IS 復讐の海兵 (リベンジャー)
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出会い

その日も少年にとって代わり映えしない一日になるはずだった。いつものように友達と遊び、家に帰り、両親と談笑しながら夕食を食べて、後は寝るだけであった。しかし少年の日常は突如終了を告げた。

 

「白騎士事件」・・・後にこのように言われる事件により少年の日常は崩壊した。白騎士が破壊し損ねたミサイルが少年の住む町に着弾したのだ。ミサイルの爆発の衝撃により少年の家は崩壊し、両親は死んだ。少年は奇跡的に助かったが、両親が死んだと聞かされた少年は絶望した。

 

少年には更なる追い討ちが続いた。白騎士事件での被害者は0と発表されたのだ。ISという国家に利を生むものに汚点があってはならないとして、国家に隠蔽されたのである。これにより少年には一切の補助が出ることは無かった。

 

少年は五体満足で無事に退院したが、少年には行くあてが無かった。かって住んでいた街は既に無く、友人を頼ろうにも白騎士事件により全員死んでしまっていた。少年は彷徨った、あても無くただ彷徨った。運命は更に少年を苦しめた。ISのせいで世間は女尊男卑となり男は生き辛い世の中になってしまったのである。少年のような浮浪者は尚更である。少年は行く先々で迫害され続けた。

 

少年はもう限界だった。少年は衰弱し、倒れてしまった。そのような状態になっても世間は少年を助けようともしなかった。少年もすでに生きる気力など殆ど無かった。寧ろ死ねば両親や友人達の元に行けると思い、半ば死を望んでいた。

しかし、ここで少年に救いの手が差し伸べられた。

 

「おんどれ、どうしたんじゃ?しっかりせい?」

 

ある男が少年に話しかけてくれたのだ。

その言葉に少年は僅かに反応した。

 

「腹へっとんか?これでも食うか?」

 

そういって男は携帯食料と水を差し出した。

何日も食事をしていなかった少年は携帯食料と水を貪った。

少年にとって男は神様にも見えた。少年はかすかな声で泣きながら助けを求めた。

 

「・・・た・・・す・・・け・・・て・・・」

 

その言葉に男はかって存在した自分の家族に面影を重ねた。男にもかって家族が存在したが、ある理由によりいなくなっていた。

 

「行くとこ無いんか?」

男の問いに少年はコクリと頷いた。

「じゃあ、ワシと一緒に来るか?」

少年は泣きながら頷いた。

「じゃあ、行くぞ」

 

男は少年を部下に命じてタンカに乗せると、自身の軍艦に乗せ海軍本部へと運んだ。

これが少年と海軍大将「サカズキ」との出会いであった。

この出会いが世界にどのような影響をもたらすかはまだ定かではない。



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専用機 その名はピース

何とか7月中に投稿できました。



 少年がサカズキと出会ってから、10年の月日が流れた。

 少年・・・ソレイユは18歳の逞しい青年となり、海軍本部所属の少将となっていた。

ある時、海軍本部元帥となったサカズキにソレイユは呼びだされた。

 

「海軍本部少将ソレイユ!只今参上いたしました!」

「来たか、早速じゃがお前にはここに行ってもらう」

 

 そう言って、サカズキは一枚の書類を差し出した。それはソレイユのIS学園への入学願書だった。

 

「元帥殿、これは?」

「おまえには今から3カ月後に日本にあるIS学園に行ってもらう」

「はい!?あの・・・警備としてでありますか!?」

「いや、生徒としていってもらう」

 

 ソレイユはキョトンとした。言うまでも無くソレイユは男である。ISなんて動かせるわけも無い。

 

「元帥殿!失礼を承知の上でお聞きしたいことがあります!」

「なんじゃ、言うてみい?」

 

 許可を得たソレイユはサカズキに質問した。

 

「私はISを動かせません!そのような所に生徒として行っても意味が無いと思います。なにより入学させてもらえないと思うのですが?」

「そんなことか。安心せい、お前にはベガパンクに命じて作らせたISに似た兵器である「ピース」を支給することになっとる」

 

 「ピース」その名前を聞いてソレイユは納得した。ピースとは海軍が極秘に開発していたISを基にして作られた海軍のオリジナル兵器である。以前海軍はISを導入しようと試しに2機のみ輸入した。しかしISの性能を見て、軍の上層部はISの導入を白紙にした。ISに頼るならばパシフィスタを作った方が効率が良いと考えたのである。それ以降ISはベガパンクの研究所送りとなり、ベガパンクはISの研究を命じられた。

 ちなみにベガパンク曰く「この程度の物ならば子供の頃に既に設計できていた。何故このような物で世間で騒がれるのか理解不能だ」とのことである。

 

「ベガパンクに命じて作らせたお前の専用機じゃ。お前の悪魔の実の能力を最大限に生かせる設計にさせとる。ISなんぞにひけはとらん。更にのう、その学園にはあの篠ノ之束の妹も入学することになっとるみたいじゃ」

 

 篠ノ之束、その名前を耳にした瞬間ソレイユの雰囲気は変わった。

 

「篠ノ之束の妹・・・ですか!?」

「そうじゃ、お前にはそいつを監視し、篠ノ之束がそいつに接触する機会があれば・・・む!!」

「(あの篠ノ之束が・・・)」

 

 篠ノ之束の名前を聞いた直後から、ソレイユから殺意があふれ出した。白騎士事件によりすべてを奪われた彼にとって、ISを作り出し、白騎士事件の黒幕である篠ノ之束は殺したいほど憎い相手でしかない。

 

バキッ!!

 

「落ち着かんかい、バカタレが!」

 

 ソレイユの篠ノ之束に対する殺意を感じたサカズキはソレイユを重圧を込めた声で怒鳴り、殴りつけた。

 

「し、失礼しました!!申し訳ございません」

「まあええ、お前には3カ月間のピースの訓練をしてもらう」

 

 ソレイユの謝罪を受け取ったサカズキはそれ以上咎めることは無かった。

ソレイユは退出し、訓練場に向かった。

 

 ソレイユが退出した後に、サカズキはひとり呟いた

「そう簡単にトラウマは拭えんか」

 

 その日からソレイユのピースの訓練が始まった。始めは慣れないこともあってかなり苦戦したが徐々に慣れてくるとすぐにピースを乗りこなせるようになった。

ピースを乗りこなせるようになると、ソレイユは自分に与えられたこのピースという機体の異常さに驚いた。専用機とは聞いていたが、ここまで強力だとは思ってもみなかったのだ。確かに元帥は悪魔の実の能力を最大限に活かせるとは言っていたが、自分の悪魔の実の凶悪性を誰よりも知っていたソレイユは半信半疑だったのである。しかし、この機体に着けられている武装は全てソレイユの悪魔の実の力を活かしていた。ソレイユは嬉しかった。これならIS何てゴミに負けることは無いと確信したからである。

 

 3カ月後、ソレイユはIS学園に向かった。

 




予告
IS学園に向かったソレイユ。そこでソレイユは両親の敵の片割れに遭遇する。
次回、IS 復讐の海兵
「復讐の標的、織斑千冬」
アイツらは必ず地獄に落とす!!


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復讐の標的 織斑千冬

すいません、遅くなりまして。
月一連載にしようと思っていたのに。いきなり頓挫してしまいました。


俺は不機嫌だった。

 

自分が配属された教室に入ってから、ずっと好奇の目に晒されているからである。

(ソレイユが帰化している国はグランドウォールという高い山脈に四方囲まれているが故に、長い間外国と交流が無かった。最近になって細々とだが他国との国交が出来てきたが、それでも他国の一般人から見れば、ソレイユのような存在は珍しいのである。おまけにソレイユの容姿は整っており(顔の中心に大きな斜め傷があるが)、女学生が興味を持っても仕方ない側面はある)

 

過去のトラウマから女性というもの全体に不信感を持つ俺からしてみれば鬱陶しいことこの上ない。

しょうがなく気分直しに持ってきていた本でも読もうとしたところ、俺に話しかける女生徒が現れた。

 

「ねーねー」

「何だ」

 

俺は話しかけて来た女生徒に警戒6割、社交辞令4割で返した。これでも昔に比べればマシになったほうだ。

 

「私は布仏本音~貴方は~?」

「俺か、俺はソレイユだ」

 

相手が女尊男卑の傾向を持って無いと分かり、とりあえず自己紹介を返した。(ソレイユは相手が女尊男卑の傾向を持っていると見なせば、完全に無視するか、実力で排除する)

 

「へ~、そ~何だ~。じゃあこれからはソーソーって呼ぶね~」

「・・・好きにしろよ」

 

俺は目の前の、布仏本音という今まで会った事が無い雰囲気を持つ女の雰囲気に押されてしまい、あだ名で呼ぶことを許可した。調子が狂いそうな相手だ。

 

「ソーソー~何してるの~」

「・・・退屈だからな。本でも読もうかと思った所だ」

「どんな本なの~?」

「「キングオブデビル」という本だ。男には面白いかもしれんが女には多分つまらんな」

「ふ~ん。でも~もう少ししたら先生が来るから~後にした方が良いよ~」

 

時計を見ると、確かにそろそろ教師が来る時間になっていた。俺は仕方なく取り出していた本を戻した。

 

「またね~ソーソー~」

 

本音はそう言って自分の席に帰って行った。

「ああ、またな」

 

俺も挨拶を返して、姿勢を戻した。

 

「(・・・変わった女だな。海兵にはあんな女はいなかったな。まあ暇つぶしにはなったな)」

 

本を読むことは出来なかったが、時間を潰すことは出来たので良しとすることにした。

 

しばらくすると、柔らかな雰囲気を持った背丈の低いの女が入ってきた。こいつが担任教師だろうと俺は思った。

 

「副担任の山田麻耶です。皆さんよろしくお願いしますね!」

 

山田先生は皆にあいさつをしたが、俺を含めて誰も返さなかった。俺は担任だと思った教師が副担だったのかと考えていたからだが。

 

「う、うぅ・・・そ、それでは皆さん自己紹介をお願いします」

 

山田先生は半泣きになりそうながらも進めた。見た目よりはガッツはあるようだ。

それから一人、一人が自己紹介を始めた。何人か終えていくと、俺と同じ男子生徒の番になった。先程からチラチラとこちらを窺ってくるので、鬱陶しいと感じていたところである。

 

「織斑一夏です!!」

 

そいつはそういうと大きく息を吸い込んだ、まだ何かいう事があるのだろうか。

 

「・・・以上です!!」

 

織斑のその言葉に周囲はズッコケた。何も言う事が考え付かなかったのだろうな。

 

バコーーーン!!

織斑の自己紹介が終わると同時に女があいつの背後に現れ、織斑を出席簿で叩いた。

 

「お前は自己紹介も出来んのか?」

「ち、千冬姉!」

「織斑先生だ!馬鹿者!!」

 

そう言うと女は更にもう一発頭にかました。軍隊かよ。

 

女は黒板の前に立ち俺達の方を向き、宣言した。

「諸君、私が織斑千冬だ。お前たちヒヨッ子を1年で使い物になるように指導するのが私の仕事だ。私の言う事を良く聞き理解しろ。出来ないものは出来るようになるまで指導してやる。逆らってもいいが、私の言う事は聞け。いいな!」

 

こいつが織斑千冬・・・・

 

周囲が千冬様だのなんだの騒ぎ始めていたが、俺はそれらの喧騒など一切耳に入っていなかった。こいつが、こいつが俺から両親、友達、故郷・・・全てを奪った元凶・・・白騎士事件の首謀者・・・俺は必死だった。心から止めどなく湧き出る殺意を押さえるのを・・・今すぐにでもあいつを殺してやりたいという衝動を・・・

 

「そういえば自己紹介が途中だったな。こいつの次の奴から言っていけ」

 

そいつの一言で自己紹介が再開された。幸いにして俺の殺意は外には出ていなかったようだ。

 

自己紹介は恙なく終わって行き、俺の番となった。ハッキリ言って面倒だがやるか。

 

「ソレイユだ。故郷はグランドウォールに囲まれた国といえば分かるだろう。そこの海軍本部で少将をしている。最初に言っとくが俺は18歳で、みんなより2,3歳上だ。好きなものは酒とギャンブル、それと鍛錬に野菜栽培。嫌いなものは女尊男卑に染まった屑どもとルールを守らない奴らだ」

俺の自己紹介が終わると同時に女共が騒ぎ始めた。鬱陶しい。

 

突然殺気を感じた俺は、即座に反応し攻撃を指2本で受け止めた。見れば織斑千冬が俺を出席簿で殴ろうとしていたようだ。ロギアの俺に覇気を込めてない攻撃は効かねえが、いきなり攻撃されては良い気分はしない。

 

「いきなり何しやがる!?」

「何だ先程の巫山戯た自己紹介は。貴様が海軍将校などであるはずがないだろう。嘘などつくな!」

 

どうやら俺の自己紹介が気に入らなかったらしい。それだけで人を殴ろうとするとは呆れる。先程の此奴の自己紹介もそうだが、此処は仮にも教育の場だろう。先ずは言って聞かせてみて、それで駄目なら叩けば良いと思うがな。

 

「嘘なんかついてねえし、巫山戯てもねえよ!」

 

織斑千冬にそう言ってやると、俺は挟んでいた出席簿を力を入れて離した。あいつは反動でよろめいていたが、尻餅を着かなかったのはブリュンヒルデといったところか。

 

「き、貴様・・・」

 

まだ何か言ってきそうな雰囲気だったので先手を打っとくことにするか。

 

「山田先生、俺は嘘などついてませんよね」

「え、ええ。確かにソレイユ君は海軍本部所属の少将です」

 

突然話を振られた山田先生は、言葉に詰まらせながらもフォローしてくれた。

 

「織斑先生、1ヶ月前の職員会議で今年は海軍将校の18歳の青年が入学する、と学園長から通達があったはずですが」

「ついでに言っとくが俺の国では18歳から飲酒に喫煙、ギャンブルもOKだ。ま、タバコは嫌いだから吸ってねえがな」

「・・・自己紹介を再開しろ」

 

山田先生のフォローと俺の言葉に奴は何も言わず、自己紹介を再開させようとした。

 

「謝罪も無しか、織斑セ、ン、セ、イ」

 

俺が挑発すると奴は睨みつけてきやがった。まあ、全くと言って良いほど怖くは無かったがな。結局奴は謝罪することは無かった。

 

その後は、特に問題は無く終わった。ったく初っ端から疲れた。

 

休み時間になったが、織斑一夏とかいう奴がしきりに話しかけて来た。面倒くさいことこの上ない。

「同じ男同士だから仲良くしよう」という事らしいが大きなお世話である。俺は仕事で此処に来ているのであってお前みたいな温室育ちなんぞと友達ごっこなんてするつもりは無い。

 

しばらく話を聞いてやっていると、篠ノ之箒という篠ノ之束の妹が織斑をつれてどこかへいってしまった。その際に終始こちらを奴は睨んでやがった。やっぱり姉が屑だと妹もゴミだ。

 

静かになったのでゆっくりしようと思ったが、今度は金髪の女が近づいてきやがる。俺に安息は無いのか。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

一目でわかる女尊男卑主義者だ。声からしてこちらを見下していやがる。

 

「聞いてますの!?仮にもこの私、セシリア・オルコットに話し掛けられているのですからそれ相応の態度があるのではなくて!?」

 

・・・こういう手合いは無視するに限る。俺が無視していると相手はますます頭に血が昇ったのだろう。こちらを侮辱する言葉を吐くわ。代表候補性である自分は偉いだとか。偉そうにISの事を教えてやるとか言ってきやがった。まあ、全部右から左に流していたがな。

そうこうしていると休み時間終了のチャイムが鳴った。

 

「くっ、覚えていなさい!!」

 

そう捨て台詞を残して奴は席に戻って行った。

 

「2度と来るな!」

 

俺は初めて返してやった。奴はこちらをキッと睨みつけやがった。

睨みつける奴が多い学園だな。

 




屑教師の一言から始まったクラス代表決め。
周囲の女は物珍しさだけでソレイユと織斑を推薦した。
しかしそれにセシリアオルコットは異を唱えた。

次回、IS 復讐の海兵
「愚かな女尊男卑者 セシリアオルコット」
あいつらは必ず地獄に落とす!!


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愚かな女尊男卑者 セシリアオルコット

すいません。宣言から一日遅れてしまって、反省しております。

そして、気づけばお気に入り登録100件越え!
登録してくださった皆さん本当にありがとうございます。


その後の授業は、はっきり言って退屈で時間の無駄としか言いようが無かった。興味が全く無いうえに大嫌いなISの授業なのだから当然ではあるのだが、これなら鍛錬でもしていた方が余程有意義だ。

 

そんな中で山田先生の授業だけは楽しめた。あの馬夏は気付いてねえが、他の教師は女尊男卑主義者特有の人間が腐った匂いがしやがる。おまけに、授業中にこちらを見る時に明らかに見下した目で見るか、蔑んだ目で見てきやがり、気分が悪いことこの上ない。

 

しかし山田先生はそんな気配を感じさせることは無いので、こちらも気分良く授業を受けることが出来た。あのゴミ教師が補佐についてるのは気に入らねえがな。

 

「此処までで誰か解らない人はいませんか?」

 

山田先生は周囲を見渡し俺の方に視線を向けた。

 

「ソレイユ君、此処までで解らない所はありませんか?」

「ハイ、大丈夫です!すべて理解出来てます」

「そうですか、それは良かったです」

 

他の教師だったらこういう風に心配してくれることなどねえな。

「織斑君はどうですか?どこか解らない所は有りませんか?」

 

「え、え~と全部解りません」

 

馬夏の言葉に俺はガクッとなった。周囲を見渡せば周りも同じような状態になっている。どこをどうすればこの解りやすい授業が解らないというのだろうか。

 

「ぜ、全部ですか・・・」

 

あの馬夏の言葉に山田先生はショックを受けているようだ。自分の授業を全否定されたようなものなのだから当然だろう。

 

直後にあのゴミ教師が、織斑に対して入学前に渡された参考書はどうしたと聞くと、あの馬夏は「古い電話帳と間違えて捨てた」と答えた。その後出席簿で馬夏は殴られた。

 

俺は完全に呆れていた。どこの世界にこれから必要になる教材を間違えて捨てる馬鹿がいるのか。海軍でこんな馬鹿な事をしようものなら即座に懲罰物である。

 

「仕方ない。ソレイユ、おまえが織斑に参考書の内容を教えろ。男同士で聞きやすいだろうしな」

 

とんでもない事を言ってくれる、さすがゴミ教師だ。俺は日本支部の連中の訓練指導役も元帥から仰せつかってるんだ。こんな奴の面倒なんて見る時間なんて無い。

 

「断る」

「なに・・・」

「俺はこの学園の近くにある、海軍日本支部の訓練指導役を元帥から仰せつかってるんだ。残念ながらこいつの先生役なんてやる時間はねえな」

 

そう返してやるとあのゴミ教師はこちらを睨んできやがった。

 

「え~、そんな事言うなよ。俺達友達じゃないか」

 

あの馬夏も馬夏でとんでもない事を言い出しやがった。いつ俺がお前と友達になったんだよ!

 

「おまえの言い分は解った。だが、こいつに参考書の内容を教える時間ぐらいは作れるだろう」

「・・・はあ~しょうがねえなあ。ハッキリ言ってやるよ」

「何だ?」

「馬夏にかけてやる時間はねえんだよ!」

 

その一言に奴は初め面を喰らっていたが、すぐに顔を怒りに染めた

 

「貴様・・・どういう意味だそれは!」

「一夏に何てことを言うのだ、貴様!」

 

あのゴミまで絡んできやがった。うっとおしい事このうえねえな。

 

「言葉通りの意味だ。こいつが参考書を捨てたのは、こいつのミスだ。何故、俺がこいつのミスの尻拭いをしなければならない。参考書を無くしたのならば気付いた時点ですぐに再発行を頼むべきだったんだ。どうやらこいつはそれもしてないようだな。自分がすべき事もしてないような人間なんぞにかけてやる時間は無い。それと織斑一夏!」

「な、何だよ・・・」

「お前は俺の事を友達だと言ったが、俺は貴様なんぞと友達になった覚えはない!」

「そ、そんな事言うなよ!男子は俺達二人しかいないんだから、俺達助け合って・・・」

「お前のような温室育ちの奴となれ合うつもりは無い!」

「・・・そうかよ」

 

馬夏は不貞腐れたように向こうを向いた。言いたいことが言えて、すっきりしたぜ。

 

その後、あのゴミ教師はあの馬夏に参考書の内容を一週間で覚えて来いと言い話は終わった。あのモップ女は終始俺を睨んでいやがった。

 

しかし山田先生には悪いことをした。あの騒動の最中にずっとオロオロしてたからな。後で、詫びを入れとくか。

 

 

今日の授業はこれで終わりのようだ。最後の授業はゴミ教師の受け持ちだったのは気分が悪い。ああ、長かった。さっさとに海軍日本支部に戻って元帥に連絡して休むぞ。

 

「そう言えば大事な事を忘れていた。再来週にクラス対抗戦があるのだが、その対抗戦に出る為のクラス代表を決めなければならない。クラス代表に選ばれた者はクラス代表戦以外にも様々な仕事を受け持つことになる。一年間は変わらないと思え」

 

そう思っていた矢先、ゴミ教師がまた火種を打ち込みやがった。

 

面倒な事この上ないな。さっきも言ったが俺は軍の仕事もあるし、この国にある支部の教官もしなければならないんだ。そんな事の為に時間を割くつもりは無い。

 

「誰か立候補者はいないか?推薦でも構わんぞ」

 

「はい!私は織斑君を推薦します!」

 

あいつが推薦されたか。まあ、物珍しさで推薦されたんだろう。女ばっかりの場所で男は珍しいからな。

 

「え、お、俺!!」

 

今頃気付いたのかよ、鈍臭い奴だな。

 

「はい!私はソレイユ君を推薦します!!」

 

ッチ!馬鹿女が推薦しやがった!あいつが推薦された時点でこうなるだろうとは思ったが出来れば外れて欲しかったぜ。

 

「あー悪いが俺は辞退させてもらう。軍の仕事などで忙しいので・・・」

「却下だ。推薦された者に拒否権は無い、辞退は許さん」

 

俺が拒否しようとしたら。ゴミ教師が却下しやがった!こいつ本当に教師かよ!あの屑共に匹敵する暴君だぜ!俺は軍の仕事があるとさっきの授業で言っただろうが!

 

「では、候補者は織斑とソレイユの二人という事に・・・」

 

どうやって断ろうかと俺が考えていると「納得いきませんわ!」と大きな声がしたかと思うと、セシリア・オルコットとかいう奴が突然立ち上がった。あの女尊男卑主義者のことだ、大方見下してる男がクラス代表になるのが気に入らないんだろう。

俺はさっきは忘れていたが、今回は忘れずに映像録画電々虫と録音電々虫を奴等には分からない様にセットした。

 

「男がクラス代表なんて恥晒しですわ!本来なら今の時点で専用機を持ち、実力がトップであるイギリスの代表候補生である私がクラス代表になるのは当然ですわ!珍しいというだけで男なんかがクラス代表に選ばれるなんて困りますわ!極東の国の猿がクラス代表だなんて私はとても耐えられませんわ!」

 

俺の想像通り出るわ出るわ差別発言の数々。これ、公になればかなり不味い問題発言なんじゃねえのか。さっきこいつは自分が代表候補性だと大威張りで言ってたが、自分の地位ってもんが解って発言してんのかね。

 

大体そんなに言うんだったら初めから自分が立候補しろよ。

 

「イギリスだって大したお国自慢ないだろう!世界一不味い料理何年覇者だよ!!」

 

馬夏が言い返しやがった。また面倒なことが起きるな。

 

俺の予想通り、それからはセシリアオルコット・・・ああめんどい!腐れ貴族でいいか。腐れ貴族と馬夏の言い争いがヒートアップして行き、ISで決着をつけることになったようだ。そして今、馬夏がハンデの話をして、クラス全員に馬鹿にされている。

 

そいつら曰く、男が女より強いのは昔の話だそうだ。屑どもが・・・お前らが偉ぶっていられるのも、パシフィスタに遠く及ばないISという玩具のおかげだろうが・・・それを自分の力だと思い込みやがって・・・

 

「じゃあ、ハンデはいい・・・」

 

「当たり前ですわ、男無勢が女にハンデを付けようだなんて、おこがましいにも程がありますわ。それで貴方はどうしますの

腐れ貴族が俺にも聞いてきやがった。

 

「俺?ていうか結局俺もやるの、めんどくせえな」

「あら、逃げますの?別に構いませんわよ。腰抜けは相手にしませんし」

「はいはい」

「ふん。あの国の人間と聞いて、ある程度予想はしてましたが、やっぱり想像通りでしたわね。礼儀もなって無い、野蛮人ですわ」

「・・・てめぇ、どういう意味だそれは?」

 

俺がそう言うと奴は小馬鹿にした笑みを浮かべた

「あら、怒りましたの?言葉通りの意味ですわ。貴方の国は、長い間他国との交流を拒んできた、云わば未開の蛮国。そんな国の人間が礼儀など知るはずがないですわ。聞けば、貴方の国には未だに海賊などというものが存在しているようですわね。そんなものが存在しているようでは国としての品格もたかが知れますわ。貴方の所属している海軍というのも大したこと無いようですわね。それともトップが無能なのかしら?」

 

ブチッ

 

「てめえ!もう一回いってみろゴラーーーー!!」

 

俺は剃で近づき奴の胸ぐらを掴みあげると、腐れ貴族を怒鳴った。俺の事はいくら言われても良いが、俺の国と、俺を助けてくれた、元帥と海軍の悪口だけは絶対許さねえ!!

 

「ひっ!」

 

「良いぜ、やってやろうじゃねえか!てめえ覚悟しとけよ!ぶっ殺してやるから覚悟しやがれ!!」

 

俺はそういうと腐れ貴族を落とした。

 

その後、ゴミ教師が来週の金曜日に試合をすることを決定して、終了となった。あの腐れ貴族が・・・絶対許さねえ・・・海軍少将を舐めた報い・・・元帥を馬鹿にした報い・・・海軍と国を馬鹿にした報いをその身に焼き付けてやる・・・




セシリア・オルコットの暴言に激怒したソレイユ。
怒りが収まらぬまま日本海軍支部に帰宅途中、ソレイユにアクシデントが

次回、IS 復讐の海兵
「発動、悪魔の実の力」
あいつらは必ず地獄に落とす!!


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発動、悪魔の実の力

何とか、年内に投稿できました。

来年も見捨てずにどうぞ宜しくお願いします。


あの後、腹立ちが収まらぬまま帰る準備をしていると、あの馬夏が一緒に帰ろうとかほざいた。あれだけ言ってやったのにまだ理解できねえのか。俺は無視して、すぐに教室を出た。

 

俺は激怒していた。言うまでも無くあの、腐れ貴族のせいだ。ああ・・・腹が立つ。あの腐れ貴族が・・・地獄を見せてやるからな・・・

 

「あの・・・ソレイユ君」

「あぁ!」

「ひっ!ご、ごめんなさい・・・」

「・・・山田先生」

 

イライラしていたのもあり、睨みながら声のする方に振り向くと、そこには山田先生が立っていた。

 

「・・・すいません。イライラしていたもので」

「い、いえ。大丈夫です。あんな事があったら誰だってイライラしますから」

「それでも、目上の人間にとって良い態度ではありませんでした。申し訳ございません」

 

俺はそう言って、頭を下げた。今のは明らかに八つ当たりであるし、一般市民を守る海兵にあるまじき態度を取った事は恥ずべきことであるからだ。

 

「あんまり謝らないでくださいソレイユ君。私は全然気にしてませんから」

「そう言ってもらえると此方としてもありがたいです。ところで山田先生、何か俺に用が有るのでは?」

「そ、そうでした。ソレイユ君これをどうぞ」

 

山田先生は俺に番号が書かれた鍵を渡してきた。何だこれは?

 

「山田先生これは一体何の鍵ですか?」

「はい。ソレイユ君の部屋の鍵です。ソレイユ君の部屋が決まりましたので」

 

妙だな。俺は海軍基地から登校するという話になっているはずなんだが。

 

「すいませんが何かの間違いでは。俺は海軍基地から登校するという事になっているはずですが?」

 

こんな女尊男卑主義者共がうようよ居るような所で寝泊まりするなんて御免だ。それに恐らくは女子の誰かと相部屋になるだろう。そうなるとプライベートも何もあったもんじゃない。

 

「それが数少ない男性操縦者を保護するための措置だそうで、今日の職員会議で急遽決まりまして・・・」

 

保護するための措置ね・・・大方監視の為だろうな~恐らく部屋には・・・

 

「折角ですが、大丈夫ですよ。俺は強いですから」

「で、でもソレイユ君に何かあってからでは遅いですし、この学園なら警備体制も万全ですからこの学園の寮に入った方が安全ですよ」

 

う~む、困ったな。女尊男卑で命令してくるなら力づくで押し通すんだが、こうも真剣に心配されるとな~

 

「・・・解りました。入る、入らないは後で考えますので、とりあえずは部屋に案内してください」

「はい。わかりました」

 

俺の言葉に山田先生は笑顔で返してくれた。この先生は純粋なんだな。こんな良い先生に今から起きる穢いものを見せるのは少々気が引けるな。

 

 

山田先生に案内されて、俺は部屋に入った。

 

「此処がソレイユ君の部屋です。どうです、良い所でしょう」

「はい、ありがとうございます。すいませんがもう少しだけお時間をいただいても宜しいでしょうか?」

「あ、はい。大丈夫ですが、何か質問でもありますか?」

「いえ、そういう訳では無いのですが・・・・・・お、これだな」

 

俺は荷物からある物を取り出した。化学班に作って貰った物だ。

 

「ソレイユ君それは?」

「盗聴・盗撮器発見器ですよ。さて、スイッチオン」

 

・・・・・ピピピピピピ

 

スイッチを入れた発見器はすぐに反応を見せた。はあ~これはやっぱり黒だな。

 

「な、何が起きたんですか?何ですこの音は!?」

「どうやらこの部屋には盗聴器及び盗撮器があるみたいですね。機械の反応から察するに・・・ここかなっ!」

 

証拠の為に映像録画電々虫をセットし、俺は壁を殴りつけた。そこから盗聴器を引きずり出し、同じようにして部屋の至る所から盗聴器と盗撮器を引きずり出した。全部で6個もあった。よくもまあ、これだけの数を用意したものだ。

 

「こ、これは・・・一体?」

「大方、女尊男卑主義者の教員がした事でしょう。俺は男性操縦者かつあの国の出身者ですからね。なにか情報か弱味でも握ろうと思ったのでしょうねっ!」

 

俺はそう言って、盗撮器類を踏みつぶした。高価な代物みたいだが知った事では無い。

 

「こ、こんな事をするなんて・・・」

「先生、こういう訳ですから今日の所は基地に帰らせていただきます。あと、この事は正式に国の方から学園に抗議させていただきますので。」

「は、はい。解りました・・・」

 

山田先生は呆然としてしまっている。学園が生徒のプライバシーを覗くような事をしていたのだ。純粋な分ショックも大きいのだろう。

 

「それでは、失礼いたします」

 

俺は証拠の為に壊した盗撮器類を鞄に突っ込み、学園を後にした。はあ~初日から本当に疲れたよ。

 

 

本来なら歩いて帰る所だが、今日は疲れすぎたので基地に電話して車で迎えに来てもらった。

 

「はあ~」

 

俺は車内で何度目か解らない溜め息をついていた。思い出してみれば今日は散々な目にあった。珍しい物でも見るような目で見られることに始まり、暴力教師は出るわ、敵の弟の奴に勝手に友達認定されかけるわ、同じく敵の妹のゴミに睨まれるわ、腐れ貴族に罵詈雑言吐かれるわ、終いにゃ盗聴器、盗撮器だらけの部屋に住まわせられかけるわ、とにかく散々な一日だった。

 

「大丈夫ですか?ソレイユ少将」

 

迎えに来てくれた運転手の海兵が心配して声をかけてくれた。さっきから何度も溜め息をついてりゃ当然か。

 

「ああ、大丈夫だ。今日はいろいろあって疲れただけだ」

「それなら、良いのですが。もし、体調が悪ければすぐに言ってください。軍医に見てもらいますので」

「ははは、大丈夫だ。心配ありがとうな」

 

 

運転手と他愛ない話をしながら、帰っていると突如周囲から殺気を感じた。

 

「(・・・見聞色の覇気で見てみた所、周囲に5人といった所か。大方俺のピース目当てだろうな。周囲にはISって言ってあるからな。女権団の奴らが奪おうとしても不思議じゃねえか)」

「・・・人気の無い所に車を止めてくれ。周囲にゴミが居るみたいだ」

「っ!・・・解りました。お気をつけて」

「ああ。終わったらまた連絡入れるから避難しといてくれ」

おれは車から降り、ゴミ共の相手をすることにした。憂さ晴らしに丁度いい。

「では、失礼します」

「早く行け。俺の悪魔の実の能力は知ってるだろ」

「はい!」

 

車は急発進してすぐに此処から離れていった。これで心置きなく戦える。

 

「いつまで隠れてるつもりだ。さっさと出て来い!うじ虫ども!」

 

俺の声に反応して5人の女が姿を見せた。

 

「うじ虫とは言ってくれるわね!男の分際で!」

「うじ虫が嫌ならサナダムシだ!貴様らのようなISが無ければ何も出来ないような下等生物など人間を名乗る資格など無い!」

「ふん!まあ良いわ。あんたが持ってるISを私たちに寄越しなさい!それはアンタ達みたいな汚らわしい男が持って良い物じゃないわ!神聖なる私たち女が持つものよ!」

「そうよ!早く渡しなさい!」

「男の分際で!!」

「殺されたいの!」

「あんたら男は私たち女に平伏してれば良いのよ!」

 

うるせえ奴らだな。もういいや・・・消しちまおう。

 

「聞いてんの!さっさと・・」

 

ドスッ!

俺は剃からの指銃を放ち、取り巻きの内の1人の喉元を貫いた。もうあいつらの声を聞きたく無い。

 

「・・・・ゴポッ・・・カハッ・・・」

 

「ヒッ!い、一体何が!アンタ!どうやってあそこからいきなり此処に来たのよ!!」

 

ゴミが何か言っているが、俺は無視して貫いている指から能力を発動した。

 

「あ・あ・あああああああああああ!アヒュイーーーーーーーー!!!!」

 

その声を残し取り巻きは死んだ。後には骨も残っていなかった。

 

「ヒッ!ヒィーーーーーーー!!ば、化け物がーーーー!!」

「これで死ね!!」

パン!パン!パン!

 

奴らの内の一人が俺に銃を撃ってきたが、俺は避けなかった。何発か当たったようだ。

 

「はあ、はあ、ざまあみろ。男如きが私たち女に逆らうからこんなことに・・・え!?」

「う、嘘でしょ!」

「き、効いてない!!?」

 

自然系の俺に銃など効かないし、銃の弾なんて俺の体に当たった瞬間に溶ける。

 

「・・・ヘリオッド!」

 

俺は能力を使い、槍を生成した。俺の十八番の武器だ。

 

「な、何よ、あれ!!」

「い、いきなり槍が・・・」

 

動揺しているゴミ共を余所に俺は取り巻きの一人を貫いた。

 

「ハッ!」

 

グサッ!!

・・・何も反応は無かった。心臓を一刺しだから当然か。

 

「・・・焼却」

 

突き刺した女の死体もさっきと同様に処分した。ゴミを残しておくのは公衆道徳に反するからな。

 

「な、何よ!何なのよ!アンタは!!」

「ほ、本物の・・・ば、化け物・・・」

「う、うわーーーーーーーー!!!」

 

奴らはそう言って逃げ出した。さっきの威勢はどこへやら、ほうほうの体である。

 

「逃がすか!!」

 

俺はすぐに奴らに両腕をかざし、俺の最強にして最悪の技を使用した。

 

「七色の散浴湯!!(レインボーシャワー)」

 

俺の両手から七色の光が出現し、奴らを飲み込んだ。

・・・・・・・・・・

後には、骨も残っておらず、ただ人の形をした黒い何かがあるだけだった。それは風が吹くと何処かに消えていった。

 

「ふぅ~終わったか。迎えに来てもらうか」

 

俺は電々虫ですぐに迎えを頼んだ。気晴らしには成ったな。

 

 

「ご苦労様です!ソレイユ少将!!」

「ハハハ!苦労って程のもんでも無かったよ。ストレス発散程度には成ったかな」

 

迎えに来てもらった運転手と先程のゴミ掃除の話をしていた。本当にまあ、ゴミのような連中だったぜ。

 

「しかし、本当にお強いですね!!さすがは少将様です!」

「ああ、ありがとうよ。まあ、早く終わらしたいから悪魔の実の能力は使ったけどな」

「あの能力を使ったのですか!!あの自然系悪魔の実の中でも5本の指に入るほどの力を!」

「ああ、後には何も残らなかったよ」

「・・・本当に恐ろしいですね。あの「ヨウヨウの実」の力は」

 

自然系悪魔の実「ヨウヨウの実」・・・食った人間は太陽人間になる。

そう、俺は「ヨウヨウの実」を食べた太陽人間だ。

 

 




ついに訪れたクラス代表決定戦!
初戦の相手はあの因縁のセシリア・オルコットだった!

