艦載機妖精さんなんだが仕事場がブラックな件について (たろまる)
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光の中に包まれて

初めて小説を書きます。文法もめちゃくちゃで史実の知識もにわかですが、温かく見守ってください。




 

 

 「これは……どうしたものか」

 ある日の夜、部屋の中で一人の男が1台のパソコンの前で悩んでいた。

 別段、彼がパソコンを使うような仕事に就いているわけではなく、秒単位で変わっていく株価に目を凝らしているわけでもない。

 男が見ているパソコンの画面には、あるブラウザゲームの画面が開かれていた。

 

 

 ―――――――――艦隊これくしょん

 

 

 通称艦これと呼ばれるこのゲームは、大戦時に旧大日本帝国軍が実際に運用していた軍艦が擬人化されて登場し、彼女たちを編成して自分だけの無敵連合艦隊を組むことを目的としたゲームである。

 ここではユーザーを提督と呼び、彼らが指揮を執ることで、深海棲艦と呼ばれる正体や目的が一切不明の異形の敵と戦って深海棲艦に奪われている海域を取り戻していくのである。

 このゲームはサービスを開始してから爆発的な人気を博し、数年たった現在においても新規ユーザーが増え続けており、彼もその中で登録してプレイし始めて1年程度の提督であった。

 男がこのゲームを始めたきっかけは、適当に目に入ったからというだけであった。

 しかし、ゲームを進めていくにつれて彼女たちの歴史を調べて知っていく中で、少しずつ引き込まれていき、今では毎日のようにプレイしているゲームだった。

 だが今男は重大な事実に気づいてしまったのだ。

 

 「……資材が無さ過ぎて開発がほとんどできねぇ」

 

 このゲームで遊ぶのにまず必要なのは、資材と呼ばれる4つのアイテムである。

 鋼材、燃料、弾薬、ボーキサイト、戦闘するのにも新しい艦や装備を作るにしても必要なこの4つは艦隊の生命線ともいえるものであり、半年もプレイしている提督は資材を貯め込んで管理して当然である。が……

 

 「まさか今回のイベント攻略にここまで資材を喰うとは思わなかった……やっぱり資材は貯めとかないとだめだなぁ」

 

 プレイ中は常に全力で出撃して戦闘しているこの男は、資材を貯めることをしないまま、多くの資材が必要になるイベント海域攻略を行い、それが完了するころにはほとんどの資材を使い果たしてしまったのだった。

 資材自体は一定までは自然回復するとはいえ、使い過ぎである。

 

 「でもまだ艦載機そろってないし、もういっそのこと全部使っちゃおう!」

 

 そしてこの考え方である。

 男は懲りないでいそいそと装備の開発を行おうとしていた。

 

 「よし、じゃあ旗艦は……龍驤にして艦載機のレシピ通り資材投入して、いくぞ……お願いします妖精さん!」

 

 彼が今ありったけの祈りをささげたのは名前の通り妖精さんである。

 艦これに登場する不思議な生命体であり、新造艦の建造から負傷した艦娘の修理、果てには艦隊の行動方向を決めたり艦載機に乗って戦闘まで行う、鎮守府になくてはならない存在である。

 鎮守府で行う大体の行動が、妖精さんなしでは行えないほどである。

 男はそんないつでも健気に尽くしてくれている妖精さん達をある種尊敬していた。

 そんな提督達にとってもう神にも等しい彼らに対して祈りをささげるのは、一提督として当たり前なのである。

 ……と男は常日頃思っている。

 しかし祈ったところでなにが変わるわけでもなく。

 

 「ペ、ペンギン……だと……バカなっ!?」

 

 見事に装備開発でのハズレであるペンギンと綿のよくわからない生物を引き当てたのだった。

 

 「ま、まあ装備開発なんて失敗するのが普通だし?まだまだこれからだし?

  ……よし、次行こうそうしよう」

 

 まだ一度失敗しただけと次の開発をすると―――ハズレを引いた。

 

 「……ぐ、偶然偶然!ネクストチャレンジ!」

 

 そしてまたお約束のようにハズレを引く

 

 「……よしっ、勝負はまだこれからだぜ!」

 

 このくらいで潔く止めておけばよかったのだが、しかし男は自身の楽観的な考えからそれから延々と開発をし続けたのだった。

 ……それから十数分後

 

 「」

 

 見事な爆死を果たした男は、言葉もでないままに打ちのめされていた。

 

 「なんでや……なんで九九式艦爆の一つも出えへんのや……神よ、私が何かしたのでしょうか……」

 

 開発したのがいけなかったのではないしょうか(神感)

 それはともかくとしてついに男の目に映る資材は、あと一度しか開発できないほどに減っていた。

 

 「は、禿げるうぅぅぅぅ、禿げてまううぅぅぅ」

 

 流石にここまでハズレを引き続けるのは男の今までのプレイではなかったのだろう、かなり動揺している。

 

 「魔法のカード(課金)は今色々とお金が入用だから使えないし、これがラストか……」

 

 顔を伏せながらそうつぶやいた男は、自分一人しかいない中で無駄にキメ顔であった。

 そしてその次の瞬間には顔面を崩壊させて叫びながら開発を始めた。

 

 「お願いします艦載機作ってくださいいいいぃぃぃぃ!なんでもしますからあああぁぁぁぁああ!」

 

 ……男の魂のこもった叫びであった。

 男は無様に喚きながらマウスのを左クリックする。

 しかし

 

 「……んん?なんで反応しないんだ?」

 

