オーバーロード~悪魔王の帰還~ (hi・mazin)
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プロローグ 悪魔王の帰還?
彼の冒険はここから始まる・・・かも
12年前、DMMO-RPG「ユグドラシル」というゲームが発売された。
そのゲームは一言で言えば「物凄く自由なゲーム」である。
基本職+上級職の数は2000を超え、外装だって18禁に触れなければどんな姿も思いのま
まであり、別売りのクリエイトツールが有れば更に自分好みに仕上げる事ができる。
まさに最高のゲームである。
・・・最高のゲームであった。
しかし・・・今日、そのユグドラシルというゲームはサービスを終了する。
理由は簡単である、12年という歳月が過ぎれば大多数のプレイヤーに飽きられるも当然だ。プレイヤーの過疎化に、新しいゲームの台頭、運営の管理の限界。
どんなものにも終わりが来る。一部のプレイヤーの嘆きと共に、12年の歴史に幕を閉じることになった。
「サイファー」と名乗る異形種の男もギルド長からの誘いに応じ久しぶりにログインしたのである。
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「ここに来るのも1年振りくらいかな?」
そう独り言のように呟き、一人の悪魔がリスポーン地点に設定しているギルド内の自室を見渡していた。
自分専用に割り振られた部屋であるが・・・あるのは大きなベッドに姿見の鏡、あとはクローゼットの3点のみのデフォルト状態である
部屋に何もない理由は単純に使う必要がないからである。ここにリスポーンし、すぐに円卓の間、もしくはギルメンとの集合場所に向かいクエストに参加する、装備の変更は部屋のクローゼットを使用しなくても携帯端末を使えば何処でも変更可能であるため、わざわざ戻って着替えたりする必要もない、
故に部屋の家具は初期配置のままほっぽっているのだ。
(さて、メールを見て集まったメンバーはどこかな?)
何もない自室だが妙に懐かしみを感じながら、急ぎ気味に行動を開始した、何しろログインするのが遅く結構いい時間帯になってしまったのである。
コンソールを開きギルメンの現在地をマップ上に表示したが。
(十階層の玉座にモモンガの旦那が一人か・・・みんな最後まで遊んで行かなかったの
か? 出張先からわざわざ戻ってきたのに、ちょっと残念で寂しいな)
遅れてきた自分が今更何を言うかと思いコンソールを閉じる
玉座にいるであろうモモンの下に向かうため自室から移動するため歩を進めたが、ふと鏡にアバターの姿が映った。
銀で縁取られた、シンプルな紺色のローブ姿に、青い肌に、赤い髪、左右のこめかみからは金色の大きな角が生えているイケメン顔の青年である
典型的な人型の悪魔の姿がそこにはあった。
(典型的であまり個性がないアバターだけど、周りのメンバーが濃すぎて逆に目立つという謎の現象がよく起こっていたな。)
だが外見や装備の性能は他のメンバーに負けてるかもしれないが中身(スキル+隠し玉な意味)は負けてない自信がある。
そんな事を考えながら鏡の前で自分がカッコイイと思うポーズを決める。
サイファーは羞恥心が刺激されたがついつい別のポーズも試していく
何度も試したがやはりこのアバターは素晴らしい。
ポージングに満足し、次に装備品も変えてみようかとコンソールを開いたが、こんなことをやってる場合ではないと気づき画面を閉じる
「・・・さて、モモンガの旦那に会いに行きますか、かなり遅い時間だけど最後の時まで居るって言って誤魔化そうっと」
そう、軽い気持ちで自室からモモンガのもとに移動し始めた。
この時、サイファーはある事を失念していた・・・昔の思い出に浸りながら鏡で遊んでいたためサービス終了時間ギリギリにログインしたことを・・・
・・・そしてもう〇時を過ぎていることに・・・
だがそれを注意出来るものは此処にはおらず、ただ、静かに新たな時が刻まれてゆくだけであった
悪魔王サイファー、無事異世界転移成功
ちゃんとナザリックに帰還してるからタイトルサギではない。
こんな感じにゆっくりと進んでいきます。
指摘や感想を待ってます。
なるべく優しくしてね。
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一話目 いざ玉座の間へ
自室から廊下に最初の感想は
「お~、懐かしいな~この無駄に豪華な感じ」
だった。
ただの廊下だが、あまりの懐かしさについ、『笑顔』になる
「我らのナザリック地下大墳墓は今日も平和なり、さて」
右手の人差し指にある指輪『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を使用し玉座が在る十階層に転移しようと考えたが昔の記憶が蘇り懐かしさがこみ上げてきた
「まだ時間あるし、ナザリックも今日で見納めだしな・・・歩くか。久しぶりに来たんだから、ちょっと遅れてもモモンガの旦那は許してくれるさ」
そんな事を考えながら十階層に向かい歩を進め始めた、自身に起こった変化に気づかず・・・
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一方、十階層 玉座 では
モモンガ「セバスよ、大墳墓を出て周辺地理を確認せよ。もし仮に知的生物がいた場合交渉し友好的に連れてこい」
セバス「了解しました、モモンガさま。直ちに行動を開始します。」
必死に情報を集め状況を把握するため死の支配者が孤軍奮闘していた。
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『ナザリック地下大墳墓』
ユグドラシルに存在する数多に存在するギルドの中で、最も悪名高きギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルド拠点であり、メンバー全員の知恵と努力の結晶。
地上部分の陵墓に加え地下1〜10階層で構成されており、さらにギルメンのみが持つ『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』で転移しないと行けない隠し部屋の宝物殿などもあり、バカみたいに広いのだ。さすがは廃課金者多数の社会人ギルド、やる事が桁ちがいだぜ
(これは俺の勝手な想像だが・・・絶対にまだ何かしらの部屋かギミックが在ると思う。イヤ、絶対に在る)
「あの人たちが何もしないなんて、あり得ないな」
誰とは言わないが、頭に浮かぶギルメンの姿を思い出し、益々昔を懐かしみながら誰も居ない廊下を歩き始める・・・
「あっちから転移した方が玉座までの最短距離のはずだ」
だんだん思い出してきたぞ、あの頃は毎日が楽しかったな、 仕事さえなかったら、毎日だって来れたのに・・・あっ、うちのギルドは社会人であることが条件だった。
リストラされたり、退職したらどうなるんだったけ?
確か夜中にみんなで話し合った気がするな、脱線してばかりで進んでなかったような
-ちなみに、こいつが話を脱線させた張本人だったりするが誰も覚えていない-
馬鹿な事を考えているとリアルの明日の予定をつい思い出してしまった。
「あ~、そーいや、朝一で出張先に戻んないと行けないから、ゲームが終わったら飛行機のチケット予約しなきゃ・・・今何時だ。」
時間を確認するためにコンソールを開こうと右手を出したが・・・その手は途中で止まり何かを決意したように拳を振り上げる
「今日、俺は旦那に呼ばれてこのナザリックに遊びに来たんだ! 今の俺は『悪魔王サイファー』だ!! 仕事なんてクソくらえだ!滅びろクソ会社!! 強制終了されてないからまだ0時前のはずだ!!」
折角の楽しいひと時に水を差された気分になったため『顔を歪める』ほど怒りが沸いた。
「早くモモンガの旦那のとこ行こう・・・いろいろ昔話でもして楽しい気分で最後を迎えよう・・・あっちが近道、こっちはリビングスペースだったかな?」
『リビングスペース 』 大浴場、バー、ラウンジ、雑貨店、ブティック、ネイルアートショップなどなど様々な設備が存在する。これらの設備はあくまでもユグドラシル時代では雰囲気を出すための小道具にすぎないが、メンバー全員で凝りに凝りまくった結果、他のギルドとは比べものならないほどに充実した設備である。
「・・・ちょっとくらい寄り道したっていいよな・・・別にモモンガの旦那を蔑ろにしている訳じゃないんですよ」
誰に言い訳をするでもなく、悪魔は娯楽施設に消えていった、その顔は良い『笑顔』であった。
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再び十階層 玉座
モモンガ「胸を触っても・・・構わにゃ・・・ないな」
全然無理でした!
「はい!!喜んで!!」
死の支配者はアルベドに対して絶対に確かめないといけない事をしていた。
勿論守護者統括は即座に了承しくれました
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~数十分後~
ヤバい、ブラブラし過ぎた。
嫌な気分をリビングスペースで晴らし、気分転換をしてから玉座に向かうはずだったがいささか時間を潰し過ぎた。
何から見たらいいか迷って片っ端から店をのぞき込んでたら、ついつい時間を忘れていた。
風呂場にいたローパーはこっちの存在に気づいたら触手を振り回したりバイブ機能みたいに震えだして・・・若干キモかった・・・
誰だよあんなAI追加したの、まったく嫌な『汗』かいたよ。
自分の中の体内時計が悲鳴を上げている、恐らく強制終了まで20分もないはずだ。
これ以上の遅刻は温厚なモモンガの旦那いえども、キレるかもしれない、昔から「時間ぴったりですけど、もう少し早く来れませんか?」と苦言を受けてきたしな。
でも、遅刻はしてない訳ですし、時間ぴったりだから別に良いじゃんと今も若干思ってるけど・・・そんな言い訳はもう通じないだろう
そんな考えを振り払い右手に装備している『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を使用し玉座が在る十階層に転移した。
十階層玉座の間付近に転移が完了すると急いでモモンガの下に向けて走った、目的の場所はレメゲントのゴーレムが守護する最後の扉だ。
「はあ、はあ・・・やっと着いた」
目の前には五メートル以上ある巨大な両開きの扉があり、右扉には女神、左扉には悪魔の彫刻が彫られていた。
この扉の奥に玉座の間がありモモンガがいるであろう場所である
「ん、この彫刻・・・こんなにもリアルだったかな?」
昔見た時より迫力が在る気がする・・・まるでリアルに在るみたいだ
「いや、それより何か違和感がする」
自分の手を握りながら違和感の原因を探ろうとするが『身体』には違和感は・・・無い。
まさに『自分の身体』だ。
「扉の前で悶々してもしょうがないよな」
意を決し扉を開いた、無論、右扉でもなく、左扉でもなく、堂々と左右同時に開いた
しかしそこには・・・
「誰もいない・・・そんな、確かにここにモモンガの旦那が居るはずなのに!」
最後まで残るとメールにも書いていたのに・・・なぜ・・・まさか、誰も残らなかったら・・・強制終了まで待たなかったの・・・か?
フラフラとした足取りで歩を進め空席の玉座の前に立った。
「モモンガの旦那よ・・・俺は何時も、時間ギリギリだって知ってるよな、もうちょっと待ってくれても良いじゃないか」
いや、俺が悪いんだ、仕事の部署が変わり、上司の命令であちこち飛び回る日々が続き、時間が取れないためゲームから離れた俺が・・・
国内の出張が多いからゲームは持ち運んでやったら良かったかな?
一人で自問自答を繰り返し主の居ない玉座に座った。
そして、ちょっと凹んだ、大好きなゲームだから最後くらいみんなと騒ぎたかった
例えば・・みんなのアイテムボックスの肥やしになっている『流れ星の指輪/シューティングスター』をすごく無駄な事に使って馬鹿やったり
玉座に居る守護者統括のアルベドの設定をタブラさんの断り無く改変して笑いあうとか
さぁ・・・
アルベド?
「なぜアルベドが居ない! ここで待機してるのがデフォのはずなのに!」
勢いよく玉座から立ち上がり周りを見渡が、やはりアルベドの姿は見えない・・・
自室が用意されておらず玉座の側が立ち位置のはずなのに何処にも見当たらなかった
「そうか違和感の正体はこれだったんだ。九階層に居るはずの戦闘メイドプレアデスも居なかったし、モモンガさんが最後に連れ出したんだな・・・あ~焦って損しちゃった」
謎も違和感もすっかり解決とばかりに玉座に座りなおすと、騒いでいた元凶が静かになり辺りに静寂が訪れる。
「あ~あ。誰も居ないのか、あと何分でサービス終了だろう」
コンソールを開くため手を伸ばしたが、手はコンソールを開く事無く空を切った。
(あれ、コンソールが出ない・・・いや、ありえないなそんな事)
無意識にキャンセルしたんだろう、そう思う事にした。
ミヨーに座り心地のよい玉座に身を預け瞳を『閉じた』
「なんかこの椅子座り心地が良い感じだな・・・よし、最後だし、このままネオチして楽しい夢でも見ながら終わりにしよう」
仕事疲れもありすぐに意識が微睡み夢の世界へと旅立っていった
その眠りは深く、死の支配者がギルメンに向けて発した『伝言/メッセージ』の魔法に気づかないほどに・・・
玉座の間に無事到着
しかし疲れて御就寝のもようzzz
モモンガさんはアウラとマーレの模擬戦を見ながら異変に巻き込まれてのは自分一人かと思っております
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二話目 朝起きたらそこは・・・ナザリックでした
玉座で眠る悪魔王は夢を見ていた・・・とても楽しい夢を・・・
・・・だけど・・・夢に出てくるヒトたちの名前が思い出せない、知っているハズなのに、数多の世界を共に冒険し、敵対者を打ち負かし、数々のレアアイテムを入手するため、真剣に話し合う毎日、そんな多くの時間を共に共有した、大事なヒト達なのに、名前が思い出せない・・・
だけど夢の中の私はとても楽しそうに笑っている・・・
名前すら分からない仲間達の中、一人だけ名前が分かるヒトがいた、物語に出てくる魔王のような装備を身に着けた骸骨姿のヒト
・・・そのヒトの名は・・・
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メイド達の朝は早い、いや、少し語弊があった、彼女達はナザリック、ひいては、至高の四十一人のために働くよう造られた人造人間(ホムンクルス)である。
至高の四十一人のために働くよう造られたモノ達が朝だから、夜だから、と仕事に手を抜いたり、休憩を挟んだりするだろうか?
・・・答えはノー、である。
創造主に造られ、彼らに尽くすことは当然のこと、まさに神への奉仕なのだから。
ゆえに24時間フルに働いている彼女らは朝、昼、夜関係ないのである。
そんなメイド達の仕事は、主にナザリック地下大墳墓の第9階層〜第10階層の雑務と清掃を担当している
総勢41人の人造人間(ホムンクルス)のメイドで構成されており、ペストーニャ・S・ワンコがメイド長としてその指揮をとっている。
その人数は、至高の四十一人と同じ41人が存在しており。作ったのは3人(ヘロヘロ、ク・ドゥ・グラース、ホワイトブリム)である、その外見はホワイトブリムが全力で描いた原画を基にしているため、かなり精巧に作られている
皆が当然の如く容姿端麗であり、ホムンクルスの選択ペナルティの一つによって大変な大食漢になっているため、食事休憩くらいはあるらしい。
深夜、偉大なる創造主の頂点に君臨なさるモモンガ様から非常事態宣言が発令され、かなりの動揺と混乱が起きたが、夜が明ける位の時間帯になると平常業務に差し支えるほどの混乱は収まっていた。
しかし、十階層の玉座の間の清掃に訪れたメイド達は自分たちの手に余りまくる衝撃体験に誰一人動けず、声すら上げる事が出来ず、思考停止寸前になっていた。
事の始まり数刻前・・・
10階層を清掃していたメイド達の一人フォアイル (髪が短く切り揃え、メイド服の裾が若干短めのメイド) が異変に気づいたのが始まりだった
「あれ? なんで扉が開いたままなんだろう。おーい、二人ともちょっと来てくれる?」
開いたままの扉に違和感を覚え、同じ清掃グループの二人に声をかけた。
「大きな声を出さないでよ、ここを何処だと思っているの」
「そうよ、こんな事して、はしたない」
仲間の粗相に若干ハラハラしながらゴーレムの清掃を中断し二人が歩いてきた。
で、何かあったの?とグループのメイドのシクススが訪ねていると、少し遅れてリュミエールが到着する。
「いや、玉座の間の扉が開けっ放しなのよ、今までこんな事なかったのに」
真面目な顔で扉を指さした先には、五メートル以上ある巨大な両開きの扉があり、右扉には女神、左扉には悪魔の彫刻が彫られており、まるで生きているような迫力が漂っている。
心の弱い者は扉に触れる処か、直視することすらままならないだろう、そんな扉が開かれ中からは異様な重圧が感じられる。
「誰かが閉め忘れたとか・・・いいえ、無いわね」
この考えをメイド達はすぐに否定した、扉の開閉は主人ではなく、シモベが行うべき事。
そのような大役を任されて粗相する者は存在しないし、してはならない、これはナザリックの常識だ
「モモンガ様が仰った異変なのかしら・・・」
そう、シクススが呟くと二人も同意するように頷く。
開いた扉からは未だ得体のしれない重圧が漂っており何者かの気配が感じられる
「私達の誰か1人がペストーニャ様かセバス様に報告に行って、残った二人で中を確認するってのはどう?」
今まで沈黙を守ってきたリュミエールが提案する。
二人は複雑な表情を作り思案する、ペストーニャ様、もしくはセバス様に報告に上がれば、そのまま至高の御方々の頂点、モモンガ様にお目通りが叶うかもしれない。
ここに残り中を確認するのは、少し怖いが確認するという名目でモモンガ様がいた玉座の間を隅々まで観る事が出来る・・・
どちらを取っても悪くない話ではある
「しかたないな、私とリュミエールが中を確認するからフォアイルは報告をお願いするわ」
シクススがリュミエールを見ながら発言する、リュミエールもそれに頷く。
「え? 私が報告にいくの」
「最初に発見したのはあなたでしょう、なるべく早くお願いするわ」
「分かった、すぐに戻るから、あまり無理はしないでね」
これ以上の議論は行わず行動を開始した、そして話は進む。
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「玉座の間の扉が開いていただと」
モモンガは絶対者としての態度は崩さず部下からの報告を受けるが
『だから何? 誰かが閉め忘れたんじゃないの?』 何処が緊急事態だと、内心首をひねる。
第六階層の闘技場において、自分の持つスキル、魔法の確認を行い、集まった各階層守護者達との面合わせをすまし、自室にて今まで買い込んだ大量のアイテムの確認を行おうと準備をしていたら、メイド長ペストーニャ・S・ワンコと執事のセバスが一般メイドを連れて緊急事態だと報告してきたため身構え、緊張が走り冷汗が流れるような感じすらしたが、報告を受ければ、何てことはない、ただの扉の閉め忘れだ
「誰かが閉め忘れたのではないのか?」
絶対者としてのロールは崩さず当たり前の疑問を言ってみたがそのようなことはあり得ないと強く言われ、思わず『あ、はい』と言いそうになったがモモンガは強い意志をもってその言葉を飲み込み『そうか・・』と低い声でつぶやく
更には閉まっているはずの扉が開いているのは自分が宣言した異常事態の始まりではないかと、セバスが言い始めた。
そんなことはない。と思いつつもセバスとペストーニャに真面目な顔で見つめられるとそうかと思い心が揺れ動く。
(確かに、今はどんな些細なことも見逃す訳にはいかない。この2人が異常というなら確かめる価値はあるはずだ)
「お前達が異常と感じるならば、見過ごす訳にはいかないな、調べるぞ」
「モ、モモンガ様自ら赴くのでございますか! 何が起こるか分からないこの状況で、危険すぎます」
セバスが主人を止めるべく行動しようとしのでモモンガは手をだしその行動をいさめた。
「いや、玉座の間には『世界級/ワールドアイテム』が存在している、あれにもしもの事があれば危険だ」
もし、本当に異変が起こっており、皆で創り上げたナザリックに被害をもたらす奴が侵入者がいるなら決して生きては返さない
そう決意するモモンガの心にどす黒いものが溢れてきた。
「では、可能な限り玉座の間に人員を集めよ。各自、最大限の警戒を怠らぬよう伝達せよ!」
「「はっ!!」」
モモンガは部屋にいる3人に自身が思う絶対者の振る舞いをしつつ異変を調査するべく行動を開始した。
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十階層 玉座の間 扉前
(意気込んできたが、扉が開いているだけで何も感じないな・・・)
モモンガは軽い肩透かしを受けていた、侵入者がいるならば死より恐ろしい目にあわせる、そう意気込んでいたが、扉が開いているだけで何も異常がなかった、冷静に考えると、もし侵入者がいたのなら門の前にいるレメゲントのゴーレムが反応したはずだ。
あと自分の中にあった怒りが鎮火したした理由はアンデッドに備わっている精神作用無効もあるが、周りにも原因がある。
(周りが殺気だしすぎて辛い)
モモンガは周りの熱気に充てられゴリゴリと精神を削られていく・・・
集まったメンバーは2、3人どころではなく、ナザリックのほぼ全戦力だった。
階層守護者+守護者統括+プレアデスの全員にセバス・チャン皆が例外なく玉座にいるであろう不届きモノに殺気を放っているのだ。
「モモンガ様、各員の配置完了いたしました」
そう言ってきたのは守護者統括のアルベドであった、しかしその恰好はいつもの純白のドレスではなく全身を黒の甲冑で身を包み巨大な斧頭を所持し角の生えた面頬付き兜姿だった。
(お前ら、物凄く怖いよ、なにその恰好、完全にガチじゃん、よく見るとシャルティアもいつものゴシックドレスではなく深紅の甲冑姿だし、コキュートスは全ての手に様々な武器を構えて扉を警戒してるし)
そして冷静に夜の事を思い出すと・・・最後に玉座の間から退出したのは・・・
(開けっ放しにしたのは、もしかして俺じゃないか!? 最初にセバスが偵察にでて、次にプレアデスが出て、最後にアルベドの乳・・・いや、大切なことを確かめてから、守護者たちへ伝達に向かわせて・・・やっぱり最後に玉座の間から出たのは俺だ!!)
突然異世界(仮)に飛ばされて情報集集と自身の身の安全のため慎重に行動したつもりだが、戸締りを忘れるとは
・・・ということは、ここにいる殺気丸出しの連中は俺が戸締りを忘れた結果ここにいるという事になる。
それは不味い、このまま突入したら何も異常がない事になってしまう、そして扉を閉め忘れた犯人をさがす流れになったら、ナザリック一の頭脳であるデミウルゴスは俺が閉め忘れた事に気づくだろう・・・不味いナザリックの皆に俺は絶対的な支配者と思われている、このままでは俺のイメージが崩れ、皆の心が離れてしまう
・・・何かいい手は・・・あった、俺一人で行ば良いんじゃないか、あとはどう皆を納得させるかだな。
「うむ、ご苦労、まず私が一人で中の様子を探りに行く、お前たちは何時でも動けるよう準備しておけ」
集まったシモベ達は驚愕の表情を作り各々抗議を上げ始めた。
「そんな、御一人では危険すぎます、せめて誰か供をお付けください」
アルベドが真っ先に抗議の声を上げ、周りもそれに同意するように声をあげる
だがモモンガは冷静に、皆を諭すように話始めた
「いや、ここは私が行かねばならぬのだ、この先はナザリックの心臓部、私でしか分からぬ事も多々ある」
しかし、シモベ達は納得できないという顔を見せていたが、もうひと押しだろう。
「なら一人だけ供を許そう、時間が惜しい、人選はお前達に任せる」
やった、ここにいる全員から一人に減ったぞ、一人なら何とか口止めできるはずだ
ここでの供はアルベドに決まった、最後までシャルティアが反対していたようだが、モモンガを守護出来るかが焦点となり、最後はしぶしぶ折れた
(後でなんか声を掛けたほうが良いかな?)
守護者達のやり取りを見ていたらふと、そんな気分になった。
「ゆくぞ、アルベドよ」
「はい、モモンガ様」
モモンガは『誰もいない』玉座に向かうため扉を開け歩き始めた
・
・
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アルベドに対する言い訳という名の状況説明を考えながら玉座の間を進んでいくと、『無いはずの異変』があった・・・
最初に目に入ったのは二人のメイドだ
二人は玉座に視線を向け固まっていた。
モモンガはメイドが全く動かない事に内心動揺を受けたが、すぐに精神作用無効により平常心を取り戻すが、小さい動揺は抑えることができない、だがすぐにアルベドに命令を下した。
「アルベド!、前方に見えるメイド2人を救出し急いで援軍をここに連れてこい!」
「はっ!」
最悪の事態だ、自分の戸締りミスではなく本当に侵入者がいようとは。
心中で毒づきながら前方を確認する。
まだ玉座まで遠く、誰が座っているか判別がつかないが、人型であることは間違いない。
ぼんやりだが足と腕を組み、まるで眠る様に座っている姿が確認出来る・・・
アルベドがメイド2人を小脇にかかげ戻ってきた。
「モモンガ様、二人を回収してまいりました、モモンガ様も御下がり下さい。」
「いや、私はお客さんの顔を見てくるよ、さっきも言った様に援軍を連れて来るのだ」
アルベドの答えを聞かずにモモンガは慎重に歩み始めた・・・が近づくにつれてその足は速くなる。
(そんな、まさか・・・来てくれていたのか・・・まったく、何時も来るのが遅いんですよ)
玉座には何時も遅刻ギリギリでログインしてくる悪魔の男が眠っていた。
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ユグドラシルが終わった最初の朝は、こう言っては何だが、良い夢が見れ、とても良く眠れた。
椅子で眠ってネオチしたはずなのに身体が痛くない、寝坊しないよう幾重にもセットしている目覚ましが鳴っていないので、目も開けずそのまま二度寝することにした・・・
・・・くだ・い、起きて・さい。
椅子での二度寝、三度寝の最中、懐かしい声が聞こえた。
サービス最終日だというのに、結局会えなかったギルド長の声がする
次第に意識がはっきりしてきた・・・が
まだ夢の途中らしく目に飛び込んで来たのはサービスが終了し無くなったはずのナザリックの光景と製作にえらい時間と労力が掛かったが、一度も使用されなかったギルド武器を持つ骸骨の魔王、モモンガさんが目の前にいた
「おはようございます、サイファーさん」
寝起きではっきりしない頭で思いついたことをすぐ口にした。
「おはよう、モモンガの旦那、来るのが遅かったね」
「遅かった?」
「ええ、モモンガの旦那からのメールという名の招集を受けて夜遅くに来たら玉座の間に反応があっからここまで来たんだけど、モモンガさんもアルベドもいないから、ここでネオチしちゃえと思い、今まで寝てました」
自分が道草をくっていたのをかくしつつ話を続けたがモモンガさんは心当たりがあるらしく口を開いた
「あ~、多分その時は第六階層の闘技場に守護者達を集めて情報収集の真っ最中だったと思います」
「情報収集?、何かあったんですか?まぁ、聞きたいことは沢山ありますけど、まずは・・・」
いつの間にか近くまで各々歓喜の声を上げるシモベ達を指さし
「私の置かれている立場と状況からお願いします」
「ええ、良いですよ」
そう言ってモモンガさんは歓喜の声を上げるシモベ達を落ち着かせ始めた
ユグドラシル2でも始まったのかな?
そんな呑気なことを考えながらサイファーは玉座から立ち上がり背筋を伸ばした。
サイファーさん、無事モモンガさんと合流。
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三話目 これからの生活
仮想現実が現実になって、NPCが意志を持ち行動し、自分自身がゲームのキャラクターになった・・・なんて言われて、はいそうですか、と納得できる人間は少ない。
普通はそんな無茶苦茶な、そんな理不尽なことがあるわけが無い、と否定するのが一般的だろ。
しかしこの状況はどうだ・・・
朝? 起きたらサービス終了と共に無くなったナザリック地下大墳墓が健在であり、いなかったはずのギルド長が目の前にいて、ゲームで遊んでいた時と同じ口調で起こしてくれた、
と思ったら、仰々しい言葉使いでNPCを黙らせ傅かせた、その後両手を広げ宣言した。
「皆、よく聞け、我が友サイファーの帰還である」
短い言葉だが、この場にいる全員が感動に打ち震えている。
その光景をただ呆然と見ていたら、頭の中で感覚的な何かがコールしており、何かが繋がりそうな感じだが・・・敢えて無視した。
非通知着信やメールを確認して良い事があるだろうか?
いや、無い、例え頭中に感じるこの不思議なコールが煩わしくも、誰からか分からない今、応じるのは得策ではない。
応じた瞬間何かしらの理由で料金を請求される恐れがある、だから俺は無視する!
モモンガの旦那はNPCにまだ演説をしている、聞いていると、ナザリックの安全面がどうだか、皆の忠義と行動力は素晴らしいなど様々だ。
NPCはモモンガの旦那の(長い)話に涙を堪える者もいる。
俺は足を少し開き、手は後ろの話を聞く姿勢で聞いていたが・・・
モモンガさんは何故か、此方をチラチラ見ながら恨めしそうな視線を向けている。
(なんでそんな目で俺を見るんだろう?)
遅刻ギリギリだったから?
玉座で居眠りしていたから?
考えても分からない、取りあえず話が終わるまでまとう、コールはまだ頭で鳴っている感覚がある。
モモンガは焦っていた、いや、現在進行形で焦っている。
(なぜ、サイファーさんに『伝言/メッセージ』が繋がらないんだ)
当初の予定ではサイファーの帰還を宣言し、『伝言/メッセージ』でサイファーさんと情報を共有し合い、自分が補佐しながら皆に挨拶して解散、自分の自室で詳しく話をするつもりだったが、まったく繋がらず、予定がくるい、繋がるまで長話をする羽目になり、多少怒りを覚え始めたころ、ある考えが浮かんだ。
(まさか・・・『伝言/メッセージ』のやり方が分からないのか?)
ここはゲームではない、現実なのだから。
「では、サイファーさんから皆に一言お願いします。」
結局、代案が考え付かず近づいて小さい声で知らせるという方法を取ることにした
「え?」
いきなり話を振られ少し動揺しているとモモンガさんが隣まで来て、本当に小さい声で・・・
「さっきから『伝言/メッセージ』を送っているでしょ?、ちゃんとでてくださいよ。」
「あれ、モモンガさんからの『伝言/メッセージ』だったのか、てっきり架空請求系のヤバいやつかと」
「異世界(仮)であるわけないでしょう・・・」
謎のコールの正体は『伝言/メッセージ』だったようだが、この魔法はこんな感じだったかな。
言い終わるとモモンガはサイファーの横に並び、前に出るように指示する。
『でも、NPC相手に何話したらいいんですか?』
早速、『伝言/メッセージ』を使用しモモンガに助けを求めた。
『まずは帰ってきた事を宣言してください、あ、でもNPCは皆忠義心が物凄いですから、なるべく頂点に立つ者ぽい話し方でお願いします』
正直、え~なにそれ~と思ったが周りの熱気がそれを許しそうにない。
まぁ、何とかなるだろ。
深くは考えずに前に進む、何が正解か分からないが始めよう、そう思い言葉をだした
まずは当たり障り無いとこから。
(それがいいですよ、サイファーさん)
「長い事留守にしていたが、この度ギルド長モモンガさんより招集が掛かり戻ってきた。」
サイファーの言葉に嘘はないなぜなら
(まぁ最後だか一緒に過ごそうってギルドのメンバー全員にメールを送ったし間違いではないよな)
「今思えば、此度の招集はナザリック地下大墳墓を異変から守るためだったのだろう」
中々うまいこと言うなぁ、モモンガは少し感心して話を聞いていた。
周りからは誰と知れずナザリックを守るべく、人知れず戦力を集めていたモモンガに対し感歎の声が上がっていた
「まだ話したいことはあるが、今はやるべきこと集中しよう。」
偉ぶるのは初めてだからボロがでそうだしね
「何か質問はあるかね?」
無い事はないなと、皆を見渡していたら、以外にも六階層の守護者の1人、闇妖精のマーレ・ベロ・フィオーラがオドオドしながら手を上げていた。
「言ってみたまえ、マーレ君」
緊張をほぐす為少し口調を柔らかくして質問を許可した
「え、えっと、サイファー様はナザリック地下大墳墓を離れて何をしていらしたんですか?」
「何をか・・・」
少し考え込んでいるとモモンガさんから『伝言/メッセージ』が届いた。
『あまり変なことは言わず、それっぽいことを言って下さい。』
『なかなか丸投げしてきますね。』
『もう少し早く『伝言/メッセージ』が繋がれば色々相談出来たんですけどね』
少し棘のある言い方だが一回コールを無視したたのはサイファーであり非はこちらにあった。
『じゃぁリアルの仕事をそれっぽく言ってあやふやにしてみますんで』
『了解です』
サイファーはリアルの仕事の事を思い出したが・・・これはやばい
会社の命令で日本各地を回り社会に借金がある者から財産を担保代わりに預かるという名の搾取を繰り返すだけの毎日・・・こんなのを話したらモモンガさんからも引かれてしまう
「・・・つまらないことさ・・・本当にね・・・」
話を振っといたくせにまったく答えになっていなかったが引かれるよりましだ
「ご、ごめんなさい、つまらない事を聞きました。」
演技がきいたのかマーレはまたオドオドしながら謝ってきた。
ごめんねマーレ君、全部俺が悪いのに気を使わせちゃって
「マーレよ、謝る必要はないぞ、サイファーさんが何をしていたかは皆が知りたいことだ」
すかさずフォローを入れるモモンガさん。お願い仕事のことは知りたがらないで
「他に話が無ければこれで解散とする、皆、与えられた仕事に戻るのだ。」
よし、終わった
「では、行きましょうかサイファーさん」
「ええ、そうですね」
何処に向かうかは見当がつかないが、取りあえず移動し始めたモモンガさんの後ろをついて行けば大丈夫だろう。
玉座の間から移動しながらある事を思い出した。
「そうだ、一つお願いがあります。」
「いきなり何ですか、まぁ出来る事ならいいですけど」
「何かやる前に朝ごはんを貰えないでしょうか」
笑顔でお腹をさする悪魔をモモンガは微笑ましく思う。
「良いですよ、帰ってきた記念に盛大にしますか?」
「いいね~二人で派手にやっちゃいますか」
二人は笑いながら食事の話で盛り上がっていたが・・・記念、盛大、派手、などの言葉を人前でするべきではないと、このあと後悔する羽目になる。
-------------------------------------------------------
十階層 玉座の間
二人が部屋から出ても、しばらくの間誰も頭を上げずにいたが各々立ち上がり、誰とも無く口を開いた
「ほ、ホントに異変が起きてたね、お姉ちゃん」
「いや、異変じゃないよ、すごいことだよ」
お姉ちゃんと言われた闇妖精のアウラ・ベラ・フィオーラは興奮気味に声をだしていた。
「まさか至高の方の一人がこのナザリックに帰還されていたなんてね」
「しかし、一体、何時の間にナザリックに御帰還されておりんしたのでしょう」
吸血鬼の真祖・シャルティアがあまり正しくない言葉で疑問を口にした。
「ムウ、今マデマッタク気配ヲ感ジナカッタ」
ライトブルーの甲殻の蟲王のコキュートスも何時から居たかは分からないらしい。
「確かに、気配は感じなかったが、大体の時間は予想はできますね」
赤いスーツに身を包ん悪魔の男、デミウルゴスが答える
「一体、いつでありんすか」
「恐らく、我々がアウラとマーレの守護する六階層に集まった時だろう、あの時間はアルベドも玉座から離れていたし、その後モモンガ様の命で私と共に動いていて玉座には帰ってないからね」
「確かにそうね、色々動いて、ここには帰ってないわ、でも、よりにもよって玉座で御就寝されてたなんて」
皆が口を開く前にアルベドは号令をだした。
「モモンガ様の御命令のとうり、皆職務に戻りましょう、あと、セバス」
「分かっております、サイファー様の歓迎はモモンガ様のご要望どうり、盛大にさせていただきますので、一部業務を変更し、一般メイド、プレアデスで対応させていただきます」
「お願いするわね、では職務に戻りましょう」
偉大なる創造主のため行動を開始した。
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九階層モモンガ自室に二人は帰ってきたサイファーは凹んでいた。
モモンガいわく
① ここはユグドラシルではなく異世界である
② NPCはAⅠではなく自分の意志で動いている
③ 忠誠心は多分MAXである
④ 強制終了が出来ず、GMコールも聞かない、である
「マジですか・・・あぁ~」
「すみません、俺が最後だからって誘わなければ、こんなことに巻き込まないで済んだのに」
うなだれるサイファーを慰めようとして、自分自身が光まくっていたが、当の本人は・・・
「俺のPCデータがががっががっが・・・貯金がががががが」
「思ったより大丈夫みたいですね」
「あ、分かりました、もとの世界に対する執着はその程度ですから気にしないでくださいよ」
モモンガさんも同じでしょう?そんな事を聞いてみた。
「まぁ、そうですけど、えらく落ち着いていますね、不安とかないんですか、これからの事とか」
「なんで?、一人ではないし、二人もいるんですよ、大丈夫ですよ、 NPCも意思があるんでしょ、みんなが丹精込めて創り上げた奴らもきっと、頼りに・・・なりますよ」
ハハっと一瞬目を泳がせた
「ちょっと、なんで言葉に詰まったんですか、あと視線も泳いでいたし」
モモンガが詰め寄るとサイファーは気まずそうに
「いや、丹精込めてって言ったら、皆の顔が浮かんで少し不安感が襲ってきて」
その言葉にモモンガは皆の顔と性格、こだわりを思い出し、流れるハズのない汗が流れる感覚がした。
ペロロンチーノの性格、性癖が詰まった第1~3階層守護者、シャルティア
武人建御雷のこだわりが詰まった第5階層守護者、コキュートス
ぶくぶく茶釜の創り上げた第6階層守護者、男装美少女アウラと女装男の娘マーレ
ウルベルトの悪の思想を体現している第7階層守護者、デミウルゴス
そして タブラ・スマラグディナが設定した守護者統括、アルベド
まだ領域守護者、セバス、プレアデス、一般メイドなど、かなりの個性的なメンバーが勢ぞろいしている。
アルベド・・・そうだ、設定を変えてしまった事をサイファーさんに言ったほうがいいのだろうか、この人なら怒ったり呆れれたりはしないだろうが言う事に後ろ髪を引かれる。
「あの、サイ・・・」
アルベドの事を話そうと口を開き掛けたがそれにかぶせる様にサイファーが言葉をだした
「それより、俺達の朝ごはんまだでしょうかね? いい加減腹減ってたまらないんだけど」
そういえば玉座の間から帰ってきて結構な時間二人で話していたが誰かがくる気配がない
「モモンガの旦那、メイドって、どうやって呼んだらいいんですか? 流石に大声で呼ぶのは違いますよね」
「え? どうやってって、俺もそんな経験ないから分かりませんよ」
「なんで知らないんですか、ギルド長でしょう」
「それ関係無いでしょう、こちとらリアルは一般人だったんですから」
「こっちだって一般人ですよ、メイドへの指示の仕方なんて知らないよ」
なんだかんだ言い合いをしていたら扉をノックする音が聞こえた。
「お、来たみたいですよモモンガさん」
一般人である事を言い合う不思議な会話を終わらせ、モモンガは入室を許可した。
「失礼します、サイファー様の御食事をお持ちしました」
お、やっと来たなとサイファーはいそいそと席につき、モモンガを席に手招きし、モモンガもそれに応じ席に着いた。
蓋をされた朝食であろうモノが乗った台車を押しながらメイドが部屋に入ってきたが・・・1台ではなく2台、3台、4台、5台と続いてきたので二人は顔を見合わせた。
メイド達は全く無駄のない動きで机の上に料理を並べ始めたが・・・量が半端ない上に豪華絢爛であった。
その量と豪華さに圧倒され言葉につまり、ご苦労と一言が精いっぱいだった
メイド達は作業を終えると机の側に綺麗に並んでたたずんだ、きっと俺らの命令に何時でも対応できる様にしているのだろう、ホワイトブリム先生の書いている漫画で見た事がある。
「こんな豪華な食事どうやって食べたらいいんだ・・・想像がつかん」
助けを求めるようにモモンガに視線を向けたが・・・
「あ、俺は食事不要の特性がありますから、御1人でどうぞ」
表情は読めにくいが、食事ができない事の残念さ、マナーが分からないから助かった、と二つの感情が何とか読み取れた、まずい、このままではマナーも分からず一人で食事する羽目になり、下手すれば横で見ているメイド達に笑われる恐れがある、何とかこの骸骨の魔王を巻き込まないと・・・恥をかくのが俺一人になってしまう。
「いやいや、不要であって不能ではないからイケるんじゃないの」
望みをかけて聞いてみたが、何重にも策を考えるギルド長に予想済みであったらしい
「残念ですが骨の間から全部こぼれてしまって無理なんですよ」
何がなんでも豪華な食事を取らないようにするモモンガ、確かにナザリックの支配者がマナー知らずと思われるのは得策ではないかもしれない、だがサイファーも一人では恥をかきたくなかったため、何とかモモンガに食事をとらす方法を模索し、ある可能性に行きついた。
「そうです、仕方がありませんね」
「はい、仕方がありません」
勝ちを確信したモモンガをしり目に、サイファーは左手の指に装着した指輪を掲げた
そのアイテムに並々ならぬ因縁があるモモンガは驚愕した
「それは『流れ星の指輪/シューティングスター』それをどうするつもりですか!」
サイファーは『流れ星の指輪/シューティングスター』をかかげながら席を立ちあがった。
「こうするんですよ、モ・モ・ン・ガ・さ・ん! 指輪よ!我が願いを叶えてみせよ!」
次の瞬間、サイファーを中心に美しい光を放つ魔法陣が現れた、その光景に唖然とするモモンガは声を出さずにはいられなかった。
「そんな超レアアイテムを使って何をするつもりですか!!」
指輪を使った張本人はその言葉に答えず願いを叫んだ
「モモンガを漫画の骸骨みたいに飲食可能にせよ!」
指輪が一層強く輝いた、が願いが叶う前に突然魔法陣が砕けてしまった、驚愕した表情でサイファーは叫んだ。
「なぜだ、指輪は間違いなく発動したのに」
ゲームとは違いその万能性は飛躍的に向上していたのが感覚的にはっきり感じられた・・・なのに何かに阻まれた様に阻止された、超位魔法に匹敵する力があるはずなのに・・・
モモンガは呆れた顔でサイファーに言葉を掛けた。
「なに言ってんですか、俺は世界級<<ワールド>>アイテムを所持しているんですよ、超位魔法での仕様変更なんて無駄ですよ」
まったく、貴重なアイテムを無駄づかいしてと、ブツブツ文句を言っていると、目の座ったサイファーがモモンガににじり寄った
「脱げ」
え、何言ってるのこの人は、モモンガが反論するより先にサイファーが飛びかかってきた
「ええから服(世界級アイテム)を脱がんかい、ワレ~」
「え? ちょっ! む、無理やりはやめて~」
「ちょっとだけ、ちょっとだけだから 痛くしないから俺に任せて」
モモンガを床に押し倒し馬乗りになったサイファーは胸元に手を入れ始めた
その場に控えていたメイドなど気にせずにじゃれある二人、サイファーがモモンガを押し倒したという話はすぐにナザリック全域に広がり、守護者統括がサイファー様が良いなら、私も良い筈とモモンガに対して思いを募らせるのであった。
30分後・・・半裸の状態のモモンガはしぶしぶアイテムを外し、サイファーは嬉々と指輪の力を使いモモンガを飲食可能にした。
「これで言い訳は効きませんよ、モモンガさん、さぁ、美味しそうな朝食を『二人』で
いただきましょう」
「・・・・はい・・・」
マナーは分からなかったが、あまりマナーを気にし過ぎても仕方ないと、二人はなるべく丁寧に朝食を開始した、メイド達からの失笑は聞こえなかったため二人は安堵したが・・・昼食、夕食でかなりの苦戦を強いられたが、二人で話しながら食事がしたいと理由をつけてメイドを外に待機させることで事なきをえた。
サイファー「あと一回何に使おうかな~♪」もぐもぐ
モモンガ「食事は美味しいけど・・・食べたのは何処にいくのだろう」もぐもぐ
骸骨がどうやって食べてるかは某海賊漫画の骸骨を参照してください。
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四話目 リフレッシュ
ナザリックに異変が起こり異世界に飛ばされ三日がたった、たった三日であるがモモンガは疲れ果ててた・・・なぜなら。
「私は少しサイファーさんの部屋に行き、分担している作業の確認に向かう」
「了解致しました、すぐに近衛に準備をさせます」
本日の付き人兼メイドのナーベラル・ガンマが当然の如く答えを返すが・・・
(すぐ近くの部屋に行くだけで近衛兵がついてくるなんて、ホントに勘弁してほしいよ)
最初は頃は苦痛は感じなかった、むしろ誇らしく、誰かに自慢したい気持ちのほうが強かったが配下を連れ歩く時はナザリックの主人としての演技をしなければならず、もともと一般人だったモモンガは段々と億劫になってきたのだ。
歩けば会う者全てが深々と頭を下げるし、食事には必ずメイドが側に控えているため
一人の時間が取れないのである
(サイファーさんはその辺どうしてるんだろう、昨日の夕食のあと別れたっきり、今日はまだ会ってないや)
モモンガは今はいない友を思う。
昨日の夕食時、一緒に行動するより別れて確認作業を行ったほうが効率が良いとモモンガが提案しサイファーがそれを了承したため、モモンガがアルベドと組織運営の調整と装備品の確認、サイファーが自身のスキル及びアイテムの効果確認をすることになっているが、一人で支配者のふりをすることに正直精神的な疲労が溜まっている。
「いや、二人で極秘に行いたいことがある。共は許さぬ」
早い話、疲れたからリフレッシュに誘うつもりである。
「畏まりました。いってらっしゃいませ、モモンガさま」
僅かな沈黙が訪れたがナーベラルは頭を下げ了解の意を示した、その姿にすこし良心が傷んだ気がするが
それは、それ。
モモンガは久しぶりの休憩を楽しむため部屋をあとにした。
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「確かここだったよな?」
モモンガはゲーム時代一度も訪れた事のないサイファーの自室前までやってきた、一度も来たことがないのは、サイファーが部屋に招かなかった事もあるが、彼があまり部屋に愛着を持たず、ほとんど別の場所で過ごすことが多かったためである。
そんな訳で、昔からほとんど使ってない自室だが、ナザリックが現実になった事もありこの部屋で寝泊りしたり、アイテムの確認作業を行っているはずだ
「サイファーさん、今、大丈夫ですか?」
扉を数度ノックしたらすぐに扉が開いた・・・もちろん開いたのはサイファーの当番メイド、シズ・デルタであった。
モモンガであることを確認したシズは姿勢を正し深く頭を下げた
「・・・いらっしゃいませ、モモンガ様、本日はどの様な御用件でしょうか」
「うむ、サイファーさんに極秘で話があるのだが、呼んできてはくれまいか?」
このやり取りが終われば自由が待っているそんな面持ちで話を進めたがシズから予想外の答えが帰ってきた
「・・・サイファー様はスパリゾートに御入浴に向かわれました、・・・あとモモンガ様が来たら渡す様にと手紙を預かってます」
シズの答えに半ば思考を放棄し手紙を受け取るモモンガ、精神作用無効は働かないがジワジワとサイファーに対する不満が沸いてきた。
(手紙なんか書かないで『伝言/メッセージ』の魔法を使用したらいいのに、何考えてるんだ)
下らない内容なら少し文句を言ってやろう、そんな気持ちで手紙を読み始めた。
『拝啓、モモンガさま、連絡もなしにお風呂に行ってしまって、申し訳ありません。
しかし、この手紙を読んでいるなら、貴方もすぐにお風呂に来てください、ここに来て早や三日、俺は二つの重大な事に気づきました。
まず1つ、お風呂に入らなかったり、歯磨きをしないとゲームの時と違って身体や服は汚れて臭くなります。
2つ目、これが一番大事な事です、自分ら付きのメイド、いや、ここのNPC全員、俺らがどんなに臭くても、問題ありませんって、真顔で言ってくるぞ、もう一度言うぞ、どんなに臭くても、問題ありませんって、真顔で言ってくるぞ、恐らく忠誠心が高すぎてどんな体臭でも素晴らしい、と考えているかもしれんぞ、モモンガさんも骸骨だからといって油断はしないほうがいいぞ、指輪で食事可能になってから歯は磨いているか?、骨だから老廃物はでないとか思っていてもホントは骨臭いかもしれないぞ、だから早くお風呂にこい』
(なん・・だと)
俺が実は臭い、アンデッドだから汗も掻かないし、老廃物も無いから垢すらない・・・確かにアンデッドだからって、歯は洗って無かったが・・・まさかな・・・精神的動揺がピークに達し精神安定効果が発動し、不安を拭うように近くで待機しているシズに声を掛けた。
「シズよ、私から何か嫌な臭いはするか?」
少し怖いが単刀直入に聞いてみた、手紙の内容が嘘であってほしいが・・・
「・・・いいえ、特に問題はありません、モモンガ様はどんな匂いでも素晴らしいです」
「ありがとう、シズ、業務に戻るがよい」
手紙に書いていたとおりに返答したシズを部屋に戻し、モモンガは扉が閉まるのを確認次第風呂に転移した。
-----------------------------------------------------
「モモンガさん、黙って風呂にいったのは悪かったですって、そろそろ機嫌を直してくださいよ、こっちは肉体がある分ヤバかったんですから」
目の前を無言で歩く漆黒の全身鎧に深紅のマント姿のモモンガにサイファーは言い訳を続けた。
「ホントなんです、口臭なんてヘドロみたかったし、身体もベタベタで、これはヤバいって思ったんですから」
サイファーも何時もの紺色のローブではなく朱黒いクロースを身に纏い、フードを目深く被り左右の角は予め開けられた穴から出していた。
必死に言い訳や謝罪の言葉を口にし後ろを付いてくる友にモモンガはため息をついて立ち止まった。
「次からは些細な事でもゲームとの差異が分かったら連絡すると約束できますか?」
「もちろん約束できます、こっちに来てからハメを外し過ぎました、社会人として、ホウ、レン、ソウは必ず致します」
必死に頭を下げ謝罪する友に大人げない対応を取ってしまったと内心後悔しつつ謝罪を受け入れ、話題を変える事にした。
「色々とありましたけど、俺の我が儘に付き合ってくれて、ありがとうございます」
「ああ、気分転換に外に出たいってやつですね、やることが多くて三日も仕事、食事、睡眠の繰り返しであんまりリアルと変わらない働きっぷりでしたもんね・・・まぁ、豪華な食事に最高級のベッドで睡眠がある分ましでしたけどね」
「へー、ベッドもゲームと違ってるんですね」
不思議そうに尋ねるモモンガにサイファーは歩みを止めた。
「どうやらモモンガの旦那は俺と違って不眠不休で働いている御様子で・・・睡眠も必要な身体に調整をしましょうか?」
何気ないモモンガのセリフの違和感に気づいたサイファーは右手に装備している指輪をモモンガに見せながら詰め寄った。
「いやいや、こんなことに超レアアイテムを使わなくても、それに効果はあと1回しかないんですから、こんな個人的な事に使わずに温存しましょうよ」
サイファーの言葉に両手を振りながら否定するモモンガ、自分もこの指輪を課金ガチャで当てるためボーナスを全額突っ込んだ過去があり、サイファーも少なくない金額を投資した筈である、そんな色んな意味で曰くつきのアイテムをポンポン使おうとする友を制止しようとしたが当の本人は少し真面目な顔で言葉を発した。
「何言ってるんですか、モモンガさんは俺がゲームから離れている間もナザリック地下大墳墓を維持してくれたし、連絡もあまりしなかった俺をギルドから強制脱退にもせず、サービス最終日に集まらないかと声まで掛けてくれたんですよ、3つの願い全て貴方に使っても惜しくはないですよ」
一回目は不発で無駄になっちゃいましたけどね、と締めくくりおどけた顔でポーズまで決めてみせた友の言葉に流れずはずのない涙が溢れてきた感覚に襲われたが、すぐに精神安定効果がその感情を抑制したがそれでも溢れる感情は止まらなかった。
「モモンガさん、何、ぼ~と突っ立ってるんですか? 早く転移して1階層に行きましょうよ、あんまり長い事此処にいたらいくら変装してもばれますよ」
人がせっかく、今までの孤独は無駄ではなかったと感動していたのに、当の本人はもう先に進んでいた
「・・・まったく、お礼を言うタイミングを逃してしまったな、あの人の行動は昔から読みにくいな」
先に進んだ友人を追いかけるようにモモンガも歩き始めた。
-----------------------------------------------
二人でこっそり外の景色を見に行く計画はあと一歩の処で失敗に終わった、なぜなら指輪の力で転移できる最も地表に違い場所である第一階層の中央霊園に第七階層守護者デミウルゴスとその親衛隊たるモンスターが配置されていたからである。
「それで、モモンガ様、サイファー様、近衛を連れずにここにいらっしゃるとは一体何事でしょうか?それにその御召し物」
デミウルゴスに一発で見破られたじろぐ二人だったがサイファーが先に口を開いた
「モモンガさんが二人で行こうと俺を誘ったんです」
さっき良い事を言ってモモンガを感動させた友はいなかった、まさかの裏切だ
「モモンガ様がサイファー様を?」
不味い、横にいる悪魔は目の前の悪魔に俺を売りやがった、なにかこの行動に意味があるようにしなければ
「私がサイファーさんと二人でこのような恰好で内密に行動している訳はお前なら分かるだろう」
考えてもデミウルゴスを納得させる答えはでそうにないから当の本人に考えてもらおう。
「なるほど・・・そういうことですか」
「え、何が?」
せっかくデミウルゴスが納得できそうなのに横の悪魔はそんな声をあげた
「サイファーさん声が漏れてますよ」
モモンガは少し驚きながらサイファーに視線をむけた、サイファーはあっけらかんと答えた。
「まぁ、聞こえて無いからいいじゃない、ばれたからには絶対ついて来ますよ」
「・・・そうですよね」
少し沈んでいるモモンガは一先ず置いといて・・・
「そんなにモモンガさんが心配なら、デミウルゴス、ついてくる?」
「よろしいのでしょうか」
「もう、ばれちゃったしね・・・良いですよねモモンガさん」
「仕方が無い、お前一人なら共を許そう」
モモンガはそれだけ言うと再び歩き始め、デミウルゴスは優雅に笑い頭を下げ先に進む二人の後に続いた。
-------------------------------------------------
「凄いな・・・これがこの世界の夜空か・・・」
サイファーは只々感動していた、綺麗で新鮮な空気、眩いほど輝く星空、自分が生きてきた世界とはまるで違う美しい世界・・・いや、自分たちの世界も昔は綺麗だったと教科書には載っていたが、生まれた時から汚れた世界に住んでいたサイファーは興味もなかったし、ブルー・プラネットの語ったウンチクも話半分だったが・・・
「すいませんブルー・プラネットさん、貴方の話はあんまり好きじゃなかったけど・・・今はいくらでも聞きたいです」
だって、夜空がこんなにも輝いているから・・・ほら、モモンガさんだって我慢できずに『飛行/フライ』の魔法で飛んで行ってし・・・俺らを置いてね。
共をしていたデミウルゴスは飛んで行ったモモンガか、残っているサイファー、どちらに付いていくか迷っている
「俺は此処で夜空を眺めているからモモンガさんに付いて行ってよ」
そう言って、その場に寝ころんだ
「しかし、サイファー様を御1人にはできません・・・」
「いいから、早くいきなよ、一番大事な人はモモンガさんだ・・・俺じゃない」
そうだ、ギルドの事を一番に思っている人が一番大事にされるべきだ。
「・・・わかりました、しかしサイファー様も私達にとって忠義を尽くすべき御方であり、どちらか選べるものではありません」
デミウルゴスは複雑な表情であったがサイファーは笑いながら空を指さした
「わかっているよ、ただ優先順位は考えていてね、でないと今みたいに置いて行かれるよ」
その言葉に何かを悟ったデミウルゴスは一人呟いた。
「モモンガ様はそこまで考えて一人だけ共をお許しになられたのですね、分かりました、では後程」
デミウルゴスは半悪魔形態になり、自らの翼でモモンガを追いかけていった。
「さてと、一人になれたことだし・・・今日はこの星空に包まれて寝ますか・・・」
この世界に来て2度目のネオチを決め込むサイファー、星空に酔いしれ世界征服を宣言した・・・らしいモモンガ・・・
余談だがサイファーが眠り始めて30分も経たずに大地がうねる音と振動に目が覚め、守護者統括の歓喜の雄たけびが響きわたったため、しぶしぶ自室に帰って行った。
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五話目 正義の味方
モモンガ「世界征服をする」悪気無し
デミウルゴス「おぉ!」本気にする
サイファー「zzzz」
なにこれ?
モモンガの部屋に仕事の中間報告に来てみれば、部屋にはセバスが控えておりモモンガは直径1メートル程の鏡の前で何か作業のようなことをしていたが、お世辞にも優雅とは言えず、悪く言うなら不審者っぽい動きをしている。
静かに部屋に入ったサイファーは声を掛けようと思ったが、モモンガは鏡に向かって怪しい動きをしており話し掛けずらかったので、近くにいたセバスに軽く挨拶をする事にした。
「おはようセバス、今日のモモンガ様の御付きはキミかい」
「おはようございます、サイファー様」
セバスはピシッとした御辞儀をし、言葉を続けた。
「本日は私めがモモンガ様の補佐をさせていただいております、昨晩の様に急に御1人で出歩かれましては私共が対応できませぬゆえ、本日は予定を変更して私めが務めさせて頂いております」
執事として立派な振る舞いに見えたが言葉に微妙な棘がある、あと・・・私も一緒に行動していたんだけど
内心自分も一緒にいたよって言いたかったが、どうやらモモンガさんが共無しで動き回ったのがばれているようでそれで少し怒っている様に感じる
セバスのモモンガさんに対する態度は一言で言えば、たっち・みー様を思い出させる、
よくこんな風に睨まれていたなぁ
セバスとの会話もそこそこに、机に持ってきた資料を置き、セバスの怒りが飛び火しないように鏡とセバスに気をとられこっちに気づいていないモモンガをしり目に部屋から立ち去ろうとしたが、やはりモモンガの行動が気になる
「セバス、モモンガさんは何をやっているんだ?」
サイファーは椅子に座っているモモンガを指さし、ずっとモモンガさんに付いているだろうセバスに聞いてみた。
「はい、モモンガ様は昨晩より遠隔視の鏡をナザリックの警戒網作成に用いるため仕様状態を確認するため思考錯誤を繰り返しております」
「へぇ~あんな微妙な物でも使えるのかね~」
攻性防壁で反撃されて部屋が滅茶苦茶にならなければいいけど・・・ん、昨晩から?
