東方追憶譚 ~the First Memory~ (ほーりーさん)
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プロローグ
プロローグ 〜分かってしまう少女〜
私は、答えのあるものが嫌いだ。
なぜ嫌いかって?理由は明白だ。
私は答えが分かってしまうからだ。
小学生になりたてだった私は事故に遭ったらしく、その時に記憶を失ってしまったようだ。家族は、事故で身寄りをなくしてしまった私を引き取ってくれたお義父さんとお義母さんだけだ。
その事故からしか記憶はないが、その頃からすでに答えが分かってしまっていた。特別な勉強をせずとも小学校のときからテストは満点、中学や高校のテストももちろん全て満点で、常に学年首席となっていた。この頃から、私は分かる事が嫌になってきた。
だから私は、勧められていた理系学科の大学に行かずに文系の学科の大学に入った。その入試ですら答えが分かってしまっていたのだが。
それでも、お義父さんは私のやりたいようにしろって言ってくれた。お義父さんも科学者の端くれだが、私をそっちの世界に引っ張らずにいてくれた。時々手伝ってくれと言われる時もあるけど。
大学に行けば、きっと私にもわからないことがあるだろう。そう思ってここに来たのに、やっぱり答えが分かってしまう。
私は分かりたくなかったから、答えの無いものを見たいが為に図書館へ行っていた。
いろいろな世界の本や冒険譚はとても楽しい。理解しきれない事がたくさんある。
本を読み始めたのは、高校時代に唯一仲が良かった友達が、勧めてくれたからだ。
彼女は幻想的な物語や世界の本が好きで、私にいろいろな本を勧めてくれた。分かってしまうことも結構あったが、それでも彼女は私にいろいろな本を勧めてくれた。
そういえば彼女に連れられて、山の中にある神社まで行ったこともあったな。あのときの気持ちは、理解しようとしてできるようなものではない、そんな不思議な感じだった。神社のご利益だったのかな?
それから間もなくして、彼女は突然失踪した。先生の話だと引っ越したと言っていたが、彼女が一言も告げずにいなくなるはずがないと思った。
でも私は全て分かってしまう。そんな自分を過信して彼女を探そうとしたが、彼女は見つからなかった。
あのときの私は、どうしてと言ってずっと泣いていた。そして、彼女が言っていた言葉を思い出した。
「こんな不思議な世界に行ってみたいですよね」
そのとき、私はなぜか悟った。彼女はきっと別の世界に行ってしまったのだろう。
どのようにして行ったのかはわからないが、私はそう確信した。そして、そこで彼女が幸せならばそれでいいと思っていた。
彼女がどんな世界にいるのかわからないが、彼女が見てきた景色を私も見て見たい。
そんな風に思いながら、私は今日も本を読んでいた。
そして書庫の奥に置いてあったとある本を読んでいると、一枚の写真が目に入った。
その写真を見たとき、物語が動き出した。
これは全てが分かってしまう少女と、全てが幻想で包まれ分かることができない世界の物語。
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第1章 少女と幻想
少女と図書館
「ふう、やっと終わった」
私は大学の講義が終わったら部屋を出て足早に図書館に向かった。
まだ日は暮れる様子はないが、油断してたら一気に日が落ちてしまう。
今この太陽の角度的に…
「ちょうど3時47分かな…?」
バックに入ってるケータイを確認したところ、ちょうど3時47分。いつも通りだ。
今の季節は秋、夏の暑さもだんだんとなくなってきて、少し肌寒くなってきた。カーディガンでちょうど良いくらいだ。
しばらく歩いていると、大学の本館から少し離れた図書館に着いた。
この間借りていた本がもう少しで読み終わるから、それを読んでから新しい本を借りよう。
そう思いながら私はいつもの席に座った。バッグからiPodとイヤホンを出して、好きなアーティストの曲を再生し自分の世界を作り、本の世界に没頭する。
そして数分の後、借りていた本を読み終えた。
「なんだか今回の話は、最後のシーン無理やり感があったな…」
すこしだけがっかりだった。
そして私は本を返しにカウンターへ向かった。バッグを盗む人もいないだろうが、一応持って返しに行く。
