CMR カルデアミステリー調査班 (乃伊)
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2015MMR再始動 人類史焼失!人類滅亡の日、来たる!?(前編)
西暦2015年7月――――人類は、滅亡した。
それは、核戦争や小惑星衝突のごとき大災禍ではなく、殺人ウイルスや異常気象・群発地震のような大自然の逆襲でもなく、政府や秘密結社の密やかなる陰謀でもない……地上に住まう誰一人にさえ想像できなかった、突然の破滅であった。
“人理焼却”。
すなわち、人類史における決定的なターニングポイントへの“超時空的介入”と“過去改ざん”。
人類の文明の礎たる「学問の成り立ち」「宗教という発明」「航海技術の獲得」「情報伝達技術への着目」「宇宙開発への着手」……それら星の開拓の歴史が、恐るべき改変者によって捻じ曲げられ、人類の未来までもが失われてしまったのだ。
“過去”から殴りつけられた人類は、はた迷惑にも惑星一つを火の海にしながら、為す術すらなく滅びるかと思われた……
……だが!
それでも人類は死に絶えてはいなかった!!
時を超えて人類史を守る最後の砦……その名を、“人理継続保障機関カルデア”という。
改変された過去を再び修正すべく、古今東西の英雄を引き連れた唯一人の“カルデアのマスター”が、
そして今、カルデアの施設に設けられた会議室に5人の男たちが集まっている。
その全員がモンゴロイドの人種的特徴を有し、日本語を母語とすることから外国人であることが察せられる。……事実、彼らは本来カルデアの職員ではない。
彼らは日本のとある出版社に務める編集部員であり、このカルデアの研究施設を取材に訪れていた。しかし、そのとき不幸にもカルデアを襲った大事故――すなわち、人理焼却に加担する人類の裏切り者“レフ・ライノール”による破壊工作の現場に居合わせてしまったのだ。
カルデア職員の生存者はわずか20名ばかり。人類の危機となれば、部外者たる彼らも協力するに否やはなかった。故障した機材の修理やメンテナンスなど専門的な仕事はできないが、施設の管理や資料の調査など、やるべきことはいくらでも残っていた。
そして、仕事の合間を縫って彼らは集合し、再び人類存亡の危機に立ち向かうべく、知恵を絞り議論を戦わせようとしていた……!
そう。彼らは、ただの編集部員ではない。
キバヤシ、ナワヤ、タナカ、イケダ、トマル……彼らこそ、かつて1999年の人類滅亡危機に立ち向かった、勇敢なる“
◇◆◇
「皆、よく集まってくれた!」
眼鏡を掛けたリーダー格の男、元MMR隊長のキバヤシが隊員たちを労う。
普段通りの気丈な表情を見せているが、どこか沈鬱な影をまとっているようにも感じられる……彼らにつきつけられた“人類滅亡”という事実の重さが伺われた。
「いえ、こんな非常事態ですから。でも……まさか、本当に人類が滅亡してしまうなんて」
「それに、その原因が、我々がこれまで調査してきた危機とは全く違う“過去の歴史への介入”……SF映画でも観てるような気分です」
全員の心境を代弁するかのように、タナカ隊員とイケダ隊員がそれぞれ困惑を露わにする。
ご存じない方もいるかもしれないので説明しておくが……MMRは前世紀末に活動したチームであり、出版社に寄せられた読者からの投稿や日本各地・世界各国からの情報をもとに様々な事件や超常現象を調査し、世紀末に予言された破滅に対抗すべく人類に警鐘を鳴らし続けてきたのだ。
そしてその中で、彼らが特に重点したのが“1999年7の月”の滅亡であった。
その予言を残した大預言者ノストラダムスの詩や聖書等の解読、科学者や霊能力者への取材、事件現場や遺跡へのフィールドワークなどを通じて、世界を滅ぼさんとする陰謀の数々を暴いてきたのであるが……
「……そうだな。今回のことは、俺たちMMRにとっても無念の極みだ……」
言葉の端に悔しさをにじませるキバヤシ。
かつてMMRは“超能力”の検証に挑み、その力を利用せんとする恐るべき計画にたどり着いたことがあった(単行本①巻参照)。その取材は途中で何者かに阻まれたかのように打ち切られてしまったのだが、超能力を認めつつも“魔法”や“魔術”の存在を検証しなかったことは、キバヤシにとって痛恨のミスであった。
「おいおい、そう暗くなるなよ! ま、気持ちは分かるけどよ……でも、アレだろ? 敵が魔法使いなら俺たちカルデアにだって魔法使いがいるじゃねえか!」
そう言って場の空気を和らげようとしたのは、ナワヤ隊員である。普段はお調子者の彼であるが、やるときはやる男なのだ。
「“魔法使い”じゃなくて“魔術師”だそうですよ、ナワヤさん」
「あぁ? それなンか違うのか?」
「ぼくも詳しくは知りませんが……科学技術で再現できるものを“魔術”、再現できないものを“魔法”というらしいですね」
「へえー。じゃあ、今回の事件は魔法ってわけだ。タイムマシンは開発されてねぇもンな」
ナワヤはそう言うと、急に何やら悩みだした。おそらく、もしタイムマシンが発明されたら何に使うか考えているのだろう、主にモテ的な意味で。周りの隊員たちは呆れた視線を送っているが、キバヤシにとって、自分なりに事態を把握しようとするナワヤの姿は勇気づけられるものだった。
「皆、聞いてくれ。この“人理焼却”は魔法と魔術によって引き起こされた……魔術を使えない俺たちにとっては専門外だが、それでも諦める訳にはいかない!」
「そうですよね! 我々にも、何かできることがあるはずです!」
「そうこなくっちゃな!」
「やりましょう!」
隊員たちの熱い賛同の言葉が、キバヤシの闘志を蘇らせていく。そうだ、まだ終わっちゃいない。俺たちMMRがいる限り、人類滅亡など認めるわけにはいかないんだ!
「ありがとう、頼もしい限りだ……! それで、俺たちが今後取り組むべきことだが……やはり、かつてのMMRのように、この“人理焼却”を俺たちなりの視点から調査すべきだと思うんだ」
「我々の視点というと……読者からの投稿ですか? しかしキバヤシさん、もうカルデアの外の人類は……」
「ああ、分かっているさ。若さゆえの鋭い感性と閃きを持った読者たちからの投稿を頼れないのは片翼をもがれた気持ちだが……俺たちの武器はそれだけじゃない! ……人類滅亡が訪れた今こそ、俺たちはもう一度あの“ノストラダムスの大予言”に立ち返るべきだと思うんだよ!」
「「「「ノ、“ノストラダムスの大予言”ーーー!?」」」」
まさに、意外な提案であった。
“ノストラダムスの大予言”。16世紀に生きた大予言者ノストラダムスが残し、MMRが全精力を持って解明に取り組んだ終末の予言である。すなわち、数多ある予言の中で最も有名な――
1999年7か月、
空から恐怖の大王が来るだろう、
アンゴルモアの大王を蘇らせ、
マルスの前後に首尾よく支配するために。
「いや、待てよキバヤシ! その予言はもう外れただろ!? なんで今更!」
「ナワヤ……お前の疑問はもっともだ。だが、俺の推測が正しければ……“ノストラダムスの大予言”は、
「ど、どういうことだキバヤシーーー!?!?」
混乱するナワヤを落ち着かせるように、キバヤシは努めて冷静な口調を保ちながら隊員たちに問いかける。
「そうだな、皆……自分が犯罪者になったと考えてほしい。強盗でも殺人でも、何でもいい」
「犯罪、ですか……? あまりいい気分はしませんが……」
「イメージしてみてくれ。俺たちはこれから犯罪を犯そうとしている。だが……もし、その犯行をすべて見通す予言者がいたなら……どうする!?」
「予言者……!?」
ざわつく隊員たち。そして、キバヤシの視線が一人の男を射抜いた!
