ。まあ、大変ではあったし時間はかかったけど。

 

「せめて体が残っていればいいんだけど、無理な相談だよねぇ」

「墓の場所は調べてあるけど、どうする?」

「うーん……ちょっと決心がつかないかな。一度死んだからかな。そこに魂が無いってのがわかっちゃうんだ」

「わかるけどね……とりあえず、冷めるといけないから早く親子丼食べろよ」

「うん!」

「あと一つ気になっていたんだけど、前におくってきたメールはその銃で撃っただろ」

「そうだけど……それが?」

「結構痛かったぞ」

「ご、ごめんなさい……」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 食器を片付けながら、そう言えば今日は外が静かだなと思った。

 八神さんちは旅行だったし、他もゴールデンウィークで出かけたのかと思っていたが……なんだか街全体が静かすぎる気もする。

 

「ふへぇ」

「……だから未熟者と言われるんだ」

「マキナ、緩い顔しているなぁ……クダモンも結構苦労した感じか?」

「君ほどではないさ。相当な数の修羅場があっただろうことはわかる」

「あはは……否定したいけどできないな」

 

 でもクダモンは気が付いているようで助かる。

 何らかの異常が発生しているみたいだ。このタイミング、それに記憶の片隅に何かが引っかかる。マキナの姿を見てからずっと、何かが。

 

「……でも魔力は感じないし、デジモンの気配もない」

「我々以外のデジモンはこの付近にはいないようだが……妙な光の残滓は感じ取れるが」

「たぶんヒカリちゃんだな。特殊な力を持っているみたいなんだけど、デジモンを進化させたり……ってマキナ? どうかしたのか?」

「その子、女の子?」

「うん。一つ下で幼馴染なんだけど……どうかしたか?」

「べつにー、ただなんとなく」

 

 なんでジト目何だろうか。

 

「仕方がないさ。マキナのデジコアは属性で言うならばウィルス種。心の琴線に触れることがあると、ああなる」

「ちょっとクダモン、酷いこというね」

「ウィルスなんだ……」

 

 ちなみに、僕はワクチンである。

 ファンロンモンは例外種みたいだが、僕の中のデータがワクチン種の存在だったんだろう。

 結局黄金のデジモンのことはよくわからないが――そうだ、クダモンが何か知らないだろうか? ちょっと聞いてみようか。そう思った時だった。

 

「――ッ!?」

「なに、この嫌な感じ」

「外に出るぞ!」

 

 全員でベランダに出ると、世界の風景が目まぐるしく変化していっていた。

 色彩もおかしくなり、紅蓮の炎に包まれたり氷に覆われたり。廃墟になったり、草原が広がったり砂漠になったり。様々に変化していき、やがて元に戻る。

 

「なにこれ!?」

「カノン、どうなっているかわかる?」

「――時折デジタルワールドと同じ、データで構成された世界に変化している」

「それってどういうこと!?」

「つまり、世界そのものが書き換わろうとしているんだよ。今はまだふり幅が少ないし、すぐに元に戻るけど……」

 

 デジヴァイスを取り出してみると、時刻データがおかしな表示になっている。ギガシードラモンへ避難した方がいいか? そう思ったが……ダメだ、座標データもバグが起きてしまう。

 その間にも、世界が変質していく。とりあえずすぐに部屋に戻り、パソコンを起動して原因をサーチするが……

 

「デジタルワールド側のログが少し拾えた――やっぱり時間データがおかしいのか」

「私も同意見だ。時間に干渉できるデジモンが暴走を引き起こした際の最終段階の考察を見たことがある。たしか、歴史データが書き換わる過程でこのような事象が起こりうると」

「なるほど。過去に何かがあったのか」

「でもそれって、どうにか出来るものなの?」

「どこかに時空の回廊があれば原因のある時代までさかのぼれるかもしれないけど……見つけられなければ対処のしようがないな。原因そのものはこの時代にないから、対処のしようがない。このままおかしな歴史へ書き換わるのを待つしかなくなる――その先に、今の自分がいるかもわからないけどな」

 

 僕たちがこの現象を認識できているのは、僕のうちにあるものが原因だろう。

 もしくは時間移動を経験したことである種の耐性があるのか。

 

「でもマキナと私が耐えられている理由は?」

「それは…………いや、まてよ」

 

 マキナの格好。そして、時間移動。

 

「……これから過去へ遡るとして、それが歴史データに刻まれているのならばマキナたちも時間移動の経験者としてみなされないか? 体にログが残るんじゃなくて、この場合は歴史データそのものに刻まれた情報を参照するんだと思う」

「色々と難しい話をしているのは分かったから、とりあえず解決策を簡潔に!」

「ご、ごめん……簡単に言うと、これからマキナ達もこの騒動を解決するために過去に行くことになるんだよ」

「――――へ?」

 

 思い出したのだ。

 かつて、時空の回廊を通って現代に帰還した時、未来の自分と一緒にいた少女。アレはマキナだったのだ。

 角度の違いでネコミミパーカーだとはわからなかったが、確かに黒いパーカーとスカートだったし。あの時みた自分の背格好は当時の太一さんと同じくらい。今の自分も同じくらいだ。

 

「…………問題は時空の回廊がどこに出現しているかだけど……時空の歪みが発生しやすいポイント、それも何度もゲートに使われているような場所」

「それなら、あそこしかないです」

 

 プロットモンがそう言い、外を指さす。なるほど、確かにそうだ。

 というかむしろ、そこしかないだろう。今まで何度も利用したため歪みが発生しやすいなどと思っていたが、今回はそれに救われた。

 

「第六台場に行くぞ!」

 




というわけで、2章で出ていた伏線とようやくつながります。
今までもこの4章のための伏線が多いですので、こことつながるのかーといった部分があるかも。


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85.遥かな過去へ

 第六台場へ向かう途中、何度も世界の風景が変化している。いや、この場合歴史が変質してしまうのを僕たちは観測出来ているというべきなんだが……

 

「なんなの、これ」

「過去で歴史が変化しようとしているんだよ。だから、こうしてもしかしたらの風景が見えているんだ」

 

 そのほとんどが荒廃した世界というのが気にかかるが……ただ一つ気になるのは、何故今そうなっているのかだ。

 過去が変化した――いや、変化しようとしているのだとしても、”今の時間”がおかしくなる理由にはならない。それはまた別の理由があるはずなのだ。

 

「僕たちが影響を受けないのは、歴史データにおいて時間渡航することが刻まれているからだとは思うんだけど……とにかく、この変化の影響を受けているポイントを見つけないと――ッ」

 

 外を走っていると、急に元の時間に戻った。人にぶつからないように避けていくが、どうにもピントが合わない。どうやら今現在の時間軸からも僕たちは弾かれつつあるみたいだ。

 これはかなりヤバい状況だな……

 

「あ……」

「マキナ?」

「ううん。なんでもない」

 

 マキナが何かを見ていたようだが……赤ん坊を抱いた母親? マキナの顔が少し寂しそうなのが気にかかるが、深刻な問題というわけでもなさそうだ。

 気にはなるけど……

 

「ごめん、今は刻一刻を争う」

「わかってる。とにかく何とかしないと何だね!」

「うん。とりあえず第六台場は見えてきた――え」

 

 周りの風景がおかしくなる中、第六台場だけは元の姿を保ったままだった。

 世界中がどのように変化しても、あそこだけはそのままの姿でそこにある。まるで、そこだけ切り取られたかのように。

 

「――――なるほど、空間が不安定であるからこそより不安定な現象の影響をうけないか」

「クダモン、わかるのか?」

「ああ。視認してハッキリとな。あそこは何度もゲートが開かれたことにより特異なエリアに変貌している。普段ならば悪いものを引き寄せかねないが、今この状況においては好都合だ。問題は、時間を跳べるゲートを開けるかだが……」

「それなら大丈夫。前にあそこに時間移動してきた奴がいるから……ごめん、僕たちも前に過去から帰ってきたときに出てきたのあそこだったわ」

「少なくとも2回、時間移動に使われたのか……ならばこの現象も納得だな」

 

 呆れたように言われるが……言い返せない。

 とにかくすぐに上陸すると、空間が安定しているのがわかる。世界中がおかしくなっているから逆に安定しているのか。

 

「というよりは、正常空間が切り替わりつつある中形を保っているこちらの方が”異常”ではあるな」

「ごめん、話の半分もわからない」

「カノンも難しい話は後にしてとにかく何とかしないといけないんでしょ」

「です」

「いっぺんに言わないでくれ。わかったよ……とりあえず、この場所からなら原因を探れるかも」

 

 おあつらえ向きに、デジタルワールドが現実世界と融合しているし。おそらく、過去において何かがあった結果デジタルワールドと衝突でもして世界がおかしくなったってところだろう。

 時折向こうの世界で見た建物が出現していたりするし、そんな感じだとは思うんだが……とりあえず持ってきていたノートパソコンを起動し、必要なプログラムを起動していく。

 

「何をしているの?」

「もう一度過去へ行くのは分かっていたからね。色々と準備はしていたんだよ……まあ、使うことは無いといいなとは思っていたけど」

 

 前に経験した時間移動のことを参考にした時間座標を割り出すプログラムを起動する。パソコンにデジヴァイスを接続し、準備は完了した。

 

「イグドラシルから削り出した基盤がここで役に立つとは……おかげで、どの地点がおかしいかがわかる」

「なるほど、デジタルワールドの歴史すべてを刻んだアレの一部ならば可能な荒業だな。それ以外にもあるようだが……誰に教わった?」

「色欲の魔王と、死を司る賢者だよ」

「リリスモンにバグラモン――それはすさまじいビッグネームだが……連絡をとれないのか? 彼らならばこの状況でも何とかできるかもしれんが」

「無理だね。現実世界に過度な干渉が出来るわけじゃないんだ。それにこの状況だと通信もできないみたいだし――とりあえず、異常地点は見つかったけど……?」

 

 どういうわけか、この時代ととてつもない過去のデジタルワールドに異常地点が見つかった。いや、この時代というよりは異変が起きた時間だな。

 過去の方はふり幅が広いのでよくわからないが……このデータからするに…………

 

「おかしくなっているのは過去で、今現在のはどういう?」

「ふむ。おそらくは、この時代の何かが過去へ飛ばされたからこうなったのだろう。すでに過去で何かが確定してしまったからこそ、異常が起きているのだ。とすれば私たちがやるべきことは一つだな」

 

 すでに起きたことは変えられない。だが、まだ間に合う。歴史が完全に変化したわけでなく、時折元に戻ってはいるのだ。完全に変化したらこの第六台場も変化に呑まれ、僕たちも書き換わってしまうだろう。

 今こうして思考てきている以上はまだ手が打てる。だからこそ、やるべきことは一つ。

 

「過去にさかのぼり、歴史を元あるべき形に限りなく近付ける」

「正解だ。すでに起きた出来事は変えようがないからな。私自身、歴史すべてを把握しているわけではないが出来る限り力になろう。覚えている範囲で修正点を見つけるしかないが……小さな変化ごときではこうも歪まないはずだ。ならば、とても大きな出来事が変化したと考えるのが妥当だろう」

「よし、そうと決まったらさっそく……う?」

 

 その時、胸の奥が苦しくなってきた。

 頭の中に何かが聞こえてくるが、ノイズがひどくて聞き取れない。マキナ達が僕を心配する声が聞こえるが……その時、体からデジメンタルが飛び出して目の前の空間に鏡の様なゲートを展開した。

 

「――――え」

「な、なにこれ!?」

「この鏡は……ッ、橘カノン! そのデジメンタル、誰が作ったものだ!」

「これはたしか、エンシェントワイズモンが作ったって……!」

「気が付いたな……あの存在は未来さえも見通す力を持っていたという。彼が作ったのならばそこには意味があるはずだ……そして、このタイミングでこのようなゲートを作り出したということは――」

「僕たちを過去へ導くため、か……なんかこのパターン多いけど、誰かの思惑があるんだろうな絶対」

 

 毎度毎度のことながら、タイミングが良すぎる。試練と言えば聞こえはいいが、どうも大きな問題が起こるたびに僕が解決するように仕向けられている気がしてならない。いや、実際にそうなんだろうけど。

 拒否するつもりはないが、絶妙なタイミングというかこの僕が取るであろう行動を先読みされた感じ……

 

「なんだかなぁ……」

「とにかく、これで何とかできるんだよね?」

「まあ、そうなるけどね。呼ばれているってことは説明があるって考えてもいいよな」

「そうなることを願うがね」

「でもまあ、説明が無くてもカノンは突っ走るんでしょ。脳筋だし」

「ドルモンくーん、その言葉の意味するところを後で教えてねー」

「……ママさんそっくりです」

 

 プロットモンが何か言っているが、失敬な。僕はあそこまで怖くない。

 とりあえず無駄話は後だ。アーマー進化を行い、ドルモンをラプタードラモンに進化させる。プロットモンを抱え、彼の背にまたがりマキナに手を伸ばす。

 

「しっかりつかまっていろよ!」

「うん! クダモンは薬莢の中に入っていてね」

「承知している。X抗体を持たぬ身では時空の回廊は厳しいからな。マキナも保護魔法を頼む」

「これでも異空間の通過とかは結構いいセンスしているって褒められたから大丈夫!」

「慢心はよくないけどね。それで僕も死んだわけだし……」

「カノン、この状況でブラックな発言は止そうよ」

 

 まあその通りか。とにかく、世界がおかしくなる前に事件を解決しないと。時間の猶予がどれほどかは分からないが、とにかく過去へ跳ばないことには話が始まらない。

 ラプタードラモンが加速していき、そしてゲートへと飛び込んだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「なんか体が圧迫されるッ」

「笑ってろ笑ってろ。ジェットコースターと思って楽しんだ方が後々楽だぞ」

 

 アレ苦手だけど。

 

「そんなこと言ったってぇ」

「結構きついですー!」

「舌噛むぞ! それに確かこの後過去の僕たちとすれ違うから、あんまり顔みせるなよマキナ!」

「どうして!? 今より小さいカノン君も見てみたい!」

「結構余裕あるなお前! まあいいや、あの時の僕はマキナの顔をはっきり見たわけじゃないから、パラドックスを起こさないためだよ! とりあえずそれっぽいのが見えてきたから頼むぞ!」

「うう、帰ったらアルバム見せてね!」

「分かったから口を閉じる――来るぞ!」

 

 暴風の中と言っていいぐらい、とんでもない空間だからしゃべるのも一苦労。そのため終始叫んでいたのだが――過去の自分たちが前から飛んでくる。

 この後、1999年8月4日に行くんだったな。その彼らを見て、笑ってやる。これから大変なことがまだまだたくさんあるが……まあ、頑張れと激励を籠めて。

 

「…………行っちゃった?」

「ああ。そういえば前にも似たようなことをやったな」

「?」

「こっちの話だよ――ラプタードラモン、一気に行くぞ!!」

「合点だよ! 加速するからしっかりつかまっていてよね!!」

「うわああ!?」

 

 マキナが背中にしがみつき、ラプタードラモンが最高速度にまで達する。

 ぐんぐんとスピードが出ていき、やがて光のゲートが見えてきた。

 どうやらあそこが終着地点らしい。そのまま、僕たちはゲートを潜り抜けて――体中が、粉々に破壊されそうになった。

 

「ガッ――!?」

「なに、これ」

 

 デジモンたちは何ともないみたいだが、僕たちの体に異常が起きている。

 まるでこの先へ行くことは許されないというかのように。

 だが先へ進まなくてはいけない、それにもう後戻りはできないのだ。意識が遠くなりつつある中、僕たちの体はデジタルワールドへ突入したときのように分解され、再び再構築される。

 その際、僕たちの体の中のデジコアが強く反応して。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 体中が痛い。幸い、怪我をしているわけではないが……それにゲートを潜り抜ける際に体に異常な数値を見た。一応視覚に情報取得魔法をかけておいて良かった。なんか体の調子というか感覚がいつもと違う。

 起き上がってみると、視点が高くなっていた。それに服装も違うし……なんで上半身素肌の上に布が1枚…………ボロボロのベスト? ジャケット? あと赤いマフラーってこっちはデジタルワールドへ来るといつも出ていたか。

 それに手袋なんていつつけたんだ? でもこの格好どこかで見たこともある気がするんだが……思い出せない。

 

 とりあえず起き上がってみると、ドルモンたちもいてとりあえず無事みたいだが……なぜドルモンとプロットモンは目を丸くしているんだろうか。それに、マキナの姿が見当たらず、黒猫を模したフードをつけたシスターみたいな人がいるんだが。体中を触っており、冷汗がだらだらと流れている。結構スタイルはいいのだから気にする必要ない――いや、そう言う理由じゃないだろうけど。あと、クダモンの薬莢が首にぶら下がっているのは何故かなぁ……

 

「か、カノン……だよね?」

 

 ドルモンが僕に話しかけてくるが、何故そんなにも自身がなさそうなのだろうか。

 

「何をいまさら。なんかおかしなところがあるのか? いや、なんか服装が違うしありそうだなとは思っているけど……うん、ハッキリ聞こう。今の僕ってどうなっている?」

「えっとね――デジモンになってる」

「……確かに、下半身が山羊だわ」

 

 なるほど、だから視点が違うんだね。あと、やっぱりそっちのシスターさんはマキナなんだよね。

 

「う、うん……ウチもデジモンになっているみたいなんだけど…………これってどういう事?」

「自分の姿は見れていないけど、元の姿とは全然違っているんだよね?」

「そうだね……カノンもマキナも人間の時とは姿が変わり過ぎていて……匂いは同じなんだけど、あとカノンはゴーグルはそのままだね」

「あ、ほんとだ――って気休めにもならないんだけど」

 

 とりあえずクダモンさん! 説明をお願いします!

 

「面白いから黙っていようかとも思ったが、そうもいかないな」

「あなた結構お茶目な性格していますよね」

「クダモン、ふざけてないで説明お願い」

「分かったからそう怖い顔をするな。おそらくここは古代デジタルワールドだな。エンシェントワイズモンが関わっている時点でそうだとは思っていたが、十闘士の伝説がいまだ残る時代、イグドラシルも観測しか出来ていなかった太古の世界だ。たしか、その頃はデジモン以外の存在はこの世界に入ることすらできなかったからな。強力なプロテクトがかけられていたと聞く」

「それで、僕たちの姿が変化したのは……」

「この世界に適応するために、体内のデジコアがデジモンの姿に変化させたんだろう。いや、進化と言うべきか? 私は今のお前たちの様なデジモンを見たことがないが……名前は分からないのか?」

「えっと……僕がアイギオモンで、マキナはシスタモン・ノワールだって。それ以上はイグドラシルシステムも使えないからわからないけど」

 

 …………今まで色々なことがあったが、まさかデジモンそのものになるなんて思ってもみなかった。

 どうやら、今度の事件は今まで以上に一筋縄じゃいかないみたいである。

 




ついに登場、アイギオモン。
そして感想でシスタモン・ノワールのことを言及されてひやひやしていた。いや、ヒントを出し過ぎた感もあったけど。

ドルモンたちは意識が飛んだわけじゃないからカノンたちが変化する光景を見ちゃっています。そのため、誰? とはならなかった。


というわけで、4章の舞台は古代デジタルワールドです。どういう状況なのかはまた話の中で判明していく感じで。


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86.最初の目的地

地図でも作っておいた方がいいのか悩みどころ。


 改めて自分の姿を確認するが……背は結構高くなっている。170センチぐらいだろうか? 頭を触ると確かにゴーグルはそのままだったが、角が生えている。

 

「なんだか不思議な感覚だな。足も変わっているし……なんかヤだなぁ、メフィスモンみたいな感じで」

「あれよりはいいと思うけど」

 

 堕天使型だし、僕もその系統に属するタイプのデジモンになってはいるようだ。あれって表裏一体だし。神人型のデジモンってそこまで大仰な存在ってのも色々とプレッシャーがあるけど。

 マキナの方も自分の体を触って確かめているが……あんまりぐにぐにとその大きいのをいじらないでほしい。直視できない。

 

「……おお」

「なんで感激したような声を上げているんだよ」

「だってウチにこんな夢のナイスバディが」

「シスターの見た目なんだから貞淑にしてほしいんだけど」

「そうはいってもねぇ……ウチの見た目と体の感じってほとんど人間と同じだし」

「パペット型だけどな。瞳が人間とは異なるってのが特徴といえば特徴だけど」

 

 二丁拳銃はそのままだが。

 お互いに成熟期のデジモンだし何かあっても戦えそうな感じではあるが――

 

「マキナ、デジモンの技って使えそうか?」

「どう使えと?」

 

 お互いにやるせない目になり、どうすればいいのかと疑問が浮かぶ。というかドルモンたちはどうやって使っているんだ?

 

「えっと……なんか感覚?」

「使おうと思えば使えるです」

「デジコアに刻まれた機構のようなものだ。基本システムともいう。まあ、お前たちもデジモンとなっているのならそのうち使えるようになるはずだ。魔法も使えるのだし気にする必要はないだろう」

「クダモンがいてくれて助かったな。疑問で止まる時間があるかもわからないし……それで、この時代のことは分かるのか?」

「デジヴァイスに時間座標を表示してくれ。覚えている限りで答えよう」

 

 デジヴァイスを取り出し、現在時刻と共に時間座標を表示させる……これだけだと僕にはわからないのだが、クダモンはある程度分かるらしい。

 頭をひねりながら、何かをブツブツとつぶやいて――ぽん、と手を打った。

 

「十闘士が関わっていたことから、ルーチェモンが支配していた時代かと思ったが……どうやらそれよりはあとの時代のようだな。おそらく、古代デジタルワールド後期。十闘士以外の究極体が発生し始めた頃か……あまり資料もない時代故に詳しいことは分からないが、それなりに平和だったハズだ」

「ハズ、ねぇ……」

 

 なんというか、空間に暗黒の力が漂っている気もするんだが。マキナも感じ取っているのか、空を見上げるとまゆを顰める。

 

「なんか嫌な空気が漂っているよね」

「ああ。どこからか暗黒の力が噴き出している感じだ……前に色々とあったから、感じ取れるようになったのかねぇ」

 

 出所までは分からないが、この世界に何らかの異変が起きているのは分かる。

 とにかく情報が足りない。まずは情報収集が必要だな。

 

「ああ、それが良いだろう。地図は分かるか?」

「うーん……ちょっと難しいな。集落とか安定したポイントにつかないと無理かも」

「とにかく歩くしかないな」

「なんか大変なことになっちゃったなぁ……まあがんばろっか」

 

 マキナがそう言い、僕たちは歩き出す。

 あたりには集落や町らしき影は見えないし他のデジモンたちの姿もない。アメリカの広々とした大地を思い浮かべれば大体似たような光景が思い浮かぶんじゃないだろうか。

 

「…………歩くのかぁ」

「歩くんだねぇ」

「二人とも、げんなりした顔をしないでよ」

 

 そうは言うがドルモンよ、目的地もわからないのに歩き続けるのって……つらいぞ。

 しかし歩くしかなく、とりあえず適当に進んでみることに。日も高いし……体力が持つかが心配である。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 もう結構な時間歩いている。

 そろそろ疲労も蓄積した頃合いであるが……一向に何も見えず。

 

「のど乾いたなぁ」

「どこかに集落でもあればいいんだけど、近くには何もなし。地下水でも探すか?」

 

 ソナー魔法でも使って探してみてもいいが……体力に見合わなそうである。

 随分と歩いたが、歩いているだけで何も見つからない。太一さんたちも大変だったんだろうなぁ……

 

「さてと、とりあえず食料の補給をなんとかしなくちゃだけど――」

 

 と、その時だった。

 誰かの悲鳴が聞こえてきて、爆発音と金属音が響いてくる。どうやら、戦闘の音らしい。

 

「ッ――」

「カノン君!?」

「いつも突っ走るんだから! 待ってよー!!」

 

 音のする方向へ走り出し、坂を下る。少し茂みがあって気が付かなかったが、坂の下に緑が多くなった場所があった。それに、遠くには明かりも見える。そう言えばそろそろ日が沈むころあいか……

 

「まずはあのデジモンたちをどうにかしないとッ」

 

 一体の人型のデジモンが獣型のデジモンたちに襲われているのが見える。悲鳴は人型の方か――それに、獣型は同じ見た目のデジモンで、全員が闇の力を纏っている。

 どういう連中かはわからないけど、どっちが悪い奴らかは一目瞭然だな。

 

「とりあえず、パンチ!」

「――ガァ!?」

 

 獣型の一体をとりあえず殴り飛ばす。見た目は細長い体に赤い体毛。革ベルトなどをつけているが……名前はファングモンか。それと、成熟期。イグドラシルシステムが使えればもっと色々と情報がわかるのだが、あとは属性とかしかわからない……

 

「だ、誰!?」

「事情はよくわからないけど、とりあえず助太刀にきたよ」

 

 人型の方は、リボルモンというデジモンらしい。西部劇の様なガンマンの格好をしており、体そのものが拳銃になっている。調べなくてもわかるな、こういう姿のデジモンは突然変異型だ。

 

「とりあえずお前ら、何が目的だ?」

「ゲヘヘヘ」

「シャーッシャシャシャ!」

「話が通じない……」

「そいつらは最近ここら辺を荒らしまわっている夜盗だよ! オレ、この先の集落に帰る途中で、それで」

「わかった。運悪く襲われたってことだよな――まあ、この姿になっての初めての実戦だけど、やるしかないか!」

 

 ファングモンたちが迫り、鋭い爪が襲ってくる。

 魔力を解放して加速し、攻撃をかわしていくが……今までの体の感覚とのずれがあって上手く力を扱えない。出力が安定せず、思っていたよりも遠い地点に跳んでいた。

 

「――グルゥ?」

「ガウガウ!!」

「お前ら吠えることしかできんのか……」

 

 僕を取り囲むように奴らは動いており、それぞれが連携して攻撃して来ようとしていた。うーん……ちょっとマズいかなー。

 防御魔法とかは色々と起動準備しておくけど……一斉に来られるとマズイ。

 

「ガァ!!」

「って思ったそばからかよ!?」

 

 それぞれが互いの隙をカバーするようにとびかかってくる。防御しながら陣形を崩しにかかるが、こちらの攻撃のタイミングで別の個体が仕掛けてくるからやりにくい。

 そして、一体が首めがけて噛みついてきた。

 

「危ない――!」

「ガアアア!!」

 

 奴の牙が迫り、僕の首をへし折ろうとしているが――近づきすぎてくれて、助かった。体から力を放出して攻撃してきた個体を吹き飛ばす。その際、ただ単に魔力を放出するつもりだったのが電撃が飛び出したのが気になったが……

 

「まずは一体!」

「――!」

 

 続いて、後ろから体を回転させて尻尾を叩きつけようとしてきている奴には――反撃しようとしたら、その一体は横方向へ吹き飛んでいってしまった。

 

「まったく、いきなり飛び出さないでよね!」

「あ、ゴメン。マキナ達も追いついたのか……」

「カノンは相変わらず無茶するね。まあ、一人でも倒しそうな感じだったけど――でもおなかもすいていることだし、全員でやっちゃおうか」

「プロちゃんは後ろで見ているです」

「私もここは見学させてもらおう。ドルモン、二人の腕鳴らしと体を慣らすためにもここは様子見するほうがよさそうだぞ」

「んー、不完全燃焼。まあいいや、さっさと終わらせてねー」

 

 いきなり出てきてそういう事を言うか……まあそれでもいいが。マキナは銃を構え、奴らを狙っている。リボルモンは何が起きているのかわからないといった風だが……それもそうか。

 目まぐるしく変わる状況。自分を襲ってきた奴らがあっさりと吹き飛ばされればそう思うだろう。

 

「カノン君が吹っ飛ばしたのも起きてきたね……で、どうする?」

「縛り上げてその暗黒の力を誰に貰ったのかとか色々聞きたいところだけど、こいつらしゃべれないみたいなんだよね」

「ガアア!!」

 

 四体が再び連携して攻撃してくる。しかし、今度は先ほどの感覚も合わせて体を動かす。

 奴らの攻撃をいなし、背後からマキナの援護が飛んでくる。

 

「こっちは体が大きくなったけど、能力的にはあんまり変わらないね! カノン君、援護はウチにお任せ!」

「オーケー、こっちも本気出しますか!」

 

 手に力を集め、剣を形作る。属性は炎。

 

「魔法剣、グレイダルファー!」

 

 ファングモンたちに突撃し、炎の斬撃でもって蹴散らしていく。奴らも反撃してくるが、マキナの銃撃により連携を完全に乱されていた。

 そうなればこちらの物。奴らを切り裂いていき、一体。また一体と倒れていく。

 

「三体目!!」

「――――ガァ!?」

 

 ゴロゴロと地面を転がっていき、ファングモンは残り一体になった。だが、そいつは僕たちの攻撃をかわしながらマキナへと迫っていた。

 

「アアアア!!」

「キャア!?」

「この――――スタンビートブロウ!!」

 

 危ないと思い、走り出した次の瞬間には脳内にイメージが浮かび上がっていた。その通りに体を動かすと、自然と口から技の名前が出たのだ。

 まるで、元から知っていたように。なるほど、これが”技”か。

 

「――――ッ」

「これで、四体目」

 

 ファングモンたちは地面に倒れ伏し、目を回しているが……どうするか。ふと、腰につけていたシュリンクスが目に入った。元々持ち歩いていたものだが……少々デザインが変わっている。アイギオモンは元々この笛をもっているのか?ゴーグルは見た目もそのままだったし、他の持ち物も同じだったことを考えるとそうなのだろうが……

 

「んー……まあやれるだけやってみるか」

「カノン君、こいつらどうするの? そのままにしておいてもまたやらかすと思うんだけど……」

「出来るかどうかはまだわからないけど――やれるだけのことはやるよ」

 

 笛を吹き、旋律があたりに響く。それに反応するようにファングモンたちが体にまとっていた闇の力が抜け落ちていき、彼らの姿を変化させていった。

 光に包まれて小さくなっていき、彼らは灰色の獣型デジモン――ガジモンになってしまう。

 

「闇の力を浄化したのか?」

「こいつらの体にあったのは微量だったからね。暗黒のエネルギーで強制進化させられていたのかもしれない。だからこうやって解除できたわけだけど……そうそう上手くいかないかな」

 

 今までのことを覚えているかはわからないが、とりあえずこれで大丈夫だろう。

 というか結局今の状況はよくわかっていないし……

 

「そっちのリボルモン君、いろいろ話を聞きたいんだけどいいかな?」

「は、はい! こちらこそ助けていただいてありがとうございます! お礼に、集落でごちそうさせてください!」

 

 渡りに船。というかうれしい申し出である。

 彼の言葉に乗り、近くの集落まで行くことに。道中、色々と話を聞いたがクダモンの予測通りの時代らしい。ただ、色々と気になることもあるのだが。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「十闘士の遺跡を破壊している連中、ねぇ」

「はい。ルーチェモンの封印も解けかけて暗黒の力が噴出しているらしいです。それで、今日みたいな凶暴化したデジモンたちが現れたりしていて……」

 

 リボルモンに案内された集落で話を聞きつつ、食事をしていたが……思っていたよりも大事らしい。

 この時代はルーチェモンを十闘士が封印してから数百年ぐらいが経った世界。一応、当時の生き残りの長老みたいなデジモンたちもいるにはいるそうだが、十闘士のことも口伝がほとんど。

 

「それでも、噴き出した暗黒の力によってルーチェモンの配下のデジモンも暴れまわっていて……」

「十闘士の封印を破壊しようとしている、と」

 

 十闘士たちは世界各地に神殿を作り、ルーチェモンの力を封印しているんだと。というか、そこまでしないといけないってヤバいなルーチェモン。流石は七大魔王の一角。

 

「はい。反抗勢力もいるらしいんですが……各地で厳しい戦いが続いているそうです。ココは辺境の集落ですので、あのような夜盗が現れる程度で済んでいますけどね」

 

 まあ、集落の様子を見たが少しの不安感を感じつつも普通に生活している感じだし。たとえるなら、遠くの災害を知った直後の人々といったところか。この危機を実感するには情報が足りないのだろう。

 

「あの、ところであなた方はどのような目的で?」

「うーん。その反抗勢力と似たようなものなんだけど、ルーチェモンの封印を解かれるのを止めればいいのかな? ごめん、僕たちもどうすればいいかはハッキリしない感じでさ、とにかく情報をありがとう。できれば一番近くの神殿を教えてくれると助かるんだけど」

「それでしたら、北の方へ行った先に闇の神殿があると聞きます」

「いきなり闇かぁ……普通ならラスボス手前とかじゃないの?」

「マキナ、そんな知識どこから仕入れたんだ……」

「らすぼす?」

「いや、こっちの話。それじゃあ、とりあえずその神殿を目指すことにするよ」

 

 今日はもう遅いので、とりあえずはこの集落に泊まることとなったが。

 到達点はいまだ不明ながらとりあえず目的地は見つかった。

 でも闇の十闘士か……たしか、エンシェントスフィンクモンだったよな。姿は一度だけ見たことがあるが、どんなデジモンなのだろうか?

 




というわけで最初の目的地は闇の神殿となります。察しの良い方はどんな旅になるかわかったことでしょう。
流石に道中を長ったらしくやるつもりもないので大きなイベントが無い場合はダイジェスト風味にすると思いますが。


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87.導かれし者たち

最近、triのフラグを盛大に折った気がするんだ。気のせいだろうか?


あと、今回ドルモンさんが不幸な目に遭います。


 さて、闇の神殿へ向かうことになったのはいいのだが……思った以上に距離が遠い。かれこれ二日は歩いている。食料を確保しながらの移動になるし、夜は色々と大変だった。マキナの使える魔法などの確認も含めてテントを製作したりなど、色々と道中サバイバルに便利な魔法を開発したりなど、変なところで成長した。

 

「カノンくーん、まーだーつーかーなーいーのー?」

「そうだなぁ、向こうの方に見える山のふもとに闇の神殿があるらしい」

「うげぇ……結構遠い」

「そう言うな、マキナ。事態を終息させねば人間界やデジタルワールド、ウィッチェルニーなど他の世界も危ういかもしれないのだ」

「そうはいってもねぇ…………というか、結局ウチたちは最後にどうすればいいんだろうね」

「それは闇の神殿に到着してみないことにはなぁ」

 

 しかし、ドルモンはともかくプロットモンは結構疲れているみたいだ。軽いから荷物と一緒に乗せているけど。ドルモンに進化してもらって一気に行く案もなくはないのだが……

 

「ほげぇ……」

「ドルモン、まだ立ち直らないんだね」

「アーマー進化なら大丈夫なんだけど、やっぱ本来の進化が出来なくなったのがショックみたいで。アーマー進化だって結構エネルギー使うし」

 

 そうなのだ。最初、移動のためドルガモンに進化してもらおうとしたら進化が出来なかったのだ。

 色々と考えたり、検証してみたけど……どうもこの世界だから無理という理由らしい。いや、正確には進化できにくくなったみたいだが。

 デジモンの進化はデジタルワールドのサーバーを経由している側面がある。そのため、ドルモンの進化系譜は情報として登録されていない。ちなみに、この登録された情報を読み取ることでアナライザーなどは機能している。

 まあそんなわけで、ドルモンは非常に進化できにくい状態になってしまった、というわけだ。能力値はそのままレベルの上げ直しみたいな状況になってしまっていると言えばいいだろうか?

 デジヴァイスは問題なく起動しているのがまた悲しいというか……

 

「大丈夫だって。ドルモンのデジコアに蓄積された情報がなくなったわけじゃないんだから」

「それでもショックなものはショックだよぉ」

「しかし、これはまずい事態だな。私もマキナの力を使えば進化できなくはなかったのだが……この状況では成熟期が関の山か。対策を考えねばならない」

「プロットモンは元々進化できないからなぁ……なんか別方向に成長しているらしいけど、どうなんだ?」

「プロちゃんは何も知りませんです」

 

 そう言うと、プロットモンは再び垂れプロットモンになる。いや、歩けよ。

 しかし先はまだまだ長そうだなぁ……と、視覚強化をして闇の神殿があるであろう場所を見たとき、僕の足が止まった。

 

「カノン君?」

「うそ、だろ……」

「どうかしたのカノン?」

「闇の神殿から煙が上がっている」

「――え!?」

「ドルモン、慣れない環境でエネルギー消費がバカにならないだろうけど、頼む」

「分かった。行くよ!」

 

 デジメンタルを取り出し、起動させる。

 ドルモンの姿が変化し、ラプタードラモンに進化してすぐに背に乗る。マキナ達も掴んで引き寄せる。一体全体どうなっているかわからないが――

 

「なんで闇の神殿が崩れてんだよ!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ラプタードラモンに乗り、闇の神殿にまですぐさまやってきたが――着陸したとたん、ラプタードラモンはドリモンにまで退化してしまった。

 

「みゅう……疲れた」

「ゴメン、予想以上に厳しい環境みたいだな」

「実質戦えるのはカノンとマキナの二人になるな。しばらくは頑張ってくれ」

「結構厳しいなぁ……師匠たちからは鍛えられているけど、ウチって戦闘向きじゃないよ」

「となると、基本僕一人か……」

 

 予想以上のハードモードだった。神殿も崩れているし……煙が上がっていたように見えたのだが、近くに来てみるとそんなことは無かったのが気になるな。それにこの崩れ方、壊されてから結構立っている。

 壊れた原因だが……どうやら、外部から強力な攻撃で破壊されたらしい。残滓データからするに、強力な闇の――いや、暗黒の力か。

 

「どう違うの?」

「基本的には同じだけど、悪意が籠っている。たぶん、ルーチェモンの配下とか言われている連中だろうな」

「封印の解除のためだろうな。うかうかしていられん。他の神殿も見て回らなくては……」

「ああ。結局、無駄骨――――ッ!?」

 

 ここを立ち去ろうとした、その時だった。強烈な闇の力を肌で感じ取る。

 マキナ達も同じ力を感じ取ったようで、体を動かせずにいた。

 

「なにこれ……この強い力はなんなの」

「この力――まさか」

「カノン、ここに何かいるよ!」

「ああ……しかも、一体だけじゃないぞ」

 

 崩れた神殿の中から、何かが現れる。半透明のそれは、そこにいないのにも関わらずに絶大な存在感を放っていた。それが、三体も。

 

「――エンシェントデジモンが三体、だと!? しかし、姿が……」

「もう死んでいる……魂だけが残留しているのに、このすさまじい力とか……どんだけだよ」

 

 中央にいたのは黒いライオンの様な姿のデジモン。右側には緑色のローブを羽織った鏡のようなデジモン。

 左側にいたのは、巨大な岩石に手足が生えたようなデジモンだ。

 

「エンシェントスフィンクモンに、エンシェントワイズモン。それにエンシェントボルケーモンか」

『待っておったぞ運命の子よ』

「それって、僕のことなのか?」

 

 エンシェントスフィンクモンが静かに、僕たちに語りかけてきた――しかしその視線は、僕だけを射抜いていたが。他の二体も同様に、笑うように僕を見ている。

 

『オイオイ、こんなガキがお前の言った運命の子なのかよ、ワイズちゃんよぉ!』

『ああ、間違いない。私が来るべき時のために用意したデジメンタルも持っている。彼こそが私が予言した運命の子だ』

『であるのならば、問題は無い。来るべき時が来たのだ、運命の子よ』

「ま、まってくれ! いきなり運命の子とか言われても混乱するだけだ! 順を追って説明してほしい!」

 

 というかお三方だけで納得しないでこの時代がどうなっているのかとか、なんで未来の存在の僕のことを知っているのだとか――いや、そっちはエンシェントワイズモンの能力だろうけど――色々と聞きたいことがあるんだ。

 

『ならば私から説明しよう。エンシェントボルケーモンはこういった説明には向かない。エンシェントスフィンクモンも口数が足りないからな』

『なんだと!?』

『よさぬか。事実だ』

「……思ったより、フレンドリーな方なんですね十闘士」

『なに、今回だけの特例だ。本来であれば試練を受けてもらいそれを乗り越えたあかしとして褒美を出すところなのだが……私たちの試練に関しては受けてもらう必用もなさそうだ』

「それってどういう……」

『それも含めて説明しよう。まず、私が未来を見通す力を持つことは知っているね?』

「はい。それについては」

『うむ――私たちは封印したルーチェモンがいずれ復活することを知っていた。そのため、封印をより強固にするために十闘士全員の魂をそれぞれの神殿に封印することで楔を打ったのだが……』

 

 そうか、ルーチェモンの配下はその楔を破壊するために神殿を破壊したのか。

 マキナやドリモン達もそこは分かっているようで、話にはついてきている。

 

『それだけでは不十分だった。このように神殿が破壊されることも想定していたし、ルーチェモンの力が噴き出してしまった原因は未来からこの時代へ飛ばされた異物なのだ。そのせいで、私の力をもってしてもそれがどのようなものであるかはわからない。ただ、ルーチェモンの力を増幅させていることだけは分かる』

「そのせいで、封印しているにもかかわらず力が漏れ出しているのか」

『ああ。だからこそルーチェモンを討つ為にある物を作り上げた。それが、君の持っているデジメンタルだ』

「え――」

 

 でも、これは人間界にあったものだ。エンシェントワイズモンが作ったのは聞いていたが、何故人間界に?

 

『仮にそれがルーチェモンの配下の者や、よからぬ考えを持つ者に見つかると厄介だったのでね。私の鏡を通して人間界に送ったのだよ。私の様な能力を使わなければいけないほどに、あちらの世界とこちらをつなぐことは困難なのだ。この時代においてはね』

「…………まさか、この時代に僕たちを呼んだのは……」

『ああ。私だ。いや、私たちというべきかな。もっとも、少々込み入った事情があるのだが……』

「?」

 

 そこまで言うと、エンシェントワイズモンは少々言葉を濁す。どうかしたのだろうか?

 

『何といえばいいのだろうな。こと君に関しては時間軸の奇跡というか、言葉では語れない複雑怪奇な運命を持っているのだよ。だからこそ運命の子と呼ぶにふさわしい存在となったのだが……まあ、この旅が終わりを迎えた後に答えを知るだろう』

「なぜそんなふわっとした答えに……」

『私たち以外の思惑も入り混じっているからね、語ることが出来ないと言うべきか』

 

 厄介ごとの上に更に厄介ごとが乗せられるのだろうか。

 この時点でマキナは考えることを放棄したのか、ドリモンとプロットモンと遊び始めた。おい、自由すぎるだろう。クダモンが理解してついてきてくれているのが幸いだ……

 

「しかし、そうなるとデジメンタルは何のためにあるのだ? アレはアーマー進化のためのものと聞いているが」

『たしかにそうだ。だが、そのデジメンタルはもう一つの機能がある』

 

 エンシェントワイズモンがそう言うと、僕の中にあったデジメンタルがひとりでに飛び出してきて光を放ち始めた。まばゆい光に包まれていき、赤と青の二色の色をしたものへと変化する。今までは僕が込めた属性に応じて色を変えていたのに……

 そして、大きな音を立てて上下に割れた。

 

「って割れた!?」

「中には……円盤?」

 

 そう、卵型のデジメンタルが上下に割れて中には円盤が現れたのだ。円盤には十個の穴が開いており、全てが六角形の形をしている。

 そしてその中にエンシェントデジモンたちから飛び出した光の球が入っていき、3つの穴が埋まる。それぞれ、闇、土、鋼の文字の様なマークが刻まれていた。

 

「これって……」

『それは我々十闘士のエレメントだ。運命の子よ、そしてその仲間たちよ。我ら十闘士の神殿をめぐり全てのエレメントを集めるのだ。さすれば、来るべき時に力となるだろう――しかし十闘士もふさわしき相手と認めなければ力を託さない。十闘士の試練を乗り越え、力を手に入れろ』

『そういうわけだ! 精々気張れやガキども! 本当なら俺たちも試練を出すところだが……まあ、ワイズちゃんが認めるってなら俺からは激励で勘弁してやらぁ!』

『ここより一番近いのは木の神殿だ。東へ迎え。荒野を抜け、深緑の森を目指せ。そこに木の神殿がある』

「なんというか、先は長そうだけど」

「やるしかないな。マキナたち、難しい話は終わったぞ」

「ご、ごめんね……ほらウチって学校行っていないしこういうの苦手で」

「何を言っているんだ。ウィッチェルニーでの生活を忘れたか?」

「あ、あはは……むしろ師匠たちの授業の方が厳しいんだろうなぁ……」

 

 マキナは遠い眼をしているが、彼女にも色々と大変なことはあったのだろう。

 とにかくお礼は言っておいた方がいいだろうと十闘士たちに向かったが――なぜかエンシェントワイズモンがばつの悪そうな顔をしている。

 

『……すまない、一つだけ残念な話がある』

「えっと、何でしょうか?」

『エレメントを保管する必要上、少なくともエレメントを集め終えるまではアーマー進化は使えない』

「…………え」

「――――!?」

 

 ドリモンが愕然とした顔をしているが、僕だって冷汗が止まらないんだ。マキナ達も気の毒そうな顔でドリモンを見ているが……やめてあげてくれ。

 

『デジコアに刻まれている情報自体は残っているため、一度進化できれば二度目以降は容易になるだろう。この世界の未来、君たちに託すぞ――』

 

 そう言って、彼らは消えていった。

 色々と言いたいことはあるのだが、これではっきりした。僕たちがこの時代で何をすべきなのか。

 

「十闘士の神殿をめぐって、試練を突破しろってことだよな」

「ああ。おそらく今回みたいにエレメントをすんなり渡してくれるなんてことはないだろうな」

「なんか本当にゲームみたいな感じだね」

「状況はそう甘くないです。時間との勝負です」

「プロットモンの言う通り、ルーチェモンの配下も動いている。闇の神殿みたいに破壊して回っているんだろうな――3つも破壊されているみたいだし」

「なんで3つ?」

 

 そりゃ簡単な話だよ。

 

「真実、彼らは幽霊だったのさ。封印のために魂を使ったとか言っていたからな……神殿を破壊されてでもいなきゃ、ここに来れないさ」

「――あ!?」

「そうだ。土と鋼の神殿も破壊されているとみて間違いないだろう。でなければ、他の十闘士も直接現れていいはずだからな」

 

 現在破壊された神殿が3つだから彼らが現れた。煙みたいなのが上がっていたのは、僕に気づかせるためか……彼らが最後に残った力で色々と準備しておいてくれたんだろう。

 未来を守るために、頑張ります……だから、見ていてください――

 

 

 

「って、話を纏めないで何とか言ってくれよ、みんな」

「ごめんドリモン、とにかく頑張ってくれとしか言いようがない」

「さ、サポートはするから! 解決策も考えてみるよ!」

「まあなんだ、気を落すな」

「がんばれです!」

「……釈然としない」

 

 色々と前途多難だけど、こうして古代デジタルワールドでの僕たちの冒険はようやく始動した。

 道のりは長そうだし、今までの戦い以上に困難な道のりになるだろう。

 

「それでも、やるしかないよな!」

「そうだね……いつまでも落ち込んでいられないか!」

「乗り掛かった舟だからね。それに、カノン君の妹に会ってみたいし」

「プロちゃんも頑張るです!」

「気合も十分、か。ならば先へ行くとしよう」

「ああ。深緑の森、木の神殿を目指して出発だ!!」

 

 それでもみんながいれば何とかなりそうな気はするんだ。

 いまだにわからないことも多いし、問題はたくさん残っている。

 だからどうした? これはスタートだ。それで当たり前なんだ。だったら、前を向いて突っ走るだけだ。

 

 

 こうして、僕たちの冒険が始まった。

 出会いと別れの、旅路が。

 




流石に究極体になられるとパワーバランス崩れまくるからパーティー全体の調整。
アーマー進化すらも封じられてドルモンは大幅に弱体化しちゃいましたが。流石に、成熟期にはすぐに進化できるようにしますけどね。

というわけで、旅の目的を開示しました。


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88.胸の中の思い

 とにかくルーチェモンの配下よりも先に神殿をめぐり、エレメントを集めなくてはいけない。

 準備を整えて僕たちは深緑の森を目指した。ドリモンが再びドルモンに戻るのには半日かかり、この世界では進化自体が用意ではない可能性さえ出てきてしまったのが辛い所ではあるけれど。

 クダモンとの情報の共有の中で、おそらく究極体はほとんどいないであろう事。アーマー体も多数いる時代で暴走している個体もいる可能性があるなどと色々とまとめてみたが……

 

「どこかの集落によって情報を集めないといけないよな」

「私たちはこの世界の地理に疎いからな。マップは入手できたのか?」

「この前リボルモンの集落で一応は。詳細とまではいかなかったけど、この大陸をまわるだけなら何とかね。いや、そもそも他の大陸があるかも怪しい世界だけど」

 

 僕たちの時代のデジタルワールドとは地形が大幅に異なっているらしい。まるで一度再構築されたんじゃないかと疑うレベルで元の面影が無い。いや、この場合は未来の面影?

 

「食料も探さないといけないよねー」

「その問題もあったか……ドルモン、プロットモン。何かありそうか?」

 

 今僕たちは森の中を進んでいる。目的地の深緑の森では無いし、林といった方がいいぐらいの感じだ。

 この森なら食料もそれなりにあるかとも思ったのだが……

 

「うーん、ちょっとなさそうかな」

「ないです……どうするです?」

「そうだなぁ……作るか」

「作るって、どうやって?」

「それはこの木を斬って」

 

 手ごろな木を一本切り倒し、原材料というかデータのリソースを確保する。

 それをまあ適当に組み直して――フルーツのデータに改編した。

 

「――――え?」

「木もフルーツもデータ的には植物だからな。この程度の改変なら何とかいける」

「いやいやいやいや!? そんなレベルじゃないよね、ってクダモンも何のんきに食べてるの!?」

「なかなかうまいな。ドルモンとプロットモンも食べているではないか。ほら、なくなるぞ」

「納得いかない……ウチ、今まで相当修業したんだけどここまでの魔法は使えないよ」

「僕もこんなにあっさりいくとは思っていなかったよ。でも火を生み出すのと同じで、デジタルデータで出来た物質を生み出しているわけだからね。やっていることはどっちも同じなんだよ。どちらも、世界を改変している」

 

 まあ単純なエネルギー体を生み出す方が簡単ではあるけどね。それでも計算式の量が違うだけで手順は同じなのだ。改変前と改変後の数値を出し、その間を埋める。

 あとはプログラム言語の問題やら色々とあるが……

 

「デジモンの魔法、というよりデジタルワールドの性質だな。形さえ作れれば中身は後から入る」

「そうなの? クダモン」

「ああ。私がデジタルワールドにいた頃だとまだ研究段階といったところだったが……数値さえ用意出来ればこの世界の改変は可能だ」

 

 まあ僕も元はダークマスターズのスパイラルマウンテンから着想を得ているんだけどね。アレに比べればこの程度なんて軽いものだ。

 現実世界じゃ流石にここまでのことはできないけど。

 

「それと土のエレメントを手に入れたからかな」

 

 デジメンタルは引き続き僕の中に入っている。それが僕自身にも影響を与えているようだ。

 手に入れたエレメントの魔法は強化され、その属性に対する理解も深まる。

 

「土と水は生命が息づく場所。だからこそ、命をはぐくむ力を行使しやすくなったんだ……水のエレメントがあればもっと色々できそうなんだけどなぁ」

 

 後は木か。まあエレメントがある間だけのブーストだし、元の時代に帰ったらなくなる力だけど。

 とりあえず食料は何とかできる可能性が増えたのは良かったことだ。

 

「それでも土から食べ物を作るとか無茶なことはできないから注意してくれよ。データの質が違いすぎる。枯れた草とかも無理だしね」

「破格すぎるよ十分……ウチにも使えるのかな?」

「うーん……マキナの適正がわかんないから何とも…………ちなみに僕は気象系と光が一番適性があった」

 

 これも最近分かったことだけど。暇なときに色々と整理したり、空いた時間でバグラモンやリリスモンに色々聞いてみたりなどとやっていたからなぁ……

 その中でも雷と光の属性への適性がすさまじいことは前々から知っていたんだけど……一体どういうわけなのか。

 で、マキナの適性は聞いていなかったわけだが。

 

「ウチの適正かぁ……よくわかんないのよね」

「わかんない?」

「うん。師匠たち曰く多面的というか定まっていないというか……ただ、索敵や察知能力は高いって。あとは自分の存在の確立やらに重点を当てたらなぁ…………でも、守護強化は適性があるって」

「守護強化?」

「守りとか、他にも色々。デジモンには無い概念の出産の祝福とかも出来るとか言われたけど、いまいちピンと来ないんだよね、ウチには縁のないことだし」

 

 それはまだ体が出来上がっていないから――いや、違う。

 マキナがどことなく寂しそうな顔をしており、過去へ跳ぶ前に見た表情と重なった。

 

「……」

「ご、ごめんねなんか辛気臭い話聞かせて。大丈夫、それでもこうして生きているんだし!」

 

 マキナには体が無い。現在のマキナは魂が仮装の肉体を得ているに過ぎないんだ。

 デジモンと同じデータ体。それが何を意味しているのか……分からないわけではないが、言葉をかけることが出来ない。

 結局その話に僕は明確な答えを出すことが出来ずに、この話題は僕らの心の奥底へしまわれることとなる。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 道中は荒涼とした風景が続くばかりで特に大きなことはなかった。

 マキナたちと今までにあったことなどを語り合ったりなど、話題は尽きなかったけど。

 朝日が昇り、前へと進んでいき日が沈めば休む。そんな日々の繰り返しだった。時折旅のデジモンたちと出会い集落がどの方向にあるのかなどという話もしたのだが、この一帯は集落なんてほとんどないらしい。それでもルーチェモンの配下と遭遇することも少ないからこういう場所を通っているといっていた。

 

「でも本当に七大魔王の一体が率いる軍勢がいるのかなぁ」

「たしかに疑いたくなる気持ちもわかるが……カノン、お前の見解は?」

「いなきゃ神殿が破壊されている理由はどうすんだよとだけ。あと、そろそろ教えてもらった集落が近いぞ」

「ほんと!? 久々にふかふかのお布団で眠れるかな」

「プロちゃんもうつかれたです……」

 

 こりゃだめだ。マキナとプロットモンはだいぶお疲れのご様子である。

 ドルモンもしばらく口を開いていないし、どうもこの世界の空気が肌に合わないらしい。いや、それもそうか。こいつ人間界での暮らしのほうが長いからこっちにはあまり慣れていないのだ。プロットモンも同じ理由だろう。

 

「でもダークマスターズの時は案外平気だったよな」

「あの時はいろいろあったからね……気にする余裕もなかったんだよ」

 

 今はただ前に進んでいるだけで平坦というか、戦闘もなく歩くばかりの日々だから精神的にくるものがあるのだろう。僕もこのまま歩き続けるだけというのはキツイものがあるし。

 

「ほら、もう集落も見えてきたし元気出していくぞ」

「うおー!」

 

 ドルモンも気合を入れて声を出し、走っていく。マキナとプロットモンが続き駆け出していき……って現金な奴らだな。クダモンは薬莢がマキナの首にぶら下がっているから連れていかれたし。

 

「っておいていくなよ!」

 

 僕も走っていくが――突然、先に走り出していたみんなが立ち止まった。

 何事かと僕も足を止めると……集落から、煙が上がっていた。赤い炎が家を燃やしており、悲鳴が聞こえる。

 逃げ惑うデジモンたち、その後ろから現れるのは肥大化した右腕を持つ黄色い巨体のデジモン。

 

「ガアアアアア!!」

「あれはサイクロモンだ! かなり凶暴化しているぞ!」

「わかってる――それに、体から噴き出すレベルの暗黒の力……」

 

 黒い瘴気を纏い奴は集落のデジモンたちを殴り飛ばし、高笑いを上げていた。

 デジモンたちは逃げまどい、その中で一体の幼いデジモンが倒れた。彼ををかばって盾になろうとしたデジモンがサイクロモンに貫かれて――頭の中で、何かが切れた。

 ここから奴の元まではまだ結構な距離があった。それでも、僕は――僕たちは一瞬で距離を詰める。

 

「ぶっとべ外道がッ!!」

「!?」

 

 拳に魔力を乗せ、サイクロモンを殴り飛ばす。それでも反撃しようとしてくる奴に対してマキナが銃弾を入れていく。道中僕が教えたデータ構成を崩す特別製の弾丸だ。

 

「貫かれたデジモンは!?」

「私とプロットモンの力で浄化しつつ治療する。どこまでやれるかわからないが、そちらは任せた」

「久しぶりに本気を出すです!」

 

 ちらりとだけ見たが、まだデータが消滅したわけじゃない。プロットモンとクダモンが何とかしてくれるのを祈ろう。暗黒の力の影響なのかサイクロモンはすぐに動き出そうとしている。

 なら、こっちも全力で戦うしかない。

 

「カノン、どうするの? また浄化……カノン?」

 

 ドルモンがこちらを心配そうに見るが、そのでこを一つピンと飛ばして答える。

 

「いきなりデコピンしないでよ……でもどうする気?」

「あれはもうどうにもならない。あそこまで融和している以上、消すしかないな」

 

 周りを見渡せば、傷つき倒れたデジモンたち。

 誰もかれもが致命傷を受けていない――いや、意図的に致命傷を避けた攻撃を受けているのだ。

 それだけならサイクロモンに残った理性がとどまったとも考えられなくはないが……

 

「こいつ、わざといたぶって最後の最後で皆殺しにするつもりだよ」

 

 僕のその言葉にこのデジモンはニタリと笑い、吠えた。

 ドルモンもその様子からこいつの性根を理解したらしく、毛を逆立ててやつをにらむ。

 

「ファングモンのこともあったし、もしかしたらと思ったけど――どうすることもできないんだね」

「ああ。お前はまだ進化できないだろうし、ここは僕が動く」

「でも相手はデジモンだし、カノンが戦うってことは……」

 

 後ろのほうではマキナたちが息をのむのがわかる。そうだ。僕が戦うということはこのデジモンを殺すということだ。考えている暇も与えないかのように、奴も攻撃を仕掛けてくる。

 右腕が僕めがけて迫り、真正面から剣を突き刺す。貫通力の高い鋼属性だから結構なダメージであろうことは間違いない。

 

「――――ガアアアアア!?」

「いちいちわめくなよド三流。お前もやったことなんだろうが」

「か、カノン?」

 

 飛び上がり、足にためた力で頭部をけり落とす。アイギオモンの技の一つ、アイアントラスト。強力な足技なのだが、基本的に後ろに蹴り上げる技だ。馬やヤギが後ろを蹴る動きを見たことがあるだろうか? あれがベースなのだろうが、使いにくかったので改良してみた。

 

「かかと落としみたいな感じになったけど、威力のほうは絶大だぞ」

「っ、キサマァアアアア!!」

「なんだ、しゃべれるのか。それで、どんな気分だ?」

「オレサマのアソビのジャマしやがってぇええええ!!」

 

 その一言に、僕だけでなくドルモンも、マキナも切れた。

 銃弾が奴の眼球めがけて突き刺さり、腹に鉄球がぶち込まれた。悲鳴を上げて後ずさるサイクロモンめがけて走りこんでいき、雷の魔法剣でやつを切り裂いた。

 

「――次生まれてくるときはこんなバカなことすんじゃねぇぞ」

 

 データが崩れ、サイクロモンの姿が消えていく。

 手にはずっしりとした感覚が残ったが……そうか、これが自分の手で命を絶つ感覚か。

 

「…………っと、マキナは大丈夫か?」

「あ、あはは……ごめん腰抜けた」

 

 マキナたちのもとへ戻り、いろいろとショックを受けたであろうマキナの手を取り立ち上がらせる。

 よくよく考えたら僕のほうは前々から大概なことしていたし、今更なことだったのでそれほど精神に来るものはなかったのだが。

 

「でも、ウチら……」

「ありがとうな」

「?」

「援護、ありがとう。あと……僕が直接デジモンと戦えたのはマキナのおかげだよ」

「――――うん」

 

 かつて、ヨウコモンを倒したときに思い詰めかけた。だけど、マキナの言葉があったから前を向けたんだ。

 その時があるからこそ僕はこうして今も戦える。

 

「そうだ、プロットモン! そっちはどうだ?」

「何とか繋ぎ止めたです!」

「だがちゃんとした手当てがしたい。カノンはどうにかできないのか?」

「できるだけのことはやってみよう。それに集落のデジモンたちも治療しないと」

 

 これは思わぬ長丁場になったなぁ……でも、やれるだけのことはやらないと。

 今までの知識を総動員して、事に当たらなくてはならない。

 結局、集落のデジモンたちの治療には明け方までかかることとなった。幸いだったのは、治療できた範囲のデジモンたちを助けることができたことだろう。軽傷だったデジモンたちも手伝ってくれたので、何とかなった面もあるんだが……まあ、さすがに疲れた僕たちはそのまま眠ることとなってしまった。

 




仕事の疲労とプロットの調整などで少々更新が遅れる日々が続くかもしれませぬ。


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89.行動開始!

