十勇士 (妖狐)
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出会い

燃え盛る炎……その中を走りぬく一人の子供。



『逃げて!!逃げて逃げて逃げて!!


誰の手も届かない所へ!!』


声が響く……


『これはお守りよ。

決して、外しては駄目よ』

『大丈夫、ずっと傍にいるから』

『逃げて!!あなたを、アイツ等に渡すわけにはいかないわ!!』


楽しかった日々……幸せだった。


子供は目から涙を流しながら、森の中を駆けて行った。


『逃げて!!

もっと遠くへ!!』

『決して振り返ってはダメ!!

早く!!早く逃げて!!』


上田城下町……

 

 

そこを歩きながら、大あくびをする一人の少年。

 

 

「大あくびするな!任務中だぞ!」

 

「へいへい。

 

ったく、何で頭の固い甲賀の猿と一緒に任務に行かなきゃいけねぇんだか」

 

「それはこっちのセリフだ。

 

何で、伊賀の汚らわしい忍と一緒に。幸村様の命令じゃなきゃ、絶対お前とは組まない」

 

「そのセリフ、そっくりそのまま返す」

 

 

いがみ合う二人……そんな二人に、後ろを歩いていた男は、二人の頭を交互に殴った。

 

 

「見回りが、いがみ合っていてどうする!!」

 

「痛……猿のせいで殴られたじゃねぇか!!」

 

「ハァ!?それは才蔵のせいだろう!!」

 

「止めんか!!」

 

 

そっぽを向き、才蔵は先に歩き出した。その時、誰かとぶつかり才蔵はよろけ脚を後ろへ引いた。

 

 

「悪い」

 

「……」

 

 

ぶつかった者は、顔と頭に黒い布で覆い隠すようにして巻き、才蔵をちらっと見るとそのまま立ち去った。

 

 

「何だ?あのガキ」

 

「馬鹿!行くぞ!」

 

「誰がばかだ!!」

 

 

 

夕方……森から上田を、双眼鏡で眺める才蔵。

 

 

「異常無し……?」

 

 

何かの物音に気付いた才蔵は、音の方に双眼鏡を向けた。昼間にぶつかった子供と、その後を追う数人の山賊。

 

 

「また出たか……」

 

 

剣を抜きながら、才蔵は木を移動しながら山賊の後を追った。

 

 

茂みの中を走る子供……その時、木の根に足が引っ掛かり盛大に転んだ。足に傷を負った子供は、庇いながら立ち上がり、追いついた山賊達を睨んだ。

 

 

「さぁて、金目の物を渡して貰おうか」

 

「……そんなもの、持ってない」

 

「嘘吐くな。お前の首にあるだろ?

 

翡翠の勾玉」

 

 

その言葉を聞いた子供は、服の上から胸を強く掴んだ。

 

 

「さぁ、渡せ」

 

「嫌だ……」

 

「わた」

「オリャァアア!!」

 

 

声と共に、木の上から剣を振りかざした才蔵が姿を現した。剣は山賊の一人を切り裂いた。

 

 

「上田で暴れるとは、いい度胸してるなぁ?」

 

「げ!!お前は」

 

「真田の霧隠!!」

 

「ガキ怪我させたからには、覚悟は出来てるだろうな?」

 

 

ニヤ付く顔に怪しい光が目に光った。

 

森から響く叫び声……

 

手に着いた土を払いながら、才蔵は逃げていった山賊達を見た。

 

 

「ったく……上田の森で暴れるなんざ、百年早ぇよ!

 

 

さてと」

 

 

振り返る才蔵……子供は、怯えた様子で彼を睨んでいた。

 

 

「おいおい、そんな怯えなくても……助けてやっ…?」

 

 

木に手を掛けながら、子供はふらつきながら立ち上がった。だが、怪我のせいか立ち上がれるがすぐに尻を突き地面に座り込んだ。

 

 

「酷ぇ傷だな……結構深いし」

 

「……」

 

「城で手当てしてやるから」

「キャア!」

 

「?!

 

き、キャアって……お前、まさか」

 

 

顔と頭に巻いていた黒い布を、才蔵は子供から剥ぎ取った。

 

 

肩下まで伸ばし耳下で結った真っ白な髪……透き通った赤い瞳。よくよく体を見ると、男物の着物を着て分かりにくかったが、胸元は少し膨らんでおりそこにさらしが巻かれていた。

 

 

「お前……」

 

「……」




才:この後書きは、俺等の雑談コーナーにさせてもらうぞ!

猿:させるって……まだ出てるの、お前と俺とあの子供だけだろ!

才:いいだろ?どうせ、追々出るんだから。

猿:あのなぁ……

狐:何二人で楽しんでんの?

才:よう狐!
猿:狐!

狐:どうも~。作者の妖狐で~す。狐って呼んでください!

猿:『どうも~』じゃないだろ!!

狐:どうかしました?猿飛佐助さ~ん!

猿:何でお前、そんなに軽いの?

狐:軽い方が良いじゃん。なぁ、才蔵。

才:まぁな!猿、お前も少しは軽くなれ!

猿:俺は結構だ。汚れる。

才:んだと!!

狐:やめなさい、子供の前だぞ!

子:……

才:そういや、この子供何者なんだ?

猿:そういえば。

狐:さぁ……何者なんだしょうねぇ。

才:教えろよ!

狐:それは次回までのお・た・の・し・み!

才:ハァ!?
猿:ハァ!?

狐:じゃあ読者の皆さん、また次回!


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子供の名

子供を背負い、町を歩く才蔵……

 

 

「ったく、女のくせして何で男物の着物着てんだよ!?」

 

「……だって」

 

「(速い心臓の鼓動……乱れた息。

 

そして、未だに震える手……

 

 

誰かに追われてる……)?何か食ってくか」

 

 

茶屋の前でベンチに座り、団子を食べる才蔵。子供はベンチの上で体育座りし、出された団子を食べようとはしなかった。

 

 

「何だ?食べないのか?」

 

「……」

 

「(食べてる余裕もない…か)?」

「?」

 

 

何かの気配を感じた才蔵は、何気に辺りを目で見回した。

建物の間に潜む影……才蔵は茶を口にしながら、子供を見た。気配を感じ取っているのか、子供は腰に挿していた刀の束を握りながら、辺りを警戒していた。

 

 

「こんな所で油を売ってたのか?!」

 

 

警戒する才蔵の前に、猿飛佐助が降り立ち彼を睨みながら腕を組んだ。

 

 

「何だ、猿か」

 

「何だとは何だ!何だとは!」

 

「上田の森は異常なし。これでいいんだろ?」

 

「そういう問題じゃ……?

 

才蔵、この子供は?」

 

「山賊で襲われてた所を助けた。

 

そいつ、脚に怪我してるから城に連れて帰って手当てしようかと」

 

「お前のお人好しは、相変わらずだな」

 

「いいじゃねぇか。

 

それより……」

 

 

鋭い目付きで、才蔵は建物の間に潜む影に目をやった。佐助は何かを悟ったのか頷き、どこかへと消えた。

 

 

「あいつは猿飛佐助。

 

俺の仲間だから、安心しな」

 

「……」

 

「さてと、城に行くか」

 

「……あ」

 

 

子供が何かを言い掛けた時、才蔵は子供の口に黙るように指を当てた。辺りを見ながら子供を背負うと、一目散に駆け出した。その後を潜んでいた者達は、一斉に彼の後を追い駆けようと飛び出した。

 

だが次の瞬間、彼等の頭上に何かが張られそれに引っ掛かり地面に尻を突いた。

 

 

「不届き者。上田に入ったからには、生きては返さぬ」

 

 

佐助は大きな山犬を二頭連れ、彼等の前に立った。

 

 

城に着いた才蔵……遅れて、佐助が山犬を連れて戻ってきた。

 

 

「お!猿!」

 

「怪しい輩は、全員排除したが……何を狙って」

 

「さぁな。

 

ほら、脚出せ」

 

 

縁側に座らせた子供の脚の手当を才蔵はやり始めた。

 

 

子供は、才蔵に手当てされている間、ずっと辺りを警戒するかのように目を動かしていた。長い袖から少しだけ見えていた手は少し震えているように、佐助の目には見えた。

 

すると、佐助の傍にいた山犬は子供に歩み寄った。子供は寄ってきた山犬に、恐る恐る手を出した。山犬は鼻を動かしにおいを嗅ぎ、そして子供が差し出した手に擦り寄った。

 

 

「珍しい。山犬が俺以外の人に懐くなんて」

 

 

「おぉ、帰ってたか!」

 

 

声が聞こえ、佐助はこちらへ来る者に頭を下げた。才蔵は動かしていた手を止め、そちらに目をやった。

 

着流しに身を包み、手に煙管を持った男……そして、その隣に袴に身を包み、髪を結った男。

 

 

「幸村」

 

「才蔵!いい加減」

「よいよい六郎。

 

こいつに何度言っても同じ事。時間の無駄だ」

 

「……」

 

「?才蔵、その童(わっぱ)は?」

 

「山賊に襲われて、怪我してたから傷の手当てを」

 

 

傷の手当てを終えたのか、才蔵は余った包帯を手に持ちながら、立ち上がった。子供は縁側かは降りるが、すぐに足がふらつき、倒れかけた。倒れかけた子供の腕を、才蔵は掴み立たせた。

 

 

「……

 

六郎。部屋を一室用意しろ」

 

「御意」

 

「幸村様、なぜ?」

 

「こんな小さな子供が、夜の森を歩いてみろ。

 

一発で山賊達の餌食だぞ。それから佐助、お主儂に何か伝えることが有るのではないのか」

 

「あ、はい!」

 

 

幸村の元へ駆け寄る佐助は、先程のことを話した。才蔵は子供を縁側に座らせた。

 

 

「というわけだ。

 

今晩はここに泊まってけ」

 

「……でも」

 

「何強がってんだ!

 

真面に歩くことも出来ねぇくせして」

 

「……」

 

「あ、そういえば名前まだだったな。

 

何て名前なんだ?」

 

「名前?」

 

「そう名前」

 

「……覚えてない」

 

「え?」

 

「でも、字だけなら覚えてる。

 

読み方は覚えてないけど」

 

 

子供は傍に落ちていた木の枝を持ち、地面に字を書いた。

 

地面に書かれた字、それは……『桜華』

 

 

「おうか……」

 

「おうか?」

 

「読み方はそんな感じだ」

 

 

「あら?綺麗な字」

 

 

槍を持ち、長い焦げ茶色の髪を結い、露出度の高い服を着た女性が膝に手を当てながら屈み、その字を見ていた。

 

 

「氷柱(ツララ)」

 

「おうかって読むのかしら?」

 

「多分な」

 

「私はこの子に聞いてるの。才蔵には聞いてないわ」

 

「へいへい」

 

 

「氷柱ぁ!!

 

悪いがその子供を、風呂に入れくれ!」

 

「ハーイ。

 

というわけだから、桜華行きましょう」

 

 

氷柱に手を引かれ、桜華は風呂場へと行った。




才:雑談コーナー!

猿:で?何話すんだ?

才:新しいキャラ出たんだ!紹介しねぇと。
まず一人目は、我等の殿・真田幸村。

幸:どーも。

才:二人目は、殿の小姑!海野六郎。

六:才蔵、少しは口の利き方をどうにかしなさい。

才:三人目は、穴山氷柱!

氷:どうも!

狐:お、やってるね~才蔵。

才:狐!

幸:おー!お主か!狐というのは。

狐:本名は妖狐だけどね。

猿:おい狐!お前、子供の正体分かるとか前回言ってたが、分かったのは名前だけじゃないか!

狐:そんな早く知ってどうすんの?これ、小説だよ?

才:そうだぞ、猿!

猿:汚れた伊賀に言われても無意味だ。

才:ンだと!!

氷:止めなさい!!二人共!!

六:あの馬鹿共、どうします?幸村様。

幸:ほっておけ。

狐:読者の皆さん、また次回お会いしましょう!


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桜華とお握り

風呂で桜華の頭に氷柱はお湯を掛けた。肩下まで伸ばした真っ白な髪と真っ白な体……ふと腹部分を見てみると、そこに小さな傷痕があった。


「桜華、この傷は?」

「知らない。

ずっとある傷だから」

「フーン……それにしても、真っ白ね。ちゃんと陽に当たってる?」

「生まれ付きなの……」


『逃げて!!

 

もっと遠くへ!!あいつ等の届かない所へ!!』

 

 

『捜しましたぜ?』

 

 

「!!」

 

 

飛び起きる桜華……息を切らし、額に掻いた汗を拭った。枕元に置いてあった刀を腕に抱え、部屋の隅へ蹲った。

 

 

数時間後……

 

 

「桜華!!いつまで寝て……やがる」

 

 

部屋に入ると、布団ではなく部屋の隅で蹲り眠る桜華の姿があった。

 

 

「……」

 

「朝から騒々しいぞ。才蔵」

 

「猿……」

 

「……無理もない。

 

昨日の見た感じだと、こいつずっと何者かに追われていたんだ。夜が怖く一晩中起きていたのなら、未だに起きなくても不思議じゃない」

 

「何でそこまで詳しいんだ」

 

「山犬から聞いた」

 

「さすが、お山の大将」

 

「何とでも言え。

 

朝飯はこちらへ持ってくる。面倒見ろよ才蔵」

 

「俺かよ?!」

 

「昨日、幸村様があの子をここへ置くことを決めた」

 

「何で?!」

 

「この子、徳川に狙われている」

 

「?!」

 

「詳しいことは、十蔵が調べに行った。

 

しばらくの間、お前にこの子の面倒を見るようにと幸村様が」

 

「あの爺……」

 

「お前、いい加減口の利き方どうにかしろよ。

 

六郎さんにも言われてんだろ?」

 

「その内な」

 

 

『見つけましたぜ?

 

いくら遠くに逃げても、俺等の手から逃れることは出来ねぇんだよ』

 

 

いつまで逃げればいいの……

 

誰か助けて…誰か……

 

 

「……」

 

 

動物の鳴き声で、桜華は目を覚ました。足下に目を向けると、そこに茶色い毛をした鼬が鳴き声を上げながら、彼女を見ていた。

 

 

「やっと起きたか……」

 

 

部屋の障子を開けながらそう言って入ってきたのは、佐助だった。彼の姿を見た鼬は、佐助の元へと寄り肩へ登った。

 

 

「朝ご飯、ここに置いとくから食えよ」

 

「……いらない」

 

「少しでもいいか」

「いらない!」

 

 

佐助の隙を狙ったのか、桜華は刀を持ったまま部屋を飛び出した。

 

 

「あ、コラ!!」

 

 

首から下げていた木の笛を鳴らし、佐助は彼女の後を追った。庭を走る桜華の前に、城壁を飛び越えた山犬が入り込み、降り立った。桜華は刀の束を握り、息を調えると刀を勢い良く振った。

 

振った刀から、風が起き狼を飛ばした。道が開いたのを確認すると、刀を鞘に戻しながら駆け出した。

 

 

「凄い……一瞬で山犬達を」

 

 

城壁に沿って走っていた桜華は、開いていた門を潜ろうとした時だった。

 

何かにぶつかり、地面に尻を突いた。すると目の前に、手が差し出された。見上げると、そこにいたのは煙管を手に流れる水の模様が付いた着流しに、その上から黒い羽織に腕を通した男だった。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「……」

 

「真助さん?!

 

何故あなたが」

 

 

屋根から飛び降りた佐助は、驚きながら真助に駆け寄った。桜華は駆け寄ってくる佐助に、隠れるかのようにして真助の後ろへ隠れた。

 

 

「この子供は?」

 

「訳ありで、ここに置くことになった子です」

 

「なぜ、あなたから逃げているんです?」

 

「それはそいつに聞いて下さい。

 

朝ご飯食べろって言ったら、逃げ出して」

 

「食べたくなければ、食べさせなくていいんです。

 

お腹が空けば、子供は勝手に食べます」

 

「放置教育、やめて下さい!!」

 

「……台所を貸して貰います?」

 

「え?」

 

「桜華、来なさい」

 

 

後ろに隠れている桜華の手を握りながら、真助は城へ入り台所へと向かった。

 

 

二人の後を、佐助はついて行き台所を覗いた。真助は米を握りお握りを二つ作った。そして出来上がると、傍にいた桜華に差し出した。

 

 

「食べなさい」

 

「……」

 

 

出されてきたお握りを、桜華は手に取り真助の様子を伺いながら、一口食べた。余程美味しかったのか、持っていたお握りを一気に頬張った。

 

 

「おやおや。余程腹を空かせていたようですね。

 

ほら、もう一個食べなさい」

 

 

指に付いた米粒を食べながら、桜華は差し出されたお握りを手にし口にした。

その様子を、佐助は呆気に取られながら見ていた。

 

 

「何やってんだ?猿」

 

「!……才蔵か」

 

「……!

 

あ!真さん!」

 

「おや才蔵、お久し振りです」

 

「どうしたんスか?」

 

「信幸様から、馬鹿な弟の様子を見に行くように言われましたもので」

 

「またかよ……?

 

あれ?桜華、握り飯食ってんのか?」

 

「……ん」

 

「そうか。美味いか?」

 

「……ん」

 

「だろう!

 

真さんの握り飯、美味いんだよなぁ!

 

真さん!俺」

「お断りします。

 

佐助、幸村様の所へ案内して下さい」

 

「あ、はい!」

 

「それではまた。

 

食べ終えたら、ちゃんと手を洗いなさい。桜華」

 

「うん」

 

「では」

 

 

佐助と共に、真助は台所を出て行った。

 

 

「あ!いたいた。

 

捜したよ」

 

 

台所へやって来た氷柱は、桜華の元へ駆け寄った。

 

 

「氷柱、どうしたの?」

 

「この子に服、着させようと思って」

 

「服?」

 

「いつまでも、男物の着物着せてられないでしょ?

 

一応は女の子なんだから。ほら、一緒に来て」

 

 

手を掴もうとした時、桜華は氷柱の手を避け才蔵の背後に隠れた。

 

 

「……アンタ、好かれたわね」

 

「好かれてもなぁ」

 

「才蔵、一緒に来て」

 

「何で俺まで?」

 

「アンタがいないと、この子行かないでしょう。

 

早くして」

 

「ったく……?」

 

 

後ろを見ると、桜華は未だに手を震えさせ才蔵の服を掴んでいた。

 

 

「(……まだ、怯えてるのか)桜華」

 

「?」

 

「ここは安全だ。何も怖いことはねぇよ」

 

 

桜華の手を掴みながら、才蔵は言った。その時、桜華の脳裏にある映像が流れた。

 

泣いている自分の手を掴み、優しく頭を撫でる女性。

 

 

『大丈夫よ。もう怖いことは何も無いわ』

 

 

「桜華」

 

「?」

 

「どうかしたか?」

 

「……何でも無い」




才:雑談コーナー!

猿:話す事、何かあるのか?

才:新しいキャラ、出ただろ!
ゴホン!ご紹介します!我等の殿・真田幸村の兄・真田信幸の小姑・真助さん!

真:初めまして。山本真助と言います。以後お見知りおきを。

狐:ヤッホー、皆やってる~?

才:よぉ!狐!

真:あなたが狐ですか。初めまして。

狐:堅くなくていいよ。

猿:おい狐、話がある。

狐:話?何?

猿:何で、子供の名前の次がお握りの話なんだよ!!

狐:お握り美味いぞ。因みに私は塩とオカカが好きだ!

才:俺は断然、塩だな!

猿:好みを聞いてんじゃねぇ!!

狐:佐助、何故お握りにしたか分かるか?

猿:だから、それを聞いてんだろうが!!

狐:追々重要になるんだよ。

猿:重要?

才:そういえば、桜華の過去ってどうなってんだ?

氷:あの子、何かに追われてるって感じはするけど……

狐:次回かその次に分かるかもね~

才:何だ?ついに、桜華の過去が明らかになるのか?!

狐:それはどうだか……

真:僕とも何か関係してると聞いてますが……

才:は!?それどういう意味だ?!

狐:……

才:狐!答えろ!!

狐:皆さーん、また次回お会いしましょう!

才:あ、反らしやがった!!

猿:狐!!


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上田の町

氷柱の部屋で服を着替える桜華。才蔵は外で、彼女が着替え終えるのを待っていた。


数分後……


襖を開ける氷柱。彼女の後に着替えた桜華が出て来た。


「……氷柱」

「?」

「お前の服は、露出度高過ぎだ!!」

「はぁ?!どこがよ」

「空きすぎた胸と脚!!それに腹と腕!!

この格好すんなら、忍かつ16過ぎてからだ!!」

「いいじゃない!可愛いんだから」

「可愛いで済まそうとするな!!

桜華、後で仕立屋……って、桜華?」


傍にいたはずの桜華は、いつの間にか才蔵達の前から姿を消していた。


台所へ来た桜華……中を覗くと、辺りを見回しそして去って行った。それからしばらくして、才蔵と氷柱が台所へ着き、中を覗きながら侍女達に声を掛けた。


「おい!ここにさっき、女来なかったか?」

「女の子?さぁ」

「どこ行ったんだ……」

「まさか、城の外に」


「才蔵!!」


突如大声で呼ばれ、才蔵はすぐに呼ばれた方に向かった。

呼ばれた方に行くと、六郎と隣を歩いていた真助と彼の腕を掴む桜華の姿があった。


「才蔵!!この者は何者ですか?!」

「いや、桜華だよ!氷柱の変なセンスの服を着せられた桜華だよ!」

「変なセンスとは何よ!!」


「なぁ、お握り作って」

「おや、余程気に入ったようですね」

「なぁ、お握り」

「分かりました。

あとで作ってあげます。けどその前に、才蔵」

「?」

「早くこの服をどうにかしなさい。

忍でもない女が、ここまで肌を晒す必要はありません」

「だってよ、氷柱」

「……フン!」

「さぁ、仕立屋に行って服を仕立てて貰いなさい。

お握りはその間に作りますから」

「……」

「だってさ。

桜華、ついて来い」


先に行く才蔵に、桜華は真助の方を振り向きながらも、彼の後をついて行った。二人の後を、氷柱もついて行った。


「随分と子供好きなんですね」

「あれ?言ってませんでしたか?

昔いたんですよ……娘が一人」

「……」

「まぁ、もういませんけどね」


城下町を歩く才蔵達……才蔵の服を掴みながら、桜華は辺りを警戒していた。

 

 

「警戒してるみたいね」

 

「徳川に狙われてるって話だ」

 

「徳川?何で?」

 

「さぁな」

 

 

しばらくして才蔵達は、仕立屋に着いた。桜華は仕立屋の中にある着物の生地を物珍しそうに眺めていた。

 

 

「このガキに合う服を作ってくれ」

 

「構わないけど……

 

才蔵、もしかしてこっち好み?」

 

「違ぇよ!!昨日保護したガキを、俺が面倒見てんだ!」

 

「あら、そうなの。

 

仕立てるけど、何か注文はある?作る服に」

 

「なるべく動きやすい格好で頼む。けど、露出度は控えめにな。

 

それから、髪の毛隠せるようにフードを」

 

「は~い。

 

それじゃあお嬢ちゃん、寸法測るからちょっときて」

 

 

仕立屋の亭主は、桜華を奥へと連れて行った。

 

 

「あの亭主の性格、どうにかならねぇのか?」

 

「あらいいじゃない。男なのに女の気持ちが分かるなんて」

 

「喋り方も気色悪いし」

 

「そう言うこと言わないの」

 

「お待たせ~!

 

寸法測ったから、出来上がり次第お城にお知らせするわね!」

 

「分かった」

 

「あ!そうそう、大事なことを聞き忘れたわ!

 

服の色、どうする?」

 

「そうだなぁ……

 

桜華、好きな色あるか?」

 

「色?」

 

「何か好きな色無いかしら?」

 

「……藍色」

 

「あ~ら、随分と綺麗な色を選ぶのね!

 

分かったわ!その色を中心に作るわね!」

 

「頼む。支払いは城のツケで」

 

「は~い!」

 

 

仕立屋を出た才蔵達は、茶屋で一休みしていた。

 

 

「いい服が出来そうでよかったわね」

 

「まぁな」

 

 

茶を飲む才蔵……ふと桜華の方を見ると、彼女はずっと後ろに目をやっており、それに気付いた才蔵は同じ方向に目を向けた。

 

 

「……才蔵」

 

「……

 

 

桜華、靴屋行くぞ」

 

「靴?」

 

「その高いヒールの靴じゃ、走りづれぇだろ?」

 

「服決まってからの方がいいんじゃない?

 

それより、髪留め買ってあげなさいよ」

 

 

そう言いながら、氷柱は才蔵に目で合図すると彼は頷き桜華を連れて行った。

 

 

「さてと……お仕事と行きますか」

 

 

冷酷な目付きになり、氷柱は手から氷の刃を作った。

 

 

雑貨屋へ来た才蔵と桜華……

 

 

「髪留め?別に構わないが……

 

なんだい?ついに氷柱に告白」

「んなわけねぇだろ!!

 

このガキにだ」

 

「あらそう。

 

確かに、買ってやった方がいいね。この子が着けてるこの髪留めの紐……相当昔のだよ。数年以上は変えてないね」

 

「何で分かるんだ?」

 

「所々切れて、結び繋いでるって感じだもの。

 

それにもう滲んでるけど、これ元は赤よ。汚れて赤茶色になってるけど」

 

「さすがプロ」

 

「で、どうする?

 

服の色に合わせてもいいし、同じ色でもいいし」

 

「だとさ、桜華」

 

「……いい」

 

「え?」

 

「別にいい。

 

この髪留めで」

 

「けど」

 

「いい!」

 

 

強く答えると、桜華は店を出て行った。

 

 

「桜華!!

 

ったく」

 

「余程気に入ってるか、あるいは誰かの形見か」

 

「形見?」

 

「どっかの誰かさんが、死んだ者の髪留めを剣の束に巻いてるみたいに、あの子も形見を手放したくないんだよ」

 

「……」

 

 

町を走る桜華……角へ曲がった時だった。

 

 

「!!」

 

 

目の前に現れる黒装束の忍……逃げようと、後ろへ下がった瞬間、背後から何者かに手を拘束され、手で口を塞がれた。

 

 

「やっと捕まえたか……」

 

「ったく、面倒なガキだ」

 

「……痛!!」

 

 

桜華は脚を上げ、前にいる忍に蹴りを入れ、空いていた腕で自分を拘束する忍に、肘鉄を食らわせた。痛みで忍の手が緩み、その隙を狙い桜華は走り出した。

 

路地裏から出て来た桜華は、首に巻いていた襟巻きを口に巻き、待ちを駆けていった。

後ろを気にしながら走っていた桜華は、曲がった際何かにぶつかり尻を突いた。顔を上げると、そこにいたのは氷柱だった。

 

 

「桜華、どう…?!」

 

 

気配に気付いた氷柱は、前の建物で身を潜める輩を睨んだ。桜華は振り返り、息を調えながら印を結んだ。

 

すると身を潜めていた忍がいたと思われる場所から、水が流れてきた。水に気付いた民は、建物の隙間を覗いた。

民は悲鳴を上げながら、尻を突いた。氷柱は桜華の手を引き覗きに行った。

 

 

「!?」

 

 

水に濡れた二体の溺死死体……

 

それを見た瞬間、桜華は頭を抑えながら氷柱から離れ駆け出した。

 

 

「桜華!!

 

 

待って!桜華!!桜華!!」

 

 

氷柱の叫ぶ声が桜華の頭の中で次第に、別の声へと変わった。

 

 

『桜華!!早く逃げて!!

 

振り向いては駄目!!逃げて!!逃げて!!』

 

 

目から涙を流しながら、桜華は走り続けた。




才:雑談コーナー!

猿:何?何かあるの?話題。

才:何だよ猿。機嫌悪いな?

猿:俺今回、出てねぇの!!

才:あっそ。可哀想に。

猿:他人事みたいに言うな!!

氷:いちいち対応しないの。体持たないわよ。

猿:っ……

狐:やあやあ、やってるね~

才:お、狐!

猿:おい狐!!お前、桜華の過去が分かると言っときながら、何だ!!あの終わり方は?!

狐:私、前回「かもね」って言ったよ。つーか佐助、首苦しいから離そうか?

猿:チッ!

才:それより、桜華は何者なんだ?

氷:そうよ!いい加減、書きなさいよ!

狐:あのね、そう言うけど……
こっちの身にもなってよ!!書くの大変なんだから!

猿:知るか!!お前の仕事だろ!

狐:いいもん!仕事放棄して
才:するな!!
猿:するな!!

氷:読者の皆ーさん、また次回お目にかかりましょう!


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安らぎの場所

『いたか?!』

『いや、どこにも』

『くそ、どこに行ったんだ』

『焼け死んだんじゃねぇの?』

『死んだら元も子もないぞ!!

アイツはあの方が』


逃げなきゃ……遠くへ。


夕暮れ……才蔵は氷柱と共に、上田の森に入り桜華を捜していた。

 

 

「桜華!!どこだ!!」

 

「桜華!!出て着て!!」

 

 

森を駆ける才蔵だったが、彼女はどこにもいなかった。彼等の後に続き、佐助も一緒に捜していた。

 

 

「全く、何で目を離したりするんだ!!」

 

「仕方ねぇだろ!」

 

「仕方なくない!!これだから伊賀の者は」

 

「あ?!」

 

「喧嘩するなら、桜華を見つけてから!!

 

今日中に見つかんなきゃ、ヤバいんだから!」

 

 

“ワオオオオオオ”

 

 

森中に響く、山犬の遠吠え。佐助はその鳴き声を頼りに、どこかへ向かった。彼の後を、才蔵と氷柱は追い駆けた。

 

 

 

奥へと来た佐助……小さな洞穴の傍に、山犬は座っていた。山犬の頭を撫でながら、穴を覗いた。

 

蹲る桜華……体を震えさせながら、桜華はそこに座っていた。

 

 

「猿!見つけ」

「シッ!

 

この穴の中だ。けど、相当怯えてる」

 

「……」

 

 

佐助を退かし、才蔵は穴の中を覗き込んだ。

 

 

「桜華、帰ろう」

 

「…なきゃ」

 

「?」

 

「逃げなきゃ……逃げなきゃ。あいつ等から、逃げなきゃ」

 

 

穴にいる桜華は、髪留めの紐が切れたのか、長い髪が下ろされ彼女はずっと顔を伏せ震えていた。

 

 

「桜華」

「逃げなきゃ」

 

「桜華」

「逃げなきゃ」

 

「桜華!」

 

 

桜華の手を掴み、才蔵は彼女を引きずり出した。桜華は才蔵から離れようと暴れ出した。

 

 

「桜華!落ち着け!!

 

氷柱、頼む!」

 

 

才蔵に言われ、氷柱は冷たい息を桜華に掛けた。彼女は気を失ったかのようにして倒れ、倒れかけた桜華を才蔵は横に抱いた。

 

 

「……余程怖かったのね」

 

「……」

 

「とにかく、城へ戻ろう。

 

幸村様達も、心配していることだし」

 

「そうだな」

 

 

抱えている桜華を抱え直し、才蔵は佐助達と共に城へ戻った。戻る中、桜華の首から掛けていた勾玉の翡翠が、青く光っていた。

 

 

 

『お守り?』

 

『そう。桜華を悪い物から守ってくれるお守り』

 

『綺麗な翡翠』

 

『絶対外しちゃダメよ』

 

『うん!』

 

 

『早く逃げて!!早く!!』

 

 

 

目を覚ます桜華……額に置いてある濡れた手拭いを退かしながら、桜華は起き上がった。部屋には障子に寄り掛かり眠る才蔵の姿があった。

 

 

「……」

 

『ここは安全だ。何も怖いことはねぇよ』

 

 

思い出す才蔵の言葉……ふと下に目を向けると、皿が置いてありそこにお握りが三つ置かれていた。桜華は、お握りを手に掴み頬張った。

 

食べる音で目が覚めた才蔵は、目を擦りながら起きてお握りを食べる桜華を見た。

 

 

「起きたか」

 

「……」

 

「……美味いか?」

 

「……ん」

 

「桜華……お前、何があったんだ?」

 

「……知らない」

 

「え」

 

「覚えてない……

 

ずっと追われて、放浪して逃げてた」

 

「親は?一緒じゃなかったのか?」

 

「知らない」

 

「知らないって……」

 

「ずっと一人だもん……」

 

「……」

 

「ずっと一人で逃げてた……村や町を転々として、逃げてた。元から着てた服は着れなくなって、死んでた山賊から服を剥ぎ取って、それを着た」

 

「(あの男物の着物、山賊から剥ぎ取ったのかよ)

 

そういえば、刀はどうしたんだ?山賊から盗ったのか?」

 

「ううん。元から持ってた」

 

「フ~ン」

 

 

その時、障子が開きそれに驚いた桜華は、才蔵の傍に行った。

 

 

「六郎さん」

 

「目覚めたみたいですね。桜華」

 

「さっきな」

 

「才蔵、幸村様がお呼びです。すぐに着なさい」

 

「分かった。

 

桜華、お前はもうちょい寝てろ」

 

「……うん」

 

 

桜華の頭を軽く叩くと、才蔵は立ち上がり六郎と共に部屋を出て行った。

 

一人になった桜華は、もう一つお握りを口にした。

 

 

『桜華……桜華』

 

「?」

 

『桜華……

 

またお母さんに怒られたんだって?』

 

(誰?)

 

『ほら、お握り。これを食べて機嫌直しなさい』

 

 

自然と涙を流れた。桜華は涙を腕で拭きながら、お握りを見た。

 

 

(私……)

 

 

 

「ハァ?!徳川じゃない!?」

 

 

巻物を読みながら言う幸村に、才蔵は大声を上げた。

 

 

「あぁ。

 

十蔵の調べによると、ここ最近徳川が動いた痕跡が無いんだ。ほれ、お主と同じ伊賀の出身の服部半蔵がいるだろ?あ奴からも情報を得たんだが」

 

(よく情報を得られたな……つーか、本当にあってんのか?)

 

「最近は、どうやって儂等真田を滅ぼそうか考えているらしい」

 

「そんな情報いらねぇって、半蔵に言っとけ!!

 

 

……そうなると、桜華は誰に追われてんだ?」

 

「そこなんだよ。誰に追われているのやら……

 

彼女から、何か聞いたか?」

 

「何も。聞いたと言えば、ずっと一人で逃げてきたってくらいだ」

 

「逃げてきた…か」

 

「幸村、徳川の事少し頭に入れといた方が良いぜ。

 

あの狸は、自分は動かないけど部下に動かすことがあるから」

 

「そうだのぉ……まぁ、考えておく」

 

「そんじゃ、部屋戻って寝るわ」

 

「才蔵、桜華の事頼んだぞ」

 

「……ヘイヘイ」

 

 

襖を閉め、才蔵は部屋を出て行った。

 

 

六郎は幸村に茶を出しながら、口を開いた。

 

 

「本当にいいんですか?才蔵で」

 

「あぁ。

 

アイツは少し、大事なものを持たせた方が良い」

 

「……」

 

「いつまでも過去に縛られちゃ、前に進めはしない……そうだろ?六郎」

 

「そうですね……」

 

 

桜華の部屋へ戻ってきた才蔵……桜華は、部屋の隅に蹲っていた。

 

 

(また……)

 

『ずっと一人で逃げてた……』

 

(……無理もないか。

 

怖いんだもんな)

 

 

蹲る桜華の隣に座った才蔵は、掛布団を包むように彼女に掛け自分にも掛けた。桜華は体勢を崩し、才蔵に寄り掛かる様にして倒れた。そんな彼女の頭を才蔵は撫でた。その時、一瞬だけ彼女の姿が別の女性へと変わった。青い髪を一つ三つ編みに結い、自身に寄り掛かりえ笑う女性。

 

 

(……似てるな…アイツに)

 

 

縁側を歩く佐助……ふと、桜華の部屋を覗いた。

 

 

壁に寄り掛かり眠る才蔵。彼の隣で彼にしがみ付き眠る桜華。

 

そんな二人の姿を見た佐助は、鼻で笑いその場を去って行った。




狐:……あれ?雑談コーナーは?やってないの?

猿:今回、話す事何かあるのか?

狐:う~ん……
あれ?そういえば、才蔵は?

猿:アイツなら今、桜華と一緒だ。

狐:あ~、そういえば。

猿:で?いつになったら、桜華の過去が明かされるんだよ!

狐:もうちょいしたらな。

猿:このコーナー、そろそろ終わりにした方が良いんじゃないのか?

狐:う~ん……考えとく。
そうだ!次から、お前等の紹介するか!

猿:紹介?

狐:うん!服とか使用武器とか!

猿:それはいいかもな。

氷:その前に、才蔵の過去もなんか気になるんですけど!

猿:そうだ!才蔵に何があったんだ!!

狐:それではまた、次回をお楽しみに~

氷:おい!!
猿:おい!!


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襲撃

『桜華』

誰?

『桜華』

誰なの?

『やっと見つけましたよ?』



飛び起きる桜華……息を切らしながら、辺りを見回した。


「あれ?……才蔵?」


部屋で一緒にいたはずの才蔵の姿が無かった。桜華は、服を着て刀を持ち部屋を出た。


陽が差し込み、眩しく桜華は目を手で覆った。


「おや?目が覚めたみたいですね」

「?」


その声の方に振り向くと、そこにいたのは煙管を手にした真助だった。


「……」

「三日も、寝ていたんですってね」

「……」

「どうしたんですか?物珍しそうに」


『桜華。

どうしたんです?そんなに泣いて。また近所の子供と喧嘩したんですか?』


優しい男性の声が、桜華の頭に響いた。桜華は、ふと真助を見た。


「……」

「桜華?」

「……なぁ」

「はい?」

「……」
「お!桜華、起きてたか!」


何かを言い掛けた時、才蔵が現れ桜華に話し掛けてきた。


「才蔵」

「服が出来た。すぐに仕立屋行くぞ」

「うん」

「あれ?真さん、来てたんスか?」

「えぇ。桜華が少し気になった者で」

「つーか、小姑って普通若君の傍にいるもんじゃ」

「いる必要がありません。信幸様は、キチンとされているお方。ほっといても、大丈夫でしょう」

「おいおい……」

「さぁ、早く桜華に新しい服を着させてあげなさい」

「あ、あぁ。

桜華、行くぞ」


先行く才蔵の後を追うとした桜華だったが、彼女は一瞬真助の方を振り向いた。晋助は彼女を見つめ、そして首から下げている勾玉を目にした。


「桜華!!置いてくぞ!」


才蔵に呼ばれ、桜華は彼の元へ駆け寄った。


(……まさかね)



仕立屋へ来た才蔵と氷柱。


「何でお前まで来んだよ」

「いいじゃない。アタシだって、桜華の新しい服見たいし。それに髪留めと靴も買わなきゃダメでしょ?」

「まぁな……」

「お待たせ~!!

さぁ、桜華ちゃん!出てきて、二人に見せてあげて!」


更衣室から出てくる桜華……

藍色の半袖の服に、黒いハーフパンツ。そして丈が長く袖無しの白いフードが着いたコートを着て、腕には藍色の肘まである手袋を嵌め、首には黒い襟巻が巻かれていた。


「あら!いいじゃない!」

「でしょでしょ!

作るの苦労したわ~」

「桜華、どうだ?気に入ったか?」

「……うん」

「そうとなれば、この服に合う靴買いに行きましょう!あと髪留めも!」

「お前が行きてぇだけだろ!!

桜華、行くぞ」

「ありがとうね!」

「またいつでもいらっしゃ~い!」


靴屋、雑貨屋へと行き、必要なものを買った三人は、いつもの茶屋で一休みしていた。


「取り合えず、買うもんは買ったと」

「桜華、本当にその靴で良かったの?忍でもないんだから、下駄とかにすればよかったのに」


白い西洋のヒール無しの足首上まであるブーツを見ながら、氷柱はそう言った。桜華は、買って貰った髪留めで髪を結ぼうとしていた。


「この靴の方が、走りやすい」

「走りやすいって、アンタね」

「いいじゃねぇか。本人が気に入ってるんだからそれで」

「う~ん……でも~」

「お前のセンスに合わせてると、変な格好になる」

「変とは何よ!!」


お茶を飲む桜華……その時、何かの気配を感じたのか、鋭い目付きになり辺りを警戒しだした。その気配は、才蔵達も感じ、辺りを警戒した。


そんな彼等を屋根の上から見る数人の人影。


「やっと見つけましたと……さぁ、捕獲しましょうか」


“ドーン”


突然の爆発音……町を歩いていた民達は皆、悲鳴を上げた。才蔵と氷柱は、武器を手に取り出し煙が上がっている箇所を見た。

 

 

「才蔵!すぐに桜華を城へ!」

 

「あぁ!桜華、こっち…?!」

 

 

向かいに座っていたはずの桜華が、いつの間にかいなくなっていた。

 

 

「桜華!!」

 

「あの子まさか、さっきの爆発音にビックリして」

 

「動物か!!」

 

「違うわよ!!考えて見なさい!

 

追われてたのよ!ずっと。攻撃を受けてないわけないでしょ?」

 

「……」

 

「とにかく才蔵はあの子を捜して!私は、城に戻ってすぐに佐助達に報告」

“ドーン”

 

 

城の方から突如、爆発音と共に黒い煙が上がった。

 

 

「城が!?」

 

「幸村!!

 

氷柱、早く行け!!」

 

「えぇ!!」

 

「何がどうなってんだ!!」

 

 

 

上田城では……

 

 

潜入してくる忍達。その者達を、庭にいた真助は持っていた刀でズタズタと斬っていった。

 

 

「全く、普通に突っ込んでくる者がありますか?

 

忍というのは、音を立てず気配を断てず侵入するものです」

 

「真顔で言うの、辞めてください!!」

 

「おや、佐助。遅いではありませんか」

 

「蔵に火を放たれ、その消火の方を……って、何し切ってるんですか?!」

 

「真田軍隊長がいなかったもので。そのまま命令を出させて貰いました」

 

「真助さん!!」

 

「さぁ、ここからはあなたのお仕事ですよ。早く片付けなさい」

 

「分かってます!」

 

 

坂道を駆ける桜華……辿り着いた場所は、上田城だった。

 

 

「ハァ……ハァ……うっ!!」

 

 

『逃げて!!逃げて逃げて!!

 

あいつ等の手の届かない場所へ!!逃げて!!』

 

『あの人を……

 

信州の上田にいる、真田を頼りなさい』

 

『逃げて!!早く!!』

 

『見つけましたよ?』

「見つけましたよ?」

 

「?!」

 

 

聞き覚えのある声……声を聞いた瞬間、体が震えだした。震える手で、腰に差していた刀の束を握りながら、ゆっくりと後ろを振り向いた。

 

黒い忍服に身を包んだ男……顔と頭に黒い布を巻き、その間に光る灰色の目。手には大剣が握られていた。

 

 

彼の姿を見た瞬間、桜華の頭に激しい頭痛が走り彼女は頭を手で抑えた。そしてその痛みと共に記憶が流れた。

 

 

次々に人を斬っていく姿……辺り一面血の海になっていた。

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ」

 

「全く……世話の掛かるお嬢さんだ。

 

四年も姿眩ますとは。まぁ、最近になってこの辺りに似た奴がいたと聞いて着てみましたが、正解のようですね」

 

「……」

 

「さぁ、一緒に来て貰いましょうか?」

 

「……い、嫌。

 

来ないで……」

 

 

息を乱す桜華……フラッシュバックで、頭に見覚えの無い記憶が次々に甦っていた。

 

 

「どうしても嫌だと言うなら、足を斬ってでも来て貰いますぜ?」

 

「い、嫌だ……やめて……」

 

 

大剣を振り回す男……桜華は息を調えると、隙を狙い駆け出した。だが、その前に彼の仲間が降り立ち彼女の手にロープを掛け拘束した。

 

 

「逃げないで下さいよ。

 

また見つけるの大変になるじゃないですか」

 

「嫌……嫌!」

 

「連れて行く前に、首元と手の甲拝見させて貰いますよ。

 

本人かどうか、確認するんで」

 

 

近付く男……桜華は目に涙を溜めながら、ロープを解こうと暴れた。

 

 

「ちょい、大人しくして下さい。

 

確認できないじゃないですか。

 

 

全くもう。少し抑えてて下さい」

 

「はい」

 

 

手に巻かれていたロープを、二人の仲間は同時に引っ張った。引っ張られた力により、手は動かすことが出来なくなり、桜華は怯えた目で前にいる男を見上げた。

 

 

「さぁ、大人しくしてて下さいね。すぐに終わり」

 

 

首に触れようとした途端、地面から木の根が生え彼を攻撃した。男を攻撃した根は、次に桜華の腕に巻かれているロープを切った。自由になった桜華は彼等から離れ、刀を抜き勢い良く振った。その瞬間、風が起き仲間の一人を切り裂き殺した。

 

桜華は刀をしまい、振り返り駆け出した。その後を男は追い掛けもう一人は別方向から追い掛けて。

 

 

庭を走っていた桜華は、庭に植えられていた茂みに隠れ口を手で塞ぎ隠れた。すると目の前に何かが降り立ち、桜華は恐る恐る顔を上げた。

 

 

「さ、猿?」

 

「そう呼んでいいのは、才蔵だけだ。

 

 

それより、無事でよかった」

 

「……」

 

「早く城から逃げ」

「逃がしませんぜ?」

 

 

その声と共に桜華の背後から、佐助の肩にクナイが刺さった。

 

 

「また捜すのが面倒になるじゃねぇですか。

 

 

アンタ、よく見りぁ甲賀忍じゃねぇですか」

 

「お前、伊賀者か」

 

「そうそう。

 

さぁて、ガキは貰いますか」

 

 

男が桜華の肩を掴んだ時、佐助は二本の小太刀を出し彼の肩に刺した。

 

 

「痛!!」

 

「渡しはしない」

 

「……」

 

「伊賀の忍というのは、強いものですね」

 

「あ?

 

お前は」

 

 

刀を持った真助は、笑みを浮かべながら彼に剣先を向けた。

 

 

「何故上田にいないはずのお前がここに」

 

「少し用事でここへ。

 

しかしまぁ、よくも上田を襲ったものですね」

 

 

座り込んでいる桜華を立たせた真助は、彼女を抱き寄せた。

 

 

「何故分かったんですか?」

 

「何がです?」

 

「そこにいるガキが狙いだと」

 

「上田を襲い、小姑に守られている若には全然危害を加えようとしない……

 

今回は、若目当てではない。となると、もう一つは……

 

 

最近着たこの子」

 

「わお!ごめーと。合ってますぜ。

 

じゃあ、下さい。その子」

 

「それは無理なお願いですね。

 

どうしてもというのであれば、僕と戦いなさい」

 

「……ハァ~。

 

どうして、誰も素直に渡してくれないんですかねぇ。

 

 

素直に渡せば、今上田を攻撃している忍隊、退かせますぜ?」

 

「いらぬ願いだ。

 

お前等ごときで、真田忍隊は負けはしない」

 

「お~。さすが甲賀の忍。

 

けど、さすがの甲賀でも俺等に勝てますかねぇ」

 

 

男の背後に降り立つ二人の男女。二人を見た瞬間、桜華は怯えだし真助にしがみついた。

 

 

「記憶が無くとも体は覚えているもんですね?」

 

 

指を鳴らし合図すると、女は袖から無数の蛇を出した。

 

 

「へ、蛇?!」

 

 

近付いてくる蛇を、佐助は二本の小太刀で切っていった。

 

 

「真助さん、桜華を今の内に!!」

 

「桜華、ここから逃げなさい」

 

「……」

 

「ここにいては危険です。さぁ早く」

 

「……」

 

 

真助から離れ桜華は駆け出そうとした。その時、彼の腹にクナイが刺さった。

 

 

「真助さん!!」

 

「これは……一大…ゲフ……事です」

 

 

口から血を出しながら、真助は倒れてしまった。

 

 

「逃がしはしねぇよ。

 

お前には、一緒に来て貰うんだからな」

 

 

立ち止まっていた桜華の背後に回っていた男は、彼女の手足を拘束した。

 

 

「桜華!!」

 

「余所見しなで下さい」

 

 

桜華の元へ行こうとした佐助に、女は大蛇を出し彼を攻撃した。

 

 

「さぁてと、確認しますか」

 

 

近付く男……桜華は怯えきった顔で、後ろへ引きながら逃げようとしていた。目に映る光景……炎を背に自分に歩み寄ってくる、同じ男の姿。

 

 

「嫌……嫌ぁ!」

 

 

首に手が伸びた時だった。突如上から数本のクナイが降り注いだ。男はすぐに桜華から離れ、上を見上げた。

 

屋根から降り立つ影……影は桜華の前に立ち、剣の柄を握った。桜華は震える声でその影の名前を呼んだ。

 

 

「さ、才蔵」




狐:は~い!雑談コーナー!
……って、思ったけど……何か、皆忙しそうだから。今回から出て来たキャラ一人ずつ紹介していきます!

では、どうぞ↓



名前:霧隠才蔵(キリガクレサイゾウ)
年齢:19歳
使用武器:剣
容姿:金髪に黒いバンダナを巻いている。目の色緑掛かった黄色。
服装:黒のノースリーブに黒と銀の羽織を腕に通している。下は黒い長ズボンに裾を巻き込むようにして脚絆を巻き足袋を履いている。手には籠手付きのグローブを嵌め、腰にポーチと剣を下げている。


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目覚めた力

桜華の前に立つ才蔵……

 

 

「助っ人の登場ですか?」

 

 

男が話している中、才蔵は振り向きしゃがみながら、桜華の縄をクナイで切った。解かれた桜華は、怯えきった顔で才蔵を見上げた。そんな彼女の頭に才蔵は手を乗せた。

 

 

「今後、俺の傍から離れるな」

 

「……」

 

「あ~あ、せっかく手には入るかと思ったのに~。

 

アンタ等二人が、邪魔したせいで時間食ったじゃないですか」

 

「だったら、子供は回収できなかったと主に報告すればいいだろうが!!

 

 

って、その言い方……テメェ、まさか」

 

 

何かに気付いた才蔵は、男の顔に向けてクナイを放った。男はクナイを避けることなく当たり、覆面を外した。

 

 

「やっぱり……テメェか」

 

「は、服部半蔵!?」

 

「どうも~。

 

お久し振りですー。真田の皆さん」

 

「何でお前が?!」

 

「徳川にいるんじゃ」

 

「それがねぇ。随分前にヘマして、解雇されちゃったんですよー」

 

「ちょっと待て!

 

数日前に、筧さんが行ったはずだ!お前の所に」

 

「えぇ。来ましたよ。

 

だって、解雇されたのその数日後ですもん」

 

「……」

 

「四年前の行動が、どっかで徳川の旦那にバレちゃいましてね。それで解雇」

 

「四年前の行動って……」

 

「そこにいるガキを、連れて行こうとしたんです。今の主の元へ……

 

ところが、そのガキの住む村の者は頑として彼女を渡そうとしなかったものでねぇ。

 

 

仕方なく、殺っちゃったんですよ」

 

「?!」

 

 

半蔵の言葉が響いたのか、桜華の脳裏にある記憶が蘇った。

焼かれる人達……火の海になった村。自分を後ろに隠し、半蔵に刀を向ける女……

 

 

『逃げて!!ここから!!早く!!』

 

 

「嫌……嫌…」

 

「本当、記憶無くしたみたいですね~。

 

まぁ、その方が捕まえやすいか」

 

 

才蔵の足の間に自身の足を踏み込ませ、大剣を振り下ろした。才蔵は剣を抜き、振り下ろしてきた大剣を受け止めた。

 

 

「何だよ~。血の飛沫、見られると思ったのに~」

 

「ガキの前で、そんなの見せられるわけねぇだろ!!」

 

「あれ?二度と持たないんじゃなかったんですか?」

 

「!」

 

「覚えてますよね?五年前の事」

 

「うるせぇ!!」

 

 

大剣を振り払い、才蔵は攻めだした。桜華から半蔵が離れたのを見た真助は、口から血を出しながら起き上がった。

 

 

「やれ…やれ……

 

この年にもなって……まだ…刺される……とは」

 

「腹を刺されても尚、動けるとは。

 

さすが元武田」

 

「少々……黙って…貰いましょうか?

 

腹の傷を……庇いながら戦うのは…大変なん…ですよ?」

 

 

刀を握りながら、真助は男を睨んだ。男は跳び上がり、落ちる勢いのまま槍を突いた。突いてきた槍を、真助は刀で受け止め防いだ。

 

 

半蔵とやり合う才蔵……

 

半蔵はクナイを取り出し、才蔵に投げ付けた。才蔵はクナイを避けたが、その背後に半蔵は立ち大剣を振り下ろした。

 

 

「才蔵!!」

 

 

背中から血を出し、才蔵は蹌踉けた。桜華は立ち上がり彼の元へ駆け寄ろうとした。

 

 

「桜華!!来るな!!」

 

 

才蔵に怒鳴られ、桜華は立ち止まった。半蔵はニヤけながら、桜華に話した。

 

 

「アンタが一緒に、俺等と来れば誰も殺しはしませんよ?」

 

「え……」

 

「アンタが素直に、俺等の言う事聞けば、誰も傷付けないし、もう手を引きます。

 

どうします?」

 

「……」

 

「こいつの話を聞くな!!

 

桜華!!そいつ等の所行ったって、何にも解決しねぇ!!」

 

「うるさい男だ」

 

「!」

 

 

大剣を振る半蔵……その攻撃を受けた才蔵は、腹から血を出しながら桜華の前に倒れた。才蔵の体から出た血が、桜華の顔に付いた。

 

 

「才蔵?」

 

「……」

 

「才蔵……才蔵。

 

?」

 

 

生暖かい何かが自身の手に触れ、桜華は恐る恐る手を見た。ベットリと付いた血……

 

 

「……嫌……

 

嫌だ……才蔵……才蔵!!」

 

「悲痛な声……いいですねぇ。

 

さぁ、一緒に来て貰いましょうか?」

 

 

桜華の手を掴む半蔵だったが、その直後地面から木の根が生え彼を攻撃した。

 

 

「!!」

 

 

立ち上がる桜華……彼女の胸元は黒い光を放っており、腰に挿していた鞘から刀を抜き取りながらスッと顔を上げた。

 

 

「これ以上……お前等の好き勝手にはさせない!!」

 

「凄ぇ殺気」

 

 

桜華は手から火の玉を出し、半蔵に放った。彼はすぐに避け大剣を振り下ろした。桜華はその大剣を、刀で振り払い空いた半蔵の腹に、雷を放った。

 

 

(何だ?!コイツ、昔と違う!!)

 

 

半蔵の足の間に自身の足を踏み込ませ、桜華は刀を振った。半蔵は腹を切られながらも、クナイで彼女の肩を刺そうとした。だが彼の腕に、木の根が刺さりその攻撃を食い止めた。半蔵が怯んだ隙を狙い、桜華が彼を刺そうとした時だった。

 

 

“バーン”

 

 

どこからか飛んできた弾が、半蔵の腕に当たった。彼の血を浴びた桜華は、動きを止め彼から離れ座り込んだ。

 

 

「危ない……」

 

「ギリギリセーフだな」

 

 

城を見下ろせる丘に、煙草を口に銜え双眼鏡で城を見る男と火縄銃を手にする男がいた。




氷:ちょっと!新キャラ登場なんて話、聞いてないわよ!!

狐:いやいや。タイトル読んで。『十勇士』。
これ、真田十勇士の話だから。

氷:……

猿:段々とシリアスな小説になってるぞ。

狐:てかさ~。ここ、雑談コーナーだよ。
何で本編の話、しなきゃいけないの~?

猿:そ、それは……

狐:もとあと言えば、佐助が続きがどうとか言うから、このコーナー雑談じゃなくて、小説の説明と進み具合のコーナーになってんじゃん。

猿:……

氷:そういえば、前回は才蔵の紹介してたわね。今回は誰を紹介するの?

狐:よし!氷柱を紹介する!

氷:やったー!

狐:それではどうぞ↓


名前:穴山氷柱(アナヤマツララ)
年齢:19歳
使用武器:槍
容姿:長い焦げ茶色の髪を耳上で結っている。目の色は黒。
服装:腹出しの青い袖の長い服を着て、下に白いショートパンツを穿いている。脚には膝上まである青い線の入った白いレックウォーマー付け、ヒールの高いショートブーツを履いている。


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隠れ里

腕を抑える半蔵……それを見た女は、懐から煙玉を出し投げた。辺り一面に煙が漂い、その隙に女と男は半蔵を支え逃げた。

煙が晴れ、佐助は辺りを見回した。


(……逃げたか)


「ガハッ!ゲホッゲホッ!」


咳をしながら、才蔵は体を起こした。彼の咳に、桜華は才蔵の方に顔を向けた。


「……才…蔵」

「?

桜華!」


才蔵の声に、我に返ったのか桜華はふらつきながら立ち上がり、彼に駆け寄り抱き着いた。


「もう大丈夫だ」

「……」


才蔵に撫でられ、桜華は次第に体を震えさせそして大泣きした。

彼女の泣き声は、しばらくの間城中に響きそして木々もざわついた。


「あの子が……」

「?」


佐助に支えられ立っていた真助は、突然口を開いた。


「あの子が……泣いている」

「真助さん?」


「オーイ!無事かー!」


門を潜り、庭へ男二人と白い虎が駆け付けてきた。


夜……

 

 

「痛って!!

 

六郎さん、もうちょい優しく」

 

「これくらいの傷で、音を上げるんですか?」

 

「いや、そういう意味じゃ」

 

「はい。終わりました」

 

 

そう言いながら、六郎は才蔵の背中を叩いた。才蔵は声にならない声を出し、その場に倒れた。氷柱に手当てして貰っていた佐助は、そんな彼に深くため息を吐いた。

 

 

「民に被害はなかったが……

 

城には相当な被害にあってしまったわい」

 

「あなた方二人はどこに?

 

こちらは、腹を刺され瀕死の状態でしたのに」

 

「こちらもこちらで、敵に対応していました」

 

「そういうことだ」

 

「そうですか……

 

幸村様、信幸様に文を出しといて下さい。

『真助は少々ドジを起こし、腹を切ってしばらく動けない』と」

 

「あ、あぁ」

 

(ドジって……)

 

「まぁ、うちは大丈夫だろう。

 

優秀な勇士達がいるのだからな」

 

「大層なことを言うもんになったな?幸村の旦那」

 

「ハッハッハ!そうだろう」

 

「甚八!いい加減、その口の利き方どうにかしろ!」

 

「嫌なこった」

 

「甚八がいいなら、俺もいいだろ?」

 

「才蔵が真似をする!今すぐ直せ!」

 

「お断りだ」

 

「甚八!!」

 

「よいよい。儂は別に気にしてない」

 

「しかし」

 

「こう言ってんだ。いいだろ?」

 

「……ハァ」

 

「そういや、そのガキ誰だ?」

 

 

才蔵の隣に座っていた桜華に、甚八は目を向けながら質問した。桜華は少し怯えた様子で、才蔵の腕を掴み身を縮込ませた。

 

 

「あぁ、こいつは」

「数日前から、訳あってこの城に身を置いている桜華だ」

 

「置いているって……」

 

「何で?」

 

「その話は後だ。

 

それより、本題に入らせて貰う」

 

 

目付きを変えた幸村は、全員を見ながら口を開いた。

 

 

「今回の件だが、徳川絡みで無いことが分かった。

 

そうだったな?十蔵」

 

「はい」

 

「そして、今回の件で分かったこと……

 

服部半蔵が徳川を辞め、今は別の者の下に就いていたと言う事」

 

「あの馬鹿が言うには、四年前から就いているらしい。そいつの下に」

 

「そうか……」

 

「筧さん、他に何か情報は?」

 

「情報と言えば……

 

 

四年ほど前に、出雲と伯耆の間に隠れ里があったということを聞いた」

 

「里?」

 

「噂だと、ある一族と許された者しか入れない里だったそうだ」

 

「一族?何だ?」

 

「赤き瞳を輝かせ、自然の神達から力を借り多数の技を出す忍……光坂一族」

 

「光坂……」

 

「一族」

 

「懐かしい名ですね」

 

「え?」

 

「光坂一族……確か、武田に仕えていた忍です。

 

けど、武田が滅んだ後は誰にも気付かれぬようヒッソリと生きていると」

 

「真さん、詳しいんですね」

 

「小姑をやる前、武田にいたものですから」

 

「嘘!?」

 

「本当だ。確か、武田二十四将の一人だったよな?」

 

「それは父上です。僕は関係ありません」

 

「けど、その武田に仕えていた一族の里に行けば、桜華のことが分かるんじゃないの?」

 

「そうだよな。筧さん、その里どうすれば入れる」

 

「心配しなくとも、今は普通に入れる」

 

「え?」

 

「四年前、襲撃があり滅んでしまったんだ」

 

「マジかよ!?」

 

「生き残りは?」

 

「いないらしい。一人残らず殺したらしいからな」

 

「……」

 

 

十蔵の話を聞いた桜華は、才蔵の服の裾を震える手で掴んだ。

 

 

「桜華」

 

「?」

 

「来なさい」

 

 

煙管を口に銜え襖を開けながら、真助は桜華に言った。彼女はキョトンとした顔で、先に出た彼の後を追いついて行った。

 

 

「真助には、懐いているようだな?」

 

「アイツだけじゃねぇだろ?

 

才蔵にも懐いてたじゃねぇか」

 

「当たり前よ。

 

あの子にとって、才蔵は命の恩人だもの」

 

「へ~」

 

「さてと、続きを話すか」

 

 

廊下を歩く桜華と真助……

 

 

「少しは楽になりましたか?」

 

「?」

 

「先程の里、覚えがあるんですか?」

 

 

振り向きながら、真助は足を止め質問した。桜華は覚えはないと首を左右に振った。

 

 

「……桜華。あなたまさか」

 

「……」

 

「少し、話をしてもいいですか?」

 

 

真助は桜華を連れ、どこかへ行った。

 

 

「里に?」

 

 

幸村と話をしていた才蔵は、口を開いた。

 

 

「そうだ。

 

桜華を連れて、その一族の里に行ってくれ」

 

「行くのは構わねぇけど、アイツ行くか?」

 

「そもそも、桜華があの里の者とは言い切れませんし」

 

「言い切れるだろ?」

 

「どう言い切れるんだ?」

 

「少しは頭使え佐助。

 

アイツの目、赤かったぜ」

 

「だから、何だ?」

 

「筧さん、確か光坂一族って」

 

「赤き瞳を輝かせ……!」

 

「そう。桜華の目は赤。

 

もしかしたら、あの子はその里の生き残りだ」

 

「だとすりゃ、アイツ四年も逃げてたって事になるぞ!?」

 

「不思議ではない。

 

身を隠しながら、逃げていたのだろう。国や町を転々としながら逃げ続け……」

 

「そして、辿り着いたのがこの上田」

 

「その間に、記憶を無くしたってか?」

 

「無くした?あのガキ、記憶ねぇのか?」

 

「無いみたいよ。

 

多分覚えているのは、自分の名前だけ」

 

「何で名前だけ……

 

記憶を無くすなら、普通名前も」

 

「誰かに助けを求めてたのかもね」

 

「誰かって?」

 

「一族の里って、一族と許された者しか入れなかったんでしょ?

 

だったら、その許された者……武田に関係のある人の所へ行こうとしてたんじゃない?」

 

「あり得るな」

 

「けど、どこかで名前以外の記憶を無くして、行けなくなった……」

 

「……あ~~。

 

堅い話は止めだ。どうせ俺と十蔵、才蔵の三人でその里に行けって命令出すんだろ?旦那」

 

「そうだのう」

 

「ったく、身勝手な殿様だ。

 

明日、港へ行ってそこで俺の船を出してやるよ」

 

「げ!よりよって、甚八の船かよ」

 

「何か文句あんのか?」

 

「お前の運転、雑なんだよ!」

 

「うるせぇ!!」

 

「喧嘩をするでない!!幸村様の前だぞ!」

 

 

 

月明かりが照らす庭を桜華と真助は歩いていた。そして、庭の隅に植えられていた桜の木の所へ着いた。

 

 

「……桜?」

 

「あなたの名前にもありますよね?

 

『桜華』……」

 

「……」

 

「僕にも、子供がいたんですよ」

 

「え」

 

「でも、四年前に亡くなりました」

 

「……」

 

 

蘇る桜華の記憶……

自身の前から、去って行く男の背中。去って行く男の名を泣きながら呼び、追い掛けていた。必死に手を伸ばし、引き留めようとする……だが、後ろにいた女に止められ、呼び叫ぶことしか出来なかった……

 

 

「桜華」

 

「!」

 

「どうかしましたか?」

 

 

いつの間にか目から涙を流していた桜華は、涙を拭いた。

 

 

「何で……涙なんか」

 

「ここへ来る前は、どこに?」

 

「……覚えてない。

 

気が付いたら、茂みで倒れてた」

 

「……」

 

「頭にずっと響いてる。

 

逃げて……あいつ等の手の届かない場所へ。

振り向いちゃ駄目。もっと遠くへ」

 

「……そうですか」

 

 

優しい微風が吹いた。風は二人の髪を靡かせ、桜の花弁を舞い上がらせた。




才:雑談コーナー!
いや~、久し振りだな!

猿:妙にテンション高いな?

才:だって、新しいキャラ出たんだぜ?テンション上がるだろう?

氷:早く紹介しなさいよ!

才:そんじゃ、ご紹介します!
火縄銃使いの男・筧十蔵さんと馬鹿で船の運転が雑な海賊・根津甚八。

甚:誰が馬鹿だ!!

才:お前に決まってんだろ?

甚:ンだと!!

筧:止さぬか!!お主等は!!

狐:賑やかになってきたねぇ。

猿:狐。

甚:お!
アンタが狐か?どうだ?今度一杯。

狐:お!いいねぇ。是非
筧:お主、未成年だろ!!

狐:え~。飲むし。

筧:駄目だ!!

甚:堅いなぁ、十蔵は。

猿:もうキャラは増えないよな?

狐:いや~。まだ増えるよ~。

才:だったらこのコーナー、もっと楽しくなるな!