 男は間違いなく開発が開始されるコマンドの上でカーソルをクリックしたはずであったが、画面は反応しなかった。

 

 「まさか猫った?……うそやろ?」

 

 通信エラーが発生したのではないかと訝しげに見ながら男は左クリックを連打する。

 その後にそのまま待っていてもフリーズしたままだと何もできない為、F5キーを押して画面の更新をしようとした。

 そしてふと画面を見た次の瞬間、男に待ち伏せていたのは驚愕だった。

 

 「えっなんで妖精さん動いてるん?」

 

 画面の中で開発の文字の隣で黄色いヘルメットをかぶり、ハンマーを持って構えていたはずの妖精さんが、急にこちらを向いたのだ。

 普段動かないはずのキャラが動いたのだから驚きもするだろう。

 初めは新しくできた機能なのだろうと高をくくっていた。

 しかしその後に開発の妖精さんからフキダシが出てくると、そこにある文が映ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ん?いまなんでもっていったよね?』

 

 男はパソコンからあふれる眩い光に包まれて意識を失った。

 

 

 

___________________________________________

 

 

 

 

 

 

 「はじめましてやなっうちは軽空母龍驤や、これからよろしゅうな!」

 

 次に男が目を覚まして見たものは、ミニチュアの戦闘機と、知っているが存在しないはずの少女と、ひどく低い目線からの世界だった。

 

 




いや~導入部分ってこんなに書くの難しいんですね。
他の作者さんを尊敬しますよ。


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龍驤と初めての開発

キャ、キャラの話し方がわからなくなってきた……
龍驤ってこんな話し方でしたっけ?
違和感ある方はそれが今作の龍驤ということにしておいて下さい(懇願)


 その日、軽空母龍驤は自分の気分が高揚していくのを抑えられなかった。

 今日は彼女がこの鎮守府で建造されてから初めての開発を任されたからである。

 彼女が建造されたこの鎮守府は、まだ運営され始めたばかりの新しい鎮守府で、所属する艦娘の数はそれ相応に少ない。彼女はそんな中でも上から数えたほうが早いくらいの時期に建造された、所謂古参の艦娘であり、搭載できる数は少なくとも空母である自分はすぐに戦場に立つと思っていた。

 しかし運営が始まったばかりのこの鎮守府では、所属する艦娘の練度は総じて低く、本営から送られる資材も微々たるものであった。

 そういった理由から、最低限の艦娘が建造されてから、初めのうちは自分たちが十分に戦えるようになるまで演習や訓練などを行い、後はタンカーの護衛や鎮守府近海の防衛任務などに少ない資材が用いられていたのである。

 もちろん開発を行うことも何度かあったのだが、それらはまず護衛任務を承ることになる駆逐艦や軽巡洋艦の艦娘の装備の開発のために行われたため、自分たち空母の艦載機の開発は後回しにされていたのだ。

 そうして自身の練度を高めながら自分達の出番を待つこと1か月、提督も書類仕事に慣れて、艦娘の練度も上がり、鎮守府が落ち着いてきたところで、ようやく深海棲艦への反攻を行うにあたって、艦載機の開発が行われることとなったのである。

 その記念すべき初めての開発の担当艦娘に選ばれたのが龍驤であり、これから開発を行う許可を貰うために提督のいるであろう執務室へ向かっているところである。

 

 「いや~今日は楽しみやなぁ~どんな子が来てくれるんやろ、うち仲良くできるかな~」

 

 彼女特有の独特な言い回しで呟きつつ、ウキウキしながら歩いていたところに、後ろから声がかかる。

 

 「あっ龍驤さん、おはようございます!」

 

 聞き覚えのある声に振り向いてみると、肩にかかる程度の黒髪を一つにまとめたジャージ姿の少女がこちらへ歩いてきていた。

 

 「おっ吹雪やん、おはようさん」

 

 特型駆逐艦吹雪型の1番艦吹雪は、龍驤より少し後にこの鎮守府に配属になった艦娘である。

 所属してからすぐに護衛任務や遠征などに就き、まだ艦娘の少ないこの鎮守府でローテーションが短い中よく働いており、あまり話す機会はなかったが、そんな中でもいつも明るく元気に仕事をこなしていたのが龍驤の印象に残っていた。

 

 「はいっ龍驤さんは今からどちらへ?」

 

 「執務室や、提督に開発の許可貰わなあかんからな、そっちはどうしたん?」

 

 「今日は休暇を貰ったので、訓練をしようかと思いまして」

 

 「せっかく休暇もらったんなら、ゆっくりすればええのに……よう頑張ってるなぁ」

 

 「いえっこれからは深海棲艦との戦闘も増えてきますから、少しでも練度を上げなければならないのでっ」

 

 ……本当によく働く子である

 そんなことを思っていると、吹雪が急にこちらを向いて言った。

 

 「そういえば、さっき開発するって言ってましたね、どんな子が来てくれるか楽しみですね!」

 

 「そうなんよ~、吹雪は初めての開発の時はどんな感じやった?」

 

 やはり初めて行う開発には少し不安な部分があるのか、龍驤は開発を先に経験している吹雪に尋ねてみる。

 

 「私が開発を担当したときは……なんというかボロボロでしたね、

  10回ほど開発したんですが、7回は失敗して変なものができてしまって……

  あっでも今使ってる連装砲は自分で開発したものなんですよ!」

 

 彼女は楽しげにそう返してきた。

 しかし龍驤は少し疑問に思ったことがあった。

 