ちょいと遅れてすみませぬ。
PCの変換機能が調子悪くなりいろいろとてこずりました。


 日の出を感じ、目覚めて集落を見回してみると思ったよりも被害はひどかったようだ。

 マキナたちはまだ寝ているみたいだし、とりあえず一人でも見て回ってみることに。

 あたりの家は壊されているし、地面は焼け焦げている。それにあちこちデータが崩れてしまって屑データ化している部分も……デジモンの構成情報のかけらみたいなのも見える。

 現実世界とは違うが、これは人間で言うところの……

 

「血痕、ってところか」

 

 こぶしを握る力が強まる。

 だが、ここで憤っていても意味はないのだ。

 とりあえず集落を直すことから始めよう。幸い全壊というわけではない。残った部分を修復しながら手を加えれば何とか住める形にできるはず。

 地下水脈もあるみたいだし……井戸も作っておこう。あとは今後も攻められないようにいろいろと防護のためのものを作っておいて……これは腕が鳴るな。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「んぅ……朝?」

 

 ウチは疲れも残ったまま目を覚ました。ウィッチェルニーでの修行で疲れには慣れていると思っていたのだが……精神的にダメージを受けるような出来事は少なかったから、気落ちしていたらしい。

 横を見てみるとクダモンはまだ起きていないようでまだ寝ている。ドルモンとプロットモンもまだ寝ているみたいだし――でもカノン君はもう起きているらしい。ただ、寝るときに外したであろうゴーグルだけが置きっぱなしだけど。

 

「……届けてあげるか」

 

 そういう建前にして、本当は会いたいだけだけど――いや、それも少し違う。

 昨日ウチたちはひどい奴だったとはいえデジモンを殺した。ヨウコモンの時のことがあるので強いショックを受けているわけではないし、不思議なんだけど戦うこと自体には忌避感を抱いていない。

 

「カノン君なら何かわかるのかな」

 

 今、一人でいたくない。だけど寝ているみんなを起こすのは忍びないからカノン君に会って話して気を紛らわせたいのだ。

 借りていた部屋からでて外に出てみると……そこにあったのは信じられない光景だった。

 確かに昨日はサイクロモンによってこの集落は破壊されたはず。それなのに、ウチの目の前にあったのは集落を超えたナニかだった。

 

「なにこれ!?」

 

 一体どうなっているというのか。あたりを見て回ってみると傷ついたはずのデジモンたちにもわずかながら活気が戻っており、材木か何かを運んでいるのがわかる。

 その一人にぶつかりそうになり、慌ててよけるが相手もすみませんと言いながら頭を下げていた。

 

「えっと、これはどういうことで?」

「カノンさんでしたっけ? 彼がいろいろと助けてくださったんです」

「ツチダルモン! 材木持ってきてくれー!」

「わかりましたー!」

 

 そういうと、そのデジモンも行ってしまったが……えっと、カノン君はいったい何をしたのでしょうか。

 ほかにも見て回ってみると似たような光景ばかりだ。動けるデジモンたちが集落の復興を行っており、江戸時代の長屋……というか城下町みたいなことになってきている。

 

「発展しすぎじゃないでしょうか」

「おねーちゃんあそんでー」

「あーそーんでー」

「しかもウチはいつの間にか幼年期ちゃんたちになつかれているし……」

 

 気が付いたら彼らの面倒を見ていた。というかいつの間にか日も真上に来ているし……

 わかったのはカノン君が何かをやって、急スピードでここまで復興させたということだ。いや、壊される前より立派になっているのではないだろうか?

 

「カノン君って本当に何者なんだろう」

 

 ウチにとっては命の恩人で、最初の友達。

 いつの間にかウチと同じ半デジモンみたいな感じになって彼には悪いと思いつつ、ウチみたいなのが一人じゃないんだってほっとした部分もある。まるで、彼がそうなったのを喜んだみたいではないか。

 

 

「……ウチって最低だな」

「なにがだ?」

「うひゃ!? か、カノン君!?」

「おう。とりあえずひと段落したから休憩にきたんだけど……なんか悩んでいる風だな」

「な、なんでもないのよ」

「でも――」

「何でもないって言っているでしょ!!」

「お、おう……」

 

 だめだ。これは彼に知られたくない。というか気配を消していたんじゃないかというぐらいにいつの間に後ろにいたのだろうか。隣には金色の体毛のデジモンがいる。

 

「えっと……そっちのデジモンは?」

「この人か? この集落の長のハヌモンさん。ちょっといろいろと話をしていたんだけど……水の補給とか準備を終えたら次の集落に向かうぞ」

「――――え?」

 

 いきなり何を言っているのだろうか。

 でも彼の眼には何かを決断したような色が浮かんでいた。

 

「思ったよりもまずい事態になっている――近くにルーチェモンの部下たちが迫っている。それも、軍団がな」

「軍団?」

「ああ。ザンバモンってデジモンが率いている軍団がな……そのザンバモンにしたって究極体だ」

「――――え、なんで……なんでそんな強いデジモンが!?」

 

 この時代には究極体は数が少ないんじゃなかったの?

 

「数は少ないが、いないわけじゃない。ルーチェモンの部下に究極体がいる可能性を考慮するべきだった……今の戦力じゃ究極体を相手できるかはわからない。それでも、僕はこのまま蹂躙される人々を見捨てることはできない……そこで立ち止まったら、僕は僕を許せなくなる」

 

 それだけ言うと、彼は寝床にしていた家まで向かう。

 

「無理についてこいとは言わないし、本当のことを言うのならこのままここにいてほしいぐらいだ……この先は、死闘になる」

「……」

「覚悟ができていないのならつらいだけだし、人の心にはきついから」

「それは、わかっている……でもね、戦うことに忌避感がないんだ。それが、少し不安で…………」

「デジモン同士が戦うことは嫌がらないだろう。それと同じだよ。人間とは本能的に異なるんだ」

 

 今もウチは人を殺せと言われれば拒否するだろう。だが、デジモン相手だとそれは嫌ではあるが不可能とは思わなくなる。もちろん、相手がひどい奴だったらの話だけど。

 

「僕もマキナも、半分はデジモンになっているから感覚で慣れていくしかないんだよ……僕の場合は嫌な慣れもあったからだけどね」

 

 そういうと、彼は自虐的に笑っていた。時折、暗い影のあるような表情になる。悪意があるとか嫌な感じがするというものではないのだけど……

 

「とにかく、ドルモンたちのところに戻るぞ。話はそれからだ。場合によっては、ザンバモンの軍団とかち合う可能性もあるからな。囲まれるのはまずいしどう動くにしろ話し合いが必要だ」

「うん」

 

 とにかく、一度みんなで考えるんだね。

 大丈夫。状況は分かった。今は前に進むしかないんだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 借りている部屋でドルモンたちとひとまず作戦会議を行うことに。さすがに究極体のデジモン相手に真正面から戦うのは得策ではない。

 

「そもそもあのサイクロモンはルーチェモンの配下ではなかったのか?」

「配下ではあるらしいけど、末端みたいだな。軍団といして動いている奴のほかに単独で暴れているだけに近い連中も大勢いるんだと。そっちはそれほど強くはないけど、この集落みたいに一番強くても成熟期のデジモンまでしかいないと今回のことみたいになったりするらしい」

 

 ただ、戦略上重要な場所でもないから軍団とかは現れないとのこと。

 逆にザンバモンが向かっているであろう集落は戦略的にも重要になってくる場所なのだとか。

 

「ここからだと徒歩で2日ぐらい。ただ、この辺りでは一番大きな集落で物資も多い。それにそこを拠点に森の神殿を攻めやすいんだ」

 

 そこからさらに3日ほどの距離に森の神殿があると思われる。もちろん徒歩での話だし、スピードの速いデジモンに乗っていけばその限りではない。

 ルーチェモンの軍には神殿の十闘士も抵抗するだろうし、拠点を用意しておきたいんだろう。

 

「でもおれが進化できないんじゃ究極体相手は厳しいと思うんだけど」

「そこがネックなんだ。くだんの集落には完全体も複数いるけど、究極体はさすがにいない」

「それじゃあどうするの? ウチたちが加勢するにしても力の差がありすぎると思うんだけど」

 

 本当にそこが厳しい状況なのだ。

 方法がないわけでもないのだが……成功するかは未知数だし、失敗したら危険でもある。

 

「ああ。だから一つだけ方法があるんだ……僕がバーストモードを使う」

「ちょっとカノン!? それは危険だよ!」

「わかっている。でもこれぐらいしか思いつかなかったんだよ。ブラスト進化ができるのが一番いいけど、あれは自由に使える技じゃない。だったらこの中で一番可能性のある僕がバーストモードを使うしかない」

 

 やり方自体はわかっている。問題は僕の体が負荷に耐えられるかどうか。そして、失敗してルインモードになる危険性もあるということだ。

 

「……だが危険すぎるぞ」

「クダモンの懸念もわかるけど、現状で打つ手がそれしかないんだ」

「…………いや、もう一手ある。しかしそれもどこまで使えるかがわからないな」

「もう一手?」

「ああ。私が進化するという手だ。成功率も低い技だがな」

「それって……」

「ウチがクダモンの制限を解除するんだよ。いろいろ事情があってクダモンは今の姿になっているけど、もともとは究極体のデジモンだったんだ」

「その姿までとはいかないが、成功すれば完全体にまでは進化できるかもしれん」

 

 そんな技があったのか……だけど、成功率はそれほど高くないのだろう。ほとんど博打になっている。

 しかしそれは僕も同じか。

 

「あとはドルモンが進化してくれるのを期待するしかないか……プロットモンはそもそも戦闘に向いていないし」

「面目ないです……」

「いや、気にすることはないよ。でも、マキナはそれでいいのか? ついてくるって体で話が進んでいるけど」

「いろいろ考えたけど、やっぱりおいて行かれるのはいやだよ。それに……ウチもこのまま逃げたくないしね」

「そうか――なら、出発するぞ」

 

 そうして、立ち上がり準備をする。必要なものを集め、現地へ行くために。

 そして、集落を出たころ――デジヴァイスが反応を始めた。

 ドルモンのほうを見ると、大きくうなずいていた。

 

「体がこの世界に慣れたみたいだ」

「それでも使えるのは成熟期までだな……ラプタードラモンで行くぞ!」

「合点!」

「なら、ウチたちもスピード出して行こう!」

「道中休憩を挟みながらになるだろうが――私も成熟期でいく」

 

 マキナがクダモンを詰めた薬きょうを銃に装てんし、僕はデジヴァイスを構える。

 お互いがそれぞれのアクションを行い――彼らを進化させた。

 

「クダモン、発射!」

「制限解除――進化、レッパモン!」

「ドルモン進化――ラプタードラモン!」

 

 それぞれの背に乗り、目的地の集落を目指して突き進む。

 これから戦うことになる相手は一筋縄じゃいかない存在。いや、下手をすれば負ける可能性もある。

 

「それでも見捨てるわけにはいかないよな」

「そうだね……それと、渡しそびれたけどこれ!」

 

 マキナがゴーグルを投げて渡してきて、僕はそれをすぐに装着した。

 なんか寂しいなと思っていたら……すっかり忘れていたな。

 

「よし、全速前進!」

 

 オーと、僕らの声が一つになる。

 大きな戦いが、始まろうとしていた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 カノンたちが目指す集落、そこに一体のデジモンが闇の気配を感じ取って静かに敵を待ち構えていた。

 緑色のズボン、体の各部に装着したアーマー。顔を覆う銀色のマスク。竜人型のそのデジモンは迫りくる悪意に反応し自らの故郷を守ろうと立っている。

 

「――――グルゥ……」

「まったく、アンタのその喧嘩っ早い性格は何とかならないのかしらね」

「……ライラモンか」

 

 その後ろから現れたのは、花の妖精のようなデジモン。リリモンに近しい外見をした、完全体。ライラモンだ。彼女はそこにたたずんでいたデジモンに小言を言うように近づいてくるが、彼はそれを意にも介さずにそのまま立ち続ける。

 

「どうしたのよ。今日はいつになく真剣な顔ね。いつもならのどかなもんだと家に帰るのに」

「感じるんだ。強力なウィルスデータが近づいてきている。それも、大群が」

「…………それ、本当?」

「ああ。俺にはわかる」

「………………わかったわ、ストライクドラモン。みんなに伝えてくる」

 

 そういうとライラモンは集落のみんなに彼が感じた気配を伝えに行く。

 だがそれでもこの気配の主を相手にどうにもならないことは伝えなかった。成熟期や完全体よりも圧倒的な気配を感じたからこそ、彼は迫りくる脅威を少しでも食い止めようとここにいるのだから。

 

「あまり気負わせるわけにもいかねぇからな……だが、別の方向からもウィルスデータが迫ってくるな」

 

 強大な気配よりは小さいが、どこか異質にも感じる。ウィルスを駆逐する性質のデジモンだからこそ感じ取れた気配だが……迫りくる脅威とは思えない。

 

「まあいい。なんにせよ俺のやることは変わらない」

 

 邂逅の時は迫っている。世界を変える命運を担う存在たちが、集まる時が。

 




不穏なフラグやら、新キャラ続々などと色々とやってますが、そろそろメインメンバーを全員揃えないといけませんので。

というわけで、4章十闘士編の本格始動となります。


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90.悲鳴の町

そろそろプロットモンがどういう方向に成長したのか語っていく時が来たか。


 ドルモンたちのおかげでだいぶ時間を短縮することに成功した。だが、それでも僕たちは未だに目的地の集落にだどりつけていない。時間にして丸一日といったところだろう。できることならザンバモンの軍勢がたどり着く前に到着したいところだったが……ドルモンたちの体力のこともあるため、現在は走って先へと進んでいる。休憩をはさみながら、進化も温存していた。

 

「っていうか、なんで前の集落のデジモンはザンバモンのこと知っていたの?」

「これから行くところはこの一帯で一番大きい集落。物資とかも集まりやすいし、築地市場みたいなのもあるんだと。だから援軍を送るつもりだったところにあのデジモンだよ」

 

 マキナからの問にすかさず答える。

 もしかしたらサイクロモンは尖兵というか援軍を潰すために送り込まれたデジモンなのかもしれない。だとすれば、他の集落にもデジモンが送り込まれている可能性がある。

 だが、時間的にもそちらに行くことはできない。

 

「それに、強いデジモンってわけでもなかった」

 

 他の集落ではなんとか撃退してくれていることを祈るしかない。

 相手が戦略を考えた行動をするのならば、大将は後ろにいるはず。全体を見舞わせる位置を陣取る可能性が高い。こういう時、アナライザーがあればとつくづく思う。いや、この時代だとどのみち使えなさそうだが。

 

「うーん、武人系……」

「どうかしたか、ドルモン?」

 

 隣を走るドルモンが何かを考えているので聞いてみるが……頭をひねるばかりだ。

 

「いや、なんとなく聞き覚えのある組み合わせがなぁって……なんだろう、何かが引っかかるんだけど」

「ザンバモンの攻略に役立つ情報か?」

「うーん……そういうのじゃないんだよね。でも、気になる」

「悪いけど、今は刻一刻を争うんだ。ルーチェモン復活までの時間を稼ぐためにもザンバモンを迎え撃たないと」

 

 とにかく急ぐべし。足に力を入れてかけていく。

 軍団の方は見てから出ないと対策を考えられないが、とにかくでかい魔法を撃ちこんで分散させること。あとはザンバモンの対処を考えなくてはいけないが……虎の子をここで使うことになるかもしれない。

 秘策中の秘策だが、出し惜しみできる状況じゃない可能性もある。

 

「……術式の準備だけはしておくか」

 

 戦闘中に用意できるような代物でもないし、ストックだけはしておくことにする。戦闘のためのリソースも考えると用意できるのは2つまでか。心もとないが、ないよりはいいか。

 やがて、集落――いや、あの規模だと町と言っていいだろう――が見えてきた。

 

「カノンくん! 見えてきたよ!」

「わかっている! 僕とドルモンが先行する。マキナたちはあとから続いて援護しながらだ!」

「わかった!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 町は燃え盛り、デジモンたちは逃げ惑っていた。それを追うのはザンバモンの部下であるムシャモンとヤシャモンの軍勢である。彼らはデジモンたちをおいたて、切り刻んで消し去っていく。力の強いものが抵抗し、何度か押し返してもいるのだが――それでも多勢に無勢。状況は悪い。

 

「くそっ! こいつらキリがねぇぞ!!」

 

 みんなを守るため、壁役に徹していたデジモンたちが一人、また一人と倒れていく。

 それでも彼らは立ち向かい、そして敗れる。

 

「ヒャハハハハハ!! オメェらの中でも強い奴らはいるみたいだが、数が足りねぇな! あのストライクドラモンはいいセンスしているが突っ走りすぎだぜ。向こうのほうで俺たちの軍団と一人で戦っているよ」

「気をつけよ、ヤシャモン分隊長。そのせいで我らが大将が後方にて次の一手を打つために準備しておるのだ」

「はいはい。まったくあの方も用心深いこって」

「我らが主は勝機を確実なものにするため智謀を巡らせておるのだ。しかし、それも我らが抵抗するデジモンたちを排除すれば住むことであるがな!」

 

 そうして、ムシャモンの一体が町のデジモンに斬りかかろうとし――消滅することとなる。

 

「――――な、に」

「ムシャモン!?」

「敵襲だと、一体どこから――!?」

 

 雷がほとばしり、彼らを焼きつくす。町のデジモンたちには一体何が起きたのか分からなかったが、直後に空から一体のデジモンが降ってきた。上を見ると、珍しい機械の体を持ったデジモンが飛んでいるではないか。

 

「サイボーグ型……機械都市のデジモンか!?」

「生憎だけど、そんなけったいなところから来たわけじゃないよ」

 

 その言葉に前を見ると――そこに立っていたのは、一体のデジモン。白か緑の髪に三本の角を生やした人型のデジモンだ。町のデジモンたちも見たことがない不思議な雰囲気をまとったデジモン。

 

「僕はカノン――いや、君らにはアイギオモンって言ったほうが通りがいいかな?」

「君はいったい……」

「なーに。ただの助っ人さ」

 

 それだけ言うと、彼は走り出していく。その方角はザンバモンの率いる軍団が押し寄せてくる方角であった。まさか、本当に助けが? そう思っていたら後ろからこれまた人型のデジモンとその肩に乗った二匹の獣型のデジモンが現れる――いや、二匹はどちらも聖なる気をまとったデジモンだ。

 

「まったく、ねぇプロットモン。いつもあんな感じなの?」

「そうです。毎度のことでなれたです」

「はぁ……あ、この町の方ですね」

「は、はい……失礼ですが、あなた方は?」

「ハヌモンの集落からやってきた援軍です」

 

 その一言で、なるほどと納得する。あの集落とは交流もあったため、彼がよこした援軍なんだろうとわかったが……それにしては強すぎるではないか。

 

「あの集落に彼ほどの強さのデジモンがいたとは」

「あ、あはは……」

 

 そう言うと、彼女――シスタモン(マキナ)は苦笑いを浮かべた。小声で旅の者なんだけどねと言っていたのだが、町のデジモンには聞こえなかったようである。

 

「とにかく、ウチたちも援護に向かいますので、これで!」

 

 マキナたちもあとから続いていく。肩に乗せたプロットモンが吠え――ホーリーリングがマキナの手首へと移動した。クダモンもマキナの銃に入り準備を完了させる。

 

「いくよクダモン! 発射っ!!」

 

 銃が撃ちだされ、クダモンが銃口から飛び出し――その姿が変化する。ホーリーリングの作用により強化されたマキナの魔法がさらなる進化をクダモンにもたらす。

 四肢は大きくなり、背中からは翼が生える。緑色のそのデジモンの名は――

 

「進化、チィリンモン! マキナ、背中に乗れ!」

「うん! プロットモンもしっかり掴まっていてね!」

「はいです!」

 

 一気に加速していき、戦闘区域へと飛び込んでいく。

 すでに被害も大きくなってしまい、大勢のデジモンが倒れた。悲鳴と怒声、そしてあざ笑うような声。

 

「……ねえチィリンモン、ウチね…………すっごくムカついている」

「ああ私もだ――行くぞ。奴らを吹き飛ばす!」

「あんたら、覚悟しなさいよ!!」

 

 空へと飛び上がり、そのまま一気に流星となり地面へと激突する。その衝撃により、ムシャモンたちが吹き飛ばされ宙へと投げ出された。あまりの衝撃に身動きが取れなくなり、その胸を銃弾が貫く。

 チィリンモンの背に乗ったマキナが動けなくなったムシャモンたちを撃ちぬいているのだ。あまりにも早い動き、正確な一撃。さらにホーリーリングで強化された力により暗黒の気をまとうデジモンたちには強烈な効果が現れている。

 

「さあかかってきなさい! ウチたちがまとめてみんなぶっ飛ばしてあげるから」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 一方で、先行していたカノンたちであるが――こちらも、ヤシャモンたちを吹き飛ばしながらの進軍である。

 彼らをみて、アーマー体のデジモンであることに多少は驚いたが、古代種の生きている時代だから当たり前かとすぐに思考の外へと追いやられている。そもそもこの時代に古代種なんて言葉も無いが。

 

「何だ何だ! お前ら弱すぎんぞ!!」

「くそっ! ストライクドラモンといい、どうなっていやがるんだ!!」

「合流させるな! ただでさえ手がつけられない相手なのに複数まとめて相手なんてしてられねぇよ!」

(ストライクドラモン? 抵抗しているデジモンたちがいるのか……それに、こいつら)

 

 まるで烏合の衆だ。いや、より正確にいうのならば一体一体はそれほど強くなく、物量で押すタイプのデジモンだ。それにこの戦いかた……

 

「なるほど、古代だからか!」

「カノン、どういうことだ?」

「情報が古いんだよ! 人間界のデータが流れてきていることは流れてきているだろうけど、予想以上に昔の時代なんだろうな」

 

 デジタル情報でできた世界だから、デジタルワールド自体がかなり近代に生まれた世界かと思っていたが、違うのだ。おそらくはデジタルという概念が生まれた時から――いや、人間の影響をここまで受けているのならば人類誕生と同じかもしれない。その辺りの推察は情報も少ない上に今することではないが。

 

「プテラノモンのことを考えると、大体の時代の予測は建てられるけど――それでも、こいつらの蓄えている情報量はそれほど多くない!」

 

 カノンが生きている時代のデジモンよりも格段に弱い可能性さえもある。個体差もあるだろうが、彼らではカノンたちの敵にもならなかった。

 それもそのはずだ。カノンたちが今まで相手にしてきたのは、いずれも強大な闇の力や規格外の力を持った存在たちだった。そんな奴らと命がけの戦いをしてきた彼らにとって、今更闇でブーストしているとはいえアーマー体や成熟期ごときでは勝てるはずもない。

 

「ラプタードラモン、ここはお前に任せた! 僕は先行してザンバモンを迎え撃つ!」

「おいカノン! 相手は究極体だぞ!?」

「大丈夫、我に秘策ありだから!」

 

 結局また無茶すんのかよという言葉を背に、カノンは更に加速した。

 体から電撃を放出し、向かってくる敵を弾き飛ばしながら突き進み――その先に、一体の武人が現れる。

 

「ほう……戦況が安定しないところをみると、奴らは失敗したか」

「お前がザンバモンか――」

 

 カノンは目に捉えることで、デジモンの断片的な情報を見ることができる。究極的、ウィルス種。それにデータ量がムシャモンたちの比じゃない。わかっていたことだが、格が違う。

 それでも引くわけにはいかない。すでに間に合わず大勢のデジモンたちが倒れた。

 

「ここでお前を倒さないと、後でどうなるかってね」

「胆力もある。それにこの私を目の前にしてなお立ち向かうその気概――面白いな貴様。名前はなんという?」

「橘カノン……お前らにはアイギオモンって言ったほうがいいか?」

「どちらも聞かぬ名前だが――お前、我軍に入らぬか」

「生憎だけど、そんな気はさらさらないよ――それに、僕の目的の先にはルーチェモンがいる」

「…………なるほど我らが総大将を。カカカ、面白いことを言うな――ならばここで殺すしかあるまい」

「言ってやがれッ!」

 

 横へと飛び、ザンバモンの攻撃を避ける。ザンバモンは下半身が馬のような形で、その上に人型の上半身が付いているデジモンだ。と言っても、ケンタウロス型ではなく、馬の背に人の半身が付いているといったほうがいいだろう。

 両手にはそれぞれ剣を持っており、強烈な剣技を放つデジモンだ。

 

「――なんというか、僕あんたと会話したことあるような気がするんだよね」

「私には覚えがないが」

「まあ気がするだけだよ――つーかなんて馬鹿力」

 

 地面が割れているではないか。これは正面から受け止めきれない上に、スピードも負ける可能性がある。流石に究極体相手では分が悪すぎる――そのままの姿だったら、だが。

 カノンの体から電撃がほとばしり、体中を覆い始める。

 

「何――?」

「ウオオオオオオオオオオオオ!」

 

 手袋の色が黄金にかわり、マフラーが翼のような形へと変化する。

 髪が伸びていき、体から放出される電撃の量がどんどん増していった。

 

「貴様、それは一体――」

「バーストモードッ!!」

 

 デジコアのリミッターを解除し、一時的にであるが潜在能力を開放するバーストモード。それにより、カノンの姿に変化が現れたのだ。もっともこの時代にはバーストモードと言うもの自体が知られていないためにザンバモンには進化とは異なる未知なるパワーアップを行ったようにしか見えない。

 その虚を突かれ、飛び上がったカノンの蹴りがザンバモンの顎に直撃する。

 

「――貴様、いい度胸をしておるわ!」

「さあここからが本番だ。気合入れてかかれよ!」

 

 自分に言い聞かせるように、カノンが気合を入れる。

 直後に、二体のデジモンの激突があった。

 轟音と衝撃があたりに撒き散らされ、ザンバモンを援護しようとしていたデジモンたちも吹き飛ばされる。

 戦いはまだ、始まったばかりだ。

 




まだ次回に続くよ。そして、プロットモンは仲間のサポートなどの方向性に。メフィスモンの時にもやっていたけどね。


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91.コード・エイリアス

 雷撃と剣閃がぶつかり合う。カノンとザンバモンの攻防は続き、互いの攻撃の余波で地形が壊れてゆくほどだった。成熟期でありながら、そのレベルを逸脱した力を見せるカノンに対して笑い、ザンバモンも更に力を高める。

 

「これは真愉快なりッ、世界は広い! 身に余る力を使いながらも飲まれずになお向かってくるかッ」

「こっちはギリギリだってのに、究極体がここまで厄介だなんて」

 

 攻撃の反動を利用して飛びのき、ザンバモンの攻撃を躱す。バーストモードには持続時間がある。故にカノンがすべきことは短期決着のみ。

 背中から十本の魔法剣を召喚し、一気に射出する。それぞれが異なる属性を帯びた全属性の魔法剣。

 

「オールエレメント、開放!」

「ふん!!」

 

 そのすべてを一気に起爆させ、強大な爆発を起こそうとするが――ザンバモンは太刀の一振りでそれを吹き飛ばす。流石にそのパワーは予想外だったのか、カノンも一瞬の思考の空白ができるが、すぐに次の攻撃に入る。

 

「スタンビートブロウ!」

「今度は拳か? よいよい。来るがいい!」

 

 剣の腹で受け止められ、弾き飛ばされそうになるが拳を起点に体を回転させ、更に上へと飛び上がる。

 右足にエネルギーを集め、振り下ろした。

 

「――ッ!」

「ぐぬ、」

 

 再び防がれるが、徐々に押し始める。声を荒げ、更に攻撃を仕掛けていく。再び魔法剣を振るい斬りかかり、剣が砕け散れば次は魔力砲を打ち込む。

 次々に攻撃を仕掛け、怒涛のラッシュで攻めていく。

 ザンバモンも同様に攻撃のスピードが上がっていき、二人の攻撃の軌跡は視認することさえも困難な程となっていき、音だけがあたりに響いていた。

 その様子をザンバモンの部下たちが呆然と見ている。あのデジモンは一体何なんだ、自分たちの理解を超えた何者かが現れたのだ。

 

「貴様、やはりただのデジモンではないな? 普通のデジモンがではそこまでのパワーは出せはしない! 何らかのデータと混ざっていると見た」

「正解だよ! だからって、攻略法が見つかるわけじゃねぇぞ!」

「クカカ! その姿には制限時間があろうことはわかっておるわ!」

 

 まずいとカノンも思うが、ザンバモンの言葉でこれほどまでに力が拮抗できている理由も悟る。

 デジモンと人間のデータが混ざった存在だからこそ、通常のデジモン以上のパワーを発揮出ているのだと。

 

(人とデジモンのデータが融合するとパワーアップするってことか――こっちには好都合だけど、そろそろバーストモードも維持できなくなってきた……これは、あれを使うしかないッ)

 

 ザンバモンの剣が眼前に迫り、体をひねり躱す。次の太刀も迫っている。四の五の言っている場合でもない。用意していた魔法を起動し――カノンの姿が3つにぶれた。

 

「何ッ!?」

「コード・エイリアス!」

 

 かつて、ディアボロモンと戦った時に解析したデータ。その時のデータを元にカノンが開発していた特殊コード。自身のコピー体を一時的にだが出現させる魔法である。

 消費するエネルギー量と持続時間の短さゆえに本当に危機的な状況などでしか使わないと決めていた、正真正銘の秘策だ。プログラムのコード量の多さもあり準備に時間がかかるため今の今まで使用していなかった技。

 

「それに、現状じゃコピーは実戦じゃ二体までしかコントロールできない。それでも、手数が増えればッ!!」

 

 ドルモンにすらまだ秘密にしていた技を使い、更に怒涛の攻撃が始まる。

 これにはさすがのザンバモンも押され始め、余裕がなくなっていく。

 

「小癪なッ! だが私は負けんぞ!」

「こっちだってまだ行ける! チャージ……」

 

 本体のカノンが火と風のエネルギーをチャージしていく。そのエネルギー量に嫌な予感を感じ、ザンバモンは彼を切り裂こうとするが――そこにコピー体の二体がそれぞれ光と闇のエネルギーをまとって突撃した。

 ザンバモンを中心にぶつかり合い、2つの相反するエネルギーが混ざり合って彼を拘束する。

 

「ケイオスフィールド!」

「これは――光と闇の力を融合させるだと!? ルーチェモン様と同じ力を使うというのか!?」

 

 そして、竜巻がザンバモンまでへの道を作り出す。チャージした風のエネルギーを放出し、続いてその身に炎をまとってカノンがザンバモンへと突撃していった。

 

「喰らえ、クロスファイアー!!」

 

 風の道を通ることでエネルギーが増幅されていき、その強烈な一撃を叩き込む大技。

 予備動作の多さや隙の大きさから使用が難しい技だったが、こうして動けなくすれば確実に当たる。

 

「うおおおおおお――――ッ!?」

「お、お前たち!?」

 

 だが、それも一対一だったならばの話だ。ザンバモンが動けなくなり、カノンが大技のためにチャージを開始したことで周囲への被害が一時的に止んだ。

 その隙にザンバモンの部下たちが間に入ったのだ――カノンの拳に一体、また一体と壁となりザンバモンを守る。それでも炎の弾丸は止まらない。ザンバモンへと激突し、爆発があたりを包み込む。

 

「ッ、ぶっ飛べええええ!!」

 

 轟音とともにザンバモンを殴り飛ばし、カノンのバーストモードが解除されてしまう。

 そのまま地面へと転がるが、すぐに立ち上がる。カノンの眼前にはまだザンバモンが健在だったからだ。

 荒い息を上げてカノンを睨んでいるが、互いにボロボロの状態。

 

「――――いや、今宵は撤退するとしよう」

「なに?」

「このままやりあってもこちらに勝機はない。ならば一度立て直すしかあるまい」

「このまま逃すとでも?」

「ああ逃がすさ――なにせ、町のデジモンたちを見逃すと言っているのだからな」

「……」

 

 カノンがこのまま戦い続ければ、おそらくはザンバモンの部下たちが更に暴れることだろう。おそらくは待機させている戦力が未だいるのだ。それを使い、町だけは確実に破壊する。

 今はなんとか拮抗状態に持ち込んだが、このままでは泥沼化する。

 

「物分りが良くて助かるよ――3日後、再びやってくる。その時を楽しみにしていることだな!!」

 

 ザンバモンはそう言うと、ほら貝のようなものを取り出してあたりに鳴り響かせた。

 その合図により、残った彼の部下たちは去っていく。その様子をみて、なんとか撤退に持ち込めたかとカノンは腰を下ろす。やがて、町の住人の声らしき歓声が上がり始めた。カノンは笑いも出てこないが。

 

「3日後、か……嫌な予告をしていきやがって」

 

 だけど究極体相手になんとかここまで戦えた。彼の部下が盾にならなければ倒せたかもしれないほどだ。

 それでも次はこうはいかないだろうという予測も立ってしまったのだが。

 バーストモードは強制的に潜在能力を開放する。それも、まだデジモンとしての力に慣れていない状態で使えばどうなるか。カノンの体中には今も激痛が走り続けている。幸い、意識を失うほどではないのだがそれでも不快感に顔を歪ませていた。

 

「それに、しばらくはバーストモードは使えそうにないな」

 

 デジコアにかかる負荷が大きすぎたのだ。短くても一週間は使えないと見たほうがいい。これは次の戦いには別の策を練る必要がある。

 そう思っていた矢先の事、聞き慣れた声が悲鳴としてカノンの耳に入った。

 

「この声は――マキナ!?」

 

 何が起きたのだろうか。慌てて立ち上がり、声が聞こえたところまで駆け出す。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 マキナが敵陣の中で攻撃を仕掛けていた時だった。突如、チィリンモンの体が光り輝き元のクダモンへと戻ってしまったのだ。

 

「クダモン!?」

「すまない、時間切れのようだ……」

「プロちゃんももう限界……です」

「ううん。ありがとうふたりとも。ここからはウチだけでも――ってあら?」

 

 突如として大きな音が響いてきたと思ったら、残った敵達が信じられないことが起きたかのように慌てて駆け出していく。撤退命令が出たなどという言葉が聞こえてきたあたり、どうやらひとまず戦いが終わったらしい。

 となればおそらくは……

 

「カノンくんがやったんだね」

「だろうな。敵の大将を討ち取ったか、撤退させたか。様子からするに後者であろうが、それでも大したものだ」

「うん……それじゃあ迎えに行かないとね」

「です!」

 

 ドルモンも拾わないといけない。クダモンと同じように退化している可能性もあるなと、あたりを見回しながら先へ進んでいくと開けた場所で一体のデジモンが佇んでいるのが見えた。

 シルエットは人型に見るが、大きな尻尾と巨大な爪から少し凶暴な印象を受ける。

 

「あのデジモンは……」

「ストライクドラモンだな。おそらくは町の住人――――ッ!? まずい、逃げろマキナ!」

「え? でも町の住人なら別に危なくは……」

「ストライクドラモンはウィルス種に対して強い攻撃性を示すデジモンなんだ! 落ち着いている時ならともかく戦いのあとの興奮した状態でウィルス種のお前を見つけてしまえば――」

 

 だが、それも遅かった。マキナもカノンと同じくデジモンと人のデータが融合した存在。故に、彼女の持っているデータも通常のデジモンよりも強くなっている。それが、ストライクドラモンの知覚に反応した。

 

「――グルアアアアアアアアア!!」

「キャアアア!?」

 

 全身から炎を吹き出し、マキナへと襲いかかる。

 銃撃で応戦するも、ストラクドラモンは攻撃をかわしていき、迫ってくる。とっさに防御魔法を展開するもあえなく砕けてしまう。

 

「うそ、こんなにあっさりと!?」

「通常のストライクドラモンよりも青みが強い――特異な個体かッ」

「危ないです!!」

 

 プロットモンが残った力でシールドを展開するも、それを意にも介さずに彼は突き破ってくる。衝撃でプロットモンが弾き飛ばされ、暴走したストライクドラモンはマキナへと襲いかかった。

 

「――町の住人なら、倒すこともできないし、どうすればッ」

 

 そして、その攻撃がマキナへと届く――その瞬間であった。

 体に雷を纏い、カノンがストライクドラモンの腕をつかむ。

 

「か、カノンくん!」

「悪い。待たせたな――さて、どこのどいつかは知らないけど、少しは頭冷やしやがれ!!」

 

 そのままストライクドラモンを投げ飛ばし、地面へと叩きつける。だが、彼も受け身をとって再び立ち上がってきた。未だ暴走は続いており、咆哮を上げるだけだ。

 

「カノンくん、そのデジモン町の住人みたいなの!」

「おそらくはザンバモンの軍団のウィルスデータに過剰反応して暴走しているのだろう。ストライクドラモンとはそういうデジモンなのだ」

「なんて面倒な……倒すこともできないし、なんとか気絶させられないかやってみる」

 

 すでに力を使いすぎて厳しい状況だが、やるしかない。

 魔力も残っておらず何なる殴り合いのみになるが、それでも両者の力は拮抗していた。

 カノンもであるが、ストライクドラモンも敵陣のまっただ中で暴れまわっていたデジモンだ。カノンたちよりも長い時間戦っていた彼もまた満身創痍である。その状態だったからこそ、暴走を止めることができずにいるのだろう。

 

「でも厄介なことに変わりないし、こいつ強いッ」

「ガアア!!」

「ああもううるさい! 叫ぶなっての!」

 

 泥臭い肉弾戦になっているが、カノンの動きが変化してく。足の動き、手の動きの一つ一つにキレが生まれていっているのだ。

 いや、より正確に言うなら体の使い方を理解し始めたというべきだろう。マキナとは異なりカノンが変化したのは人間とは若干異なる骨格を持ったアイギオモン。特に下半身の動きには違和感があった。

 

「――うおおおお!!」

 

 それが今までの戦いの中で蓄積された経験により、より効率的な体の動かし方を身につけさせた。

 限界も近い戦いの中、カノンの体から光の粒子があふれだす。

 大きな変化として現れるわけではない。それでも、この現象はカノンの力を増加させていった。

 

「この光は……」

「――進化の光、いやまだそこまで及ぶものではない。それでも兆しは見えた」

 

 そして、カノンの拳がストライクドラモンへ迫ろうとした瞬間――彼らを中心に小さな爆発が起きた。

 

「うお!?」

「ガアア!?」

 

 地面を転がっていき、疲れもあって受け身が取れない。マキナはすかさずカノンを受け止めるが、彼女も疲れが溜まっているがゆえに二人して地面に倒れてしまう。

 

「痛い……」

「ごめん、大丈夫か?」

「一応ね。それでストライクドラモンは?」

「えっと……」

 

 よろけながらも立ち上がり、ストライクドラモンの様子を見ると――花の妖精のようなデジモン、ライラモンが彼のしっぽを掴んでジャイアントスイングをし、更に地面へと叩きつけた。頭から地面に刺さるように。

 

「ええぇ」

「ふぅ、全く頭に血が上るといつもこうなんだから。止めるこっちの身にもなってほしいわ」

「……あのー」

「あら、ごめんなさいね。この子が迷惑かけたみたいで。それと、話は聞いているわ。この町を助けてくれてありがとう」

 

 そう言うと、彼女はニッコリと笑った。

 なんとなくやるせない気持ちになりながらも、ひとまずの小休止かとカノンは地面に腰を下ろす。

 前途多難ではあるものの一応の勝利であった。

 



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92.ストライクドラモン

 ザンバモンを撃退した翌日のこと。

 とりあえずテントを張って昨夜は寝て対策の話し合いなどは今日に持ち越したんだが、明るくなると被害状況がよりハッキリとわかってしまう。

 

「ひどいことするよね」

「ああ。でも僕も魔力がすっからかんだからどうにもなぁ」

 

 それに殺されたデジモンたちも多い。心に傷を負った住人たちも大勢いる。

 町を見て回るが、復興には時間もかかるだろうしそれ以上に住人の元気がない。

 

「すみません。昨夜は助けていただきましたのに大したおもてなしもできませんで」

「いいえ。こちらこそもう少し早く駆けつけていられれば……ザンバモンもまだやってくるでしょうし」

 

 町を案内してくれているのは、この町の長であるパンジャモンである。レオモンそっくりだったので、最初に見た時は驚いたが、よく考えたら色違い系デジモンって結構いるんだった……そもそも同名別個体も数多いし。ヌメモンとかかなりの数がいるんだよね。

 話が脱線していくので戻すが、彼も完全体のデジモンで住人を守るために奮闘していたそうなのだが結構な齢だそうで、苦戦していたらしい。

 

「私含め完全体のデジモンたちはなんとか戦えていたのですが、それも多勢に無勢。成熟期とアーマー体ばかりとはいえあの数では……」

「それはまあ、たしかに」

「私の方はそちらのドルモンさんが来てくださってので、なんとかなったのですが」

 

 そういえば、ドルモンだけ最後は合流できなかったんだよな。ライラモンがズルズルとストライクドラモンを引っ張っていったあとに駆けつけてきたんだけど、流石にもう終わったぞと言ったらショックを受けていた。

 

「ドルモンは反対方向に行っていたのか?」

「まあね。往生際の悪い連中もいたからぶっ飛ばしながら駆けつけたら出遅れたし」

「なるほどねぇ……で、パンジャモン。この町にはあとどれくらい戦えるデジモンが残っている?」

「それほど多くはありませんね。私を含めて負傷しているものばかりですから。それに、ザンバモンは本当に再び攻めてくるのでしょうか……どうにもそこが納得いきませんので」

「それは間違いないと思う。ああいうタイプの奴は自分で言ったことは本当に実行する。3日後――いや、2日後には必ずやってくるよ」

 

 それが武人というデータを持ったデジモンなのだ――それとドルモンの話からおおよその検討はついた。未来において、タクティモンにデータの一部が引き継がれていたんだろう。彼の口調などとタクティモンのデータ。それにバグラモンたちが言っていたことから推察するに…………

 

「あいつら僕達がこの時代に来ることを知っていやがったな」

「カノン、顔怖いよ」

「なんか時々含み笑いみたいな顔を向けられると思ったら……通りであったことがあるような気がしたわけだよ」

 

 生まれ変わりというわけではないのだが、これから先に起こるであろう何かも知っている可能性がある。ドルモンにザンバモンの攻略法になることがないか聞いてみたが、タクティモンはどうもあえてその部分には触れないように稽古をつけていたらしい。

 

「なんか隠しているなぁとも思ったんだけど、こっちの力を上げさせるぐらいにしか…………ごめん」

「いや、いい。となるとわかったうえで隠したか」

 

 自分で思いつけってことだな。当たり前といえば当たり前なのだが、若干腹が立つ。

 とにかく次にやってくるとき、ザンバモンを撃つ役と軍団を食い止める、もしくは排除するメンツが必要だな。

 

「僕の方は暫くの間使えないし、絡め手もどこまで通用するか……」

「私の制限をどうにかして解除できないかためしてみるか?」

 

 クダモンがそう言うが、無理矢理に解除するとデジコアに多大な損傷を与えてしまう可能性が高い。ドルモンはプロトタイプデジモンのため、改造機構が内蔵されているからいいものの、他のデジモンでは危険過ぎる。

 そのドルモンにしたって今は地道にやっていくしかない。

 

「やっぱり僕が直接ザンバモンと戦うしかないか」

「それは危険だよカノンくん」

「確かにそうなんだけど、現状打てる手が少ないんだ」

 

 やってくるのは確実。だが、戦力の増強ができないため限られた手札でどうにか対処しなくてはいけない。

 協力してくれる住人を探したいところだが、町の様子じゃ期待もできないかも知れない。

 だけど、そこでマキナが目に涙を浮かべて僕を睨んだ。

 

「なんでカノンくんがそこまでするの! 別にウチだって見捨てるつもりなんてないけど、それにしたって突っ走り過ぎだよ!」

「たしかに究極体相手に戦いを挑むなど正気の沙汰ではないぞ」

「それはわかっているんだけどね……でも、立ち止まれないんだ。どんな壁だろうと、困難な道だろうと。僕はそれを切り開いていく。心のままに動いているだけなんだから」

「まあこれまでだってもっと絶望的な状況は何度だってあったしね。それでも前に進むことがおれたちの力なんだ。だから、来るんなら迎え撃つ」

 

 その様子にマキナは口を閉ざす。心配をかけすぎたなとも思うし、無茶をしすぎるのも自覚している。それでも、僕は――いや、僕たちは立ち止まれない。立ち止まってはいけない。

 運命の紋章は間違いなく僕自身の心と特性を表してもいる。”運命を切り開く力”こそが僕達の進化の原動力。ならばこそ、立ち止まってはダメだ。

 

「ほう、言うじゃねぇかガキが」

 

 と、そこで僕達の目の前に一つの影が現れた。その姿を見たマキナが僕の後ろに隠れ、僕もそいつを警戒する。わかって入るのだが、また暴走しないとも限らないし。

 彼――ストライクドラモンは不敵な笑みを浮かべてこちらを睨んでいた。いや、目は見えないのだが……睨んでいるんだよな?

 

「おいおい、警戒しまくりじゃねぇか。どうしたよ、この俺が怖いのか?」

「いや、また暴走でもされたらまたらないって」

「? 何の話だ」

「ストライクドラモン。常々言っていることですが、君は自分の力を制御する修行をしなさい。昨晩はこちらのお嬢さんに襲いかかっていたんですよ」

「はぁ!? いや、そんなわけが……あ」

 

 どうやら暴走していた時のことは覚えていないらしいが、どうも思い当たるフシがあることに気がついたらしい。その直後、彼の上に何かが落下して彼の頭を蹴り飛ばす。

 

「はいお説教はまだ終わってないからねぇ!」

「だからって、蹴る奴があるか……」

「たしか、ライラモンだっけか」

「はーい。ライラモンでーす! ごめんね、こいつがまた迷惑かけたみたいで」

「いえ、それはいいんですが」

 

 問題は後ろのマキナである。さっきから銃口を向けているが、そんなに怖かったのだろうか?

 いや、怖がっているというより目が据わっている。

 

「えっと、マキナさん?」

「リベンジ、リベンジよぉ」

「何を言っておるのか」

「マキナは負けず嫌いなところがあってな。ウィッチェルニーでも大変だった」

「そ、そうですか」

 

 意外であるが、奴との再戦をしようとしているのか。だったら後ろに隠れるなと、チョップを入れておく。頭を抑えてうずくまっているが、少し頭を冷やしてもらおう。

 ドルモンとプロットモンがえげつないものを見る目を向けてくるが、気にしないことにする。

 

「で、ストライクドラモンはなんのようなんだ?」

「いてて……いや、面白いことをいうガキがいるからな。ちょっと腕試しをしてみたくなっただけさ」

「無理よ。あんたじゃ勝てないわ」

「なんでライラモンが否定すんだよ!」

「だって昨日、ザンバモンを追い返したのはこの人たちなのよ」

「なんだと!?」

 

 記憶がないのなら知らなくても無理はないが、そもそもこの話伝わっているのか? パンジャモンにそれとなく聞いてみると、一応町中に知らせは届いているとのこと。

 それなら昼辺りに作戦会議を行うから、戦えるものは招集してほしい。

 

「分かりました。どれほど集まるかはわかりませんが、声をかけてみます」

「すいません、いろいろと頼んでしまって」

「いいえ。こちらこそ、町のためにありがとうございます」

 

 そう言うとパンジャモンは去っていったが、ストライクドラモンたちはまだ残っている。

 

「で、まだ何かあるの?」

「話は一つだぜ。俺も次の戦いに参加させてもらう」

「パスで」

「何だとゴラァ!」

 

 いや、簡単な話だ。

 かなりのポテンシャルを有しているが、その実爆弾でしかない。

 

「ウィルス種混在のメンバーに、暴走の危険性がある君を入れるのはリスクが大きすぎる。内側から瓦解したら意味が無いんだ」

「何言っていやがるんだ。俺がやるのはザンバモンとの戦闘だ!」

「それこそ無謀だよ」

「同じ成熟期のてめぇにできて俺にできないってのか!」

「うん」

「――このやろう、言わせておけばッ!」

 

 そう言って、ストライクドラモンは僕に掴みかかってくるが――それをライラモンが掴んで振り回し、地面に叩きつけた。というか、鮮やかすぎるんだが……なんというかかなりの回数手慣れた感じの技。

 

「まったくいつもいつも突っ走るんだから! こっちの身にもなってよね!」

「う、うるせぇ」

「そんなんだからいつまでたっても成熟期のままで進化できないのよ!」

「チクショウ…………」

 

 なるほど、無茶をしたらそれを止める役目なのか……だけどみんな、なんでそこで僕の方を向くのかな。

 

「だって無茶をするのはカノンも同じだし」

「むしろ止める人がいない分たちが悪いよね」

「右に同じだな」

「です」

「お前らなぁ……」

 

 無茶と無謀は違うっての! こっちだって無茶をして勝てる可能性があると判断したから無茶をするのであって、具体的な勝ち筋もないまま挑むのとは違うんだよ。

 しかしそれでもストライクドラモンは納得していないのかすぐに立ち上がり、僕に爪を突きつけた。

 

「なら証明して見せればいいんだろう。俺がお前に勝てば話は早いだろう」

「そういうことでもないんだけど――いいよ。やってやるよ。一回ここでぶっ飛ばしてやる」

「なんでそうなるのかなぁ……」

「カノンも男の子ってことだよ」

「ウチには分かんないや」

 

 そこ、外野は口出さない。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 そんなわけで、町外れの開けた場所でストライクドラモンと組手をすることに。

 魔力もほとんど残っていないので、体内の電気を身体強化にまわして完全な肉弾戦で挑むしかないか。戦っている最中に気がついたんだが、アイギオモンというデジモンは体内に強い電気が流れているみたいなのだ。

 マキナたちには言わなかったが、僕が勝負を引き受けたのは今の体の使い方を覚えたいからというのもある。ただ筋トレのように動かすより実戦のほうが身につく。必要なのは戦闘技術だし。

 

「まあとにかくかかってこいよ。ぶっ飛ばしてやるから」

「んだと、ふざけてんじゃねぇぞ!」

 

 奴の爪が僕を狙い、迫ってくる。なるほど、確かに成熟期の範疇を超えた力を持ったデジモンだ。自信は自らの実力に裏打ちされたものだったらしい。

 だが、僕はその爪……いや、腕を掴んで腰を落とし、ストライクドラモンの体を浮かせる。

 

「なっ――掴まれただと!?」

「真っ直ぐすぎるよ! それじゃあ簡単に対処できる!」

 

 デジモンの進化は様々なものがあるが、パワーアップという面においては大きく分けて2つだ。力そのものが大きくなるパターンと、技などの能力が上がるパターン。

 武人系は後者に属し、ザンバモンも剣技などを使ってくるタイプだ。そんな奴に対する方法はいくつかあるが、これも大き分けると……

 

「それに対処する方法は2つ。自分の有利な性質を活かして技を封じるか、相手を上回るか」

「この、叩きつけやがって――だったら、これならどうだ!」

 

 ストライクドラモンが炎を体にまとい、突撃してくる。そこから繰り出されるラッシュ。少しはフェイントも入っている上に、近づいたら危険だが――身体強化をすべてスピードに回して一気に加速する。

 奴の攻撃をかわし、背後に回りこんで拳を叩き込む。

 

「――ッ!?」

「そのどちらもできないのなら、こうして負けてしまう。僕のする無茶ってのは、この条件を満たすために行うものだ。それができないのなら、ただの無謀になる」

 

 だから策は事前に用意しておく。

 たとえボロボロになろうとも、命を削ろうとも、敗北や死を越えるのならば僕は無茶をする。

 なぜならば死んでしまえばそこで終わりだからだ。いや、より正確に言うならば――

 

「僕が死んで、誰かが犠牲になるのが嫌だからだ。ここで倒れたら次は僕の見知った誰かが傷つくことになる。それがいやだから、無茶をしちゃうんだけどね……で、動けるかい?」

「くそ、体がしびれて動かねぇ……」

「これもまた有効策の一つ。相手の動きを封じる――君は完全なパワータイプだし、相手を上回るやり方を模索したほうがいいと思うな」

「ッ――だったら、てめぇはどっちだってんだよ」

「そりゃ簡単。両方だよ」

「この、ふざけてんじゃねぇ」

「ふざけてないよ。最終的には、そこに行き着く。究極体相手になるとパワーと技、両方が必要になるんだ」

 

 そこで、ダークマスターズとの戦いを思い出す。究極体の力とそれぞれのデジモンに合った対処法が必要だった。それほどまでに、究極体ってのは厄介な存在なのだ。

 

「ってわけで、出直してきな」

「この――――」

 

 それだけ言い残し、この場をあとにする。ライラモンがストライクドラモンに肩を貸しているのが目に入ったが、すぐに視線を外して去る。

 マキナたちがなにか言いたそうだが、別段気にする必要もなさそうだ。やり過ぎじゃないのかとかって話だろうし。

 

「べつに、やり過ぎだなんて思ってないよ。それに、2日後には絶対に参加してくるだろうし」

「え? 戦わせないためにあえてプライドをズタボロにしたんじゃないの?」

「いや、そこまで外道じゃないからね。だったらもっとエグい言葉で心を折りに行くぞ……そうじゃなくて、あれはヒントなんだよ」

「?」

 

 まあ今はわからなくてもいいけど。

 とにかく話し合いがある。僕の見立てではこの町で一番のポテンシャルを持っているのはストライクドラモンなのだが……願わくば、気がついてほしいものである。

 



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93.エレメントの意味

少し長くなった上に話が進んでないのはご愛嬌。


 カノンに敗れ、ライラモンに連れられて手当されていたストライクドラモンはずっと自問していた。

 なぜ自分が負けたのか。それも明らかに手加減された状態で。

 悔しさを感じる。情けなけなさも感じる。何よりも、力の差がありすぎた。

 

「くそっ……」

「まったく、いつも突っ走っていらないことして、それで今日は負けたと」

「お前も毎度うるせぇよ! ほっといてくれ……」

「なに? 負けたからいじけるの?」

「そんなんじゃねぇよ」

 

 わかってはいるのだ。自分に足りないものがあることぐらい。それでも強くなりたかった。

 漠然とした思いだったが、自分は強くなりたい。だからこそがむしゃらに頑張ってきた。体を鍛え、進化するためにひたすら強くなろうとした。だからこそ成熟期の範疇を超えた力を持っていたが……

 

「上には上がいるってことね」

「人の心を読むな」

「いや、わかりやすくて。いったいどれくらいの付き合いになると思っているのよ」

「……やりにくいんだよ。俺は」

 

 デジタマから孵り、幼年期からの付き合いであるからこそライラモンには考えていることが筒抜けなのだ。自分はあまり覚えていないが、ライラモンのほうが早く生まれたデジモンで少し彼女に世話をされたこともあるらしい。

 もっとも、ライラモンもその当時は幼年期か成長期ぐらいだったはずだが。

 

「で、何を悩んでいるのよ」

「強くなりたいと頑張ってきていた。同じ成熟期なのにあいつには勝てるとは思えなかったんだ……そんな自分が許せない。勝てないと思ったことが何よりも許せないんだよ」

「いや、意味分かんないし」

「なんだと!?」

 

 思わず食って掛かるが、ライラモンはどこ吹く風だ。

 アホらしいと治療を終えて立ち上がる。

 

「あのさぁ、馬鹿すぎてコメントするのも嫌なんだけど一応言うね。なんで、それが許せないの?」

「だから、勝てないと思った自分自身が許せないのであって――」

「いや、それがわかんないのよ。それって悪いこと? 勝てないと思ったらもっと強くなればいいじゃん」

「ッ、それができたら苦労はしない……」

「結局のところ、また負けるのが怖くなっているんでしょうが」

「――――」

 

 それ以上は言葉が続かなかった。自分自身をみているようで、結局は目をそらしていた図星を当てられてしまったのだ。そして、ライラモンはストライクドラモンとカノンの違いに思い至る。なんとなく、目の前の困難に真正面からぶつかっていく点で似ているなとおも思っていたのだが、決定的に一つ違う部分があった。

 

「うん。そりゃあの子に勝てないわけだわ」

「何が言いたい……」

「たぶんあの子、怖くたって諦めないのよ。負けるかもしれない。そう思ってもその壁をぶち壊していこうとするんだろうね……あんたと違って、強くなること以外に目的があるからだとも思うけど」

「強くなること以外、?」

「うーん、話してみないとわからないけどさ……なんていうか、自分が強いか弱いかには興味がないのかもね」

 

 でも必要だから強くなった。当てはめるとすればそれが一番適切な言葉だろう。

 手加減はしていた。たしかにライラモンにもそう見えたが、離れて見ているとわかるものもあるのだ。

 

「気迫が全然違うのよ。あんたはがむしゃらに突っ走っているだけだったけど、あの子…………頭で考え続けている。鷹って言えばいいのかな。獲物を狙うみたいな感じだった」

 

 ちなみに、デジタルワールドにも少数だが現実世界と同じ生き物がいる。偶然迷い込んだか、デジタルワールドが作り出したデータ体なのかはハッキリしない部分もあるが、えらばれし子供達もその一部を見たことがある。

 そのため実際の生物の知識もデジモンたちは持っているのだ。

 

「結局、強くなって何がしたいの?」

「――――」

「まあ、自分で考えてよね。それじゃあ、私は町の様子をみてくるから」

 

 そう言ってライラモンは去っていくが……ストライクドラモンはその言葉により、動けずにいた。

 自分が強くなって何がしたいのか。いや、そもそもそんなことは考えたことがない。

 

「俺はただ強くなりたかっただけだ」

 

 誰にも負けたくない。されど、そこに目的はない。

 ただ力を追い求めていたというわけでもないのだが、漠然と強くなりたいとしか考えていなかったのだ。努力もし続けていた。されどそこに方向性がなかったのだ。

 

「あいつには、俺には見えていないものが見えているのか?」

 

 力の差はある。それでも、追いつけないほどのものではないと思った。だからこそ、こんなにも悔しいのだ。届くかもしれない距離にいながら勝てないと思わされた。それが悔しい。

 ストライクドラモンは立ち上がり、少し頭を冷やすかとつぶやいて歩き出した。森で精神統一でもしておくかと考えながら。

 

「……まずは、暴走をできるだけ抑えねぇとな」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 さて、ストライクドラモンに発破をかけたのはいいのだが……本当に2日後くるか心配だったりもする。

 ああは言ったが、こっちからできることなんてもう何もないし、彼が自分で気が付かなければいけないことだ。誰かに背中を押されてもいいが、最終的に向き合うのは自分自身。

 

「暗黒を越えてゆけ、ねぇ……」

「カノン? 何その言葉」

「うーんこっちの話」

 

 過去に来る少し前に調べた資料の話だ。ゲンナイさんやバグラモンが回してくる予言やら古文書を調べたりもしているし、その中で面白いと思ったものはいくつか覚えているのだが……デジモンの進化に関して面白い記述が一つ。

 究極体への進化というのはそれはもう特殊なものらしい。ディアボロモンなどの例外もいるが、それはまた別の話として……普通のデジモンが究極体に到達するには、正も負も併せ持った心が必要になるらしい。

 

「通常進化が正しい心によるもの。間違った心を持てば暗黒進化となって、精神さえも蝕む。だけど、それを同時に行ったら?」

 

 ドルモンが究極体に進化したあの日、どちらかと言うと悲しい思い出というか嫌な面が脳裏によぎっていた。その上で、僕はそれを受け入れて前に進んだ。

 思えばそれがきっかけだったのだろう。

 くるりと手をひねると手の中に一本のナイフが握られていた。

 

「カノン、それ…………ピエモンのナイフじゃ」

「話に聞いたダークマスターズの? なんでカノンくんが……」

「――」

 

 クダモンが絶句しているが、別段驚くことでもない。

 怖がる必要なんてはじめからないんだ。それは誰の中にも当たり前に存在するものなのだから。

 

「人もデジモンも関係ないよ。大切なのは、否定しないことだから」

「…………そうだな。否定するばかりでは、何も解決しない。だが、それがどんな力かわかったうえで使っているのか? それとも……」

「わかってはいるし、別に模しているというかわかりやすい形でこれになっただけで特に意味は無いよ」

 

 別に暗黒の力が使えたからっておかしなことじゃない。ただ、体との相性が悪いというか少し引っ張られそうになるから多用するのは危険かもしれないが。

 とりあえずナイフを消し、肩をほぐす。

 

「んー、肩がこった。それにドルモン、僕は結構このナイフ使っていたと思うけど」

「でもそれもだいぶ前だったし……」

「まあそれもそうだけどね。魔法剣があったから使う必要はなかったし」

 

 これからも使う機会がない方がいいシロモノではある。

 さて、そろそろ集まった頃合いかなぁと集合場所に戻ることに。

 マキナたちはまだ訝しげな視線を向けていたが……また無茶した話をすることになるだろうから黙っていようと思いました。というか絶対に怒られるし。

 

「後で詳しく聞かせてもらうからね。いったいどれだけ無茶をしたのか」

「…………」

「カノンって絶対に将来は尻に敷かれるタイプだよね」

「てめぇ、あとで覚えてろよ」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 さて、広場に戻ってきたはいいのだが…………え、これだけ?