「セバス、モモンガさんは部屋に帰って来てから休みや食事は取っているか?」
「いいえ、部屋に御戻りになられてからずっと遠隔視の鏡を使用しております」
このバカ骸骨め・・・人には休め休めってすすめる癖に自分が休んで無いじゃないか
モモンガの仕事中毒ぷりに少しの呆れと怒りが沸いてきた
「ちょっと、モモンガさん!」
「うわっ! いきなり大きな声を出さないでください、てか、何時から居たんですか」
思った通り集中していたモモンガはサイファーが部屋に入って来たことに気づいていないようだった
「ずっといたよ・・・アイテムの途中経過の資料は机に置いてますからね、でもまずは作業を中断して食事に行きますよ、せっかく食べれる様になったのに宝の持ち腐れですよ」
「いや、ちょっと待って下さい、あと少し、あと少しで上手くいきそうなんです」
そう言ってモモンガは遠隔視の鏡に向きなおったが・・・
「ええからブラック企業並の仕事量を減らして休めよ、お前が休まないと部下が休めないだろうが」
サイファーは少し強引にモモンガの襟首をつかみ引っ張っろうとした時
「おっ! なんだか上手くいったようだぞ」
モモンガは上手くいったことに歓喜の声をあげサイファーに笑みを浮かべた
「おめでとうございます、流石はモモンガ様、何も手掛かりの無い状態からここまで自在に操作できる様になるとは」
「なんかわからないけど、取りあえず、おめでとうモモンガさん・・・さ、食事休憩に朝風呂に行こうか」
セバスは感歎の言葉をかけ、サイファーは早く終われよって顔に出てたがモモンガは再び鏡に向き直った
「サイファーさんも隣に座ってくださいよ、これから本腰を入れて人のいる場所を探すんですから」
「人の話聞いてた?、まぁしょうがないですね、セバス、メイドにお茶とお菓子を二人分用意するようにお願いします」
そう注文するとサイファーはモモンガの横に腰をおろした。
「畏まりました。しばしお待ちを」
そう言うとセバスは行動を開始した・・・かと思えばサイファーが遠隔視の鏡について軽くレクチャーを受けているうちに用意は完了していた
「さてモモンガさん、お茶でも飲みながらじっくり腰を据えますか」
サイファーはTVでも視るように鏡に映る風景を楽しみながらお茶に手を伸ばした。
やがてどこかの村らしき光景が鏡に映ったが、あわただしい様子で村人が走りまわっている
「なんか皆慌ててますね・・・あっセバス、クッキーおかわり」
鏡に映る光景にさして興味がもてないサイファーはお茶を楽しみ、モモンガは村の風景を拡大してたら急に不機嫌になっていた
「どうしたんですかモモンガさん?、なにか嫌なものでもありました」
カップに残っていたお茶を飲み干しモモンガに尋ねた
「これですよ」
「ん? どれどれ、っお!」
鏡に映っていたのは村人とおぼしき人々が全身鎧に身を包んだ騎士風の人間に無抵抗に殺されていく様子だった
「どう致しますか?」
セバスが静かにモモンガに尋ねてきたが、モモンガは少し考え、サイファーは笑みを浮かべている
「見捨てる。助けるメリットがないからな」
「何言ってんです、これはチャンスですよ、助けに行きますよ、モモンガの旦那」
「何を考えているんですかサイファーさん! わざわざ問題ごとに首を突っ込んで何かメリットがあるんですか」
「勿論ありますよ」
そう言うとサイファーはティーカップを机に置き立ち上がった
「まず、この村を襲っている騎士っぽいの奴らは自分達の腕試しに使えます」
「そんな、危険すぎますよ、この世界で俺達が本当に強いか分からないのに」
モモンガ達はユグドラシルでは最大Lvの100だったがこの世界の一般人だってLv100かもしれない、そんな不確定要素があるのにおいそれと飛び込んでいけないと口にするが、サイファーは首を振り否定した。
「だからですよ、不安は早めに潰しましょう、こいつらなら殺しても問題ないし、今なら村人から感謝されるおまけ付きですよ、それに、負けそうになったら見捨てたらいいんですよ、縁もゆかりも無い村ですし」
ウキウキと準備運動を始めたサイファーを見て、モモンガはある疑問が沸いてきた
なぜ自分たちは人々が殺されているのを視ても何も感じないのだろう、TVで動物や虫の弱肉強食の様子を視てるような、他人事のように心に響かないのだ、自分だけではと最初は思ったが隣の友人も同じ様であるが、一応聞いてみた
「・・・サイファーさんは鏡の映像を視てどう思いました・・・」
「うん? 最初は興味なかったけど・・・途中から村人を助けるって大義名分のもと自分のスキルの実験ができるって思ったけど・・・何か不味かったですかね」
「人間が殺されているんですよ、他になにか無いんですか」
「いや別に。俺悪魔だし、モモンガさん骸骨だし・・・」
自分が人間であることをすっかり忘れているサイファーはそう言いながら口ごもった、何か不味い事言ったかなと顔に出ていた、モモンガも席から立ち上がりサイファーに近づいた
「しっかりしてくださいよ、俺たちは今は異形種ですけど元は人間だったんですよ」
「あぁ!、そうでしたね、ヤバいですね、生身の肉体がある分モモンガさんよりその辺は鈍いかもしれないです・・・まぁ、それは置いといて、モモンガさん村に行きたいから適当な所に『転移門/ゲート』をお願いします」
「いやいや、まだ行くとは言ってないですよね」
話の流れをぶった切り『転移門/ゲート』を要求するサイファーにモモンガは呆れながら答えた
「えぇ~なんでだよ・・・あ、そうだ、モモンガさん」
「今度は何ですかサイファーさん?」
「セバスがさっきから静かですけど、ど~したんでしょうね」
そう言ってセバスにモモンガの注意を向けたのはたんに自分では説得に時間がかかり村人襲撃イベントに間に合わなくなる恐れがあったためセバスに説得してもらおうという魂胆だ。
彼の創造主はたっち・みーさんだし、恩のあるモモンガさんは彼の意見は無碍にはしないだろうと思ったからだ
「誰かが困っていたら助けるのは当たり前か・・・」
モモンガさんの口からたっち・みーさんのよく言うセリフを口にしたのを聞いたサイファーは自分の意見が採用されると確信した
「セバス、ナザリックの警備レベルを最大限引き上げ、アルベドに完全武装で来るように伝えろ。ただし、真なる無は所持させるな、あと隠密能力に長けた後詰の者を準備せよ」
「畏まりました。しかしモモンガ様の護衛はいかがいたしますか」
「なにを言っているんだセバス、モモンガさんを守る盾はここにいるだろう」
サイファーが笑いながらモモンガの前に陣取った。
「そういう事だセバス。では行きますよサイファーさん、腕は鈍ってないでしょうね」
「大丈夫です。検証の結果『常時発動型特殊技術/パッシブスキル』も『特殊技術/スキル』も問題なく使えますよ」
「頼りにしていますよサイファーさん。では、『転移門/ゲート』」
「では、先に行って後衛職の安全をある程度確保しますね」
そう言ってサイファーはゲートをくぐりこの世界初の戦場に向かった
---------------------------------------------------------
エンリの住むカルネ村は王国の辺境にあるごく普通の小さい村であり年に数度徴税の役人がきたり村の近くの森に薬草を採取する薬師以外は特別な人は来ない静かな村であった
だが、そんな平穏な村はもう戻ってこない、突然現れた騎士によって村人たちは殺され、父は騎士からエンリを守る為抵抗したが、数人の騎士の剣によって斬り殺されてしまった。逃がしてくれた両親のためにも幼い妹――ネムの手を引きながら必死に逃げたが、追いつかれて背中を切られてしまった
「せめて・・・妹だけでも・・・」
無駄かもしれないが妹を守る様に抱きしめたが・・・何時まで経っても自分を殺そうと騎士たちは動かなかった
なぜと疑問に思い頭を上げて回りを確認し、すぐに後悔した。
いつの間にか二人の近くに恐ろしい悪魔が立っていた。
銀で縁取られた、シンプルでありながら気品に満ちた紺色のローブ姿に、人とは思えぬ青い肌に、血の様な赤い髪、左右のこめかみからは金色の大きな角が生えており邪悪な笑みをうかべていた
周りを確認した悪魔は騎士達を指さし口を開いた
どの様な呪詛を吐き出すのかと恐れ、妹をさらに強く抱きしめたがその口から出た言葉は意外なものだった
「罪なき人々を襲う悪魔どもめ、この私が成敗してくれるわ!」
悪魔なのでどのような恐ろしい声かと思ったが、エンリが思っていたより人間らしい声が響く
「な、なにを言ってる! 悪魔はお前だろう」
悪魔から指をさされ悪魔呼ばわりされた騎士は怒りに声を荒げたが悪魔は気にせず続けた
「そうかな、その醜い心、罪なき人々の血で汚れた手、誰が見ても悪魔はお前たちだと思うがね」
そう言って悪魔はせせら笑い、その態度にさらに騎士達の怒気が増していき悪魔に切りかかったいった
サイファーは襲い掛かって来る騎士に対して自身の持つ『常時発動型特殊技術/パッシブスキル』と『特殊技術/スキル』を可能な限り発動し騎士たちの攻撃を待ち構えた。
サイファーはユグドラシルというゲームでも珍しいしカウンター特化型のタンクであり、受けたダメージを反射し相手にダメージを与える戦法を得意としていた
がそれだけではない、自分からの攻撃手段を極端に減らし反射出来る種類を増やした結果、状態異常によるダメージからフィールドダメージまで、自分の受けたダメージはなんでも相手に反射出来るようになっている
そのためHPはトップクラスだがステータスは平均より低く、攻撃手段も通常攻撃位しか無くなっているが馬鹿みたいに高いHPとサイファー自身のプレイヤースキルにより意外にも倒されにくく、集団戦では仲間からの支援と回復によりさらにオチにくい
ゲーム時代、敵対するプレイヤーにヘロヘロに武具を溶かされるか、ぶくぶく茶釜に張り付かれるか、サイファーを攻撃し反射ダメージで自滅するかの三択を迫った時もあるほどである、ちなみに手を拱いていると後衛職から洒落にならない攻撃がまっている
「えぇ~マジかよ・・・よわっ・・・」
サイファーは足元に転がる切りかかってきた騎士の死体を見下ろして呟いた・・・
騎士達を最大限に警戒し待ち構えていたが・・・なんて事はなかった。そもそも騎士達の剣はサイファーにとどきもしなかった、自身の持つ『常時発動型特殊技術/パッシブスキル』の『上位物理無効化』と『苦痛なき反撃』により勝手にその命を散らしたのだ
『上位物理無効化』はLV60以下の敵からの攻撃を無効化し、『苦痛なき反撃』は自身が相手からの攻撃でダメージを負わないとき固定値のダメージを与えるものであり、ここ数年発動したこともないコンボである
「・・・え~とこの後どうするんだっけ」
あっけなく戦闘が終了してしまいこの後の予定が真っ白になったサイファーはキョロキョロと周りを見渡し二人の女の子が目に入った
「そうだった、この子らを助ける名目でこいつらと戦ったんだった」
ようやく頭の整理が出来たサイファーは女の子の近くまで歩いていき(通り道にある死体を踏みつけながら)、腰をおろし目線を合わせた・・・勿論笑顔でね。しかし二人はお互いを抱き合い酷く怯えていた
二人ともこんなに怯えて可哀想に、無理もないかさっきまで命の危機だったんだ、そう思ったサイファーはなるべく優しそうに声をかけ下級ポーションを取り出した
「もう大丈夫だよ、怖い騎士達はいなくなったよ。君はケガをしてるみたいだね、このポーションを飲みなさい」
アイテムBoxから大量に余っている回復薬を取り出し、精一杯の笑顔で怪我をした女の子に差し出した
「ひぃ」
優しくしたのに女の子から短い悲鳴があがる、女の子に拒絶されたショックで心に少しダメージを負ってしまった
転がってる騎士の攻撃より確実に堪える攻撃であった
「飲みますから、どうか、妹の命ばかりはお助け下さい!」
「お姉ちゃん、ダメ!」
「ちょっとネム、離して」
「嫌!」
ポーションをまるで毒物の様に受け取ろうする姉とそれを止める妹の茶番劇をボーっと見ていたがそろそろモモンガさんが来る頃だろうと二人に声をかけた
「なにか勘違いしてるみたいだけど、これは治癒のポーションなんだから早く飲みなよ・・・背中のキズ痛いでしょう」
サイファーの言葉に意を決した姉が一気にポーションを飲みほしたら背中の傷は回復したようだ
「うそ・・・キズが治った」
「いや、そう言ったじゃん」
呆れながら姉の言葉にツッコミを入れていたらゲートから誰か出て来るみたいだ
「あの、危ないところを助けて・・・」
「あ、ちょっと待ってね、もう一人友人が来るから、もうちょい後ろに下がってね」
お礼いを言いかけた姉を制し二人を下がらせた
やがて禍々しいゲートから黄金の杖を持つ骸骨の魔王が現れ、サイファーは側にいた姉妹に魔王を紹介しようとしたら二人はまたお互いを抱き合いながらへたり込んでしまった
解せぬ
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六話目 突撃カルネ村
ゲートから姿を現したモモンガが最初に目にした光景は騎士の死体の近くでお互いを抱き合う様にへたり込んで怯える二人の姉妹らしき少女とその少女達を安心させようと背中をさする悪魔の姿だったが・・・二人の少女に手を回している友はリアルなら即通報されてたかもしれない
「えぇと、大丈夫でしたかサイファーさん」
「ちょっとモモンガさん!そんな怖い顔でいきなり現れないで下さいよ、せっかく落ち着いてきてたのに台無しだよ」
「ちょっと待ってくださいよ、なんで怒られないといけないんですか、状況が飲みこめないんだけど・・・」
抗議の声を上げたがサイファーは聞く耳を持たず二人に「あのおじさん顔は骸骨だけどとっても優しい人だよ」などと言っている・・・誰がおじさんだ、俺はまだお兄さんでも通用するぞと考えたところで真面目にサイファーに現状の報告をさせた
「戦況はどうでしたか?、我々の力は通用しそうですか?」
モモンガの言葉にサイファーは立ち上がり近くまで歩いて口を開いた
「そこに転がっているのしか相手にしていないから詳しくは分からないけど、『上位物理無効化』の『特殊技術/スキル』が破られなかったし『苦痛なき反撃』の固定ダメージで即死っぽいから・・・女の子を追いかけてた奴は使い捨ての雑兵で村を襲っているのが本命かもしれないですね」
「そうかもしれませんね、なら村に行く前に俺もスキルで戦力を増やしますね」
「準備に時間がかかり、申し訳ありませんでした」
サイファーがモモンガの言葉に返答する前にゲートから漆黒の鎧に身を包んだアルベドがあらわれモモンガに頭を下げた。
「いや、これから私のスキルを使うところでな、実に良いタイミングだ」
「ありがとうございます・・・それで、この下等生物はどの様に処分いたしますか?」
アルベドが二人に視線を向ける前にサイファーがアルベドの声を掛けた
「いやいや、せっかく助けたんだから処分したらダメだよ」
「よろしいのですか?」
アルベドはモモンガの方に視線を向け言葉をまった
(えぇ~アルベドさん俺の意見無視してなんでモモンガさんに確認とるの)
気のせいさ、NPCはみんな俺達に優しいはずさサイファーはそう思うことにした
「かまわないさ、今回の目的はそこに転がっている者達を潰し村を助けることだ」
モモンガの言葉に了解の意を示すアルベドから視線を動かし、転がって死体にスキルを発動させた
「中位アンデッド作成 『死の騎士/デスナイト』」
モモンガがスキルの発動を宣言すると近くにあった死体に黒い霧の様なものが死体に憑りつき死体がギクシャクとした動きで立ち上がり全身からドロドロした何かがあふれ出し完全に死体を包み込んみ、形が歪みながら変わり大きさも元の死体より大きく変わりタワーシールドとフランベルジュを装備したデスナイトが生まれた
「ちょっ、モモンガさんこんなにグロいんなら最初に言ってくださいよ」
「いや、俺だってこんな仕様に変わってるなんて知らなかったですよ。 ゴホン、デスナイトよそこに転がっているものと同じ鎧を身に着けている者を殺せ」
モモンガは咳払いをしデスナイトに命令を与えるとデスナイトはうなり声をあげながら村の方に走っていき取り残される三人・・・
「デスナイトって確かプレイヤーの側にいて守ってくれるんでしたよね」
「うん・・・」
「あいつ走って行きましたよ」
「うん・・・」
二人はデスナイトが走って行った方角を見つめながらため息をつき、モモンガはいまだに震えている姉妹に視線をうつした
「ところで、お前たちは魔法というものを知っているか?」
「は、はい。む、村に時々来られる薬師の・・・私の友人が魔法を使えます」
「それなら話が早い、私は魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ」
「俺は違うけどね」
サイファーが手を振りながら笑顔で二人に答えたがあえて無視し魔法を唱えた
「『生命拒否の繭/アンティライフコクーン』『矢守りの障壁/ウォール・オブ・プロテクション・フロムアローズ』」
モモンガが魔法を唱え終えると姉妹を中心に微光を放つドームが作り出された
「守護の魔法をかけてやったからそこにいれば大抵は安全だ。それとこれもくれてやる」
モモンガは二つの角笛を取り出すと二人に放り投げた
「それは『小鬼/ゴブリンの角笛』というアイテムだ、何かあった時はその角笛を吹きゴブリンに助けを求めるがよい」
それだけ言うと、モモンガは歩き出し、サイファーも二人に手を振りながら後に続いた。しかし数歩も歩かないうちに声がかかる
「あ、あの、助けてくださって、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
その声に三人は歩みが止まり涙をにじませながら感謝の言葉を述べる二人にサイファーは振り返り笑顔で返答した
「人間じゃない異業種の俺たちにお礼が言えるなんてエライね」
「・・・気にするな」
「あ、あと、図々しいとは思いますが・・・でも、あなた様達しか頼れる方がいないんです、どうかお父さんとお母さんを助けてください」
「了解した、生きていれば助けよう」
「ありがとうございます!本当にありがとうございます・・・それとお名前は何とおっしゃるんですか」
名前を聞かれモモンガは自分の名前が素直に出てこなかった、代わりに頭に浮かぶのはナザリック地下大墳墓と自らがギルド長を務めるアインズ・ウール・ゴウンの事ばかりであった
ああ、そうだ、俺の名は・・・
「我が名を知るがよい。我こそがアインズ・ウール・ゴウンである」
モモンガがギルド名を自分の名として名乗ったのを聞いたサイファーは少し驚き寂しそうに笑い自分も二人に名乗った
「そして、俺がアインズ・ウール・ゴウン様の友である悪魔王サイファーである」
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モモンガ一行は二人の姉妹と別れた後村には急行せず、村の周りで警戒していた騎士を使って人体実験を繰り返していた。三人の周りには騎士の死体が転がり血の臭いが濃厚に漂っており並の人間なら気分が悪くなりそうなほどであったが・・・この場にいる生者は人外ばかりであるため問題はなかった。
「ね、言った通り誰も上位物理無効化のスキルを突破できないでしょ、アインズ様」
比較的キレイな兜を椅子代わりに座っているサイファーはアインズに声をかける
「確かにそうですね・・・昔は物理ダメージ軽減とかの方が羨ましいと言ってたくせに、あとサイファーさんは別に無理して呼び方を変えなくてもいいんですよ?」
モモンガは騎士の剣を地面に捨てながらサイファーに視線を移した
「いやいや、あの子達やアルベドの前で宣言したんだから公式の場ではアインズ・ウール・ゴウン様と呼ばせてもらいますよ」
「せめて様づけは止めてください、なんだか距離を置かれたみたいで寂しいじゃないですか」
「俺は悪魔なんですよ、ワザとに決まってるじゃないですか」
「ワザとかい!」
死臭漂う場所で談笑している魔王と悪魔だが突如村の方角から角笛の音が聞こえきた
「うゎ! びっくりした、なにこの音?」
「たぶん角笛の音ですよ・・・思ったよりデスナイトが頑張ったみたいだな」
「流石はアインズ様がお作りになられたアンデッド。見事な働きには感服いたします」
「ところでアインズさん、あの子達の両親はどうするの?・・・たしかもう死んじゃってるよね、蘇生でもしてあげるの?」
兜から立ち上がり服の汚れをはたきながらサイファーはアインズに助けを求めた二人の両親のことについて質問したがアインズは少し考え蘇生しない事を告げた
「この世界の事がまだ何も分からない以上下手なまねは出来ないので今はやめておきます・・・村を救っただけで満足してもらおうと思ってます」
「了解した、じゃ、これからどうします? 村はデスナイト1体で十分みたいだし、もうちょっとこの辺りを探索しますか」
「いや、生き残った村人の様子を確認するために村に向かいますけど、ちょっと待ってて下さいね、デスナイトに騎士の生き残りがいるなら残しておくように命令をします・・・あとは・・・」
そう言ってアインズはアイテムボックスから何かを取り出し始めた。
時間が空いたサイファーはアルベドに話を振った
「そういえばアルベド、モモンガさんがギルドの名称を個人の名として名乗るのに不満とか抵抗とかはなかったの?」
サイファーはモモンガがギルド名アインズ・ウール・ゴウンを勝手に名乗ったのに何も反論しないアルベドが気になりモモンガが準備をしている間に聞いてみた
「いいえ、そのような事はございません、至高の御方々をまとめられていた方に相応しいかと」
「そうなの? でも、もともと俺ら四十一人全員を示す名だよ、俺やタブラさんを差し置いて名乗ってるのになんも思わない事はないでしょ」
「・・・一言申し上げますと、私たちをお捨てになられた方が、今まで共にいてくださったモモンガ様を差し置いてその名を名乗られたならば多少なりとも思うところがあります、しかし、他の方々がお姿をお隠しになられたいま、最後まで留まられたモモンガ様であれば、喜びの感情以外ありません」
すっと頭を下げたアルベドに、サイファーは恐る恐る自分の事を聞いてみた
「モモンガさんに呼ばれて帰って来た俺はセーフですか?」
「・・・」
アルベドは頭を上げこちらと目線を合わせたが何も言わなかった。が、その態度でサイファーですら察した・・・
(ヤバい、アウトっぽい・・・)
「いや、なんでもない、誰かが帰って来てモモンガさんに異を唱えるまで、アインズ・ウール・ゴウンはモモンガさんただ一人を指す名だからね」
「畏まりましたサイファー様・・・それに私の愛するお方が、その尊き名を名乗られるとはとても喜ばしい事です」
なんでモモンガさんはアルベドに愛されて、俺は若干嫌われているの? まぁ、ずっとナザリックに通い続けるアインズさんと途中から来なくなった俺では好感度に差が出るのは仕方ないのかな
そう考えているとモモンガさんの準備が完了したようだがその姿を一目見ただけで脱力感に襲われ村に行きたくなくなった
「・・・顔を隠すならもっと良いものがあったでしょう・・・てか、まだ持っていたんですね嫉妬マスク」
クリスマスイブの十九時から二十三時までの間に二時間以上、ログインすると手に入る呪いのマスク・・・いや、実際に呪いのデータは入って無いがユグドラシルプレイヤーのほとんどが呪われていると答える最悪の装備品『嫉妬する者たちのマスク』それを平然と装備する勇者アインズ・ウール・ゴウン
「別になんだっていいでしょう、というかサイファーさんも何個か持っているでしょ」
「いや、あんな不名誉なもの、すぐに破棄しましたよ。てか、アインズさんは何個も持っているんですか」
普通1個あればコレクションとしては十分のはずだが今の発言からするに、この人は何個も所持しているみたいだ
「ええ、持ってますよ・・・毎年デザインが微妙に違うからつい・・・」
二人の間に数秒の沈黙が訪れたがすぐにアインズは魔法を唱え行動を開始した
「では村にいきますよ、『飛行/フライ』」
空中に軽やかに舞い上がり、遅れてアルベドが浮遊するがサイファーだけ飛ぶ様子がない
「どうしたんですかサイファーさん、何か問題でも?」
「いや、俺、高所恐怖症だから飛びたくないんだよ・・・目つぶっているから、アインズさん手を掴んで引っ張ってくれない」
「・・・しょうがないですね、ほら摑まって」
サイファーは差し出された手に摑まり村に向かったが村に着くまでいいしれぬ殺気が全身を襲ったが犯人は分からなかった・・・
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村の上空に付いたが中々悲惨な状況になっていた。広場の一部は水を吸ったかのように赤黒く、複数の死体が転がり、息も絶え絶えて動くのも億劫な人影が四人、デスナイトに殺され『従者の動死体/スクワイア・ゾンビ』になった死体が数体いた。少し数が多いがまあ、構わない
「死の騎士(デス・ナイト)よ、そこまでだ。・・・サイファーさんもう地上だから目を開けて大丈夫ですよ」
サイファーに地上であると声をかけ、生き残った騎士達に威圧てきに声を掛けた
「はじめまして皆さん、私はアインズ・ウール・ゴウンという」
ただでさえ静まり返っていたがアインズの言葉とサイファーの姿に場は凍り付く
「投降すれば命は保証しよう・・・まだ戦うのなら ーアインズはサイファーを指さしー この悪魔も戦列に加わることになるぞ」
その言葉に即座に四本の剣が地面に投げ捨てられ、騎士達は座り込み頭を上げだした
「諸君らには生きて帰ってもらう、そして諸君らの上・・・飼い主に伝えろ。この辺りで騒ぎを起こすな、騒ぐようなら今度はお前たちの国まで死を告げに行くと伝えろ」
騎士達は何度も頭を上下に振り、振り終わると一目散に走り出した
「中々様になっていたよアインズさん」
「・・・この演技も疲れるんですよ」
移動中ピクリともしなかったサイファーだったがやっと軽口を言えるほどには精神が安定したようだ
「さて、キミたちはもう安全だ。安心してほしい」
アインズはある程度村人から距離をおき優しい口調で話はじめた
「あ、あなた様はいったい・・・」
「この村が襲われているのが見えたのでね。助けに来たものだ」
「おお・・・」
ざわめきが起こり安堵の色が浮かぶが不安は完全には消えていないためアインズは交渉の手段を変更した
「とはいえ、ただと言うわけではない、村人の生き残った分だけの金銭を要求したいのだが」
「い、今村はこの様な状態でして・・・」
村人の言葉をアインズの横で黙っていたサイファーが手を上げて中断させた
「ちょっと良いですか、村の外で騎士から逃げていた姉妹を助けて保護していますけど、たしか・・・エンリとネムと言った筈だけど、此処の子ですか」
その言葉に村長らしき人は目を丸くし答えた
「そ、その通りです、二人は生きているのですか!」
「怪我していたけどポーション飲んでピンピンしているよ、後で連れてきてあげるよ」
その答えに村長は驚愕した。人に害悪を与えるはずの悪魔が人を助け、治療までしたという話は聞いたことが無い・・・目の前の悪魔は人を助けたというが本当だろうかという疑いの眼差しをサイファーに向け始めた
その眼差しに気付いたアインズは村長にそれっぽい話を始めた
「・・・あ~、この悪魔はそこのデスナイトと同じく私の魔法の支配下にあります、ゆえに一般的な悪魔とは全くの別物なのですよ」
「そ、そうでございますか」
「では保護している二人を連れてきます、報酬の話はそのあとで」
アインズは村長の反応を待たずアルベドを従え魔法で空を飛んで行いきその場には悪魔のみ残され、村長は恐る恐る声を掛けてみた
「・・・あなた様は一緒に行かれないのですか」
「高いとこは嫌いだから此処で待ってます・・・」
「そ、そうですか・・・」
アインズ達が帰って来るまでお互い気まずい沈黙がながれ、サイファーは思っていたより歓迎されないことを不思議に思っていた
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七話目 嵐の前
村長の家は広場からすぐのところにあり、家に入ると土間の真ん中にあるテーブルと複数の椅子があり、村長に座る様に進められアインズとサイファーは椅子に腰を下ろした
「村長の家のわりに結構ボロイですね、アインズさん」
「・・・確かにそうかもしれませんね」
小声でかなり失礼な事を呟くサイファーだが、今回ばかりはアインズもそう思ってしまう。椅子は体重を掛けるたびにミシリミシリと嫌な音を立てるし、ガントレットを着けているとしてもテーブルの上にのせるたびにガタガタと揺れており、まさに貧しいという言葉が相応しいかった。
「お待たせしました」
そう言って村長が向かいの席に座り、その後ろにいた村長の妻が何か入っている器を二人の前に出した
「どうぞ」
「・・・これって白湯ってやつですか?」
サイファーは目の前に出された白湯を物珍しそうに眺めた、何しろ温めた水ー 白湯 ーを出されたのは初めての経験であったためである
「そ、そうですが、何かお気に障る事でもありましたか」
「いや、白湯を出されたのは初めての経験でして・・・つい口に出してしまいました」
目の前の悪魔に未だに慣れない夫婦は緊張した面持ちで言葉を掛けたが、悪魔は特に気にした様子もなく答えた。その様子をうかがっていたアインズは話を進めるべくきりだした
「・・・さて、そろそろ報酬の交渉をいたしましょうか」
アインズは気を引き締め目の前の村長に向き合った、欲しいのはこの世界の情報であり、決して金銭などではない。だからといって情報を報酬としてくださいと素直に言っても怪しまれるだけだ、村長を言葉巧みに誘導し怪しくない程度に情報を集めなくてはならない、もしも今回の事件が権力者や力ある者が知ればこちらと接触しようとしたとき、この世界について無知だと知られれば何らかのだまし討ちにあう可能性が出て来る
だからこそ警戒は怠れない
その事を念頭に置きアインズは交渉をはじめた
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村長とアインズが交渉をしている中、サイファーは退屈だった。何しろ話はほとんどアインズ主体で進めており
自分は只々二人の話を肴に白湯をチビチビと飲むだけだった。
サイファーは椅子の背にもたれ掛けながら話している二人の様子をうかがう。アインズは村長から話を聞くたびに、なんじゃそりゃ、とか失態だ、とか独り言が漏れておりそのたびに話がいちいち止まってしまう
白湯がもう一杯欲しいが村長の奥さんは席を外してしまっておらず、話をしている村長におかわりを要求するほど空気は読めない訳ではない。
悩んだ結果、仮面を着けて白湯に口を着けて無いアインズの分を頂くべく手を伸ばした時、ドアをノックされる音が響いた
「どうぞ、私も少し休憩が欲しかったところです。出ていただいて構いませんよ」
「申し訳ございません」
村長は軽く頭を下げ席を立っていった
「村長。お話し中すみませんが、葬儀の準備が整ったので」
「構いませんよ私達のことはお気にされずに」
「ありがとうございます、では、皆にはすぐ行くと伝えてくれ」
このやり取りを見ていたサイファーは続きはアインズ一人に任せようと心に誓った・・・決して退屈とか、話に混ざれなかったからではなく、あの人が一番適任だからである
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村はずれの共同墓地で村人の葬儀の様子を離れた場所で眺めていたが、アインズがローブの下で『蘇生の短杖/ワンド・オブ・リザレクション』を撫でていたのに気付いたサイファーは何のために出したのか聞いてみた
「使う気が無い物を取り出してどうしたんですか」
「いや、この世界には死者蘇生の魔法やアイテムは存在するのかなぁと思って。もし無ければ死者蘇生の手段を持つ俺たちは厄介ごとに確実に巻き込まれますね」
「そう思うならアイテムボックスから出さない方が良いですよ、こっちの角度から杖は丸見えですよ」
サイファーの言葉にアインズはギョッっとし、そそくさと杖をしまい込んだ
「あと、もう用はないんだから、こいつを何とかしてくださいよ」
アインズは指をさされたデスナイトに視線を移した。ユグドラシルなら召喚されたモンスターには時間制限が設けられているが、このデスナイトは未だに消えずここにいる。いろいろと推測が成り立つが情報が足りず答えは出ない
「アインズ様。少しよろしいでしょうか」
「ん? どうしたのだアルベド」
「はい、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)がアインズ様にお目通りがしたいということで連れてまいりました」
そう言うとアインズの前に人間大の大きさを持つ、忍者服を着た黒い蜘蛛に似た外見のモンスターが頭をたれアインズに襲撃の準備が終わったから何時でも行けます、とのことだった。アインズは既に問題は解決済みと八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)に伝え指揮を執っているアウラとマーレ共ども待機を命じた
ちなみにサイファーはアルベドにまた声を掛けられなかった事に少しへこんだ
「はぁ、もういいだろう、サイファーさん、そろそろ帰りましょう」
「そうですね、正直ゲームみたいに大歓迎されると思ってたけど期待外れだったな」
先に歩き始めたアインズの後に続く様に歩き始めるサイファーだったがアルベドからピリピリとした空気が立ち込めているのに気付きサイファーは声を潜めアルベドに問いかける
「もしかして、アルベドって人間が嫌いなの?」
「・・・好きではありません、脆弱な下等生物であり、虫の様に踏みつぶしたらどれだけ綺麗になるかと」
「あっ、はい」
アルベドの声は甘い蜜の様な声色だが内容は苛烈で・・・なぜかこちらをじっと見つめており、少し寒気がした
二人の会話を聞いていたアインズはアルベドには似合わない言葉と思い、諭すように声を掛けた
「お前の気持ちは分かるが、ここでは冷静に優しく振る舞え、演技というのは重要だぞ」
アルベドが頭を下げるのをみてアインズは部下の好みも把握するべきと心のメモ帳に書き記した
「ところでアインズさん、帰るなら向こうの茂みで『転移門/ゲート』を使用した方が早いですよ」
「いや、帰る前に一応、村長に挨拶しようかなと思いまして」
「そうですね、おっ、ちょうど広場にいましたよ」
サイファーが指さす方には村長はいたが数人の村人達と相談中の様子だったが緊張感がその顔には浮かんでいた
「また厄介ごとか・・・・どうかされましたか?」
「おお、アインズ様。実はこの村に馬に乗った戦士風の者が近づいているそうで」
アインズはそれを受け、安心させるように軽く手を上げた
「なるほど、任せてください。村長殿の家に生き残った人を集めてください、私と村長殿で対応しましょう」
鐘をならし、住民を集める一方でアインズは怯える村長に明るい声で話し掛ける
「ご安心を、今回はただでお助けしますよ」
苦笑いを浮かべる村長と共にアインズは村の中央の道を走ってくる騎兵の姿に目を向けた
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人々が集まってくる村長の家の中で村人の誘導をするサイファーは自らの地味な役回りに誰にも聞こえないようにブツブツと不満を漏らしていた
「なんで俺は家の中で待機なんだよ・・・確かに村人の護衛はアルベドやデスナイトじゃ難しいけど、何が『悪魔種のサイファーさんがいると戦士風の奴らにあらぬ誤解を与えるかも知れませんから村人の護衛をお願いします』だよ、デスナイトの方がよっぽど印象が悪いと思うけどな」
文句は幾らでも出たが顔や態度には出さず村人達に声をかけて回ったがほとんどの人が疲れと不安で元気が無く、結構な人数がいるはずだが誰も口を開かず黙っており自分の声ばかり響いていた
そんな村人をサイファーは俺らがいるのに辛気くせーと思いつつ窓の外を眺める。広場には騎兵団が集まり隊長格の人間が馬から降りてアインズと何かを話していた、騎兵たちはこの村を襲ってきた奴らと違い装備も格好もバラバラで、まとまりのない傭兵団みたいである
アインズが上手くやってくれるだろう、そう思いサイファーは外を見るのをやめた。その場を離れ辺りを見回し人の多さに辟易していると、ふと二人の姉妹の姿が視界に入った。待つのに飽きたサイファーは話をして時間を潰そうと考えそちらに歩き始めたが姉の方がサイファーに気付き、その場で立ち上がり頭を下げてきた
「すまないな、親を助けられなくて」
「いっいいえ、こちらこそ村を救って下さりありがとうございます・・・」
「いや、困っている人を助けるのは当たり前だからな」
・・・どうしよう暇だから声を掛けたのにもう会話が止まってしまった。良く考えたら親が死んだのに楽しく談笑なんかできる訳ねーだろうが・・・何か、何か話題を変えないと
別にここで会話を切り他に行けばよかったのだがサイファーの中に残る人の心が女子との会話の途切れを恐れ、焦りが支配してゆく
(話題、話題が欲しい、リアルでも親が亡くなったばかりの子との会話なんて一度も無かったし、どう対応するのが正解なんだ、助けなかった俺が『それはお気の毒に。ご愁傷さまです・・・』なんて言えないし、クソ、暇だからって話し掛けるべきじゃなかった。誰か助けて~今、場の空気を変えてくれたら全力で今後の生活の支援を約束するぞ~)
目の前で暗い顔をする女の子の扱いに困り果てたサイファーはかなりテンパっており周りを見渡し助けを求める視線を送るが、家に集まっている人々はそんな元気もない様子であり、サイファーは空気に耐え切れずそそくさと退散しようとしたとき、彼女の妹がその空気を変えてきた
「ねえ、サイファー様は本物の悪魔ですか?」
「ネム、何を言ってるの!!」
妹の爆弾発言にエンリは驚き慌てて口を手で押さえ妹の行為を謝罪しようとしたが目の前の悪魔は笑い、楽しそうに答えた
「そうだよ、正真正銘の悪魔だよ・・・あ、角触ってみる?(よし空気が変わった、ナイス!、ナイスだネムちゃん、もう君は一生助けてあげちゃう)」
サイファーはネムの前でしゃがみ頭の角を突き出しすとネムは物珍しそうに触り始めた
「うわ~、おっきくて、かたいよ、お姉ちゃん」
「こ、こら。妹がすみませんサイファー様」
ネムと違い態度が固いエンリ、これがある程度大きくなった子と子供の違いかな
「いやいや、気にしなくて良いよ。あと別に様づけじゃなくてもいいよ」
「いいえ、そんな事出来ません」
「・・・じゃ、『さん』づけなら呼んでくれるかな?」
「・・・分かりました、サイファーさーーん」
「さーーんって、まぁ、少し間抜けだが最初はこんなもんかな、おいおい慣れていってね」
未だに角にじゃれつくネムだったがサイファーは悪い気がしなかった。何だかんだ言って会話は弾んできており二人に少し笑顔が戻ったことが少しうれしくなった・・・なんか当初の目的がうやむやになってきたが気にしたら負けである・・・
「サイファーさん。ここにいたんですか」
「あれ、アインズさん、表の騒動は片付いたんですか?」
「いえ、その人達は村のためにスレイン法国の部隊に突撃して行きました」
「スレイン法国? ここを襲ったのは帝国兵じゃないの?」
「どうやら王国のガゼフ・ストロノーフを暗殺するための偽装だったみたいです・・・詳しくは移動しながら話しますから」
「え?また移動するの」
もう何もかもがめんどくせーとアインズに訴えたら、後で出番があるから我慢してと言われた・・・まだイベントがあるのか、正直な話し、エンリとネムとある程度仲良くなれたし、ナザリックに帰って夕食にしたいんだけど
「分かりましたよ・・・で、何すんです?」
「これを使うんですよ」
そう言ってアインズは小さな彫刻品を取り出し不敵に笑う
「まだまだ利用できそうな奴らが残っているんです。最後まで参加して行きましょう、サイファーさん」
不穏な話をしながら村の倉庫に村人達と共に移動した
サイファーは退屈な待ち時間を与えてくれたスレイン法国の者をどうしてくれようと考え出番を待つのであった
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八話目 陽光聖典
ガゼフ・ストロノーフが村のため部下を連れ囮となるべくスレイン法国の部隊に向かい、村人達はアインズの指示に従い村の倉庫に集まり身を寄せ合い不安に身を焦がしていた。
倉庫の中心付近にてアインズは魔法により戦士長と法国の特殊部隊の戦闘を観察していたが、視れば視るほど馬鹿らしくなってきた。何故なら敵の主戦力は第三位階魔法にて呼び出す事の出来る炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)が30数体に監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)が1体だけしかおらず、ユグドラシルでは序盤に出て来るモンスターであり、LV100のアインズには雑魚同然であり、最初はブラフかと警戒していたが本当にこれだけのようで肩透かしをくらった気分になるがここはゲームではない慎重に行動する越したことは無い
「敵の戦力は大体把握出来ましたし、もう少し様子を見てから転移・・・って、なに食べているんですかサイファーさん」
アインズが振り返るとシャリシャリと音を立てリンゴをかじるサイファーの姿があった
「リンゴだけど、しかも丸かじり・シャリ・初めてやったけど・シャリ・中々・シャリ・うまい・シャリ・・」
「食べるか話すか何方かにしてください・・・まったく、その緊張感の無さは昔から変わりませんね」
「モグモクグ・・・ゴクン、まあ良いじゃない、本番中のミスは今まで一度も無いんだから」
アインズはあっけらかんと笑う友人を見てふと笑みがこぼれる、ユグドラシルがまだゲームだった頃からサイファーは良くも悪くも緊張感がなく自分のペースをあまり崩さずフラフラしていた、 しかしクエストやPVPとなるとでは自分より味方の安全を最優先に考え行動したりとタンクの仕事はキッチリと行い、普段の態度とのギャップがすごいとよくギルドのメンバーに揶揄われていた
「どうしたんですかボーとして」
「いや、なんでも無いです・・・そろそろ行きますよサイファーさん、話した通りサイファーさんは俺の配下って事でお願いします、あとこの世界の事はまだ謎が多いんですから最後まで決して油断しないで下さい」
「了解いたしましたアインズ『様』、あなた様もタンクである私たち二人から離れすぎないようお願いいたします」
「了解です・・・戦士長も限界のようだし ーそろそろ交代だな。」
アインズの言葉とともにマジックアイテムの効果が発動し三人の姿が消え、代わりに傷つき今にも倒れそうなガゼフ・ストロノーフとその部下たちが姿を現した
「こ、ここは?」
ガゼフの言葉に近くにいた村長が答えを返す
「ここはアインズ様が魔法で防御を張られた倉庫です」
「そ、村長か・・・ゴウン殿はどこに・・・?」
「いえ、先ほどまでサイファー様と話をしておられたと思ったら、戦士長様と入れ替わるように消えてしまいました」
「そうか、あの声の主は・・・」
そこまで言うとガゼフは全身の緊張を解いた。
もうこれ以上することはないだろう、ゴウン殿と話をしていたサイファーという人物は知らないが、どうやらゴウン殿にはもう一人仲間がいたようだ
あの方なら負けないだろう、そう思いながらガゼフは地面に倒れこんだ
------------------------------------------------------
視界が反転し目に飛び込んできたのは薄暗い倉庫の中と違い夕焼けがまぶしい草原であった。草原の光景自体は美しいとサイファーは思ったが、風が吹くたびに血生臭い臭いが鼻に付き少々げんなりした
「初めまして、スレイン法国の皆さん。私の名前はアインズ・ウール・ゴウン。そして後ろに控えているのは私の配下であるアルベドとサイファーです。どうぞお見知りおきを」
アインズの紹介を受け悪魔であるサイファーを視たスレイン法国の部隊は驚きはしたもの大きな動揺は表面上はなかった、動揺が少ないのはサイファーの姿が肌の色と角以外あまり人間と変わらない姿なのも原因の一つだが、サイファーの目の前にいる部隊は亜人の殲滅を基本的任務とする陽光聖典であり、あの程度の悪魔くらいたいしたことないという思いも少しはあったかも知れない
「まず最初に言っておかなければならないことはたった一つ。皆さんでは私には勝てません」
アインズが演技を初め話し始めるとスレイン法国の隊長らしき人物は最初は訝しげに聞いていたがアインズの交渉と言う名の死刑宣告を聞きかなりご立腹の様子だった
「では、サイファーよ、奴らを始末せよ」
打ち合わせどうりサイファーは敵部隊に向かい歩き始め、アインズは見にまわり不測の事態に備える
「くふふ、抵抗したければどうぞ」
サイファーもアインズに負けじと悪魔らしいと思う態度で敵を挑発すると掠れた悲鳴のような声で隊長らしき人物が命令を下して来た
「天使達を突撃させ、あの悪魔を滅するのだ」
命令を受け二体の炎の上位天使が翼をはためかせながら飛び掛かりサイファーに対し迷うことなく手にした炎の剣を突き出した
「さあ来い! スキル(召喚獣の反逆)アンド(弱攻撃の代償)」
サイファーは慌てた様子もなく対召喚モンスター用のスキルを発動させ両手を開き敵の攻撃を待ち構える。
スキル(召喚獣の反逆)は召喚モンスターからのダメージを1.5倍にすることで召喚モンスターのコントローラ-に受けたダメージをそのまま相手に与える効果であり、(弱攻撃の代償)はスキル発動中に受けたダメージが一定値以下の場合固定値のダメージを与える効果であり、この二つを同時に発動する事により弱い召喚モンスターが相手でも召喚者に対して安定したダメージを与えることができるのである
「無様なものだ、所詮はただの悪魔、天使の前ではかたなしだな」
天使の剣に貫かれピクリともしない悪魔を見た陽光聖典隊長ニグンは人知れず安堵の息を吐き出す、アインズ・ウール・ゴウンと名乗る魔法詠唱者が使役している悪魔から強者の威圧を受けたときは焦りを感じたが・・・なんてことは無い天使の一撃で勝負は決まってしまった。
「よし、天使を下がらせ次はあの二人を攻撃せよ」
ニグンの命令とほぼ同時に後方から何かが倒れる音と部下の悲鳴が響いた
「どうしたのだ! 現状を報・・告せ・・・よ」
ニグンの目に映ったのは炎の剣に貫かれ血の海に倒れこむ二人の部下の姿があり、奇妙なのは剣がまるで身体の内側から外に食い破ってきたように身体から突き出ていたのだ。なぜ、天使の攻撃は確実に悪魔を貫いたのに。ニグンは状況が呑み込めず部下たちに動揺が広がり始めたとき背後から声が聞こえる・・・天使に殺されたハズの悪魔の声が
「ふふふ、どうした、俺はまだ死んじゃいないのによそ見ですか?」
「な・!?」
慌てて視線を声の方に視線を向けると無傷の悪魔が笑っていた
「さて、つまらない遊びはそろそろお開きにしようか・・・アインズ様のために死ぬがよい」
サイファーは口が裂けるほどの笑みを浮かべ再び進み始めた
「全天使で攻撃を仕掛けろ! 急げ!」
隊長の言葉に弾かれたように全ての炎の上位天使がサイファーに迫る
「流石に数も多いな。俺が魔法で攻撃しますからサイファーさんはアルベドと共に下がって下さい」
「確かに俺は広範囲攻撃はないからアインズさんにお任せします」
アインズの言葉に素直に頷くと急いでその場を離れようとしたが・・・
(どこまで下がったらいいんだろう・・・)
どの程度離れたら良いかわからないサイファーは取りあえず安全圏にいると思われるアルベドの隣まで飛びのくとアインズを中心に黒い波動が広がり天使たちを消しとばした
「負の爆裂(ネガティブバースト)か・・・やっぱ魔法職は華があっていいな」
ユグドラシル時代は魔法職は専用の指南wikiが作られるほど人気が高く多種多様な構成が出来できるため人それぞれの個性が出てくる職業である
「・・・終わったみたいだしアインズさんの側に戻ろうかアルベド・・・ってあれ?」
隣にいたはずのアルベドは既にアインズの隣に陣取っていた・・・ちなみにサイファーは一言も声を掛けられていない
「・・・ふ、こんな扱いはユグドラシル時代から慣れっこさ・・・」
そうさ、こんな三枚目みたいなあつかいは・・・
多少へこみそうになったがまだ敵は残っている。気持ちを切り替えアインズの側に駆け付けると、法国の部隊は半狂乱になりながら様々な魔法を放ってきたが殆どが一~二位階の魔法であり、アインズはダメージを受けず、なすがままに魔法をその身体に受け入れ静かに相手の魔法を観察し、サイファーはスキルで相手を殺してしまわないようにスキルの調整を行い防御に徹した
「やはりユグドラシルの魔法ばかりだ・・・」
一体だれが教えているのだろう、法国か? それとも別のだれかか?
「うわぁあああ!!」
敵の一人が魔法が効果が無いとさらに恐れおののいた一人がスリング弾をアインズに向け発射したが逆に頭が吹き飛び絶命した
「アルベド、あの程度の攻撃など私には無意味だと承知のはず、お前がスキルを使わずとも・・」
「お待ちくださいアインズ様。至高の御身と戦うのであれば、最低限の攻撃というものがございます、あのような下賤なもの、失礼にもほどがあります」
「ふはは、それを言ったらあいつら自身失格ではないか。ねえ、サイファーさん」
「ア、アルベドさん。俺にも沢山飛んできたからアインズさんみたいに守ってよ」
ここまで来たら自身のプライドなど捨てアルベドに声をかけた。その姿にアインズはサイファーに少々同情した、(すいません俺がアルベドの設定を書き換えたばかりに)そんな二人のやり取りをアインズはただ黙って眺めていた
「これは異な事を申されますサイファー様、あなた様のスキルは攻撃を受けてこそ真価を発揮するもの。私ごときが邪魔をするわけにはまいりません、大変心苦しいのですがこの場合はアインズ様を守るのが先決かと。・・・それに戦場でタンクを守るタンクがおりましょうか」
「あ、はい・・・ソウデスネ」
アルベドのド正論にサイファーはこれ以上の反論をやめた・・・なんていうかアルベドのやつ、まるで主人公に恋するヒロインみたいだな。大好きな主人公は大切だけど主人公の友人はどうでもいいって感じのキャラみたいだ
そう言えば、アルベドを造ったタブラさんはギャップ萌えだったな・・・これがギャップ萌えか・・・少々心にくるぜ
ギャップ萌えの心髄をかなり味わってげんなりとしていたら急に周りが暗くなる。何事かと見上げると監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)が巨大なメイスを振りかぶっていた
「・・・へ?」
「油断しすぎですよサイファーさん」
アインズは呆れたような声をもらし、アルベドはこちらを見ずにアインズを見ていた
監視の権天使はこちらの事なぞ構わず光の輝きを宿すメイスを叩き込む。サイファーがその一撃を真正面から受けると同時に監視の権天使の頭部と思われるところがへしゃげ光の粒子となり消えていった
「バカな・・・なぜ悪魔が死なず天使が殺されるのだ」
「ひいっ」
「ありえるかぁぁぁあぁぁ!!」
敵の部隊から恐怖にかられた大声が響く。不意打ちまでかましておいて、ありえるかって、都合良すぎだろ
「生き残りたい者は時間を稼げ!最高位天使を召喚し奴らを滅する」
敵の隊長が何か喚き、懐からクリスタルの様な物を見せつけるように取り出すと周り部下たちが目に見えて元気になり生気が宿った目を向けてきた
「最高位天使って・・・まさか。アインズさん!」
「ええ、わかってます。おそらく超位魔法以外は封じ込めることができる魔封じの水晶でしょう・・・アルベドはスキルを使用し私を守れ、セラフ級の天使が現れたら流石に本気での対処が必要だ」
「はっ!」
アインズ達が話をしている隙にクリスタルが破壊され光が薄暗くなった草原に輝く、その光はあまりにも強くまさに地上に降りた太陽のようであった
「クソが!アインズさん、まずは防御を優先させます。スキル(リベンジ・ズトーム)発動!」
スキルの発動に合わせサイファーの背部より蝙蝠の翼を思わせる羽を生やし体全身を包み込んだ、よくある羽を使った防御形態でる。
スキル(リベンジ・ズトーム)は自分のHPを半分にし受けたダメージ周囲の味方ユニットのHPを回復しステータスUPの効果を与えるスキルであり、最大の特徴は回復とステータスUPの効果は自身も対象になることであり、一撃で殺されない限り攻撃を受けるたびに回復とバフを行うことができる。しかし幾つかの欠点も存在する、1、HPが半減する事による事故死、2、スキル発動中は移動制限が掛かりその場を動く事ができず、羽に包まっているため視覚情報が入らない事である
視界による情報は得られないが天使の気配は肌で感じることができたが感じられる気配は弱いのが一つ・・・
「アインズさん、敵は情報攪乱の魔法を使っているらしくてドミニオン級一体の気配しか感じません、指示をお願いします」
「・・・・だけです・・」
「何ですって? 良く聞こえません」
指示をお願いしたらか細い声で何か言ってきたが聞こえず思わず聞き返してしまった
「・・・ドミニオン一体だけです」
「え?」
そんなまさか、魔封じの水晶にそんな雑魚を入れるはずが無い、そんな思いを抱きながらサイファーはスキルを解除しその姿を現わすと目の前には威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)が燦々と輝いており、召喚した隊長はドヤ顔で何か語っていたがサイファーの耳には全く届かなかった
後ろを振り返るとアルベドは既に武器を下ろしており、アインズは手で顔を隠していた。
(この世界にきて一番HPを削ったのがスキルの無駄打ちとか・・・ないわ~)
ゲームなら赤っ恥間違いなく一日話のネタにされ、ドミニオンが出るたびに『スキル使わないんすかw』とかイジられるパターンだ
此処にきて心にダメージばかり負ったサイファーは家(ナザリック)に帰りたくてたまらなかった
「善なる極撃(ホーリースマイト)を放て!」
最大の攻撃を望む召喚者の思いに呼応し威光の主天使は魔法威力増幅のスキルを使い魔法を放つ。その威力はまさに圧巻であり、アインズと近くにいたサイファーに対し清浄な青白い光が降り注ぎ対象者を呑み込んでいった
「ははははは、これがダメージを負う感覚・・・痛みか。しかし痛みの中でも思考は冷静であり行動に支障はないな、サイファーさんはどうです?」
「どうですって・・いててて、凄く身体がチクチクした」
魔法攻撃が終わりほぼ無傷の二人はダメージの感覚についての感想を楽しそうに言い合っていたがただ一人だけが怒り空気を切り裂くほど声を荒げていた
「か、かとうせいぶつがぁぁ。わ、私のちょーあいしているアインズ様に痛みを与えるなど・・ゴミである身の程を知れえぇぇ・・・」
かなりご立腹のご様子で捲し立てており陽光聖典の連中はあまりの恐怖に只々立ち尽くすばかりであった
「アインズさん・・go」
「お、俺が止めるんですか!?」
「当たり前でしょ、ちょーあいされてるアインズ様」
しぶしぶ向かうアインズの背を見ながらサイファーは再びアイテムボックスよりリンゴを取り出しかぶりついた
リンゴの芳醇な香りと甘味がこれまでの精神的疲れを癒してくれる気がする
果実の味を楽しみつつこれから始まるであろう茶番劇にサイファーは心を躍らせる
一体どんな無様な姿を晒してくれるのだろう・・・
ほどなくして天使は消え去りお決まりの命乞いタイムが始まったがアインズの腹は決まっているらしく最高のジョークで締めくくってくれた
「確か・・・こうだったかな。無駄な足掻きを止め、そこで大人しく横になれ。せめてもの情けに苦痛なく殺してやる」
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九話目 ある日の日常
サイファーの朝は何時も決まって数個の目覚ましの音で始まりを迎える。リアルでも異世界でも人間でも悪魔でも関係なく朝起きるという行為が苦手なのである
目覚ましの音に無理やり意識を覚醒させるべく寝返りを打ったときゴキっとイヤな音が寝室に響く
「ぐわっ! く首がぁぁっぁ!」
あまりの痛さにベッドの上でもだえ苦しむ、リアルと違い今は頭に立派な角が頭に二本生えているサイファーは角が邪魔で寝返りが打てないのだ。しかし寝起きの意識が混濁しているとき人間の頃の癖でつい寝返りを打ってしまい首を捻ってしまうのだ・・・
「痛い・・・痛いよ~、此処にきて8日位たつけど・・こんなんばっかだよ」
自分の失敗だが誰かに当り散らしたい、しかしこんな事をナザリックのシモベ達にでも聞かれたら間違いなく命で償おうとするだろう・・・冗談でも言えるわけがない
「・・・顔洗ってこよ」
一通り朝の恒例行事を終わらせ備え付けの洗面台に向かい身支度を整える
洗顔、歯磨きを終え今まで着ていた寝間着を近くにあるかごに脱ぎ入れアイテムボックスから今日の装備を取り出す
「わざわざ着替えるのは面倒だけど・・・仕方ないか」
アインズと違いサイファーは悪魔とはいえ生身であるため新陳代謝による汚れが少なからず出てしまうので毎朝着替える必要があるし、間違っても不衛生な姿は見せられない
「ま、こんなもんかな」
今日の装備はダーク系の色合いの貴族風の制服、右肩にある赤いショートマントがポイントだぞ・・・
おかしくないよな、お店でも大した効果も無いくせに結構な値段で売っていたし、それだけデザインに自信があるんだよな
サイファーは鏡を見ながら悩む、センスには自信があるが今のナザリックには正当に服の評価をしてくれる者はおらず(アインズ含む)本当に似合っているのか分からないのだ
「まあ、考えても仕方ないか」
サイファーは考えるのを止め鏡に向かい直し髪をとき、最後にブラシを取り出し角をブラッシングする
角の手入れの仕方が分からないため取りあえず毎朝行っている
身支度を終え主寝室を出ると今日のお付きのメイドが手向かえてくれた。
毎朝違うタイプのメイドが来てくれるのが正直うれしい、アインズさんは一人の時間がなかなか取れないと煩わしいと思うことがあるらしいが俺はそうは思わない、もう一度言う正直うれしい
「おはようございます。サイファー様」
「うん、おはよう」
優雅に挨拶をするメイドは素晴らしいの一言に尽きアインズが嫌がるのが分からない
「アインズさんを朝食に誘いに行ってくるから食事の準備をしといてもらえる」
「かしこまりました。朝食のメニューはいかがいたしましょうか?」
「メニューねぇ・・・あっそうだ、この前食べたサンドイッチってやつにして、それでスープはコーンスープね、それとサラダと食後のコーヒーもお願いね」
一度軽食で出されて以来この2品は大のお気に入りである。サンドイッチはシンプルながら中の具材やパンを変える事により何十種類もの味が楽しめる最高の一品である
コーンスープは甘くて温かくパンとの相性は最高であり何より自分の嗜好にあっているし、素直に美味いと感じる
子供っぽいと言われようがナザリックの料理はリアルとは比べ物にならない位美味く一度食べたらやみつきである
「じゃ、アインズさんを呼んでくるから。後の事はよろしくね~」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ、サイファー様」
メイドが開けてくれた扉をくぐりアインズの執務室にむかうサイファーだが頭の中はアインズ:2食事:8の考えであった
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ナザリック地下大墳墓最高支配者の執務室は豪華であり、室内に置かれた調度品の数々は細かな装飾が施されておりその気品と希少性を漂わせている。この部屋はサイファーの部屋とは比べようも無いほど物に溢れていた
ただの仕事部屋にここまで物が必要かは疑問だが全く物が無い部屋と比べたら何倍もマシなのだろうか
「おはようございます、サイファーさん。良く寝られましたか?」
「おはよう、アインズさん。もちろんバッチリよ」
アルベドと共に黒壇の執務机に向かい書類の確認していたアインズはサイファーの来訪に仕事の手を止めにこやかに挨拶を交わす
「約束の時間には随分早いですけど、こんなに早くにどうしたんですか?」
「いや、一人で朝食を食べるのも寂しいからお誘いに来たんですよ」
「朝食? と言う事はもう朝なんですね」
にこやかに言うアインズであったがサイファーは顔をしかめ注意する
「また徹夜で仕事してたんですか?、会うたびに言ってますけどアンタが休まないと部下も休めないんだよ。人に休め、休めって言う前に自分が休めよ・・・俺みたいにね」
毎日9時間の睡眠をとるサイファーが言うとなぜか説得力が出てくる
「うっ・・・すいません、アンデッドの特性で眠らなくてもいいし、疲労のバットステータスも無いから集中しちゃうと時間を忘れてしまってつい・・」
「ふぅ、このやり取りも恒例になってきましたね。で、その報告書は誰からのです」
アインズの左隣まで移動したサイファーは横から報告書を覗き見る。報告書には万年筆て丸っこい字がびっしり書かれていた
「外で調査をしているアウラからですよ・・・今のところプレイヤーと思われる者との接触はなくて、ナザリックの近くにある大森林の調査は森を抜けて山脈のふもとに広がる湖まで順調らしいですよ」
「ほー、山に湖か・・・一段落着いたら湖の側に別荘でも立ててBBQってやつでもやってみますか、本に書いてたけど凄く綺麗な景色に囲まれてやると美味いらしいよ」
「湖のほとりの別荘ですか・・・いいですねぇ・・」
別荘なんて一部の金持ちしか手に入れる事が出来ず貧乏人には夢のまた夢であったが、今ならいけるんじゃねえ、とアインズは少し空想してしまった。
綺麗な湖のほとりでサイファーや守護者全員でBBQを囲む姿を、想像の皆はありえないほど笑顔であり、男組は缶ビール片手に肉を食べながら笑顔で話をしており、女組は湖のほとりで水を掛け合いながら黄色い声を上げていた
「ぷっくふふふ・・」
皆のありえない姿を想像し笑いが漏れ気分が高揚してくるが楽しい気分は長くは続かなっかた・・・
「・・・ち、せっかく良い気分だったんだがな。こういう時は精神の安定化が煩わしいな」
誰かが口を開こうとしたとき、扉が静かに数度ノックされるとアルベドがアインズの表情を窺い、一礼と共に扉に向かう
「シャルティアがご面会を求めております」
「シャルティアが? 構わない入れろ」
アインズの許可に従い、スカート部分が大きく膨らんだボールガウンを着た14歳ほどの少女が優雅に入室した
「アインズ様、サイファー様ご機嫌麗しゅう存じんす」
「お前もな、シャルティア、それで私達に何用か?」
「もちろん、アインズ様のお美しいお姿を目にするためでありんすぇ」
「え、俺は・・・」
友の漏らした言葉にアインズは頭が痛くなる感覚がした。シャルティアは創造主のペロロンチーノにより様々なエロゲ的要素をぶち込まれておりその一つが死体愛好癖である、サイファーの事を同じ至高の御方と忠誠を誓っているとはいえ、やはり生身のサイファーよりアンデッドのアインズに魅かれるものがあるらしい
「ならば、満足でしょう。下がりなさい、シャルティア。今、私とアインズ様はナザリック地下大墳墓の将来に関して相談しているところなの。邪魔しないでくれるかしら」
「だから俺は・・・」
やはり友の悲痛な声が聞こえる。アルベドはユグドラシルのサービス最終日の最後につい出来心でビッチ設定からモモンガを愛してる設定に書き換えたためサイファーの事を同じ至高の御方として忠誠を誓っていても愛情という楔があるため、サイファーよりアインズを何気なく優先してしまう傾向がある
悩むアインズの前には形容しがたい顔になりお互いを威嚇しあう二人と、どこからか手鏡を取り出し自分の顔をチェックしながら『悪くは無いはずなんだよなぁ』と呟く友の姿が目に入り急に冷静な自分が戻ってきた
「・・・両者とも児戯は止めよ」
瞬間、二人は元の美しい顔に戻り満面の笑みをアインズに向けるがその豹変っぷりに若干引きそうになる
(女って怖い・・あとサイファーさん戻ってきてください)
いまだに顔のチェックをしているサイファーは一時置いといて
「再び聞こう。何用だ、シャルティア」
「はい、これより君名に従いまして、セバスと合流しようと思っておりんす。今後少しばかりナザリックに帰還し難くなると思われんすから、御二人にご挨拶にまいりんした」
「了解した。シャルティアよ、油断せずに務めを果たし、無事に戻ってこい」
これで終わったと思っていたアインズに更なる爆弾発言がサイファーより飛び出す
「これから出発なのか? まだ時間があるんなら、皆で朝食でも取らないか」
その言葉にこの場にいる三人はそれぞれ驚きをあらわし、最初に声を出したのはシャルティアであった
「み、皆と言うからにはアインズ様も入ってありんすか?」
「ん、そうだよ、まぁ簡単だけど壮行会みたいな感じで、あっ急なことだから断っても・・」
「断るなんてありんせん! 是非にお願いしますよ」
「お、おう・・・アインズさんも構いませんね」
興奮気味に迫ってくるシャルティアの重圧から逃れるようにサイファーはアインズに確認を取る
「俺も構いませんよ。場所は決まっているんですか?」
「俺の部屋でと思ってます、人数が増えたけど、まぁ足りない分はすぐに追加出来ると思うよ」
「サイファー様のご厚意大変ありがたく存じます。ではアインズ様、サイファー様。参りましょうか」
「はあ~、アルベドもくるんでありんすか」
「あら? 何か問題でもあるかしら」
せっかく和やかな感じになってきたのだが二人の間に新たな火種が燃え始めたような空気になった
「ええ、私の為の食事会になんでアルベドが首を突っ込むんでありんすか」
「物事は正確に把握するべきねシャルティア、サイファー様は皆と仰られたわ、つまりここにいる4人に向けて言われたのよ」
またしても二人して形容しがたい顔になりながらお互いを威嚇し始め、空気を変えようとサイファーが頑張ってもこのざまである
「アインズさん、Go」
「!! また俺ですか」
いつかの草原でのやり取りと同じようにアインズに全て任せようとするサイファーに精一杯の抗議を上げたが、この状況を収められるのは自分しかおらずしぶしぶ了解した
「じゃ、先に戻って料理の追加を頼んできますので、終わったら来て下さい」
「はぁ、分かりました。また後でうかがいます」
サイファーは美女二人の視界に入らないように注意し扉に向かい歩き始めた。友達を食事に誘うのってこんなに難しかったっけ? と考えながら空腹なのを我慢し部屋を後にした
---------------------------------------------------
目の前の皿からサンドイッチを掴み口に運びながらサイファーは目の前の光景を怨めしそうに眺める。自分の対面はアインズ、その右隣にシャルティア、アインズの左隣にアルベド、自分の隣は空席。お分かりいただけたでしょうかこの惨状を、目の前で片方の美女がアインズにアーンなんてやるともう片方の美女も負けずにアーンってやっている光景が延々と続いていくこの恐怖を、あれほど楽しみにしていたサンドイッチが全然美味く感じず空腹を満たすために口に運んでいる状態だった
・・・しかし最初は怨み辛みがあったが慣れてくるとアインズが逆にかわいそうに見えてくる、アインズは全く自分のペースで食事が出来ず右に左とあたふたしており気を使いまくっていた
その事に気づくと何ということでしょう、飯が美味い、美味すぎて2回もお代わりをしてしまった
最後に食事のコーヒーを飲みながらサイファーは思う・・・・食事に誘うのはアインズだけにしよう、お互いに失うものが多すぎる
目の前の喧騒にコーヒーの苦みがよく合い、心を穏やかにしてくれる。今日もナザリックは平和である
「良い話みたいに纏めないで助けてくださいよ」
「他人の不幸でメシウマ~」
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十話目 明日のお供はキミだ
ナザリック地下大墳墓第九階層に存在する大会議室。大とつく割に円卓の間よりも狭くホワイトボードが一台に長テーブルと椅子が8脚あるだけの名ばかりの一室である。誰かが作りたいから作くりそのまま特に何にも利用されなかったその一室に本日は三名の利用がいた
「第7階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」
「守護者統括、アルベド。御身の前に・・・本日はどの様な御要でございますか」
アルベドとデミウルゴスは自分達を招集した至高の一人であるサイファーへと視線を動かす
「うむ、まあ立ち話もなんだ、椅子もあることだし座らないか」
取りあえず二人に着席を促したが・・・
「いえ、至高の御方と同じ席に座る訳には参りません」
サイファーの気遣いは二人によってバッサリ切られた
話が長くなりそうだからアインズに頼んで会議室を使わしてもらっているのに二人が座ってくれません
「今後の事で相談したいことがあるんだから、お願いでも命令でも何でもいいから座ってください」
「・・・分かりました。では、失礼します」
どうやって座ってもらうか考えたがアインズのように仰々しい物言いが出来ないサイファーは結局頼み込み、二人の着席と共に二人を集めた理由を話し始めた
「この話はまだ極秘扱いだが・・・近日中に俺とアインズさんは冒険者に扮し街でプレイヤーに関する情報収集を行おうと思っている」
「なんと!危険すぎます」
「御二人方だけで向かうなんて危険すぎます!」
アインズの予想どうり絶対に二人だけでは行かしてくれないという強い意思な様なものが感じられた
「まあまあ、落ち着け、アインズさんと話し合った結果、共を一人連れて行こうと思っていてね、君たちに誰が良いか決めてもら・・・」
サイファーが話し終わる前に二人からの立候補が上がった
「その役目、私めにお任せください」
「いいえ、デミウルゴス貴方よりナザリック一のタンクである私の方が御身のご安全を守れますわ」
先ほどとうって変わり二人は誰が同行人に相応しいか熱く討論し始めた、この状況こそサイファーの狙いであった。先日アインズに冒険者にならないかと誘われウキウキに盛り上がっていたところ、二人きりだとナザリックの皆が反対するだろうから同行人を一人連れて行こうという話になり、アインズさんよろしく、いや、サイファーさんも真面目に考えてくださいよ・・・などの話が続き、結果サイファーが同行人を選び、アインズが旅の準備と装備品の確認作業を担当する事になった。
冒険者の仲間を探すにあたって、現在ナザリックの守護者達の半分は外で活動しており、ナザリックの警備の事も考えて選ぶとなるとかなり面倒であるため現在ナザリックに待機している二人に丸投げ・・・もとい助言をもらうため二人を会議室に呼んだのである
サイファーは持参したジュースの缶を開け二人の結論を待っていたが半分も飲まないうちに結論が出たようだ
「ん?もう決まったの」
「はい、つつがなく」
「最終調整に二日いただけましたらナザリックの警備を低下させることなく仕上げてごらんにいれます」
アルベドは笑顔で答え、デミウルゴスは眼鏡を上げながら微笑を浮かべる、二人の顔にはやる気が満ちていた
「で、誰に決まったんだ?」
「私です」
「へ?」
「私です」
「へ??どゆこと、説明してデミウルゴス」
予想外の答えに思わず声が漏れデミウルゴスに答えを求める
「では、不肖ながらご説明いたします。まず初めに御身のご安全を考えますとナザリック最高の守り手であるアルベドこそ相応しく、如何なる状況下でも立ち回れる頭脳も至高の方々の役に立つはずです・・・」
「ほうほう、なるほどね、でも外で集めた情報の統括は誰がやるんだ?」
せっかく集めた情報もそれをまとめる者がいなければ何の役にも立たないのは分かっているはずだが・・・そう考えていると横からアルベドが補足をいれる
「それにつきましては一時的にデミウルゴスに任せ、図書館にいる死の支配者(オーバーロード)達を補佐と再編に回す事により私一人の時より早くなると思われます」
「私の外での仕事も配下の者達に任せられるものは任せますので私への負担もほぼありません」
あんな短時間でここまで話を詰めていたのかよ、頭が良いっていいよな
オホンと咳払いをしデミウルゴスは話を戻す
「そしてアルベドはもうすでにアインズ様達と外の世界の人間と接触しております。その時も正体を知られる事なく村で過ごしアインズ様直々に人間との接触の際の演技指導を受けたそうではありませんか」
そう言えばそうだったかな
「でも、アルベドは人間が嫌いでしょ、アインズさんがいない間に無礼を働いたり、気に入らない人間を虐殺パーティーなんかしないとは限らないし・・・いつだったかなんとか聖典の時にちょっとしたダメージをアインズさんが受けただけで大騒ぎだったじゃない」
「サイファー様!!」
「ひい!」
「私今回の任務の重要性を重々承知しておりますゆえあのような事は今後一切ございませんアインズ様の命とあらばいかようにも態度を変えることも出来ますし好き嫌いも致しませんし決して自身の私欲に走る事なく人間との友好関係の構築にも積極的に関わりを持ち必要なら友と呼べる存在も作りましょうアインズ様の言葉を正しく理解し勝手な行動は慎みますし絶対にそう絶対にアインズ様を失望させない自信がございます私の創造主タブラ・スマラグディナ様に誓い必ずやり遂げアインズ様のご寵愛を得てごらんにいれます」
「わかった、わかった。アルベドに頼むよ」
普段ではありえない距離まで近づいて物凄い顔で自分をアピールするアルベドの迫力に押されついついOKを出してしまった
「ではサイファー様、本日の会議の内容を書面におこしアインズ様に提出させて頂きます」
「ああ、頼むよデミウルゴス・・・もう少しもめるものだと思っていたがあっという間に決まってしまったな。流石は知恵者と知れた二人だな、お前たちを呼んで正解だったよ」
時間にして1時間もかからず終わってしまった、アインズさんには半日以内に候補を選びますって言ったからかなり時間が余ったな・・・よし、今日はよく頑張ったし書類が出来上がるまでゆっくり昼寝でもしようっと
「よし、本日の会議はこれにて終了とする。デミウルゴスの書類が完成したら皆でアインズさんに報告に向かうとしよう。では、各自業務に戻ってくれ」
「「はっ!」」
--------------------------------------------
「へ?・・・サイファーさんこの書類に書いている事は本当ですか?」
「ええ本当ですよ、ナザリックの知恵者二人との協議の結果こうなりました」
自室で冒険に必要そうな物を色々と準備していたアインズのもとへ約束の時間よりかなり早くサイファーとアルベド、デミウルゴスの三人がやってきて冒険の仲間が決まったと書類を持ってきたため作業を一時中断し確認してみるとアルベドで決定と書いてあるではないか、あまりの事に精神が高ぶりと抑圧が繰り返され少し心に余裕が戻ったアインズは三人の顔を見たが、サイファーはドヤ顔で完璧でしょって顔でこちらを見ており、アルベドは今までに無いくらい平静を保っており、デミウルゴスは満足げな様子であった。
「・・・ア、アルベドで間違いないのか、守護者統括である彼女が抜けてはナザリックの安全が危ういのではないのか」
「御心配には及びません、書面14ページに緊急時における対処法からの防衛手段の確保の項がございますので御手数でございますが御確認ください」
「う、うむ」
アインズがページをめくると書面びっしりと細かく緊急時の対応が書かれておりパッと見穴らしき穴は無いように思えてしまう
アインズも転移直後、従者を引き連れて歩くのが嫌でサイファーと勝手に出歩いたという負い目があったため書類に難癖付けて同行を拒否するという選択が取りにくく頭を抱える羽目になっている
(なんかめっちゃ悩んでいるな、俺もあの書類デミウルゴスの説明付きで読んだけど間違いは無いっぽいんだけどなぁ)
どうやらアインズを納得させるにはもうひと押しが必要らしい。 お、そうだ
「アルベド、アルベド」ヒソヒソ
「!・・いかがなされましたサイファー様」
急に話しかけられ少しビクってなったがアルベドがこちらに振り向く
「シー、大きな声じゃ言えないけど、アインズさんを納得させるにはもうひと押しが足りないぽいんだ・・・だからアルベド・・・ゴニョゴニョって感じで説得してみて」
「!そ、そんな大それた事言っても大丈夫なのでしょうか」
アルベドの大き目のリアクションも書類を見ながら悩むアインズや書類の説明に集中するデミウルゴスには気づかれてはいないようである
「間違ったことじゃないから大丈夫だって、OKが出るかはお前しだいだ。頑張れよ」
「・・・わかりました」
サイファーの後押しに意を決したアルベドはアインズに言葉を掛けた
「アインズ様!」
「ど、どうしたのだアルベドそのような大きな声を出して」
予想外の所から予想外の人物から声を掛けられ動揺するアインズ、アルベドは呼吸を整え教えてもらった言葉を発した
「アインズ様、私は確かに人間に対して良い感情は持っておりません。しかしアインズ様の為なら如何様にも対処してご覧にいれます。どうか私を連れて言ってください」
アルベドの言葉に室内は静寂に包まれた。何時までも続くと思われは沈黙はアインズのため息で破られた
「・・・・はぁ~ 良いだろう、同行を許可しよう」
その言葉にアルベドの顔に歓喜の色が見られ、アインズはさらに言葉を続ける
「しかしお前の働き次第ではすぐにナザリックに帰還してもらう。街では細心の注意をはり決して人間を下等生物と侮らず行動せよ」
「この命に代えましてもアインズ様を失望させぬよう務めさせていただきます」
「うむ、ではデミウルゴスは引き続き作業を開始せよ。アルベドはこの後の冒険者としての装備の確認作業に参加するように・・・あとサイファーさんはちょっとこっちの部屋にこようね」
「ファ!!」
いきなり話を振られたと思ったらナザリックの最高支配者から呼び出しを食らってしまった。なんか超怖いんですけど・・・取りあえず呼ばれたので行こう
-----------------------------------------
奥の部屋でアルベドの設定を勝手に書き換えた事を暴露された
「だからアルベドったらアインズさんばかりにかまってたんですね」
良かった嫌われてるわけじゃなくて・・・・
「そうなんです、俺はタブラさんのキャラを汚してしまったんです・・・」
どうやらアインズさんはこのまま三人で行動してたらいずれ俺に不審がられると思って今告白したらしい、人選に不満があるから呼び出されたと思ったよ
「顔を上げてくださいよモモンガさん、俺も一緒に謝ってあげますから」
「ほ、本当ですか、でも許してくれるかなタブラさん」
「大丈夫だって。あの人の事だから半日から1日くらいネタにしてモモンガさんをメンバーに晒し者にするくらいですよ・・・それはそれでキツイっすね」
「・・・ええ、そうですね」
二人の頭の中では大錬金術師といわれた男が「こいつ俺の作ったアルベドを勝手に嫁にしやがったぞ~ねえ今どんな気持ちっぃいぃい」と笑っていた
そんな事を考えも話のネタにし二人の話は湿っぽい話から徐々にこれからの冒険者生活についての楽しい会話に変わっていった
一人ではない事が二人には良かったのかも知れない
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十一話目 冒険者生活の始まり
順調すぎる・・・
それが冒険者となるべくエ・ランテルに来たアインズの正直な感想であった。アインズが後ろを振り返ると、そこには全身を黒の甲冑で完全に覆いアインズとお揃いの真紅のマントを身に着けたアルベドの姿があった、しかしアルベドからはカルネ村の時のようにピリピリした空気は感じられない、むしろリラックスしているような穏やかな空気をまとっており、とても同一人物とは思えぬ豹変ぶりである
「どうしたのモモンさん?」
「い、いや何でもないぞ、アル」
冒険者としての偽名を呼ばれ、同じくアルベドの偽名で返すアインズ。
じっとアルベドを見ていたら当の本人から声がかった、どうやら長く見すぎたらしい。それにしても言葉使いも完璧である・・・ここに来る前にアインズはサイファーとアルベドに自分達は一介の冒険者であり仲間として行動するため変な敬語や態度は辞めようと提案したがやはり忠誠心が高いアルベドは難色を示したがサイファーが何か耳打ちをすると人が変わったようにこの言葉遣いである
(一体何を吹き込んだんですサイファーさん・・・)
「それにしても遅いわね。串肉買うのに何時までかかるのかしら」
「・・・いや、戻ってきたぞ。遅いですよサイファーさん」
冒険者組合で登録を済ませ紹介された宿に向かう途中幾つかの露天商が目に入り好奇心に負けたサイファーが串肉が食べたいなどと言いはじめ、アインズも異世界の料理に興味が無い訳ではないのでつい許可を出してしまったのである
「いや~お待たせ、店のおばちゃんと世間話してたら遅くなっちゃった、でも見ろよ冒険者になりたてって話したら『がんばんなよ』って言って結構おまけしてくれたぞ」
「そうですか宿に着いたら早速いただきましょう」
そう言って荷物を持つサイファーに視線を向ける、彼は冒険者の偽名は名のらないことにしてそのままの名を名のっている
目的はもちろん自分たち以外にいると思われるプレイヤーをおびき寄せるための『餌』である
危険な任務ではあるがこのメンバーの中では一番HPが高く奇襲攻撃などを受けた時の生存率が一番高い為である
その格好はいかにも魔法使いといった姿になっている。1mほどの杖をもち全身を隠す様に赤黒いローブを纏いフードを目深く被り、顔がよく見えないが黒い仮面を被り顔全体を隠しているはずである
「やっぱり今からでも魔法詠唱者って設定止めませんか、その杖だけでは心もとないですし」
そう言ってアインズはサイファーの持つ杖を指さすがサイファーは頑として譲らない
「い~え、モモンが戦士のRPをやるなら俺は魔法使いのRPをやらせていただきます、この超レアの杖がやっと日の目を見る事が出来るんだから」
そう言いながら杖に頬擦りするサイファー、この杖こそかの有名な『流れ星の指輪/シューティングスター』と同列のレア度を誇る杖である。その効果は第三位階までの魔法を10個まで登録でき、しかも杖に込められた魔法は他の杖やスクロールと違い使用回数に制限がなく無限に使え、登録した魔法は何回でも登録しなおす事ができ、状況に合わせた使い方が出来るのだ・・・・
しかし現実は厳しいものである、いくら無限に使えると言っても所詮第三位階までの魔法でありカンストプレイヤーにしてみれば全くのゴミである。これが当たるくらいなら指輪の方が何千倍も嬉しいものであり、課金しまっくったあげく最レア演出でこれが出た日には地獄である
そんな杖だが大勢のプレイヤーが利用方法を考案しても何かの下位互換になり果ててしまい、せっかくの使用回数無限がまったく役に立たないのである、カンストプレイヤーが使うバフ、デバフ魔法でもギリギリ実戦に使えるのが第四位階からであり、回復に使おうにも第三位階では焼石に水であり蘇生魔法も第五位階からである・・・
「そうですか・・・さて、この辺に教えてもらった宿屋があるはずなのだが」
アインズが周囲を見回し宿屋を探してる横でサイファーはアルベドに話しかける
「アルベド、さっきアインズさんとの会話を少し聞いてたけど中々フランクに出来てるじゃないの」
「もちろんよ私の言葉遣い一つでモモンの計画を台無しにする訳にはいかないもの・・・しかし流石はサイファー様、貴方様の言う通りにしただけでお褒めの言葉は頂けるし、このような素晴らしいマントまで授かる事が出来ようとはさすがは至高の御人。尊敬いたします」
そう言いながら自身が身に着けている真紅のマントを愛おしそうに抱きしめるアルベドを見ながらサイファーは苦笑いを浮かべるしかなかった
アルベドがこうなった原因はここに来る前の最終ミーティングで仲間内で様付けなどの敬語はなるべく無くそうと話が出たがアルベドがそれは不敬だと中々折れてくれなかったのでサイファーはダメもとでアルベドに「将来の為の予行練習と思いなさい」と耳打ちすると急に目を見開きこちらを凝視し「よろしいのですか」とか「サイファー様は私を押してくださるのですかと」とか訳が分からない事を言ってきたので適当に「はい」と返事をしたら急にこちらの提案を受け入れたし、同じ黒い鎧を着ているからアルベドにもお揃いのマントをあげたら提案しアインズが了承するとさらに機嫌が良くなった
「二人とも宿が見つかったぞ」
アインズが指をさす方向には確かに宿屋を現わす絵が描かれた看板があった、看板を目的に店を探すのは単純に三人ともこの国の字が読めないからだ。アルベドは「二、三日あれば何とか・・・」と言っていたが俺には到底無理だ
目的の宿を見つけたアインズは少し早足になりながら歩き出す。アルベドとサイファーはそれにつづく、何も問題が無いといいが
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問題が発生した!
思ったより汚くボロイ宿に着いて宿の亭主にアインズが三人で泊まれる部屋を希望したらなぜか店の店主に怒らた
どうやら「新人なんだから大部屋で顔を売りつつ冒険に備えろボケ」って事らしいが正体を知られるリスクを少しでも潰したい俺らには必要ない
それより怖いのがアルベドだアインズが怒鳴られているのに全く感情を露わにせず穏やかな空気をまとっており首元のマントを触りながら静かに笑っていた
そんな別の意味のハラハラを味わっていたら話は終わったらしい
「部屋は二階だそうだ、いくぞ二人とも」
店の連中の値踏みする様な視線を浴びながら移動を開始すると邪魔するように行く手に足が出されサイファーは笑いがこみ上げてくるのを感じた
(今時それかよ、くっぷぷ、あれだろ足に当たったら痛って~なおい、て感じで喧嘩売ってくるんだろ)
サイファーがそんな時代錯誤な行動に吹き出しそうになっている事に気づかずアインズは足を蹴りはらった
「おいおい、痛いじゃないか」
男がドスの利いた声で脅しながら立ち上がる姿にもう我慢の限界である
「ぶっはははははは、もうやめてモモンさん、ぷふはひ~お腹痛いよ~」
いきなり場違いな所から場違いな笑い声が響く、サイファーの笑いの沸点は意外と低いのである。アインズに喧嘩を売ってきた男は顔を赤くするほど怒りサイファーに掴みかかってきた
「何を笑っていやがる、このもやしが!」
「ごめん、ごめん。こんな見事な雑魚でやられ役のセリフを言う人間がいるとは思わ無くてつい・・・」
「んだとこらぁ!、変な角なんか付けやがって!」
男は怒りに任せフードの穴から出ているサイファーの角を掴み左右に引っ張る、その行動に少し腹が立ってきた・・・(全体的に笑ったサイファーが悪いのだが)
「おい、勝手に人の角に触ってんじゃねえよ」
「はぁ、何を言ってんだ、てめぇ?」
実力差も分からぬ男にどうでもいい気分になった
「・・・もういい、じゃあな」
そう言ってサイファーは素早く男の胸倉を掴み男の体を持ち上げる。あまりの事に男は驚きの声しか上げられず、周りの騒動を見つめていた男たちもどよめく、力の無いはずの魔法詠唱者が成人男性を片手で軽々持ちあげているという状況に困惑している
そんな周囲の状態などお構いなくサイファーは足をバタつかせる男を適当に放り投げた(投げる瞬間少し死んだら面倒だなっと思い少し手加減した)男の体は天井近くまで上がり放物線を描きながらサイファーの後ろのテーブルに落下していき女性の悲鳴がこだました
サイファーが男を投げ飛ばしたのを確認するとアインズが口を開く
「・・・で、次はどうする。言っとくが私はそこの魔法詠唱者より力があるぞ」
アインズの言葉は同じ席に座っている男に向けられたものであり、その意味を理解した男の仲間は慌てて頭を下げてきた
「仲間がすまないことをした! 謝らせてくれ!」
「ああ、許すとも私は何の迷惑もかけられていないしな。ただ、テーブルの代金は店主に払っておいてくれ」
「もちろんだ。こちらで払っておくともよ」
ならば話は終わりだとアインズが再び歩き始めようとしたときサイファーの悲痛な声が聞こえた
「た、助けて、モモンさん」
「仲間に助けを求めるな! アンタのせいで私のポーションが割れたのよ!何考えてあんなもんぶん投げつけてくんのよ!」
アルベドは何も問題を起こしていないのにこの悪魔はなんで問題ばかり起こすのだろう。サイファーは見知らぬ女に詰め寄られていた
「ポ、ポーショ、ポーションプリーズモモンさん、なる早でお願いします!」
ほっといても大丈夫そうだ、そう判断したアインズはサイファーを切り捨てる事にした
「では先に行きますねサイファーさん。部屋は二階の一番奥ですので、行くぞアル」
「はい、モモンさん。サイファー自分で買った物は忘れずに持ってきなさいよ」
「は、薄情者~」
アインズは今度こそ部屋に向けて歩き出す。後ろからはさらに女に詰め寄られるサイファーの声が聞こえるがまぁいいだろう
-------------------------------------------
パタリと音を立て木の扉が閉まる。部屋には小さい机が一つ、店主が言っていた鍵付きの宝箱が備え付けられた二つの粗末な木製寝台位しかない粗末な部屋であり、ナザリックの生活に慣れたアインズは軽く失望を覚えてしまうがどうやらアルベドは違うらしい・・・
「くふふ、ここが私達二人の新しい新居・・・」
「違うぞアルベド、サイファーさんを入れて三人だからな」
ナチュラルにサイファーを除外したアルベドにアインズのツッコミが入る
「存じております。右のベッドがサイファーさまで、左が私達二人ですよね」
「アンデッドの私は睡眠を取らないからアルベド一人で使って良いのだぞ」
アルベドと会話しながらアインズは鎧戸を閉めているとドタドタと足音が聞こえ自分達の部屋の前で止まり扉がノックされる狭い部屋だがアルベドに視線を向け開けるように指示し扉を叩く人物に警戒をする、十中八九サイファーだろうが油断は禁物だ
「置いてくなんてひどいよ二人とも、格好つけて女の子に絡まれるなんてまるで間抜けな三枚目役じゃないですか」
「ユグドラシル時代からそうじゃないですか」
「ひどっ!」
「まぁ、それは置いといて結局どうしたんです?」
「ああ、最下級のポーションを一個あげたら納得してくれたようです。はぁ~ポーション三つしか持ってきてないのに街にきて半日も経たないうちに一個消費した」
「まあまあ、取りあえず座ってください。これからの行動を説明しますから」
「ん、もう決まってるんですか」
サイファーは右のベッドに腰かけながら質問をする。ちなみにアルベドはアインズの隣にちゃっかり座っていた
「ええ、決まっています・・・とても重大なことです」
「そ、それほど重大な事が御座いますのでしょうか」
「ま、マジかよ此処に来て初日にいきなりかよ」
サイファーもアルベドもアインズの言葉を固唾を飲み待つ、そしてアインズの口から重々しく告げられた・・・
「・・・金が早くも底を尽きかけている」
場違いな発言を重々しく告げられ漫画のようにズッコケるサイファー、お金がなくとも二人きりなら私は幸せですとさらに漫画みたいな発言が飛び出す。だからナチュラルに俺を省くな俺はイジられキャラじゃないんだぞ
どうやら街にきて初日から働かなくてはいかないみたいだ。どこの世界でも貧乏暇なしらしい
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十二話目 お仕事準備中
冒険者。それはユグドラシルと同じ未知を探求する者達・・・ではない、言葉を濁さずハッキリというなら対モンスター用の傭兵であり組合の依頼をこなしモンスター退治や遺跡の探索などを行い報酬をもらう存在、未知への探索など夢のまた夢である。そんな事を思いながらアインズは冒険者組合にあるクエストボード(サイファー命名)の前で横にいるサイファーに話しかける
「冒険者・・・か、予想以上に夢のない仕事だな・・・」
「まあまあ、いっそ冒険者になったとは考えずにモンハン的なハンターになったと考えれば少しはマシじゃないですか」
「・・・そうですね」
「そうですよ、それより問題は文字が読めないのにどうやってクエストを選ぶかですよ」
そう言ってサイファーは目の前のボードに張り付けてある羊皮紙を指さした
見渡す限り沢山の羊皮紙があるがどれもこれも見知らぬ字で書かれており文字が読めない
この世界の法則の一環か何かにより言葉は翻訳され現地の人間と言葉を交わす事は出来るが文字までは訳してくれなかった
冒険者の登録の時は受付嬢がすべてやってくれたが冒険者になったらそうゆうサービスは無しらしい・・・
アインズの持っている文字解読のアイテムはセバスに渡したままで手元にない、隣にいるサイファーは物持ちが悪く必要無いと思った物はすぐ捨てるため期待は出来ない、しかもアインズと違いもったいない精神も低くかすり傷でもエリクサーを使う様なやつである・・・つまりは自分と同じく役に立たない・・・頼みの綱はアルベドだがナザリックの支配者である自らが「文字が読めないから読んで」など恥ずかし行動はとれない
(くそ、万事休すか、サイファーさんも黙ってないで何時もみたいに空気を読まずにアルベドに「字が読めないけどアルベド分かる?」とか聞けよ)
文字に対する対策をすっかり失念していたアインズはそんな理不尽な事を考えていたが意を決して一枚の羊皮紙を掴む・・・どうか成功しますようにと心の中で数回神に祈りながら
--------------------------------
「サイファー様、アインズ様は何をしておられるのでしょうか?」
「おそらくだけど・・・二人の話から推測するに仕事へのクレーム・・・かな」
少し離れたカウンターで受付嬢と揉めるアインズ、結構な強気の発言で周りにいる同業者の皆さんから敵意に満ちた視線が集まる・・・傍から・・・いや、自分達から見ても仕事のクレームにしか聞こえなかったがアルベドの手前少しオブラードに包んでぼかしたが間違いなくクレーマーだ
別に簡単な仕事でも俺は全然かまわないが・・・むしろ最初はチュートリアル的な子供の使いみたいな仕事でも全然OKなのだがアインズはチュートリアルはスキップするタイプのようだ
若干引気味で話を聞いていたらアインズがこちらを急に指をさしてきた
「後ろにいる私の連れ、サイファーは第三位階魔法の使い手だ」
いきなり何言ってんの!?