 「おぉっそうなんや……でもその装備ってほかの子が使ってるのより性能が低かったと思うんやけど。それでええの?」

 

 その問いに彼女は少し考えてこう答えた。

 

 「う~ん、性能は他の子が使ってる装備のほうがいいってのはわかるんですけど……あの日、開発してた時は失敗ばかりしていて……もう自分には装備の開発なんて出来ないんじゃないかって、そう諦めかけてた時に、光とともに出てきてくれたあの子たちを置いて他の装備を使うと思うと……なんかいやだったんです」

 

 私が開発した装備をすべて使ってるってわけではないんですけどね……

 最後にそう呟いた彼女の横顔が、本当に嬉しそうで、誇らしげな表情をしていたからなのだろうか。

 龍驤はそれがとてもうらやましく思えたのだった。

 

 

 

 

 「じゃあ私はこれから訓練してくるので、また後で」

 

 執務室の前でそう言った吹雪と別れた龍驤は急かすように執務室に入ることにした。

 ……今は少しでも早く開発を行いたい気分だったのだ。

 ノックをして、入室の許可を貰い、執務室に入る。

 龍驤がここに所属して初めて来たときは、この建築物の中では最高位にあたる人物が毎日の執務を行う場であるというのに、殺風景な内装だと思ったものだった。

 入って左手には、海軍の資料やそれ関係のことが書かれた本がびっしりと詰まっている本棚が置かれていて、右手には秘書艦のものであろう高さが変えられるような椅子がある机、そして正面には大きく開かれた窓があり、その手前にある、書類がどっしりと積み上げられた大きめの執務机、そこに座って今も書類と格闘している人物が、龍驤が許可を求めに来た人物である。 

 

 「おはよう龍驤、開発の許可を取りにきたのか?」

 

 最近になってやっと着られている感がなくなってきた二種軍衣を少し直しながらそう聞いてきたその人物は、司令官の地位に座るにはまだ年若く、その態度は軍人らしいとはお世辞にも言えないものであった。

 それもそのはずで、彼はつい1年ほど前に軍属になり、9か月程度士官学校で勉学したのちにこの鎮守府に配属になった元一般人なのだから。

 一昔前までの日本ではこの程度の期間で司令官クラスの椅子に座ることになるなんてことは考えられなかったのだが、通常兵器の効力が少ない人類の敵である深海棲艦が世界中の海から現れてから間もなく、突如出現した唯一の反攻の要となる艦娘の存在によって、その考え方は覆されていくことになった。

 その理由は、艦娘を指揮するにあたって、ある生命体が視認できる特別な適性が必要であることが分かったからである。

 

 

 ―――――――――妖精さん

 

 

 体長が60センチ前後で2等身の不思議な生命体で、艦娘の登場と同じくして出現したとされる彼らだが、艦娘の発見者と同じ場にいた他の全員が視認することができなかった為、初めは存在しないものとして扱われていた。

 しかし、とある将校が艦娘と行動を共にする小さな人型の生命体を視認し、その証明として何もないところで物が動かされる場面を見て初めてその存在が軍内で知らされたのだった。

 その場にいた艦娘に事情を聴取した際に聞かされたことは、彼女たちが軍事行動を起こすのに必要不可欠な存在だということだった。

 艦娘を新しく建造するのも、その装備を開発、量産するのも、電子機器が使用不可能になりコンパスも狂ってしまう遠洋での指針としても、ほとんど全てが妖精さんによってしか行えない事実を知った海軍には衝撃が走ったのであった。

 当然だろう、自分たちの目に見えない生命体が存在していて、さらに彼らなしでは敵と戦うことすら困難なことを理解してしまったのだ。

 しかし今も視界に映らないまま何をするのかわからない生命体が自分たちの近くに存在しているなど、上層部としては脅威としか感じなかった。

 そんなわけのわからない存在に近くにいてほしいと思うような物好きな人物もおらず、上層部は妖精さんたちを艦娘と彼らを視認することができる適任者――――のちの提督と共に現在世界で最も危険な海岸近くに押し込んだのである、そうして押し込められた彼らを国の中枢に入れないと同時に国防を行わせるために作られた建造物が日本の最前線で最終防衛ラインである『鎮守府』である。

 それでも初めは軍属の人間だけで提督を固めようとしていた海軍だが、妖精さんを視認できる人物は圧倒的に少なかった、その数わずか12名である。

 国土の全周囲が海に囲まれた島国である日本では、その程度の数で防衛出来るわけもなく、ただでさえ少ない提督が数人戦死してしまったことで、海軍は妖精さんを視認できる提督を国民からも徴兵することに決めたのだった。

 この鎮守府の提督も成人してから行われる検査で見つかった妖精さんを視認できる人物の1人である。

 

 「当たり前やろ、うちがどんだけこの時を待ってたんか、君も知ってるやろ?」

 

 「ふふっそうだな、航空母艦の娘達には碌な艦載機を配備してあげられなかったのは悪く思ってる。でもそっちに回せるような資材が無かったというのも本当だったんだぞ?」

 

 提督は、物事が思うように進まなくて拗ねている子供をあやすようにそう返した。

 

 「そんなこと言わんとってもわかってるわ、ちょっち愚痴言ってみただけやし……」

 

 「ありがとう……さて、私も書類が一段落したところだし、見学させてもらってもいいか?なんせこの鎮守府初の艦載機開発を行うのだから」

 

 「それはもちろん構わんのやけど……一つお願いがあるんや」

 

