倫理君とヒロイン達 (キャベひょん)
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霞ヶ丘詩羽の失敗(ヒロイン・氷堂美智留)

時間はGirlsSide2の後です。
原作を読んでいない方はネタバレを含みますのでブラウザバックを推奨致します。


ミッチー、可愛いですよね。
冴えかののヒロイン達はみんな可愛くて大好きです。


「これは、あたしからの…宣戦布告だよ!」

 

 

 

『bressing software』を去った2人のクリエイターに宣戦布告したワンマンライブの次の日…ガールズバンド『icy tail』のギター兼ボーカルにして、『bressing software』の音楽担当にして、主人公安芸倫也の幼馴染の氷堂美智留は、サークル活動として倫也の家を訪れていた。

「それにしても澤村ちゃんと加藤ちゃん、仲直りできたみたいでよかったね〜」

「あぁ、本当によかった。それにしても美智留が詩羽先輩の連絡先知ってるなんて意外だったな」

「あぁ…うん…ちょっと縁があってね〜」

倫也の言葉で美智留が思い出したのはまだそんな昔ではないお茶の水で詩羽と会った時のこと、倫也を助ける…美智留からしたら詩羽を利用するという建前をつけ、あの黒髪黒ストヤンデレ作家に助けを求め、なかなかの勢いで攻め立てた後に食らったまさかのカウンターの内容が頭に浮かび顔が熱くなるが、もう美智留の中では倫也に襲われても良い…むしろウェルカムである心構えが出来ているので、あのヤンデレ作家の作戦は完全に美智留の背中を押してしまったことになる。

すぱっと自分の腹を決めて、なおかつ行動に移すことが出来るのは倫也同様いざとなるとヘタれるであろうヤンデレ作家にも、つい最近までサークルの問題のすべての根源と言っても過言ではない金髪ツインテールの幼馴染にもない、彼女だけの魅力といえよう。

「それにしてもトモ〜」

「ん?なんだ?」

いつも通りタンクトップにショートパンツという格好で倫也の背中に周り、そのままヘッドロックをかける。

「いだだだだっっ!!ちょっとみっちゃん!!いきなり何すんのさ!!」

「いきなり『icy tail』のマネ降りたと思ったら代わりに変な奴マネにつけやがって、ライブ当日まであたし達が死にものぐるいで曲作ってたの知らないでしょ?ホント大変だったからね!それにロックバンドとしてデビューするのが大元の目標だったのにいつの間にか『コスプレアニソンガールズバンド』になってるし!!」

「で、でももうお前はその道に入ってきただろ?そんなのも全部受け止めて進む、俺たちと同じクリエイターになったんじゃないのか?」

ここ最近の溜まってた鬱憤をぶつけたは良いが、帰ってきたのは完全に自分のことを理解しきった好きな男の子の返事、それだけ自分のことを見てくれていたのは嬉しいが、なんとなく釈然とせず

「その私のこといかにもわかってますよっていう彼氏ヅラみたいなのが結構嬉しいけど余計にむかつくんだっつーの!!」

「え?ちょっ嬉しいって言ったのか?よく聞こえなかt……ギイァァァァ!!」

ここでまさかの難聴系主人公を発揮した倫也にますますイラつき、ヘッドロックを解除した後、パワーボムからのエビ固めといういつものプロレス技をかける。倫也がタップしてギブアップをしたところでエビ固めを解くが、うつ伏せになってるのを無理矢理仰向けにさせその上から覆いかぶさる。

「さて?何か言うことはないかね?トモ?」

「え、えっとみっちゃん…その…あの…」

倫也がまだ眼鏡だった頃は美智留が部屋に入ってくると眼鏡を外すようにしていた。美智留の格好はいくら童貞キモオタ難聴優柔不断主人公(個人の解釈です)だったとしても思わず目を奪われるほど魅惑的であり、そしていくら倫也が童貞キモオタ(以下略)だったとしても時期的には思春期の男子高校生であり、それ相応の欲求はあるわけである。倫也は明らかに好意を寄せられている周りの女の子達にもいざとなったら手を出せないヘタレなので、眼鏡を外すことは美智留に対しての一種の予防線であったわけだが、この4月からコンタクトにしている。つまり自分に覆いかぶさった幼馴染の無防備な体が思いっきり目に焼き付いてしまうわけで

「どこを見ているのかなー?」

女の子は視線に敏感というのはホントらしく、倫也の反応を見て美智留はニヤニヤしている。

倫也は顔を赤くしたまま顔を逸らしたが、耳まで赤くなっているところを見ると自分が思わず見てしまっていたことが相当恥ずかしかったようだ。

そんな初心な反応を見せられると思わずからかってみたくなるのが氷堂美智留であり。

「へぇー…トモにも年頃のそういう欲求ってあるんだぁ。オタク趣味のことばっかでそういうこと考えないのかと思った」

美智留がニタァ…とからかい全開で詰め寄ると

「っっ!!うるさいな!!そもそもみっちゃんがそんな格好で出歩くのが問題だろ!!従兄弟だからって気を許しすぎなんだよ!!なんだ!?誘ってるのか!?」

突然大声でいつもの童貞(以下略)の倫也からは考えられないような言葉と反論を食らったことに面食らってしまい、しばらくの間に目を見開いたまま硬直してしまう。

「あっ……ごめんみっちゃん。大丈夫…?」

いつもの童(以下略)の倫也からは想像もつかない言葉が出たのには理由がある。美智留のライブを見た後、なんとなく幼馴染の女の子ヒロインルートのギャルゲーをいくつもプレイしていると美智留のライブでの輝かしい姿が頭をよぎり、最終的には攻略しているヒロインを無意識に「美智留」と呼ぶまでに悪化してしまった倫也のところにいつもの如く突然美智留がやってきたのである。美智留とは別の理由で目の前の幼馴染を"女の子"として認識してしまった。