氷:桜華の秘密が、段々分かってきたわね。

才:なぁ、記憶がもし戻ったらどうなるんだ?

狐:そりゃあ……うん。

才:え?何、その暗い返事は?

猿:俺としては、才蔵の過去も知りたいが。

才:知ってどうすんだよ!!

氷:そろそろ喧嘩が始まるわよ?

狐:だね。

それじゃあ、また次回。

(キャラ紹介の方は、次に回します)。


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鎖された記憶

翌朝……


門前で大あくびをする甚八。彼に釣られて、白い虎も大あくびをした。


「くれぐれも、桜華のことを頼んだぞ」

「へいへい」

「才蔵、お主は!!」
「筧さん、大声上げるな!」


才蔵の背で、フードを被り寝息を立てる桜華……十蔵は、慌てて手で口を塞いだ。


「筧さん、もし起こしたら説明お願いしますね」

「う……」

「本人の承諾もなく連れて行くとは……」

「目が覚めて、お主がいれば何の文句も言わぬだろう?」

「幸村ー」

「取りあえず、桜華が起きぬ前に早く行け」

「ヘーイ」

「何かあったら、すぐに連絡するんだぞ!」

「分ーった」


『寝ちゃってるわね』

 

『疲れたんだよ』

 

『出来るまで辞めないところ、あなたそっくり』

 

『え?そうかなぁ?』

 

『そうよ。

 

強くなってね。桜華』

 

 

 

「……」

 

 

騒ぐ声に、桜華は起きた。

 

 

「だぁかぁらぁ、何で船が出ねぇんだ!!

 

それを説明しろ!!」

 

 

大きな木の船の前に立つ船員と甚八は言い争っていた。

 

 

「あの馬鹿、自分に任せろとか言っときながら、全然駄目じゃねぇか」

 

「ハァ~……全く、仕様の無い」

 

 

「才蔵?」

 

「?」

 

 

桜華の声に気付いた才蔵は、後ろに目を向けながら話した。

 

 

「お!起きたか」

 

「……ここ、どこ?」

 

「港だ」

 

「港?何で?」

 

「あ~……

 

ちょっと訳あって……その……

 

筧さん、頼む」

 

「……

 

 

幸村様からの命で、お主を連れて昨日話した隠れ里へ行く」

 

「里?何で?」

 

「そ、それは……」

 

「お前がここへ来る前……追われる前、住んでた場所がもしかしたらそこかも知れねぇんだ」

 

 

説明しながら、才蔵は桜華を下ろした。桜華は少し当たりを警戒しながら、彼の羽織を掴んだ。

 

 

「外にいる間は、俺から離れるな」

 

「……うん」

 

 

すると、寝そべっていた白い虎が、あくびをしながら立ち上がり、桜華に歩み寄ってきた。桜華は寄ってくる虎に、手を伸ばしながらしゃがんだ。虎は彼女の手のにおいを嗅ぐと、尻尾を振りその場に座り顔を洗った。

 

 

「オーイ!十蔵ー!」

 

 

甚八の声が聞こえ、十蔵は顔を上げた彼の方を見た。

 

 

「船の準備が出来た!とっとと乗れ!」

 

 

叫ぶ甚八の隣りにいる船員は、怖じ気着いた様子で立っていた。

 

 

「……あ奴、あの船員に何をしおった?」

 

「さぁ……」

 

 

甚八が先に船に乗り、その後に十蔵達は乗った。三人を乗せた船は、出港し海へ出た。

 

 

波に揺られ進む船……

 

 

「甚八、どれくらいで着く?」

 

「二日後には着くだろ。

 

もっと早く着く方法もあるが」

 

「荒運転は止さぬか!!子供が乗っておるんだぞ!!」

 

 

甚八が十蔵に怒鳴られている様子を、才蔵は面白可笑しく見ていた。ふと、桜華の方を見ると、彼女は船の縁に手を置き海を眺めていた。

 

 

『ほら桜華、海よ』

 

『いつ見ても、綺麗ですねぇ。

 

あ!入っては!!』

 

 

“バシャーン”

 

 

突如水が桜華の顔にかかり、彼女は水に驚き船の縁から離れ腕で顔に浴びた水を拭いた。

 

 

「うへー。生きのいい魚だぁ。

 

大丈夫か?」

 

 

水を拭きながら、目を開き桜華は足下を見た。

 

木の板の上で跳ねる魚……魚を見て、驚いた桜華は小さい悲鳴を上げ床に尻を突いた。

 

跳ねる魚を、白い虎は尻尾を口で銜え上へ投げ、そのまま口に入れ食べてしまった。虎は満足げな顔をすると、座り込んでいる桜華の膝に頭を乗せ、咽を鳴らした。

 

 

「珍しい。レオンが俺以外の人に懐くなんて」

 

 

 

『桜華って、本当に動物に懐かれるよな』

 

『いいなぁ。

 

滅多に懐かない動物も、桜華だとすぐだもんね』

 

『桜華にはきっと、不思議な力があるんだよ!

 

だって桜華は……』

 

 

揺れる灯り……目を開けた桜華は、瞬きし起き上がりながら部屋を見回した。

 

ソファーがテーブルを挟んで二つ置いてあり、その内の一つのソファーに桜華は寝かされていた。向かいのソファーには、才蔵が気持ち良さそうに眠っていた。

 

 

「……!!」

 

 

突然激しい頭痛が走り、桜華は頭を手で抑えながら横になった。

 

見覚えの無い記憶……その記憶の奥に立つ一人の男。

 

 

『あの人の元へ行きなさい!!桜華!

 

真田でもいい!!とにかく、あいつ等の手の届かない場所へ逃げて!!』

 

 

「おい!!」

 

 

誰かの声に、桜華はハッと我に返り息を切らしながら、声の方に振り向いた。そこにいたのは、甚八だった。

 

 

「大丈夫か?」

 

「……」

 

 

外へ出た桜華と甚八……壁に凭り掛かり座っていた彼女に、甚八は水の入ったコップを渡した。桜華は彼からコップを受け取り、水を一口飲んだ。

 

 

「落ち着いたか?」

 

「……ん」

 

「相当魘されてたが、何か怖い夢でも見たのか?」

 

「……多分。

 

何か、凄く頭が痛くなって……気が付いたら、お前に呼ばれて」

 

「思い出すことを拒否ってんだろうな」

 

「え?」

 

「ここへ来る前、才蔵や俺達に会う前の出来事を、お前の頭が拒否してるんだ」

 

「何で?」

 

「それは知らねぇよ。お前自身しか」

 

「……」

 

 

桜華は落ち込んだかのようにして、顔を下に向けた。すると、レオンが傍へ寄り彼女に体を擦り寄せた。

 

 

「けど、お前は悪い奴じゃないのは確かだ」

 

「え」

 

「レオンは、生まれて間もなく母親から引き離されて、俺の元へ来た。

 

初めは俺の事、攻撃してきたさ。引っ掻くは噛み付くはで……けど、寝てる間は片時も俺の傍を離れようとはしなかった。

 

 

それから間もなくして、ある商人と俺が話してた時さ。突然商人を攻撃した」

 

「どうして……」

 

「……思い出したんだよ。

 

自分の母親が、そいつに殺されたって事を。商人問い質したらお見事。レオンの母親は、そいつに殺され売られていた。

 

 

俺が白い虎を飼い慣らしていると、どこかで聞いて是が非でも手に入れようとして、俺に近付いた。

 

そんな悪党から、俺を守ろうとしたんだよ。なぁ、レオン」

 

 

レオンの頭を撫でながら、甚八は彼の名を呼んだ。レオンは咽を鳴らしながら、甚八の腕を甘噛みし体を擦り寄せた。

 

 

「それからしばらくして、十蔵に会った。そしたらコイツ、アイツにじゃれたんだ。そしたら十蔵の奴、悲鳴上げてたわ。

 

 

そして才蔵達に会った……それからのコイツ、悪い野郎のにおいを嗅ぐと、歯を剥き出しにして襲い掛かるが、才蔵達のにおいを嗅ぐと、犬みてぇに尻尾振って飛び乗ってくる。

 

ま、餌食になるのはいつも才蔵だけどな」

 

「へー」

 

「……ホラ、とっとと寝ろ」

 

 

空になったコップを取った甚八は、ポケットから煙草を取り出し火を点け口に銜えた。桜華はレオンの頭を撫で、立ち上がり部屋へ戻ろうとした。

 

 

「……!」

 

 

一瞬蘇る記憶……口から水を吐き、息を切らしながらゆっくりと目を覚ます自分。そこに映るのは、目に涙を溜めた女性と若い頃の甚八の姿……

 

 

「……ねぇ」

 

「ん?何だ?」

 

「……何でもない」




才:雑談コーナー!
……って、何だよ!!今日の話!

狐:ん?どうした才蔵?

才:どうしたじゃねぇだろ!!何だよ!?
桜華とあの馬鹿に、何か関係でもあるのか?!

甚:誰が馬鹿だ!!

狐:あ~、もう少ししたら分かる。うん……もう少ししたら。

才:どんな関係だよ!!

筧:少し黙らぬか!!

狐:(何か、今回怒鳴り声が飛び交うなぁ)

甚:おい、あんまり怒鳴ってると狐が話せねぇだろうが。

筧:あ!す、すまぬ!

狐:皆苛々してるから、今回は佐助の紹介するよ。
ではどうぞ↓


名前:猿飛佐助(サルトビサスケ)
年齢:19歳
使用武器:小太刀二本。
容姿:癖っ毛の茶髪。その上から黒い布を巻いている。目の色は紺色。
服装:深緑色の長袖と長ズボンに茶色の足袋を履いている。手には手袋を嵌め、右手に毒が仕込まれたクナイを装備。


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滅んだ里

『光坂一族……』

『赤き瞳を輝かせ、自然の神達から力を借り多数の技を出す忍』

『そして、闇を蘇らせないためにいる一族』

『闇を決して蘇らせては駄目』

『蘇れば、三人の命は無い』

『桜華は選ばれた子だ』

『桜華をあの狸に渡してはならん!』


「あそこだな」

 

 

丘から双眼鏡で何かを見ながら、甚八はそう言った。彼の言う方を見ると、そこは山と森に囲まれ外部からは見えづらいが、上から見ると微かに燃えた民家が見えた。

 

 

「これじゃあ、見つかるはずもねぇな」

 

「ずっと許された者しか、入れぬ場所だからな。

 

周りから見えない方が好都合なんだろう」

 

「とっとと調べて、さっさと帰ろうぜ」

 

「だな。

 

桜華、行く……?」

 

 

後ろを振り向くと、桜華は才蔵の傍から離れた場所で辺りをキョロキョロと見回していた。

 

 

「桜華!どうかしたか?」

 

「……ここ」

 

「?」

 

「覚えてる」

 

「!?」

 

「確か……」

 

 

歩き出す桜華……彼女の後を、才蔵達は追い駆けていった。

 

桜華が歩く道は全て、獣道だった……そして、着いた場所。そこはパズルの岩が壁に描かれた岩壁だった。

 

 

「い、行き止まり?!」

 

「丘から見えた里は、この奥だぞ」

 

「え?!

 

じゃあ、どうやって……」

 

「このパズルみてぇの、動かせばいいんじゃねぇのか?」

 

「これ、動くのか?」

 

「どれ、某が」

 

 

岩のピースを動かそうと、十蔵は岩を握った。だが岩はどんなに力を入れても、ビクともせずそして……

 

 

“グキ”

 

 

「オオオオオウ!!て、手首がぁ!!」

 

「無理に動かそうとするからだ」

 

「やっぱ、動かせねぇのか……」

 

「じゃあどうやって中に?」

 

「んなの事、俺が知るか」

 

 

その時、才蔵の傍にいた桜華は、スッと前へ出て行き岩を握った。握ると、岩は白く光だしそれに合わせて桜華はピースを一つ一つ動かしていった。

 

 

やがてパズルは、完成した……それは、陰陽大極図だった。

 

 

「陰陽太極図?」

 

「パズルはこれで完成……したのか?」

 

「けど、開かねぇぞ」

 

「……」

 

 

手に暖かさを感じた桜華は、手を見た。右手の甲の一部が光っていた。彼女の光る手に、才蔵達は気付き驚いた。

 

 

「手が……光ってる」

 

「どういう事だ?」

 

 

手の甲を見つめた桜華は、完成したパズルに翳した。パズルは手に反応するかのようにして、光だした。すると岩は動き出し、左右に開いた。

 

 

「ひ、開いた?!」

 

「凄ぇ仕掛けだ……」

 

「これで、外部からの侵入を防いでいたのか……」

 

「……!おい、桜華!

 

待て!!」

 

 

扉が開いたと共に、桜華は突然駆け出した。才蔵達は慌てて彼女の後を追った。

 

壁を抜けた向こう……そこは、荒れ果てていた。

 

 

焼けた屋根には草が生え、よく見ると屋根は黒く焼け焦げていた。燃えていない家を覗くと、赤黒く渇いた血がまだ残っており、その上には白い粉が散らばっていた。

 

 

「ひ、酷ぇ……」

 

「まだ、小さな子もいたであろうに……」

 

 

家に置かれていた、人形を手にしながら十蔵はそう言った。

 

 

 

三人が民家を調べている中、桜華はレオンと共に辺りを歩いていた。目に映る光景……そこにはかつて幼い自分が、他の子達と遊ぶ光景が広がっていた。

 

 

(……ここで、遊んだ)

 

 

更に奥へと桜華は進んでいった。

 

 

「桜華!!勝手に……って、桜華!!」

 

「この里にいる間は安全だ。心配は入らぬだろう」

 

「だといいが……」

 

「レオンがいるから、大丈夫だろう」

 

「それより早く、調べることを調べよう」

 

 

十蔵に言われ、才蔵は作業をやり始めた。

 

 

里の道を歩く桜華……景色を見る度、彼女の脳裏に数々の記憶が蘇った。

 

最初に着いた場所……そこは、火で溶けたのと溶けずに残ったおはじきが、ばらまいていた。桜華はおはじきを一つ、手に取った。

 

 

『桜華ちゃん、次だよ!』

 

 

おはじきを投げる自分の幼い姿が、目に映った。自分の近くには、数人の女の子がいた。

 

 

(……ここで、育ったの?私)

 

 

手に取ったおはじきを捨て、桜華は更に奥へと進んだ。すると石階段が目に入り、彼女はそこを登った。

 

 

何段か登ると、階段は終わりそこは小さな社が建っていた。その時微風が吹き、桜華の髪をそして、木々の葉を靡かせた。

 

 

目に映る光景……

 

神主とその前に立つ露出度の高い服を着た桜華を含む男女四人の幼い子供。

 

 

『あなた方は選ばれた子供……

 

各々の魂を守り、各々の運命を辿りなさい。

 

 

桜華、あなたはこの四人の中で、特別な存在……一番に用心しなさい。

 

 

さぁ、これを受け取りなさい』

 

 

神主が出したもの……それは、赤・青・黄・緑の翡翠の勾玉だった。

 

それを思い出した桜華は、首から下げていた青の勾玉を手に取り見た。

 

 

「(……これ)

 

!!」

 

 

またしても、頭に激しい痛みが桜華を襲った。彼女は頭を抱えながら座り込み目を見開いた。その様子に、レオンは心配そうに鳴き声を上げた。

 

 

(痛い……痛い痛い痛い!!

 

嫌だ!!こんな痛みを味わうくらいなら、思い出したくない!!思い出したく……!!)

 

 

頭に流れる映像……黒い玉を持つ自分の姿。振り向いた先には、巨大な岩が入り口に置かれた洞窟。その前に、自分は黒い玉と四つの勾玉を手に持っていた。

 

 

(……な、何?

 

今の……

 

 

才蔵!)

 

 

怖くなり、桜華は才蔵の元へ行った。

 

 

桜華が一人でいた頃、才蔵達は焼けた民家を一軒一軒調べたが、何も見つからず大きい鳥居が建つ神社の前の岩に座っていた。

 

 

「何もねぇ!!

 

どうなってんだ?!」

 

「既に持ち去ったか、元から無かったか……」

 

「持ち去ったなら、何で半蔵は桜華を狙ったんだ?」

 

「そうだな……

 

考えられるとしたら、持ち去った何かの鍵を持っているのが、桜華なのかも知れない」

 

「アイツが?」

 

「ガキが元から持ってたもんに、何か怪しいの無かったのか?才蔵」

 

「アイツが持ってた物……

 

刀と首飾りくらいしかねぇぞ」

 

「刀?

 

あの鞘に桜吹雪が描かれたあの刀か」

 

「あぁ。

 

アイツ、刀は扱えるみてぇだし。山賊を前にした時、柄を握って足もしっかり構えていた。

 

相当刀の修業したと思うぜ」

 

「弱い女子かと思っていたが……まさか」

 

「……?なぁ」

 

「?」

 

「どうした?甚八」

 

「今思ったんだけど、この神社まだ調べてねぇよな?」

 

 

振り返り才蔵達は、神社を見た。大きな桜の木が神社を覆い隠すようにして、生え伸びていた。

 

 

「……そういえば、この里の所々に桜の木が植えられていたな」

 

「桜……」

 

 

『綺麗……

 

また来年も来ようね!才蔵!』

「才蔵!」

 

 

ハッとした才蔵は、呼ばれた十蔵の方に向いた。

 

 

「大丈夫か?お主」

 

「あ、あぁ。

 

大丈夫だ……それより、早く調べようぜ」

 

 

そう言うと、才蔵は鳥居を潜り神社へ行った。




才:雑談コーナー!

狐:何話します?

才:そうだな……って、テメェは作者だろうが!!

狐:いいじゃーん。暇なんだから。

筧:暇なら、ちゃんと仕事をせい!!

狐:はい……

甚:で?どうすんだ?今日の話題。

才:狐の秘密を話すってのはどうだ?

甚:お!いいじゃねぇか。

狐:異議あり!!

才:何だよ……

狐:駄目だから!秘密公開なんて!
読者の人、引いてこれ読んで貰えなくなるよ!いいの?!

読まれなくなったら、この話しもう書かないから!そして終わらないから!

才:書け!そして、終わらせろ!!

狐:そう言われても、私も色々忙しいんだよ?

才:知るか!!

あ!そうだ!

狐、桜華が持ってる勾玉、あれ何だ?

狐:あー、あの勾玉。時期に分かるよ。

筧:勾玉?そんなもの、持っていたのか?

甚:青色の翡翠だ。

筧:ほー、それは珍しい。

狐:もう終わりにしていい?

ネタが尽きる。

才:だな。

狐:それではまた次回!よろしくお願いしまーす!


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出雲大社

『才蔵!聞いて聞いて!

私、やっと仕える主を見つけたんだよ!』


あいつは嬉しそうに言った……

あいつは俺の憧れであり、そして……


『才…蔵……

心から……信頼でき……る人……を見つけ……て』


「!」

 

 

社の後ろ側に来ていた才蔵は、我に返り頭を振りながら歩き出した。

 

 

社へ戻ると、十蔵が腕を組み浮かない顔をしていた。

 

 

「どうしたんだ?筧さん」

 

「神社の森の方も見たんだが、何も無くてな……そっちは?」

 

「生憎何にも……

 

それにしても、何でここだけ燃やされなかったんだ?」

 

「人目の着かないところだ。見逃したのだろう」

 

「半蔵に限って、そんなヘマは……」

 

 

「社の中から、面白い物見つけたぜ」

 

 

中から出て来た甚八は、手に書物と一枚の紙を持ちながら言った。

 

 

「何だ?この本」

 

「中読んでみたが、神だの魂だの……結構面白いことが書いてた」

 

「帰って、城で調べてみるか」

 

「だな。

 

あれ?甚八、その紙は?」

 

「あぁ。そうだ……

 

面白いもんが描かれてるぜ」

 

 

そう言いながら、甚八は才蔵に紙を渡した。受け取った才蔵は紙を広げ見た。

 

 

「……?!」

 

 

描かれていたもの……それは、幼い桜華であろう少女を真ん中に二人の男女が描かれていた。

 

 

「これ……桜華?」

 

「髪の長さからして、描かれてのはおそらく四・五年前」

 

「だとしたら、桜華は本当に光坂一族の唯一の生き残り?」

 

「俺はあのガキより、左にいる男が気になる」

 

「男?

 

 

?!こ、この人」

 

 

袴に身を包み桜華の頭に手を乗せしゃがむ男の姿が、真助とソックリだった。

 

 

「やっぱり、真助の野郎に見えるだろ?」

 

「しかし、真助とは言い切れぬ……」

 

「いや、真さんだ!

 

ここ、よく見てみろ」

 

 

桜華の頭に乗せていた手に、古い傷跡が残されていた。

 

 

「昔真さん、戦中に仲間を守るために手に深い傷を負ったって聞いたことがある」

 

「それが本当なら……

 

桜華は真助の子供?!」

 

 

才蔵は絵をもう一度見た。描かれていた桜華は笑っており、その隣に母親であろう女が一緒に笑い彼女の手を握っていた。そして桜華を挟み左には微笑んだ父親であろう真助によく似た男がしゃがんでいた。

 

 

「……筧さん、俺少し出雲大社に行ってくる」

 

「出雲?何故」

 

「神に詳しい知り合いがいるんだよ。

 

城で調べるより、直接詳しい野郎に聞いた方が早いだろう」

 

「それはそうだが」

 

「桜華の事、頼んだぞ」

 

 

書物を手に、才蔵はその場から立ち去った。

 

 

「才蔵!

 

全く、勝手な男だ」

 

「まぁ、気楽に待とうぜ……?」

 

 

甚八はふと、才蔵から受け取った紙を見た。描かれていた桜華と両親……その母親の顔を見た甚八の脳裏にある映像が流れた。

 

若い頃、船で移動していた甚八……その時、海から流れてくる一人の少女を見つけ、彼は船から飛び込み少女を助け海岸へ運んだ。

 

運んでくると、海岸にいた女性と海へ入ったのかびしょ濡れの男性が駆け寄ってきた。

 

 

(……まさか、あの時の)

 

 

 

出雲へ来た才蔵……彼の姿を見た一人の女性が駆け寄り飛び付いてきた。

 

 

「久し振りじゃない!才蔵!!」

 

「引っ付くな!!

 

仮にもお前、巫女だろ!!」

 

「何よう!踊り巫女だって、男に甘えたいのよ!」

 

 

「阿国、何をしているのです?」

 

 

大社から神主が出て来て、才蔵に抱き着いている阿国に話し掛けながら歩み寄ってきた。

 

 

「神主様!」

 

「阿国、舞の練習の時間です。

 

姐さん達に教えて貰いなさい」

 

「はーい!

 

じゃあね!才蔵」

 

 

神主に言われ、阿国は大社の中へと戻った。

 

 

「お久しぶりですね。才蔵」

 

「……話があってきた」

 

「話?」

 

「この本に書かれてる、内容を教えて欲しい。詳しく」

 

 

本を差し出しながら、才蔵は神主に頼んだ。神主は彼から受け取り中身を読んだ。

 

 

「……」

 

「あの……どういう意味ですか?」

 

「……

 

この書物をどこで?」

 

「すぐそこの……里」

 

「里?

 

 

あの、光坂一族の」

 

「あぁ……」

 

「……この一族は、闇を抑える一族です」

 

「闇を抑える?」

 

「この本に書かれている神の名に、聞き覚えのある名が書かれてました。

 

伊佐那美命(イザナミノミコト)」

 

「い、伊佐那美命?」

 

「闇の女神です。

 

この神を抑えるために、四つの神魂が造られてこの国を保っています」

 

「……」

 

「四つの神魂は、選ばれた子供に託しているようですね。この一族は」

 

「託した?……!」

 

 

才蔵は思い出した……桜華の首から下げていた青色の勾玉を。

 

 

「話はもうよろしいですか?」

 

「あ、あぁ。大丈夫だ」

 

「それはそうと、お二人はお元気で?」

 

「多分な。

 

今は若君の護衛で一緒に」

 

「……そうですか」

 

「じゃあな」

 

 

神主から書物を受け取った才蔵は、振り返りその場を去った。

 

 

夕方……才蔵は里へ戻ってきた。

 

 

(すっかり日が暮れちまったなぁ……)

 

 

神社へ辿り着くと、甚八は煙草を吸いながら横になり、彼の傍にレオンの咽を撫でる桜華がいた。才蔵に気付いたのか、桜華は手を止め彼の姿を見ると一目散に駆け寄り抱き着いた。

 

そんな彼女の様子に気付いた甚八は、起き上がり煙草を口から離した。

 

 

「戻ったか」

 

「まぁな……

 

あれ?筧さんは?」

 

「船に戻ってる。

 

俺も戻ろうとしたが、こいつが才蔵が来るまで戻らないって聞かねぇから」

 

「そうか……」

 

「……才蔵」

 

「?」

 

「あそこの神社、見覚えある」

 

「?!」

 

 

桜華は神社へと向かい、その後を才蔵と甚八はついて行った。




狐:何か、色々立て込んでるみたいだから、今回はキャラ紹介しますねー。

ではどうぞ↓


名前:山本真助(ヤマモトシンスケ)
年齢:不明
使用武器:刀(まだあるかも……)
容姿:黒髪に青い瞳。右手の甲に深い傷痕がある。
服装:普段は着流しを着ているが、信幸の傍にいる時は袴を着用。煙管を愛用している。


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狙われていたもの

『ここから逃げるなさい』

『母さんはどうするの?』

『囮になってあいつ等の気を引く』

『囮って……嫌だ!!母さんと別れるなんて』

『あなたをあいつ等に渡すわけにはいかない!!

いい!振り向かずに、逃げるのよ!!決してあいつ等の手の届かない所へ!!』


神社へ着き、桜華は中へと入った。そして奥へと行くと、地面の一部を踏み込んだ。すると、一枚の板が外れ地下へと続く階段が現れた。

 

 

「こんな社に地下が……」

 

「こっから……逃げた」

 

「え?」

 

 

頭を手で抑え、才蔵の服を握りながら桜華はそう言った。甚八はもう一度、中を見回しそして口を開いた。

 

 

「普通の社じゃねぇみてぇだな」

 

「普通の社じゃないって……」

 

「よく見ろ。

 

窓に格子。ドアは外から鍵を掛けられていた……」

 

「言われてみれば……

 

誰かを、閉じ込めてたのか?」

 

「中にあったあの三人の絵からして……

 

もしかしたら、桜華かもな」

 

 

甚八の言葉に、桜華は怯え才蔵の服を強く握った。

 

 

「おい、本人の前で言うな!」

 

「いいじゃねぇか別に。

 

どうせ記憶なんざねぇんだから」

 

「だからって……」

 

「……」

 

 

その時、背後からクナイが飛び壁に当たった。才蔵はすぐに桜華を後ろへ隠し、剣の束を握りながら振り返った。

 

 

「いや~、驚きましたよ。

 

まさか、こんな所に神社があったとは」

 

 

そこにいたのは、女を連れた半蔵だった。

 

 

「服部……半蔵!!」

 

「さぁて、貰いましょうか?その御嬢さんを」

 

「誰が渡すか!!」

 

「う~ん、困りましたねぇ。

 

大蛇さん、何かいい案でもありますか?」

 

「奪い取ればよろしいのでは?」

 

「やはり、その方法しかありませんか」

 

 

指を鳴らす半蔵……その瞬間、大蛇と名乗る女は袖から蛇を放った。蛇は才蔵の背後へ回り、桜華の脚を伝い首元へ行き首を噛んだ。噛まれた途端、桜華は力無く倒れた。

 

 

「桜華!!」

 

「安心してください。ただ動けなくしただけですわ」

 

「んの野郎!!」

 

「さぁ、勝負と行きますか!

 

その子をかけての。無論勝った方がその子を貰いますがね」

 

「クソ!!」

 

 

剣を抜き、才蔵は半蔵に突進した。半蔵は大剣を盾にし、才蔵の攻撃を防いだ。突進した勢いのまま、二人は外へと出て行った。

 

 

「さぁて、俺はアンタの相手でもするか」

 

「あら?私(ワタクシ)の相手を?」

 

「まぁな。けど俺好みの女じゃねぇんだよな~」

 

「それはお気の毒に」

 

「まぁな」

 

 

煙草の吸殻を地面に落としたと同時に、甚八は槍を出し大蛇に攻撃した。大蛇は蛇を出しその攻撃を防いだ。

 

 

「うへ―。蛇女か。ますます好みじゃねぇわぁ」

 

「あら?でも、体はいい方でしょう?」

 

「まぁな」

 

 

槍を突き出す甚八に、大蛇は蛇で防ぎ腰から寸鉄を出し攻撃した。寸鉄を防いだ甚八は、後ろへ下がった。その先に桜華が横になっており、彼の足がギリギリ当たろうとしていた。

 

 

(ここじゃ狭い!)

 

「場所を変えますか?蛇の筒の中で」

 

「蛇の筒?」

 

 

そう言うと、大蛇は両袖から蛇を出し甚八を蛇の檻へと入れた。

 

 

「この空間にいれば、あの御嬢さんに怪我をさせることはありません。さぁ、思う存分戦いますわよ!」

 

 

寸鉄を振り上げ、大蛇は攻撃を始めた。甚八は槍で防ぎながら彼女に攻撃をしていった。

 

 

その頃、才蔵は外で半蔵と戦っていた。半蔵の大剣を、才蔵はギリギリの所で受け止め、クナイで彼の腹に傷を付けたがそれと同時に、半蔵の剣先が才蔵の頬を掠った。

 

 

「早く決着つかないと、あの御嬢さん怪我しちゃいますよ?」

 

「うるっせぇ!!黙ってろ!!」

 

「オォ!怖い怖い。

 

 

大事なもの久し振りに持って、今度こそ守り抜いて見せるって思ってるんですか?」

 

「!!」

 

「五年前でしたよね?

 

千草(チグサ)が死んだのは」

 

「?!」

 

「自分の傍にいなかったのに、何でそこまでして自分を責めるんですか?才蔵」

 

「……」

 

「ひょっとして、あれですか?

 

上田に忍び込んだ千草を、謝ってアンタが」

「黙れ!!」

 

 

剣を振り下ろす才蔵に、半蔵は大剣で受け止め彼の目を見た。

 

 

「もしかして、あのお嬢さんに千草の面影でも見てるんですか?」

 

「!?」

 

 

一瞬頭に過る桜華の姿と千草の姿……才蔵は剣を下ろし、その場に立ち尽くした。

 

 

一方蛇の中で戦う大蛇と甚八。

 

 

「ホホホ!私の攻撃を、難なく避けるとは……逞しい海賊ですこと」

 

 

寸鉄を構えながら、大蛇は不敵な笑みを浮かべて甚八にそう言った。

 

 

「気色悪い笑い方するなぁ。俺お前のこと好きになれねぇなぁ」

 

「あら、酷い事言うのね。私はあなたの事気に入りましてよ」

 

「嫌な女だ。良い体してるのによぉ」

 

「お褒めの言葉どうも。さぁて、そろそろけりを付けさせてもらいますわ。

 

上から、あまり時間をかけるなと言われておりますので」

 

 

大蛇は袖から巨大な蛇を出した。蟒蛇は鳴き声を上げると、一瞬で甚八を口の中へと入れた。

 

 

「丸飲み完了……?!」

 

 

突如、蟒蛇の体からか電撃が放たれ、蟒蛇はバラバラになり消え、その中から甚八は降り立ち隙を作らず槍を大蛇の腹に刺した。大蛇は口から血を吐きながら、その場に倒れた。

 

 

「悪いな。俺は槍と雷使いの海賊・根津甚八だ。

 

俺の技を知らなかったのが、運の尽きだな」

 

「逞しい海賊……ですこと」

 

 

それを最期に、大蛇は息を引き取った。すると蛇の筒は解け外へと出た。外で桜華の傍にいたレオンは、甚八に擦り寄った。

 

 

「大丈夫だ、レオン」

 

 

ふと桜華を見ると、彼女は寝息を立て気持ちよさそうに眠っていた。

 

 

「(毒の効果か……一応、毒に対する異常は体にはねぇみてぇだな。只眠ってるだけだし)

 

 

さぁて、才蔵が決着つくまで待つとするか」

 

 

 

二つの剣がぶつかり合う音が外に響いた。

 

半蔵は、後ろへ下がると印を結んだ。

 

 

「火術業火球!」

 

 

口から火の玉を無数に出し、才蔵目掛けて放った。才蔵はすぐに避け、ポーチからクナイを取り出し半蔵に投げつけた。彼はすぐに大剣で、クナイを弾き返し降りてくる才蔵に向かって、大剣を振り下ろした。才蔵は間一髪、大剣を避けたが肩に傷を負い、肩を抑えながら半蔵を睨んだ。

 

 

「スゴォ!守れるものがあると、人間急激に成長するんだ!

 

前回は避けられなかった俺の攻撃、よくかわしたね?才蔵君」

 

「君付けるな!!気色悪い!!」

 

「いいじゃないですかぁ。せっかく、伊賀者同士なんですから」

 

「ウザい……お前と一緒の里ってのが、一番ウザい」

 

「え~、そんな事言わないで下さいよ~」

 

「うるさい!!」

 

 

半蔵目掛けて、才蔵は剣を勢いよく振り下ろした。半蔵は難なく避け、大剣を振った。彼の大剣を才蔵は、剣で受け止め印を結んだ。

 

 

「伊賀流水溶斬!!」

 

 

水の纏った剣を振り回した。半蔵はすぐに避けたが、腹に火傷を負い傷を見ながら、才蔵を睨んだ。彼は勢いを止めずさらに印を結び、今度は火の玉を手から出しそれを半蔵に投げつけ弾と共に、自分も突進し剣を振り下ろした。剣は半蔵の体を斬り、彼はそこから血を噴き出し倒れた。

 

 

息を切らしながら、才蔵は倒れた半蔵を見ながら座り込み傷を手で抑えた。

 

 

「な、何とか……勝った」

 

「決着がついた見てぇだな?」

 

「甚八!」

 

 

社から出てきた甚八は、桜華を横に抱えながら才蔵の元へ寄った。才蔵は甚八から桜華を受け取りながら、彼女を心配そうに見た。

 

 

「安心しろ。蛇の毒で眠ってるが、目立った異常はない」

 

「そうか……(良かった)」

 

「しっかし、あの女毒を使うにも程がある……おかげで、手足が痺れてらぁ」

 

「こっちもだ。

 

毒はなかったが、火を使いやがってあの男」

 

「こりゃあ明日、十蔵が来るまでここで寝泊まりするしかねぇな」

 

「だな……?」

 

 

才蔵の腕の中で、桜華はゆっくりと目を覚ました。

 

 

「才……蔵?」

 

「気が付いたか?!」

 

「……!アイツ!」

 

「もう大丈夫だ。

 

倒したよ」

 

「……!

 

怪我……」

 

「大したことねぇよ」

 

「……」

 

「桜華、首に掛けてる勾玉……ちょっと見せてくれねぇか?」

 

「……うん」

 

 

服の下に隠していた勾玉を、桜華は鎖を引っ張り出し才蔵に見せた。

 

 

「……触ってもいいか?」

 

「大丈夫だと思う」

 

 

才蔵は恐る恐る、勾玉に触れた。勾玉は一瞬光ったかのように見えたが、またすぐに光りを失くし普通の勾玉に戻っていた。

 

 

「普通の勾玉にしか、見えねぇな……」

 

「アイツ等、これが狙いだって……」

 

「お前の事も狙ってた……どうなってんだ」

 

「桜華、オメェ何か聞いてねぇのか?その勾玉について」

 

「何も……というより、覚えてない」

 

「……」

 

「思い出そうとすると……頭が痛い。

 

それに……怖い」

 

 

震える手を、桜華は強く握った。

 

 

その時、馬の蹄の音が聞こえ後ろを振り返った。その直後馬は才蔵と甚八の上を跨り、そして才蔵の傍に座っていた桜華を、何者かが奪った。

 

 

「桜華!!痛!」

 

「ほぉ、真田の者か?」

 

「?!テメェは

 

伊達政宗!!」

 

 

政宗の腕で、桜華は逃げようと暴れたが彼は、彼女が暴れない様に手でしっかり抑え込んだ。

 

 

「良く見つけてくれたな?俺の宝を」

 

「宝?」

 

「光坂の娘、この伊達政宗が貰った!!」

 

 

そう言うと、政宗は馬を走らせた。その後を才蔵と甚八は追い駆けようとしたが、毒で体が思うように動かず、代わりにレオンが彼の後を追いかけて行った。

 

 

「頼んだぞ!レオン」

 

「桜華!!桜華!!

 

クソ!!動け!!動け!!俺の体!!クソ…クッソォオ!!」




狐:皆、何か忙しそう……

猿:そうだろうな。

狐:あれ?佐助じゃん。どうしたの?

猿:どうしたって……

狐:……ハハ~ん。さては出番がなくて、寂しくなって出てきたなぁ?

猿:う、うるさい!!大きなお世話だ!!

狐:そう怒鳴らないでよ!

猿:それはそうと、この先どうなるんだ?

狐:だから、バラしちゃ誰も読まなくなるでしょ。

猿:それはそうだが……じゃあ、せめて桜華が何者かくらい教えろ!

狐:いや、説明したじゃん!

桜華は光坂一族の生き残りって!

猿:“かも”としか言ってないだろ!

狐:だって小説だもん。直に分かることだもん。

猿:……

狐:そんなに気になるなら、佐助。

猿:?

狐:コショコショコショ(内緒話)

猿:!!

狐:な?出来たら、全部
猿:出来るか!!そんな恥かしいこと!!

し、死んでもやらんぞ!!

狐:チッ!つまんねぇの。

読者の皆さ~ん、また次回お会いしましょうね~。

猿:絶対やらないからな!!

狐:分かったから、もう。


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奪われた子供

『桜華』

誰?

『桜華』

才蔵……才蔵なの?

『桜華、お前のせいだ』

!?

嫌……嫌!!止めて!!

知らない!!何も覚えてない!!何も!!


才蔵!!助けて……助けて!!


「!?」

 

 

目を覚ます桜華……目から流していた涙を拭きながら、彼女は起き上がった。

 

 

見覚えのない部屋……足には枷が付けられ、その部屋の周りには格子が着けられ、更に鍵が掛けられていた。

 

 

「ここ……どこ?」

 

 

桜華は思い出した……自分は、政宗に連れ去られたことを。

 

 

「出して……出して!!

 

 

ここから出して!!帰りたいの!!あそこに!!才蔵の所に……上田に(才蔵……助けて)」

 

 

格子に手を掛け、目から涙を出しながら桜華は、訴えた。

 

 

森を駆ける佐助と氷柱……数日前、十蔵から桜華がさらわれたという情報を受け、氷柱と共に政宗がいるであろう城へ向かっていた。

 

 

「まさか、才蔵達が動けなくなるまで戦っていたとは」

 

「それほど強い奴だったのだろう」

 

「あら?今回は、素直なのね」

 

「当たり前だ。服部半蔵……俺は好かないが、アイツは才蔵と互角……いや、才蔵よりも上だ」

 

「そうね……」

 

「無駄話は後にして、早く桜華を助けるぞ」

 

「そういえば、レオンがその近くにいるのよね?」

 

「確かそうだ。

 

十蔵の話によると、レオンは真っ先に馬を追い駆けていったらしい」

 

「さっすがレオン」

 

 

 

場所は変わり、城内の中。政宗は大あくびをしながら、自身の愛用している薙刀の手入れをしていた。

 

 

「あの子供は何者ですか?政宗殿」

 

 

部屋の隅に座っていた男は、怒っているのか低い声で政宗に質問した。

 

 

「あぁ?あれは宝だ」

 

「宝って……あなた、またどこからか変なものを拾ってきたんですか!?」

 

「変なものとは何だ!!変なものとは!!」

 

「あの子供に、一体どんな価値があるというんですか?」

 

「光坂のガキだ。これだけ言えば、分かるだろ?」

 

「光阪?

 

確か、武田が滅んだと共に姿を晦ましたはず」

 

「その一族が、いたんだよ。

 

まぁ、他の輩が一族を殺しちまった見てぇだが……生き残ってたガキを、あの真田が匿っていたんだ」

 

「それがあの子供……」

 

「そうだ……

 

さぁて、あのガキに挨拶でもしてくるか」

 

(全く……どこまで、勝手な殿だ)

 

 

 

地下牢へと来た政宗……桜華は部屋の隅で身を縮込ませ、政宗を睨んだ。

 

政宗は隅にいる桜華の前に腰を下ろし口を開いた。

 

 

「そういや、名前聞いてなかったな?

 

お前、名前は」

 

「……」

 

(答えるはずも無いですよ……)

 

「名前!

 

それから、人と話す時は相手の顔を見ろ!」

 

 

政宗が桜華の頭を掴んだ時、彼女は手に隠していた木の棒で彼の腕を刺そうとした。刺さる寸前、傍にいた男が彼女の腕を掴みその行為を止め、刺さらずに済んだ。

 

 

「うへぇ。ビックリしたー」

 

「足枷だけでは、駄目のようですね」

 

「……」

 

「まぁ、長い付き合いになるなんだから、これくらいは勘弁してやるよ」

 

「?付き合い?」

 

「お!やっと口を開いたか」

 

 

手に持っていた棒を落とした桜華は、政宗を見た。男は外にいた手下に、手枷を持ってくるように頼んだ。

 

 

「お前は、今日からこの俺に仕えるんだ」

 

「……嫌だ。

 

帰りたい!才蔵の所に返して!!」

 

「そりゃあ、無理な願いだ。

 

帰りたい以外だったら、何でも願いは聞いてやる」

 

「……」

 

「何か用があったら、そこにいる小十朗に頼め」

 

「……」

 

 

何も答えない桜華……すると、胸元が黒く光だした。それを見た政宗は、小十朗に桜華を抑えさせ首に下げていた鎖を引っ張り勾玉を見た。

 

 

「へー。珍しいな、青い翡翠とは」

 

「触るな!!」

 

 

桜華は小十朗の手を振り払い、手から氷を放ちながら政宗の腕を攻撃した。政宗は痛みで勾玉を離し、その瞬間桜華は勾玉を握り隠し、彼を睨んだ。

 

 

「若!」

 

「心配すんな。

 

小十朗、手に枷付けとけ」

 

「はい」

 

「こっから逃げようなんて、思わねぇ方がいいぞ。

 

逃げようとすれば、才蔵はもちろんお前に関わった奴等の命は無い」

 

「?!」

 

 

立ち上がった政宗は、傷口を抑えながら桜華を見た。しばらく見ると、不敵な笑みを浮かべ牢を出て行った。小十朗は手下から手枷を貰うと、大人しくなった桜華の手に付け牢を出て行った。

 

独りになった桜華は、浅く息をしながら蹲った。

 

 

(私のせいで……才蔵が……皆が)

 

 

 

夜……

 

 

城付近へ来た氷柱と佐助。近くには、レオンの姿が有りレオンは二人を見ると、傍へ駆け寄り二人に擦り寄った。

 

 

「どうやら、あの城ね。

 

道は私が作る。その間に桜華を」

 

「分かった」

 

 

座敷牢へ侵入した二人は、声を上げようとした輩を瞬時に倒した。牢がズラリと並ぶ所へ辿り着き、手下が二人いる牢を見つけた。

 

 

「あそこね……

 

氷術夢想吹雪」

 

 

冷たい息を出す氷柱。息は手下の体を纏い、手下は意識を失ったかのようにして、壁に凭り掛かりながら座り込み寝込んでしまった。

 

 

「弱い手下。

 

さてと……」

 

 

氷柱は、座敷牢の中を見た。隅には蹲った桜華がいた。佐助は眠っている手下の腰から鍵を取り、牢を開けた。その音に、桜華は少しだけ顔を上げた。開けたと共に先にレオンが入り、彼女に擦り寄った。

 

擦り寄ったレオンに、桜華は顔を上げレオンの頭を撫でた。レオンに続いて氷柱が中に入り佐助は外で、他の輩が来ないか見張った。

 

 

「無事でよかった。どこも怪我はしてないみたいね」

 

「……」

 

「さぁ、上田へ帰りましょう」

 

「上田……」

 

『逃げようとすれば、才蔵はもちろんお前に関わった奴等の命は無い』

 

 

政宗の言葉を思い出した桜華は、差し出してきた氷柱の手を振り払い、彼女に背を向けた。

 

 

「帰らない……」

 

「え?」

 

「帰らない……上田に」

 

「桜華……皆心配してるわ。

 

落ち着いたら、帰りましょう」

 

「私が帰ったら、皆死んじゃう……

 

もう見たくない……見たくないの!!

 

 

私のせいで、皆が死ぬところなんか!!あの里の人達みたいに、私のせいで誰かが死ぬのは見たくない!!」

 

「桜華……」

 

「上田に来る二年前……

 

ある村で数カ月過ごした。その時、凄く善くしてくれた老夫婦がいた。このままここで静かに過ごそうかと思った……

 

でも」

 

 

フラッシュバックで蘇る過去……火の海となった村。その中で血を流し倒れる老夫婦。

 

 

「私に関わったせいで……二人は死んだ。

 

だから……これ以上、私のせいで誰かが死ぬのは見たくない……見たくない」

 

 

目から涙を流しながら、桜華は二人に訴えた。そんな彼女に氷柱は、振り向かせ頬を軽く叩き抱き締めた。

 

 

「誰も死にはしないわ。

 

上田の皆は、強いもの」

 

「でも……何も分からないんだよ……いつかまた襲われる。

 

私はどこの誰なのか……どうしても分からない」

 

「そんなの、ゆっくり時間を掛けて戻せばいいわ。

 

それに、あなたが襲われるなら私達は全力であなたを守るわ」

 

「でも……」

 

「でもはもう無し。

 

桜華は何も心配しなくていいの。私達が付いてるわ。もちろん才蔵も」

 

「……」

 

「さぁ、帰りましょう。

 

才蔵が城で首を長くして待ってるわ」

 

「……うん」

 

 

足枷の鎖を切ると、桜華は氷柱と共に外へ出た。

 

 

「桜華」

 

「?」

 

「お前の刀、城に戻ってるからな」

 

「……うん」

 

 

牢から出て来た桜華の首元は、青く光っていた。

 

 

 

翌朝……物家の空になった牢を見る政宗。

 

 

「大した野郎だ……

 

さすが、光坂一族。

 

 

必ず、俺のものにしてやる!!」




狐:ここで新しいキャラ、伊達政宗のご登場です!

才:何か、たくさん出てくるな?

狐:次回には、一気に四人出すつもり。

才:マジかよ!?

狐:何さ~。早く書け書け言うから、早く書いてんじゃん。

才:本気出すと、お前やるな……

狐:どうだ!見直したか!

猿:けど、更新は遅いよな?

狐:……

読者の皆さーん、また次回!

才:あ!終わらせやがった!!

猿:狐!!


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若君の帰省

ある日の朝……


縁側で才蔵が作ったお握りを食べる桜華……その傍でレオンは大きな口を開けてあくびをし寝そべっていた。


その頃、才蔵達は……


「え?!若君、帰ってくるのか?!」


部屋へ来た十蔵に、才蔵は驚き思わず声を上げた。


「そうらしい」

「随分と早い帰宅ね」

「一生帰ってこなければいいのに……」

「甚八!!」

「あのクソガキいると、苛々するんだよ」

「そう言うな。

一応は、幸村様の息子だ」

「レオンに悪戯して、いつも襲われ掛けてるのにか?」

「そんで、六郎さんに怒られるのはいつも俺か甚八」

「てか、若君が帰ってくるなら、あの三人も帰ってくるって事よね?」

「そうだな」

「またうるさくなる……」

「てか、あの変態も帰ってくるよな?」

「まぁ、そうね」

「……やべぇ!!

桜華を隠さねぇと!!」


叫びながら、才蔵は部屋を飛び出した。


「そういや、あの変態……

城で新しい奴見ると、必ず攻撃するよな?」

「新しく入った忍に、いつも攻撃してたわね」

「……」

(ヤバい)


城の前で止まる馬……そこから飛び降りる一人の少年。

 

 

「大助様!走ると、転びますよ!!」

 

「大丈夫だよ!これくらい!

 

清海、伊佐道!早く入ろうよ!」

 

「ま、待ってくだ……!!」

 

 

白い布を頭に巻いた男の上から、赤い髪に緑色の鉢巻をした男が飛び降り、男を台にジャンプし地面へ飛び降り駆け出した。

 

 

「ほら大助!競争だぁ!!」

 

「あ!ズリィ!!」

 

「あ、兄上?!大丈夫ですか?!」

 

 

門を潜り駆ける二人。膳を運んでいた侍女は、駆けてくる二人の姿に驚き持っていた膳を上に上げ、二人を見つめた。

 

 

「あ、あれは……」

 

「……」

 

 

廊下を歩く桜華……角を曲がろうとした時、駆けていた男とぶつかり尻を突いた。

 

 

「痛ってー!!

 

ンだよ!!前見て歩けよ!!……って、お前」

 

「痛ったぁ……」

 

「鎌之介!大丈夫か?!

 

 

?誰だ?お前」

 

 

座り込み痛めた箇所を擦る桜華を、彼女より少し背が高い男の子は近付きながら見つめた。桜華は震えながら後退り、逃げようと立ち上がり駆け出した。

だがその瞬間、足に鎖が巻き付かれ桜華はそのまま倒れた。鎖が巻き付いた足を目にしながら彼女は後ろを見た。手に鎖を持った鎌之介が、悪戯笑みを浮かべながら桜華に歩み寄った。

 

 

「逃げなくてもいいだろう?新入り!」

 

「え?!コイツ、新入りなの?!」

 

「見りゃあ分かるだろ?

 

どっからどう見ても、新入りだ」

 

「い、嫌……」

 

「何弱々しい声出してんだよ!」

 

 

座り込みながら、鎌之介は桜華の髪を強く掴んだ。桜華は彼の腕を掴み、無理矢理引き離そうと強く引っ張った。

 

 

「何やってんだ!!お前等!!」

 

 

その声と共に、どこからか石が投げられ鎌之介と男の子の額に当たり、二人は同時に仰向けに倒れた。石が投げられた方を見ると、そこには数個の石を上げる才蔵がいた。

 

 

「才蔵……」

 

 

鎌之介の手から離れた鎖を外し、桜華は一目散に才蔵に駆け寄り彼に抱き着き後ろへ隠れた。

 

 

「痛ってぇ……何すんだよ!才蔵!!」

 

「お前こそ!!いい加減、新人いびるの辞めろ!!」

 

「いいじゃねぇかぁ!」

 

「よくねぇわ!!」

 

「つーか、そいつ誰?」

 

「訳あってここに置いてるんだよ」

 

「フーン。

 

おい、ガキ!俺と勝負しようぜ!」

 

 

鎖鎌の鎖を振り回しながら、鎌之介は桜華に言った。彼女は怯えた様子で、彼を見ながら首を左右に振った。

 

 

「テメェ等はさっさと、幸村の旦那の所に行け」

 

 

二人の背後から来た甚八は、二人の襟を掴み上げた。

 

 

「あ!甚八!テメェ!!」

 

「離せよ!!」

 

「離せるか。

 

お前達には聞きたいことがある。

 

 

何で清海が伸びてんだ?門前で」

 

「!!」

 

「そ、それは……」

 

「詳しい事情を、父上の前で話して貰おうか?若君」

 

「は、はいぃ……」

 

 

猫の首の根を掴むようにして、二人の襟を掴み上げながら甚八は幸村の部屋へと行った。

 

二人がいなくなると、桜華は才蔵の後ろから出て震える手で彼の服の裾を掴みながら出て来た。

 

 

「あとで幸村の部屋行くぞ」

 

「え?」

 

「幸村のガキと俺等の仲間が帰ってきたんだ。

 

お前のことを説明しなきゃいけねぇ」

 

「……アイツに、会いたくない」

 

「すぐに終わる。

 

説明終わったら、茶屋に連れてってやるから。な?」

 

「……うん」

 

 

場所は変わり幸村の部屋。

 

幸村の前で正座をし、頭にたんこぶを作った鎌之介と若君。

 

 

「鎌之介のせいで、六郎にぶたれたじゃん」

 

「そりゃこっちの台詞だ!」

 

「静かになさい!!」

 

「!」

 

「まぁ、無事で帰ってきてよかった。

 

どうだった?国の外は」

 

「凄い面白かったです!父上!」

 

「そうかそうか!」

 

「俺的には、才蔵の傍にいるそのガキが何者なのかが、気になる」

 

 

そう言いながら、鎌之介は襖に凭り掛かり座る才蔵と彼の腕にしがみつく桜華を睨んだ。

 

 

「そういえば、その者は一体……」

 

「訳あって、数日前から城に置いている桜華だ」

 

「訳?訳って何だ?」

 

「あとで話す」

 

「新入りであれば、挨拶せねば。

 

拙僧は、三好清海入道(ミヨシセイカイニュウドウ)だ」

 

「僕は三好伊佐入道(ミヨシイサニュウドウ)。伊佐道って呼んで下さい」

 

「そんじゃいオイラも!

 

オイラ、真田大助!宜しくな!桜華!」

 

「由利鎌之介だ!

 

挨拶も済んだことだし、桜華!早速勝負しようぜ!」

 

 

鎖鎌の鎌を構え持ちながら、鎌之介は桜華に言った。彼女は激しく首を左右に振った。

 

 

「はぁ?!何でだよ!!」

 

「鎌之介、桜華は嫌がってる。やめておきなさい」

 

「うるせぇんだよ!!俺は今すぐにでも…!!」

 

 

桜華に寄ろうした鎌之介の背後から、甚八の傍で寝ていたレオンが彼に襲い掛かった。

 

 

「いつの間に……」

 

「野生本能が目覚めたんだろ」

 

「お、重い……

 

お、降りろ!レオン!」

 

 

レオンは鎌之介の手に自身の足を乗せ抑えつけ、牙を剥き出しにし、彼に噛み付こうとした。

 

噛み付かれる寸前、甚八はレオンの首に付けていた首輪を掴み、レオンを引っ張り上げ彼から引き離した。

 

 

「どう!どう!」

 

「ンだよ!!いきなり襲いやがって!!」

 

「普段の行いが悪いから、こうなるんだ」

 

「……チ!面白くねぇの!!」

 

「あ!待ってよ!鎌之介!」

 

 

苛々しながら鎌之介は、部屋を出て行き彼の後を大助は慌てて追い駆けていった。二人がいなくなると、レオンは大人しくなりそれを見た甚八は、首輪から手を離した。レオンは頭を振ると、桜華の元へ寄り座っている彼女の膝に頭を乗せ、咽を鳴らしながら擦り寄った。

 

 

「完全に懐きやがったな」

 

 

レオンの頭を撫でる桜華を見ながら、甚八はそう言った。




才:雑談コーナー!

猿:本当に四人出すとは……

狐:どうだ!思い知ったか?!

猿:あーハイハイ。見直しました。

狐:その軽さ、何?!

才:二人が騒いでる間に、四人を紹介しとくか!

まず一人目は、僧侶兄弟の兄・三好清海入道。そして弟・三好伊佐入道だ!

清:以後、お見知りおきを。

伊:よろしくね~。

才:そして、口うるさいガキ共。

一人は由利鎌之介。もう一人は幸村のガキ・大助だ。

鎌:何だよ!!その扱いは!!

大:酷いや!!才蔵!

才:ガキはこれくらいでいいんだよ。

大:何だよ!その扱いは!!

オイラ、殿の息子だぞ!

鎌:そうだ!そうだ!

才:俺から見りゃあ、まだまだクソガキだ!

大:っ!!

六郎!

才:泣き付くとこなんざ、ガキのやることだ。

六:才蔵!!

才:何で俺が怒られなきゃいけねぇんだよ!!

狐:読者の皆さーん、また次回!


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一筋の光

「すみません」

「はい?」

「この者を知りませんか?」


上田付近の茶屋で、似顔絵が描かれた紙を亭主に見せる男。


「さぁ……



そういえば、似たような子なら上田にいたよ」

「本当か?!」

「あぁ、つい最近。

まだいると思うよ」


紙に描かれた似顔絵……それは桜華とよく似た少女の絵だった。


「あー!!ムカつく!!苛々するー!!」

 

 

城下町を鎌之介は、鎖を振り回しながら歩いていた。その後を大助は歩きながら、周りに軽く挨拶をした。

 

 

「そんなに苛々するなよ!鎌之介」

 

「だってよぉ!!あのクソ女、戦えると思ったのに弱くて!!

 

それに才蔵にくっつきやがって……」

 

「鎌之介は、才蔵大好きだもんねぇ」

 

「うるせぇな!!

 

あぁ!!クソ!!あの、桜華の野郎と戦いてぇ!!」

 

 

鎌之介がそう叫んでる時だった。

 

 

「あの、桜華を知ってるんですか?」

 

「あ?

 

誰だ?テメェ」

 

 

声の方に振り向くと、そこには笠を被り旅の格好をした男が立っていた。

 

 

その頃、才蔵は桜華と氷柱の二人と茶屋で団子を食べていた。

 

 

「何でお前が一緒に来るんだよ」

 

「いいじゃーん。私、甘いもの好きだし」

 

「あのなぁ……?」

 

 

茶屋へ入ってくる一匹の鼬に、才蔵は目を向けた。鼬は才蔵達の姿に気付くと、彼に駆け寄り椅子を伝い肩へと登った。

 

 

「佐助の鼬?」

 

「猿が鼬を寄こすって事は……

 

城へ戻れ」

 

「……」

 

「(何かあったのか?)

 

……桜華、城に戻るぞ」

 

 

 

城へ戻ってきた才蔵達。門前に佐助が立っており三人を見るとすぐに駆け寄ってきた。

 

 

「猿、何か」

「二人共、来い!」

 

「あ、おい!」

「ちょっと!」

 

 

門前に桜華を残し、佐助は二人を彼女から引き離し少し遠い所へ連れて行き話し出した。

 

 

「どうしたんだよ!猿」

 

「落ち着いて聞け。

 

 

桜華を知る輩が、城へ来ている」

 

「?!」

 

「桜華がいるなら、是非会わせて貰いたいとのことだ」

 

「敵じゃねぇのか?」

 

「名を聞いても、桜華を見せてからだと頑なに」

 

「何で桜華を?」

 

「詳しいことは、桜華に会ってからだそうだ」

 

「何ちゅう、勝手な野郎……」

 

「とにかく、桜華を連れて早く幸村様の所に」

 

「分かった。

 

猿達は先に行っててくれ。俺は桜華に説明してから来る」

 

「分かったわ」

 

 

二人は先に城へ行き、才蔵は門前で待っている桜華の元へ行った。

 

 

「何の話してたの?」

 

「ちょっとな。

 

桜華」

 

「?」

 

「城に、お前を知ってる奴が来てる」

 

「!」

 

「奴は、お前に会いたいと言っている」

 

「……」

 

 

顔を強張らせながら、桜華は顔を下に向かせた。そんな彼女の手を、才蔵は握りしゃがみながら桜華を見た。

 

 

「俺が傍にいる。もちろん、猿達も」

 

「……でも」

 

「敵だって分かったら、すぐに攻撃する。安心しろ」

 

「……」

 

「さ、行こう」

 

 

才蔵の手を握りながら、桜華は城へと入った。

 

 

幸村の部屋へ着き、襖を開けた。

部屋には全員集まり、幸村の前には笠を傍に置き座る、灰色の髪を生やした男がいた。男は入ってくる才蔵の手を握る桜華を見るなり、立ち上がり彼女に近付いた。怯えた彼女は、才蔵の後ろへ隠れ顔を出しながら警戒するように、彼を見た。

 

 

「間違いない……桜華だ」

 

「何で分かる」

 

「若き頃の母親にそっくりだ。

 

白い髪に、この目元。どこからどう見ても桜華だ」

 

「桜華の母親を知っているのか?」

 

「もちろんです。

 

無論、あなたもよく知っています。

 

 

真田幸村。幼少期は弁丸、そして殿になる前は原二郎。

 

元は武田二十四将の一人、真田昌幸の次男。

武田が滅んだ後、真田家がこの信濃と甲斐を任され、そして上田を幸村、あなたが長となり今に至る」

 

「凄い……

 

まさに、その通りだ」

 

「オメェ、名は」

 

「申し遅れました。

 

拙者は、望月六助。武田に仕えていた武将です」

 

「望月……確かにいた」

 

「武田が滅んだ後、拙者は甲斐の国で質屋をやっていました。

 

しばらくして、桜華の母上・光坂一族のくノ一、光坂蓮華(コウザカレンカ)から、連絡が届きました。

 

子供が出来たと」

 

「それが桜華……」

 

「蓮華……

 

あぁ!あの武田軍副隊長の光坂蓮華か!」

 

「はい、その蓮華です」

 

「誰なんだ?その蓮華って」

 

「武田軍副隊長・光坂蓮華。

 

別名・戦場の殺人花と言われたくノ一だ。

 

 

しかし、あの蓮華に子供が出来ていたとは……」

 

「間もなくして、拙者は光坂の里へ行きました。

 

そして、父親に抱かれたまだ幼い桜華に会いました」

 

「……」

 

 

才蔵の隣に座る桜華を見ながら、六助は言った。桜華は少し緊張が解けたのか、ずっと六助を見ていた。

 

 

「ところが、数年が経ち遠出の帰り、里へ寄った時……

 

変わり果てた里を目にしました」

 

「……」

 

「里付近の村で聞き込みをすると、拙者が来る数週間前に襲撃を受けたと。

 

拙僧はすぐに、覚えている桜華の特徴を書きそれを手にしながら各地を転々としました」

 

「けど、あなたが最後に会った桜華と四年前の桜華じゃ全然違うわよ!」

 

「娘はたいてい、母親に似る者だ。

 

母親の特徴を書けばいいし、記憶に残っている桜華の特徴を書き出せば、この絵になる」

 

 

そう言いながら、六助は桜華の似顔絵を皆に見せた。

 

 

「いや、確かに似てるけど……」

 

「凄く似てるとも言い切れない……」

 

「かと言って、似てないとも言い切れない」

 

「まぁ、話は大体分かった。

 

お主が怪しい者じゃないことも、桜華の敵でないことも。

 

 

だがな、そこにいる桜華は記憶を無くしている」

 

「?!」

 

「ここへ来た時、彼女は名前しか覚えていない状態だ。

 

それは今でも変わらない」

 

「……」

 

「六助、お主が良ければここへ置いてやってもいいぞ」

 

「ほ、本当か?!」

 

「構わん。

 

それに、ここに桜華がいるとなれば尚更、お主はここにいようと頼むだろ?」

 

「そ、その通りだが……」

 

「認めんのかよ、オッサン」

 

「……ねぇ、一つ聞いてもいい?」

 

「?」

 

「桜華は本当に、その光坂蓮華って言う女性の子なの?」

 

「間違いない。

 

拙者は、蓮華を幼い頃から知っている」

 

「そんじゃ、その顔以外で証拠見せてくれよ」

 

「良かろう」

 

 

大助に言われた六助は、立ち上がり桜華の元へ寄り彼女の右手を掴んだ。

 

 

「少し、失礼するぞ」

 

 

手袋を取り大助を手招き、指をさして見せた。桜華の右手の甲には桜の花弁の痣があった。

 

 

「この痣……」

 

「光坂一族のもう一つの特徴だ。

 

一族の者には、必ず体のどこかにこの痣がある」

 

「体のどこか?

 

ケツにある奴もいたのか?」

 

「さぁな。

 

拙者が見てきた中では、腹や背中と言った他人から見える場所にあった」

 

「顔にある奴もいたのか?」

 

「もちろんいた」

 

「へ~」

「へ~」

 

「さぁ、話しはこれで終わりだ。

 

各自、部屋に戻っていいぞ」

 

 

幸村に言われ、全員部屋を出て行った。

 

 

「なぁ桜華!

 

上田の森に行こう!」

 

「……」

 

「お!それ面白そうだな!

 

桜華行こうぜ!」

 

 

戸惑っている桜華の手を引き、大助は鎌之介と共に部屋を出て行った。その後を、甚八に寝そべっていたレオンは起き上がり追い掛けていった。

 

 

「何かあったら、レオンが守るだろ」

 

「あの変態に任せていいのやら……」

 

「六助、ちょっと聞いていいか?」

 

「?」

 

「何で桜華が生きてると思った」

 

「……」

 

「あの里の状況からして、桜華が生きている確率は低い」

 

「……

 

直感で思ったんです……あの里を見た時、桜華は生きていると。

 

 

生きていて良かった……本当に……生きていて」

 

 

そう言いながら、六助は目から涙を流した。




才:雑談コーナー!

ついに、桜華を知る輩が出たぞ!!

猿:そんなもん、見りゃあ分かる。

氷:敵じゃないって事は、確かね。

才:そういや、話しの中にあった勾玉が四つあるって書いてあったけど……

狐:今後の展開に、御期待を。

猿:話で分かったことは、桜華は確実に光坂一族の生き残りだという事。

狐:今回、いっぱい書いたからキャラ紹介するねー。

では、どうぞ↓


名前:海野六郎(ウンノロクロウ)
年齢:不明。
使用武器:寸鉄・鞭。
容姿:紺色の髪に青い瞳。
服装:腹出しの長袖に幅の大きい長ズボンを穿いている。手には毒針が仕込まれている指輪をしている。


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大地の力

森へ来た鎌之介達……

 

 

森の中を、鎌之介は一人駆け走りその後を、大助は追い掛けていき、走る二人を見ながら桜華はレオンとゆっくりとついて行っていた。

 

 

「桜華!!こっちこっち!」

 

 

少し離れた場所から、大助は手を振り彼女を呼んだ。桜華は小走りで、大助の元へ行った。

 

 

森を抜けると、そこは滝壺だった。

 

 

「凄ぇだろ!?

 

この俺が見つけたんだぜ!」

 

「……」

 

「桜華も靴脱いで、一緒に遊ぼ!」

 

 

履いていた靴を脱ぐと、大助は一目散に滝壺へと入った。

水を掛け合う鎌之介と大助……

 

桜華はしばらくボーッと見ていた。気を抜いた、その時だった。

 

 

“バシャーン”

 

 

突然、全身に水が掛かった桜華。驚き立ち上がると、顔に掛かった水を腕で拭いた。

 

 

「ハッハッハッハッハ!!