「あら、詩音さん。もう本は読み終わったのですか?」
唐突に私に声をかけてきて少し驚いたが、ここで私に呼びかけてくれる人は一人だ。
この人はよく本を紹介してくれる司書さんだ。名前は…フルネームは覚えていないが
「こんにちは、紫さん。今回の本は悪くはなかったんですけど、最後がちょっと無理やり押し込んだ感があって私は微妙でした」
この本は紫さんにおすすめされて読んだが、ここは素直な感想を告げておいた。
ちょっとストレートすぎたかなと思ったけど紫さんは、
「そうなのよね、この作者ってストーリーの構成や心境の変化などの描写は上手いのだけれど、物語の締めがいつも甘くなっちゃうのよね」
やっぱり紫さんもそう思っていたんだ。
そういえばまだ私のことを話していなかった。
私は宮野詩音、東京の郊外にあるそこそこの学力で入れる大学に通っている19歳の学生。お母さんはホテルでパートをしていて、お父さんは科学者。
ちなみに二人は私の本当の両親ではない。事故で両親を亡くした私を、両親の友人である二人が引き取ってくれたのだ。
それからの私の生活はいろいろとあったが、大学まで入ることができ、現在のように親しい友人もいるわけでもなく、図書館に入り浸ってるわけだ。
その時に、ここの司書さんである紫さんと出会ったのだ。
それにしても紫さんはいつも綺麗だな。見た目は私より少し年上のお姉さんという感じなのに、内面は私よりはるかに長く生きているような雰囲気がある。なんというか、妖艶という言葉が似合う女性だ。
「それで、もう返しちゃうの?」
そうだ、私は本を返して新しい本を借りようとしていたのだ。
そう思いつつ私は紫さんに、「この本を返却でお願いします」と言いつつ本を渡した。
次に借りるのはどんなものにしようかな、久しぶりにSF物でも読んでみようかなと思った時、突然ブルブルと私のケータイが震えた。
「ちょっとすみません」
と言いつつ私はケータイの受信記録を見た。
メールはお父さんから来ていた。内容は、「まだ大学の図書館にいるか?いたらできればでいいが、〇〇って科学者の論集があると思うから借りてきてくれないか? P.S. 今日の夕食はハンバーグだからな」
まったくお父さんは、娘に研究資料を借りに行かせるなんて。
「またお父さんに論文借りてきてって言われたの?」
さすが紫さん、鋭い。
「ちょっと探してきますね」
そう言いつつ、私は論文などが置いてある書庫に向かっていった。すると紫さんが、
「それなら今度は、書庫にある古い文献でも読んでみたらどうかしら?」
と言ってくれた。
なるほど、確かにそれはよさそうだ。面白そうな本があるかもしれない。借りれない本もあるかもしれないけど…
そう思いつつ、私は書庫へ早足で向かった。
____________________________________________
「うーんと…あ、この人のか。てことはこの辺りに…あった」
私は真っ先にお父さんに言われた科学者の論集を見つけた。
よし、それじゃあ次は私の読む本を探そう。
そう思い私は少し奥にある古い文献のある棚の方へ向かった。
しかし、どれを見てみてもなかなかピンとくるような本は見つからない。
少し上の方にある本も見てみようと思い、私は脚立を持ってきた。
「うーん、この辺りになにかあるかな…きゃっ!」
私は本を1冊取ろうとしたら棚の本がまとめて出てき、バランスを崩してそのまま落ちてしまった。
「いったた…お尻から落ちたのが幸いだった…」
私はお尻をさすりながら立ち上がる。
一面に落ちてきた本が散らばっている。
「あーこれ自分で片付けないといけないのか…」
私はため息をついた。あとここは図書館の中でも人が滅多に入ってこない場所だ。大きな怪我もなくてよかったなと内面ホッとしている。
私は手元に落ちている本を手に取った、一応中身を少し読んでみてそのまま棚に戻す。
作業を繰り返していると1冊の本が目に入った。
本のタイトルは「東方文化帖」。私は、この本の著者の名前を見てみた。
「
初めて見た名前だったが、なぜだか聞き覚えのある名前だった。
私は、何か違和感を覚えながらも本を開いてみた。
本の中身は、古い本とは裏腹にカラーの写真が使われていた。というよりは貼り付けられていた。
赤、青、緑の綺麗な写真だ。真ん中に人が立っているように見えるが、その人は何をやっているのだろうか?