妙に意識してしまった所為でプロレス技をかけられた時は美智留の女の子としての身体の柔らかさに数倍ドキドキするし、密着したときに今まで気にしてこなかった幼馴染の"女の子のいい香り"を認識してしまったり、極め付けは押し倒された(押し倒したのではないのがまた倫也らしいが)ときにみた美智留のあまりにも無防備な身体が網膜に焼き付いて離れず、あんなことを言ってしまったのだ。

一方、美智留はというと、いきなり大声を出した倫也に面食らって硬直してしまったものの、その後のこちらを気遣う倫也に対して、先ほどの発言から倫也も自分のことを"女の子"としての見てくれていたことを確信し、耐えがたい幸福感に包まれる。そしてもっと自分を見て貰いたいという思いをそのまま行動に移す。

「うん…大丈夫だよ…トモ…」

美智留の方に伸びていた倫也の手を両手で掴み、自分の右ほほにすり寄せ、美智留は倫也に向かって微笑みかける。

いつもの美智留の元気な笑顔とは違い、目を潤ませ、頬をほんのりと赤くし、穏やかに笑みを浮かべた美智留に倫也は見惚れてしまう。

「みっちゃん……」

怒ってなくて安心した、とか、怒鳴ったりして傷ついていないだろうか、とか、そんなことを考える余裕もなくいつもとは全く違う美智留の雰囲気に圧倒され、今の憂げな美智留のことしか考えられなくなる。

そして美智留は自分の頬に触れている手をそのままに倫也の顔と目と鼻の距離まで自分の顔を近づかせ、倫也の手を支えてない方の手で倫也の胸に触れる。

「トモのここ、すごいドキドキしてるよ?」

そのまま美智留の頬に添えられていた倫也の右手を自分の鎖骨の下、心臓の鼓動が感じられるところまで滑らせていく。

倫也の右手が感じた美智留の鼓動は自分と同じか、それ以上に早く鳴っていた。

「あたしもドキドキしてるのわかるでしょ?」

そうしてお互いの額をコツンとぶつけ、美智留は仰向けになっている倫也の横に身体を寄せる。

「あっ……」

美智留の鼓動が感じられなくなった倫也が寂しそうに声を漏らす。倫也自身今の自分がこんなにも美智留を求めているとは思っていなかったが、心の底から…美智留という女の子を欲していることに気づく。

そんな倫也を見た美智留は美智留でもっと倫也のことが愛おしくなってしまい、思わず倫也に抱きついてしまった。

いきなりのことで倫也の方が身体を硬直させてしまうが、美智留があまりにもぎゅーっと抱きついているので引き剥がすことも出来ず、それでいて美智留も自分のことを求めてくれると感じことができるので倫也も美智留のことを抱きしめ返した。

互いの鼓動を互いの身体全体で感じる。その時間がとても心地よい。

 

 

「ねぇ……トモ?」

「………ん?」

 

 

 

呼び掛けてきた美智留の声が僅かに震えていた。

 

 

「どうかしたのか?」

「あのね……」

 

 

 

言いたいことをはっきり言う美智留にしては勿体振るのは珍しい。

 

 

 

 

告げられたのは

 

 

 

 

 

「あたしは……トモのことが大好きだよ」

 

 

 

 

 

 

はっきりと言葉によって伝えられた美智留から倫也への愛の告白。

 

 

 

 

 

「霞ヶ丘先輩よりも澤村ちゃんよりも波島ちゃんよりも加藤ちゃんよりも………この世界の誰よりも…………トモのことを愛してる自信がある」

 

 

 

 

 

「もし…この気持ちを受け取ってくれるなら……あたしをトモの恋人にしてほしいな」

 

 

 

 

 

 

 

それに対し倫也は

 

 

 

 

 

「俺は、霞詩子の信者で、柏木エリの信者だ。波島ちゃんは最高の愛弟子で、そして俺の作るゲームのメインヒロインは加藤恵だ」

 

 

 

 

 

 

 

「でも………俺の本当に心から求めてるのは…美智留だ」

 

 

 

 

 

 

 

「鈍感キモオタ難聴優柔不断最低な俺でいいなら…恋人になってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなある意味ハーレムラブコメの主人公らしい告白の返事をした倫也に美智留は

 

 

 

 

 

 

「ふふっ…そんなとこも全部大好きだよ!!トモ!!」

 

 

 

 

 

 

いつもの元気な美智留になり、目の前の恋人の唇を奪うのであった。

 

 

 

 

 




Girls Side2の詩羽先輩がミッチーを追い詰めるために作った即興小説のところを読んで思いつき、書いてみました。
詩羽先輩がやったみたいに最初はR-18の内容にしようかなとも考えていたのですが、書いていくうちに全年齢版のとこだけでうまくまとめることが出来たのでR-18の方までは書きませんでした。
R-18の内容の方も書いてみたいと思います。
近いうちに投稿しますのでそちらも読んで頂けたら光栄です。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!