次回、IS 復讐の海兵
「ソレイユVSセシリア・オルコット」
あいつらは必ず地獄に落とす!!



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ソレイユVSセシリア・オルコット

お待たせしました。

スイマセン、宣言から遅れまして。

今回セシリアファンの方は閲覧要注意です!




その後、クラス代表決定戦までいろいろあった。元帥に定期報告を行い、腐れ貴族の暴言の動画と音声、それと部屋に仕掛けられた盗聴器類の証拠を転送した。怒り狂ってたな元帥。すぐに上に報告するって言ってたっけ。支部の海兵達の訓練も見てやったが、本部と比べると酷なのは解るがハッキリ言ってかなり見劣りした。俺が普段している訓練を一緒にやらせたが、全員付いて来れなかったのには驚いた。体力作りからやらせなきゃな。

 

女権団の連中が性懲りもなく襲ってきた事もあったが、全部返り討ちにしてやった。

所詮はIS等というオモチャに頼っているような奴らだ。駆逐するのは、ヨウヨウの実の力を使わなくても容易いことだ。ただ、単純に鬱陶しかった、それだけだ。

 

まぁいいこともあった。部下の1人であるタンジェントがクラス代表決定戦の日にこちらに来るそうだ。今までずっと1人で海兵達の訓練を見てきたが、タンジェントが来てくれることで、多少楽になるかもしれないな。まぁタンジェントの訓練には支部の海兵は付いて来れないだろうが。

 

そしてクラス代表決定戦の日がやって来た。

 

俺は今、IS発射口で待機していた。俺は暇つぶしに読書でもしようと思っていたのだが、あの馬夏とモップが騒いでいて五月蝿くてしょうがない。どうやら、あの馬夏がモップにISの事を教えてもらおうとしていたようだが、モップはずっと剣道ばかりさせていたらしい。・・・馬夏はやっぱり馬鹿だな。ISの事を知りたいのなら女尊男卑では無い先生か上級生にでも聞けばいいものを。

 

「ソレイユ、織斑の専用機がまだ届いていない。従って、お前が先にオルコットの相手をしてもらう」

「はいはい」

「おまえは専用機を持っていないだろう。学園から訓練機が貸し出されることになった。感謝しろ」

 

てめえの物でも無い癖に偉そうな奴だ。だいたい専用機持ちにに訓練機で相手させようというのも酷い話だ。頭おかしいとしか言えねえな。

 

「いらねえよ。んな物!」

「なに・・・!?」

「おれにはこれが有る。・・・ラー!!」

 

俺がそう叫ぶとラー・・・ピースが俺に装着された。ちなみにラーとは俺が名付けたこのピースの名前だ。赤みがかった黒色の機体であるこのピースはまるで俺の怒りを表しているかのような色だ。

 

周りの奴らが呆然としているのを無視して俺は試合場に向かった。

 

「逃げずに来ましたか。それにしても男の分際でこのセシリアオルコットを待たせるとはどういうつもりですの!?」

 

あの腐れ貴族は俺より前に来ていたようだ。相変わらず口の減らねえ奴だ。

 

「最後のチャンスをあげますわ。今この場で貴方が土下座して謝れば、」

「ツベコベ言わずにかかってきやがれ!この腐れ貴族が!!」

 

奴が何かゴチャゴチャ言っていたが、怒鳴りつけて打ち切った。もうあいつの言葉は聞きたくねえ。

 

俺の言葉に怒ったのだろう。あいつの顔がみるみる赤くなっていった。

 

「・・・では、お行きなさい!ブルーティアーズ!」

 

奴がそう叫ぶと奴のISから4機のビットが飛び出し、俺目がけてレーザーを撃ってきた。どうやら遠距離攻撃を得意とするISのようだな。

 

レーザーが俺に迫ってくる。レーザーは俺に直撃した。

 

ドカーン!ドカーン!ドカーン!

 

「ホーホッホッホ!もう終わりですの!口ほどにもありませんでしたわね!やっぱり所詮は男。私達女に比べたら・・・えっ!?」

 

爆炎が晴れた先にあった無傷の俺の姿を見て腐れ貴族は驚愕していた。奴はどうやらもう勝ったと思ったようだ。自然系の俺にこんな攻撃効くか。

 

「・・・ど、どうやら上手く避けたようですわね!ならばもう一度くらいなさい!ブルーティアーズ!」

 

ビットからまたレーザーが発射されようとしていた。だが俺は大人しく撃たれるつもりなどもう無かった。

 

「同じ手を2度もくらうかよ」

 

俺はピースの装備の一つである「ソーラーマグナム」を構えた。これは俺の太陽の能力を利用した武器で、黄猿さんの「ピカピカの実」のように一点集中でレーザーを撃つことが出来る。太陽は光を作り出したり、広めることは出来ても、集中させることは出来ない。しかしこの銃を使えばそれが出来るようになる。虫眼鏡で日光を集めて物を焼くのをイメージしてもらったら解りやすいだろう。

 

「私相手に銃で勝負を挑もうというのですの!?身の程知らずにも程が有りますわ!やっぱり所詮は野蛮な国の野蛮で無能な海兵ですわね!」

 

・・・ぶっ殺す!!

 

俺は完全に激怒した。こいつは殺す!絶対に殺す!

 

「是を見てもそんな事が言えるか!」

 

俺は即座にビットに向けて銃を撃った。ヘーキチ仕込みの銃の腕前を甘く見るなよ。

 

ピュン!ピュン!ピュン!ピュン!・・・・・・ドカーン!

 

「そ、そんな・・・」

 

一発も外すことも無くレーザーはビットに命中し、ビットは爆散した。

 

あの腐れ貴族が呆然としてやがる。本当にこっちを甘く見てやがったようだな。

 

「もう、終わりか!?」

「っく・・・」

「ならこっちから行かせてもらおう」

 

俺は奴にゆっくりと近づいていった。すると腐れ貴族がいきなり笑った。

 

「引っかかりましたわね!ビットは全部で6機在りましてよ!」

 

2機のビットが俺に照準を構えていた。だが、そんなこと初めから見聞色の覇気で解っていた。俺はすぐにそれを撃ち落した

 

ピュン!ピュン!・・・ドカーン!

 

「あ、あああぁ・・・そ、そんな・・・・」

「もう打つ手は本当に無いようだな。じゃあ、死ね!」

俺は剃で腐れ貴族の元に近づいた。

 

「ヒッ!い、一体どうやってあそこから!?」

 

そして武装色の覇気をまとった拳で思いっきりパンチを放った。

 

「フン!」

 

バキッ!!!

 

拳は奴の腹部を捕え、奴は吹き飛び壁に激突した。

 

「・・・い・・・痛いーーーー痛いですわーーーーーー!!」

 

奴の叫び声を聞いて周囲は騒然としだした。ただのパンチであの腐れ貴族が叫んでいるのだ。IS操縦者には信じられない事だろう。ISにはシールドバリアーが有り、生半可な攻撃ではダメージを与えることは出来ない。それ故にISは他の武器より優位に立てる。

 

しかし覇気を込めればそれを無視できるようだ。これで主導権は握った。

 

すぐに剃で奴の元に向かった。処刑はここからが本番だ。

 

「いつまで叫んでやがる。ここからが本番だ」

「ま・・・まって・・・くださ・・・・い。こ・・・・こう・・・」

「指銃!」

 

ドスッ!

 

「あ・・・・あ・・・・」

 

奴の喉を潰した。降参なんかで逃げられてたまるか。

 

「さて、覚悟はいいか。散々俺達男と俺の国と俺の所属している海軍を侮辱しやがって。・・・なあ、おまえはそんなに大した人間なのか?お前ら女尊男卑者はそんなに偉いのか?こんなオモチャに乗れることが栄誉なのか?」

「あ・・・・あ・・・・」

「お前みたいな女尊男卑主義者のせいで世界中の男達がどんなに苦しんでいるのか知っているのか!?なあ、俺達男が何かしたのか!?オモチャに乗れない事がそんなに罪深い事なのか!!?」

「あ・・・・・・」

 

奴は完全に怯えていた。俺は息を吸い込み叫んだ!

 

「思い知らせてやるーーーーーー!!!!お前ら女尊男卑主義者に苦しめられた男達の苦しみをーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

その後は一方的な展開だった。覇気の籠った攻撃、指銃に嵐脚といった6式、そしてヨウヨウの実の力。あいつのISと体はどんどんボロボロになっていった。まるでボロ雑巾のように。途中でゴミ教師が辞めるように言ったが無視した。女尊男卑者を活かしておく理由などないし、あいつの命令を聞く義務などない。

 

「そろそろ止めを刺してやる」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

既に言葉を発する事も出来ないほどボロボロになった腐れ貴族にそう告げた。

 

「フン!」

 

俺は腐れ貴族を空高く打ち上げると、掌を上に向けた。そして巨大な炎の塊を生み出した。まるで小さな太陽の様である

 

「ラースオブインティ!完全に消えてしまえーーーーーセシリア・オルコットーーー!!」

 

太陽は腐れ貴族に向かって放たれた。

 




圧倒的実力でセシリア・オルコットを下したソレイユ
しかし、織斑一夏はソレイユの無慈悲な攻撃に対して激怒していた。
「女の子に対して暴力をふるってもいいと思ってんのかよ!」

次回、IS 復讐の海兵
「ソレイユVS織斑一夏」
あいつらは必ず地獄に落とす!!


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ソレイユVS織斑一夏

まずは最初に・・・すいませんでした!!

最期に投稿した日から気づけば半年以上たってしまっているという有様に我ながら自己嫌悪です。

まさか戦闘描写があんなに難しいものとは思いませんでした。

待ってていただいている読者の皆様の為にも何とか仕上げることができました。




「ふぅーようやく着きましたか。やれやれ、此処まで遠かったですね」

 

略装の上から海軍のコートを羽織った男がIS学園の前に立っていた。男はカバンから書類を取り出し、目を通し始めた。

 

「えーーーと、学園長室は・・・と」

 

男が書類に目を通していると、教員の一人が男を見つけ近寄ってきた。

 

「そこのアンタ、ここで何をしてんのよ!ここは私達のような選ばれた女性が神聖なるISを学ぶための場所よ!アンタみたいな下等な男が近づいて良い場所じゃないのよ!」

 

その教員は典型的な女尊男卑主義者であった。ISというオモチャのせいでこのような下等な牝は増える一方である。

 

「いえ、私はここの学園長に用が有って来まして・・・」

「はあ、何嘘言ってんのよ!男風情が!いいからさっさと消えなさいよ!さもないと・・・」

 

グシャッ!

 

牝は最後まで言葉を発する事が出来なかった。男が牝の首を掴み、握り潰したからである。男は死んだ牝に向かって一言だけ呟いた。

 

「五月蝿いですね。殺しましたよ」

 

男はそう言うと、牝の遺体を海に投げ捨て、再び書類に目を通し始めた。

 

「さて、五月蝿いのも居なくなりましたし、学園長室は・・・こちらですね」

 

男は学園長室に向かって行った。

 

 

 

 

同じ頃、セシリアの命は風前の灯火であった。

 

「(・・・・いや・・・・こないで・・・・)」

 

ソレイユにボロボロにされ、蹴り上げられたセシリアは迫りくる太陽から逃れようと必死だった。しかしISは既に大破しており、空中では動くことも出来なかった。悲鳴を上げようにも喉を潰されてしまっており、セシリアは自分に迫りくる太陽を見ながら死にたくないと思う事しかできなかった。

 

「(・・・・助けて・・・・死にたくない)」

 

太陽がセシリアを飲み込むまであと約5メートル。

 

その時だった。

 

「辞めろーーーーー!!」

 

突然アリーナの入り口から声が響き、ISをまとった織斑一夏が飛び出してきた。そしてそのままセシリアを助け出すと、ソレイユの前に降り立った。

 

「お前・・・なんでこんなことをした!!」

 

織斑はボロボロのセシリアを抱えながらソレイユに怒鳴った。顔は怒りで赤く染まっており、目は鋭くソレイユを睨みつけていた。

 

「こんなこと?これは試合だぞ。何を言ってるんだお前は?」

「それでもセシリアは女の子なんだぞ!女の子にこんな事して良いと思ってんのかよ!?」

「・・・フッ、ハハハハハハ!」

「なにが可笑しいんだよ!!」

「俺はその女尊男卑主義者を女以前に人間だとは思っていない」

「なんだと!」

 

ソレイユの言葉に織斑はいきり立ったがソレイユは冷静だった。

 

「ここで口論するのも良いが、その前にお前が抱えているそのゴミを向こうに持っていったらどうだ。邪魔になるし、早く医者に見せた方が良いんじゃないか」

 

「くっ、逃げんじゃねえぞ!」

 

織斑は腐れ貴族を抱えて、入り口に向かって行き、ソレイユはアリーナに座って待つことにした。周囲を見れば喧騒が絶えない。殆どがソレイユへの罵詈雑言である。ソレイユの圧倒的な力。容赦の無い性格。女尊男卑主義者にしてみれば脅威でしかないのだから当然と言えば当然である。

 

「(うるさいな。吠える事しかできない雑魚共が)」

 

ソレイユ自身は全く意に介していなかったが。

 

ソレイユがしばらく待っていると、織斑がやって来た。相変わらず顔には怒りが現れていた。

 

「来たか。さっきの話の続きだが、さっきのセシリア・オルコットを始めとした女尊男卑主義者は俺たち男のことをそもそも人間だとは思っていない。家畜か奴隷扱いもいい所だ。そんな奴らを何故此方だけが人間扱いしなければいけない。ゴミと呼ぶのが相応しい!俺にとって女尊男卑主義者は等しくゴミだ!ゴミにはゴミのように焼却処分されるのがお似合いだ!」

 

ソレイユの言葉に馬夏は猛然と言い返した。

 

「違う!そんなの間違ってる!」

「じゃあお前は今も女尊男卑主義者のせいで苦しんでいる男達が何人いるか知っているのか!?」

「そ、それは・・・」

 

織斑は言いよどんだ。

 

「知らないようだな、そんなことも知らないでよくあんな大口を叩けるものだな!」

ソレイユは織斑を指差して怒鳴った。

 

「いいか!ISが開発され、女性優遇の風潮が出来、女尊男卑主義者どもがのさばり始め、女権団体などという屑どもが幅をきかせて以来この日本という国だけで見ても100万人もの男達が逮捕された。俺の出身国を除いた世界的規模で見れば、1億人以上だ。それも殆どが女尊男卑主義者どもによる冤罪!荷物を持て、代金を代わりに払えといった理不尽な命令を拒否しただけで警察を呼ばれでっちあげの罪をなすりつけられ、人生を壊される。こんな奴らを屑と呼ばずして何と呼ぶんだ!」

「それでも女性に手を挙げるなんて駄目だ!」

「ほお、じゃあ聞くが、今も苦しみ続けている男達はどうすればいいんだ?」

「それは・・・」

「まさか、男なんだから女どもに何をされても耐えろとは言わないよな」

「・・・・」

「どうした!?早く、答えろ!」

「・・・・うおおおおおおおお!!!」

 

ソレイユが織斑の答えを待っていると織斑がいきなり切りかかって来た。単調な攻撃なので避けるのは容易かったが。

 

「いきなり何をする!?」

「うるせえ!駄目なものは駄目なんだ!」

「・・・餓鬼が!」

 

ソレイユの問いに明確な答えが出来なかったのだろう。織斑はソレイユに対して力づくという最悪の答えをだした。

 

「おまえがその気ならこちらも容赦せん・・・天狗(てんごう)!」

「グアッ!」

 

ソレイユは強烈な掌底を放ち織斑を突き飛ばした。覇気を込めていないので本体に大したダメージは与えられなかったが、SEはかなり減った。

 

「嵐脚!」

 

織斑と距離を取ったソレイユは足を大きく振り衝撃波を発生させ、それを馬夏に向けて放った。

 

「ぐっ!飛び道具なんて汚ねえぞ!」

 

織斑はかろうじてそれを躱したが、またも可笑しなことを言い出した。

 

「汚い?どこかだ?」

「こっちはこの雪片二型しか武器がねえんだぞ!男なら同じように剣で勝負すべきだ!それなのに飛び道具を使うなんて卑怯じゃないか!」

「こっちがどんな攻撃をしようがこっちの勝手だ。遠距離武器を持って無いのが悪い」

 

ソレイユの反論は至極真っ当な物であった。しかし織斑には通じなかった。

 

「この卑怯者がーーーー!!」

 

織斑はそう叫ぶとまたもや突っ込んできた。

 

「(こいつはどうやら自分の物差しでしか物事を測れ無いようだな。こんな馬鹿には何を言っても無駄だな)」

 

ソレイユはそう思いながら、相も変わらず突っ込んできた織斑に対して強烈なカウンターキックを放ち、織斑を吹っ飛ばした。織斑はアリーナの壁に激突した。

 

ドカーーーーン!!

 

「ぐうぅ」

「(弱いな。まださっきの腐れ貴族の方が骨があった。つまらん・・・ん?)」

 

織斑が吹っ飛んだ先を見てみると、織斑のISに異変が現れた。

 

「(あれは・・・成程な。どうやらあのガラクタは一次移行も済んで無かったらしいな。どうりで手ごたえが無さすぎると思ったよ)」

 

ソレイユが一人考えていると織斑が得意げな顔でこちらに寄って来た。

 

「ようやく一次移行が済んだぜ。もう、お前みたいな卑怯な奴に遅れはとらねえ!」

「ほう!それは楽しみだな。さっきまで俺に簡単に吹き飛ばされてた奴がどこまでやれるか見せてもらおう。ま、せいぜい暇潰しにしかならんだろうがな」

「うるせえ!これで俺は本当に手に入れたんだ。千冬姉のような力を!皆を守れる力を!」

「守る・・・ハッハッハッハッハッハ!」

「何が可笑しい!!」

「いや、何とも薄っぺらい信念だと思ってな」

「何だと!」

「そうだろう!守るなどと偉そうな事を言っておきながらISのような世界中の一部を除いた男達を不幸に陥れている物に乗っている。そんな物に乗って守るも何もないだろう。少なくとも男達はISに乗っている奴なんかに守られたくは無いだろうよ!」

「うるせえ!じゃあ、お前はどうなんだよ!!」

「俺は任務の時にはこれは使っていない。そもそも我が国では軍事採用されてすらいない。このような物が無くても我が国の海兵は強いからな」

「嘘つくんじゃねえ――!!」

 

ソレイユの安い挑発に織斑は簡単に乗って来た。前と同じように突っ込んでくる。

ソレイユはラー(ピース)の腰に装着されている剣を片手に取り構えた。

 

「折角だ。相手してやろう」

「うおおおおお!!」

 

ガキィン!!

 

二人の剣は互いに相手の剣に防がれ、そのまま鍔迫り合った。

 

「ッチ!だったら!」

 

織斑は鍔迫り合っている剣を再度構え直し、ソレイユに切りかかって行った。

 

「うおーーーーー!くたばりやがれ!!」

 

勢いを込めて剣を振るう織斑であったが、攻撃は全てソレイユに防がれてしまっていた。おまけに織斑は両手で剣を持って振るっていたが、ソレイユは片手のみの剣で防いでいた。

 

「くっ!この、この、この、この!」

馬夏は一生懸命に剣を振るうが

「(移行してもこの程度か・・・・つまらん。もういい)」

 

織斑の実力に見切りをつけたソレイユは、早々にこの茶番を終わらせることにした。

 

「てめえに一つ礼儀を教えてやる。俺は最初に2.3歳年上だと言ったよな」

「それがどうした!」

「目上の人を呼ぶ時には「さん」を付けるもんだ。従って俺を呼ぶ時にはな・・・」

「ソレイユさんだ!」

 

ソレイユは織斑の顔面目がけて強烈な覇気の籠ったパンチを放った。パンチは馬夏の顔面を捉え、馬夏は吹き飛んだ。

 

「う・・・痛ぇええええ!何でだよ!何でISを着てるのに痛いんだよ!!」

「さあな」

「ううぅぅぅ~・・・これもお前のイカサマだな!そうなんだろう!!」

「俺はイカサマなんかやってねえよ!」

 

ソレイユは更に覇気を込めた蹴りを織斑にくらわせた。織斑のISは所処にヒビが入り始めたり、欠けた部分が目立ち始めた。

 

「ち、ちくひょーーー!喰らえーーーー零落白夜!」

 

織斑はまた闇雲に突っ込んできた。もう半分ヤケクソなのだろう。

 

そんな織斑をソレイユは冷めた目で見ていた。

 

「(馬鹿が。戦いは冷静さを失った時点で負けだ)」

 

ソレイユは突っ込んでくる織斑に対して指パッチンを鳴らした。

 

「アグニ!」

 

・・・ドカーーーン!!!

 

その瞬間、織斑を爆発が襲った。ソレイユがヨウヨウの実の力で爆発を起こしたのだ。

 

「な、何が・・・ゴホッ!」

「そら、お代わりやるぞ!」

 

パチン、パチン、パチン

 

ドカン!ドカン!ドカーーーン!!

 

「ゴッ!・・・ホッ!・・・カハッ・・・」

 

織斑は息も絶え絶えだった。あれだけ爆発を受けたら当然である。見ればSEもほぼ無くなりかけている。

 

「こ、こうなったら・・・一か・・・八か・・・だ!!」

 

織斑が空に向かって上昇していく。上空から先程不発に終わった技を繰り出すつもりである。

 

「(空から決めることで威力を上げるつもりか・・・ならば!)

 

「来い!貴様の攻撃などくだらない信念と共に粉砕してやる!」

 

そう言うとソレイユは両手にヨウヨウの実の力を集中させた。手は赤くなりまるで小さな太陽の様である。

そしてラーのブースト機能で織斑に向かって行った。

 

(作者からのお願い:ここから先はドヴォルザークの「新世界」をかけてもらえると嬉しいです)

 

「ヨウヨウのーーー!!!!」

 

「零落白夜―――!!」

 

「大嵐(ストーーーーーーーム)!!!!!」

 

突進してきた織斑に対し、ソレイユはパンチを繰り出した。ソレイユのパンチは織斑の武器である雪片弐型に当たった。その瞬間、ソレイユの右腕は爆発した。無論爆発による衝撃は織斑を直撃した。

 

「グワーーーー!!」

 

「うおーーー!!まだまだーーー!!」

 

何と爆風の中から爆発したはずの右腕が戻っているソレイユが織斑に向かって行った。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

ソレイユは吹き飛ぶ織斑を追撃し、織斑を更に殴打し続けた。無論殴打される度に爆発は織斑を襲った。

爆発に次ぐ爆発、言うならば「連鎖爆発」もしくは「爆発の嵐」とでもいうべきか。

この技のタネはソレイユはパンチが当たった瞬間に腕を爆破させ、直ぐにロギア特有の力により再構成し、構え直していることにある。ソレイユはこうすることによりパンチをゴム人間のように連続で何回も放っていたのである。

 

執拗な攻撃により、織斑はドンドン吹き飛ばされていきとうとうアリーナのバリアーまで吹き飛ばされた。それでもソレイユは攻撃を辞めなかった。

 

「うおー!おら!おら!おら!おら!おら!おら!おら!おら!」

 

パキン・・・・パキン・・・パキン

 

何処からか何かが割れる音がし始めた。そして・・・

 

「うおりゃーーーーーー」

 

ソレイユが一際力を込めたパンチを織斑に放った瞬間にそれは起きた。

 

バキーーーーーン!!

 

何とソレイユの攻撃がバリヤーの耐久値を超えてしまい、バリヤーは壊れてしまった。織斑は壊れた個所から吹き飛んでいった。

 

そこまで行った時にようやくソレイユは攻撃を辞め、地面に降り立った。

 

その光景をある部屋から見ていた水色の髪の女生徒が呆然と呟いた。

 

「嘘でしょ・・・あのバリヤーの強度・・・どんだけあると思ってるのよ・・・」

 

その女生徒は踵を返すと部屋を出ていった。

 

「ソレイユ君・・・すこし調査してみる必要があるわね」

 

 

 




織斑一夏をブッ飛ばしたソレイユ

そんなソレイユに織斑千冬が理不尽な要求を突き付けてくる

そのときソレイユの部下の姿が!

次回、IS 復讐の海兵
「8式使い タンジェント登場」
あいつらは必ず地獄に落とす!!


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8式使い タンジェント登場

最初に申し上げます。

皆様、申し訳ございませんでした!

正直に申します。エタっておりました。

書かなきゃいけないとおもっても書く気になれない状態でした。

そんな時に一人の方が私に「スランプを言い訳にすればいいと思っていますか?」という言葉をかけてくださいました。

それにより目が覚めました。

今は1日200文字をペースに頑張っております。

お待たせして申し訳ございませんでした。



決着がつく少し前のことだった。

 

学園長室で先程学園前にいた男と学園長夫妻が机を介して話していた。男は鞄から書類を取り出すと学園長・・・轡木十蔵の前に差し出した。

 

「ではこの書類にサインをお願いします」

「はい。・・・・これでよろしいでしょうか?」

「大丈夫です。ではこれであの件はお終いという事で」

「今回の件は本当に申し訳ありませんでした。まさか仮にも教師ともあろうものが生徒の部屋に盗聴器と盗撮用カメラを仕込むとは・・・」

「いえいえ、貴方が謝る事ではありません。悪いのは女尊男卑という腐った風潮に、それに追随する同じように腐った牝どもですよ」

 

男は書類を鞄の中に仕舞い、また学園長に向き直った。

 

「それでも、教師の教育ぐらいはきちんとして欲しいものですね。私がこちらに来た時にも女尊男卑主義者の教師に絡まれました。今日私がこちらに来ることを知らせていなかったのでしょうか?」

「いえ、きちんと会議で言った筈なのですが・・・」

「そうでしたか。ではあの牝が無視したのでしょうね。全くISなどというものが出来てから下等な牝は増える一方ですね~」

「重ね重ね申し訳ありません」

 

轡木十蔵は再び男に頭を下げた。

 

「解ってもらえればかまいません。あと私に絡んできた牝は殺処分しておきました」

「・・・そうですか」

 

轡木十蔵は渋い表情を浮かべた

いくらその教師が女尊男卑主義者であったとしても、流石に自分の学園で働いている教員が殺されたと聞くのは辛いものであろう。

 

「まあまあ、そう気を落とさずに。害虫が一匹減って綺麗になったと思えばいいでしょう。ニャハニャハニャハ」

 

男はそう言って笑っていたが、ある事を思い出した。

 

「ところで今日は何やら決闘のようなものがあると聞いていたのですが、こちらで拝見することは出来ませんでしょうか?」

「え、ええ。出来ますよ、ご覧になりますか」

「ではお願いします」

 

学園長はモニターを操作し、アリーナにあるカメラをモニターと繋いだ。

モニターに映像が映ると、ソレイユが織斑に対してヨウヨウの暴風雨を放ったところであった。

 

『うおおおおおおおおお!!!!』

 

「おお、あれを出しましたか。どうやら決める気ですね」

「分かるんですか?」

「ええ。あの技は彼の技の中でもトップクラスの威力を持つ技です。まあ、それでも・・・手加減しているようですがね」

「あれで手加減しているのですか!?」

「ニャハニャハニャハ。彼を甘く見ないでください。仮にも彼は海軍本部所属の少将ですよ。それもただの少将ではありません。海軍発足以来、最年少で少将になった強者なのですから」

 

男はそう言って笑っていたが急に顔色を変えて、席を立った。

 

「これは・・・すいませんが失礼します」

「どうかされましたか?」

「いえ、どうやら下等な牝が小賢しい事をしようとしているので阻止してきます。それでは」

 

男はそう言うと部屋から出て行った。

 

男が部屋から出ていくと轡木十蔵は息を吐いて力を抜いた。

 

「ふぅ~やっと終わったか・・・」

「貴方、大丈夫ですか?」

「ああ、しかしあの海軍将校は異様な男だったよ。人一人を殺したというのに、笑いながらまるで虫でも潰したように言うとは」

「ええ。・・・ねえ貴方、本当にあんな内容の書類にサインしてもよろしかったのでしょうか?」

「・・・仕方ないよ。今回の事はこちら側に非があることだ。それに女尊男卑主義者が幅を利かせすぎているのも本当の事だ。あの国の海兵達なら何とかできる力がある。私は其れに期待することにするよ」

「つまり「「毒を持って毒を制すですか」」

「えっ!!!」

「なっ!!!」

 

突然の声に驚いた学園長夫妻が扉の方を見ると、男が扉から首だけを出していた。

 

「全く毒とは失礼ですね」

「ま、まだ居たのですか?」

「いえ、なにやら悪口のようなものが聞こえてきましたので戻って参りました。学園長さん。我々海軍は正義の味方なのです。決して毒などと仰らないようにお願いします」

「わ、解りました」

「では、失礼いたします。ああ、盗聴器類などは仕掛けてありませんからご安心を。ニャハニャハニャハ」

 

そういうと男は再び扉を閉めて去って行った。

 

「・・・ふう~~~今度こそ行ってくれたみたいだな」

「ええそうね。・・・ねえ貴方、あの人はああ言ったけど一度この部屋に何か仕掛けられて無いか、検査したほうが良いんじゃないかしら」

「・・・その必要は無いだろう。仕掛ける必要など無いだろうしな」

「じゃあ、どうしてあの人はあんな会話をしている事が、解る事が出来たのかしら?」

「噂でしか聞いたことが無いが、あれは恐らくあの国に伝わる「覇気」というものだろう」

「覇気・・・ですか?」

「ああ、噂でしか聞いたことが無いが、防御機能などを無視した攻撃や人の心を読むことが出来るようになるらしい」

「そんな馬鹿な・・・信じられません!?」

「だが先程の海軍将校の行動を見れば、信じざるを得ないだろう」

「・・・そうね。貴方、この先どうしましょうか?」

「それも含めて今から決めていこう」

 

その後学園長室では夫妻による今後どうするかの話し合いが行われた。

 

同じ頃教員席にも動きがあった。

 

「織斑先生どちらに行かれるのですか?」

「ソレイユの所だ。あいつの持つISは強すぎる。なにか違法な改造を施している可能性があるので、一度没収する必要が出てきた」

 

その言葉を聞くと、麻耶は椅子から立ち上がった。

 

「いけません!学園長からもお達しがあったはずです。海軍将校の持つISにはいかなる理由が有ろうとも手出しをしてはならない。また手出しをした結果、怪我を負ったとしても学園側は感知せず、治療費などの支援も行わない。万が一死亡したとしてもそれは本人の責任となり学園は一切の責任を負わないと。そう言われたことをお忘れですか!?」

「ふん!そんなもの関係ない。抵抗されても力ずくで取り上げてしまえば良いことだ。ましてや私はブリュンヒルデだ。あんな奴に抵抗されようが負けるわけがない」

 

そういうと織斑千冬は教員席から出ていった。

 

「織斑先生・・・貴方という人は・・・」

 

山田麻耶は力なく椅子に座ると先程ソレイユが叫んでいたことを思い出していた。

 

「(「お前みたいな女尊男卑主義者のせいで世界中の男達がどんなに苦しんでいるのか知っているのか!?なあ、俺達男が何かしたのか!?オモチャに乗れない事がそんなに罪深い事なのか!!?」・・・ですか。その言い方だとソレイユ君、貴方もかって女性から、何か酷い事をされた事があるのでしょうか)」

「(思えば、最初の自己紹介の頃からそうでした。何か壁のような物を作っていましたね君は。授業などではきちんと受け答えはしてくれていましたが、君が女生徒と話しているのは、布仏さんや彼女の友人を除けば殆ど見たことがありませんでしたし、女尊男卑の考え方を持った生徒や教員などに対しては露骨に嫌悪感を出していましたね)」

「(ソレイユ君・・・貴方の過去に一体何があったんですか?)」

 

観客席でも本音と一人の女生徒が会話をしていた。

 

「すごかったね~・・・ソーソー」

「・・・うん」

「海軍の少将さんとは聞いてたけどあんなに強かったなんてね~・・・」

「・・・うん」

 

本音の言葉に女生徒はただ相槌を返すのみであった。それほどまでにソレイユが彼女達に与えた衝撃は大きかったのだ。

 

「・・・ねえ、本音」

「何~簪ちゃん?」

「ソレイユってどんな人なの?」

 

本音と一緒にいた女生徒・・・更識簪は本音にソレイユについて尋ねた。

 

ソレイユに対して恐怖心こそ少なからずあるが、それ以上にソレイユの見せた圧倒的な強さと彼の乗っているIS(実際はピースだが)の持つ炎を出す(本当はソレイユの食べた悪魔の実による力であるが)能力に興味を抱いたのだ。

 

「え~どんな人かって~、ん~~ソーソーは~いつも何か皆に壁を作ってるって感じの人かな~」

「壁?」

「うん。ソーソーは~私が話しかけるとちゃんと返してくれるけど~自分から誰かに話し掛けてるのを私は見たこと無いんだ~。いつも教室では本読んでるよ~」

「本・・・どんな本読んでるの?」

 

ソレイユがどういった種類の本を読んでいるかが解ればそこから会話の糸口が掴めると思った。もし彼が自分の好きなヒーロー物が好きであればなお嬉しかった。

 

「え~と確か~「キングオブデビル」っていう本だったと思うよ~前にちょっとだけ読ませてもらったけど~プロレスの技とかそういった事が書いてあったよ~」

「そう・・・他には何か知ってること無い?」

「ん~そうだね~あ、そういえばソーソーは~食べ物をよく食べて、残さないんだよ~」

「?」

「偶にソーソーと一緒に食べるんだけどね~ソーソーは普通の人の3倍ぐらいの量を注文してるよ~」

「3倍!」

 

本音の言葉に簪は驚いた。ソレイユは身長180cmを超えており、なおかつ体もガッシリしているものの流石に常人の3倍の量を食べるというのは想像できなかった。

 

「うん。私も最初に見たときは驚いたよ~それでソーソーに~そんなに食べられるの~って聞いたんだけど~「これぐらい余裕だ」って言ってペロリとたいらげてたよ~」

「そ、そうなんだ・・・他には何か知ってる?」

「え~、う~んソーソーは~あんまり自分の事話さないからこれ以上は解らないな~ごめんね~」

「う、ううん。別に良いよ」

「それにしても簪ちゃん急にどうしたの~もしかして~ソーソーに興味持ったの~」

「ち、違うよ!いや、違うとも言えないんだけど・・・変な意味じゃなくてあのソレイユさんの持っているISに興味があるの!」

「ふ~ん。じゃあさ~今度一緒にご飯食べよ~よ~。ソーソーには私から紹介するから~」

「いいの?本音」

「うん。でもソーソー女尊男卑主義者みたいな考えは大嫌いだから~そこだけは気を付けてね~」

「・・・それは解るよ」

 

対セシリア戦と対織斑で放ったあの言葉は衝撃だった。そして特に簪が印象に残った言葉はISをオモチャと言い放ったことだった。

 

「(あのソレイユという人はISの事をオモチャと吐き捨ててた。あの人はISに乗れて

専用機まで持ってるのに・・・どうしてそんな事が言えるの?)」

 

戦闘が終わったアリーナ。

 

周囲に音と呼べるものはなかった。

 

先程までのソレイユに対するブーイングはおろか、物音一つたっていない。

 

観客はただひたすら恐怖していた。ソレイユの圧倒的な力を。

 

誰もが言葉を発せずにいると一際大きな音がガチャンと鳴った。

ソレイユにぶっ飛ばされた織斑一夏が落ちて来たのである。

どうやら織斑一夏は気絶しているようだ。

 

「ふん。玩具の防御機能に救われたか」

 

織斑が出てきたゲートから医療スタッフの人間達が現れた。スタッフ達は織斑に応急処置を済ませるとタンカに乗せ、急いでアリーナから出て行った。

 

「信念のしの字もねえような奴との戦いは萎えてくるな・・・」

 

