蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~ (鳳慧罵亜)
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序章 ~にちじょう~

西暦2148年。平和はここに訪れたのだった。

2年前のあの日、勝ち取った平和。

 

4人の若すぎる戦士たちとと、1人の少年が命懸けでもたらし、手に入れたもの。

それは尊く、誰もがいつまでも続くと信じ、続いて欲しいと願った、僕らの勝利の証。

 

それは、この日静かに、そして唐突に音をすら立てずに、崩れていったのだった。

 

――――

 

日常。

 

いつもと同じ日常。

 

いつももと同じ風景。

 

いつもと同じ生活。

 

それには何一つ例外は無く此処、喫茶『楽園』も同じであった。正午を周り、客入りがピークを迎える時間帯。この店に働くの店員は3人。なんとかギリギリで回しているのだった。

 

「お待ちどう様、一騎カレーです」

 

そう言いながら訪れた客にカレーを渡している彼女、遠見真矢も同じいつもの風景の一コマである。1年ほど前から、この喫茶でアルバイトをしている。2年前、島に平和をもたらしたあまりにも若き戦士の一人だった。

 

「ヘイよ、米茸2セット」

 

キッチンで作り終えた料理をカウンターに置いた溝口恭介。この喫茶楽園のマスターである彼も同じである。

 

「溝口さん、追加ね」

 

真矢はそう言うと、溝口が「えぇ!?」と驚くのをよそに、品を客人へと持っていく。

 

そして一騎カレーの「一騎」の由来である人物は、溝口の隣で瞳を閉じながら、手探りで目当ての品を探している。

 

「一騎カレー2セット追加ぁ!」

 

溝口の声に一騎は呆れながら「やめてくださいよ」と言うが、溝口は笑いながら、「お前がウチの看板なんだよー」と言う。彼こそが真壁一騎。島を守るために戦い、島を守った親友の帰りを待ち続ける少年だった。

 

そして確かに一騎は、家の事情から料理が得意である。が、一騎をからかう溝口の余裕は真矢の一言で脆くも崩れていった。

 

「溝口さん出前。アルヴィスに」

 

後ろで電話を取りながら無情にもはっきりとした口調で言った真矢に溝口は先ほどよりもさらに驚いた表情をして振り返った。

 

「えぇー!?」

 

だが、出前ではしょうがないのか、しぶしぶ「今日は祭りもあるってのにー」と言いながら、店をあとにし自転車をこいでいく。

 

―――――

 

「待ってましたよ。溝口さん」

 

アルヴィス……楽園の内側にして真実の場所へと出前を届けた溝口を待っていたのは一人の少年であった。

中性的な顔立ちをしていて、年齢は先ほどの真矢や一騎達とさして変わらない。彼はアルヴィスの特徴的な白い制服に身を包んでおり、柔らかな表情で溝口を迎えている。

 

彼もまた本来はいつもの風景の一コマでなければならない人物だが、いっそそれにふさわしくない場所にいる。その理由は溝口もすでに承知していたのだった。

 

「出前をよこしたのはお前かよ」

 

げんなりした表情で溝口はそう言いながら、肩にかけた出前のカレーを降ろす。

 

「緊急会議だそうです、おかげで仕事をサボる羽目になりましたけど」

 

「お前は何時もサボってるじゃねえか」

 

少年の言葉に溝口は呆れたような口調で返したが、彼は「サボっているんじゃありませんよ」と返した。

 

「ちゃんと「こっち」の仕事をしています。まあ、何はともあれきてください。全員、集まっていますよ」

 

少年。レイ・ベルリオーズと溝口は表側からは想像もつかないような、機械的な明るさの通路を歩いて行った。

 

―――――

 

溝口が出前に行った後の楽園。溝口と入れ違いになり、その中のいつもと同じ人影が何時もの様に、何時もの場所へと歩いていく。

 

「今年度U計画の最終確認を行う」

 

その中にいる4人の中で、最も凛とした雰囲気を持つ少女、羽佐間カノンはいつもと同じようにいつも仕事をサボる人物を待ちながら、いつももと同じ人たちと、いつももと同じ場所でいつももと同じ仕事をしていた。

 

「今年は盆踊りに、若干の変更がある」

 

此処は竜宮島。彼女たちが住んでいる家であり、楽園である。

 

「と、その前に……」

 

此処でカノンは言葉を区切り、目の前にやってきた人物を見た。そのあとカノンを先頭に、何時ものメンバーである堂馬広登、姉弟の西尾里奈、西尾輝も続く。

 

「メロンソーダと一騎ケーキ」

 

「レモンティーと一騎プリン」

 

「一騎カレーセット。番茶で」

 

「一遍に言わないの」

 

真矢はそう言いながら、受けた注文を全部紙に書いていく。

 

「忙しいのに、学校でやりなよ」

 

ピークを過ぎたばかりの喫茶店をそう表する真矢。だがカノンは「生徒会は此処でやる決まりだ」と一蹴してしまった。

 

「近藤君とレイ君来て無いじゃん」

 

ジト眼の真矢の発言にカノンは得意げに

 

「議事は副会長の私に一任されている。」とかえした。

 

「ウチの会長は、何時もの所ッス」

 

広登もそう付け足すが真矢は「レイ君のフォローはしないの?」とカノンにたずねた。

 

「あいつのサボり癖は何時もの事だろう。」

 

と少し寂しそうに言った。レイと言う人物は溝口をアルヴィスへ呼んだ少年である。カノンとは2年前くらいから、交際をしているのだが彼のサボりには少し呆れている。

 

カノンとレイは同じアイルランドのタブリンで生まれた、いわば幼馴染でお互いのことは知り尽くしているつもりだった。

 

故郷が滅び、それからずっと人類軍として戦ってきたカノンに対し、レイは最初はメカニックとして、ある人物に師事しそこからパイロットとして戦ってきたのだ。

 

そして2年前、ある作戦で彼女たちはこの島にやってきた。

そこから、彼女たちはずっとこの島で、島民たちとともに過ごしてきたのだった。

 

彼女、羽佐間カノンもまた、しまに平和をもたらした若すぎる戦士のひとりでもある。

 

そして、実のところ彼がずっと生徒会の仕事をサボっているのはカノンのためだったりするのだが、彼女は知らない。

 

そして、レイが会議中にくしゃみをしたのは、知る由も無い。




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序章 ~にちじょう~ Ⅱ

「乙姫ちゃん、今日の取れたて」

 

アルヴィスの中枢、島のコアが存在するワルキューレの岩戸の中に響く声、彼女は立上芹。以前アルヴィスでCDCを勤めており、皆城乙姫の親友でもあった。

 

2年前、彼女が新たなコアに生まれ変わったあとも、こうして夏や秋になると、いろんな昆虫を捕まえては訪れているのである。

 

「ノコギリクワガタ、ミヤマクワガタ!、クワトラムシ!!」

 

彼女の趣味は昆虫採集で、乙姫ともよく虫のことについて話し合って、時には体が弱い彼女に変わっていろんな虫を捕まえてきて見せていたのであった。

 

「皆待ってるよ、乙姫ちゃん。」

 

彼女は、島のコアがまた成長し会えることを待っている。それだけ乙姫の親友であったのだ。

 

たとえそれが何年後であろうと、また会えると信じている。

 

「たくさんお話しようね、いろんなことを教えてあげる」

 

心なしか彼女、いや彼かもしれないが、芹の言葉が聞こえているのか、その赤子のような存在の表情は、少し笑っているようにも見えたのだ。

 

―――――

 

島にある唯一の銭湯「竜宮城」の中で、一人浴場のタイルを掃除している少年がいる。

彼の名前は近藤剣司。竜宮島の高校の生徒会長を勤めている。

 

先ほど喫茶「楽園」で出てきていた「うちの会長」とは正しく彼のことである。

 

以前のお調子者だった彼は今は責任感の強い立派な青年に成長していた。今もこうして親友の住んでいた家の銭湯を掃除に来ているほどである。

 

「保さーん。祭りの準備、始まってるよー。飲まないって言ったろー?」

 

掃除が終わった剣司は家の中で、苦言を言いながら酒の瓶を片付けていた。

普段はこうして仕事をせずに保と言う人物や、俗に言う恋人関係であるの要咲良の世話などをしている。

 

「いやー、剣司君。飲んでないよー」

 

と言いながらべろんべろんになっているのは、小楯保。アルヴィスのメカニック・チーフである。

 

欠番機を除くノートゥングモデル全機の修復をなし遂げるも、妻子を失った傷心は未だ癒えず、現在は酒浸りな生活を送っており、剣司達から心配されている。

特に剣司は親友の父親ということもあって、こうして毎日のように通っては世話を焼いていた。

 

―――――

 

「っしゅん」

 

アルヴィスのブリーフィングルームで行われている緊急会議。その途中で彼、レイはくしゃみをしていた。

 

「すいません。続けてください」

 

彼は誰かうわさでもしているのかなと思いつつ、会議の儀談を聞いていた。

彼はレイ・ベルリオーズ。元人類軍のパイロットで現在は島の住人の一人だ。彼も学校の生徒会に所属しているはずなのだが、普段はこのようにアルヴィス内での仕事に従事している。

 

そして自分が担当する、ファフナーのパイロット適正、敵戦力の調査に関することを話し始める。

 

彼はパイロットの指令が不在の今、ファフナーのパイロットの代表として各パイロットの状態や、フェストゥムの解析データなどの報告を行っている。

 

「今現在のファフナー11機のうち戦闘可能なのは5機ですが、これからの戦闘において、真壁指令の仰った通りフェストゥムが襲撃来る可能性がある分心許ない数です。パイロットは自分を含め5人とも申し分ない能力を持ていますが、これからの戦闘では

やはり数を増やし、戦力増加を図るのが先決かと。その候補者はこちらになります」

 

そう言い、ファフナーのパイロット候補を映像に出す。

 

メンバーは堂馬広登、西尾里奈、西尾輝、立上芹、の計四名であった。

 

「その四人を選んだ理由は?」

 

溝口がレイに尋ねるとレイは

 

「至極単純です。この四人は、ファフナーへの適正が高く、西尾里奈、及び立上芹はCDCを勤めており、フェストゥムとの実戦経験こそありませんが、CDCでの経験は決して実戦に生かせないものではないからです」

 

「なるほどねぇ」

 

溝口は納得し、背もたてにもたれる。

 

「それで、彼らの両親たちはどうなのだ?」

 

質問をしたのはこのアルヴィスの指令、真壁史彦である。苗字で解るとおり、真壁一騎の父親であり、一騎が料理を含め家事が得意な理由でもある。

 

彼の質問はそのままの意味で、ファフナーに乗るということは、その人物は何時神でもおかしくない状況に陥るためである。それを、その子達の親は懸念するだろう。

 

「彼らの両親からは、一応の賛同を頂きました」

 

「そうか……」

 

史彦はそうつぶやくと少し後ろを向いた。だが、そこには会議室の入口があるだけでほkには何もない。

 

少し前から、真壁史彦はこうして時々後ろを振り返ることがままあるようになってきていた。

 

「――――」

 

そして、何かをつぶやいたようだが、それは誰にも聞こえなかった。

 

「真壁指令?」

 

「ッ!?」

 

レイの言葉に史彦はこちらに向き直る。

 

「我々、元人類軍含む人員のシステム操作錬度も、規定値に達しています」

 

そう報告をするのは、ジェレミー・リー・マーシー。カノンやレイと同じ元人類軍の女性兵士。レイ達と同じ境遇で、彼同様島の住人として生活している。 アルヴィスではオペレーターを担当している。

 

そして島に受け入れられ、島の防衛任務に就く事でその恩返しをしようとしている。

 

史彦は頷き、ある人物を見た。

 

「問題は、ブリュンヒルデシステムか」

 

その視線の先にいる人物は遠見千鶴。遠見真矢の母親である。

 

44歳という年齢に反して顔立ちは異様に若いが、弓子の娘、美羽にとっては祖母にあたり、 パイロット達の命を預かる者としての責任感が強く、現在も同化症状の治療薬開発に力を入れている。

 

実年齢よりもかなり若く見られたり童顔に思われたりする事を気にしているらしく、史彦に淡い想いを寄せているらしいが、真実は定かでない。

 

「はい。島の環境維持システムとも呼べるコアが、成長期に入りました。コアが成長に力を注ぐため、生態系や食料システム、島民の健康など島全体に乱れがあると予測されます」

 

千鶴がそういうと、史彦は頷き正面に向き直った。

 

「一方でソロモンに反応の兆しがある」

 

ソロモンとは、本来レーダーに映らないシリコン生命体であるフェストゥムの襲来を予測するシステム。

 

今は亡き剣司の母親、近藤綾乃が作り上げた物である。

 

「北極のミールを破壊したのに、まだ活動を続けるなんて」

 

カノンの母親であり、整備クルー兼教官の羽佐間容子は驚きを隠せない表情で言う。

 

「敵のミールも別の物に変化をしたしたのかもね。島のミールが大気になったように」

 

それに答えるのは、西尾行美。西尾姉弟の祖母である。

里奈と暉の祖母にして育ての親。

 

元アルヴィスの技術者で、ゼロファフナーを設計し建造したが、起動実験時の事故で娘夫婦を失い、開発職を退いた過去を持つ。

 

現在は駄菓子屋を経営する傍ら、アドバイザーとして史彦達に助言を与える形で出席している。

 

「フェストゥムにも、ミールに等しい物が生まれた、と?」

 

レイの言葉に史彦は「未知数だ」と答える。

 

史彦は「ソロモンの解析を続けてくれ」と続け、

 

「今は、この平和が守続くことを祈ろう」

 

そう締めくくった。




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祭前 ~ひみつ~

 竜宮島地下、アルヴィスのファフナーブルグ。

どこか、遠いところから来た敵、フェストゥムに対抗するために作られた巨人が佇む場所。

 

そこからはキーボードを打つ音が延々と聞こえている。

彼、レイ・ベルリオーズは一年と半年に渡り進めてきていたプロジェクトの最終確認を行っていた。

ある人物のために製造しているファフナー、それがもうすぐ完成を迎えるのだ。

 

「もうそのへんにしておけよ、もうすぐ祭りがあるんだぞ」

 

 整備士の一人が彼に声をかけるが、レイは「もうすぐ終わるんです」とだけ言い、また作業に戻る。

 

彼女のために、一年と半年を掛けて造り上げたファフナー。それがもうすぐ完成を迎える。今の彼はそれが嬉しかった。

 

「……これで、終わり」

 

最後の確認を終え、画面を切り替える。そこに映し出されたデータはすべてがグリーン。つまり機体の完成を告げていた。

 

上を見上げる。目の前に佇むのは深紅の巨人。

周りに佇んでいるいくつもの巨人と似ているようで、その実かなり違っていた。

 

背部にある2基の大型ブースターをはじめとして、大腿部のブースター。腕部や脚部に設けられた追加装甲。全体的に細長いシルエット。

 

これはどちらかというと、一番左の1番の右、2番格納庫にあるファフナーに特徴は似ている。

 

レイはそのファフナーを嬉しそうに見上げる。その赤いカラーは彼にとって特別な色でもある。この島に来る前、人類軍にいたときよりも前、まだタブリンにいたころから彼の傍にいた赤い髪の少女。

 

「……さて、そろそろ祭りもあることですし、名残はつきませんが」

 

そう言い残し、彼はエレベーターに乗る。また生徒会サボった事怒られるかな、と考えながら。

 

―――

 

「まったく、あいつはいつもいつも、この前だって―――」

 

そう言いながら夕暮れの道を歩いている彼女は羽佐間カノン。彼女が怒っているのは他でもない、レイのことだ。

 

彼女はレイが生徒会の仕事をサボっているのは自分の為であるとは知らない。レイが教えていないし、他の人にも伏せてもらっているのだ。何故伏せてもらっているのはとても単純で、どうでも良いような理由である。

 

「はあ……」

 

カノンは溜息をつき、少し自嘲気味に笑う。飼い犬のショコラが首をかしげているのは気にしない。

 

「あいつにも、事情があるのも分かっているつもりなのに、何を怒っているんだろうな」

 

 顔を伏せながらそこまで言った後、ぱっと顔を起こし少し大きな声で空に向かって宣誓する。

 

「今日あいつに会ったら、思いっきり甘えてやる!!」

 

そう大声で空に宣誓し、家に向かって走り出す。

ショコラは一瞬遅れた後、「ワン、ワン」とほえながら走り出す。

 

そしてその影、カノンの後ろにある曲がり角では……。

 

「今日はなるべく会わないほうが良いかもしれません……」

 

レイが少し顔を引きつらせながら出てきた。

ああいった後のカノンは別の意味で怖いのだ。

 

まだタブリンにいたころ、祭りの日にレイはデレデレのカノンに振り回され、次の日に、過労で体調を崩し、学校を休んだ記憶がある。

 

「……前途多難ですね」

 

そうつぶやくレイの前を、自転車で溝口がヒーヒー良いながら通り過ぎていった。会議が終わって、大急ぎで祭りの準備をしに行くところだろう。

 

――――

 

喫茶『楽園』

祭りがあるため、何時もより早く閉店した楽園では二人の少年少女が机に付していた。

 

「やっと終わったー」

 

先ほどまで片づけをしていた遠見真矢はこれから祭りがあるというのに既にぐったりしていた。

 

「何で今日に限って客が多いんだよ」

 

同じく真壁一騎も机に突っ伏していた。

祭りの前に彼らは燃え尽きてしまいそうである。

 

そんな彼らに追い討ちを掛けるためか、意外な来客が来た

 

「今日はお祭りもありますから、景気づけに来たのでしょう。もっともこの後が本番ですが」

 

「……レイ君、もう閉店だよ」

 

真矢がだるそうに言うがレイは「コーヒー一杯くらい出してくださいよ」と苦笑し、カウンターに入りコーヒーを入れる。

 

「レイ、この時間に外にいるって事は、終わったのか?」

 

一騎の質問にレイは

 

「はい、ようやく完成を迎えました。あとは試運転と微調整だけです」

 

と答え、真矢の隣に座る。このときに二人の分も入れるのがレイの優しさだろう。

 

「まだカノンには話してないの?」

 

真矢の質問に対し、レイはコーヒーを啜りながら答えた。その表情は少し恥ずかしげでもある。つまり、彼がカノンに何も言わないのはそういう理由であるのだ。

 

「そんな恥ずかしいこと、できませんよ。それに真矢さんこそ、言わないのですか」

 

レイの反撃に真矢は顔を赤くしながら「な、なんのこと」と噛みながら言った。

真矢が一騎に好意を寄せているのは周知の事実だが、当の本人は

 

「?」

 

である。

 

「フフッ、じゃあ僕はこの辺でお暇しましょう。ではお祭りの時に」

 

いすから立ち上がり店から出て行こうとしたレイは、ドアを開けたとき、ふと思い出した様に、振り返り「あ、そうそう」と言った。

 

「真矢さん」

 

「な、なに?」

 

レイの微笑から嫌な予感がした真矢はいぶかしげに聞き返した。

 

「頑張ってくださいね」

 

「な!?」

 

「ん?」

 

突如のレイの応援から、真矢は耳まで真っ赤にし驚きの声をあげ、一騎は不思議そうに首をかしげるのであった。

 

「フフ、やはり面白いですね貴方達は」

 

「も、もうレイ君!」

 

「何のことだ?遠見」

 

「か、一騎君には関係ない」

 

2人のやりとりに満足したのか、レイは「それでは」と言い残してドアを閉めた。

そして、顔を赤くしながら2階に駆け足で上がっていく真矢を見送りながら、一騎は変わらず首をかしげたまま、ゆっくりと椅子から立ち上がったのだった。

 

今日も島に流れる平和な一時、だが、それは確実に崩壊を迎える。

 

太平洋を進む一艇の潜水艦。

 

その内部に赤く輝く水晶。

 

そしてその中に浮かぶ人影。これが何をもたらすのか誰も知る由も無い。




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祭り ~さとう~

カノンは自分の家に到着すると、門を開けて中に入る。家の前まで走って帰ってきたのに息切れ一つ無いのはさすが元軍人というべきか。

 

家のドアを開けると、そこに待っていた人に向け、こういった。

 

「ただいま、母さん」

 

彼女は2年前、人類とフェストゥムの最大にして最後になるであろう決戦、蒼穹作戦の決行前、ある人物にこう言った。

 

―――生きて帰ってこれたら、母と呼んでもいいか―――

 

そう羽佐間容子、今の自分の母に訊いたのであった。彼女は見事、それを成し遂げ、6年前に失った大切な物の一つを取り戻したのだった。

 

「お帰りなさい。準備、できてるわよ」

 

羽佐間容子はそう返事をした。「準備」とは、今日の祭りのメインと言うべき物である。

 

今日の祭り、すなわちU計画では、亡くなった人の名前を記した灯篭を海に流し、その人の冥福を祈るのである。

ちなみにU計画とは、盂蘭盆の頭文字を取って「U計画」である。こうした風習は昔に廃れているため、アルヴィスでは文献などからの復元が試みられているのだ。

 

では、羽佐間家では誰が亡くなったのか?カノンがリビングに行くとその机には、灯篭と綺麗にたたまれた着物が置かれていた。

 

灯篭に書かれていたのは、「羽佐間翔子」かつて、羽佐間容子の娘だった人物である。

 

彼女は、遺伝性の腎臓病の持ち主で、学校に行くことも少なかったが、とある理由から真壁一騎に思いを寄せていた。だが、ある時、フェストゥムトの戦いで、島を……いや一騎のいる島を守るために、ファフナーに搭載されている最終手段。

 

気化爆弾「フェンリル」を使い、フェストゥムもろともに消滅したのであった。

カノンは着物を抱きしめ、ゆっくりと頭を伏せ今は亡き自身の姉に黙祷をささげたのであった。

 

 ――――

 

此処は要邸。要咲良と言う人物の住まう場所である。彼女は今、中庭の池で鯉を眺めながらある人物を待っていた。

 

「咲良」

 

自分を呼ぶ、その声に咲良は顔を綻ばせつつ立ち上がり、振り向く。そこには予想どおりの人物がたっていた。近藤剣司。彼女の恋人である彼は、つい先程までカノンたちと同様、生徒会長の仕事で祭りの会場に行っていたのであった。

 

「おそい!」

 

「わりぃわりぃ、大丈夫か?立ってて」

 

剣司の言葉はそのままの意味で、咲良は2年前は柔道が得意で男勝りの道場娘として有名だったが、フェストゥムとの戦いが激化していたころ、同化現象に倒れたのだ。

 

現在はだいぶ回復してきているが、後遺症で病弱な体になっっており、車椅子が必要な生活をしていた。

 

「うん、調子が良い見たい。今日は歩けそう」

 

「でも、無理は駄目だろ。ほら乗った乗った」

 

「はいはい」

 

何気ないやり取りだが、咲良は剣司の何気ない優しさが好きだった。そして、車椅子に座り剣司が押そうとしるが、次の瞬間剣司は言ってはならないNGワードを言ってしまった。

 

「咲良、重くなった?」

 

「ッ!!」

 

 ズンッ

 

剣司の腹に拳がめり込む。病弱になっていても男勝りなところは変わらない彼女である。剣司の今の失言は見過ごせないのだろう。

 

 祭りの日も彼らは平和であった

 

 ――――

 

「さて、そろそろ大丈夫でしょう」

 

あたりは暗くなりつつあるこの時間に、レイは一人家に向かって歩いていた。それはもちろん、カノンとの接触を避けるためである。

 

レイにとっては、カノンとは祭りの会場で、そして大体のメンバーが揃っている状況での接触が最上だ。だが、こうして家に帰ってきているのは理由があった。

 

「やっぱり、せっかくですので着物には着替えたいですからね」

 

そう言いながら、家の前まで着いた。

 

レイは一人暮らしなので基本的には家の中には誰もいない。だが、家事は基本的に出来る彼はあまり不自由を感じたことは無かった。そして鍵を開け、ドアを開くと―――

 

「お帰り、レイ」

 

本来聞こえないはずの声、そして見えないはずの赤が彼を迎えた。

 

――――

 

夜、にぎやかな祭り会場。その中に一際賑やかな二人がいた。

 

「次はこっちだ!早く行くぞ!!」

 

「ま、待ってくださいカノン。急がなくてもお店は逃げたりしません」

 

「だが、景品は逃げる!」

 

そこにいたのは、絶賛カノンに振り回され中のレイであった。こっそりカノンが家の中にいるであろう時に帰ったはいいものの、いざ鍵を開けてドアを開けば、無人のはずの家の玄関にいたのは、着物姿のカノンだった。

 

カノンの着物姿にレイは一瞬見蕩れてしまったが、それが命取りとなり瞬く間にカノンに捕縛されてしまい、今に至る。

 

―――道生さん、カノンの向かい側に家を決めたことを今だけは怨みます。

 

そう、レイの家は羽佐間邸の、ちょうど向かい側であり、徒歩で約6歩の距離である。決めたのは今は亡き日野道生。人類軍にいたときは彼らの元上官であり、よき兄貴分だった。

 

だが、振り回されているレイもまんざらではないのか、成すがままに付いていっている。だが、一つだけ問題点が……。

 

―――さっきから当たってるんですが、これは当てているのでしょうか、当たっているのでしょうか……。

 

いま、カノンはレイの腕に抱きついている様な格好なのだが、どうしても当たってしまうのだ。ファフナー隊のなかでも抜群のスタイルを持ているカノンの豊満な胸部が。それを知ってか知らずか、カノンは首をかしげ、

 

「どうした?レイ」

 

とレイに訊いてきた。

 

「いえ。さっきから当たっているのですが…。」

 

「いやなのか?」

 

「いえ、嫌ではないんですが―――って当てているんですか!?」

 

レイはカノンの言動に驚きの声を発するが、カノンは気にした風も無く、より押し付けるように、腕を抱きしめる力を強くする。

 

「ちょ、ちょっとカノン!?」

 

「普段かまってくれない仕返しだ」

 

「いえ、恥ずかしいですって!」

 

「顔が真っ赤だぞ?りんご病か?」

 

「誰の所為だと思っているんですか!?」

 

「フフッ」

 

普段誰にも見せないようなカノンの着物姿と甘えてくる様子に、レイは「可愛いなー」と思いつつもその行動にしどろもどろになる。

 

カノンも自分の行動に少し羞恥を感じるが、それ以上に普通は絶対に見せそうに無い、レイの表情に愛しさを覚えていた。

 

「そ、そろそろ灯篭流しの時間ですよね?」

 

「ああ、もう少し楽しんでから行くとしよう。次はあの射的だ!」

 

「え、まだやるんですか?」

 

彼らも平和であった。




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登場人物 ~きゃらしょうかい~

レイ・ベルリオーズ

(イメージCV:伊藤葉純)

プロフィール

生年月日:2132年06月20日(16歳)

星座/血液型:双子座/O型

身長:170㎝

体重:57kg

好きな物:小説、コーヒー(ブラック)、チェス

 

人物像

男性とも女性とも取れるような中性的な顔つきで、淡い金髪とエメラルドブルーの目が特徴。

基本的に誰にでも柔らかい物腰と丁寧な言葉遣いをする。

カノンと同じタブリン出身で道生に保護され人類軍機体整備士となり、その後パイロットになる。人類軍に入ってから他人と距離を開け、自分の存在価値を探すようになり、それでも自分の存在について何の価値も見つけることが出来ずに、カノンのように死に場所も探せずただ回りに流されるように生きてきた。

 

丁寧な言葉遣いはその影響で、「存在価値のわからない自分は周りと対等ではない」という一種の脅迫概念を抱えていたところから来ている。

カノンたちと同時期に竜宮島に来て、道夫と一緒に人類軍から離れ、島の一員となる。

島の子供たちと交流して行くにつれ、自分の存在価値を見出していく。

 

そして、カノンと本人たちも気づかぬうちに恋人関係になっていき、最終決戦では、乗機を破壊されて、溝口たちと同じサポートに回った。

 

シナジェティック・コード形成数値はファフナーを動かすには十分あるが、フェストゥム因子が埋め込まれていないために、同化耐性は極めて低い。

だが、体内にフェストゥム因子がない分ファフナー搭乗による同化現象は起きない

 

ファフナー搭乗時には変成意識の影響で、割りと過激になる

 

シナジェティック・コード形成数値(上は黄金率)

黄金率.      0.618:1:1.618

レイ・ベルリオーズ.10.833:1:11.273

変性意識下の特徴/備考

過激/変性意識中は口調も過激ななるなどの変化もある。

 

―――

 

機体

マークヌル

分類:ノートゥングモデル

開発:人類軍

機体タイプ:高火力型

搭乗者:レイ・ベルリオーズ

初期搭載兵装

・レージングカッター(左腕部のみ)

・複合兵装型右腕部【デストロイ・アーム】

:高周波クロー

:レーザーバレット

:大型レーザー砲『シヴァ』

 

兵装説明

【デストロイ・アーム】

猛禽類の様な爪と腕部に搭載しているレーザーバレット。掌部に高出力レーザー砲「シヴァ」を搭載(そのため右腕は機械的で他の腕より一回り大きい)

爪部は高周波振動を起こし、格闘戦に対応可能。

腕部のレーザーバレットは3門搭載されており、それぞれを順に発射することで、マシンガンのような扱いが出来る。

掌部のシヴァは凄まじい高火力を誇り、複数のフェストゥムを消滅させなおあまりある。照射しながらなぎ払ったりもできる。

 

備考

ミツヒロ・バートランドと日野洋治によりもたらされた情報により人類軍が開発したノートゥングモデルのプロトタイプ。

背部にある2基の大型スラスターで機動力を確保し、

各所に追加装甲を設け防御力を上げている(これはのちにマークドライツェンを開発するに当たり参考にされている)

ゼロファフナー『エーギルモデル』の武装をヒントに開発された【デストロイアーム】など強力な兵装を持つが、戦闘能力はそれに依存しており、万一破壊されると戦闘能力が大幅に減少することや、右腕の重量が重く、結果として機動力はあるが、重心が右により、運動性はメガセリオンモデルよりも低くなっている欠点がある。

 

機体自体は以前より製造されていたが開発が難航し、マークエルフが鹵獲された時にもたらされたデータやパーツを基に完成させることが出来た。人類軍がノートゥングモデルを「丸ごと」欲したのはそのため。

ほかのノートゥングモデルとは違い、高純度水素燃料電池によって動く為、稼働時間が限定されている(後にミールのコアが内臓されたため他のノートゥングモデルと同じ可動力を得る)

機体カラーはブラック

 

本編では、マークニヒトに右腕以外をバラバラにされ、レイは蒼穹作戦時にサポート役に徹することとなった。のちに半年を掛けて修復、強化を施される。

 

その際に『シヴァ』にある程度の調節が加えられて、出力はそのままに連射がある程度の利くようにされているため、結果として火力の向上が見込まれ、スタビライザーの増設により重心の傾きによる運動性能の低下はある程度解消された。




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祭り ~さとう~ Ⅱ

祭りの会場にある溝口がやっている店。所謂射的なのだが、いろいろとおかしな物が置いてある。

 

―――ボールや陶器も十分おかしいのですが、拳銃を景品にしますか普通……。

 

レイの第一印象はそれだった。溝口のやる射的は、何故かボールや陶器、挙句には拳銃があった。

 

しかも2年前はライフルがおいてあったこともある。ボールはすぐ落ちそうだし陶器は弾が当たったら割れるだろう。

拳銃にいたっては論外だ。何故かサプレッサーや、LAM(レーザーサイト)付きという豪華2点セットなのだが……。

 

―――他の人の手に渡る前に回収しますか。

 

レイはそう思い、溝口の射的会場に入る。そこには意外な人物達がいた。

 

「あ~当たらない」

 

「残念、咲良ちゃん。残念賞の林檎飴だ」

 

剣司と咲良が先に射的会場に来ていた。どうやら咲良は一番上の段にあるおかしな形をした陶器の器を狙っていたようだ。おそらく真壁陶工の作だろう。真壁指令は『器屋』という陶器店を経営しているのだが、作る器が変な形に歪む癖を持っており、度々奇妙な陶器を作っては販売している。

 

売れ行きはほぼないそうだ。最近はだいぶ治ったようだが、たまに歪むらしい。

 

「おっ、レイ、カノン。どうだ?チャレンジするか?」

 

溝口はレイたちに気づいたようで、射的用のライフルをレイに手渡す。ちょうど良い、他の人が落とす前に拳銃を戴きますか。

 

 ――――

 

「まったく、レイの射撃技術には呆れるな、ホント」

 

剣司の言葉にレイは心外な顔をして「人を化物みたいに言わないでください」と言い返した。

 

レイは射的でむごいことに例の拳銃を一発で撃ち落し、残りの弾は陶器の群れを一つ残らず打ち砕いてしまい、溝口は顔色を悪くして掃除中であった。

 

もちろん拳銃は戴きました。今は和服の懐にしまっています。

 

「レイはああいうの、昔から得意だからな」

 

そして今、レイたちと咲良たちが一緒になって祭りを回っているのである。カノンは咲良達に見せ付ける様に、さっきよりも強くレイに抱きついている。

 

無論レイの顔は赤いままである。

 

咲良は関心半分呆れ半分「カノンさ、すごいデレデレだね」と言うがカノンは得意げに

 

「羨ましいか?」

 

と返した。途端に咲良は顔を真っ赤にし「そんなんじゃないよ!」と反論した。……何の恥ずかしげも無く、他人に見られていようとも堂々抱き付けるカノンにレイは感心してしまった。まあ、嬉しくもあるのだが。

 

「そういえば、咲良さん。歩いていても平気なんですか?」

 

「うん、今日は調子が良い見たいだから」

 

レイの問いに咲良は片手を振って応えた。レイは穏やかに微笑み言葉を続ける。

 

「そうですか、でもあまり無理は駄目ですよ。はしゃぎすぎて体調を崩したら元も子もありませんからね」

 

「ありがと。はぁ、剣司もこれくらい優しかったらね」

 

咲く良の言葉に剣司は、「いつも優しくしてるだろ」と反論するが、咲良は、「デリカシーが無いって言ってんの」と返した。

 

「さっきだって、「咲良、重くなったか?」なんて言ってた奴の、何処にデリカシーがあんのよ」

 

剣司は「うぐっ」と黙り込んでしまうが、現実は過酷である。レイが追撃をかけるように、

 

「剣司君、女性に対して体重のことはNGワードですよ」と言い、カノンは「デリカシーが無さ過ぎだな」とさらに追い討ちをかける。

 

2人の言葉に剣司はがっくりと肩を落とし、「カノンはともかくレイに女心を諭されるなんて……」とつぶやいた。

 

レイは心底意外そうに「失礼ですね、少なくとも貴方の5倍はデリカシーはありますよ」と止めを刺した。

 

「たしかに、レイは優しいもんね。でもさ、それをちょっとはカノンにもあげたら?」

 

咲良の言葉にレイは、「現在絶賛提供中です」と答え、カノンは「まだ全然足りん」と今度は頭をもたれかけ、レイは顔を赤くしながら「今日だけですよ」と言うが、満更でもなさそうである。

 

その様子に咲良が「甘すぎ、砂糖より甘いよあんたら」と批判し、剣司が「見てるこっちが胸焼けしそうだ」と言った。

 

その言葉にカノンのみならずレイが「羨ましいですか?」と訊き、剣司が、顔を真っ赤にしながら「んな訳無えだろ」と反論した。が、レイは「強がらなくても良いですよ」と笑顔で剣司に言う。

 

「誰か助けてくれ~」と咲良をみるが、咲良もカノンに質問攻めにあっていた。

 

剣司はがけっぷちに追い詰められたが、すんでのところで助けがやってきた。

 

「何やってるんだお前ら」

 

「カノン、べたべたし過ぎ」

 

一騎と真矢である。真矢がジト眼でカノンを見るがカノンは何の臆面も無く「羨ましいだろう」と言う。真矢は「別に」と動じずに返したが、顔が赤いので説得力無しである。

 

ついでに、普段は生真面目な彼女がこうまでべたべたしているのはレイの責任でもあるので、一騎と真矢はレイが懇願の眼を向けるのを軽く流した。

 

 

  ――――   ――――    ――――

 

 

突如、サイレンの音が聞こえてきた。レイたちのいる場所からは遠くて良くは見えないが、船のような物がこの島に流れて来ていた。

 

普段はシールドに守られたいるのだが、今日は灯篭流しのために、シールドの一部が解除されているのだ。その中を縫って侵入したらしい。

 

6人はそのまま動かずに、竜宮島本島に接近する船を用心深く見ていた。

 

「―――っ!」

 

そんななか突如、一騎が走り出した。

 

「一騎君!!」

 

一瞬遅れて、真矢が追いかけカノンがそれに続く。

 

続いて走ろうとする剣司を制しレイは「貴方達はアルヴィスに」と伝え、三人の後を追った。

 

一騎は島に乗り上げた船のような物に、防波堤を乗り越えジャンプし乗り移る。目が見えていないとはいえ、流石島の中でもトップの運動力を持つだけはあり、難なく乗り移ることができた。

 

「一騎君。見えてないのに」

 

「一騎、待て!」

 

少し遅れて、真矢とカノンも乗り移る。そのまま走って船の内部に入ろうとする所に溝口率いる特殊部隊が到着した。

 

「行くなお譲ちゃん、カノン!!」

 

溝口達も乗り込もうとするが、そのときにちょうどレイも到着する。

 

「人類軍の潜水艦。B-29です。内部は僕が先導しますよ」

 

そう言ったレイは懐からさっきの拳銃を取り出し、素早く安全装置を外す。そのまま船に乗り移るレイと合流した溝口たちも乗り込んでいく。

 

――――

 

一騎は目が見えていないはずなのに、迷い無く潜水艦の中を走っていた。まるで何かに導かれるように……。

 

着いた場所は、ブリーフィングルームのようだった。一騎は目の前の光景にハッと眼を見開き、つぶやく。

 

「総士っ」

 

後から到着したカノンはその光景に眼を疑う。

 

「なんだと!?」

 

そこには、赤い巨大な水晶のようなものの中に浮かぶ人影―――

―――それに両手を当てて顔を伏せている一騎。

 

「これは、コアなのか……?」

 

カノンがまず疑ったのは、この人影が竜宮島のコアと同じ存在であるかということ。が、それを他所に一騎は伏せていた顔を上げ、

 

「11番だ」

 

と呟き、来た道を戻っていく。ちょうど入れ違いで入ってきたレイが赤い水晶のような物を一概した後、

 

「カノンと真矢はアルヴィスに行ってください。嫌な予感がします」

 

と言い、カノンたちも

 

「わかった」といい戻っていく。

 

レイはコンソールを慣れた手つきで叩き、情報を引き出して行く。その中で一つの単語が目に付いた。

 

「MISAO・KURUSHU……日本語表記で『くるすみさお』。あれの名前でしょうか」

 

ちょうどそこに、溝口たちが駆けつけてきた。彼らも目の前の光景に目を剥いている。

 

「なんなんだこりゃあ……」

 

「分かりません。それより此処はお願いします。僕は外を見てきます」

 

それだけ言うと、レイは元来た道を戻っていった。

 

―――

 

「なんだ、これは」

 

潜水艦から出たカノンたちのめに映ったのは、オーロラだった。太陽風が地球に降り注ぐ時、地球の磁力線に沿うために、南極か北極でしか見られない現象。それが何故こんな場所に。それだけではなかった。

 

迎撃システムが作動し、巨大な壁に包まれ、あらゆるところから、戦車や機関砲、レーザー砲が出現した要塞

 

「迎撃スタンバイだと!?まさか!」

 

カノンの言葉もつかの間、巨大な光が夜の闇を照らす。そして光は人々にこういったのであった

 

―――あなたは そこにいますか―――

 

と……




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顕現 ~ふたたび~

展開された迎撃機構から放たれる機銃掃射にミサイルの雨。それはたった一体の敵に向けるには、いささか過ぎているように見える。

 

だが、その全てがその一体の敵にとっては、無意味と化すのだ。

 

―――いま、いまのいままで咆哮を続けていた機銃は、黒い球体に包まれる。それは敵、フェストゥムの反撃なのか、はたまた祝福なのか。

 

だがそれは確実に島の防衛機構を文字通り、無に還していくのだ。

ワームスフィアー現象という一定の範囲の空間を0次元へねじ切る、ブラックホールに近いが決定的に異なる現象を、フェストゥムは用いる。それが件にとって祝福であれ、攻撃であれ。

 

「きゃああ!!」

 

間近でフェストゥムのワームスフィアーが出現したカノンたちは悲鳴を上げる。幸い、彼女たちからは少し遠くに迎撃機構があったため、巻き込まれることはなかった。

 

そして彼女たちを見向きもせずに、フェストゥムは島へ進行して行く。その神々しさは、この世の全てを無に還す祝福である。

 

――――

 

アルヴィス内部、巨人が佇むブルグと呼ばれる場に一人の少年はいた。名を真壁一騎。彼の目の前に佇む一体の巨人。ファフナー・マークザイン。一騎は何の躊躇いも無く、戦いに赴く。大切な物を守るために……

 

「うわぁああっ、ッく!」

 

ファフナーを動かすには、ファフナーと一体化しなければならない。ファフナーの搭乗の際にニーベルングの指環という、いわば操縦桿に指を通すのだが、それとは別に大腿部と両肩部に接続機器が装着される。だが、その接続器には針があり、装着時に同化するように刺さるため、激痛を伴う。

 

その痛みに耐えてまでも、彼は戦うのだ。誰に言われるまでも無く。自分の意思で、守りたい物を守るために。

 

「マークザイン。出撃スタンバイ!」

 

「ッ!?一騎……ッ」

 

CDCで全体の指揮を執っている真壁史彦は、その名を聞いた瞬間、苦しそうな顔をする。

当然だろう。今までの出来事をなしにしても、一騎は彼の息子だ。ただひとりの我が子を戦場にたたせるというのは、誰だって苦しもののはずだろう。

 

「敵、竜宮島本島に進行!」

 

だが、咲良の母、要澄美の言葉を受け、意を決した表情で「マークザイン。出撃!」と命を下した。

 

――――

 

「これは?」

 

ファフナーブルグへ到着したカノンの第一声はそれだった。今まで空だった筈の13番ナイトヘーレ。

 

そこに今まで見たことの無い、紅いファフナーが佇んでいるのだ。

 

形状も、今まで見てきたノートゥングモデルのどの機体とも似ておらず、あえて挙げるならばレイのマークヌルに似ている。相違点は大腿部のスラスターと、通常のマニュピレータがある右腕、そして深紅のカラーリングである。

 

―――新型機なのか?