ページをめくるたびに私の知らない感情が芽生え始める。この景色を見たことがる。
そんな中、私は一組の女性たちに目がいった。赤と青の奇抜な服を着た女性と、長い黒髪でピンク色の和服を着ている少女の姿。
「あれ、この二人って…」
私はこの二人に会ったことがある、それにこの景色は…月?
私の頭は混乱していた。初めて見たはずなのになぜか直に見たことのある景色ばかりだ。
そして最後に書かれているこの女性、
幻想郷の管理者、この本ではそう説明されている。
これは一体どういうことなのだろうか?ここは一体何処なのだろうか?
謎が募っていくばかりだ。
そのようなことを考えたら鐘が鳴り響いた。ケータイを見てみたらもう6時を過ぎていた。
「あ、もう帰らないと…」
とりあえずはこの本借りて行こうかな。でもその前にこの散らかっている本を元に戻さないとな。
とは言っても残っているのはあと少しだし、5分くらいで戻せるだろう。
そして4分と36秒後に全ての本を戻し終える。
早くしないと帰るのが遅くなってしまう。
私はすぐにカウンターで借りて帰った。途中でお父さんに頼まれた本を忘れて戻ったのだけれど。
帰ったらこの本のことをいろいろと考えよう。
そういえば帰るときに紫さんがいなかったのはなんでだろうか?
続く
最後まで閲覧くださりありがとうございます。
今回はアークス幻想記とは少しイメージを変えて書いてみたのですがいかがだったでしょうか?
まだまだ文章力が皆無な物語ですが、意見などを言って貰えばありがたいです。
2話はそう長くはならないように投稿しようと思っております。
アークス幻想記?も、もちろん忘れてないですよ(明後日の方向)
とりあえず、今回もこんなあとがきまで読んでくださり、ありがとうございます。
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少女の幻想世界考察
家の前でケータイを確認する。今の時間は6時50分。
うん、よくある時間だね。
そんなことを思いながら私は家のドアを開けた。
「ただいま」
「おう、おかえり」
出迎えてくれたのは珍しく、お父さんだった。ということは多分お母さんは夜勤なのだろう。
「ご飯はもう出来てるの?」
「ああ、今さっき出来たところだ。お前の好きなハンバーグだぞ」
この人の名前は宮野恭平。職業は科学者で、私の義理の父親だ。
私の本当のお父さんとは親友だったらしい。
普段は研究所で日夜研究をしているそうだが、今はどんなことをしているかわからない。
そして、科学者というところからは似合わないほど、料理が上手だ。
正直なことをいうとお母さんの作る料理よりも美味しい。
私は部屋に荷物を置いてきてさっそく夕食のハンバーグを食べ始めた。
うん、相変わらず美味しい。
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部屋に戻ったら、今日借りてきた本を取り出してみた。
どのページを見てもやはり見覚えのあるような気がする。
そこで、大学で見たときよりさらにじっくり読んでみた。すると、さらに見覚えのある写真があった。
緑色の髪の少女。この娘、あの娘に似ている。
あの夏の日に、私の腕を引いて知らない場所まで連れて行ってくれた、あの娘の髪に。
私がさらにぺージを捲ると、この幻想郷と呼ばれる世界の地図が載っていた。ここまで読んで、私は幾つか「解った」ことがある。
まず、一つは、この本が割と最近に書かれたものだということ。
そして二つ目は、この世界は実際に存在するということ。
さらに三つ目に、その世界がここ日本の真ん中のあたりの位置の、長野県にあるということだ。
なぜだか私は、写真に写る影の角度や太陽の位置、その土地の地形などだけでその写真がどのあたりで撮られたのか、さらには書いてある文字のインクの染み具合などだけで書かれてからの時間がわかったりする。