ソレイユはそう吐き捨てるとアリーナを出て行った。

 

「(ルフィさんは実力こそ発展途上だったが、腹にくくった一本の槍のような信念だけはあったぞ。・・・いや、ルフィさんとあの馬夏を比べたらルフィさんに失礼か。・・・ルフィさん。アンタは俺を恨んでるでしょうね)」

 

「ソレイユ」

 

ソレイユが通路を歩いていると織斑千冬が待ち構えていた。ソレイユは警戒して録画用の隠し電々虫を作動させた。

 

「何です?織斑先生」

「貴様のISには違法な改造がされている可能性が出てきた。よってこちらで検査する必要がある。こちらに渡してもらう」

「ふざけたこと言わないでください。そもそも許可は取ったのですか」

「許可なら取った。解ったのなら早く渡せ」

「簡単に解るような嘘などつかないで欲しいですね。これは俺が軍から直接いただいた物ですよ。仮にも国家機密に至るようなものを渡すような事を許可するわけがないでしょう」

「つべこべ言うな!さっさと渡せ!」

 

ソレイユのはその言葉に激しい激情を覚えた。

 

「(・・・このテロリストは俺から全てを奪っただけでは無く、俺が元帥から授かったピースまで奪うつもりか!・・・ふざけるな・・・ふざけるなーーーー!!!!!!!!!)」

「おい!聞いているのか!早く渡せ!」

 

織斑千冬はそういうとソレイユの待機状態のピース(腕輪の形)を奪おうとした。

その瞬間だった。近づいてきた織斑千冬の顔面をソレイユは渾身の力で殴りつけた。

 

「ガッ!」

 

殴られた織斑千冬は吹っ飛び壁に激突した。殴られた顔の右側は膨れ上がっていた。

 

「き、貴様・・・抵抗する気か!」

「当たり前だ!クソ教師が!!!」

 

ソレイユは織斑千冬に再び殴りかかった。織斑千冬は回避しようとしたが、避けきれず今度は顔の中心に強烈な一撃を食らった。

 

「グッ・・・ガハッ!・・・き、貴様!こんなことをしてただで済むと思っているのか!!」

 

鼻が折れ、顔が変形し状態でも織斑千冬の高圧的な態度は変わらなかった。自分がブリュンヒルデだという自負がそうさせるのだろうか。

 

「アアッ!ただで済まないようなことが起きるってのか!起こせるもんなら起こしてみやがれ!!」

 

ソレイユの言葉に織斑千冬はニヤリと嫌な笑みを浮かべると、ポケットからスイッチのようなものを取り出した。

 

「これが何か解るか!これはな向こうに待機させているIS教師部隊に対して「即座に来るように」という合図を知らせるスイッチだ。その人数が何人になるか解るか!?10人だ!ISを纏った10人もの人間がこちらに援軍として来るという事だ!」

「・・・・・」

「ははははは!怖気づいたようだな!これ以上抵抗してみろ!!10人ものIS教師部隊が貴様に対して攻撃を仕掛けるぞ。理解したか。理解できたのならばこちらに貴様のISを寄越せ。それとも10人ものIS部隊に対して抵抗する度胸があるとでもいうのブガッ!!!!」

 

ソレイユの覇気を纏った強烈な一撃がまたも織斑千冬の顔面に直撃した。覇気を込めていた分、今までの攻撃よりも強烈であり、織斑千冬の顔面は完全に凹み、前歯は何本も折れていた。

 

「き、貴様!どういう事か解っているのか!IS部隊に喧嘩を売るという事だぞ!それがどういうものか理解してブゴッ!!!」

「 ・・・そんなチンケなもんに今更俺がビビると思ってんのか!こっちはそんなオモチャに頼らなければ何もできないような奴らなんぞでは無く、本物の化物共を相手と殺し合いをしてきたんだ!喧嘩を売るってことがどういうことか解っているかだと!?こっちはそんなもんいくらでも売って来たし、買って来てんだ!」

 

織斑千冬に覇気を込めた強烈な蹴りを入れ、ソレイユはそう啖呵を切った。ソレイユは頂上戦争に参戦した過去がある。世界最強と謳われている白ひげ・・・エドワード・ニューゲート率いる白ひげ海賊団と渡り合い、白ひげにも果敢に立ち向かい、顔に一太刀を浴びせられるも生き残った。そんなソレイユが今更IS部隊などに怖気づくわけがないのである。

 

「くっ、いいだろう。そこまで言うのならこのスイッチを押してやろう。死んでから後悔しろ!!」

 

蹴りを入れられたせいで益々顔が変形した、織斑千冬がフラフラと立ち上がると手元のスイッチを押した。スイッチは赤く点滅し始めた。

 

「ハハハハ!これでお前は終わりだ。10人のIS部隊を相手にしてどこまで戦えるか見物だな。ブリュンヒルデである私を傷つけた報いを受けるがいい!」

 

・・・3分が過ぎたがなにも起こらなかった。

 

「おい、即座に来るんじゃなかったのか?」

「どうなってるんだ!あいつらはどうしたんだ!何故来ない!」

 

同じ頃、海軍将校の男が汚れた手袋を外して一息ついていた。

 

「フゥー、偶には運動するのも悪くないですねぇ」

 

男の周りにはIS部隊の死体が転がっていた。死体は首を握りつぶされた者が3人。首を切られた者が3人。心臓の部分に穴が開いた者が3人。1人だけだが両足を圧し折られながらもまだ生きていた。

 

「あ・・・あ・・・あ・・・」

「さてどうして海軍少将の持つISを奪おうとしたのか教えていただけませんかね」

 

男は部隊の生き残りに新しい手袋をはめながら笑顔で尋ねた。とてもこの惨劇を引き起こした人物とは思えないような笑顔であった。

 

「だ、誰がアンタみたいな・・・下等な・・・男何かに・・・」

 

女はこのような状態になっても女尊男卑の考えを捨てていなかった。男が惨殺した部隊の女は皆このような考えを持っていたが、この女も同類のようである。

男はその言葉聞くと、手を体の前に構えた。

 

「腕刀(ワントゥ)!」

「ぎゃああーーーーーーー!!!」

 

男が手を振った瞬間に女の手は切り落とされた。女は汚い悲鳴を上げながらのた打ち回った。全くもって醜い。

 

「さて、もう一度聞きましょう。どうして海軍少将の持つISを奪おうとしたのですか?」

 

男は先程と変わらぬ笑顔で女に尋ねた。女は恐怖に負けて目的を語り始めた。

 

「ち、千冬様が・・・あの海軍少将の持つISは危険だから・・・没収する必要があるって・・・仰られて・・・私達にも・・・手伝えって・・・」

「なるほど、それでこの様な愚行を行ったのですね」

 

男は頷きながらにこやかな笑顔で聞いていた。

 

「お、お願い・・・私は・・・ただ命令された・・・だけなの。全ては・・・千冬様・・・織斑千冬が・・・元凶なの・・・悪いのは・・・全部・・・織斑千冬・・・なの・・・い、命だけは・・・」

「砕掌(サイショウ)!」

 

男は見苦しく命乞いする女の首を握りつぶして殺害した。男は手袋を投げ捨てると、晴れやかな顔で呟いた。

 

「いやー。ゴミ掃除はいつしても気持ちいいものですねぇ」

 

男は懐からゴミ袋を取り出し、牝共の死体を片付け始めたが、見聞色の覇気で感じ取った良くない何かに顔を険しくした。

 

「これは・・・少々不味いですね。急ぎませんと」

 

男は早足で急いでゴミを片付けるとその場を立ち去った。

 

IS部隊が既に男によって惨殺されている事など知らない織斑千冬は苛立ちと焦りからスイッチを何度も押していた。

 

「この!この!おい、呼んでいるんだぞ!どうしたんだ!さっさと来い!」

 

その様をソレイユは冷めた目で見ていた。

 

「(何という無様で滑稽な姿だ。醜いな)」

「ふぅー。もういいか。ハッタリには充分付き合ってやったぞ」

「ま、待て!これはハッタリなどでは無いぞ!本当にIS部隊が、ゴボッ!!」

 

ソレイユは必死にスイッチを押している織斑千冬に剃で近づき、腹に強烈な掌底を打った。織斑千冬は膝を突き、悶絶した。

 

「ぐぅう!ゴホッ、ゴホッ!!き、貴様ーーー!!私はブリュンヒルデだぞ!!世界最強の女なのだぞ!!こんな事をして覚悟は出来ているのだろうなーー!!」

 

膝を着いた状態であってもこのような態度である。世界最強の女が膝を着くとは思えないが。

 

「ウルセェ!!このテロリストが!!!!!」

 

ソレイユはもう限界だった。自分の家族、友達、故郷といった全てを奪ったこの女が。あまつさえ自分からピースまで奪おうとし、抵抗すればIS部隊を嗾けようとするこのテロリストが。自分の目の前にいるという事に。

 

「ぶっ殺してやる!!」

 

ソレイユはそう叫ぶと織斑千冬に殴り掛かった。織斑千冬は抵抗しようとしたが、何度も殴られているうえに、いくら一般人レベルでは強いと言えども現役の軍人とではレベルが違いすぎた。

 

ソレイユは殴った。ただひたすら殴り続けた。相手の顎が砕けようが、歯が何本も折れようが殴り続けた。ソレイユの頭にあるのは憎悪。いや、憎悪という言葉すら生温いのかもしれない。10年間も待ったのである。あの日、全てを奪われて、行くあても無く彷徨い続け、生きるためにゴミまで漁り、時には石を投げつけられることすらあった。とうとう限界を迎え、ギリギリの所でサカズキに拾われ、海軍で生きる場所をもらい、そこで政府の情報機関から白騎士事件の黒幕は織斑千冬と篠ノ之束であると教えてもらったその日から。ずっとずっとソレイユは待っていたのである。織斑千冬と篠ノ之束をこの手で殺すことを。

政府の許可は既に得ている。白騎士事件の影響は日本だけでは無かった。ソレイユの帰化している国にも被害はあった。聖地マリージョアに誤作動を起こしたミサイルが被弾したのだ。それにより聖地マリージョアに住む天竜人達の50%が死去する事態になった。国宝は無事であったが、政府は当然怒り、世界に散らばるCP(サイファーポール)達に情報を集めさせ、織斑千冬と篠ノ之束がこの事件の黒幕だという事を掴んだのである。織斑千冬と篠ノ之束の両名は既に犯罪者としてソレイユの国では認知されている。

 

「(殺す殺す殺す殺す・・・・)」

 

ソレイユの頭の中は其れだけであった。それほどまでに織斑千冬の事が憎くてたまらないのである。

 

「そこまでです。ソレイユさん」

 

ただひたすら拳を振るい続けているソレイユの腕をつかむものが現れた。

 

「誰だ!邪魔をするな!!・・・お前は!?」

「それ以上やると死んでしまいますよ。その女」

 

正気に返ったソレイユが織斑千冬を見ると、織斑千冬は顔が変形し、顎は砕け、元の顔の原型は無くなっていた。口からは血と吐瀉物が出ており、恐らく骨も何本も折れているのだろう。

 

しかしそれでもソレイユは攻撃を続けようとした。

 

「止めるな、タンジェント!こいつだけは!こいつだけは今ここで!!」

「ソレイユ!!!」

 

IS部隊を壊滅させた男・・・タンジェントは激情に駆られるソレイユを一喝した。

 

「貴方の気持ちは痛いほど解ります!貴方がこの女をどれほど憎んでいるのかも知っています!軍の兵器を強奪しようとしたという点は、情報漏洩を防ぐために殺害するというのに正当な理由にはなりましょう。

しかし、この女にはまだ社会的地位が有ります。今この場で殺してしまっては少々面倒な事になります!

殺すのならばこの女の社会的地位をもっと落とした時にこそです。非常にキツイことを言いますがそれまでは耐えるべきです。そのための準備も進んでいます。CP達も白騎士事件の黒幕がこの二人というのを探ってくれています。もう少しです。もう少しだけ耐えなさい!」

 

タンジェントのその言葉にソレイユは、力を抜き、構えていた手を降ろした。

 

「申し訳ない・・・頭に血が昇りすぎていたようだな・・・タンジェントの言うとおりだ」

「お気になさらず。貴方の気持ちは解りますから。解っていただければかまいません。

「ありがとう。タンジェント」

「いえいえ、良いんですよ」

 

そう言うとタンジェントは姿勢を正しソレイユに敬礼を行った。

 

「それでは改めまして・・・タンジェント、これより貴方の部隊に復帰します!!」

「ああ!よくぞ戻ってくれたタンジェント!!」

 

ここにソレイユの部隊の一人・・・副長のタンジェントが復帰した。

 

二人はその後今回の件を学園長に報告。録画していた映像と監視カメラの映像もあり、今回の一件は全面的に織斑千冬とそのシンパのIS部隊に非があるとなり、ソレイユとタンジェントは御咎めなし。殺害と暴行も正当防衛とみなされた。その後織斑千冬は病院に緊急搬送された。

 




ソレイユに半殺しにされたセシリア・オルコット

ソレイユに恐怖心を抱くセシリアにイギリス政府から緊急の電話がかかってきた。

それはセシリアに対して無情な現実を突き付けた。

次回、IS 復讐の海兵
「セシリア・オルコット破滅!愚かな行為の代償」
あいつらは必ず地獄に落とす!!


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セシリア・オルコット破滅!愚かな行為の代償(前編)

申し訳ありませんが長くなりそうなので前編、後編に分けさせてください。

決して年内に何とか投稿したかったけど、書ききれなかったとかではありませんので(汗)

来年は季刊ぐらいにはしたいなと思っております。

皆様どうか良いお年を


ソレイユとタンジェントが学園長室で会合をしている頃にセシリアも運び込まれた病院の個室病室で目を覚ました。体の所々には包帯が巻かれている状態であった。

 

「こ、ここは・・・うっ!・・・・い、痛い!・・・痛い・・・ですわ・・・」

 

ソレイユを本気で怒らせたことにより、降参を許されずに攻撃を受け続けたセシリアの体はボロボロだった。所々に火傷を負い、指銃による銃傷、嵐脚による切り傷といった具合に満身創痍といっても過言ではないほどであった。それでも生きていられたのは、ソレイユが男達が受けた苦しみを味合わせるために比較的殺傷力の低い攻撃を繰り返し続けた後に、ラースオブインティで焼き殺すことに拘ったからである。

 

「私は・・・あの時・・・もう少しで・・・殺されていたのですね」

 

セシリアは思い出していた。ソレイユとの圧倒的な実力差。ソレイユの女尊男卑主義者に対する激しい憎悪。そして、ソレイユに半殺しにされ、最後には巨大な火の玉に飲み込まれかけた事を。

 

「あ、あの海軍少将はISの絶対防御を無視する攻撃を・・・そして火を自在に・・・火・・・火が・・・火が・・・わ・・・私を・・・飲み込もうと・・・こ、怖い!怖いですわ!!あの海軍少将が!火が、火が・・・怖い!!!」

 

セシリアは完全にソレイユと火に対するトラウマが出来てしまったようだ。

 

そこにセシリアが起きたことに看護師が気付いた

 

「気が付いたのね、セシリアさん。・・・セシリアさん?どうしたの!しっかりして!」

 

セシリアの怯えきっている様子に看護師は心配して駆け寄った。

 

「火が・・火が・・」

「落ち着いてセシリアさん!ここには火は無いわ!」

「あ・・・か、看護師さん。す、すいません。みっともない姿をお見せいたしました」

「気にしないで。あれだけの傷を負ってたんだもの。PTSDになっていても不思議じゃないわ。傷の具合はどう?」

「え、ええ。まだ少しあちこち痛みますわ」

「まあ、あれだけ派手にやられれば当然ね。しばらくは痛むと思うけど、出来る限りの処置はしてあるわ。だから後が残る事は無いし、明日には退院できるから安心してね」

「そ、そうですか」

 

セシリアは後が残る事は無いと言われて、とりあえずは安心した。女性である以上体に怪我や火傷の跡が残るのは嫌なのである

 

セシリアがホッとしていると看護師はある事を思い出した。

 

「ああ、そういえばイギリス政府の方からさっき連絡があったのよ。貴方が気が付いたらすぐに連絡をするように。って言われたわ」

「え、な、なんでしょう?」

「さあ、でも何か急いでたみたいだからすぐに知らせてくるわ」

「よろしくお願いします」

 

看護師が部屋を出ていくのを確認すると、セシリアはいったい何のことだろうかと考え始めた。この時点ではセシリアは自分が敗北したことに対する叱責だろうと考えた。しかし、事態はセシリアが思っていたよりもかなり深刻な状態だった。

 

数分程すると政府の高官からセシリアの携帯にかかってきた。

 

「オルコット候補生か?」

「はい。セシリア・オルコットです。なにかありましたでしょうか?」

「なにかありましたかではない。とんでもない事をしてくれたものだな、君は!?」

「えっ?な、何の事でございますでしょうか。勝負に敗北したことで御座いますでしょうか?その件に関しましては誠に」

「そんな事では無い!!」

 

政府の高官はセシリアの言葉を遮った。どうやらかなり苛立っているようだ。

 

「ヒッ!で、ではいったい何が?」

「まだ解らないのか!!ならば教えてやろう!それはな、君がかの国の海軍将校に対して暴言を吐いたことだ!!」

 

的外れな答えを返したセシリアに役人は怒鳴りつけた。どうやらかなり不味い状況に陥っているようである。

 

「ぼ、暴言!?」

「そうだ。身に覚えがないとは言わせんぞ。これを聞け!!」

 

役人は持っていたICレコーダーのスイッチを入れると、電話に近づけた。ICレコーダーからはセシリアがソレイユに対して吐いた暴言が流れ始めた。それを聞いたセシリアは顔を青ざめた。

 

「そ、それは・・・」

「そうだ。君が海軍将校であるソレイユ少将に吐いた暴言だ。オルコット候補生!!君のおかげで我が国とかの国の間に大きな問題が出来てしまった。候補生とはいえイギリスの代表がこんな暴言を吐けば当然の事だ!!!」

 

電話の向こうで蒼褪めたまま何も言えないセシリアに高官は言葉を続けた。

 

「そもそも私達は君に言っていた筈だ!「今度君が入学するIS学園にはかの国の海軍少将が来ることになっているが、決して暴言を吐いたり、喧嘩を売るような行動はしないように」とな!!なぜ守らなかったオルコット候補生!!簡単な事だと私は思うが!?」

「そ、それは・・・その・・・あの・・・」

「まあ大体予想は着く。大方聞き流していたか、聞いていたとしてもISがあれば大丈夫とでもおもっていたのだろう」

「・・・・・・・・・」

 

セシリアは何も言えなかった。いや、言う事が出来なかった。高官の言うとおりだったからだ。自分にはISがある。それも専用機が。これさえあれば恐れるものは無いと思い、国からの注意も完全に無視してしまったのである。その結果がこれである。愚かとしか言いようがない。

 

「何も言わない所を見ると図星の様だな」

 

高官はそう言うと大きくため息をついた。かなり呆れ果てているようだ。

 

「オルコット候補生。君は自分が代表候補生だから、選ばれた存在だとでも思っていたのかね。こう言ってはなんだが、わが国には君の代わりなどいくらでもいるのだよ」

「・・・いくらでも・・・いるですって・・・」

「当たり前だろう。国家代表ならいざ知らず。候補生など何人も選んでおくものだ。それに準じる実力を持つ者もな」

 

高官は更に言葉を続けた。

 

「そもそも国家代表という存在は、候補生同士を競わせて行き、候補生が一人リタイアすれば、準じるIS乗りを候補生にし、更に競わせて行く。そしてその競争に最後まで残った存在こそが国の代表になるのだ。そんな貴重な存在と君達候補生が同等なわけないだろう。はっきりいって天と地ほどの差がある」

 

セシリアは政府の言葉にショックを受けた。自分が必死に努力して手に入れた代表候補生という地位が何人も代わりがいるものだということに。政府にとってはその程度の存在でしかない事に。

 

「君にも理解できただろう。自分の地位がどんなものであるのか」

「・・・ハイ。解りましたわ・・・」

 

セシリアは力なく頷いた。それぐらいしか出来なかった。

 

「では本題に入ろう。オルコット候補生、君のせいでかの国と大きな問題が発生しているというのはもう既に話したと思うが、かの国は今回の件で完全に激怒してしまっており、我が国との国交断絶も辞さないようだ」

「こ、国交断絶!!」

 

意気消沈していたセシリアだったが国交断絶という言葉に反応した。そんな大事になっているとは考えもしなかった。

 

「そうだ。もしそんな事になれば我が国としても非常に不味いことになる。諸外国に対してのメンツもそうだが、かの国ともし国交断絶になり、敵国と見られでもすれば我が国はかの国によって殲滅される危険がある」

「せ、殲滅ですって!!ちょ、ちょっと大袈裟なのでは・・・」

「大袈裟だと!!オルコット候補生君はまだ事の重大さが解ってないようだな!!?忘れたのか!かの国は敵対した国に対して一切の容赦をしない事を!」

 

高官はセシリアに2年前に起きたある出来事を話し始めた。

 

「半年前、かって南北に分かれた国があっただろう。その北側の国がかの国にスパイを送り込もうとして失敗した。それが発端となり、かの国と北側の国との間で緊張状態に陥り、とうとう戦争になった。北側の国の独裁者はかの国に核ミサイルを放った。しかし、かの国の兵器は其れを遥かに上回っていた。かの国が放った兵器は北側の国が放った飛行中の核ミサイルを飲み込み、そのまま北側の国への飛行を続けた。最終的に北側の国に落ちたそれは国を一瞬で滅ぼした。後には更地が残っているだけだったよ。そして、その行為に謝罪と賠償を要求した南側の国もかの国によって滅ぼされた。この事を忘れた訳ではあるまい」

「は、はい。覚えております。忘れるわけが有りません」

 

セシリアはかって起きた惨劇を思い出し、体を震わせた。今更ながら自分が起こした事の重大さを解ったようだ。解った所で後の祭りであるが。

 

「あの一件は世界でも問題になり、国連でも取り上げられた。しかしかの国は国連非加盟国だ。国連がどれだけ騒ごうと、かの国は気にもしなかった。それどころかかの国はこう宣言した」

「「我が国は敵対する国に対して一切の容赦をするつもりも無く、いかなる国からも干渉を受けるつもりも無い」と。これに各国は震え上がった。核を遥かに上回る兵器を持つ国が敵対行為を行った国に対しては容赦なく南北に分かれていた国を滅ぼした兵器を放つと、宣言したようなものなのだからな。この宣言から各国はかの国の機嫌を損ねないように外交に十二分に注意を払い始めた。あの共産主義の2つの国ですらだ。我がイギリスも同様にかの国対しての外交には細心の注意を払い続けてきた。しかしそれも君のおかげで全てが無駄になったよ」

「そ、そんな・・・」

「かの国が我がイギリスに対して国交断絶を取り下げるための条件を提示してきたが、これが少々問題だ。賠償金として7億ベリーの支払いと我が国にかの国の海軍基地を置くことを要求してきた。

「な、7億ベリーに海軍基地の設立ですって!!」

 

この要求にセシリアは驚愕した。7億ベリーというと日本円にして70億円にもなる金額。そして海軍基地の設立というあまりにもとんでもない要求に。普通に考えて他国に自分の国の軍隊を駐留させろというのは余りにも荒唐無稽な要求だろう。

 

注:(作者はアメリカ軍基地問題に対して反対的な考えがある訳ではありません。このお話を面白くさせるために書いているだけです。上の国に対しても同様です。どうか誤解しないでください)

 

「む、無茶苦茶ですわ!そんな条件受け入れられるわけありませんわ!!」

「・・・普通ならばそうだろうな。しかし今回は相手が悪い。それに相手側は被害者。こちらが加害者のようなものだ。下手に騒げばかの国は容赦なく我が国にあの兵器を落とすだろう」

 

高官の言葉にセシリアは顔を歪めたが、急に何かを思いついたような顔になった。

 

「・・・わ、私が明日すぐにあの海軍少将に謝罪を致しますわ!そうすれば多少は・・・」

「・・・いや、君はもう何もするな」

「え?な、何故ですの!?」

 

高官は首を力なく振り疲れた顔で返した。

 

「もはや君が謝罪した程度では済まない事態になってしまっているんだ。そんな事も解らないのか?」

 

「し、しかし・・・」

「今本国の外交官たちが条件を緩めてもらおうと必死に交渉を行っている。君が出来ることは何もない。いいか、とにかく何もするな。これ以上問題が拗れでもすれば、それこそもう我が国は終わりだ。これは命令だ。絶対に何もするな。解ったな」

 

高官はそう言うと電話を切った。セシリアはベッドの上で呆然としていた。自分の行動の結果、国際問題にまで発展したという事実に呆然とするしかなかったのである。

 

それでもセシリアはある事を思案していた。

 

「(・・・あの人はああ言っておりましたが、やはり謝罪することにしましょう。こちらが誠意をみせて謝ればあの海軍将校もきっと許してくださいますわ。そうすれば私の今回の不祥事も多少は大目に見てもらえるはず・・・)

 

セシリアはそう決めると、どのように謝るかを考え始めた。しかしセシリアのこの甘い考えは自身とイギリスを更に窮地に追い詰めるものでしかなかった。そしてセシリアは明日それを身を持って知る事になるのであった。

 

 

その頃、ソレイユとタンジェントは海軍基地に帰っていた。

 

「ふーようやく帰ってこれたな」

「そうですね。しかしあの学園長も気の毒でしたね~一日に二回も我ら海軍と会談を行わなければならないとは。ニャハニャハニャハ」

「ああ、その点は同情するぜ。あの学園長は別に悪い人間じゃねえからな」

 

二人はソレイユの私室にある椅子に座り、テーブル越しに向かい合わせになって今日起きたことについて話していた。

 

織斑千冬を半殺しにしてすぐ二人は学園長室に向かった。血だらけの二人の姿を見た学園長夫妻は驚愕したが、タンジェントが事情を説明すると顔を青ざめた。すぐに監視カメラの映像と、ソレイユが密かに動かしていた録画デンデンムシの映像を確認した後に夫妻はすぐソレイユとタンジェントに謝罪した。その後話し合いが始まり、今回の件は正当防衛であること。そしてソレイユが学園にいる間は護衛としてタンジェントが付くこと。そしてもう一つある事を認可してもらう事で今回の件は手打ちにした。

 

「しかしあれぐらいの要求でよろしかったのですか?もう少し無茶を言っても通ったと思いますが?」

「何言ってんだよ。あの事を認可してもらったこと自体がかなりの無茶だろ。他に何を言うつもりだったんだよ?」

「そうですね~しいて言うならば「緊急時における戦闘の指揮権」などを要求しても良かったかもしれませんね。我々海軍はIS学園の教師の命令を聞く義務はありませんがそれを知らない馬鹿な牝が偉そうに命令をしてくる可能性が大いにありますからね」

「・・・一理あるな。でももう今回の件はあれで手打ちにしたんだ。その件は次に問題が起きた時にでも考えよう」

「まあ、近いうちにでも起きると思いますよ。あの学園は問題の宝庫ですからね」

「まあな、それは言えてるな」

「ハハハハハ!」「ニャハニャハニャハ!」

 

二人は笑いあった。ソレイユにとってそれは、久しぶりに腹の底から笑える笑いであった。

 

しばらくの間ソレイユは笑っていたが、急に真顔になりある質問を投げかけた。

 

「ところでタンジェント聞きたいことがあるんだが」

「はいはい。何でしょうか?」

「・・・麦わらの一味について何か情報はあったか?」

 

ソレイユの質問にタンジェントはゆっくりと首を横に振って答えた。

「いえ、全くです。CPの方にも聞いてみましたが、情報は0です。最近では死亡説も出ているようですが・・・」

「それだけは絶対に無い!あの一味が・・・麦わらがそう簡単にくたばる訳がない!」

 

ソレイユは力強く断言した。ソレイユには麦わらの一味の死亡説など到底信じられるものでは無かった。

 

「・・・やはり友達としてはそう思いますか?」

 

タンジェントの言葉にソレイユは気まずそうな顔をした。海兵にとって海賊と友達ということは良くは無い事であろう。

 

「・・・元な。麦わらは海賊で捕えるべき相手だ。それに・・・」

 

ソレイユは少し悲しそうな顔でこう言った。

 

「サカズキ元帥は・・・俺の義父さんは火拳のエース、ルフィさんにとっての義兄を討った仇だ。ルフィさんは俺の事を憎んでるだろうよ」

「・・・そうでしょうか。私は麦わらと話した事は一度しかありませんが、そのような男には見えませんでしたが」

「ハハハハ、慰めてくれてありがとうな。でもな、さすがに義兄を討った男の義息子は憎いだろう。半年間一緒に生活していたとはいえな・・・」

 

ソレイユはそう言うと口を噤んだ。

 

「ソレイユさん・・・」

ソレイユの落ち込んだ姿を見たタンジェントは何かソレイユの元気が出るものは無いかと考え、こちらに来る前にサカズキ達から預かっていた物がある事を思い出した。

 

「おっと、そう言えば元帥達から預かりものがあるんでした」

「預かりもの?」

「この雰囲気で出すものでは無いかもしれませんが、これで少しでも元気を出してもらえれば私も嬉しいです」

 

タンジェントは鞄から包みを取り出してテーブルの上で広げた。

 

「これは・・・海軍おかきに海軍せんべい、そしてこれは俺の大好物の海軍紅葉まんじゅうじゃねえか」

「ええ。おかきはセンゴク大目付から、せんべいはガープ中将から、もみじまんじゅうはサカズキ元帥からです」

「そうか、ありがてえな。この味が恋しくなってたんだ」

「ニャハニャハ、喜んでいただいて何よりです。どうです少しは元気になりましたか?」

「ああ。ありがとうタンジェント」

「ニャハニャハ。元気が出たようで何よりです。それとサカズキ元帥から伝言が1つあります」

「何だ?」

 

タンジェントは飄々とした雰囲気を消し、真剣な顔で告げた。

 

「「ケリつけて来い」だそうです」

 

その言葉を聞いたソレイユは顔を引き締めた。

 

「・・・・・・・・・・・・ああ、そのつもりだ」

「・・・そうですか。我々も全力でサポートします」

「・・・ありがとう」

 

重い空気が部屋を支配した。その空気は非常に重いものであった。

 

その空気を払うようにソレイユは手を一叩きし立ち上がった。

 

「まあ、とりあえずは」

 

ソレイユは部屋にある冷蔵庫に向かい、ビールとワインを取り出し、テーブルの上に置き、再び冷蔵庫に向かい、今度はカマンベールチーズと小鉢に入った漬物を持って来た。

そして元々置いてあったジョッキとワイングラスにそれぞれを注いだ。

 

「タンジェントの復帰を祝って乾杯」

「乾杯」

 

二人は注がれた酒を一息で飲み干した。

 

「ふぅーきくぜ。悪いな、こんな簡素な祝いで。本当ならこの支部にいる部下全員で宴会を開きたいところ何だが」

 

ソレイユはビールを注ぎながらタンジェントに軽く詫びた。

 

「いえいえ、これで十分ですよ。ここは仮にも敵国のようなものです。用心するに越したことはありませんよ。宴会は全員が揃い、此処の部下を鍛え上げた時にとっておきましょう」

「ああ。そうしよう。それにしても本当にご苦労様だったな、タンジェント」

「ええ、本当に疲れましたよ。契約した事とはいえあんな屑共の為に動かなければならなかったのは」

 

そう愚痴りながらタンジェントは2杯目のワインを注ぎ、すぐに呷った。

 

「おいおい。俺達は海兵なんだぜ、そんな発言してると問題になっちまうぞ」

「良いんですよ。ここには私とソレイユさんしか居ないんですから。愚痴ぐらい言わせてください。だいたい他の海兵も口に出さないだけで思ってますよ。あいつらはゴミ屑のような連中だと」

「そりゃ、まあ、な・・・」

 

タンジェントの言葉にソレイユは苦笑いをしながら返した。ハッキリ言ってソレイユも奴ら・・・天竜人の事は大嫌いなのである。数が減ったとはいえ天竜人の傲岸不遜ぶりは相変わらずなのである。

 

「まあ、久しぶりにルッチさん達と仕事が出来たのは少し嬉しかったですがね~余計な奴が一人いたのでマイナスですね」

「おまえの元上官の事か?」

「ええ、その通りですよ。契約上ではあの馬鹿よりも上の地位なんですが、それを理解していないようなんですよ。なので居丈高にこちらに命令してくるものでこちらも頭にきて技をかけてしまいましたよ。ニャハニャハニャハ」

「・・・どんな技を掛けたんだよ?」

「ご心配なく、タンジェントペナルティを掛けただけですから」

「そりゃやばいだろ!生きてんのかよそいつ!?」

「残念ながら生きてるんですよ・・・ッチ!」

「舌打ちすんなよ・・・」

 

ソレイユは半分呆れ、半分笑いの顔をしながらビールを飲んだ。

 

「まあ、私の話はこれぐらいにして貴方の話も聞かせてください」

「わかった。こっちに来てから俺は・・・」

その後、ソレイユとタンジェントの二人きりの酒盛りは続いた。それはソレイユにとって久しぶりに心から楽しいといえる時間であった。




ソレイユに謝罪するセシリア

しかしソレイユはそれを冷たく拒絶する

そんなソレイユに対して織斑一夏が異を唱える

次回、IS 復讐の海兵
「セシリア・オルコット破滅!愚かな行為の代償(後編)」
あいつらは必ず地獄に落とす!!


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セシリア・オルコット破滅!愚かな行為の代償(後編)

季刊にしたかったんですけど、書きたいこと詰め込みすぎちゃってこんなに遅くなってしまいました。コロコロアニキも2冊も出てしまいました。
次の話はもう少し短くして、早く出すようにしますのでご容赦を。

今回の話は賛否両論になる描写が多いのでご注意を。ただ私は思うのです。あの政府ならここまでやると。


「(あー昨日は楽しかったな~)おっす」

 

翌日、ソレイユが教室に入ると一斉に2種類の視線と睨みつけが降り注いだ。

 

1つは恐怖。決定戦で代表候補生を半殺しにし、ISの絶対防御を無視する攻撃を行い、異常ともいえる火力を持つIS(ピース)持つ事。そして何よりも皆が恐ろしかったのはソレイユが持つISと女尊男卑主義者に対する憎悪である。あの言葉はまだ年頃の娘たちを怯えさせるのは充分であった。

 

もう一つは敵意。あの言葉は女尊男卑主義者達には恐怖では無く敵意を持たせた。腐った牝共達の腐った考えである「女は男より優れている」を支える屋台骨であるISをオモチャ呼ばわりした挙句に自分達女尊男卑主義者をゴミ、屑と呼んだためである。

 

睨みつけてくるのはソレイユに敗れて体の至る所に包帯を巻いている馬夏とモップ女である。

 

しかしソレイユにとって恐怖や敵意と言った視線は日常茶飯事な物であるために全く気になっていなかった。

 

自分のヨウヨウの実の力で敵から恐れられることなど当たり前のことであったし、自分が能力を制御できるまでは味方の海兵からも恐れられていたのである。

敵意に関してもこういった仕事をしていると犯罪者達から敵意を向けられるのは当たり前のことである。

 

睨みつけに関しては完全に無視していた。相手にする価値も無いからである。

 

ソレイユは二つの視線と睨みつけを全く気にせずに机に向かい、大きく欠伸をしながら座った。

 

「おはよ~ソーソー~」

「うん?ああ、おはよう布仏さん」

「も~お~ソーソーったら~私の事は本音でいいって言ってるのに~」

「いやーそれはまだちょっと勘弁してくれよ」

「ソ~ソ~ってシャイなんだね~」

「ハハハハハ」

 

相変わらずの布仏のペースにソレイユがタジタジになっていると、前の扉から山田先生が入って来た。

 

「皆さん席についてください。ホームルームを始めます」

「お、先生が来たか。席に戻るぜ」

「あ、ソ~ソ~今日のお昼一緒に食べようよ~紹介したい人がいるんだ~」

「ああ、いいぞ」

 

先生の言葉に生徒達は席に着いて行った。相変わらずソレイユに対して睨みつけてくる馬夏と牝はいたが。

 

全員が着席したのを確認すると、山田先生は生徒達が今まで見た事が無いような真剣な顔で話し始めた。

 

「皆さんにお知らせすることがあります。昨日・・・この学園にテロリスト達が侵入しました」

 

(このテロリスト達の侵入というのは織斑千冬とその信奉者達によるソレイユ襲撃未遂事件と専用機強奪未遂事件を無かった事にする為に世界政府上層部と学園長夫妻が話し合って作った嘘である。織斑千冬とその信奉者達が軍事機密であるソレイユのピースを強奪しようとし、海軍本部少将をも襲撃しようとした事は事実であり、それを阻止する為に殺害及び半殺しにしたのは正当防衛になる。しかし、建前上どの国からも干渉されないという特性を持つIS学園の教員を殺害、ブリュンヒルデである織斑千冬を重傷にしたというのは対外的に問題になる可能性があった。しかし、そのような教員を雇っていたというのはIS学園側もバッシングは免れないことであったし、なによりかの国との関係が悪化する事は目に見えていた。そこでタンジェントがこの件を学園長夫妻に報告した後に、政府上層部にも報告を行い、政府上層部が学園長夫妻にモニター越しで会談を開き、正体不明のテロリスト達による仕業という事にしたのである)

 

山田先生の言葉に今まで教室にあった空気は吹き飛んだ。学園にテロリスト達が侵入した。その言葉に生徒達はざわめき始めた。

 

「皆さん静かに聞いてください!!」

 

山田先生はざわめく生徒達を一喝した。山田先生の今まで聞いたことのない真剣な声に生徒達は静まった。

 

「オホン!続けますね。テロリスト達は船で学園に侵入した後にIS部隊の先生方を強襲しました。奇襲を受けた先生方は迎撃がする事が出来ず10人もの死者を出し、襲撃を終えたテロリスト達はすぐにその場を逃亡しました」

 

先程収まったざわめきが再び起こり始めた。

自分達を昨日まで教えていた教師たちが殺害されたという事実に生徒達は動揺したのは仕方のない事だろう。

 

バン!!

