鬼と骨 オーバーロード (たる・とり)
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第壱話--転移--

ユグドラシエル最終日、そして異世界にモモンガが転移したあの日。
一人の鬼が同一時期に異世界に飛ばされていたら・・・?

オリジナル主人公がナザリックメンバーとは別に転移したらのIFストーリー

丸山くがね先生のオーバーロードの二次創作作品です。
ベースは書籍版、アニメ版となりますがオリジナル設定、魔法、スキル、人物、捏造
又、別作品からネタや名前等、アイテム、グロ描写など登場する予定ですのでご注意下さい。


DMMORPG ユグドラシエル 発売当時革新的ともいえる自由度の高さで一世を風靡した。

 

職業やスキル、武具などをは始め、作りこみ要素をふんだんに盛り込んであり、

クリエイトツールを使えば自分の思い描いたキャラクターを作成でき、絶大な人気を誇っていた。

 

無限の楽しみを追求できるDMMO、しかしその人気も一昔前・・・

長い月日が経過し、人気も下火になったことで輝かしい栄光に終止符(サービス終了)を告げることになった。

 

そんなサービス終了日の夜・・・

 

「あっこれも安い!買いですね!」

サービス終了日ということもあり、投売りの価格で神器級の作成に必要なデータクリスタルや

現物が多数販売されているのを買い漁る巫女服を着た女。

「これなら全部揃えられるかも、時間ももうあんまりないし帰ってさっそく・・!」

サービス終了まで2時間を切るころになり、残っているプレイヤーやGMがオープンチャットで盛り上がってる中、

独り言を呟きながらいそいそと買い占めた品をストレージに放り込み転移魔法で自宅に帰る。

 

転移した先は神社の境内。

裏手に回り敷地内にに増設した離れにある工房に一直線に向かい、さっそく買い占めた品々をストレージから作業台の上に広げていく。

「~~~♪」

上機嫌で買ってきたデータクリスタルを組み立て、次々に神器級の武器や防具の基礎(ベース)を作ってく。

それらに元から用意していたテクスチャーと組み合わせて出来たものからストレージに放り込む。

作業を始めて1時間が経過するころにはすっかり作業台の上にあったものは、加工されストレージに収納されていた。

 

「なんとか時間には間に合いそうですね」

一人呟くと工房を扉を開け、境内の大きな桜の元へ向かう。

桜の下には6人、自分の本当の子供のように手塩に掛けたNPCが待機していた。

大太刀を腰に履いた全身武者鎧姿、天目(てんもく)

黒い翼を生やして弓と矢筒を持った天狗の面を付けた男、鴉丸(からすま)

頭から狐の耳と9本の尻尾を生やした巫女服をきた童女、玉藻(たまも)

精緻に模様を編み込まれた振袖を纏った妙齢な女、宵月(よいづき)

顔立ちが瓜二つの真っ黒な丈の短い巫女装束の服装の少女と真っ赤な花魁のように着崩した和装を纏う少女、咲夜(さくや)時乃(ときの)

大人の力(課金)をふんだんに注ぎ込んで外見から装備までこだわりぬいたNPC(自慢の子供)だ。

 

 

NPC達の前に着くなり、先ほど作り上げた装備を今まで装備させていた装備と入れ替えていく。

着せ替え人形の如く、NPC達の装備を切り替え終わったころには、もう時刻はサービス終了の5分前を指していた。

 

「うん、これでばっちりね。 最後くらいは晴れ姿にしてあげたかったし遅くなっちゃったけどなんとか揃えられてよかった・・」

NPC達に装備させた神器級の装備を眺め、満足そうに頷きながら花見用に置いておいた縁台に腰掛け

 

「でももうあと少しで此処ともお別れなんて・・・寂しいですねぇ・・・」

惜しむようにNPC達を、桜を、そして神社を眺めながら

「はぁ・・・こんなに居心地の場所なのに、出来るならずっとここに居たいのに・・」

ユグドラシエルでの楽しかった出来事が走馬灯のように頭の中を過ぎる中、

刻一刻と流れる時を数え、幻想の終わりが近づいていき---

23:59:59

00:00:00

---そして世界が切り替わった---

 

「あれ・・・?」

何時までたってもこない終わりに首を傾げ、コンソールを開こうとするが--

「コンソールが開かない? なにこれ、バグ?不具合?そんな馬鹿なことって・・」

GMコールや強制遮断などを試してみるがどれも反応はなく、打開策がまったく見えず頭を抱える。

明日は平日、このままログアウトできなければ睡眠時間、果ては仕事に響くことは間違いない。

そうなったらどうしよう・・・と考えていると

「主様、如何されましたでしょうか?」

だれもいないはずなのに声を掛けられた。

いったい誰が・・・?と思い声の主を探す.

そこには我が子同然のNPC達がこちらを不安げに、そして心配そうに見つめていた。

「そんな・・・・うそ・・・!?」

「どうされましたか、主様!」

あまりの衝撃に、そうゲームではありえないほどの行きてる感情をNPC達が見え、そして会話することに・・・

ぽつりと零れた言葉により一層の不安を感じたNPC達は主に付き添うように傍に近づく。

 

「いえ・・・もう大丈夫よ。しばらく下がってて」

「御意」

必死に頭を再起動してなんとか声を絞り出すようにNPC達に声をかけ、状況を整理していく。

 

運営に問い合わせ、出来ない。コンソールでのログアウト、無理そもそもコンソールが開かない。

強制ログアウト、不可能・・・。それになによりさっきの・・・

『NPC達が勝手に話しかけてきた』

一体全体これはどうゆうことなの?まさか・・・?

自分の口元に手を当て---

口が動いてる・・・?そんなありえない!

ユグドラシエルでは、いやDMMORPGでは絶対にありえない現象が起こっていた。

外装の表情は固定され動かない。例外的にマクロや特定感情タブを作って、それ毎に登録すれば表情を動かすことはできる。

しかし発する言葉に完全に・・・・そうまるで生きてるかのごとく口が動いてるこれはDMMORPGではありえないことなのだ。

それに加えて・・・甘い匂いが鼻腔をくすぐる、現実世界ではもうありえない桜の匂いが。

「まさかゲームの世界が現実になった・・・?それともゲームが現実の世界になったとでもいうの?」

普通であれば悲嘆にくれる状況であるが、しかし--

--現実世界よりこっちの方が楽しいし、世界も現実ではありえない程綺麗だから悩むことないじゃない--

と一人心の中で結論を出していた。

 

「まずは周囲の状況の確認しないと・・・かな」

「その役目、我等にお任せください、主様」

黒い大きな翼を生やした鴉丸が6人を代表して話かけてきた。

んっ?また勝手に話しかけてきた?そういえば6人の纏め役だったわね、鴉丸は。

もしかしてこの子達、完全に生きているの?

独立した考えを持って行動できるの?というか拠点の外に出られるの、この子達?

「えっとあなた達、ここから外に出れるの?」

「・・・?はい、今すぐにでも」

なぜそんな事を聞くのかと不思議に、感じながらも答える。

あーこの子達も大きくなって・・・って違うそうじゃない。

「じゃあ各自傭兵モンスターを呼び出して・・」

「お待ち下さい」「神楽様」

黒と赤の少女達が割り込む様に声を上げる。

「なにかしら、咲夜、時乃?」

そういえば咲夜と時乃は双子って設定してたっけ。

黒と赤の虹彩異色(オッドアイ)で二人で一人のコンセプトで宝物殿の管理と運営も一緒にしてるって設定してたけど。

「傭兵を呼び出すための金貨は」「もう宝物殿にほとんど残されていません、神楽様」

「・・・・・え? な、なな、なんで!?いつの間に!?運営資金として結構あったのに、って、あっ・・・」

そうだ最終日だからって、運営資金のほとんどを装備作るのに使っちゃんだった・・・

やばい、やばいどうしよう!異世界にきたのに初日でもう積んでるってこと!?

「宝物殿に残された資金で約1月ほどは現状維持が可能です」「しかし傭兵、道具の作成、施設の使用、復旧は不可能です」

 

・・もうお酒飲んでなにも考えたくない。

 

巨大ギルド拠点と比べればこの八重神社の維持コストは微々たる物だ。

もちろん巨大ギルド拠点と比べれば作成できるNPCの上限やギミック、構造は天と地の差もあるといえる。

それでも拠点維持のために少なくない金貨を消費する。なので常に一定以上の金貨をストックしておく事がユグドラシエルでは常識であった。

最終日だから運営資金のほとんどを使い込んだ後に、まさかこんな事態になるどと誰が予測できようか。

 

「神楽様?」「大丈夫ですか?」

 

もうかわいいなーこの子達っていけない現実逃避してたら

傭兵も施設も使えないってことは現状、動けるのは私入れて7人・・

今やらないといけないのは

・現在の状況の把握

・スキルや魔法、アイテムが使用できるのか

・拠点周囲の状況確認

・外敵、とくに他のプレイヤーの存在

そしてなによりも、金貨の確保!

お金がなければ拠点の存続も消耗品の確保、傭兵召喚もなにもできない。

 

「----」「------」「---様」「---神楽様!」

「ああ、ごめんなさい。ちょっと色々と考えていたから」

「滅相もございません、神楽様。我等は神楽様のために全てを奉げましょう。」

そういって6人は傅きながら、主たる神楽の言葉を待つ。

 

「ありがとう・・貴方達は私の自慢の子供です。」

本当の子供の様に大切にしていた6人からの心からの献身の言葉に目頭に涙を浮かべながら答える。 

「・・・身に余る勿体無き御言葉です、神楽様。」

震えるような声を必死に取り繕いながら絞り出して鴉丸は答える。

鴉丸をフォローするように咲夜と時乃が言葉を繋げる。

「御命令頂ければ」「如何なることでも」

「神楽様」「我等にご命令下さい」

「そうね、じゃあまずは---」

 

 

その頃、ナザリック一同は・・・

「アルベド、胸を揉んでも、か、かまわにゃいな?」

アルベドにセクハラしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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オリジナルキャラ 

神楽:かぐら

外見:黒髪 巫女服

武器:???

性別:女性

年齢:20

特徴:本作主人公 親馬鹿 6人のNPCの主人 

身長:160cm

 

天目:てんもく

外見:全身武者鎧姿 

武器:大太刀

性別:???

特徴:NPC

身長:190cm

 

鴉丸:からすま

外見:黒髪 大きな黒い鴉の羽を背に生やして天狗の面を着けている 

武器:弓矢 

性別:男性

特徴:NPC NPC6人の纏め役

身長:175cm

 

玉藻:たまも

外見:金髪 巫女服を着た狐耳、9本の尻尾

武器:???

性別:童女

特徴:NPC

身長:140cm

 

宵月:よいづき

外見:銀髪 精緻に模様を編み込まれた振袖

武器:???

性別:妙齢の女性

特徴:NPC 

身長:165cm

 

 

咲夜:さくや

外見:黒髪 真っ黒な丈の短い巫女装束の服装 赤と黒のオッドアイ 

武器:???

性別:少女

特徴:NPC 時乃とは双子

身長:155cm

 

 

時乃:ときの

外見:黒髪 真っ赤な花魁のように着崩した和装 黒と赤のオッドアイ 

武器:???

性別:少女

特徴:NPC 咲夜とは双子

身長:155cm

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




初投稿作品になりますが最後まで読んでいただき有難うございます。
読みづらい文章、誤字脱字が多々あるかと思いますが、ご容赦下さい。


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第弐話--接触--

投稿が遅くなりましたが第2話です
気がついたら前回より文字数が増えてしまったので、お暇なときにでも読んでください。


ゲームが現実に変化してから4日が過ぎた朝方

 

「おーきーるーのーじゃ!!」

ミノ虫の様な布団の塊をゆさゆさと揺さぶりながら、玉藻の声が部屋中に響いていた。

「・・・あと3時間寝かせて・・」

布団の中から抗議の声をあげるミノ虫(神楽)

「ならぬのじゃ!昨日も一昨日もそう言って夕刻まで寝ていたではありませぬか!それに今日は---」

 

転移してから3日、神楽はぐーたらな生活を過ごしていた。

最初は夢じゃないか、単なるサーバーエラーなのかと疑っていたが、

目覚めても変わらない状況から此処が異世界ではないかと確信していた。

情報収集と平行して金を稼がなければいけない状況ではあるがそれ以上に、異世界=未知の冒険と心を弾ませていたのだが--

単独で遠征しようとした神楽を玉藻達が、情報がある程度集まるまで待ってほしいと懇願された。

 

そのため仕方なく拠点で待機する事になったのだが、

初日に6人に指示を出して以来、早速やることがなくなっていた。

スキルや魔法、アイテムは一通り使用できるかはすでに初日に確認が終わってしまい、

周辺探索も警戒も子供たちが

「我等にお任せ下さい、神楽様は社でお待ち下さい。」

家事をしようにも、

「神楽様にその様な事をさせる訳にはいきません。」

と内部を取り仕切っている宵月に断られてしまった。

 

 昼過ぎまで寝て、だらだらするしかなくなったのである。

最初の内は、御疲れなのだろうと思って子供達も遠慮していたのだが、

単にだらけている事がバレてしまった。

 

「もう日も高いのじゃ!そろそろ起きてくだされ!」

暫く玉藻がミノ虫と問答を繰り返していると耐えかねたのか布団から片腕だけを出して手招きする。

「おお、やっと起きてくださるのじゃな!皆も神楽様をお待ちしておりますぞ♪」

9本の尻尾を嬉しそうに振りながら主の元に駆け寄っていくと

「のわー!か、神楽様なにを!」

駆け寄ってきた玉藻が手を取るとそのまま布団の中に引きずり込む神楽。そのまま抱き枕の様に抱え込み背中から尻尾にかけて宥める様に撫で上げる。

「神楽様、ふわぁぁ。御戯れを、ふにぁぁ、尻尾は駄目なのじゃぁ」

敏感な尻尾をもふられ、艶のある声で主人に抗議するが、

「・・・玉藻うるさい」

寝惚けながら一喝されてしまう。

 

5分もすると、玉藻の声も小さくなり寝息だけが聞こえてきた。

玉藻を抱き寄せて二人仲良く布団にくるまって心地よさそうに寝ている姿を見て、

食事の準備が終わって様子を見に来た宵月はもう少し寝かせてあげようとそっと部屋をでる。

 

--正午--

「ふぁぁ、よく寝た」

「ふふ、おそようございます♪」

ようやっと起きてきた主人の前に食事を並べながら笑顔で答える宵月。

その隣には耳を項垂れて、申し訳なさそうに手伝う玉藻。主人を起こしにいったのに、一緒に寝てしまった罪悪感で一杯の様たが当の神楽本人はけろっとしていた。

 

「それでなにか進展はあったのかしら?」

食事の支度が終わった頃合いを見計らい、警戒に出ている天目を除いて食卓に集まった5人の子供達に問い掛けると鴉丸が答える。

「神楽様その件で、ご報告が御座います。」

「なにかしら鴉丸、新しいなにかが判明したの?」

 

神社の周辺は後方に森林が広がっている以外は一面平原で、

半径3km以内は知的生物や痕跡は発見されていなかった。

もし人や交渉可能な生命体か確認されれば大きな一歩になると期待していた。

「南西約10km地点に人間種による集落を発見いたし---」

「本当!?直ぐに向かいましょう!」

食いぎみに神楽が興奮した様子で反応するが

「いえ、それが」

「何か問題があるの?」

「今朝発見した集落なのですが、先程壊滅致しました。」

え?なんで?今日見つけたのになんで壊滅してるの?

「どういう事かしら、鴉丸?まさかと思うけど貴方達の、仕業ではないでしょうね?」

「恐れながらも申し上げます。今朝方発見した集落なのですが、

3時間程前に同属と思われる人間種に襲撃され、数名を除いて死亡いたしました。」

「なぜ報告しなかったの!鴉丸!」

語気を荒げ鴉丸に問いかける。

「申し訳ありません、発見と同時に玉藻に神楽様を呼びに行かせたのですが---」

朝のあれかー!