 龍驤の頼み事とは、先ほど吹雪が話したことが少し羨ましくなったからなのだろう、自身が開発した艦載機をそのまま自分が運用したいというものだった。

 

 「……うん、初めての開発を任せるんだしそれ位なら構わないよ」

 

 「ホンマか!?ありがとな!」

 

 「どういたしまして、じゃあ早速工廠へ向かおうか」

 

 「そうやなっ早く行こか!」

 

 そういって我慢できずに一人で工廠へ向かって行った龍驤に苦笑しながら、提督は椅子から腰を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 工廠に着いた二人は、早速開発を頼むために工廠での開発を指揮しており、黄色いヘルメットに大きなハンマーを常に持ち歩いている妖精さん、通称開発長に話しかけた。

 

 「こんにちは、開発長、今日はこの娘たち航空母艦の為の装備を造ろうと思うんだけど……お願いできるか?」

 

 「おう、大将じゃないか、艦載機の開発か……よしっお頭に話しつけてくからちょっと待ってな」

 

 理由は不明だが、通常の妖精さんは人の言語を理解することはできるが、話すことはできない。

 しかし、提督という人間とのコミュニケーションが必要不可欠なまとめ役の妖精さんはそのうちに入らないのか、普通に会話することができるのである。

 ……見えさえすれば、の話だが。

 開発長は可愛らしい外見によらず渋い声でそう言い残すと、工廠を取り仕切っている工廠長の元へと歩いて行った。

 数分経って話し終えたのだろう、戻ってきた開発長が二人に付いてくるよう言ってから、工廠の奥へと歩いて行った。

 二人がそれに付いていくと、そこには身長60センチ程度の開発長より少し高い程度の高さの円錘状に端の4点から垂直に細い機械がのびた機械が鎮座していた。

 機械の中央には幾何学的な模様をした陣が描かれており、そこから何らかのファンタジーものの召喚陣のような印象を得た龍驤であった。

 

 「……これで開発するん?」

 

 「龍驤の言いたいことは分からないでもないが、大丈夫とだけ答えとく」

 

 龍驤はつい訝し気な表情をしたまま尋ねてしまったが、提督も思うところがあるらしく、苦笑しながら答えたのだった。

 そんな二人のやり取りを無視したままに、開発長が準備を始めた。

 

 「んじゃあ開発に使う資材を教えてくれ」

 

 それに答えた提督が口述した通りの資材を工廠妖精さんが陣の中央に置いていく。

 

 「そんで、開発担当の嬢ちゃんは開発機の前に立ってくれ。」

 

 「……嬢ちゃんやない、うちは龍驤や……」

 

 そう訂正を入れながらも、早く開発したいのか龍驤はしぶしぶと開発機の前に立つ

 そうしていると、少し離れたところにあるコンソールを叩きながら開発長は龍驤に注意事項を話していく。

 

 「いいか、開発ってのはこんなオカルトティックな感じで行われるが、その分担当艦娘によって出来上がるものが大きく違ってくる。その担当艦娘が実際に運用可能な装備でないと開発できないんだ、お前たち航空母艦ならレシピを間違えなければ大抵は艦載機ができる。……だがよ、よりよい艦載機が欲しいってんなら強く祈りな、そのほうがいい装備がでるって話だし、こんな大げさな陣が書いてあるんだ、ファンタジーな要素が絡んでくるかも知れないぜ?」

 

 龍驤はその助言にゆっくりと一度だけ頷いた後、胸の前で両手を組んで目をつぶり、無言で祈り始めた。

 

 「……いいだろう、んじゃあ開発を始めるぞっ!」

 

 そう言った開発長は、コンソールを操作して、現れた開発開始の文字に触れた。

 その瞬間、陣から光が迸り始め、資材から何かが構築されていくのが見えた。

 そんな光景を見ないまま龍驤は一心に祈り続けていた。

 

 (うちらの新しい仲間になってくれる優しくて頼もしい子が来てくれますように……)

 

 そして陣からの光が収まってゆっくりと龍驤が目を開いて見てみると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには段ボールに詰まったペンギンのような生物と、灰色の体にリボンが付いた綿のような生物が堂々と存在していた。

 

 

 

 




まあ艦これではよくあることですよね……(悟り)
どうも文字数が安定しませんね、もっと文章力も上げたいところです。





……あっ主人公は次回からちゃんと出てきますから。


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妖精さんとの邂逅

龍驤はかわいい(真理)



……なんや、これ

 

 龍驤は現在自分の目の前に広がっている光景に愕然としていた。

 それもそうだろう、先程彼女が一心に祈り、願いながら行った初めての開発の結果が、目の前にある段ボールと、その中に詰められた生きていると言ってもよいのか迷う位に微弱に震えているだけの謎の生命体なのだから。

 

 ……本当になんなんやこれ

 

 絶賛困惑中の龍驤のそんな純粋な疑問の答えは、自分の開発を見学するために一緒に来て先程から無言で立っていた提督と、開発するための操作に必要なのだろう、開発機から少し離れたコンソールの前に立ってこちらを見ていた開発長が交わしだした会話にあった。

 

 「……失敗だな」

 

 「ああ、そうだな、まあ練度の低い艦娘がやる開発は失敗しやすいって検証も出てるし……元気出せや、嬢ちゃん」

 

 呆然としながら、二人の会話を聞いていた龍驤であったが、ふとその会話の中に引っかかるものを感じた。

 

 練度が低い艦娘の開発は失敗しやすい?