 

山田先生は動揺し、ざわめく生徒達を鎮めるために教卓を叩いた。普段の山田先生なら絶対にしない行為に生徒達は面食らい、騒ぎは収まった。

 

「続けますよ。逃亡したテロリスト達は次に織斑先生を狙い、織斑先生に対してもテロリスト達は奇襲をかけました。後方からの突然の攻撃に織斑先生は対処しようとしましたが、多勢に無勢でした。織斑先生はテロリスト達によって重傷を負わされました。特に顔を徹底的に攻撃されたようで元の面影は無くなっていました」

 

その言葉に一部の人間を除いた生徒達は悲鳴と驚愕の声をあげた。世界最強と言われるブリュンヒルデの称号を持つ織斑千冬がテロリスト達に襲われ重傷だと聞いたのだ。ファンや信奉者の牝には信じられない事だろう。

 

「ち、千冬様が襲われた・・・いや、いやーーーーーー!!!」

「じゅ、重傷ですって!!信じられないわ!!」

「う、嘘よ!そんな事ありえな「嘘だ!!!」」

 

牝共が騒いでいると馬夏が立ち上がり叫んだ。

 

「嘘だ!!!千冬姉が・・・千冬姉が重傷だなんて・・・そんな事あるわけねえ!!」

 

山田先生はゆっくりと首を横に振って答えた。

 

「織斑君。残念ながら真実です。織斑先生は今病院に入院中です」

「嘘だ!!嘘だ!嘘だ!嘘だ!」

 

馬夏が叫びながら山田先生に向かって行った。今にも掴みかかりそうな勢いである。

 

「千冬姉は、千冬姉は世界最強のIS乗りなんだぞ!!ブリュンヒルデなんだぞ!!テロリスト共なんかに襲われて重傷なんてあるわけねえ!!!あってたまるか」

「織斑君!君の気持ちは解りますが織斑先生がテロリスト達に襲われたことは事実です。嘘だというのならこの病院に行ってみてください。織斑先生はそこに入院していますから!」

「うるせぇ!!要るかこんなもん!!!」

 

馬夏は山田先生が差し出した病院の名前と地図が書かれた紙を破り捨て、とうとう山田先生の胸ぐらを掴んだ。

 

「お、織斑君!手を放してください。く、苦しい・・・」

「嘘だって言え!千冬姉がテロリストに襲われて重傷だなんて嘘だって言えよ!!」

 

馬夏の暴走に周囲が騒然とする中、ソレイユが立ち上がり馬夏の元に向かった。

 

「いい加減にしろ!このうすら馬鹿が」

「何だとっ、おわっ!!」

 

暴走する馬夏に見かねたソレイユが馬夏を蹴り飛ばした。

 

「山田先生、大丈夫ですか?」

「ゴホッ!ゴホッ!え、ええ。ありがとう、ソレイユ君」

 

ソレイユが山田先生を介抱していると蹴り飛ばされた馬夏が再度こちらに向かって来た。ソレイユは山田先生の前に出るように馬夏と向き合った。

 

「いきなり何しやがる!!」

「それはこっちのセリフだ。関係ない山田先生に掴みかかるとはどういうつもりだ!?」

「そいつが千冬姉が重傷だなんて嘘つくからだ!!」

「嘘なんかじゃねえ。これを見ろ」

 

ソレイユは一枚の写真を放り投げた。

 

「何だ!こんな写真が何だって・・・な、なんだよこれは!!?」

 

写真には織斑千冬が半殺しにされた姿が映っていた。見るも無残な姿であった。

 

「その写真は今朝、学園経由で海軍に送られたものだ。監視カメラの一部から抜粋されて作られたものだそうだ。言っておくが合成やCGで作ったものでは無いぞ。正真正銘の物だ」

「そ、そんな・・・う、嘘だ・・・嘘だ・・・」

 

馬夏はそう言いながらへたり込んでしまった。ソレイユはそんな馬夏に止めを刺す言葉を告げた。

 

「嘘じゃねえよ、真実だ」

「はい。先程も言いましたが織斑先生はその状態で発見されました。そして病院に緊急搬送され集中治療室での治療の後に入院中です」

 

馬夏はしばらくの間呆然自失していたが、フラフラと立ち上がった。席に戻ろうとしていたが、今度はソレイユを睨みつけ始めた。

 

「何だ、まだ何かあるのか?」

 

ソレイユはそう言うと、身構えた。この感情のままに動く猪突猛進男の行動は全く予想できないのだ。

 

「何かだと!だいたい千冬姉がこうなったのはお前が仕事をサボってたからだろ!!」

 

馬夏がソレイユの言葉に怒りを露わに怒鳴り返した。

 

「はあ?いきなり何を言ってんだお前は」

「お前海兵なんだろ!海兵が此処にいるのは俺達を守るためにいるって事だろ!!それなのに千冬姉が大怪我を負ったって事はお前が仕事をサボってたって事じゃねえか!!」

 

馬夏の頓珍漢な言いがかりにソレイユは眩暈を感じた。ソレイユが此処にいる理由は篠ノ之束を捕えるために妹の篠ノ之箒を監視するためである。一部を除いた学園の奴らを守る理由など存在しないのである

 

「はぁ~。お前なそれは・・・」

「それは違いますよ。織斑君」

 

ソレイユが馬夏に説明しようとすると。山田先生が割って入った。

 

「ソレイユ君が此処にいるのは生徒としてです。海兵としての仕事をするためではありません。だから織斑先生が怪我を負った理由はソレイユ君が仕事をしていないためではありません。何よりテロリスト達が襲撃して来たのはソレイユ君が帰った後です」

「な、なら!なんで帰ってんだよ!ここは全寮制だろうが!ここに住めよ!お前が帰らなければ千冬姉がテロリスト共なんかに襲われることも無かったじゃねえか!」

「それは・・・」

 

パン!パン!パパパパン!パパパパン!

 

山田先生が説明しようとした瞬間に教室からいきなり破裂音が響き渡った。

 

「キャ――!何!何なの!?」

「攻撃!?テロリストの攻撃なの!?」

 

突然の破裂音に教室は騒然となった。先程の話の今である。テロリストが襲撃をかけて来たのかと思っても仕方ないであろう。ソレイユも咄嗟に戦闘態勢をとった。

 

しかしそれと同時に、

「ニャハニャハニャハニャハ!」

という教室の前の扉の陰から場違いな大きな笑い声が聞こえてきた。

 

「あーおもしろい。ただの爆竹で大慌てとは。普段威張っている連中が慌てふためいている姿ほど面白い物はありませんよ」

 

それは、この騒動(火のついた爆竹を教室に放り込むという悪戯)を引き起こしたタンジェントの笑い声だった。パニックを起こした牝達をタンジェントは大笑いしながら見ていたのである。

 

「タンジェント・・・おまえな・・・」

「ニャハニャハニャハ、ほんの挨拶代りですよ。ソレイユさん。あー皆さん落ち着いてください。ただの爆竹ですよ」

 

ソレイユに軽くジト目で見られたタンジェントは、ようやくさっきの破裂音は爆竹によるものだと説明した。

 

「ったくもう。すいません山田先生。部下が悪ふざけを」

「い、いえ・・・大丈夫です」

 

ソレイユは山田先生に部下の悪ふざけを詫び、山田先生は若干顔を引き攣らせながらも返答した。パニックを起こしていた連中もタンジェントの説明を聞いて、落ち着きを見せ始めた。それと同時にこのような悪質な悪戯をしたタンジェントに非難の目を向け始めた。しかしタンジェントはそのような空気をものともせず自己紹介を始めた。

 

「えーそれでは皆さん改めまして、私はソレイユ少将を護衛する為に海軍から派遣されたタンジェントと申します。趣味はワインテイスティングとギャンブルと鍛錬と料理。それと一部サブカルチャーです。嫌いなものは・・・まぁ、一括りして馬鹿です。以後お見知りおきを」

 

周囲の空気を全く気にともせずタンジェントは飄々とした態度を崩すことは無く、自己紹介を終え、続いて馬夏に向き直った。

 

「貴方は・・・えーと・・・確か、屑斑馬夏君でしたっけ?」

「織斑一夏だっ!!」

「おーっと、これは失礼しました。報告書によると屑で馬鹿なことばっかり言っている鬱陶しい人物とあったもので」

 

それを聞いた馬夏はソレイユを睨みつけたがソレイユは欠伸で返した。直接馬鹿で鬱陶しい言葉を言われているソレイユにとってこの報告は当たり前のことだと思っているのである。

 

「まあ、貴方の名前はさておいて。先程の話の続きをしましょうか。確か・・・何故ソレイユさんがこの学園に住まずに海軍基地に帰っているかという事でしたね」

「そ、そうだ!何で態々基地に帰るんだよ!此処に住めばいいじゃねえか!!」

 

馬夏はタンジェントに詰め寄ったがタンジェントは意に介さず変わらない態度で馬夏に答えた。

 

「ニャハニャハニャハ、それはですね、ソレイユさんが入居する予定の部屋に大量の盗聴器と隠しカメラがあったからですよ」

「な、なんだよそれは!!どういうことだよ!?」

「どういう事と言われましても言葉通りのことですよ。お馬鹿さんですね~ニャハニャハニャハ」

「お・・お馬鹿さん・・・だと!?」

「お馬鹿さんな貴方の為に詳しく説明してあげましょう。ソレイユさんは元から海軍基地から此処に通うという約束でした。しかし職員会議とやらで勝手にこの学園の寮に入居することが決められてしまったのですよ。とりあえずソレイユさんは案内された部屋に行きましたが、そこには大量の盗聴器に隠しカメラがあったのですよ。そのような愚行を行う様な屑達の巣窟に海軍将校が住めるわけないでしょう。我々はすぐに政府の方から抗議させていただきましたよ。その結果、ソレイユ少将は当初の予定通り海軍基地から通うことになったのですよ。お分かりですか、お馬夏君」

 

タンジェントは最後に馬夏の額を人差し指でツンと突いた。馬夏は何度も馬鹿、馬鹿と言われ顔を歪めていた。しかし本当の事なので仕方ないであろう。

 

「おい貴様!先程から聞いていれば一夏に失礼だろう!謝れ!!」

 

馬夏への度重なる侮辱にとうとう箒が食って掛かった。思い人が何度も馬鹿にされては頭にも来るだろう。

 

「えーと・・・貴方は・・・篠ノ之束の妹の篠ノ之モップですね」

「篠ノ之箒だ!!それと姉さんは関係無い!!」

 

タンジェントのわざとらしい間違いと篠ノ之束の妹という言葉に激昂した。タンジェントはそれを見ても飄々としたまま更に挑発を続けた。

 

「箒・・・ああ、成程。それで箒みたいな頭してるんですね。なかなか便利そうですね。それだと掃除もすぐに出来ますし、汚れてきたら洗えばいいですもんね。ニャハニャハニャハ」

 

「貴様――!!どこまでこの私を侮辱するつもりだーーーー!!!!」

 

タンジェントのおちょくりは箒を益々激昂させた。箒は完全に激怒していた。それに加えてタンジェントの言葉のせいで周囲からも笑い声が出ていることも箒の神経を逆なでしていた。

 

「プッ、箒みたいな頭・・・確かにそう見えない事もないかも・・・」

「ちょっ、笑っちゃ悪いよ。プッ、プププ」

「あ、頭で掃除・・・想像したら・・・ハハハッ」

 

キッ!!!!!

 

周囲の笑い声を一睨みで黙らせると、箒は憤怒の表情のままタンジェントに詰め寄った。

 

「こ、このような辱めを受けたのは初めてだ!貴様!覚悟は出来ているのだろうなーー!!」

「ニャハニャハニャハ、覚悟?してどうなるんですか。掃除でもしてくれるんですか」

 

ブチッッ!!!!!

 

どこからかそんな音が聞こえた気がした。恐らく箒の堪忍袋の緒が切れた音であろう。

 

「もう許さーーーーーん!!!覚悟しろーーーー!!」

 

箒はそう叫ぶとどこからか取り出した木刀でタンジェントに切りかかった。周囲はこの後の凄惨な光景を想像して悲鳴を上げたが、なぜかソレイユは顔色一つ変えなかった。

 

「ソ、ソレイユ君!あのままではタンジェントさんが!」

「大丈夫ですよ。タンジェントなら」

 

山田先生の心配する言葉にもソレイユは動じることは無かった。タンジェントの事を良く知っているソレイユにとって木刀などそこらの木の棒と変わらないのである。

 

「うおーーーーー!!死ねーーーー!!!」

 

殺意の籠った言葉をはきながら箒はタンジェントに木刀を振り下ろした。しかし、

 

「危ないですね」

 

タンジェントは振り下ろされた木刀を難なく避けると、箒の横に回り込み強烈な膝蹴りを放った。

 

「ぐぼっほ・・・」

 

箒はそのまま地面に倒れ付した。どうやら気絶したようだ。

 

「箒!おまえ、よくも箒を!!」

 

馬夏はタンジェントに詰め寄ったが、タンジェントは意に介すことは無く言い返した。

 

「ニャハニャハニャハ、正当防衛ですよこれは。そこのモップさんのほうが先に手を出してきたのですから」

「それはお前が箒を馬鹿にしたからだろう!!」

「だからと言って木刀で殴り掛かるのもどうかと思いますよ。殺傷能力のある武器なんですから」

「それでも手をだすのは駄目だろうが!」

「おやおや、では黙って殴られろというのですか?そんなのはごめんですね。私痛いのは嫌いなんですよ」

「だからって!」

「はぁーまったくもうお馬夏さんの相手はつかれますねぇ。これいじょう何か行って来るなら貴方・・・殺しますよ」

 

タンジェントは殺意の籠った眼で馬夏を睨みつけた。馬夏は先程の勢いは消え失せ、一気に黙り込んだ。見れば少し震えてもいるようである。周囲も同様であった。本物の殺気など今まで味わったことなど無いはずなのだから当然であろう。それは山田先生も例外では無かった。先程テロリストが侵入したという話をした時はは気丈に振る舞っていたが、かなり無理をしていたのかもしれない。その心意気は立派である。馬夏はそのまま何もいう事は無くそのまま自分の席に戻った。

 

「どうやら解って頂けたようですね。なによりですよ、ニャハニャハニャハ。さて、このクラスの保健委員さんはどちらですか?」

「は、はい。私ですが・・・」

「ここに倒れてる掃除道具を保健室に連れて行ってもらえませんか。目障りなので。ニャハニャハニャハ」

「わ・・・解りました!すぐにいたします!」

 

保険委員の女生徒は急いで箒を友人たちと担いで保健室に向かった。無論タンジェントが恐かったからである。

 

「ニャハニャハニャハ、さて静かになりましたし、話の続きをお願いしますよ先生。そこのお馬夏さんのせいで話が脱線していましたのでね。話は確か織斑先生という方がテロリストに襲われて重体だという所からだったはずですよ」

 

「えっ!?は、はい。そうですね」

 

タンジェントに話を突然ふられた山田先生はとりあえず話を続けようと気を取り直した。

 

「では、話を続けます。織斑先生を襲ったテロリストグループはそのまま船で逃亡しました。学園は海軍に通報し追跡を頼みましたが、ある程度逃げた所でテロリスト達が乗っている船が爆発しました。恐らくは爆弾を持っており、それで自爆したのだと考えられます。海軍の協力の元に遺留品や身元が解る物は無いか捜索を行いましたが何も見つかる事はありませんでした。恐らくは最初から生きて帰る事は考えていなかったようです。これでお知らせを終わります」

 

周囲は完全に言葉を失っていた。自爆テロという非日常的なことがいきなり起こったのだ。ショックを受けても仕方のない事だろう

 

そのなかで、唯一馬夏だけは悔しそうに言葉を漏らしていた。

 

「畜生・・・何でだよ・・・何で千冬姉がこんな目に会わなけりゃならねえんだよ・・・千冬姉がいったい・・・一体何をしたっていうんだよ・・・」

 

それを聞いたソレイユは心中で怒りをにじませた。

 

「(何をした・・・だと!ふざけるな!奴は・・・あのテロリストは俺から全てを・・・何もかも奪ったんだぞ・・・これくらいでは生温いぐらいだ・・・必ず・・・必ず地獄に送ってくれるゥゥゥ!!)」

「(ソレイユさん。貴方の心中お察しいたします。必ずやあのテロリスト2名を討ちましょう)」

 

「皆さん、お知らせはもう一つあります。一組の代表は織斑君に決定しました」

「・・・え、お、俺!?な、何で?」

 

姉が襲撃された事に納得出来ずに悔しがっていた馬夏は突然自分に話が振られたことに驚き、その内容に更に驚いていた。

 

「2勝したソレイユ君は海軍としての仕事が忙しいとのことで辞退しました。オルコットさんも辞退しましたので織斑君に決まりました」

「え、な、何だよ、その理由!2勝してるんだからお前がやれよ!」

「負け犬がグダグダ言うな。潔くやれ」

 

馬夏はソレイユに押し付けようとしたが、ソレイユは一言で切り捨てた。馬夏はソレイユの言葉に一瞬驚き、すぐに怒りで顔を歪めた。

 

「ま、負け犬だと!テメェ」

 

ギロッ!!

 

「うっ・・・」

 

馬夏はソレイユに何かを言おうとしたが、タンジェントの一睨みで黙らされた。全く懲りない男である。

 

「織斑君、納得してくれたなら皆さんに向けて一言お願いします」

「・・・はい。解りました」

 

不承不承といった感情が見え隠れしていたが、馬夏はとりあえず納得してクラス代表に就任することにした。

 

「えー皆さん・・・頑張りますので応援よろしくお願いします」

 

馬夏の一言を聞いた後、周囲はまばらながらもパチパチと拍手を送った。あんなことがあったあとである、元気よく拍手することなどできないであろう。

 

「ではホームルームを終わります。皆さん授業の用意を「ま、待ってください!」」

 

山田先生がホームルームを終わらせようとした時、セシリアが声をあげた。

 

「先生、少しお時間を頂きたいのですがよろしいでしょうか?」

「はい。少しなら構いませんよ」

「ありがとうございます」

 

セシリアは山田先生にお礼を言うと、ソレイユの元に歩いて行った。

 

「ソレイユさん」

「何だ!何の様だ!?昨日の試合のことで何か文句でもあんのか!!?」

 

ソレイユのセシリアに対する態度は厳しいものであった。セシリアがソレイユに対して言い放った暴言を考えれば当然ではある。

 

「い、いえ、違います。謝罪しに参りましたの」

「謝罪だぁ~~~!?」

「は、はい!」

 

セシリアは姿勢を正してソレイユに深々と頭を下げた。

 

「先日は貴方と貴方の国と海軍を馬鹿にしてすいませんでした!!」

 

しかしそれを見るソレイユの目は酷く冷たいものであった。

 

「で、気は済んだか」

「えっ!?」

「お前の価値のないゴミのような謝罪など俺は受け取るつもりは無い」

「そ、そんな・・・」

「なにショックを受けてんだ?俺がにこやかに謝罪を受け取るとでも思ったか、全部が帳消しになるとでも思ってたのか。そんな訳ねえだろ」

 

ソレイユは淡々と言葉を吐き捨てた。ソレイユの言葉を聞いたセシリアは何も言う事が出来なかった。ソレイユの言う事は全てセシリアが想像していた通りであったことであるからだ。

 

「改めて言っておくぞ。俺はお前を許すことなど未来永劫無い。謝罪を受け取る事もな。解ったらとっとと失せろ。女尊男卑主義の腐れ貴族が!!」

「おい、ソレイユ!セシリアは謝ってるのにそんな態度は無いだろう!!男だろうが!許してやれよ!」

 

馬夏がまたもしゃしゃり出てきた。全くうっとしい事この上ない。

 

「関係ないお前がしゃしゃり出てくるな。これは俺とこの女の問題だ」

「うるせぇ!お前が男らしくない態度を取ってるのが悪いんだろうが!男だったら相手が謝ってるなら許してやれよ!!」

「お前の基準で物を言ってくるな!この件は男らしい、らしくないの問題ではない!」

「違う!男だったら相手が謝ってきた許してやるもんなんだ!!それが出来ないお前は男らしくない!」

「いい加減にしろ!感情論で物を言うな!」

「何だと!」

「いい加減にしてもらえませんかねぇ、屑斑君」

 

くだらない言い争いにうんざりしたタンジェントが馬夏の前に進み出た。

 

「織斑だ!屑斑なんかじゃ・・・ウグッ」

 

タンジェントは織斑の首を片手で掴みそのまま持ち上げた。馬夏は首を絞められ苦しそうであった。

 

「は・・離せ・・・」

「ニャハニャハニャハ、苦しそうですねぇ。このまま絞め殺してあげましょうか、それとも首の骨を折ってあげましょうか?」

 

周囲はタンジェントの凶行に悲鳴を上げた。目の前で今にも殺人が行われようとしており、高校生の男子を片手のみで持ち上げるという有り得ない光景がセットで起きているのである。悲鳴の一つでも上がるだろう。

 

「や・・辞めろ・・・」

「貴方は一体何様のつもりですか?先程から聞いていればソレイユさんを呼び捨てにするわ、おまえ呼ばわりするわ、因縁を付けて来るわ、他人の事に首をだして来るわ、くだらない感情論を垂れ流すわと聞いてて腹が立ってくるんですよ。ただの珍しい存在なだけのド下等生物の癖して」

「め、珍しい・・・存在な・・だけだと・・・」

「その通りですよ。こちらにいるソレイユさんは我が国の海軍において少将という立場についておられるのですよ。それだけの地位と名誉はあります。それに比べて貴方はどうです?何もないじゃないですか。あるとすれば織斑千冬の弟という肩書と男なのにISを動かせるという珍しさだけ。言ってしまえば実験動物のような存在です。もしくは織斑千冬のオマケです。ハッキリ言ってソレイユさんとは天と地ほどの差があるのですよ」

「あ・・・あぁぁ・・・」

「ニャハニャハニャハ、顔が蒼くなってきましたね。そろそろさようならと行きましょうか」

「タンジェントもういい。そんな奴殺す価値もない」

 

タンジェントが馬夏を殺すことは無いと解っているソレイユだったがそろそろ良いだろうと思い止めに入った。見せしめとしては十分と感じたからである。

 

ソレイユの言葉を聞いたタンジェントは馬夏を落とした。馬夏はゲホゲホと咳き込み苦しそうだが自業自得というものだろう。

 

「ニャハニャハニャハ、屑斑君。ソレイユさんの優しさに感謝する事ですね。これに懲りたら少しは身の程というものを弁える事です」

 

馬夏は咳き込みながらもタンジェントを睨み続けていた。学習能力が無いのだろうか。タンジェントはそんな馬夏に強烈な回し蹴りを放ち気絶させた。ソレイユとタンジェントは再びセシリアの方に向き直った。

 

「おい、貴族さんよ。これもお前の作戦か?」

「な、何のことでしょうか?」

 

突然身に覚えのない事を言われたセシリアは戸惑った。作戦などという考えは全く無かったとは言えないが、あくまでも謝れば許してくれるだろうから謝ろうという程度のものである。セシリアもこのような事態になるとは全く考えていなかったのだからこの反応は仕方ないだろう。

 

「惚けるな!周りを見てみろ!」

「えっ!?」

 

慌ててセシリアが周りを見ると、生徒のほとんどがソレイユとタンジェントを非難する目で見ていた。

 

「酷いよね、女の子が謝ってるのに許さないなんて。男の癖に」

「そうだよね、それにあの護衛とかいう人も織斑君の首絞めるなんてやり過ぎだよ」

 

中には二人の悪口や陰口を言う生徒も見受けられた。二人が怖いのであくまでもヒソヒソとだが。

 

「こ、これはいったい・・・どうして!?」

「どうしてだと!?白々しい事を言うな!俺が、いや男達が普段どのような扱いをされているのを解ってないとは言わないよな!?」

「そ、それは・・・」

「解ってるはずだよな!現にお前がそうだったもんな!!俺が、男がこの学園にいる殆どの女から目の敵にされているという事を。今の女尊男卑が当たり前になった世の中でこんな態度を取ればどういう事になるかという事を!!」

「あ・ああ・・・」

「この学園で謝罪をすれば周りの女尊男卑主義者の牝共やそこで苦しんでる馬夏を味方にすることもできる。そうすれば同調圧力を掛ける事もできるし、謝罪を受け取らなければこのようにこちらを悪者にも出来る。見ろ、こちらは被害を受けた側にも関わらずまるで加害者だ。なかなか小賢しい作戦考を考えたものだな!貴族さんよ!!」

「ち、違います!!わ、私は本当にただ謝りたくて!」

「お前がどう考えていようと関係ない!これが貴様の行動の結果だ。これ以上の屈辱は今まで受けたことが無い!!最悪の気分だ!!」

「ちょっとアンタ!いい加減にしなさいよ!」

「何だ?」

 

ソレイユが声の方に向くと、それは先程ソレイユ達に陰口を言っていた女生徒の一人だった。

 

「男の癖して何偉そうにしてんのよ!アンタら男は私たちに従ってればいいのよ!男なんて私達優れた存在である女性に比べれば劣った存在でしかない下等な生物でしかないんだから!わかった!わかったなら土下座して謝りなさいよ!!それぐらい出来るでしょう」

 

牝はソレイユに散々女尊男卑主張を吐き捨てるとソレイユになんと土下座を強要した。典型的な女尊男卑主義者のようだ。

 

見かねた山田先生が注意しようとすると、その前にソレイユがその女生徒に向かって歩き出した。その時の顔は無表情であった。

 

「ソ、ソレイユ君?」

 

山田先生はソレイユの様子がおかしいと思い、止めようとしたがそれより先にタンジェントが山田先生を制して力なく首を振った。

 

「先生・・・もう無理です」

 

周囲もソレイユの今まで見せて事が無いような迫力に圧倒されていた。ソレイユは女生徒に向かって歩き続けた。そしてついに女生徒の前に着いた。女生徒はソレイユの異様な雰囲気に気づかず、ソレイユが自分の目の前で土下座するのだと思っており益々傲慢な態度をとった。

 

「ふん。どうやら自分の身の程が理解できたみたいね!ホラ、さっさと土下座しなさいよ!この下等な男無勢が!!」

「・・・死ね・・・この下衆が!!」

「ああ!今なんて」

 

女生徒はソレイユの言葉を問いただそうとしたが、その前にソレイユの覇気の籠った拳が女生徒の腹部を襲った。殴られた女生徒は膝を付いて苦しんだ。

 

「ガハッ・・・な、何すんのよ・・・」

 

ソレイユはその言葉を無視して今度は女生徒との頭に蹴りを入れた。今度は覇気を入れていなかったが女生徒は倒れた。

 

「あ・・・アンタ・・・女を殴るなんて・・・・」

 

倒れた女生徒はこのような状態になってもソレイユに腐ったような言葉を吐いていた。骨の髄まで女尊男卑に染まっているのだろう。ソレイユは女生徒を逆さづり状態にすると、そのまま窓から出した。ちなみにこの教室は2階にある。

 

「な、何すんの・・・よ!何・・・考えてんのよ・・・アンタ!?」

「女は男より優れてんだよな」

「そ、そうだって・・・言ってん・・・でしょ!そんな・・・こと・・・より早く・・・戻しなさ・・・いよ」

「だったらここから落ちても怪我一つしねえよな」

「あ・・・アンタ、まさか・・・辞め」

 

ソレイユは女生徒を掴んでいた手を放した。女生徒は悲鳴を上げながらそのまま地面にに落ちていった。

 

・・・・ゴッ!!!

 

大きな音が鳴った後ソレイユは窓から顔を出して下を見た。女生徒は頭から血をながして倒れていた。2階からなので死にはしていないようである。その証拠に体がピクピクと痙攣していた。

 

「生きてんのかよ・・・死ねばよかったのに」

 

突然のソレイユの凶行に周囲は唖然としていた。そんな中で山田先生はいち早く正気を取戻し、保健委員に指示を飛ばして保険医を呼ばせた。

 

ソレイユはそんな山田先生の方に向かっていった。凶行を起こしたとは思えないような落ち着いた態度だった。

 

「山田先生、こういう訳ですので俺達は今日はもう失礼します。このまま俺達が此処にいても授業を行うのは無理でしょうし。今日は欠席という扱いにしてください」

 

そう言うとソレイユは山田先生に背を向けた。山田先生は慌ててソレイユを呼び止めた。

 

「え・・・ソレイユ君!?ちょ、ちょっと待ってください!何故このようなことを!」

 

山田先生の問いにソレイユは背を向けたまま答えた。

 

「・・・さっきゴミを捨てたことですか?あれは女尊男卑主義者という人間の皮を被ったゴミです。ゴミは処分されるべきものでしょう」

「ゴミって・・・なんでそんな事を言うんですか!?」

「間違ったことを言ったとは思っていません。人間は正しくなければ生きている価値がないでしょう。さっき捨てた女尊男卑主義者は正しい存在などでは断じてありません。ゴミです。更に言わせて頂くなら俺にとって、いや世界中の男達にとって女尊男卑主義者というのはゴミのような存在でしょう」

 

ソレイユのその言葉を聞いた山田先生は悲しみを半分混ぜたような怒った顔でソレイユに問いかけた。

 

「ソレイユ君!!何故貴方はそんなにも女尊男卑主義者を憎んでいるのですか!いえ女尊男卑主義者だけではありません。女尊男卑主義者ではない女性に対しても君は若干ですが憎しみを抱いていますね!?代表決定戦でも君は「女尊男卑主義者に苦しめられた男達の苦しみを思い知らせてやる」と言っていましたね!貴方はまるで女尊男卑主義者達により被害を受けた男性達の全ての怒りを背負っているかのようです。私はまだ20と数年しか生きていませんが、ソレイユ君のようにここまで女尊男卑主義者を強く憎んで怨み抜いている人を見たことがありません!!どうして何ですか!?18歳の君がどうしてそんなにも私達女性に対して憎しみを抱いているんですか!過去に貴方の身にどれ程の事があったんですか!?一体女性が貴方にどんな事をしたんですか!?」

 

山田先生の詰問にソレイユは少し間を置いて答えた。相変わらず背は向けたままである。

 

「・・・申し訳ありませんがそれは話せません」

「ど、どうしてですか!?私が女だからですか!?」

「それもありますが・・・まだ俺は貴方と出会って数日しかたっていません。貴方が女尊男卑主義者ではないのと、決して悪い人じゃないのは解りました。しかし、信頼することはまだ出来ないんです。俺は本当に信頼できる人間にしか自分の事を話さない事にしているんです」

「そんな・・・」

 

山田先生はソレイユの言葉にショックを受けた。自分の教え子に信頼できないと言われれば普通の教師ならショックを受けて当然だろう。

 

「・・・なら・・・私は君の信頼を得てみます!君に一体何があったのか話してもらえるような信頼されるような立派な教師になります!なってみせます!その時は話してもらえますか、ソレイユ君!?」

「・・・どうしてそこまで俺に拘るんですか。俺が海軍本部少将だからですか?学園の上層部に気を遣えと言われているからですか?」

「それは違います!!」

 

ソレイユの言葉に山田先生は声を荒げて反論した。顔には若干の怒りが見えた。

 

「私は教師です!まだ未熟な所ばっかりの新米教師ですが、それでも生徒の事は大事に思っています!自分の担当している生徒が何か抱えているのならばそれを理解してあげたいし、支えてあげたいんです!ソレイユ君にもそう思っています。海軍少将だからだとか関係ありません!私個人が君を理解してあげたいし、信頼してもらいたいんです!」

 

それは山田先生の心からの叫びだった。山田先生は本当に生徒の事を大事に思っているという事が解る言葉だった。それを聞いたソレイユは山田先生の方に振り返った。

 

「先程の件ですが約束します。信頼することが出来た時必ず話すと」

 

ソレイユは続いて本音の方に向かっていった。

 

「布仏さん。こういう事だからさっき言ってたことは今日は無理だ。約束を破る事になってしまって申し訳ない。この埋め合わせは必ずするから許してほしい」

「う、うん。い、いいよ~」

「ありがとう。それじゃあ失礼する」

「ま、待ってよ!ソ~ソ~」

 

踵を返し出ていこうとしたソレイユを本音も山田先生同様に呼び止めた。本音もソレイユに聞きたいことがあったからだ。

 

「ねぇ、ソ~ソ~。ソ~ソ~って~・・・もしかして~・・・私の事嫌い?話しかけられたりすると迷惑?」

「・・・どうして急にそんなことを聞くんだ?」

「さっきの山田先生とのお話でソ~ソ~が私達の事を少しだけど憎んでるって言ってたからもしかしたらと思って~」

「・・・嫌いでもないし、迷惑だと思ったことは一度だってない」

「本当~?」

「ああ、それじゃあな。行くぞタンジェント」

 

ソレイユはタンジェントを伴って出ていこうとしたが、タンジェントは其れを拒否した。

 

「あっソレイユさん。すいませんが先に行っておいていただけませんか。ちょっと此方のお二人にお話がありますので」

 

突然タンジェントに話あると言われた山田先生と本音は驚いた。一体自分達にどんな話があるというのだろう。

 

「おいおい、お前は俺の護衛に来たんだろうが。護衛が護衛する人物に先に行っておいて欲しいってのは無いだろう」

「ニャハニャハニャハ、そうだとは思うんですがお願いしますよ。この通り」

 

タンジェントは顔の前で手を合わせてソレイユに頼んだ。ソレイユは呆れ半分、諦め半分の顔で溜め息をついてタンジェントの頼みを了承した。

 

「ハァ、解った。じゃあ俺は外で迎えを寄越すように連絡してるから早く来いよ」

「ありがとうございます。ソレイユさん」

「それでは山田先生と布仏さん。失礼します」

 

ソレイユはそう言うと教室から出て行った。後には重い空気が残された。

 

タンジェントはそんな空気など全く気にしないように山田先生と本音に話しかけた。

 

「あーそこのお二人さん。すいませんね、うちの隊長がお騒がせいたしまして」

 

突然話しかけられた二人は内心、「さっき爆竹を使った悪戯をした人が言わないで欲しい」と思ったが、とりあえず返事をすることにした。

 

「だ、大丈夫です」

「う、うん。平気~」

「ニャハニャハニャハ、それなら良かった。ではソレイユさんをお待たせしている事ですし早速本題に入らせてもらいます。さっき言っていた話があるという事ですが、騒がせてしまったお詫びに貴方達二人の質問に一つだけですが答えてあげようと思いまして。いろいろ聞きたいことがあるでしょうから」

 

その言葉に山田先生と本音は顔色を変えた。ソレイユに近いこの人物が質問に答えると言っているのだ。聞きたい事などいくらでもある。

 

「「そ、それなら!?」~」

「あ、最初に言っておきますがソレイユさんの過去について尋ねられても答える気はありませんので悪しからずご了承を」

 

2人は内心ガッカリしたがタンジェントは飄々と言葉を続けた。

 