玉藻が必死に起こそうとしていたのはこの事を伝えに来たからだったのね。

玉藻には悪い事をしちゃったわね。

と一人心の中で反省していると玉藻が土下座をして、

此方に涙声で謝っている声が聞こえた。

「も、申し訳ありません、妾の不手際でこの様な失態に---」

地面に頭を擦り付ける様に低頭してひたすら謝罪の言葉を紡いでいく。神楽自身の寝坊したのが悪いのに

「頭を上げなさい玉藻、この件は私も悪いわ。」

「勿体無いお言葉、ありがとうございます。」

 

「それで鴉丸、その襲撃者の目的やその後はどうなの?」

「はっ!襲撃者の目的ですが恐らくなんらかの見せしめないし、同族同士の争いかと考えられます。襲撃者達は村を焼いた後、東の方角に去っていきました。」

「ふぅん、そう思う根拠は?なにかあるの?」

「何名かわざと残している点と、物資を奪わずに燃やした点から疫病や略奪ではないと推測致します。」

「そう・・・なら準備が出来次第、生存者に話を聞きましょう。」

「では玉藻と宵月を連れて3人で現地に向かい、情報収集を行います。」

「いえ、私が直接行きます。現地には宵月を連れて行きます。」

「なりません!まだどのような脅威が潜んでいるかもわからないのに神楽様を行かせる訳には参りません!」

「そうなのじゃ!何があるかもわからない場所に行ってなにか有ったからどうするのじゃ!」

「神楽様自ら行かれるのは私も反対です。先ずは私達で調査をしてから---」

子供達が語気を荒げながら神楽に止まって貰うよう意見を述べる。しかし---

「いいえ、何と言われても私が行きます。何があるか判らないからこそ、大切な貴方達に行かせる訳には行きません。

それに相手は人間種なのでしょう?鴉丸や玉藻では相手に警戒心を与える事になるかもしれないでしょ?」

力強く、それでいて優しく子供達に諭していく。

{それにそろそろ社でだらだらするのも飽きたからね}

と不純な動機もあったが子供達は神楽が自分達の事を大切に想って下さっている事に感激して全く気がついていなかった。

「とりあえず食事にしましょ、それから全員の準備が整のってから向かいます。鴉丸と玉藻も非常時に備えて完全武装で待機しておいてね。」

「御心のままに」

「神楽様」「私達は如何なさいますか?」

「咲夜と時乃は天目と協力して3人で警備をお願い。何かあったら直ぐに<<伝言(メッセージ)>>を飛ばして」

「承りましたわ」「天目には私達から伝えておきます。」

「お願いね咲夜、時乃。さぁさぁ冷める前に食べちゃいましょう。これからきっと、忙しくなるからね。」

 

---3時間後

「それじゃ玉藻、予定通り集落から少し離れた所に<<千里眼(クレアボヤンス)>>と<<水晶の画面(クリスタルモニター)>>で周囲を確認後に<<転移門(ゲート)>>展開して」

「お任せあれなのじゃ!<<千里眼(クレアボヤンス)>>、<<水晶の画面(クリスタルモニター)>>」

そう言うと神社の境内に大きな鏡が出現し、村外れの林の中が映し出される。

 

{やっぱりこの子達、ユグドラシエル時代から実戦してないから対策や反撃を考えてないわね。}

ユグドラシエルでは情報魔法一つ取っても対情報魔法や探知魔法を探知する魔法、探知魔法に対して反撃を加える魔法など多岐に渡り、

PVPに置いては情報対策は時間停止魔法についで必須であった。

しかし玉藻は指示を受けた魔法のみを使用して、提案も無かったことからスキルや魔法も使えるがどう使うか、何を使用するべきかの知識が不足しているように見てとれた。

{何か対策なり勉強会をしないといつか必ず取り返しのつかないことになるわね}

色々と今後の課題と対策を考えていると玉藻から安全の確認がとれたので転移門を開く準備ができたと声を掛けられた。

「それじゃあ鴉丸、玉藻。後詰は宜しくね。」

「畏まりました、神楽様もお気を付けて。」

「宵月、主様を頼むぞ。」

「ええ、主様のことはお任せを」

「じゃあ行きましょう、宵月。」

「はい、神楽様。何処までも御供致します。」

そう言うと二人はゲートをくぐり、写し出されていた林の中に転移する。

 

<<発見探知(ディテクト・ロケー)>>、<<探知対策(カウンター・ディテクト)>>、<<偽りの情報(フェイクカバー)>>

<<感知増幅(センサーブースト)>>、<<敵探知(ディサーンエネミー)>>

「これくらいでいいかな?それじゃあ宵月、手筈通りお願いね。」

「承りました。」

ここに来る前に神楽は、宵月には情報収集とは別に今後のために幾つかの指示を出しておいた。

・蘇生系魔法の実験

・回復魔法、スキル、アイテムの実験

・現地人へのバフによるステータスの上がり具合

 

自分たちでは試せないような事、特に蘇生魔法が使えるかどうか、デスペナはどうなっているのかは早急に確認しなければならなかった。

 

焼け焦げた村の跡に到着すると、二人の男が煤汚れた姿で茫然と立ち尽くしていた。神楽達は遠方から来た旅人を装って、男達に近づく事にした。

「もし、そこの殿方。少しお尋ねしてもよろしいですか?」

「!?な、なんだあんた達!」

中年の男が此方の姿を見て驚く様に声をあげる。

「私達は旅の者です。これは一体なにがあったのですか?」

「ああ、そうだったのか。悪い、気が立っていたからつい言葉が荒くなっちまって。今朝いきなり帝国の奴等が村を襲ってきやがって、殴られて気がつきゃご覧の有り様だよ・・・」

「そうでしたか、まだ生きてる人もいるかも知れませんから私達も協力しましょう」

「ありがてぇ、この恩はわすれねぇ!俺はダックだ、よろしくな。」

ダックと名乗った男と何処から作業するか話をしていると焼け落ちた家の前から動かず茫然と見つめて此方の会話が聞こえてない青年の姿があった。

その視線に気付きダックが語り始めた。

「あぁ、あいつ・・半年前に結婚したばかりなんだが、帝国の奴等に目の前で奧さんを殺されちまってな。

なに話しかけてもあの調子でな、悪いが少しそのままにしてやってくれるか?」

「ええ、それは大変でしたね・・」

ひとまず生存者を手分けして探して、広場に集めることにした。

その間に、宵月には目を盗んで先に言っておいた実験をしてもらうことにした。

一通り、生存者を探し終わると、宵月が声を掛けてきた。

「神楽様、ご報告したいことが」

「実験の結果かしら?どうだった?」

「はい、それが---」

実験の結果、回復系やバフはユグドラシエル時代と変わらず、効果も時間も同等と考えてよさそうだ。

しかし蘇生魔法をかけた者は残らず灰になって蘇生失敗した。推測ではあるが魔法事態は発生しているので、

現地人に使用出来ない訳ではなくデスペナ分の5lvが足りない為ロストしている可能性が有力だった。

「ふむう・・LV5以上の人間に使用した場合の情報も欲しいけどこの村ではそれを集めるのは無理そうね。ありがとう、宵月。貴重な情報が手に入ったわ。」

「いえ、勿体無いお言葉です。」

宵月を実験結果を話し合っていると神社で待機している玉藻から<<伝言(メッセージ)>>が入った。

『神楽様、そちらに50人の騎馬兵が向かって接近おるのじゃが、如何いたそう?』

『そう、じゃあそのまま監視して待機して。手出しは無用よ、鴉丸にも伝えておいて。』

『承ったのじゃ!』

{50の騎馬隊・・・襲撃者とは別なのかしら?用心するのに越した事はないわね}

「宵月、何者かが近づいてくるから身を隠して様子を見るわ。」

「畏まりました。村人はどうされますか?」

「あれに任せましょう、私はダックに話してくるからその間に準備を。」

「畏まりました。」

そう言うと広げていたアイテムを手早く片付けに向かう。

「ダック、此方にまた兵士が近づいて来ているわ。」

「なっ!くそっ、さっきの奴等が戻ってきたのか!どうしましょ、姉御?」

「(姉御?)まだ敵か判らないからまずは様子を見ましょう?交渉の、余地があるかもしれないわ。そこでなんだけどダックお願いがあるのだけれども」

「へい、なんでしょう?村のやつを助けてもらったですから、何でも言ってくれ。」

「ダック、それじゃあ---」

 

「くっここも・・・遅かったか・・!総員、生存者を探して保護するぞ!」

「はっ!」

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ!誰か生きていないか!」

黒髪の鎧を着た男が、先頭に立ち焼け残った村に50名ほどの兵士達がぞくぞくと焼け払われた村に入っていく。

 

「おーい!あんた達こっちだー!怪我人がいるんだ、手を貸してくれー!」

ダッグが村はずれから戦士団に向かって声を掛ける。

「生存者か!10名ほどそっちに回って救助に回れ!」

ガゼフがダックの声を聞き、全体に指示を出す。

 

「副長、数人を連れて生存者をエ・ランテルまで護衛せよ」

「戦士長!それは---」

どうやら戦士長と副長で今後の事で揉めているようだが、敵意は感じられないのを林の中から観察する神楽と宵月。

「どうやら問題はなさそうね。人数が減って移動を開始する前に彼らと合流しましょう。宵月、貴方は道中、村人から話を聞いて頂戴。」

「畏まりました、神楽様。神楽様はどうされますか?」

「私はあの副長って人と話をしてみるわ。」

 

「あとは頼むぞ、副長」

「はっ!お任せ下さい、戦士長。」

ガゼフと45名の騎士達は副長達に村人を任せ、次の村に向かう。

副長と4人の騎士が残り、これからエ・ランテルに向かう支度を始めた頃、神楽達も行動を開始した。

 

「もし、そこの騎士様。私達は旅の者なのですが、一緒に連れてって下さいませんか?何分この辺りに、疎くて・・・」

「ええ、構いませんよ。ただ怪我人がいるので少し時間が掛かりますがそれでも宜しければ」

「構いませんよ、そういえばさっき村外れに荷馬車を見たような・・?」

「それはありがたい。おい誰か一緒に手伝ってくれ。」

「はっ!」

 

少し古い荷馬車に村人を乗せ、その周囲を騎士達が囲むように警護して一行はエ・ランテルに向かう。

「荷馬車が残っていて助かったなぁ!これが無かったらもっと移動が大変だったがいやぁー助かった」

ダッグが荷馬車の上で大声で話す。荷馬車には怪我人2人に、ダッグを含めた村人3人に加えて宵月の計6人が乗っていた。

神楽はというと----副長と相乗りしていた。

 

「本当に助かりましたわ、騎士様。ようやく村を見つけたのにあの有様で・・・また路頭に迷うところでしたわ。」

「いえ、騎士たる者、当然の事をしたまで。それにこんなに美しい女性とご一緒にできてこちらこそ感謝を言うべきかもしれませんね」

「あらあら、ご冗談がお上手で♪」

「いやはや、これは手厳しい。あっはっは!」

二人で談笑しながら一向はエ・ランテルに向かって街道を進む。

一時間もすると日が暮れ始め、野宿の準備を始めた。

「ここで野営する!各自野営の準備と周囲の警戒を!」

「はっ!」

「俺達にも何か手伝わせてくれよ!なんでもいってくれ。」

ダックが野営の準備を始めた兵士に声をかける。

「おお、助かる。悪いが近くで枯れ木や燃えやすい物を探してきてくれるか?」

「おうよ、任せておきな!」

そう言うと、せっせと枯れ木などを拾い始めるダック。その影で小声で宵月が神楽に耳打ちする。

「それでは私は残りの村人の様子を見て参ります」

「お願いね、宵月。何かあったら直ぐに教えて。」

「畏まりました。神楽様もお気をつけて」

宵月は兵士から治療用の包帯や清潔な水を受け取りにむかう。

丁度、指示を出し終えて水を飲んで一息付いている副長が目に留まり、話しかける。

「副長さん、お疲れ様です。」

「ああ、カグラさん。そういえば名乗っていなかったですね。テオバルト・ローウェン。テオと呼んでください。」

「じゃあテオさんって呼ばせてもらいますね。ちょっと聞きたいことがあるのですけど、隣いいですか?」

「ええ、どうぞ。それで聞きたいこととは?」

「このあたりでは、魔法とかスキルとかはないのですか?私がいたところでは当たり前にあったのですけれども」

「魔法ならありますよ、ただあまり王国では盛んではないですね。スキル?というのは聞いたことないですがどんなものなのですか?」

「簡単に言うと魔力を使わない魔法みたいな?斬撃を強化したり能力の一時的向上とかそういったものなのですけど・・」

「そうですね、それなら武技が一番近いかもしれませんね。」

「武技で・・・ですか?それはどんな---」

「おーい!飯が出来たぞー!」

「ああ、わかった!カグラさん、話の続きは食事を取りながらでも。」

「ええ、喜んで♪」

二人はで焚き火近くで食事の準備をしているダッグに向かって食事を受け取りに向かう。

食事をとりながら武技や魔法、周辺国家などの情勢などの事を細かに聞いていく。宵月は向こうで村人から一般常識や貨幣などの情報を集めている。

周りには遠方の国で遺跡調査をしていた所、転移してしまったという設定で宵月と口裏を合わせて、余程のことがなければボロはでないだろう。

念の為ダッグには世間知らずなのでなにかあったらフォローして貰うよう頼んでおいたので問題はまず起きないと踏んでいる。

日付が変わるころには話を切り上げ、明日に備える。話では明日の夕方にはエ・ランテルに到着できるだろうとの事だ。

戦士団から借りた毛布に包まりながら、この周辺では一番規模の大きい町との事だったので神楽は期待に胸を弾ませていた。明日はどんな未知が待っているのだろうと。

”未知を既知にする”ユグドラシエルの運営が謳い神楽を含めた数多のプレイヤーの心を掴み、様々な冒険や探求に情熱を燃やした当時の心境と一緒、いやそれ以上の興奮だった。

 

そうして夜が更けていく・・・。

 

その頃、ナザリック一行は・・・

「ただ、そうだな・・・世界征服なんて・・・面白いかもしれないな」

「・・なっ!!!」

 

「ちゅ、忠義に励め!私は叱られない内に戻るとしよう。」

「うぉっっしゃーーー!!!」

デミウルゴスは主人の願い(勘違い)を叶えるための壮大な計画を練り、アルベド(ヒドイン)の咆哮が夜空に響いていた。




次回位には原作キャラが登場して話に関係してくる予定です。


また感想、評価を頂き大変有難うございます。
更新ペースは遅いかと思いますが気長にやっていければと思いますので、
どうぞよろしくお願いいたします。


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第参話--出会--

入院とPCが破損してしており暫く書くことができない状況になったあと、さっぱり掛けなくなってしまって1年以上空白が空いてしましました。
つい先日最新巻を読み創作意欲とかが戻ってきたので書かせて頂きました。

何分久しぶりなので依然の話との矛盾や誤字脱字があるかとは思いますがご了承ください。


4日目朝

日が昇り空が白み始めた頃、兵士達は馬達の手入れと朝の支度を始めた。兵士達の音に気が付き、朝の支度を手伝い出発の準備も同時に進めていった。

神楽達はというと、宵月がいくら揺すっても起きない神楽の、指にリングオブサステナンを嵌めて無理矢理覚醒状態にさせて、朝の支度を初めていた。

{最近、宵月達の私への対応が悪い、と言うか杜撰な気がする。}

近くの川から汲んできた水で顔を洗いながら1人子供達からの扱いに不満に感じていた。

 

起床してから2時間ほど経ち軽い朝食と出発の準備を済ませ、一行はエ・ランテルへと向かっていった。

エ・ランテルへと向かう道中、3時間ほど街道を進んでいくとゴブリンの10匹程の小規模な集団に2回ほど遭遇したが、戦士団は5人でこれを撃退していた。

戦闘が終わった際、戦士団の一人がゴブリンの死骸に近寄り、耳を剥ぎ取っていた。

神楽は不思議に思い、副長にそのことを聞くことにした。

「テオさん、あの人はゴブリンの死骸の耳を切り取って何をしているのですか?」

「ああ、御存じないですか。あれはモンスターなどを倒した証として町の組合に持ち込むとそのモンスターに応じて、報奨金が支払われるのですよ。」

話を詳しく聞いていくと、どうやら王家のラナー王女が、治安維持と冒険者への資金援助を兼ねて施策を数年前に行ったらしい。さりげなく、王女の話ついでに国内情勢についても聞いてみる。

国王直属戦士団副長ともなれば一般市民の知らない情報も聞ける、最悪聞けなければこっそり魔法を使ってでも聞き出しておいて損はないだろう。

 

しばらく話し込んだ後、神楽は副長の後ろで馬に揺られながら、今後の事を考えていた。

王国に戦士団または、王宮に務める。これは将来的に不安要素しかない。魔術を軽んじ、帝国に毎年戦争というなの小競り合いを強いられているのに、貴族は足の引っ張り合いと派閥争いで国は2つに分かれている。