 

 そう聞こえた龍驤は、開発前に開発長から聞いた言葉をリフレインした。

 

 『よりよい艦載機が欲しいってんなら強く祈りな、そのほうがいい装備がでるって話だし、こんな大げさな陣が書いてあるんだ、ファンタジーな要素が絡んでくるかも知れないぜ?』

 

 ……んん?何か聞いていた話と違うような気がしているのは自分だけであろうか?いや、違う。絶対に違うはずだ、ということは。

 

 「あ、あんたうちを騙したんかぁ!」

 

 思わず自分がそう叫んでしまったのは仕方がないことだったのだ、と龍驤は後にも思っている。

 だってそうだろう、個人的なことではあったが、自分がこの日をどれだけ待ち望んでいたと思っているのだ。

 たとえその気持ちを相手が知らなかったとしても、ちょっとは怒っても罰は当たらないと思うのだ。

 しかし、そんな龍驤の叫び声を聞いた開発長は、その反応を半ば予測していたのであろう、冷静に答えを返した。

 

「いや、祈りが通じるってのは強ち(あなが)間違ってる訳じゃないんだぜ?確かに艦娘の練度によって開発の成功率は変わってくるが、練度が低い艦娘でも紫電改二や流星なんていう高性能の艦載機を開発した例はあるんだ。それらの開発を担当した艦娘の大体は、開発の際に強く祈りを捧げてたって話だ。そんなもんだから、まだ練度が高いとは言えない嬢ちゃんも強く祈れば良い艦載機が出る可能性が出てくると思ったんだよ」

 

 まあ、結果はこの通りだがな……

 

 そんな話を聞いたとなれば龍驤も怒るに怒れず、行き場のない怒りは地団太を踏むことで解消することになった。

 しかし軽空母たちの中でも特に発育が良いとは言えず、初対面の提督には駆逐艦扱いされるほど幼い容姿の持ち主である龍驤が行ったそれはどうにも迫力がなく、子供が駄々をこねているようにしか見えなかった提督は、思わず顔を緩めてしまうのであった。

 

 「まあそう怒るな龍驤、今回のためにある程度の資材は揃えてあるんだ。回数をこなせば流石に成功するだろ」

 

 「……まあそうやな、次にしっかりお祈りすればきっと……よしっ次行ってみよう!」

 

 提督に宥められてやる気を取り戻した龍驤は、早速開発長に次の開発を行うための準備をお願いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……なんでやねん」

 

 龍驤の力のない突っ込みが弱々しくも(むな)しく工廠に響き、何をやっているのか常に鳴っている金属音にかき消されたのは、2回目の開発から20分程経った時のことであった。

 妖精さんが書いたのであろう、『はいきそうびいれ』と可愛らしく書かれた大きな箱の中には、ギッシリと先程の謎生物が詰まっており、それでも成功があったのかどうかといのは、床にへたり込んでいる龍驤の状態を見て察して欲しいものである。

 

 「……これで何回目になる?」

 

 「多分20回程度にはなると思うぜ……これは流石に当たらなすぎるな」

 

 「そうだな……流石に今回使える資材はもうほとんど残っていないぞ、あと一度が限度だ」

 

 龍驤の後ろでまた二人が話している間、龍驤は途方に暮れていた。

 覚悟はしていたのだ。朝には吹雪から開発の成功がほとんどしなかった事は聞いていたし、先程の開発長の話を聞いてから、任務をこなしていた吹雪より練度の低い自分ではもっと確率が低いのも想像できた。

 しかし、これは余りにもハズレを引きすぎているのではないだろうか。

 毎回自分なりに必死に祈っているのに、烈風や流星改どころかあの憎き失敗生物以外の装備すら拝めていないのだ。

 もうあの顔を見るだけで怒りが有頂天へ上りそうだった。

 そして今日という日を心待ちにしていた分だけ、龍驤の考えはネガティブな方向に及んで行ってしまっていた。

 

 (……もう、うちには何も開発できひんのちゃうかな……吹雪は10回やって3回で、うちは20以上やって0なんて……うちなんかのところに来てくれるような子は居らへんのやろうか)

 

 そんな龍驤の内心を察したのだろう、提督は何とか開発用の資材がかき集められるか計算してみる。

 がしかし、今回の開発資材の集めるのにも相当苦労したのだ、他から捻出できるような余りはなかった。

 緊急時用に一定数確保している資材はあるが、最悪、彼女達が初期装備のままでも鎮守府近海の制空権は取れるのだから、流石に今それを使うほどこの開発は緊急の要件ではないのだ。

 結局、彼にできるのはせめて最後の一回が成功できるように、目の前の彼女を慰めて成功を祈ることくらいの事だった。

 

 「……龍驤、申し訳ないが泣いても笑っても今日はこの開発で最後になる。見ているだけの俺が言うのもなんだが……頑張ってくれ」

 

 こういえば、優しい彼女のことだから表面上でも開き直ってくれるだろう。

 士官学校に在籍していたのは9か月という短い期間ながらも、そこでの経験でこんな打算的な事が考えられるようになってしまったのだ。

 そんな自分の事を嫌悪しながら、提督は龍驤を諭す言葉を吐いたのだった。

 

 「そうだぞ、嬢ちゃん、これが最後の機会って訳でもないんだ。こうなったら思いっきり祈るしかないとしか俺は言えねえ……すまねえな、変な期待持たせちまって」

 