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紅坂朱音の倒しかた(ヒロイン霞ヶ丘詩羽)

今回も時系列はGirlsSide2の後です。
まだ読んでいない方はブラウザバックを推奨します。
GirlsSide2でラスボスこと紅坂朱音と詩羽先輩の編集者である町田さんが話しているシーンから今回の話が浮かんできて書いてみました。
冴えカノの中でも特に人気が高いと思う詩羽先輩がヒロインです。
原作の方のあのヘタレヤンデレ具合がたまらないっすよね。
楽しんで頂ければ幸いです。


夕方午後4時。

仕事を終えたサラリーマンがちらほらと自宅に帰るのも見えるその時間、地下鉄から降りる1人の美女がいた。

艶やかな黒髪を腰の辺りまで伸ばし、見事なプロポーションと端正に整った顔ですれ違った人が男女問わず振り返るような美人であるが、自身から近寄るなオーラを辺りに撒き散らし、自分のパーソナルスペースを確保していた現役女子大生ラノベ作家にして、今年発売の『フィールズ・クロニクル』シリーズのシナリオ担当にして、倫也が立ち上げた『blessing software』を約3ヶ月前に脱退したペンネーム『霞詩子』こと、霞ヶ丘詩羽である。

だが、今の詩羽はある別の理由で周りにいる人からは近づかれなくなっている。

今日も『フィールズ・クロニクル』の打ち合わせを終え、フラフラと幽鬼のような足取りで改札をくぐり、駅前のロータリーに出ようとした時、外は電車に乗る前とは違い、土砂降りの雨が降っていた。

当然傘など持っている訳なく、わざわざコンビニで傘を買うのも億劫だったため、そのまま雨の中に繰り出そうとした時

「おかえり、詩羽先輩。そのままだと濡れちゃうよ?」

詩羽に傘を差し出したのはここ2ヶ月、いくら聞きたいと願っても自分の取り巻く環境によって声も聞くとこも出来ず、顔も見れなかった詩羽の最愛の男の子だった。

その声を聞いた途端、身体が自然に動き

「倫也くんっ………」

この2ヶ月で少しばかり背が伸びたその胸に倒れこむように飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さかのぼること約1日

「明日と明後日…いや、もう今日と明日ね、今日の夕方から明日1日、それだけで良いから倫也は霞ヶ丘詩羽と一緒に居てあげて」

英梨々と恵が仲直りしてから約2ヶ月、ほぼ毎日恒例となったの紅坂朱音の愚痴を無料通話ソフトのテレビ電話で聞いていた倫也のところに英梨々がそんなことを言ってきた。

「え?なんでだ?英梨々が俺を誘うならまだわかるけど、詩羽先輩と?それに先輩今はシナリオの方で忙しいって」

「いいから!!今は何も聞かないで。とにかく明日の午後4時に霞ヶ丘詩羽がいつも使ってる駅で待ってること!!いい!?」

「お、おう…」

「時間が変わるようならあたしのほうから連絡するから。頼むわよ」

いつになく英梨々の表情が真剣なものであったので、倫也は頷くしか出来ずにいる。

英梨々とは学校でも同じクラスであり、こうやって毎日のようにテレビ電話もして顔を合わせている訳だが、詩羽は大学生であり、この2ヶ月はそうそう会うことは出来ずにいて、メールでのやり取りが殆どだった。

そして最近は忙しいのか、そのメールさえもあまりしていない詩羽と倫也であったが、詩羽とは恋のライバルである英梨々の口から詩羽と会うように促されるのは滅多にないことで、それに加え

「ちょっと最近のあいつ、見てられないのよ…」

最後にぽろっと本音を零した英梨々の顔があまりにも悲痛で、言い切れない不安を抱いた倫也は、英梨々に言われた通りの時間に詩羽を待っていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなり抱きつかれた倫也はいつも通り戸惑い、顔を赤くする前に異変を感じた。

抱きついてきた詩羽の腕が2ヶ月前より明らかに細くなっていたのである。

「倫也くん....倫也くん....」

聞こえてくるのは自分の名前を呼ぶ詩羽の声、だがそれは今まで倫也が聞いたこともないような種類の声で、言葉の間に堪えきれない彼女の嗚咽も混じっていた。顔を倫也の胸に顔を押し付けていたのもつかの間、倫也の顔の方を向いた詩羽の顔に倫也は息を呑んだ。

頬は随分とこけ、作家という昼夜逆転の生活をしているにしても酷すぎる目のクマ、元々白い詩羽の肌は青白くなり、大きな黒い瞳からは決して人前で見せることのなかった大粒の涙がつたっていて、本当にあの霞ヶ丘詩羽なのかと思わず疑ってしまう程に酷い顔をして、弱り切った詩羽がいた。

 

 

 

紅坂朱音の納得する内容にするため、己の全てを使い、限界を超えてフィールズクロニクルのシナリオと己の作品である純情ヘクトパスカルを書いていた詩羽、紅坂朱音が詩羽の担当編集である町田苑子に言ったようにクリエイターとして死んでしまうかもしれない、そんなところまで追い込まれていた。いくら読者を手玉にとり、柏木エリを引き抜くためのものだったとしてもあの紅坂朱音のお眼鏡にかなった天才化け物クリエイターである霞詩子でも実際はまだ大学1年生の女の子で、ラスボスからの重圧、書く前にも倫也に不安を漏らしてしまった学園ハーレムモノ、いささか年頃の女の子に抱えさせるには大きすぎる重圧がジリジリと綿縄のごとく詩羽の精神を蝕んでいったのである。

書くときは倫也が英梨々のシナリオを書いた時に味わったクリエイターの闇を常時発動、その天才的な能力を持ってしても紅坂朱音の求めるクオリティに届くにはギリギリのラインであり、必死になって書いたものを全没にされることも少なくなかった。