 

カノンは疑問に思ったが、今はそれ所ではない。すぐに気持ちを切り替え、自分の持ち場に走る。その紅いファフナーが、誰の物になるかを今の彼女は知る由もなかった。

 

――――

 

島へ迫るフェストゥム。その眼前の海面に、一条の白が奔る。

 

水飛沫の音と共に「それ」は姿を現した。白銀のカラーに身を包んだそれはファフナー、マークザイン。それを繰る一騎は怒りに声を荒げた。

 

「なんで……お前達なんだ」

 

――――なぜ、お前達が来た。なんで……

 

「何で総士じゃない!!」

 

ファフナーを走らせる。がその直後、マークザインをワームスフィアーが包む。全てを無に還す祝福。だが、それも、龍になった巨人には、通用しなかった。

 

ワームスフィアーが消えたそこには、ルガーランスを構えるマークザインが在った。ルガーランスとマークザインの手を、緑色に輝く結晶が包む。それはフェストゥムのワームスフィアーとは違う祝福。同化と同じ現象だった。

           

ルガーランスの砲門が開く。直後、通常のルガーランスでは有得ないほどのパワーを持つ飛翔体が放たれる。

 

それは、正しく閃光となり、フェストゥムを穿つ。ファフナーは人が唯一手に入れたフェストゥムへの、対抗手段。島の迎撃機構では、掠りさえしなかった攻撃が届く。倒すことができる。

 

ルガーランスの砲撃が直撃したフェストゥムに変化がおきた。今までのっぺらぼうの様に何も無かった頭部のような部分に、人間の、まるで苦悶の表情が現われた。だが、一騎は気づくはずも無く、フェストゥムヘ突進する。

 

フェストゥムはマークザインの腕に4枚の板のような物を出現させる。それは、ファフナーの腕をねじり、切断した。

 

切断部から緋い液体が流れる。機体に内蔵されている衝撃吸収剤であるそれは、さながら腕から流れ落ちる流血のようであった。

 

「うぐああ!ッああああ!!」

 

その痛みを堪え、一騎は反撃に出る。マークザインのブースターから、凄まじいパワーのジェットが噴射され、圧倒的な機動力を持って、フェストゥムに肉薄する。その速度は、フェストゥムに攻撃する隙さえ与えずに、ルガーランスを突き立てた。

 

「っあああああ!!」

 

フェストゥム倒れ、海へ沈む。一騎は止めを刺すためにルガーランスの砲門を展開こうとして―――、動きを止めた。

 

「―――――」

 

フェストゥムが何かをしゃべったのである。声は無いが、苦しみの表情の口は確かに何かを発している。

それに一騎は気を取られた。

 

フェストゥムはその姿を変えた。一騎は後ろに下がり身構える。フェストゥムは、瞬く間にその形を変えていき、紅く、変色していく。

 

マークザインは突然、謎のフェストゥムに吹き飛ばされ、防壁に追突する。一騎は「フェストゥム……なのか?」と疑問を口にする。当然だ、フェストゥムはその全てが、等しく金色なのだ。形態が違う物もいるがいくら、種類があり、姿かたちを変えようとも。ただ2つの例外を除いては、全て同じ金色をしているのだから。

 

紅にフェストゥムはさらに驚くべき行動をした。腕を結晶が包み、砕ける。その腕にあるものは、ライフルだった。

 

人類が使う武器を、フェストゥムは使ったのだ。そのライフルから放たれる銃弾は無慈悲にマークザインを貫く。

弾丸が直撃したマークザインは火に包まれた。だが、それだけにはとどまらなかった。なんと、搭乗者の一騎に緑色の結晶が現れだしたのだ。

 

――――

 

「人類の兵器を使った……?」

 

真壁史彦はフェストゥムが取った行動を信じられずに立ち上がり、今の言葉を発した。

 

「根本的に、異なる化学反応です!」

 

「パイロットに、急速な同化現象が!?」

 

伝わってくる報告を聞いた史彦は、「後続のパイロット、発信急げ!」と命令を下す。

 

「ッ!?ゴホッゴホッ!?」

 

直後史彦は口を押さえ、激しく咳き込む。離した自身の掌を見た史彦は。目の前の光景に大きく眼を見開いた。

―――その手は、緋色の液体……血に濡れていた。




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撃破 ~いどう~

お久しぶりです。

実はPCが故障し、しばらく更新ができませんでした。
漸く新しいPCが届き、更新を再会できます。

HDD残しておいてよかったー。


紅いフェストゥムは、崩れ落ち炎上するマークザインに止めをさすべく、体から再び、緑の結晶を出現させる。砕け散った結晶の中に在ったのは、ミサイルのようだった。

 

それを喰らえば今のマークザインと一騎にはひとたまりもないだろう。噴射口から炎を吹き出し、今まさに発射するミサイル―――

 

―――が、それは一騎に届くことなく、フェストゥムの目の前で爆発した。

 

空を見上げると赤紫色の巨人が空を舞うように飛んでいた。

 

赤紫色の巨人、マークジーベン。島唯一の飛行型のファフナーはその両手に大型のレールガンを保持している。先ほどミサイルが爆発したのは彼女がミサイルを狙撃したのだった。

 

本来、彼女ならミサイルではなく、フェストゥム本体を狙い撃ちできただろう。だが、それではミサイルは発射されて一騎の身が危なくなる。だから彼女はフェストゥムではなく、それよりもはるかに小さいミサイルを撃ったのだ。

 

「まだ生きてる」

 

搭乗している遠見真矢は普段の彼女とはうって変わり、至極『冷静』に、淡と敵の状況を「仲間」に告げる。

 

紅にフェストゥムのすぐ眼前の海面から青白く光る球体が飛び出し、破裂した。

その中から出てきたのは、深緑の巨人。

 

「目の前かよーーー!?」

 

深緑のファフナー、マークアハトに乗るのは近藤剣司。出撃直後、敵の目の前に飛び込んだことに大目玉を食らうが、それでも『焦ることなく』正確に、フェストゥムへ、銃を向け引き金を引く。

 

マークアハトの装備している銃は『ガルム-44』、大口径のアサルトライフルで彼のメインウェポンといて愛用されている。掃射を避け、移動するフェストゥム。

 

だが、それは彼らに誘導されていることに気づくことはなかった。

 

真紅のフェストゥムの背後から、ホバー移動で海面を滑るように接近するのは橙色の巨人。

 

「ぬぅううううううぁああああああああ!!!」

 

橙色、マークドライを繰る羽佐間カノンは理性的な面を押しのけ、感情を『剥き出しに』しフェストゥムに襲い掛かる。

 

気がついた時には既に手遅れ。振り返ったフェストゥムは回避行動すらできずに、マークドライのルガーランスによる突きを食らった。ルガーランスがフェストゥムに深々と突き刺さる。先端が広く、返しのような形状になっているため、こうなったら簡単には引き抜けない。

 

そして、それで済ませるほどカノンは優しい筈は無かった。

 

ルガーランスの刀身がフェストゥムに「刺さったまま」展開く。展開した刀身とそこから流れる電流は、その直後の光景を簡単に想起させる。

 

「くらええええええ!!」

 

改良されたルガーランスの機能である熱核プラズマ砲は全くのゼロ距離射撃で、フェストゥムに直撃する。衝撃でルガーランスは引き抜け、直後にフェストゥムは爆炎を上げる。

 

ここまdの動きと流れ、2年前と比較しても見事な連係プレーだった。それを観察している人物は、こう評価する。

 

「皆それぞれ、蒼穹作戦から半年間、各々の長所を磨き上げ連携に生かせる様になった。もう、あの3人だけでも十分に島を守ることができる」

 

そう評するレイは、潜水艦の甲板でファフナーとフェストゥムの戦闘を眺めながら呟いた。

 

今、彼のファフナーは整備中で発進できる状態ではないが、ファフナーパイロットの代表として戦闘を見届ける必要があった。

 

「とはいえ、新種とは……これからの対策を練る必要がありますか」

 

そして、彼は既に今後の対策についての検討を始めていた。

 

――――

 

紅いフェストゥムはいったん全員から距離をとった。そして全身から不気味な眼のような物を出現させる。そこから、恐ろしいほどの高エネルギーが集中されていく。そして、その狙いは……マークザインだった。

 

その瞬間、マークザインのカメラアイが輝く。

 

崩れ落ちたマークザインが再び立ち上がり、文字通りその身を焼き続ける炎を振り払った。

 

「ぬぁあああああああああああああ!!!」

 

力の限り叫ぶ一騎。同時に彼の体を蝕んでいた同化現象の証である緑色の結晶も砕け散る。

 

ルガーランスを眼前に突き出し、構える。その刀身からは先ほどの砲撃やマークドライのゼロ距離射撃とは、比べ物にならない電流の輝きがほとばしり、刀身すらも輝かせた。。

 

 

光・一・閃

 

 

真紅のフェストゥムとマークザインが、同時に切り札を発射する。

紅と銀それぞれの最大火力がぶつかり合いその力は拮抗する。が……

 

 

――――

 

「……勝ちましたね」

 

先ほどから戦闘を観察していたレイ、フェストムとマークザインの撃ちあいになったのを観て、ふと呟いた。

 

「真正面からまともに撃ち合って、マークザインに勝てる「モノ」なんて、この世界には存在しない」

 

そうつぶやいた直後、マークザインの閃光が、紅いフェストゥムの閃光を飲み込み紅を黒に変えて粉々に吹き飛ばす。

 

粉砕された真紅のフェストゥムはその破片一つ一つがワームスフィアーに飲まれて、無に還っていった。

 

「て、敵消滅」

 

アルヴィスでは要燈美がフェストゥムの消滅を真壁に報告、真壁史彦はその額に汗をにじませ、右手に拳を作りきつく握り締めていた。

 

その拳から一滴の緋い液体が流れ落ちる。

 

――――

 

アルヴィスの一室。そこからはキーボードをたたく音が聞こえてくる。

 

「フェストゥムの同化現象は通常α線を通して身体の染色細胞に影響を与え、そこから外部のミトコンドリア、ゴルジ体などの細胞組織を同化しながら広がるのですが、これはα線ではなく……仮称としてσと呼称。σ線から外部組織を同化し始める。つまり、今までは内部からの同化に対応した物などが開発されてきていましたが、これはまったく別の同化進行。会議で遠見先生と検討しますか。次にあの紅いフェストゥムについて……」

 

レイはアルヴィスの自分が使う部屋で新たに発覚した同化現象や、フェストゥムノ戦闘データなどをまとめていた。

ファフナー部隊の代表として彼は戦術面から部隊の状況などを分析し、敵の襲来に備える役目がある。これを理由に、生徒会の仕事をサボるのは困り者なのだが。

 

「……これで、良いでしょう。あとは、13番の実戦試験と、新人のデータまとめか。……徹夜明けは眠いです」

 

などと一人愚痴りながら、レイは部屋を後にした。

 

―――全島民に告ぐ―――

 

島全域にアナウンスが流れた。

 

―――これより竜宮島は停泊地点を離れ、上空に出現した現象からの脱出を図る。―――

 

真っ暗な医療室。その中に赤色に光る一つのカプセルがあった。その中に眠るのは、あのB-29の中に在った結晶の中で眠っていた少年。データベースには「来栖操」と名前が刻まれていた。

 

―――また速やかに戦時体制に移り、更なる敵襲来に備えなければならない―――

 

遠見医院では遠見千鶴がある人物のデータを見て、打ちひしがれた声を上げた。

 

「そんな。こんな、こんなことって……」

 

―――皆の理性と尽力を期待する―――

 

こうして、島は動き始めたのだった。

 

――――

 

「おう、レイ。此処にいたか」

 

剣司はレイを見つけて彼に駆け寄る。

 

「剣司君ですか。同化しました?」

 

欠伸をしながらレイは剣司に返事をした

 

「お前、何か今字を間違えなかったか?」

 

「はて、何のことでしょう?それより、スーツ姿って事は、これから新人の訓練ですか?」

 

剣司は頷きながら「ああ、まあそうはいっても、ファフナーの動きに慣れさせるのと自信を付けさせるために今回はやられ役だけどな。」

 

と剣司は言った。これも2年前から進歩した点だなとレイは思いつつ、「そうですか」と言い

 

「僕もこれから13番の実戦試験に移りますので、頑張ってください。あと、データの提出も忘れないでくださいね」

 

「わかってるって。じゃ、後でな」

 

そういって剣司は走っていった。ちょうど入れ違いに待ち人がが入ってくる。

 

「レイ、新型のテストってどういうことだ?」

 

彼女―――カノンはレイにそう聞いた。レイは「そのままの意味ですよ」と、答えこう続けた。

 

「性能は保証しますよ。早く行きましょう、容子さんも待っています」

 

「わかった」

 

二人はブルグへ歩き出した。




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撃破 ~いどう~Ⅱ

「母さん!」

 

ブルグへの扉が開き、そこから走ってきたカノンは、自身の母を呼ぶ。

 

「ここでは整備クルー兼教官よ?」

 

「っ……すいません、羽佐間先生」

 

「フフッ。珍しいですね、カノンが公私混同するなんて」

 

カノンが公私を混ぜてしまうのは珍しいことだった。それほど、新型機のテストが楽しみなのだろう。

 

「こっちよ、カノン」

 

羽佐間容子もそんなカノンを心情を読み取ったのか、微笑みながらカノンとレイを案内する。

 

案内された先は、13番ナイトヘーレ。今まで欠番だったゲートには今、深紅の巨人が佇んでいた。カノンはそれに見覚えがあった。それは、先日のフェストゥム襲撃でブルグに来たとき、見かけたものと同じだったからだ。

 

あの時は非常時なこともあって、あまり気には止めなかったが、今見ると、その特徴がよくわかる。

 

基礎設計はマークヌルと同じで、全体に追加装甲を施て防御力を増強し、増加した重量でも高機動を維持する為の、ヌルのそれよりも大型化した2基の背部ブースタ。

そして、ヌルには実装されていない通常のマニピュレータを持った右腕部に、大腿部のブースタである。

 

総じて、十分な防御に高い機動力、運動性を併せ持った高機動近距離戦を主にした機体である。特徴としては、彼女が最初に乗っていたベイバロンモデルと同じものである。

 

「これが……」

 

「マークドライツェン」

 

カノンがそれを見上げながら感嘆の声を上げ、容子が説明をする。

 

「まだ誰も乗ったことの無い、貴方だけの、第13番機よ」

 

容子の説明にカノンは嬉しそうに「私だけの機体」と呟く。

 

「では、早速ですがスーツに着替えてください。まだ、機体が出来上がっただけなので、デバックや誤差の修正がすんでいないんですよ」

 

「ああ、わかった」

 

カノンはそう答えると、走りながら更衣室に行った。それを容子が心配そうに見つめるがレイは「大丈夫ですよ」と容子に言う。

 

「ドライツェンの性能は僕が保障します。それに、カノンは貴方が思っているよりも強いですよ」

 

そう言いながら、レイはシナジェティックスーツに着替え、こちらに走ってくるカノンを微笑を浮かべながら見つめていた。

 

――――

 

「ぬあああああ!!」

 

フェストゥムにルガーランスが突き刺さる。その刀身はフェストゥムに突き刺さったまま広がり、プラズマを展開する。

 

真実ゼロ距離で直接内部に撃ち込まれる熱核プラズマの弾丸はフェストゥムのコアを粉々に粉砕し、直撃を受けたフェストゥムはそのまま爆発し自身をワームスフィアに飲まれ消滅する。

 

ルガーランスをプラズマ砲のゼロ距離射撃の反動を利用して、砲撃と同時に引き抜きすぐに後ろ側に飛び退く。その直後、ドライツェンのいた場所がフェストゥムのワームスフィアが出現した。

 

カノンは地面を滑るように高速で移動しながら、今度はルガーランスを前に突き出す。

展開された刀身から、再びプラズマが走る。

 

直後、ルガーランスからプラズマの弾丸が射出され、フェストゥムに直撃する。以前ではできなかった攻撃方法だが、改良されたルガーランスでは可能になった射撃戦だった。

 

シミュレータの世界では仮想の敵を瞬く間に撃破していく深紅の巨人の姿があった。本来ならば模擬戦と言う形にしたいのだが、ファフナー訓練用の慶樹島は今、剣司達が新人の訓練に使用しており、こちらも模擬用の設定ではなくフルパワーでの運用データがほしいため、シミュレータを使用しているのだ。

 

「……すごい」

 

感嘆の声を上げたのは羽佐間容子だった。その理由は今、他ならぬシミュレータを行っているカノンである。

 

「マークドライ搭乗時に比べて、フェストゥム撃破速度と撃破数が1.2倍以上に増えている」

 

「当然ですよ」

 

容子の声に応えたのはレイであった。彼は最初からこうなることを予測していたからだ。カノンならこの結果を出してくれるであろうと。

 

「カノンが本来得意なのは高機動戦闘です。5年以上もJ-O17。つまり高機動戦闘型のベイバロンモデルに搭乗していたんですから、体がそれに順応しているんですよ。マークドライでもある程度の機動力はありますが、ベイバロンモデル、ましてマークドライツェンより、はるかに低いです。そのために彼女自身の持ち味が生かしきれていなかったんです。」

 

彼はそう説明していった。彼女のことを一番理解しているのは彼なのだ。それにレイは人類軍に入隊してから1年間半の間は、整備士をしていた。さらに、マークザインを創った日野洋治のもとにいた為、ファフナーの構造や、設計の基準点などは理解していたためマークドライツェンの設計からすることができたのだ。

 

その向こうではフェストゥムそ襲来から現場復帰した小楯保がなにやら唸っている様だ。

 

「頭部で攻撃するやつがいるかぁ……」

 

「変成意識による行動ですか?」

 

「だとしたら、想定外の装備がいるな」

 

イアン・カンプの意見に保は装備の設計に取り掛かる。レイはその光景を一概すると、時計を見てこういった。

 

「そろそろ、会議の時間ですね。僕は先に行きます羽佐間さんも後で」

 

「ええ、わかったわ」

 

レイはを会議室へ向け、歩き出した。

 

――――

 

「クロッシング?」

 

「ええ、一騎君が日常的に何者かとクロッシング状態にある事が判りました」

 

真壁史彦の疑問にそう答えたのは遠見千鶴であった。彼女は先ほど一騎がいまだに同化現象からの回復が見られないことを疑問に思いスキャニングにかけたところクロッシング状態にあるのだという。

 

「一騎が、敵の側にいる皆城総士と、二年もの間繋がっていたと」

 

史彦の言葉に羽佐間容子が答える。

 

「対象は不明ですが、どうやらそれが、別の激しい負荷にに繋がっている様で」

 

「別の負荷?ザインに関係が」

 

容子の言葉に新たに疑問を持った溝口が視線を容子から小楯保に向けながら言った。

 

「たぶんな、同化現象の塊みたいな機体だ。特殊すぎて他のパイロットには動かせんし……」

 

「決して一騎君を搭乗せてはいけません。激しい同化現象で、確実に命を失います!」

 

保の言葉を遮り、千鶴は強くそう言った。

 

―――マークザインが出撃れないとなると、フォーメーションはドッグを組んでの行動より遊撃がメインになる。各員の連携が取れなければ、同士討ちも出てきます、か……

 

レイはマークザインが出撃不可と聞き、それにあわせ、戦闘行動を変えていく。皆城総士ほど、上手ではないが、彼なりに部隊の代表として、勤めを果たそうそしているのだ。

 

「……無人船のほうは」

 

史彦はしばらく考えるそぶりを見せた後、燈美に眼を向けた。

 

「船内にあった存在ですが、ソロモンはこれをスフィンクス型と断定。体組織はコア型に似ていますが、染色体を持たない、謂わば人のレプリカです」

 

その場にいた全員が驚く中で溝口は「島を襲った敵と同じ存在だってのか?」と誰にでもなく疑問を口にした。

 

「船自体に異状は無し、自動操縦のデータによれば、まっすぐ島に向かっています。つまり、偶然流れ着いたわけじゃない」

 

保の言葉にレイが続ける。

 

「船内部の情報はその殆どが新種の分析でした。通常とは全く違う同化能力に、人類の火器を模した武器。そして、今までとは一線を画す強力な戦闘能力。人類軍はこれをエウロス型と呼称。ギリシア神話に登場する、嵐を呼ぶ神の名前です」

 

「これから戦うから勉強しとけってか?」

 

溝口が背もたれにもたれながら言った。

 

「他にも、奇妙なデータを発見」

 

イアンが、新しいデータを表示しながらそう言った。

 

「この航行中の何かに対して、SCコードクラスの情報提供が推奨されています」

 

「SCコード?島のコアのやミールの情報を誰かに公開しろって言うの?」

 

全員が驚く中で、千鶴が「或いは、ミールに等しい何らかの情報を。それが何であるかは」

 

「不明です。このデータを作成した者にとても未知の物だったのでしょう」

 

イアンの言葉の後に、史彦が口を開いた。

 

「島上空の現象。敵の襲来。無人船。この因果関係を何としても掴め」

 

――――

 

「……はっきり言って、酷いですね」

 

レイはパソコンに表示されたデータを見て放った第一声がそれだった。そのデータは慶樹島で行われていた模擬戦の映像だ。レイの感想は

 

「全員連携をとろうとしていません。個人の戦闘能力はそこそこあるものの、これではあっという間に全滅してしまいます。剣司君も剣司君で自信を付けさせたいのは分かりますが、手加減をしすぎですよ。自信とおごりは違うんですから……」

 

そう言いながら、次々とパソコンに映し出されるデータを見ながら思考をまとめていく。

 

―――遊撃戦で行きましょう。新人を前面に出し、僕と剣司君、そしてカノンがバックアップにまわり、空中から復帰した咲良さんと真矢さんで攻撃する。新人達には、実戦の厳しさを知ってもらい、そこから連携訓練をしていくのが妥当ですねマークヌルの火力ならいざとなっても助けにいけますから心配はあまり無いでしょう。

 

考えをある程度まとめると、レイはパソコンを閉じ、そして眼も閉じた。

これからの戦いは、別の意味でも難しくなる。そう心の中でつぶやきながら。




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戦い ~らんせん~

サイレンと共にやってきた敵は、その武器だけでなく戦法まで人類を模倣し始めていた。

 

ヴェルシールドに阻まれるが、淡々とライフルを撃ち続けていくエウロス型。大群で空中から島を爆撃しだすスフィンクスE型。それを見た溝口たちは感嘆と呆れの混じった息を吐いた。

 

「空爆に艦砲……。上陸の下準備ってか」

 

「人間の様に攻めて来る」

 

いままで個という概念が無く、ただ数の暴力で攻撃してくるだけだったフェストゥムが人類の戦い方、所謂戦術を知って攻めてくるのは脅威だ。が、それは同時に突破口も見えてくる。

 

「ならば戦い方はいくらでもあるぞ。フェストゥム!!」

 

そう、今までは無計画に攻撃してくるだけだったので、先が読み辛かったのだが、戦術を使用してくると話は別だ

。幸いフェストゥムもごく初歩的な戦術しか使ってきてはいないため、対処だって可能だし、戦術を使うのならどうやって撃破するかも見えてくる。

 

「了解、後続のファフナー、出撃!」

 

ナイトヘーレの扉が開き巨人が動き出す。

 

Ⅴ、Ⅸ、Ⅹ、ⅩⅡ、ⅩⅢ、そして0。6体の巨人が戦場に投入され、総勢10体のファフナーが戦場に舞い降りた。

 

その中の一人、堂馬広燈はマークフュンフに乗り竜宮島に降り立つ。彼は黄金に輝く敵に見とれ、呟いた。

 

「綺麗だ……」

 

――直後、アラームが鳴り響く。

 

「え、う、うわああああ!!」

 

マークフュンフをワームスフィアーが包み込む。闇色の球体が消え、その中に在った草木や炎が全て『無』へと還って行った。だが、紫色の巨人……マークフュンフは無傷で其処に在った。

 

「い、生きてる?」

 

堂馬の声にカノンが応える。

 

「改良を重ねたノートゥングモデルだ。そう簡単にやられはしない」

 

それに続くように剣司が警告を発する。

 

「くるぞ!食い止めろ!」

 

剣司の言葉に堂馬は前を向く。其処には今まさに突進をしようとするフェストゥムがいた。堂馬は「うわあああ!!」と悲鳴を上げるが、突進の速度を少しでも緩めようと、側面から剣司が射撃を加えていたおかげでマークフュンフの専用装備、防御シールド、「イージス」を展開することができた。

 

展開される蒼いシールドはフェストゥムを受け止める。

その側面から、マークアハト。剣司が射撃を加えた。撃ち出された弾丸は僅かだったが、その少ない弾数でフェストゥムのコアを正確に破壊する。

 

その瞬間に、フェストゥムは消滅していった。

 

――――

 

フェストゥムにルガーランスが突き刺さる。展開かれた刀身から放たれるプラズマ砲はフェストゥムのコアを内部から破壊し、消滅させる。すぐさま赤い巨人は振り向き、次の敵へと突撃する。

 

「機体に内蔵されたミールのコアが、敵の力を防ぐ!」

 

赤い巨人……マークドライツェンに搭乗しているのは羽佐間カノン。ドライツェンの高機動で瞬く間に、フェストゥムに迫る。フェストゥムは攻撃を仕掛ける間もなく、マークドライツェンの間合いまで詰め寄られ、ルガーランスを突き立てられた。

 

「自分と機体を信じて戦え!!」

 

言葉と同時にプラズマ砲が発射され、撃ち込まれたフェストゥムは爆炎とともに砕け散った。

 

深紅の巨人は、まるで疾風のような速さで次々とフェストゥムを消滅させていく。マークドライに乗っていた時とは違う、常に高速で動き回り、接近戦で確実に敵を仕留める。これが彼女の本当の戦い方なのだ。

 

――――

 

「そらそらそらぁ!」

 

フェストゥムはマシンガンのように撃ちだされる赤いレーザーに次々と貫かれて、次々と消滅していった。前腕部を前に押し出すような構えを取る黒い巨人の腕からは凄まじい速度で発射されるレーザーバレットは、雨のように多数のフェストゥムを消滅させている。

 

黒い巨人、マークヌルに乗るレイ・ベルリオーズは普段からは想像もできないような笑みを浮かべて、苛烈な攻撃を続けていく。

 

側面から突進を仕掛けるフェストゥム。だが、その突進は振り抜かれた右腕の爪によって簡単に引き裂かれてしまった。

 

「この程度で、僕を消せると思うなよ土くれがあ!!」

 

技術もなければ戦術もない。ただ圧倒的な火力での強行撃破。それがマークヌルだ。

 

「フォーメーションは説明どおり、戦術指揮は剣司君がとる。僕は存分に暴れさせてもらう!」

 

指揮を彼に任せ、戦場を奔るレイ・ベルリオーズ。普段温厚な彼はファフナー搭乗時の変成意識の影響で、何時もとは全く違う姿を見せている。

 

「エウロス型……フンッ、目障りだ!!」

 

離れたところからレイフルで射撃を加えてくるエウロス型を発見したマークヌルは、

マークドライツェンに及ばないながらもかなりのの速度でエウロス型に接近する。

 

そのまま逃げようとするエウロス型を逃がさないとばかりにレーザーバレットを発射し、退路を断つ。そして―――

 

「捕まえたぁ!」

 

マークヌルの異形の右腕。その3本の爪が大きく開き、エウロス型を鷲掴みにする。刹那、掌に相当する穴から、深紅とは違う燈色の輝きが顔を見せた――

 

瞬間、巨大な燈色の閃光が奔る。その光はエウロス型のみならず、周りのフェストゥムを巻き添えにして覆いつくし、消滅させる。

 

「アハハハハハハハッ!!」

 

―――だけには留まらず、そのまま放射を続け、辺りのフェストゥムをその燈色の閃光で焼き払っていく。

 

「まだまだ。こんなんじゃあ、僕もヌルも満足しない!!」

 

レイはまた、次の獲物を求めて漆黒の巨人を走らせる。その姿はまるで、凶暴な猛獣を魅させている。

 

――――

 

空中にいるフェストゥムは島へ更なる爆撃を加えようと、島に接近する。だが、その一体残らずが、消滅していく。

 

「……もう一体」

 

空中からの狙撃で敵を抹殺していくのは、マークジーベン、遠見真矢である。

 

彼女は変成意識の影響で至極冷静になり、その集中力と射撃技能はまさにスナイパーにうってつけであった。今はその技能をさらに昇華させ、空中を移動しながら敵を狙撃する事まで、可能になったのだ。

 

その技術の高さから、今まで射程距離と射撃精度を重視していたドラゴントゥースではなく、取り回しを重視したレールガンに変更されている。

 

流石に精密な狙撃ができないレールガンでは命中精度は今までと同じというわけにはならないが、高速で空を飛び回りながら単発の射撃を連続して当てるというのは共学に値するだろう。

 

「次……」

 

フェストゥムの群れを撃破した真矢はそのまま上昇し、次の標的を求め、空を舞う―――

 

――――

 

 空を舞う敵の群れを一体の影が一掃していく。龍に身を包まれた黄色の巨人はマークドライ。搭乗者の名を要咲良。

 

彼女は、自身の体が激しい動きについていけないため、リンドブルムというファフナー専用の飛行装備を装備している。リンドブルムの火力は一級品であるため、今の彼女でも十分に活躍することができる

 

「そっちに一匹。任せたよ!」

 

咲良は、ミサイルをかいくぐり、離脱していったフェストゥムを遠見真矢に任せる。

 

「了解」

 

真矢はすぐに飛行ルートを変更しフェストゥムを追跡する。フェストゥムは多量のワームスフィアーを放出するが、一発もかすることなく真矢はフェストゥムをレールガンで狙撃していく。

 

今の彼女達はさながら、空を舞う一対の戦姫(ワルキューレ)の様であった。

 

――――

 

「マークドライツェン。ツインドッグ、いける?」

 

「ああ、もちろんだ!」

 

此処にもあの二人に負けないほどの連携を見せる者がいる。カノンとレイだ。彼等はカノンを前衛にレイが火力支援を行うという形で、ドッグを組んでいた。

 

「狙いはエウロス型。周りの雑魚は僕が消す。ドライツェンはそのまま突っ込め!」

 

「了解!!」

 

カノンは敵が多量にいる中をまっすぐに突き進む。無論カノンに攻撃を加えようとするフェストゥムはいるが、その全てが未遂のままで終わっていく。レイのマークヌルがカノンに近いフェストゥムを火力に物を言わせ、端から消しているのだ。その無骨な右腕から発せられる嵐のような深紅の雨の中、赤い巨人が疾風の如き速さで駆けて行き、エウロス型にその凶刃を振りかざす。

 

「ぬぁああああああああ!!」

 

その刃はエウロス型に武器を構えることすら許さぬまま、深々と突き刺さる。そして無慈悲に刀身は展開いていくのだ。

 

「喰らぁえええええ!!」

 

閃光が走り、爆発を起こす。エウロス型は何もできぬまま、粉々に消滅していった。




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戦い ~らんせん~ Ⅱ

島へ接近するフェストゥム。その中の一体は

、突如その身を襲った業火にその身を焼かれ、瞬く間のうちに灰へと還ってゆく。対フェストゥム用気化燃料火炎放射器『サラマンダー』の2,000℃に及ぶ高温の炎がフェストゥムの体組織を崩壊させる。この武装は、マークノインの搭乗者である西尾里奈に銃器のばら撒きの傾向が見られたための装備で任意での拡散度と射程の調整が自由に行える武装になっている。

 

その威力を危険と見たのか、エウロス型が単機でマークノインに接近。左腕に尾のような部分で絡めとリ、引き摺る様に飛行する。

 

辛めとられている部分から、同化現象の特徴である緑色の結晶が生えてくる。それに恐怖を覚えた里奈は叫ぶ。そこに、どこからか機銃掃射が入りエウロス型はマークノインから離れる。

 

「大丈夫だ。落ち着け」

 

里奈を助けたのは剣司だった。剣司が落ち着けといった直後、左腕に生えていた結晶が砕け散る。が、マークのインには傷1つ入ってはいない。改良を重ねたノートゥングモデルは、ワームスフィアーだけではなく同化現象にも強い耐性を手に入れたのだ。

 

「っ……うわあああああ!!」

 

里奈は体勢を立て直し、エウロス型へサラマンダーを発射する。エウロス型は、ライフルで体をかばいながら、飛び去っていった。

 

フェストゥムによる爆撃が降り注ぐ中で、それを避け、突進する紫の巨人。マークツヴォルフとその搭乗者、立上芹は普段の理性的な雰囲気とは、かけ離れた凶暴な表情で、フェストゥムに突撃する。変成意識の影響なのかある種の心の衝動が前面に出ているらしく、突拍子もない行動に出るようになるため、小楯保から専用の装備が与えられている。

 

「ああああああああ!!!」

 

『頭部』に装備されていたバインダーのようなものが展開され、プラズマのフィールドを纏う。それは、サイや鹿などのどうぶつに存在する……角のような武器であった。

 

その専用武装。『ショットガンホーン』での頭突きをフェストゥムに敢行した立上芹。勿論ショットガンホーンはただ頭突きをするための武器じゃあない。角に設けられた、レールガンは、ルガーランスと同じように、零距離射撃でフェストゥムを内部から、破壊する。芹は墜落したフェストゥムの前に着地し、上空のフェストゥムにレールガン式マシンガン。スコーピオンでの射撃を行う。

 

「あああああああ!!―――えっ!?」

 

芹は射撃を突如中止し、目線を下にもって行く。そこには眼前に墜落し横たわっているフェストゥムが一騎の時と同じように苦悶のような表情を見せていた。

 

 『―――――――』

 

「なに!?……何か言おうとしてるの?」

 

芹はフェストゥムに現れた表情。そしてその口が、なにか声にならない声で何かを言おうとしていることに気づいた。普段昆虫採集などが趣味な芹は物事に於ける感受性が高く、フェストゥムの変化に気づけたのだろう。

 

だが、戦場は彼女に敵のことを考える余裕は与えてはくれない。

 

「え、……きゃあああああ!!」

 

彼女が気づいたときには、フェストゥムが目前に迫っていた。思わず目をつぶり、死を覚悟する。だが、その瞬間は訪れることはなかった。

 

炸薬音。そして、地面に叩きつけられ、消滅するフェストゥム。それを見た芹は後方に目を向ける。

 

そこにいるのはグレー。剣司が駆るマークアハトと、同型の巨人であるマークツェーン。

搭乗するのは、西尾輝。彼は見晴らしの利く山に登り、精度に優れるドラゴントゥースでの狙撃を担当していた。

 

「はあっ……はあっ」

 

西尾輝は疲労と同時に狙撃の難易度に、驚愕を覚える。想像以上に必要な集中力、射線を合わせるタイミング。それを、遠見真矢はいとも簡単にやってのけていることに、深い尊敬の念を覚える。

 

「いいよ、その調子」

 

真矢からの声援に、輝は力強く「はいっ」と返事を返した。

 

戦闘が始まって30分近く経過したころ。『それ』おこった。

 

一騎は、ブリーフィングルームで、行われている戦闘を見ていた。視力が低下してはいるものの、何とか戦況は理解できる程度には見えている。一騎は自分が出られないことに、もどかしさを感じているものの、心配はそこまでしていなかった。

 

昔からさらに進化した射撃技術で空を自由に駆け、仲間を援護し敵を確実に排除する真矢。

 