 開発長も、例え善意で言ったとしても、自分の不用意な発言が目の前の少女が落ち込む原因の一つとなったのは分かっていたのだろう。

 いつもの堂々とした態度であるのだが、申し訳なさそうな表情をしていた。

 二人にそう言われた龍驤は、提督の思惑通りと言うと皮肉になるだろうか、しかして内心落ち込みながらも、二人に振り向いた時には少しひきつった不器用な笑顔であった。

 

 「……そうやねっまだ次に機会はあるし、さっ今回はもうさっさと次行って、終わりにしよう!」

 

 そう表向き元気に言い放って開発機の前に立つ彼女を見ながら、開発長はもう残り全ての資材を開発機の上に配置していった。

 

 「じゃあ、最後の開発だ、しっかり祈れよ」

 

 「うちに任せときっ最後くらいはきっちり成功したるさかいなっ!」

 

 彼女の無理をしたような明るい声を聴いてから、開発長はコンソールを操作していき、最後に今日何度となく見た「開発開始」の文字を表示させながら、最後の確認を取ろうとするが、彼女は既に両手を組んで祈っており、準備はできていた。

 

 「……行くぞ、開発開始っ!」

 

 そう叫んでから、彼女はコンソールを叩いたのだった。

 

 

 

 

 

 開発長の声が響いた後に、開発機の陣が光り始める中、龍驤は今までより一層祈り続けていた。

 彼女はもう、紫電改二や流星といった高性能機のこともは頭になかった。

 思い浮かべるのは、今朝の事。自分が開発した装備の事を本当に嬉しそうに、また誇らしげに語っていた吹雪の事であった。

 今日失敗を続ける中、あの横顔を思い出すことで、ちょっとした嫉妬と羨望を胸に開発を行ってきたのだ。

 また次の機会があるとはいえ、いまだ運営がカツカツのこの鎮守府だ、それがいつ来るかはわからない。

 だから彼女はこの最後の開発で失敗したくなかった。いや、成功させるのだ。

 そう決意を固めながら、彼女は祈る。

 

 (……もう高角砲でも機銃でも何でもええ、お願いや、うちに答えて!)

 

 彼女の必死の祈りも虚しく、収まっていく光の中の輪郭は、今日何度も見たことのある形に収まっていた。

 それが見えてしまった後ろの二人は、諦観と悔しさを覚えながらも半ば失敗を確信するのだった。

 しかし、目をこれでもかとつぶっている彼女は、そんな中でも祈り続けていた。

 

 (うちが絶対大切にするからっ……だからっ……だから答えてっ……

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――なんでも(・・・・)いいから、うちに答えてよっっ!」

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、今までの開発では見たことがないような眩い(・・)光が工廠の中を包んだ。

 そんな中、開発長の前にあるコンソールの画面には、ある文章が映っていた。

 

 

 

 

 

 『ん?いまなんでもっていったよね?』

 

 

 

 

 

 そう映っていた文章は、しかし、突然の強い光が目を刺激したことで、その場の全員が目をつぶってしまっていた為、誰にも存在が知られることが無かった。

 

 

 ……そして、永遠にも一瞬にも感じられた光が収まり、龍驤が目を開け、開発機の陣の上を見た時だった。

 そこに見えるシルエットは、まだ光に目が慣れないながらも、今日何度も見てきた形とは違うことは彼女には理解できた。

 ………………シルエットが違うのだ。

 

 

 「…………………っ――――――――――――――!」

 

 

 龍驤は、自分の中から言いようもない感情が噴き上がって来るのを感じた。

 今日の開発を行っていく中で、開発の失敗と呼ばれるものが、あの生物だけだということは開発長から確認してある。

 ということは、この最後の開発は成功したのである。

 焦らされ続けた分もあるのだろうが、自分が艦娘に生まれ変わってから今日まで、こんなにも抑えが効かない程の感情が溢れ出してくる経験は、彼女には無かった。

 艦娘に生まれてから初めてのことに若干困惑していると、やっと目が慣れてきたのか、視界が戻って来る感覚を感じた、彼女は精一杯に目を凝らして、自分に答えてくれた妖精さんと、またこれから自分が運用することになるであろう装備を目に焼き付けようとした。

 もう今の彼女の中では、世界は自分とまだ名も知らない陣の上の存在だけで出来ていた。

 

 そして、ぼやけた視界がようやく正常に働き始めて、彼女は初めて、その存在をしっかりと認識できた。

 

 「この子は……零式艦戦52型?」

 

 彼女の目に映る機体は、かつて自分が鉄の船だったころに運用したこともある、慣れ親しんだ機体である。

 

 「……いや、この機体は爆戦だ」

 

 そう訂正を入れたのはいつの間にかこちらへ近づいて来ていた開発長だった。

 その言葉に聞き覚えがなかった龍驤は、開発長に機体の説明を求めた。

 

 「正式な名称は零式艦戦62型って言うんだが、まあ簡単に言うと艦上戦闘機である52型を爆装した機体だ。戦闘機が敵艦に爆撃した後にそのまま空戦に入れるように工夫した結果の機体だ」

 

 つまり、戦闘機だけでなく艦船への攻撃も可能な所謂マルチロールファイターであるということらしい。

 それだけ聞けば優秀な機体のように思えたのだが、開発長曰く、どっちつかずの器用貧乏というのが海軍内での評価であり、開発成功例は少ないが、ほとんど運用はされていない機体。ということらしい。

 しかし龍驤にとっては失敗続きの中やっと答えてくれた、自分が初めて開発した機体である。そんなことより嬉しさの方が勝っていた。

 

 「まあその話は後にして、問題のこの機体の妖精さんの事なんだけど……」

 