それと並行して自分の作品である『純情ヘクトパスカル』の執筆、それも今年中にあと一冊、年頃早々に一冊出さなければいけない。

『フィールズ・クロニクル』の仕事を受けてしまったのは詩羽であり、紅坂朱音に強要されたわけではない。そして商業作家である以上、元々の本業であるラノベの刊行を遅らせることも出来ず、それこそ毎日死ぬ思いで文章と付き合っている。詩羽自身も自分のことなど二の次にして作品と向き合っているため、自分がいまどんな顔をして普段の生活をして送っているのかがわかっていなかった。

 

 

ちょくちょく詩羽と会っている英梨々も紅坂紅音の出す絵のクオリティにするためそれこそ毎日倫也に愚痴りまくる勢いで絵を完成させているのだが、彼女の画力はもはや異次元の域に達しており、本当に紅坂紅音を倒す勢いで上達していた。それも詩羽が追い込まれる原因の1つであったのだが、詩羽との1番の違いは間違いなく、英梨々には毎日受け皿となってくれる倫也がいたことであろう。

 

 

詩羽としては年下であり、自分の信者である倫也に頼ることなどは自身のプライドが邪魔して出来なかったのもあるが、倫也に頼る余裕がないほど彼女は追い詰められていた。

 

 

 

 

2週間ぶりくらいに英梨々が見た詩羽の顔はまさに「死人」のようだった。

そして自分の絵を見た時に詩羽の表情が更に険しいものになり、あのラスボスからもストーリーに関してはえげつない程のプレッシャーをかけられているのも知っていた。

その上、最近詩羽の出すストーリーが紅坂紅音に一切受け取られていないことも。

このままでは彼女が壊れてしまう...そう思った英梨々は倫也に助けを求める。

今の彼女を救うことが出来るのは倫也だけだと、そう信じて。

 

 

 

 

「っ!!ごめんなさい倫理君、それにしてもなんでここにいるのかしら?」

詩羽自身も自分がとった突発的な行動に驚いたらしく、倫也から離れ、涙を拭いながら倫也にとっての『いつも通りの霞ヶ丘詩羽』でいようとするが

その声は嗚咽で途切れ途切れであり、声にも明らかに余裕が無かった。

「詩羽……先輩……?」

変わり果てた詩羽の姿を見て、倫也は動揺を隠せない。

「何かしら?貴方がここにいるなんて偶然…なわけないわよね。まさか私と会えずにために貯めた性欲がが遂に耐えきれなくなって、この雨の中ビルの裏路地で無理矢理襲おうって魂胆なの?」

聞き慣れたはずの下ネタも今日は明らかに覇気がない。

「ど、どうしたんだよそんな痩せ細ちゃって…メールじゃ大丈夫って言ってたのに…」

「ええ…だから大丈夫よ…今から倫理君とホテルに行って朝までヤれる……くらい…に…ね…」

突然詩羽の身体が揺れ、倒れそうになるのを倫也は慌てて支える。

支えた身体は、ビックリするくらい軽かった。

「あぁ、ごめんなさい倫理くん、そしてありがとう」

「この2ヶ月どんな生活したらこんなになっちゃうんだよ!?明らか大丈夫じゃないだろ!!」

倫也が大きな声で問い詰めるとビクッと身体を強張らせた後、

「なんでそんなに怒っているのかしら?別にいつもどおりでしょう?」

あまりにもあっさりといってしまう。

倫也は詩羽が自分の状態を本当にわかっていないことに気づく。

そして、心配をかけないように『倫也にとってのいつもの詩羽』を必死になって演じているということも。

英梨々に言われたことなど関係なく、今の詩羽の状態を倫也が見逃すことはなかった。

詩羽に自分が持っていた傘を持たせ、詩羽に自分の背を向けるようにしてしゃがむ。

「ほら、先輩」

「別に普通に歩けるわよ…さっきのはちょっと躓いただけで…」

「ただ立ってるだけで躓くなんて聞いたことないけど?」

倫也の有無を言わせぬ妙な迫力に詩羽は渋々倫也の背にもたれかかる。

やはり、軽い。

「重い?」

「そんなことあるわけないだろ」

完全に倫也に身をまかせると、詩羽は倫也の身体の熱を感じることができ、最近全く感じることの出来なかった安心感に包まれて

「すぅ………すぅ………」

数十秒も経たずに、詩羽が握っていた傘が支えを失い、地面に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の背中で眠ってしまった詩羽を背負いながら詩羽のマンションに行き、半分寝ている詩羽から部屋の暗証番号を聞き、鍵を開けもらい、詩羽の家の中に入ったが

綺麗好きの詩羽の家が荒れに荒れている。

あちらこちらに栄養ドリンクやコンビニ弁当のゴミが散乱し、とても詩羽の部屋と思えない様だ。

まるで本人の状態をそのまま表しているかのように。

とりあえず自分の背で気持ちよさそうに寝ている詩羽をベットに寝かせ、部屋の片付けをしようとすると

「倫…也くん?どこ…?ねぇ…やだぁ……」

眠っている詩羽からそんな言葉が漏れる。

つぶっている目から涙が溢れ、誰かを探すように手は空をもがく。

「1人に……しないで……」

倫也はすぐに詩羽の手を取り、優しく語りかける。

「大丈夫ですよ、詩羽先輩。俺は、ここにいます」

普段の倫也からは考えられないような言葉がかけられるが、こんな状態の詩羽を見れば羞恥など気にしていられなかった。

目の前の今にも壊れてしまいそうな大事な先輩のことしか今の倫也の頭にはない。

倫也が手をそっと握り、頭をゆっくり撫でていると、詩羽はまた静かな寝息を立て始めた。

 