総士が見たら驚愕し、本当に同じ人物かと疑うであろう程にリーダーシップを持ち、精神的にも成長し、強くなった剣司。

昔からは全く変わらない苛烈さと経験を活かし、おそらく自分でも敵わないほどの戦闘技術を持つカノン。

カノンに匹敵する戦闘技術と様々な所で、搭乗者のサポートをし圧倒的に低い同化耐性を、技術と機体特性を最大に生かした戦いでカバーするレイ。

 

一時は戦線を離脱したが、復帰したあともブランクを感じさせない動きで、不得手な戦闘スタイルを瞬く間に克服し、自分のものとした咲良。

 

それと、今はまだまだだがいずれ成長してゆくであろう後輩達。

 

彼らが、いるのだ。自分が出なくても、負けることはない―――。

ふと一騎は立ち上がり、ブリーフィングルームを後にする。

 

――――

 

治療室。カプセルに入った存在が、目を覚ました。人の形を成しながら、スフィンクス型と判定されたフェストゥム。それは、これから一体何をなすのだろうか。

 

――――

 

戦闘が始まって一時間が経過しようとした時。ふと変化がおきた。

 

「フェストゥムたちが……」

 

「……去っていく?」

 

フェストゥムが突如、踵を返し退いて行くのだ。まだ、相当の数が残っているのにもかかわらず。

 

「何故このタイミングで……。まるで、今回は顔合わせとでも言いたげだな……」

 

レイは苛立ちと疑問が混ざったような声でそういった。それは、真矢、剣司、カノン、咲良も同意見である様だ。

 

だが―――

 

「私達……勝ったの?」

 

「勝った……!勝ったぞ!」

 

後輩は、それを勝利と勘違いした様で、堂馬広登はマークフュンフの武装であるレーザーガン。ゲーグナーを虚空に目掛け、発射する。それを、剣司は咎める様な目で見ていた。

 

――――

 

「一人で戦うなって言ってんだ!」

 

剣司は広登と言い争っている。それは戦闘中の広人の単独行動に近い行動に関してを咎めているようだ。

 

「お前のせいで、誰かが死ぬぞ!」

 

「俺は、衛先輩みたいに戦うんだ!!」

 

広登は聞く耳さえ持たずに走り去ってゆく。剣司が溜息をついていると、マークヌルが斜面を降りてきた。

 

「剣司君。少々予定を変更。次の模擬戦では4対4(フォー・オン・フォー)で徹底的にやろう。あのちっぽけな自信と驕りを、完膚なきまでに叩き潰す」

 

「レイ……はあ、それしかないのか」

 

剣司はレイの過激過ぎる発言に若干引きつつ、それしか方法はないのかと溜息をついた。

 

―――

 

「剣司先輩より、俺のほうが強い!!」

 

広登の発言を聞いたカノンは苛立ちを隠せない表情で「あいつ……ッ」と言った。

 

「あははっ。言われちゃってる」

 

反面、咲良は笑いながら、少し楽観的に言った。

 

「帰ったら私がしかってやる……!」

 

「あんたは褒めな。飴と鞭。ほら、あそこに強力な鞭がしなってるし」

 

咲良の指すほうをカノンは見た。そこにいるのはレイだった。そして、彼が相当苛立っているのを、クロッシングで感じ取った。

 

「あれは鞭にチタンスパイクがついているな……」

 

「あはは……」

 

カノンの言葉に咲良は苦笑で返した。が、直ぐ真顔になり

 

「それより、勝ったと思う?」

 

とカノンにたずねる。カノンの返事はだいたい、咲良の予想通りだった。

 

「帰還命令が出ていない。何かある……」

 

そのカノンの言葉に呼応するかのように全ファフナーのモニターにあるモノが映し出された。

 

「俺の名前は、来栖操」

 

  

 

パンドラの箱はいまひらかれた。




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異変 ~くるす~

竜宮島。アルヴィス内にある取調室の中で、二つの影が対話をしていた。

 

「来栖操」

 

真壁史彦は、向かい側に座るモノが名乗った名前を復唱した。

 

「同化した人間のなか」

 

「違う」

 

史彦の問いに対し、来栖は否定の言葉を放つ。

 

「皆城総士の知識を使って、俺の存在を君達の言葉にすると、そうなるみたい」

 

――――

 

史彦と来栖の対話は島全体に中継されており、アルヴィス内部のブリーフィングルームも、例外ではなく、そこには真壁一騎を一とする、数人のメンバーが集まっていた。

 

「全島民に中継するなんて」

 

ジェレミー・リー・マーシーはこの光景を見つつ、不安の声を上げる。

 

「皆の不安を煽るのでは……」

 

その言葉に、溝口はいたって普通に「バカ正直なやり方が、真壁のやり方さ」と応えた。そして、やや楽観的に「けっこう効果があるんだな、これが」と言った。

 

――――

 

「君達と話すには名前が必要でしょ」

 

「皆城総士が、お前を艦に乗せたのか?」

 

史彦の質問に対し、来栖は「俺が望んだんだ」と答えた。

 

「彼、君達に何か伝えたがってた。ほら、艦に彼の言葉があるでしょ」

 

来栖の答えに史彦は「あのデータは皆城総士によるものだと?」と言い、「何故彼が島に来ない」と質問をぶつけた。そう、こんな回りくどい真似をするなら直接島に出向いたほうが確実であり、皆城総士という人間はそういう人間である。その疑問に来栖はこう答えた。

 

「大きな炎の所為だ。君達人類がやったんだ。俺の仲間もソレで苦しんでる」

 

悲しそうに答える。その言葉に史彦は自らの胸にてを当てた。―――いや、胸を押さえた。と言うほうが正しいだろう。

 

「人類軍の、核攻撃か」

 

「そう、多くの痛みが生まれて、俺達のミールは新しく生まれることを嫌がった」

 

悲しそうに顔を少し伏せながら来栖はそう答え、その後、笑いながら顔を起こし「だから、代わりに俺が生まれたんじゃないかな」

といった。

 

――――

 

『代わり?お前達のミールは、消滅したわけではないんだな?』

 

対話の中継を聞いているファフナー隊の中で、優れた観察力を持ち、人の心情を見抜くことに長けている、遠見真矢は映像を見ながら、あることに疑問を持った。

 

「真壁のおじさん。どこか悪いのかな?」

 

史彦が胸に手を当てているのを見て、真矢は何となくそう思った。

 

――――

 

『お前の目的は何だ?』

 

『戦いを辞めさせたい。痛みが増えるのは嫌なんだ』

 

『和平を求めると言うのか』

 

『そう。俺に君達のコアを同化させて』

 

『何だと!?』

 

『そうすれば戦ったりせずにに、此処のミールを俺達のミールが同化できる。俺達に痛みや死の恐怖を与えたのはこの島だから』

 

『我々ごとお前達の痛みを消すと?』

 

『君達を消したくない。一緒に戦って』

 

『戦う?何と?』

 

『人類や俺たちの他の群れと。二度と戦えないよう、みんなの戦う力を奪うんだ。そうすれば、全部が平和になるでしょ?』

 

『ソレを今すぐ受け入れろと言うのか?』

 

『返事は後で良いよ。君達はみんなで決めるから。ただ、急いだほうが良い。また俺の仲間が来るし、このままだと君達のコアは死ぬ』

 

『何故分かる』

 

『此処の空は俺達のミールが奪った。アレが島を殺すんだ。でも君は、ソレより早くいなくなりそう』

 

『お前との対話は引き続き可能なのか?』

 

『うん』

 

『他に質問はあるか?』

 

『一騎カレーって何?』

 

――――

 

「対話を求め、共同戦線に武装解除、平和維持まで語った。驚嘆すべきことだ」

 

アルヴィスの会議で、史彦は先の対話の映像を流した後で、こういった。それに西尾行美が応える様に言った。

 

「世界を敵にまわす、破滅の道だがね」

 

「他の群れとも戦えと言いやがった。島を攻撃しているのはエウロス型とか言う特殊な群れだけって事か?」

 

「敵は複数の群れに分裂していると?」

 

溝口の言葉に羽佐間容子が疑問を口にし、ソレに続くように小楯保が新たな疑問を口にした。

 

「何処まで事実なんだ?データ作成者が総士君だなんて、確認の仕様がない」

 

さらに続くようにイアン・カンプとジェレミーが疑問を口にする。

 

「島のコアの状態が敵に知られた今、SCコードを公表する意味はあるのでしょうか?」

 

「上空の現象が、敵によることは明白ですが、空が島を殺すと言うのは」

 

その疑問に答えるように、遠見千鶴がデータを表示した。

 

「おそらく、事実です。加えて、敵の攻撃による負荷は確実にコアの命を脅かします」

 

そして、今まで沈黙を通していた史彦が口を開いた。

 

「全島民の選択が必要だ」

 

――――

 

アルヴィスの会議が終わり、慶樹島の訓練場では、ファフナーの模擬戦が始まろうとしていた。

 

「今回の模擬戦は、今までより、実践的な訓練になる。チームレッドはマークジーベン、アハト、ドライツェン、ヌル。チームブルーはマークフュンフ、ノイン、ツェーンツヴォルフになる。質問は」

 

レイが一通りの説明を終え、質問をたずねると、マークフュンフ……堂馬広登が質問をする。

 

「えっと、この組み合わせじゃ、明らかに先輩達が有利じゃないですか?」

 

もっともな質問にレイはこう答えた。

 

「勿論相応のハンデとして、耐久力1/2。出力15%ダウンの状態でやるから問題は無いよ。それにこの訓練は個人の能力じゃなく、連携力がモノをいうから、個人が強くても連携がうまくないと簡単に潰されるからね」

 

その言葉に、目に見えて広登達がイラついた表情を浮かべる。無理もない、レイの言葉を要約すると、『君達では僕らには勝ってこない』ということだ。

 

「まあ、そういうことだ。いくぞ、何処からでも掛ってこい!」

 

剣司の一声で、模擬戦はスタートした。




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異変 ~くるす~

「さぁて―――」

 

マークアハトは戦場全体を見渡しながら、どのように指揮するかを素早くまとめる。

現在、マークアハトは目の前のマークフュンフと戦闘をしているが、直ぐに決着は付きそうにない。そして、自分立ち含めて乱戦になりかけている。

 

例外は互いにスナイパーだろう。敵のスナイパーはマークツェーン。こちらはマークジーベン。そして、互いにスナイパーの存在で決定打にかけている。

 

ならば真っ先に片付けるのは―――

 

「マークドライツェンは狙撃型に急行してかく乱。マークジーベンが狙撃型を叩くんだ!」

 

「了解!」

 

「了解」

 

マークアハトから指示が飛び、マークジーベンは空中を高速で飛行しながら両手に持っているレールガンの標準をターゲットの後方にいるマークツェーンに定める。

 

そのマークツェーンはマークドライツェンの高機動に翻弄され此方が狙っているのに気がつかない模様。マークドライツェンを狙撃しようとしている銃も、距離が詰められては真価を発揮できない。

 

「・・・・・・」

 

短く息を吐きながら、レールガンのトリガーを引く。放たれた飛翔体は超音速でマークツェーンの下腹部。コックピットブロックのある位置へ直撃した。

 

バシャンという奇妙な音がなり、マークツェーンの下腹部に緑色のペンキが塗布される。

 

「え?うぁああ!」

 

マークツェーンは自分が撃たれたことに気を取られ、その瞬間にマークドライツェンからルガーランスを突きつけられた。

 

「っは!?」

 

ルガーランスは既に刀身が開き、内部の熱核プラズマ砲が顔を覗かせている。

 

負けた―――そう思ったマークツェーンはドラゴントゥースから手を離して両手を上げた。

 

「マークヌルはそのまま突撃型を、ジーベンは火炎放射型を叩け!」

 

「オーケーだよ」

 

「了解」

 

マークヌルは頭部の『ショットガンホーン』を展開して突撃するツヴォルフを背中の2基あるブースタのうち、片方を最大出力にして、軸をとり反転しながら躱す。マークツヴォルフは勢いあまりマークヌルの脇を通り過ぎていく。そして、補足のためにもう一度反転して向き直った頃には、マークヌルの右手がこちらに向けられていた。

 

「あ―――」

 

「じゃあね」

 

マークヌルの右腕掌部から、ファフナーの半分を超える面積のレーザーが発射される。

それは向き直ったばかりのマークツヴォルフを簡単に覆い尽くし、そのまま背後にいたマークアハトとマークフュンフに襲いかかる。

 

「うぉっ!?」

 

「うっ―――うおおおおお!!」

 

マークアハトはギリギリでかする程度に収めたものの、マークフュンフは展開した『イージス』で受け止める。だが、マークヌルのレーザーを受け止めるためにその場に釘付けにされてしまい、マークアハトが側面に回るのを許した。

 

「え―――」

 

「そらそらそら!!」

 

マークアハトの持つガルム-44の銃弾がマークフュンフを打つ。弾丸は破裂して大量のペンキをマークフュンフに塗布することになった。

 

「え、ちょっと芹、輝、ひろ―――きゃあああああ!!」

 

最後に残ったマークノインは上空からの狙撃であっという間に沈黙した。

 

――――

 

模擬戦の結果は散ざんなものだった。

剣司率いるチームレッドは各々が連携を意識して、相手を深追いせず確実に追い詰めていく。

一方広登率いるチームブルーは連携など一切関係なしに戦闘を行い、劣勢を強いられた。時にはフレンドリーファイヤまである始末だった。

 

結果、チームレッドは損傷軽微程度のダメージで終わり、チームブルーは全機大破というものである。

 

その後、アルヴィスの食堂で、真矢、剣司、咲良、カノン、レイが食事兼ミーティングをいていた。

 

「……レイ」

 

「さすがに、やりすぎじゃない?」

 

「あそこまでやらなくてもなあ」

 

模擬戦の結果はチームレッドの圧倒的な勝利に終わったのだ。そして、広登達に連携力をつけるための訓練をこれから毎日シミュレータで行うと宣言したところだった。

 

「そうも言ってられませんよ。事態は彼らが思っているより深刻です。いまは何より即戦力がほしいところなんですから」

 

レイはそう応えた後、「こちらにもけっこう問題点もありますよ」といった。

 

「まず剣司君は敵に近づきすぎです。あれでは、実戦ではフェストゥムの直接攻撃を喰らってしまいます」

 

「わ、悪い」

 

「真矢さんは飛行が少し低空でした。本来ならもう少し被弾率は低いはずですよ」

 

「うっ……」

 

「カノンはやや動きが直線的でした。ドライツェンはもう少し機敏に動けるはずです」

 

「……確かに、直線的過ぎたな。気をつけよう」

 

「僕のほうも、少し苛立っていたために、普段よりシヴァを使いすぎてしまいました。マークアハトに2回ほど掠ってしまったのは、申し訳ありません……マークアハト」

 

「……俺に謝るんじゃねえのかよ」

 

「あんたは痛いだけで怪我したわけじゃないんだからさ。ソレくらい我慢しなさい、前線指揮官」

 

そうやって、談笑しながらも、各々の注意点をまとめ、それを改善しようとシミュレータで訓練することになった。

 

――――

 

真壁邸

 

真壁史彦は、自身の『普段』の職である陶器

造りをしていた。今は亡き妻、真壁紅音に誘われ、始めたもの。腕のほうは祭りの会場においてあった奇妙な形をした皿を見てもらえれば、察していただけるだろう。

 

史彦は目を閉じながら、昔のことを思い出していた。

 

――――――

 

戦闘機の整備をしていた史彦は、マニュアルを見ながら不備が無いかをチェックしていた。

 

(フェストゥムが土に返る?)

 

(彼らの体はケイ素。つまり土でしょ?)

 

紅音の言葉に疑問を持った史彦が聞き返し、紅音はフェストゥムの構成を述べて自身の推論を語ってゆく。

 

(彼らも還る場所を探しているんじゃないかしら?)

 

(まさか)

 

史彦は、半ば笑いながら紅音に言葉を返す。だが、紅音の返した言葉。それに彼は唖然することになる。

 

(私は見つけたわ。貴方と一緒に)

 

(……)

 

――――

 

「―――病気のこと、溝口さんに話した?」

 

「!」

 

史彦の回想は、一騎の言葉で中断された。何故一騎が『ソレ』を知っているのか、と疑問に思ったのだ。

 

「ああ。誰から聞いた?」

 

「遠見が、どこか悪そうだって……」

 

―――なるほど、真矢君には天才症候群の一種である、『優れた洞察力』があったな―――

 

「スマンな」

 

心配をかけたことに謝る史彦。

 

「謝ること無いだろ」

 

言いづらそうに一騎はそう返し、史彦の隣まで歩くと胡坐をかくように座った。

 

「俺達が島を守る」

 

一騎は唐突にそういった。

 

「だから父さんは、好きにしなよ」

 

「何をしろというのだ?」

 

「此処で一緒に住むとか」

 

一騎は此処でいったん口を閉じ、こういった。

 

「遠見先生と」

 

―――沈黙―――

 

「―――ッハハハハハハハ!!」

 

史彦は一瞬呆けたが、言葉の意味を理解すると、琴線が切れたように笑った。

 

「笑う所じゃないだろ!」

 

「お前は何処にいるんだ?」

 

「っ、俺は別に」

 

一騎は目をそらし、そう言った。

 

「マークザインに乗るのか?」

 

「乗らなきゃならないときはそうするよ」

 

目をつぶって思いっきり顔をそらした一騎。

史彦はいったん目を瞑り、一騎が生まれた時の事を思い出しながら言った。

 

「俺の願いは、此処が何時でもお前の還ることが出来る場所である事だ」

 

「……うん」

 

ろくろの電源を切って、今まで作業の手を止めなかった史彦は、一度ダ行を中断して一騎に姿勢を向ける。

 

「まだまだ島は任せられん!スマンな」

 

「謝る所じゃないだろっ」

 

先ほどと同じイントネーションで、一騎は言った。互いに不器用な親子である。

 

史彦は真剣な顔になり、言った。

 

「あの来栖操。どう思う?」

 

一騎はそれに、「わからない」と答えた。

 

「敵だけど。でも、感じるんだ。総士は、あいつに何かを懸けてる」

 

「総士君が島を守るために、あの船をこさせたと、そう感じるんだな?」

 

史彦の言葉に、一騎は「うん」と頷き言葉を続けた。

 

「わからないけど、わかるんだ」

 

一騎の言葉に史彦は頷き、言った。

 

「命を費やすことだけが戦いではない」

 

「……」

 

「お前があの存在と対話しろ」

 

史彦は言葉を続ける。

 

「残された時間野の中で、島を救う方法を探れ」




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連戦 ~しょうもう~

戦闘が始まる。、島は既に前回の戦闘でいたるところにクレーターができ、戦闘の激しさを物語っている。そして、また稚拙ながらも戦法を学んだフェストゥムによる攻撃が始まる。

 

「マークドライ、マークジーベンは空爆部隊を攻撃しろ。マークドライツェンは俺と一緒に上陸部隊を迎撃。マークツェーンは援護頼むぜ。マークフュンフはマークノインとツヴォルフとトリプルドッグを組んで迎撃。マークヌルは遊撃だ。よし、行くぜ!!」

 

レイの助言や普段の練習もあり、実戦での前線指揮官を行えるようになった剣司の堂に入った指揮と掛け声が火蓋となり、それが切って落とされる。

 

そして、すぐに異変に気がついた。

 

スフィンクス型を周りに置き、島の上空を回遊する新型のフェストゥム。その両翼から噴出される粉末状の物質が島に降り注ぎ、木々が枯れてゆくのだ。

 

堂馬広登は驚愕に疑問を発せずに入られなかった。

 

「何だ……?これ」

 

剣司は木々が枯れてゆくのを見て、すぐに新型がどういうものかを悟った。

 

「島を殺しに来やがった!!マークツェーン!あの新型を撃て!!」

 

剣司の指示に手持のドラゴントゥースを構え、標準を新型にあわせる。

 

放たれる弾丸は、まっすぐ新型に向かう。だが、その弾丸は前を遮ったスフィンクス型に止められた。そのスフィンクス型は消滅したが、2発3発と、同じようにとめられてゆく。

 

「仲間を、護ってる?―――っは!?」

 

狙いをつけていた新型から、ワームスフィアー特有の発行が現れる。だが、改良を重ねたノートゥングモデルにはそう簡単にはダメージは通らない。

 

そのはずだった。

 

新型が放ったワームスフィアーは緑色の光を放ち、マークツェーンを覆う。緑色の光は、マークツェーンノ左腕と左足を綺麗に消してしまった。

 

「うわあああああ!!?」

 

「マークツェーン!」

 

マークツェーンは戦闘不能になり崩れ落ちる。だが、それは無駄ではない。既にマークドライとマークジーベンが、対処に向かった。

 

「盾を潰すよ」

 

「了解」

 

咲良と共に真矢は新型へと向かう。フェストゥムたちは、迎撃のためにワームスフィアーお、放出するが咲良と真矢は二手に分かれ、避ける。

 

左手から、真矢が狙撃を加える。一体、二体と、フェストゥ無を消滅させ、そのうちの一体が、マークジーベンへ、向かってゆく。フェストゥムはワームスフィアーを多量に放出し、真矢を倒そうとするが、機動力の高いマークジーベンには掠りもせずに、マークジーベンは空を舞いながら、フェストゥムを狙撃して行く。

 

右手からはマークドライが、大量のミサイルを放ち、フェストゥムがなぎ倒されてゆく。何匹かがミサイルを避け、反撃を加えるものの、リンドブルムによって高い飛行能力を持つマークドライには当たらずに、逆に、マークドライから放たれたプラズマ砲を喰らい、消滅した。

 

――――

 

「まだるっこい!だったら……」

 

レイは新型の対処法にもどかしさを感じ、マークヌルならではの行動にでる。黒き巨人の破壊の右腕、その掌に燈色の光を輝かせる。

 

「盾諸共、消してやる!!」

 

マークヌルの最大火力を持つ装備、『シヴァ』の燈色の閃光が新型のフェストゥムへ牙を剥く。その光は親衛隊のフェストゥムがまるでいなかったかのように、もろともに消滅させる。

 

「よし、このまま一気に―――ッ!」

 

もう一度シヴァを撃とうとするが、他のフェストゥムが突進をしてくる。まるで、その砲撃をさせまいとするように。

 

「危険だと判断したのか?くそっ、学習が早すぎる!」

 

レイは突進してくるフェストゥムを右腕の爪で引き裂いてゆくが、そのために新型への対処が出来なくなってしまってゆく。

 

――――

 

島で戦闘が行われている時、真壁一騎と来栖操はかつて皆城総士がいた部屋で、対話の続きをしていた。外では激しい戦闘が行われているが、それを感じさせないほどに静かな空間だ。

 

「総士と君がいる」

 

机やベッドにソファ、テーブルにコンパクトなバスルームがつき、部屋を出て11歩の距離に自動販売機がある、『きわめて便利』な部屋で来栖は飾ってある写真を見て「ここにきたかったんだ」と言った。写真を被うガラスの板に、うっすらと来栖の顔が映りこむ。その顔は無邪気な少年の当に笑っていた。

 

「皆城総士がいた場所に。彼をもっと理解したいから」

 

「だから総士の服を着るのか」

 

それに対する一騎の反応は芳しいものではなく、苛立ちを孕んだ声であった。

 

「ぴったりだからね」

 

一騎は苛立ちを抑えながら、来栖に質問を投げかける。

 

「総士はドコに在るんだ?」

 

「無の中。存在を取り戻せると良いね」

 

来栖の返答はどこか他人事のように聞こえ、それが一騎を苛立たせる。一騎が少し強く拳を握るが、来栖はそれに気がつか無い様子で椅子に座った。

 

「話そう。君と話せるのは嬉しい」

 

部屋の外には、溝口が率いる特殊部隊が銃を構え、扉に張り付いている。『何か』が、おきたときにすぐに救出にいけるように。

 

その扉を通して、かすかだが、一騎の声が聞こえてくる。

 

『島を、みんなを苦しめて、なのに話すことが楽しいのか」

 

その声には、苛立ちを超えた明確な怒りが含まれていた。

 

「一騎は俺に憎しみを感じるの?」

 

一騎の言葉に高質問した来栖。だが、言葉で知っていても、意味が理解できていないようなしゃべり方をしている。

 

「違う、腹が立っただけだ」

 

「俺には、怒りも憎しみもよくわからない。苦しむのが嫌なら、俺の言うとおりにしなよ」

 

「コアを奪うのなら、何故今しない」

 

来栖の言葉に、一騎はそう投げかける。確かに、来栖の能力は未知数だが、やろうと思えば単身でコアを奪うことも可能だろう。だが、その答えについて来栖はこう語った。

 

「君たちとは戦いたくないからだよ」

 

「ならお前のミールを止めろ!」

 

「無理だよ、ミールは俺の声なんか聞かない」

 

来栖の言葉には諦観の色がにじんでいた。まるで、最初からどうなるかが、わかっているように。

 

「一度はとめただろ!」

 

それは、最初の乱戦の時、一騎と来栖が始めてあったとき、西の灯台で、来栖ガ何かを呟いたのを皮切りに、フェストゥム一斉に去った事があった。

 

「俺が目的を話す間だけ還ったんだ。俺の存在は、君たちでいう、指みたいなものだよ。」

 

そう言いながら、来栖は右手を眼前に掲げ、指を広げる仕草をする。

 

「君の指は君に命令しない。そうでしょ?」

 

笑いながら言うが、そこには諦観の色が浮かんでいた。

 

「どこに還るんだ?」

 

「船だよ。俺の島みたいなモノ」

 

「その船に、お前のミールがいるのか」

 

一騎の念を押して、確認するような口調に、ただならぬ気配を覚えた来栖が、怒っているとも、悲しんでいるとも搗かない表情で

 

「いま、ミールを攻撃しようって思った?」

 

と質問を投げかける。一騎は少し、にらむような表情でこういった。

 

「島を護るためなら、そうする」

 

その目には、決意の色が見て取れた。来栖はその理由がよくわから無かった。だから誰かに言われたのかと思った。

 

「皆城総士がそうしろっていったの?」

 

「なに!?」

 

来栖はおもむろに立ち上がり、体を抱きしめるようにしていった。その目には明らかな悲しさでいっぱいになっている

 

「彼の声は聞こえる?俺にはもう聞こえない。彼の存在が本当に消えないようにするので精一杯なんだ」

 

―――刹那

 

「ッぐ……!」

 

一騎の脳裏に様々なイメージが流れ込んできた。

 

―――巨大な水晶のような塔―――

 

「ぐう……」

 

―――大量に並ぶ赤い水晶のようなモノとその中に浮かぶ人影のようなモノ―――

 

―――『ソレ』を見守るフェストゥム―――

 

―――業火に包まれるフェストゥム―――

 

「うう……っ!」

 

―――全てが崩壊する中でソレを両手に包み、護ろうとするフェストゥム―――

 

―――全てを破戒する巨大な、雷を纏った雲―――

 

―――ガタン!!

 

テーブルが倒れ、一騎がその場にうずくまる。全てのイメージを見た一騎は、驚愕に目を剥き、来栖へとその目を向けた。

 

「おまえが……総士を……護った……っ!?」




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悲劇 ~かべ~

「止めを刺せ!!」

 

島を襲来したフェストゥムの最後の一体が消滅する。だが、ファフナーの搭乗者や、CDCにいる大人たちは、顔色が優れる気配を見せない。

 

生い茂った木々は焼け野原と化し、どこか懐かしさを感じさせる町並みは、もはや見る影もなく勝利と言うにはいえない、そしてまたフェストゥムは来襲するのだから。

 

「っく……!?」

 

一体のファフナー、マークヌル。右腕にはたいした損傷は無いが、左腕に裂傷があり、背部のスラスターが曲がったり、凹んだりしている。だが、何よりその搭乗者に異変が起きていた。

 

―――目眩、頭痛に平衡感覚の乱れ……一時的なものであれば良いのだけど―――

 

レイ・ベルリオーズ。彼は、自分の身に起きた異変に戸惑いを覚える。なぜなら、他のメンバーは、自分のようにめまいに襲われたようなそぶりを見せないのだから。

 

それは、1つの悲劇へのプレリュードであった……。

 

――――

 

「敵の消滅を確認!」

 

「敵の攻撃時に生じる物質が、システムに重大な負荷をもたらしたとの報告が」

 

「コア殺しの敵か……」

 

ジェレミーの報告に、溝口は唸りながらそういった。システムへの負荷は、成長期に入ったコアに負担をかけて行き、しに至らしめることは容易に想像できる。

 

「―――ッ!?」

 

不意に真壁史彦は後を見た。そして、

 

「あの子?」

 

そんなことを呟く。ソレが何を意味するのかはその言葉を放った史彦にすらわからない。

 

「―――ッ!?ゴホッゴホ……!」

 

「真壁!?」

 

史彦は急に口に手を当てて、むせたかのように「せき」をした。

 

「SCコード……島に等しい存在……」

 

血に濡れた手を放し、言葉を紡ぐ。その額には脂汗がにじみ、史彦がどんな常態化を無言のうちに語っている。

 

「島に生かされたイノチ……ッ!!」

 

 

 

―――ガタン―――

 

 

 

「要さん!!」

 

突然、要澄美が椅子から、倒れこむ。ジェレミーが駆け寄るが、要は「大丈夫」と』答えた。

 

だが、異変は続く。

 

――――

 

ファフナーブルグ

 

 

「母さん!!」

 

ブルグにカノンの悲痛な声が響く。彼女の母親、羽佐間容子が倒れたのだ。

 

「意識が無い!誰か、すぐに救護班に連絡を!」

 

整備班の一人が、駆け寄り、救護を求めた。カノンは口元に手を当て、おびえるように母を見つめることしか出来なかった。

 

―――だが、響きだした序曲はやむことは無い。

 

カノン、はある違和感に気づいた。

 

―――レイは!?―――

 

本来なら、彼が倒れた容子に真っ先に駆け寄り救護を求め、カノンに励ましやら、何らかのアクションをするはずだが、今は声すら上がらない。

 

「レイ!!」

 

カノンは彼の名前を呼ぶ。なぜ、肝心な時にいないのか。今、彼の傍にいたい。出ないと心が押しつぶされそうに―――

 

 

 

 

            

      どさっ

 

 

 

 

 

その音は、カノンに新たな悲劇を宣告したのであった……。

 

――――

 

「…レ……イ…?」

 

カノンが目にしたのは、マークヌルの前で倒れこむ人影。

カノンは嘘だと思いたかった。嘘だと、これは夢なのだと、だが、ファフナーの搭乗者の証である、シナジェティックスーツに淡い金色の髪が、カノンに真実を告げ、その身の高鳴る心の臓の鼓動が、夢ではないとささやくのだった。

 

「レイ!!」

 

カノンはレイに駆け寄り、彼を抱き寄せる。彼の額には脂汗がにじみ、どこか中性的な顔立ちは、苦痛にゆがんでいた。

 

「レイ!しっかりして、ねえ!」

 

救護班は、現在手一杯で、容子を搬送したりも含め、来るにはもう少し時間が掛るだろう。だが、カノンにはそんなことはどうでも良かった。

 

ただひたすらに、涙を流し、彼の名を呼び続けた。

 

 

――――

 

医務室

 

医務室には真壁史彦と遠見千鶴が向かい合って、座っていた。

 

「フェストゥムが、発する物質には、核と同じ毒素が含まれており、ソレは今後、島民の多くに発祥すると考えられます。また、フェストゥムの因子を持つ子供達やファフナーのパイロットに発祥の傾向は見られなく、逆に因子を持たないレイ君は例外的に、発祥したものと思われます」

 

千鶴はいったん言葉を切り、注射器のようなものを取り出す。

 

「本来、ファフナーとの一体化を促すために、意図的に同化現象を起こす薬ですが、今はこれ以外に症状をとめる術はありません」

 

千鶴の言葉は段々小さくなってゆく。だが、史彦はひるむ様子もなく

 

「お願いします。千鶴さん」といった。

 

その目に、迷いはなく、その目を見た千鶴は顔を伏せ

 

「貴方が生きられるのなら、いっそ、あのフェストゥムの言うとおりにしたほうが言いと、思ってはいけないのに、どうしても……ッ」

 

そういう千鶴の声は震えていた。注射器をもつ手も震えている。その手にもう1つ別の手が添えられた。真壁史彦である

 

「希望はあるはずです」

 

史彦は言った。

 

「我々のコアの導きに、従いましょう」

 

その目の先には、一人の少女の写真が移されていたのだった。

 

――――

 

医務室

 

―――ピ―――ピ―――ピ―――

 

機械的な電子音が響く中、カノンはベッドに横になっている人影を見つめていた。

 

だが、彼は布団の上で眠ったままである。頬は青白くなり、呼吸器はつけられていないものの、その呼吸は不安定であった。

 

 

 

『カノン』

 

出撃前の会話が、カノンの脳裏を横切った。

 

『カノン。調子はどうですか?』

 

『好調だが、どうかしたのか?』

 

『いや、悪くないんならいいんです。……それじゃ、行きましょう』

 

――――

 

あの時はただの発進前の普通のやりとりに感じた。だが、今思えばあの時、レイはおかしかった。

なにかこう、けがを隠しているような、そんな感じで。

 

「……っ」

 

なぜ、もっと早くにかがつかなかったんだ!私が早く気が付いていれば、出撃させずに医務室に行かせ、検診を受けさせることだってできたはずなのに!