帝国に士官する。今までの戦士団のレベルを考えれば一気に将軍クラスまで上がれるかもしれない。そうなれば給金という安定した収入を得られる。

しかし帝国の現皇帝は鮮血帝と呼ばれ、多くの貴族を粛清して力を強めているらしい。もし現皇帝といざこざが発生した場合、帝国全てを相手にすることになると厄介だ。

法国、今の所選択肢としてありえない。宗教国家という事に加えて人間種至上主義なので問題が起こる未来しか見えない。同じように聖王国も宗教色が強い為、除外。

竜王国はこの世界の脅威をある程度把握したらいいかもしれない。どうやらビーストマンの国に攻められ都市が陥落するほど困窮してるとの事なので一旗揚げるには、ちょうどいいだろう。

アークランド評議国やその他の亜人国家は現状論外。

評議国は情報がまったく入ってこない、国の最高意思決定機関の評議会のメンバーにドラゴンがいるっていうことだけ。

亜人国家はどれも粗野で人間種を食料ないし奴隷としか思ってないので論外。

とりあえずは王国で冒険者として情報収集と資金を稼ぎながら今後の身の振り方を決めようと考えていると今度はオーガが混じっているゴブリンの集団が前方に潜んでいると兵士の一人が見つけた。

なんとか迂回してやり過ごし、近くの水辺で一時休憩と食事を取りながら副長から遭遇していれば多数の死者がでていたと話を聞いた。

たかがゴブリンとオークの、それも50匹ほどの群れで国直属の戦士団が5人とは言え、これに手こずるというのはどういうことだろう。

単に戦士団のレベルが低いのかそれともモンスターが私が知っているモンスターとはレベルが違うのだろうか。

この世界での人類側の戦闘力とモンスターの戦闘力を確認をしないと今後の行動に直結するのでなんとかしないとと考えていると副長が他の戦士団を集めて今後の行程を確認していた。

エ・ランテルには夕方は到着する見込みだというがどうにもモンスターの動きが活発的すぎる為、もしかしたらもう一日かかるかもということだった。

通常であれば街道沿いは重点的にモンスターを狩っているため、遭遇しても一度あるかどうか。しかし今回は遭遇回数に数も異常なのでエ・ランテルに到着したら、冒険者組合なりに調査依頼しなければとも話していた。

次にまたモンスターと遭遇することになれば、こっそりとモンスター達との戦闘にちょっかいを出して両者の戦闘力を把握してみようと考えていたが、そこから道中、遭遇することなく日が落ちきる前にエ・ランテルへと到着した。

 

村人達は一度、戦士団の提供した宿泊施設で寝泊りをして、教会を経由して新しい村へと移住するそうだ。

二人は戦士団からフード付きのマント(襤褸切れに近いが異国の衣装で目立つので借りて)と冒険者ギルドの場所を聞き、そのまま登録する手続きをしていったが・・・

「まさか言葉は通じるのに、文字が読めないなんて・・・・」

「ええ、それにまさか神楽様が最下位の(カッパー)からの開始だなんて・・」

「それはしょうがないでしょう?そういうルールなんですから」

そう、冒険者登録に必要な書類に記されていた文字が二人とも一切読めなかったのである。

王国では識字率はそこまで高くない為、読み書きができない人間もかなりの数いるらしく、受付では代筆サービスもあり何とか登録まで行けたのだが――

「ええ、それにまさか神楽様が最下位の(カッパー)からの開始だなんて・・」

「それはしょうがないでしょう?そういうルールなんですから」

冒険者ギルドのルールとしてどれだけ実力があろうとも最初は最下位の(カッパー)からのスタートとなりランクによって受けられる依頼が変わってくると説明を受けた。

「まあこつこつやっていきましょ♪それが冒険ってものだからね」

「はぁ・・・無茶だけはやめて下さいね?もしも神楽様に何かあれば・・・・」

今回冒険者として登録したのは神楽だけ、というか神楽が宵月には冒険者とは別に一般に溶け込んで情報収集にあたって欲しい・・・

・・・という建前で一人でのびのびと冒険者ライフを送りたいが為に押し切った為である。

「さぁさぁ・・・!どの依頼受けようかなー・・・って読めないじゃない・・」

「受付に聞いてなにか見繕ってきましょうか?」

「もしかして新人さん?何か困ってるの?」

二人で依頼を張り出している掲示板の前で話ていると後ろから皮鎧を身に着けた若い女性から声を掛けられる。

「ええ、今日登録したばかりなのですけどちょっと文字が読めなくて・・・私は神楽、こっちは付き添いの宵月です」

「そういう事ね、宜しくねカグラにヨイツキさん、私はブリタ、(アイアン)クラスだからなんでも聞いてちょうだい」

「ありがとうございます、ブリタさん。どうぞお手柔らかにお願いします。」

神楽と宵月はブリタに握手を交わしながら挨拶をしていく。

「依頼を受けたいけど文字が読めないと、どんな依頼を受けたいとかあるの?」

「ええ、そうなのですよ。できれば討伐系の依頼があればいいのですが・・なにかありますかね?」

「んー・・・(カッパー)だとまともな討伐依頼はないわね、(カッパー)への依頼は雑用が大半だから」

「うぅ・・・そうですか・・・」

せっかく冒険ができると思った矢先に出鼻を挫かれ、しょんぼりとする神楽をみてブリタは

「じゃあさ、私達の手伝いをしない?」

「お手伝い・・ですか?一体どんなことを?」

「特に依頼はなくてもモンスターを狩れば報酬が出ることは知ってるわよね?さっきギルドから街道の情勢が不安定だってお知らせもあったから見回りがてら適当に回ってモンスターを倒せば金が貰えるのよ

 冒険者になるくらいだから多少は心得くらいあるのでしょう?」

「ええ、多少は」

「なら明日朝から私達のチームも出発するから付いてきなさいよ、戦闘はこっちで基本やるから荷物持ちになっちゃうけど」

「はいっ先輩よろしくお願いしますね♪」

「せっ先輩ってそんな・・!ま、まぁ私に任せない!」

先輩と呼ばれて嬉しいのか無駄に張り切るブリタををあれよあれよと持ち上げ夕食を奢らせ、ついでに過去のおとぎ話や伝説、アダマンタイト級冒険者の活躍等を聞き出していた。

「それじゃあ第三位階の魔法が使えればそれなりに需要があると・・・」 

「ええ、そうね第三位階使えるなら白銀(プラチナ)級位狙えるじゃない?貴方、魔法詠唱者(マジックキャスター)なの?」

「ええ、そうですね第三位階なら使えますよ」

「凄いじゃない!前いた所でも冒険者やってたの?」

「いえ、遺跡とかの調査がメインで・・・・」

ブリタからの質問は適当に流しながら神楽は昼間に聞いた副長とブリタの話を擦り合わせながら考えをまとめていく(想像以上にレベルが低い・・・第三位階なんてビギナー位しか使わないのに・・・でも副長からの話とも一致するし、このブリタが嘘をつけるようには見えないし・・・)

暫く話し込み明日の待ち合わせの約束の場所と時間を決めてブリタと別れ、戦士団が借りた宿舎に戻る。

「さて、ようやく冒険らしくなってきたわね!」

「神楽様、くれぐれも・・・」

「わかっているわよ、無茶はしないわ宵月。貴方も方も気をつけてね?」

「この命に代えても」

「だから自分の身を大事にしなさいって!もう・・・」

ドタバタと漫才のように騒ぎ、隣から怒られるまで続き夜は更けていく

 

その頃ナザリック一行は・・・

 

 

 「ドミニオン・オーソリティーィィ!」

「ま…まっ、待って欲しいアインズウールゴウン殿…いや、様!!命を助けて下さるなら…望む額を用意致しま…」

「確かこう言っていたな。 無駄な足掻きを止め、そこで大人しく横になれ。せめてもの情けに苦痛なく殺してやると」

「うわぁぁぁぁああ!!!」

ニグンの悲鳴とアインズ無双が行われていた。

 




10月26日 
第弐話 第参話 誤字修正を行いました。
高機動とうもろこし様ありがとうございます。


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第肆話--芽生--

なんとか1月以内に出すことが出来ました。
ただ書いていてなかなか話が進まない・・・

あと原作が最初の方が結構日程が不明なことが多いので適当に妄想設定させて頂いてます。


5日目朝

 

宵月による目覚ましのお蔭で寝坊することなくブリタとの待ち合わせに一人一向かう神楽。

途中で屋台が出している串焼きのような物をかじりながら待ち合わせの北門へと歩みを進める。

「んー♪ちょっと筋が多いけど中々に香ばしくておいひいー♪現実(リアル)じゃあぐにゃぐにゃした栄養食ばっかりだったし異世界万歳!」

宵月にはエ・ランテルでアイテムやは人々の噂、物の相場や生活それに加えてユクドラシルには無かった生活魔法などの現地調査をお願いしている。

・・・と言うのは建前で一人で気兼ねなく冒険したいからだった。

 

「あっ・・おーい!こっちこっち!」

北門にはブリタを含め3人の冒険者が既に到着しており、神楽を見つけたブリタは手を振りながら駆け寄ってきた。

「おはようございます、ブリタさん。もしかして遅くなっちゃいましたか?」

「おはよー、大丈夫!まだあと4人来てないし集合の時間には早いからね。」

「なら良かったです、今日はよろしくお願いします。」

「ええ!任せてちょうだい、先輩として何でも聞いてね」

「ブリタに聞いたら育つ者も育たねーよ」

「ちげねぇ」

「ちょっとあんた達!」

後ろにいた弓矢を担いだ男とフードの樫で出来た杖を持った男は先輩風を吹かせたブリタをからかいながらブリタの横に来る。

「君がブリタの言ってた娘か、リーダーをやっているバスタだ。今日はよろしくな。」

「おれはスオー、レンジャーだ。話には聞いてたけど別嬪だな、本当に大丈夫なのか?」

「ええ、よろしくお願いします。ええ、それなりには(・・・・・・)足をひっぱらない用に頑張りますね」

「それじゃあ今日の流れを・・・」

 

今日の流れを確認しているとショートソードを腰に履いた3人組の男と鎌を持った男が荷車を引いて合流し出発することになった。

「ザッコさん、エネさん、ミーズさん。よろしくお願いしますね」

「ああ、よろしくな!」

「あしひっぱんなよ?」

「おいエネ、相手は女の子なんだから冷たくしてやるなよ。カグラちゃん、困ったらいつでもいってね?」

「鼻の下伸びてるぞミーズ」

「ば、ばっかそんなんじゃねーよ!」

「やれやれ・・・俗にまみれてますね、私は神父のゾスです。」

「お前ら、遊んでる場合じゃないぞ。お客さんだ」

「ゴブリンの群れか、陣形を整えろ!一匹も逃がすな。カグラは後方で待機!」

「了解!」

「わかりました(のんびり戦いぶりでも眺めようかなー武技ってのを見てみたいし)」

リーダーのバスタが号令をかけるとザッコ達剣士三人が前衛、ブリタは補助、バスタとスオー、ゾスが後衛に別れゴブリン達との戦闘を始める。

神楽は荷車の上でぼーっと眺めながら物思いにふける。

(あぁ・・・昔ユグドラシルを始めた時はこんな感じだったなー。みんな装備とかも整ってなくて、でも何もかもが新鮮で楽しかったな・・・・そうすごく楽しかった・・・・あの時は・・)

「・・い!おい!ゴブリンが抜けたぞ!」

バスタの声で思い出から抜け出し目の前に迫ってきたゴブリン達にようやく気がつく神楽。

「もう・・・邪魔しないでよ。<<二重最強化(ツインマキシマイズマジック)雷球(エレクトロスフィア)>>」

一瞬で二体のゴブリンは雷球の直撃を受け、腹に小さな穴を開けて絶命する。残りの1体はヤケクソ気味に神楽へ向かって棍棒を振るおうとするが・・・

「遅すぎ」

鯉口から刀を抜き放つと瞬く間にゴブリンの頭は宙に舞い、頭を無くした体はふらふらとよろめいた後、思い出しかの様に血を噴出しながら倒れていった。

「あっ・・・(やっば・・・やり過ぎた・・・)」

思い出に浸っていたのを邪魔された為、苛立ちを隠せずオーバーキルしてしまった。(一応位階はセーブしたが)

「なっ・・!」

「えっ?い、今の何?何にもみえなかったんだけど・・・」

カバーに入ろうとしていたバスタとブリタは目の前で繰り広げられた光景に唖然とした。

「第三位階のそれも二重最強化(ツインマキシマイズマジック)・・ここまでできるなんて、最低でもミスリル・・・いやオリハルコンクラス!」

「何、何が起きたの?気がついたらゴブリンの首がぽーんって飛んだように見えたんだけど・・あの子凄すぎない?」

「あはは・・・ちょっと焦って最大攻撃しちゃいました」

苦しい言い訳であるが元々第三位階魔法の使用は宣言していたし、バスタは魔法に驚いてブリタはそもそも見えていなかったので問題ないはず・・というか問題がある様ならコントロール・アムネジア(記憶操作)を使用するか、最悪全員を消すしかない。

そんな物騒な考えを巡らせていると残りの5人も集まり、口々に神楽の魔法を賞賛していった。

「あんな魔法見たことないぜ!、第三位階ってのはあんな威力なのか!」

「いやー凄いな、ゴブリン共が瞬殺だなんて。」

「二重化なんて始めて見たが、凄まじい・・・」

「行きなりポーンって首がとんだのよ!」

「どうせブリタの事だビビって目瞑っただけだろ。あれだけ魔法使えて戦士としても一流だったらお前になんて着いてこないだろ。」

ブリタは今一つパーティー内の評価が良くないせいか話半分で聞き流されていた。

(あぁ良かった、何とかボロは出なさそう)

ほっと心中で一息作った神楽。

その後も神楽は後衛として参加、街道沿いにモンスターを狩っていった。

元の役割である荷物運びは戦力的にもブリタが担当となり、コンナハズジャーと叫んでいた。

一行は日が暮れる前にはエ・ランテルへと帰還、組合で今日の成果を換金しに行った。

「今日はありがとうございました、でもこんなに頂いて良かったのですか?」

「構わないさ、君の魔法には大分助けられたし初仕事のお祝いだと思って受け取ってくれ」

「そうそうブリタ何かより全然助かったし、いっそブリタの替わりにチームにはいらないか?」

「ちょ!ちょっと!なんでそうなるのよ!」

「ぶっはは!冗談、冗談だよ。そんなに焦んなよブリタ。こんなにいい腕してるのが鉄級のチームなんかに収まる器じゃないだろ」

「まぁこんなに稼げたの久々なんだ。今日はぱーっと飲みに行こうぜ!」

「ポーションの為に貯蓄してるって言ったでしょ!・・・一杯位なら付き合うけど」

「そう来なくちゃ!」

一行はそのまま宿屋の一階に有るバーで飲めや歌えやと大騒ぎして店主から雷を落とされる迄大いに飲んで食べた。

「おひゃふみー」

「ブリタの奴ふらふらじゃねえか、ほら肩貸してやるから早く二階の部屋で寝ろ」

「おいおい大丈夫か、まぁ今日はありがとうな、また機会があれば宜しく頼む」

「いえいえこちらこそ。色々とありがとうございました。」

「うわっ!ブリタの奴、吐きやがった!汚ねぇ!」

「本当に別れ際に仲間が見苦しい姿を」

「あはは;ま、まぁお大事にとお伝え下さい。それではまた。」

「おう!またな!カグラちゃん!」

「いつでも歓迎するぜ!」

「貴方にも神のご加護がありますように」

握手を交わし、酒場を出て宵月の待つ宿へと一人向かう。

かなり夜が更けている事もあり、人通りは殆ど無かった。

「おい、おいってば!フードを被ったそこのお前だよ。」

路地裏から複数の男達が出てくると同時に道を塞いでいく。

足元が覚束ない様子から恐らく酔っ払いかなにかと考え、これ以上絡まれる前に立ち去ろうとすると背後にも3人の男たちが路地裏から出て道を塞ぐ。

「はぁ・・・面倒くさい・・・早く帰りたいのに・・・」

「おい、お前!聞こえてんだろ!なんとか言えよ!」

乱暴に肩を掴もうとするがするりとその手から神楽は避けた拍子にフードが脱げ顔が顕になる。

「おいおいこいつ別嬪じゃねーか。おいこいつ攫っちまうか?」

「へへ、抵抗しなけりゃ命までは取らねぇから安心しろや。」

下卑た表情で神楽の体を嘗め回すようにねっとりとした欲望に塗れた視線を向けてきた。

「・・仮面でも付けて置かないとまた絡まれるかしら・・・倉庫に何かあればいいけど」

「無視してんのかよ!立場ってのをわからせて・・・」

言葉の途中で口を開けたまま固まる男達、その背後の壁からすり抜けるように宵月が姿を表した。

「お迎えに上がりました、神楽様」

「宵月、派手な行動は控えるように言っておいたはずだけど?」

「申し訳ありません、玉藻と鴉丸が今にも飛び出して(暴れる)する直前でしたので独断で行動させて頂きました。」

「そう・・・あの子達にも困ったものね。でもちゃんと探知対策(カウンター・ディテクト)静寂(サイレント)を使用した上で時間停止(タイムストップ)と・・隠蔽工作はしっかりやったようね、良くやったわ宵月。」

「有難う御座います、それでこの者たちの処分は如何致しましょう?」

「もう疲れたから適当に処理しておいて、後腐れ無いように」

「御心のままに・・集団標的(マス・ターゲティング)人形化(マリオネット)時間停止・解除(タイムストップ・リリース)

固まったままだった男達は、糸が切れたように地面に崩れ落ちていく。

「さぁお人形さん達、やり(殺し合い)なさい」

宵月が一言呟くと崩れ落ちていた男達は立ち上がり、各々の獲物を持って互いを殴り、刺し合いを始めた。

飛び散る血、肉・・・それでも男達は黙々と自分の獲物で他の男達と殺し合いを続けていった。

(何でこんなことに・・・?あっ・・そっか私が適当に処分してって言ったから?でもそれ以上に私はこの光景を見て何で・・?)