 

 

今の詩羽に何が起こっているかはわからない。だが英梨々が倫也を詩羽の元へ行かせた理由はわかった気がする。

目が覚めた詩羽に聞きただしても簡単には教えてくれないだろう。

だからできる限り情報を集める必要がある。

だから倫也は自身に助けを求めた人物に助けを借りることにした。

詩羽に握りられていない方の手でスマホを操作しある人物に電話をかける。

何回かのコール音の後、その金髪幼馴染は電話に出た。

「あっ英梨々か?悪いけど今から恵連れて詩羽先輩のマンションに来てくれ、話はそれからする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




詩羽先輩もまだ大学1年生なんだよなぁ…町田さんいいこと言うなぁ…詩羽先輩愛されてるなぁ…と思いながら原作を読んでて、でも詩羽先輩壊れちゃいそうだなぁ…ともあのラスボスさんの発言からも感じることができて、でも壊れる前に倫也くんがなんとかしてくれないかなぁ…という妄想全開で書いてみました。
まだ続きを投稿していくので楽しみにして頂けたら嬉しいです。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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紅坂朱音の倒しかた2(ヒロイン霞ヶ丘詩羽)

大変更新が遅くなってしまいました。
申し訳ありません。
詩羽先輩2話です。
よろしくお願いします。


電話をして数十分、詩羽先輩のマンションにやってきた英梨々と恵に手分けして散らかっている部屋の片付けと、詩羽が起きた時に食べられるように簡単な食事を用意してもらった後、詩羽に手を握られて動けない倫也の元に再集合した。

詩羽のマンションに来る途中、恵も今の詩羽の現状を英梨々から聞いていたので、今の詩羽の現状を目の当たりにしても僅かに動揺しただけで、すぐに片付けの方にとりかかってくれたのでかなり短時間で終わらせることが出来た。

英梨々と恵に倫也が詩羽にあってからのことを話し、それから英梨々からも倫也の知らなかった2ヶ月の詩羽の状況を聞いた。

英梨々達が来てから話し終わるまでに3時間は経ったが、詩羽は一向に起きる気配がなく、英梨々が言うには

「多分、安心して熟睡するなんてここ1ヶ月くらいなかったんじゃない?相当のことが無いと起きないわよ?」

ということらしい。

今の詩羽はとても穏やかな顔をして寝ているため想像もできないが、過酷すぎる環境に身を置いていた詩羽が自分の手を握っているだけでこんなにも安心してくれていることに倫也は嬉しく感じ、穏やかな笑みを浮かべる。

それはいつもの童貞キモオタ優柔不断難聴系主人公である倫也からは想像も出来ないような相手を思いやったものであり、それを見ていた英梨々はもちろん恵までもが心を揺さぶられるものであったが

「よくもまぁ私たちがいる前でイチャイチャとぉ…」

「仕方ないよ英梨々、それに今日は霞ヶ丘先輩に譲ってあげるって言ってたし」

「それはそうだけどぉ…」

「もうそこらへんは気にしたって無駄ってわかってるでしょ?安芸くんだもん」

明らかに嫉妬の目線を向けている英梨々とフラットながらも僅かに言葉の端にトゲがある恵に気づかないのは流石であろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寝ている詩羽との二人だけの世界に行っていた倫也が現実の元へ戻ってきた後、ほったらかしにしていた英梨々と恵に決して軽くはないいつもの罵倒をされた倫也は意気消沈だった。

