人間不信になった俺は魔法使いに出会いました(打ち切り) (”アイゼロ”)
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小学生編
1話:0時の出会い
新シリーズ投稿----!!!
だけど、別の作品との掛け持ちになるから、更新かなり遅いと思うーー!ご了承ください。
それでは、ご覧ください。
現在:比企谷八幡 小学5年生
外はもう真夜中、時刻は23時50分、もうすぐ日にちが変わる頃。俺、比企谷八幡は現在公園のベンチに座っている。
普通小学生がこんな時間まで公園にいたら補導されるだろう。そして親にも先生にも連絡され、面倒ごとになる。だが、心配ない。ここのベンチは周りの木で隠れているため、あまり人の目に入らない。俺はなんて良い穴場を見つけたんだ、と少し気分が高揚していた。
まぁ、別に人に見つかってもあまり問題にはならないだろう・・・。だって・・
俺にはもう、家族や先生と呼べる者は存在しないのだから。
俺は今日、天涯孤独の身となったのだ。まぁ元々ぼっちだったが・・。
俺は昔からイジメにあっていた。俺は周りの人よりも目が特徴的だったという理由で、除け者扱いをされていた。小学3年の時からだ。最初は物を隠すなど、投げつけるなど、軽いものだった。だが、俺が何の反応も示さないことにシビレを切らしたのか小学4年生になってからイジメは徐々にエスカレートしていった。
トイレに入れば水をかけられ、教室に入れば帰れコール、机には無数の切り傷と落書き。イジメは時間を重ねるにつれ過激になっていた。
普通これだけのことをやられたら、さすがの教師も黙っているわけにはいかないだろう・・。そう思い、少なからず俺は先生に期待をしてしまったのだ。
だが、あろうことか教師はそれを見て見ぬふり。俺が目の前でイジメられているのを見ていただけだった。あの時は大人に失望した。もう大人に対して憎悪しか生まれなくなったのだ。
俺の唯一の拠り所はもう家族と家しかないと思っていた。家族には心配をかけたくない、下には妹の小町だっている。妹を心配させたら兄失格だ。
だから俺は、我慢をし続けた。身体的ダメージ、精神的ダメージを与えられても、家に帰れば安息が待っている・・。そういう一心で耐え続けた。
進級し、俺が小学5年生となってもイジメは現在進行形で続いている。全く・・何故こんなにもしつこいのだろう。2年間も俺をイジメてそんなに楽しいか?いや、愚問だったな、楽しくなかったらとっくに冷めている。
進級してから2ヶ月後、小町が両親に宥められながら泣いていた。
小町がイジメにあっていたのだ。
俺はあまりの驚きによろめいて壁に寄りかかった。俺と両親は原因を聞いた。
すると、小町の口から『お前が、あいつの妹だからって』と涙目で俺を見ながら、そう言葉を吐いた。
自分が原因でイジメにあったという、キャパシティを超える衝撃事実に俺は頭が真っ白になる。
そしてイジメの原因が俺だとわかった瞬間、親は俺を怒り狂った顔で殴ってきた。何回も何回も。
殴った後、俺を家から追い出し、『二度とその顔を見せるな!疫病神!』と叫び見捨てた。
全く・・・実の息子に対して疫病神はないんじゃねぇか?俺のイジメに関しては、触れてもいなかったしな。結局小町がいればそれでいいんじゃないか・・・。
そして今に至る。
これからどうしようか?小学生じゃバイトはできない。保護施設的なのがこの世にあるらしいがどうやってそこへ?連絡手段もない、ましてや一文無しだ。このままだと俺の未来は死ぬ一択だ。
まぁ、それでもいいかな・・。誰も味方はいない、頼れる人もいない。例え話しかけてくる大人がいても、同情や憐みの目で見られるのだ、それに大人には憎しみと怒りしかない。それなら天涯孤独の小学生として、生涯に終止符を打った方がいいな。このまま頑張って生き延びようと頑張ったって、苦しみ続けるだけだ・・。
・・ならとっとと楽になりたい。
死ぬ覚悟を内に秘めながら、俺は真夜中の公園で時間が過ぎるのを待った。
時計の短針長針が12を指したとき
「キャアアアァァァァァ!?」
突然空から叫び声が聞こえてきた。しかも徐々にその声は大きくなってくる・・。
へ?何故に?
ズドーーーーーーーン!!
おそらく叫び声の主であろう何かが目の前に落下してきた。え?何事?
あまりに現実離れした出来事に俺は混乱した。その方向に目を向けるが砂ぼこりで確認できない。けど、足に力が入らず立って確認をしに行けない。・・・情けないな・・・こんなんになっちまうとは・・。
やがて砂ぼこりがやみ、ついにその正体を拝む時がきた。
「いたたたた」
姿を現したのは、とんがった帽子に紺色のローブ、茶色のブーツという、魔法使いのような服装をした女性だった。年齢は見た目的に二十歳に見える。・・・マジか、空から女性が降ってくるなんて二次元にしか存在していないと思っていたのだが。・・それにしても、何故彼女は無傷なんだ?あんな高いところから落下して『いてて』で済むなんてのび太君ぐらいしかいないぞ。
「・・・ん?あれ?」
その女性は、俺を見て不思議な表情をしていた。そりゃそうか、こんな夜中に小学生がぽつりと座ってたら誰だってそんな表情になる。
よく見るとその女性は、美人の部類に入るであろう端正な顔立ちをしていた。それは美しさを表現しながら、どこか可愛げな雰囲気も醸し出している。・・・・別にそういう目で見てないからね、あくまで一般論だから。
そんな感想を抱いていたら、彼女はこちらに近づき
「どうかしたの?地球の時間だと君は補導される時間帯だけど?」
地球の時間?何言ってんだ?と思っていたら、後の言葉で一瞬にして現実に引き戻された。あまりの展開に頭から離されていたのだろう。
分からなくなってきた・・死ぬのがいいのか、生きるために足掻くのか、わからない。
この人に助けを求める?ダメだ、この人はおそらく大人の部類に入る。どうせ今も同情や憐みの目で見ているに違いない。そう思うと顔を上げるのが怖い。怖い・・怖い。
「だ、大丈夫!?君、すごい震えてるよ!」
彼女に言われて気付いた。今、俺は物凄く震えている。
「・・・別に問題ないっす。気にしないでください・・・」
俺は声を振り絞って、そう返した。このままお引き取り願おう・・。今は会話ができる状態ではない。
だが、彼女は帰らずに
「ごめんね。ちょっと君の過去を見させてもらうよ」
そう言って俺の頭に手をかざし、そこから光が生じた。どういう仕掛けなんだ?格好からするにほんとに魔法使いの類なのか?・・いやそんなはず・・・。それに俺の過去を見る?一体何者なんだ?
頭の中が疑念でいっぱいだ。俺の許容量を遥かに超えている出来事が次々に起こっている。
用が済んだのか、彼女は手を離した。
俺は顔を上げると、彼女の顔は、まるでとんでもないものを見てしまったような表情をしていた。そして、目には涙を浮かべていた。
なんでこの人は泣いているんだ?一体彼女は何を見たんだ?・・・そういえば俺の過去を見るとか言っていたな。もしかして・・・・・・・ハハッまさかな、そんなはずねぇか・・。
俺が勝手に自己完結をしていたら、不意に体が温かいぬくもりに包まれた。
「・・よく・・・頑張ったね」ナデナデ
彼女は俺を抱いて頭を撫でながら、涙交じりにそう言った。その言葉を聞いて俺は心臓がドクンッと鳴った。
『可哀想』『お気の毒』などといった憐みの言葉じゃない。俺が2年間、今は見捨てられた家族のために耐え続けていたことを知って、彼女は『頑張った』と称賛の言葉を俺に投げたのだ。この一言、この言葉だけで、俺は報われたんだと思ってしまった。
誰も悲しまなかった、誰も助けてくれなかった、誰も・・・俺を見なかった。・・でも彼女は俺の過去を見て悲しんでくれた。ただ純粋に涙を流してくれた。
今まで、俺の中で必死に繋ぎ止めていた糸がプツンと切れた。
「・・うぅ・・ヒグッ・・うあああぁぁぁ!」
糸が切れた途端に、俺は涙を流し泣き叫んだ。
「よしよし・・大丈夫。・・もう大丈夫だよ」ナデナデ
彼女はずっと俺を抱きしめて、頭を撫でてくれていた。
クレアside
都市有数の一流魔法大学を首席で卒業した私、クレア=フローランは今、ある大きな事に挑戦をしている。
それは・・・地球に足を踏み入れること。
地球は、ほかの惑星とは違って平地ではなく、そこそこ文明が発展している惑星だ。そこには、魔法など存在せず、むしろ非科学的で幻想な創造物と認識されているらしい。
今までは衛星観測で見てきたが、はっきりとわかっている事は、今言った事だけ。別の惑星にも、文明があったという事実しか確認できていないのだ。
そんな星に興味を持ち、行こうと私は決心した。
しかし、ここ惑星ソフィーラは地球ととんでもなく離れているため、踏み入れることはできない。魔法使いにも限界はあるのだ。ワープ魔法もあるが、それも限界距離があるため、使用できない。そもそもワープ魔法使える人自体少ないし・・。
私は、地球と繋ぐゲートができないかと思い、大学卒業後に研究を始めた。いろいろな研究所へ飛び回って、情報収集をしたり、実験を行う毎日だった。
さっきも言ったが、私は有名な魔法大学を首席で合格したから、他の人よりも強いと自負しているし、技の種類も豊富だ。だからと言って別に1人なわけじゃないぞ、ちゃんと友達もいる。
卒業してから3ヶ月後、私はついに地球と繋ぐゲートが作れるという理論を立てられた。結構かかっちゃったな・・。いや、早い方なのかな?ま、いっか。
だが、まだ無事が保証できないため、発信機をつけた石などを実験台にし、作ったゲートに通させた。そして、確認してみると、嬉しいことに地球の方向に反応が出たのだ。実験は成功だ。これには思わず私も舞い上がる。
早速今夜、地球へ行ってみよう。楽しみだな~、それに備えてしっかり睡眠をとろう。気分は高揚状態だったけどあっさり寝れた。遠足前の小学生みたいにはならないよ?
―――――5時間後
いざ、決戦の時。ただいまの時刻23時45分、0時ぴったりに地球へ降り立つ予定だ。その時間なら、深夜だから人通りも少ないだろうし。
ちなみにソフィーラと地球の時間軸は全く一緒なんだよ。不思議です。
準備を整えた私はゲートを開くため、意識を魔法に集中させた。
目の前に直径2メートルぐらいの穴が出現した。・・・よしっ、後は飛び込むだけだ!
それじゃあ行ってきます!いざ、地球へ!レッツゴー!
「こんばんは!地球!」
辺りは真っ暗闇に包まれていて、足元には住宅街が並んでいた。・・・へ?足元?
私は、地面とかけ離れた上空にいた。気付いた時にはすでに遅く、現在落下中である。
「えええええ!ちょ、ちょっと待って!〈リビテーション〉!」
私は浮遊魔法を唱え、墜落を免れようとした。・・だが、速度が落ちただけで落下は続く。
えぇ!嘘でしょ!?地球ってソフィーラよりも重力が少し高いじゃない!
「キャアアアァァァァ」
ズドーーーーーーーン!
「いたたたた」
うぅ・・痛い。〈リビテーション〉のおかげで事なきを得たけど、どこに落ちちゃったんだ?
周りを見ると、ブランコや滑り台といった遊具がある。おそらく公園だろう。キョロキョロしてたら、私はベンチに座っている、見た目小学生の少年が視界に入った
「・・・ん?あれ?」
おかしいな、外はもう真っ暗だし。小学生が出歩いていい時間ではないはず・・・何かあったのかな?
その少年は、私を見るや否や複雑な顔をしていた。・・そりゃそうか、目の前に空から宇宙人が降ってきたんだもん。
とりあえず私は、少年に近づき話しかけた。
「どうかしたの?地球の時間だと君は補導される時間帯だけど?」
あ、今思えばあっちと地球、時間一緒だった。うっかり、なんて言ってる場合じゃない。早くこの子を家に帰さなきゃ、じゃなきゃ警備隊に連絡されて面倒ごとになってしまう。
私がそう聞くと、少年は顔を伏せ、プルプルと震えだした。
「だ、大丈夫!?君、すごい震えてるよ!」
どうしたんだろう!?何かを思い出させてしまったのだろうか?
慌てた私に対して少年は口を開いた。
「・・・別に問題ないっす。気にしないでください・・・」
いや、どう見ても問題だらけだ!声もすごく震えていたし。一体この子に何があったんだ?
とにかく、このままじゃいけない。何か案は・・・・いや、これはでも・・・仕方ない、今は状況が状況だ。やむを得ない・・。
「ごめんね。ちょっと君の過去を見させてもらうよ」
〈リフレクション〉
この魔法の効果は物の今までの出来事、つまり過去の映像を自身の頭に流れさせる魔法だ。この魔法は人間も例外じゃない。この少年にとっては、これが現状の最適な策だと思った。彼の過去が私の頭に流れ込んでくる・・。
ッ!!なんなんだ・・・これは・・。私に流れてきた映像には、とても悲惨で醜い光景が映し出されていた。
暴行、嫌がらせ、暴言等、絶え間ないイジメ行為、それを見て見ぬふりをする教師、家族に捨てられた光景が、私の中に入ってきた。
私は、目を瞑りたい思いを抑え、最後まで見届けた。
この子はこれを2年間も我慢し続けたのか・・・。それも家族に心配をかけないように・・。でも、その家族にすら見捨てられたんだ。
今この少年は、何をしたらいいのかわからないという状態だ。ちらっと感じたが死をも覚悟している。
誰にも助けを求められずに、必死に耐え続けてきたんだ。その強さと頑張りに、私は涙を流した。『可哀想』とか『憐れ』などといった同情は私には一切ない。
私は彼を抱き、頭を撫でて
「・・よく・・・頑張ったね」ナデナデ
と私の正直な気持ちを言葉にした。
「・・うぅ・・ヒグッ・・うあああぁぁぁ!」
少年は私にしがみつき、泣き叫んだ。そう、それでいいんだよ・・。君はもう何年も泣いていなかったんだ。いっぱい泣いてくれ。私が全部、受け止めてあげる・・。
「よしよし・・大丈夫。・・もう大丈夫だよ」ナデナデ
私は、彼が泣き止むまでずっと抱きしめていた・・。
八幡side
目が覚めたら、俺は布団の中に入っていた。あれ?何でだ?俺は確か・・・・そうか、帰る場所を失ったんだ。その後途方もなく公園にいたんだが・・・。そういえば、あの女性は何者だったんだろうか?それにこの部屋、何故俺はここにいる?ダメだ、思い出せない。とりあえず部屋から出よう。
俺は部屋のドアに手をかけ、開けた。
「あ?目が覚めた?おはよう」
目の前には、夜中に公園で会った女性がいた。なにやら飯を作っているのだろうか、いい匂いがする。
「まだちょっとこの状況に混乱してると思うから、座ってて。今朝食作ってるから」
八幡「あ、はい」
今の状況がわからないため、彼女に従った方がいいだろう。
しかし、ほんとに綺麗な人だ。今は明るいからはっきりとその顔がわかる。なんか緊張してきちゃったな。
どうやら作り終わったらしく、エプロンを外して朝食を持ってきてくれた。
運ばれてきた料理は、和でも、洋でも、中華でもない。見たこともない料理だ。外国文化の料理なのか?でもすごくいい匂いだ。
「・・いただきます」
「召し上がれ♪」
俺はフォークで料理を取り、それを口に運ぶ。
その瞬間、口の中が旨みで満たされた。美味い、美味すぎる。こんな料理食べたことない。気付けば俺は、無我夢中で料理を食べ続けた。そういや昨日の夜からなんも食べてないからな、腹も相当空かせていたのだろう。
「ご馳走さまでした。大変美味しかったです」
「お粗末様♪」
正直な感想を言うと、彼女はニッコリ笑ってそう返した。
そして俺は、ずっと抱いていた疑念を彼女にぶつける。
「あの、それで、あなたは一体?なんで空から?」
クレア「そうだね、まずはそれが先か。
私の名前はクレア=フローラン。惑星ソフィーラという魔法使いや騎士とか様々な人が住んでる場所から来た、魔法使いだよ」
??what???はい???ダメだ・・頭が追いつかない・・・・・。
「え?魔法?惑星?・・てことはクレアさん、宇宙人?」
「クレアでいいよ。まぁそうだね、君からしたら他の星から来たんだから宇宙人であってるね。」
「あの、今なら何言われても許容できる気がしますから、一から説明をお願いします・・」
「そう?あと、タメ口でいいよ。
まず、惑星ソフィーラというのはさっき言った通り、魔法使いとかが住んでる惑星だね。地球の人からしたら魔法なんて非科学的な創造で幻想なんだろうけど、こっちでは日常だから。そして私はそこから来た。
どうやって来たかというと、向こうで地球と繋ぐゲートを作って来たんだ。だけどゲートの出口が空中だったため空から公園に墜落したの。そして、君と出会った。
それで明らかに異常な君を見て、過去を覗かせてもらったの。そこら辺はごめんね、ああするしかないと思ってたから。それで君のことを知って、ここに連れてきたの。そして今に至る」
クレアは順を追って丁寧に説明をしてくれた。とても分かりやすかった。
「えっと、つまり、クレアは魔法使いで、地球に興味があるから来てみたと。そこで俺を見かけて、保護してくれたという事っすね」
「まぁそんな感じかな。・・あと君の口からも名前を聞かせてくれない?」
「・・比企谷八幡です。あの・・・助けてくれてありがとうございました」
俺は頭を深く下げてお礼をした。もし、クレアに会ってなかったらと考えると、想像するだけで怖い。
クレア「いいのよお礼なんて。放っておけなかったし・・・・それに、八幡君に同情してやったことじゃないのよ。私がこうしたいと思ったの」
この言葉に涙が出そうになるが必死で抑え、改めてお礼を言う。
「それでも言わせてください。ほんとにありがとうございました。俺のことをそんな風に思ってくれる人なんて、1人もいませんでしたから・・・その・・感謝の気持ちでいっぱいです・・」
俺の誠意がこもった言葉に若干戸惑っている様子のクレア。
「・・どういたしまして。八幡君はもう1人じゃないよ、私がついている。・・と言ってもあんなことがあった後で、会って数時間の魔法使いは信用できないかもしれないけど、私は絶対に君のことを裏切らない」
この言葉だけで十分だった。俺はもう1人じゃない、目の前の魔法使いクレア=フローランなら信用していいと、そう思えた。
ダメだ。必死でこらえてたのに、涙が出てしまった。
「・・すいません。ちょっと・・止まんなくて・・・」ゴシゴシ
「」ナデナデ
クレアは無言で頭を撫でてくれた。こんなに甘えたのは何年ぶりだろう・・。
「うん、今から八幡君は私の家族だ。よろしく」
「え?・・・・いいんですか?」
「何水臭いこと言ってんのよ?寧ろそうさせてほしいわ。これは気遣いじゃなくて、私の本当の気持ち」
「・・・ありがとうございます。・・凄く、嬉しいです」
「よし!それじゃあ、一緒に生活してくんだから、お互いタメ口で!よろしくね、八幡♪」
クレアは笑顔で俺を迎い入れてくれた。
「・・うん、よろしく。・・クレア」
こうして俺は、魔法使いのクレアと『家族』になり、新しい人生が始まった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
いかがだったでしょうか?ほぼオリジナル。
頑張っていきます!!!
また次回。
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2話:魔法の凄さ
2話突入。
自分の好きなキャラを自分で作った物語に入れるって、結構楽しいよね♪
それではご覧ください。
空から降ってきた魔法使い、クレア=フローランと家族になり、第二と言っても過言ではない、俺の人生が始まった。今日はまず、何をしたらいいのか考え中だ。
「八幡、これからどうするの?」
クレアも一緒に考えてくれてたらしく、俺にそう質問をしてきた。
「考え中。小学5年生にそこまで選択肢はないし、学業に専念しなきゃいけない」
「そうだね。まだ勉強をしなきゃいけない年齢だし、かといって学校に連れていくのは、気が引けちゃうな」
今日は学校を休むが、ずっとってわけにもいかない。一日休んだくらいでいじめが無くなるなんてことは絶対にないし、それに今はイジメに耐えれる自信がない。頑丈な糸が切れ、感情が表に出て、今は結構脆くなっている。
「ちょっと厳しいこと言うけど、小学校はもう八幡へのイジメはやめるつもりはないかもね。だとすると、私は行かせられないな」
「俺も、ずっと我慢してきたけど、もうあんなのは嫌だ」
顔を強張らせ、俺は登校拒否をした。
「・・・・・あ、思いついた!」
クレアは、ハッと何か考え着いたようで、掌を叩いた。
「八幡、ついてきて」
そう言って、家の玄関らしきところへ向かった。だが、ちょっと待て。
「クレア、着替えよう。さすがにその恰好は地球で不自然だ」
クレアの纏っている衣類は、とがった帽子とブーツを脱いだだけの、夜中と同じ姿だった。コスプレと言えば、違和感ないと思うが、目立つから極力避けたい。
「んー、そうだね。それじゃあ、先に衣服を買おうか」
◆
そんなわけで、服屋にやってきた。ここに来るまでクレアはずっと、視線の的だったな。まぁ美人だし、納得はする。
「どうかな?」
手に取った服を素早く試着したクレアは、俺に感想を聞いてきた。
クレアが着ているのは、白のワンピースに刺繍が縫われている。
「似合ってるよ」
正直に言う、結構見惚れた。
「ふふっ、ありがとう」
照れる様子もなく、微笑んだクレア。ふむ、これが大人の余裕というやつかな?
「これに魔法を付与したら、強くなりそう・・・」
なにやら怖いことを言っているが、あえてスルーしとこう。
「あれ?そういえば、お金とかどうしたんだ?あっちの金なんて使えないだろ?」
「ああ、それなら向こうから宝石持ってきたから、換金してもらったの」
ちょこっとずるい方法だった。
◆
服も買い、クレアの言った目的地に到着。
俺の通っている小学校だ。今は授業中だが・・・。一体どうするんだろう・・。
「じゃあ、行こうか。ばれないように魔法もかけるから」
一瞬、嫌悪感に苛まれたが、魔法を使うらしいから安心した。
〈ディセイブ〉
クレアが魔法を唱えた。特に体に異常はないな。
「今のは〈ディセイブ〉って言って、他の人の目を欺くことができるの。要は隠れ魔法だね」
「へぇ、すごいな」
ていうかクレア、一体いくつ魔法が使えるんだろう・・。
「ていうかこういう魔法使えるなら、服買った意味ないんじゃない?」
「そうだけど。地球の衣服にも興味があったの。結構可愛いやついっぱいあったし。気に入っちゃったの」
「そうなんだ」
惑星ソフィーラにはどんな衣服があるのか興味があるな・・。
「これなら誰にも見つからない。八幡のクラスはどこだっけ?」
「5年2組だよ」
俺とクレアは目的地の2組を目指し、校舎内を歩いている。
すごい。さっきっからこればっか言ってるけど、すごすぎる。誰にも気づかれてないし。
「ここか」
教室に入ると、休み時間のせいか一層と喧騒していた。
俺は自分の席を見ると、案の定何かされていた。まぁ花の入った花瓶なんてもう見飽きたから何とも思わない。
クレアは教室の真ん中に立ち、黒板を正面に、両手の親指と人差し指をくっつけて四角形を作り、何やら調整を
「うん、ここらへんかな」
そう言って、クレアは懐から何か機械を取り出した。そしてそれを調整した場所に浮かせて、そのまま消えていった。
「用も済んだし、帰ろうか。説明は後でするね」
「分かった」
俺達は教室を出ようとした。
その時、ある話し声が耳に響いた。
「なんだよあいつ、今日来てねぇじゃん。つまんねぇ」
「今日はとっておきを用意しといたのにな」
「とうとう引きこもっちゃったんじゃねぇの?あのヒキガエル野郎」
「「「あっはっはっはっはっはっは」」」
俺をイジメていた主犯格の3人だ。
・・・チッ。好き放題言いやがって。クソッ、ちょっと頭ズキッってきたじゃねぇか。
気にしないように無視して、クレアの方を・・ッ!?
「・・・・・・・」
無だった。クレアの表情は無で、とてつもない迫力で、この3人を見下ろしている。思わず身震いした。
そして、その3人が密集している一つの机に手を向け、
〈クラッシュ〉
魔法を唱えた瞬間、机がベコベコにつぶれ、異常な動きをして、暴れだした。
「うわぁ!なんだ!」
「こっち来るなーーーーーー!!」
「ポ、ポルターガイストだぁぁぁ!!」
そのまま俺達は、放っておいて、教室を出た。
「ごめんね、勝手なことして。だけど、我慢できなかった。ああでもしないと私の気が済まなかったからね」
クレアは若干申し訳ない顔をした。
「いや、嬉しかったよ。今までそういう人いなかったから。少し清々しかった」
素直に思ったことを言うと、クレアはむっとした表情で溜息をついた。ん?俺なんか言った?
「八幡は学業の前に、まず甘えるという事を知った方がいいね。試しに何か言ってみて?」
「いや、それはさすがに・・。それに、甘えるって言っても、何もないし」
「何でもいいから。言ってみて」
そんな優しい声で言われたら、逆らえるわけないじゃん。・・・・・あ、一つあったな。
「実は、俺の妹もイジメにあっていて、親はすぐに引っ越すと思うんだ。それで、絶対俺の私物は捨てられる。だからその前に、取り戻したいんだ。・・・ダメかな?」
俺がそういうと、頼られたことが嬉しいのか、クレアは笑顔になった。
「うん、任せて!早速行こう」
◆
俺の元いた家の前には、トラックが置かれていた。やっぱりな、俺の予測は当たってた。
「フンっ!あいつのせいで引っ越すことになるとは」
「本当に。あの人のせいで小町がイジメられてたなんて。追い出して正解ね」
・・・ハハ・・やっぱ受け入れたといえ、実の親にあそこまで言われると、耐えがたいものがあるな。
いっ!やっぱ頭がズキズキくる・・。
「八幡、大丈夫?取り敢えず、荷物だけでも取り戻そう」
「分かった」
俺の部屋に入ると、まだ手は付けられていない状態だった。よし、間に合ったか。
「でも、どうやって運ぶんだ?こんな大荷物」
「これを使うわ」
クレアが取り出したのは、サンタクロースが持っているような白い大きな袋だ。クレアはそこに荷物を放り込む。
「ほら、八幡も」
「え、ああ」
俺も見よう見まねで袋に荷物を入れる。なんだこれ?
「どうなってんだ?これ」
たくさん物を入れているのに全然膨らまず、どんどん荷物が入っていく。
「これは『異空間ポーチ』って言って、大荷物の時に活躍する便利アイテムだよ」
マジか・・。四次元ポケット的なやつかな。
部屋はすっかり閑散とし、本来の広さを取り戻した。すごいな、異空間ポーチって奴、ベッドまで入っちゃった。
「ありがとう、クレア」
「お役に立てて光栄だよ。それじゃ、帰ろうか」
一仕事終えた俺とクレアは、帰路に就く。途中何故か後ろから叫び声が聞こえたんだが、何があった?
◆
「着いた」
クレアの発言で止まるが、家のようなものはどこにもない。今いるのは、俺が座っていたあまり目立たないベンチの場所だ。
「こっちに来て」
そう言ってクレアは俺の手を引き、木陰へと誘い込んだ。なにをする気なんだ?この人。
その瞬間、目の前に広がったのは、さっき朝食を食った、クレアの家のリビングだ。
「え?あれ?何で?」
「これは『異空間住宅』って言って、惑星ソフィーラではテントとして扱ってる物なんだ。違う空間にあるから、誰にも干渉されないし。いいでしょ?」
「便利だな」
惑星ソフィーラ、文明発展しすぎでしょ。恐ろしいな、宇宙人・・。地球舐めんなファンタジー!
「地球に来るために、高いやつ買ったんだ、だから結構広いの。あ、八幡の部屋はあそこね」
「え、俺に部屋くれるの?」
「当たり前でしょ。それとも、私と同じ部屋に住む?」
是非!・・と言うとでもおもった?