 

「少ないかもとはおもったが、流石に少なすぎないか? 僕らを入れても二十人いくかいかないかって」

「すいません。何分負傷者が多いもので…………それに、戦うことそのものを怖がるものも多い」

 

 パンジャモンが申し訳なさそうにそう言うが、こちらも無茶を言っているし……

 

「でもあなた達の町なんでしょう! だったらなんで自分たちで守ろうとしないのよ!」

「マキナ、あまり言わないほうが……」

「いいえ、むしろそこまで言ってもらったほうがいいです。負傷とは言っても、2日後の戦いには参加できるものが多い……その多くが、目の前で死を見たことがないものたちばかり」

 

 今までこの世界は平和そのものだったのだろう。それが、ルーチェモンの封印が弱まったことで均衡が崩れた。そして平和な時代も終わりを告げたのだ。

 だとしてもデジモンには元来闘争本能みたいなものが備わっているはずなのだが……それでもこの消極的な姿勢はなんだ? なにかがおかしい気がする……

 

「カノンくん?」

「……この違和感はなんだろう。いくらなんでも消極的にすぎると言うか」

 

 なんというか、ストライクドラモンを見ていて進化しようと頑張っている連中も多いのかとも考えていたのだが……他のデジモンにそんな様子は見られない。

 むしろ少し町を見てきたが……進化の兆しが見えないのだ。

 

「――ここ最近で進化したデジモンは? 幼年期のデジモン以外でですけど」

「それだと、もう何年も前にライラモンが進化してそれっきりですね――あ」

「そういうことかよ!?」

「どうしたのカノンくん?」

「私も何の話かよくわからないのだが……」

「いや、妙な思い違いをしていたと思ってな。くそっ、これじゃあどっちが悪役かわかんないぞ…………」

 

 パンジャモンは気がついたようだが、そうなってくると話が変わる。

 だがその推測が正しいとも限らないし……というかこれだけでパンジャモンが気がついたのも驚きだ。

 

「私は昔旅をしておりまして、今でこそここに根付いていますがいろいろとこの世界の根幹部分も聞きかじっているんです」

「だからか……おかしいとは思っていたんだ」

「どういうこと?」

「そもそもなんで封印が弱まったのかって話だよ」

「そことデジモンたちが消極的な理由って繋がるの?」

「――そうか、リソースか!」

 

 そこでクダモンが気がついた。まさしくそのとおりなのだ。そもそもこの世界は限りあるリソースを用いている。僕らの時代だと容量オーバーになる事態はなかったからいいが……

 

「この時代だとそうはいかない。僕らの時代以上に一体の究極体がデータを圧迫する」

 

 小声でマキナたちにそう言うと、みんなも息を呑んだ。

 デジモンはデジコアがこの世界のサーバーとつながっているのだ。その影響を受け、進化の制限を設けられてしまった……

 

「それじゃああいつらがやっていることは……」

「容量の確保とも考えられる」

「そんな――それじゃあ、ウチらがやっていることって……」

 

 見捨てるのが正しい選択だなんてお思わない。とりあえず、現状を詳しく知りたい。なんとかイグドラシルに接続できないか精神を集中して――ッ

 

「カノンくん!?」

「く、イグドラシルのやつ……頭のなかを覗き込んでやがるッ」

 

 頭を抑えてうずくまるが、それでも奴の行動は止まらない。マキナたちが叫んでいるが……だめだ、音が遠く感じる。頭のなかをジロジロと覗きこまれているようで、とても気持ちが悪い。

 なんとかこっちも情報を引き出そうとするが……駄目だ。この時代だと観測データぐらいしか存在しないみたいだ。それだけにプロテクトも固い。

 

「――――」

 

 なんとか体を起こそうとするが、平衡感覚が失われそうになっている。

 焦りすぎたか……下手を打ったかとも思ったが、観測データがあるのなら……データ使用量のグラフがあるんじゃないか?

 そこに思い至り、なんとか検索していく。その間にもいろいろと見られていくが――奴がマキナとの出会いの日に目を向け――――

 

「てめぇ、それを覗くんじゃねぇぞ」

 

 ――自分でも驚くほど、底冷えする声が出た。同時に、見つけたい記録は見つかった。

 データ使用量…………え? その情報に驚きが生まれ、ばちんと弾ける音ともに接続が切れる。

 地面に腰を打ち付けるが、結構痛い。それに、これはかなり危険な手だったな。もう使わないようにしよう。

 

「か、カノンくん……だよね?」

「ああ。そうだけど、どうかしたか?」

「どうかしたのかじゃないよ。頭を抑えたと思ったら苦しそうな声を上げるし……それに、急に毛の色が黒くなりだしてびっくりしたんだよ」

「黒くなってた……でも変わりないようだけど」

「すぐに元に戻ったからね。カノン、一体今度は何をしたの?」

 

 ドルモンが呆れたように聞いてくるが、まあいつものことか。いや、それだけ無茶しすぎるんだろうけど。

 それにこれ自体は前からやっていた手でもあるし。使うの久々だったが。

 

「イグドラシルに接続したんだけど……記憶を見られた」

「それは大丈夫なのか? 未来の情報だぞ」

「それは平気だと思う。見られたと言っても、デジタルワールドに関してというより……僕の日常の方を中心に見ていた」

 

 とても興味深そうに。

 

「? よくわからないが……あのイグドラシルが、人間の日常を見たがったのか?」

「うん。そうなんだよ。そこがどうにもなぁ……容量も全然平気だったし」

「それじゃあなんでデジモンたちは」

「……原因は別のところにあるのか?」

 

 なんとなく地面に手をついてみるが――あ、そういうことか。

 

「なにかわかったか?」

「もっと話は単純だった……この世界、エネルギーが足りていない」

 

 ドルモンが進化しづらい時点で気がつくべきだった。みんなよくわかっていないふうだったが……どうやら、僕たちはただ単純にルーチェモンを倒せばそれでいいなんてことはないようだ。

 というかそれだったら十闘士のエレメントを集めなくても直接叩けばいいんだから……

 

「つまり、どういうこと?」

「こういうこと!」

 

 土のエレメントを少し解放して、地面に注ぐ。すると、デジモンたちが急に活気のある目になっていった。

 

「え、え!?」

「バランスが崩れてはいるんだろうけど……そもそも根本的にこの世界にはエネルギーが足りていないんだ。つまり十闘士のエレメントは封印に回していた力をデジタルワールドのために使えということなのか」

「だがルーチェモンを倒すためにも必要なのでは?」

「それはその通りだ。だけど、それだけなら十闘士の力を使わなくても、僕にエネルギーを集中させてブラスト進化を使わせればいい」

 

 実際、アポカリモンの時にそれができることを実証したし。エンシェントワイズモンなら気がついているはずだ。となると、十闘士のエレメントを集めるのはこの世界の修復などを行うためにも必要というわけだ。

 

「まあザンバモンを倒して木の神殿に行けばわかることだろうけどね」

「結局は話はそこに戻るのか」

「でも、活気が出てきたよ」

 

 とりあえず、勝機が見えてきたかな。作戦が必要だが――何よりもまず、モチベーション。

 

「よし、作戦会議を始めます!」

 

 まずは第一段階突破、かな。

 




というわけで、ザンバモン戦は次回。流石にこれ以上は引き伸ばさない。

それこそルーチェモンだけだったら制限解除しまくって直接送り込めば済む話なのよ。ただそのままだと流石にカノンたちも刺し違えることになるが。

結局それ以上のことがあるから旅をするわけですしね。


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94.うちに秘めるもの

 いろいろと準備を整え、決戦の日の朝がやってきた。

 負傷者は後ろに控えてもらい、戦える成熟期のデジモンたちを中心に防衛ラインを張る。

 完全体を中心とした部隊を3つほど編成し、それぞれが遊撃を行う。マキナもこちらにはいってもらい、敵の戦力を削ぐ。

 

「でもやっぱり数が心配だよね」

「ああ。エネルギーの確保はできたが……それでも戦えるデジモンの数が少ないのには変わりない。まあ、もう一人来るみたいだけど」

「?」

 

 風が吹いたと思ったら、上から一体のデジモンが落ちてきた。腰を落とした姿勢で着地したのは、ストライクドラモン。マキナは驚いて半歩後ずさっていたが……彼は無言でどこか遠くを見ている。

 ふわりとライラモンが飛び降りてきたが……上から来るのはどういうことなんだ?

 

「あ、あはは……疲れた」

「ライラモンさん、今まで何やっていたの?」

「あいつの修行に付き合わされてねぇ……それで、ここまで跳んできたの」

 

 すごい跳躍力だな。それに、この感じはすでに察知しているのか。

 ストライクドラモンはウィルス種のデジモンには敏感だ。おそらくザンバモンの軍が迫っているのだろう。しかし、彼はそれを感知していても暴走していない。だが……一言もしゃべらないのはどういうことだ?

 

「完全に暴走を抑えるのは無理だったから、ターゲットを絞ってそこに集中するように訓練していたのよ。おかげで周りに被害を出さないようにはなったと思うんだけど……戦っても大丈夫かな?」

「うーん」

 

 流石に完全に暴走を抑えるのには時間が足りなかったか。だが、ウィルス種のマキナがいる中でもこちらには反応しないところを見ると、大丈夫ではあるか。

 万が一もあるし、マキナとは逆方向の遊撃にはいってもらおう。

 

「ライラモン、疲れてるところ悪いけどサポートにはいってもらえるか? どうも敵の数が予想の倍以上はいるみたいだ」

「へ――うそ、何あの数」

 

 数にして200は軽く超える。こちらも数は多いが、ほとんどが戦えないデジモン。遊撃メンバーと直接ザンバモンを叩く僕らだけなら15体か。プロットモンは引き続きマキナのサポートだ。

 

「作戦は至ってシンプル。僕とラプタードラモンが大将のところまで突っ込む。その際に、いろいろとばらまくから、みんなは分断された軍団を相手してくれ」

「分かった。君たちも、気をつけてくれ」

 

 パンジャモンがそう言い、立ち上がったデジモンたちも己の役目を果たすために立ち上がる。

 あとは事前に仕掛けておいた仕掛けがどこまで通用するか……とにかく、もうあとには引けない。

 

「作戦開始だ!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 空へと飛び上がったラプタードラモンと、その背に乗るカノン。敵軍からは要注意すべき相手として伝わっているが、無謀にも突撃してくるようにしか見えなかった。

 

「成熟期のデジモンが二体だけで突っ込んで来やがるぜ!」

「ガハハ! 馬鹿な奴らだ!」

 

 ザンバモンが撤退を選んだということでどれほど強い相手なのかと思ったら、成熟期二体だけで敵陣へと突撃する愚か者。それに完全体のデジモンだって数が少ないではないか。

 後続に控えていた完全体のデジモンを我軍も引っ張り出してきたが、これでは意味がなかったなと漏らす。

 しかし、その完全体のデジモンが前へと飛び出した。

 

「なっ――シャウジンモン!? 貴殿がなぜ飛び出すのです!」

「愚か者ども! 殿がなぜ我らを呼びだされたかわからぬのか! すでに奴らの計略は始まっておる! すぐに動かねばやられるのは貴様達だぞ!」

 

 カッパのような姿をしたデジモン、シャウジンモンがそう叫び前へと突撃する。自分の役目は後に続く部隊の道を作ること。その役目を果たすために飛び出したが――後に続くデジモンたちがこれではどこまで通用することか。

 3日前に戦った精鋭たちがやられたのが痛い。今残っているのは寄せ集めもいいところの連中。雑兵程度にしかならないのがほとんどだ。

 

「――やはり、私が行くしかあるまい」

 

 一人でも多くのデジモンを倒し、ザンバモンのための道を生み出す。

 彼はすでに背後の惨劇を見ていなかった。宙より飛来する、魔力の塊。カノンが投げ落としている闇と火の混合魔力弾だ。押し固め、地面に落ちると同時に炸裂する絨毯爆撃。

 流石にここまでのことは予想外だったが……闇の属性を帯びながら、それは悪意に満ちたものではない。

 

「アヌビモンと同じ浄化の闇か!」

 

 話には聞いていたが、闇でありながら悪性のウィルスデータを浄化する力を持ったデジモンがいるという。アヌビモンはその中でも有名な一体で、デジモンの再生システムを司る存在だ。

 この炎に焼かれたデジモンは暗黒のデータを消去され、健常なデジコアへと戻される。

 

「しかし、やることが殿よりもえげつないッ」

「――!」

 

 と、そこで一体のデジモンがシャウジンモンへと迫る。巨大な爪が彼の喉元へと迫り、とっさに武器で防御するが火花を散らせ押されてしまう。

 

「ぐぬぅ……成熟期のデジモン、であるはずだが」

「――ガア!」

 

 次に回し蹴りを放ち、シャウジンモンの体を浮かせる。それでも空中で回転し、地面へと着地した。彼――ストライクドラモンはこの場で最も厄介な相手を視認し、彼にのみ集中する。

 周りでは他のデジモンたちがカノンの爆撃を逃れて迫ってきていたが、どいつも成熟期だ。

 

「ウィルス……暗黒、潰す!」

 

 ストライクドラモンが吠え、彼の髪の毛に変化が現れた。赤い髪が青く染まり、燃える炎へと変化する。

 吹き出す力の量が増していき、完全体に迫るものへと変化した。

 

「なんだ、この力は――デジコアの鼓動が大きくなっている!?」

「ガアアアア!!」

 

 バーストモードにも近い、限界能力の開放。いや、限界突破ともいうべき力だ。

 彼が一気に加速し、シャウジンモンへと迫る。

 

「こちらも負けられぬのだ! ゆくぞ、若人よ!」

 

 

 

 そして、彼らとは離れた場所。マキナもまたチィリンモンにまたがり戦っていた。こちらもカノンの爆撃により数は減ったが……厄介なことに空中戦ができるデジモンが攻めてきたのだ。

 それにより、空中で戦えるチィリンモンと遠距離攻撃を特異とするマキナが対処しているのである。

 

「もう! ちょこまかと厄介な相手!」

「かーっかっか! それはそちらも同じこと! であればこちらも斬りかかるのみである!」

「あとあんたうるさい!」

「それは聞けぬ相談なり! 我らが大将のため、その首貰い受けるぞ! このカラテンモン、押してまいろうぞ!」

「ホントうるさい!」

 

 マキナが狙いをつけ、カラテンモンを撃ち抜こうとするが彼はそのすべてをよけていく。カラテンモンというデジモンは、相手の心を読み取る能力を持つ。

 あまりにも愚直すぎるマキナの攻撃など簡単に躱せるというかのように、次々に避けていってマキナへと迫った。

 

「かーっかっか! 小娘、討ち取ったり!」

「ッ、ああもううるさいッ!!」

 

 しかし――彼の剣が迫った瞬間、それを銃で弾き攻撃を防ぐ。予想外の展開に一瞬の思考の余白が生まれ、カラテンモンはその腕を掴まれた。

 

「なっ――!?」

「チィリンモン、周りのやつをお願い! こいつはウチがぶっ飛ばす!」

「マキナ!? 何を――」

 

 プロットモンをチィリンモンの背に残し、マキナはカラテンモンを掴みながら地上へと飛び降りた。その際、足にカラテンモンを敷いて。

 そのため地面にカラテンモンが激突し、マキナは彼をクッションに着地した。

 

「――ッ!? こ、小娘がぁああ! 何をするか!」

「ああもうさっきから頭のなかをジロジロとうるさいのよあんたッ! ウチの大事な思い出まで見ようとしやがって――――乙女の純情を軽々しく見やがって、ぶっ潰す」

 

 マキナの目が据わり、彼女から吹き出す闇のオーラが高まっていく。

 プロットモンの聖なる力を利用できた彼女であるが、その本来の適性は闇の力なのだ。あまりにも危険なため彼女の師匠たちはそれを伝えずに修行をつけていたが……内なる力が精神の圧迫により解き放たれた。

 彼女から吹き出す力が鎖の形へと変化し、カラテンモンへと迫る。その凶悪さに萎縮しながらもカラテンモンは対処していくが、その力の圧力におののくばかりで防戦一方となる。

 

「貴様、成熟期でありながら魔王クラスの力を内包しているとはどういうことだ!? あの小僧といい、青いストライクドラモンといいどうなっているというのだ!」

「ああもううるさい。なんであんたみたいな奴にウチの頭の中を覗かれなきゃいけないのよ――ただでさえ、最近は無茶ばっかりするカノンくんにやきもきしているっていうのに、これ以上の心労を与えんなぁあああ!!」

 

 フルバースト。2つの銃口から銃弾が発射されていく、それをすべてよけていくカラテンモンであるが――それは下策だった。

 

「――ッ、な……追尾弾だと!?」

 

 闇の力を込められた弾丸はカラテンモンを捉えて離さない。それをすべて避けるものの一瞬ごとに銃弾の数が増えていく。

 この少女は危険だ。ここで倒さねば必ずや強大なデジモンとなってしまう。それこそ、魔王に匹敵する存在に。だが、マキナの地雷を踏んだカラテンモンにはもうどうすることもできない。

 誰しも心の中には他人に触れられたくない大切な部分がある。それを土足で踏み時にった彼に未来はなかった。

 

「収束――」

 

 マキナが充填したのは光の属性の弾だ。カノンのように同時に発動させることはできないが、光の属性を操ることができないわけではない。故に、そこに込められた力にカラテンモンは驚愕する。

 

「ま、待つのだ小娘! そうだ、うちに秘めるばかりでは良いこともないぞ。あの小僧にその胸の内を伝えてきてやろうぞ――」

「――――倍増」

 

 更にエネルギーが充填され、カラテンモンへと発射された。流石にそれは避けなければいけないと動こうとするが、追尾弾の壁が出来上がり逃げ道は完全になくなっている。なんとか避けようとするが全身に弾丸がぶつかっていき、体の自由が効かなくなる。

 そして、光の巨弾が迫り――先に撃ち込まれた闇の弾丸と反応して大爆発を起こした。

 悲鳴も上げる事すらできずにカラテンモンは消滅してしまう。

 それを見届けたマキナはふらりと腰を落とし、地面に尻もちをつける。

 

「…………はぁ、ウチが暴走してどうすんのよ。でも、厄介なのは一体なんとかできたか――よし、もう一頑張りよ!」

 

 その姿をみて、敵の戦意を削ぐことに成功もしていたが……同時に味方側からもドン引きされていたことは言うまでもない。

 特にチィリンモンはマキナの知られざる一面を見ておののいていた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「カノン、あっちですごい爆発が起きたぞ」

「この魔力反応はマキナだな……あんな大爆発魔法使えたんだ」

 

 ラプタードラモンとしては、そこに込められた力の量の凄まじさやら闇の力の放出量などを言いたかったのだが、よく考えたらカノンも大概だった。おそらく、感覚が麻痺している。

 この程度の闇の力別に気にする必要ないと思っているのだ。

 

「……帰ったら、一般常識からやり直そう」

「なんでだよ」

 

 解せぬ。そう言いながら、カノンは目的地を見る。ザンバモンがにやりと笑ってこちらを見ていた。

 ラプタードラモンも無駄話はここまでだと気合を入れる。

 

「――――今日までの組手の成果、いけるか?」

「ああ。全力で行くぞッ!」

 

 一気に下降しザンバモンへと迫る。それに太刀で斬りかかってくるが――ラプタードラモンの姿が変化し、ザンバモンと鍔迫り合いとなる。

 カノンはザンバモンの股下をくぐり抜け、背後に回りこんで拳を叩き込む。だが、ザンバモンは体を回転させてそれを弾き飛ばしてしまう。

 

「――ッ、やっぱり一筋縄じゃ行かないか!」

「だけど、やってやれないことはない!」

「また突っ込んで来たかと思えば――なるほど、此度の相手はお主か!」

「ああ。そのとおりだ……グレイドモン、いかせてもらうぜ!」

 

 X抗体の解放。デジヴァイスXの力によりラプタードラモンはグレイドモンへと進化したのだ。

 今まで使っていなかったため、自分でも機能を把握しきれていなかったがこの数日の間にカノンは様々な検証を行った。そのおかげもあり、完全体までならどうにか進化可能にしたのである。

 

「でも制限時間はいつもより短いから、気をつけて行けよ! やっぱりこの世界だと負荷が大きいからな!」

「わかっている! 援護を頼むぞカノン!」

「任された!」

「良い――此度の戦いは血沸き肉踊るぞ! こうして出直した判断は間違いではなかった! さあ、いざ尋常に勝負!!」

 




たぶんそろそろマキナさんの正体に気がつく人もいる頃でしょう。
もうちょっとカラテンモンは引っ張るつもりだったが、気がついたら地雷を踏み抜いてこんなことになっていた。


02のプロットの修正もあってデジモンハリケーンを久々に見ましたが……改めて見ると、あの映画にでていたケルビモン(悪)の正体ってダゴモンの海に関係している存在だよなと。ウェンディモンの元ネタでもあるし。
実はデジモン作品で一番危険な世界ってアドベンチャーなんじゃ……


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95.限界を超えた先へ

ちょっと久々の投稿になるよー。


 シャウジンモンとストライクドラモンの戦闘は激化していた。サポートのためライラモンも近くにいたのだが、周辺のムシャモンたちを相手にするだけで精一杯である。

 いや、正しくは二体の戦いに割って入るのが危険なのだ。そのため、ストライクドラモンにシャウジンモンを任せて自分は他の雑魚を相手にするしかない。

 

「てめぇ、俺達が雑魚とはなんだ!」

「実際に雑魚でしょうが!」

 

 毒の鱗粉を撒き散らし、ムシャモンたちを片付ける。戦闘に秀でているわけではないが、完全体のライラモン相手ではムシャモンたちも分が悪い。この差を覆すには、圧倒的な物量か特殊な能力がなければ不可能だろう。

 カノンやマキナといった特殊な存在、ストライクドラモンのように特出した才能など世代を上回る力を持ったデジモンというのは稀ではあるがいないわけではない。かの魔王ルーチェモンもその類の存在だ。

 

「ただの成熟期が思い上がらないでよ――鍛えなおして出直してきなさい!」

 

 彼女に近づいたデジモンたちは次々に倒れていく。あまり倒すことまではしたくないため、毒の鱗粉で倒していっているが……ムシャモンたちからすればいっその事トドメを刺してほしいほどだ。

 むしろ苦しいだけで生き地獄である。

 

「この、悪魔め……」

「ちょっと! それはひどいんじゃないの!?」

 

 それを天然でやるのが、このライラモンなのであるが。

 しかし彼女自身は無自覚であるがゆえに直しようもない。ムシャモンたちもすべて気絶してしまっている。

 

「あら、いつの間に……でも、これであいつの援護に――え」

 

 ムシャモンたちがいなければ二体の戦いに集中できると思った。

 だからこそシャウジンモンへと狙いを定めようと後ろを振り向いたのだが……その戦闘は、自分の割って入れるようなものではなかったのだ。甘く見ていた。彼の潜在能力の高さに。

 ライラモンは彼が本当に生まれたばかりの頃から見てきた――それこそ、彼が進化する前のブイモンだった時はよく一緒に遊んでいたぐらいだ。

 

「それが、あんなに……」

 

 赤かった髪は青い炎に変わり、完全体のデジモンを圧倒している。

 体中のメタルプレートから噴き出す炎を利用して、空中でも方向転換をしながらシャウジンモンの死角を狙うように攻撃を仕掛けていた。

 ストライクドラモンの爪がシャウジンモンを捉えようとするたびに、シャウジンモンは武器で攻撃を防ぐため何度も金属音があたりに響いている。

 

「この、なんという能力……ここで倒さねばいずれ我々の障害になる。ならば、我が身に変えても貴様をここで殺す!」

「――――ストライクファング」

 

 シャウジンモンが決死の覚悟で力を放出する。無理矢理にデジコアを稼働させて自分も限界能力を発揮しようとしたのだ。体から放出される力が増大し――その首にかかった封印が解除される。

 自らを凶悪な怪物へと変貌させ、自分の命と引き換えにストライクドラモンを殺すためにその力を解放したのだ。これもまたバーストモードに近いが、その性質は暴走状態というべきだろう。ルインモードに近いその姿は、たとえ相打ちにならずとも自爆する姿だ。

 それに対してストライクドラモンも一言だけ発し――シャウジンモンを蹴り上げた。

 

「――ッ!?」

「ガアアアアアア!!」

 

 炎を吹き出し、ストライクドラモンの体がブレる。姿を捉えようにもシャウジンモンの近くを上回る圧倒的なスピードで体中を殴られ続け、身動きが取れない。

 なんとか反撃しようとするも怒涛の攻撃により体から力が流れ出ていくのだ。

 

(これは――浄化されているとでもいうのか!? 馬鹿な! ストライクドラモンというデジモンにここまでの力はないはず――特異個体にしてもここまでの力を持つとは一体――ッ)

 

 せめて報告をしなくてはいけない。最後の力を使いなんとか友軍に情報を転送する。

 すでに自分の死期は悟った。いや、それだけではない。ザンバモンもこの戦いまでとなる。彼と戦っている神人型のデジモン……自分の見立てが間違っていなければ、覚醒こそしていないがルーチェモンに近しい存在だ。

 

(メタリフェクワガーモンよ、気をつけたまえ。我らに対抗しうる存在が次々に目覚めている。各地の友軍にも伝えるのだ! 十闘士の神殿を攻めるだけではダメだ! 迎撃の準備と各地の協力者たちに――)

「ぶっ飛べぇええええ!!」

 

 巨大な竜の姿を模した炎へと変化し、ストライクドラモンはシャウジンモンを消し飛ばした。

 限界能力を解放したのは失策だったのだ。それにより、ストライクドラモンの本能が直に刺激されてしまい、彼の内なる力を解放してしまう結果となった。言葉が最後まで続かず、力の残滓もなくなる。

 そして、力の解放によりガス欠となったストライクドラモンの体もぐらりと傾き――彼をライラモンが受け止めた。

 

「まったく、無茶するんだから。でも、なんとかなったんだね」

 

 他のみんなは大丈夫だろうかと、心配になったが――その答えはすぐにわかることとなる。

 決着は、間もなくつく。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ザンバモンとカノンたちの戦闘、互いにぶつかり合い、その中でも次の手を読み合いながらのものとなっていた。

 カノンの強みはその手数の多さによる奇策。自分の手の内を読ませずに強力な一手で一気に崩すというものだ。自力の強さもありながら正面突破の奇襲という奇妙な戦闘スタイル故に読まれにくいのだが――ザンバモンは戦士の勘と呼ぶべき直感で彼の攻撃を見切っている。

 それ故に、グレイドモンが基本となって立ち回りカノンは援護へと回っていた。それは、彼ら本来の戦闘スタイル。今までが異例であったのだ。

 

「ッ――なるほど、後ろの少年ではなく貴様が歴戦の戦士か!」

「戦士って柄でもないけどなッ!」

 

 それに双剣グレイダルファーにはデメリットもある。カノンのサポートにより暴走を抑えられてはいるのだが、それも長続きしない。

 高い戦闘能力を持つとはいえグレイドモンは完全体のデジモンだ。口では戦士など柄ではないと言っているが、戦士系のデジモンであり同種の究極体であるザンバモンを相手にするにはいささか分が悪い。かといってドルグレモンでは決め手に欠ける。

 それ故にグレイドモンによる短期決戦を狙うしかないのだ。

 

「うおおおお!」

 

 剣技においてはグレイドモンのほうが上に見えるが――ザンバモンはそれをパワーを持ってねじ伏せる。

 

「ッ――!?」

「甘い! その程度では我が体に傷などつけられぬわ!」

「なら、これならどうだ!」

 

 そこにグレイドモンの背を駆け上がってカノンが飛び上がってくる。

 体に雷を纏い、巨大な雷球を手に作り出してザンバモンへと叩きつけたのだ。

 

「今度は良いぞ! だがそれで終わると思うな!」

「やっぱ硬いなコンチクショウ!」

 

 両手の拳を撃ち合わせ、両腕にエネルギーをチャージする。

 チャンスを一つでも逃せばアウトだ。それはわかっているのだが、どうにも一手足りない。

 グレイドモンの進化持続時間もある。バーストモードが使えればいいのだが、アレは極端にエネルギーを消耗するため使えばすぐにガス欠を起こす。

 

(クソッ、ブラスト進化が使えればベストだけどアレはそう簡単に使える代物じゃない……そもそも意図的に使ったときだっていろいろな条件が重なったからできたことだ。今この状況で使うことはできないぞ)

 

 エイリアスも使えて一回。今準備してあるものだけだ。しかし一度使っているため本当にここぞというタイミングじゃないと見切られてしまうだろう。

 今までの戦闘経験からこの場に必要な答えを導き出そうとするが――ザンバモンはある意味最もやり難い相手なのだ。敵ではあるし、倒さねばいけない。

 

「でも、真正面から来るようなタイプってなかなか戦わないからこっちとしてはほんとやり難い」

「お主たちが今まで戦ったのは無粋な者たちばかりか? まあ、是非もないことだ。だが、だからといってこのザンバモン、手を抜かぬぞ」

「当たり前だ――僕らも真正面から、乗り越えてみせる」

 

 グレイドモンとカノンの視線が交差し――覚悟を決める。

 この戦い、下手な作戦は使うべきではない。今までの定石は通用しない。ならば、こちらも全力を出すしかない。出し惜しみはなしだ。

 

「――コード・エイリアス!」

「タクティモンの見よう見まねだが――我流、六道輪廻!」

 

 カノンの姿が3つに増え、ザンバモンへと突撃していく。

 グレイドモンもかつてタクティモンとの修行で身につけた技を放つ。

 その姿にザンバモンはにやりと笑い、彼も迎え撃った。2つの刀がカノンたちを狙う。衝撃波を切り刻み、前へと突き進んでくるのだ。

 いざ敵として戦うと真正面から向かってくる究極体のいかに厄介なことか。

 

(今までは究極体といえども絡めてや特殊能力による戦いが多かった。だけど、こいつは違う。純粋にパワーを高めた究極体なんだ。だけど、だからこそ――)

 

 グレイドモンが押され、それでも前へと進む。体にはヒビが入り、力の余波だけで消し飛んでしまいそうな錯覚さえあったが――体をひねり、渾身の一撃をザンバモンへと叩き込む。

 それを巨大な太刀で迎え撃つが――ザンバモンの懸念は、分身したカノンたちに向けられた。

 この少年は戦いの中でどんどん成長している。成熟期でありながら、デジモンとしての能力には未だ目覚めていなかった印象さえある。いや、それは事実なのだ。カノンはまだアイギオモンの力を完全には使いこなせていない。

 本来ならばデジモンが生まれながらに知っている知識を、カノンは知らない。だからこそこれまでの戦いで次々に吸収している。

 

(わかる。体の使い方が。力の動かし方が。体の中を流れるこの熱いエネルギーが!)

 

 分身体が雷撃の塊へと変化し、ザンバモンへと突撃していった。

 短い方の刀を使い、切り払う。風が巻き起こり、雷撃の塊が再び分身体へと戻ったが――本体の姿が見えない。

 

「何?」

「後ろだよ!」

 

 ザンバモンの下を駆け抜け、背後に飛び出して巨大な剣を召喚していた。

 とっさに攻撃を防ぐが、雷撃の塊へと変化した剣が体を駆け巡り、ザンバモンの体を拘束する。

 体のデータを分断されるような痛み。ザンバモンには初めての感覚であるが、データで構成されたデジモンにバグデータを意図的に流せばどうなるか。しかし、カノンも究極体のデータに干渉するのは非常に困難なことであるために、脂汗が出ている。

 

「きついッ、でも――ケイオスフィールド!」

「この技は!?」

 

 分身体がそれぞれ光と闇の属性の塊となり、ザンバモンへ激突する。

 状態異常の上に更に拘束魔法。

 

「この前よりも、格段に強くなるか――だが、効かぬッ!!」

 

 体を回転させて拘束を解く。カノンも弾き飛ばされてしまい地面を転がり落ちていった。

 危険な少年だ。究極体相手に真正面から戦える成熟期のデジモンがどれほどいるだろうか。それこそ、ルーチェモンのような規格外がまだいたのかと驚愕するほどだ。

 

「だが、それも――――ッ!?」

 

 そこで、ザンバモンは直感に従い攻撃を防ぐ。

 先程よりも思い一撃――赤い粒子を放出させながら、グレイドモンが再び迫ってきたのだ。

 連続の攻撃。右の剣で切りつけ、体を回転させて左の斬撃を放つ。

 

「ここにきて貴様も力を増すというのか!?」

「呑まれて、たまるかぁあああ!!」

 

 もはや彼の目にはザンバモンは映っていない。そこにあるのは自分自身の姿。

 カノンの補助も切れ、グレイダルファーの影響により理性が飛びつつあった。それでも、強靭な精神力で自分の意識をつなぎとどめ続けているのだ。

 今まで、彼の胸の中には後悔が残り続けていた。カノンを一度死なせた事実はどうあっても消えない。その過去を乗り越えるため、今再び向き合わなければならない。

 

「うおおおおおお!!」

 

 叫び、グレイドモンの動きが加速してく。ザンバモンも彼の攻撃を防ぐが――防戦どころか押されている。

 この赤い粒子の正体を彼は知らない。X抗体という、デジモンの潜在能力を引き出すものは知られていないのだ。いや、未来においてもその存在はごく一部だけにしか伝わっていなかった。それが、はるか太古に存在していたものだとしても伝わっていないのでは意味がない。

 

「――――ッ!?」

「ぜ、はぁああ!!」

 

 息を一気に吐いて残った力を最後の一太刀に込める。グレイドモンの斬撃が終わり、ザンバモンの体がよろめいた。そして、光と共にグレイドモンの姿が小さくなっていく。

 ぽとりと音を立てながら地面に落ちたその姿は、スライム型のもの――幼年期Ⅰ、ドドモンのものだった。

 

「ここまで、追い詰められるとは…………だが、幼年期になってしまったというのなら……」

「残念だけど……ここで終わりだよ。僕が、トドメをさすまでもない」

 

 カノンがゆっくりと歩いてきて、ドドモンを拾う。そのまま、町の方へと向かっていく。

 ザンバモンは戦いの最中に背を向けるとは何事だと、怒鳴りつけようとするが――声が出ない。いや、体も動かない。全身の力が抜けるようにバタリと、倒れてしまう。

 

「――――カカカ、まさか真正面から倒されるとはな――世界は、広い」

 

 空気の溶けるように、ザンバモンの姿が消えていく。

 戦いは終わった。将を失った軍はもはや烏合の衆ですらない。戦いもすぐに終息する。

 結局、もしもの時のために用意した手は使わなかったなぁとぼやきながらカノンはゆっくりと戻っていくのだった。




ザンバモン戦、これにて終了。
あとはまとめなどをちょろっとやって旅に戻るです。


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96.旅は道連れ

 戦いも終わり、静けさが戻ってきた。

 一応防御プログラムとして町全体を覆うバリアーを用意しておいたのだが……結局使わなかったな。まあ、今後狙われることもあるかもしれないしそれはそれでいいのかもしれない。

 

「ドドモンもお疲れ様」

 

 疲労も凄まじいらしく、眠ってしまっているが……まあ無理も無いだろう。

 究極体相手は流石に疲れる。今までの戦闘経験がなかったら危なかった……周りを見回すと、とりあえず勝利したってことでいいらしい。パンジャモンたちも一息ついた風だ。

 しかし、なかなかに厳しいものだったが……そこで、この前は気が付かなかったものが見えた。

 

「あれって、線路か?」

 

 近づいてみるとやはり列車の線路だ。

 鉄のラインが二本、よく見るタイプのものだが……随分と使われていないようにも見える。

 

「…………」

「どうかなさいましたか?」

 

 そこで、パンジャモンが近づいてきた。彼も体中ボロボロであったが、大きな怪我はないらしい。とにかくお互い無事で良かった。

 勝ったというのに、僕が考え込む顔をしていたから話しかけてきたのだろう。

 

「いや、この線路が気になって」

「ああ……ロコモンの線路ですか。そういえば随分と長い間彼を見ていません」

「ロコモン?」

「ええ。乗り物系デジモンの一体で、完全体のデジモンです。昔はこの線路を運行していたのですが……随分と長い間、彼を見ていません。この町にも駅があったのですが、私が旅に出る前は彼を見たのですが、この町に帰ってきた頃にはもう……」

 

 どこか寂しそうにつぶやくパンジャモン。少しだけ話しを聞いたが、成熟期に進化してすぐに旅に出ていたらしい。その後、帰ってきてから長になったと聞いた。

 ロコモンか……今も運行していたのなら、移動が楽になったのだけど、そううまくはいかないか。それにライラモンが生まれるよりも前の話らしいし、結構長い時間が経っているのかもしれない。

 

「ルーチェモンの軍勢が台頭してきましたからね、彼ももう……」

「結局、大元をどうにかするしかない、か」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 すぐにでも出発するべきではあったのだが、僕も含めてだいぶ疲労が溜まっていた。

 ドルモンも現在はドドモンにまで退化してしまっているため、戦力的にも心もとないしもとに戻るまで待つべきなのだが……僕らがいつまでも滞在するわけにもいかない。

 

「というか、カノンくん……食料はどうするの?」

「その問題もあったか。この町で補給しようと思っていたからなぁ……こうなったらまじで土から錬成して」

「それだけはやめて」

「流石に冗談だよ……」

 

 まあ言っている場合でもないけど。

 とにかく身支度だけは済ませておこう。荷持があるというわけでもないが、とにかく準備だけはしないといけない。目的地の木の神殿まではそれなりに距離もある。

 

「まあ、森の方へ行けば食料もなんとかなるだろう」

「それしかない、か」

「ならば準備を整えてさっさと出発するべきだな」

 

 クダモンの言うとおりなのだが、慌てても余計に時間がかかるだけということもある。

 とりあえずパンジャモンに挨拶してから目的地へ行くとしよう。

 ドドモンを抱えて借りていた家を出る。この前と同じく町はまだ壊れたままだ。でも、住民には活気が戻ってきている。目下の問題が片付き、精神的にも前へと向き始めた。

 

「……まあ、この分なら大丈夫だな」

 

 パンジャモンのいる建物へと向かうと、妙に静けさというか変な空気を感じた。

 悪い気配ではなかったから建物に入ると、ストライクドラモンとパンジャモンが何かを話し合っている。その様子を、不機嫌そうにライラモンが見ていたのだ。

 会話の間にはいっていいものか悩んでいると、パンジャモンがこちらに気が付き駆け寄ってきた。

 

「すいません、お出迎えもせずに」

「いえ、こちらが勝手にやったことですし……それに、そろそろ僕達も出発します」

「ではやはり、十闘士の神殿に?」

「ええ。各地の神殿を回るのが第一になりますから」

 

 一応パンジャモンには旅の目的というか、何をしているかは簡潔にだが話してある。

 彼も旅をしていたということで有力な情報がほしかったのだが、そもそも神殿にはデジモンたちはあまり近づかないらしい。

 

「そうですか、この有様ですから物資も渡せずに、すいません……アレほど助けていただいたというのに」

「いえ、気にしないでください――」

 

 と、そこでストライクドラモンがこちらに歩み寄ってきた。

 また戦うことになるのだろうかと、少し身構えていると彼は僕に向かって頭を下げる。

 

「? えっと、どういう……」

「たのむ。その旅に俺を連れて行ってくれ」

「すいません、止めたのですが聞かなくて」

 

 話があまり見えてこないが……

 

「お前たちについていけば、俺はもっと強くなれる。そう思ったんだ…………それに、俺達の世界が大変な事になりつつあるのに、黙ってみていられない。お前たちについていけば、どうにかできそうな気がするんだよ」

「……」

 

 少し顎に手を当てて考える。マキナが不安そうに僕の腕をつかみ、クダモンは何かを思案した表情だ。

 ドドモンはなるようになると静観しており、プロットモンは興味ないと言わんばかりにあくびを――っておい、お前らも少しは考えろよ。

 

「カノンくん、どうするの?」

「…………正直な話、戦力的にはまだ仲間がほしい」

「それじゃあ――」

「でも、これから先の旅でウィルス種あいてに暴走を起こすと厄介だぞ」

「ぐ、それは……」

 

 ストライクドラモンもわかっているのだろう。今回はなんとかなったが、それがいつまでも続くというわけではない。あと、後ろで不機嫌そうにしている子のことも考えたほうがいいだろう。

 

「――ああもう! じれったい!」

 

 と、そこで何を思ったのかライラモンが大声を上げた。

 ストライクドラモンの背中を叩き、彼女も頭を下げる。

 

「悩んでないで動け! それに私も悩むのはやめた! お願いします、私もついてきます!」

「あ、それは助かります」

「うん、ウチも話が合いそうな子がいてくれると嬉しい!」

「なんで俺の時とは違って悩まないんだよ! 喜ぶんだよ!」

 

 暴走しない完全体。暴走する成熟期。当たり前の反応だと思う。

 それにマキナは今まで同年代の女友達(相手デジモンだが)がいなかったし、良いことだ。

 ストライクドラモンの暴走のストッパーとしても期待できる。

 

「というわけで、ふたりとも連れて行くことになりますけど……大丈夫ですか?」

「ええ。お礼というわけでもありませんが、どうぞこの世界のため、頑張ってください」

「なんなんだよ、すんなり見送ってくれるのにこの虚しさは」

 

 ストライクドラモンが少々ぼやいていたが、こうして僕らの旅の仲間に新たな二体が加わった。

 目指すは木の神殿、少々長い道のりになるが、このあたりを攻めていた究極体を倒したのだ。次に出てくる敵はそこまで強力な個体ではないと思うが……一応、油断はしないでおこう。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 このあたりの地理に詳しい二体の話からするに、深緑の森までにはいくつか集落もあるらしい。といっても、かなり小さい場所なのでこの付近に住んでいるデジモンしか知らないそうだ。

 ひとまずそこを経由しながら森を目指す。

 まっすぐに進めば3日ほどの距離だが、疲れもあるし休憩をはさみながらになるだろう。思った以上に時間がかかりそうだ。

 

「なあ、十闘士の神殿を回っているとは言っていたが、今までいくつ回ったんだ?」

「まだ闇の神殿だけだな。事情があって土と鋼は行く必要が無いんだけど……それでも、残り7つだ」

「先は長いのね。ルーチェモンの軍勢もいるのに大丈夫なの?」

「できることなら鉢合わせたくないけど、この付近の担当はザンバモンだろうし、究極体クラスはしばらく出てこないだろうよ」

「というか、ウチはもう究極体を見たくない……」

 

 マキナの言うとおり、できれば見たくないけどね。

 しかし、ザンバモンを早い段階で倒せたのは行幸だった。あの手合は時間が経てば経つほど厄介な戦術を組み立て、強力な戦力を揃える。

 向こうも早い段階で倒すべきだと短期決戦に来てくれたのが良い方向に作用したのだ。

 

「うう、つかれたです」

「プロットモン、もう少しで集落だから頑張ってくれ」

「はぃ……です」

 

 僕も結構疲れたし、そろそろ休みたいところだが……遠くを見ると、草食恐竜のような姿のデジモンが草食べてる。激戦があったというのに、少し離れるとのどかな風景がみえるのか。

 目の前に見える丘を越えれば次の集落だ。それまでの辛抱なんだが、すべての神殿を回るまでにどれほどの時間がかかることになるのやら。

 時間軸が違うから、こんなことを考えても意味は無いのだけれども……母さんとありあ、元気にしているだろうか。検診がどうなったのかも気になるし、そもそも未来の時間軸は今どうなっているのか――いや、僕らの体がそのまま存在している時点でまだ大丈夫なのだ。

 

「カノンくん、それってどういうこと?」

「決定的に修復不可能になると、僕らが消滅する可能性もあるということ」

 

 たとえば、今地球が滅べば未来において僕らは生まれなくなる。すると、過去にいる僕達も消えるという話。そこいらへんの時間の整合性がどうなっているのかはわからないが……

 でも、そもそも僕達がいた時間と過去が繋がったのは、僕達の時間にあった何かがこの時代に流れたことで歴史データの歪みが発生したからなのであって……うーん、今回の件は色々と複雑な事情が絡んでいるのかもしれない。

 

「そこら辺の話は理解できないからパス」

「そもそも、私達にはなんのことだかさっぱりです」

「ようはルーチェモンをぶっ飛ばせば全部解決ってことだろう」

「ストライクドラモンの言うとおりでもあるんだけど、なんだか釈然と――あれ?」

「どうかしたの、カノンくん」

「いや……ルーチェモンって封印されていたんだよな」

「そういう話だぜ。もっとも、昔話に聞くぐらいだから詳しくは知らねぇけどよ」

「私も詳しい話は全然。でも封印されたっては神殿もあるから間違いないのよね」

 

 ストライクドラモンとライラモンの肯定で違和感がより明確になった。

 そう、ルーチェモンは封印されていたのだ。

 

「封印を破ったのって、誰だ?」

「それは……ルーチェモン自身じゃないの」

「いや、それにしては妙な感じがする」

 

 でも実際にことを起こしているのはルーチェモンの部下。

 部下が生き延びていた? まさか。この世界の時間で、何百年も前だぞ。当時のデジモンの生き残りはいるにはいるらしいが……ルーチェモンの部下の生き残りがいるだろうか?

 人間界へ行けば関係ないかもしれないが、エンシェントワイズモンの能力でも使わない限りこの時代では無理だ。となると、今のルーチェモンの部下はこの時代で結成されたのではないだろうか。

 

「ルーチェモンの騒ぎってどれぐらい前から起きている?」

「たぶん、数年前から。神殿のことを聞くようになったのはここ最近だけど」

「うーん……どうにも違和感がつきまとうな」

 

 しかし気にしていても今はどうすることもできない、か。

 とりあえず丘は越えたしまずは集落で体を休めて――と、そこでストライクドラモンがどこか不機嫌そうな顔をしているのに気がついた。

 

「どうしたんだ、ストライクドラモン」

「なんだかにおうんだよ。ウィルスの気配――それも、どす黒い何かが」

 

 僕も集落にそんな気配がないか集中してみるが――そんな気配は感じられない。

 むしろ神聖系のデジモンの気配があるように思えるのだが。

 

「……すまない、俺の気のせいだったみたいだな」

「全くよ。ストライクドラモンはいつもせっかちなんだから」

「悪かったな、そういう性格なんだよ」

 

 ストライクドラモンとライラモンが言い合いをしているが、彼の知覚に何かが反応した以上、可能性はありそうだ。それに、隠蔽能力を持ったデジモンかもしれない。

 究極体クラスだと力の波動を感じ取れるため、少し神経を研ぎすませてみるが……そのような気配もない。

 

「となると、本当に気のせいなのかね?」

 

 まあ悩んでても仕方がない。とにかく、あの集落へ行くしかないか。

 



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97.違和感をもたらすもの

今回はちょっとした表現の実験回みたいなものになります。


 これはストライクドラモンたちと共にパンジャモンの集落を出発する前に行った実験でのことだ。

 実験と言っても、簡単なもので意図的に暗黒の力の塊を作り出したらどうなるかということを行った。少々気になっていたのだが、ここまで世界の力のバランスが崩れるのはおかしいのではないかと思っていた。

 そこで思い至ったのは、暗黒の力による世界の改変効果である。スパイラルマウンテンの例がわかりやすいだろう。暗黒の力には世界の環境を無理やり変えてしまう効果があるのでは無いかと思い至り、ザンバモンの軍ほどの規模の暗黒の力を持つデジモンが集まるとどうなってしまうのか。

 

 ――結果は、黒だった。

 

 寄り集まった暗黒の力は、空間を歪めて環境を改変する作用がある。僕が普段使っているのは、単なる闇属性の魔法だったが……これで迂闊に暗黒の力を使用できなくなった。

 闇と言っても色々と種類があり、夜の闇など必要なものもあれば心の闇のような危険すぎる代物まで。まあ、そういった意味では光もある種危険な代物なのだが……その話はいつか機会が有ればにしよう。

 とにかく、今は闇の最たる力――暗黒の力にそのような作用があるとだけわかっていればいい。

 そんなわけで、ルーチェモンが部下を世界各地に放っているもう一つの目的はおそらく世界の改変を行おうとしているのではないかという仮説を立てたわけだ。

 クダモンとも話し合い、おそらく概ねあっているだろうという結論に達した。原因は何にせよ、やることは変わらないのだが。

 

 僕が何を言いたいのか――世界のバランスが崩れているのだ。バランスを崩してしまうデジモンがいたっておかしくはないだろう?