アインズの言葉に周りの視線がサイファーに集中する、そして周りの敵意も徐々に薄まりざわつき始める
「そして私もアルも当然サイファーの強さに匹敵するだけの戦士。我々であればその程度の仕事など容易いものだ」
堂々と宣言するアインズ、その姿は自信に溢れており正に強者の佇まいである
「上手いもんだな、さすがは我らのリーダー俺らの評価を上げつつ仕事もゲット、良いことずくめだな、アル」
「はい、さすがは私の愛しいお方。このような掃き溜めの中でも輝いておられます」
「掃き溜めっておい」
アルベドの毒舌にツッコミを入れていると、どうやらアインズの方も終わったらしく受付嬢は立ち上がりアインズは手を上げ自分達を呼んでるようだ・・・いよいよ冒険者デビューか、そう思いアインズのもとに向かうと別の男の声が掛かる
「それなら私達の仕事を手伝いませんか?」
「アン?」
「漏れてる、心の声が漏れてるよ」
アインズの脇に肘でツッコミを入れつつ声の主に視線を向ける・・・そこには四人組の冒険者がおり・・・どうやらプレートの色からして先輩のようだが俺達の様なペーペーに何の様なんだろう
「モモンさん。どうやら先輩達が仕事のイロハを教えてくれるイベントみたいですよ、受けますか?」
せっかく誘導が上手くいったのに余計な茶々を入れやがって、と内心愚痴をこぼしていたがサイファーの言う通りこの世界での冒険はアインズ達も初めてであり常識のすり合わせの事も考え最初は先輩方から教わるのも悪くない、うまくいけばこの地での人脈作りの第一歩に繋がるかもしれない
「先輩方からのせっかくのお誘いですし、一緒にやらせていただきましょう。しかし一体どんな仕事なのか聞かせていただけますか?」
「ええ、もちろん。今部屋を用意してもらいますからそこで話をしましょう」
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サイファー達が案内されたのは会議室の様な部屋であり、中央に木のテーブルが置かれ、その周りを囲むように椅子が置かれている。先輩ら四人組は部屋の奥側の椅子に座り、サイファー達は指示に従い椅子にすわる
・・・当然アインズの隣にはアルベドが腰を下ろす。
4人の冒険者はチーム名を『漆黒の剣』と言い、金髪碧眼の戦士風の男がリーダーのペテル・モーク。皮鎧を纏った金髪の痩せ男の野伏ルクルット・ボルブ。最年少と思われる魔法詠唱者ニニャ。最後に髭を生やした森司祭ダイン・ウッドワンダー
自己紹介の途中に話が脱線し『生まれながらの異能/タレント』の話になりこの街で一番の有名人のンフィーレア・バレアレという薬師の少年はどんなアイテムも使用制限なく使えるという。その話が出たとき隣の二人の空気が若干下がった気がする、おそらくアインズはそのタレントをどうにかして手に入れナザリックの強化に使えないか考え、アルベドは危険人物と判断し人知れず処分する算段でも立てているのだろう。しかし俺個人としてはそんなタレントは欲しくない、一ゲーマーとして制限なしプレイより制限がある中で如何にプレイするか考えて遊ぶほうが好きだからである
「では次は私達の番ですね。こちらのアル。奥にいるのが魔法詠唱者のサイファー。そして私がモモンです。よろしくお願いします」
アインズの紹介に合わせてサイファーも頭を下げる。横目で隣を見るとアルベドもしっかり頭を下げていた・・・ホントにしっかりしてるなこの子、アインズさんも物珍しそうに見てるし
「仕事の話に移りたいのですが、実のところ仕事というわけでもないんです」
「それは・・・」
訝しげに話を聞いてみたらなんてことは無い、街の外にいるモンスターを狩りまくりドロップアイテムをゲットする・・・いわゆるフリーミッションというやつだ、しかも報酬は分割という割の良さ
「・・・そんなわけですが協力をお願いします」
「こちらも問題はありません。協力させていただきたい。それでなんですが共に仕事を行うのですし、顔をお見せしておきましょう」
そういってアインズはヘルムを外し顔を露わにする・・・といっても幻術で作られた偽物の顔だがリアルのアインズの顔に似ているらしい
「南方の方にモモンさんのような顔立ちが一般的な国があると聞いたことがありますが・・・そちらからですか」
「ええ、かなり遠い所から来たんですよ」
意外とおっさんだな。失礼ですよ、おっさんなんて・・
3人のヒソヒソ話にアインズは心にダメージを負った、サイファーは笑いをこらえている
「では私も」
アインズに続きアルベドもヘルムに手をかけるが脱ぐ訳ではなくヘルムの側面にあるスイッチを押す。その瞬間顔の部分だけがパカッと開いた。いわゆるフェイスオープンってやつだ、此処に来る前にナザリックの鍛冶師に特注で作ってもらったものである
アルベドの顔が露わになるとアインズの時のような苦い言葉ではなく、ただただ純粋な好意の声が上がる、その様子を見ていたアインズはさらに苦いものが体にシミわたってくる・・・
「じゃ、最後に私も・・・」
そう言ってサイファーは仮面を外す。マジックアイテムにより一時的に肌の色が人間っぽくなった顔を皆にさらしたが・・・
「アルさんって凄い綺麗な方ですね」
「うむ、正に絶世の美女であるな」
「惚れました! 一目惚れです! 付き合ってください」
「おい、ルクルット」
「ごめんなさい。私にはモモンさんが全てなの」
「い、いや違いますよ、皆さんそんな目で見ないでくれ」
「わかりました。ではお友達から始めて下さい」
「どうしましょうモモンさん」
「・・・・お友達くらいならいいんじゃないか」
「仲間が御迷惑を」
「いえ、かまいませんよ」
誰も見ていなかった・・・あまりの無視っぷりにワザとじゃないかと疑いフードも剥ぎ取り角の生えた素顔をさらしたが・・・・アルべドの美貌に視線が集まったまま固定されおり見向きもされなかった
思い出すなぁ『流れ星の指輪/シューティングスター』を当てた時の事を・・・実は指輪をギルドのメンバーの中で一番に当てたのはこの俺なんだよなぁ。当たった時は物凄く嬉しくてその場にいたメンバー全員に自慢しようとしたんだけど、すぐさまやまいこ先生が一発で当ててみんなそっちに集中しておもいっきし蚊帳の外にされたっけなぁ。
しかも茶釜の姐さんは俺が当てた事に気づいているのに気づかないふりしているし
モモンガさんはやまいこ先生ばかり見ていたし
そんな事を思い出しながらサイファーはいそいそとフードを被り直し仮面を装着した
「あっ!」
仮面を付け終わると同時にペテルが声を発し、仮面を付け終わったサイファーを見て皆が察したようだ
そして先ほどの騒ぎが嘘のようにその場に静寂が訪れた
「では、お互いに自己紹介も終わった事ですし、準備が済み次第出立しましょうか」
沈黙の中サイファーの妙に明るい声が響く、皆が何か声を掛けようとしてくれたが手を振り断った・・・
そっとしておいて
「え、ええ。こちらの準備は既に出来ておりますので、モモンさん達の準備が整いましたら行きましょう」
こうして俺達は立ち上がり、部屋を後にした。食料の代金を少し負担しましょうか・・・とか、荷物は持って上げますいや持たせてください・・・とか、すみませんサイファーさまとか・・・心なしか皆が優しい。
今日は良い冒険日和になりそうだ。
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十三話目 出発
青い空、白い雲、そして心地よい風。どれも大気汚染が進み汚れきったリアルでは在りえないものである。
ある意味とてつもない贅沢を味わいながらサイファーは荷馬車の荷台で空を見上げていた。すると御者の少年から声が掛かる。
「どうしたんですか?ボーっと空なんか見上げて」
「いや、今、途轍もない贅沢をしているなって思いながら雲を見ていたんです」
「贅沢?・・・ああ、お一人だけ馬車に乗っている事がですか」
「・・・ま、そんなとこかな」
そう言いながら御者の少年、ンフィーレア・バレアレに視線を戻す。
ンフィーレア・バレアレ……組合でいきなり名指しの依頼を持ってきたエ・ランテルで一番有名なタレントを持つ薬師の少年。なぜ自分達かと聞いたら酒場での騒動を聞いて興味を持ち、何時も依頼していた冒険者が街を離れたため安くて無名の自分達に声を掛けたらしい。
「モモンさん、この辺りから危険地帯になってきます。そちらも念のため注意をお願いします」
「了解しました」
『漆黒の剣』名指しの依頼を受けるにあたって逆にアインズさんが雇う形にし付いてきてもらった先輩チーム。
まだ出会って間もないのでこれくらいしか情報がない。
あとお詫びとかなんとか言って食料の代金を半分出してくれた・・・ナンデダロウ
サイファーは荷台から身を乗り出し後方にいたアインズに声を掛ける。
「で、モモンさんは何を考え込んでるんですか」
「分かりますか?」
「そりゃぁ何年も一緒にいたら分かりますよ、大方出現モンスターの事やンフィーレア君をどうやって守るか、でしょう」
「半分は正解です、あと対処不能のモンスターが出たら魔法で片付けるとして目撃者をどうするかですよ。初任務で私達以外全滅とか洒落にならないですし」
確かにそれはまずい、だが自分達とは違い職業を偽っていないLv100のアルベドがいるのだから心配は無用だろう。
「大丈夫だって。な、アル」
「はい、モモンさんなら楽勝でしょう」
「・・・アルのこの口調も割と悪くないな、好感がもてる」
ナザリックでのアルベドの態度やお堅い口調と違い、冒険者仲間のアルの割と砕けた口調と控えめなスキンシップに満足したアインズはポロっと口を滑らした。
(ホントに凄いなアルベド、カルネ村では明らかに不機嫌だったのにこうも態度や言葉遣いを変えられるとは)
「アインズ様が私の事好きって、好きって、くぅ~」
アインズの口から好きと言われアルベドは喜びに震え誰にも聞こえない声で呟き体を震わせる。
最初はアインズ様のためとはいえ人間の街で生活する事に不快感があったが・・・今はそんな事は無く幸福感に溢れている。サイファー様に言われ言葉遣いを直したら、アインズ様が変装するモモンとお揃いの真紅のマントを頂くことができたし、人間相手になるべくちゃんとした態度で接したらアインズ様の私への好感度は上がるし、至高の方の一人サイファー様も私がアインズ様の横に並ぶ事を認めて下さり、正に外堀が埋まって行く感覚がする
あぁ、モンスターの襲撃から依頼主を守り無事に任務を終えたらアインズ様からどのようなゴホウビを頂けるのだろう。
黙々と歩く仲間達に、ルクルットが元気に軽い口調で話しかける。
「みんな、そんなに警戒しなくて大丈夫だって。俺がしっかり見てるからさ。アルちゃんなんか俺を信じているから超余裕の態度だぜ」
「ええ、期待していますよルクルットさん(私とアインズ様の幸せのための踏み台として)」
「アルさんより暖かい一言頂きました!」
親指を立てたルクルットに対し、みな笑顔を浮かべ、自然と場の空気は明るいものに変化する。
アインズはアルベドの態度に満足し此処にきてナザリックでの絶対的な支配者でいることのストレスが和らぐ感覚がした。ホント頼りになるなぁ。
そう思いアインズはアルベドの肩に手を載せるとなぜか載せた手をアルベドに握られた。
そんな二人を見ていたルクルットはある質問を投げかけた。
「なぁー。やっぱ、アルちゃんとモモンさんは恋人関係なの」
「こ、っここお恋人!! く、ふふふうう!!」
その言葉と共にアルベドから笑い声が漏れ始め、身体が不自然に揺れ始めたため不安に思ったアインズはつい声を掛けてしまった。
「おい、アルベド」
「ちょっ、何、言ってんの!?モモンさん」
荷台でうたた寝をしていたサイファーは飛び起きつい大きな声を上げた。
その一言でアインズは冷静さを取り戻し「やってしまった」と思ってしまう。ここまで順調すぎてつい口が滑った。
「・・・ルクルットさん変な勘ぐぐりはよしてください」
「あー。失敬。モモンさんではなく、サイファーさんと恋人関係だったんですね」
「違います」
先ほどとはうって変わり冷静にアルベドの口から冷たい言葉が発せられ、一同に沈黙が訪れたが前の方からペテルが声をかける。
「ルクルット。もう無駄話はよして、しっかり警戒してろ」
「了解」
「モモンさん。仲間が申し訳ない。他人の検索は御法度だというのに」
「いえ、かまいません。今回はこちらに非がありますから、お互いに水に流しましょう」
それからしばらくは平穏な時間が過ぎていったアインズはニニャに魔法の事や疑問に思った事を質問しこの世界の知識の吸収に努め、アルベドは誰にも気づかれずにスキルを用いアインズとサイファーの警護を行い、一人荷台に乗る事をなぜか許されたサイファーはまた昼寝を開始し、各々自由に過ごした。
「動いたな」
突如ルクルットから警戒の声が飛ぶ、その声は正に冒険者としてのルクルットでありちゃらちゃらした様子はなかった。
サイファーは荷台より飛び降り森に視線を向ける、そこにはゴブリンとオーガと思われるモンスターの姿が確認できたが……何かがおかしい。
「モモンさん、あいつら姿や装備がバラバラで同じグラフィックの奴がいませんよ」
「なるほど、やはりゲームとは違うという事か」
アインズは森から出てきたモンスターを観察するがやはりサイファーの言うとおり同一個体の姿はなくそれぞれに色が濃かったり、大きかったり小さかったりと特徴が見られる、まさに全てが未知のモンスターである。
「モモンさん。半分受け持ってもらえるということですが、どのように分けますか」
「2チームに分かれてきた敵を適当に、では駄目でしょうか」
「それでは片方に全部集まった場合が厄介です。サイファーさん、(火球/ファイアーボール)などの広範囲魔法で一気にゴブリンを焼き払うことは可能ですか」
「もちろん、何発でもお見舞いしてあげますよ」
「それは心強い、ではお任せします、あとは残ったオーガですが・・・」
「それは私とアルに任せてもらいましょうか、オーガごときに苦労してたなら単なる大ぼら吹きになってしまいます、皆さんには馬車に乗ったンフィーレアさんの護衛をお願いします」
「モモンさん・・・分かりました、とはいえ私達もただ黙っているわけにはいきません。出来る限りの戦闘支援はさせてもらいますよ」
「お願いします、ではペテルさん達の準備がよろしければ戦闘を開始しましょう」
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「・・・すげぇ」
誰かが漏らした小さな言葉にその場にいた誰もが同意する。それほどまでに三人は強かった・・・
作戦通り最初の一撃はサイファーの魔法から始まったがその最初から彼らは桁が違った。
「ではいきますね・・・(火球/ファイアーボール)!」
魔法の詠唱もなしにサイファーが杖を振るうと同時に火球が生まれ空気を熱しながらモンスターに向かい爆発が起きゴブリンが何匹か吹き飛び悲鳴が木霊し予定通りにゴブリンの数が減ったが予想外の事が起きた。
「(火球/ファイアーボール(火球/ファイアーボール(火球/ファイアーボール・・・」
魔力を消費する様子もなく無邪気に魔法を放ち続け、その度にモンスター達から悲鳴とも叫び声とも取れる声が聞こえる。
あらかた焼き尽くしたサイファーは作業に飽きたように声を上げる。
「あとはよろしくモモンさん・・・って、もういないか」
その言葉と同時にオーガの悲鳴が草原に木霊する。
いつの間にか行動を開始したモモンの剣がオーガを切り裂いていたその光景は圧倒的でありオーガほどの分厚い肉体を真っ二つにするほどの剣撃であった。
オーガが悲鳴じみた雄たけびを上げながら手に持つ棍棒を振り下ろすが、その一撃はいつの間にかアインズの傍に立つアルべドによりはじかれた。たまらずオーガの体勢が崩れその隙を逃さずアルベドはバルディッシュを横一文字に振り抜くと綺麗に切断されオーガの上半身は空中で回転しながら下半身とは別の所に落ちる。
その強さと恐怖により動けなくなった残りのオーガを屠るのは二人にしてみれば簡単すぎる『作業』だった。
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(結構・・・いや、かなり楽しいな)
火を囲みながら皆が食事を食べている様子を見ながらアインズは思う。現実世界では当然、そしてユグドラシルでさえできなかったアウトドアという未知の体験、あまりにも楽しくてテントを組み立てながら自然と精神安定が起こるほどであった。
それほどまでにアインズはリラックスしていた。供のアルベドは最初の懸念が嘘のように大人しく、絡んでくる人間(ルクルット)を見事にさばいており安心して見ていられる。
サイファーさんは……うん、まあ、良くも悪くも何時も通りだな。
「モモンさん。いらないならもらってあげましょうか」
その何時も通りの態度で友は空っぽのお椀を膝の上に置き、手をこちらに差し出していた。
「食べますよ・・・ただ・・・」
サイファーのおかげで飲食は可能だがヘルムの下の顔は幻術で作った偽の顔であり食べる時に少し違和感が出てしまうのである。
「ただ? 何か苦手なものが入っていたとか」
一切手を出そうとしないアインズに対しルクルットが問いかけに皆の視線がアインズに集まる
何か良い言い訳は無いものか・・・
「あ~ 宗教的な理由で命を奪った日の食事は四人以上で食べてはいけないというものがありまして・・・」
うまいぞ俺、宗教上の理由なら微妙に納得をせざるを得ない。アインズは心の中でガッツポーズをとったが意外な落とし穴が横に転がっていた。
「でもサイファーさんは普通に食べてますよね」
ニニャの視線はアルベドにお代わりをよそってもらっているサイファーに向けられる。
皆の視線が集まりサイファーの答えを待っている状況である。
「え~、あの、そ、そこは微妙な問題だからあまり触れないで・・・ほ、ほら、アルはまだ手を付けてないし、それで納得して、ね」
しどろもどろであったが皆の顔を見る限り正解だったようだ。
「うむ、宗教の教えを守る守らないは個人の自由である。モモン氏やアル嬢がサイファー氏を咎めないということは御二人が納得しておられるのだろう」
ダインのフォローのおかげで怪しまれないで済んだな。しかし自分で人前では食べられないと言ったが素朴な食事とはいえ、未知の世界の未知の料理か、かなり楽しみだな。
「では私とアルは少し離れた所でいただいてきます。サイファーさんあまり食べすぎないようにしてくださいよ」
私のお代わりの分がなくなってしまいますからね。と冗談半分で場を沸かしアルベドと共にその場を後にした。
後ろの方から楽しそうな話し声が聞こえ少し後ろ髪が引かれるがまずはこの『未知』を体験するのが先だと歩き始めた。
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十四話目 来訪カルネ村
カルネ村。かつて自分達が自分達の都合で助け、自分達の都合で支援をし、自分達の都合で少しずつ発展している村
もちろん村人には悟らせず、あくまでただの支援であると見せかけ色々と実験(軽めのやつ)を行っている村
そんな村にひょんなことから護衛任務でンフィーレア君を連れてきたのだが、良く考えると村を(表向きは)助けに来た三人で来たことに気づいたアインズは変装しているとはいえ身バレを防ぐため森に薬草を採取に行くまではバラバラに行動をしようと提案した・・・・その結果がこれだよ
サイファーは一人でポツンと佇んでいた。依頼主のンフィーレア君は昨日聞いた好きな子の家にいったし、漆黒の剣の皆は思い思いの場所で休んでいるし、アインズさんは村を見渡せるところに行き、アルベドはそれに付いていった
見事に一人ぼっちである
「ふ、ふふうふふう、流石にここまでハブられた事はユグドラシルでも・・・アインズ・ウール・ゴウンでもなかったな・・・」
どうしてこうなった、身バレを防ぐため分かれて行動するのは分かる、だがなぜ俺はハブられているんだ、なぜアインズさんはアルベドが付いて来ているのを知ってるのに何も言わないんだ
昨日の夜だってみんな仲良くご飯食べたし、ボロが出ないように片言だったけど会話をおこない友情っぽいものの欠片くらいは出来たと思ったのに、なぜ村の散策に誘わない、やっぱり初日の『サイファー素顔スルー事件』が尾を引いているのか、やっぱりちゃんと話したほうが良かったのか、初日に馬車で昼寝してろくにコミュニケーションをしなかった俺が悪いのか、夕食を四杯もお代わりしたのがいけなかったのか
・・・おのれ人間どもめこの俺の心をこうもかき乱すとは、悪魔はほっとかれるのが一番心にくるのだぞ
カルマ値0の中立のはずが若干マイナス値に下方修正されかかったとき、後ろからサイファーを呼ぶ声が聞こえる
「やっぱりサイファーさんだ、なにやってんの」
「ん、その声、ネムちゃんか」
振り返ってみるとそこには幼・・・笑顔の少女がいた
「一応正体は隠しているのに良く分かったね」
「だって頭の金色の角が目立ってんだもの」
「・・・つの・・・」
「うん、つの」
この少女にとって角=サイファーなのだろうか、確かに最初来た時に触らせてあげたけど、他に特徴があっただろうに、例えば・・・えーと・・・肌の色とか・・・うん、言ってて自己嫌悪になりそう
「まあ、それは置いといて、俺の正体が分かったのって君だけ?」
「ううん、多分私だけだとおもうよ、他の人は角なんか見てないし」
「そっか、それは良かった」
完璧に変装したつもりだったが、まさか角のせいで身バレするとは・・・弱ったな他の村人にもバレたとなると一緒にきているアインズに申し訳が立たん
しかし正体が即バレしたとはいえこの子が来てくれて助かったな、もう少しでボッチの寂しさでカオスに堕ちるとこだったぜ、おかげでカオスによらずロウに傾くことができた
「所で相談なんだが俺の正体はしばらく秘密にしてほしいんだ」
「どうして?変装しなくってもこの村の人たちはサイファーさんを追い出したりしないよ」
おお、小さいのにそんな気遣いが出来るのか・・・じゃなくて
「いや、そうじゃないんだ、俺は今人間の冒険者をやっているわけで悪魔と知られたら大変なんだよ。もちろん黙っていてくれたら良いものをあげよう」
「いいもの?」
「そう、これだ」
そう言ってサイファーは小さい苗木を取り出しネムに渡す
「サイファーさん、これは?」
「リンゴの木の苗木だよ、育て方は簡単だから良く聞いてね」
『鮮血色の林檎の苗木』
その名の通り大きくなると血の様に赤い実をつける果樹であり、その実は酸味が少なく甘さと香りが強いのが特徴である。育て方は簡単、畑に植えるだけ、水も肥料も要らず植えたら15日で木になり直径15cmの実を10~15個つける、実を収穫してから3日経つとまた収穫でき、要らなくなると切り倒し木材にもなる優れもの・・・という設定の食材系アイテムである
このアイテムをチョイスした理由は単純にあげた本人が林檎を食べたいからである
「すごいよ!サイファーさん、こんなに凄いのもらっちゃっていいの!?」
昔生産系のメンバーに「余ったからあげる、え?いらない、偉くなったもんだな!」って半ば無理やりもらったものだったが喜んでもらえたようだ
ちょっと大げさすぎるけど
「もちろん・・。じゃ、一緒に植えに行こうか。どこか良い場所はあるかな?」
「んーんと、じゃぁ私ん家の横に小さいけど畑があるからそこにしようよ」
「よし、じゃあ案内をよろしく」
「うん!」
何だかんだ言ってボッチ化は避けられ良い時間つぶしができるな。
笑顔の少女に手を引っ張られながらサイファーは目的の畑を目指し歩いていく
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森、森、森、木、木、木、草、草、草・・・嫌になる
ネムとの植樹を終えた後ついに依頼である薬草摘みのため森に入ったがサイファーは30分もせず嫌になってきていた
最初は歩きやすい林程度だったため軽くピクニック気分であったが徐々に道はなくなり草はボーボーで歩きにくいし、木は高く伸び太陽の光を遮り若干薄暗いし、変な虫はいるしで現代っ子で育ったサイファーは今は遠き環境の整ったナザリックを思い浮かべるのであった
しかも今現在アインズに連れられンフィーレア君や漆黒の剣のメンバーから離れたとこにきている。正直こんな所で内緒話は勘弁願いたいが俺もNoとは言えない日本人らしく付いて来てしまった
「で、こんなトコにきて何の相談なんですかね」
サイファーはマントに着いた何かの糸みたいなものをはたきながら質問する
「いや、ここで俺達の名を上げる打ち合わせをしようと思いましてね」
「名を上げる~、アイテムBOXの中にしまい込んだレアな薬草でも発見しました~って持っていくの」
その作戦なら要らないアイテムを処分でき名を上げる事も出来るで一石二鳥だが、最後に収穫したレア薬草は4年前くらいからアイテムBOXにあるが大丈夫なのだろうか
「いえ、森の賢王と戦おうと思います」
「え~、でもその賢王ってこの辺りを支配しているから倒すと村が大変になるってンフィーレア君が言ってましたよね」
「別に殺しても後からナザリックからそれっぽいのを連れて来れば良いだけの話です・・・話が逸れましたけど、つまりゴブリンやオーガ程度のモンスターでは不足なんです、彼らがモモンという冒険者の偉業を言い広めてくれる際オーガより森の賢王を撃退の方がインパクトがありますから」
「ハイハイ、で、その賢王をこの広い森から探す方法は?、アルベドも流石に感知は出来ないだろう」
「ご心配には及びませんサイファー様、既に手は打ってあります」
いつの間に、サイファーが問いかけたときに上の木から声が聞こえてきた
「はーい。ということであたしが来ました。」
「アウラちゃん! 一体何時から」
「はい。サイファー様達が森に入った時からです」
確かアウラはビーストテイマー兼レンジャーだったな、この格好に変装した時から常時発動系のスキルはほぼカットしていたから全然気付かなかった
「ということであたしが森の賢王なる魔獣を発見し、アインズ様達にけしかければよろしいんですね」
「その通りだ。アウラ、心当たりはあるか」
「ええ、大丈夫です多分あいつだと思います」
「よし。ではアウラ。任せたぞ」
「はい!」
元気よく立ち去ったアウラをしり目にサイファーはある言葉をアインズにぶつけた
「マッチポンプぇぇ~」
「ち、違います、こ、効率の良いさ、作戦です・・・よ」
皆のもとに戻るまでアインズさんは目を合わせてくれませんでした・・・
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森の賢王早く来てくれ。俺の心は挫けそうだ・・・
皆に合流した俺達は早速薬草の採取に取り掛かったが・・・最悪だ。
草を引き抜くため膝を地面につけて屈んだら膝が泥で汚れてしまいブルーになる・・・薬草を引き抜けば草の変な汁が手にかかりべとべとする・・・キタナイナァ
小さいころから自然なんて夢のまた夢で暮らし、ゲームでは服や身体は汚れなかったから地面に這ってでもレアアイテムを探せたが今はゲームではない
まさか此処まで自分が軟弱な現代人だとは思わなかった、アインズさんは平気みたいだけど、何でだろう、やっぱりアンデッドと生身では感じ方が違うんだろうか
そんな事を考えていると急に森の空気が変わる
警戒していたルクルットは険しい顔になり周りに注意を促す・・・それからは流れ作業の如く
①賢王だ、撤収しよう
②モモンさんお願いします
③分かりました 以上
「全員逃げてしまったけど、誰が賢王って判断するの」
「・・・証拠として足の一本くらい切り飛ばすか?」
「良い考えと思います。しかしアインズ様のお手を煩わせる訳には参りません、その時はこの私、アルベドにお任せください」
「・・・って、サイファーさん何突っ立ってるんですか」
一応剣を構えているアインズとアルベドに対し全くの無防備のサイファー
「いや、賢王って言うくらいだから不意打ちみたいなことはしないでしょう、ど~せ最初は上から目線の嫌味に決まってますよ、こういうキャラはユグドラシルでもそうだったじゃないですか」
たしかに、ユグドラシルでもイベント戦闘の前は長い前置きから始まっていな・・・
サイファーの言葉に少し肩の力が抜けたアインズ
「大丈夫だっ!!ぶべらはうy~」
言い終わる前にサイファーの顔面にかなりの速度をもった質量のあるものがぶつかり木々を倒しながら吹き飛んでいった
「サイファー様!?・・・おのれ!下賤な獣風情が至高の御方であるサイファー様に手を上げるとは!!」
アルベドの身体から物凄い怒気があふれ出し、無礼な獣を八つ裂きにするべく飛び掛かろうとした瞬間
「ぶははっはっははっはは!!・・・サイファーさん・・・ぶはっはははっは! っふ・・・『ぶべらは~』って、ふははっはっは!」
「あ、アインズ様・・」
主人であるアインズの突然の爆笑で頭が混乱・・・いや・よくわからない状態になり怒りが落ち着いていき、ただアインズに視線を向けるしか出来なかった
「いや、賢王って言うくらいだから不意打ちみたいなことはしないでしょう、ど~せ最初は上から目線の嫌味に決まってますよ、こういうキャラはユグドラシルでもそうだったじゃないですか」
「大丈夫だっ!!ぶべらはうy~」
そう言って友は不意打ちをくらい森の奥に飛んで行った
それを見ていたアインズに宿った感情はアルベドの怒りとは違い笑いだった
「ぶははっは!!、あんな前振りしといてく、ふふふふ」
何てことはない友はさんざん「押すなよ、押すなよ」的な前振りをかまし奇声を上げながら吹き飛ばされた、しかも顔面から・・・
こんな珍プレー笑うなという方がアインズにとっては難しい、先ほどから精神安定が何度も起こるがしばらくの間次から次へとこみ上げてくる
「それがしを無視して馬鹿笑いとは、良い度胸でござるな」
それがし? ござる?なんだか可笑しな言葉使いだな・・いや、俺が聞いている言葉はこの世界に翻訳され聞こえているんだったな
さて、どんな奴か姿を拝んでやるか
アインズの頭には丈夫すぎるサイファーの心配はなかった
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十五話目 まだ楽しい時
薄暗い森の中を漆黒の剣と依頼主のンフィーレアはほぼ全力で走っていた。目指すはもちろん森の出口だ。
急いで避難しなければあの人達の足手まといになってしまう気がして皆自然と急いでしまう。
もちろんあの人達の事は信じているが先ほど木々が倒れるような音が森に響き、ついネガティブな考えをしてしまう。
「見えたぞ! みんな急げ!」
何時もはおちゃらけているルクルットが急かすように指示を飛ばす。
「大丈夫ですかンフィーレアさん」
ペテルは自分の後ろにいたンフィーレアに声を掛けると息を切らしながらだが返事が返ってきた。
「はぁはぁはぁ、僕は大丈夫です・・・」
どうやら無事に森から脱出できたようだ。
「あとはモモン氏達だけであるな」
「木が倒れる音がやけに大きく聞こえましたがモモンさん達は大丈夫でしょうか」
ダインもニニャも心配そうに森を見つめる。
「大丈夫だって、モモンさん達がそう簡単に死ぬものかよ」
一通り安全を確認したルクルットが話に入ってきた。その顔は何時ものように緩んだ顔をしいた。
「心配だろうが今は信じて待つしかないな。だが、いざという時は皆分かっていいるだろうな」
リーダーであるペテルは最悪の場合を想定し準備をする事を皆に伝える。
「信じてますよモモンさん。貴方はこんな所で終わる人じゃない」
誰にも聞こえない声でペテルはひとり呟いた・・・
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謎の物体に叩き飛ばされ、サイファーは倒れた木々の下敷きになっていた。身体に覆いかぶさった大きな木をものともせず起き上がり身体に着いた木々の葉や泥を落とすためマントや服を手ではたいたが水分を含んだ泥服からほとんど落ちずシミになっていた。
次に身体を確認したがどこにも異常は見られず、装備品にも破損は無かったが全身が泥と草の汁が付着し薄汚れてしまっている。
今まで冷静に確認作業をしていたサイファーであったが確認し終わったあと激しい怒りを覚えた。
「あ~あ、服がこんなに汚れちゃった……くそが!! 何が森の賢王だ! 戦闘前の粋な小話もなしに不意打ちかましやがって!! スキルさえOFFにしていなかったらお前なんか俺に触れた時点で終わってたぞ! くそ、くそ、くそ! モモンガさんが足の一本でも切り落とすと言った時、流石に可哀そうだと思って庇おうと思っていた俺がバカだった!」
サイファーはまだ見ぬ森の賢王(ローブを来た猿人類)を頭の中で描き如何に惨たらしく殺すのかを考え始めた。そこには人間としての倫理観はなくただ怒りを抑えた悪魔の姿があった。
アインズのもとに戻る前にたまった怒りを少しでも下げるため近場の木に殴り掛かった。その木はいとも簡単に砕け周りの木を巻き込みながら吹き飛んでいき太陽の光が差し込み始めた。
「ふぅー、待ってろよ森の賢王。お前もこの木と同じ目に遭わせてやる」
静かな怒りを胸にサイファーは歩き始めた。
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「はぁー・・・森の賢王って・・・外れだ・・・完全にハズレだ」
アインズは森の賢王に完全に興味を失くし剣で不貞腐れたように剣で地面をたたいていた……最初は不意打ちとはいえサイファーを吹き飛ばした賢王に興味が湧いてきていたが……その正体はでっかいハムスターであり、ちょっと魔法は使えるがそれだけだ、全然賢者らしいことはしないし、アインズの事を戦士と信じて疑わず、少しの違和感も持ってくれなかった。
ということでアインズは戦う気力を完全に失くしていた。
「どうしたのでござる、さぁ、勝負の続きでござるよ、命の奪い合いでござる!」
やる気満々のハムスターにアインズはガリガリと精神が削られていく。
「もういい・・・絶望のオーラ・・・れべる1」
スキルの発動と共に威勢の良かったハムスターは急にしおらしくなり腹部を無防備にさらけ出す
「キュ~・・・それがしの負けでござるよ・・」
「はぁ~、所詮は獣か」
あきれながらハムスターのもとまで歩き、次の一手を考え始めようとした時、後ろからメキメキと木の倒れる音が響く。
「なんだ、新手か?」
「アインズ様お下がり下さい!」
アインズが構えるより先にアルベドが前方に陣取り武器を構える。そして音はだんだんと近づき目の前の木が次々と倒れていき、ついには目の前の最後の木が倒れ犯人が目の前に現れる。
「ぐおぉぉ! 森の賢王め覚悟しろ! 野郎ぶっ殺してやる」
木々を倒しながら現れたサイファーはフードも仮面も脱ぎ捨て目を輝かせ肌の色も元に戻り完全に正体を現していた。
「サ、サイファーさん?」
何時もの人の好さそうな様子と打って変わりかなり怒りを露わにしていた。
「ひ~!! 恐ろしい化け物が現れたでござる~!!」
とりあえずハムスターは無視しよう。
「おお、モモンガさん。森の賢王はどこですか! 俺の服を汚した+不意打ちのお礼に八つ裂きにしてやりたいんですよ……もしかして、もう終わったあとですか?」
口調こそ何時通りだがイライラが手に取るようにわかる。
「終わったには終わったんですけど、そこで寝ているのがそうです」
アインズが指をさした方にはでっかいハムスターしかいなかった。
「え?どこどこ?」
「だからあそこですって」
「だからどこです? 賢王っていうくらいなんだからローブ姿の猿かなんかでしょう」
「だから、そこのハムスターがそうです」
「・・・え・・・」
アインズに紹介されてハムスターを見た瞬間、徐々に怒りが収まるのをサイファーは感じた。
「これがですか?」
「ええ、多少の魔法が使える以外ただのでっかいハムスターです」
こんな奴に不意打ちを受け怒りを露わにしてたなんて……恥ずかしい。
サイファーに残っていた怒りは完全に鎮火した。
改めて賢王を見たが、腹部を無防備にさらし少し涙目になっている姿はなんとも愛らしい……そしてこのサイズ、これなら夢に見たト○ロごっこが出来るかもしれない。
サイファーはゴクリと唾を飲み込み腹にダイブすべくジリジリと距離を詰め始めると後方から声が掛かる。
「なにやっているんですか?」
声の方を向いてみるといつの間にかアルベドの横にアウラの姿があった。
「いや、中々柔らかそうな腹だから、ちょっとトト○ごっこでもしようかと」
「○とろ? 知ってるアルベド」
「いえ私も知らないわね。アインズ様はご存知でしょうか?」
「いや、しかし昔仲間の誰かがジーブリがどうだのって熱く語っていたような、ないような?」
三者三様に首を傾げている中サイファーだけは話に加わらず森の賢王にさらににじり寄っていた。
「はぁはぁ、暴れんなよ、暴れんなよ、これでさっきの事はチャラにしてやるんだ」
「ひぃ~なんか怖いでござる」
「ひゃっは~、もう我慢できねえぜ!」
怯える森の賢王を無視しサイファーはその無防備なお腹に飛び込み小さいころから夢にまで見たその柔らかさを堪能……やわらか……やわら……固い……ゴワゴワする……獣臭い……おまけに服に抜け毛がついた。
うひゃーくすぐったいでござるなどと言っている獣を無視し無言で立ち上がるサイファー。心なしか少し小さく見えた。
「・・・で、この期待はずれ君はどうするの?」
「さっきと違いえらい淡泊ですね」
「・・・ほっといてください、俺は今また一つ大人になったんですよ」
のちにアインズは語る、あんな悲しそうな(´・ω・`)顔のサイファーさんは見たことなかった……と。
色々と後始末をアインズに押し付けサイファーは一人黄昏る……俺はメイちゃんにはなれないのか、あのフカフカはやはり絵本やアニメだけの夢物語なのか。いや違う、必ずどこかに理想のフカフカがあるはずだ、なぜならここは異世界なのだから……などと自分を慰めている間に森の賢王はナザリックの一員になったそうです。
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二泊三日の冒険が終わりやっとこさエ・ランテルまで戻ってきたアインズ達は森の賢王もといハムスケを街中に連れ込むため組合で登録する必要があったため漆黒の剣と別れ冒険者組合に向かっていた。
本当にこの三日間色々とあった、俺はカルネ村でネムちゃんに正体はバレるし、アインズさんはンフィーレア君にバレるし、なんか散々だった気がするし、結局一番ミスが少なかったのがアルベドってだけでちょっと複雑な思いがある・・・だって組織のトップ2人が凡ミスが出たのにその部下はノーミスとか、ホントに優秀だようちの守護者統括様は・・・
サイファーの後方に目を向けるとそこには森の賢王に騎乗するアルベドの姿があった。最初はアインズが乗るべきだと漆黒の剣とアルベドが強く勧めたがサイファーが騎乗スキルを持つアルベドが乗るべきだと勧め、ハムスターに乗りたくないアインズが必死に説得し折れたアルベドが騎乗する事となった……が。
「モモンさん、もうじき組合につくからしっかりつかまっていてね」
「・・・・はい」
ハムスケに堂々と騎乗するアルベドの後ろに身を小さくさせながら相乗りしているアインズ、なぜこうなったかというと、簡単に言うと俺達が歩いているのに自分だけ騎乗するのが嫌だというアルベドに対してじゃあアインズと相乗りしたらと軽い気持ちで言ったらこうなった。アルベドや漆黒の剣のメンバーがどうやって説得したかは覚えてないがこうなった訳だ。
そのせいもあって傍から見てもアルベドの機嫌は最高に良い。周りの声など全く気にせず鼻歌交じりに堂々としている。後ろの人も胸を張れば良いのに。
「ところで、彼らを信じても良かったの?」
「ん、報酬のこと? 3日間一緒にいたけどそんなせこい奴らじゃないと思うよ」
「・・・そうだな、裏切られたとしても損失は軽微だ。それよりその程度の金額で騒いで意地汚いと思われる方がよっぽど問題だ」
ハムスケの背中で何とか言葉をひねり出すアインズ。
「そうですね、ところで今日もアルと訓練するの?」
「もちろんしますよ、まだまだ本職の戦士みたいにはほど遠いし、せめて動きくらいはもう少しまともになりたいし」
「そうですか。では今日は動き方の訓練を中心にいたしましょうか」
「よろしくたのむぞ。アル」
ハムスケの上で今晩の訓練の話をする二人、正直戦士の演技のためにそこまでする必要はみられないがアインズさんは凝り性だし、アルベドは二人の時間が増えるからどんとこいみたいだし。
「じゃ、訓練の間露店に行くからお金頂戴」
そう言って手を差し出したが
「ははは、そんな金ある訳ないじゃないですか」
そう言ってアインズはペラペラの財布を振るってみせた。
「組合で登録料請求されたらどうする気ですか」
「・・・・」
無言のアインズにさらに続ける。
「ハムスケの維持費って一日いくらかかるんでしょうね」
当のハムスケはきょとんとしているが餌の事を考えてなかった。
「おいハムスケ、お前は一日どのくらい食べるんだ」
「へ? そうでござるな・・・あそこの馬なら一日二、いや三頭くらいならペロリでござる」
「なん・・・だと・・」
アインズは再び自分の財布の中身を確認したが今日の宿代だけで精いっぱいの金額しか入っていなかった。
「はぁ~仕方がない、しばらくはナザリックから餌を取り寄せよう」
本当にこのハムスケは良い拾い物であったんだろうか。もしかしたらとんでもない負債ではないだろうか。
どう見てもでかいだけのハムスターのはずがどういう訳か現地人の反応は絶大であった。
「アルにモモンさん、そろそろ着くから降りたほうがいいよ」
どうやら着いたらしい。アインズは心の中でどうか登録料が高額ではありませんようにと祈りハムスケから飛び降りた。
「そうだモモンガさん」
「何ですサイファーさん?」
「初任務達成のお疲れ会をしたいと思うからンフィーレア君からお金もらったらどこか食べに行きません?」
「金がないって言ったばかりなのに、もう無駄遣いの相談ですか」
「いやいや、大事なことですよ、やっぱりこういう息抜きは必要ですって、せっかく異世界に来たんだから異文化交流と洒落こみましょうよ」
良い笑顔で浪費を勧める友であったが、異文化交流という言葉がアインズの興味をとても刺激し、どうやら抗えそうにない。
「今回だけですよサイファーさん」
「さすがモモンさん話がわかる、アルも参加してもらうから変に畏まるなよ」
「分かったわ、で、場所はどうするの」
「こうゆうのはその場の勢いで決めるもんだから、登録が終わったらみんなで決めるとしましょう」
サイファーとアインズの話は冒険者組合の前ですっかり話し込んでしまい、結局一次会には世話になった漆黒の剣と依頼主であるンフィーレア君を呼ぶ事で話がついた。
何だかんだあったが楽しく冒険者をやっていけそうだ。
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十六話目 不快感
日が沈み辺りが暗くなった頃ようやくハムスケの登録が完了した。
「やっと終わった・・」
「お金を払えばもっと早く済んだんですけどね」
「それは言いっこ無しですよ。まさか魔法での登録があんなに高いとは思わなかった」
「どこの世界でも駆け出しは金策に追われるんですね」
こうなったらンフィーレア君が言ってた追加報酬に期待するしかない。
「ではハムスケよ、報酬を受け取りに行くぞ」
「了解でござる・・・って殿、それがしに乗らないんでござるか」
「そうだよ、もったいない」
「ギク・・・いや、お前はアルと共に私の前を歩き先導を頼む。私とサイファーさんはその後についていく」
もうあんな恥ずかしい思いはごめんだ。自分は関係ないって顔してますけどサイファーさんが余計な一言が無ければこんな事にはならなかったんですから。
「了解したわ。ハムスケこちらに来なさい」
「はいでござる! 姫」
「姫・・・ふふふ、アインズ様が殿で私が姫って事は・・・くふふ」
ヘルムかぶってんのにどんな顔してるか簡単に想像できるな。愛してる設定もここまでくると呪いの一種だな……アインズさんは気づいてないし……ん、なんだあの婆さん馴れ馴れしく近づいてきやがって。
二人と一匹の話を聞いていたらハムスケを見るために集まった人の中から変な婆さんがあらわれこちらに近づいてきた。
「のぉ、おぬし達はわしの孫と薬草を採取しに行った者じゃないか?」
「え? 婆さん誰」
「リイジー・バレアレと言うんだがね、ンフィーレアの祖母じゃよ」
なん……だと……、しまった、依頼主のお婆様になんて口をきいてしまったんだ。
「ああ、そうでしたか。お婆様のおっしゃるとおり私達がンフィーレア君の護衛に就きましたサイファーと申します、あそこのいるのが我らのリーダーであるモモン、その隣の女性がアルと申します」
依頼主のお婆様に接待態度で接するサイファーの紹介でアインズとアルベドはぺこりと頭を下げて挨拶をかわす。
「信じられんほどのべっぴんさんじゃな。それでそこの魔獣は?」
「これは森の賢王でハムスケと言います」
リイジーに興味を持ったのかアインズが会話に加わってきた。
「なんと!この精強な魔獣こそがかの伝説の森の賢王だと言うのか」
Q伝説って Aああ!
(なんかこのやり取り仲間内で伝説級のアイテムを手に入れる度に意味もなく繰り返していた記憶があるなぁ)
お婆さんの言った伝説って言葉に反応して周囲で盗み聞きしていた冒険者の口からも伝説、伝説ってみんな言ってるけど。俺は伝説の魔獣よりフワフワでぷにぷにでモフモフな巨大な生き物の方が良かったんだがな。
こいつの毛、かてーんだよ
「それで、孫はいまどこにおるんじゃ?」
「彼ならもう一組の冒険者チームと一緒に薬草を持って先に帰ってますよ。・・・そうだ、良かったら一緒に行きませんか? 俺・・・いや、私達も報酬を受け取りにお宅に向かう途中でしたから」
まだこの辺りの地理に不慣れなサイファーは道案内もかねてもらおうと提案した。
「もちろんじゃ。わしもおぬしらの冒険にもちと興味があるしな」
サイファーの提案はリイジーに受け入れられたようだ。
「そうでしたか。私達の話でよければいくらでもリーダーであるモモンさんが話しますよ」
「俺かよ!」
「あはは、お約束的なツッコミをありがとう。じゃ、そろそろ暗くなってきたし行きましょうか」
一行はリイジーの案内に従って、エ・ランテルの街を進む。
-------------------------------------
「それじゃぁ入るかね」
思ったより早く店に着いた。外見は暗くてよく見えないが中々大きい店のようだ。
「なんだい、あの子、不用心じゃないか」
「何が不用心なんですか」
ぶつぶつ言っていたリイジーが気になりサイファーはつい尋ねてしまった。
「いや、鍵が掛かってなくってね」
確かに不用心だ、家の中に居るったって安全のため鍵を掛ける事は必要だ。いつ押し込み強盗が来るか分からないし、最悪空き巣だって来るかもしれない。世の中には犯罪が溢れているのだから。
サイファーは元の世界の治安の悪さを思い浮かべながらうんうんとうなずく。
「ンフィーレアやーい。モモンさん達が来たよー」
リイジーが店の奥に声を掛けていたがサイファーは店の奥より陳列されている商品に目がいっていた。
「これが街一番のポーションか・・・アインズさんが言ってた通り青いな、匂いはっと」
勝手に商品を開け匂いを嗅ぐサイファー、その匂いは薬品ポイような、青臭いような、自分達のポーションとはかなり違う匂いだ……ちなみにユグドラシルのポーションは赤い以外無味無臭である。
「サイファーさん、どうやら厄介な事になってますよ」
「なんか引っかかるの?」
「ええ、私のスキルの『不死の祝福』に反応があります」
「という事は・・・アンデッドが店にいるんですか」
「数は今のところ三体だけのようです」
サイファーも武器を構えている二人に習い腰に下げていた杖を引き抜き、OFFにしていた常時発動系スキルをすべてONに切り替える、これで不意に襲われても後れは取らないだろう。
「な、なんだい!」
「ちょっと俺の後ろにいてねリイジーさん。アル、モモンさんのバックアップをよろしく」
「分かりました」
そう短く答えたアルベドはアインズの近くに移動した。
「では、行きますよ」
アインズ達は店の奥に歩き出した。奥の扉を乱暴に開き、さらに奥に進んだアインズはリイジーに問いかける。
「この奥はどうなっている」
「こ、この奥は薬草の保管庫で、裏口もそこにある」
「そうか・・・サイファーさん」
「分かってますよ、ここに待機してリイジーさんの護衛に着きますよ」
アインズの口ぶりからして、この部屋にアンデッドがいるようだ。サイファーは後ろにいるリイジーを扉から離れた位置に誘導した。
アインズが扉を開け中に入っていった、開け放たれた扉の奥から匂ってくるのは森でンフィーレア君に嗅がせてもらった薬草の香りではなく、生臭い血の匂いであった。
ほどなくして奥にいたアンデッドを始末したとアルベドより知らせがあり後ろにいるリイジーを連れ部屋の中に入っていく。
部屋に入って最初に目に飛び込んできたのは首を切断され動かなくなったアンデッドが3体、次に壁にもたれかかる様に座り込んでいる死体を調べているアインズの姿があった。
「ここにいたアンデッドは自然に涌き出たタイプでしたか?」
絶対に違うと思うが一応アインズに聞いてみた。
「いえ、『不死者創造/クリエイトアンデッド』で創られた存在です・・・だが材料がまずかったな」
何時もより低い声でアインズが答える、その声は少し怒りが混じっている気がする。
「材料?・・・どれどれ」
床に転がっている首を適当に拾い上げて確認してみると魔法により少し顔が崩れていたがアンデッドの正体がわかった……と言うか胴体の装備品で大体察しがついていたが当たりのようだ。
「ペテル、ダイン、こっちはルクルットか・・・ということはそこの死体がニニャか・・・」
「ンフィーレア!」
サイファーの独り言を聞き何が起こったかをようやく理解したリイジーは孫の安否を確認するため走り出していった。
「アルベド。リイジーを守ってやれ、室内に生きている何者かが隠れている可能性がある」
「畏まりました」
アインズの命令に従いアルベドはリイジーを追っていく。
「アインズさん、怒ってます?」
「いえ……いや、少し不快感を覚えてます、サイファーさんはどうです?」
アンデッドでカルマ値マイナスの自分と違ってサイファーは悪魔だが生身の身体がありカルマ値も±0であるため自分とは感じ方が違うはずだ、その感情のすり合わせのためサイファーの気持ちを知っておく必要がある。
「ガンガン怒りがこみ上げてきてます。ここまで知り合いを弄られて黙っておけません」
そう言って両拳を握りしめたサイファーはアインズに向き直る。
「当然仕返しに行きますよねモモンガの旦那! こいつらを殺した奴らにアインズ・ウール・ゴウンの知り合いに手を出したことを死ぬまで・・・いや死んでからも後悔させてやりましょう!」
PKに対しPKKをもって報復し続けたメンバーからの熱い視線を受け答えをだしたアインズ。
「ええ、もちろん。私達の計画を邪魔したことを死んでからも後悔させてやりましょう」
そこまで言ってアインズはサイファーに指を出し冷静に話し始めた。
「その前に状況の整理に情報の収集です、そしてすべてが揃った時こそ・・・」
「「奇襲でもって一気に勝負をつける」」
声が揃ったところで二人から笑い声が漏れる。
-------------------------------------------
「ンフィーレアが無事に帰ってきたならばリイジー・バレアレ。お前の全てをよこせ」
「おぬし・・・」
やれやれ、報酬に全てよこせって、リイジーさん困惑してるじゃないか、そんな言い方だから悪魔に間違われても仕方が無いよ……まぁ悪魔はアインズさん以外そうなんですけどね……あとアルベド、全てをよこせってセリフの時一瞬殺気が漏れてたぞ。あれはそういう意味じゃないからな。この世界の知識と経験を提供しろって意味だからな。告白的なアレじゃないからな。そんなに気になるなら今度アインズさんに言ってもらえよ……なんだよ今度はクネクネと鎧姿だから余計危ない人に見えるよ。
アルベドとお話をしていたら契約は完了しリイジーは部屋より追い出されるように出て行った。それを見送りアインズは二人に向き直る。
「どうされるのですか?アインズ様」
「今回に限っては簡単だな。敵がバカなのか、はたまた」
「どこまでもふざけやがって!」
余裕の空気を出すアインズに再び怒気が再燃するサイファー対照的な二人にアルベドは首を傾げる。
「どういうことですか?」
「それはだな。見ろ、彼らのプレートが無くなっているだろう。おそらくここを襲って奴らが持ち去ったんだろう。それがサイファーさんが怒る理由だ、なんだと思う?」
「・・・申し訳ありません、分かりかねます」
「狩猟戦利品だよ。ぶっ殺した奴が記念品として持ち帰ったんだよ!どの世界でも同じかよ異形種狩りのくそ共が!」
「サイファーさん落ち着いてください。そいつらは一人残らずぶっ潰したでしょう」
ああそうだったと怒りを収めるサイファー、話を進めようとした時、アインズの頭に『伝言/メッセージ』の声が響く。
が忙しいから後でかけなおすと『伝言/メッセージ』を切り話を進める。
アインズがアイテムBOXより巻物を10数個取り出しサイファーに渡す。
「サイファーさんお願いします」
「了解しました」
ビシッと敬礼しサイファーが手慣れた様子で巻物を順番に広げ、魔法を発動し始め魔法を唱える。その度に巻物は熱を感じない炎に包まれ灰も残らず燃え尽きていき魔法が解放されていく。
「二人ともここだよ」
サイファーが机に置いた地図の一角を指さす、文字の読めないアインズは記憶よりその場所を思い出す。
「・・・墓地か。よし、次はこれをお願いします」
「アイアイサー」
またしてもビシッと敬礼し二つの巻物を受け取り発動させる。そこに映るのはえらい格好に変わり果てた少年の姿が映り、さらには大量のアンデッドの姿が確認できる。
「ンフィーレア君・・・すまない、誰得だよとか考えてしまった・・・モモンガの旦那、ンフィーレア君こんな格好させられてるけど、まだ清い身体かな」
大量のアンデッドには目もくれずそんな見当違いの心配をするサイファーをアインズは生暖かい目を向けるしかなかった。
「とにかく、これで確定だな」
「どうなさいますか?転移で一気に攻撃を仕掛けますか」
「馬鹿を言うなよ、一瞬で終わったら俺の怒りが収まらないぞ」
サイファーとアルベドの話を聞きながらアインズは考える、自分でさえこれほどのアンデッドを一度には召喚し使役は出来ない、何らかのトリックがあるはずだ・・・それはンフィーレアの命かもしれないため早急に解決しなければまずいが本音としてはンフィーレアを犠牲にしてもタネを知りたい、そしてナザリックの強化に利用したいが
友であるサイファーは少年を助ける気らしい……しかたない、今回は名声をとるか。
「よし、二人とも墓地に向かうぞ」
「え、歩いていくんですか? せめて入口までは転移で行きましょうよ。あ、空を飛ぶのはパスで」
「転移や『飛行/フライ』では直接乗り込んだら問題が静かに解決してしまうだろ」
「え?それのどこがいけないんです」
不思議そうに首を傾げる二人にアインズは語る、つまりは騒ぎを大きくして漁夫の利を狙う作戦である。
「リイジー準備が整った。私達はこれから墓地に向かう」
「地下下水道は!?」
「それは奴らの偽装だ、本命は墓地だ。しかも数千のアンデッドのおまけつきでな」
「なんと!!」
「私達はその中を突破する予定だ。リイジーは出来るだけ多くに人にアンデッドの脅威を伝えて欲しい、証拠に乏しい話だが有名なお前の話なら皆耳を傾けるだろう」
騒いでほしいくせにとぼそっと聞こえた悪魔のささやきはこの際無視し玄関へとむかう。
「おぬしはアンデッドの軍勢を突破できる手段を持っておるのか?!」
アインズは背負った剣を、アルベドは手に持ったバルディッシュを、サイファーは腰に下げている杖を見せ
「ここにあるだろう?」
その一言でバシっと決め店を後にし墓地に向け行動を開始する。
余談だが墓地に急ぐためイヤイヤだがハムスケに乗った一行だがサイファーだけ背中ではなくしっぽにしがみ付いていた。
「モモンさん、急ぎますからしっかりと掴まって下さい♡」
「分かった、頼むぞアル」腰ギュ
「はあぁー、私今最高に充実してるわ。ありがとうございますサイファー様」
「だったら俺も背に乗せてくれよ!」
果たしてンフィーレアの運命や如何に・・・・全く名前が出てきていないぞ黒幕たち!
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十七話目 墓地の戦い
墓地。そこは死者が眠る場所であり、静寂こそが相応しい場所である。その場所では誰もが故人の冥福を祈り死後の幸せを願う場所である・・・
しかしそれはサイファー達の世界での話でありこの世界では少し違う・・・それはアンデッド存在であり、その発生を抑制するためにも墓地は必要なのである
アンデッドの発生の原因は詳しくは分かっていないが無残な死者や弔われない死者が発生原因になる場合や魔法での召喚などがある
そのため死者はどの国、どんな身分でも丁重に弔われアンデッドを発生させないように務めている
しかしそんな努力も空しくエ・ランテルの墓地には現在千体近いアンデッドが涌き出ており墓地と街の境界線である門を突破しようと群がってきていた
「お、おい!ここは危険だ!直ぐに離れろ」
門を守護している衛兵の一人が魔獣に乗ってきた三人に危険を知らすべく声を掛ける、胸元にプレートが見えたが銅クラスでは話にならない、むざむざアンデッドの餌が増えるだけである
「問題ない」
そう言い放つとリーダーと思わしい全身鎧の男が魔獣の上から飛び降り、背負ったグレートソードを抜き放つ
「何を言っているんだ!ここは危険だ!離れろ!」
場違いな三人に怒鳴り声を浴びせるがどこ吹く風と言わんばかりに魔獣の尻尾がぐるぐるに巻きつかれ宙ぶらりんになっている魔法詠唱者と思われる男があっけらかんと門の方を指さした
「お前達こそ危ないぞ」
魔法詠唱者の声に弾かれた様に門に振り返った衛兵たちは驚愕し恐怖する。そこには城門より巨大な集合する死体の巨人/ネクロスオーム・ジャイアントがこちらを見ていた
「う、うわぁぁぁ!」
その姿を見た瞬間その場にいた者全員が逃げ出そうとした時、奇跡が起こる。決して倒せないと思っていた巨大なアンデッドがうめき声をあげながら大きく仰け反りそのまま倒れていく
「邪魔なアンデッドだ」
言葉の主の方に首を向けると漆黒の戦士がもう一本の剣を抜きながらこちらに歩いてきた、二本あった剣が一本しかないということは剣の投擲だけであの巨大なアンデッドを倒したのであろうか
周りの衛兵は信じられないモノを見たような顔をしていたため間違いないかもしれない
「門を開けろ」
何を言われたのか一瞬分からなかったが直ぐに首を横に振る
「ば、馬鹿な事を言うな!向こうには大量のアンデッドがいるのだぞ!」
「それがどうした?この私、モモンに関係があるのかね?」
その言葉に威圧され何も言えないでいると横から女の声が掛かる
「モモンさん。衛兵の皆さんは門を開けたくないみたいなので、勝手に通らせてもらいましょう」
「そうだな。ではアルの言う通り勝手に行かせてもらおう」
そう言って漆黒の戦士とアルと呼ばれた全身鎧の女と共に走り出しそのまま4mの壁を飛び越え墓地へと消えていった
「よし、俺らも行くぞハムスケ」
「合点でござるサイファー殿」
魔獣の尻尾に巻きつかれ運ばれる男・・・サイファーの号令でハムスケと呼ばれた魔獣が勢いよく衛兵の横をすり抜け城門に備え付けてあった階段器用にを上り、壁の向こうに飛び降りていった
嵐の様に過ぎ去った三人の冒険者に衛兵たちは口を揃えてこう評価する
「俺達は伝説の目撃者になったんだ・・・漆黒の・・・漆黒の英雄だ!」
-------------------------------------------
墓地内には大量のアンデットが涌き出ており、どこに視線を向けてもアンデッドの姿が確認できる
アインズが剣を振るうたびにアンデッドは吹き飛び、または次々に両断されていく、その姿は荒々しくまるで嵐のようであった
その横でアルベドもバルディッシュを振るいアンデッドを次から次へと両断していく、その姿はアインズのような荒らしさは無くまるで舞うように武器を振るい一切無駄のない動きであった
「はぁ、アルベドを見ていると俺もまだまだだな」
「そのような事はございません、最初の頃より剣の振るい方、足の運び方など、この数日で素晴らしく上達なさっております」
「そうか、私より戦士として遥か高みにいるアルベドにそう言われると少し照れくさいな」
ナザリックで冒険者の準備を進めている時から剣の訓練を見てもらっていた身としてはコーチから上達したと言われて嬉しくない筈はない
「アインズさん、入口からここまでのアンデッドを残らず片付けてきたよ」
後方よりアインズ達の打ち漏らし+向かって来なかったアンデッドをを片付けてきたハムスケとサイファーが二人に合流してきた
「ご苦労様です・・・って、なんでハムスケの尻尾に巻きつかれているんですか?」
そう聞くと尻尾にいたサイファーはハムスケに合図を送ると尻尾に運ばれるように目の前までやってきた
「ああ、これ。ここに来るまでずっと尻尾に掴まっていたんですけど、その時振り落とされないように尻尾をギュッと掴んでたらハムスケがかなり痛がってね・・・」
そこまで言ったらハムスケが尻尾をさすりながら千切れるかと思ったでござるとか言っていた
「だから掴んで痛がられるんなら逆に掴んで運んでもらおうって発想になった訳よ。いや~実際かなり楽ですよこれ、移動中も揺れないようにハムスケが調整してくれるし、尻尾が腰をがっしり締めているから安定感もあるし」
得意そうに話すサイファーを見ながらハムスケはぼそっとつぶやく
「実は今もトロールを絞め殺した時以上の力を込めておるのだがサイファー殿は全く苦しがらないのでござるよ。このお方は本当にひ弱な魔法詠唱者なのでござるか」
二人のやり取りを聞いてアインズは乾いた笑いしか出来なかった。散々毛が固いやらゴワゴワするなど文句を言っていたくせにサイファーが一番くっついたり、世話をしてる気がする。 と言うかこの元森の賢王はまだサイファーの事を魔法詠唱者だと思っているのか森で正体も見ただろうに・・・ホントに賢いのかコイツ?
「しかしこれでは何時までたっても先に進めんな」
「その事でしたら私に考えがございます」
「なんだ、言ってみろ」
「はい。ここはアインズ様のスキルを用いてアンデッドの僕を召喚し戦力を増やすことをご提案いたします。利点としてはアンデッドならばこの場にいても何ら違和感もなく、この事件に首を突っ込んでくる他の冒険者への牽制にもなります・・・そして召喚したアンデッドの一部を使い被害をさらに拡大させより多くの名声を集める事も可能になります」
「最後の意見は別として中々良い案だ。アルベドの言うように横から別の冒険者に手柄を全て奪われるという可能性もあるからな。その意見を採用しよう」
そう言うとアインズは道を切り開くために中位アンデッドを2体、他の冒険者の牽制用に下位アンデッドを複数体呼び出し命令を下し行動を開始させた
「あっという間に片付けてくれましたね」
「ええ、これで心置きなく奥に向かえますね」
先ほどと比べかなり見通しが良くなった墓地を三人と一匹は進んでいく
----------------------------------------------------------
結果だけを言うと奥には今回の騒動の首謀者がいた・・・いたのだが・・・何というか、間が悪かった?、いや、理不尽と言われようがはっきり言おう、首謀者の協力者の性別がいけなかった
奥に着くとハゲ(モブAのミスでカジットと判明)とモブが数人いて何やらブツブツと儀式を行っており、まさにビンゴって感じだった・・・ここまでは良かった、アインズの指摘で刺突武器の使い手がいる筈だと言ったら奥の建物から女が出てきて、どうしてわかった聞いてきたから、マントの下に答えがあると返したらアインズを変体呼ばわりしてきた(この時点でハムスケは何かに怯え逃げ出し木の上に隠れてしまった)追い討ちをかけるようにアインズは刺突武器の女を誘い二人で人気の無い場所に行ってしまった
俺は一番の危険を教えようとしたらアインズは気づかないのか「上の方に注意してください」って注意をしていった。一番の危険は俺の横にいるんだよ!そのせいでハムスケ逃がげちゃったんだよ!
「ア、アルベド・・・さん」
その一番の危険・・・もとい怒りのあまり殺気ただ漏れのアルベドに声をかけた
「いかがなさいました?サイファー様」
「うん、いや、ここ数日でずいぶん殺気の出し方が上手くなったね、すぐ横の俺らしか気づいてないよ」
その言葉どうり目の前のハゲ集団はアルベドの殺気にはまったく気づいてはおらず何か喋っているがアルベドが気になりすぎてまったく耳にとどかない
「ともかく、サイファー様、今すぐ、即刻、この者共を処分しアインズ様の後を追うご許可を」
「いやいや、俺らの役目はそこの集団を倒して人質を救うことなんだからね・・・まぁ、こちらが早く片付けばすぐに合流できる・・・へ?・・・」
サイファーの話が終わる前にアルベドは目の前の集団に襲い掛かっていった。サイファーにはその光景がまるでスローモーションのように目に入ってきた
レベル100のアルベドがレベル100のスピードで接近し、レベル100の筋力でバルディッシュを振るいきった・・・その超スピードに反応できたものはおらず一塊でいた集団は比喩表現ではなく腰から上が吹き飛びその余波で後ろの建物が半壊した
崩壊する建物の崩れる音を聞きながらサイファーは一人つぶやく
「俺は何もしてない・・・悪くない・・・って、いてて、なんで骨が降ってくるんだよ!」
全力で責任転換し少し現実逃避していたら空から大量の骨が降ってきた、おそらくアインズが警告したのはこのことだろう・・・地味に痛い
「終わりましたサイファー様。アインズ様への支援許可をいただきたいのですが」
「いやいやいや、なんも終わってないよ!ンフィー君まだだよ」
その言葉にシュンとなるアルベド・・・正直ちょっと仕草が可愛いと思ってしまった
「まあ、そう焦るな、相手が女だからってまさか会ったばかりの相手とよろしくやってるわけじゃないんだから」
「ですが!!」
やっぱり食いついてくるな、アルベドの方がすべてにおいて勝っているのに何を焦っているんだ?
「まあまあ落ち着いて、こっちの事が終わったらすぐに行っていいから。じゃ俺はカジットとか言うやつを生き返らせて尋問してくるからアルベドは周りの警戒をよろしく」
そういって無残な死体の元に歩き始めるサイファー、正直どれがどれだか判別は難しかったが一人だけ服の色が違うやつがいたからたぶんそうだろう
邪魔な死体を蹴り飛ばしカジットと思われる者の周りを大雑把に掃除しアイテムBOXより蘇生の杖を取り出し効果を発動させた
「5回しか使えない完全蘇生の杖なんだからな。生き返れカジッ・・ト?だっけ」
その効果は絶大であり体が下半分しかないにもかかわらず服ごと再生してきた・・・服は予想外だったな
「う・・・うう」
うめき声をあげながらハゲで顔色の悪い中年っぽい男が目をさました。意識が回復した事を確認したサイファーは男の胸ぐらを掴み無理やり立ち上がらせる
「よーし起きたな。俺の言うことに素直に答えろ・・・ンフィー君はどこだ?」
「な、何者なんだ貴様らは?!わ、ワシらに何をしたんだ!?」
どうやらアルベドの一撃はこいつ等には知覚できていなかったようだ、だがそんな事はどうでもいい
「質問しているのはこちらだ、無駄口を叩くな」
胸ぐらを掴む手に力を入れこちらに引き寄せ頭突をかましてやった、昔見た不良漫画だとこの方法で相手をビビらせ話しやすくさせていた記憶がある
カジットは短い悲鳴をあげ静かになった
「よしよし、ようやく聞く態度になったな、もう一度聞くぞ・・・ってあれ死んでる?」
少し小突いただけで額は割れ血を吹き出し、首はあらぬ方向に曲がっていた
サイファーは無言で死体を地面に置きもう一度杖を振るい生き返ったカジットの胸ぐらを掴み立ち上げらせる
「・・・もう一度言うぞ、ンフィー君はどこだ?」
「し、神殿の地下におります、ど、どうか命ばかりは!」
「本当か? 嘘なら・・」
「う、嘘ではありません、どうか信じてください!」
如何やら二回も死んだらさすがに素直になったようだ・・・場所も分かったし・・・こいつは用無しだな
「教えてくれてありがとう。じゃ、死のうか」
「しょ、正直に話しただろう! た、助けてくれ。わしにはまだやるべきことがあるんだ」
「駄目だ。お前たちは俺達、アインズ・ウール・ゴウンに手を出したんだ。相応の報いを受けろ!」
掴んでいたカジットを突き飛ばしアイテムBOXより真黒な液体の入った瓶を取り出す
「このアイテムの名はヨルムンガルドの毒液、神をも殺し切る毒薬(という設定)だ。これを・・・俺が飲む」
そう言ってサイファーは瓶の蓋をあけ中の液体を口に含む、まるで度数の高い酒を含んだ時のように口の中が熱くなるのを感じながら一気に飲み込む、喉、胃が続けて熱くなり思わず声をあげる
「くう~きく~これが毒か、かなり効くな・・・ちょっと気持ち悪い。だがスキル『愛憎の果て』」
わざとらしく舌をだし吐きそうな演技をしてる間にスキルの効果が表れる
「ぐぇえぇぇぇ!!」
目の前の男はもがきながら真っ黒い嘔吐を始め、耳や目からも黒い液体が流れ始めた
「こんな・・・そのんあばかなあ・・・おかあ・・・」
数秒ももたずに男は動かなくなった
「うーん、毒エフェクトが見えないから効果があったか微妙だな、こいつはスキルで移した毒ダメージで死んだのか、それとも俺の受けた毒ダメージの反射ダメージで死んだのか・・・まだまだ実験が必要だな」
まだまだ問題は山積みだが、まずは簡単に片付く問題から片付けていこう
「おーい、アルベドにハムスケ~、こっちは終わったから神殿にいるンフィー君を助けに行こうよ」
サイファーの言葉に二人が集まってきた。アルベドはアインズが気になってソワソワしており、ハムスケはアルベドに対しビクビクしていた・・・大丈夫かこいつら?
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霊廟の中にンフィーレアがいた。その姿は変に薄い服を着ており頭には変な冠がかぶせられており目を潰された状態で佇んでいた
「なかなかエグイ事してくれるじゃないか・・・後で目も治してやらないとな」
こんな格好だし服とか毛布も用意したほうがいいかな、ほぼ真っ裸だし
ンフィーリアの身体を上から下までじっくりと確認したが目以外に外傷は無さそうだ、だが男の体をじっくりと眺めていたらなんか変態っぽい気がしてきたが女性のアルベドに男の体を調べろとかある意味セクハラ発言はできないし、ハムスケは獣だし、結局サイファーがやるしかなかったしそれが無難であった
「外傷はないが頭のアイテムがどういう物か見当が付かないな、鑑定系のアイテムも持ってくるべきだった」
仕方がないのでハムスケを見張りに置き鑑定の魔法が使えるアインズを迎えに行くことで話がまとまった
その時のアルベドの喜びようは本人は隠しているつもりだろうがかなりうれしそうだった
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「ア、アルベド。こ、これは違うのだ!」
アインズのもとに来た俺たちが最初に聞いた言葉は言い訳であった
愛する者に会いに行けるとあってアルベドの足は速かった、本当に速かったため全力で走りやっと追いついたと思ったら何かショックな物を見たかのように固まっているアルベド、何があったのか確認してみるとアインズが鎧姿ではなくいつものアンデッドの姿で女性と抱き合っていた、比喩表現でもなく、もうガッチリとね
そして上記の言い訳をかまし始めたのだ
「うわー、うわー。よろしくやってるよー」
「さ、サイファーさんまで。ホントに違うんですって!」
いまだに女性を放さずして何が違うんだろう
「違うんならその女を放せよ、どう見たって浮気現場にしかみえんぞ」
サイファーの言葉にいまだに女の死体を抱きっぱなししていたことに気付いたアインズはすぐさま女の死体を投げ捨て弁解を続ける
そのとき衝撃的な事態が発生する!!