「タナカ……お前なら、その邪魔な予言者をどうする?」
「え!? えぇっと、そうですね……予言者がいる限り、犯罪は失敗するわけですから……なんとか味方に抱き込むか、でなければ…………あれ? どこかでそんな話を聞いた気が……」
タナカは眉間にしわを寄せ、記憶を手繰る。彼は筑波大学で考古学を専攻した経歴があり、MMR構成員の中でも特に歴史に詳しい。キバヤシは、その知識を見込んでいるのだ。
「予言……予言者……邪魔な……妨害……あ。あ、ああああァッ!!!」
「ッ!? タナカァ、大声出すんじゃねえよ、びっくりしただろ!」
「キ、キバヤシさん……そういうことだったんですね? だから……
身を乗り出しキバヤシに迫るタナカの表情は、興奮のあまり赤く染まっている。そう、彼はキバヤシの与えたヒントから、ノストラダムス大予言の真実を導き出したのだ……!
「ちょっと待ってください! タナカさんだけ分かっても僕らには分かりませんよ!」
「そうだぜ、説明してくれよ説明」
不満を露わにする他の隊員たち。キバヤシは、ニヤリと笑ってタナカに告げた。
「タナカ、説明を頼めるか?」
「任せてください!」
そう言って、タナカは会議室のホワイトボードの前に立つ。皆の前で自説を発表するのも、MMRが活動を休止してからというもの随分久しい。どこか懐かしさすら感じながら、タナカは語り始めた。
「そうですね、まず……キバヤシさんの喩え話ですが。犯罪を犯そうとしている者というのは“人理焼却”の黒幕を指し、邪魔な予言者とは……ノストラダムスその人のことです」
「おぅ、そこは分かるぜ」
「次に、ノストラダムスについてですが……1999年の予言を除けば、彼は確かに様々な予言を的中させてきたはずです。そうでなければ、あれほど多くの人々が彼の予言を信じるわけがないですからね」
「そして、だからこそ我々MMRもノストラダムスの予言を調べていた……」
「つまり、ノストラダムスには確かに予言の力があった。そうすると……“人理焼却”の黒幕にとっては、間違いなく目障りですよね? だから、それを排除する必要があるわけです。そして……予言者を無力化する方法は、既に我々人類の神話において語られているんですよ!」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。それは、ギリシャ神話の“トロイア戦争”にまつわる物語です。アガメムノン王や英雄アキレウスが属する“アカイア”と、勇将ヘクトール率いる“トロイア”の戦いなのですが、実は、トロイアには太陽神アポロンから予言の力をもらった女性がいたのです……!」
「そ、それが無力化された予言者……」
「彼女の名はカッサンドラ。
しかし、予言の力でアポロンの愛がいずれ失われることを知ったカッサンドラは、アポロンを振ってしまいます。怒ったアポロンは、彼女に呪いをかけました。『カッサンドラの予言は誰も信じない』という呪いです!
やがて、トロイアは敵の計略にかかって滅んでしまいました。カッサンドラは、それが罠だと誰より早く予言していたのに……!」
「チッ、ひでえ奴だぜ、アポロン。男ならもっと潔く無きゃダメだろォ」
プリプリと怒るナワヤ。彼的には、悲劇の予言者よりも女性を不幸にする性悪イケメン神のほうが気に障ったようだ。キバヤシは、タナカに合図して立ち位置を入れ替える。
「ありがとう、タナカ。ここからは俺が続けよう」
「キバヤシさん。タナカさんの説明で、予言者カッサンドラについてはよくわかりました。でも、それが何だと言うんです?」
「カッサンドラの伝説……それが俺たちに伝えるのは、『予言者を無力化するには、その予言を誰も信じないようにすればいい』ということだ」
そう言い切って、キバヤシは一度言葉を切る。その迫力に、ごくり、と隊員たちがつばを飲み込んだ。
「思い出してくれ。“人理焼却”の黒幕は、過去を改変することができた。だとしたら……奴らが予言者を無力化するために取る方法は、一つだ。
……奴らは、ノストラダムスの本当の予言を、過去に遡って改変したんだよ!!!」
「「「「な、なんだってーーーー!?!?!?」」」」
驚愕する一同。キバヤシの仮説がもし正しいとすれば、自分たちMMRのかつての調査は、“人理焼却”の黒幕の手のひらの上で踊っていたことになる……!
「予言の内容が改変されている……そう仮定して、先ほどの予言をもう一度見てほしい」
なお冷静に指示するキバヤシに、混乱を隠せないまま隊員たちは従った。
「『1999年7か月、
空から恐怖の大王が来るだろう、
アンゴルモアの大王を蘇らせ、
マルスの前後に首尾よく支配するために』
……これが、既に改変されているってことですか!?」
「そうさ……恐ろしいことだが……皆、予言の“1999年”を“2015年”に置き換えるんだ」
「……ええと……『2015年7月に恐怖の大王がやってくる』……!? ああ! まさに今が2015年7月ですよ!!!」
「ああ。たった一箇所を置き換えただけで、この“人理焼却”の危機をピタリと言い当てているんだ……! それだけじゃない。裏切り者レフ・ライノールは、自分に“王”がいると言っていた!」
「王……恐怖の大王……!」
「だ、だがよキバヤシ。それじゃあ、最後の行が解釈できねェぜ。マルスって火星だろ?」
恐るべき整合性におののく隊員たち。だが、ナワヤはキバヤシに異論を唱えた。こうして疑問を検討し、議論を積み重ねていくことでMMRの調査はより重厚に、説得力を増していくのである!
「いや、それも説明がついてしまうんだ……! ナワヤの言うとおり、マルスには火星という意味があるが……マルスとはそもそも、ローマ神話における神の名前だ。そして、マルス神が支配するのは……“戦争”!」
「せ、戦争ですか!?」
「思い出すんだ。カルデアのグランドオーダーにおいて、各時代で聖杯をめぐる戦いのことをなんと言ったのかを!」
「……“聖杯戦争”……!」
「そうだ……そして、これまでの議論をまとめると、予言はこうなる。
『2015年7月、
空から(人理焼却の黒幕である)恐怖の大王が来るだろう、
アンゴルモアの大王を蘇らせ、
どうだ……まさに俺たち人類の置かれた状況そのものじゃないか!
奴らは、カルデアとの聖杯争奪戦に勝利し、“人理焼却”を完遂して新たな支配者になろうとしているんだ! そして、邪魔になるノストラダムスの予言を書き換え、本当の破滅が訪れる前に予言を外すことで、誰も信じなくなるよう仕組んだんだよーーー!!!」
「な、なんてことだ……! じゃあ、我々はとっくに手遅れだったってことなんですかーー!?」
隊員たちを絶望が襲う……! しかし、キバヤシの瞳に燃える闘志は、未だ輝きを失ってはいなかった!