 

どうだ!桜華、悔しかったから掛かってこーい!」

 

 

大笑いする鎌之介に、桜華は睨み付け手に水の玉を作り出すと、それを彼に思いっ切り当てた。鎌之介は顔面に当たりそのまま顔向けに倒れた。

 

 

「やりやがったな!桜華!

 

そーれ!!」

 

 

鎖を振り回し、風を起こした鎌之介は水の渦を桜華に放った。彼女は難なく避け、滝壺に入ると鎌之介の足を自身の足で払った。彼は尻を突き倒れ、それを大助は面白可笑しく笑い、その笑いに釣られ桜華も笑った。

 

 

びしょ濡れになった三人……息を切らして、岸に上がり寝そべった。横になった桜華の隣に、レオンは寄り共に寝そべった。

 

 

「かぁー!!

 

おっもしれぇ!!桜華!お前、水の術使えるんだな!!」

 

「水の術?」

 

「才蔵達、術が使えるんだ。

 

例えば、鎌之介は風使い」

 

「風……」

 

「応よ!」

 

「そんで、氷柱は名前の通り氷使い。

 

佐助は水と獣使い。

六郎は草使い。

甚八は雷使い。

清海と伊佐道は土使い」

 

「十蔵と才蔵は?」

 

「十蔵は術と言うより、火縄銃の名人だね。

 

才蔵は皆の技を使えるスペシャリストって感じかな」

 

「へー……あれ?火は」

 

「それが、火の使いはいないんだよなぁ」

 

「そうそう。

 

どっかにいねぇかなぁ」

 

「……」

 

「なぁ!桜華は、水以外に何か技使えるの?!」

 

「……知らない」

 

「へ?知らないって」

 

「ずっと、戦わないように逃げてたから……

 

だから、何が使えるのかは……」

 

「ふ~ん……

 

俺は、戦うの好きだから全然何が使えるかは分かってるけどな!」

 

「鎌之介と一緒にしてどうすんだよ。

 

桜華は一応、女の子だよ」

 

「そんなもん知るか。

 

このご時世、女も戦えなきゃ生きていけねぇよ」

 

「……?」

 

 

何かの気配を感じたのか、桜華は茂みを睨んだ。彼女と同じように、レオンは起き上がりその茂みを睨んだ。

 

 

「何?」

 

「どうしたの?」

 

「……すぐに城に戻って」

 

「え?」

 

「早く!!」

 

 

“バーン”

 

 

突然茂みの中から、弾が放たれた。鎌之介は大助の前に立ち鎖を振り風を起こした。弾は風に乗り勢いを弱め地面へ落ちた。それを見た桜華は、腰に着けていた刀の束を握り、茂みの方を見た。

 

茂みから出て来たのは、覆面をした山賊だった。

 

 

「さ、山賊だ!」

 

「佐助の野郎、何進入許してんだ!!」

 

「ガキが三人か……

 

その中のガキは、上田の若君みてぇだな」

 

「!」

 

「大助、来い!!桜華、お前も!!」

 

 

桜華の手を引こうとした鎌之介だったが、彼の手は桜華の手に届かず、桜華は刀を抜き山賊に向かって振り下ろした。山賊は油断したのか、肩を斬られ手で抑えながら槍を出し突いた。彼女の体を貫く寸前、目の前に木の根が生え伸び槍の攻撃を防いだ。

 

 

「?!」

 

「……!!」

 

 

息を切らしていた桜華は、突然頭を抑え苦しみだした。

 

山賊は今だと思い、桜華に攻撃した。すると彼女を守るかのようにして、水が上がり山賊の攻撃を防いだ。

 

 

「み、水が勝手に?!」

 

 

苦しむ桜華……次第に彼女の胸元が黒く光り出した。光り出すと共に、桜華の目の前が暗くなった。

 

 

(……ここ、どこ?

 

才蔵……才蔵!……才蔵!!)

 

 

『さぁ、使いなさい』

 

(え?)

 

 

「アァァアアアア!!」

 

 

叫び声と共に、桜華を中心に黒いオーラが爆発した。




狐:あれ?皆は?

望:皆、出ているが。

狐:何だぁ……

それじゃあ、前回登場したアンタを紹介するか!


元武田に仕えていた侍・望月六助(モチヅキロクスケ)さんです!

望:どうも。

狐:六助って、桜華の母親とは知り合いみたいだね?

望:知り合いって……

あなたがそういう
狐:あーあー!!

そういう話しは禁止!

望:そうなのか?

狐:(あー。

この人と話すの、才蔵達がいる時にしよう)


読者の皆さん、また次回。


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神の魂

『桜華は特別な子だ』

『桜華を外に出してはならん!』

『桜華は闇を持った子だ』

『桜華を閉じ込めておけ!』


皆……殺してやる。


爆発は、上田の町にまで響いた。城にいた才蔵達は森の方に目を向け、佐助は木の上からその爆発を目の辺りにした。

 

 

 

やがて爆発は収まった……

 

山賊は跡形もなく消え去り、凹んだ地面に桜華は座り込んでいた。

 

 

傍で大助を守るようにして、鎌之介は彼に覆い被さり倒れていた。爆発が収まったのを確認した彼は、ゆっくりと起き上がり辺りを見回した。

 

 

凹んだ地面に座り込む桜華……周りの木々は山賊と同様に跡形もなく消えていた。

 

 

「スッゲぇ……!

 

桜華!」

 

 

凹んでいる地面に座り込む桜華の元へ、鎌之介は駆け寄った。息を切らしていた桜華は、力無く地面に倒れた。駆け寄った鎌之介は、彼女の体を揺らしながら呼び叫んだ。

 

 

「桜華!!桜華!!

 

おい!桜華!!」

 

「鎌之介!」

 

 

森から佐助が駆け付けた。

 

 

「佐助!」

 

「さっきの爆発は?!」

 

「わ、分かんねぇ。突然桜華が苦しみだして、叫んだら……」

 

「爆発が起きた……」

 

 

倒れている桜華を佐助は、抱き上げ横に抱いた。

 

 

「鎌之介は大助様を頼む。

 

俺は先に、桜華を連れて城に戻ってる」

 

「わ、分かった!」

 

 

桜華を連れて、佐助は先に城へと戻った。彼の後を、茂みに隠れていたレオンは追い駆けていった。鎌之介は気を失っている大助を背負い、城へと向かった。

 

 

 

「佐助!!」

 

 

城へ戻ってきた佐助の元へ、才蔵達は駆け寄った。

 

 

「何が……!!桜華!!」

 

「今は気を失っている。

 

けど、熱がある」

 

「!?」

 

「才蔵、お前は俺と一緒に桜華の治療に当たれ」

 

「あ、あぁ」

 

「氷柱、お前も来てくれ」

 

「分かったわ」

 

 

部屋へ来た才蔵は、すぐに布団を敷き佐助から桜華を受け取り寝かせた。桜華は息を切らしながら、苦しんでいた。

 

 

「何があったんだ、佐助」

 

「桜華の治療を終えたら、全て話す。

 

まぁ、詳しい事は鎌之介達に聞くんだな」

 

「お喋りはいいから、早く治療を……!!こ、これ」

 

 

服を脱がせようと、裾を上げると体の一部が黒い痣で覆われていた。

 

 

「何だ、これ……」

 

「あの爆発と関係が?」

 

「……とにかく治療を」

 

 

数分後……部屋から出る三人。するとそこへ、レオンが庭へ入り縁側を飛び乗ると、部屋の前で寝そべり大あくびした。

 

 

「ここにいましたか」

 

「六郎……」

 

「すぐに幸村様の所へ」

 

 

六郎に連れられ、三人は幸村の部屋へと急いだ。

 

 

部屋へ来ると、中で鎌之介が懸命に桜華のことを話していた。

 

 

「だから、突然桜華の奴が苦しみだして!

 

そしたら、あの爆発が起きたんだ!」

 

「わ、分かったからそう近くに来るな」

 

 

自分に詰め寄り話す鎌之介に、幸村は彼を手に持っていた扇子で防いていた。そんな鎌之介を甚八は、襟を掴み上げ幸村から引き離した。

 

 

「大人しく座って、説明しろ」

 

「鎌之介!!桜華に何しやがった?!」

 

 

入ってきた才蔵は、鎌之介の襟を掴み上げながら怒鳴った。

 

 

「何もしてねぇよ!!

 

滝壺で大助と遊んで休んでたら、山賊が現れたんだ!

 

その山賊を倒そうと、桜華の奴が刀抜いたんだ。そしたらいきなりアイツ、苦しみだしたんだ!!頭抑えて!」

 

(頭を抑えて……)

 

「そんで爆発が起きた」

 

「あ、あぁ。

 

収まって、アイツの所に行ったら」

 

「倒れてた……」

 

「うん」

 

「……あの爆発は、一体」

 

「……まさか」

 

「?何か知っているのか?清海」

 

「兄上、あれは」

 

「いや……そうとも言い切れぬ」

 

「……」

 

「何なんだ?」

 

「拙僧達がまだ出雲にいた頃、神主様から聞いたことがあります。

 

この国は、四つの魂に守られていると」

 

「四つの魂?」

 

「あぁ。

 

一つ目は荒魂(アラミタマ)。

二つ目は和魂(ニギミタマ)。

三つ目は幸魂(サキミタマ)。

四つ目は奇魂(クシミタマ)と。

 

 

中でも、奇魂は闇を抑える力があります」

 

「闇?」

 

「今はお前達が思っている闇として、考えればいい」

 

「その四つの魂のどれかを、桜華は持ってる……

 

そういうことか?」

 

「闇を力が放たれた時、あの様な爆発が起きると……」

 

「神主様から聞きました」

 

「それが本当なら……」

 

「桜華は、その闇の力を使ったって事か?」

 

「そこまでは保証できない……」

 

「……」

 

 

才蔵達が幸村の部屋にいた頃、桜華は起き上がり部屋の隅で頭を抑えて蹲っていた。

 

 

頭に蘇る記憶……木の柵の中に閉じ込められている自分。その中から、必死に何かを叫びながら格子の間から手を伸ばしていた。

 

 

『憎いだろ?人が』

 

(知らない……こんな記憶。

 

こんな記憶、覚えてない!!)

 

 

どこからか聞こえる声を聞かぬように、頭を抑えていた手で耳を塞いだ。

 

 

話が終わり、才蔵は急いで桜華の部屋へ行った。中に入ると、体を震えさせながら部屋の隅で蹲っている桜華を目にした。

 

 

「桜華……」

 

 

隅にいる桜華を、抱き上げ布団に寝かせた。寝かされた桜華の手は、未だに震えていた。才蔵はそんな彼女の手を握りながら、隣で横になった。




狐:何か、皆忙しそうだからキャラ紹介するねー。

ではどうぞ↓


名前:筧十蔵(カケイジュウゾウ)
年齢:32歳
使用武器:火縄銃
容姿:焦げ茶色の髪を耳上で結っている。目の色は茶色。
服装:襟付きの半袖に長ズボンを穿き、草履を履いている。手首には青い腕輪をしている。


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迷路

とある森の中……

そこへ三人の子供が集まった。


目元だけの面を着け、少し露出の高い服に身を包んでいた。


「揃ったか……」

「アンタ達も感じたの?」

「だからここに集まったんだろ?」

「まさか生きてたとはね……

桜華の奴」

「蓮華さんが逃がしたんだろう……」

「生きていると分かれば、早く桜華を保護するぞ」

「やっぱそうなるか」

「僕達四人は、大名に知られちゃいけない存在だよ」

「俺が迎に行く。

お前等は、引き続きあの捜査を頼む」

「分かった」
「了解」


桜華の額に手を置く才蔵……三日間寝ていたおかげか、彼女の熱は引いた。桜華も桜華で、安心した顔をして眠っていた。

 

 

水の入った桶を手に、才蔵は部屋を出た。

 

 

「才蔵!」

 

 

出て来た彼の元へ、鎌之介と大助は駆け寄ってきた。

 

 

「シッ!

 

静かにしろ。今眠ってるんだから」

 

「桜華の奴、大丈夫なのか?」

 

「熱は下がった。

 

あとは自然に起きるのを待つだけだ」

 

「本当?!

 

じゃあ、桜華はもう大丈夫なの!?」

 

「大丈夫だ。

 

ほら、ここで騒ぐな。桜華が起きちまうだろう」

 

 

騒ぐ二人を押しながら、才蔵は桜華の部屋を離れた。

 

 

 

一滴の雫が、水に落ち水波が起きた。水の音で桜華は目を開けた。辺りは暗く自分は、水の上で眠っていた。

 

 

(ここ……どこ?

 

 

?誰?)

 

 

水面に立つ男女三人の子供……一番後ろにいた少年は、振り返り桜華に手を差し伸べた。

 

手を掴もうとした時、桜華の手を横から誰かが握った。彼女はその手の方に顔を向けた。

 

黒く染まった一人の女性……女性は不敵な笑みを浮かべると、口を桜華の耳元へ持っていき囁いた。

 

 

『また、自由を奪われたいの?』

 

「自由……」

 

 

蘇る記憶……手脚に枷を着けられ、牢に閉じ込められる幼い自分。扉が開く音が聞こえ、顔を上げた。格子に寄ってくる一人の女性……彼女は格子の間から幼い自分に向かって、手を伸ばしてきた。幼い自分は立ち上がり、伸ばしてきた女性の手を握りながら、手を伸ばした。

 

女性に抱き締めて貰いたい……その思いが、桜華の心に響いた。

 

 

「……私……」

 

『それはあなたが見つけなさい……』

 

「……」

 

『真実を知れば、あなたは必ず私の元へ来るわ』

 

「……真実?

 

それって……」

 

 

振り返る桜華……だが、あの黒く染まった女性は消えていた。ふと目を向けると、水の上に一本の桜の木があった。その木の傍には、一人の少女が蹲っていた。

 

その時、どこからか微風が吹き、桜華の髪を靡かせそして桜の花弁を舞い上がらせた。

 

 

『また来ましょうね。

 

桜を見に。三人で』

 

 

優しい声が響き、桜華はゆっくりと目を開けた。障子の隙間から差し込む夕陽が、部屋を照らした。

 

 

(夢?)

 

 

目を擦りながら、起き上がった。その音に気付いたのか、障子を器用に開けながら、縁側で寝ていたレオンが入ってきた。レオンは桜華の頬を舐め攻め、くすぐったいのか彼女は笑いながら、それを阻止しようとレオンの顔を手で抑えた。

 

 

笑い声に応えるかのように、外に生えていた木や草花が風に揺られた。庭にいた六助は、風に揺られる草木を見ながら、ふと桜華の部屋を見た。

 

彼女の笑い声に、六助は思い出に浸った。

 

 

馬とじゃれ合う幼い蓮華。彼女が笑うと不思議と周りにいた仲間達も笑った。

 

 

(……蓮華)

 

 

お握りが乗った皿を持ち歩いていた才蔵は、彼女の笑い声に気付き部屋へと急いだ。中を覗くと、レオンに倒される桜華が笑いながら、レオンの顔を撫でレオンはそんな彼女の顔を舐めた。

 

 

「あ、才蔵……」

 

 

レオンは才蔵に気付くと、桜華から離れ彼女の膝に頭を乗せた。

 

 

「何だ……

 

結構良くなったみたいだな」

 

「……」

 

「ほら、お握りだ」

 

 

差し出されるお握りを桜華は見つめた。そして才蔵の顔を見上げた。すると自然に目から涙が流れ落ち、桜華はレオンを退かし才蔵に飛び付いた。飛び付いた拍子に、才蔵は持っていたお握りと皿を落とした。

 

 

「桜華……」

 

「……

 

 

いなくなったり、しないよね?」

 

「……しねぇよ」

 

 

その言葉を聞いた時、桜華の首から下がっていた勾玉が光り、体の痣が薄くなった。

 

 

「あー!

 

桜華の奴が起きた!!」

 

「鎌」

「ヒャッホー!!」

 

 

才蔵を飛び越え鎌之介は、桜華に飛び付いた。飛び付かれた勢いのまま、桜華は床に倒れ鎌之介はその拍子に顔をぶつけた。そんな彼を見て、二人は吹き出し笑い出した。

 

 

「随分と賑やかだのぉ」

 

 

そう言いながら、三人の前に現れたのは幸村だった。

 

 

「幸村!」

 

「体は、大丈夫みたいだな?桜華」

 

「……」

 

「大助も心配しておる。早く」

「あ!桜華!

 

気が付いたんだね!」

 

 

幸村の横から顔を出した大助は、起きている桜華を見ると一目散に彼女に駆け寄った。

 

 

「もう起きて大丈夫なの?!」

 

「う、うん」

 

「良かったぁ!

 

ねぇ!また川に遊びに行こう!」

 

「あ!それ、俺が言おうと思ったのに!」

 

 

大助と鎌之介の騒ぐ姿を見ながら、桜華は笑った。そんな彼女の姿に、幸村はしゃがみ才蔵に小声で話した。

 

 

「あの爆発を起こして、何かが吹っ切れたみたいだな」

 

「あぁ……そうみてぇだ」

 

「けど、まだ油断する出ない。

 

またいつ、あの爆発を起こすか」

 

「起こさせねぇように、俺が就くんだろ?アイツに」

 

「流石、お主は理解が早いわい」

 

「お前に何年仕えてると思ってんだ?幸村」

 

「そうだの」

 

 

「幸村様」

 

「?」

 

 

外に顔を向けると、縁側を歩いて来る侍女がいた。

 

 

「文が届いております」

 

「ふむ、ご苦労」

 

 

一礼すると侍女は仕事場へと戻った。侍女から受け取った文を広げ中を読む幸村。

 

 

「幸村、何だ?」

 

「ん?

 

ん~……茶会の招待状だ」

 

「茶会?」

 

「まぁ、後日話す。

 

大助、そろそろ佐助に刀の稽古を付けて貰え」

 

「えぇー!」

 

「文句を言うな。

 

鎌之介、お主は森で見張っている佐助と交代だ」

 

「はぁー!!」

 

「オラ、主の命令だ。とっとと動け」

 

「才蔵から言ってよ!

 

佐助に、少しは手を抜くように!」

 

「若君が何甘ったれたこと言ってんだ!」

 

「あ~、何で見張りなんだ……

 

見張りはつまんねぇんだよなぁ」

 

 

幸村は六郎の名を呼びながら部屋へと戻り、文句を言う二人の背中を押しながら、才蔵は部屋に残る桜華を見た。

 

 

「まだ寝てろ。

 

あとでお握り持ってきてやるから」

 

 

そう言うと、まだ文句を言う二人を押しながら才蔵は障子を閉め部屋を離れた。

 

いなくなり、静かになった途端桜華は激しい眠気に襲われた。ウトウトする彼女をレオンは舐め後ろへ移動すると、そこに伏せた。伏せたレオンの背中に頭を乗せた桜華は、そのまま眠りに入った。




才:雑談コーナー!

いや~!今回の話しで、桜華の奴が笑うようになって良かった!

氷:そうね!笑えば、あとは何とかなるわ!

才:そういえば、狐は?

猿:その狐から文が届いてる。

才:何だ?

えーっと『前に登場した六助の紹介をお願い。

私、今回は忙しくて出られそうにないから』だとさ。

氷:佐助、この手紙はどうしたの?

猿:鼬の首に巻かれてた。

才:何?!アイツ、忍なのか?!

猿:知るか。それより、早く六助を紹介しろ。

才:分ーったよ。

えぇ、ゴホン!ご紹介します!

元武田に仕えていた侍・望月六助(モチヅキロクスケ)さんです!

望:随分前にも、同じ事があったが?

才:そん時の続きだ。

えーっと、六助さんは桜華を知ってるみたいだけど、どこまで知ってるんだ?

望:拙者が知っているのは、桜華の母親の蓮華と父親だけだ。

猿:父親?

そういえば、父親って生きてるのか?

望:拙者の口からでは、何も言えない。

才:そんじゃあ、母親のこと聞かせてくれよ。

望:その話は、いずれ本編で話す。

才:何でだよ!!

氷:そろそろ時間ね。

読者の皆さん、また次回!


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いざ、京都へ

「幸村、一つ文句言っていいか?」

「ん?何だ?」

「何で、桜華を連れてくんだよ!!しかも、本人の返事も聞かずに!!」


晴れた空の下……山中を、馬に乗り移動していた才蔵は、前を歩いていた幸村に怒鳴った。


話は今朝に遡る。


『京都?』


才蔵のお握りを食べていた桜華は、幸村の言葉を繰り返しながら彼の方を見た。


『そうだ。

才蔵とお主、儂と六郎、そして大助と清海……この六人で行く』

『何で俺は行けねぇんだよ!!』

『黙ってろ!!』


後ろで騒ぐ鎌之介を、甚八は抑えながら怒鳴った。


『どうだ?行くか?』

『嫌だ』

『っ……若』

『さ、才蔵がおるのだぞ?』

『嫌だ。

都嫌い』

『何だ?京都に行ったことあるのか?』

『一年間、そこで隠れて住んでた。

だから、嫌い』


ふと蘇る記憶……大人から暴力を受け、傷だらけの体を井戸の水で洗い手当てした。


『ふぅー。そうか、困ったのぉ』

『変わりに、鎌之介』

『お!俺行けるか?!』

『だから、行けねぇんだよ!お前は!』


才蔵のお握りを食べ終えた桜華は、才蔵からお茶を受け取りそれを飲んだ。

すると、桜華は持っていた湯飲みを落とし力無く倒れ、そのまま眠ってしまった。


『いやー、凄い効き目だ』

『流石、甲賀の忍ですね』

『な、何煎れたんだ?このお茶に』

『佐助が作った睡眠薬。

ほれ、桜華を抱えて早く出発するぞ』

『幸村!!』


不機嫌な顔を浮かべながら、才蔵の馬の上で蹲る桜華。

 

 

「桜華、そろそろ機嫌直してよー!

 

父上のやったことは、オイラが詫びるからさ」

 

「……」

 

 

大助の言葉に、桜華は顔をそっぽに向けた。そんな彼女に、才蔵は苦笑いを浮かべ大助は先に歩いている幸村の方へ馬を行かせた。

 

 

「父上、桜華相当機嫌悪いよ」

 

「困ったのぉ……」

 

「だから、無理に連れて行くのは止しましょうと、先に言いましたよね?」

 

「……」

 

「六郎の忠告を聞かなかったんですか?!」

 

「……空が青いのぉ」

 

「父上!!」

「幸村様!!」

 

 

才蔵の馬の上で蹲っていた桜華は、何かの気配に気付いたのか顔を上げ、森の方を見た。

 

 

「桜華、どうかしたか?」

 

「……何か居る」

 

「?!」

 

 

その言葉に、才蔵は森の方に目を向けた。森の中から聞こえてくる草を踏む音……

 

 

(足音からして、一人……

 

気付いてるのは、俺と桜華の二人だけか)

 

「才蔵……」

 

「今は気にするな。

 

相手も、攻撃する気配がない」

 

「……」

 

 

町へ着いた才蔵達……

 

外の席で桜華と才蔵は座り、お昼を注文した。そんな彼等の様子を離れた蕎麦屋から、何者かが見張っていた。

 

 

『異端の子だ』

 

「?」

 

 

お昼を食べていた時、その声が桜華の耳に響き箸を休め歩く人を見た。

 

 

『異端の子だ』

 

『赤き瞳だ』

 

『早く出て行け!!

 

この異端が!!』

 

 

器を置きながら、桜華は腹部を抑えた。

 

 

「桜華、どうした?」

 

「……何でもない」

 

 

食べ終えた才蔵達は、再び馬を歩かせた。桜華は才蔵の馬の上で、馬に登ってきた鼬の群れと遊んでいた。

 

 

「ようやく、機嫌直ったみたいだね!」

 

「……」

 

「桜華!」

 

「まだ機嫌は直ってないみてぇだな」

 

「どうするおつもりですか?幸村様」

 

「……どうしようのぉ(ここまで機嫌が悪くなるとは……)」

 

 

『蓮華!機嫌直せよ!』

 

『知らない。もう弁丸のことなんか』

 

『蓮華ぁ!』

 

 

ふと思い出す過去……木の上で不機嫌な顔を浮かべる蓮華。

 

 

(そっくりだわ……あの機嫌の損ね方)

 

 

その時、爆弾が着いたクナイが地面へ突き刺さり地面を爆破した。馬は驚き暴れ出し、才蔵達は馬を落ち着かせようと手綱を引いた。

 

 

「な、何だ?!」

 

「桜華!大助の馬に移れ!

 

才蔵!」

 

 

馬を落ち着かせた才蔵は、ポーチからクナイを取り出し放ってきた方に向けて投げた。茂みに潜んでいた輩は、クナイを弾き飛ばし、幸村達の前に姿を現した。

 

覆面をし、殺気に満ちた目で桜華を見つめる輩。その輩の目を見た瞬間、桜華は怯えだした。

 

 

「……ほー。

 

やっぱあの時のガキか」

 

「……」

 

「テメェ何者だ!!」

 

「売人……とでも言っとくか」

 

「売人?」

 

「戦や口減らしで捨てられた子供を保護して、その子供を殿方に売るんだ。

 

そこにいるガキは数年前に見つけて、高値で売ろうと思ったんだけど……どうにも手の着けられねぇほどの実力者で!」

 

 

一瞬で才蔵を投げ倒すと、桜華に歩み寄った。

 

 

「さぁ、来て」

 

 

そう言い掛けたが、輩は口から血を出すとそのまま倒れた。すると茂みから音が聞こえ、幸村達はすぐに茂みの方に目を向けた。

 

 

「桜華!無事か?!」

 

 

出て来たのは、鎖鎌を持った鎌之介と鉄棍棒を持った伊佐道、そして笠を被った六助だった。

 

 

「お前等!!」

 

「危なかった!才蔵!

 

これで一つ貸しな!」

 

「知るか!!

 

つーか、何でお前等がいんだよ!!」

 

「このオッサンが、出たんだ!それでついて行ったんだ!」

 

「僕は二人を連れ戻そうとして」

 

 

二人が向ける方にいた六助は、輩の後ろ首に突き刺さっていた小太刀を抜いた。

 

抜くと鞘にしまい、前に浅い息をする桜華の前にしゃがみ、彼女の顔に付いた血を拭き取った。

 

 

「お前か。ずっとついてきてたのは」

 

「やはり気付いていたか」

 

「先に気付いたのは、桜華だけどな」

 

 

六助を見つめる桜華……彼女の顔は強張っていた。

 

 

(違う……

 

こいつ等の気配じゃない。まだ、いる……まだ)

 

 

桜華はゆっくりと、林の方に目を向けた。林には何かがいる気配はなく、静まり返っていた。

 

 

「どうする幸村?

 

この馬鹿と伊佐道達」

 

「城に帰って貰いたいが……」

 

「絶対嫌だ!!俺も京都に行く!!」

 

「拙者は桜華に就くだけだ」

 

「って、言ってるけど……どうする?」

 

「やはりその返事か……

 

仕方ない。儂と才蔵の言う事を訊くというのであれば、着いてきても良い」

 

「イヤッホー!!」

 

 

跳び上がりながら、鎌之介は大喜びした。

 

 

「さ、行くぞ」

 

「鎌之介はオイラの馬に乗って!」

 

「応よ!」

 

「伊佐道と六助は清海と共に、徒歩でお願いします」

 

「分かりました」

「御意」

 

「桜華、行くぞ!」

 

 

才蔵に呼ばれ、桜華は林を気にしつつ馬に乗った。各々の馬に乗り出発した。




才:雑談コーナー!

桜華を連れて、京都に行くことになったけど……お荷物が一人増えた。

鎌:何だよ!!その言い方は!!

狐:皆~。お久し振り~。

全:狐!

狐:前回ごめんね。出られなくて。

六:何をされていたんです?

狐:ちょっとドタバタがあってねぇ。

それで。

才:へ~。てっきり、学校が忙しいのかと思った。

狐:もちろん学校は忙しいよ。

それよりも大変なことが起きたんだよ……

才:何だ?

狐:それがねぇ
猿:お前の私生活なんざ、興味ない!!

狐:佐助に酷いこと言われたので、次回からこのコーナー無しにします。

全:え?!

狐:文句は佐助に行って下さい。

猿:ま、待て!俺は。
全:佐助ぇ!!
才:猿ぅ!!

狐:読者の皆さん、またね!


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竜との再会

数日後……


夕方、幸村達は京都へ無事到着した。


「ヒャッホー!!着いたー!!」

「あ!待ってよ、鎌之介!!」

「ちょ!大助様!」


馬から下り駆け出した二人の後を、伊佐道は清海と共に追い駆け、掴み捉えた。


「勝手な行動はやめて下さい!」

「大助様に何かあってからでは、遅いんですよ!!」

「お前等!!俺は無視かよ!!」

「町のど真ん中で騒ぐな、お前等!!」


夜……眠っていた桜華は、目を覚まし起き上がった。上着を腕に通し、フードを深く被り枕元に置いていた襟巻きを、首に巻き刀を手に才蔵を起こさぬように部屋を出た。

廊下を歩いていると、背後から床の軋む音が聞こえ警戒しながら、桜華はゆっくりと刀の束を握った。


「刀から手を離しなさい……」

「……」


聞き覚えのある声だったが、桜華は束を握りながら後ろを振り返った。そこにいたのは、着流しに身を包んだ六助だった。


「六助……」

「こんな夜更けにどこへ?」

「……散歩」

「それは奇遇です。

拙者も散歩します。一緒に参りましょう」


夜道を歩く二人……


「……なぁ」

「?」

「何で、今頃……」

「……」

「何で今頃、私の前に現れたの」

「……光坂一族は、決して武田以外の大名の手に渡っていけない一族。

拙者は、そう聞かされてきた」

「何で?

光坂って何なの?何で、他の大名には」

「それは知りません。

昔から、そう言われてきた」

「……でも、何で私が生きてるって……

何も覚えて無いけど……」

「蓮華は、自分の命を変えてでも家族を守るくノ一だ。

お前を生かすに決まっている」


そう言いながら、六助は桜華の頭に手を置いた。


翌朝……

 

 

「大助!早く来いよ!!」

 

「待ってよ!鎌之介!」

 

 

部屋を飛び出し、鎌之介と大助は階段を駆け下りた。清海は畳んでいた布団を置き手すりから身を乗り出し叫んだ。

 

 

「玄関口で、待っていて下さいよ!!」

 

 

「それでは、皆の事を頼むぞ。才蔵」

 

 

袴を着ながら、幸村は才蔵にそう言った。

 

 

「へいへい。了解しました」

 

「あと、刃傷御法度の布令が出た。

 

この町で、決して刀を出さぬように」

 

「へーい」

 

「桜華にも言っておくのだぞ。

 

あ奴のことだ。敵に出くわしたら、絶対刀を持ち抜く」

 

「俺が預かっとくよ」

 

 

「ワァァア!!」

 

 

突然下から叫び声が聞こえ、才蔵は部屋を飛び出し下へ降りた。

 

 

「才蔵ぉ!」

 

 

降りてきた才蔵に、大助は駆け寄り後ろに身を隠した。

 

 

「よぉ、真田」

 

「?!

 

だ、伊達政宗!!」

 

 

長刀を担ぐ政宗は不敵な笑みを溢しながら立っていた。

 

 

同じ頃、部屋で眠っていた桜華は下の騒ぎに目を覚まし起き上がった。その時、背後から口を塞がれ暴れようとした瞬間、目の前に現れた忍に手を掴まれ抑えられた。

 

 

「へー、これが殿が言ってた真田の」

 

「確かに、赤い目だな。

 

光坂一族の特徴の一つ」

 

 

掴まれていた腕を離そうと、桜華は暴れた。だが、忍の力が強く数秒も持たずに暴れるのをやめてしまう。

 

 

「さぁて、一緒に来て貰おうか」

 

 

忍が持ち上げようと手を離した隙を狙い、桜華は手から雷を放った。二人は体に電気を浴び、その場に倒れ離れたのを機に、桜華は部屋を飛び出した。

 

その音に、才蔵は大助を鎌之介に渡し、階段を駆け上がった。上へ上がると、廊下の隅に刀の束を握る桜華と、部屋から出て来た二人の忍がいた。

 

 

「桜華!!」

 

 

クナイを出そうとした才蔵……その時、床から草が生え伸び才蔵と桜華の手に巻き付いた。

 

 

「そこまでだ」

 

「幸村……六郎さん」

 

「この町で刃傷御法度の布令が出ている。

 

才蔵、すぐにクナイから手を離し、桜華の傍に行け」

 

 

印を結んでいた六郎は、何かを切るようにして腕を振った。すると草は切れ、動きが取れる様になった才蔵は、二人の忍を睨みながら、隅で震えている桜華の元へ行った。

 

 

「殿ー!

 

すいません、ちょっとヘマしちゃいました」

 

 

そう言いながら、二人の忍は階段を飛び降り政宗の横に立った。

幸村は六郎と共に下へ降り、政宗を見た。

 

 

「儂の大事な勇士に、手を出すのはやめて貰おうか?」

 

「あぁ、悪い悪い。

 

こいつ等に、あのガキのこと話したら見てみてぇって言うもんでな」

 

「……詳しい話は、茶会の会場に向かいながら話そう」

 

「その前に、ガキに会わせろ。

 

一度は俺のものになったガキだ」

 

「それは無理だ。今は儂のもの」

 

「……」

 

 

不機嫌な顔を浮かべながら、政宗は外へ出た。彼の後に、幸村と六郎はついて行った。伊佐道の後ろに隠れていた大助は、深く息を吐きその場に座り込んだ。

 

 

「こ、怖かった~」

 

 

清海は上へと上がり、廊下の隅にいる才蔵の元へ行った。

 

 

「桜華は大丈夫か?」

 

「あぁ。今落ち着いたところだ」

 

 

桜華は才蔵に抱き着きながら、深く息をしていた。

 

 

「清海、お前は大助についててくれ。無論伊佐道と鎌之介も。

 

俺は六助さんと桜華についてる」

 

「分かった」

 

 

清海と入れ違いに、下にいた六助は上がり才蔵の隣へ立った。才蔵は彼に、桜華から預かった刀を差し出した。

 

 

「預かっててくれ」

 

 

そう言われた六助は、黙って刀を受け取った。

 

 

「何で刀……」

 

「しばらくの間、この町で刀を抜いちゃいけないんだ」

 

「……」

 

「この町にいる間は、絶対離れるな」

 

「……うん」

 

 

 

茶会の会場に着いた政宗と幸村……二人は一言も喋らず、ここまで歩いてきていた。

 

すると幸村は、懐から扇子を出し先端を政宗に向けた。

 

 

「二度と儂の勇士に手を出すな」

 

「……それは無理な願いだ。

 

俺も欲しいんでね。光坂の力」

 

「……」

 

「あのガキ、光坂だろ?

 

赤き瞳を輝かせ、自然の神達から力を借り多数の技を出す忍……かつて、武田にしか仕えなかった。

 

なぜだか分かるか?」

 

「さぁな」

 

「あいつ等は、極大な力を隠していた……武田はそれを知っていた。だから、光坂は武田にしか仕えなかった」

 

「それが本当であれば、光坂はその力の恐ろしさを知っていた。だから縁の深い武田に身を置いたのだ」

 

 

「真田殿!伊達殿!」

 

 

会場から出て来た部下に、二人は話すのをやめた。

 

 

「家康様がお待ちです。

 

すぐに中へ」

 

「分かった」

 

「この話は後だ」

 

「お主に話すことなど、何もないわい」

 

 

睨み合いながら、二人は会場へ入った。そんな様子に六郎は軽くため息を吐き、政宗の傍にいた忍達はいつの間にか消え、残っていたのは小十朗只一人だった。彼も彼で、呆れたようにため息を吐いた。




狐:キャラ紹介するよー。

ではどうぞ↓


名前:根津甚八(ネヅジンパチ)
年齢:34歳
使用武器:槍
容姿:青がかった黒髪を耳下で結い、右目に出来た傷痕を隠すようにして、前髪を垂らしている。目はオッドアイで右眼が金色、左目が青色。長年海に出ているせいか、肌が若干黒い。
服装:白い袖なしの服に肩にファー付きのコートを掛けている。下は白い長ズボンに、ハーフブーツを履きその中に裾を入れている。手には手袋を嵌め右手には青いブレスレットをしている。首には羽根の飾りが着いた黄色いペンダントを下げている。


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生き残り

崖から京都を見下ろす一人の少年……


「京都か……

(桜華……お前がここへ来るとは)」


町の中を歩く才蔵達……

 

 

「おー!!鎌之介!見てみて!

 

ほら、凄い刀だよ!」

 

「本当だ!!スゲェ!!」

 

 

長刀が飾られている店に立ち止まり、二人は興奮していた。

 

 

「ったく、本当にガキだな」

 

「そう言うな。

 

いずれは、上田を継ぐ殿だぞ」

 

「未だに佐助の刀で、ビービー泣いてる奴だぜ?」

 

「大助様は、のんびりとしたお方。

 

すぐに強くなりますよ」

 

「へいへい、そうかい」

 

 

「あ!さっきのガキ!」

 

 

その声の方に顔を向けると、そこに見覚えのある二人の男がいた。二人の男に、桜華は才蔵にしがみつきながら後ろに隠れた。

 

 

「え?!その反応かよ!」

 

「当たり前だ!!お前等に襲われてんだから」

 

「あれは殿の命令で」

 

「信用できるか!!

 

清海」

 

「分かった」

 

 

才蔵に言われた清海は伊佐道と共に、店の前にいる大助達の元へと行った。

 

 

「今は刀を抜いちゃイケないから、何も攻撃はしない」

 

「だからさ!さっきの詫びに、茶屋に行こう!もちろん、俺達のおごりで」

 

 

笑いかける男だが、桜華は激しく首を左右に振り才蔵にしがみついた。

 

 

「うへー……スッゲェ警戒されてる」

 

「ま、そうだろうな。

 

伊賀の者と手合わせたかったが、今は刀を出しちゃいけないらしいからな」

 

「そりゃあこっちのセリフだ」

 

「……あ!ねぇ、ちょっと待ってて!!」

 

 

男の一人はそういうとどこかへ行ってしまった。その隙に桜華は、才蔵から離れ逃げ出した。

 

 

「桜華!!」

 

「拙者が追う」

 

「頼んだ!」

 

「ア~ララ、逃げちゃった」

 

「テメェ等のせいだろうが!!」

 

「おいおい、あれは殿の命令で動いただけだ。

 

恨むなら、殿を恨んでほしいよ」

 

「とか言っときながら、桜華に興味があったんだろ?!」

 

「そりゃあね。

 

だって、忍の世界では超有名だったじゃん。光坂一族。

 

 

その生き残りがいるっていうなら、尚更興味がわくよ。どういう子なのかとかね」

 

「んの野郎!!」

 

「いちいち怒らないで。

 

伊賀の忍って、怒りっぽいんだね」

 

「うるせぇ!!」

 

 

「あれ~?さっきのガキは?!」

 

 

紙袋を抱え帰ってきた男は、辺りをキョロキョロと見回しながら才蔵ともう一人の男の間に降り立った。

 

 

「逃げましたよ」

 

「ゲッ!マジかよ!

 

せっかく、アイツの為にお菓子買ってきてやったのに」

 

「言っとくが、桜華は菓子食わねぇぞ」

 

「えぇ?!嘘ぉ!!

 

……勿体無いから、あげるよ。あのチビ達にでもあげて」

 

 

そう言いながら、男は紙袋を才蔵に無理矢理渡した。

 

 

「さ、行きましょう。

 

伊賀の忍さんは、御立腹のようだから」

 

「うるせぇ!!」

 

「じゃあな!」

 

 

笑みを浮かべながら、二人は才蔵の前から立ち去った。

 

 

 

町を走る桜華……息を切らし、路地裏で膝に手を付きながらその場で立ち止まった。その後を追っていた六助は、彼女の後ろで息を切らしながら立ち止った。

 

 

「……?」

 

 

ふと顔を上げた桜華の目に映ったのは、古ぼけた井戸だった。

 

 

「使われなくなった井戸のようだな」

 

「使われてないの?」

 

「ロープが腐っている。それに、所々に草が生えてる。

 

使われなくなってから、もう数年経っているだろう」

 

「三年……」

 

「?」

 

「多分、三年だと思うよ……

 

ここで、よく傷口洗ってたから」

 

「……」

 

 

暴力を受けた桜華は、いつもここの井戸へ来て水で冷やしたり傷口を洗っていた……その事を、桜華は思い出した。

 

 

「……

 

 

才蔵の所に、戻る」

 

「そうだな……アイツも心配している」

 

 

差し伸べてきた六助の手に自身の手を伸ばしながら、彼に寄ろうとした時だった。

 

 

「?!」

 

 

後ろから何者かに腕を掴まれた。桜華はゆっくりと後ろを振り返った。そこにいたのは、目元だけの面を着け、黒く長い髪を耳上で結い、白いフードつきのマントを羽織り、フードを深く被った少年が立っていた。

 

 

「やっと見つけたぞ……桜華」

 

 

 

その頃、茶会の会場では……

 

 

家康のつまらない話を、幸村はあくびをしながら聞いていた。そんな彼に、六郎は扇子を出しそれで頭を思いっ切り叩いた。その様子を見ていた他の大名は、吹き出し堪えるようにして笑った。

 

 

「叩かなくてもよいだろう……」

 

「叩かれたくなければ、キチンとお話を聞きなさい」

 

「……」

 

 

話が終わると、大名達は茶を飲みながら他愛のない話をしだした。

 

 

「そういえば、幸村。

 

お前、聞いたか?」

 

「?何をだ?」

 

「光坂一族の事」

 

「あぁ、四年前に滅んだ一族だろう?それがどうかしたのか?」

 

「生き残りがいるらしい」

 

「?!」

 

「ここ四年の間、各地で目撃情報が相次いでいる。

 

白いマントに身を包み、目に目元だけの面を着けているらしい」

 

「……」

 

「しかも、目撃された者達は皆、子供らしい。

 

十代半ばの」

 

「十代半ば(桜華も、それくらいに匹敵するが……)」

 

「まぁ、生きていようがいまいが、あいつ等が従うのは武田ぐらいだ。

 

 

そうだっただろう?幸村」

 

「……

 

 

まぁ、そうだのぉ」

 

 

ふと蘇る過去……一族は武田はもちろん、武田に関わっていた武家達の命令も聞き入れていた。決して武田だけしたがっていたわけではなかった。




狐:……

才:なぁ狐、頼むから機嫌直してくれよ!この通りだ!

狐:……

大:何か、機嫌損ねた時の桜華みたい……

才:おい猿!何とかしろ!

もとあと言えば、お前のせいなんだぞ!

猿:俺は無実だ!!

氷:素直に謝りなさいよ。

甚:往生際が悪いぞ。

猿:何でそうなるんだ!!

才:お前のせいで、雑談コーナーが出来ないんだぞ!!

六:前回は、人物紹介だけして終わりましたからね。
誰にも相談しないで……

才:あーあ。誰かさんのせいで、狐が勝手な行動をし始めた。

猿:……

氷:時間をあげるから、どうにかしなさい。

猿:何で俺なんだ……

鎌:そりゃあそうだ。

お前のせいなんだから。

猿:だから、俺は無実だ!!


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冷たい風

腕を掴まれる桜華……咄嗟に彼女は振り払い、少年を見つめた。


「何をそんなに警戒している」

「……」

「やっと見つけた……

桜華、俺と一緒に来い」

「……ナイ」

「?」

「お前なんか、知らない!!」


そう言うと、桜華は駆け出した。その後を少年は追い掛けようとしたが、そんな彼を六助は阻止し懐から出したロープで彼を拘束した。


「どこの輩かは存知ないが、あの子を連れて行こうというのならば、命は無いと思いなされ」

「……」

「さぁ、その顔を見せて貰う」

「や、やめろ!!」


暴れる彼の面を、六助は外した。外した瞬間、六助は目を見開いて驚いた。


「お、お主……」


町を駆ける桜華……彼女の脳裏には、三年前の記憶がフラッシュバックに蘇った。

 

道を歩く自分に、住民は出て行けと言うように石などを投げ付けた。体中にいつも痣を作っていた桜華は、隠れるようにして路地裏で、誰も使われていない井戸の水で、傷痕を冷やした。冬には皮膚がひび割れ、指先がいつも血で滲んでいた。

 

 

走り疲れた桜華は、息を切らしながらその場に手を膝に付け息を調えた。

 

 

「あれ?桜華」

 

 

その声の方に目を向けると、飴をなめる鎌之介がいた。彼は息を切らしている桜華の元へと駆け寄った。

 

 

「どうしたんだよ?

 

こんな所に一人で」

 

「……」

 

「あれ?才蔵と六助の野郎は?

 

一緒じゃないのか?」

 

「……」

 

「桜華?」

 

「……」

 

 

ふと桜華の手を見ると、彼女の手は微かに震えていた。それを見た鎌之介は、持っていた袋から飴を出し彼女に渡した。

 

 

「これでも舐めて落ち着け!

 

なぁに、才蔵の所にこの俺が連れてってやるよ!」

 

 

そう言いながら、鎌之介は桜華の頭に手を置き笑みを見せた。そんな彼に、桜華は小さく頷き貰った飴を口に入れた。

 

 

夕方……

 

 

「オーイ。戻っ」

「お前等はここで待ってろ!!」

 

 

幸村が帰ってきたと同時に、才蔵は宿を飛び出した。

 

 

「どうしたのだ?才蔵は」

 

「それが……」

 

 

階段から降りてきた大助は、心配そうな顔をしていた。

 

 

「大助、どうした?」

 

「桜華が、帰ってきてないんだ」

 

「!」

 

「桜華だけじゃない!

 

鎌之介も六助も……」

 

「帰ってきてないのを知って、才蔵が今探しに」

 

「……清海と伊佐道も探してきてくれ」

 

「分かりました」

「はい」

 

「お、オイラも!」

 

「大助は儂と留守番だ。

 

もし三人が帰ってきた時、誰もいないと心配になるだろう?特に桜華は」

 

「う、うん……」

 

「二人共、頼みましたよ」

 

「あぁ。伊佐道」

 

「はい」

 

 

二人は靴を履き、外へ出ると別れて走り出した。

 

 

暮れる町……その隅にある井戸の前に、鎌之介と桜華はいた。井戸の水を汲み、鎌之介は頭に巻いていた鉢巻を取り、それを水に浸すと蹲り座る桜華の前にしゃがみ痣だらけになっていた彼女の腕を掴み、付いている泥を拭いた。

 

 

「……桜華、立てるか?」

 

「……」

 

「……

 

さ、才蔵探しに行ってくるから、ここで……!」

 

 

震える手で、桜華は立ち上がった鎌之介の服の裾を握った。

 

 

「……来たくなかった」

 

「……」

 

「三年前……

 

この姿見て、皆私のことを異端な存在だって言って、殴ってきた。

 

 

何か事件が起きると、いつも私のせい……だから、この国を出た」

 

 

その言葉に、鎌之介は自身の過去を思い出した。

目の前で血塗れになり倒れた二人の男女と、鎌で人を刺す幼い自分……

 

 

「……桜華、才蔵の所に行こう」

 

「……」

 

「立てねぇなら、俺が背負ってやるから……な?」

 

 

鎌之介の手を借りながら、桜華はふらつきながら立ち上がった。顔に出来た痣を隠すようにして、襟巻きを顔に巻き彼と共に歩き出した。

 

 

角を曲がろうとした時だった。

 

 

「!才蔵!!」

 

 

才蔵の駆ける姿を目にした鎌之介は、彼の名を呼び叫んだ。声に気付いた才蔵は、足を止め振り返り二人を見た。

 

 

「桜華!!鎌之介!!」

 

「才蔵、俺……俺」

 

「何も言うな。訳は帰ってから聞く。

 

 

?!

 

鎌之介、桜華の顔どうしたんだ?!」

 

 

襟巻きを取り、才蔵は桜華の顔の痣に触れた。

 

 

「悪達に絡まれて、そしたら……

 

桜華のこと」

 

「暴力を受けたって事か」

 

「……うん。

 

俺、俺」

 

「説明は後でいい。

 

誰も責めはしない」

 

 

戸惑う鎌之介の頭に手を置きながら、才蔵はそう言った。鎌之介は、落ち着こうと浅く息をしながら小さく頷いた。

 

桜華を抱き上げ、才蔵は鎌之介と共に宿へ帰った。

 

 

 

「鎌之介!!桜華!!」

 

 

宿へ戻ってきた鎌之介に、大助は駆け寄った。隣で才蔵は靴を脱ぎ、黙ったまま部屋へと戻った。

 

 

「桜華も一緒だったんだ!

 

よかった!二人共無事で!」

 

「……」

 

「鎌之介?どうかしたか?」

 

「……」

 

「鎌之介?」

 

「……

 

鎌之介、もう部屋で休みなさい」

 

 

六郎の言葉に、鎌之介は小さく頷くと部屋へと戻った。

 

 

それから間もなくして、清海達は戻ってきた。二人は桜華達が戻ってきた事を聞くと、安心しホッと胸をなで下ろした。

 

 

夜、虫の音が響く中鎌之介は布団の中で丸まり眠っていた。

 

 

『お前が両親を殺したのか!』

 

『違う!!俺じゃねぇ!!』

 

『じゃあなぜ、ここで人が死んでいる!!』

 

『それは、こいつが』

 

『お前しかいないんだ!!』

 

『この人殺しが!!』

 

『二度と俺達の前に姿を見せるな!!』

 

 

『大丈夫か?』

 

 

何かを思い出したかのようにして、頑なに閉じていた目を開き、鎌之介は飛び起きた。隣では清海と伊佐道が眠っていた。

 

息を切らしながら、鎌之介は立ち上がり二人を起こさぬようにソッと部屋を出た。

 

 

 

場所は変わり、どこかの森……月明かりが差し込む広場に、六助は昼間に会った少年と一緒にいた。

 

 

「まさか……」

 

「そのまさかです……

 

桜華は、大名に知られちゃいけない存在なんです

 

 

元武田だったあなたなら、分かりますよね?この意味」

 

「……」

 

「かつて、桜華の母親も」

 

 

話すと共に風が吹いた。その言葉に、六助は耳を疑い驚いた。

 

 

「それが本当なら……

 

なぜ、今頃になって桜華を!!」

 

「こちらも、まさか生きていたとは思いませんでした。

 

あの炎の中、生き残る者などいやしないと思いましたし」

 

「……」

 

「そういうあなたは何故、あの子の傍に?」

 

「拙者は蓮華に頼まれたのだ。

 

自分に何かあったら、子供を頼むと言われ」

 

「そうですか……

 

後日、上田へお伺いします」

 

 

そう言うと、少年は風を起こしその場から姿を消した。六助は思い詰めた顔をしながら、その場を立ち去った。




才:雑談コーナー!!

ついに復活だぁ!!

猿:何で俺が、あんな事を……

氷:そう言わずに。また出来るんだから喜びなさいよ!

鎌:復活した記念に、何話すんだ?

才:俺は、狐に聞きたいことがある!

狐:?何だ?答えられる範囲ならいいぞ。

才:狐は、何でこの『十勇士』を書こうと思ったんだ?

氷:それ、私も気になったわ。

大:オイラも!

狐:普通にノリで。

甚:ノリって……

別の理由があんだろ?

狐:言ったら読者の皆さんに『うわ~、いつものパターン』って、引かれそうだから言えない。

筧:そんな単純な理由なのか?

狐:……うん。

才:まぁいいや。言いたくなきゃ。

狐:才蔵はそういう所がいいよ。

それに比べて佐助は……

猿:っ!

氷:読者の皆さん、また次回!


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遅れてきた勇士

明け方……鳥の鳴き声が響く中、才蔵は目を覚ました。


「朝か……?」


ふと隣に気配を感じ、そこに顔を向けた。

静かに眠る鎌之介……


「(またか)オラ、起きろ!鎌之介!朝だぞ!」

「スー……スー」

「(起きる気配無し)じゃあ、こっちは」


窓側で寝ている桜華の方に顔を向けた。枕を退かし、体を丸くし掛け布団を剥いで、桜華は眠っていた。


「(……こっちもか)

風邪引くぞ」


そう言いながら、才蔵は掛け布団を桜華に掛けた。


「才蔵」


静かに戸を開け小声で言いながら、六郎が中へ入ってきた。


「すぐに帰る支度をしなさい」

「え?何で」

「いいから」

「二人はどうする?起こすか?」

「起こして下さい。起きなければ、そのままで結構です。

早く支度して、下へ来なさい」


少々キレ気味で、六郎は戸を閉めた。


「(幸村の野郎、また何かやらかしたな……)

鎌之介、起きろ!!置いてくぞ!」


才蔵の声に、鎌之介はようやく目を覚まし大きくあくびをしながら目を擦った。


「ンだよ……せっかく寝てたのに」

「とっとと帰る支度しろ」

「え?何で?」

「説明は後だ、早くしろ。

桜華、起きろ。帰るぞ」


眠い目を擦りながら、桜華は起き上がった。もう一つ大あくびをすると、鎌之介は部屋を出て行った。


玄関口では、眠い目を擦る大助が地面に座り込んでいた。清海と伊佐道は、数頭の馬の手綱を引き馬を落ち着かせていた。
大あくびをしながら、鎌之介は階段を降り才蔵は眠そうに目を擦る桜華の手を引きながら降りてきた。


「桜華にこれを被せて下さい」


そう言いながら、六郎は黒い布を才蔵に渡した。


「何があったんだ?」

「……先程六助から、連絡があってな。

徳川のもんが、桜華のことをどこかで見たらしく、ここへ来ようとしているらしい」

「は?!

つか、何で六助さんが」

「昨日、桜華を探している最中に、徳川の部下が町の中を歩いていたらしい。話を聞くと、光坂一族の子供がこの町にいるという情報が」

「……幸村がやらかしたんじゃなかったのか」

「……」


その言葉に、六郎は幸村を睨み付け幸村は白を切るような顔を浮かべ、煙管を口に銜えた。


(やらかしやがったぁ!)

「早くしなさい」

「は、はい……」


幸村達が出て行ってから数分後……徳川の部下が、宿へ入り部屋の戸を開けた。だが、中は既に物家の空だった。


「やられた!!」

「早く追え!!

まだそう遠くには行っていないはずだ!!」


馬を走らせる幸村達……

 

 

「どこに向かってんだ!幸村!」

 

「琵琶湖だ!

 

運が良ければ、甚八達が船で来ているはずだ」

 

「運に任せるな!!」

 

「何やらかしたんだよ!オッサン!」

 

「いやぁ。

 

狸に軽い冗談を言ったんだが、それがどうも通じなかったらしい」

 

「何やってんだよ!!」

 

 

“バーン”

 

 

突然後ろから火縄銃の弾が放たれ、走る馬の足下へ当たり馬は驚き暴れ出した。

 

 

「火縄銃か!

 

清海!伊佐道!」

 

 

後ろを振り返り、二人は印を結んだ。

 

 

「南無阿弥!!」

 

「陀仏!!」

 

 

手に構えた鉄棍棒を、二人は同時に振り下ろした。すると地面が揺れ、追っ手の地面に亀裂が入りその亀裂に、馬は躓き次々に倒れていった。

 

 

「さすが!清海と伊佐道だ!」

 

「ほれ、急ぐ」

 

 

馬を走らせようとした時、突如目の前に二人の忍が降り立った。二人は降り立つと、煙玉を投げた。

 

玉から忽ち煙が上がり、全員目を瞑った。すると煙の中から、馬の鳴き声と共に馬が走り出した。

 

 

「馬が走り出した?!」

 

「誰の馬が!!」

 

「鎌之介!風!」

 

 

才蔵の命令通りに、鎌之介は鎖鎌を取り出し鎖を振り回し風を起こした。風のおかげで煙は晴れ、才蔵達は目を開けた。

 

 

「……!?

 

大助の馬が消えてる!!」

 

 

桜華が乗る馬の隣りにいたはずの、大助の乗る馬と彼が消えていた。

 

 

「忍達も消えてる!」

 

「才蔵!すぐに捜索を!!」

 

「応!」

 

「俺も行く!!」

 

「すぐそこの川辺におる!!」

 

「了解!」

 

 

探しに行った才蔵の後を、鎌之介は追い駆けていった。

駆けていく才蔵の後ろ姿を見つめる桜華……その時、彼女の脳裏に、真助と共に桜を見た時の映像が流れた。

 

 

「すぐに才蔵達は帰ってくる。心配することはない」

 

 

不安がる桜華に、清海はそう言った。

 

 

 

森の中を駆ける才蔵と鎌之介……すると前方に、馬を走らせる忍達の姿があった。

 

 

「見つけた!鎌之介!」

 

「応よ!

 

風術風神拳!!」

 

 

鎌之介が放った風は、馬達へと当たり風で跳び上がった大助を、才蔵は抱えポーチからクナイを数本放った。忍達は、小太刀を出しクナイを弾き返し地面へと着地した。

 

 

「鎌之介!大助を!」

 

「分かった!」

 

 

抱えていた大助を、才蔵は鎌之介に投げた。大助は鎌之介に抱き着き、安心したのか泣き出した。

 

 

「惜しい!もう少しだったのに」

 

「何が惜しいだ!!

 

人の若君さらいやがって!!」

 

「だって、しょうがないでしょー。

 

君等二人を、あいつ等から引き離さなきゃイケなかったんだから」

 

「?!」

 

「今頃、俺等の仲間が向かってると思うよ。お前等の仲間の元に」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、三人の脳裏に幸村達の姿が映った。才蔵は煙玉を投げた。玉はすぐに煙を上げ、姿が見えなくなった隙に、鎌之介は大助を抱え才蔵と共に幸村達の元へと急いだ。

 

 

その頃、幸村達は川辺で休んでいた。

 

岩の上に蹲る桜華……

 

 

(……逃げてた時みたいで、才蔵がいないと怖い。

 

 

才蔵……)

 

 

震える手を桜華は、強く握り辺りを警戒していた。そんな彼女に、幸村は手に持っていた黒い布を羽織らせ、首元にあった紐を結びながら話した。

 

 

「心配するな。

 

才蔵はすぐに帰ってくる。それまでの辛抱だ」

 

 

そう言いながら、幸村は桜華の頭に手を置いた。彼女は黙ったまま、小さく頷いた。

 

 

「!?」

 

 

辺りを警戒していた六郎は、何かの気配に気付き指に寸鉄を付け構えた。彼に続いて桜華も、気配を感じ岩から降り辺りを見回した。

 

 

その時、森の木々から無数のクナイが飛んできた。清海と伊佐道は、三人の前に立ち鉄棍棒で地面を叩き、地面の一部を浮かせ防いだ。

 

 

「追っ手か?!」

 

「次の攻撃が来ます!構えて!」

 

 

二人を守るようにして、三人は武器を構えた。すると、四方からロープが飛び、六郎達の動きを封じた。

 

 

「六郎!清海!伊佐道!」

 

「これで邪魔者は抑えた」

 

 

森から出てくる忍の集団……

 

 

「さぁ、そこにいる子供を渡して貰おう」

 

「渡すわけにはいかん。

 

この子は大事な者だ」

 

「……」

 

「なら、力尽くで奪うまでだ」

 

 

クナイを出す忍達……幸村は、懐から扇子を出し桜華を後ろへ隠した。

 

 

攻撃を仕掛けた時だった。突然空から無数の爆弾が降り注ぎ、忍達を攻撃した。忍達は爆弾を避けながら、後ろへ下がりつつ上を見上げた。

 

降り立つ一つの影……

 

 

「ろ、六助!」




狐:今回はキャラ紹介するよー。

ではどうぞ↓


名前:由利鎌之介(ユリカマノスケ)
年齢:16歳
使用武器:鎖鎌
容姿:赤い髪に緑色の鉢巻を巻いている。目の色は深緑色。
服装:袖無し腹出しの服に、七分袖の上着を着用。ハーフパンツに足首まであるサンダルを履いている。両手には黒い手袋を嵌めている。


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危機一髪

幸村達の前に降り立った六助……彼は腰に挿していた小太刀で、六郎達のロープを切った。


「た、助かりました」

「こちらこそ、遅れてすまん。

桜華、これを」


六助は腰に挿していた桜華の刀を、彼女に渡した。


「助っ人か!?」

「こいつも殺れ!!」


再びクナイを出す忍達だが、六助は懐から玉を出し投げた。すると玉から、黒い煙が上がり煙に怯んでいる忍達目掛けて印を結び技を放った。


「火術業火球!」


口から放った火の玉は、煙に反応し爆発を起こした。忍達はその爆発に次々巻き込まれていき、勢いが収まった頃には跡形もなく消えていた。


「桜華!!幸村!!」

 

 

間もなくして、才蔵達が到着した。鎌之介に抱えられていた大助は、下ろされると一目散に幸村の元へ駆け寄った。彼に続いて、才蔵達も幸村の元へ駆け寄った。

 

 

「無事だったか」

 

「あぁ。六助のおかげで何とか」

 

「父上、早くここから離れよう!」

 

「分かった分かった。そう慌てるな」

 

 

震える声で、大助は訴えた。訴えてくる彼を、幸村は宥めた。

 

 

「けど、こっから離れようにも至る所に、徳川の部下がわんさかいるぞ」

 

「それは困ったのぉ」

 

「それなら心配入らぬ」

 

「え?」

 

「今頃、拙者が仕掛けた罠に掛かっているだろう」

 

「罠?」

 

 

その時、森の奥から爆発音と馬の鳴き声と人の悲鳴が、響き渡った。

 

 

「か、掛かったな……」

 

「スゲェ……」

 

「この川を伝って歩けば、湖に着く」

 

「それじゃあ行くか」

 

 

幸村を先頭に、一校は歩き出した。

 

 

森の中を歩く才蔵達……すると、森が濃霧に包まれてきた。大助は怯えた様子で幸村の袖を強く掴み、桜華は辺りを警戒しながら、腰に挿していた刀の束を握った。彼女と同じ様に、才蔵達も武器を構え辺りを警戒した。

 

 

「馬にも乗らず、どこに向かってんだ?

 

真田幸村!!」

 

 

霧の中から出て来たのは、二人の忍を連れた政宗だった。

 

 

「伊達政宗!!」

 

 

彼の姿を見た才蔵は、すぐに桜華を自身に寄せた。

 

 

「先日はどうも!」

 

「わざわざ、礼を言いに参ったのか?」

 

「とぼけた野郎だな。

 

追っ手だよ!!テメェ等の……

 

 

つうのは建前で、恥かかされたまま黙ってたんじゃ男がすたる!!

 

持ってかれたもの(桜華)は取り返す」

 

「何も知らずに手を出しおって……愚かな男よ。

 

 

この宝、お前ごときの手には余る。

 

しかも、もともとうちのもんだ。盗人猛々しいな、政宗」

 

「……の野郎!!」

 

 

キレた政宗の声と共に、後ろで控えていた綱元と小十郎が武器に手をかざした。

 

その時、綱元と小十朗に武器を握らせまいと、才蔵はクナイを投げつけた。

 

 

「こいつ等には、指一本触れさせねぇよ!」

 

「……

 

デケェ口叩きやがって……

 

 

捻り潰すまで!!」

 

 

掛け声と共に、小十郎と綱元の後ろから多数の兵団が現れた。それに驚いた才蔵達は後ろへ引き、武器に手をかざし構えた。

 

 

「多勢に無勢だのう」

 

「言ったろ?どうにも何ねぇって」

 

 

迫りくる兵団……駆けていた幸村達は森を抜け、湖へと着いた。そこへ敵を追い払ってきた才蔵達が着き、彼等に駆け寄った。

 

 

「退がれ!!まだ来るぞ!!」

 

「これ以上退がれないよー!!」

 

(どうする?!もう後はねぇ!!)

 

「これほどの頭数で来るとはのう……

 

兼続が泥鰌と揶揄しておったが、あながち外れてはおらんな。

 

 

肝が小さい」

 

 

ニヤつく幸村……

 

その表情に政宗はキレた。

 

 

「真田、幸村!!」

 

 

“ドーン”

 

 

突然空から降ってきた砲弾……

 

弾は兵団の中心部に落ち、爆発した。

 

 

「ギャア!!」

 

(砲弾!?

 

まさか!!)

 

 

何かに気付いたのか、才蔵は琵琶湖の浅瀬へ入り、何かを探した。するとそこへ一隻の船が上陸した。

 

 

「オメェ等、無事か!!?」

 

 

船の先端に足を乗せる甚八は、そう叫びながら見下ろした。

 

 

「甚八!!」

 

「た、助かったー!」

 

 

その時茂みから忍集が、姿を現し桜華の腕にロープを絡ませた。ロープが巻き付き引っ張られ掛けた桜華は、足に力を入れ堪え、才蔵は彼女を抱きクナイでその縄を切ろうとした。

 

すると、船の上からレオンが降り立ちロープを切り裂いた。レオンは咆哮を上げ、忍達を睨み付けた。

忍達は怯み、その隙を狙い才蔵は最後の煙玉を投げ煙幕を起こした。湖に煙が上がる中、才蔵達は甚八の船へと乗りその場を立ち去った。

 

立ち去っていく船を、政宗は崖の上から悔しそうに眺めていた。

 

 

 

船の上で、息を切らす才蔵達……

 

息を切らす彼等に、船員は水が入ったコップを渡していった。

 

 

「ふー。危機一髪だった」

 

「相当追い込まれてたな」

 

「甚八、助かったわい」

 

「けど、何で?」

 

「銃の仕入れだよ。

 

仕入れして、その帰りだったんだ」

 

「妙に騒がしい音が聞こえて見たら、政宗に襲われているお主等がいた」

 

 

そう言いながら、十蔵は水が入ったコップを才蔵に渡した。

 

 

「まぁ、次の岸に着くのは明日。

 

今日一晩は休め」

 

「言われなくとも、休むわ」

 

「走り続けて、疲れたぁ……」

 

 

鎌之介は大の字に寝ながら、そう言った。そんな彼を無視するかのようにレオンは、踏み付け座り込んでいた桜華に擦り寄った。

 

 

「こ、この馬鹿猫が……

 

人のことを踏み付けやがって!!」

 

 

飛び起きた鎌之介は、レオンの首輪を掴み引っ張った。レオンは首を振りながら暴れ、鎌之介は振られるがままに首輪から手を離すまいと必死だった。

 

 

「船の上で暴れるな!!」

 

「首輪から手を離せ!!鎌之介!」

 

 

振り回される鎌之介……堪えきれず手を離し飛ばされ、その飛ばされた勢いのまま、座っていた桜華と激突した。ぶつかった勢いで、桜華は後頭部を床に強打した。

 

 

「桜華!!」

 

「何やってんだ!鎌之介!!」

 

 

暴れるレオンを甚八が抑え、床に倒れている桜華と鎌之介の元へ、才蔵と十蔵は駆け寄った。

 

鎌之介は、鼻を打ったのか顔を押さえながら起き上がり、桜華は後頭部を抑えながら起き上がった。

 

その時、桜華の脳裏にある映像が流れた。

夜の森を駆ける自分……足を踏み外し、崖から落ちた。

 

 

「桜華!!」

 

「!」

 

 

才蔵に呼ばれ、ハッと我に返った桜華は才蔵の方に顔を向けた。

 

 

「頭、大丈夫か?」

 

「……思い出した」

 

「?」

 

「森の中、走ってた……

 

そしたら、足踏み外して……崖から落ちた」

 

「崖から……?