「ふえぇ~ん」
アルベドまさかの号泣。本来の歴史とは違いアインズの傍から離れず行動しかなり幸せであったアルベドに降りかかる悲劇。もしアルベドが冒険の同行者にならなければ回避されていた結果。もしアインズが普通に倒していたらこんな事にはならなかったであろう
「ア、アインズさん、泣き止まして下さいよ、あなたの責任ですからね」
「で、でもどどどうすればいいんですか!? 女性の扱いなんてわからないですよ」
「俺だってわかんないよ・・・とりあえずそばに行って声をかけろよ」
半ば無理やりアインズを送り出し静観することにしたサイファー、そこには絶対に巻き込まれないぞという鉄の意志があった
「アルベド。これは違うのだ、ただ私は相手に恐怖を与えながら殺そうとしただけでそんなつもりは全然ないのだよ」
そんなつもりってどんなつもりだよ
「・・・てください」
「ん? 何と言ったのだアルベドよ」
聞き返すアインズに対し涙を目に貯めながらアルベドは言葉を発する
「私もギュってしてください」
「・・・え?」
そういってアルベドは目をつぶって手を広げた
「ど、づ・・サイファーさん助け・・・!!」
・・・その後何とかサイファーの協力のもとアルベドを落ち着かせることに成功したアインズは二度と誤解を招く真似はするまいと心に誓うのであった
-おまけ-
「皆、遅いでござるな、いつまでココにいれば良いのでござろうか」
その後、ンフィーリア君はしっかりと救出されました
PCが壊れて投稿が遅れたという人は何人も見てきましたが・・・まさか自分も同じ目に合うとは思いませんでした。
皆さんも定期的にPCのチェックする事をお勧めします
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十八話目 俺のいる意味
先日泊まった宿屋の一室でサイファーは墓地での騒動を鎮めたとして冒険者組合より貰った報奨金の入った袋の中身を確かめながらほくそ笑んでいた。
「うぷぷぷ、金貨ですよ金貨。しかも10や20じゃないですよこの重さからして。しかもバレアレ家からも別件でさらに貰えるって、笑いが止まりませんね」
金貨の入った袋に頬擦りし喜んでいるサイファーに対しアインズは無慈悲に水をさす。
「サイファーさん、残念ですけどその報酬はセバス達の活動資金に回しますから俺達が自由に使えるのは金貨2~3枚くらいですよ」
「え~。そんなんじゃちょっと飲み食いして終わりじゃないですか」
「金貨ですよ!? どんだけ食べる気ですか!?」
露骨に不満を漏らすサイファーだがアインズもここは譲れない。
「ま、冗談はさておき、一気にミスリルになっちゃいましたね、これもアインズさんの計画のうちですかね」
「まさか、本当はオリハルコンを想定してましたけどね」
そう言っておどけて見せるが内心ではアルベドがいなければサイファーと馬鹿騒ぎしたいほどうれしかった。
もう計画通りに行き過ぎて大笑いしたい。墓地の調査が進みアインズ達の語ったことが嘘ではなく真実と分かり、墓地の衛兵は自分達の活躍を大勢に聞かせるだろう。
サイファーが金貨の袋を名残惜しそうになで、アインズがミスリルプレートを指で弾いて遊んでいるとアルベドより声がかかる。
「アインズ様、あの二人の処遇はいかがなさるおつもりでしょうか?」
「リイジー達の事か。あの二人ならカルネ村に移住してもらいナザリックのために新しいポーションを作ってもらうつもりだ」
「新しいポーション? それってどういうこと?」
いまだに金貨の袋を離さずサイファーが話に参加してきた。
「俺が求めてるのはユグドラシルにない方法で作られたポーションなんですよ。俺たちは最近この世界に来たばかりで、もしかしてたら俺達は過去にいたプレイヤーより600年も技術が遅れているかもしれないんですよ、だから専門家に研究をしてもらいその差を埋めようという訳ですよ」
「さすがはアインズ様、素晴らしい先見の明でございます」
アルベドからキラキラした目で見られ少し照れてしまうアインズ。
「ふふふ、ひとまずリイジー達の事は後回しだな。あ、そうだった……すみませんサイファーさん、ちょっとデミウルゴスに『伝言/メッセージ』をしますから静かにして下さいね」
そう言ってアインズは魔法を発動した。
「じゃ俺らは食事会の準備をしようかね。アルベドは何が食べたい」
「私はアインズ様がお召し上がりになる物と同じ物でお願いします」
「うん予想通りの答えをありがとう」
面倒なのであえて否定も肯定もしない。
この子の相手はアインズさんに任せよう。それにしてもアインズさん話が長いな何かあったんだろうか。
「・・・サイファーさん」
「ん、 話は終わったんですかアインズさん?」
「・・・シャルティアが裏切ったんだって・・・」
「はぁ~?!」
俺達のお疲れ会はまだまだ開催できないようだ・・・
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シャルティア・ブラッドフォールンの離反の報せを受けた一行はナザリックへと帰還した……がサイファーのみ安宿に留まって店先でハムスケの毛を少しでも理想の柔らかさにしようとブラッシングをしていた。
「は~ いざという時のための連絡係とは言え、何もできないのはもどかしいな」
「それがしにはナザリックの事はよくわからないでござるが、サイファー殿にはサイファー殿の役目があるのでござるよ」
「わかってるんだけど・・・ホント俺の立場って微妙なんだよなぁ」
至高の御方とNPC達から敬われようと組織の決定権を持つのはギルド長のモモンガであり自分には何の決定権もない。そして守護者達のように決められた仕事がある訳でもなくモモンガの仕事の補佐をするぐらいしか仕事はない。その事がサイファーにとっては耐え難いものであり、悩みでもあり、同時に自分が居ないほうが組織は上手く回るのではないかと何度も思ってしまう。
(とは言っても俺に出来る事は大体モモンガさんでも出来るし内政面ではアルベドとデミウルゴスがいれば滞りなく進められる、戦闘でも無理に俺が出しゃばらなくても自由意思を持った守護者達がいればほぼ問題ない)
いよいよ役立たずな感じがしてきた、自分が出来てNPCが出来ないことと言ったらモモンガの愚痴を聞いたり一緒に食事したり今、昔、未来の話をしながら馬鹿みたいに笑い、二人でナザリックの娯楽施設に遊びに出かけるくらいである。
「モモン殿は今居られますかな?」
少し気が滅入っていたサイファーに見慣れぬ男が話しかけてきた。
「今は諸事情で出かけていますけど、アンタ誰?名指しの依頼ならまた今度お願いしますよ」
「申し遅れました、私は冒険者組合より派遣された者です。今回は名指しの依頼ではありませんがそれに近いものです。この街の近辺に吸血鬼が出現したとの情報が入りまして、既に幾つかの冒険者チームにも声を掛けております。詳しくは冒険者組合で話があると思います」
そこまで聞いてサイファーの頭にシャルティアの姿が浮かぶ、おそらく今回の呼び出しとは無関係ではないだろう。
「分かりました。すぐに向かわせてもらうとお伝えください」
その言葉を聞いて冒険者組合の男は帰っていった。サイファーは急いで部屋に戻りアインズに『伝言/メッセージ』を繋げる
「もしもし、アインズさん聞こえる?」
『何ですか、サイファーさん今は・・・いや、そちらで何か動きがあったんですね』
「さすが話が早い。実はさっき冒険者組合の方から招集要請がありまして、その内容が吸血鬼関係らしいんですよ、時間的に多分シャルティアの事だと思うんだけど、どうする? そっちが忙しいんなら代わりに出席して後で内容を話すけど?」
『ちょっと待ってくださいアルベドにも相談してみます・・・』
二人の話す声がおぼろげだが聞こえてくる、どうやらアインズの好きにしたらいいとの事らしい。
『・・・組合にはサイファーさんが参加していただけますか。俺はそっちの話が終わるまでニグレドの部屋でシャルティアを監視していますから後で合流しましょう』
「了解しました。じゃ、また後で」
そう言って『伝言/メッセージ』を切りサイファーは冒険者組合に向かうべく行動を開始した。
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やっぱりアインズさんを連れてきた方が良かった……そんな後悔の波に襲われながらサイファーはある人物の言葉の暴力に耐えていた。
少し前冒険者組合に到着したサイファーは受付嬢に案内されある一室に通される。
そこには冒険者組合長のアインザックだけではなく魔術師組合長のラシケル、おまけに都市長のパナソレイまで参加していた。都市にきてほとんど経ってないのに街のTOP3に会えるとはついてるのかついてないのだが。
ここからが苦痛の連続だった自分達の経歴を組合長が話したら嘘くさいだの、たった一つの事件を解決しただけでミスリルかよ、とかやっかみがすごい。兎に角すごい。輪を掛けて酷いのは『クラルグラ』の代表のイグヴァルジだった……もうね、敵意丸出しっていうか、こちらの言うことすべてにいちゃもんつけてくるんだよ。
リーダーのモモンが居ないからって「先輩を舐めてるのか」 とか「人数が居ないのは人間性に問題がある」とか「顔を隠すのは礼儀知らず」とか、で顔を見せたら「国外からかよ」ってほんとどうしたらいいんだろう。
間違いなく言えるのはこの場に来たのがアルベドだったらこの街は全滅ENDまっしぐらだっただろう、アインズなら適当にあしらって話を進めてくれるだろう……俺はだめだ。『天狼』や『虹』の二人は話がわかる良い大人なのがせめてもの救いだろうが……もうガマンノゲンカイ。
「その吸血鬼はズーラーノーンとは関係ない」
「何故だね、サイファー君。何か知っているのかね?」
言っちゃった。場の空気に耐え切れずつい言っちゃった。何とか誤魔化せなければ本当にお荷物になりかねない。
私に力をお貸しください偉大なる設定神タブラ・スマラグディナ様
「その吸血鬼の名前はよく知っている。なぜなら俺達がここまで追ってきた吸血鬼だからだ(頭は真っ白です)」
「何!?」
部屋はざわつくが構わず話を進める。
「非常に強い吸血鬼なんです。俺達が冒険者になったのも全ては奴らの情報を集めるためなのです(今明かされる衝撃の真実)」
「奴ら?奴らと言ったのかね」
「そうです二体の吸血鬼です。その片割れの女の名は・・・シャ、シャル(名前が思いつかない)」
「なんと言ったのだサイファー君」
「シャシャルンです!(勢いで誤魔化す)」
「そ、そうか、しかし女吸血鬼の正体を知っているということは・・・そろそろキミ達の正体を聞かせてくれないかね」
「残念ですが私の口からは答えられません。その権限を持つのはリーダーであるモモンさんだけなので(全て丸投げスタイル)」
良し、ナザリック限定の神様のお力でポンポン答えられるぞ、ここまで来たら一気に・・・
「偵察は俺達のチームで行います。もしその場にいたらそのまま戦います(戦いません)」
「では他のチームは・・・」
「必要ありません。足手まといを守りながら戦えるほど甘い相手ではありません(割とマジで)」
「・・・報酬は?」
「最低でもオリハルコンを約束してください。もう一体を捜索する時に我々が動きやすいためにね(動きません)」
完璧だ。神様のおかげで俺はミスする事無く話をまとめられた、しかも成功すればオリハルコンになれるおまけ付きで……後でアインズさんに報告して話に穴がないか聞いてみよう。それとナザリックに帰ったらタブラさんの造ったNPC達にタブラさんの代わりにお礼とした飴ちゃんでもあげよう。
「納得がいかん! 大体、その吸血鬼が本当に強いかどうかも不明ではないか!俺達もついていくぞ!」
さっきから何なのこの人・・・正直言ってこの人キライ・・・って、ついてくるって事は・・・
「やめた方がいいですよイグヴァルジさん・・・確実に殺されますよ(ナザリックの皆様に)」
「やってもいないのに結果が分かるものか!」
サイファーが穏便に済まそうとした態度を弱腰ととらえたイグヴァルジはこちらを睨んでくる。
「脅しでも何でもないんですよ、本当に殺されてしまいますよ(普通に殺して貰えればラッキーなんだぞ)」
「くどい!!」
「警告はしましたよ(ご愁傷様です貴方の冒険はここで終わってしまった)」
彼の人生があと数時間で終了することが決定された瞬間である。
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十九話目 終わり良ければ総て良し
「・・・つまりはサイファーさんはあの男に馬鹿にされたわけですね」
「まぁ、色々突っ込みどころがあるけど、大雑把に言えばそうかもしれない・・・かな?」
冒険者組合での自分の作り話は「大丈夫だと思いますよ」と簡素に終わり、なぜかどういう風に嫌味を言われたのかを詳しく聞いてくるのであまり思い出したくないが一から十まで話してあげた。
「そうですか」
その一言で話を区切りアルベドのもとに歩き出すアインズ。
合流した二人に冒険者組合での話の内容を大まかに話していたが何故かアインズの機嫌が悪くなり、アルベドは何処かに『伝言/メッセージ』を繋げ何かを頼んでいるようだ、アルベドの話の途中でアインズさんがアンデッドの材料にするから原型はとどめておいてくれって言っているけど……どのみちナザリックの機密保護のため彼らは抹殺される運命だが原型は残せって、そこまでする程敵意をむき出しにしなくてもいい気がする。一瞬自分が嫌味を言われたからそれで怒っているのかなと思ったがそんな訳ないかとため息をもらす。
おそらく何かの実験をするつもりなのだろう。
「アルベド、サイファーさん、馬鹿共が来ましたよ、そろそろ出発しましょう」
そう言ってアインズはアイテムで召喚した馬に乗り込み、アルベドはハムスケに騎乗し、余った俺はハムスケの尻尾に持ち上げられる。
合流した早々アインズに冒険者組合に来なかった事で絡んできたが、さすがはアインズ。どこ吹く風と受け流している。
その態度にイライラしたのかハムスケの尻尾にいる俺にまで絡み始めた・・・ホントどうなることやら
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こうなりました・・・
「終わりました、アインズ様」
そう言ってデミウルゴスは優雅に一礼をしてみせた。
「ご苦労。さすがはデミウルゴス。アイツらは私の友であるサイファーさんを侮辱した奴だ、遠慮なくお前の実験に使うが良い。しかし死体は後で私のスキルの実験に使用するため原型はとどめるように」
「ありがとうございます。必ずやアインズ様にご満足いただける結果を出して御覧に入れます」
二人のやり取りをみながらサイファーは思う……あっけなかったと。
吸血鬼討伐のため移動を開始した俺達は目的の森の中まで来たが、森が深く馬ではこれ以上進めないのでアインズさんを先頭に森を歩くと、急にデミウルゴスが現れあっという間にイグヴァルジ達をスキルで洗脳するとナザリックに送ってしまったのだ……時間にして40秒もかからずミスリルの『クラルグラ』はこの世から消えてしまった。
「ところで、サイファー様にしがみついているその動物はいったい」
アインズが視線を向けるとそこにはサイファーの両肩をつかみ半泣き状態で震えているハムスケの姿があった。
「これ? 俺のペット的なものだ。ハムスケ。彼はナザリック地下大墳墓の第七階層守護者のデミウルゴスだ。さ、ご挨拶を」
「サイファー殿よりご紹介があったように、それがしハムスケというでござる。今後ともよろしくでござるよ、デミウルゴス殿」
「・・・こちらこそよろしく、ハムスケ」
サイファー達のやり取りが終わるのを確認したアインズは全員に聞こえるように言葉を発する。
「よし、挨拶は終わりだ、とりあえずここから先は私たち三人で向かう。デミウルゴスはハムスケを連れてナザリックに帰還せよ」
「はっ!」
ハムスケはサイファーを掴んだまま問いかける。
「あの、サイファー殿・・・それがしは大丈夫なんでござろうか? 食べられたりしないでござるか」
「大丈夫だって、身内に手を出すほどの馬鹿はナザリックにはいないって・・・一応皆にこいつは俺のだって伝えてくれるかデミウルゴス」
「かしこまりました。それではお気を付け下さい」
やはりアインズは思う。やっぱりサイファーが一番ハムスケを気に入っている気がする。
アインズ達は目的の場所を目指して歩いていく。
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森の大きく開けた場所に目的の人物……シャルティアがいたがその姿はどこか異常な感じがする。
「シャルティア」
アインズが小さな声でつぶやく、その声はサイファーが今まで聞いたことのないほど弱弱しく感じられた。
「アインズさん、反応がないですね」
サイファーも様子を確認するがシャルティアは全く動かずどこか虚空を見つめているように思える。
二人して様子見をしていた時同行者のアルベドが声を荒げる。
「シャルティア!言い訳の言葉なく、さらに御二方に対しての無礼・・・」
「ストップ! 無暗に近づくな!」
一歩踏み出しかけたアルベドをサイファーが後ろから羽交い絞めに抑える。
「罠だったらどうするつもりなんだアルベド! アインズさんみたいに冷静になれ」
何時もとは違い声を上げて制止するサイファーの言葉に冷静さを取り戻したのかアルベドの怒気が冷えてゆく。
「確定だな。シャルティアは現在、精神支配を受けている」
「まさか、アンデッドを精神支配出来る方法があるなんて・・・まさかこの世界のタレントとか言う能力か」
「それは分かりませんが。おそらくシャルティアは精神支配を受け、そして何か命令が与えられる前に何かが起きたんだと思います・・・例えば、相打ちで倒したため命令が空白だとか、くそ、情報が少なすぎる」
「だったら早めにカタをつけましょう。アンデッドを支配する奴がいるならアインズさんの身も危ない」
「しかしどうやってですサイファーさん?」
「こうするんですよ! 残り回数1回の『流れ星の指輪/シューティングスター』」
そう言ってサイファーは某ロボット風に指輪をわざわざ懐から出して高らかに掲げる。
「そうか、それで対象の全効果の打消しをするんですね」
この世界にきて指輪の効果は立証済みであり、その万能性はアンデッドであるアインズを飲食可能にしたほど理不尽なまでの奇跡を起こせるアイテムである。
ホントはアインズさんの精神の抑制をオン、オフ切り替え可能にしてあげたかったんだけど仕方がないよね。
「そのと~り。一応二人は周りの警戒をよろしく・・・指輪よ俺の願いを叶えてみせろ!」
指輪を高々と掲げるとサイファーを中心に光輝く魔方陣が幾つも重なるように現れ身体に力が溢れてくる。指輪を使うのはこれで三回目だったが何回使っても身体に溢れてくる充実感は病みつきになりそうである。
「シャルティアにかかっている全ての効果を打ち消せ!」
その言葉とともに魔方陣がさらに大きくなろうとした時、全ての魔法陣が砕けて指にはめていた指輪も音を立てて砕けてしまった。
「バカな!この感触は!」
この異世界に来て間もないころ食事が出来ないアインズのために使用し失敗した時と同じ感触がした・・・
サイファーが指輪を取り出した時、アインズは正直ホッとしてしまった「これで大丈夫だ」と
そしてサイファーの『流れ星の指輪/シューティングスター』を全て使わせてしまった事に少し罪悪感を覚える。近い内に何かお礼をしないとな……。
発動される魔法陣を見ながらこれからの事を考える。はたしてシャルティアはどこまで覚えているのだろう。全ては酷かもしれないが断片くらいなら覚えているはずだ。早く帰って対策を練らなくては。
もう終わった事を考えている矢先に目を疑う光景が目に入る『流れ星の指輪/シューティングスター』が失敗するという光景が。
「て、撤退だ!アルベド、サイファーさんを掴め!早く!」
「は、はい! サイファー様ご無礼を!」
「ぐえ!クビガ!」
アルベドがサイファーの襟首を掴むのを確認しアインズは転移の魔法を発動させナザリックの前まで戻ってきたがそれでもアインズは余裕なく警戒をするように命じる。
「アルベド! 追尾して転移する者に警戒せよ! サイファーさんは俺の守りを!」
武器を構え、アインズの左側に陣取るアルベド、サイファーはその反対の右側に陣取り不意打ちに備えスキルを発動させる……がしばらく時間が過ぎても何も起こらず全員が警戒をとく。
「なんでじゃ!!畜生がー!!」
いの一番に声を出したのはサイファーはそのまま両手を握りしめ怒りを露わにし呪詛を吐き出す
「3回中2回が不発だと!! しかも原因が『世界級/ワールドアイテム』の所為だと!! どんな確率だよ!!」
「やはりそうなんですね」
何時もより冷たい態度で言葉を発するアインズ。その纏っているオーラがあのアルベドさえ怯えさせる。
「ええ、アインズさんで一回経験してますし、ほぼ・・・いや、確実にそうです。まさか、この世界にあるとは」
再び拳を握り悔しがるサイファー。アインズはすぐにアルベドに命令を下す。
「アルベド、外にいる全ての守護者を戻す。その際シャルティアのように精神支配を受けていないか調べる必要がある。すぐに玉座に戻るぞ」
「じゃ、俺は守護者達を出迎える係でここに残ります。誰か戻るたびにそっちに連絡します」
「頼みます。いくぞアルベド」
「はい、サイファー様もお気を付けください」
二人は転移の魔法を使いナザリックに消えていった。一人残るサイファーは一人つぶやく。
「3回中2回不発はさすがに酷いよな・・・」
--------------------------------------------------------
「サイファーさん、俺は単騎でシャルティアと戦おうと思ってます」
宝物殿から戻ったアインズから最初に聞いた言葉は信じられないものだった。しかし、サイファーはアインズが勝算もないのに戦う事はないという事は昔から知っているためその方面の心配はないが別の心配がある。
「・・・何の躊躇もなくシャルティアを殺せるんですか? ゲームのNPCじゃないんですよ」
優しいこの人は……できるのか。
「手段はこれしかありません。『世界級/ワールドアイテム』の支配を打ち破るには」
何かしらの覚悟を決めた目でこちらを見つめられサイファーは思わず目をそらしてしまった。
「ハァ、分かりましたよ。どうせアルベドにしか一人で行くって言ってないんでしょう、反対しそうな人達はまとめて俺が見張ってますからご心配なく」
「すみません、我儘を聞いてもらって・・・」
「いいってことよ、それに我儘を聞くのも友達の特権だしね」
「ふふふ、なんですかそれ」
「あはは、なんだろうね」
二人はしばらく笑いあったがアインズが先に静かになった。おそらく精神の抑制が働いたためであろう。
「そうだ、行く前にもう一つお願いを聞いてもらえませんか?」
「何です、今日はとことん聞いてあげますよ」
「サイファーさんの装備を貸してもらえませんか。シャルティアにとの戦いに使いたいんです」
「もちろん、予備の装備も含め好きなものを持っていってください」
しばらくサイファーの装備を物色したアインズはお目当ての物を転送系アイテムに登録しナザリックの外に転移し、サイファーはアルベドと合流し考えられる全ての根回しを開始するのである。
--------------------------------------------
ナザリックにある一室に守護者を集めたがアインズが保険としてアウラとマーレを連れて行ったため思ったより集まらなかった。今この部屋にいるのはアルベド、コキュートス、そしてサイファーの3人だけであったが数分もしない内にデミウルゴスも入室してきた。しかし入室してきた彼は何時もとは違い少しイラついたような雰囲気を漂わせていた。
「サイファー様、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
デミウルゴスが上座に座るサイファーに問いかける。
「なぜ、それをお認めになられたのですか?」
その口調は聞いている分には穏やかだが普段の彼を知る者なら彼が憤りを感じていることが僅かだが感じられた。
「簡単な事だ。アインズさんには十分な勝算があるからだ」
「サイファーサマ、ソレハ真デショウカ」
「コキュートス、それはどういう意味だ」
「ハ! ワタシノ見立テデハ、三対七デアインズ様ガ三ダト思ワレマス」
「なっ!!」
コキュートスの答えにデミウルゴスは思わず声が出てしまった。至高の御方が勝算があると言い、同僚であり優れた戦士であるコキュートスは勝率を三割程度だと言う。
その様子を見ながらサイファーは笑みを浮かべつつ『水晶の画面/クリスタル・モニター』を見つめる。
「それはどうかなコキュートス。スペック性能だけでは測れない強さというものをアインズさんが見せてくれるぞ」
----------------------------------
全てが終わった。
結果はアインズさんが勝利した。
自分が貸した装備はダメージドレインを受けた時、吸収されたHPの1.5倍のダメージをお返しする効果のあるマントである。その効果のおかげかシャルティアの焦りを助長させる事に貢献できたと思う。
しかし、ギルメンの武器や防具を代わる代わる使う姿はホントにカッコよかった。
アインズさんが帰ってきた今、全員で玉座の間に集まっている……が見慣れない軍服のNPCが5億枚の金貨の横に立っていたため挨拶をしようと思ったらアインズさんに止められてしまった。彼は宝物殿の領域守護者だとアルベドが教えてくれた。どうやら自分が来なくなった後にアインズさんに造られた存在らしい。どうりで話した事が無いはずだ。だから今日初めてその存在を知ったわけです。
後でちゃんとあいさつに行こうと思う。アインズさんが造ったんだから性格は良いはずだろう。
そんなことを思っているうちにシャルティアは蘇生された……が洗脳される前の事はおぼろげに覚えているような覚えてないようなと結構あやふやであった。そして洗脳中はまるで覚えてないそうだ。
そのあとの空気の読めない胸発言で他の守護者の反感を買い今責められている最中だ。
「あははは、どうやら完璧に元に戻ったようですねアインズさん」
そのやり取りに気が抜けたのか玉座の手前の階段にへたり込んだアインズに視線を向けると彼は物悲しそうに守護者達に手を伸ばしていた……だから俺はアインズの背中を思いっきりはたいてやった。
「痛っっっった! 何をするんですかサイファーさん!!」
先ほどの物悲しそうな態度とは一変し怒りながらこちらに詰め寄ってきた。
「ごめんごめん、でも元気は出ただろ」
「っ!! ありがとうございます。・・・そうだ俺は一人じゃないんだ・・・」
「何か言いました?」
「いえ、何でもありません・・・さて、皆の者、児戯はそこまでだ」
元気を取り戻したアインズは皆を集め今回の反省点を述べさらにナザリックを強化するべく行動を開始することを宣言した。
「その事なのですが、アインズ様」
「なんだ、デミウルゴス?」
「アインズ様が創造できるアンデッドですが、媒介となる人間の死体では中位アンデッドしか作る事が出来なかったはず」
「その通りだ。それがどうした?」
「人間では中位アンデッドしか創造出来ないのであれば、人間以外を使ってみるのはいかがでしょうか」
「他にあてがあるのか?」
「はい、実は蜥蜴人の集落をアウラが発見しております。そこを襲撃し滅ぼしてはどうでしょうか?」
デミウルゴスの意見を聞き思案し始めたアインズだったが真横から反対意見が飛び出した。
「アインズさん、悪いけど俺は賛成できないね」
「何故です、サイファーさん?」
「さっきシャルティアの件があったのに、なにいきなり目立つ行動するわけ。俺はナザリックの強化に図書館の傭兵モンスターを使う事を提案します。アンデッドだけじゃ戦力に偏りができるからね」
「傭兵モンスターですか? あれお金かかるんですよ」
「だったら昔みたいに鉱山の一つや二つ独占して資金や鉱石を蓄えましょうよ。しばらくは静かに行動を取るべきだと思います」
サイファーの意見を受けアインズに迷いが生まれる。デミウルゴスの意見は成功すれば上位のアンデッドも常備軍としてナザリックに配備でき戦力の増強ができる。
デメリットはサイファーさんが言うように非常に目立つ行動になりいろんな目に自分達がさらされる危険がある。
サイファーの意見は成功すればナザリックの資金や資源の潤いにつながる、しかもこの世界特有の希少鉱石も発見できるかもしれない。
デメリットはシャルティアを洗脳した奴らにも時間を与え、向こうの態勢を立て直されてしまうかもしれない。
自分が考えている間もサイファーとデミウルゴスはこちらを見つめ自分の意見が採用されるのを待っている。
二人の間に挟まれアインズは絶対の支配者としてふさわしい答えを今日も求め考える。
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二十話目 日常の一コマ
シャルティア戦より数日が過ぎたある日の朝、ナザリック地下大墳墓の自室にてサイファーは数少ない自分の仕事である消費アイテムの効果の検証をしていた。
とは言ってもアイテムの効果がゲームと同じか変化したかを書類に記載していくだけの簡単なものである。
一見地味だが『こういうのは後々生きてくるはずです』とアインズさんに言われたため時間がある時にゆっくりとおこなっている。
「うっぷ・・・今日はここまでにしよう」
そう言いながらサイファーは空になった瓶をゴミ袋に投げ入れ先ほど飲み干した薬品の結果を書類に書き記す。
「ゲームではいくら使ってもお腹は膨らまないからHP回復にポーション40個とか使ったけど、今は無理だな・・・飲みすぎで吐きそう」
ゲームではアイテムをいくら食べたり飲んだりしても満腹にならなかったがこの世界はどうやら腹に溜まるらしい。
これもゲームとは違うと備考欄に記載し書類に自分の専用の判子を押し完成させる。
「ふ~、アインズさんに提出しに行くか……おーい、アインズさんの部屋に行ってくるから、その間に食事の準備とゴミの回収作業をしといてもらえる?」
部屋に待機している部屋付きのメイドに声を掛けると彼女はすぐに行動を開始し始める。その様子を確認したサイファーは書類を手にアインズの部屋に歩き出す。
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デミウルゴスがナザリック地下大墳墓第九階層を歩いていると反対側よりアルベドとプレアデスのメンバーが歩いてきた。しかもよく見れば外に出ているはずのプレアデスのメンバーも揃っている
「あらデミウルゴス、久しぶりね。」
「久しぶりですねアルベド、外に出ているプレアデスを含めた全員を引き連れて、何かあったのですか?」
普段は外で活動するプレアデスを見ながらアルベドに尋ねる。
「特には何もないわ、プレアデスが揃っているのはちょうどルプスレギナとソリシャンの定時連絡の時期がかぶったためよ」
「そうでしたか。それで今からどちらに?」
「ええ、ユリがプレアデスが全員戻ったため、改めてアインズ様に謁見をしたいと言うことなのでアインズ様にお伺いを立てに行くとこなの」
「そうでしたか。それと一つ相談したいことがあるのですが、よろしいですか」
「今、ここでかしら。重要な事なら日を改めてからお願いしたいわね」
若干、機嫌を損ねたような声を出すもデミウルゴスの事だからすぐに終わる内容なのであろう。
「それでどうしたのかしら?」
「実はですね・・・」
そう言ってデミウルゴスは今朝見たサイファーとアインズの事を話し出した。
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今朝方、アインズのデスナイトを使った日常品を武器に出来るかの実験に参加した時事件が起きた。
デスナイトがナイフやフォーク、フライパンやお玉、はては丸太などを振り回らせていた時アインズを訪ねてサイファーがやってきた。
どうやら消費アイテムの実施結果の報告に来たようだ。
「丸太でも武器になるんですね、てっきり資材だと思っていたけど」
「ええ、しかし丸太を武器にして吸血鬼を倒す人や、ナイフとフォークで狩猟する美食家がいるって昔タブラさんが言ってたんで気になってしまってね」
「ふ~ん、ま、詳しくは朝飯でも食べながら聞きますよ、アインズさんも朝飯まだでしょ?」
「ええ、まだですよ。・・・デミウルゴスにデスナイトよ。実験は一時中断とする、私たちは食事に向かうのでお前達も休息を取るが良い」
「は!ご配慮感謝いたします」
「デスナイトはその丸太を片付けておけ」
その命令を受けデスナイトは床に置いてある丸太を持ち上げ小脇に抱え回れ右をする……そして悲劇が起こる。
「ぶっほん!」
デスナイトが持っている丸太が回れ右をした拍子にサイファーの後頭部を直撃し短い悲鳴を上げながらサイファーは床に倒れる。
「サイファー様!!」
その光景を目撃したデミウルゴスは激しい怒りが湧き上がる。
至高の御方でありアインズ様のご友人でもあらせられるサイファー様に対してのこの無礼許す訳にはいかない。
「ぶっはっはあっは・・・何やってるんですかサイファーさん・・・ぶっほんって・・・くふふふ」
アインズの突然の哄笑で頭が混乱……いや・よくわからない状態になり怒りが霧散していき妙に落ち着いていき、デミウルゴスはただアインズに視線を向けるしか出来なかった。
そんなデミウルゴスを余所に二人の話は続く。
「笑いすぎですよアインズさん、ちょっとは心配してくださいよ」
何事も無かった様に立ち上がりアインズに詰め寄るサイファーに笑いをこらえながら答える。
「ハイハイダイジョウブデスカ(棒読み)」
「心がこもってない!(ガビ~ン) せっかく面白いアイテムが見つかったから食事の後にあげようって思ったのになぁ」
「大丈夫です、サイファーさんが持っているアイテムは大体俺も持ってますから」
「やっぱりヒドイ(笑)」
そして何事もなく談笑をしながら歩き出す二人を見ながらやるせない気持ちになるデミウルゴス
あの程度の事は御二方にとっては笑い話なのかと途方に暮れてしまう。
--------------------------
回想終了
「と言う事がありますてね・・・正直対処に困っておりまして」
デミウルゴスの話にアルベドはハムスケとの出会いを思い出す。あの時もアインズ様はサイファー様がふき飛ばされても大笑いするだけでサイファー様の身をまるで心配してはいなかったように思える。
「それならば私も似たような事を目撃したことがあります」
皆の沈黙を破りユリ・アルファは話し始める……。
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ナザリック地下大墳墓の第六階層の闘技場内でアインズとサイファーはキャッチボールを行っていた。
もちろんグローブも野球ボールもナザリックに存在している。グローブは腕部装備品でありボールは投擲武器扱いだが二人には関係なかった。
「たかがキャッチボールだと馬鹿にしてましたけど中々遊べるものですね」
そう言ってボールを投げるアインズ、だがボールのスピードは恐ろしく速い。魔法職とはいえさすがはレベル100。
「でしょう、それにここに帰ってきたら書類整理ばかりで身体も鈍るし良い運動になるでしょ」
アインズの剛速球を難なく受け止めるサイファー。さすがはレベル100のタンク職である。
「そうですね・・・そろそろ終わりにしてお昼に行きましょうかサイファーさん」
「オッケー、じゃ次でラストにしましょうか」
そう言ってアインズにボールを投げるサイファー。それをキャッチしたアインズは最後だと言う事で思いっきり振りかぶりボールを投げたが……。
「しまった力み過ぎたか!」
アインズの投げたボールはまっすぐ飛ばずにフライのように上に飛んでいってしまった。
「大丈夫だ 問題ない・・・・・ぶぐ!」
ボールを追いオーライオーライと両手を上げ落下地点に向かったが所詮は素人、落ちてきたボールはグローブの脇を通りサイファーの顔面にすいこまれる。
「サイファー様!!」
思わず待機していたユリ・アルファは声を上げてしまった。ボール代わりに使っているとはいえあれは投擲武器の一種である。もしかしたらサイファー様とはいえお怪我をなさる可能性がある。
そう思いサイファーの下に駆けだそうとした時場違いな笑い声が響く・・・
「ふはっははは! 何やってるんですかサイファーさん」
「み、見ないで! 恥ずかしイイ」
二人はそんなやり取りをしながら道具を片付け昼食に向かい始める。その場には真っ二つに割れたボールとその光景にあっけにとられたユリのみ残された。
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回想終了
「と言う事がありまして。幸いサイファー様にはお怪我はなくボールの破損のみでしたが、肝が冷えました」
再び沈黙が訪れた時次はアルベドが口を開く。
「は! もしかしてサイファー様に危害を加えたらアインズ様が喜んでくださるとか」
その場にいた全ての者がその事を否定しようとした。しかし、皆の目撃情報を聞いてみるとありがちそうでもないような気さえしてくるがすぐさま否定する。
たとえそうだとしても至高の御方に危害をくわえるなど許されない蛮行である。
「確かに対処に困る内容であることは間違いないようね。デミウルゴス、この問題は今度私達守護者全員でアインズ様に確認してみましょう」
「そうしてくだされば助かります。時間を取らせて申し訳ない、ではまた後日」
話を切り上げデミウルゴスは次の仕事に向かい、アルベドはプレアデスを連れアインズの下へ向かい始める。
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第九階層に存在する従業員食堂の入り口付近でサイファーはウロウロしていた。
時折中を覗いたり、誰かだ食堂から退出するのを見かけると全力で廊下の曲がり角まで退避し自身の存在を悟らせないように行動していた。
なぜこのような事をしているかというと部屋でアインズと二人で食べるのも悪くないが食堂があるんなら利用してみたいという事なのであるが……しかしまだ一度も中に入った事は無い。理由は簡単で、サイファーが女子率ほぼ100%の食堂に入る事にものすごい気恥ずかしさを覚えるためである。
「昼過ぎだってのにまだいるよ。すごく興味があるんだけど女の子しかいないのに中に入るなんて無理だよ」
彼を誰が責められようか。現実世界だっておいしいと有名な店でも女子率100%だと男は入りにくいモノなのである。しかもサイファーは一人である。人間の感性が結構残っている悪魔にとって食堂は入りたくても入れない『働く女の聖域』みたいに感じているのだ。
「ビュッフェ形式で楽しそうだな、卵やハム類は注文してから焼いてくれるのか・・・羨ましい」
今日も今日とて1時間以上食堂の入口付近をウロウロし中の様子を窺う。
至高の御方でなければ通報ものの不審者ぶりである。
「最初はメイド達がいなくなってから入ろうと思ったけど、メイドの食事が終わったら即終了なんだよな・・・食べたいけど女の子の中に混ざるのは・・・無理だ、たとえモモンガさんだろうと一人では入れないだろう」
ん?・・・そうだ俺は独りじゃない友がいたんだ!
そうと決まればモモンガ……いや、アインズさんを巻き込みに行こう。
食堂に行ける可能性が出てきたサイファーはアインズを探すべく行動を開始する。
「今日もサイファー様来てたね」
「うん、今日も中の様子を確認して御帰りになられましたね」
「何かお考えのあってのことかしら」
サイファーは気付かれてないと思っているようだが食堂に入るメイド達は全員サイファーが何時も食堂の中の様子を見ている事に気が付いている。
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第九階層にアインズが居るとメイドに教えてもらい目的の部屋の前まで来たサイファー……しかし部屋の中が妙に騒がしいような気がする。
「おかしい、このナザリックでこれほど騒ぐ奴などいないはず・・・トラブルでもあったのか? いや何かあれば『伝言/メッセージ』を繋げるはずだ」
何かしらの危険があるはずだと覚悟を決め扉を開くサイファー……しかしそれは開けてはならない地獄への扉だった。
「騒がしいですよいったい何してんで・・・す?」
扉を開けるとそこはカオスであった。
うさ耳をつけエラヤッチャエラヤッチャヨイヨイと変な踊りを踊っているナーベラル。
でぶってまで何かを食べ続けているソリシャン。
Gと一緒にその辺を飛び回るエントマ。
逆さまになりながら何やらフリーズしたようなポンコツ具合のシズ。
花を愛でながらおっとりしているルプスレギナ。
頭をボーリングの球のように扱うユリ。
モモンガの名前を連呼しながらアインズの抱き枕に抱き着いているアルベド。
そしてその光景に震えているアインズ・・・
「え? あ、え?」
上手く言葉が出ない、そしてこの現状は自分の手に負えないと確信したサイファーはアインズの下に駆けよろうとしたがアルベドが立ちふさがる。
「ア、アルベドさん、ちょっと退いてもらえます・・・」
「サイファー様はアインズ様に笑って欲しいですわよね、ね!」
「え・・・ええ。ほしいです」
アルベドの異常なほど熱気がこもった瞳に押されながら言葉をひねり出す……はっきり言って目がイっちゃってる。
「では殴らせてもらいますね」
そう言ってアルベドは拳を固める。
「ちょっと待て! なんでそうなるの!!」
「私は知っておりますモモンガ様が御笑いになるのはいつもサイファー様が何らかの被害にあった時だと私は確信しておりますハムスケの件とかデスナイトの丸太の件とかボールが顔に当たったときとか」
「い・・・いや~~~!!」
ホールにサイファーの悲痛な叫びが木霊しさらに混乱に拍車がかかる。
アルベドより逃げるサイファーを見ながらアインズはただ唖然とするしかなかった。
なお効果は1時間で切れたもよう。
アルベド「私は一体何を?」
サイファー「お、終わったの?」←柱にしがみ付き中
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二十一話目 悪魔王と守護者達
「結局、蜥蜴人を襲う事にしたんですね」
執務室でアインズより渡された書類を確認したサイファーは自分の企画が却下されたかと内心がっかりした。
自分としては結構まじめに考えて発言し、その後ちゃんと企画書まで書いて提出したのに採用されたのはデミウルゴスの『蜥蜴人襲撃企画』である。
元社会人としては少し悔しい気持ちも……多分ある。
「全面的にデミウルゴスの案を採用した訳ではありませんよ。ただシャルティアを洗脳した奴らの関係者が蜥蜴人の中にいないとは限りませんから、殲滅って訳じゃありませんがちょっと小突いてプレイヤーが居るか確認するだけですよ」
露骨に嫌がるサイファーにアインズは少なからずデミウルゴスの案にフォローをいれる。
「アインズさんの気持ちも分かるけど・・・軍の総数5000前後の見通しって、奮発しすぎじゃないの? 俺はこの半分・・・いや、三分の一で十分だと思うけどなぁ」
書類をめくりながらサイファーはますます不安になる。はっきり言って過剰戦力にも程がある。ちょっと小突くくらいならアンデッド1000体くらいで十分脅威だと思う。
「確かに俺も最初はそう思いました、けどもし俺達以外のプレイヤーがいるのなら最低このくらいは必要だと思いますし、相手が俺らの知らないマジックアイテムを持っているかもしれません、あとタレントにも警戒が必要です」
アインズの補足説明を受けながらさらに書類を読み進める。そして総指揮官の名を見て少なからず驚きをおぼえる。
「コキュートスが総指揮官ですか。でも、アイツ『コマンダー』とか『ジェネラル』とかの指揮系統のクラスを習得してましてっけ?」
サイファーの驚きぶりにアインズは内心ほくそ笑み、この作戦に隠されたもう一つの目的を語り始める。
「サイファーさん、俺達ってこれ以上強くなれると思いますか?」
いきなりの質問にサイファーは首を傾げるがすぐにアインズの質問に答える。
「なにいってんの、俺達はレベル100のカンスト勢なんですよ。それに出来る限りの課金で身体を強化してるんですよ。さすがにこれ以上は強化出来ないと思いますけどね」
そう言いながら自分の顔や角をぺたぺたと触りながら答えるがアインズは首を振って否定する。
「確かに身体のスペックはこれ以上成長しないでしょう、ですが俺が求めているのは技術や経験の事ですよ」
「ぎじゅつやけいけん?」
「そうですね、俺がモモンとして戦士をやっていますけど、最近何か変わったと思いません?」
「最近? アダマンタイトの冒険者になった・・・じゃなくて、動きが滑らかになってきた・・・とか?」
「そう!それです」
思いがけないアインズの大声に若干驚いたが話は途切れることなく続く。
「俺は魔法職しかとっていないのに戦士としての剣の腕が格段に上がってきてます。これはスキルやクラスによるものではなく、れっきとした俺の実力アップに繋がっています」
その後もアインズは色々と強さの定義や可能性の話を熱く語ってくれた……小難しい話が多かったが、つまりはカンスト勢の成長の可能性の模索である……と、サイファーは思う事にした。
「じゃ、話も終わったことだし、俺はこのままこの書類を各部署に伝達にいきますね」
「わざわざサイファーさんが行かなくてもアルベドかデミウルゴスに任せたらいいんじゃないんですか?」
「いや、アインズさんと比べて俺ってあんまり守護者達と話す機会がすくないなぁって思ったから、書類配るついでにお話でもしてこようかなって」
確かにサイファーは守護者達とある意味疎遠になっている。アインズはナザリックの支配者であるため頻繁にとまではいかないがちょくちょく報告のため顔を合わせている。しかしサイファーはアインズの個人的な頼み事や支配者に相応しい態度や言葉遣いの練習相手や魔法具のゲームとの差異の調査などを一人で行い、報告もアインズに直接行うので会う機会がほぼないのだ(アルベドを除く)。
「確かに、良い機会ですし存分に話してきてください」
「ありがと、じゃぁ、いってきます」
そう言って扉に向かい開けようとドアノブを掴んだところで急にサイファーが振り返ってきた。
「ああ、そうだ。例の食堂の件、考えてくれました?」
その言葉にアインズは頭を押さえる。サイファーが一人で食堂に行くのが恥ずかしいなどおかしな事を言うものだから気になって調べに行ってみたのだが、食堂にはメイド達がたくさん食事をしてる以外特に変わりはなく、入って食事もしてみたが普通においしかった。ただ周りが恐ろしく緊張していたことを除けばいたって普通だった。
どこに恥ずかしい要素があるのか全く分からない。
「一緒に行ってほしいってやつですね。俺は何時でもいいのでサイファーさんが良い時に誘って下さい」
「ホントですか! さすがはナザリックの最高責任者でギルド長のモモンガさんだ。それでは明日の朝食をご一緒してください」
「ええ、喜んで」
他愛のない会話を済ませサイファーは退出した。その事を確認したアインズは机の上の資料をまとめ背伸びをする。
「んん~! あとはサイファーさんに任せて久しぶりに自室に帰ろうかな」
空いた時間の活用法を模索しながらアインズは自室に向かい歩き始める・・・・自室に新妻がいるとも知らずに・・・
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第九階層ある一室
「確かに承りました」
いつも通りのピシッとした格好と優雅な態度で書類を受け取るデミウルゴス、何時も思うが同じ悪魔でも、こうも違うのはどうしてだろう。
「ああ、お前からしてみればぬるい内容に変更されたと思うが、これもアインズ様のご意志だしっかりと頼んだよ」
「ご期待に沿えるよう努力いたします」
「良し! これで表向きの用件は終了だ。デミウルゴス、この後少し時間はあるか?」
サイファーの言葉にデミウルゴスは少し考える素振りを見せるがすぐに了承する。
「そう畏まらなくても大丈夫だよ。ただ少し話をしようと思ってね」
「話?でございますか」
「そう、俺はアインズさんの命で一人動いているから守護者達とあまり顔を合わせる機会が少ないからね、だから書類を持ってくるって口実で皆に挨拶に回ろうかと思ってね」
「なるほど、そういうわけでしたか」
どうやら納得してもらえたようだ。
「そういうこと、話もお堅いものじゃなくて世間話みたいなものだから・・・例えばデミウルゴスはアインズさんの妃候補にアルベドとシャルティアを考えているそうじゃないか」
「!!」
軽いジャブみたいなつもりで話を振ったけどデミウルゴスは固まってしまった……恋愛話はまずかったかな、よし少しおどけた感じで押し切ろう。
「その顔は当りみたいだな・・・じゃ、俺の妃候補とかは決まっているの?」
「!!」
デミウルゴスは多分しまったとか忘れてたって顔をしたと思う。
そのまま事務的な話をして俺は次の階層を目指した・・・・ここでも俺は独身なのだろうか・・・
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第九階層とあるショットバー前
「話しかけづらいな、あれ」
シャルティアが出入りしている店があるというので窓から覗いてみると落ち着いた照明が照らすこじんまりとした大人の雰囲気が漂う感じの良い店であった。
しかしそこには場の雰囲気をまるで考えない飲み方をしているシャルティアを発見した……いや、してしまった。
「次ぃ!」
ジョッキをカウンターに叩きつけながらおかわりを要求する姿なぞ見たくなかった。
「まじかよあれ、ペロロンチーノの兄貴の最高傑作とまでいわれてたのに・・・・」
あまりの豹変ぶりにドン引きしているとバーのマスターをしている副料理長のピッキーと目が? あってしまった。
やばい巻き込まれる。そう直感したサイファーは覗きを止め転移の指輪を発動しその場を去った。
シャルティアは・・・また後日にしよう。
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第5階層「氷河」大白球
「話?デゴザイマスカ」
「そう、アインズさんばかりが表に立って守護者達と接していて俺はあまり皆と話が出来ていないから書類を配るついでに皆の顔を見て回ろうと思ってね」
「ソウデアリマスカ。シカシ、ソノヨウナ些細ナ事デ我々ノ忠義ガ揺ラグトハ思エマセンガ?」
「そうかもしれないけど、俺が気にしているからちょっと付き合ってよ」
「ワカリマシタ、シカシ、会話ニテ、サイファー様ヲ楽マセルノハイササカ無理ガアルヨウニ思ワレマスガ」
コキュートスの真面目すぎる意見にサイファーは苦笑いを浮かべる。別に会話を楽しみたいわけではなくただ少し雑談でも交わして友好を深めようと思っただけである。
「いやいや、そこまで気にする必要はないんだよ。例えば何か困り事があるから俺に聞いてほしいとか、そんなんでも良いんだよ」
「困リ事デアリマスカ・・・ソレデシタラ、一ツゴザイマスガ・・・」
「お、なんだ? 言ってみ」
言い淀むコキュートスに続きを話すように促すと意を決したように話し始める。
「実ハ。アインズ様トシャルティアノ戦イヲ見テカラ、モット歯ゴタエノアルトレーニング相手ガ欲シイトオモッテイタノデス」
おお、なんというストイックなやつ、そういえばコキュートス程の者とまともにやり合えるいえばセバスかアルベドくらいか、しかし二人は任務があるから早々コキュートスの訓練には参加出来ないだろう。
「分かった。アインズさんに協力してもらってかなり高レベルなシモベを見繕ってきてやるから任務開始まではそれで我慢してもらえるかな」
「オオ! ワガ願イヲ聞イテクダサリ感謝ノ言葉モゴザイマイセン」
「良いってことよ、それでじゃ、任務がんばれよ」
そう言い残し大白球を後にした。コキュートスのやる気に満ちた顔を見られてよかった気がする。
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第六階層 円形闘技場
「アウラちゃんとマーレ君に会いに来たのに、なんでアインズさんがいるんですか?」
外に仕事に出ている二人が珍しく一緒にナザリックに帰ってきたと聞いたから来てみれば、なぜかアインズと三人で話をしていた。
「なんでって、珍しく二人が一緒に帰ってくるって聞いたから様子を見に来たんですけど」
「まあいいか、アウラちゃんにマーレ君。おかえり」
「わざわざありがとうございます、サイファー様」
「た、ただいま戻りました、サイファー様」
元気なアウラとおどおどしたマーレ。設定に忠実とはいえ中々可愛らしい子供達だ。アインズさんの目もどことなく優しい気がする。
「今日はどうされたんですか? あたし達に何かご用事でしょうか?」
「ああ、次回の作戦の書類を守護者達に配るついでに二人に個人的な話があってね」
「そ、そうなんですか。で、でも、お話ってなんでしょうか」
「みんなにも言っているけど、そんなお堅い話じゃないよ」
そう前置きをしてここに来た目的を話すと二人は多分嬉しそうな顔をしたと思う。子供だから構ってもらえるのが嬉しいんだろうか。しかし二人の設定年齢は俺の倍以上あるんだけどね。
「と言う訳でなにか聞きたい事とか、困ってる事とかはないかな?」
「あ、一つありました、いいですかサイファー様」
「なんでも言って良いよアウラちゃん」
「他の守護者達は呼び捨てなのに、どうしてあたしとマーレを『ちゃん』や『君』付で呼ぶんですか?」
「そういえばそうですね、何でなんですサイファーさん」
アウラの疑問はアインズにとっても疑問だったらしく話に入ってきた。
「なんでって。ぶくぶく茶釜の姐さんが二人の事を俺らに紹介した時に二人を呼び捨てにすんなって言ってたじゃないですか、アインズさんもその場にいたから知ってますよね?」
「でもその後で茶釜さんから『冗談だからね』ってメールが来ましたよね」
「え?」
「え?」
二人の間に沈黙が生まれアウラとマーレが心配そうにオロオロしはじめた時サイファーは口を開いた。
「俺、メールもらってませんけど」
「あ~、一人だけメールを送ってないから黙っててねって書いてありましたけど。あれサイファーさんだったんですね」
「聞いてないよ~!!」
何年か越しのドッキリにサイファーの叫びは円形闘技場中に木霊した。
その姿にアインズは肩をプルプルさせながら笑いをこらえ、アウラとマーレは思いがけず創造者のぶくぶく茶釜の話を聞けて嬉しさで盛り上がっていた。
そんな三人を余所にサイファーの叫びは何時までも続くのであった。
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二十二話目 予想外です
コキュートス軍敗北
その結果にアインズとサイファーの二人はそれぞれの思いが頭にうかぶ。
「コキュートスがまさか負けるなんて」
正直言って少し信じられなかった、アインズさんが用意した下級アンデッドは総数4950体というバカみたいな数になっており、蜥蜴人との戦力差は約三倍にもなっていた。
蜥蜴人に対して過剰すぎる戦力と思っていたがまさかの敗北。その事にサイファーは一つの答えを導き出す。
三倍の戦力差を埋める存在・・・つまりはプレイヤーの存在
「どうやらアインズさんの懸念は当たったみたいですね」
何時になく真剣にアインズを見つめる。見つめられたアインズはちょっと驚いた顔をしていた。
「え? 懸念って」
どうやらとぼけている様子だ。
「プレイヤーの存在ですよ。まさか下級とはいえ三倍の戦力差を埋めるほどとは。蜥蜴人にも被害があると言うことはカンスト勢ではなさそうだけど・・・」
「いや、多分いないと思いますよ」
「え? いや、三倍の戦力を退けたんですよ、間違いないですよ」
「下級アンデッドなんか戦術次第ではいかようにもなりますよ。アンデッドって命令通りにしか動かないし臨機応変な態度もとれませんからね。この勝負はコキュートスの油断と蜥蜴人の作戦の効果で決まったものですよ。ですがほんとにいた可能性も捨てきれませんけどね」
「さいですか。それより、その原稿用紙は暗記出来ましたか?」
「ばっちりです、想定外の事が起きない限りは完璧のはずです……タブン」
アインズは机の上に置いていた資料をアイテムBoxの中にしまいこんだ。
「サイファーさんも打ち合わせ通りの行動をお願いしますね」
「わかってますけど、あまり偉ぶった話し方はしたくないんですけどね、肩こるし、精神的にきついんですよね」
「我慢してください。普段は構いませんけど今日はしっかりしてください」
「あと、呼ばれるまでここで待つのって何か意味があるんですかね?」
「いや、さっぱりわかりません。しかし皆がこれを望んでいるのである程度はしょうがないんじゃないんですか」
「アインズさんは玉座に座るから良いかもしれないけど、俺なんか話が終わるまでカッコつけて立ちっぱだから足がパンパンになるんですよ・・・なった事ないけど」
「威厳をもって座るのも肩が凝るんですよ。いや、肉体的じゃなくて精神的な意味でね……あとシャルティアへの罰はホントにアレで良いんですか?」
「俺は良いと思うけどね。なんせたっち・みーさんも奥さんにゲームのやり過ぎの罰でやらされたらしいから、ある意味、至高の方も受けた罰だからいい感じだと思うよ」
「そうですよね。俺もたっちさんから聞いた時、思わず同情しちゃったし」
二人が笑いあっていると扉をノックする音が聞こえたため入室を許可するとアルベドとユリ・アルファが入ってきた。
「お時間となりました、アインズ様、サイファー様。王座の間までご足労願います」
ついに時間が来てしまったようだ、サイファーに軽い緊張が身体を駆け巡る。
「うむ。では行きましょうかサイファーさん」
「了解いたしました、アインズ様」
二人は覚悟を決め玉座の間に行くべく行動を開始する。その表情はさっきまでの和やかなものではなく絶対に失敗できないプレゼンに向かう企業戦士の顔であった。
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「ナザリック地下大墳墓最高支配者アインズ・ウール・ゴウン様。至高の御方悪魔王サイファー様。および守護者統括アルベド様のご入室です」
戦闘メイドプレアデスの一人、ユリ・アルファの声に合わせ扉を開き玉座の間に足を踏み入れる。静寂に満ちた空間にアインズの杖が床を叩く音やサイファーの靴音、アルベドのハイヒールの音がいやに大きく室内に響いている。
既に玉座の間に待機していた守護者達は片膝をつき頭を垂れ、敬意を示していた。
一体何時からいるのだとサイファーは場違いな事を考えながら玉座に座ったアインズの右横に待機する。
「顔を上げ、アインズ・ウール・ゴウン様のご威光に触れなさい」
アルベドの言葉に守護者達は一斉に顔を上げアインズに視線を集中させる。しかしコキュートスだけ一瞬反応が遅れたような気がした。
そんな事を考えているとアインズが俺相手に何回も練習したセリフをゆっくりと話し始めていた。
「よくぞ私の前に集まってくれた各階層守護者たちよ。まずは感謝を告げよう。デミウルゴスよ!」
練習した時以上に支配者としての威厳たっぷりに労うアインズ、デミウルゴスはいつもの冷静な顔ではなく歓喜に震えた表情で頭を下げている。
話を聞く限りデミウルゴスの周りでは不審者情報はなし、そして低位のスクロールの制作に耐えうる皮を発見し安定して供給も出来るという話だ。材料となっているのは聖王国両脚羊……アベリオンシープの皮らしい。
ユグドラシル時代でも聞いた事のない種類である。この世界独特の動物だろうか。モコモコのふわふわだろうか、それともハムスケと同じで硬くてごわごわなのだろうか。
いや、最近は毎日のブラッシングと定期的なシャンプーで前よりかは柔らかくなってきたし理想のモコモコまでもうちょっとだと思う。
幼少時の夢は中々捨てられないらしい。
数が多いらしいから何匹かあとで分けてもらえないだろうか?
少し空想にふけっていたらしくヴィクティムの話を半分くらい聞き逃してしまったが、いざという時は殺してくれてかまわないという事だ、ヴィクティムマジ天使。彼? 彼女? にはあとでお菓子でも差し入れてあげよう。
「次にシャルティア」
「はっ! はい!」
シャルティアにしてはやけに甲高い声を上げる。
「我がもとまで」
アインズの言葉にシャルティアは驚きと不安と共に玉座の側まで来て片膝をつく。
「シャルティアよ。お前の心に刺さった棘の件だ」
「ああ! アインズ様。どうかわたしに罰をなにとぞお与え下さい! 罪深き愚か者に相応しい罰を!」
シャルティアの血を吐くような声が玉座の間に響き、守護者達もその気持ちは理解できた。
「わかっている、信賞必罰は世の理。サイファーさん」
アインズに呼ばれサイファーはシャルティアの前に立ちアイテムboxより一枚の紙を取り出し読み上げる。
「シャルティアよ、七日間の守護者としての業務停止及び第九階層のトイレ掃除に処す。最初の一日はメイドにやり方を習い残りの六日間は一人で行うように」
「・・・・はっ、はい?」
困惑するシャルティアに横からアインズが言葉をかける。
「この罰は私の友である、たっち・みーさんも行った事もあるナザリックにおける罰の一つである、決して悪ふざけで言っているわけではない・・・それと・・・」
玉座の前で頭を垂れたシャルティアに骨の手が伸び、優しく頭を撫でる。
「・・・あの失態は私の失態でもある。それに『世界級/ワールドアイテム』が相手では分が悪すぎる。私はナザリックに仕えるお前たち全員を愛している。当然、お前もだ。だからそんなに自分を卑下にするな、これからも変わらず私に仕えてくれないか?」
「あ、あいんずさ・・・ま」
アインズの言葉に皆目の辺りを拭っている……ホントにすごいなこの人。
アルベドは少し不満そうだけど至高の御方も受けた事があるという前例があるから口をはさめないようだ。
赤い目をさらに充血させシャルティアが階段を下り、元の場所に戻っていきこれ以上ないくらいに臣下の礼を取っている。
さて、ここからが本番、コキュートスの番だ。
「コキュートス。アインズ様よりあなたに向けての御言葉があります。傾聴しなさい」
その言葉にコキュートスは頭を大きく下げる。その姿は拝謁には適しているように見えるがサイファーには叱られるのを待つ子供のように見えた。
「蜥蜴人との戦闘、見せてもらったぞ。コキュートス」
「ハッ!」
「敗北で終わったな」
アインズの言葉にコキュートスは即座に謝罪を口にするがアインズは杖で床を叩き制止する。
そして指揮官としての戦闘について感想を求め、どのようにしたら戦いに勝てたかを続けざまに質問していく。
コキュートスはこちらが思ったよりハキハキと問題点を挙げていき、その対処方法まで答えていく。
アインズは他にも問題点はいくつかあると言っていたが正直それだけ出れば十分だろうとサイファーは考える。
「・・・蜥蜴人たちを殲滅せよ。今度こそ誰の手も借りずにな」
いくら事前に決めた事とはいえ、その言葉にサイファーは少し不快感を覚えてしまう。いくらナザリックのためとはいえ罪のない異形種を殺すことに軽い禁忌感が心に宿る。
しかし思うだけでサイファーは何も異論は出さない。所詮は他人である、どうなろうと知ったことではない。
サイファーが声を上げて反論する時は自分の知り合い、又は自分が気に入っている人物が危険に晒される時だけである。
例を挙げればカルネ村にいる三人にペットのハムスケ、外から連れてきたドリアード、エ・ランテルのいつもおまけしてくれる露店のおじさんが危機にあっていたのなら助けてあげようとアインズに声を上げて迫るだろう。
何時までたっても了承の言葉が返ってこない。そのことにこの場にいる全員が疑問を抱く中、コキュートスの声が響く。しかしそれは命令の受諾ではなく、ある意味無謀なセリフであった。
「アインズ様ニオ願イシタイ儀ガゴザイマス!」
その言葉にこの場のすべての者が凍り付いた。しかしすぐに幾多の視線がコキュートスに突き刺さる。
サイファーも予想外のことに内心動揺しそうになるが隣に動揺せず佇むアインズを見てすぐに心を落ち着かせる。
さすがはアインズさん、この程度の事は動揺するに値しないと言うことか。
サイファーが別の事に感心している中コキュートスの言葉は続く。
「ナニトゾ!アインズ様!」
「愚か!」
コキュートスの言葉はアルベドの叱責にて遮られる。
「栄えあるナザリックに敗北をもたらした身でありながら、アインズ様に請願するとは! 己が分をわきまえなさい!」
いくらアルベドに責められようと決して頭を下げないコキュートス、その態度にますます憤怒の感情が強くなるアルベド。
「まあまあ、アルベド。あのコキュートスがここまで言っているんだから話くらいは聞いても良いんじゃない、ね、アインズさん」
これはまずいと思ったサイファーはアルベドをなだめアインズに話を振る。ここでアインズが何らかの反応を示してくれないと多分アルベドは止まらないだろう。
そんな思いでアインズに視線を向けるとサイファーの思いが通じたのかアインズは口を開く。
「よい、アルベドよ。コキュートスよ、お前が私に願う儀とやらを、聞かせてくれないか?」
アインズの言葉に萎縮してしまったコキュートスは一言もしゃべらず辺りに重い沈黙がのしかかる。
しかしアインズはそんなコキュートスに優しく語り掛け緊張をほぐしてやると意を決したように話し始めた。
蜥蜴人を殺すのは反対だと・・・
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アインズの自室に戻ってきた二人は守護者とのお話し合いで受けた精神的疲労を癒すために巨大なソファーに倒れこんだ。
「疲れた・・・本当に疲れた・・・」
「いや、ホントに疲れましたねサイファーさん・・・あ~酒でも思いっきり飲んで泥酔したい・・・・酔えないけど・・・」
「俺のスキルの『愛憎の果て』で毒扱いの酔いをプレゼントしましょうか? あ、完全耐性を持っていても大丈夫ですよ、このスキルは耐性を持っていても自分が掛かっている状態異常を確率で相手も同じ状態異常に出来るスキルですから」
「マジですか、ちょっと試してみたい気もしますけど・・・ぐでんぐでんに酔っぱらった支配者ってアリなんですかねぇ」
アリかナシといえばナシなのだろうがここ一か月精神がすり減るような毎日を送ってきたアインズにとってサイファーの提案は少し魅力的だった。
「ここまで休み無く働いたことは記憶には無いけど・・・今月の残業代、どんだけ出るんだろう?」
「ハハッ、何をおっしゃる。サービス残業に決まってるじゃないですか」
サイファーの言葉にソファーから起き上がったアインズは異を唱えた。
「間違っているぞサイファーさん、 ナザリック地下大墳墓はホワイト企業であり、社員の残業代は全額保証しております……ギルド長の俺が決めたからそうなんです」
「まじっすか~ ナザリックに就職できた俺って超勝ち組じゃん・・・下からのプレッシャーがえげつないけどね・・・・・いやよく考えたら守護者からのプレッシャーがえげつないのは支配者であるアインズさんだけであって俺はそんなにないなぁ、それはそれで寂しいけど」
「そうそう、守護者と言えばコキュートスだよ、すごいことですよコキュートスがあんなこと言うなんて」
あの後は大変だった、中々喋ってくれないコキュートスをアインズが優しくさとし話を聞いてあげて、サイファーがキレまくるアルベドを何とか制御し話を脱線させないように努めたのだ。
その甲斐がありコキュートスは自分の意見をしっかり言えたが、最後の最後でアインズの望む蜥蜴人を生かすメリットを上げることが出来なかったがデミウルゴスが助け舟を出してくれたお陰でコキュートスの意見は採用された。
欲を言えばデミウルゴスの案をコキュートスが出してくれたら最高だったが贅沢は言えない。
今回の実験は全体的に見て大成功だと思われる。
コキュートスの予想外の成長、そしてカンスト勢の経験による成長の可能性、外の世界の統治実験など、収穫はばっちりである。
「・・・子供の成長を嬉しがる一方で、自分が支配者として忠義を尽くされるに相応しいのかという不安が込みあがるな」
ああ、怖い怖いとぼやきつつ、アインズは天井を見上げているとサイファーの調子の良い声が聞こえる。
「以前、たっちさんが子育ては夫婦共同で行うものだって言ってましたよ、子供のことで一人で悩まなくても良いんですよアインズさん、それと今、支配者に相応しくないならこれから支配者として『成長』していけばいいんですよ、その可能性はコキュートスが示してくれましたよ」
「・・・・・・真面目なことも言えるんですねサイファーさん、不覚にもちょっとジーンときちゃいましたよ」
「周りが茶化すだけで、俺はいつも真面目に意見を言ってるからね! あとそんな優しい目で俺を見ないで!」
先ほどの疲れを癒すように笑いあう二人・・・果たして二人は『成長』することが出来るのであろうか
多分出来なくてもナザリックの皆はこれまで通りの忠義を尽くしてくれるだろう。
しかし二人はそれを知らない。
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二十三話目 ホーンデッドハウス 前編
アインズは一人(アルベドは今日はナザリックでの業務の為、サイファーはお使いのため街に出ている)で最高級宿の一室で財布の中身を数えながら頭を抱えていた。
「足りない、金が全然・・・足りない・・」
この世界では一財産と呼ぶに相応しい金貨と銀貨の山を見下ろしながらため息が漏れる……アインズはアンデッドであるから呼吸はしていないが肉体があった時の癖のようなものである。
「まずこれが、セバスへの追加の資金の分・・・」
金貨の半分が削られアインズの顔がゆがむ。
「蜥蜴人の村に送る物資や食糧は・・・アダマンタイトのコネを使って集めるから・・・これくらいかな?」
数日前よりコキュートスの願いでナザリックの傘下に入った蜥蜴人の為に残った金貨の三分の二が削られさらに顔がゆがむ。
「不本意だが・・・これがサイファーさんの食費代・・・っと」
思ったより飲み食いしている友のため、残り少なくなった金貨から数枚取り除くと貯金に回せるのは数枚の銀貨しかなかった。
ナザリックの支配者にて、外貨を稼ぐ唯一の存在としては収入が圧倒的に足らずカツカツである。
精神の突起が一定以上に達していないのかアインズの焦燥感は消えずに心にくすぶり続けている。
「……やはりどこぞの商人にスポンサーになってもらうのが、安定した収入を得るには一番手っ取り早いのかなぁ……しかし、それでは俺達の冒険者としてのイメージが……」
アインズ達の演じる冒険者一行が、金銭に汚く、金の為なら何でもするというマイナスのイメージを商人や他の冒険者に持たれる事は避けるべきである。
いずれモモンの栄光はアインズ・ウール・ゴウンにすべて引き継がなくてはならない。その為には他人の評価は絶対に落とすことは出来ない。
「でも、金がないんだよなぁ。やっぱり、こんな宿を取る必要なんかないんだよ普通」
アインズは周りを見渡す。
エ・ランテル最高の宿だけあって高級感あふれる調度品が置かれ、品の良い雰囲気が演出されている。
もっとも自宅(ナザリック地下大墳墓)に比べたら、お世辞込みで評価しても二流が良いとこである。
食事も同様に、いくら豪華な食事を提供されても自宅(ナザr……)では賄い食にもならない程度である(サイファーは毎食おかわりをする)。
しかしそのモモンの今の立場上、木賃宿などには泊まれるはずがない……なぜならモモンはこの都市唯一のアダマンタイト冒険者だからである。ゆえにアダマンタイト冒険者に相応しい宿や服装を維持しメンツを守らなければならない。
ふぅとため息をつきながらアインズは割と本気で冒険者組合に宿を提供させようかと思案していると扉からテキトーな感じのノックが聞こえてきた。
ノックから少しも時間を置かずに扉が開かれサイファーが入ってきた。
「ただいま、アインズさん」
「お帰りなさいサイファーさん。遅かったですけど何かありました?」
「ええ、この前商人に頼んでいた鉄鉱石が集まったとのことです。ちゃんとアインズさんの指定通り採掘場所別に分けてもらってきましたよ。……って、そんな事はどうでもいいんです。大ニュースがあるんです」
「大ニュース・・・ですか?」
サイファーの大ニュース発言に露骨に身構えるアインズ、その態度にサイファーは物凄い笑顔で答える。
「ええ、商人と話していたら、この都市の外れの方にある貴族の古い別宅が売りに出されているそうなんです」
「それのどこが大ニュースなんですか? 俺達には関係ないじゃないですか」
「まあまあ、話は最後まで聞いてくださいよ・・・その屋敷のお値段が・・・新金貨三枚なんですって!!」
サイファーは指を三本立ててその衝撃を表し、アインズも精神の安定化が起こる一歩手前までテンションがあがる。
「金貨三枚って・・・マジなんですか!」
「マジマジ! しかもまだ買い手がいないらしいんですよ。これ、購入したら宿代も節約でき、尚且つ俺らの評判も右肩上がりっすよ!」
テンションが上がりきったサイファーは右手をギュイーンって感じに上げ評判メータの上昇を表現している。
その様子をアインズは胡散臭い詐欺に騙されている可哀想な人を見る眼で見ていた。
「あと、真面目な話、宿にいるより俺らの敵になり得る者達からの襲撃に対して人目につかず対応が取りやすいんと思うんですね」
「・・・急に真面目にな意見をぶっこんできましたね・・・確かに拠点がある方がナザリックと連携が取りやすそうですね」
アインズもサイファーの意見を聞き、真面目に拠点購入を前向きに検討し始めると予想外の答えが友から返ってきた。
「それと、もう買っちゃったから後戻りが出来ませんからね」
「ちょ、おま!」
アインズの反論を待たずサイファーは続ける。
「仲介人とは話がついていますから、あとは現地に行くだけです。さっ、アインズさん、出発の準備をお願いします。あっ、宿の方にも話をしていますから大丈夫ですよ」
何かを言いたいがアインズは飲み込むことにした、何だかんだ言って金貨三枚の屋敷に興味が無いわけではない。
「・・・分かりましたよ。で、場所はどこなんです?」
机の上に置いてある金貨を財布に片付けサイファーに場所の確認をおこなう。
「都市の外れにある共同墓地のすぐ近くです。アインズさんが思っているより立派な建物ですよ」
そこはかとなく不安はあるがアインズはサイファーの案内で現地に向かい移動を開始した。
---------------------------------------------
エ・ランテル西側地区。かつてアンデッドの大量発生が起こり冒険者としてアインズ達が解決し平穏が戻った場所である。
しかし、墓地は常時満杯の状態であり、白骨化した遺体を粉々にして空きスペースを確保している状態であるため、あの事件後もたびたびアンデッドが発生しているようである。
そんな危険な場所の近くにひっそりとその屋敷はあった。
「何と言うか・・・想像通りだな・・・」
墓地の近くと聞いていたため洋風ホラー屋敷を想像していたが、案内された屋敷はまさにその想像通りであった。
目の前にある門は所々錆び付いており押して開くとギィーと嫌な音が響いた。
そのまま歩を進め中に入ると手入れがされていない庭が目に入る。
花壇と思われる場所には雑草などは生えていなかったが何者かが掘り返し何かを埋めたような不自然な盛り上がりがあり、鑑賞樹は葉がすべて落ちカラスに似た鳥が何羽も止まっており鳴き声もあげずこちらをにらんでいるようであった。
「タブラさんが見たら喜ぶのと同時にダメ出ししそうな典型的ないわく付き物件じゃないですか! サイファーさん、どこで見つけてきたんですか?」
「いや、アインズさんに頼まれて色々な物を商人から買い回っていたら世間話の中でこの屋敷の話が出てきましてね、ちょっと気になったから八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)に場所を調べさせたら売地になっている報告が上がってきまして。詳しく商人たちに聞いたら持ち主の貴族も処分に困っているって話だから最高ランクの冒険者としてのコネで買えないか相談したら貴族の方から即オッケーが出たから購入したんですよ……それに……」
急に声のトーンを変えもったいぶった感じで話し始めた。
「出るんですって・・・ここ」
「でるって、何がですか?」
この話の流れででるモノといえば決まっているが一応聞いてみた。
「何がでるんです?」
「お・ば・け・です。ぷふふう、アンデッドが闊歩するこの世界でお化けって、ぷふふ、最初聞いた時は吹き出しそうになりましたよ。まぁ、近くの墓地であんな事件が起こったんです。この屋敷の価値はただ下がり、おまけに維持費もかかる、取り壊すのにはさらに金が掛かるからさっさと手放したかったって言うのが本音だと思いますしね」
「・・・まぁ金が無い気持ちは分からなくも無いな」
さっきまで金勘定していた自分の姿を振り払い屋敷の扉に手をかける。
古い作りだがまあまあしっかりとした造りになっており腐っても貴族の別宅であることがわかる。
扉を開け中に入る。日が傾き始めたとはいえ外はまだ十分に明るいはずだが、屋敷の中は薄暗く、長いこと掃除が出来ていないことで空気は埃っぽく、所々にクモの巣が張っている。
「ずいぶんと長いことほったらかしだったみたいですね、これは掃除に手間がかかりそうですよ」
「ふふふ、何言ってんですか。せっかく人目につかない拠点を手に入れたんですよ。ナザリックからメイド達に来てもらえば済む話じゃないですか。彼女達もアインズさんのために働けるとなると大喜びしますよ。あと家財道具は一切無いらしいんでこれもナザリックから運ばないといけませんよ」
「そうですね、でもまだこの屋敷の中の安全が確保出来てませんから一般メイドではなくプレアデスのメンバーを呼んだほうが良いですね」
「了解です。あ、お化けがでるっていうくらいだから死霊系のモンスターが出現するかもしれませんし、信仰系の魔法やゲートの魔法が使えるシャルティアも呼びましょう」
「分かりました、では一旦ナザリックに戻り準備をしましょうか」
アインズは鎧を消し、いつもの格好になると『転移門/ゲート』の魔法を唱える。目的地はもちろんナザリック地下大墳墓である。
しかしまだ誰もこれから始まる一方的な暴力的展開を予想できないでいる。
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二十四話目 ホーンデッドハウス 後編
???
深夜のエ・ランテル共同墓地に生者ではない者の笑い声が木霊する。
その笑いに含まれる感情は『歓喜』である事は間違いない。
ひとしきり笑った亡者-エルダーリッチ-は骨の手で握りしめたオーブに言葉をかける。
「ついに我が支配を受け入れたか『死の宝珠』よ。ふふふ、力が、魔力が体から溢れてくるようだ!」
この世に発生して五十年、こんなにも気分が良いのは生まれて初めてかもしれない。
「今、我は究極のパワーを手に入れたのだ! いかなる存在も我を滅することは出来ないだろう!!」
しばらく前にこの共同墓地に死の螺旋が発生したとの情報を得て、その恩恵を受け自分の魔力の底上げに利用しようと都市に侵入したが、すでに事件は人間の冒険者の手で解決されており死の螺旋の恩恵は受けることは叶わなかった。完全な無駄骨だったと落胆していたが、『死の宝珠』が野ざらしで落ちているのを発見した時は笑いが止まらなかった。
しかし、秘宝を我がモノとするのはまさに命がけであった……。
『死の宝珠』は自我を持っておりアンデッドの我を逆に支配し自らの手駒にしようと様々な精神攻撃を仕掛けてきた。
アンデッドである我は精神攻撃などは受けた事がなく、抵抗する術をもたぬ我は何度も意識が奪われた。しかしその度に全魔力を使い体の支配権を取り返した。
その戦いは何日も、何日も数えるのが馬鹿らしくなるほど続き、我は昼夜をとして戦った。
そして、ついにこの記念すべき夜に『死の宝珠』の意識を逆に乗っ取り服従させることに成功したのだ。
その瞬間はまさに歓喜が我が身を包んだ。その喜びは人目を避けてきたのに大声で馬鹿笑いするほど高まっていた。
しかし、そのような事はもはや何の意味も持たない。
なぜなら、我に勝てる者などもはや存在しないのだから。
名も無きエルダーリッチはオーブを天高く掲げた。するとオーブが輝きだし墓地に充満していた負の力が残らず吸収されていき、名も無きエルダーリッチの魔力に変換させていく。
やがて墓地から負の力を残らず吸い尽くした名も無きエルダーリッチは『飛行/フライ』の魔法を唱え中心街に向けて飛び始める。
しばらく飛んでいき墓地の周りに張り巡らせている城壁に降り立ち人間の街を見下ろす。
「今の我ならばこのような街などすぐに死の都に変える事が出来るだろう」
なぜなら今の我ならば伝説のアンデッドと呼ばれる『死の騎士/デスナイト』すら月に『二体』も召喚する事が出来るだろうからだ。
デスナイトに殺されれば、殺された者は我の手駒のゾンビに生まれ変わり、そのゾンビが殺した者もゾンビになり無限に我が配下が増えていくだろう。
街を見下ろしながら思考を繰り返していた名も無きエルダーリッチは不意にある事を考える。
「このエ・ランテルを我が支配する死の都市にするのも悪くないかもしれんな・・・さしずめ我はこの街を支配する王-キング-といったところか」
死の宝珠の力によりエルダーリッチの限界値を遥かに凌駕した存在であるこの我には『王』の称号こそが相応しい。
「『不死者創造/クリエイトアンデッド』生まれよ伝説の死の騎士よ!」
魔法が行使され、何もない空間よりデスナイトが現れる、そして自らの主に前に片膝をつけ臣下の礼をとる。
その様子に満足した名も無きエルダーリッチはすぐさま街に赴き人間を殺すよう命令を下そうとしたが
「いや、まてよ人間どもは夜の闇の中では目が利かぬのだったな、それではこの街を支配するこの我の姿が見えないではないか。王の姿を見る事なく死ぬのはあまりにも不憫な・・・」
日が昇るまで待とう、気まぐれもまた王の特権であろう。
しかし王である我が日が昇るまでこのままで良いのだろうか……否である。
周りを見回すと一軒の屋敷が目に留まる。
その屋敷は少し古くなっているが庭は掃除が行き届いており、真新しい木々や花が植えられている。
「・・・王が一晩の宿にするには少し安っぽい気がするが、これもまた一興よ」
日が昇るまでの宿を決めた『王』はデスナイトと共に屋敷に向かい飛び立ち玄関前へと降り立ち扉を前に考える。
「さて、どのように入るのが王として相応しいのだろうな。普通に開けるのは論外として、破壊して入る……野蛮だな、王のすることではないな……やはり従者であるデスナイトに開けさせるのが良いだろう」
この都市を支配した暁には『王』としての振る舞いを覚えてみるのも一興か。そんな事を考えながらデスナイトに扉を開けさせ中に入る。
玄関ホールには何人かの『人間』がいた。
黒い全身鎧の男にフードから角が飛び出でいる男にメイドと思われる女が5人。どれも取るに足らない者どもだ。
角男や鎧男が何やら訳の分からぬことを言い始め、メイド達は一斉に首を横に振っている。
「王を前にその不遜な態度。いつもなら許さぬが今宵は気分が良い。特別に不問にしてやろう」
我の言葉にメイドの一人が何かつぶやくが気にすることなく次の言葉を口にする。
「服従か死か。好きな方を選ぶがよい、もっとも日が昇ればデスナイトによってこの都市に住む者はすべて死に絶えるのだがな」
その言葉に鎧男と角男は何やら相談を始めた。その矮小な姿は滑稽であり我が嗜虐心を煽る。
こいつらは日が昇るまでの暇つぶしとして壊してやるか。
この溢れる力の一端を見せてやるか。
どうやら話し合いは済んだらしく鎧の男が芝居掛かった言葉を発する。
「シャルティアよ。やり過ぎないように遊んであげなさい」
その言葉を聞き嬉しそうに一人のメイドが前に出る。やれやれこれだから頭の悪い連中は始末に負えない。
「デスナイトよ、『王』に逆らう馬鹿共を殺せ」
我の命令に従いデスナイトが剣を振り上げメイドに向かっていく、さて、残りはどうやって殺そう。
------------------------------------------
パタパタ、さっさ、ふきふき、きゅっきゅ。
掃除の擬音に相応しい音が古い屋敷に響き渡る。現在屋敷の中は掃除の真っ最中である。
ナザリックに帰った二人はプレアデスのユリ、エントマ、シズ、ナーベラルに声をかけ外の屋敷を掃除するように命じた。
アインズさんが直接出向き声を掛けたせいか皆物凄くやる気に満ちていた。
その働きぶりはすさまじく二時間ほどで屋敷の清掃は終わってしまった。
その速さに呆然としているアインズの下にユリ達全員が集まり清掃の終わりを報告しにきた。
「アインズ様、すべて終了いたしました」
「ご苦労、次は家具の搬入だが、これはお前たちを信頼し一任する。しかしあまり豪華すぎる物は選ぶなよ。ここはあくまで『冒険者モモン』の屋敷なのだからな。心してかかるように」
「「はっ!!」
自分のセンスが今一信用できない+どの程度がちょうどいい塩梅かが分からないのでつい丸投げしてしまったがプレアデスの反応は上々であろう。
プレアデスの皆がナザリックに家具を取りに行くのを見送ったアインズの耳に何かの悲鳴が聞こえる。
声の出どころは階段の裏に隠されていた地下室から聞こえてきた。
悲鳴がやみしばらくすると隠し通路よりスポイトランスを装備したシャルティアが現れた。
しかしシャルティアの格好はと言うと、いつものゴシックドレスではなく、メイド服っぽい何かを着ている。
ぽいとは、この服の作者のペロロンチーノが余ったメイド服に可能な限りのエロ改造を施したためである。
18禁行為が禁止されているユグドラシルで作られたためか短いスカートの中身はどんな動きをしても見えない鉄壁っぷりである。
「アインズ様、地下室に隠れていた死霊どもを排除してきたでありんす。かなり念入りに浄化したのでもう湧き出すことは無いと思いんす」
「ご苦労。そうだ、時間が有るのならば共に庭いじりをしているサイファーさんの様子でも見に行くか?」
独りで庭いじりをしている友を思い浮かべる。想像の友はどこか寂しそうにしていた。
「もちろん!アインズ様とご一緒出来るんなら何所にでも行くでありんす!」
「そ、そうか。では行こうか」
「はい!」
幸せそうなシャルティアを連れ庭に向かったアインズ。そこには枯れ木を雑草のように素手で引っこ抜いているサイファーの姿があった。
「あれ、二人してどうしたの、中はもう片付いたの?」
庭の隅に枯れ木を放り投げ、手をはたきながら二人に声をかける。
「ええ、あとは家具を搬入するだけです。それもユリ達にまかしているので大丈夫だと思いますよ。それにしても、何もなくなりましたね」
アインズの言葉通り枯れ木はすべて抜かれ、花壇の土はすべて掘り返され庭には何もなくなっていた。
「アインズさんが気にしていた花壇ですけど、人骨が埋まってた以外は特に変わった所は有りませんでしたよ」
そう言ってサイファーが指さす方には人骨でひと山築かれていた。
「そうですか、曰く付きの物件としてはありきたりの物ですね。屋敷の中の死霊も数が多いだけでザコでしたし」
もはや人骨くらいでは驚かなくなった二人であるが、大量の人骨が埋まっている時点で十分オカシイのだ。
「そんなもんでしょう。それより植樹をしますから手伝ってもらえます? 結構な数の桜の木をドリアード達に持ってきてもらいましたから」
「桜の木ですか?」
「そ、今植えたら来年にはここでお花見が出来るはずですよ・・・もっともお花見なんか本と映像でしか見た事が無いんですけどね」
「俺もですよ。しかし意外なことに来年の楽しみが出来てしまいましたね。その時はナザリックの皆で楽しみましょう」
「わ、私たちもでありんすか!?」
意外そうに驚くシャルティア。しかしアインズは優しく語り掛ける。
「当たり前ではないか。私はお前達、皆と楽しい時間を共有したいと考えている。参加してくれるかシャルティア」
「も、もちろんでありんす!!」
二人が和やかに話している間にサイファーはアイテムboxより十数本の桜の木を取り出していた。
「おーい、二人で楽しそうに話してるとこ悪いんだけど、日が暮れる前にすましたいから手伝ってよ」
「やるかシャルティアよ」
「はい!」
植樹に関してはファーマーのスキルは必要なかったようで何の問題も無く行う事が出来た。
ただ、木の配置を考えるのにえらく時間がかかりすべての木を植え終わったのは日が暮れてからであった。
--------------------------
すべての作業を終えたアインズ達は見違えるほどキレイになった屋敷の玄関ホールに集合していた。
「アインズ様、サイファー様。すべての作業が終了いたしました。今日からでも生活ができますがいかがいたしますか?」
「いや、今日のところは我々もナザリックに帰る事にする。明日以降組合にここに住むことを伝え、それから生活を始めることにする」
アインズの言葉に皆が頭を下げる中、玄関の扉が急に開きデスナイトが侵入してくる。その後に何やら怪しく光る玉をもったエルダーリッチもやってきた。
「は? え? アインズさん、いくら曰く付きの物件としてはしょぼいからって持ち込みは拙いでしょ」
ジト目でアインズを睨むと慌てて首を振り始めた。
「いやいや、俺じゃありませんよ! お前達は何か知っているか?」
アインズの言葉に一同は首を横に振り否定した。ではこいつらは何なんだ?
「王を前にその不遜な態度。いつもなら許さぬが今宵は気分が良い。特別に不問にしてやろう」
「うわー・・・」
まったく場違いな発言を放つ空気の読めない自称王様。あまりにもぶっとんだ発言に皆一様にポカーンとしていたがシズのみが上記の言葉を発した。
パンドラズ・アクターを初めて紹介した時シズに同じセリフをはかれていたアインズはその時を思い出し精神的なダメージを負った気がした。
「服従か死か。好きな方を選ぶがよい、もっとも日が昇ればデスナイトによってこの都市に住む者はすべて死に絶えるのだがな」
自称王様はこちらの事などお構いなしに空気の読めない発言を繰り返す。
と言うか、初めてのお客さんが空気の読めないエルダーリッチって、さすがは曰く付きの物件呪われていやがるぜ。
せめて自己紹介くらいしろよ!どう対処したらいいか分かんないだろう!