「ありがたく、自分の部屋を使わせていただくよ」
「即決かい。じゃあ、荷物取り出すよ」
俺の部屋へ移動し、あの時と同じように、異空間ポーチから荷物を取り出す。
「よし、こんなもんかな。それにしても小学生とは思えない、本の数だね」
「昔から知的好奇心があったからな。普通の小学生よりは、知識があると自負している」
「へぇ、八幡頭いいんだ」
「国語だけなら学年3位だから」
「凄いわね。それじゃあ教室でやったこと、説明するよ」
クレアは壁に掛けてあるテレビをを付けると、そこには一人の教師と、背景には黒板が映っていた。・・あ、調整ってこのためにしてたのか。
「どう?これで、ちゃんと勉学に励めるよ」
「ありがとう・・。わざわざここまでしてくれて」
「だーかーらー、ちょっとは私に甘えなさい!お姉さん寂しいよ」
あの、あなた二十歳ですよね?そんなあざとく頬を膨らませるなよ。意外と似合ってるし。
「努力するよ」
「でも、ちゃんと卒業式には出てね。中学にも上がること」
「うん、元からそのつもりだよ」
◆
それから俺は、テレビに映っている黒板を板書をしたり、教師の話を聞いたりした。理系がダメな俺は、クレアが教えてくれた。
クレアは普通の教師よりも凄い分かりやすかった。さすが、向こうの大学を首席で卒業したまであるな。
そして俺は、クレアに日本語を教えている。文字だけ。
※惑星ソフィーラと地球は、言葉は日本語で統一させますが、文字だけはそれぞれ違うという設定にしています。
お世話になりっぱなしが嫌な俺は、クレアに家事を教えてもらい、おかげで今は人並みにこなせるようになった。
後、たまに魔法について簡単に教えてもらえた。といっても、クレアが使える魔法を見せてもらっただけだけど。
本当に、驚きの連続。非現実的だと思い込んでたことが、目の前で実行されているからな。興奮冷めやらぬ日だった。〈リビテーション〉っていう浮遊魔法をかけられた時は、肝が冷えた。浮くってバランス感覚がすべてなんだな~。
そんな幸せな生活は続き、一年以上がたった。
ちょっと展開が早いけど、今日は卒業式。足取りは重く、少し憂鬱な気分だが、クレアとの約束を果たすため、学校へ向かった。
◆
職員室で自分が何組かを聞き、その教室へ向かった。何で来なかったのかとか質問攻めされたが、無視した。今日で関わることはないんだし。
教室のドアを開けると、一斉に視線がこっちに集まった。当然だろうな、一年半ぶりに来た奴なんだから。
俺は特に気にすることもなく、自分の席に座った。ていうかなんであるんだよ・・。名目上、俺は引っ越したことになってたんじゃなかったのか・・・。まぁいいや、今日限りだし。
そして、教師がやってきて、俺を見るや否や驚いて目を見開いていた。っつーか、この教師が担任だったのかよ。こいつは、俺のいじめを見て見ぬふりをしてた奴の1人だ。・・・おい、何故こっちに来る?
「ヒキタニ、今まで何してたんだ?」
最早名前すら知らないんだな。そんなんで教師やっていけんのか。
「質問に答えなさい」
うるせーな・・。お前にいう事なんてねぇよ。
「今まで生徒のいじめから、目を背けてた教師にいう事なんて、何もねぇんだよ」
盛大に言い放ってやったZE!
それを聞いた担任は、苦虫を噛み潰したような顔をして去っていった。うわぁ・・小学生に言い返されてやんの。m9(^Д^)プギャー
卒業式は何事も無く終わり、公園に帰ってきた。特に話しかけられもしなかった。
「ただいま」
「おかえり。大丈夫だった?」
「うん、特に何も起きなかったよ」
「それはよかった。中学はどうするの?」
「ここから少し離れた所に通うよ」
「そっか。頑張ってね」
「ありがとう」
◆
卒業生には、進学先の入学式まで連休がある。そんなわけで、俺は今、読書に耽っています。
「八幡、魔法を教えてあげる!」
「・・・・はい?」
クレアの突然の発言に、ちょっと間抜けな声を出してしまった。
「急にどうしたんだ?あと、魔法使えるのか?」
「元々、八幡が中学に上がったら、教えようかな~って思ってたんだ。それと、地球人でも使えるよ」
うおお!マジで!俺もついに魔法使いデビューか。オラ、わくわくすっぞ。
「まずは、誰でも使える初歩の初歩の魔法だからね」
「分かった」
「それじゃあまず、魔法について説明するわね。惑星ソフィーラには、人によって魔法の適正属性があるの。【火】【水】【風】【光】【闇】【無】の六つの系統魔法が存在するわ。ちなみに私は無系統魔法を得意とするから、それに特化しているの。まぁ、無系統って言われても、他と違って想像しづらいよね・・。
無系統は、他の属性も何も持たない魔法。つまり、相手の魔法との相性とかもない。そのかわり、汎用性が高くて、魔法の種類も豊富なの。だからと言って、他が少ないわけじゃないわ。魔法は使う人によって、左右される。要は本人の才能と努力、気持ち次第だね」
ほうほう・・。実にわかりやすい。
「よし。それじゃあ特訓だ。まずは、魔力を体で感じ取るところから。さあ、集中だよ!」
なんだなんだ?集中?魔力を感じ取るか・・・。どうやればいいのやら・・。あ、そうだ、ドラゴンボールのビーデルのように、両手でボールを掴むようにかざしたらできるんじゃないか?・・やってみよう。
その方法でやってみるが、中々上手くいかない。ていうか思ったんだけど・・。
「なぁ、魔力を感じ取るとか言ってるけど、まず魔力ってどんな感じなの?それが分かんないと、できてるのかも確認できない」
「あ・・・・」
おい・・。ここでドジっ子キャラ出しちゃいますか・・。
「ごめんごめん。じゃあ、ちょっと魔力玉作るから。それっ」
クレアは、掌からゴルフボールサイズの半透明の玉を出現させた。
「ほら、魔力っていうのはこんな感じ」
その魔力玉を俺に近づけると、俺の身体をピリピリと反応させた。成程、よし覚えた。
再びさっきのように集中する。・・・・・けど、やっぱ上手くいかない。
「まぁ、最初は誰だってそうだよ。ましてや地球人なんだから、難易度も上がるって」
クレアに励まされたが、これが結構悔しさに駆られる。地球人なんて言い訳はあんましたくないし。
「頑張るか・・」
「うん、頑張ろう!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ここで簡単なキャラの設定を公開しようかな。
クレア=フローラン
身長:169cm
スリーサイズ:90/64/86
茶色のウェーブがかかった長髪。
目は普通。
性格とかは・・・読んでいくうちに大体把握できるでしょう。文字では書き表せない俺を許してください・・・。
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中学生編
3話:スーパーのヒーロー
3話突入。
後、名前無い方が読みやすいとのことだったので、入れないようにしました。
それではご覧ください。
中学校入学式当日。校長の長い話、在校生代表の歓迎の言葉、教師紹介等の面倒なことも終わり、1年B組の教室に、俺はひっそりと座っている。周りはグループ形成のため、いろんな人に駆け回り、声をかけている。よくそんな面倒なことができるものだ。
俺が通っていた小学校よりも結構遠い、クレアの家から歩いて30分の中学校。さすが、ほとんど見覚えのない人物だ。良きかな良きかな・・。
そんな俺は今、イヤホンを耳に装着し、本を読んでいる。こうすることで自分の世界を創りだし、誰も話をかけられない状況にする。
クレアに魔法を教えてもらうことになった日から、俺は毎日修行をしている。おかげで入学前には、魔力玉を作り出せるようになった。米粒サイズだけど・・。うん、しょぼいね。
早く〈ディセイブ〉を使えるようになりたい。誰にも見られず、平穏に生活を送りたい。聞いたところ、あれって結構難しいらしい。
「比企谷八幡です」
嫌いな自己紹介も質素に終わらせ、何の特徴もない男と認識させた。
午前中で学校は終わり、家路へ就く。
◆
「ただいま」
「おかえり。どう?中学校は」
「同じ小学校だった奴もほとんどいないし、何事もなく過ごせるとは思う」
「そっか。もし、何かあったら言ってね。私が成敗してあげるから」
うわぁ、かつてここまで頼もしい人はこの世にいたのだろうか。心強いな。あまり守られるのも、男としては複雑だけど。
「なるべく、そうならないようにするよ」
◆
今日も今日とて魔力の練習だ。毎日魔法の練習なんて、地球上で俺だけなんだろうなぁ、と優越感に浸っていながら、胡坐をかき、手に力を込め、集中する。
う~ん・・相も変わらず、小さいな。もうこれ4日間続いてるぞ。もしかして、これが限界なの?なにそれ超悲しい。
「うお!」
なんてネガティブ思考になっていたら、米粒サイズだった魔力玉が、突然野球ボールのサイズになった。
その時、俺の頭にある1つの仮説が生まれた。もしかしてと思い、もう一度ネガティブ思考になってみる。
すると、野球ボールサイズだった魔力玉が少しだけ、また大きくなった。
「凄いじゃない!八幡」
俺の修行を一部始終見ていたクレアが、驚いたように声をあげて、寄ってきた。
「魔法ってね、感情によって影響されることもあるの」
やっぱりな。俺の立てた仮説はほぼ正しかった。『負の感情』だ。俺の魔力の源は・・。もっとカッコいいのが良かったんだけどなぁ。
けど、まだこの大きさが限界だな。今はもうこれ以上大きくならないと、体で感じる。
取り敢えず、今日はここまでにしとこう。
「今日は何が食べたい?」
「ん~、そうね。・・・ハンバーグがいいわ」
実は、中学に上がる前に、料理は俺が担当することになった。クレアはソフィーラで仕事があるし。魔法の研究をしているのだってさ。自分で作った魔法もあるらしい。すごいよな!そんな人の指導受けてる俺って相当恵まれてるんじゃない?
そして、クレアは日本の料理に感動したらしく、今ではすっかり日本食に舌が肥えてしまった。
ちなみに俺の料理の腕前はクレア曰く、『店に出てもいい』というレベルまで上がった。
じゃあ、材料を買いに行ってきま~す。
◆
近くのスーパーにやってきた。ここは品ぞろえもいいし、夕方になると半額になる。おかげで、おばさんとの奪い合いに参加せざるを得ない。それはもはや戦場だ。
挽肉に卵、玉ねぎ等を入れ、もう一品のおかずを思索中。・・・お、レタスが安い。サラダでいいだろう。トマトは入れない。ボクアレキライ。
スーパーのレジは真ん中がベテランだという情報を知っている俺は、真っ先にそこをとり、おばさんの後ろに並んだ。
会計を済ませ、外に出ようとした瞬間、店内に怒鳴り声が響いた。
「またミスをして!ちょっとは学習しないか!!」
「す、すみません・・・」
今の怒鳴り声の正体は、おそらく店長であろう男の人と、そしてもう片方は店長に叱責を受けている、女性だ。バイトの人かな?若いし。
「いつになったらまともに覚えるんだお前は!!」
うっわ。最悪だ、見ろよ周りを。静まってんじゃねぇかよ。バイトの人も涙目だし。とにかくやめさせよう。ほっとくと、虫が悪い。
「あの、周りの人に迷惑ですから、そんな大声出しちゃいけませんよ」
「なんですか?俺は今、仕事中です。邪魔はしないでください」
いやあんた店長だろ。いくら何でもその態度はないんじゃないか?
「周りを見てくださいよ。迷惑がかかってるんですよ」
俺にそう言われた店長は、その言葉に応じて辺りを見回す。客の視線は見事に、店長に降り注いでいた。
「ちっ、そもそも、そいつがミスをするからいけないんだ!!仕事も中々覚えられていない!」
店長は周りにも、俺にも怒鳴りながら、バイトの女性を指さした。
「だからって怒鳴るのはどうかと思いますよ。それに、名札を見る限り、彼女は研修中ですよね。しっかりサポートするのが上の務めじゃないんすか?そんな怒鳴ってちゃ、やる気も失せてしまいます」
「うるさい!店のやり方に、客が口出しをするんじゃない!」
は~、これはもうどうにもなんねぇや。店長がこんなんじゃ。
「ゴホン!」
店長が怒鳴る中、その後ろに1人のスーツを着た男性が現れた。
「これはどういうことかね?」
「しゃ、社長!こ、これはその、ですね」
なんと社長であったか。いや~、よかった。店長がこれだから、どう事態を収拾すればいいのかわかんないところだったけど、助かった。
「何事かと思って、来てみたら・・ハァ。私と一緒に来てもらおうか」
「くっ!・・お前のせいで!」
怒りのあまり、店長が俺の顔面目掛けて殴りかかってきた。何で俺なんだよ・・。そんで俺のトラウマ蘇らせないでくれよ。何度もそんな目に合ってんだから。
それ故に、こういう対処法は知っている。
その拳が当たる直前、手をはじき、受け流した。そしてそのまま倒れこむ店長。
なんとも情けない姿だ。むしろ店員が恥ずかしい思いをするぞ。
「さあ、はやくいくぞ!・・皆さま大変お騒がせして申し訳ありません。よろしければ、これからもスーパー〇〇をご贔屓に。・・君も、ありがとう。見たところ中学生に見えるが、すごい子だ」
「そんな大層な事してませんよ。放っておけなかっただけです」
「随分と謙虚だな。何度も言うが本当にありがとう。何かお礼をしなければな」
「いりませんよ。それに、お宅のスーパーをよく利用させてもらってますから」
「そうか。君がそう言うなら、無理強いはしない。私はお暇するよ」
そう言って社長は、店長を連れて、この場を去った。
パチパチパチパチパチ
その瞬間、店内が拍手の音で満たされた。いいぞ!、よく言った!という名声までもが俺に向けられていた。
うわぁ、目立っちまった・・。明日からはきっとここに来るたび、俺はヒーロー扱いされるんだろうなぁ。さすがに自意識過剰だな。
「あ、あの、ありがとうございました!」
叱責を受けていたバイトの女性が、深く頭を下げて、お礼を言ってきた。ふむ、よく顔を見ると美人さんだ。まだ童顔な辺り、高校生だろう。
「別にいいですよ。あのまま帰るなんて俺にはできなかっただけです。バイト、頑張ってください。それでは」
「あ、待って。せめてこれだけでも」
彼女はそう言って、一枚のメモを渡してきた。そこには、数字と記号が羅列されている。連絡先かな?
「ではこれで。本当にありがとうございました。また来てくださいね」
彼女は最後にそう言い残し、バックヤードに入っていった。
俺、携帯持ってないんだけど・・・。
「へぇ、そんなことがね・・・ふむふむ」
スーパーで起きた出来事を話すと、クレアはハンバーグを頬張りながら、感心したように頷く。
「やるじゃない八幡。家族としても誇らしいわ!」
何だろうな、クレアに褒められると、素直に嬉しい。それは置いといて、このメモどうしようか?捨てるなんて人の厚意を踏みにじるなんてことできないし。
「せっかくだから、これを機会に携帯買おうか」
「え、いいの?」
「遠慮しなくていいよ。私も地球専用の携帯が欲しかったし」
「え?地球専用?」
「これだよ。ソフィーラではこういうやつを連絡手段にしてるんだ」
クレアが出してきたのは、厚さ1cmの長方形の機械だ。見た目はただのスマホにしか見えないが・・。
「こうやって使うのよ」
横にあるボタンを押すと機械が光だし、モニターが目の前に映った。あれだ、スクリーンのようなやつ。
「これはビーコンって言って、このモニターから、ビデオ通話とかできるの。他にも、検索機能やマップ、様々な用途があるわ」
「へぇ、凄いな・・」
後日、スマホを買いに行き、取り敢えず店員さんとクレアのだけでも登録をしといた。
しばらく時が過ぎた休日の11時頃、昼食と夕食の材料を買いにきた。
先日のいざこざの影響も特になく、今日も店に人だかりができている。
「こんにちは」
野菜の目利きをしていたら、あの時のバイトの女性に挨拶をされた。
「こんにちは」
俺も挨拶を返す。
「こないだはどうもね。・・そういえば、名前言ってなかったね。
「はぁ、比企谷八幡です」
名乗るつもりなかったんだが、名乗られてしまった以上返さなければいけない。
「それでは」
「あ、待って。さっき入荷したばっかの野菜があるから持ってって。新鮮だよ」
「本当ですか!ありがとうございます」
ラッキー♪
その日、初めて良好な顔見知りができました。
◆
入学してから2ヶ月、行事の一つである遠足も何事も無く終わらせ、現在は6月。
だいぶ俺も魔法を使えるようになった。魔力玉はバスケットボール並に作り出せ、初歩的な魔法も使えるようになった。
〈ディセイブ〉〈リビテーション〉〈デテクション〉。これくらいかな。ちなみに〈デテクション〉というのは、探知魔法だ。使えて損はないらしい。
今日も少し練習をしている。今回は魔力玉2つ同時に出すことを目標として頑張っている。
やっぱ難しいな・・。2つ出そうとすると、1つの玉が2つに分裂しちゃって小さくなっちまう。
そしてそれを見守るクレア。
「(思ったよりも成長速度が速い。八幡ってめんどくさがりだけど、努力家だからね。なんだか楽しみになってきたわ)」
「ほっ、ほっ」
よし、もう慣れてきたな。意外とコツを掴むのが容易になってきた。俺って実はすごいんじゃないか?
「(元々頭もよくて理解力もあって、呑み込みも早いな、と思っていたけど、予想以上にできてきちゃってる・・・)」ポカーン
「ん?どうしたクレア?そんな顔して」
クレアの今の顔は、目が点になっていて、ポカーンと口を開けている、失礼だけど間抜け面だった。
「いや、八幡。平然と魔力玉分裂させてるけど、それ結構難しいのよ」
「え、そうなのか?俺的には2つ同時に出したいんだが・・。まぁ、これがすごいなら続ける価値はあるな」
「(何で地球人が?じゃなくて地球人だからこそなんだろうな。ここには魔法なんて存在しない。故に魔法関連の創造力はソフィーラの人よりも長けているんだと思う。どっちにしろ、八幡はすごい魔法使いになりそうね)」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
もらった感想は、前書きか後書きで答えようと思います。
また次回。
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4話:ファンタジーな惑星
八幡の適正属性が明らかになるん。
しばらく書き溜め期間に入ります。
それではご覧ください。
6月上旬、煩わしい梅雨と湿気が襲ってくる時期、誰もが暗い気持ちになる。けど、この異空間住宅はそれをちっとも感じさせない。快適快適♪
最近魔法を使うことが楽しくて、学校と家事と読書と睡眠と食事以外の時間はほぼ、それに費やしちゃってる。だって楽しいんだもんすっごく。クレアの話によると、上達すれば自分の思い描いた魔法もできるようになるらしい。それ聞いちゃったら、やるしかないでしょう。
と言っても俺の適正属性はまだ分からないから、何とも言えんが・・。
「自分の適正属性が気になってきた?」
そしてそんな俺の心中を察してきたかのように、クレアが口を開いた。
「そうだな。早い気もするけど、知りたい」
「そう・・。それじゃあ、ソフィーラに行くわよ!」
「・・・え?ちょっ」
クレアはそう言うと同時に、ソフィーラへのゲートを開き、俺の手を引っ張ってゲートに入っていった。
目を開けると、大量の本が並んだ部屋にいた。周りを見ると、この部屋は木造のようだ。
「ここは私の家。そして、この部屋は書斎なんだ」
壁一面に本が埋まっていて、読書家としてこれは気分が高揚してくる。
「この部屋を出たら、私のリビングだよ」
部屋を出ると、そこにはベッドにテーブル、キッチンがあり、とても一人暮らしとは思えない広さだった。
「窓の外を見てごらん」
そう言われて、俺はカーテンを開け、外を見る。
「おお・・・」
目の前に広がったのは、石レンガ造りの建物がいくつも並んでおり、道にはローブを纏った人、鎧を装備し、腰に剣を携えている人たちがあちこちにいる。中には、普通の服を着た人もいるな。そして、下では見たことのない飾り物や食材を売っている屋台があった。
まさに、アニメの世界でしか見たことがない、夢のような光景が広がっていた。
「すげぇ!」
感情が高ぶり、思わず大きい声をあげてしまった。しかし、それも構わずに俺は今の景色を目に焼き尽くしている。
「それじゃあ、外に出るよ!」
「ああ!」
外に出て、辺りを見回す。
「すげぇ・・・」
まさにファンタジーな世界!・・あれはもしかして鍛冶屋か?剣や盾を錬成してるな。いいなぁ!
・・・あれ?そういえば・・
「なぁクレア。なんかやけに体が軽いんだが・・」
ソフィーラに来た途端、異常な体の軽さを感じた。なんなら、大ジャンプとかもできちゃいそう。
「ソフィーラと地球では重力が違うのよ。おそらく地球とは10倍の差があるわ。私も地球に来たときはビックリしたよ」
へぇ、重力の問題とか本当にあるんだな、惑星によって。・・ちょっとジャンプしてみようかな。
「よっ」
膝を曲げ、思いっきり上に飛んでみた。その瞬間、景色がガラッと変わり、3階建ての建物の窓と同じ位置まで飛んでいた。
マジかよ・・。興味本位でジャンプしてみたけど、これ結構驚異的なんじゃない?それだったら足も速いとかあるるかも。
「ここまで違いがあるのね・・」
クレアも今の俺をみて感嘆の声を出した。
「この辺の案内は後でするから、まずは適正属性を知りに行こう」
「わかった。そういえば、どこに行くんだ?」
「あっち」
クレアの指さした方向を見ると、周りの建物とは一際大きく、コンクリートで作られてそうな4階立ての建物があった。
「あそこが一番近いんだ」
俺達は、その建物を目指して歩き出す。
道中もきょろきょろと目線を行き来させ、新しい発見の連続に胸を躍らせていた。この辺は結構町が活気づいている。
「あら?クレアちゃんじゃない」
「あ、ステルおばさん。お久しぶりです」
ステルおばさんと呼ばれた人物は、おそらくこの星の野菜であろう物を運びながら、クレアに親しげに話しかけた。
「しばらく見ないうちに綺麗になったわねぇ」
「ありがとうございます♪」
「おや?ところでその子は?見かけない子だねぇ」
「この子は、色々事情があって、今は私と暮らしてるんです」
「あら、そうなのね」
「比企谷八幡です」
一応名前くらい言っておこう。クレアの知り合いらしいし。
「ヒキガヤハチマン?随分と不思議な名前ね。まぁ、あまり詮索するのもよろしくないわね」
この人、ええ人や・・。
「よかったわねぇ、僕。こんな美人さんと一緒なんて」
「そうっすね。俺は幸せ者ですよ」
「もう、2人共。照れること言わないで!」
まんざらでもないクレアであった。若干頬を染めてたし。
その後も道中いろいろな人にクレアが話しかけられていた。
「クレアって顔が広いんだな」
「私、この町が好きだからね♪」
クレアは笑顔でそう答え、そのまま町の良さを熱く語っている。よほど好きなんだな・・。
ここの町は他とは違い比較的田舎の方らしい。ちょっと離れた場所に行けば、もうアメリカのようにビルが並んでいるんだとか。ちなみにこの町の名前は、サジカルなんだって。
と、そうこうしているうちに目的地に着いた。
建物の看板には、アスタリスクの記号に赤、青、緑、紫、黄、白の六色が塗り込まれていた。六系統の属性魔法のカラーだな。カッコいい・・。
中に入ると、人混みとまではいかないがそれなりに人はいた。
建物の中はいくつかのコーナーに分けられて、それぞれの人が担当している感じが見受けられる。分かりやすく言えば、市役所みたいなところかな。
「あそこが、適正属性担当のコーナーだよ」
クレアに案内されて、用意されている椅子に腰を掛ける。
「こんにちは。適正属性診断を担当させていただくスイレンと申します。今回診断される方は、あなたでよろしいですね?」
「は、はい」
やべ、ちょっと緊張してきた。
「それでは、適正する属性を調べるため、この機械の上に魔力玉を作ってください。そうすることによって、魔力の細部までこの機械が調べて、結果を出してくれます」
え?それだけ?・・・便利な機械だなぁ。
俺は今言われた通りの手順で診断を進行させた。そして、結果が出たのかピー、と機械が音を鳴らす。
スイレンさんが確認すると、何故か驚いたように目を見開いていた。え?何?そうされるとすっごい不安に駆られるんだけど・・。
「貴方の適正属性は【闇系統】です」
ほう、闇ね・・。いいじゃないか。結構好きだよ、闇。
「それにしても驚きました。まさかここまで闇系統に特化した人がいるとは・・」
「え?どういう意味ですか?」
「この診断の仕方なんですが、六つの系統にそれぞれ数値が出て、その中で一番数値が高い系統が適正だと言います。・・しかし、貴方は闇以外に数値が出現していなく、それでいて闇系統がかなり高いのです。私はまだこの仕事に就いたばっかりですが、こういう人は初めて見ました」
驚いていた理由はそれだったのか。今の話を聞くあたり、無知な俺でもすごい事なのだとわかる。いいねぇ、そういうの。なんか燃えてきた。
「全く、八幡にはよく驚かされるわ。魔法の上達の速さといい、今回のことといい」
呆れ半分の溜息をついたクレア。
「私の勝手な推測ですが、きっといい闇の魔法使いになりますよ。頑張ってください」
「はい。ありがとうございました」
◆
そのままクレアの自宅まで寄り道せずに帰ってきた。
そして、クレアが何故か申し訳なさそうな顔をしてこっちを見た。
「八幡はさ、魔法使いになれてよかった?あの時は勢いで教えちゃったけど・・。本来八幡は手に入れるはずのない力なのに。・・後悔してない?」
なーんだ。やけに真剣な趣だから何事かと思えば、そんなことだったのか・・。
「全然。むしろ感謝してる。最初は戸惑ったけど、今は魔法が使えることに凄く楽しさを感じてるしな。だから、ありがとう、クレア」
「うぅ・・はちまーーん!」ダキッ!
「ちょっ!クレア!?」
どうしたの急に甘えだして!・・へぇ、女性ってこんなにいい匂いがするんだなぁ。
「・・・」
一向に離そうとしないクレアの顔を見ると、少しばかり涙目になっていた。
「・・・」ナデナデ
ま、たまには甘えさせるのもありかな・・。
数分後。
「なあ、クレア。そろそろ地球に戻ろうぜ」
クレアはあの後我に返った瞬間、毛布で顔を埋めて悶えてしまったのだ。この光景はちょっと面白い。
「誰にでも甘えたいときはあるって。そう気に病むことはないぞ」
「~~!・・私の威厳が・・・・」
いや、そもそもクレアに威厳なんてそんなにない気がするんだが・・。
その後も何とかクレアを立ち直らせ、ゲートをくぐり、地球に戻った。
◆
自分は闇系統が適正だと知った日から、俺はクレアの家でそれに関する本を読んでいる。ていっても、中学の教科書だけど。クレアって物持ちいいんだよ。
古来、闇系統魔法は相手の魔力を吸収したり、動きを制限させるのが一般的らしい。要は相手の状態を変えるという事だ。ちゃんと攻撃方法もある。そして、これらを応用して生み出したものを、創作魔法というのだ。
魔力吸収が『アブソープション』。制限が『リストリクション』。
闇というのは、体を覆って纏わりつくもの。暗闇だと身動きも取れずにいること。おそらく、これがこの魔法の根源になっているのだろう。俺の勝手な想像だけど。
系統によって、戦闘スタイルとかも変わってくるのか?実に面白い。
後は練習のみだ。教科書に書かれている魔法はソフィーラでは使えて当たり前らしい。ていうか、どこの星でも教科書っていう概念は存在するんだな~。
ちなみに教科書の文字は、闇系統の部分だけクレアに翻訳してもらった。折角だからこれを機に覚えるってのもありかな?日本人から見たら、変な記号にしか見えない。
今日はここまでにしよう。さすがに疲れてきた。明日も学校あるし。
クレアに勉強を教えてもらったおかげで楽と感じた授業も終わり、放課後。俺の下駄箱に一つの手紙が入っていた。内容は・・・
『15時30分、屋上に来てください。待ってます』
果し状かな?俺別に不良じゃないんだけどな~。誰だこんな悪戯した奴・・・。行きたくないが、明日手紙主に糾弾されるのも嫌だし、仕方なく行こう。確か屋上は3階の上にある。
〈デテクション〉
屋上への階段にさしあたるところで探知魔法を使った。誰かまでは分からないが、人数なら把握できる。
・・・・・4人か。
俺マジでリンチされるのか?まぁいい。
〈ディセイブ〉
これであいつらの目的を探ろう。唯一の問題点と言えば、屋上のドアだろう。閉まってたらこの策は破綻だけど。
だが、そんな不安もすぐに拭えた。わずかにだが風を感じた。周りを見ても窓なんて開いていない。よし、俺の勝ちだ。
案の定ドアは開いており、堂々と俺は探りを入れる。いいねぇ、ディセイブは。見えないってもう無敵なんじゃない?ソフィーラだとほとんど通じないらしいけど。
「あいつ本当に来るのかな~?」
「ああいう暗い男ほど実は肉食だったりするんだよねぇ」
「しかも今回は男子で人気の沙耶だからね。間違いなく引っかかるよ」
「ふふ、恨むんなら目を付けられた自分を恨むのね」
うわぁ・・・。よかった~俺で。他の奴だったら間違いなく不登校レベルの嫌がらせだ。しかもあいつは、男子に愛想を振りまく
ふむ、取り敢えずこれ以上被害が出ないよう、録音しとくか。今の会話を。
・・・・・・・
よし、大体これでいいだろう。言わせてもらうが、凄かった。とんでもなかったよ。女性恐怖症になりかねないわ・・。
んで、後は・・。そうだ!