自分でもなぜここまでのことが出来るのかがわからない。
でも、もしかしたらここに行けば何か解るのかもしれない。
そんな気がしていた。
そういえば、お父さんの行く研究所の中には確か長野県にあるところもあった気がする。今度久しぶりに連れて行ってもらおうかな?その時にでも調べてみよう。
と、そんなことを考えていると、後ろからガサガサと音が聞こえた。
私が振り返ると、そこに置いてある少し大きめのケージの中で真っ白な赤目のウサギが眠そうな顔をしてこちらを見上げていた。
「あ、今日はまだ出してあげてなかったね。卯月」
私はそう言いながらケージに入ってるウサギを出してあげた。
この子は私が飼っているウサギの卯月。
この子は昔友達と山で遊んでた時に見つけた子で、当時は足を怪我していた。私が見つけて怪我を治療してあげて、治ってから山に帰そうかと思ったら私に懐いてしまって。なぜか私についてきてしまったので家で飼うことにした。
そういえばこの子を見つけたのも長野の山だったっけ?
せっかくだからこの子も今度連れて行こうかな?
この子、意外と抱っこされながら散歩されるの好きみたいだし。
と、ついでだからネットでもう少し細かい位置も調べておこう。
さっき調べた時点で、なんとなく座標はわかっていた。ネットで調べるのも、そこまで苦ではない。
しかし、大雑把な場所はわかったが、本に載ってる写真はネットをいくら探しても見つからなかった。
しかし、その場所もお父さんの研究所からそう遠くはなかった。
研究所から徒歩ならば、だいたい1時間くらいの距離だ。
そこまで分かれば、あとは実際に行ってみるだけだ。
お父さんに研究所に連れて行ってもらえるか話してこよう。
と思ったところで、お父さんに頼まれていた本のことを思い出した。
私は、頼まれた本を持ってお父さんに渡しにいった。渡しに行くのとついでに研究所に行きたいと言ってみた。お父さんはいいよと言ってくれたが、長野の研究所に行きたいと言ったら少し驚いた顔をしていた。
お父さんは許可を出してくれたが、話が終わるとぶつぶつ独り言をしながら部屋に戻って行った。
少し気になったが、考えても仕方がないので私も部屋に戻った。
二階に上がったところで、部屋のドアが開きっぱなしなのに気がついた。どうやらドアを開けたままで部屋を出たみたいだが、卯月は出てないだろうか?
そう思いながら部屋に戻ったが、普通に私の椅子の上にちょこんと座っていた。
「よかった、出てなかったんだね」
私は卯月にそう言いながら近づくと、一つだけ違和感を感じた。
さっきまで使っていたパソコンのウィンドウが、全て閉じられていたのだ。
たしかさっきまで地図を開いていたはずだったんだけどな。
もしかしたら、部屋を出る時に無意識に消したのだろうと思いながら、またインターネットを立ち上げた。
履歴からさっきのページを開こうとした時に、またおかしなことが起きた。
履歴の一番上に来るのは一番最後に開いたぺージのはずなのに、なぜか動画サイトが一番上の項目に表示されている。
たしかに私もこの動画サイトを使っているが、さっきまでは使っていなかった。
まあさっきの地図に関しては、だいたい覚えてたからもう開かなくていいかなと思い、私はそのまま動画サイトを開いて卯月を膝に乗せて一緒によく見ているゲームの動画を見始めた。
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一方、そのころ
とある場所では、二人の女性が話していた。
「あなた、なぜあの子にこの世界のことを教えたの?」
「いえいえ、私はただあの子に本を勧めただけですよ」
「だからって、なぜ「あの本」を外の世界に持って行ったの?それにあなたにはあの子の監視をしているよう言ったはずよ?」