 

 ◇◇◇◇◇

 

 とりあえず集落にやってきた僕らだったが、特におかしな様子は見て取れなかった。むしろその逆――神聖系デジモンばかりがいたのだ。色々と物資を運び込んでおり、何やら忙しそうにしている。

 ホーリーリングをつけたデジモンが多く存在しており、通常種のプロットモンなども見かける。あちらは、バクモンというデジモン……天使系みたいなのもいるな。

 

「ねえ、ストライクドラモン……これのどこがどす黒いの? むしろ神聖系ばかりじゃないのよ! ここは天界!?」

「……悪かったな。俺の勘違いだよ」

 

 ライラモンが大声を上げるが、気持ちはわかる。

 とりあえずデジモンたちに会釈をするが、向こうも返してくれる。うん、普通に良いデジモンたちみたいだ。そのまま僕らは長あたりにでも食料を少し分けてもらえないか交渉しようと思っていたんだが……どこかマキナが居心地悪そうにしているのが気になった。

 

「マキナ、どうかしたのか?」

「ほら、ウチはウィルス種だからちょっとね」

「ああ……でも大丈夫だと思うぞ。ウィルス種でも神聖系っているし」

 

 シスタモンも見た目的にそちらに分類されているはずだ。ウィルス種でもそういった存在はわりといるらしい。クダモンの元僚友にもその手合がいたとか。逆にワクチン種で闇とか暗黒に分類されるのもいるし……ガルルモンの近縁のグルルモンとか。

 それに最近気がついたのだが、なんというかマキナの体を構成しているデータに見覚えがあるというか……なんと言えば良いのだろうか。デジコアを形成しているデータが神聖系に近いモノな気がする。

 

「確証はないんじゃないのよ」

「それはそうなんだけどね……とりあえず、誰かに聞いてみるか」

 

 近くにいたデジモンに聞いてみれば、すぐに教えてもらえた。奇妙な一行ではあるが、神聖系とウィルスキラーのストライクドラモンが一緒にいる辺り問題はないと判断されたらしい。まあ、神人型の僕を含めて神聖系プロットモンとクダモンがいるから話もすんなり行くと思っていたけど。

 どうやら一番大きな建物がこの集落の長がいる場所だそうだ。ちなみに、神聖系ばかりなのはこの集落に集まったデジモンたちは天界の遠征軍だから。

 先行してきた部隊の宿泊地であり、簡易的な拠点なのだと……しかし、そうなると気になることが一つ。みんなもどこか違和感を感じて入るようだが…………これは、ストライクドラモンの懸念が当たっているかもなぁ……

 しかし集落のデジモンたちには全くおかしなところがないのが気にかかる。

 

「ねえ、なんかおかしいよね?」

「ああ。おかしすぎる。ザンバモンの進行が近くであったのに――なんで彼らはそれを知らないんだ?」

 

 隠していても仕方がないのであっさりとそのことを言っておく。まあ、みんなそのあたりで違和感を感じていたんだろうし、誰も驚いていないが。

 ドルモンとプロットモンがにおいを嗅いで何か探っているが、首を横にふった。この集落にはおかしなところを感じないのか。

 

「どういうことなんだろうね、これ」

「これだけの神聖系デジモンがあの事件を見逃すとは思えないし……ザンバモンが妨害していた?」

「にしては妙なんだよな……ザンバモンを倒したし、妨害もその時点で途切れる…………だったらここまで知らないのはおかしい」

 

 それとなく聞いてみようかとも思ったが……先程、パンジャモンの集落から来たと言った時、あああの大きな集落ですかと普通に返された。大きな場所のため迷惑がかからないようにこのような場所を拠点にしているそうだが――それが事件を知らない理由にはならないし…………

 

「考えていても仕方がない、か。とにかくあの建物で長に会えばわかる」

 

 そんなわけで、建物に入る。

 中にいたのは一体の人形のデジモン――エンジェモンかとも思ったが、よく似ている別のデジモンであった。ガルルモンとグルルモンほどではないが、本当にそっくりだ。

 データを見ると成熟期…………? 名前が一瞬読み取れなかったが……どうやら、ピッドモンというらしい。

 

「おや、あなた方は……?」

「はい。私達、パンジャモンの収める町から来ました旅のものです」

 

 僕が考え込んでいたから代わりにライラモンが素性と目的を話す。

 といっても、次の集落まで行くために水と食料を少し分けてほしいという話をするだけであるのだが。

 

「そうでしたか、あのパンジャモンの……わかりました、多くは分けることはできませんが、同じこの世界に生きる仲間。助け合うべきですからね」

「ありがとうございます!」

 

 みんなは話のわかる人で良かった、とりあえず休憩しようよと言っているが……僕とストライクドラモンは少々顔が険しくなっている。しかし、ここで騒ぎを起こすわけにもいかないので頭を下げて建物から出ることに。

 宿屋を探すことにしたのだが、その最中僕らはずっと無言。しばらくしたら流石に堪えきれなくなったのか、マキナとライラモンが僕達に向かって怒鳴りだした。

 

「もう、さっきからどうしたのよ! ピッドモンさんが物資を分けてくれるって言っていたでしょう!」

「そうよ、好意を無下にするつもり?」

「そうは言ってもなぁ……なあ、ストライクドラモン。お前気がついたか?」

「ああ。間違いないな」

 

 となると気のせいではないか……厄介なことになった。とにかく、今後の作戦を――あれ? いつの間にか、マキナたちがいなくなっている。ドルモンだけが、やるせない顔でこちらを見ているが……

 

「ドルモン、みんなはどこに行った?」

「もう宿屋の方に行っちゃったよ。あんないい人を疑うなんてどうかしているって」

「…………本当にいい人なら甘んじて怒られるけどな」

「カノン?」

「まずいことになった……ガワはピッドモンだが、あれ別のデジモンだ」

 

 ◇◇◇◇◇

 

「まったくもう、カノンくんたら……」

「こっちもごめんね。ストライクドラモンがまたいらないことを言ったせいで」

 

 ウチとライラモンはカノンくんたちが何かを考え込む顔をした途端、すぐに宿屋に向かうことになった。

 色々と首を突っ込んで事態を解決しようとする彼のことだ。このようなことにも慣れているんだろうが……

 

「だからってすぐに疑ってかかるなんてね」

「ううん。それはいいの」

「あれ?」

 

 ライラモンが驚いているが、ウチもあのピッドモンが怪しいのはわかっている。だけど、他のデジモンたちは違うのだ。怪しんでいますという態度を出し過ぎなのである。

 早くになんとかしたいのはわかるが、穏便に済ませる気はないのだろうか。

 

「まあいつものことです。それに、時間があることなんてあまりなかったです」

「そうなの、プロットモン」

「はいです」

 

 彼の今までの戦いがどのようなものだったかは、まだ詳しくは聞いていないが……時間があるようなことなんてほとんどなかったらしい。人造デジヴァイスの製作者探しは時間がかかっていると聞いたが。

 

「プロちゃんがしっているだけでも、時間があることなんて……戦いのあと、すぐにまた戦うことになって、そんなことを繰り返していましたです」

「そう。もうそういう習慣がついちゃったのね……ウチは今まで、修行ばかりだったけど焦るようなことなんてなかったからなぁ」

 

 いつの間にか、とてつもない差がついてしまったらしい。

 プロットモンの頭をなでながら色々と考える。彼に助けてもらって、これまでの数年間……ウチにだってそれなりに色々あったのだ。師匠たちに色々としごかれたり、地獄のような目に合わされたり、メディーバル様が直々に稽古をつけると言って――――

 

「マキナ!? どうしたの、顔が青くなっているわよ!」

「ひぃいいい!? 色が! 色が青いです!」

「すまない、マキナのトラウマが刺激されたらしい……すぐにもとに戻るから気にしないでくれ」

「だからって、これはおかしいでしょう!?」

 

 ――はっ!? ウチは一体何を……

 

「ほんとに元に戻った……大丈夫?」

「う、うん。ちょっと修行のことを思い出しただけだから」

「どんな修行なのよ」

 

 焦るようなことはなかったが、地獄は見た。

 いけない、これ以上は再びトラウマスイッチがはいってしまう。

 

「と、とにかく……ウチが怒っているのは、ガンガン行き過ぎるってことなの」

「でもそれなら放っておくのはまずくないのかな。余計に勝手に何かしでかすんじゃ……」

「ドルモンがいるから大丈夫だと思うけど……どうなの、プロットモン」

「カノンもあれで考えた上で行動しているです。なので、気にする必要はないのです」

 

 そう言うと、体を伸ばしてプロットモンは丸くなった。

 

「果報は寝て待てです。今頃は聞き込みと襲撃方法を考えているはずです」

「襲撃方法って……でも、本当にいい人そうに見えたんだけどな」

「プロちゃん、ああいうのわかるんです」

 

 そう言うと、プロットモンは普段のゆるい表情とは違う――どこか憂いを帯びた表情をしていた。

 

「ほとんど覚えていないですが、プロちゃんがプロちゃんになる前……何か怖いものにとらわれていたです。そして、プロちゃんもそれを良しとして――多くの命を奪ったのです」

 

 それ以上は覚えていませんが、とだけ言って彼女は寝てしまう。

 そういえばカノンくんはなぜプロットモンとも一緒にいるのだろうか。別に彼のパートナーというわけではないはずなのだが……

 

「それも、いずれ知る機会があるだろう。だが、今はその時ではないのさ」

「むぅ、クダモンもしたり顔で……絶対、何か知っているでしょ」

「詳しいことは知らないが、大方の予想はつく。問題がほかにもある上、私にできることは限られているからな。今は必要のないことは言わないでおく」

「はぁ……」

「結局、ストライクドラモンたちが戻ってくるのを待つしかないのね――ねえ、マキナ。カノンとはいつ知り合ったの?」

「いつ、かぁ……ちょっと言い難いというか、色々とややこしいんだよね」

「? よくわかんないけど……結構昔からの知り合いなの?」

「うん。それはそうだけど、最初に会ってからしばらくして……最近、ようやく再会したんだ」

 

 それまではウチの体も不安定だったし。

 カノンくんも忙しかった上に、ウィッチェルニーへ来る方法がなかったみたいだから。

 

「命の恩人、になるんだけどね……一応」

「一応?」

 

 それは、ウチが一度死んでいるから。

 別にカノンくんのせいではないし、ウチもそれを受け入れていた――でも、今はまた死ぬなんて嫌だと思う。いつまでも生きていたいなんて思わないが、それでも……

 

「…………入院する前は、お嫁さんになりたいなんて思っていたなぁ……」

 

 今のウチはお母さんにはなれないけど、お嫁さんになる夢は捨てなくてもいいよね。

 

「およめ、さん?」

「マキナ。その概念は殆どのデジモンは有していないぞ」

「人間界で暮らしていたプロちゃんたちぐらいしかわからないことです」

「カルチャーショックなんですけど」

 

 苦笑するしかないけど、お嫁さんがどういったものなのかライラモンに説明して――じゃあ、カノンくんのお嫁さんになるのと聞かれたときは不覚にも赤面してしまった。

 そういえば、相手が必要なんだよね…………彼以外に考えられないのはそうなのだが、そもそも他に男の子の知り合いなんていない。

 …………結局言葉を濁してしまったが、そっか……相手が必要なんだよね。まあ、そう考えると今はやっぱりよくわからないという感じだ。

 もうちょっと、大人になってから考えることにします。そのタイミングでカノンくんが部屋に入ってきたから、恥ずかしくなって発砲してしまったのは本当に悪いと思っている。

 

 ……ごめんカノンくん。でも、乙女の秘密だから許してほしい。

 




3章、公開までまもなくっすね。楽しみではあるが……言い知れぬ不安も感じるのもまた事実。

作者も書いていると忘れがちになるが、こいつらまだ小5だった。まあ、マキナは小学校に通っていませんが。一応、ウィッチェルニーでは勉強も見てもらっています。


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98.進化の始まり

とりあえず、なんだか変な感じの話に……


 マキナたちが行った宿屋に行く少し前。僕たちはピッドモンに化けている……ってのも実は語弊があるのだが、とにかくアイツを倒すための布石を色々と打っていた。

 というか全員で戦えば普通に倒せるし、ドルモンも完全体になればあっさり倒せてしまうのではないのか? とまで思える。成熟期なのは間違いないし。

 問題は暗黒の力がどんな影響を与えるかなんだけどね。

 

「しかし地味な作業だなぁ」

「しょうがないよ。何も知らせずにアイツと戦えば、この町の住人を敵に回すハメになる」

 

 そのため、僕らはこの町に集められたデジモンたちがその後どうなったのか、他にも色々と情報を得るために調べ回っているのだが……なんとも胸糞悪い話が出て来る。

 住人たちは気がついていないが、ルーチェモンの軍と戦うためにより大きな町へと行く道中の休息所がこの町――という建前で、集められたデジモンたちを少しずつ殺すか、はたまた暗黒の力で取り込んでいるか。

 

「少しづつってのがミソだ。一気にやったら周りの集落にも気が付かれて計画が瓦解する」

「計画ってのはなんだよ」

「多分、天界を崩すつもりなんだろうな」

 

 現に、この町にいるのは天界に住むデジモンたちばかりらしい。こうやって降りてくるのも稀で、普段は上からバランスを取るために動いているのだが……ルーチェモンの復活に際して表立って動き始めたのか。

 まあ、僕にできるのはこれ以上の被害を食い止めるだけだ。あいにく、目的が違うから同行はしないし。

 

「それに光で全部照らして解決する問題でもないだろうに」

「?」

 

 そうでなければ、あのピッドモンやルーチェモン、バグラモンのようなデジモンは誕生しないのだ。

 光あるところにまた闇もある。どちらから片方だけに偏った存在は、簡単にバランスが崩れる。

 

「そのわりにはこの作戦、力技じゃないの?」

「時間は短縮したい。それに、ターゲット以外には疲労回復効果として現れるんだから大丈夫だ」

 

 とまあ、そんなわけで色々と布石を打っていたわけなのだが…………

 

 ◇◇◇◇◇

 

 なぜに君は発砲するかね、マキナくん。

 

「ご、ごめんなさい」

 

 というわけでようやく宿屋に到着したわけだが……おいお前ら、目をそらすな。

 

「だって、カノンくんが周りのことを考えて準備しているだなんて」

「今までは基本的に余裕がなかったからだぞ。時間との勝負なのに周りを気にしていられるか」

 

 今回はむしろしっかり準備しないとドツボにはまる状況だからこうやってチマチマと作業してきたってのに……それに、この作戦は僕ではなくプロットモンとクダモンの力が必要だ。

 

「プロちゃんたちです?」

「別に反対するつもりもないが……大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫。ちょっと町全体に増幅したホーリーリングの力を打ち込むだけだから。そのための回路は作っておいた。町の住人たちは聖なる力を持ったデジモンたちばかりだし、暗黒系でもなければダメージはないよ」

 

 町の住人たちにも張り巡らせた回路のことは伝えてあるし、中央広場にピッドモンを連れてきてくれとも言ってある。サプライズにしたいと言ってあるのでピッドモンには伝わらないようにしているが……まあ、知られてももう止めようがないが。

 

「ってすぐに戦闘になるの!? 相手が強かったら……」

「大丈夫。あのピッドモン、成熟期なのは同じだから」

 

 僕がそう言うと、クダモンは目を見開いた。どうやら、ハッキリとわかったらしい。

 まあ、もともと色々な知識はあるし気がついてもおかしくないが。

 

「まさか堕天か!?」

「その通り。もともとピッドモンだから違和感なく変化できていたけど、こっちはデータを直接読む反則技だからな。ごまかされないよ」

 

 以前にノイズデジモンを見ていなかったら、看破できなかったかもしれない。あと、ピエモンのように変身能力を持つデジモンについて知っていてよかった。

 

「となると、あのデジモンは……」

「ああ。デビモンだよ」

「デビモンって、悪魔の姿をしたデジモンだよね……それが、どうしてもともとピッドモンだったってわかるの?」

「デジモンには分類で言う悪魔型デジモンはいない。大体が堕天使型なんだよ」

 

 もしくは魔人型か。魔王型もいるが、悪魔型なんて分類はいない。

 

「つまり元は同じ存在ってわけ。光と闇は釣り合っていなくてはいけないってね。バランスが崩れれば、簡単に堕ちる」

「それじゃあ、あのピッドモンは……」

「元々は光の存在だったとしても、今は違う」

 

 被害が出ている以上、このままにもしておけない。

 そろそろ作戦結構時間になる。みんなには所定の位置についてもらい、すぐに奇襲をかけられるようにしてもらうが……マキナは、大丈夫だろうか。

 

「マキナ、気にしているなら……」

「ううん。大丈夫だよ。ウチが気にしているのは、どうしてそんなに簡単にひどいことが出来るようになっちゃうんだろうって思っただけ」

「……別に、光も闇も変わんないよ。どっちも、強すぎれば被害しか生まない」

 

 闇は全てを飲み込み、光は全てを焼き尽くす。

 僕と他のえらばれし子供の間で妙な距離感がうまれるとしたらそこだろう。デジヴァイスXに聖なる力が宿っていないことともそれを示している――光も闇も関係なく、ただあるがままに。

 

「さてと、それじゃあ……いっちょやりますか!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

「ぐおおおおおおおおおお!? 貴様ら、何をしたぁ!?」

 

 周りのデジモンたちが、ピッドモンさまが!? そんな、なんでデビモンがなどと叫んでいるが……正直、こちらとしては予定調和過ぎた。

 それもそのはずだ。ザンバモンを倒した今、成熟期相手だと……こう、言ってはなんだが拍子抜けする。

 

「もうアレだから正直に言うけど、一目見たときからモロバレだったぞ僕の中では」

「それ、カノンだけだよ」

 

 ストライクドラモンも気が付いていたじゃないか。

 

「俺は違和感だけだ」

「これは手厳しい」

「貴様らの会話から、我が軍に何らかの動きがあったとは思っていたが……クソッ、連絡を取り合うべきだったか」「もしかして、彼は孤軍奮闘という奴なの?」

「黙れ! この俺様がそのようなみすぼらしい動きをするか! 俺様は、天界に潜り込み奴らを全滅させるためのエージェントよ! すでに楔は打たれた! この世界はもうおしまいだ!」

 

 フハハハハと高笑いさえ上げているが……正体がばれた途端にネタバレとか、古い――いや、実際にこの時代ならむしろ最新のトレンドどころか未来を先取り的な……話が脱線するからやめておこう。

 とりあえずやるせない気持ちになりながらも戦闘開始。町の住人達には下がってもらい、デビモンを取り囲むように僕らが動く。被害が出ないように中央広場に呼んだんだ。

 

「動きを制限すれば、人質をとられるなんてこともない!」

「クソッ、小賢しい真似を!」

 

 奴の腕、デスクロウという伸縮自在な腕による攻撃が迫ってくるが――正直なことを言おう。何度もネオデビモンと交戦する夢を見たせいで、あれより遅い攻撃だと、その……うん、ダメだ苦戦すらしなさそうな感じがある。

 マキナも師匠たちより遅すぎるとか言っているし、ストライクドラモンたちでさえ簡単に避けている。

 唯一苦戦しそうだと思っていたプロットモンもバリアーを張れるから攻撃は弾けるし……

 

「コイツ、僕たちとの相性最悪だぞ!」

 

 もちろんデビモン側が僕たちに対してだ。

 

「うるさい! お前ら――八つ裂きにしてくれる!!」

 

 そういうと、体から一気に闇の力を放出させた。

 体を取り巻く瘴気が膨れ上がり、奴の外見をさらに禍々しくさせていく。

 これは煽り過ぎたか? そう思った時だった。奴の眼が、僕たちよりも後ろを狙っているのに気が付いた。

 そして、僕たちを攻撃する振りをして、人質をとろうとしている。奴の顔が歪んだ歓喜を表し――、ちょっとキレた。体中の力を爆発させ、デビモンの腹に一撃を喰らわせる。

 

「――ッ!?」

「この期に及んで、町のみんなに手を出すってか……今まで、どれだけのデジモンを殺してきたよ」

「ふ、ふはは――そんなの数えきれんなぁ」

「ッ!!」

 

 体中から力があふれてくる。光の粒子が体を取り巻き、腹の底から何かが湧き上がってくるようだ。

 その様子をみたデビモンは驚愕に顔を歪ませ、翼を広げて飛び立とうとしていた。

 

「この、冗談じゃない――俺様がこんなところでやられるわけにはいかんのだよ! すでにルーチェモン様の計画は動いている! 天界だけじゃない! デジタルワールドの向こう側すらも我々は創りなおさねばならないのだ!」

「それで、多くの命を犠牲にするのか……いや、それだけでなく世界すらも破壊しようというのかッ!!」

「か、カノン君――?」

「これは……」

 

 体から力がほとばしり、僕の体を包み込んでいく。

 感じる。この力が進化――デジモンとなった今だからこそわかる、力が増大し、出来ることが増えていくこの感覚。身をゆだね、自らの変化を受け入れていく。

 脳内にアイギオモンから別のデジモンへと変化するデータが展開され――ちょっと、違和感を感じた。

 なんというか、方向性が定まらないというか、僕自身の意識と体の力の方向性の不和というか……体の変化は止まらない。確実に、僕の体が進化を起こしている。

 

「え、ちょっとまって……なんかこれ――」

 

 光が収まると、なんかファンシーな腕が見えた。マフラーはそのまま残っているが……なんだこの着ぐるみっぽいのに生身な感触は。

 すっごいもふもふしているんですが……

 

「なあマキナ、この姿……」

「えっと、とってもかわいいよ?」

 

 しかしこの場の凍った感じ。デビモンも唖然としているぞ、悪い意味で。

 ドルモン、目をそらすな。ストライクドラモンは何に受けたのか笑いをこらえている。ライラモンは元気出してね、って感じだし。

 自分のデータを見ると、完全体……パンダモン。

 

「もんざえモンと同系統じゃないかぁあああああ!?」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 あまりの状況に、カノンの意識が逸れた。その隙にデビモンは逃走を図るが、すぐにカノンが跳躍してデビモンを叩き落とす。

 こんな外見でも完全体のデジモン。それに、意外と肉弾戦には強かったらしく何度も殴りつけてデビモンをぼこぼこにしている。若干、八つ当たりも入っていた。

 

「なんでこんなんなんだ! 系統が違うだろうが系統が!」

「ぱ、パペット型は突然変異と同じく、系統は関係ない」

「知っているよッ!!」

 

 それでも叫ばねばならぬことがある。そう言いながらデビモンを殴り飛ばした。律儀に答えるあたり、彼も根はピッドモンという天使型のデジモンなのだ。反転してはいるのものの、ネタバレしたことと言いルーチェモンへは忠誠を誓っているあたりといい真面目なのかもしれない。

 それはそれとして、上に殴り飛ばしたことによりカノンの追撃が止まった。

 

「――あ」

「こんなところにいてたまるか! 俺様は貴様らの報告もかねて逃げさせてもらう!」

 

 そう言って逃走する――その後ろから、マキナが発砲して追撃したが。何発かヒットはしていたが、それでも残った暗黒の力で速度をかなり上げたらしく逃げられてしまった。

 残念と言いながら、マキナが銃を下ろし――カノンの進化も解けて元のアイギオモンに戻ってしまう。

 

「よかった、ファンシーな姿から元に戻った……あのままだったらどうしようかと」

「せっかくパペット型でお揃いだったのにぃ」

「勘弁してくれ」

 

 たぶん、何かの間違いか方向が定まっていなかったんだと思って、アレは気にしないことにしようとカノンは決めた。それにデビモンは逃がしてしまったし、このまま町にいるのも危険かもしれない。

 事後処理というか住人達への説明もあるし……

 

「これは、説明して夜を迎える感じかな」

「なんだか戦いの後が疲れるよ」

 

 そうそうに強い相手とぶつかることもないはずなのだ。この時代では。

 むしろザンバモンが特殊だったと言える。そのため、拍子抜けすることになったが……

 

「今後は油断しないようにしよう」

 

 流石に油断し過ぎた。

 今回の失敗は次に生かせばいい。それに一応は進化も出来たのだ。

 まだまだやることは多いなと、カノンは疲れからかあくびを一つかいた。

 




3章見ました。

なんかもう、遺伝子螺旋が見えたあたりでアイツが黒幕なんじゃないかと思いますが……そもそもカノンの役割の時点でリブートが起きないし。

というわけで、tri.は独自ルートもしくは最終章に組み込みとなるかな。


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99.神殿へ

書き終わってたのに投稿を忘れるという……というわけで、いつもと時間が違います。


 結局のところ、完全体への進化が可能になったのは事実で喜ばしいことなのだ。なのだが、釈然としないものがあるのも確かである。というかマフラーぐらいしか繋がりがないだろうに、何故……

 悩んでいても仕方がないこともある。とにかく僕らは前に進むしかない。その前に町の人たちに事情説明をする必要があったわけだけど。

 といっても目の前で実際に起きた光景ではあるし、信じがたいのも事実ではあるが彼らも反転や堕天といった自称については知っていたため思ったよりも早く事態を飲み込んでくれたけど。

 

「すいません、まさかピッドモン様がデビモンになっていたとは……」

「いえ、こちらもいきなりあのような形で暴くことになってしまい、おどかせてしまってすいません」

「驚いたというよりは、堕天については我々も知っておりましたし、その……それはそれで対応が穏やかだと思ったから戸惑っていたのです。最初はウィルスハンターさんのお仲間かとも考えておりましたが、違ったようで……ストライクドラモンがいらっしゃったので、もしかしたらとは思っていたのですが」

「なんだ、そのウィルスハンターってのは」

 

 ストライクドラモンが名前を出されたため、代理の町長の言葉に反応した。

 僕も気にはなるが……そのウィルスハンターってのは何なのだ?

 

「世界を回りながら、ルーチェモンの軍と戦っているとあるデジモンのことです。どのようなデジモンかは知りませんが、ウィルス種に対して強い攻撃性を見せ一切の容赦なく消し去るデジモンだと」

「なんという物騒な……」

「俺でもそこまでぶっ飛んだことはしねぇぞ」

 

 ストライクドラモンの特性ならそのウィルスハンターってのと間違えても仕方がないが……どうやらそのウィルスハンターってのはこの地域ではそれなりに有名らしい。といっても、森の方を中心に動いていたそうでストライクドラモンたちの町までは話がはいってこなかったようだが。

 

「そんなデジモンがいるのねぇ、ストライクドラモンと話があうんじゃないの?」

「俺と一緒にするな。いい迷惑だぜ」

「……ウチ、最初に会った時襲われたんだけどなー」

「うぐっ……それを言われると痛いんだが」

 

 バツの悪そうに呻くストライクドラモン。まあ、最初はいきなり襲い掛かってきたからなぁ、マキナに殺気向けて。流石にあれは擁護できん。結局、この日は夜も遅くなったため一泊することに。僕達も疲れていたからさすがん休養は必要だったのもある。

 デビモンが情報を持ち帰っているだろうし、明日の朝には出発しないといけないなぁ……

 

 ◇◇◇◇◇

 

 朝日が登った。意外だったのはストライクドラモンがものすごくきれいな姿勢で寝ていたことである。反対にライラモンは少しズボラだった……半分とはいえ、デジモンとなっている影響なのか性差というものをかなり意識しなくなっている。

 人間界に帰ったあと大丈夫か少し不安になるな。現に今までもマキナとも同じテントで寝ていたし。

 

「互いに、そこら辺の知識はあまりないから仕方がないとも言えるけど」

「んみゅぅ……もう朝?」

「日の出だ」

「うへぇ」

 

 まだ眠いのか、マキナはすぐにまた寝てしまう。ドルモンたちはしばらく起きそうにないな。ぐーすか寝ていやがる。となると、少し暇だな……外に出て進化できないか試してみよう。

 静かに外に出ていき、手頃な空き地まで歩いて行く。

 日の出と共に起きるのは少数だし、あんまり騒がしくならない程度に体を動かしてほぐす。

 

「疲れは大丈夫……昨日の感覚を思い出して、進化のイメージ」

 

 体の奥から力が湧き上がってくる感じ。いや、デジコアが急速に稼働するあの感覚。

 一度覚えれば、あとは意外と簡単だ。僕も普通のデジモンとは違うからか、この姿が基本となってパートナーデジモンたちと同じように進化は一定時間しか持たないらしい。感覚でだが、何となく分かる。

 もしもマキナが今後進化できるようになっても同じ感じになるかもしれない。人間としてのデータも持っている以上、大きく姿を変える事はできないのだ。デジコアの作用で一時的に上書きのようなことはできるのだが、根本的な書き換えはできない。対応した基本となる姿は変えようがないみたいだ。

 

「つまり、僕はアイギオモン。マキナはシスタモンが基本となる。それ以下の段階には退化はできず、進化は可能であっても一定時間が限度」

 

 デジタルワールドなら時間も長いだろうが、人間界ではそもそもアイギオモンの姿になれるかも微妙だな。

 そこら辺は事件が終わったら考えればいいか。とにかく、今は進化できるかできないか――いや、できるにはできそうであるが……普通に進化してもまたパンダモンになりそう、っていうかなるな。

 

「でも僕もドルモンと同じで、進化先が決定されているってわけじゃない」

 

 なんとなく、究極体の姿に思いあたりはあるのだが、それはそれで違和感もある。また、別の姿が頭にも浮かんだが……人型の影だけが脳裏に焼き付いている。あれは、どこで見たんだっけか?

 記憶をたどるが、どうにも思い出せない。

 

「考えていても仕方がない、か」

 

 現在の自身が取得しているDNAは、聖、暗黒、獣、竜……パンダモンは方向性を意識しなかった結果だろう。となるとデータ配分を調節できれば別のデジモンに進化できるかも知れない。

 しかし、それはそれで難しいな。自分で進化できるようになってわかってしまった。

 

「配分を間違えると、汚物系に進化する可能性がある――――ッ」

 

 そう、こうして自分がデジモンになってわかってしまったのだ。汚物系は、そこら辺の調整のミスみたいな事が起きて進化する姿だと。つまり、育成失敗的な…………

 

「それだけは阻止せねば」

 

 シミュレートと調整を重ねないとパンダモンなんか目じゃないほどのすさまじい何かになってしまう。そんな戦慄とともに僕はみんなが起きる時間まで調整を重ねることになるのだった。

 結果? とりあえず、変な方向に進化しそうになったらパンダモンになるように体に魔法式を入れておいた。安定はしていたし。

 その後は起きたみんなと共に町を出た。お礼にということで食料ももらえたし次の集落へ向けてすぐに出発したのだった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 目的地の深緑の森までは順調にすすんだ。

 特にルーチェモンの部下も現れず、すこしゆったりとしたものだったが無事に深緑の森までたどり着いたのである。で、この森の奥に目的地の木の神殿があるわけだが…………

 

「森っていうか樹海だよな」

「迷ったら死ぬよね」

「燃やしてつきすすむか?」

「ストライクドラモン、そんなことしたら植物系デジモンとして私は本気であなたと戦うわよ」

「冗談だよ、流石にそんなことしねぇよ」

 

 言っていい冗談と悪い冗談があるのである。今回の場合は後者だ。その為、結局わかっているなら言うなとライラモンにしばかれるストライクドラモンなのであった。プロットモン、鼻で笑うな。

 

「遊んでいないでとっとと行こうよ。デジヴァイスで大体の方向はわかるんでしょ」

「流石にここまで来て迷わせるつもりもないみたいだな」

 

 エンシェントワイズモンのおかげだろうが、デジヴァイスにつけておいたコンパス機能とリンクして神殿の方向を示してくれる。といっても、矢印を示すだけだからどのくらい離れているかはわからないんだけどね。

 地図データも完璧じゃないから、未だに性格な位置はハッキリしない。大体の位置がわかっているだけマシだけど。まあ、先へ進むしかないわけで、僕らは森へとはいっていった。

 

「薄暗いよぉ」

「あんまり離れて動くなよ。この森、結構デジモンが潜んでいるから」

「そいつら強いのか?」

 

 ストライクドラモンとしては、腕鳴らしに戦いたいようである。こいつ、結構なバトルジャンキーなんだよな……道中、組手と称されて少し付き合わされたけど、吸収率が良いからあんまり手合わせしたくない。

 体力を使いすぎるわけにもいかないから、軽くにしておいて良かったよ。

 それはそれとして、森の中のデジモンたちだが……

 

「セピックモンか、遠くにはアロモンも見える。どっちもアーマー体だな」

「強さは?」

「それほどじゃない。完全体のライラモンがいるから迂闊には近づかないようにしているっぽいよ」

「なんだか傷つくんだけど」

「これは失敬」

 

 しかし、お陰で助かっている。大きな羽音もしているためこのような狭い場所でアイツと戦うのは嫌だし。クワガーモンって結構どこにでもいるんだよね。

 でも珍しいデジモンの姿も見える。妖精のような姿をしたデジモンや見たこともない植物型デジモンがいたりなど。そういえば、僕らの時代よりもだいぶ過去だし、未来じゃいなくなったデジモンもいるのか。

 古代種と呼ばれるようになった彼らはこの時代でないと見ることはできない、と。

 

「……」

「カノンくん、どうかしたの?」

「いや、ちょっとさびしいなって」

 

 もしかしたら、アポカリモンの中にはそんな残らない種の寂しさもあったのかもしれない。そんな、感傷的なことを考えつつ森を進む。

 この森にいるデジモンたちを記憶に焼き付けるように。

 会話も少なく、険しい森を進んでいくと――やがて、開けた場所へとたどり着いた。ここへ近づいていく都度にデジモンたちの姿は見えなくなり、やがて僕らだけになったが…………胸の奥で、デジメンタルが反応するがわかった。どうやら、デジメンタルの力がこの場所へと引き寄せているらしい。

 

「たどりついたな」

「木でできた祠ね。ここが木の神殿?」

「伝説の十闘士サマがいるにしては、随分とこじんまりした場所だな」

 

 たしかに闇の神殿に比べたら、小さい神殿だが、木を象徴するからこそこの起きさなのだろう。それによく見ろふたりとも。確かに神殿は小さく見えるが、どこに作られているんだと思う?

 

「どこに? それは――おい、この祠…………後ろの木とつながっているのか?」

「あ、本当だ!?」

 

 そうなのだ。ストライクドラモンたちが驚いているとおり、祠は木とくっついており、大きな木がまるごと木の神殿となっているのだ。この祠はただの入り口だろう。

 自然の象徴である、木の神殿らしいといえばらしいのかもしれない。

 

「この中に入るのかぁ……大丈夫だよね?」

「神殿にははいったことないからな。とりあえず、開けてみよう」

 

 扉を開けようとすると、デジメンタルが体から飛び出して強い光を発した――そして、ガチャンと鍵が開く音がして扉がひとりでに開いていく。どうやら、このデジメンタルは鍵の役割をはたしてもいるらしい。

 さて、エンシェントワイズモンたちの話の通りなら試練を受けなくてはいけないらしいが…………扉の奥は、黒い空間が広がっている。っていうか、この感覚覚えがあるんだが。

 

「カノン、ミラージュガオガモンの封印されていた遺跡と同じ感じがするよ」

「ああ。どうやら同じタイプの封印らしいが…………」

 

 となると、あの遺跡は何のためにあったのかが気になるところなのだが、今それを知る術はない。

 

「俺達としてはお前がデジメンタルを持っていたことに驚きだけどよ。珍しいもんでもないが、使わないでとっておくのか?」

「これは特別製で、十闘士の神殿を周るのに必要なもの――そういえばこの時代だとデジメンタルは普通にあるのか。すっかり忘れてたわ」

 

 となるとドルモンのアーマー進化もできるかもしれない。普段使っているのが使えなくなったのなら、この時代で調達すれば良いのか。まあ改造が必要になるから、話に聞く機械都市までいかないといけないだろうなとは思うが。ここからだとどれ位距離があるのか……地図を見ると、そこそこ離れているな。そっちに行くよりも先に雷の神殿に向かうほうが早い。

 

「…………まあ、チャンスがあったらだな」

「今更アーマー進化使うのって感じだけどね」

「備えあれば憂い無しと言うだろうが。保険だよ保険」

 

 プロットモンに対応したデジメンタルも作れるかもしれないし。暴走の危険もあるから色々と調べておきたいこともあるんだ。

 横道にそれた話はそれぐらいにして、とりあえずいい加減に神殿の中に入ろうか。

 

「カノンくん、わざとそらしていなかった?」

「…………悪い、少しトラウマがあるんだよ」

「右に同じく」

 

 生身で究極体と戦わされた思い出があるんだ。この手の封印ポイントには。

 それに今回は最初から究極体が中にいることがわかっている。せめて、心の準備はさせてほしい。

 

「いいから黙っていきなさい! ウチたちも一緒に行くから!」

「ああああ!?」

「そんなご無体なッ」

 

 マキナに押される形で、僕らは神殿の中に入ってしまった。

 そして、十闘士の試練が始まる。僕達に課せられる、最初の試練が。

 



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100.力の道しるべ

やーおーるー


 黒い空間を抜けてゆっくりと歩いていく。薄気味悪いというよりは、空気が違うというか……空間全体から強い力を持った存在を感じる。まるで、巨大な怪物の腹の中にいるみたいだ。

 

「怖いこと言わないでよ」

「洒落にならないわよねー」

「あながち間違いではないがな。十闘士ともなれば、それほどのパワーをもった連中だ。体を失い、その力を神殿という形で残しているが、見方を変えれば神殿そのものが彼らの体と言ってもいい」

 

 つまり、僕らは自ら彼らの体の中へ飛び込んだということか。

 ストライクドラモンが上等じゃねぇかと好戦的な笑みを浮かべているが、実力差があり過ぎて勝負にもならないと思う。というか直接対決だったら僕らも勝てるかわからないっての。

 ドルモンも以前にミラージュガオガモンとの戦いでは苦い思いをしていたから、少しやるせない顔になっているな。そういえば、あの時ドルモンのデジコアに潜り込んだが……あの時のデータの一部が、今の僕にも引き継がれているらしい。

 竜のDNAを持っているのはそれが原因だろう。

 

「うまく利用できるかもな」

「どうかしたの?」

「いや、こっちの話――っと、そろそろ開けた場所に出るぞ」

 

 やがて大きなホールのような空間に出た。といっても輪郭がわかるだけで周りは真っ黒なんだけどね。

 あたりを見回すが、どこにもデジモンの姿は見えない。

 しかし力の波動は確実にあるわけで、いないはずはないのだが――と、なにかが動くような音が響いてきた。ガチャガチャと規則的に聞こえるこの音は……歯車?

 地面が揺れて、何かが迫ってくるのがわかる。

 

「なにコレ!?」

「どうやら来たみたいだ――ッ!?」

 

 黒い空間を突き破って、巨大な何かが躍り出た。

 地面を一度蹴るたびに大きな揺れが僕たちを襲い、身動きを封じてしまう。

 

「なんてデカいデジモンなんだ!」

「流石にアレと戦うのはゴメン被るぜ」

 

 ストライクドラモンも匙を投げるほどの巨体。というかあのサイズ、アポカリモンを除けば今まで見てきたデジモンの中でも最大級だ。あれ以上となると、ギガシードラモンが上回るかどうかというところだろう。

 断言しよう。デカすぎて今の僕らじゃまったく勝ち目がない。

 マキナが銃を構え、ストライクドラモンが臨戦態勢に入っているが――どういうわけか、目の前のデジモンには闘志すらない。なんというか、ただそこに立っているだけなのだ。

 

「待ってくれ二人とも、どうやら戦うつもりはないらしい」

「で、でも……」

「黙っていたらやられるぞ。勝てないにしても、なんとか退路は作らないと危険だ」

「だから戦うつもりはないみたいだから大丈夫だって……そもそも、試練が必ずしも戦いになるってわけでもないだろうし」

 

 とは言うものの、これで戦いになったらマズイなぁとも思わけだが。

 兎にも角にもこの巨大デジモン――エンシェントトロイアモンがどのような試練を与えるかにかかっているわけだ。心して彼の言葉を持っていると、予想よりも甲高い声が響いてきた。

 

「うむ。状況を読む晴眼やよしである。余の名はエンシェントトロイアモン! 木の十闘士、植物デジモンたちの祖なるものぞ!」

「え、私の祖ってことなの!? 機械系じゃなくて!?」

 

 あからさまに嫌な顔をするライラモン。気持ちはわかるが、木の属性である以上植物系デジモンなんだろうな。体は木でできているし。しかし、大きな歯車や大砲、見た目も巨大なからくり木馬だし……正直鋼の十闘士じゃないのかといいたくはなるのだが、そこはつっこんではいけないんだろう。

 というかよく考えたら、体を機械化したりパーツを組み合わせて作られる機械系は元来別の種だし、そういった技術や概念が生まれるのは十闘士の誕生よりも遅いのか。

 

「となると、木を加工して作られたからくりの姿をしていても植物型ってのはあながち間違いじゃないのかもしれない」

「だからって、アレはないでしょうアレは!」

「余でも流石に傷つくぞよ。まあよいわ。それで、おぬしたち、何故ここに来た。ここは、余の空間……ルーチェモンの封印を施した、余の魂のステージじゃ」

「知っているかもしれませんが、僕たちは――」

 

 詳しい説明をしようと口を開いたが、彼の足が大きく動いて言葉を止められる。

 そして、片足を限界まで上げたポーズをとったのち再び地面に下ろされた。

 

「なるほど封印を解除し、奴が復活しようとしておるのか」

 

 今のでわかったのだろうか……というか今の動作にいったい何の意味が!?

 みんなもぽかんとしているが、正直な話――帰りたい。

 こいつ、かなり面倒な性格をしていやがる。しかも勝ち目がないからなおのこと質が悪い。

 

「なんじゃ。無言になりおって」

「あ、あはは……それで、事情が分かったなら試練の方をお願いします」

「うむ。よかろう」

 

 そういうと、いきなり足を折りたたんでエンシェントトロイアモンは僕らに目線を合わせてきた。いや、無理に合わせなくてもいいんですが……目が赤く光っていて、怖いです。

 しばらく無言が続いて――よしと頷くように首を振り、言葉を発した。

 

「おぬしたちにとって、力とは何ぞや」

「力? 力って言われても……」

「そんなもの、強さの証明だぜ!」

 

 ストライクドラモンがそう叫ぶや否や、爆発と共に彼の体が吹き飛んだ。一瞬のことだったが、エンシェントトロイアモンが砲撃したのだ。幸いなことにかなり手加減しているようで派手に吹き飛びはしたが威力はそこまでではない。心臓に悪いが。

 というか彼が足をたたんだのは砲撃をしやすくするためだったのか……うかつに答えるわけにはいかなくなった。ライラモンはストライクドラモンを助けるため、走っていってしまったし……さて、どう答えるか。

 

「だ、大丈夫よね? ウチたちも吹き飛ばされないよね!?」

「プロちゃん、泣きそうです」

「……なんて答えれば正解なのかわかんない」

「そんな!?」

 

 というか正解なんてあるのかコレ。やるせない気持ちになりながらも、嘘をついてもアウトな気はするので、とりあえず正直に答えるしかないか。

 

「意味のないもの、だな。僕としては」

「――――ほう、その意味やいかに?」

「大事なのは力じゃなくて、使う側の心だと思う。力そのものは、何の意味もない」

「なるほどなるほど、ならば問う。世界を滅ぼす爆弾がその手にある。そして、眼前には一体の敵――倒さねば世界が滅ぶが、爆弾を使えば世界が滅ぶ。敵は確実に倒せるがの。さて、おぬしならどうする?」

「そんな……それ、どっちにしたって滅ぶじゃないのよ!」

 

 マキナの言う通り。どちらにしろ、世界が滅ぶ――ように見えるが、実際のところはそうではない。

 それは分かったのだが、さて何と答えるか……似たような状況を経験しているため、どうにも答えづらいのだ。爆弾使っちゃったし…………

 

「カノン、この質問って……」

「ドルモンも気が付いたか」

「うん。ちゃんと考えればすぐに気が付くひっかけだよね」

「え、ひっかけ?」

「そう。爆弾があるとは言っているし、敵も眼前にはいるとは言った――でも、爆弾を使わなければ倒せないとは一言も言っていない」

「そ、そういえば……」

 

 諦める。爆弾を使う。選択肢が二つしかないように見えて、その実爆弾を使わずに倒すという選択肢もあるのだ。先ほどいきなり砲撃をしてきたことで妙に爆弾の印象が強くなってマキナはその点に気が付かなかったようだが……でも、この解凍にも一つ弱点がある。

 

「爆弾を使わなければ、倒せる保証はないがの」

「そこなんだよなぁ」

 

 この場合、爆弾を手にしている人物がどの程度の力を持つか語られていない。話の流れで僕をモデルにしてもいいのだが、敵の強さがどの程度か語られていないため勝ち筋を作るのは無理だ。

 となると実質的に爆弾を使わざるを得ない状況になってしまうわけで――いや、別にそれは関係ないのか。

 

「使わないで戦う」

「ほう――理由は?」

「勝つことを前提に考えていたからドツボにはまったんだ。この話で大切なのは、心だ。世界を滅ぼさない選択をとるため、力に対してどう向き合うか。結果はどうなるかはわからない。この話で力の差は語られていない。どちらが強いかなんてわからないんだから、戦ってみなくちゃわからない。

 それに、そもそも戦う必要があるのかもわからないからな。もしかしたら説得できるかもしれないし」

「なるほど、面白い答えだ。余はこのように兵器そのものの姿に進化した。必要だったとはいえ、今でも思う。力とは何なんなのか。対話もまた一つに力だ。単純に強さだけを求めても力と言えるだろう。

 千差万別であるが、等しく言えるのは使うもの次第で世界を救いもするし、滅ぼしもする。どのような力であってもだ。だからこそ、方向性を決める心が必要なのだ」

 

 その心をおぬしは示した――その言葉と共に、僕の目の前に木のエレメントが現れた。

 

「余の力、おぬしに預けよう。それと、ストライクドラモン。おぬしの答えもまた一つの回答としてはありだが、いささか短絡的に過ぎる。もっと頭を柔らかくするがよい」

 

 そういうと、エンシェントトロイアモンはすくっと立ち上がって駆け出していった。

 黒い空間にその姿が消えていき、やがてあたりには静寂が訪れる。

 なんというか、割と自由な感じだったなぁ……

 

「って、今のが試練なの?」

「問答というかなぞかけ、みたいなものなんだろうな。兵器の姿に進化したからこそ、力の使い方を知りたかったってことなんだろう。まあ、とにかく4つ目のシンボルも無事に手に入った」

「…………俺は、無事じゃねぇぞ」

 

 黒焦げだけど、普通にしゃべれるし大丈夫だと思う。腹に大穴が開いたわけでもないんだからグチグチ言わないでもらいたいものだ。

 

「それ死ぬだろうが!」

 

 ごもっともだけど。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 神殿を出ると、デジヴァイスに次の神殿への矢印が表示された。

 地図データと照らし合わせると、この方角は……雷の神殿か。

 各属性のエレメントを手に入れるとその属性の魔法も強化されるし、これはいい感じではないだろうか。雷のエレメントを入手すれば、この旅も楽になる。

 

「でも、雷の神殿ってこの森の先なのよね? たしかこの先って……」

「凶暴な虫デジモンたちがうようよいるって聞いたことがあるな。強い個体も数多い」

「やっかいだなぁ」

「できればルーチェモンの部下以外とは戦いたくないんだけど、どうするの?」

 

 マキナの言う通り、普通に暮らしているだけのデジモンと戦うのは若干気が引ける。

 ライラモンの話からすると、究極体はさすがにいないだろうということだが……やっぱりクワガーモンが大量にいるらしい。ほんとどこにでも出てくるのな。あとオオクワモンもそれなりにいるとか。

 

「グランクワガーモンもいやしないだろうな」

「グランクワガーモン?」

「いや、知らないならいい」

 

 この時代にいない可能性もあるのか。クワガーモン系の究極体ってことで名前は知っていたのだが、アレはあれで古代種データを持っていると聞いたこともあるし……うーん、そこらへんどうなっているんだろうか。

 ゲンナイさんも秘密主義というか、色々と頼みごとをする割には隠し事が多いというか…………ピエモンに埋め込まれた球が悪影響を及ぼしているのではないかと邪推してしまう。根深い所にあって、取り除けないし……本当に大丈夫かあの人。

 

「カノンくん、難しい顔してどうしたの?」

「いや、ちょっと知り合いのことを思い出して……とりあえず、今日はここでキャンプを張るか。神殿の近くだから他のデジモンたちもよってこないだろうし」

「その方がいいだろうな。しかし、雷の神殿に昆虫型デジモンの棲息する森、か……」

「どうかしたのか、クダモン」

「いや。変に意識するのもいけないからな。忘れてくれ」

 

 クダモンはそういうが、もしかして他の十闘士について何か知っているのではないだろうか。

 雷と昆虫型の関連――いや、昆虫型で雷属性のデジモンに心当たりはあるが…………クダモンもそれ以上は何も言わないし、聞かない方がいいのだろう。

 ただ、ストライクドラモンを見て意味深な視線を時々向けているのは気になるが。前に、もしやなんて呟いていたし…………

 

「――彼だけは、死なせてはならない」

 

 クダモンが、ストライクドラモンをみてそう呟いていたのをついぞ僕は聞き取ることはなかった。ただ一人、ライラモンがその言葉を聞いていたが……もしも、それを早く知ることが出来たらあの結末を変えることが出来たのかもしれない。

 今より先、二つの神殿を越えたあの時に。

 

 




長々と続いたから、少し駆け足。
雷の神殿までは早いです。というか、試練パートはそこまで長くするつもりはない。


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101.乱戦! 乱戦! 乱戦!!

 木のエレメントを入手して、翌日の朝。

 すでに日は登ったが森の奥はまだ薄暗い。というより、木々が生い茂っているため常に薄暗い。夜になるとかなり危険だな。というわけで、日が昇って時間に余裕を持たせてぬけることにしたわけなのだが、デジモンたちの咆哮も少し聞こえてくるあたり、危険度はそれなりか。

 

「大丈夫なの、これ」

「わからん。木のエレメントのおかげで森の力を借りれそうだけど……地形的には不利なんだよなぁ」

 

 あんまり無茶なことはできないし、場所が狭いと戦いにくい。炎系の攻撃を使うストライクドラモンは周りを燃やしかねないし、ドルモンの進化も狭い場所には不向き。プロットモンも防御能力は高くなったが、攻撃には向かない。

 クダモンの進化も高速戦闘向きで、スピードを活かせない状況になると厳しいものがあるらしい。マキナは何とか戦えそうだが、狭いと狙いをつけにくいだろうし……

 

「ライラモンと僕で迎撃しつつの逃げの一手だな。無駄な戦闘は避けるべきだ」

「それしかないみたいよねぇ……毒の粉撒きながら進んでみる?」

 

 いや、無用な戦いは避ける方針だからね。敵を作るやり方はやめよう。

 

 

 

 そんなことを言っていたのが、1時間ほど前のことである。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「うわああ!? 数が、数が多い!」

 

 なんというか、案の定というか……虫系デジモンの大群が現れて、襲われた次第である。

 クワガーモンにフライモン、ドクグモンに他にも色々。ほとんどがウィルス種だ。ワクチンはいない。

 

「なんでこうなっているのかなぁ!」

「クソッ、本能がうずきやがる……こうウィルス種ばかりだと力を解放しそうになっちまうぞ!」

「耐えろストライクドラモン! ドルガモンが迎撃してくれているから道を開いたら前に進むぞ」

 

 最初のうちはなんとかやり過ごしたり、木のエレメントを使って樹液データで気をそらしたりなどとやっていたのだが……予想を裏切ってくれたのは、デジモンたちの数だった。

 合計で100体はいるんじゃないかというほどの大群。流石に全部を相手していられないので、ライラモンの毒の粉を使ったり、目くらましやバグ化魔法を使ってやり過ごしていたのだが……数が多すぎた。むしろどんどん増えてきていやがる。

 

「うへぇ……ライラモンさんは、もうダメデース」

「しっかりしろ。まだ来るぞ」

「もういやぁ」

 

 ライラモンはすっかり体力を使い果たしてしまい、クダモンが進化したレッパモンの背に乗っている。この状況では体力を使うのは危険なため、僕もマキナもドルモンとクダモンを成熟期までにしか進化させていない。

 スピードを出せる状況ではないため、遠距離攻撃の可能なドルガモンの方が有効と判断したのだが……

 

「数が多すぎるよ! 一気に蹴散らせないの!?」

「森を壊すわけにはいかないっての! 僕たちが世界を壊してどうすんだよ!」

「前に爆撃やったじゃないか!」

「ちゃんと被害が出ないように計算しとるわ!!」

 

 前に使った爆撃は開けた場所だからやったのであって、周辺に被害は出していない。

 今回の場合は、森の中のため一体一体対処しているんだが……ダメだ。こういう状況に僕らは相性が悪い。

 僕が一体を殴り飛ばせば、次の二体が現れる。ストライクドラモンが突っ込んできて蹴り飛ばしてさらに増える。それを魔法剣で切りとばせばあらたに――ってもういいわ!

 

「仕方がない。みんな固まっていてくれ。プロットモン、全力で防御!」

「わかったです!」

 

 プロットモンのホーリーリングが強く輝き、光のバリアーを展開する。全員がその中に入ったことを確認し、マキナに合図する。

 すぐに僕の意図を組んでくれて、マキナは闇の魔力を放出した。

 

「いくよ、カノンくん!」

「おう!」

 

 何度も使っている光と闇の融合技。いつもは僕一人で使用していたが、それでは負担も大きいため自身の属性に目覚めたマキナと共に調整しながら完成させたのが、この技だ。

 僕が放出した光の魔力とマキナの闇の魔力が混ざり合い、周囲へとはじめとぶ。そして、バリアーに包まれていたみんなと僕ら以外のデジモンたちが混ざり合った混沌のエネルギーにからめとられていった。

 

「ケイオスフィールド、バージョン2!」

「範囲は絶大よ」

 

 今まで一人で使っていた時以上にエネルギーを込められるので効果範囲も格段に広がった。その分、近くに味方がいると使いにくいのだが、プロットモンのバリアーで何とかその問題もクリアした。

 デジモンたちが麻痺したかのように落ちていき、痙攣しだす。一応調整したからダメージはないのだが、しばらくはその状態が続くだろう。

 もう一つの欠点としては一気に体力を消耗することだが。

 

「ぷはぁ……さすがに一日一発が限度か」

「結構疲れるね、これ」

「だがこれで先へ進める。こいつらが動き出す前に急ぐぞ」

「オーライ。まったく厄介な連中だよな」

 

 クワガーモン系って理性とんでいるの多いから、結構しつこいんだよな。

 願わくばこのまま無事に森を出たいところだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 なんて、考えたのがいけなかったのだろうか。30分後、目の前に新たなデジモンが現れた。

 怒涛の展開なんて言えば聞こえはいいかもしれないが、流石にもう限界である。

 

「ガアアアア!!」

「今度はオオクワモンか!」

「もういやぁ!!」

「ドルガモン、まだ行けるか?」

「ゴメン――もう無理」

 

 その言葉通りに、ドルガモンはすぐにドルモンへ退化してしまう。レッパモンもクダモンに退化してしまい、背に乗せていたライラモンが地面に落ちた。

 

「げふぅ……ダメ、私もういや」

「嫌なのは皆同じだ、そして早くどいてくれ……重い」

 

 後ろからは怒り狂ったクワガーモンが迫ってきている。いやぁ、この森の虫系は強いね。蟲毒みたいな感じで強い個体だけが残っていっているのかもしれない。それでもこの数ってどういうことだオイ。

 

「カノンくん、現実逃避していないで何とかして!」

「無茶言うな! こちとら一番動いてんだよ!」

 

 魔力もほとんど残っていないし、体力も限界近いぞ!

 虎の子の進化を使うか? だけど制御しないとどんな姿になるかわからないし、パンダモンになるとほとんど魔法使えないんだよなぁ……魔力も残っていないとはいえ、全く使えないほどではないから麻痺でワンチャンあるアイギオモンの方がまだマシだ。

 

「せめて、メタルグレイモンみたいな特徴を残したままの進化なら……って、どうしたんだストライクドラモン」

 

 なぜかさっきから黙っていたストライクドラモンが妙に気になった。

 静かにし続けているので、どうにもおかしいと思ったのだが……

 

「グルウウアアアアアア!!」

「やばい、ウィルス種に囲まれ続けたせいでタガが外れちゃったんだ!」

 

 ライラモンの言う通り、ストライクドラモンが暴走状態に入ったのだ。

 唸り声をあげて、オオクワモンにとびかかる――その様子に、周囲のデジモンたちも呼応してとび上がってきた。再び現れる虫系デジモンの大群。これはマズイかとなけなしの魔力をひねり出そうとして――ゾクリと、嫌な気配を感じた。

 狙われているのは僕ではない。ほとんど、周囲の虫型デジモンに狙いが定まっている。だが、この視線――マキナへと続いていて、嫌な予感が脳裏をよぎる。

 

「――ッ、伏せろ!」

「ふぇ!?」

 

 マキナの頭を地面に抑えつけ、防御術式を起動する。もしもの時のために一回分だけ用意しておいてよかった。気休め程度にしかならないが、謎の気配は周囲のウィルス種たちだけを狙って降下してきた。その一瞬で、両手の鎌を使いデジモンたちを切り刻む。必殺とも取れる一撃だが、数が多い故に急所を確実に狙ったものであり、なおかつ威力自体は小さい。

 

「ッ、何者だ!」

 

 なんとか防御できたが次はどうなるかわからない。それに、自前の硬さでオオクワモンはまだ生きている。他にもなんとか回避できたデジモンたちはいるが……あの一瞬で、たくさんのデジモンたちが殺された。残ったデジモンたちはオオクワモンを除き、一目散に逃げだしていってしまっている。

 そして木々も切り倒されており、彼を中心にまるでクレーターのようになっていた。

 

「――――ウィルス、排除」

「成熟期……スナイモン」

 

 そして、前に聞いた話が脳裏によぎった。

 ウィルスハンター、確かにスナイモンにはそういう性質があったよな……だけど、ここまでの強さのスナイモンなんて僕は知らない。

 ライラモンがスナイモン? といった反応をしており初めて名前を聞いたようだったが……

 

「まさかコイツ、原種なのか!?」

「ウィルス、殺す!!」

 

 マキナに向かって飛んできたそいつを残った魔力を全てつぎ込んだ魔法剣を使い、食い止める。

 原種。便宜上僕がそう呼んでいるだけで、実際のところなんと呼称されているのかは知らないが――ひとつの種として、最初に現れたデジモンのことをそう呼んでいる。

 たとえるなら世界で最初に現れたグレイモンならそいつを原種と呼んでいる。最初に進化した個体が現れると、デジタルワールドのサーバーにそのデジモンの情報が記録され、他のデジモンもそのデジモンへの進化が可能になる、といった具合だ。

 最初故にその個体は後から続いたものよりも強力な場合が多い。それもそのはずだ。今までなかった進化を生み出した存在だ。強いに決まっている……まあ、汚物系とかは例外かもしれないが。

 ちなみにドルモンの進化が厳しいものになったのは、このサーバーにデータがないからというのもある。”ドルモン”のデータはあるようなのだが、成熟期以後がなかったみたいだ。

 

「シャドウ・シックル!」

「魔法剣、グレイダルファー! 電力、最大!!」

 

 奴の鎌と僕の剣がぶつかり合い、周囲にエネルギーの余波をまき散らす。

 後ろでは、オオクワモンとストライクドラモンが戦っているが……どうする? あいつの暴走も止めないといけないし、スナイモンを相手し続けるってのも得策ではない。

 何とかストライクドラモンの暴走を食い止めつつ、この厄介なデジモンを相手する方法――ひとつ思いついたが、ネックは僕のエネルギー量。

 

「なら、ウチの力受け取って!!」

「ついでだ! おれの分も渡すぞ!」

 

 そういって、マキナが展開した魔法陣から僕に向かって光の球が二つ、飛び込んできた。マキナとドルモンのエネルギー。マキナが膝をつき、ドルモンがドドモンにまで退化してしまう。

 だけどおかげで何とかできそうだ!

 

「いくぞぉ!!」

 

 迫るスナイモンに、魔法剣を炸裂させ一時的にでも麻痺状態にする。体を無理やりにでも動かし、前へと突き進もうとするその執念はすさまじいものを感じるが、マキナをやらせるつもりはない。

 おとなしくオオクワモンに向かってくれたのなら良かったのだが、ウィルス種相手に見境なく遅いかかるこいつを野放しにもできなかった。

 麻痺している少しの間にオオクワモンとストライクドラモンの戦いに割って入り、両者を蹴り飛ばす。地面に激突したストライクドラモンはすぐに起き上がり、僕に向かって怒鳴りつけてきた。

 

「てめぇ、何しやがる!」

「そっちこそ、目は覚めたか?」

「ッ、悪い……意識飛んでた」

「覚めたならもういい。ストライクドラモン、お前はそっちのスナイモンを頼む」

「――ワクチン種にみえるが」

「ある意味でお前の同類だよ」

 

 僕がそういうと、ストライクドラモンは何かを感じ取ったのか、ああと頷いた。

 両者ともにウィルス種を殲滅する本能を持つデジモン。そのシンパシーゆえか、ストライクドラモンはスナイモンを痛ましそうに見つめる。

 

「…………俺も、ああなっていたのかもしれないな」

「…………感傷に浸るのは後だ。まずは、この窮地を脱するぞ」

「分かった!」

 

 ストライクドラモンがスナイモンに向かって飛びかかり、同時にスナイモンが動き出す。

 僕は反対にオオクワモンにとびかかり、硬い身体を崩すように拳をぶつけていった。

 だけども奴も強力な力を持っており、鉄の塊を殴っているような感覚さえしているのだ。

 

「コイツ、硬すぎるだろッ」

 

 何度もその大きな鋏で挟まれそうになるが、なんとか回避する。この個体、僕らの時代にいる奴よりも強いんじゃないのか?

 基本的に過去の方が弱い法則があるのだが……それは全体を通してみた場合だ。より過酷な環境もあるため、場合によっては強いこともあるのだろう。

 

「この場合はうれしくないけどね」

「ガアアア!!」

「ああもう、こうなったら進化しかないけど……」

 

 やれるのか? 一抹の不安がある。だけどやるしかない。

 

「いいや、やってみせる!」

 

 この土壇場、決めなきゃだめだろうが!