「いや……まだ希望はある!」
「!?」
「覚えているか、俺たちがかつて予知能力について調査した時のことを(単行本②巻参照)! なぜ予言者たちはあいまいな予言だけを残したのか、その理由は『予言者自身も、自分が見たものをどう言い表していいか分からないから』だと突き止めたはずだ!」
「あ、ああ……思い出したぜ。それで、霊能力者の宜保愛子氏に取材したンだよな」
「予言者自身にも表現しきれないことなら、部外者が改変するのは一層難しいはずだ。ここから一つの仮説が成り立つ……つまり、
「た、たしかに……! 文学的にも高度な予言詩をいじれば、そこから不自然さがにじみ出てしまう! だったら、固有名詞を書き換える方が安全かつ確実ですね……!」
「さっきの予言も、改変されていたのは1999年→2015年の部分だけだった。だから、俺たちは逆に具体的表現を疑い、それ以外の部分を重視していくことで、ノストラダムスの本当の予言に近づけるかもしれない……!」
「「「「な、なるほどーーー!!!」」」」
キバヤシの提示した仮説を聞き、隊員たちの表情が再び明るさを取り戻した!
「そうと分かればやることは一つだな! 俺、資料室からノストラダムスの本借りてくるわ!」
「あっナワヤさん! ……行っちゃいました。自分から雑用するなんて珍しいですね」
「ほら、資料室にはメドゥーサさんが入り浸ってるから……」
「ああ……」
「メドゥーサさん美人ですもんね……こんな状況じゃなきゃ、うちの巻頭グラビアに勧誘したいくらいですよ」
「むしろここのサーヴァントさん全員グラビアに載せたいよね」
「ははは、じゃあ人類滅亡が回避できたら、“実録カルデア美少女・美女カタログ”とでも名づけて企画を打診してみようか。そのためにも……まず、ナワヤが戻ってくるまでにカルデアの
希望が見えれば、未来に思いを馳せることが出来る。未来のためなら、力の全てを尽くすことができる。いまや、隊員たちの心は一つだった。キバヤシは、改めて仲間の心強さを思う。彼らの力こそMMR、そしてマガジン編集部のエンジンだ!
「よし。まずは基本的なところからだ。“人理焼却”を目論む敵は、人類史上の7つの時代に介入し、過去を改変した。改変された時代……すなわち特異点を修復するのがカルデアの目的だ」
そう言うと、キバヤシはホワイトボードに7つの年号と地名を列記した。それは、現時点において観測されている特異点の座標である。
【第一特異点】西暦1431年 オルレアン
【第二特異点】西暦0060年 セプテム
【第三特異点】西暦1573年 オケアノス
【第四特異点】西暦1888年 ?
【第五特異点】西暦1783年 イ・プルーリバス・ウナム
【第六特異点】西暦1273年 ?
【第七特異点】紀元前? ?
「以上が、ロマン博士から教えてもらった特異点の座標だ。現在は、『第一特異点』まで修復が完了している……! みんな、これを見て意見を聞かせて欲しい!」
「ええと……こうしてみると、“?”が多いですね」
「ああ。それは、カルデア側の観測精度の問題らしい。他の特異点を修復していけば、観測のゆらぎも減って特定できるようになるそうだ」
「すみませんキバヤシさん、ちょっと地名が分からなくて……」
「トマルか。いや、謝ることはない。それは重要な指摘だ」
申し訳なさげにしているトマル隊員だが、実際、時間座標はともかく空間座標については奇妙な結果が非常に多い。まずはそれを解析する必要があるだろう、そう考えたキバヤシは、海外経験豊富なイケダ隊員と歴史に詳しいタナカ隊員の意見を募る。資料集めに行ったのがナワヤ隊員だったのは、結果的には良い人選だったのかもしれない。
「オルレアンは、そのままフランスの地名ですよね。セプテムとオケアノスはわからないんですが、イ・プルーリバス・ウナムは確か『多数から一つへ』という意味だったはずです。オバマ大統領の演説で出てきましたよ」
「なるほど。確かに、俺もどこかで聞いたことがある……なにか引っかかるな。イケダ、その“イ・プルーリバス・ウナム”という言葉について詳しく調べてくれないか?」
「了解です!」
「さて、残りの2つだが……」
「あ、セプテムとオケアノスはちょっと分かります」
「タナカ!」
「セプテムはラテン語で“7”の意味、オケアノスはギリシャ神話で外洋の神様の名前ですね。ただ、どちらも具体的な地名とはちょっと違う気がするんですけど……」
「そうだな……そのあたりは、年代と照らしあわせて予想するしかないか」
キバヤシは、羅列された年号を眺める。既に修復された第一特異点=西暦1431年のオルレアンでは、同年に処刑されたジャンヌ・ダルクが復活して国王シャルル7世を殺害、竜を呼び寄せて国中に虐殺の災禍をばらまいたという。
カルデア側の推測によれば、これによってフランスにおける人間の自由・平等の権利成立が遅れ、人類全体の人権意識の進歩が停滞する可能性があったとのことだ。
(つまり、各特異点の年代に起きた事件を調べればいいということか……)
IQ170を誇るキバヤシだが、さすがに年号から世界中の事件を漏れなく列挙できるほど記憶力に自信はなかった。ならばナワヤを待つしか無いと思うも、何か引っかかるものがある。
違和感の正体を考えるキバヤシに、トマルが質問した。
「キバヤシさん、そういえば先ほどの予言詩、3行目は結局わからないままですね」
「ああ、そうだな。『アンゴルモアの大王を蘇らせ』……これが相手の目的なのだろうが……推測するには材料が足りなすぎる」
「そもそも、アンゴルモアの大王っていったい何なんです? どこかの王様ですか?」
「あ、僕知ってますよ。
アンゴルモアの大王の正体は諸説あるんですが、有力なのはノストラダムスと同時代のフランス王でアングーモワ地方出身の“フランソワ1世”説。
もう一つはフン族の王“アッティラ”説。英雄ジークフリートを謳った“ニーベルンゲンの歌”では“エッツェル”とも呼ばれますね……あと“アルテラ”なんて呼び方も聞いたことがあるような……」
「なるほど……うーん……でも正直、そんな昔の王様が蘇っても別にって感じですよね?」
答えたのはタナカだ。トマルの反応こそ渋いが、資料も見ずに即答できるとは隊長として頼もしい限りである。
「……行き詰まってきたな。いくつか気になることはあるが……ナワヤの資料待ちか」
そう言って一息入れようとしたとき……ガラリと音がして扉が開いた。大量の資料を抱えて入ってくるのはナワヤだ。しかし、その後ろ。褐色の肌に白髪の、赤い外套を纏った男が立っている。
「奇妙な集会を開いている者がいると聞いた。一応、私もこのカルデアの世話になっている身なのでね、こうして自発的パトロールに赴いたわけだが……」
男の眼光は鋭い。心なしかナワヤの表情に怯えが見られるのも、この部屋に来るまで背後から剣呑な気配を浴びせ続けられたからだろう。キバヤシは臆さず前に進み出た。
「カルデアの関係者だろうか? 俺は日本の出版社から取材に来ているキバヤシというものだ……運悪く今回の事件に巻き込まれてしまったが、俺たちなりに検討をしてみようと思ってね。何も怪しいことはない、いっそ参加してくれても構わない」
カルデアには、サーヴァントとよばれる召喚された英雄たちが多く所属している。赤外套の男もその一人なのだろうが……なぜかキバヤシの返事を聞いた途端、その両目を驚きで見開いた。
「日本の、キバヤシ……まさか、MMRなのか!?」