「は? え? いや……」
見ろよ、気遣いの紳士であるアインズさんでさえ言葉に困っているぞ。
「あれマジでアインズさん作じゃないんですか?」
「違いますよ。俺が創ったやつはもう少し空気が読めますよ」
「じゃあ自然発生したやつなの。痛いわ~こじらせているよあいつ、相手にしたくないけど物騒な事を言ってるし、このままお帰り願うのはまずいっすよね」
「ですね。しょうがない、相手をしてやるか」
とはいえ自分もこんな自称王様を相手にするのは嫌だ。ふと視界にシャルティアが映る。主としては失格かもしれないがここはシャルティアに相手をしてもらおう。
「シャルティアよ。やり過ぎないように遊んであげなさい」
アインズの言葉にシャルティアの顔に一瞬驚きの表情が表れるが、すぐに獰猛な笑みに変わりスポイトランスを取り出し自称王様にむけ歩き始める。
「デスナイトよ、『王』に逆らう馬鹿共を殺せ」
自称王様の命令を聞きデスナイトは王様を守るように前に出てシャルティアに向け剣を振り上げる。
その瞬間、シャルティアはすさまじい速さでランスを振り上げながら腹部へと蹴りを叩きこんだ。
そのあまりの威力に後ろに控えていた自称王様もろとも扉を突き破り庭に吹き飛んでいった。
「と、扉ががっがが! おいシャルティア! この屋敷を壊すつもりか! もっと優しく戦ってくれよ」
「も、申し訳ありません!! サイファー様」
「分かれば良いよ。でも庭に被害は出すなよ」
「は、はい」
「よし、じゃ、続きをどうぞ。俺らはゆっくり見学させてもらうよ」
サイファーに一礼しシャルティアは庭に向かって飛びたっていった。
庭の中心部くらいにデスナイトとそれに押しつぶされているかたちで王様が倒れていた。
自称王様は何が起こったのか分からないようだったが、追撃してくるシャルティアの姿を確認するとデスナイトに迎撃の命令を下した。しかしデスナイトが起き上がる前にスポイトランスの横薙の一撃により消滅する。
デスナイトは一度だけHPがゼロになる攻撃を受けてもHPが1だけ残るという仕様のはずだがどうやら最初の蹴りだけて瀕死の状態になっていたらしい。
「ば、バカな・・・そんなはずはない!」
目の前の光景が信じられないとばかりに驚愕していた王様だったがすぐさま魔法を行使する。
その様子をただ静かに見つめるシャルティア。彼女には魔法を妨害するという考えはないようだ。
「『不死者創造/クリエイトアンデッド』!! もう一度現れよ伝説の死の騎士!」
虚空より再びデスナイトが出現したが誰も驚かない。むしろ見学者の中から落胆の声が聞こえてくる。
「またデスナイトでありんすか? では、もう一度同じことをして差し上げるわえ」
「な、なにを・・・ぐおぁぁっぁ!!」
そう言ってデスナイトを蹴り飛ばす、もちろん王様を巻き込むように計算しての行動である。
今度はデスナイトごと門に叩きつけられ最初の一撃と合わせかなりのダメージを負わせたはずだが自称王様はよろよろと起き上がった。
そして自称王様の目に映ったのは先ほどと同じように切り伏せられ消滅するデスナイトの姿である。
「ば、バカな・・・我は『死の宝珠』の力を得て究極のパワーを手に入れたはずなのに・・」
「さ、次はどうするんでありんすか? あまり至高の御方々を退屈させるわけにはまいりませんので奥の手があるんなら早くしておくんなまし」
あまりにも力の差があり過ぎる相手からの残酷な言葉に思わず言葉が漏れる。
「ば、化け物か・・・」
「どっかで同じことを言われた気がしんすが・・・まあ気のせいでありんすね」
「あ、あ、あ、あぁぁぁぁぁ!!!」
おそらく恐怖と思われる叫び声を上げながら逃げ出す自称王様。『飛行/フライ』を使って空に逃げるのではなく愚かにも自分の足を使って走り始めた。
その様子をシャルティアはただ、ただ、笑顔で見つめていた……。
-------------------------------------
「終りんしたアインズ様、サイファー様。この者はいかがいたしますか?」
シャルティアは、四肢を切断され、顔の一部が破壊され芋虫のようになった自称王様を引きずってきて地面に放り投げた。
「いかがいたしましょうって・・・どうしましょうアインズさん」
「とりあえず何者で、何しに来たかは聞いておきましょう」
とりあえず事情を話させた、しかし言い淀むたびにシャルティアに蹴りを入れられる様子にサイファーは内心同情する。
「死の宝珠か・・・微妙なアイテムだが・・・」
ただ一つだけアインズの興味を引いたのは、インテリジェンス・アイテムという項だけだった。
「ん、頭の中に声が聞こえるな。死の宝珠、お前なのか……ふむ、発言を許す……許そう……」
何やらアインズさんが球コロ相手にぶつぶつ言い始めた……疲れているんだろうな。
そう思いサイファーはありったけの優しい目をアインズに向ける。
しばらく球コロとの問答を行ったアインズは幾つかの防御魔法を掛けサイファーに声を掛ける。
「どうやら忠誠を誓うとのことですし、俺達がいない間の屋敷の警護を任せる事にしました」
「よく分かりませんが、いいんじゃないですか。じゃ、我が家に帰りましょうかアインズさん」
「そうですね。あっそうだ、シャルティアよ」
「はっ!」
「此度の働き、真に素晴らしいものだった。後日追って褒美を取らすこととする。これかもよろしく頼むぞ」
「もったいないお言葉ありがとうございます」
深々と頭を下げるシャルティア。その姿は感動に震えているのかプルプルしていた。
「良いこと言ってるんだけど・・・これの処分はどうすんだろう?」
サイファーの足元にはイモムシが必死に逃げようとしていた。マントの端を踏みつけているから逃げられないだろうがいい加減邪魔である。
「ま、今は良い雰囲気だから空気を読みますか」
サイファーは周りに気付かれないようにイモムシの頭を踏みつぶした。
掃除の内訳
----屋敷内----
アインズ 屋敷の総指揮
プレアデス 屋敷の掃除
シャルティア 害虫駆除
----屋敷外----
サイファー 庭いじり
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二十五話目 裏切り??
元、エ・ランテルの曰く付き物件。現、冒険者モモンの拠点である屋敷のテラスでアインズは優雅にコーヒーを飲みながらセバスより届いた王都での調査報告書を読みふけていた。
今日はアインズの初めての休暇日なので一人になれる空間を求めここにきたのである。
その姿は日曜のお父さんが新聞片手にコーヒーを飲んでるようだったが、ナザリックの皆からは余裕をもって仕事をしているビジネスマンに見えているらしい。
相変わらず過剰すぎるほどの評価に内心苦笑しつつ書類を読み進めるが面白味のある内容は書かれていなかった。
何枚か書類を読み飛ばし噂話レベルの情報に目を向ける。この項は噂話を中心に書かれているため情報としては不確かな所が多々あるがアインズは内心楽しみであり毎回新聞のエンタメコーナー感覚で読んでいる箇所でもある。
「どれどれ、今週の噂はどんなことだろう」
前回の報告では王都まで冒険者モモンは同じチームのアルと内縁の妻的感じの噂が広まっているらしく、初めて読んだ時は何回、精神の抑制が働いたかわからなかった。
しかもその後アルベドがもう本当に夫婦になりましょうと押しかけてきたりとかなりの騒動にまで発展してしまった、おまけに自分達二人の噂ばかりでサイファーの噂はほとんどなかったためイジけたサイファーのフォローも大変だった
「ん?」
記事を読もうとした時自分の近くに『転移門/ゲート』が開かれ噂をしていたサイファーが飛び出してきた。
「休暇中すみません!! 王都が急用でやばいんですって!!」
アインズの代わりにアルベドと内政の仕事をしていたはずだがこの慌てようはただ事ではなさそうだ。
「落ち着いてください! 文法がめちゃくちゃで何言ってるのか分かりませんよ」
アインズの言葉に落ち着きを取り戻したのかサイファーは呼吸を整えゆっくり話し始めた。
「王都のソリュシャンが『伝言/メッセージ』で・・・セバスに謀反の疑いありって」
「!!」
その言葉を理解すると同時にアインズは数回精神の抑制が働き眩暈を起こしそうになる。
「アルベドとデミウルゴスも玉座の間で待機しています、すぐ戻ってください」
「・・・分かりました、戻りましょうナザリックに」
こうしてアインズの初めての休暇は半日もたたずに終了となった。
--------------------------------
ナザリックに帰還したアインズは玉座にいたアルベドとデミウルゴスへの挨拶もそこそこにし玉座に腰を下ろしコンソールを開きセバスの名前を確認する。
「精神的な異変は見られないな」
その言葉通りセバスの名前はシャルティアの時とは違い何も変化していなかった。
「アインズさん、ソリュシャンを連れてきましたから詳しく聞いたらどうですか?」
いないと思ったらソリュシャンを連れてきたようだ、今日はいやに手際が良く感じる。
「アインズ様このたびは・・・」
「挨拶はよい。報告を聞かせてくれ」
「畏まりました。」
ソリュシャンは今日までのセバスの不審な行動について語り始める。
曰く死にかけの娼婦を拾ってきて治療をした後も屋敷に置き続け、簡単な仕事までやらせ屋敷に住まわせ、その結果悪質な役人や裏の人間に目を付けられ脅しを掛けられたとの事。
しかしそれでもセバスは娼婦を処分せず手元に置き続け、先ほど出掛けて行ったらしい。
「はぁ!・・・いや、まさか・・・」
うろたえるアインズの肩にサイファーが手を置き言葉をかける。
「バカな事と思いますけど即刻セバスの真意を確かめる必要があります・・・と、言うか確かめてください」
話の途中でサイファーがアインズに耳打ちを始めた。
「アインズさんが真意を確かめてから行動に移れって二人を納得させたんだから」ゴニョゴニョ
「なにかあったんですか?」ゴニョゴニョ
アインズの言葉にサイファーは苦笑いを浮かべながら話し始める。
「もちろん、報告の後すぐにアルベドが粛清するべしって息巻くし、一緒に止めてくれると思ったデミウルゴスも乗り気だったし・・・ホントタイヘンダッタヨ」ゴニョゴニョ
「え? それマジですか。大変でしたね」ゴニョゴニョ
二人を抑えていてくれた友に感謝し、ふぅーと息を吐き出し支配者としての態度をつくり口を開く。
「話は分かった。しかし、私はセバスを信頼しているため謀反もただの杞憂だと思う・・・が、それではお前達の中にシコリが残るであろう。アルベド、デミウルゴス」
「「はっ!」」
「私はセバスの真意を確かめに行こうと思う。二人には共に向かう者の選抜を任せる、だがあまり大人数ではなく、あくまでも少数で向かう事とする」
-----------------------------------------
全てを終わらせてセバスが館に戻るころには日が沈みかけていた。しかし頭を悩ませている問題については解決しておらず、ついには館に着いてしまった。
扉を開けようと手を伸ばすが扉の向こうに二人分の気配を感じる。
一人はソリュシャン、もう一人は判別がつかない。
セバスは内心嫌なものを感じながら扉を開ける。
「おかえりセバス。散歩は楽しかったかい?」
扉を開き目の前にいたのは至高の御方の一人サイファーが佇んでいた。そしてあまりにも想定外の光景を目にして硬直してしまった。
「どうしたセバス? 日も暮れてきたことだし早く中に入れよ」
いつもと変わらない口調であったがセバスの心臓が一つ跳ねる。
「な、なぜ・・・」
舌がもつれたようにしか言葉が出なかったが目の前の御方はやはり変わらぬ口調で話す。
「アインズさんが待っている。早く入れよ」
その言葉にセバスは重い足を引きずるように館の中に足を踏み入れた。
「ソリュシャン。セバスをアインズさんの所へ案内してくれ。俺はもう一人のお客さんを迎えに行くから」
サイファーの言葉にさらに体が強張り額に冷や汗がうかぶ。
「セバス。アインズさんに会いに行くまでに汗を何とかした方が良いと思うぞ」
それだけ言うとサイファーはまっすぐにセバスが助けた女性-ツアレ-の部屋に向け歩いていく。セバスはその背中を見つめる事しか出来なかった。
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館の中にある質素な部屋でサイファーは女性と二人きりという状況に少し緊張していた。
目の前の女性は美人とはいわないが愛嬌のある可愛らしい感じの人であった。しかしこの世界はなぜか美形が多いため美人ではないと言ったがサイファーの中の人から見たら十分すぎる可愛い子である。
何か話したほうが良いのかと思うが、あっちは完全にこちらに怯えていた。
確かに今は正体を隠しておらずいつもの悪魔の姿であったがそんなに怖いのだろうか。見た感じは角の生えた肌の青い青年であり、ほかのメンバーの造り込みに比べればまだ可愛いほうだと思う。
しかし彼女は顔を下を向け時よりカチカチと歯を震わせていた
沈黙に耐えかねたサイファーは意を決し話しかける事を選んだ。
「たしかツアレとか言ったっけ? ここの生活は楽しい?」
意を決した割にはしょぼい内容だったがもう後には引けないこのまま続けるしかない。
「は、はい・・・楽し・・い・です」
「そうか。それは良かった」
それだけのやり取りで会話は終了し、再び思い沈黙がのしかかる。
こんなはずではなかった。そう思いもう一度チャレンジしてみる事にした。
「セバスは優しくしてくれているかい?」
「は、はい。良く・・して・・いただ・いています」
はい会話終了。どないせいっちゅうねん。
「サイファー様。アインズ様よりその娘を連れてくるようにと」
ソリュシャンの言葉にツアレはビクッと震えさらに体を縮こまらせたがサイファーは逆に救われた気持ちになる。
いくら危害を加えるつもりが無いと言ってもさすがにここまで怯えられたら話にならない。
ま、少しとはいえ悪魔である俺と会話できたことはほめるべきかな。
そんな事を考えながらサイファーは席を立ちツアレに部屋からでるように促す。しかしツアレの足は想像以上に重いらしい。
そのことに業を煮やしたソリュシャンが口を開こうとしたが、サイファーは手を上げ言葉を遮り代わりに出来るだけ優しく言葉をかける。
「お前次第でセバスの運命が決まるのだ、早く行くがよい」
その言葉に聞きツアレは震えながらだか歩き始めた。ソリュシャンを先頭にツアレ、サイファーと続いて目的の場所に向かう。
----------------------------------------------
普段と変わらない部屋にてセバスは決断を迫られていた。しかしそれは答えの決まりきった問題である。
なぜなら、セバスはナザリックの執事であり、それ以外の何者でもないのだから。
『殺せ』と主人から絶対の命令が下った。ナザリックに鋼のごとき忠誠を誓うセバスにその命令に従わない理由はない。
ツアレはそんなセバスの顔をみてセバスの決定を見て微笑むと目を閉じた。
しかしセバスの動きにはわずかな動揺もなく、拳を硬く握りしめ瞬殺の速度を以てツアレの頭部に拳を叩きこんだ。
「ぐぉぉぉ!」
しかし逆にツアレに叩きこんだ拳の骨が砕け激痛に声が漏れる。
「さすがは・・・セバス。ダメージらしいダメージを食らったのはこれが初めてだな」
「・・・何を? 邪魔をするとはどういうことなのですか?」
セバスの拳を弾いたのはツアレの後ろに控えていたサイファーのスキルであった。
「反射スキル『アナタノタメニ』は対象にした味方のダメージを代わりに受けてカウンターするスキルだ。そして、俺でさえ結構なダメージを受けたんだ。人間であるツアレには耐えられないだろうな」
「そうでご・・うですか。セバス、下がれ」
その言葉にセバスは理解する、すべては自分の忠誠を確かめるための出来レースであると。
緊張の切れたツアレは涙目で体を震わせ倒れそうになっているが、サイファーが後ろからとはいえ一応支えていた。
その様子にセバスはホッとするのと同時に引け目を感じてしまう。
彼女を見捨てた自分がいまさら彼女の心配をするなど。
「ならばこれを以て、セバスの忠義に偽りなしと私は判断する。ご苦労だった、セバス。手はこれで回復するがよい」
アインズから回復薬を受け取り硬い表情で頭を下げる。
その場にセバスの忠誠を疑うものはなく皆主の言葉に肯定の返事を返す。それに満足したアインズは王都からの撤退を宣言しヴィクティムとサイファーを連れナザリックへと転移の魔法で帰還していった。
いつもと違う主の演出じみた振る舞いに違和感を覚えたセバスであったがデミウルゴスに許可を取りツアレを部屋に送ることにした。
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二十六話目 王都騒乱その1
「サイファーさん、ご苦労様です」
ナザリックの転移先で待っていてくれたアインズはそう言って出迎えをしてくれた。
「やはりセバスの事は俺達が思っていた通り杞憂に終わって良かったですね」
「ま、あのたっちさんが創ったんだから当然ですよね」
肩の荷が下りた事に二人は少し安堵し、ビクティムを抱くアインズ、もといアインズに姿を変えているパンドラズ・アクターに視線を移すと、彼はすでにいつもの軍服姿に戻っておりビクティムを抱きながら器用に敬礼をしていた。
その姿を直視したアインズは視線をビクティムに固定しながら支配者らしい口調で二人を労い始める。
「パンドラズ・アクター。よくぞ私の代わりを務めてくれた」
「はい! こ~の程度の任務など私に掛れば造作も無い事。しか~し! あの程度でアインズ様の素晴らしさを十二分に発揮できたとは到底思えません! な!ぜ!に! 私にあのように地味に振る舞えと仰せつかったのでしょうか! 私に全てお任せくださればもっとアインズ様に相応しい演技をして魅せましたのに」
「お、おう・・・いや、あの場ではあの態度こそ相応しいと私が思ったからだ。今度同じような事があればその時はお前に全権を与えよう・・・タブン」
最後は消え去りそうな声で呟き、いつの間にか離れた所で浮いているビクティムに急いで声を掛ける。
「ビクティムもご苦労であった。そしてすまなかったな。もしもの時のためとはいえ、またお前を犠牲にする決断をくだしてしまって」
「訳-そのように想われ感謝の言葉も御座いません、私はそのように生まれてきましたためアインズ様が御心を痛める必要は御座いません-」
「分かっている。しかし、それでも私はお前をなるべく犠牲にはしたくはないのだ。それだけは覚えていてくれ」
アインズの言葉にビクティムは頭を下げ肯定の意を示した。
「三人で盛り上がっているところすみません、そろそろ戻る時間ですよ」
どうやら長く話しすぎたようでサイファーさんを待たせてしまったようだ。
「おっと、もうそんな時間か。では二人は通常業務に戻れ」
アインズの言葉にまた敬礼で答えるパンドラズ・アクターを見ながらアインズは精神の抑制が起こり、
サイファーはパンドラズ・アクターの真似をし一生懸命短い手で敬礼をするビクティムにほっこりした。
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アインズの魔法により王都の館の一室に戻るとすでにコキュートス、デミウルゴス、セバス、ソリュシャンがおり、アインズとサイファーの姿を確認するとすぐさま跪き、頭を垂れる。
その光景にサイファーは違和感を覚えなくなり始めていた。
アインズとデミウルゴスのやり取りのあと本題に入る。
「では、ツアレをどうするかの話し合いを始めたいと思います。意見や質問は俺達に遠慮しないで発言してください」
「と、言う事だ。お前達の屈託のない意見を聞かせてもらおうか」
サイファーとアインズの言葉にデミウルゴスがいの一番に意見をだす。
「アインズ様、殺してしまう方が楽ですし、確実だと思われます」
その意見にソリュシャンは賛成のようで首を縦に振っていた、しかしセバスだけ少し動揺したように見られる。
しかしアインズはこれを却下し殺さず有効活用すべしとの事だった。
「でしたら私が支配している飼育場で働かせますか?」
「ああ、混合魔獣を飼っているのだったな。ちなみに潰して食料には出来ないのか? ナザリックの食糧事情も良くしないといけないからな」
アインズがステーキとかハンバーグとか呟いているところにサイファーが割り込んで意見する。
「食料とかは置いといて、ふわふわのモコモコの奴がいたら何匹か回してほしいんだけど」
「まだあきらめていなかったんですね」
当然よとアインズと話している二人からデミウルゴスの視線は逸れ、どこか遠くを見るものに変わり、そして戻ってきた。
「・・・肉質が悪く食料としては不合格ラインかと。それと残念でありますがサイファー様がご納得いただけるような体毛は生えておりません」
オススメ出来ないとデミウルゴスは微笑み、サイファーは肩を落としていた。
その後のデミウルゴス達の会話を聞いていたセバスは飼育場の正体について思いを馳せていた。
デミウルゴスの性格上単なる飼育場のわけが無い。それがたとえ混合魔獣のようなモンスターだとしても。
そこまで考えてセバスに電流が走る、ナニを飼育しているか推測が出来てしまったからだ。
そのような場所にツアレが送り込まれてしまうと精神的に死んでしまうかもしれない。
口をはさむタイミングを計り主人に話しかける。
「アインズ様」
「ん? どうした、セバス」
「もしよろしければ・・・ツアレをナザリック地下大墳墓で働かせたいと考えております」
静寂が生まれ、全員の視線がセバスに集まる中、アインズが口を開く。
「セバスよ、ツアレを働かせるメリットはなんだ?」
もともと助ける気でいるのにわざわざ聞かなくても良いと思うがコキュートスの時も訳を聞いていたから聞かないわけにはいかない。
しかし頭の回るセバスならこの程度スラスラとでてくるだろう。
そう思っていたサイファーの考え通り、セバスはスラスラとアインズが止めに入るまでメリットを語りだしていた。
しかしセバスの案をあえて望まぬ形に歪めようとデミウルゴスがやんわりと反対の意見を語りだし、それに対してセバスはさらに反論し、反論に対しデミウルゴスも負けじと別の案を口にする
昔ウンザリするほど見た口論は終わることなく続いていく。
その光景はどこか懐かしく心地よかったが、いつものように口論に巻き込まれないようにアインズの陰に身を隠した。
そしてさらに白熱し始めたところでコキュートスが止めに入り我に返った二人は慌てて頭を下げ二人に対し謝罪を口にするがアインズは機嫌よく笑い始めた。
「あははは! 構わないさ。許す、許すぞ! サイファーさん隠れても無駄なのにやっぱり俺の陰に隠れるんですね! ふははは!」
「・・・つい昔の癖で、だってあの状態の二人に絡まれたらどっちの味方をしても後が怖いんですよ」
後ろから聞こえてくるサイファーの声にさらにアインズの機嫌は良くなりさらに笑い声が響く。
「ぶっ! あははは・・・ちっ、抑制されたか」
精神の高揚が一定値以上になり冷静にはなったがまだ少し機嫌が良さそうにセバスに話しかける
「セバスの言う事は分かったが、残念ながらナザリック地下大墳墓に人間を招き入れるのはない。とはいえ、そのツアレという女を見てみたい。連れてこい」
「え? ぁ、はっ! 畏まりました!」
そう言ってセバスは即座に部屋を出て行った、その隙にサイファーはアインズの後ろから元の立位置に戻る。
そうこうしている間にセバスはツアレを連れて戻ってきたがツアレを見たアインズは椅子から身を乗り出しツアレを凝視し始めた。
その異様な態度にサイファーはセバスからは見えない位置からアインズの服の端を引っ張り身を乗り出しすぎだと注意を促す。
それに気付いたのかアインズは再び椅子に腰を下ろした。
「似ているな」
ツアレを凝視するアインズの代わりにサイファーが口を開き語り始める。
「よく来たなツアレ。今から色々と質問させてもらうが嘘偽りなく答えろよ、偽りを言えば話はそこで終わりだ。・・・終わりという意味を間違えるなよ」
サイファーの言葉にツアレが唾を飲み込む音が聞こえるが、そんな事はお構いなしにアインズが口を開く。
「では、質問だ。お前のフルネームを聞こう」
その言葉にツアレの視線はあちらこちらに動きしばらくしてから口を開いた。
「ツ、ツアレ・・・ツアレニーニャです」
「下の名前は?」
「ツアレニーニャ・ベイロンです・・・」
この時をもってツアレの願いは叶えられる事が決定し、身の安全はアインズ・ウール・ゴウンの名によって保障されることに決定した。
彼女の幸運は皮肉にも死に分かれた彼女の妹の存在により揺ぎ無いものになったのである
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「これほどのメンバーが揃うとは・・・アインズ様に感謝の言葉を申し上げなくては」
アインズより王都からの撤退の指示を受けたセバスは、この地で作り上げた伝手をなくさないために朝早くからソリュシャンを連れて挨拶回りをし、夕方に館に戻るとツアレが消え、代わりに脅迫状が残されていた。
そのことに対しセバスはかなりの怒りを憶え単身ツアレの救出に向かおうとしたがソリュシャンに咎められ、ツアレが誰に保護されていたかを思い出したセバスは早急にアインズに助けを求めた。そして、すぐさま援軍が送られてきたのである。
「ふふふ。まだこれで終わりではないのだよセバス」
「なんと! まだ誰かしら来てくださるのですか」
デミウルゴスの言葉にセバスは驚きを隠せなかった。
なにせ今いるメンバーは守護者からデミウルゴス、マーレ、シャルティアの三名。
プレアデスからはソリュシャン、エントマの二名。
そしてデミウルゴスの配下の高位のシモベが複数。
あり得ないほどの過剰戦力であるにもかかわらずまだ終わりではないと言う。
「どうやらお越しくださったようですね」
デミウルゴスの言葉通り、部屋の中心に『転移門/ゲート』が開かれ一人の悪魔が出てきた。
その姿を確認し全ての者が臣下の礼を示しその人物に敬意を払う。
「いや、挨拶はいい。皆、楽にしてくれ」
その言葉に皆の緊張が解け元の状態に戻る。その様子にセバスはあっけにとられていた。
「ま、まさか サイファー様自らお越しいただけるとは・・・」
「気にするな。あいつらはナザリックに、『アインズ・ウール・ゴウン』に手を出したんだ! それ相応の報いが必要なのだよ」
「さようでございますか。して、今回の作戦の指揮はサイファー様がお取りなさるのでしょうか?」
「いや、今回の指揮はアインズさんよりデミウルゴスに全権を委ねられている。俺は今回に限りデミウルゴスの指揮下に入ることになっている」
その言葉にセバスの顔は強張る、至高の御方に指示を出すなど余りにも無礼ではないのか。セバスはデミウルゴスに視線を向けると当の本人はとても誇らしげにしていた。
「セバス。君の言いたい事は大体想像できるが、我々ではもう話は済んでいるのだから余りむし返して欲しくないですね」
その言葉にセバスが肯定の意を示し、それに満足したデミウルゴスは作戦を話し始め、セバスは怪我をしているかもしれないツアレの為ソリュシャンを連れて行くことを了承し、セバスが行動の準備をするために部屋を出て行くとデミウルゴスは次なる作戦のため残った者達に向かって口を開く。
「よし。まず最初に皆に重要事項を告げる。決して見逃したりしないように。エントマ。私の指示通りに幻術で作ってほしいのだが?」
「了解ですぅ」
デミウルゴスは出来上がった幻術の人物は決して殺すことはしてはならないと皆に念を押し、全員それに了承した
今回の作戦は主人から全権を任されている以上失敗は許されない。
特にサイファー様からは『全権を任されたのだ。俺くらい使いこなしてみせよ』などと身に余るほどの栄誉と信頼を掛けてくださったのだ。
守護者の失態が続いている今の状況は決して楽観視出来るものではなく、今回の作戦の成功によって自分達守護者が役に立つという事を見せなくてはならない。
サイファーがいる手前いつもより念入りに打ち合わせを行ったためいつも以上にシャルティアに突っかかってしまったが、『血の狂乱』のデメリットのため仕方のない事だと割り切るようにした。
幸いシャルティアへのフォローはサイファーが行っているため余り落ち込んではいなかった。
話も大詰めに入ろうとした時デミウルゴスの影よりシャドウ・デーモンが現れ新たな情報がもたらされた。
「すまない、マーレ。最新のニュースとして襲撃ポイントが一つ増えてしまった。君には申し訳ないが襲撃場所を変更してほしい。一人でも十分と思うが念のためエントマと一緒に行ってくれないか」
「は、はい。えっと、任せてください」
「では皆が集まっているうちに作戦の第二段階、ゲヘナに関する説明を行う。これが今回の作戦の最も重要な部分なので、静聴してくれたまえ」
--------------------------------------
作戦開始から数時間が経過し夜も更けてきたころ、サイファーにデミウルゴスから『伝言/メッセージ』の魔法がかかってきた。
「もしもし、こちらサイファー。今シャルティアと幾つ目かの敵拠点を潰し終えたところだけど、なんかあったのか?」
『はい、実はマーレとエントマが向かった館なのですが撤収時間を過ぎてもエントマが戻らないらしいのです。何かしらのトラブルがあったと思われますので、御手すきであれば様子を見に行っていただきたいのですが?」
「了解した。近くにシャルティアもいる事だし『転移門/ゲート』で送ってもらうよ。あと、そんなに畏まるなよ、総指揮官はデミウルゴスなんだからもっと普通な感じで話しても良いんだよ」
『・・・さすがにそれは恐れ多い事かと』
「ははは、まあいいよ。ではまた後で連絡する。そちらの健闘を祈る」
そう言うと『伝言/メッセージ』を切り、近くにいたシャルティアに声を掛ける。
「すまないシャルティア。エントマの所まで『転移門/ゲート』頼むわ」
「どうかなされたんですか?」
「予定時間過ぎても帰還しないんだって。なんかトラブルがあったみたいだから様子を見に行くわ」
「でしたら私もご一緒に!」
「いや、なんかあった時の後詰は俺の役目だ。シャルティアは俺を送ってくれたらマーレと合流してくれ」
「わかりました。では門を開きます」
すぐさまシャルティアは魔法を唱え門を作り出してくれ、サイファーはその門をくぐり目的の館に向かうのだった。
----------------------------------------
門をくぐり抜けたサイファーの目に信じられない光景が飛び込んできた。
トラブルを起こしていたと思われたエントマは糸の切れた人形のように倒れこんでおり、敵と思われる武装した三人がボロボロだが立っていた。
あんなゴミどもはどうでもいい。エントマだ。
「エントマ! 生きているか」
急いで駆け寄り抱き起し意識を確認すると辛うじて意識はあるようだがほぼ虫の息であった。
やばい。そう思ったサイファーは急いでアイテムBoxより最上級ポーションを数種類取り出し全てエントマに口と思われる所に流し込んでゆく。
最初は全種族用の最上級ポーション、次に状態異常回復の最上級ポーション、最後にステータス異常回復の最上級ポーション。
全てを与え終わるとゆっくりとだが起き上がりそのまま片膝をつけ臣下の礼を取り礼を述べ始めた。
「サイファー様。コノ様ナ御慈悲感謝ノ言葉モ御座イマセン」
「お前・・・声が・・・」
エントマの声は何時もの甘ったるいような声ではなくどこか不気味な声へと変貌していた。
周りを見渡すと様々な瓦礫や虫の死骸が散乱していたが、仮面虫とその傍に蛭のような生き物がいる事に気が付いたサイファーはエントマに待つように声を掛け動かなくなった虫の下に向かう。
「さすがに死んでいるか・・・ゲームじゃ無理だろうがこの世界ではギリ大丈夫だろう」
再びアイテムBoxから本当に数の少ないノーリスク蘇生薬を取り出し口唇蟲にかけ始める。
するとかけた薬品が動かなくなった口唇蟲に吸収され始め、全てを吸い尽くし終わったと同時にウネウネと動き始めた。
サイファーはエントマを呼び生き返った蟲を手渡す。その様子に最初は驚いていたエントマだったがすぐさま蟲を口の中に入れ再び頭を垂れ始めた。
「サイファー様! このたびは!」
「良い。お前の気持ちは分かっている何も言うな」
彼女がこの後どの様な事を言うのかはさすがに学習しているサイファーは彼女の言葉を遮り、未だに動かない三人に視線を向ける
「お前達・・・何故、彼女を殺そうとした」
サイファーの言葉に三人に動揺が走り何やら言い争いをしているようだった、しかしそんな事はどうでもいい。
「こ、殺す・・・殺してやるぞ!! 異形種狩りのクソどもが!!
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二十七話目 王都騒乱その2
なんだあいつは?
蒼の薔薇の三人は蟲のメイドの傍に魔法と思われる方法で急に現れた悪魔に警戒を強める。
「あいつは何者かわかるか?」
全身傷だらけの大男のような女、ガガーランは荒い息を整えながら今のメンバーで一番博識なイビルアイに声をかける。
「いや、あんな悪魔は私も見たことがない。しかも魔法と思わしき力で急に現れたが奴からは魔力を感じない」
魔力も消耗品もほとんど底を尽きかけているこの状況でもう一戦は難しいものがある、場合によっては最悪この悪魔は放置し即時撤退しなければならないかもしれない。
しかし、不気味な事にあの悪魔からは先ほど対峙した蟲のメイドのような強者の気配が全くせず、おまけに魔力すら感じない。
「逃げるが勝ち?」
忍者であるティアが数本のクナイを構えつつ小さく呟く。
どうするか決断できない内に悪魔は倒れてる蟲メイドを抱きかかえ、不気味に発光する液体をメイドの口と思われるところに流し込み始める。
「バカな、少なくともあの蟲メイドは瀕死の状態だったはずだぞ」
先ほどまでピクリともしていなかったメイドが何かの薬品を飲まされると何事もなく立ち上がり臣下の礼を取り始める。
「あのメイドの態度からしてあの悪魔はメイドの主人だろうな」
「奇遇だな俺もそう思っていたところだぜ」
動くことの出来ない三人に悪魔がこちらに向き合い、思ったよりも人間らしい声で言葉を発した。
「お前達……何故、彼女を殺そうとした」
悪魔の言葉に咄嗟に『人間を喰い殺していたから』と言いたかったが悪魔から溢れんばかりの怒りの気配に身震いし何も言葉が出なかった。
「こ、殺す……殺してやるぞ! 異形種狩りのクソどもが! 」
激しい怒りに三人は身構える、戦闘回避は不可能である。
「異形種狩りってなんなんだよ! あいつらが人間を狩るのはいいのかよ!」
「私が知るか! それより来るぞ! どうやら蟲メイドはまだ動けないようだ、それならば全員で悪魔に対し牽制を行いつつ撤退だ」
「了解」
今まで動けなかったが作戦が決まると同時に三人は動き出す。
イビルアイが後方に下がり魔法の詠唱をはじめ、ガガーランが二人の盾になるように前進し、ティアが中間地点でクナイを構える。
「ぶっ殺した後のお前らの死体は皆のおやつにしてやる。骨も残されずに貪り食われるがいい、異形種狩りのクソどもが!」
怒りの感情意以外何も感じられない悪魔がゆっくりと歩を進めて来ているがやはり蟲メイドは動かない
「誰が食われるかよ!!」
射程圏内に近づいてきた悪魔に対しガガーランは刺突戦鎚を無防備な腹部へと叩きこみ、それとほぼ同時にティアのクナイが悪魔の眉間、喉、胸部に突き刺さりイビルアイの魔法『水晶騎士槍/クリスタルランス』が左足を貫く。
「今だ! 転移魔……うぐ!」
無防備な悪魔に全ての攻撃が命中し、その隙にイビルアイは撤退の魔法を出そうとした時左足に痛みを感じた。
痛みの元に視線を向けると左足の太腿から水晶の槍が肉を食い破るように生えてきていた。
「ば、馬鹿な……これは私の放った『水晶騎士槍/クリスタルランス』それが何故私の足に!」
頭が混乱していると涼しげな悪魔の声が聞こえてきた。
「おしいな。足など狙わず俺を殺すつもりで急所を狙えば痛みなく死ねたのに」
悪魔の言葉に我に返り視線を戻すとそこにはクナイが急所に突き刺さっているのに平気な顔で薄ら笑いを浮かべていた。
そしてその傍に動かなくなったガガーランと自分と同じように悪魔に攻撃したところからクナイの刃が突き出していたティアの姿があった。
その光景にイビルアイの頭は一瞬真っ白になる。今まで数百年生きてきたがこんな現象は聞いたことも経験したことがなかった。
「では一人ずつ確実に殺していくか」
悪魔は笑いながら眉間に刺さったクナイを引き抜く。その動きに連動するかのようにティアの眉間の刃が沈んでゆく。
「まず、このでかい女からだ」
引き抜いたクナイを一番近くに倒れていたガガーランに向ける。
「や、やめろぉぉぉぉ!!」
動かない仲間に刃を向ける悪魔に対しイビルアイは叫ばずにはいられなかった。
「エントマを殺そうとしたくせに……虫が良すぎるんだよ!!」
無慈悲にクナイをガガーランの頭に根元まで刃を突き刺し満足したように次に喉に刺さったクナイを引き抜く。
「次はあの忍者……と言いたいが、さすがに即死かな?」
おどけたような態度を取りクナイをその辺に投げ捨て、最後のクナイを自らの胸から引き抜く。
「独りぼっちは寂しいだろう? 安心しろお仲間と同じ場所に送ってやるよ……あ、お前らの死体は別々のシモベに喰わせるから厳密には同じ場所じゃぁないな」
さっきまでの怒りの顔とも仲間を殺した時のような冷徹な顔でもなく、本当に楽しそうに笑いながらイビルアイに向け歩みを進める。
「きぃさまぁぁぁぁ! うわぁっぁぁぁぁぁ!」
怒号を上げながらイビルアイは魔法の力で滑空しながら拳に魔力を込める。悪魔の力は自分の常識では計り知れないが無効化や抵抗され難い接触魔法ならばいくらかは効果があるはずだ。
悪魔は迎撃の構えも取らずただ薄ら笑いを浮かべていた。その顔に久しく忘れていた恐怖を憶えとっさに防御魔法『損傷移行/トランスロケーション・ダメージ』を発動させ拳を悪魔の眉間に叩きこむ。
しかし攻撃が直撃した瞬間やはり攻撃を加えた場所と同じところにダメージが発生し大きく吹き飛ばされ石畳に叩きつけられた。しかし魔法のおかげで無傷でありすぐさま『飛行/フライ』により素早く起き上がる。
『魔法抵抗突破最強化・水晶の短剣』
通常よりも巨大な短剣を作り上げ、射出する。その魔法も悪魔は回避せず難なく右肩に突き刺さる。
「ぐうぅぅ!」
そしてイビルアイの右肩に先ほどと同じように水晶の短剣が肉を破り突き出てくる。
「……突破魔法を込めた魔法でもダメなのか……想像以上の化け物、いや魔神を凌ぐか! 魔神王とでもいうのか!?」
「化け物? 違う、俺は悪魔だ・・・。もっとも、お前如きに律儀に名乗るほど俺も暇じゃない・・・そろそろくたばれ人間至上主義者の異形種狩りのクソ女」
再び怒りに顔を歪ませ悪魔は足と肩の水晶を引き抜き、それに連動するようにイビルアイからも水晶が体の中へ沈んでいき傷口がぽっかり開く……しかし、傷口に対し出血の量が少なく思える。
イビルアイは二人の遺体を回収し逃げるのは無理だと判断し遺体から離れるように悪魔を別の戦場に誘導し、最悪復活魔法が使用できるラキュースがこの悪魔と対面する事だけは避けなくてはならないと考え戦闘を続行する意思を固めた。
「行くぞ!」
イビルアイが難行に挑もうとしたその瞬間、何かがけたたましい音を立て二人の間に飛来してきた
あまりの速さで飛んできたため石畳は砕け土埃が舞い上がる。
土埃が風によりある程度はれるとそこには漆黒の鎧を纏った一人の戦士の姿があった。
その姿を見た悪魔は信じられないものを見るような目で動揺していた。
イビルアイは静寂の中自分ですら計り知れない悪魔が一人の戦士に動揺し、ほんの少しだが後ずさりをしているのを見逃さなかった。
完全に土埃がはれ、漆黒の戦士が冷ややかに声をだす。
「どういう状況か説明してもらおうかな?」
--------------------------------
(なんでアインズさんがここにいるんだよ)
サイファーは目の前の冒険者状態のアインズの姿に内心かなりの動揺を憶え、さっきまで燃え滾った怒りの感情は霧散し、弱者をいたぶる悪魔的な思考は首をひっこめ元の状態に戻ってしまった
というか聞いていないぞデミウルゴス。打ち合わせでもアインズのアの字も出なかったじゃないか!
ほんと何しに来たんだよこの人、アルベドは一緒じゃないのかよ。ツアレ受け入れの為に俺がナザリックに帰ってきたんだから一緒に冒険者として活動しているんじゃないのかよ。
「漆黒の英雄! 私は蒼の薔薇のイビルアイ! 貴方と同じアダマンタイト級冒険者として要請する! 協力してくれ!」
黙れやクソ女こっちは今忙しいんじゃ! 余計な事を言って場をかき乱すな!
「承知した」
承知すんなよアインズさん……もしかして俺以外みんな状況の把握が出来てんの?
一瞬そう思ったが対峙したアインズさんの目がきょろきょろしているのが感じられこの遭遇が突発的なものだとある意味確信が持てた。
しばらくお互いに沈黙しにらみ合っていたがサイファーはアインズと情報交換をするための先に口を開いた。
「これは、これは、よくぞいらっしゃいました。ですが何をしに此処に来たんですか、良ければ理由を話してはくれませんか?」
余計な異物がここに存在しているため出来る限り初対面ポイ話し方で声をかけてみた。
「依頼だ。ある貴族から自分の館を守ってほしいという名目で呼び出されたんだが……王都上空で此処での攻防を目にしてな。緊急事態だと認識したから仲間であるアルに頼んで <浮遊板/フローティング・ボード>ごとこの場所に放り投げてもらったのさ……で、そちらの目的はなんだ」
どうやらかなりの無茶をしたようだ。レベル100のアルベドのパワーで投げられて良く無事だったなとサイファーは感心し、デミウルゴスが事前に決めていた言い訳を話し始める。
「俺達を召喚し、使役する強大なアイテムがこの都市に流れ込んだので回収するために来たということになってます」
「それを渡せば問題はそれで終わるのか?」
もちろん終わるわけがない、他にもやることが沢山あるのだ。
「いや、他にもいろいろとやる事があるので無理ですね。止めたければ戦うしかありませんね」
「それが結論か? サイ……オホン 大体理解した。そういう事ならば……ここで倒させてもらおう」
ゆっくりとアインズは剣を抜き両手を広げ、その手の延長にある巨大な剣が鈍い光を放つ。
アインズの武器を構える姿にサイファーの顔に獰猛な笑みが浮かぶ。
思えばユグドラシル時代からアインズとはPVPはおろか模擬戦すらサイファーはしたことがなかった。
何故ならサイファーはダメージカウンター特化というある意味極端な性能なため他のメンバーとは違い技量を比べ合う必要がなかったのだ。ギルド内ではメンバーの模擬戦の審判をしたり場所を提供するのが主な役目であったが、やはり少し寂しい思いがあった。
そんな訳で初めてのギルドメンバー同士の模擬戦に少し興奮しているのであった。
しばらくにらみ合っていると突然後ろから声を掛けられた。
「盟主様。この辺りでお引きくださいませ」
誰だと思い後ろを振り返ると仮面を被り正体を隠したデミウルゴスの姿があり、その姿を確認したサイファーは背中に冷たいものが流れる。
「何者だ!」
イビルアイがアインズの陰から威勢よく声をあげ、デミウルゴスはゆっくりと礼を行い口を開く。
「お初にお目に掛ります。私の名はヤルダバオトと申します。ここにおられる盟主様に仕える一悪魔で御座います。どうぞお見知りおきを」
そう挨拶する悪魔にイビルアイは全身を雷撃に貫かれたような気分に襲われ全身から汗が噴き出していた。
そんなイビルアイの事など眼中にないようにヤルダバオトは話を続ける。
「これより王都の一部を炎で包みます。もし侵入するのであれば煉獄の炎があなた方をあの世に送ることを約束しましょう」
一部始終を見ていたサイファーは自らの失敗に気がついてしまった。最初は帰還が遅れているエントマを迎えに行ったはずなのに怒りに我を忘れこんな乱闘を繰り広げてしまい計画の一部が遅れてしまいその穴埋めをするために総責任者であるデミウルゴスが直々に迎えに来てしまったのである
しかも立場不詳のサイファーのためにある筈のない役職まで作って辻褄を合わせようとしてくれているのである。
よく周りを見渡すとエントマの姿はなくとうに撤退していた。
サイファーが自らの過ちに打ちひしがれているとすぐ横に『転移門/ゲート』が開いた、恐らくこれに入れという事だろうデミウルゴスに視線を送ると笑顔でうなずいてくれた。
サイファーは促されるまま『転移門/ゲート』に足を踏み入れたがこれからの事を考えると胃が痛いのであった
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二十八話目 王国騒乱 その3
拙い文章ですがこれからもよろしくお願いいたします。
アインズとの衝撃の再会、そして別れから一時間ほどが経っただろうか、自分勝手な行動をデミウルゴスに怒られるのではないかと内心びくびくしていたが、逆にエントマを救出したことを褒められ、エントマからも感謝されお咎めはほぼなかった。
このままラスボスの役をやる羽目になりましたけどね(笑)
いやー焦った、焦った。やっぱり感情的になったらあかんわ、何事も冷静に行動せねば。きっとアインズさんはこれからの生活でも敵に何を言われようが『くそがぁぁぁぁ!』などと俺のように怒りを顕にすることはないんだろうな。
などとくだらない事を考えながらサイファーは倉庫区にて荷物運びに精を出していた。
「シャルティア。この倉庫はこれで最後だ、次に行こうか」
ふーと息を吐き、汗は流れてはいないがハンカチを取り出し汗を拭う仕草をしサイファーは働いた感を出していた。
その姿をシャルティアは苦笑いを浮かべながら此処に来てから何度か目の言葉を掛ける。
「サイファー様。やはりそのような雑務など他のシモベに任せたほうがよろしいかと?」
使ったハンカチを傍にいた適当な悪魔に渡しこちらも苦笑いで答える。
「そう言うなよ、出番が来るまで暇なんだよ。それに倉庫の中身にも興味があったし、いい暇つぶしになってるよ」
やはりNPCは俺が率先して働くのに良い感情を持っていないようである。
しかし、ここで折れて全てを任せてしまうと多分俺は一生働かなくなる自信がある。
そんか感じに軽口をたたくと「それの何処に問題がありんすか?」など真剣に答えられてしまいサイファー様はアインズ並みとはいわないが、もう少し真面目に働こうと心に誓ったのであった。
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倉庫区の資源をあらかた回収し終わり最後にこの地区に住む人間たちを悪魔たちのスキルで洗脳しナザリックに『転移門/ゲート』で誘拐……もとい招待しているとにサイファーの下にこの場にいない筈の人物が訪ねてきた。
「あれ? ペス。何でお前がここにいるんだ。誰かの使いか?」
ペストーニャが来るなんて計画も連絡もなかったはずだと考え周りをキョロキョロと見回すがそれらしき人物は見当たらない、するとペストーニャは急に目の前に跪いた。
「サイファー様にお願いしたき事があり参りました。どうか御聞き入れ願えないでしょうか」
「お、おう……」
何時かのコキュートスのように真剣に言われ、アインズのように支配者演技に慣れていないサイファーは内心の動揺を必死に抑えながら続きを話すように促す。
「私情で大変恐縮でありますが……どうか幼子だけでも御慈悲を与えては下されないでしょうか」
ペストーニャの言葉にサイファーは少し考える……考えるが何の感情も湧いてこなかった。何しろ犠牲になるのは全く自分には関係ない赤の他人だ、死のうが生きようが興味がない。
むしろその話を聞いて幼子が好物のシモベに今回の働きの褒美として配れば良い感じになるのではないのかと思ってしまう程だ。
しかしいろんな事を破ってまで直訴したペストーニャの意見を無下にするわけにもいかない。
しかし、なぜ俺なのだろう。この作戦の責任者はデミウルゴスであり、ナザリックの頂点はアインズさんだ。
中途半端な立場の俺でもなくてもいいはずだ。
「その願いはアインズさんやデミウルゴスにも言ったのか?」
「いえ。まだで御座います。御二人方よりサイファー様の方が希望があるのではないかと思い……」
震えながらなんとか声を出して答えるペストーニャの意見を聞き二人の性格を思い出す。
(まあ、この三人の中だと俺が安牌っぽいかな、デミウルゴスはカルマ値最悪だし人間は余すことなく利用すべしって考えだし、アインズさんはナザリックの最高責任者にて絶対なる支配者……確かに人間助けてって言いにくいよね)
それに女性にここまで頼られて無下にしては男が廃るというものだ。
「分かった、お前の陳情を受け入れよう。アインズさんとデミウルゴスには俺のほうから言っとくからあっちの空き倉庫に幼子だけ詰め込んどけ……その隣の倉庫は救出される用の倉庫だからついでに助けてもらえ」
その言葉にペストーニャはさらに頭を下げ感謝の言葉を述べ、その言葉に若干テレてしまったサイファーはさっさと行動するように促し、駆け足で駆けていく彼女を見送りながら胃の痛くなる相手に連絡を取るのであった。
でも思ったよりすんなりOKしてくれたのでサイファーの胃は痛まずに済んだ。
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開けた広場の中央でデミウルゴス特製の骨玉座に座りながらサイファーは本日の作戦のクライマックスの主役を待ち構えていた。
「首尾はどうだデミウルゴス?」
「問題ありません。後はここにくる何も知らないピエロにアインズ様、いえ、冒険者モモンの素晴らしさと強さを見せつけ時間になりましたら撤退となっております」
「サイファー様ぁ、あの女は私ぃに下さりませぇ」
何時もの甘い声でエントマは憎き女を要求してくる。もちろんOKと言いたいが今回は冒険者モモンの英雄談の引き立て役アンド語り部になってもらうという大役があるため『今回はダメだが用が済んだらあげるよ』って約束してあげたら凄く喜んでいた。
その姿はとても可愛らしく役得を感じていたが同時に寒気もし始めた。
何故ならギルドのメンバーの中にはエントマが好きすぎる人もおり、彼女に近づくといちゃもんや難癖をつけられたり彼女の魅力をログアウトまで聞かされるという無限コンボの存在があるためである。
そんな地獄を何度も味わったサイファーの経験が警告を鳴らしている。
もちろんエントマだけではなくプレアデス全員にそれぞれに固定のファンがついているため無暗やたらに近づく事はお勧めできない。
近づいたら最後、その派閥の色に染まるまで『お話』を延々とされ、染まってきたら『俺の○○ちゃんに色目使うんじゃないぞ』と脅されるという理不尽コンボが定番である。
ちなみにサイファーはギルド最多のお話し合い参加者であり、その結果何色にも染まりきらず無所属の扱いになっている。
そんな昔の事を思い出していると前方に人影が三つ見えてきた。尤も三人とも顔見知りであるため驚く事ではないが、横に控えているエントマはその内の一人仮面をつけたローブ姿の少女を恨みがましく睨み、デミウルゴスは中央に立つ漆黒の戦士に対し優雅な一礼を見せる。
「さて、役者は揃ったようだな……始めるぞ」
サイファーは椅子より立ち上がり三人が来るまで頑張って練習した悪魔の盟主の演技を開始した。
-----------------------------------------
「見えてきたな」
戦場を突っ切り盟主を名乗る悪魔のもとに走り続け遂に広間の中心に目的の悪魔を発見した。
その悪魔は隠れもせず堂々と骨で出来た玉座に鎮座しておりその両隣にはあの蟲のメイドとヤルダバオトが控えていた。
相手も自分達に気付いたらしく蟲のメイドはイビルアイに向け殺気を放っており、ヤルダバオトは優雅な一礼をして見せている。
その余裕な態度が意味する事はたった一つ。
「罠か。どうするモモン様」
「何が待とうと食い破るほか道はない」
「まったくその通りだ」
モモンの言葉遣いが他人行儀ではなくなったためイビルアイも普段通りの話し方で返し目の前の敵に狙いを定める。
その時後ろから太鼓や勇ましい雄たけびが聞こえてきた。
盟主を名乗る悪魔を倒すべく敵の防衛戦力を削ぐための作戦が開始されたのだろう。
「どうやら予定通りに始まったようだな」
「ああ、その通りだ。モモン様、出てくるだろう敵の伏兵は私とアルさんが相手をする。だから心置きなく戦ってくれ」
「了解だ。だが決して死ぬなよ。アル、彼女に協力して戦え。三人揃って帰還する事が私の願いだと知れ」
「わかったわモモンさん」
三人が盟主の前に降り立つと、盟主は玉座から立ち上がり薄ら笑いを浮かべながら拍手をし始めた。
「なんのまねだ!」
その態度に若干の怒りを憶えたイビルアイは感情的に口を開く、そんな彼女を無視するかのように盟主は言葉を発する。
「よくぞここまでたどり着いたな。褒めてやろう、そして改めて名乗ろう。俺の名は盟主、悪魔の軍勢を統括する絶対者である」
薄ら笑いをやめ冷たい目でこちらを睨んでくる盟主、その氷のような視線に堪え切れすイビルアイは一歩後退してしまったがモモンとアルは平然と盟主を睨み返していた。
そんな二人を見てイビルアイは改めてモモンの胆力に驚かされる。
「このまま君達を消すのは簡単だ。しかしモモン、君ほどの男は殺すには惜しい、だから提案しよう……」
盟主はマントを翻しモモンに手を差し伸べる。
「俺の部下となれ! さすれば褒美として世界の半分を君にやろう。どうだ悪くない話だろ?」
盟主の余りにも規格外の提案にイビルアイは驚愕する、盟主にとってモモンとはそれほどの価値がある存在なのだろうか。
「断る。その提案では私は世界の半分しか救えないことになる。ここで貴様を倒し世界のすべてを救わせてもらう」
カッコイイ。モモンの事だから必ず断ると思っていたが此処までカッコよく断るとは思いもしなかった。横にいるアルもイビルアイと同じ思いを抱いたのか構えていた武器を下ろしモモンに熱い視線を送っていた。
「非常に残念だよ。君ならばもう少し賢い選択をしてくれるとばかり思っていたのだが」
盟主は少しも残念そうな顔はせず冷めた目で指を鳴らす。それを合図にヤルダバオトと同じ仮面を被った者たちが物陰より現れる。
「五人だと? クソ!盟主の持つ戦力を侮っていたか」
自分と同格程度の戦闘力を持つ者が総数六人。戦力不明だがメイドより強いと思われるヤルダバオト、そして盟主。
三対八では彼我の戦力差は大きくかけ離れ勝算は限りなく低くなる。
「ではそちらの七人は任せる」
モモンはそう告げると、剣を両手に握りつつ、自然な足取りで盟主に向かって歩いていく。その姿にイビルアイは心細さに苛まれるがすぐに弱い心に叱咤し闘志を燃やし始める。
「では行くぞ、サイ……ファぁぁぁぁぁ!!」
「来い!モモン……ガぁぁぁぁぁぁ!!」
声を張り上げ、盟主に斬りかかるモモン、対する盟主はイビルアイ戦で見せた不可解な技は使わず何もない空間から大鎌を取り出しモモンに飛び掛かって行き応戦し始める。
イビルアイ戦では動きもしなかった盟主だがモモンに負けず劣らずのパワーで苛烈な打ち合いを繰り広げる。
二人を巻き込まないためかモモンは盟主を誘導しながら徐々に離れていく。
「それで私が五人で貴方が二人で良いわね」
「待て! なぜアルさんがそんなに相手にするんだ!」
「魔法詠唱者である貴方は多数戦には向いていないわ。私なら倒せないでも防御に徹すればモモンさんが盟主を倒すまでの時間稼ぎくらいはできるわ」
アルの言葉にイビルアイは言葉に詰まる。
「ならば私もこの戦いに参戦いたしましょう!」
その言葉と同時に空から何かが地面に落ちてきて土埃が舞い上がる。
しかしすぐに風が吹き始めあっという間に土埃を晴らしてしまい声の主が現れる。その人物は赤黒いフード付きマントに身を包みフードから角がちょこんと生えていた。
「お前はチーム『漆黒』最後の一人、魔法詠唱サイファーなのか!?」
「その通りで御座います! 麗しイイお嬢様。このサイファー別行動を終え全力でやって参りました!」
演技掛った仕草でマントを翻しながらイビルアイに向き直り、これまた仰々しく一礼をしてみせる男にアルがあきれたように声をかける。
「遅かったわね、サイファー。説明はいるかしら?」
「無問題です! 大体の事は理解しております。ですので私が二人抑えますのでアル様が三人、お嬢様が二人を抑えて下さい、さすればモモン様が憎き盟主を倒してくださるでしょう!」
体のすべてを使い演技掛った手振り身振りで作戦を伝えるサイファーにイビルアイはいろいろと言いたい事があったが、戦力が増える事で自分たちの勝率がわずかだが上昇したことに少し安堵し心に余裕が生まれる。
「いいのか? 私が三人でも構わないぞ?」
ふん、とアルが笑った気がした。
「貴方が二人で私が三人よ」
その態度にイビルアイは破顔し、モモンをめぐるライバルだと思っているがイビルアイはアルに対しさらに好感を抱いた、自分の正体を明かしても良いと思えるくらいに。
「それとサイファー殿、私の名はイビルアイ。お嬢様なんて名前ではない」
「これは失礼いたしました。余りにも可憐な御姿につい」
「お喋りはそこまでよ。 さて、三人は私の相手をしてほしいのだけど、誰が来るのかはそちらに任せます」
「では、私がお相手させてもらいましょうか」
アルの前にヤルダバオトが立ちふさがり、それに釣られたように蟲メイドにポニーテイルのメイドが追従する。
イビルアイと対峙したのは髪を結い上げたメイドと、ロングヘアのメイド。
サイファーには三つ編みのメイドにロールヘアのメイドが立ちふさがる。
「行くぞ!」
高らかに吠えイビルアイは魔法を発動させた。
今更解説サイファーの設定
名前 - サイファー
性別 - 男
役職 - 特になし
属性 - 中立【カルマ値:0 】
種族レベル
小悪魔 - 10
中位悪魔 - 10
最上位悪魔 - 5
純血種悪魔 - 5
魔王種悪魔 - 5
職業クラス
カウンターマスター - 10
マジックリフレクター - 10
ダメージコントローラー - 10
リフレクターナイト - 10
フィールドソーサラー - 5
エレメントガードナー - 10
呪殺師 - 5
薬学師(毒) - 5
種族レベル 35 + 職業クラス 65 = 100レベル
能力表(最大値を100とした場合の割合)
HP - 200 (課金あり)
MP - 10
物理攻撃力 - 50
物理防御力 - 50
素早さ - 30
魔法攻撃 - 0
魔法防御 - 40
総合耐性 - 20
特殊 - 80
備考
① 悪魔王はあくまでふざけて名乗っていただけだが誰もその事にツッコミを入れてくれなかったのでそのまま定着してしまい、以後そのまま名乗っている
② 性格は温厚で人当たりが良い、そのせいか貧乏くじを引く回数がやたら多い
③ 上記の性格だが彼も異業種の例にもれず人間種のプレイヤーに何度もPKされた経験があるためアインズ・ウール・ゴウンのPKKには積極的に参加しており、PKへの怨みは人一倍あり、差別や偏見を嫌っている
④ 実は生身の肉体がある分モモンガより精神の統合が進んでおり自分が元人間であることを忘れてしまっている、その為か人間に対しの同族意識はほぼ無くなっている
しかし元来の性格とカルマ値が低い事が幸いし人間種そのものは嫌っておらず、相手が好意をもって接してくれば優しく対応する事もでき仲良くなることも可能である
しかし無礼な奴、常識がない奴、他種族を差別する奴はその範疇になく、昔の異業種狩りの記憶とともに葬り去るべく強硬手段を取ることが多い
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二十九話目 王都騒乱 その4
「舐めるなよ モモン!」
およそ戦闘向きとは思えぬ大鎌を振り回し目の前の漆黒の戦士に何度も打ち付けるが、まるで動きが読めているかのように大鎌の一撃を回避し打ち払う。
「次は右!」
漆黒の戦士が言う通り悪魔の振るう大鎌が右より襲いかかってくる。その一撃を身を低くして回避したモモンは大鎌を振り切った事により動きが硬直している悪魔の腹部に剣で突きを放つ。
「ぐぅ!」
無防備な腹部に剣が突き刺さるが、それと同時にモモンは腹部にダメージを負いその場より後退し態勢を整える。
「カウンター特化か。相手にするとこれほど厄介とはな」
幸いダメージは軽微なもので戦闘には何も問題はない、しかしそれは相手も同じらしく何事もなかったように再び大鎌を振り上げ飛び掛かってきた。
その斬撃を受け、縺れ合うように一軒の家に飛び込む。扉は盟主を押し付けた際に壊れ木片があたりに散らばっている。
盟主は大鎌をその辺に投げ捨て服についた埃をはたき始め、漆黒の戦士は盟主を無視し奥の部屋に入っていく、そこには小さいテーブルに椅子が二つ、そして変装を解いたデミウルゴス、アルベド、そしてマーレの三人がいた。
マーレが椅子を引き、そこに漆黒の戦士、いや、アインズが座ると盟主、ではなくサイファーが不満を漏らしながら入室する。
「ちょっとアインズさん、乱暴に扉に押し付けるから服が汚れたじゃないですか」
「すみませんサイファーさん。しかし勝負の最中にそんな事気にしてられませんよ」
「ま、それもそうか」
そう言うとサイファーも用意された椅子に腰かけアインズに向き合う。
「勝負と言えばアインズさん、なんで俺の攻撃が予測できたんです? それも特訓の成果ってやつです」
「いや、そうではありませんよ。ただサイファーさんの攻撃パターンがユグドラシルの大鎌の通常攻撃パターンそのままだったので予想しやすかったんですよ」
「そうだったのか……いや、自分の中ではかなり複雑に動いていたつもりだったんですが、まさか手玉に取られていたとは」
「いや、もともと大鎌の攻撃モーションは攻撃範囲が広い分隙が大きいですから。それに大鎌は専用スキルと併用して戦うのが一般的ですし、単体攻撃だけじゃただの的っていうか……」
「みなまで言うな。十分わかったよ。でもな、敵のボスが使う武器で観客うけするのが大鎌しか思い浮かばなかったんだよ」
アインズのフォローという名の追い打ちですっかりへこんでしまったサイファーをしり目にアインズはデミウルゴスに言葉を掛ける。
「待たせてすまない。まず、この部屋は安全なのだな」
「大丈夫でございます。ここでの会話を盗み聞ぎできる者などおりません」
「そうか。それでは……あっと、その前にお前に頼みたい事があった。私が通ってきたルートにいた兵士には危害を加えないでくれ。危機を救ってやると良い宣伝になるみたいでな」
デミウルゴスが了承し、配下の悪魔に『伝言/メッセージ』を送り始めると凹みから復活したサイファーがアルベドに言葉を掛ける。
「そういえばアルベド。俺が敵側に付いたせいで戦力が低下してと思ったからそっちに俺に変身してもらったパンドラズ・アクターを送ったけど、彼は上手く俺の代わりができていたか?」
「……もちろんでございます。彼は立派にサイファー様の代役を務めておりました」
そう言いきったアルベドの顔はとても優しい笑みを浮かべていた、今までそのような顔をされたことのなかったサイファーは代役の件が上手くいったものだと思うことにした。
「パ、パンドラに代役を任せたんですかサイファーさん」
多分青い顔で話に入ってきたアインズに事情を説明した。
「……という訳で戦力のバランスを保つために来てもらったんですよ。せっかくに四十一人全員に変身できるんだからしっかり活用しないとね。それにアイツ俺に変身して思うように演技していいと言ったらえらい喜んでたんですよ」
「お、思うように演技……だと」
その言葉とアルベドの優しい笑顔でアインズは全てを悟った……きっとアイツは張り切ったんだろう……
はぁぁーと頭を抱えながら精神の抑制を受けて冷静になったところでデミウルゴスに向き合う。
「ではお前の計画の全てを話してもらうぞ」
アインズは内心自分のせいでデミウルゴスの計画が狂っていないかハラハラしながらデミウルゴスの話を聞き始めた。
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「くっ!」
イビルアイは腹部に攻撃をくらい、うめき声を上げ、そのわずかな隙をつかれ、敵のメイドからの攻撃を真正面から受け大きく吹き飛ばされてしまう。
土に汚れながらも『飛行/フライ』により強制的に体を起き上がらせる。そこに通りから吹き飛んできたアルの姿を目にした。その姿はボロボロで全身鎧には罅が入り一部欠損している。そんな状態だが彼女は倒れる事もなく目の前の敵に向き合っている
イビルアイは合流すべくアルに近づく、その際に追撃がないのはおそらく纏めて殺すつもりだからだろう。
「あら、いい格好になったわね」
「自分もボロボロだというのにいい格好とはよく言う」
確かに彼女はボロボロであったが致命的な傷を負っているようには見えなかった。むしろイビルアイの方が深手を負っているかもしれない。
メイドだけではなくヤルダバオトを合わせ三人を相手にしている彼女がこの程度ですんでいるのは戦士としての技量が桁違いであることを示していた。
「これで盟主様に逆らう輩が集まりましたね」
いつの間にかヤルダバオトをはじめ四人のメイドが周りを取り囲んでいた。
「逃げたらどうかしら? 背中くらいなら守ってあげるわよ」
「この状態で逃げられる訳ないだろ」
「そうかしら? 後ろを見せて逃げれば追ってこないかもしれないわよ」
そんな訳はない、しかしこの状況は非常にまずい、同格の、あるいは自分より各上の相手に周りを囲まれては自分らの命など時間の問題だろう。
唯一気がかりなのは残り二人を相手にしているサイファーの存在だ。しかし周辺にはそれらしい気配は感じられない、受け持っている2人のメイドがこちらに来ないのでまだ抑えていてくれてるかもしれない。
最悪なのはすでに殺されており、盟主の下に援軍として向かわれてしまったという事だ。
突然周りの敵に向け数発の『火球/ファイヤーボール』が着弾し炎が荒れ狂う、イビルアイ達を囲んでいた者たちは後方に下がり包囲網に穴ができる。一瞬何が起こったかわからずイビルアイは体が硬直してしまい動けなかったが隣にいたアルに抱えられその場から数メートル離れる。
するとそこには自分らと同じくらいボロボロの姿でサイファーが立っていた。
「危ないところでしたね、お嬢様方。しぃかし! この私が来たからにはもぉお大丈夫です」
ボロボロであったが別れた時と変わらずのオーバーリアクションで話をするサイファーにイビルアイは思わず苦笑してしまう。
しかしアルは冷淡に言葉をだす。
「大丈夫って、あなたが受け持っていた2人もあちらに合流したから状況に何も変化はないわよ」
「これは失敬! しかぁし! これで少しは時間が稼げます。あとはモモン様が盟主を倒すことを信じましょう!」
「残念ですが、時間は稼げておりません」
ヤルダバオトの冷たい声とともに6人のメイドが集まっていた。蟲のメイドからは槍のように鋭い殺気がイビルアイに突き刺さる、しかし、ヤルダバオトや他のメイドからは驚くほど敵意を感じない。
覚悟を決めるべきかとイビルアイが体を固くすると、突如、建物の崩壊音が響き渡る。その音の方向にその場にいた全員が視線を向けると盟主と呼ばれる悪魔が地べたに這いつくばっていた、その先には漆黒の戦士が剣を構えていた。
「楽しいな。前に接近戦をしたときは追い詰められていたから感じなかったが、今は違う。これが前衛職の楽しみというやつなのか……さて、そろそろお前も本気を出したらどうなんだ」
「……ならばお望みの通り……本気で戦ってやるよ!」
盟主はノロノロと起き上がりモモンを睨みつける、しかしモモンはその視線に何も感じないのか剣を構えなおす。
「かかってこい、盟主よ!」
その言葉を切っ掛けに両者は激しくぶつかり合う、盟主は大鎌を高速でモモンに向けて斬りつけるがモモンは両手にもつグレートソードで的確に弾いていき、何度目かの打ち返し時に盟主の大鎌が砕け、後ろに後退する。その隙を逃さずモモンは盟主に向け右手の剣を振り下ろす。
「もらったぞ! 盟主!」
「馬鹿なぁぁぁぁぁぁ!!」
モモンの一撃を受けさらに後退する盟主。その姿にイビルアイは勝利を確信する。しかし一向に盟主は地面に這いつくばらず立ったままである、その姿に一時静寂が訪れたがすぐに盟主の笑い声により破られた。
「くふふふ……な~んちゃって! 俺がその程度でやられる訳がないだろ」
全くダメージを受けた様子のない盟主にイビルアイは驚愕する。モモンの一撃は誰が見ても確実に盟主を切り裂いた筈だ、しかし盟主はダメージを受けた様子もなく平然と立っていた。
「残念だが、俺は攻撃を受ける瞬間スキル『マナ・ボディ』を発動していたのさ。その効果で俺の受けるダメージを魔力ダメージに置き換え、さらにそのダメージ分お前の魔力を減少させるのさ」
「そうか。だが戦士である私には後半の効果は関係ないな」
「ああ、戦士であるモモンには効果がないな」
お互いに戦士であることを強調するかのように話し、徐に盟主は砕けた大鎌をその辺に投げ捨てる。
「では、これならどうかな!」
再び盟主は何もない空間から二振りの刺突剣を取り出し、今度は盟主の方から距離を詰めモモンに攻撃を繰り出す。そのスピードは信じられないくらい速かったが、モモンは手に持つ巨剣で見事に防いだ。しかしその瞬間、突如刺突剣から炎が噴き出しモモンを炎が包む。
「まだまだ終わりじゃないんだよ!」
そう言って盟主はもう一振りの刺突剣を防御に使用している剣に突き立てる。
そして今度は電撃がモモンを襲う。
接近戦で鎧が赤熱化する中、モモンは奇妙な武器を取り出し盟主に向かい振るう。
「凍牙の苦痛・改! 氷結爆砕!」
「ぐぁぁぁぁぁぁ!!」
モモンの武器より極寒の冷気が吹き荒れ、盟主の刺突剣より発生した炎を完全に消し去り、逆に盟主の体の一部を凍結させる。
「くそ、この程度の武器ではパワー負けするか」