 体の内側の力を爆発させるように、進化の感覚を手繰り寄せながら自らの体を変質させる。

 前にパンダモンになった時とは違い、今度は強いイメージ――竜のデータを意識しながら体に力を巡らせていった。ドルモンのデジコアに潜り込んだ時に流れ込んできた、竜のデータを。

 

「いくぞ、超進化!」

 

 直後に、体の内側から強大な力が吹き荒れた。

 意識が持っていかれそうになるほどのエネルギー。どこに眠っていたのかと思うぐらいに、体中を駆け巡っていく。手綱を握るように力を組み伏せ、鎧の形として上半身に纏う。

 体が少し大きくなり、視線が高くなっていく。体の形が大きく変わったわけではないが、背中に少々の違和感を感じる。

 

「でもまあ、成功だ」

 

 完全体、アイギオテゥースモン。どうにか、強化型の進化を獲得できたみたいだな。

 とりあえず、一気に決めるとしますか!

 



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102.OVER

「すごい……」

 

 マキナの眼から見ても彼、橘カノンが新たに進化したデジモン――アイギオテゥースモンの放つ力はすさまじいものであった。

 体中から迸る雷、上半身を覆うように現れた赤い鎧は竜DNAより構築されたものでありドラモン系に近い特性を秘めている。

 

「みんな、少し離れていてくれ……あまり加減できそうにない」

「ガアアア!!」

 

 咆哮を上げてオオクワモンが迫ってくる。進化したばかりで力のコントロールが不十分なのか、カノンが飛び上がるだけで周囲に電撃がまき散らされた。

 マキナ達も慌てて離れるが、プロットモンが何とか防がねばダメージを受けていたかもしれない。

 

「ちょっと痛いです!」

「凄まじい力だ……並みの完全体を凌駕しているぞ」

「うん、それは分かる……でも、少しカノンくんらしくないっていうか、なんか違和感がある」

 

 あれもまた適正にはあっているのだが、マキナから見るとどうにも違和感がぬぐえない。ドドモンも同じく普段のカノンとは何かが違うと思っていた。彼はそれを口には出さずに状況を静観していはいたのだが。

 

(一番近いので、イグドラシルに意識を持っていかれていた時か……似てはいるけど、カノンの意識はちゃんとある。なら、大丈夫か)

 

 心配するほどのことではない。

 そう思い、彼も何も言わない。今はカノンのことを信じるのみだった。

 カノンも空中を駆け上がりオオクワモンと激突する中、自分の放出する力のコントロールに集中していた。出力が安定しない……いや、力が強まり過ぎて体がついてこれないのだ。

 

「クソッ、まだパンダモンの方がコントロールしやすかったぞ!」

「シザーアームズΩ!!」

 

 電子音に近い声が響き渡り、オオクワモンの鋏が一瞬だけ大きく輝きカノンへと迫る。流石に出し惜しみはできないかとカノンも体から雷撃を放出してバリアーを展開し攻撃を防ぐ。

 すぐさま魔力でプレートを構築し、足場にしてさらに上空へと飛び上がった。直後に、カノンがいた地点を強力な攻撃で切り刻むオオクワモン。

 

「あぶねぇ……一気に勝負をつけるしかないか」

「ッ――」

 

 苛立つようにオオクワモンは腕を振りあげ、カノンへと攻撃する。

 飛行能力がないためカノンは空中に一瞬だけ足場を作り、ジャンプするように回避するがそれも長く続けられない。完全体に進化したことで演算能力も上がり色々とできることは多くなったみたいなのだが……

 

(ヤバい。酔いそう)

 

 データ量が多すぎてダウンまで残り数分といったところだ。

 とにかくまずは相手の動きを止めなくてはならない。

 一気にオオクワモンへと接近し、雷を杭状に変化させてオオクワモンへと突き放った。

 

「ライトニングパイル!」

「――ッ!?」

 

 地面へとオオクワモンを叩き落とし、杭で縫い付ける。一本だけではすぐに脱出するだろうが――このライトニングパイルは一度突き刺すと、次に放つ杭は誘導されるように命中する。

 最初の杭が次の杭を引き寄せ、必中の技となるのだ。

 

「連射連射!!」

 

 手、足、羽、体、頭と次々にオオクワモンの体を縫い付けて拘束していく。

 そして最後に、角からカノンの体全体を覆うほどの雷撃が放出され、雷の鎧となって力を極限にまで高める。そのままオオクワモンへと突撃していき、竜の鎧によって強化された筋力にて高速のラッシュを放った。

 

「ボルトブレイクノックダウン!!」

 

 拳に雷撃を集約し放たれる、怒涛の攻撃。

 オオクワモンの硬い身体を砕いていき、最後に雷撃を放出しきり吹き飛ばす。

 同時にカノンも進化が解除され、アイギオモンへと戻るもののこの戦いに勝利したのだ。

 どさりと地面に倒れ、ぷはぁと息を吐く。

 

「ダメ、疲れた……っていうか流石にもう新手は来ないよな?」

 

 体に力が入らないと言いながら、カノンは地面に寝転がる。横目にまだストライクドラモンとスナイモンが戦っているのが見えるが、ほどなくして決着がつくだろう。

 あまり気負う必用もない。戦いの果てにしか拓けぬものもあるのだから。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ストライクドラモンはスナイモンとの戦いの中で、自身の存在と向き合わなければならなかった。

 これもまた一つの運命。歴史がどう動こうと、この二体が出会うのは必然であり、この戦いもまた避けては通れぬもの。ウィルスを駆逐する存在同士が出会い、本能に抗うものと呑まれたものが戦う。

 

「この野郎、何も考えずに呑まれて戦って、それで満足なのか!」

「排除、全て――排除スル!」

 

 スナイモンの斬撃がストライクドラモンに迫り、体を傷つける。致命傷を避けつつ接近していくがダメージはある。それでももう一人の自分ともいうべき存在と戦うことで彼の胸中には絶対に負けるわけにはいかないという思いが芽生えていた。

 誰に負けてもいい。この先後悔することもあるだろう。だが、こいつだけには――

 

「自分自身にだけは負けられねぇんだよ!!」

 

 攻撃のさなか、自分のデジコアがスナイモンに呼応するように脈動していた。

 ウィルスバスターの本能が刺激され、ストライクドラモンの意識を乗っ取ろうと暴れまわっている。ストライクドラモンはそれを、握りつぶすように抑え込んだ。

 黙っていろ。これは、俺の戦いだ。お前の出る幕じゃない。

 

「――ッ!?」

「俺は負けねぇ……負けられねぇんだよ!!」

 

 漠然とした強くなりたいという思い。ここまでくる中、世界の一部だが色々なものを見てきた。

 それでも、酷いことをする奴がいて、なんとかしようと戦っている奴らがいて――ただ強くなりたかった自分を恥じた。どんな奴でも、目的があって前に進んでいた。悪い奴だろうが良い奴だろうがそれは関係ない。両者ともに、自分では持ちえない信念や願いがあった。

 

「だから、もっと先へ――ッ!」

 

 前へと進み続け、ストライクドラモンにも更なる道が拓ける。

 それはまだつぼみだ。花開くのはまだ先になるだろう。それでも、大いなる力となってストライクドラモンの糧となる。彼に芽生えた勇気が、さらなる力をもたらすのだ。

 

「白い、炎」

「ぶっ飛びなッ!」

 

 青い炎ではなく、白い炎が彼の体から噴き出す。

 本来とは違うイレギュラーな成長でありながら、どこか正しいとも思わせる何かがあった。

 炎を纏った拳がスナイモンに突き刺さり、暴走したデータが噴き出していく。

 

「ガアアアア!?」

「ッ――このデータ、強力なワクチンプログラムだと!?」

 

 まるで体を蝕むウィルスデータだ。いや、どちらも本質は同じなのだろう。方向性が違うだけで、両者ともに同じものから派生した存在。

 光と闇と同じだ。元は同じでありながら二極化した力。

 そして、暴走したデータの中が彼の体にも流れ込んでくる。何とか押し返そうとするが脳裏に映像が流れ込んできて防ぐことが出来ない。ストライクドラモンに同調するように流れ込んできたそれは、スナイモンの記憶。

 スナイモンが幼いころから戦い、どこかの誰かにプログラムを改変され――やがて、今の姿へとなったもの。自分を改造した誰かを殺し、世界を蝕むウィルスデータを駆逐し、ルーチェモンの軍勢と戦って――殺戮のみを行うデジモンへとなり果てたこと。

 その根源、戦いの最初の記憶――泣きながら、誰かの亡骸に寄り添う芋虫の様なデジモンが見えた。

 

「――――ッ!?」

「ガアアアアアアアア!!」

 

 データが壊れようとも、スナイモンは止まらない。

 ストライクドラモンを殺そうと、その鎌を振り下ろし――その前に、再び胸を貫かれた。

 

「アアアア、ア」

「わりぃな……俺も気持ちはわからねぇわけじゃねぇ。別れってのはつらいよな。俺だって、耐えられるかわからねぇよ……でもよぉ、それだけだと寂しいじゃねぇか。もう、十分だろ」

 

 スナイモンはその言葉に鎌をゆっくりとおろし、ストライクドラモンに抱きかかえられる。何かを呟いて、鎌をストライクドラモンに近づけ、彼も一つ頷いて鎌を握った。

 

「わかった。お前の意思は俺が継いでやるよ」

 

 やがてスナイモンは空気に溶けるように消えていき――ストライクドラモンだけがその場に残された。炎も消えており、戦いが終わったことを告げていた。一陣の風が森の中を吹き抜け、あたりに静けさが戻る。

 ゆっくりと膝をつき、緊張の糸が切れたのかそのまま固まってしまう。

 

「えっと、大丈夫?」

「心配すんな。別に平気だ……他のみんなはどうした」

「カノンたちもお疲れって感じ。オオクワモンは倒したし、カノンも完全体になっちゃったけどね」

「そうか、やっぱまだ追いつけねぇか」

「気長にやろうよ」

 

 ライラモンはそういうが、自分より先に完全体になった奴にいわれてもなとも思うストライクドラモン。まあ、完全体になるには経験よりも精神面での成長が重要になってくる。

 いくら経験を積もうと、至るのは容易ではないのだ。

 究極体ともなると、一体どうすればいいのかわかったものではない。

 

「……どうする? 今日はここでキャンプか?」

「あはは、流石にそれは厳しいよね」

 

 苦笑いしているとおり、またクワガーモンたちに襲われないとも限らない。

 とにかく移動しなくてはならいのだが……全員、疲れがピークを越えていた。

 

「ひとまずは休憩するしかねぇな。もうちっと奥で休めそうな場所を探そう」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 少しの休憩の後に一行は先へと進んだ。

 雷の神殿までは距離はさほど離れていないとはいえ、何度か野宿することになる。ちょうどいい場所を見つけ出し、キャンプの準備を整えるころには月が昇りあたりも暗くなっていた。

 全員の疲れはたまりにたまっており、みんなすぐに寝てしまっていたのだが――二人だけ、まだ目を覚ましている。木の上に登り、月を眺めているカノンとそれを見て続いてきたクダモンだ。

 

「……」

「何を黄昏ているのだ。お前も疲れは溜まっているのだろう」

「クダモンか……いや、思ったよりは平気だよ。ドルモンとマキナがエネルギーを分けてくれたおかげかな」

「それでも体の疲労は残っているはずだが?」

「まぁ、それはそうなんだけどね」

 

 視線は月を向いたまま、カノンはクダモンと会話する。

 デジモンの命を奪い、それでも前に進まなくてはいけない。

 

「正しいことって、何なのかなって思ってさ」

「それは誰にもわからないさ。終わってみなければ、正しかったことかどうかなど判断できない」

「難しいこと言うなぁ……まあ、わかるけどさ」

「お前ならわかると思ったからな。マキナならもう少しストレートに今すべきことを考えろと言っている」

「そりゃ手厳しいことで……なあ、クダモン、ストライクドラモンのことなんだけど」

 

 彼の戦いを少し見て気にはなっていたのだ。

 アレは普通のデジモンではない。クダモンも何かを知っているようではあったのだが、ここまでそれを口にすることはほとんどなかった。皆が寝静まり、二人だけだからこそカノンもその話題を口にする。

 

「……確証はないが、私にとっても所縁の深いデジモンだろう」

「それって、どういうことだ?」

「おそらくは未来において、彼の存在は重要となる。私たちが過去に来なかった場合――未来から過去へ異変の原因となる物が送られなかった場合、この世界を平定するのは彼の仕事だったはずだ」

「それにしては無鉄砲すぎると思うけどね」

「ああ。どこかで時間の歯車がずれたのだろう。何かのきっかけが失われたのか、はたまた……いや、それは置いておくことにしよう」

 

 クダモンは自分の中で何か答えが出たのか、それ以上は言わなかった。カノンが再び聞いてみてもそれこそ確証がないと考えを口にしない。

 

「だが忘れるなよ。この時代はこの時代に生きる者たちのモノなのだ。我々も本来なら異物。こうしてここに正常な状態でいられるのは、それだけの理由があるからだ」

「ああ……本当なら、僕たち自身が時間を歪めてしまう要因になる。なのにそうならないのは……」

「私たちが過去において何かをなしたことが歴史データに刻まれているから、だろうな。あのバグラモンがお前に隠していた以上、知られた時点で成立しない事柄なのだろう」

 

 知ってはいたのだ。だからこそバグラモンは必要な時が来るとカノンたちを鍛えていた。魔王と呼ばれる存在ではあるが、彼もまた世界のために戦った存在だ。過去の異変により、世界が滅ぶことはよしとするはずもない。

 

「結局、僕らがこうして戦っているのは歴史の流れからしたら決まったことなのかねぇ」

「かもしれないな」

「……なんか、一つぐらいは反抗したくなるな」

「やめてくれ。それで未来が劇的に変わる可能性もあるのだぞ」

「分かってるよ。でも、何でもかんでも決められているってのはちょっと癪に障る」

 

 ポケットから運命の紋章を取り出し、強く握りしめる。その際、別の硬いものにも手が当たったので何だろうと取り出してみると――半透明で青い色のゲーム機が出てきた。しかも、少し壊れている。

 

「……やべぇ、気が付かなかった」

「待て、どうしてそんな大きなものを入れていて気が付かないんだ」

「ほらこれ薄いから」

 

 ちなみにカラーだよと、続けるがクダモンからすればそれこそどうでもいい。

 

「……お前もその手の娯楽に興じることがあるのだな」

「どんなイメージだよ」

 

 げんなりとするカノンだが、とりあえず完全に壊れていないかどうか見てみる。おそらくは自分の電撃のせいであろう。ショートして爆発しなかったのが奇跡に近い。

 分解してみないことにはわからないが……たぶん修理はできないだろう。

 

「ハァ……諦めるしかないか」

「……」

「? どうかしたか、クダモン」

「いや何でもない」

 

 あの雷撃の中、これだけの損傷で済んだのか? その事実に、何かこの端末に異変が起きているとは思ったのだが……まさかなと切り捨てて、マキナのところへ戻る。

 カノンももう一度溜息をついて、ゲーム機をポケットの中へと戻した。帰ってから考えればいいことだと――思った以上にはやく、日の目を見ることになるのをこの時はまだ、誰も知らなかったが。

 




アプモン見ましたー。とりあえず、最近の子供向けは妖怪の影響を受けてんなぁと思いつつ見ていたらいきなり触手。
そして最初の選択肢がなんかフロンティアを彷彿と……

なんだろう、テイマーズの時のにおいがするぞ。後半一気に暗くなるんじゃねぇのって感じがするぞ。


カノンがもっていたゲーム機は、最近話題になっていますがあえて名前ださないです。まあ、デジモンにも所縁がありますしわかる人はわかるでしょう。


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103.雷撃の試練

活動報告にカノンとドルモンのキャラ設定を少し載せました。


 オオクワモンやスナイモンとの激闘から早数日。その後は特に目立った出来事もなく無事に雷の神殿へたどり着くことが出来た。

 大きな岩をそのままくりぬいて作られたような神殿で、ギリシャに行けば似たような神殿は見られるかもしれないといった感じの見た目だ。例によって大きな扉が一つ見えているわけだが……

 

「なかなかに重そうな扉だよなぁ」

「だね」

 

 デジメンタルが起動し、扉の封印は解除してくれたが……手で押さなければいけないんだろうなぁ。とりあえず、全員で思いっきり押してみるが――ヤバい、少しずつだけ動いていく。これ、結構時間かかるぞ。

 

「扉を開けるのも試練の内ってことなの!?」

「たぶんな……これ、ガチ系の試練がまっているんだろうなぁ」

 

 汗を噴き出しながら、全員で扉を開けるのに要した時間30分。全員が通れる隙間だけ開けるのにこれだけかかるとか……とりあえず中に入ると、それを見越したのかガコンと扉が閉まる。

 その様子をみてマキナとライラモンが涙目になっているが……気持ちはわかるが、前に進まなくてはいけない。とりあえず足取りが重くなるのを感じて暗闇の中を突き進む。

 

「雷の神殿、なかなかにハードな予感がするなぁ」

 

 愚痴っていても仕方がないので歩みは止めないが、嫌な予感というのはよく当たるもので開けた場所に出たとき、中央に強大な気配を持ったデジモンが座しているのが見えた。

 静かに佇んではいるものの、一歩を踏み出すのをためらうほどに強大な力を放っているのがわかる。

 

「――――よくぞ参られた、世界を救いし意思を持つ者たちよ」

 

 エンシェントビートモン。雷の十闘士、そしてやはりというべきかカブテリモンやクワガーモンなどの昆虫系デジモンの祖。光子郎さんのテントモンの進化系のデータや、この一帯のデジモンの感じから考えて昆虫系とはあたりをつけていたが……想像以上の力を内包している。

 

「我が預かりしは雷の力。強大な力の塊を御する術を持っているか、見定めさせてもらおう」

「つまり、力のコントロールを示せってことか?」

「いかにも。故に、我に挑め。それがここでの試練なり」

 

 究極体と戦えってことか――デジヴァイスを握りしめ、臨戦態勢を整える。別に、倒すことが勝利条件ではない。ここで示すべきは自分の力をどれだけ把握しているかってことだろう。だったら、全力で挑んで――と、考えていたところ、エンシェントビートモンはさらに言葉をつづけた。

 

「だたし、我に挑む者は成熟期までとする!」

「なっ――!?」

「可能性を示せ! ただ力のみを示すのではない。その可能性を示すのだ!」

「う、うそでしょ!? 究極体相手に成熟期のデジモンだけで戦えっていうの!?」

 

 マキナが驚いている通り、あまりにも無茶な試練だ。それも十闘士相手に……通常の究極体とは一線を画す力を持っているんだぞ。それこそ、全力なら一体一体がオメガモンクラスの存在だ。

 この試練ではライラモンは参加できないし、マキナはエンシェントビートモンの気に当てられたのか足が震えている。プロットモンは防御能力は高いが……ちょっと厳しいか。

 

「……ドルモン、行けそうか?」

「ちょっと難しい。おれは進化しないと力も上がらないし、それに……たぶん相性悪い」

 

 たしかに、ドルモンの能力では相性が悪い。せめてアーマー進化が出来ればサンダーバーモンと僕の電撃の合わせ技でエンシェントビートモンの攻撃をそらすことは出来そうだったのだが……となると、控えてもらう方がいいか。

 

「なら、ドルモンは他のみんなを頼む。マキナがあの状態じゃクダモンも戦えそうにないしな」

「すまないが私は最初からパスさせてもらうよ。十闘士相手じゃ私では歯が立ちそうにない」

「別に勝つ必要があるわけでもなさそうだけど――仕方がない、僕がいくしかないか」

 

 体をほぐし、エンシェントビートモンの前へ出ようとして、横にもう一人歩いてきた。

 ストライクドラモンが肩を回しながら少しけだるそうにしている。

 

「悪いが、俺も挑戦させてもらうぜ――ここで黙って見ているわけにもいかねぇよ。俺なら成熟期だから条件にも当てはまる」

「下手したら、消し飛ぶぞ」

「上等! 分厚すぎる壁だが、挑戦しねぇ理由にはならねぇよ!」

「なら、遅れんなよ!」

 

 体の力を解放し、一気に加速する。ストライクドラモンも最初から青い炎を纏って突撃していった。

 いざとなったらバーストモードを使用するしかないが、まずは相手の能力を分析しなくてはいけない。

 見た目はあらゆる昆虫のパーツを組み合わせたようなものだ。カブトムシ、クワガタムシ、カマキリなど。ケンタウルス状の体で、下半身はクワガタの顎がついているが、蜘蛛のようにも見える。

 背中にはいくつもの羽が生えており、それを使って高速で飛行してきて――

 

「考えるのもよいが、判断を見誤らないことだ!」

「緊急防壁ッ!」

 

 いくつもの防御魔法を瞬時に展開し、鎌を防ぐ。しかしまるでバターのようにたやすく防壁は切り裂かれていきすぐに攻撃が到達しそうになっていた。

 

「速度強化、視覚強化、肉体強化」

 

 一瞬一瞬を油断できない。ストライクドラモンの腕をつかみ、エンシェントビートモンの攻撃をかわす。恐ろしいのは一撃必殺級の攻撃がラッシュで来ることだ。単なる鎌としてだけでなく、槍のように刺突しても来る。

 

「――なっ!? 速すぎんだろ!!」

「それが十闘士の実力ってことだろう……」

 

 そして、こんなのが十体も必要だったルーチェモンはどれほどの化け物だというのか。

 

「少々の誤解があるようだから言っておくが、単純な攻撃性能なら私は十闘士でもトップクラスだ。もっとも、光、闇、火の三者は規格外だがな。あとはパワーだけなら土がトップだったか?」

 

 確かにパワー型の見た目をしていたな……あれと直接戦うことがなくなってよかったと思うべきか?

 

「それと、ルーチェモンも我らが戦ったときは成長期のデジモンだった――――この意味が分かるか、少年たちよ。すでに力を極めた我らではなく、未来ある君たちでなくては奴を倒すことはできん」

「――――ッ」

 

 改めて言われた事実が重い。それに、僕は七大魔王のルーチェモンがどのような存在だったか、断片的であるが情報を持っていた。

 そう、十闘士が戦ったルーチェモンはまだ成長期。そして七大魔王と呼ばれる存在は――完全体。

 今更ながらにこの時代でするべきことの果てしなさを重く感じる。

 

「だけど、立ち止まるわけにはいかないんだ」

 

 エンシェントビートモンの分析は終わった。彼の体を構成するコードは解析できている。悔しいが今の僕じゃ勝ち目はない。雷の属性であるがゆえに最上位に位置する彼とは絶望的に相性が悪い。

 だが、それは一人で戦った場合だ。

 

「合わせろよストライクドラモン――じゃないと、一瞬でおわるぞ」

「上等だッ! テメェこそ遅れんじゃねぇぞ!」

 

 身体強化魔法を全種発動し、一気に加速する。それに合わせストライクドラモンも炎の勢いを強くし、僕に追従した。チャンスは少ない。砂漠の中から米粒一つ探し出すような苦行だ。本当にわずかな隙を見出し、そこに全力を注ぐしかない。

 針の穴を通す慎重さを求められながら、巨大な岩を破壊するパワフルさを同時に求められる試練。

 

「それでこそだ! 運命に導かれしものたちよ!」

「運命とか関係ねぇんだよ! 俺は自分が信じた通りの道を進む!」

「その意気やよし――喰らえ、我が雷!」

 

 ストライクドラモンがエンシェントビートモンの放つ雷撃の中を突き進む。一度でも当たれば危険な技だ。これでも大分手加減しているのがわかる。雷撃の雨の中、ストライクドラモンがそのポテンシャルをフルに使い攻撃をかわす。

 僕も前へと突き進んでいるが彼の方が少し速い。

 

「――ッ!」

 

 その爪がエンシェントビートモンへと迫り――ぐるりと、その体が回転して攻撃が空振りに終わる。

 

「なに!?」

「昆虫型デジモンは巨体に進化する傾向が強いが、それでいて身のこなしも軽い。我も同じ特性を持っているのだ!」

「だけど、それは空中機動があるからだ!」

「――!?」

 

 確かにこの場はストライクドラモンの方が速い。だが、本来は僕の方が速い。属性というのは能力にある程度の影響を及ぼす。雷の特徴は強大なエネルギーもそうだが、総じて素早いものが多い。

 雷を身にまとい、速度を高める。僕が最初に習得したのは雷の魔法――そして、そこから派生した身体強化魔法だ。他の技なんかに比べて年季が違う。

 

「こちとら幼稚園児の時から使い込んどるんじゃぁああ!!」

 

 拳を振り抜き、エンシェントビートモンの頭部を殴り飛ばす。流石にほとんどダメージは与えられなかったが、さらに隙を生み出すことはできた。

 すぐに反撃が来るが――迫りくる鎌の横っ腹にストライクドラモンの爪がぶつかる。

 

「――ほう、なかなかのスピードだ」

「ッ、とんでもなく硬いぞ!!」

「クロンデジゾイド並みみたいだからな! そりゃ硬いだろうよ」

 

 両腕を横に突き出し、手のひらに球体の光が出現する。

 ストライクドラモンが何をする気だというような視線を向けるが、僕はそれを封殺した。

 

「いいから動き続けてくれ! 一瞬一瞬の判断で動かないといけないんだ! こっちも説明できない!」

「わかった――しっかり合わせやがれよ!」

「そっちこそ、驚いて思考停止すんなよ!」

 

 ストライクドラモンの動きがさらに上がる。炎の色は白に変わり、エンシェントビートモンの雷撃をわずかだがはじくまでになった。

 一定密度のエネルギーなら、あの攻撃も弾けるのか。だったら……

 

「コード・エイリアス&バーストモード!」

 

 分身体を二体作り出し、さらに自身はバーストモードへと移行する。分身体はそれぞれ光と闇の属性の魔力を身にまとい、特攻を仕掛けた。

 ストライクドラモンがそれを見て一歩下がりエンシェントビートモンが追撃する。

 

「ハァ!!」

「――――よし」

「ッ!?」

 

 だけどそれが狙いだ。光と闇の力の解放により、対象を捕える技ケイオスフィールドが発動した。

 十闘士相手だと本当にわずかな時間しか持ちそうにないが――それさえあれば十分だ。この技を決めるだけの時間さえ稼げれば。

 僕自身は風を生み出す。バーストモードで高めた力をただこの一撃に。

 

「ストライクドラモン、しっかり決めろよ!」

「ああ――全力で行くぜ!」

 

 強力な竜巻を前方に放ち、エンシェントビートモンへと直撃する。しかし、それだけでは不十分だ。でもこの風の意図は攻撃だけではない。これは道なのだ。

 風の道をストライクドラモンが炎の塊となって突き進む。風の力により炎がさらに強大になり、巨大な龍の顎の様な一撃がエンシェントビートモンへと突き刺さる。

 直後に、轟音があたりに鳴り響く。爆風と衝撃が空間を揺らして一瞬だけ意識が飛ぶ。

 

「――」

 

 それでも踏ん張り、なんとかその場に立ち続ける。

 さて、次はどうする――なんて考えていると爆風が一気に晴れていき中からエンシェントビートモンが姿を現した。傷が無いように見えるが……これ、失敗したか?

 

「……ふむ、合格だ!」

「え……ご、合格?」

「ああ。我が試練はただ単に戦うだけではない。汝らが自らの力をどれだけ理解し、極限状態で引き出せるかを見るためのモノ。制限をかけたのは時にはそんなこともあるだろう、限られた手札を最大限有効活用できなければ強大な力を持ったとしても使いこなすことはできない」

 

 エンシェントビートモンの姿が薄れていき、目の前に雷のエレメントが現れる。そして、僕の内からデジメンタルが飛び出してエレメントを格納した。

 再びデジメンタルは僕の中へと戻っていったが――これで、雷の神殿の試練は終わったのか。

 煙も完全に晴れてストライクドラモンがふらふらと戻ってくるが……煤だらけになっている。

 

「お、終わったか……」

「うん。これでエレメントは5つ。折り返しだね」

「先は長そうだな」

 

 本当に。とりあえずみんなを回収して外へ出よう。そう思った矢先だ。直後に周囲を強い光が照らしあまりの眩しさに目を閉じる。

 すると、いつの間にか神殿の外へと出ていた。

 マキナ達も近くにおり、何が起こったのかときょろきょろとしていたが……

 

「試練も終わったから、外に出したみたいだね。流石にあの重い扉をもう一度開けろなんてことにならなくて良かったけど」

「まぁな」

「でも、これでようやく半分なんだよね。次はどの神殿?」

「えっと……近いのは火の神殿だな」

 

 近いとは言っても大分距離があるが。他の神殿に比べれば近いというだけだ。

 まだ先は長そうである。

 




ちょっとした番外編を計画中。
連載形式じゃなくて短編的な感じでカノンが別作品の高校に通う姿をやる感じの作品。

本編のネタバレは極力なしで行くつもりで、別枠で本編がドシリアスの時の息抜き程度にやる予定。


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104.今は知らずとも

今後の展開的にも色々と考えていた結果、時間も余計にかかってしまいました。
後半部分なんて予約してから書き直したよ……


 雷の神殿を出発してから1週間ほどのこと。

 まあ、何もないわ荒野が続いて疲れるなぁという感じに進んでいたのだが、今僕たちは――洗車しています。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「しかし、何をどうしたらこんなことになるんかねぇ」

「すいません、わざわざ手伝ってもらっちゃって」

「別に大丈夫ですよ。困ったときはお互いさまですし!」

 

 荒野を歩いていると、地面に線路を見つけたのだ。

 ライラモンたちにも確認したことで、これがロコモンの線路であることがわかり線路沿いに進むこととなった。目的地の火の神殿までしばらくかかるので途中の駅がある町で補給をしようと考えてのことだったんだけど……まさかその途中で、錆だらけで横たわるロコモン本人を見つけるとは思わなかった。

 何よりも驚いたのはロコモンにまだ意識があったことだ。マシーン型のためスリープ状態で助けが来るのを待っていたらしい。

 で、起こしてあげて彼の体を修理しているというわけだ。あと、外装の掃除。

 

「でもなんで倒れていたのさ」

「私もよく覚えていないんですよ。何か大きな爆発があったようなことは覚えているのですが……スリープしていた影響なのか記憶データに破損があるみたいで」

「ルーチェモンの野郎の仕業か?」

「本人じゃなくて部下だろうけど……可能性はあるかな」

「いえ、皆さんに伝説の存在がよみがえったとお聞きしましたが私が倒れたころはそれよりももっと前です」

 

 たしかに。パンジャモンの話も合わせて考えるならばロコモンはもっと前にここで脱線したことになる。となると別のデジモンなのか?

 ロコモンはあまり覚えていないと言ったが、どうやら人型ではあったのは覚えているらしい。候補が多いためどうにも判断はつかないが。

 

「まあ、旅の途中で何かわかるかもしれないな」

「よーし、ツタの準備できたよー」

 

 ライラモンが準備してくれていたものが終わったようだ。

 ロコモンにツタを撒きつけて、線路に戻すためのロープを作ってもらっていた。適切な位置に支店となる木を添えており、少ない人数でも何とか起こせるようにしたが……厳しかったらグレイドモンあたりの力が必要になりそうだ。

 

「完全体って結構疲れるんだけど」

「そう言うなって。それに、ロコモンの協力があれば火の神殿までの道のりが大幅に短縮できるよ」

「それもそうだけどね」

 

 線路は一部欠落しているらしく、復旧するには時間がかかるそうだが火の神殿に一番近い町――この時代においての唯一にして、大きさとしても最大の町である機械都市にまで線路はつながっているらしい。

 とりあえずロコモンにはそこまで乗せていってもらえることとなった。

 

「6つ目の神殿までは時間がかかりそうだけど……とにかく、機械都市って聞いてワクワクしないか?」

「うわぁ……カノンが久々に目を輝かせているよ」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 カノンたちがロコモンの修理と洗浄を行っているころ、この世界の各地で新たな動きが起こりつつあった。行動を起こしているのはカノンたちだけではない。

 ルーチェモンの軍勢も、他にも様々な存在が動き出している。

 

「ガアアアアアアアア!?」

 

 ここに一人――カノンたちに敗れたデビモンも、さらなる強さを手に入れるために自らの体を改造していた。データを無理やりいじるということは、デジモンにとっても多大な苦痛を伴う行為だ。ドルモンやマシーン型デジモンなどのように初めから改造できる機構を持っていないのならば、どうなるか。

 

「私は――わた、ワダッ。ギガガッガ、削除。コマンドプログラムAからRまでのデータのさく、さくさくさくさくさくさくさく――、」

 

 ガクリと体の動きがとまり、デビモンの色が変色する。その光景を見ていた一体のデジモンはつまらなそうに一瞥し、その場を離れた。

 改造自体は成功したが、これでは意識は残っていないだろう。ただの妬みや恨みだけでは強くはなれない。それを受け入れるか、乗り越えるか。はたまたより強い感情で吞み込むか。どのような形であってもデビモンの様な小物では土台無理な話だったか。

 

「まったくもって、度し難いことだ」

「そうは言うけどねぇ、メタリフェクワガーモン。強力な暗黒データによる改造を受けて自我を保てるデジモンなんてそう多くはないのよ」

「ブロッサモンか……それは分かっている。だが、ザンバモンがいなくなった今、我々も戦力を増強せねばならん。進軍中の軍はどうなった?」

「いつもの通り。ナイトモンの奴にやられたみたいよ」

「やはりか……光の神殿、殿下の力を取り戻すには件の神殿を狙うのが一番なのであるが、やはり一筋縄ではいかないか」

「そうねぇ…………あとは、デビモンが戦ったっていう彼ら、どうする?」

 

 その言葉にメタリフェクワガーモンは思案するように言葉を止める。

 彼らはルーチェモンの配下の中でもいわば将軍に位置する存在。完全体のデジモンであり、暗黒の力を受け入れつつ自我を保ったデジモンたちだ。

 そしてメタリフェクワガーモンが決断を下した。

 

「彼らが次に向かうのはおそらく火の神殿だ。ならば、機械都市に立ち寄るだろう」

「あら? そこで決戦?」

「いやそれはマズイ。あの都市で暗黒の力を使いすぎると我々にも不都合があるかもしれない。そういったリスクは避けるべきだ。ならばこそ、協力者に頼もうではないか」

「協力者って……もしかしてアイツ? アタシ、アイツ嫌いよ」

「案ずるな。わかっている。それに私自身も出る。準備を整えておいてな」

「……なるほど、そういう事ね。まったくあくどいことを考えるわね」

「褒め言葉として受け取っておこう。これも戦略の内だ」

「はいはい。だったらアタシは他の神殿の封印を解くために動くわ。アイツらが通った後なら手薄だろうし」

「それが良いだろう。氷の神殿の攻略はどうなっている?」

「それこそいつも通りよ。あそこ手ごわいわね。とりあえず、あのデジモンを動かすことにはなったそうだけど……やっぱりデータ量が大きすぎるわね。しばらくかかるわ」

「そうか……ではな、そちらは頼むぞ」

「ええ。またね」

「…………ああ、また、な」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ウチたちがロコモンの修理を終えたのは、日も沈んで星が空に浮かび始めた頃だった。実に大変だったけど、こうしてみんなで何かするっては純粋に楽しいとも思う。まあ、ちょっと不謹慎かもだけど。

 それにしてもカノンくんはなんで困った人がいるとここまで何とかしようと頑張ってしまうのか。ウチも助けられた人だから、あまり強くは言えないけど……

 

「ねえ、カノンくん。どうしてここまで頑張るの?」

 

 安全のため一旦今日はロコモンの車両の中で眠ることとなった。久々に屋根のある寝床で安心感もあったのかみんな寝てしまったけど、カノンくんとウチはまだ起きていた。

 それで、今まで気になっていたことを聞いたのだが……カノンくん、何のことだって感じでわかっていない。

 

「困っている人がいたら、すぐに助けようとするじゃない……どうしてかなって」

「ああ。そのことか……」

 

 カノンくんはそういうと、頬をポリポリとかいて言いにくそうに淀んで口を閉じる。でも何か言葉にしようとしてはいるみたいで、あーでもないこーでもないと首をひねっていた。

 

「……ごめん、やっぱりわかんねぇや」

「わからない?」

「うん。結局、その時になって体が勝手に動いているんだ……でも、一つだけ覚えていることがある。何もしないで取りこぼしていた方がよっぽどつらいし、それにな……マキナ。お前がいてくれたから僕は迷わずに済んだんだ」

「ウチが?」

「あの時、ありがとうって言ってくれたから僕はどんなにつらくても、闇に囚われようとしても前に進めるんだ。そうやって、前に進むことでつかめるものがあるって気が付かせてくれたから、僕はここにいるんだ」

 

 そう言って、カノンくんはウチの手を握ってきた。

 ……臆面もなく恥ずかしいことを言う人だ。っていうか顔が熱い。ウチ、どうしちゃったのかな?

 

「……」

「マキナ?」

「ううん。何でもない……おやすみ!」

 

 それだけ言って、ウチはカノンくんの顔を見ないように横になった。

 今は、彼の顔を見ることが出来ない。今日のウチはどうかしているんだ。だから、落ち着くまで寝てなくちゃ。

 その感情をなんていうのか、この時のウチはまだ知らなかった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 翌日、最終調整を済ませて出発した。機械都市までは長い道のりになるらしく車内で揺られながらのんびりと汽車の旅となる。

 ロコモンでも機械都市までは数日かかるため車内で寝泊まりの日々が続いていた。

 

 そして、今日は駅のある機械都市に到着する日だ。

 機械都市の次の目的地、火の神殿にいるのはエンシェントグレイモン……ストライクドラモンたちも彼の伝説に聞く強さは相当なものだと言っていたし、試練もおそらくは直接戦闘になるだろう。というより、それ以外に思いつかないというのが正解だ。

 

「ねえカノン、先に機械都市を通らないといけないんだし、それはまたあとで考えればいいんじゃないの?」

「確かにそうだよな。デジメンタルの調達とかも考えないと」

 

 あと、ゲーム機の修理ができないかも試さないと。

 でも一つ気になることも。ドルモン、なんで拗ねた感じなんだ。

 

「そっぽ向いてどうしたんだよ」

「別に。ただ、ちょっと思うところがあるだけだから」

 

 そういうと、ドルモンは後ろの方へ行ってしまった。今は問い詰めない方がいい、か。こういう時のアイツは一人にするべきだ。口に出した方がすっきりすることもあるが、自問自答でしか解決できない時もある。そういう時はアイツ、大概が静かな感じになるし。

 

「……それに、こっちの問題もあったか」

 

 昨晩からマキナが目を会せようとしない。あの会話が原因なんだろうけど、何故ここまで避けるのか。

 クダモンがぽんと肩にてを当ててきたが……何の意味があるんだそれに。

 

「日々成長だ、カノン」

「なんかムカつくんだが……」

「なに。私たちデジモンには本来わからない事柄だからな。お前たちで解決するしかないことだ。いつかきっと、わかる時が来る」

「だから何の話だって……」

 

 結局、その話はそれ以上することはなかった。

 何なんだよと思いつつ、それらの問題が解決するのは大分先になる。少なくとも、これから先向かう機械都市では別の問題が発生することとなってしまう。今の僕たちには知りようもなかったことだが――それ以上に、驚きもあったし。

 

「――――うわああ!? でけぇ!!」

 

 機械都市、それは巨大なドーム型の街だった。

 僕の言葉につられてみんなが窓からその街を見るが……大分離れているのにもう見えてきたという時点で巨大さが伝わってきた。

 距離にしてどれくらい離れているかはわからないが、あと数時間もかかるらしい。

 

「どんだけ大きいのよ……」

「歩いて行ったらそれなりの時間がかかるな。ロコモンだから数時間で済んでいるのだ。迷わないようにしないと大変だな、あの大きさは」

「でもなんていうか、SFチックな見た目だよな……」

 

 現代のデジタルワールドはまだ現実味があったが……古代だからか?

 とにかく、ようやく到着したのだ。

 

 

 

 今だ問題は多く、先行きもまだ不安定。

 敵も味方も思惑入り乱れた混乱模様。

 それでも、一つ一つ前へと進んでいた。

 未来がどうなるかは、僕たちの手にゆだねられている。その真の意味はいまだ分からずとも、前へ。

 

 




というわけで、名前だけは出していた機械都市にようやく入りました。


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105.機械都市

機械都市編開幕となります。といっても、そこまで長くやるつもりもないですが。


 都市に入って最初の感想は、僕らの時代のデジタルワールドでもここまでの都市は無かったよなぁということだ。いや、SFってレベルではない気がする。もはや古代文明というか超未来都市というか……

 ドルモンたちも口をあんぐりさせているが、僕だってこの光景は信じられない。

 

「凄いねぇ……デジタルワールドの機械都市ってこんな感じなの?」

 

 マキナは元の時代のデジタルワールドにはいったことがなかったから、こんな感想だが――いや、そもそも一般常識はほとんどないのか。そこらへんも追々教えていかないとな。

 ストライクドラモンたちもかなり驚いているあたり、こんな街がスタンダードなわけが無い。

 

「スゲェなオイ。噂には聞いていたがここまででけぇとはなぁ……機械デジモン誕生の地ってのは伊達じゃねぇな」

「本当ねぇ……街のデジモンたちも機械系ばかり」

 

 二人の言う通り、周りを見ても機械系デジモンばかりだ。ガードロモンのようなデジモンや、アンドロモンっぽいデジモンなど見たことがあるタイプから見たことのないようなデジモンたちまで。まあ、未来では生き残っていないのもいるし、まだ発展途上な部分があるから僕らの時代とは見た目が若干異なるデジモンもいるか。

 同じ名前だけど僕らの時代では姿が違うデジモンとは意外といるもので、例を挙げればファルコモンだろうか。モニタモンの里に行ったときに見たことがあるのだが、忍者っぽい鳥デジモンだった。

 だがこの時代のファルコモンは鳥! って感じのデジモンである。忍者の方とは違い飛ぶよりも走る感じだ。

 

「しかし気になるのは……なんか、マメモン多くね?」

「多いね。確かに」

「半分はマメモン系のデジモンだな」

 

 どうやらほとんどの住人はマメモン系デジモンらしい。となるとかなりの数の完全体がいることになるわけだが……いや、同じ名前でも世代が違う場合があるから一概にそうとは言えないのか。ホエーモンとかミノタルモンは成熟期と完全体で見た目変わんないし。

 

「とにかく、物資の補給とマップデータの更新をしないとな」

 

 マップの方は適当なコンソールを使えばすぐに更新できるからいいが、物資はちゃんと補給しないと今後が大変だ。デジメンタルも欲しい所だが、あまり無駄遣いはできないし。

 

「って、カノンくんお金持っていたの?」

「色々とやって調達はしておいた。あまり多くはないけどな」

「いつの間に……」

 

 マキナがげんなりしているが、未来でもデジタルワールドでお金の問題が発生したことはあるのだよ。丈さんからありがたいお言葉をいただいていたから、そこら辺の対策はしてある。

 というわけで、まずは物資の補給をすることに。地図も売られていたのだがデジヴァイスのナビ機能とリンクはできないため買わなかったのだが……

 

「……まあ、後で考えるか」

 

 ちょっと気になることがあったが、とりあえずやることやってからにしよう。マキナ達は色々と物色しているので、コンビニっぽい店の中をまわる。というか時代的にコンビニってどうなのよ。いや、っぽいだからいいんだけど……

 地図データも最終更新版ぐらいにはなったから今後の旅も少しは楽になる。しかし、色々なものが置いてあるが……やはり街の住人向けなのか機械パーツが多い。

 

「でもやっぱり、デジメンタルは売ってないか……」

「――お兄さん、デジメンタルをお探しですか?」

「ん?」

 

 声をかけられたので横を見るが、誰もいない――気のせいか?

 

「こっちですよこっち!」

「……ああ、下か」

 

 声をかけてきたのは、マメモン。それも他の個体よりも一回り小さいマメモンだった。

 少し高い声をしており、ちょっと幼さが残るような感じをしている。

 

「よければ、デジメンタル工房までご案内いたします!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 彼、マメモン……小さいのでチビマメモンと周りから呼ばれていた彼は、デジメンタルを作る工房で働いているらしい。この街の住人たちは大体が彼のように何らかの工房で働いているのだとか。

 

「デジタルワールド中の機械を作る我らの誇りですから」

「なるほど、この都市に機械系データが集約されているのか」

 

 いや、もしかしたらこの時代では一か所に一つのデータを集約しているのかもしれない。マップデータでも火の神殿は火山地帯にあるようだし……闇の神殿は例外だったが。いや、光と闇は集約し過ぎても危険だからか。

 

「それにしても、栄えているけどみんなどことなく元気がなさそうだね」

「確かにな。覇気がない。どういうことなんだ?」

「そうなんです。皆さん、近頃元気がないんですよ……僕、まだまだ見習いで大きな仕事は任されませんし、普段は工房で腕を磨こうとこもりがちなので……」

「なんで元気がないのか知らないと」

「はい……すいません、お役に立てませんで」

 

 別にそこで謝らなくていいんだが……まあいいか。

 彼の勤めている工房――町工場って感じの建物――に案内され、中を見て回る。確かにデジメンタルが色々とおいてあるな。しかし……ダメだなこれじゃ。彼には悪いが、これでは使えそうもない。

 ストライクドラモンやライラモンはへぇという感じで見て回っているが、彼らも使うことはないだろうしマキナも眺めているものの……難しい顔をしている。

 

「これ、誰が作ったの?」

「師匠や先輩たちですが、どうかなさいましたか?」

「うーん……あんまり言いたくはないんだけど、強度が低すぎない?」

「たしかに進化後の強度にも影響はしますし、強度があるに越したことはないんですが……暴走の危険もありますので、これ以上に硬いデジメンタルなんてとてもとても」

 

 そういえば、デジメンタルって壊れることもあるらしいな。僕が使っていたのは特別製だから壊れはしないが。というかこれだとドルモンも使うことはできない。

 プロットモンも首を横に振っているし、クダモンには古代種データがない。

 

「耐久度が低すぎて、ドルモンたちのデータにデジメンタルが耐えきれない」

「そんなデジモンがいるんですか!?」

 

 チビマメモンは驚いているが、X抗体持ちってのはそれだけの力を持っているのだ。潜在能力を解放されているし。まあ、この時代にはいないけど――いや、いるにはいるのだろうがイグドラシルが保存している存在だけだろう。たぶん。

 

「X抗体……はい、噂で聞いたことがあります」

「あるの!?」

「まさか、この時代にX抗体があるのか?」

 

 クダモンも驚いているあたり、そんな話なんて知らなかったことだろう。

 Xプログラムが万が一の時のための緊急システムなのはわかるが……抗体持ちがデジタルワールド内にいるとは思わなかった。

 

「闇のエリアの奥深く、グランドラクモンというデジモンがそんな力をもっていると聞いたことがありますが……ぼくも単なる噂話だとばかり」

「――――」

「クダモン? どうかしたの?」

「……なるほど、そういうことか」

 

 その話を聞いたとき、クダモンは何かに合点がいったという感じで頷いていたが、僕たちはさっぱり何だが。

 

「心配はいらない。私の中では色々と合点がいったが、知っていいことでもない。というより話すことはできないのだ。色々とロイヤルナイツのことにも関わる上にこの世界の根幹にかかわることだ。

 ルーチェモンたち七大魔王でさえも手出しはしないだろうな。それに、奴がいるのは別領域――ダゴモンの海のように我々のいるデジタルワールドとは少々異なった位相にいる。出会うこともないだろうな」

「いや、名前からして色々と嫌な予感がするんだが」

「安心しろ――私たちの時代ではもう生きていない」

 

 クダモンはそういうが――もしかして、ロイヤルナイツが何かしたのか?

 答えてはくれなさそうだったが、とりあえずその話は記憶の隅にでも置いておいた方がいいのだろう。

 

「とにかくデジメンタルだ。デジメンタルがないのは痛いところなんだよなぁ……他に何かないか? 試作品でもいいんだけど、とにかく硬いの」

「あるにはありますが……ぼくの作った失敗作ですけど」

 

 そういって、チビマメモンが普段使っている工房の一室に入っていった。色々な工具があり、僕らも物珍しそうに周りを見る。色々と使って自分で作った方が速いかもなこれ。

 とにかく、彼が持ってきた失敗作だが……

 

「誰が使ってもうんともすんともいいませんし、ただ硬いだけの失敗作なんです」

 

 銀色の塊。四角く角ばったそれは無機的な印象をうけるが……

 

「本当に使えないの?」

「ええ。知り合いに調べてもらいましたが、まともに機能しないといわれまして……」

「……それ、貰ってもいいか?」

「でも失敗作ですよ」

「まあ強度が高いものが欲しかっただけだし、たぶん何とかなるよ」

「?」

 

 …………この子、結構面白いな。まあ、今は他にやることもあるし検証はまたあとになるが。

 とりあえずゲーム機を取り出してチビマメモンに見せる。

 

「これ、直したいんだけどどうにかならないかな?」

「何かの機械でしょうか――な、なんですかこれ!? とんでもない記憶容量を持っていますよ! 一つのエリアをまるまる保存できるレベルの代物じゃないですか!?」

「――――あ」

 

 マキナ達も目を白黒させて驚いている。あと、ドルモンとプロットモンが溜息を吐いたが……ごめん、うっかりしていた。人間界換算で100年近く未来の機械なんだからそりゃスペック差があり過ぎるか……失念していたよ。カノン君うっかりだね。

 

「うっかりで済ませていい問題でもないと思うよ」

「ホントです」

「あはは……となると、修理は出来なさそうかな」

「たぶん、無理――いえ、というか何らかのデータで変質していますね。このままだと起動できませんけど特殊な電撃データによる進化の様な状態になっています」

「……みんな、何故僕から目をそらすかなー」

 

 わかっている。特殊な電撃データの持ち主なのは分かっている。ポケットに入れたまま気が付かないで戦闘し続けてゲーム機のデータを変質させたのは僕なのはわかっている。

 

「より強力な電気データと、鋼データがあれば記憶容量を利用したストレージを作れそうですね……い、いえ! いじってみたいとかそういうわけではないです!」

「いや、いいんだよ。直らないなら直らないで――ストレージ?」

「は、はい。これだけの容量とシステムがあれば色々と改造はできると思いますよ。元のデータがわからないので修理はできませんが利用して別の形にはできると思います」

「……そ、その手があったか!」

「えっとどういうことなの?」

「つまり、持ち運びできる倉庫を作れるということだな。これから先、色々とかさ張るであろうし我々にとってはありがたいことだ」

 

 つまり、食糧や色々な物資をゲーム機の中に保存して持ち運べるようになるというわけだ。荷物がかさばらずに大量に持ち運べるようになるので、今後の食糧問題も色々と解決する。

 

「――――カノンくん、非常に悪いとは思うんだけど……」

「分かっている。切実にそこらへんのことは片づけたい」

 

 というわけで、ゲーム機をベースに改造を施すことになったわけだが、流石に一日やそこらで終らないので工房のマメモンたちとも相談して数日は待つことになった。

 ただ、他のマメモンたちがどことなく元気がなさそうなのが気になったが……何かが起きているのか。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 その日の夜。とりあえず工房に泊まることとなり、みんなが寝静まったのを見計らってから僕は外に出た。工房の屋根の上、神経を研ぎ澄ませて街のデータを感じ取る。

 雷のエレメントの力により、僕の能力も強力になった。いや、ブーストされていると言った方が正しいか。雷と鋼のエレメントのおかげで改造の方も問題なく行えそうだし。

 

「……それに、このデジメンタル」

 

 チビマメモンはまだ自分の真価に気が付いていないだけだろう。それを直接教えてもいいのだが、それでは新たな成長はないかもしれない。

 僕にできるのはこの街の問題を片付けることだ。何かが起きているのなら、見過ごすことはできない。

 なんてことはない。ただ、困っている人を見たら助けましょう。そんな言葉を実践しているだけだから。マキナは色々と言ってきたが……

 

「みんなが、その言葉をちゃんと実践できる世界こそが平和な世界ってことなんだろうな……だったら、自分から率先していかないとね」

 

 そこらへんのリスクとかを思っても止まらないあたり、僕はまだ子供ってことなんだろうか。知識だけは色々と飛びぬけている自覚はあるが……まあ、気にしなくていいか。

 僕自身が自分を疑ってはいけない。心の思うがままに進むしかないのだ。

 だからこそ、まずはこの街を知らなくてはいけない。見てわかる光景ではなく、データでとらえたこの街を。

 

「――――やっぱり、リソースが不自然に流れ出ている」

 

 ストライクドラモンたちの故郷と同じだ。バランスが意図的に崩されている。暗黒のデータではなく、流れ出ているということは……誰かが暗躍している。

 それとデジヴァイスの地図データには無いが、この街で売られている地図に書き加えられている街を考えると……いや、余計な先入観は持たない方がいいかもしれない。

 

「……明日は、荒れるかもなぁ」

 

 とりあえず今日はもう寝て、備えておこう。

 もしかしたらまた激闘が始まるかもしれないし。

 

 

 

 この予感は、ほどなくして現実のものとなる。

 苦々しい記憶と共に、僕の前に現れて。

 

 




アプモン、サイバーアリーナをちょっとプレイしましたが……ああ、旧来のデジモンと関係してそうな奴らがちらほらと。
しかもハックモンも単なる名前被りじゃなくて2Pカラーみたいな感じだったのね。合体後は顔同じじゃねぇかよオイ。

ミラーモンとかまんま小さいエンシェントワイズモンだしなぁ……


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106.メタルキング?

色々と遅れて申し訳ない。執筆中にデータが飛ぶ悲劇が何度も起こったり色々と忙しかったりと……うん。すまない。


 ノイズが走る。彼女の監視の任に付き私がスレイプモンからクダモンの姿になってからそれなりの時が過ぎた。元々私は長い時を生きてきたデジモンだ。デジコアの駆動時間も限界が近い。

 マキナ達には黙っていたが、そろそろだまし続けるのも無理だろう。

 まだ大丈夫――されど、すでに視界にノイズが走っている。

 彼女と出会ったとき……マキナは霞の様な存在だった。ちょっとしたきっかけで消えてしまいそうな、そんな不安定なデータの塊に過ぎなかった。

 それがカノンと出会ったことで自我を確立し、確固たる存在となって現世にとどまったのだ。彼女を見ていたからこそ、私自身も強い意志をもって今を生きていられる。

 マキナがいなければ、私はとっくに私という自我を失っていただろう。

 イグドラシルやホメオスタシス、はたまた他の誰が私に彼女たちと共に歩む道を与えたのかはわからない。だが、この時代に来たことでようやく私が今この瞬間のために生きながらえたのだと理解した。

 私の知識が彼らの道を照らしたのだ。だからこそ、私はまだ消えるわけにはいかない。

 だからまだ持ってくれ。デジモンにだって寿命はある。人間のそれとは異なるが、確かに限界は存在する。古の聖騎士より引き継がれた我らも元の時代においてはほとんどいないのだろう……私が退場するまで、そう時間もないはずだ。

 元の時代に戻ってからになるか、それともこの時代でになるか……おそらく一年以内だ。

 

「――――ッ」

 

 体に少々痛みが走る。

 その痛みを感じることで、まだ大丈夫だという実感がわく。痛みを感じるうちはまだ大丈夫だ。痛みというデータを許容できるのなら、思ったよりも時間はある。

 しかし、願うのならば……彼女の成長を見つめていたい。いつまでも…………

 初めは任務だった。だが、彼女と共にあるうちにいつしか私は彼女に情が移っていたらしい。だからこそ、こんなにも離れがたいと思っているのだろう。

 ――――ああ、それでも……私自身が彼女と共にある以上に、解決しなければいけないことがあるのだ。

 始祖となるであろう若者。おそらくはある種の自浄作用として誕生した彼。他にも、未来のためになさなければならないことが多い。

 

「…………」

 

 今はまだ、スリープで時間を稼ぐしかない。なすべき時が来るその日まで。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 翌日。チビマメモンの案内で王宮を見に行くことに。

 機械都市なのに王宮とはどういうことなのか……っていうか国なのここ? デジモンたちもよくわからずに言っているみたいだし、あまり深く考えてはいけないのかもしれない。

 

「というより、この世界のデータはどこか壊れているんだよなぁ……いや、ズレているって言った方が正しいのか」

「カノンくんは色々なこと知っているね。クダモンも物知りなんだけど、最近あまり起きないんだ」

 

 そう言ってマキナは首にぶら下げている薬莢をつつく。

 たしかにマキナの言う通り、クダモンはこの頃よく寝ている。時折薬莢から出てきてアドバイスをくれるのだが、入っている時間の方が圧倒的に多い。何かあったのだろうか?

 と、そこで件の王宮が目に入った。かなり大きいが、デカいネジや歯車がついていたりと機械都市の王宮だなと思わせる外観をしている。

 

「あれがこの街を収めるプリンスマメモンの住まう王宮です!」

「ああ、王子(プリンス)ね」

 

 だから王宮なのか。普通に宮殿でもいいんじゃないっすかね。

 

「カノン、なんか疲れた顔をしているよ」

「いや、どうにも嫌な予感がしてな」

「嫌な予感ってなんです?」

 

 プロットモンの問いに答えようとは思うのだが……僕自身明確な答えは出ない。

 ただ、嫌な予感というか出会いたくない何かがこの先にいる気がするのである。

 

「――――嫌な気配を感じるな。凶悪なウィルスデータを感じる」

「ストライクドラモンがこう言っているけど、そこのところはどうなの?」

「うーん……僕の場合はそういうのを感じているわけじゃないし、何とも言えないけど……たぶん、すごく疲れる相手がいるのは間違いない」

 

 そんなわけで、とりあえず王宮に入ることに。

 チビマメモンはさすがにまずいですよと言っていたが、放っておくわけにもいかないのだ。この街で売られている地図に書き足されたと思しき大王国なんて書いている奴を調べたいし。

 そうして王宮へと乗り込んでいったわけだが――その選択、今からでも取り消せませんかね?