 

桜華、ちょっと頭触るぞ」

 

 

そう言いながら、才蔵は桜華の後ろへ回り髪の毛を退かしながら後頭部を見た。

後頭部には、先程出来た痣と何かで切ったのか、古い傷痕があった。その傷痕を見ていた才蔵に、六郎は傷を見ながら話した。

 

 

「古い傷痕みたいですね」

 

「崖から落ちた時出来たとすれば……」

 

「この傷が原因で、記憶を無くした」

 

「……」

 

 

傷痕を見つめる才蔵……

 

その中、鎌之介は桜華にぶつかったことを謝っていた。




才:何だ!!傷痕って!!

狐:始まって早々、何?

才:あの傷痕に何かあるのか?!狐!!

狐:さぁ、どうだろう……

才:気になるから、教えろぉ!!

狐:いやいや!無理だから!

てか、記憶無くした原因が分かっただけでもんいいじゃん!

才:気になるわー!!

狐:……?

才蔵、お前少し酒臭いけど……

才:さっき甚八と、酒飲んだ!

狐:(あ~……

だから、今回こんなぐいぐい来るんだ)

才:教えろぉ!!狐ぇぇ!!

狐:ギャー!!殺されるぅ!!

氷:氷術獄氷棺!!

猿:また次回だ。


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兄・信幸参る

翌朝……

森を歩く才蔵達。鎌之介は、目頭を手で抑えながら唸り声を上げていた。


「鎌之介、大丈夫?」

「くっそ、頭痛ぇ……」

「そりゃあ、昨日あんなに飲めば、二日酔いにもなる」

「何で才蔵は、二日酔いにならないんだ?」

「お前と体質が違うからだ」

「っ……?」


木の上から飛び降り、幸村の前で頭を下げる佐助……


「ご無事で何よりです!幸村様!大助様!」

「留守番ご苦労だったな。佐助」

「ただいま!佐助!」

「ンだよ、猿の出迎えかよ」

「良く無事で帰れてこれたな?馬鹿蔵」

「誰が馬鹿だ!!」

「止さぬか!!外での喧嘩は!!」


京都から帰ってきて数日後……突然、あの男はやって来た。

 

 

“ドン”

 

 

突然、地面が揺れ縁側でレオンの頭を撫でていた桜華は、揺れに驚きレオンに抱き着いた。

 

他の部屋では、勉強をする大助と彼の勉強を見る伊佐道、庭で鉄棍棒を振り鎌之介と組み手をしていた清海が、その揺れに気付き手を止めた。

城外を警備していた才蔵達は、屋根の上からある男を見下ろしていた。

 

 

「おい、あれ……」

 

「ヤバいぞ、色々……

 

才蔵はすぐに桜華の所に!氷柱は六郎にこの事を!」

 

 

佐助に言われ、二人はすぐにその場から去った。

 

 

城内では、床を強く踏む男とその男を宥めるかのようにして、話し掛ける袴を着た真助が歩いていた。

 

 

「そうご立腹にならないで下さい。

 

侍女達が怯えてますよ」

 

「これが怒っていられるか!!

 

真田の恥だ!!あの馬鹿は!!」

 

 

城内を歩く真助達……やがて外へと出て、縁側を歩いた。そして、ある一室の戸を勢い良く開けた。

 

部屋にいたのは、伊佐道と大助だった。伊佐道は、書物を置き平伏せ、大助は彼を見て慌てて平伏せた。

 

 

「お、お久し振りです!伯父上!!」

 

「多少は礼儀が良くなったようだな、大助」

 

「は、はい!(怖い!早くいなくなって!)」

 

 

男が大助に話している時、真助の背後から何かが抱き着き、彼は後ろを見た。そこにいたのは、少し怯えた様子の桜華だった。真助は、彼女の頭に手を置き静かにするようにと、口の前に人差し指を立てた。

 

 

「信幸様!」

 

 

氷柱に言われ、早足で六郎は彼の元へ駆け寄り傍で膝を付き頭を下げた。

 

 

「お久しゅうござます!」

 

「六郎か」

 

「事前に連絡を下されば、出迎えましたのに。

 

本日は、どの様なご用で上田へ?」

 

「連絡下さればだと?」

 

 

六郎の傍の床を力任せに踏み付け、そのまま歩いて行った。その後を六郎は慌てて追い駆けていった。

 

 

「こ、怖かった~」

 

「相変わらず、怒りっぽい人だ」

 

 

「やはり、信幸様であったか」

 

 

汗を拭きながら、清海は歩み寄りその背後から水を飲みながら鎌之介が寄ってきた。

 

 

「凄ぇ地面が揺れて、ビックリしたぜ!」

 

「お前は出なくて正解だったな。鎌之介」

 

「絶対頭下げるか!」

 

「そういう態度は、決して信幸様の前で出さないように」

 

「へ~い」

 

「あいつ、誰?」

 

 

真助の袴の裾を握りながら、桜華は姿を現した。

 

 

「オイラの伯父の、真田信幸様」

 

「真田信幸?」

 

「幸村の兄貴だよ。

 

確か、沼田の殿だよな?」

 

「えぇ。

 

しかし、幸村様と違ってすぐに頭に血が上るお方……そこがちょっとした欠点ですね」

 

「……?

 

あれ?桜華、レオンは?」

 

「庭に置いてきた」

 

「庭に……」

 

「置いてきた……」

 

 

「甚八!!」

 

 

その時、六郎の怒鳴り声が響いた。彼の声に、全員その方へと向かった。

 

 

庭では、レオンは獲物を捕らえたかのようにして唸り声をあげながら、信幸を睨み攻撃態勢になっていた。信之は睨み付けるレオンをジッと睨んでいた。すると、レオンは勢いをつけ信幸に襲い掛かった。

 

 

「信幸様!!」

 

 

飛び掛かってきたレオンを、信幸は素手で受け止め押し倒した。レオンはすぐに体制を戻し、唸り声を上げ、牙を剥き出しにした。

 

 

「す、スゲェ……」

 

 

襲い掛かろうとした時、駆けつけた才蔵が信幸の前に降り立ちレオンを止め、背後から甚八が首輪を掴み抑えた。

 

 

「あ!甚八!才蔵!」

 

「落ち着け!!レオン!」

 

 

暴れるレオンに、才蔵は羽織の裾を広げ、信幸を隠した。

 

 

「ほらレオン!もういないだろ?!見えないだろ?!

 

だから落ち着け!!」

 

「ウゥ……」

 

 

唸り声をあげるレオン……すると、真助の後ろに隠れていた桜華に気付いたのか、唸るのを止め彼女の方を見つめた。それに気付いた甚八は、首輪から手を離した。離されたレオンは、一目散に真助の元へと駆け寄った。

 

 

「大丈夫か?信幸さん」

 

「相変わらず、躾のなってない馬鹿猫だ」

 

「ほっとけ」

 

「それより……

 

真助、後ろに誰かいるのか?」

 

「いたらどうします?」

 

「どうもこうもない。

 

とにかく、そこを退け!」

 

 

真助を退かし、信幸は後ろにいた桜華を睨んだ。睨まれた桜華は、怯えだしレオンに抱き着いた。レオンは唸り声を上げながら、攻撃態勢を取った。それを見た甚八は、慌てて首輪を手で掴み抑えた。

 

 

「この者は何だ?」

 

「……」

 

「大助、答えよ!!」

 

「あ、はい!!

 

えっと……

 

 

す、数ヶ月前からうちに置いてる……お、桜華です」

 

「置いているだと?どういう事だ」

 

「そ、それは……」

 

「……まぁ、この事も含めて全て愚弟から詳しく話を聞く。

 

して、主は挨拶無しか?」

 

「……」

 

 

信幸を見る桜華……彼女の脳裏にはある映像が流れていた。

激しく怒鳴る男に、殴られたのか頬がとても痛かった。そんな自分に庇うかのようにして、抱き締める女性と男を宥める二人の男性の姿が流れていた。

 

 

何も答えない桜華に、信幸が触れようとした時だった。

 

突然クナイを取り出した桜華は、伸ばしてきた信幸の手を切ろうとクナイを振った。その動きを瞬時に察知した真助は、クナイを自身の腕に刺させ桜華と信幸の間に立った。

 

 

「真助!!」

「真助さん!!」

 

「ここで道草をせず、早く幸村様の元へ行かれては?」

 

「っ……」

 

「六郎、早く案内しなさい」

 

「御意。

 

信幸様、こちらです」

 

 

六郎に案内され、信幸はその場を離れていった。彼の姿が消えると、レオンは大人しくなり桜華の方を見た。

 

 

「もう大丈夫ですよ、桜華」

 

 

そう言いながら、真助は微笑を浮かべながら桜華の頭を撫でた。

 

 

「さぁ、クナイから手を離して下さい」

 

「……」

 

 

優しく言う真助の言葉に、桜華はゆっくりとクナイから手を離した。離すと同時に桜華は、力無く地面に座り込んだ。

 

 

「真助さん、腕大丈夫ですか?」

 

「何、ほんの掠り傷です」

 

「しっかし、相変わらずレオンは懐かねぇな。信幸に」

 

 

大あくびをするレオンを見ながら、鎌之介は言った。

 

 

「オェ!」

 

 

その時、桜華は突然嘔吐した。それを見た才蔵は、驚き心配しながら、彼女の背中を擦った。

 

 

「桜華、大丈夫?!」

 

「緊張が解けたのでしょう。

 

才蔵、彼女を少し離れ所へ」

 

「あ、はい。

 

桜華、行こう」

 

 

支えながら桜華を立ち上がらせ、才蔵は彼女を連れ城を離れた。

 

 

「真助」

 

「?」

 

「話がある。ついて来い」

 

 

そう言うと、甚八は歩き出した。真助は腕を治療しながら彼の後をついて行った。




才:雑談コーナー!

ついに登場!幸村の兄貴・真田信幸!

鎌:俺、あの男嫌いだ。

大:オイラは苦手。

才:俺も無理だ。

来るたんびに、敬語を使えだ礼儀を弁えろだ。いちいちうるせぇんだよな。

鎌:そうそう。

子供にも容赦ないからな。

甚:あれで良く、殿を勤められるな。

真:真田の未来を心配しながら生きている人ですから、頭固いのは仕方ありませんよ。

才:やっぱりか……

あれ?


そういや、狐は?

真:狐さんなら、まだお布団の中ですよ。

才:は?!

真:何でも、眠くて仕方ないから寝かせてくれとか。

才:起きろぉぉおお!!狐ぇぇ!!
猿:起きろぉぉおお!!狐ぇぇ!!

氷:寝かせといてあげなさいよ。

伊:そういえば……

狐って、確か寝起きが悪かったような……

甚:そういや、一緒に飲んでた時そんなこと言ってたな。

自分は寝起きが悪いって……どうにかして直したいって。

幸:何か、悪い予感しかしないんだが……


才:ギャァアアア!!
猿:ウワァアアア!!

六:やられましたね。

筧:起こさなくていいものを起こそうとするから……

氷:また次回ね!


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真実

裏庭へ来た甚八と真助……

甚八は誰もいないのを確認すると、光坂の里で拾った男女三人の絵を、真助に見せた。彼はそれを見た時、一瞬眉を動かしたが、顔色一つ変えず甚八を見た。


「これは?」

「光坂の里に行った時、牢みたいな社の中で見つけたもんだ。

そこに描かれてる男とガキが、お前と桜華に似てねぇか?」

「そう言われましても……」

「男の手をよく見ろ。

お前と同じ傷痕があるぞ」


その言葉に、真助は自身の手を見た。そこには確かに大きい傷痕があった。


「……正直に言え。

お前、桜華の父親じゃねぇのか?」

「……」

「俺は一度、お前と桜華に会っている。

出雲近くの海に俺は船を出してた……その時、海で溺れているガキを助けた。浜に辿り着き息を切らしていたら、泣きながら駆け寄ってくる女と、びしょ濡れになって長い髪を下ろした男がいた。

真助、お前はその男によく似ている……」

「……」


黙り込む真助……紙を持つ手に一瞬力を入れると、口を開いた。


「もし、それが事実だったらどうしますか?」

「どういう意味だ?」

「もし僕が、本当に桜華の父親だったらその後はどうするんです?

彼女には、記憶がありません。そんな時に僕は父親ですなんて、言えますか?」

「……」

「それに、僕はもう家族は捨てました。

その家族も、今はもう亡き者。生きているはずがありません」


フラッシュバックで蘇る過去……焼け野原となった里。その前で膝を付き泣き崩れる自分。


「……話はもういいですか?

桜華にお握りを作りたいので」


紙を甚八に返し、真助は去って行った。

離れた場所へ来ると、真助はその場に崩れ大粒の涙を流した。泣き声を上げぬように、手で口を押さえ声を殺しながら泣き続けた。


正座をする幸村……その前には剣幕をした信幸が立っていた。

 

 

「で?一体徳川様に何を言ったんだ?」

 

「その様な昔の事は、忘れた」

 

「幸村ぁ!!」

 

「そう怒らないでくれ、兄上!」

 

「怒らせているのは誰だ!!」

 

(相変わらず、怒りっぽい……)

 

「それより、話がある」

 

「?」

 

「あの子共は何だ?」

 

「子供?大助のことか?」

 

「違う!!

 

白髪の子供だ!!」

 

「あ~、桜華か。

 

数ヶ月前からうちに置いてる、忍の卵だ」

 

「ほぉ~、忍の卵か」

 

「……何か、問題でも?」

 

「その卵に、俺はさっき殺され掛けたぞ!!」

 

(そりゃあ、兄上の怒鳴り声聞けば、桜華だって怯えるわ)

 

 

その頃、桜華と才蔵は滝壺に来ていた。

桜華は浅瀬に足を入れ、森から来た山犬と遊んでいた。その様子を、才蔵は木陰の岩に座り眺めていた。

 

 

(すっかり明るくなったな……)

 

 

その時、茂みが揺れ中からレオンが姿を現し、桜華の元へ駆けていった。その後から、お握りを持った真助と鎌之介がやって来た。

 

 

「真さんに、鎌之介」

 

「ここでしたか」

 

「何で鎌之介が?」

 

「城の中にいると、空気がピリピリしているのが嫌になったんだ。

 

そしたら、真助が桜華達の所に行くって言うから」

 

「それで着いて来たってか」

 

「そういうこと!

 

あ!桜華!俺も交ぜろよ!」

 

 

川で遊ぶ桜華の元へ、鎌之介は靴を脱ぎ捨てながら滝壺へ飛び込んだ。飛び込んだ拍子に水飛沫が飛び、顔に掛かった桜華は驚き思わず尻をついた。それを見た鎌之介は、吹き出し大笑いした。笑われた桜華は、顔を真っ赤にして水の弾を作り彼に当てた。当たった鎌之介は、仰向けに倒れそして素早く起きると、鎖鎌を取り出し鎖を回し風を起こした。

 

 

「おやおや、激しい川遊びになりましたね」

 

「あいつ等……

 

手拭い取って来ます。少し見てて貰いますか」

 

「構いません」

 

 

返事を聞くと、才蔵はその場から離れた。お握りが乗った皿を岩の上に置き、懐から煙管を取り出すと火を熾し口に銜えた。

 

心地良い風が吹き、真助の髪を靡かせた。

 

 

『父さーん!』

 

 

その声にふと目を開ける真助……手を振る少女と、煙管を手に持ち笑みを浮かべる女性がいた。

 

 

「真助!!」

 

「?!」

 

 

呼ばれた声にさに、ハッと我に返った真助は驚いた表情を浮かべながら、呼ばれた方に目を向けた。そこには、びしょ濡れになった桜華と鎌之介が立っていた。

 

 

「びしょ濡れじゃないですか!」

 

「だって、手拭い無いし。

 

それより、お握り食っていいか?!」

 

「体拭いてからです」

 

「え~!!」

 

「文句を言わない」

 

 

その時、川から上がってきたレオンは、桜華達の所まで行くと、水を払おうと勢い良く体を揺らし飛沫を飛ばした。

 

 

「うわ!!レオン!!止せ!」

 

「やめなさい!レオン!!」

 

 

その時、才蔵が手拭いを持って戻ってきた。

 

 

「何で、真さんまで?」

 

「この猫にやられました」

 

「あ、そう……」

 

「早く手拭い貸して下さい。

 

桜華が風邪引きます」

 

「あ、ハイ」

 

 

手拭いを貰うと、レオンの頭を撫でていた桜華の頭に真助は手拭いを置いた。置かれたのに気付いた彼女は、手拭いを手で押さえながら真助の方に顔を向けた。真助はしゃがみ、桜華の頭を拭いた。

 

 

「こんなに濡れて……風邪引きますよ」

 

「……」

 

 

自分を拭いてくれる真助を、桜華はジッと見つめた。脳裏に流れる映像……

 

 

『こんなに濡れて……

 

お母さんに怒られますよ』

 

 

濡れた自分を拭きながらそう言う男の顔と、真助の顔が一瞬重なって見えた。

 

 

「桜華!!お握り食おうぜ!」

 

 

鎌之介に呼ばれた桜華だが、彼女は真助が拭き終わるまで待っていた。

 

 

「さぁ、拭き終わりました。

 

お握り、食べましょう」

 

 

頷きながら、桜華は彼の手を握り引っ張り鎌之介達の元へ行った。

 

 

お握りを食べ終わった鎌之介と桜華は、遊び疲れたのか二人に凭り掛かりながら眠ってしまった。

 

 

「寝やがった……」

 

「遊び疲れたのでしょう」

 

 

自分に凭り掛かり眠っている桜華の頭を、膝に乗せ寝かせた。

 

 

「何か、親子みたいですね」

 

「そういうあなたは、まるで兄弟みたいですよ」

 

 

凭り掛かっていた鎌之介は崩れ倒れ、才蔵の膝に頭を乗せ気持ち良さそうに眠っていた。

 

 

「……真さん」

 

「?」

 

「俺等、先日里に行ったんです。

 

光坂の」

 

「……」

 

「その里の社で、あるもの見つけたんです……

 

真」

「僕と桜華が描かれた絵……」

 

「!」

 

「甚八から聞きました。

 

質問もされました……『お前、桜華の父親じゃねぇのか?』と……」

 

「(甚八……)

 

で、真さんは何て……」

 

「『僕はもう家族は捨てました。

 

その家族も、今はもう亡き者。生きているはずがありません』と、答えました」

 

「……」

 

 

桜華の頭を撫でる真助……彼の顔は、どこか悲しい表情を浮かべていた。撫でられた桜華は、気持ち良さそうな表情を浮かべ、手で真助の袴の裾を掴んだ。

 

 

「……そういえば、真さんの家族って……

 

俺、世話になってるのに……真さんのこと、何も知らない」

 

「余り話しませんからね。家族のことは他人に。

 

けど、才蔵にならいいですよ」

 

「……」

 

 

懐から煙管を取り出し火を点け、真助は口に銜えながら話をしだした。

 

 

「武田が滅んだ後、僕は妻と共にある里に隠れて生活していました。

 

数年後、妻は子供を産みました。とても可愛い子でした。髪の色と目の色が妻にそっくりで……妻は顔立ちや笑う顔が僕にそっくりだと言ってました。

 

本当に幸せでした……子供の成長を見るのが、あんなに楽しいものだとは思いませんでした。

 

しかし、幸せは長くは続きませんでした」

 

「……」

 

「子供が六歳になった頃、僕は信幸様に仕える事となり、里を出ました……二人を捨てて」

 

「……」

 

「それから数年後、信幸様の使いで遠出した帰り……

 

二人が気になり、里へ行きました……

 

 

ところが、里はもう亡くなっていました」

 

「!」

 

「襲撃に遭ったんでしょう……

 

焦げた家がいくつもありましたから……」

 

「……じゃあ、真さんにはもう」

 

「もしかしたら、どこかで生きているのではと思ったことはありました……でも、そう思っていたのも数年の間……」

 

 

その時、微風が吹いた。木々をざわかせ四人の髪を靡かせた。




才:……何か、重い。

猿:結局、真助は桜華の……

氷:違うって言ってるんだから、違うんじゃないの?

狐:今回、重たかったからここまで。

才:だな……

狐:読者の皆さん、また次回!


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師の帰り

口笛を吹く男……

森を抜け、丘から上田城を見下ろした。


「さぁて、元気にやってるかなぁ」


桜華を背負う真助と才蔵達は、森の中を歩いていた。

 

 

「すいません、真さん……桜華のこと」

 

「別にいいですよ。

 

眠ってる鎌之介には、才蔵の方がいいでしょう」

 

「ハハハ……」

 

 

真助の背中で気持ち良さそうに眠る桜華……

 

優しい微風が吹いた時、彼女はゆっくりと目を開けた。

頬に当たる柔らかい髪の毛……隣を見ると、自分と同じ白髪を長く伸ばした女性が、楽しげに何かを話していた。桜華は、自分を背負う者に目を向けた。黒く長い髪を束ね、大きい背中……その背中から伝わる暖かさ。その暖かみに安心しながら、桜華は頬を髪の毛に擦り付け眠った。

 

 

そんな夢を見ながら、桜華は真助の背中に頬を擦り寄せた。その感触に、真助は眠る桜華の顔を見ながら微笑んだ。

城へ帰ると、何やら騒がしい声が響いていた。その声に、才蔵と真助は顔を見合わせ中へと入った。城の庭に置いてある岩に座る一人の男……彼の前には、倒れる佐助がいた。

 

 

「……げっ!!おま」

「はいドーン!」

 

 

隙を突かれ、才蔵は男から肘鉄を食らい、鎌之介を落とし仰向けに倒れ気を失った。目が覚めたのか、鎌之介は飛び起き男を見た。男は彼に回し蹴りを食らわせ、喰らった鎌之介は俯せに倒れ、気を失った。

 

 

「おやおや……」

 

「駄目だねぇ……油断しちゃ。

 

忍はいつ何時、気を許しちゃ駄目だって教えたでしょう?才蔵、佐助」

 

「……あの、どちら様で?」

 

「才蔵と佐助の師だ」

 

「お師匠さんですか……で、何用で?」

 

「弟子達の様子見」

 

 

そう言いながら、男は懐から煙管を出し口に銜え煙を出した。騒ぎに気付いた大助達は、庭へ集まり外で伸びている才蔵達を見て驚いた。

 

 

「さ、才蔵!佐助!鎌之介!?」

 

「これ一体……」

 

 

騒ぎに桜華は目を覚ました。あくびをしながら、眠い目を擦り体を起こした。

 

 

「おや、起こしてしまいましたか」

 

「……ここは?」

 

「上田城です」

 

 

目を擦る桜華……ふと、男の方に目を向けた。

 

 

「……あ、百(モモ)」

 

「?」

 

「?……!

 

おぉ!桜じゃねぇか」

 

 

百は笑みを浮かべながら、真助に背負られている桜華に近寄った。桜華は、真助の背中から降り百を見た。

 

 

「久し振りだな。元気だったか?」

 

「うん。百は?」

 

「この通りだ。

 

しっかしお前さん、何でまた上田なんかに?」

 

「それは……」

 

「幸村様が、この子を保護したので」

 

「あれ?そういえばアンタ、確か……」

 

「入らぬ事を言わぬよう、お願いします」

 

「へいへい。そういうことにしときます」

 

 

「この!!阿呆師匠が!!」

 

「何故いつもいつも、不意打ちをするんですか!!」

 

 

意識を取り戻した才蔵と佐助は、飛び起き百に向かって攻撃した。百は大あくびをしながら、攻撃を受け止めた。

 

 

「そんなもん、油断する君等が悪いんでしょう?」

 

「お前のはいつもいつも不意打ちなんだよ!!」

 

「不意打ち、やめて下さい!!」

 

「うるさいねぇ……いちいち。

 

ほれ、桜を見なさい」

 

 

そう言うと、百は桜華に向かって後ろ蹴りをした。彼女は後ろ蹴りを避け、彼の下へと足を入れ肘鉄を食らわせようと前へ出た。その肘鉄を、百はすぐに受け止め笑いながら佐助と才蔵を見た。

 

 

「ね?」

 

「“ね?”じゃねぇよ!!

 

つか、何でお前が桜華を知ってんだよ!?」

 

「そりゃあ、俺はコイツの師だからな」

 

「ハァ!?」

 

「クナイの投げ方とか教えたの、お前か!?」

 

「いいや。コイツは忍の心得全て基本は出来ていた。

 

俺はそこを、ちょちょっと伸ばしただけだ」

 

「おい桜華!」

 

 

佐助は怒りの形相で、桜華に近寄り彼女の前にしゃがんだ。桜華は怯えた様子で、真助の後ろへ隠れ顔だけひょっこり出した。

 

 

「この馬鹿から、何教わった?」

 

「クナイと手裏剣の投げ方とか、刀の振り方とか……

 

あと、走り方とか……」

 

「稽古終了後は?!」

 

「ふ、普通に……休んでた」

 

「休んでた?

 

扱い方が俺等と違う!!」

 

「おいクソ阿呆師匠!!

 

どういう事だ?!」

 

「んな事で、いちいち怒るな。

 

普通に考えろ、コイツは女だ。俺は女には優しいんだ」

 

「猿、今こそコイツを殺るぞ!!」

 

「望むところだ!!」

 

 

剣と小太刀を握り、二人は男に向かって攻撃をしてきた。百は大あくびをしながら、二人の攻撃を受け止めた。その光景を見ていた真助は、軽くため息を吐き傍にいた桜華はポカンと、その光景を眺めた。

 

 

「真助!!帰るぞ!!」

 

 

怒鳴り声と共に、信幸は幸村と共に姿を現した。

 

 

「もう喧嘩は、済みましたか?」

 

「喧嘩ではない!!説教だ!!」

 

 

信幸の怒鳴り声に、桜華は再び怯え真助に抱き着き、彼の後ろへ隠れた。

 

 

「余り怒鳴らないで下さい。

 

桜華が怯えます」

 

「相変わらず、真田の兄君は怖いなぁ」

 

「幸村!!

 

この城は、浮浪者保護家か!!?」

 

「口が悪いぞ!兄上!!」

 

「うるさい!!

 

真助!!帰るぞ!!」

 

「分かりましたから、先に門へ行ってて下さい」

 

 

怒りの形相で、信幸は先に門へと行った。軽くため息を吐いた真助は、手で目頭を抑えた。

 

 

「何故あの様に怒りっぽいのか……」

 

「全くだ。おかげで耳が痛いわい」

 

「それは若が、徳川様に余計なことを言うからでしょうが!!」

 

(こちらもこちらで、耳が痛いわい)

 

「ほら才蔵、戦っていないで桜華を引き取りなさい」

 

 

百と戦いへばっていた才蔵に、真助はくっついていた桜華を離し、彼女を差し出した。

 

 

「俺は親か!!?」

 

「あれ?才蔵、いつから親になったの?」

 

「お前は黙ってろ!!」

 

「酷いなぁ、才蔵。

 

もういいや、今日から桜だけに構おう」

 

 

そう言うと、百は桜華の持ち上げた。

 

 

「桜華を下ろせ!!阿呆師匠!!」

 

「え~。いいじゃん~」

 

「良くなーい!!とにかく、桜華を返して貰う!」

 

 

怒鳴りながら、佐助は桜華を百から奪った。桜華は下ろされると、三人がやり合っている光景を見ながら、真助の元へ駆け寄った。

 

 

「やれやれ……あの喧嘩は、当分収まりそうもありませんね。

 

それでは桜華、また来ますね」

 

「……」

 

 

小さく頷いた桜華の頭を撫で、真助は門へと向かった。

 

彼を見送っていると、どこからかレオンがやって来て彼女の服の裾を引っ張った。後ろ向いた彼女に、レオンは擦り寄るようにして押し倒した。尻を突いた桜華に、レオンは頭を擦り寄らせ咽を鳴らした。そんなレオンを、桜華は頭を撫でてやった。

 

 

 

門へ来た真助。信幸は待ちくたびれた様子で腕を組みながら立っていた。

 

 

「お待たせしました」

 

「全くだ。

 

真助、あの桜華という者は何者だ?」

 

「さぁ……

 

僕もここへ来て数回しか会っていないので」

 

「……似ていたな」

 

「はい?」

 

「お前と蓮華に似ていた」

 

「……娘とでも言うんですか?桜華が」

 

「違うのか?名も一緒だろ?」

 

「断じて違います。

 

二人はもう死にました。以前にも言いましたよね?」

 

「……」

 

 

何も言わず、信幸は歩き出した。真助はしばらく上田城を眺めると、彼の後を歩いて行った。




才:何で阿呆師匠が出て来るんだ!!

狐:出した方が面白いかと。

猿:面白くない!!

狐:じゃあ本音。

お前等二人が、私を叩き起こしたからだ。

才:う……
猿:う……

狐:夜中まで頑張って書いたから、寝てただけなのに……

それをさ~、叩き起こすなんて~。

氷:あ~あ、怒らせちゃった。

才:……

狐:また次回。


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一時の休息

夜……宴会をする幸村達。

 

 

「全く、上田に来た理由が単なる宴会をやるためだったとは」

 

「すっかり騙された」

 

「いいじゃん~。

 

こうやって、愛弟子三人に会えたんだから。まぁ、桜以外は成長してなかったみたいだけど」

 

 

そう言いながら、百は才蔵と佐助の間に入り、彼等の肩に自身の腕を乗せながら言った。桜華は、才蔵の膝に座り彼が握ったお握りを食べながら、二人の間から顔を出す百に目を向けた。

 

 

「来るなら、連絡を寄こせば良いのに。

 

水臭いぞ、百」

 

「悪いねぇ。突然来て佐助と才蔵を驚かそうと思ってね」

 

「何が驚かすだ!!」

 

「来た瞬間、殴るのが挨拶か!?」

 

「怒るな怒るな。

 

俺の軽い挨拶だと思え」

 

「思えるか!!」

「思えるか!!」

 

「酷ぇ言われようだな。お前」

 

 

焼いたイカを食べながら、鎌之介は才蔵の隣に座った。

 

 

「弟子は成長するなぁ。

 

昔はさぁ、俺の後に付いてきていっつも『クナイの投げ方教えろ!』とか『どうすれば、早く走れるんだ?!』とか……目を輝かせながら色々聞いてきて、可愛かったなぁ。

 

頼むから、桜はそうならないでね?」

 

 

そう言いながら、百は桜華を自身の膝に乗せた。

 

 

「テメェはいい加減、弟子離れしろ!」

 

「う~ん……時が来たら、離れるよ」

 

「離れろ!!」

 

「しかし、まさか桜華も百地の弟子だったとはなぁ」

 

「二年半俺の元にいて、ちょちょいっと教えたんだ」

 

「そういや、基礎は出来てたって言ってたが、本当なのか?」

 

「あぁ。

 

クナイ持たせたら、一発で的のど真ん中に命中。走り方もちゃんとしてたし……特に良かったのは、刀だね。

 

刀裁き、あれはプロ級だよ。相当過酷な稽古をしたように見えたよ」

 

 

大助の元へ行く桜華の背を見ながら、百はお猪口に入っていた酒を飲んだ。

 

 

「プロの刀使いなら、真助と一度手合わせしてみれば良い。あ奴は強いぞぉ」

 

「忍十人を相手にするくらいですから、当然です」

 

「ん?佐助、随分素直だねぇ」

 

「半蔵の襲撃があった時、真さんが先に全部片付けてたから、拗ねてんだよ」

 

「そういう貴様は、半蔵にぼろ負けだっただろ?」

 

「余計なこと言うな!!」

 

「ア~ララ、半蔵に負けちゃったの?お二人さん」

 

「負けたのは、才蔵だけです」

 

「お前もだろ!!」

 

 

 

騒ぐ才蔵達……

 

 

その間、大助と桜華は近くに生えていた桜の木の傍にいた。

 

 

「いいよなぁ、大人は。

 

お酒が飲めて」

 

「飲めないの?お酒」

 

「だって……まだ、子供だもん。

 

てか、桜華だって飲めないじゃん!」

 

「……飲めるし」

 

「え?!飲んだことあるの?!」

 

 

落ちている桜の花弁を眺めながら、桜華は思い出した。

 

持つお猪口に注がれたお酒……不安げに見る自分に、隣に座っていた女性は、微笑みながら頷いた。自分は逆隣りにいる男性に目を向けた。男性も笑い、自分の頭を撫で頷いた。二人の顔を見た自分は、お猪口に注がれたお酒を一口飲んだ。

 

すると傍に生えていた桜の木から花弁が舞い落ち、お猪口のお酒の上へ落ちた。

 

 

その記憶を思い出した桜華は、顔を上げ桜の木を見上げた。

 

 

「何だ?何か、思い出したか?」

 

 

そう言いながら、百は酒瓶を手に桜華の肩に自身の腕を乗せた。

 

 

「百」

 

「お前さん、桜の木見ると必ず記憶が蘇るよな?

 

記憶が無いって言ってるけど」

 

「……記憶無くしたのと、何か関係あるの?」

 

「さぁなぁ……

 

それは、お前さんが見つけるしかないよ」

 

 

その時、風が吹いた。風は皆の髪を靡かせ、そして桜の吹雪を起こした。

 

 

舞う桜の花弁を眺める桜華……ふと、どこからか声が聞こえた。

 

 

『淒ぉい!

 

母さん、桜吹雪凄いよ!』

 

『そうねぇ』

 

『今日は風が強いから花弁、全部散っちゃうんじゃないかな?』

 

『散る?』

 

『花弁が全部落ちて、葉っぱだけになるの』

 

『え~!嫌だ!

 

このままが良い!』

 

『そう言われても……

 

また来年になれば、桜は見られるよ』

 

『……』

 

『それに、桜は桜華の花よ。

 

桜は毎年、春になったら咲くわ。だから、また来年ここへ来て三人一緒に桜を見ましょう。桜華』

 

 

楽しく笑う声と共に、桜の花弁が舞い落ちた。落ちた花弁は、眠っていた桜華の顔へ落ちた。彼女の傍にはレオンや大助達も眠っていた。

 

眠ってしまった大助を、幸村は抱き上げた。

 

 

「全く、いくつになっても子供だわ」

 

 

抱き上げた大助を、六郎に渡し幸村は席へ戻った。六郎は大助を抱き直し、先に部屋へ戻った。

 

 

「本当、クソガキだな」

 

「そう言うな。

 

儂が逝ったら、次はあ奴が大将になるんだぞ?」

 

「先が思いやられる……」

 

「デカい口が叩けるようになったねぇ?」

 

「才蔵!俺∀ℵ∃∂」

 

「何言ってんだよ!!お前は!!」

 

 

顔を赤くした鎌之介は、空になった酒瓶を手に才蔵に抱き着いてきた。

 

 

「お前、酒飲んだな!」

 

「応!飲んだ飲んだ!」

 

「やっぱり……」

 

「某達は、先に休ませて貰います」

 

「えぇ!!もっと飲もうぜ!十蔵!」

 

「お主も早う寝ろ!」

 

「嫌だ!俺は才蔵と寝る!」

 

「気色悪いこと言うな!!」

 

「お前はさっさと寝ろ!」

 

「イーヤーダ!」

 

 

才蔵にしがみつきながら、鎌之介は佐助と十蔵を睨んだ。

 

 

「……ハァ。

 

もういい。某は先に休む」

 

「拙僧達も」

 

「お先です、幸村様」

 

 

一礼すると、三人は部屋へと行った。すると、レオンは目を覚まし大きいあくびをし体を伸ばした。レオンの胴に頭を乗せ寝ていた桜華は、眠い目を擦りながら起きた。レオンは、まだ飲んでいる甚八の膝に頭を乗せ咽を鳴らした。

 

 

「気の変わりやすい猫だな」

 

「自由気ままは、甚八そっくりだ」

 

「うっせぇな!」

 

「甚八が騒ぐから、桜華の野郎が起きたじゃねぇか!」

 

「俺のせいにすんな!クソガキ!」

 

「ガキじゃねぇし!!」

 

「鎌之介、うるさい」

 

「ほら見ろ、桜華に言われてるぞ」

 

 

眠い目を擦りながら、桜華は才蔵の隣に座り彼に凭り掛かり、また眠りに着いた。

 

 

「寝るなら、布団で寝ろ!」

 

「ガー」

 

「お前もか!?」

 

 

眠る桜華……彼女が下げていた青い勾玉が、青く光っていた。その光に百は、彼女の首に下げていた鎖を手に取り、勾玉を見た。

 

 

「ありゃ、まだ持ってたのか」

 

「?何か知ってんのか?」

 

「桜が俺の弟子になって間もない頃、話してくれたんだ……微かに覚えてる記憶を」

 

「え?」

 

「五歳の頃、何かの儀式の時に貰ったって……」

 

「儀式?」

 

「詳しいことは知らないけど……

 

母親に強く言われたみたいだよ。絶対に外したりするなって」

 

「……」

 

「六助さん、何か知らないんですか?」

 

「儀式……

 

そう言えば、蓮華も桜華と同じ物を首から下げていた」

 

「同じ物?

 

桜華が下げてる勾玉と同じ物を、母親が下げてたのか?」

 

「はい。

 

詳しいことは知りませんが……彼女には強い力が封じられていたと、噂で聞いたことが」

 

「強い力……」

 

 

考え込む幸村……

 

百は桜華の勾玉を見ながら、酒を飲み続けた。




狐:キャラ紹介するよー。しかも二人!

ではどうぞ↓


名前:三好清海入道(ミヨシセイカイニュウドウ)
年齢:30歳
使用武器:鉄棍棒。
容姿:丸坊主の頭に白い布を巻いている。手には数珠を巻いている。目の色は焦げ茶色。
服装:上半身が裸でその上から白い長袖の上着を着ている。下は白い長ズボンを穿きに草履を履いている。

名前:三好伊佐入道(ミヨシイサニュウドウ)
年齢:25歳
使用武器:鉄棍棒。
容姿:明るめの茶色い髪を耳上で結い、その上から白い布を巻いている。目の色は焦げ茶。
服装:黒い僧侶の格好をしている。足には黒い下駄と足袋を着用。


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やってきた少年達

“ドン”


「痛て!」


手に持っていた木刀を落とし、大助は地面に尻をついた。


「油断しないで下さい!

もっと相手の動きを見て」

「そ、そんなこと言われたって!

佐助、強過ぎるんだもん!!」

「これでも、力は抜いている方だ」

「もう少し抜いてよ!」

「これ以上抜いたら、稽古にならん!!」


怒鳴られた大助は、泣き出した。その声に、離れた場所で刀を振っていた六助と桜華は、顔を見合わせ大助の元へと行った。


「あ~あ、泣かしやがった」

「っ」

「どうすんだぁ」

「貴様は黙っていろ!!」


「何泣いてんの?」


やって来た桜華は、才蔵の隣に座りながら質問した。


「猿が強過ぎて、大助の野郎が泣き出したんだ」

「大助の奴、まだガキなんだからもう少し力抜けよ」

「これでも、抜いている……(これ以上、俺にどうしろって言うんだ)」

「そういや、桜華って確か刀使えたよな?」

「うん、まぁ……」

「相手すれば?」

「え」

「だって、見た感じ桜華って大助とあんまり歳変わんねぇだろ?」

「確かに……」

「大助だって、佐助より桜華との方が良いよな?」

「う、うん……」

「大助様!?」

「という事で、桜華!早く相手!」


鎌之介に押され、桜華は前へ出された。佐助から木刀を受け取りながら、彼女は渋々大助の前に立った。

大助は、少々怯えた様子で木刀を握り構えた。


「……攻めてきて」

「え?」

「先、攻めて」

「でも……」

「いいから」

「……分かった」


足を前に出し、大助は木刀を振ってきた。桜華は難なく、その木刀を払い避け大助の頭を軽く叩いた。


「……」

「う、嘘……」

(さすが、蓮華の子だ)

「足がなってない。

相手の動きをもっとよく見て。あと刀の稽古するなら、先制攻撃した方が良い。

大助はまだ、刀に慣れてない。刀に慣らしてから、本格的な組み手をやればいい」

「……」

「スゲェ……」

「佐助より、桜華の方が教えるの美味いんじゃねぇのか?」

「……お、俺は小太刀専門だ!」

「小太刀も、刀の一種だけど」

「……」

「どうした?猿?

何とか言ったらどうだ?」

「うるさい!!」


その日、雨が降っていた。上田を見下ろせる丘から、三人の子供が見下ろしていた。

 

 

「本当にいるの?桜華が」

 

「間違いない。六助が一緒にいた」

 

「あんまり、行きたくないなぁ」

 

「アイツ等より先に、早く俺等が桜華を保護しなきゃいけねぇんだお。文句言うな」

 

「……」

 

「説得は、アンタに任せるわ」

 

「分かっている」

 

 

 

城……

 

大助は清海達と共に自身の部屋で、勉強をしていた。才蔵達は、それぞれの部屋で武器の手入れをしており、桜華は才蔵の傍で佐助の鼬と遊んでいた。

 

 

「?」

 

 

何かの気配を感じた、才蔵達は動かしていた手を止めた。同じように気配を感じた桜華は、才蔵にしがみつき怯え出した。

 

 

「何だ、この気配……」

 

「……すぐ近くにいるわね」

 

「……才蔵」

 

「分かってる。

 

桜華、来い」

 

 

しがみついていた桜華を立たせ、才蔵は別室へと行った。

 

 

 

庭へ降り立つ三人……地面へ足が付くと、突如草が生え彼等を拘束した。

 

 

「何者です?!」

 

「教える義理はない」

 

 

そう言うと、猫の面をした者が指を動かし、風を出した。風は三人の草を切り裂き、動きが取れるようになった。

 

 

「風使い?!」

 

「長居は無用……

 

光坂桜華を出せ」

 

「!!」

 

「ここにいるのは分かっている」

 

「何者だ……」

 

「そこにいる、六助に聞けば分かるだろう?」

 

「?!」

 

 

既に庭にいた六助に、六郎は目を向けた。そんな彼等の様子を、佐助達は屋根の上から武器を構え眺めた。

 

 

「六助、この者達は」

 

「……光坂の生き残りです」

 

「?!」

 

「皆、面を外せ。

 

この者達は、そこいらにいる殿達とは違う」

 

「……」

 

 

六助の言葉に、互いを見合いながら皆面を外した。面の下から現れたのは、桜華と同じ赤い目だった。

 

 

「騒がしいと思えば……客人か」

 

「若……」

 

「中へ入れ。

 

話をしよう」

 

「……」

 

 

 

某所……

 

 

社から出る黒いマントに身を包んだ女性……彼女に跪く半蔵達。

 

 

「時は来た。

 

半蔵、間違いなくあの子は上田にいるのね?」

 

「確かです」

 

「そう……

 

 

さぁ、行きましょう。伊佐那美の子を迎えに」

 

 

雷が落ち、辺りが光った。その時、社から出て来た女性の目が赤く光っていた。

 

 

 

蝋燭の明かりが灯る座敷牢の中、桜華は戸の前に座り才蔵の羽織の裾を掴み怯えていた。

 

 

「ここにいれば、安全だ」

 

「……」

 

 

「保護しに来た?!」

 

 

幸村達の前に座り、紺色の髪を生やした少年の言葉を幸村は繰り返し言った。

 

 

「何で今頃になって、迎えに何か来たんだよ」

 

「捜してたの……やっと見つけて、迎えに来たの」

 

「けど、光坂の人達って皆死んだんだろ?

 

何でお前達が生きてるの?」

 

「伊勢に行ってた」

 

「伊勢?」

 

「僕等は選ばれた子供……

 

力を使い熟すには、知識も必要。そのために伊勢へ行っていた」

 

「選ばれた子供?どういう意味だ?」

 

「六助、お主は何か知っているのか?」

 

「いえ……何も」

 

「もう話はいいか?

 

早く、桜華を出せ」

 

 

「そりゃあ無理だ」

 

 

襖を開けながら、才蔵はそう言った。

 

 

「才蔵……」

 

「お前等の気配を感じ取った桜華は怯えてる。

 

怯えてる本人を、お前等に渡せるか」

 

「……」

 

「なぜそこまでして、桜華が欲しいの?」

 

「……それは」

 

「陸丸(リクマル)!余計なこと、言わない!」

 

「っ……」

 

「渡さないというのなら、こちらにも考えがある」

 

 

紺色の髪の少年は立ち上がり、手から火の刃を出し幸村に攻撃しようとした時だった。背後から雷が放たれ、少年はその雷を背中に当て、そのまま倒れてしまった。

 

 

「そんな弱っちい技で、殿方を殺そうなんざ百年早いんだよ」

 

「甚八!」

 

「妙に騒がしいから来てみりゃ、何だ?このクソガキ達は」

 

「光坂の生き残りだ」

 

「へ~、生き残りねぇ」

 

「あれ?甚八、レオンは?」

 

「桜華の所だ」

 

「(桜華?)どこにいるの?!教えなさいよ!」

 

「教えるわけねぇだろ。

 

何考えてるか分からねぇ連中に、レオンのお気に入りのガキを渡せるか」

 

「っ……」

 

「……!

 

優、あいつ等が近付いてる!!」

 

「!?

 

早く桜華を渡せ!!大変なことになるぞ!!」

 

「あいつ等って、誰のことだ?!」

 

「僕等の里を襲った敵です!

 

桜華を狙って、こっちに……!

 

 

来た!」

 

 

“ドーン”




狐:今回もキャラ紹介!

では、三人どうぞ!


名前:望月六助(モチヅキロクスケ)
年齢:不明
使用武器:弓、小太刀。
容姿:灰色の髪に黒い瞳。右頬に火傷の跡がある。
服装:紺色の旅人服に身を包み、その上から武田の家紋が刻まれたポンチョを着ている。手には籠手を嵌め、服の下には甲冑を着けている。


名前:真田幸村(サナダユキムラ)
年齢:不明
使用武器:扇、刀(滅多に使わない)
容姿:焦げ茶色の髪を結っている。目の色は茶色。
服装:着流しに羽織を羽織っている(兄の前では袴を着ているが、それ以外はほぼ着流し)


名前:真田大助(サナダダイスケ)
年齢:12歳
使用武器:刀(まだ稽古中)
容姿:橙色の髪に茶色の目。
服装:黄緑色の七分袖の服に、黄緑色のズボンを穿き、西洋のブーツを履いている。
刀の稽古の時は、袴を着ている


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生きていた者

突然、何かが爆発した。上田の民は、店や家から飛び出し、上田城を見た。


「城に煙が!」

「襲撃か?」

「す、すぐに家の中に入ろう!」


誰かが言った言葉に、皆店を閉じ家の中へと急いで入った。その中、傘を差した真助は上田城を見上げ、何かを察して足を急いだ。


爆発に驚いた桜華は、顔を上げ牢の窓を見上げた。怯える彼女を宥めるかのようにして、レオンは頬を舐めた。レオンの方に向いた桜華は、レオンの頭を撫でもう一度窓を見上げた。

 

 

武器を手に才蔵達は、外へ出た。城の塀に降り立つ五つ影。

 

 

「半蔵!?」

 

「いやいや、お久し振りですねぇ……上田の皆さん」

 

「死んでなかったのか?!」

 

「そう簡単に死ねませんから。

 

さぁ、話はここまでにして……

 

 

光坂桜華を、渡して貰いましょうか?」

 

「!!」

 

「渡さないというのなら、あなた方にはここで死んで貰います」

 

 

そう言うと、半蔵は指を鳴らし合図を送った。傍にいた四人は一斉に佐助達に襲い掛かった。

 

 

「幸村様と大助様は、城の中へ!」

 

「六郎、二人を頼んだ!」

 

「御意!」

 

「何だ?!こいつ等は!」

 

「伊賀異形五人衆」

 

「?!」

 

「才蔵は聞いたことあるでしょ?

 

伊賀の忍なら」

 

「何だ?!その五人衆とは!?」

 

「神速、剛力、幻惑、妖術、冷酷……

 

 

五つの忍技を極めた忍衆だ……そして、忍を抹殺する忍とも言われている」

 

「?!」

 

「そういうことです!」

 

 

そう言いながら、半蔵は才蔵に襲い掛かった。各々の戦いを、城の屋根からあの黒いマントを身に纏った女性が見下ろしていた。

 

同じようにして、光坂の子供達も見張り台からその様子を見ていた。

 

 

「やっぱり来た……」

 

「だから、早く私達に渡せばいいものを」

 

「話の分かる殿だと思ったが……

 

やはり、どこの殿も一緒だな」

 

 

レオンの頭を撫でる桜華……閉じていた目をゆっくりと開け、意を決意したかのようにして刀を手に立ち上がった。レオンは首を振り、起き上がり先に歩き出した。

 

 

戦う才蔵達……その時、敵の技が幸村達の元へと飛んできた。技を六郎が防ぎ難を逃れたが、その技の中から敵が姿を現し、武器を手に六郎を切り裂いた。

 

 

「六郎!!」

 

「テッメェ!!

 

相手は俺だろ!!風術鎌鼬!」

 

 

鎌之介が放った風を、敵は持っていた鎖を回し防いだ。

幸村は羽織っていた羽織で、六郎の傷口から出る血を抑えた。

 

 

「六郎さん!」

 

「ほら、桜華を渡せばもう仲間は傷付きませんよ?」

 

「誰が渡すか!!」

 

「なら、もう一人刺しますか」

 

 

指を鳴らす半蔵……その時、氷柱と戦っていたくノ一が、跳び上がり手から氷の刃を作り出すと、それを大助達目掛けて放った。大助は幸村達の前に立ち、刀を出し構えたがその束を握る手は震えていた。

 

 

「大助!!」

「幸村様!!」

 

 

迫り来る氷の刃……駄目だと思い、大助は頑なに目を瞑った。

 

 

“パリーン”

 

 

氷が割れる音に、大助はゆっくりと目を開けた。刀を手に三人の前に立つ桜華。

 

 

「桜華……」

 

「おぉ。本人の登場ですか」

 

 

傷付いた六郎を見る桜華……戦いの手を止める才蔵達を彼女は見回した。彼等の体に出来た傷を、桜華は目にしながら半蔵を睨んだ。

 

 

「私だけを狙えばいいのに」

 

 

桜華を見つめる子供達……面を着け、彼等は見張り台から飛び降りた。

 

 

(桜華……やっと、見つけた)

 

 

屋根の上に乗っていた女性は、立ち上がりゆっくりと屋根から降りて行った。

 

 

桜華の前に降り立つ三人の子供。

 

 

「お前、あの時の」

 

「あらあら……全員お揃いのようね?」

 

「?!」

 

 

屋根から降り立つ女性……半蔵達は、武器をしまい後ろへ下がった。三人の子供は武器を構え彼女を睨み、才蔵は剣を持ちながら桜華の元へ行った。

 

 

「そんなに構えなくてもいいわよ。

 

私はあなた達と同じ者なんだから」

 

「その声……」

 

「まさか……こんな事って」

 

「四年振りね。

 

陸丸、椿、優之介」

 

「な、何故あなたが……

 

四年前に、死んだはず」

 

「死んだわよ。この体の元の持ち主は」

 

「?!」

 

「さぁ、お喋りはここまで。

 

私は桜華に用があるの」

 

 

そう言うと、女性は桜華の方に目を向け声を掛けながら手を差し出した。

 

 

「さぁ、桜華。行きましょう」

 

「……」

 

 

怯えた目で自身を見つめる桜華に、女性は音もなく近寄り、彼女の頬に手を当てた。

 

 

(いつの間に?!)

 

「……記憶を封じられているのね。

 

あの女、死に際に余計なことをしてくれたわね」

 

「……」

 

「桜華に触れるな!!」

 

 

鎖鎌を手に、鎌之介は攻撃した。すると女性は、手から風を出し彼を吹き飛ばした。

 

 

「鎌之介!!」

 

 

才蔵の声と共に、桜華の周りが突然暗くなった。桜華は戸惑い辺りを見回した。

 

 

「大丈夫。少し邪魔者を消しただけ」

 

「……」

 

「さぁ……記憶を戻してあげましょう。

 

そして、私達と来なさい。桜華」

 

 

桜華の額に指を当てる女性の目が、赤く光り出した。

 

 

「何だ?!この黒い玉は!?」

 

 

桜華と女性がいた場所に、突如黒い玉が現れ二人を包んだ。清海と伊佐道は鉄棍棒を振り上げ、黒い玉を強く叩いた。だが玉はビクともせず、攻撃を吸収した。

 

 

「無闇に攻撃するな!!中に桜華がいるんだぞ!!」

 

「し、しかし」

 

 

「アァァアアアア!!」

 

 

黒い玉の中から、桜華の叫び声が響き渡った。すると黒い玉は晴れ、中から腕に傷を負った女性と、頭を手で抑え息を切らし血の付いた刀を構える桜華が向かい合っていた。

 

 

「今すぐ私の前から消えろ!!化け物!!

 

光坂流水術五月雨!!」

 

 

降っていた雨を自身の手に集め、その雨水で女性に攻撃した。女性はその攻撃を飛び避け後ろへ下がった。彼女の前に、半蔵達は立ち武器を構えた。

 

 

「桜華!!」

 

 

桜華の姿に、鎌之介は呼び叫びながら彼女に駆け寄った。だが桜華は、駆け寄ってきた鎌之介に向かって刀を振り下ろした。斬られる寸前に、佐助が前に立ち刀を防いだ。

 

桜華は二人を、才蔵達を、優之介達を、そして半蔵達を順々に睨んでいった。その時突然、頭に激痛が走り桜華は頭を手で抑えながら、その場に膝着いた。

 

頭に蘇る記憶……それを断ち切るようにして、桜華は刀を振り下ろし風を起こした。風は女性に当たり、彼女が被っていた黒いマントを外した。

 

 

「?!」

 

「まさか!?そんな!!」

 

 

真っ白な長い髪を靡かせ、赤い目を光らせる女性。その彼女の姿に、六助と幸村は驚き目を疑っていた。

 

 

「封じていた記憶に、戸惑っているのね……」

 

「な、何故お主が!!

 

四年前に死んだんじゃ」

 

「同じ質問するのね……

 

確かに死んだ……この者はね」

 

「?!」

 

「私の名は久久能智神。

 

この者の体を借りて、この地へ来た。伊佐那美を蘇らせるために」

 

「伊佐那美?」

 

「確か、闇の女神」

 

「そう……その器が桜華なの。

 

だから、迎えに来たの。さぁ桜華、一緒に行きましょう」

 

 

桜華に近付き、手を差し伸ばす女性。その手を彼女は刀を振り攻撃し、そして勢い良く女性の空いた胸に向かって振り下ろした。胸から血を出し、ふらつき立つ女性の目に、桜華の胸元に黒く光る勾玉が目に入った。

 

 

「まだそれを持っていたの……」

 

「……」

 

「まぁ……今回は見逃してあげる。

 

また迎えるに来るわ……桜華」

 

 

敵の一人が煙を放った。辺りが煙に包まれる中、半蔵達は姿を消した。




才:記憶が蘇ったぞ!!どうなるんだ!?

狐:待って、落ち着いて。

猿:あの女性は何者なんだ!?

狐:いや、もう分かるでしょう?誰だか……

氷:今後の展開はどうなるの?

狐:う~ん……どうしようか。

鎌:考えろよ!!

狐:そんじゃあ、読者の皆さんまた次回!

鎌:オイ!!
才:オイ!!
猿:オイ!!


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蘇った記憶

静まり返る庭……鎌之介は、佐助を退かし桜華の元へ駆け寄った。だが次の瞬間、桜華は持っていた刀を振り、彼を攻撃した。鎌之介は避け、そのまま蹌踉け地面に尻を着いた。


頭を抑えながら、桜華は剣先を才蔵達に向けた。


「桜華」


呼び掛けながら、才蔵は彼女に歩み寄った。桜華は寄ってくる彼に、剣先を向け息を荒げた。


「桜華、俺だ」

「……」

「桜華」


差し出してきた才蔵の手を、桜華は刀で突き刺しそうと突いた。刺される寸前、才蔵の前に真助が立ち塞がり、彼女の刀を自身の刀で防いだ。


「!?」

「落ち着きなさい、桜華。

ここにいるのは皆、味方です」

「……サン」


何かを呟きながら、桜華は手から刀を落とし真助に凭り掛かるようにして倒れた。倒れた彼女を、真助は横に抱き上げた。


社へ戻ってきた半蔵達……くノ一は、女性の傷付いた腕の治療に当たった。

 

 

「まさか、記憶が蘇った如きで、あそこまで暴れるとは」

 

「記憶に、何か術でも掛かってたんですか?」

 

「闇の部分を封じられていたのよ。

 

だけど、半分解けかかってたから、解きやすかったわ……」

 

「そんじゃあ、ずっと長い間記憶が無かった状態だったんですか」

 

「そう。

 

闇の記憶が蘇れば、こっちのもの。傷が癒え態勢が整ったら、また行くわよ」

 

「了解」

 

 

 

雨が降る上田……部屋に敷かれた布団に、桜華は眠っていた。その傍には、真助が座り彼女の頭を撫でた。

 

 

幸村の部屋では、優之介が声を荒げていた。

 

 

「あの状況を見て、まだ桜華を渡さないって言うのか!!」

 

「渡すわけねぇだろ!!

 

あんな変な野郎達が襲ってきて、それで訳の分からない奴等に、はいどうぞ何て渡せるか!!」

 

「そうだ!鎌之介の言う通りだ!」

 

「っ……」

 

「どうしても渡せと言うなら、教えて貰おうか?

 

選ばれた子供の意味と、何故蓮華が生きていたのか」

 

「!!」

 

 

顔を強張らせる三人……視線を反らしながら、黙り込んでしまった。

 

 

その間に、桜華はゆっくりと目を開けた。真助は撫でるのを止め、手を引き彼女を見つめた。起き上がった桜華は彼をジッと見つめ、そして膝に置いていた手を掴み見た。

 

 

「お握りの味、変わってなかった……」

 

「……」

 

「帰ってきて欲しかった……ずっと」

 

「……」

 

「何で……何で、どっか行っちゃったの?」

 

 

目から大粒の涙を流しながら、桜華は真助の手を握り彼を見た。

 

 

「……言いましたでしょう。

 

君等一族を守るためだと」

 

 

涙を流し、真助は彼女に言った。桜華は座っている彼に飛び付いた。真助は飛び付いてきた彼女を受け止め、下ろしていた手で力強く抱き締めた。

 

 

「よく……生きていてくれました……

 

桜華!」

 

 

 

黙り込む優之介達……

 

 

「……光坂は、闇の女神を封じ守るために作られた一族だって聞いた」

 

 

黙り込んでいた優之介は、そう口にした。椿は何かを言おうとしたが、それを陸丸は首を左右に振り止めた。

 

 

「闇の女神は、光と八つの力で封じていた」

 

「選ばれた子供っていうのは、その女神を封じる力を持ったガキのことなのか?」

 

「あぁ……一族の力は一人一つ……

 

それ以上の数を持った者が、選ばれた子」

 

「私は風と草。陸丸は土と金。優は火と氷。そして桜華は雷と水」

 

「けど、桜華は他にも使えた……

 

蓮華さんの力を受け継いでいた」

 

「力?」

 

「木の技だ。

 

蓮華は、一族特有の技と八つの力全てを使えていた」

 

「桜華は彼女と同様木の技と、椿と同じ風と、陸丸と同じ土と、俺と同じ火と氷が使えた。

 

そして、五歳の時……俺等は女神を封じるための、魂を貰った」

 

 

そう言いながら、優之介は手に着けていた緑色のブレスレットを見せた。彼に続いて椿は髪に挿していた赤い簪を、陸丸は耳に着けていた黄色いピアスを見せた。

 

 

「桜華が下げてる勾玉と同じ勾玉」

 

「椿の勾玉は、荒魂(アラミタマ)。

陸丸の勾玉は、和魂(ニギミタマ)。

俺の勾玉は、幸魂(サキミタマ)。

そして……桜華の勾玉は、奇魂(クシミタマ)」

 

「……」

 

「……魂を貰ってしばらくした後、桜華の力が強くなっていった。

 

初めは、蓮華さんの血を継いでるから、偶然だろうって誰もが思ってた。

 

 

でも……その力、強力なものになっていった。いつか力を抑えることが出来なくなると思った……それで」

「それで、私を閉じ込めた」

 

 

襖を開け縁に凭り掛かるようにして立ちながら、桜華は静かに言った。腕を組み垂れた前髪から赤い目を鋭く光らせながら、彼女は彼等を見た。

 

 

「桜華……」

 

「母親から私を引き離し、手枷と足枷を着けてあの社の中に閉じ込めた」

 

「あれはアンタを狸から守るために」

 

「守る?

 

何を?私から自由と母さんを奪っときながら……」

 

「けど、君の力は僕等より遥に強く」

「そんなの当たり前じゃん……

 

父さんと母さんから稽古を受けてたんだから」

 

「……」

 

「まぁ、私と違ってお前達は何の稽古もしなかった。

 

だから、私より下なのは当然」

 

「そ、それは……」

 

「桜華、今すぐ俺達と来い」

 

 

そう言いながら、優之介は桜華の手を掴んだ。そんな彼の手を振り払い睨んだ。

 

 

「また自由を奪うの……」

 

「違う!!俺はただ、お前を」

 

「守りたい?

 

嘘ばっかり……里が襲われた時、助けにも来なかったじゃん!!」

 

「あれは、伊勢に行ってたから」

 

「何でお前達が伊勢に行くことになったか、言ってあげようか?

 

お頭に言われたんでしょ?『近々、里が襲われる……お前達三人は伊勢へ逃げろ』って」

 

「!」

 

「な、何でそれを……」

 

「陸丸!!」

 

 

椿に怒鳴られ、陸丸は慌てて口を手で塞いだ。

 

 

「ほらね……結局、お前達三人は“私”じゃなくて、私の“力”が大事なんでしょ」

 

「そんな言い方……

 

桜華!一応、優はアンタの」

「椿!」

 

「けど!」

 

「頼む桜華。お前をあの人達の手に渡すわけには」

 

「そうやって、また私の自由を奪うんでしょ!」

 

「そんなわけ」

「あーもう!!

 

愚痴愚痴文句言っていないで、さっさと来なさいよ!!」

 

 

そう言いながら、椿は桜華の髪を掴み引っ張った。引っ張られた桜華は、彼女の腕を掴み引き離そうとした時だった。

椿の手に突然鉛が当たり、その痛みから椿は桜華の髪から手を離し、後ろへ下がった。

 

 

「さっきから聞いてりゃ、勝手なことばかり言いやがって!!」

 

 

鉛が着いた鎖を持ちながら、鎌之介は桜華の前に立った。

 

 

「桜華を守る気ねぇお前等に、本人を渡せるか!!

 

俺だったら、桜華をこの命賭けても守り抜いてやる!!」

 

「そんなの、口先だけにして貰える?

 

どうせ、アンタ達も桜華の力を見れば」

「見たよ!」

 

「?!」

 

「オイラ達、桜華の力見たよ!

 

黒い爆発だろ?もう見たよ!けど、そんな力関係ない!!