「そりゃあ、ただ見ているだけではつまらないもの。それに、「あの本」は私の「私物」ですし」
「はあ、もうあなたには何を言っても通じないみたいね…」
「私がこういう性格だっていうのは、あなたが一番わかっているでしょ?」
女性はため息をついた。
「はあ、全く。あなた、私の式だというのを忘れないでよね?」
「分かっているますよ、『
そう一言言うと、女性は忽然と姿を消した。
一人残った女性はため息をつきながらこう言った。
「はあ、本当に大丈夫かしら?」
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再び、宮野宅では
「あれ?このゲームまた勝手にレベルが上がってる…」
私は時々、オンラインゲームをやっているのだが、最近ちょくちょくとレベルが勝手に上がっている気がする。
誰かに勝手にプレイされてるのかと思ったが、幸い武器を勝手に売られたりしているわけではないみたいなので、そこまで気にはしていなかった。
それに、フレンド欄を見てみると、知らない人がいたりする。
「このカーミラってプレイヤー誰なんだろう?一緒にプレイしたことあったかな?」
少し一緒にプレイした人から申請が来るのは、私も解るが、時々見たことのない人からきてるみたいだ。
まあ、申請を断る理由もないから承認するが。実際フレンドになった人とまた一緒に遊ぶことは、実はそんな多くない。
一応高校生の時からプレイしていたから昔から仲が良かった人たちとは時々一緒にプレイしていたりする。
彼女を除いては…
「やっぱりやっていないか…」
彼女がログインしてないことがわかったら、私はゲームを消してパソコンの電源も落とした。
私は卯月をケージに戻して、そのまま寝ることにした。
運良く、今週末にはお父さんが長野に行くみたいなので、それに同行することになった。
少しどきどきしていてあまり寝れそうにない。まるで遠足に行く前日の小学生みたいな気分だ。行くのは明後日だというのに。
私は、いつもの音楽をスピーカーで再生しながらいつものように寝ることにした。
この曲は、私の好きな作曲家であるヴァイオリニストのレイラという人のものだ。最近知った話だと、このレイラさんは私より年下だったとか。
ここ最近デビューしたらしいが、この人の曲がとても素晴らしい。
今ネットでもとても話題になっている。
しかし、この子の情報などは全然ネットなどに公開されてないため、年下だと知ったのもここ数日前だ。
そんな彼女の曲を聴きながら目を閉じると、私は自然と眠れる気がする。
赤ちゃんが子守唄を聴いて眠るような、そんな感覚だ。
そんなことを考えているうちに、私は深い眠りについた。
続く
みなさん、お久しぶりです。
大変お待たせいたしました、東方追憶譚でしたがどうでしたでしょうか?
次の回も、できれば早めに投稿したいと思います。
夏ぐらいには投稿できたらいいな〜
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少女と過去の記憶
大学の図書館から本を借りてきてからもう2日が経った。
「詩音、もう準備はいいか?」
お父さんはもう準備ができたみたいだ。私は1日分の着替えを荷物に入れてお父さんの車に乗り込んだ。
私は今から長野にあるお父さんの研究所に同行させてもらうことになった。
研究所に行くが、本来の目的は研究所ではない。
私は大学で見つけた本に書かれていた、「幻想郷」という場所を調べに来たのだ。
そのために、私は本も持って行こうと思ったが、よく考えると大学の本であるために持って行って無くしてはまずい。そのために昨日私は家で本をコピーして、大学へ本を返してきた。
そういえば、図書館の司書さんもこの本に見覚えがないって言っていた。
紫さんも昨日は休みだったけどどうしたのだろう?