 

なぜ? 現実でこんな凄惨な現場を目にしてれば気を失ってもおかしくないに。

なぜ? こんな場面ならすぐにでも止めに入るべきなのに。

なぜ? 同じ人同士が傷つけあっている光景を受け入れているの。

なぜ? こんなことをした宵月に対して叱らなければならないのに。

なぜ? 私はこんなにも気持ちが昂ぶっているの?

 

 

 

 

 

なぜ? こんなにも赤い血が、肉が美味しそうにみえるの?

 

 

 

 

 

 

頭の中で木霊する様にように声が鳴り響き、神楽の意識は暗い、暗い闇の中に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ナザリック一行は・・・

「アインズ様が執務室に入られてからおよそ10時間が経過しております」

(休憩無しの10時間労働ってどんだけブラックだよ!)

兎の耳(ラビッツ・イヤー)

アインズ様は兎耳を生やして盗み聞きをしていた。

 




次回更新は年内・・・に書けたら良いなー・・



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第伍話--目覚--

年の瀬でバタバタとしてますがなんとかまとめ・・・まとめきれなかった部分も多いです。
ぐだぐだな部分もあるかと思いますがお暇なときに飛ばし飛ばしお読みください。


幕間

 

明かりが一切無い暗い中に神楽はいた。

「ここは・・・どこ?」

頭に霞が掛かった様に直前の事が思い出せない。

「たしかブリタ達と飲んで帰ってた途中に・・・っ!」

思い出そうとすると頭が割れんばかりに痛み苦痛に顔を歪める。

背後に気配を感じ振り返ると少し離れたところに明かりが点いている一角があった。

「とりあえずあっちにいってみよう・・」

ゆっくりと足を進め明かりの元に近づいていくと明かりは背の高い燭台に乗った蝋燭であり、足元に人がいるようだ。

「すみませーん、ここってどこで・・・」

後ろから声を掛けながら近づいていくと、明かりの下には赤い長髪ではあるが見慣れた巫女服を着た、見慣れた顔の女性が、人を、血を、肉を食べていた。

そう自分と瓜二つの人物が

はらわたを喰らっていたのだ。

「っ・・・!」

飛び跳ねるように後方に距離を取ると明かりの下に居た自分とそっくりな人物は消えていた。

「どこに・・・?」

依然とはらわたを喰い破られて倒れている人はそのままであったが、目を離していないのに煙の様に掻き消えたもう一人の自分はどこに消えたのか、あれは誰だったのか、ここはどこなのかと思考はぐるぐると纏まらずにいた。

警戒しながらも明かりの元に近寄り倒れたまま動かない人に近寄り顔を覗き込むと・・

「そんな・・・!嘘でしょ!」

それはユグドラシル時代、ギルドに加入する前から仲が良くギルドに誘ってくれて、いろんな冒険も一緒にしていた友人の顔だった。

「なんで!?」

「だってそう選んだのは貴方でしょ?」

不意に背後から囁くような声が・・自分とまったく同じ声がした。

振り返ると自分がいた。違う点は髪が赤色というだけで顔も、服装も、声をまったく同じ自分が笑って立っていた。

「これは貴方が選んだ結果。愛おしくて愛おしくて、だからこそ憎んでもいた。だからこうなったのよ?」

「そんなはずな」

「いいえ、そんなはずだからこうなった。どれだけ取り繕ってもそれは変わらない。」

否定しようと言葉を続けようとしたが、被せる様に言葉を投げ掛けられる。

「・・・貴方は誰なの?」

「貴方は私、私は貴方。」

「意味が分からないわ・・ここは何処なの?」

「此処は貴方の意識の中、貴方が私を受け入れる為の場所。」

「はぁ・・・?さっぱり意味が分からないわ。私は貴方なんて知らないし。」

「知らない何てことはない、だって私は貴方なんですから。ただ思い出さない様にしてるだけ。」

”ねぇ、そうでしょう?全てを壊して(壊されて)烙印を押された私”

その瞬間、このもう一人の私の言っている意味が漸く繋がった。

”ああ、確かにこれは私自身、私の一部であり私の罪其の物だと。”

「そういう・・・ことね。確かに貴方は私自身の一部なんでしょうね。」

「ようやく理解したようね、貴方が忘れて思い出したくない、それが私という存在。こんな事で毎回気を失われたら困るから奥底から出て来た訳だけど。」

やれやれと言った様子で肩を竦めながら何かを探すように袂に手を入れながら近づいてくる。

「はいっこれからはしっかりしてよね、私。」

袂から何かを取り出すと押し付けるように神楽の手に握らせる。

「これは・・・?」

「これからの貴方に必要な物、そして貴方の一部でそして私自身。」

もう一人の私はこちらを抱き締めながら子供をあやすように背中を撫でていく。

「さぁ愛しい子供達が待ってるわ、きっと心配してるから早く目覚めて安心させてあげましょう。」

「そうね・・・あの子達に心配かけていては親失格ですからね。」

意識が薄れれていく感覚と共にもう一人の私も消えていく。

「            」

何かを言っているようだがもう意識が薄れていく神楽の耳には届かない。

泡のように消えていくもう一人の神楽が消えると同時に目の前が白い染め上げられて・・

 

「んっ・・・・ここは・・・?」

目を開くと其処は見慣れた天井に見慣れた布団、そしてへばり付く様にその布団越しに抱き着いて寝ている玉藻がいた。

とりあえず布団から出るために、へばり付いている玉藻を剥がそうとすると玉藻の目元は真っ赤に腫らし、頬には涙の跡が見て取れた。

「どうやら・・随分と心配させてしまったみたいね・・・」

玉藻の頭を撫でながら、むりやり剥がすのも可哀想かと悩んでいると襖が空けられ水の入った桶と手拭を持った宵月が部屋に入ってきた。

「・・っ!神楽様!」

目を覚ました主人に驚き手に持っていた桶を落とすほど動揺する宵月、その様子を見て神楽は深く反省する。

(あらあら・・・これはかなりやばいかも・・・)

いつも冷静沈着で失敗などとは程遠いと思っていた宵月がこれ程取り乱すという事は、他の子供達も凄まじい勢いで取り乱している可能性があると考えているとその場で宵月が座り込み、泣き出してしまっていた。

「ふっぐ・・・がぐらざまー・・・」

「あー・・・よしよしこっちに来て、ごめんなさいね心配かけて。ほら泣き止んで、綺麗な顔が台無しよ?」

あやす様に宵月を涙で服が濡れる事も構わず抱き留める神楽。

しばらくしてようやく落ち着いた宵月は自分の行いは恥じて顔を赤らめた後、いそいそと落とした桶と床に零れた水を拭き取るついでに寝ている玉藻を引きはがしてそのまま連れて行った。

「ふぅ・・・ここからまた騒がしくなりそうね」

ぽつりと溜息と一緒に愚痴が零れる。

「まぁ心配させたのは私だから仕方ないけど、あとこれどうしよう・・」

宵月の涙でしっとりと濡れた巫女服を着替えようか悩んでいると懐に何か入ってることに気が付く。

「これは・・・あぁ、これを渡してくれたのね」

懐に入っていたのは女の、角の生えた白塗りの鬼の面だった。

元々そのお面は特殊条件の達成した際に運営から送られたものの一つでずっとアイテムボックスの奥底に眠っていた代物だった。

(もう一人の私、たしかにあんなことがなければ思い出そうともしなかったわね・・)

お面を眺めていると宵月を先頭に6人全員が揃って部屋に入ってくる。

最初こそ6人は倒れた神楽を心配していたがなんとも無いと説明すると・・・

宵月はくどくどと説教を始め、玉藻は弾丸のように飛付き永遠と泣きつかれ、咲夜と時乃には両側から小言を交互にに言われ、天目と烏丸には無言でじっと見られた。

(さすがにこれは勘弁してほしいわ・・)

子供達になんと説明していいかと悩む暇もなく、落ち着いて話ができる様になるまでの1時間各々からの行動に頭を悩ませる神楽であった。

 

「それで貴方達には心配を掛けたけれども、私はもう大丈夫よ?」

「まだなんでお倒れになったか聞いておりません。」

納得いく回答を得られるまで部屋から出さないという意思がありありと見える宵月は神楽に対して冷たく答える。

「ええと・・・なんというか、そのあれよあれ。」

「そんなあれと言われてもわかりません、ちゃんと説明してください。」

「まぁその・・・私自身の変化に気が付いてなかったせいで心の中でいろいろと葛藤があったのよ」

宵月の非難めいた視線にたじたじになりながら答える神楽ではあったが、子供達が心の底から心配してくれている様子に感動していた。

(現実の家族は私の事なんて結婚させて人脈作りの道具としか見てなかったのに、この子達はなんて良い子なんだろう・・・何があっても私が守って見せる・・!でも何て説明したらいいのかしら・・)

自分の親がいきなり人食い鬼になってその現実を受け入れず失神してあまつさえ精神世界?でもう一人の私と話して解決しましたーなんて聞かされたらまず間違いなく精神を心配されて最後は隔離される未来しかないだろう。

「それでは納得しかねます!神楽様にもしものことがあれば私達は・・・!」

「ごめんね・・・でも今はまだ何て伝えれば良いのかわからないの、時期が来たら全部話すから。でももう大丈夫、同じことは起きないわ宵月。これだけは嘘偽りのない本当の事だから。」

「宵月、そこまでにしなさい。神楽様も困っておいてです。」

「しかし・・・烏丸!」

「うむむ・・たしかに神楽様を困らせるのは妾達の本意ではないからのう。」

「私達としては」「心配だけど」「それが」「神楽様の御意思なら」

「玉藻に咲夜、時乃まで!」

しぶしぶといった様子で認める玉藻に咲夜と時乃。天目ならと思いそちらを見るが・・・

「然り」

ただ一言憮然として言い切りまた沈黙してしまった。

「宵月、心配してくれるのは凄く嬉しいわ。でも私ってそんなに頼りない・・・?」

「っ・・!そう言う訳ではないのですが・・・」

押し切るのはここしないと思い宵月に畳み掛ける神楽、食い下がりたいが孤立無援な上に主人を信頼していないのかと直接問われてしまえばもう何もいう事が出来ない宵月。恨めしそうに神楽を見る宵月であったが、鴉丸が耳打ちをするとようやく引き下がっていった。

「ちなみに私はどの位気を失っていたの?」

そう神楽が問うと代表して鴉丸が答えた。

「約10時間程になります。すぐに神楽様が気を失われてから<<転移門(ゲート)>>にて直ぐこちらにお連れ致しました。」

「現場の後処理は?」

「緊急事態の為、口封じも兼ねてすべて燃やしました。痕跡から辿られることはないかと。」

「そう・・よくやってくれたわ。他に何かあるかしら?」

「神楽様、宝物殿から」「御報告したい事が」

咲夜と時乃のがずいっと前に出ながら報告をしてくる。

「何かしら二人とも。」

「先日依頼頂いてました翻訳用のアイテムが発見致しました。」「全部で3個、お納め下さい。」

「あら早かったわね、ありがとう助かるわ。」

「感謝など」「勿体無い限りです。」

「一個は私、もう一つは宵月に渡して、残り一つは予備で宝物殿に補完しておいて頂戴。」

「それともう一つ」「こちらの箱が」

「これはっ・・・!」

差し出された箱は課金ガチャの外れで出てくる箱だった。最低ランクの外れではないのだが出てくるのが多少のユグドラシル金貨か換金用のアイテムしか出てこないので、爆死箱とも言われてる代物だった。

---しかし

今お金が絶望的に足りない状況でこれは朗報であった。外れアイテムであったのでガチャした先から適当に宝物殿に放り込んでいたので箱の存在をすっかり忘れていたがこれが10個くらいあれば1月分位の拠点維持費用になる。

「咲夜、時乃。この箱宝物殿に幾つ・・あったかしら?」

「42個」「同じ箱がありました。」

(やった!多少出てくる量はランダムにはなるけどそれでも最低でも3か月くらい維持費用が賄える!)

「じゃあ全部宝物殿から出して開封しちゃって。中にはユグドラシル金貨か換金アイテムが入ってるはずだから」

「「御心のままに」」

(あっ分割せずにはもって答える場合も有るんだ。)

「他になにかある?なければ今日は解散で。」

「はっ!」

鴉丸達が全員出ると一息つきながら神楽は布団に倒れこむ。

「はぁ・・・なんだか疲れた」

このまま二度寝に洒落込もうかと思ったがあまり眠気が湧かない。

それに昨日の夜から宿舎に帰ってない為、周囲から不審に思われるかもしれないという不安もある。

「一度エ・ランテルに戻って、顔見せついでに組合にいってこようかな?」

 

エ・ランテルの宿舎に一人戻ると戦士団の一人が呼び止めてきた。

どうやら冒険者組合の使いが先程来て、昇格試験の為、一度組合に来て欲しいとの事だった。

(一日しか冒険者として活動してないのに昇格試験?随分と早いけど、まさか昨日の一件がバレた?いやでもそうならば王国の治安維持を担っている戦士団が動くだろうし・・・)

急な話で怪しくも思ったが現状脅威になる人物や魔物もいない為、市場へ寄り道をしながら組合に向かう。

何か面白いものはないかと物色していると店の前でうんうん唸っているブリタが見えた。

(あれはポーションのお店?にしては色がどれも青色ばっかりだけど・・)

「こんにちわブリタさん。」

「あ!カグラじゃないどうしたのこんなところで。」

「ちょっと組合に呼ばれたのでそのついでに、何を見ていたのですか?」

「ああうん、ポーションが欲しくてちょっとずつ貯金してるんだけどあとちょっとで手が届くのよね。ただ物によっては買えるからどうしようかと思ってね」

「そうなのですか、ポーションってそんなに種類あるのですか?」

「そうね、大まかに分けて3種類。薬草だけで作ったポーション、これは効果も一番低いけど一番安価ね。次に魔法だけで作ったポーション。高価だけど効果も即効性も高いわね。最後に薬草と魔法のポーションを混ぜ合わせたポーションの三種類あるわ。」

「なるほど、どのポーションも青いものばかりなんですね。他の色のポーションもあるのですか?」

「うーん聞いたことないわね、魔法だけで作られた高価なポーションだと混ざり物がないってのは聞くけど。あとはバレアレ商店のポーションも効果は他より高いらしいけど色は一緒って話だし。」

「バレアレ商店?有名なお店なんですか?」

「あーカグラは知らないのね、エ・ランテルで一番の有名店で最高のポーション作成の腕をもってるわ。バレアレ商店のポーションは他のポーションより効き目が良いって冒険者の中でも有名よ。」

「へーそうなんですね。一度行ってみたいですね。」

「あーでもあそこは他の店よりちょっと割高だからね、物は良いけど私じゃあちょっと手がでないわね。」

(こっちのポーションは青色って効果が気になる・・それになんで同じような物なのに箱によって付いてる値札が違うのかしら?)