後編(明日)に続く
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2015MMR再始動 人類史焼失!人類滅亡の日、来たる!?(後編)
「日本の、キバヤシ……まさか、MMRなのか!?」
赤外套の男……その真名を、エミヤという。
孤独に戦い死んでいったその男の名を知る者は決して多くはなく、一介の編集部員であるキバヤシら元MMR隊員も例外ではない。
だが、逆に……エミヤは、彼らMMRを知っていたのだ。
日に焼けた肌と色の抜けた髪からは想像しにくいが、エミヤはかつて日本で生まれ育った。長じて後、「正義の味方」という理想を追い求めて各地の紛争に介入し、その戦いの果てに世界と契約することで守護者となったのであるが……それは別の物語だろう。とにかく、エミヤ少年は「正義の味方」という理想を己のうちに抱きながら、その青春を日本で過ごしていた。
──ところで、正義の味方には倒すべき悪が必要だ。
それを彼に気づかせたのが誰だったか、記憶は摩耗し顔も名も定かではないが……そのずっと以前。幼き日のエミヤ少年は、無邪気なまでにこの世に蔓延る「悪」と潰えぬ「正義」の存在を盲信していたのである。
折しも西暦1990年台、それはMMRの活動が世界の「悪」を暴いていた時代────
「──なるほど、日本のMMR。活動は休止したと聞いていたが」
「ああ、そのつもりだったさ。カルデアにも純粋に取材で訪れたに過ぎない……だが、今こうして人類が滅亡の危機に瀕しているなら、話は別だ」
赤外套の男は、ホワイトボードに記された7つの特異点の座標と、机に積み上げられたノストラダムスの予言詩や旧約聖書などを見やる。
「意気込みは結構だがね。2015年に今更ノストラダムスもあるまいよ」
「いや、待ってください! 我々は驚くべき発見をしたんですよ!」
タナカが先ほどの議論の内容を赤外套の男に説明するが、彼の冷ややかな視線がその温度を変えることはない。それもそのはず、少年の日の彼は、誰よりも世界の「悪」に敏感であり……それを伝えるMMRに敬意を表していたのだ。彼の住んでいた“冬木市”には奇妙な事件や怪談めいた噂話も多く、幼き日の彼はマガジン編集部に手紙を出したことさえあった。
……そして、信じていたがゆえに、失望は深い。
「確かに、1999年ノストラダムス予言は外れ、俺たちMMRも活動を休止した……しかし、だからといって今動かない訳にはいかないんだよ」
「ふ、当たらぬ予言など、妄想に等しいだろうに」
「てめぇ!? さっきから馬鹿にしたような目でネチネチとッ」
「ちょっ落ち着いてくださいナワヤさん!」
斜に構えたような態度を崩さぬ赤外套の男に、ナワヤは激昂する。対して、キバヤシはそれほど怒っているようには見えない……あるいは、キバヤシ自身、活動休止後のMMRに対してこのような態度を取る相手を1999年から今までの間に見てきたからだろうか。
1999年、人類滅亡が訪れなかったのは幸いであった。しかし、MMRが警鐘を鳴らし続けるうちに、ある種の……倒錯的かつ破滅主義的な期待を抱く者たちが出始めたのも事実なのだ。世紀末。当時の世界の奇妙な雰囲気を、キバヤシは忘れはしない。
「妄想なら妄想で構わないさ。怪しいことはしていないのだし、何かしていなければおかしくなってしまう、そういうことがあるだろう?」
あの年の、7月のように。
「……確かに、妄想を取り締まることはできんだろうな。だが、一応私も同席させてもらおうか」
エミヤは数名の妄想趣味サーヴァントたち──
「よし、決まりだな。では、再開といこうじゃないか」
そう言うと、キバヤシは机上に積まれた本からノストラダムスの予言詩が書かれたものを取り出す。“人理焼却”などという魔法的魔術的な手法はキバヤシの知るところではないが、それでも彼の明晰な頭脳はある仮説を導き出していたのである。
「……まあ、仮説というほどのものでもないがな。今回の“人理焼却”事件を聞いて、ひとつ思い出したことがあるんだ」
「その予言詩ですか? ……あれ、確かそれ見たことありますね」
キバヤシが開いたページに乗っていたのは、2編の予言詩。すなわち、
『ずっと以前にすべてがととのえられ……
のちに最も不吉な時代が来る
覆面されたままで彼らだけ変えられ
地位を保てるものはほとんどいないだろう』
『大きな数の7がすぎた時
そこに大殺戮がみられる
それは千年紀から遠くはなれていないときに……
埋葬された人々が墓から出てくるだろう……』
「いや、待ってくださいキバヤシさん! これ、どこで知ったんです!? 最初の詩はまるで過去の歴史改ざんによって2015年の未来に突然“人理焼却”が起きることを示したようじゃないですか!!!」
「じゃああれか、最初の予言詩の3行目と4行目は長い歴史の中で特異点だけが書き換えられて、それで未来が変わっちまうってことか?」
「……2つめの予言詩の最初の2行も“人理焼却”のようですね。それに、『千年紀から遠くはなれていないとき』を現在2015年とするなら……」
「『埋葬された人々が墓から出てくる』。なるほど、我々のような死せる存在がサーヴァントとして現世に召喚されることを指しているようにも見えるな。ついでに言うなら、この世界線において初めて聖杯戦争が行われたのは、より千年紀に近い2004年だ……まあ、偶然の一致だろうが」
隊員たちと赤外套の男が、驚きとともに口々に感想を述べる。その2つの予言は、あまりにも現状に近いように思われたのだ。
「この2つの詩は、かつて『レジデント・オブ・サン』を名乗る者たちがMMRに送りつけてきたものだ(単行本⑫巻参照)……俺の疑問も、それに関係している。『レジデント・オブ・サン』……世界の裏で暗躍してきた奴らが、今回の“人理焼却”によって何もせぬまま滅んだとは……俺には考えられないんだ」
「た、確かに……! いえ、こんな予言詩を送りつけるなんて、むしろ彼らこそが黒幕であるような……」
「ふむ。『レジデント・オブ・サン』……正体に心当たりはあるのかね?」
赤外套の男が問いかける。
「ああ。『レジデント・オブ・サン』の正体は…………秘密結社『イルミナティ』だ」
「!!!」
イルミナティ。ラテン語で「光に照らされたもの」を意味する秘密結社で、フリーメイソンとも関係が深いとされる。
「なるほど……あの陰謀に長けた秘密結社か。まあ、実際、“人理焼却”に関する情報が一切漏れていないということはないだろうな。人間とはそういう生き物だ。だが、少なくとも第一特異点においてイルミナティなど影も形も見なかったぞ?」
「……イルミナティが直接関わっているとは限らない、と俺は思う。なぜなら、この人類史全般に関わる“人理焼却”に対して、イルミナティは歴史が浅く、小規模すぎる」
「ならば?」
「イルミナティと関係が深く、かつ人類史の長きに渡り影で暗躍し続けてきた秘密結社……そう。俺は、今回の“人理焼却”の黒幕は『フリーメイソン』であると考えている!!!」
「「「「な……なんだってー!!!???」」」」
黒幕を名指しする大胆すぎる仮説に、驚愕を隠せぬ一同。
だが、あくまで冷静な男が一人。
「いや、待て。……さすがに、根拠が薄くはないかね?」
「そうだな。これはむしろ俺の希望的……悲観的か? あくまで推測にすぎないさ」