 

 

その力がオイラと鎌之介を守ってくれたんだ!だから、今度はオイラが桜華を守る!!」



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真助の決断

「二人の言う通りだ……」

「!」


壁に凭り掛かり立っていた才蔵は、静かにそう言った。


「桜華の力……いや、伊佐那美になられるのが困るんだろ?お前等は」

「っ……」

「だから、傍に桜華を置いときたい……

そして、彼女を拘束し監禁して、伊佐那美にならない様に見張りたいんだろ?誰の目も届かない場所で」

「……」

「今でも覚えてる……

怯えきった目で体震えさせて、俺の前に現れたのを……


初めは記憶が無くて、自分がどこの誰かも分からなかった……ただ、自分が追われていることだけしか分からず、必死になって逃げていた」

「……」


黙り込む優之介達……すると、椿は目くじらを立てながら、短剣を手に取り大助に襲い掛かった。その瞬間、彼の後ろにいた桜華が襲い掛かってきた彼女の手を握り投げ倒した。怯んだ隙に、短剣を握る腕を踏み首寸前にクナイを畳に刺し、彼女を助けようとした陸丸に刀の先端を向け、優之介に雷の刃を突き付けた。


「何も変わってないね……四年前と。

感情に任せて、攻撃するのが椿の弱点……そして、その彼女の弱点をフォローするかのようにして、攻撃するのが二人の役目……」

「く……」

「言っとくけど、私はお前達をすぐにでもこの手で殺すことは出来る。

何の躊躇いも無しにね」


赤い目を鋭く光らせながら、桜華は三人を睨んだ。二人は怖じ気着きその場に立ち尽くし、倒れた椿は顔を強張らせて、彼女を見つめた。

技を消し、桜華は三人に背を向け、そのまま部屋を出て行った。


廊下を歩く桜華……ふと、何かの気配に気付き顔を上げた。そこにいたのは、笑みを浮かべた真助だった。彼の姿を見た桜華は、一目散に駆け寄り抱き着いた。抱き着いてきた彼女を、真助は頭を撫でそして共に歩き出した。

 

 

縁側を歩いていると、前の柱に百が凭り掛かるようにして立っていた。百は二人を見ると、挨拶するかのようにして手を挙げた。

 

 

「百」

 

「どうやら、記憶戻ったみたいだな」

 

「うん……」

 

「桜華、もう部屋で休みなさい。

 

僕は少々、この方とお話があるので」

 

「分かった」

 

 

そう言うと、桜華は真助の手を離し部屋へと戻った。彼女がいなくなってしばらくすると、才蔵と甚八も百の所へ来た。

 

 

「真さん……」

 

「……

 

 

全てを話します。

 

 

ですが、決してこの事は信幸様には話さないで下さい」

 

 

部屋に戻ってきた桜華は、襖に手を掛けようとした時、胸元が温かくなった。気になり首に下げていた勾玉を手に取り見た。勾玉は青く光っていた。

 

青く光る勾玉を強く握り、そして服の下へと隠し部屋へ入った。中にいたレオンは彼女の姿を見ると、立ち上がり擦り寄ってきた。寄ってきたレオンを、桜華は頭を撫で障子を閉めた。

 

 

 

「武田が滅んだ後、我々は身元を隠しながら生きていました」

 

 

幸村の部屋で、真助は自身のことを話し出していた。

 

 

「特に光坂は、相当苦労しました。赤い目……それだけで、光坂だという事がばれてしまい、一族の仲間の半数がさらわれ売られたと、蓮華から聞きました。

 

 

そして残った者は、昔から親しかった出雲大社の神主様の力を借り、山と海に囲まれた場所に里を作りそこに住むようになりました」

 

「真さんも、そこにいたのか?」

 

「えぇ。

 

僕は元々、蓮華の許婚……その関係もあったことで、僕は光坂とずっと一緒にいました。

 

 

里ができ数年経った時です……桜華が生まれたのは。

 

桜が咲き誇る季節でした……」

 

 

 

 

十四年前……

 

 

大広間の一室……障子が開き、微風が吹き桜の花弁が布団の上に座り、蓮華と彼女の腕に抱かれていた赤ん坊(桜華)の頭に乗った。

 

 

『あら、桜の花弁』

 

『君等の事を祝っているんだよ。おめでとうって』

 

 

そう言いながら、真助は赤ん坊(桜華)の頭に付いた花弁を手に取り、それを彼女に見せた。赤ん坊は手を伸ばし、その花弁を取ろうとした。

 

 

『桜が好きみたいだね』

 

『そうねぇ……

 

 

そうだ……決めた』

 

『名前かい?』

 

『うん……

 

 

桜華(オウカ)』

 

『桜華……』

 

『私達の大好きな、桜から取ったの』

 

『いい名前だよ』

 

 

 

「桜華が生まれてから、本当に幸せでした。一時期、主の死さえも忘れる事が出来ましたから……この幸せが長く続いて欲しいと心の底から思っていました。

 

 

しかし……あなた方は、それを許してはくれませんでしたね?」

 

 

話しながら、真助は前髪から青い目を光らせて、幸村を睨んだ。その視線に才蔵は、幸村をチラッと見て、また真助の方に目を向けた。

 

 

 

「桜華が生まれてしばらくした後、里に真田が来ました」

 

「え?」

 

 

声を出しながら、鎌之介は幸村の方を彼に続いて大助も向いた。

 

 

「……武田が滅んだ後、光坂は突如として行方を晦ませた。

 

 

伯父は血眼になって、彼等の行方を捜した」

 

「何で、そこまでして」

 

「アタシ達の力が、欲しかったんじゃないの?」

 

 

部屋の隅で、腕を組み壁に寄り掛かりながら立っていた椿は、そう言った。

 

 

「詳しい事は聞いていなかったが、光坂を決して徳川に渡してはならない……そう言われ続けていた。

 

 

伯父は武田の後を継ぎ、信濃の長になった。武田に仕えていた者達の半数は信濃へ帰還し、伯父や親父、俺達に仕えた。だが、どうしても光坂だけは信濃へ帰還しなかった……戦の後、姿を晦ませてしまい噂を頼りに捜索した。

 

 

そして、三年後……彼等が集う里を見つけた」

 

「真田が来た時は、本当に驚きました。

 

一族全員、警戒し家の中へと逃げ隠れましたから。

 

 

そして、真田は一族の頭に言いました。

 

 

『光坂が信濃に戻らないと言うならば、この地を徳川にばらす』と……」

 

「?!」

 

「咄嗟に答えが出なかった光坂は、答えを待つよう真田に申しました。

 

 

それから三年後、伯父である真田信綱は亡くなり、弟の昌幸様が長へとなられた。そしてあなたと兄が里へ訪れた」

 

「え?

 

幸村と真助、一度会ってるのか?」

 

「えぇ。

 

桜華が三歳なった頃、返事を聞きに二人で来られました。

 

 

光坂はもう誰にも仕えたくはない。

 

代わりに、光坂と同様の力を使える僕を真田に寄越すと言いました」

 

「そ、そんな……」

 

「真田に仕える条件として、僕は二人に言いました。

 

『決して、光坂の事を他人はもちろん、徳川に教えるな』と……」

 

「儂等はその条件を呑み込み、そしてまだ仕える者がいなかった兄上の元へ真助は行った」

 

「行ったと言っても、信幸様の元へ行ったのは桜華が六歳になり、儀式を終えた数日後……

 

 

何かを悟ったのか、桜華はずっと僕から離れませんでした。出発する際も、蓮華の腕の中で泣き喚いていました」

 

 

思い出す過去……

 

 

里の出入り口に立つ蓮華の腕に抱かれていた桜華は、必死に自分の名を呼び叫びながら手を伸ばしていた。自分は二人に涙を見せまいと、振り返らず里を離れて行った。

 

 

 

「じゃあ、真助さんが里を出たのって」

 

「僕等を、守る為……」

 

「それからは、ずっと信幸様の仕えました」

 

「……考えなかったのか?

 

桜華や連華さん、一族皆の事を?」

 

「一度だって、皆さんを忘れた事はありません……無論、桜華や連華も。

 

 

一度、帰ろうとしました。けど……それでは、あなた方に危険が降りかかると思い、ずっと拒んできました。

 

そんなある日、たまたま用事で出雲近くに行く予定がありました。チャンスだと思い、里へ行きました。成長した桜華や連華、一族の皆さんに会えると胸を高鳴らせていました。

 

 

あの光景を見るまでは……」

 

 

蘇る光景……

 

焼け野原となった里。里の中を歩きながら、真助は一軒一軒家の中を覗き見た。中には骨であろう砕けた白い粉や、乾いた血に染まった服が散乱していた。

 

真助は辺りを見回しながら、急いで自分の家へと急いだ。家へ着き中へ入った……中は物家の空になっており、亡骸がどこにもなかった。

 

 

動揺しながら、真助は里中を走り二人を捜した。

 

もしかしたら、生きているのでは……その思いで、胸がいっぱいになった。

 

 

だがその思いは、辿り着いた木々に囲まれた社の前で、朽ち果ててしまった。

 

社の中に、昔蓮華にあげた桜の簪が床に転がっていた……その簪には、微かに血が付いていた。

 

 

里から出た真助は、抑えていた何かが弾けたかのようにして、その場に泣き崩れた。その鳴き声は里中に響き渡った……

 

 

 

「蓮華達はもう死んだ……生きていないと、自分に言い聞かせました。

 

 

けど……」

 

 

言葉を詰まらせる真助……幸村達に背を向かせていたが、体を震えさせ手を強く握りながら言葉を言った。

 

 

「まさか……あの日、また会えるとは思いませんでした。

 

 

一目で分かりましたよ……あの子が、桜華だって」

 

 

その言葉に、佐助はあの日から引っ掛かっていたものが、ようやく解けた様な気持ちになった。

 

真助は、桜華と初めて会ったにも関わらず誰に聞いたのか彼女の名前を知っていた……何より、桜華は才蔵以外の者を警戒していたが、真助にはそんな素振りも見せず彼に懐いていた。

 

 

「しかし、関係がばれてはまずいと思い、なるべく距離を置き彼女に接しました。

 

 

本当に……本当に、生きていてくれてよかった」

 

 

そう言いながら、真助は幸村達の方に振り向いた。彼の目には涙が溜まりつつも、笑みを浮かべていた。




才:……本当の父親だったのか。

狐:初めに言ったでしょ?

真助と関係があるって。

猿:確かに、言ってはいたが……

氷:母親はどうなってるの?結局、生きてるの?

狐:追々話すよ。

それより、今回は疲れたからここまで。

才:ほいよ。

氷:また次回。


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桜華の過去

『やっぱリ行くのね……』

『蓮華……

仕方ないよ。全ては君や桜華、皆を守るためだよ』

『……』


結っていた腰上まで伸ばした長い髪を手に取り、もう片方の手に持っていた小太刀で切った。


『綺麗な髪だったのに』

『……邪魔になるからね。

あの人の元に仕えるとなると』

『……真』

『?』

『桜華のことは任せてね』

『あぁ。


済まないね……君にだけ負担を掛けてしまって』


滝壺……桜華はそこにある岩の上に座っていた。

 

 

そんな彼女を、真助は木に凭り掛かりながら立ち、隠れるようにして見ていた。

 

そこへ、お握りを持った才蔵がやって来た。真助は彼に一礼し、才蔵も真助に頷き、桜華の元へ行った。

 

 

「?才蔵」

 

「腹減っただろ?食え」

 

「……今は食べたくない」

 

「そうか……」

 

「……アイツ等は?」

 

「さぁな……

 

城の中にいるか、庭にいるだろ。

 

 

幸村の奴が、三人を外出禁止にしたからな」

 

「……」

 

「……話してくれねぇか」

 

「……」

 

「お前の過去……

 

真さんが出て行った後のこと……」

 

「……いいよ。

 

 

……始まったのは、父さんが出て行ってしばらくした後だった」

 

 

 

 

八年前……

 

 

森の中を走る幼い桜華……彼女の後を、椿達は追い駆けていた。

 

 

森を抜けた桜華は、飛び上がり追い駆けてきた椿達の手を避けた。椿達は勢いのまま川へと落ちて行った。

 

 

『アハハハハハ!!皆、びしょ濡れ~』

 

『もう!!避けるなんて、卑怯よ!』

 

『鬼ごっこに卑怯は無いよ!』

 

『三人がかりで追い駆けたのに……やっぱ凄い、桜華』

 

『ヒヒ!当たり前だよ!

 

だって、前まで父さんと母さんと一緒に、走る稽古してたんだから!』

 

 

『桜華ぁ!』

 

『あ!母さんが呼んでる』

 

 

後ろを振り返ると、手を挙げ合図を送る蓮華の姿がいた。桜華はそんな彼女に手を振り返した。

 

 

『じゃあね!また明日!』

 

 

そう言うと桜華は、蓮華の元へ駆け寄り、一緒に帰って行った。

 

 

その夜……

 

 

“バン”

 

 

『!!』

 

 

突然、戸が開いた。寝ていた桜華は、目を擦りながら起き上り階段から、下の様子を覗いた。そこには蓮華と里の長であり、一族の長である男がいた。

 

 

『こんな夜遅くに、何の用です?』

 

『桜華はいるか?』

 

『眠っています』

 

『なら好都合だ。

 

連れて行け』

 

 

そう言うと、後ろについていた二人の男は階段を上がった。階段に座っていた桜華は、二人の手を避けながら蓮華の後ろに隠れた。

 

 

『何故この子を連れて行くんです!?』

 

『その子が伊佐那美の器だからだ!』

 

『器?!そんなはずない!!』

 

『いいや器だ。

 

技を一つしか持てないが、その子は二つ以上も技を持っている!』

 

『だったら、椿達も一緒よ!!』

 

『彼等は二つだ!!

 

だが、桜華はお前の力である木の技と椿と同じ風、陸丸と同じ土、優之介と同じ火と氷が扱える!!

 

 

これだけの神の力を手に入れているんだ!!器に違いない!!』

 

『そんな理由で……!!』

 

 

男に抑えられた連華に、桜華は叫びながら彼女の元へ駆け寄ろうとしたが、その瞬間抱き上げられそのままどこかへ連れて行かれた。

 

 

 

「あの夜、突然引き離された……」

 

「力多いだけで……そんな」

 

「その後、あの格子が付いた社に閉じ込められて……

 

手足に枷着けられた……去って行くお頭の背中に、何度も呼びかけた」

 

 

『何で!!何で!!

 

何か悪いことしたの?!ねぇ!!お頭!!

 

 

お頭ぁ!!!』

 

 

「けど……何も答えてくれなかった」

 

「……」

 

「その日からだった……

 

母さんと離れて、暮らすようになったのは」

 

 

蘇る記憶……

 

格子越しから見える外には、自由に鳥が飛び交い、以前まで友であった子供達の声が響いていた。

 

自分もそこへ行きたい……立ち上がり、外へ出ようとしたが足枷が、その行く手を阻んだ。

 

 

何で、自分だけ……

 

 

そう思いながら、真助がいた頃に描いた家族の絵を見ながら、楽しかった頃の事を思い出し、一人泣いていた。

 

 

「何で自分だけ……毎日そう思った。

 

けど、母さんは夜来てくれた。皆が寝静まった頃に。

 

 

枷を外してくれて、一緒に森の方に行ってくれた。走り方とかクナイの投げ方とか色々……教えてくれた」

 

 

投げたくないが、的の真ん中に当たった……嬉しそうな表情を浮かべながら、桜華は後ろにいる蓮華を見た。蓮華は笑みを浮かべて、彼女の頭を撫で褒めてくれた。

 

 

「気が付けば、閉じ込められてから四年の月日が流れてた……

 

 

そして、あの日が訪れた」

 

 

 

寝静まろうとしていた夜……その日の夜は、月が雲に隠れていた。その暗闇の中、里に数人の人影が入り込んだ。

 

そして……火の矢が一斉に放たれ、民家を燃やした。炎に驚いた住人達は皆、外へ飛び出した。それを狙ってか、火に照らされた人影……黒い服を着た忍達は、次々に住民を殺していった。

 

逃げ惑う人々……その中、村の外れにいた蓮華は忍服に着替え、火の海の中を駆けていた。

 

 

その頃、桜華は枷に繋がっていた鎖を、昨夜こっそり持ち帰った刀で切り社から出ようとしていた。

 

 

『桜華!!』

 

 

その声が聞こえ、桜華は手を止めた。次の瞬間扉が開き、外から息を切らした母・蓮華の姿があった。

 

 

『か、母さん!!』

 

 

自身に飛び付いた桜華を力強く抱きしめた蓮華は、すぐに彼女の手を引き社の奥へと行き、床の一部を力強く踏んだ。すると、一枚の板が外れ地下へと続く階段が現れた。

 

 

『ここ……』

 

『隠し通路よ……

 

桜華、ここから逃げるなさい』

 

『母さんはどうするの?』

 

『囮になってあいつ等の気を引く』

 

『囮って……嫌だ!!母さんと別れるなんて』

 

『あなたをあいつ等に渡すわけにはいかない!!

 

いい!振り向かずに、逃げるのよ!!決してあいつ等の手の届かない所へ!!』

 

 

“バーン”

 

 

近くで爆発音が聞こえた……蓮華は落ちていた刀を、桜華に渡し力強く抱きしめた。

 

 

『大丈夫……あなたは強いわ』

 

『……』

 

『こっから逃げたら、六助のもとへ行きなさい』

 

『六助?』

 

『母さんの知り合い。大丈夫、あなたの事はもう頼んであるわ』

 

『けど……』

 

 

その時、何かが降り立つ音が聞こえた。蓮華は辺りに気を配りながら、桜華を地下の階段へ突き落し床の板で、入り口を塞いだ。

 

 

『母さん!!母さん!!』

 

『逃げて!!あなたを、アイツ等に渡すわけにはいかないわ!!』

 

『けど!!』

 

『逃げて!!

 

誰の手も届かない所へ!!』

 

『……』

 

 

社の戸が壊れる音がした……桜華は、目から出てくる涙を拭いながら階段を駆け下り、暗い道を駆けた。

 

 

 

出てきた場所……そこは、里を眺められる丘だった。燃え盛る里を見た桜華は、目から涙を流し森の方へ行き無我夢中で走った。

 

 

大好きだった母……いつも笑っていた母……

 

 

『綺麗な桜でしょ?

 

母さんも父さんも、桜が大好きなの。

 

 

桜の様に、立派に育って欲しくて……あなたの名前に『桜』を入れたのよ』

 

『桜華は本当に、真のお握りが大好きね!』

 

『コラ!桜華、またこんなに汚して!』

 

 

楽しかった日々……走る度に、先の尖った枝が足や腕、頬に容赦なく傷を作った。

 

 

『!!』

 

 

足を踏み外し、桜華は崖から転倒した。そして、暗い世界に彼女は入った……自身の名前だけを残して。




狐:最近の悩み、パソコンの調子が悪い。

才:知るか!!
猿:知るか!!


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限られた時間

「……」

「記憶を失くした後は、ずっと旅をしてた……


京都に住んで、小さな村に住んで……そして、百に会って彼の下に付いた」

「そうだったのか……」


“バシャ―ン”

 

 

突然、二人に水が掛かり滝壺の方に目を向けると、そこに鎌之介と大助が悪戯笑みを浮かべながら立っていた。

 

 

「鎌之介!!テメェ!!」

 

「ハッハッハッハ!!二人して、びしょ濡れだぁ!!」

 

 

大笑いする鎌之介に、突如水が掛かった。それを隣で見ていた大助は噴き出したが、彼にも水が掛かった。

 

 

「お返し」

 

「やりやがったな!!風術風起し!!」

 

 

鎌之介が起こした風は水を巻き込み、渦を作り上げ桜華と才蔵に掛けた。びしょ濡れになった桜華は、顔の水を振り払うように頭を振り、着ていた上着を脱ぎ捨て川へ飛び込み水飛沫を上げさせた。水飛沫に驚いた大助は、尻を突き鎌之介は手で飛んできた水を防いだ。

 

 

笑いながらか、三人は水をかけ合った。

 

その様子を見る才蔵……ふと後ろを振り返ると、そこに真助が立っていた。

 

 

「真さん……」

 

「何者なのでしょう……光坂を滅ぼし、桜華を奪おうとしたあの者達は」

 

「……」

 

「話を全て聞きましたけど……

 

 

タイミングが良すぎますね」

 

「え?」

 

「襲うなら、桜華が幼い頃に襲うはず。それに、一族の者もあの儀式を終えた後に、彼女を閉じ込めるはず……

 

 

しかし、僕がいた頃は何の音沙汰もありませんでした……閉じ込めようという気も、なかったと思います」

 

「……まさか、一族の中にスパイが?」

 

「可能性は十分にあります。

 

僕がいなくなるのを待っていたのかも知れない……」

 

 

夕方……

 

 

暗くなりかけている森の中を、才蔵達は歩いていた。その時、近くに生えていた木から優之介が飛び降りてきた。

 

 

「あ!!テメェ!!」

 

「何の用だ!!」

 

「(うるさい連中だ……)

 

桜華と話がある」

 

「とか言って、どさくさに紛れて桜華を連れて」

「いいよ」

 

 

才蔵の後ろにいた桜華は、鎌之介の言葉を無視して返事をした。

 

 

「周りにあの二人の気配はない……

 

本気で私と話したいんでしょ?二人だけで」

 

「……」

 

「後から帰るから、才蔵達は先に帰っていいよ」

 

「桜華がそう言うなら……

 

おいガキ!桜華に何かしてみろ!この俺が許さないからな!!」

 

「オイラも!!」

 

「……何もしねぇよ」

 

 

真助に軽く礼をすると、優之介は先に森の方へ行きその後を桜華はついて行った。

 

 

「彼は三人の中で、桜華ととても親しかった友人です。心配入りませんよ」

 

「そういや、あいつと一緒にいた椿って女が、何か言い掛けてたな。『優はアンタの』って……真助、何か知ってんのか?」

 

「時期に分かりますよ」

 

 

少し微笑みながら、真助は先に歩き出し彼に続いて才蔵達も歩きだした。

 

 

 

森の中にある広間へ、優之介と桜華はやって来た。

 

 

「話って何?」

 

「本当に留まるのか?」

 

「え?」

 

「知ってるだろ?光坂一族の呪い」

 

「……」

 

「武田以外の殿に付くと、その一族は滅ぶ……」

 

「知ってる、それくらい。

 

けど、私はあそこにいる。私の今の居場所は才蔵達の所」

 

「……」

 

「それに……もう限られてるし」

 

「え?」

 

「私には、もう時間が無い……

 

才蔵達といられる時間も限られてる」

 

「どういう事だ?」

 

「お前には関係ない……」

 

「……」

 

「話は終わり?」

 

「いや……聞きたいんだ」

 

「?」

 

「蓮華さんは、本当に死んだのか?あの日」

 

「……死んだはずだよ。

 

母さんは、アイツ等の囮になったんだから」

 

「生きてるって可能性は?」

 

「ある訳無いじゃん……

 

あったら、私をいち早く探しに来るはずよ!!」

 

「っ……」

 

 

振り返り、桜華はその場を去ろうとした時だった。

 

 

「あの時……」

 

「?」

 

「あの時……すぐに行ったんだ。

 

 

お前を助けに、行こうと思って里へ向かった。けど……もう遅かった」

 

「……」

 

「あの里の状況を見た時、お前はもう生きてないと思った……」

 

「だから何……伊勢に逃げてたくせに」

 

「行く気なんてなかった!!

 

俺本当は、里に残ろうとした。けど親もお頭も許してくれなかった……」

 

「……」

 

「襲われたって聞いた時、大社抜け出して行った……」

 

「信じると思ってるの?」

 

「これは……!」

 

 

振り返った桜華の目に、涙が溜まっていた。それを見た優之介は頭を下げた。

 

 

「ゴメン……」

 

「遅いよ……いつも」

 

 

それだけを言うと、桜華は去って行った。




狐:いや~、最近忙しくて更新が遅れた遅れた。

才:何呑気な事言ってんだよ!!

猿:何で遅くなったか、教えて貰おうか?

狐:イベントがあって、それに行ってた。

才:何だよ!!それ!!

狐:仕方ないじゃん、学校の行事と個人で参加してる行事が重なったんだから。

猿:どんだけ忙しいんだよ……お前

才:ちなみに、何歳だ?

狐:秘密。言ってごらん?一発で、小説書けなくなるからね。

才:え、遠慮しときます……

猿:右に同じく……

狐:また次回、更新します。お楽しみに~。


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旧友との再会

夜の森を駆け抜ける四つの影……影は茂みから出ると、丘からある場所を見下ろした。


それは上田だった……


「山犬?」

 

 

怪我をした鹿の手当てをしていた佐助に、才蔵は町で聞いた話をしていた。

 

 

「ここ最近、出たらしい。

 

山近くの村の作物がやられたって話だ」

 

「おかしいな……アイツ等が、そんな事するはずはないと思うんだが」

 

「まぁ、何かあったんだろ?お山の大将なんだから、何とかしろよ」

 

「言われなくても、そのつもりだ」

 

 

治療を終えた鹿の頭を一撫ですると、佐助は立ち上がった。鹿は彼に礼を言うかのようにして擦り寄り、森の中へと帰った。

 

 

「相変わらず、動物に好かれるな?お前」

 

「ほっとけ」

 

 

それだけを言うと、佐助はその場を去った。

 

 

一方城では、庭で桜華と六助が刀を振っていた。振り終えると、息を切らしながら木刀を収め一礼した。

 

 

「さすが隊長と副隊長の子供。お二人の血をよく引いております」

 

「へへ……ねぇ」

 

「?」

 

「父さんと母さん、どれくらい強かったの?」

 

「それはもう……敵軍を二人だけで二つも倒すほど」

 

「スゴォ……」

 

「とても優秀な方々でした。

 

拙者より年下なのに、もう隊長と副隊長に就任して」

 

「……」

 

「そういえば、隊長はどこへ?」

 

「昨日帰った。信幸だっけ?あの人に呼ばれたかなんかで」

 

「そうでしたか……

 

隊長は、武田が滅んだ後残った者達の面倒をみてくれた。誰に対しても、心お優しく……きっとそこに、蓮華は惚れたのでしょう」

 

 

蘇る記憶……怪我をした蓮華を背負って、山を下りる真助と二人の荷物を持ち、先を歩く若い頃の自分が見えた。

 

 

 

場所は変わり、森の奥深くへ来た鎌之介と大助。

 

 

「結構暗いよ、鎌之介」

 

「大丈夫大丈夫!佐助の森だから、俺等を襲う動物はいないって!

 

それより、この先だ!洞窟があるのは」

 

「本当!?」

 

「あぁ!!ほら、早く!」

 

 

岩を乗り越え、二人は洞窟近くに辿り着いた。その時、何かを貪り食べる音が聞こえた。鎌之介は後ろにいた大助に静かするように、人差し指を口に当てた。それを知った大助は頷き、ソッと音の方へ近付いた。

 

 

「!!」

 

 

そこにいたのは、熊の死骸を食べる大きな獣の影が四つ……死骸を貪り食べる獣に、大助は怯え鎌之介の服を掴んだ。

 

 

「な、何あれ……」

 

「わ、分かんねぇ……」

 

 

逃げようと後ろへ下がった時、落ちていた枝を大助は謝って踏んでしまった。枝が折れた音に気付いた獣は、死骸から口を離し鼻を動かした。ニオイに気付いたのか、牙を剥き出しにして唸り声を上げながら、鎌之介達がいる茂みへ寄ってきた。

 

 

「や、やべっ……大助、走るぞ!!」

 

 

鎌之介が走り出したと共に、大助は蹌踉けながらも走り出した。獣達は大声を上げると駆け出した。

 

 

走る鎌之介達……大助が振り向くと、三匹の獣が追い掛けていた。

 

 

「鎌之介!!追い駆けてくる!!」

 

「クソォ!!何で追い駆けてくるんだよ!!」

 

「オイラ達を餌と勘違いしてるからか?!」

 

「とにかく、逃げ切るぞ!!捕まったら終わり……!!」

 

 

前の茂みから一匹の獣が飛び出してきた。鎌之介は急ブレーキを掛けるようにして、走るのを止めた。急に止まった彼に大助は止まることが出来ず、そのままぶつかり二人は一緒に倒れた。

 

 

「ふ、袋の鼠になった……」

 

「ど、どうしよう!!このままじゃ、オイラ達死んじゃう!!」

 

「落ち着け!俺がいるから何とか」

「ガァアアアア!!」

 

「……佐助ぇ!!」

 

 

大助の叫び声に応じたのか、疾風の如く佐助が二人の前に姿を現し、四体の獣を蹴り飛ばした。

 

 

「佐助!」

 

「早く大助様を連れて行け!!」

 

「あ、あぁ!」

 

 

小太刀を手に構えた佐助は、後ろと前にいる四匹の獣を睨んだ。

 

 

(山犬って事は間違いではないが……

 

何だ……この異様な大きさは)

 

 

目の前にいる山犬達は、人一人乗せることが出来るほどの大きさだった。

 

すると、山犬は一瞬佐助が目を反らした隙に跳び上がり襲い掛かった。佐助はすぐに持っていた小太刀で、攻撃を防いだが腕に深傷を負ってしまった。

 

 

「佐助!!

 

大助、走って逃げろ!」

 

「けど!」

 

「早く行け!!

 

佐助!俺も参戦」

「来るな!!」

 

 

腕の傷を抑えながら、佐助は駆け寄ろうとした鎌之介を怒鳴った。

 

 

「コイツは余所者だ……早くお前達は城に!!」

 

「けど!!」

 

「言う事を訊け!!」

 

 

そう怒鳴った瞬間、佐助は咄嗟に大助の元へ駆け寄った。彼の背後から仲間が襲い掛かろうとしていた。

 

 

「佐助!!大助!!」

 

 

背中を向け、佐助は大助を覆った。

 

 

だが、いくら待っても激痛が走ってこなかった……ハッと後ろを振り返った。そこにはいるはずの山犬ではなく、レオンだった。レオンの後から、才蔵と甚八が姿を現した。

 

 

「騒がしいから来てみれば……何だ?この有様は」

 

「才蔵!」

 

「何やってんだよ、お山の大将が」

 

「うるさい!

 

あの山犬達は、この森のものではない」

 

「?じゃあ、余所者か?」

 

「そうだ。

 

てか、あの大きさ!どっからどう見ても、ここに住んでる山犬達ではない!!」

 

 

「才蔵殿?」

 

 

茂みから六助と彼と共に桜華がやって来た。

 

 

「六助に桜華。どうかしたのか?」

 

「森の方からこの者が」

 

 

桜華の髪に隠れていたのか、髪から鼬が姿を現した。鼬は佐助の姿を見ると、一目散に彼に飛び付いた。

 

 

「そいつが森に来いって……」

 

「お山の大将が、鼬に助けられるとは」

 

「うるさい!!」

 

 

その時、唸っていた山犬達が黙り込み、レオンに何かを話すかのようにして、鼻を動かした。

 

 

「何だ?」

 

「急に唸らなくなったな」

 

「レオンが話してくれたのかな?オイラ達は敵じゃないって!」

 

 

するとレオンは、才蔵達の方に振り向くと桜華の元へ駆け寄り、彼女の背中を頭で押し出した。

 

 

「え?何」

 

 

押されるがままに、桜華はレオンと共に山犬達の元へ行った。彼女の後を、六助と才蔵、佐助は距離を置いてついて行った。

 

山犬達の元へ来た桜華……一匹の山犬が、彼女の元へ寄りニオイを嗅いだ。すると山犬は、甘え声を出しながら桜華に擦り寄った。

 

 

「あの山犬、桜華に懐いてるぞ」

 

「何でだ?俺達はともかく、佐助にすら懐かなかったのに」

 

「そうそう。“佐助”にすら懐かなかったのに」

 

「お前は一言余計だ!!」

 

 

擦り寄る山犬に桜華は、首元の毛を撫で上げた。そこには古い傷痕があった。

 

 

「……まさか、空(ソラ)?」

 

 

名を呼ばれた山犬は、嬉しそうは声を上げると桜華の頬を舐めた。

 

 

「空!じゃあ、お前は青か?」

 

 

灰色の毛を生やした山犬は、返事をするかのようにして彼女の頬を舐めた。

 

 

二匹になめられている桜華を見た才蔵は、一人彼女の元へ駆け寄った。駆け寄ってきた彼に、桜華は空と青の頭を撫でながら話した。

 

 

「里にいた頃、飼い慣らしてた山犬達……ハハ!」

 

「飼い慣らして立って……お前達の一族、山犬扱ってたのか?」

 

「一部の人間だけ。

 

山犬使って、狩りとかやってたから」

 

「この四匹は?」

 

「空と青は母さん父さんが飼い慣らしてた山犬。

 

後の二匹は、空達の子供」

 

「へ~。しっかし、大きいなぁ」

 

 

四匹に囲まれた桜華を見た才蔵は、手を挙げ合図を送った。身を潜めていた佐助達は姿を現し、彼等の元へ行った。

 

 

「桜華の知り合いなの?」

 

「らしい。真さん達が飼い慣らしてたって」

 

「でも、さっきオイラ達を食おうとしたよ!」

 

「半分野生化してるからね。多分子供を守る為に、本能が働いたんだと思うよ」

 

「うへ~、おっかねぇ」

 

「ねぇ、城に連れてっていい?」

 

「危険じゃなければ、まぁいいだろう」

 

「レオンも飼ってるしな!」

 

「レオンは俺の相棒だ!」




才:雑談コーナー!

猿:まさか、ここに来て新たなキャラが出て来るとは……

狐:まだまだ出るよ。

猿:次も動物か?

狐:それはまだ決めてない。

才:しっかし、更新ペース何か遅くなったな?

狐:一応学生だから、やること多いのよ。

それに、前にも書いた通り最近パソコンの調子が悪くて。

猿:携帯は?

狐:携帯はストック作る用。前にやったら問題が発生して、サイト自体が閉じたから。

才:何か、虚しいな……

狐:虚しいのよ……

猿:何か、暗くなってきたぞ……

氷:読者の皆さん!

清:また次回。
伊:また次回!


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いなくなった二人

夕方……


城へ戻ってきた桜華達……帰路を歩いている最中、空達はずっと桜華の周りを駆け回っていた。


「凄い懐きようだな」

「佐助の山犬達は、ここまでじゃないもんね」

「無理もないですよ。

この山犬達は、ずっと彼女を探していたんです。四年……いいえ、もしかしたらその前からかも知れません」

「……そんなに長く離れちゃ、久しぶりに会った時凄ぇ嬉しいもんな」


その時、桜華の後ろを歩いていた青が、突然走り出した。走って行った先には、優之介がおり彼は寄ってきた青の頭を撫でた。


「あの青って山犬、あいつに懐いてる」

「……里にいてまだ幼い頃、二人で見てたんだ。

空達の面倒を」

「だから、あいつに懐いてるのか……」

「……?」


空からゴロゴロと雷の音が聞こえ、大助は見上げた。空は黒い雲に覆われていた。


「凄ぇ雲だな」

「さっきまで、あんなに晴れてたのに」

「早いとこ、中に入ろう」


“ドーン”


突然、大きな音が城中に響き渡った。その瞬間、桜華の頭にある映像が流れてきた。その映像は、光坂の里で見たものと同じだった。


(……玉)


同じものを見たのか、優之介は桜華の方を見た。互いを見合った二人は、もう一度空を眺めた。


翌朝……

 

 

「桜華!!一緒に……?」

 

 

勢い良く鎌之介が障子を開けたが、中にいるはずの桜華の姿はどこにも無かった。

 

 

「あれ?桜華?桜華!」

 

「鎌之介!桜華、起きてる?」

 

「それが、いないんだ」

 

「え?いない?」

 

 

気になり、大助は鎌之介の元へ駆け寄り、部屋を覗いた。中は布団が畳んであり、彼女の服も無く刀も無かった。

 

 

「本当だ……いつもなら、まだ寝てるのに」

 

「だろ。

 

どこ行ったんだ……?」

 

 

庭の方に目を向けると、そこには椿と屋根の上から陸丸が飛び降り、彼女の元へ行くと首を左右に振っていた。

 

 

「……なぁ!!そこのクソ女ぁ!!」

 

「?」

 

「桜華の奴、知らねぇか!!?」

 

「知らないわよぉ!!それより馬鹿男!!優知らない!?」

 

「知らねぇよ!!クソ女ぁ!!」

 

「ならいいわよ!!馬鹿男!!」

 

「誰が馬鹿だ!!クソ女!!」

 

「今頃!?」

 

「誰がクソ女よ!!馬鹿男!!」

 

「こっちも!?」

 

 

二人が言い争っていると、背後から才蔵と六助が現れ二人は同時に彼等の頭を叩いた。

 

 

「うるせぇよ!!朝っぱらから!!」

 

「ここでは、その様な口を利くなと申したはずですぞ。椿」

 

「痛ってぇ……お前のせいで、殴られたじゃねぇか!!」

 

「それはこっちのセリフよ!!馬鹿男!!」

 

「誰が馬鹿だ!!クソ女!!」

 

「止めねぇか!!

 

ったく……?おい、桜華は?」

 

「それがいないんだ」

 

「いない?何で?」

 

「知らない」

 

「彼女だけじゃない。優もいないんだ」

 

「え?!あの男もか」

 

「朝起きたら、布団が畳まれて……

 

てっきり森の方にいるもんだと思って、森に行ったらいなくて……この辺り探したんだけど、どこもいなくて」

 

「誰かにさらわれた?」

 

「大変じゃん!!早く父上に話さないと!!」

 

「あくまでも例えだ!

 

六助さん、大助達と一緒に城内の中探してくれ。俺は鎌之介と一緒に猿と氷柱にも頼んで森を探す。鎌之介来い!」

 

 

その後、才蔵達は城内と上田の森を隈無く探した。日暮れまで探したが、二人はどこにもいなかった。

 

 

「見つかった?」

 

「いや、どこにも」

 

「どこに行ったんだ?桜華の奴」

 

「ねぇ、本当にさらわれたんじゃ」

 

「俺等にも気付かれずに侵入したとしたら、かなりの手練れだ」

 

「でも、昨日……あ」

 

「?どうかしたの?」

 

「いや……夜中に便所で起きた時、馬小屋の方から何か物音が聞こえて、中覗いたら……

 

 

あのデカい山犬二匹に乗って、外に出てく影を二つ見たような気が」

 

「それを何でもっと早く言わねぇんだ!!」

 

「それが桜華達だとしたら、山犬は青と空」

 

「あの二匹の子供がいるかどうか、見てくる!」

 

 

急いで馬小屋に行くと、中には空達の子供が伏せていた。

 

 

「子供はいるみたいね」

 

「……大助」

 

「?」

 

「俺と氷柱、佐助と鎌之介の四人で桜華を探しに行くと、幸村に言っといてくれ」

 

 

手で合図すると、三人は一斉に森の方へ向かった。すると空達の子供は、頭を一振りし立ち上がり、才蔵の元へ駆け寄ってきた。

 

 

「あれ?才蔵、いつの間にこいつ等と仲良くなったんだ?」

 

「さぁな。こいつ等が勝手に懐いてんだ。とにかく、あと頼んだぞ」

 

「分かった!」

 

 

才蔵が駆け出すと、二匹はすぐに彼の後を追い駆けていった。そんな彼等の後を、椿と陸丸は大助達に気付かれぬようにその場から去り、追い駆けていった。

 

 

 

その頃、桜華と優之介は川で一休みしていた。

 

 

「こんなにも、上田から遠かったとは……」

 

「船で二日はかかったからね」

 

「やっぱり、それくらい遠いのか……

 

よかったのか?あの才蔵って奴に言わないで来て」

 

「言ったら、危険だって言って行かせてくれない……」

 

「……あそこの奴等、本当にお前のこと大事にしてんだな」

 

「どっかの誰かさん達の違って、私を守ってくれた。

 

上田に始めて来た時も。この赤い目を見たって、才蔵達は毛嫌いしなかった」

 

「……」

 

「急ごう。

 

多分才蔵達、私達がいなくなったことに気付いて探してるかも知れないから」

 

「そうだな」

 

「行こう。

 

今日中には、この山を越えたいし」

 

「あぁ」

 

 

空の背に乗ると空は走り出し、続いて優之介を乗せた青も走り出した。




狐:こいこい!!

甚:ダァー!!負けたぁー!!

大:狐、花札強いね!

狐:まぁね!

鎌:狐!今度は、俺と勝負だ!

狐:いいよ。

大:あ!ズルい!

オイラもオイラも!

六:駄目です!!

そんな遊び、早すぎです。

大:え~!!

鎌:いいじゃねぇか!六郎。

六:駄目なものは駄目です!!


才:何遊んでんだ!!お前は!!
猿:何遊んでんだ!!貴様は!!

狐:わー。才蔵と佐助が怒ったー。

才:何だよ!!その反応は!!

狐、お前どうした!?

狐:私はいつも通りですよ~。

猿:いつものお前じゃない!!

狐:え~。いつもの私ですよ~。大丈夫ですよ~。

氷:駄目だわ。完全に疲れ切ってるわ。

幸:余程、仕事が忙しいのか……

望:仕事というより、学校じゃないですか?

清:忙しい中、この小説を書いておるのか。偉いぞ!狐殿!!

伊:そうでもないですよ。

学校と仕事が忙しいのは事実ですが……


普通に夜中に、ゲームやってちゃおかしくなりますよ。

狐:さてと、仕事仕事。

才:狐ぇ!!
猿:狐ぇ!!


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悪しき魂

醜い……

人はいつも、争いだ……一度、この国を滅ぼすか。


『蘇るというのであれば、この私久久能智神にお任せを』


丘を登り切り、滅んだ里を見下ろす桜華達……

 

 

「四年振りに来た……

 

あの日以来、もう一度見るのが恐くて」

 

「私はついこないだ、才蔵達と来たばかり。

 

ま、あの時は記憶無かったけど」

 

「……」

 

「行こう。

 

早くあの玉を見つけて帰ろう」

 

 

空を走らせ、桜華は先に里へと向かった。彼女の背中を見ながら、優之介は青の頸を撫でて走り出させ後を追った。

 

 

 

その頃才蔵達は、桜華達が休んでいた場所で一休みしていた。

 

 

「つ、疲れたぁ……」

 

「み、皆さん速過ぎです」

 

「あいつ等に追い着くには、これくらいスピードを……って、何でお前等もついて着てんだよ!!」

 

 

陸丸と椿を睨みながら、才蔵は二人を怒鳴った。

 

 

「城にいなさいって、幸村様から言われてるでしょ。すぐ帰りなさい」

 

「嫌よ!

 

こっちだって、二人の事は心配なんだから」

 

「へ~。一応、心配してんだ」

 

「!」

 

 

鎌之介に言われた椿は顔を真っ赤にして、そっぽを向いた。

 

 

「しかし何故、桜華は才蔵ではなくあの優之介だっけ?あいつを連れて行ったんだ?」

 

「知らねぇよ」

 

「嫌なことしたんじゃないでしょうね?」

 

「してねぇよ!!」

 

「じゃあ何でだ?」

 

「だから知らねぇって!!」

 

「同じものが見えるからだよ。多分」

 

「同じもの?」

 

「優と桜華、昔から同じものが見えてたみたいだから」

 

「二人で何か、難しい話してたからねぇ。昔から」

 

「何か才蔵と佐助みてぇだな」

 

「断じて違う!!」

「断じて違う!!」

 

「忘れたの?椿」

 

「?」

 

「二人は許婚同士。だから気が合うんだよ」

 

「そういえば、そうだったわね(すっかり忘れてた…)」

 

「そうかそうか!許婚同士か……

 

 

えぇ!!?許婚同士!?」

「許婚同士!?」

 

 

陸丸の言葉を繰り返しながら、才蔵達は驚き思わず声を上げた。

 

 

「あ、あああいつ等、許婚同士なのか!?」

 

「そうだよ。

 

優は知識や技術が他の子供と比べて、凄く優れてて……」

 

「次期長として、桜華の許婚になったのよ」

 

「え?桜華って、長のガキなのか?」

 

「強いて言うと、孫よ。

 

お頭は、蓮華さんの伯父だったから」

 

「伯父?」

 

「蓮華さんのお父さん、生まれてすぐ亡くなって……」

 

「伯父に引き取られたって話よ」

 

「へ、へー(俺の中では、桜華とあの男が許婚同士ということの方が驚きだ)」

 

「なぁなぁ、一つ聞いていいか?」

 

「?」

 

「桜華の里って、何か宝あったよな?」

 

「宝?」

 

「俺が山賊の頃、よく聞いたんだ。

 

出雲と伯耆の間にある隠れ里には、宝があるって。その宝を売れば、天下が取れるってな!」

 

「宝……あ」

 

「?やっぱあるのか?!」

 

「いや……僕等は噂でしか、聞いたことないんだけど……

 

四つの勾玉の他に、玉があるって」

 

「玉?」

 

「黒い手の平に乗るくらいの大きさで」

 

「これが全部揃えば、伊佐那美を甦らせるって話」

 

「その玉、今どこに?!」

 

「知らないわよ。

 

噂でしか、聞いたことないんだから」

 

「その玉が本当にあるって言うなら!」

 

「早く桜華を連れて帰らねぇと!!」

 

「休んでる暇ねぇ!!早く行くぞ!!」

 

「走るのはいいけど」

 

「アンタ達、走るの速過ぎよ!!」

 

「修業が足りねぇんだよ!」

 

「ほら行くわよ!」

 

 

空達の子供を先頭に、才蔵達は駆け出しその後を陸丸と椿は追い掛けていった。

 

 

 

その頃、桜華達は里の中へ入り目的である玉を探していた。

 

 

「クソ……どこにあるんだ?」

 

「あと探してないところは、お頭の家だけか……」

 

「……」

 

 

ふと思い出す過去……家の庭で遊ぶ桜華を、お頭は縁側に座り眺めていた。彼女がこちらを向き駆け寄ると、お頭は立ち上がりその場を去った。その時の彼の背中は、どこか寂しそうに見えた。

 

 

「桜華、行くぞ」

 

「あ、うん」

 

 

里を見渡せる場に、大門が建ち焼かれた平家へ桜華達は行き、中へ入った。周りはどこも焼かれた跡が残っていた。

 

 

「ここも襲ったのか……」

 

「……!」

 

 

その時、どこかの風景が桜華と優之介の脳裏を過ぎった。

どこかの家の中……その中の床下に空洞があり、その奥に小さな社と鳥居が建っていた。

 

 

ハッと我に返った桜華は、駆け出しある部屋へ行った。そこはかつて、お頭の部屋だった場所……中へ入り、焦げた畳を退かし床を見た。床には見にくいが、取っ手が付いており、四角く切れ目があった。

 

 

「これって……」

 

「小さい頃、遊び半分でお頭の部屋に行ったんだ。

 

部屋に行くと、何かいつも畳が動かされた後があったから」

 

「なるほど」

 

「行こう。この奥に社が」

 

「あぁ」

 

 

二人で一緒に、床の戸を開けた。開けると階段が奥まで続いており、中は真っ暗だった。

 

 

「先に行く。桜華は後ろから」

 

「うん」

 

 

明かりを持ち、優之介は先に階段を降り、その後を桜華は彼の服の裾を掴みながら、ついて行った。

 

 

奥に進むにつれ、暗さが更に増していった。しばらく階段を降りていくと広間へと着いた。

 

前を照らすと、そこには小さな社と鳥居が岩の段に建っていた。

 

 

「これか?」

 

「みたいだね。

 

 

?優、社の中」

 

 

指差す方に目を向け、優之介は社の中を覗いた。中には手の平サイズの黒い玉と玉の背後に鏡が置かれていた。

 

 

「あった……」

 

「これが、悪しき魂……」

 

 

無意識に優之介の手を握りながら、桜華は社の戸を開け中にある悪しき魂を手に取った。

 

 

「急いで帰ろう。奴等も血眼になって、探しているかも知れない」

 

「うん」

 

 

腰に着けていたポーチに、玉を入れ桜華は優之介と共に外へ出た。




才:いや~、最近寒くなってきたなぁ。

狐:もう冬ですからねぇ。炬燵が恋しい!

氷:ミカンもね!

狐:温泉に行きたいなぁ。

幸:温泉か。いいのぉ!月の下で熱燗ってのも!

大:オイラ、雪合戦がいい!

鎌:あ!それ俺も俺も!

猿:……何やってんだ?

狐:ん?どうした佐助。恐い顔して。

猿:何で炬燵に入って、ノホホンとしてるんだ!!

氷:そう言うコーナーじゃない。

狐:佐助がキレだしたので、今回はここまで。

読者の皆さん、風邪には気を付けてね。


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裏切り者

何で、いつもそんな顔してるの?

何で、いつも寂しそうなの?

桜華達じゃ、不満なの?


『お前はよく似ている……』


お頭の家を出た桜華は、ふと後ろを振り返り家を見た。

 

 

「どうかしたか?」

 

「……父さんがまだ里にいた頃、ここへ来るのが楽しみだった」

 

 

蘇る記憶……真助の手を引き、蓮華と共にお頭の家へ行った。家の中を走り回ったり、庭に生えていた木に登ったりと遊んでいた。その度に、真助に注意されていた。

 

 

「あの頃は楽しみだったけど、今はもう行きたくない」

 

「……ここには用は無い。

 

帰ろう」

 

 

歩き出そうとしたその時だった。

 

 

突然、桜華の足下から硝子が現れ彼女を閉じ込めた。

 

 

「桜華!!」

 

 

「見~つっけた」

 

 

声の方に目を向けると、壁の屋根に座る灰色の髪を腰下まで伸ばし、顔に能面の面をした男が一人いた。

 

 

「お前……まさか」

 

「随分と成長したねぇ。

 

優之介……それに桜華」

 

「な、何で俺達の名を……」

 

「俺は彰三……

 

名ぐらいは聞いたことあるでしょ?」

 

「……!?」

 

 

『彰さん、また武勇伝聞かせてよ!』

 

『聞かせて聞かせて!』

 

『おーおー。いいぞ』

 

 

幼き頃の自分達は、目の前の男の膝に乗って彼の武勇伝を聞いていた。周りがその名で呼んでいたため、本名を忘れていた……二人はそう思いながら、彼を見つめた。

 

 

「ま、まさか……」

 

「し、彰さん?」

 

「当ったり~!」

 

「な、何で……彰さんが、あいつ等の」

 

「身を隠すの大変だったよ。

 

真助が邪魔してね、全然お前を奪えなかった……」

 

「……まさか、真田に俺達一族を教えたのって」

 

「お前等が思ってる通り、この俺・彰さんでーす」

 

「そ、そんな……だって」

 

「敵ならもう用は無い!!

 

早く桜華を出せ!!」

 

「それは無理だね。

 

だって、主の元に連れて行かなきゃいけないからこの子」

 

「?!」

 

「しっかし、見れば見るほど蓮華に似てるわぁ」

 

 

屋根から飛び降り、硝子の中に閉じ込められた桜華を、彰三は彼女の体を上から下へじっくりと見た。

 

 

「光坂流火術棒線火!!」

 

 

口から無数の火の棒を優之介は、彰三に向かって吐き飛ばした。彰三はすぐに避け彼を見た。

 

 

「この俺と戦るって言うのか?」

 

「桜華を渡すわけにはいかねぇ!(今度こそ、こいつを)」

 

「まぁ、別にいいけど……

 

 

死んでも知らないよ?」

 

「優辞めて!!

 

そいつと戦わないで!!」

 

「そうそう。戦わなくとも、桜華を渡せば死なずに済むんだよ?」

 

「誰が死ぬか!すぐ終わらせる!」

 

 

束を手に、優之介は勢いを付け鞘から刀を抜き振り上げた。だがその瞬間、ガラ空きになった腹に、彰三は鉄拳を喰らわせた。口から血を吐きながら、優之介は腹を抱えてその場に倒れた。

 

 

「優!!」

 

「だから言ったでしょ?死んじゃうって。

 

まぁ、力は抜いたから死にはしないけど」

 

「か……(ま、真面に息が……出来ねぇ!!)」

 

「さぁて、連れて行きましょう………?!」

 

 

突如、地面が盛り上がり桜華と優之介の周りに壁を作った。桜華は刀の束を握り、硝子越しから周りを見回し、優之介は腹を抑えながら隠し持っていた短刀を手に立ち上がった。

 

 

「間に合った!」

 

 

壁を越え来たのは、陸丸と椿の二人だった。二人に続いて才蔵達も到着し、才蔵は剣を思いっ切り振り下ろし、桜華を閉じ込めていた硝子を粉々に砕いた。

 

 

「フー!ギリギリセーフ!」

 

「鎌之介、何で……」

 

 

後ろから、空達の子供が桜華に擦り寄ってきた。それと共に才蔵と佐助は、桜華と優之介の頭を思いっ切り叩いた。

 

 

(うわ……)

 

(痛そう……)

 

「何の断りも無しに、外に出るな!!この馬鹿!!」

 

「貴様はともかく、桜華は狙われの身なんだぞ!!分かっているのか!!」

 

「すみません……(痛ってぇ……)」

「ごめんなさい……(父さんと同じくらい痛い……)」

 

「で……あの敵は何者なんだ?」

 

「光坂彰三。一族の中で特殊な技を使う奴」

 

「光坂……光坂!?」

 

「まだ生き残りがいたの?!」

 

「生き残りだけど、違う……」

 

「?」

 

「違うって、何が違うのよ?」

 

「……だったんだ」

 

「え?」

 

「裏切り者だったんだよ……彰さんが!!」

 

「?!」

 

 

その言葉に、陸丸と椿は驚きの顔を隠せなかった。

 

 

「う、嘘でしょ……」

 

「彰さんが……そんな」

 

「……事実だ。

 

現に、桜華を襲った。俺も襲った」

 

「……」

 

「そ、そんなはずないよ!!

 

だって……だって彰さん、いつもあんな優しくしてくれたじゃないか!僕達に忍の心得も殺しの心得も、教えてくれたの全部彰さんだったじゃん!」

 

「全てはまやかし」

 

「え?」

 

「多分彰さんは、父さんが居なくなるのをジッと待ってた……ずっと、長い間。

 

 

その間に、私達には仮の姿を作り接していた。誰にもバレずにずっと」

 

「そんな事って……」

 

「あり得るわよ」

 

「?!」

 

「私達忍は、敵の陣地へ潜り込む時相手の頭の信頼を得るために、芝居を打つの」

 

「そっから得た情報を、主に渡し敵を殲滅させる」

 

「忍の心得を教えて貰ったのなら、知ってるだろう?」

 

「そ、それは……」

 

「だから甘いの。

 

お前等二人は、いつもいつも。だから強くなれないんだよ」

 

「甘さを捨てろって、いつも頭が言ってただろ?」

 

「そんな簡単に言わないでよ!!

 

二人は平気なの?!目の前で、家族が殺される瞬間を……!」

 

 

椿はハッと手で口を押さえながら、桜華の方を見た。

 

 

「……平気なわけないじゃん」

 

 

思い出す過去……自身の囮となった母の姿を最期に、桜華は里から逃げ出した。

 

 

「……?」

 

 

その時、突然地面が揺れ出した。才蔵達はそれぞれの武器を構えた。揺れはしばらくして収まった……だが次の瞬間、周りにあった土壁が一斉に崩れ落ちた。

 

 

「やっと崩れたか」

 

 

声の方に振り向く才蔵達……崩れた土に、彰三は座っていた。

 

 

「彰さん……」

 

「久し振りだね。陸丸、椿。

 

随分と大きくなったなぁ」

 

「……う、裏切り者じゃないよね?彰さん」

 

「……」

 

 

一瞬で姿を消した彰三は、陸丸と椿の背後へ周り二本の刀を振り下ろした。その瞬間、才蔵と佐助は手に持っていた武器でそれぞれの刀の攻撃を防いだ。

 

 

「二人は下がってろ!!氷柱!」

 

「やれやれ……

 

俺は桜華を貰いに来たんだ。

 

 

だから、君達に用はない」

 

 

一瞬で二人を斬り付けたのか、彰三はいつの間にか二人の後ろに立っていた。次の瞬間、才蔵と佐助は腹から血を流しながら倒れた。

 

 

「才蔵!!佐助!!」

 

「ほーら、ご覧桜華。お前が俺と一緒に来れば、誰も殺さない。

 

嫌だと拒むなら、ここにいる奴等は皆あの世行きだ」

 

「……」

 

 

握っていた束から手を離し、桜華は恐れながらゆっくりと歩き出した。

 

 

「桜華行くな!!」

 

 

手を掴もうとした瞬間、優之介の前に硝子の壁が現れた。彼と同時に氷柱、椿、陸丸の前にも現れ道を塞いだ。

 

 

「邪魔はしないでね」

 

「桜華、行っちゃ駄目!!」

 

「桜華!!」

 

 

ゆっくりと歩み寄る桜華……近付いてくる彼女に合わせて、彰三は刀を鞘に収めた。

 

 

「……さぁ、おいで」

 

「……」

 

 

差し伸ばした彰三の腕……次の瞬間、その腕は地面へと落ちた。何が起きたか分からない彰三は、桜華のを見た。彼女の手には、刀が握られていた。その刀の刃には、先程付いた血で赤くなっていた。




狐:試験……試験……

才:狐が何かに取り憑かれてる!!

猿:いや、試験前だからナーバスになってるだけだろ。

狐:佐助ぇ、私と変わってくれぇ……

猿:いや、無理だから。

氷:試験ねぇ。

アンタ達はあったんじゃないの?あの師匠だから。

猿:あったあった。

才:思い出すだけでも、腹が立つ!

狐:試験……

氷:これ以上は無理だわ。

才:そんじゃあ、今回はここまで。


※試験日が近付いているため、しばらく更新をお休みします。


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硝子の華

相手に隙が出来たら、容赦なく攻撃をしなさい。

敵との戦闘中、必ず隙が出来ます。

落ち着いて……そう。

相手に動きを見られないように動き、そして油断した隙を狙い……斬る!


「ギャァァアアアア!!」

 

 

苦痛な叫び声が、辺りに響き渡った。刃に付いた血を採るようにして、桜華は刀を一振りしながら彰三を見た。彼は斬られた腕を押さえながら、息を切らして彼女を見上げた。

 

 

「さ、流石……真助のガキだな……」

 

「……」

 

「す、凄い……」

 

「流石……真さんと蓮華さんの子」

 

「お前がいなければ……

 

 

お前がいなければ、私は……父さんは」

 

 

目から涙を流しながら、桜華は彰三を睨んだ。

 

 

「お前がいなければ、父さんは里を出ることはなかった!!

 

お前がいなければ、私は閉じ込められることはなかった!!

 

お前がいなければ……いなければ、母さんは死ななかった!!一族だって滅ぶことはなかった!!」

 

 

一つ一つの言葉に、優之介達は下を向き歯を食いしばり、悔しそうに彰三を睨んだ。

 

桜華は刀を振り上げ、そして勢い良く彰三目掛けて振り下ろした。

 

 

“キーン”

 

 

「!!」

 

「!?

 

な、何で」

 

 

二人の間に、才蔵は立った。振り下ろした桜華の刀を受け止め、クナイの先端を彰三の額に当てて立っていた。

 

 

「何で……何で止めるの!!」

 

「……」

 

「意味分かんないことしないでよ!!

 

コイツを殺せば、私は」

 

「……晴れるのか?」

 

「?!」

 

「復讐に満ちたお前の気持ちは、晴れるのか?

 

コイツを殺したところで」

 

「……」

 

「恨みは誰にだってある……

 

お前の気持ちはよく分かる……

 

 

けど、その恨みの塊を消したところでなんも変わんねぇんだよ」

 

「……私は……ただ……ただ」

 

 

刀を落とし、桜華はその場に座り込み手で顔を覆いながら泣いた。

 

才蔵は傷口を抑えながら、倒れ込んだ……その時だった。彰三は隠し持っていた刀を手に、座り込んでいた彼に向かって振り下ろした。

桜華はすぐに、刀を手に座り込んだ才蔵の前に立ち彼の刀を受け止めようと構えた。

 

 

次の瞬間、二人の前に見覚えのある背中が立ち、彼の刀を受け止めた。

 

 

「……と、父さん」

 

 

真助に受け止められた彰三は、すぐに彼から離れるようにして後ろへ下がった。真助は氷柱達の元へ行くと、前を塞いでいた硝子の壁を粉々に砕いた。

 

 

「けっ。いい身分になったもんだな?真助」

 

「口を閉じなさい。君には目を付けていたが……

 

まさか、本当だったとは」

 

「やはり気付いていたか……」

 

「お頭や蓮華達を騙しても、僕を騙すことは出来ないと言うことですよ」

 

「……相変わらず、ウザい野郎だな」

 

 

倒れている才蔵の所へ行くと、真助は彼に声を掛けた。その声に、才蔵は目を真助の方に向けた。

 

 

「真……さん」

 

「もう喋らなくていいです。よく頑張りました」

 

「……」

 

「桜華、刀を貸して下さい」

 

「……でも」

 

「大丈夫です。

 

死にはしませんよ」

 

 

笑みを浮かべながら、真助は桜華の頬を撫でた。桜華は持っていた刀を、彼に差し出した。真助は受け取ると、振り返り目付きを変えて、彰三を睨んだ。

 

 

(凄い殺気……)

 

(本当に真さん?)

 

「……やはり、光坂の落ちこぼれだな?真助」

 

「え?」

 

「光坂の」

 

「落ちこぼれって……」

 

 

彰三は持っていた刀を、持ち直し真助に向かって迫った。真助は、刀を素早く抜き取ると、彼の刀を弾き飛ばした。彰三は悔しそうに刀を持っていた手を見ながら、真助の方を向いた。彼は刀を下げながら振り返った。

 

 

「!?」

 

「……父さん…目」

 

 

振り返った真助の目……普段の青い瞳ではなく、光坂の特徴である赤い目をしていた。

 

 

「どういう事?

 

真さん……まさか、光坂の」

 

「そんなはず……」

 

「真助さんは、ずっと青い目だよ!そうだよね?桜華」

 

「……」

 

「赤い目をしてて当然だ……

 

こいつは、光坂の落ちこぼれなんだからな」

 

「え?」

 

「武田の24武将の一人であった山本勘助……

 

奴は光坂の女とくっつき、そしてそいつに子を産ませた。それが、真助……テメェだ!」

 

「!?」

 

「じ、じゃあ……」

 

「真助さんは……こ、光坂の」

 

「でも、おかしいよ……

 

もし、光坂の血を引いてるなら……何で真助さんは、目が赤くないの?」

 

「だから、落ちこぼれなんだよ」

 

「……薄いんですよ」

 

「?」

 

「光坂の血が……薄かったんです」

 

「……」

 

 

白い空間……そこに立つ幼い頃の自分。周りには誰もいなかった……誰も近寄ろうとはしなかった……

 

 

『あれか、光坂の落ちこぼれ』

 

『光坂の血を引いてるのに、赤い目を持たないなんて……』

 

『忌み子じゃないの?』

 

『母親は?』

 

『生まれてすぐ死んだらしい。

 

それに、父親も』

 

『誰が育ててるの?』

 

『お頭』

 

『頭の奴、何考えてるのか』

 

 

遠い記憶……泣くのを堪えていた自分に、手を差し伸ばしたのは蓮華だった。

 

 

 

下に向けていた目を、スッと上げ桜華を見つめた。

 

 

「光坂にとって、僕は落ちこぼれでしょう……

 

しかし」

 

 

束を掴み勢い良く刀を引き抜くと、真助は光のような速さで、彰三の肩を斬り付けた。

 

 

「その落ちこぼれに負け、仕える側となったあなたに関係ありません」

 

「……父さん」

 

「テメェといい娘といい!!嫌な目付きをしやがるな!!

 

 

もういい!!テメェ等親子は、ここでくたばれ!!」

 

 

空に向かって腕を上げた彰三……その時、空に巨大な硝子の華と無数の硝子の槍が現れた。

 

 

「陸丸!!」

 

 

危険を察した椿は、陸丸に向かって声を荒げた。彼は落ち着かない様子で、空をチラチラと見ながら何かをしようとしていた。

 

 

「駄目だ……陸丸の奴、完全に怯えてる。

 

俺が氷で盾を作る!」

 

「お願い!」

 

「じゃあな……隊長、桜華!!」

 

 

巨大な硝子の花は、二人に向かって落ちてきた。真助は刀を捨て桜華を守るようにして抱いた。




狐:好きな漫画の連載が終わってしまった!!もう駄目だぁ!!

才:何だよ!!藪から棒に!!

猿:試験中じゃなかったのか!?

狐:試験中でも、漫画は読む!

猿:ドヤ顔するな!!


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安息の場所

“パリーン”


硝子の割れる音……その音に、目を瞑っていた桜華と真助は、目を開け互いを見合うと同じ方向に目を向けた。


「!!お前」


割れた硝子が舞い散る中、真っ白な髪を靡かせた女性がいた。


「また会えたわね……桜華」


地面へ降り立つ女性……彼女の姿に、真助は目を疑った。

 

 

「……ま、まさか…蓮」

「アイツは母さんじゃない!!」

 

「?!」

 

「彰三、言ったわよね?

 

桜華を殺しちゃ駄目って……」

 

「……」

 

「まぁいいわ。

 

殺してないようだから」

 

 

見てきた彼女に、桜華は鋭い目付きで睨み地面に転がっていた刀の束を握った。

 

 

「そんなに警戒しなくてもいいじゃない。

 

いずれは貴方と私は一緒になるんだから」

 

「なるわけないでしょ!!」

 

「フフフ……

 

真助……貴方にお願いがあるの」

 

「お願い?……!」

 

 

腹を貫く硝子棒……真介は訳が分からないまま、口から血を吐き出した。

 

 

「父さん!!」

「真さん!!」

「真助さん!!」

 

「あなたは邪魔なの。

 

桜華が伊佐那美になるには」

 

 

腹を抑えながら、真助は口から出る血を手で抑えた。そんな彼の姿を見た桜華は、刀を握って立ち上がった。

 

 

「あら?母親の私を殺すの?」

 

「母親でも何でもない!!

 

母さんは……母さんはもう!!」

 

「本当にそうかしら?」

 

「?!」

 

「あなたが見たのは、蓮華が流した血だけ……もし、あの時生きていたら?」

 

「そんなはずない!!

 

生きてたら、母さんは私を……」

 

「そう……あの時、あの子は息はあった。

 

だから、乗っ取るのは楽だったわ。燃え尽きそうな命だったから、何の抵抗も無く」

 

「まさか……蓮華さんの体を」

 

 

不敵な笑みを浮かべる女性……彼女はゆっくりと降り立ちそして、二人の前に立ち手を差し伸べた。

 

 

「行くよ、桜華」

 

 

その声は、蓮華の声だった……桜華と真助は、驚きの顔を隠せなかった。

 

 

「風術大旋風!!」

「氷術燕の舞!!」

 

 

氷の刃が、強い風に乗って飛び女性と彰三に攻撃した。

女性は、手に持っていた扇でその攻撃を振り払います、後ろへ下がった。

 

 

「話し中悪いが、俺達を忘れるんじゃねぇ!」

 

「チッ!」

 

 

その時、彰三は指を鳴らした。すると桜華の立つ地面に硝子の床が現れ、さらに周りに硝子の壁が作られ彼女を閉じ込めた。

 

 

「木術木の葉隠れ!!」

 

「桜華!!」

 

「渡すか!!風術大旋風!!」

 

 

舞う木の葉を追い払い、地面に落ちた桜華に氷柱は氷を張り覆った。

 

 

「これで奪えないでしょ?」

 

「小癪な!!」

 

「晶術針千本!!」

 

 

空中から硝子の針が、雨のように降り注いだ。氷柱は氷の屋根を張り、攻撃を防いだ。その間に、桜華は硝子を叩き割り外へ出ると、刀を手に無防備になっていた女性に向かって振り下ろした。

 

肩から腹まで切られた女性は、血を吹き出しながらその場に座り込んだ。

 

 

「頭!!」

 

「己ぇ!!桜華!!」

 

「甲賀流隼斬り!!」

「伊賀流水溶斬!!」

 

 

何かの技を出そうとした彰三に、復活した佐助と才蔵は各々の攻撃を彼に食らわせた。

 

 

「陸丸!!椿」

 

 

優之介の掛け声に、二人は土と風の技を出した。次の瞬間、辺り一面に砂が舞い上がり嵐を起こした。敵の目を眩ました優之介達は、才蔵達を誘導しながらその場を去った。

 

 

嵐が止み、辺りが見えるようになった……女性は舌打ちをしながら、傷口を手で抑えた。

 

 

「逃げられたか……」

 

「まぁ、また会う機会はある……帰るぞ、彰三」

 

 

そう言うと、女性は木の葉を舞い上がらせ彰三と共に姿を消した。

 

 

 

森の中……木に凭り掛かり座る真助を、桜華は手当てしていた。木の上で里を見ていた鎌之介は、木から降り佐助達を手当てする氷柱の元へ行った。

 

 

「あいつ等の気配無くなった。もう大丈夫だろ!」

 

「なら良いわ」

 

「痛っ!!」

 

「我慢しなさい、男でしょ!」

 

「男でも我慢できない痛みはある!