俺は紙に何かを書いて、紙飛行機を作りあの集団の中に飛び込ませた。
「ちょ、なにこれ?」
「紙飛行機?何か書いてあるよ」
「私が読む」
どうやら三柴が読むらしい。好都合。内容は
「何でばれてるの!?」
『嘘告白失敗。残念』
「やっほ~」
俺は集団と離れた給水塔の上に見下ろす形で座っている。
「あんた・・・いつの間に」
「さぁ、その紙に書いてある通り、お前らの計画は失敗に終わったぜ」
「フン。だから何?・・先生に言ったって無駄よ」
「そんなことわかってるって。俺、教師とか大っ嫌いだし。・・・・でも、ここに録音されているデータを見せれば、考えは変わるんじゃないか?」
俺はスマホを起動させ、さっき録音した会話を本人たちに聞かせた。
「なっ!」
「何で、どうやって撮ったの?」
「禁則事項で~す」
「ふざけないで。それをどうするつもり!?」
「さぁ?なんでしょう?」
俺は懐からあるものを取り出し、スマホに近づけた。
「あんた、何でマイクなんか・・」
「さっき放送室から拝借したんだ。さて、ここで選択肢を出そう。ここで大音量で会話を流すか、今から言う俺の要求を呑むか、選べ」
じゃないと激しい頭痛が襲うかもしれないよ~。
「分かった。あんたの要求に答えるよ」
「え?ちょっと沙耶。どういうつもり?」
「そうだよ!あんな男の言いなりなんて」
「んじゃあ、こういうことは二度とするな」
「「「「え?」」」」
俺の要求内容に一同驚いている。なにを想像してたんだろうなぁ?
「聞こえなかったか?今後、こういうことはするなっつってんだ。これをやられた人の事を考えやがれ。下手したら自殺もんだ。特にお前みたいな可愛いやつだったら尚更な。中学生ならそんくらいの事わかるだろ」
「・・・・それだけ?」
「そんだけだな。もし、次やったらこの録音データは即流す。分かったらとっとと帰れ」
「わ、分かったわよ」
そう言って、三柴率いる集団はそそくさと屋上を去った。
さて、買い物買い物♪
◆
翌日の放課後、晩飯の献立を考えながら下駄箱に向かっていると、突然後ろから話しかけられた。
「ね、ねぇ・・・」
「・・・ん?俺か?」
「あんた以外誰がいるの?」
「・・・それもそうだな」
きょろきょろ見渡しても、俺と目の前にいる三柴しかいなかった。
「で、なんか用か?」
「・・・これ」
俺に渡してきたのは、綺麗にラッピングされたお菓子だった。
「これがなんだ?もしかして毒入り?勘弁してくれよ」
「ち、違うにきまってるでしょ!お礼よお礼!」
「は?俺、お前に何かしたか?逆に俺はされそうになったが・・・」
「いちいち悪態つかないでよ。・・・あんたのおかげで目が覚めたの。だからお礼」
「その、私たちもごめんね。もうあんなことしないから」
「それ受け取ってくれない?沙耶なりの意思表示みたいなものだから」
ぞろぞろと後ろから昨日の集団が集まり、俺に頭を下げてきた。
「分かったから頭上げてくれ。・・・まぁ、そう言う事なら受け取っとくわ」
「あ、ありがとね。それじゃあ!」
そのままピューンと走って連中を置いて帰ってしまった。
◆
家に帰り、俺はクレアにビーコンを借りて、三柴にもらったお菓子の原材料を調べている。
クレアには『人の厚意ぐらい信用しようよ』とか言われちゃったけど、考えてみてよ。昨日まで嘘告白という卑劣なことをしようとした奴がお菓子渡してきたんだよ?誰だって警戒しちゃうって・・。
「なんだ。普通に美味いじゃん」
調べたところ有害な物は入ってなかった。俺は三柴にもらったお菓子を食べている。けど・・
「俺の方がもっと美味いけどな!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
『異空間住宅』や『異空間ポーチ』について説明して、と意見をもらったので解禁します。
異空間住宅・・・六畳一間から一軒家(一階だけ)のサイズがある。
※クレアが使っている物は、一軒家(一階だけ)。
異空間ポーチ・・・40個までなら、大きさ、重量問わずに入れられる。
また次回。
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5話:ソフィーラで闇魔法修行
5話突入。
結構遅れてしまいましたね。ちょっとこのシリーズは、話のタイトルにてこずります。
それではご覧ください。
7月に入り、夏の暑さを体で感じるほど気温が高くなる中、俺は闇魔法を使いこなすため、修行に勤しんでいた。
自分でも分かるほど、俺は成長が早い。魔力玉はバスケットボールの2倍まで大きくなるようになった。おまけに闇系統と知った日から、魔力玉が紫色を含んで出てくるようになった。なんでも、その内完全な紫色になって、闇そのものになるらしい。
その他にも、闇系統の基本である、魔力の吸収はちょっとだけできるようになった。動きの制限は、まだ完璧にはできないが。
試しにやってみるとしよう。・・えーと、そこで気持ちよさそうに寝ている、可愛い寝顔のクレアがいます。
〈アブソープション〉
クレアに向かって手を出し、紫色の魔法がクレアの身体を覆って、俺の下に戻ってきた。今は、俺の手の上でクレアの魔力が浮いている。
「うぅ・・」
気持ちよさそうに寝ていたクレアだが、わずかに表情に変わった。そう、こんな感じ。
そろそろ返してやろう。手に浮かせていたクレアの魔力を再び身体に纏わせる。
〈トランス〉
何と、吸収だけでなく譲渡まで編み出してしまいました。あ、ちなみにこの魔法はたまにしか上手くいかない。いつもだと失敗する・・。今回は成功してよかった。
前にも説明したが、闇を覆って吸収するならその逆もできるんじゃないか、と思って練習してみたんだ。そしたら、できちゃった。まぁ、俺でもできたんだから、他にできる奴もいると思うけど。
◆
中学校も衣替えの時期になり、クーラーのない教室で暑さに参りながらも、周りはそれに劣らず、喧騒としていた。
今週に行われる、遠足だ。今はこの話題しか耳にしていない。
もちろん俺には関係ない。集団行動を嫌う俺は、この遠足を休むつもりだ。
そんなわけで、クレアに頼んで俺の遠足は惑星ソフィーラに決まりました。いえーい、俺だけ他の奴らと遠足の次元が違うぜ。
「他の惑星に遠足する中学生なんてどこにいるのやら・・・」
ここにいます。
「まぁ、無理矢理行かせるのも気が進まないし、私ももっと紹介したいことあったから」
「そう言ってくれるとありがたい」
二度目の惑星ソフィーラ。最初はクレアの住む街、サジカルを観光する。
この街の建物は基本レンガ造りらしい。店がたくさん並んでいる。雑貨に本、食品に装飾品、他にも武器やら防具やら、その一個一個すべてに目がいってしまう。
どことなく日本の商店街に似ているから、親近感が湧くな。
「どこから行く?」
やっぱこういうところに来たら行く場所はあそこだろ!
「鍛冶屋だな」
そんなわけで、クレアがよく行く鍛冶屋にやってきた。中には、長剣、短剣、斧が並んでいる。その猛々しい武器に俺は目を輝かせる。
「おう!クレアちゃん、久しぶり!」
「ガイルさん、お久しぶりです。また来ちゃいました」
ガイルと呼ばれたこの屈強な男は、この鍛冶屋を経営している、店主だ。
「へへっ、ありがとよ。ところでそこのボウズは?」
「私と暮らしてるんです。色々あって」
「そうかそうか。ボウズ、剣は好きか?」
「はい!大好きです。特にこの短剣なんか、凄いっすよ!持ちやすさもありますが、このデザインに鋭さ、それでいて軽量、カッコいいっす。」
「おー!随分と見る目があるなボウズ!それはな、俺の自信作でもあるんだぜ。どの系統魔法との相性も抜群なんだ!」
「え?武器と魔法って相性とかあるんですか?」
「そうだ!剣に魔法を付与して、より強化したり、魔法と剣を両方使い、相手を惑わす。やり方は様々なんだ!」
「へぇ、勉強になりました」
「そうかそうか。好きなだけ見てってくれ」
次来るときは、ここで武器を買うのもありかもな。特にこの短剣は気に入った。
続いては、アクセサリーや装飾品が並ぶ店だ。
見たこともない石、それが埋め込まれた装飾品。どれも目を奪われるほど綺麗だった。
時刻は昼になり、クレアの家に一旦戻ってきた。
久しぶりにクレアの料理を食いたいと言い、クレアはその我儘を聞いて、今キッチンで調理している。
ここの料理を習得するのもありかもしれないな。俺、ここの味好きだし。
「久しぶりに食べると美味しいね」
「そうだな。クレアすっかり日本食にハマっちゃったから」
「だって、凄い美味しかったんだから!」
クレアが初めて食べたのは味噌汁なんだ。まさに日本の味!って感じがする。
その後も、街のシンボルであるでっかい噴水や、この星の生き物などを紹介された。ここの生き物は、さほど地球とは容姿が変わってはいない。地球よりは多種多様だし、見たこともない生物がいたけど、普通に猫とかいたし。
非常に楽しい遠足だったな。
「ありがとう、クレア。楽しかったよ」
「いいのよ。私も楽しかったから。今度は離れた所に行こっか」
◆
楽しかった遠足から、数週間がたち、中学校は夏休みを迎えた。夏休みはぐうたら家で過ごす。・・・というとでも?
実は、この夏休みはソフィーラのクレアの家で過ごすつもりだ。この長期休暇で色々なことをもっと学ぶ。取り敢えず、早くあの記号のような文字を読めるようになりたい。
そして、クレアの家の近くには森があると聞いた。そこで魔法を練習する予定だ。クレアもよく利用しているらしい。
まぁ、そんなわけで、今は森にいます。ここでは攻撃しか練習しない。地球じゃできないし。
まず、基本のシャドーボールだ。闇系統の基本中の基本。魔力玉に闇の力を込めて放つ技だ。
他の系統魔法でも、ボール攻撃は基本らしい。
火だったら、赤色のファイアボール。水だったら、青色のウォーターボール。風だったら、緑色のウィンドボール。光だったら、黄色のシャインボール。無だったら、半透明のノウトボール。
木に的を付け、早速この作ったシャドーボールを放ってみる。だが、呆気なくもシャドーボールは的を素通りしてしまった。
うん、わかってたよ。いきなりできたら、自分を褒め称えるもん。やっぱ思い通りにはいかないようだ。
「よし、もういっちょ!」
手からどんどん魔力弾を出し、ひたすら的を目掛けて放つ。
それでも的には当たりません。ただただ、森の中でどかーんと大きい音を立てているだけです。
「ハァ・・ハァ」
魔力が尽きたから、また明日だな。
その日の夜。
考えたんだが、ただやみくもに放ってもしょうがないから、まずは魔力弾をコントロールできるようにしよう。
という事で、俺は壁に寄りかかるように片手で逆立ちをし、もう片方の手で魔力玉をつくり、これをいくつか用意した輪っかに通らせる。あの輪っかはちょっとでも触れたら、止め台から落ちるからとても分かりやすい。集中力と忍耐力が必要だけど、これはこれでいい練習にもなるし、効果は覿面だと思う。
自分の目では確認できないが、凄い滑稽な絵面なんじゃないかな?
・・・よし、そのまま・・あとちょっと・・。
しかし失敗し、輪っかがパタンと倒れてしまった。
「な、なにやってるの?八幡」
「おー、何って修行だよ?」
「そ、そう。それが修行・・・」
クレアは笑顔を引きつらせて、不思議な生物でも見てるかのような目をしている。
「が、頑張ってね!」
そのまま部屋から出てったしまった。
「な、なんだったんだろう?あれ・・・」
翌日、今日も森へ行き、シャドーボールの練習だ。早速一発放ってみよう。・・しかし、その魔力弾は昨日と同様に的を素通りした。
・・まぁ、当然だな。昨日今日でいきなり成長するはずがない。・・・でも、昨日よりは的に近かった。もう少しで的には当たるようになるだろう・・・多分。
昨日と同様に、的には当たらず、日が暮れた。
◆
あれから数日後。またまた展開が早いが、夏休みも残り一か月の8月に入った。時間って、こんなにも早く感じるんだな・・。久しぶりに実感した。
そんな俺は、行き慣れた森に入り、すでにボロボロ状態の的を目掛けて、シャドーボールを放つ。
見事に真ん中に命中し、的は壊れてしまった。
あれから毎日練習し、おかげでシャドーボールの命中率は90%以上となった。初めて当たった時の高揚感は今でも忘れない。
更に更に、何とシャドーボールが複数出現させることができました。最大で3個。うん、少ないね。ちなみにコントロールできるのは、たったの1個。つまり意味がない。
試しに撃ってみても、1つは、元々的が置いてあった場所に着弾したが、そのほかの2つはどこかに飛んでしまった。
「やっぱり、そうそう上手くいきはしないか・・・」
よし、次は3つであの練習方法を試してみよう。・・あれ?何気に俺の考えた方法って、結構画期的なんじゃないの?
そう意気込み、家の玄関を開けると、目を疑う光景が広がった。
「う~ん、これ、意外と難しいな・・・」
俺が考えた逆立ち練習方法をクレアがしていた。・・・しかし、客観視すると、こうも間抜けな絵面に見えるのか。
「クレア?」
「え?・・・あ、八幡。おかえり」
「ただいま・・。っていうか何してるの?」
俺が質問をしても、その体勢を崩すことなく、クレアは答えてきた。
「八幡がやってたことが気になってね。実践してみたんだ。意外と効果があるって実感できるね、これ。さすが地球人は考えてることが違う!」
褒め言葉として受け取っていいのかな?今のは。でもそんな感じはしない。だって、逆さ状態だもん。
「クレア、一旦逆立ちやめよう。頭に血昇るし、若干顔赤いから・・。一体どれくらいやってたんだよ・・」
「あはは、なんか楽しくなっちゃって」
「クレアなんてそんなことしなくても、十分だろ?」
「面白そうだったからやってみたかったの!」
あ、そうですか。はい、分かりました。
しかし、クレアのその練習を少し見ていたが、やはり凄かった。驚きのあまり、俺はしばらく棒立ちしてしまった。
クレアはいくつもの魔力玉を、いとも簡単に複数の輪っかに通らせていた。それもかなりの速さで。しかもそれを、連続でやっていたんだ。さすがクレアだな。
「それで、どう?調子は?」
「1つだけならコントロールして撃てるようになったな。後、3つシャドーボールが出せるようになった。さすがに3つ同時コントロールはできないけど。そのために今日は早めに帰ってきて、練習するつもりだったんだ」
そう言って俺は、3つのシャドーボールを出現させ、クレアに見せた。
「うんうん、いい調子じゃない。さすが八幡だ」
「まぁ、魔法の師匠が首席のクレアだし、当然だろ?それに、クレアの説明は分かりやすいし」
「も~、そんな褒めたって何も出ないよ♪このこの~」
まんざらでもない様子で、クレアは喜んでいる。ちょっと、肘で突かないで。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回はちょっと文字数少なくてすいません。
特に言う事は思い浮かびません。
また次回。
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6話:地球から来た
6話突入。
やべぇな、サブタイトルが全然思いつかん。
感想などは、後書きで答えようと思います。
※俺TUEEEEEにはしません。
シャドーボール特訓から2週間がたった、8月中旬。俺はクレアの家の庭にて新しい魔法を特訓中。まだ未完成だけど、実際にはできるようになったから、今クレアにそれの実験を手伝ってもらうことにした。
「えーと、八幡に魔力弾を打てばいいのね。大丈夫なの?」
「多分大丈夫だろ。あ、でもせめて野球ボールサイズでお願い」
「分かった」
俺にそう言われたクレアは言われた通り、野球ボールサイズのノウトボールを、俺に放ってきた。
俺は咄嗟に手を突きだし、紫色の丸いゲートみたいなものを出現させ、クレアの放ったノウトボールをそれに吸い込ませた。
「おー!凄いじゃない!どこにいったの!?」
自分の魔力弾が吸い込まれていく光景に驚きの大声をあげるクレア。・・だけど、答えれる程余裕はない。
「いってぇ!」
先程吸収したノウトボールが、背中に直撃した。
「・・・へ?」
またしても今の光景に驚いたのか、クレアは間抜けな声をあげた。
この魔法は〈メテスタ〉(自分で考えた)といって、相手の飛び攻撃魔法を吸収して、別のゲートに転移させる魔法。いわばワープだ。
簡単に言えば、俺が入口を作り、出口が現れ、吸収した魔力弾がそこから出てくるという仕組みだ。
そして、この転移先の特定がまだ俺にはできないため、ランダムで転移されてしまう。しかも、何故か俺の後ろに現れることが多い。うぅ、背中が痛い。クレアの結構強力なんだよなぁ・・。
「八幡、今の技は何?」
「ん?ああ、簡単に言えば、魔法を転移させる魔法だ。転移先はまだランダムだけど」
「も、もう驚き疲れた・・・。こうなったら本当にすごい魔法使いになるかもね」
「はは、それは光栄だな」
八幡は苦笑交じりで適当に返したが、これが実は冗談ではないのだ。魔法の上達は、普通より少し上だが、発想力がやはり長けている。将来は強力な魔法使いより、テクニカルな魔法を使う人になるだろう。
◆
クレアに自作魔法を披露した日の翌日、今日は魔法の練習を休んで、前にクレアと約束した、遠くの方へ行ってみることにした。目的地は、クレアが通っていた中学や高校がある、ウェルサクスという街だ。
この街は、サジカルのレンガ造りとは違い、近代的な都会で所々にビルが建っている。店や家もコンクリートでできている。だが、皆が思っている都会のイメージとは裏腹に、自然も多くて、都会特有の重苦しさを感じさせていない。
さすが都会というだけあって、店の種類は豊富だし、甲冑を着こんだ騎士や、ローブを纏った魔法使いの、主に若い人たちがたくさん歩いている。そして何より、すっげぇ広い。
そして、このウェルサクスの中心にある、この大きい時計塔が、この街のシンボルだ。これを目印にしている人が多いんだって。
「ここが私の通ってた高校だよ」
少し移動し、何棟にも分けられた校舎の高校に着いた。本当、魔法を使ってそうな、風貌だ。よく、イメージするのは、尖った屋上。それが立っている。
「じゃあ、入ろっか」
「え?入るの?ていうかいいの?」
「ここにOGがいるんだから、大丈夫でしょ」
「おや、もしかして、フローラン君かい?」
校舎を歩いていると、1人の老人教師が話しかけてきた。この人は、ローブというか神父服に近い服装をしている。
「あ、先生。お久しぶりです」
「ええ、4年ぶりですね。ここへは何をしに?」
「ちょっと、ウェルサクスの観光をしてたんです。ここには、この子に私の母校を見せるために来ました」
「この子とは・・。その隣にいる少年かね?」
「はい。あ、紹介するね。私が高校生の時に担任だった、ガルター=へヴァイス先生だよ」
クレアの担任の人か。それにしても、このガルターという先生。見るからにすごい魔法使いだと思える。
「比企谷八幡です」
俺の名前に違和感を感じたのか、ガルター先生は眉間にしわを寄せた。・・もう、ここでの偽名考えた方がいいのかな?このままだとばれる気がする
「随分と変わった名前だね。少年」
「はあ、よく言われます」
「八幡は地球から来たからね」
・・・・え?言っちゃったよ。
「成程ね。だからか」
いやいや、先生も何平然と納得してるんだよ!ちょっとは疑問を持とうよ。
「ちょっとクレア、ばらしていいのかよ?」
「安心したまえ、八幡君。こう見えて私は口が堅いのです」
「そうそう、それに私がガルター先生を信用してるから言ったのよ」
「まぁ、クレアがそれでいいなら、いっか。」
「それにしても、地球人ですか。中々興味深い。魔法は使えるのかい?」
「ええ、少しなら使えます」
試しに魔力玉を作って見せた。そして、それをみたガルター先生は、少しだけ目を大きく開いた。
「ほぉ、これは中々進んでいますね」
「え?何がですか?」
「私は魔法についてはかなりの知識を持つと自負しているんです。八幡君が作り出した魔力玉、闇系統ですね」
「そうですが・・」
「魔力玉は、系統によって、変化することは知っているね。例えば、火系統だったら炎になるとか。八幡君の魔力玉は、約50%闇化していますね」
・・・・嘘でしょ?そんな見ただけで精密にわかるの?この人凄すぎでしょ。
「あ、そうだったんだ。私、全然気づかなかったよ」
「見た所、八幡君は中学生のようですね。その年で、しかも地球人となると、優秀な方ですよ」
「あ、ありがとうございます。でも、案外普通なんじゃないですか?50%なんて、ここじゃ当たり前なんじゃ?」
「実はそうでもないんだよ。中学1年では20~30%が普通なんです。どうです、八幡君?」
う~ん、どうって言われてもなぁ。ただ、俺がそれなりにできているという事がわかって嬉しいくらいだ。
「でも、魔法の師匠がクレアだからな。一から教えてくれたおかげだと思います」
「フローラン君は、高校のころから、ずっと首席をとっていましたからね。私達教師陣も彼女の魔法には驚かされてばかりだった」
「へぇ、やっぱ凄いんだな。クレア」
「もう、昔のことだよ♪」
クレアは、嘘が隠せないタイプの人だ。正直者だし、その分俺の修行の時、すっげぇダメ出しくらってたけど。
「クレアの高校時代ってどんな感じだったんですか?」
「そうですね。魔法がすごいから皆からの人気者でね。人望も厚くて、模範的な生徒だったよ」
最早非の打ち所がないじゃないか。
「ですが、結構なドジだったね。よく転ぶし、魔法が優秀が故に、たまに調子に乗って転んで、注目の的でもあったし。とにかく転んでましたね」
「ははは、随分と可愛い高校時代だったんだな。クレア」
「ちょ、ちょっとガルター先生!・・そんなこと八幡に教えないでくださいよ!///」
「そう言えば確かに、今でもたまにこけたりしてますし」
「その辺りは、大人になっても変わってないようですね・・・」
「うぅ・・//」
両手で赤くなった顔を隠してしまったクレア。もうちょっといじりたいという衝動に駆られるが、この前みたいに、悶えられると困るからやめておこう。
「と、そろそろ私は会議があるので、お暇しましょう」
「さようなら、ガルター先生」
「さようなら」
俺達が手を振ると、ガルター先生は笑顔で振り返してきた。凄い優しい人だな・・・。クレアが信用するのもわかる気がしてきた。
◆
次に連れてこられたのは、中学校だ。何故高校の次?
中学校の校舎は3棟に分けられていて、右から1年、2年、3年と分けられている。先程の高校とあまり容姿が変わっていない。
クレア情報によると、1年でまず、知識と基本魔法を身に着け、2年から本格的に魔法の訓練が始まるらしい。
「あ、八幡。ちょっと、あそこのお店に欲しいものがあったから、見てきていい?」
「分かった、俺は中学校を見学しとくよ」
俺は取り敢えず、校舎の外を徘徊するように、見ることにした。
「おい、ちょっといいか?」
しばらく、見回っていると、突然後ろから話しかけられた。
「なんだ?」
後ろを振り返ると、そこにはおそらく俺と同い年であろう、中学生が4人いた。そして、俺に話しかけた奴は、赤髪にツリ目のイケメン男だ。
4人共、同じような格好をしているから、多分中学の制服だろう、夏休みなのに。やっぱ少し派手なのはお決まりなんだな。
「見ない顔だな。うちの中学になんか用か?」
「いや、ただ見学してただけだ」
「そうか・・。お前どこから来たんだ?この辺りの人じゃなさそうだが」
「いきなり話しかけてきた知らない奴に教えるわけないだろ」
「それもそうだな、すまない。俺はキリヤ=バルハード。ここ、ウェルサクス出身だ」
・・どうしようか、出身まで言われたから、俺も言わなきゃマズいかな。っつーか、こいつの名前カッコよすぎだろ。名前って顔にも反映されるのかな?
「比企谷八幡だ。地球から来た」
「ヒキガヤハチマン?変わった名前だ。・・・・って、はぁ!?地球からだと!」
「ちょ、ちょっと待って!ここと地球、いくら離れてると思ってるの?」
予想通りの驚きようだ。後ろの青髪女子も、大きい声をあげた。
「お前、怪しすぎるぞ!」
そう言うなり、赤髪の男は手からファイアボールを出した。・・・こいつ、火系統か、そこそこできるな。あの魔力弾、少し熱を帯びている。その前にまず、地球から来たってことに疑問をもて。何であっさり信じてんだよ。
「おいおい、そう警戒するな。ただ、離れた所から来ただけだろ」
「離れた場所の規模が違うんだよ。それに、お前みたいな変な目した奴、どう見ても怪しい!」
ズキッ!
チッ、こいつ、痛いところを突いてきたな・・。
「一緒に来てもらおうか!」
「どこにだよ!」
突然ファイアボールを俺に放ってきた。けど、重力の関係で多少身軽になった俺は、返答をしながら避ける。
「速い!」
出た。そのよくアニメとかで聞く台詞。まさか生で聞けるとは思わなかったな。
「危ない!」
すると、青髪の女子が、ファイアボールの方を見ながら大声をあげた。キリヤというやつのファイアボールが、歩いている少女に当たりそうになっている。
「クソッ!間に合わない!」
〈メテスタ〉
「アッツ!!」
くうぅ、思ってた以上に炎化してて、熱湯かけられた気分だ。服はぎりぎり焦げなくて助かった。
「・・・は?」
「今の、魔法だよね?」
今起こったことに、あの2人は目を見開いている。
「・・・・・闇系統」
と、後ろにいた無表情の黄色い髪の男がそう呟いた。一発でわかっちゃったんだ。
「八幡、お待たせ・・。って、これは一体?」
クレアは能天気な声をあげて、戻ってきた。
「ああ、クレア、ちょっとな」
「あの、そこのヒキガヤハチマンという奴の知り合いですか?」
「そうだけど。・・・あれ?どっかで見たような・・」
クレアはあの4人をまじまじと見ている。見覚えがあるのか?