あらかた言いたいことは言えて満足したのか

「私達もう帰るね」

そう言って手早く荷物をまとめる恵と英梨々

「えっ?帰るのか?」

サークルの活動で倫也の家に泊まっていくことが珍しくない2人のいつもとは違う行動に倫也が戸惑っていると、ひじょーに煮え切らない顔をしている英梨々が

「霞ヶ丘詩羽が起きた時私達がいたら話しにくいでしょ?」

そして詩羽に目線を向け

「それにこの問題は倫也じゃないと、解決出来ないから。頼むわよ」

最後に倫也の目をしっかりと見て言った。

そして慣れないことを言って恥ずかしかったのかすぐに後ろを向き、ドタドタと慌ただしく出て行ってしまった。

「じゃ、霞ヶ丘先輩のことよろしくね、倫也くん」

そして恵も英梨々に着いて行き、詩羽の家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「んっ…」

詩羽が目を覚ましたのは恵と英梨々が彼女の家を出てからおよそ1時間後のこと。

目を覚ました詩羽が最初に認識したのは左手から伝わる温もりと見慣れた自分の部屋の天井、そして最愛の後輩の顔。

「おはよう、詩羽先輩」

「うん、おはよう。倫理くん」

起き上がろうとするが上手く力が入らない。

自然に倫也が手を貸し、起き上がらせてくれた。

「お腹すいた」

「え?」

起きてあいさつを交わし、次に出てきた予想外の一言に一瞬倫也も固まってしまうが

「朝から殆ど食べてないの、お腹すいたわ」

「あぁ、うん。雑炊あるよ、食べる?」

コクリと頷く。

倫也が雑炊を詩羽の膝の上に乗せると

「…………」

「…………」

倫也の方に向け口を控えめに開ける詩羽と、それを見てぼーっとする倫也という奇妙な構図が出来上がった。

「…………っ」

自分で食べてよ、と言おうとしたが詩羽の痩せ細った腕が目に入り、寸前で飲み込む。

お盆を自分の膝の上に乗せ、レンゲですくった雑炊を冷まし詩羽に食べさせた。

「熱くない?」

「うん」

「味は良いと思うんだけど」

「美味しいわ」

「よかった」

「でも倫理くんが用意してないわよね?これ」

「うん、加藤に作ってもらった」

「倫理くんの(もごもご)が食べたかったわ」

「ご飯ね、変に言葉を濁さないでよ」

僅かなやりとりの中で発せられる倫也の一言が詩羽の心を震わせる。

どれだけ会いたくても会えず、声を聞きたくても聞けなかった。

会ってしまえば、彼と言葉を交わしてしまえば、胸の内に必死になって堪えていた霞ヶ丘詩羽の弱い所を全て吐き出してしまうから。

 

 

 

 

そのまま倫也に全て食べさせてもらい、満足した詩羽はスリスリと身体を移動させて倫也に近づく。

「さっき路地裏でやらなかったのは部屋でというのが倫理くんの好みということ?それとも睡○?もうことは済ませちゃったの?私としては実感が無いのだけど」

「俺にはそんな性壁もありませんしもしあったとしてもこんな状態の詩羽先輩にやろうとも思いませんしただここまで運んできただけですよ!!」

彼の反応が楽しい。

「じゃあなんで私の服が着替えさせられているのかしら?あと私の部屋も片付いているわね…下着とかも転がってた覚えがあるし、私の身体の変わりに下着を弄んで己の獣欲を発散していたの?」

「英梨々と加藤にやってもらったよ!流石に女の子の部屋勝手にいじるわけにもいかないでしょ!」

2ヶ月前もこんなやり取りをした事を思い出し心が暖かくなる。

「それで私が寝てるのをいい事にやることやってたワケね」

「あの、詩羽先輩」

倫也にその美貌からは考えられないような下ネタを振りかざしていると、倫也の顔はいつも通りの呆れたものではなく、何か別の意味で赤くなっていて

「なぁに?倫理くん」

「レベルアップした下ネタで俺をいじろうとするのはわかりますけど、そんなにニヤけて幸せそうにしてたら効果無いですよ?」

「なぁっ…」

この2ヶ月、何度彼を望んだだろう、何度彼の声を求めただろう。

どんなに紅坂朱音に罵倒されようとも、作品がうまくいかなくても、彼の事を忘れる事はなかった。

だが、目の前にいるこの少年は『作家霞詩子』の1番の信者で、彼にとって自分は神だ。

それが自分の中にもあり、彼の中にももちろんあるわけで

そして今まで詩羽は自分の倫也への好意をあまり前面には出してこなかったつもりだ。(周りから見れば詩羽の思いはバレバレだったわけだが)

自分の中でしっかりとセーブしていたつもりだったし、常に余裕を持って彼をいじり倒していた。

そんな自分が、知らないうちに顔が綻んでいた?

「ちょっ…これは…ちがっ…」

倫也に指摘されて、慌てて表情を引き締めるが

 

 

 

「詩羽先輩」

 

 

ふにゃり

 

 

「……はっ」

 

 

ブンブンと首を振っていつもの表情で倫也を見る。

「なに?倫理くん」

 

 

「詩羽先輩?」

 

 

ふにゃん

 

 

「……………………あっ」

 

 

 

そのまま下を向いてなんとか顔を手で強引に直そうとする。

倫也は詩羽の頭に手を乗せ、彼女の黒髪を梳くように撫でた。

 

 

 

 

「えへへ………」

 

 

 

 

 

 

 

なんだこの可愛い生き物は

 

 

 

 

 

 

 

もしもこれが画面の中の出来事だったとしたら倫也は部屋中を転げ回っていると確信していた。

悶え転がりたいのを必死に堪え、頭を撫でてない方の手で、詩羽の手を取る。

 

 

 

 

「詩羽先輩………」

 

 

 

 

もう一度だけ名前を呼ぶ

 

 

 

 

詩羽はもう表情を隠そうとせず、そのまま倫也の呼びかけに応え顔を上げ、彼の目をまっすぐ見た。

 

 

 

 

 

黒く綺麗な瞳は幸福に満ちていて、目の前の愛しい彼を映す。

 

 

 

 

 

頬は高揚し、だらしなく緩みきっているが、いつもの大人びた表情とは違い、年相応の幸せな表情に鼓動が早くなる。

 

 

 

 

 

「倫也くん………」

 

 

 

 

 

 

色の良くなった唇が動き、倫也の名前を呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倫也に偽りない自分を見せることが出来た影響なのか

 

 

 

 

 

 

 

 

「大好き」

 

 

 

 

 

 

 

 

今まであれだけ言おうと思って言えなかった言葉がすんなり口から零れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さえかの10巻素晴らしかったですね。
詩羽先輩可愛すぎて悶えながら読んでました。
個人的には新幹線のホームでで倫也くんと詩羽先輩が別れた後の深崎さんの詩羽先輩の挿絵が凄く好きです。

次回の更新はなるべく早くしたいと思います。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。



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紅坂朱音の倒しかた3(ヒロイン霞ヶ丘詩羽)

詩羽先輩3話です。
よろしくお願いします。


「大好き」

 

詩羽の口から零れた純粋な愛の言葉。

 

 

「えっ………」

 

 

不意を突かれた倫也は顔を赤くし、固まってしまうが詩羽はそんな倫也に構わず彼の背中に手を回し、ぎゅう……っと抱きつく。

 