「こっちの箱とそっちの箱で付いてる値札が違うのは一体?」

「そっちは期限が近いから値段安くしてるんだよ、嬢ちゃん。」

店主であろうすこし髪が後退し始めている男が掃除道具を持ちながら扉を開けて話かけてくる。

「期限切れちまったら大損だからな、売れ残りは赤字覚悟の大安売りだ。おいブリタいつまで店の外で粘ってもこれ以上値下げはしねえぞ。」

「わかってるわよ!でもこのお金は私が必死に酒を控え、節約に節約を重ねて貯めたお金なのよ。ちょっとくらい残して贅沢したいじゃない!」

ぎゃあぎゃあと店主とブリタが騒ぐ横で神楽はポーションに魔法無詠唱化した道具上位鑑定を掛けてこっそりと調べる。

(回復量は低位回復ポーションより低い上に、即効性も低い。こんなものが重宝されているってことはやっぱり平均的にユグドラシルよりも低いって考えた方が良さそうね。下手にユグドラシルのアイテム、ポーションやエリクサーなんて持ち出した日には上へ下への大騒ぎになるからアイテムを売るのは余程のことがない限り無しね。)

後ろでブリタと店主の騒ぎが収まったので神楽はブリタに別れを告げて組合に足を進める。

 

組合に到着して受付に向かうと昇格試験の内容の説明を別室の応接間で行うということなので受付嬢と一緒に奥の応接間まですぐに通された。

「今回の昇格試験は(カッパー)から(アイアン)への昇格試験となります。内容はゴブリンを15体の討伐、期限は5日間となります。パーティーでの討伐の場合は先に申告してください。その場合は人数とメンバーによって変化します。何か質問は御座いますか?」

「ゴブリン30体以上っていうのはオーガやほかのモンスターでは駄目なのですか?」

「オーガなどの他のモンスターでも大丈夫ですよ、オーガならゴブリン10体分として換算しますので討伐された際には必ず証拠部位をお持ちくだされば。」

「分かりました、あともう一点。この間登録したばかりなのに昇格試験ってかなり早いと思うのですけど?」

「ああ、その点ですか。今回カグラ様は第三位階魔法を使えると申告頂いたのとその確認が取れたので白銀(プラチナ)クラスまでは保障されております。その為、随時形式にはなりますが試験を受けて頂いてます。」

「なるほど、ちなみに確認っていうのは?」

「先日同行された冒険者の方々からの証言となります。雷撃(ライトニング)火球(ファイヤーボール)の使用が確認が取れていると報告が上がっております。」

(ブリタさんの所からの報告かな、監視されている感じはなかったし)

細々とした注意や規則を説明を受け、ようやく解放され応接間を出た神楽の目に飛び込んできたのは凄まじい不満を顔に露わにした宵月だった。

「えっと・・・宵月?その、ごめんね?」

「・・・・」

じっと言葉を一切発さずに宵月に睨まれとりあえず謝る神楽であったが、取ってつけたような謝罪は逆効果だったようだ。

「宵月さん・・?あのーそのー・・・」

「・・・・」

無言の威圧感に押されしどろもどろになる神楽。それでも一向に態度を変えない宵月に周囲も揉め事かとざわつき始めた。見かねた受付嬢が声を掛けてきた。

「あの何か問題でもありましたか?」

「いえ、ちょっと色々ありまして・・・」

「・・・・はぁ。神楽様、後でたっぷりとお話しがありますので御覚悟してくださいね?」

「・・・はい」

「そうでしたか、なるべく問題を起こさないでくださいね?」

「分かりました、よーーく神楽様には言って聞かせておきますので。お騒がせいたしました。」

そういって冷ややかな笑みを浮かべ有無を言わさない態度の宵月は神楽を引き摺るようにして組合を出て行った。

 

(なんだか最近怒られてばっかりだなー・・・)

宿舎の個室で正座をしながら宵月にかれこれ1時間程怒られている神楽は心の中でぼやいていた。

昇格試験があるから途中で切り上げようとしたが、宵月が拠点で警護に当たっていた天目に近隣のゴブリン討伐を指示。その結果お説教タイムと宵月の怒りが過去最高に達していた。

「大体ですね、神楽様が自ら危険の伴う行動をすることが大問題です。外にはどんな危険が潜んでいるかも分からないと言った張本人が倒れた翌日に護衛の一人も連れずに街に繰り出すなんてっ・・!聞いておりますか!」

「はい・・・仰るとおりです。」

自分の事を思って怒っているので全く頭が上がらない。でもさすがに1時間も怒らないでも・・と考えていると扉をノックする音が聞こえた。宵月も静寂を解除してしぶしぶと扉の前まで行き応対を始める。

どうやら訪ねてきたのは王国戦士団の副長であった。どうやら戦士長含む本隊から早馬が届いたので迎えに行くのでしばらくここをしばらく離れるとの事だった。

「宿舎は使っていただいて大丈夫ですので。もし出られる場合は管理を任せているドリィに言っていただければ。」

「何から何まで有難うございます、お言葉に甘えて使わせて頂きますね。」

「副長さん、お気をつけて。」

「お二人もお気をつけて。昨夜不審火などもあったそうなので。」

「へ、へー・・・そんなことがあったのですねー・・・」

「それでは私はこれで。」

「私もこれで・・・」

「神楽様?ま だ お 話 は 終 わ っ て ま せ ん よ ?」

「はい・・・」

そうして宵月の説教は日付が変わるまで続いた。

 

一方その頃、宵月にゴブリン等の討伐を指示された天目は数や時間を知らされていなかった。

その為、翌日宵月が進捗確認するまで永遠とゴブリンやオーガを狩り続けていた・・・。

 

 

その頃アインズ一行は・・・

「アルベド、妻というのは家にいて夫の帰りを待つのが・・・」

「まぁ!そうなのデミウルゴス!」

「えっ・・!?」

退路を絶たれていた。

 

 




大掃除が終わり次第休みの間に次の話を書けたら・・いいな!


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第陸話--幕間--

お久しぶりです()
創作意欲は刺激されて湧いたのとリアルが少し落ち着いたので
色々と思い出しながら続き書いていきます。
今回は繋ぎ部分になるので早めに次も出す予定です。


8日目

 

「------♪」

スキップしそうなブリタを横目に今日の稼ぎを勘定しながら財布に仕舞っていく神楽。

二人は昨日狩りで手に入った報奨金を全員で山分けしてそのままの足で以前来たポーション屋に向かっていた。

「やぁぁぁっと!念願の!ポーションが!この手に!」

「いつになくハイテンションですね、ブリタさん。」

「だって!これまでどれだけ我慢したことか!酒を断ち、食事も質素にして!」

「はいはい、その話は何度も聞きましたから。ほらもうお店見えてきましたよ。」

「ポーションちゃん!まっててね!」

もはやウザったいを通り越すレベルのブリタの横で溜息を漏らす神楽だった。

(これまで色々と情報面でお世話になったからと思って付いて来たのはいいけどここまでハイテンションになるなんて・・・)

胸元に下げている新品の銀のプレートを弄りながら早く終わらないかと早くも後悔している神楽だった。

 

先日の試験では天目が大量に狩ったゴブリンやオーガなどの魔物を一袋分だけ提出した所、それなにりの報酬金と評価をされたようですぐに鉄級から銀級の試験も翌日に行われた。

銀級への試験は冒険者組合の演習場での魔法を使った模擬戦闘であった。

流石に人に向かって魔法を使用すると殺傷しかねないのでターゲトは木製の人形であったが試験官達が刃挽きした剣や矢の先を潰した弓矢等で攻撃してくるとのを躱しながらターゲットを破壊するという内容であった。

正直なところ躱さなくてもダメージはない。

龍雷撃(ドラゴンライトニング)クラスの魔法を使えばスタート位置からでも狙撃できたのだが、さすがに複数の人の前でド派手にやることもできなかった為、のらりくらりと回避しながら1分ちょっとかけて目標を破壊した。

それがいけなかった。

魔法詠唱者が武器を魔法も碌に使わずに身のこなしだけで5人の教官の攻撃を掻い潜りわずか1分で目標だけを破壊してしていった。

通常であれば教官達は元金級や白銀クラスの冒険者なのである程度切り結んだりして途中で手を抜いてわざと破壊させる。試験自体は早くても3分、もし破壊できなくてもそれまでの動きを評価して査定されるのが通常の手順である。

しかし一切反撃も防御もせずにすり抜ける様に攻撃を躱し、目標だけを雷撃(ライトニング)で破壊するなんてことはエ・ランテルで活動するミスリル級の冒険者であっても不可能だと試験官達は口を揃えて報告に上げた。

その為、早急に級を上げて組合にいい印象をもって貰える様、取り計らいがされすぐさま昇格試験の行う準備をしていた。

明日か明後日には王都までの護衛任務という名目の昇格試験までの待機ついでにブリタ達と恩返しついでの狩りとその後の買い出しに来ていた---

 

「うっひゃー!ポーションだよ!ポーション!やっと、やっと!手に入ったわー!」

「浮かれすぎて割れたら大変ですよ、ブリタさん。」

「大丈夫よ!しっかり持ってるから!でも本当にありがとうカグラ。貴方のお蔭で予定より大分稼げてこうしてポーションが手に入ったわ!あっもう私より上だからさんをつけないとまずかったかな?」

「いえいえ、ブリタさん達が色々教えて頂いた結果ですよので。今迄通りで大丈夫ですよ。」

「ありがとうカグラ。さぁて宿に戻リましょう!」

ぐいぐいと引っ張るブリタに苦笑いを浮かべながら付いていく神楽であったが途中で黒いフルプレートの大男が組合の方に向かって歩いているのをちらりと遠くに見えた。

(随分とここらにしては高級そうな装備・・・見たことないし周りも驚いているから噂に聞くアダマンタイト級なのかな?)

ブリタに聞いてみようと思ったが遠かったのとすぐに人の波に呑まれ見えなくなっしまい断念する。組合に向かったのであればあとで受付嬢にでも聞けば分かるだろうと考えながらうきうきのブリタに引きずられていく神楽であった。

 

しばらくして宿屋でブリタと別れた後に宿舎で買った物を置いてから組合に足を向ける。

「すみませーん、さっき真っ黒なフルプレートの大男が来ませんでした?」

「あぁ、さっき来てた方ですね。新人の・・たしかモモンさんだったかしら。私は対応してないので詳しくは分からないですが。」

「新人?あんな立派なフルプレート装備していたのに?」

「ええ、代筆も依頼されていたから多分余所から流れてきた人でしょうね。」

「なるほど、有難うございます。あっあと銀級で何か新しい依頼はありますかね?」

「少しお待ちください・・・今新しく来ているのは3件ですね。討伐依頼が2件、採取依頼が1件来ていますね。」

「討伐の方は何がありますかね?」

「共同墓地でのアンデット系モンスターの増加による討伐依頼と近隣の田畑に出没する森林長虫(フォレストワーム)の討伐依頼が来ていますね。」

「アンデットに森林長虫ね・・・それぞれの報酬を伺っても?」

「はいっではこちらにどうぞ」

 

しらばくして一枚の依頼書をもって冒険者組合をでた神楽は大通りで買い付けをしているダックを見つけた。

「おお姐さん、さっき部屋に行ったのだけど居なかったので心配してましたよ。」

「ええ、ごめんなさいね。それでこんなに買い込んでどうしたの?」

「ああ、これは新しい仕事が見つかりましてね。行商人について竜王国まで行くための準備でさー」

「竜王国?ずいぶん遠いところまで行くのね、出発はいつなの?」

「急な話なんですが3日後にも出発なんでさぁ。なんで急いで遠出の準備をしてるんですよ。なんせカッツエ平野を掠めていくんで準備はどれだけしてもし足りないんでさ。」

「あら大変ね、アンデッドだらけの平野でしたっけ?気をつけてくださいね。」

「姐さん、ありがとうございやす。それじゃあ俺はまた別の買出しにいきますんで姐さんもお気をつけて。」

「ありがとうダック、またね。」

 

ダックと別れ森に向かいながら玉藻に伝言(メッセージ)を飛ばして指示を出していく。

『玉藻?明日街道沿いの森まで向かうわ。鴉丸を周辺護衛に回してもらってもいい?』

『かしこまりましたのじゃ、神楽様。しかし護衛は一人だけでよろしいので?宵月か天目でもお付けしなくては危ないと思うのじゃが・・?』

『宵月は情報収集に回ってもらってるし、天目を拠点から離すと防衛に不安が残るからね。まぁいつでも戦闘できる準備だけはしておいて。』

『うむむ?それは宵月には話し・・・』

『これから話すから!私からいうからね!いいね?玉藻!』

『むー・・・ならなにもいいませんじゃが・・・・』

『じゃあ切るね~監視の方宜しくね』

 

伝言(メッセージ)を切った神楽は一息つきながら一人ぼそりと呟く。

「さて・・・・宵月のも話さないとね・・・気が重いわ・・・」

さんざん叱られた次の日、それも護衛一人で行くと言ったら宵月はどんなことをいうか考えるだけで頭が痛い。

意を決して宵月に伝言を飛ばす。

『宵月?今大丈夫?』

『どうかなさいましたか?神楽様。』

『そのー冒険者組合の依頼でちょっと街道沿いの魔物退治に・・・』

『・・・・・護衛は?何人お連れしますか?』

『鴉丸を護衛に・・・』

『ダメです』

『いや・・』

『ダメです』

『宵月ぃ・・・・』

『最低でも2人は連れて下さい、私も付いていきます。よ ろ し い で す ね』

『はい・・・』

 

次の日、宵月と共に神楽はとぼとぼとした足取りで街道を進む。

その道中も宵月はねちねちと護衛の少なさと神楽自身の重要性を繰り返し説明された。

しばらく街道を進むと依頼書にあった農場近辺の森林まで辿り着くと農作業をしている壮年の男が声を掛けてきた。。

「おーこんなところに別嬪さんとは珍しいのう、こんな場所に何の御用で?」

「こんにちわ、冒険者組合の依頼で来たのですけど、依頼者の方は?」

「おーそうだったか、依頼者はこの辺を仕切ってるトーマスさんだ。あの少し背の高い建物におるよ。」

感謝の言葉を男に言うと指し示された建物に向かう。

「ごめんください、冒険者組合の依頼で来た者ですが。」

「おおー・・・もう来てくれたのか、鍵は開いてるからすまないが上がってください。」

声のする居間に向かうとベットに横たわる中年の男性がいた。

「あぁ・・ベット上からすみません。森林長虫(フォレストワーム)に襲われ以来、足がまだ治らなくて。」

「お構いなく、依頼の確認ですが最近田畑に出没している森林長虫(フォレストワーム)の討伐でよかったですよね?」

「前まではまったくいなかったのですがここ最近森林長虫(フォレストワーム)この辺で出没するようになり田畑を荒らしまわっているのです。

いままでゴブリンなどは従軍経験ある私と何名かで倒していたのですが、あの化け物には歯が立たなくて。」

「なるほど、コレまでの被害と確認されてる森林長虫の数は?」

「死者2名・・・負傷者は私を入れて4名です。数は約4匹ほどになります。どうか駆除の方、宜しくお願いします。これ以上荒らされると村は作物を取れず冬を越せません。何卒、何卒・・!」

「わ、分かりましたら!頭を上げてください。」

しばらくの問答の後、日も暮れてきた為夕食をご馳走になり一泊することとなった。

夜も更け住人達が寝静まると神楽達はそっとベットから抜け出し街道近くの森へと向かった。

「鴉丸、状況は?」

木々の中に声を発すると影が盛り上がり人型を取るとそこに鴉丸が姿を現し、片膝を付いたままの姿勢で答える。

「依頼の森林長虫達はこの近辺で5匹程確認が取れました。あとは人相の悪い集団の塒が少し離れた所に一ヶ所、おそらく盗賊団かと。又、我々の脅威となりうるモノは確認されておりません。」

「そう、ありがとう。盗賊団の塒は放置して構わないわ。なら明日森林長虫達をこっちまで追い込んで頂戴。あとは私が片づけれるわ、その後は周囲で待機、異常があればすぐに伝言で伝えて頂戴。」

「畏まりました。宵月、神楽様を頼む。」

「鴉丸、言われるまでもありません。貴方こそヘマをしないでくださいませ。」

(仲いいなぁー・・・・私にももうすこし砕けて話してくれてもいいのに・・)

宵月と鴉丸が今後のの細かな打合せをするのをぼーっと眺めながら心中でつぶやく。

どうもこの子達は私を敬う気持ちが強くて、壊れ物の様に扱うができればもうすこし打ち解けてほしいと思うがなかなか切り出せない神楽であった。

 