 

……なぜ……

 

今のカノンには自責の念が強くのしかかっていた。自分がもっとよく見ていれば、と。だが、そんなことをしてもレイの調子が良くならないのは分かっている。だが、理屈と感情は違った。

 

「くそっ……」

 

そんな中、個室のドアが開いた。

 

「カノン?」

 

「カノン!此処にいたのかよ」

 

それは剣司と咲良だった。その様子から、先ほどからずっとカノンを探していたようである。

 

「レイは……まだ悪いみたいだね」

 

「この野郎……。体調管理は怠るなっていつも俺たちに言っておきやがって……っ」

 

二人も、レイのことが心配なことは見て取れた。剣司は拳を握りしめ、咲良は車椅子に座りながらも顔を伏せている。カノンは二人を見て、ぎこちなくだが笑った。

 

「二人とも、心配かけて済まない。私も、少し休むとしよう。レイが起きた時に何を言われるか解らないからな。」

 

カノンはそう言って、医務室を後にした。それを見ていた剣司と咲良は心配そうに見つめていた。そして、ベッドに横たわる人物を見る。

 

「レイ……起きるといいね」

 

咲良の言葉に、剣司はこう返す。

 

「起きるさ、俺たちがこの戦いを終わらせればな、その時には散々文句を言ってやるさ・・・・・・」

 

剣司の言葉は決意に満ちていた。仲間を失う辛さは、あの時だけで十分だ。そのために力をつけてきたのだから。




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悲劇 ~かべ~ Ⅱ

フェストゥムトの戦闘はさらに苛烈さを増してゆく。敵の数が戦闘を重ねる毎に増えてゆき、戦術は変わらず拙い物だが、こちらも、欠員が出ている中での戦闘。辛くない訳が無かった。

 

「くそっ、なんて数だ。マークフュンフは敵を食い止めろ!マークツェーンはフュンフが止めた奴を確実に仕留めろよ!!」

 

剣司は仲間に指示を飛ばしながら、自身もマークアハトの持つ、『ガルム-44』で敵に掃射を加えていく。何対かのフェストゥムが、コアを撃ち抜かれ、消滅し、軟体かは命中し、体が削られながらも、突進していく。

 

「チッ!」

 

剣司は突進してくるフェストゥムを避けながら、地面を滑走する。狙いはエウロス型。

 

「マークジーベン。エウロス型の動きを止めてくれ!」

 

「了解」

 

マークジーベンは空中を高速で移動しながら、同じように高速で動き回るエウロス型に標準を向ける。

 

「はずさない……!」

 

レールガンの一撃がエウロス型へと発射される。電磁力で加速する音速を超える飛翔体は一切の狂いなく深紅のフェストゥムに直撃する。

 

「おし、もらった―――うお!?」

 

剣司はエウロス型へ銃口を向けて、引き金を引こうとした瞬間、驚きの声を上げ、飛び退いた。

 

エウロス型の深紅の体から白い剣―――ルガーランスが突き出ているのだ。そして、刀身が無機質な音を立てて開き、その間に電流が走る。

 

「ぬぅうああああああ!!!」

 

カノンの駆るマークドライツェンが、その手に持つ剣で、エウロス型を討つ。黒い球体に呑まれ、消滅するエウロス型を一概もせずに、また新たな敵へと向かってゆく。それを見ていた剣司は

 

「怖ええぇ……」

 

と呟いた。が、すぐに右へ飛び退く。寸前まで剣司の駆るマークアハトがいた場所は、フェストゥムのワームスフィアの黒い球体が出現した。

 

――――

 

「ぬぅあああああ!!」

 

カノンはマークドライツェンを駆り、戦場を疾走する。彼女は、エウロス型を最優先で撃破していた。人間同士の戦闘と同じ、指揮官を潰せば、戦闘は早期に終わらせられる。

 

今のカノンには、終わりの見えない戦いから母と、大切な人をフェストゥムの発する毒から守るには、今の戦闘を一秒でも早く終わらせることしか出来なかった。

 

「邪魔だああああ!!」

 

盾となり立塞がるフェストゥムをルガーランスで切り捨ててゆき、速度を落とすことなく、むしろ加速しながらエウロス型へと駆ける。紅いフェストゥムは、その手に銃を持ち、自身と同じ、紅いファフナーへ、銃口を向ける。

 

放たれた弾丸は真直ぐにマークドライツェンへ飛ぶ。だが、それはマークドライツェンに当たることは無かった。

 

弾丸が当たる寸前に、上へ跳んだマークドライツェン。夕暮れ太陽に当たり、その深紅を、さらに鮮やかに染め上げる。銃口を上へ向けられて尚加速する。自由落下に加え、二基の大型スラスターによる速度で上空からフェストゥムに突進する。

 

エウロス型は、銃を上へ向け、狙いを定める。マズルブレーキが火を噴き、弾丸を発射する―――直前に、カノンのルガーランスがその胴へ深々と突き刺さり、その勢いのまま、地に叩きつけられる。放たれた弾丸はマークドライツェンに掠った物の、ダメージを与えることは無かった。

 

「これで……!!」

 

エウロス型の銃を持つ右腕を脚で踏みつけ、頭を左手で鷲掴み、右でルガーランスを操作する。開講するその刀身から発する青白いプラズマはその輝きを増してゆく。

 

「終わりだぁああああ!!!」

 

――――

 

「お疲れ、カノン」

 

「ああ、お疲れ様だ。咲良」

 

戦闘が終わり、パイロットはファフナーから降りる。各々のファフナーの損傷が、その戦闘の苛烈さを無言のままに物語っていた。

 

欠損こそ無いものの、各部に傷が有り、装甲が割れ、内部の赤色の衝撃吸収剤が垂れている様は、血だらけの戦士を見せている。

 

「皆、ご苦労だった。各自、次の戦闘に備え、休息を取ってくれ」

 

戦闘が終わった後は、みな、思い思いの休息を取る。戦時体制のため、家には帰れないが、個人にあてがわれた、アルヴィスの個室がある。飾り気は無いが、机やベッドにソファー、テーブルにコンパクトなバスルームがついており、差は出てくるが、大体部屋から出て10前後の距離に自動販売機がある、極めて便利な部屋だ。

 

そんな中で、羽佐間カノンは、一人ある部屋へと入る。部屋の前には『病室』と書かれていた。

 

カノンは、病室のベッドの前に行き、手近に有った椅子を引き寄せ、座る。カノンの目の前にあるベッドに寝ているのは、レイだった。

 

「レイ……」

 

彼の名を呼ぶ。当然だが、返事は無い。その現実が、彼女を苦しめる。今更なのに、後悔が湧き出てくる。

 

もっと早く、彼の変化に気づけなかったのか。もっと彼のことを見ておくべきだったんじゃないか。もっと―――

 

「ッ……!」

 

自身に対する怒りと悲しみに、思わず立ち上がる。そのとき、彼の寝るベッドの傍においてある机から、カタンと何かが落ちる音がした。

 

「これは……」

 

写真たてだった。カノンは写真たてを拾い上げる。その中には、昔の写真が収められていた。活発な笑顔を見せている昔の自分。その隣で、穏やかに笑っている昔の彼。そして、鏡写しに見える自分の顔。

 

「私は……」

 

―――カシャン

 

また、何かが落ちる音がする。今度は写真たてから落ちたのだろう。それの真下にあった。カノンは写真たてを机に置き、それを手にする。

 

「フロッピーディスク・・・・・・」

 

落ちたのは一枚のフロッピーディスクだった。カノンは手にしたディスクを持ち、一度レイを一概して、「また来る」と言って、病室を後にした。

 

――――

 

「調子は如何だ?咲良」

 

「見ての通り、上々だよ」

 

剣司の問いに手を振って、笑いながら応える咲良。剣司はそれを見て、一度ため息を吐き、真剣な顔つきになって、こういった。

 

「島のコアが、重なる戦闘で相当のダメージを受ちまってるらしい」

 

剣司の言葉に、彼が何を言おうとしているのかを理解したのか、咲良も真剣な顔つきになる。

 

「抵抗力の高い大人にも、影響が出始めている。咲良。お前もファフナーパイロットだけど、昔と違って、今は体が弱くて、その分抵抗力も弱い」

 

剣司は一度、言葉を切る。

 

「もし、次の戦闘でお前に何かあったら―――」

 

「ストップ」

 

咲良は、剣司の言葉を遮った。そして、彼の手に自分の手を重ねる。

 

「あたしは、そう簡単に倒れたりしないから、信じて」

 

「咲良……」

 

「それに、あたしがいなかったら、誰がアンタの荷物を背負うのよっ」

 

咲良の言葉に、剣司は「そうだな」と笑った。

 

「絶対に生き残ろう!」

 

「うんっ!」




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想い ~さいかい~

真壁一騎は来栖操と、共に水中展望室を訪れていた。理由は簡単。来栖が見たいと言ったからである。

 

来栖はガラスに手を当てて、食い入るように見ている。

 

幾許かの時間がたったとき、椅子に座っていた一騎は来栖に声をかけた。

 

「なんで、お前は総士を助ける」

 

その問いに、来栖は振り向き、一騎に一歩歩み寄る。そして、無邪気な笑顔を浮かべ、こう答えた。

 

「ずっと探してたんだ。俺意外に、空が綺麗だって想う存在を」

 

そこまで言うと、一旦言葉を切る。そして、また笑顔を浮かべ、

 

「そうしたら、彼がいた」

 

そういった。その言葉に一騎は戸惑ったような口ぶりで、「お前は想うのか?」と言った。

 

「空が綺麗だって」

 

「うん」

 

来栖は頷き、両手を広げた。

 

「君もそう想うでしょ」

 

そういう来栖の顔は活き活きとしている。まるで、それが生きがいだと言わんばかりの表情だ。来栖の言葉を聞いた一騎は、少し、顔を伏せる。

 

「俺には、もう空が見えない」

 

「……え……」

 

「もうじき、何も見えなくなる」

 

そこまで一騎は言うと、顔を上げ、と右手を前に翳す。

 

「代わりに俺の指は、ソコにあるものを伝えてくれる」

 

その口ぶりは、以前自らの存在を、"指”にたとえた来栖に言い聞かせようとしているようでもあった。

 

「…………」

 

来栖は口を開けて、何も言わなかった。目を丸くし、驚いているようにも、困惑しているようにも見える。

 

「ずっと考えていたんだ」

 

一騎は言葉を続ける。

 

「総士がお前に望んだのは、何だったのかを」

 

其処まで言った一騎は、椅子から立ち上った。

 

「お前が、お前達のミールに伝えるって事なんじゃないか?」

 

「伝える?なにを」

 

来栖は、一騎が何を言おうとしているかが判らないといったそぶりで一騎に訊いた。

 

「お前達に平和なんて、作れない。痛みから逃げて。全部、誰かのせいにして……!」

 

一騎の脳裏には、過去の出来事が鮮明に写っていた。

 

―――フェストゥムと共に自爆した、黒髪の病弱な少女―――

 

―――自らもフェストゥムになってまで、俺達を助けてくれた茶髪の少年―――

 

―――自分の大切なものの為に、その命を散らしたバンダナの青年―――

 

―――今の平和があるのは、あいつらの命と引き換えに、仲間達と痛みを分けて、手に入れたものだ。それをお前達は知らない。

 

「本当に痛みを消そうなんて、考えてない」

 

一騎の言葉に、来栖は少し、怒ったような、戸惑ったような口調で、こういった。

 

「俺の、役目は君たちに選ばせることだよ!」

 

それにも一騎は臆することなく、一歩前に踏み出す。

 

「お前は何を選ぶんだ?」

 

「!?」

 

一騎の言葉に声を詰まらせる来栖。彼の胸、心の蔵がある位置に、一騎の指が置かれた。

 

染色体を持たない、人を模した人形。それでも、その鼓動を、一騎ははっきりと感じた。

そして、その口を開く。

 

「『おまえは、そこにいるのか?』」

 

その問いは、フェストゥムの問いと重なった。それは、来栖に大きな衝撃を与えたのだった。

 

「おれ、は……」

 

――――

 

日を追うごとに、戦いは激しさを増していった。激しくなればなるほど、消耗も激しくなる。もはや島には、戦いが始まる前の半分以下の自然しか残されておらず、地形も変わっていった。

 

マークツヴォルフの射撃で、金色の敵は崩れ落ちる。其処に、広登の駆るマークフュンフが駆け寄ってきた。

 

「大丈夫か!?芹!」

 

広登の掛け声にも、彼女は応じず、芹は呆然とした表情で、虚空を見つめていた。

 

「なんていってるか、やっとわかった……」

 

「芹……」

 

芹は、以前よりフェストゥムが、ダメージを受けたときに発する、声にならない声を聞き取って、何を言っているのかを知ろうとしていた。剣司やカノン、真矢を含めたパイロット全員が築いていない中で、彼女はただ一人、それを聞こうとしていたのだ。

 

「いたい。たすけて」

 

『いたい。たすけて』

 

芹は、その声を訊き、独り言のように半濁する。その目には涙が浮かんできていた。

 

「なら……楽にしてやれよ!」

 

広登はまだ、ぼろぼろになりながらも、消えない敵に止めを刺す。それは苦しんでいるものに対する慈悲なのか、傲慢なのか。

 

「あ、あああ……あああああああああ!!」

 

消滅するフェストゥムを見てか見ずか、時をおかずに芹は事線が切れたような泣き出した。

 

「な、泣くなよ……」

 

いきなり泣き出した芹に戸惑う広登。それでも、芹は泣き止むことはなく、その声は大きくなってゆく。

 

「蒼い穹が見たいよぉ……!」

 

それは、この島にいる全ての人間が想うことであった。一分、一秒でも空を被う、雲を振り払い、真っ青な大空を夢見るのだ。

 

はたして、その空を見ることが出来るのはイツなのだろうか―――




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想い ~再開~ Ⅱ

「―――これいじょう俺に何を伝えろって言うの!?」

 

「戦いたくないって言う、お前の気持ちは伝えてるのか?」

 

アルヴィスの最下層、ウルドの泉。ワルキューレの岩戸と、背中合わせに存在しており、北欧神話に登場する浄化の泉が由来で、「フェストゥムとの戦いに終止符を打ち、地球を清める」という願いが込められている。

 

その中を、来栖と一騎は歩いていた。

 

「無理だよ、ミールは君たちで言う、神様なんだ。神様には逆らえない……」

 

いつかと同じように諦観の言葉を吐く来栖は

一度、足を止め、こういった。

 

「ねえ、コアが死んでしまうよ」

 

それを聞いた一揆は振り返り、足を止める。

 

「俺達は、人とは戦わない。お前達と一緒に世界中と戦うなんて、望まない。そんなことをしたら、それはもう俺じゃない!」

 

人とは戦わない。それは彼の父親、真壁史彦が言ったことと、同じであった。彼の信念は、一騎に受け継がれていたのだ。

 

「俺だって……」

 

来栖は一騎の言葉に顔をそらし、

 

「君のいうとおりにしたら、もう俺じゃなくなるよ……」

 

そういったのだった。

 

――――

 

戦いが終わり、朝を迎えた竜宮島。雲に覆われ、日は見えず、ただ時だけが、朝と夜を伝えてくれるだけで、島ももはや、見る影が無いほどに朽ちている。

 

――――

 

現在戦闘区域から外れている向島。自然も殆ど残っているその山に、一人の少女がいた。

 

彼女は立上芹。彼女は森が割れ、ちょうど海が見える位置で、土で出来た山の頂上に石を挿したようなものを作っていた。芹が立ち上がると、彼女の周りには同じようなものがいくつも並んでいた。その土の山の形と数は、とある場所を連想させる。

 

それを眺める彼女の顔は暗いものだった。

 

「驚いたな」

 

「え……」

 

芹はその声に驚き、振り向いた。彼女の前に立っていたのは、真壁史彦だった。史彦は土の山を見て、こういった。

 

「敵との対話を望んだものは知っているが、敵の墓標を作ったものは、初めてだ」

 

そう、芹が今まで作っていたのは敵、フェストゥムの墓だった。彼女は、今まで自分が倒したフェストゥムの墓を作っていた。

 

史彦の言葉に、芹は顔を伏せた。

 

「乙姫ちゃんは敵にも伝えようとしてました。みんなの悲しい気持ちを……」

 

そういって彼女は、さらに顔を伏せる。

 

「でも私は、何も出来なくて」

 

そして、史彦と同じようにフェストゥムの墓を見て、言った。

 

「変ですよね。こんなの」

 

「いや」

 

史彦は芹の言葉を否定した。そして驚いたような顔をする彼女をみて、口を開く。

 

「見方の市は背負うことが出来る。だが、敵の死は、刻み込むしかない」

 

そこで一旦史彦は言葉を切り、もう一度、墓標を見る。

 

「永遠に」

 

「真壁指令……人間とも戦ったんですよね」

 

芹は顔を上げ、史彦を見た。

 

「あの、私に用があってきたんですか?」

 

「おそらく君にしか、出来ないことだ」

 

――――

 

ワルキューレの岩戸。島のコアが眠る場所。そして、芹にとってはなじみのある場所でもあった。

 

その中を歩む、白い布を羽織った芹。その後で、彼女から生えているコードを持つ、堂馬広登、西尾里奈、西尾輝。その後に遠見千鶴と真壁史彦。そして、剣司を初めとするファフナーのパイロット。

 

―――私、怖くないよ。乙姫ちゃん。

 

芹の脳裏にあのときの記憶が浮かび上がる。島の存亡をかけた、蒼穹作戦。その折に、自分達の目の前で、ワルキューレの岩戸の中で消えた親友、皆城乙姫。いまは、彼女は生まれ変わり、皆城乙姫とは違う、同じ存在となっている。

 

コアが眠る本体の傍で、カプセルの中に入る芹、彼女が身に纏っているのは、あの時、乙姫がつけていたものと、同じ装具だった。

 

「代替者がコアの負荷を軽減できるのは、数週間が限度です」

 

カプセル内の、芹の足元から、コアを被うものと、同じ液体が入り込む。それはあっという間に、彼女の全体を被い始める。

 

「ッ!」

 

剣司は自ら危険を犯す後輩を、見ていることしか出来ない自分に、思わず顔をそらし、歯噛みした。

 

芹は、ゆっくりと目を閉じる。全身が液体に覆われた感触と共に、ゆっくりと意識が遠のいていった。

 

――――

 

島の何処かに彼女はいた。場所からして、向島の山だろう。彼女は、木々が感じている風や、命の息吹が、まるで自分の事のように感じ取ることができていた。それはまるで、自分がこの島の一部になったかのようでもあった。

 

彼女は、ふと現れた気配に振り向く。其処にいたのは、2年前、別れを告げた親友の何も変わらない姿が在った。

 

皆城乙姫は布に包まれた赤ん坊を抱きながら、芹を見て、昔と変わらない、無邪気な笑顔を浮かべる。それを見た、芹は思わず、なきそうになりながら、乙姫と同じように、笑った。

 

「また逢えたね、芹ちゃん」

 

「うん。また逢えたね、乙姫ちゃん」

 

それは、たった数週間しかないとわかっていても、いずれまた、分かれるときが来ると知っていても、芹には今のこの瞬間が、この再会を何よりも嬉しく想った。




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激戦 ~くのう~

アルヴィスの会議室。敵の襲来に備えての会議が開かれていた。その中には少年の姿はない。いまだ彼はさめぬ眠りについていた。

 

「エウロス型を中心とした、複数の敵集団の合流を確認。戦闘に無関係だった個体を、多数、支配下に置いたと推測されます」

 

「非戦闘員まで搔き集めたってか……!」

 

元人類軍のジェレミーによる敵の分析に対しての溝口の反応はそれだった。今までの戦闘では、おそらく自分たちの群れだけで襲来してきただろうが、今度は自分たちとは関係ない、いわゆる流れフェストゥムを多数自らの支配下に置き、襲来してくるというのだ。

 

流れとは言っても、その数は人類軍の推測では、百単位でいるだろうと推測されている。それだけの数のフェストゥムだ。たとえすべての流れフェストゥムを支配下に置いた訳ではなくても、その数はおそらく100を超えるだろう。

 

「周囲の存在まで自分たちの戦いに利用する……それがエウロス型の本質か……」

 

文彦の評価を聞き、モニターに映る敵を見た小楯保はやや声を震わせてこういった。

 

「こんなの数の大群……勝てるのか?」

 

その言葉に向かい側の席に座っていた西尾行美は言葉を返す。

 

「勝ったところで、次の大群が来る。敵のミールを叩くしかないよ」

 

行美の言うことは正論だ。フェストゥムは個という概念を持たなかった。蒼穹作戦が行われ、北極のミールが破壊されてからは、それぞれ別のミールに分かれ、群れ同士が別々になっても、その本質はあまり変わらない。いつか来栖が言っていたようにミールは彼らでいう“神様”だ。

 

故にその神様を破壊すればフェストゥムは瓦解し、ばらばらになる。

 

だが、幾美の言葉に応えられる者はおらず、沈黙の場を作る。そもそもミールはフェストゥムの中核。破壊するのは容易ではない。どうやって破壊するかを決めるには、情報が少ないのだ。

 

その沈黙を破ったのは、元人類軍の2人だった。

 

「私たちに、提案があります」

 

――――

 

アルヴィス。レイの部屋、無人のこの部屋に入ってきた人物がいる。カノンだ。

 

彼女はレイの部屋に入ると、まっすぐにパソコンが置いてある机を目指す。

 

「……レイ。お前のいない間に見るのは失礼だが、こんな時でないと、お前の思いは分からないからな」

 

写真たてに隠してあったフロッピーディスク。それが何を意味するのか。彼女はそれが知りたかった。そこで、今の空き時間にレイの部屋を訪れたのだ。恐く彼がいま起きていたのならば、あの手この手でそのフロッピーの中を私に見せないようにしていただろう。

 

そもそも、写真立ての裏に隠しておくなど、誰にも、特に近しい人に見られたくないものに違いないのだ。

 

パソコンの起動音が静かな部屋に響く。フロッピーディスクを入れると、まもなくウィンドゥが表示され、中のフォルダをクリックした。

 

フォルダをクリックすると、そこにはいくつかのフォルダが入っていた。その中で最初に目を引いたのが、『ドライツェン』という名前のファイル。どうやらCGデータファイルのようだ。

 

その名前からして、自分のファフナーに関係があると思ったカノンは、迷わずそのフォルダをクリックした。

 

「これは―――」

 

――――

 

アルヴィスの会議室は騒然としていた。その発端は、元人類軍のイアン・カンプとジェレミー・・リー・マーシーの立案した作戦。

その内容は

 

「かつてこの島を守る為に『L計画』と言う計画が発動されたと聞きます」

 

そう、4年前竜宮島を守る為に発動された『L計画』。それは島の一部であるLボートと言う区画を切り離し、そのLボートを竜宮島として漂流させる。

 

いわば囮作戦だった。

 

2ヶ月に及ぶ作戦は、滞りなく行われ、全くのイレギュラーも存在せずに、2ヶ月の作戦期間を全うし、完全に敵を竜宮島から目を反らせて対応作を張り巡らせる猶予をもたらせ、1年という平和を勝ち取らせることに成功したという、完璧かつ見事な勝利で終わった。

 

作戦実行者全員の「未帰還」をもって……。

 

今回の作戦はそのLボートと同じ区画部分を切り離し、敵ミールの存在する元人類軍戦艦『ボレアリオス』に接近させるというものだ。

 

「……手段は?」

 

溝口の声を押し殺したような質問に、イアンは答えた。

 

「可能な限りの人員を脱出させた後、フェンリルを使用、敵諸共吹き飛びます」

 

静まりかえる室内。その沈黙を破ったのは西尾行美だった。

 

「敵に囲まれている中で脱出なんて、できるもんじゃないよ」

 

「でも、どうして貴方達が!?」

 

要澄美の言葉に、今度はジェレミーが少し、身を乗り出して、言った。

 

「人類軍の攻撃が、あの敵を作りました!!」

 

「我々の責務なのです……!かつて捨てられ、今祖に間に生かされたイノチ。本望です!」

 

ジェレミーの、その言葉に応えるようにして言ったイアンの目には、言葉には、覚悟の色が見て取れた。

 

再びの沈黙。周りは先ほどよりも静かに感じる。モニターの電子音が、いつもより大きく響いた気がした。そして、この沈黙を破ったのは、今まで沈黙を守っていた真壁史彦だった。

 

「あの島を使うことには許可する」

 

「真壁!」

 

さすがの溝口も、彼らの自殺行為に等しい作戦を許可するような発言に、声を荒げた。だが、史彦は彼らの予想とは全く逆の言葉を口にした。

 

「だが、諸君等を犠牲にするためではない」

 

「……!」

 

「『L計画』は絶対に繰り返してはならんのだ……!」

 

史彦の脳裏に浮かんだあの日の夜。

月が綺麗だったあの夜、島中に『彼』の声が響き渡った。

 

―――以上が、俺達の戦いだ。これを聞いてくれる奴が居るのを、願ってる―――

 

あの夜。島の全ての人が、涙を流した。島を守る為に、犠牲になった少年。少女。大人たち。その正真正銘最後の一人が、残した記録(ことば)

あのときは、それが最良の手段だったかもしれない。だが、それは史彦の中で、自らの過ちとして、刻んでいる。

 

ガタンッと言う音と共に、史彦は立ち上がる。その音に、顔を伏せていた者達も、史彦を見た。

史彦の目には覚悟があった。

 

「今度は我々が、『対話』を求める番だ!」




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久しぶりに投稿できた。文字が少ないのは勘弁してください。


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激戦 ~くのう~ Ⅱ

かなり更新が途絶えてしまいましたが、なんとか更新することができました。
何やら結構見てくれている人もいたようで嬉しい限りです。

ぼちぼち、更新していけたらと思います


アルヴィスの通路で、史彦は日野親子と話をしていた。その内容は、普通の親子にするようなものでは決したないが、それでも、彼らには不可欠な話だった。

 

「島で初めての自然受胎。皆城乙姫により、ミールが生と死を学び、誕生した最初の子供」

 

此処で史彦は一度言葉を切る。史彦の表情はどこか辛そうなものだった。

 

「皆城総士にとっても、未知の、ミールに等しい存在だ」

 

日野弓子は史彦の言葉を聞き、小さいバッグを持つ手を震わせた。その表情は、ひどく、辛く、苦しそうなものだ。

 

「美羽君もまた、日常的にクロッシング状態にある。それも、島のミールそのものと」

 

島のミール。それはこの竜宮島を覆う空気であり、島の環境そのものと言える。そして、日野美羽はそのミールと日常的にクロッシング、つまり意識レベルでの同一化をしているのだ。

 

故に彼女は2歳という年齢にもかかわらず、ひとりで自律的な歩行ができ、幼児レベルとはいえど人の言葉を話すことが出来、その身長、体格も2歳という赤ん坊にしては異常なほどしっか尻していた。

 

美羽はふと、持っていて人形から目を離し、顔を横に向けた。

 

「ママ」

 

「?」

 

美羽が容子に声をかけた。それに振り向く容子。美羽はさらに言葉を続けた。

 

「おねがい。みわにおはなしさせて?」

 

「美羽……」

 

容子はしゃがみ、美羽と同じ視線になる。史彦と、容子、両名は苦悩の表情をしていた。

 

――――

 

サイレンが響く竜宮島。半ば焼け野原と貸した島の山中で、敵の襲来を待ち受ける巨人達。視認できる距離に近づいた時点で、今までと違う圧倒的な数が迫ってきていることを知った。だが、後退は出来ない。長期戦も、できるわけがない。退けばそれだけで島がのっとられ、戦闘が長引けばその分、島の命が危ないのだから

 

「いけえええええええ!!」

 

カノンの号令で、各機が突撃を開始する。その中で、一際凄まじい速度で、敵に突撃する一体の巨人。深紅のカラーを施された機体、マークドライツェン。

 

その搭乗者、羽佐間カノン。

 

「はああああああああああああ!!!」

 

彼女は今までよりも、さらに鬼気迫る勢いでフェストゥムに突っ込んでゆく。その目には、以前とは違う。複雑な色が浮かんでいた。

 

――――

 

「やめて降伏して、みんないなくなる!!」

 

アルヴィス内部。皆城総士の部屋で、来栖操は一騎の肩をつかみ、必死になって、叫んでいた。だが、一騎は臆することは無く、今までのように、来栖に言葉をつむぐ。

 

「お前が戦いをやめさせろ!」

 

「ミールは俺の声なんか聞かない!!」

 

いつかと同じ、諦めの言葉を吐く来栖。それでも、一騎はそれを変させたかった。だから、こういったのだ。

 

「想ったんだろ!空が綺麗だって!!」

 

「ッ!?」

 

目を見開き、激しく動揺する来栖。そして、一騎は言葉を続ける。かつて、彼の親友がそうしたように、戦えない彼が出来た唯一の手段。対話で、彼に教えようとしていた。

 

「命令もされずに、人間みたいに、空が綺麗だって想ったんだろ!?」

 

一騎は来栖が着ている総士の服の襟元をつかんだ。

 

「それを奪われることがどんなことか、お前の神様に教えてやれ!!」

 

直後、ドアが開いた。二人は開いたドアを見る。黒いジャケットと、特徴的なヘルメットで身を包んだ特殊部隊に囲まれて居るのは日野親子と、真壁史彦だった。

 

そして、部屋に入ってきたのは日野美羽だけだった。美羽を見た来栖は一騎から手を離し、彼女を見つめる。美羽は周囲を見渡すと、来栖に向けて、

 

「ママのおかあさんもなおせないの?」

 

こういった。それに来栖は反応を示し、「俺達の言葉が、解るの?」と、動揺したそぶりを見せる。

 

「みわといっしょなら、おはなしできるよ」

 

その言葉を皮切りに、来栖の様子が変化した。肩幅よりやや開いた足が肩幅とちょうど同じ間隔へ閉じ、手も体の横に置かれ、まるで生真面目な人間のような姿勢だ。

 

「彼女が希望です。真壁司令」

 

「……!?」

 

「ッ!」

 

それまで、美羽に集中していた視線が来栖に集まる。だが、其処に居るのは来栖操であって、来栖操ではない。其処に居るのは

 

「そう、し……?」

 

美羽が静かに微笑んだ。

 

――――

 

ガシャァァン!!

 

そんな音がアルヴィスの内部に響く。下層部にある職員寮まで響くほどではないが、比較的上層部にある医療質には十分届くほどの音と衝撃だ。その衝撃で、ベッドに横たわる人影が落ちる。

 

どさっと言う音がし、床に打ち付けられた人影は、静かに目を開き、たちあがった。そして、

立っているのもやっとといった様子なのに、ある一点へと歩き出す。

 

それが何を意味するのかは、もう少し先になるだろう。

 

――――

 

竜宮島の戦闘は激しさを増していた。

 

マークノインが持つサラマンダー。およそ900℃に達する高温の炎に焼かれ、フェストゥムは体組織を崩壊させ、消滅する。

だが、その直後側面に回ったもう一体のフェストゥムが放った攻撃。彼女はかわすことができず、左腕で体をかばう。

かばった左腕は、4枚の板のようなモノにねじ切られた。切断された装甲から流れ出る赤い衝撃吸収剤は、腕から流れ出る鮮血が如くに鮮やかな緋色で、腕と大地を染め上げる。

 

その直後に襲い掛かったフェストゥム・スカラベJ型種の緑色のワームスフィアに右半身を削り取られ、そして、機体の胸部に鋭く、刃のようになった職種を突き刺された。

 

「うあああ!!」

 

―――――通じた心の声―――――

 

「里奈ーーー!!」

 

空に響く剣司の声。射出されるコアブロック。それはフェストゥムに捕らえられた。つかんだコアブロックを振り上げるフェストゥム。それは過去の悪夢を思わせた。

 

――――

 

 

 

      『生きて、帰るって……やくそく……!』

 

 

 

 

――――

 

―――絶対にやらせねえ!今度は、誰も死なせはしねえ!!―――

 

振り上げられた腕が下ろされる直前、銃弾がフェストゥムの腕を貫く。フェストゥムのてから離れ、落下するコックピットをしっかりと左手で包み込む。片手で掃射するガルム―44は里奈を捕らえたフェストゥムのコアを破壊する。

 

ワームスフィアとともに、消滅するフェストゥム。それをギリギリで体を半身にして躱す剣司。奇しくも、彼は自分の親友を失った経緯から後輩を守ってみせたのだ。

 

「里奈!大丈夫か!?」

 

コックピット内部。返事はないが、里奈は気絶しているだけで、バイタルに異常はなかった。

 

―――――「守る」と聴こえたような―――――

 

だが、それに安心している暇など彼にはなかった。

 

「ッ!」

 

 剣司の目の前に現れたのは、エウロス型。深紅の体から放たれたミサイルは、剣司の駆るマークアハトの直撃コースを辿った。

 

「ケンジーーーー!!うぐっ!」

 

―――――奪うのは幼いから?―――――

 

大切な人のなを呼んだ咲良。彼女の駆るマークドライも、フェストゥムに体を飛翔させるリンドブルムを破壊され、堕ちて行く。

 

墜落し、爆炎を上げるマークドライ。それを横目で目撃した少年。

 

「里奈……先輩達……っくっそおおおおおお!!」

 

―――――土へ海へお還り―――――

 

内気な少年は、激昂し、フェストゥムへ突撃するが狙撃型の機体で突撃するのは愚策。背後から接近していたスカラベJ型種に脚部を取られ、ライフルを手放してしまった。

突撃の勢いもあり、ドラゴントゥースは前にバウンドしながら放り出される。

 

海へ引きずられてゆくマークツェーンと輝。それを見た真矢。

 

―――――「空」の綺麗さ 命の儚さ―――――

 

「輝君!!」

 

その絶対的冷静さを欠き、彼の救出にい行こうとする。

それをさせまいと彼女に迫るフェストゥム。目の前のフェストゥムが放つおびただしい数のワームスフィーアーを彼女はブーストをフルパワーにして旋回することで避けながら、狙いを定める。

 

引鉄を引く手は震え、銃身はブレる。ファフナーの変性意識による冷静さを欠くほどに今の彼女は焦っていた。

 

普段からは想像もつかないような程に射撃を外していく。ジーベンにワームスフィアを放ちながらフェストゥムは上昇し、マークジーベンも一気に昇る。

 

そして、互が最接近した瞬間に、ようやくレールガンがフェストゥムに直撃した。

 

消滅するフェストゥムを身もせずにに彼を追っていく。

マークツェーンが海中へ引きずり込まれてからまだ5秒と立っていないが、それでも手遅れになるかもしれないと、真矢は鬼気迫る表情で海中に飛び込んだ。

 

―――――強さは信じるって事ですか?―――――




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復帰~きぼう~

「ぐはっ!!」

 

切断される右腕。腕から滴る赤い液体は、その深紅の体をより、鮮やかに染める。ルガーランスを持った右腕が、地響きを鳴らし地に落ちる。

 

―――――さよならの時くらい微笑んで―――――

 

金色の敵を前に崩れ落ちる紅の巨人。

フェストゥムはその体から無数の触手を放出し、島に取り付こうとする。

 

「やらせるか……島には、母さんが!レイが!!」

 

彼女が思想するのは出撃前の出来事であった。

 

――――

 

アルヴィスの内部。パソコンの画面に映し出されたファイルを見たカノンは驚きの声を上げた。

 

「これは……!」

 

其処に在ったのは、マークドライツェンの設計図だった。

構想、理論共に搭乗者の戦闘パターンに合わせた徹底的なチューニング。使用するにあたり考えられる戦闘パターンにそれに合わせた最適な駆動方式。どれもそれらすべてが、羽佐間カノンのために作られたものであることは、見るものが見ればすぐにわかる。

 

彼女はそれを見て、悟った。

 

「レイ……私の為に、か」

 

2年という時間の中、設計が可能な時間は少ないだろう。なにせ設計のあとに機体を作り上げなければならないのだ。そして、現在この機体はすでに完成し、カノンの新たな剣となっている。

 

短い時間の中で、此処まで徹底的な設計は見事だというほかない。

 

思わず目頭が熱くなる。でも、涙は出てこなかった。かわりに、新たにここに誓いを立てる。

 

「レイ……必ず、必ず……!」

 

―――必ず、助ける!!

 

――――

 

「ぬああああああ――――」

 

少女は跳んだ。高く、高く、残った左腕は、大腿部から、射出されたマインブレードを手に取る。

 

ファフナーの標準装備であるそのナイフは、フェストゥムに致命傷は愚か、有効打を与えられすらしないだろう。だが、そんな武器でもコア、フェストゥムを中枢である心臓部を破壊できれば、倒すことは出来る。

 

だから彼女は、少しでも威力を高めるために、高く、高く、跳んだ。フェストゥムのコア―――心臓部に確実に突き刺すために、

 

―――――最後かもって……知ってるよ―――――

 

 「―――ああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

フェストゥムの金色の体に穿たれた刃は、敵のコアがある場所に正確に突き刺さる―――だが、コアには、僅か、長さにして恐らく60㎝もないだろう。

 

とどかなかった。

 

―――――「与える喜び」を呑み込めば―――――

 

触手は島の奥へと侵攻する。目指す場所は、唯1つ―――

 

 

 

ファフナーブルグ、マークザイン。

 

「な……!?」

 

「なんだ!?」

 

存在の名を冠する巨人を侵していく。その白銀の身体から、緑色の結晶が出現する。まるで、何かが、這い出てくるかのように。

 

―――――心配しないで 充足の時―――――

 

――――

 

「お願いです。彼女だけが、ミールに伝えることが出来る」

 

アルヴィスの一室、来栖の身体を借りた、「彼」が、その場に居る全員に語る。少年は、固唾を呑み、女性は口元を手で押さえ、男は、真剣なまなざしで見届ける。

 

「彼らの言葉で―――」

 

不意に、来栖の表情が変わる。

 

「やめて総士!君が消えてしまう!!」

 

―――――先に逝くだけだよ すこしだけ―――――

 

身体の支配権が来栖に戻ったのか、声が元の彼に戻る。だが、その直後にはまた、「彼」の表情になる。

 

―――――迷わないように ねえ、微笑んで―――――

 

「すまない、一騎」

 

「彼」は一騎の方へ顔を向ける。一騎は真剣な顔をし、「彼」を見据えた。

 

「総士!」

 

「僕らが封じた『もの』に、彼らが届く」

 

また、彼に移る。

 

「もうやめて!何でそんなに苦しむの!?君たちのミールがそう命令してるの!?」

 

虚空を見上げ、自らの身体を抱きしめるようにする来栖。その表情は、怒り、悲しみ、焦り、困惑。彼は何故「彼」が自ら苦しむことが理解できず、ミールに命令されているのかと問いかける。

 

―――――ねえ受け取って 命のバトン―――――

 

一騎はそんな彼の肩をつかみ、口を開いた。

 

「っぐう!」

 

「みんなが生きる場所をみんなが護って、俺は其処にいられるんだ!」

 

一騎は顔を近づけ、畳み掛けるようにしていった。

 

「お前が総士を護ってきたのは、ミールの命令か!?」

 

「ッ!?」

 

来栖は、顔を伏せ、消え入るような声で「違う」と言った。

 

「ただ、彼に消えて欲しくなくて……」

 

刹那、来栖は両手で、顔を押さえ込んだ。

 

「だめだ……俺を呼んでるっ……っ」

 

その頬に、汗がつたう。両足が崩れかけた。まるで、『何か』に必死に耐える様に。

 

一騎は、彼の肩つかんだまま、彼に叫ぶ。

 

「お前の神様に逆らえ!来栖!!」

 

だが、一騎の叫びも虚しく―――

 

「ッアア゛!!」

 

来栖は、掻き消えるように、どこかへ行った。

 

 

 

来栖が来たのは、ファフナーブルグ。マークザインの眼前。瞬間、マークザインから紫闇のドロッとした『何か』が這い出るようにして、来栖を飲み込んだ。

その『何か』は柱のように、ブルグの天井を破壊し、佇み、形を変える。

 

「ごほっごほっ……っは!?」

 

室内は暗くなり、赤いランプとブザーが鳴り響く。多数の職員が避難する中、彼、小楯保はその姿をその眼で、捉えた。形は少し変わったが、

 

忘れはしない。その翼のようなワイヤーアンカー、両肩のホーミングレーザー、刺刺しく変化した外見と色、緑色の水晶のようなパーツは、暗くなった室内の相俟って、あの日の恐怖を呼び寄せる。

 

「『マークニヒト』だと……!」

 

――――

 

マークニヒト、コアブロック内。

 

来栖操は目を開けた。そこは、他のファフナーのなんら変わりない操縦席。眼を開けるのと同時にファフナーの視界からの情報が、リアルタイムで、周囲に映し出される。

相違点は彼の腕、ニーベルリングと呼ばれる搭乗者とファフナーを繋ぐ部分が、結晶で覆われていることだ。

 

「このために……俺をヒトの姿にしたの……?」

 

問いかける来栖。その返事は返ってくることはなかった。

 

――――

 

一騎は、部屋から出ると一目散に走り出した。史彦が名を呼ぶ頃には、既にかなりの距離が出来ていた。

史彦は、自身の足元を見た。右足のズボンの裾が誰かに引っ張られたからである。史彦の視線の先には、美羽がズボンの裾をつかんでいた。

 

「みわもっとおはなしできるよ」

 

その言葉に史彦は、「彼」の言った、希望に島の望みを託すことを決めた。彼女の目線に合わせるように、屈む。幼少時子供特有の、何処までも純粋な目をしっかりと見据える。

 

「行こう。君にしか出来ない……!」

 

史彦の背後で、容子は手にしていたカバンを開く。その行動は、隊員たちからは死角になっていて、彼女の行動に気づくことは出来なかった。

 

ぱさり、という軽い音と共に彼女は史彦に迫る。手にしていたのは、銃だった。

 

「やめなさい!」

 

「止まるんだ!!」

 

隊員の制止を無視し、容子は史彦へと迫る。史彦は、臆することなく、彼女から眼をそらさずにゆっくりと後退した。

銃を持つ彼女の手は震えていたが、その眼はしっかりと史彦を捉えてていた。瞳には、覚悟と、恐怖が混在して複雑な色を垣間見せる。

 

「美羽をどこに連れて行く気ですか……!」

 

史彦は、迫られた時後退こそしたが、銃口から身体をずらそうとすることは無かった。それは、彼には容子の気持ちが痛いほどわかっているからである。

彼女が夫を亡くしたように、彼も、妻を亡くし、一騎を育ててきた。妻の忘れ形見を戦場へ駆り出さなければならない。

苦痛は、どんなに辛かったか。彼には彼女の気持ちがわかるから彼女から顔を背けることはしなかった。

 

「私から美羽を奪わないで!!」

 

容子の悲痛な叫びと共に引き金は引かれた。

 

――――

 

―――そうだ、ずっと一緒に『アイツ』を封じてた。俺とお前で―――総士

 

崩れ、機能を殆ど失ったファフナーブルグ。暗く、非常用のランプと所々で散る火花とスパークが眩しい場所で、静かに佇むマークザインの前に立つ一騎。

殆ど見えない眼には、しっかりと、白銀の巨人が映し出されている。

 

「俺がやる。お前が望むなら」

 

――――

 

「っぐうううう……!」

 

ニーベルリングに指を入れ、ファフナーと一体化する。その過程で、身体の各部に激痛が走る。そして、一騎の身体に、緑色の結晶が生える。それは、同化現象の進行の証だ。

 

―――搭乗すれば、確実に命をおとします―――

 

そう、彼は通告された。だから今まで、彼は戦いには参加できなかった。

 

だが、そんなものは関係ない。一騎には、そんな痛みより、同化による「存在の消滅」の恐怖よりも優先すべきことがあるのだから。

 

彼の居場所を守るため、自分と共に戦った仲間の場所を守るため、自分を育ててくれた大人達の場所を守るため、彼は翔ぶ。




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復帰 ~きぼう~

アルヴィスの最深部、ワルキューレの岩戸。此処には、島のコアが眠っている。その部屋で、遠見千鶴率いる数名のスタッフが、

早急にコアを避難させるための作業をしている。

 

「コアの同期!急いで!」

 

千鶴が指示を飛ばし、周りのスタッフは、岩との基部に機材を繋げ、コアを避難させようとする。だが直後、壁の崩れる轟音と共に、

現れた紫闇の腕が、ワルキューレの岩戸を?む。

 

?まれた岩戸は、ピシッ、という音が数回なり、入った罅が広がっているのか、流れ出た深紅の液体が千鶴に降りかかる。

 

「ああああ!」

 

掛った液体の勢いで、その場に千鶴は崩れ落ちる。

 

マークニヒトを駆る来栖の両手、ファフナーと人間を繋ぐニーベルリングから、生えていた結晶からさらにまた結晶が生えてきていた。

その結晶と共に、彼に入り込む1つの感情。

 