「あっ!キリヤ、この人、クレア=フローランさんだよ。ほら、あの時の」
そう言って、前に勢いよく出てきたのは、この4人の中で一番身長が低い、緑色の髪をした少女だ。
「あなたは・・。あ、思い出した。確か一度、私の通ってた大学に来た子達よね?」
クレアのその言葉に、キリヤという奴も、そのほかの人も、ハッと思い出したかのように納得した。
「クレアの知り合い?」
「うん、前に一度、大学で顔を合わせてね。魔法を少し披露してたの」
成程、ここにもオープンキャンパスとかがあるんだな。そこで、魔法を見せていたのか。首席だから、抜擢されたのだろう。
「それで、クレアさん。何故地球人がここに?それに、魔法を使ってましたよ?」
「ん~、どうする?八幡」
「まぁ、俺から地球人って言っちゃったし、誰にも口外しないとの約束するのなら、クレアが話してもいいよ」
「そっか。じゃあそうやって釘をうっとくから、話してくるよ」
どうせ、もう関わることもないんだ。4人程度に知られたって、どうってことない。
そんなこと思っていると、キリヤ=バルハードがこちらに走ってきて
「すまなかった!」
と、勢いよく、頭を下げてきた。
「は?」
俺は呆気にとられて、間抜けな声を出してしまった。
「知らなかったとはいえ、酷いことを言った。ごめん」
「は?何をだよ?」
「目が変とか言っちまって」
再び頭を下げられてしまった。
「いや、別に気にしてないし。っていうか慣れてるから何とも思わない」
「・・・慣れてるって・・?」
「んなもん、昔から言われ続けてるから、痛くもなんともない」
「は?・・・なんだよそれ、傷つかねぇのかよ!悪口を言われて!」
「何熱くなってんだよ。傷がつくのは、もはや日常だったから慣れたんだよ。これで参ってたら、俺はとっくに自殺をしてる」
何故か分からんが、俺も少し熱くなってしまった。
「人が傷に慣れるなんておかしいだろ!そんなの間違ってる!」
「うるせぇな!人は傷ついて成長すんだ!それが分からないのか!」
「傷に慣れたら、傷はつかなくなる!それは成長しないことと同義なんじゃないのか?」
「ちょっとキリヤ!落ち着きなよ!」
「八幡も、熱くならないの」
俺達の口論に、マズいと感じたのか、クレアと青髪の女子が止めに入った。
「悪かったな」
「・・悪い、こっちも熱くなりすぎたわ。クレア、もう帰ろう」
「うん、じゃあね」
クレアは曖昧な笑みで、あいつらに手を振った。
「地球人って、そんなに残酷な奴らが多いのかよ・・・」
「キリヤ・・・」
「ここにもいないわけじゃない。けど、あまりに酷すぎる」
「ねぇキリヤ、どうするの?」
「まぁ、キリヤの事だから、何をするのかは大体わかってるけど・・」
「」ウンウン
「聞いた話だと、あの八幡という奴の事情を知っているのは、クレアさん以外で俺達だけらしい。なら、やることは1つ。あいつの友達になる!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
まず一つ目の感想。『クレアと八幡の関係について』
・あくまで仲のいい姉弟です。母性というよりは、姉御肌ですね。
二つ目。『八幡が強くなる理由』
・”今のところ”魔法を楽しいと感じているから、自然と成長していく。
感想をいただいて、とても喜んでいる、アイゼロです。
また次回。
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7話:疑心暗鬼
7話突入。
オリキャラの詳細がはっきりするのん。それしか言う事アリマセン。
それではご覧ください。
日を改めて、再びウェルサクスという街にやってきた。この前はいざこざがあって、全然観光できなかったからな。
ちなみにクレアは魔法研究の仕事があり、外出しているため1人で来ている。道はもう覚えているから問題ない。さて、どこから回ろうか。
「おーい!」
え?また話しかけられたよ・・・。
「よう!」
と思ったら、先日のいざこざの相手である、キリヤ=バルハードと後ろの3人が、俺に駆け寄ってきた。
「な、なんだ?」
「いや、見かけたから、話しかけたんだ」
「あ、そう。それじゃあ」
「ちょ、待てよ。一緒にどこか行こうぜ!」
キムタクかお前は・・。
「いや、何でだよ・・・」
「いいだろ、せっかく会ったんだから。・・そういや自己紹介がまだだったな。改めて、キリヤ=バルハードだ。火系統を使う。よろしくな、八幡。キリヤって呼んでくれ」
「私は、シズク=アネシア。よろしくね、八幡。私は水系統だよ」
「リア=エルグレントだよ、よろしく!風系統なんだ」
「・・・ジーク=カーデイス。光系統」
いきなり下の名前で呼ぶのかよ・・・。このリア充ども。それに、皆系統バラバラなんだな・・。
前回言った通り、キリヤは赤いツンツンと癖のある髪で、ツリ目なイケメンだ。魔法はそれなりにできている。何でわかるのかと言ったら、俺自身が喰らったからだ。
シズクと名乗った女子は、青い髪のセミロングをした、美少女だ。身長は中学1年生の平均に見えるが、胸部は高校生にも勝るほど成長している。これ言っていいのかわからないけど、汐留さんより大きい。
リアは、この中で身長が一番小さく、緑髪のショートだ。こいつも顔は整っていて、美人というよりは、可愛いロリッ子って感じだ。
ジークは、この中で一番身長が高く、黄色い髪の耳が隠れる長さのショートだ。こいつは、ずっと喋っていなかった。普段から無口なのかな?物静かな佇まいをしている。
「そうか。そんじゃあな」
「待て待て、この街を観光しに来たんだろ?だったら、色々教えてやるから、一緒に行こうぜ!」
「行こう行こう!」
「え、あ、ちょっ・・・」
キリヤに手を掴まれ、リアに背中を押され、無理矢理同行を迫られてしまった。
◆
まずは、皆がよく行くという店を紹介された。
「ここの料理、すげぇ美味いんだぜ!やるよ」
その料理とは、よく見かける食べ歩き用の、一品ものだった。見た目はコロッケに見えるが、衣がきつね色ではなく、少し黒い。皆がその料理を頬張っている中、キリヤが俺に差し出してきた。
「悪いな。もらっちまって」
「いいっていいって。ほら、食ってみろよ」
恐る恐る、俺はこのコロッケもどきを口に入れた。
「美味い・・・」
その瞬間、口の中が旨みの汁で満たされた。食材が正体不明なため、あまり詳しくは知らないが、この食感は肉と、何か野菜だろうか?シャキシャキとして、この肉とも相性がいい。そして、この揚げ衣。何故黒いのかは分からないけど、これにもしっかり味がついていて、とても癖になる。手が止まらない。
「だろ?これ学生に人気なんだよ」
「どう?気に入った?」
アネシアが俺の顔を覗き込むように、聞いてきた。
「ああ、また食いたいくらいだ」
「じゃあ、またみんなで行こっか」
あれ?なにこのまた皆で集まろうみたいな感じ・・・。俺ってもしかして、流されてる?
「次はここだ」
続いてやってきたところは、魔道具とやらが売っている、そこそこ大きい店だ。都会であるここは、品ぞろえもいいらしい。
俺が住んでいる異空間住宅や、異空間ポーチもここで買えるらしい。
そんな俺は、並んでいる飾り物の宝石に、目を光らせていた。どれもこれも綺麗な輝きを放っている。
「宝石がそんなに珍しいの?」
突然横に現れた、エルグレントに話しかけられた。
「ああ、地球じゃこういうものは滅多にお目にかかれないからな」
「へぇ、あっちにもいっぱいあるから行こう!」
「お、おいちょっと!」
そのまま手を引っ張られて、店内を走りまわされた俺であった。
「ラストはここだな」
あの後も色々なところを回り、そろそろ日没になるころ、キリヤ達にとある森に招かれた。
「こんなとこで何すんだ?もしかして、集団リンチ?やべ、逃げなきゃ」
「おいおい待て待て、誰もそんなこと言ってないだろう」
え?違うの?集団で1人を人気のない場所に連れて行く理由なんて、集団リンチ以外あったんだな・・・。
「・・・じゃあ、何すんだ?」
「魔法を使うんだよ」
キリヤはそう言って、手からファイアボールを出現させた。それに続いて、皆それぞれ魔力玉を出した。
「私たちは、よくここで魔法の練習をしてるの」
「ほら、八幡も出したらどうだ?」
「ん、分かった」
キリヤにそう言われた俺は、シャドーボールを3つ出現させた。・・・、うん、あのね、気付いたら無意識に複数出現されるようになったんだよ・・・。それなのに、コントロールできるのは未だに1つだから。
「へぇ、凄いな。一度に3つ出せるなんて」
「」コクコク
皆が俺の魔力玉をまじまじと見ている。ジークは相変わらずの無口だ。
「俺は出せても、コントロールできるのは1つだけだ。それを言うなら、キリヤの方がすごいだろ。あの魔力玉、ほとんど炎化してたし、アレ喰らった時、すっげぇ熱かったからな。それに複数出すなんて、皆もできるんじゃないか?」
「そうだけど、俺らは2つしか出せねぇんだよな。すげぇな、地球人って」
「でも、アネシアやエルグレントにジークも、レベルは高いんじゃないか?」
実際、アネシアのウォーターボールは、水化こそしてないが、わずかに水しぶきを見せている。エルグレントのウィンドボールは、風を帯びているし、ジークのシャインボールは周りに光の粒子をまき散らしている。
「まぁ、中学1年からしたらいい方なんだけどね・・・。それと、八幡。私の事はシズクでいいよ」
「私もリアって呼んでよ!他人行儀っぽくてなんかヤダ!」
「そうか。・・・・それで、結局何するんだ?」
「ああ、せっかく宇宙人と友達になったんだ。皆で魔法の練習でもしようぜ」
・・・は?友達?誰と?・・あと、宇宙人って呼ぶな。言われると、色々複雑な気分になるから。
「おい、友達ってなんだ?別に求めてないんだが・・・」
「ん?いや、俺らが八幡と友達になりたかったからなんだが・・・」
「なんだよそれ?あれか?事情を知って、可哀想と気遣ってるのか?それなら、やめてくれ。そういうのは大っ嫌いなんだよ」
俺のこの言葉に、3人はムッとする一方、キリヤは何故か溜息をついていた。
「お前、めんどくさい奴だなぁ。俺達が友達になりたいと思ってるんだ。それでいいじゃねぇか」
「なんだと・・。意味が分からない。俺と友達になりたい奴なんているはずねぇだろ」
「確かに、八幡の過去を知ったら、俺らを信用できないのはわかってる。けど、いるはずねぇって決めつけるのは良くないぞ。・・・・これだけは言っとくぜ。俺らは、友達を裏切らない」
「ッ・・・分からねぇ。なんなんだよお前。本当に意味が分からない」
キリヤの言っていることがあまり理解できないまま、俺はトボトボと、クレアの家に向かって、歩いていった。この時、俺はわずかに手を震わせていた。
◆
まだ時間があったため、気分転換に地球に戻ってきた。ゲートはクレアに頼んで、出してもらった。仕事中に申し訳ない・・・。
しばらく周辺を歩いていると、見覚えのある人とすれ違い、その人に話しかけられた。
「あれ?比企谷君」
「汐留さん・・・」
「春でいいよ。・・何かあったの?」
どうやら、今の心情が顔に出ていたらしく、春さんは心配そうな顔をして、聞いてきた。
「春さんは、友達ってどう思いますか?」
「え?・・・う~ん、友達か。どうなんだろう、人それぞれだと思うけど。私だったら、いた方が楽しく思えるかな」
「楽しく、ですか?」
「うん、やっぱり人と楽しみを共有とかしたいじゃない?一緒に笑ったりとか、遊んだり」
「もし、裏切られたらどうするんですか?」
「その時はその時だね。きっぱり忘れて、新しい出会いでも見つけようとするかな」
新しい出会い・・・か・・。
「強いんですね、春さんは」
「そんなことないって。実際あったら、傷つくし、ちょっと悟りを開くかもしれないよ?」
「ふっ、なんですかそれ・・。ありがとうございます。答えてくれて」
「何かの役に立てたなら、いいよ。ま、頑張れ、少年!」ポン!
春さんは少し力強く声を大きくし、俺の肩を叩いた。これには昔を思い出して傷心中だった俺も勇気づけられた。
◆
「八幡、どうしたの?」
家に帰り、ソファに座った途端、仕事から帰っていたクレアに、顔を覗き込まれた。
クレアの表情はは、俺を心配している色が見て取れた。
「いや、色々あってな」
「・・・もしかして、先日の子たち?」
図星を突かれ、少し肩をピクつかせてしまった。それをクレアは見逃さなかった。
「あの子たちと何かあったの?」
「あー・・。いや、これは俺自身で解決する問題だ。クレアにばっか頼ってはいられないし」
「そっか、分かった。でも言いたいことがあったら、言ってね」
クレアにそう優しい笑顔で言われて俺は短く、うんと返事をした。今日はもう寝るとしよう、ちょっと疲れたし。
『俺が友達になってやろうか?・・ヘヘ』
『残念嘘でしたー!誰がお前となんか友達になるかよ!』
『お前みたいなやつと一緒にいられるかよ!』
『あはは、キモーイ!』
『『『あっははははははは』』』
「っ、チッ、嫌な事思い出したぜ・・・」
キリヤ達と関わって克服しようかどうか、と頭の片隅に入れた途端にこれだ。全く、俺も気にしすぎだ。儚過ぎたことだというのに・・・。
「大丈夫?八幡」
「ん?・・クレア?どうしたんだ?」
「いや、酷くうなされてたから、様子を見ようと」
「そうか。いや、悪夢を見てただけだ」
「・・・そっか」ナデナデ
クレアはこちらに近づき、何故か知らんが頭を撫でてきた。
「八幡、ちょっと震えてたよ」
それを聞いた俺は自分の手を見ると、わずかにプルプルと振動していた。俺は震えを押さえようと、無理矢理拳を強く握る。
「もう大丈夫だ。それとクレア、俺もう中学生なんだから、頭を撫でるのは・・・」
「えー、いいじゃん♪」
「ったく・・・」
なんか、今までは姉のようだったけど、こういうときだけ母性が発揮されてるのかな。
いつの間にか眠ってたらしく、朝起きたら隣でクレアが寝息をたてていた。俺の頭を撫でた後、眠ってしまったのだろう。
「いたっ・・・」
取り敢えず、デコピンで起こし、俺は朝食を作るため、キッチンへ向かった。
「うぅ~、酷い、デコピンで起こすなんて・・・」
「だったら寝落ちしないで、ちゃんと自分の部屋で寝なさい」
「はぁ~い、今日もどこかに行くの?」
「そうだな。サジカルの行った事ないところに行ってみる」
「1人で平気?」
「クレアじゃないから大丈夫だ。道はちゃんと覚えるし」
「ちょっと!どういう意味!?」
実は、クレアは結構な方向音痴だ。地球に来たばっかの時は、何度迎えに言った事か。ああ、懐かしきかな、奔走劇。
◆
サジカルのシンボルであり、中心でもある大きい噴水から、西に向かっていく。風景は変わらないけど、未知の場所に行くのは、なんだか気分が高揚してくる。
しばらく歩いていくと、高い場所に丘のようなものがあった。人も結構いるから、おそらくスポットとして人気なのだろう。
昇ってみようと思った俺は、少しずつ上に上がっていく。
「・・・いいな、ここ」
風を遮る建物がない分、体全体を覆う感じに風に煽られる、この涼しさと夏の暑さが心地いい。
ふと、俺は昨日の事を思い出す。
俺は何をこんなに悩んでいるのだろう。
人なんて碌でもない奴らばかりだ。友達なんて、変に上っ面な態度で、相手の機嫌を損ねないようにとか、表情を窺ったりとか、ハブられないように口を合わせて乗ったりとか、そんな下らなく、醜いものでしかない。そして、浮いている者を徹底的に排除しようと、変なところで全力を出し、趣味の悪い快楽に浸る最悪なものだ。
でも、あの時キリヤが口にした言葉
『俺らが八幡と友達になりたかったからなんだが・・・』
『俺らは友達を絶対に裏切らない』
この言葉が脳裏によぎる。
当然、信じられるわけがない。会って間もなさすぎる奴を、どう信用すればいいのだ。クレアの時は、まだ俺は子供だったし、身も心もボロボロで、あの温もりが心地よかったから、すぐに信頼できた。
けれど、俺はキリヤ達を切り捨てられずにいる。
理由はわかっている。あいつらは俺の過去を知り、自ら友達になろうと近寄り、街の紹介やら色々教えてくれた。俺も、こいつらなら信用してもいいんじゃないかと、思ったのだ。
でも、その度に小学校時代の出来事が、フラッシュバックされる。だから俺の心は、全て疑心暗鬼に変わってしまう。
怖いのだ。もう、あんな思いはしたくないと、自分にブレーキをかけ、相手から近寄ってくれたのに、俺は逃げ出してしまった。そういう自分が嫌で嫌で仕方がない、と矛盾した思いが苦悩を増やす。
「帰るか」
まだ昼過ぎだが、しばらく横になりたいため、帰路に就こうとした。
「よっ」
突如、目の前に現れたのは、俺の苦悩の原因であるキリヤだ。後ろにはシズクやリア、ジークもいる。お前ら、いつも一緒にいるのか?仲がいいんだな。
「なんだ?」
ていうか、何で俺の居場所知ってるんだよ。こええよ。
「昨日な、あれから皆で考えてな。人間不信なお前と、どう向き合おうか考えてたんだ」
そんなこと考えてたのかよ・・。それなんか意味あるの?
「昨日の事があって、八幡は俺らを避けようとするはずだって結論が出たんだよな」
「・・・そうだな。それが分かったんなら、もう俺とは」
「なら、俺らが勝手に近づいて関わっていく」
「・・・・・・は?」
キリヤの発言に理解が追いつかないまま、俺は開いた口がふさがらない。
「お前の事情とかぶっちゃけどうでもいいんだよ!俺らは勝手にお前を友達にする!さぁ、どこか行こうぜ!」
「えー、いや、ちょっ」
「異論反論は無しだ。ジーク」
いつの間にか後ろに潜んでいたジークが、俺の背中を無理矢理押してきた。
「さぁ、行くよ!」
続いて、シズクが俺の手を引っ張り出した。
「わ、分かった。ついていくからいったん離れろ!」
もちろん俺の意見は無視され、そのままいろいろな場所を巡った。
◆
「じゃあなー」
「またね」
「ばいばーい!」
「」手を振る
「はぁ。ったく、何なんだよ、どこまで俺を悩ませれば気が済むんだ」
けど、気が付かないうちに、俺の口角は少し上がっていた。あいつらといて、楽しいと感じたのだろう。
いずれ、真剣に向き合わなきゃいけなさそうだな・・・。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
三柴沙耶をどうしようか悩んでます。
また次回。
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8話:エイト=ヒキガルト
8話突入。
これからこのシリーズは、3000文字から7000文字が目安になります。
それではご覧ください。
こんなに時間が早く過ぎると思ったのは何年ぶりだろう。明後日で、夏休みが終わる。
本当に色々あったな。魔法の上達に街の観光、目に見えるものすべてが新しい、とても充実していたと思う。
そして、キリヤにシズク、リアにジーク、こいつらにも大分世話になったな。無知の俺に色々教え込んでくれた。魔法を一緒に練習したりもした。キリヤのファイアボールで焼け野原になりそうになったり、そこはシズクが水で消してくれた。あの時は、本当に焦ったな。
もう、いいんじゃないかな?素直になった方が。もう認めちまえよ。キリヤ達と一緒にいた日々が、凄く楽しく思えたことに。あいつらなら、俺の友達は悪で欺瞞だという概念を、覆してくれるだろう。
まるで、自分の心の中のもう一人の自分に語り掛けるように、うっすらと目を閉じ、俺は決意を固めた。
今は、俺の目の前に4人が歩いている。なんか、適当に街をぶらぶらしてたら、捕まった。こいつら強引過ぎる。1人相手に4人なんて。そんなに俺といて楽しいのかよ。ったく・・・。
「なぁ、ちょっといいか?」
「ん?どうした?」
「その、なんて言ったらいいかわからないけど。・・・・・・これからよろしくな」
ちょっと照れ臭い俺は、人差し指で頬をポリポリ掻きながら、手を出した。
「っ!・・・ああ、よろしくな!八幡」
キリヤは力強く、手を握り返してきた。
「うん!よろしくね♪八幡」
「やったー!よろしく!」
「よろしく」スっ
キリヤの後を続くかのように、手を握ってくるシズクにリア、ジーク。・・・こんなに温かい気持ちは、クレアとはまた違うな。心地がいい。
「お前らいい奴過ぎるだろ・・・」
「(むしろ、これが普通な気がするんだけどな)・・・はは、これからよろしく頼むぜ」
「じゃあさ、八幡の連絡先を教えてよ!」
そう言ってシズクはビーコンを取り出した。それに合わせて、皆も取り出す。
「それが、俺まだビーコン持ってないんだ」
「あ、そうなんだ。じゃあ今から貰いに行こう!」
あ、ビーコンって無料なんだ。随分と気前がいいな。
◆
そんなわけで、ビーコンを手に入れるため、以前適正属性を調べた場所にやってきました。ビーコンのコーナーは、右から二番目だな。
「こんにちは。ビーコン登録を担当させていただく、カレンと申します。登録される方はあなたでいいですね?」
「はい」
「それではまず、お名前の方をお聞かせください」
あ、やべ、名前考えてなかった。さすがに日本の名前だと間違いなく怪しまれる。
「どうしよう・・・」
「ど、どうする?何も考えてなかったよ・・」
「な、なんとか、気合で乗り越えろ!」
ええー!気合っつっても。そんなパッと偽名が浮かんだら、焦らないって。
「あの、お名前を・・・」
「・・・・・え、エイト=ヒキガルト、です」
咄嗟に、安直かつちょっとカッコよさげな思い浮かんだ偽名を発した。
「エイト=ヒキガルト様ですね。・・・・・・・はい、登録完了です。では、こちらがビーコンになります」
「あ、ありがとうございます」
ビーコンを受け取った俺は、キリヤ達と共に、早足で建物を出た。
「はは、エイト=ヒキガルトか。カッコいい名前じゃねぇか」
「うるせー!」
「エイトくーん♪」
「おい、からかうなシズク!」
「エイト!エイト!」
「リア、お前なぁ・・・」
「」クスクス
「笑うなジーク!」
こうして、惑星ソフィーラでの俺の名前、エイト=ヒキガルトが誕生した。
◆
「じゃあな」
「おう。偶には遊びに来いよ」
「分かったよ・・」
今日で夏休みが終わりになり、地球に帰還する直前、キリヤ達が見送りに来てくれた。
「キリヤ君、シズクちゃんにリアちゃん、ジーク君も、八幡と仲良くしてくれてありがとう」
「いえいえ、私たちも凄く楽しかったです。まさか、夏休みに地球人と友達になるなんてね」
「私も!とっても楽しかったよ!」
「」ウンウン
予想外の言葉に口をポカーンと開けたまま、目を見開き、キリヤ達を見渡した。その表情には、嘘も欺瞞もなく、純粋な笑顔が、俺に向けられていた。
「ありがとな。俺も、すっげぇ楽しかったよ」
「ふふ、じゃあ、またね」
キリヤ達に手を振りながら、地球へのゲートをくぐった。
久しぶりの家。今日はもう寝ようかな。
「」ナデナデ
「ん?どうした?クレア」
「よかったね、八幡」ナデナデ
「・・・・ああ」
◆
さぁて、久々の地球&中学校だ。地球が久々なんて言葉、初めて使ったわ。俺にしか使えない言葉だな。
教室に入っても、変わっていない光景。まだ中学1年生だから夏休みデビューみたいなことをするような奴はいないみたいだ。・・・あ、でも何人かは見受けられる。男なのに髪長くして、後ろで結んだり、日焼けしている人がいたりと。
え?お前はだって?。そうだな~、宇宙人と信頼できる友達になったことかな。
その後は何も起こらず、昼休みになり、俺は本を読もうと図書室に向かう。ちょっと宇宙に関しての本とか読んでみようかな、と思ったのだ。惑星ソフィーラが載ってるわけないが、他の惑星に足を踏み入れた以上、こういうのに興味が湧いた。
適当にいくつかの宇宙について書かれている本を見繕い、ページを読み進めていく。だが、ピンとくる内容はないようだ。・・・・上手いでしょ?・・・・取り敢えず、棚に戻そうか。
本を戻していると、横にあった一冊の本が目に入った。本のタイトルは『魔法』というたった2文字。不思議に思った俺はそれを手に取り、ページをめくる。
・・・・・序盤はウィキペディアに載ってそうなことが書いてあるが、この後が興味深いな。魔法にもいろいろな種類があるんだな。幻術霊術に妖術仙術、その他にも様々ありすぎて、どれも目に焼き付けてしまう。
・・・・・惑星ソフィーラの魔法って、こういう術式とかも使えるのかな?ちょっと試したくなってしまった。
「できないよ」
クレアに聞いたところ、できないようです。ソフィーラと地球上で言い伝えられている魔法や術は、根本的に何かが違うらしい。
◆
中学校生活の描写はほとんどないと思う、と作者に言い伝えられた俺、比企谷八幡は今、クレアと正面向いて話し合いの形で座っている。普通この状態だと、とても重要な事で真剣な目になるんだろうけど、今のクレアは何故か上機嫌でニッコリしている。
「ついにやったよ!」
「・・・何を?」
「ゲート」
多分こことソフィーラを繋げるゲートの事を言っているんだろうけど、あれもう完成してたんじゃないのか?それともあれでまだ進化できたの?
「ゲートが何?」
「維持できるようになったんだよ!」
「維持って・・・。つまり、ずっとゲートを出し続けることができたってこと?」
「そう!いやぁ、最初はいいかなって思ってたけど、八幡が友達出来たってことで、いつでもいけるように、頑張ったんだ!」
・・・え?俺のために?・・・わざわざそんなことを?