「どうした? もう来ないのか」
勝負は完全にモモンが押しており最早勝利は目前に迫っている、このまま決着がつくと思われたが盟主は意外な事を言い出す。
「さすがにこちらが不利か……どうだろうモモン。勝負はこれぐらいにして、お互い手を退かないか?」
「ふざけるな!」
イビルアイは激高し叫ぶ。王都にこれほどの混乱と死を撒き散らしておいて逃げるなど虫が良すぎる。
「いいだろう」
しかしモモンはイビルアイの言葉を無視し、盟主の要求を飲んだ。その言葉にイビルアイは仮面の下で目を丸くし、モモンを見る。なぜ、優位にいるはずのモモンが盟主の要求を飲んだのか理解できなかった。
「そこの仮面の女。なぜモモンが俺の要求を飲んだのか分からないのか? ならばここにいるヤルダバオトやメイド達、それと、冒険者の相手をさせている悪魔の軍勢に王都全域を襲えと命令しようか?」
最悪だ。いくら王都内を兵士が巡回しているからといって盟主の全ての配下に対応する事は不可能だ。つまり王都全域が人質というわけだ。
「だが、お前が約束を守るという保証は何処にもないのではないか?」
「それでも、お前は信じなければならない。信じなければお前は守りたいものを守れないのだからな」
都合がいい発言だが王都を人質に取られているこの状況では飲まないわけにはいかない。
「誰も文句がないようだな、これで撤収させてもらう。アイテムを回収するという目的が果たせなかったのは残念だが、次は必ずお前の首をいただく」
「それはこちらのセリフだ、盟主よ」
互いに再戦を匂わす内容だが二人の間にはどこか親しげな雰囲気が漂っていた。その姿はまた会う約束を交わす友人のようにさえイビルアイの目には映った。
そんな二人を見てイビルアイはふと昔ガガーランの言っていた言葉を思い出す。その時は何を言っているのか分からなかったが、今は不思議と納得してしまっている。
盟主の周りにメイド達が全員集まったかと思うと、高位の転移で一斉に掻き消える。
「行ったな……」
イビルアイは空中に浮かび上がり、王都を見回す。そこには炎の壁も徘徊する悪魔の姿もなく、普段より騒がしい王都の姿があった。
今回の件でいろいろと考えることがあるが、まずはそれよりもしなくてはならないことがあった。
「うわぁぁぁぁ!」
雄叫びのような歓喜の声を上げモモンに向かい全力で走っていく。当のモモンは驚いたのか剣を構えそうになっていたがそんな事は関係ない。
「やった! 勝った! 勝った! 流石はモモン様だ!」
コアラのようにモモンに抱きついていたが猛烈な力で襟首をつかまれモモンより剥がされてしまった。
「この餓鬼が! 誰の断りを得てア・・・モモンさんに抱きついてるんだコラ!」
割れた兜の間から鬼のような顔でアルが睨みつけていた。
「遂に王都を救ったのだ、少しばかりはめを外しても良いではないか!」
イビルアイの言葉に感銘を受けたのかアルは掴んでいた手を離しモモンに抱きついた。
「やりましたわモモンさん私うれしいです」
早口にそう言うとアルはすりすりと体を擦り付ける。
「ちょっ、ま、待つのだアル! け、剣をし、しまうのに協力してくれ」
「なぁらば、私がご協力いたします! モモン様!」
突如としてサイファーに話しかけられモモンはかなり動揺し、アルは平静を取り戻し抱きつきを解除し少し離れる。
「あ、ああ、頼む……」
「とぉんでもない! 友として当たり前のことです」
モモンを前にしても大仰な演技は変わらずキレッキレでありその姿を見てあたふたするモモンを見てイビルアイはつい笑顔になる。
これからの自分の取るべき行動に思いを馳せ始めたイビルアイは、響く鋼の音に顔を動かす。
見れば駆けてくる一団があった。冒険者に兵士たち、それに王国戦士長の姿まであった。
それだけではない蒼の薔薇の仲間たちの姿もあり皆うす汚れ、ここに来るまでの死闘を感じさせた。
そして皆の視線がモモンに集まる。
そこに込められた思いを察知したのかサイファーがこれまた大仰にモモンに囁きかける。
「モモン様! 今こそ勝利の声を!」
「え? あ、うん。恥ずかしいな」
超級の戦士とは思えない、まるで一般人のような反応であった。
「素敵ですわモモンさん」
「はぁ。そうだな。するべきだな」
モモンは剣を握りしめ、勢いよく空に突き出した。その次の瞬間、広場に集まっていた全員が同じように拳を突き上げ雄叫びが爆発し勝利の喜びを分かち合う。そして口々に救国の英雄モモンを称えるのであった。
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ナザリック地下大墳墓第二階層の一角に設置されている転移の罠を見ながらサイファーは隣にいるマーレに声を掛ける。
「あの女をブラックボックスに送り返したのって何回目だっけ?」
「え、えっと、2回目です」
おどおどと答えるマーレの答えにサイファーは少し青い顔になる。
「素直にさせるためとはいえ、流石にやりすぎだと思わないか? ここに入るなんて俺でも嫌だぞ」
「ご、ごめんなさい。サイファー様」
「いや、マーレ君を責めてる訳じゃないんだけど、いちG嫌いとして同情を隠し切れないっていうか……いや、恐怖公の奴は嫌いじゃないんだ、彼の紳士的な態度は好感が持てるよ。ただ、あのおぞましい数が詰まっている部屋を想像するとね……」
そんな話をしていると目の前の転移装置が起動し辛うじて女と判別できる血塗れの人物が瀕死の状態で送られてきた。
「お、終わったみたいだな。じゃ、マーレ君、回復させてくれ」
「わ、分かりました、サイファー様」
マーレは瀕死の女に回復魔法をかけ始めその様子をサイファーはじっと見つめる。
「今度は素直に俺の言う事を聞いてくれるかな? ま、聞かないんなら可哀想だがもう一回行ってもらうか」
サイファーは目の前の女、八本指の幹部の一人ヒルマを見ながら呟く。同情するとマーレには言っていたがその眼は養豚場の豚を見るように冷たいものだった。
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三十話目 この子誰の子知らない子
年末は風邪をひいたり年末進行だのいろいろ大変でしたけど、何とか乗り切りました。
という訳で、今年もこんな作品ですがよろしければお付き合いください。
王都での騒動の事後処理が終わり、その後の守護者達との会談によりナザリック地下大墳墓としての方針がある程度決まり、その為の準備をするため皆忙しそうに働いている中、サイファーは一人休暇をもらいエ・ランテルの屋敷にて紅茶を楽しんでいた
なぜサイファーだけ皆が働いている中休暇を貰えたかというと、簡単に言えば王都での活躍の褒美として一日の休暇をいただいたのだ
他の者が幼子やら女性の衣服や小娘の声が欲しいなどアインズに頼んでいる中サイファーは自由な時間を褒美代わりに頂いたという訳である。
その際アインズがかなり渋い顔(サイファーにはそう見えた)をしながら許可を出したため、今日此処にいるわけである。
「しかし、世界征服ねぇ。アインズさんもはっきり言えばいいのに・・・」
世界征服。読んで字のごとく世界を征服する事である。その方法は書籍によってまちまちだが、どの作品でも成功した物はほぼなく、その殆どが途中で主人公にボコられて終了、又は身内の裏切りやら痴情の縺れなどが原因で頓挫してしまっている
今の所、漫画の主人公のような人間は発見されておらず、身内にも裏切り者の姿はない、ナザリック外のこの世界からの中途採用者の中にも今の所不平不満は聞かれないが、彼らの子や孫までこちらの言いなりになるとは限らないがこちらの政策次第ではどうにでもなるだろう
例は少ないが痴情の縺れの線は残念ながら拭いきれない・・・誰かとは言わないが・・・
そんな訳で俺らの知らない所で勝手に話が膨らみ、計画され、遂行中だそうだ。最初聞いた時は呆然としてしまったがその隣で『覚えていたのか』 『もちろんで御座います』などの会話が続いていたため、最初から決まっていたのかと思ったがアインズの『デミウルゴス説明してあげなさい』がでたため、俺は空気を察して黙っていた。
これあかんやつだ
そして喜々と世界征服プランを話すデミウルゴス、話し自体は納得出来ることが多く良くそこまで頭が回るなと感心し、その為にナザリックの防衛体制を査察したいと提案があった
しかし査察の方法にアインズは不快感を顕にし気に入らなかった様だが、最後はナザリックの支配者としてOKを出したが、あれは納得していない顔だった
「帝国に行くまでにアインズさんのご機嫌を治す方法を考えなくちゃな。しかし、あの人こんなに潔癖だったかな。昔からちょくちょくとは言わないけど、無かった訳じゃないんだけどなぁ」
アインズも自分と同じで種族に性格が引っ張られて何かしらの心の変化があっても可笑しくはない、しかし自分もその事に対し自覚症状はなく、モモンガさんも昔と今で何処が変わっていると聞かれても残念ながら見当もつかない
小難しいことはまた後でアインズと相談して考えよう。そう自分に言い聞かせ、カップに残っている紅茶を飲み干し、当番でついてきたペストーニャに声を掛ける
「ペス。すまないが少し小腹が減ってな、何か軽食でも持ってきてくれないか?」
「承りましたサイファー様・・・わん」
ペストーニャはその場で一礼し、机の上にあるティーセットを手際よく片付けている所に護衛役である八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)が入室してきた
「サイファー様。それならば良いものが御座います」
「ん?なんだ良いものとは」
「は! 明朝の頃、この屋敷の前に女が供物として置いていったもので御座います。我々から見てもとてもうまそ・・いや、美味なるものであると思います」
「くもつ~?」
なんだそれ
此処に屋敷を構えてから皆に優しく正義感あふれる頼れる英雄モモンとお近づきになりたいと思う輩から賄賂目的、純粋な好意からの差し入れなどがたびたび届けられてきているが供物はないだろ
宿屋に拠点を置いていた頃はロビーの係員がそういうのはストップさせてくれていたが、今はそんな人がいない為、下心アリアリの贈り物から毒物などの暗殺道具、名を上げる目的の奴、果てはやっかみから屋敷に石を投げ込んでくる連中までいる
たまになんだけど本当に美味しそうな現地の果物とかが差し入れで来るときもあり全てが悪いわけではない
悪意を持って近づいてきた連中はスタッフがおいしくいただいていますので屋敷には被害がなくいつも綺麗な状態である
そんな彼?がうまそうという供物に俄然興味がわいてきた。ちょうどアインズさんもいないし・・・一人で食ってもばれないよな
「それは素晴らしい! 早速持ってきてくれないか」
「かしこまりました。で、どのように料理いたしましょうか?」
「料理? という事は生の食材か。・・・迷うな。焼くか、煮るか、蒸すか。いや、ここは素材の味を生かすためそのままの状態で持ってきてもらおう。ペス、手伝ってあげなさい」
「はっ!」
一礼し食べ物を取りに行く二人を見送りながらアイテムBoxよりナプキンを取り出し首に巻き、ナイフとフォークを両手に持ちわくわく気分で料理を待った・・・
~三十分後~
「遅い! そのまま持って来いと言ったのになんで時間がかかってるんだよ、そのまま持ってくりゃいいだろ。まずい本格的に腹がなってきたぞ」
待てども待てども一向に料理が来ない。最初は焦らすのが上手いなと感心していたが流石に待ちつかれた
「遅くなりまして申し訳ございません・・・・わん」
その言葉を聞いた瞬間サイファーの中にあったイライラは全て吹き飛び、台車に乗って運ばれてきた大皿に注目する
大皿には名前は分からないが半球体の銀の蓋が乗っていかにも高級そうな感じでさらに期待が高まる
しかしペスの顔色がすぐれない様子で少し悲しそうな顔をしていた
まさかその皿の中身はゲテモノ系の珍味なのか?・・・ってないない
「ん、どうした? 早く持ってこいよ」
ペストーニャの押す台車が途中でとまってしまい、どうしたものかと彼女の様子を窺うが、彼女は俯いており表情は読み取れない
声をかけようとしたがいつの間にか八肢刀の暗殺蟲が大皿を机の上にのせていた
「お待たせいたしました。どうぞご賞味あれ」
「ふふふ、ようやく来たか。では! いっただきまぁ~・・・・ファッ!?」
勢いよく蓋が取られ大皿の中には丸裸の赤ん坊がスヤスヤと寝息を立てていた
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明朝、まだ朝日が登りきらない頃、一人の年若い女性が屋敷の門の前に現れ、手に持っていた布に包まれた何かを優しく下ろし、屋敷に向かって長い間祈り始める
その様子を不可視の魔法で姿を隠していた八肢刀の暗殺蟲が観察していた。
彼らから見て、この女はこの屋敷に害をもたらす存在ではなく、至高の御方の威光に惹かれ供物を捧げに来た者だとわかる、彼女の祈りはいもしない神に向けてではなく、しっかりと至高の御方の住まう屋敷を見ながらしっかり祈っていた
至高の御方に対し当然の態度を示していたためサイファー様の屋敷に危害を加える者は生かしておけ、との命令通り見逃すこととした。そして女が立ち去ったあとに布の中身を確認し、さらに感心した、中には王都での活躍の褒美として熱望しても手に入れる事が叶わなかった逸品が入っていた
彼らは鮮度を保つため、サイファーが必要に応じて使う様にと屋敷に置いているシモベ用共同アイテム(レアモノ多数)を駆使し生命を維持する事にした
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「・・・・と言うのが事のあらましであります」
「お、おふぅ・・・マジカヨ、コンナコトアルンダナ」
八肢刀の暗殺蟲から事情を聴き頭痛がしてきた。今まで金貨から骨董品まで幅広く送られてきたが、捨て子などは想定外である、あとお前ら子供は食べ物ではないぞ、いや、こいつらにとっては食べ物か
今だに不安顔のメイド長に向き直り、なるべく優しく語り掛ける
「ねぇペスさん。王都でも言ったように俺は幼子を食べる趣味もいたぶる趣味も全くないから、こういう事は相談してください」
「も、申し訳ありません」
余りにも深々と頭を下げるものだから逆にサイファーの方が悪い事をしているみたいな感覚になり慌てて声を掛ける
「あ、いや、もういい。俺気にしてないから大丈夫だよ。取り敢えずこの子が着ていた物とか持ち物とかがあったら持ってきてくれる?何か手がかりがあるかもしれないから」
「承りました。それと、このことはアインズ様にご報告いたしますか?・・・わん」
「いや、余計な心配はさせたくないから、この事はしばらく黙っていように」
こんな問題が発覚したらアインズさんに問題があると言われこの屋敷を引き払われかねない、せっかくリアルでは手に入れる事は叶わない夢の別荘生活なのに奪われてたまるか
しばらくして赤子の持ち物が運び込まれ、案の定手紙が入っていた。内容はこの世界の書体で書かれていたためパッと見分からなかったが新たに作られた解読用メガネを掛け読んでみると、これまたドラマのような事が書かれていた
「この子をよろしくお願いします・・・か、此処に置いていくとは運が良いのか悪いのか、まぁ99%運が悪いんだけどな」
手紙によるとこの子の名は『オレノコ・ウーパー』というらしい。もうこの時点で嫌な予感しかしない・・・そう思いながら赤子を抱きかかえながらペストーニャに声をかける
「なぁペス。これって、この子が急に泣き始めて俺がオレノコ泣き止んでくれ~って言ってあたふたしているところを第三者が目撃し俺の子だと聞き違いしてドタバタ劇場が始まる展開だよなぁ」
必ず不幸が訪れる事を予感したサイファーに対しペストーニャは首を振って否定する
「お話としては大変おもしろいと思われますが、サイファー様にそのような事実が無い事はナザリックのシモベの皆が承知しておりますゆえ、そのような思い違いをする者は存在しません・・・わん」
ペストーニャの話を卑屈に聞くと『お前女っ気皆無だから無理だよ』という事になる、それならばアインズも同じはずだと思ったが脳裏にはサキュバスと吸血鬼とダークエルフに囲まれている友人の姿が何故か鮮明に浮かんできた
「・・・うん。そうだね、僕、相手がいないもんね」
チクショウ、それしか言えなかった
なんてミニコントをしていると赤ん坊が目を覚まし、あたりを見回し始めた
これあかんやつだパートⅡ
目を覚ます⇒親が居ない⇒周りは異形種だらけ⇒泣く⇒周りの忠義者不快に思う⇒死
見事なコンボだ半ば諦めモードに入ったサイファーだったが抱き抱えている赤子は予想に反してキャッキャッと笑い始めた
「おお~、異形種しかいないのに笑うなんて、度胸だけはアダマンタイト級かな? 流石はオレノコ。お母さんもそう思うよね」
赤子が笑った事にえらくご機嫌を良くしたサイファーは誤解されるのも気にせず冗談半分なセリフを言いながら赤子を高い高いしペストーニャはその様子を少し優しい目で見ていた
そんな呑気な時間は長くは続かず、急に扉が勢いよく開いた
「おお! びっくりした。って誰もいない?」
急に扉が開いたことに体をビクッと振るわせ扉の方に向き直るが誰の姿も見えない。周りの警護のシモベ達も原因も気配も感じないことに首を傾げている
静まり返った部屋の中に赤子の笑い声だけが響き何も起こらない
風か、そう思おうとした瞬間、サイファーの目の前に骸骨の魔王が急に姿を現した
「おわぁぁ! アインズさん急に現れないで下さいよ。完全不可視の魔法まで使って何考えているんですか」
そんなサイファーの意見など聞き耳持たぬという感じでアインズは詰め寄ってきた
「何時何処で子供なんて拵えたんですか!? サイファーさんは仲間だと思っていたのに俺に内緒で何時ペストーニャと愛を育んでいたんですか? いや悪いとは言いませんよサイファーさんも独身の男なわけですしでも友人として一言くらい声を掛けてくれたり相談して欲しかったっていうか・・・・」
「いや! ちょ、ちょっと待って! いきなり現れて何まくし立ててるんですか?」
「今更シラを切るんですか! しっかりこの耳で聞いたんですからね、その子に向かって『俺の子』って言ってるとことかペストーニャの事を『お母さん』呼ばわりしていたところも」
最悪だ、しっかりと誤解されている。ちょっとペストーニャ、ナザリックの皆は誤解しないって言ったじゃんか・・・あ、アインズさんはシモベの括りには入らないか、ははは、じゃ、しかたないね
「誤解ですよアインズさん!ちょっと冷静に話を聞いてくださいよ」
「ここは二階です。それに俺は冷静ですよ、アンデッドの特性で感情が一定値を超えると感情が抑制されますから俺は冷静ですよ」
「そんなギャグは挟まなくていいから、本気で話を聞いて~~!!」
アインズ曰く、ナザリックで書類の確認をしていたがデミウルゴスの計画に対し苛立ちが収まらず仕事に身が入らないとの事、そこでアインズは一人休暇を取っていたサイファーに対しドッキリを仕掛けこの苛立ちを抑え、その後に飲みに誘おうと思い行動を開始したらしい
そこでアインズはできる限りの情報遮断魔法と完全不可視の魔法を自分に掛け『転移門/ゲート』の魔法でエ・ランテルに向かい誰にも気付かれずに扉の前まで忍び込み中の様子を窺うとなんという事でしょう、その友人が赤子を高い高いしながら俺の子発言が飛び出し、その様子をペストーニャが優しそうに見ているではありませんか
これは黒だと判断したアインズは何度も精神の抑制が起こりながら部屋に突撃したと言う訳である
「なんだそうだったんですね。早く言ってくれれば良かったのに」
サイファーの必死の説明に納得し落ち着きを取り戻したアインズはベッド代わりの籠の中に寝かせている赤子を突きながら笑い始めた
「いや、予想していた筈なのにホントに誤解されるんだもの。一回お祓いでも受けたほうが良いのかな」
「はははは。ホントに泣きもしないなこの子、どういう神経をしているのだろうな」
相変わらず泣きもせずただただ愛想よく笑う赤子を不思議に思いながらもサイファーは別の事を話し出す
「で、この子どうしましょう? 下手にこの街の孤児院に入れたりしたら捨て子がまた来るかもしれないですよ」
「う~ん。難しい事ですね。サイファーさん何か良い考えはありませんか?」
その言葉にサイファーは頭を捻る
ナザリックは絶対ダメだ、人間嫌いとかの問題ではなく赤子を育てるノウハウも施設も食事もない。というか考えられていない
孤児院関係はアダマンタイト級冒険者の力を使えば簡単そうだが、その噂を聞いて捨て子がこの屋敷にまた来るかもしれない、そんな事になったら本気でこの屋敷を引き払われる恐れがある
あとは・・・
「あ、一か所だけ心当たりがあった・・・」
「え? 何処ですか」
「アインズさんも知っているところですよ。大丈夫あそこならしっかり育ててくれるはずですよ」
・
・
・
・
後日カルネ村に新しい住人が一人追加された、その子は子供のいない夫婦に引き取られ幸せに暮らしているようだ
不思議な事に月に一回位のペースでその夫婦の家の玄関先に金貨や食べ物が置かれている
その事は悪魔王のみが知っている
捨て子の母親らしき人物はその後の調べで自殺している事が分かったが特に興味は惹かれなかった
どうでもいいオマケ
オレノコ・ウーパー
性別 女
タレント 恐怖耐性EX
15年後自分を拾ってくれた冒険者に憧れ自身も冒険者の道に進み様々な功績を打ち立てる
残念ながら自分を拾ってくれた冒険者との対面は叶わなかった
晩年は稼いだお金で孤児院を建て親のいない子の救援に尽力し天寿を全うした
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三十一話目 こぼれ話
【好き、嫌い】
ナザリック地下大墳墓 第九階層に存在する食事用ホールでサイファーは向かいに座り食事をしているアインズに重々しく口を開く
「・・・アインズさん。はっきり言います、俺は人間種のことが嫌いです」
「サイファーさん・・・」
サイファーの言葉にアインズは困惑気味に彼の名を口にする、何か言おうとしたがそれよりも早く彼が言葉を続ける
「カルネ村を襲い、戦士長を殺そうとし、初めての冒険者仲間を殺され、シャルティアを洗脳したかもしれない奴ら、王都で好き勝手しセバスを嵌め様とした奴ら。俺はこの世界に来て改めてそう思いました。やはり人間種はユグドラシルの頃からロクなもんじゃなかった」
「サイファーさん。しかし。」
皿の上の料理を手に持ったフォークで分別しながらサイファーはさらに声を低くして続ける
「分かってますよ。人間の中にも良い人がいる事くらい。だからはっきりと言います、俺は人間という種は嫌いだが個としての人間は好きです。これだけは分かってくださいアインズさん」
皿の中の料理を二分割し終え、サイファーは再び食事を再開する、その姿にあきれながらアインズは口を開く
「ミックスベジタブルの人参も残さす食べなさいって話からなんでそんな話になるんですか?はっきり言いますけど、全く誤魔化せてませんからね」
その言葉にサイファーはビクッと身体を振るわせて今度は開き直った様に大声でアインズに宣言した
「俺はミックスベジタブルという種は好きだけど、人参という個は嫌いだ!」
「ほかの者に示しがつかないだろうが! いいから食べなさい!」
この世界に来て幾日も経過し遂に嫌いなものができてしまったサイファーであった
【良い香り】
ナザリック地下大墳墓最下層たる第十階層のアインズの自室の寝室に二つの人影があった。一人はこのナザリックの最高責任者でありこの部屋の主人であるアインズ、そしてその友である悪魔王サイファー
彼は友人に促されるままにベッドに顔を埋め匂いを嗅ぐように息をし始める
「くんかくんかくんかくんか・・・ふぅ」
ものすごい勢いで匂いを嗅いでいたサイファーは満足したように立ち上がった
「・・・ホントに甘くていい匂いがする。」
「ね、俺の言った通りでしょう」
サイファーとの何気ない日常会話からアインズは自室のベッドから良い匂いがすると言ったらサイファーはしないと言ってきたので彼のベッドを匂ってきたが何の匂いもしなかったため、今度は自分の番という訳である
「・・・なんでなんじゃ!? ギルド長は寝室までお高級品なの!? 俺のベッドは無臭なのに、なんでモモンガの旦那だけこんな良い匂いがするの!? 」
その結果がこれである
「話を聞いた時はまさかと思いましたけど。やっぱり俺のベッドだけだったんですね。」
納得がいかないサイファーはもう一度ベッドに近づき、もう一度匂いを軽く嗅ぎ始める
「こんなサービス誰にやってもらったんです?俺もやってほしい。しかしホントに良い匂いだよ、これ。でも、なんなんだろうこの匂い? 花いや果実・・・でもないし、ハーブ系・・・いや、そんな感じじゃぁないし」
何度嗅いでも該当する匂いはでてこず、頭を捻るサイファー。アインズもその隣に屈みこみ匂いを嗅ぎ始める
「やっぱりサイファーさんでも分からないですか。ホント何の匂いなんだろう?」
正体さえ分かれば自分の服にも少し付けても良い思うアインズであったが、どうやら無理そうである
「アインズさん、まだ時間ありますか?」
「ん? まだ大丈夫ですけど、どうかしましたか」
「いや、時間があるなら俺の部屋で香水系のアイテムを調べてみようかと思って」
「俺も少し気にはなってますし良いですよ」
「善は急げです、早速向かいましょう」
二人はサイファーの部屋に向かうべく寝室を後にし廊下への扉を開いたらバッタリとアルベドと鉢合わせしてしまいぶつかりそうになってしまった
「おっと、すまないアルベド」
「いえ、私の方こそ不注意でありました」
「アルベドよ。何か急ぎの用事か?」
「アインズ様もご一緒でしたか。いえ、火急の用と言う訳ではありませんが定期報告の書類をお持ちいたしました」
「そうか。しかし、私は今からサイファーさんの部屋で少し調べたい事がある。そうだな、その書類は部屋の机の上に置いておいてくれ」
「畏まりました。それでは、いってらっしゃいませアインズ様」
「うむ」
「あれ? 俺は」
アルベドとの話もそこそこにし、二人はサイファーの部屋に向かい歩き始める
「いや、だから俺は!?」
アルベドとの話もそこそこにし、二人はサイファーの部屋に向かい歩き始める
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「・・・アインズ様はサイファー様の部屋に向かわれた、と言う事はしばらくはお戻りにはならないはず。くふふふ」
アルベドは嬉しそうにアインズの部屋に入っていき何時もの日課を済ませ、何も知らない二人は香水系のアイデムを片っ端から調べが一向に成果が出なかった。
【もしもの世界】
運命の日の午前零時、ナザリック地下大墳墓から最後の一人がログアウトし玉座の間に静寂が訪れる。その静寂は永遠に続くかと思うくらい何の音もしなかった
しかし、数分もしないうちに女性のすすり泣く声が静寂を破った
「う、うううう。モモンガ様・・・なぜ・・・なぜ・なのです」
そう言いながら泣き声の主であるアルベドはモモンガがいた玉座に崩れ落ちるように縋りつく
その様子をモモンガの供として玉座の間まで来たセバスは何とも言えない表情でただ眺めていた
アルベドに何か声を掛けた方が良いとは思うが全くというほど身体も頭も働かなかった
頭にあるのはこの状況が嘘であってほしいと言う願望しかなかった
プレアデスの中からもアルベドに触発され涙を流す者も出てきている。セバスはその者たちを諫める事もせずただ棒立ちで見てることしか出来なかった
最早このナザリックには四十一人いた至高の御方は誰も存在せず空っぽである、そうあれと創られた自分たちは見捨てられてしまったのか、そんな思いが頭の中を巡り自分も崩れ落ちそうになった
もう終わりか。そんな感情がセバスの精神を蝕み始めた時、鈍い音を立てながら扉が開き始める
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「いや~遅れた遅れた。モモンガの旦那お久しぶりっす・・・て、あれ?」
散々寄り道をして玉座の間まで来たが、ちょっと来ない間にえらく雰囲気が変わっていた。まず、部屋のBGMが女性のすすり泣く声に変更されているし、プレアデスとセバスが配置されているし、アルベドが玉座の横に立っている設定のはずが玉座にへばりつく様に泣いているポーズに代わっていた
「ちょっと来ないうちにえらい雰囲気が変わったな。そんな事よりモモンガさんがいないな?何処行ったんだろ」
腕を組んで考えているとセバス・チャンがこちらに視線を向けわなわなと震えていた、ホントにこんな機能あったっけ
「サ、サイファー様であらせられますか?」
「うぉ!! びっくりした!! 急に話しかけんなよ」
うはぁぁぁ喋った~何の機能!? こんなのなかったよ~
「も、申し訳ございません!」
そう言ってセバスが物凄い勢いで跪き謝罪の言葉を繰り返し始める。正直言ってここまでやられたら逆にたっちさんに申訳がない
「いや、もういいよ、ホントいいから。ただ今までセバスが俺に話しかけた事が無かったから、ちょっとびっくりしただけだから」
「お心遣いいただきありがとうございます。しかしお隠れになった筈のサイファー様がなぜここに」
「お隠れって、何その偉い人みたいな扱い。いやモモンガさんに戻って来るように言われたから戻ってきたけど、何かまずかった?」
「とんでも御座いません! 我ら一同サイファー様のお帰りを大変嬉しく思っております」
セバスの言葉に一緒にいたプレアデスも歓喜の声を上げ始める。しかし、玉座の近くにいるアルベドだけは虚ろな瞳で玉座から離れようとしなかった
「ははは・・・取り敢えず状況の確認をしたいから全階層守護者達をここに集めてくれる、あ、第四、第八階層守護者は除外でお願い」
「畏まりました、しばしお待ちを」
そう言い残しセバスとプレアデスは部屋から退室していきアルベドと二人っきりになってしまった。
多少気まずいがなぜ泣いているかを聞かなくては話が進まないだろう、そう思い意を決したサイファーはアルベドの下に歩みを進める
「アルベド。なんで泣いてるの、良かったら訳を聞かせてもらえないかな? 俺でよければ力になるよ」
セリフを噛まないようにできる限りゆっくり話しかけアルベドの反応を待った・・・
「モモンガ様が・・・私に愛する事をお許しになられたのに・・・居なくなって・・・」
瞳に力は無かったがポツリポツリと訳を話し始めた、しかし聞けば聞くほどどうしようもなかった
しかしアルベドにそんな設定あったけな? モモンガさんが追加設定したとか・・・いや、あの人がそんな勝手な事する訳がないし、タブラさんの言うギャップ萌えが関係しているのかな?
「あ~、その~、し、失恋は辛いよね。俺も何度も経験したことがあるし辛いよね、その・・ドンマイ」
「う、うううう・・・ありがとうございます」
精一杯やったがこのざまである。気のきいたセリフの一つも出てこなかった
ほどほど困り果てていると扉が開く音が聞こえナザリックの主要NPCが全員集まってきた
「助かっ・・・いや、よく来てくれた。皆変わりはないか?」
・
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何故か自意識を持って動くNPC達からの報告を聞き大体の状況が呑み込めてきた・・・様な気がする
というか、超やばい、今謀反を起こされたら確実にヤられる。一人二人なら問題ないがダメージカウンター型の俺は個人戦にはめっぽう強いが一対多数戦はかなり不利である、というかアウラとその仲魔達だけで超やばい
取り敢えず忠誠心があるかどうかは確認が必要だな
「さっきも話した通り、俺はナザリックの為の資金集めのせいで長い事留守にしてただけで、みんなを蔑ろにしてたわけじゃないからね。それでみんなは俺の事どう思ってる、もしくは創造主からなんて聞いているの?」
その言葉に守護者達はサイファーの前で跪きながら各々口を開き始める
「では、最初は私から言わせてくんなまし。 サイファー様は誠実で皆から信頼厚い御方であり、ペロロンチーノ様はよく、くそドM野郎だから会うたびに唾でも吐きかけると超喜ぶってよく仰ってました。あ、今からでも吐きかけた方がよろしいでありんすか?」
「は? いやいやいや。結構です(クソペロロンチーノ!! 攻撃をカウンターするためにもっとぶってくれと敵に言ってたけど性癖はまともだよ)」
「次ハ私ダナ。サイファー様ハ類稀ナル力デアラユル攻撃ヲ跳ネ返ス事ガ出来ル強者デアリ、武人健御雷様曰クたっち・みー様ノ次ハオ前ヲ一撃デ仕留メテヤルト良ク言ッテオラレマシタ」
「ひ!?(冗談じゃねぇよ良くクエストに誘ってくれると思ったら俺をそんな目で見てたのかよ)」
「じゃあ次はあたしだね。サイファー様は誰にでも優しくできる御方です。あとぶくぶく茶釜様はイジると反応が超おもしろいって言ってました」
「あ、あの、サ、サイン会の時の顔が超受けたとも言ってました」
「ふぁ!!(あの時の事まだネタにする気かよ!!)」
「おっと、次は私ですね。サイファー様は一瞬の判断に優れ場の流れを読む事が出来る御方だと考えます。この流れで言いますと、私の創造者であらせられるウルベルト様は『悪魔王』が定着した時が一番笑ったと仰ってました」
「やっぱり知っててやってたのかよ!」
「「私共一同、サイファー様に忠誠を誓います」」
これは忠誠心があると言う事で良いのだろうかと今は居ない友を思い浮かべ大声で叫んでしまった
「ホントお前ら創造主にそっくりすぎんだろ!!」
【昔話風カルネ村】
ある日突然この村に赤ん坊が里子としてやってきました。その赤ん坊は子供のいない若い夫婦に引き取られ、それはそれは大切に育てられていました
しかし、最近困った事が起こったのです。それは赤ん坊のご飯となる母乳をだす近所に住む乳母から乳が出なくなってしまったのです
これには夫婦も困り果て、新しい村長に相談に行きました
しかし新しい村長もまだ若く、出産経験もないためどうする事も出来ませんでした
その時ばかりは夫婦は薬師のヘタレ男を大変恨みました
そこに一人の赤毛のメイドさんが現れました
そのメイドさんに事情を話すと軽い感じで返事をしたかと思うとどこかに行ってしまい待てども待てども帰ってきませんでした
新しい村長は此処に居ても仕方がないので一度家に帰ることを提案しました
それもそうだと夫婦は家に向かいます、その途中で薬師のヘタレに出会い母親は意気地なしと罵り、それを聞いてしまい慌てて父親は一生懸命気のせいだとか空耳だと誤魔化しました
父親は母親の手を引き慌てて家に戻りました。すると玄関先に小さい風呂敷が置いてあるのを見つけました
不思議に思った父親は村長に報告するべきだと主張しますが母親は抱いていた赤ん坊を父親に預けると風呂敷の包みを勝手に開け始めました
風呂敷を開けるとなんと中にはミルクが入った哺乳瓶が一つ入っていました
赤ん坊のご飯が入っていたのは良いのですがこの量では到底足りません
父親は落ちていたものだから危ないと主張しますが母親は赤ん坊を父親から取り上げ股間を蹴りあげました
痛みにうずくまる父親をしり目に母親は赤ん坊に哺乳瓶を吸わせました
そしたらどうでしょう
赤ん坊がどんなに吸っても中身は減らずどんどん湧き出してくるではありませんか
母親はたいそう喜びお腹一杯になりスヤスヤと眠り始めた娘と家に入っていき何とか回復した父親もよろよろと家に入っていきました
その様子を見ていた赤毛のメイドさんはその事を主人の友人に報告しましたところ、なんとお褒めの言葉を頂けましたとさ
めでたしめでたし
今回はネタとして考えたけど使いどころが思いつかなかった話です
でも次からは帝国に行きたいと思います
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三十二話目 謎の墳墓探索 ~人材確保編~
バハルス帝国国土のやや西部に位置する帝都アーウィンタールは中央に鮮血帝との異名を持つ皇帝が皇城を置き大学院、魔法学院、各種行政機関がが存在するまさに帝国の心臓部ともいえる都市である
更には鮮血帝の行った大改革により大発展を遂げている最中であり、物資、人材、治安、どれを取っても最高の帝都である
そんな帝都の一角で田舎者のごとくキョロキョロと視線を動かし物珍しそうに周囲を見渡す者がいた
「はへ~。かなりの都会だとは聞いていたけど、あの古臭い王都とは比べ物にならんな。俺らが帝国に鞍替えしないか心配してる組合長の気持ちが分かる気がするわ」
アインズのやや後方を歩くサイファーはおのぼりさん状態で周りを見渡している、そんな友人の姿を見て今までデミウルゴスの計画を否定しきれずついピリピリしていた自分が少し恥ずかしくなってくる
「なんて言うか・・・本当にマイペースな悪魔だな、俺がこんなにも真剣にナザリックの事で悩んでるのに。一人で悩んでるのがバカみたいじゃないか」
アインズは肺の無い身体だが大きく深呼吸し感情を落ち着かせ始めた、心に残っている不快感をわずかに残る程度まで落ち着かせサイファーに習う様に街の風景に視線を向ける
「確かに、街には活気があり、歩く人々の瞳は明るいし、皆、希望に満ちていますね・・・って」
振り返れば後ろを歩いていたはずの友人の姿は影も形も無くなっていた
「え? いない。」
急いで周囲を見渡してみたが見知らぬ人ばかりでサイファーの姿は確認が取れず、逆に周りの人間から注目されてしまった
「嘘だろ、良い大人の癖に迷子になるなんて・・・まぁ良いか、『伝言/メッセージ』を使えばすぐに見つかるだろう」
そう軽く考えたアインズはサイファーは一時放置し先に紹介された宿に向かう事にし歩き始めた
・
・
・
帝都の道路はほぼ全ての道路がレンガや石に覆われており、周辺国家に比べ格段に交通の便が良く、また道路と歩道が区切られており歩行者の安全まで考えられ、おまけに多くの騎士が警邏し周囲の安全に目を配っているなど多数に渡るほど治安強化がなされている
「あれ? ちょっと大通りから外れたら道が分かんなくなっちゃた」
しかし、中央道から外れた脇道はどこの国でも迷いやすいものなのである
「まいったな。完全に迷子になってしまった・・・まぁ、いいか。いざとなったら捜索系アイテムもあるし、アインズさんに直接『伝言/メッセージ』を使うって手段もあるし」
そう軽く考えたサイファーは中央道に戻るべく来た道を引き返し始めた・・・が数mも歩かないうちに近くの路地から男のものと思われる口汚い罵声が聞こえてくる
「はぁ、いくら治安の良い帝都といっても人通りの少ない路地裏はどこもこんなものか」
さして興味も持てなかったので無視しようと考え、そそくさとその道を通り過ぎようとしたが
「おい、おっさん。ここは今取り込んでんだよその道を行きな」
案の定見張りをしていた不良少年に絡まれてしまった
「この俺が・・・おっさん・・だと・・はは」
思っていたより若い十代中ぐらいの不良少年におっさん呼ばわれしたサイファーは不快な態度に対する怒りを感じるよりも先に衝撃を受けた
「そうだよおっさん。痛い目にあいたくないならこの事は忘れて向こうに行きな」
別の少年からもおっさん呼ばわりである。
さすがにここまで絡まれては大人として見過ごすわけにはいかないと感じたサイファーはこの不良少年達に正義の鉄槌を下すことにした・・・もちろんおっさん呼ばわりされムカついたからではない、サイファーの中に眠る正義の心が不良少年達を更生させるべきだと燃えだしたためである。本当なんです、信じてください
「誰がおっさんだ!! このクソガキがぁぁぁぁぁ!!」
とりあえず左右の手で別々の不良少年の胸ぐらを掴み目についた近くの塀に叩きつけた
「ぐぎゃぁ!!」
「げえぇ!!」
愉快な声を出しながら二人は揃って気絶し、サイファーはついでに残りも片付けようと路地に入って行く。そしたら四人くらいの不良少年が眼帯をした少年とおとなしそうな少女に詰め寄っている最中だったらしく、驚いた様子でこちらに視線を向けていた
「な、何モンだてめぇ!!」
予想外の事に焦ったのかセリフを少し噛んだ不良少年、しかしサイファーはそんな事もお構いなしに不良少年に名乗りながら突っ込んでいく
「通りすがりのアダマンタイト級冒険者のお兄さんだ! 覚えておけ!!」
ボカ!
バキ!
ドカ!
グキ!
チーン!
「す、すみませんでした~~!!」
ありきたりなセリフを吐きながら不良少年達は一目散に逃げだしていき、思う存分怒りを発散・・・もとい正義の鉄槌を下したサイファーは幾分か気分がすっきりしたため絡まれていた二人の安否を確認する
「君たち、もう大丈夫だよ。怪我はないかい」
すっきりしたためか何時も以上に爽やかな笑顔を向けると眼帯をした少年が落ち着きを取り戻し口を開いた
「危ないとこを助けてもらいありがとうございます。えっと俺はジエット、こっちはネメルと言います」
「あ、ありがとうございます。」
二人はそう言って何度も頭を下げて感謝の言葉を述べており、その態度はサイファーの興味を引くには十分すぎるものだった
「そういえばさっきアダマンタイト級冒険者って言ってましたけど、あれマジなんですか?」
疑い半分、興味半分といった感じに質問してきたので証拠を見せてあげる事にした
「もちろん。ほれ、これが証拠だよ」
そう言って首に掛けているプレートを外しジエット君に持たせてあげた
「うおぉぉぉ!! マジだ、本物のアダマンタイトのプレートだ。しかも『漆黒』のサイファー・・・さま?」
「は、早く返したほうがいいよジエット、もしもの事があったら大変だよ」
「お、おう。 あ、ありがとうございました」
ガチガチに緊張した態度でプレートを返され、再び首に掛け直したサイファーは内心とても気分がよく、ますます二人のに好感が持ててきた
「なに、気にすることはない。ところで相談なんだが・・・中央道ってどう行ったら戻れるか教えて貰えないだろうか」
サイファーの少し情けないセリフは二人の笑いのツボに入ったらしくしばらく声を出して笑われてしまい、当の本人も二人の笑いに触発されて笑い出してしまった
「ははは、サイファー様って・・・」
「様はよしてくれよジエット君、俺の事は好きに呼んでくれ。あ、もちろん敬語も無しで構わないから君の好きに話してくれ」
「わかり・・・いや、わかったよサイファーさん、中央道はこっちの道が近道だから付いて来てくれ」
「ジエット、ちょっといい?」
「ん。どうしたネメル?」
「私、家の用事があるからもう戻らないといけないんだけど」
「ああ、そうか。じゃあ仕方がないな、サイファーさんは俺が責任もって連れて行くから安心しな」
「うんお願いね。サイファー様、今日は助けていただいて本当にありがとうございました。この御恩は一生忘れません」
そう言いきるとネメルは深々と頭を下げて感謝の意を示した
「気にするな、また何か困った事が起こったら何時でも相談しに来いよ出来るだけ手を貸してやるよ」
「本当にありがとうございます。それでは失礼します。 ジエット、サイファー様に迷惑かけちゃダメよ」
「分かってるよ。ネメルも気を付けて帰れよ」
二人の何ともいえない距離感にサイファーは何故か優しい気持ちになり、これからも気に掛けて上げようと心に誓うのであった
----------------------------------
「・・・てな事がありましてね。なかなか良い奴なんでアインズさんも良かったら気にしてやってくださいよ」
無事にアインズと合流出来たサイファーは帝国最高級の宿のラウンジバーで今まであった事を多少面白おかしく脚色しアインズに話して聞かせていた
「なるほど、しかしサイファーさん、いくら貴方が気に入ったかと言ってもそうやすやすと彼をナザリックの庇護下には置けませんよ、庇護下に置くのなら何かしらナザリックに利益を与える存在でなくてはなりません」
彼には何かあるんですか。と、口では言っていないがアインズの態度はまさにそれであった
「もちろんありますよ、彼の『タレント』はなかなか強力なものですよ」
「へぇ、そんなに強力なモノなんですか」
「ええ、彼は眼帯の下の目は如何なる幻術も看破し真実を見ることが出来るんですよ。アインズさんも彼の前で下手に兜を取ると正体がばれちゃうかも知れませんね」
先ほどまでの和やかな雰囲気が一変するほどにアインズは低い声で目の前の友人に問いかける
「・・・それは第何位階まで幻術を無効化するんですか」
アインズの雰囲気に吞まれることなくサイファーは来る途中に試した実験結果を口にする
「彼からその話が出た時、試しに手持ちの中で一番強力な幻術系のアイテムを使用しましたが彼は何の苦も無く看破しました。恐らく第十位階でも楽勝だと思いますよ」
その時サイファーが使用したアイテムは第九位階の魔法に相当する戦線撤退用の幻術魔法を込めた物である、しかし彼はアイテムを使い姿を眩ませたはずのサイファーから視線を外すことなく目で追っていた
「厄介なタレントだな。サイファーさん彼は・・・」
「安心してくださいアインズさん。別に殺さなくても彼を懐柔する手段はいくらでもありますから」
「・・・その懐柔方法は確実なんですか?」
「もちろんですよ。彼はさっき話した通りいろいろな苦労をしょい込んでいるんですよ。病気の母親、嫌味な貴族のボンボンに迫られている同級生の女の子、行方知れずのお嬢様、あ、そうそう、将来の事とかでも悩んでるらしいですよ、結構恩義を感じる性格みたいですのでそれらの悩みを解決してあげれば此方に協力してくれると思いますよ」
「・・・わかりました。この件に関してはサイファーさんに一任します。聞いてみればなかなかのレアタレントみたいだし、利用できればいろいろ役立ちそうだな。ですがくれぐれもナザリックに対し不利益が降りかからないようにしてください」
「お任せてください。必ずや彼をこちら側に引き入れ、そのタレントをナザリックの為に生かして御覧にいれましょう」
将来有望な若者の入社がほぼ内定した瞬間である
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三十三話目 謎の遺跡探索 ~人材選別編~
今だ太陽が昇らぬ時間だがサイファーはある伯爵家の敷地に用意された馬車に遠出に必要な荷物を積み込んでいた
「ふ~。水はこれでOKと・・・モモンさんこっちにまだスペースが空いてるから携帯食料はここに置いたら?」
「了解しました。・・・ふ~、やはり黙って見てるだけより身体を動かしたほうが気分が楽ですね」
「全くですね、ほかの人が働いているのに自分だけ座っていると、なんかそわそわすんだよね」
「分かりますその気持ち、働いている人がいるとなんか自分も働かなきゃって心が騒ぐんですよね」
リアルで馬車馬のごとく働いてきた二人は異世界にきて支配者階級になったとしてもその心には休まず働かなくてはならないという一種の本能が植え付けられており、同じ仕事で人が働いていると休むことを無意識に拒絶してしまうのだ
「ひい、ふう、みい・・ワーカーとかいう奴らも結構集まって来たみたいですねモモンさん・・・ってまた不機嫌オーラ出てますよ」
ワーカーという単語がでた瞬間からアインズは黙りブスッとした空気を出し始めワザとらしくワーカーの集団から視線をそらしていた
「俺だって人の子です。大事なナザリックに土足で踏み込む奴らに笑顔で対応なんかできませんよ・・・」
「さいですか・・・そうだ!、ナザリックに侵入される前に全員風呂に入れて綺麗になってから侵入させますか、それなら汚くないですよ」
「ぶっふふふ。なにドヤ顔で言ってるんですか。思わず笑っちゃったじゃないですか」
ユグドラシル時代からサイファーの発想は少しずれているがアインズ自身はその発想自体は不快ではない、寧ろちょっと面白いから好きな分類である
「大体、何処でアイツらを風呂に入るんですか。墳墓の近くに風呂場なんて設置しても怪しすぎて誰も入りませんよ」
墳墓に近くにある風呂屋・・・いくら楽観的に考えても怪しさ満点であり、設備費の無駄遣いにしかならないだろう
「あ~あ。良いアイデアだと思ったのになぁ~」
どうやら本気で良い考えだと思っていたようで肩を落としガッカリしているようだった
「まぁ、サイファーさんの気持ちだけは受け取っておきますよ。・・・しかし、墳墓の入り口で水系トラップを臨時で仕掛けて丸洗い・・・アリかもしれんな」
「ん? 何か言いましたか」
「いや、何でもありません、気にしないでください」
雑談もそこそこにし荷物を積み込みを再開し始めると、また新たなワーカーと思われる者が現れたが、そのチームのメンバーを見た瞬間、今度はサイファーの機嫌がみるみる悪くなっていく
「 !! ・・・ちっ。クズが」
低い声で吐き捨てるように悪態をつくサイファーをみて何事かと思いアインズも新しく来たワーカーに視線を移すと剣士の男と3人のエルフの女の姿があった
、
「他種族との混合チームか、この世界では珍し・・・なるほどサイファーさんが不機嫌になる理由が分かりました」
よくよく見ればエルフの女性は最低限の装備は身に着けているが生地も仕立てもみすぼらしく、エルフの特徴である長い耳も中ほどから切られたかのように短く、世界の情勢についての書類に書いていた奴隷の特徴がみられる
「・・・アイツは特に念入りに処理してやる。異形種狩りのクソ野郎が」
「サイファーさん、気持ちは分かりますが、まずは落ち着いてください」
恐ろしいほど不機嫌な顔で殺気を放っていたがアインズの手が肩に置かれサイファーは冷静さを取り戻していった
「・・・すみません。アインズさんに偉そうに言っていたのに、俺、全然自分の感情を制御できていませんでした・・・本当にすみません」
深々と頭を下げ謝罪するサイファーに対しアインズは優しく諭すように声を掛ける
「俺は気にしていませんよ、だから頭を上げてくださいサイファーさん」
「ありがとうモモンガさん、そう言ってくれると少し気分が晴れます」
手近な荷物の上にへたり込む様に腰を下ろしたサイファーは何か言いにくそうにもじもじし始めた
「・・・なにもじもじしているんですか? トイレなら早めに行ってきてくださいよ」
自分とは違い生身の肉体を持つため生理現象だろうと思ったが違うらしくサイファーが勢いよく立ち上がる
「ちゃうわい! ・・・ただ、言いにくいことなんですけど・・・厄介だと思われるかもしれませんが、ちょっといいかな?」
「・・・厄介ごとですか、まぁ、大体想像できますよ。どうせエルフの事ですよね」
「わーい、流石ギルド長、俺みたいな下っ端の気持ちまで分かってくれるなんて嬉しいです」
「この話の流れで空気が読めないほど鈍くはありませんよ。・・・ただ。やるならアダマンタイト級冒険者の名前に傷をつけず、尚且つ、ナザリックの不利益にもならないように『一人』で解決してください」
「手ぇ貸してくんないのかよ!?」
「当り前です。俺としてはあんな面倒くさい奴とは関わり合いになりたくないと言うのが本音ですし、ぶっちゃけ、助けようが助けまいがナザリックに利益がなさそうなので興味がないです」
「まぁ、それはそうですけど・・・」
「あ、出費があってもサイファーさんの個人資金から出してくださいね、経費では絶対に落としませんから」
「せちがれぇ~!」
そんな冗談半分な会話で盛り上がっているとアインズが関わり合いたくないと言っていた剣士の声が響いてきた
「金級冒険者ごときで大丈夫なのですか? 帰ってきたら拠点が潰されていたとか、野営の最中モンスターが横をすり抜けてきたとかあっては困るのですが?」
如何にもな高慢ちきな強者ぶった嫌味にサイファーとアインズは顔を見合わせる
「・・・やっぱ、手を貸してくれません」
「いや、多分話し合いよりナザリックでアイツを処分してから助けたほうが早いですよ」
余談だが金級冒険者の皆様はとっても気が利きますし良い人たちです
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「ご紹介いたしましょう。アダマンタイト級まで上り詰めた冒険者『漆黒』のモモンさん、あとチームメイトのサイファーさんもいらっしゃいます。このお二人が同行されて、皆様の野営地を守っていただけます。これでご納得いただけようですね」
ワーカーの一人である『天武』エルヤーの空気の読めない問題発言で険悪すぎるムードに包まれるいたがモモンの名前が出た途端にまたも場の空気は大きく変化する
最強たる者の登場でワーカーの誰もが静まり返り、金級冒険者たちは機嫌が直り、仕事の手を再び動かし始める
「後は私達でやっておきますので、モモンさんは私達のリーダーとしてワーカーの皆さんと交流を深めながら今後の警備方針などの打ち合わせをお願いします」
「了解した、それでは後の事はお任せいたします、しかし警備方針は君達を主に置くべきだろう。というのも、君達の方が人数が多いのだ。メインで動いてもらった方が何かとやりやすい」
「いや、アダマンタイトのモモンさんを差し置いて何て恐れ多い・・・」
「いや、警備は君達メインで頼む。私達をうまく使ってくれ」
荷台の上より飛び降りたアインズに続きサイファーも荷台から飛び降りたが、ふと思ったことがあった
「みんなしてモモン、モモンって、注目しちゃって、俺もいる事忘れてるんじゃないか?」
どう思います、とアインズに声を掛けようと視線を戻すと既にアインズはワーカーの集団に声を掛けている最中だった・・・
「あの人ホント演技中に俺の事置き去りにする事多くね?」
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「交流する前に君達に聞きたいことがある・・・なぜ遺跡に向かう?しがらみの多い冒険者と違い、君達は断ろうと思えば断れたはずだ、何が君達を駆り立てるんだ?」
大声ではないが雄々しいその声にワーカー達は目を交わす。誰が誰が言うべきかと迷い、最初に口を開いたのは齢八十にもなるパルパトラ率いるチームの一人だった
「そら、金ですよ」
「うん、知ってた。他には?」
いつの間にかアインズの背後に待機していたサイファーは99%予想通りの答えについ言葉が出てしまい、一応他の答えが無いか聞いてみたが・・・
「無い。我々は納得がいくだけの金額を提示してもらっている。さらには遺跡で発見された物次第で追加の報酬すらも期待できるのだ。命を賭けるには十分だと思うが?」
『ヘビーマッシャー』のリーダーであるグリンガムの答えと周りからの同意の言葉がチラホラ上がり始めた
「なるほど・・・それがお前たちワーカーの決断か。よく分かった。本当にくだらない事を聞いた。許してくれ」
他の答えを僅かでも期待していたと思われるアインズはこの時点でワーカー達への興味が無くなったらしく、わざわざ『くだらない事を聞いた』などと遠回しな言葉を使っていた
「謝罪されるほどの話では・・・気にされないで欲しい」
ワーカー達はアインズの言い回しを理解できていないようでただ普通に謝罪されたとしか感じていないようだ
「サイファーさんも彼らに何か質問はありませんか?」
「そうですね・・・一つだけあります。そこのお嬢さん。貴女、エルフですよね?」
「! 正確にはハーフエルフだけどね。何か問題でもあるのかしら」
突然指名されたことで皆の視線がサイファーが指を差した女性に集まり、彼女のチームメイトと思われる者たちからは僅かだか緊張と敵意が一瞬だけサイファーに向かったがすぐにその気配を消し不機嫌そうに答えてきた
「チームの皆から優しくされてる? 大切にしてもらっている?」
「はぁ!? あ、いや、まぁ、良くはしてもらってるわよ・・・」
あまりにも意外な問いかけに周りの全員がアインズの問い掛けとのギャップに面食らっていたが、いち早く回復したハーフエルフの女性が訳が分からない顔で一応答えてくれた
横にいた短髪の男が当り前だと抗議し、神官風の男が当然ですと肯定し、魔法詠唱の少女が彼女を庇う様に前に出た
「うん、うん。君達、たしか『フォーサイト』だったよね・・・+1ポイント追加」
「はぁ、なんだよそれ」
サイファーの言葉を今一理解できていない感じでうなだれている『フォーサイド』の横から元気のいい御老人が笑いながらモモンに声をかけ始めた
「ひゃひゃひゃ。そちらの質問は終わりのようしゃか、こっちも質問して良いかのぉ?」
「どうぞご老人」
「主の噂を確かめたいんしゃ。主が桁外れに強いという噂真実を見せてはくれんかね?」
「なるほど百聞は一見にしかず、か。それはかまわないが、どの様な手段で強さを表明する?」
「そりゃ、誰かに相手になってもらうのかベストしゃろ」
いったい誰がモモンの相手をするのかと誰かが言う前に老人が声をだした
「もちろん、言い出しっへの儂しゃよ、儂」
「何? 御老人が、か? ・・・大変申し訳ないが、私は手加減の不得意な男だ。怪我をさせるつもりは無いが、程よい相手が出来る自信はないのだが・・・」
珍しくアインズが困っているようなので助け舟になるか分からないが一応治療出来る事をアピールしてみた
「心配ないよモモンさん。死ななければ俺が治せるんだし」
「ひゃひゃひゃ、流石はアダマンタイトしゃ。儂か主を怪我させるなとこれっほっちも考えてはおらん」
何かしんないけど御老人には大うけのようだがギャグで言ったつもりは毛頭もないが老人の戦意を駆り立てるには十分だったらしく、どうやら勝負は避けられないようだ
そうこうする間に御老人が執事から許可をもらったらしく皆を連れたって庭へと歩いていく、ワーカーはもちろん、執事のおっちゃんまでついて行ってしまい、サイファーのみ、その場に残っていたが、一人になるのが何となく嫌だったので少し出遅れたが急いで庭まで向かっていった
次回、謎の遺跡探索~人材処分編~
イセキニムカッタミンナハドウナルンダ~
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三十四話目 謎の遺跡探索 ~人材破棄編~
「あー。ホントに遺跡があるんだからびっくりだよな。しかも草原のど真ん中にあるなんてな」
『フォーサイト』リーダーヘッケランの問いかけに共に遺跡を眺める仲間たちからも同意の声が上がる
この遺跡は正確には墳墓ということだが、大地にめり込む様な盆地に存在しており、周辺には大地の盛り上がりが広い範囲に複数点あり盆地にある遺跡を完全に隠してしまっていた
そんな遺跡が発見できたのは遺跡の周囲を包む様にあった土砂が何らかの理由で崩れたことで、壁の一部が露出したため発見されたのだろう、というのが各チームの頭脳担当の総論である
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「それでどう思う? 墳墓を見た限り、何者かが支配している可能性が高いんだが」
「墓地の草木が刈り取られて綺麗だものね、かなり几帳面に手入れしている者がいるわ、でもどんな奴が?」
「十中八九、アンデッドでしょう。そうなると不味いですね。御存じだと思いますがアンデッドを放置すればより強いアンデッドが発生する可能性があります。遺跡に強いアンデッドがいるのはそういった理由からです」
「廃棄された墳墓でかつての主人に命令されて掃除するゴーレムだけなら面倒が一気に減って楽なんだがな。で、アルシェ、今後の作戦はどうするって?」
「とりあえず、夜になったら全チームで行動を開始する。四方から侵入し、中央の巨大な霊廟に集合」
「なるほど、明るいと侵入がばれやすいからね」
「そう」
「ですが『透明化/インヴィジビリティ』を使用したほうが安全に偵察できるのではないですか?」
「それも確かに考えた。でも、面倒になる可能性があるなら全てを一度にやったほうが良い。最低でも多少は調べられる」
「ま、その辺がギリギリのラインだろうな。なら、しばらくは休憩時間みたいなもんか」
「そう、『漆黒』と『スクリーミング・ウィップ』が警護に当たってくれるが、念のためと緊張感を保つため、各チームが二時間交代で様子を窺う事になっている、順番は伯爵の家に着いた順番」
「なるほど、つまり俺達は最後って訳だ」
「そう、私達の出番はまだまだ」
「お疲れですね」
アルシェが首を回したり肩を上げ下げをしている様子にロバーディックが声を掛けるとコクンと頷いて肯定する
「ここまで時間が掛かったのも、あの最低男の我がままのため、皆で説得するのに非常に苦労した」
「最低の糞野郎で十分よ、ここまでの道程でもアダマンタイトのサイファーと何かもめてたし、協調という言葉を知らないのよ」
殺意を籠めて罵倒するイミーナに苦笑いを浮かべたが、そのサイファーについて思い出したことがあった
「そう言えば、そのサイファーさんが宿泊地に魔法具を使って簡易シャワーを設置してくれたみたいだぞ、休憩中に使わせてもらったらどうだ?」
「言われてみれば何か用意をしていましたが、あの方は何かと変わったお方ですね」
「変わり者すぎるわよ、初対面でいきなり『大事にされてるか?』なんて聞いてくるし、『ゴブリンの母親が宝石を出して子を助けてくれって頼んで来たら助けるか』とかモモンと比べて何処かおかしいんじゃないの?」
先ほどとは違い呆れた顔で同行者のアダマンタイト冒険者の話題を口にするイミーナ、それについてアルシェも口を挟む
「確かに、他のチームがゴブリンを殺し宝石を奪う方が確実と答えたのに対し、ロバーディックが助けると豪語したらいきなり+1ポイント追加とか訳が分からなかった」
「助けを求める者を助けるのは当たり前の事です。彼の言った質問は何かの比喩表現だったのではないでしょうか? 彼らは南方の出身だと聞いたことがありますし、向こうでは有名な話なんじゃありません」
「この遺跡と一緒である意味謎の多い人だよなぁ。・・・で、二人ともシャワーは使わせてもらうのか?」
「それは使うけど、言っとくけど、覗いたら」
「覚悟したほうが良い」
ワザとらしくニヤついて聞いてくるヘッケランに対し、恐ろしい形相でイミーナが睨みアルシェが杖をヘッケランに向ける、その様子をロバーディックが微笑みながら見守っていた
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夜も更け、辺りが暗闇に包まれる時間帯になり、巧妙に偽装されたテントの中からワーカー達は外に出はじめ、冒険者の用意した食事を各々で食べ始め、一通り食事が済み次第、遺跡に侵入を開始した
その姿が見えなくなったから冒険者の一人が口を開く
「やれやれ、行ったな」
「行きましたね。たとえワーカーとはいえ、同じ釜の飯を食べ、今回の依頼における仲間です。無事に帰ってくると良いのですが。モモンさんはどう思われますか?」
「・・・全員死ぬだろう」
モモンのあまりにも冷たい言葉に冒険者チームのリーダーが呆気にとられた顔をすると、すかさずサイファーがモモンの発言についてフォローをいれる
「常に最悪の事態を想定し気を抜かないように警戒するべきだ・・・という意味だからね。今回の遺跡は未発見のものだしどんな危険が待ち受けているか不明だしね。彼はちょっと口下手な所もあるけど別に悪気があって言ってるわけじゃないのはこれまでの旅で何となくだけど分かるよね?」
サイファーの言葉に思い当たる節がある冒険者達はそうなのかと納得していく
「なるほど。少し気が緩みすぎていたようです、ご心配ありがとうございます」
リーダーの男は何度も頷き、死線を何度も潜り抜けたであろうアダマンタイトの言葉を深く胸に刻んだ
「それでは予定通り、私達は先に休ませてもらう」
「分かりました、後の事はお任せください」
軽く挨拶を交わし少し離れている天幕へと向い、サイファーと共に中に入ると入り口を閉め、念の為に外の様子を窺うがこちらに注意を払っている者はみられなかった
「・・・ふぅ、ちょっと感情的になり過ぎてしまったかな。さて、ここまでは計画通りだ、サイファーさんも準備してください」
「了解です。じゃ予定通り俺は第一階層で獲物を待ち構えて、処分が済み次第合流させてもらいます」
「ほどほどで切り上げて下さいよ。あと何かあったら即座に連絡をすること、良いですね」
そう言ってアインズは『上位転移/グレーター・テレポーテイション』の魔法を発動しサイファーを目的地まで転移させた
一人残ったアインズは鎧と剣を作り上げている魔法を解除させ、全身を包んでいた拘束感から解き放たれ、別に疲労などはないが「ふぅ」とため息を漏らし、肩を回しながら疲労を取ろうとしてしまう
「・・・やれやれだな」
今だ強く残る人としての感情の残滓だが時折邪魔にも思えてくる
『これ』さえ無ければ全てにおいて冷静に対処でき、先ほどのような失言は出なかったであろう
しかし『これ』が強く残っているからこそナザリックに愛着を持ち、共に転移してきた友と笑い合う事ができる
そう思うと『これ』はこれからも手放すことは出来ない大切なものだと強く感じる
アインズは苦笑すると同時に先ほどと同じ『上位転移/グレーター・テレポーテイション』を発動させ玉座の間の前まで転移する
・
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・
「お帰りなさいませ、アインズ様」
「ただいま、アルベド」
身体を駆け抜けるむず痒さに耐えながら目の前でお目目を輝かせ凄く良い笑顔のアルベドに対し支配者としての態度をもって接する
「計画の通り、これより侵入者が来るはずだ。いや、それとももう来ているのかもしれないが、歓迎の準備はどうなっている?」
「はい、アインズ様に褒めていただくために考えに考え抜いたこの防衛網。万全で、完璧でございます。お客様方が楽しんでくださるのは確実かと」
「そ、そうか、楽しみにしているぞ」
アルベドの熱気に押されながらも玉座の間に足を踏み入み、遅れてアルベドも追従する
玉座に腰をかけたアインズの目の前にまるでテレビのモニターのようなモノが無数浮かび上がっておりそれぞれにナザリックの別々の場所が映し出されていた
「あら? これは・・・」
「どうしたのだ、アルベド?」
モニターの一つに移ったワーカーを見たアルベドが何かに気付いたのか言葉が漏れ、アインズは確認のためアルベドに声を掛けた
「いえ、報告よりも一部の侵入者達が小奇麗になっておりましたので・・・」
「ふははは。何だ、そんな事か。あれはサイファーさんがやった事だ、汚いまま入れるのは良くないとな。ふふふ」
先ほどまで少し不機嫌だったがサイファーの行動で多少心に余裕が戻ったアインズは先ほどより落ち着いた心持でモニターを眺め始めた
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地下一階の十字路で各チームと別れた『天武』のエルヤー・ウズルスは何事も起こらない墳墓の内部を非常に退屈な思いで歩いていた
強者がいるに違いないと真正面の道を進んできたがこれまでモンスターどころか罠一つ無い平坦な道であった
自らの判断が間違っていたことの思いからイラつき舌打ちを一つ打ち、イラつきを落ち着かせるためにもの思いに耽っていると前を歩かせているエルフが立ち止まっていた事に気付くのが遅れてしまった
「何故、止まるのですか? 歩きなさい」
「ひぃ、こ、この部屋に誰かがいます」
「誰か、ですか」
怯えるエルフを押しのけ、部屋に踏み入り中にいる者を確認する。かなり大きいその部屋の中心付近に旅の道中、自分の奴隷エルフの扱いについて意見してきたムカつく男がいた
「待ちくたびれてしまったぞ、エルヤー君」
「待ちくたびれた? 貴方は野営地で警護をしてるはずですよね?こんな所で何をしているんですか」
「あ~はっはははは!」
エルヤーの当然の疑問の声に対し目の前の男、アダマンタイト冒険者の一人サイファーは声を上げて笑い始めた
「何が可笑しいのですか!?、貴方がいるという事はもう一人、モモンもここにいるのですか?」
目の前の男を無視し、部屋を見渡してみたがそれらしい人物は居らず、隠れる場所も見つからなかった
「モモンは『この部屋』にはいないよ。もっとも、お前はここで俺に殺されるんだから関係の無い話だがね」
話が終わるとサイファーは身に着けていた仮面とマントを脱ぎ棄て、隠蔽系の装備をアイテムBoxにしまい込むと『冒険者』のという仮の姿から正体である『悪魔王』へと変貌した
「殺してやる、殺してやるぞ! 異形種狩りの糞野郎が!!」
目の前の男のあまりにもの変貌にエルフたちは短い悲鳴を上げ震え始める、だがエルヤーは恐怖を感じるどころか自分の所有物に対し文句を言ってきたムカつく野郎を殺す良い言い訳が出来た事と雲の上の存在であるモモンを引き摺り下ろせるかも知れないと内心ほくそ笑む
「たかが悪魔の分際で私を殺すだと・・・ふざけるなよ! おい、奴隷ども、何をぼうっとしている!強化魔法をかけろ!」
エルヤーの怒号にエルフたちは慌てて幾つもの強化魔法を唱える、それにより膨大な力がエルヤーに漲ってくる
「まだだ!武技!<能力向上> <能力超向上>!!」
さらに自慢の武技でさらに自らを強化し、限界以上の力を得た肉体能力で一瞬でサイファーの懐に飛び込み一気に剣を振り下ろす
(一気にその首をいただく)
狙う個所を定めたエルヤーの刀が悪魔の首を一閃すると生首が空中に舞い上がり、残った胴体からは血が噴水のように吹き出し辺りを血に染めていく
「・・・言い忘れていたが、俺のスキル構成はカウンター特化だ、下手に突っ込んでくるなよ。おや、聞こえていないようだね、しょうがないなぁエルヤー君は。『蘇生の杖/リザレクション・ワンド』よ、コイツを生き返らせろ」
悪魔が杖を振るうと血まみれの首なし死体が光に包まれ、数秒もしないうちに光は消え、生き返ったであろう男が苦しそうにうめき声を出していた
悪魔はその光景を眺め微笑むのであった
『特別解説カウンター特化のサイファーさん攻略法』
その壱
大ダメージを狙うと逆にこちらがピンチ、チマチマHPを削っていこう、そうすればカウンターされてもこちらの被害を減らせるぞ
その弐
一対一は分が悪いので一対多数を心がけましょう、カウンターの対象が分散されもっと戦いやすくなるぞ
その参
ギルドの仲間を呼ばれたらまず勝てないぞ、必ず一人の時を狙おう
以上解散!