そんなことを考えてるうちに私は車に荷物を入れた。入れたと言っても洋服を入れた荷物と、携帯やiPod、コピーした本を入れるメッセンジャーバッグだけだ。それと手で卯月を抱えている。
出かける時、卯月を抱えて出かけるのが多かったためか、なぜか慣れてしまっていた。
私は卯月と一緒に車に乗り込み、3時間ほど揺られて長野県についた。
9時38分、お父さんとともに研究所の人たちに挨拶をしてから、研究員用の寮に荷物を置いて現地調査を開始した。
お父さんにも一応調べたいことがあると言ったが、お父さんは特に何も言わずに「夕食までには帰ってこいよ」とだけ言った。
10時頃に、私は研究所の近くのバス停から目的地まで向かった。目的地は手掛かりとなりそうな「博麗神社」に行こうと思った。
博麗神社は幻想郷にいる「博麗の巫女」が住んでいるという神社だが、どうやら幻想郷の中と外の両方に存在するらしい。
私は神社の神主に幻想郷について聞こうと思っている。
そう思ってバスに乗り込み、またもや1時間ほど揺られている中、私は山の風景を眺めながら眠りについた。
「では師匠、お薬の配達に行ってきますね」
「ええ、気をつけて行ってらっしゃい」
兎の少女は師匠と呼んだ女性に告げると、竹林にある屋敷を足早に出て行った。
「今日の配達は、人里で3件と紅魔館、そして博麗神社ね。紅魔館はまだいいんだけど、博麗神社は少し遠いなぁ」
少女はため息をつくと、視界の端に映った一軒の民家に目をやり、寂しげな表情でつぶやいた。
「そういえば、彼女がここを去ってからもうそろそろ10年も経つんだ…」
少女は今でも、この家を見るたびに彼女と過ごしていたあの日々を思い出している。
「もう10年経ってるってことは、そろそろ大人になっているのかな?たしかあの時が9歳だったから…今は19歳になってるのか」
当時の思い出にふけっていたが、彼女は今自分がすべきことを思い出した。
彼女は民家を後にしたが、見えなくなりそうなところで一度足を止めて振り返った。
「また…会えるかな?」
そう呟くと、少女はまた足を進めていった。
「博麗神社前〜、博麗神社前〜」
そのアナウンスを聞いた私は、席から立ち上がりバスから降りようとした。
すると、バスの運転手に呼び止められた。
「こんなところに女性1人で大丈夫ですか?」
「え?どういうことですか?」
詩音は突然のことに困惑するが、運転手が言ったことは2つだった。
1つは、博麗神社は数年前に無くなっているということ。
神社そのものが取り壊されたというわけではないが、数年前に廃社となっていたらしい。
2つ目は、この地域のバスは1日に三本しか来なく、今日は夕方にあと一本だけらしい。具体的には6時半ぐらいだそうだ。
一応時間を忘れないようにアラームを設定しておこう。時間はバスの来るい時間ほど前でいいか。
私は忠告してくれたバスの運転手に礼を言うと、バスを後にして神社へと向かった。
そこそこ長い階段を登り見えてきた鳥居をくぐると、そこには寂れた神社があった。手水舎の水は枯れて、本殿の屋根は所々ぼろぼろになっていた。
バスの運転手さんはいろいろ見て回っても大丈夫だろうって言っていたし、境内をいろいろと見て回ることにした
しかし、境内をいくら見て回ったところで何かが出てくるわけではなかった。
「まあ、そんな簡単にはいかないよね」
これ以上境内を探したところで何もないと考え、私は神社の裏へと回ってみた。
神社の裏へまわると、木々が生い茂る自然の豊かな光景が広がっていた。
本殿の裏には地元の高校生が書いたであろう落書きがいくつか書かれていた。数年前までは参拝客もいたのだろうと伺える。
森の中を少し進むと、突然と違和感を感じた。このまま進むと、きっとたどり着ける。そんな予感がして私はどんどん森の奥へと進んでいた。
少し進んだところには小さな池が広がっていた。
池の周りを少し進むと、目の前に奇妙なものを見つけた。それは変なモヤモヤしたものだった。