「まあ、ここでは何ですから、お二人さんちょっと外に出てもらえませんか。あまり大勢の前で話すような事では無いでしょうし」

 

その言葉に周囲からブーイングが飛んだ。謎が多いソレイユのことを話すといっているのだ。この年代のゴシップ好きの女生徒なら知りたいと思っても仕方ないだろう。そんなブーイングに対してタンジェントは先程と似たような言葉を今度は笑顔で告げた。

 

「これ以上騒ぐなら貴方達、殺しますよ」

 

その一言で周囲は水を打ったようになった。そしてタンジェントは再び山田先生と本音に向き直った。

 

「どうしますか、お二人さん」

「わ、解りました」

「良いよ~」

 

そう言って三人は教室から出て行った。タンジェントが出て行ったことで注意を受けた女生徒達はようやく気を抜くことが出来た。

 

三人は教室から離れた空き教室で話の続きを始めた。

 

「では、お話の続きと行きましょうか。ではどちらから質問をなさいますか。さっき言った通り一人に付き一つしか答えませんのでお気をつけて」

 

山田先生と本音は顔を見合わせていたが、先に動いたのは山田先生だった。

 

「では、私から質問させていただきます」

「どうぞ」

「ソレイユ君は何故あんなにも女尊男卑主義者を憎んでいるのでしょうか?」

「おやおや、何を聞いてくると思えば。今の世の中、女尊男卑主義者を憎んでいない男は一部の権力者だけでしょうに」

「・・・そうかもしれませんが、ソレイユ君の場合は異常です。ソレイユ君の女尊男卑主義者への憎しみは他の人の比ではありません」

 

山田先生の言葉にタンジェントは腕を組んで唸った。

 

「成程。う~ん・・・そうですね~ソレイユさんが何故女尊男卑主義者を憎んでいるのかを深く説明するとなると彼の過去について触れてしまうので詳しくは話せませんが・・・しいて言うならばあいつらが悪だからでしょうね」

「悪だから・・・ですか?」

「はい。先程貴方も聞いたと思いますが、ソレイユさんは人間は正しく生きなければ生きている価値が無いと思っています。女尊男卑主義者のようなゴミが生きているのはソレイユさんにとって許せない事なのでしょう」

「そんな・・・なぜそのような過激な考え方を・・・」

「それはソレイユさんの過去に関係しているので話すことは出来ません。彼から聞いてください」

「そうですか・・・解りました。ありがとうございます」

「いえいえ。どういたしまして」

 

山田先生はタンジェントからソレイユの憎悪の一端を聞いたことで一日も早くソレイユからの信頼を得て彼に何があったのかを確かめようと決意した。

 

「さて次は貴方の番ですね。どんな事を聞きたいのですか?」

「う、うん。私が聞きたいことはね~ソーソーは女尊男卑主義者じゃない女の人も憎んでるのか聞きたいの~」

「ニャハニャハ、それは違いますよ。我が海軍には女性士官も多く在籍しています。ソレイユさんも彼女達のことは仲間だと思っていますし普通に話していますよ」

「そ、そうなんだ~ありがとう~」

「ニャハニャハ、お気になさらず」

 

タンジェントからソレイユが女性全てを憎んでいる訳では無いという話を聞いて本音は安心する一方で少しの寂しさを感じていた。ソレイユが同僚の女性士官達とは自分と違って普通に話しているという事が本音は何故か寂しく感じたのだ。

 

「さて質問も終わった事ですし、私は失礼させていただきますよ。これ以上遅くなるとソレイユさんに怒られてしまいますので。あ、それと今回の事は他言無用でお願いしますね」

 

タンジェントはそう言って空き教室から出て行った。残された二人も同様に自分たちの教室に戻って行った。戻った山田先生と本音は生徒達から質問攻めにされたが二人は何も話すことはなかった。生徒の一部からはソレイユが牝を落とした事を非難する声が上がったが、山田先生は学園とかの国との間で結ばれたある条約の事を話してその声を封じた。そしてその日一日は重苦しい雰囲気で授業が進められた。因みにタンジェントに蹴り飛ばされた馬夏は二人が戻ってくる間に復活していた。あきれた打たれ強さである。

 

その夜、セシリアはイギリス領事館から直接呼出しを受けた。呼び出された理由に心当たりがあったセシリアは当初は呼び出しから逃げようとしたが、学園に許可を受けた領事館職員によって強制的に連行されていった。因みにその時にある生徒がセシリアが連行されることに抗議を行ったが、職員は完全に無視していた。

 

セシリアは領事館の一室に連れて来られた。部屋には既にイギリス政府の高官がいた。

 

「あ・・あの・・・」

「我々は君に何もするなと言って無かったか?」

 

セシリアの言葉を無視して高官はセシリアに問いかけた。その言葉は氷のように冷たいものであった。

 

「そ・・・それは・・・」

「言った筈だな。音声データも残っているぞ」

「・・・・・はい。言われておりました」

「ならば何故勝手に謝罪などしたんだ?何もしなくて良いという事を理解できなかったのか?」

 

高官は努めて丁寧に言葉を発していたが所々に怒りの感情が見えた。それだけセシリアの軽率な行為によって不味い事が起きたのだろう。

 

「それは・・・誠意を見せたくて・・・」

「成程・・・そういう事か」

「は、はい。そのとおりです!私はただ誠意を見せたかった「ふざけるな!!」えっ?」

 

セシリアの幼稚な言い訳を遮って高官は怒鳴りつけた。その表情からは完全に怒りが見えた。

 

「君は自分がしたことの愚かさがまだ解って無いようだな!君が誠意を見せてどうなるというんだ!?海軍将校が許してくれるとでも思ったのか!私達は言っていたはずだ。もはや君が謝罪した程度では済まない事態になってしまっていると。君がした事は全くの無意味、いや更なる事態の悪化を招いたのだぞ!!これを見ろ!!」

 

高官はセシリアに一枚の書類を投げつけた。書類はセシリアの目の前に落ちた

 

「こ、これはなんですの?」

「君の軽率な行為によってかの国から送られてきた抗議文だ。読んでみろ!」

「は、はい!」

 

セシリアは書類に目を落として読み始めたがすぐに顔色が変わった。それはそこに記されていた内容があまりにとんでもない事だったからである

 

『貴国の代表候補生、セシリアオルコットの挑発行為は余りにも目に余るものがある。我が国への暴言から始まり、海軍少将への無礼な態度に度重なる暴言、更には現海軍元帥及び我が国の海軍への暴言。これだけでも許しがたいが、我が国は寛容にも7億ベリーの賠償金と海軍基地の設立のみを望み、最終的には賠償金のみで今回の事は水に流そうとした。それなのに貴国は更に我が国への挑発行為を行った。本来は被害者であるソレイユ少将がセシリアオルコット代表候補生の計略によりあたかも加害者のように扱われることとなり、我が国の評判も落ちることになった。これは我が国への宣戦布告と受け取らせていただく。纏まりかけていた話も全て白紙に戻させてもらう。三日後に我が国は貴国に対して攻撃を行う。しかし、もし下記の条件を全て承諾するというのであれば今回に限り上記の無礼に対して目をつむろう。

1.イギリスは我が国に対して10億ベリーの賠償金を払う

2.イギリスは国土内に我が国の海軍基地の設立を認め、予算として毎年350億ベリーを払う事

3.イギリスは治外法権及び、領事裁判権を認める事

4.我が国との関税自主権を放棄する事

5.イギリスが持つ海外領土の権限を全て我が国に譲渡する事

 

回答は二日後まで待つ。なお回答以外の話し合いなどは一切受け付けることは無い』

 

「なっ、なんですのこれは!?こんなもの受け入れられるわけありませんわ!!?」

「そうだな。だが・・・君がそんな事を言える立場か!?そもそもの発端は君だろう!」

「ヒッ!」

「そしてここまで問題を拗れさせたのも君だろうが!!文面にもあっただろう。今回の件は賠償金のみで水に流す、と。これは我が国の外交官達が必死の交渉によって得られた成果だったのだぞ!これを聞いた時は女王陛下もかなり喜んでおられたし、国民たちも安心していたよ。しかし、君の軽率な行為はそれを全てぶち壊したんだ!!」

「そ、そんな・・・」

「こんなことなら君を謹慎、もしくはイギリスに強制送還させておくべきだった。今更いっても後の祭りだがな。とりあえず君には一度本国への帰還してもらう」

「・・・・・・」

 

セシリアは完全に放心状態になってしまっていた。まさかここまでの事態になってしまっているとは思っても見なかったのである。

 

「それと現時点での決定事項を言っておく。セシリア・オルコット、君は本日をもって代表候補生の地位を剥奪とする。専用機も没収させてもらう」

「・・・えっ!な、何ですって!?」

 

いきなりの宣言にセシリアは強制的に放心状態から戻らされた。先日、政府から大した地位ではないと言われた代表候補生の地位ではあるが、セシリアにとっては必死の努力をして得た地位なのだ。専用機も同様である。それをいきなり剥奪すると言われたのである。驚くなというのが無理な話であろう。

 

「何を驚いているんだ。君はイギリスに対して多大な損害を与えたのだ。そのような人間を代表候補生にしておくわけないだろう。専用機の没収にしてもだ。それに話はまだ終わっていない。続けさせてもらうぞ」

 

セシリアはまだ何かあるのかと恐怖したが、高官は淡々とした言葉を告げるだけであった。

 

「賠償金の10億ベリーは君に弁済させることに決まった。君の失態に対して貴重な国家予算を使う訳にはいかんからな」

「む、無理ですわ!10億ベリー何て大金払えませんわ!!」

「君に拒否権は無い。これは決定事項だ。それに君にはご両親の遺した遺産と大きな屋敷、会社の株券などがあるだろう。それらを全て処分すれば10億ベリーにギリギリ届くのではないかね」

「そ、そんなの嫌ですわ!あの屋敷と会社は私が必死に「君の我が儘を聞く理由は無い!!」ッ・・・」

 

セシリアは拒否しようとしたが、政府の高官は一喝して黙らせた。高官の言うとおりセシリアの我が儘を聞く理由など今のイギリスには無いのである。イギリスにとって今のセシリアは国家反逆者といっても差し支えないのであるのだから。

 

「詳しい事は一度イギリスに帰国してから話す。異論はないな」

「・・・はい・・・グスッ」

 

セシリアは泣いていた。自分の全てを失うという恐怖、そしてこれから自分に起きる事を想像して涙を流していた。しかし、全ては自身の蒔いた種であり、自業自得である。

 

その日のうちにセシリア・オルコットはイギリスに強制送還された。IS学園には政府の方から休学届が出された。イギリスに戻ったセシリアに何が待ち受けているかはまだ定かではない。

 




基地に戻ったソレイユとタンジェント。
2人は今日会った事の反省会を始める。
同じ頃中国でも一人の代表候補生が役人からIS学園に行くにあたっての注意を受けていた。

次回、IS 復讐の海兵
「2つの会議 反省会と凰鈴音への厳命」
あいつらは必ず地獄に落とす!!


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2つの会議 反省会と凰鈴音への厳命

何か会議って感じじゃなくなったかもしれません。

タイトル詐欺だと感じたら申し訳ないです。

今年中に何とか後1話投稿します。


時間は少し戻って、学園を早退したソレイユはサカズキ元帥に今回の件を報告した後、時間が丸々空いてしまったので、趣味の畑仕事を行った後にタンジェントと一対一の鍛錬を行っていた。

 

鍛錬を終えたソレイユは息も絶え絶えの状態であったが、タンジェントは汗をかいてはいたがまだ余裕のある態度であった。

 

「ハァ、ハァ、やっぱり・・体が少し鈍ってたな・・・」

「ニャハニャハ、そのようですね。海軍本部に居た頃の貴方はもう少し体にキレが有りましたよ」

「こっちでは・・・俺以上の奴なんか居なかったからな・・・一人でやれる範囲でやってたんだが・・・やはり限界があったか・」

「それはそうでしょう。鍛錬というものは自分より強い人間に教えてもらいながらするのが一番効率よく出来るのものなのですから。まあ、これからは私がいますのでご安心を。徹底的に鍛え直してあげますから。ニャハニャハニャハ」

「ああ・・・よろしく頼む」

「ええ、お任せください。まあ、今日はこのぐらいにしてお風呂にでも行きましょう。汗もかきましたし、ゆっくりと湯船にでも浸かって疲れを落としましょう」

「そうだな・・・その後は・・・食事しながら一杯やるか」

 

2人は連れだって大浴場に向かった。この海軍基地には大浴場とシャワールームの2つがある。勿論海軍将校専用大浴場などは無く、一般海兵も同じように利用している。がソレイユが利用しているのは専ら大浴場の方であった。実はソレイユは能力者でありながら風呂好きであり、シャワーは本当に忙しいときにしか使っていない。

 

「ソレイユ少将にタンジェントさん。訓練お疲れ様です」

 

海兵がタンジェントを階級では無く、さん付けで呼んだのはタンジェント本人の希望によるものである。タンジェント曰く「階級で呼ばれるのはあんまり好きじゃないので」とのことである。

 

「ああ、ありがとうな。そっちこそ見回りご苦労さん」

「ハッ、ありがとうございます。ところでお二人はどちらに?」

「風呂だよ。鍛錬して汗もかいたしな。大浴場でゆっくり浸かろうと思ってな」

 

ソレイユの言葉を聞いた海兵は顔色を変えた。ソレイユが能力者である事はこの基地にいる海兵全員が知っている。(因みに最重要機密である。もし口外した場合は即座に軍法会議なしの銃殺刑に処される事になっている)

 

「大丈夫ですか?ソレイユ少将は水に浸かると力が抜けて・・・」

「大丈夫だ。それにシャワーでは疲れが取れないからな。今日はいろいろあったから俺は風呂に浸かりたいんだ」

「そうですか・・・でもやっぱり辞めといたほうが・・・」

「大丈夫ですよ。私もいますから」

「タンジェントさんも一緒ですか・・・解りました。でも一応はお気をつけて」

「おう、ありがとうな。行こうぜタンジェント」

「はい」

 

大浴場に着いた2人は体を流した後、湯船に浸かり、一日の疲れを癒していた。

 

「はぁー癒されるなータンジェント。体から力が抜けて来るみたいだ~」

「そうですね~ソレイユさん。私も力が抜けてくるみたいですよ~」

「ああ~そうだな~ブクブク・・・」

「そうですね~ブクブク・・・」

「ソレイユ君!タンジェントさん!本当に抜けてますよ!?しっかりしてください!!」

「タンジェントさん。貴方も能力者だったんですか!?」

 

湯船に浸かっていた二人は力が抜けすぎてしまい溺れかけ、一般海兵に叱責されるという失態を演じてしまったが、これもソレイユがたまにやってしまう事なので周囲の海兵はまたかと笑っていた。

 

海軍少将がこんなことで良いのかと思う人もいるかもしれないがソレイユ曰く

「プライベートのときぐらい目を瞑ってくれ。ずっと力を入れてると疲れてしまうんだ」

とのことである。

 

少しゴタゴタがあったが、体をサッパリさせて風呂から上がったソレイユとタンジェントは酒盛りをする為に、食堂で料理を作って貰い、ソレイユの部屋にいた。酒は今度は二人ともワインである。

 

二人がグラスに注がれたワインを飲もうとしたときであった、急にデンデンムシが鳴り始めた。それはサカズキ元帥との直通のデンデンムシであった。ソレイユは慌てて受話器を取った。

 

電話の内容は今回の件の賞賛。イギリスへの損害賠償及び要求内容の連絡。そしてソレイユへの特別ボーナスとして1000万ベリーが送られるという事だった。

 

「本当ですか!ありがとうございます。義父さん」

「ソレイユ!今は公務中じゃろうが!!元帥と呼べ、バカタレが!!」

「も、申し訳ありません!元帥」

「まあええわ。これからもしっかりな」

「はい!」

「じゃあ切るぞ。ソレイユ・・・元気でおれよ」

「!、ありがとうございます!元帥!!」

 

サカズキから自分を気遣う言葉を聞いたソレイユは嬉しかった。なんだかんだ言ってもサカズキはソレイユの事を気にかけているのである。

 

デンデンムシの受話器を切ったソレイユは酒盛りを始めるために上機嫌でタンジェントが待つテーブルに戻った。

 

「待たせたな、タンジェント。すまない」

「お気になさらず。元帥からの連絡は大事な事ですから」

「ありがとう。さあ、一杯やろう」

 

2人はワインを一気に呷った。風呂上がりだったことも有り、一際美味しく感じた。

 

次の一杯を注ぎながらタンジェントはソレイユに話しかけた。

 

「ふぅーそれにしてもやってしまいましたね~ソレイユさん」

「ああ・・・すまない」

「まあ、貴方がやらなければ私が切り殺していましたがね。相変わらず女尊男卑主義者には感情の制御が効きませんね」

「申し訳ない。どうしてもあのゴミ共に対しては憎しみが止まらなくなってしまうんだ」

「貴方の唯一の欠点がそれですね。それを直すことが出来ればすぐにでも中将に昇進出来るはずなんですが」

「ああ、その通りだな」

 

ソレイユは強さだけなら中将に匹敵するほどの実力を持っている。しかし精神の未熟さ(一度頭に血が昇ると周りを一切見る事が出来なくなり、怒りに任せて行動する)が仇になり、まだ少将のままなのだ。

 

「あの時の契約が役に立ちましたね。ソレイユさん」

「・・・そうだな」

 

契約・・・これはタンジェントが学園長夫妻と会談している時に海軍とIS学園との間に交わされた物である。その内容とは

 

・ 海軍少将ソレイユに対して女尊男卑主義者が危害を加えようとしたとき、もしくは暴言を吐いた場合には武力をもって制圧すること(出来る限り死なない範囲で)を許可する。

というものであった。

 

ハッキリ言って無茶苦茶な内容であろう。しかし政府は相手側に非がある事と自国の武力を誇示することによりこの契約を交わすことに成功したのである。

 

「ま、終わった事をクヨクヨ考えてもどうしようも無いですよ。気を取り直しましょう」

「・・・ああ、そうするよ」

 

ソレイユは気を取り直して頑張ろうと思い、いつの間にか空になっていたワインのお代わりを持ってこようとした時にタンジェントがしばらく教室に残った事を思い出した。

 

「そういえば、教室で俺を先に行かせてたが、何か用でもあったのか?」

「はい。あのような事をソレイユさんが起こしたので少々フォローをしておりました」

「グッ!・・・それは苦労をかけたな・・・」

「いえいえ、フォローと言ってもあの眼鏡の先生と、服がダボダボの生徒と話しただけですから」

「・・・あの2人とか。どんな話をしたんだ?」

「騒がしてしまったお詫びを兼ねて、お二人からの質問に1つずつお答えしただけですよ。ソレイユさんの過去については一切話していませんのでご安心を」

「・・・そうか。二人はどんな事を聞いたんだ?」

「お二人ともソレイユさんの事でしたよ。眼鏡の先生はなぜ貴方が女尊男卑主義者をあんなにも憎むのかを。服がダボダボの生徒はソレイユさんは女尊男卑主義者じゃない女性も憎んでいるのかを聞いてきました」

「成程・・・タンジェントはなんて答えたんだ?」

「差しさわりの無い答えを返しておきました。二人にはきちんと口止めをしておきましたのでご安心ください。ソレイユさんの居ない所で勝手な事をしたかもしれませんがご容赦を」

「構わない。タンジェントが必要だと思ったんだろ。お前ならいい」

「ありがとうございます。ソレイユさん」

「気にするな。俺とお前の仲だ」

 

ソレイユとタンジェントはしばらくの間、無言でワインを飲んだ。ボトルにして3本程空いた頃にソレイユは再びタンジェントに話しかけた。

 

「一つ聞くが、タンジェントはどうしてあの2人にだけフォローしたんだ?」

「ああ、それはあの二人はあの教室の中で特にマトモだと思ったからですよ」

「確かにな。布仏さんの友人もマトモなのが多いが、これは類は友を呼ぶというものなんだろうな」

「それと・・・あの二人はソレイユさんと比較的仲がよろしいみたいでしたので」

「ブッ!!?」

 

タンジェントの言葉にソレイユは飲んでいたワインを吹き出してしまった。

 

「ニャハニャハニャハ、冗談ですよ」

「タ、タンジェント、お前なあ・・・」

「ニャハニャハニャハ、ソレイユさんも感情豊かになりましたねえ。私は嬉しく思いますよ」

「まあな。これもお前らのおかげだよ(それとルフィさんも・・・な)」

「お礼なんて良いんですよ。私達は仲間なのですから。それに・・・」

 

タンジェント1つの間を置き、ハッキリと言った。

 

「私は貴方の泣き顔が見たいのですから」

「ハハハッ当分は無理だろうけどな」

「気長に待ちますよ」

 

タンジェントは新しいワインボトルをソレイユのグラスに傾けながら笑った。

 

「さあどんどん飲みましょう。どうせ明日と明後日は休みなんですから」

「そうだな。どんどん飲もうぜ。そして明日は競馬に行こう!!」

 

ソレイユとタンジェントの飲み会は夜遅くまで続き、途中で基地の海兵も何人か参加し、気付けば宴会になっていた。

 

 

IS学園に編入する為に来日する予定の中国の代表候補生・鳳鈴音は党の幹部から呼び出しを受けていた。

 

「鳳鈴音代表候補生!只今参りました」

「鳳鈴音代表候補生、君がIS学園に編入するにあたって一つ言っておかなければならない事がある。IS学園には今かの国の少将が在籍しているのを知っているな」

「はい。存じております」

「ならば話は早い。かの国の少将は名前をソレイユというらしいが、決して怒らせるな。これは命令だ。もし怒らせれば、最悪我が国は滅ぶことになる。我が国の属国である2つに分かれた国は、かの国を怒らせたことにより滅ぶことになった。まあ、あんな国が滅ぼうと我らは痛くも痒くもなかったがな」

「・・・はい」

 

国が滅ぶという事は多くの人が死ぬという事だ。幹部の言葉はあまりにも命を軽んじている。その事に鈴音は嫌悪感を抱いたがなんとか感情を表さずに返事をすることが出来た。

 

「そして、これは極秘情報なのだが、今かの国とイギリスは緊張状態にあるらしい。切っ掛けはイギリスの代表候補生が、かの国と少将に対して暴言を吐いたからだそうだ。かの国は激怒して、イギリスと戦争をすることも辞さないようだ」

「せ、戦争ですか!?」

「そうだ。そしてかの国はイギリスに対して戦争を防ぎたいなら、かの国の実質的な植民地となれと言ってきているそうだ。イギリスはその要求を呑む方向らしい。イギリスに潜ませているスパイからそのような報告を受けた」

 

党の幹部は座っていた椅子から立ち上がると、窓を眺めた。

 

「鳳鈴音代表候補生。君はかつて我が国が他国によって侵略されていた事は知っているな」

「は、はい。存じております」

「その口火を切ったのはイギリスだ。イギリスが持ち込んだアヘンを取り締まったのが原因でイギリスと戦争になり、我が国は敗北した。そこからだ、我が国が他国からの侵略を受けることになったのは」

 

鈴は高官の言葉を黙って聞いていた。言葉を入れる事が出来ない空気がそこにあった。

 

「私の父から聞いた話だが、その後は正に地獄だったそうだ。他国の人間による破壊行為に略奪。道では他国の人間が堂々と歩くのに対し、我ら中国人は道の端を歩かなければならない。自分たちの国であるのにだ。極めつけは他国からの一方的な領土の割譲に不平等条約の締結だ」

 

高官の手には力が込められていた。今にも血が出そうなほどである。

 

「我が国をそこまで落とした切っ掛けを作ったイギリスが今では我が国と似たような立場にある。皮肉なものだな。そう思わんかね、鳳鈴音代表候補生」

「は、はい。そう思います・・・」

 

彼女本人はイギリスに対して全く思う所は無いが、高官に逆らう訳にはいかないので、力なく同意した。

 

「我々はもうあのような屈辱を受けることがあってはならない。その為にはイギリスの二の舞になる事は絶対に避けなければならない。鳳鈴音代表候補生!君に改めて厳命する。かの国の少将とは絶対に敵対するな!もし君がこれを破った時には我々は君と君の一族全てを[国家反逆罪]とする」

「こ、国家反逆罪ですか!」

「そうだ!くれぐれも忘れるな!話は以上だ。下がっていいぞ」

「は、はい!」

 

鳳鈴音は慌てて部屋から出ていった。部屋からでた後、自分に科せられた命令の重さに心を重くしていた。

 

「(IS学園にはアイツがいるから行きたかっただけなんだけど・・・こうなるなんて思っても見なかったわ。ソレイユ少将ね。とりあえず態度には気を付けて、絶対に機嫌を損ねないようにした方がいいわね。後、何か手土産でも持っていったほうが良いかしら)」

 

鳳鈴音はそう考えながら、帰路に着き、IS学園に向かうための準備を始めた。

 

 




IS学園に付いた鳳鈴音
彼女はすぐにソレイユの元を訪れ挨拶をする。
ソレイユはそんな彼女の挨拶を快く受け取る。

次回、IS 復讐の海兵
「中国代表候補生 鳳鈴音登場」
あいつらは必ず地獄に落とす!!


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中国代表候補生 鳳鈴音登場

去年のうちには投稿できませんでしたが、なんとか3が日の間に投稿できました。(ギリギリですが)
今年もこんな感じになるかもしれませんがよろしくお願いします。


二日後の朝、ソレイユは基地の食堂でテレビでニュースを見ながら朝食をとっていた。テレビからはイギリスが例の要求を受け入れた事をアナウンサー達が語っていた。

 

「どこのテレビ局もこの話題で持ちきりだな。まあ、国連の常任理事国である国がこんなことになったんなら当然か。おい、御代わりをくれ」

「はい」

 

ソレイユは部下の海兵から丼を受け取ると再び米を掻きこんだ。これでもう10杯目であるがソレイユはまだまだ余裕な顔であった。相変わらずの食事量だったが、周囲の海兵にとってもこれもいつもの光景なので気にしていなかった。食堂で働くシェフ達もいつも多くの食事を食べてくれるソレイユには好意的なのである。

 

「ソレイユさん、そろそろお時間ですよ」

「ん、もうそんな時間か?まだ食い足りねえが、腹八分目ぐらいだからこれで我慢しとくか」

 

IS学園に向かう為にソレイユは食堂を出ていった。向かう先はソレイユの軍艦である。初めは公共の交通機関や車を使っていたのだが、安全上の問題などを考えて、今日からは軍艦で通学するようにしたのである。

 

「じゃ、行ってくるぜ」

「皆さん、私が考えた鍛錬メニューはきちんとやるように」

「ソレイユ少将にタンジェントさん、お気をつけて!」

 

ソレイユとタンジェントは数人の海兵と共にIS学園に向かった。事前に学園側には通達していたが、生徒達は初めて見るであろう軍艦に大騒ぎとなってしまった。降りてきたソレイユとタンジェントを見ると殆どの生徒は蜘蛛の子を散らすように去って行ったが。

 

「あーやれやれ朝から酷い目にあったよ」

 

ソレイユが教室に入ってきた瞬間、教室の中の殆どの人間が視線を逸らし口を閉ざした。先日の女性徒を落とした件で、怒らせると本当にヤバいという認識が出来てしまったのだろう。最もそんな事など全く気にしないソレイユは自分の席に着席した。

 

「おはよ~ソーソーとタンタン」

「うん?ああ、おはよう布仏さん」

「おはようございます。ところで布仏さん、タンタンというのは私の呼称ですか?」

「うん。タンジェントって名前だから~タンタン。嫌?」

「う~む。何かパンダか麺料理の名前のようでちょっと・・・」

「そう~じゃあ、何か別のを考えるね~」

「ニャハニャハニャハ、それでお願いします」

「(普通にタンジェントさんって呼ぶ、呼んでもらうという選択肢は双方に無いのかな)」

 

このようにソレイユに挨拶したり、話しかけてくる生徒は布仏本音と彼女と親しい一部の人間だけになってしまった。

 

「布仏さん、ひとつ聞きたいんだが俺が怖くねえのか?金曜日の件は布仏さんも見ただろう。自分もあんな目に合うとは思わねえのか?無理してねえか?」

「え~う~ん。ソーソーって女尊男卑主義者にはキツイ態度をとったりするけど~私や私の友達や山田先生みたいな普通の女の人には普通に話してくれるし~それなりに丁寧な態度だよね~」

「え・・ああ、まあ、そりゃ何もしてない人には当たり前だ。俺が憎んでいるのはあくまでも女尊男卑主義者と犯罪者だけで、全ての女を憎んでる訳じゃ無いんだからな」

 

ソレイユは本音から全く予期しない言葉を受けながらも、なんとか言葉を返すことが出来た。ソレイユとして純粋に本音を気遣って言った言葉だったのだがこのような返答が来るとは想像外だった。

 

「うん。だからね~私はソーソーが普通の人に危害を与えるような人間だとは思ってないし~私の友達にもそう言ってるんだ~。だからね~私はソーソーの事は怖くないし~こうやって話してるのも楽しいんだよ~無理なんか全然してないよ~」

「そうか・・・ありがとうな布仏さん」

「別にお礼なんて良いよ~私がそうしたいからそうしてるんだし~。あ、ソーソー今日のお昼こそ一緒に食べようね~この前紹介したいっていう子がいたでしょ~」

「ああ、いいよ。せっかくだ、今日の昼ごはんは俺が奢るよ。ちょっとした臨時収入があったんだ」

「本当~じゃあ、食堂のスーパーデラックスパフェでもいいの~」

「ああ、お安い御用だ」

 

本音はソレイユと約束を交わすと、別の友人達の元に戻って行った。タンジェントは二人の会話をニヤニヤしながら眺めていた。

 

「いやー良い子ですね~あの布仏本音という子は」

「ああ、良い子だよ。最近の屑みたいな女とは大違いだよ」

「しかし、お二人のやり取りは見ていて恥ずかしくなるぐらいに甘酸っぱかったですね~」

「タンジェント!!」

「ニャハニャハニャハ」

タンジェントのからかいの言葉にソレイユは顔を赤くしたが、タンジェントはどこ吹く風という様子で笑い飛ばした。

 

「まあ、布仏さんの事はひとまず置いておいて。ソレイユさん、先生が来るまで暇でしょう。花札でもしませんか、遊び方はこいこいで」

「・・・フゥーー、よし、やるか。レートはいつもの通りでいいな」

 

ソレイユとタンジェントが花札に興じている頃、馬夏は椅子に座ったまま突っ伏していた。あの騒動の日の放課後、山田先生に再度地図をもらい(その際に一言も暴行の謝罪をしなかったので、さすがの山田先生も顔をひきつらせていた)、織斑千冬が入院している病院に行ったのだが、そこで医師から絶望的な事を聞かされていた。

 

教室の別の場所では女生徒達が集まってお喋りをしていた。

 

「ねえねえ知ってる、今日2組に転校生が来たんだって」

「え、こんな時期に?」

「あ、私知ってる!しかも代表候補生なんだって」

「えーーーっ!という事は2組の代表も変わったりするのかな?」

「今度のクラス対抗戦はデザート半年間フリーパス券が商品だから織斑君には是非とも頑張って貰わないとね!」

「うんうん!でも、専用機持ちって1組と4組にしか居ないよね。だったら楽勝じゃ・・」

「その情報古いよ!」

 

突然響いた声に驚いた女生徒が声のした方に向くと、贈答用の箱を持った小柄な女生徒が立っていた。

 

「私は中国代表候補生の鳳鈴音!2組も専用機持ちである私がクラス代表になったからそう簡単には勝てないわよ!!」

「そ、その代表候補生が何か用?」

「別に、ただ宣戦布告をしに来ただけよ。それと・・・あ、あの人かしら?」

 

鈴音はソレイユを発見するとソレイユの元に行こうとしたが、周囲は慌てて止めようとした。

 

「ちょ、ちょっとストップ!何をするつもりなの!?」

「どうしたの?ただ挨拶をしておこうかと思っただけよ」

「悪い事は言わないから、あの人には係わらない方が良いわ。下手に刺激して怒らせでもすればとんでもない事が」

「大丈夫よ、ただ挨拶するだけなんだから」

 

鈴音は騒然とする周囲をよそにスタスタとソレイユの元に歩いて行ってしまった。周囲はどうなるか気が気で無かった。

 

「よし、四光成立。これで辞めるぜ」

「おや、こいこいしないんですか?上手く行けば五光も狙えるというのに」

「ああ。よくばって、おまえに上がられたら全部パアだからな。これで辞めとく」

「ということは・・・トータルで私の負けですね。悔しいですね~」

「これで1000ベリー儲けだな」

「あ、あの!?すいませんがソレイユ少将様でございますでしょうか?」

 

ソレイユが勝利の余韻に浸っている所に鈴音は意を決して話しかけた。突然の大声に二人は何事かと視線を向け、周囲の緊張は高まった。

 

「確かに俺はソレイユだが、俺に何か用か?」

「私、今日からこちらのIS学園に転校して参りました中国代表候補生の鳳鈴音と申します。本日はご挨拶に参りました」

 

一瞬の沈黙の後、ソレイユは顔をほころばせた。

 

「ご丁寧なあいさつ有難う。もうご存知の様だが俺は海軍本部少将のソレイユだ。宜しく」

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

 

ソレイユが差し出した手を鈴音は握り返した。その光景を見た周囲はホッとした。金曜の様な事が起きないかと危惧していたが、大丈夫そうである

 

「あ、あとこれ。よかったら受け取ってください」

 

鈴音は持っていた箱をソレイユに差し出した。

 

「何だこれは?」

「中国のお酒の紹興酒です。IS学園にいる中国出身の先輩に聞いて、お酒が好きとの事だったので持って参りました。私個人が自発的に持って来たもので、国の思惑などは一切ありませんので。どうか受け取ってくださいますようお願いします」

「そうか・・・改めて聞くが本当に国のお偉いさんから持って行けと言われて持って来たものではないんだな。もし、そうなら受け取る訳にはいかない。賄賂になってしまうからな」

「ち、違います。本当に私個人が持って来たものです。信じてください!」

 

鈴音の必死な顔を見たソレイユは嘘は言って無いなと確信した。タンジェントもコクリと頷いていた。

 

「どうやら、本当のようだな。失礼な事言って申し訳ない。ありがたくこれは受け取るよ。わざわざ持ってきてくれてありがとう」

「いえいえ、私が勝手にしたことなので」

「君は礼儀をきちんと知っているな。もう少し話をしたいが、そろそろホームルームの時間だぜ。一度クラスに戻りな」

「は、はい。失礼します」

 

鈴音はそう言うと自分のクラスに戻って行った。鈴音はソレイユへの挨拶をきちんと出来たことにホッとしたと同時に話に聞いていたよりも普通の人物だと思った。

 




イギリスに突き付けられた不平等条約

イギリスはそれを受け入れることにしたが、その時に流れた女王と官僚達の涙の訳とは

そして織斑一夏に突き付けられた残酷な事実とは

次回、IS 復讐の海兵
「幕間1」
あいつらは必ず地獄に落とす!!