「わざわざそこまでしなくても・・・」
「なーに言ってるの。これは私のためでもあるの。八幡には楽しんでもらいたいってね♪」
あまりの感動に思わず抱き着きそうになったが、さすがに俺も中学生という思春期なので断念した。クレアにありがとうと言うと、逆に抱き着かれてしまった。・・・でも、これは姉御肌の抱擁ではなく、どこか子供じみているのが若干の違和感を覚えた。
「じゃあ、ご褒美に私の好きな料理を振る舞って♪」
「・・・分かったよ」
その夜、いつもより豪勢にクレアの好物だけをそろえた食卓が完成した。凄い笑顔で美味しく食べている。作ってる側からすれば、これは大変喜ばしい事だ。
「うん!またレベルが上がってるね。美味しい!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
前回、三柴沙耶をどうしようか悩んでいたけど、決めました。
『今後一切登場しません』
という結論。一見フラグがたったように見えましたが、作者自身がそれをへし折りました。・・・はい、すいません・・・。どうしても、ネタが思いつかなかったのです。
なら何であの嘘告白撃退を書いたのかというと、単なる文字数稼ぎ&手が止まらなかったのです。そして、八幡に魔法を使わせたかったのです。
また次回。
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9話:黒の外套
重要な話があるので、後書きを読んでください。
それではご覧ください。
早速常に開いている状態のゲートを活用させてもらい、地球から足を離した。今は少し歩いてウェルサクス周辺の店をうろついている。・・お、この服カッコいいな。
少し大きめの服屋を覗いていると、そこにいる女店主の人に話しかけられた。
「あら?ちょっとそこのお兄さん」
「ん?俺ですか?」
「そうそう。その服、見慣れないわね。どこで買ったのかしら。興味深いわ」
現在の俺の服装は、極普通の学校の青いジャージだ。・・・見慣れない服という事は、ここにはジャージというものが存在しないんだな。
「ああ、これはちきゅ・・・。自分で作ったオリジナルなんですよ」
あ、危なかった。危うくとんでもない暴露をしてしまいそうになった。最近気が緩んでいるから、口にも影響をしてしまっている。
「凄いわね。この年でそんな面白い服を作れるなんて。・・・うちで働かない?」
「あはは、か、考えときますね」
女店主に手を振りながら、そそくさとその場を離れた。
◆
多分2時間くらい歩いたため、疲れた俺は近くのベンチに座った。
よくよく考えたら、地球の服装だと結構目立つかもしれないな。何か服が欲しいな。クレアの場合は女物しかないし。
「あ、八幡。来てたんだな」
「おう、キリヤか」
ベンチでけだるく座っていた俺に話しかけてきたのは、前に友達になったキリヤだ。後ろにはいつもの3人、シズク、リア、ジークがいる。
「どうしたの?私たちに会いたかったの?寂しかったの?」
「違うぞリア。伊達に何年もボッチをやっていない。疲れたから休憩中だったんだ」
「そうか。・・・ところで、その服なんだ?面白い模様だな」
ん?なんだなんだ。今日はやけに服について何か言われるな。そして、面白いとは一体どこの部位を指しているのだろうか・・・。こちらからしたら、その制服の方が面白いぞ。
「学校で運動をするときに着るジャージっていうものだ。後何が面白いのか分からない」
俺がそう言った途端、4人がそれぞれ俺の前後左右を囲む形で、ジャージを触るなり、引っ張るなり、やりたい放題だった。・・うん、いや、分かるよその気持ち。未知のものは触れたいっていうその好奇心。
「ああもう!離れろ離れろ!」
「おおっと。ほんと面白いな。それ、結構目立つんじゃねぇか?」
「だから、疲れてここで休んでたんだ」
「服は買わなかったの?」
「一応金は持ってるが、買おうとは考えてなかったな。シズク、いい加減に引っ張るのはやめて」
「ええー、もう少し」
結局後の5分間も触り引っ張りが続いた。他の奴らはすぐ離してくれたが、唯一シズクだけが興味津々に続けた。
「折角だからこれを機会に何か買うってのはどうだ?」
「私、いい店知ってるよ!」
「・・・・ま、見るだけ見ておくか」
◆
というわけで、日本で言うショッピングモールのような建物にやってきました。イオンより広くて大きい。
そこでシズクやリアがよく行くという服屋に来た。やっぱり派手な物が多い。
「これなんかどうかな?」
リアが取り出してきたのは、ピカソみたいないろんな色が混ざっている、実に派手な服だった。それ、服というよりは、衣装だ。
「やだ」
当然俺は却下した。続いてシズクが持ってくる。
「これは?」
シズクが持ってきたのは、紫一色のよく見かけるローブだ。闇系統だから似合いそうな気もするが、何故かピンとこない。
う~ん、選んでくれている2人には悪いが、どれもこれがいいというものが見つからない。
「じゃあ、次行ってみようか」
シズクの案内で、また一味違った服屋を紹介された。ここにはシンプルに一色か二色しか施されていないローブや服がある。そのため値段もさっきの店よりも安い。おまけに変に飾りをつけていないため、俺好みのやつも見つかるかもしれない。
「ありがとなシズク。ここならいいのが見つかりそうだ」
「それは良かったよ。じゃ、探そうか」
「んじゃ、俺とジークも何か見ようか」
キリヤとジークも参加し、俺の試着会という名の遊びが始まってしまった。
「これ着てみろよ」
「あ、次はこれ」
「この緑色いいんじゃない!」
「」スッ
「お前らいっぺんに押し付けるな。着るから少し待て」
キリヤからは、赤色の男物の騎士の普段着とか言われている服、シズクからは青色の襟がデカいローブ、リアからは紫と緑が波を描いている日本で言うTシャツのようなもの、ジークからは黄色のローブ。何で自分の色が入った服を俺に着せてんだよ・・・。
「やっぱ、これじゃないなぁ・・・」
「八幡、意外と我儘だよ!」
「悪かったな、我儘で・・・。ん?シズク、それちょっといいか」
「え?」
シズクが俺に文句を言いながら、取り出した服に、俺は目を奪われた。
シズクの手に持っていたのは、漆塗りの真っ黒い外套。袖がやや開けており、襟の長さは耳たぶの位置まで長く、何の飾りもポケットもない、真っ黒な外套。
「それだ!これがいい!」
何故か知らないがこの黒い外套に心を奪われ、それを手に取った。
「そ、そう!よかったわね八幡!」
「ああ、これにする。ありがとなシズク」
店主に会計してもらい、早速外套を着てみた。
「おお・・・」
思わず声が漏れる。腕を動かし、体のあちこちに目を向ける。・・・すげぇカッコいい。
「へえ、似合うじゃねぇか」
「カッコいいよ!」
「いい・・・・・」
な、なんか照れ臭いな、と頭をガシガシ掻いている一方、リアはなんか納得のいっていない様子だ。
「こっちの方がいいのに・・・」
リアの手には先程薦められた紫と緑Tシャツだ。・・・・・それは、またの機会でという事で、リアには諦めてもらった。
キリヤ達と別れ、クレアの家に帰ってきた。開いてるゲートに入り、地球の異空間住宅に戻ると、既にクレアが帰ってきていた。そして、俺の容姿を見るな否や目を見開き、こちらに近づいてきた。
「おおー!いつの間に買ったの!へぇ、カッコいい!」
「あ、ああ。学校のジャージじゃ不自然だし、買ったんだ」
「そっか。私女物しか持ってなかったからね。・・・でもこれ、サイズ大きくない?」
確かに今の俺の身長じゃ、結構デカい。袖だって手の半分は入っちゃってるし、この外套自体が地面につきそうだ。
「その分長く着れるからいいじゃないか」
俺はあえて、このデカいサイズを選んだのだ。長く着たいと思ったからね。
さて、久しぶりに魔法の練習だ。取り敢えず、シャドーボールを3つとも操れるようにはならなきゃな。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
はっきり言います。ネタが尽きたため、10話から一気に時間が過ぎています。
また次回。
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10話:八咫烏
このシリーズ久しぶり。前回言った通り、時間をすっ飛ばしました。
それではご覧ください。
「おし、いくぞ八幡!」
「おう。いいぞ」
深い森の中、俺はシズク、リア、ジークに見守られながら、キリヤと互いに見合って対峙している。今は魔法の練習中だ。
「くらえぇ!」
すっかり炎と化したファイアボールが、勢いよく近づいてくる。
その炎に手を向け、自作魔法のメテスタを発動させた。俺の出現させた紫色のゲートに、ファイアボールが吸い込まれ、全く別の場所にゲートが現れ、ファイアボールが空の彼方へと消えていく。修行のおかげで俺の背中に当たることは無くなったのだ。
「やっぱすげえな。八幡のその魔法」
「おう。今じゃ3つくらい出せそうだ。キリヤも、あれはもう炎そのものだったぞ」
「まぁな。お前らと2年間修行したから、当然だろ」
キリヤ達と知り合って、早2年。現在は中学3年の夏。キリヤ達が通う中学校は本格的に魔法の訓練を始めているおかげで俺の知らない所でかなり強くなっていた。
「それにしても、2年たったんだね。早いなぁ・・・」
シズクが、物思いにふけながら、そう呟く。
こいつらと友達になって、2年。早いもんだな。今では、お互い冗談を言い合えるような仲にもなった。もちろん、魔法だって技も豊富に成長した。
ちなみに俺も色々習得したが、いちいち紹介せずに、日常生活で使うときがあった場合に説明します。
「ほっ、せいっ!とおっ!」
さっきから謎の声をあげている奴の正体はキリヤだ。あいつは、将来騎士になるために、剣の練習をしている。使っているのは木刀だ。
「ねえキリヤ。本当に大会でないの?キリヤなら結構いいところまで行けそうなのに」
「ああ。俺は、人と優劣をつけるために魔法や剣を扱ってるわけじゃないからな」
リアがキリヤに聞いていることは、この星で行われている、魔法で勝負をする大会の事だ。まぁ、よくある誰が一番強いかを決めるんだ。中学3年生から出場が可能らしい。
さっきも言ったように、キリヤは出る気もなく、その他も出ない。・・・だって結構痛い思いするし。平和が一番だもんなぁ。
「あ、八幡。この後森の魔草採取、一緒に来てくれない?」
「ん、またかシズク。いいぞ」
シズクはこの頃よく俺を魔草採取に同行させている。魔草というのは、超簡単に言えば魔力を宿した草。主に治療に使われて、調合などの工夫すれば、魔力が上がるとか属性効果の上昇など、様々な使い方があるのだ。
シズクはその調合師を目指しているらしい。まぁ、地球で言う薬剤師みたいなものだ。
「なんか、いつも俺を誘ってないか?別にリアとかジークでも」
そのジークとリアの方を見ると、俺の視線に気づいた2人は突然魔法で適当に遊び始めた。なんだ?衝動的に狂っちまったのか?ちょっと心配になってくる。
「い、いいでしょ!八幡の方が暇なんだから!ほら、行こう!」
シズクに顔を赤くされて、手を引っ張られてしまった。確かに暇だけど、そんなに怒らなくてもいいじゃん・・・。
◆
「気を付けろよ。また襲われると面倒なんだから」
「うん。ありがとう」
「一応《デテクション》をしてるから安心しろ。何かあったら呼んでくれ」
「分かった」
何でこんなに注意深くするかというと、中学2年の秋のころに、とある出来事があったのだ。
森の中で修行をしていたら、聞き覚えのある声の悲鳴バージョンが聞こえるではありませんか。行ってみると、バスケットを大事に抱えているシズクと、大きい熊型の獣。一目で襲われそうだと思える画が目に飛び込んできた。
《ダークチェイン》
新しく覚えた魔法で、その熊を撃退し、シズクを助けたのだ。ちなみに《ダークチェイン》というのは、その名の通り、鎖をつくり、対象の相手に巻き付かせ、そのまま縛り付けるか、《アブソープション》と組み合わせで、力を吸い取るか、という結構強い魔法なのだ。まぁ、速さは結構遅いから隙だらけなんだけど。
「おいおい大丈夫かシズク?」
「は、八幡?何でここに」
「あ?修行中に悲鳴が聞こえたから駆けつけただけだ。そしたら案の定」
「そっか・・・。ありがとう八幡」
「次からは気を付けろよ」
「うん」
とまぁ、そんなことがあり、それ以来俺がついていってる形だ。何でいつも俺なのかが本当に疑問。
・・・・ん?あ、シズクが向かった方向に獣みたいな反応があったな。行ってみよう。
「あ、八幡!こっち来て」
駆けつけると、集団の生き物が群がっていた。獣ではない、鳥類だ。
「八咫烏がこんなに・・・」
日本でも言い伝えられているカラス、八咫烏はここにも存在したんだ。日本神話において神武東征の際、高皇産霊尊によって神武天皇のもとに遣わされ、熊野国から大和国への道案内をしたとされるカラス。3本の足を持つと言われているが、こちらの八咫烏は4本足がある。
ソフィーラでは危険視されているという、闇系統をもった厄介な生き物らしい。噛みつかれたり、目を付けられたりすると、深い傷は覚悟しなくてはいけない。
けど、可笑しい。八咫烏はあまり群れをつくらない。それに気づいた俺は、少し近くで見ようと、八咫烏の群れに足を運んだ。だが、その瞬間、一斉に耳つんざくほど大きく鳴かれた。
当然警戒されるよな。けど、理由が知りたい以上無理してでも行かせてもらう。
・・・・っ!成程、そう言う事か。
「シズク、何か治療できるものないか?」
「それなら、この前調合できたものならあるけど。・・もしかして、怪我してるの?」
「ああ」
その通りだ。集団の中に一匹、深い傷を負った八咫烏がいる。見た所、まだ子供のようだ。周りの大人はこの子を守っていたんだろう。そして何匹か治すために飛んでいるという事か。
この子は仲間に恵まれてるな・・・。危険だろうが何だろうが、治さなきゃ俺の中にしこりが残る。
魔草から調合した治療液をシズクから貰い、八咫烏の群れに入る。
「あ、危ないよ八幡!」
「ほっとけねぇよ。見た以上な」
手を掴まれて阻められたが、優しく振り払い、八咫烏の群れに入っていった。当然、警戒心はMAXになり、中には攻撃してくる奴も。
「いってーな。落ち着け。治すだけだ。いやマジでいてぇ・・・」
言語は通じないのはわかっているが、こうやって訴えるしかないんだよなぁ。少し強引だが、おとなしくしてもらおう。
身体に力を入れた途端、ピタリと八咫烏は止まった。ちょっと闇のオーラを出しただけだ。怯えなくていい。
「お?治ったか」
治療液を塗ると、痛みで半開きだった眼は大きく開き、震えも止まり、立ち上がった。
「よし、これ食ってみろ。地球産だぞ」
おそらく野良猫とかにあげる人が多いんじゃないかと言われている、魚肉ソーセージをちぎって、与えた。非常食用に携帯してるんだ。ここ地球じゃないし。
・・・お、元気になったか。かあかあ、と元気よく鳴いてくれた。それに便乗して周りの大人たちも鳴き始めた。
シズクの所に戻ろうとすると、コートの端を引っ張られた。どうやらまだ何か用があるらしい。振り返ると、先程治した子供八咫烏を先頭に、大人八咫烏が横に並んでいる。やはりカラスは頭がいいな、と思っていると、子供が俺の肩に乗っかるように飛んできた。そして、艶やかな濡れ羽色の羽毛で俺の頬に擦り擦りと、甘えてきた。
「なんだ?俺と一緒に行きたいのか?」
俺がそう聞くと、かあ!と力強く鳴いた。大人たちの方を見ると、俺に訴えかけるように鳴き始めた。
・・・全く、何が危険視された生物だよ。案外いいやつじゃん。
「じゃ、一緒に行くか。八咫烏」
「かあ!」
子供八咫烏がついていくことになった。ポケモントレーナーになった気分だ。いいんじゃないか。闇系統特化の俺に、八咫烏。中々良い。
「じゃあ、お前らも気を付けろよ」
八咫烏に別れを告げ、シズクのもとに戻る。
「凄いなぁ、八幡・・・。八咫烏をなつかせるなんて・・・」
八幡を見るシズクの目線は、どこか熱く、尊敬の意が込められていた。
「助かったシズク。ありがとな」
「ううん。役に立てたならいいよ。でも、凄いね八幡」
「そうか?怪我してたからほっとけなかっただけだが」
「謙虚だなぁ。・・そこもカッコいいけど」
ん?急に声がぼそぼそと小さくなったぞ。全然聞き取れなかった。
「魔草採取、続けるか?」
「もう日が暮れてきたし、今日はやめにする。キリヤ達の所に戻ろう」
◆
「わりぃ、遅くなった」
「おう八幡。問題ないぜ・・・・って、八咫烏!?」
俺の姿を確認するや否や、肩に乗っている八咫烏に驚き、目を見開いた。
「あー、落ち着け。害はない。今日から俺のペット?になった」
リアがキリヤに続く。
「で、でも八咫烏って、危険で誰にも懐くことないのに・・・」
「っ!」コクコク!
3人共混乱しているため、俺とシズクで一から順に説明した。
「へぇ、すげぇな八幡。・・名前とか決めてんのか?」
「いや、決めてないが」
そうか。名前か・・。ペット枠に入るだろうから、何か名前付けてあげた方がいいだろう。呼びやすいし。
八咫烏だから・・・・・・・。全然浮かんでこない。もっと視野を広げよう。例えば、英語とか。
烏は英語でクロウ、八咫なんて英語は無い。という事は、闇系統から、ダーク、シャドウ。
・・・・クロウでいいや。
「決めた。こいつはクロウだ」
「クロウ、か。英語そのままだな」
「安直だけどいいね」
「英語?」
「?」
我ながら、簡単な付け方だが、皆もこのクロウも納得してくれたみたいだ。リアとジークは英語を知っていないらしい。
・・・・ん?あれ?おかしいぞ。
「何でキリヤとシズクは英語知ってるんだ?」
「え?・・・あっ!やべ」
「た、たまたまだよ!うん、そうなんじゃないかって思っただけ!」
「・・・そうか」
なんて、納得するほど俺はちょろくない。だが、隠したいことがあるんじゃないかと察したため、あえて追及することはしない。
◆
クレアの家に帰ると
「や、八咫烏!?ど、どうして!八幡危ないよ!」
案の定、驚かれた。クレアの焦り具合結構面白かった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
バトル描写はあんまり書きません。日常生活で魔法を使っていく物語にしています。
また次回。
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11話:隠し事
多分このシリーズは20話から25話には終わると思う。
それではご覧ください。
どうも、キリヤ・バルハードだ。八幡との楽しい夏休みが終わり、現在学校で数学の授業を受けている。周りの奴は結構問題に苦戦している様子だが、自分で言うものなんだけど俺は成績がいいのだ。
「それではこの問題を、アネシア」
シズクが名指しされた。この問題も結構難しいが、シズクなら問題ないだろう。なにせ、俺とシズクはあることをしているため、普通に答えられる。俺もこれわかるし。
しかし、何故かシズクは答えようとせず、ボーっと上の空状態だ。あいつは最近あの状態になることが多い。原因は、おそらくリアもジークも勘付いているだろう。
「アネシア!」
無視された教師は怒気を含んだ大声で再度、シズクを呼んだ。
「え?は、はい!」
「この問題の答えは?」
「はい、”―――――――”です」
教師の呼びかけに気づいたシズクは、焦りながらも答えた。正解したため周りは少し驚いている。
◆
放課後になり、他の奴らは颯爽と帰っていった。俺達は、用事がない限り、集まって下校する。リアとジークは席を立ち、集合しようとしたが、シズクだけ座ったまま、またボーっとしているため、シズクの周りに集まることにした。
「おーい、シズク」
「・・・・え?あ、リア」
「どうした?またボーっとして」
「さすがに、心配」
ほら、滅多に喋らないジークも喋るほど心配している。それくらいシズクがおかしいのだ。
するとリアが、ははーんと何かに気づいた様子でニヤつき、シズクの頬を突つき始めた。リアにはシズクの気持ちが分かっているのか。さすが女子同士だ。
「どうせ、八幡の事考えてたんでしょ?全く・・・」
「ち、違うから!」
リアが嫌な笑みを浮かべながら質問すると、急に慌てて否定に入るシズク。・・・・・あー、成程。やっと分かった。リアとかにいつもどんくさっ!って言われてる俺でも理解できた。
シズク、八幡の事気になってんだな。
頭の中で結論が出たと同時に、ジークが全く同じことを耳打ちしてきた。だからさー、分かってたよ?俺そこまで重症じゃないのに・・・。
「とにかく!八幡の事なんて別に「俺がどうかしたか」って、八幡!」
ここでまさかの八幡登場。いつの間に入ってきたのか・・・。ここの学校は関係者以外は入れないんだぞ。恐ろしい隠者だ。
「よっ」
「なんだよその挨拶・・・。ていうか、全然気づかなかったぞ」
「うん。床は石造りなのに足音すら聞こえなかったよ。凄いね八幡」
「え?何それ?遠回しに俺の影が薄いって言ってるの?酷くない?・・・あと、俺について何か話してなかったか。・・・・もしかして」
「陰口とか言うつもりだろ?んな事するか。冗談が過ぎるぞ」
根っから俺らの事信頼してるくせに、この卑屈さは全然変わっていない。
「八幡こそどうしてここに?」
「暇だから来た。それより、なんかシズク顔赤くね?」
「き、気のせいだよ。いきなり来たからビックリしただけ」
シズク、正直な奴だから隠すのは下手なんだ。そして八幡は俺よりも重症だった。まぁ、人の好意だけは鈍感なんだな。昔の事もあったし。
・・・・あ、そろそろ行かねぇと。
「シズクもう行こうぜ」
「あ、もうそんな時間か。・・・じゃあね皆」
俺達はこれから八幡に内緒である場所に行き、あることを学ぶ。何で内緒なのかは卒業したときに分かる。
「なぁ、あいつらって付き合ってるのか?最近やけに一緒にいるし」
俺がそう聞くと、リア、ジーク共に深いため息をついて、気付けって訴えているような目線を送られた。
それにしても、キリヤもシズクも帰っちまったか。暇つぶしに遊びに来たが、どうしようか。
「ジークとリアはこの後予定あるのか?」
「あ、私はお父さんの手伝いしなくちゃいけないから・・・」
「僕も、帰らなきゃ」
2人も予定があるようだから、ここで別れた。
・・・・・俺何しに来たんだ?
◆
特にすることもないため、クレアの家に戻った。するとクレアも
「今日は用事があるから。1人で修行、頑張ってね」
仕事がない日でも用事があるなんて働き者だな。そのおかげで俺は生きていけてるんだけどね。働ける年になったら絶対恩を返す。
修行といっても、今日は修行する気は無かったから、どう暇をつぶそうか考え中だ。
・・・・・・・・・
考えた結果、地球に戻ってきた。特にこれといって地球でもやることは無いんだけどな。ただの散歩をしようと思う。最近は魔法を使い過ぎて、色々と地球の日常と離れていたから、気分転換だ。魔法には依存しないよう心がける。
「あ、八幡君」
散歩中、偶然遭遇したのは、地球人で唯一信頼している、春さんだ。いつの間にか下の名前で呼び合うようになっていた。
「どうも。これから図書館ですか?」
「そうなの。受験生は大変なんだよ」
あの時の新人バイトとは違い、今ではすっかり高校3年生の春さん。センター試験に向けて勉強中だ。
けど、身長は俺の方が高くなっている。見上げていた春さんが、今では見下ろすようになった。
「ところで、暇かな?」
「はい。今日はずっと気ままに歩く予定でした」
なんなら歩いて幕張行く勢いまである。
「じゃあさ、これから図書館に付き合って欲しいんだ。いいかな?」
「いいですよ」
「それじゃあ、レッツゴー♪」
◆
「あの、邪魔にならないんですか?」
「そんなことないよ。1人だと寂しいし」
「友達とか連れてくればよかったじゃないですか」
「・・・とにかく、ここにいて」
あ、地雷踏んだかも。いないことは無いんだろうけど、色々あって1人なのか。これ以上詮索はしないでおこう。深読みする癖は治らないな。
春さんと対面で、俺は読書に励む。図書館は何でも揃っているから大好きだ。そんな俺は、神話系の分厚い本を読んでいる。こういうのにも信憑性があると思い、前から手を出しているのだ。中でもクトゥルフ神話は非常に興味深い。容姿がとんでもなく異形だ。
「八幡君、ここ分かるかな?」
「いや、高3の問題を中3に聞かないでくださいよ・・・」
「だって八幡君。国語得意だし」
「そうですが・・・・・。あ、ここは、この文章がヒントになってます」
「解けてんじゃん・・・。しかも上手い具合に答えを言わずに・・・」
恨めしそうにつぶやき、落胆する春さん。
「いや、たまたまですよ。この問題が簡単だっただけです」
「私はそれに苦戦したんだけどなぁ・・・」
め、めんどくさ。そんな露骨に溜息しないでくださいよ。なんか悪い事したみたいじゃないですか。
「これから国語は八幡君にちょっと教えてもらうね♪」
「おい、それでいいのか受験生・・・」
◆
「ん?キリヤ達、何してんだ?」
家に帰ると、クレアとキリヤとシズクがテーブルを囲って何かをしていた。そして近づこうとしたら、シズクに目を塞がれて、クレアとキリヤは急いで何か隠しているような物音が聴こえた。
「おーい、何してんだ?」
「何でもないよ!八幡が気にすることないから!」
そんな焦りが混じった声で言われても説得力ないんだけど。みんなして俺に何か隠してるのか?
シズクが手を離すと、テーブルはきれいさっぱりに片付いていた。きっと俺に知られたら困るようなことをしてるのかもしれない。俺のパーソナルナンバーが消えてるとか。そして誰もいなくなるのか?
・・・・・・・・。
◆
「あいつら最近冷たすぎる・・・」
「あはは・・・」
「・・・」
翌日、俺はリアとジークを呼び出して、共に飯を食べている。本題は最近のキリヤ達についてだ。
「まぁ、人にはそれぞれ秘密があるから・・・」
「」ウンウン
「確かにそうだけどよ。それでもあんなに露骨に俺に隠し事をしてたら、そりゃ気になっちまうよ」
「まぁまぁ、ほら、飲みなよ」
ここでも愚痴をこぼす人に対して、飲み物を薦める風習があるのか。お酒はまだ飲める年齢ではない。けど、ここのドリンク、日本だと酒だって思われるかもしれない。黄色い液体に泡。もうまんまビールだ。
「大体、シズクは何で俺と会話するとき、顔赤くしながらチラチラ視線を動かすの?そんなに俺を見るのが嫌なのか?」
((いつまで付き合わされるんだろう・・・。大体、キリヤ達隠すの下手過ぎるでしょ。その日になったら、秘密を打ち明けると同時に謝りなよ))
心の中で、届くはずのないキリヤ達への説教をしながら、目の前で八幡がヤケ飲みしている姿を見る。彼が弱みを見せることが非常に珍しく、その姿をマジマジとリアとジークは観察した。
自分たちも、キリヤ達と同じことをしたいと思っている。だが、それぞれ家の事情でそれは不可能なのだ。
そう、キリヤとシズクが、日本の高校へ行くために、日本語を必死に勉強中だという事を、八幡はまだ知らない。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
もう2、3話で高校生編に突入する予定です。
また次回。
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12話:ウィンドキャット
えー、長らくお待たせしました。最新話です。
もう2話くらいで高校編突入すると思います。ていうか早く進みたいけど、まだ中学でやり残してることがあるから・・・。気長に待ってね♪
それではご覧ください。
「あ、エイト君。ちょっといいかしら?」
「はい?」
季節は冬の12月となり、厚着が好ましくなったこの寒さ。学校の放課後に、常に着用している黒いコートを羽織り、街を散歩していたら、横から話しかけられた。その正体は、装飾関連の商売をしている、店主だ。ここにはよく来ていて、店主とも良い交流関係をもっている。実際俺が耳につけているピアス(穴はあけていない)もここで買ったものだ。似合わないとか言うんじゃねぇぞ。
エイト=ヒキガルトという名前を作って約2年くらい?。未だにこの呼ばれ方は慣れない。そりゃそうだ。キリヤ達は普通に本名を言うんだもの。俺をエイトと呼ぶのは、行きつけの店の人だけだ。
「ちょっとお願いがあるんだけど、頼まれてくれるかしら?」
「いいですよ。なんですか?」
「これを鍛冶屋のおじさんに渡してほしいのよ」
そう言って俺に見せたのは、赤色の宝石。鍛冶屋のおじさんって言ったら、この辺りだとガイルさんしかいない。あそこにはソフィーラに訪れた当初から行った事のある場所だ。
依頼を快く引き受け、宝石を受け取った。ガイルさんは果たしてこれをどう活用するのだろうか。折角だし、これを渡した後見学させてもらおうかな。
「かあ!」
宝石を眺めながら歩いていると、頭の上に乗っていた八咫烏のクロウが反応した。あ、言い忘れていたが、肩じゃ幅が狭かったため、頭に移動させた。
そう言えば烏だからな。キラキラしたものには目がないのか。
しばらく宝石をクロウと見ながら歩いていたら、突然手から宝石が消えた。いや、何者かに奪われた。
前方に目を向けると、宝石を咥えた、ウィンドキャットが走って逃げて行った。ウィンドキャットというのは、猫の容姿をしていて、とてつもなく速い生物だ。このまま逃げられたら一巻の終わり。
「逃がすかぁー!」
追いかける。ただただ、無我夢中に追いかける。あいつに追いつくには、とにかく全神経をあいつに集中して走らなければ、追いつけないのだ。
「クロウ、お前も行ってくれ」
子供から少し大きくなったペットのクロウに空から追跡を指示し、走り出す。
・・・・・・・・・・
見失った。
追いかけ始めてわずか数分。姿形、陰なども見えない。絶体絶命。〈デテクション〉を使ったが、離れているため、反応なしだ。・・・マズいな。渡すものを盗られるなんて。
リアに頼んで〈クイック・レッグ〉を施してもらうか。そうしたら追いつける。あ、でも猫を見つけなければ意味がない。・・・よし、クロウに場所を特定してもらって、見つけたらリアに連絡をして〈クイック・レッグ〉をやってもらおう。
◆
1時間後、クロウから見つけたとの報告があった。なんか、一緒に過ごしているうちに何を言っているのかが大体わかってきた。これがペットと飼い主の絆なんだな、と感心した。
ウィンドキャットは風を好む。故に高い場所にいることが多いのだ。木の上とか。
リアに連絡を取るため、ビーコンを起動させた
『もしもーし。どったの?八幡』
『あー、ちょっと野暮用でな。俺に〈クイック・レッグ〉やってくれ』
『へ?どうして?』
『んー、簡単に言えばウィンドキャットを捕まえなくちゃいけない』
『ありゃー、それはそれは大変だ・・・。じゃあかけるねー。ほいっ!』
リアが画面越しに魔法を唱えると、俺の足が一気に軽くなり、どこまでも走り抜けそうな感覚に陥った。
連絡手段でもあるビーコンは、人に対する付与魔法なら、ビーコン越しでも使うことができる。
『サンキューな、リア』
『はいよー。それじゃあ』
クロウに案内をしてもらい、やってきたのは、まだここに来て間もない時に訪れた、観光スポットの高い丘だ。そして、キリヤ達と再会した場所でもあり、結構思い入れがある。
きょろきょろと辺りを見回すと・・・・・・いたぞぉ、くっそあいつ、なに人から盗った宝石を首にかけてやがんだ。いや、マジでどうやったのそれ?ウィンドキャット器用過ぎる。
そいつは俺達に気づいたようで、また物凄いスピードで俺達から離れていく。今度は逃がすかぁ!I am the FLASH!!!