「これが憎しみ……。これが……」

 

岩戸を?む手に更なる力が加わる。流れ出る赤い液体は、さらにその量を増し、もはや何時砕け散るのかもわからなかった。

 

「やめて……」

 

彼女は、叫ぶことしか出来ない自分に歯噛みする。それでも、自分には叫ぶことしか出来ないのだと、わかっていた。そんな自分を憎くすら思う。

その感情も、来栖の中に流れ込んでいるのだろうか。

 

「おねがいやめて!!」

 

その願いが届いたのか、間一髪で、壁が再び崩壊し、今度は白銀の腕が紫闇の腕をつかむ。

普\ウルドの泉では、コアを奪おうとするマークニヒトの隣に、それを阻止せんとするマークザインがいた。

壁に入れた左手の反対、マークザインの右手には、ルガーランスが握られている。

 

「なんで『それ』を選ぶ……!痛みばかり増やす神様に、何で逆らわない!!」

 

岩戸をつかんだマークニヒトの手をマークザインが引き剥がしてゆく。レルキューレの岩戸から、完全に二つの腕が引き抜かれ、白と黒。

対となる巨人は向かい合う。

 

「……」

 

一騎の声を聞いた来栖は、ただ顔を背け、眼を瞑る事しかしなかった。

 

いたるところに、罅が入り、赤い液体が流れ出て、何時完全に砕けてもおかしくない岩戸。それをかばうように罅を抑え、少しでも

破損を防ごうと千鶴は、動いた。

 

「損傷箇所をふさいで!」

 

彼女は、唖然とするスタッフに指示を飛ばす。

 

「はやく!!!」

 

――――

 

銃口から放たれる弾丸の雨は、フェストゥムに吸い寄せられるように飛ぶ。金色の身体は、弾丸が当たった部分から黒く変色し、やがて鉄屑のように

バラバラに砕け散っていった。崩れ去り、爆発するようなワームスフィアに呑まれ消滅していったフェストゥムの奥に、見えたのは、深緑の巨人。

剣司が駆るマークアハトだ。右腕が根元から切断され、左手に持つライフル、「ガルム-44」は最早弾切れを起こしたのか、いくら引き金を引いても、

沈黙していた。

 

マークアハトに広登の駆るマークフュンフが駆け寄る。

 

「剣司先輩!……!?」

 

駆け寄ってきた広登に剣司は左手を差し出す。広登は自身の手を前に出した。マークフュンフの手の上で開かれたマークアハトの手。広登は、

手の中に何かが乗った感触がした。

 

マークアハトの手が離れる。広登の眼に映ったのは、ファフナーのコアブロック。

センサーアイの映像を拡大し、内部をファフナーのネットワークを通じ視認する。其処には西尾里奈がいた。気絶しているようだが、命に別状はないだろう。

 

剣司が、息を切らしながらも、広登に指示を飛ばす。

 

「絶対放すなよ……!……カノンを支援、それと、機体命で呼べっつたろ……!」

 

「剣司先輩だって……っていうか、先輩は!?」

 

剣司は、不適に笑んだ。

 

「こっちの『仕事』が、終わってねえんだよぉおおおおおお!!」

 

機体を持ち上げ、左手には標準装備の拳銃『デュランダル』を持ち、フェストゥムの大群に応戦する。その姿は、雄雄しく、逞しさを感じさせるものだった。

 

「いけええええ!!」

 

剣司の声が広登を動かす。

 

「仲間を『護れ』ええええええええええ!!!!」

 

それが剣司が広登に託した彼の役目。かつて、その紫の機体を駆り、多くの仲間を護った少年が居た。広登に、彼と同じことが出来るとは言えない。

でも、『絶対の盾』を持つ巨人を駆ると決めたのは、広登なのだ。なら、その盾で、仲間を護って欲しい。それが、剣司が、彼に託した言葉だった。

 

広登は、彼に背を向け走り去る。仲間をその力の限り、護る為。振り返ることはしなかった。剣司もまた、振り返らなかったがその口元には確かな笑みがあった。

 

――――

 

マークドライツェンは、島を侵食するフェストゥムに刃を突きたてたまま、動けずに居た。

 

深紅の巨人に搭乗する少女は激しく息をつく。そして身体は徐々に蝕まれたていく。

 

「同化、現象……」

 

体から『生える』美しい緑色の結晶は、彼女の体を飲み込もうとする。

 

「……っ!あああああああ!!!」

 

そのとき、機体のアナウンスが機械的な口調で、声を発する。

 

『フェンリル、起動認証』

 

レイがファフナーの設計で、容子と相談し、追加した機能。フェンリルを発動させるには、搭乗者、つまりカノンの声が起動キーとするようにした。

それは、彼女に選ばせるため、どんな状況でも、レイは彼女に自分の選択をして欲しかった。その、自らの選択を迫るために搭載した機能は、ひどく機械的に、彼女に説明をする。

 

『実行には、認証キーが必要です』

 

彼女の身体から、生えてくる結晶は、その数をますます増やしていく。彼女は肩で息をしていたが、はっきりとその声が聞こえた。

 

『実行しますか?』

 

―――余計な世話だ、レイ―――

 

「まだだ……」

 

―――お前には、言いたいことがある―――

 

「まだ私は……!」

 

―――それを言うまで―――

 

「ここにいるぞ!!」

 

―――死ぬつもりは全くない―――

 

――――

 

海中。フェストゥムに引き摺られる様にして、マークツェーンはフェストゥムのなb「た。

 

それを追うマークジーベン。搭乗者の遠見真矢はその絶対的冷静さを欠き、感情的になっていた。

 

「輝君!」

 

フェストゥムが、ふいにマークツェーンから離れる。その隙に、マークツェーンは海中から脱出を図る。が、その瞬間、離れたフェストゥムが、マークツェーンに突撃した。

金属と金属がぶつかり合ったような、鈍く、大きい音と共に金色の巨体の頭部のような突起に、ファフナーが突き刺さる。

 

マークツェーンノ搭乗者、西尾輝は、ファフナーのセンサーアイ越しに、真矢が近づいていてくるのが見えた。

 

「先輩……来ちゃ、だめだ……うぁああああああああああ!!」

 

輝の身体から、同化現象特有の緑色の結晶が生えてくる。それは、フェストゥムに、突き刺さった部分から、結晶が生えているファフナーと、同じ部分でもあった。

輝はの唇は、自然と言葉を紡いでいく。

 

「これが……敵の同化現象……」

 

輝の両の目の瞳が少しずつ、変化し、金色に変わってゆく。

 

「心が、消えていく……父さん……母さん……りな……」

 

ピー

 

フェンリルが起動する。タイムリミットは5秒。それは、それだけファフナーが同化され、危険な状態にあることを指す。搭乗者は、脱出は不可能。このままでは搭乗者も、何れ同化現象で、

いなくなる。どちらにせよ、輝の命運は決まっていた。

 

「よしなさい!!!」

 

真矢は叫んだ。機体の速度は限界だ、レールガンも、水中では、その威力は10分の1も発揮できない。だが、諦めるわけにはいかない。

そのときだった。

 

青白い光と、燈色の閃光がちょうどマークツェーンに交差するようにそれを貫く。二つの色が混ざった爆発がおき、海中に急激な奔流がおきる。

それは、ファフナーすらも揺るがし、押しのけてしまうほどだった。

 

奔流が収まり、気泡が機体を過ぎ去った。彼女が見たのは、2体の巨人。彼女には、そのどちらもひどく見覚えがあった。

 

巨人の一体が、手を差し出す。彼女の手に渡されたものは、マークツェーンのコアブロック。2体のファフナーはそのまま会場へと浮上してゆく。真矢はその光景をただ見つめることしか出来なかった。

 




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再動 ~こうよう~

「っぐう……!!」

 

咲良は、山にもたれかかるような形で、デュランダルを撃っていた。先ほど、フェストゥムの攻撃で、ファフナーに飛行能力を与えるリンドブルムが破壊され、墜落したのだ。その証拠に、彼女が駆るマークドライから、少し離れたところに炎上しているリンドブルムの残骸がある。

 

墜落してから、どれ位経っただろうか。もう何体のフェストゥムを倒したのだろう。恐らく自分が思っているよりも倒せていない気がする。自分の周りには、大量の薬莢が散らばっていた。だが、元々標準装備であるこの拳銃は威力が心許ない。それに、どれくらいの時間が立ったかは定かでは無いが、そろそろ弾薬が尽きるだろう。

 

間もなくして、その時は訪れた。

 

「―――くっ、弾切れ……!」

 

もう何回引き金を引いても、カチッ、カチッ、と無機質な音がなるだけになってしまった。今からになったのが最後の弾倉だったのは、先ほど確認している。さらに、側面から一体のフェストゥムが、近寄ってきた。2年前の彼女なら、死を恐れて引くことはせず、果敢に立ち向かっていただろう。だが、今の彼女は、生きる明確な理由がある。アイツをこれ以上悲しませたくは無い。あの向こう見ずで先輩だからと意地を張る、デリカシーがないくせにいっちょ前にかっこつけ用とするバカを。

 

「―――キャアアアア!!」

 

だが、今の彼女は昔と違い虚弱体質で調子が良くない日は、歩くことすらままならないのだ。逆に体調の優れている日は、ある程度の歩行は可能であった。

 

そして、今現在彼女のコンディションは、幸運にも良好だった。

オレンジカラーの巨人は、立ち上がり一歩を踏み出した。このままなんとか逃げれば、誰かと合流は可能だ。そうすれば、少なくともこの状況は少しは好転するはず。

 

だが、二歩目を踏み出そうとしたところで、彼女に不運が訪れたのだ。

 

バキッという鉄板が割れたような、鈍く、多く直人が彼女に耳に響いた。2歩目を踏み出そうとした、右足の大腿部。

墜落の衝撃で罅が入っていたのか、その右足が折れたのだ。

 

鈍い音を立て、崩れ落ちるマークドライ。足が折れた激痛と共に、身全身に襲う不快な感触。彼女を襲っていたフェストゥム。スカラベJ型種が触手を出し、マークドライを包んだのだ。

 

「くそっ……くそおお!!」

 

身体を覆う触手から、脱出しようにも、身体が言うことを利かない。背部のスラスターを蒸かすが、水面を走ることは出来ても、触手に覆われた機体を起こすほどの出力は無かった。

 

あとはもう、ただ同化されるのを待つのみ、まさに万事休す。諦めない。諦められるはずがない。それでも、この状況はもはやどうしようもない。咲良の脳裏に浮かんだあの2年の光景が走馬灯のように走る。

 

 

青白い閃光が奔ったのはそのときだった。

 

 

一筋の閃光がフェストゥムを穿つ。巨大な光に撃ち抜かれたフェストゥムは、一瞬にして消滅し、あたりを覆っていた触手も、

まるで、液体が沸騰するかのように、ワームスフィアーの黒い球体に呑まれ、消滅していった。

 

金色、黒の順に色が変化し、消えてゆく。底に残ったのは大地の茶色と、オレンジ色の巨人だった。その巨人、マークドライを駆る、要咲良の眼に映ったのは、一体の影。

 

燃え盛る大地の中央に立つ、一体の巨人。それは剣司の駆るマークアハトではなく、それと同じ型のファフナー。

両肩のハードポイントには、大型レーザー砲『メドゥーサ』が装備されている。

 

内部に酸化剤タンクと燃料タンクがあり、燃焼ガスからレーザーを取り出す。最大出力での威力は、

マークヌルの『シヴァ』に匹敵するほどのものだ。

 

咲良は、機体コードの検索を開始。結果はすぐに出てきた。

 

―――mk-VIER―――

 

「マーク、フィアー……っ!!」

 

彼女は息を呑んだ。表示された機体コードは、かつて失われたはずの4番機。マークフィアー。そして、彼女はマークフィアーに乗っていた人物は一人しか知らない。

 

「……こうよう……!!」

 

彼女の声は震えていたが、しっかりとその人物の名を顕した。

 

――――

 

島の最西端。山の中腹にある、伸びた崖がある。そこにその少女はいた。年相応なあどけない顔をしており、以前は、周りに木々が生い茂っていたが、度重なる戦闘で、木々は枯れ、殺風景な景色が広がるその崖には不相応なほど純粋な目をしていた。

 

その後ろには、左腕を押さえた、男が立っている。服の上からは見えないが腕から伝い、その手には血が流れ、雫となり赤茶色の地面を染める。

 

「彼女こそ……我等の側で生まれた「可能性」だ……!お互いの希望だ!」

 

彼の目には、確かな光が宿り、聞こえないであろう自分の言葉を、それでも相手に伝えるために、その口を開いた。

 

「フェストゥム!!」

 

空を見上げる少女。こちら側とあちら側。その存在をかけた対話が、始まった。

 

――――

 

「く……うあああああ!」

 

カノンは、消えそうな意識を、かろうじて繋ぎ止めていた。だが、その瞬間も、彼女を襲う同化現象。ゆっくりと、

その数を増やしていく結晶は、彼女の体を飲み込み掛けていた。だが、彼女は諦めなかった。マインブレードを握る手が離れてゆく。

だが、それは彼女が力尽きたことを意味するのではない。マインブレードから離れた左手は、握りこぶしを作る。そして、ファフナーの手を保護するようにナックルガードが降りた。

 

「ぬうああああああああ!!」

 

力を振り絞り、放たれた拳。それはフェストゥムに突き刺さったマインブレードに容赦なく振り下ろされた。

マインブレードはより深くフェストゥムの中に突き刺さる。それは、後僅か、コアに届かなかった刃を届かせるのには、十分すぎた。

フェストゥムは、悲鳴を上げるかのように、その体を振り上げる。ちょうどその体にのっかかる形だったカノンのマークドライツェンは、振り落とされた。

 

「ぐっ……かはぁっ」

 

地面に叩き付けられた衝撃は思いのほか強く、息を吐き出したカノン。だが、苦痛に歪んだその顔には歪だが、確かな笑みが刻まれていた。

その視線の先、体を振り上げたフェストゥムは、漆黒の球体に体を飲まれ消滅する。

 

「やった……!」

 

「カノン先輩!!」

 

そこへ、剣司の指示で、カノンのところへと駆けつけた広登が、近寄ってきた。

 

「大丈夫すか!」

 

「ああ、なんとかな」

 

フェストゥムから開放されたカノンは一先ず安堵の息を漏らす。これ以上同化現象が進行することは無い。あとは

この体でどこまで耐えるか、そう思ったとき、広登が声を上げた。

 

「カノン先輩!!」

 

広登が声をあげた先には、深紅のフェストゥム―――エウロス型。

既に、銃を構え、此方を撃たんとしていた。カノンは、銃撃をよけるために動こうとするが、

 

「くっ!メインブースタがいかれただと!?」

 

マークドライツェンの背部に搭載している2基の大型ブースタが、火花を奔らせていた。

広登は咄嗟にイージスを展開。カノンの前へ立ったが、不幸は連鎖する。

 

「後ろにも―――」

 

撃ち出された銃弾は、無情にもマークフュンフを貫く。そう、後ろにもエウロス型がいたのだ。

 

「うわあああああああ!!」

 

炎を上げ、崩れ落ちるマークフュンフ。カノンは、何とか動こうとするが両足と補助ブースタだけでは、まともに行動できない。

 

「くそおお!!」

 

エウロス型が、もう一度カノンへ銃身を向けた―――。

 

 

燈、一閃

 

 

燈色の閃光が眼前のエウロス型を覆い尽くす。直後に、エウロス型のいた場所から黒い球体が出現し、消滅した。

閃光は、そのままマークドライツェンの上を通過し、背後のエウロス型をなぎ払い、消滅させた。

 

プラズマの奔流を纏う燈色のレーザー兵器。それを持つものは、カノンは一機しか知らなかった。

 

「マークヌルの『シヴァ』……まさか!!」

 

「そのまさか、さ。カノン」

 

脳裏に響く声。そして、機体のクロッシング状態を示す部分。複数のファフナーの番号が写っているモニターに、また一体のファフナーの番号が追加された。

 

mk-NULL

 

目頭が熱くなる。鼓動が早くなる。いままで、どれほどその声を聞きたかったか。どれほど名前を呼んでほしかったか。

 

どれほど、その存在に甘えたかったか。

 

カノンの前に降り立った漆黒の巨人。その右腕は、アンバランスな大きさの、まるで猛禽類のような3本爪を有する。

 

万象すべてを破壊する機械仕掛けの腕をもった。機体コード「マークヌル」搭乗者は

 

「いつもの重役出勤か……レイ」

 

「重役だからね。まあ、今回はちょっと遅すぎたかな」

 

レイ・ベルリオーズ。戦線復帰




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最近まともにPCに向かう時間がなくて……なんでこんなに忙しいのかな?


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再動 ~こうよう~ Ⅱ

明けましておめでとうございます。

久しぶりの更新。
ついに明日、蒼穹のファフナー EXODUSが放送されますね。

おっしゃー!!!!

TV版から見続けてきた自分にとっては感慨深いものを感じます。

クオリティも高そうですので、すごい楽しみですね!


海中。島の隔壁を破壊し、飛び出してきたのは来栖の駆るマークニヒト。マークニヒトが逃げるように水中を走り、それを追うように隔壁を突き破ったのは一騎の駆るマークザインだった。

 

マークザインのルガーランスによる突きは、ギリギリではずれ、海流の流れで互いが距離を置くような形となる。だが、一騎はそれは想定済みだった。というより、今の突きをよけてもらわねば困るほどだ。

ルガーランスを構えなおす。刀身が二つに割れ、眩いほどのプラズマが迸る。その出力は、ノートゥングモデルが同じようにルガーランスを使用したときのそれとは遥かに違いすぎた。

 

「っ!」

 

来栖は思わず息を呑んだ。その威力は刀身から走る輝きを見れば想像に難くない。直撃を受ければマークニヒトだろうとただではすまない。それをためらいもなく自身に向けてくる一騎に、来栖は恐怖した。

 

「あああああああああああああああ!!!」

 

放たれた閃光は、それこそ極音速のの領域でマークニヒトに牙を剥く。

最高クラスの能力を誇るザルヴァートルモデルでも、それを駆る来栖は未熟もいいところ。よけることができずに直撃を食らった。

超高熱のプラズマの奔流を浴たマークニヒトは決して軽くない損傷を受ける。

装甲が砕け、内部の衝撃吸収剤が蒸発する感覚は、ダイレクトに搭乗者に激痛としてフィードバックされる。それは来栖にとって耐え難い苦痛だった。

 

「うわあああああ!!!」

 

閃光は、マークニヒトを海面へとたやすく押し上げてゆく。二人の次の戦場は、地上に移った。

 

――――

 

島に上陸しようとするフェストゥムを撃ち落していくマークジーベン。空を駆け、敵の攻撃を避けて行く。

両手に抱えられたレールガンの砲身が青白いプラズマを奔らせる。直後、輝くプラズマの過流を纏った飛翔体が、音速を超える速度でレールガンから吐き出された。

 

互いに空中を飛び回る状況下でほとんど外すことなく、しかも使用している武器はレールガン。以前のような精密狙撃用のドラゴントゥースではないのに、この命中率は驚嘆する他ない。

 

飛翔体は、フェストゥムに直撃するとその金色の体に穴を穿つ。その一発の直撃を持ってフェストゥムは、黒い球体に呑まれ消滅する。

 

「……!」

 

真矢はすぐに、異変に気づいた。海面が、不自然に輝きだした。その輝きは、ファフナー発進に生ずる水泡体よりも、不形状で光っていた。

 

直後のことだった。海面から沸騰したかのように泡が吹き出て、巨大な光の柱が出現する。光の柱は、真矢の駆るマークジーベンよりも少し高いところまで伸び、爆発するように四散した。

 

白銀の巨人が、悠然とその姿を顕す。不気味な雲とオーロラに覆われた空でも、その輝きを絶やすことは無く、フェストゥムの黄金とは対の白銀の美しさを放っている。

 

ファフナー、マークザイン。それを見た真矢は思わず叫んだ。

 

「ファフナーに乗ったの!?一騎君!!」

 

真矢は驚愕を隠せなかった。ファフナーに乗る際に起こる変性意識により、きわめて冷静になった真矢が、ここまで取り乱したことはまずないと言っていい。

 

それでも、彼女は『冷静』になるだけであり、感情を排斥したわけではなかった。

 

それが、自身にとって大切な存在であればなおさらだ。

もう一度乗れば確実に命を落とすといわれ、圧倒的な戦闘力を誇り名実ともに竜宮島の最強戦力である一騎が今まで、参戦しなかったのはそのためだ。

 

なのになぜ、今出てきたのか。真矢は心配と、不安で胸が押しつぶされそうになった。

だ戦場で取り乱すことが、一番危険だということは彼女がよく知っていたことだというのに。

 

「―――っきゃああああああ!!」

 

背後から襲う衝撃。ファフナーから伝わる腹部に何かに貫かれた痛み。フェストゥム。スカラベJ型種が、マークジーベンを、背後から突き刺したのだ。

皮肉にも、それは、マークツェーン、西尾輝が受けた攻撃と同じだった。

 

同化現象。体から結晶が生えて来る。だが、背後から突き刺さるフェストゥムを排除するには、彼女の持っている武器は大きすぎて、重すぎた。

どうすることもできずに、フェストゥムの同化現象を受け彼女は自爆することもできず、墜落していった。

 

青白い閃光が走ったのは、マークジーベンが地面に墜落する直前だった。

真矢の後ろに突き刺さっていたフェストゥムはその青白い光を受け、一瞬にして粉々に砕け散った。真矢の目線の先には、ルがーランスを構えるマークザイン。同時に、理解した。一騎が自分を助けてくれたことを。

 

「かず……き、くん……っきゃああああ!」

 

一騎の名前を呼んだもつかの間、彼女の全身は緑色の結晶に包まれた。同化現象により、体が消滅しかかっているのだ。

間もなく、結晶は砕け散り、後には何も残らなず、消滅するのみ。だが、そこに手を差し伸べた人物がいた。

 

「遠見!!」

 

一騎の駆るマークザインは、閃光のごとき速さで、空から一気に地上に降る。そして、動かないマークジーベンの肩に手を添える。

すると、マークザインの手が緑色の結晶に包まれた。

 

マークジーベンのコアブロック。カラスの砕けるような音とともに、砕け散った結晶。同化現象の最期。其処には、真矢が変わらぬ姿で其処にいた。気を失ったのか、音も無く崩れる真矢。彼女とは別に一騎の体には、さっきよりも大きな結晶が腕や肩から生えてきた。

 

「お前は……ここにいろ……俺も、すぐ、『戻る』……」

 

そう言った一騎。それは、一騎の心にあるひとつの感情だった。『一緒にいると安心する存在』。それが、一騎が真矢に抱いていた感情。今の一騎はそれが『一緒にいたい存在』というものに変わってきていた。

それが何を意味するのかは、彼自身にはわからない。でも、今はそれでいいと思う。

 

降りてきたのは、紫闇の巨人。腕が大きく、翼を生やし、ところどころが、水晶のような、光る緑色のパーツを擁する。

すべてを「否定」する存在。全身の装甲はひび割れ、火花を走らせ、赤い衝撃吸収剤が流れた跡が残っており、その禍々しさに拍車をかけていた。

 

否定(ニヒト)と、存在(ザイン)その互が向かいあう。

 

燃え盛る炎と、飛び散る火の粉は、向き合う二人を映えさせた。

一人はより禍々しく、一人はより美しく。

 

動いたのは、マークザインだった。背部のスタビライザーが光り輝き、スラスターが、噴射する。

 

「ああああああああああああ!!!」

 

ルガーランスを捨て、突進する。来栖はよけることができずに、そのまま突進を食らった。再び装甲が割れ、紫闇の巨体がきしむ。

 

「ぐうううう……っ」

 

マークザインは、両手でマークニヒトをつかむと、そのまま空へ、飛翔んだ。大きく螺旋を描くように天へ飛んでいく。

スラスターが残す青白い軌跡は、その螺旋をきれいに描いていた。

 

マークザインに捕まえられ、ともに飛んでいくマークニヒト。それは、2年前のあのときを連想させた。

 

一騎の体は、さらに多くの結晶に包まれる。それは、一騎の命が確実に蝕まれている証だ。

 

「やめて一騎!君がいなくなる!」

 

来栖は懇願するが、一騎はそれを聞くことは無くさらに速度を上げていった。そして、異変に来栖は気づいた。

 

「え、なに?」

 

島を攻撃していたフェストゥムが、一斉に空へ飛んでいった。おびただしい数のフェストゥムは、ある一点へ向かって、飛んでゆく。その様は金色の糸が何本も、空へ伸びているかのようだった。

フェストゥムが向かう先は、一条のそれへ伸びる青白い光。一騎が残した、光の軌跡だった。

 

その光景は、誰もが見ていた。

 

地に座り込み、それを眺める要咲良。支えられ、それを見上げる羽佐間カノン。そのカノンに肩を貸してともに見上げるレイ・ベルリオーズ。

そのそばで、立ち上がりながら見ているのは堂馬広登。

弾の切れた拳銃を持って、片腕になりながらも戦い続けその光景を見上げるのは近藤剣司。

 

「ん……一騎君……かずきくん!!」

 

目を覚まし、大切なヒトの名を呼んで、空を飛びながらそれを見るのは遠見真矢。

 

フェストゥムは、一騎の残した一条の軌跡に吸い寄せられるように飛んで行き、そして、次々と黒い球体と共に消えていく。

 

金色の糸は一転して、黒い珠に変わっていった。そして、それを次々と躱しながら追い越し、飛んでいくマークジーベン。

 

腹部の装甲が割れ、緋い衝撃吸収剤が流れ出て固まっていた。その姿は、まるで血まみれの少女を連想させるほどに儚く、しかし力強く飛んでいた。

 

「戦いから逃がすなんて!?」

 

来栖は一連の光景を見下ろしていた。そして、一騎の行動に非難するような声を発する。だが、一騎は強い口調で、言った。

 

「戦いたがっているのはお前達だけだ!!お前にだって、止められたはずだ!!!」

 

そう、島で戦闘をしていたフェストゥムのほとんどは、『戦闘には無関係だった個体』だ。それは、エウロス型により支配下に置かれたもので、今の一騎行動がきっかけは不明だが、エウロス型の支配から解放され一騎の記した軌跡に消えていったのだ。

 

そして、この戦いは来栖によって、とめることができたはずだと一騎は叫ぶ。彼はミール、すなわち彼らにとっての神様に逆らうことはせず、戦いの場に行かされたのは事実だ。だが、戦ったのは彼の意思なのだ。それが、一騎にとって許せることではなかった。

 

「一騎君!!」

 

フェストゥムが次々に消えていく中で、彼らを追うものがいた。マークジーベンは自身の持てる最高速度で飛んでいた。

ブースターが、悲鳴を上げ、モニターに危険を表す文字が表示される。だが、真矢にはそんなことは関係なかった。

 

突如、来栖と一騎の間にワームスフィアーの黒い球体が出現した。それは、小さい球体だったが、黒い波動を放ち徐々に大きくなっていく。

 

そして、二人を覆うほどの大きさになった瞬間。

 

漆黒は爆ぜた。

 

爆発したかのように広がり、次の瞬間には消滅した。そして、球体が消えた後には、二人の姿は無かった。

あと少しのところで、また、真矢は届かなかったのだ。

 

「っ!?」

 

消滅した漆黒の球体を見送りながら、失速するマークジーベン。

 

2年前のあの時と同じ、彼女は息を呑むことしかできなかったのだった。

 




感想、意見、評価、お待ちしています

それはそうと、公式HPの看板画像で一騎と総士が並んでるんですよ。
その下に真矢とカノンが並んで、左に新キャラらしき人物が並んでるんですね。
問題は真矢とカノンの立ち位置ですよ。

あれじゃカノンが総士のヒロイン的な感じじゃないですか。
どうしましょう。

    ・・・・・・・・・・・・












いっそレイ君コロコロしちゃいましょうかね?(ゲス顔)


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覚悟 ~りゆう~

蒼穹のファフナーEXODUS、1話見ました!
しょっぱなから絶望フラグおっ立ててくれましたね皆城くんは。そこがいいんです!

明日第2話放送ですね。あの映画と変わらないクオリティは本当に流石だと思います。


美しい夕焼けを背景に海を漂う空母ボレアリオス。

それはフェストゥム達の巣になっていた。

管制塔のあった場所は、白いドーム状の物質に包まれており、空母の周りにはまるで巡回をするかのように真紅のフェストゥム達が漂っていた。

 

突然、なんの前触れもなく、漆黒のファフナーが姿を現す。いや、漆黒というよりは、紫暗の色の巨人だった。

そう、マークザインとともにワームスフィアに飲まれ、消滅したマークニヒトと来栖操だった。

 

来栖は、顔を伏せ今にも泣きそうな声で弱々しくつぶやく。

 

「・・・・・・君たちには、消えて欲しく・・・・・・無かったのに・・・・・・」

 

来栖の体はマークニヒトから消えた。それと同時に彼の手を縛っていた結晶も砕ける。それは彼が一時的にマークニヒトから解放されたことを表した。

そして、現れたのは空母の内部。かつては真紅の水晶に包まれた、砕けたコアの片鱗が眠っていた場所。

 

現在その水晶は砕け、中にいたと思われる、フェストゥムですらない「何か」が苦しそうに蠢いていた。

 

「やっぱり、何も・・・・・・生まれない」

 

彼の眼前にあるドーム中央の部分から光の柱。そこにはひとりの女性らしきものが浮かんでいた。

彼女、かつての一騎の母であり完全に独立したフェストゥム。マスター型と呼ばれる、現時点で世界にただ一つのフェストゥム。

 

ニョルニアは閉じていた目を開いた。今の彼女は、頭上に浮かぶミールの破片に囚われていた。

 

「私は役目を終えた。ここに捉えていてもいかなる可能性も生じない」

 

感情のない声で淡々と告げるニョルニア。それに来栖はこう返した。

 

「でも君は戦う方法を知っている」

 

「私は争う術を捨てた」

 

彼女は一度言葉を切り、上を見上げる。そこには自身を捉えているミールがあった。

 

「あのミールの状態は、本来求められた可能性ではない」

 

ミールの下。ニョルニアを捉えている光の筋へとすがるように這い蹲る何か。ズルズルと体を引きずり、その下に流れている赤い液体は彼らにも分かることはない。

 

「ぐうぅ・・・・・・!」

 

来栖は自分の体を抱きしめるように押さえ込んだ。その表情も、苦しそうに歪む。

 

「痛みばかり増えてる・・・・・・みんなの痛み、俺が背負えたら、いいのに・・・・・・っ」

 

光の筋へと縋る何かはその数を増やしていった。

 

「皆城総士なら、出来たのかな・・・・・・?ごめんよ」

 

来栖の言葉。誰に大しての謝罪なのか、それすら彼には解らない。だが、自然とそんなことが漏れたのだった。彼女は淡々とした口調で語る。

 

「痛みは皆城総士の祝福だ。命は皆城乙姫の祝福だ。お前はどう世界を祝福する?」

 

「なんで俺にそんな事きくんだよ!!」

 

彼女の言葉を、来栖は激昂したように叫び、遮った。その様はまるで、もう止めてくれと懇願しているようにも見えた。だが、彼女は言葉を続けた。

 

「おまえは、ミールが不在のまま存在を選んだ初めての個体だ」

 

「お前はなぜそこにいる?」

 

ニョルニアの問いに来栖は顔を伏せた。その口から漏れた言葉は彼の紛れもない本音であり、願いだった。

 

「俺はただ・・・・・・空を見て居たくて・・・・・・」

 

伏せた顔の前に出した手に一つ、また一つと雫が落ちる。来栖の目には涙が流れていた。

 

「でももうダメだ・・・・・・痛みばかりで、自分の存在に耐えられない」

 

悲痛な言葉にニョルニアはただ黙ったまま彼の言葉を聞いていた。

 

「みんなの痛みを消したら、総士も一騎も」

 

それは彼の悲しい独白だった。まだ、彼には一騎の言葉は届いていなかった。

 

「俺の存在も、消すよ・・・・・・」

 

――――

 

ファフナーブルグ。カノンはファフナーから逸早く降り自機の正反対、現在ナイトヘーレ2番に搭載されている漆黒のファフナーから降りてくる人物を待った。

戦線復帰を果たしたレイ。彼の表情は優れているとは言い辛いが、それでも回復を果たしているようだった。

 

「レイ!」

 

カノンはレイに走る。レイはいつもの、やや困ったような笑顔を見せた。

彼の体を抱きしめる。体温は全快とはいかないからか、まだ少し熱がない。でも、しっかりと彼を感じることができた。

 

「カノン……」

 

レイは彼女に抱きしめられながら、彼も優しくカノンを抱きとめる。

彼女の名を読んだ。ずっと名前を読んで欲しかった。彼が倒れてから自分の隣に空虚が走っていた。

言いようのない不安に駆られていた。逸早く、彼が回復するように戦った。それが、今叶ったのだ。

 

ふと、レイがふらついた。顔を上げると、彼は苦笑を浮かべている。顔色も少し悪かった。

 

「すいません。まだ、完全には治っていないもので、医務室に行かせてください」

 

そう言い、カノンから離れると彼は足早に医務室の方へと向かっていった。

カノンはは少し戸惑ったが、既にレイが見えなくなってしまったので、また後で行こうと思い一歩目を踏み出したとき

 

「カノンさん」

 

呼ばれた声に反応して振り向くと、千鶴が立っていた。彼女の表情は少し暗く、悲しそうだった。

 

「少しお話があるの。いいかしら」

 

「……わかりました」

 

カノンは千鶴の表情に言いようのない不安を覚えた。そして、彼女のあとをついていった。

 

着いた場所は、アルヴィス内部の千鶴にあてがわれた部屋だった。彼女は基本的にこの部屋は使わないのか、ほとんど使用した形跡が見られない。

 

「ごめんなさい。あまりこの部屋は使わないから」

 

「いえ、お気遣い無く。それで、話ってなんですか」

 

彼女はあまり回りくどいことは好きではない。早速に彼女から本題を求めた。

 

「そうね……話というのはほかならない、レイ君のことよ」

 

「……ッ」

 

息が詰まる。予想していたことだが、いざ面と向かって言われるとくるものがある。

だが、レイは回復したのではなかったのか。その疑問は自然とカノンの口から出てきていた。

 

「レイは……回復したのではなかったのですか?」

 

半ば祈る様な問い。その問に千鶴は少し目を伏せた。そして白衣のポケットから、あるものを取り出した。

 

「これは……」

 

注射器。液体の色から薬品は「アクティビオン」だと思われる。登場可能年齢がギリギリのパイロットや、何らかの影響でファフナーの戦闘力が低下しているパイロットに投薬することで一時的に、ファフナーとの一体化を促し、同化現象などで身体が麻痺していた場合、それを回復させることができる薬だ。

 

2年前は、効果が切れたときに深刻などうか現象を引き起こす可能性があったがニョルニアにもたらされた情報により、改良が加えられその問題が解決されている。

 

たしか、島の住民に起きている被害もこの薬で一時的に症状を和らげることができたはずだ。無論レイにも投薬していた。

それにより、今まで寝たきりといっても深刻な症状が起きることはなかった。

 

「彼はこれの原液、つまり本来薬用としている20倍に希釈したものではない状態でこれを使っています。効果はあなたも見たとおり、普段と同じように戦闘が可能な状態にまで身体機能を回復させています。ですがそれは一時的なもの。薬の効果が切れると、フェストゥムの毒による症状が通常より激しいものになる恐れがあるものを彼は使っているの」

 

「ッ!?」

 

思わず息を飲んでしまう。つまり、今薬が切れた状態のレイは―――

 

――――

 

「ガハッ!ッハア!―――ッハア、ハァ、ハァ」

 

薬の効果が切れた今、激しい症状に襲われ激しく咳き込み血反吐を吐きそうになるが、吐かなかっただけ床を掃除しなくて済む。

いや、その前に床に倒れふすかもしれない。

脂汗が額からにじみ出てくる。早めに彼女と別れて正解だったようだ。こんな姿を彼女に見せたくはないし、今は立っているのもやっとの状態だ。いや、最早立っていられない。

壁に手をついて足がガクガクと震え、壁についた手も震え力がうまく入らない。

だが、あと数歩でアクティビオンに手が届く。一歩、一歩今にも崩れそうな、震える足で机に近づく。

 

そして、かろうじて動く左手で椅子の背もたれをつかみ、杖替わりにした。

 

右手で原液のアクティビオンが入った注射の握り手を掴んだ。本来希釈された水色の液体は原液なため、暗く、濃い藍色になっていた。

 

「ハァッ……ハァッ……はぁ……はぁ……」

 

震える手で、なんとか首筋に注射器を持って行きトリガーを引く。通常の薬品は、もっと水に近いものだが、原液となれば話が別だ。ジェル状のどろりとした液体が、血管の中に入っていくのは生理的嫌悪感をもたらす。だが、その嫌悪感とは裏腹に、体はまるで憑き物が取れたかのように楽になっていった。

 

体の震えも止まり、徐々に力が入るようになっていく。

十数秒もしたら、椅子の背もたれからも、手が離れ、普通に歩けるようになっていく。

 

「……はぁ……」

 

一息ついたところで医療室のベッドに腰掛ける。薬に頼っているとは言え、身体状態が回復したのは喜ばしいことだ。カノンの心配も減るだろう。しかし、この薬に頼った状態ではいつ不慮のことが起きた時に何があるかわかったものではない。

 

でも、ファフナーに搭乗していない普段のレイは冷静かつ頭の回転も早い。この現状を覆せる方法があることは知っているし、その手段も現在手にしている。

 

本当なら使いたくないものではあるが―――

 

彼は上着の内ポケットから、「あるもの」を取り出した。それは先ほどのアクティビオンが入っていた注射器。だが、入っている薬品の色が先ほどのものとは違う。

 

紅色

 

「カノンが知ったら、絶対に反対するでしょうね。それこそ殴ってでも止めかねませんし……」

 

思わず苦笑いがこみ上げる。これを投薬して、うまくいけば彼はこれから起こりうるであろう、フェストゥムの毒に耐えうる体を手に入れる。

そればかりか、現状のシナジェティック・コードもより強固なものになり、ファフナーでの戦闘能力の向上も求められる。

もともとレイのコード形成率はノートゥングモデルに搭乗可能なほどに高い。その状態でこれを打てば、より強固なコード形成率を手に入れられる。それこそ一騎を退けて黄金率に限りなく近いほど強固なものが。

 

 

だが、失敗すれば―――

 

――――

 

「それは……どういう……」

 

カノンはさっき以上に衝撃的な事実を知らされた。先ほどの最早無茶としか言い様のない、薬により無理やり安定させている身体状態も怒り心頭ものであったが、それ以上にこの話は衝撃的だった。

 

「そのままの意味よ。レイ君は『フェストゥムゲネ』を自分に投薬するか迷っているの。それも2年前から」

 