慎重なる赤外套の男の指摘に同意するキバヤシだが、論を翻す気配はない。仮説とは真実への足がかり。例え間違っていたとしても、それを検証する過程で見えてくるものがあるのだ。
「……なあ、俺の役割、あの褐色野郎に持って行かれてないか?」
「そう思うならちゃんと仕事しましょうよ、ナワヤ先輩……」
◆◇◆
「フリーメイソンが敵の母体である、その仮説の真偽は今は置こう。そこから何が見えてくる?」
赤外套の男の、独り言めいた疑問がキバヤシの耳に届く。
突然この部屋に現れたその男の正体を、キバヤシは知らない。だが、少なくとも真剣に人類危機へ立ち向かおうとする姿勢に嘘はないのだろうと思う。IQ170を誇るキバヤシの脳細胞が弾き出した仮説を、彼にどこまで明かして良いものか悩んでいたが、信用できる男なのかもしれないと思い始めていた。
「……気になることがある」
「ふむ?」
「さっきから引っかかっていたのさ。なぜ第一特異点は1431年のオルレアンだったのか」
「カルデア側の考察は聞いていないかね? フランスで生まれる人間の自由・平等の権利成立、これが阻まれることで文明の進展が妨げられるのではないか、というものだが」
「ああ、それは知っている……だが、それでは『1431年オルレアン』である理由がないんだよ!」
「!」
カルデアの推測する人理の礎のひとつ……人間の自由・平等の権利を謳う『人間と市民の権利の宣言』、通称『フランス人権宣言』が採択されたのは
「そこに、なにか理由があるってわけか!」
「そういうことだ、ナワヤ」
「いえ、待ってくださいキバヤシさん。確かに奇妙ではありますが、ジャンヌ・ダルクですよ? 人類史でも有数の悲劇の戦乙女ですし、彼女の復讐という形でフランスを滅ぼそうとするのはありそうな話じゃないですか?」
「む……」
タナカの厳しい指摘を受けたキバヤシだが……しかし、すぐに何かに気づいたような表情を見せる。
「……皆、聞いてくれ。今、嫌な考えが頭をよぎった……
「囮、ですか!?」
重々しくうなずくと、キバヤシは己の懸念を明かした。
「……ジャンヌ・ダルクを象徴するのは、その旗だ。そして、旗は古来より時に本来の目的を隠す『囮』としても使われてきた……」
「諸葛亮孔明の“偽兵の計”ですね!」
「そうだ。ジャンヌ・ダルクの復讐は、非常に『ありそうな』動機ではある。だが……それが逆に、『先にジャンヌ・ダルクありきで、後から人権意識の遅れ等の理由付けがされた』ような、そんな違和感を与えるんだよ」
「……? いえ、言っていることはわかります。でも、それで相手になんのメリットが有るんです?」
「それはまだわからないが……有名なジャンヌ・ダルクがいるせいで一見それらしい歴史の特異点に見えるが、その実、その時その場所である必要性はない……か。なぜカルデアは1431年オルレアンを最初に修復する特異点に選んだんだ?」
「確か、一番座標のゆらぎが少なかったから……だったはずですね」
トマル隊員がキバヤシの疑問に答える。一番新人の彼は、あちこち雑用として駆りだされながらも情報収集を怠ってはいない。すると、沈黙を守っていた赤外套の男が大きくため息を吐いた。
「……ふむ。だとすれば、相手もまた我々が1431年オルレアンを最初に選ぶことが予想できたということだな?」
「そう……なりますね」
「ならば君たち、今すぐオルレアンで召喚されたサーヴァントを調べたまえ。もしかすると、状況は我々が考えているよりずっと悪いかもしれんぞ」
「なんだと!?」
男の意味深な言葉に、キバヤシは素早くカルデアの資料を取り出す。第一特異点での活動記録……そこに記された敵・味方サーヴァントの一覧の中、ある一箇所を目にしてキバヤシの動きが止まった。
「ど、どうしたんだキバヤシ! 何を見つけた!」
「……は、ははは。どうやら俺たちの予想は当たっていたようだ。それも、ずっと悪い形で、だ!」
力なく笑ったキバヤシは、駆け寄った隊員たちに一つの名前を指し示す。それは……
『ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト』
「ゔぉるふ……え、誰?」
「モーツァルトですよ、ナワヤさん! 音楽の授業で聞いたことくらいあるでしょう!」
「あ、ああ、モーツァルトね! 知ってるぜ、『ダダダダーン』ってやつだろ!?」
「それは運命! ベートーベンですよ……ごほん、彼が一体何だと言うんですか?」
隊員たちは事情が飲み込めておらず、異様にシリアスな雰囲気を漂わせる隊長キバヤシと赤外套の男を前に困惑している。それもそのはずだ、日本の義務教育で音楽の授業を受けた程度では、有名な曲を聴く機会こそあれ、音楽家個々人の人生について詳しく学ぶ機会など無いのだから。
「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト……あまり知られていないが、彼はフリーメイソンの熱心な会員なんだ……! 実際、彼の残した楽曲の中にはフリーメイソンのために書かれたものも多く存在しているのさ!」
「な……なんですって!?」
「……ジャンヌ・ダルクの復讐という華々しい舞台の影で、もしかすると……カルデアのマスターは彼によって監視されていたのかもしれない」
「でも、でも! アマデウスさんは味方ですよ! スパイだったっていうんですか!?」
そう。実際、キャスターのサーヴァントであるヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは、非常に好意的にカルデアのマスター主従に接し、最後まで味方として戦い抜いた。その真摯な態度に嘘偽りの交じる余地など一切なかったはずだが……
「いや、それは関係ないのだよ」
赤外套のサーヴァントが、否定の言葉を告げる。
「君たちはサーヴァントというものをまだ良く理解していないようだ。サーヴァントとは、霊体の器に“座”からコピーしてきた英雄の魂の一側面を取り入れたものにすぎない……ゆえに、どの側面がコピーされたかによって、同一人物でも全く別のあり方を示すことさえあるのさ」
「なんですって!?」
「はじまりの特異点、特異点F。大聖杯の前に立ちはだかったあのアーサー王を思い出したまえ」
「あ……た、確かに、あの黒いアーサー王は、我々の知るアルトリアさんとはまるで別人でした……」
「だろう? だが、彼女もまたアーサー王なのだ。同じように、オルレアンのアマデウスもまた、『マリー・アントワネットに恋する善なる側面』だけが呼びだされていた可能性がある」
「……」
「そして聖杯戦争が終わった後、サーヴァントは消滅しその記録は“座”に送られる……だが座の本体の性質が、呼びだされていたサーヴァントの性質と同じとは限らないんだ」
「まさか」
事態に気づいた隊員たちの表情が青ざめていく。赤外套の男もまた、苦々しげな表情を崩さない。
「オルレアンでの戦いを通じて、“座”のアマデウスはカルデアのマスターの素性や契約サーヴァント、戦術など様々な情報を入手しただろうな。もし、それがフリーメイソンのために役立てられるとしたなら……」
「……そうか。考えてみれば、現地サーヴァントを召喚するのも聖杯……そして聖杯は最初から敵の手の内にあった……」
「さ……最初から仕組まれてたってことかよ!?」
ナワヤが叫ぶ。7つある特異点の一つを使った、巧妙な罠……人類最後の希望たるカルデアのマスターを丸裸にする、恐るべき偵察戦術の存在が示唆されたのだ……!