◆
どうも、シズク=アネシアです。ただいま暇を持て余しています。
皆用事があるっていうし、折角の休みなのにもったいない。八幡誘おうかと思ってクレアさんの家に行ったけど、出掛けてるっていうし、残念。あーあ、八幡と一緒にいたかったなぁ。地球について一杯話したかった。
もしかして、また森の中なのかな?八幡魔法馬鹿だし。今じゃかなりの実力者になっちゃってんだよね。
「ん?なんだろう?」
しばらく歩いていると、ぎりぎり肉眼で確認できるほどの遠い距離に、小さい何かが勢いよくこちらを走っている。だけど、その何かのスピードがとんでもないため、すぐに確認できた。
ウィンドキャットだ。中には目にも止まらない速さを出す奴もいる。しかし、街中で全速力のウィンドキャットは珍しい。
「きゃ!」
そのウィンドキャットは私のすぐ横切り、その勢いで大風が発生した。我ながら、らしくない悲鳴をあげてしまって、少し恥ずかしい。しかも髪乱れちゃったし、こんなの八幡に見せられないよ・・・。
「どこいきやがったーーー!」
「かあ!かあー!」
「・・え?」
噂をすればやんとやら。片思いの相手である八幡が、あの速さに負けず劣らずのスピードでこちらに向かっている。あれ〈クイック・レッグ〉だよね?どうしたんだろう。それに何か焦って探してるみたいだけど・・・。
「どうしたの?八幡」
「え?おお、シズクか。髪乱れてるぞ」
「っ!は、八幡!大丈夫!これくらい。それより、急いでるんじゃないの!」
八幡は私を見るや否や、先程ウィンドキャットによって乱れた髪を手櫛で直し始めた。顔が赤くなってないか心配でたまらない。八幡は控えめなくせにこういうときだけ無意識にやるから、つい不意打ちをくらってしまう。嬉しいけど。今日一番の幸福だけど。
「なぁ、この辺りでウィンドキャット見なかったか?」
「あ・・・・。それなら、さっき見たよ。あそこ曲がってった。どうして?」
「鍛冶屋に渡す宝石盗まれたんだよ・・・。あそこを右だな」
「私も見かけたら連絡するよ」
「うし、サンキュー」
あ、行っちゃった。もうちょっと話したかったけど、仕方ないか。
「ん?あれ?これって・・・・」
足もとに何か落ちてあったから、拾い上げてそれを確認する。赤色の綺麗な宝石だ。思わず見惚れてしまう程に。
・・・これ、八幡が言ってたやつ・・・。
◆
「はぁ、はぁ、やっと捕まえたぞこの野郎・・・」
「にゃー!」
「もう離さねぇからな!返してもらうぞ!・・・ってあれ?」
可笑しいぞ。こいつの首にあるはずの宝石がない。体中隅から隅まで触ったが、調べても出てこない。誰かに渡すものだから余計に焦ってくる。
少し冷静になり、考えてみた。あの速さで走ってたらいくら固定された物でも外れてしまう。つまり・・・
「お前落としやがったなぁ!」
「にゃー!」
「うるせえ!この野郎!!」
「かあ!」
首根っこを掴んで柄にもなく大声で怒りをぶつけた。盗んだ挙句にそれを落とすとは、器の大きい俺でも怒るぞ。この後、来た道を戻りながら、隅から隅まで目を通すと考えると、とてつもない虚無感が俺を満たす。
だが、人見渡すもの以上、探さなければいけない。トボトボと歩き、クロウに空から探してもらうよう指示しようとしたところ、突然ビーコンに連絡が入った。シズクだ。
「どうした?」
『今宝石探してるでしょ?』
「何故それを・・・。もしかして、後つけてんのか?ストーカーか?」
『ばっかじゃないの!そんなことしてない!』
「じょ、冗談だよ。大声出すな」
『八幡が変な事言うからでしょ。それで、宝石なんだけど、私が持ってるから』
「マジか」
『多分、私を横切った時落としたんだと思う。よかったね~、私が拾って』
「ああ、助かった。サンキューな。今からそっち行くわ」
◆
シズクと合流し、例のブツをもらった俺は、鍛冶屋に行くため、シズクを別れようとしたが、何故かシズクもついていくことになった。折角拾ってくれたわけだから、何も文句はない。なんだったら、何か礼をしたいくらいだ。
「ガイルさーん」
「おう!なんだエイト?・・お?彼女連れか?」
「か、彼女!?・・彼女・・・」
「いや違いますよ。シズク顔赤くして怒ってんじゃないっすか」
「・・・・・」
「はぁ、それで、何か用か?」
何故俺に向かって溜息をした・・・。え、何その目。そのお前何もわかってねぇなぁって訴えてるような目は・・・。ガイルさんみたいなごつい人がそういう目すると、怖いからやめてほしいわ。
「これ、届けに来たんです」
「お?俺が頼んだ宝石だな。何でエイトが?」
「頼まれたんすよ。お姉さんに」
「そうだったのか。わざわざ悪いな。ほれ、お礼だ」
二カッと口角をあげて、渡してきたものは、女性ものの髪留め。水色の宝石が埋め込まれている。俺男なんだけど・・・。もしかして女装趣味って思われてる?そんな素振り一回もしていないのに。ガイルさんのせいで自分の行動顧みなきゃいけなくなっちまったじゃねぇか。
「ちょうどいい。シズク、あげる」
「え?いいの?」
「これ、俺が付けても何もなんねえだろ。シズクなら似合いそうだし」
「そ、そっか。ありがとう・・・」
水色の髪に水色の宝石ってどうかと思っていたが、結構いい感じになっている。元がいいから、違和感がなく寧ろ綺麗だ。
「どうかな?」
「いいんじゃないか?」
「あ、ありがとう・・・。あ、この後2人で」
「おーい!」
シズクが何か言いかけたらしいが、向こうから聞こえてくる大声がそれを遮った。そちらの方を向くと、手を振りながら、爽やかな眩しい笑顔を向けているキリヤだ。眩しい奴だな・・・。その後ろにはリアとジークもいる。またこの5人が集まった。
「何してんだ?・・・ってシズク?なんか俺の事すげぇ睨んでねぇか?」
「何でもない!」
「そういやシズク。さっき何言いかけたんだ?」
「そ、それは、また今度言う!」
「もう!キリヤのバカ!」
「ええ!何で・・・・・。あー、そうか。悪いことしたな」
「ハァ・・・」
なんだなんだ?この状況。俺の目の前で何故か意思疎通できているような感じだぞ。リアは急にキリヤ罵倒するし、ジークは相変わらずの溜息だし。俺だけ状況に追いつけず、どことなく寂しく感じてしまった。
随分と弱くなったものだ。魔法だけが強くなっていくぞこれ。だけど、別にどうでもいい。
「おーし、じゃあ気ぃ取り直して、飯行こう!」
「八幡ウィンドキャット追いかけたせいでお腹空いてるでしょ。行こう!」
「はいよ」
互いに意思疎通できなくても、こんな楽しい時間が過ごせるなら、どうでもいいからな。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
このシリーズの八幡のヒロインは、なんとシズク・アネシアです!・・・・・さすがにもう分かってるよね。
また次回。
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13話:誰かの視線
かなり日が空いたというのに文字数は少ないです。話が短いとタイトル決めも困ってしまう。頑張ろう。
それではご覧ください。
冬休みが終わった今日の昼。学校は始業式だけだったため、まだ明るい曇天を、防寒具で身を包みながら、帰路についた。忘れがちだと思うが、帰宅方法は公園の特定の木陰に立って、そこから『異空間住宅』ワープするから、人がいないか確認をしないといけない。
「ただいまー」
「あ、おかえり」
「おう、お邪魔してるぞ」
「八幡、おかえり」
リビングには、家の主クレアと、キリヤ、シズクが居座っていた。このごろよくこの光景を見る。キリヤとシズクは中3になってからこの家にはいつものように、クレアと共にテーブルを囲っているし。3人は俺に隠れて何かしていることも俺はわかっている。だからといって問いただすのは気が引けるから敢えて何も言わないし聞かない。
いずれ教えてくれるだろうと信じ、俺は普通に、いつも通りに接する。
「おう、ただいま。今日も飯食ってくのか?」
「お?いいのか?」
「やったー、八幡のごはん♪」
「今日は何作るの?」
「お前ら俺の飯どんだけ好きなんだよ」
何ヶ月か前にキリヤ達がよくここに来ると知って、俺は一度こいつらに手料理を振る舞ったことがある。それが公表だったらしく、ここに来るたびに俺の料理が食いたいと言っているのだ。まぁ、別に迷惑じゃないけどね。寧ろ褒めてくれるのは嬉しい。今度、リアとジークも呼ぼう。
◆
中学3年生の俺は、高校受験を控えている。残すことあと4ヶ月だ。進学先は偏差値がかなり高い千葉有数の進学校。今の俺のレベルだとそこまで苦ではない。おっと怒らせたかな?だからと言って勉強しないというのはまた話が別だ。そんな俺は、たまに静かな学校の図書室で勉強をしている。ここなら参考書もあるし。家でやればいいだろって?そしたら、俺が魔法を練習したり遊んだりしてしまう。俺だって人間なんだから、興味がある方をついついやってしまうのだ。だからこうして今も図書室にいる。
「・・・・」
だが、図書室にいると、何かと視線を感じてしまう。もちろん自意識過剰ではない。寧ろ俺を見る奴なんてこの学校にいねぇし。
〈デテクション〉
さすがにこうも毎回気になると使わざるを得ない。探索魔法を使い、周囲のどのあたりに誰がいるのかを確認する。視線を感じるのは扉の方角だ。そこを覗くと・・・・・・え?
そいつの正体を知り、思わず目を見開き、勢いよく扉の方を見てしまった。もちろん肉眼では確認できない。
俺を見張っていた人物は、なんと三柴沙耶。かつて俺に嘘告白という最低行為を実行しようとした挙句、まんまと俺に返り討ちにされた奴だ。そんな奴がどうして今頃・・・。
また悪戯するとは考えにくい。三柴本人はあの時の事を反省していたし、取り巻きも本気だと言っていた。
・・・・ま、考えたって仕方がない。それによく考えたらそんなはずがない。三柴は上位カーストの可愛い部類に入る。それに対してカースト最下位の俺を見るはずなんてないしな。きっとあれだ。俺しかいないときもいたらしいけど、あいつには普通の人には見えない何かが見えてるんだ。幽霊とか妖怪とか。ほら?俺って魔法使いじゃん?きっと俺の異常な雰囲気を感じ取ってイロイロなものが寄ってきたんだよ。きっとそうだ。
さ、帰ろ帰ろ。
「・・・」
「・・・」
「・・・」チラッ
「っ・・」サッ!
なんかついてきてんですけどーーー!
これは俗にいうストーカーというやつですか。でもこれ明らかに逆転してるよな。何で男の俺が標的にされてんの?しかもそのストーカーの正体は言うまでもなく三柴だし。
さすがに家までついて来られると非常にまずいので、ここいらでおさらばだ。
〈ディセイブ〉
道路の角を曲がった瞬間、目を欺かせる魔法を使って、事実上の透明人間になった。
「あれ?いなくなってる。どうなってるのよ!」
さて、このままスーパーで買い物でも済ますか。今夜はチャーハンでも作ろう。
次の日
「・・・」チラ
「っ・・」サッ
なんかいる。〈ディセイブ〉・・・。
「またいなくなってる・・・」
更に次の日。
〈ディセイブ〉
「何でまた!何で角を曲がったらいなくなるのよ!あいつ魔法使いか何かなの!?」
あ、はい、魔法使いですけど何か?
どちらかというと、毎回俺を付けてくる三柴に何か?って聞きたいわ。さすがに鬱陶しいと感じたから、後ろに回って声をかけることにした。
「おい」
「うひゃあ!な、何で後ろに!」
「なんか俺に用か?なんかここんとこ俺を付けてるようだけど」
「っ・・ば、ばれてる・・・」
つけられてた事に若干イラついてたのか、厳しい表情で三柴に追及した。当の本人は肩をビクつかせ、罰の悪そうな顔をしてこちらをちらちらと見ている。煮え切らない態度が気に入らないが、また因縁つかれても困るため、ここは抑える。
「あんたって、頭良かったよね?」
「さほど良くねえよ」
「学年4位が何言ってるのよ・・・」
「1位以外に価値なんかねぇよ。で、それだけが聞きたかったのか?なんならストーカー紛いの事すんなよ。ていうか何で知ってんだよ・・・」
「私に勉強教えて」
「・・・は?やだよ」
「えぇ!なんで!」
こっちが聞きてえよ。なんでよってたかってお前なんだよ。俺ら一度対峙した仲だぞ。仲という程関わってもないし。なんならあの一件以来顔合わせとかも、なんだったら見たりもしてない。興味ないから。
「何で俺に頼むのかは知らんがお断りだ。お前友達多いんだからそいつらに教えてもらえ」
それだけ言い残し、三柴の視界から逃れると同時に〈ディセイブ〉を使い、その場をそそくさと離れた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
前前前前前言撤回します。もう登場しないと言っていた『三柴沙耶』ですが、いいアイディアが浮かんだので、登場させることにしました。
また次回。
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14話:大会出ます
えー、長らくお待たせいたしました。意外とこのシリーズを待ってる人がいて嬉しいです。
最近、俺ガイル×ファンタジー作品が増えてきたなーと思うこの頃。俺も書こうと思い、パソコンを開いたら、既に書いていたことに気づきました。
それではご覧ください。
お気にの外套羽織り♪今日も今日とて闇魔法修行♪
頭の中でアニソンを流しながら、手の上で魔力玉を弄ぶ。正直修行と言ってもやり切った感がある。特に魔法で闘う事ないし、キリヤみたいに将来が決まってるわけでもない。モチベーションというか、最初はファンタジーな魔法に夢中だったけど、それが当たり前のように使えてしまっている。
人は目的を失うとこうも無力で無気力になってしまうのか。
「はぁ…」
「どうしたの?ため息ついて」
「…俺、魔法使えてよかったと思ってる」
「なに?藪から棒に」
「けどなクレア。俺、魔法使えても、何に使ったらいいのかさっぱり分かんねぇ」
するとクレアは腕を組み、考える態勢に入った。折角魔法が使えるんだし、将来はソフィーラで職に就くのも良いと思ったことがある。第一に考えて信頼できる奴が地球にいないし。けど、俺は地球人だ。違う惑星の街に住んで働くというのも、何か突っかかる。
将来の事を考えていると、先程まで唸っていたクレアの口から、思いもよらぬ言葉が発せられた。
「大会出たら?」
大会か……。文字通り魔法を競って優勝を狙う、トーナメント制の大会。高校生から参加する資格が与えられ、優秀だった奴は現役の騎士にも一目を置かれ、時に推薦されることもあると言われている。キリヤは騎士志望で大会の事も知っているが、人とは競わないって言ってたしな。何でだろう……。
「俺、騎士に興味ないし」
「ふっふっふ。実はついこの間大会の仕様が少し変わったのよ」
自慢げな微笑みで腕を組むクレア。サジカルとウェルサクスしかいった事がなく、ニュースも聞いたりしないから、あちらの事情は何一つ分からないのだ。
クレアに聞こうとしたが、「もう少し待ちなさい」と何かを待っている様子で流した。その意味が分からず、俺はただただ言われた通り待つことにした。
・・・・・・・・・
「八幡、俺と大会出てくれーーー!」
数分後、突然現れたのはキリヤだった。俺に飛びつくように縋りつき、焦燥に駆られてる状態だ。何を焦っているのか分からないが、取り敢えず離れてほしい。俺にそのような趣味はない。ほら、後ろからついてきてるシズクとジークとリアが変な目線送ってるぞ。
「なんだ?大会?」
「そう!俺と大会出てくれ!」
「いや、騎士志望なのは知ってたが、お前だけでいいんじゃないのか?俺騎士やらないし」
「それがな。大会の仕様が変わって、2人ペア制に変わっちまったんだよぉ!」
…成程な。クレアが言っていたのはこの事だったのか。
随分と面倒な制度を設けたもんだな運営は。騎士志望でコミュ障ぼっちがいたらどうするんだ一体。そもそもそんな奴騎士にするわけないか。
「ま、暇してたし、いいぞ」
「よっしゃあ!」
「っつーか何で俺なんだ?お前みたいな奴だったら誘う奴いっぱいいるだろ」
「んー、八幡と組んでみたかったからな!」
やー、照れますねー。そんなイケメンな片目ウィンクされるとついつい苦笑いが出てしまうよ。
「んじゃ、早速特訓だぞ!」
キリヤのデカい声量の合図で後をつく俺達。クレアも面白そうとついていくことになった。いざ、大会に向けて魔法特訓といきますか。
◆
キリヤとペアで大会に出場することが決まった日の1週間後。今日も学校の図書室で勉強だ。取り敢えず目的ができたからモチベも上がってきたし、本当に優勝できそうだな。そういや優勝するとなんか賞品とかあんのかな?そこんとこ聞くの忘れた。
「おーい」
大会の事を考えながら、図書室に入りいつもの席に向かったら、先客がいた。しかも、この間訳わからん事言ってた三柴だ。
当然俺は無視し、一番遠く離れた場所に座り、教科書とノートを開いた。
「無視すんな」
「ってーな」
教科書の角で頭の側面を叩かれた。顔をあげると、不機嫌そうな三柴がいた。何でこっち来たんだよ……。
「チッ、なんだよ……」
「そんな堂々と舌打ちされると、いっそ清々しいね」
「そんで?お前みたいな上位カースト様が最下位の俺に何の用ですか?」
「何その言い方…。まあいいや。前言ったでしょ?勉強教えてって」
「俺は同意した覚えはない」
「ふーん。ま、適当にあんたの近くでやるから」
そう言って三柴は俺の目の前に座り、教材とノートを取り出し、勉強を始めた。まぁいい無視だ無視。
そろそろ帰るか。
「じゃねー」
「…………おぅ」
黙って帰ろうとしたのに、何で挨拶をしてくるんだ。返さないといけねぇ社交辞令をしてくるんじゃないよ。
◆
家に帰ったら大会へ向けてキリヤと修行だ。ウェルサクスの方では大会は高校に入って、しばらく経つと始まるらしい。千葉で例えると、夏休み前だ。
「いくぞ!」
「おー」
「もっと気合入れようぜ~」
「十分入ってるし」
キリヤは微妙な顔をしつつも、構えをとっていくつものファイアボールを撃ってきた。昔の球体と違って、既に実体化しており、そのファイアボールは喰らったら服は焼け、肌はやけどをするレベルになっている。
バラバラに撃たれたが、その場から動かず、体を反ってよけながら、〈メテスタ〉という魔法ワープでどこかへ飛ばした。
「どこ見てんだ?」
すぐ眼前に鋭い剣を振りかぶったキリヤが映った。咄嗟に漆黒のチェーンを出現させ、それを阻止する。こいつ剣振るときガチだから、こうでもしなきゃ俺の腕が切り落とされんだよ!刃物だぞこれ!普通木刀とかだろこういう時って。
「お前、本当容赦ないな」
「修行で手を抜くのは本末転倒だろ。それにちゃんと寸止めするさ」
そりゃそうだろうけど、本気の出し方がぶっ飛びすぎる気もするんだよなぁ。あんな大振りしといて寸止めできるなんてすげえけど。
「ほら、こいよ」
キリヤがニヤッと挑発したが、これに激情するほど俺は沸点低くない。冷静に、取り敢えずシャドウボール10発くらいぶち込み、手に持ったチェーンを振り回して迫った。
さすがのキリヤも10発は捌ききれず、いくつか体に当てながらも、剣でチェーンを受け止めた。その瞬間、ガキンと金属音がけたたましく鳴り響いた。そしてそのまま続けて、剣とチェーンの攻防戦が始まった。
避けて当てにいき、避けられ当たられ、ガキン!と辺りに火花が散り、それが延々と続いていく。これがいつもの俺達の修行だ。
一旦一歩下がり、キリヤ目掛けて垂直にチェーンを振り下ろす。そうすると選択肢は右か左に避けるしかなくなる。キリヤは右に避ける癖があるため、振り下ろしたチェーンを右にスライドさせキリヤの足に巻き付けた。
「うお、やべ!」
「おら!」
ハンマー投げの要領でキリヤを大木にたたきつけた。
「ってぇ!おい!ちょっとは加減しろ!」
「本物の剣持ってる奴に加減なんかできるか!」
「くぅ~、それにしても今のは効いた……。お返しだ!」
キリヤは剣に炎を宿し、平行に鋭く振った。すると鋭利な炎が雑草を揺らしながらこちらに勢いよく迫る。………〈メテスタ〉
「おい!いつも思うがそれ反則だろ!魔法効かねえじゃん!」
「いやこれ結構賭けだぞ。だってどこに現れるか分かんねえんだから」
この〈メテスタ〉というのは魔法を吸収するという至って強そうに思えるが、俺はただ入口を作っているだけだ。だから当然出口ができる。それがどこに現れるか分からないのだ。今の鋭利な炎も多分森の中で暴れてる。火事にならなきゃいいけど。そこは水系統のシズクに任せている。
「私も大会出たいなぁ…」
風系統のリアが羨ましそうにつぶやいた。彼女は騎士志望じゃないが大会には出たかったらしく、ジークに頼んで許可をもらったんだが、父親に反対されたそうだ。
シズクは戦闘苦手だから観戦だ。
「そういや、大会優勝したら何かしら賞品とかあんだろ?」
「お?気になる?気になるかぁ?」
「もったいぶってないで教えろ」
「なんとな、王室のパーティの招待状だ!」
…………ナニソレ?美味しいの?おうしつ?
「え?知らない?」
「知るか。ここに来てサジカルとウェルサクスの事しか知んねえよ」
「はぁ、一から教えてやる」
…………。
ふむふむなるほどね。
ウェルサクスという都市から少し遠くにある大都市ニアムレスに王族が暮らすお城があると。そこで行われるパーティーに招待されるんだと。日本には無縁な話だな。
まあそこには当然王様とか王子さまとか令嬢がいるんだってさ。
「興味沸かない」
「まぁそう言うなって……。滅多にない事だぜ?」
「けどな~…」
「美味い飯めちゃくちゃあるぞ」
「………行くか」
「現金だな…」
タダで飯が食えるなら行くしかないだろ。
なんか普通に優勝した後の話をしているが、まだ始まってすらいないのに、もう勝つ気でいるな俺達。…嫌味じゃないが負ける気がしないのだ。何でかって俺達が負ける姿が想像できないからだ。
これは日本男児誰もが当てはまる妄想のせいだろう。例えば教室に入ってきたテロリストを自分が退治するという妄想だ。だとしたら、自分が魔法を使って他の人を圧倒する妄想だってする人がいるだろう。それがこの俺エイト・ヒキガルトだ。自分が負ける妄想をする人なんてこの世に存在しない!
「優勝しような!」
「…そうだな」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
戦闘描写に関しては、書いていくうちに成長するでしょう……。
もうそろそろ高校生編に入りたい!
また次回。
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15話:三柴沙耶は物好き
タイトル適当過ぎるな………。次回で中学編終わりです。やっとです。やっと高校編に入れる。
それではご覧ください。
さあ、中学三年生もいよいよ大詰め。受験に向けて最後の追い上げ期間に入り、教室はピリピリと緊張した雰囲気が漂っています。中には単願で余裕がある人が騒いでいるのが煩わしい。一瞬この教室に《クラッシュ》喰らわせたいと思った。
実は先週から勉強にさらに熱を入れている。それもそのはず、あの事を聞いてしまえばな。
それは、キリヤとシズクの2人が総武高を受験するという話だ。そして俺が抱いていた疑念もすっかり晴れ、驚き半分で喜んでいる。道理で去年からクレアとこそこそしてるなぁ、と思ったわけだ。ちなみにジークとリアは家の事情で残念ながら行けない。特にリアの家はウェルサクスの中でもかなり大きい家らしい。詳しいことはまだ分からない。
とにかく、キリヤ達と高校生活を過ごすためにも、まずは受験突破だ。…………と、言いたいんだが。
「やべぇ……いや、マジで」
図書館に1人静かに座る俺は、手に持っているテストを見て頭を抱えている。その内容は、というか点数だ。数学8点。もう見ただけで試合終了のゴングが頭の中に鳴り響いたぜこれ。それに比べて文系は全部90点以上。文系を全部100点取れば数学0点でもワンチャンあると思うが、総武高は県内屈指の進学校だ。受ける人も多いから、番狂わせが発生しやすい。念には念をという事で数学をちょい勉強したが……この有様である。
「うわ、あんた数学ヤバいじゃん」
「うるせえよ。つーか何でお前いんだよ」
「一緒に勉強した仲なんだから、点数見せ合うもんでしょ」
「一緒にした覚えはねえよ」
この三柴は図書室でずっと俺の前に座って勉強してただけだ。時々話かけられたりもしたが、適当にあしらっていた。そもそも、そういう友達同士ってなんでテストの点数を見せ合うのが好きなんでしょうかねぇ。俺からしたら、自分より下を見つけて不安を取り除いて、ついでに優越感に浸るためにやってるとしか思えない。逆に自分より上だったら、さらに不安になるだけだし、得がない。
「どうやったらそんな点数取れるのよ……」
「うるせえな。そういうお前はどうなんだよ…」
しまった。むきになって点数を見せ合う流れになってしまった。三柴の表情からは、かかったなと口角をあげて、計算通りと窺い知れた。
そして見せられたのは、数学のテスト。………95点、だと…!。
「ちなみに他の教科も70点以上取ってるわ」
「嘘だろ。トータルでも負けてるのか……。何で嘘告白なんてしようとしたんだよ…。それに俺に教わる必要ないじゃん。何が勉強教えてだよ……」
「アレはもういいでしょ!?それより、マズいんじゃないの?」
「だ、大丈夫だろ。数学ちょっとかじって、他100点とりゃいい」
「今年は倍率高いらしいよ。それにもう受験まで一ヶ月切ってる」
…………返す言葉も無いな。今まで数学を無視してきたツケがここで壁となってしまった。
論破された俺はそのまま黙認すると、隣に三柴が座ってきた。
「私が教えてあげる」
「結構です」
「即答!?しかもこの状況で!もういい、教科書開いて!」
「お、おい……」
無理矢理教科書を開かされ、シャーペンを握らされた俺は、されるがままに数学を教えてもらった。
分かりやすかったなど口が裂けても言えない。
◆
学校が終わったらお互い用事がない限り、キリヤと魔法の特訓をする。今は俺もキリヤ、もちろん他の皆もオリジナルの魔法を習得してきている。
魔法というのは、先人から魔法の基礎を学び、そこから自分のオリジナルを編み出していくか、基礎を伸ばし続け強力にさせていくか、らしい。
え?数学大丈夫なのかって?それはそれ、これはこれ。なるようになるさ。
シズクの水魔法で作られたドーム型の防御壁で剣と鎖を交じらわせている。あまり刺激を入れすぎると、壁の水が崩れてびしゃびしゃになるから、今回は抑え気味にしている。
「ああもう!ちっとも当たらねえ!お前速過ぎだぞ!」
「いや、んなこと言われてもなぁ。ここすげえ軽いし」
地球とここ惑星ソフィーラは重力が10倍の差がある。普段地球で暮らしてる俺からしたら、まるで俺がいないみたいな感じになるのだ。元々存在感がねえじゃんとか言うなよ。しまいにゃ泣くからな。今説明した通り、俺はここだと速い。風系統魔法の《クイックレッグ》を使わなきゃ、追いつけないくらいにな。
クレアは自分に浮遊魔法をかけているから、重力を感じない。克服する気はないらしい。まぁしようと思ってできるものじゃないからな。
「そういやお前、剣ばっかだけど魔法も鍛えてんのか?」
「あたぼーよ。見せてやる」
そう言ってキリヤは右手で銃の形を作り、片目を閉じて俺を的として標準を合わせているようだ。見せるというよりは俺に攻撃するのか。まあその方が分かりやすいし。
「くらえ!」
「ッ!ってー!」
キリヤの掛け声と同時に、俺の左肩に痛みが入った。何をしたんだ?全く見えなかった……。ヒリヒリと痛む左肩を見ると、ビー玉サイズの炎が揺らめいでいた。
「すげえな。見えなかったぞ」
小さくて目にも追えない速さ、しかもこのサイズだったら魔力もそこまで使わないから燃費がいいし、乱用できる。しかも、それなりの威力があるから、汎用性が高いな。
だが、一方のキリヤは渋い顔をして、唸っている。
「確かに使えるんだが、正確に当てるのに時間がかかる」
試しにキリヤはもう一度中の形を作り、今度はゼロタイムで乱発し始めた。しかし、俺に向かって撃ってるにも関わらず、全弾が俺を横切り、水の防壁に当たっている。
さっきも言った通り、この水の防壁は刺激を与えると崩れる。よって、俺もキリヤも滝修業をした後のようにびしょびしょになった。足元にも大きな水溜りができている。
「………な?」
「な?じゃねえよ。さむっ」
成程、これは使えないな。うん。だが、キリヤの特訓次第で強力な武器になる。
「八幡は何かないのか?新しい技とか。八幡ってそっちがメインで特訓してんだろ」
「今んとこ考えてない」
「あれ?でもこの前背中から黒い物出してたじゃん」
木の上で赤い果実を食べているリアが口を挟んできた。
「おい、何で言うんだよ!」
「だって言っちゃダメって言われてないしー」
「いやここは空気読んで黙る雰囲気だろ」
「なんだよ、もったいぶらないで見せてくれよ~」
はぁ、とため息をつきながら背中に魔力を集中させ、形をイメージする。すると背中から黒い拳が出現し、そのまま一直線に大木に向かって伸びていく。黒い拳は大木を殴った途端、霧散した。当の大木は無傷だ。
「おー、凄いな。けど、脆いな」
「だろ?形作るだけで魔力使うからな」
「お互い、考えたはいいけど、まだ使えない感じか」
まぁ、中学生の魔力なんてたかが知れてるからな。運動次第で変動するけど、俺は基本運動しないし、キリヤはずっと剣振ってるし。
「ね、ねえ、何でリアは八幡のその魔法の事知ってたの?」
恐る恐るな様子で聞いてきたのはシズクだった。説明しようとしたが、リアが先に話し始めた。何であんなこそこそしてるんだ?