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幕間1

王室の高貴さを表現するのにかなり苦労しました。

こういったのもう書かないかもです(書かないとはいいません)


イギリスが要求を受け入れる前日にイギリス王家では女王と政府の高官達が集まって会議を行っていた。

 

「陛下、この度のかの国からの要求、陛下はどうお考えでございますでしょうか?」

「・・・かの国の事ですから脅しなどでは決して無いでしょう。我が国が受け入れないと知った瞬間かの国は間違いなく我が国に宣戦布告した後に、あの恐ろしい兵器を我が国に落とすことでしょう。議会は何と言っていますか?」

「議会では意見が真っ二つに分かれております。女尊男卑主義者である女性議員やそのシンパ達は要求を突っぱねて開戦を主張し、それ以外の男性議員たちは要求を受け入れることを主張しております」

「馬鹿なことを・・・大方ISがあればかの国など恐れるに足らずなどと思っているのだろう。かってかの国と戦争をした南北に分かれた国とてISを所持していた。しかしかの国の兵器のまえでは一瞬にして滅んだのだ。そんな物の前にISなど何の意味があるものか・・・」

 

官僚の苦し気な声を聞いて、女王は言葉を続けた。

 

「・・・アメリカ等の同盟国は何と言っていますか?」

「今回は中立の立場を取るとどの国も言っております・・・」

「クソッ!!かの国の脅威に屈したか!?」

「・・・同盟国を責められません。かの国は敵対した国に対して一切の容赦をしないことは有名ですから」

「それでもっ!・・・何の為の同盟だ!」

 

高官は大きく机を叩き、そのまま突っ伏した。口惜しさと憤りから体は少し震えていた。

 

「この事態の原因となったセシリア・オルコット元代表候補生はどうしてるんだ?あの馬鹿のせいでこんなことになっているんだぞ!?」

「彼女なら現在自宅にいる。逃げ出したりすることがないように見張りを付けてな」

「自宅だと!何故牢獄に入れて置かない!?奴のせいでこのような事態になっているのだぞ!」

「それは私とて同意見だ。だが下手に牢になどぶち込めば人権主義の奴らが騒ぎ出す可能性がある。だからこその処置だ」

「こんな事態を引き起こした奴に人権だと!?あいつは売国奴といっても過言ではないのだぞ!!」

「・・・セシリア・オルコット元代表候補生の身柄をかの国に引き渡すことで条件を緩めてもらうのはどうだ」

「何を言ってるんだ!先ほどの話を聞いてなかったのか!?そんなことをすれば人権主義の奴らが」

「そいつらに気づかれる前に引き渡してしまえば良い。先程も奴は売国奴のようなものだという声も上がっただろう。そのような奴がイギリスから消えても何ということは無い。引き渡した後なら人権主義の奴らが騒ごうがどうすることも出来ん」

「・・・・・・残念ながらそれは無理だ」

「何故だ?人権主義の奴らの事を気にしているのか?それとも世論を・・・」

「違う・・・もう既にかの国に打診したのだ。セシリア・オルコット元代表候補生の身柄を引き渡すので要求を少し緩めてほしいと。だが、かの国は受け入れてはくれなかった。「そのような問題のある人間を引き渡されても困る。嫌がらせか」とも言われたよ・・・」

「そうか・・・どうすればいいんだ・・・」

 

再び会議に沈黙が訪れた。要求を受け入れても、開戦を決意してもイギリスには明るい未来は無い。そのことを全員理解していた。

 

「かの国の要求を受け入れましょう」

 

女王の突然の言葉に高官たちは一斉に女王に振り向いた。

 

「陛下、何を仰っているのです!?」

「責任は全て私が取ります。イギリスという国と国民の事を思えばこれが最上の選択です」

 

女王の気迫のこもった言葉はその場にいる全ての人間を黙らせるには十分なものであった。女王は言葉を続けた。

 

「この度の一件はそもそも私に責任があるのです」

「陛下!突然何を仰られるのです!?責任があるとすれば、それはセシリア・オルコットにあり、陛下に責任など」

「黙ってお聴きなさい!!」

 

自分を擁護する高官の言葉を遮り、女王陛下は怒鳴りつけた。女王陛下が普段見せることのない姿に高官達は、ただただ驚き、黙り込んだ。

 

「私は最近の風潮である女尊男卑というものに嫌悪感を持っていました」

「「「「!?」」」」

「驚きましたか?しかし事実です。私は女性だから偉い、優れている。という考えは間違っていると思っています。しかし、女尊男卑主義者からの反発を恐れて、私はそれを今まで隠してきてしまっていたのです。何を言っても言い訳にしかなりませんが、もし私が女尊男卑という考えに嫌悪感を持っていると公表すれば、当然女尊男卑主義者やそれに連なる女性権利団体は私に反逆心を持つことでしょう。逆に国内の男性達や反女尊男卑主義者は「女王陛下は我々と同じ考えをお持ちになっている!即ちこれは我々の考えが正しいのだ」と喜んで女尊男卑主義者達を排斥しようとするでしょう。そうなればイギリスという国自体が二つに分かれてしまう事態に陥ってしまいます。そして・・・」

 

女王陛下は顔を歪めて言葉を止めてしまった。周囲の高官達は心配そうに見守っていたが、陛下は異を決して話し始めた。

 

「私のみならず私の家族達にまで危害が及ぶ可能性がありました。私はそうなる事を恐れてしまいました・・・私の愛する大切な家族に危害が・・・と、そして私は女王としてでは無く、1人の人間としての意思を優先してしまったのです。だからこそ私は今までどっちつかずの態度を取り続けました。わが身可愛さに女尊男卑主義者の蛮行を見て見ぬふりをしてしまったのです。しかし、今となっては思うのです。私が毅然とした態度で自身が女尊男卑主義者に嫌悪感を持っていると公表していればと、国内の女尊男卑主義者にそのシンパ達を積極的に捕らえるようにしていればと。そうすればこのような事態になっていないのでは無いかと。今となってはもう遅い事ですが。・・・私は女王失格です。高貴なる者の務めを忘れた愚か者です。ウゥ・・・」

「陛下・・・・・・」

 

涙を流し始めた女王陛下に高官達は言葉をかけようとしたが、女王陛下の後悔と葛藤を考えると出来なかった。誰だって自分の事と自分の大切な存在を優先したいものだろう。それはたとえ階級の者であっても例外ではないはずだ。しかし女王陛下は自身の責任感の強さゆえにそう割り切ることができなかったのである。

 

涙を流していた女王陛下は涙を拭うと、高官達に再び命令した。

 

「取り乱した姿を見せました。私はまだやるべき事があります。イギリス女王としての最後の務めが。先程言った通り、かの国の要求を受け入れます。これは私の独断であり、全責任は私が背負います。貴方方はもう退出しなさい」

「陛下!?それは余りにも無謀すぎます。そんな事をすれば陛下の御身が!?」

「退出しなさいといったはずです!!これはイギリス女王としての命令です!そして・・・最後の命令になるでしょう」

 

女王陛下の目には再び涙が浮かんでいた。その涙の意味を感じ取った高官達は苦渋に満ちた顔をしながら彼らもまた涙を流した。そして、1人、また1人と部屋から退出していった。

 

「皆さん・・・ありがとうございます。そして・・・申し訳ありません」

 

女王は誰もいなくなった部屋で涙を流しながらそうポツリと呟いた。

 

 

しばらく後に女王陛下の親族が女王陛下の私室に集められた。国外に住んでいる者はテレビ電話での参加となった。

 

「・・・聞いての通りです。かの国の要求を我が国は受け入れます。これが最上の選択だと私は思っていますが反発は大きいでしょう。ですから責任は全て私一人で負います。私の身勝手に貴方たちまで巻き込むわけには行きません。貴方達は今から急いで必要な物を準備して王族専用のプライベートジェットを使いイギリスを離れなさい。幸いにも今回の1件には中立を決めた同盟国の国々も、王族達の亡命なら受け入れると仰ってくれました。外国に住んでいる者達もそのままその国に亡命しなさい。さあ、お行きなさい」

 

女王陛下は自分の家族に退出を促した。こうすることで女王陛下は自分の家族を守り、全責任を被ろうとしたのである。独り善がりだと思う人はいるかもしれないし、傲慢だと感じる人もいるかもしれない。しかし、女王陛下はこれが最善のの選択だとこの時思っていた。自分一人だけが犠牲になれば・・・という自己犠牲の精神である。

 

しかし、ここで女王陛下の予想だにしない事態が起きたのである。何と集められた親族全員がイギリスを出ていくことを拒否し、国外に居る者も亡命を拒否したのである。これには女王陛下も驚いたが、再び退出を命じた。ここで皇太子が声を上げた。

 

「陛下・・・いえ、母上様。我々もイギリス王室の人間です。責任を取るのなら我々もご一緒させてください」

「何を言うのですか!?なりま」

「母上様!!我々は母上一人に責任を負わせ、生きていきたいなどとは言いません!!母上が我々を大切に思っているのと同じように我々も母上の事は大切に思っているのです。どうか最後まで一緒に居させてください。王室の血を守ることが大事なのは分かっていますが、それ以上に我々は母上・・・母さんの事が大事なのです。幼少の頃から我々を愛情深く見守り、育ててくださった母さんのことが」

「「「母上」」」

「「母様」」

「「「叔母・伯母上様」」」

「「「「お婆様」」」」

「「「「「「「「「「「「どうか最後までご一緒に居させてください」」」」」」」」」」」」

「・・・・・・貴方達・・・・」

 

自分の親族の覚悟を感じとった女王陛下は涙を流した。この涙は先程2回流した涙とはまた違ったものであった。

 

その後、王室から要求を受け入れるとかの国に連絡が入り、その後イギリス国内にも公布されたが一部の女尊男卑主義者を除き、殆どの国民は戦争にならなかった事に安堵し王室の決断を支持した。

 

 

時は少し遡り、舞台も別の場所に移る。

「千冬姉・・・」

 

病院の集中治療室のベッドで眠り続ける千冬を一夏はガラス越しに心配そうに見つめていた。いくら馬鹿な男でも家族は心配なようである。

 

あの騒動の日の放課後、一夏は山田先生に再び病院の名前と住所が書かれている紙をもらい(その時一言も謝罪の言葉が無く、明らかに自分が何をしたのかも忘れているようだったので、流石の山田先生も少し顔が引きつっていた)病院を訪れていた。

 

「織斑千冬さんのご親族の方ですか?」

 

一夏の前に突然一人の女性が話しかけた。格好から察すると医者のようだ。

 

「は、はい。貴方は?」

「私は織斑千冬さんの主治医の小池と申します。貴方は織斑千冬さんの弟の織斑一夏君ですね。この度は御気の毒でした」

「せ、先生!?千冬姉は、千冬姉は大丈夫何ですか!?元気になるんですか!?」

「・・・すいませんが此方に来てください。大切な話になるので」

 

織斑一夏の問いには答えず、小池は自分の診察室に案内した。

 

「早く教えてくれよ!!千冬姉は元気になるんだろ!?なあ、そうなんだろ!!?」

「・・・元気にはなります」

「そ、そうか・・・良かった~~~」

 

主治医から元気になると聞いた一夏はとりあえずはホッとした。しかし、小池先生の顔は厳しいままだった。

 

「我々としても驚いています。普通あれだけの怪我をすれば全治1年、早くても半年は掛かりますが、君のお姉さんは1か月もすれば元気になるとの見込みです。今は一応集中治療室に居てもらっていますが、もう少しで普通の病室に移れます」

「そうなのか!?やっぱり千冬姉はすごいぜ!!」

「ですが・・・」

「ん、どうしたんだよ?なんか問題でもあんのか?」

 

一夏の質問に小池先生は言い淀んでいた。かなり言い難い事であるのは予想できた。

 

「落ち着いて聞いてください。ハッキリ言いますが、顔はもう元には戻りません」

「えっ・・・・・ど、どういうことだよ!?」

「織斑千冬さんは暴行を受けた際に、顔を鈍器のようなもので殴られたのは既にご存じでしょうか?」

「そ、それは知ってるけど、それが何の関係があるんだよ!?」

「・・・鈍器で殴られたことで、顔の骨格が曲がり筋肉も大きく破損していました。そのせいで回復したとしても顔は以前のようにはなりません。恐らくは・・・一生」

「そ、そんな・・・な、何とかならないのかよ!?手術するとか?!」

 

一夏の言葉に小池先生は顔を伏せて、首をゆっくりと横に振った。

 

「それも無理です。顔の骨格そのものが駄目になっており、筋肉も同様なのですから・・・手術したとしても変わりません・・・最悪、更に悪化する可能性があります」

「そ、そんな・・・・」

 

一夏は膝から崩れ落ち、手をついた。自慢の姉の顔が2度と元には戻らない。その事実は重すぎた。

 

「・・・・しろよ」

「えっ?」

「何とかしろよ!?お前ら医者なんだろ!!医者なら千冬姉の顔を治せよ!!」

「だから、それは無理だと・・・」

「うるせえ!治せ!治せよ!!」

 

馬夏はそう叫び小池先生に掴みかかった。いきなりの事に小池先生は悲鳴を上げ、それを聞きつけた他の男性医師数人によって馬夏は引き剥がされ、病院から摘まみ出された。病院側はこの件をIS学園に抗議しようとしたが、貴重な男性操縦者という事で政府から圧力がかかった事と小池先生が怪我も無く、気にしていないという事で馬夏の愚行は闇へと葬られた。




約束通り、本音と昼食を共にするソレイユ

そして、予てから言われていた本音の友人が紹介される

彼女はとある事情を抱えた少女だった。

次回、IS 復讐の海兵
「食堂での出会い 更識簪」
あいつらは必ず地獄に落とす!!


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食堂での出会い 更識簪

半年ぶりなのに短くて申し訳ないです

今年の最後にどうしても投稿したかったもので

休暇中に頑張って書きます。


鈴音が帰った後、山田先生が入ってきてホームルームが開始された。山田先生はソレイユをチラリと見たが、直ぐに視線を戻した。ホームルーム中に山田先生がセシリア・オルコットが諸事情によりしばらくの間休学してイギリスに戻る事になったと伝えた。

 

「皆さん、セシリアさんが戻ってきたら温かく迎えてあげてくださいね。それではこれでホームルームを終わります」

 

その後は特に何の問題も無く、ソレイユもストレスを感じる事無く午前中の授業を終えた。これは先日のソレイユの専用機強奪未遂事件により、千冬信者の教師と女尊男卑主義者の教師達が何人かを除いて駆除された為である。

 

午前中の休み時間になる度に鈴音が教室を訪ねてきたが、その時は馬夏に用があったようでソレイユも特に興味を持たず、本音やタンジェントと話したり、読書をして過ごしていた。

 

昼休みになったのでソレイユは昼食をとる為と約束を果たすために本音とタンジェントを伴って食堂に向かっていた。

 

「そういえば布仏さん。俺に紹介したい子がいると言っていたな。それは一体どんな子なんだ?言っておくが変な意味でではないからな」

「え~どんな子かって~う~ん・・・良い子だよ」

「おいおい、それじゃ分からないぞ。まあ、会えば分かるか」

 

雑談しながら歩いていると食堂に着いた。ソレイユは本音に席を取っておくように頼み、タンジェントと一緒に券売機に向かった。

 

「ん、鳳さんじゃないか。券売機の前で何してるんだ?」

「あ、ソレイユ少将。今日ここで久しぶりに会った幼馴染と食事の約束をしておりまして。今その幼馴染を待っている所なんです」

「そうか。久しぶりに会ったんだ。いろいろ話したい事があるだろう。あと、俺と話す時はそんなに畏まらなくていいぞ。何ならため口でもいいけどな」

「いえ、流石にそれは・・・」

「そうか、まあ無理に敬語は使わなくてもいいぞ。それともう一つあるんだが」

「なんでしょうか?」

「券売機利用しないのなら先に使っていいかな?頼む量が多いから早めに買っておきたいんだ」

「はい。どうぞ」

 

その後いつも通り大量の食事を注文したソレイユ(鈴音がソレイユの注文の量を見て驚いていたのは余談である)とそれなりの量を注文したタンジェントは本音の待つテーブルに向かった。見れば初めて見る女生徒も同じテーブルに座っていた。恐らくは彼女が本音の言っていた紹介したい子なのだろう。

 

「ソーソー紹介するね。彼女はかんちゃん。私の幼馴染なんだ~」

「初めまして、更識簪と申します」

 

簪は椅子から立ち上がり頭を下げた。それを見たソレイユも軽く会釈した。

 

「もうご存知だろうが俺は海軍本部少将のソレイユだ。よろしくな」

「私も自己紹介しておきましょう。ソレイユさんの護衛のタンジェントです。以後お見知りおきを」

「しかし学園の殆どの人間が敬遠する俺達を紹介されても更識さんも困るんじゃないか。自分で言うのも何だが、俺の学園での評判はあんまり良い物じゃないぞ」

 

ソレイユは苦笑しながら、簪に尋ねた。ソレイユも学園での自分の評判は理解しており、そんな自分と関係を持っても良い事などあまり無いと分かっている。

 

「ち、違うんです。私から本音に頼んだんです。ソ、ソレイユ少将にどうしても聞きたい事があったもので」

「俺に聞きたい事?一体何を聞きたいんだ。答えられる範囲の事なら答えるが」

 

簪は少し言い淀んでいたが、意を決して訪ねた。

 

「あ、あの・・・クラス代表決定戦でどうしてあんな事を言ってたのか気になりまして」

「あんな事・・・思い当たる節がありすぎるんだが。どの事を言ってるのか詳しく言ってくれないか?」

「は・・はい。ISをオモチャと言ってた事です・・・」

「ああ、あの事か。オモチャと吐き捨てた理由か・・・まあ俺達男にはガラクタ以下の物でしかないからな。くだらない差別の根本的原因の一つであるわけだしな」

「で、でも貴方はISに乗れるし専用機まで持っています。固有能力だって足からカマイタチを出せたり、強烈な突きを打てたり出来てます。一番凄いのはシールドバリアーを無視した攻撃が出来る事と炎を操れることです。そんな強力なISがあるのにどうして・・・」

「俺は海兵の仕事をする時にはラーを使ってないんだ。本国の女性海兵達も同じだ。皆自分の体や剣術、体術、能力を鍛えて海賊に立ち向かってるんだ。ISのような兵器に頼るような軟弱な奴らは海兵にはいないよ。それは敵である海賊達も例外じゃない。懸賞金で億を超えるような大物でISに乗っている奴らは見た事無い。一部の雑魚海賊達はISを欲しがる奴らもいるみたいだけどね」

「・・・そうなんですか」

「あと君はいくつか誤解している事があるから訂正しておくよ」

「誤解ですか・・・それは何でしょう?」

「それはだな・・・」

「ソレイユ君、料理が出来たから持ってきたよ」

 

ソレイユが説明しようとしたタイミングで、食堂のおばちゃんが達が料理を持って来てくれた。ソレイユは頼む食事の量が普通の生徒と桁違いな為、おばちゃんが料理が出来次第持ってきてくれているのである。

 

「おっ料理が来たか。更識さん、悪いが説明は食事をした後で良いか?料理は熱いうちに食べてしまいたいんだ」

「ど、どうぞ・・・」

「ありがとう、それじゃいただきます」

 

簪は本音から聞いていたとはいえソレイユの食事の量に圧倒されていた。ソレイユは来た料理を片っ端から食べていき、あっという間に平らげた。

 

「ああ、美味しかった。待たせてすまなかったね、更識さん」

「い、いえ・・・気にしないでください」

「本当にソーソーはよく食べるね~」

「海兵は体が資本だからな。たくさん食べるのも必要なことなんだよ。さて更識さん、さっき君に訂正したい事というのは、俺がこのラーのおかげで足からカマイタチを出せたり、強烈な突きを打てたり、シールドバリアーを無視した攻撃が出来るという事なんだ」

「えっ・・・だってそうでしょう」

「あれは俺が長年の修行の末に習得した戦闘技術だ。ラーのおかげといわれるのは少々心外だ」

「う・・嘘です!?あんな事を普通の人間が出来るわけがありません!!?」

 

ソレイユの言葉に簪は立ち上がって反論した。簪の常識からすればあのような凄い力はIS抜きでは出来るわけがないのである。

 

「まあ、いきなりこんな事を言われても信じられないのは当たり前だよな。論より証拠だ。ちょっと待っててくれ」

 

ソレイユはそう言うと、立ち上がって厨房の方に歩いて行った。

 

「すいません。ちょっとお願いがあるのですが」

「ソレイユくんどうしたの。追加注文かい?」

「いえ、廃棄する予定のフライパンか何かがあれば頂きたいのですが」

「えっ、何でそんな物を?」

「ちょっと事情がありまして。お願いします」

「急に言われても・・・あ、ちょっと待っててね」

 

おばちゃんは厨房の奥に引っ込んだ。しばらくすると手にボロボロのフライパンを持って戻ってきてくれた。

 

「これ、最近焦げ付きが酷くなって捨てようと思ってたの。これでいい?」

「はい。ありがとうございます」

 

ソレイユはおばちゃんに一礼して本音達がいるテーブルに戻った。

 

「待たせたな。これでさっきの言葉が嘘じゃないことを証明するぜ」

「そんな物で、どうやってですか」

「先ずは更識さん、これに何もタネも仕掛けもない事をチェックして欲しい」

 

ソレイユはフライパンを簪に手渡した。簪はフライパンを注意深くチェックし、その後で本音もフライパンをチェックした。

 

「どうだ、異常は無いだろ」

「無いです」

「無いよ~」

「よし、タンジェントこれを持ってくれ」

「はいはい、ソレイユさん」

 

タンジェントにフライパンを持ってもらうとソレイユはフライパンの正面に立った。この光景に簪と本音だけではなく周囲の生徒達も何が始まるのかとザワザワし始めた。

 

「更識さん。よく見てな・・・指銃!!」   ガンッ!!

「「「「!!?」」」」

 

ソレイユの放った指銃はフライパンをいとも簡単に突き破った。周囲は常識的にあり得ない光景に何も言うことが出来なかった。

 

「どうだ、これで分かっただろう。さっきの言葉が嘘じゃないことを」

「は、はい」

「ソーソーって本当に凄いんだね~」

「ハハハッありがとう布仏さん。ここは実内だから見せられないけど、いつか足からカマイタチも出すのも見せるよ」

「で、でもシールドバリアーを無視した攻撃は・・・」

 

簪は絞るような声で反論した。先程の光景を見て突きとカマイタチに関してはある程度納得したがシールドバリアーを無視する攻撃はIS無しでは出来ないとまだ思っているのである。

 

「んー中々疑り深いな君は。ではこれでどうかな」

 

ソレイユは意識を集中させて右腕に武装色の覇気を纏わせた。代表決定戦の時と同じ光景に簪は眼を大きく開き、息を呑んだ。

 

「どうだ、今度こそ納得してくれたか」

「は、はい・・・」

「なら良かった。流石に自分の努力をラーのおかげと思われているのは武人としては面白くないからな」

 

そう言うとソレイユは食後のお茶をすすった。その後しばらくは誰も話すことは無く、無言の時間が続いたが、ソレイユが簪に話しかけた。

 

「更識さん。俺からも一つ質問があるんだが良いか?」

「は、はい。何でしょうか?」

「君は何故ISにそこまで拘りを持っているんだ?」

「えっ・・・」

「先程から君は俺の持つラーの性能にかなり興味を持っているようなので少し気になってな。何か事情があるのなら教えてくれないか」

「・・・・・いえ、何もありません!!」

「そうか・・・ならいいが」

 

その後は何も話さないまま昼休みは終了した。別れ際にソレイユは簪に「なにか悩みがあるのなら話してほしい。海兵として助けられる事があるかもしれないぞ」と声をかけた。簪は小さく頷いて別れた。

 




一日の授業を終えて基地に帰ろうとするソレイユ

帰る途中ソレイユは泣いている少女を見つける

泣いている人間を見捨てておけないソレイユは少女に声をかけるのだった

次回、IS 復讐の海兵
「悲しみの代表候補生 鳳鈴音」
あいつらは必ず地獄に落とす!!


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悲しみの代表候補生 鳳鈴音

久しぶりに書くと書けなくなってました。

書き続けないとダメなんですね。

続きは今月中にはあげたいです。

注:5月6日に最後を少し修正しました。


「ねえ、ソーソーどうして簪ちゃんにあんな事聞いたの?」

 

その日の授業が終わり、ソレイユが帰ろうと昇降口で靴に履き替えようとしていた時、追いかけてきた本音がそう尋ねてきた。基本的に自分から進んで女生徒に話しかける事が無いソレイユがわざわざ簪に質問したうえに「何か悩みがあるなら話して欲しい」とまで言った事を不思議に思ったのだ。

 

「・・・彼女は何か思い詰めているようだったからな。まるで昔の俺を見てるみたいで放っておけなかったんだ」

 

ソレイユは少し言い難そうにしながらも答えを返した。その返答を聞くと本音の顔は少し面白くなさそうな物になった。

 

「ふ~ん・・・ねぇソーソー。前に約束を破った時に~埋め合わせは必ずするって言ってくれたよね~」

 

「ん、ああ。言ったぞ。それがどうかしたのか?」

 

いきなりあの時の事を言われてソレイユは少し驚いたが、何か欲しい物でもあるのかと思い、普通に返したが、次の本音からの言葉にソレイユはかなり驚かされた。

 

「じゃあ~これからは私の事は~苗字じゃなくて本音って呼んでほしいの~」

 

「は、ハアッ!??」

 

動揺するソレイユをよそに、畳みかけるように本音はソレイユに詰め寄った。

 

「いいよね~ソーソー。約束してたもんね~」

 

「ソレイユさん。埋め合わせはすると約束してたのでしょう。ならば守らなければなりませんよ」

 

「タンジェント!・・・わ、わかった。ほ・・ほ・・・本音・・・さん」

 

本音はソレイユの言葉に少し顔を膨らませたが、顔を赤くして名前を呼ぶソレイユを見て直ぐに笑顔になった

 

「さんは別につけなくて良いんだけどな~まあいいか~。じゃあまた明日ねソーソー、今日はご馳走様~」

 

本音は走り去っていき、後には顔をニヤニヤさせたタンジェントと未だに顔を赤くしたソレイユが残された。ソレイユはいきなり名前呼びするように頼んだ本音の真意が全く分からなかった。正しこれはソレイユが殊更に鈍感だからというわけではない。顔を赤くしていたのも年が近い女を今まで名前呼びしたことが無かった為恥ずかしかったからである。

 

「な、何だった・・・布仏、いや本音さんはどうしてあんな事を頼んできたんだ?」

 

「ニャハニャハニャハ、彼女は貴方があの更識さんに気にかけているのが面白くないんですよ。いうなれば嫉妬というものです」

 

「し、嫉妬!?という事は本音さんは俺に好意があるってことか!?」

 

「少なくともそうでしょう。でなければ名前をよんで欲しいなんて言いませんよ」

 

ソレイユは頭を抱えた。今までの人生でこのような事は全く無かった為、どうすればいいのか分からないのである。サカズキに拾われるまで生きるのに精一杯であったし、拾われた後も強くなるので頭が一杯で、おまけに周囲には同世代の女性など居なかった。これで、どのようにすればいいか理解しろというのが無理であろう。

 

「タンジェント、どうしよう?明日からどんな顔して本音さんに合えば良いんだろう」

 

「普通に今までと変わらない接し方で良いでしょう。折角仲良くなったんですから。変に意識したり、避けたりすると彼女も傷つきますよ」

 

「そ、そうか。分かった」

 

「ソレイユさんもこういう所は年相応ですね。ニャハニャハニャハ!」

 

「しょうがないだろ!!経験ないんだから」

 

「ニャハニャハニャハ!」

 

笑うタンジェントに怒りながら、ソレイユは靴を履き替えて昇降口を出て行った。本音の事はとりあえずは置いておこうと心に決めて。

 

「シク、シク、シク・・・」

 

基地に戻ろうと軍艦を泊めてある場所に向かってソレイユとタンジェントが歩いていると、何処からか泣き声が聞こえてきた。ソレイユにとって一部を除いたこの学園の生徒達などどうでもいいのだが、泣き声を聞いて何もせずに立ち去るのは海兵として、人として、そしてソレイユの人間性から許せることでは無いので、声のする方に向かった。もし虐めなどが行われていたのなら加害者を半殺しにしてやろうと心に決めて。

 

「あれは・・・鳳さんじゃないか?こんな所で何で泣いてるんだ」

「さあ、とりあえず事情を聞いてみましょう」

 

女尊男卑主義者でも無く、礼儀などもしっかりしている彼女の事を人間として好意的に見ているソレイユは何があったのか聞くために彼女の元に向かった。

 

「鳳さん、どうしたんだ?何を泣いているんだ」

「そ、ソレイユ少将・・・・い・一夏が・・シクッ・・シクッ」

「織斑!?あいつに何かされたのか!?」

「そ・・それは・・・それは・・・」

 

鈴音は事情を話そうとするのだが、泣きながら事情を話すというのは中々に難しく、ソレイユもこんな場所で泣き続けているのは良くないと思い、とりあえず彼女を落ち着いて話せるように、休憩所まで連れていく事にした。

 

「タンジェント、悪いがこれであそこの自動販売機で何か買ってきてくれ。」

「はいはい。私の分もよろしいですよね?」

「あたりまえだろ」

 

それからしばらくは鈴音が落ち着くまでソレイユは待つことにした。タンジェントも気を利かせたのか、飲み物を買って戻ってきた後もしばらくは渡さなかった。

数分後、少しずつだが鈴音は泣き止み始めた。

 

「どうぞ鈴音さん、ミルクティーです」

「あ・・ありがとうございます」

 

やや遠慮がちながらも、タンジェントに手渡されたミルクティーを鈴音は受け取った。

 

「ソレイユさんもどうぞ。青汁です」

「すまんなって・・・何でだよ!?何で青汁!?」

「青汁は健康に良いんですよ、ソレイユさん」

「そんなことは知ってるよ!なんで今のこの空気で青汁を買ってくるんだよ。普通にコーヒーとかでいいだろ!!てかよく売ってたな!」

「安物のコーヒーはあんまり好きじゃないもので」

「そりゃ、おまえの好みだろうが!」

「フッ・・・フフフッ」

 

二人のやり取りを見ていた鈴音は可笑しくなり、ほんの少しだが笑みを見せた。鈴音は自分を慰めようとこのようなやり取りをしてくれているのだろうと思った。実際はタンジェントがソレイユをこのようにからかうのは日常茶飯事なのだが。

 

「何があったかお話しします。私は今日一夏と昼食を一緒に取る約束をしてました。あいつ元気が全然なかったから少しでも元気出してもらおうと思ったんです。(余計なのも一人付いてきましたけど・・・)」

「なかなか友達思いじゃないか。やっぱり君は今の時代には珍しいまともな女性だな」

「そ、そう言われると少し恥ずかしいです。は、話を戻しますが、昼食を取ってるときにあいつに何があったか聞いてみたんです。そしたらあいつの姉の千冬さんがテロリストに襲われて顔に跡が残るような大怪我を負わされたと聞きました。そんなことがあったんじゃ落ち込むのも無理はないと思いました」

 

「(成程な。いつも何かと突っかかって来る愚夏が大人しかったのはそういう事か。それにしてもあのテロリスト、顔に障害が残ったか。まあ重点的にボコボコにしたからな)」

 

「あいつの為にいろいろと元気になるように言葉をかけたり、励ましたりしたのもあって少しは元気になったみたいで、昼休みが終わる頃には何とか普段の調子を取り戻してました。私もそこまではアイツが元気になったので嬉しかったし、喜んでました。でも、でもアイツ・・・」

 

 

鈴音が再び話しにくそうになったので、ソレイユは止めようとしたが、鈴音はそれを制した。ここまで話したのだから、最後まで話したいのである。

 

 

「今日の授業が終わったから、アイツと一緒に帰ろうと思って、教室に行って一緒に帰る事になりました。その時アイツに小さい頃にしてた約束を聞いてみたんです」

 

「約束?」

 

「は、はい。私、中国からこっちに来た時に中々馴染めなくて、苛めにもあっていたんです。その時にあいつが助けてくれて、その事がキッカケで私アイツの事がす、好きになったんです・・・で、でも事情で中国に帰らなきゃならなくなって、その時にあいつと約束したんです。「将来、もっと料理が上手になったら毎日酢豚を食べてくれる」って」

 

ソレイユは鈴音の言葉がイマイチ理解できなかったが、タンジェントが耳打ちで「あれは将来結婚して欲しい。という事ですよ。恐らくは日本の味噌汁を毎日飲んで欲しいというのを彼女なりにアレンジしたのでしょう」と教えてもらい何とか理解できた。

 

「それなのにアイツ・・・約束の事を聞いたら・・・「約束、ああ覚えてるよ。酢豚を奢ってくれるってやつだろって・・・」

 

それを聞いたソレイユとタンジェントは心底あきれ返った。男女の関係に疎いソレイユですらだ。二人はどうすればそのような解釈になるだろうと思った。

 

「それを聞いて私心底悲しくなって・・・それと同時に怒りが沸いて・・・あいつの事を思いっきり怒鳴りつけて・・・殴った後に駆け出して・・気づいたらあそこで泣いてて・・ヒック、ヒック・・・」

 

思い出すうちに再び悲しさが蘇ったのだろう。再び鈴音は泣き出してしまった。ソレイユは口を挟む事もせずに静かに鈴音を見守り続けた。長年抱いていた思いがこのような形になってしまった今の鈴音には何も言えなかったのである。

対照的にタンジェントは手を組んで何かを考えているようだった。




鈴音の悲しみを聞いたソレイユとタンジェント

これからどうすべきなのか悩む鈴音

そんな鈴音にタンジェントはある提案をした。

次回、IS 復讐の海兵
「タンジェントの提案。打倒織斑一夏」
あいつらは必ず地獄に落とす!!