フェストゥムゲネ。それは本来ならばこの島の子供たちが全員持っているフェストゥム因子。それを後天的に体内に定着させるための因子である。成功すれば、フェストゥム因子のない、10代の少女でも一騎立ちと同じように、フェストゥムに対抗できるシナジェティック・コードと同化耐性を手に入れることができる。だが、失敗すれば最悪死亡する程の劇薬だ。

 

死亡の仕方は様々だが、一番多いのは拒絶反応を起こしての発狂死。だが、それは「一般の因子を持っていない人物」に限られた話。レイは違っていた。

 

「レイ君は、一般の人とはかけ離れたシナジェティック・コードの形成数値を持っているわ。それこそ一騎君たちに敵わないまでも、ファフナーを動かすには十分なくらいに」

 

千鶴は一旦言葉を切り、「でも」と言葉を続けた。

 

「そのシナジェティック・コードの高さが仇になるの。コードが高いと、因子が必要以上に定着しすぎてしまい同化耐性の低いレイ君なら、良くて身体麻痺。悪ければそのまま同化現象で『消滅』してしまう」

 

「そんな……」

 

成功しても、身体の麻痺は避けられない。そして失敗すれば、同化現象での消滅。そこまでして彼が戦おうとする理由。カノンにはすぐに解った。

いや、解ったのではない。思い知らされたのだ。

 

「私の……ために」

 

レイの行動原理は、その大半が「カノンを守る」ということだ。それのためなら彼は利用できるものは利用し、そのためなら人死も厭わないだろう。その結果、彼女が悲しむことになっても彼女が生きていけるなら、そんな一時的感情を持たせることすら厭いはしない。そんな男だ。

 

「いま、彼は医療室にいると思うわ、カノンさん。それからのことは、あなたに任せるわ」

 

千鶴の険しくも優しい瞳に、カノンは頷く。千鶴は言葉を続けた。

 

「本来なら、私はみんなの命を預かる者として、レイ君を真っ先に止める義務がある。でも、だからこそ今回のことは、あなたに任せたい。レイ君を止めるのか、それとも見守るのか」

 

「……わかりました」

 

カノンは椅子から立ち上がり、千鶴にお辞儀をする。そして、駆け足で、部屋を後にした。扉が締まり、千鶴はひとり残される。

部屋から出ていった彼女の姿を見て、思わずつぶやいた独り言。

 

「『誰かを想う気持ちを大切に……その気持から目を背ければ、取り返しのつかないことになる』。これでいいのでしょうか?茜音さん……」




感想、意見、評価、お待ちしています

さて、どうするか。EXODUS一話を見た限りだと、カノンは本編とあまり変わらないようでしたので・・・・・・殺すのもアリだと思うのですが、H&Eのハッピーエンドの雰囲気を壊すのも気が引ける・・・・・・。

どうしよう。


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覚悟 ~りゆう~ Ⅱ

いやはや毎週面白く見させてもらってますよEXODUS。
今週で6話目。まだ大丈夫。まだ誰もしにはしないさ(震え声)




ベッドに座り、右手に持った注射器を眺めているレイ。すると、ドアをノックする音が聞こえ、反射的に背中側に右手を持って行き姿勢を変える。丁度ドアの位置からだと注射器が見えない位置に体勢を直して、声を上げた。

 

「いいですよ」

 

ドアが開き、入ってきた人物を見てレイはわずかに表情を緩ませた。

 

「ここにいたのか。レイ」

 

近藤剣司は探し人を見つけ、ホッとしたように息をつく。彼の目の前にはベッドに座ったレイがいる。

 

「剣司君。心配をかけました。ようやく体も言うことを聞いてくれるようになりました。いままでありがとうございます」

 

「そのセリフは、俺じゃなくてカノンの奴にでもかけてやれよ。お前がいなかった時のあいつの迫力は怖かったぜ」

 

レイは苦笑しながら「ありがとうございます」と礼を言った。カノンがどんな思いで戦ったのかはなんとなくわかる。正直、今の状態では足を引っ張ってばかりだ。

そんな心配はもうかけたくない。剣司からは見えない位置に隠した注射器の存在を手で確かめる。

 

―――大丈夫だ。この角度からなら彼には見えない。

 

「まあ、回復してなによりだ。んじゃ、あとはその薬が無用になるよう、ちゃちゃっと戦いを終わらせるとするか」

 

「―――っ。……さすがですね」

 

彼の洞察力に脱帽する。本当に、2年でここまで変わった人だ。おそらくこの2年という歳月で、一番変化した人物だろう。そして、この2年で一番変化してないであろう人物は

確かめるまでもなく、僕なのだろう。

 

周りが成長していくにつれて、僕という存在の違和感は徐々に浮き彫りになってきていた。

まるで物語に飛び入り参加したトリックスター。本来ならばいないはずの存在。本の挿絵が現実に飛び出した、無理矢理に押し込んだかのような違和感が徐々に湧き上がってくる。

 

そんな考えが頭をよぎったのはいつからだったのだろうか。

 

「ったりめーだ。ったく、お前の考え方は総士以上に複雑怪奇だけどよ。あることにだけは、わかりやすいほど一本化されてんだよな」

 

「はは……剣司君にはかないませんね」

 

「……わかってんのか。それを使うとどうなるのか」

 

剣司は今までとは打って変わって、真剣な眼差しになる。レイも表情が変わり、今まで隠していた注射器を取り出した。

既にバレているのだから、今更隠しても意味はない。手にした注射器を軽く握りなおす。

 

「ざっと確率で見積もって、65%対35%……というところでしょうか……。ですが、このまま役たたずになるよりかは余程マシになるはずです。最も、今より役たたずになる可能性も否定できませんが」

 

「馬鹿。誰もお前を役たたずだなんて思っちゃいねえよ」

 

レイの言葉を即座に否定する剣司。この2年間、レイ・ベルリオーズという人間にいろんなことを教わった彼は、逆に言えば最も彼のことを近くで見てきたということにほかならない。

 

総士がいなくなり、一騎も昏睡に陥ったあの作戦の後、レイは剣司に指揮官としての心構えや意識、銃の撃ち方にファフナーでの戦闘技術や連携の仕方に至るまでを彼から教わった。

 

一騎や総士よりも彼は教える立場に向いている。そう思ったほどに、わかりやすく実演を兼ねてレイは剣司に教えてきた。言ってしまえば剣司にとってレイは恩師に値する人物だった。

 

「お前はお前が思ってるよりも、かなり役立ってるさ」

 

「そう言ってくれるのは本当にうれしいんですが、あまり自分ではそう言った自覚はありませんよ」

 

自嘲気味に笑うレイ。剣司には確かに彼が昔と同じように写っていた。

あのころの、彼が自分の価値というものが何一つ分かっていなかった時の彼に。

 

――――

 

『お前、いま自分が何をしようとしたのかわかってるのか!』

 

『あの時僕が自爆しなければ、被害が拡大する恐れがありました。僕の機体も同化されかけていましたし、敵に情報を渡す前に消えてしまうという選択は戦術的に見ても何らおかしくなかったと思います』

 

『だからってそんな簡単に自爆なんてしていいと―――』

 

『僕はいいんですよ。あなたとは違って』

 

『何!?』

 

『あなたとマークザインはこの島にとって非常に有力な戦力です。あなたの能力も、あなたの機体も。

ですが機体はともかく僕は貴方のようなシナジェティックコード形成数値も、マークザインに乗れるという特異性も何一つとありません』

 

『おまえ―――』

 

『マークヌルの機体データは既にアルヴィス内に存在しているため、たとえ大破しても修復は可能です。ですから別の搭乗者に委任することも可能。ならば僕は使い捨てになっても何ら異論はありません。所詮無価値な僕はあの時が一番存在意義があったと、僕はそう思います』

 

――――

 

「まあ、あんときよりかはだいぶマシになったか―――」

 

「レイ!!」

 

剣司の言葉は、剣司を押しのけて入ってきた人物に遮られた。その水色の瞳と、燃えるような赤いロングに伸ばした髪。間違えるはずがない。

 

入ってきたのは、カノンだった。

 

――――

 

剣司にとっては予想通り、そしてレイには「予定外」の闖入者によって、レイと剣司の話は打ち切られた。

 

ほかでもない羽佐間カノンによって。

 

「……レイ。お前」

 

「……っ」

 

カノンが剣司の前に立って、レイを睨む。レイはバツが悪そうに目線をカノンから外して、手に持って注射器をベッドの隣の机に置く。

剣司は苦笑すると、何も言わずに部屋から出て行った。

 

「レイ。それはなんだ?」

 

一歩、レイに近づいて問うカノン。

 

「フェストゥムゲネ。後天的にフェストゥムの因子を体内に埋め込むものです」

 

カノンの質問に答えるレイ。淡々と、まるで今日の天気はいいですね。とでも言うかのような調子で答えた。

 

レイの回答を聞いたカノンはそのままレイに近寄り―――

 

パンッ

 

一瞬、レイは何が起きたのかわからなかった。わかったのは自分の頬に鈍い痛みが走ったのと、目の前の彼女の瞳に涙が浮かんでいたことだけだった。

 

「お前はそうやって、なぜ私に何も言わない!!なぜ私をもっと頼らない!?」

 

「―――っ」

 

その言葉に、言葉が出なかった。

 

何かを言おうとしても、言葉が出てこないし口が開かない。何か言いたいのに、言わなければなと思うのに、なんで何も言葉が出てこないのだろう。

 

いやそもそも、なんで何かを言おうとしなければなどと思うのだろう。

 

「そうやって、自分ひとりでできることを間違えるな!!それがうまくいったとして、私は絶対に喜ばない!それくらいわかっているはずだろう!?」

 

「―――だけど」

 

ようやく言葉が出てきた。でも、何かおかしい。

 

「だけどこうしないと君を守れない!まともに動けないままで、君をなくすのは絶対に嫌だ!!僕は君を亡くすのだけはたとえこの島が消え去ろうとも絶対にさせないって誓ったんだ!それが―――」

 

僕が見つけた、僕自身の存在意義。生きる理由だから。

 

「まともに動けない、君を守れない身体なんていらないんだ。君が喜ばなくても、君に嫌われても、君を守れず生き延びるより君を守って死んだほうが百万倍も良い!!」

 

頭が働かない。感情が制御できない。なんだろうか、落ち着いてはなさなければならないはずなのに、何かが落ち着こうと知るのを拒んでいる。

なんだろう。こんなの僕は知らない。

 

でも―――嫌いじゃない。

 

「それで残された私はどうなる!?」

 

カノンはその頬に涙を流して、声を荒げる。レイの言葉は痛いほど理解できる。レイがこういう人間で、こういう状況に追い詰められたら、こういう行動に出るような人間だということを私は誰より知っている。

 

だから―――

 

「お前に守られて、それで一人になったら私はどうすればいい!!たったひとりで、お前がいない世界をどう生きればいいんだ!?」

 

「君は、そんなに弱くないよ……」

 

私をそんな上等な女性と見てくれていることが嬉しくて、同時に腹立たしくて

 

「君は前を向ける。僕がいなくなったからって、君は簡単に倒れる女性(ひと)じゃない。時間は掛かっても、君は絶対に前を向いて歩ける人だよ」

 

消え入りそうな声でそう言ってくれるお前が、何より怖かった。今にも、消えてしまいそうな気がしたんだ。

 

「私はそこまで強くはない!!全部、全部お前がいたからだ!!あの時、フェンリルを解放しなかったのも!私はここに居ると言えたのも!全部お前が、いたからなんだ……」

 

「―――っ」

 

「頼む・・・・・・私の、隣にいてくれ・・・・・・」

 

彼の肩に両手を乗せて、私はうつむいた。震える喉で、精一杯に想いを伝える。

 

「嬉しかったよ・・・・・・お前が私のために、ファフナーを作ってくれたこと」

 

「・・・・・・え?」

 

「咲良が回復すれば、ファフナーに乗ろうとするだろう。ならば彼女のファフナーは自然にマークドライになる。私より彼女の方が、ドライの適正は高いからな。だからといって、私の搭乗機体をベイバロンに戻せば戦力としては今よりも落ちる」

 

彼女にとって、それはわかりきったことだった。咲良の親友を自負するカノンにとっては彼女の性格はよく知っているつもりだったから、回復した咲良が取る選択は簡単に予想がつく。

 

「だが、お前はそれをよしとしないで、私専用のファフナーの開発に着手したのだろう?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「全く、駆動角度から重心、反応速度まで私専用にチューンをして、本当に私以外に使いこなせない機体にしてしまったな」

 

私の手をレイは両手で取った。その手は震えていたけれど、しっかりと私の手を握っている。

 

「そ、それを立案したのは容子さんであって僕では―――」

 

「機体立案は母さんかもしれないがそれを立案以上の形にしたのはお前だろう」

 

そう言うと、レイは押し黙ってしまった。だが、数秒経ってから頬を抑えて口を開いた。

 

「・・・・・・本気で叩きましたね?」

 

「本気じゃない。6割だ」

 

「なお悪いです」

 

レイの抑えた手を取り払い、自分の手で優しくなでるカノン。確かに赤くなっているようで痛かったのだろう。

 

「目は覚めたか?」

 

「はい。おかげさまで、もう少し頑張れそうです」

 

レイは立ち上がって、机のフェストゥムゲネをカノンに渡した。

 

「遠見先生に返してください。僕にはもう、必要ありませんので」

 

「お前はどこに行くんだ?」

 

「会議室です。ちょっとサボりすぎたので参加しないといけませんから」

 

そう言うレイの表情は穏やかで、でも消え入りそうな儚さは消えていつもの、カノンが好きだと言った少年がいた。

レイが部屋を出て行く直前、ふと顔だけをカノンに向けて言った。

 

「戦いが終わったら、フロッピーを見た事についてお話がありますので、逃げないでください」

 

そう言って、今度こそ部屋を出た。あとに残されたカノンは、若干の寒気を感じると同時にいつもの調子に戻ったレイの言葉にちょっとだけ吹き出してしまった。

 

――――

 

アルヴィスの会議室。そこに集められた8人のファフナーパイロット。そして真壁指令と溝口。

 

向かって左側に4人。右側に4人の構図。そして最奥に指令の2人が立っている。

 

「作戦概要は以下のとおりです」

 

向かって左側の一番手前にいたレイが中央テーブルのスクリーンを起動して映像を表示する。

CGを用いて作られた映像には、竜宮島とそこから離れた位置にある敵の本拠地、そしてその2つの上にある多数の点が敵を示している。

 

「島の区画を切り離し、敵がこちらへ襲撃をかけている中にこの区画を敵本拠、空母ボレアリオス級に接近させます。可能な限り接近した後遊撃部隊を空母に上陸させ陽動を。隙を見て区画を海面に浮上させ、日野美羽を敵ミールと対話させる。島本土はその間敵からの防衛に努めます」

 

レイが説明している間、映像がかれの説明に合わせて場面を変える。戦力を半分に割っての作戦故に、各々に緊張が走る。

 

だが、その表情に不安の色は決して見受けられない。

 

「何か質問はありあますか?」

 

「最大可能防衛時間は?」

 

カノンからの質問にレイはその表情を変えずに言った。

 

「戦闘が始まってから最大で75分。一切の予断は無く、遊撃部隊にも迅速な行動が求められます」

 

ほかには。と言うレイの言葉に反応する者はいない。皆、作戦の全てを理解し自分の役目を把握しているからだ。

故にやることは一つ。自分の使命を全力で全うすること。

 

その沈黙にレイは満足げに頷くと

 

「これで作戦の確認は以上です」

 

と言い、真壁指令に目線を向けた。

 

「本作戦の選抜を確認する」

 

文彦はまず向かって右。つまり彼から見て左側を見る。並ぶのは、剣司、咲良、里奈、輝の4人

 

「遊撃部隊。近藤剣司、要咲良、西尾里奈、西尾輝」

 

そして今度は向かって左に顔を向けた。並ぶは真矢、カノン、広登、レイの4人

 

「防衛部隊、遠見真矢、羽佐間カノン、堂馬広登、レイ・ベルリオーズ」

 

全員の表情に一切の曇はなく、全員が作戦の成功を信じている。それは無論最奥にいる2人も例外でなく、今ここにはいないが確かに存在している彼も同じだろう。

 

「及び、春日井甲洋」

 

島に帰還した少年。自らを機体のコアとして、このしまを守るために戻った彼もまた、ここにいる全員と同じ表情をしているに違いない。

 

「敵襲来と同時に、遊撃部隊は島を離れ、敵本陣に奇襲をかける。機会は一度限りだ」

 

言葉を切り、全員を見渡す。そして、この言葉に万感の思いを込めて口を開いた。

 

「総員の生存と、再開を祈ろう」

 

こうして、最後の会議が終了したのだ。




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灯火 ~ひかり~

な、なんだこれは(驚愕)

あれがルガーランスの使い方だとでも言うのか!?

第9話。いろんな意味で凄まじ方ですね。
まさに神回というべき出来だと思いました。

ザルヴァートルモデルの活躍に隠れがちでしたが真矢さんの狙撃も凄まじいですね。
あれ実際やるとしたら空中で移動するヘリからほかのヘリの操縦者を狙い撃ちするようなもんですよ。

いったいどんな難易度だと思いますか。
そして溝口さん。なにやっても死なねー(by冲方)


ファフナーブルグは慌ただしく作業が行われていた。

 

マークアハト、マークドライの2機に特戦仕様の武装を施し、さらに竜宮島西部のブロック『Rボート』へ運ばなければならないのに加え、エーギルモデルの積み込み作業もあるのだ。

 

無論それだけにとどまらず、Rボートのデナイアルミサイルも、対フェストゥム用の特殊弾頭に切り替える必要があり、本島の防衛戦力の準備もある。

 

CDCでの予測では敵の襲来まで時間はまだ多少あるとはいっても、ギリギリであることに変わりはない。

 

ファフナーのパイロット達も準備に追われていた。

 

「とりあえず、貴方たちは、改良型のアクティビオンを服用してください。あと、戦闘が始まるまでは負担をできる限り減らすように」

 

遊撃部隊を担当する剣司と防衛部隊のレイは積み込み作業が行われているマークアハトの前で話をしていた。

 

丁度剣司が乗り込むところで、レイが彼にアクティビオンを渡したところだった。

 

「ああ。サンキュな―――それにしても」

 

剣司が首筋に注射を打ち、針の痛みに若干顔をしかめる。注射器をレイに返した剣司はマークアハトを見上げて言った。

 

「まさかまたメドゥーサを使うことになるのか」

 

「ガルム-44だけでは火力不足でしょう。機動性は落ちますが、ボレアリオス付近での戦闘では特に支障はきたさないはずです」

 

剣司の言葉にレイはそう答え、「それに」と続けた。

 

「ルガーランスは現状改良途中で数が少ないですから、メドゥーサが持っていけるだけでも儲けものだと思いますよ」

 

ルガーランスは現在改良が加えられて、以前のレールガンから熱核プラズマ砲に乾燥されているのだが、現在その改良が済んでいるのはマークドライツェンが使用するものと、マークザインが使っているものだけで、ほかは全て改良のため使用不能であった。

 

「それもそうか。そうだよな」

 

レイの言葉に剣司は笑って、コックピットに乗り出した。近くの端末は既にレイが手をかけている。いつでも機体に搭載できる状態だった。

 

「きちんと帰ってきてくださいね。全員で」

 

「当たり前だ。お前等も、死んだりするんじゃねえぞ」

 

言葉少なめに、だけどしっかりと互の意思を表した2人は互いに親指を立てた。

剣司がコックピットに乗り込むと間もなくブロックシャッターが降りる。そして、直ぐにマークアハトにコックピットブロックが搭載されるのを見送ったレイは踵を返し、2番格納庫へ足を運ぶ。

 

マークヌル。人類軍によって作られた唯一のノートゥングモデル。マークドライツェンに類似した形状を持ちながら、決定的に違う右腕部。

 

ほかのファフナーよりも機械的で一回り大きく。3本の爪と掌部に空いた穴、前腕部にある3問の銃口。2年前から乗り続けた機体を見上げている。

 

「レイ!」

 

声に振り返ると、カノンが走ってくるのが見えた。視界の隅にマークフュンフのコックピットが機体に搭載されるのが見える。

 

「どうかしました?」

 

軽い笑みを浮かべてレイはコックピットの端末を操作し、シャッターを開く。これで搭乗の準備は出来、あとは誰かにシャッターをおろして機体に搭載してもらうだけ。

 

「体は、大丈夫なのか?」

 

カノンの問にレイは一瞬目を見開いたが、直ぐに「大丈夫ですよ」と答える。

 

「改良型のアクティビオンは既に投与しました。この戦闘で最後になるんですから、持たせてみせます」

 

事実として、現状は安定しており、ファフナーに登場している間は

症状も軽減できる。70分間の最大戦闘時間のうち、レイ自身は自分が動ける時間は55分と予想していた。

 

「そうか・・・・・・」

 

カノンは少し伏せたが、それも一瞬ですぐに顔を上げて口を開いた。

 

「辛くなったら、私がフォローする。だから無理はするな」

 

「はい。ありがとうございます」

 

そう言ってレイはコックピットに乗り込む。それを確認したカノンがブロックの端末を操作した。

 

シャッターが閉じ、コックピットがファフナーの下腹部に搭載される。

 

同時に、周りの空間が幾何学模様に似た空間に変わり、ファフナーとの一体化が始まる。間もなく周りの空間が変化し、ファフナー視点のブルグ内部になる。

 

視界の左下に各機のクロッシング内容が表示さる。マークフュンフとマークヌル、マークジーベンが現在クロッシング下にあり、そして、一番上に新しくマークドライツェンの表示が入った。

 

「CDCへ、防衛部隊全機、出撃準備整いました」

 

レイは、手短に司令部へ報告を行った。

 

『防衛部隊、ファフナー全機。出撃しろ!』

 

現在島の指揮を執っている溝口の声が届く。

決戦の幕は音を立てずに、ゆっくりを持ち上げられていくのであった。

 

――――

 

海上を浮かぶ空母ボレアリオス。

紫色の空とそれを写す海面に浮かぶ無人の空母。

 

凪いでいる海面に白波が立つのは、この空母が進んでいるということであり、その目標は言うまでもなくあの場所である。

 

双同船の空母であるボレアリオスの中央にあったはずの艦橋は、白いドームに覆われており、原型すら残っていない。

 

そして、甲板にはおびただしい数の真紅のフェストゥム、エウロス型が並んでいる。

並んでいるとは言っても綺麗な列をなしているのではなく、甲板の面積に立てるだけ立っているという状態だった。その数はゆうに三桁は超えている。

 

そして、中央のドームにただ一機だけ真紅ではなく、紫暗の躯体が存在していた。

 

ザルヴァートルモデル・マークニヒト。

 

かつて人類軍によって作られ、一騎と総士によってマークザインに封印されていた呪われし機体。

この存在を知っていたという彼らのミールは、2年前に消滅した北極ミールを受け継いでいるということなのか。それはもはや誰にもわからないが、言えることは唯一つ。

 

この機体は、もう一度竜宮島にその牙を剥こうとしているということだ。

 

搭乗している彼、来栖操は今まで伏せていた顔を上げた。搭乗者と機体を繋ぐニーベルングの指環は依然緑色の結晶に包まれており、開放される気配はなかった。

 

「行こう、痛みを消しに」

 

その言葉に感情はない。

 

ゆっくりと、機体がドームから離れる。金属音を鳴らし、ふわりと浮かぶ。その際に広げられたワイヤーアンカーはその形状と大きさから、悪魔の翼のようにみえる。

 

まずはマークニヒト一機、空母から竜宮島に飛び立ち、空に昇っていく。

 

それから一体、二体、三体と追従していき、最後は軍となりマークニヒトに追従するエウロス型。彼らが向かう場所はただ一つ。

 

竜宮島である。

 

――――

 

竜宮島に響き渡るサイレン。もはや聞き慣れて久しい重低音をBGMに配置についてるファフナー防衛部隊。

 

港場のマークヌルを先頭にして、海岸線の半壊したヴァッフェ・ラーデンの防壁の前に立つマークフュンフ。

 

少し下がったところの山頂にマークドライツェン。右側の丘にマークジーベンが並ぶ。

 

全4機の準備が整い、さらに防衛部隊は彼らだけではない。

 

アルヴィス内部。ファフナーブルグの4番ナイトヘーレに、焦茶色のファフナーが立っている。型式番号4番機。期待コード『マークフィアー』それはかつてこの島を守り、仲間を救い、今なおファフナーのコアとなって島を守ろうと帰還した、春日井甲洋の搭乗機。

 

無人の筈のコックピットブロックは、ブランクモードの緑色の幾何学模様に似た空間から、ファフナーの視界と一体となり、周りの空間がはっきり見える状態に移行した。

 

登場席の周りにデータのラインが表示され、出撃準備が整い、出撃許可を求めるブザーがブルグに響く。

 

「フィアーから、出撃許可の要請です」

 

羽佐間容子は椅子から振り返り、ファフナーを見つめる小楯保に報告する。報告を受けた保は、目線をわずかに持ち上げて口を開いた。

 

「扉開け」

 

その口調は、他の者達と何ら変わらぬ、ファフナーの搭乗者を、戦場にを送り出す時ものだった。

 

「マークフィアーが、出撃る」

 

――――

 

海面に浮かぶ光、それはすぐに水の弾となって海面から飛び出す。

 

爆音と共に弾ける水の弾。そして姿を現すのは最後の防衛部隊、ノートゥングモデル4番機。手に武器は持たず、だがマークアハトと同型機のフィアーは肩のハードポイントに

マークアハトと同じレーザー砲、『メドゥーサ』を装備している。

 

ブースタの噴射音を響かせてマークヌルのすぐ後ろに降りたフィアー。着地してすぐに、マークヌルはフィアーに振り向いた。

 

「こうして面と向かって会うのは初めてになるね、春日井甲洋。僕はレイ・ベルリオーズ。この防衛部隊のリーダーを務めるよ」

 

無人の機体と知ってなお、レイはマークフィアーに話しかける。無論フィアーからの返事はないが、彼には返事がなくとも良かった。

 

「初対面の人間だといろいろ不安だろうけど、とりあえず僕の指揮に従ってもらう。いいね?」

 

レイの言葉を聞いたマークフィアーは、ゆっくりと右手を上げた。了解の意思を伝えるジェスチャーだろう。それを見たレイは、ほっと息を吐いた。

 

「ありがとう」

 

話には聞いていたし、彼が島を離れた瞬間を見ていたけれど、面と向かうのが初めてな人だ。少し不安はあったのだろう。

 

丘にいるマークジーベン、真矢は微笑んでいるが、山頂にいるカノンも息を吐いていた。

 

「それじゃ、作戦開始だ。全機、合図とともに行動を開始、各機連携して戦線を維持する」

 

指示を聞いた各メンバーに緊張が走る。

 

迎撃の準備は整った。

 

――――

 

アルヴィス。真壁史彦率いるRボートでも作戦が始まろうとしていた。この戦いの行方の鍵を握る、最も大事な部隊。

Rボートの内部は、かつてL計画で使われたLボートと同じように、簡易的なCDCなどが存在している。

 

「防衛部隊、迎撃準備整いました」

 

「遊撃部隊、いつでも行けます!」

 

各報告を受け、史彦はゆっくりと椅子から立ち上がる。彼の号令と同時に、作戦は始まるのだ。そして、その作戦名は―――

 

 

 

 

 

 

            「第二次蒼穹作戦を開始する!」

 

 

 

 

 

 

皆城総士を救出し、敵と共存の可能性を手に入れるための作戦。それは2年前と変わらない。

 

簡易CDCのモニターに映像が空中投影される。

遊撃部隊ファフナーの状況、Rボートの現在地、作戦時間、ボート周囲の状況などが映し出される複数の映像は全てがこれが最後の戦いだという緊張感を引き出す。

 

島本当のブロックから、ボート部分が切り離される。

それは3年前のL計画と同じように、今度は右側のブロックが島を離れていく。

 

違うのは、このボートは囮としてではなく、生き残るための戦いに出るということだ。

 

アルヴィス本部の第1CDCでも、作戦と同時に作業が行われていた。

 

「偽装鏡面、ロムモードで維持」

 

「コントロールプログラム、始動開始!」

 

CDCのコンソールモニターに映し出されたRボートの切り離し。更新され続ける映像には徐々にしまを離れるRボートの様子が流れている。

最初は潜水艦のように海中を進み、ボレアリオス周辺の安全ポイントで浮上する。そして、甲板にでた日野美羽と彼らのミールを対話させる。

 

それがこの作戦の目的だ。

 

迫る北極ミールの欠片の一つ。彼等との最後の決戦が始まった。




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灯火 ~ひかり~ Ⅱ

1年ぶりの更新。去年会社に入ってからというもの忙しすぎて録に筆記する時間が取れなかった。

ようやく会社にも慣れてきて少しづつ各時間が取れたので更新を再開したいと思います。
とは言っても時間はかかりますが……不定期になりそうです。

筆記はできないけど構想は出来るのが唯一の救いか。

EXODUSの構想も会う程度固まってきたのでちょっとあとがきで。

では、どうぞ


竜宮島、防衛部隊の戦闘が始まった。

 

「全機、攻撃開始!!」

 

ファフナー部隊の隊長、レイ・ベルリオーズの声が各機体を動かした。

同時に現在存在する全ての防衛機構が全力で展開され、港の機関砲群が一斉に砲火を上げる。

 

本来、フェストゥムにとって防衛機構のミサイル群や機関砲などは、何ら障害になるものではなく、一瞬で消しされる程度の、吹けば飛ぶ埃程度のものでしかない。従って、いくら防衛機構が数を増やしたところで、モノの数秒で蹴散らされるのがオチだろう。

 

 

だが、ここに例外が存在する。

現在島を攻撃しているフェストゥム―――エウロス型は人類の兵器を模した武器を操り人類の戦術を使って戦ってくる。

高い読心能力に人類の武器。それは驚異以外の何者でもなく、通常のスフィンクス型よりもはるかに強力な個体である。が、そのフェストゥムには一つだけ、弱点が存在していた。

 

通常のフェストゥムを大きく凌駕する機動性、耐久力、攻撃力。それらを支える柔性に人類を模した火器。何より人類の武器であるファフナーに類似した人型の形状には、彼ら自身の身を守ってきたバリア状の防御が存在しないのだ。

 

人に近づいたことで、並外れた力を手にしたフェストゥムだが、それは逆説的に言うと、相対的に人の武器に弱くなったという事を示していた。

 

地球の外から来た驚異は、人を学び、人に近づいて力を得た代わりに人に近しくなりて人に討たれる。神話のような話だが、ここではそれが如実に出ていた。

 

そして、その欠点は島の防衛機構を相対的に強力にするばかりではない。無論彼女たちにも恩恵を与えてしまう。

 

 

「くらえええええええ!!!」

 

 

全身しながらルガーランスの砲撃を行うマークドライツェン。高機動による接近戦を主とするカノンだが、元軍人である彼女にとって、射撃は決して苦手な分野ではない。

後方からの機関砲による支援もあって軽快な軌道を描きながらルガーランスを突き出す。

 

青白いプラズマの閃光が奔るたびに、フェストゥムは消滅していく。その周囲では多数の機関砲に撃たれて、次々とエウロス型が傷つき、消滅していった。

 

「…………」

 

谷を下りながら狙撃を敢行するマークジーベンは敵のワームスフィアー攻撃を躱し様に空中へ飛翔、第1指定標的(マークニヒト)を発見すべく確実に敵を撃破しながら敵の群れへ突入を開始する。

 

新たに島の戦力として帰還したマークフィアーは、マークヌルと共に、背中合わせで敵を撃つ。

両肩のハードポイントに装備されたレーザー兵器「メドゥーサ」は依然ファフナーの装備できる中で1位を争う強力な武装だ。

単純な火力では傍らの黒いファフナーには勝てないものの、連射性能と2基同時発射という手数の多さにより多くの戦果を挙げている。

 

「土塊が、吹き飛べえぇ!!」

 

マークヌルは、その右腕「シヴァ」による砲撃で敵を駆逐する。

マークフィアーの「メドゥーサ」には連射力と数で劣るものの、その不利を補って余りあるのはその破壊力。

フェストゥムを覆い隠すほどの巨大な橙色の光柱はただの一撃で多くのフェストゥムを消滅させることができるのだ。

さらに、「シヴァ」は連射力が低い代わりにレーザーの放射をある程度持続させることが可能。

放射を維持したまま腕を振るえば、そのまま光で敵を薙ぎ払える。

隣のダークブラウンのファフナーにも負けない強力な力として、その場に黒いファフナーは君臨していた。

 

 

「行っけえええええ!!ゴウッ――バイン!!」

 

堂馬広登も未だ戦力としては不安があるものの、両手に保持したゲーグナーを持って応戦する。彼の本当の仕事は未だ先ではあるが、今は少しでも他の皆と肩を並べられるように奮闘するのだ。

 

 

そして、敵の第1波の大多数を撃破した頃、マークジーベンは第1波の群れを突破し、続く第2波―――本命の敵群体へ接近していた。

第2波は第1波より倍以上の群れとなって押し寄せてきている。

 

そして、そこに突入するマークジーベン。ほどなくして彼女はその目に紫暗の機体を捉える。

 

「きた……!」

 

視線の先には―――マークニヒトが音もなくこちらへ迫っている。その中に来栖操を乗せて。

 

 

 

――――

 

 

一方で、遊撃部隊の戦いも始まろうとしていた。

 

敵の本拠地へ接近するRボート。甲板にはリンドヴルムに繋がり、飛翔を待つマークドライ。

彼女は緊張感を持ちながらも、どこか落ち着いた表情で暗い海中を見据えている。

 

ファフナー出撃口にはマークフィアーと同じように「メドゥーサ」を装備した深緑のファフナー、マークアハトが鎮座する。

搭乗者の近藤剣司は目を閉じ、ともすれば寝ているのではないかという様な、リラックスした表情でそのときを待っていた。

 

大型ファフナーの出撃口には、竜宮島の原書にして最大のファフナー。ゼロファフナー、「エーギルモデル」がいる。

全長100mにもなる巨大ファフナーにはかつてパイロットを務めた2人の遺児―――西尾里奈と西尾暉が緊張した表情で出撃に備えている。

 

簡易CDCにも緊張が走っていた。もうまもなく、皆城総士が残したメッセージ。その中にあった敵本拠地の現在地へと到達するのだから。

 

「GOAL AREA」と表示されたピントへ自らを示すRボートの印が迫った時、レーダーを目を凝らしていたイアン・カンプは言葉を発した。

 

「―――予定地点に敵影なし」

 

Rボートのレーダーには、何も写されてはいなかった。周囲に少なくも動揺が走る。左の席に座っていたジェレミーがイアンの方へ不安げな顔を向けた。

 

「もし航路が間違っていたら、島が―――」

 

そう、この航路が間違っていて、敵の本拠地が別の場所にあったとしたら、作戦の前提が覆される。

レイが予測した最大戦闘時間は70分。現在時点で出撃から80分。戦闘開始予測時間からは30分が経過していた。

CDCの全員に動揺が走ったその時―――

 

「魚雷用意」

 

一切の不安も動揺も感じさせない、堂々とした声が聞こえた。

CDCの全員がその声のほうを向く。声を発したところは中央―――真壁指令であった。

 

「真壁指令!」

 

イアンが思わず声を発したが、真壁史彦は意に介さずに海中を見据えながら言葉続けた。

 

「皆城総士が我々に託した情報だ―――」

 

そう、この情報は皆城総士、かつて全ファフナーを統括し指揮を行っていた少年が託したもの。

島の未来のために、仲間を切らねばならない己に苦悩したあの不器用な少年が託したものなのだ。

 

「―――必ず何かがある」

 

何を疑う余地が有るのだろうか―――真壁文彦はその瞳も、声も揺れることもなくそう締めた。

 

「「―――はい!」」

 

その言葉を聞いたイアンとジェレミーは、不安を飲み込み、強く言葉を返した。すぐに自らの向きを直しコントロールパネルを叩く。

 

「前部魚雷発射管、準備完了!」

 

「発射!」

 

真壁指令の支持により程なくしてRボートから多数の魚雷が順次発射される。

魚雷の群れは数多の筋を作りながら真っ直ぐに深海をすすむ。

 

その様子はCDCのレーダーにも克明に映し出されていた。魚雷を示すサインが「GOAL AREA」に接近する。その様子をあるものは険しい表情で、またあるものは息を呑み込んで見守った。

 

魚雷を示すサインが「GOAL AREA」を表すサークルの経線に触れるその時―――

 

「ソナーに反応!魚雷が何かに衝突、起爆しました!!」

 

 

CDCのクルーの1人が声を張り上げ、その場の全員に情報を伝達した。

その瞬間、「GOAL AREA」と表示された地点に、戦艦規模の反応が現れる。

 

順次発射されていた魚雷の後進が今度は「GOAL AREA」の戦艦の反応に接近する。

今度は反応に触れる直前で全ての反応が消失した。

 

速やかにジェレミーが反応した戦艦の照合を開始する。結果はすぐに現れた。照合の結果が空中ディスプレイに表示される。

 

「照合、人類軍空母「ボレアリオス」!!」

 

続けてイアンが空母を解析した情報がディスプレイに表示された。それは驚くべき結果だといえよう。何故ならば―――

 

「偽装鏡面にヴェルシールド……!」

 

「竜宮島の防御システムを……っ」

 

そう、これら全ては竜宮島の防衛機構だった。レーダーに反応しなかったのはあらゆる波を吸収する偽装鏡面があったからなのだ。そして鏡面自体にも多少の防御力はある。最初の魚雷が鏡面を破壊し鏡面が剥がれ、続く魚雷が空母に直撃する前に、敵はヴェルシールドを張り、魚雷から身を守ったということだ。

 

その事実を聞いた史彦は納得したような表情で呟いた。

 

「我々から学びながら侵略者になったか……進路維持、ファフナー出撃用意!!」

 

今までの島への攻撃はこのためでもあったのかと、納得しながらも彼は指示を飛ばした。

 

「敵シールドまで、距離200」

 

CDCから情報が伝達され、文彦は新たに指示を発する。多少予定とは食い違うが、作戦通りに事を進めるだけだ。

 

「ゼロファフナー。出撃!!」

 

大型ファフナー出撃口が開き、内部に海水が流れ込み一瞬で出撃口は快ついで満たされた。

同時に出撃口内部の空気も気泡となって放出される。

その気泡の中から桜色に光るカメラアイが映る。

気泡が消えた後に残ったのは甲板に直立する水色の巨躯であった。海中に紛れる水色の巨体は直立した姿勢から、背中のサイレーンド装備を起動。気泡を後ろに吹き出しつつ前傾姿勢で出撃する。

 

その巨体にしてはなかなかの速度で懐中を進む様に、今まで後ろで待機していたマークドライ、搭乗者の要咲良は思わず口を開いた。

 

「まった凄い迫力ねぇ」

 

思わず頬が緩むが、すぐに引き締める。自らの仕事はまもなく始まるのだから。

 