「散歩してたらね、八幡がすんごい魔法使ってて、そこからしばらく2人でいた」
「ふ、2人で?今2人きりって言った?」
「2人きりとは言ってないけど、そのまま色んなとこ行って遊んでた」
「え?それってつまりデートだよね?何で八幡と」
「いやいやデートじゃないから。私八幡に好意寄せてないし。ただ『2人きり』で遊んでただけ」
「今わざと2人きりって言ったよね!私まだデートしたことないのに!」
「誘えばいいのに。八幡なら行ってくれるでしょ?」
「そう、だと思うけど………。うぅ」
「はぁ、恋する乙女ってめんどくさ」
「何よ!?」
「おい、なんか言い合い始まったけど?」
「ほっとこうぜ。仲良い証拠だ」
◆
「なあ、一つ聞きたい」
「ん?何?」
「何で俺に数学を教えようと思ったんだ?俺には理解できない。前まではキモい存在だったんだろ」
俺がそう聞くと三柴は目を上に向け、しばらく考える態勢に入った。
言葉通り、カースト最下位の俺は上位者の視界にすら入らない、陰が薄いぼっちだ。集団行動の行事の時は学校を休み、教師には名前すら覚えられておらず、寧ろ誰も俺の名前を知らないほどの、究極ぼっちだ。いくら嘘告白で騙そうとした相手であっても、俺に数学を教えるのは俺にしかメリットがない。こんなことしてると三柴の方が迷惑になるんじゃないのか。
「あんたに興味があるのかな?」
「なんだそれ。意味わからん。何?俺の事好きなの?」
「いや、それは断じてない。ただ友人としてなら興味があるだけ」
「よくわからねえな。言っとくが、俺はそういうのは信用できないし、する気も起きない」
「私からしたら、あんたの方がよっぽどわかんないけどね」
そのまま分からずじまいの勉強が終わり、完全下校時間のチャイムが鳴ったため、帰路に就く。そうしようとしたが
「途中まで帰ろう」
三柴がありえへん発言をした。当然却下だ。
「絶対に嫌だ。お前と帰ると俺にもお前にも危害が及ぶ」
「危害?」
「誰かに見られて噂でもされてみろ。俺が殺される」
「気にしすぎだって」
いや、三柴は甘い。人の目なんてどこに潜んでいるか分かったもんじゃない。どんなに隠れていても絶対に1人は見ている。どれだけ油断を怠らなくても、アリの巣のような小さい穴が命取りになるときもあるのだ。それに、三柴は見てくれは良いから、男子からの報復があるはずだ。魔法使えるから怪我はしないが、俺の存在が一気に明るくなる。三柴には悪いが、急いで帰ろう。
早歩きで横断歩道を渡る。
「ちょっと待ってよー」
声はかけられるが無視して、公園へ向かう。向かおうとしたが、異変に気付いて足を止めた。今は赤信号のはずなのに止まる様子がなく、異常に速いトラックが走っている。…………居眠り運転か!
「おい!早く渡れ!」
「え?…………え」
「何立ち止まってんだよ!」
「きゃ!」
紫色の鎖を出現させ、三柴に目掛けて投げる。鎖は三柴の身体を巻き付け、俺は力強く引っ張り、〈リビテーション〉という浮遊魔法で引っ張った勢いを吸収させた。
「え、なにこれ……」
「ちっ」
〈ディセイブ〉を使って三柴の目を欺かせた。取り敢えず今は帰った方がいい。
「ちょっと!出てきなさいよ!」
そう言われて出てくる犯人はこの世にいない。
「出てこないと、あんたが不思議な力使った事言いふらすわよ!私の影響力はあんたがよく知ってるでしょ」
「それは困る」
やむなく〈ディセイブ〉を解除。こいつの発言は本当に影響力がとんでもないから、それだけはどうしても避けたい。
「じゃ、説明して」
「案外落ち着いてんだな」
「これでも結構混乱してるよ。疲れが一気に溜まる。それより説明」
「俺は魔法が使える。以上」
「…………それだけ?」
「他に説明いらんだろ。じゃあな」
「納得できない。もっと詳しく」
「ことわr」
「言いふらすよ?」
「うぜえ………。クレアって記憶消す魔法持ってたっけな」
「今怖い事聞こえたんだけど」
「気のせいだ。しゃあねえ、俺んちに来い。すべて話す。……安心しろ、家には俺の女師匠がいるからな」
なんか、とんでもないことになったな。溜息を何回も付きながら、公園へ向かう。
「ここだ」
「え?木の下?…………うわ!」
公園の風景は一瞬にして玄関へと変わった。当然三柴は、さっきっからえ?え?と呆けている。ちょっと面白いと思った。
「クレアー」
「あ、おかえり八幡。………え?その子は?」
「まぁ、色々あったんだ」
三柴を上がらせ、クレアにこれまでの経緯を説明した。クレアは若干難しい顔をしている。そりゃそうだ、魔法使いってことが地球の人間に知られれば、ここに住み続けるのは難しい。俺は預かられている身でありながら、とんでもないことをしたと自覚している。本当なら無理してでも連れてくる必要がないのだ。なのに何故ここに連れてきて話したのかは俺自身がよくわかってない。
「沙耶ちゃんだっけ?ちょっとごめんね」
クレアは一言断りを入れたと同時に三柴の頭に手をかざした。その瞬間、三柴の身体が光に包まれる。当の三柴は困惑を通り越して混乱している様子でびくともしていない。置物同然となっている。
「今から全部話すよ。沙耶ちゃんは誰にも言わないって誓える?」
「…………はい。言いません」
「…うん、分かった。話すよ」
クレアはそう言ってかざしていた手を降ろした。包んでいた光は消え、三柴はドッと疲れが出た様子で深い息を吐いた。何されてるか分からないから緊張するよな。
「ごめんね。沙耶ちゃんが嘘つくかどうかって試してたの」
「どうだったんだ?」
「沙耶ちゃんは絶対言わないって本気で思ってるよ」
「すごい。今のだけで分かったんだ」
「そうか。クレアがそう言うなら確かだな。じゃ、全部話す」
俺とクレアは、俺がこれまで送ってきた人生を話した。理不尽な暴力に暴言を受けてきたこと。クレアが助けてくれた事。惑星ソフィーラの事。全てを話した。三柴はたまに表情を変えながら、黙々と聞いていた。
「あんた、酷い人生送ったんだね。そりゃボッチになりたいわ」
「どうも。どうだ?追いついたか?」
「理解はしたけど、正直まだ追いつけてないかな。頭痛いし、取り敢えず今日は帰るね」
「……送ってく」
「別にいいのに」
「もう外暗いしな。さすがにそこまで俺は腐ってない」
「そう。じゃあよろしく」
三柴を送った後、再びクレアと少し話をした。
「八幡にも友達いたんだね」
「友達じゃねえよ。何かと俺に関わってくる物好きな奴だ」
「けど、八幡の中じゃあの子、何か特別なんじゃないの?だって、魔法使ってまで助けたんだから」
「……さあな。俺にはよくわからねえ」
「キリヤ君たちが良い影響になってくれたかな」
確かにあいつらに影響されたのは自覚がある。今まで受け身の人生だったけど、自分から何かすることも増えたし。もしかしたら気付かない間に俺の中で変化があったのかもしれない。
まぁそれはおいおい考えるとして、俺は今気になっていることがある。
「三柴に使ったあの魔法ってなんだ?」
「あれは人の脈とか臓器、瞳孔に魔力を通じて、嘘をついているか、ついてないかを見分けられるの」
「便利だな」
「ただ魔力を凄い繊細にコントロールしなきゃ使えないからね。私が天才だから使えるだけで、そこら辺の素人がやろうとしたら、内側から爆発して肉体が吹っ飛ぶよ」
なにそれ怖い。そんな危険な魔法使ってたのか。いや、クレアだから大丈夫だったのか。
取り敢えず明日、放課後図書室でまた三柴と話をしなければいけない。……受験前なのに悩みが増えた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
三柴沙耶はヒロインじゃないです。シズクがヒロインです。
また次回。
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16話:受験と告白
そのせいもあって、最近一話完結を書くことにハマってて、シリーズものの進みが悪くなってしまった。もちろんシリーズも書いているから、気長に待ってくれるとうれちいな♪ォェ……。
それではご覧ください。
ある日、俺は三柴に呼び出された。いつの間にか携帯に連絡先が入っていて怖い思いをした。実はあいつも魔法を?
「取り敢えず寝たら、整理がついたよ。それで、遅いけどありがとね。助けてくれて」
「別にどうってことねえよ。目の前で他人が死ぬ瞬間なんて後味悪いしな。それで?」
「うん。まぁ要はあんた魔法使いになったんだよね?それでいい?」
「まぁ、今はそんな感じで大丈夫だ。それより、ぜってえ言うなよ?言った瞬間お前の首が飛ぶからな」
「怖い事言わないでよ!それもう脅迫だからね!絶対言わないから!」
クレアも嘘じゃないってわかってるし、俺も嘘とは思えないからそこは信じよう。今更だが、そもそも俺が魔法使いだって誰も信じないと思うし、例え三柴がばらしたとしても変な奴と思われるだけだ。
「じゃ、今日も数学教えてあげる」
「お前切り替えの速さ異常過ぎる。俺でもそんな事できねえよ」
「もうすぐ受験だもの。ほら、教科書開く!」
「へいへい」
この数学を教えてもらう状況に何も文句はなくなった。不思議と嫌とも思わなくなった。いや、さすがに教えて時貰ってる身で嫌とかは失礼だと思うが、それとはまた違う。
勉強だって俺が図書室使わなきゃいい話だった、途中まで帰ると言われたら〈ディセイブ〉使えばよかった、ばれたらまずい魔法だってこいつに使った。何でかは分からない。ただ、少なくとも俺はこいつを悪い奴とは思ってない。別に好きでもねえけど。
正直、まだ心の底からは信頼できない。だが、信用はしていいんじゃないか。何度もそう思う度に罰ゲームかもしれないというネガティブが邪魔をする。
いずれ通る道だ。今が克服のチャンスかもしれない。少なくとも俺の事を悪く思わない奴なんて滅多に会えるわけじゃないんだ。
「なあ、三柴は俺にこんなことしてどうしたいんだ?」
「え?……前にも言ったでしょ。あんたに興味があったからって。それに、あんなこと聞いたらますます興味持ったの」
「お前結構な変わり者だったんだな」
「よく言われる。……あ、ここ間違ってる」
遠回りな質問をしてしまったが、本題に入ろう。
「なあ、俺と友達にならねえか?」
「………は?どうしたの急に?」
「いや、俺に興味を持ってるお前に興味が湧いた」
「ふ~ん、私はもう友達だと思ってたけど?」
三柴は首を傾げながら、そう言った。……なにそれ初耳。友達ってお互い了承しなくちゃいけないものかと思ってたんだが、違うのか?…おっと?俺の中で一つの概念が崩れようとしている。
「何その顔……。もしかして友達の意味を知らないの?」
「悪かったな、よくわかんなくて。地球に友達いないからしゃーないだろ」
「ああ、あの魔法の星。地球人が他の惑星の人と友達なんてとんでもないわね」
「いいだろ。あいつらは信用できるし、俺は地球人は嫌いなんだ」
「私地球人だけど…」
「お前はもう俺の秘密知っただろ。だから特別な地球人だ」
なんだこの厨二病みたいな会話は……。
「じゃあ私は地球人友達1人目?」
「いや、2人目だぞ」
「……あんた、よくわからない」
ガクッとうなだれる三柴に、俺は苦笑した。それに関しては俺もわかる。地球人嫌いと言ったそばから友達はいるって、矛盾してるからな。それに特別って言葉はあんまり好きじゃない。
「なあ、お前」
「沙耶」
「は?」
「下の名前。それで呼んで」
今まで名字呼びでも何も言わなかったのに、突然どうしたんだ?いや、そもそも直接三柴なんて呼んだことなかったか。一度、男女の名前呼びは交際の証だと本で読んだことあるが、そうではないらしい。実際、シズクとかリアとかも名前呼びだからな。
「分かった」
「(あれ?案外すんなり受け止めたわね)」
◆
地球人2人目の友人ができてから、早2週間。いよいよ迎えた受験当日。俺は自室でキリヤとシズクを待ちながら、軽く参考書を見直している。沙耶に短期間数学を教えられたおかげで、何とか平均以上にはなった。
「おう、おはよう八幡」
「お待たせ、八幡」
「やっほー」
今回総武高に受験するキリヤとシズクがゲートから現れた。その後ろにはリアとジークもいる。ジークは基本口を開かない。
「皆頑張ってね!」
「頑張れ……」
「おう、まかせとけい!」
リアたちからのエールにやる気が出た俺達は高校向かうべく、光に包まれながら、外に出た。すると、そこには意外な人物がいた。
「おはよう、八」
沙耶が木に背を預けながら、そこに立っていた。
「何でいんだよ……」
「目的地一緒なんだから、いいじゃん」
「そうだけどよ……」
来るならせめて連絡してほしかった。キリヤ達は全員合格したらl改めて紹介しようする予定だったのによ……。
「八幡、こいつは?なんか知ってるみたいだけど」
「ああ、俺の数少ない友人だ。ついでに、俺らの事はほとんど知ってるぞ」
「え!八幡教えたの!」
「まぁ、実際こいつの前で魔法使っちまったし。ばらすようなことしねえから大丈夫だ」
何があったか粗方2人に説明し、俺がそう言うなら大丈夫だという事になった。お互い自己紹介しながら、受験会場に向かう。
「俺はキリヤだ。よろしく」
「私はシズク。よろしくね」
「三柴沙耶。沙耶って呼んでいいよ」
さすがはコミュ力あるもの同士、距離の縮め方がとんでもなく速い。さすがキリヤ達だ。俺にできないことを平然とやってのける。そこに痺れ(ry
「私宇宙人と友達になっちゃったよ八!」
「お前テンション高いな。キリヤ達にとってもお前が宇宙人だけどな」
「けど、思ってたよりも日本人みたいな顔だね」
それに関してはクレアに会った当初から思っていた。宇宙人と知る前は日本人だと思っていたからな。本当にどうなっているんだろうか…。いや、そもそも地球にとって宇宙人のイメージって銀色の化け物だからな。日本人似なんて思うはずなかろう。
◆
数日後、合格発表日がやってきた。今まで生きてきた中で一番緊張している。これでキリヤ達と過ごせなかったらと思うと、もうヒキニートになる自信あるね。
「おいおい八幡、そんな顔すんなって。絶対受かってるから」
「お前は随分余裕あるな。日本語から勉強したのに」
「お前と学校行きたいからな」
あらやだイケメン過ぎる。うっかり惚れそうになった。
「八ってすごい信頼されてるね」
「なんつーか、まぁ全員合格してりゃ色々話してやるよ」
「それは楽しみね」
目的地に到着すると、既に受験した生徒が大勢集まっていた。怖い事に話声が一向に聞こえないため、最早世にも奇妙な合格発表になっている。家にいると落ち着かなかったのか。俺らもだけど。
「俺らも空気読んで黙ってた方がいいか?」
キリヤが耳元でそう聞いてきた。そうだな、ここで普通に話してたら逆に目立つし、周りの鋭い目が痛いから黙ってようか。
被されてた布がめくられ、合格者の番号が羅列している紙が露わになった。……………………………あ、全員ある。
「っしゃあ!合格だぜ八幡!」
キリヤが勢いよく俺と肩を組み、嬉しそうに声をあげた。
「ああ、やったな」
「やったよ八!皆で通える!」
「はちまーん!やったー!」
「お、おう、シズク。やったな。ちょ」
シズクが喜びのあまり、正面から俺を強く抱きしめてきた。結構強かったため、腰が曲がりそうになるのを抑え、何とか受け止めた。しかし、身体が良くても精神面に違うダメージが入る。シズクのような発育がよく、可愛い奴に抱きしめられて平然としていられる程、俺のメンタルは強くない。
「分かったから!一旦落ち着け離れてくれ」
「あ、ごめん…」
「おいやめろ、顔を赤くすんな」
「だ、だって……」
自分が何をしたのか理解したと同時に恥ずかしそうにモジモジとし始めた。すると、ありがたいことにその雰囲気をキリヤが勢いで変えてくれた。
「じゃあ、八幡の家行って祝おうぜ!沙耶、他にも友人いるから紹介してやんよ!」
「はは~、なぁるほどね。……分かった!行こう行こう!パーティだ!」
◆
激しい盛り上がりを見せた合格祝いのパーティは終わり、今は俺とシズクで片づけをしている。クレアは酒飲んで酔っ払って寝てしまった。夜も遅いため三柴を皆で送った後、何故かキリヤとリアとジークが先に帰ってしまった。なんか頑張れって言われたんだけど、家事は慣れてるから頑張るもくそも無いんだ。だから、あのキリヤの一言がどういう意味なのかを考えながら、皿を洗っている。
「シズクも帰っていいんだぞ?」
「ううん、私にも手伝わせて。それに、したいからしてるの」
「そうか。まぁ、助かってるからありがたい」
シズクが皿を洗って、俺が拭いて食器棚に戻すという作業を繰り返している。シズクが生成した水は洗剤を使わなくても新品のようにきれいになるから、非常に便利だ。これからも皿洗いを手伝ってくれないだろうか……。
「ねえ、八幡。沙耶とは友達なんだよね?」
「ん?あー、そうだな。それ以上でもそれ以下でもないな。ただの友人だ」
「ちなみに、その、好意とかそういうのは?」
「は?ないないないない。ぜーんぜんない」
好意?好きかどうかって事か。それこそないな。俺が沙耶を好きになったり、沙耶が俺を好きになるなんて未来永劫ありゃしない。シズクはこんなこと聞いてどうしたんだ?好きでも嫌いでもねえただの友人だし。それにもし俺が恋愛対象で見るなら、目の前のシズク1人だな。リアは、まぁいいとして。クレアはもう母親みたいなもんだし。
けど、今の俺じゃ到底恋愛はできないな。人間として大事な部分が欠けている。もう少し時間が経ってから真剣に向き合うつもりだ。そもそも俺を好きになる奴なんているかどうか分からないからな!……はぁ。
「実はね、八幡と一緒に高校行けるようになったら、言いたいことがあったんだ」
「…なんだ?」
「私、八幡が好きなの」
………………………ん?今なんて?
「今なんて?」
「だ、だから!八幡が好きなの!何度も言わせないで!」
まだ2回だけど……。じゃなくて、え?俺が好き?何で?私のどこがいいのよ!キモイなこれ。
「返事は?」
「あ、いや、その、だな………」
初めて受けた好意の押しつけに、ただ戸惑うしかなかった。俺もシズクが嫌いなわけじゃなく、寧ろ好きだ。あくまで友人的な意味ではいたけど。今まで何度か考えたことがあった。シズクのような人と付き合いたいと。だから、今の告白は嬉しい。だけど……
「何?お付き合いOK?やったー!」
「え、いやまだ俺は」
考える余地をくれることも無く、シズクは顔を赤くしながら大声で強制交際の手段に出た。
「八幡は私の事嫌い?」
「そんなことねえよ。寧ろシズクみたいなこと付き合いたいとは思った事」
「じゃあ決まりだね!はい、私は八幡と恋人同士になりました!」
「いや、そんな無理矢理」
さすがに俺も反論をしようとした矢先、クレアの部屋から大勢出てきた。
「やったな!シズク、八幡」
「やったよジーク、シズクが大人への階段の一歩を踏んだよ」
「………うん、感動」
「「もう、めちゃくちゃね」」
盛り上がりを見せる三人に対して、呆れている沙耶とクレア。俺もただ呆然とするしかなかった。ていうかなんで沙耶がいるんだよ……。さてはクレアがワープ魔法使いやがったな……。
「じゃあ、これからよろしくね!八幡!」
そう言うなり抱き着いてきたシズク。周りからは歓迎の拍手が送られ、今すぐ穴があるなら入りたい気持ちになった。
キリヤが一足早く拍手を止め、俺の下に寄り、肩に手を置いた。
「お前もなんだかんだ、シズクの事好きだったんだろ」
「………否定はしない。恋愛なんてしたことないから分からんが、気付けば目で追ってた、気がする。多分」
「ははっ、結構曖昧なんだな。けど、すっかり男になったなお前。ほら、一応返事しとけ」
もう本当にこいつイケメン過ぎるだろ。ほれてまうやろ。逆になんでシズクはキリヤに惚れなかったのかが知りたい。こんないい男いないぞ?
「シズク」
「何?」
「…………………好きだぞ」
「………へ?」
今にも破裂しそうなほど動いている心臓を気合で抑えようとしながら、目の前の恋人に好意を示した。自分の顔が赤くなってるとわかるほど、血が渡っている。全身が震え、今にも倒れそうだ。告白というのはここまで身体と精神に影響を及ぼすとは………。リア充は誰もがこの道を通るのか。今まで爆発しろとか言っていたけど、これは見直す必要がある。リア充、侮りがたし。
一方、シズクは一気に顔を真っ赤にし、リアの方へしがみついた。
「リア!なんか予定してたのとちょっと違うんだけど……」
「いやぁ、八幡がまさかそうくるとは予想外だったね。まぁ結果オーライだし、良かったじゃん。好きって言ってもらえて」
「そうだけど!ああ、恥ずかしい!」
「言っとくけど、一番恥ずかしいことしてたのシズクだからね」
「それは言わないでよ!そもそもほとんどリアの作戦でしょ!」
何やら言い争っている様子。作戦とは一体……。だが、今の俺にとって、それは何なのか考える余裕はなかった。
「キース!キース!」
「やめなさい沙耶ちゃん」
「いて」
台無しだな………。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
はい、今回でやっと中学編が終わりです。そして、ついに高校編へ……。
俺が書く作品は、やはり八オリになるんだね。だってそれしか書く気ないもん。ダイ〇モン
また次回。
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高校生編
17話:高校デビュー
やっと高校編に突入!待ちくたびれた方申し訳ありません!正直俺も待ちくたびれました。
それではご覧ください。
俺と沙耶、キリヤにシズクが無事全員総武高に合格し、ついこの間入学式を終えました。肩の荷も降りて、今はその4人でテーブルを囲っている。UNOやトランプで遊びながら、ただただ駄弁っている。
「八はさ、高校デビューとかしないの?」
中学時代目立たなかった奴が突然殻が破れたかのように変化を遂げ、髪を染めたり、ピアスを開けたり、等の行為に至ること。それが高校デビューだ。中にはやり過ぎて停学喰らう奴もいるそうだが。
「必要ないだろ」
「いやいや、やっておいて損はないと思うよ?現に私もほら、髪染めたし」
「そのおかげで今眩しすぎるんだよ。右に赤髪、左に青髪、正面にピンクって……。俺の友達カラフルな奴しかいねえ」
おまけにジークは金髪、リアは緑だ。クレアは茶色。唯一黒髪なのは現在大学生の汐留さんくらいだ。あ、そういえばまだ合格の事伝えてないな。後で報告しなくては。
「それに、俺は黒髪がいい」
「何も全部染めろってわけじゃないよ。ほら、メッシュとか」
「めんどい」
沙耶の提案を一蹴すると、深いため息をつかれた。はいはい、つまらない男で悪かったですね。
「あんた、彼女できてんだからさ、少し意識しないとダメだよ」
「関係あるのか?」
「おおありよ。こんな超絶美少女の彼氏がこんな地味男なんて、周りが納得しないよ。場合によっては言い寄られるかもしれないし、八に危害が加わる」
「……………成程」
「私としては、彼氏が地味男呼ばわりされて複雑なんだけど………」
確かに沙耶の言う事も一理ある。こんな不完全で目も腐りきった奴が彼氏なんて認めてくれるはずがない。赤の他人が人の恋愛に首を突っ込むなという正論など、もう通じないのはわかりきっている。
「俺もそれには賛成だな。八幡、シズクはお前と付き合うまで何人もの男を振ってきたんだ。そいつらの分までシズクを幸せにするのが筋ってもんだろ」
「………ああ、分かったよ。まぁ、髪染めるだけだしな」
「じゃあ、レッツゴー」
沙耶は一足先に玄関へ行き、消えた。このワープ玄関って第三者視点で見ると、こうも面白い絵面だったのか……。
「ハァ……ハァ……」
「き、きちぃ…」
家を出て数分。キリヤとシズクは先程まで走っていたかのように汗をかき、疲労していた。原因は重力だ。受験の時は浮遊魔法で補っていたが、これから地球で過ごすとなると慣れなくてはいけないと言って、修行中だ。まるで亀の甲羅を背負っているように見える。足元の石に丸書いて投げてやろうかなという遊び心がちらつかせた。やらないけど。
「頑張れ、ここの重力に慣れたら、大会で大きい」
「分かってるよ……」
「シズク、辛かったら言えよ」
「いや、もうどう見ても辛そうだよ……」
結局キリヤは美容室まで歩き、シズクは体力的に限界だったため、俺が負ぶった。立派なものをお持ちなのに軽かった。
他の面子は外で待ってもらい、美容室に入った。
「ご注文は?」
あなたは喫茶店ですかって突っ込みたくなった。じゃあウサギで。って言って通じるような人ではないな。
「メッシュを入れたいんですが……」
「はい。何色にしますか?」
「………………紫で」
「どこを染めますか?」
「…サイドの左片方で」
「かしこまりました」
RPGのキャラクターづくりのような質疑応答を終え、早速作業に取り掛かってもらった。色は単純に俺が闇系統の魔法を使うからだ。キリヤも炎で赤だし、シズクは水で青色、シンプルイズベストだ。沙耶は何が理由でピンクなんて派手な色にしたのだろう。ああいう人は原宿でしか見たことがない。行った事ないけど、テレビでよく見る。頭悪い奴ばっかりいる所。
「外で待ってる人たちは友達?」
「そうです」
「あの子たちも髪染めてるね。高校デビューってやつ?」
「一応それが目的です。ちなみに3人のうち2人は地毛ですよ」
「へぇ~、海外からの留学生か~」
その後も単純な会話は普通に続いた。不安要素であった会話が何とかできたあたり、自分を褒めてやりたい。
美容師さんから終わったことを聞き鏡に映る自分を見た。
「おお……」
思わず声を出してしまう程、一風変わった自分に見入った。別にナルシストってわけじゃなくて、ただちょっと良いと思った。少し色を付けるだけで雰囲気が違うんだな。それに少し髪自体をいじられのか、モデルのようなカッコいい感じになっていて、自分で言うのもなんだが似合っている。
「なんか、ありがとうございます……」
「それが仕事なので♪」
やべぇこの人カッコいい。
店を出てキリヤ達に見せたところ、「まるで別人だ」「カッコいい」「想像以上に似合ってる……」と称賛の嵐であった。俺もあまり悪い気分ではないから提案してくれた皆に感謝だ。ただ、彼女であるシズクが顔赤くして褒めまくったせいで恥ずかしい。
◆
続いて、キリヤ達を連れてやってきたのは、春さんが通う国立理工系大学だ。先程言った春さんに高校合格の報告と友人紹介をしにきた。以前春さんも高校合格、大学合格などの報告を受けていて、お互いたまに連絡する仲だ。ほとんど春さんの愚痴とか、一方的な会話だけどな。恋愛感情も特になく、お互い信用できる友達として仲良くしている。詳しくは3話参照。
入口前で待っていると春さんが確認できたので声をかけた。
「春さん、こんにちは」
「あ、八幡君。……お!髪染めてる!いいじゃん、カッコいいー!」
いきなり大声をあげて俺を褒め始めた春さん。ちょっと、染めた部分触らないで。
「どうしたの?こんなとこで」
「友人と近くで出掛けてたので、ついでに報告しに来たんです。実は、総武高校合格しました」
「え!やったー!おめでとう!」
ああ、こうして自分の事のように喜んでくれる人がいるなんて感動だ。嬉しくて笑みがこぼれそうなのを堪える。…頭を撫でないで。ほら、シズクがなんか変な目で見てるから。どうやら春さんにはまだまだ子供扱いされそうだ。一応、あの時助けたのは俺なんだけどね。
「その友達って、あのカラフルな子たち?」
「そうですよ。ちなみにあの青髪の子は、その、か、彼女、です」
「…………彼女!?八幡君いつの間に~!やるね~」
「ちょ、突かないでください。くすぐったい……」
「ねえねえ、あの友達紹介してよ」
「分かりました」
ニヤニヤした春さんにつつかれながら、キリヤ達を合図で呼び出した。キリヤ達は何故か複雑な顔をしている。そんなに俺に年上の友人がいたことに驚いたのか?シズクはなんか不満げだし。
「こんにちは、汐留春です」
「こんにちは、海外から来たキリヤ=バルハードです」
「…シズク=アネシアです」
「八の悪友、三柴沙耶で~す」
「八幡君、お姉さん嬉しいよ。前までは友達いらないって言ってた君が、変わったね」
春さんはまたも自分の事のように嬉しがっている様子で、頭を撫でてきた。本当、姉御肌が強すぎるな、この人は……。
「まぁ、こいつらと春さんのおかげですね」
「私、何もしてない気がするけど、どういたしまして」
以前俺がキリヤ達との関係に苦悩していた時、助言をくれたのが春さんだった。だから、俺がここまで変われたのは春さんのおかげでもある。本当にこの人には感謝している。
「あの!汐留さん!」
「ん?」
友達の紹介も報告も終わったため、春さんと別れようとした時、シズクが大きい声で春さんを呼び止めた。そして、俺の腕に抱き着き、とんでもない発言をする。
「八幡は渡しませんよ!私の彼氏です!」
………………。
数秒の沈黙。幸いにも周りには人が少なかったため、聞いていたのは俺達だけだった。春さんはただただポカーンとしており、シズクは顔を赤くして睨んでいる。
次の瞬間、春さんが吹き出して笑いだした。
「そっかそっか。……安心して、シズクちゃん。私と八幡君はただの親友だよ」
「そ、そうですか………」
「あ、でももし八幡君がフリーになったら、私がもらおうかな~♪八幡君いい子だし」
「絶対に渡しません!!」
「ふふ、じゃあね。お幸せに」
悪戯な笑みを浮かべ、片目ウィンクをしながら、帰途に就く春さん。それを見送った俺達も自宅に向かう。
帰宅途中、シズクはさっきの発言を冷静に思い返してから、ずっと俯いている。確かにあれは恥ずかしかった。俺は軽く混乱状態だったからな。これから春さんに会うたびにからかわれると思うと………。
「キリヤ、シズクってこんな積極的だったか?」
「前は結構控えめで臆病な感じだったけどなぁ。人って恋するとガラッと変わるんだな」
「………何で私、あんなことを……」
シズクは今もあの時の発言を後悔しているようで、依然として顔を赤くしている状態だ。
「あ、今日の晩飯何がいい?クレアに聞いたら何でもいいって言われた」
「んー、じゃあオムライスで」
「私もそれでいい」
「オムライスか…。材料は揃ってるから、このまま帰るか」
料理してる側からしたら、何でもいいって一番困る回答である。昔クレアに使った覚えがあり、その時は本当に困ったような顔をしていた。何でもいいって言うのは、遠慮から出た言葉でもあるため、俺は困らせないために食事だけは欲望に忠実になっていた。
「……お、おにい、ちゃん?」
今年の秋に出場する予定の大会について色々話していたら、耳を疑う声が聞こえ、目を疑う姿をした人物が、俺の目の前に立っていた。
その人物は、約5年前、縁を切った実の妹、小町だった。あの頃はまだ小3の幼い顔をしていて、今では成長しているが、見間違えることは無かった。間違いなく、小町だ。
「……えっと、どちら様ですか?」
だが、俺はすでに比企谷家とは縁を切っている。何故小町がここにいるのかは知らないが、関わらないのが吉だ。
「…嘘、だよね?お兄ちゃんでしょ……」
「人違いです。俺に妹なんていません」
「嘘だ!目を見ればわかるよ!小町のお兄ちゃん、比企谷八幡でしょ」
「…俺の名前は、エイト=ヒキガルトです」
「…そ、そんな………」
小町はわなわなと震えだし、身体をふらつかせながら涙を流し始めた。俺の言っていることは、自分が嫌っている嘘まみれの言葉だ。嫌いな嘘をついて妹を泣かせたという事実に、罪悪感を感じた俺はいたたまれなくなり、呆然としているキリヤとシズクを引っ張って、曲道を利用して〈ディセイブ〉で身を潜めた。
「お兄ちゃん!………え?…い、いない」
俺達を見失った小町は、見たことのない形相で、その場で立ちつくしている。
「行くぞ」
「…いいのか?」
「俺はもうとっくの昔に縁を切ったんだ。今更過ぎる」
「……八幡、ご飯は私が作るから」
「ああ、ありがとな、シズク」
こんなボロボロで不安定な奴に美味い飯なんて作れるはずがない……。
早足でその場を去ったが、かすかに小町のすすり泣く声が聞こえ、この時だけ自分の耳の良さを恨んだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
早く魔法を使わせたい!書きたい!戦闘描写を書きたいぞー!高校編からは原作に絡ませながら、魔法使いしていきます!