きっとこの先に探しているものがあるのだろうと思い、私はモヤモヤに手を当てた。
すると、途端にこのモヤモヤの仕組みが頭の中に流れ込む。そしてその流れてくるものは、どこかで見覚えがあった。
しばらく流れてくるものを見ていると、私はこれを完全に『理解』することができた。
これがあの本に書かれていた「博麗大結界」だ。
そして、私はこの大結界の仕組みを完全に『理解』できている。私でもなぜ理解できているのかわからないが、その事実だけは分かる。
私はどのようのしてやっているのかわかっていないが、私はこの結界を再演算して一部を開くことができた。
このまま入って大丈夫なのか、そんなことを思いながら私は開いたモヤの前に立ちすくんでいた。
開いた先を覗き込んでも、周りとは特にかわった様子はなかった。
そう思った時に突然と開いたモヤが閉まり始めた。
私は反射的にモヤの中へと入ってしまった。
突発的に入ってしまったことを後悔してしまったが、後ろのモヤをもう一度触れてみたところ、こちら側からも開けられるらしい。
ちゃんと戻れることを確認して安堵するのもつかの間、今度は手に抱えていた卯月が突然地面へと降りて走って行った。
「あ、ちょっと卯月!」
私は慌てて卯月の後を追いかけた。
追いかけて森の中を抜けると、見覚えのある建物が見えてきた。
「あれ、この建物…」
少しずつ建物へと近づくと何の建物かがわかってきた。
おそらく、この建物が本当の博麗神社なのだろう。そんな感じがしていた。
そして神社のそばにある建物の縁側に置いてある座布団の上に卯月は座っていた。
「もう、卯月ったら」
私は座布団の上にいる卯月を抱え上げ、神社の表へと向かった。
博麗神社に無事に着けたものの、境内には誰もいなかった。ここの巫女である「博麗霊夢」という方にこの幻想郷のことを聞こうと思っていたのに。
しかし、ここから神社の正面へ目を向けると、神々しい秋の山の風景が広がっていた。その赤い山々を見ていると、民家の集まりのような場所が見えた。
きっとあの本に書いてあった、ここに住む人々が暮らしている郷なのだろう。
私はその郷を次の目的地として神社を去ろうとしたが、あの本にこの神社の巫女が貧乏巫女と言われていたのを思い出した。
「まあ人里とここまで離れていたら人もあまり来ないだろうな…」
そう思い私は本殿の方へと向かいお参りをしてきた。せっかくなので御賽銭箱には千円札を入れていった。これで私の残金は6,680円だ。
お参りもして私は神社を去ろうとした。するとまた卯月が飛び降りて駆け出した。そのまま神社の鳥居へと走って行ったので、私もその後を追いかけた。
「あー!あんたこんなところにいたの!?」
突然、鳥居の先の階段から大きな声が聞こえた。
私は急いで向かうと、何とも奇妙な光景を目にした。
目の前には、うさ耳の付いている少女がうさぎの首根っこを掴んでいたのだ。
それも卯月に説教するかのように喋っている。
「あんた最近見かけないと思ったら何してんのよ!他のうさぎたちがどれだけ心配したと思ってるの!」
私がその光景を漠然と眺めていると、少女はこちらに気づいたのか顔を赤らめて頭を下げ、「と、突然大声をあげてすみません…」と謝罪してきた。
「い、いえ。大丈夫です」と私が告げると、うさ耳を着けた少女は何かに気づいたのか私の顔を見あげた。
「え…?も、もしかして、
突然名前を呼ばれて困惑する。私はとっさに、
「は、はい。宮野詩音です」と謎の回答をしてしまった。
私は内心、なんで名前を呼ばれていきなり自己紹介しているんだと真っ赤になっていた。
「あれ、別人?いやでも確か
少女も何か困惑しているようだ、このままでは埒が明かないと思い、
「あの、よければ落ち着いて話をしませんか?」
と提案した。
「そ、そうですね」と少女は一言言うと、大きく深呼吸をした。
その隙を見計らったかのように、卯月が少女の手から離れた。少女が「あっ!」と言った時には私の方へと戻って来ていた。
それからしばらくして、私たちは階段に腰をかけて話を始めた。