 そう言いながら提督が横目に見た件の妖精さんは……機体に寄りかかって絶賛睡眠中であった。

 しかしその容姿は本来の爆戦妖精さんとは違っており、背中にかかる程度の髪を後ろでひとくくりにしており、通常スカートを履いている妖精さんにしては珍しく、ズボンを履いていた。

 

 「うぅ~ん、この子どないすればええんやろ?このままにしとくって訳にもいかんやろうし……」

 

 そういいながら龍驤がその妖精さんに近寄ると、その妖精さんは急に身じろぎしだして、その後ゆっくりと目を開いたのであった。

 

 「おぉ?やっと起きたんかこの寝坊助さんは……じゃあまずは自己紹介からやな」

 

 開発に答えてくれたと思っていたら今まで寝こけていた妖精さんを、しょうがないなぁといった感じで見ながら、しかし自分の元へ来てくれたことへの感謝の気持ちを込めながら、先程までとは違う、無理をした様子が無い純粋な笑顔を浮かべて、明るく言った。

 

 

 「はじめましてやなっうちは軽空母龍驤や、これからよろしゅうな!」

 

 その言葉を聞いた艦爆妖精さんは、ゆっくりと頷いたのだった。

 

 

 

 




しゅ、主人公はちゃんとだしましたよ!
ほとんど何もしてないけど!


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提督と開発長

やっとできましたので投稿します。いや~難産でしたよ。
別に最近始めたデレマスやってたわけではないですから、ええ、決してそんなことは無いです。



SERIOさん誤字報告ありがとうございます!
早速直しましたが、多分他にも出てくると思うので(予言)お暇があれば教えて頂けると幸いです。


 あの光に包まれてから意識が戻ると、俺はまず背中に固い感触を覚えた。

 いつもの椅子とは違う感触に違和感を覚えながら目を開けると、そこにパソコンはなく、代わりに自身の何倍もある巨人がこちらを見ていた。

 あまりに突然のことで始めはただ驚愕していたのだが、よくみるとその巨人には見覚えがあった。長い茶色の髪を二つに結んだ、小学生から中学生程度に見える幼い容貌。被っている特徴的な帽子、そしてなにより、その男よりも凹凸が無い完璧に垂直な体型の持ち主は、つい先程まで男がゲーム内で開発を行っていた時旗艦に据えていた艦娘――――――龍驤だった。

 何故現実にいるはずの無い龍驤が自分の目の前にいるのだろう。そんなことを考えながら見つめていると、彼女は微笑みながら俺に挨拶してきた。

 大抵の人は自分に話しかけられて無視するようなことはしないだろう。俺もその例に漏れず、自然に挨拶を返していた。

 

 「あっどうも、こちらこそよろしく」

 

 俺としては、挨拶されたから挨拶し返した、その程度の認識だった。

 しかし、龍驤は心底驚いたような顔をしてこちらを見ていた。

 

 「……えっ、今君がしゃべったんか?」

 

 「えっうん、そうだけど……何か問題でも?」

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 俺としても、まさか自分が話しだしたことにここまで驚かれるなんて思ってもいなかった。龍驤の方も少し困惑したような顔でこちらを無言で見つめていた。

 そんな空気に耐えられなかったのか、龍驤は後ろを振り向き、白い軍服を着た提督であろう男性に意見を求めていた。

 

 「ねえ、君はどう思うん?」

 

 「いや、俺も開発されたばかりの装備の妖精さんが話し出すなんてこと聞いたことないな。海軍からの資料にも記述されていなかったはずだ」

 

 提督の方も予想外と言いたそうな顔をしながらも、そう返した。しかし、俺は彼が話した内容を聞いて、違和感を覚えていた。今この場で口を開いているのは3人だけであり、さっき話した提督と龍驤、後は俺だけだ。なのに妖精が話しだした、だなんて話が、なぜ今出てきたんだ。それではまるで、俺がその妖精さんみたいな言い方ではないか。

 

 (いやでも、俺が人間なら何故龍驤がこんなにも大きく見え……まさか!)

 

 慌てて自分の体を見下ろした俺は、まずはその体の小ささに驚いた。まるで赤ん坊のように小さい手が自分の意のままに操れていて、それを顔に当ててみると、どっかのマスコットキャラクターのようなアンバランスに大きい感触を覚えた。ここに来る前とは似ても似つかない、これでどうやって自重を支えるのか疑問を覚えてしまう、二等身の……妖精さんの体になってしまっていたのだ。

 

 「……まあ取りあえず、ここで話すのも工廠の妖精さんの迷惑だから。執務室へ来てくれないか?」

 

 自分の変化に驚いて言葉を失っている中、そう提案してきた提督にそれもそうだと従って、出口へ歩いて行く間、俺は自分を観察するような視線に気づかないでいた。

 

 

 

 

 

 執務室に着くまでに垣間見た光景は、俺に今の状況が現実であると印象付けるのには十分だった。すれ違いざまに提督たちに挨拶していく艦娘達。海の方からは演習でもしているのだろうか、砲撃の音が鳴りやまず、窓から空を見上げれば、艦載機らしき戦闘機が編隊を組んで飛行している。もう言い訳のしようも無いほどに、ここは艦隊これくしょんの世界であった。

 到着した執務室に3人とも入室し、提督が執務机に座ると提督は話し切り出した。

 

 「じゃあまずは自己紹介と行こうか。俺はこの鎮守府の指揮を任されている、海軍少佐の挟間(はざま)という。よろしく頼むよ」

 