 

 

 

 

 

 

 

「ハァイ! ユーたちが噂のデジモンたちネー! ミーはキングエテモン! 世界一愉快な大王サ!」

「……よりによってエテモン種かよ」

 

 妙に暑苦しいノリでからんできたのはキングエテモンというデジモンだった。胸にデカく大王と書かれており、色々と胡散臭い感じがする。

 その隣に笑顔のプリンスマメモンがいたが……こっちはこっちでなんか頼りなさそうだった。内包しているエネルギー量は究極体そのものなのだが……

 それに、”大王”か。きな臭いとは思っていたが、ここまで直球で来られるとは思わなかった。

 

「いいねぇいいねぇ。君たちみたいに肝が据わっているの、オジサン好みだヨ!」

「なんか暑苦しんだけど……カノン君、こいつどうする?」

「オイ。明らかにこいつが持っているぞ。こいつ自身からじゃないが、隠し持っていても俺にはわかる」

「ああ……状況から考えてキングエテモンが犯人なんだろうけど――」

 

 犯人? 何のことでしょうかとプリンスマメモンが疑問符を浮かべている。

 チビマメモンも何の事だろうと首をかしげているが……

 

「やっぱり見込みどおりネ! そうサ! この大王様が機械都市一帯のエリアのデータを崩している犯人なのサ!」

 

 あっさりと、そいつは自白した。

 思わず僕らも目が点になり、何を考えているのかという疑問に囚われた。その一瞬で、距離を詰められてしまう。マズイと思った瞬間には僕たちは全員殴り飛ばされて王宮からたたき出された後だ。

 空中で体を回転させてすぐさま受け身の体勢に入るものの、キングエテモンはさらに追撃してくる。

 

「話には聞いていたからネ! ちょうどいいタイミングで来てくれて助かったヨ」

 

 魔力を放出して盾を形成するも、すぐに破られてそのまま僕は地面へと殴り飛ばされてしまう。

 

「――ッガ!?」

「カノンくん!?」

 

 そのまま蹴り飛ばされて近くの建物の壁へと叩きつけられる。

 ストライクドラモンは反撃を。ライラモンも援護に入るが、マキナは気をとられ足が止まった。

 ドルモンは攻撃の体勢に入っているが――ダメだ。全員、ワンテンポ遅い。

 

「遅い遅い! ミーは究極体なんだヨ? そんな攻撃、当たらないんだよネ!」

 

 体を回転させてキングエテモンは竜巻を発生させ、みんなを吹き飛ばしてしまう。

 全員がそれぞれバラバラの方向に吹き飛ばされてダメージを負った。

 圧倒的。ザンバモンとの戦いの時にも感じていたが、究極体というのはそれほどまでに強力な力を持つ。ダークマスターズとの戦いでも散々思い知ってきたことだ。

 

「まったく。あのザンバモンを倒したというから少しは期待していたのにナ」

「これは一体どういうことですか、キングエテモン殿! あなたは我々の同盟国の主では……さっきの会話は一体なんなんですか?」

「ああ、ミーが国なんて持っているわけないじゃないカ! アレは全部嘘サ」

「う、嘘ですって?」

 

 プリンスマメモンは後ずさり、どういうことだと驚愕を顔に表している。

 その様子をキングエテモンは心底愉快そうに笑いながら事の次第を説明し始めた。

 

「なぁに。ミーはルーチェモン軍とは協力関係にあってネ! ここら辺の地図データにちょろっと細工をしてもらってこの国を乗っ取る計画を立てていたんだけど、見返りに機械データの提供とか色々と面倒な作業があったのサ!」

 

 まあ、その影響でこの国のデジモンたち、元気なくなっちゃったけどネと付け加えてキングエテモンは再び高笑いを上げる。

 そして、地面が揺れ始めて機械都市の上空から何かが現れた。

 青い色の巨体、体の半分ほどを機械で改造したデジモン――そのシルエットは何度も見たことがある。

 

「紹介するヨ! こいつの名はメタルグレイモン! まあ、改造が不完全なのか体の腐敗で青くなっちゃったけどネ!」

「ガアアアアア!!」

「な、なんという……あなたは一体何がしたいのですか!」

「そりゃ簡単。ミーは大王だ。欲しいものは力づくででも手に入れる。ちょうど、邪魔者がやってくるって話もあったし、いきなりブッ飛ばせばいい話だったけどネ!」

 

 そして、メタルグレイモンの胸部のハッチが開き、中からミサイルが発射されようとして――その頭部を、僕が蹴り落した。

 

「ハァ!?」

「な――彼は先ほど殴り飛ばされて……二人目、ですって!?」

 

 プリンスマメモンの言う通り、僕は二人いた。

 いや正確に言うなれば――片方は、エイリアスによる分身だ。

 

「嫌な予感がしているのに、対策も取らないで乗り込むわけないっての」

「それに、みんなにはあらかじめ防御力強化魔法をかけてあったんだよね。ダメージが少なすぎる違和感で動くのをためらってくれて助かったよ」

 

 隠れていた本体の僕と、吹き飛ばされていた分身の僕が並び立つ。タッチをかわし、再び一人に戻った。いつものとは違い、分身も会話できるようにデータを組んだのだが、思いのほか時間がかかっていったいしか用意できなかったしこの方式だと力も分散してしまう。

 実戦じゃほぼ役に立たないが、だまし合いには最適だな。

 

「まったく、お前俺らにも黙っているとかどういうことだよ」

「ごめんね。敵をだますには味方からっていうし――まあ、自白はさせてもらったけどそうそう上手くはいかないか」

「カノン、衛兵がいるのは知ってた?」

「予想はしていたけど流石にこっちに向かって殺気立つ展開になるとはなぁ……」

 

 そう、キングエテモンの悪事を暴けばプリンスマメモンを守る衛兵もキングエテモンを狙うとは思ったのだが、どうやらそううまくいかなかったらしい。

 僕たち全員を取り囲むように彼らが現れ、取り押さえられそうになってしまった。

 

「ま、待つんだお前たち!」

「なにも心配いらないネ! このキングエテモン様の猿芝居に騙されてくれたこいつらをとっ捕まえてくれるってんだ。いいことづくめじゃなーい!」

「あちゃぁ……先手を打たれていたか」

「カノンくん、ホントうっかり多いよ!」

 

 マキナに言われた通り、ちょっとしくじった。

 プロットモンもジト目でこっちを見ているし……仕方がない。何とかしよう。

 

「なんとかできるの?」

「あの詐欺師は一発殴り飛ばしておきたい――色々と試しておきたいこともあるからね」

「でも、彼らは悪気はないんです! だから……」

 

 チビマメモンが懇願してくる。確かに衛兵たちは自分たちの職務を全うしているだけだ。

 それを利用しているキングエテモンが悪いのであって、彼らは騙されているだけ。だからこそ、僕も彼らを傷つけるつもりはない。

 

「え?」

「雷の神殿でエレメントを受け取ってからずっと考えてはいたんだ。いや、向き合う必要があったって感じかな?」

「……この気配――まさか」

 

 キングエテモンが先ほどまでの飄々とした態度を崩し、驚愕を浮かべる。

 プリンスマメモンも何かを感じ取ったのか、後ずさっていた。起き上がろうとしていたメタルグレイモンでさえ、少し体が震えている。

 そしてそのまま僕の体を赤い光が包み込み――アイギオテゥースモンへと進化した。

 

「このマメモンから少し話は聞いていた。プリンスマメモン、この地を統治するというのならば自信を持て。そして、王家として君臨するならば責任が生じる。自分で考え、自分で行動しろ。

 そのデジモンは君を騙し、この地を滅ぼそうとしたデジモンだ――自分の考えでどうするか決めろ」

 

 思考が切り替わる。今までの主観をそのままに、さらに高い視点の何かが頭の中に入ってくる――いや、目覚め始めたのだ。

 体から放出される電撃が強まっていき、僕の体から迸る。

 

「あ、ああ……」

「――――ッ」

 

 衛兵たちが膝をつき、戦意を失っていった。

 マキナ達も何が起きているのかわからないといった感じだが――僕は彼女たちの方を向き、にっこりと笑う。

 

「カノンくん、だよね?」

「ああ。安心しろ。別に変わってないよ……ただ、切り替えられるようになっただけだから」

 

 兆候は前からあった。どこかで僕の思考が別のものへと変質するこの状態。黄金のハンマーによる攻撃などをしていた時に現れていたが、雷のエレメントにより力が底上げされたおかげで”僕”のままこの状態へと移行できるようになった。

 

「――――どういうことかは分からないけど、ルーチェモンの軍が警戒するだけのことはあるみたいネ」

「みんな、気合入れろよ――まだ後続がいるぞ!」

 

 直後に、メタルティラノモンやメガドラモンといったサイボーグ型デジモンが飛来してきた。

 上を見ると何かの影が通り過ぎて行ったのがわかる。おそらくは運搬系デジモン。

 

「まったく、こうなったら街ごとぶっとばしてみようかナ!」

「そんなこと、させるわけねぇだろうが!」

「そうね。ここで戦力を出してきたってことはキングエテモンには手持ちのカードが少ないんじゃないかな?」

「カノンくんはホントに無茶ばかりだね――でも、黙って見過ごすわけにもいかない。今度は、守り切って見せる!」

 

 戦いが始まる。

 この時代において、究極体との激突が再び。

 



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107.Xのデジモンたち

遅ればせながら投稿させていただきます。
ちょくちょく書いてはいたのですが、流れに納得がいかなかったりプロットを少々書き直したりなどで時間がかかりましたが、その割にはアレかも……


 戦闘は激化しようとしていた。

 突如として飛来したサイボーグ型デジモンたち。その危険度は元の時代においてカノンも見てきたことだ。

 実際に目にしたのはメタルグレイモン程度だが、そのほかのデジモンも話に聞いていたりしている。

 

「みんなまとめて吹き飛ばしナ!」

 

 キングエテモンの号令に合わせ、砲口が開く。

 周囲の空気を振るわせる音と共にあたりのデータがまるでノイズに侵されるようにぶれ始めた。

 

「なにコレ!?」

「一気にチャージをすることで周囲の環境データまで狂わせているのかよ……そこらへん、リソースが足りないみたいだな」

「冷静に分析している場合でもないよ!」

 

 マキナがカノンにそう言うが、カノンは慌てることなくあるものを取り出した。

 チビマメモンがそれを見て、驚いた顔をするが気にすることなくドルモンの額に触れる。

 

「――――カノン、行けるの?」

「ああ。ちょっと調整はいるかと思ったが。どうやら思った以上の完成度だったらしい。やっぱスゴイな。まさかX抗体を起動させたまま使えるデジメンタルがあっただなんて」

「それって……どういう事?」

「つまりだ――行くぞドルモン。全部、防ぎきってくれ!」

「まったく無茶ぶり過ぎるよ。でも、やって見せる!」

 

 デジメンタルを手に持ち、起動させる。

 デジヴァイスを介することでドルモンとのリンクが起動し、彼の体に変質をもたらす。

 通常ならば一度進化してしまうと解除できるかわからなかったが、デジヴァイスの機能によりそれもクリアされた。

 

「デジメンタルアップ!」

「ドルモン、アーマー進化!!」

 

 直後に、サイボーグデジモンたちの攻撃が発射される。

 住人達もこれでおしまいかとおびえ、逃げまどう。しかし――いつまでたっても爆発が襲ってくることはない。

 強烈な光があたりを照らしてはいたが、それは爆発によるものではなかったのだ。

 

「――――お前たち、それは一体……!?」

「どんな逆境でも、逆転の道筋は存在する。大切なのは、信じることだ」

 

 一歩を踏み出すことが出来なければ、どんなチャンスも無駄になる。

 

「だからこそ、小さなことでもちゃんと向き合わなくちゃいけない。視点を変えてみれば、あたらしい何かが見えてくることもある」

 

 腕を組み、カノンはどっしりと構えていた。

 自分の相棒を信じているからこその行動だ。

 そしてその相棒は――今までにない姿に進化している。

 黄金の鎧を身にまとい、頭部にには巨大な剣を生やした騎士の様な出で立ちの獣へと。

 

「いくぞライノモン、X抗体を発動したままのアーマー体だ! 調子はどうだ?」

「問題なくいける。全部防ぎきって見せる!」

 

 ライノモン、そのX抗体の姿。通常であればドルモンのインターフェースが作用しアーマー体に進化した場合はX抗体が起動していない姿となっていたであろう。カノンの手による改造により進化したラプタードラモンを例外としても、今までではありえなかった姿だ。

 それが規格外の強度をもつデジメンタルによってドルモンの力を色濃く残したままアーマー進化を可能としたのだ。

 

「うおおおおおお!!」

 

 ライノモンの体から放射される光がサイボーグデジモンたちの攻撃を防ぐ。

 一撃たりとも通さない。そんな思いに応えるように、光の盾は機械都市を守り切った。

 

「メタルのアーマー体、それも特異な姿――ハハハ、まったくやってくれるネ」

 

 キングエテモンとしても予想外ではあった。

 サイボーグデジモンたちの攻撃力があれば街を守るためにカノンたちの行動を阻害できるかと思ったのだが――結果は、一体のデジモンに阻まれる始末。

 

「ライノモンはそのまま防御、マキナ達はあのデカブツを頼む!」

「分かった。それじゃウチはメタルグレイモンを!」

「なら俺はメガドラモンを止める」

「私はメタルティラノモンね」

 

 そして、カノンがキングエテモンの眼前に飛び出た。

 

「さあタイマンといこうぜ、このペテン師野郎が」

「まったく――究極体、舐めないでもらいたいネ」

 

 直後に、激突が起こる。

 周りには住人達もおり、立ち回りが危ういものとなれば被害が大きくなるだろう。それでも、前に進むしかない。少ない活路でも飛び込んでいかねばならない。

 カノンとキングエテモンの拳が交差した。

 活路が少ないのはキングエテモンも同じこと。

 

「こんなところで、負けるわけにはいかないんだヨ!」

 

 拳と拳がぶつかり合い、衝撃であたりのものが吹き飛んでいく。

 究極体のキングエテモンと、十闘士のエレメントでブーストされたカノンの力のぶつかり合い。そのすさまじさは一瞬だが空間を歪めるほどであった。

 お互いが距離をとるように離れ、次の攻撃を練り始める。

 

「魔法剣、グレイダルファー……バージョン2!」

 

 鋼と雷。さらに闇の力を混ぜ込んだことでエネルギー状の剣ではなく実態を持った剣として現出する。高密度のエネルギーを圧縮した影響でもあるのだが、それでも漏れ出る力がラップ音となってあたりに響き渡っていた。

 

「――ダークスピリッツ」

 

 対して、キングエテモンは右手に黒い球体を出現させた。

 本来であればエテモンの技であるのだが、彼はそれを引き続き使用できるらしい。

 お互いが同時に飛び出し、互いの技をぶつけ合う。

 

「ッ――、ウオオオオオ!」

 

 カノンが更に前へと踏み出し、剣がさらに増える。両手に魔法剣を握りしめ、上空へと黒い球体を打ち上げた。その一瞬、さらにもう一発カノンへと攻撃を仕掛けようとしたキングエテモンであるが、その首筋に小さなナイフが迫る。

 

「――!」

 

 歯でそのナイフを噛み止め、体を回転させて攻撃をいなした。

 カノンもそのまま突撃しては危険だと、バク転して距離をとる。

 両者ともに一瞬の判断で動いている。一度でも判断を誤れば、そこから一気に崩されてしまうだろう。

 

「まったく嫌になるネ。本気で挑まなくちゃならないなんて――!」

 

 カノンの拳とキングエテモンの拳が再びぶつかり合った。

 背後では巨大なサイボーグデジモンと仲間たちが戦っている。その余波から住人達を守るためにライノモンが奮闘しているが、それもどれほど持つかわからない。

 

(誤算だった――キングエテモンの能力が思った以上に高い。メタルエテモン程度なら今の僕でも勝てると踏んでいたけど、こいつ……智謀タイプのくせして身体能力も群を抜いているッ)

 

 おそらくは最初の一体(オリジン)だ。

 通常のキングエテモンとは比べ物にならない力を持っているのだろう。本来は頭脳や演算能力といった部分を極めた究極体であるはずなのだが、特出した力を持つがゆえに力も相応に高まっている。

 

(なら――押し攻めるまでッ)

 

 雷撃を放射し、カノンが一気に攻める。

 両者の技がぶつかり合い、振動となってあたりに伝わるその一瞬――キングエテモンがマントを投げ捨ててさらに踏み込んだ。

 

「まったく嫌になるネ! もっと優雅に決めるのが信条だってのにサ」

「――この距離なら、放電して」

 

 体から雷撃を放射していくカノン。背後ではサイボーグデジモンたちが倒れていき、仲間たちが勝利していた。その光景を見たからこそキングエテモンは最後のカードを切ったのだ。

 カノンが体から電撃を放射し、キングエテモンに反撃をしかけようと――そこで、キングエテモンはバックステップをした。

 

「なっ――!?」

「これこそさるしばい、ってネ!」

 

 騙すことこそ我が究極にいたりし力、なんてネ。と言いながらキングエテモンは指を鳴らす。

 その瞬間、彼の投げ捨てたマントの中から一筋の()()軌跡がカノンを襲う。

 その一瞬で危険を察知して――いや、どこか既視感にも似た感覚でカノンは全力で防壁を展開する。

 

「なっ!? 防いじまったよオイ!」

「ブレイドクワガーモンだって!?」

 

 しかしその危険性は既にカノンも知っている。なにせ、全身がクロンデジゾイドで出来たデジモンだ。高い硬度は究極体のデジモンでさえ容易に切り裂く力を持つ。

 ただのコーティングではなく、塊である以上格上の相手を打倒する力を持っているのは奇しくもメタルエテモンの体を破壊したズドモンのハンマーで証明済みだ。

 

「え――」

 

 だからこそ、招いた油断なのかもしれない。

 それがただのブレイドクワガーモンならカノンも防ぎきったはずだ。だが、ここにいるのは頭脳自体もさらに強化されたキングエテモン。カノンの奇策により戦いの場に引きずり出されはしたが、それでも高い知能を持つ存在なのだ。

 

「一つ言ってなかったが、そいつは特別製なのサ! コードをいじくって、体がブラックデジゾイドに変質しまった特異個体。その高度は通常の数十倍にもなるんだよネ!」

 

 カノンの体が光に包まれ、アイギオモンの姿へと戻る。そして、ドサリと音を立てながら彼の体が倒れた。

 直後に、赤い色の右腕がクルクルと回転しながら地面へと落下していった――データを血のように流しながら、カノンの右腕が地面に落ちたのだ。

 

「これでまずは一人! さあ次はどいつカナ」

 

 ニタリと笑いながら、キングエテモンは落ちたマントを拾って付け直す。

 黒いブレイドクワガーモンを握り、言葉を失うマキナ達の元へとゆっくりと歩んでいく。

 

「どうしたどうした。来ないのかイ?」

「ッ――アアアアア!!」

「ダメだ! 止まってマキナ!」

 

 黒いオーラを放出しながらマキナが飛び出す。ライノモンがそれを止めるが、耳に届いていない。

 銃弾を乱射しながらキングエテモンにとびかかっていくが――まったく歯が立たずに、涼しい顔をされてしまっている。

 

「まったく弱すぎるよネ!」

「――ゴフッ!?」

 

 ブレイドクワガーモンを握っていない方の拳で、腹に一撃叩き込まれた。それ一発でマキナは地面に倒れ伏し、反応がなくなる。

 仮にも自分の用意したサイボーグデジモンを倒したんだから期待したんだけどと愚痴りながら、キングエテモンは次の獲物を狙う。

 

「そこの君かな? それとも、そっちのストライクドラモン君なんて倒しがいがありそうじゃなーい」

「お前、だんだんと本性を抑えられなくなっているぞ。暗黒よりもどす黒い気が漏れてきやがる」

「ハハハ。まったく、抑えこむのも楽じゃないんだヨ。究極体ってのはそれだけ力が強いのサ。至ったら至ったで苦労も絶えない――まったく。楽じゃないよネ!」

 

 直後に、強大な力があふれだす。

 全員駆逐するだけだと言いながら、キングエテモンは突撃して――黄金のデジモンに阻まれた。

 巨大な剣とブレイドクワガーモンの刃がぶつかり合い、火花が散る。

 

「そういえば、君もいたネ。彼らの攻撃を防ぎきるとは、王国にスカウトしたいくらいサ」

「ふざけるな……それに、偽物の王様がよく言うよ」

「ハハハ! いい切り替えしだネ。イイネイイネ。最高だ君! その強力な才能。通常のデジモンをはるかに上回る潜在能力――改造してみたいナ!」

 

 ギラギラとした視線をキングエテモンに向けられるライノモン。

 その一瞬のひるみを見逃さずにキングエテモンはブレイドクワガーモンで斬りかかり――上空から現れた一体のデジモンがその手を弾く。

 

「なっ――」

「やらせはしない――今度は私も戦う。もう見ているだけは嫌なのよ!」

 

 白い身体にどこかスフィンクスのようにも見える姿、背中には純白の翼を広げて尻尾の先にホーリーリングをつけているデジモンが空より飛来したのだ。

 その身に着けているアーマーの先鋭された姿がX抗体を宿していることを如実に告げている。

 

「まさか――プロットモン!?」

「今の私はネフェルティモン。マメモンに案内してもらって、デジメンタルをとってきたの。上手くいってよかったわ」

「流石に饒舌になり過ぎだと思うけど……」

 

 ライノモンがげんなりしたように言うが、ネフェルティモンXはどこ吹く風とキングエテモンをにらみつけるだけだ。

 

「マメモンたちがカノンを安全な場所に連れて行ったわ。それに、何とか腕の治療もするそうよ」

「あら――ホントに連れていかれた見たいだネ。ちょっと油断したよ――でも、次はそうはいかないかナ!」

「それはどうかしらね――ライノモン、合わせなさい!」

「進化したとたん急にアグレッシブ――いや、それは割と元からか。でも、合わせてあげるよ。いくぞネフェルティモン!」

 

 二体のX抗体を持つデジモンが究極体と激突する。

 ライノモンの防壁とネフェルティモンの放つ光がキングエテモンの動きを止めた。

 

「この力は――ッ!?」

「ハアアアアア!!」

 

 ネフェルティモンがとびかかり、サーベルレオモンの爪のデータという究極体の構成情報がキングエテモンを捕えた。頬に少しのかすり傷を与えただけだが、それでも攻撃が通ったのだ。

 

「ッ――」

「まだ勝利の眼が潰えたわけじゃない。いくぞ!」

 

 戦いは続く。

 歯ぎしりをし、どこか狂気を孕んだキングエテモンの視線が二体を捉える。

 

 戦いは、続く。

 




というわけで、プロットモンはとりあえずネフェルティモンXにアーマー進化するということで。
色々と悩んではいたのですが、当初の予定だとケルベロモンXに……さすがにマッシブすぎるのでボツとなりました。
どちらにせよ今後の流れ自体は変わりません。


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108.青き閃光

キングエテモン戦、終結。


 ――意識の海の底。斬られた腕と共にカノンは油断を悔いていた。

 焦りがあったのは事実だ。勝つ算段もあった。それでも、どこかで相手を甘く見ていたフシがある……いや、そうではない。いまだに囚われているのだ。

 あの時、メタルエテモンによってレオモンが殺された、自身の失敗を。

 

「どうすればよかったのか、いまだにわかんないよ……」

 

 この時代に来て、色々なことに直面してきた。

 旅の大変さ、デジモンたちとのかかわりあい、仲間たちとの思い出。

 色々なことがあった。色々なことが起こる。

 体からデータが流れ出し、命が削れていく感覚があった。その流れと共にカノンの心の中に隙間のようなものが出来ていくようだ。

 

「――」

 

 言葉にならない声が漏れる。

 今も仲間たちは戦っているのだろう。せめて、彼らだけでも守らねばならない。

 痛む体にむち打ち起き上がろうとして、何かの重さを感じた。

 

「……マメ、モン?」

「動かないでください! みんなで必ず助けて見せますから!」

 

 どうして彼らが自分を助けようとしているのだろうか?

 カノンにはそれがわからなかった。早く逃げなくてもらわなくてはと考えるものの、体が動かない。

 

「絶対に助けますから!」

「兄ちゃん、諦めんじゃねぇぞ! お前たちが必死に守ってくれた命を今度は俺たちが繋ぐ番だからな!」

 

 多くのデジモンたちが斬られたカノンの右腕を再びつなごうとしてくれている。

 その光景を見て、カノンの心に何かが灯っていく――いや、今とても大事なことを思い出したのだ。

 誰かを助けたいという思いは決して自分だけが持つものではない。いや、誰かを助けることでその思いが伝播しまた誰かに伝わる。そうやって少しでも世界はよりよくなっていってほしい。

 子供じみた願いだ。でも、自分はいつの日かそう思ったはずだった。いつからか、焦ってしまっていたのかもしれない。自分の身を犠牲にしてでも誰かを助けようとして、その結果大きな失敗をする。

 流れ出たデータが今起きていることを伝えてくる。ドルモンとプロットモンがアーマー体となってキングエテモンと戦っていた。ストライクドラモンたちも援護してくれているが、力の差があり過ぎる。

 マキナが自分が倒れたばかりに突撃して……息はあるものの、それでカノンの後悔がやまないわけではない。

 

「ッ――」

 

 切断された腕がとりあえず動ける状態で接続され――カノンは立ち上がった。

 

「!? まだダメです! 動いたらあなたの体が!」

「それでも立ち止まるわけにはいかない」

 

 いつの日か誓ったことだ。

 逃げてはならない。立ち止まってはならない。

 それに、自分がやらくて誰がやるというのだ。

 ――戦いが続いて忘れていた。誰かに強制されて戦っているわけではない。大きな運命の流れで、戦いがあるがそれは”自分自身”で選んだことなのだ。だから、自分は戦う。

 

「大丈夫だ……それがどんな運命だろうと、誰かの思惑があるものだとしても――全部全部、僕が真正面からつっきてやるさ!」

「カノンさん……」

「だから、ありがとうなマメモン」

「いいえ……こちらこそ、うれしかったんです。ぼくの作ったデジメンタルが、機能して――カノンさんが使ってくれて、それがうれしかったんです。だから、ぼくも力になりたくて……」

「十分だよ。そのお礼の言葉が何よりもうれしい」

 

 カノンとマメモンの頭に手を置き、優しくなでる。青い光がカノンの中に流れ込む様に、彼の力が増大していく。一つの想いがつながり、カノンの中の力が高まっていった。

 戻らなくてはいけない。青い光を身にまとい、カノンは走り出す。

 

「――超進化ッ!!」

 

 直後に、彼の姿が劇的に変化した。

 生物的ではなく機械的に。左腕は肥大化し、巨大なアームとなる。背中には飛行機の様な翼が展開され、彼のスピードを飛躍的に高める。

 

「アイギオテゥースモン・ブルー!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 いかに優れた防御力を持っていようとも、究極体のデータの一部をもっていようとも、本物の究極体を倒すには一歩足りない。

 キングエテモンは向かってくるライノモンとネフェルティモンの攻撃をいなし、背後から接近してくるストライクドラモンを殴り飛ばす。

 カノンたちが離脱した後も戦いは続いていたが、キングエテモンがマントと王冠を脱ぎ捨てた直後――攻撃と防御が追い付かなくなり始めたのだ。

 防御力を無視したかのような攻撃と、こちらの攻撃はタイミングを読んだうえでかわされる。

 

「クソッ――こいつどんな察知能力していやがるんだよッ」

「そこまで強いなら王国だって作れるだろうに、なんで回りくどいやり方をしているんだ!」

「わかってないネー……ミーはキングだ。力で示すだけが能じゃないのサ!」

 

 そうやって語る間にもライラモンの放つ光弾が迫るが、それを片手で弾き飛ばす。マキナを抱きかかえながら援護しようと放った技であるが、ライラモンもそれを見て自分の攻撃が通用しないことを悟る。

 

「こいつ硬すぎるでしょ!」

「ハハハ! 当たり前だヨ。ミーは究極体。お前らとは出来が違うのサ!」

 

 両手を上に掲げ、黒い球体が出現する。

 あたりの物を吸い込もうとする小さなブラックホールのようなそれは、見る見るうちに大きくなっていった。ライノモンにはそれがガイアフォースのようにも見えたが……性質は全く異なる。

 これは闇のデータそのものだ。光が放出と破壊ならば闇は吸収と汚染。どちらも極まれば強大な力をもつ属性だ。

 

「すべて飲み込んでやるヨ。そしたらミーの王国をたててあげようじゃないカ。計画ではもっとスマートにいくつもりだったんだけど……もう面倒だからやっちゃうネ」

 

 そして、技が放たれようとした瞬間であった。

 青い影が飛来し、闇の球体へと飛び込んだ。

 

「――ハ?」

 

 内側から一気に球体が霧散し、青い影が再びキングエテモンの目の前に現れる。

 巨大な左腕が彼を捉え、近くの建物へと叩きつけられた。轟音と共にキングエテモンが吹き飛ばされたことであたりに土煙が立ち込めるが……その人影を見間違える彼らではない。

 

「――――カノン、だよね?」

「ああ。待たせたな……大丈夫だ。後は、任せてくれ」

 

 まだ完全に治ってはいないのだろう。右腕にノイズが走っている。それでも、彼は戻ってきた。

 新たな姿へと進化し、吹き飛ばしたキングエテモンを睨みながらそこに立っていたのだ。

 

「ッ――貴様、いったい何だってんダ!」

「余裕がないなキングエテモン。まあマントと王冠を捨てているあたり……みんなの攻撃で色々となりふり構わなくならないといけないぐらい、ピンチだったってことだろうが」

「でもコイツ余裕そうな表情で……あ」

 

 ライノモンの疑問もその通りだが、言葉にして気が付いたのだろう。

 周りのみんなはまだわかっていないようだが、カノンは答えを告げる。

 

「こいつの猿芝居だよ。だますのが得意なキングエテモンだ。何でもないように見せかけるのはお手の物だろうさ」

「でも確かに防御を破られて、こちらの攻撃も……」

「おそらくはリズムを読んだんだ。だますってのは相手の呼吸を見ることも大事だからな。鋭い観察眼や話術、自分のペースに巻き込むってのがコイツの力だよ」

「いい分析するケド、それが分かったところで力の差は埋まらないんだよネ!」

 

 黒いオーラを放出し、キングエテモンが迫る。

 それに対してカノンは何もしようとしない。

 

「カノン!?」

 

 静かにキングエテモンを見つめるだけで、青い姿となったカノンは一歩も動かない。

 これを好機ととらえたのか、黒い球体を両手に出現させたキングエテモンはその二つをカノンへ突きだす。

 

「終わりだよボーイ!」

「ああ、お前がな」

 

 一瞬だけ体がぶれる。左腕から放出されたエネルギー派によりカノンの体が高速で移動したのだ。キングエテモンの攻撃が不発に終わり、彼の体が無防備になる。

 すぐに体勢を立て直そうとするが、時すでに遅し。

 

「――――ッ!?」

「さて、空の旅に連れて行ってやるよ王様!」

 

 キングエテモンの下に潜り込んだカノンはその巨大な左腕でがっちりとキングエテモンを掴む。

 身動きをするがキングエテモンは逃げることがかなわず、そのまま上空へと連れさらわれてしまう。

 

「放せッ――お前、一体何をするつもりだ!?」

「爆弾でも隠し持っていたら厄介だからな。この期に及んで人質をとったりされたら厄介だし、上空でならこっちも遠慮なく全力でぶっ放せるからね……覚悟はいいかキングエテモン」

「この……放せぇええええ!!」

「パワードイグニッション!!」

 

 左腕から膨大なエネルギーが放出される。

 キングエテモンも自身のエネルギーを防御に回すが、それもすぐに削り取られていった。

 

「なぜ! なぜ防御を貫通するんダ!」

「それは簡単さ……お前自分をもだましていたんだよ。確かに究極体のお前はスペックが高い。でも、筋力強化されているとはいえ完全体だった僕となぐり合って威力が互角なんだ……スタミナも含めて、身体能力はそこまで高くない」

 

 つまりは、自己暗示。

 強力過ぎる騙す力が、自身にも及んでいたのだ。それにより本来の能力以上の力を発揮していたのだろうが……

 

「少し中途半端が過ぎたな。特出しているってなら、もっと強い力を持っていたもおかしくはない。なのにお前は随分と回りくどいやり方しかしていなかった――いや、出来なかった」

「ダメだ、そんな――ミーの、ミーの本性を暴くなぁあああああああああ!?」

「だましてだましてだまし続けて、最後には自分までだましていたっていうのか――お前が本当にしたかったことは何だ! 何故こんな回りくどいやり方をしていたんだキングエテモン! さあ、答えろ!!」

「――――あ」

 

 誰もいない。周りにいない。

 一人ぼっちだったあの頃――キングエテモンの思考にノイズが走る。見せるな。その過去を見せるなと抵抗するが、それでもかつての記憶が彼の中からあふれ出してくる。

 

「――――ガアアアア!!」

「うおおおおお!!」

 

 直後に、爆発が起きた。

 爆風からは青い人影が飛来するのみで後には何もない。

 決着はついた。

 カノンは地面に降り立ち、進化を解く。

 

「……」

「カノン、同情しているの?」

「いや……」

 

 下までカノンの叫びは届いていた。いや、彼らの叫びというべきか。

 そしてキングエテモンの見た光景がカノンにも見えていた……何らかの共鳴が起きたのであろうが、その現象が何を意味するのかはまだ分からない。

 ドルモンたちも進化が解けており、疲労が見えているが……カノンの持っている物をみて、驚きの表情に変わった。

 

「って、デジタマ!?」

「どういうことです!?」

「なんでデジタマがあるんだよオイ……」

「ああ。たぶん僕の力だろうな……デジモンをデジタマに還元する力なんだけど、自由に使えないんだよね……いまだに発動条件謎だし」

「ってことは、それってキングエテモンの……」

「うん。彼……って言いていいのかは微妙だけどね。特殊な事例でもない限り記憶は引き継がれないし、同じデジモンが産まれるわけじゃない」

 

 中には例外もあるが、おそらくはパートナーデジモン特有の現象なのであろう。

 カノンも話に聞いているぐらいでそこのあたりのメカニズムには詳しくない。

 

「今度産まれてくるときは、まっとうに育つことを、願って…………」

「カノン?」

 

 どさりとカノンが倒れ、右腕から赤い色の液体が漏れ出す。

 

「傷口が開いたんだ! 速くマメモンたちを!」

「い、意識は残ってるぞ……」

「そういう問題じゃないでしょ! まったくまた無茶してッ!」

 

 それはお互い様……と言葉を続けようとしたが、流石にカノンももう限界だった。

 完全体への進化を二度も行い、さらには怪我をした状態での戦闘に全力の攻撃。デジタマ化の力を発動したのだから疲労もたまりにたまっている。

 結局、彼は再びベッドの上へと戻されることとなる。意識もその後すぐにとんで手術をすることとなってしまったのだ。

 

 目を覚ますのは三日後のこととなる。

 マキナ含めてみんなから怒られることは確実ではあるが――何か心のつかえがとれたのか、その表情は少しだけ朗らかだった。

 




機械都市編はあと一話やって終わると思います。
次の旅の準備で、そしたらすぐに火の神殿へ突入いたします。

triの4章キービジュアル見ましたが、何故バクモンなのか……


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109.明日への旅路

 例外処理・名称_橘カノン_アイギオモンの第二コードの解放を確認。

 確定事項・Xコードの利用可能デバイスが登録されました。

 デジタルワールドクライシスまで、残り時間__

 

 

 プログラムコード・ラース_利用可能。

 深刻なエラーが発生しました_例外処理に基づいてリブートを__失敗。

 不明なデバイスが接続されました_プログラムの許可。

 コードJがインストールされました。

 __第四コードは解放されています。

 プログラムTの設定を完了しました。

 デジコアシステム再起動__

 

 ◇◇◇◇◇

 

 意識が浮上する。

 妙な体のだるさを感じながら、起き上がってみるとマキナが僕のわきの椅子に座りながら眠っていた。

 ……そうか、また無茶しすぎたんだっけか。

 右腕を見てみると、薄っすらとだが腕に一本の線が出ている。ちょうどひじの上のあたり。そこをぐるっと一本の線、いや斬られた痕が残っているのだ。

 

「……起きたらお説教かな、これ」

 

 随分と心配をかけただろうが、あれからどれほど時間がたったのだろうか。

 腕を軽く動かしてみるがそれほど違和感はない。切断面も綺麗にスパッといっていたから思いのほか簡単にくっ付いてくれたみたいだが……なんだろう、若干重いような…………?

 

「うーん、どういうことなのか」

「――――それは、ウチに先に言うべきことを言ってからだと思うんだけど」

 

 どこか底冷えのする声で僕の目の前に修羅となったマキナがにっこりとした笑顔で覗き込んできている。

 ……いい言い訳が思いつかない。

 

「この期に及んで逃げないよね?」

「……ハイ」

 

 その後のことは僕の名誉のためにも黙秘させていただきたい。

 とりあえず、マキナは怒らせると怖いというのだけは分かった。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、とりあえず動けることは分かったしみんなのところへ顔を出すことに。

 ものすごく驚いた顔をしていたのだけど、どういう事だろうか?

 

「そりゃ三日も眠っていればそうなるよ」

「……マジで?」

「マジで」

 

 ドルモンの話によると、栄養剤を飲ませて術後の経過を見ていたのだが、それでも今まで何の反応もなかったらしい。起きるのがいつになるかわからないと思っていたら、唐突に起きてきてびっくりしたという事か。

 そりゃ昏睡状態だったのに起きてすぐ動いていたら驚くよなぁ……

 

「それで、右腕は大丈夫なの?」

「動きはするんだけど、なんか妙な違和感があるんだよ」

「すいません。ぼくたちも最善を尽くしたのですが、思いのほかダメージが深刻でして……」

 

 チビマメモンたちも色々と手を尽くしてはみたものの、怪我をした状態で戦ったこともあり簡単には治りそうもない状態にまでなっていたらしい。

 何よりも、データが漏れた状態だったため時間もかけていられなかったのがヤバかったと。

 そこで最終手段として取られたのが右腕内部をサイボーグ化することだった。

 

「ってことは、右腕サイボーグになってるのか?」

「言葉で言うほどのモノではありませんが、そうですね。腕の接続とメタルグレイモンのように肉体の腐敗を起こさないように色々と手を尽くした結果、右腕のデータ構造が若干変わってしまったのが違和感の原因だと思います」

 

 そう言われたので、右腕を久々にデータを読み取る魔法を使ってみて調べたが……確かにちょっと構造が変わっている。右腕だけよりデータ体に近くなってしまったという感じだろうか。

 そのうち慣れる範囲だしそこまで気にする必要はないと思うけど……

 

「これは教訓ってことにしておくか」

 

 今回は命を失うことはなかったが、それでも限界を超え続けたときの代償としての結果がこれだ。

 今後は無茶をし過ぎないようにすることも重要になる。

 

「ってわけで、次無茶したら流石にマキナちゃんもブチギレよ」

(口調がすでにおかしくなっていることに関してつっこんではいけないんだろうなぁ……)

「返事は?」

「は、はい」

 

 とりあえず、しばらくは街でやることもあるしほとぼりが冷めることを祈ろう。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 やること、と言っても僕も工房に籠らせてもらって色々と改造をすることなんだけどね。

 ゲーム機の方を改造したり、デジメンタルについて色々と調べたりなどだ。

 マキナ達もこの機会に休息と色々とこの先に必要なものを集めに行ったりなどしている。そういえば、一つ気になるのはこの前の戦いの間もそうだがクダモンが妙に眠っている時間が多くなったことだ。

 話を聞いてみても、この時代に慣れないんだろうとはぐらかされたが……どうにも気になる。

 

「……まあ気にしていても仕方がないか」

「どうかしましたか?」

「いや、こっちの話」

 

 チビマメモンが話しかけてくるが、彼には関係のない話だし適当に切り上げる。

 それにクダモンも必要な時になれば話してくれるだろう。

 僕もやることはやっておかないと。

 

「カノンさん、もうデジメンタルをそんなに作ったんですね。それにデジメンタルに使ったその紋章データはどこで入手したんですか?」

「前にちょっと、ね」

 

 メフィスモンとの戦いの時に流れ込んできたみんなの紋章データ。僕の体に残留していたそれを基にデジメンタルを製作したのだ。

 それぞれがX抗体を持つデジモンが使用しても耐えられるものとして仕上げたが……壊れる可能性もあるし今後使い捨てのような形になるかもしれない。

 

「……耐久度の問題をクリアするには、やっぱこいつを材料にするしかないか」

「でもそれってかなり希少なものだと思いますよ。鉱石にデータをコピーして使った方がいいのでは……」

 

 僕が取り出したのは運命の紋章。これをベースにすれば強度の問題はクリアできるとはおもうのだけど、流石に止められてしまう。

 たしかにリスクも大きいか。一応これ僕の力を封印するためのものでもあったわけだし、ここで無くすのも危険かもしれない。

 

「仕方がない、これはそのままにしておくか」

「その方がいいですよ」

 

 そう言われて作業に戻ろうとするが、流石に長時間の工房での製作は疲れる。

 ちょっと休憩がてら書庫から借りてきた本を読むことにしよう。

 この街には大きな書庫があり、色々と貴重な資料も残っている。面白いデータなども見ることが出来たのだが、あまり利用できそうなものはないのが残念だ。

 ……この本、なんとなく借りてきたものだったが…………

 

「……マメモン、このゼロアームズってなんだ?」

「噂には聞いたことありますけど、確かかなり昔の兵器だったかと。擬似的なデジコアを搭載していたデジモンの一種とも聞いたことはありますけど……所詮は噂ですし」

「そう、か」

 

 詳しいことはこの本だけでは分からない。

 ただ、どこかで聞き覚えがある気がしたのだ。アームズという言葉を。

 イグドラシルに接続できたのなら何かわかったかもしれないが、生憎今はそんなことできない。そもそも接続したら何が起きるやら……

 

「まあ未来で、いつか調べればいいか」

 

 いまは記憶の片隅にでもとどめておいて、やるべきことをやろう。

 ゲーム機のほうも画面の大きさを活かしてマップ機能などもつけたいし、いろいろとやることが多い。

 とりあえず容量超過にはならないけどあまり無茶な改造をしないようにしながら調整をして……そういえば前にデジヴァイスとの接続端子は作ったことあるんだよな。光子郎さんのアナライザーを使うのに変換アダプタを作ったときに接続端子の構造はみたからおぼえているし……

 

「……あの時のログデータを使えばアナライザー機能はつかえるか?」

 

 といっても出会ったデジモンの情報を呼び出すだけだが。いや、それはもともとできないんだっけ? 使ったのかなり前だったからよく覚えていないんだよなぁ……この時代でも結構な時間がたっているし。

 まあ、接続できるようにはしておくか。一応。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 まったくもって不愉快ではあるものの、彼の気持ちもわからなくはないのだ。

 ウチだって意外と似たようなことはしでかしていたりする。最も、ウィッチェルニーでのことだからクダモンぐらいしかしらないけど、彼女も最近は寝ていることが多いし。

 

「はぁ……それでもカノンくんは無茶しすぎだよ」

「まったくです」

 

 頭の上にデジメンタルをのせたプロットモンが同意してくる。

 ウチとしては貴女も無茶するよね、って思っているけど。とりあえずデジメンタルを取り上げておく。

 

「なにするです」

「発動したらまずいでしょうが。っていうかカノンくんに預けなくていいの?」

「リンクがあるわけじゃないのでカノンじゃプロちゃんには使えないです」

「そうなの?」

「はいです。一番相性のいいのを無理やりに使ったからプロちゃんも体があちこち痛いです。それでも、必要だったです……だから、頑張ったん…………ですけど」

 

 はぁとため息を一つついて、プロットモンは寝転がる。

 彼女もいろいろと考えてはいるみたいだが、どこかの誰かの無鉄砲さが移ったのだろうか。

 

「マキナはどうして戦うです?」

「ウチは……なんでだろうね。向こうの世界でも師匠たちにいろいろと言われていたんだけど、結局成り行きで前に進んでいたところはあるかなぁ」

 

 家族はもういなく、クダモンと一緒に暮らしてきた。

 カノンくんは命の恩人で……ウチにとってはとても大事な人だ。だから、彼が無茶をしすぎるとどうにもイライラしてしまう。

 そんな中でも、ウチはまだはっきりと自分が戦う理由を見つけられていない。なんとなく、逃げてはいけないってのはわかるんだ。ウチにとっても大事な何かがこの時代で見つかりそうな気はする。いつの日か、向き合わなければいけないことが待ち構えている予感はするのだ。

 

「……まだ、考え中かな」

「です、か……なら、それはマキナに預けるです」

「それって、このデジメンタル?」

「はい。必要になったときにマキナが使ってください。おねがいです」

「…………わかった、ウチが預かっておくね」

 

 たしかにウチなら回路をつなぐことができるからプロットモンに合わせて調整できると思う。だけど、彼女が言っているのは自分が無茶しすぎないように、持っていてくれってことなんだろう。

 一つ責任がかかるだけで何かがかちりとはまったような気がした。

 

「迷わないでくださいです。後悔するのは、つらい……です」

「そうだね。後悔はしたくないよね」

 

 だったらウチたちも前に進まなくてはいけないのだ。

 どんな運命が待っていようとも。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 いろいろと準備もあって、合計で2週間ぐらい機械都市に滞在していたと思う。

 ドルモンやストライクドラモンたちは街の外で体を鍛えていたらしく、いろいろとボロボロになって戻ってきていた。ライラモンがかなりあきれていたよ……

 マキナたちも何やら新たな魔法の開発や新技に着手していたが、どうにか試作段階にまではこぎつけたらしい。調整をしてはいるものの、いざとなったら実戦で試すとか言っていたが……何も言うまい。僕も割と似たようなことしているわ。

 そして、機械都市を出ていよいよ火山地帯へと向かうこととなる。

 

「みなさん、たいしておもてなしもできませんで本当にすいません」

「顔を上げてくださいよ。あなたが王様なんだから簡単に頭を下げないでください」

 

 こうしてプリンスマメモンと住民たちが見送りをしてくれているが、さすがにここまで大仰だとこっちが委縮してしまう。

 

「いえ、あなた方はこの街の恩人です。できれば手伝いとして誰かを向かわせたかったのですが……」

「いいえ。気持ちだけで十分です」

「それにこの先はキングエテモンがかわいく思えるほどの強敵が現れるかもしれないしな。なにせ、最後に待っているのは……」

 

 ああ。ストライクドラモンが続けてくれた通りだ。最後に待っているのはルーチェモン。

 

「過酷なたびになります。たぶん、今後は今まで以上に気を引き締めていかないといけませんから……だから、皆さんはちゃんとここを守ってください」

「はい。必ず」

 

 それがこの世界のバランスを保つことにつながるのだ。

 真のタイムアップはバランスの完全崩壊。少しでも長く時間を稼ぐことこそ、僕らにとって一番助かることだ。

 

「それと……そのデジタマは」

「大丈夫ですよ。彼は私たちをだましていたのでしょう。それでも、私にとっては気の置けない友人だったんです……だから、彼のデータを引き継いだこのデジタマは私たちが育てます。今度は、間違えないように」

「ええ、きっと大丈夫です……それに、やろうと思えばすぐにでもあなたを倒すことができた彼がずっとそれはしなかった。自分をだましすぎてそれに気づけなかった彼の本心を、僕も信じています」

 

 もしかしたら違う未来があったのかもしれない。

 僕では手の届きようのないところで何かが狂ったのかもしれない。でも、まだ未来は残されている。

 記憶を引き継ぐことはないのだろうが、それでも残るものがあると信じたい。

 

「それでは、僕たちは行きます」

「旅の無事を祈っております――みなさん、お元気で!」

 

 みんなに見送られながら、僕たちは先へと進む。

 最後に、チビマメモンのありがとうという言葉に手を振り、笑顔で別れた。

 

 目指すは火山地帯――火の神殿。

 




さて、これにて機械都市編が終了しアーマー進化とブルーが解禁です。
というわけで次回からは火の神殿編へと入ります。
それほど長くはならないと、思う……かなぁ…………


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110.火の神殿

長らくお待たせしました。ちょい短めですが、デジモン全体の20周年もありますし、投稿再開いたします。


 機械都市を出発してからそれなりの時間が経つ。2週間から1カ月というところか。

 なにせカレンダーで日付を確認しているわけではないから色々と時間の感覚がわからなくなる。日数を数えてもいるのだが道中長い雨が続いたりして先へ進めずにその場で止まることもあったのだ。

 まあ、川の氾濫とかもあったとだけ言っておこう。それに流石に疲労やこれまでの怪我による不調もあったわけで、そう簡単に先へ進めるわけでもなかった。

 特にひどいのは火の神殿が近い――つまり、火山付近に来たことでライラモンの体力が大分落ちてきてしまったことだろう。離れた場所で待っていてもらおうとも話したのだが、本人は大丈夫と言って聞かず、僕も人のこと言える戦い方ではなかったからそのままついて来てもらうことになってしまった。まあ、完全体だからまだ疲れで済んでいるのだろうが。

 

「それにしても、ようやく麓まで来たね。結構高い山だけど……どのあたりに神殿があるのかな?」

「デカい力を感じるのは分かるが……俺もよくは分からねぇな」

 

 竜のデータを持つドルモンとストライクドラモンにも神殿の位置はハッキリとまでつかめないらしい。

 デジヴァイスの反応からするに、5合目以上だとは思うが……

 

「結構上だね、頂上までいかないとダメなのかな?」

「いや、それはどうだろう。それより下の反応だとは思うけど」

 

 山の形は富士山のようなそれではなく、もっとなだらかな形の火山だ。それでもかなり大きいのだが。日本の山ならば、阿曽山あたりが一番近いだろうか? 詳しくもないことだし、はっきりとはたとえられないけど。

 とりあえず先へと進むものの、山登りはこれまでの旅とはまた違った辛さがある。

 

「カノンくん、今度の神殿って……エンシェントグレイモンなんだよね」

「ああ。十闘士の中でも後世に有名な話が伝わっている強力なデジモンだ。名前からして竜の姿をしているのは間違いないだろうな」

 

 グレイモン系は恐竜、もしくはドラゴンの姿に近いデジモンだ。ウォーグレイモンの様な竜人タイプもいるが竜であることに間違いはないだろう。

 マキナも懸念しているだろうが……竜の姿を模したデジモンは強力な力を持っている場合が多い。

 

「ここにきて直接バトルかぁ……バトルなんだよね」

「たぶんな。なぞかけみたいなことにはならないと思うよ」

「腕が鳴る、って言いたいところだが俺も伝説の存在と戦うのは厳しいものがあるぜ」

「ストライクドラモンがそうまでいうのって珍しいよね」

「流石の俺でも、戦いたくない相手はいるさ」

 

 まあ気持ちはわかる。火山全体に感じる力。火の神殿はすぐそこに迫っている。

 とにかく神殿にたどり着けばどんな試練なのかわかるが……ふと、足を止めてしまった。

 

「? どうかしたのカノンくん」

「――――、なんでもない」

 

 なにか変な視線を感じた気がしたのだが、振り返ってみても怪しい影はない。

 念のため索敵魔法を使ってみるが、別段怪しい反応はないみたいだ。

 気のせいだった……のだろうか?

 

「……神殿が近づいて気が逸ったのかな」

 

 そう結論付けて先へ進む。

 嫌な予感よ同時に、どこか懐かしさにも似た感覚があったのだが……

 

 ◇◇◇◇◇

 

「熱い……」

 

 マキナが思わず言ってしまうのもわかる。とにかく熱い。

 遠くからは分からなかったが、山肌から熱気が噴き出ているのだ。そのおかげでライラモンはほとんどダウンしており、プロットモンもばてている。

 

「無理です……動けないですぅ」

「あはははははははっ」

「ダメだこいつら。色々とアウトだ」

「この分だと回復を待つにしても時間がかかるな。動ける僕とドルモンだけでも神殿に向かうべきかもな」

 

 ストライクドラモンとマキナはまだ大丈夫そうだが、動けない二人を連れて降りてもらった方がいいかもしれない。マキナも汗が凄いし、今はまだ大丈夫だがそのうちダメになるかも。

 それにここしばらくクダモンもなかなか起きないからそっちも心配なのだが……

 

「いや、カノン――その必要はないよ」

「どうしたんだドルモン?」

「神殿ならすぐそこにあるから」

 

 ドルモンが見ている方向に目を向けるが、大きな岩があるだけで何も見えない。

 熱さで幻覚でも見えているのではないかと言おうとしたその時、僕の体の中からデジメンタルが飛び出してドルモンの額に吸い込まれていった。

 

「――――っ!?」

「呼んでる――おれ、行ってくる!」

「おい! ドルモン!!」

 

 ドルモンが走っていき、岩に近づくと――巨大な扉が出現しその中へドルモンが入っていった。

 茫然としていた僕は何が起きたか飲み込めずにいたが、やがて理解した。火の神殿の試練がドルモンだけを選んだんだ。一対一の試練、それが火の試練。

 

「それってかなりマズイ、よな!?」

 

 急いで岩へと近づくが扉はない。デジヴァイスを取り出して確認してみても神殿の位置はドンピシャでここだ。もっと早くに確認すればよかった。

 どうにかして中に入れないかとサーチしてみるが……

 

「クソッ! だめか」

「ねえ、これってどうなるの……」

「ドルモンが試練を突破してくれるのを信じて待つしか、ないよな」

「……大丈夫かな、ドルモン」

 

 信じるしかない。ここにきて、こういう事態になるとは思いもしなかった。試練に参加できる制限がある可能性があったのは分かっていたが、まさか入る時点で制限をかけられるとは。

 いや、そもそも試練の方がドルモンを指名したのだ。

 

「いったいどういうことなのか――――ッ!?」

「カノンくん?」

 

 再び嫌な視線を感じた。

 試練とは関係がない。これはそんなものではない。恨み、怒り、負の感情を煮詰めたような感じ。そして、この暗黒の力。これと似たようなものを以前感じたことがある。

 もうずっと昔にも思える、僕が初めて諦めかけたあの時の感じ。

 空から黒い影が降り立つ。その悪魔の様な風貌。長い腕と灰色の肌、肌に焼き付く様に放たれている暗黒のデータ。

 

「――――ミツケタ」

「ネオデビモン、でもその姿は……」

 

 この感じ、たしかにネオデビモンだ。だが、その特徴的な仮面はなくその素顔があらわになっていた。

 

「――ヒッ!?」

「なに、あれ……」

「見ただけでヤバいってのがわかることもあるんだな……」

 

 あまりにもグロテスクな顔。それを見ただけでマキナの身はすくんでおり、他のみんなに関しても一歩後ずさるほどには嫌な感覚を味わっている。

 僕も言うにたがわず、体が震えている。でも、このネオデビモンのデータ……どこかで?