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タンジェントの提案。打倒織斑一夏

あるソシャゲにはまってずっとそれをしてしまってました

完全にトレーナーになってました。

今年はもう残り少ないですが頑張って書きます。


ひとしきり泣いた後、鈴音はミルクティーを一口飲んだ後に力なく笑った。

 

「ハハッ・・・私この学園に編入した理由に、あいつがいるからっていうのがあったんです。でも、こんな事になっちゃって・・・これからどうしようかな・・・」

「鳳さ「貴方はこのままで良いんですか?」タンジェント!?」

 

顔を俯かせてしまった鈴になんとか慰めの言葉をかけようとしたソレイユを遮ってタンジェントは鈴音に問いかけた。普段お道化ている時と違い、その表情は真剣そのものであった。

 

「長年の思いがこのような形で終わって良いんですか?」

「そ、それは・・・」

「もしこのまま何もせずにいたならば、貴方はきっと後悔し続けますよ。やらなかった後悔は一生ついて回りますが、やった後悔ならば結果はどうであれ貴方も吹っ切れることでしょう」

「・・・・・・・・」

 

タンジェントの言葉を鈴は何も言うことなく黙って聴いていた。

 

「部外者である私が差し出がましい事を言ってしまい申し訳ありません。ですが悩んでいる貴方を見て言わずにはいられませんでした」

「いえ、ありがとうございます・・・おかげでどうするか決まりました」

 

顔を上げた鈴の顔は先程の弱弱しい笑顔ではなく、決意を込めた力ある顔になっていた。

 

「私は・・・もう一度あいつにハッキリと自分の思いを告げます。どんな結果になろうともかまいません。後悔し続けるよりずっとマシです」

 

鈴の決意を聞いたソレイユは微笑を浮かべ、タンジェントも満足そうに頷いた。そこでタンジェントは更に鈴に問いかけた。

 

「鳳さん。貴方のその決意立派だと思います。ところで先程、織斑を殴ったと言っていましたが、それで貴方の気は晴れましたか?」

「え?それは・・・実を言うとあんまり・・・」

 

鈴は少し言いづらそうに答えた。さっきは悲しさと悔しさで忘れていたが、長年の思いに対して酷い解釈していた織斑に対して怒りも持っていたのである。それを一発殴っただけで無かった事には流石に出来なかった。

 

「それはそうでしょうね。ですがもう一度殴りに行ったりするのはいけませんよ。それは立派な暴行罪です」

「そ、そうですよね。でも・・・」

「そこで私から2つ提案があります。今朝、クラスの女どもが話していたのが聞こえたのですが、近日中にクラス対抗戦というものがあるそうです。そこで織斑一夏を徹底的に叩きのめしましょう。試合中ならどんなに殴ろうが、蹴ろうが遣り過ぎなければ合法です。目指せ、打倒織斑一夏」

「タンジェント・・・俺達海兵が言っていい事じゃないぞ、それは」

「おっと。失礼しました」

 

タンジェントの言葉に内心少し引きながらも、鈴はその提案は悪くないと考えていた。試合で正々堂々一夏を倒す。確かにそうすれば鬱憤も晴れるし、自分の強さを学校中にアピールすることも出来る。正に一石二鳥の提案である。

 

「タンジェントさん、ご提案ありがとうございます。その提案採用させてください」

「ニャハニャハニャハ、お礼を言うのはまだ早いですよ。まだもう一つの提案があります。クラス対抗戦までまだ何日かありますよね。その間に私とソレイユさんが貴方のコーチを務めさせていただけませんか。一緒に打倒、織斑一夏を目指しましょう。良いですよねソレイユさん?」

「ああ、別にいいぞ」

「え・・・えええええええーーーーーーー!!!!?」

 

タンジェントの突然の爆弾発言に鈴音は思わず大声を出して驚いてしまった。まさかクラスが違う人間とそのボディガードが本来なら敵対関係にある自分のコーチをしようというのだ。普通ならどう考えてもあり得ないだろう。

 

「おやおや、どうしました。いきなり大声をだして」

「だ、だって、私は2組の生徒なんですよ!?本来なら敵同士なんです、なのにそんな私のコーチをするだなんて、どう考えてもおかしいでしょう!?」

「ニャハニャハニャハ、そんな事ですか?別に、ソレイユさんと私はあのクラスでは浮いた存在ですし、極一部の生徒達を除いて親しい訳でもありません。そんな私達が今更何をしようと評価は変わりません」

「その通り、そもそもあんな奴らに俺達が何をしようが文句を言われる筋合いは無いしな。俺達より強い奴のいう事なら聞くがな」

「そ、そうですか」

 

二人の余りの自由さに鈴音肩透かしを食らっていた。海兵と聞いていたので、厳格で規則に厳しいのだろうと想像していたのだが、今日の会話からそんなものは殆ど感じられず、むしろある種の自由人とすら思ってしまった。最もその考えは後日吹っ飛んでしまうのだが。

 

「それでは鳳さん。私たちはもう行きますので一晩ゆっくり考えてください。もしコーチを受けるのならば、貴女の上司に許可を得ることも忘れずに。許可を受けておくというのは大事な事ですからね」

「は、はい。分かりました・・・」

「じゃあな、鳳さん」

 

ソレイユとタンジェントは去っていき、後には鈴音一人残された。鈴音はいきなりの展開に頭と気持ちが付いていかず、しばらくの間そこで立ちっぱなしだったが、気を取り直すと、直ぐに自分の部屋に戻った。勿論上司に許可を貰う為に。

 

 

帰りの軍艦の中でソレイユとタンジェントは先程の事について話していた。

 

「しかし、凄い事を言ったもんだな。別のクラスの代表のコーチを打診するだなんて」

「ニャハニャハニャハ、流石に可哀そうに思いましてね。どうせなら完膚無きまでに叩きのめさせて上げたいと思いまして。それにソレイユさんも私だけが相手するより、別の相手がいた方が良いと思いまして」

「成程な。俺の為でもあるって事か。しかし、鳳さんコーチを受けるかな?」

「ニャハニャハニャハ、彼女は受けますよ、必ず」

 

ソレイユの疑問にタンジェントは間髪入れずに断言した。タンジェントは分かっていた。間違いなく彼女・・・鳳鈴音はコーチを受けるだろうという事を。

 

「ずいぶん自信あるな、何か確信でもあるのか?」

「ええ、ありますとも。私がコーチの打診をしたとき、彼女の声には驚きと喜びを感じられました。恐らくですが、我々海兵の強さを彼女は知っています。そんな私達のコーチを受ければ間違いなく強くなれると彼女は思ったのでしょう。なかなか見所がある娘ですね。向上心があることは良い事です。ニャハニャハニャハ」

「流石の鋭さだな。それにしても今まで馬鹿だ馬鹿だとは思ってたがここまで馬鹿だとは思わなかったぜ、あの愚夏者は」

「その事に関しては激しく同意します。どうやったらあんな勘違いが出来るんでしょうね」

 

織斑一夏の馬鹿さ加減をあきれながら、ソレイユ達は帰りの岐路についたのだった・

 

 

ところ変わって、夜の11時頃更識家で一人の少女がパソコンで何かを調べていた

「うーん、何も出てこないわね。ネットでは無理か」

 

更識楯無はソレイユの事について調べていた。以前のクラス代表決定戦で見せた圧倒的な力を疑問視して、それからいろいろ調べていたのである。しかし成果は全く上がらなかった。

 

「どこを探しても全く情報が無いなんて・・・どこまで秘密主義なんだかあの国は。やっぱり本人に直接接触、若しくは基地に間者を」

 

楯無がそのような事を考えていると、部屋の外からノックの音が鳴り響いた。

 

「楯無、こんな時間まで何をしているんだ?」

「あ、お父様。いえ、今度学園に来たソレイユって海軍少将の事を調べていまして」

 

楯無のその言葉を聞いた父親は顔を一気に蒼褪めさせた。

 

「ソレイユ少将の事をだと・・・すぐに辞めろ!!」

「お、お父様!?」

 

父親はいきなり部屋に入ってきて、楯無の肩をつかんで怒鳴りつけた。

「お、お父様、どうしたのですか?」

「いいか、あの国、特にソレイユ少将の事は詮索するな。分かったな!これは更識の前トップとしてでは無く父親としての命令だ、いいな」

 

父親はそれだけ言うと部屋から出て行った。父親のいきなりの豹変に更識は茫然としていた。

 

「何なの・・・ソレイユ少将に、いったいどんな秘密があるっていうの」

 

父親のいきなりの豹変、この事は楯無の興味を益々引かせるものとなってしまった。その事が自分の首を絞める結果になる事とは思わず。

 

 

翌日、IS学園にソレイユとタンジェントが登校してくると、すぐに鈴音が近づいてきて、頭を下げた。

 

「ソレイユ少将、タンジェントさん。昨日の話是非お願いします。上司の許可ももらってまいりました」

「その言葉待っていましたよ、ともに打倒織斑一夏を目指しましょう」

 

タンジェントは鈴音に握手を求め、鈴音もそれに応じた。その後、ソレイユとも鈴音は握手をした。

ここに打倒織斑一夏を目指す師弟関係が誕生したのだった。




打倒織斑一夏を目指しての特訓を開始する鈴音とソレイユ達

ソレイユと鈴音はタンジェントの提案で模擬戦を行う

その模擬戦でソレイユとの格の差を鈴音を痛感する

次回、IS 復讐の海兵
「模擬戦開始、ソレイユVS鳳鈴音」
アイツらは必ず地獄に落とす!!


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模擬戦開始、ソレイユVS鳳鈴音

宣言を結局守れずにこの文章量

何を言われても仕方ないです。

活動報告でも書きましたが、もう「必ず」や「絶対」といった類の言葉は使いません


「ねえソーソー、さっき2組の鳳さんが言ってた~昨日の件ってな~に~?何か~打倒オリム~っていうのも聞こえたんだけど~」

 

先程の鈴音との件を本音が友人の相川とソレイユ達に尋ねた。それをクラスの他の生徒達も興味深々な様子で聞き耳を立てていた。ソレイユの事は怖いが気になる物は気になるのであろう。因みに織斑はまだ来ていなかった。

 

「ああ、今度のクラス対抗戦まで俺とタンジェントが鳳さんのコーチをするって話なんだ。打倒織斑一夏を目指してな」

「え~~~~~~~っ!??」

「「「「「「「えええーーーーーっ!!!!???」」」」」」」

 

ソレイユの爆弾発言に本音だけではなく聞き耳を立てていた周囲の生徒たちまで驚いた。何処の世界に自分のクラスの代表を倒す為に、他のクラスの代表をコーチする人間がいるというのか。

 

「ソーソーどうし「ちょっとそれどういう事よ!!?」て・・え?」

 

本音がソレイユにどういう理由でそうなったのか聞こうとした時、周囲にいた生徒の内の3人がソレイユに詰め寄った。いくらソレイユの事が怖いといってもあんな事を言われては黙っていられなかったようだ。

 

「何で2組の代表のコーチ何かすんのよ!?」

「アンタ、このクラスを裏切る気!??」

「普通なら織斑君をコーチするべきでしょう!!」

 

ソレイユに口々に詰問する女生徒達。ソレイユは鬱陶しそうな顔をするのみで何も答えようとはしなかった。それを見た女生徒達は益々頭に血が上り、ソレイユに罵詈雑言を浴びせようとした。その時、生徒達の前にタンジェントが出てきて笑顔で尋ねた。

 

「ソレイユさんに何か御用ですか?御用があるのでしたら私が承りますが」

 

ソレイユの裏切りとも言える行為に頭に血が上っていた生徒達だったが、タンジェントを前にして先日の、片手で織斑を締め上げた事、篠ノ之を蹴り一発で気絶させた件を思い出し、生徒達は蛇に睨まれた蛙状態になってしまった。

 

「い、いえ・・・」

「な・・・何でも無いです・・・」

「そうですか、ならばお引き取りを。今ソレイユさんは布仏さんと話をしていますので。ニャハニャハニャハ」

 

生徒たちはスゴスゴと遠巻きに見ていた場所まで戻っていった。タンジェントは手を振って笑いながら見送った。

 

「ふぅ、邪魔な奴らは消えたな。さて、本音さん達はどうして俺とタンジェントが2組の代表のコーチをするのか聞きたいんだったな」

「う、うん。どうしてソーソーとニャハさんが2組の代表さんのコーチをする事になったの~鳳さんと何かあったの~」

「うーん・・・そうだな~キッカケは鳳さんの事情もあるから詳しくは話せないんだ。申し訳ない。しいて言うなら・・・まあ成り行きってところだな」

「え~それじゃ~全然分かんないよ~」

 

ソレイユのはぐらかした答えに本音はほっぺを膨らました。ソレイユはそれを見て内心可愛いと思ってしまった。

 

「ぶ~~、ソーソー酷い~これじゃあオリムーの優勝ほぼ無理になっちゃった~」

 

本音はほっぺを膨らしたまま相川と共に肩を落とした。これだけガックリしている本音を見るのはソレイユは初めてだった。付き合いはまだ短かったが、本音はこんなに勝負事に拘るような性格ではなかったはずである。ソレイユはどうしてこんなにも二人がガックリしているのか疑問に思った。

 

「どうして本音さんはそんなにクラス対抗戦の優勝に固執してるんだ?何か優勝したらいい事でもあるのかい?」

 

本音に代わって相川が答えた。曰く、今度のクラス対抗戦に優勝したクラスには半年間のデザートフリーパス券が贈られる事になっており、本音はそれをとても楽しみにしていたらしい。

基本女性の趣味に疎いソレイユも、女性が基本スイーツ好きだというのは、海軍の女性士官がケーキ類で喜んでいたり、以前本音が食堂でスーパーデラックスパフェを注文した事から理解していた。

 

「そうだったのか。それは悪いことをしちまったな」

「ム~~~~」

 

その後、ソレイユはふくれっ面になってしまった本音の機嫌を直すため、この埋め合わせはする事を約束させられる事になった。

ソレイユが四苦八苦している間に織斑もクラスに入ってきたがその顔は何か悩んでいるかのようであった。その後、山田先生が教室に入って来てホームルームが始まった。ホームルーム中に織斑千冬がクラス対抗戦の当日に復帰することが知らされた。ファンの生徒達が歓喜の声を上げる中でソレイユは不快そうにしていた。そして弟である織斑は不安そうな顔をしていた。

 

(・・・大丈夫だよな・・・あんな状態でも千冬姉は千冬姉なんだし・・・)

 

 

そしてその日の授業が終わり、鈴音との訓練の為にソレイユが準備をしていると本音が話しかけてきた。

 

「ソーソー今から鳳さんと訓練なの~」

「ん?ああ、そうだ。また明日な本音さん」

「私と簪ちゃんも一緒に行っちゃ駄目~?」

「え!?んーーーそれはちょっと・・・」

「お願い~簪ちゃんが見学したいってお昼に言ってたの~前に海兵として助けられる事があるかもって言ってたでしょ~」

 

痛い所を突かれたソレイユは額に手を置いて、少し悩んでからため息をついた。

 

「ふぅ、わかった。鳳さんにお願いしてみる。でももし駄目だって言ったときはあきらめてくれよ」

「うん、わかった~ありがとうソーソー」

 

こうして本音も一緒に訓練場に行く事になった。高圧的に要求してくる女に対しては半殺し、もしくは10分の9殺しにして黙らせるソレイユだが、このようにきちんと頼んでくる女性に対してはそれなりに便宜を図る事もあるのである。

 

「ところで本音さん、今朝私の事をニャハさんと呼んでいましたが、それは私の呼称ですか?」

「うん、ニャハニャハって笑うからニャハさん~どうかな~?」

「なかなか良いネーミングだと思いますよ。ニャハニャハニャハ」

「じゃあ、これからはニャハさんって呼ぶよ~」

「ええ、それでお願いします」

 

 

雑談を交わしながら、訓練場に向かって行く途中で簪も合流した。急に頼んだ事を簪は詫びたが、ソレイユはまだ見学できるか決まった訳じゃないから謝らなくてもいいと宥めた。訓練場に着くと鈴は既に来ていたらしく準備運動を始めていた。

 

「おっ、鳳さん早いな。まだ約束の時間の5分前だぞ」

「ソレイユ少将、お待ちして・・・あのそこの二人は?」

「申し訳ない、教室を出ようとした時に訓練を見学したいと急に言われてな、鳳さんが嫌だというなら帰らせるよ」

 

鈴音はどうしようかと迷ったが、簪と本音から頭を下げてお願いされた事で、邪魔をしないならと見学を許可した。

 

「「ありがとう~」ございます!」

「俺からもお礼を言うよ。ありがとう鳳さん」

「い、いえ気にしないでください。で、では今日は宜しくお願いしますソレイユ少将とタンジェントさん」

「ああ、ビシバシ鍛えていくからそのつもりでな」

「ニャハニャハニャハ、打倒織斑一夏の為に頑張りましょう」

 

準備運動を終えた後に訓練は開始された。最初にタンジェントが鈴音に現在の実力を知りたいとソレイユと模擬戦を行うように求めた。鈴音は快諾したが、ソレイユは避けるだけかつ目隠しをして戦うという内容に内心ムッとした。仮にも中学3年生から猛勉強を行い、必死に努力して代表候補生となり専用機まで政府から授かったのだ。馬鹿にされているのかと思っても仕方ないだろう。

 

「あの、失礼かもしれませんが怪我をしても知りませんよ」

「ニャハニャハニャハ、大丈夫ですよ。攻撃なら当たりませんから」

「心配しなくても大丈夫だ、鳳さん」

「!!?・・・解りました、ではお願いします」

 

内心の腹立ちを抑えて努めて冷静に返した。こうなったら攻撃を当てて見返してやると鈴音は心に誓った。

 

「では・・・始め!」

「先手必勝!」

 

鈴音はソレイユに向かっていき甲龍の武器である双天牙月を大きく振りかぶって切りかかった。ソレイユはその攻撃を最小限の動きで躱した。

 

「えっ!?」

 

鈴音は驚きながらも、すぐに体制を直して再びソレイユに切りかかっていった

 

「(さっきのは偶然よ!今度こそ!)」

 

しかし結果は変わらなかった。ふたたびソレイユはその攻撃を最小限の動きだけで躱したのだった。それから鈴音はソレイユに何度も切りかかったがソレイユに当たることは無かった。

 

「くーーー!あの、ちょっとすいません!!」

「どうした?鳳さん」

「ソレイユ少将の着けている目隠しを確認したいのですが!」

「ん、ああいいぞ。ほら」

 

ソレイユは着けている目隠しを外して鈴音に手渡した。鈴音はそれを注意深く確認した後にソレイユに返した。

 

「・・・ありがとうございました。これ、お返しします」

「おう。じゃあ、模擬戦を続けよう」

「はい(目隠しには何も細工は無かった・・・ならどうして躱されてるのよ!こうなったら・・・)」

 

鈴音はソレイユから距離を取ると、甲龍のもう一つの武器である衝撃砲「龍咆」をぶっ放した。接近攻撃が躱されるのならば、遠距離攻撃で攻めようという考えだ。

 

「(これならどうよ!衝撃だから感知しにくいだろうし、恐らくこういった攻撃は初めてでしょう!?)」

 

しかし結果は先程と変わらなかった。龍咆による衝撃もソレイユは軽々と躱したのだった。まるで何処から衝撃が来るのか分かっているかのように。

 

「っ!?くぅーーーー!!」

 

学園にいる中国出身の先輩から代表決定戦の事を事前に聞いていたとはいえ、これほどまでの強さだとは鈴音は思わなかった。攻撃が軽々と躱されることに完全に頭に血が上った鈴音はそれから幾度も龍咆を放ち続けた。

 

 

見学している本音と簪は目の前で繰り広げられている信じられない光景に唖然としていた。鈴音による果敢な攻撃をソレイユは目隠しをして躱しているのだ。本来ならば絶対にありえない光景なのだから当然であろう。

 

それから数分後、相変わらず鈴音は龍咆を打ち続け、ソレイユはそれを躱すことが続いていたが頃合いだと判断したタンジェントが止めに入った。

「そこまでです。もういいですよ鳳さん」

「!?、待ってください!!もう少しだけ続けさせてください!せめて一発だけでも当てて・・・」

「そこまでと言っているでしょう!!」

ビクッ!!「は、はい」

 

鈴音の懇願を遮りタンジェントは一喝した。鈴音は威圧感籠った声に驚き、攻撃を止めた。昨日のお道化たタンジェントからは考えられないような声だった。鈴音はISを解除してタンジェントがいる所に向かって行った。

 

「お疲れさまでした。ソレイユさんに鳳さん」

「ああ」「はい・・・」

「では、鳳さん。貴方とソレイユさんの戦いを見ていて気になった点がいくつかあるのでそれを・・・鳳さん?」

「・・・」

 

鈴音の心は敗北感と悔しさで一杯だった。目隠しをした相手に対してただの一度も攻撃を当てられなかった事、強いとは聞いていたが、たったの2歳違いでここまでの強さだと思わなかった事、そして自分との圧倒的な実力差に。自分がしてきた2年間の鍛錬は一体何だったのであろうという悲しみで心が押しつぶされそうであった。

 

タンジェントは鈴音の悔しそうな顔からその事を察した。ソレイユを手招きして、鈴音から少し離れた。

 

「ソレイユさん、どうやら鳳さんは余りの実力差に打ちひしがれているようです」

「そうみたいだな・・・ちょっと大人げなかったかな?」

「ソレイユさんへのハンデも少々遣り過ぎましたね。目隠しは余計でした」

 

このままでは鈴音の訓練に悪影響が出かねない。打倒織斑一夏も難しくなるだろう。そうなると鈴音に申し訳が無い。仁義を大事にしているソレイユにとってそれは許せない事であった。

 

「・・・鳳さんに俺が何歳から海兵としての訓練をしているか教えてやったらどうだろう。そうすれば年季の違いという事で少しは持ち直すんじゃないか?」

「いいんですか?ソレイユさんの過去を少し話す事になりますが」

「構わん。このままじゃ訓練になりそうにないからな」

「わかりました。では」

 

タンジェントとソレイユは再び鈴音の元へ戻っていった。鈴音は先程と同じように打ちひしがれ続けていた。見学していた二人もこの状態の鈴音に何と声をかけていいか解からず困っていた。

 

「鳳さん、ソレイユさんが何歳から海兵としての訓練を受けていると思いますか?」

「えっ?ええと・・・14、15ぐらいからですか?」

 

突然のタンジェントの意図不明の質問に驚きながらも鈴音は答えた。タンジェントはその答えに首を振って答えた。

 

「8歳からです。ソレイユさんは10年海兵としての訓練を続けています」

「8、8歳!!?」

 

傍で聞いていた2人も鈴音同様に驚いていた。3人の常識からしたら8歳といえばまだ小学校に通っている年齢である。そんな少年といえる年齢の頃から海兵としての訓練を受けていると聞かされれば驚くのも無理はないだろう。

 

「もう一つ質問をしますね。鳳さん、貴女がISを扱う為の訓練を受け始めたのはいつからでしょうか?」

「ちゅ、中学3年生の頃からです」

「成程。つまりは訓練を始めて2年程という事ですね」

「は、はい。間違いないです」

 

そこまで聞いたタンジェントはニコリと微笑んで、鈴音に話しかけた。

 

「もうお判りでしょう。ソレイユさんと貴女には8年という長い年月の差があるのです。年齢では2歳違いかもしれませんが、この差は大きいでしょう。なのでそんなに気にする事はありませんよ」

「・・・・はい。分かりました」

 

鈴音はまだ少し悔しそうであったが、ソレイユとの実力の違いが年季の差という抗えない理由である事がわかり、納得する事にした。

鈴音が気を取り直した様子を見たタンジェントは手をぱちんと叩いて空気を変えた。

 

「では、鳳さん。訓練を再開しますよ」

「は、はい!お願いします」

 

再びソレイユを相手にした鈴音の訓練が始まった。ちなみに今度は流石にソレイユは目隠し無しである。

 

訓練は先程と同じように戦闘形式で行われた。鈴音はある程度基礎が出来ていた為、一から教え込むより、実戦で教えた方が効率がいいだろうとタンジェントが判断した為である。非常に厳しいながらも、無理はさせることは無く途中で休憩を一度挟みながら行われた。しかし、終わる頃には鈴音は息も絶え絶えの状態になっていた。

 

「今日はここまでにしましょう」

「おーう」「ぜーぜーぜー・・・は・・・はい」

「鳳さん、大分お疲れのようですね。ソレイユさん、何か飲み物でも買ってきてください」

「OK」

 

鈴音は少しずつ息を整え直した。そして先日思ったある種の自由人だという考えは全くの間違いであったと分かった。訓練中の二人に以前見た軽さは全く無く、常に厳しく、少しでも気を抜けば容赦無く強烈な攻撃を当てようとしてくるのである。ただし、本当に当たることは無くギリギリの所で全て寸止めされていた。その後タンジェントから 責が飛んでくる為、鈴音は精神的にも肉体的にも疲弊してしまったのである。

 

「それにしても、こんなにソレイユ少将が一生懸命に訓練をしてくれるのは意外でした。聞いた話では女性をかなり憎んでいるという事でしたが」

「ニャハニャハニャハ、確かにソレイユさんは女尊男卑主義者の女は憎んでいますが、そうではない女性に対してはそこまでではありませんよ。事実、あちらに居るお二人とも普通に話されていたでしょう」

「そういえば・・・そうでしたね」

「すまない。待たせたな」

 

ソレイユが5人分の飲み物を持って戻ってきたが何故か飲み物の一つにに赤い物が少し付いていた。

 

「あ、あのソレイユ少将その赤い物はいったい・・・」

「ああ、これか。飲み物買ってたら上級生が絡んできてな、男の癖にとかどうとか言って来やがったから顔面を殴ってやったんだ。そしたらその上級生、鼻血出しやがってな。そのせいで持ってたこれに付いちまったんだよ。皆のはその後、ちゃんと手を洗った後に買ったから安心してくれ。これは俺がもらうよ」

「そ、その上級生はどうしたんですか?」

「手を洗った後戻ったらもう居なかったよ。恐らく保健室にでも行ったんじゃないか?おーい本音さんに簪さん、二人の分もあるから来いよー」

 

人を殴ったというのに、あっけらかんと言うソレイユに鈴音は少し引いた。そして初めに一組のクラスに入った時、クラスの女生徒がソレイユに近づくのを止めたのか分かった。鈴音は心中でソレイユ少将を怒らせるのは止めようと固く誓ったのだった。

 

タンジェントが休憩していると、鈴音が真剣な顔で近づいてきた。因みにソレイユは上級生を殴打した件を学園長に報告しに行っている。契約があるとはいえ、こういう事はきちんと報告しておかなければならないのだ。

 

「タンジェントさん、一つ質問があるのですが」

「何でしょうか?」

「初めの模擬戦でソレイユ少将は目隠しをしていました。それなのに私の攻撃がまるで見えているかのように躱していました。あれはどういったカラクリがあるんでしょうか?」

 

本音と簪も興味深々で聞き耳を立てていた。先程の信じられない光景の種が分かるとなれば、知りたくもなるだろう。

 

教えるのは容易いが、どうせならこれを訓練に励む為の動機にしようとタンジェントは考えた。目標がある方がやる気も出てくるだろうし、頑張ってくれるだろうと。

 

「教えてもよろしいですが、一つ条件を出させてください。それが出来たときに先程の件を教えましょう」

「条件とは何でしょうか?」

「クラス対抗戦で織斑一夏を完膚なきまでに打ちのめす事です。それが出来た時に教えるということで」

 

タンジェントの言葉を聞いた鈴音の顔からやる気と闘争心が出てきた。打倒織斑一夏を達成したとき、ソレイユのあの神業のような物の秘密が分かるというのだ。目標だけでなくご褒美まで示された。これでやる気が出ない方がおかしいだろう。秘密が聞けなかった本音達はすこし残念そうであったが。

 

「分かりました!明日からも訓練をお願いします」

「ニャハニャハニャハ、頑張ってくださいね」

 

その後、帰ってきたソレイユを交えて五人で軽く雑談を交わした後に、今日は解散となった。帰りの道中に面倒な事が起きたが、ソレイユとタンジェントによってあっさり片づけられた。

 

「お帰りなさいませ!ソレイユ少将にタンジェントさん!!」

「ああ、ただいま」

 

基地に帰ってきたソレイユは荷物を置こうと自室に向かおうとしたが、数人の海兵がソレイユを呼び止めた。全員真剣な顔であった。

「ソレイユ少将、少しお話があるのですがよろしいでしょうか?」

「ん、構わないがどうした?」

「ありがとうございます。では・・・我々は全員ISというゴミ屑によって職を失いました。しかしソレイユ少将の提案によりこうして海兵になる事が出来ました」

 

ソレイユの提案というのが、日本の海軍基地にはISによって職を失った人間を積極的に採用しようというものである。海兵になる事が出来ない年齢の者や適性が無い者は基地内の事務員、コック、掃除夫といった仕事を斡旋している。

 

「その事を我々は深く感謝しており、一生の恩とも思っております。しかし・・・最近のソレイユ少将は来日した頃に比べて女に対して丸くなったように思うのです。今日も女尊男卑の考えを持っていないとはいえ女などと訓練を・・・差し出がましい事だとは思っております。しかし我々はこのままソレイユ少将が変わってしまうのではないかと・・・奴等への恨みが消えてしまうのではないかと不安なのです」

 

海兵達の言葉をソレイユは黙って聞いていた。少ししてからソレイユは彼らに語り掛けた。

 

「貴方達の不安は分かった。しかし心配することは無い。俺は今でも女尊男卑主義者の女共への憎悪は深くある。骨髄にも達している程だ。それに貴方達を苦しめた雌共への復讐も考えている。これを見てくれ」

 

ソレイユは簀巻きにした雌共を軍艦から持ってこさせた。これらは先程の面倒な事・・・女性権利団体の奴らが襲撃をしてきた際に捕らえたゴミクズ共である。因みに聞くに堪えない罵詈雑言を聞きたくない為口には雑巾を詰めている。

 

「こ、こいつらは!?」

「こいつらは女性権利団体所属の奴らだ。尋問方法は任せるからこいつらに襲撃した理由を吐かせてくれ。持ち物からこいつらが女性権利団体の奴らだという事は分かっているが、証言も欲しい。最悪殺してもいいぞ」

「は、はい!!分かりました」

「部下である貴方達の苦しみは俺の苦しみでもある。女性権利団体とIS委員会の奴等には必ず天誅を与えるから少し待ってくれ」

 

ソレイユも本音を言うなら、女性権利団体もIS委員会も今すぐにでも潰してやりたい。それこそすぐにでも本部にかち込んで全員レインボーシャワーで消滅させてやりたい程である。

しかしそんな事をすれば海軍の面目が、国の名誉に傷が付いてしまう。だからこそソレイユは我慢していた。ゴミクズどもを焼却する為の正当な理由を手に入れる為に。

 

「俺は忘れねえよ・・・あの日からずっと・・・ずっと奴らが憎い・・・それこそ全てを焼き尽くしたい程にな」

 

ソレイユは最後にそう呟くと、自分の部屋に向かって行った。ソレイユの心情を理解した士官達はソレイユに敬礼をした後に、深く深く頭を下げたのであった。

 




ついに始まったクラス対抗戦

ソレイユとタンジェントとの訓練によりパワーアップした鈴音は織斑一夏を圧倒的な実力で追い詰める

その戦いの最中、招かれざるモノが

次回、IS 復讐の海兵
「開幕、クラス対抗戦!!」
アイツらは必ず地獄に落とす!!


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開幕、クラス対抗戦!!

翌日の訓練も昨日と同じように模擬戦形式で行われていた。

 

今日の訓練の相手はタンジェントであった。早くもタンジェントから注意が飛んでいる。

 

「鳳さん!またその龍咆という物を打つ直前に打つ場所の方向を見ていますよ!もしその癖を織斑に見破られれば不利になる可能性があります!!」

 

「す、すいません!タンジェントさん」

 

「まあ、癖という物は一朝一夕で治るものではありませんからね。もし、対抗戦までに直せないようであれば、その癖を逆に生かす方向を考えましょう」

 

「はい!お願いします」

 

 

タンジェントが鈴音を指導している間、ソレイユは覇気の鍛錬をしていた。覇気は鍛えれば鍛える程に強くなるとサカズキとタンジェントから教え込まれてきたソレイユは暇な時間(飲酒中と賭け事中は除く)があれば鍛錬を怠る事は無い。

 

「ふっ!!はっ!!せいっ!!」

 

「うわ~!鉄板を叩いてるのにソーソー全然痛そうにしてな~い!!どうして~」

 

昨日に続き見学している本音はソレイユが行っている訓練を見て驚きの声を上げた。一方で簪は何か考え事をしているようであった。

 

「・・・(昨日の目隠しをしてのあの動きといい、あんな事が出来るといい、ソレイユ少将にはどんな秘密が。もし私にもあんな力が使う事が出来るなら・・)」

 

「どうしたの簪ちゃん?」

 

「あ!ほ、本音!ご、ごめんちょっとボーっとしてた」

 

簪は心中での考えを見透かされないように慌ててごまかした。しかしソレイユは簪の自分を見る視線から簪の中にある危うさをなんとなく察した。

 

「(あの娘の目、昔の俺と似た目をしているな。力だけを求めている目だ。少々気になるが彼女から打ち明けられるまで今はまだ置いておこう)」

 

その後、鈴音が少しバテテきたので休憩を取ることにした。休憩中にタンジェントがふと何かを思い出したかのように鈴音に話しかけた。

 

「そういえば、昨日のソレイユさんとの模擬戦で思ったのですが、貴女は頭に血が上りやすいようです。戦いでは冷静さを失ってしまった人間は著しく不利になります。手始めに日常生活で腹が立つ事があってもグッと堪えるようにしてみてください」

 

「は、はい!わかりました」

 

「頑張ってくださいね。さあ、休憩は終わりですよ」

 

その後アリーナの使用時間いっぱいまで訓練は続けられた。鈴音は言葉も発せないほどに疲れてしまったが、心は充足感に満ちていた。この訓練を続けていけば必ず自分は強くなれると確信したからである。

 

 

その翌日はアリーナを借りられなかったので、クラス代表決定戦でソレイユと戦った時の映像を借り受けて、それを参考に対織斑戦に向けてのミーティングを行うことにしたのである。映像には織斑がヤケクソで零落白夜を行った場面が映し出されていた。

 

「ち、ちくひょーーー!喰らえーーーー零落白夜!」

 

 

「見ての通りだ鳳さん。あいつの基本戦法はハッキリ言って猪武者そのものだ。俺と戦った時も突っ込んできてばかりで、単一仕様能力頼りの戦い方だった。」

 

「そ、そうなんですか・・・」

 

鈴音はソレイユから織斑一夏との戦いの内容を聞いて、内心少しガックリした。単一仕様能力頼みの戦法もだが、一番ガックリきたのは遠距離攻撃を卑怯呼ばわりした事である。

 

「(あるもの全部使って勝つのが戦闘じゃない・・・何考えてんのよ一夏・・・)」

 

「そこでだ、アイツが突っ込んできたら躱して体の側面に思いっきり強烈な一撃を当ててやれ。突っ込んでくる攻撃は側面からの攻撃には弱いからな。もしくは距離を保って遠距離攻撃を当てまくれ。どんなに強烈な単一仕様でも当たらなければ意味ないからな」

 

「分かりました」

 

「よし、もう一度映像を見ながらアイツの弱点を見つけていこう」

 

それからソレイユと鈴音はミーティングを続けられ、打倒織斑一夏に向けての作戦が固められていくのであった。

 

 

翌日、ソレイユとタンジェントが食堂に向かおうとしていると織斑一夏と鈴音が廊下でなにやら口論している所にでくわした。普段なら織斑に関わりたくないソレイユだが、相手が鈴音だったので何があったのかと思い、二人に気づかれないようにソレイユとタンジェントは物陰に隠れて話を聞くことにした。

 

口論の原因は織斑一夏が、ソレイユ達と鈴音が訓練をしているのが気に食わない為辞めろと言うのを、鈴音が何でそんな事を言われなければならないのかと反発した事から始まった。徐々に感情からの口喧嘩になり、互いの短所の言い合いから織斑一夏は決定的な一言を口にした。

 

「黙れ、貧乳!・・・あ・・・」

 

その瞬間、空気が凍った。鈴音は体をプルプルと震えだし、今にも織斑一夏を殴ろうとしたが、タンジェントに言われた事を思い出して、その衝動をこらえて織斑に背を向けた。

 

「・・・クラス対抗戦覚悟しておきなさいよ!!絶対にぶっ飛ばす!!」

 

鈴音はそう怒鳴るとそのまま走り去った。見ていたソレイユ達もそのまま立ち去った。その後、午後の授業の間タンジェントが教室に姿を現すことは無かった。

 

放課後になり、訓練の為に鈴音はアリーナに向かおうとした。まだ腹立ちは収まらないが、訓練で体を動かせばイライラも無くなるだろうと考えていた。そんな鈴音の元にタンジェントがやってきてこう告げた。

 

「鳳さん、今日の訓練はお休みです」

 

鈴音は一瞬呆気に取られた顔をしたがすぐに気を取り直した。

 

「あ、あのどうしてですか。何か用でもあるのですか?」

 

「いえいえ、最近少し根詰めて訓練をしましたので今日はお休みにしようと思いまして。折角ですから中庭でお菓子でも摘まみながらお茶会でもいたしましょうニャハニャハニャハ」

 

「そ、そんな!?私は全然疲れてなんかいません!昨日したのもミーティングでしたし、寧ろ元気は有り余っているぐらいです。休みなんて必要ないです!訓練を付けてください!」

 

懇願する鈴音であったがタンジェントはゆっくりと首を横に振った。先程あった事から今日訓練を行っても集中出来ないだろうことは明白だったからである。

 

「鳳さん。あんな事があった後で訓練を行っても意味が有りませんよ」

 

「えっ見てたんですか!?」

 

「ええ、立ち聞きしていた事は申し訳なく思います。教え子とあの男が口論しているのが聞こえたものですから、心配だったもので」

 

タンジェントは鈴音に頭を下げた。そして姿勢を正し、鈴音に休む理由を話し始めた。

 

「さて、鳳さん何故今日の訓練がお休みなのかと言いますと、恐らくは先程の事を訓練中に思い出し怒りがこみ上げてきて、訓練が身に入らないことは簡単に予測できます。それにコミュニケーションを取るのも大切な事ですよ。もし、相手の気持ちや考えを無視して押し付けるような指導をしてしまえば最悪な事態を引き起こしかねません。この国で有名なスポーツ漫画「ダンクシュート」という作品でも指導者と教え子の気持ちのすれ違いで悲劇は起きています。鳳さん、どうか私の事を信じて今日の所はゆっくりお茶会をしませんか?」

 

「・・・わかりました」

 

「ありがとうございます。鳳さんなら分かって頂けると思ってましたよ、ニャハニャハニャハ。それと、よく言いつけを守って堪える事が出来ましたね。ご褒美に私の出来る範囲で願いを叶えてあげます。では行きましょうか、ソレイユさん達はもう向かっていますから」

 

タンジェントの言う事にも一理あると思った鈴音は逸る気持ちを抑えて、タンジェントに付いて行った。その道中鈴音は先程の会話の中で引っかかった事があったので尋ねた。

 

「あの一つ気になった事があるんですが・・・」

 

「何でしょうか?私に答えられる事なら答えますが」

 

「どうして日本の漫画の「ダンクシュート」をご存じなんでしょうか?確かあの国には無かったはずですよね」

 

「ああ、それはですね支部の海兵から借りたんですよ。この国に来たら読みたいと思っていたもので。評判通りの面白さでした。一気に読んでしまいましたよ」

 

「そ、そうでしたか。ああいったの読むんですね」

 

「はい、サブカルチャーは大好きですから。ニャハニャハニャハ」

 

タンジェントの意外な一面を見た鈴音は、タンジェントに持っていた印象が少し変わったのであった。

 

 

中庭に着くと5人掛けのテーブルにソレイユと本音と簪が座って待っていた。テーブルの中央にはクッキーが入ったバスケットとティーカップが準備されている。

 

「お待たせしました、皆さん」

 

「お、来てくれたか鳳さん。突然の誘いになのに来てくれてありがとうな」

 

「いえ、こちらこそお誘いいただきありがとうございます」

 

「ニャハニャハニャハ、堅苦しい挨拶はそれぐらいにして鳳さんも座ってください。今お茶を入れますから」

 

 

タンジェントが一人一人に紅茶を注いでいき、最後に自分のカップに注ぎ終わった後、お茶会が始まり、それは楽しくおしゃべりしながら行われた。

 

 