そして、とうとう小町が現れました。さあどうなるのか!
また次回。
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18話:初登校
特に言う事ないんだけど、このシリーズもかなりの長編物になりそうです。ほぼオリジナルなのに大丈夫かなぁ………。色々怖い。
それではご覧ください。
八幡とキリヤは今年の秋に行われる大会に向けて、いつもの森林で修行に励んでいた。シズクの作った水のドームに入っている。
「〈グレンドーラ〉!」
キリヤは掌の上に炎の輪っかを5個浮かせ、八幡に向かって放つ。輪っかは目でぎりぎり終える速度でそれぞれ違う動きで八幡に迫り、囲うように攻撃を開始した。
今まで体験したことのない速さに八幡は対応できず、いくつか鎖で防いだが、身体に直撃した。修行用のジャージには焦げ跡が付き、右手首、左二の腕にはグレンドーラが腕輪のようにくっついていた。
「おいなんだこれ。…熱っ!やべ!」
八幡は慌てて腕を振り、炎を掴んだりして炎を消し、キリヤが立っていた方向へ顔を向ける。しかし、既にいなくなっており、後ろを向くと剣を振りかぶってキリヤが迫っていた。以前よりも遥かにスピードが増している。
咄嗟に持っていた鎖で剣を防ごうとしたが、キリヤは瞬間的に剣に炎をエンチャントして、鎖を燃やし、霧散させた。
キリヤは剣の切っ先を八幡に向けて言う。
「ちょっと鎖に頼り過ぎなんじゃないか?」
「……確かにそうかもな。けど、こんな使い方もできるぞ」
八幡が指を鳴らすと、キリヤの足元から蔓のように鎖が出現し、キリヤの両足を捕らえた。
「なんだこれ!切れねえ!」
「当然だ。魔力をかなり込めたから、易々と壊れない」
八幡はそう言いながら、空中にシャドーボールを形成させ、キリヤに放っていく。足を縛られたキリヤは苦悶の声をあげながら、シャドーボールを剣で弾く。全て捌ききれなかったため、いくつかダメージを受けた。
「どう?」
「…なんか、漫画みたいな光景ね」
水のドーム外にいるシズクが、横にいる沙耶に嬉々とした聞いた。沙耶は今まで一度も見たことのない光景を見て、唖然としている。未だに自分の目を疑っている様子だ。
「ていうか、本当に地球と重力違うのね。体が軽すぎるわ」
「私とキリヤもつい最近軽く感じてきたよ」
シズクとキリヤは地球での生活が修行になっていた。
「それよりもあの剣、本物だよね?大丈夫なの?なんか斬撃戦始めてるけど…」
沙耶が指を刺す方では、両足の鎖を何とか切断したキリヤと八幡が剣と鎖で殴り合っていた。火花が散り、八幡のジャージは切られ、キリヤも所々服が汚れている。だが、経験値の差でわずかにキリヤが押している。だが、それをぎりぎり対応している八幡も中々の実力だ。
水のドーム内にいるにも関わらず、森に金属音が鳴り響いている。
「ねえ、ずっと気になってたんだけどさ」
「何?」
「その頭の上に乗ってる、変な生き物は何?」
「この子?これは、八幡のペット。八咫烏のクロウ君」
シズクはクロウを沙耶の前に出した。クロウはさすがに地球には連れて行けないため、クレアの家で飼っている。
案の定、クロウは沙耶に対して警戒の色を見せる。
「や、八咫烏ってあの……。足四本あるんだけど……」
「滅多に人に懐かないんだけどね。八幡がてなづけてペットにしたの」
クロウは未だに警戒しているが、好奇心旺盛な沙耶は恐る恐るクロウを撫でた。濡羽色の艶やかな毛並みが気持ちいい。
見知らぬ存在に撫でられたクロウは大きく鳴き声を上げ、シズクの頭上に戻った。
「この子って雄なの?」
「分からない。でも、男の子っぽいよね」
確かに、この相手を畏怖させるような鋭い眼は、雌には見えない。よくこの子を懐かせたな、と沙耶は八幡に少し感心した。
沙耶はクロウを横目に、激闘を繰り広げている八幡たちに目を向けた。
斬撃戦をしていた八幡とキリヤは一時中断している。八幡は肩で息をしている一方、キリヤはまだまだ余裕がありそうだ。
「八幡は魔法はすげえけど、やっぱ体力だな」
「逆にキリヤは何で疲れてないんだよ……。結構激しく動いただろ」
「俺は毎日走り込みしてるんだよ。八幡の課題は体力だな。スタミナは魔力に直結する」
確かにその通りだと八幡は一呼吸置き考えた。八幡はこれまで魔法にしか手を出さず、体力面は全く考えてもいなかったのだ。だけど、それは仕方がないのかもしれない。地球人にとって魔法というのは架空な存在で誰もが憧れる物だ。体力など頭からすっかり抜けていたのだろう。
「これからは俺と一緒にランニングだな」
「マジか……」
根っからのインドア派で運動なんてしたことない八幡にとって苦ではあるが、これも優勝するためだと思い、渋々了承した。八幡にも自分の魔法で優勝したいという思いは確かにあるようだ。
「はい、2人ともここまで。明日はいよいよ初登校だからね」
シズクが水のドームを消し、手を叩いて修行を終わりにした。
いよいよ、彼らは初の高校へ登校することになる。キリヤとシズクは違う星の学校のため、この間ずっと心を躍らせていた。沙耶も普通に高校生活を楽しみにしている。
ただし、問題があるのは八幡だ。唯一無二の友人たちと同じクラスだが、未だに過去を克服できていない八幡はクラスに溶け込めるのか。彼らの悩みであり、八幡の悩みでもある。
八幡は表にこそ出さないものの、常日頃頭を抱えている。シズクという可愛い彼女がいる以上、情けない姿を見せるわけにはいかないと。
そんな彼を見守る彼らは、何やら相談し合っている。
「ねえ、八大丈夫なの?」
「なぁに、心配ねえよ。俺が何とかする」
「本当に大丈夫なの?あんたって大抵ろくなことしないじゃない」
「失礼だな!ちゃんと策はあるって。…八幡と会った時最初に言っただろう、シズク。お前の事情なんてどうでもいい、俺らが勝手に近づいていくって」
どうやら、キリヤには何か作戦だがあるようだ。
◆
「おい!起きろ八幡!」
「八幡起きて!」
最悪の目覚めだ。カーテンを思い切り開けられ、日の光が攻撃………してくるわけがない。ここは異空間の家だ。窓もカーテンも光も無い。光の正体はキリヤの炎だった。
「ちょっとキリヤ気合入り過ぎよ。火事になっちゃう」
「お前もだろ!びしょびしょになったじゃねえか!」
今度はシズクが興奮して、キリヤの炎を消したが、水の量がとんでもなかった。
「制服濡れちゃった……」
「はぁ……出るまでに乾かしとけ」
と言ってもキリヤならすぐに乾かすことができるか。
学校へ入り、俺達の教室へと向かう。まさか全員が同じクラスになるとは思ってもいなかった。俺的には超助かっている。こいつらと一緒なら多少落ち着いた学校生活が送れるだろう。
ただ、周りの視線が痛い。そりゃそうだ。赤髪、青髪、桃髪、紫メッシュの一年生なんて、珍しいにも程がある。どんだけ気合入れてきたんだよって話だ。キリヤとシズクに至っては地毛だし。
教室に入っても同じだった。俺らが入ったと同時に、既にいたクラスメイトは話を止め、こちらを見ている。席は出席番号順のため、キリヤとシズクが近く、俺と沙耶が少し近いという状況だ。
俺達もグループになり、会話を始めた。
「なぁ、俺らなんか見られてね?」
「お前自分の髪を鏡で見ろよ」
「今朝見たぞ。いつも通りだ」
「登校初日から赤髪で来る人なんてまずいねえよ。いや、ここにいる全員そうなんだけどよ」
「それでいいじゃない。下手に舐められるよりよっぽどマシ」
「目立ちたくないんだけどな」
「メッシュ入れた時点でダメだと思うよ?カッコいいけど」
「お前らが入れろって言ったんだろ!」
深い意味もない、他愛無い会話を続ける事数十分。担任の登場により、HRが始まった。
まず、新入生の初日は基本学校案内や自己紹介、委員会決めなどを決めるだけだ。まずは自己紹介から始まった。
「キリヤ=バルハードだ。1年間よろしくな。ちなみにこれは地毛だぜ」
キリッとした爽やかスマイルで頭を指さしながら、自己紹介をしている。キリヤから光の粒子が見え、影の俺には眩しすぎる存在だ。火系統のくせに。何人かの女子はカッコイイだのイケメンだのざわざわとしている。一方、嫉妬の目を向けている男子が数名。同志よ…。
「シズク=アネシアです。よろしくね♪…ちなみに彼氏はいます」
いきなりとんでもない爆弾発言をした彼女に俺は頭を抱えた。男子は一瞬可愛い子がいて盛り上がっていたが、先程の発言で一気に奈落に落ちたかのように俯いている。女子はキャーキャーと盛り上がりを見せている。男というのは分かりやすいものだ。……お願いだからこっちを見てニヤニヤするなキリヤ。
「三柴沙耶です。よろしくね♪」
笑顔を振り撒き、落ち込んでいた男子を一気に湧きあがらせた。さすが過ぎる。ここは本当に県内有数の進学校なのか疑った瞬間でもある。…男子諸君、沙耶をよく見ろ。悪い笑みを浮かべているぞ。
そして、とうとう俺の出番がやってきた。
「…比企谷八幡です。よろしく」
俺の自己紹介には特に誰も反応せず、わずかに女子がこそこそ喋っていたくらいだ。いきなり陰口ですか?泣きますよ俺?彼女の前で涙流しますよ?
まぁこんなもんだろうと、教壇から離れようとした矢先、何かよくわからないものが俺を襲った。痛みはなく、ただ何も感じない。意識もはっきりしている。……………ん?
気のせいだろうと思い歩き出そうとしたが、足が動かない。寧ろ体が思い通りに動いてくれない。そして、俺が混乱しているうちに俺の体が勝手に再び教壇の前へと歩いた。
「ちなみに、俺には最愛の彼女がいます。そこのシズクです」
『……ええぇぇぇぇぇ!』
………何ぃぃぃぃぃ!どういう事だ!何故口が勝手に動く。押さえようにも手が動かないせいで、俺の意識に従わず、言葉が発されていく。
「シズクの言っていた彼氏が俺の事です。キリヤとも仲が良くて、沙耶とは中学生の時からの仲です。1年間よろしくお願いします」
席に戻ると、同時に不思議な感覚がなくなった。普通に手も足も口も自分で動かせている。
どうなっている?何故俺がこんな辱めを受けなくてはいけない。見ろシズクを。顔真っ赤にして手で隠してるじゃん。俺にこんなことできるなんて、あいつしかいない。……キリヤ。よく見るとあいつの目が若干色が変わっている。絶対にあいつの仕業だ。
キリヤを睨みつけると、悪魔のような笑みで返してきやがった。沙耶は腹を抱えて、笑いを堪えている。後ろからじゃ分からないが、間違いなく涙目だ。
あいつ後でぶっ殺してやる。
この後の休憩時間で俺達が質問攻めを受けたのは言うまでもない。
◆
「「どういうつもりだーーーーー!!」」
昼休みの校舎の屋上に、俺とシズクの怒号が木霊する。屋上には鍵がかけられていたが、そんなもの俺達には通用しない。
「ちょ、待て!タンマ!」
シズクは生成した氷塊を次々とキリヤに撃っている。速さが尋常じゃないため、溶かす余裕もなくダメージを負っていく。俺は逃がさないよう足に鎖を巻き付けている。俺の中の魔力をほとんど注いだから、絶対に切れない。
「待てーい!そもそも俺はお前のために」
「どこで人を操る魔法を覚えた?アレは高位の魔法使いじゃなきゃ使えないし、無系統の部類だぞ」
「ふっ、よくぞ聞いた。俺は火系統の次に適正だったのは無系統だ。まぁ、これは一時的にしか使えないけどな。それに魔法はある人に教えてもらったんだ。お前の近くにいるだろう?高位の魔法使いが」
成程、クレアが一枚噛んでいたのか。それにしてもクレアってこんな魔法も覚えていたのか。この魔法は制約が課されていて、使用するには条件が必要なのだ。分かりやすく説明すると、日本で言う銃みたいなものだ。
「それに、八幡は色々悩んでたんだろ?だから手助けしてやろうと」
「だからってあの方法はないでしょ!私まで恥かいたじゃない!」
次は氷塊に変わり、強力な水鉄砲の如くキリヤの顔面目掛けて放つ。シズクの顔は依然として真っ赤だ。
確かに悩んでいたのは事実だが、このような事態になるんだったら、ボッチの方が良かったぞ。平穏な高校生活を願っていたのに見事に崩れてしまった。
「そ、そろそろその辺にしといてあげたら?」
苦笑してる沙耶にそう言われ、キリヤを見るとボロボロになっていた。さすがにやり過ぎた思い、鎖を解いた。
「ふぅ、酷い目に遭ったぜ…」
「俺達よりマシだろ…」
「けどよ、俺がああしなかったらずっと1人でいた気だろ?」
言い返したいが、何も言い返せない。悩んでいたとはいえ、その考えもあったからだ。もちろんこれは最悪の場合だ。本当だったら、キリヤ達と過ごしたいと思っている。だから、正直キリヤのしでかした事は本気で責めることはしない。俺のために高位魔法を覚えたくらいなんだから。
「まぁ、過ぎたことは仕方がない」
「そうこなくっちゃな。ま、楽しもうぜ」
「ああ、そうだな」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
前半は今回初の三人称視点に挑戦してみました。どうでした?戦闘描写は中々難しいです。
クレアの出番少ないから近いうちに登場させよう。
また次回。
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19話:天才との闘い
うん、これを読んだ人が言いたいことはわかっています。はい、2,3週間前に未完設定にして活動報告で書けないと言ったのに、こうして投稿できています。
うん、あれだ。下手に活動報告に言わない方がいいね。いつインスピレーションとモチベーションが上がるか分からないからね。すまんぼう。
それではご覧ください。
「おはよう、皆!」
先頭に立つキリヤが教室に入り、皆に挨拶をした。それに応えるようにクラスメイトも挨拶を返す。
入学してから2ヶ月経ち俺らのグループは噂になり、それと同時に有名になってしまった。噂の感染ぶりは小学生のトラウマが掘り返される。
「おはよう、比企谷」
「あ、ああ。おはよう…」
こうして俺にも挨拶がくるようになった。今までおはようなんて教室で言われた事なかったから新鮮だ。
「シズクー、朝チューしたの?」
「してないよ!まだ早い!」
「今時だともうしてておかしくないんだけどねー」
シズクもクラスメイトにからかわれる始末。お願いだからそういうのは彼氏である俺の前で話さないでほしい。恥ずかしいだろ。
いつの間にか、俺達の周りには人が集まるようになっていた。
「あれ?比企谷は?」
「え?ここにいなかったか?」
「また急に消えたんだけど、あいつ影薄いのか?」
時にこうしてディセイブを使い、自分の机で本を開いている。
「ここにいるぞ」
「いつの間に……」
そしてキリヤに首根っこ掴まれ、集団へと連れて行かれる。周りの奴らは毎回の事なのに、飽きることなく笑っているのが不思議だ。
◆
「クレア、俺に稽古つけてくれないか?」
「へ?」
晩飯を食べ終え、シズクとキリヤが寝付いた頃、部屋で本を読んでいたクレアにある頼みをした。
「私に魔法を教わりたいの?だけど、八幡はもう十分魔法を使いこなせてるよ」
「具体的に言うと俺と闘ってほしい。いや、クレアと闘いたい」
「……本気?自分で言うのもなんだけど、私強いよ?」
「そんなもんずっと一緒にいる俺が一番分かってる。だからこそ、強くなるために俺はクレアと一戦を交えたい」
このクレア=フローランという人物は、天才だ。平凡な田舎生まれにして優れた魔法で有名になり、キリヤ達が生まれた大都市ウェルサクスでも名を馳せる程の魔法使いになった。そんな人が目の前にいて何もしないのはもったいない。
「面白いじゃない。その目、本気だね」
「腐ってるぞ」
「ううん。今の八幡の目は強者の目。……全く、この数年でここまで魔法馬鹿になるなんてね」
しょうがないだろ。日本人だもの。
「じゃあ、そうね……。明後日に私が卒業した大学に行こうか」
「分かった。ありがとな、我儘を聞いてくれて」
「私も八幡がどれだけ強くなるのか楽しみだからね♪」
学校の昼休み。普通に閉まっている屋上へのドアも俺らには何の意味も無いから、昼食をとる俺達だけの場所になっている。
『クレアさんに修行をつけてもらう!?』
昨日の夜の事を言った途端、キリヤとシズクが吹き出しそうになった。正面に座っているから危うく浴びるところだった。セーフ。
それにしても、キリヤとシズクがそこまで驚いていることに驚いている。
「お前無茶だろ。せめて自分よりちょい上の実力者と修行ならまだわかるけど、限度ってもんがあるぞ」
「クレアさんがどれだけ強いか知ってるでしょ」
「そんなに凄いんだ。そういえばさ、その実力とかってどう知ればいいの?見た目とかじゃ分からないよね」
「そういや説明してなかったな。まぁ相手の実力までは分からないが、自分のならいくらでも調べられるんだ。このビーコンを使ってな」
そう言って懐からビーコンを取り出し、生成した魔力玉を乗せた。適正系統とか強さとかも全部魔力玉なのか。
「結果がでた。お、この間よりもちょっとだけ上がってるな」
「魔法力しか表示されないんだな」
「さすがに身体能力まではね…。限界があるから。私もやってみよっと」
苦笑するシズクもビーコンを取り出し、調べ始めた。便乗し、俺もビーコンを起動する。
魔法力の数値というのは1から500まであるらしく、単純に数字が大きい程魔力や濃密度が多い。濃密度というのは、魔法の強さだ。濃ければ濃い程威力は増す。
シズクの結果はあまり芳しくなかったようだ。ほとんど闘わないから当然っちゃ当然の結果だと思う。強い魔法使いを目指しているわけでもないからな。それに比べて俺の方はキリヤとそこまで差がない。ずっと2人で組み手をやっていたのが理由だろう。
明日の修行の時、クレアの数値を聞いてみることにしよう。
◆
日曜日、学校の休みの日にクレアに早朝から起こされた。何と5時だ。そして俺が目を開け、クレアの姿を確認した途端、修行に行くよと言われた。中々に鬼畜な事をしてくれたもんだ。ソフィーラでの私服である外套を身に着け、開け閉めを繰り返す目をこすりながら、クレアについていくこと1時間。連れてこられた場所は、横も縦も広くてデカい建物だった。
「ここは?」
「私が通ってた大学。ちょっとここの訓練場を借りるの。ほら、あそこがそうだよ」
なんか俺の知らない所で凄い規模になっているのだが…。確かに本気で頼み込んだけど、ここまで本格的にされるとビビるんだけど。この訓練場も大会でも開くんじゃないかというくらいだだっ広い。
訓練場に入り、クレアと俺は対峙する。
「目は覚めた?」
「おかげさまで。じゃ、よろしく頼む」
「うん。じゃあまずは前座として、私に魔法を撃って」
「ああ」
左手に鎖を生成し、構えをとる。それに対してクレアは杖を地面につけながら持ち、何の構えも取らない。はっきり言ってどこからでも狙えるくらい隙だらけだ。
鎖を力強く振り、斬撃波をクレアに放った。当たれば服は破れて切り傷は免れない。しかし、クレアはその場から微動だにせず、ただ受けるのを待っているようにしか見えなかった。
「ハァッ!」
一瞬の出来事だった。クレアは俺の斬撃波を受け止めることなく、躱すことも跳ね返すことも無く、気合で消してしまった。いきなり格の違いを見せられたが、すぐに次の行動に移る。続いて鎖に魔力を練りこみ、振ることによって魔力弾は拡散弾となりクレアに襲い掛かる。
「意外と速いなー。さすがにこれは避けきれない」
クレアは何か小さく呟いたようだが、距離はかなり離れているためそれは聞き取れない。だけど表情は崩さず、余裕の笑みを浮かべているようだった。
俺の放った魔力弾は、最低限の動きで躱され、避けきれなかった物は素手で弾かれてしまった。わざと大きな格の違いを見せつけてきたクレアを睨み、鎖を握りなおす。
「じゃ、今度はお互い本気でやろっか」
「……分かった」
クレアに向かって一直線に走りだし、鎖を叩きつけた。それを杖で受け止め紫色の粒子が散る。そこからはキリヤとの組手でもしている縦、横、斜め、全方位で鎖の猛攻をするが、クレアは杖の上部で全て受け流す。
「せいっ!」
「っ、げほっげほ!」
「手に意識がいき過ぎて他が疎かになってるよ」
クレアは攻撃を受け流しつつ、弾いた途端、杖の石突で俺の腹に当てふっ飛ばした。すっかりクレアも地球の重力に慣れていて、しっかりと反応できている。
「刺さったらどうしてたんだよ……」
「大会だとそんな甘い事言ってる場合じゃないよ。それにちゃんと加減は考えてるって」
キリヤから聞いた大会のルールでは相手が戦闘不能になるか降参するかで決まるから、確かにそんなこと言っている場合ではない。ルールがルールのため、死ぬ可能性もあるらしい。何それどこの天下一武道会?怖すぎる。
「じゃ、次はこっちからいくよ」
「……こい」
俺が構えをとった瞬間、クレアはこちらに一直線に走ってきた。てっきり最初と同じで魔法撃ってくると思っていた。あんな魔導士みたいな恰好して肉弾戦かよ……。
一気に詰め寄ったクレアは杖を振りかざす。避けきれないと思った俺は鎖を両手に持ちガードの体勢に入る。
しかし、俺の鎖はクレアの杖によってあっさりと砕かれた。
「隙あり」
「ぐっ!がはっ!」
鎖を砕かれ、バランスを崩した俺に、クレアは魔力を込めた手で腹を直接殴った。俺は体をくの字に曲げ、腹を手で押さえる。
「とまぁ、このように体の一部に魔力を込めることによってダメージが増加する。どう?」
「もうちょいで吐きそうになった」
「あはは。久しぶりに闘ったからつい気合入れすぎちゃった」
年に似合わず日本特有のてへぺろをしたクレアに引く俺。いい大人がやるとこんなにもため息がでるのか……。シズクがやったら可愛いかもしれない。今度やらせようか。やってくれるか?
下らない思考は一旦置いておき、再び鎖を生成する。
「お?まだやる?」
「まだ30分も経ってねえし。後2時間はやる」
「死なないでよ?」
「死なない程度でよろしく」
クレアに掌を向け、足に鎖を生成し、足を拘束させた。おそらくクレアならすぐに解いてしまいそうだが、それも構わず俺は全力で走り出す。左手に持つ鎖をクレアに思い切り振った。しかし、先程と同様杖によって塞がれる。
「今だ!」
魔力をふんだんに込めた右手をクレアの腹に放った。会心の手応えだ。けど、掴まれている感触がある。そう、杖を両手で持っていたはずなのに、防がれていた。
「何でだ?」
「右手を振るうとき、左手の力が抜けたからだよ。おかげで片手を離すことができたの」
俺は一旦クレアと距離をとる。
「それにしてもそのパンチ。さっき言った事すぐにできちゃうんだ」
「まぁ、なんとなくで」
「秋葉原にいる魔法系のアニメが好きな人に魔法教えたらどうなるんだろうね?」
クレアは笑いながらそう言った。俺の予想だと才能次第で人類最強の魔法使いが誕生するだけだ。
「やっぱり慣れない事はするもんじゃないな」
「んーん、違うよ。慣れない事を慣れさせるのが修行。思いついたのはどんどん私に見せて」
どうせ全部受け止めちまうだろうが……。この短い修行で思い知った。俺はまだクレアにダメージどころか触れられやしない。
「そういや、クレアの魔力数値っていくつなんだ?」
「あ、数値のこと知ってるんだ」
「この間キリヤから聞いてな。俺はまだ70あたりだ。キリヤも同じくらい」
中一から魔法を始めたのに、俺はまだたったの70程度。400越えの人ってほとんど中年とかじゃないの?やはり数字というのは事実を突き付けられていると思ってへこんでしまう。
「私の数値は最後に測ったやつで400ちょいだよ。確か大学卒業するときに測ったんだっけ?」
フフンと胸を張るクレア。おいおい嘘だろ。俺と初めて出会った時からすでに400越えだと……。
改めてクレア=フローランという天才を認識した。才能に溺れることなく努力を続け、一流大学の頂に立った大魔法使いを。卑屈でネガティブで目が腐っている俺が、自然とそこに目指したいと柄にもない事を思っていた。俺の中身も魔法で変わってしまったのかもしれない。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
もう未完にはしません。活動報告に書いて大袈裟にしません。許してください何でもしますから!(なんでもするとは言ってない)
また次回。
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