 

痛っ!!」

 

「痛そうだな?才蔵も佐助も」

 

「お前は黙ってろ!!」

 

「そういや、真さんは?」

 

「桜華が手当てしてる」

 

「そうか……?」

 

 

真助が座る木の後ろに生い茂る茂みから、二頭の狼が姿を現した。二頭は真助を見ると、尻尾を振りながら彼に擦り寄った。寄ってきた二頭の頭を、真助は微笑みながら撫でた。

 

 

「全員無事だし、才蔵達の手当て終わったら帰ろうぜ!」

 

「アンタに言われなくてもそのつもりよ!

 

はい、終わり」

 

 

才蔵達の手当てを終えた氷柱は、軽く二人の背中を叩いた。痛かったのか、二人は悲痛な声を上げながら、その場に倒れた。

 

その横で手当てを終えた真助は、地面に置いていた羽織を肩に掛けながら、桜華から悪しき魂を受け取った。

 

 

「これが、あの人の家に……

 

桜華」

 

「?」

 

「これは、僕が預かっときます」

 

「え?」

 

「あの人達のことです。

 

また、君達を襲う可能性があります。特に桜華……君は、彼等にとって必要不可欠な存在。これを盗られ、さらに君まで盗られては、話になりません」

 

「だったら真さん、俺等の誰かが持ってた方が」

 

「先程の戦いを経験しましたでしょう……

 

彰三も伊佐那美も、遙かに僕等を超えています。現に桜華を奪われかけました」

 

「……」

 

「まぁ、本音は……

 

父親らしいことをしたい僕の我が儘です」

 

 

そう言いながら、真助は桜華の頭に手を乗せ笑みを見せた。

 

 

「……桜華は良いよな。

 

父ちゃんが生きてんだから」

 

「陸丸……」

 

「生きてるかなって、思ったけど……やっぱり、あの時と変わらない焼け野原。

 

桜華をいじめてたから、罰が当たったんだ……きっと」

 

「……」

 

「父ちゃんに、また会いたいなぁ……」

 

「……確かに、君達の親御さんはもうこの世にはいません。

 

ですが、その分逞しく成長しているではありませんか。

 

陸丸」

 

「?」

 

「昔の君は、臆病者。自分が危ないと思ったら、すぐに逃げていたのに……今回は逃げずに戦っていたではありませんか」

 

「……」

 

「椿もですよ。

 

昔は無鉄砲に突っ走っては、怪我をしていたのに……

 

今回はしっかりと考えて、行動していました」

 

「……」

 

「貴方もですよ、優之介。

 

命を賭けて、娘を……桜華を守ろうとしてくれました」

 

「当たり前です……だって」

 

 

何かを言い掛けた優之介だったが、顔を上げた途端桜華と目が合い、思わず逸らしそっぽを向いた。

 

 

「君等の親御さんが、今の君等を見たら言いますよ……

 

 

『自慢の子供』だと」

 

 

誇らしく見せる真助の顔を見た途端、陸丸達の目から涙が流れた。彼等はすぐに涙を腕で拭ったが、流れる勢いが収まらなかった。

 

 

「何泣いてんだが」

 

「そう言わない。

 

ずっと我慢してたんでしょ。里が壊されて親が殺されて……絶望の淵の中、身を隠して必死に生きてきたんだから。泣く暇なんか、なかったんでしょ」

 

「そういうもんか?」

 

「テメェだって拾われた頃は、泣きまくってたじゃねぇか」

 

「な!余計なこと言うな!!」

 

「確かに、才蔵がいないだけでビービー泣いてたもんな」

 

「うるせぇ!!馬鹿佐助!」

 

「誰が馬鹿だ!!」

 

「ハイハイ!喧嘩は止めなさい!

 

子供の前よ!」




狐:皆ぁ!久し振りぃ!!

才:うわぁ!!狐が戻ってきた!!

猿:今まで何をやっていた!?

才:お前、一部の奴等から失踪したって言われてたんだぞ。

狐:色々あったんだよ。

まぁ、また更新始めるから、許して♡

猿:気色悪いわ!そのマーク!

狐:うわーん!!佐助がいじめたー!!

才:オイ猿、狐をいじめるな。

猿:お前等ぁ!!

狐:また次回!

うわっ!佐助、才蔵と喧嘩……って、狭いんだから追いかけっこするな!!

猿:待ちやがれ!!才蔵!

才:捕まえてみろ!御山の大将!


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赤髪の山賊

今から六年前……鎌之介が上田に来た頃の話。

※ここでの雑談はありません。


桜が咲き誇る上田……城に一人の少年が縛り上げられ、砂利の上に座らされていた。前には、幸村と六郎、そして佐助達がいた。

 

 

「ほぉ、こいつが上田の森に住み着いた山賊か……」

 

「えぇ、佐助と才蔵がやっと捕まえたと……」

 

「おかげで傷だらけだ……痛っ!!」

 

「で、この子どうします?幸村様」

 

「まぁ、森に返すのも何だし……かと言って、罰を与えるにはまだ子供だし」

 

「じゃあどうすんだよ」

 

「……そうだ!

 

才蔵、お主この子の面倒を見ろ」

 

「ハァ!?」

 

「命令だ。佐助と氷柱も頼むぞ」

 

「嘘……」

 

「わ、分かりました」

 

「頼んだぞ」

 

 

そう言い捨てながら、幸村は六郎と共に部屋を出て行った。

 

 

「あのクソ殿!!俺等に押し付けやがって!!」

 

「面倒なことは、全部私達に押し付けて……時々嫌になるわ」

 

「そう言うな」

 

 

怒る才蔵を宥めながら、佐助は少年の縄を解いた。その瞬間、彼は佐助に刃を向け怯んだ隙を狙い、そのまま部屋を出て行った。

 

 

「馬鹿猿!!何やってんだ!!」

 

 

出て行った少年を、三人は慌てて追い駆けた。

 

 

庭を歩く少年……その時、ある一室から幼い大助が飛び出し、庭へ出て行きその後を伊佐道と清海が追い駆けてきた。

 

 

「ねぇ!森行きたい!」

 

「いけません。

 

森は今、危険です」

 

「えぇ!行きたい行きたい!」

 

「駄目です」

 

 

駄々を捏ねる大助を、少年は恨めしそうに見ていた。

 

 

「……?」

 

 

少年に気付いた大助は、彼の元に駆け寄り手を握りながら言った。

 

 

「ねぇ、ここにいないでこっちに来て一緒に」

 

 

そう言った瞬間、少年は大助の手を振り払い睨んだ。

 

 

「失せろ……俺は、テメェみてぇな甘ちゃんは嫌いなんだよ」

 

「……う…ウワァァン!!」

 

 

大助の泣き声に、伊佐道達は駆け寄り彼を慰めた。清海は少年に訳を聞こうと寄った途端、彼は持っていた鎖鎌を振り回し、清海の腕に傷を付けた。

 

 

「兄上!!

 

何者ですか!?あなた」

 

「……」

 

 

「何やってんだ!お前は!」

 

 

その声と共に、少年は後ろに降り立った佐助から拳骨を食らった。彼は頭を抑えながら、その場を立ち去った。

 

 

「いきなり拳骨食らわすなよ」

 

「躾だ」

 

「躾って……あのなぁ」

 

「清海、傷は?」

 

「少し切っただけだ……大したことは無い」

 

「あの子は何者です?」

 

「上田の森に住み着いてた山賊の子供だ。

 

名前は確か……」

 

「由利鎌之介」

 

「あぁ、今朝あなた方が捕まえた山賊さんでしたか……

 

して、なぜその山賊さんがここに?」

 

「城に置くことになった」

 

「……はい?!」

 

 

 

上田の森へ戻ってきた鎌之介は、川辺で顔を洗っていた。顔を洗いながら、ふと思い出す無邪気に笑う大助の姿……

 

 

(ムカつく……)

 

 

袖で濡れた顔を拭きながら、立ち上がった。その時、茂みから物音がした。鎌之介はすぐに、鎖鎌を構え睨んだ。茂みから出て来たのは、五頭の狼だった。唸り声を上げながら、五頭は彼を囲った。

 

 

「……んだよ……

 

どいつもこいつも、俺のこと睨みやがって!!

 

見るんじゃねぇ!!」

 

 

鎖鎌を振り回し、狼達を攻撃した。その攻撃を、駆け付けた佐助が受け止め、その背後から氷柱が鎌之介の動きを封じ鎖鎌を取った。

 

 

「返せ!!俺のだ!!」

 

「しばらくは没収よ!」

 

「ハァ!?」

 

「お前が大人しくなって、聞き分けの良い子供になれば、鎖鎌は返す」

 

「っ!!

 

ふざけるな!!」

 

「ギャーギャー騒ぐな!」

 

 

後からやって来た才蔵は、鎌之介を宥めながら彼の頭に手を乗せた。

 

 

「大人しくなれば、鎖鎌は返すって約束だ。それぐらいやれるだろう?」

 

「そんな約束するか!!第一、約束なんざ破られるもんだ!!したって」

 

 

フラッシュバックで蘇る過去……鎌之介は歯を食い縛りながら、口を閉じた。

 

 

「んじゃ、こうしよう。

 

 

お前が今日から一ヶ月、俺の命令を口答えせず聞けたら、鎖鎌は返すしこの森に帰ってまた山賊として生きてもいい」

 

「ちょ、才」

 

 

文句を言おうとした氷柱に、佐助は指を口に当て口出しするなと、目で合図を送った。

 

 

「どうだ?悪くない条件だろ?」

 

「……」

 

「交渉成立だな。

 

んじゃ、早速命令だ!

 

 

今すぐ大助と清海に謝ってこい」

 

「嫌だ!」

 

「早速、逆らうな!!」

 

 

 

城内……

 

 

清海と大助を前にする鎌之介は、二人と目を合わせようともせずずっとそっぽを向いていた。

 

 

「どうも悪うごさんした!」

 

「ちゃんと相手の目を見て謝れ!!」

 

「悪かったな!!クソチビ!クソハゲ!」

 

「何で目を合わせると、悪口しか言わねぇんだよ!!」

 

「才蔵、もう良いぞ。

 

これほどの悪者が、目を合わせないし口も悪いが、ちゃんと謝っているのだからな」

 

「オイラもいいよ。

 

ねぇ!鎌之介、一緒に森に行こうよ!」

 

「行きたきゃ一人で行け!」

 

「えぇ!!」

 

「……鎌之介」

 

「あぁ?」

 

「命令だ、大助と一緒に森に行って来い」

 

「はぁ?!」

「やったー!」

 

「もちろん、清海達もだ。

 

こいつと二人っきりじゃ、大助が心配だろ?」

 

「その通りだ」

 

「けど才蔵、その者は」

 

「武器は持たせてないから、大丈夫だ」

 

「ふざけるな!!何でこの俺が、こんな」

「鎌之介、行こう行こう!」

 

 

目をキラキラさせながら、大助は鎌之介の手を握った。彼は舌打ちしつつも、引っ張られるがままに連れて行かれてた。

 

 

「あれ、大丈夫なの?」

 

「平気だろ?」




森へ来た大助達……


先に走っていた大助は、目の前に生えていた木に登った。


「大助様!またその様な事を」

「危険ですぞ!」

「平気!平気!」

「落ちたら怪我をしますよ!早く降りてきて下さい!」

「嫌ーだよぉ!」

「大助様!!」

「別にいいじゃねぇか。

一度痛い目に遭えば、もう二度とやらなくなるだろ?」

「しかし、大怪我をしては話になりません」

「六郎に何て言われるか!!

あ!大助様!!」


足を滑らせ、大助は枝にへばり付くようにして、ぶら下がった。


「うわーん!!落ちるー!」

「大助様!!」

「兄上、肩車を!僕が」


二人が騒ぐ中、鎌之介は軽々と木を上り大助の元へ行った。


「チビのくせに、馬鹿なことするな?」

「だって……」

「ほら、俺に掴まれ」


体を支えられた大助は、半泣きしながら枝から手を離し、鎌之介にしがみついた。彼は大助を背にそのまま飛び降り、清海達の所に投げ渡した。


「大助様!」

「お怪我は?!」

「大丈夫だよ!

鎌之介、ありがとう!」

「……」


礼を言った大助に、鎌之介は鋭く睨みながら背を向けた。


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深い傷

夕方……


「大変です!!幸村様ぁ!!」


大声を上げながら、清海は城へ帰ってきた。ただ事ではないと思った才蔵達は、すぐに駆け付けた。城へ帰ってきた清海は傷だらけになり、彼に背負られていた伊佐道は意識が無く、同様に傷だらけになっていた。


「どうしたんだ!?清海!!」

「さ…山賊が現れ、その山賊共に大助様が!」

「!?」

「鎌之介は?!」

「それが……」


清海の口から聞いた言葉……大助をさらった山賊と鎌之介はグルだった。

その言葉を聞いた才蔵は、すぐに森へ向かいその後を佐助が追い駆けていった。


深い森の中……手を縛られた大助は、半べそをかきながら鎌之介の傍に座っていた。

 

 

「本当、クソガキだな?

 

こんなクソガキが、あの真田のガキだとは」

 

「いい宝が手に入った。

 

まさか、テメェが傍にいたとはな?」

 

 

刀を手入れしていた男は、ニヤニヤしながら鎌之介を見た。

 

 

「毎回お前が後始末してくれたおかげで、俺等は捕まらずこうして今も山賊をやってやれるってもんだ」

 

「え?どういう事?」

 

「どうもこうも、俺等がやった悪事は、皆こいつが片付けてくれるんだ。

 

まぁ、時々捕まっては痛い目に遭ってるみてぇだがな」

 

「テメェ等馬鹿が、ヘマするからだろうが」

 

「んだと!!」

 

「止めろ。

 

さぁて、そろそろ出ますか。鎌之介」

 

「?」

 

「そのクソガキ、お前には懐いてるみたいだな?

 

売り場まで、お前が面倒見ろよ」

 

「俺に命令するな」

 

 

背を向け、先に歩き出した二人の山賊……目を離した隙に、鎌之介は懐に隠し持っていた小太刀で、大助の縄を切った。

 

 

「鎌」

「シッ!合図出したら、すぐに逃げろ」

 

「え?鎌之介は?」

 

「あいつ等を始末する」

 

 

 

「お尋ね者?!鎌之介が?」

 

 

清海の手当てをしていた氷柱は、声を上げながら資料を持った六郎に目を向けた。

 

 

「えぇ。

 

 

昔は、ある武家に仕えていた一族の一人でした。しかし数年前、自身の親を殺しその罪により、一族は崩壊……鎌之介は、伯父に引き取られました」

 

「しかし、なぜ引き取られたはずの鎌之介が、山に住み着き賊に?」

 

「酷い暴行を受けていたみたいです。

 

それが嫌になり、伯父の家から逃げたとか……

 

 

まぁ、結論から言いますと……

 

彼は平気で、人を裏切る……ということになりますね?」

 

 

 

茂みの中……首から血を流し倒れる大助を前に、小太刀に付いた血を一舐めする鎌之介。

 

 

「テ、テメェ!!せっかくの金を!!」

 

「殺しても、死体は売れるだろう?」

 

「この!!」

「待て!

 

騒いでいる」

 

「甲賀流隼斬り!」

 

 

木の上から飛び降りた佐助は、二人の山賊に攻撃をした。二人は慌てて刀と鎌で彼の攻撃を防ぎながら、後ろへ下がった。

 

 

「何者だ?!」

 

「真田忍隊隊長、猿飛佐助」

 

「真田……

 

 

へ~、このガキの」

 

……!!

 

大助様!?」

 

 

首から血を出す大助の元へ、佐助は駆け寄り彼を起こした。その後に来た才蔵は、変わり果てた彼の姿に目を疑った。

 

 

「……だ、大助?」

 

「残念だったな?

 

テメェ等の大事な若君は、そこにいるガキが殺ったんだよ!」

 

 

血だらけになった腕を舐める鎌之介に、才蔵達は目を向けた。

 

 

(まだ持ってたのか!?)

 

「……鎌之介」

 

 

才蔵の声に、鎌之介は彼等の方を向いた。

 

 

(またその目かよ……

 

何言っても、どうせお前等も)

 

 

フラッシュバックで蘇る過去……鎌之介は歯を食い縛り、持っていた小太刀を構えた時だった。

 

突然彼から放たれた強い風……その風に、才蔵達は吹き飛ばれかけ、二人の山賊は飛ばされながらその場から逃げた。風を起こしながら、鎌之介は鋭く眼光を光らせて、彼等を追い駆けていった。

 

 

次第に収まる風……動きが取れるようになった才蔵は、鎌之介の後を追い駆けていった。

 

 

二人がいなくなった後、佐助は大助の亡骸を持ち上げようとした時だった。

 

 

「……ウ」

 

「?

 

大助?」

 

「……ガハッ!」

 

 

咳き込みながら、大助は目を開けた。

 

 

「あれ?佐助?」

 

「大助!良かったぁ……」

 

「……あれ?

 

鎌之介は?」

 

 

起き上がった大助は、佐助から離れ鎌之介を探すようにして、辺りをキョロキョロと見回した。

 

 

「大助、傷は平気なのか?」

 

「傷?オイラ、どこも怪我してないよ」

 

 

その言葉に疑問を持った佐助は、血が付いている大助の首元を見た。首には一つも傷が無く、血はただ彼の首に付いているだけだった。

 

 

「大助、この血は誰のだ?」

 

「鎌之介のだよ!

 

鎌之介、いきなり自分の腕を切って出て来た血を、オイラの首に垂らして付けたんだ。質問しようとした途端、オイラのお腹を思いっ切り殴ったんだよ!」

 

「……まさか」

 

 

 

鎌之介を追い駆ける才蔵……その時、また強風が吹き荒れた。飛んでくる枝や木の葉に小石……才蔵は飛んでくる方向に目を向け、そして木々を盾に近付いた。

 

吹き抜けとなった森の一箇所……そこに、鎌之介は立っていた。そして彼から逃げる一人の男の姿を、才蔵はすれ違いに見ていた。

 

 

「……鎌之介」

 

「……セ」

 

「?」

 

「どうせ何言ったって、お前も俺のこと信用してねぇんだろ?」

 

「……」

 

「いつもそうだよ……いつもいつも……

 

 

人の話なんざ、聞きもしねぇで勝手に犯人扱いしやがって!!」

 

 

息を切らし怒鳴る鎌之介……怒りに満ちた彼の目に、才蔵は何も言えなかった。

 

 

 

「鎌之介!」

 

 

佐助に背負られてきた大助は、彼の名を呼びながら背中から降りると、駆け寄った。

 

 

「傷、大丈」

「俺に触るな!!

 

どうせ、テメェだって俺のことゴミにしか見えてねぇんだろ!!」

 

 

彼の怒鳴り声に、大助は泣き出した。彼の泣き声に、ハッとした鎌之介は、背を向け歩き出そうとした。

だが、血の出し過ぎか彼は足がふらつきその場に膝を付いた。才蔵は慌てて駆け寄り手を差し伸ばしたが、鎌之介は叩き払い、再び立ち上がろうとしたが、意識が遠のきそのまま気を失ってしまった。

 

 

「鎌之介!!」

 

「血の出し過ぎだ。

 

手当てをすればすぐに気が付く」

 

 

言いながら、才蔵は鎌之介を背負い先に城へ戻った。泣きじゃくる大助を抱き上げ、佐助は彼の後を追い駆けていった。




夜……

手当てをして貰った鎌之介は、用意された部屋で静かに眠っていた。


「……あいつに、そんなことが」


氷柱から鎌之介の話を聞いた才蔵は、少しだけ開いた障子から、眠っている彼を見た。


「余り深入りしない方が良いそうよ。

六郎さんが言ってたわ」

「……信じられねぇな」

「え?」

「その、鎌之介が親を殺したって話……


そんな残酷なことが出来るなら、自分の腕切ってまで大助を守ろうとはしねぇだろ」

「だがもし、それか作戦のうちだったら?」

「それは無いと思う」

「なぜ、そう言い切れる」

「あいつの目、見ただろう?」

「目?」

「怒りに満ちた中に、微かだが悲しみみたいな光があった」

「……」

「なぁ、その鎌之介の一族のことについて、調べられねぇか?氷柱」

「え?出来なくも無いけど……何で?」

「どうも引っかかる……


鎌之介の伯父は、人殺しだと思われる鎌之介を易々と引き取ったんだぞ?おかしいと思わないか?」

「……確かに、言われてみれば」

「殺人者……しかも、自身の弟夫婦を殺した甥を、引き取りたいとは正直思わん」

「……分かったわ。

明日、幸村様から許可を得たらそのまま」

「頼んだ」



掛け布団を引きずりながら、鎌之介の部屋へ来た大助。彼は襖をゆっくりと開け、ソッと音を立てないように中へ入った。


眠る鎌之介……彼の隣に、大助は横になりそのまま眠りに付いた。


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最悪の再会

『お前が両親を殺したのか!』

違う!!俺じゃねぇ!!

『じゃあなぜ、ここで人が死んでいる!!』

それは、こいつが

『お前しかいないんだ!!』

『この人殺しが!!』

『二度と俺達の前に姿を見せるな!!』


俺の話を聞いてくれ!!俺はやってない!!

ここへ来た時には……来た時にはもう!!



『全く、引き取って貰っただけ有り難いと思えよ?』

俺は、お袋も親父も殺してねぇ!!

『黙れ!!人殺しの分際で、威張るんじゃねぇ!!』

違う!!俺はやってねぇ!!

誰も信じねぇなら、もういい……俺はもう、俺は……


目を覚ます鎌之介……障子の隙間から差し込む日差しに、目を向けながら起き上がった。

 

 

「……?」

 

 

隣で眠る大助に気付いた鎌之介は、軽くため息を吐くと立ち上がり部屋を出て行った。

 

 

それから数時間後……

 

 

「……あれ?

 

鎌之介?」

 

 

眠い目を擦りながら、大助は起き上がった。隣にいるはずの鎌之介の姿は無く、彼は立ち上がり部屋を出た。

 

 

「おや?起きましたか?」

 

「……あ!六郎。

 

ねぇ、鎌之介は?」

 

「鎌之介?彼なら、今朝早く才蔵と一緒に町へ行きましたけど」

 

「え~!!オイラも行くぅ!」

 

「いけません。

 

あなたは今日、佐助と刀の稽古があるんですから」

 

「う……」

 

 

 

城下町……

 

町を歩く才蔵と鎌之介。

 

 

「言っとくが、これは単に腕の傷の貸しを返してるだけだからな!」

 

「ヘイヘイ」

 

「……」

 

「なぁ」

 

「?」

 

「邪魔じゃねぇ?髪」

 

「え……」

 

 

腰まで伸びた赤い髪……鎌之介は、横髪を手に取りながら弄った。

 

 

「そんなに邪魔に見えるか?」

 

「見える。せめて、結べ」

 

「……」

 

 

腰に巻いていた緑色の帯を、鎌之介は取りそれで髪を耳下で結った。

 

 

「……まぁ、多少はマシか」

 

 

頭をかきながら才蔵は歩き出し、彼の後を鎌之介は歩きついて行った。

 

 

それから、鎌之介は文句を言ったり嫌々ではあったが、才蔵の言う事を聞いた。最初は反抗的だった鎌之介だが、時間が経つにつれ多少聞き分けの良い子供になっていった。次第に大助の面倒をよく見るようになり、大輔は彼のことを本当の兄のように慕っていた。

 

 

だが、ある日事件は起こってしまった。

 

 

それは曇り空の日、池の水を風の力で持ち上げ、渦を作る鎌之介に、大助は楽しそうに見ていた。

 

彼等の様子を才蔵と幸村は、縁側からその様子を見ていた。

 

 

「随分と聞き分けの良い子になったな?才蔵」

 

「あいつは根っからの悪じゃねぇからな」

 

「大助も懐いておるし……このまま、ここにいて大助の良い遊び相手になってはくれぬかのぉ」

 

「そりゃあ、あいつ次第だ。

 

まぁ、あと一週間だな。鎌之介と一緒にいられるのも」

 

 

「幸村様」

 

 

六郎に呼ばれた幸村は、立ち上がり彼の話を聞きそのまま別室へ行った。

 

先程の二人の会話を聞いていた大助は、才蔵の元へ駆け寄ってきた。

 

 

「ねぇ、あと一週間したら鎌之介、いなくなっちゃうの?!」

 

「あ?

 

まぁ、そういう約束だからな」

 

「嫌だ!嫌だ!

 

オイラ、もっと鎌之介と一緒にいたい!もっと遊びたい!」

 

「……あのなぁ」

 

「どうし」

「どこにも行ったりしないよね?!鎌之介!」

 

「え?」

 

「ずっと、オイラ達とここにいるよね!?」

 

「……」

 

「ねぇ!」

 

「……それは」

 

 

言い掛けた時、突然鎌之介の顔が強張った。

 

 

「……鎌之介?」

 

「……いる」

 

「え?」

 

「あいつが、近くに!!」

 

 

場所は変わり、ここは幸村の部屋……彼の前に座る腕と顔に傷跡を付けた男と彼の仕え二人が座っていた。

 

男は口に咥える煙管から、口を離し煙を出しながら話し出した。

 

 

「まさか、上田の殿方の所にいるとは……

 

うちの甥が、世話になってるって聞いたもんで、それで」

 

「それで迎えに来たのか?」

 

「えぇ、まぁ。

 

手の掛かるガキでしょ?人殺しだけど、死んだ弟の子供だし、仕方なく引き取ったんだ。

 

それがどうだ……親代わりであるこの俺に、反抗ばかりしやがって。最終的には、一年前に突然失踪して、行方不明になっちまうし……本当手の掛かるクソガキだ」

 

「……」

 

「さぁて、長居は無用です。

 

早く、クソガキを返して貰えませんかねぇ?」

 

「……お主が言う、その聞き分けのないクソガキの名は?」

 

「?

 

鎌之介……由利鎌之介だ」

 

「おかしいなぁ……

 

ここにいる鎌之介は、聞き分けの良い面倒見の良い子何だが?」

 

「それは何かの間違いだ。

 

あいつが、そんな聞き分けの良いガキな訳が無い。

 

 

さぁ、無駄話はもういい。早く鎌之介を返せ」

 

「……六郎」

 

「はい」

 

 

六郎は立ち上がり、部屋を出て行った。伯父は勝ち誇ったかのような表情で、煙管を吸った。

 

 

「待ちなさい!!」

 

 

廊下から響く声……襖を蹴り飛ばし入ってきたのは、怒りに満ちた鎌之介だった。

 

 

「何しに来やがった!!」

 

 

怒鳴り声を上げながら、彼は男を睨んだ。男は不敵な笑みを浮かべながら、入ってきた鎌之介を見た。男の傍にいた仕えが、武器を握り攻撃態勢に入り、二人に続いて才蔵と六郎も構えた。

 

 

「何を言っている……フゥー。

 

迎えに決まってるじゃないか」

 

「何が迎えだ……

 

 

散々一をゴミみたいに扱っときながら、捨てたくせに」

 

「捨ててはいない。お前が勝手に出て行ったんだろ?」

 

「っ!!」

 

「さぁ、文句言ってねぇでとっとと帰るぞ!

 

奴を連れて行け」

 

 

二人の内一人の仕いは、瞬時に鎌之介の背後に回り彼の腕を拘束した。その仕いの首に才蔵はクナイの刃を当てた。

 

 

「何、人のもん盗ろうとしてんだよ……」

 

「……貴様、伊賀者か」

 

「さっさと、その手を離せ」

 

 

睨み合う二人……その時、黙っていた幸村は口を開いた。

 

 

「あと一週間、待て」

 

「?」

 

「俺はそいつに、一つ貸しをしている。

 

その借りがまだ返して貰っていない」

 

「だから何だ?」

 

「契約で、この一ヶ月俺の元で働いてくれていた。

 

あと一週間もすれば、その契約は切れる。それまで待てと言っているんだ」

 

「……ほぉー。

 

テメェみてぇなクソガキが、殿に貸しを作るとは」

 

「……」

 

「……良いだろう。

 

一週間後、また来る」

 

 

仕いの二人に合図を出し、男は部屋を出て行った。鎌之介を拘束していた仕いは、彼から手を離し男の後に続いていった。

 

 

去って行く三人に、幸村は嫌そうな目を向けて、口から煙を出した。

 

 

「全く、嫌な男だ」

 

「一応、殿である幸村を前にしてあの態度か」

 

「一応は余計だ!

 

安心せい、鎌之介」

 

「?」

 

「決して、お主をあの男には渡さぬ」

 

「……テメェに出来るなら、とっくに俺が殺ってる」

 

 

怒りの声でそれだけを言うと、鎌之介はその場から去って行った。

 

 

「……せっかく、良い奴になってきてたのに」

 

「まぁ、この鎖を砕けば奴はもう、自由の身なんだろう」




とある宿……

そこで酒を飲む鎌之介の伯父。


「ったく、せっかく引き取ってやったのに、逃げ出しやがって……

挙げ句に、あの真田の若君に就くとは」

「……どうする?

奴がいないと、あの話は無くなるんだろ?」

「あぁ……

赤髪のガキなど、珍しいから高く売れるんだ」

「自分の甥なのに、よく売れるね?」

「ガキの世話なんざしたかねぇ。

本当はこの俺が、由利一族の当主になるはずだった。


だが、あのクソ親父……俺では無く、弟を選びやがった。納得が出来なかった!一族の奴等が認めても、この俺だけは認めなかった」

「だから、俺達に暗殺の依頼をしたんだろ?」

「まぁな。

運良く、鎌之介があの場にいてくれたおかげで、あいつを親殺しの犯人にでっち上げ、今だ。


親を殺した息子を、次の当主にすることも無く、由利一族は散らばった」

「結構な悪だな」

「全てを手に入れるなら、どんなことでもする……それだけだ。


それに、次に目を付けているしな」

「次は何を?」

「光坂一族だ。

赤い瞳が特徴の奴等だ。中でも子供が一番高く売れるらしい……」

「……その一族って確か、武田が滅んだ後消息を絶ったと」

「出雲近くにいることまでは、分かっている。

後はその付近を探すまでだ」


書類を見る伯父……その書類の一枚に、光坂の名簿がありその中に書かれていた。



光坂桜華…
光坂優之介…
光坂椿…
光坂陸丸…
そして、光坂蓮華。


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由利一族

夜……月明かりが照らす城の屋根の上。

 

双眼鏡を手に、才蔵は鎌之介と見張りをしていた。

 

 

「今んとこ、怪しい奴等はいないと……」

 

「……俺が住んでた国は、ここより小さい地だった」

 

 

話をし出した鎌之介……才蔵は双眼鏡を覗きながら、黙って話を聞いた。

 

 

「けど、豊かな土地だった。

 

俺達一族は、そこの殿様に代々仕えていた。

 

 

俺の親父は、その一族の当主だった。スッゲぇ強くて格好良くて……俺もいつか、親父みてぇな強い奴になりたいって思ってた。

テメェに盗られてる鎖鎌、それ親父の形見なんだ」

 

「……」

 

「親父は遠距離でも近距離でも攻撃可能の武器を探して、見つけたのが鎖鎌だった。投げれば遠くにいる敵を倒せて鎌を振れば近くにいる敵を倒せる……そして何より、鎖を回すことで本来由利一族にある風の力をより強く使うことが出来る」

 

「けど、お前は鎖鎌無くとも」

 

「俺の風は特殊なんだ。

 

元から強くて、鎖鎌があれば鬼に金棒だ!」

 

「……」

 

「そんでお袋!

 

スッゲぇ優しいんだ!俺と同じ赤い髪で!」

 

 

幼い頃、鎌之介の長い髪を母親は丁寧に梳かした。梳かし終えると、髪の毛を結った。

 

 

「結った髪を揺らすと、お袋は凄ぇ喜んだ。

 

それが嬉しくて、髪の毛をずっと伸ばしてた。女みてぇだって言われても気にも止めなかった」

 

「……」

 

「俺が二歳の時だった……

 

 

主にガキが出来たのは」

 

 

思い出す過去……産まれた子供を抱く主。その主の背中に登り、小さい子供を鎌之介は嬉しそうに見た。

母親に下ろされた鎌之介に、主はしゃがみ抱いていた子供を見せた。

 

 

『今日から、お前がこの子を守ってくれ』

 

 

 

「凄え小さかった……小さい手に指入れたら、弱い力で握ってくれた。

 

嬉しかった……弟出来たみたいで。

 

 

その日から、お袋とガキの母親と一緒にそいつを育てた。そいつが歩き出した頃から、俺にくっついてくるようになった……可愛かった。

 

 

けど……長く続かなかった」

 

「?」

 

「ある日、突然そいつがいなくなった……

 

部屋に行っても、主の所に行っても、屋敷のどこを探してもいなかった。

 

 

お袋に聞いたら、遠い所に行ったって……最初は分からなかった。

しばらくして、話を聞いちまった……ガキは不治の病にかかって、そのまま死んじまった」

 

「……」

 

「理解した途端、一晩中泣いた。

 

悲しくて悔しくて……けど、一番辛かったのは、主達だった」

 

「……だからお前、ガキの扱いに慣れてたのか」

 

「あいつが生きてたら、多分あのガキと同じくらいかもな」

 

「……」

 

「それから二年後だった……事件が起きたのは。

 

 

あの日、俺は親父から買い物を頼まれて一人で下里に行った。買い物を済ませて、帰ってきた。

 

けど、様子がおかしかった……帰ってくると、いつも出迎えるお袋が出迎えに来なかった。気になってお袋と親父を呼びながら、襖を開けた……」

 

 

『親父?お袋?……!!』

 

 

目の前に広がる光景……血塗れになった二人の亡骸。襖の縁が冷たく、鎌之介は恐る恐る手を見た。ベットリと付いた赤黒い血……ただ事じゃ無いと思い、彼は中に入り二人の体を揺すった。だが二人から反応は無かった……錯乱状態の中、襖から悲鳴が聞こえ慌てて振り返った。

 

そこにいたのは、腰を抜かし座り込む侍女だった。鎌之介は彼女に近寄ろうとした……だが侍女は、体を震えさせて後ろへ下がった。

 

不思議に思った鎌之介は、ふと自身を見た。親の血が付いた服……顔にも手にも、至る所に血が付いていた。

 

 

『待って、俺が着た時にはもう』

『人殺し!!』

 

『?!』

 

 

侍女の悲鳴に聞きつけた一族と主が、変わり果てた鎌之介と状況を見て絶句した。その中にいた叔父が、彼を指差しながら言った。

 

 

『お前が両親を殺したのか!』

 

『違う!!俺じゃねぇ!!』

 

『じゃあなぜ、ここで人が死んでいる!!』

 

『それは……』

 

『お前しかいないんだ!!』

 

『この人殺しが!!』

 

『二度と俺達の前に姿を見せるな!!』

 

『俺の話を聞いてくれ!!俺はやってない!!

 

ここへ来た時には……来た時にはもう!!』

 

『……鎌之介』

 

『?

 

頭、信じてくれ……俺じゃ』

 

『……』

 

『こいつの言葉を信じるな!』

 

 

伯父の言葉に遮られ、主は何も言えなかった。

 

 

 

「それからすぐだった……城を追い出されたのは。

 

追い出されて、伯父の家に置いて貰うことになった。誰も俺の言う事を信じてくれなかった……ただ、あの場を一番に見つけただけだったのに……」

 

「……」

 

「伯父の所は酷かった……暴力は日常茶飯事。機嫌が悪けりゃ暴力。何か失敗すれば飯抜き。

 

地獄みたいな日だった……通る奴等は皆、見て見ぬふり。それが嫌になって、一年前」

 

「出てったって事か」

 

「あぁ。

 

けど、里を出る前に、主に会いたくて城に行ったんだ……だけど」

 

「?」

 

「……主はいなくなってた」

 

「!」

 

「噂で聞いた……

 

主は大病を患って、その療養のために城と里を他の物に任せて、遠くに行ったって」

 

「……その主、今は?」

 

「さぁな。

 

風の噂で、死んだって聞くけど本当かどうか……」

 

「……」

 

「……あいつの所に、帰りたくない」

 

「……このままここにいても良いんだぜ」

 

「?!」

 

「大助の奴は、お前のこと気に入ってるし、仕事もきっちり熟すし、俺から見れば文句なしだ」

 

「……」

 

「まぁ、決めるのはお前だ。

 

一週間後、鎖鎌は返す。それでお前がどうしたいか決めろ。俺が出来るのはそこまでだ」

 

 

才蔵の言葉に考え込む鎌之介……そして思い出す彼等と過ごした一ヶ月。

 

とても居心地が良かった……かつて、両親と仲間と一緒に過ごした時のように。

 

 

(……俺は)




夜中……皆が寝静まった頃、氷柱は城へ帰ってきた。

彼女は、集めた情報を幸村達に話した。


「じゃあ、鎌之介の一族は」

「皆、身分を隠して生きている。

と言っても、里からは出てないわ」

「やはり、主か……」

「それもあるみたいだけど……」

「?何だ、他に理由があんのか?」

「……鎌之介の帰りを待ってるらしいわ」

「……」

「一週間後、来るそうよ」

「え?来るって?」

「一族の人!」

「嘘!?」

「待て待て!なんで、鎌之介がここにいることを知ってんだ?!」

「さぁね。

情報収集でもしたんでしょ?」

「いや待て!伯父も来るんだぞ!」

「幸村、どうすんだ!?」

「普通に対応すれば良い」

「あのなぁ……」

「緊張感持って下さい!」

「それからもう一つ……

鎌之介の伯父についてだけど……裏では、相当な悪よ」

「やっぱり……」

「伯父の仕事は、珍しい人材を見つけては他国の大名に売りさばいてるらしいわ」

「珍しい人材?どんな奴だ?」

「例えば、南蛮人とか。

見つけては誘拐に拉致……ざっと言って百人近くは被害に遭ってるわ」

「酷っでぇ……」

「情報によると、近々また五、六人売りに来るって言ってたらしいわ」

「どんな奴を売りに?」

「聞いた話だと……」


氷柱から放たれる言葉……その言葉に才蔵達は目を見開き驚いた。


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悲しい風

一週間後……


約束通り、鎌之介は才蔵から鎖鎌を返して貰った。受け取った鎖鎌をしばらく眺めていた彼は、顔を上げ何かを言おうとした時だった。

 

 

「鎌之介」

 

 

六郎の声に、鎌之介は鎖鎌をケースにしまい彼と共に城の門へと行った。

 

 

門前に着くと、既にいる伯父が煙管を吹きながら、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべて、鎌之介を見た。

 

 

「遅かったな?鎌之介」

 

「……」

 

 

近寄ってくる伯父……次の瞬間、彼を目の前に鎌之介は鎖鎌の鎌を思いっ切り振り下ろし伯父に刺した。血を出した伯父は、肩を押さえながら後ろへ引いた。

 

 

「鎌之介!!貴様!!」

 

「誰がテメェの所に帰るか」

 

「そう言っているのも、今の内だ。

 

 

早く捕らえろ!!」

 

 

傍にいた一人の男が、鎌之介目掛けてワイヤー付きのクナイを放った。彼は鎖を激しく回し風を起こし、その攻撃を防いだ。

 

動きが鈍った男の隙を見て、鎌之介は自身の長い髪を手に握った。

 

 

「テメェが今頃、俺を迎えに来たのは……

 

赤髪の男が珍しいから、それを高く売れると知ったから」

 

「っ!!」

 

「俺を売るために、迎えに来たんだろ?

 

だったら……だったらくれてやるよ!!」

 

 

髪に握っていた鎌の刃を入れた。

 

 

『おいおい、鎌之介は男だぞ?』

 

『あら、良いじゃない。

 

私と同じ、綺麗な赤だし』

 

『う~ん……』

 

『親父!見てみて!』

 

 

幼い鎌之介は、結った髪を揺らしながら、父親の膝に座った。父親は笑みを溢して、彼の頭を撫でた。その様子に母親も笑った。

 

 

 

その記憶と共に、切られた鎌之介の髪は地面に落ちた。それを見た伯父はぶち切れ、腰に挿していた刀を抜き、鎌之介目掛けて振り下ろした。振り下ろしてきた刀を、彼は鎌で受け止めた。

 

 

「小癪なガキが!!」

 

「テメェの所に、俺は帰らねぇ!!」

 

「そう言うなら、こっちにも考えが!」

 

 

「殿方の子供を、さらって売るってか?」

 

「?!」

 

 

声の方に伯父は目を向けた。

 

拘束された男が投げられ、その後ろに大助を抱き寄せた才蔵達がいた。

 

 

「鎌之介を手に入れてさらに、うちの若君を奪う作戦は失敗だったな?」

 

「くっ!!」

 

 

佐助から離れ大助は、鎌之介の元に駆け寄り彼に抱き着き伯父を睨んだ。

 

 

「鎌之介は、絶対渡さないからな!!」

 

「命知らずが!!」

 

 

指を鳴らす伯父……すると茂みから多数の忍達が、姿を現した。その様子に、才蔵達は幸村達の前に立ち武器を構えた。

 

 

「狙った獲物は必ず奪う!!どんな手を使ってもな!!

 

殺れ!!」

 

 

伯父の合図に、忍達は一斉に彼等に飛びかかった。

 

 

「氷術!針地獄!」

 

 

氷柱の冷気の放った手を地面に付けると、そこから無数の氷で出来た針が作られ、敵を串刺しにしていった。

 

 

「甲賀流水術霧雨!!」

「伊賀流雷斬!!」

 

 

佐助が降らせた毒付きの雨と、才蔵の刀に纏った雷が敵を殲滅していった。まだ動けていた忍達は、背後へ周り幸村達に襲いかかろうとした。

 

 

「風術!!刃風拳!!」

 

 

鎌之介の放った風に当たった忍達は、体中の至る所に傷を作った。

 

次々に倒されていく忍達……自棄になった伯父は、大助に隠し持っていた銃を向け弾を放った。

 

 

「うわっ!!」

 

「大助!!」

 

 

腕から流れる血を見た、鎌之介は伯父を睨んだ。

 

 

「ぶっ殺す!!」

 

 

その声に反応するかのようにして、彼の周りに強い風が吹き荒れた。大助を山賊から救おうとした時と同じ、あの風が……

 

乱れ靡く髪の中、鎌之介の左目が激しく光った。

 

 

「!!て、テメェまさか!?」

 

「由利式究極風術!!光風霽月!!」

 

 

巨大な竜巻が起こり、忍達を次々に飲み込んでいった。

 

 

 

その竜巻を、城下町から見ていたある一人の者は、急いで城へと向かった。

 

 

 

破壊された城壁……息を切らしながら、鎌之介はその場に座り込んだ。咄嗟に張られた氷の壁を、才蔵と佐助はたたき割り外へ出た。

 

 

「鎌之介!」

 

 

割られた壁から飛び出し、大助は座り込む彼の元へ駆け寄った。破壊された城壁を見ながら、才蔵達は呆気に取られていた。

 

 

「凄ぇ……」

 

「城壁がボロボロですね……」

 

「しゅ、修理が……」

 

 

その時、瓦礫から伯父が刀を手に這い出てきた。その音に、才蔵達はすぐに攻撃態勢に入り、彼等と同様に鎌之介もふらつきながら立ち上がり、鎖鎌を構えた。

 

伯父は鎌之介に狙いを定め、刀を投げようとした時だった。突然背後から腕を掴まれ、その行為を阻止された。

 

 

「そこまでだ」

 

「!?き、貴様!!なぜ!?」

 

 

覆面をした男は、伯父の手を拘束し連れてきていた者に、何かを伝え渡した。

 

 

「あのオッサン、連れて行かれたが……」

 

「どうなってんだ?」

 

 

キョトンとしている鎌之介に、男は頭に手を乗せて微笑んだ。

 

 

「デカくなった、鎌之介」

 

「……あぁ!!

 

倉の兄貴!!」

 

 

そう呼びながら、鎌之介は彼に抱き着いた。





城内……


「お初に掛かります。

私(ワタクシ)、由利倉之介と申します。今は由利一族の仮当主を務めさせて貰っています。


この度、鎌之介を保護して頂きありがとうございます。幸村様」

「何、それ相応の事をしたまでだ」

「鎌之介が兄貴って呼んでたけど……兄弟か?」

「いえ、違います。

私は、鎌之介の父君と共に仕事をやっていたので……鎌之介はそれで」

「昔からの知り合いって事か」

「そうです」

「それで、今日は何用で?」

「鎌之介を迎えに着たまでです」

「……」

「先日、主の訃報が届きました」

「亡くなった……のか」

「はい。

訃報と共に、主の遺言書が入っていました。内容は里を全て、我々一族に渡すと……そして、その城の当主を鎌之介に」

「ま、マジかよ……」

「それで、迎えに来たのか」

「はい……

しかし、先程の様子を見ると……ここの暮らしが合っているように、私には見えました」

「……」

「一応、迎えに来た事まで本人に話すつもりです」

「もし……もし、断ったら?」

「その時はその時です。


我々は、主の帰りを待つだけです」


笑みを見せながら、倉之介はそう言った。



先程の話を、倉之介は鎌之介に話した。一緒に聞いていた大助は、泣きそうな顔で彼に抱き着こうとしたが、その行為を才蔵に止められた。


「どうする?鎌之介が、決めなさい」

「……」


悩む鎌之介……顔を上げ才蔵に抑えられている大助に目を向けた。半べそをかき、ジッと自分を見ていた。


「……




ここに残る」

「……分かった」

「なぁ、主は……」

「……先日、手紙が届いた」

「……」

「元気に……やっているそうだ」


背を向け、倉之介は静かにそう言った。その目には少しばかし涙を溜めていたのを、才蔵は見逃さなかった。


その日の夕方、倉之介は城を後にした。帰る彼を、鎌之介は屋根の上から見送っていた。


「……才蔵」

「ん?」

「……何でも無い」

「あっそ……


しっかし、随分と切ったな?髪」


肩上まで切られた髪を見ながら、才蔵は言った。肩下まで伸びた横髪を弄っていた鎌之介は、後ろの髪を触った。軽くため息を吐くと、腰に巻いていた帯を取り、それを額に巻いた。


「それ、結構似合ってんじゃん」

「……へへ!だろ!」


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薫風

それから数ヶ月後……


庭ではしゃぐ鎌之介と大助。二人の後を、清海と伊佐道は追い駆けていた。

 

 

「大助様ぁ!!怪我しますー!!」

 

「へへーん!捕まえられるもんなら捕まえてみな!」

 

「またその様な、端ない言葉遣いを!!」

 

 

走り回る大助と鎌之介……角を曲がった時、何かにぶつかった。

 

 

「あん?誰だ、お前?」

 

 

ぶつけた箇所を手で抑えながら、鎌之介は顔を上げた。前にいたのは甚八と十蔵だった。

 

 

「あ!十蔵に甚八!」

 

「若君、そのガキ誰だ?」

 

「鎌之介!数ヶ月前から、ここに住んでんだ!」

 

「……!

 

何だ!?あのデカい獣?!」

 

 

甚八の後ろで、大あくびをするレオンに鎌之介は、目をキラキラさせながら駆け寄った。二人を追い掛けていた清海と伊佐道は、息を切らしてその場に座り込んだ。

 

 

「オメェ等、大丈夫か?」

 

「ハァ……ハァ……

 

か、鎌之介が来てから…毎日、走りっぱなし……」

 

「それはご苦労だな」

 

 

「うわぁ!!」

 

 

大助の叫び声に振り返ると、レオンの首輪を掴み振り回される鎌之介と彼の背中にしがみつく大助が、レオンに振り回されていた。

 

 

「また、あのクソガキは……

 

レオン!やめろ!!」

 

 

甚八はすぐさま、レオンの元へ駆け寄り、振り回される二人を十蔵は呆れてため息を吐いた。

 

 

 

「痛ってぇ!!」

 

 

腕に出来た傷に消毒された鎌之介は、叫び声を上げながら、手当てをする氷柱から逃げようとした。

 

 

「コラ!!ジッとしてなさい!!」

 

「痛いんだよ!!」

 

「痛いのは当たり前よ!

 

こんだけ深く切ってれば!」

 

「自業自得だろ!」

 

「うわーん!!才蔵、痛い!」

 

「テメェも自業自得だ!!我慢しろ!」

 

「ったく、嫌がってる動物に無理矢理乗ろうとするからだ」

 

 

レオンの喉を撫でながら、甚八は呆れたように言った。レオンは何事も無かったかのようにして、顔を洗い甚八の膝に頭を乗せた。

 

 

「チェ!面白くねぇ!

 

痛っ!!」

 

 

「ここは相変わらず、騒々しいですね」

 

 

その声に反応したのか、レオンは起き上がり声の元へと駆け寄った。そこにいたのは、真助だった。彼は駆け寄ってきたレオンの頭を撫でながら、彼等の元へ歩み寄った。

 

 

「よぉ、真助」

 

「お久し振りですね、皆さん」

 

「才蔵、あいつ誰?」

 

「山本真助さん。

 

幸村の兄貴の小姓」

 

「へ~」

 

「おや?見掛けない子供ですね?」

 

「数ヶ月前からいる、由利鎌之介だ」

 

「由利?

 

あぁ、菅沼の所にいた」

 

「?すがぬま?

 

誰だ?」

 

「テメェが知らねぇでどうすんだよ!」

 

「尾張国にいた武将です。

 

しかし、一族の一人が数人の由利家の者を連れて、別の場所にいるとか……

 

まぁ、詳しいことは知らないので」

 

「珍しい。真さんが知らないなんて」

 

「知りたくもありません。

 

武田に戦いを挑んだ者ですから」

 

 

満面な笑みを見せる真助に、一同は寒気を覚えた。

 

 

「そういえば、真さん今日は?」

 

「先日、何やら悪者がここへ来て忘れ物をしていったみたいでしたので」

 

 

そう言いながら、真助は懐から伯父が持っていたあの資料を見せた。

 

 

「何の資料だ?」

 

「さぁ……

 

まぁ、君等には知らなくて良い情報ですけど」

 

「ふーん……

 

 

大助!森行くぞ!」

 

「あっ!待ってぇ!」

 

「大助様!!」

 

「お、お待ち…!!」

 

 

大助を追い駆けようとした清海と伊佐道は、足を取られ兄弟仲良く転んだ。

 

 

「何やってんだ?お前等は」

 

「鎌之介が来てから、ずっとあの調子だ」

 

「勉学が疎かになってるんです……」

 

「刀の稽古もな……」

 

「それは困りましたねぇ」

 

「真さん、何とか出来ませんか?」

 

「何とかと言われましても……

 

勉学も稽古も、自分からやらないと意味がありませんし」

 

「そこを何とか……」

 

 

 

後日……

 

 

机の前に座る大助。手には筆を持っていたが、全く手が進んでいなかった。

 

 

「大助様、手が進んでいませんよ」

 

「……」

 

 

手を進めない大助は、ボーッと外を眺めていた。その様子を見た清海は、障子を閉めた。

 

 

「勉強に集中しなさい!」

 

「うっ……

 

鎌之介は?」

 

「才蔵と一緒に、任務中です」

 

「え~!オイラも」

 

「あなたは勉強です!!

 

遅れた分、しっかりやって貰いますから!」

 

「っ……」

 

 

 

森の中、木の上に立ち見張りをする才蔵と、森の中を歩く鎌之介。

 

 

森を歩く鎌之介は、何かの気配を感じて足を止めた。その時心地よい風が吹いた。

 

 

『……鎌之介』

 

 

聞き覚えのある声に、鎌之介はハッと振り返った。風と遊ぶようにして、木の葉が舞っていた。

 

 

「……主?」

 

「鎌之介ぇ!!」

 

 

呼ばれた彼は、才蔵の元に急いだ。風で舞う木の葉の中、男が姿を現し口角を上げると、そのまま風と共に消えていった。




現在……


森の中の崖付近に立つ鎌之介。その手に握っていた花を崖から落とした。ヒラヒラと舞い落ちる花達に向かって、風を起こし空へ舞い上がらせた。


「……」


しばらくその花弁を見送ると、鎌之介は城へと帰っていった。


風で舞った花弁は、風に乗りとある屋敷に舞い込んだ。縁側に座っていた男は、その花弁を拾い笑みを溢してそれを見た。


「心地良い風ですね……当主」

「そうだな」

「鎌之介様も、この風を感じているのでしょうか?

やはり、あの時」
「良いんだよ。これで」

「……」

「あいつはここにいるより、あの城にいた方が良い。

とても楽しそうで、幸せそうな顔を浮かべていた……ご両親といた頃と同じように」

「当主……」

「して、あの悪者は?ちゃんと働いているか?」

「はい。

見張りが五人も付いています!逃げようとしても逃げられないでしょう!」

「ならいい。

さて、この資料を燃やすか」


焚き火を起こしていた場所に、倉之介は手に持っていた資料をその中に入れた。

燃え盛る炎に包まれる資料は、あの桜華達の名前が書かれたものだった……


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絡む糸

桜華達が光坂の里から帰ってきてから、数ヶ月が過ぎた。あれ以来、誰からの襲撃は無く、不安であったが安心できる日々を過ごしていた。


正式に城に住むこととなった優之介達は、才蔵達の下に就き彼等の手伝いをしていた。


櫓で才蔵から受け渡された上田の地図を、優之介は書き写しながら地形を覚えていた。

 

 

「……あの、才蔵さん」

 

「ん?」

 

「桜華は、どこに?」

 

「あいつなら、鎌之介達の所だ。

 

今日は、丘の所に行くって言ってたな」

 

「丘って……」

 

「心配すんな。

 

鎌之介と六助さんがいる。大丈夫だ」

 

「……」

 

「危険だからって、城に閉じ込めとくのも可哀想だろう?

 

だったら、俺等がきっちり守ってやれば」

「俺達も、そうして貰えば」

 

 

動かしていた筆を止め、優之介は静かにそう言った。

 

 

「自由無かったのか?お前等」

 

「儀式が終わってからずっと……

 

森や川に自由に行けなくなった。行こうとすれば止められた。一度黙って言ったら、その日の夜三時間くらいの説教を受けた」

 

「……」

 

「怒られるのが嫌になって、段々と遊びに行くことは無くなった……家にいるか、武器の稽古をするかのどちらかだ」

 

「……桜華から見れば、お前等の方が余程自由じゃねぇか」

 

「!」

 

「檻に入れられて、自由を奪われて……母親の温もりも奪われて。

 

外へ出たくても出られなくて、檻の中鎖に繋がれて閉じ込められてたんだ」

 

「……

 

 

確かにそうだ。

 

 

俺達の方が、自由だったのかも知れないな」

 

 

 

城下町を歩く氷柱と椿。

 

雑貨屋の前を通った時、椿は立ち止まり中の商品を眺めた。

 

 

「何か珍しい物でもあったの?」

 

「!べ、別に……

 

 

ねぇ」

 

「ん?」

 

「何で桜華だけ、あの若君と一緒なの?

 

普通、アンタ達の誰かと一緒じゃないの?」

 

「大助様が、気に入ってるからよ。

 

それに鎌之介も」

 

「フーン……」

 

「何?桜華のことが心配なの?」

 

「!べ、別に心配じゃ無いわよ!!

 

ただ、どうしてあの子だけ」

「自由に振る舞ってるかって?」

 

「!」

 

「あなた達は、私達と一緒に仕事をしなければならないのに、何で桜華だけが自由に動けるかって……

 

そう疑問に思ってるの?」

 

「っ……それは」

 

「桜華も同じ事思ってたんじゃないの?」

 

「!」

 

「自由にどこへでも行けるあなた達を、桜華はずっと羨ましく思っていたんじゃないの?

 

今のあなたと同じ気持ちみたいに」

 

「……

 

 

初めてだった」

 

「?」

 

「私の髪の毛を褒めてくれたのが……

 

 

昔から赤い髪なのに、毛先の方になっていくと黒くなってて……周りからよく言われた。

 

『人の血を浴びた女だ』って……私、産まれてくる時に欲張ったのかも知れない」

 

「欲張った?何を?」

 

「……母様は赤い椿の様な真っ赤な髪だった。

 

父様は光を通さない様な真っ黒な髪だった……

 

 

私はその二つを欲張ったから、こういう髪なんだと思う。周りから毎日からかわれる日々だった……けどある日、桜華は言ってくれた」

 

 

『毛先が黒いのは、まだ咲いてないんだよ!』

 

『咲いてない?』

 

『うん!ほら、花って上から開花するじゃん!

 

椿の髪は、毛先から上が先に咲いただけだよ!だからいつか、毛先も真っ赤になって、綺麗な赤い椿の花になるよ!』

 

 

「……あんな風に言われたのが、初めてだった。

 

 

私、いつか彼女に恩返しがしたいとずっと思ってた……あの日、桜華が閉じ込められた日に一回だけ、鍵を持ってあいつの牢屋に行った……けど、そこを見張りに見つかった。

 

罰は受けなかった……でも、次やったらただじゃ置かないって言われて……それが怖くて」

 

 

肩を震えさせながら、椿は気付かぬ内に涙を流した。

 

 

 

森の中……鹿の群れにいた佐助は、子鹿の怪我を手当てしていた。そんな彼の様子を、後ろから陸丸は眺めていた。

 

 

「凄ぉい……まるで、僕の父ちゃんみたい」

 

「お前の親父さん、医者だったのか?」

 

「うん。一族の中じゃかなり腕の良い!

 

よく怪我した動物や皆を治してたんだ!」

 

「そうか……」

 

「……僕も、父ちゃんの仕事をしたかった」

 

「すれば良かっただろ?駄目だったのか?」

 

「選ばれた子供だから、医者になんかならず忍になれって……

 

僕、争いとか喧嘩好きじゃないんだ……昔から」

 

 

寄ってきた子鹿の顔を撫でながら、陸丸はそう話し出した。

 

 

「皆、それぞれ夢あったんだよ。

 

優は光坂の里長になって、里を変えるのが夢だった。

椿は得意な神楽舞をもっと磨いて、いつか里の外で披露するのが夢だった。

桜華は真助さんや蓮華さんみたいな、強い忍になるのが夢だった。

僕は……僕は、医者になって父ちゃんの後を継ぐのが夢だった」

 

「……」

 

「普通に夢持ってたんだ……

 

 

でも、選ばれた子供だからって理由で、僕と椿の夢は駄目だって言われた……選ばれた子供だから、強い忍になりなさいって言われて……

 

自由に夢を持っちゃいけないの!?選ばれた子供だからって理由で!」

 

「……俺はお前達の故郷、里の仕来りは知らない」

 

「っ」

 

「けど、夢を持つ持ったお前等を俺は羨ましく思う」

 

「え?佐助さんは、なかったの?夢とか」

 

 

怪我の手当てを終えた子鹿を、群れに返すと佐助は傍に寄ってきた狐の頭を撫でた。

 

 

「忍は、ただ主に仕え仕事を熟す道具。

 

けど、俺等甲賀の忍は主に仕えるのが目標(モットー)だった。主がいなければ、夢など抱けない。抱けたとしても、それは主を見つけた者だけ。

 

俺は幸村様に会ってから、生まれて初めて夢を抱けた」

 

「……ど、どんな夢?」

 

「命を賭けて、真田を守ること……それだけだ」

 

「……」

 

「お前達の故郷はもう亡い……けど、これからは俺等と同じ真田に仕える……そこで、昔見た同じ夢を追い駆けても良いんじゃないのか?」

 

「そ、そんなことやって良いの?!

 

だって、殿に仕えたら己の生涯を殿に捧げるって、大人達は皆」

 

「それは普通の殿の場合だ。

 

幸村様は、その辺にいる殿とは違う。仕えたきゃ仕えろ、仕えたくなきゃ仕えなくていい……そういう考えの持ち主だ」

 

「……」




狐:はーい!お久し振りでーす!

猿:……何故そんなにテンションが高いんだ?

狐:そんなの決まってんじゃん。

ストレスで、頭ピーヒャラ状態だから!

猿:……話にならん。

才:ビックリしたぞ。

突然、鎌之介の過去をやるなんて。

狐:前々から書こうと思ってて、どの辺りにしようかなぁって考えてたら、あの辺りが良いなって思って!

氷:じゃあ、他の人達のもやるの?

狐:いや、やるつもりはない。

でも、次の話で少しシリアスに入るつもり。

才:マジかよ!?

狐:あくまで予定だから、期待しないで。

あと、次回からこの雑談のコーナーがもしかしたら無くなるから、よろしく!

才:応!……って、えぇ!?

狐:そんじゃ、ここいらで。


読者の皆さん、また次回!


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最期の言葉

曇り空……雷が鳴る中、真助は沼田城の中で指示を出していた彼の元に、それは訪れた。


「……やはりここへ来ましたか」


目の前にいる者……
それは、長い白髪を風で靡かせる蓮華……いや、久久能智神だった。


「何者だ!?」


騒ぎに駆け付けた信幸は、彼女の姿を見ながら怒鳴った。次の瞬間、久久能智は鋭く尖った木の枝を出し、それを彼に向けて放った。咄嗟に真助は彼の前に立ち、刀でその攻撃を防いだ。


「フフ……流石ね、真助」

「ここでは危険です。

場所を変えましょう」

「いいわ……」


不敵な笑みを浮かべた久久能智神は、木の葉を舞い上がらせてその場から姿を消した。


「……真」
「信幸様はここでお待ち下さい。

僕は、あれを片付けてきます」


刀を鞘に収めると、真助は城を出て行った。彼が出て行ったと同時に、雨が降り始めた。


「ん?雨か?」

 

 

上田の城の中……庭に出ていた鎌之介の頭に、一滴の雫が落ち、彼は上を向いた。同じようにして、大助も上を見た。

 

 

縁側に座っていた桜華は、降り始めた雨に目を向けた。彼女の傍へ来た青と空は、水滴を振り払うかのようにして体を激しく揺すった。

 

 

「うわっ!

 

もう!青!空!」

 

 

二匹に少々怒りながらも、桜華は二匹の頭を撫でて再び、降り続ける雨を眺めた。

 

 

 

森へ来た真助。目の前で木の葉が舞い上がり、そしてそこから久久能智神が現れた。

 

 

「フフフ……狙いは分かっているようね?

 

何故私が、あなたの元へ来たのか」

 

「この悪しき魂ですよね?君が狙っているのは。

 

君の考えは、ここで邪魔な僕を殺し悪しき魂を奪い、そしてすぐにでも桜華の元へ行き彼女を奪う……

 

 

合っていますか?」

 

「大当たりよ!大当たり!

 

 

あなたが持っているその魂は、伊佐那美を蘇らせるのに必要な鍵の一つなの。

 

里を襲い滅ぼさせた後、里を隈無く探したんだけど見つからなくてねぇ……そしたら、桜華が見つけたのよ」

 

「ラッキーと思った君は、優之介と桜華、さらに陸丸と椿をさらおうとしたが、さらうことが出来ずに終わった」

 

「その通りよ。

 

話が分かっているなら、早くその魂を渡しなさい。

 

そうすれば、真助……あなたの命は見逃してあげるわ」

 

「生憎、大事な娘も子供達も渡す気はありません。

 

欲しければ、奪ってみなさい」

 

 

足を構え鞘から刀を抜き、久久能智神を睨んだ。彼女はまた不敵な笑みを浮かべ、そして背後に無数の鋭く尖った木の枝を出し、彼に向かって放った。

 

 

“ドーン”

 

 

凄まじい騒音が、沼田城にまで響いた。戦闘服に着替えた信幸は、刀を腰に挿して城を飛び出し、森へ向かっていた。

 

 

(真助!!お前一人には、任せられぬ!!)

 

 

思い出す過去……

 

初陣、不安と緊張の中幼かった信幸は、震える手で刀の束を握っていた。

 

その時、自分の肩に手が置かれ信幸上を向いた。そこにいたのは、若い頃の真助だった。

 

 

『落ち着きなさい。

 

何、肩の力を抜いて稽古通りやれば良いんですよ』

 

『……』

 

 

真助は微笑みながらそう言うと、去って行った。その言葉を、信幸は一瞬たりとも忘れることは無かった。むしろそれは、彼が戦場へ出る際のまじないのようなものになった。

 

 

その時のことを思い出しながら、信幸は彼の元へと急いだ。

 

 

 

地面に刺さる無数の木の枝……その中、頭と腕から血を流す真助と、腹部と脚から血を流す久久能智神が、向かい立っていた。

 

 

「流石ね、真助。

 

蓮華の旦那であり、桜華の父親なのは確かね」

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

手に力を入れた真助は、刀に雷を纏わせそれを勢い良く振った。久久能智神は避ける隙もなく、腕を切られた。そして刀に炎を纏わせ、それを勢い良く振り下げた時だった。

 

 

「真!やめて!」

 

「!?」

 

 

久久能智神の姿が一瞬、蓮華の姿に見えた……彼女の姿が目に映った真助は、刀の勢いを止めてしまった。その隙を狙い、久久能智神は勝ち誇った笑みを浮かべて、鋭く尖った木の枝を彼の腹部に刺した。

 

 

「ガハッ!」

 

 

口から血を吐き出した真助は、地面に膝をつき息を切らした。

 

 

「アッハッハッハッハ!!