 「うちも改めて、うちは龍驤型1番艦、軽空母の龍驤や、これからよろしゅうな」

 

 君は何ていうんや?そう言いたげな龍驤の視線にどう答えたものか。俺は決めあぐねていた。まさか前の世界での本名をいう訳にはいくまい。しかしそうなると、自分は何と名乗ればよいのだろうか。己と共に開発されたあの機体の名前すら知らない自分がだ。しかし、だからといって答えないというわけにもいかない。何か今の自分を表すワードから関連するような、そんな名前をとっさに思いつかなければ……

 

 「俺……俺は、茅生(かよう)だ」

 

 久しぶりに頭をフル回転させてとっさに出た俺のこれからの名前は、ただ()んさいきよう(・・)せいさんを短くまとめただけの、雑なものになってしまった。

 自分の頭の悪さに内心落ち込んでいると挟間提督がこちらに話しかけてきた。

 

 「では茅生、君は今日妖精さんになる以前の記憶はあるか?」

 

 「……いや、特に何もない」

 

 急に飛び出してきたその質問に、自分の動揺を悟られないよう注意して答えた。

 しかし、自己紹介の次に初めに出てくる質問がこれなら、他の妖精さんには前世の記憶がある個体がいた前例でもあるのだろうか。それとも、艦娘に艦船であった頃の記憶があることから、そういった結論に至ったのだろうか。

 

 「そうか……わかった、君には明日から軽空母龍驤所属の艦載機として働いてもらう。龍驤、後のことは君に任せるよ」

 

 「うちに任しとき!、ほな行こうか」

 

 関西交じりの特徴的な話し方を使いながら、明るい笑顔で先導していく自分のこれからの主人を見ながら、俺は自分のこれからがどうなるか、不安に思うと共に少し楽しみにも感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

___________________________________________

 

 

 鎮守府で初めての艦載機開発が行われた日の深夜。挟間提督は、開発長を執務室に呼び出していた。

 今日開発された装備と共にいた妖精さんに就いての意見を聞きたかったためだ。本来開発を行っただけで開発長を呼び出すようなことはしないのだが、あの不可思議なことが多く起こった現場に同席していて、かつこの鎮守府で最も装備妖精さんについて詳しいことからの人選である。 

 

 「……で、開発長から見て、あの妖精さんはどう思った?」

 

 「どうもこうも、なんせ一度も前例がないことだらけでこっちこそ聞きたいもんだよ。開発されたばかりの妖精がいきなり話し出すんだ、驚きもするさ、それに、あいつは男の妖精だ」

 

 「……男だと何か問題があるのか?」

 

 今思い出してみれば、挟間もこの鎮守府に着任してから男の妖精さんを見たことは無いが、それが何か問題があるのか疑問に思った。

 

 「男だから問題があるって訳じゃねえが……妖精ってのは基本的に女として生まれる。理由としては艦娘が全員女だからそれに引っ張られているってのが一番有力だな」

 

 確かにその説が事実なら、彼が男して生まれたのは特殊であるのだろう。しかし、どうやって彼の性別を見抜いたのだろうか。不思議に思った提督が開発長に聞いてみると、彼女は恥ずかしげもなくこう言ってのけた。

 

 「そりゃあもちろん、ブツを生で見たからさ」

 

 ――――――妖精だって風呂には入る。

 最後にそう付け足した彼女に思わず絶句していた挟間であったが、次に出た言葉には意識を傾けるしかなかった。

 

 「まあそんなことは些事だ、一番の問題は開発中に起きたことだ。お前も見てただろ?」

 

 「あぁ、俺が開発の時光が収まる中うっすらと見えたのは四角い影だった。こう言うのもなんだが、あの開発は失敗に終わっていたはずだ」

 

 今思い出してみても、あの影はどう見たって艦載機の形には見えなかった。彼女の初めての開発は残念ながら失敗に終わるはずだった。

 そう、失敗に終わるはずだった(・・・)のだ。

 

 「だがあの嬢ちゃんが最後に叫んでから、また開発の光に包まれた。それもこれまでにないほどに強く輝いてだ。そして光が晴れるとそこにあったのが……」

 

 「あるはずの無い装備とその妖精さん、か……全く、訳がわからん」

 

 「俺もこれまでそれなりに開発に携わってきたが、これに関しては何もわからん。もしや俺の言ったようにファンタジーな何かの要素が入ったせいなのかもしれんな」

 

 開発長は自重するように笑いながら彼の考察を述べるが、挟間は案外この考えが真実なのではないかと思えてきていた。確かにペンギンが装備に変化するなんて前例はないが、祈っていた艦娘が良い装備を開発したというのは本当のことだ。そして今回の龍驤の祈り様は鬼気迫るものがあった。もしかすると本当に何かのファンタジー小説のように気持ちの大きさに比例して結果を持ってきたのではないだろうか。

 

 「……まあいい、今悩み続けても答えは分からん。開発長、取りあえず彼の様子にはそれとなく気をかけておいてくれ。くれぐれも感づかれないようにな」

 

 「まあそうだな。了解した、奴の動向には注意するようにするさ。じゃあ私はこれで失礼するよ」

 

 そう言って執務室を去ってく開発長を見送ってから、夜も遅いからか提督も自室に戻っていく。

 

 二人だけの会談を、後ろから照らす月だけが静かに見守っていた。

 

 




話進まな過ぎてごめんなさい。主人公より他のキャラが動いちゃうんですよ。
次からはもう少し進めていきたいと思います。(できるとは言っていない)


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