「そうだとすれば、俺たちは既にかなり窮地に立たされていると言わざるをえない……さらなる検討が必要だ」
「そうだな……Mr.キバヤシ。私も本格的に協力しよう。私のことはエミヤと呼んでくれ……まあ、別に隠していたわけでもないのだがね」
「ああ、助かる!」
「よっしゃあ! フリーメイソンの野郎の悪巧みを見ぬいてやろうぜ!」
「頑張りましょう!」
◆◇◆
カルデアの一角に設けられた会議室。そこで、5人の男たちと一人のサーヴァントが、人類滅亡を防ぐため、その叡智を結集していた……!
「でもよぉ、フリーメイソンって言ったって有名人がたくさんいるんだろ? 黒幕の正体なンてわかりゃしないぜ?」
ナワヤの疑問。しかし、キバヤシは既にその答えを手にしていた。
「いや……フリーメイソンが敵の母体であるなら、その『王』の正体も予想できてしまうのさ」
「マジか!?」
断言するキバヤシに、周囲が驚きの視線を向ける。キバヤシは、すう、と息を吸い込み──
「フリーメイソンが王と崇める者、すなわち“人理焼却”の黒幕……その正体は────“ソロモン王”だよ!!!」
「「「「な、なんだってーーーー!!!???」」」」
呆気無く──あまりにも呆気無く、その古き賢王の名を告げた。
──ソロモン王。ダビデの子にして、72の悪魔を統べる魔術の王。
「いや、待てよ、確かにソロモン王は有名だけどよ、フリーメイソンと何の関係があるンだよ?」
「何の関係も何も……そもそも、フリーメイソンとはソロモン王の神殿を築くために集められた石工から始まったと言われているんだ」
「な……じゃあ、フリーメイソンは元々ソロモン王に仕えていたってことか?」
「そうだ。そして、ソロモン王が敵の黒幕だとすれば、その目的は……」
「……確か、MMRもソロモン王の秘宝について調査したことがありましたよね(単行本③巻参照)?」
タナカが、過去のMMR調査報告を思い出す。
「ありゃあ、どういう流れだったっけ? 日本にあるソロモン王の墓ってところにいったのは覚えてるンだが」
「
1990年台、徳川埋蔵金が世間の話題をさらった時期があった。流行の最前線を征くマガジン編集部もまた、その流れに乗じて、しかし独自に、日本に残されたソロモン王の秘宝を調査発掘しようと試みたのだ。
「残念ながら剣山での調査自体は、国の介入により打ち切られてしまった……だが、俺たちは秘宝の正体について肉薄することができていたはずだ! 『ピラミッドパワーによって時代を超えて保存された、過去の偉大なる天才たちのDNA情報』こそがソロモン王の秘宝であると!!!」
DNA。デオキシリボ核酸、30億塩基対のコードによって人間の構成情報を記録する、人の礎たる設計図。
「その調査は、私も君たちの調査報告を読んだので知っている。当時は一読者としてピラミッドパワーに驚いていたが……今になって考えると、時代を超えて優れた個人を保存し後の時代に復活させようという思想の在り方は、英霊召喚のそれと似通っているように思えるな」
「同じ思想……これも、フリーメイソンが関わっているという傍証なのでしょうか」
「ていうか、サーヴァントも漫画読むンだな」
「これでも生前は人間でね? まあ、漫画を娯楽として嗜むサーヴァントが多数派かと言われれば否だが」
検討すればするほどに現れる、フリーメイソンの関与を示す手がかりの数々。最早、この状況を単なる偶然で片付けることはできない。
そして、そんな緊迫した状況の中、先程から黙々と“イ・プルーリバス・ウナム”について調べていたイケダ隊員が突如声を上げた!
「ああ! わかりました! キバヤシさんが“イ・プルーリバス・ウナム”をどこで知ったのか……」
「本当か、イケダ!」
「これを見てください!」
イケダが示したのは、インターネット百科事典wikipediaの『アメリカ合衆国ドル』のページだった。そして、そこに示された1ドル札の画像を、彼は指差す。
「この右側の鳥、国鳥のハクトウワシですが、そいつが口に加えた布……そこに書かれている文字こそが、“
「な……なんだと!?」
驚くキバヤシ。その目は爛々と輝き、彼の脳内で超高速演算が行われていることを示唆する。そして、彼を見返す目がひとつ──
「……右にイ・プルーリバス・ウナム。みんな、左を見ろ。“プロビデンスの目”だ」
「フリーメイソンの象徴……『神が全てを見通す目』が、こんなところにも!?」
「そういえば、先ほど第一特異点の話で出てきた『フランス人権宣言』だが、あれにも“プロビデンスの目”が描かれているんだ……」
「……キバヤシさん!! これはいったい!?」
「第5の特異点だよ!!
第5特異点はアメリカ、しかもフリーメイソン関係者が多く関わる独立戦争だ、間違いない! そしてこれだけ情況証拠が揃って疑わない理由はないぞ。やはり、今回の“人理焼却”にはフリーメイソン、そしてソロモン王が関わっているはずだ……!」
低く、力強い言葉で結論を述べる。頷く隊員たち。最初は懐疑的だったエミヤも、いまや彼ら元MMRの仮説が信じるに値するように思われた。
そもそも、1999年の予言こそ当たらなかったものの、MMRの調査報告の中には狂牛病を引き起こすプリオンの存在や地下鉄バイオテロの脅威など、時代を先読みした優れた警告も多く存在していたのだ。かつての読者としてそれを知るゆえに、現状とキバヤシの推理からエミヤの持つ『経験によって培われた洞察力』スキルが発動する──!