 

やはり、あなたのその赤い目には蓮華の姿にしか映っていないようね!?私は!」

 

「くっ……」

 

「里へ着た時、桜華が言ったでしょ?

 

私はあなたが愛した蓮華でも妻でもない……久久能智神だと」

 

「……分かっています……それくらい。

 

けど……

 

 

その姿は蓮華その者……」

 

「……フフフ。

 

冥土の土産に良いことを教えてあげるわ」

 

「?」

 

「この体の持ち主であった蓮華は、里が襲われた日に死んだとされているけど……死んではいない」

 

「?!」

 

「私が眠らせたの。

 

残り僅かな命になっても、黄泉に逝くことを拒み苦しんでいる彼女を、深い深い眠りにつかせた……そして、そのまま体を私が奪ったの」

 

「じ、じゃあ……蓮華は」

 

「まだ、深い眠りについてるわ。

 

 

けど、目覚めたとしても……彼女がこの世に留まれるのは、せいぜい数分だけ」

 

 

蓮華は生きていた……話を聞いた真助の目から、大粒の涙が流れ落ちた。そんな彼の前に、鋭く尖った巨大な木の枝の尖端を、久久能智神は向けた。

 

 

「……蓮華(伝えたい……君に、ずっと言えなかったことを……

 

君に、伝えたいことを)

 

 

 

 

愛してるよ(桜華……

 

 

 

 

君も、愛してます)」




“ピチャン”


縁側に座っていた桜華の頭に、どこからか雫が垂れ落ちた。それと同時に、髪を結っていた紐が切れた。彼女は切れた紐を手で拾おうとした途端、結び目が解けまた切れてしまった。その時、湿った風が弱く吹き桜華の髪を靡かせた。


「?」


靡く中、桜華は微かに感じた……真助に撫でられた時と同じ感触を。


「……父さん?」


桜華の声をかき消すようにして、雨脚は強くなっていった。


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悲しい報せ

真助の元へ駆け付けた信幸……


そこに、久久能智神の姿は無かった……ただ彼は、目の前の状況に絶句した。



大きく空いた真助の腹部……辺りは彼の血で赤黒く染まっていた。


「真助……


真助!!」


上半身を抱き起こした信幸は、彼の名を呼び叫んだ。真助は、虫の息で最後の力を振り絞るかのようにして、自身の手を動かし上げた。上げてきた手を、信幸は掴み彼を見つめた。


「……カ……テ」


聞き取れない声でそう言うと、真助の手は信幸の手から力なく落ちた。


「……し……真助ぇ!!」


激しく降る雨の中、信幸は彼の体に伏せて泣き喚いた。



激しく雨が降る中、桜華は大助の部屋で青達と遊んでいた。空を相手にしていた鎌之介は、ふと彼女が下ろしている髪に目を向けた。


「なぁ、桜華」

「?」

「髪、いつもみたいに結わねぇのか?」

「結ってた紐が切れたから結えないんだ。

この際だから、父さんが来たら新しいの買って貰おうかなぁって思って」

「あれ、桜華のお気に入りだったのに平気なの?」

「あの結い紐、元々父さんが母さんとお揃いで買ってくれたやつだったんだ」

「そっかぁ!だからあんな大事にしてたのか」

「うん」

「真助の奴、早く来ると良いな!」

「うん!」


嬉しそうに、桜華は笑みを浮かべて頷いた。


数日後……

 

 

土砂降りの雨の中、黒い袴に身を包んだ信幸と部下が、上田城へやって来た。

 

 

信幸の気配に気付いた桜華は、期待に胸を膨らませながら、障子を開け外に出た。だが、背を向けた信幸の傍にはいつもいるはずの真助はいなかった。

 

 

「来られない用事でも出来たのかな……父さん」

 

 

傍にいた青に話し掛けながら、桜華は青の頭を撫でた。

 

 

 

数時間後、信幸は話を終えると城を出て行った。彼の後を桜華は追い駆け呼び止めた。

 

 

「ねぇ、父さんは?」

 

「……」

 

 

何も答えない信幸……彼は懐から何かを取り出すと、それを桜華の手に渡し黙ったまま去って行った。

 

呼び止めようとしたが、彼の背中を見た桜華は追い駆けなかった。ふと、手に渡された物を見た。それは青い結い紐だった。

 

 

「……これ、父さんの。

 

何で……

 

 

(何だろう……この、胸に引っ掛かるもの)」

 

 

胸に手を当てながら、桜華はしばらくその場に立ち尽くした。

 

 

 

その報せが、才蔵達に知らされたのはその日の夜のことだった。

 

 

「……し、真さんが……」

 

「……死んだ……」

 

 

耳を疑うかのようにして、佐助と才蔵は幸村の言葉を繰り返し放った。

 

 

「……昼間、信幸様が来たのって」

 

「彼の死を報せに……

 

 

兄上の話じゃ、久久能智神が彼を襲おうとし、それを阻止したのが真助だった。

 

久久能智神と戦うと言い残し、城を出て行き森で殺り合ったそうだ」

 

「そして勝てずに、そのまま……」

 

「そうだ……」

 

「……魂……

 

真さんが持ってた、あの悪しき魂は?!」

 

「恐らく奪われた。

 

 

兄上が持ってきた、真助の遺品にはその様な物は無かった」

 

 

そう言いながら、幸村は風呂敷に包まれた真助の遺品を見せた。

 

遺品の中には、折れた刀が布に包まれて入っていた。

 

 

「これって……」

 

「久久能智神と戦った際に、恐らく折れたのだろうと兄上が……

 

 

武田の右腕とも呼ばれていた男が、こうも無惨に……」

 

「……桜華には、何て」

 

「……」

 

 

黙り込む幸村……

 

才蔵達の後ろにいた六助は、ふと遺品の中にあった一冊の書物を手に取った。中を開いてみるとそこに書かれていたのは、あの悪しき魂と四つの勾玉についてのことだった。

 

 

「真助は、その悪しき魂について調べていたらしい」

 

「え?」

 

「この書物に自身が調べたことを、記している」

 

「何て書いてあんだ?」

 

「……伊佐那美は、器を封印され魂でしか動き回ることが出来ないとされている。

 

魂だけでは、身動きが取れない。そこで神々の力を借り自然を操る光坂一族の者の中へ入り、共に成長した」

 

「なるほど……

 

 

この事を、武田は知っていたから光坂は、彼にしか仕えなかったのかもしれん」

 

「他には何て書かれているんだ?」

 

「あ、はい。

 

後は、出雲大社についてですね」

 

「出雲大社?」

 

「出雲の地下には、古くから黄泉への扉があると言われています」

 

「その扉の向こうに、伊佐那美が?」

 

「はい。

 

扉の前には大岩があり、その岩にある五つの窪みに上の窪みに緑色の勾玉、下の窪みに赤い勾玉、左の窪みに黄色の勾玉、右の窪みに青い勾玉、そしてその中央の窪みに悪しき魂を嵌めた時、伊佐那美は蘇る」

 

「それが正しければ、桜華達が危ないぞ!」

 

「奴が再びここへ来るのも、時間の問題だな」

 

「警備を更に厳重にします」

 

「頼む。

 

鎌之介達には、明日話す。真助のことは」

 

 

 

「何やってんだ?桜華」

 

「!?」

 

 

甚八の声に、才蔵達は驚きすぐに襖を開けた。そこには、目に涙を溜めた桜華が立っていた。彼女は才蔵に話し掛けられる前に、その場から駆け出し去った。

 

 

「桜華!!」

 

「しまった……聞かれていたのか!」

 

「……何があったんだ?」

 

 

幸村達の方に顔を向けた甚八の目に、真助の遺品が目に入った。すると、傍にいたレオンはその遺品からある物を口に銜え甚八に見せた。

 

それは、真助が生前手首に着けていた青いブレスレットだった。

 

 

「……何で、こんな物がここに……

 

 

真助に何かあったのか?」

 

 

彼の質問に、佐助達は目を背け何も答えなかった。その中、才蔵は拳を強く握りながら言った。

 

 

「……死んだ」

 

「……は?」

 

「真さん……死んだんだ」

 

 

その言葉に、甚八は一瞬頭の中が真っ白になった。そして、手に持っていたブレスレットを落とした。




部屋へ入り、障子を閉める桜華……壁に背中を預けながら座り込んだ。


『真さんが……』

『死んだ』


佐助と才蔵の言葉を思い出した桜華は、目から大粒の涙を流し、一人静かに泣いた。


彼の死を悟ったのか、森にいた青達は空に向かって遠吠えをした。その遠吠えは、激しく降る雨の音に負けないくらい、どこまでもどこまでも鳴き響いた。


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蘇る前兆

数日間降り続けた雨が止み、上田に太陽の日差しが差し込んでいた。


静けさが漂う上田城……

 

 

真助の訃報が、才蔵達に伝わってから三日が経っていた。

 

 

いつも通り、上田の警備をする才蔵達だが思うように仕事が進まずにいた。

 

 

上田の森に生えている木の枝に腰を下ろし、見張りをする才蔵の元へ氷柱がやって来た。

 

 

「……氷柱か。

 

そっちの様子は?」

 

「問題無いわ……そっちは」

 

「特にない……」

 

「……まだ、真助さんのことを?」

 

「……

 

俺が持っていれば、真さんは」

 

「それは皆一緒よ……」

 

「……桜華の様子は?」

 

 

才蔵の質問に、氷柱は頭を横に振った。

 

報せを聞いてから、三日間……桜華は食事もろくにとらず、ずっと部屋に籠もったままだった。

 

 

そんな彼女の部屋の前へ来た大助は、ソッと障子を開けようとしていた。

 

 

「やめておけ」

 

「!」

 

 

彼に歩み寄りながら、甚八は静かにそう言った。

 

 

「甚八……でも」

 

「今はソッとしておけ」

 

「けど桜華、一昨日から何も食べてないんだよ!」

 

「食べたくなるさ」

 

 

壁から飛び降りてきた鎌之介は、そう言いながら大助に歩み寄った。

 

 

「俺も親父とお袋が死んでから、数日飯は食えなかった。

 

俺は二人の死に様を見たから、すぐに受け入れられたけど……

 

 

桜華は、死に様を見ずに知らせだけを受けたんだ……

 

俺以上に、苦しい……!」

 

 

話すのを止め、驚いた表情で鎌之介は前を見た。その顔に、大助と甚八は彼の見ている方に向いた。

 

 

「!?」

 

「……桜華……」

 

 

二人の間に立つ桜華……目に掛かった前髪の隙間から、鋭く光る赤い目を大助達に向けると、何も言わずそこから離れ森の方へ行った。

 

 

「何か桜華……凄い怖い」

 

「……?」

 

 

錆びた鉄の様なにおいが漂い、甚八は部屋を覗いた。

 

 

「……何だこりゃ」

 

 

血に染まった何枚もの手拭い……敷かれた布団にも所々に、落ちた血がシミになっていた。

 

 

「桜華……死のうとしてたの?」

 

「……」

 

 

 

森の道を歩く桜華……滝壺へ着くと、岩の上に乗ると横になり目を閉じた。茂みから彼女を追ってきていた青達は出て行き、傍へ駆け寄った。眠りに入った桜華の頬を一舐めすると、青達は彼女に寄り添うようにしてその場に伏せた。

 

 

 

水溜まりに一滴の水が落ちた……

 

その音に、桜華は目を開け体を起こした。水の上を歩く音が聞こえ、その方向に目を向けた。

 

 

長い黒髪を耳下で結い、それを左右に揺らしながら歩く背中……桜華は立ち上がり、その背中を追い駆けた。

 

その背中は歩むのを止め、振り返った。それと同時に長かった髪は短くなり、駆け寄ってくる桜華を受け止めた。桜華は、涙を流してその者に強く抱き着いた。その者は、彼女を強く抱き締めると、手を離し向こうへ歩いて行った。

 

桜華はすぐに追い駆けようとしたが、足に鉛のように重くなり追い駆けられなかった。

 

 

 

 

「……って……

 

父さん!!」

 

 

そう叫びながら、桜華は飛び起きた。辺りはすっかり暗くなり、虫の鳴き声が聞こえていた。

 

心配そうな鳴き声を上げながら、空と青は彼女に擦り寄った。

 

 

「……父さん……

 

 

そっちに……逝きたいよ」

 

 

手に嵌めていた手袋を取り、桜華は手首に持っていた短刀で刺そうとした。

 

 

“キーン”

 

 

「……」

 

 

刺す寸前に、短刀の尖端がクナイよって防がれた。クナイを持つ手の方に振り向くと、そこにいたのは才蔵だった。

 

 

「才……蔵」

 

「……そんな事したって、痛いだけだぞ」

 

 

クナイをしまい桜華から、短刀を手に取った。刀には微かに血が付いており、露出した彼女の手首を見るといくつもの刺し傷があった。

 

 

「……何度も死のうとした……」

 

「……」

 

「でも……死ねなかった……

 

 

どんなに手首を刺しても、どんなに首を刺しても……死ねなかった……

 

 

刺して、出血して横になって目を閉じるけど……死ぬことは無かった。

 

代わりに……出血が止まってた」

 

「……死ぬなって事だろ、それは」

 

「……何で……

 

 

何で、父さんや母さんは死んで……私は死ねないの?」

 

「……」

 

 

桜華の目から一粒また一粒と、涙が垂れ落ちた。

 

 

「こんな力……なければいいのに」

 

「桜華……」

 

「何で私ばっかり、こんな目に遭わなきゃいけないの……

 

何なの?選ばれた子供って……闇の力って……

 

 

こんな苦しいくらいなら……」

 

 

懐に隠していたクナイで、桜華は己の喉を刺そうとした。その瞬間、才蔵は腕でクナイを受け止め、後ろから彼女を抱いた。

 

 

「死のうとすんな!!

 

お前が死んだら、真さんが悲しむだろう!!」

 

「何で私なんかのために、父さんや母さん一族の皆が死ななきゃいけないの!!

 

私だって、普通に産まれたかった!!椿達みたいに、親の傍にいて……一杯笑って……一緒にご飯食べて……

 

皆と遊んで……修業して……時に喧嘩して……」

 

 

才蔵に体を向けた桜華は、大粒の涙を流しながらそう訴えた。

 

その姿が一瞬、幼き頃の自分と重なって見えた才蔵は、躊躇いもなく彼女を抱き締めた。

 

 

「……」

 

「吐けよ……

 

堪ってるもん、全部……」

 

 

才蔵の服の裾を強く掴んだ桜華は、全てを吐き出すかのようにして泣き叫んだ。その声に反応するかのようにして、木々がざわめいた。




桜華の部屋を見る優之介……


「……?」


手首に異様な暖かさが伝わった……優之介はすぐに、自身の手首に嵌めているブレスレットを見た。


「……光っている……

何で」


光る勾玉を見ながら、優之介は昔のことを思い出した。


『光っては駄目?

何故です?』

『四つの魂が共鳴して、光るだけなら何も問題は無い……


しかし、それがあなた方一人一人、単独で光るという事は……』

『という事は?』

『闇の力が蘇る……つまり……




伊佐那美が蘇る前兆です』


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幕開け

とある廃墟となった社……


服を着る久久能智神……裾を手で靡かせると、社の戸を勢い良く開けた。


「悪しき魂は我等の物となった……残るは四つの勾玉だけ。


さぁ……行きましょう。

伊佐那美の器がいる上田へ!」


櫓から見張りをする才蔵達……

 

 

その間、桜華は甚八と一緒に川へ来ていた。釣りをする彼を見ていた桜華に、釣られた魚が水を掛けまた川へ入った。

 

 

「……水掛かった」

 

「そりゃあ、悪かったな」

 

「……

 

 

ねぇ」

 

「ん?」

 

「……昔、父さん達に会ったことがあるって言ってたけど……

 

本当なの?」

 

「あぁ。

 

たしか、お前がまだ小さい時だった。

 

 

たまたま、あの里の港に停留してたら、お前が海で溺れてるって聞いて」

 

「え?

 

私の里は、確か外部との接触を閉ざしてたはずじゃ……」

 

「あの頃俺等は、誰にも仕えてなかったから、物質の届け屋として、光坂に雇われてたんだよ」

 

「……知らなかった……

 

だから、父さんと母さんのことを知ってたの?」

 

「まぁな……

 

けど、俺が行ったのはお前を助けたその日が最後。

 

 

その後は、幸村の旦那に仕えることになって、あれ以来行ってなかった……

 

 

だから、真助を見た時一瞬目を疑った……あの時の奴かと思った……

 

話し掛けて、お前や奥さんは元気かって聞いたが……」

 

「……聞いたが?」

 

「『君には関係ありません』だとさ。

 

最後に会った時と、容姿も雰囲気が変わってたし……何かあったかと思って、それ以上は聞かなかった」

 

「……あれ?

 

でも、里に行った時お前、何も言わなかったじゃん」

 

「光坂の頭と約束してたからな。

 

何があっても、ここのことを他言するなって。それを守ったまでだ」

 

「……」

 

 

「楽しいお話中、申し訳ないけど……

 

そこのお嬢さん、俺に渡してくれないかな?」

 

 

その声と共に、宙から彰三が降り立った。甚八は釣り竿を投げ捨て、桜華の前に立ち槍を手に取った。

 

 

「そう簡単には、渡してくれないか……」

 

「才蔵の所に行け……」

 

「え?でも」

 

「早くしろ!」

 

 

甚八に怒鳴られ、桜華はゆっくりと後退りすると素早く踵を返し、森の中へ逃げ込んだ。

 

 

「テメェは、俺が相手になってやる」

 

「おお!やる気だね?

 

そんじゃあ、俺も本気出そう」

 

 

 

同じ頃……

 

 

城下町を伊佐道達と歩く大助……その時、空から無数のクナイが振ってきた。

 

 

「大助様!!」

 

 

傍にいた伊佐道は、大助を抱き彼等の前に清海は立ち棍棒を力任せに地面を叩き、壁を作り防いだ。

 

 

「な、何だ?!一体」

 

「さすが、真田の勇士」

 

「!?」

 

 

建物の影から出て来たのは、黒いマントを羽織り、体に鎖を絡めた男だった。

 

 

「何者だ!?」

 

「ご紹介遅れました。

 

拙者の名は虎屋陽炎(トラヤカゲロウ)」

 

「このにおい……

 

テメェ、桜華をさらおうとしてた奴等の仲間か!?」

 

「?!」

 

「この不届き者が!!伊佐道!早く大助様を連れて城へ!!」

 

「ここは俺に任せ」

「そうはさせん」

 

 

黒い壁が大助達の周りを囲い、逃げ道を塞いだ。

 

 

「上からの命令で、全員殺せと言われている……

 

だから、例え若君でも見逃しはしない」

 

「っ!?」

 

 

 

同じ頃……

 

 

城で寛ぐ幸村と六郎……その時、庭から糸で繋がれたクナイが障子を破り飛んできた。幸村の傍にいた六郎はすぐに、隠し持っていた寸鉄を出し、そのクナイを弾いた。

 

 

「あ~!もう少しだったのに!」

 

 

庭へ出ると、そこにいたのは同じ顔をした二人の少年が短刀と大太刀を担ぎ立っていた。

 

 

「真田の頭、真田幸村……

 

 

貴様の命、頂戴する」

 

「そうはさせない!!幸村様、お下がり下さい!!」

 

「逃がしや」

 

「しねぇよ!!」

 

 

手に木の葉を舞い上がらせ、木の葉で出来た弾を放った。

 

 

「火術!棒線火!!」

 

 

飛んできた火の棒が、幸村達目掛けて飛んできた木の葉の玉に当たり燃やした。

 

 

「?!」

 

「この者を傷付けることは、この拙者が許さぬ」

 

「六助!」

 

「げ?!まだいたのかよ……」

 

「へっぴり腰になるな。

 

丁度二対二だ」

 

「いや、二対三だ!」

 

 

火縄銃を構えた十蔵は、銃口を彼等に向けて言った。

 

 

「……油断するな」

 

「分ーってるよ!」

 

 

 

皆が戦闘に入った頃……四方の櫓から見張りをする、才蔵達。その時、彼等と共にいた優之介達が辺りを警戒しだした。

 

 

「どうかしたか?」

 

「……来る!」

 

「?……!?」

 

 

素早く優之介を連れて、才蔵は櫓から飛び降りた。その直後、櫓が壊されその土煙から大剣を持った、半蔵が姿を現した。

 

 

「お久し振りで~す、才蔵!

 

またお会いできて、嬉しいよ」

 

「こっちは嬉しがねぇ!!」

 

「何だよ、せっかく殺りに来たのに」

 

「優之介、早く城へ!」

「させませんぜ!」

 

 

指を鳴らす半蔵……その合図で、クナイが飛んできた。才蔵はすぐに避け、飛んできた方向に目を向けた。

 

 

「!?……な、何で」

 

 

青い髪を一つ三つ編みにした女が、半蔵の隣に降り立った。

 

 

「ご紹介しまーす!我等の主、久久能智神の力により蘇った、千草でーす!」

 

 

顔を上げる千草……その目にはかつての生気は無く、傀儡のような表情をしていた。

 

 

 

同じようにして、氷柱と椿の元へ蟲使いの男が無数の蟲達を引き連れて現れた。

 

 

「チッ……女が相手かよ」

 

「女だからって、甘く見ない方が良いわよ?」

 

「みてぇだな……

 

 

名だけ言っとく……我が名は楼怨。

 

貴様等に殺された姉上、大蛇の敵を討たせて貰う」

 

「大蛇って(まさか、あの蛇女?!)」

 

 

腕を伸ばすと楼怨の袖の中から、大きな百足が出て来るなり、椿目掛けて突進してきた。氷柱はすぐに、彼女の前に氷の壁を作り守った。

 

 

「チッ!」

 

「私の後ろに!」

 

「あ、はい!」

 

「だから、女は面倒だ」

 

 

 

崖近くに設置された櫓から、飛び降りる佐助と陸丸……

 

目の前に降り立ったのは、小柄な少年だった。

 

 

「もう、避けないで下さいよぉ!

 

そこにいる子供の、ピアス持って帰らなきゃいけないんですから!」

 

「誰が渡すものか!

 

陸丸、俺の後ろへ!」

 

「は、はい!」




茂みの中を駆ける桜華……


茂みを抜け、出て来た先にそれは見えた。


「……才……蔵……」


目の前で腹を切られる才蔵……その光景を桜華は目の当たりにした。


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さようなら

『海みたいな色の髪だな』

『でしょう?

珍しかったから、思わず買っちゃった!』

『女子か!!』

『師匠、こいつ名前は?』

『無いらしいよ。

これからは才蔵と佐助が、その子の兄弟子だから、色々面倒を見てね』



『俺、こいつにピッタリの名前があんだけど』

『何だ?言ってみろ。

変な名前だったら、承知しないぞ』

『千草!』

『ちぐさ?』

『こいつの目、緑色だろ?

それによく見ると、星みてぇにキラキラしてんだ!だから千草!』

『……単純馬鹿』

『んだと!!』

『……ちぐさ』

『?』

『ちぐさ……名前?』

『そうそう!

千草!お前の名前だ!』


(あぁ……

 

 

こいつに名前付けたの、俺だ………)

 

 

腹から血を流しながら、才蔵は思い出した。その光景を見た桜華の中で、沸々と何かが沸いてきた。

 

 

「おや、お久し振りですね?

 

桜華」

 

「……」

 

「ご覧の通り、才蔵は戦闘不能になりました。

 

全く、昔の妹弟子見ただけで攻撃の手を緩めるとか、あり得ないっしょ」

 

 

乱れる息をする桜華……刀の束を強く握ると、光の速さで半蔵の前に立ち刀を抜き、勢い良く振り下ろした。

 

 

“キーン”

 

 

間一髪、半蔵は大剣でその刀を受け止め、後ろへ引いたが前にいるはずの桜華の姿は無かった。

 

警戒する半蔵……だが、次の瞬間背中に激痛が走りそれと共に桜華が、血の付いた刀を手に目の前に降り立った。

 

 

「い、いつの間に……」

 

「桜華、落ち着け!!

 

才蔵さんは生きてる!!」

 

「……」

 

 

乱れる息をする桜華……垂れた前髪から見える赤い目が、禍々しく光っていた。彼女の気持ちに反応するかのようにして、首から下げていた勾玉が黒く光り出した。

 

 

「(ヤバい!!)

 

 

桜華!!気を静めろ!!」

 

 

体制を整えた半蔵は、大剣を振り上げ桜華に向かって勢い良く振り下ろした。だが狙いを定めたはずの桜華は、一瞬にしてその場から消え、そして……

 

 

「……は?」

 

 

大剣の束を握る腕が、地面へと落ちた……半蔵は斬られた腕を抑え、大剣を手に持ち攻撃しようとした時だった。

 

 

「そこまでよ」

 

 

舞い上がる木の葉と共に、久久能智神が姿を現した。

 

 

「半蔵、下がりなさい……」

 

「……へい」

 

 

久久能智神の後ろへ半蔵は下がった。桜華は二人の方に体を向けながら、久久能智神を睨んだ。

 

 

「そんなに怒って、どうしたの?」

 

「……よくも、父さんを!!」

 

「力を緩めるのがいけないのよ……

 

 

少し蓮華の真似をしたら、攻撃の手を止めて……そのまま止めを刺したまでよ」

 

 

その言葉に、桜華は握っていた刀を久久能智神に向かって振り下ろした。刀の攻撃を、彼女は木の根で受け止め防いだ。

 

 

「これ以上、死人を出したくないでしょ?

 

なら、その勾玉を外しなさい」

 

「え?」

 

「っ!桜華、外すな!!」

 

「外せば、あなたが望んでるもの全て、手に入るわよ」

 

「止めろ桜華!!蓮華さんや真助さんと約束しただろ!!

 

絶対に奇魂を外すなって!!」

 

「うるさい奴だ……千草」

 

 

弦に矢筈を嵌めた千草は、矢を放った。その矢は桜華の横を通り過ぎ、優之介の腹部に刺さった。刺さった彼は口から血を吐き、地面に倒れた。

 

 

「優!!」

 

「あなたが素直に、私達と来てくれればもう死人は出さないのよ?」

 

 

その言葉に桜華は、久久能智神の方に振り返ると技を放った。だがその技は彼女に当たる前に、木の根で防がれ逆に攻撃を仕掛けてきた。

 

 

次の瞬間、桜華の前に才蔵が立ち彼女を守るようにして抱き締めた。その行為に桜華は、目から大粒の涙を流した……才蔵は何も言わず、その場に倒れた。

 

 

「……才蔵……

 

 

私なんかのために……私なんかの……ために……」

 

 

才蔵の手を握る桜華……しばらくすると、彼女は刀を才蔵の手に握らせた。

 

 

「(皆に会えたから……今の私がいる……

 

皆が優しかったから……ここは居心地がよかった……

 

 

だから、ここを壊したくない……誰も失いたくない)

 

 

才蔵……ありがとう(父さん……ごめんなさい)

 

 

 

 

……さようなら」

 

 

首から掛けていた勾玉に手を取り、それを外した。




空を覆う黒い雲……その様子に、佐助達は戦いの手を止め空を見上げた。


「何だ?」

「夜?」


空を見上げた敵達は、武器を納めその場から立ち去った。


「あ!待ちやがれ!!」

「待ちなさい!鎌之介!」

「オイラも!」

「大助様!」


「六郎!すぐに馬を」

「はい!」

「とても嫌な予感がする……」


「何だ?夜になるには、ちと早くねぇか?」

「……蘇ったか」

「?蘇った?……!

まさか!!」

「クックックック!これで、俺等が狙ってるものは奪えたって訳だ!

じゃあな、真田の勇士!」


煙玉を地面に捨て、彰三は煙と共に姿を消した。追い駆けようとした甚八に、レオンはコートの裾を噛み引っ張った。

レオンに引っ張られた甚八は、桜華が入って行った茂みの中へと駆けていった。



黒い玉に覆われる桜華……久久能智神を中心に、散らばっていた敵達が、次々に集まっていった。

彼等に伴い、幸村達もそこへ集まった。


「才蔵!!」
「優!!」


腹から血を流し倒れている二人に、氷柱と椿は駆け寄った。


「な……何故、千草が……ここに」


千草の姿を見た佐助は、驚いた表情で彼女を見つめた。

椿に体を起こされた優之介は、口から血を吐き息を切らしながら、自分の傍にいる陸丸と彼女に言った。


「逃げろ……ここから……」

「え?」

「優、どうして?」

「……伊佐那美が……!

早く逃げろ!!」


優之介が怒鳴った次の瞬間、黒い玉から激しい稲妻が飛び交った。当たる寸前に佐助は才蔵を、陸丸と椿は優之介を、鎌之介は大助を抱えその攻撃を避けた。

稲妻は、久久能智神の傍にいた彰三に当たった。直撃した彼の体に、黒い触手が巻き付きそのまま黒い玉の中へと引きずり込んだ。中に引きずり込まれたと共に、彰三の悲痛な叫び声と、骨が砕かれる音が周りに響いた。


「さぁ、出て来なさい」


不敵に笑みを浮かべる久久能智神……


黒い玉は徐々に小さくなり、中から桜華が姿を現した。


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闇の女神覚醒

誰も傷付けたくない……

誰も殺したくない……


誰も死んで欲しくない……


『私と一つになれば、済む事よ?』


違う……ただ、皆を……


『一つになりましょう……


桜華……』


閉じていた目をゆっくりと開く桜華……

 

 

「桜華……なのか?」

 

「……」

 

 

振り返る桜華……そんな彼女に、大助は歩み寄った。歩み寄る彼に、桜華は一瞬手を動かした。それを見た鎌之介は大助の前に立った。

 

 

「!?」

 

 

粉々に砕けた鎖の破片と共に、赤黒い血が飛び散った。

 

 

「鎌之介!!」

 

 

肩から胸にかけて、鋭い刃で切られたような傷を負った彼はその場に倒れた。

 

 

「残念……

 

 

 

 

もうこの世に、桜華はいないわ」

 

 

不敵な笑みを浮かべた桜華……いや、伊佐那美はそう言った。

 

 

「やっと、目覚めることが出来たわ。

 

この魂のせいで、あなた(久久能智神)のように体を奪えなくて、苦労したわ」

 

「私のは特殊だからよ」

 

「そうだったわね……

 

さぁ、とっとと出雲へ行きましょう。自分の体に早く戻りたいから」

 

「そうね……

 

けど、その前にこいつ等を片付けない?」

 

 

幸村達に目を向けながら、久久能智神は言った。幸村達の前に佐助達は立ち武器を構えた。

 

 

「……相手にしなくて良いわ」

 

「あらそう」

 

「けど、その代わり……」

 

 

手を上げる伊佐那美……次の瞬間、優之介の傍にいた椿と陸丸は、何かに吹き飛ばされ木の幹に体をぶつけた。怯んだ彼等の傍へ行った伊佐那美は、椿の簪、陸丸のピアス、優之介のブレスレットを奪った。

 

 

「これさえ貰えば、ここはもう用無し……

 

 

さぁ、行きましょう」

 

 

どす黒い雲を起こし、伊佐那美は久久能智神達と共にその場から姿を消した。

 

 

誰もいなくなった場所に、風が吹いた。

 

呆然と立つ佐助達……

 

 

「……嘘だろ……」

 

「桜華が……そんな」

 

「桜華……うっ……ウワァァン!」

 

 

鎌之介の傍で大助は泣き出した。彼の元へ幸村が歩み寄り、彼を抱き寄せ宥めるようにして頭を撫でた。泣きながら大助は、幸村に抱き着き顔を埋めた。

 

 

 

夜……

 

 

桜華の部屋の前へ行く、青達……寂しそうに鳴き声を上げながら、その場に座った。

 

 

 

「!?」

 

 

目を覚ます才蔵……大量の汗を腕で拭きながら、体を起こした。ふと見ると、傍らに桜華の刀が置かれていた。

 

 

「……桜華」

 

 

傷を抑えながら、才蔵はふらつきながら立ち上がり部屋を飛び出した。

 

障子を勢い良く開ける才蔵……だが、部屋は物家の空だった。

 

 

「……」

 

 

「目が覚めたみたいだな?」

 

「?!

 

猿……桜華は!?」

 

「……

 

 

伊佐那美になった」

 

「……」

 

 

「大人しく寝ていろ!」

 

 

十蔵の怒鳴り声が聞こえ、才蔵達は声の方へ向かった。

 

 

部屋へ行くと、そこでは傷口が開き体中から血を流して立ち上がる鎌之介と、彼を必死に止める十蔵と清海がいた。

 

 

「何やってんだ!!

 

傷口開いてるぞ!!」

 

「こんなの、唾付けときゃ治る!!

 

それより、早く桜華を助けに行く!!」

 

「無茶なことを言うな!!見ただろ!

 

 

大助様や一族の仲間である優之介達にも、攻撃をした!!

さらにお主の父上の形見である、鎖鎌を粉々に砕くくらいの力を持っているんだぞ!!」

 

「それがどうしたって言うんだ!!」

 

「桜華はもう、以前の桜華では無い!!」

 

「っ!!」

 

 

十蔵の言葉に、鎌之介は大人しくなり、そのまま腰が抜けたかのようにして、床に座り込んだ。

 

 

「……んで」

 

「?」

 

「何で伊佐那美何かになったんだよ!!」

 

 

床を力任せに叩きながら、鎌之介は悔し涙を流した。

 

 

「俺等が守るって言ったのに!!

 

守るって言ったのに!!何で!!」

 

「鎌之介……」

 

 

 

部屋へ戻ってきた才蔵は、傍らに置いてあった桜華の刀を手に取った。

 

桜吹雪の模様が付いた黒い鞘に、束の部分には赤い糸と共に硝子玉が吊された刀だった。

 

 

「……?」

 

 

背後に感じる気配……障子の縁に凭り掛かり、煙草を吸う甚八が、そこに立っていた。

 

 

「……何で桜華は、この刀を置いてったんだろうな」

 

「……

 

 

その刀で、自分(桜華)を斬れ……って事じゃねぇのか」

 

「……

 

 

あいつの笑った顔……どことなく千草に似ていた」

 

「……」

 

「俺と猿の妹弟子で、売られていた所を馬鹿師匠に、拾って貰ってくノ一になった……

 

明るい奴だった……

 

 

 

 

けど」

 

 

蘇る過去……

 

 

血塗れの千草を抱き上げ、泣き喚く才蔵……その傍で、氷柱と佐助は呆然と立っていた。

 

 

その事を思い出した才蔵は、手に持っていた刀を強く握り、悔し涙を流した。

 

そんな彼の背中を見た甚八は、何も声を掛けずその場を去っていた。

 

 

 

翌日……

 

 

桜華の部屋を覗く大助……しかし部屋は、昨日と変わらず物家の空だった。

 

 

「桜華……」

 

 

木の上から風景を眺める陸丸……

 

屋根から町を眺める椿……

 

体に包帯を巻いたまま、川を眺める優之介……

 

 

彼等の傍へ、佐助、氷柱、才蔵はやって来た。

 

 

「……本当ならあの時、俺等は殺されていた」

 

 

川を眺めていた優之介は、才蔵にそう言った。

 

 

「魂を守っていた俺等は、伊佐那美にとって邪魔な存在……

 

 

なのに、あの時殺さなかった……」

 

 

「あんなにいじめてたのに……牢屋に閉じ込められてる時なんか、遊びに行こうとも心配もしなかったのに……」

 

 

「僕等だけ安全な場所にいて、桜華は襲撃された里の中にいたのに……」

 

 

「俺等は……守らなきゃいけなかった桜華を、守ろうとせず逆に俺等が、あいつに守られたんだ……」

「僕等は……守らなきゃいけなかった桜華を、守ろうとせず逆に僕等が、桜華に守られたんだ……」

「私達は……守らなきゃいけなかった桜華を、守ろうとせず逆に私達が、あの子に守られたんだ……」

 

 

そう言葉を放った途端、三人は大粒の涙を流した。

 

 

涙を流す椿を、氷柱は黙って抱き締めた……

 

泣き喚く陸丸を、佐助は何も声をかけず黙って、傍を離れなかった……

 

悔し涙を流す優之介の頭の上に、才蔵は黙ったまま手を置いた。




出雲大社……


火の海となった大社……床には神主に巫女、巫覡達が血を流し倒れていた。


そんな中、鼻歌を歌いながら伊佐那美は、大社の外にある太極図が書かれた地面へ行くと、その上で舞をするかのようにして、足を動かし扉を開けた。

太極図の黒い部分と白い部分が光を放ち、扉が開き地下へ続く階段が現れた。


階段を降りていくと、そこは暗い洞窟の奥に、大岩が置かれていた。


(何だ……この空間は)


「さぁ、扉を開けるわよ」


岩に掘られた窪みに、伊佐那美は久久能智神から、悪しき魂と四つの勾玉を嵌めていった。


魂は不気味な光を放ち、そして大岩が動いた。そこから黒い霧と触手が飛び出てきた。


「!?全員撤退しろ!!」


危険を察知した半蔵は、すぐに撤退命令を出した。傍にいた仲間達は、一斉に外へ出て行き最後に出て行った半蔵が出た直後だった。


“ドーン”


爆発と共に、黒いオーラが地下から噴き出した。

噴き出したオーラの中から、長い黒髪を揺らし、赤い目を光らせた伊佐那美が現れ出た。


「何百年振りか……妾の体。


さぁ、この世を闇に包むぞ!」


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勇士達

桜華が伊佐那美になってから、半年が過ぎた……


警備の合間を縫って、才蔵、佐助、氷柱、鎌之介は桜華に関する情報を集めていた。


彼等だけでなく、六助や甚八も各地域に行き情報を集めていた。


そしてある日、甚八は奇妙な情報を城へ持ち帰ってきた。


「村が消えた!?」

 

 

資料を広げながら、甚八はそう話した。

 

 

「ここ半年の間に、名の無い村が忽然と姿を消したらしい。しかも一回や二回じゃない。

 

消える際に、目撃者があるものを見たって話だ」

 

「あるもの?」

 

「村が消える寸前に、黒い雲を周りに浮かせその中に女がいたと……」

 

 

そう言いながら、甚八は資料の中から絵が描かれた紙を見せた。

 

後ろ姿しか描かれたそれは……真っ黒な髪を腰まで伸ばした少女。その姿を見た優之介達の目に、以前の桜華の姿が映った。

 

 

「……桜華」

 

「今はどこにいるの?」

 

「さぁな。

 

この姿を見た所が、摂津付近……それ以降の情報は何も」

 

 

「今は出雲にいるとの、情報です」

 

 

その声と共に、襖を開き外から六助が現れた。

 

 

「六助さん!」

 

「出雲って確か、半年前に全焼したんじゃ……」

 

「確かに全焼しました……

 

ですが、黄泉への入り口……大岩があるのは地下。大社が燃えても、地下は燃えません」

 

「そっか……」

 

「場所が分かれば、こっちのもんだ!!

 

行こうぜ!出雲に!」

 

「うん!」

 

「待てよ」

 

 

騒ぐ鎌之介達に、今まで黙っていた才蔵は口を開いた。

 

 

「鎌之介……」

 

「?」

 

「お前、桜華を刺す覚悟はあんのか?」

 

「え?」

 

「大助、お前もあんのか?」

 

「そ、それは……」

 

「今の桜華は、昔の桜華と違う……

 

鎌之介や大助を、殺そうとした」

 

「けど!」

 

「覚悟があれば、出雲へ行く。

 

 

けど、無ければ来ない方が身のためだ。また辛い思いするぞ」

 

「……」

 

 

それだけを言うと、才蔵は部屋を出て行った。

 

 

「……封印する方法ならある。

 

桜華を殺さず」

 

「え?」

 

 

言葉を放った優之介に、大助達は顔を向けた。彼は懐から巻物を取り出し、紐を解くと巻物を広げた。

 

そこには、黒と白の太極図に周りに八つの丸が描かれていた。さらに、周りには難しい字で埋め尽くされていた。

 

 

「何?これ」

 

「伊佐那美が蘇りし時、光と八つと力を持つ勇士達が現れ、女神を再び黄泉へ封じる……

 

 

俺達は、万が一伊佐那美が蘇ったら、この伝書に従えと言われました」

 

「光と八つの力を持つ勇士……」

 

「八つの力って、どんなの?」

 

「森羅万象に基づいていて……

 

 

まず、火の力……

次に、水の力……

雷の力……

氷の力……

草の力……

土の力……

金の力……

そして、風の力……」

 

「あれ?その力って、優之介達が……」

 

「私達は補佐のような者……

 

本当の勇士のね」

 

「本当の勇士?

 

それって、誰なの?」

 

「……

 

 

伊佐那美がこの世に宿った時、同時に自分を封じる九人の勇士を、己で見つけると言われている」

 

「……まさか」

 

「……恐らく、あなた方です。

 

 

猿飛佐助さん、穴山氷柱さん、由利鎌之介さん、海野六郎さん、根津甚八さん、筧十蔵さん、三好清海入道さん、三好伊佐入道さん、望月六助さん、そして……霧隠才蔵さん」

 

「……」

 

「確かに……当てはまる。

 

怖いくらいに」

 

「佐助が水、六郎が草、鎌之介が風、氷柱が氷、甚八が雷、清海と伊佐道が土……」

 

「金は金属を指すから、火縄銃に長けている十蔵が金……

 

爆薬を使う六助が火……」

 

「となると、才蔵は?

 

あいつは何だよ?」

 

「……恐らく、光」

 

「光?才蔵が?」

 

「光の勇士として選ばれた者の傍には、自然と人が集まります……

 

そう、力を持った勇士達が」

 

「……」

 

「桜華は多分、初めて才蔵さんを見た時から……

 

“光”の勇士として、見ていたのかも知れない……

そして、“闇”である自分を、殺して欲しく形見である刀を……託したのかも……」

 

 

上田の森……

 

巨大岩の上に座り、才蔵は流れる川と滝を眺めていた。

 

 

“バシャーン”

 

 

川に飛び込む青達……水飛沫が飛ぶ中、才蔵の目に一瞬桜華の姿が映った。

 

飛沫を立て、川ではしゃぐ桜華……その姿は次第に千草になった。

 

 

「桜華!千草!」

 

 

その名前に反応したかのようにして、青達は才蔵の方を向いた。ハッと我に返った彼は、頭を手で抑えた。

 

そんな彼に、青達は体に付いた水を払って駆け寄った。

 

 

「……どうすりゃいいんだろうな……」

 

 

一人そう言いながら、才蔵は青と空、二匹の子供達の頭を順々に撫でた。

 

すると、空が耳を立て辺りを見回した。空に続いて、青と子供達も辺りを見回した。

 

 

「?どうかしたか?」

 

 

すると、川の反対側の茂みから白い髪を腰まで伸ばした女性が、手に何かを持って現れ出てきた。

才蔵はすぐに、川を渡り彼女の元へ駆け寄った。

 

 

「オイ、大丈夫か!?」

 

「ハァ……ハァ……

 

こ、これを……」

 

 

手に持っていた物を、女性は才蔵の手に渡した。

 

それは、黒く染まった四つの勾玉と悪しき魂だった……

 

 

「何で、これを……」

 

「あの子は……まだ……生きてる……」

 

「え?」

 

 

それだけを言うと、女性は気を失った。才蔵が彼女を呼び掛ける中、空と青は力が抜けた手を舐めた。

 

 

「……?

 

こいつ……」

 

 

才蔵の脳裏に蘇る記憶……自分達の前に現れた、久久能智神の姿。

 

今腕の中で気を失った女性と、彼女の姿が瓜二つにだった。

 

 

「……まさか」

 

 

「才蔵!」

 

 

彼を心配して、様子を見に氷柱は川へ来た。才蔵の元へ駆け寄った彼女は、彼の腕の中で倒れていた女性目を向け、驚いた表情をした。

 

 

「こ、この人……」

 

「様子がおかしい!

 

城へ連れて帰る!」

 

 

腰に着けていた巾着に、勾玉と魂を入れ女性を背負うと、才蔵は氷柱と共に城へ戻った。




全てを忘れて、一から……

『忘れる事なんて出来ない……

魂に刻まれた記憶は、永遠に残る』

お願い……この子を……


桜華を守って……


真……


『守りたかった……

ずっと傍にいて、君等を……守りたかった』




助けて……


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深い闇

暗い部屋……そこに立てられた一本の蝋燭。

その光に照らされた場所は、大きな繭の中に眠る伊佐那美。


彼女はゆっくりと目を開いた。彼女と同じように、繭に凭り掛かるようにして座っていた者の目も開いた。


城の一室……

 

敷かれた布団の上で眠る女性。彼女の傍に、優之介達は離れようとはせず、そこにいた。

 

 

「一命は取り留めてるが……

 

持って、今日。長ければ明日」

 

「……そんな酷い状態なの?」

 

「元々、胸の近くを刺されている……この傷で、生きているのが奇跡だ」

 

「で、その女が持ってたのが……」

 

 

鎌之介の言葉に、応えるかのようにして才蔵は巾着から悪しき魂と黒く染まった四つの勾玉を出し、皆に見せた。

 

 

「何で、これが……」

 

「大岩を開いたから、役目を終えた……って事かしら」

 

「分からねぇ……

 

ただ」

 

 

言葉を溜めながら、才蔵は一つの勾玉を手に取った。

 

 

「異様に……この勾玉だけ、微かに光が見える」

 

「才蔵……」

 

 

 

女性の部屋で、眠る彼女を見守る優之介達……

 

その時、水の入った桶を持った六助が部屋へ入ってきた。桶を近くに置き、女性の額に置かれていた手拭いを洗い、絞ると再び額に置いた。

 

 

「……?

 

 

六助さん」

 

 

陸丸の声に、六助は彼が指差す方に目を向けた。

 

微かに動く指……そして、目がゆっくりと開いた。

 

 

「……!」

 

「さ、才蔵さん達呼んでくる!」

 

「ま、待て!陸丸!」

 

「ちょっと!二人共、待って!!」

 

 

少し嬉しそうに、三人は部屋を出て行った。

 

女性は目に映った六助を見ると、安心したかのように笑みを浮かべ、精一杯手を上げた。上げてきた手を、六助は握り優しく話し掛けた。

 

 

「お久し振りです、副隊長……」

 

「六助……

 

 

 

お願い……桜華を……あの子を、救って」

 

「副隊長!あまり無理をすると」

 

「いいの!

 

 

あの子は……あの子は一人……

 

 

私達一族がやらなきゃいけないことを、一人でやっているの……

 

 

桜華を……桜華を光のある場所へ連れ出して……お願い」

 

 

六助の手を強く握る蓮華(副隊長)……

 

その時、部屋へ佐助達を連れた優之介達が戻ってきた。才蔵は六助の隣へ行き、彼女を見た。蓮華はゆっくりと目を向け、微笑んで言った。

 

 

「あなたが……“光”ね」

 

「……」

 

「お願い……あの子を……救って……

 

 

桜華は……あなたが……助けに来るって……信じて待ってるのよ」

 

 

六助から手を離し、最後の力を振り絞り起き上がった蓮華は、才蔵の胸に手を当てた……すると、彼女の手が一瞬光った。

 

 

「あとは……お願い……ね」

 

 

その言葉を最期に、蓮華は才蔵に凭り掛かるようにして倒れた。

 

 

「副隊長!!」

 

「蓮華さん!」

 

「佐助!」

 

 

布団へ寝かせた佐助は、すぐに蘇生術を熟すが、蓮華は二度と息を吹き返すことは無かった……

 

 

 

出雲大社の屋根の上……そこに座っていた伊佐那美は、人知れず目から涙を流していた。

 

 

「……なぜ、泣いている……

 

お主はもう、泣かなくてもよい。妾の者になったのだからな。

 

 

もっと、深い闇が必要か……ならば、あやつ等を亡き者に」

 

 

 

月明かりに照らされる上田城……

 

 

各々の武器を手入れし、ケースにしまう才蔵達……城を出た彼等は、振り返り門前に立つ幸村と大助を見た。

 

 

「儂と大助は、城でお主等の帰りを待つ」

 

「あぁ……」

 

「……霧隠才蔵」

 

「応」

 

「猿飛佐助」

 

「はい」

 

「穴山氷柱」

 

「はい」

 

「三好清海入道」

 

「はい」

 

「三好伊佐入道」

 

「はい」

 

「筧十蔵」

 

「はい」

 

「海野六郎」

 

「御意」

 

「由利鎌之介」

 

「応」

 

「根津甚八」

 

「応」

 

「望月六助」

 

「はい」

 

「光坂優之介」

 

「……はい」

 

「光坂椿」

 

「はい」

 

「光坂陸丸」

 

「は、はい」

 

「名を呼んだ者達よ、約束しろ……

 

 

必ずや、桜華を助け出し……この地へ帰って来い」

 

「はい!」

「応!」

 

 

 

出雲大社……黒いオーラを纏う社。

 

 

鼻歌を歌いながら、柱の周りを歩るく伊佐那美……足にステップを踏むかのように床を叩いた。すると彼女を囲う様にして太極図が描かれた黒く染まった扉が数個出てきた。

 

 

「もう少しで……最後の敵が来る……

 

あの者達を消せば……

 

 

お主も少しは、大人しくなるだろう?

 

 

なぁ?桜華」

 

 

 

「?」

 

 

船の縁に凭り掛かっていた才蔵は、腕に巻き付けていた勾玉から、妙な暖かさを感じそれを見た。

 

微かに青く光る勾玉……

 

 

「……甚八!もっと急げ!」

 

「お安い御用だ!」

 

(……桜華。

 

 

もう少しだ……もう少しの辛抱だ)

 

 

微かに光る勾玉を、改めて意を決意したかのようにして才蔵は強く握った。




『桜華』

誰?

『桜華』

色んな声が、聞こえる……誰なの?

『桜華!』

『桜華!』

『桜華』

分からない……

誰……

『仲間です』

!……父さん……

『光のある場所へ……』

母さん……



帰りたい……皆の……才蔵達の所に……


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決戦

出雲が見える丘に立つ才蔵達……


出雲大社には、禍々しい黒い雲が広がっていた。


「うへー、あそこだけ違う夜って感じだぁ」

「あそこに桜華が……」

「……桜華」

「なぁ、才蔵と同じ里の出身の……半蔵って奴は?」

「さぁな。

情報だと、半蔵は仲間を連れて逃げたって話だ」

「情けねぇ……」

「でも代わりに、二人ほどいるらしいわ」

「一人は千草。もう一人は分からん」

「……」

「千草は俺が相手する。

才蔵、お前は桜華だけを見ろ。いいな?」

「百も承知だ」

「俺等は出雲に入り次第、別ルートで行く」

「頼む」

「そんじゃあ、行くか」

「あぁ(待ってろ……桜華)」


「?」

 

 

何かの気配に気付いた伊佐那美は、後ろを振り返った。そこにいたのは才蔵だった。

 

 

「桜華……」

 

「……才蔵」

 

「迎えに来た……

 

帰るぞ、桜華!」

 

「才蔵!」

 

 

手を差し伸ばしてきた才蔵に桜華は、涙を流して飛び付いた。

 

 

「……才蔵!

 

才蔵……」

 

「桜華」

 

「ありがとう……本当にありがとう!

 

 

 

 

わざわざ、殺しに行かなくて済んだ」

 

「!!」

 

 

伊佐那美の手から技が放たれ、技に当たる寸前に才蔵は、すぐに彼女から離れた。

 

 

「お主は邪魔だ!

 

全ての準備を整え、これからこの世を面白可笑しく、滅ぼそうという時に……

 

お主は絶対に邪魔になる!!お主がいなければ、何の枷も無い!!

妾は命あるもの、全てを殺して闇へ還す!!至福の時が訪れるのだ!!

 

 

桜華……そんな女はもういない。

 

この世を絶望の淵に落とすのだ」

 

 

地面から噴き出す闇……そこから、顔を布で覆ったくノ一達と、伊佐那美の傍にいた千草と男が現れた。

 

 

「来るぞ!」

 

「お主等が亡き者になれば……

 

 

この女も、少しは静かになるだろう」

 

 

鳴らした指を合図に、くノ一達は一斉に才蔵達を襲い掛かった。迫ってくる彼女達に、佐助は水を放ちそれに続いて甚八は雷を放った。彼に続いて、自身に襲ってきたくノ一を十蔵は銃弾を放ち倒し、くノ一の大群に鎌之介は氷柱と共に氷と風の連携技を放った。

 

清海達に迫り来る、くノ一達の動きを六郎は草で封じ、動けなくなった彼女達に、清海と伊佐道は土で囲い袋の鼠となった所に、六助は爆薬を撒きそして火を放った。土壁の向こうから、爆発と共に黒い煙が上がった。

 

 

「忌まわしい勇士達だ!!

 

 

 

だが……此奴に勝てるかな?」

 

「?」

 

 

才蔵達の前に、弓矢を構えた千草と大太刀を振り上げた男が突如として姿を現した。

 

矢を避ける才蔵と佐助だが、次の瞬間地震と共に地割れが起きた。

 

 

「アッハッハッハッハ!!

 

勇士達であろうと、所詮は人の子!

 

 

我が息子、素戔嗚尊に敵うわけが無い」

 

「だったらその姉貴の、天照大神の力には敵うって言うのか!?」

 

 

素戔嗚尊の背後にいた鎌之介は、鎖鎌の鎖を勢い良く回し竜巻を起こした。竜巻をもろに受けた素戔嗚尊は、飛ばされた勢いで、木の幹に体をぶつけた。

 

 

「!?」

 

「ハッハァ!!

 

倉の兄貴から、俺等一族のことはしっかり聞いてんだよ!!」

 

「己ぇ!!」

 

「この男は、某達が相手する!」

 

「鎌之介!最大威力の竜巻起こせ!」

 

「応よ!」

 

 

鎖を勢い良く振り回し、風起こすと巨大な竜巻を作り出し、それを素戔嗚尊に向かって放った。放たれた竜巻に、甚八は雷を放ち雷は竜巻を覆った。

 

 

「食らえ!!

 

由利式合体風術!!雷竜巻!!」

 

 

放たれた竜巻に、素戔嗚尊は巻き込まれた。

 

 

「へっ!どんなもんだ!」

 

「それはどうかな?」

 

 

不敵に笑う伊佐那美……その時、竜巻が真っ二つに切られ中から、炎を纏った素戔嗚尊が姿を現した。

 

 

「?!」

 

「消え……ろ!!」

 

 

鎌之介目掛けて、素戔嗚尊は大太刀を振り下ろした。当たる寸前、甚八は彼の前へ立ち槍で受け止め、動きが止まった素戔嗚尊に向けて、十蔵は銃弾を放った。

 

 

「甚八!鎌之介!平気か!?」

 

「何とかな!」

 

「問題無しだ!」

 

 

素戔嗚尊に目を向ける鎌之介達に向けて、見えぬ所で千草は彼等目掛けて矢を放った。だが、届く手前で佐助と氷柱に阻止された。

 

 

「貴様の相手は、俺等だ」

 

「……」

 

 

佐助の目に映る、笑顔を向けた千草。

 

 

(……千草)

 

「佐助、来るわよ!」

 

 

氷柱の声に、佐助はすぐ武器を構えた。千草は弓と矢を手に、佐助達に襲い掛かった。

 

 

彼等が二人を相手しいると、突如あのくノ一達が迫ってきた。襲われる寸前、六郎達は彼等の前に立ち彼女達の動きを封じた。

 

 

彼等の戦いを見る伊佐那美……

 

 

「……何故、そうまでしてこの子を助けたい?」

 

「……大事な仲間だからだ」

 

「仲間?

 

 

フ……フフ……アッハッハッハ!!

 

 

笑わせるな!!」

 

 

才蔵に向けて、伊佐那美は技を放った。彼はすぐにその攻撃を避け、彼女を睨んだ。

 

 

「何が仲間だ!!

 

この子を孤独にしたのは、誰だ!?たかが、他の子より技術が優れているからという理由で、妾の器となり牢に閉じ込めるのか!?」

 

「……お前」

 

「まぁ、この子を孤独に浸らせてくれたおかげで、妾はこの子に取り憑くことが出来た……」

 

 

沸々と伊佐那美の周りから、黒いオーラが出て来た。

 

 

「妾は伊佐那美……この世を闇に返すために、蘇った!!」



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漆黒の闇

重い空気が漂う上田……


庭にいたレオンと青達は、何かを察して空を見上げた。


「……父上、空が」

「大丈夫だ……」


ゆっくりと目を開ける才蔵……だが、そこに広がっていたのは、漆黒の闇だった。

 

 

「どうだ?妾の闇は?

 

これで、手足も出せまい!」

 

「……さぁ。

 

それはどうかな?」

 

「?……

 

!?」

 

 

闇の中に射す一筋の光……光は闇を払った。

 

 

「な、何だ!?この光は!?」

 

「光と八つの力を持った勇士達が集う時」

 

「我等光坂は、その者達に力を貸せ」

 

 

光の中から現れ出たのは、優之介達だった。彼等の手には、あの黒く染まった勾玉が握られていた。

 

 

「お主等……」

 

「残念ね、伊佐那美」

 

「勾玉を奪う際に、俺等も殺しておくべきだったな?」

 

「怒(ヌ)ううぅ!!

 

 

邪魔だ!!邪魔だ邪魔だ邪魔だ!!邪魔だ!!!!妾の邪魔をするな!!

 

この世に渦巻く憎しみの怨情、そしてこの桜華の苦しみが、妾をこの世に呼び起こした!!妾の裁きを必要としておるのだ!!」

 

「だったらその苦しみ」

 

「私達が」

 

「取り除くよ」

 

 

各々の技を出した優之介達は、一斉に桜華目掛けて放った。伊佐那美はすぐにそれを防ごうとしたが、防ぐ寸前に技が出ず、そのまま攻撃を食らった。

 

 

「……くっ!!

 

 

いい加減眠れ!!桜華!!」

 

「?!」

 

「お主の意思など、必要ない!!」

 

 

何かを察した才蔵は、手に握っていた勾玉を見た。黒く染まった勾玉の中、再び光が宿った。

 

 

「やはり、奪っていたか」

 

「?」

 

「闇の糧として、久久能智神の魂を食らった……その際に、彼女の器が息を吹き返し、大岩に嵌めていた魂を五つ取り、そこから消えた……」

 

「……まさか、それが」

 

「蓮華さん……」

 

「あの女のせいで、桜華は深い眠りにつくことが出来なかった……

 

だから……お主等全員を殺し、その魂を壊せばこの女(桜華)は、深い眠りにつき完全な妾の器となるのだ!!」

 

 

その声に反応するかのようにして、才蔵の手に握られていた勾玉の光が、消えようとしていた。

 

 

「桜華!!眠るな!!

 

今すぐ、助けに行く!!もう少し踏ん張れ!!」

 

「ええい!!黙れぇ!!」

 

 

黒い球を出した伊佐那美は、才蔵に向けてその球を放った。玉に当たる寸前に、彼は腰に挿していた鞘から刀を抜き、球を真っ二つに切り裂いた。

 

 

「?!そ、その刀は」

 

 

青く光る桜華の刀……その光に、照らされた伊佐那美の姿が一瞬、桜華の姿へと変わった。

 

 

 

「何故……

 

何故、お主がその刀を持っている!!」

 

(一瞬……

 

一瞬、桜華に戻った……)

 

「天之尾羽張(アメノオハバリ)!」

 

「?!」

 

「代々光坂の当主に、受け継がれている刀です!」

 

「……まさか桜華は、これを知って」

 

 

『才蔵』

 

 

弱った桜華の声が、どこからか聞こえた……

 

 

「……桜華……」

 

 

その時、才蔵の背後から炎に身を包んだ素戔嗚尊が、大太刀を振り上げて襲ってきた。

 

斬られる寸前に、優之介が刀で受け止めようと構えたが刀は耐える事も無く、真っ二つに折れ彼の体を切り裂いた。

 

 

「優!!」

「優!!」

 

 

倒れた瞬間、光が消え再び闇が辺りに広がった。

 

 

「ホホホホホホ!!再び闇に染まった!!

 

こうなれば、妾に刃を向けるなど出来やしない!!」

 

 

乱れる息を整える才蔵……その時、ふと思い出した。

 

師である百地の言葉を……

 

 

『才蔵には、もう一つ目があるんだよ』

 

『もう一つの目?

 

何言ってんだ?ついにボケたか?』

 

『大人を馬鹿にしない。

 

目を瞑って、深呼吸してごらん?そうすれば、見えてくるはずだよ……

 

 

 

才蔵の、大事なものが』

 

 

深く呼吸しながら、才蔵は目を瞑った……

聞こえてくるのは、風に揺られざわつく木々、佐助達の交戦の音……

 

 

『後ろ』

 

 

声に導かれ、才蔵は後ろを振り返り刀で何かを受け止めた。

 

 

一瞬にして闇が晴れた……木の幹に凭り掛かるようにして座り込む甚八に、岩に干されるようにして倒れる鎌之介、そして茂みに倒れる十蔵の姿が才蔵の目に映った。

 

 

 

「鎌之介!!甚八!!十蔵!!」

 

 

素戔嗚尊の大太刀を払い避けた才蔵は、すぐに彼等の元へ駆け寄ろうとした。だが、その前に千草が立ち弦に矢筈を嵌め弓を引いた。

 

 

「千草……」

 

「……」

 

 

見つめ合う二人……才蔵の目には、笑顔を浮かべた千草が映った。

 

 

「甲賀流水術五月雨!!」

「氷術氷槍!!」

 

 

水と氷の技が、千草に当たった。その光景を見た瞬間、才蔵の脳裏に彼女が死んだあの日の記憶が蘇った。

 

 

「ボサッとするな!!」

 

 

怒鳴りながら佐助は、才蔵の背中を力強く叩いた。

 

その痛みで我に返った彼の背後から、素戔嗚尊が大太刀を力任せに振り下ろしてきた。

 

 

「風術風神拳!!」

 

 

強烈な風が吹き当たり、素戔嗚尊は茂みの方へ飛ばされた。

 

 

「テメェの相手は俺だ!!」

 

「鎌之介!」

 

「こんな奴に構ってねぇで、才蔵は早く桜華を救え!!」

 

「言われずとも!」

 

「そうこねぇと!

 

 

!!才蔵!後ろ!」

 

 

才蔵の背後から彼に襲い掛かるくノ一……次の瞬間、才蔵の横を何かが通り過ぎ、くノ一の脳天を貫いた。

 

 

「油断禁物だぞ!才蔵!」

 

「十蔵!」

 

「とっとと、真助のガキを助けろ!」

 

「鎌之介と同じ事言うな!!甚八!」

 

 

「な、何故だ!?

 

何故動ける!?」

 

「桜華を助けたいからだ!!」

 

「それ以外に理由はない!!」

 

 

各々の敵を相手する鎌之介達……彼等の姿を見た伊佐那美は、不意に涙を流した。

 

 

「何故流す……

 

 

あの者達は、お主を見捨てたのだぞ!!

母から引き離され、襲撃を受けても尚誰も助けに来ず、挙げ句の果てには母を殺されたようなものなのだぞ!!」

 

「もう見捨てない」

 

「?!」

 

 

肩から出る血を手で抑えながら、優之介は椿達と立ち言った。彼等が身に着けていた勾玉に、微かな光が蘇りつつあった。

 

 

「裏切った分際で、何を言うか!!」

 

「桜華は俺達の家族だ……

 

もう二度と、お前を裏切ったりはしない!」

 

「桜華、帰ってきてよ!また皆で遊ぼう!」

 

「帰ってきなさいよ!桜華!

 

アンタがいなきゃ……誰が、私の咲いた花(髪の毛)を見てくれるのよ」

 

「喧しい!!」

 

 

闇の波動弾を三人に向けては放ったが、難なく避けられた。

 

 

乱れる伊佐那美の息……何かを察した才蔵は、手に持っていた勾玉に目をやった。

 

黒かった勾玉は、所々が青くなっていた。

 

 

「眠れ!!桜華!!」

 

 

そう怒鳴りながら、伊佐那美は体から闇の波動を解き放った。闇は辺りの草木を枯らし、虫や動物の命を吸い取っていった。



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希望の光

ゆっくりと目を開ける才蔵達……

 

 

「……!?」

 

 

周りは暗闇に包まれていた……自分達がいる場所にだけ、光が射していた。

 

 

「……どうなってんだ」

 

「何で、俺等の所だけ……」

 

「才蔵さん達の周りにだけ、結界を張りました」

 

 

座り込んでいた優之介は、息を切らしながら才蔵達に話した。

 

 

「憎い……」

 

「?」

 

 

闇の渦と共に、頭を抑えた伊佐那美が才蔵達の前に現れた。彼女の傍へ素戔嗚尊と千草は駆け寄り、彼等に向けて武器を構えた。

 

 

「闇に引きずり込んでも尚、妾に抵抗するのか!!桜華!!」

 

「そ、そこにいるのか!?」

 

「正確には目の前にだ!」

 

「戻ってこい、桜華!!

 

 

上田で幸村と大助が、お前の帰りを待ってんだ!!」

 

「黙れ!!

 

 

!?な、何だ?」

 

 

一瞬、桜華の姿へと変わる伊佐那美……次の瞬間、彼女は千草が持っていた矢を奪い、それを心臓近くに刺した。

 

すると、刺した箇所から闇の波動が一気に広がった。その波動に、素戔嗚尊は飲み込まれ、ギリギリで千草は回避した。

 

 

「ホホホホホホ!!ようやく…眠りに着いた!