簪がヒーロー物が好きと知ったソレイユが今度「海の戦士ソラ」を持ってくると約束したり、ソレイユのお父さんがどんな見た目なのか知りたがった本音にソレイユが写真を見せたり、タンジェントが鈴音に自分の人生を変える切っ掛けとなった書物が中国の物だと言った事で驚かれたり、鈴音が今回の特訓のせめてものお礼に酢豚を作ってきたいと言ったのをソレイユは楽しみにしてると歓迎したり、本音達3人が美味しいと好評だったクッキーが買ったものではなく、タンジェントが手作りしたものだと判明したことでかなり驚かれたりと終始和やかな雰囲気で過ぎていった。

 

「そろそろお開きにしましょうか」

 

時間にして1,2時間ほどが流れた頃タンジェントがお茶会の終了を告げた。本音と簪はソレイユ達にお礼を言って帰っていった。鈴音はタンジェントに先程のご褒美は癖を直す為の訓練をスパルタにする事をお願いして帰っていくのであった。ソレイユ達も軍艦に乗って基地に帰っていった。

 

「皆楽しんでくれて良かったな」

 

「ええ、腕を振るった甲斐がありました。それにしても・・・」

 

タンジェントが少し口を尖らせていた。

 

「どうした?」

 

「私が料理上手な事がそんなに意外でしたでしょうかね?あんなに驚くなんてちょっと失礼では!?」

 

「まあ・・・俺達海兵は基本的に戦うのが仕事だからな、イメージ的に料理が上手だとは思えなかったんじゃないか」

 

「・・・ニャハニャハ、それもそうですね」

 

「さあ、帰ったら書類仕事と訓練を終えて一杯やろう」

 

 

翌日からの訓練は鈴音の希望通り、癖を直す事を重点的にスパルタで行われた。今までは寸止めされていた攻撃が当てるようにしたのである。少しでも癖を出せば容赦なくその隙を突いて攻撃が飛んできた。手加減はしているとはいえ攻撃には違いないので鈴音は連日肉体的にも精神的にも疲れ果ててしまったが、決して弱音を吐くことは無く、辞めたいとも考えなかった。この訓練は間違いなく自分の為になると、そして二人についていけば必ず強くなれると信頼が出来ているからである。因みに本音と簪はソレイユが鈴音の特訓に集中したいからと見学を断られていた。二人は少し残念そうにしていたが、事情が事情なので納得してもらった。

 

そして対抗戦の前々日ついに鈴音は癖を無くす事に成功した。

 

「鈴音さん、よくやりましたね。あの癖は完全に治りましたよ」

 

「は、はい・・・」

 

「これにて訓練は終わりです。明日はゆっくりと休んでクラス対抗戦に備えてください。決して勝手な自主練などは行わないように。するとしても軽いストレッチぐらいにしておいてください」

 

「わ、わかりました・・・」

 

息は絶え絶えだが鈴音は何とか返事を返している。初めの頃に比べたら間違いなくタフになっている。この鈴音の様子を見て、二人は目を細めた。

 

「・・・よく訓練をやり切りましたね。私は嬉しく思います」

 

「俺もだ。鳳さん、根性あるな。立派だぜ」

 

「そ、そんな・・・あ、ありがとうございます」

 

「当日には俺達も応援に着くからな。頑張れよ」

 

「は、はい!」

 

 

「何度も言っただろう、私はもう大丈夫だと。お前に心配される程私はヤワじゃないぞ。それじゃ学校でな」

 

場所と時間は変わって、その日の夜織斑家では明日から出勤する為、織斑千冬が準備をしていた。因みに一夏は外出許可が下りなかったので家に戻れなかったので先程電話で話していた。復帰の為に書類に目を通していたがある書類を見た途端に手に力が入り書類がくしゃった。

 

「ソレイユめ・・・あいつのせいで・・・あいつのせいで私は・・・!!」

 

書類には織斑千冬が起こした愚行の後始末について書かれていた。

今回の件はテロリストが起こしたという事で公的に処理している事。ソレイユ少将は一切関係が無い事になっている事。この件を周囲に話す事を禁じる事。怪我については労災が下りるようにし、治療費なども学園側が持つが次にこのような事が起きた場合は全額自己負担になる事、今後このような事を起こすことが無いように。という旨の事が書かれていた

 

「ふざけるな!何がテロリストだ!ソレイユが一切関係無いだ!!この私の顔を・・ブリュンヒルデである私の顔をこのようにしておきながら・・・クソッ!クソッ!!ソレイユの奴め・・・許さん絶対に許さん!」

 

自らの愚行を棚に上げてソレイユへの逆恨みを募らせる千冬であった。その顔は以前のような美人ではなく、ソレイユに半殺しにされた影響でゆがみ切った顔に憎悪をメイクした醜悪な顔であった。最もこの女には似合いの顔かもしれないが。

 

「必ず、必ず復讐してやる!!この顔の借りは必ず返してやる!!」

 

織斑千冬がソレイユへの復讐を決意している頃、ソレイユはタンジェントと鈴音からもらった紹興酒をどのようにして飲むか揉めているのであった。

 

 

翌日、結局公平にロックと燗で飲んだソレイユは欠伸を押し殺しながら、ホームルーム開始を待っている所であった。

 

「(簪さん、海の戦士ソラ気に入ってくれたみたいだったな。先日昼食の時に渡してから暇さえあれば読んでるって本音さん言ってたし。読み終わったら2巻目も貸そうかな。プロバガンダ性さえ目を瞑れば、SF物として傑作だし。ジェルマの方が好きになったら海兵として少し困るけどな。まあ、どんな形でもファンが増えるのは正統読者である俺からしたら嬉しい限りだけど)」

 

ソレイユが心中でそのような事を考えていると、ホームルーム開始のチャイムが鳴ると同時に顔を包帯で巻いた織斑千冬と山田先生が入ってきた。それと同時にクラスの千冬ファンから悲愴な声が沸き出たが織斑千冬はそれを一喝して黙らせるとホームルームを始めた。時折ソレイユを周囲にはバレない様に殺気を込めた目で睨みつけていたが、ソレイユは相手にする事は無く、流していた。

 

その日は特に何か起きるわけでも無く一日が終わった。帰り際に一夏と箒が猛特訓(ソレイユからしたら軽い特訓)を行なっているのをソレイユは冷めた目で見てから帰路に着いた。帰る途中でいつもの如く蚊トンボ共が沸いて出たが、ソレイユとタンジェントは難なく処理して、生き残ったゴミクズを尋問兵に引き渡した。その後はいつも通り訓練を指導して、自身の訓練を行い、書類仕事を終わらせて定時連絡を行った後タンジェントと酒盛りをしてから床に就いた

 

「何事もなく一日が終わるのも久しぶりな気がするな。まあ、其れが一番だ」

 

 

試合当日、ソレイユとタンジェントは鈴音を応援するためにピットに来ていた。鈴音は若干緊張していたが、ソレイユから訓練をやり遂げた鳳さんなら必ず勝てると勇気づけられ、気を取り直して意気揚々とアリーナに向かって行くのであった。

 

 

先にアリーナに入っていた織斑は鈴音が入ってきたのを確認すると指差して叫んだ。

 

「鈴!この戦いに勝って、あんな奴等と一緒にいるお前の目を覚まさせてやるからな!!」

 

織斑の言葉に鈴音は何も答えなかった。呆れて物も言えなかったからである。そんな鈴音の態度に益々苛立たせたのか織斑はさっきよりも強い声で叫んだ。

 

「おい!鈴聞いてるのかよ!?」

 

「ごちゃごちゃ五月蠅いわね!!御託はいいからかかってきなさいよ!」

 

鈴音の啖呵の終わりと同時に試合開始のブザーが鳴った。織斑は鈴音の言葉に面食らっていたがすぐに顔に苛立ちを露わにして鈴音に向かって行った。

 

 

試合は開始から一方的な展開になった。織斑は相も変わらず単一仕様能力頼りの突撃ばかり行っていたが、鈴音はそれにあたる事が無いように一定の距離を取り続け、遠距離攻撃を当て続けた。織斑のISのSEはみるみるうちに無くなっていった。

 

「何だあれは。男性操縦者だというからどれ程の者かと思っていたが期待外れもいいとこだな」

 

客賓として招かれた中国の高官は一夏の戦いを冷めた目で見ていた。周りの客賓達も期待していたのか失望の眼差しを向けていた。しかし、中国の高官のみ、自分の国の代表候補生の成長ぶりに驚愕していた。驚いていたのは高官だけでなく、IS学園にいる中国出身の先輩達も同様であった。

 

「凄い、あの子国に居た頃とは動きが全く違う。数倍は強くなってる」

 

「うん。彼女以前は龍咆を打つ前に打つ場所を見る癖があったんだけど、それも無くなってるわ。猛特訓をしたんでしょうね」

 

「それなんだけどね、彼女から聞いたんだけど海兵に指導してもらったんだって」

 

「海兵に!?あの傍若無人の!?どんな頼み方したのかしら彼女」

 

「それがね、海兵の方から申し出たんだって。打倒織斑君を目指そうって」

 

「ええー同じクラスの代表を倒すって何考えてるのかしらね?」

 

「そうね。でも・・・指導能力はかなり高いみたいね。彼女を見れば分かるわ」

 

「ええ・・・少し羨ましいかも」

 

 

「クソッどうなってんだよ!?あんなに箒と特訓したのに」

 

一夏は一方的な試合内容が認められず、地面に拳を打ち付けていた。鈴音はその光景を冷ややかな目で見ていた。一夏がどんな特訓をしていたかは知らないが、自分はそれ以上の特訓をし続けてきたという自負がある。試合を通して一夏がどんな特訓をしてきたかは大方予想がついている。恐らくは突進ばかりの特訓をしてきたのであろうと。

 

「もういいわ。一夏、私言ったわよね。絶対にぶっ飛ばすって。今からそれを実行するわ」

 

鈴音はそう告げると、龍咆を一夏に向けた。せめてもの情けに一撃で仕留めるつもりである。

 

「くたばりなさい!!」

 

鈴音が龍咆を放とうとした瞬間、バリーンと大きな音がしたかと思うと見たこともないISがアリーナに侵入して来たのであった。




突然のISの出現に色めき立つ周囲

鈴音を助けるために割れたシールドから入り込むソレイユ

優勢に戦うソレイユに予期せぬ事態が!

次回、IS 復讐の海兵
「ソレイユ激怒!制裁の一撃」
あいつらは必ず地獄に落とす!!


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ソレイユ激怒!制裁の一撃

同じ頃、ソレイユとタンジェントはビット内でビールを飲みながら試合を観戦していた。鈴音の完璧ともいえる試合運びに二人は喜び、鈴音の勝利に乾杯してビールを一気に流し込んだ。しかし、突然侵入してきたISの登場に少し顔色を変えた。

 

「なんだあれは?」

「まあ、どう考えてもサプライズの一種という訳ではなさそうですね」

「アリーナのバリアが壊れてる・・・この前から強度変わってないのか?」

「学園の防衛力に疑問を感じます」

 

突然の侵入者に鈴音は最初こそ驚いたが、危険を感じてすぐに撤退しようとした。しかし織斑は無鉄砲にもISに突っ込んで行ったのである。勿論すぐに攻撃されて吹っ飛んだが、それに懲りる事無く再びISに突撃していった。それを見た鈴音は仕方なく織斑の援護に向かい、鈴音は織斑を庇いつつ撤退するように何度も諫めたが、織斑はそれを聞くことは無かった。

 

「あの馬鹿何考えてんだか。SEがほぼ無い状態で何をしようってんだ」

「あのお馬鹿さんの事ですから、女を置いて逃げられない。なんて事を考えてるんでしょうね」

 

織斑はともかく鈴音と観客たちがこのままでは危ないと考えソレイユはラーを起動させようとしたが、IS学園に何かあった時には教師部隊が迎撃に向かう事になっており、それより先に海軍が出撃することは越権行為である事、何より学園の防衛はソレイユの役割では無いとタンジェントがそれを止めた。タンジェントの言葉に一理あるなと納得し、少し静観することにして上げかけた腰を下ろした。

 

10分程たった後、本来ならすぐに来るはずである教師部隊がなかなか来ない事に違和感を感じたタンジェントが山田先生に確認の通信を入れたところ、アリーナの出入り口にどこかからのハッキングがあり、突入できないとの返答があった。その事を聞いた二人は顔色を変えた。そうなると話は別である。今まで二人が静観していたのも、教師部隊というもしもの時の為に生徒を守る人達がいたからである。しかしそれが来ないのであれば自分達が出る必要があると考え、ソレイユは気を引き締め直し山田先生に自分が出る事を伝えた。

 

「なら、俺が行きます。俺ならアリーナの出入り口が閉まっていようが関係ありません」

「そ、そんなの駄目ですよ。危険です」

「山田先生、俺は海兵です。海兵はか弱き民衆を守る為にいるんです。今こそ俺が行く時なんです」

「・・・分かりました。でも危ないと思ったらすぐに避難してくださいね」

 

ソレイユの覚悟を感じ取った山田先生はソレイユを心配する言葉を残して通信を切った。ソレイユは内心で山田先生にお礼を言うと即座にラーを起動した。

 

ソレイユにとって織斑がどうなろうとどうでもいいのだが、このままでは鈴音や観客席にいる一部のまともな生徒達、来賓たちに被害が及ぶ可能性がある。そのような事は海兵として見過ごすわけにはいかない。タンジェントは同行を申し出たが、ソレイユはそれを断り山田先生達の手伝いをするように頼んだ。それを了承したタンジェントはすぐに山田先生のもとに向かい、ソレイユもアリーナに向かって行った。

 

ソレイユが突入する数分前、乱入してきたISを相手に織斑は相も変わらず突撃を仕掛けては躱されるか、返り討ちに合うのを繰り返していた。SEも無くなりかけており、鈴音から何度も撤退するように言われていたがそれでも頑として撤退しようとしなかった。

 

「一夏、いい加減にしてよ!!一体何度言ったら分かるのよ!?もうあんたのISにはもうSEが無いの!!このままじゃ二人そろってやられるのがオチよ。早く撤退しましょう」

「嫌だ!!こいつは俺が倒すんだ!そして皆を守るんだ!」

 

織斑の現実を見ない妄言に鈴音は大きくショックを受けた。以前だったらカッコいいと思っていたかもしれないがソレイユ達との訓練を受けた今の鈴音には無鉄砲としか思えなかった。訓練中の休憩時間にタンジェントから雑談交じりに「危険な相手から逃げる事は恥ずかしい事ではありません。例えば、目の前に刃物を持った危険人物がいて自分は丸腰の状態。この場合一番良い行動は逃げる事です。極論かもしれませんが、自分が適わない相手に挑むのは蛮勇でしかないんです」と教えてもらっていたのである。鈴音がソレイユに確認した時も何故か苦虫を嚙み潰したような顔をしながら肯定していた。それから鈴音は退く事は恥ずべき行為では無いと理解したのである。それなのに鈴音が止めるにも関わらず再び無謀にも一夏は突撃していったが、ISはその攻撃をサラリと避けた。避けられた一夏の攻撃は止まることなくアリーナを覆うバリアに突っ込んで行き、ISの侵入によりダメージを受けていたバリアはとうとう限界を迎え消滅した。観客席からは悲鳴が上がり、一部の観客からは一夏を非難する声が上がった。それと同時に白式のSEも遂に無くなってしまった。

 

「一夏!?もう、バカ!!」

 

SEが無くなりほぼ丸腰になった織斑を無慈悲にもISは追撃を行なおうとした。鈴音は一夏を守ろうと一夏の前に立ち、相手からの攻撃に備えたが、いつまでも攻撃が来ることは無かった。恐々と目を開けると目の前にはラーを纏ったソレイユが楯になるかのように立っていた。ソレイユはヨウヨウの実の能力による防御技「スーリヤ」によって鈴音とついでに一夏を守ったのである。太陽の力を応用したバリアのまえにはいかなる攻撃も意味をなさない。ソレイユの姿を見た鈴音は心底から安堵し、一夏は憎々しげにソレイユを睨んでいた

 

「今までよく頑張ったな鳳さん。後は俺に任せてくれ」

「ソレイユ少将!?」

「ソレイユ!

 

鈴音とついでに織斑の無事を確認したソレイユはヘリオスの槍(前の名前はあまり良くないと部下に言われたので変えた)を生成した。

 

「織斑、お前はさっさと逃げろ。ここに居られても邪魔だ」

「嫌だ!あいつは俺が倒すんだ!おまえこそ・・・」

「もう一度だけ言う・・・失せろ!!」

 

織斑の言葉を遮り、ソレイユは睨み付けて吐き捨てるように言った。ソレイユに睨まれた織斑は先程の威勢を一気に無くし、怯んでしまった。鈴音もソレイユの初めて見せる顔に驚いていたが、気を取り直して織斑を連れて撤退しようとした。しかし織斑はソレイユの圧によって足が竦んでしまい動けなくなってしまった。ソレイユはそんな織斑に侮蔑の視線を向け内心呆れながら、侵入したISに対峙した。

 

早速ソレイユは見聞色の覇気を使って相手の気配を探ろうとしたが、全く探る事が出来なかった。一瞬不思議に思ったソレイユだったが、すぐに目の前のISに人が乗っていないと悟った。そうなると後で色々と調べる必要がある為、出来る限り損壊を最小限で倒さなければならない。今回の戦闘ではレインボーシャワーは使えないと考えソレイユはヘリオスの槍を構えた。

 

「(弱点となる部位のみを攻撃して戦闘不能にした後に整備班に渡す。そろそろアイツも来るだろうしな)」

 

ISはソレイユに銃撃してきたが、スーリヤを発動したままソレイユは剃で突っ込んで行き、ISに槍で強烈な一撃を入れた。灼熱の槍で刺されたISは大ダメージを受けて吹き飛んだ。ソレイユが追撃を行なおうとした瞬間、放送室からいきなり大声で誰かが叫んだ。

 

「一夏――――!!何をボヤボヤしているんだ!!男ならそれぐらいの敵倒せなくてどうするーーー!!」

「そうだ!私の弟ならそれぐらいの敵倒せ!!行けーー一夏―――!!」

 

声の主は篠ノ之箒と織斑千冬であった。ソレイユは馬鹿二人の愚行を呆れてみていたが、見聞色の覇気によって馬鹿二人の周りに数人居る事が分かると顔色を変えた。しかもISは放送室に攻撃をしようとしている。

 

「それは不味いぞ!?モップ女とクソ教師が!!いらねえ事しやがって!」

 

なりふり構ってられないと理解したソレイユはレインボーシャワーをISに向けて放射した。本来ならISの解析を優先すべきなのかもしれないが、ソレイユは馬鹿二人の巻き添えで関係のない人が死ぬのを見過ごすわけには行かなかった。勿論馬鹿二人だけなら間違いなく見捨てていたが。

レインボーシャワーを受けたISはみるみるうちに溶けていき、後には鉄屑のみが残された。太陽光線をモロにくらったせいでドロドロに溶けてしまっており、ベガパンクであっても解析することは出来ないだろう。

 

(解析に回したい所だがあんなになっちゃ意味無いな。ッチ、あのクソ教師とモップ女が余計な事しなければ)

 

ソレイユによってISが倒された事に納得がいかない放送室の馬鹿二人は、ソレイユに聞くに堪えない罵詈雑言をまき散らしていたが、ソレイユは全く意に介さず山田先生にISを撃破した事を報告し、放送室にいる馬鹿二人の近くに居るであろう生徒たちの保護を頼んでさっさと帰還した。ソレイユの圧倒的な強さに唖然としていた鈴音も一夏を連れて帰還した。その際一夏は悔しさと逆恨みを混ぜたような顔をしていた。

アリーナにいる本音を始めとした何人かの生徒達は帰っていくソレイユに感謝の言葉を言い、それ以外の女尊男卑に染まっていない生徒たちはソレイユへの認識を多少改めた。今までの「関わらない方がいい人」から「怒らせなければ大丈夫な人」に。無論これはこの戦いだけを見て変えた訳では無くここ数日のソレイユの行動も多分に含まれていたが。女尊男卑に染まっている生徒達はただ醜悪な顔を見せるのみであった。

 

 

「・・・圧倒的すぎる。あれがかの国の海兵か・・・」

「しかもまだ彼は少将だとか。そうなると中将や大将になるとあれ以上という事。恐ろしいですな・・・」

「ええ。ですがあの全く無駄の無い動きは素晴らしい。それだけ兵の訓練に力を入れているという事なんでしょう」

「これからもかの国への対応には気を付けなければ。下手な事をすれば良くてイギリスのように属国化。悪ければ滅びかねませんからな」

「早急にこの事は本国に連絡を」

 

来賓席にいた各国からの来客達はソレイユの圧倒的な強さに唖然とする者、脅威を感じる者、感心する者と多様な反応を見せた。しかし全員が共通して持っている事が一つだけあった。それは織斑一夏への失望であった。クラス対抗戦での無様な戦いに加えて侵入してきたISには全く歯が立たなかった。おまけに自分の攻撃でバリアを破壊して自分たちを危険な状態に追い込むという大失態。全くと言っていいほど評価すべき点が無かった。来賓達は織斑一夏への当初あった期待を完全に無くしていたのである。

 

「あの織斑一夏とかいう男性操縦者に関しては何も言う事はありませんな」

「ええ、あのブリュンヒルデの弟だからと期待していましたがただの馬鹿でしたな」

 

各国は今回の大失態により織斑一夏への興味を急速に失っていく事になった。一部の国を除いて。

 

 

事件の結果報告をする為、ソレイユは学園室を訪れた。見れば既にタンジェントに山田先生、鈴音と一夏、千冬と箒は揃っていた。

 

全員が揃ったところで学園長から今回の事件についての協議を行う事を告げられた。開始一番に千冬がソレイユのISは危険であり取り上げて解析に回すべきだと主張したが学園長はその意見を即却下した。

 

「織斑先生、前にも言いましたがソレイユ君のISは検査を受けており、問題無しという報告を受けています。何度言わせる気ですか?」

 

学園長から叱責を受ける千冬を山田先生は千冬を冷ややかな目で見ていた。そこには以前の千冬を尊敬していた面影は全くなかった。

 

千冬はそれでも学園長に反論しようとしたが、学園長からもう黙るように言われ渋々押し黙った。

 

「言っておきますが、もしソレイユさんのラーを力づくで奪おうというのでしたら我々も容赦はしませんよ。その()()()()()にやられて見れたモノでは無くなった顔をもっと酷い事になるかもしれませんね。ニャハニャハニャハ」

「ああ、その()()()()()にやられた顔を更に不細工にしてやるよ。ハッハッハッ」

 

ソレイユとタンジェントの悪意のこもった嘲りに千冬は包帯の下で醜く歪んだ顔を更に歪ませてソレイユ達を睨んだ。出来る事なら今すぐこの場で掴みかかってやりたいが、そんな事をすれば返り討ちに会う事はこの前の件で分かっていたし、学園長から今後海軍がらみで怪我をしても治療費は負担しないと宣告されている為睨むことしか出来なかった。

 

「おい!千冬姉に何てこと言う「黙りな!」っ・・・」

 

シスコンの一夏は姉への罵倒に文句を言おうとしたが、またもやソレイユの一喝に怯みそのまま引っ込んでしまった。鈴音はそんな織斑に若干の失望の眼差しを向けていたが織斑はそれに気づく事は無かった。

 

 

「織斑先生、先生には緊急時には生徒達及び来賓方への避難誘導及び安全の確保という大切な仕事があったはずです。それなのに何故篠ノ之さんと一緒に放送室にいたのですか?」

 

学園長は逆に千冬に今回の事件における問題行動について詰問した。千冬はそれは、その・・とゴニョゴニョしていたが急に何か閃いたように言い訳を始めた。

 

「そ、それは篠ノ之が急に居なくなったので探しに行っていたからです。教師たるもの生徒が急に居なくなれば心配して探しにいくものでしょう」

「なるほど。では山田先生、織斑先生に篠ノ之さんがいないので探しにいくという旨の事を報告されていましたか?または引継ぎなどはお願いされましたか?」

「いえ、織斑先生は急に居なくなりましたので。現場の指揮系統は混乱しかけました」

 

千冬は山田先生に余計な事を言うなと言わんばかりにキッと睨みつけた。山田先生は多少たじろいだが自分の言葉を撤回することは無かった。

 

「分かりました、その件に関しての処分は最後に通達します。では次に篠ノ之さんから話を聞きましょう」

 

篠ノ之の顔は誰が見ても分かるほどに不貞腐れていた。「なぜ自分がこんな所にで尋問されなければならないのだ!」という内心が透けて見えた。

 

「篠ノ之さん、何故貴方は避難せずに放送室に行ったのですか?」

「それは一夏に活を入れる為だ!あんな訳の分からないISに苦戦していたから活を入れてやろうと思ったんだ!!」

「ほう。しかし織斑君のISは既にSEが切れかけていたのですよ。そんな状態でどう戦えというのですか?」

「そんなもの気合いさえあれば!「気合なんかでSEは回復しねえよ。バーカ」き、貴様!?」

 

訳の分からない理屈を言う篠ノ之に呆れたソレイユから侮辱の言葉を掛けられ、怒りの顔を向ける篠ノ之であったが欠伸でソレイユは返した。

 

「ソレイユ君の言う通りですよ。貴方がやった事は自分と放送室に居た生徒達を危険に晒しただけです。もう一つ聞きたい事があります。放送室に元々居た生徒達を貴方は竹刀で危害を加えたそうですね。なぜそのような「何だと!」ど、どうかしましたソレイユ君」

 

放送室にいた生徒達に危害を加えたという言葉にソレイユは顔色を変えた。以前のお茶会の時に本音から姉がおり、今度のクラス対抗戦で放送を担当するというのを聞いていたからである。

 

「学園長、放送室に居た生徒達は大丈夫なんですか?」

「え、ええ。多少の怪我はしていますが、全員命に別状はありません」

 

学園長の返答に安心したソレイユは篠ノ之を睨みつけて問い詰めた。

 

「おまえなんでそんな事しやがったんだ!?」

「ふん!そんな事お前に「答えろ!」ウッ・・・あ、あいつらが一夏に喝を入れようとした私の邪魔をしたからだ!だから排除したんだ。悪いのは邪魔をしたあいつらで私は悪く無い!!」

「おまえのせいで下手したら全員死んでたかもしれないんだぞ。お前が死ぬのは自業自得だが、他の生徒まで巻き添えにしていいと思ってるのか!!?」

「おまえなんかに説教を受ける筋合いは無い!それに千冬さんも邪魔をする奴は叩きのめせと言っていたぞ」

 

篠ノ之のとんでもない発言に学園長と山田先生は顔色を変えて驚いた。仮にも教員が生徒に暴行を支持するなど断じてあってはならないことである。

 

「織斑先生今の話は本当ですか!?」

「え、いや・・それは・「千冬さんも言ってやってください。一夏に喝を入れるのを邪魔するような奴は敵だ。叩きのめせと」篠ノ之!!」

 

何とか誤魔化そうとしていた千冬であったが、篠ノ之の自白により自身が暴行を指示したことが証明されてしまった。千冬は先程同様に篠ノ之を睨みつけたが、篠ノ之は自分の発言のなにが悪いのか理解できていなかった。

 

「織斑先生、今回の件はハッキリ言って教師としても社会人としても失格と言わざるを得ません。相応の処罰を覚悟しておくように」

 

学園長に叱責された千冬は顔を俯かせて黙った。最も反省している訳では無くどんな処罰を受けるのだろうかと考えていただけである。

 

「これで分かっただろう!私が全く悪く無く、悪いのは邪魔をした放送部に居た連中だと!!そもそもお前が一夏の邪魔さえしなければこんな事にはなってなかったんだ!悪いのはお前の方だ!」

「てめえ、それを本気で言ってんのか・・・!?」

「何だ!?私は何も間違った事は言っていな・・・な、なんだその目は!?」

 

篠ノ之の身勝手な言動に堪忍袋の緒が切れたソレイユはゆっくりと篠ノ之に向かって、体全体から殺気を漂わせて歩き始めた。

 

「な、なんだお前!私に何をするつもりだ!私は篠ノ之束の妹だぞ。私に何か有ればただでは済まないんだぞ!」

「・・・・・・」

「おい、ソレイユ何をする気なんだ辞めろよ!!」

「邪魔だ!」

 

ソレイユは立ちはだかった一夏を弾き飛ばして歩みを進めた。周囲はタンジェントを除いてソレイユの怒りによる威圧に圧され呼吸さえも忘れていた。

 

「う・・・うわーーー死ねーーー」

 

恐怖に負けた篠ノ之が何処からか取り出した木刀でソレイユに襲い掛かったが、ソレイユは木刀を片手で受け止めるとそのまま握り潰した。

 

「ヒッ・・・」

「ウオーーーーーーーーー」

 

ドッゴーーーーーーーーーーン 「ヴォゲァア!!!」

 

怒りに満ちたソレイユの強烈な覇気を込めた一撃は篠ノ之の顔面に入り、勢いそのままに篠ノ之は吹き飛んでいった。学園長室の壁を突き抜けたが、それでも勢いは止まることは無く隣の空き教室の壁にめり込む形でようやく止まったのであった。

 

「屑が・・・姉がゴミ屑なら妹もゴミ屑だな」

 

吐き捨てるようにそう言うとソレイユは頭を掻きながらタンジェントに軽く謝った。

 

「わりぃな、タンジェント。どうしても我慢できなかったんだ」

「ニャハニャハニャハ、ソレイユさんがやらなければ私が切り捨てていたところですよ」

 

続いてソレイユは学園長に向き直り唖然としている周囲を無視して姿勢を正して頭を下げた。

 

「すいません。修理費はこちらの方に請求してください」

 

一枚のメモ用紙を渡すとソレイユは何事もなかったかのように自分が元居た場所まで戻っていった。その後、最初に気を取り直した学園長により今回の事件による処罰が発表された。

 

「織斑先生は減給半年及び緊急時の指揮権の剥奪と篠ノ之さんに暴行を教唆したとして被害に遭われた生徒達への賠償、加えて担任から副担任に降格。代わりに山田先生を担任とします。篠ノ之さんは反省文100枚に停学一週間と致します。協議は以上です」

 

篠ノ之への罰が軽い事にソレイユは抗議したが、下手に重い罰を下すとIS委員会の横槍が入れられる可能性がある事、篠ノ之束の不興を買う可能性がある事、なによりソレイユにより跡が残るほど強烈な一撃を喰らっているという事情によりこの程度に済んだ事を説明されて引き下がった。一撃をかました事を言われてはソレイユもこれ以上何も言えず、学園長に挨拶を済ませてタンジェントと部屋を後にした。

 

織斑も篠ノ之を殴打したソレイユに何も罰が無い事を抗議したが、木刀で先に殴りかかったのは篠ノ之の方でありソレイユの行動は正当防衛として認められるとけんもほろろに相手にされなかった。それでも食い下がろうとしたが姉から無理矢理止められ、引きずられるように部屋から出て行った。学園長以外の人達も順次部屋から退出していった。

 

 

「あの侵入してきた無人機を詳しく解析できてたら、いろいろ分かった事もあるだろうに。本当に余計な事しやがって、あのメス共」

 

帰りの軍艦の中の自室でソレイユはビールを飲みながら一人ごちた。一発かましてやったものの箒に対して完全に腹の虫が収まった訳では無い。むしろヨウヨウの実の力も込めてやったら良かったと後悔しているぐらいである。

 

「ニャハニャハニャハ、ソレイユさん大分ご機嫌斜めですね」

 

ノックをした後にタンジェントが部屋に入ってきた。ソレイユはタンジェントを一瞥すると短く「ああ」とだけ答えてビールをまた煽った。その様子を見たタンジェントは冷蔵庫からビールを取り出してから、厳かな顔になってソレイユの向かいに座った。

 

「ソレイユ、今回無人機を解析出来ないのは確かにあの馬鹿どものせいですが、0,5%程は貴方にも責任があるのですよ」

「お、俺に責任が!ど、どんなだ」

 

タンジェントの思いがけない言葉にソレイユは思わず立ち上がって問いかけた。そんなソレイユに手で着席を促してからタンジェントは語り始めた。

 

「ソレイユさんの責任というのは言い過ぎたかもしれません。しかしソレイユさんが最初の一撃で仕留めることが出来なかったのはふがいない事ですよ」

「そ、それはそうかもしれねえが・・・でも「大将黄猿でしたら間違いなく一撃で仕留めていましたよ」っ!?」

 

非常に痛い事を突かれてソレイユは顔をゆがめて黙った。少将と大将を比べるのは酷だと思うかもしれないが、能力だけを見るなら同じ自然系かつより強力な能力を持っている為ソレイユは反論する事が出来なかった。

 

「それにもしソレイユさんが武装色の覇気を外に纏う事が出来ていたら、レインボーシャワーを使う必要など無かったはずですよ。剃で高速で近づいて掴んでしまえば後は覇気を流して中の機械を破壊してしまえばそれでお終いだったでしょう」

 

まごうことなき正論を言われたソレイユはビールを飲む事も忘れて固まった。極論だと思うかもしれないが海兵にとっては強さこそがステータス。自分の不備を淡々と言われては黙るしかなかった。

 

「まあ、長々といろいろ言いましたが私が何を言いたいかというと・・・」

 

タンジェントはビールを開けて一気に飲み干してからソレイユに一喝した。

 

「あの程度の雑魚一撃で倒しなさい!この未熟者!!」

 

タンジェントの一喝を受けたソレイユは思わず仰け反った。タンジェントに怒鳴られるのは今までに何度もあったがここまで強烈なのは久しぶりだ。それだけソレイユの成長の停滞に苛立ちを感じていたのだろう。

 

「・・・タンジェントの言うとおりだな。最近の俺はどこか弛んでいたのかもしれない」

 

その言葉を聞いたタンジェントはニッコリと微笑み、ソレイユに宣告した。

 

「ソレイユさんならきっと分かってくれると思っていましたよ。これからもビシバシ鍛えていきますから。手始めにまだ習得出来ていない6式の鉄塊と紙絵を使えるようになってもらいます。そして・・・弛んでた罰として今日から3日間禁酒です」

 

タンジェントは新たにビールを2本持ってくると、両方とも自分の側に置きこれみよがしに飲み始め、ソレイユはこの世の終わりのような顔をしていた。

 

「それはねえだろ!!?」

 

ソレイユの悲鳴にも似た叫びは船内に響いたのであった。

 

 

ソレイユがタンジェントに禁酒(死の宣告)を告げられた頃、誰も知られていない某所でウサ耳を付けた1人の女マッドサイエンティスト=篠ノ之束がモニターに椅子を投げつけていた。モニターは煙を噴いて、完全に壊れていた。

 

「ハァハァハァ・・・何なんだよ一体何が起きてるんだよ!!」

 

束は半狂乱に陥りながら叫んでいる。こうなっている原因は先の侵入したIS(束が一夏に活躍させようと送り込んだ物)がソレイユに撃破された事に怒り、海軍にハッキングを仕掛けようとして返り討ちに合い逆にハッキングされ居場所が特定されそうになったせいである。

 

「何なんだよ!あのソレイユとかいう奴、本当ならいっくんが活躍する所を横取りしやがって!!それにあいつのISの威力も訳が分からないよ!?あんなもの誰が作ったんだよ!?この天才である束さん以上の天才が居る?そんなの絶対にあり得ないよ!!?」

 

非常に自己中心的な事をまき散らしながら束は荒れている。傍から見ればまるで大きな子供が癇癪を起しながら駄々をこねているようにしか見えなかった。

 

同じ頃、エッグヘッドに居るベガパンクは先の束による攻撃(ハッキング)についてボヤいていた。

 

「全く忙しいのつまらん悪戯してきおって。まあいい、既に動向を監視できるウイルスは送り込めたしのう」

 

機械を壊す事でハッキングを防いだと束は思っているが束以上の天才であるベガパンクは既にハッキングを済ませていたのである。これで海軍側は常に束の動向を監視できるようになった。

 

「それにしてもISなどという欠陥だらけの兵器でどうして他の国が騒ぐのか全く分からんわい。私ならこんな失敗作を公表するなど絶対出来ん」

 

完璧主義者であるベガパンクにとってISとそれを作った束は軽蔑の対象でしかなかった。自分が作り出したピースと比べれば雲泥の差だと思い、再び研究に戻った。




禁酒期間を無事に耐え抜いたソレイユ
気分転換も兼ねて外で飲もうとぶらついていると一軒の食堂を見つける
食事を楽しんでいるソレイユ達の元にチンピラの因縁が!?

次回、IS 復讐の海兵
「海軍将校御用達認定 五反田食堂」
あいつらは必ず地獄に落とす!!


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