懐中を進むゼロファフナー。程なくして2人はヴェルシールドの目の前まで来た。

 

両腕を突き出して、シールドに触れる。マークヌルと似た形状の手のひらから橙色の光が漏れ出しシールドを侵蝕、突破を試みる。だが―――

 

「破れない……シールドと波長を合わせろ!」

 

「理解ってるわよ……!」

 

敵ながら、ヴェルシールドの強度は島の物とほとんど同一のものであった。

だが、2人は既にシミュレータで島のシールドを突破する訓練を受けていた。

 

ゼロファフナーの両肩の大型フィンが開き、内側の小型フィンが展開する。すると、大型フィンの内部が光り出し、両掌の光も輝きを増す。

 

その直後、ヴェルシールドが強く赤光し、激しく波打っていく。同時に掌とシールドの間から気泡が溢れ出した。

激しさを増すシールドの波紋は、ついに臨界に達し―――

 

―――バシュンと音を立てて、手のひらの部分から広がるように消滅した。

 

そして、そのままゼロファフナーは敵空母へ接近する。

 

「敵シールド突破!」

 

「マークドライ出撃!T1からT3発射、雷撃支援!」

 

その様子を観測していたイアンはすぐさま情報を伝達する。その情報を聞いた指令はすぐに次の支持を発した。

対フェストゥム用の特殊弾頭を搭載したミサイルが順次発射される。その音をバックコーラスにマークドライは甲板から発艦、急速に海面へ浮上した。

 

海面に近づく影を見つけ、接近するエウロス型。マークドライを浮上前に撃破するために海面に銃口を向ける。だが、その砲口は火を吹く前に黒い球体に飲み込まれてしまった。

 

海面から飛び出たミサイル群は自動でフェストゥムを探知し、襲いかかるASミサイル。

破壊力も高く、エウロス型のフェストゥムを1発で消滅させていく。

 

海面から飛び出したマークドライは直ぐに大型ミサイルを全て空母へ向けて発射した。

ミサイルは空母へ迫り、直撃すれば激しい爆煙を上げる。それを尻目にマークドライは空母の周囲を旋回する。

 

直後、海面から巨大な手が浮上、空母の甲板を掴む。甲板は機体の握力と重量に負け大きく凹むが、空母自体は傾いたり沈むことはない。そして、巨人が海から浮上しだした。

 

大量の飛沫を上げ、節々から海水を滝のように滴らせながら、ゆっくりと巨体は空母へ乗り込む。空母の片側に立ち、両腕を眼前へ掲げる。すると、両腕の至るとことから子窓が開き、球状のレーザーパレットが姿を現した。

 

直後、数多の真紅のレーザーがゼロファフナーを中心に発射された。

マークヌルが参考にし開発された右腕部を遥かに超える強力な暴威となってエウロス型のフェストゥムを攻撃する。

 

その1撃はフェストゥムを容易に撃破せしめ、弾幕のように絶えることなく発射される様は正に圧巻の一言に尽きよう。

 

その様子を見ていた咲良も思わず「すっご……」と感嘆するほどであった。

だが、ゼロファフナーはあくまで陽動。本命はこれから出撃する彼にこそある。

 

「マークアハト出撃!雷撃支援!」

 

真壁指令の指示で出撃するマークアハト、そしてその新緑の機体を追い越す魚雷群。

魚雷は空母艦艇中央に直撃し爆炎を上げる。そこに巻き込まれたフェストゥムを消滅させ、艦上のマークドライ、及びゼロファフナーによる陽動の影を縫ってマークアハト空母の中に乗り込んだ。

 

「さあて、っと」

 

そして、中央のドームへの入口へ「メドゥーサ」を発射、扉を破壊し内部へ侵入。中央には青白い光の柱が存在し、その上部にはエメラルドカラーの結晶――ミール本体が存在していた。

 

それを視認した剣司は両手に保持したライフル「ガルム‐44」を発射する。

彼の役目はこの中央部分の破壊だ。とは言っても明確な破壊目標はなく、ミール結晶を傷つけないようにして手当たり次第に爆砕する。それが剣司の役目。

これによりミールの注意を可能な限りこちらへ近づけ、Rボートと島の防衛戦力への危険をなるべく減らす狙いがあった。空母周囲のフェストゥムはマークドライとゼロファフナーが引き受けてくれる。

 

ミール本体の真下、青白い光柱に囚われている存在、マスター型フェストゥム「ニョルニア」はマークアハトの攻撃を見ながら、そのときを待っていた。だが、剣司はその存在に気づくことなく攻撃を続行する。

 

だが無論、この行動はミールの危機感を煽り、ある行動の引き金を引く。

襲われているミール本体から光が放たた。するとドーム頂上から、白い渦が現れ、上を目指して螺旋を形作る。それがある程度の高さまで来ると、今度はミールと同じエメラルドカラーの結晶の柱が空へ向かって伸びた。

 

光の輪を放ち、オーロラを散らしながら宇宙へ1直線に伸びる結晶の先端はまるでボーリングのように歪なドリル状になていた。

 

その様子を映像としてCDCは確認していた。

 

「空母上、敵ミールに起因すると思われるフィールドの発生を確認!」

 

それを見ていた文彦はいよいよか、と表情を引き締めた。

 

「日野親子をここへ呼んでくれ」

 

その指示を聞いたイワンとジェレミーは真壁指令の方へ振り向き、顔を見合わせた。

それは他のCDCのスタッフたちも同様、その指示を聞いた各々はこれから始まる事へ、多少なりともざわついた。

 

お互いの存在を賭けた対話が、始まろうとしているのだ―――。




感想、評価、お待ちしています。


さて、前書きでEXODUSの構想について触れましたが、大きく分けて2つの構想がありまして

①レイ、島に残る。

②レイ、遠征組に入る。

この2つの構想があります。現在はどっちを選ぼうか迷っていますが、これが完結する頃には決めたいと思います。

何かしら意見、疑問等ありましたら感想欄にください。お待ちしています。


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蒼穹 ~そら~

久しぶりにここまでの速度で投稿ができた。

感想欄にも色々意見が来てくれてるようで嬉しい限りです。
変身できなくてごめんなさい。

レイ君はやはり島に残ったほうがいいのか……

ふむ。その方向で固めてみようかな?


竜宮島の戦いは激化の一途を辿っていた。

 

今や島のほぼ全体が戦場と化しており、辛うじて居住区のある一体は激しい戦闘が行われてはいないが、これ以上戦闘が激しさを増すと、どうなるかは判らない。

 

ただ、時間的には既に遊撃部隊が戦闘に入った頃だ。ちょうどその頃から、僅かだが敵の動きも鈍ってきている。この機を逃すわけには行かないと防衛部隊の攻撃は一層強く展開されていたのだった。

 

だが、それも通常のフェストゥムとの戦闘での話である。敵には、かつて島を絶望に陥れた存在が猛威を振るい始めたのだ。

 

「う、うわあああああああ!!」

 

雄叫びとも、悲鳴とも取れない叫びを上げた来栖操。その声に呼応するようにマークニヒトは空中に静止したまま両手を掲げた。

瞬間、フェストゥムを攻撃していた島の迎撃機構が瞬く間のうちに、黒い球体に飲み込まれた。

 

次々と迎撃機構を飲み込むように出現するワームスフィア。その球体が消滅すると、そこには何もなかったかのように綺麗に抉れた地表と、コンクリート壁がのこされていた。

 

それはほんの数秒にも満たない時間で、島の迎撃機構が多数が破壊された。島のCDCでも、その驚異は捉えていた。

 

「くそったれがぁ、レイ!ニヒトをどうにかしろ!!」

 

真壁史彦の代わりに島に残り防衛部隊の全体指揮を執る溝口恭介。彼は一瞬にして消滅した迎撃機構のシグナルを見るやいなや、通信回線を開き、ファフナー部隊の隊長に指示を飛ばした。

 

マークニヒトは、真っ先に始末するべき。それを正確に理解しての指示だった。

が、そこには1つ落とし穴が存在している。

 

『解っています!ですがあれは1人2人でどうにかできる相手では―――』

 

「だったら全員で叩け!その間はなんとかこっちで持たせてやる!!」

 

『――――』

 

その穴を言外に指摘するレイだったが、溝口の返答は無茶苦茶なものだった。マークニヒトを撃破するまでの間、ほかのフェストゥムは島の迎撃システムだけで防衛する。そんなことは簡単にできるようなことではない。

 

レイはそれを誰より理解している。でも同時に、それしか打つ手がないことも理解していて―――

 

『了解しました。なんとか持たせてください……っ』

 

唇を噛み、憎憎しげにそう答えたのだった。無論、憎いのは敵を容易く倒すことのできない己自身。

そして、それを理解していながらもこうして己に任せてくれる人への申し訳なさ。

 

「任せろ!オメエさん等がやってる間に、こっちで敵を全滅させてやっからよー」

 

それを理解している溝口は、軽口で返す。自分の行っていることが無茶だというのは自分が一番分かっている。

だが、時には無茶でもやらなくては道は開けない。そして、こうしてやることで、同じく無茶を負けせてしまう彼への重荷を少しでも軽くしてやろうとしたのだ。

溝口はレイにはない人生という経験値があるからこそ、彼に対してこういう心遣いができるのだた。

 

『……はい。ご武運を』

 

少しだけ、苦笑いを含んだ返事を最後に通信が切れた。それを聞き届けた溝口は早速無茶を罷り通らせる為に指示を飛ばす。

 

「デナイアル発射準備!1番から10番まで装填次第発射しろ!目標は上空エウロス型、俺様特性の溝口カレーミサイルを食らえってんだ!!」

 

「了解、デナイアル、発射します!」

 

CDCの、全力の時間稼ぎが始まった。

 

――――

 

一方、ファフナー部隊隊長、レイ・ベルリオーズは眼前に表示されるディスプレイを睨みつけていた。

 

「マークジーベン、目標に攻撃開始!ポイントS-4-6まで誘導!マークフィアーは道中のフェストゥムを駆逐しつつ同ポイントへ急行、目標を視認しだい攻撃開始!マークドライツェンはポイントS-4-5へ急げ、目標に奇襲をかけろ!マークフュンフはドライツェンをカバー!」

 

竜宮島のファフナーには、ジークフリートシステムが、分割されて内蔵されている。機体の搭乗者全員で意識をクロッシングさせることで、強力な耐心防壁を構築している。そのなかでもマークヌルに内蔵されているシステムは、他の機体よりも機能が充実していた。

 

クロッシングだけではなく各機体に対する機能命令権、クロッシングの接続権限など、通常のジークフリート・システムと遜色ない機能を持たせている。

ファフナー部隊を指揮する隊長であるが故に多くの機能と、部隊員全員の命を彼は背負っていると言っても過言ではない。

 

指示を飛ばしてすぐ、レイもポイントへ急ぐ。眼前を塞ぐようにして現れた3体のエウロス型。1体がライフルを構え、もう1体がミサイルを用意していた。

 

「邪魔するなよ土塊共!」

 

すぐさま右腕の「シヴァ」を撃つ。巨大な光柱がライフルを構えたいたモノと、ミサイルを発射しようとしていたモノを消し去る。が、3体目が上へ飛ぶように回避し、だが、レイは回避先を読んでいた。

 

「消えろおぁ!!」

 

上に飛び、マークヌルの真上でライフルを構えるエウロス型。だが、標準をつけた時にはマークヌルは距離を詰め、右腕の3本爪を振りかざしていた。

銃口がマズルフラッシュを吹くも、身体を捻るようにマークヌルは銃弾を回避し、そのままエウロス型を切り裂く。

 

黒い球体に飲まれ、消滅するエウロス型に見向きもせずに、着地し再びポイントへ急ぐレイ。

ディスプレイに表示されている情報を見ると、既にマークジーベンが、マークニヒトを指定ポイントへ誘導していた。

 

が、その直後にマークジーベンの高度が急速に低下していく。機体にも損傷を示す表示が出たため、すぐに対処する。

 

「マークジーベン!ペインブロック作動。左腕部接続強制解除!」

 

視界の隅に表示されたマークジーベン。その左腕部分が正常な水色の表示から、破損を受けた赤へ、そして接続解除の黒へと変更される。

直後に、マークニヒトの位置が大きくブレ、地表に墜落するのが見えた。

 

そして、その位置の近くに、ポイントへ到達していたマークドライツェンの姿がある。

 

『マークヌル!』

 

どうやら彼女もマークニヒトが墜落したのを見たようだ。レイの隣に赤いカノンの影が現れる。彼女を見てレイは頷いた。

 

「マークドライツェン、マークニヒトに奇襲しろ!」

 

『任せろ!』

 

レイの隣にいたカノンの影が消えマークニヒトのとなりの地点にいたマークドライツェンの反応が移動する。

ちょうど挟み込むような形で、マークフィアーも移動中だった。これならそう時間もかからず挟み撃ちにできるだろう。

カノンの少し後ろには、マークフュンフも来ている。

 

チェックだ―――

 

そう思った直後、マークニヒトの周囲で異常な反応が現れた。

 

「何!?」

 

なんと、マークニヒトの周囲におびただしい数のワームスフィアが出現したのだ。

レイは目の前に笑われたワームをジャンプすることで回避、移動しながら周囲を見渡す。

このワームスフィアは無差別に出現しており、仲間であるはずのほかのフェストゥムを巻き込んでいる。

 

視界の隅で、こちらにライフルを向けていたエウロス型がそのワームに飲み込まれ、消滅していった。

そして、ディスプレイには、マークドライツェンがマークニヒトへ接触していた。

 

自らももうすぐ、指定ポイントに到着する。

 

マークヌルのブースター出力を増強し、急ぎ現場へ急行した。だが、マークニヒトへ接触していたマークドライツェンが大きくマークニヒトから離れ、ドライツェンの表示には、左腕部、頭部に損傷を示す赤い表示がされていた。

 

「っ―――!!」

 

丘を乗り越え、マークニヒトを視認。マークニヒトは機体と同じ紫暗のルガーランスを構え、プラズマの砲撃を行っている。

そこには、マークドライツェンを庇うようにイージスを展開げ、プラズマの砲撃から耐えるマークフュンフがいた。

 

マークドライツェンのカバーを指示したのが功を奏したようだ。

視界のマークドライツェンを拡大する。左腕部が大きく凹み、頭部がひしゃげてしまっている。この状態では視界がおぼつかず、もはやこれ以上の戦闘は不可能だろう。

 

マークニヒトのルガーランスもかなりの出力を持っているようで、マークフュンフがプラズマを受けるとき、僅かに後退しかけている。

現在位置関係は僕はマークニヒトの左後ろから接近して―――

 

「―――っ」

 

馬鹿か僕は、呑気に状況を分析している場合ではないだろう。一刻も早くやつを排除しなければならないというのに。

いつマークフュンフのイージスが崩されるか、それとも後ろからフェストゥムに撃たれるか。

どちらにせよ、今すぐ、やつを破壊する。

 

破壊しなければならない。

 

 

 

 

さもなくば―――

 

 

 

 

「――――――ぁ」

 

 

――――カノンが、死ぬんだから。

 

 

早く

 

疾く

 

速く

 

はやく

 

ハヤク―――

 

 

 

アレを、ケセ!!

 

 

「―――ああああああああああああああ!!!」

 

 

右腕をマークニヒトに向け、発射。

直前で気づいたようだが、もう遅い。完全に補足された一撃はマークに人の全身を焼き尽す。

 

「シヴァ」の一撃は直撃した。このまま一気に距離を詰め畳み掛ける。

照射を維持したまま背部ブースタの出力をさらに引き上げる。距離は瞬く間に詰められ、照射が終わった頃には既に腕を伸ばせば障れる距離にまで近づいていた。

 

「はああああああ!!」

 

そのまま右腕の爪を振りかざす。マークニヒトは後ずさりしながら腕で防御の姿勢をとるが、そのまま振り下ろす。

 

ギィン、と重い金属音が響き、マークニヒトの装甲から火花が散る。流石にザルヴァートルモデル。フェストゥムに取り込まれた経緯もあってか相当頑丈だ。

傷は浅く、「シヴァ」で全身を灼いた傷と一緒に数秒で回復してしまう。

 

だが、十分に恐怖感は植え付けたようで、今度は飛んで逃げようとした。

 

だが、許すとでも?

 

「馬鹿が―――」

 

すぐさま左腕のレージングカッターを射出。機体をがんじがらめにして、地面に引き寄せ、叩きつけた。

 

もし、この機体に乗っていた人物が機体の性能をきちんと把握し、

そこそこの経験を積んでいたなら、逆にこっちが空中に引っ張り上げられて、地面に叩きつけられていただろう。

それは大きく損傷したマークドライツェンを見れば明らかだ。機体そのものの駆動モーターとアクチュエーターの出力がそもそも違うのだから。

 

が、相手は碌な経験もない素人だ。このまま潰す。

 

叩きつけてすぐに機体の腹部を踏みつける。素人が相手なら、これだけで思考能力を大きく奪える。

そして、マークニヒトへ向けて無線を開く。本来ノートゥングモデルに無線はない。だが、この機体は人類軍によって製造された番外機。故に0(ヌル)

 

竜宮島のノートゥングモデルとは結構差異が存在する。この無線機能もその一つだ。

 

「きこえるかい?来栖操」

 

繋がった無線で喋る。その声は自分の予想以上に冷たい声だった。

 

 

――――

 

橙色のレーザーがマークニヒトに襲いかかる。マークニヒトは直前で気づき、躱そうとしたがもはや遅い。レーザーの光はマークニヒトを飲み込み、その身を余さず灼く。

 

 

「うわあああああ!!」

 

 

マークニヒトを駆る来栖操は2度目となるプラズマに全身を焼かれる感覚を味わう。

全身の装甲が焦げ、カメラアイが乱れる。

そもそも、全身をくまなく焼かれるというのは想像を絶する苦痛にほかならない。兵士でもない彼にとって、その苦痛は判断能力を彼から奪うには十分すぎることだった。

 

「――――ひっ」

 

視界から橙色の光が消えた時には、既に黒いファフナーが眼前に迫っている。

逃げなくては、と思考する前に黒いファフナーの右腕が、こちらに振り下ろされようとしていた。

 

「ぐあああああ!」

 

咄嗟に両腕で防御するものの、爪に腕を切り裂かれるのは焼くのとは違う痛みを覚える。

傷自体は浅く、先ほどのレーザーで負った損傷もまとめて、数秒で修復するが黒いファフナーは止まらない。

 

飛翔するためにウイングを広げるが読まれていたのか、左腕から発射されたワイヤーで絡め取られ、地面に叩きつけられる。

地面が機体の重量と叩きつけられた衝撃で大きく陥没する。

 

「っはあ!」

 

 

背中を強打する痛みで大きく息を吐き出した。

 

「なんなの―――ぐふっ!」

 

生ぬるいとばかりに今度は足で腹部を踏みつけられる。叩きつけられたときにも息を吐き出したが、踏みつけられて、またもや大きく息を吐き出した。

そのため、一瞬呼吸ができなくなりさらに思考がめちゃくちゃになってしまう。

 

『きこえるかい?来栖操』

 

聞こえてきたのは、少年の声。自分よりもやや高く、それでいて背筋が凍りつくような底冷えする音だった。

 

「ひっ―――」

 

来栖は、今までに感じたことのない感情に包まれた。

背筋が凍え、全身が微かに震える。頭から血の気が引き、奥歯がカタカタと音がする。

 

そして、通信が開いたことで、黒いファフナーの搭乗者の心が見えた。

 

 

 

殺意。

 

 

 

憎悪。

 

 

 

その感情は、ミールによって学ばされたものよりも、遥かに鋭く、痛々しいものだった。

その理由を来栖操は知らない。ミールが教えた憎しみ。その根源は北極ミールの存在が、マークニヒトの起動中に機体を乗っ取られた刈谷由紀恵が発した行き場のないものであったのに対し、彼のもは明確に、一個へ向けて発せられた、明確な方向のある憎悪。

 

個という概念の薄い現在のミールやフェストゥムの在り方ではどうあっても学ぶことのできない感情であった。

故に、来栖が今感じている感情は必然であるといえよう。目の前に理解できないものが存在し、それが自らを脅かすとなれば、生じる感情は限られてくる。

 

それは―――

 

『へぇ、フェストゥムも恐怖って感情はあるんだ?』

 

興味深そうなニュアンスで聞こえるが、その声色は冷えて平坦。それが来栖の感情を加速させた。

 

―――恐怖?これが?

 

これが、怖いって感情なの?

 

こ、わい

 

怖い

 

これが、恐怖―――

 

 

「あぁ……あああ……」

 

『まあいいや。消えろ』

 

はじめて学んだ感情に、頭が支配されるなか、無情に告げられた宣告。そして、黒いファフナーの右腕が向けられた。

その機械維持掛けの掌。中央に空いた窪みから橙色の光が漏れ、同色のプラズマが奔る。

 

それが、さっき全身を焼いた光だと理解して、恐怖が更に加速する。右腕に握る武器を振るうことさえ、今の彼には考えが及ばなかった。

ただ、怖い。怖い。怖い。その感情がかれを支配している。

 

「やめ―――」

 

 

『失せろ』

 

 

光が奔る―――

 

 

――――同時に、マークニヒトから黒い球体が広がり、マークニヒトとマークヌルを包み込んだ。

 

2機を包み込んだ黒い球体は、その色を徐々に橙色へと変えて行き、プラズマのようなものを全体から奔らせる。

そして、数瞬の後に、弾けとんだ。

 

「うぁあああああああああ!!!」

 

「ぐううううううう!!!」

 

 

橙色となったワームスフィアがはじけ飛ぶと同時、2機のファフナーもそれぞれ反対側へ飛ばされた。あのワームしフィアの中で何が起きたのか。

 

2機とも全身の装甲が溶解し内部の液体が漏出しており、マークヌルに至っては右腕がかろうじで原形を保っている体であり、特徴的な3本の爪が綺麗に消失していた。

 

「はぁ、はぁ、ひっ」

 

来栖は、マークヌルを視認すると、学んだばかりの恐怖に従い、急いでこの場を離れようとする。咄嗟に繰り出したワームスフィアが功を奏したものの、いつまたあの機体が襲って来るかわからない。止めを刺すのも嫌だ。

 

だって怖いのだ。怖いものには近づかない。女性がゴキブリを簡単につぶせるのにも逃げ回るのと同じ理屈だろう。

いかに簡単に排除できるものでも、怖いものは怖いのだ。

 

それに、もう動き出してるし。

 

動き出した直後、今度は後ろから青白い閃光が襲いかかった。

 

「―――っ」

 

焦げ茶色のファフナーがこちらに接近していた。

 

 




感想、評価、意見、お待ちしています


来栖……こりゃトラウマだな、絶対。

今まで書いていそうで書いてなかったプッツンレイ君
あとちょこっと出てきた指揮官としてのレイ君



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蒼穹 ~そら~ Ⅱ

いやっふうう!
ここまで一気に筆が進んだのはいつ以来だろう!

完結に向けて、このまま突っ走るぜええええ!!

そして、今明かされるレイくんのちょっとした真実ぅううううう!



ではどうぞ


 

「っぐ……」

 

マークフィアーが、空中へ逃げるマークニヒトに組み付いたのを見届けて、僕は機体の状態をウィンドウに表示する。

全身に奔る激痛と目眩を耐え、機体の損傷具合をチェックする。ウィンドウに表示される機体状態を確認。

 

「損傷レベル44%……全身装甲軽度溶解、基礎ダメージ中、右メインブースタ使用不能……スタビライザー消失……」

 

次々と表示される損傷度合い、その中で最も酷いのが言うまでもなくこの機体の最大の特徴である右腕。そして―――

 

「右腕部クロー、全損……「シヴァ」使用不能、並びに……ははっ、コアブロック射出機構損傷、か……」

 

つまり、走行の防御力は大幅に減退、フレームもダメージが入ったために運動性は減退。ブースタも片方が使用できないため機動力大幅減。

スタビライザーが吹っ飛んだために重量バランスが均一ではなくなり、右腕が使用不可能。

 

極めつけはコアブロックの射出が不能になったから脱出もできない。

 

うわ、チェックメイトじゃん。

 

『レイ、無事か!?』

 

傍にカノンの赤い影が現れる。クロッシング特有の現象を確認下僕はカノンの方へ顔を向けた。

 

「大丈夫じゃないね。まともな戦闘はもう無理だ。君は?」

 

『大丈夫だ……と言いたいが、頭部がひしゃげてしまっているからな。うまく動けない』

 

やはり、ファフナーの欠点とも言えるだろうが、機体と一体化する仕様上、頭部を破損すれば戦闘はほぼ不可能になる。

こればっかりはどうしようもない。この仕様だけは、高性能を誇るノートゥングモデル以上の機体の欠点と言えるだろう。

 

「わかった。僕と一緒に一旦退避だ。マークフュンフ。僕ととマークドライツェンのカバーを頼む」

 

『りょ、了解です!』

 

息を切らしていた広登が体勢を立て直し、こちらに接近する。カノンのマークドライツェンに手を差し出した。

 

まさにその時、異変は起きた。

 

オーロラに包まれた曇天の空。その一角が輝きだしたのだ。

 

「あ、あれは!?」

 

マークフュンフがその方向を見上げて一歩後ずさる。するとまもなく、それは出現した。

 

 

それは、まるで結晶でできたボーリングマシン。先端が平たいドリルのような形状となってゆっくりと回転しながら、島の脇腹に向けて降りてくる。

その狙いは考えずとも分かるし、分からずとも危険だとうことは察せるだろう。

 

 

その柱は、無論こちらでも確認している。

 

「上空より、敵フィールド接近!!」

 

スタッフの報告を聞くやいなや、溝口は血相を変えて支持を飛ばした。

 

「島を喰う気だ!残存シールド開放!!」

 

島のヴェルシールドが解除され、今までにない速度で島が駆動する。

 

「島の航行速度最大!躱せえ!!」

 

だが、それでも間に合わないことは承知済みだ。だからこそ、最後は前線がモノを言う。

 

「レイ!」

 

「判っています!」

 

溝口からの通信にレイは応える。このための前線部隊だ。島が動き出したのを感じたレイは最適な人選を行い最速で支持を飛ばした。

 

「マークフュンフ!あの不細工な柱を止めろ!島の草木一本にも触れさせるなあ!!」

 

『はい!!』

 

ボーリングの到達地点近くに移動したマークフュンフ。いつでも受け止められるよう身構える。

 

一方で、島の最奥では悲劇が起きようとしていた。

キールブロックのさらに奥、ワルキューレの岩戸では、複数のスタッフが入り詰めているが、その中のリーダー。

遠見千鶴は今まさに起きようとしている現象を、見ていることしかできなかった。

 

「同化が、始まった……」

 

震える声とともに、その場に崩れ落ちる。彼女の前にはワルキューレの岩戸、島のコアの補助システムが稼働しているが、その代替として中にいるのは、立上芹。

彼女の身体から、金色の粒子が舞い始めていた。

 

その現象は、千鶴の言ったとおり「同化現象」。コアの負担を軽減できる数週間。その限界が目前に差し迫っている。

床に両手と膝をつき、打ちのめされた様な震える声で、彼女は自分の無力を呪う。

 

「なぜ私は……誰も救えないの……?」

 

そう一人つぶやいた声は誰にも聞こえることなく虚空に消えた。

 

――――

 

「―――ぅおおおおおおおおおおおおおおあああ!!!」

 

堂馬広登は声を張り上げ、重空より降るボーリングを受け止めにかかった。

 

受け止めた直後、その衝撃が周囲のものを吹き飛ばす。最大出力で展開されるイージスとボーリングの接触面から閃光が走り、眩いばかりの光が迸る。

だが、ファフナー1機で、どこまで持つか。既に片膝を地面に突き、イージスからは極度の負荷により機体から電流が奔る。本来受け止められるようなものではないため、

彼の気合が保っても、機体自体が不可に耐え切れず押しつぶされる可能性もある。

 

だが、彼は今にも崩れそうな機体と自らを気力で支え続けた。

 

決して臆することなく、正面から敵の驚異を止め続ける。その姿は嘗てその機体を駆り続けた少年と良く似ていた。

 

「俺が……俺が守るんだ……!!」

 

必死に柱を睨みつけ、機体を支える彼の言葉には、「仲間を守る」その機体にしか出来ない唯一無二の役割。

嘗ての搭乗者、小楯衛が繋ぎ、近藤剣司が託した役目。それを今果たす為。

 

堂馬広登は期待が粉微塵になってでも守ると、そうここに誓ったのだ。

 

――――

 

「っく……」

 

レイはマークドライツェンを支え、マークフュンフが敵を防ぐのを見守っていた。

その間にも自らができることを行いつつ、なにか打つ手はないかと探っている。

 

「CDCへ!敵フィールド周囲に飽和攻撃を要請!ポイントS-5-6地点周囲をデナイアルで爆撃してください!少しでもマークフュンフの負担を減らす―――っ!?」

 

それが言い終わるかどうかの瞬間、マークニヒトに取り付いていたマークフィアーが損傷を受けたという情報が映し出される。

腹部への甚大なダメージ。その数秒後、一気に全身が破損したという情報が映し出され、最終的に―――

 

 

「まさか!?」

 

―――マークフィアーの反応が消失した。そして、直後に来るのはクロッシングの異常。

島のファフナーは、部隊すべての機体を1つのクロッシングでまとめることで、強力な対心防壁を構築している。

 

それはいうなれば、逆に1機でも欠ければクロッシングが解除されるという欠点を抱えているということにほかならない。

つまり、クロッシングが切れれば防壁がなくなり、フェストゥムが搭乗者の心に侵入、同化して一気に部隊が壊滅する恐れが出てくるということだ。

 

だからこそ、レイの判断は早かった。

 

「っく!クロッシングリストからマークフィアーを除外!クロッシング再接続!!」

 

数秒でクロッシングを接続し直して防壁を維持する。これくらいのタイムロスならば、全員無事だろう。

ここで、彼はあることに気づいた。

 

「?……メッセージ?」

 

簡易メッセージがマークヌルに届いていた。基本クロッシングにより直接会話ができるため、付いているだけの機能であったが、そのメッセージが

使用されているのは珍しい。その差出人は―――

 

「春日井、甲洋から……」

 

メッセージを開き、ウィンドウに表示する。そこに記されたメッセージは、

 

「『一騎を頼む』……これは」

 

瞬間、視界の隅で何かが動くのを確認しそちらを向くと、紫色の機体が飛んでいくのが見えた。その先にいるのは、マークニヒト。

マークニヒトを拡大すると、胸部から緑色の結晶が生えていた。

 

「―――」

 

何が起きているかは理解しがたいが、おそらくあの結晶が一騎とマークザインにとって重要なものであることは間違いなだろう。

なにせ、マークジーベンが血相を変えて突っ込んでいるのだ。ならばやるべきことは一つ。

 

「マークジーベン!援護する、そのまま突っ込め。あの頓珍漢にきつい一発をなあ!!」

 

言うやいなや、左腕の部品がスライド、ノートゥングモデル標準装備の拳銃「デュランダル」を手にし

マークニヒトへ発砲。命中はしたもののマークニヒトには大してダメージはない、が、一瞬ぎょっとしたようにマークニヒトはこちらを見て硬直した。

マークジーベンにはその一瞬があれば十分だろう。

 

あっという間にマークに人に組み付き、デュランダルの射程圏外へ行ってしまった。限界まで拡大すると、思いっきりマインブレードをニヒトの胸部に突き刺している。

だが、マークニヒトも必死に抗い、右手に持っていたルガーランスでマークジーベンを両断してしまった。

 

「っ!マークジーベン、ペインブロック作動!左半身接続強制解除!!」

 

すぐさまペインブロックを作動させ、搭乗者を保護する。すると、マークドライツェンがブースタを起動しマークジーベンが墜落した山中へ疾走した。

マークジーベンにルガーランスを向けるマークニヒトに対し、舌打ちをしてデュランダルを発砲する。

 

既に射程から離れているため、届くかギリギリだったが、それでもこちらに気づき慌てた様子でこちらにルガーランスを向ける。

だが、発射の直前でマークニヒトが―――いや、マークニヒトから生えた結晶から光が溢れるように輝きだした。

 

輝きはどんどん強くなり、ついにマークニヒトから、遠目で見てもわかる大きさの結晶が出現した。

 

――――

 

遊撃部隊、ボレアリオスドーム内部を攻撃していた剣司はメドゥーサを掃射させ、眼前の物体を一掃したところで攻撃の手を止めた。

もはや内部は見る影もなく破壊し尽くされ、無傷なのは中央上部に存在するミール結晶のみだ。ミールの力が弱まった証拠か、ミールの決勝から地面へ向けて伸びていた光の

柱が消滅する。途中何度かエウロス型が入ってきてその度に倒してきていたため、流石に息が切れている剣司。

 

だが、足元を通り過ぎる影は流石に見逃さなかった。

 

後ろを振り向くと、そこには白衣の女性が宙を無音で進んでいる。剣司はその姿に見覚えがあった。

 

「一騎の、かあちゃん……?」

 

何度か一騎の家の玄関先にある写真や、2年前の折に見た人物。自分にとってある種恩人でもある女性を忘れすはずがなかった。

だが、そうつぶやいてすぐ、剣司が一騎の母と呼んだ存在はマークアハトに目を向けることなく、彼の目の前から消えた。

 

「―――っ……」

 

その行き先になんとなく察しがついた剣司。そして内部に入ってきた真紅のフェストゥムを確認し、両手に構えるライフルを握り直した。

 

――――

 

 

「―――っ!?」

 

レイは、目の前に現れた存在に対して息を飲んだ。かすかに震える声で、存在の名を口にする。

 

「……ニョル、ニア……」

 

「久しぶりだな。レイ」

 

言葉に詰まる彼とは対照的に、ニョルニアと呼ばれた存在は淀むことなく言葉を発する。

 

「なぜ、ここに?」

 

「この島のミールの命を維持する為に」

 

レイは彼女をよく知っていた。限りなくフェストゥムを敵視する彼にとって、彼女だけがその例外と言えたのだから。

日野洋治の下でメカニックとして動いていた時期、そしてファフナーのパイロットになってからも、彼女は彼にとってはどうしても敵とは見れなかった。

たとえ、彼女がフェストゥムだと知っていても、だった。

 

「なら、なぜ……」

 

「コアのもとへではなくここに来たか、だろう?」

 

「!」

 

まるで心が読まれているかのように言葉を制されて、さらにレイは驚きの表情を見せる。だが、それは彼女にとって当然の帰結と言えた。

 

「お前の考えていることは心を読まずともわかる。何年洋治を介して共にいたとおもっているのだ」

 

「……はは……そうですね」

 

そう言われてしまっては返す言葉がない。何せ7年前に道生さんに拾われてから2年前までの5年間、そうだったのだから。

 

「ここに来たのは、最後にお前に伝えたいことがあったからだ。真壁紅音としてと、私としての、な」

 

その言葉と表情は一切変わらず平坦だが、同時に懸命に言葉を選び、伝えようとしているようにも見えた。

だから、レイは何も言わずに、彼女の言葉の続きを待っていた。彼女の言葉を心に焼き付けるために。

 

「日野洋治はお前を息子といった。そして―――」

 

その言葉は、彼にとって一つの福音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私にとっても、それは同じ。レイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

初めて、ニョルニアの表情が変わった。そのへんかに、真実、例は言葉を失った。

微笑み、息子の成長を嬉しく思う。と、母としての表情を、初めてレイは見たのだから―――

 

「……はい……はいっ……」

 

レイは、目からこぼれる涙を止めることなく、咽びながら言葉を返した。2年前、モルドヴァの基地から逃げる時に、基地に残った洋治から受け取った言葉。

あの日と同じ、自らをかけがえのない存在と教えてくれた言葉。あの時は理解できずに呆然としたが、今は素直に言葉を受け止められる。それは文字通り、レイ・ベルリオーズを救う福音なのだ。

 

その言葉に今までの自分の葛藤も、罪も、すべてが洗い流されていくようで―――

 

溢れる涙が止まらないのは、これこそが僕があの時から人として成長した証だと信じたいから。

 

「求めなさい。自分が信じた道を。その先にこそ、貴方が求めたものがあると信じて」

 

その言葉を聞いて、僕を真実理解してくれているとわかったから―――

 

「はい……ありがとう、ございます。紅音さん……」

 

―――7年前、彼女に出会ってから初めて、そして最期に彼女の名前を口にした。限りない感謝を込めて。

 

「―――」

 

そんな僕の言葉に彼女は面食らったような表情を見せた。それも僕は初めて見る表情だった。それが少し嬉しかった。

 

「―――ありがとう」

 

そう僕に告げて、彼女は消えた。行ったのだろう。島のコアが眠る場所へ。

 

それが、彼女が自らの最後の仕事だと信じたのなら。

 

「―――っ」

 

気持ちを切り替え、顔を上げる。涙は吹かない。まだ戦いは終わっていないのだから。

だから、泣くのはやめる。涙も、拭うのも、戦いが終わったあとで、改めてすればいい。

 

「今は、やるべきことだ。全てはそのあと」

 

それが、僕が信じる道だから。

 

気が付けば、如何なる奇跡かマークザインが復活している。それにあの忌々しいボーリングも消えているではないか。

マークザインの傍にマークフュンフがいるからマークザインのどうか能力でイージスを強化したのかもしれない。

 

『大丈夫か、レイ』

 

クロッシングを通して隣に一騎の赤い影が現出する。それを見て僕は微かに笑った。

だって、もはや事の趨勢が決したのだから。

 

マークザインがいれば、もはやあの醜い紫色の怪物も敵ではない。マークニヒトさえどうにかできれば、もはや残りの敵など散乱した数だ。

 

「戦闘は厳しいけど、指揮を執る程度なら余裕だ。そっちこそ、あの下品な人形を沈める覚悟は出来たのかい?」

 

『手厳しいな。まあ頑張ってみるよ』

 

相変わらず過激だな、と一騎の軽口に当然、と返す。変性意識の影響で、「戦闘に最も最適な状態」がこれなのだ。普段と比較しても結構なyがっぷだと自分でも思う。

 

そんなかやりとりの後、マークザインはまもなく飛翔しマークニヒトへと突っ込んでいく。

 

それを見送りディスプレイを見る。敵の数もだいぶ減っているようで、これならマークフュンフ1機と島の防衛機構だけでなんとかなりそうだ。

 

「マークフュンフ、現状動けるのは君だけだ。予測戦闘時間も残りわずか。その間、取り敢えず気を張れ」

 

『オッス!!』

 

広登の声にいい返事だ、と返してCDCに通信を繋げる。どうやら本当になんとか持たせてくれたようで、溝口さんには頭が下がる。

 

「CDC、残存する防衛機構は?」

 

『デナイアルがあと1セット、機関砲が南沿岸部に7割ちょい、自走砲があと3割、固定レーザーが残り5割強てとこだな』

 

溝口さんの軽快な返信によし、と笑みを浮かべる。それだけあれば、残存フェストゥムを殲滅するくらい訳はない。

現在戦闘時間は48分。僕の活動限界まで残り僅かだが、それまでにカタをつけてやる

 