朝食も(簡素ではあるが)御馳走になり、村の若手と共に森林長虫が出現したという田畑の端まで足を運ぶ神楽達。しばらく探索する振りをしながら鴉丸に指示をだし森林長虫(フォレストワーム)を追い立たせる。

ちょうど村人が一息ついている時に合わせれば、評価も上がると宵月が進言した結果である。

(レベル一桁かあっても10レベルの森林長虫とかばっかり狩っても飽きるわねー・・・まだだからまともな仕事がないから仕方ないのだけどこう盛り上がるイベントでも起きないかしら・・・・)

暇を持て余して髪先を弄りながら心の中で愚痴を零す神楽。

その周りには無残にもバラバラになり緑色の体液を撒き散らした森林長虫(フォレストワーム)と追い立てる際に巻き込まれたであろうゴブリンなどの死骸が転がっていた。

残骸・・としか言いようのない程バラバラになった物から組合に提出する部位を探し、切り取っては袋に詰めていく宵月から少し怨めしそうな視線を背中にびしびしと感じる。

しかしやってしまったものはしょうがないと割り切り、神楽も部位探しを手伝い始める。

日が落ちきる直前には回収作業は終わったが、エ・ランテルに帰るには遅い時間だったので好意に甘えてもう一泊することになった。

その時トーマスさんは涙を浮かべ感謝の言葉を並べていたがなんだか申し訳ない気持ちになっていく神楽であった。

 

次の日、出発する前に2泊もさせてもらったお礼に農作業を手伝おうと思ったら新しい事を発見した。

(鍬を持つのは出来ても、振り下ろそうとするとすっぽ抜けるわね・・・クラス適正を持ってないから?なのかしら・・・検証が必要ね)

農作業を手伝おうとしても、道具を正しく使おうとするの手からすり抜けるのである。

いつも持っている刀の方が間違いなく重いはずでレベル100の神楽なら筋力値も現地人と比べ物にならないはずのにである。

仕方がないので農作業の手伝いは諦め、近隣のモンスターの狩りと簡単な雑事だけを手伝いをし、日が傾き始めたころには村を出立した。

しばらく街道を二人で歩いていると玉藻から伝言伝言(メッセージ)が入る。

『神楽様、その近辺に不審な一団が接近してるのじゃ。』

『不審な一団?どういう事?玉藻。』

『その辺の人間にしてはかなり強い部類の人間が多数、中でも一人は天目の見立てでは妾達に匹敵するやもと・・・』

『っ!他の者の見立ては?どのくらいなの?』

『およそ30後半から40前後。この辺の人間にしてはかなりの強者なのじゃ。どうされますじゃ?』

『まずは監視を、無闇に手出しはしないように。それと全員に完全武装で待機を伝えて頂戴。必要であれば迎え撃つわよ。』

『すぐに準備を進めるますのじゃ。』

そこまで伝えると神楽は伝言(メッセージ)を切り宵月に先程の内容を伝える。

「かしこまりました、神楽様はどうぞそのままエ・ランテルにお戻り・・」

「それは出来ないわ、相手にこちらと同格の物がいるのに貴方達だけを残していけないわ。」

「神楽様!」

「これに関しては異論は認めないわ、宵月。これは命令よ。」

「・・・・」

唇を噛み締め、初めてかもしれない命令に対して従うべきなのか、それとも主人の身を案じて逆らってでも行動するべきなのか苦悶する宵月。

「宵月、貴方達がどれほど心配してくれてるかは重々承知しているわ。でもね明らかに今までとは強さが違うわ。

同じプレイヤーかも知れない状態で私がいなくては対応できないでしょう?それに戦うと決まっている訳ではないから。相手の目的次第では観察だけに留める。これでいいでしょう?」

「・・・承知いたしました。ただ危険と判断した段階で我々を見捨てても撤退する事だけはお約束下さい。」

「ええ、それで構わないわ。それじゃあまずは色々と準備をしないとね・・♪」

 

雑魚モンスターとの戦闘ばかりで鬱憤が溜まっていた神楽はまだ見ぬ強敵との邂逅と、他のプレイヤーと出会えるかもという思いから心が弾んでいた。

その出会いがどんなものになるかも知らずに・・・・。

 

その頃、ナザリック一同は・・・

「すまない、ポーションだったな。こ、これで大丈夫か?」

「金がない・・・・!」

「私などではなくアルベド様と素敵な方が!「ちょっおまっ・・!?」」

「なんでハムスターの背に乗らないといけないんだ・・・これじゃあとんだ羞恥プレイだよ・・」

ナーベのポンコツ振りと森の賢王()のせいで無い胃を痛めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はアニメや原作でも余り描かれて無い場面です。
どこまでうまく書けるか不安ですが今月中には書けたらいいなー・・


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第漆話―遭遇―

今月?知らない子ですね。

またまた一年振りの投稿です。
かなりオリジナルな所が入っているのでご了承くださいませ。



10日目 夜

 

街道を外れ森に身を隠しながら準備を進める神楽と宵月。

『玉藻、現在の状況は?』

『神楽様、現在一向は森の中を抜けながらそのままエ・ランテル方面に向かっておるのじゃ。』

『そう・・・ならそのまま監視を続けて置いて。私も仕込みが終わり次第、監視の目を飛ばすわ。』

『かしこまりましたのじゃ、天目含め全員完全武装で待機しておるのでいつでも御呼び下さいなのじゃ。』

『ええ、ありがとう玉藻。又何かあればすぐに連絡頂戴。』

 

伝言を切ると鴉丸が木々の合間を縫って降りてきた。

「神楽様、遅くなりました。準備すべて完了致しました。」

「鴉丸、丁度いいタイミングよ。じゃあ始めましょうか。宵月、いけるわね?」

「はい、神楽様。フェイクカバー、カウンターディテクト------」

神楽の合図共に複数の魔法を重ね掛けしていく宵月。その手際を見て満足そうに笑顔を浮かべる神楽。

(二回目という事も有って不足はないようね。これなら対プレイヤー、上位プレイヤーは厳しいだろうけど中堅位なら対応できるかな。)

「クレヤボヤンス、クリスタルモニター。神楽様、終わりました。」

「ありがとう宵月。さて・・・どんなっ・・・!?」

その一行の姿をみた神楽が驚愕のあまり、言葉を失った。

クレアボヤンス越しなので正確には見分けられないが先頭を歩く男は伝説、又は神器級の鎧を纏っている。

玉藻がこちらに匹敵するといったのはこの男の事だろう。レベルは90くらいだろうか?

他の何人かは、ちらほらと伝説級が見えるが多くは聖遺物級、遺跡級かそれ以下の装備が継ぎ接ぎのようになっていた。

こちらではかなりいい装備であろうが、ユグドラシルでいえばゴミの様な装備で有るため、脅威ではない。

ここまでは想定通りで有る・・・ただ一人の老婆が身に着けている服。

(なんであんなものが此処に!?いや他のプレイヤーが転移しているなら合っても不思議ではないけれど。そうなると彼らはプレイヤー?いやなら情報対策していないのは何故?)

様々な可能性を考えて考察をするがどれも確信に至るものはなかった。

そんな様子を見て宵月は不安そうに訪ねてくる。

「神楽様?如何されましたか?何か私共に不手際でも・・」

「大丈夫よ、宵月。貴方達に不手際はないわ、ただ・・」 

言い淀む神楽だが一息いれてから再び口を開く。

「あの老婆の着ている服は・・ワールドアイテムよ。」

「「!?」」

二人がその言葉に驚き息を飲む。

「ワールドアイテム・・知識としてはありますがあれはどの様なアイテムなのですか?」

「あれは傾城傾国、全ての耐性無視を無視して対象を洗脳できるわ。対処法方は同じワールドアイテム所持するかワールドチャンピオンのスキル・次元断層を使用するしかない・・」

ギリっと歯噛みする神楽。

(プレイヤーの痕跡があるならワールドアイテムも警戒するべきだった・・それによりによってアレが有るなんて・・)

対処するにも今打てる手がない、こんなことなら・・と考えていると・・・

「神楽様、如何致しましょう?御命令頂ければこの命投捨ててでも・・!」

「それは許可できないわ、鴉丸。私達に被害が出る位ならどれだけ貴重な物でも見過ごすのが最善だわ。」

「しかしっ・・!」

「これは決定事項よ。」

「はっ・・・失礼しました。」

「まだ向こうには気が付かれてないなら手出しは無用よ。ワールドアイテムとあの集団の情報は欲しいけど賭けに出る盤面ではないわ。最低限の監視のみ残して撤退、痕跡は残さないように」

「・・畏まりました、隠密重視で準備致します。」

唇を強く噛み締めながら鴉丸は神楽の指示に従い準備を進める。

その間、神楽は写し出される一向を食い入るよに観察を続けていると・・

「神楽様、また監視の目に怪しいのが掛かったと玉藻からご報告が上がっておりますが如何致しましょう?」

「今度は何?竜でもでた?」

「いえ、冒険者とおぼしき者が一人、エ・ランテルに向かって森を抜けようとしております。それを追跡するように大量の吸血蝙蝠(ヴァンパイア・バッド)吸血鬼の狼(ヴァンパイア・ウルフ)黒犬、それを使役してるであろう高レベルの吸血鬼が一体確認されております。」

「高レベル?どの程度なの?」

「非武装ではありますが我々と同格と思われます。」

(さっきの集団のお仲間?それとも敵同士?はぁ・・全くなんでこう面倒な事は纏めてくるのかしら?いや、まさか囮PK?)

神楽は宵月に気が付かれないように心の中でため息を溢しながら袂から一枚の札を取り出す。

「鴉丸?聞いていたわね。」

「はっ、しかと聞いておりました。」

「これもってさっきの集団を追跡しなさい、ただし決して発見されないように。もし見つかるようなら・・これを使いなさい。」

「これは・・・!?」

「私の切り札の一つ。もし貴方が発見された場合、その札を中心に『緋竜七咆(ハボリユム)』を発動させるわ。」

 

 

符撃師系の最上位スキル――超位魔法以外の魔法を遠隔に設置した場所から発動させることで不意討ちや、罠として利用することができるスキル。

ただし一度使用してしまえば符撃師がいると看破されてしまう。

緋竜七咆(ハボリユム)は超高温で消えない炎を周囲に撒き散らす第10位位階魔法、この程度の森ならあっという間に火の海になるだろう。

 

 

(リスクを多少あってもここは情報を優先するしかない・・それに隠密系スキルをもってるのは鴉丸だけ・・)

「この命に変えましても成し遂げて見せます・・!」

「鴉丸、出来れば貴方を死地に行かせたくないわ。だから、最後の最後まで生き残る事を諦めないで・・」

そう言いながら鴉丸を抱きしめる神楽。

震えそうな声を必死に抑えながら鴉丸は小さな声で「はいっ・・勿体無きお言葉ですっ・・・!」と答えるのが精一杯であった。

 

森の闇を駆ける鴉丸、前方のかなり離れた所から戦闘音が聞こえる。

『神楽様、先程の集団と吸血鬼の眷属を思われる魔物が交戦しております。・・・一方的に魔物達が駆逐されました。人間達には被害0です』

『そう・・・』

 

鴉丸からの報告を受けて、神楽は考える。

(どうやら敵同士みたいね・・でもそうなると吸血鬼を支配するためにあのワールドアイテムを持ち出してきたのかしら・・?)

 

『吸血鬼が人間達の存在を発見したようです。急速接近中。』

『そのまま待機、隠密重視で監視を続けて。』 

『はっ・・!吸血鬼と人間の部隊が接触。っ!?老婆から凄まじい力の波動と光が・・!これは・・竜?』

(紛い物ではなかったわね・・)

鴉丸からの伝言を聞きながら神楽であったが―――

『吸血鬼がスキルと思われるモノを使用。大きな光る槍を老婆に投擲、人間の部隊の一名がこれを阻止しようと盾を構えて老婆を庇いましたが貫通・・・盾の男は死亡、老婆は重傷。』

『(反撃・・?吸血鬼もワールドアイテムを?それともまた別の要因?)吸血鬼の様子は?』

『戦闘行動を中断して呆然と立ち尽くしております。』

(洗脳は成功してる・・けど発動までのタイムラグで反撃したということかしら。ユグドラシルではなかったことね。)

『重傷の老婆に治療を試みてる様子ですが芳しくないようで、護衛を付けて先に撤退するようです。』

『一番脅威になりそうな男は?』

『どうやら吸血鬼の支配が上手くいっていないのか人間の部隊内で揉めているようで現地に残るようです。』

『洗脳まではしたけれど指示が入る前に術者が瀕死になったから手が出せないといったところかしらね。』

『恐らくではありますが、その通りかと。如何致しますか?護衛は二人、それも脆弱としか言えない者達、ワールドアイテム奪取には好機かと進言致します。』

(誘きだす為の茶番・・にしてはやりすぎてるとしか思えないわ。なら・・)

覚悟を決めるように深く息を吸い込み・・

「『奪い取るわよ、ワールドアイテム 但し絶対にこちらの事がバレないように・・ね』」

はっ!

『鴉丸はそのままの位置で監視を、動きがあり次第報告を。場合によっては眷属を召喚して足止め、時間を稼いで』

『畏まりました。』

「宵月、貴方は私のフォローを。後玉藻に連絡して天目を呼び寄せておいて。玉藻には引き続き増援と伏兵がないかの監視を。」

「御心のままに。直ぐに手配を。咲夜達は如何致しましょう?呼び寄せますか?」

「そのまま拠点にて防衛、但し 時及は玉藻の直衛に。万が一ということあるから。」

「仰せのとおりに。」

宵月は伝言を使いそれぞれに指示を出していく。

 

その間神楽は―

第8位階精霊召還(サモン・エレメンタル 8th)黒雷」

周囲に次々と召喚する神楽、召喚した黒い雷の塊は神楽の周囲を浮遊している。

 

 

黒雷――レベルは65、攻撃も防御もそこまで高くはない精々30後半と同じレベル程度のステータスしかない。

しかし特筆すべきはそのスキルにある。身代わりと反撃のスキルだ。

攻撃を受けた際に身代わりになり、死亡時に攻撃者に対して状態異常を付与した自爆攻撃を行う。

 

 

一通り召喚を終えると天目がゲートを通って来たのが見えた。

「天目よく来てくれたわ。状況は分かってるわね?」

「委細承知」

「そう。出番がない・・と思いたいけどその時は頼むわよ。」

「御意」

「宵月、準備は?」

「万端に整えております。」

「なら予定通りに、檻に入ったら・・狩るわよ。ワールドアイテム」

「はっ!」

 

暗い森の中を駆ける男2人と担がれた老婆、それを少し離れた所から見つめる神楽。

ゆっくりと身の丈程もある梓弓を構える。番えられた矢は五本。

それぞれの矢の先には符が巻き付けられていた。

弦を引き絞り、狙いを定め――

風を切る甲高い音と共に五本の矢は暗い森の中を駆け抜ける。

四本は漆黒聖典を囲うように四方に散らばり、残りの一本はそのまま――

 

 

漆黒聖典の第五席次:一人師団は神経を尖らせ周囲を警戒しながらカイレ様を運んでいた。

まさかあの隊長を退け、巨盾万壁を貫く程の化け物がいるとは考えたこともなかった。

「あれが破滅の竜王だったのか、恐ろしい・・あんな化け物が存在してはならない。必ずや滅ぼさなければ人は滅びる・・!」

「そうだな・・あんな化け物から俺達が守らないと。その為にもカイレ様を早く法国にお連れしないとまずい。」

第十席次:人間最強は大きな斧を背負い、先導するように森を駆け抜けながら答える。

「カイレ様の傷、なぜかポーションや治癒の魔法では受け付けない。恐らく呪いだろうから早く解呪をしないと手遅れになってしまう・・!」

「あぁ、カイレ様もご高齢。復活の儀式に耐えられないかもしれないしな。」

「森を抜けたらギガント・バシリスクとクリムゾンオウルを呼び出す。それまでは頼みます、人間最強。」

「あぁ任せろ・・と言いたい所だがさっきの化け物クラスが出たら流石に無理だな。まぉ占星千里も帰り道には脅威はなにも見えないといってたし大丈夫だろうがな。」

「あんな化け物が何体もいるなんて考えたく・・んっ?何か音が・・?」

「風切り音・・矢か!?伏せろ。」

カイレを庇う様に覆い被さる一人師団、人間最強は矢を迎撃せんと大斧を構える。

しかし何時まで経っても矢が飛んでくる気配がない。

「なんだ?どっかの冒険者が戦ってるのか?こんな暗い森の中で?」

「少なくともこちらへの害意はないとみていいだろう。音はしたが近くに矢は見えない・・念のためクリムゾンオウルを出して周囲を探らせてみよう。」

「そうだな、カイレ様は?どうだ?」

「いまだ苦しんでおられるが先程までと変わった様子はない・・周囲の安全がとれ次第早く森を抜けよう。」

一人師団は5体のクリムゾンオウルを召喚し、周囲を探索させたが近くには何も居なかった。

しばらく離れた位置にエ・ランテルに逃げるように走るレンジャーを見つけた。

先程の音はこのレンジャーが放ったものだろう。

幾分距離は離れているがなんらかの魔法のアイテムを使用した。

二人は結論してその場を離れ森の外へと抜けていった。

 