「私の心眼(真)が
「賛同に感謝する、Mr.エミヤ。できれば、この情報をカルデア上層部に伝えてもらえないだろうか。現状、我々は善意の協力者であるが、部外者であることには変わりないからな」
「そうさせてもらう」
「助かる。では、最後にもう一つ、先ほどのソロモン王の調査の時に発見したノストラダムスの予言詩を提供しよう。これを見れば、我々の調査が考慮に値するものだと認められるはずだ」
そう言って、キバヤシは机の上の本を広げ、エミヤに向かって一つの詩を指し示した。
『偉大なる7の番号が達成される年
虐殺の遊戯の年にあらわれる
偉大なる4年期の時代からは遠くなく
そのとき死者は墓地から蘇る』
「偉大なる7……
エミヤはノストラダムスの予言書を手に取り、扉を開けようとして……
「ああ、部屋の戸締まりと退出記録は忘れないでくれたまえ。鍵の返却もな」
そう言い残してから、出て行った。
「なるほど。彼がカルデアのオカンと呼ばれる理由がわかりました」
「飯もうまいからな」
「夕飯のメニュー何でしょうね?」
驚くべき調査結果……未だ検討の余地こそあれ、あまりにも深刻なそれをエミヤに託した元MMR隊員たちは、どっと疲れを感じていた。
「しかし、エミヤさん……MMRの読者だったみたいですね。漫画と比較されると照れちゃいますが」
「確かに。まあでも、僕らのかつての活動も、こうして誰かに伝わっているとすれば無駄ではなかったと思えますよ」
かつての“1999年MMR最終報告”は実を結ぶことこそなかったが、今こうして人類の危機に自分たちが動けるのも、MMRとして人類滅亡に備えていたからというのが大きいのだ。もしただの一般人なら、パニックを起こして使い物にならなくなっていたかもしれない……
「とにかく皆、よくやってくれた。まだ現状が打開されたわけではないが……それは、カルデアのマスターの奮闘に期待するしかないな」
「子どもたちを戦わせるなんて、漫画じゃよくある話ですけど……実際、僕らがそういう立場に立つとやるせないですね」
「そうだな。俺たちに直接戦う力はない……だが、何もできないわけでもない。こうして検討を続けていくことが、戦いの助けになるはずだ」
カルデアのマスターは、まだ子供だ。それが、人類の未来を背負って、古今東西の英雄の主となって戦い続けている。彼ら自身も危険だろうし、なにより戦いの覚悟など現代の子供が持ち合わせているはずがないのだ。その重圧は、想像するだに痛ましかった。
マガジン編集部は、数多の物語を紡ぐ漫画雑誌編集部だ。その中にはもちろん世界を救う少年少女の物語も存在するし、だからこそ、そういった作品の主人公達の悩み苦しみをカルデアのマスターに重ねあわせてしまうところがあったのだ。
「それに、現地のサーヴァント……味方さえ信用出来ないなんて、厳しすぎるぜ。せめて俺らだけでも頑張らねェとな」
ナワヤの言葉に頷く隊員たち。もちろんキバヤシも同感であったが…………そのとき。キバヤシに、電流が走った。
「……待て。今……なんと言った?」
「え? 味方が信用できねェのは辛いだろうなって」
「味方さえ信用出来ない…………何かが引っかかる……何だ…………?」
突然黙りこむキバヤシに、周りの隊員たちは困惑した。一度ゆるんだ緊張の糸は、容易には戻らない。
「味方…………味方? ………………そうか!!!」
バァン! 勢い良く机に手をついて、キバヤシは立ち上がる。
「な、なんですかキバヤシさん!」
「休憩時間にはまだ早いぞ……! 俺たちは…………とんでもない考え違いをしていたのかもしれない……!」
◆◇◆
「廊下、2つ先の角まで見てきましたけど、誰もいませんでしたよ」
「ありがとう。……これから話すのは、俺たちだけの仮説だ。極秘だと思ってほしい」
部屋の外の様子を見に行かされたトマルが戻って報告する。礼を言うキバヤシの表情は、これまでに無いほど真剣なものだった。
──ゴクリ。息を呑む音が、静まり返った会議室に響く。
「き、キバヤシさん……どうしたんです、突然そんな深刻そうな顔をして」
「気づいてしまったんだよ……さっき意味がわからなかった、ノストラダムス大予言の3行目、その真の意味に……!」
「ほ、本当ですか!?」
驚きの声さえ、低く、小さく。
「そもそも……俺たちがこのカルデアに来たのは、何故だったか覚えているか?」
「それは、各国からの謎の資金の流れがカルデアに繋がっていたからですよね。カルデアスやサーヴァントにはびっくりしましたけど、あんな物を管理するなら確かに一国だけじゃ無理ですよ」
「確かにそうだろうな……魔術と科学を合わせることで人類史を守る。そんな組織に表立って金を出すことはできないだろう。だが……あまりにも、技術が進みすぎていると思わないか?」
「まあ、それは。でも、魔術があるなら、そういうものじゃないですか?」
「いや……『時間』や『世界線』は、魔術でも扱うのが非常に難しいらしく、ほとんど魔法の域に近いそうなんだ」
「……じゃあ、このカルデアの技術はどこから来たっていうんです?」
「俺たちは知っているはずだ……俺たちよりもずっと進んだ超科学力を持ち、そして『ある目的』のために世界各国へ密かに接触している者たちを……!」
「そ、それは……!?」
「そう……宇宙人だよ!!!」
「「「「な……なんですってーーーー!?」」」」
愕然とする隊員たち。キバヤシも、自分で語っておきながら信じられない気持ちだった。フリーメイソンに留まらず、宇宙人の陰謀までその姿を見せ始めたのだから……
「カルデアとは、そもそも“星見”を意味する言葉だ。古くから、カルデアの名を持つ人々は天体を観測していた……ならば、地球に飛来していた宇宙人にいち早く気づき接触できたとしても不思議ではない」
「そういえば、カルデア所長のアニムスフィアさんの実家は、魔術協会でも天文を専門にしているんでしたよね……」
「だ、だがよキバヤシ。それだけで決めつけるのは、早いンじゃねぇか?」
「そうだな……確かに、決定的な証拠はまだない。だが、様々な状況証拠があるんだ。聞いてほしい」
隊員たちの目が再び真剣さを取り戻したのを見て、キバヤシは再び語り始める。
「カルデアス……地球モデルを見ただろう? 今にして思えば、あれは奇妙なシロモノだ」
「奇妙、ですか?」
「地球をモデル化して、未来を予測するのはいい。だが……なぜ、
「……確かに。どこかで見たことがあると思いましたが、夜の光を撮影した衛星写真はよく似ていますね……」
「俺には、『外側から地球を見ている者』の発想が感じられる。それが、まずひとつめだ……」
キバヤシは指を一本立てる。そして、言葉を続ける。
「かつて宇宙人について俺たちMMRが調べたとき、その目的についても突き止めたのを覚えているか?」
「ええ。人類の遺伝子を彼らは欲しがっていると……キャトルミューティレーションやヒューマンミューティレーションはその一環であると、そういう話でしたよね(単行本①巻参照)」
「そうだな。だが、当時の俺たちは、重要な事を見落としていたんだ」
「!? そ、それは……」
「遺伝子だけでは、人類は完成しない。人類を人類たらしめるもの……文化の継承という視点が抜け落ちていたのさ」
「な、なるほど。では、地球の文化を宇宙人が学んでいると?」
「遺伝子……ジーンに対して、継承される文化のことをミームと呼ぶんだが……その実態は、長い歴史の中で培われた習慣や技能、物語などだ。そして……ここ、カルデアには、それら人類の育んできた文化の粋を持つものが揃っているんだよ!」
「……サーヴァント! 人類史に名を残した英霊たち……!」
「既に宇宙人が地球人類の遺伝子採集を終え、次の段階、ミームの採集に入ろうとしているとすれば……」
「このカルデアは、うってつけの交渉相手ですね……!」
「カルデアに未来観測の技術を渡す代わりに、英霊召喚に関するデータを彼らは集めているのかもしれないな……」
これが、ふたつめだ。そう言って、キバヤシはもう一つ指を立てた。
「ま、待てよ。それなら、もうこのカルデアに宇宙人が入り込んでるってことにならねぇか?」
「直接入り込む必要はないさ。何らかの連絡手段……あるいは、その中継になる存在がいればいい」
「中継……ですか?」
「思い出すんだ。このカルデアには、俺たちの誰も見たことのない、地球上には存在しないような生物がいたはずだ。それも、なぜかいつもカルデアのマスターへ不自然につきまとう生物が……」
「ま、まさか……」
「そう……“フォウくん”だよ!!!」
「ば……馬鹿な……」
衝撃が隊員たちを貫く。あの可愛らしい生物が、宇宙人の手先だというのか……!?