 

「うぇっ!?ちょっ!?う、詩羽先輩!?」

 

 

詩羽の身体の柔らかさにびっくりして慌ててしまう倫也であるが、すぐに彼女の異変に気づく。

 

 

 

震えているのだ。詩羽が。

 

 

 

そんな彼女を割れ物を扱うように優しく抱きしめ返す。

 

 

「会いたかったの……」

 

 

『好き』というたった一言をトリガーに詩羽の中の倫也に隠していた思いがあふれ出してくる。

 

 

 

「シナリオが上手くいかなくて…どうしようもなくて…紅坂朱音を倒すって倫也くんに約束したのに…私の書くものは彼女の琴線に触れることはなくて、罵倒されるだけ罵倒されて、そんな私とは逆に澤村さんはどんどんレベルを上げてって、年長者の私が彼女を守ってあげないといけないのに、私の方が足引っ張って…情けなくて…」

 

 

 

始めて語られる詩羽の苦悩、倫也に始めて見せた詩羽の弱み。

倫也はその間何も出来ない立場にあった自分に強く悔しさを感じながら彼女の言葉を最後まで黙って受け止める。

 

 

 

「作家としてのプライドもズタボロにされて、何を書けばいいのかも分からなくなって…もう私じゃ…『霞詩子』じゃあ『柏木エリ』には……『フィールズ・クロニクル』には釣り合わないのかもしれない……」

 

 

 

普段なら絶対言わないような弱音まで吐いてしまうほど、精神的に追い詰められ、作家としての自信を無くしてしまっている詩羽。

 

 

 

今自分が出来ること、安芸倫也にしか出来ないことはすぐに見つかった。

 

 

 

紅坂朱音に潰された詩羽のプライドを、取り戻させること。

 

 

 

「恋するメトロノームはさ……1巻の最後のほうでもう俺泣くの止めらんなかったんだよ」

 

 

「えっ?」

 

 

突然自分デビュー作の話をされて困惑する詩羽だが、間髪入れずに倫也は話し始める。

 

 

「初めてだったんだよ、あんなに物語に引き込まれたの。作家のサイン会も霞詩子の前にも何回か行ったことあるけど、本屋が開く前から『1番最初にサイン貰うんだ!!』って気持ちで並んだのも始めてだし、あの作品があんまし知られてないこと分かって自分でサイト作って作品の魅力まとめたのも始めて、ギャルゲー作って見たいって思うきっかけになったのも霞詩子がきっかけだよ。最終巻のエピローグ前30ページは暗唱できるし、何回読み返しても泣かないことなんて無かった。1巻の沙由香の…………」

 

 

 

 

そこから倫也は『恋するメトロノーム』の1巻から始まり、『純情ヘクトパスカル」の最新巻に至るまでの霞詩子が世の中に出してきた物語の全てを事細かに熱烈に褒めちぎった。

もちろん倫也の本心からのものであるが、それは端から見たらただの度の過ぎた『霞詩子』の布教活動そのものであった。

倫也が話を終えた頃には時計の長針が二周するほどの時間が経っていて、その間詩羽は口を挟まずに倫也の話をじっと聞いていた。

 

 

 

「でね………俺が何を言いたいかって言うと」

 

 

 

自分の背中に回っている詩羽の手を片手だけ外し、彼女がもたれかかっている下でふわりと両手で包み込む。

 

 

 

もう震えは、止まっていた。

 

 

「こんな凄い神作家が紅坂朱音に負けるわけないってこと」

 

 

重ねた手の上に雫が落ちてくる。

 

 

片手を詩羽の手から離し、彼女の肩を掴み、顔が見えるようにする。

 

 

不安そうな目からは涙が流れているが、その瞳の奥には僅かに光が戻り始めていた。

 

 

あとひと押し。

 

 

詩羽の目を見て、はっきりと告げる。

 

 

「大丈夫……霞詩子は…霞ヶ丘詩羽はこんなとこで潰れる作家じゃない。辛いことは全部俺に吐き出して、それでも自信がなくなったならもっかい俺が霞詩子どんなに凄い作家ってことを教えてあげる。絶対大丈夫。潰れそうなプレッシャーなら俺が一緒に背負う。詩羽先輩が紅坂朱音を倒すためならどんなことだってする。俺にできることはそんくらいしかないけど、絶対に詩羽先輩を支えてみせるよ。だから…さ…」

 

 

 

「…………」

 

 

 

「頑張れ」

 

 

 

「うん」

 

 

 

「頑張れ」

 

 

 

「うん…」

 

 

 

「頑張れ!」

 

 

「うん……!」

 

 

 

「霞詩子は最強だから!!」

 

 

 

「ゔん………!!」

 

 

 

 

泣きながら頷いた詩羽の瞳にはしっかりと光が灯っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもね、倫也くん」

 

 

 

 

 

「なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「涙が止まるまでは…さっきみたいに抱きしめてくれない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もちろん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩羽が倫也の腕の中からするりと抜ける。

「もう大丈夫?」

自分の腕の中から無くなってしまった温もりに少しばかり寂しさを感じながら詩羽に声を掛ける倫也。

「何がかしら?倫理くん?」

ベットから降りた詩羽は長い黒髪をさらりとはためかせながら倫也のほうを見て言う。

意識して口調を変えているのはわかっているが、決して無理をしてるわけでもなく雰囲気は倫也の知る『いつもの霞ヶ丘詩羽』なっていて

「………なんでもないよ、詩羽先輩」

目頭が熱くなるのを倫也は堪えた。

詩羽は自分の鞄からノートPCを取り出すと、自分の机に座るのではなく、ベットに座っている倫也のところまで来る。

「さぁ……シナリオを書きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「詩羽先輩……ホントにこの状態で書くの?」