 

「あはっ♪ あははっ!」

八重の社では神楽の笑い声が響き渡っていた。

「こんなにも!こんなにも簡単にワールドアイテムが奪えるなんて!」

「「おめでとうございます、神楽様。」」

「ありがとう。鴉丸、宵月。貴方達、皆のお陰よ」

「神楽様のご指示が有ればこそで御座います。」

「本当は神楽様はご指示だけで御身の安全を優先して欲しかったくらいですが・・」

ジト目でチクチクと責める宵月と謙遜する鴉丸。しかし神楽の心中は清々しいほどに晴れていた。

(ワールドアイテムを犠牲も露見もせずに奪えるなんて!あぁなんていい日なのかしら♪)

余りにも簡単に奪えたので最初は偽物か罠を警戒していたが終わってみれば本物のワールドアイテムであり、罠も無かった。

何度思い返してもにやける顔が止まらない――

 

放たれた矢は漆黒聖典の二人の前で砕けちった。

それと同時に巻き付けられていた符に込められた時間停止(タイムストップ)を発動。

周囲に打ち込まれた矢も同じタイミングで符が発動した。

探知通信妨害、異常耐性低下、魔法抵抗貫通力増加、時間魔法補助4つがそれぞれが発動した。

時間対策出来ていない漆黒聖典達は何の抵抗も出来ずに敗北した。

そこから先は只の蹂躙でしかなかった。

天目が直衛についた宵月が拘束魔法を幾重にも重ね、盲目や沈黙などの状態異常を山程押し付けた。

時間停止が終わると暗みと無音の中、身動きも取れない漆黒聖典の二人に記憶操作(コントロール・アムネジア)で全てを無かった事にした。

 

矢は音だけであった――と

 

その間神楽は老婆に銀色の立方体を握り潰すとそれは液体の様に零れ落ち老婆の着ている傾城傾国を覆い尽くす。しばらくすると傾城傾国と瓜二つの服が老婆の傍らに顕れる。

彫り込み鋼―装備品の外装と三割程の性能を持った模造品を作成できる課金アイテムだ。

課金アイテムだけあってワールドアイテムすら擬装できる超レアアイテム。

しかし大きな欠点も抱えている。

 

第一に性能が元の三割しか発揮できない。

第二に鑑定魔法であれば直ぐにバレる。

第三にプレイヤー同士の取引では名前が彫り込み鋼と表示されて詐欺は出来ない。

そして第四に戦闘等の衝撃や装備者の変更があると擬装が剥がれ落ちてしまう。

あくまで観賞用のイミテーションアイテム、それが彫り込み鋼であった。

 

神楽は老婆から服を剥ぎ取ると腹に開いた傷口に符を幾つも重ねる。

(カースド職系の呪い・・これのせいで治療を諦めたのね。解呪して、とりあえず死なない程度に回復させてっと)

苦悶に満ちた老婆の表情が幾らか和らいだのを確認すると符を剥がし、袂から新しい符を取り出す。

意識混濁、混乱、恐慌、盲目、沈黙、呪い、麻痺、衰弱、虚弱、回復減衰、行動阻害、蘇生阻害、装備変更阻害

――致死性以外の様々なものを山の様に付与していく。

 

最後に符を剥がし掘り込み鋼で出来た傾城傾国を着せようとしたときに監視をしていた鴉丸から伝言が入った。

『神楽様、残りの人間達が動き出しました。あの吸血鬼を捕獲を試みたようですが反撃され一名死亡。部隊を撤収してそちらの人間達と合流するようです。』

『不味いわね、すぐにこちらも撤退するわ。鴉丸、貴方はそのまま監視を続けて、状況が変化したらすぐに連絡を』

『はっ!』

伝言を切ると宵月と天目に直ぐに撤退の準備をさせる。 

老婆に対しては時間がないため雑に記憶操作を施す。瀕死の状態なら記憶も定かではないだろう。

(流石にこれだけしておけば完全に復活する前に死ぬだろうし、彼等の行動的に必死に延命してくれるだろうから時間は稼げるわね。)

 

回復量減衰などを付与したのは必死にポーションや治癒魔法を使えば延命できる程度にしたいからだ。

レベル100の神官等や課金アイテムや上位アイテムがあれば解呪や蘇生阻害を無視しての復活もできる。

ただそれはまずないだろう。

もしそんな備えがあるならば、ワールドアイテムを装備させた者に同行させるなり、持たせるだろう。

罠でもないならなおさらだ。

再度時間停止(タイムストップ)を再度使用して、男達を元の態勢に戻す。

最後に状態異常を綺麗さっぱり取り除いてから時間停止(タイムストップ)を解除、異界門(ゲート)で撤退。

 

――全てはあの吸血鬼の仕業として擦り付けた上で誰にも気が付かれない間にワールドアイテムを奪取した――

 

「とは言え、諦めてあの老婆を見殺しにされたりしたらワールドアイテム奪取が発覚するわね。」

「あの男達の記憶を見た所、老婆――カイレという名だそうですが、ワールドアイテムの適応者が少ない為、かなり貴重な人材のようです。消去を優先した為、深いところまでは見れなかったですが。」

「そう、彼等の目的とか戦力、所属については?」

「目的は破滅の竜王の洗脳だそうです。どうやら人類の守護者を標榜しているようです。申し訳ありません。戦力、所属については不明です。ただまだ切り札があるように感じました。あの吸血鬼に勝てる程の。」

宵月が畳に顔を擦り付けんばかりの勢いで謝罪しながら報告をする。

「いいのよ、あの状況なら仕方ないわ。それに情報よりもアイテムの奪取と隠蔽、こちらの方が重要よ。」

「有難う御座います。それでこの後は如何致しますか?」

「そうね・・このまま雲隠れより依頼を組合報告してから・・」

 

そのあとはどうしよう。

このままエ・ランテルにいるのは悪手だろう。

ワールドアイテム奪取が発覚したとき足取りを追われたら――

 

(そういえばダックが竜王国に行くとか言ってたわよね。あれに護衛としてついていくのはどうだろう。)

知り合いの護衛としても不自然ではないし竜王国では絶賛ビーストマンの食卓になっているので稼ぐにはもってこいの場所。

 

「竜王国に向かうわ。隊商の護衛としてのんびりとね。あとさっきの部隊や吸血鬼に着けている監視は全部外しておいて。」

「竜王国に向かうのは分かりますが、監視を外す意図は分かりません。危険では?」

「あの部隊が拠点や町に行った時に情報対策がされてる所に、吸血鬼にの元に情報対策している人物が接近した時にカウンターを喰らう可能性もあるでしょ?」

「確かにそうですが、なら多少コストが掛かっても傭兵や天目に監視をさせては?」

「私達はなにも見なかった、居なかった。という形にした方がバレにくいのよ。まぁ後手に回るリスクはあるけど、それでもね。それに――」

 

傾城傾国で洗脳した対象に指示が出せないかと試しに装備してみたが、どうやら洗脳した人物でないと指示が出来ないようだった。

吸血鬼が単独なら問題ない。しかしもし何処かの組織に属して居たならば・・?洗脳したのは人間達の部隊だが今、そのアイテムを持ってるのは自分達だ。

監視をしていてその組織と遭遇なんてしたに日には殺し合いにしかならない。ならば交渉の手札を残す為にも――

 

「干渉しない、知らなかったでいた方が都合がいいのよ。」

「成る程、畏まりました。玉藻と天目にはその様に伝えておきます。」

一通り宵月と話終えると控えていた鴉丸が報告をあげてくる。

「咲夜達より明日の夜には解錠が終わると報告がきております。」

「そう・・やっぱりこっちに来てから色々と変わってるみたいね。解錠が終わり次第、連絡を。決して扉を開けないでね?」

「畏まりました。しかしあれを取り出すだけなら咲夜達だけでも大丈夫なのでは?」

「色々とあるのよ・・色々と・・ね・・」

「・・その様に手配しておきます。護衛は引き続き私と宵月。防衛態勢も引き続きで宜しいでしょうか?」

「それで問題ないわ、もし少しでも違和感や異常を確認したら直ぐに報告を頂戴。」

「はっ!」

 

宵月と鴉丸は神楽からの指示を進めるために退室していった。

「さぁてどうなるかしね・・」

複雑な思いを神楽が呟く様にした言葉は暗い夜に溶け込む様に消えていった――

 

 

その頃、ナザリック一行は・・・

 

「はあぁ!?セバスぅ?もう一回いってくれない?それとも竜人である貴方がその形態でさぁ?私と殺り合う気かよ!?」

「血の狂乱は押さえ込んで見せんすえ・・・」

 

「あはははは!鬼ごっこの次はかくれんぼぉぉぉ?あはははは!」

「でじゃーどけってぃ!!」

「ああっ!!二人も人間を取り逃がしてしまった・・!アインズ様に叱られる・・・!」

「うぐああああああああ!!!ああああああああ!!!」

「カイレ様ぁぁぁ!」

 

フラグ建設をしまくったシャルティアがポンコツを遺憾なく発揮していた。

 




今月中には次を(来年) 
次回は竜王国編になります。


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第捌話--途上--

竜王国編を書くと言ったな。
アレは嘘だ!
色々と書いていたら長くなりすぎたので一度区切りました・・・
次こそは竜王国編を書きたい・・!


11日 朝

 

 

「これで依頼完了ですね、お疲れ様でした。」

 

冒険者ギルドでの報告を済ませた神楽はダックの姿を探しに市場へと向かった。

朝の市場は活気豊かで賑やかな声や音がそこら中から響き渡っていた。

客寄せに店員が大きな声で宣伝をしている。

肉を音や焼く香ばしい匂いが立ち込め、食欲をそそる香りが鼻腔をくすぐる。

「安い!美味い!ポロック揚げ!どうだい?そこ人!一つ買っていかないか?」

「美味しそうね・・・ジュルリ、一つくださ―」

「神楽様、今はそんな場合ではありません。それに朝食はしっかりお食べになりましたよね?さぁ行きますよ。」

「あぁ!私のポロック揚げがぁぁ・・」

 

何か買って行こうとする神楽を宵月が引き留めながら引き摺る様に目的の場所へと向かう。

エ・ランテルでも一際大きい商会、バルド商会の入り口に辿り着いた。

 

「いらっしゃいませ。本日はどのような御用でしょうか?」

「ダックさんがこちらでお世話になってると聞いたのですが。」

「確認してまいりますので少々お待ち下さい。」

受付にいた初老の男性と宵月が会話を進める中、いじけた様に端に座り込みのの字を書く神楽。

商会に出入りする人は何事かと驚くが、あまりの雰囲気に誰も声を掛けられない状況が続いていた。

 

しばらくするとさっきの受付の男性が戻ってきたようだ。

「お待たせ致しました。ダック・イエルドは7番荷捌き場で作業しているはずです。予定では本日エ・ランテルから出発の筈ですがどうもトラブルが有ったようで・・」

「トラブル?怪我をされたとか?」

「いえ、どうやら人員手配の関係とありますね。ご案内致しましょうか?」

「いえ、それには及びません。場所だけ教えて頂ければ。」

「畏まりました。入ってきた扉を出て右手に進むと荷捌き場が御座います。看板が吊り下げてあるので7番をお探し下さい。」

「ご丁寧に有難う御座います。」

 

受付の男性に場所を聞き終わると宵月は端でいじけている神楽に声をかける。

「そんなことしてないで行きますよ。」

「ポロック揚げ・・」

「駄々こねないで下さい。幸いまだ出発してないみたいですから、ほらほら立って。」

「ポロック揚げぇ・・」

「あぁもう!後で買ってあげますから!」

「ポロック!」

「はいはい、早く行きますよ。はぁ。」

鼻歌混じりにポロックと言っている神楽を尻目に宵月は深いため息を吐いた。

 

しばらく歩くと荷下ろしを手伝っているダックを見つけた。向こうもこちらを見つけた様で小走りで向かってきた。

「姐さん!お元気そうでなによりです。今日はどうしてここに?」

「ちょっとね。前に竜王国に行くって聞いたから。」

「あぁ、そうなんですよ。行く前に渡りとして知り合いのワーカー、まぁ冒険者崩れなんですがそういった奴等に傭兵紛いの盗賊なんかが居ないか確認しようと思ったんですが・・」

「何か問題があったの?」

「それがここん所、連絡がつかないんですよ。最後に連絡取れたのが2日前でして、そのあとはさっぱり。」

「そう・・それでどうするの、この後は?」

「仕方ないんで護衛を増やしてバハルス帝国経由で竜王国に向かう予定になっとりやす。」

「あら、なら丁度良かった。私達も竜王国に行こうと思ってね。」

「姐さんが一緒についてくれるなら心強いでさぁ!早速、上の者に伝えてきます!」

「ええ、宜しくね・・ってもう行っちゃった。」

「そのようですね。組合経由での依頼になるかとは思いますがしばらく此処で待ってみますか?」

「そうねぇ・・」

 

しばらく近くの木箱に座ってまったりしているとダックが走って戻ってきた。

「お待たせしやした。最初は銀級なんて上が渋っていたんですが、第三位階を使えると話したら商会の警護担当が話をしたいときやした。」

「話?実力でも確かめたいのかしら?」

「そこまではなんとも。姐さん、この後時間は空いてますかい?」

「まぁ別に大丈夫よ。」

「ならすぐに案内しやす!」

 

三人は荷捌き場の通りを奥へと進んでいくと馬舎が併設された大きめの建物がみえた。

「あれがバルト商会の警護部門の建物でさぁ。」

「ふーん。どの位の人数がいるの?」

「正確な人数までは知りませんが30人位はいるじゃないんですかね?っと着きやした。」

扉の両脇には槍を持ったいかにもな門番が二人いた。ダックが話し掛けると知っていたのか直ぐに中の応接室に案内された。

 

「君達がダックの言う凄腕の冒険者かね?」

「いえ、冒険者は私だけですね。宵月は私の供回りのので。」

「ふむ、なら一人で銀級まで上がったのかね?」

「ええ、剣も魔法も一通り出来ますので。」

営業スマイルを浮かべながら質問に答える神楽。

しかし警護部門の長、ドーン・クルーソンはどうも懐疑的であった。女、それもフードを被ってはいるが世に二人といない美女が第三位階魔法やゴブリン等の魔物を瞬く間に切り捨てたなど妄言としか思えなかった。

ドーンは当たり障りのない質問を切り上げ、本命をぶつける。

「私は元々白金級の冒険者だったのだ。ここの護衛を請け負った時にいた商人の娘に一目惚れをしてね。道中ひたすらに愛を語らい、魔物が襲いかかってくる度に私は――」

「あの~」

「おっと失礼。まぁ今では私の妻なんだがね。それで冒険者を引退をしてこの商会にお世話になっているのだが

、どうにも君の様な若い女性が強いと思えないのだよ

。」

「それで?何か証明をしろ、と言うことですか?」

「あぁ、私と手合わせしてもらおう。此方としても大事な商品を実力不確か者に任せるわけにはいかないのだよ。」

「構いませんよ。場所と時間はどうしましょう?」

「この後、下の訓練場でどうだろう?予定より遅くなってしまっている。それに冒険者組合に依頼を出すにも書類やら手続きが必要なのでね。」

「勿論。」

余裕たっぷりに答える神楽に対してドーンは戸惑いを感じていた。元とはいえ白銀級の冒険者、彼女が首から下げでいる銀よりも2つも上、性別や体格の差もあるのにこの余裕はどこから来るのだろうか。

 

(元だから、自分の方が優れていると傲っているのか?こういうのは先達としてへし折ってやらねばな。)

ドーンは心の中で訓練場にて刃を潰した剣を素振りしながら決意を固めた。

「刃は潰してあるが当たり処が悪ければ骨位簡単に折れるからな。参ったの宣言か私が合格又は危険と判断したら終了としよう。それで問題ないかな?」

「ええ。そのルールで問題ないわ。」

「さぁどこからでも来なさい。レディファーストだ。」

そういい放ちながら剣を構えるドーン。

対する神楽は剣を持った腕をだらりと下ろしどこ吹く風と言わないばかりに体を弛緩していた。

(ただのはったりか?無駄に時間を――)

そう心の中で考えていると、眼前に剣が振り下ろされていた。

「武技―回避!」

辛うじて転げるように倒れ込みながら剣を避ける。

「うーんやっぱりしっくり来ないわね。」

感触を確かめる様に、何度も剣を握り直しながら呟く神楽。ドーンは信じられないとばかりに大きく目を見開きながら何が起きたのかと考えながら土まみれになりながら立ち上がる。

(武技か?それもと幻術でも掛けらたのか?)