「フォウくんという名前は、マシュちゃんが直感的につけたそうだが……もしかしたら、かつてのマガジン読者同様にマシュちゃんの若い感性が無意識にフォウくんの異物性を感じ取ったのかもしれないな。彼の正体が、“
そして、三本目の指が立てられた。
「次だ。先ほど、宇宙人がカルデアに技術を渡していると仮説を言ったが……カルデアのグランドオーダーを実現させる超技術、時空を超える『レイシフト』はその一つじゃないかと思うんだよ」
「それは、長大な時間を要する宇宙空間移動には、時間制御の技術が不可欠だからですか?」
「それもある。だが、それ以上に……『レイシフト』という名前。何か思い出さないか?」
問いかけに、隊員たちが頭をひねる。
「レイシフト……レイ……ああっ!」
気づくのは、全員同時だった。
「UFOですよね!? UFOの着陸ポイントを『レイポイント』、それを結んだ線を『レイライン』といいました(単行本①巻参照)! レイシフト先の座標が、もしレイポイントなら……」
「そうだ。『レイシフト』とは、空間を移動する『レイライン』とは似て非なる、時間を超えて『レイポイント』へ移動する技術ではないか……俺はそう考えている」
四本目の指が。
「……キバヤシ。さっき、ノストラダムスの予言の意味がわかったって言ってたな? それは、これと関係有るのか?」
「もちろんだ。意味不明だった部分『アンゴルモアの大王を蘇らせ』……タナカ。さっき、アンゴルモアの大王の候補を話していたな?」
「ええ。アングーモワ出身のフランソワ1世説と、アッティラ王説がありますが……」
「しかし、トマルも言っていたとおり、そんな古い時代の王様がよみがえるだけの話だとは考えにくい」
「そうですね……」
「だが……カルデアの現状を考えると、3行目の意味が分かるんだよ」
「そ、それは……」
キバヤシは再びドアを細く開け、誰も周囲にいないことを確認した。そして、告げる。
「候補の一人、フランソワ1世……それほど有名な王様ってわけじゃあないが……彼は、あの“レオナルド・ダ・ヴィンチ”のパトロンだったんだよ……!」
「そ……そうなんですか!?」
「そして、このカルデアには、
「つ、つまり……」
「『アンゴルモアの大王』……それは、かつてのフランソワ1世のようにレオナルド・ダ・ヴィンチの主となる者……つまり、サーヴァント契約における
そして、『カルデアのマスター』ではなく『カルデア』によって召喚された彼……ごほん。彼女の
「確かに……ダ・ヴィンチちゃんはなぜかカルデアのマスターとは契約しようとしませんよね……」
考えてみれば、不思議な行動である。なぜ、人類滅亡の際にあって、レオナルド・ダ・ヴィンチは人類最後の希望たるカルデアのマスターと契約しようとしないのか。それも、協力する気がないわけではないのに、だ……
そしてついに、五本目の指が、立てられた。
「以上の仮説を総合すると……グランドオーダーとは……『地球と人類史を舞台にした、宇宙人 vs フリーメイソンの戦い』ということになる……!」
「「「「…………」」」」
あまりにも、あまりにも残酷な、その結論を前に。隊員たちは、返す言葉を失っていた。
「敵が勝てば人理焼却は完遂され、人類史はフリーメイソンの望むままに書き換えられるだろう……。彼らの掲げる理想“
「でも、カルデアが勝ったとしても、その裏には宇宙人がついている……僕たちは宇宙人が地球人の遺伝子と文化を己がモノにしようとするのを見ていることしかできない……」
「な、なンだよ、それ……どっちが勝っても絶望じゃねェか……!」
会議室に、沈黙が落ちる。彼らの調査は、圧倒的なまでの絶望にたどり着いてしまった。
キバヤシも、悔しさにその拳を握りしめている。
「俺たちは遅すぎた……もう、この戦いの未来には、絶望しかないんだ……俺たちは……無力だ……」
「…………そんなこと! ありません!!!」
「!?」
「と、トマル……!?」
沈黙の中、会議室中に響き渡る大声を上げたのは、元MMR最若手……かつての新人トマル隊員であった。
「確かに、敵も、カルデアも信用出来ないかもしれません……! でも、僕らが諦めてしまったら、一般人枠で呼ばれて巻き込まれただけの、カルデアのマスターを見捨てることになるんですよ!?」
「……!」
「裏でどんな陰謀が働いているとしても、彼らは命がけで戦っているんです! それを、僕らが……子供の夢を応援する漫画編集者が助けてあげなくて、どうするっていうんですか!!!」
「……!!!」
目が覚める思いだった。確かに、この世には邪悪な陰謀を企む者たちがいる。だが、同時に、純粋に未来を想って戦う者たちも存在するのである……!
「ッそ、そうですよ! せっかくエミヤさんっていう元読者の協力者ができたのに、諦めるなんて早すぎます!」
「たしかにな……カルデア設立の意図はともかく、ここにいる一人ひとりの職員たちの中には、心の底から人類のために戦っている者もいるはずだ。いかなる陰謀があろうとも、それに立ち向かう者がいる限り、俺たちだって諦めることはできない!」
「僕も、『カルデア』に味方できるかはちょっと分かりませんが、『カルデアのマスター』の味方になら、喜んで!」
「トマル、一番新人だったお前がよぅ……立派になりやがって……」
口々に声を掛け合う。再び、全員の心に闘志が湧いてきたのだ……!
「よし、確認しよう。俺たちの目的は、人類の未来を守ることだ。だから、まずはカルデアとともに人理焼却を止める必要がある。そして、その後……状況次第ではカルデアの背後にいる宇宙人とも決着をつけることになるだろう……! これからも、継続的に情報を集めていきたいと思う!」
「ようし、MMR再結成ってわけだな!」
「ええ! でも、マガジンはもうなくなっちゃいましたからね……」
「じゃあ……」
隊員たちがキバヤシを見る。
キバヤシは力強くうなずき、彼らの新たな名前を告げた!
「マガジンを取り戻すまで、俺たちの戦いの舞台はここ……カルデアだ! これから俺たちは、MMRあらため、カルデア・ミステリー・ルポルタージュ……CMRだ!」
「お、いいねェ! 心機一転、やる気がみなぎってきたぜ!」
「頑張りましょう!」
こうして、CMRの新たな戦いが始まった……
敵は強大だが……希望はまだ残されている。
人間の力を信じること。一人ひとりが、未来を信じること。そして何より……諦めないこと。
そうすれば、人間はどんな危機だって乗り越えられる────!
人間の可能性は無限なんだ────────
完結! キバヤシの、そしてCMRのグランドオーダーはこれからだ!
Q. ところで、なんでエミヤがゲスト?
A. カタカナ日本人名って、MMR感あるよね!
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