「それじゃ、一気に行きますよ。デナイアルを全てポイントD-3-1からD-5-6まで制射、その後自走砲を沿岸部まで集めてください。残存勢力を殲滅します」

 

『あいよ。なんとかなったなぁ。流石隊長』

 

「伊達に剣司に指揮を教えてませんよ」

 

軽口を交える余裕も生まれてきた。あと少しで、この忌々しい曇天ともようやくおさらばにできる。

 

そう確信めいたものを持ちながら、僕はディスプレイを睨み指示を飛ばしていく。

 

決着は、静かに訪れようとしていた。




感想、意見、評価、お待ちしています



え、レイ君の立ち位置がよくわからない?
ま、まあそれは後々説明致します。質問があったらなるべく答えます。

ほか、わからないことなどありましたら気軽に感想欄にどぞ。
変身できるかはわかりませんが、何とかします。返信ができなかったら次話のこの後書き欄に掲載させていただきますので、よろしくお願いします。


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蒼穹 ~そら~ Ⅲ

ようやく、完結にこぎつけた。
今回は結構長めに書いてみました。

では、どぞ。


 

「―――あ」

 

「え―――」

 

「これは―――」

 

「―――まさかっ」

 

防衛部隊の全員が、同時にその変化に気づいた。

 

曇天の空。暗雲の天蓋が竜宮島を中心に穴を開け、湖面に小石を投げた時に生じる波紋のように急速に広がりだしたのだ。

 

同時に差し込むのは太陽の光。

 

雲が広がったところから天陽の恵みがこれでもかという程に海に、島に降り注がれる。それはこの1ヶ月の月日の中で勝ち取るため、取り戻すためにと必死の思いであがき戦い求め続けたもの。敵のフェストゥムによって陽の光は閉ざされて久しい日差しを浴びた島はもはや見る影もないほどに疲弊し、果ててしまっていたが、陽光はその傷を癒すかのように優しく島を照らす。

 

その光景を前に、島の沿岸部に集結していたフェストゥム達も動きを止めた。

今までの戦闘が嘘だったかのように、総てのフェストゥム達が晴れていく空を見上げている。

 

ファフナーのパイロット達も随分浴びてこなかったその光を見て、思わず顔がほころぶのだった。

 

「やったんだ……真壁のおじさん達」

 

真矢は半壊したマークジーベンからその景色を見ていた。するとカノンの赤い影がとなりに現れる。となりを見やると彼女の表情も心なしか嬉しそうに口元を歪めていた。

 

『無事か、真矢』

 

「うん」

 

『手を貸す。動けるか?』

 

左半身が損失したマークジーベンの右から肩を貸すマークドライツェン。なんとか原形を保っている両足と貸して貰った肩で立ち上がる。

痛みは既にないが、同時に左半身の感覚も薄い。ペインブロックの影響で体の左半身だけが、ファフナーとは切り離されている影響だろう。

 

「ありがとう、カノン」

 

『礼はいい。とりあえず、このまま海岸まで行こう』

 

ゆっくりと2機は動き出す。その二人のもとへ、2人の影が表出した。沿岸部へ行っていたレイと広登である。

 

『大丈夫スか?先輩達』

 

『海岸まで行ったらコックピットブロックを強制排出します。それまでは動きづらいですが耐えてください』

 

心配そうにこちらを見やる広登に対し、あくまでまだ任務中だと周囲を見ながら目線だけこちらへ向けて言うレイ。

 

その対象的な2人を見て、真矢とカノンはクスリと笑った。

 

『ああ』

 

「うん」

 

広登とレイの影が消え、少ししたところでマークフュンフが海岸部へ向けて移動しているのが遠目に見えた。

 

移動しながらこちらと会話していたのだろうが、こちらより少し速い。

 

「こっちより速いね」

 

『大方日差しを1番乗りで浴びたいんだろ』

 

投げかけた言葉にカノンがやや失笑しながら答えた。

 

「残ってるフェストゥムは?」

 

『全て停止している。動向観察のためにレイはまだここに残っているつもりだろうが……』

 

カノンは1度言葉を切り、マークヌルが居るはずの沿岸部を見てからこちらへ振り返る。そして口を開く。

 

『もう敵にも攻撃の意思はないようだがな』

 

その言葉通り、沿岸部ではレイのマークヌルが無防備に立っているのにも関わらず、赤いフェストゥムの群れは完全にそれを無視してただ日差しに向いて、空を見上げているだけだった。

 

――――

 

海面に浮上したRボートと遊撃部隊も、その変化に気がついていた。

1番最初に気がついたのはボレアリオス甲板で半壊したゼロファフナーに乗っていた西尾姉弟。そして、Rボートの甲板に立っていた真壁史彦と日野母娘である。

 

1条の光が海面に差し込む。その光を皮切りに次々と光が差し込み始め、周囲は先程までの暗さが嘘のように明るくなりだす。

 

「空が―――」

 

真壁史彦は空の変化を見ていた。

光が差し込んだ瞬間から、雲が流れるように動き出し、次々と曇天の空模様に穴を穿ち出す。空いた穴からは太陽の日差しが差し込まれ、流れていく雲の量に比例するように光が差し込み、またそれに合わせて空から流れるように雲が消えていくのだった。

 

「やった……の?」

 

「やったんだ……きっと」

 

空の変化に誰知らず問を投げた西尾里奈。それに答えるのは同乗していた西尾暉。

 

「ふぅ――――」

 

ドームから重音を響かせて歩き出てきたマークアハト。彼も突然出口が明るくなったために攻撃を中止、戦闘が終わったことを感じ取り外に出てきたのである。

 

そして、久しぶりに見た陽の光に眩しくてカメラを手で覆う。

 

「やったな」

 

『ホント、お疲れさんね。剣司』

 

「咲良。大丈夫か?」

 

『なんとかね。ただ、歩けそうにないから、手貸してくれる?』

 

「おう。ちょっと待ってろ」

 

剣司は機体のハードポイントに装備されている大型武装『メドゥーサ』の片側をパージする。片側を残すことで、不測の事態に対応できるようにしている。

剣司はマークドライの居場所をウィンドウに表示させると、その場所へ向かった。

 

剣司のマークアハトに搭載されているジークフリートシステムも、レイのマークヌルと同じ機能を持つようにアップデートされている。

剣司もファフナーの仲間を率いるための訓練を積み、部隊の司令塔として機能している。本来部隊の指揮を執るのは剣司なのだ。今は遊撃部隊として出撃していたが、その際にも部隊の指揮は彼が執っていた。そのため、他のファフナーよりも多くの機能が存在し、扱うことが出来るのだ。

 

マークドライの現在位置は白いドームの端。ちょうど海に落ちるか落ないかの結構ギリギリの位置にいた。

 

「―――よっと」

 

ドームから甲板に飛び乗り、マークドライのもとへ向かう。マークドライはリンドヴルムから切り離され、ドームにもたれかかるようにしていた。

肝心のリンドヴルムは、マークドライよりも奥に大破炎上していた。

 

マークドライが墜落のシグナルを発信してからそれなりに時間が経過しているが、未だに燃えている。

幸運にもミサイル類には誘爆していないようだった。いや、打ち切ったあとに撃墜されたのかもしれないが。

 

「ほら、咲良」

 

『ありがとう、剣司』

 

手を差し出すマークアハトに助けられ、マークドライもなんとか起き上がる。剣司は1度ゼロファフナー、エーギルモデルに目をやった。

ドーム頂上から出現した敵性フィールドを破壊してくれたが、その余波で機体が半壊状態になり、膝をついて沈黙していた。

クロッシングが途切れていないので生きているだろうが、彼らも心配である。

 

『エーギルモデル。動けるか?』

 

空を眺めていた西尾姉弟の傍に剣司の赤い影が現れる。それではっと、我に帰った暉と里奈は剣司の方へと向き直った。

 

「は、はい!」

 

「なんとか、動くことくらいは」

 

返事を聞いた剣司は頷いた。

 

『少し辛いだろうが、なんとか自力でRボートまで帰還してくれ。こっちは1人担いでるからな』

 

『そういうわけだから、最後に根性見せな』

 

剣司の言葉の後、剣司の隣に咲良の影が現れる。小首をかしげ、威勢の良い姉御肌という雰囲気を出している彼女の言葉を聞いた2人は頷いた。

 

「はい」

 

「なんとか、頑張ってみます」

 

『おう』

 

剣司は一度繋がりを切り、周りを見渡す。あたりはすっかり明るくなっており、太陽もほぼ真上に来ていた。時間的には昼過ぎだろうか、今まで太陽のない曇天の下にいたためか、時間間隔が乏しくなっている。

 

『あ―――剣司、あれ』

 

「ん?―――てありゃあ、島か?」

 

赤い影となって剣司の隣にいた咲良が機体の指で指した方向を見ると、いつの間にか竜宮島が意外に近距離にいることがわかった。

いつの間にか、このボレアリオスが島へ向けて移動していたのだろう。Rボートも美羽による敵との対話のために一定の距離を保ち続けていたため、気がつかなかっが、島も移動していた音もあってか結構距離が縮まっていたようだ。

 

「―――ん?」

 

―――空耳、だろうか。剣司は島よりもさらに奥の方を見上げた。微かに飛行機がの音が聞こえたのだ。

 

―――

 

「あれは―――」

 

それにまっさきに気がついたのは、レイだった。

彼は今まで警戒をとかずに、あたりを注意深く見渡していた。だからこそ気が付けたのだろう。

 

いつの間にか接近していたボレアリオス級空母、それが見える方向の上空―――

 

雲の切れ間から現れる影が、こちらへ向かって接近していた。

 

――――

 

それは島のCDCでも既に捉えている。一瞬前までは、突如晴れた空と収束していく戦況に、つかの間の喜びを分かち合っていたが、今は慌ただしく現れた影の対応をしていた。

 

「人類軍爆撃機、エノラ512、進路維持!」

 

レーダーを捉えている要澄美は口早に状況を報告する。

そして、報告しながらも新たな対応を続けているが―――

 

「全チャンネル拒絶―――応じません!!」

 

溝口の方へ振り返り、絶望的な現実を伝えた。

 

溝口は、正面に映し出されているモニターを睨みつけていた。

モニターには現在の竜宮島の状況が映し出されているが、島の周囲とモニターの隅の方にいるRボートとボレアリオスの周囲にいるフェストゥムの反応の他に、ボレアリオスとは逆の左下の方より、多数の航空機が島の防衛圏に接近しているのが確認できる。

 

溝口の拳は限りないほどに強く握られ、かすかに震えている。その目は強い赫怒の色がにじみでていた。

 

「俺たちごと消す気か…………バカ野郎……」

 

やっと絞り出された声は静かで、でも今にも噴火せんと煮えたぎる火山のような熱量を持っていた。

 

「同じ……人間が―――」

 

まるで沸騰する溶鉱炉、灼熱の怒りが全身から放出されるかのような、それほどの怒りが溝口を支配する。

 

拳の震えが腕へ、肩へと伝わり全身に伝播する。

 

「―――此処にいるんだぞ!!!!」

 

その咆哮は正しく火山の噴火とも言うべきだろう。鋼鉄をも沸騰するかのような

熱を帯びて周りに反響する、だが、いかに膨大な熱量でも、その声は敵に届くことなく、CDCに虚しく響くのみであった―――

 

 

――――

 

 

「―――エノラ512爆撃機!?核攻撃部隊!!」

 

レイは限界まで視界を拡大、航空機を視認。マークヌルとの戦闘の影響か視界がややブレているが間違いない。

大型爆撃機のエノラに複数の小型戦闘機による護衛によって編成されている空爆部隊の存在は彼も知っている。ファフナー部隊は存在していないのが特徴で味方もろとも核攻撃で吹き飛ばす、要は粛清部隊と言ってもいい。

 

ある命令(・・・・)によって動くことが多いが、今回は特例だろうと推測される。

 

彼らにとって幾分都合の悪いこの竜宮島と敵であるフェストゥム、その両方を抹殺できるまたとない機会だということだ。僕が人類軍でも、この状況でならこの手を用いるだろう。

 

だが、不可解なところが幾つも見受けられる。

 

―――何故、僕たちがフェストゥムと戦っていることを人類軍が把握しているんだ?

監視?ありえない。僕らがどこにいるかすら把握するのは不可能に近いはず―――

 

さらに、連中の基地からここまでの距離を考えても、足の遅い部隊をここまで持ってくるというのは半ば賭けに近い。

今、竜宮島は赤道付近、南緯15°西経120°辺りを移動中の筈なのに、赤道付近の基地は基本常駐部隊程度で粛清部隊を配備するような基地は存在しないはず。

 

つまり本部の息の掛かった、ユーラシア大陸内にある基地からしか発進できない。一番近い基地からも、ここまで来るのに何千kmあると思っている。にも関わらず、見たところほぼダメージ無しの完全部隊。補給基地が点在しているとは言えど、無傷でここまで来るというのは、まずありえない。

 

だが、ここに人類軍部隊は存在している。どういうわけかこちらの状況を把握し

竜宮島とフェストゥム、この両方を潰す絶好の機会に、さらに長距離を移動しながらも無傷の状態で。

 

 

―――タイミング、島の位置、部隊の数、こうなることが最初から判っていたかのような、何故―――

 

 

「―――って分析している暇はない!」

 

 

右腕を部隊へ向ける。

機体状態をチェックし、ウィンドウを開く。そして、早口気味に機体の調整の支持を飛ばしていく。

 

右腕部、ジェネレーターオーバーロード。セーフティ、強制ダウン。

出力40%に固定、収束率を60%増加、エネルギーライン損傷部分カット(切断)。システム障害、全件無視(オールスキップ)チャンバー内部、加圧開始……」

 

機体が表示されているウインドウから、煩いアラートを聞きながら、無理やり右腕を使用する。

 

損傷が激しく、普通は撃てない状態だが、右腕の機関を無理やり暴走させ、出力が大幅に減少した1発を辛うじて撃てる状態に持っていく。

 

1発撃てば右腕は完全に吹き飛び、下手をすると機体がバラバラにバラバラになる。

 

が、そんなことは瑣末なこと。それで島を守れるんなら、こんな機体くれてやる。

出力は落ちたが、収束率は上げている。これにより強引に射程と貫通力を上げて、一発限りの狙撃といいこうじゃないか。真矢さんほどではないが、元軍人として、狙撃の心得は多少ある。

 

が、いかに射程を伸ばしても距離がありすぎる。収束率を高めても、ギリギリ届くかどうか、届いたとしても爆撃機を破壊できるかはわからない。

 

余りにも部の悪い賭けだが、やるしかない。

 

ターゲットインジゲーター起動。射線予測、計算開始。

 

「視界拡大、最大値。ターゲット、エノラ512。ターゲット(捕捉)インゲージ(交戦)!」

 

計算完了、誤差修正―――マイナス0.6

 

狙うは爆撃機本体。発射される前に破壊してしまえば、あとは小型戦闘機のみ。フェストゥムに対抗する手段を持たない案山子に成り下がる。直ぐに撤退するだろう。

 

さあ、あとは疾く落ちるがいい!

 

 

 

「……セプター(迎撃)()―――ッッ!!?」

 

 

 

 

―――ドクン、と一際大きな鼓動が身体を貫いた。

 

 

 

「っはあ!グ、ぅううううあアアァ!!」

 

 

 

呼吸をするたびに胸に激痛が走り、体温が一気に上がる。まるで全身の血液が沸騰したような感覚に陥り、汗が止まらない。全身から力が抜けかけ、同時に痛みが襲いかかる。この症状は、以前にも味わったことがある。

というより、戦闘が始まる前、この痛みと戦っていたのだから。

 

これは紛れもなく、フェストゥムの毒素による症状であった。

すぐに、レイはその意味と可能性に思いつき、確信した。

 

―――まさか、こんなところで―――

 

時間切れ。視界の隅の時計に目をやれば、戦闘開始から既に75分が経過していた。

彼が予想していた自身の先頭可能時間は55分。その予測を上回りこの瞬間までなんとか持っていたアクティビオンの効力が、ついに切れたのだ。

 

 

「ああっ、ッグ―――っ、しまった!?」

 

 

そして、無情にも核弾頭は、発射された。

 

島とミール、その両方を滅ぼすために。

 

 

「さ、せる、かあっ!」

 

重い右腕を、なんとか持ち上げる。震える自身の右腕とは違い、ファフナーの腕は震えないのが救いか。

 

なんとかもう一度ターゲットを補足し直せば、まだ―――

 

「ターゲット……っっぅう……インゲージ……っ!」

 

ターゲットマーカーが再表示され、その標的は核ミサイル。爆発前に破壊すれば、核攻撃は防げる。

だが、視界が霞み始めている。ターゲットマーカーを合わせらない。

 

しかも、爆発までの時間もない。射線予測と修正無しでの狙撃は専門職と専用装備がなければ難易度は跳ね上がる。

こんな身体状態で、この狙撃は不可能に近いレベルといえるだろう。

 

「でも……」

 

―――やるしかない。

 

全身を巡る激痛を振り払い、霞む視界に喝を入れ、右腕に神経を集中させる。

右腕さえ動かせば「シヴァ」を発射できる。ミサイルさえ、破壊できれば―――

 

 

「―――そんな、馬鹿な……」

 

 

突如、機体の状態を示す表示が展開される。そこに表示されたエラーは、彼を絶望に叩き込んだ。

 

 

 

 

 

          『RIGHT ARM-SYSTEM ALL DOWN』

 

 

 

 

 

暴走させたジェネレーターが上昇し続ける熱量に耐え切れず自らを溶解し、機能を停止させた。1発限りの最終手段は、一度も行使されることなく、その役目を終えたのだ。

 

「くそったれが……これが、こんなものが……」

 

もはや吼える気力もない。走る激痛すらも脳が認識することを放棄した。

握り締める左手が、デュランダルを握りつぶしたことも、周りのエウロス型のフェストゥム達が、一斉に核ミサイルへ向けて飛翔していくことも

もはやどうでもいい。

 

The End チェックメイトだ。

 

呆然と迫るミサイルを、最早見送ることしかできず、思考が完全に停止してしまった。

 

―――おわった―――

 

 

迫り来るミサイル。もはや迎撃は不可能。

 

 

 

ミサイルへ向けて飛んでいくフェストゥム。どうでもいい。

 

 

予想される島の被害。どうでもいい。

 

 

他のファフナーパイロット達。どうでもいい。

 

 

カノンの安否。―――だめだ、もう間に合わない。ごめん、カノン。

 

 

視界の隅から、核ミサイルへ向けて飛んでいく白銀と紫暗の影。もう、どうでもいい。どうで、も……。

 

 

「……マークザイン、マーク、ニヒト―――」

 

フェストゥム達を抜き去り、置き去りにして核ミサイルに突っ込んでいく。マークニヒトに損傷は見受けられないが、マークザインは両手が破損、消失している。

殴り合いでもしたのだろうか―――。

 

でも、いくらあの2機でももはやミサイルは臨界点だ。近接信管で勝手に爆発する。

ミサイルの大きさからして4ktクラスは降らないだろう。

 

それは100年近く前に、今は亡き日本国へ落とされた原爆に匹敵する破壊力の弾頭だ。あの2機が無事でもこの島は確実に死滅する。

 

僅かに復活した思考力で分析する。だが、同計算しようとも、島が助かる確率はない。

 

ファフナーの接近に対しミサイルの近接信管が起動、ミサイルの隙間から死の閃光が漏れ出す。それでも、あの2機は速度を落とすことなく接近していく。

そして、今まさに核ミサイルと2機のファフナーが接触し―――

 

「―――っ!!」

 

―――爆発。したかに思えた。

 

「―――っうあああああ!!」

 

衝撃で、もはやボロボロだった機体が沿岸から転げ落ちる。その下は、海岸付近の浅瀬だ。

 

ミサイルとマークニヒトが接触する瞬間、マークニヒトから何かが飛び出したようにも見えたが、爆心であるあの場所は眩いばかりの閃光に覆われ詳細を見ることはできない。

 

どうやら、ヴェルシールドが展開されたようで、光芒と共に激しく景色が波打っている。

が、そもそも沿岸から浅瀬に叩き落とされ、機体がバラバラになりそんなことを分析しいるところではない。

 

「ぐあああああ!!」

 

叩きつけられた衝撃は思いのほか強く、一瞬で意識を奪い去られる。その瞬間―――

 

「―――ぁ」

 

ただ、視界が真紅の光芒に包まれているのだけははっきりとしていた。

 

 

 

――――

 

 

 

「―――っくぅ……があっ」

 

閉じた瞼から強い光が感じられ、目を開いたら鋼鉄が広がっていた。マークヌルが完全に沈黙したため、機体の接続が解除されていたのだ。

 

ニーベルングシステムから両手を引き抜き、完全に機体とのつながりを断つ。

天地が反転していないところを見ると、どうやら機体の方が逆さまになっているらしい。ノートゥングモデルは、コックピットブロックが人体で言う子宮に相当する部分に存在し、更に子宮内の胎児のようにファフナーから見て上下前後が逆さまになっている。その状態でこうして天地が逆になっていないということは、自然と機体が逆さまになっているであろうことが推測できるわけだ。

 

嫌に明るいコックピットブロックからは、光が差し込んでいた。気を失ってからさほど時間は立っていないはず。差し込む光はコックピットブロックの開閉装置がひしゃげ、

歪んだ隙間から差し込んでいる。この様子ではマークヌルも原型をとどめているか不安になってきた。

 

「―――っ」

 

不意に、頭に痛みが走る。右手を頭に当てると、ねちゃっ、と言う気味の悪い感触がした。手を離してみると右手の半分ほどが血で覆われていた。

落下の際にぶるけたのかもしれない。足元を見渡すと、ファフナーの部品が散乱していた。

 

そして、あることに気づく。

 

「痛みが―――無い」

 

そう、先程まで全身を襲っていたフェストゥムの放った毒素による症状が引いている。

強いて言えばぶつけたであろう頭が痛むがそれ以外は全く通常時と同じであった。

 

「まさか―――」

 

ひしゃげたコックピットブロックの隙間からなんとか這い出る。隙間は少しきつかったが、無理やりこじ開けて、隙間を少しだけ広げればギリギリ通ることができた。

ブロックの上に立つと、目の前にはまさに壮観とも言うべき景色が広がっていた。

 

 

「―――綺麗な、蒼穹だ……」

 

戦闘時は気にしている余裕はなかったが、久しく見ていなかった青天の空。戦闘が終わった今ならばこうして落ち着いて空を見上げることができた。

ファフナー越しでなく、自らの肉眼で、こうして改めて見ると思うことがある。

 

 

蒼穹って、こんなにも綺麗なものだったのか、と―――

 

 

「痛みが消えた。ミールが、大気になったのか」

 

成長期だった島のコア。コアが自らの成長に力を注ぐために島の各種機能が低下していたが、どうやら成長期を乗り越え、島の機能が復活したようだ。

 

見たところ、放射能汚染も無いと言える。特有の死の灰(デス・フォール)が見受けられないということは、如何なる奇跡か核爆発は阻止されたということだろう。

 

そして、何よりも―――

 

「最後の最後に、島がボクらを守ってくれった―――」

 

 

その事実に、感謝するほかはない。

 

 

 

「―――っ!?」

 

 

突如、目の前の海面が水しぶきを上げた。綺麗な空を見ていて気がつかなかったのだろか、何かが墜落してきたのだ。

降りかかる飛沫を、顔に来るものを右腕で防御しつつ、コアブロックから降りる。マークヌルは、胴体部分の半分が折れ曲がり、何とも言えないけ態勢を取っていた。

 

「ありがとう」

 

今まで戦いを支え続けてきた僕の剣に感謝して、浅瀬に降りる。

 

浅瀬に降り立つとくるぶしまでが海水に浸かるほどの深さまで進む。墜落してきたのは、今立っている場所より奥にいる赤いフェストゥムだった。

四肢が消失し、横たわるフェストゥムはあろう事かこちらを向いていたが、もはや朽ち果てる寸前の有様だ。

 

何ができるわけではない、が―――

 

『―――、――――』

 

人間でいう顔に相当する部分に、子供のような顔が表出し、今にも泣き出しそうな顔をして何かを訴えているようにも見えた。

その口の動きをよく観察すると、ナニを言おうとしているのか、なんとなく察しがついた。

 

「『いたい、たすけて―――』」

 

それを、言い終えると、フェストゥムは紅から黒に変色し、正真正銘のケイ素体となって、崩壊、崩れ落ちる。

海水に沈んだフェストゥムだった「モノ」は、海に混ざり、波にさらわれていってしまった。たしか、このフェストゥムの変化に真っ先に気がついたのは、立上芹さん、でしたっけ―――

 

「さようなら」

 

そう一言だけ呟くと、振り返り海岸へ向けて歩き出す。おそらく、ファフナーパイロット達は既に集結しているだろうから。

運良く海岸に近い場所まで落下したようで、もう砂浜は目と鼻の先にあった。

 

「レーイ!!」

 

「レイセンパーイ!!」

 

「レイ君!!」

 

砂浜には、3騎のファフナーが待機していた。直立するマークフュンフに、片膝をつくマークドライツェンとそれに肩を借りる形のマークジーベン。

最早見る影もないほどにボロボロだが、何とも言えない体勢になっていたマークヌルよりはだいぶましだろう。

そして、そのファフナーから3人の人影が走ってくる。

 

先頭にいるのは、見間違えることはない、彼女だった。

 

「レイ!」

 

「あっと―――」

 

勢いそのままにカノンは僕の胸に飛び込んできた。後ろに倒れそうになる姿勢をなんとか支え、彼女の頭を撫でる。

 

「良かった……良かった……!」

 

涙ぐんだ声で何度もいうカノン。レイはそんな彼女の頭を優しく撫でながら、口を開いた。

 

「カノンこそ、無事で良かった……」

 

「ああ……」

 

カノンはそう言うと、僕を突き放すように一歩距離を置く。

 

「機体のクロッシングが消えたとき、どうなるかと思ったが……本当に、無事で良かった」

 

「……ああ、そういえば機体のコックピットブロックの排出をやっていませんでしたね」

 

言われて思い出す。ということは彼女たちは自分たちでブロックの排出をしたのだろう。

 

「皆さんも無事で何よりです」

 

カノンの後ろに居た2人にも声をかける。2人は僕の声にそれぞれ「うん」「もちろんっす!」と応じてくれた。

 

「では行きましょう、あの奥に今日のメインが揃っているようですし」

 

僕は砂浜の奥に存在する2機のファフナーを見て言った。視線の先にあるのは、ザルヴァートルモデル―――マークザインとマークニヒト。

 

「ああ」

 

「うん」

 

「了解っす!」

 

4人で、やや駆け足で現場へ向かう。距離はそう遠くない。十数秒もすればその場所に到着した。波が押し引きする砂浜には2基のコックピットブロックがあり、その一つに2人の人影が。

 

一人は真壁一騎、そしてもう一人は―――

 

「ああ―――」

 

「あれは―――」

 

「帰ってきたんだ―――」

 

「そのようですね―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

                「お帰り―――総士!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――世界に満ちる果てしない痛み。

そのすべてに、帰る場所があるのだろうか。

今は信じたい。

 

帰り着く場所にある、最善の安らぎを。

そのために、僕らはここにいるのだと―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、そのために僕は戦い続ける。

ここにいたいから、ここに居るための戦いを。

戦わずして、勝ち取らずして、何も手にすることはできないと知っているから。

それが、僕が信じ求める道。

 

 

 

 

 

 

アルヴィス内部。

レイ・ベルリオーズに宛てがわれた部屋。その中で、僕はコンソールを打っていた。

 

「これから先、人類軍との戦闘も視野に入れなくてはならない。ノートゥングモデルではこれからの戦いについてこれるかは不明だ」

 

これから先において、同じ人類との戦いは必ず起こる。現に人類軍がこちらに攻撃を加えたのはこれが2度目、1度目に参加した身としてはやはりこの可能性を捨てることはできない。

 

さらに、敵は進化し続けている。こちらも機体を改良し続けていはいるが、いずれ近いうちに限界は来る。ノートゥングモデルは素晴らしい機体だ。それは確信を持ってそう言える。でも、これからの戦いで、ノートゥングモデルでは太刀打ちできない場面も必ずある。

 

人類軍も、この機体に匹敵するものを建造していてもおかしくはない。もともと人類軍の機体の性能が低めなのはフェストゥムをいたずらに強化させないためだった。

 

だが、もはや現状は変わっている。

 

人類軍も、強力な機体を建造しなければ、確実にフェストゥムに後れを取っている。

今回のことで、浮き彫りにされた人類軍の脅威。いずれ、戦う時が来る。

 

「やはり、これを完成させなくては―――」

 

映し出されるディスプレイは、ファフナーの設計図。

そして、その機体コードは―――

 

 

 

 

 

           『EINHERJAR MODEL Mk-NULL』

 

 

 

 

 

 

 




感想、意見、評価、おまちしています

1万文字超えてた。

本編はこれで完結となります。が、このあとにちょっとしたおふざけ会がありますので、
もうちょっとだけお待ちください。

要は解説とかそんな感じです。





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後書き、解説

本編は完結しました。

ですので、あとは軽い解説みたいなもんです。


レイ「はい。そううわけで『蒼穹のファフナーHEAVEN AND EARTH ~私はまだ、ここにいる~』が

無事完結となりました」

 

剣司「随分時間かかったなー」

 

レイ「何度か更新停止しましたからね。それに所謂大人の都合とかもありましたし」

 

剣司「身も蓋もねえなおい」

 

レイ「ハハ。では、ここでは各種解説と行きましょう」

 

剣司「うし。で、なにからやるか」

 

レイ「それじゃ、最初はオリジナル設定から、行きましょう」

 

剣司「意外と多いんだよな」

 

レイ「まあまずは僕のことですね。僕はカノンと同じダブリン出身です。ちなみにドイツにあるのはベルリンですよ一騎」

 

剣司「ああー、そういやアイツそんなこと言ってたな」

 

レイ「人類軍に入るまでの経緯はカノンと同じで僕も道生さんに拾われます。ただ、ここから僕は

メカニックとしての道を歩き始めますが」

 

剣司「お前のファフナーも、お前が設計したんだっけ?」

 

レイ「その通りです。人類軍唯一の純正ノートゥングモデル。

人類軍が作り上げたグノーシスやベイバロン、メガセリオンとは違い、日野洋治やミツヒロ・バートランドが持ち込んだ

エーギルモデル、ティターンモデル等の島の技術を取り込んで設計、建造された機体ですよ」

 

剣司「自慢げに言うけどよ、作れるんなら島の機体欲しがったのはどういうわけよ」

 

レイ「それはですね。ノートゥングモデルに使用される心臓部。瀬戸内海ミールの欠片であるコア、そしてノートゥングモデルそのものの運用データです。

それまではマークヌルは高純度水素燃料電池、つまり他の量産型と同じ動力で動かす予定だったんですよ。ノートゥングモデルをフルスペックで運用するために

かなりカリッカリにチューンしたもので、制限時間がつきましたが。

貴方は知らないでしょうけど、ノートゥングモデルといえば、本来は世界中が躍起になって開発に挑み、断念した幻の第3世代型ファフナーですよ?竜宮島、ないしアルヴィスが

再開発したことによってこうして竜宮島内部にのみ存在していましたが、開発の大元である日本は新国連による核攻撃で消滅しましたしね。

そもそも高スペックを作り出すためのエネルギー源が問題でして―――」

 

剣司「わかった、わかったから。お前そういうことになると途端に饒舌になるよな」

 

レイ「む……まあ確かに。職業病というやつですね、これは。で、話を戻しますが僕はメカニックになる時に、洋治さんに師事していました。

勿論本編開始時には既にファフナーのパイロットでしたが、それでも洋治さんの提案でメカニックを兼任していたような形でしたしね。

ちなみにこの時には紅音さんのことは知っていました」

 

剣司「なんか、改めて聞くとなかなか凄いな」

 

レイ「それで、僕は当初はグノーシスモデルに搭乗していました。マークヌルに乗り換えたのは竜宮島に侵攻した時ですね。一騎を連行したときは、まだグノーシスモデルでしたが、

ちなみにそのとき、現れたフェストゥムは2体。僕と道生さんで仕留めようとしたところ、カノンが道生さんより先に動き出したというわけですね」

 

剣司「おおう……やっぱお前すげえよな。それであれか、鹵獲したマークエルフからデータを手に入れて、マークヌルの完成に漕ぎ着けたってことか。

つかよくあそこまで形作ったよな。技術体系はこっちのコピーつっても形体や右腕とか、オリジナルの部分も多いだろ?」

 

レイ「システム自体はオリジナルですね。ただ、武装のヒントとしてはゼロファフナーから頂いている部分が多いですよ」

 

剣司「へぇ……なるほど。ってか、いつの間にかお前の機体講座になってるぞ」

 

レイ「おっと、そうでした。では改めて……次に説明すべきは、剣司君と僕の機体の分割ジークフリート・システムについてですね」

 

剣司「あれか、あれもそういやそうか」

 

レイ「僕と剣司の機体にあるシステムは他の機体とは違って、様々な機能が追加されています。

小説本文で載せているのは、機体の接続関係や、各機体の位置情報、簡易レーダー。といったところですかね」

 

剣司「戦闘で扱うのはそれらくらいだしな」

 

レイ「次に、僕がファフナーに乗れていることですかね」

 

剣司「何で島で生まれた俺たちと違って、フェストゥムの因子がないにも関わらず乗れているということだな」

 

レイ「これはシナジェティック・コードが関わっていますね。本来ファフナーを動かすには、厳密にはフェストゥムの因子は必ずしも必要ではありません。

現にカノンは人類軍時代は真人間でベイバロンモデルを乗り回していますしね」

 

剣司「ノートゥングモデルを動かすには本来は強固なシナジェティックコードが必要になるんだが、それほどのコード形成を持つ人間は

およそ10万人に1人位の確率で、しかも20代を過ぎると一気に形成率が落ちるんだ。

そこで俺たち島で生まれた子供は先天的に高いシナジェティックコードと同化耐性

を持つように調整されていて、そのためにフェストゥム因子が遺伝子レベルで組み込まれてる、ってわけだな」

 

レイ「そのとおりですね。で、僕はというとですね、運良くこのままでもノートゥングモデルに乗れるほどのシナジェティックコードを持っていたというわけです。

そして、僕と同じくらいの真人間でのコード保持者は他にも無印本編で3人ほど登場してますよ。ですので、厳密にはオリジナル設定とは言い切れないですがね」

 

剣司「なるほどな。それじゃ次は、お前の劇中での行動についででもやるか」

 

レイ「これはかなり難儀したそうですよ。「ほかのキャラの活躍を喰わず、十分な活躍をさせる」というルールを作ってやってましたからね」

 

剣司「確かにな。下手にほかのキャラ喰っちまうといけないし、かと言って活躍し無さ過ぎてもお前いる必要あんの?っつうことになっちまうわけだから。

とりあえずこの話だと、次回への付箋を貼りつつ、どこまで行けるか―――て感じのテストでもあったわけだ。確かにお前、

実力的には結構上だもんな」

 

レイ「では、ここでちょっとこの小説における島のファフナーの実力ランキングでも見てみましょうか」

 

 

1位:一騎

 

2位:カノン、レイ

 

3位:剣司、真矢

 

4位:咲良

 

5位:広登、暉、里奈、芹

 

 

レイ「こんなところでしょうか。このランキングは謂わば総合力で見た結果ですね。単純な操縦技術や、経験値、機体性能、撃破した敵の数等で換算しています」

 

剣司「やっぱお前すげえよな。俺は……高いのか低いのか……」

 

レイ「充分高いですよ。今の貴方なら人類軍のファフナーが相手だろうとよほどのことがない限り遅れは取ることはありません。それは真矢さんも同じです。

2人ともともすれば機体の基本装備だけで人類軍ファフナーを3機は破壊できると思いますよ」

 

剣司「あんま嬉しくねえ褒められ方だなぁ」

 

レイ「カノンは言わずもがな。僕もカノンに次ぐくらいにはキャリアも持っていますし、操縦技術だけで言うなら僕とカノンが2トップじゃないですかね。

ただ一騎はマークザインに乗れる、という唯一性もありますし、そのマークザインも桁が違いますからね。今はリミッターがついていますけど、

今後もしリミッターを外して運用することがあったら、それはそれは圧巻な光景が見れると思いますよ。こう、シャイニー☆彡みたいな?」

 

剣司「なんだよシャイニーって。それはともかく、お前のこと簡単に言うと「トップレベルのファフナー操縦技術を持っていて、かつ機体設計、開発能力も高く、指揮能力もあるし

家事全般もできる」こりゃいろいろ盛りすぎだよなぁ」

 

レイ「起用万能型の人間というやつですね。でも活躍自体は要所の隙間を縫ってですので、みなさんの活躍を喰うような事は書かないはずですよ。

それに指揮能力については僕よりも剣司の方が僕より優れていると認識していますが?」

 

剣司「そりゃ島の防衛という意味での話だよな?」

 

レイ「この小説では部隊を指揮できる人間は僕と剣司、総士君の3人になります。そしてそれぞれ指揮に性格や人間性が反映されている、という設定をつけてみました」

 

剣司「えっと、俺が「仲間の命を最優先に連携を重視」で、総士が「島全体の安全を優先して仲間も出来る限り護れるようドッグ重視」で……」

 

レイ「僕が「攻撃力優先、奪われる前に全て潰す連携、単機両方、攻撃重視」ですね。僕は防衛戦ではなく防衛地点での火力戦を重視していますから、

本来防衛としては下策。ですので僕よりも剣司の方が本来は向いているということです」

 

剣司「劇場版とは違って、人類軍が来た時にあらかたフェストゥムが片付いていたのはそのためだな。とことん攻撃攻撃、まさに攻撃は最大の防御と言わんばかりの

火力戦。こええよ」

 

レイ「僕は長期戦はあまり考えないもので。戦いが長引くほど不利になるのはこちらなので、短期戦を重視しています。ですがあまり島や仲間の被害は最低限しか

考えていないのでちょっと……」

 

剣司「あー……。ま、まあ解説はこれくらいにして、ほらキチッと締めろよ」

 

レイ「はい。皆さん、今までこの作品を読んでいただき、ありがとうございます。僕らの物語はここで一度幕が下りますが、いずれ新たな幕が開くことを

お約束いたします。また、新たな敵が到来するそのとき、僕らの物語はもう一度高らかに詠み上げられるでしょう」

 

剣司「随分不吉な次回予告だ……」

 

レイ「所詮島の平和なんて2年しか持たないんですよ2年しか。今回だってそうじゃないですか」

 

剣司「こいつ、言ってはならないことを……!」

 

レイ「では、皆さん今までお疲れ様です。またいずれ会いましょう」

 

剣司「そういうわけだ。それじゃあな」




感想、意見、評価、お待ちしています

今まで本当にありがとうございました。
いずれ次回作を投稿いたしますので、それまでしばしお別れです。


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