「ははっ!凄いな。まるで見えなかったよ。」

「まだ少し早かったかしら?なら次はもっと遅くするわね。」

「あぁ!いいとも!私も全力でいかせてもらおう!武技―視覚強化!能力向上!」

 

たった一歩、それだけで五メートル以上あった距離を詰められた。残像が見えるほどの剣速で振り下ろされた剣をとっさに武技、要塞を発動しながら剣をぶつける勢いで防ぐ――否、防ごうとした。

まるで生き物として格が違う―要塞の上から押し潰されていく。こんなにも細い体のどこにそんな力があるのかまるで分からない。目の前にいるのがトロールならまだ納得が出来る、そう思えるような一撃であった。

「ぐ、ぐうう!!ま、参った!」

片膝をつき、今にも折れんばかりの剣を全身で支えながら唸るように叫んだ。対する神楽は視線を外しておりまるで聞いてないかのように未だに剣を振り下ろそうとしてた。その視線は宵月が駄々を捏ねない様に買ってきたポロック揚げに釘付けにされていた。

「お、おい!終わりだっていってるだろ!あぁ!くそ!話聞けよ!いや、待って!死ぬから!お願い!誰か止めて!」

必死の懇願に宵月がやれやれと言わないばかりの態度で

神楽の口に熱々のポロック揚げを放り込みなから剣を回収する。

ドーンは地面に倒れ込みながら目には涙を浮かべ、何度もありがとう、死ぬかと思ったなど口にしていたが神楽はまるで目にはいらないかのようにもひもひとポロック揚げを齧っていた。

 

「合格だよ、合格っ!本当に死ぬかと思ったよ。その細身のどこにそんな力があるのやら・・」

「ふふふ♪秘密です。なら護衛の件、指名依頼でお願いしますね。」

「あぁ、任せておいてくれ。あんた一人いれば要らない世話だとは思うが、一応、私の部下も何人か護衛に付く予定だ。手続きがスムーズに行けば明日には出発だが大丈夫か?」

「いつでも大丈夫ですよ。元々旅の途中だったので荷物もないですし。」

「そうか、私はこれから番頭に会ってくる。そうそう、商会に就職する気はないかね?君ほどの腕なら――」

「遠慮させて頂きます。やりたい事が山程あるので。」

「そうか、残念だ。もし気が変わったらいつでも声を掛けてくれ。」

そう言うとドーンは商会の本館に向かっていった。

 

 

「いやぁ姐さんがいれば旅路も安心でさぁ!さぁさぁ飲んでくだせい!今日は奢りですから!」

「ありがとうねダック。なら遠慮なくさせてもらうわ。」

「いえいえ、明日から宜しくおねがいしますでさぁ。ささ、どうぞどうぞ。」

大衆酒場にて神楽と宵月、そしてダッグは護衛依頼の受諾と共に前祝に夕食と共に取っていた。

 

しかししばらくすると外が騒がしくなってきていた。

「あら?なにかしら?」

「ちょっと見てきやす。お二人はここでお待ちを。」

席を立ち、店の外を見に行くダック。宵月は

「神楽様、如何なさいますか?玉藻に申し付けて原因を調べさせますか?」

「別にいいわ。今は宝物殿を開錠する関係で社周辺を重点的に監視させてるし、それにそろそろ戻ってきそうよ。」

どたどたと大きな足音を立ててダックが玉汗を浮かべながら戻ってきた。

「あ、あ、姐さん!大変です。墓地から大量のアンデットが湧き出てきてやす!」

「あら、それは大変ね。それじゃあちょっといってこようかしら。」

「お供します、神楽様。」

「いや!あぶねえですぜ!すげえ量のアンデットなんですよ!?衛兵達がすっとんでいってましたが・・」

「なら冒険者にも声が掛かるでしょ?宵月いくわよ」

「畏まりました。ダックさん明日は宜しくお願いしますね。」

「いや・・あぶないって・・いっちまったか・・」

 

墓地の方から住人が逃げる姿を横目に夜の街を歩く神楽と宵月。

外縁部には既に何組か冒険者が集まっていたが苦戦しているように見えなかった。城壁の上で冒険者が戦闘しているが城壁の内側にも何組か冒険者が準備をしていた。

神楽は不思議に思い準備をしていた近くにいた鉄等級の冒険者に声を掛けた。

「墓地からアンデットが大量に涌き出したと聞いてきたのですが何かあったのですか?」

「んっ?あぁ銀級の人か。どうもこうも俺達も組合から同じ話を聞いて来たんだが、来てみたらまぁ普段よりは多いがほぼほぼ城壁近くは片付いたんだ。ただ、衛兵達の話だと銅級の冒険者が墓地に突入したって言っててな。救出と今回の大量発生の原因を調べる為にも今、ミスリル級か白銀級の冒険者を待っているんだか・・」

「まだ来てない・・と。」

「あぁ。もう少ししたら到着するらしいが・・」

「そう、ありがとう。宵月、行くわよ。」

「どちらへ?」

「もう解決したみたいだし、我が家に帰るわよ。時間もそろそろでしょう?」

「畏まりました。直ぐに手配致します。」

踵を返し、来た道を戻る神楽達。途中人気がない路地裏に入ると転移門を開く。

転移門を抜けると八重の社へと繋がる石段の入り口に槍を脇に起き片膝を着いたままピクリとも動かない天目が待っていた。

「天目、出迎えご苦労様。何か問題はあったかしら?」

「万事問題無く。」

「そう、なら良いわ。引き続き宜しくね。」

「是非も無く。」

巻物を取り出すとぐるりと神楽と宵月を囲う様に広がり包み込むと社の境内まで転移した。

しゅるりという音と共に巻物が独りでに巻き直されていくと、玉藻と鴉丸が社殿から姿を表す。

「「お帰りなさいませ、神楽様。無事のお帰り心よりお喜び申し上げます。」」

「ただいま、鴉丸、玉藻。あれから何かあったかしら?」

「いえ、何も。周囲の監視も引き続きしておりますが大きな変化は有りません。ただ少し森に変化が有ったようです。」

「変化?」

「どうも縄張り争いなのか森の魔物達が住処を変えているようです。」

「そう、此方への影響は有りそうなの?」

「まず無いかと。森の魔物は大半が雑魚と呼んで良いレベルなので防衛以前に辿り着く事さえ無いかと思われます。」

「ならいいわ。引き続き宜しくね、二人共。私は宝物殿にこのまま向かうから。」

「「仰せのままに!」」

そのまま社殿の中を抜け、最奥の宝物殿へと向かう。

四方を無数に連なる襖の回廊を右へ左へ、時には戻りを繰り返すと宝物殿の入り口に辿り着く。正しい手順で襖を潜らないと入り口に戻されるトラップである。

無数の札や注連縄が括り付けられた扉の五つ空いた窪みに掘り込まれた模様の違う五寸釘をそれぞれ打ち込む。

鈍い音と共に扉が開いていく。

中は明かりがなく無音の闇が続いている。神楽鈴を取り出し、しゃん、と透き通る様な音が響き渡ると扉の直ぐ近くに明かりが灯る。鈴の音が鳴る度に灯りが奥へと延びていく。十三度、鈴をならし終えると神楽は奥へと進んでいく。

脇には昔と比べるとかなり寂しくなった金貨の山や使わなくなった装備やドロップアイテムや素材が積み重ねられている。

しばらく歩くと行き止まりへと辿り着く。神楽は勾玉を取り出すと壁にそっと当てる。すると地下へと続く階段が音をたてながら姿を表す。

ひんやりとした空気の中、階段を降りていくと咲夜と時雨が大きな扉の両脇に手を窪みに入れながら軽く会釈をしてくる。

「ようこそ神楽様。」「宝物殿最奥に。」

「二人共、ありがとうね。疲れてない?」

「神楽様の為なら」「何も苦になりません。」

「解錠は上手くいきそうかしら?」

「もう」「まもなく。」

「なら此処で待たせて貰うわ。」

近くにあった宝箱に腰掛けぷらぷらと足を揺らす神楽。10分ばかりするとがちゃりと大きな音響き渡る。

「「神楽様」」「解錠」「終わりました。」

「ありがとうね。宵月、貴女も此処で待ってて。」

「神楽、護衛も付けずにお一人で?理由を御聞きしても?宝物殿最奥、それも開かずの扉の中に危険は無いと思いますが・・」

「開かずの扉・・ね。確かに貴女達を創ってから開けたことは無かったわね。危険は無い筈よ、多分。ただこの先は私一人で行かないと駄目なのよ。他の誰でもなく私が・・ね。」

「それは理由になっており「宵月、お願い」っ!」

いつになく、宵月に取っては初めてとも言える程、真剣声色に驚き言葉を詰まらせる。駄々を捏ねる子供をあやすような、それでいて今にも泣きそうな顔をする神楽を前に宵月は諦めたように言葉を紡ぐ。

「はぁ、なるべく早くお戻りになってください。一刻経つか異常を感じたら鴉丸を連れて迎えに行きますから。」

「ごめんね、宵月。それじゃあ行ってくるわ。」

「お気を付けて・・神楽様。」

手を寂しそうに振る宵月を背に神楽は青白い灯りを灯した灯籠が立ち並ぶ開かずの間に入っていく。

中は伽藍堂の様に広く灯籠意外な何もなかった。奥まで進むと棺とその両脇に二振りの剣があった。

幾重にも札や注連縄で縛られ宙吊りにされた三尺はあろうかという大太刀。

もう一振りは表面がひび割れが蜘蛛の巣状に走り継ぎ接ぎの様にも見える大剣が石の台座に刺さっていた。

中央に据えられた棺の蓋に手を掛け、止める。

きっと開けてしまえば逃げていた事に後悔するだろう。開けなければ良かったと苦悩に苛まれる日々が続くかもしれない。それでもあの子達を、そして此処を守るためにも私はっ!

意を決して棺の蓋をずらし中身を顕にする。

中には透き通るような白い肌。青色のボディスに白いエプロンドレス、広がる長い髪は光を反射して輝く金色。頭ウサギの耳の様な形をした大きなリボンを着けていた。

まるで不思議の国のアリスの絵本から抜け出した様な少女が横たわる棺の中には時計を持った白兎やトランプの兵隊、赤いドレスを着た女王等の人形が敷き詰められていた。

神楽は優しく少女を抱き上げる。裾から見える腕には丸い球体間接が見えた。人形であった。

耳元で囁く様に詠う様に語り掛ける。

 

 

All in the golden afternoon (すべては黄金の昼下がり)

Full leisurely we glide(ゆらゆらとただよう私達)

For both our oars, with little skill(二人の漕ぎ手は つたなくて)

By little arms are plied(小さな腕で懸命に)

While little hands make vain pretence(小さな両手をむやみやたらに動かして)

Our wanderings to guide(漂う私達を導いていく)

        

 

 

「さぁ起きてアリス。早くしないと遅れちゃうわ。」

閉じられていた瞳が開かれると碧い瞳が神楽を捉える。

パチパチと何度も瞬きすると、大きく見開かれた瞳から涙が零れ落ちていった。

「アリス?やっぱり私が許せない?」

そう問いかけると子供の様にしがみつき、神楽の服に擦り付けるように首を横に振るアリス。服の下から嗚咽の様な声が聞こえてくる。

ごめんなさい、許して、捨てないで。

泣きじゃくりながら何度も何度も訴えるアリス。その様子に神楽は子供をあやすように背中を何度も優しく叩きながら、もう大丈夫だよと声を掛け続ける。

しばらくすると泣き止んだアリスを棺の上に座らせる。

頬を伝う涙の跡を袂で拭ういながら優しく話し掛ける。

「ねぇ、アリス。貴女は私を恨んでないの?」

「ひっぐ、そんなことありえないわ・・お母様。」

「(お母様?)そう、ならなんでそんなに泣いているの?」

「だって捨てられたって思っていたから・・またお母様に会えると思ったら、涙が止まらないの。」

(そうね・・生まれてからてずっとここにいたものね・・)

拠点は最低レベルの場所でも700レベル分が付与される―アリスは一番最初に創った、いや創られたNPCであった。裏切り、謝る前にもう会えなくなってしまった彼女と瓜二つ―死者を模した人形。

宝物殿最奥が完成した時に二振りの剣と一緒に安置され見る度に、思い出す度にあの日の後悔を思い出すから今まで日の目を見る事も他のNPCも存在すら知らない。

設定はたった一行。メメントモリ。ただこれだけなのだ。

恨まれても仕方がない、それだけの事をした。そして怖かったのだ。NPCがそれぞれ動き出した時に彼女の顔で、声で、仕草で糾弾された時、私はきっと――

もう一度彼女を殺すことになる――

「お母様、捨てないで・・いい子にするからお願い・・」

黙り込んだ神楽に不安を感じすがり付きながら懇願するアリス。その様子を見るとただの幼い子供にしかみえない。こんな健気な子を疑った事に罪悪感に苛まれた。

「ごめんね、アリス。貴方が悪い訳ではないのよ、全部私が弱いからいけなかったの・・」

「お母様ぁぁ!」

感極まり突進の如く神楽に抱き付くアリス。もう離したくないと言わないばかりにしがみつくアリスを神楽は頭を撫でながら何度も謝り続けた。

 

最奥に入ってから30分程たった頃、開かずの間の入り口に神楽はアリスを抱き抱えて現れた。入り口で待機していた宵月達は抱えらたアリスに驚き戸惑いながらも神楽の帰りを喜んだ。

「お帰りなさいませ。そちらの子供は?」

「この子はアリスよ。最奥にずっと眠っていたのよ。ほらアリス?」

「誰?私はお母様さえいれば良いのだけど。」

「なっ!?神楽様のお子なのですか?」

「あー・・うん、まぁ貴方達と同じ存在だからそういう意味で子供と言えば子供かな?」

「成る程、そういう事でしたか。私は宵月、此方の二人は咲夜と時乃。これから宜し――」

「ねぇねぇお母様?今夜は一緒に寝てもいいかしら?」

挨拶の途中に丸で興味がないばかりか無視をして神楽に話掛けるアリス。それに対して宵月達、三人は殺気だった空気を漂わせ始めた。

「随分教育がなってないお子様ですね。これは骨が折れそうです。」

「流石に」「不愉快」

「なぁに?貴方達?お母様との会話の邪魔をしないで?邪魔をするなら・・」

ガチャリと大きな音を立てながらアリスの手には砲芯が3つ付いた大きな銃――ガドリングガンが握られていた。

一瞬即発の状態に神楽はため息を吐きながらアリスにデコピンをするとバチンと鈍い音とがする。

「アリス?話はちゃんと聞きなさい。あの子達は私の家族、つまり貴方の家族でもあるの。あといきなり武器を出さない。どっちも引けなくなるでしょ。それに貴方達が殺し合いになったり傷付いたら私は悲しいわ?」

「はいっ、お母様・・」

プルプルと震え涙目になりながら赤くなった額を押さえるアリス。

「宵月達、ごめんね。ちょっと変わった子だけど仲良くしてあげて頂戴。今まで誰とも接した事も外に出た事もないから多目に見てあげて。」

「「「仰せの通りに」」」

「ほら、アリス。ご挨拶は?」

「私はアリス・・宜しく――お願いします。」

神楽から降りて挨拶するアリス。内心嫌々なのが見てとれるがこれから次第だろうと神楽は心の中で呟きながら嬉しそうに目を細めていった。

 

 

 

その頃、ナザリック一行は・・・

 

「それを咎めるのは我侭というものだろう」

「私は我侭なのだよ(ドヤっ)」

 

アインズ節が炸裂していた。

 

 

 

 




次回こそは・・!次回こそは竜王国編予定(未定)

お盆の頃に出せたらいいなー


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