 

 

これでもう、この体は妾のもの!!」

 

 

「あの野郎!!」

 

「鎌之介!無闇に突っ込むな!」

 

「桜華を返せ!!」

 

 

闇のオーラを放ち、鎌之介の攻撃を難なく避けていく伊佐那美。彼に続いて、甚八、佐助、氷柱、清海、伊佐道、六助、そして十蔵と、次々に各々の技で彼女に、攻撃をした。

 

 

そんな中、優之介達は互いの顔を見て頷くと、手を合わせた。すると、彼等の足下に太極図の陣が浮かび上がった。

 

その陣に向かって、椿は風と草の技を、陸丸は土と金の技を、優之介は火と氷の技を放った。

 

 

すると、陣は光り出し辺りの闇を吹き払った。そしてその陣に反応するかのようにして、大社の地面に描かれた太極図が光り出し、黄泉への扉が地下から出て来た。

 

 

「あれって……」

 

「まさか……」

 

「黄泉への扉?」

 

「お主等ぁ!!」

 

 

「これ以上、貴様の好きにはさせない!!」

 

「我等光坂は、この地に蘇った伊佐那美を、再び黄泉へ返す!」

 

「この命尽きようとも!!」

 

 

その言葉と思いに反応し、黒かった勾玉は光を取り戻したかのように、赤、黄色、緑色の光を放ち、閉められていた黄泉の扉の鍵穴へ嵌まった。才蔵が持っていた悪しき魂にも、光が灯り穴へと嵌まった。

 

だが、桜華の勾玉……奇魂だけは、光を取り戻していなかった。

 

 

「あと一つ、嵌まらなければ扉は開きはしない!!

 

だが、その持ち主は深い眠りについている……残念だったな!!勇者よ!」

 

「……!

 

 

甚八!猿!テメェ等の技を勾玉に当てろ!」

 

「!?」

 

「早くしろ!」

 

 

才蔵の方に向いた二人は、すぐに水と雷の技を放った。

技は勾玉に当たった……すると、微かに光が蘇り出しそして、強烈な光を放った。

 

 

「この光!」

 

「桜華の奴が!」

 

「ば、馬鹿な!

 

桜華はもう!」

 

 

勾玉は才蔵の手から離れると、彼の周りを一回りしそして鍵穴へと嵌まった。

 

 

全ての鍵が揃った時、黄泉の扉が開いた……そこから闇に染まった触手が出て来た。触手は千草と伊佐那美に絡み、中へと引きずり込んだ。

 

 

「あああああ!!黄泉に引き込まれる!!

 

己!!己!!覚えておれよ!!妾はまた必ず!!」

 

 

扉が閉じる直前、才蔵は刀を手に黄泉の中へと飛び込んだ。

 

 

「才蔵!」




おや?珍しい客人ですね。

お久し振りです。

あなたが来るとは……何か御用が?

えぇ、まぁ。

私に出来ることがありましたら、力になりますよ。

アンタの力を借りたい。良いかな?

いいですよ。さて、どんな願いですか?


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新たな道

暗闇の中……


「憎き!!憎き光の男よ!!」


伊佐那美は、才蔵に再び攻撃をしようとした。だが次の瞬間、彼女の魂は桜華の体から分離した。離れた桜華を、才蔵は抱き地上へ戻ろうとした。


「行かせはせぬ!!」

「くっ!」

「どうせ、また桜華を裏切る……だったら、妾達と共に黄泉へ連れて行く!!」

「させるか!!」


闇の触手を操りだした伊佐那美だったが、その時突如後ろから、矢が飛び彼女の背中に突き刺さった。


「!?ち、千草……」

『才蔵の邪魔は、させない!』

「死人が、口を利くな!!」


才蔵から伊佐那美を引き離した千草は、彼女を黄泉の奥へと蹴り落とした。そして、才蔵に抱き着き、こう言った。


『才蔵達に会って、私幸せだったよ』


笑顔を見せた千草は、才蔵の背中を押した。


地上へと戻ってきた才蔵……それと同時に、黄泉の扉は固く閉じ再び地の底へと沈んだ。地下への入り口の扉が閉まる寸前、悪しき魂は白くなり、四つの勾玉は色を取り戻して、持ち主の元へと帰った。


「桜華!!目を開けろ!!」


才蔵の腕に抱かれた桜華を見た佐助達は、すぐに彼等の元へ駆け寄った。地面に寝かせた桜華に、佐助は寄り血で赤く染まった胸元に、耳を当てた。


「……心臓が……動いていない」

「?!」

「早く蘇生術を!!」


氷柱に言われ、佐助はすぐに桜華に蘇生術を施した。だが、いくらやっても桜華は目覚めず時間だけが過ぎた。



数時間後……辺りが薄らと明るくなってきた頃。

息を切らす佐助は、才蔵達の顔を順々に見ていきそして、首を横に振った。


「そんな……」

「佐助!もっとやれ!!桜華が起きるまで!!」

「無茶言うな!

もう何時間もやってる……これだけやって、心臓が動かなかったんだ……


桜華はもう……」

「……

嫌だ……俺、そんなの絶対嫌だ!!」

「鎌之介……」

「桜華!起きろよ!

上田に帰ろうぜ!!なぁ!


大助が……幸村が……空や青達、レオンがお前の帰り待ってんだよ!!なぁ!桜華!!桜華!!」


体を揺らしながら、鎌之介は涙を流して訴えた。彼の流した涙が、桜華の頬に当たるが彼女は目覚めなかった。


拳をを強く握り悔し泣きをする優之介……陸丸に抱き着き泣く椿に、彼女を慰めるかのようにして頭を撫でながら、共に涙を流す陸丸。

彼等の流した涙が、色を取り戻した勾玉に当たった……


その時……


突然、昇った朝日と共に強烈な光が辺りに差し込み、才蔵達を包んだ。


光の中に眠る才蔵……


『我妻を黄泉へ返したことに、礼を言う。光の勇士よ』

「誰だ……アンタ」

『我が名は伊弉諾尊(イザナギ)。

妻を封じた礼に、お主等に褒美を与える……


何、運命を少し弄るだけだ……


さぁ、戻るがいい……現世へ』


「!?」

 

 

飛び起きる才蔵……見慣れた部屋を見回しながら、彼は頭を掻いた。

 

 

「……何だ?今の」

 

「やっと起きたか」

 

 

障子を開けながら、佐助が呆れた様子で言ってきた。

 

 

「猿……ここは?」

 

「何寝ぼけたことを言ってる。ここは上田だ。

 

とっとと着替えろ。今日来る予定なんだから」

 

「今日来る?誰が」

 

「いっぺん死ね」

 

 

服を着替えた才蔵は、頭を軽く叩きながら城内を歩いていた。

 

 

「光坂のガキか……そういや、結構前にそんな話しあったな。

 

確か、幸村が正式光坂の主となって……その親交の証として今の長、光坂蓮華が自身の娘を部下と一緒に送るって」

 

「そうだ。

 

全く、昨日話したことを忘れるとは、一体どういう頭になってんだか」

 

「御山の大将の猿に言われたかない」

 

「下品な伊賀よりはマシだ」

 

「んだと!!もういっぺん言ってみろ!!」

 

「何度でも言う!下品伊賀!」

 

「うるせぇ!!馬鹿甲賀!」

 

 

「何騒いでるのよ!朝から」

 

 

二人の喧嘩を止めるかのようにして、氷柱が間に入ってきた。

 

 

「喧嘩してると、また六郎と十蔵に怒られるわよ」

 

「先に喧嘩振ってきたのは、甲賀の猿だ」

 

「黙れ馬鹿!」

 

「誰が馬鹿だ!」

 

「あぁもう!止め止め!

 

喧嘩より、早く下町行くわよ!」

 

「何で?」

 

「騒ぎがあるって、さっき町の人から聞いたの」

 

「俺は光坂のガキを出迎えるから、お前が行け。猿」

 

「下品な伊賀より、高貴な甲賀が出迎えた方がいいだろう」

 

「誰が下品だ!!」

 

「喧嘩するなら、二人で来なさい!

 

ほら行くわよ!」

 

「耳を引っ張るな!」

「耳を引っ張るな!」

 

 

城下町……山賊の格好をした男の群れで、暴れる一人の少女。

 

 

「この尼!!調子に乗るな!」

 

「乗らせたくなきゃ、とっとと倒せばいいじゃん!

 

ま、倒せればの話だけど」

 

「この!!」

 

 

手に地面を着いた少女は、その手を軸に回転して攻撃してきた男の刀を蹴り飛ばした。

 

 

「暴れるなと、副隊長から言われてますでしょ!」

 

「それは上田外でしょ!

 

ここはもう、上田だからいいの!」

 

「そ、それは確かに……!!

 

後ろ!!」

 

 

男に言われ後ろを振り向いた瞬間、男の仲間の一人が鉄棍棒を振り下ろしてきた。当たる寸前に、少女は転がり避けた。

 

その時、被っていた笠が取れた。

 

 

「ほぉ!珍しい!

 

裏で、高く売れるな!」

 

「売られる前に、お前が私を捕まえられればいいけどね!」

 

「すぐにその足をへし折ってやる!!」

 

 

鉄棍棒を振り上げ、地面に叩き付けようとした瞬間、才蔵が彼女の前に立ち棍棒を受け止めた。

 

 

「何人の地で、暴れてんだ!?」

 

「!?」

 

「少しばかし、お城でお話聞きましょうか?」

 

「城で、痛めつけるのも言いがな」

 

 

不敵な笑いに、山賊達は武器をしまい一目散に逃げていった。

 

 

「ったく……オイ猿、もっと警備厳重にしろ」

 

「だな……少し緩すぎた」

 

「助けて頂き、ありがとうございます」

 

 

笠を被り旅の格好をした男は、礼を言いながら少女を立たせた。

 

 

「いや、別に」

 

「見掛けない顔ね。旅人さん?」

 

「この国の真田幸村という方に、会いに来たのですが……」

 

「俺達はその幸村様に仕えてる者だ」

 

「おぉ、そうでしたか!」

 

「アンタ、何者だ?」

 

「拙者は望月六助。

 

そしてこの子は」

 

 

服の土を手で払った少女は、才蔵達の方に振り向き笑顔で言った。

 

 

「光坂桜華!初めまして!」

 

 

名を聞いた瞬間、微風が吹き彼等の髪を靡かせた。肩下まで伸ばした真っ白な髪を、耳下で結い透き通った赤い目をした容姿。

 

 

「……光坂って(何だろう……)」

 

「じゃあ、この娘が(初めてじゃない……気がする)」

 

「光坂の長、光坂蓮華の(桜華……何だ、この嬉しい気持ちは)」

 

「はい、この子が……光坂蓮華の娘・光坂桜華。

 

この度、拙者と共に真田で仕える事になります」

 

「堅苦しい挨拶いいから、早くお城行こうよ!」

 

「コ、コラ!また勝手なことを」

 

 

駆け出そうとした桜華を、六助は慌てて引き留めた。

 

才蔵達に釣られ、桜華達は城へと向かった。




城内……


「いやぁ、大きくなったのぉ!」


自身の前に座る桜華の姿を見ながら、幸村は嬉しそうに言った。


「そりゃあ大きくなるよ!幸村さんが最後に来たの、私が五歳の頃じゃん」

「確かに!」

「じゃあ改めて!

本日より、光坂一族の代表として真田幸村様に仕えることになりました!」

「うむ!しかりと受け取った。

しかし、立派に育ったのぉ」

「まぁね!

ねぇ、もう挨拶済んだから城の中、見て回ってもいい?」

「いいぞ。才蔵、案内を」

「あぁ」

「ワーイ!」

「おいコラ!先行くな!」


部屋を飛び出した桜華の後を、才蔵は慌てて追い駆けていった。


「相変わらず、元気があるなぁ」

「あの元気のおかげで、ここまで来るだけで疲れました」

「お疲れ様」


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夜桜の花見

城の中を歩く才蔵と桜華……


「私のお家より広い」

「そりゃあ、この上田の主だからな」

「私のお家、この城の半分もないよ」

「それはそれで、大きいぞ」

「だって爺様、長だったんだもん」

「爺様?」

「母さんの叔父さん!

叔父さんが急な病で亡くなって、跡継ぎに母さんが長になったの」

「へ~」

「あ!なぁ、お前ここに長く住んでるんでしょ?」

「お前じゃねぇよ。霧隠才蔵だ」

「霧隠……才蔵(あれ?この名前、どっかで……)」

「で?長く住んでるから、何かあんのか?」

「山本真助って人、どこにいるか知ってる?」

「真助?


あぁ、真さんのことか」

「ねぇ、どこにいるの?」

「あの人は、幸村の兄貴の所だよ」

「信幸の?

……何だ、ここにいないのか」


少しガッカリしたように、桜華は急に静かになった。そして、懐から封がされた紙を出し軽く溜息を吐いた。


「何だ?手紙か?」

「うん……父さんにって、母さんが」

「……?(父さんって……)」


「ウワァァアア!!」

 

 

突然叫び声が聞こえ、才蔵と桜華はすぐに庭へ向かった。

 

飛び出すとそこには、甚八と彼の相棒・レオンが目の前にいる狼の子供に向かって、唸り声を上げていた。

 

 

「才蔵!大きな狼が、レオンに!」

 

 

甚八の後ろに隠れていた大助は、才蔵に駆け寄りながらそう言った。

 

 

「何だ?あの狼」

 

「ありゃりゃ、降りて来ちゃったか……

 

水(スイ)!おいで!」

 

 

桜華の呼び声に、狼はレオンと甚八の横を通り過ぎ彼女の元へ駆け寄った。

 

 

「お前のか?」

 

「母さんが連れてけって。名前は水。

 

私の合図があるまでは、森にいろって言ったんだけど……何か、降りて来ちゃったみたい!」

 

「……」

 

「才蔵、この子誰?」

 

「昨日話した、光坂の」

「光坂桜華!

 

今日からお前の父さんに、仕えることになったの!」

 

「へぇ……(何か、初めてじゃない気が……)

 

あ!オイラ、真田大助!よろしく、桜華!」

 

 

その時、後ろからレオンが桜華に抱き着いた。桜華はレオンの頭を撫でながら、下ろし地面に座った。

 

 

「凄え、レオンが初めて会う人に懐きやがった」

 

「初めてじゃないもん。ねぇ!」

 

「え?初めてじゃない?」

 

「久し振りだな、桜華」

 

 

桜華に歩み寄った甚八は、彼女の頭を雑に撫でながら軽く挨拶をした。

 

 

「随分とデカくなったな」

 

「まぁね!また来るんでしょ?里に」

 

「あぁ」

 

 

「ウホ!デッケぇ狼!」

 

 

縁側を歩いていた鎌之介は、外へ飛び出すと水に飛び付いた。水は驚いた拍子に、レオンの首を噛みそれに驚いたレオンは、鎌之介に向かって牙を向けた。

 

 

「な、何だよ!お、俺の……ウワァ!」

 

 

水から落ちた鎌之介は、地面に尻を着いた。水は首を振ると牙を剥き出し、唸り声を上げながら彼を睨んだ。

 

 

「甚八、どうにかしろ」

 

「悪いのはあいつだろ?」

 

「水、おいで!」

 

 

桜華の声に、水は耳を貸さず鎌之介目掛けて襲い掛かった。

 

 

「鎌之介!!」

 

「水!!」

 

 

腰に挿していた刀を手に、桜華は水の前の地面を叩いた。叩いたことに驚いた水は、跳び上がり足を止めた。

 

 

「あ、危ねぇ……」

 

「ふぅ……」

 

「相変わらず、躾のなってねぇクソガキだな」

 

「んだと!!もういっぺん!!」

「だー!もう!いちいち突っかかるな!」

 

 

食い付こうとした鎌之介の服の襟を掴みながら、才蔵は彼を止めた。

 

 

「何ですか?騒々しい」

 

 

その声に水は、尻尾を振りながら嬉しそうに声の主の所へ駆け寄った。

 

 

「あ、真さ」

「父さん!!」

 

 

刀を腰に挿しながら、桜華は真助の元へ駆け寄ると嬉しそうにして飛び付いた。

 

 

「……え?い、今なんて」

 

 

飛び付いた彼女を受け止めた真助は、頭を撫でながらしゃがんだ。

 

 

「大きくなりましたね。桜華」

 

「へへ!父さん、もう髪伸ばさないの?」

 

「えぇ。長いと何かと邪魔で」

 

「ねぇ!私ね、強くなったんだよ!

 

剣術師の砕牙から、一本取ったんだよ!!」

 

「それは強くなりましたね」

 

 

「真さん、今こいつ……」

 

 

疑いながら、才蔵は桜華を指差しながら真助に質問した。彼は立ち上がりながら、水の頭を撫でて答えた。

 

 

「僕の娘ですよ」

 

「……嘘ぉ!?」

 

 

 

夜……

 

 

満開の桜の木の下に、敷物を敷き酒や食べ物を広げる六郎達。

 

 

「今宵新たな仲間、望月六助と光坂桜華の歓迎会を含んだ花見だ。

 

思う存分、楽しむがよい!」

 

「よっ!幸村の旦那、太っ腹!」

 

「よさぬか!甚八!その様な端たない言葉で!」

 

「堅苦しいこと言うなよ、十蔵」

 

「こいつがこれだから、俺も口の利き方いいだろう?これで」

 

「いちいち真似をするでない!!」

 

「大人の喧嘩は止めて置けって!ガキが見てるぞガキが」

 

 

真助の膝に座る桜華を指差しながら、才蔵はにやけながら十蔵に言った。

 

 

「……今回はこのくらいにしておく」

 

「やりぃ!」

 

「いつも口うるさい十蔵が黙った」

 

「桜華凄え!」

 

「しかし……

 

見れば見るほど、真助によく似ておるな」

 

 

口いっぱいに真助が握ったお握りを頬張る桜華は、十蔵の方を見た。

 

 

「お!真さんのお握り!

 

一つ貰うぜ!」

 

「どうぞ」

 

「真助のガキだったのか、お前」

 

「お前じゃない!桜華!

 

てか、さっき水とレオン怒らせてた奴!」

 

「奴じゃねぇ!!鎌之介だ!由利鎌之介!」

 

「そういえば、十蔵達にはまだだったな?」

 

「そうだね。それじゃあ、この場を借りて……」

 

 

持っていたお猪口を置き、伊佐道は桜華と六助の方を向いた。

 

 

「僕は三好伊佐入道。大助様の勉学を見ている者です。

 

どうぞよろしく。そんで」

 

「拙僧は三好清海入道。伊佐道同様のことをしております」

 

「某は筧十蔵と申す。今後ともよろしくお願いする」

 

「本日より、あなた方同様幸村様に仕えることになりました望月六助と言います。

 

ここでは皆様より、未熟者ですが何卒よろしくお願い致します」

 

「こちらこそ」

 

「六助は未熟じゃないよ!

 

父さんと母さんの右腕って呼ばれてたくらい、強いぞ!」

 

「それは武田時代の事です。

 

真田に関して、六助はまだまだ未熟です」

 

「?どういう事?」

 

「その内分かりますよ」

 

「さぁ、次はあなたのご紹介をお願いしますよ。お嬢さん」

 

「……本日より、光坂一族の代表として真田幸村様に仕えることになりました、光坂桜華です。よろしくお願いします!」

 

「はい、こちらこそ」

 

「真助と同様、礼儀がなっているな」

 

「僕が出て行った後、お義父上に叩き込まれたのでしょう」

 

「爺様すぐ怒るから、嫌いだった。父さんの方がよかった!」

 

「あのねぇ……」

 

「あ!そうだ!

 

これ!母さんから!」

 

 

懐から封がされた紙を、桜華は真助に渡した。

 

 

「桜華!木登りしよう!」

 

「あ!する!」

 

 

大助に誘われ、桜華は桜の木に登った。二人に釣られ鎌之介も駆け寄り、木を登り始めた。

 

 

「また危ないことを……」

 

「鎌之介がいるから平気だろ?」

 

「そうですけど……」

 

「真助、桜華とはいつ以来なんだ?会うのは」

 

「彼女がまだ五歳の頃に、信幸様の所へ来たので……

 

九年は会っていませんね」

 

「真さんが来てから、それくらい経つのか……」

 

「けど、よく分かったわね桜華。真助さんのこと」

 

「娘の勘って奴じゃねぇの?女の勘みたいに」

 

「普通に覚えていたんだと思いますよ。

 

あの子、記憶力だけは人並みに長けてますから」

 

「そ、そうなの……」

 

「して、真助。

 

文には何と書いてあるんだ?」

 

「……こちらで九年間育てたので、桜華の我が儘は全て聞き入れなさいと……」

 

「相変わらず、抜け目のない」

 

「全く、蓮華は……」

 

 

その時だった……心地良い風が吹き、桜の花弁を舞い上がらせた。

 

 

「見事な桜吹雪だ」

 

「雅ですねぇ」

 

 

風が吹く中、桜華は自身の前に舞い降りてきた桜の花を手の上に乗せると、そこから飛び降り真助の元へ駆け寄った。

 

 

「父さーん!見てぇ!

 

桜の花ぁ!」

 

 

駆け寄ってきた桜華は、真助に飛び込んだ。飛び込んできた彼女を、真助は受け止めたが、バランスを崩しそのまま倒れ、隣で飲んでいた才蔵にぶつかってしまった。

ぶつかった拍子に才蔵は、持っていたお猪口に鼻をぶつけ、酒を撒き散らした。

 

 

「ちょっと、大丈夫?!」

 

「鼻……鼻、やられた」

 

「才蔵、鼻から血ぃ出てるぞ」

 

「注意力が足りないんだ」

 

「あ!?何だと!猿!」

 

「喧嘩しない!!

 

ほら!鼻血が止まらないじゃない!」

 

 

騒ぐ才蔵達……その様子を、キョトンとした表情で桜華は見ていた。

 

 

(……何だろう……

 

 

凄い、懐かしい……それに、嬉しい)

 

「桜華」

 

「!」

 

 

トーンの低い声で、真助に呼ばれた桜華は、体をビクらせた。

 

 

彼は怒りのオーラを放ちながら、体を起こし自分の膝に座る桜華を睨んでいた。

 

 

「と、父さん……

 

アハハハ……」




大きいタンコブを作った桜華は、半べそを掻きながら串団子を、甚八の隣で食べていた。


「真助、何も殴らなくてもいいだろう?」

「躾をしたまでです」

「父さんの馬鹿!!阿呆!!」

「馬鹿で阿呆で結構です」

「才蔵や佐助もだったが……

相変わらず、厳しいのぉ……」

「その厳しさ、幸村様に向けてくれませんか?」

「向けてもいいですけど……果たして、数年後に生きているか」

「命に関わるのか?!」

「父さん、怒った時怖いもん」

「怒られて一番怖かったのって、何だ?」

「爺様と父さんの顔に、墨で落書きした時」

「それは怒られるよ」

「だって、寝アグッ」


言い掛けた瞬間に、真助は桜華の口におにぎりを入れ黙らせた。


「余計なことを言わない」

「ふぁーい」


おにぎりを手に持ち、頬張りながら桜華は返事をした。


「なぁ、桜華」

「ん?」

「後で、何かあったか」
「才蔵。

変なことを、吹き込まないで下さいね」


真助の優しい声に、才蔵は体を震えさせながら、甚八の後ろに隠れた。


「俺を盾にするな!」

「俺が再起不能になったら、城の守備力が下がるだろ!!」

「俺はいいのかよ!!」

「貴様が再起不能になっても、城は安定だ。

むしろ、そのまま一生寝ていろ」

「何だと!!お前の方が、一生寝てろ!

だいたい、今日だって警備怠ってたせいで、山賊に入られてたじゃねぇか!!」

「貴様がとっとと、起きないのがいけないんだろうが!!」

「自分の失敗を人のせいにするな!!」

「貴様こそ!!」

「もういい!!今日という今日こそ、決着を付けてやる!!」

「望むところだ!!」


束を握り、鞘から剣と小太刀を出した二人は飛び上がり、戦闘開始した。


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変わらぬ日常

「また始まった……」

「飽きないもんだねぇ」

「まぁ、食事を滅茶苦茶にしなければ喧嘩しようが構いません」

「何か楽しそう!

私もや…うわっ!」


立ち上がった桜華に、レオンと水が跳び乗り彼女を押し倒した。


「お、重い……」

「暴れるなって事だ」

「水、お座り」

「レオン、退け」


二人の命令に、二匹は言う事を聞き水は真助の隣に座り、レオンは甚八の膝に頭を乗せた。


「フゥー、重かった」

「桜華は動物に懐かれやすいね!」

「いつからそんなに、懐かれてんだ?」

「里にいた頃からだよ!」

「へ~」

「なぁ!桜華の里って、どんな所なんだ?」

「山と海に囲まれた里。

私達、光坂一族しかいないね」

「どうやって生活してるの?」

「狼を連れて山で狩りをしたり木の実を取ったり、海に出て漁をやったりして、生活してたよ。

あと、甚が時々持ってくる珍しい物資」

「え?!甚八、里に行ってたの?!」

「あぁ。幸村に仕える前、こいつの里に物資を届けてたんだ。

仕えた後は、しばらく行ってなかったけど……数年前に、また依頼が来たからそれでな」

「何で教えてくれなかったの!!オイラ、行きたかったのに~!」

「んな事言われても、当時の頭さんとの約束だったからな。

里を外部に漏らすなって」

「そんなぁ……」

「優が頭になったら、連れてってあげるよ!里に」

「優?誰?」

「桜華の許婚です」

「許…婚……


えぇ!!!許婚!!?」

「こいつ、もういるのかよ!?許婚!!」

「一応、桜華は次期光坂の当主。しかし、やはり男の方が良いという事で、彼女の幼馴染みであり同期の光坂優之介を」

「へ~」


数日後……

 

 

屋敷で、文を読む蓮華。読んでいる間、彼女は笑みを浮かべていた。

 

 

「手紙、お嬢様からですか?」

 

 

茶を持ってきた侍女に、蓮華は笑いながら話した。

 

 

「そうよ。

 

あの子、相当あっちが気に入ったみたい。フフフ」

 

「それは良かったですね!」

 

「えぇ」

 

「私、少し心配だったんです。

 

箱入り娘として、彼女は育ちましたから……その、寂しい思いをしてるんじゃないかって。

 

 

歳が二桁いくまで、ずっと蓮華様にベッタリでしたし」

 

「大丈夫よ!あの子、しっかりしてるから。

 

 

それにあそこには、甚八に真、それに六助。皆がいるから、あの子は平気よ」

 

 

嬉しそうに話しながら、蓮華は持ってきた茶を飲んだ。庭に生えていた桜の木が、風に揺られ花弁を舞い上がらせた。

 

 

「わぁ!見事な桜吹雪ですねぇ!」

 

「そうねぇ。

 

あの子が産まれて、十四年……桜の木のように、立派に育ってくれてる」

 

「お二人の、自慢の娘さんですものね!」

 

「まあね!

 

あの子の才能は、父親の真に似たものね」

 

 

 

上田城……縁側でべそを掻く大助と、彼の頬に出来た痣を手当てする氷柱。

 

 

「ほら!もう、泣かない!」

 

「だって、痛いんだもん!!」

 

「稽古なんだから、仕様が無いでしょ!」

 

「佐助が強過ぎるんだ!」

 

「これでも手は抜いてる!」

 

 

「何大声出してんだ?」

 

 

大助達の元へ、任務を終えた才蔵と桜華、鎌之介がやって来た。

 

 

「佐助の攻撃が、大助に当たったのよ」

 

「なるほど。

 

痛くて、大泣きしてたって事か」

 

「まぁ、そうね」

 

「男のくせに、弱いな!」

 

「桜華には分からないよ!

 

佐助、本当に強いんだから!」

 

「……じゃあ、戦ってみる?」

 

 

悪戯笑みを浮かべながら、桜華は佐助を見た。

 

 

「お!それいいな!」

 

「オイ、勝手に」

 

「小太刀に二本でしょ?

 

佐助の武器」

 

「あ、あぁ……(何で、知ってんだ?)」

 

「刀一本で、勝負してあげるよ。

 

さ!やろう!」

 

 

柱に立て掛けられていた木刀を手に取った桜華は、構え立った。佐助は軽く溜息を吐きながら、持っていた二本の木刀を構えた。

 

 

「そっちから来ていいよ!」

 

「それじゃあ、お構いなく!」

 

 

跳び上がり、佐助は一本の木刀を振り下ろした。桜華は素早く刀で受け止めると、開いているもう片方の手に握られていた短い木刀を抜き、それを佐助の腹に突いた。

 

佐助は当たる寸前に、持っていたもう一つの木刀で受け止めた。すると桜華は、足を一歩引くと、前足に全体重を掛けて、佐助の小太刀を振り払った。地面を蹴るとその勢いのまま、桜華は刀を振り下ろした。

佐助はすぐに小太刀二本で受け止めたが、圧倒的な力で小太刀が手から離れ、そして前を向いた瞬間、彼女に倒され喉と胸に、木刀の尖端を突き付けられた。

 

 

「……ま、参り…ました」

 

「凄え……桜華の奴」

 

「佐助から、一本取るなんて」

 

「初めて見た。しかも女で」

 

「ねぇ、これ本気なの?

 

私、全然本気出してないんだけど!」

 

「え?!」

 

「ちなみに桜華、どれくらい出したの?本気」

 

「半分も出してないよ」

 

「ふぇー」

 

 

「まだ上達していないのか?!」

 

 

その怒鳴り声に、桜華は固まり素早く才蔵の後ろに隠れた。その時、庭で寝そべっていた水とレオンが、唸り声を上げながら起き上がり、攻撃態勢に入った。

 

 

「げっ!まさか……」

 

 

気配を感じ目線を向けると、そこには腕を組んだ信幸が仁王立ちしていた。

 

 

「ダー!!出たぁ!!」

 

「人をお化け扱いするな!!」

 

「お、伯父上!!」

 

「怒鳴り声を上げれば、誰だって怖がりますよ?

 

信幸様」

 

「……」

 

「地獄に仏ならず、地獄に真さんだな」

 

 

騒ぎの中、才蔵の後ろに隠れていた桜華は隙を狙い、真助の傍へ駆け寄り彼の後ろに隠れた。自身の後ろに隠れた彼女の頭を撫でながら、真助は佐助の方を見た。

 

 

「佐助、早く信幸様を幸村様の元へ」

 

「あ、はい」

 

「よい。一人で行ける」

 

 

そう言うと、信幸は去って行った。去って行く彼の背中に向かって、真助の後ろからヒョッコリ顔を出した桜華は、あっかんべーをした。

 

 

「桜華!」

 

「痛っ!」

 

「伯父上に、紹介すれば良かったね。桜華」

 

「しなくていい。

 

私、あいつ嫌い」

 

「何だ?会ったことあるのか?」

 

「うん。スッゴい昔に」

 

「桜華がまだ幼少の頃に、一度だけ。

 

まぁ、その時に痛い思いをしましたから。

 

 

正直僕も、あまり会わせたくはありません」

 

「痛い思いって?」

 

「思い出したくないから、ご想像に」

 

「?」

 

「なぁ、真助!」

 

「?」

 

「桜華と手合わせしろよ!」

 

「何ですか?藪から棒に」

 

「さっき、佐助から一本取ったんだ!

 

けど、全然本気出してないみてぇでさ」

 

「当たり前ですよ。

 

この城の中じゃ、刀に関しては桜華が上でしょう」

 

「え?!」

 

「自称佐助より強いって言ってる才蔵より!?」

 

「自称じゃねぇ!!本当だ!!」

 

「まぁ、疑うのであれば……桜華」

 

「?」

 

「やりますよ」

 

「本当!?

 

やったぁ!!」

 

 

腰に挿していた刀の束を握った桜華は、引き抜き真助の方に向き構え立った。

 

 

「いきなり本番かよ!!」

 

「ぼ、木刀の方がいいんじゃ……」

 

「ダメダメ!

 

今木刀でやったら、木刀が持たないよ」

 

「ま、マジ?」

 

「それではいきますよ?

 

先に攻めてきなさい」

 

「よっしゃー!!」

 

 

地面を蹴り、桜華は刀を振り下ろした。真助は握っていた刀で受け止めると、手から水を出しそれを放った。桜華は当たる寸前に避け、そして手から火の玉を放った。刀に水を纏わせ、その刀で飛んできた玉を斬った。

 

 

「あれ、もう手合わせじゃなくて、組み手よね?」

 

「……だな」

 

「でもなんか、楽しそう!」

 

 

 

数時間後……

 

 

バテて、地面に座り込む桜華。

 

 

「全然弱くなってなーい!父さん強ーい!」

 

「当たり前です。

 

信幸様を、いついかなる時も守らねばなりませんから」

 

「って言う真さんも、結構汗掻いてるぞ」

 

「久し振りに、本気を出しましたからね」

 

「マジ!?」

 

 

驚く才蔵を無視して、真助は桜華を立たせた。

 

 

その様子を、上の窓から幸村と信幸が眺めていた。

 

 

「真助の子供が、あそこまで成長していたとは……」

 

「儂が言った通りだろ?

 

真助と蓮華の子供は、いつか二人を超える強き者になると」

 

「……」

 

 

真助と桜華を眺める信幸……飛び付いてきた水とレオンと一緒に駆け回る桜華。彼女に続いて、大助と鎌之介も二匹を追い駆け回った。




夕方……


縁側で、茶を飲む真助。彼の膝に頭を乗せた桜華は、気持ち良さそうに眠っていた。


「気持ち良さそうに寝てるな?」

「見張りはいいんですか?才蔵」


真助の隣に座った才蔵は、体を倒しながら伸びをした。


「氷柱と交代したんでいいんです。

つーか俺、一応そいつの教育係なんで」

「それは少し心配です」

「真顔で言うの、やめて貰いませんか?」

「冗談ですよ」

(真さんが言うと、冗談に聞こえない……)

「桜華は、ここの生活には慣れましたか?」

「まぁ、多少……」

「……その顔、この子に手を焼いているみたいですね?」

「ガキの頃の桜華って、どんな奴だったんです?」

「やんちゃな子でした。手を焼くほどの。


同い年の子達とよく木登りをしたり、山へ探検しに行って傷だらけで夜遅くに帰ってきた事が、度々ありました」

「……あれ?娘ですよね?」

「えぇ、娘です」


「真助さん」


足音とその声で、眠っていた桜華は目を覚ました。


「おや、起こしちゃいましたか」

「六郎さん、どうかしたのか?」

「信幸様がお帰りです」

「やっと終わりましたか」

「父さん、行っちゃうの?」

「また用が出来たら、来ますよ」


寂しそうな目で自身をみる桜華に、真助は頭に手を乗せ笑みを見せると、そのまま六郎と共に去って行った。

彼の後を、追い駆けはしない桜華だったが、彼女の顔は寂しさに染まっていた。


「……大丈夫だって」

「?」

「真さん、約束は守るから。

娘のお前が、それ一番分かってることだろ?」

「……」


才蔵の言葉に頷く桜華……庭にいた水は、心配そうに彼女の元へ駆け寄り、体を擦り寄せた。



門前に着いた真助は、待たせていた馬の手綱を持ち馬の顔を撫でた。


「……お前が里を離れた時、あの娘は泣きながら見送っていたが……

やはり、成長したみたいだな」

「見送りがないとでも?


それは、あなたがいるからに決まっているではありませんか」

「っ……」

「わざわざ、怖い者がいる所へ来やしませんよ」

「真助……相変わらずの毒舌だな」

「そうですか?」


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外への旅

「は?京?」


幸村の部屋に集まっていた才蔵達に、彼はそう話した。


「先日、兄上が茶会の招待状を持ってきてな。

自分が行く予定だったんだが、生憎別の用件があって行けぬらしい。そこで代わりに俺に行って欲しいと」

「京かぁ。面白そう!」

「父上!僕も行きたいです!」

「大助が行くなら、俺も!」

「大助は連れて行くが、鎌之介は連れて行かぬ」

「ハァ!!何で!!」

「問題起こすからに決まってんだろ!」

「誰が一緒に行くの?」

「俺と六郎、大助と伊佐道、そして才蔵と桜華だ」

「あら、珍しい組み合わせ」

「私行かない。鎌之介に譲る」

「本当か?!桜華!」

「主の命に、逆らうでない!」

「だって、京に行くなって母さんに言われてるもん!」

「何で?」

「裏で高く売れるからだって」

「裏?」

「闇業者のことだろう」

「安心せい。母親からはしかりと許可を得た」

「行動が早い殿様ですこと」


馬に乗り、山道を歩く幸村達……

 

 

「父上、晴れてよかったですね!」

 

「まさに、旅日和だな」

 

 

空を見上げる才蔵達。同じように、才蔵の馬に乗っていた桜華は、深く被っていた笠の鍔を持ち上げ空を見上げた。

 

 

「凄い真っ青!」

 

「桜華」

 

「?」

 

「そんな格好して、苦しくないの?」

 

「六助がこの格好で行けって……

 

何にも狙われていない大助が、羨ましい」

 

「っ……」

 

「まぁ、京に着くまでの辛抱だ」

 

「京に着いたら、今度はこっち着けなきゃいけないもん」

 

 

そう言いながら、桜華は懐にしまっていた目元だけのお面を出し見せた。

 

 

「……何か、大変だね」

 

「里を出た時も、今の格好したのか?」

 

「うん。

 

でも私の場合、髪の色も珍しいから髪の毛も隠して来たんだ」

 

「……?

 

でもお前、上田に来た時結構身軽だったじゃねぇか」

 

「信濃に着いたと同時に、身軽にしたの。

 

国に入れば、母さんと父さんそれに六助の知り合いがいるから、その人達に匿って貰ったから」

 

「へ~」

 

「あ~あ、早く上田に帰りた~い」

 

「出発してから、二日しか経ってないぞ」

 

「だって~」

 

 

文句を言う桜華を宥めながら、一行は都へと向かった。

 

 

 

夕暮れ……馬から飛び降りた桜華は、夕日に照らされた京を眺めた。

 

 

「着いたぁ!」

 

「あぁ!桜華待って!僕も!」

 

「オイ、離れるな!!

 

桜華!大助!」

 

 

駆け出した二人を、才蔵は追い駆けた。

 

 

「俺等は宿に行ってるぞ!」

 

「分かったぁ!」

 

 

 

都の中を駆ける桜華……ふと、後ろを振り返ると後から着いてきていた大助の姿が、いつの間にかいなくなっていた。

 

 

「あれ……いなくなってる……

 

やっちゃった……」

 

 

手に持っていた笠を、首に掛けた桜華は一人町を歩いた。

 

 

(面をしてなければ、売ってる物見たかったなぁ)

 

 

道を歩いている時、桜華はある物が目に映った。

 

ツタが絡んだ古びた井戸……気になり、その井戸に近付き縁に触れた。

 

 

(……何だろう。

 

この井戸、見覚えが……)

 

 

その時、何かの気配に気付いた桜華は束を握り、鞘ごと刀を抜き後ろにいた敵を攻撃した。

 

後ろにいた二人の敵は、峰打ちをされそのまま倒れた。

 

 

「浚うなら、気配消さないとね」

 

「そうだな」

 

「!?」

 

 

その声に、桜華は手に持っていた刀を抜こうとしたが、自身の首に冷たい鉄が当たり、それ以上のことが出来なかった。

 

 

「さぁ、来て貰おうか?」

 

「……」

 

 

目を下に向けたその時だった……

 

 

目の前から鞘に入った長刀が、桜華の後ろにいた敵を突いた。敵は喘ぎ声を出しながら、そのまま倒れた。

 

 

「……凄ぉ」

 

「小娘にしちゃ、上出来だな」

 

 

顔を上げた先にいたのは、黒い髪を耳上で結び、片目に眼帯をした男。

 

 

「(眼帯……!)

 

梵天丸!」

 

「テメェ、どこのガキだ!!」

 

 

 

その頃、大助は……

 

即刻、才蔵に見つかり宿に戻っていた。だが、一緒ではなかった桜華を、彼はまた探しに行っていた。

 

 

「桜華の奴、どこ行っちゃったんだろう……」

 

「何、あの子は強い。

 

簡単に連れて行かれはせん」

 

「……だといいんだけど」

 

 

茶屋で串団子を頬張る桜華。その隣で、梵天丸……伊達政宗は、茶を飲んでいた。

 

 

「なるほどねぇ……母親と父親、そして書物で俺のことを調べて、俺の幼少期の名前を知ってたのか」

 

「うん。

 

外に出る際、今の殿方の名前は覚えとけって。

 

 

母さんが梵天丸は、卑怯な手を使うけど話せば話を分かる奴だって言ってた」

 

「俺はテメェの母親が、どんな奴かを知りたい」

 

「個人情報なので、教えられません」

 

「しっかりしてるな。お前の母親。

 

そういやお前、何で目元だけ面着けてるんだ?」

 

「見られちゃいけない目だから。

 

珍しがって、さっきみたいな野郎に捕まると、厄介だし」

 

「なるほどねぇ」

 

「ふぅー!ごちそうさま!

 

助けてくれて、ありがとね。梵天丸」

 

「その名前で呼ぶのやめろ」

 

「じゃあ……独眼竜!」

 

「……まぁ、いいか」

 

「じゃあね!独眼竜!

 

またどっかで!」

 

 

政宗に手を振りながら、桜華はその場から跳び去って行った。




夜……タンコブを作り、屋根の上で拗ねる桜華。


「いつまで拗ねてんだ」

「……」

(完全に機嫌損ねたな……)


面を取った桜華は、暗くなった都の景色を眺めた。


「綺麗……」

「……」

「産まれた時から、里にいたから……

こういう光景見るの、初めて」

「里だから、やっぱり夜になると暗いのか?」

「うん……

明かりって言ったら……里の道に点々と点いてた松明ぐらいだね。

あとは月明かり」

「本当に里だな……」

「でも……


この光景、見るの初めてじゃない気がするんだ」

「初めてじゃない?

でも、里から出たことないんだろ?」

「そうなんだけど……」

「夢とごっちゃになってんじゃねぇか?」

「う~ん……そうかなぁ」

「そうだよ」


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独眼竜という男

翌日……


「桜華!早くぅ!」

「待ってよ!大助!

伊佐道、これでいい?」

「はい、いいですよ」

「大助!待ってぇ!」

「走ったら、崩れますよ!」

「お前等!玄関前で待ってろよ!!」

「はーい!」
「うん!」

「それじゃあ才蔵、伊佐道、後のことは頼んだぞ」

「はい」
「応。

頼むから、問題は起こすなよ」

「分かっておる」

「……本当に起こすなよ?」

「しつこいぞ!」


町を歩く才蔵達……大助は店に並ぶ品々を見ながら、どんどん先を歩いて行った。

 

 

「大助様!少しお待ち下さい!」

 

「遅いよ!早くー!」

 

 

後ろを振り返った大助は、伊佐道達にそう叫んだ。

伊佐道は、後ろを歩く才蔵と桜華を気にしながら歩いており、彼は時々後ろを向いては、二人を気に掛けた。

 

 

「桜華は大丈夫ですか?」

 

「く、苦しい……」

 

「我慢しろ。女の着物なんだから」

 

「才蔵みたいな、着流しがよかった」

 

「胸晒す気か!!」

 

「だって~」

 

「里にいた頃は、着物とか着なかったの?」

 

「着てないよ。

 

いつも、忍服だもん」

 

「それ以外は?」

 

「祭りで着た踊り巫女の格好と、袴くらいだよ」

 

「踊り巫女?

 

舞出来るのか?」

 

「一応。でも、里では椿が一番だよ!」

 

「椿?誰?」

 

「里にいた私の女友達」

 

「いつか、その子に会いたいなぁ!

 

桜華の里に行って」

 

「いつかね!私も、大助や鎌之介、才蔵達のこと皆に紹介したいし」

 

 

笑顔を向けながら、大助と桜華は話した。そんな彼等を、背後から見つめる者がいた。

 

 

「……才蔵」

 

「分かってる。

 

伊佐道、大助と桜華連れて宿に戻ってくれ」

 

「はい」

 

「私も戦えるのに」

 

「お前を狙ってんだよ!

 

ここは任せて、大助の護衛してろ!」

 

「しくじるなよ!才蔵!」

 

「猿みたいな言い方するな!」

 

 

何も知らない大助は、桜華の手を引いてそのまま駆けて行きその後を伊佐道は追い駆けていった。

 

 

「さぁて……お仕事といきますか」

 

 

 

茶会……

 

 

家康の話を終え、来ていた大名達は互いに他愛のない話をして暇を持て余していた。

 

 

「よぉ、真田」

 

「……珍しのぉ。

 

お主から話し掛けるとは……伊達政宗」

 

 

茶が入ったお猪口を手に、政宗は幸村の隣に座った。

 

 

「噂で聞いたが、お前さん……あの光坂を部下に迎え入れたんだってな?」

 

「……」

 

「で?

 

光坂から、一人預かったんだろ?」

 

「……」

 

「……答えろ!!真田!!」

 

「言ってどうする?

 

お主が何か得するのか?」

 

「……知らねぇのか?

 

光坂が何故、武田にしか仕えなかったのかを」

 

「知らん。知る気もない」

 

「なら、教えてやる」

 

「人の話を聞け」

 

「あいつ等は、極大な力を隠していた……武田はそれを知っていた。だから、光坂は武田にしか仕えなかった」

 

「それが本当であれば、光坂はその力の恐ろしさを知っていた。だから縁の深い武田に身を置いたのだ」

 

「その力を、使いたいとは思わねぇか?」

 

「知らん。

 

 

そんな力があったところで、天下を取れるわけがない」

 

「……」

 

 

 

夕方……

 

 

宿へ戻ってきた才蔵。階段を上がり、部屋の襖を開けた。部屋には、昼寝をする大助に羽織を掛ける伊佐道がいた。

 

 

「大助の奴、寝てんのか?」

 

「えぇ。歩き疲れたんでしょう」

 

「……あれ?

 

桜華は?」

 

「隣の部屋にいるかと……」

 

 

「さぁ!上田に帰るぞ!」

 

 

突然襖を勢い良く開けた幸村は、そう言った。隣の部屋にいた桜華は、その声に気付き彼等の元へ駆け寄った。

 

 

「いきなりなんだよ。

 

茶会はもういいのか?」

 

「終わった終わった!

 

とっとと帰る支度せい」

 

「え~!もっといたい~!」

 

「また今度な」

 

「……幸村、何かやらかしただろ?」

 

「下で待っておる」

 

(やらかしやがったな!!)

 

 

 

明け方……

 

馬を走らせる幸村達。すると、彼等に追い駆けてきた輩が、後ろから銃弾を放った。

 

 

「追い付いてきた!」

 

「幸村、どうする!」

 

「しつこい奴等だ!」

 

「森の中に逃げ込めば、撒けるかもしれないよ!」

 

「だとさ!幸村!」

 

「……全員、森の中へ入れ!」

 

 

走らせていた馬の方向を返させ、幸村達は森の中へ入った。走って行く内に、茂みから水が姿を現し隣を駆けた。

 

 

「才蔵達はこのまま森を突っ切って!」

 

「突っ切ってって……桜華、何する気だ!?」

 

 

馬の上に立った桜華は、次の瞬間木の枝を掴み馬から跳び上がり一回転すると、枝に着地した。

 

 

「桜華!!クソ、あの馬鹿!」

 

「この場は、桜華に任せる!

 

儂等は早く、琵琶湖へ向かうぞ!」

 

「父上、何で?!」

 

「運が好ければ、甚八がいる!」

 

「その自信はどっから湧き出るんだ!?」

 

 

走り去っていく幸村達を見送った桜華は、肩に掛けていた黒いマントの紐を、首前で結びフードを深く被ると顔に黒い狐の面を着けた。

 

 

“バーン”

 

 

その時、後ろから銃弾が横を通り過ぎ木の幹に当たった。桜華は振り返り、放たれた方向を見た。火縄銃を持ち構える数人の輩。

 

 

(……ざっと、六人)

 

「お主、真田の者か?」

 

「(気付かれてはいない……)

 

だとしたら、どうする?」

 

「……?」

 

 

ざわめく木々と異様な空気に、輩達は辺りを見回した。

 

輩達が目を離した瞬間、桜華は指を鳴らして地面に向かって思いっ切りかかと落としをした。亀裂が入った地面から木の根が生え伸び、輩達に攻撃した。その光景を桜華は、木の上から見届けると水の背中に跳び乗り、幸村達を追い駆けていった。

 

 

 

しばらく走っていると、霧が出て来た……水は走るのをやめ辺りを警戒しながら歩いた。桜華は水から降りると、面を上げ周りを見回した。

 

 

「……凄い霧……

 

どうしよう……才蔵達の所に行けない」

 

「クゥ~ン」

 

「大丈夫だよ。

 

……!?」

 

 

何かの気配を感じ取った桜華は、刀の束を握り引き抜こうとした。

 

 

「伏せろ!」

 

 

その声に従い、桜華は伏せた。次の瞬間、二本の槍が頭上を通り過ぎ、目の前にいた敵を突き刺した。

 

 

「凄ぉ……」

 

「怪我はねぇみてぇだな」

 

「?

 

あ!独眼竜!」

 

「よぉ、小娘」

 

「また助かった!ありがとね!」

 

「礼には及ばねぇよ。

 

それより、こんな所で一人何やってんだ?」

 

「追ってきてた輩を追っ払ったの!

 

そしたら、濃霧になっちゃって」

 

「確かに、この辺り霧が酷くなりましたね」

 

「……どこまで行くんだ?」

 

「?琵琶湖だけど……」

 

「小娘、俺の馬に乗れ」

 

「若!!」

 

「琵琶湖まで送ってやる」

 

「やったー!」

 

「どこの輩か分からない娘を、助けるなど!!」

 

「輩は分からないが、こいつは俺のことを知っていた。

 

それだけの縁だ」

 

「……」

 

 

馬に飛び乗った桜華を見ると、政宗達は馬を走らせ琵琶湖へ向かった。




森を抜けた政宗達……すると先程まで広がっていた濃霧が晴れ、目の前に琵琶湖が広がっていた。


「琵琶湖だ!」

「このまま真っ直ぐに行けば、すぐに着く」

「ここまで、ありがとな!独眼竜!」


馬から飛び降りた桜華は、水の背中に跳び乗った。水は首を一振りすると、崖を駆け下り一直線に琵琶湖へ向かった。


「……小十朗」

「はい?」

「あの小娘、どこかで会ったことあるか?」

「いえ、身に覚えは……」

「そうか……(覚えてはねぇが……どっかで会った気がする)」


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想う心

『君はもう一度、同じ過去へ来ている。

それは皆同じ』

過去?

『二度と、手を離しちゃ駄目だよ?



霧隠才蔵』


目を覚ます才蔵……

 

 

眠い目を擦りながら、起き上がり外へ出た。

 

 

(何だったんだ……あの夢)

 

 

 

場所は変わり、滝壺で遊ぶ大助達。

 

 

「鎌之介!」

 

「あ?

 

うわっ!!」

 

 

振り向いた鎌之介に、桜華は水を思いっ切りかけた。びしょ濡れになった彼は、水を吹き払うようにして頭を振った。

 

 

「やりやがったな!桜華!

 

そーれ!!」

 

 

鎖を振り回し、風を起こした鎌之介は水の渦を桜華に放った。彼女は難なく避け、彼の後ろに回ると足を自身の足で払った。鎌之介は尻を着き倒れ、それを大助は面白可笑しく笑い、その笑いに釣られ桜華も笑った。

 

 

「元気だねぇ……あの三人」

 

「年が近いから、気が合うのよ」

 

「そういうもんかねぇ……?」

 

 

才蔵が座っていた近くの茂みから、レオンと水が出て来た。獲物を捕らえたかのようにして、水は身構えそして桜華に向かって飛び掛かった。

 

 

「うわっ!」

 

「桜華!」

 

“バシャーン”

 

 

顔面から水の中へ倒れた桜華……水は彼女から降りると、心配そうにして顔を近付けさせた。次の瞬間、桜華は咽せながら起き上がり、鼻を手で押さえながら川から出て才蔵の元へ駆け寄った。

 

 

 

「鼻血出だ」

 

(やっぱり……)

 

 

鼻に氷が入った袋を置き、桜華は日陰で横になり休んでいた。

 

 

「鼻の骨は折れてねぇから、止まるまでジッとしてろ」

 

「う~……

 

もう水!飛び乗るなって、母さんに言われてただろ!」

 

 

怒鳴られた水は、耳を垂れ下げ反省しているかのようにして伏せた。

 

 

「まぁまぁ、水も反省してるみたいだしいいじゃない」

 

「氷柱がよくても、私は鼻血出して遊べないんだよ!!」

 

「あーはいはい。

 

そう怒鳴るなって。興奮すると、また鼻血出るぞ」

 

 

起き上がった桜華は、頬を膨らませながら座り込んだ。そんな彼女の頭に、手を乗せながら酒樽を担いだ甚八が現れた。

 

 

「何だ?桜華、鼻血か?」

 

「水にやられた」

 

「そりゃあ可哀想に」

 

「酒樽なんか持ってきて、どうしたんだ?」

 

「聞いてねぇのか?

 

 

幸村がここで、宴会するって話」

 

「聞いてねぇ……」

 

「私も初耳」

 

「幸村さん、宴会大好きだね」

 

「あいつは単に、酒が好きなだけだ」

 

 

 

夕方……

 

 

山道を歩く才蔵達。

 

 

「川遊び楽しかったね!」

 

「また行こうぜ!」

 

「父上、いいよね?!」

 

「まぁ、いいだろう」

 

「ワーイ!」

 

「大助!城まで競争だぁ!!」

 

「あっ!待ってぇ!!」

 

「ビリは桜華なぁ!」

 

「ビリになるわけないじゃん!!」

 

 

駆け出す三人……彼等の後を、レオンと水が追い駆けていった。

 

 

「元気のいい子供達」

 

「あの体力を、勉学の方に回せって」

 

 

先に城へ着いた鎌之介……彼の目に映ったのは、大きい狼。後から走ってきた大助は、驚き鎌之介の後ろへ隠れた。

 

 

「?どうかしたの?」

 

 

途中から歩いてきた桜華は、二人駆け寄りながらそう言った。すると二人は、彼女の後ろへ隠れた。

 

 

「……お前等……

 

女の私を盾にするな」

 

「だ、だって……あの狼!」

 

「?狼?

 

 

あ!」

 

 

門前に座っていた狼に気付いた桜華は、嬉しそうに駆け寄るとその狼に飛び付いた。

 

狼は桜華に顔を擦り寄らせ、頬を舐めた。森から出て来た水は、その狼に気付くと尻尾を振りながら、駆け寄り体を擦り寄せた。

 

 

後からやって来た才蔵達の元へ、大助は駆け寄り門前にいる狼を指差した。

 

 

「水の親戚なんじゃねぇの?あの狼」

 

「それか兄弟。もしくは親子」

 

「毛繕いしてるから、多分そのどっちかだろう」

 

 

「ここの警備は、随分と薄くなったのね?」

 

 

狐の面を顔に付け、黒いマントを頭から被った者がそう言った。傍には各々の面を着けた、部下達も立っていた。

 

 

「何者だ!!」

 

「何者も何も、アンタ達と同じ立場の者よ。

 

ねぇ、真田幸村様?」

 

 

面を取ったその人物は、桜華と同じ真っ白な髪を一つ三つ編みに結い、赤い目をした女性だった。傍にいた者達も、同じ赤い目をしていた。

 

 

「れ、蓮華!?」

「母さん!!」

 

「全く、来てみれば誰もいないじゃないの!

 

いて六助と使えない兄弟の三人だけって、どういう事よ」

 

「い、いやそれはだな」

 

「説明して貰いましょうか?

 

幸村様?」

 

 

優しい微笑みを浮かべる蓮華だが、幸村の目には悍ましい何かが映り、彼は言い訳をあれこれ考え言うがどれも通用しなかった。

 

 

「母さんに言い訳なんざ、通用しないよー!」

 

「真田って聞いてたから、てっきり真さんが仕えてる方にいるのかと思った」

 

「あんな奴の所に行くわけないじゃん!」

 

「まぁそうだね。

 

僕もどちらかと言うと、こっち側だし」

 

「アタシも」

 

「俺はどっちでもいい」

 

「……こっちで男作ろうかなぁ」

 

「俺もこっちだ」

 

 

突然意見を変えた男に、桜華は二人と顔を合わせて笑った。

 

 

「桜華、そいつ等誰?」

 

「あぁ、そっか。

 

里にいた頃の同期。こっちから陸丸、椿、そんで優之介」

 

「里にいる桜華の友達?」

 

「そうだよ」

 

「真田に若君がいるって聞いてたけど、まだまだクソガキじゃない。

 

頼りなさそうだし」

 

「言われてるぞ、大助」

 

「うわーん!佐助ぇ!」

 

「偉そうなこと言う前に、私から一本刀で取ってから大助を馬鹿にしな!」

 

「桜華!!」

 

「未だに私から取ってないくせして、何小さい子供をいじめてんだか」

 

「アンタねぇ……

 

ええい!!今日という今日は、取ってやる!!」

 

 

腰に挿していた二本の刀を抜き、椿は桜華に向かって振り下ろした。彼女はのらりくらりと避け、椿を馬鹿にしながらその場から去って行った。

 

 

「……追い駆けなくていいのか?」

 

「気にするな」

 

「毎度のことです」

 

 

 

夜……

 

 

宴会を開く上田城。飲み比べるかのようにして、蓮華は大きなお猪口に注いだ酒を、甚八と幸村、六助は一斉に飲んだ。

 

 

「プハー!

 

相変わらず、いい飲みっぷりだな!蓮華!」

 

「アンタもいい飲みっぷりぃ!」

 

「今日はじゃんじゃん飲むぞぉ!!」

 

「オォー!」

 

「昼間飲んだばっかなのに……」

 

「呆れて物も言えません」

 

「お疲れさんです」

 

 

「何故、君がここにいるんです?」

 

 

少々驚いた顔をしながらも、若干キレ気味の真助は蓮華に質問した。

 

 

「あ~ら?妻子捨てて、真田に仕えた旦那が現れた」

 

「……君、酔い回ってますね?

 

どのくらい飲みました?」

 

「樽二本は開けたぜ」

 

「またそんなに……」

 

「何よ~。何か、文句ある訳?」

 

「あのねぇ、一応君光坂の当主でしょ?

 

その当主が、こんなんじゃ話になりません」

 

「っるさいわね!!堅物が!」

 

「君がだらしないからでしょうが!!」

 

「何よ!!桜華を立派に育て上げた、この私に何か文句でもあんの!?」

 

「ありますよ!!君は母親なんですから!!」

 

「父親のアンタは何もしてないくせして、偉そうなこと言わないでよ!!

 

アンタが父親らしいことやったのって、剣術教えたぐらいじゃない」

 

「おい蓮華、少し落ち着け」

 

「アンタは黙ってなさい!!」

 

「は、はい……」

 

「この際だから、言わせて貰うけど」

 

 

蓮華が言い掛けた時だった……二人に突如水が掛かった。掛けた方を向くと、そこにはバケツを持った六助と、水球を手の平に浮かべた桜華がいた。

 

 

「六助……」

「桜華……」

 

「九年ぶりに会って早々、喧嘩しないでよ」

 

「頭は冷えましたか?隊長、副隊長」

 

 

「桜華ぁ」

「六助ぇ」

 

 

怒りのオーラを纏いながら、二人は冷や汗を掻いた。

 

 

「六助……これ、マズいよね?」

 

「逃げるが勝ちという言葉がありますが……」

 

「……逃げる!!」

 

「賛成!」

 

 

駆け出す二人に、蓮華と真助は刀を抜き追い駆けていった。

 

 

タンコブを作り、六助の隣で真助が作ったおにぎりを食べる桜華。彼女の隣で六助は、顔に無数の掠り傷を作り、茶を啜った。

 

 

「桜華、大丈夫?」

 

「大丈夫。慣れてるから」

 

「また、あなた方の喧嘩に巻き込まれるとは……」

 

「六助が余計なことをするからでしょう」

 

「……」

 

「そもそも母さんが酔っ払って、父さんに絡んだりするから、喧嘩になったんでしょ」

 

「まだ酔ってないわよーだ!」

 

 

舌を出す蓮華に向かって、桜華も舌を出した。真助と六助は呆れながら、二人の頭に拳を乗せた。

 

 

「やめなさい」

「端たない」

 

「子供相手に、何をやっているんですか」

 

「次から次と、口うるさい亭主」

 

「あのねぇ……」

 

 

その時、強風が吹いた。皆の髪を靡かせる中、目の前に生えていた桜が花弁を吹雪かせ、見事な桜吹雪を幸村達に見せた。

 

 

「凄え!!」

 

「相変わらず、タイミングが良いのぉ」

 

 

桜吹雪を見る才蔵……その時、彼の頭に何かがフラッシュバックで流れた。才蔵はふと、桜華の方のを見た。

 

水ともう一匹の狼と戯れる桜華……彼女に続いて大助に鎌之介、椿達も戯れていた。

 

 

(……何だ……

 

 

以前にも、この光景を見たことが……)

 

 

何かを思い出し掛けた才蔵は、手に持っていた残りの酒を飲みながら、彼女達を眺めた。




翌日……


門前に集まる、才蔵達。彼等の前には、黒マントを羽織った優之介達が、各々の面を着けていた。


「ちぇ!もう少しいても良いのに」

「そうはいきません。里に長がいないというのとは、武器を持たぬ武士と同じ。その間に敵に攻められでもしたら」

「分かってるよ!それくらい……」

「まぁ、九年か十年経てば……俺等の里も、真田の者だけ許されて入れるかもしれない」

「本当?!」

「多分ね」

「その時が来たら、里を案内するよ!」

「約束だよ!

オイラ、頑張るから!」

「楽しみにしてるぜ、大助さん」

「大助で良いよ!


あれ?桜華は?」

「そういえば……

って、真さんもいない」

「三人共、用があるとかで少し出ています」

「えー!

オイラも行きたかった!」

「まぁまぁ、いいじゃねぇか。

親子水入らず!どっか行ってんだろ?」

「でも~」

「蓮華も桜華も、ずっと長い間真助に会ってなかったんだ。思い出話に花咲かせて、その邪魔をされたくないから、別の所に行ったんだよ」

「……」

「鎌之介にしちゃ、良いこと言うじゃねぇか」

「応よ!思い知ったか、才蔵!」

「あー、はいはい」


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ただいま

場所は変わり、藤の花が咲き誇る広場へ来た真助達。

 

 

墓石の前に、数本の花を添える真助。手を合わせながら、彼は口を開いた。

 

 

「お久し振りです。

 

僕と蓮華は、相変わらず元気にやっています。あなた方が残した土地は、今は真田が守っています。

 

 

桜華」

 

 

真助は振り返り、蓮華の隣に立っていた桜華の名を呼び手招きをした。彼女は蓮華をチラッと見ながら、彼の元へ歩み寄り、差し出した手を握り隣に立った。

 

桜華を挟むようにして、蓮華も隣に立った。

 

 

「遅くなりましたが……

 

 

あなた方が楽しみにしていた……僕等の子です」

 

「……

 

 

桜華です。初めまして」

 

 

その声に応えるかのようにして、微風が吹き藤の花弁を舞い上がらせ、三人の髪を靡かせた。

 

 

「父さん」

 

「?」

 

「ここに、誰が眠ってるの?」

 

「……父さん達の主だよ」

 

「主?」

 

「今は真田だけど、昔は武田と言う人が主だったの」

 

「……」

 

「主は、君が産まれてくるのをずっと心待ちにしていたんだよ。

 

 

生きている間に、顔が見たいってずっと言っていた」

 

「……私も会いたかった」

 

「……」

 

「……さぁ、行こう。

 

 

優之介達を待たせているから」

 

「えぇ……

 

 

桜華」

 

 

蓮華は彼女の名を呼びながら、しゃがみ込んだ。そして、何かを言おうとしたがそれを上手く言え無かった。

 

 

「……大丈夫だよ!」

 

 

何かに戸惑っている蓮華に、桜華は笑顔を見せながら言った。

 

 

「まだまだ知らないこといっぱいだけど、平気だよ!

 

 

六助や才蔵、佐助に氷柱、甚八、十蔵に六郎。清海や伊佐道、鎌之介に大助、幸村さん。

 

それに、父さんや水もいるから、全然大丈夫!」

 

 

逞しく言う桜華に、蓮華は思わず泣き笑いながら彼女を抱き締めた。

 

 

 

その夜……

 

 

城の屋根で月見酒をする才蔵。その隣で桜華は、串団子を食べていた。

 

 

「……なぁ、才蔵」

 

「何だ?」

 

「……あのさ……

 

 

才蔵って、どっかで私と会ったことある?」

 

「……」

 

 

その質問に、才蔵は何の疑問も感じなかった……だが、答えることは出来なかった。

 

 

「今日まで、才蔵達と暮らしてて思ったんだ……

 

 

以前にも、この光景を見たことがあるなぁって。

 

 

何かね、皆と一緒にいると凄く懐かしいって感じるの」

 

「……」

 

「でも、覚えてないから、何でかは分かんないんだよね!

 

 

 

 

だけど、ここへ来て才蔵の名前聞いてから、ずっと言いたいことがあるの……」

 

 

立ち上がった桜華は、月明かりに照らされまるで月の姫君のように見えた……下ろしていた髪が、夜の風に靡いた。

 

才蔵は酒を置き、立ち上がり桜華の方のを見た。

 

桜華は、才蔵に笑顔を見せて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……才蔵」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、才蔵の目から一筋の涙が流れ、そして彼も笑顔を見せながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お帰り、桜華」

 

 

 

(完)




狐:いやぁ、何とかハッピーエンドで終わって良かった良かった!

これも、アンタのおかげだよ。伊弉諾尊さん。

伊弉:私はそれなりのことをしたまでです。

あなたの頼みを断るわけには、いけませんから。

狐:相変わらずだな。

伊弉:しかし、よかったのですか?

あなたの記憶まで消して。

狐:いいのいいの!私は妖狐!

人を騙すのが得意な狐だよ!

伊弉:あなたが良ければ、別に構いませんが。

狐:ご心配御無用!


さぁ!一杯やろう!伊弉諾尊さん!

伊弉:はいはい。


古ぼけた左右の扉がゆっくりと開き、妖狐と伊弉諾尊はその中へと入って行った。


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