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三十五話目 謎の遺跡探索 ~後片付け編~
ここは地獄だ
目の前の光景を三人の奴隷のエルフはそう表現することしかできなかった
「うで、うでがぁぁああ! ち、ちゆ、ちゆをしてくえぇぇぇ!」
両腕が切り落とされ傷口から血が噴き出しながらヨタヨタと近づいてくる主人の姿を眺めながら改めて思う・・・ここは地獄だ
「ふふふ、どうしたエルヤー君?。まだ腕が無くなっただけじゃないか、死んでいないんだからまだ戦えるよね?」
悪魔が主人から切り落とした腕を玩具のように弄びながら近づいてくる
「ひっ!! くるな・・・来ないでくれ!!」
闘争心どころか心がポッキリと折られたエルヤーにはもう戦う意思は見られなかった
「おいおい、つれないこと言うなよ!」
そう言い放つと悪魔は持っていた主人の腕を頭に叩き付けるとグチャっと嫌な音が室内に響き渡り、顔の半分つぶれた死体が力なく倒れる
騒いでいた者がいなくなり再び静かになった室内に悪魔の声が嫌に大きく響き渡る
「まったく、最初の威勢はドコに行ったのやら。一回目、二回目はまだ良かったが、三回目の今回は戦う素振りも見せず逃げだす始末、四回目は何をしてくれるのだろうな。ふふふ、あははは、あ~はっはっはっは~!!」
やがて笑うのをやめた悪魔は再び魔法の杖を取り出し死体に向けて杖を振るう、そして再び主人は生き返る
「・・・う・・・ううう・・・ひぃ! な、なんで、なんでぇぇ!!」
目を覚ました主人は目の前の悪魔の姿に狼狽し、もはや立ち上がる事も出来ず、腰を抜かした状態で後ずさりをする
「さぁ、四回目の勝負をしようか、武器は・・・さっき折れてしまったから素手でもいいよな?」
「あは、あははっはっははふはhしゃlっはfhヵhfkぁhぁか」
「なんだ、もう壊れたのか・・・・じゃ、もういいか」
主人に興味を無くした悪魔は額に指をあて、何処かに連絡を取り始め、それが終わるとこちらに近づいてきた
三人のエルフは互いに身を寄せ合いただ恐怖に震えることしかできなかった
誰の脳裏にも悲惨な未来しか予測できず、目からは涙が溢れてくる
人間の奴隷にされ、生き地獄を味わい続けとうに枯れ果てたはずだと考えていたがそれは間違いだったらしく枯れることなく溢れてくる
目の前に悪魔が近づき口を開く、今まさに死の宣告が下されるのかと恐怖しさらに三人は身を寄せ合い体を縮こませる
「もう大丈夫だよ、君達を苦しめる奴はいなくなったよ、もう辛い思いをしなくても良いんだよ」
優しい声に三人は恐る恐る目を開き目の前の悪魔の顔に視線を向ける
そこにいた悪魔は先ほどの恐ろしい形相ではなくにこやかに微笑む姿があった
その笑顔に見惚れていると悪魔はどこからともなく大きめのマントを取り出し一人一人の肩にマントを羽織らせていく
「・・・私たちを殺さないんですか?」
誰ともなく弱弱しい声で悪魔に質問すると悪魔は先ほどよりも優しい口調で語り始める
「そんな事する訳ないじゃないか、君達はこれからは幸せに生きて良いんだよ。俺に出来る事があれば何でも言ってくれてかまわない。俺は君達を助けたいんだ」
「もう痛いことされないの?」
「当り前だ。悪魔王サイファーの名にかけて君達の安全を保障しよう」
その言葉にエルフたちはまた涙を流し始める、へたり込むように地面に座り大声で泣き始めた
先ほどと違うところがあるとすれば、先ほどの恐怖とは違い、安心と嬉しさ、そして優しさに触れて心から暖かい涙を流していく
「好きなだけ泣いたら良いよ、泣き終わったら身体の診察とお風呂に美味しい食事にふかふかのベッドでの睡眠とやる事がいっぱいあるからね」
悪魔は三人が泣き止むのを笑顔で待ち続けるのであった
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第六階層の闘技場にてアインズは『フォーサイト』のメンバーと対峙していた
勿論、偶然ではなく、アインズ自身が自らの剣の練習のためにわざわざ呼び寄せたのだ
「まずは謝罪をさせていただきたい。アインズ・ウール・・・殿」
「・・・アインズ・ウール・ゴウンだ」
「失礼、アインズ・ウール・ゴウン殿。この墳墓にあなたに無断で入り込んだことことは謝罪いたします。許して頂けるのなら、それに相応しいだけの謝礼金として金銭をお支払いいたします」
暫しの沈黙が流れ、アインズから笑い声が微かに漏れる
「そうだな・・・金貨9999枚で手を打とうではないか、お前らに払えるかな?」
「なっ!!」
金銭による交渉が通じたところまでは良かったがその請求額は想像以上というか、ぶっ飛んだ額であり完璧にこちらの足元を見ている額であった
「どうした、払えないのか? 先ほどこの墳墓に相応しい金額を払うと聞こえたのだが私の気のせいであったかな?」
正直その程度の金額では到底収まらないと思うがヘッケランの驚愕の表情に内心ほくそ笑む
が、そんな事は表情には出さずすまし顔で相手をにらみつける、しかし解決の糸口が見つからないのかどう返していいのか返答に困っているらしく相手は沈黙したままであった
「どうやら払えないらしいな。まぁ当然か、親の借金を返すためにここに来た奴がいるのに、そんな大金は持っているはずはないな」
「どうしてその事を知っているの!!」
ヘッケランの後ろに控えているアルシェの驚愕の声をあげるがその言葉を無視しアインズは話しを進める
「さて、無駄話が過ぎた。弱肉強食というシンプルな真理に従い、お前たちから一つの物を奪うとしよ」
「いや、実はやむ得ない理・・・」
「やめろ、嘘を言って私を不快にするな。・・・せっかくの得たポイントがマイナスになるぞ」
アインズの言葉に『フォーサイト』全員に衝撃が走ったかのような動揺が手に取るように分かり慌てているのその姿は笑いを誘うには十分すぎるものだった
「最後の慈悲をもって戦士として戦ってやろう。さぁ、決死の覚悟で挑んでくるがいい!」
装備していたガウンを脱ぎ捨て片刃の黒剣と円形の黒盾を構える・・・が、上空からの奇声のせいで妙にしまらなかったのは黙っておくのが吉だろう
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やる事を終え、スッキリと晴れ晴れした気持ちでサイファーはアインズと合流するために第六階層に転移してきた
「はぁ~。溜まった鬱憤をこれでもかというくらい晴らせて気分爽快だぜ、やっぱ良いことをするって気持ちいなぁ」
エルフ達の事はセバスとペスに任せたしもう大丈夫だろう。
そう思いながら闘技場のアリーナに向けて通路を歩いていると前方からすごい勢いで少女が飛んできた
その少女、アルシェはサイファーの存在に気づき『飛行/フライ』の魔法を解きいきなり抱きついてきた
「うぉ! いきなりどうした!? そんなに俺に対する好感度って高かったのか?」
いきなりの事で動揺していたがアルシェの方がもっと混乱というか動揺していた
「みんなを助けてほしい! でも、ここにはバケモノがいて勝てるはずがないのにイミーナもロバーも私に逃げろって・・・サイファーも早く逃げないと貴方でも勝てない」
「は? え? 何言ってんの?」
必死になって何かを伝えようとしてくれているようだが早口だったため分かりにくい
首を傾げていると突然聞いたことのある声が廊下に響く
「鬼ごっこはもう終わり?」
「!追跡者・・・」
サイファーが状況を理解するよりも早く事態は動き、今度はシャルティアが微笑を浮かべながらやってきた
「サイファー、貴方も逃げ・・・」
サイファーの手を掴み共に逃げようとしたが逆に腕を掴まれてしまい動けなくなってしまった
「おお、シャルティア。良いところに来た。『伝言/メッセージ』が繋がらなくて状況が今一理解できないんだ、説明してくれないか?」
サイファーが追跡者ににこやかに話しかける様子にアルシェが何かショックを受けたようだがそんな事は今はいい
状況を確認することが第一である
「わかりんしたサイファー様。簡潔にご説明いたしますと・・・」
① 『フォーサイト』と戦士として戦うアインズ
② アルベドとの訓練の成果で危なげなく前衛であるヘッケランを無力化することに成功
③ 残ったメンバーがアルシェを逃がすために時間稼ぎを行い、アインズはシャルティアに捕縛を命令
④ 今に至るという訳である
「うん、理解した。アルシェ良い仲間に恵まれて良かったな・・・まぁ俺達ほどではないがな」
「何を・・・言っているの?」
どうやらこの子はまだ理解できていないらしい、それとも理解しているが脳がその事を拒否し、嘘であってほしいと願っているのかもしれないが・・・まぁ、現実は非常である
「まだ理解できないのか。じゃ、これを見たら理解できるかな?」
せっかく着替えたが彼女に現実を理解してもらう為にもう一度『冒険者』の装備品を外し『悪魔王』の姿へと戻る
その姿にシャルティアは臣下の礼をとり、アルシェは何かを悟ったようにへたり込んでしまった
「どうやら理解してくれたようだね。じゃ、みんなでアインズさんのところに戻ろうか」
へたり込み動かなくなったアルシェを小脇に抱えながらシャルティア先導の下アリーナに向かうと半裸のアインズと地面に這いつくばっている残りの三人の姿があった
「良いタイミングですねサイファーさん。こちらも今終わったところです」
「俺の方も片が付きました。いや~人助けは気持ちが良かったなぁ」
にこやかに二人はお互いに情報交換を行い、アインズからは戦士としてかなりの腕前になったと自慢話をされ、サイファーからはリスポーンキルの成果を報告した
そんな命を何とも思わない会話にアルシェはただ震えることしかできなかった
「それでは俺は今回の成果をアルベドとチェックしに行きます。残ったゴミはさっき話した通りサイファーさんのお好きにどうぞ」
「ありがとうございます、ではまた後で。」
話が済むとアインズは今回の計画の支出を調べるためにアルベドと共にその場を後にし、貴賓席にいた守護者達もそれぞれの持ち場に戻りその場にはサイファーとアルシェのみが残された
「さて、アルシェ。君には二つの選択がある」
サイファーの言葉にビクっと身体を震わせながら彼女はこちらに視線を向けてきた、その顔はこれからの事を想像してかひどい顔であった
「一つは・・・人間として安らかに死を迎えることだ」
サイファーの言葉に涙を流し始めるアルシェだったがそんな事は気にせず言葉を続ける
「もう一つは・・・俺に永遠の忠誠を誓い妹たちと幸せを掴むかだ」
妹という単語に彼女の表情は面白いほど憔悴していく
しかしこれはまずい、アルシェは後々利用価値が有るから出来れば殺したくない、だから忠誠を誓ってくれたほうが都合が良いがここまで絶望していると死を選ぶかもしれない
そう思ったサイファーはもう少し生きる希望を持ってもらう為にアイテムBoxより蘇生アイテムを取り出しアインズとの戦いで死亡した者達を対象に効果を発動させた
「あ・・・」
死亡していた三人に光が降り注ぎ血の気が引き蒼白となった肌に生気が戻り始め、光が消えるころには意識を取り戻しノロノロとだが皆立ち上がり始めた
「これはサービスだ・・・さぁ、君の答えを聞かせて貰えないだろうか。」
生き返った仲間たちを見ながらアルシェはどこか安心したようにサイファーに自分の答えを伝える・・・
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「お姉さま、いつ帰ってきたの?」
「いつお部屋に入ってきたの?」
双子の姉妹はいつの間にか帰ってきた姉にしがみ付き子供らしい喜びをあらわにしていた
そんな二人と同じ目線になるように屈みこんだアルシェの顔には笑顔が見られた
「心配かけてごめんね。クーデリカ、ウレイリカ。どう、良い子にしてた?」
「「うん!」」
「そう、えらかったね」
大好きな姉に褒められた二人は可愛らしく笑いあう
「それじゃあ二人とも、もう夜遅いけど引っ越しの準備をしてもらえるかな」
「えー、いまからー」
「もうねるじかんだよー」
「ごめんね。でも服や下着は用意してくれているから、本当に大事な物だけ持ってきて」
「「はーい」」
二人は引っ越し先に持っていく人形や絵本を真剣に選び始める
その様子を見ながらアルシェは自分の選択は間違っていなかったと忠誠を誓った悪魔に感謝し、荷物を選ぶ二人はこれから訪れるであろう、楽しい時間を夢みていた
『フォーサイト』の皆様はナザリックに置くわけにはいかなかったのでカルネ村の護衛に回されました
エルフの三人はナザリックにて療養中、元気になれば国元に戻してあげる予定です
アインズ様の金貨9999枚発言
単純に所持金のカンスト額と思われる金額を提示したまでです
ゲームではよくある事
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三十六話目 何もない日常 その1
ナザリック時刻 7:20
朝も早くから従業員食堂には一般メイドのほとんどが集まり食事を始めていた
女性率ほぼ100%の食堂に彼女らの騒がしくも明るい話し声と食器を運ぶさいのガチャガチャとした音が加わりなかなか騒がしい場所である
そんな食堂だが食事をするメイド達は大きく四グループに分かれている
まず同じ至高の存在に作り出された者同士の三グループ、そして一人の時間を過ごしたい者、他の至高の存在に作られた者とおしゃべりしたい者などの混合グループである
この混合グループのメンバーはいつも決まった者達が集まっているのではなく、その日その日でメンバーが入れ替わって思い思い食事をとっている
このようにグループが分かれることはユグドラシル時代にはなく、この世界に来てからの現象である。それについて我らのモモンガ様は「これもNPCの自由意思によるもの」ということである
「ところでシクスス、今日はアインズ様当番の日でしょ? 普段よりびしっと決まっているね」
そんな騒がしい食堂の一画で食事をしているフォアイルはニヤニヤしながら共に食事をしているシクススに問いかけると、彼女もまたニヤリと笑い答える
「もちろん、アインズ様の御傍に着くのだからこれくらいは当然よ」
「良いですね。じゃあ昨日の休日はどう過ごしたの?」
その隣で食事をしているリュミエールは興味深々とばかりにシクススに質問をしてくる
「そうそう聞いてよ。昨日は第九階層の大浴場に入ってエステ?ってものをやったのよ 本当に素晴らしいものだったわ、さすがは至高の御方が御造りになられた施設だわ、本当に素晴らしいものだったわ」
「いーなー、私の番まであと何日かしら」
ごく最近まで彼女ら一般メイドには休みらしい休みがなく幾人かは一日中フルに働かなくてはならないという職場環境であった
普通なら夜逃げするレベルのブラック職場だが彼女たちはさほど問題にはしなかった
なぜなら彼女らはギルド『アインズ・ウール・ゴウン』によってナザリック地下大墳墓で働くために作り出されたのだ、故に『休む』などという概念は彼女たちには存在していなかった
そんな凄まじい労働環境をしったアインズは彼女達に使用されていない部屋の掃除頻度を下げるように指示を出し、次に休憩を入れるためのチーム分けを行い41日に一回の休日を設けた
アインズにしてみればこれでもまだブラック企業なみだと思っていたが、これに対して不満の声が上がった
もちろん休みが少ないとの不満ではなく、休みを返上しても働きたいという不満の声だった
その不満は大きくアインズに直談判するほどであった
そこでメイド達は「一日中働きたい、自分達から仕事を奪わないでほしい」言ってきた
それをアインズは速攻で却下し意見を変えなかった
頑として譲らない主人の決定に涙を流したが、その場にいたサイファーが語り掛けるように話し出した
「お前達に質問だが、このナザリック地下大墳墓の施設が素晴らしいものだと思うものは手を挙げよ」
その言葉に彼女らは一瞬戸惑ったがすぐさま手を挙た、その様子を確認したサイファーは次の質問を口にした
「ならばその素晴らしい施設を利用した事のあるものは手を挙げたままにしろ」
その言葉に毎日仕事しかしていなかった彼女らは誰も手を挙げられなかった
「第九階層の施設は使わないと勿体ないからとアインズさんがシモベ達にも開放した事は知っているよな、アインズさんが言いたいのはお前たち一般メイドにも利用して欲しいという事なんだよ」
その言葉に彼女らは口々に「恐れ多い」 「私たち如きが」などとざわつき始めたがサイファーは優しく続きを話し始めた
「確かにそう思う気持ちは理解できる。しかし、せっかく俺たちが丹精込めて作り上げたあの施設が一部の者しか使ってくれない状態は少し寂しい気持ちがある。だから休みの日はそこで存分に俺達の作ったものを堪能してほしい」
サイファーの言葉に少しずつ騒ぐ声が小さくなる、しかし皆の心には至高の存在が作り上げた施設を利用する事に対しての畏怖の念が渦巻いていた
「もちろん、急に言われて混乱していると思う・・・そこで今日は一般メイド全員を集めて休日の過ごし方研修を行う。もちろん監督はこの俺、悪魔王サイファーが行う・・・皆存分に堪能するがいい」
そしてこの研修により一般メイドから休日に対する拒否反応は薄くなり、更に休日の翌日はアインズかサイファーの側近く侍って一切を手伝う仕事を与えるとアインズより正式に発表され、最早メイドたちから休日を返上しようとの声は上がらなくなった
「しっかり栄養とって全力で働かないとね。場合によっては一食抜く可能性も高いんだからね」
「勿論よ。アインズ様当番は脳に栄養を大量に送り込まないといけないんだから」
「甘いものが欲しくなるのよね」
うん、うん、と三人は揃って首を縦に振り当番日あるあるで盛り上がり、次第にもう一人の至高の御方へと話が移っていく
「サイファー様って変な物を収集する癖があるって聞いたけど、それって本当かしら?」
「他の子にも聞いたけど本当っぽいわよ。この前の外の人間を誘い込んだ時もエルフの子とか人間を数人引き取ったそうよ」
「私も聞いたことがあるわ。外の世界で獣を拾ってきてナザリックで飼ってるんですって。その獣をブラッシングしてる御姿を何人も目撃しているらしいわよ」
「何とかの宝珠とかいう玉も拾って外の街の屋敷に置いているんですって」
「へー、そうなんだ。あっ、サイファー様って人参が御嫌いだってみんな言っているけどホントなの」
「ホント、ホント、アインズ様とのお食事の時に残しているのを見た子がいるんだって。でもアインズ様に注意されてイヤイヤ食べてたそうよ」
アインズの話の時は、やれ威厳があるだの、思慮深いなどと理想の上司の様な話であったが、サイファーの話になるとおかしな噂話に花を咲かせる三人であった。
しかしこれは彼女たちが悪いわけではない、アインズが支配者の態度をシモベ達の前で保って生活している時、サイファーはというと、支配者風の態度は取らず穏やかにすごし、メイド達に対しても気さくに話しかけ、言いつける用事といえば食事におやつに寝る準備とこんなものである
無論至高の御方として尊敬し、崇拝しているがどこかそのような気持ちにさせるのがサイファーである
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ナザリック時刻 9:20
前回のワーカー事件より数日後、ナザリック地下大墳墓 第九階層の自室にてサイファーは大量の書類を一枚一枚確認し、不備の無い書類には自らのギルドサインが彫られた判を押していき、許容できない案件の書類には否決の判を押していく
最初に言っておくがここにある書類の99%はナザリックの運営には関係がなく、サイファーがエ・ランテルに購入した屋敷の警備状況、カルネ村に里子に出した赤子の成長状態にワーカー達の生活態度、ナザリックで療養中のエルフの社会復帰のためのリハビリの成果などの個人で管理しなくてはならない案件ばかりである
最初は誰かの手を借りようとしたが、アインズよりナザリックの運営に直接関係がある事以外は自分で管理せよとのお達しがあったため誰の手も借りられない状況である
勿論、至高の御方と呼ばれるサイファーが声を掛ければそれなりの人数は集まる。しかしアインズに自分で面倒をみるといった手前ナザリックのシモベを使うことに抵抗感がある
しかし、冒険者をやったりナザリックの運営についての相談や支配者演技の特訓、果てはハムスケのブラッシングに武技の練習相手(ハムスケからの攻撃をカウンターするだけ)など遊んでいるように見えてなかなか忙しいのである
「おいA作。この書類をB助に渡して問題ないから実行しろと伝えてくれ」
「了解いたしました悪魔王様」
サイファーから手渡された書類を大事そうに抱えたエルダーリッチ(A作)は深く頭を下げ部屋を後にしていく
A作、B助とはアインズに自分でやると豪語した手前ナザリックのシモベを使えなくなったサイファーが書類仕事を少しでも減らそうと考え、冒険者として手に入れた金貨を使って図書館で傭兵として召喚した書類整理専門のシモベである
何のスキルも使わずに生み出したため能力値は野生のエルダーリッチと変わらないが知力UPと高レベルの隠蔽系の装飾品を装備し、専用の腕章を付けてサイファーの事を『悪魔王様』と呼ぶのが特徴である
アインズに召喚してもらわず自分の金貨を使って召喚したところに一端のプライドが伺える
「あ~終った~。うーん、仕事が終わった開放感はリアルでもナザリックでも変わりないなぁ」
机の上の物を軽く片付けると側で控えていたメイドに声を掛ける
「おーいフィース、お茶・・・いや、コーヒーとお茶菓子でも持ってきてくれない」
「承りましたサイファー様!」
声を掛けたメイド、フィースは速足だが優雅な動きで部屋の奥にある給湯室とサイファーが勝手に呼んでる部屋へと消えていき、欠伸を一つしたころにワゴンにポッドと焼き菓子を数種類乗せて戻ってきた
(毎回用事を頼むたびに思うンだけど、なんでこんなに早く持ってこれるんだろう。予め用意しているんだろうか? いや、ここに来るときはいつも手ぶらだし、あの部屋には何も備蓄していないはずだし謎だな・・・)
そんな事を考えている間に机の上はきれいに拭かれ、レースのテーブルクロスが掛けられコーヒーと苺のタルトケーキがで用意されていた
勿論物音などはせずテキパキとこなされていた
「相変わらず見事な手際だな。ケーキはうまそうだし、コーヒーは良い匂いだ」
「ありがとうございますサイファー様!」
軽く褒めたはずだったがメイドの表情は非常に明るいものだった
「今日、君が俺の当番という事は昨日は休みだったんだろう? どうだった休日は?」
「はい!とても有意義な時間を過ごす事が出来ました。これも全てアインズ様の真意を私達に解りやすく教えていただいたサイファー様のおかげであります!」
先ほどよりも表情が眩しいまでの輝きを宿し、幸せそうにこちらを見ていた、その様子をサイファーはただ見つめ返すことしかできなかった
【A作、B助の設定】
サイファーが自分の管理する事案の効率化を図るために自腹で傭兵召喚した【エルダーリッチ】である
二体に外見的差異はなく左腕上腕に付けられている腕章の色で区別している
赤がA作、青がB助
戦闘能力はスキルやアイテムでの強化がされていないため野良のエルダーリッチと遜色がない
性格はナザリックのシモベ達と同じく召喚者であるサイファーに絶対の忠誠を誓っており、真面目で勤勉である
カルマ値は外に向かう事も考えて出来るだけ低く設定しており、無差別に生き物を襲ったりせず戦闘を避ける傾向にある
転移系のアイテムは一切持たせていないのでナザリック、カルネ村、エ・ランテルの屋敷には基本徒歩で移動している
仕事を頼まれていないときはエ・ランテルの屋敷で待機し、死の宝珠とおしゃべりをしているらしい
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三十七話目 何もない日常 その2
ナザリック時刻 10:24
ナザリック地下大墳墓の第十階層内には『最古図書館/アッシュールバニパル』と言われる巨大図書館が存在し、ユグドラシル時代の本が大雑把に五種類に分けられて保管されいてる
まず一つ目が傭兵モンスターを召喚するための本棚であり、サイファーが書類整理用に召喚したエルダーリッチもここに保存されている本を使用して召喚された者である
二つ目が本の形態をしたマジック・アイテムであり、巻物と違い誰でも使用可能な魔法が込められているのが特徴である
三つ目がイベントアイテムと呼称されるもので特定の職業に転職するときに使用するものや特定の魔法や技術を習得するものが収められている
四つ目が外装データであり、剣や盾、鎧などの外装データがインプットされており、特定の鍛冶技能を使いインプットされている外装の装備を作る事が出来る
五つ目が元の世界で版権がなくなっている古典小説や運営お手製のユグドラシルの世界観のお話、『アインズ・ウール・ゴウン』以外のプレイヤーが書いたオリジナル小説や旅行記風に書かれた攻略情報などが収められている
「『死者の本』か、確かエルダーリッチに転職する為に必要なものだったな。ふーむ、よし今日はこれにしよう・・・あとは『ソロモンの遺訓』に『モーセ第八の書』とこんなもんかな」
そんな図書館に今日の仕事を終えたサイファーの姿があった
アインズとは違い基本的にナザリックでの書類仕事が少ない彼は最近時間が出来るたびにここに頻繁に出入りしている
異世界に転移しはや数か月、最近傭兵モンスターを召喚するために本を読んでいて気づいた事なのだが、転移の影響は自身の異形種化やNPCの自意識の発現、マジック・アイテムや魔法の変異だけではなく、図書館の本にまで影響が出ていたのだ
例えば使用すれば魔法『火球の玉/ファイアー・ボール』が覚えられる魔法書だが、ゲーム時代はアイテム選択で魔法書を選択すると覚えられたのだが。この世界では本当に文字が書いてある魔法書になっており携帯電話の説明書の様に文字がびっしり書き記されていたり図入りの説明文があったりと勉強嫌いにはたまらない仕様になっていたのだ
だが逆にサイファーは設定資料集みたいで面白いと感激し時間が空くたびにここに訪れているのだ
そして今日も今日で目についた本を片っ端から本棚から取り出し近くのテーブルに積み上げていくのであった
「さーてと、今日は冒険者のお仕事はお休みでナザリックで待機の日だから思う存分本が読めるぞ。あ、フィース、俺は今から読書タイムに入るからお前は先に部屋に帰って昼食の準備を頼む」
「かしこまりましたサイファー様。昼食の御時間とメニューは如何いたしましょうか?」
「そうだな・・・とりあえず食事は十三時ごろにして、メニューは肉料理をメインにお任せするよ・・・あっ、ニンジ・・・いやなんでもない。フィースも時間を見つけて昼食をとるようにしなさい、ホムンクルスは食事量増加のデメリットあるから無理はするなよ」
「お心遣いいただきありがとうございます。それでは準備に取り掛からせていただきます」
深々と頭を下げてスッと行動を開始するメイドの後姿を見送りサイファーは机に積みあげられた本を一冊手に取り表紙を開こうとしたとき『伝言/メッセージ』の魔法が頭に繋がってきた
「これからって時に。もぉ~、もしもしアインズさん、何かあったんですか?」
アインズの事だから下らないことでは無いと確信できるがお楽しみを邪魔をされた事で少しぶっきらぼうに答えてしまったがそれについての御咎めはなかった・・・というかアインズの言葉は何故かか細かった
「・・・いえ、今日の冒険者のお仕事なんですけど、アルベドの代わりをお願いできませんか?」
「ん、アルベドの代わりって、あの子がアインズさんとの二人っきりの冒険者仕事を諦めるとは思えないですが、何かあったの?」
暫しの沈黙・・・何かを振り絞るようにアインズが言ったセリフは・・・
「・・・いきなり俺を押し倒してきて捕食しようとしてきたので三日間の謹慎処分にしました・・・もう俺にはサイファーさんしかいないんです、たのみます・・・」
捕食。おそらく何かの比喩表現だろう、アルベドがアインズを捕食、サキュバスカがアンデッドを捕食、女が男を捕食
そこまで考えて答えが頭にひらめいた
「あっ!!・・・いや、はい。これ以上深くは聞きません、すぐ準備をしてそちらに向かいますので少々お待ちください」
「・・・お願いします」
そう言い残し『伝言/メッセージ』は途切れ図書館にはいつもの静寂が戻り、サイファーとアインズ話が気になりこちらに視線を向けていた司書たちは視線を戻し業務に集中し始めた
「ちょっと、そこの司書Cのバンドをしているキミ」
「はい。いかがいたしましたサイファー様」
「いや、すまないがこの本を元の場所に戻しておいて貰えないだろうか、急ぎの用が出来たのでね」
「わかりました、本はこちらで片付けておきます、いってらっしゃいませサイファー様」
「ああ、いってきます」
司書に用事を言いつけ図書館から退室したサイファーはそんなに距離が離れていなかったがアインズの下に向かうべく指輪の力を開放し執務室を兼任しているアインズの自室前に転移し扉を開けようとしたが・・・
「あっ!フィースに食事の準備させてるの忘れてた!? 外に行くから通常業務に戻るように言わなくちゃ」
大急ぎで自室に戻りフィースに出かける旨を知らせ洗濯に出していた冒険者装備を用意するように伝えたが流石はナザリックが誇るメイドである
急な予定変更であってもテキパキと動き時間のロスはほぼ無かった。そのためアインズを待たせることはなく約束の時間に間にあったのである
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ナザリック時刻 13:35
いつもの冒険者姿になったサイファーとアインズはエ・ランテルの門に設置してある検問所にたどり着いたが
今日に限って渋滞しており人の列が全く動いていない
まぁ、入国審査は出国審査より入念に荷物を調べるので行商人などがいると荷物の多さから自分たちの番がくるまで時間がかかる事がある
アインズはハムスケとエ・ランテルでの仕事や武技や装備の事を話しながら時間を潰しており、サイファーはハムスケの毛並みのチェックしたが最初に会った時よりは毛並みが柔らかく、匂いは花の香りが微かに香り不快な獣臭はほとんどなくなってはいたがサイファーの理想まではまだまだである
一応ナザリックの第六階層に存在するスピアニードルというウサギに似た魔獣がサイファーの理想とする柔らかさともふもふであったがベッドのようにダイブして堪能しようとするといくら言い聞かせていてもびっくりして毛を鋭い針に変えてサイファーの体に突き刺さるのである
アウラが命令すれば毛は鋭くならず柔らかいままであるが子供の前でいい大人がもこもこと戯れる姿を見られたくないため黙っている
そのためハムスケを改良する事で満足感を得ようとしているのである
しばらくそんな事を考えていたのに列は全く動いていない並ぶのに飽きてきたサイファーは目の前の地味な男に声をかける
「ちょっといいですか?」
「は、はい。何でしょうか?」
「いや、列が動かないんだけど何かあったの?」
「詳しくは分からないんですけど、前に並んでいた村娘が詰所の方に連れていかれましてそれから急に・・・」
結局詳しい事は分からず、詰所の方に首を伸ばし野次馬的根性で聞き耳を立てていると何か激した声が聞こえる
その声に興味をひかれたサイファーは今の自分の地位-アダマンタイト-の力を持て見に行きたくなった
「アインズさん、ちょっと詰所の方にいって様子を見てきますんで待っててもらえます?」
「ん、そうですか。俺はここでハムスケと待ってますから、なるべく問題を起こさない様に気を付けてください」
「大丈夫だって、ちょっとした野次馬根性だから・・・」
そう言い残し詰所の方にへと歩いていくき、サイファーの姿を目にした兵士たちは一斉に驚きの声を上げはじめた。
アダマンタイト級冒険者サイファーの名を知らない者はこの街には存在しなかった
もっとも一番人気はアインズで、二番はアルベドではあるがその差は僅差だと思いたい
アインズの墳墓での堂々とした足取りを真似しながら颯爽と詰所前に到着する。中には村娘相手に興奮する魔法詠唱者と兵士、そして困惑した顔の村娘の姿が見えた
「お前ら・・・女の子相手に詰め寄って何してんだ?」
「うぉお!」
ナニする前ですなんて言うなよとドキドキしていたが外の兵士と同じようなリアクションで驚きの声をあげ、村娘はこちらを見てぽかーんとしていた
「こ、これは!サイファー様、失礼いたしました」
「だから、何してた・・・ん?てか、その娘」
「はい!怪しげな娘がおりまして少し調査に時間を取られてしまいました。サイファー様には本当に御迷惑を―」
男の声などまったく興味がなくガン無視して村娘に声を掛ける
「エンリちゃんじゃん、こんなとこに連れ込まれて何かしたの?」
「えっと、あの、どちら様・・・? い、いえ、あの時ンフィーと一緒に来られてネムに不思議なリンゴの木の苗をくださった方ですよね。お話した記憶はなかったのですが、私の名前はネムから聞いたのですか?」
その瞬間、思わずサイファーは頭を押さえてしまった。
村に向かった時にエンリの妹のネムに速攻で正体がバレてしまいエンリも自分の正体が分かっているものだと思い声を掛けたが
・・・どちら様って(汗) ネムちゃん、本当に俺の正体を皆に黙っていたんだね約束を守れる良い子は好きだけど、今回は裏目に出ちゃった
知り合いだと思っていた女の子に声を掛けたら誰って言われた件について・・・・はずかしくてしにたい
「じゃなくて! 俺だよ俺! サイファーだよサイファー。ほら、ツノ、ツノ」
フードからはみ出てる角をこれでもかと強調しながら思い出してもらおうとしていたらエンリちゃんは『あっ!!』と声を上げ俺の事を思い出したらしく、みるみるうちに顔色をわるくしそのままその場にうずくまってしまった
うん、思ったより俺の変装は完璧であり正体は知れ渡っていないみたいだ
「それで、この娘は俺の知り合いでね。何かあったか聞かせてもらえないかな?」
その言葉にその場にいた兵士と魔法詠唱者は目を見開き次第に納得したという顔に切り替わっていく
この光景は良く見ている気がする・・・絶対何か勘違いしていぞこいつら
「なるほど、やはり・・・」
なにが『なるほど』なんだよ。その答えは100%間違ってるからな! まぁ、ここは話に乗っかるか
「そうだ、心配する必要は一切ない。彼女の身元は俺が保証する。そのまま通してくれ。できるかな?」
「勿論です。『漆黒』のサイファー様が保証されるのであれば、どのような犯罪者であろうとも都市に入れるでしょう」
「いや、犯罪者は捕まえなさいよ、それがお仕事でしょう!?」
犯罪者もOKと言われ思わず口から出てしまったが相手には場を和ませる冗談だと受け取られ兵士たちから笑い声がもれ場の空気はいくらか明るいものとなった
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門から少し離れた場所にエンリの乗ってきた馬車を止め、いまだに顔を隠して落ち込んているエンリにサイファーは声を掛ける
「え~と、何で落ち込んでるかはなんとなく想像できるけど気にしなくて良いんだよ。今はその、立場が違うんだから・・・」
「でも!!」
泣きそうな顔で顔を上げ抗議してきたが多分話が平行線になるからここでぶった切っておいた
「それだけ大声が出ればもう大丈夫だ。・・・それで俺の正体なんだが、一切詮索せず誰にも話さないと誓え」
ここで自分たちの正体がバレると後々まずい事になるため不本意ながらちょっと脅すように言ってしまった
そしたら脅しが効きすぎたのか青い顔して首が取れるかと思うくらい何度も縦に振ってるから問題はなかったと思う
「ま、堅苦しい話はこれで終わりにして、何しにここに来たの?」
場の空気を変えるためフレンドリーに話しかけたがまだ先ほどの脅しが効いているのか緊張した面持ちで話し始めた
「えっと、その前に一つよろしいでしょうか?」
「ん、どうしたの?」
「先ほどは助けていただき、本当にありがとうございました。」
そう言って頭を下げるエンリを見ながらサイファーは目を丸くして驚く、普通あれほど威圧され何しに来たと尋ねたのに最初のセリフが検問所のお礼とは思ってもいなかったため彼女の評価をさらに引き上げる
「気にするな、今日のはたまたまだ。で、それで?」
「はい、私がここに来たのは、え、えっと色々あるのですが一つは村で採取した薬草を売りに来たんです」
「ま、馬車の上にこれでもかってくらい積んでんだしそらそうでしょう」
「それから神殿に行って、私たちの村に移住したい人がいないかを確認します。それと冒険者組合にお話ししたいことがあって行くつもりです。後は村では手に入らない物を色々買い込む予定です」
「ふ~ん、思ったより普通の用件で来たんだね・・・あ、でも移住ならこの前何人か移住したはずだけどまだ足りないの?」
「よくご存じで、あ、えっと、確かに元ワーカーの人とその家族の方が移住してきましたけど、あの人たちは狩りや戦闘要員ですので、人手不足で耕す事が出来ず荒れ始めた農地を開拓できる人がいないかと思いまして」
それを聞いてサイファーは確かにと頷いた。彼女の言う通りカルネ村に送ったワーカー達は荒事が専門だし、村の警備の強化の意味合いも込めている
一応アルシェの妹達が稼ぎを得るために果実の木の苗を十五本くらい持たせたが村全体でみるとあまり関係がなかったようだ
「なるほど、大体理解した。じゃ、俺はもう帰るねエンリちゃんも頑張ってね~」
アインズさんも待たせていることだし『飛行/フライ』の魔法を杖を振るい発動させ、そのままその場を後にした。
カッコつけて空を飛んだが高い所は苦手なためすぐに路地裏に着地し隠れてエンリの様子を見ていたが特に問題なく馬車に乗って冒険者組合に向かっていったためサイファーもアインズの下に向かう事にした
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もちろんアインズさんに遅いとに怒られて何度も頭を下げることになったがな!(泣)
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三十八話目 何もない日常 その3
嬉しすぎて涙出そう( ノД`)
え、言うの遅いって? 細かいことは良いんだよ!!
ナザリック時刻 14:05
「・・・で、結局何が言いたいかと言うと。ちょっと詰め所を見てくると言いながら何で俺たちを置いて女の人と一緒に街に入って行くんですか? 何ですかナンパでもしたんですか? 」
エ・ランテルの街の一画でアインズよりお説教を受けるサイファー、しかしかなり語弊があるようなので、とりあえず修正しとかなくてはいけないと思い言葉を発した
「いや、アインズさん、それは誤解ですし違います。詰所に行ったらエンリちゃんが絡まれていたから手を貸してあげただけですよ。他に他意は全くないです」
「エンリ?・・・」
アインズはその名の人物を思い出そうと一瞬考え込むしぐさをしたが、すぐに思い出したらしい
「あっ、カルネ村のエンリ・エモットか、しばらく顔を見てないからすっかり忘れていたな。それで、彼女は一体何しに来たのか聞いてますか?」
「確か、村で取れた薬草の売買に移住者の確保に冒険者組合で何か話があると言ってましたね」
「冒険者組合? 何か村で問題でも起きたのか? いや、それならば報告が上がって来るはずだ、それともルプスレギナが見逃すほどレベルの高い者が・・・しかし・・まさか」
「いや、依頼じゃなくてお話だけって言ってたから村の危機とかではないと思いますよ」
変な思考の渦に飲み込まれていたアインズだったがサイファーの言葉で我に返り、それを確認したサイファーが続けて発言をする
「気になるんなら冒険者組合で聞いてきたらどうです。どうせ一番に向かうつもりだっだんでしょ」
「そうですね、考えても仕方がない。行くぞハムスケ」
「了解でござる殿。ささ、サイファー殿も行くでござるよ」
「はいよ」
恥ずかしい、情けないと何度も愚痴っていたアインズだったが、今では何の躊躇もなくハムスケに騎乗するようになり、この前などタクシーみたいで楽とまで言い始めたアインズに何とも言えない感情を覚えながらサイファーは後を追うようにして冒険者組合に向かうのであった
やがて冒険者組合に到着すると先ほどから話題のエンリの後姿と荷馬車が目視できたがアインズはハムスケに止まるよう命じた
「なんで止まるんですかアインズさん?」
「いや、念の為に彼女とは接触せず組合の職員から間接的に話の内容を聞いたほうがいと思いましてね。ハムスケ、裏口に回ってくれ」
「畏まったでござるよ殿!」
裏口に回ったのは良いがここから組合の中に入るのは二人とも初めての経験であり、特権階級だからと言って権力を振りかざし悪評が広まるのをさけるためこういったことは初めてであり、ちょっとドキドキしてしまった
裏口から入り最初に出会った職員に組合長の部屋に案内を頼むと、運が良い事に彼は部屋にいたようだ
「おお、モモン君! それにサイファー君まで、よく来てくれた!」
部屋の主である組合長アインザックが両手を広げ歓迎してくれたが、なぜかアインズは組合長から熱い抱擁をうけ、背中を親しげに叩いてからゆっくりと離れていき、次にサイファーに向かおうとしたが、とっさの機転で握手を求めるように手を差し出し抱擁を回避する
するとこちらの意図に気付いてくれたようで差し出した手をガシッとつかみ握手を交わす
「この頃君が来てくれなくて、寂しい限りだったよ。さあ、座ってくれたまえ。会合に参加するメンバーが集まるまで、ゆっくり話そうではないか」
久しぶりの友人を迎え入れたような表情で嬉しげにソファーを指さすのでアインズとサイファーはお互い向いあうように座るとアインザックはアインズの横に座った。
が、二人の距離は狭く、くっつき、息が詰まりそうな間隔だった
「モモン君も付き合いが長いんだ。気軽な口調で全然かまわないんだよ?」
そんな感じで気安くアインズに迫るアインザックを目の前で見ながらサイファーは背筋が凍り付くような考えが頭を駆け巡った
(男のくせに男のアインズさんにあんなに詰め寄って・・・まさか同性愛好癖ではないだろうな、いや、奥さんがいるらしいから両刀かもしれん)
一度でもそんな想像をしたら目の前にいる男が全く信用できなくなってきた。
アインズが遠ざかるようにお尻の位置をずらしたら露骨に残念そうな顔をし始めた(偏見)、ここまで考えて先ほどまでの組合長のセリフは少しねっとりとしていた気すらしてくる
まったくもって失礼な事を本気で考え、頭の中で例の兄貴のセリフを連発する組合長を想像しはじめる
そんな空想をしていたら知らぬ間に受付嬢が部屋に来ておりしどろもどろに良く分からない内容を話しており、アインズが組合長に言葉を掛けると組合長は監督不行き届きだったと言い、それに受付嬢が反発する
それをアインズが優しく諭すと受付嬢は踵を返し全力で走っていった
何だか知らないが仕事中は真面目に話を聞こうと改めてサイファーは心に誓った
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ナザリック時刻 17:28
いつもは露店が騒がしいほど声を上げて客引きをしている中央広場だが、昼のピークがすぎ、夕暮れの時刻にさしかかっている今は昼ほどの活気はないが、酒やつまみ類を売る店はこれからが本番とばかりに商品を並べ始め、それを目当てに色々な職業の人間が集まり始める。そんな時間帯に一際目立つ人物が市場を練り歩いていた
「サイファー殿、この店で最後でござるか?」
背中に色々な食材や服装品、はては鉱石類の入った袋を背負いながらハムスケが質問してくる
「ああ、ここで酒類を購入して屋敷に持っていったら今日のお買い物は終わりだ」
「そうでござるか。なら、もうひと踏ん張りでござるな」
「そうだな・・・」
組合から東の巨人、西の蛇という、ハムスケに匹敵するほどの強敵の情報を入手したアインズは街で軽く挨拶回りをした後に急いでナザリックに帰還していき、残ったサイファーは実験やナザリック外のシモベ達に振る舞う為の食料品の購入と一人で歩き回りナザリックの敵対者の誘い出しという任務を一人でこなしていた
前者は欠伸が出るくらい簡単だか後者に関しては全く油断できない。なにしろ、敵対者とおぼしき者は世界級アイテムを最低一個は保有している事以外の情報が全くなく、保有戦力数、行動目的および思想、すべてが謎の集団である
「おー! サイファーじゃねえか。今日も買っててくれよ」
小難しい事を考えていたら、よく行く串肉店のオヤジから威勢よく声を掛けられたので店の前まで行くと、串肉の焼ける良い匂いが腹にこたえはじめる
「ん~、そうだな、腹も減ったし20本もらおうか」
「へい!ありがとよ。銀貨10枚だよ」
すまし顔で正規の金額以上を請求するオヤジにサイファーはくってかかった
「ざっけんなよクソオヤジ! 定価の倍以上じゃねえか!」
「今日は特別にアダマンタイト割り増し料金なんだよ!」
「さらにふざけるなよ! 他の店は頼んでもいないのに割り引いてくれるぞ」
「その差し引きぶん俺が貰ってやろうってんだよ! ナイスな考えだろう」
ニカっと歯を見せて笑うオヤジにさらに文句を言おうとしたがその前に袋に入った串肉が目の前に差し出された、もちろん注文した本数よりかなり多く串肉が入っていた
「ま、冗談はさておき、今日もお買い上げありがとうよ!」
「いつもながらこのオヤジはアダマンタイト級冒険者を何だと思っているのやら」
悪態をつきながら正規料金を支払い店を後にする。しばらく歩き、ふと後ろを振り返ると串肉のオヤジと目があってしまうが、向こうはそんなの関係ないとばかりに豪快に手を振っている
そんなオヤジに全く嫌な感情を抱くことなくサイファーは拠点へと向かっていった
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ナザリック時刻 19:00
清潔感あふれる食堂のテーブル上に次々と料理が運ばれ夕食の準備が進められていき、メイド達は忙しなく動いているが全く急いでいるようには見ないがすごいところである
そんな様子を上座に座ってワインを呑みながらサイファーは眺めながら困り果てていた
「うっぷ、流石に夕食前に串肉一気喰いは無謀だったな。しかし、軽めに頼むって言ったのに何だこの量は・・・」
ざっと見ただけでテーブルにはバスケットに入った大盛りのパンにボール一杯のサラダ、鳥の丸焼きが一羽に果物の山、そして目の前にはスープの入った皿が一つ。明らかにサイファーの胃の許容範囲をオーバーするほどの量が並べられている
「もしもしフィースさんや、料理はこれで全部ですか?」
「いえ、食後に果実のケーキを3種類用意しておりますので、サイファー様のお好みのものをお運びいたします」
まだあった。というか、目の前の果実がデザートではないのか! かなりの回数ナザリックの高級料理を堪能してきたが今回は苦しい戦いになりそうだぜ
ああ、お母さんが何でごはん前につまみ食いしたらダメと言ったのかようやく理解できたよ。こういうことだったんだね(多分違う)
「では、用意もできたことだし、いただきます。」
覚悟を決めスプーンを手に取りスープをすくおうとしたその時食堂の扉が開きエルダーリッチが入室してきた
腕に青い腕章を付けていることから自分が召喚したB作であることがわかる
「悪魔王様。カルネ村に駐在しておりますワーカーどもより報告が上がってきました」
食事中に来たためメイド達の怒りの視線がB作に突き刺さり、それを感じたのか必要以上にメイド達から距離を取りながらこちらに向かってきた
「報告? 朝の書類には問題ないと書いてあった気がするが・・・まぁ、報告してくれ」
「は! ワーカーどもよりますとトブの森には東の巨人と西の蛇と呼ばれる外敵が存在し・・・」
「もういい。その事についてはアインズさんが直接動いてくれてるので何の問題もない。」
「おお、さすがは至高の御方であらせられる悪魔王サイファー様。感服いたします」
街で偶然知った情報なのだがB作は凄く感動して跪き、周りのメイドは当然ですって顔をしていた
しかし、何が何でも情報が上がってくるまで遅すぎる気がするが、仕方がないことだな
二体のエルダーリッチはカルネ村に在住してはいないし、何日かに一回アルシェに定期報告を聞きに行くくらいでしか村にはいないし、本来村の監視はルプスレギナの仕事だし、今回はポカをやらかしたみたいだが、アインズさんがキチンと教育してくれたはずだから俺からは何も言う事はないがな
「ま、キチンと危険の報告ができるだけましか。とりあえずワーカーどもには責務を果たすように厳命せよ。あと、今回は急いで戻ってもらうため転移のスクロールを使用する事を許可する」
「は!、お食事中に御時間いただきありがとうございました・・・では失礼いたします」
急に来たシモベを見送りながら大量の夕食を食べる事にした
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ナザリック時刻 21:10
アインズの執務室にサイファーが向かうとアインズのほかにコキュートス、マーレの姿があり、デミウルゴスは何やら書類らしき紙を見ながらアインズと話していた
「おや、守護者三人揃って珍しいな? 何か問題でもあったのか?」
「い、いえ。アインズ様が男だけでお風呂に行こうと誘ってくれましたので、こうして集まったしだいです」
「え? アインズさん俺聞いてないんでけど?」
サイファーの言葉にアインズは口をぱかーんとあけ固まってしまったがすぐに落ち着きを取り戻し申し訳なさそうに話し始める
「すみません、俺の中ではサイファーさんは参加で決定だと勝手に思っていて声を掛けてませんでした。えっと、サイファーさんはこれからなにか予定はあります、なければ俺たちと風呂にでも行きませんか?」
「すんごく今更ですよね。まぁ暇だからここに来た訳だしOKですよ・・・で、デミウルゴスは何の確認をしているんだ」
「ああ、これは失礼をいたしましたサイファー様。いえ、アインズ様がお招きになるお客人の為の食事のメニューの確認です、サイファー様もご覧になりますか?」
そう言ってデミウルゴスはこちらに紙の書類を差し出してきたのでそれを受け取り内容を確認するが・・・ホント凄い食事内容だった
「・・・すんごいねこれ。あ、フォアグラはちょっと好き嫌いが分かれるから排除して肉料理をメインにしたほうが俺は嬉しいかな」
自分の嗜好を前面に出したが皆からは割と好評でメニューからフォアグラは削除され、さっぱりとしたデザートが追加され最終決定された
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「各守護者よ。お前たちの風呂支度の方は終わっているな?」
「申し訳ありません。私とマーレは途中で一式を借りていこうと思っております」
「俺は一回部屋に帰ってメイドに風呂の準備をしてもらいますから、少し遅れると思います」
「そうか。コキュートスは・・・持ってきているか。ならば風呂場の前に集合しよう。インクリメント。もし誰かが来たなら部屋で待たせてくれ」
「畏まりました」
メイドの答えを聞いたアインズは立ち上がり自室を出ていき、サイファーも自室へと戻っていく
もっとも、この楽しい男だらけのお風呂もある意味女の子たちにより台無しにされるのであった・・・
何もない日常。別名、ある日のサイファーさんの一日
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三十九話目 カルネ村レポート ~前編~
まぁ、仕方ないよね(笑)
アルシェ・イーブ・リイル・フルト。彼女の転機は人生で何度もあった
彼女は貴族の娘であったが皇帝の貴族の大規模な粛清によって爵位を剥奪され今までの暮らしができなくなり帝国魔法学院を辞めて働かなくてはならなくなってしまった。それが一回目の転機
しかし両親は貴族としての浪費を忘れられず借金を繰り返しているため普通に働いても借金の利息すら払えない状態だった
ならばより良い収入を得るために非合法のワーカーである『フォーサイト』に身を寄せ金を稼ぎ始めた
最初は疎外感から身を引いていたが仲間たちの暖かい思いに触れ、いつの間にか家の借金の事も話せるくらいに信頼関係が出来上がっていた
嬉しい誤算があった二回目の転機
妹のクーデリカとウレイリカの双子と共に家を出ようと考え、今ある借金を返し、後腐れのない様に家を出ようと最後の仕事―謎の墳墓探索―に向かい、遺跡と化した墳墓に侵入し捜索した結果、その墳墓は今まで見た事がないほどの宝物で溢れており家の借金を返済してもお釣りがくるくらいだった
多少の不安はあったが頼れる仲間たちとさらに奥に進んでいく・・・そして最奥の闘技場で一人の悪魔に絶対の忠誠を誓い三度目の人生の転機を迎えた
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「うわぁぁ!!」
まだ日も登りきらず薄暗い部屋にアルシェの声が響き渡る
言いしれぬ恐怖を感じ飛び起きた彼女は早いくらいに鼓動する自身の心臓の音で自分が生きていることに安堵し徐々に冷静さを取り戻していく
「お姉さま、またこわい夢をみたの?」
「お水もってこようか?」
横で寝ていた妹たちが心配して声を掛けてくれアルシェはここが現実であるとやっと自覚する事が出来た
「大丈夫よ二人とも。まだお外は暗いからもう少し寝ててもいいよ」
姉の優しい言葉に安堵し、二人は再び眠りにつき、それを確認したアルシェはベッドから起きだし水場で身支度を整え、食事の準備を始める。
というのも、ワーカーとして野外の経口食は作りなれていたがちゃんとした家庭料理はまだ不慣れなためどうしても時間がかかってしまうためである
保存されている野菜を黙々と切りそれが終わると肉も切っていく
一通り材料を切り終えると妹たちが眠そうな目をこすりながら起きだしてくる
「「お姉さま、おはよー」」
「おはよう、クーデリカ、ウレイリカ。もうすぐ朝ご飯だから顔を洗って着替えてきなさい」
「「はーい」」
姉の言葉に素直に従い水場に向かう妹たちを見送りながらこの幸せがあるのはあの御方のおかげだと心から感謝の気持ちが溢れてくる
もし、あの時遺跡には向かわず他の依頼を受けていたら私たちはどうなっていただろう?
いや、考えるまでもない、終わらない借金の返済に追われる日々を送り、何時かは危険な任務で命を落としていただろう
そして妹達は借金のかたにどこかに売られていくという未来もあったかもしれない・・・
「お姉さま、何かお手伝いはなーい?」
「なんでも言って良いんだよ」
暗い考えに浸っていたところに妹たちの優しく可愛らしい声が耳に入ると今まで頭の中に渦巻いていた暗い感情は無くなり、お手伝いをしたがっている妹たちに用事を言い渡した
「ありがとう、それならクーデリカは食器を並べて、ウレイリカは少しの間お鍋を見ていて」
「はーい」
「お姉さまはどこいくの?」
「畑から果実を取ってくるだけよ、二人ともお願いね」
二人に用事を言い渡し玄関の扉を開け外に踏み出していく。
朝の光が気持ちよく降り注ぎ、今日も天気が良いことがわかる。食事の後は洗濯をしなければと考えながら裏手にある自分たちの畑に向かおうとしたとき後ろから声がかかる
「よ、アルシェ、おはよう。今日も早いな」
「おはよう、ヘッケラン、朝の見回りご苦労様」
「おう、なんせ自警団団長様だしな、情けない姿はさらせないからな」
共に移住してきた『フォーサイト』のリーダーである彼はそのまま移住先であるカルネ村の自警団のリーダーに抜擢されその職務を忠実にこなしていた
ヘッケランも来たばかりの自分がリーダーなんて出来ないと抗議したがミスリル級冒険者に匹敵すチームのリーダーをしていた手腕とこの村の救世主アインズ・ウール・ゴウンの紹介もあり、なし崩し的に自警団団長の地位に座る事となった
「よかったら朝ご飯食べていく?」
「・・・いや、いいわ、イミーナが家で用意してくれていると思うし、また今度誘ってくれ」
「わかった、あとイミーナにお肉を分けてくれてありがとうって伝えて」
「おお、分かった。また手に入れたら分けてやるよ。でもって、その時はまた果物を分けてくれよな、あれ、すんごくうまいってイミーナも絶賛してたぞ」
「当然、あれは王族や貴族でも食べられないくらいの高級品」
「げ! マジかよ。そんな果実の木をあんなに所有しているお前って大金持ちになれるんじゃないか?」
ヘッケランが視線を向けた先には小規模な果樹園規模の木々がおい茂っていた
「そうでもない、高級すぎて何処にも卸せないし、下手に売りに出すとこの国の貴族の目をつけられてこの村を危険にさらす恐れがある。そんな事は断じて認められない、それこそ悪魔王サイファー様のご意志に逆らう事になる」
「そうだよな。おっと、少し話しすぎたかな。じゃ俺は見回りに戻るからな、妹たちによろしくな」
そう言って去っていくヘッケランの後姿を見送り、妹に鍋を任せていることを思い出したアルシェは急いで果実を取りに向かうことにした
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お昼に差し掛かるころアルシェの家には来訪者が訪れていた、アルシェは村人に気付かれない用に来客を招き入れ、いつも使っている椅子にクッションを置き来客の席とし来客が座る事を確認し事前に用意していたお茶の準備をおこなう
「森で取れた香草を使って入れたお茶です、良かったらどうぞ」
「おお、これは良い香りですな。お気遣いいただき、感謝しますぞ」
そう言って来客のエルダーリッチは出されたカップを持ち顔に近づけてお茶の香りを楽しみカルネ村での生活の近況報告という名の世間話に花を咲かせ始める
話をすればするほど、目の前のアンデッドの異常性が際立ってくる。まずこのエルダーリッチ、名をA作と言うが本当にアンデッドかというくらい普通に人間であるアルシェと会話ができ、生者に対してもまるで敵意を持っておらず、自分たちが定期的に来ると妹さんが怯えるかもしれないから、自分たちが来てる間はお隣で預かってもらえばどうかなどの気配りさえしてくる
「ふむふむ、果実が高級すぎて売るとこの国の貴族に目を付けられて村に危機が訪れるかもしれないですか・・・」
「はい、せっかくサイファー様に頂いたものですが現状は村の人々に配るか自分たちで消費するだけです」
「分かりました。このことは悪魔王様に進言し次回の訪問時には解決策かまた新しいものを持ってくることにいたします。今日はお忙しいところありがとうございます」
「い、いえ。こちらこそ・・・」
敵としてエルダーリッチとは数回戦闘をしたが、ここまで礼儀正しい姿に何度見ても違和感しかわいてこない
以前疑問に思い聞いてみたらA作と名乗るエルダーリッチは心の内を話してくれた
彼曰く、「自分たちの行動、言動、態度の一つで悪魔王様の名誉を傷つけてはあの方に合わせる顔がなく命をもって償っても返しきれるものではない、そう考えるとうかつなことはできない」と苦笑気味に話してくれた
本当に彼を見ていると自分の中のアンデッドの固定概念が砕けてしまいそうだ
そんな事を彼を見ながら昔のことを思い出しているとA作は何を思ったのかカップに入ったお茶を一気に口の中に流し込んだ
勿論骨だけのアンデッドなので口に流し込んだお茶は骨の隙間からすべて流れ落ち、着ていたローブがずぶ濡れになってしまった
「え、A作様。な、なぜそのような事を!?」
「いえ、せっかく出していただいたお茶に手を付けずに帰ってしまっては失礼かと思いまして、そして私の失礼は悪魔王様の名誉に傷を作る行為です、それだけは避けねばならぬのです!」
表情は分からないが何か思いつめたように力説し帰っていったエルダーリッチを見送りながらあんなに張りつめて仕事して生き辛くないのかと心配になり、次回からはお茶は出さずお香でも用意しようと心に誓うのであった
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「ごめんください、アルシェさんいますか?」
「いる、ちょっと待ってて」
来客が帰りその後片付けをしていると玄関から若い女の人の声が聞こえてきたので片づけを中断して玄関を開けると自分と同じくらいの年頃の女の子が申し訳なさそうに立っていた
「どうしたのエンリ? 何か困り事?」
エンリ・エモット、この村に移住してきて知り合った村人で数か月前の事件で両親を亡くし妹と二人で暮らしており、同じく妹がいるアルシェと何かと話したり、相談し合うくらいには親交がある人物である
「あの、新しい場所に薬草を採りに行きたいんだけど、力を貸してもらえないかな?」
「・・・別に構わないけど、報酬は?」
薬草を採りに行くなら向かうところはトブの大森林だろう、確かにあそこならば薬草の群生地が多々あるだろう。しかしあそこはモンスターも数多く存在する危険な場所でも、そのためワーカーを生業としてきたアルシェは反射的に報酬の話をしてしまう
「え? う~ん、取れる薬草の量にもよるけど・・・頑張って支払うよ!」
「半分は冗談のつもり。でもなぜ危険な森に入りたいかは聞かせてもらいたい」
アルシェの問いにエンリは少し考え、トブの森に行く理由を話してくれた
彼女は危険と分かっていて森に飛び込むのはカイジャリという名のゴブリンの装備を補修できないという言葉を聞いたからそうだ
包丁の研ぎくらいなら彼女でも出来るが鉄の武具を修繕するには本職の鍛冶屋でなければできず、村の護衛のゴブリンたちは予備の武具すらなく、装備が劣化してしまう前に薬草の収益で丸ごと補いたいというわけである
「ゴブリンたちは村の守り手だから村人から武具の購入に必要な分を集めたらどう? 私も少しなら出せる」
「ホントはそうしたら良いんだろうけど、私はあくまで個人としてカイジャリさんたちに恩を返したいのよ、だからお願い力を貸して」
そう言って頭を下げるエンリの姿に最後の依頼の任務中聞いた『ゴブリンの母親が宝石を出して子を助けてくれって頼んで来たら助けるか?』という言葉を思い出す
おそらく悪魔王様はこの状況が訪れることを予想して予めワーカー達の適性を見ていたのであろう
ならばアルシェの答えは決まってる
「顔を上げてエンリ、私も森に向かう、手伝わせてほしい」
「ああ、ありがとうアルシェさん。えっと報酬は・・・」
「いい、私はお隣さんに妹をもう少し預かってもらえないか聞いてくる、準備ができたら直接森に向かうから待っていてほしい」
「本当にありがとうアルシェさん。じゃ、私はンフィーにも声をかけてくるね」
ンフィーリアの家に向けて走っていくエンリを見送ると、アルシェは家の中にしまっていたワーカー時の装備品を取り出し、異常がないかを確認する作業を行うのであった
アルシェさんのお隣さんは赤ん坊を養子にもらった若夫婦です
近所付き合いは良好でクーデリカとウレイリカはよく赤ん坊の面倒を見に行ってます
サイファーさんの渡した果実の木からはナザリックの食卓にも採用されるレベルのものが実を付けます
うん、この世界だとその価値は物凄いものだね
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四十話目 カルネ村レポート ~中編~
トブの大森林での薬草採取はやはり一筋縄ではいかなった
森の奥には確かに未発見の薬草の群生地はあったが、同時に村にとっての厄災も同時に存在していた
薬草と厄介事を大量に抱えて村に戻って散策隊のメンバーは一時ゴブリンたちの住居に集まり今後の事を話し合う事にした
「簡単に言えば襲われたから逃げてきた」
そう発言したのは厄介事に巻き込まれているゴブリンの少年、たしかアーグという名だそうだ
悪霊犬に襲われているところをエンリの決断で助けた存在で何かしらの森の中の異変をしている貴重な情報源である
「簡単過ぎんぞ・・・。どんなモンスターに襲われたんだ」
アーグの言葉足らずに追加の情報を問いただしたのはエンリがアイテムを使用し召喚したというゴブリンの集団の一人、カイジャリである
悪霊犬と戦う時に共闘したが、その強さは並のゴブリンの遥か上を行き、人間と会話し戦闘の段取りを話し合えるくらい知識も高い。
これほどの実力を持つゴブリンをなぜ村娘であるエンリが召喚できたか問いただしたことがあったが、彼らを召喚したアイテムはもとはこの村を救ったアインズ・ウール・ゴウンより直接授かったと聞いて腑に落ちた、あの方達ならばしかたがない
「東の巨人の手の者だ」
「東の巨人なんでぇ、そいつは?」
「・・・お前たちはあいつをなんと呼んでいるんだ?」
「いや、呼び名がどうのの前に聞いたことがないんですけど・・・アルシェさん、ヘッケランさん何かご存知ですか?」
この中で最も博識なのはンフィーリアだがモンスターに関する知識ならば帝国でワーカーを生業としてきた二人のほうが上であろうと意見を聞いてみたが、二人とも顔を見合わせた後に首を横に振る
「すまないけど俺たちも東の巨人という存在については聞いたことがないな。この村に移住してきてから何度かイミーナとロバーと共に森に入ったがそれほど奥地まで探索したことがないから、森の住人ほど詳しくはないぜ」
「そう、だから森の住人であるアーグに基本的なところから説明をしてほしい」
「基本って何が基本なんだ?」
「なら、森に住んでいる強いモンスターから順に話してほしい」
俺からしたら悪霊犬やオーガも強いんだが・・・とぶつくさ言いながら森のモンスターについて語り始めた、最も聞けば聞くほど大森林の奥地は魔境だと思い知らされる
森に存在する東の巨人、西の魔蛇、南の大魔獣、これらの三大勢力が拮抗しておりある意味大森林の奥地は安定していたが、いつの間にか南の大魔獣が森からいなくなり、代わりに滅びの建物の主人が新たな勢力として現れ奥地の勢力バランスは崩壊し混迷を極め、残った二大勢力が手を組み滅びの主人を打ち取ろうという事である
それでなぜアーグ達ゴブリンが追われていたかというと、その討伐隊の戦力に加われと脅しされたが、彼の一族は良くて使い捨ての戦力にされ、悪くて非常食になるのが嫌で逃げてきたという訳である
話を聞きながら情報整理すると・・・アルシェは頭痛がしてきた気がした
いなくなった大魔獣は十中八十九、あの墳墓で悪魔王サイファーに『フォーサイト』の皆で忠誠を誓った後、集団としての戦力が知りたいと模擬戦の相手として彼が連れてきた魔獣がそうなのであろう、あの英知を感じされる力強い目、強靭な身体つき、大魔獣といわれるだけの風格があった
・・・一応言っとくと模擬戦は三回行われたが一回も勝てなかった
一回目の何でもありルールでは開始された瞬間、ハムスケと名乗る魔獣の尾が動いたと思うと意識がなくなり、気が付けば試合は終了していた
二回目は尻尾はなしというルールが追加されたがハムスケの魔法によりまったくチームとして動けず敗北に終わった・・・『全種族魅了/チャームスピーシーズ』で戦力の要を魅了しての同士討ちは流石に汚いと思った
三回目は尻尾と魔法なしという魔獣の長所を全部潰したルールで行ったが、この時少しでも善戦出来ると思った自分が恨めしい・・・なんで魔獣が『武技』を使うんだろう・・・
そんな化け物と同各の強さをもつ東の巨人、西の魔蛇、はっきり言って『フォーサイト』全員で全力で戦っても時間稼ぎが出来たらラッキーくらいだろうか。もっとも何秒かしか持たないだろう
滅びの建物はサイファーより渡されたカルネ村の資料にちょっとだけ書かれていた森に造っているダミーの館だと推測する
恐らくその事を知らない森の住人が無闇に近づき、建設の邪魔だと判断され処分されたのだろう
つまりはこのトブの大森林で起こっている異変ははっきり言えば、自らが絶対の忠誠をささげる組織のせいで起こっているといっても過言ではない
しかし、考えれば考えるほど、この状況に納得がいかない
あの、恐ろしい大墳墓の絶対者が、あの悪魔王が、森の奥地に自分達の拠点を造り、大魔獣を森から引き離すと森にどの様な変化が起こるのかを予想できない訳がない
それと、なぜ自分達『フォーサイト』はカルネ村の守護を言い渡されたのだろう、この村には恐ろしいとしか言い表せないほどの力を持つメイドが常駐しており、彼女が守護しているのならば自分達はいらないのではないか
話が停滞し始めたとき、ルプスレギナがこの村を救った魔法詠唱者アインズ・ウール・ゴウンに問題を解決してとお願いしてもいいと言ってきたが、エンリ・エモットが拒否したため、救援の件は一時保留となった
最も、サイファー様ならともかく、あの御方にはもう当分会いたくはないというのがアルシェやヘッケランの本音だった
・
・
・
「で、アルシェはどうするつもりなんだ?」
「え?」
話し合いが終わり、それぞれが帰路につく帰りにヘッケランが不意にそう問いかけてきた
「今回の件だよ。俺らはサイファー様の命令でこの村にいるわけだし、異変があったらやっぱ報告しといたほうがいいんじゃないか?」
「確かに、必要かもしれない。でも、今日村の近状を報告したから次にこの村に使者来るのは6日後になる」
「緊急時の連絡方法とかはないのか?」
「一応ある」
そう言って腰に下げている道具袋から街の魔法店よりも質が良いスクロールを取り出しヘッケランに見せる
「随分と上質なもんだな、中には何が入ってんだ?」
「・・・『伝言/メッセージ』の魔法」
「マジかよ、何でサイファー様はそんな信頼性の低いものを緊急用としてアルシェに渡したんだ?」
この魔法の逸話は有名なものでありほとんどの人が知っているものである、しかし当の本人はスクロールを大事そうに抱えながら恍惚とした笑みを浮かべていた
「それはもちろん私たちが嘘をつくはずがないとの信頼の現れに決まっている。あの強大にして慈愛に満ちた御方ならそう言ってくださるはず」
「お、おう、そうだな・・・」
帝国でワーカーを営んでいる時は感情をなるべく表そうとしなかった少女の笑みにヘッケランは若干引きながら複雑な思いを抱いていた
(昔より笑うのは良いんだけど、何か違う気がするよな)
大墳墓で味わった恐怖はヘッケランも偶に夢に見るくらい忘れがたいものだったが彼らは一度死亡し、恐怖体験は終了したがアルシェは違う。相手の魔力が分かるというタレントによってさらに恐怖を加算され、目の前で仲間が殺され、命がけで逃がしてくれたが逃走中に助けを求めたアダマンタイト級冒険者は実はこの墳墓の絶対者の友人であり決して逃げられないという絶望に立たされた状態からのハッピーエンド
究極の飴と鞭というか、最悪のつり橋効果というか、心労性ショックというか・・・この事件後よりアルシェは悪魔王サイファーにかなり心酔している事はある意味仕方がないことである
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エンリ・エモットがエ・ランテルに薬草を売り必要な資材を買い付けに行った翌日、お隣の夫婦が畑に行っている間赤ん坊を預かってほしいとの要望を受け、いつも妹達を預かってくれているから構わないと赤ん坊を預かり妹たちと揺り籠を揺らしていると、不意に扉をノックする音が響く
お隣さんが戻ってくるには早い時間だと考えながら扉を開けるとそこには泣き笑いをしているかのような奇妙な仮面と仰々しいガントレットをはめた魔道士風の者が立っていた
「・・・敵!?」
完全に油断していたが目の前の怪しい男?は微動だにしていなかったため先制攻撃を受けるとこはなかった
アルシェは自らの油断と失態に顔をしかめながら後方へとすぐさま移動し怪しい男?と距離を話すとすぐさま魔法の詠唱を始めようとしたが・・・・
「ちょ、ちょっと、待ってほしい!! アルシェ殿、私だ! A作だ!!」
目の前の男は慌てながら腕の赤い腕章を見せ敵意のない事をアピールし始める
相手の正体が分かった途端、アルシェの顔色はみるみる青くなり
「本当に申し訳ございません。私の早とちりでこのような無礼を働いてしまいました。私は如何なる罰も受けますので、妹たちだけは助けてください!」
「顔を上げてください。私のほうこそ女性宅にお邪魔するのに配慮が掛けていました・・・ここはおあいこという事で・・・」
「ありがとうございます。ところで今日はどの様なご用件でしょうか? 次の定期連絡は5日後のはずでは?」
「うむ、この前の果実の問題なのだが、代わりのモノを幾つか悪魔王様に選んでいただいたので少し予定よりは早いが届けに来たというわけだ」
「それは、ありがとうございます。それで、その御召し物はいったい?」
いつもと違って怪しさ満点の仮面を指さすと彼は何の問題はないとばかりに淡々と答えた
「ああ、これかね。これは今回は急な来訪だったため家に君以外が誰かいた場合アンデッドが出たと騒がれない様に変装したのだよ」
確かにアンデッドとバレるよりはましだと思うが、どっからどう見ても物語の悪者にしか見えない
「・・・そうですか。ここではなんですので、お入りください」
いつもの様に家の中に招き入れると二人の妹はやはり仮面が怖かったのかアルシェにしがみ付き半泣きの状態になり今にも泣きそうだったが、預かっている赤ん坊は恐怖を感じないようで、A作に抱きかかえられ仮面のままいないないばーとかされても泣きもせずき上機嫌で笑い声を上げていた
・
・
・
「なんと!! 森の中にそんな脅威が存在していたとは!!」
「はい、皆との話し合いで、アインズ・ウール・ゴウン様に頼るのは最後の手だと決まりましたが。一応悪魔王サイファー様のお耳にお入れ頂いたら幸いです」
「任せておきたまえ、すぐさまエ・ランテルに向かい、悪魔王様より助言を頂いてくる!!・・・あっ、新たに持ってきた物は玄関に置いていくから後で確認したまえ。中に説明書も同封してあるので困ることはないと思う。では、また!」
そう言ってA作は玄関を飛び出してエ・ランテルに向けて走り去っていく
魔法も使わず走り去っていく彼を見送ったアルシェは玄関に置かれた袋を机の上に運び、中を確認すると幾つかの植物の種子が入った小袋が幾つか入っており、それぞれの袋の縛り口に種子の生育の方法が書かれたメモが括り付けてあったため椅子に腰を下ろし確認していく
「・・・・確かに前の果実の木よりはマシだけど・・・こんなの売れるはずがない」
机の上に倒れこみ、やっぱりエンリに街で内職の道具でも見繕ってもらうべきだったと考えながら、妹たちが声を掛けるまでうなだれるしかなかったアルシェであった
袋の中の内容
その① 野菜タイプ トマト(割ると金色輝くタイプ) カブ(某女神様の大好物) ナスビ(みんなに・・・笑顔を・・・)
その② 薬草類 木精霊調整済マンドレイク(鳴き声はもちろん 『アインズ・ウール・ゴウン万歳!!』 )
あとその他諸々。
選別した悪魔王様はちょっとでも高く売れそうなのを選びました
もちろん悪意0です
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四十一話目 カルネ村レポート ~後編~
「あうー、疲れた」
エンリは持っていた小さな黒板を机の上に投げ出し、ぐったりと体を預けると頭をコツンと杖の先端で小突かれ、かすかな笑い声が聞こえる。
声の聞こえる方に顔だけ動かすとそこにはンフィーリアの笑顔と先ほどエンリの頭を小突いたアルシェの顔がそこにはあった
「・・・まだ授業は終わってない、しゃきっとする」
「アルシェさん、もう疲れたよ~。頭を使うのは苦手なんだから・・・ンフィーも笑ってないで何か言ってよ」
「ははは、ごめんごめん。でも、アルシェさんの言う通り、まだ授業は終わってないよエンリ」
「ううー、なんでこんなに文字ってあるのよぉ。私を苦しめるために誰かが考えたんだぁ・・・」
「そんなこと言わないで。自分の名前はちゃんと書けるようになったじゃないか。それにネムちゃんのも」
「う~、それは少し嬉しかったけど・・・もうこれだけ出来れば良いんじゃないのかなー」
「残念だけど、まだ基礎の基礎。最低でもこの教科書は終わらせたい」
アルシェが取り出した少し使い古された分厚い本を見せられ、エンリは信じられないものを見た人間に相応しい表情を浮かべ、その顔を見たンフィーリアは助け舟をだす気持ちでエンリを慰め始める
「あー。そんな顔をしないでよエンリ。アルシェさんが貸してくれてる教科書は帝国産のすごく質の良いものなんだよ、だからちゃんと出来ればすごく君の力になるよ。だからここが頑張りどころだとも言えるね、うん」
「・・・うー」
勉強疲れのためか覇気のない返事がエンリより漏れ出してくる
「エンリもだいぶ疲れているみたいだし、アルシェさん」
「・・・わかった。エンリ、今日はもう終わりにしましょう」
二人が顔を見合わせ授業の終了を決めると、待ってましたとばかりにエンリは立ち上がる。
「それが良いよ! 明日も早いしね!さっすがンフィー」
「やっぱりまだまだ余力があるみたいだから、もう一ページ追加する?」
ひぃーと悲鳴を上げながらアルシェに泣きつくエンリの姿をンフィーリアは苦笑いを浮かべつつ黒板に書かれたミミズがのたくったような文字を消していく
「二人とも、ネムちゃんが起きちゃうからその辺にしといたほうがいいよ。それじゃ、ゆっくり休んでね。明日は僕一人だけだけど同じ時間から勉強を始めるからね」
「実験をする時間を私に割いてくれるのは凄く嬉しいの。でも全然感謝出来ない・・・」
「うん、うん。そういうものだよね。生徒に感謝されるよりは恨まれる方が良い教師だと聞いたことがあるよ」
「私も聞いたことがある・・・気がする」
「嘘よ!絶対に嘘、それ!」
「あははは。さぁ、それじゃお暇しないとね。お休みエンリ」
「うん、ンフィーもお休み。帰って実験とかしないで寝たほうが良いよ。アルシェさんも妹さんのことがあるのにこんな時間までありがとう」
「大丈夫。ありがとうエンリ。それじゃお休み」
エンリに挨拶をしてアルシェはンフィーリアと共に玄関から外に出て魔法の明かりを灯し家に向かって歩き始める
・
・
・
眠りについてどれだけの時間が経過しただろうか、遠くから聞こえる鐘の音にアルシェは眠りから覚醒する
三連打の鐘が鳴り少し間を置いてから繰り返される鐘の三連打、訓練の時に何度も聞いた緊急非常事態の合図だ
その音の意味を理解しアルシェは眠りから覚醒し、ベッドの脇に収納しているワーカー時の装備品に着替え今だ完全に覚醒していない二人の妹に声をかける
「クーデリカ、ウレイリカ、起きなさい。非常事態警報が鳴っている、急いで避難の準備をして」
「「うん」」
二人の返事には怯えがあるが、日ごろの訓練と大好きな姉が傍にいる安心感からその行動はスムーズに行え、アルシェは二人の手を避難場所である集会所に向け走り出す
「クーデリカ、ウレイリカ。二人とも日頃の訓練と同じようにちゃんと良い子で隠れているのよ、私も問題が解決したらすぐに戻ってくるからね」
集会所の近くまで来るとアルシェは二人で向かうように声を掛けるが妹たちはいつもとは違う村全体がひり付いた空気に怯えアルシェの手を離そうとはしなかった
「大丈夫。帝都にいた時と同じよ、すぐに終わらせて帰ってくるから、そんなに怖がらないで・・・ね」
二人の妹たちと同じ目線まで身を低くし優しく語り掛けると二人は涙目になるも泣く事はなく、小さく返事をすると意を決したように二人で手をつないで集会所に向けて走り出していく
そんな二人を見送りながらアルシェもその後ろをついていきたい気持ちに駆られる。せめて妹たちが無事に集会所まで駆け込むまではと。
しかしアルシェの頭の中で悪魔王の使いの声が何度も再生される・・・責務を果たせ・・・と
・
・
・
アルシェが正門に到着するとそこには真新しい装備で身を固めるゴブリン達に凶悪な棍棒を握りしめているオーガ達にアーグと彼の部族の構成員が二人、そして幾度となく苦しい依頼をこなしてきた信頼できるワーカーの仲間たちの姿があった
「ごめんなさい、少し遅れた」
「大丈夫ですよアルシェ、みんな今しがたそろった所ですから」
「もし気にしているんなら、その分しっかり働いてもらうからね」
「おいおい、お前ら少しは緊張感を持てよ、今は非常事態なんだぜ」
懐かしい軽口がアルシェに向けられるが元ワーカーである、ヘッケラン、ロバーディック、イミーナらに油断も隙も見当たらず常に周りを警戒している
「これで全員か? リイジーさんは遅れてくるのか?」
「いや、おばあちゃんはここには来ない。集会所の方に行ってもらったよ。あっちも大切だからね」
「自警団のメンバーからも何人か集会所の警備に回ってもらったから、そっちの方は今は大丈夫だろう。で、ジュゲムさんよ、敵の数は分かるのか?」
ヘッケランの言葉に場の緊張感が高まり、その場にいた誰かだ唾を飲み込むのと同じタイミングでジュゲムが答える
「ヘッケランさんよ。相手は森の中だ。正確な数字は分からねぇ。それを頭に入れた上で聞いてくれよ? ・・・オーガが7匹、ジャイアント・スネークが数匹、魔狼が数匹、悪霊犬らしき影、あと後方に巨大な何かがいるらしい」
「ヴァルグや蛇がオーガと一緒に行動している? ・・・森司祭が後方にいやがるな」
「可能性は高いね。魔法詠唱者がいるとなると非常に厄介だ。相手も遠距離攻撃の手段を持っているという事だからね。アルシェさん、もし森司祭がいたら対処をお願いします」
「分かった」
「おい、作戦は侵入者対策二番で良いんだな。最初は弓で遠距離攻撃を仕掛け、敵が接近してきたらバリケードの後ろからの槍攻撃、とにかく敵を狙わないで構わないから突く」
「ああ、そいつで頼む。ヴァルグや悪霊犬は俊敏だ。奴らを自由にさせると被害が拡大するからそいつらは優先的に狙ってくれ。それと森司祭がいた場合はヘッケランさん達に任せても大丈夫か?」
「へへ、誰にモノ言ってんだ。それくらいは対処してやるさ」
「なに調子の良いこと言ってんだか、あんた一人じゃ遠距離から魔法を食らっておしまいよ」
「イミーナの言う通りですよ、あなた一人ではなく我々で対処しましょう」
「と、ところでたくさん攻めてきたということは、それなりの手数を揃えることが出来る存在、もしかして東の巨人や西の魔蛇の可能性もあるのか」
あ、逃げた、とアルシェの声が小さく漏れたがヘッケランは構わずジュゲムに顔を向けると小声で肯定してきた
小声という事はアーグがモンスターを引き寄せてきたという懸念を周りの者に聞かれないための配慮であろう
「西の魔蛇は何か得体のしれない魔法を使うんだろ、厄介だな」
ヘッケランのぼやきにアルシェから同意の言葉があがる
「モンスターが種族的に使う魔法は十種類もないくらい、しかし習得していくタイプのモンスターは魔法の多様性に富むから非常に厄介」
「ンフィーやアルシェさんも魔法が使えるのは嬉しいんだけど、魔法って敵が使うとイカサマ臭いよね」
エンリが不満げに言うと、村人から苦笑が漏れた
「・・・ゴウン様には内緒だよ?」
続けての言葉に村人から笑みがこぼれ、周りの緊張感も多少和らいでいき丁度良いと思われる雰囲気まで落ち着いてきたと思われる
「自警団の人たちは安心してくだせぇ。遠距離から弓を射てくれりゃあいいんですよ。前衛は俺たちが引き受けますし、いざという時は団長たちが何とかしてくれますさ」
こうしている間にも村に向けて魔物の一団は刻々と近づいてきつつあった・・・
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以前帝国の兵士に扮するスレイン法国の兵士に襲われた時とは違い、アインズ・ウール・ゴウンに提供されたゴーレムによって要塞化したカルネ村は以前とは比べようもないほど強固になっていた
それに加え、練度は低いが弓を使える村民による壁越しに山なりに矢を放たせモンスターを撃破していく
しかし、それだけではすべてのモンスターは倒しきれず、村を守る扉に攻撃が集中し扉の片側が破壊されモンスターの侵入を許してしまう
「くく、能無しのあんぽんたんども、必殺の陣形にようこそ」
もちろん門が壊されるのは想定内であり、わざと破壊されやすい扉を準備しておき相手の侵入を抑制するのが目的だ
「狙い通り『電撃/ライトニング』」
片方のみ開いた扉からオーガ達が侵入してきたところに電撃の魔法が数体の体を貫き肉の焦げた匂いが立ち込め、敵の動きが鈍ると相手より装備が若干良く補助魔法をうけた味方のオーガが優位に立って殴りつけ、それを自警団が槍で支援し、ンフィーリアより渡された錬金術アイテムが乱戦の間に乱れ飛び戦場をさらに優位にしていく
相手には魔法詠唱者はどうやらいないらしく、まだ予備戦力に余裕があり勝利は間違いないと思われた。だが
「なんだありゃ!? トロール・・・なのか?」
勝利が目前まで迫った戦場にオーガと見た目は違うが、同じくらいの大きさを持つ巨人が奇妙なぎくしゃくとした動きで迫ってきている。その手には異様な雰囲気を発する巨大な大剣が握られていた
「ボスってところか? まさか、あれが東の巨人?」
こちらに近づいて来る巨人はその名に相応しいだけの雰囲気に迫力がある、一度見た大魔獣と同格というのも頷けるプレッシャーを放っている
トロール一体だけでも総力戦で挑まなくてはいけないほどの力の差がある、まして東の巨人とまで言われるあいつはどれほど厄介な存在かは言うまでもない
迫りくる巨人を前にしてジュゲムは考える。勝算がないのならエンリを連れて逃げるのが得策ではないのか、嫌がるだろうが自分達ゴブリンにとっての一番の優先順位はエンリの安全なのだから
「いや、最善じゃねえな。最悪の手であり、最後の手段だ」
ジュゲムは吐き捨てるように周りの味方に号令を掛ける
「お前ら! これから俺らは死ぬぞ。 後ろに下がるとか甘ったれた考えは捨てろ! 俺たちの雄姿をこの場にいる全員に焼き付けさせろや!!」
号令を受けたゴブリン達からは戦意に満ちた咆哮が上がり、一瞬だけその場にいた敵味方関係なく動きを止めたが
ジュゲムの前に動きを止めなかった4人が飛び出してきた
「勇んでるとこ悪いんだけど、東の巨人は俺たちが討たせてもらうぜ」
「お、おまえら・・・」
「まったく。カッコつけるのは良いんだけど、私らのこと忘れてたでしょ?」
「ええ、全くです。ジュゲムさんは私たちが抜けた穴を受け持ってください。ブリタさんだけでは少々心もとないので」