「先ほどは取り乱してしまいすみません、私は
といい、自分の名前を漢字で紙に書いてくれた。
「い、いえ。私の方こそすみません。えっと、私は宮野詩音といいます」
などというぎこちない自己紹介から始まった。
そして私もその紙に自分の名前を書いた。
「あ、私の名前は長いので気軽に鈴仙などと呼んでください」
ここで鈴仙と言われて私は思い出した。
たしかあの本の中に名前が書いてあったのを思い出し、私はそのページのコピーをバッグから取り出した。
そこには迷いの竹林の奥にある、永遠亭と呼ばれる建物に住んでいる月のうさぎだと書かれていた。
「ほんもののうさぎってことは、もしかしてその耳は…」
「あ、本物ですけど。触ってみます?」
そういうと、鈴仙は耳をピクピク動かした。
「そういえば、昔もあなたに触らせてってせがまれたことがありましたね」
「え?」
私は突然昔のことと言われて困惑した。
すると鈴仙が思い出したかのように言った。
「あ、そうでした。詩音さんはたしか記憶を消して外の世界に行ったんでしたね」
記憶を消して?私の知らない情報がどんどんと流れてきて私の頭が混乱してきた。
やはりここが私の故郷だったのか。それだけが頭の中でわかったことだ。
「えっと、やっぱり覚えていないですよね?」
「は、はい。覚えていないので、それを知るためにここに来たんです」
そうですか、と鈴仙は一言言うと、立ち上がってこう告げた。
「それじゃあ思い出せなくても、まずは私のことを覚えてくださいね。私は昔、あなたがここにいた時に、あなたの、詩音さんの教育係をしていたんです!」
教育係、そう言われた時に彼女に勉強を教わっている自分の姿が、彼女と一緒に出かけていた日々、彼女が私に向けて涙を流した表情、そんな記憶が目に浮かんだ。
「あ、あれ?なんだろう、これ?」
涙が溢れてきた。どうしてこんなにも大切だった人を私は忘れていたんだろう。大切だった人を、そんな感情が胸の中を駆け巡った。
すると、彼女が私の頭をポンポンと撫でて抱いてくれた。
「大丈夫ですよ、また覚えていけば、大丈夫です」
彼女のその一言で、私は思いっきり泣きだした。私が泣いている間、彼女はずっと「大丈夫ですよ」と囁き続けていた。
しばらくして、私が落ち着いたところで鈴仙が私にこの後どうするかと聞いてきた。
「この後は人里に行って話を聞こうと思っていたけど、鈴仙に聞くのが一番だよね」
実際この世界のこと、私の過去に何があったのかなど、聞きたいことはたくさんあったが、どれも鈴仙に聞くのが一番だ。
「それなら、一度永遠亭に行きましょう。私も細かい話はわからないですが、師匠から聞いた方が確実でしょうし」
私はふと気になったので少し聞いてみた。
「そういえば、さっきこの卯月に対してすごい怒っていたみたいですけど、この子のこと知っているの?」
「ん?もしかしてあんた、詩音さんにちゃんと話してなかったの?」
また卯月に対して話しかけている。すると卯月は突然私の膝から降りた。
「やっと言う気になったみたいね。にしても卯月っていう名前まで付けてもらって」
「え?どういうこと?」
私がよくわからないままに、卯月は突然ポンッ!っと煙に包まれた。
少し視界が悪くなったが、だんだん煙が晴れてくるとそこには。
「なんでこんなところで鈴仙にバレるのかなー」
そこには、うさ耳のついた、一人の赤毛の少女が立っていた。
続く
お待たせいたしまし。最近プロットが纏まったので、ようやく書き上げることができました。
今回は鈴仙が出てきましたが、私は普段鈴仙ではなくうどんげと呼んでいます。
ちなみに本来は最初に霊夢と詩音を遭遇させるつもりでしたが、物語の今後の展開的に霊夢には妖怪退治に行ってもらいました。ごめんね霊夢。
さて、次回から幻想郷編の始まりです。今後は東方キャラをどんどん登場させるつもりですので、楽しみにしてください。
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