 

「アノトキ――キサマサエイナケレバ」

 

 あの時? 僕はこの時代でネオデビモンには――――いや、まさか……

 

「前に戦ったデビモンなのか!?」

「ガアアアアア!!」

 

 直後に、奴の腕が振るわれる。

 考えている暇はない。ドルモンのことは信じて待つしかできず、僕たちは目の前の敵と戦うしかなかった。

 そして、敵が彼一体というわけもない。暗黒のデータがいかに危険な代物なのか、僕たちはまだその一端にしか触れていなかったのだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 他の神殿と同じく黒い空間。その中で一人、ドルモンは佇んでいた。

 何かが自分自身に訴えかけるように感じていたが、いざ中に入れば冷静な思考が戻り今の現状を把握し始めている。これは端的に言えばマズイ状況だ。

 

「……カノンからコピーしたとはいえ、このデジメンタルをおれも使っていたわけだからおれの中に入ってもおかしくはないけど」

 

 何故自分が呼ばれたのか。それは分からない。

 だが、進むしかない。

 ドルモンは前と思しき方向へと歩みを進める。少しずつだが、横にロウソクの様な明かりが灯り始めていた。これが通路であることを表しているらしい。背後を見れば、扉が見える。ただし、開きそうもないが。

 

「――――そろそろ、大広間……ぽい空間にでたね」

 

 黒一色でわかりにくいが、円形の広間に出たらしい。周囲には一応影が付いており、どことなくコロッセオのような形状をしているように見える。

 ただし、ドルモンの他には誰もおらず、どうすればいいのかわからない。

 

「ここでの試練はいったい……」

 

 どんな試練なのだ。そう思った時だった。

 遥か上方より赤い色の何かが飛来してきた。熱風をまき散らしながら、その巨大なデジモンはドルモンをにらみつける。

 

「ッ――!?」

「祖なる者よ。ここは火の神殿。炎を司る我が試練、今ここに始めよう――汝の力を示せ」

 

 紅蓮の炎がドルモンめがけて襲い掛かる。

 左右から伸びてくるそれは、彼――エンシェントグレイモンの翼だ。

 

「いきなり来るの!?」

「いたって簡単な試練だ。汝の力を示せッ!!」

 

 続いて爪が地面をえぐりながらドルモンへと迫る。マズイと思ったが、脳裏のよぎるのは以前カノンと共に戦ったミラージュガオガモンのこと。

 あの時の記憶を手繰り寄せながら、ドルモンは自身の速力を強化した。

 

「――――ッ!?」

 

 自分自身でも何をしたのか完全には理解していない。だが、カノンと引き離された状態で一瞬だけだが極限状態になった。それが何を意味するのか。

 その答えを知るにはいまだピースが足りない。

 

「取り掛かりはまずまずだ。だが、足りない。力も、覚悟も、未だに届きえない」

 

 紅蓮の炎はドルモンを取り囲むように迫る。

 とにかく回避するしかないと体を動かすが、このままでは消耗するばかりだ。

 

「くそッ、いきなりすぎて整理できてないよこっちは!」

「逃げるばかりでは解決はしない。我が試練の前には逃走はなく、ただひたすらに闘争の果てにこそ答えがある」

「難易度高くありませんかねぇ!?」

「世を照らす力にはそれ相応の器が必要なのだ。貴様が我が力を受け取るにふさわしき者か、見定めなくてはならない」

 

 尻尾を振り回し、ドルモンへと叩きつける。

 今度はかわしきれなかった。威力は炎や爪ほどではないが、その分速い一撃が入った。

 

「がああああ!?」

「汝は見たはずだ。己が何者なのかを――知っているはずだ。己の力を。貴様は運命の子と共にあらねば戦えぬ存在なのか? 否。違うはずだ。見つめ直せ。自身の力を!」

 

 直後に、爆発が起きた。

 ドルモンは先の一撃による痛みが激しく、彼が何を言っているのか聞こえていなかったが、この爆発で更に吹き飛ばされてしまう。

 

(どうする? どうすればいい……こんな時、おれはどうしたら――)

 

 この場にカノンはいない。仲間たちはいない。

 ただ一人、彼だけで乗り越えなくてはならない。

 

 

 

 ドルモンというデジモンが、乗り越えなくてはならないものなのだ。

 

 




出来れば4章前に十闘士編は終わらせたいところですが、4章の内容次第では02編での同行がどうなるか……具体的にはテイルモンの究極体がなぁ…………


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111.ドルモンの決意

20周年記念アイテムが更新されましたね。ええ、今回は買います。
それと20周年記念の新デジモン。まさかの武器デジモンかよ。

armsと武器デジモンは元は同じである的な設定で進めようとしていたら……え、マジで同じなの? とりあえずプロットを書き直さなくて良かった。


 ネオデビモンの攻撃を受け流し、奴の腕を捕まえて投げ飛ばす。全力で麻痺データを送り込むがそう長くは効かないだろう。それでも、少しでも状況を把握しなければいけない。

 

 空を覆いつくすのは悪魔系デジモンの大群だった。

 わかる範囲でイビルモンにピコデビモンと思しき姿。他はよくわからないのもいるが、成長期や成熟期のデジモンが大半を占めているらしい。それに、アーマー体もちらほらと見える。

 ネオデビモンが彼らを連れてきたのであろうが、流石に数が多すぎる。それに、遠くの方に見える巨大な影は……

 

「ゴーレモン、だよなぁ」

「だがデカさがケタ違いだぜ!? あんなデジモン見たことねぇぞ!」

「ストライクドラモンの言う通り、あんな異常な個体みたことない」

「おそらくは暗黒の力の影響だな」

 

 前に光子郎さんから聞いたことがある。

 最初の戦い、ファイル島で戦ったというデビモンの話だ。奴は最後に暗黒の力で巨大化したらしい。

 それにデジモンはデジタルデータで構成された生き物だ。体のデータを巨大にできるように書き換えられるとしたら、このようなことも可能なのだろう。もっとも、まともな方法ではないからか体にノイズが走っているようだが。

 

「とにかく迎撃するしかない!」

「だけどライラモンは動けねぇし、俺だってこの熱気で満足に動けねぇぞ」

「ウチも大分キツイ。それに、プロットモンとクダモンだって……」

 

 みれば、プロットモンは大分体力を消耗しているしクダモンも薬莢から出てこない。もしかしたら、体が弱っていたのだろうか? 最近寝た状態が続いているだけに心配だが……

 どうする? この状況を切り抜ける方法は……クソッ。いざとなったらドルモンがいるからと見通しが甘くなっていた。こうなったら僕がやるしかない。

 

「――超進化」

 

 僕の体を青い色のオーラが包み込み、体の構成情報が変化していく。

 上半身は青い色の鎧に包まれ、下半身の体毛も薄い青へと変色した。

 

「アイギオテゥースモン・ブルー!」

 

 すぐさま左腕にエネルギーをチャージし、上空へと発射する。

 敵を捕捉し、最善の答えを導き出せ。

 

「神殿を守り抜く――今はドルモンを信じて待つしかないッ!」

「結局そうなるよなぁ……」

「カノン君、心配なのはわかるけど焦りは禁物だよ」

「分かってる。でもやっぱり、一手足りないんだよな」

 

 ネオデビモンは何としてでも僕が止めなくてはならない。幸い、奴以外は強力な個体はいないみたいだ。もっとも、巨大ゴーレモンを除けばだが。

 奴は動きがのろいようなので、奴が来るまでがタイムリミット――ドルモン、頼むぞ。

 

「ガアアアア!!」

「麻痺が解けたかッ――迎え撃つ!!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 どさりと崩れ落ちる。

 これで何度倒されただろう。

 

「ッ――」

「力を示せ。自身を見つめ直すのだ」

「そればっかりかよ……」

 

 痛む体をむち打ち、立ち上がる。

 ドルモンだってここで負けるつもりはない。前に進まなくてはいけないのだ。自分には帰るべき場所があって、戦うべき時がある。

 ここで倒れたらダメだ。

 その思いがぼろぼろの体に力を与えてくれる。

 

「これでどんだけ時間が経っているのか……」

「案ずるな。この空間は外とは時間の流れが違う。そう長い時は流れていない」

「そりゃどうもッ!!」

 

 デジコアの限界を超え、さらに加速する。バーストモードの感覚は残っている。それを頼りにバーストモードほどではないが自身の限界を超えた力を発揮した。

 だが、それすらもエンシェントグレイモンは歯牙にもかけない。

 

「否。そうではないぞ祖なる者よ!」

「ガアアアア!?」

 

 紅蓮の炎に焼かれ、体から煙が上がる。同時にノイズが体中に走っていき、一瞬意識が飛んだ。

 

「この、体が……」

 

 力が入らずにガクりと倒れてしまう。

 究極体相手に成長期の自分では歯が立たない。カノンがいないため、デジヴァイスのサポートが無いのが致命的だった。

 

「進化できなくちゃ、こいつには……」

 

 いや――まだ可能性はある。

 自身のうちに入り込んだデジメンタルに意識を集中させる。

 肉体が変化し、黄金の鎧をまとう。

 体が覚えている――そのデータを基に、自身の体を構築し直す。

 

「アーマー進化、ラプタードラモンッ!!」

「ほう――だが、甘い。そうではないのだ祖なる者よ。いまだ自身の力を見誤っているッ!」

「うおおおお!!」

 

 一気に加速し、エンシェントグレイモンへと迫る。炎をかいくぐり、その喉元へと食らいついた。

 ガキンッと金属同士がぶつかる音がする。あまりにも硬いその皮膚に、ラプタードラモンの牙が通らないのだ。

 

「どんな硬さしてんだよっ」

「その思い切りの良さは認めよう――ハアアア!!」

 

 体を回転させ、エンシェントグレイモンは巨大な竜巻を起こす。

 飛行能力にすぐれたラプタードラモンといえどもその竜巻には逆らうことが出来ずに、上空へと巻き上げられてしまう。

 とっさに防御行動に移すが、間に合わない。

 

「思い出すのだ。自身が何者なのか! その生まれをッ!!」

「――――ッ」

 

 その言葉と共に再び尻尾の一撃が叩き込まれた。今度はより強烈な一撃だ。

 鎧はくだけ、もとのドルモンの姿へと戻っていく。その中で思い出すのは、以前過去へとジャンプしたときのこと――Xプログラムの塊が自分となるデジタマへとなったこと。

 

(おれはXプログラムそのものだった。でも、それと何の関係が――いや、そこじゃない。もっと単純に、あの凶悪なデジモンからおれという存在に直接デジタマになったことが重要なのか?)

 

 と、そこに思考がいたり何かが頭によぎる。しかし、同時に地面へと激突し痛みと共にその思考も中断されてしまった。

 なにかがつかめたような気がした。だが、それが何なのかがよくわからない。

 

「さあ、目覚めさせてみせよ――すでに汝はとどいているのだ。後は自らが踏み出すのみだ!」

 

 そして、エンシェントグレイモンの口から炎が噴き出す。今度は今までの比ではない。これをまともに食らえば、無事では済まない。

 その命の危機の中、今までの思い出がよぎる。

 

(走馬灯とか笑えないなぁ……でも本当に色々なことがあったっけ)

 

 カノンとの出会いから、自分というデジモンが究極体に進化するまで本当に様々な戦いがあった。二人で試行錯誤して、色々と試していたのが懐かしい。

 そういえば自由に退化できるように訓練したことも――まて、自分はなぜ退化できるように訓練したのだ?

 

(もともと強くなろうと色々やっていたし、マキナとの出会いとかデジタルワールドでの冒険とか、他にも色々強くなるための努力はしていた。でも、なんで意図的に弱くなろうと――そうだ。進化したままだと色々と不都合があったからで――)

 

 と、そこでドルモンは思い出した。

 ドルモンは自分のデータを少々いじってはいるものの、他のパートナーデジモンたちとは違い進化したらしたままであるべきデジモンなのだ。産まれる前からパートナーとして調整されたパートナーデジモンではなく、カノンの力でデジタマとなったことでつながりができ、イグドラシルの補助やプロトタイプデジモンとしての書き換え機能でカノンのパートナーとしてのデータが付与されているだけで自分の力だけで進化が可能な普通のデジモンでもあるのだ。

 

(つまりこの試練の意味はッ)

 

 ドルモンから力があふれだす。

 今まで無意識のうちにせき止めてしまっていたものがあふれていき、その体を変質させていく。

 内部のデジコアが急速に活動を行い、彼のデータを変化――いや、進化させた。

 

「ドルモン、ワープ進化ァアアアアアア!!」

 

 銀色の巨体、鋼の翼。そして、炎を纏った拳でエンシェントグレイモンの炎を切り裂いていく。

 

「ほう――炎で我が炎を。まことに面白い!」

「そうだ。俺はどこかカノンに甘えていた。それに、焦っていた――この時代にきてカノンはどんどん強くなっていった。それなのに俺は強くなっていないって、未熟だって思っていた」

 

 それでも、それを受け入れる。

 

「未熟でもいい。だって未熟だからこそ成長する。未熟だからこそ進化できる――そうやって、俺たちは前に進み続けるんだ!!」

 

 ドルモン――いや、ドルゴラモンの体が深紅に染まり、放たれている力の波動が数倍に膨れ上がっていく。

 今、彼は自らの力でバーストモードへとたどり着いた。

 

「見事だ。祖なる者よ! それこそ我が求めていた答えなり! 火とは力であり、光でもある。破壊と誕生、両極端の側面を持つ力だ。それゆえに、求められるのは己と真正面から向き合い、御する力だ」

「うおおおおお! ブレイブインパルス!!」

「ならば我も応えよう――オメガバースト!!」

 

 二つの力がぶつかり合い、そして――――

 

 ◇◇◇◇◇

 

 空中を飛びながら、デジモンたちを蹴散らす。地面からはマキナ達の援護射撃が飛んできているが焼け石に水だった。

 単純に物量が多すぎる。それに、厄介なのがこのネオデビモンだ。

 

「がああああ!」

「この、テメェはゾンビかよ!?」

 

 いきなり飛びついて噛みかかってくるのだ。かなりの奇襲として機能するので、全く気が抜けない。集中力がいつまでも続くはずがなく、少々厳しい状況だ。

 バーストモードで一気に蹴散らしてもいいのだが、そうすると巨大ゴーレモンに対処できない。

 

「それでも、やるしか――――ッ!?」

 

 その時、火の神殿の中から巨大な力を感じた。この感じは――――まったく、遅いんだよ。

 

「やっちまえ、ドルゴラモン!!」

「ああ!! 任せろ!」

 

 深紅の竜が飛び上がり、強大な力の波動でデジモンたちを吹き飛ばす。

 

「ドルディーン!!」

 

 残ったのは強力な闇のデータを持つネオデビモンと、今まさにマキナ達へと迫っていたゴーレモン。って、マズいッ、上空の奴らに手こずって接近を許してしまった。

 

「ドルゴラモン!!」

「分かっている。あのデカブツは俺が止める!」

 

 ならば僕はネオデビモンだ。

 飛来し、再び噛みかかってきたこいつの首を掴み、エネルギーを集中させる。

 

「ナニ!?」

「いい加減お前の動きも見飽きた! 単調すぎるんだよ!!」

 

 それに厄介だったのは物量だ。それさえ解決すればあとは完全体同士。

 

「暴走させてブーストしていようが、コントロールできていなければ宝の持ち腐れだ。デジタマになって、やり直してこいッ!!」

「――――ガアアアアアア!?」

 

 青色の光に包まれ、ネオデビモンは消えていく。後に残ったのは小さな暗黒のデータの欠片だけ。それも、すぐに消え去ったが。

 下を見ると、ドルゴラモンがゴーレモンの腕をつかみ、ぶんぶんと振り回していた。というかジャイアントスイングみたいな……

 

「オラァ!!」

 

 そんな叫びと共に、投げ飛ばされたゴーレモン。直後に、深紅の閃光が彼を貫き、消滅していってしまう。

 どうやら、どうにかなったらしい。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「ふぅ、お疲れ様ドルモン」

「へへへ……試練、突破したよ」

 

 ドルモンの体からデジメンタルが飛び出て僕の前に現れる。内部が開き、中には火のエレメントが入っていた。これで、残るは風、水、氷、光の四つか。

 

「折り返しも過ぎたってところかな。とりあえず何とかなってよかった」

「まったくウチたちもひやひやしたよ。もうダメなんじゃないかって」

「ごめんね、待たせちゃって」

「時間はそれほどでもないけどね。でも、なんでいきなりあんな大群が……」

「いや、元々ルーチェモン軍も神殿は狙っているんだ。今までがたまたまかち合わなかっただけで、本来はどちらが先に神殿にたどり着けるかって話になるはずなんだよ」

 

 たどるルートや道中僕らが奴らをつぶしたことで動きが変わってきているのか。

 とにかくここから先は今まで以上に気を引き締めないといけない。

 

「次に近いのは土の神殿だけど……」

「すでにエレメントはもっているんだよね」

「となると、少しばかり離れているけど風の神殿が次に近いかな」

 

 なかなか大変な道中になりそうだけど、とにかく進むしかない。

 

「さあ、先へ進もう――と思ったけど、みんなまだ動けそうにないか」

 

 敵を退けたからか、緊張の糸が切れてみんな座り込んでいた。かくいう僕も、ちょっと動けそうにない。

 

「とりあえず休憩するか」

「賛成!」

「とにかく休みましょう……植物系にこの熱気は天敵よぉ」

 

 ちょっと締まらないが、何はともあれ試練は突破した。

 これから先も、まだまだ戦いは続く。

 今はひとまずの休息が必要だが、それでも僕たちならやれる。そう、思っていたんだ――――

 

 

 

 

 

 

 この先に待ち受けるさらに過酷な運命を僕たちはまだ、知る由もなかった。

 

 




ここらへんで大きな区切りを迎えて、先へと進みます。

不穏すぎるけど、とりあえず次回へ。


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112.時を越えるということ

ちょっと説明回的な


 火山地帯から降りていく間、それぞれの疲労感はかなりのモノだった。

 ドルモンも口には出さないがバーストモードの負荷によりだいぶ動きが悪くなっている。

 

「そろそろ休憩にするか?」

「それがよさそうだけど、休めそうな場所ってあるかな」

「うーん……」

 

 マップデータを展開して、近くに休めそうな場所がないか見てみるが――ちょうどよさそうなのを発見した。そんなに遠くないし、ここならば体力の回復になりそうだ。

 

「温泉を見つけた。疲労回復にも役立ちそうだし、行ってみるか」

「いいね温泉。ウチも行ってみたい!」

「確かにいいかもしれないが、ライラモンが……」

「だ、大丈夫だよぉ……火の属性が強すぎて当てられたわけだから温泉なら大丈夫」

「なら行くとするか」

 

 というわけで、急きょ温泉まで向かうことに。

 大分疲れとかもあったが、道中襲われることもなくゆっくりと目的地へと進んでいる。

 そうしていると、色々と後回しにしていた疑問とかもわくわけで、唐突にドルモンが話しかけてきた。

 

「そういえば試練中にデジメンタルが使えたんだけど、エレメントを保管しているから使用不可じゃなかったっけ? あの時は無我夢中だったから気にしてなかったんだけど、改めて考えると……?」

「ああ、たぶんドルモンが自己進化していたんだろうな。体内に直接取り込んでいたからスムーズに使えたって所だと思うぞ」

 

 僕の側でドルモンに合わせて使用することはできなくなっているが、ドルモンが直接データを引き出す分には大丈夫だったんだろう。もっとも、デジメンタルの方が出てきてくれない以上試練の最中しか使えなかったんだろうけども。

 というわけでそれ以上話のふくらみようもなく、とりあえずこの話はそこまでとなる。

 他にも疑問に思うところは色々とあるが、例えば巨大ゴーレモン。いや、暗黒のデータでサイズ情報がおかしなことになっていたってのは分かる。わかるんだが……

 

(あれは外部から改造しないとできないよなぁ……しかも崩壊させずに適切な処理を施してある。力だけじゃなくて技術に秀でた奴もいるってことか?

 でもネオデビモンの改造はかなり危ない状態だった。何か条件でもあるのか? それともそれぞれ別のデジモンが改造していた? うーん……)

「疲れたぁ……まだつかないの?」

「――あ、ああ。もうそろそろだと思うよ」

 

 思考を打ち切り、マップを改めて表示する。

 道も間違えておらず、すぐに目的の温泉にたどり着くだろう。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 さて、もう結構な期間デジモンとして過ごしていると忘れてしまっていることがあるわけだが――温泉に来たのはいいものの、マキナもいるわけで……服、どうしよう。そして仕切られているハズもなく当然のごとく混浴ということになるわけだが…………

 

「ねえカノンくん……そもそもこの服って脱げるのかな?」

「――――そこからだったかぁ」

 

 そういえばこれって脱げるのだろうか? いや、上着の方はたぶん脱げると思うけどそこのところどうなんだろう? ストライクドラモンを見ると普通にズボンを脱いでいるが……あ、脱げるのね。そういえば前にガブモンは毛皮を脱ぎたくなくて一緒に風呂に入るのを拒んだって聞いたことあるわ。

 

「さて、それはそれで問題なわけだが」

「お前らさっさと入ればいいだろうが……なんでそんなに悩んでいるんだ?」

「?」

 

 ライラモンも不思議そうな顔をしているが、そうだよな。デジモンにはそこら辺の性別差ってないんだったよな。人格的にどちらかには属しているのだが、明確に性別として現れているデジモンは少ない。

 うーん――――と、そこで一つひらめいた。何かに使えないかと思ってしまって置いた布を取り出してデータを書きかける。

 

「よし、こんなものか」

「……水着?」

「マキナのデータを参考にいじってみたんだけど、これなら大丈夫か?」

「うん、ありがと……でも何だかそうやってストレートに対処されると釈然としないものがあるんだけど」

 

 そうは言われても、何も返せないのだが……

 とにかく、これで問題なく温泉に入ることが出来たわけだ。ちなみに僕は下半身毛におおわれているのでズボンや上着を脱げば大丈夫だった。なお、マフラーに関してはすっと消えたけど……人間の時に出ていたマフラーと同様だったと今更気が付いた。

 

「ふぅ、生き返る」

「これまで結構な長旅だったからなぁ」

 

 もうずいぶんと時間が経ったようにも思える。実際のところはどうなんだろうか? デジヴァイスのログから割り出してみるが……たぶん2、3カ月ぐらいか。どうにもあやふやになってしまうのは元の時間とのずれの影響であろう。

 

「残り4つの神殿も速いところ攻略したいけど、まずたどり着くのが長そうだ」

「しばらくすればロコモンの線路も開通するからそれまでの辛抱だよ」

「そっか、ライラモンの言う通りそれがあったか」

 

 ロコモンが復活してから、各地のデジモンたちで線路を広げているらしい。それがあればもっと短縮できるかもしれない。マップに反映されている限りだと……風の神殿の後で海の方へ行くのが良いだろう。水の神殿はどうやら海の上にあるらしい。ロコモンの線路を使えば結構時間が短縮できる。

 

「とは言っても、風の神殿までは完全に徒歩だな」

「やっぱりか。それにしても、ルーチェモン軍の奴らは何がしたいのやら」

「――――それはハッキリとはしないが、ロクなことにならないのは間違いない。少なくとも、未来はひどいありさまになってしまうだろう」

「く、クダモン!? 今まで起きてこないから心配したんだよ!?」

 

 そう、唐突にクダモンが話に入ってきた。

 今の今までマキナが首から下げている薬莢から出てきていなかったのに、大丈夫なのだろうか。

 

「すまないな。この時代の空気が肌に合わなかったのかもしれない。色々と迷惑をかけた」

「それはいいが、この時代?」

「そういえば二人にはまだ説明していなかったか」

 

 ストライクドラモンとライラモンにはまだちゃんと説明していなかったな。触りは言ってあるのだが、いい機会だからちゃんと説明しておこう。なんだかんだで旅の仲間として共にいるわけだし。

 

「僕たちは今からずっと未来からこの時代にやってきたんだよ。この時代に紛れ込んだ何かのせいで未来が大変なことになったからそれを何とかするのが僕たちの役目なんだ」

「未来ねぇ……時間を越えられるならもっと戦力を集めたりはできないのか? それこそカノンが分身するんじゃなくて自分をもう一人つれてくるとか」

「いや、それはできない」

 

 と、そこでクダモンがストライクドラモンの問いに答える。

 

「そもそも時間を超える行為自体がよほどのことがない限り行ってはいけないことなのだ。我々は様々な事情からそれができる立場にいるが、それでも最低限のメンバーで時を越えなければいけない。余計なことをして我々が未来を破壊してはいけないからな。

 確定事象として組み込まれているからこそ、異常を出さずに時を超えることが出来ているわけだがそれを逸脱した行為をした場合に起こりうる因果の逆転は非常に厄介な代物だ」

「因果の逆転?」

お前たち(●●●●)の場合は因果の逆転自体が時間の跳躍に組み込まれているようだから大丈夫だが、もしも同じデジコアを持つ者同士が戦った場合には何が起こるか私にも予測がつかない」

「それって……」

 

 以前、ドルモンが起こしたことだ。

 そうか、頭の片隅にだがずっと疑問として残っていたのだ。デクスドルゴラモンとの戦いでなぜドルモンはデータを破壊されなかったのか。本来ならばデジモンのデータを消し飛ばす能力が備わっているハズのあのデジモンとの戦いでドルモンが平気だった理由。

 

「それこそ、因果の逆転――いや、時間のエラーとでもいうべき現象だ。同一の魂を持つ者同士が接触することで起こってしまう現象だ。デジモンの能力がまともに作用しなくなったり、時間軸において不可思議な現象が起きたりなど色々と厄介なことが起こる。特に気を付けてもらいたいのはプロットモン、お前だがな」

「プロちゃんがです?」

「ああ。マキナとカノンに関しては同一の魂を持った存在はこのデジタルワールドにいないであろうからな。気にするだけ野暮だ。ドルモンに関してもおそらくは最深部に保管されているハズだ。であるならば、私とお前になる前の――同一のデジコア()をもったデジモンがおそらくはいるのだ」

「相当時間が経っているのにです?」

「予感がするのだ。こういう嫌な予感は昔から当たってな――気を付けた方がいいだろう。何が起こるかわからないのだから」

 

 同一の魂を持った存在との接触か……ドルモンの時はそれに助けられたけど次もそううまくいくとは限らない。とにかく、そうなった場合は別の人に戦ってもらうべきってことか。

 

「ああ、その認識で構わない。デジタルワールドも広い。そうそう出会うこともないであろうが……やはり気を付けておいてくれ。カノン、お前なら読み取れるはずだ」

「分かった。気に留めておくよ」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 疲れをとるということもあり、今日はそのまま温泉近くにテントを張って休むことになった。

 色々と使えそうな魔法の式を地面に書き出し、エラーが出そうな箇所を修正する。

 火山地帯で思ったのは、低燃費で広範囲に攻撃できるようなものが必要ということだ。別に殲滅する必要はない。自分がガス欠になったら意味がないため、とにかく戦況をよくするための一手を用意しておくには越したことはない。

 

「うーん……今までが近接攻撃と大火力砲撃に頼っていた面もあるからなぁ…………味方を巻き込みかねない攻撃もまずいし、どうしたものか」

「んぅ、カノンくん? まだ起きていたの」

「あ、悪い。起こしちゃったか」

 

 気が付けば結構時間が経っていたらしい。離れて作業していたが、どうやらマキナを起こしてしまったようだ。

 

「他のみんなはぐっすりだけど、カノンくんも寝た方がいいよ」

「それは分かっているんだけどね。色々と手札を用意しておきたいんだ」

「心配性だなぁ……気持ちはわかるけど、休むことも大切だよ」

「あはは、ごめん」

 

 確かに休むことも大切だ。それでも、考え出すと止まらないのである。

 

「考えていると寝れなくて、どうしてもこれだけは完成させたいんだ」

「魔法式か……砲撃ベースに無数の追尾弾を放つ感じ?」

「その方向で作っていたけど、どうにも使い勝手と燃費が……」

「だったら自分の得意なことを使えば?」

「得意なことって……」

「ほら、電撃能力だよ。アレを使って扇状に広がるとかそんな感じで」

「……扇状、いや対象から対象に感電していくように広範囲に広がる感じなら……」

 

 電撃なら僕のほうで制御も効く。かなり有効な方法かもしれない。

 

「ありがとうマキナ、おかげで一つ片付いたよ」

「どういたしまして。それじゃあ早く……って、今度はどうしたの?」

「次は飛行魔法の改良を」

「いいから早く寝なさい」

「……はい」

 

 流石に、怒らせるのはまずいと思ったので、無理やりにでも寝ることにした。

 まあ、休息も大事だからね。うん。

 

 

 決してマキナが怖かったとかそういうわけではないのだ…………うん。

 




今入れないと次入れる機会なくなるので前に起きた話で解説していなかった部分も含めての説明回でした。


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113.暗躍する者・陰に潜む闇

随分と久々の更新ですいません。
前回のあと忙しくなり、色々と手につかなくなったと今後の話の展開に思うところがあってプロットの見直しをしておりました。

とりあえずちまちまと書いていたモノを投稿することにいたします。


 風の神殿までの道のり。いくつかの街などを経由したが大きな事件もなく平和な道中が続いていた。

 こういう時こそ油断していたら何か大きなことが起こるのだが、一向にその気配もなく日々が過ぎている。この時代に来てからの色々を改造ゲーム機にテキストデータでまとめているのだが……少々気になったことが一つ。

 どうもこの時代でははじまりの町はまだ存在しないらしい。というのも、クダモン曰く未来ではそこらへんのデジタマ転生システムを司っているデジモンは究極体で、究極体自体がほとんどいないこの時代ではいまだ誕生していないらしい。

 一応他のシステムで動いていることには動いているため、デジタマにはなるらしいのだが……どうも勝手が違うようだ。僕自身もデジタマへ還元する力がある以上、何らかのシステムがあるのだろうとは思っていたが……

 

「あのデジモンが誕生するのはもう少し後のはずだ。私たちの知るデジタルワールドになる前に統合と分配が行われるのだが……」

「統合と分配?」

「ああ、詳細は不明だがすさまじい力を持ったデジモンが統合されたデジタルワールドを分断し、分配したらしい。次元を引き裂くほどの力を有していないとできない芸当だが……どこまでが本当かはわからない」

 

 なんというか、スケールの大きい話で。シャカモンとかそれっぽいが、それはまた別の役割を持っているし次元を引き裂くとか絶対にしないか。そもそも彼はこのデジタルワールドのデジモンであるかと言われると微妙なところだ。

 しかしそんなに強力な力を持ったデジモンか……アポカリモンクラスだったらちょっと会いたくない。戦うかはわからないけど、相対するだけでも怖いわ。

 

「それにしても、本当長いなぁ……」

「近くの宿場町までまだまだかかるぜ」

「うへぇ……ウチ、ちょっと休みたい」

「そうだな、一度休憩するか」

 

 どこかに休憩できそうな場所は無いか見渡すが、ダメだ。荒野が続いている。一番近いルートじゃなくて休みながらでも行けそうなルートにしておくべきだったかもしれない。

 

「もう結構この時代にいるけど、あとどれくらいかかるのか」

「このペースだともう数か月はかかるのではないか? それに神殿だけでなくルーチェモンの問題がある。根本的な原因もいまだ不明なのだぞ」

「そっか。元々は時空の歪みを正すためだから……」

 

 その原因を取り除かなくては、僕たちの時代に戻ることもできない。

 神殿巡りはあくまで通過点でしかないのだ。

 とにかく休憩できそうな場所まで歩みを進めるしかない。今は疲労を取り除くのが先決。

 

「だとしてもホント暑いな」

 

 日光が肌を焼くようだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 その様子を一体のデジモンが見ていた。

 

「疲弊しているようだが、油断は禁物か」

 

 メタリフェクワガーモン。ルーチェモンの配下の一体で、カノンたちを抹殺しようと観察しているデジモンだ。

 カノンたちの動向を調べ、ルーチェモン軍のデジモンたちとも連携をとり彼らを倒す機会をうかがってはいるのだが、どうにも決定打が見つからない。

 

「疲弊はしている――だが、油断はしていないのが厄介だ」

 

 下手に動けば究極体で迎え撃たれてしまう。疲弊しているとはいっても、数秒だけでも究極体を持ち出されればその時点で襲撃はご破算となる。

 それどころか、わずかな油断さえもなくなってしまっては余計に状況が悪化してしまうだろう。

 

「手を打たねばならぬ……ザンバモンたちを倒した彼らを甘く見てはいけないのだ」

 

 今、ルーチェモン軍の大半は氷の神殿の攻略をしている。かなり厄介な状況になっており、戦力の大半を投入している形だ。一度その戦力を他に回すべきだともメタリフェクワガーモンは思うのだが、なぜかルーチェモンは氷の神殿を重要視しているのだ。

 

「火を獲ることがかなわぬ以上、氷を確保することこそ最優先……一体どういうことなのか」

 

 おそらくは属性に関連する何かだとは思う。

 各地のレジスタンス勢力のこともある。現在の戦況は混乱の一途をたどっている。

 

「私にできることはこうして、奴らを監視し機会をうかがう事のみか」

 

 すでに多くの神殿がカノンたちの手により攻略されている。勢力強化のために闇の神殿を制圧できたのは僥倖だったが、火の神殿を逃したのが大きい。あの神殿を抑えることが出来れば自軍のデジモンを進化させるためのエネルギーを確保できたのだが……ままならないものだなと、メタリフェクワガーモンはつぶやく。

 勢力図は刻一刻と変化している。機械都市が奪還され、現状は不利が続いている。

 

「…………となれば、まずは時間を稼がねばなるまいて」

 

 使える駒は全て使う。時には捨て駒さえも必要だ――そして、メタリフェクワガーモンはほくそ笑んだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 数日歩き続けてきたが、ようやく景色に変化も見られてきた。

 草原地帯に近づいており、草食動物のようなデジモンたちもちらほらと見えている。中には、竜の頭に足だけ生やした奇怪な姿のデジモンもいるが……

 

「色々なデジモンがいるけど、元の時代じゃ見たことないのばかりだね」

「長い時間の中で淘汰されていったんだろうな……それが最終的にはアポカリモンのデータとなってしまったわけだけど」

 

 しかし、それでもデジタルワールドの奥底で刻まれ続けている。完全にデータが失われたわけではない。地球においても絶滅した動物は数多くいる。でも何らかの形で情報が残っていることだって多い。わかりやすい所で言うなら、化石とか。

 流石にデジタルワールドに化石があるわけではない――いや、探せばあるかもしれないがそれはひとまず置いておく――が、デジタルデータで構成された世界である以上保存領域というものがこの世界の土台に存在している。

 その保存領域には今までのデジタルワールドのデータが蓄積されているため、完全消去もしくはサーバーの取り換えのようなことをしない限りはデータの一部でも残り続けるはずだ。

 

「もっとも、その完全消去を行うためのプログラムがXプログラムなわけだけど」

 

 今現在、Xプログラムを持っているのは僕たち、そしてイグドラシルが保管しているであろうものだけであろうから気にする必要はないわけだが。

 それにあのプログラムは諸刃の剣。情報を取り込んで進化するデジモンにとって、自身を消滅させるプログラムであろうと取り込んで力に変えてしまう可能性がある以上おいそれとは使えない代物だ。

 

(――となると、どうにも納得がいかないよなぁ……Xプログラムを取り込んだXデジモンたちが封印されていたってことは、僕たちが以前イグドラシルと戦うよりも前にXプログラムが使われて、それを取り込んだってことだろうし…………)

「カノンくん? どうかしたの」

「いや、ちょっと考え事。調べようもないし、元の時代に帰ってからにするわ」

 

 今どうすることもできないんだし、気にしていても無駄か。

 とりあえず今は先へ進まなくては。

 

「しかしのどかな風景だよなぁ……今までも結構な戦いがあったっていうのにルーチェモン軍の魔の手はここまで来てねえってことなのか?」

「どうかしらね。アイツらも神殿を中心に動いているみたいだし」

 

 ストライクドラモンやライラモンの言う通り、のどかな風景が広がるばかりだ。

 と、そんなさなかだった。

 

「――――?」

 

 僕の耳に何やら悲鳴のような音が聞こえたのは。

 

「なにか聞こえなかったか?」

「風の音ぐらいしかしないけど」

「どうかしたの?」

「何か悲鳴みたいな声が聞こえたんだけど、気のせいだったみたい」

 

 再び前へと進もうとしたとき、今度はハッキリと聞こえた。

 

「ッ!」

「あ、待ってよ!」

 

 体の奥底が揺さぶられるように疼き、衝動的に駆け出してしまう。

 その声を聴いたことはないはずだ。でも、知っているような気がする――よくわからないが、今はこの衝動に身を預けてしまおう。

 音のした場所へ到着すると、赤いオオカミの様なデジモン――ファングモンの群れの中に小さな赤い丸い玉のようなものが見えた。

 

「ちょカノン速すぎ――って、オタマモンが襲われている!」

「でもオタマモンってあんな色だっけ?」

「そういう疑問は後回しだ。とにかく助けるぞ!」

「合点だぜ!」

「弱い者いじめは許さないわよファングモン!」

 

 ファングモンは僕たちの出現に驚いていたようだが、数で優っているからか余裕そうに僕たちを取り囲む。

 10は超えているし、普通のデジモン相手ならその態度も普通だろう。それでやっていることが一匹のオタマモンを襲っていることだからアレだが。

 

「とりあえず、ぶっ飛べ!」

 

 まず僕が一匹を殴り飛ばす。続いてマキナが銃弾で弾き飛ばしていた。

 ドルモンとプロットモンは体当たりしているだけだが、ファングモンの連携を乱すには十分だった。ストライクドラモンとライラモンが追撃することで一気に蹴散らしている。

 

「さて――とりあえず、首を斬られたい奴から前に出な」

 

 そう言い、僕は背後に光の剣を十本ほど出す。このまま射出してもいいのだが、流石に問答無用で倒すのも問題である。脅しだけでわかってくれれば御の字であるが――予想以上に効果があったのか、一目散に彼らは逃げ出してしまった。

 

「カノン、極悪人みたい」

「流石にウチもひくわぁ」

「……正直やり過ぎたと思っている」

 

 妖怪首おいてけみたいな感じになってしまった……フラストレーションが溜まっていたのだろうか。

 とりあえず光の剣は消しておいて、改めて襲われていたオタマモンの様子をうかがう。やはり元の時代で見たオタマモンとは体色が異なっている。通常は黒、もしくはそれに近い青色というべき体色だがこのオタマモンの色は赤だ。

 

「通常種とは属性も違っているな。ウィルスじゃなくてデータ種だ」

「タマァ……」

 

 少し疲弊しているようだが、大きな怪我もなさそうでとりあえず安心と言ったところか。

 と、そこでライラモンが何かを考える様子を見せ、ぽんと手を打った。

 

「そういえば、聞いたことがあるわね。温泉地帯とかにいるオタマモンは色が赤いって」

「へぇ、確かにコイツには水じゃなくて火属性が備わっているみたいだな」

 

 水属性を持っていないわけではないのだが、配分が通常種とは異なっている。DNAと属性のバランスか……このあたり研究すれば僕自身の進化も安定しそうではあるが……

 

「今はとにかく先に進むべきかな。ほら、お前を襲う奴は追っ払ったから今度は気を付けるんだぞ」

 

 木の実を二、三個置いて僕たちは先へと進む。

 別段こんな出会いは珍しいものでもなかった。この時代に来てからこういう小さな出来事というのは何度も起きている。中には未来にいない古代種もいた。そういったデジモンの情報は逐一まとめている。

 ただ、この出会いが後に様々な形で未来へとつながることに今の僕は知る由もなかった。情報としてだけではない、確かな形で。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ファングモンたちは逃げ出したのち、再び元の場所へと戻ってきていた。自身たちにとっても戦いやすい夜――しかし、カノンたちもオタマモンもすでにいない。

 屈辱を晴らそうと戻ってきたはいいが、流石に彼らはもういるはずもなかった。

 

「――――ッ!?」

 

 だが、誰もいないわけでもなかった。

 形状は人型、だがその背に生やしたコウモリの様な翼とただならぬ威圧感。そして、尾を蛇にした同じくコウモリの羽の様な翼をもつ鳥と虎を合わせたような姿のデジモンを数匹従えている。

 

「力の残滓を見に来てみれば――失せろ。お前たちのような雑魚にかまっている暇はない」

 

 あまりにも強大な力の前にファングモンたちは委縮し、逃げ出していく。昼間に感じた恐怖などとは比べ物にならない。このデジモンは容赦なく彼らを消し去るだけの力がある。

 そして、ためらいもしないだろう。ほんの気まぐれで見逃されただけだ。ただただ、ファングモンたちは自らの本能に従って逃げていく。

 

「ふん……姿を見られて生かしておく理由は無いが…………奴らなら他のデジモンに伝聞する心配もあるまい」

 

 ただ殺す理由もない。余計な力の残滓を残すデメリットの方が大きいだけだなと、そう呟いて彼は姿を消した。まるで最初からそこには誰もいなかったかのように。

 

 



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114.散華

大幅に時間がかかっていたのはここら辺のシーンで悩みまくっていたからでもある。そのせいかかなり拙いとは思いますが、投稿いたします。


 風の神殿も近づいてきた矢先のことだった。

 その日は天気も悪く、どんよりとした空模様で何か嫌な予感が朝からしていた。皆が口数少なく肌にピリピリとした何かを感じていたのを覚えている。

 後々考えると、これが一つの大きな転機だったんだろう。僕たちみんなにとって、この日の出来事はいつまでも心に残り続けている。後悔はし足りないし、今でもどうにかできたのではないかと考えてしまう。

 そう、はじまりは何かが爆発するような音からだった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 大きな音がした。僕たちは一斉にその方へと目を向けると土煙と共に何かが蠢くような影がこちらへと迫って来てた。数を数えるのもバカらしくなるくらいの大軍。

 

「――ルーチェモン軍!?」

「いきなりだなオイ! 奴ら攻めてきやがったってのか!?」

「みたらわかるでしょ! カノンくん、どうするの」

「逃げるにしたってこうだだっ広いと的になるだけだな。だったら迎え撃つしかないッ」

 

 幸い、成熟期までのデジモンしかないみたいだ。どうやら広い場所で数で押し込む作戦らしい。一応周りも索敵(サーチ)するが別段反応はない。

 ならばここは一気に制圧して突破するのが賢明か。

 

「いくぞドルモン! プロットモン!」

「合点だ!」

「いくです!」

 

 流石に数が多いため、究極体は使えない。時間制限を考えるなら完全体までがベスト。ドルモンはグレイドモンに。プロットモンはネフェルティモンに進化してもらう。

 僕もアイギオテゥースモン・ブルーへと進化し上空へ飛行する。

 

「僕は上から援護する。みんなは円を組んでお互いをフォローしながら立ち回るんだ!」

「わかった。ちゃんと援護してよ!」

「サイクロモンにケンタルモン、ガオスモンにティラノモン……他にも色々いるみたいだな。より取り見取りってか」

「軽口言っていないで、気を引き締めていくよ」

 

 そう言うマキナの首元には薬莢がぶら下がっているが、何の反応も示さない。どうやらクダモンはまだ本調子じゃないらしい。

 

(ちゃんと話を聞くべきなんだろうが、今はそんなこと言っている暇はないな。それに、たぶん教えてくれないだろうし――とにかく、まずは目の前の問題を片付けるべきだ)

 

 左腕からエネルギー弾を発射し、敵をかく乱する。何匹か素早いデジモンがいるがそいつらはマキナとネフェルティモンが対応し、ストライクドラモンとグレイドモンが遊撃しながら彼女らを守っている。

 時折硬い相手はライラモンが吹き飛ばして対処していた。

 実力差は問題ない。ただ、数が多すぎる。

 

「いきなりこんな手に出てくるなんて……一体どうなっているんだ?」

 

 何か嫌な予感がする。とにかく素早く対処しなくてはいけない。一気にエネルギーを放出して敵を吹き飛ばす。その隙にグレイドモンが飛び込んで次々に敵を切り裂いていった。

 ストライクドラモンが力を解放し、体に炎を纏って迫りくるデジモンたちを蹴散らしている。どうやら彼も大分力をつけてきているらしく、素の状態で並みの完全体を越える力を発揮し始めているようだ。

 

(それだけに、今後の進化が予測できないわけだけど――)

 

 と、そこで僕は思考を中断させる。何か嫌な気配を感じシールドを展開した。そのはずだった。

 

「ッ!?」

「カノンくん!?」

 

 強い衝撃と共に僕の体が弾き飛ばされる。知覚外からの攻撃!? 一瞬思考が乱れれた。その隙に小さな影が僕たちに迫ってくる。あれは……

 

「ミサイモンだ気をつけろ! 幼年期だがとてつもない破壊力を持っているぞ!」

 

 知っている。いつだったか、前に見たことがある。ただ、そう返事をする間もなく全力で防御して攻撃を防ぐしかない。

 うめき声が思わず漏れるほどに、強い衝撃が何度も襲ってくる。

 仕方がない――いくぞ!

 

「グレイドモン究極進化――ドルゴラモン!」

 

 ドルゴラモンの体が輝き、強い衝撃波があたりに放たれる。

 ミサイモンも含めて、周囲のデジモンたちをその一撃で破壊していく。

 

「流石に数が多いが、突破口はできた!」

「よし、ならこの場を一気に――」

 

 そこで、再びなにか嫌な予感が体を駆け巡った。

 知覚外からの攻撃。それはすなわち――気配を感じさせないような存在、もしくは何かトリックがあってのこと……普段から搦め手が多いだけにそう考えていたが、もっと単純な話だった。

 

「スナイパー!?」

 

 衝撃が襲って来た。ただ、それは僕にではなく近くにいた彼女――ライラモンへと届いたのである。

 

「ら、ライラモン……」

「あれ……なんだろうこれ、体に力が…………」

 

 ガクンと体が倒れていく。マキナが慌てて彼女の体を支えるが、はた目から見てわかるように、彼女の体に力が入っておらず、体が動かないのがわかる。

 手足の先から小さな粒状のナニカがこぼれている……あれは、ライラモンの――――

 

「カノン、ライラモンのデータが!」

「分かっている――でもまずはッ!!」

 

 ライラモンの撃たれた位置と先ほどの僕が受けた衝撃、その方向と知覚範囲から逆算して――おおよその位置を割り出す。

 先ほど僕が撃たれた時にはここまでのダメージを受けることはなかった。おそらくは機械系にはあまり効果がない攻撃だったんだろうと推察できる。

 だけど今はまずこの一撃を放つ方が先決だ。

 

「ぶっ飛べ――!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

「すこし、欲をかき過ぎたか」

 

 メタリフェクワガーモンは確実に一撃を当てるために準備していた。そのために囮のためだけにあんな大軍まで用意したのだ。

 しかし一番厄介な存在はよりにもよって機械系に進化してしまい、次善の策でミサイモンによる爆破を行わなくてはいけなくなった。それも防がれたために自分の弾丸において最も効果を見込めるライラモンへと標的を変えたわけだが……

 

「まさか、このたった少ない情報でここにエネルギー砲を打ち込むとはな」

 

 たった一撃の攻撃でメタリフェクワガーモンの体にダメージを負わせた。狙撃のために少し自分の体をカスタムした弊害か、若干脆くなってしまっていたらしい。

 

「いや、それでなくとも奴の砲撃が規格外なのか」

 

 まるで神か魔王の幼生体というべきか、未だ力の全てには目覚めていないが近い将来厄介な存在になることには違いない。何とも奇妙なことに、光の属性ではあるのだが闇の属性の力を使っている。高位の天使型――それこそルーチェモンと同種か近しい存在だからこそ同時に二属性の力を用いているのだろうが。

 

「今はとにかく撤退を――ッ!?」

 

 そこで、目の前に炎が迫ってきた。

 青白い炎に包まれた人型のデジモン。いや、シルエットで見るのならば人だがその印象は竜。

 ストライクドラモンが咆哮と共にこの離れた位置まで飛来した。

 

「グルァアアアアアア!!」

「クソッ――計算外だった。こいつのポテンシャルがここまでだったとは」

 

 怒りによってデジコアの枷が外れたのだろう。今までも白い炎という形で潜在的な力が発揮されていたが、今回は怒りによりストライクドラモンの内なる力が純粋なパワーとして発揮されている。

 だがしかし、それは同時に理性も外し戦闘のためだけの存在へと変貌することを意味する。白い炎ではなく再び青い炎――いや、紫色の炎へと変貌を遂げたそれは標的を殺すためだけに振るわれるものだった。以前に見せた浄化の力、その片鱗すらもそこにはない。

 

「ガアアア!!」

「調子に乗るなァ!!」

 

 炎とメタリフェクワガーモンの放つ光弾がぶつかり合う。小さな爆発が起こり、両者の肉体にダメージが入っていく。互いに身を削らねばこの状況を切り抜けられない。

 ストライクドラモンが爪を振るい、メタリフェクワガーモンが巨大な腕でそれを弾く。

 

「――ハハハ! 貴様、自らの身すらも破壊するぞ。その炎はお前の凶暴性が形となったものだ。我々はデータで出来た存在だ。この感情すらもデータで出来ている。すなわち、感情そのものが形となってしまうのが我々なのだ!」

「ガアアアアアアアア!!」

「故に力に身を任せた貴様は全てを滅ぼす! わたしを倒すがいい! だが、その果てには破滅しかないと知れ!!」

 

 少しでもながく戦いを長引かせなければならない。メタリフェクワガーモンには理解できていた。この存在は危険だ。ルーチェモンの配下にとって、この存在は危険すぎるのだ。

 

(今はまだ未熟だ。だが、将来は必ず我々にとっての大きな障害となる。ならば我が身と引き換えにこの場で消し去るしかない!)

 

 刺し違えてでもここで消さねばならない。その覚悟で突撃しようとした、そのタイミングだった。

 強烈な闇の力が彼の仲間たちがいたはずの場所から吹き荒れたのは。

 

「なに!?」

「――――ッ」

 

 そのため、本能がむき出しになったストライクドラモンが反応した。復讐心に取り付かれたためにメタリフェクワガーモンのみを標的にしていたが、魔王型デジモンに迫るほどの闇の属性の波動を感じたことで彼の動きが止まったのだ。

 その一瞬で彼は考える。

 

(どうする? わたしの体も限界に近い。こいつを消す――いや、動きが止まったということは標的を変えるかどうか、それを考えるだけの冷静さが戻ったという事。これはチャンスではない!)

 

 強い波動がほんの少しだけでも思考能力を取り戻させたのだ。本能に身を任せた状態ならば相討ちにはなった。だが、今の状態ではその可能性もない。

 戦闘センスの塊であるからこそ、我を失っている状態でもない限り完全体として平均より多少強い程度の自分では勝ち目はないと、すぐに判断を降す。

 

「ならばここは逃げるのが得策よ」

 

 煙幕をはり離脱する。自身の体も限界だった。体のあちこちはショートしており、データが破損している。

 これはしばらくの間は修復に専念する必要があるだろう。

 そしてストライクドラモンもしばらくは動かないでいたが、ちらりと見たときになにか黒い影が彼を止めようとしていたのが見えた。どうやら、追手の心配をする必要はないらしい。念のためジャミングをしてはいるが……

 

「まったくもって、計画通りにはいかぬものだ」

 

 賽は投げられた。今この時、運命は大きく動き出した。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ストライクドラモンを止めることはできなかった。体から炎を噴き出させて狙撃者を殺しに行ったのだろう。今の彼に理性は残っていない。

 ドルゴラモンたちが周囲のデジモンを食い止めてくれている中、必死にライラモンの治療を行っているが……

 

「クソッ――まるで植物を虫が食い荒らしているみたいだ。ライラモンのデータがどんどん破損していっている!」

「そんな、どうにかならないの!?」

「…………無理だ。使われた弾丸とライラモンのデータの相性が悪すぎる。深いところまでダメージが……」

 

 地面を何度も殴る。どうにかできないか、頭に激痛が走ろうが構わず対処法を演算するが、結果はダメだ。もうライラモンは……

 

「――ごめん、なさい」

「謝るな! 絶対、絶対に何とかして見せる!」

「いいの……わかっている。ただ運が悪かっただけ。たまたま、相手が私の天敵だった。それだけ、だよ」

「ライラモン! 諦めないでよ! ここで、ここで死んじゃダメでしょ!」

「――――最期に、お願いがあるの」

「最期なんて言うなよッ」

 

 何カ月も一緒に旅をしてきたんだ。ここでお別れだなんて言うな。最期だなんて言うな。目の前が歪み、地面に水滴ができる。

 ライラモンは僕の手を握り、まだ無事なデータを渡してきた。

 

「おねがい、ストライクドラモンを止めてあげて……今のまま、戦っていたら彼も死んじゃう――だから、お願い」

「ライラモン……」

「あんな、悲しそうな叫び声をあげて戦う彼を止めてあげて」

 

 そのセリフを最期に――ライラモンはデータの粒となって消えた。

 

「あ、ああああああ……」

 

 マキナが涙を流し、そのデータを掴もうと手を伸ばすが、それもかなわず彼女は風に乗っていく。

 ドルゴラモンとネフェルティモンの動きが一瞬止まり、咆哮と共に再び周囲の敵を吹き飛ばす。

 

「なんで……なんでよライラモン」

「――――ちくしょう……」

 

 危険な旅だと分かっていたはずだ。今までだって何度も危険なことはあった。そして、ついには彼女が犠牲になった。

 僕自身だって何体ものデジモンを倒してきた――だけど、この別れはあまりにも唐突で、そしてやるせなかった。自分のふがいなさに腹が立つ。自分の油断がゆるせない。

 だけど……立ち止まるわけにはいかない。

 

「ライラモン……お前の最期の願い、それをかなえる前に立ち止まるわけにはいかない。泣くのは後だ。今は、ストライクドラモンを止める」

 

 体の中で枷のはずれたような感覚があった。ライラモンに貰ったデータが僕の中のナニカと結びつき、強大な力となって駆け巡る。

 懐かしい感覚と共に、僕の姿が変異していく――ああ、この力は使ったことがある。

 呑まれそうになる感覚があるが……それは、すでに乗り越えた道だ。

 

「カノン、くん?」

「大丈夫だ。心までは、呑まれないさ」

 

 膨大な力となって、あたりに吹き荒れる。体毛は黒くなり、僕の体は悪魔と呼ぶべき姿へと変貌を遂げた。

 

「アイギオテゥースモン・ダーク」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 __第三コードの解放を確認。

 __第四コードの使用条件が満たされました。第四コードを使用します。

 __プログラムTの解凍を開始します__エラー。第四コード使用中につき、一時中断します。

 __第四コード。名称・ダーク発動。

 

 

 

 __未開放コード。残り1

 

 

 



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115.善なる闇と悪なる光

ver.20が届いたテンションで書きたかったけど、昨日はPCの更新が長くて断念していました。
というわけでテンション一日持ち越しで更新。


 その力は絶大だった。

 カノンの放った力の波動は周囲のデジモンの動きを止め、その隙に彼はストライクドラモンの元へと駆けつけた。

 暴走しているとはいえウィルスバスターの性質は存在している。

 

「ガアアアア!!」

「無駄だ。闇の力とは言っても、ワクチン種であることには変わりない。その炎の強制デリートの効果は脅威じゃない!」

 

 ウィルス種であったのならば不利であっただろう。炎という性質上、ライラモンから受け取った力を使っても不利だったかもしれない。だが、ある意味では今のこの姿は彼を止めるためにはうってつけの姿なのだ。

 闇でありながら自身の心によって暴走を引き起こしていない。以前にピエモンの闇の力を体内に宿したことがこの場において糧となっている。

 心を飲み込む闇の力。それをコントロールすることで暴走するストライクドラモンの浄化の力を中和しているのだ。今この時、彼らは奇しくも正反対の性質となって対峙していた。

 

「ストライクドラモン、気持ちはわかるし無理に落ち着けなんて言わない――でも、その力に呑まれたら駄目だ! だから、殴ってでも止めてやる」

「ガアアアアア!!」

「全部受け止めてやる。だから、こいッ!」

「ガアアアアアアアアアアアア!!」

 

 咆哮をあげて迫る爪。いや、炎で出来た拳というべきだろう。それをカノンは自分から噴き出す闇で受け止める。黒い雲のクッションで包み込み、浄化の力を打ち消している。

 本来であれば闇の力で浸食するそれを、彼を救うために用いている。ストライクドラモンにしても本来であれば邪悪なものに侵された者を救うために振るう炎をただ破壊することのみに使っている。

 両者は対極の力を随分とちぐはぐな使い方をしていた。

 

「――力そのものに善も悪もない。光も闇もただの属性だ。その性質を決めるのは使う者の心だ」

 

 ストライクドラモンの手首をつかみ、彼の懐へと飛び込んでいく。

 彼も尻尾を地面に突き立てて抵抗しお互いがはじかれる。

 

「このままじゃ千日手――いや、千日手でいいんだ」

 

 必要なのはストライクドラモンの力の発散。今のカノンが相手ならば、中和により彼の体のダメージを最小限に抑えられる。

 

「だったら後の問題は僕が持つかどうか――いや、持たせて見せる!」

 

 ストライクドラモンの体から炎が吹き荒れる。

 まるで、泣き叫ぶかのような咆哮と共に繰り出されるラッシュ。その全てを包み込むように受け続けているカノン。ストライクドラモンが攻撃し、カノンがそれを受け止める。幾たびも繰り返し、やがて襲って来た敵をすべて退けたドルモンたちがやってきた。

 空からはぽつぽつと雨が降り出している。まるで、涙のように。彼の嘆きを表すかのように雨は降り続ける。

 闘いは激化し、爆風と闇の力による浸食によりあたりのデータが削られ飛び散っていく。

 不毛なだけの戦いは同じリズムで続いていく。ストライクドラモンが拳を振るい、カノンが受け止める。キャッチボールの様なリズムで紡がれる、彼の八つ当たりをカノンはただただ受け止めていた。

 

 

 

 

 

 

「二人とも……」

「カノン、ストライクドラモン…………もう何時間も経っているのに」

 

 雨も強くなり、それでもなお二人の戦いは終わらない。ストライクドラモンは息も絶え絶えに拳を振るい続ける。もう炎も噴き出していない。カノンにしても、進化は解けてアイギオモンの姿に戻っていた。

 あるのは自分へのふがいなさと後悔の念。どこへぶつけていいのかわからない怒りだ。

 

「畜生……なんで、なんでなんだよライラモン…………」

 

 やがて、ストライクドラモンは膝をつきうわ言のようにライラモンの名前を呟き続ける。

 起きてしまったことは変えられない。もう、彼女は帰ってこない。デジモンが死んでも再び生まれ変わる存在だとしても、それは以前までのライラモンではないのだ。

 以前の記憶のままに生まれ直すことができるのは、もっと未来になってから。この時代においてはそれも無い。未来においてもそれこそパートナーデジモンにしか見られなかった現象だ。

 

「今は吐き出せ。自分の思いを……じゃないと、つぶれるぞ」

「……俺は結局暴走して、さよならも言えなかった…………ライラモンをみすみす殺されて、暴走してそんな大事なことも出来なくて――ッアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 その叫び声は、やがて雨に融けて聞こえなくなった。

 ただ願うしかない。この雨が彼の後悔を洗い流してくれることを。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 各地ではルーチェモン軍に対して動き出していた者たちがいた。カノンたちが神殿を攻略し、その道中で彼の軍を撃破した話が広まり、デジモンたちは集い反乱軍を組織していっていた。

 ルーチェモン軍が目指す氷の神殿。そこを守護するように彼らは戦っている。

 そんな彼らを瓦解させるためにもメタリフェクワガーモンは動いていたわけだが――作戦は失敗。

 

「こうなれば禁書を用いるしかない……だが、まずは傷を癒さねばならないか」

 

 どうやら主であるルーチェモンも独自に動き出しているようだ。

 自身と同種の力を持つカノンと呼ばれていたデジモンに対して、何らかの手を打つつもりらしいがそれもメタリフェクワガーモンにはあずかり知らぬこと。ルーチェモンは彼の一手も二手も先を考えて動いている。ならば主のことを信頼し自分は自分にできることをするまでと、ルーチェモンの城……その宝物庫の奥に保管されている禁書と呼ばれる物を持ち出した。

 

「……我が身を犠牲にしてでも止めねばならない。危険な代物ではあるが、あのストライクドラモンは危険だ。いずれは我々の天敵になるやもしれん」

 

 主が神人型デジモン(カノン)に対して動いたというのならば自分はあちらを討とう。

 そのためにもまずはこの禁書を読み解かなければならないが。

 と、そこで部下のデジモンから通信が入った。

 

「何事だ?」

『サンゾモンに動きがありましたが、いかがなさいますか?』

「そうか……そういえばそちらもあったな。作戦に大きな支障はないとはいえ大局を見るならばあの者たちも危険か…………とりあえずはキンカクモンを焚きつけろ。それでひとまずの足止めはできるはずだ」

『かしこまりました』

 

 反乱軍だけではない。ルーチェモンに対抗する戦力は数多い。

 光の神殿を守護するナイトモンとメイルドラモン。

 先の話にもあったサンゾモンとそのお供である三体のデジモン。

 海ではキャプテンフックモンの率いる海賊団との戦闘になった話も聴く。それに、緑色の衣服をまとったデジモンによってルーチェモン軍のデジモンが事実上の全滅をしたという報告もあった。詳細は不明だが、各地に無視できない動きがみられている。

 

「それにいまだ確認は取れていないが、強大な力を持つデジモンが動いているという話もある。早急に対策をとる必要があるな……」

 

 各地の部下たちへ伝達する。状況はいまだ好転せず。我々が優位な状況は過ぎた。これからは死力を尽くした戦いが始まる。

 我々が――いや、ルーチェモン様が世界の覇権を握るためにはこれから先の戦いで決まる。

 

「氷の神殿だ。あの神殿を何としてでも手中に収めるのだ」

 