「・・・村を守るのは私たちの使命。必ず果たして見せる・・・」
「チッ、せっかく覚悟を決めたってのにしまらねぇなぁ。お前ら。前言撤回だ後方に引くぞ! 団長さんたちが抜けた穴をふさぐぞ!」
ジュゲムの号令を受けたゴブリン達は後方に下がり戦場には東の巨人と言われるトロールと4人の人間のみが残された
「行くぞ!! 俺たち『フォーサイト』がいまだ健在だということを見せつけてやるぞぉ!!」
・
・
・
エンリとネム、そしてンフィーリアがナザリック地下大墳墓に招待されていったのを何とか笑顔で見送った後、アルシェの家にエルダーリッチの二体が大きな荷物を抱えながら現れフォーサイド全員を集めろと言ってきたので言われるまま全員を自宅に集めるとエルダーリッチ達は話を始めた
「本日はお日柄もよく皆様と再び顔を合わせられたことを喜ばしいと思います」
「あなた方の活躍には悪魔王様も大変お喜びになられており、ささやかながらお食事のご用意をさせていただきました」
これがささやかな食事? そう思わずにはいられないほどの豪華な食事に酒類が大きなテーブルの上に所狭しと並べられていた
「おお・・・マジかよ。こんなん帝都でも食ったことがねえよ」
「てか、量が多すぎよ、四人だけじゃ食べきれそうにないね」
「ははは、ご安心ください。悪魔王様より食事を保存できる魔法アイテムをお貸し頂いておりますので、食べきれない分はお持ち帰り下さって結構ですよ」
「あの、私たちだけじゃなんなので妹たちも呼んできてもよろしいですか?」
「どうぞ。我々の用事は済みましたのでもう帰りますので、後のことお好きになさってください」
「左様、そうそうアルシェ殿。今回もまた悪魔王様よりお荷物をお預かりしておりますので後で確認しておいてください」」
「はい、いつもありがとうございます」
言うことが済んだとばかりにエルダーリッチ達は転移のスクロールを発動させ帰っていき『フォーサイト』の四人のみが残された
「おっしゃ~!! こんなご馳走にありつけるなんて超ラッキーだぜ。おい、イミーナ、そこのワインから入れてくれよ!」
「ああ、もう! 私が作った食事の時はこんなに喜ばない癖に、はしゃぐなみっともない! 」
「まぁまぁイミーナ。生きてまた皆と食事ができるのですから今日くらいは良いではありませんか。アルシェ、ここは私が収めますから、あなたは妹さんたちを連れてきてやってください」
「わかった。ありがとうロバー」
豪華な食事を前にぎゃーぎゃー言いあうヘッケランとイミーナ、その間に入り場を収めようとするロバーディック
昔見た懐かしい光景に自然と笑顔になり、今この場にいることに感謝をしながらアルシェは妹たちを呼びに奥の部屋に向かうのであった
願わくばこの幸せがいつまでも続きますように・・・・
しかしそんな幸せな気分も皆が帰った後悪魔王より新たに授かったモノを見て一気に憂鬱なものへと変わってしまった
「・・・あの御方の考えていることがわからない・・・これは私を試しているの!?」
ちゃんとお世話をすると金の卵を産むというガチョウの鳴き声が静かな家によく響いた・・・
悪魔王サイファー、度重なるダメ出しに「そうだ。俺の選んだものが売れないのなら直接お金になるものを渡してあげよう」という思考停止に陥った模様
相談しようよ・・・頼りになる人は沢山いるはずでしょう・・・
金の卵を産むガチョウ。元ネタは有名な童話『ジャックと豆の木』
金は殻だけなので中身はおいしく食べられます
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四十二話目 魔導国建国物語 ~序章~
ナザリック地下大墳墓では絶対的支配者であるアインズ・ウール・ゴウンの偉大なる計画が遂行中であり、近日中に帝国の皇帝を招くとあって少々慌ただしかった
ナザリックの知恵者二人は作戦中に想定外のことが起きても対処できるように高レベルのシモベを待機させ万全の準備を勧め、帝国の皇帝をナザリックに招待しに行った双子のダークエルフの守護者も無事に帰還しそれぞれの持ち場にて仕事をこなしている
一般メイドやプレアデス達も一般業務に加え作戦に使用する物資の運搬にいそしんでいた
まさに組織が一丸となって作戦の成功を目指していた
そんな慌ただし空気の中、第十階層玉座の間にてサイファーとアインズは二人だけで最後の詰めの確認をしていた
「良くぞ来られたバハルス帝国皇帝よ。私がアインズ・ウール・ゴウンだ」
玉座に深く腰掛け足を組みながら尊大に答えるアインズの姿を確認したサイファーはアインズ近づき声を掛ける
「う~ん。やっぱり『ナザリック地下大墳墓が主人』ってセリフはカットしないほうがよさそうですね」
「そうですか? 俺としては長いセリフは少しでもカットしたいんですけど・・・」
「気持ちは分かりますけど、やっぱりアインズさんはギルドのトップなんですからカットしないほうが支配者らしいですよ。はい、もう一度。」
あまり長いセリフは言いたくないアインズであったがギルド長として気持ちを入れ替え再び威厳に満ちた声を作り言葉を発する
「良くぞ来られたバハルス帝国皇帝よ。私がナザリック地下大墳墓が主人アインズ・ウール・ゴウンだ」
訂正された箇所を修正しアインズは堂々と名乗りを上げた
「やっぱりそう言ったほうが貫禄と言うか威厳があって良いと思いますよ」
「お、そうですか。じゃ、メモに書いときますね」
その言葉を受けアインズはアイテムBoxよりメモ帳を取り出しセリフを書き足していき、サイファーはアインズの周りをウロウロしながら何やら思案していた
「ん? どうかしましたか?」
「あ、いや。やっぱり足は組まないほうが良いかなって。ほら、足を組んで座っていると態度が悪いって思われちゃうかもしれませんし」
「ああ、確かにそうかもしれませんね、・・・こんな感じでどうですか?」
「いや、足はくっつけないで少し開く感じで目線は相手を見下すようにして・・・グット! 素晴らしいですよ。」
サイファーの修正によりアインズは『カッコいい支配者の座り方』を覚えた。もっとも本当に素晴らしいかは分からないが守護者統括ならびにシモベ達全てはカッコいいと絶賛されること間違いないだろう
次にサイファーはメモを見ながらその他に気を付ける事をアインズに質問し始める
「じゃ、次。帝国の皇帝の名前は?」
王族や貴族の名前はどの世界でも長ったらしく言いにくいものが多く、言い間違いなどしたら赤っ恥もいいところであり、下手をすれば内外共に取り返しのつかないことになりかねない大事なことである
ちなみにサイファーは自分が目を掛けているはずのアルシェの名前を覚えきれていないのはここだけの秘密である
「それは散々練習しましたから楽勝ですよ。ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ!」
得意顔で答えをすらすらと噛まずに言い放つアインズ
「マジかよ。一発で答えやがった」
「ふ、もはや昨日までの私ではないのだよ」
サイファーおぢちゃん時間だよ♥
サイファーが次の予定を口にする前に右腕に付けている時計から甘えたよう猫なで声が聞こえてきた
「おっと、もうこんな時間か。アインズさん次は会談での装備品の調整の時間ですよ」
「もうそんな時間ですか。確か偵察の報告では明日の昼頃にはナザリックに来るんですよね」
椅子から立ち上がり身体を伸ばす動作を行っているがアンデッドである彼はそんな動作などしなくても良いのだがアインズの中に残っている人間としての習慣は今だ根強く生きているのだ
「そうですけど。まさか緊張しているんですか?」
「もちろんしています。いや、正確には皇帝との会談の後の守護者達との話し合いの方が憂鬱で・・・失敗してつるし上げられたらどうしよう」
どよーんとした空気がアインズから漂い始めるがサイファーは声を出して笑いながら慰め始める
「はっははは! そんな心配しなくてもあいつらがアインズさんの失敗を怒るはずないじゃないか。それにこの計画はアインズ様の考えられた計画ですよ。ミスなどありはしませんよ」
「ほう、アインズの計画か。なるほど俺と同じ名前の者が何か特別な計画を立てているようだな、それは頼もしい・・・ってアホか!」
どうやらアインズはサイファーの励ましでノリツッコミ出来るくらいまで回復したようで心なしか顔に笑みが戻ったように思われる
「ふぅ、思いがけず精神の安定化が働いてしまった・・・で、サイファーさんは当日はどこにいるんですか?いつも通り玉座の横で待機ですか?」
もしそうならいつも通りフォローしてもらえる、そう考えての発言だったがサイファーの口からは思いがけない言葉が飛び出した
「え? 俺は出席しませんよ」
「な、なんでですか!」
アインズはサイファーに食って掛かるが当の本人は軽く受け流すがどこかバツが悪そうに話し始める
「いや、正確には出席はするんだけど完全隠蔽を施して玉座の裏でスキルを使ってアインズさんを守るのが役目だって。ほら、俺って王都の一件もあって素顔が結構知れ渡っちゃったでしょう、だからデミウルゴスやアルベドが俺があまり表に出るのは感心しないって」
あまりのことに衝撃を受けたが、話を聞く限りあまり間違ってはいない
「だから一人で頑張ってください(笑)」
良い笑顔の友人に少しむっとしたアインズは無防備な頭にチョップを食らわせたが、当たると同時に自分の頭にも軽い痛みが走った
ダメージカウンター特化、まさかこんなじゃれ合いでも発動するとは恐れ入ったとアインズは一人思うのであった
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会談が終わりアインズの自室には守護者達たちとセバスとサイファーの姿があった
その場にいる全員サイファーという例外を除けば全員がひれ伏しアインズの言葉を待っていた
アインズは肘を机に突いて手を組むと顔の半分をその後ろに隠す
このポーズは威厳を出すためのモノではなく冷静に周りの人物の顔色をうかがうためのものである
会談の準備期間に友人に冗談半分で言った『つるし上げ』という言葉が胸をえぐり、胃がチクチクと痛む気がする。
そんな気持ちでまずはナザリックの頭脳でもあるデミウルゴスとアルベドの様子をうかがうが怒りも呆れの雰囲気すらなく静かにひれ伏している
それがポーカーフェイスでない保証はないが万が一がある
次に横で待機しているサイファーに視線を移すが彼は何も問題がないとばかりに佇んでいた
(く、逃げたいが最早やるしかない。大丈夫だから、覚悟を決めろアインズ・ウール・ゴウン・・・フォローは任せますよサイファーさん)
そう決心すると不思議と胃の痛みは小さくなったが吐き気のようなものはまだ少し残っていた
帝国の皇帝が予定通りにくると聞いた時、対峙しなければならないアインズは当然デミウルゴスに『どうしたらいい?』と遠回しに聞いたら『想定道理ですのでアインズ様のお心のままに』などど返されてしまい、それでもアインズはサイファーに頼んで再びデミウルゴスに聞いてみたが『ふふふ、サイファー様もお人が悪い。ご心配なさらずとも手は回しておりますよ』と言われたらしい
その想定が分からないんだよ・・・などとは言えるはずもなく今日もアインズはナザリック地下大墳墓の絶対者として君臨する者の態度で帝国の皇帝であるジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスと会談を行ったのである
もっともアインズはなるようになれと半ば思考を放棄して臨んだため自分が正しい交渉が出来た気は全くなかった。
それでもアインズは帝国が自分の想定通りに動いたと皆に発言し続きを話そうとしたとき、シャルティアより『帝国など力で支配したほうがよいのではありんせんか?』と質問されドキリと心臓が音を立てた気がしていたらほかの皆もその通りだという雰囲気になり、なぜ主人がその選択肢を選んだか疑問に思い、アインズの考えをはき違え一回失敗をしているシャルティアやセバスは真剣な顔でアインズの言葉を聞き逃さないようにしていた
アインズはこの流れを払拭するため博打ではあるが彼女らの意見を否定する発言をすることを選んだ
「それは愚行だと私は考えているぞ、シャルティア」
間違っていてもサイファーと二人がかりで起動修正すれば何とかなるはずだそう思い口にしたが、口にしたら最後周りの守護者達は目を輝かせながら続きを聞きたがっていた
「・・・デミウルゴス」
「はっ!アインズ様のお考えが理解できない者たちの無能、お許しください」
「いや、デミウルゴス、無能は言いすぎでしょう」
「失礼いたしました。お許しください、サイファー様」
「いや、皆も気にするな」
サイファーが細かいフォローをしてくれているがアインズが聞きたいのはそういうことではない。
ダメもとで名を呼べば賢い彼が助け船を出してくれるはずだと求めたがやはりダメだった、だがまだチャンスは残っている
「・・・アルベド」
「アインズ様の優しきお心づかいに感涙の思いです。流石は我らの支配者、絶対なる王!」
「・・・・・うむ。ではサイファーさん」
賛辞より答えが欲しかった。最後の砦である妙に察しが良く、口が上手いような気がする友人にも一応声を掛けてみた
友人は何か考えるそぶりを見せたが重々しく口を開いた
「大義名分が必要だったんだよ」
「ソノヨウナモノガ必要ナノデショウカ?」
「俺は必要だと思うね。確かに俺たちなら力で支配するほうが簡単だけど、それでは敵を必要以上に作ってしまう。今回のことを誰かに説明しろ言われたら『静かに暮らしている俺たちのギルドに帝国がワーカーを送り込み、財宝を奪ったので怒りからそいつらを殺し、依頼主である帝国に抗議し謝罪を求めたら、国を作るので許してほしいと言ってきた』とね。帝国を協力者に置くのもその一環だと俺は考えるね」
「なるほどー。でもサイファー様、説明せよと言ってきた相手がそれで納得しますか」
「ん? 俺は何か嘘を言ったか? 相手がどう言うおうとこれが事実なんだよ」
サイファーさんも自分と同じことを考えていたのかとホッとし、周りからもサイファーの答えに納得がいったという声が上がり始め、帝国ではなくナザリックに皇帝を呼んだのは証拠を残さないためだとマーレが発言し感心の声が上がる。アインズは改めてデミウルゴスの叡智に驚き、自分の代わりに発言した友人の顔を見ると、見事に目が死んでいた
どうやら彼もいっぱいいっぱいだったようだ
「それに国を作ると言うことは保護対象が増るということでもある。廃墟となった国では、アインズ・ウール・ゴウンの名が泣いてしまうぞ。さて他に気がついた者はいるか?」
最後の気力を振り絞って友人は話を締めくくった。もちろんマーレのように何か気がついた者はいないかと言う意味だ
守護者達の目はデミウルゴスに集中し、ナザリック最高の知能を持つ彼ならば何かあるのではないかという考えからだろう。無論アインズとサイファーもその考えに賛同しデミウルゴスに視線を向ける
「くくくく・・・君たちは本当にアインズ様の計画がそれだけだと思っているのかね?」
予想外とも言えるデミウルゴスの言葉に二人は絶句するが、おなじく頭脳明晰なアルベドは笑い声をもらし、他の守護者達は驚いている
「皆、少しは考えるべきだだ。我らの主人にして、至高の御方々をまとめ役であったアインズ様がその程度の思考しかされていないはずがないだろ」
二人が絶句している間に守護者達は確かにと顔を見合わせ各々頷いている『何、ハードル上げてんだよ!」とアインズは心から叫ぶが、しかしその叫びを理解してくれる者は隣にいる友人しかおらず、話は進んでいく
「全くよ。サイファー様から分かりやすい答えだけを聞いて真意を悟ったつもりになるのは早計過ぎるわね。だからアインズ様もすぐには深い部分の答えをお聞かせくれないのよ?」
その言葉に他の守護者は悔しさを顔に浮かばせているが当のアインズはポーカーフェイスが保ちやすいからアンデッドで良かった~などと心の底から思い、サイファーは僅かに額に汗を浮かばせていた
「やれやれ、サイファー様もお人が悪い。・・・アインズ様私の仲間達にもアインズ様の真の狙いを告げておいたほうが良いのではないでしょうか。今後の方針にも係わって参りますので」
全員の視線がアインズに集まり、愚鈍なる自らに教えて欲しいという、懇願を込めた視線だった
アインズは一息、いや数度呼吸を繰り返し、友人であるサイファーに視線を向けると彼もアインズと同じく何かを悟った顔をしていた
ゆっくりと椅子から立ち上がり守護者全員に背を向けるとデミウルゴスに何時ものセリフを言い渡す
・・・即ち『デミウルゴス、説明してあげなさい』である
~悪魔王サイファーの影響~
『ナザリック地下大墳墓』
『ギルド長モモンガさんの場合』
共に転移したのが極端な問題児でも人間に厳しい悪でもないお人好しな悪魔だったためモモンガさんの胃はストレスで傷んでおらず生活にも余裕がみられる
しかし、お人好しの悪魔のためナザリックの守護者達からの期待は裏切れずモモンガ同様流されてはいるが悩みを共有できているため負担は軽くなっている
独りぼっちではないため人間性は余り薄れていないが、あくまで原作と比べるとでありアンデッドらしさもしっかりとある
あと指輪の力で飲食可能になったがサイファーが食事に誘わない限りは仕事を優先させている
サイファーの事は良い友人だと思っており、いつかは二人で未知を求め世界中を旅したいと思っている
「シャルティアの場合」
原作同様洗脳されモモンガに反旗を翻したがサイファーが与えた罰やエ・ランテルの屋敷での活躍などでモモンガから称賛される機会が増えているので原作ほど腐ってはいない
サイファーの事は至高の御方として尊敬しているがモモンガよりは魅力を感じないらしい
「コキュートスの場合」
あまりサイファーと関わっていないが訓練用に高レベルの傭兵モンスターを度々用意してもらっているのでご機嫌な様子である
サイファーのダメージカウンター特化の戦いに興味を持っており、いつか勝負を挑みたいと少なからず思っている
「アウラ、マーレの場合」
仕事の合間にサイファーがアウラのシモベの獣をモフりに来るので意外と交流があり、会うたびにお菓子などを差し入れしてもらっている
自らの創造主であるぶくぶく茶釜との思い出話を語ってくれるのでサイファーの事を至高の御方と思っているのと同時に気の許せる相手だと認識している
姉のアウラはどちらかというとサイファーよりモモンガのほうが好きなようである
「デミウルゴスの場合」
サイファーの策によりアルベドが冒険者として外で活動することになったので必然的にナザリックでの仕事量が増えたが本人はやりがいがあると喜んでいる
最近の悩みはサイファーの妃候補はどうしようかと思いをはせている
仕事量が増えたため牧場経営は原作よりやや効率重視に変更されている、それが牧場の羊たちにとって幸福か不幸かはわからない
サイファーの事はモモンガ程ではないが侮れない頭脳と柔軟性を持っていると思っている
「アルベドの場合」
最初は長いこと留守にしていたサイファーにあまり良い感情は抱いていなかったがカルネ村事件の後から徐々に打ち解けていき、今ではモモンガの次くらいには忠誠を誓っている
サイファーの策により冒険者として行動し原作以上にモモンガと触れ合う機会が増えご機嫌は最高潮である
もちろんサキュバスとしても最高潮でありモモンガを狙う欲望は原作の8割増しである
サイファーの『モモンガに呼ばれたから帰ってきた』との発言を歪んで受け取っており、他のギルメンは呼ばれても帰ってこなかった裏切者の敵だと認識しており、原作より過激な捜索メンバーをかき集めている
サイファーの事は至高の御方と忠義を誓っているがモモンガとの恋愛にどうにかして利用できないかと考えているらしい
「プレアデスの場合」
特に変わりはないがナーベラルは出番が無くなり、ルプスレギナはカルネ村の監視任務に赤ん坊の監視が追加され、エントマは声が変わらずにすんだ
他のメンバーの仕事量は原作と変わらずである
「一般メイドの場合」
原作より休日への抵抗感がなく、休みの日はギルメンが異常なほど作りこんだ複合施設で楽しく過ごしている
有給休暇なる制度は自分たちの忠誠を確かめる悪魔の誘惑だと思っており誰も使おうとは考えてはいない
サイファーの事は手のかかる優しい主人であると大多数が認識している
ちなみに絶対的支配者であるモモンガ派が37名で、優しいサイファー派が4人である
こんな感じで私は考えております。
この設定が生かされる日はいつか来たらいいなと思ておりますが、多分使いません
次回はナザリック外の変化を予定しております。
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四十三話目 魔導国建国物語~合間にお仕事~
帝国の皇帝であるジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスを招きナザリック地下大墳墓の存在を公に明かしてから早一カ月がたった。
その一か月間の間、ナザリック地下大墳墓の主人であるアインズ・ウール・ゴウンは様々な雑務や守護者との予定のすり合わせなどの仕事でほぼ寝る間もなく働きづめである
「ふぅ、疲れた。いや、実際は疲労無効だから肉体的には疲れていないけど、ここまで忙しいとテンションただ下がりだな」
執務室で本日最後の書類に判を押し終えたアインズは知らず知らずのうちに今までの忙しさの愚痴が口から漏れていた
「しかし、自分がOKを出したとはいえ、戦争を仕掛けるのってこんなにも忙しくなるんだな。あ~あ、アインズ・ウール・ゴウン様の策とはいえ、このままではアンデッドだけど過労死してしまうかもな」
もちろんOKを出したのも自分であり、アインズ・ウール・ゴウンとは自分を指すものだから今の状態は自業自得と言っても過言ではない、が守護者達に頼りないありのままの自分をさらけ出すよりかはマシだと自分に言い聞かせるようにする
「そう言えば、最近サイファーさんの姿を見てないけど何をしているんだろう? ・・・まさか俺に仕事を押し付けて一人遊んでるんじゃないだろうな」
そう思い目を閉じれば仕事もせずソファーに寝転がりながらお菓子を貪りながらメイドにお茶を催促する友人の姿がはっきりと見えてくる
「く、おのれ悪魔王め。この俺がここまで忙しく働いているのに自分は何食わぬ顔で怠惰を貪るとは・・・許しがたし!」
自身の勝手な想像のためか精神の抑制は発動しなかったがそれに近い憤りがアインズの中に生まれ、サイファーの自室兼執務室に向かうべく椅子から勢いよく立ち上がり歩みを進める
執務室の扉を開け、そこに待機していた本日のアインズ当番のメイドに声を掛ける
「少しサイファーさんの部屋に行ってくる・・・」
「畏まりました。ではすぐに近衛に声をかけ準備いたします」
「極秘に話したいことがあるのだ。ゆえに今回に限り必要はない」
どこかで聞いたことのあるセリフを何時のも様にやんわりと拒否し速足でサイファーの執務室に向かう
サイファーの自室はアインズの自室とあんまり距離が離れていないせいもあってすぐに到着する
アインズはノックもせず扉を開けると待機しているメイドがびっくりしたのか身を震わせたのが視界に入り、内心そのメイドに謝りながら部屋の中に入り執務室への扉を開いた、そして友の姿が目に入り言葉を失った
「採決済みの書類が、さんじゅう~いち、さんじゅう~に~まい。これで終り・・・か?」
疲れ切った顔で書類の束を横に寄せたサイファーの目の前に新たな書類が置かれる
「いえ、まだカルネ村で育成中のユグドラシル産の種子の生育状態のレポートに目を通していただき実験の継続許可の判が必要でございます」
「悪魔王様。新たにエ・ランテルの屋敷に名指しの依頼が多数寄せられております。こちらの書類にまとめておきましたのでこちらも採決とご指示をお願いいたします」
二体のエルダーリッチ達に急かされる様に仕事をしている友の姿があった
「あ、アインズさん。てつだって・・・いや、たすけて」
目が合ったサイファーの呟きが耳に入り黙って扉を閉めた。
アインズの判断は正しかったのかは誰にも分からないが、ナザリックのシモベ達に聞いたら間違いなく自分の判断は正しいと答えてくれる気がしたので、扉を閉めたのは正しかったと思うことにしてアインズは再び自分の仕事を済ますため執務室に戻ることにした
「さて、仕事にもどるか」
帰ろうと踵を返し歩こうとした時、いきなり肩をつかまれたため嫌な予感はしたが一応確認のため後ろを振り返ると疲労困憊のサイファーの姿がそこにはあった。
「ここまで来て逃げられるわきゃねーだろが!」
肩をつかんで離そうとはしないサイファーになし崩し敵に執務室に連れ込まれてしまった・・・
・
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・
先ほどまでの喧騒が嘘のように静まりかえった執務室では誰もいないことを良いことにアインズとサイファーはソファーにぐで~と座りお互いに疲労を回復させていた
その状態から数分以上過ぎたあたりでサイファーからアインズに言葉を掛ける
「・・・とりあえず、お疲れ様ですアインズさん。そっちの仕事ぶりはどうですかね?」
「えぇ、なんか知らないうちに制作されていた計画書とかが別紙の資料付きで毎日アルベドやデミウルゴスから送られてきてそれを処理するのにてんてこ舞いですよ。サイファーさんはどんな仕事をしているんですか?」
「聞きたい? ふふふ、さっき少し聞いたかもしれませんけど俺のほうはナザリック外での活動の事後処理とアダマンタイト冒険者としての野外活動がメインですね。ぶっちゃけると戦争に向けて準備をしているナザリックにとって重要性が低いけどやらなければいけない事の処理を一人でしている状態ですね」
「ええ!一人でこの量をこなしているんですか!?」
「仕方がないでしょ。今回の計画はナザリックの最重要事項なのでそっちに人手が割かれて、その計画にあまり関われない俺が臨時で統括する立場になっているんですよ。」
力なく笑うサイファーを見て少し前まで遊んでいると決めつけていた自分が恥ずかしくなってきたが少し背伸びをして体を伸ばしたサイファーは言葉を続けた
「ま、アインズさんが来る前にデミウルゴスとすこし話したんだけど本日中にナザリックの準備が完了するから俺の仕事量も平時と同じになるんだってよ・・・さてと・・」
「急に立ち上がってどうしたんですか?」
「もちろん仕事に向かうんですよ。あ、冒険者としてのお仕事なので数日ナザリックから離れますから何かあったら『伝言/メッセージ』で連絡してください。 それとも手が空いたらこっちに合流します? アルベドも今は忙しいから二人で気兼ねなく冒険できますよ」
「ふふふ、それも悪くないですね。・・・よし、少しでも早くサイファーさんに合流できるように俺ももうひと頑張りしますか」
二人で軽く笑い合い、アインズは自身の執務室に向かい、サイファーは部屋の外で待機していたメイドを呼び戻し外に行く準備を始める
穏やかに時間が流れてはいるが運命の時は一秒一秒確実に近づいてきている・・・
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ハムスケに跨ったサイファーは手綱を引いて歩みを止め、冒険者組合の入り口で颯爽と飛び降りる
その姿を見た何人かの冒険者からは感嘆の声が漏れ、憧れの人を見る眼でサイファーとハムスケを見ていた
いつもならその視線は冒険者モモンが一身に受けていたが今日は彼がいないためその視線はサイファーが独り占めしていた
(ふふふ、何時もアインズさんがやっていることを真似してみたが、案外上手くいったようだな)
そんな視線を満更ではない気持ちで受け止めながらアインズの真似をしながらカッコつけて冒険者組合の門を開ける中に入る
冒険者組合の中には結構な人数がおり何時も通りの騒がしさがあったがサイファーの姿を確認するやいなや徐々に静まっていき受付嬢の前に立つころには静まり返っていた
「これは『漆黒』のサイファー様。今日はどの様なご用件でしょうか?」
「名指しの依頼があると聞いて来たのだが。組合長のアインザック殿は居るかな?」
「はい。承っております。どうぞこちらへ」
丁寧に対応され組合長の部屋に案内された
「おお、サイファー君! よく来てくれた!」
組合長アインザックは少し大げさに歓迎してくれて右手を差し出し握手を求めてきたため、こちらも手を出し差し出された手を握り返した。
「さぁ、立ち話もなんだ、座ってくれたまえ」
「お気遣いありがとうございます」
サイファーが誘われるままソファーに座るとその対面に組合長が腰を下ろす。前回アインズにした様な粘着行為は一切せず社会人としてまっとうな態度をとるアインザックを見てサイファーはふぅと心の中で安心した
(良かった。どうやら俺は彼の趣味ではなかったようだ。やっぱり線の細い魔法詠唱者よりガタイの良い戦士タイプが彼の好みなのだろうな)
以前のアインズへの粘着行為を目撃しただけあって一人でこのホ○に会うのは恐ろしかったが、どうやら杞憂に終わったようだ、しかしそれと同時に彼にロックオンされているアインズに少しばかりの同情が沸いてくる
「それで今回の依頼なんですが、西区で行方不明者が多数いると言う話なのですが、人探しくらいにアダマンタイトは過剰ではありませんか?」
「うむ、私も最初はそう思い『銀級』以下の冒険者に依頼を出していたんだがね、彼らがいくら調査しても異常が見つからなかったのだよ。しかしその後も件数は減ったが何件か西区で行方不明者が出たんだよ。そのつど依頼を出していたんだが全く原因が分からずこの前『ミスリル』にも声を掛けたのだがやはり成果はなかったのだよ」
「それで俺たちに依頼を?」
「そうだ。行方不明者が多発する西区の墓地では少し前に君たちが解決したアンデッドの大量発生が起こった場所でもある。最悪の事を考えるとその事件を解決した君らに頼るほかないんだよ」
「・・・わかりました、その依頼受けましょう。では早速ですが行方不明になった者たちのリストを見せてもらえないでしょうか、もしかしたら何かしらの共通点があるかもしれません」
「わかった、受付に行って資料を貰ってくれたまえ。一応ミスリル冒険者を待機させているが必要かね?」
「・・・いえ、今は必要ありません。」
「わかった、くれぐれも頼んだよ」
その言葉を最後にサイファーはソファーから立ち上がり部屋を後にした
しかし自分たちの拠点がある地区で行方不明者が存在するなぞ屋敷に待機しているシモベ達からは報告がなかったはずだ
考えられる可能性は二つ
一つは気付いていたけど屋敷に被害が及ばないから無視した
もう一つは屋敷のシモベ達が気付かないほどの隠密性が高い者の仕業か
どちらにせよ一度屋敷に行き情報を集める必要があると考えたサイファーは急いで冒険者組合から出てハムスケとともに屋敷に向かうのであった
・
・
・
エ・ランテル西区の屋敷
現地で購入した中古物件であるためナザリックのどの施設よりも劣る汚い屋敷だが、ナザリックのメイド達により整備と掃除が行われ呪われていた土地と屋敷を徹底的に神聖魔法で清めたためエ・ランテルでも上位に入る屋敷へと生まれ変わっていた
その立派さからアダマンタイト冒険者に対する憧れと、強くなればこれくらいの屋敷が手に入ると下級冒険者らの夢の終着点な感じで崇められるところである
そんな屋敷の一室にこの屋敷を任されている八肢刀の暗殺蟲八体に最近配置されたエルダーリッチ二体(A作、B助)そして死の宝珠が集まり目の前の悪魔王に頭を垂れていた
「忙しいところをわざわざ集まってもらい感謝する」
アインズの様に仰々しくシモベ達に話しかけるが、サイファーには何と答えるかは大体想像が出来ていた
「何を仰います、至高の御方であらせます悪魔王サイファー様のご命令とあらば我らは何を差し置いても馳せ参上いたします」
「うむ、お前達の忠義、しかと受け取った。今回の要件なのだが、まずはこの資料を見てくれ」
そう言って冒険者組合から受け取ったリストを言語解読の魔法がかかった眼鏡とともに代表で取りにきた八肢刀の暗殺蟲に渡すと全員が集まり情報を交換し始める
数分の間で資料を読み終えたシモベ達は資料を机の上に置き再び頭を垂れる
「読み終えたようだな。この事件に関して何か心当たりがあるものは挙手せよ」
サイファーの言葉が終わると同時に全てのシモベの手が高らかに上がる。どうやらサイファーが考えていた様にここのシモベ達は知っていたが屋敷に被害がないからほっといたようだ
「ふむ、全員心当たりがあるのか? では、右から順番に発言してもらおうか」
「はっ!!僭越ながら、まずは私から発言させていただきます!!」
「うむ、発言を許可する」
「はっ!! リストの一番目から三番目の男ですが夜間に屋敷に強盗目的で侵入してきたので始末し我々の餌にさせていただきました!!」
(へ? 今なんて言ったこいつ・・・処分して食った・・・?)
「四番目の女と五番目の冒険者の奴らはこの屋敷に火を放とうとしたため、捉えて拷問し背後関係を吐かせたところ、至高の御方がたの冒険者としての働きに嫉妬した単独犯だった模様でデミウルゴス様の牧場が人手不足だとお聞きしましたのでそちらに送りました!!」
(え~!? マジですかーこれってもしかして・・・)
「最後の女ですが、こいつも強盗目的で侵入したため我々がおいしくいただきました!!」
(はい、犯人は身内でした。事件解決・・・て! 何こいつらそんな勝手な事してんの! ちょっとガツンと行ってやらんといかんな)
「お前ら・・・」
「しかし、サイファー様は本当にお心が広い!」
「全くだ。他の部署では自由に人間が食せないと聞くがサイファー様が管理するここでは屋敷に危害が加えられた場合のみだが我々で焼くなり食うなり好きにしてよいなどの裁量をお与えになるなど本当にお心が広い!」
「え? 俺、そんなこと言ったっけ・・・?」
「「はいっ!! 確かに仰いました!!」」
あーそういえば、警備をしてくれてるこいつらに何か褒美を与えたほうが良いと思って隠蔽系のアイテムを大量に渡して証拠を残さなかったら良いよっていったんだっけ?
悪人+屋敷に危害を加える奴に限定したけどアダマンタイト冒険者の屋敷だとわかっていてもバカやる奴はたくさんいたのね
ということは今回の事件は俺のせいってことか?
いや、俺ら『アインズ・ウール・ゴウン』に喧嘩を売っといてその程度で済ましてやってんだ、寧ろシモベ達に食われた奴らは俺の対応に感謝するべきだろうな『ちゃんと殺してくれてありがとう』ってな
「話は分かった・・・とりあえずこの事件の犯人役のスケープゴートを用意し、お前達が処分した者たちの遺留品などがあったら持ってきてくれ」
命令を下すとシモベ達はすぐさま行動に移りあっという間に目の前にはこの屋敷に危害を加えようとした馬鹿どもの遺留品とボロ布に包まれた白骨体が持ち込まれた
「ごくろう。で、この骨は何だ?」
「は! この屋敷に現れた王を名のる愚か者の成れの果てにございます。その残骸であれこの事件の犯人にするには十分かと・・・」
「そうか。よし、事件も解決したことだし飯にするか」
その夜はシモベ達が用意してくれた料理に舌鼓を打ちながら今までの忙しさの疲れを十分に癒し、次の日の朝一番に冒険者組合に遺留品とエルダーリッチの残骸を持っていき事件解決の報告をしたら物凄く驚かれ、帰り際に扉越しであるが組合長の『一日で解決とかオカシイだろう!』と声がしたがアインズだって3日で特殊な薬草を採取してきたんだから何も問題はないはずだ
その日の内に仕事を終えたアインズと合流できたが2日後帝国が王国に向けて宣戦布告をしたためナザリックに戻ることとなった
少しの間だったが二人は日ごろの重圧から解放され晴れ晴れとした気持であった
次回『アインズさん本気出すってよ』
標的はもちろんあの国です
~悪魔王サイファーの影響~
ナザリック外での影響
『カルネ村の場合』
・ 初期こそ原作と同じだがその後の復興支援と言う名の現地実験に植物など食料になるものが追加され村人たちの栄養状態が少し良くなった
・ 原作ではナザリックに消えた『フォーサイト』がサイファーの気まぐれで助けられ村の警備の名目で移住してきており戦力増強につながっている
『エモット家の場合』
・ 基本的には原作と変わらないがネムがサイファーより果実の木をプレゼントされため日に一回は食卓に果物が並ぶようになる
・ エンリの村長としての勉強会にアルシェが参加するようになり、彼女の持つ帝国式の教科書とンフィーリア以上の教育で何気に原作より賢くなっている
『アルシェの場合』
・ 原作の様に安らかな死を与えられる訳でもなく、web版の様なシャルティアのペットでもなく、サイファーの恩恵で生きながらえ妹たちと共にカルネ村で暮らしている
・ 元ワーカー兼同年代の女性と言う事でエンリ・エモットによく相談を受けている
本人も悪い気はしていない模様
・ サイファーに忠誠を誓っているも生活の足しにせよと送られてくるこの世界では最高級の品々に困惑しておりどう対応するのが正解なのか日々悩んでいる
『ヘッケラン、イミーナ、ロバーディックの場合』
・ 全員ナザリックより生還しカルネ村で第二の人生を歩んでいる
ヘッケランとイミーナは同じ家に住んでいるがまだ籍は入れてないもよう
だが原作のエンリとンフィーリアよりは早く夫婦になるかもしれない
ロバーディックは村でその力を存分に発揮し村人やゴブリン達からも信頼が厚く、よくお見合いの話が舞い込んでくるが本人は今のところ拒否している
簡単で短いですが今回はこんな感じです
ではまたね!
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四十四話目 魔導国建国物語 ~vs王国軍~
きっと夏が暑いせいだと思います。
帝国の宣言から二か月が経過し。吐息が白くなる季節となった
この時期になると各領地の村々では屋外の仕事から家の中での仕事に移行し、外を出歩く者は少なくなる
この時期も忙しく働く者などそうはいない、年中暇なく働いているイメージの冒険者でもそうだ
しかし、食料を求めて飢えた魔獣などが時折、村里まで現れることもあり、その魔獣退治の依頼が舞い込んでくるが、基本的には冒険者にとってもこの時期は休みの時期であり、訓練や副業に精を出すのだ。
しかし、今日のエ・ランテルはそのような常識が通用せず、熱気がこもるほど人で溢れていた
熱気の発生源はエ・ランテルの三重の城壁のもっとも外周部の城壁内から発生していた。人数にして、約25万人くらいはいるだろう。
確かにエ・ランテルは三カ国の領土に面しており交通の量は多く日々様々な物資が行きかっているが、ここまで多いのは帝国との戦争の為に地方の村々から徴兵されてきた人々が集まっている為である
「・・・っははは。ここに王国の兵士が集められると聞いていたけど、この目で確かめてみるとやっぱり多いな。ナザリックに攻め込んできた1500人を見た時もその人数に圧倒されたけど、この人数見たら1500なんて大したことないと錯覚してしまうな」
城壁の上にて王国の兵士の様子をうかがいながら、ついそんな言葉が漏れてしまった
「何言ってるんですかサイファーさん。あんな数だけの有象無象と比べられたら無謀にもナザリック地下大墳墓に攻め込んできた1500人が怒りますよ」
「確かに。俺たちが隠れて様子を見ているのに看破も違和感も感じないほど低レベルの雑魚とあのカンストガチ勢を比べたら悪いですよね。・・・やっぱりこの場にプレイヤーの影はなしか」
この城壁まで隠蔽系魔法で姿を隠してきたとはいえ、堂々と正面から歩いてきたが、人混みが邪魔で歩きにくい以外、何事も無く素通りだったためサイファーは早々にこの集団に見切りをつけていた
「・・・断言はできませんね。ここにいる25万人は囮で、こちらの戦力を分析する捨て駒かもしれませんし、開戦時に混乱に紛れてこちらに攻撃を仕掛けてくる事も考えられます」
サイファーの希望的観測を聞きアインズは冷静に答えていく
確かにサイファーの言う通り、最高レベルの隠蔽を施しているとはいえ、専門職ではない為、その道のガチ勢から見ればあまいと言われるレベルである
しかし、プレイヤーである二人が堂々と兵士の駐屯所に居座っているのに誰も気付いたそぶりも見せず、ある者は粗末な装備で戦闘訓練らしきものを行い、ある者は何人かで集まり戦争の愚痴や国家の陰口を話し、またある者は何かに絶望したように膝を抱えてうずくまっている
そんな人間たちを観察していると自分の考えは杞憂ではないかと思えてしまう
「・・・まぁ、考えても仕方がないか。特に見るべき所も無かったし、敵情視察もこれくらいにして帰りましょうか?」
いくら観察してもプレイヤーの影は見当たらず、士気もやる気も感じられない兵士ばかり見ていて気が滅入ってきたアインズは飽きたとばかりにサイファーに声を掛ける、彼も退屈になってきたのか二つ返事で了承した
「はいよ。あっ、俺も一緒にナザリックに帰りますんで送迎よろしく」
「ん、屋敷に帰らずナザリックに帰るんですか?」
「ああ、アインズさんが来る前にチエネイコ男爵とか言ったやたら偉ぶったおっさんが来て、あまりにもムカつく態度だったんで、出かけるから忙しいって突っぱねて出てきたから、開戦時までナザリックでゆっくりするつもりですよ」
気の良い友人がムカつくと言うくらいなのでよほどの相手だったんろうと思い、戦場にいたら真っ先に処分する事を検討しながらサイファーに相槌をうつ
「ふーん、じゃあ、帰ったら久しぶりにチェスでもしますか? 最近駒の動かし方が分かってきたから相手が欲しかったんですよね」
「ふふふ、良いですよ、じゃ、負けた方が今度の飲み会の幹事をするってのはどうですか?」
「ええ、かまいませんよ。勝つのは俺ですからね」
二人は笑顔でにらみ合いながらアインズの転移魔法にてナザリックに帰還していった
ちなみに、初心者~素人レベルの勝負だったが、たまたま勝負の最中に盤を見たデミウルゴスはサイファーの定石をまったく無視した打ち方に衝撃を受け、アルベドはサイファーの常識外れの打ち方に完璧に対応しアインズの『チェック・メイト』の一声でヤバいくらい興奮したそうな
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農村にとって冬は畑仕事が少なくなるかわりに家の中での仕事が増える時期である。例えば家畜の世話、農具の修繕、家や納屋、家畜小屋にも手を入れる必要がある
それはここ、カルネ村でも例外ではなく、村人たちは休みなく働いていた
なぜなら、この村には通常の村とは違い、オーガという肉食のモンスター達を養わなくてはならないからだ
そのため、狩人はトブの大森林で肉を確保するために狩りを行い、その狩りにだけに頼らないように豚の飼育も始まっていた
この豚の飼育はまだ実験段階だが、うまくいけばそのまま数を増やしていくだろう
色々と困難な状況が続き問題もあったが、確実にカルネ村の未来は明るいものになっていっている
そんな明るい村だが、ただ一名だけ暗い雰囲気を醸し出している少女がいた
その少女は自分の家の隣にある鳥小屋の前でより一層沈んでいた。その鳥小屋にはガーガーと喧しく騒ぐガチョウが十数羽ほどおり、二人の妹が餌やりと小屋の掃除をしている
掃除をしている姉妹は数か月前まで貴族の令嬢だったとは思えないほどて手際が良く、さっさと仕事を終わらし、小屋の隅に産み落とされている卵をカゴいっぱい収穫していた
「・・・どうしてこうなったのだろう・・・一羽だけでも物凄い価値があるのに、増えるなんて聞いてませんよ、悪魔王様」
一羽だけでも大変だったのに、たまたま卵の収穫をせず小屋に置きっぱなしにしていたら、朝起きればガチョウは2羽に増えているではないか
その時は思わず大声を上げてしまい、妹やヘッケラン達に要らぬ心配を掛けてしまった
それはそうとして、家に保管している卵は孵らないのに、なぜ小屋の中に置いていた卵は孵ったのか疑問に思い、思い切って村にいるメイドさんに説明を求めたら
『え? アルちゃん何言ってんすか? 未収穫の卵を一晩置いておくと孵化するなんて常識じゃないっすか。・・・あ、残念ながらそのガチョウはレア度が低いっすから生まれたガチョウは金の卵は生まないっすから、普通の卵を収穫するか食肉にするしかないっすよ、一獲千金の夢はやぶれたっすね、ぷぷぷ、ザマァ』
訳が分からないし説明も良く分からないかった
・・・いや、あのお方が与えてくださった物に常識を当てはめる事が間違っているのだと自分に言い聞かせ、オーガ用の肉の確保が安定し村に貢献できるし、尚且つ新鮮な普通の卵も確保できるのだから何も問題は無いはずである
今日もたくさん収穫出来たことを喜び合う妹を視界に収めながら、アルシェが今日何度目かのため息をついているとエンリとンフィーリアが慌ててこちらに走って向かってきている
「そんなに慌てて、どうしたのエンリ?」
一緒にいるゴブリンのジュゲムも慌てた様子であり、このゴブリンがここまで慌てているのは、あのトロールが攻め込んできた以来だ。
アルシェの経験則からくる勘がかなり激しく警報を鳴らしていた
「アルシェさん! ぐ、軍隊が、この村に向かってきているんです! 急いで装備を整えて門に集合してください!」
「 !! こんな時期になぜ?・・・どこの所属、人数は?」
「ジュゲムさんの説明を聞く限り、おそらくは王国の軍だと思います、数は・・・最低でも四千くらいです・・・」
「・・・分かった。妹たちを避難させてからすぐに向かう」
その後二、三言葉をかわしエンリたちは走って門に向かってい、アルシェは急いで妹たちを呼び戻し避難用の鞄を背負わせ緊急時の避難場所に向かわせ、自身も倉庫にしまっていた装備を取り出し急いで装着していく、そして最後に宝箱の奥に厳重にしまってあった『伝言/メッセージ』の魔法が込められたスクロールを取りだした
「・・・王国の軍隊が村に攻めてくる、私たちでは対処出来るレベルじゃない・・・お力をお貸しください」
スクロールに魔力を込めると、すぐに熱を感じない炎をあげ燃え尽きていき込められている魔法が発動した
【・・・ん、緊急時の『伝言/メッセージ』か・・・エ~、ゴホン。こちらは悪魔王サイファーである。して、何用か?】
『伝言/メッセージ』越しからでも感じられる威厳と重圧に耐えながらアルシェはカルネ村に迫る危機を報告する
【ファ、マジで・・・あ、いや、了解した。よくぞ報告してくれた、すぐさま討伐隊を編成し駆逐に向かおう。それまでは村の人々と協力し防戦せよ・・・】
魔法の効果が切れ、辺りに静寂が訪れ、アルシェの心臓の音がやけに響いて聞こえる
「・・・あの恐ろしい悪魔王様が討伐隊を率いて王国軍を駆逐する? もしかして私、とんでもない引き金を引いてしまった・・・?」
------------------------------------------------
カルネ村に緊急事態発生。その報告を受けたサイファーはすぐさま情報収集を行い、カルネ村に進軍しているのが王国の第一王子率いる軍だと突き止めた
・・・もっとも、情報はデミウルゴスが五秒で出してくれた、彼曰く『第一王子は政治的、戦略的にも利用価値が無く、どうでもいい存在』だそうだ
サイファーはアインズの許しを得て、動かしても問題ないシモベ達をすぐさまかき集め、ナザリックの地上部に集合させた
ナザリックの地上部に展開している戦力は
アインズが貸してくれた『魂喰らい/ソウルイーター』が100体
プレアデスより ソリュシャン、エントマと現地で合流するルプスレギナの3人
階層守護者より シャルティア
「いいかお前ら!! こいつらは俺たちギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の所有地に愚かにも攻め入ってきたんだ、遠慮はいらん、存分に遊んでやれ!」
人間相手には過剰なまでの戦力が集まったが、これも第一王子の人徳がなかったとして諦めてもらおう
それに集まったシモベ達も、至高の御方の名の下に人間を好きにできるとかなり張り切っている
「皆の者、準備は良いか!! シャルティア、まずはカルネ村にいるルプスレギナの下に『転移門/ゲート』を頼む」
サイファー命令を受けシャルティアは嬉々として魔法を唱える、彼女もこれから始まる虐殺にわくわくしているのだろう、その顔はとてもいい笑顔だった・・・
「さぁ、愚か者共を粛正に行くぞ!!」
サイファーの掛け声を受け、まずは『魂喰らい/ソウルイーター』が100体が『転移門/ゲート』をくぐり抜けていき、その後をシャルティアとプレアデス二人に守られながらサイファーがその後に続いた
『転移門/ゲート』を抜けると、そこは薄暗い森の中であり、辺りからは太鼓の重くリズミカルな音と人の悲鳴が止むことなく響いていた
「ん? なんだ、この太鼓の音は? おーい、ルプスレギナ、これどういう状況?」
「はいっす! 簡単に言いますとエンリちゃんがアインズ様より賜った笛を吹いたらでてきたっす。マジすごかったっすよ」
「はぁ!? 『小鬼将軍の角笛』で召喚したっていうのか! そんなバカな! ネットにだってこんな効果があるなんて書いてなかったぞ!」
「ねっと? が何か知らないっすけど、エンリちゃんが使うところを後ろからちゃ~んと見ていたっすから間違いね~っすよ」
課金アイテムの一つでありながら使ってもザコいゴブリンが小隊規模しか召喚されないはずれアイテム
これがユグドラシルプレイヤー共通の認識でありこのような効果はユグドラシル始まって以来発見されていない事だった
「はぁ~、世界には俺たちが知らない事がまだまだあるんだなぁ~・・・ お、そうだ。ソリュシャン」
「はっ!」
「ゴブリン達はここに攻めてきた王子様を生かして返したみたいだけど・・・俺は生かして返すつもりはないから、とりあえずエントマとルプスレギナと一緒に『魂喰らい/ソウルイーター』が100体で俺の村での野暮用が終わるまで監視しといて」
サイファーの命を受けすぐさま全員が行動を開始し、誰もいなくなったところでシャルティアを連れて目的の人物を探し始める
探すのに時間がかかると思ったが目的の人物であるアルシェとその仲間たちは村はずれの路地におり、ボロボロだが皆、生きているようだった
「よう、ずいぶんと頑張ったじゃないか?」
警戒されないようになるべくフランクに話しかけたが、全員がギョッと驚き、疲れて座り込んでいただろうに一斉に立ち上がりあたふたし始める
「うおぉ! サ、サイファー様! な、なんでこんなとこに!?」
「バカ!落ち着きなよヘッケラン。アルシェがサイファー様に支援を要望したって言ったでしょ」
「だけどよ、本人が直接来るなんて夢にも思わないだろうが!」
「まあまあ、お二人とも、サイファー様の御前です、失礼のないように」
ようやく状況を飲み込めたのか全員、サイファーの目の前に跪き、次の言葉を待っているようだ
「まぁ、まずは傷の手当からしようかね」
アイテムBoxより全体回復の霊薬を取りだし、そのまま瓶のふたを開け、その中身を周りに振りまくと薬品は瞬く間に霧状に霧散し、その場にいた全員を回復させる
その現象を不思議がりフォーサイトの面々は驚き声を出すが、一々答えてあげると時間を食うので今回は無視し、話しを進める
「さて、フォーサイトの諸君、今回の働きは予想外に素晴らしいものだったと私は考える。そこで、特別に何か褒美を上げようと思うのだが、ちょっとこの後用事があるから、この紙にお前らの望む報酬を書いて定期報告の時に使者に渡してくれ、そうしたら後日その報酬を届けさせるよ」
そう言ってこの世界で作っている羊皮紙をリーダーであるヘッケランに手渡たしたが、なぜか全員、唖然としていて話しを聞いてない様子だった
「の、望む報酬って・・・何を書いても良いんですか?」
アルシェが何とか絞りだしたと思われる言葉にサイファーは思わず首を傾げてしまう
「俺はそのつもりなんだけどなぁ ・・・まぁ、君たちの良識に任せるよ」
その言葉に再度フォーサイトは固まってしまったが、言う事言ったし、これ以上はここにいる理由も無い
「シャルティア、お待たせ。さぁ、俺たちの所有物に手を出したバカ共の所に行こうか」
シャルティアの『転移門/ゲート』で村を襲った王子様の所に向かったサイファー一行
向かう先はもちろんこの村を襲った王子様のところだ
その時の様子は詳しくは記さないが、第一王子であるバルブロは夜が明けても死ぬことを許されず、まだ楽しみたいという部下の頼みを悪魔王が了承したため、その続きはナザリック地下大墳墓で彼女らが飽きるまで続けられることとなった・・・
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四十五話目 魔導国建国物語 ~終~
投稿も遅れてしまってます
我が県は全国でも上位に入るほど暑い県なので
バテてます
王国との戦争が終了してから3日がたった
あまりにも拍子抜け過ぎるほどあっけなく王国との戦争が終わってしまった。
俺こと、悪魔王サイファーは戦争開催日の前日にカルネ村でドンパチして死体の処理をしていたため、戦争の見学が出来なかったので、アルベドが制作した報告書を読みふけっていた。
それにによると、戦争自体は超位魔法の『黒き豊穣への貢/イア・シュブニグラス』一発で王国軍七万くらいの兵士を屠り、魔法の追加効果で誕生した子羊さんたちによる蹂躙で王国軍の被害は10万人を超えるほどの大活躍、帝国軍の軍人さんは拍手喝采で喜んでくれたようだ
ユグドラシルでも人気の高い超位魔法だけあって帝国の軍人さんたちもニッコリだったのだろう
しかし、そんなどこの誰とも知らない赤の他人が何十万人も死んだという報告書を読んでもサイファーの心には、まったく響かず罪悪感すら湧いてこない
むしろ、なんで敵を倒して罪悪感を感じなくてはならないのだろうか?という感じである
王国軍は『アインズ・ウール・ゴウン』の敵なのだ。叩き潰し、蹂躙し、殲滅し、ドロップアイテムを回収するのは当たり前のことであり、むしろ、『黒き豊穣への貢/イア・シュブニグラス』の追加効果のユグドラシル記録を遥かに超えた数である五体も召喚したことが重要であり、自分もその場にいたかったと言う願望が湧きだしてくる
そんな偉大な記録を出したアインズと話しをしたかった
・・・しかし・・・
「なぁ、アルベド。アインズさん戦争から帰って来てから何か元気がないんだけど、なんか知んない?」
そう、元気がないのだ、期間限定ガチャをコンプする前にガチャが終了したときの様なもの悲しさというか、欲しかったものがもうちょっとのとこで手に入らなかったような、そんな元気のなさだ
「・・・やはりサイファー様から見てもそう見えるのですね」
「ああ、長年一緒にいた経験から言うと、そこまで深いものではないと思うんだが、少し気になってね」
「そうですか。・・・ああ!!サイファー様ですら分かるほどお元気を無くされておられるのですね!! これはナザリックの一大事だわ!! ああ、アインズ様! 気付いていながら何もできない私めを何なりと処罰してください!」
「うん、ちょっと落ち着こうねアルベド、それと・・・ちょっと俺の事ディスってるよね?」
サイファーの言葉など聞こえていないのか、何やら怪しい妄想を口に出しながら自身の体を抱きしめながらクネクネし始めた
流石にこれはまずいと思い、ワザとらしいほど咳払いをすると、やっと元のアルベドに戻ったのか僅かな微笑を浮かべこちらに目線を合わせてくれた
「一緒に戦場に行ったマーレには話しは聞いたのか?」
「はい、マーレの話しでは『黒き豊穣への貢/イア・シュブニグラス』で生贄の羊が五体出てきたことに大変お喜びになられ、帝国の兵にも喝采をお求めになられたほどです」
「キャラ崩壊するほど上機嫌じゃないですか! 」
「その後、羊に乗って戦場に赴かれ、時間停止魔法を使用したあと陣営に帰って来てからお元気を無くされているようです」
アインズが元気がないことを思い出したのか、言葉の最後の辺は気分が沈んでいるように聞こえる
「う~ん・・・・分からん。何が不満だったんだろう・・・仕方ない、直接聞いてくるか」
「お、お待ちくださいサイファー様。流石にそれは失礼ではないでしょうか」
「そう言ってもなぁ、直接聞いたほうが早いし、遠回しに聞くのって苦手なんだよ」
「でしたら私もご・・・」
「御一緒には行けないなぁ」
「なぜでございましょう!?」
「いや、やっぱ、こういうことは男同士の方が良いと思うんだよ。それに・・・・」
ワザとらしく言葉をためると、アルベドも黙って言葉の続きを待つ
「アルベドにはアインズさんが元気になった後に最高の笑顔で出迎えてほしいからさ」
ここには記さないがアルベドは狂喜乱舞して喜んでくれました。
・
・
・
「・・・と、いう訳で。なんで元気ないの? お兄さんにちょっと話してみなさいよ」
「いきなり来たかとも思えばそんな事ですか? いや、心配してくれていたことは嬉しいんですけど、俺のほうが年上でしたよね?」
アルベドと別れた後、何時ものようにアインズの執務室に訪れたサイファーは何の言い回しもせず、ズバッと本題を切り出したがアインズは特別気分を害した様子はなかった
「せいぜい数か月程度の事なのによく覚えていましたね。いや、それよりも元気がない訳を話しなさいよ、言いたくないけど、アインズさんが元気がない事はナザリック全域に広まっているんですからね」
「隠し通していたのに、なぜばれた!?」
「いや、今もそうなんですけど、頬杖つきながらため息ばかりついているのに、なぜバレていないと思ったんですか」
指摘されギョッとしたアインズは慌てて姿勢をただしたが、最早言い訳できる状態ではないらしい
「・・・はぁー。大したことは無いんですけど、この前の王国との戦争でガゼフ・ストロノーフを手に入れられなかった事がちょっとショックだっただけですよ」
「ガゼフ・ストロノーフ? ・・・ああ! 王国戦士長で王国最強の男。やっぱりあの戦争にも出張って来てたんだ。手に入れられなかって、なに、ナザリックに勧誘でもしたの?」
「ええ。カルネ村での一件以来、立場の違いこそありましたが俺はある種、彼に対して憧れに似た好感を抱いていました。だからこそ、彼を引き入れたかったんですが・・・」
そこまで言ってアインズは再び大きなため息をついたが先ほどまでの元気がない様子は薄れ、少し晴れやかな感じになっていた
「ふぅ~サイファーさんに愚痴ったら何か少しだけ元気が出てきた気がします。」
「おう、アインズが納得したんなら俺はもう何も言わないよ」
「あ~あ。やっぱり交渉ごとに関してはサイファーさんに丸投げしたほうがうまくいくかもしれませんね」
「え? いきなり何言ってんの、俺がそんな重大なこと出来るわけないじゃん」
「え? だってウルベルトさんやタブラさんが『敵対グループに交渉に行かせるんならサイファーが適任だな』ってよく言ってましたよ」
アインズのいきなりの交渉丸投げ宣言に面食らったサイファーは慌てて反論をするがアインズは首を傾げるばかりである
「・・・ああ、交渉(生贄)ね・・・あれは酷い事件だった・・」
不思議がるアインズにサイファーはゆっくりとだが当時の二人の交渉術に対して語り始めた
まず最初に獲物のグループを発見いたします。次にタブラ・スマラグディナが製作した親書(極悪)を悪魔王サイファーが丸腰で届けます。親書(極悪)を見た獲物グループは怒り狂い丸腰のサイファーに襲いかかるます。
当然ダメージカウンター特化のサイファーは攻撃を反射させ一人、多い時は三人くらい戦闘不能に追い込みます。。その様子を陰から見ていたウルベルト・アレイン・オードルが『平和の使者にいきなり攻撃するとは見下げ果てたやつですね』と超位魔法で辺り一帯を吹き飛ばします
戦意を喪失させてから身ぐるみ剥ぐまでがワンセット
「・・・という感じの交渉です。だからアインズさんはそんな事に俺を使わないでください」
「・・・ええ、そんな事だったとは思いもよりませんでしたよ。仕方がない、交渉事はデミウルゴスに一任するとしよう。さて、サイファーさんと話して元気も出てきたことだし、来週のエ・ランテル譲渡についてアルベドと話してくるかな」
一回大きく背伸びをした後、アインズは部屋から出るために扉を開けると、何時から其処にいたのか分からないがとても深い笑顔のアルベドが佇んでいた
そんなアルベドと目が合ってしまったアインズは驚愕と恐怖にかられ凄まじいスピードで扉を閉めた
「え? ええ~・・・な、何だったんだあれは、もしや、アルベドからの何かしらのメッセージなのか? いや、あんな顔したアルベドなんて見たことがないぞ、考えるんだ俺、守護者統括の裏を読むんだ」
思考の渦に飲まれかかっていると後ろから間の抜けた友の声が聞こえてくる
「ああ、そういえば、アルベドにアインズさんを最高の笑顔で出迎えてくれって頼んでたから楽しみにしているといいよ」
とりあえずこの気の利いた友人の頭にツッコミ代わりのチョップを頭に叩き込んだが、同時に自分の頭部にも衝撃が走った
こんな些細なダメージでも反射するとは・・・ダメージカウンター特化恐るべし
・
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・
王国よりエ・ランテルがアインズ・ウール・ゴウン譲渡され、この街が魔導国の初めて街になった日のことだ
サイファーはアバター変化の装備品でアインズの姿に変装し豪華な輿に揺られながら街の中心地へと向かっていた
第一の門が開かれるのと同時に鐘の音が響き渡る。
何時もなら何時もは鳴らない鐘の音が聞こえてきたら興奮を隠そうとはしない彼だが、今日ばかりは辺りを警戒し汎用性の高いカウンタースキルを発動し、いざという時に備えていた
「第一の門に敵影無しか・・・アインズさん、いや、モモンとの接触ポイントまでもう少しか・・・」
結局、戦争の間に他のプレイヤーからの接触も監視の目も無く不気味なほどうまく事が進んでいる
アインズや階層守護者達からの情報を整理すれば他のプレイヤーがこの世界にいたことは間違いないはずなのに中々成果が上げられない
いかなる手段かは分からないが、こちらを監視している相手の出方を見るために街の譲渡に合わせワザと不用意に姿をさらし相手の出方を伺っている
この作戦はアインズが囮になると聞かなかったが守護者達とサイファーの説得によりモモン役で行動する事となった
代わりにサイファーが囮になると言った時、アインズは友が囮になる事を反対したが思ったより守護者達から反対の声が上がらなかったのは内緒だぞ
「第二の門か・・・さぁ、茶番が始まるぞ。『アインズ・ウール・ゴウン』の敵対者達よ、この隙を見逃すなよ」
第二の門を抜け、大通りを進んでいくが何時も混雑している道には人っ子一人おらず、まるで死者の街かと思うくらい静寂に包まれていた
しかし大通りに面した家屋から人の気配と視線を感じるため、全員が逃げ出したわけではないようだ
これからこの街を支配していかなくてはならないのに、えらく嫌われている様子なのはサイファーでも感じられる
「おかしいな、ここまで恐れられているなんて予想外だぞ。当初の予定と違いエルダーリッチ二十体にデス・ナイト五十体と控えめなはずなのに」
アインズ達と比べても人間らしいサイファーであったが今だにモンスターの強さに現地住民とプレイヤーの認識の違いにズレがあった
「とうさんを返せ!」
そんな事を考えていると子供の幼く甲高い声が静かな街に響き渡り、サイファーは茶番が始まったことに気付き別の事を考えていた頭を切り替え、辺りを一層警戒し始める
さあ、どこからくる?
「とうさんを返せ!ばけもの!」
予定通り子供の手からは石が投げられたが、思ったより距離が伸びず、近くまで石が飛んできただけだった、サイファーに命中するには少し力が足りなかったようだ
茶番のコマである子供の母親と思われる女が子供も抱きしめ、自分の身体で覆い隠そうとする
たしかこの母親には何の魔法も掛けてはいないはずである。それなのに自分の命を捨ててでも子供を守ろうとする母親の姿にサイファーは感動を覚えてしまう
(ああ、なんて素晴らしいのだろう。あの母子は冒険者サイファーとして少し手助けをしてやろう)
そう決意し茶番を眺めているとアルベドと母子の前に大剣が突き刺さり、ズンと大地が揺れた。どうやら英雄様が母子を助けるために現れたようだ
ゆっくりと漆黒の鎧を身に纏った男が大通りに現れ、地面に突き刺さった大剣を無造作に引き抜き、戦闘態勢となったモモンがアルベドと対峙した
「子供が石を投げた程度で乱暴だな。嫁の貰い手がないぞ」
「アインズ様にお嫁に行くので御心配なく・・・ ゴホン! アインズ様に無礼を働いたものに子供も大人も関係ありません。全て死罪となるのです」
「それは俺が許さない、と言ったらどうする?」
「この地を統べる王への反逆と見做し、死罪を言い渡します」
「そうか。ならば致し方ない。しかし、この俺の命が容易く取れるとは思うなよ? ここが死に場所と思い掛かってこい」
モモンが大剣を器用に振るい戦闘態勢に入る、その姿は大胆かつ迫力に溢れるものであった
それに対するようにアルベドも武器を構えるがその表情はかなり緩んでいた
どうやら近くでモモンのカッコ良さを見ていたのが原因だろう
じりじりと距離を詰め始めるアルベド
見ようによっては攻撃に最適な間合いを達人的な動きで詰めているようにも見えるが・・・なぜかサイファーには獲物ににじり寄る獣にしか見えなかった
アルベドの異常に気が付いたのかモモンも予定とは違って半歩ほど後退してしまった
あ、これあかんやつや
急いで輿から飛び降り、アルベドの肩を後ろから掴んだ
「アインズ様!」
そのままアルベドの耳に口を寄せ打ち合わせ通りにお願いしますと囁くと、一瞬ハッとした顔になったがすぐに誰もが見惚れるような笑みを湛えると台本通りのセリフをしゃべってくれた
その後は何の問題も無く話しが進み、アルベドがモモンに配下に加わる様に促し、モモンは最初は懐疑的な態度であったが街の人々の安全と生命を守るため、自らの旅の使命を一時中断し手を結ぶことを了承した
この結果、エ・ランテルは周辺国家が想像もできなかったほど平和的に統治されていったのだ
・・・もっとも、この茶番じみたマッチポンプに至高の御方と呼ばれる二人も思わず苦笑いしたとか、ないとか。
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四十六話目 魔導国でのお仕事 その1
あ、続きは出来るだけ早くしたい(笑)
この地で暮らし始め、朝から晩まで支配者ロールを強いられる現実に、アインズは一人心労をためていた
(苦痛だ、せめて気が休まる時間が欲しい・・・)
今日も朝早くからメイド達にされるがままにお着替えをしてもらいながらアインズはこの状況の打破する策を考えている
そもそも、服を女性に着替えさせてもらうなど、アンデッドであっても羞恥の感情が身を焦がし、何度も精神の抑制が働くほどである
しかし情報を集めてみれば、国の権力者はこの程度の行為は当然とばかりに受けていた。
最初聞いた時はバカらしいと吐き捨てた、しかし、支配者の振る舞いを学ぶためジルクニフを盗撮してみると彼もそれが当たり前のように生活しており、内心ショックを受けた
何日もそれとなく拒否しようと思ったが、メイド達の楽しそうな様子を見ているうちに、ついにアインズは屈してしまった
そんなアインズが派手なローブをなびかせて向かった先は執務室だ。
アインズがドアの前に立つとメイドさんが素早く前に出て扉を開けてくれる。
至高の御方と呼ばれる者の頂点に立つアインズは自分でドアを開けたりはしないのだ
この自動的手動ドアはメイドさん達の標準技能であり、誰もが誇らしげにしているため、最早アインズは気にしないこととして心に決めていた
ナザリック程豪華ではないが執務室の内装はいい感じのインテリアに囲まれ気品に満ちている感じがする
もっとも、インテリアを用意したメイドさん達から言えばまだ地味すぎるらしい
そんな執務室でアインズが最初にやる作業は以外にも仕事ではなく、口唇蟲への餌やりである
「今日も良い色艶だな・・・ほ~らヌルヌル君、ご飯だよ~」
日差しよけ用の葉っぱをめくり近くに置いてある皿からキャベツを手に取り口唇蟲に近づけるとすごい勢いで食いつき、その様子を確認したアインズはさらにキャベツをもう二枚与える
「最初は気持ち悪かったが、こうやって世話をしていると愛着が湧いてくるな」
この口唇蟲はもちろんただのペットではなく、外出時に変声するために使う大切な蟲である
使い方は簡単で、蟲を口の中に入れると蟲が喉に張り付き自分の声が口唇蟲に登録されている声に変化するのである
もっとも、アインズが骸骨のアンデッドだからできる事であり、生身でやるとかなり辛いらしい
『うゔぁぁがぁぶ!! ヌチョヌチョのヌルヌルがのどに張り付くうっぅぅぅう!! ゔぇ!ゲブォ・・・はぁ、はぁ、はぁ。・・・この口唇蟲って微妙に甘いんだね・・・ 』
以上が友人の感想である
その時の様子を思い出し、小さく笑ってしまった
この短くも楽しい時間が終われば仕事の時間だ。もっとも、日を跨ぐような仕事は残ってはおらず机の上には書類はない
これはアインズが仕事を早く終わらしたわけではなく、彼の仕事は大きな決定をすることであり、細かな雑務は全て部下が済ましサイファーが統括しているため、彼の仕事は極端に少なくなる
(それが辛いんだけどな。責任の重要度こそが仕事の辛さだと初めて分かったよ・・・肉体的な疲労より精神的な疲労、いわゆるプレッシャーの方が辛いって・・・)
そんなかんだ考え事をしていたらアルベドと部下のエルダーリッチ達が入室してきた。天気の話を軽く振ると、
「お気になさるなら天候を変えてしまいましょうか?」
とアルベドが笑顔で答えてくる。ただの世間話でこの反応では、さすがのアインズもゲンナリである
気を取り直して仕事の話に戻れば、分厚い書類が幾つも置かれていく。その一つを手に取りパラパラ~っと内容を確認するが、単なる会社員だったアインズには国家規模の経営策など困難極まる
故にアインズは出来る者に仕事を任せるべき、という考えのもと、書類に判を押していく
誤解がないように言っておくが、アインズは書類にちゃんと目を通してから判を押している
自分の決定に対して知りませんでした、と逃げないために上に立つものとしての責務をまっとうしようとしている
だから分からないことや理解しにくい内容を発見すると遠回しだが一応アルベドに教えてもらっている
もっともアルベドはアインズは理解しているうえであえて聞いていると認識しているようである
「さて、ではいつものやつをやろう。今日の提案分はこれだ」
小難しい話しを切り上げ、アインズは用意してあった紙を引き出しの中から取りだした
これこそ、アインズがひそかに楽しみにしている案件で、名付けて『魔道国これからどうしましょう?意見を支配者が聞きます』という企画である
もちろん大真面目な企画であり、ナザリックのシモベ達から様々な意見を募集しさらなる発展につなげるものである
アインズ本人も自分の意見が本当に正しく評価されるのかを確かめるため、匿名で参加している
こうでもしないとアインズの意見は絶対のものとされ、例え間違っていても最高の評価と共に実行されてしまう恐れがある
まず最初の投書には『人のために学校を創って有益な人材を育成しましょう』とあったが知識の拡散防止のためあえなく却下された
最低限の知識を持って家畜のように支配されるべしとアルベドは言う
その意見には概ね賛成だが、発案者のユリのために何か代案を用意してあげたほうが良いかなと心の片隅で思いながら本命である自分の意見書を読み上げた
(ユニフォームを作りナザリックの団結力を強めよう)である
内心自信満々に読み上げアルベドの顔を伺うと彼女は苦虫を噛み潰したような苦い顔で呆れていた
「・・・度を越して下等な発想ですね」
アインズは内心『ごめんなさい』と謝りながらまったく困ったものだという態度をとる
「困ったものですね。このような愚劣極まりない提案をして、アインズ様の貴重なお時間を無駄にさせるとは。聞き取り調査を行い、何らかの刑に処すべきでしょう」
「そ! その必要はない! 良いかアルベド! 決してそのようなことはするな!」
アルベドの提案に心の中であわわわと震えながらも犯人捜はやめろと口に出すと、途端にアルベドは微笑を浮かべた
「分かっておりますアインズ様。・・・まったく、サイファー様にも困ったものですね」
は? どうしてここで友人の名が出るか全く理解できないアインズは一瞬頭の中が真っ白になったが、持ち前の精神安定のおかげで意識を取り戻し、アルベドになぜそのような考えに至ったか聞こうとしたとき扉をノックする音が部屋に響いた
メイドのフィースが確認に向かったが漏れて聞こえてくる声で誰が来たのかは見当がついていたが、あえて何も言わなかった
だってそれが王としての態度だから・・・らしい
「アインズ様。アウラ様、マーレ様です」
分かってたよ。と言いたかったが素直に入室許可を出すと、すぐに双子の闇妖精が入ってきた。何か厄介事かと思ったが
二人は満面の笑みを浮かべていたので取り越し苦労だったようだ
しかしそのせいで、なぜアインズの案がサイファー案だとアルベドが勘違いしたのか聞くタイミングを逃してしまった
その後もアウラとアルベドはアインズの膝に座わるのに固執しあっていた。
アウラが膝の上に座りたがるのは子供だから分かる。おそらくこの年齢の子は親の温もりを必要としているのだろう、だから大人であるアインズに無意識に求めてしまうのだろう
友人であるサイファーも彼女たちの階層に遊びに行くときはお菓子などを持参していると言っていた
(となると、やはり情操教育などをしていく必要があるな。闇妖精の国とかないかな? ん、そう言えばナザリックには外から来たエルフがいるじゃない)
「アウラよ。一つ聞きたいのだが、第六階層に預けている三人のエルフはどうした?」
「ナザリックに土足で踏み入れながら、サイファー様のお慈悲によって生かされている者たちですか?」
ワーカー達を呼び寄せたときに、あまりにも劣悪な扱いを人間により受けていたため、サイファーの『異形種狩り絶対殺す精神』により助けられ、エルフの国に無事に帰れるようになるために治療を受けていたはずである
今まですっかり忘れていたが、まだ国に返したという話を聞かないためエルフ式の情操教育の方法を聞いてみたいと思ったのだ
「はい。一応、あたしたちの階層の森の一画にドリアード達と働いております」
「働いている?」
「はい、なんか、あいつら、王も国も最悪な状況なんで何でもしますから置いてくださいってサイファー様に嘆願したらしくて、それを聞き入れたサイファー様の命令でエルフ式の薬草畑や野菜を作ってるらしいです」
(なるほど、サイファーさんがたまに持ってくる変な味の野菜はそこで作られていたのか。しかし、エルフ式か、ちょっぴり興味があるな、こんどエルフ式の教育を聞きに行くついでに見学でもしていくかな)
「ところで、アインズ様達は何をされているのですか?」
「ん、ああ。ナザリック内の者たちから集めたこの国をより良くするためのアイディアを検討している。そうだ、二人とも何かアイディアがあれば言ってみないか? 何でもいいぞ」
アインズの言葉に二人がう~んと悩んでいるとアルベドが先ほどのアインズの案を二人に渡し話し始めた
「二人とも難しく考える必要はないわよ。こんな案でも良いのだから」
「ん、どれどれ・・・うげぇ、流石にこんな酷い案はまずいでしょう」
「う、うん。そ、それはちょっと・・・」
(うう、やめてくれ。その攻撃は俺に効く)
しかし傷つきながらもアインズの脳に電撃が走る。今なら何でこの案がサイファーの案だと誤解されたのかが聞けるのではないかと
「そう言えばアルベド。なぜ、それがサイファーさんのものだと分かったのだ?」
ナチュラルにサイファーへと責任転換したがアインズはあえてその考えを忘却の彼方へ追いやった
アインズの言葉でこの案がサイファーのものだと知った双子はなぜか納得がいったという顔になりアルベドに視線を向け始めた
そのアルベドは話しても良いものかという顔でこちらをを見ていたため、アインズは意味深にうなずいてあげた
「簡単な話です。いくらアインズ様がどの様な案でも良いと言われましても、ナザリックの最高責任者であるアインズ様の貴重な御時間を下らない案で潰すわけにはまいりません。そうなるとシモベ達は委縮し意見を思いついてもそれが下らないものだと判断されればその命を持って償わなければならないと考え意見を出すことに躊躇するでしょう」
(いや、そんな事はないぞ。お前たちの考えすぎだって!)
「おそらくサイファー様はその様な状況は芳しくないと考え、この様なくだらない案を出され皆を少しでも安心させようとお考えになったのでしょ。最初はアインズ様の自作自演だとも考えましたが、アインズ様が必死に犯人捜しを止めたことは、サイファー様の御考えを理解したうえで止められたのでしょう」
「さ、さすがは、アルベド。彼の考えを読むとは私も驚いたぞ(恐ろしいほどの勘違い!しかし、下手な言い訳が出来ない状況になってしまった )」
「そうなんだ。本当に何でもいいんだ」
「う、うん、僕たち難しく考えすぎてたみたいだねお姉ちゃん」
アウラとマーレはいい感じに騙されて、先ほどの難しい顔から幾分も柔らかい顔になり考え始めている
そんな二人を見ていたアインズはこれはもう言い訳できねぇと考え、二人にはしっかりと口止めをしようと決心し、アウラは笑顔で自分の考えた国を良くする方法を口にした
「はい! 男の子は女の子の格好を、女の子は男の子の格好をすべきだと思います」
「ぶくぶく茶釜ぁぁぁぁ~~!!」
あまりにもぶっ飛んだ意見が飛び出したため、思わず声を荒げてしまった、脳内ではピンクのスライムが可愛い声でてへぺろしている姿がありありと浮かんでいた
「俺を呼んだか!? 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」
何を勘違いしたのか呼んでもいないのにサイファーが扉を開けて現れた・・・・・が
「いえ、呼んでおりません」
「ぶくぶく茶釜様だって言ってたじゃん」
「あ、えっと、お呼びじゃないです」
三人の正論にorzのポーズで倒れこむサイファーの姿を見ていたアインズに今日一番の笑いをもたらしたのである
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四十七話目 悪魔王行動開始
遅くなっちゃった。てへ
朝の仕事を終えたアインズは軽い気持ちでパンドラズ・アクターに会いに行ったが・・・イロイロと精神をやられてしまった(笑)
しかし、パンドラズ・アクターの言った『魔道国をどのように統治するのか』という言葉が頭から離れなかった
『元一般人だから』『デミウルゴスに任せれば大丈夫』、などと考え、ある意味思考放棄していた
しかし、今まで成行きに身を任していたとしても、この問題は避けては通れない問題だろう
このモヤモヤする気持ちを整理すべく、お付きのメイドが扉を開ける前に扉を自ら開ける
そして街を見れば何か思いつくかもと単純に考え青い空へと『飛行/フライ』によって空に飛びあがり手近な屋敷の屋根に降り立つ
結構高い屋根に降りたが、さすが城塞都市、街に張り巡らされた城壁のせいで街の様子が殆ど分からなかった
「やっぱ見えないか。ならば行くしかないか」
この障壁のせいで街が見えない。などと冗談でも呟きシモベの誰かの耳に入ってしまえば次の日には三重の城壁は二重の城壁・・・いや、なくなってしまう恐れがある
ならば歩いて街を周れば何か浮かぶものがあるかもしれない。そう考えていると八肢刀の暗殺蟲が這い上ってきた
「アインズ様、御身一人で行かれると危のうございます」
「そうだな。確かに視界の開けた所で一人で立つなど狙撃してくれと言っているようなものだな」
本来ならありえない様なミスだが少し思考に没頭しすぎていたようだと内心反省し、それと同時に積極的に無防備な状態をさらしていた友人もいたことを思い出す
(そういえば昔PvPを積極的にやってた頃、よくサイファーさんを囮に使っていたな。ダメージカウンター型特化という特殊性のおかげでスナイパーのあぶり出しとダメージ稼ぎに重宝したよな)
本当に彼の戦闘スタイルは敵の襲撃を誘発するのに便利だった
ハチの巣にされながら敵スナイパーを戦闘不能に追い込んでいくサイファーはほんのちょっとの間ギルド内でヒーロー扱いを受けていた
しかし、サイファーの情報が攻略サイトに曝されてからは囮に使えなくなったと皆で笑いあった思い出がある
もっとも、囮にされていた本人は囮にされるたびに『早く助けに来て~! 死んでレベルダウンしちゃう~!!』などと発言していたが、ナザリックの軍師曰く『やはり彼はダメージ管理がずば抜けてうまいですね・・・これはもう少しキツめの所に放り込んだほうが戦力の幅が広がるかもしれませんね』 などと黒い笑顔でボソッとつぶやいていた
最初は聞き間違いだと思ったがその数時間後にはさらに過酷な戦地に送られる彼の姿があったが、それは、まあいいとして・・・
魔導国の今後から思考がずれてきてしまったと苦笑し、屋根の上から魔法の力でゆっくりと降り立つと、さっきまで慌てて壁を登ろうとしていたメイドが何事もなかったようにアインズの後ろに付き従っていた
「フィース」
「はい!」
「私はこれから街へと出る、サイファーさんに私の護衛役のふりをしてもらいたいから冒険者の格好で来るように伝えてくれ」
「畏まりました! では馬車のご用意をすぐにいたします!」
「いや、馬車はいい、私は街を見てみたい。この私が支配する街をな。だから徒歩で行こうと思っている」
「え!? アインズ様の御御足が汚れてしまいます! すぐにメイド総出で清めてまいりますのでご命令を!」
注:エ・ランテルは舗装されている場所が少ないから雨などですぐに泥でグチャグチャになるのだ
「不要だ。元々私はこの都市で生活していたのだぞ。あと、私の部屋からヌルヌル君を持ってきてくれ。あれがないと声を変えられないのでな」
その一言でメイドは小走りでかけていき、アインズは待っている時間を利用してアルベドと約束した外出用の高レベル天使を召喚するため超位魔法を発動した
やがてヌルヌル君の飼育箱を持ったまま息を切らして駆けてきたが肝心なサイファーの姿が見当たらない
「ん、フィースよ。サイファーさんの姿が見えないのだがどうしたのだ?」
「あ、あの、サイファー様が・・・その・・・」
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「きょうは、おなかが、いたいの」
フィースから事情を聴き、ハムスケが常駐する小屋に来てみればハムスケの背中に子ザルのようにへばり付きながら嘘くさい言い訳をする友人の姿があった
へばり付かれているハムスケは『毛並みが崩れるから早く離れてほしいでござるよ~』などと完全に野生を忘れたペットてきな発言をしている
「何ですか、その嘘くさい言い訳は? 街で何かあったんですか?」
一応訳を聞いてみたらサイファーはボソボソと小さい声で話し始めた
・
・
・
「・・・要するに、街での自分の人気と評価が底辺まで落ちているから行きたくないと?」
「うん。」
彼曰く、英雄モモンは邪悪な魔王から人々の平和を守るため日夜、街の有力者と重大な会議を行ったり、落ち込んでいる人々の激励に回るなど英雄的な行動の数々、その結果人気はダントツのナンバーワン
黒鎧の美姫と名高いアルベドは、そのマスクの下に隠されている美貌と英雄モモンのために街郊外へと出向き有力な情報を集める行動力とファンの多さもあって人気ナンバーツー
しかし魔法詠唱者サイファーは魔導王を近くで監視しているとされているが、誰もその活躍を見たこともないし、街から離れていく者たちに『魔導王は素晴らしい人物だから今街を離れるのはもったいないよ』と魔導王を擁護するような発言が一部で炎上し、人気は上記の二人に比べて・・・(涙)
「いや、魔導王の悪評を少しでも挽回しようとした気概は認めますけど、・・・殆ど自業自得ですよね」
「うん、さすがに考えなしだったと反省してます。だからほとぼりが冷めるまで・・・」
「はぁ~」
結局一人で出かける事になったアインズはパンドラズ・アクターに『伝言/メッセージ』をいれ炎上の沈静化を頼むのであった
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アインズが冒険者組合で真の冒険者について熱く語っているであろう時間帯、ついにサイファーがハムスケから離れ地面に降り立った
「よし、アニマルセラピーでリフレッシュ完了。アインズさんに変な言い訳してサボってしまったがここから挽回するのが俺だ」
「おお、汚名挽回というやつでござるな。某も協力する故、なんでも言ってくだされ」
「おお。頼りにしてるぜ」
とは言っても、何か計画があるわけでもないのだが、前向きなのは良いことだと思われる
「確かフィースの話じゃアインズさんは街を見て回りたいんだったな。」
「そう言えばそう言ってたでござるな」
しかし、冒険者をしてたサイファーからしてみれば、この街はすでに見尽くしてるし、新たな発見は無いように思われる
変わった事といえばナザリックのシモベ達の活躍で街の治安は瞬く間に良くなったし、周辺の魔物も定期的に狩っているため魔物被害も減少傾向だ
なのに人口は減少傾向、冒険者も拠点を移している、ここまで考えてサイファーはある考えに至る
「ん、街で稼げないから人が減ってきてるなら、他所に行かないでも稼げるって事をアピールすればいいんじゃないか」
今まさに最高のアイディアが閃いた。しかし問題はそのサンプルケースを誰にするかだ
「誰か信頼できる奴はいたかなぁ・・・あ、いた!」
彼の脳裏には帝国で偶然出会った眼帯の少年の顔が思い浮かんだ。
「よし、目的は決まった。お~い、シモベの諸君、ちょっと協力して欲しいから集まれ~」
サイファーがそう叫ぶと、どこからともなく沢山の異形種の者どもが集まって来る
その様子を眺めながら彼はアインズの驚く顔を思い浮かべながらニヤついていた
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