 巨大な氷の防壁に守られているあの神殿を攻略するのは困難である。ルーチェモンの軍においてもあの防壁を突破することは難しい。かといって、最大火力を持って破壊したところで目当てのモノは手に入らない。

 真正面から攻略するしか道はない。

 

「時間との勝負だ。この戦い、どの陣営にとっても時間との勝負になる」

 

 橘カノンの一行が神殿を攻略するのが先か。反乱軍がルーチェモン軍を打倒するか。ルーチェモン軍が氷の神殿を攻略し、目的を達成するか。はたまた、別の何者かが状況を一変させる一手を打つか。

 世界は刻一刻と状況を変化させている。いまだ未来は定まっていない。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 砂漠を歩く者たちがいる。白い法衣に身を包んだデジモンが三体のお供を連れて旅をしていた。

 どのデジモンも完全体であり、強い力を秘めている。

 そんな中、ピンク色の豚の様な着ぐるみに身を包んだ女性の姿をしたデジモンが愚痴をこぼすようにつぶやいた。

 

「こういつまでも砂漠だと気が滅入っちゃうよねぇ」

 

 その顔はどこか緩んでおり、別段砂漠続きであることは気にしている様子はない。ただ単に、無言で歩き続けるのが嫌だっただけらしくその後もとりとめもない話を続けている。

 

「まったくチョ・ハッカイモンは陽気で呑気でお気楽だね」

「サゴモンには言われたくないけどね」

 

 河童のような姿をしたデジモンが彼女、チョ・ハッカイモンに対して反応を示したがそれは心外だと彼女も反論する。

 

「あんただってこの前の宿場町で酒場のデジモンたちと旅の話であることないこと言ってお調子もの、って感じで騒いでいたじゃないのよ」

「ハハハ。記憶に無いネ」

「アチキの眼にはあの時、酔いつぶれて迷惑かけまくっていたように見えたんだけどね……」

「……少しは静かにしろ。二人とも」

 

 流石にうるさくなってきたのか浅黒い肌の猿と人の中間のような見た目のデジモンが二人をたしなめる。

 頭を痛そうに抑え、溜息をついた。

 

「その時も私が頭を下げて回ったのではないか……まったく」

「まあそのぐらいでいいではありませんかゴクウモン」

「ですが、お師匠様」

 

 白い法衣に身を包んだデジモンが彼を止める。ゴクウモンとしてはいい加減に少しの礼節も覚えてもらいたいものだが、この二人は根が適当な部分があるためどうにも困っているのだ。

 

「あなたも昔はやんちゃをしていたではありませんか。果敢に火の神殿の主に挑んだり、他にも色々と」

「そんな昔の話を持ち出されても困ります。第一、火の神殿の主に挑んだのは私がまだハヌモンだったころの話です。お師匠様と出会ったのはその後ではありませんか」

「あら、そうでしたっけ?」

「……ハァ。まったくお師匠様は」

「そう言ってゴクウモンはお師匠様にあまあまなんだよー」

「そうだヨひいきだヨ」

「お前らうるさいぞ!」

 

 自分が生真面目になったのはこのふざけた二人と釣り合いをとるためだろうなと思わずにはいられないゴクウモンだった。

 この二人、天界のデジモンだったが追放された身で最初は同情したりもしたが今では違う。絶対に自業自得だ。軽い性格のせいだと半ば確信している。

 と、そんな和やかな雰囲気もそこまでだった。

 

「――――なにやら嫌な気配を感じますね……」

「ええ、強大な光と闇の波動を感じました。ですが、どこか違和感があります。サンゾモン様、これは一体?」

 

 ゴクウモンと彼らの師匠、サンゾモンは謎の力の波動を感じ取っていた。後の二体はそのような力を感じ取れはしなかったが、何やらよくないことが起こりつつあることだけは分かっている。

 このような時、決まって彼らは大きなトラブルに見舞われているのだ。

 

「ルーチェモン軍……ではなさそうです。それに、この感覚……決まりました。我々はこの力を放った者たちに会いに行きましょう」

「でも大丈夫なんですか? 強い闇の力なんて」

 

 チョ・ハッカイモンが心配しているのは自分の身ではなく、サンゾモンである。彼女を狙って様々なデジモンたちが今まで襲って来た。なのに強い闇の力を持つ者に会いに行こうというのだ。心配もするだろう。

 

「いえ、そちらは平気でしょう。闇の力ではありますが闇の十闘士のように穏やかなものを感じました……むしろ不安なのは光の方です」

「ええ……まるで悲鳴のようでした。一体この世界に何が起きているのか」

 

 機械都市の一件やザンバモンの部隊が全滅した話など、この世界の状況が一気に変化している。

 近々大きなことが起きつつあるのではないかと、彼らは思っていた。

 

(ですが、この闇の力…………もしかすると、もしかするかもしれませんね)

 

 そんな中、サンゾモンだけは何か思い当たることがあったのか一人納得していた。

 もし自分の想像が正しいのならば……時が来たのだ。

 いつの日か自分が送り届けねばならない、運命の子がやってきたのだと。

 




ver.20のほうは今、アグモンとパタモンを育てています。
当時のは持ってなかったけど、デジヴァイスicというものがあってだな……

とりあえずプロットモンらしきドットは見た。ドルモンが入っていることを願おう。
アルファモンは限定カラーがあるからいるのは確実なんだけど、限定カラーだけなのか全部でいけるのか、それとも条件付きで二台以上必要なのか……


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116.風吹く大地

バトスピとデジモンコラボに興奮した勢いで書き上げました。
これでゴジラ対ウルトラマン対デジモンが実現してしまうのか……



 時刻は夜。みんなも寝静まったころ僕は一人抜け出して少々離れた場所までやってきていた。

 ライラモンが死に、全員が状況をうまく消化できずに重苦しい雰囲気の中での旅が続いている。もう風の神殿はすぐ近く……この調子だと神殿を攻略できないかもしれない。

 特にストライクドラモンとマキナが心配だ。ストライクドラモンは意気消沈として、小さな戦闘においても自分が暴走しないか恐怖している。そのせいで、今までの実力が発揮できずに危ない場面が何度もあった。

 マキナもこの時代に来てからはライラモンとはとても仲良くしていた。そのライラモンが死んだことで彼女も取り繕ってはいるが、やはりまだどこか上の空だ。

 

「このままだとまずいよなぁ……」

 

 僕を含めてみんな、どこか無理をしている。

 一瞬のことでどうしようもなかった。そう言い訳することもできる――だけど、やっぱり僕たちは悔やみ続けるだろう。それほどまでに彼女の死は僕たちを苦しめてしまったのだ。

 体の奥底に集中し、力を引きだす。死に際にライラモンから受け取ったデータによって新たな進化を獲得することもできた。それにより、ピエモンやメフィスモンにより体に受けた闇の力も進化という形で使えるようになった……

 

「代償は大きすぎたけどな」

 

 頬を叩く。こんな事ではいけない。

 できることが増えたのだから、とにかく反復あるのみだ。今こそ基本に立ち返ろう。

 後悔しないように。自分にできることは精一杯やるしかない。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 太陽が昇り、ドルモンは眠気眼でカノンを探しに出た。

 目が覚めてみるとカノンがテントの中にいないのに気が付き、周囲を探したのだが見当たらない。何かあったのかと思いながらもひとまずは周囲の状況を確認するべきだと、動き出したわけだが――

 

「あれ? 昨日まで森なんてなかったよね?」

 

 なぜか、テントの近くに森が出来上がっていた。

 この付近は草原だったはずだ。決して森ではなかった。なのに今広がっているのは森。

 

「……まさか、またやらかしたの?」

 

 ドルモンが見つめる先には木にもたれかかって眠るカノンの姿がある。最近は少なくなってきていたが、この男……力の検証や技能の習得、開発などに集中しだすととんでもないことをやらかす悪癖があるのだ。

 一番近くでそのことを見続けていたドルモンはこの現状で何が起きたのかおおよそ察してしまったらしい。と同時に、思わず吹き出してしまう。

 

「まったく……いつまでも落ち込んでいられないか」

 

 やがて、眠っていたみんなも起き出して現状に驚き、自分が説明する羽目になるんだろうなとドルモンはため息をついた。それでも、そんな苦労もいいかもしれない。

 自分が悩んでいたことを吹き飛ばしてくれた。みんなも、気持ちを切り替えられるだろう。

 前に進み続け、運命を切り開こうとするカノンだからこそ、自分は彼のパートナーになったのだから。そして、その思いが伝播することで、多くのつながりが生まれたのだから。

 

 

 

 

 時刻は昼。

 カノンもようやく眠気と疲れが取れ、一行は風の神殿付近までやってきていた。

 

「まったくウチもびっくりだよ。カノンくんは一体何をやらかしていたのか」

「ははは……スマン。新しい能力の検証やら色々やっていたらついやり過ぎて」

「それで疲れ果ててあんなところで眠るんだから世話ないよね」

 

 みんなからなじられて、カノンもばつが悪そうに頭を掻く。

 だけど昨日までの憂鬱な雰囲気は緩和していた。

 

「しかしあれほどの力……一体何をすればああなるのだ? 森を作り出すなど究極体でも早々できることではないぞ」

 

 クダモンの言う通り、規格外な力だろう。

 

「あれはエレメントが共鳴したせいかもしれない」

「共鳴?」

「ああ。エレメントが結構な数集まった上に僕が使った力、それに風の神殿が近いからこの付近に満ちている力が共鳴したことでああいう事が起きたんだと思う」

 

 カノンたちの集めているエレメントには思わぬ特性があった。火と木のような相性関係にあるエレメントであっても複数あつまると共鳴するというものだ。

 

「なんていうか、そういう性質なんだよ。複数集まることでより大きな力になるんだ。もしも全部の属性を一つの力として発揮できるならすさまじいことになる……んだけど」

 

 問題点が一つ。

 

「エレメントを収めるだけならデジメンタルに入れればいいんだけどね。力を発揮する器のほうが……」

「一端とはいえ、最古の究極体……十闘士の力の一部だ。十の属性全てを内包したうえで扱える器など早々存在しないだろう。むしろ保管できるそのデジメンタルが異常なくらいだ」

「凄い話です……途中からよくわからないけどです」

 

 プロットモンだけでなく、マキナとストライクドラモンも頭に疑問符を浮かべている。ドルモンはまだついていけているが、そろそろ止めないとこの二人の話はマニアックかつディープなものになっていくだろうとも思っていた。

 流石に話についていけなくなってきて、ストライクドラモンが斬りこんでいく。

 

「とにかく結論だけ教えてくれよ」

「まあ、全部揃えればルーチェモンを倒すだけの力になるだろうね……問題は全部のエレメントを体に宿したら死ぬけど」

 

 データ量も膨大だし、普通にパンクする。デジメンタルに入っている状態は言うなれば圧縮された状態。解凍なんてしたら色々終わる。

 圧縮された状態でも力が共鳴してすさまじいパワーを発揮するため、現状ではその必要もないが。

 

「最大五つ。究極体相当の力を持つデジモンが宿すことのできるエレメントはそれが限界だ」

「ってことは二つに分けて二体のデジモンがそのエレメントを使うの? っていうか集めて戦うために使うのかな……なんか違うような気もするけど」

「マキナの言う通り、戦いのために使うわけじゃないよ……デジモンじゃなくて、この世界自体に使用するのが最終的な目的だからね」

 

 このエレメントは世界のバランスを正すために使われるべきものだ。だが、その前にルーチェモンに邪魔されてはいけないため、別の利用法も検討したまでに過ぎない。

 

「そもそも共鳴も偶然見つけただけだし。ただ、いざという時にルーチェモンを倒せませんでしたじゃ話にならない……そのために、出来ることはやらないと」

 

 その言葉はみんなも理解できた。

 出来ることはやらなければいけない。後悔しないためにも。今、自分に出来ることを精一杯。

 

「と、そんなこんなで到着だ」

 

 目の前に見えたのは風の神殿。

 これまでの神殿とは違い、まるでコロッセオのような外観だ。一瞬間違えたかなと思ったがマップでは確かにここを指示している。

 

「……ねえ、ここって本当に風の神殿なの?」

「そのはずだが……コロッセオにしか見えないな」

 

 中に入っていくと、コロッセオのような場所としか思えない。現実世界のものとは差異こそあるものの大体同じとみていいだろう。

 周囲を見渡してみてもここにいるハズの十闘士が現れる気配もないが……

 

「とりあえず、周りを調べてみるか」

 

 手分けして周囲を調べてみることになった。怪しい所もないし、別段大きな力を感じる物もない。

 みんなも色々と調べてはいるものの特に何も見つけることはなかった。

 どういうことだろうと、考え込んでいた――その時であった。空に虹がかかり、突風と共に人影が突如としてコロッセオの中心に現れたのは。

 

「――!?」

「なになに!? 前が見えないッ」

 

 やがて、風はその勢いを収めて人影もはっきりと見えるようになった。

 そのデジモンは、美しい外見だった。白銀の鎧に、金の翼をはためかせた虹色に輝く女性型のデジモン……カノンも人型のデジモンは多く見かけたが、その中でも彼女を上回る美しさをもつデジモンはそうそういないだろう。

 

「――――お待ちしておりました。私の名前はエンシェントイリスモン。この風の神殿を司る十闘士です」

「すぐに現れないから本当に神殿なのか不安だったけど、こうして現れたってことは……」

「ええ。ここが風の神殿に間違いありません。試練を行うものとして、あなた方を観察し、試練を受ける方を選ばせていただくためにしばしの間気配を消させていただきました」

 

 これまでの神殿の中でも一番の厳かさだ。しかも肌にピリピリとくるこの感じ――間違いない。この神殿、直接力を計りに来るタイプだ。

 こういうのが一番厄介なのだが、一番の不安要素は試練を受ける相手をエンシェントイリスモンが選ぶという事。対策の取りようがない。

 

「そちらのシスタモン……貴女を指名いたします」

「え、ウチ!?」

 

 カノンとしても、それは少々予想外だった。

 そもそもエレメントを集めるために、その器を受け取ったのはカノンだ。そのパートナーのドルモン、どちらかが試練を受けるのだろうと思っていたがここでマキナを指名するとは予想外でもあったが……

 

(……マキナがこの時代にくるのも織り込み済みだったのか? それとも旅の同行者だから選ばれたのか……ストライクドラモンも試練を受けたことがある。いやでも、あれはたしかこっちが試練を受ける人物を選抜する形式だった。それなのに、マキナを指名したのはなぜだ?)

 

 正直わからないことが多い。

 何故マキナを指名したのか。だが、考えている暇はなかった。

 

「他の者の手助けはなりません。貴女が首から下げているそのデジモンを仲間に預け、中央へお越し願います」

 

 そうしてエンシェントイリスモンは自身の周囲に風の結界を貼った。ちょうどコロッセオの舞台を覆うように。観客席にはその影響は届いておらず、他の者はそこで観戦しろということなのだろう。

 

「私の試練はただ一つ。貴女の力を示しなさい」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 思えば遠くへ来たものだと思う。

 寂しさの中で死んだウチは気が付いたら幽霊になっていて、そのまま消えていくものだと思っていた。そんな時にカノンくんと出会い、ウチは幽霊でも人でもない中途半端な状態でウィッチェルニーという世界へと渡ることになった。彼に助けてもらい、再び彼に出会うため色々がんばってきた。

 魔法の修行は辛かったし、楽しいことももちろんあったけど……やっぱり、どこか負い目みたいなのがあったんだと思う。

 ウチは本当は死んだ人間だから。こうして、生きているわけでも死んでいるわけでもない中途半端なナニカになってまで彼と一緒にいていいのだろうかなんて悩んでいるのだ。

 

「我が名はエンシェントイリスモン……風の十闘士として、今より試練を始めます」

「ウチの名前は久末蒔苗。デジモンとしてなら、シスタモンノワール」

 

 クダモンと共にウィッチェルニーでの日々の中でウチは色々なものを見てきた。

 そして、デジタルワールドにて時空の歪みが現れたときに勘の様な何かに突き動かされ、ウチはカノンくんに手紙を送った。結果的に、それは彼の助けとなったわけだけど……今でもその時の行動は正しかったのか少々悩んでいる。

 カノンくんはウチが思っていた以上に凄くて、そして重いものを背負っている。何でもない風にしているし、様々な困難を乗り越えて行っているけど、ウチがウィッチェルニーで修行していた間本当に大変な出来事が続いていた。

 そんな彼を助けたいと思うと共に、こんな中途半端な自分が一緒にいていいのだろうかと思ってしまう。

 

「ガッ――!?」

 

 今この場にクダモンはいない。カノンくんたちに預け、ウチは一人で彼女の試練を受けている。

 悩んでいる場合じゃないと思う……それでも、頭からはライラモンの最期が離れない。

 彼女の死で、ウチも死んだ人間だということを思い出してしまった――いや、今まで考えないようにしていただけだ。今のウチはデータで体を作ったデジモンでも人間でもない存在。魂そのものは生きた状態であり、肉体のみがない状態……本当に幽霊みたいなものなのだ。

 肉体もちゃんと存在しているカノンくんとは違い、ウチのこの体はかりそめのモノ。デジモンならばデータそのものが確実な肉体となるが、元来人間であるウチの場合は魔力によって確立してはいるものの不安定な存在のままである。

 

「とにかく、今は……貴女を倒さないとッ」

「……いいでしょう。試練を続けます」

 

 エンシェントイリスモンのレイピアは明らかに手加減された一撃となってウチを襲う。この試練の意味は分からない。単純な力比べならもっと本気だろうし、でもなぞかけであるならば直接戦わないのではないだろうかとも思う。

 

「迷いある心……であるからこそ、そこに本質も見えましょう」

 

 最後に彼女がつぶやいた言葉は聞こえず、ただ烈風の様な攻撃がウチを襲う。

 意識が飛びそうになるものの、それを耐えて銃口を彼女に向ける。

 

 体は、鉛のように重かった。

 どうしたらいいのか、未だ答えは出せそうにない。

 




アプモンのアニメもすさまじいことになっていますね。まさかバディアプモンたちがあんなことになるとは……

こちらも物語は次の展開へと移っていきます。


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117.力の覚醒

20周年おめでとうございます。

ドルモン結局新色が必要だったので予約開始と同時に注文しました。ええ、もちろんアルファモンカラーですよ。他のはさすがに余裕がなかった……

そして何なんだよグレイスノヴァモンって…………一番有力なのはアポロモンとディアナモンのジョグレスっぽい。
ジエスモンとデュランダモン、ダブルオメガモン、ウォーグレイモンとブリッツグレイモンなど他にも可能性がありそうな組み合わせを思いつくあたり謎が謎を呼ぶ……


 僕自身マキナについて知っていることは実のところ、それほど多くはない。彼女がウィッチェルニーに渡った後調べたこともあるのだが、それにしたって彼女自身についてというより親族がどうなったのか調べたに過ぎず、彼女自身の人間性はむしろこの旅の中で知ったことがほとんどだろう。

 幼いころの思い出もあるにはあるが、その当時のことは今現在においての参考になるかは疑問が残るところである。僕自身、あれから色々な経験をしてきて色々と考え方も変わっているところはあるはずだ。

 

 久末蒔苗という少女に身よりはすでにない。すでに天涯孤独となった身。その胸中は僕にはわからないことだろう。家族が生きている、僕には口を出せないし想像も及ばない部分だ。軽々しく口に出してはいけないことだし、彼女自身の口からハッキリ聞くことがあるとしたら、もっと未来でのことだと思う。

 色々と後回しにしている部分があるし、お互いにあまり向き合っていないのかもしれない……でも、僕は彼女を信じている。必ず、マキナは風の試練を突破すると。それが、この数か月一緒に旅をした彼女への言葉だ。

 それが、仲間ってものだろうから。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 魔力はまだ残っている。銃弾よりもエンシェントイリスモンの方が速く動くため、当てるのは至難の業だけど眼は慣れてきた。

 デジモン化したことで身体能力が全体的に上がっていることもあるし、この程度の逆境は修行していたころに何度もあったんだ……

 

「問題は、ウチのスタミナが持つかどうかってことかな」

「状況と自身のリソースの判断こそ優秀ですが、決め手に欠けるのはいけませんよ」

 

 エンシェントイリスモンのサーベルが迫る。痛いところを突かれる。二重の意味で。

 肉体へのダメージは大きく、告げられたことも図星だ。

 ウチは決定力に欠けている。色々と思考錯誤はしてきたが、どうあっても成熟期相当の力しか出せないのだ。アーマー体という力を手に入れたプロットモンも下回る能力しかないのだ今のウチには。

 銃に力を籠める。内部で術式によって弾丸の性質を決定し、魔力弾を製造する。ウチ自身は銃というよりは魔法の杖のような感覚で用いているが、そのあたりは傍目には関係ないだろう。

 重要なのは、この攻撃が通用するかどうか。

 

「ホーミング弾ならどうかな!」

「遅ければ意味はありません」

 

 あっけなく、華麗にかわされる。織り込み済みとはいえ、全部避けられたら自信を無くす――でも、狙い通りだ。そう、かわされるのは分かっていた。

 静止した弾丸が光り輝き、爆発する。

 

「ッ――これは!?」

「プラス爆発、動き回る地雷原って感じでいかが?」

「なかなか凝った趣向です。ですが、力でねじ伏せられれば意味がない!」

 

 サーベルが振るわれる。同時に吹き荒れた突風がウチの放った弾丸を消し去っていく。やっぱり、究極体相手にはほとんど通用しない。せめて完全体レベルの出力があればいいのだが、バーストモードぐらいしかウチには思いつかない。

 

(考えろ。諸刃の剣(バーストモード)以外の手を)

 

 今までカノン君が使うところを何度も見てきた。術式(コード)は覚えているが、自分に適応させるには危険すぎる。ウチだって色々な魔法は覚えてきたが、今の状況で有効な手立てが思いつかない。

 魔法剣もどきを銃口から発生させ、近接戦闘――はダメだ。相手が速すぎて慣れていない戦い方は帰って身を亡ぼす。そもそもウチの戦闘スタイルは援護型なんだけど……多少は訓練しているとはいえ、辛いものがある。

 ならば状態異常を起こす弾丸は? それもやめた方がいい。究極体となるとウチの地力じゃうまくいかないかもしれない。味方の強化に使っている弾丸の応用でいけるかもしれないが、究極体だと動きを鈍らせた程度じゃ差は埋まるか疑問だった。

 

「思考するのは構いませんが、動きが鈍っていますよッ!」

「――ああ!?」

 

 体がはじかれて風の壁へとぶつかる。体が弾き飛ばされて地面へと落下してしまった。

 体中が痛い。カノン君たちはこんな試練に正面からぶつかろうとしていたのか……

 

(色々大変なことがあったはずなのに、何度も死にかけて実際に一度死んでもカノン君は前に進むことをやめていない……)

 

 意識が朦朧としている。このまま終わり? ……そう思ったとき、悔しさが心の中に広がるのを感じた。

 それは嫌だ。足手まといは嫌だ。がんばったのに、今までたくさん頑張ったのになんの力にもなれないなんて嫌だ。ウチは……あの日、助けてくれたカノン君の力になりたい。

 だから、諦めるわけにはいかないんだ――ッ。

 

 

 ドクンと心臓が大きく動いた気がした。ウチに心臓はないはずなのに。

 

(――鼓動が聞こえる)

 

 ドクンドクンと体の奥底で何かが目覚めようとしている。

 思えば、散々な人生だったかもしれない。でも、カノン君に救われた――仮初でも、新たな生を貰って今まで生きてこられた。大変なことだってあったし、辛いこともいっぱいあったけど……楽しかったんだ。

 クダモンと一緒にウィッチェルニーで暮らしてすごく楽しかった。カノン君に再会してすぐに事件に巻き込まれたけど、この時代での冒険は楽しいことだってあった。

 悲しいこともたくさんあった。後悔だってしている。ウチにもっと力があればライラモンを守れたかもしれない。だから……

 

「負けたくない」

 

 脈動は強くなる。

 

「ウチは、負けない」

 

 鼓動が早まる。

 

「絶対に――負けるもんかぁあああああああ!!」

 

 直後に、体が爆ぜた。胸と手足のあたりから少しだけだがデータが吹きだし、体のテクスチャに変化が生じる。文字通り爆ぜたわけではなく、殻が弾けるように中身が飛び出すイメージ。

 フードが顔を覆い、体に痛みと力が走る。

 自分の体が変化していくのを自覚し、気が付けば微笑む様にエンシェントイリスモンがウチを見ていた。

 

「――――見事、至りましたね」

「……これは」

 

 体に力がみなぎっている。スカートやフードの端が少々破れており、胸元があらわになった姿へと変貌していた。自分でもよくわからないが、完全体……もしかしたらそれ以上かもしれない力が自分に流れているのがわかる。

 

「すでに鍵は開きかけていました。私の試練は己の力を示すこと――すなわち己の可能性を示すという事です。それは自分を信じることでもあります。貴女は見事自分の殻を破りました。

 本来であれば、試練をここで終えたいところですが――先人として、胸を貸しましょう」

「――――!」

 

 どうやら、最初から最後まで見守られていたらしい。彼女は、ウチの中でくすぶっていたものを見抜いて力を引き出すために壁となってくれていた……追い込んで、覚醒を促したという事みたい。

 そして覚醒した力を使いこなすために戦ってくれるということ……なら、全力で行く。

 

「手加減はできそうにありません――ミルキーバレット!!」

「迎え撃ちましょう――レインボーシンフォニー!」

 

 直後に、爆発が巻き起こる。

 こうして、風の試練を突破することが出来た。ここからは、ウチの修行の時間だ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 どうやら試練を突破できたみたいだが、唐突に先ほどよりも激しい戦闘が始まった。というかマキナの顔がさっきよりも生き生きしているように見える。

 

「どうやらスイッチが入ったようだな」

「クダモン、スイッチってどういうことだ?」

「ウィッチェルニーでの修行中、辛いとこぼしていたマキナだが、内心その辛い修行を楽しんでいた節があってな……そういう状態になると、ああいう風になるのだ」

 

 なんていえばいいのか……修行マニア?

 

「近いかもしれん。時折、頭の中で何かが切り替わるかのようにああいう変化を起こすのだ。まあ、すぐに収まるだろう。今は発散させてやった方がよさそうだ」

「アハハ……後でぶっ倒れないといいけど」

 

 それにしても、進化でもバーストモードのような解放ともまた異なる変化だ。あえて言うなら覚醒って感じだろう。なんというか眠っていたものが目覚めたって雰囲気の力である。

 それに戦闘スタイルがまんま猫みたいな動きになっている。野生に目覚めたとも言っていい。

 しかし……いつまで戦い続けるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 唐突に風の結界が消え、マキナの姿が元のシスタモンへと戻った。エンシェントイリスモンが彼女を抱き留め、こちらへと歩み寄ってくる。

 

「お待たせしました。これにて試練は終了です」

「後半……っていうかほとんどマキナの特訓になっていけどね。3時間ぐらいぶっ通しで戦い続けるってスタミナ上がり過ぎだろう」

「元々、彼女は高いポテンシャルを持っていました。今まで力の使い方を理解していなかっただけなのです」

 

 そういえば、片鱗は何度か見えていたような気もする。それが今回の試練で完全に使えるようになったわけか。

 

「……」

「ストライクドラモン?」

「いや、何でもねぇ」

 

 ストライクドラモンがマキナのことをじっと見ていたが、すぐに顔をそらした。

 彼にも色々と思うところがあるのだろうが……僕は彼にかける言葉が見つからず、それ以上は何も言えずに疲れて眠ったマキナを受け取るためエンシェントイリスモンの元へ向かう。

 

「まったく、色々と無茶をし過ぎだっての」

「カノンは人のこと言えないでしょうが」

「そうです」

「……それもそうだけど」

 

 ドルモンとプロットモンにツッコまれるが、反論はできなかった。

 うん、無茶の度合いは僕の方がひどいよね。

 

「それでは、風のエレメントを」

「……これで、残るは3つ」

 

 水と氷と光。距離から考えて水と光の神殿のどちらかを目指すべきか。

 

「でしたら、水の神殿を目指してみるのはいかがでしょうか」

「水の神殿っていうと、海か」

「ええ。どうやら近くまでロコモンの線路が通ったようです。実際の距離よりも早くたどり着けるはずですよ」

「それはありがたいことだけど……なんで神殿にいるあなたがそのことを?」

「ふふ、風の噂です」

 

 そう言って、エンシェントイリスモンは風に融けるように消えていった。なんというか少々お茶目なところもあるらしい。

 とにかく、そういう事ならば水の神殿を目指す方がいいだろう。となると距離的にその後は光、氷の神殿という順番になるのか……

 

「……そして、氷の神殿からさらに先へ進んだところにルーチェモンの居城があるみたいだな」

 

 氷の神殿があるのは凍土地帯。さらにその先にあるのが暗黒の平原。その一番奥、そこがルーチェモンの居城だ。いよいよ、旅も折り返しを過ぎた。

 

「うーん……ついやり過ぎちゃったか」

「マキナ、案外すぐに起きたな」

「いやぁ無茶しちゃうと寝ちゃって――って、なんでお姫様抱っこされているのウチ!?」

「ちょ、暴れんなッ!」

 

 混乱したマキナが暴れるから、みんなが逃げまどう。銃弾をまき散らすなよッ!?

 ちなみに、マップは魔法でデジヴァイスを浮かせて表示させていました。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「……もう私の役目も終わりに近いかもしれないな」

 

 そう言うクダモンの手足はノイズが走っているかのようにぶれ始めていた。感覚としては短い間だけだが、確かに異常となってそこに現れている。

 すぐに収まっているため、今のところは誰にも見られていない。それでも、このところ寝る時間が増したことと闘いにおいても本調子でないことは見抜かれていた。

 そんな中、クダモンにとってマキナの成長は喜ばしいことだった。

 初めは監視から始まった関係だった。けれど、いつの間にか彼女と共に暮らすことの心地よさをクダモンも感じていたのだ。

 

「けれど、それももう時間がない」

 

 今はまだスリープでどうにかなる。しかし、それでごまかし切れない時が必ずやってくる。

 ロイヤルナイツとしての任も終えた。長い時の中色々なことがあったが、最後は実に楽しい日々だったのだ。だからこそ、自分に出来ることはやり切って終わりたい。

 

「…………まだ終わるわけにはいかないか」

 

 せめて、この旅の終わりを見届けるまでは。

 

 

 

 ここで一つの問題が出てくる。えらばれし子供たちも、デジモンたちもその話題については特に触れてこなかっただろう、一つの問題が。

 

 

 

 

 

 

 はたして、デジモンに寿命はあるのか否か。

 

 

 データで構成された存在であり、死したのちにはデジタマへ還る存在である――しかし、一個体の記憶をそう長い間保持し続けられるだろうか。そもそも、本来は記憶は引き継がれないため、死んだ時点で初期化が行われ不要なデータは消えることだろう。

 核であるデジコアには限界はないのか。そういった疑問を上げて行けばキリはない。

 

 

 そこで更に一つの疑問が出てくる。もしも限界があるとして、限界まで生きたデジモンはどうなるのか?

 答えが出る日は、着々と迫っていた。

 



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118.旅路の出会い

 さて、風のエレメントも入手してロコモンの線路を目指すのはいいのだが、意外と距離が離れておりたどり着くまで数日はかかりそうだった。

 まあ普通に歩けばもっと長い時間を必要とするだろうことを考えると大分短縮されるわけだけども。

 

「それにしても、線路が開通するまで速かったね」

「たしかに、話には聞いていたけどもう運行できるまで開通させるとは思わなかった」

 

 僕たちの知らないところでも世界は回っている。それは当たり前のことで、だからこそ世界は思い通りになりはしない。悪い意味だけでなく、いい意味でも。

 今回は以前ロコモンたちを助けたおかげで、良い変化となって表れてくれた。

 

「しかし、この暑さもどうにかならないものかなぁ……」

「たしかに風の神殿を離れてから妙に暑いよね」

 

 これは一体どういうことなのか。調べたいのは山々だが、流石に寄り道するわけにもいかない。

 前に進むしかないというわけで再び歩き始める。食料の調達なども考えると、どこか水辺を見つけておきたいところだが……

 

「ん?」

 

 そこでデジモンの反応を感知した。数は四体。力の大きさからみて全員が完全体というところだろう。

 完全体が集団で動いている…………もしかしたらルーチェモン軍の追ってかもしれない。

 

「みんな、完全体が四体近づいてきている」

「うん。ウチにもわかった……どうするの?」

「迎え撃つしかないんじゃないの」

 

 ドルモンがそう言うが、ルーチェモン軍だと決まったわけじゃない。

 

「隠ぺい工作をしていないあたり、ルーチェモン軍じゃない可能性もあるし……とりあえずは様子見だな」

 

 いきなり襲うのもダメだろうと、全員を止めるが――彼は、そう言って止まるような奴ではなかった。

 いや、あの事件があったばかりなのだ。僕がうかつだったというべきかもしれない。

 

「グルゥ……敵――ウィルスッ!」

「ヤバい、四体の中にウィルス種がいるみたいだ! 暴走状態になっている!」

「ウチは大丈夫なのになんで!?」

「そりゃ慣れだろうよ! 流石に仲間相手に反応はしなくなっているんだろうけど、初見の相手じゃそうはいかない……全員全力でストライクドラモンを押さえろ!」

 

 僕が正面からストライクドラモンを抑え込み、マキナが背後から掴む。ドルモンとプロットモンは足を抑えるが……全員、引きずられているッ!?

 予想以上の力だった。ここまでのポテンシャルがあったのか!? いや、彼もこの旅の中で力をつけてきていたんだ。それこそ、完全体に進化する寸前といったところまで。

 問題はそれが悪い方向へ行く可能性が出てきてしまったこの状況だ。

 

「止まれェェェェ!!」

「ガアアアア!!」

 

 このままじゃまずい――しかし、今回に限っては大丈夫だったというべきだろう。

 僕たちが感知した完全体は、とても稀有な存在だったからだ。

 

「大丈夫です。その方を放して差し上げてください」

「え――(女の人?)」

 

 一見すると、スタイルのいい人間の女性に見える。しかし、その反応は間違いなくデジモンだ。近くには他に三体のデジモンがいた。一体はこれまた人間の女性に見えるが、妙な着ぐるみと一体化したような姿をしているため、まだデジモンに見える。

 他の二体も人型ではあるものの、どちらも人間とは異なる外見だ……しかしこの格好の組み合わせ、覚えがある。

 

(女の人は僧侶みたいな恰好、ほかの三体はそれぞれ猿、河童、豚を模した外見――なんだこれ最遊記?)

 

 明らかに最遊記がモデルという感じのデジモンたちだ。

 となるならば、この女性は三蔵法師がモデルということになるが……玄奘三蔵って男性じゃなかったっけ?

 でも日本で作ったドラマだと女性が演じていたんだっけか? それ繋がりだろうか……

 

(って呆けている場合じゃない。とにかくマキナ達を連れて離脱しないと)

「カノン君!? いきなり掴んで大丈夫なの!?」

「わかんないけど、なんとかなりそうな気がする」

 

 女性が数珠を使いストライクドラモンの動きを封じる。その隙にお供の三体が武器を交差させて更に動きを固めた。彼らはお経の様なものを唱え始め、同時にストライクドラモンの体からあふれようとしていたエネルギーが霧散していっている。

 

「凄い……あっという間に無力化しちゃった」

「カノン、これって……」

「ああ。たぶんデジタルワールドの魔法に近い技術だ。お経という形で出力しているんだろうけど……」

 

 方式が違うからだろうか、術式がわからない。

 すぐにストライクドラモンが地面に膝をつき、肩で大きく息をし出した。

 

「大丈夫ですか、お若い方」

「……スマン、助かった」

「いえ。ですが力に呑まれ続ければ、いずれ後悔することになりましょう」

「ッ……」

 

 そう言うと、女性は僕たちの方へと向き直る。

 

「初めまして。わたしはサンゾモンと申します。それに、お供のゴクウモン、サゴモン、チョ・ハッカイモンです」

「ご丁寧にどうも、僕はカノンって言います」

「マキナです」

「ドルモンって言います」

「プロちゃんはプロットモンです」

 

 それから、ストライクドラモン。まだ疲れが抜けきっていないらしく動きが鈍い。とりあえず肩を貸して起き上がらせるがその表情は暗かった。

 やはり、暴走状態になったことを気にしているか……

 

「十闘士の力を集める定めを負いしモノたち……そして、運命の子。ようやく、出会えましたね」

「――――あんた、何者だ」

 

 運命の子。あからさまに僕の方を向いてそんなことを言いだすサンゾモン。そのフレーズは何度も聞き覚えがある。最初に聞いたのはたしか、ヴェノムヴァンデモンの時にゲンナイさんが届けてくれた予言だったか。

 サンゾモンは微笑むばかりでそれ以上の返答はしない。ただ、少しばかり張り詰めた空気が流れていた。

 

「お師匠様、あまり不穏な発言はお控えいただきたい」

「ゴクウモン、少々確認を取っただけです。彼はまだ事の始まりには至ってはいないようですが、多くの試練を乗り越えてきた様子――やはり、先日の闇の力はあなたが引き起こしたものだったのですね」

「……なんでそれを知っているのかは聞かないでおくよ。たぶん僕と同じような方法で感知したんだろうし」

「ええ、後方支援能力に秀でた完全体相当のデジモンならば十分に可能な方法です」

 

 力の検知。いわば自分の体をレーダーにする術式。方式こそ違うがサンゾモンにも使えるのだろう。

 やがて僕の方はもういいとばかりに今度はストライクドラモンへと目を向ける。

 

「…………これは厄介なことになっておりますね」

 

 少しばかり思案顔になったのち、唐突に座禅を組んでサンゾモンは動かなくなってしまった。

 

「えっと……」

「すまないな。お師匠様は考え事を始められると長い」

「うん……それは何となくわかった」

 

 背景と同化するように静かな状態だ。これ、しばらく元には戻らないんじゃないだろうか。

 この後どうするか悩みどころだが、色々と話を聞きたい。素直に教えてくれるかわからないが、ストライクドラモンの疲労回復もかねて少しばかり休憩することになった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 待っているのも手持無沙汰なので、サンゾモンの弟子の三体のデジモンたちと色々と話をすることになったが、ゴクウモンはともかく他の二体は少々軽い性格だった。

 

「オイラの名前はサゴモン、まあヨロシク!」

「アチキはチョ・ハッカイモン。まあ旅の癒し担当的なーそんな感じー」

「まったく何を言い出すのか……私はゴクウモン。我々はデジタルワールドを旅し、困っているデジモンたちを助けながら修行の日々を続けている。一応は中立の立場をとっているのだが……」

「ルーチェモン軍の奴ら、流石に目に余るからネ」

「アチキたちも結構あいつらと戦ってきたんだー」

「へぇ……そういえば反抗勢力が各地にいるとか言っていたっけ」

 

 どこで聞いたんだったか……この時代にきて色々なことがあったし、細かいところで思い出せないことも増えてきた。もう半年近く旅しているような……

 と、話が脱線しないうちに僕たちの目的についても話す。

 

「十闘士の神殿をまわって、エレメントを集めることになって……その道中、ルーチェモン軍と戦っている感じですね。残りの神殿は三つ、次に水の神殿を目指すところです」

「十闘士のエレメントか……お師匠様なら何か知っているのであろうが、見ての通り回答は期待しないでもらいたい。元々あまり多くを語らない方でな、この世界の命運についてもいずれ相応しい者たちが答えを出すとしかおっしゃられていない」

 

 十闘士やらこの時代の異変やら色々と知っているのはほぼ間違いないらしい。話の中で、運命の子について以前言っていたこともあり、大きな転機が来れば出会うだろうと弟子たちに言っていたとゴクウモンが話してくれた。

 

「僕がこの時代にくることを予見していた?」

「カノン、この時代のイグドラシルって未来演算できたっけ?」

「いや……無理だと思う。となるとサンゾモン固有の力だろうけど」

 

 腑に落ちない点も多い。

 なんだかんだで事態の解決を優先していたから、この時代についての異変やら後回しにし過ぎていた感がある。そろそろ向き合うべき時が来たのだろうか。

 

「というかイグドラシルってなんだっけ?」

「あーマキナにはまだ詳しく説明していなかったか。簡単に言えばこの世界のホストコンピューターだよ。管理者……デジタルワールドにおける神様に近い存在かな。一応実態もあるけどプログラムの塊みたいなものさ」

「前に色々と大変な目に遭ってね……僕たちの時代じゃすでに稼働していないよ」

 

 そんな話をしていたからか、サゴモンたちが「未来からきたとか初めてみたヨ」とか言い出している。ゴクウモンはたいして驚いていないが、もしかしてアレを知っているのだろうか?

 

「ゴクウモン、クロックモンって知っている?」

「話には聞いたことがある。君の知っている者はさらに発展したデジモンであろうが、おそらく能力的にはそう変わらないだろう。お師匠様も時間に関するデジモンについては聞いている。やがて、その力が使えなくなることも」

「そこまで先見しているのか」

 

 色々と計り知れないデジモンだ。

 時間移動が使えなくなることについては、たぶんアポカリモンを倒した影響と思われる。あの戦いにおける時空の歪みや元に戻る際の影響が方々に出ていた。事故として時間移動が起こる可能性は残されているものの、僕たちの時代では現状その手の力は使えない。

 ちなみに、今回の場合は例外の一つだ。この時代での異変はおそらく事故か何かの時間移動由来のものが発端だとと思われる。そして、その歪みが僕たちの時代へ影響を及ぼし、僕たちの時間移動を可能にした。色々と偶然に支えられた面は大きいが。

 

(そういえば、未来から来ていたあの女の子……あれも一時的な歪みをつかっていたんだよな)

 

 どこかで見覚えがある格好をしていたが……どこだっけか?

 と、そこでサンゾモンが立ち上がったため僕の思考は中断することとなる。

 

「やはり、そういう事ですか。次にすべきことが決まりましたよ」

「お師匠様。皆がついていけませんのでかいつまんで説明してください」

「これは失礼……カノンさんたちは十闘士の力を集めていらっしゃるのは知っております…………そして、この次は水の神殿に向かうということで間違いありませんね?」

「はい、そのつもりですが……」

「ならば――」

 

 そこで、サンゾモンが話を切り出そうとした瞬間であった。

 嫌な気配を感じ、僕は全力でシールドを展開した。ゴクウモンたちもすぐさま臨戦態勢に入り、チョ・ハッカイモンとサゴモンがサンゾモンを守るように彼女の前に立つ。

 マキナが銃を構え、ストライクドラモンは再び唸り声をあげる。

 

「このニオイ――奴だ」

「押さえろ、ストライクドラモン。僕も感じた……野郎、一人で来るなんてどういうつもりだ?」

 

 あの時は混戦からの知覚外の一撃でライラモンがやられた……おそらくは入念な準備や作戦を立ててから行動に起こすタイプだと算段をつけていたから、単騎でやってくるとは思わなかったんだが……

 

「ライラモンの仇ッ」

「ふむ、そちらは噂に聞くサンゾモン一行か……厄介な者たちと合流されているが、これは逆に好都合だな」

「テメェがライラモンを殺した張本人か」

「いかにも。我が名はメタリフェクワガーモン」

 

 しかし、その名も今日この日までだが。そう言って、メタリフェクワガーモンは一冊の本を取り出した。

 

「――――!?」

「お師匠様?」

「いけません、あの本を使わせては!」

「流石だな。だが、もう遅い。すでに解凍は終わり、インストールも完了している。最終的な起動さえすれば、終わる。貴様たちは危険すぎるのだ。我らが主のため、ここで死んでもらう」

「勝手なことをオオオオオオオ!!」

「まて、ストライクドラモン! アレはまずいッ!」

 

 動き出したストライクドラモンを止めようとするが、一歩遅かった。やはり抑えきれないのか。仇を目の前にしてストライクドラモンは完全に頭に血が上ってしまっている。

 それに、僕たちはあの本の中に入っているコードを知っている。まさかこの時代にあるなんて思わなかった。

 

「カノン君、あれが何か知っているの?」

「あれは……Xプログラムだ。ドルモンとプロットモンのX抗体に含まれているのと同じ、デジモンを死に至らしめる物」

「ええ。アレはそのβ版です。そして、あれにはもう一つ使い方がある」

 

 デジコアに吸収させ、X抗体を生み出す――すなわち、X進化を強制的に引き起こす。

 

「メタリフェクワガーモン、X進化ァアアア!!」

「アアアアアア!!」

 

 メタリフェクワガーモンの姿が劇的に変化する。より強靭な肉体へと増強し、ストライクドラモンを殴り飛ばした。地面を転がり、とっさにサゴモンが回収してくれたが今の一撃だけでも強烈なものだったことがわかる。ストライクドラモンにかなりのダメージが入っていた。

 

「グランディスクワガーモン!」

 

 まさかここにきてXデジモン……しかも究極体にまで進化するとは、予想外にもほどがあるっての。

 



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119.ピリオド

 グランディスクワガーモンの咆哮により、周囲のデータが乱れる。強力なXデジモンが放つ力の波動はこの時代のデジタルワールドにおいては危険極まりない代物だった。

 ドルモン達はコントロールしているため影響を最小限に抑えられているが、彼にそんな思考はない。

 周囲のデータを破壊しながら、グランディスクワガーモンは前進していた。眼前にいるのはストライクドラモン。すでに攻撃により体はボロボロで、プロットモンがネフェルティモンに進化し、彼を守っている。

 カノンが魔法剣を撃ち込んで攻撃するも、一向に止まる気配は無い。

 

「――X抗体の力に呑まれて暴走してるのか!?」

「まずいですね。早急に手を打たなくてはなりません」

「そんなこと言ったって、足止めするのが精いっぱいだよ!」

 

 サンゾモンの言う通り、早急に手を打たなくてはいけないが……それも簡単な話ではない。ゴクウモンたち弟子三体が直接グランディスクワガーモンを抑え込み、マキナが状態異常弾で体の各部をバグらせて行動を阻害しているものの、動きは止まることがない。

 それどころか、一秒たつごとにどんどん力が増していっている。

 

「ねえカノン、かなりまずい状況なんじゃない?」

「ああ――Xプログラムは元々デジモンを削除するために用いられるものだ。だから、時間経過で自然消滅する可能性が高い。あいつは無理やりデジコアと融合させて使っているけど」

 

 無理やりが故に、体がメルトダウンを起こしている。副作用としてパワーが上昇し続けているから厄介ではあるのだが。自然消滅を待つという手もなくはないが……

 

「いや、自然消滅はまずいな」

「その通りです。あの自然消滅など許してしまえば、あのプログラムが放出されてしまいます」

 

 ならばと、カノンは自分の右腕を見つめる。デジタマ化を行うことが出来れば、とりあえず何とかなるのではないか? 以前ドルモンやプロットモンとなる前のデジモンに自分が行ったように、あの力を使えれば――そう思った矢先、サンゾモンはカノンの考えを否定した。

 

「貴方の力の一端を用いるのはやめた方がいいでしょう……β版にそんな甘い考えは通用しません。デジタマの状態でもメルトダウンが続くはずです」

「そうか……なら、どうすればいいんだよ」

 

 正直な話、デジタマ化がダメなら奥の手の凍結封印でもダメだろう。術式自体は持っているものの、使いどころの少ない奥の手を思い出して嘆息する。

 とにかく早く処置しなければXプログラムが放出されてしまう。抗体のあるドルモンとプロットモンは大丈夫かもしれないが……

 

(僕の打てる手じゃどうにもならない。どうする? 何か手はないのか?)

 

 X抗体の削除ツールについて前に話したことがあると思う。だが、今回の場合それは使えない。あれはデジコア内のX抗体、それも通常のものに対して使うことを前提としたプログラムだった。

 β版なんてものは初めて見たため、使うことが出来ない。

 と、そこでサンゾモンが焦ったカノンの表情をみて話しかけてきた。

 

「…………なるほど、そちらはまだ持っていませんでしたか」

「? サンゾモン、なにか手があるのか?」

「ええ――本来なら、すでに貴方は入手して然るべきかと思いましたが、以前行った選択が故に手に入れることはなかったのでしょうね」

 

 何かを納得するように、サンゾモンは頷き手のひらに小さな光の球を出現させた。

 それを二つ、カノンとマキナへとぶつける。

 

「なんだ!?」

「え、何!? なにコレ!?」

「今あなた方に渡したのはX抗体を剥離させるプログラム、Xリムーバーです。β版にも対応した、マスターデータによるものですから効果がありますよ」

「そんなものがあるのか!?」

「ええ……お二方、私たちが何としてでもあのデジモンを止めます。剥離させたのちに、すぐに封印を施してください」

「わかった。マキナ、やるぞ」

「オーケー。それじゃあ本気でやりますか!」

 

 二人の力が解放される。マキナはフードを深くかぶり、自身のデータを解放する。獣のデータが肉体を強化し、胸元がはじけ飛んで光り輝く紋章が出現した。

 カノンの姿が緑色の光に包まれる。以前ライラモンから受け取ったデータ。それが、彼を新たな進化へと導いた。身を包むのは植物族のデータ。緑色の新たな形態――

 

「超進化、アイギオテゥースモン・グリーン!」

「覚醒、シスタモン・ノワール!」

 

 マキナが銃を乱射し、グランディスクワガーモンへと攻撃する。彼の体のデータが乱れるように姿がブレて動きが数秒だけだが止まる。

 その隙にカノンが接近し、両腕の茨を使いグランディスクワガーモンの体を拘束した。

 そしてその拘束した体を起点にし、上空へと飛び上がる。

 

「ドルモン、チャージ開始だ! 合図したらぶち抜け!」

「合点ッ!」

 

 ドルモンの姿が変わる。赤い色の巨体、完全体のドルグレモンへと進化し、その角へとエネルギーが蓄積されていく。

 カノンは茨を切り離し、次の攻撃へと移る。反撃の隙を与えさせてはいけない。一秒が勝負を決める。だからこそ、全力でリムーバーを撃ち込まなくてはいけない。

 

(必要なのは砲撃、ならブルーだ!)

 

 機械族のデータを引き出し、肉体が変質していく。

 マキナも砲撃のチャージを完了させており、狙いを定めていた。

 

「マキナ、いくぞぉおおおお!!」

「しっかり合わせてよね!」

 

 マキナの銃と、カノンの右腕から砲撃が放たれる。リムーバープログラムによってX抗体をはがす効果を持った光に飲み込まれ、分解されたデータの一部が放出されていっている。

 そのデータが寄り集まる、本の形へと再統合されていく。

 

「ドルゴラモン、いっけぇええ!」

「ブラッディータワー!」

 

 赤い色の閃光がグランディスクワガーモン……いや、メタリフェクワガーモンを貫き、一撃で消滅させた。

 時間はギリギリ、なんとかXプログラムを放出させずに済んだ。

 

「まったく、ひやひやしたよ」

 

 カノンはXプログラムが形となった本をその赤い右腕(●●●●)で取る。見た目は普通の本だが、これが危険なプログラムなのは間違いない。とりあえず、自分のゲーム機の中に封印状態で保管した。

 と、そこで何か違和感に気が付いた。

 

(あれ……ブルーに進化したはずなのに、赤色だった?)

 

 改めて右腕を見てみるが、すでにアイギオモンに退化している。

 そもそも砲撃なら右腕ではなく左腕で行うはずだったのだが……

 

(……まあ、失敗したわけじゃないし、僕の気のせいか)

 

 とにかく、ひとまずの危機は去った。どさりと地面に座り込み、息を吐く。

 気が気でなかっただけに、疲れがどっと出てきたようだった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 ピコピコと電子音が鳴り響く。ひとまずの戦いを終え、各々回復を図っていた。その中で僕は回収したXプログラムのβ版をチェックしている。

 基本的には前にドルモンのデジコアに入り込んだ時に見たX抗体内のデータと同じだ。だけど違う点も色々と見つかった。

 

「……やっぱりXプログラムに感染してから消滅までに多少時間がかかるのか」

 

 正規版ならすぐにデジコアが消滅しかねないが、β版では強制的にX抗体が発生し、その負荷もあって消滅するような形になっている。メルトダウンの原因はこれだろう。

 逆に言えば、短時間ならばパワーアップが確実に可能でもあるのだが。

 β版はX抗体が確実に発生するが、剥離しなければ確実に消滅する。

 正規版はX抗体は適性があれば発生し、それ以外のデジモンは消滅する。

 違いと言えばこんなところだろう。危険物には変わりないので封印しておくが。データを消去しようにも妙な不具合が起こされても困るため、現実世界でもないと怖くて取り出せない。

 

「…………残りのエレメントは3つ。アイギオテゥースモンも姿が4つになった」

 

 この時代に来てから、色々なことがあった。そろそろ向き合うべき時が来たのかもしれない。

 幸いにも、事情を知っているかもしれないデジモンに出会えた。

 

「サンゾモン。教えてくれ……僕は一体、何者なんだ?」

 

 イグドラシルとの接続能力、デジモンを直接デジタマへと還元する力。ブラスト進化を発動させた際のあの力の波動、他にもただの人間の範疇から逸脱した力を僕は発揮してきた。

 今までは理由を知ろうにも答えまでたどり着けない状況だった。だからこそ、僕の姿を見て何かを知っているようだった彼女に話を聞いた――のだが……

 

「残念ですが、答えまでを教えることはできません。それはあなた自身が直接確かめなくてはならないからです」

「やっぱりそう簡単に教えてくれないよなぁ……」

「ですが」

 

 サンゾモンは諦めるには速いとばかりに、僕の方を向いて語り掛ける。

 

「この時代における戦いが終わった暁には送り届けましょう。あなたが、真実をしるための場所へ」

「――――え」

「まずはこの時代の歪みを修正しないことにはたどり着けない場所です。まずは目の前の問題を片付けることを優先するべきでしょう」

 

 それだけ言うと、サンゾモンは立ち上がりお供の方へと向かった。

 ……のらりくらりとかわされたが、ゴールが見えてきた。やはり彼女は知っているのだ。そして、僕が目指すべき場所も。そこへ行くための方法も握っているのだろう。ならば、やるしかない。

 

「よしッ」

 

 マキナ達も休息を終えてサンゾモンを見送る。彼女たちは彼女たちで行かなくてはならないところがあるらしい。水の神殿には僕たちだけで向かうことになる。

 まあ、当初の予定通りだが。

 

「それではみなさん、再び会う日を楽しみにしております。私たちは光の神殿の方へ向かうので、出会うとしたらその付近になるでしょうけど」

「お前たち、達者でな」

「短い間だったけど楽しかったヨ。また会おうゼ」

「それじゃあアチキ達はこの辺でー」

 

 そして互いの道は分かれる――と思われた。

 ストライクドラモンが前に出て、声を上げたのだ。

 

「待ってくれ!」

「む?」

「……決心はついたようですね」

「ああ――すまねぇカノン。俺はサンゾモンたちについていく」

「ちょ、ストライクドラモン!?」

「いったいどうしたです?」

 

 マキナとプロットモンは驚いているが、僕はストンと状況が飲みこめてしまった。ドルモンも薄々感づいていたんだろう。何も言わず、彼をじっと見ている。

 ストライクドラモンは拳を握り、悔やむ様に語りだす。

 

「俺、今のままじゃダメなんだ……力だってお前たちについていけていない。心だって弱いままだ。ライラモンがいなくなって、本当にどうしたらいいのかわからなくなっちまった…………だから、強くなりてぇ。今のままじゃ俺はダメになり続けちまう。お前たちに甘えたまま、何もできない奴になっちまうんだ。

 だから、俺はもっと強くなる。力だけじゃねぇ、心も――今度は守れるようにならなくちゃいけないんだ。だから、俺はお前たちとは一緒には行けない」

「ストライクドラモン……」

「それがお前の決断なんだな?」

「ああ――悪いな」

「いや、それが自分で決めたことならそうするべきだと思う。サンゾモン、すいませんが……」

「大丈夫です。これもまた運命、今は別れる道でしょうが、いずれ再び交わるでしょう――彼のことは任せてください。必ずや、導いてみせます」

 

 そして、サンゾモン一行にストライクドラモンが加わった。

 僕たちは先へ進まなくてはいけない。大丈夫、今度は永遠の別れではない。

 

「いつかまた、出会う日が来るさ」

「うん――ウチたちも頑張らないとね!」

「地図だとロコモンの線路って近かったよね。中で休めるだろうし、飛ばしていこう!」

 

 ドルモンはラプタードラモンに、プロットモンはネフェルティモンに進化し僕とマキナはそれぞれ背に乗った。まっすぐロコモンの線路へ。

 風を切って進み、やがて目的の線路が見えてきた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「まさか線路に触るとすぐに情報が伝わるとは思わなかった」

「近くにロコモンがいてよかったね」

 

 線路を見つけたのはいいが、肝心のロコモンがいないなと思いなんとなく線路を触ったところ、すぐに彼へと情報が伝わってロコモンがやって来てくれたのだ。

 まあ、近くにいてくれたということもあるのだが。客車内は快適な温度となっており、長旅の疲れもあって椅子に深く座り込んでしまう。

 

「ふぅ……一息付けるよ」

「まったくだね」

「他にも乗客はいるみたいだけど、運行ダイヤとか大丈夫なのかな?」

「さっきロコモンに聞いたら彼らも海へ向かうデジモンたちだって言っていたよ」

「へぇ……どおりで水棲系が多いなぁと思ったら――――?」

「マキナ、どうかしたか」

「ねえあの子って見覚えない?」

「ん?」

 

 マキナが指さしたデジモンは、赤い色の……オタマモン?

 

「――――!」

「うわっ!? って、お前あの時のオタマモンか」

 

 オタマモンは僕に向かって飛びこんで、喜びの声を上げている。どうやらしゃべれるタイプではないらしいが、表情から感情がまっすぐに伝わってくる。

 

「なんだかおもしろいね」

「なにがだ?」

「別れもあるけど、こういう出会いもあるんだなって」

「……そうだな」

 

 たしかに、旅ってのは面白いものだな。

 さあ目指す水の神殿がある大海原は近い。

 次の冒険はすぐそこへ迫っている。

 




アニメで言うなら次回からOPが変わる感じです。

そういえば超進化魂のアルファモンが参考出品されたそうですね。実際に商品化するかどうかはわかりませんが、期待しております。


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