「えぇ、もちろん。何か問題でも?」

今、ベットの上で足を開いた倫也の足の間に詩羽が収まっていて、その詩羽を後ろから手を回した倫也が抱きしめている状態である。

「こんなんじゃ集中できなくない?」

「いいえ、そんなことないわ、とてもいいシナリオが出来そうよ」

「そうですか……」

「じゃあ書くから、私の集中を切らすようなことはしないこと、いい?」

「りょ、了解です……」

倫也としてはさっき同じことを散々やってたとしても、詩羽を慰めるために自然に体が動いたことだったので、意識してやるととんでもなく恥ずかしいものがあり、詩羽の身体の柔らかさを再認識してしまい、いろいろとマズイものがあるわけだが

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、シナリオに夢中で無防備な私を◯すのはいいからね?」

「しないよ!!」

倫也がドキドキしているのをわかっていながらこんなことを言ってくる先輩にゲンナリしつつもどこか嬉しさを感じる倫也だった。

 

 

 

 

 

 

「ふふふふ……………」

「………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きひっ……………うふふふふふふ……………」

「(ビクッ)……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはっ♪……………あはははははははっ♪」

「(ガタガタガタガタ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛してるぅ…………愛してるわぁ……だからぁ………殺してあげるぅ…………」

「ヒィッ………………」

 

 

 

 

 

 

 

完全にクリエイターの闇に堕ちながらキーボードを凄まじい勢いで叩く詩羽。

今まで何回か詩羽のこの状態を見てる倫也でもドン引きするくらい端から見たら酷いものだった。

そしてふとした時にキーボードを叩く音が止まる。

「ねぇ倫理くん」

「はいっ!!なんでしょうか!!」

「どうしたの?そんな怯えて」

「な、なんでもないです!!」

「?まぁいいわ、お腹空いたからコンビニでなんか買ってきて」

「はい!!」

作家モードの恐ろしさが尾を引き、思わず敬語になってしまう倫也は足早に玄関に向かう。それを詩羽はこてんと首を傾げながら見送るのだった。

倫也が外に出ると詩羽の家に来たのが夕方くらいだったのに、もう太陽が東の空から顔を出していて、相当な時間が経っていることに気づく。

片手間に素早く食べられるようパンなどを買って詩羽の部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

玄関を開けると聞こえてくるのはシャワーの音、ドギマギしながら風呂場の前を通るとシャワーの音が止まり

「おかえり、倫理くん」

玄関の音で気づいたのかシャワーを浴びていた詩羽から声を掛けられる。

「うぇっ!?た、ただいま。詩羽先輩」

変な声が出てしまう倫也、詩羽はくすりと笑う。

「私のお風呂姿想像して興奮しちゃった?」

「そんな事ないです」

「そうよね、夜な夜な取っ替え引っ替えいろんなタイプの女の子を部屋へ連れ込んでは熱い夜を過ごしている倫理くんにはこんなの慣れっこだものね」

「ただのサーク活動だから!!ゲーム制作に熱い夜を過ごしてるだけだから!!」

「ねぇ倫理君、部屋に着替え置いてきちゃったの、取ってきてくれる?じゃなきゃ裸のまんま扉の向こうにいる男の子の前に出なきゃいけないから」

倫也の反論を無視して更に追い討ちをかける詩羽。とても楽しそうな顔をしている。

「すぐ取ってくるから、絶対に目の前の扉は開けないで下さい」

詩羽の部屋に戻り、ベットの上に揃えられた詩羽の着替えを取り、彼女の元へ素早く戻る。

モコモコした女の子らしい部屋着の上に何か乗っていた気がするが気にしないことにした。

「詩羽先輩、ドアの前に置いてあるから。後ろ向いてる間に取ってね」

「あら?早かったのね。てっきりお風呂の妄想で溜まったものを私の下着で発散してくると思ったのだけど…あっ……倫理くんもしかして……ごめんなさい」

「ねぇ今何に対して謝ったの!?何もせずに着替え取ってきただけだから!!」

「さぁ倫理くんご飯食べたらすぐにシナリオに戻るわ。何してるの?早く部屋に戻りなさい」

「俺の意見は無視ですかそうですか……」

ため息を吐きながら倫也も詩羽に続いて部屋に戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば倫理くん」

ふと倫也の前にいた詩羽が彼の方に振り返る。

倫也はまた何か弄られるのかと覚悟するが

 

 

 

 

「さっきの『おかえり』『ただいま』ってやりとり、夫婦みたいで凄く嬉しかったからまたやってね?」

 

 

 

 

 

とびっきりの笑顔でそんな事を言ってきた。

 

 

 

 

 

「そんなこと言われたら、余計しづらくなるんだけど」

恥ずかしさから顔をそらすが

 

 

「だめ?」

 

 

そらした方向に詩羽が回り込んで詩羽が迫る。

シャンプーのいい匂いと詩羽のシャワーを浴びたばかりのほんのり赤くなった顔が近くに来るので

 

 

「シナリオ書けたらね」

 

 

思わずそんな事を倫也は口走ってしまう。

それを聞いた詩羽はしてやったりと言わんばかりの顔をして

 

 

「そう?じゃあ一層頑張らないとね?倫也くんにも協力してもらうから。言質は取ったわよ?」

 

 

倫也の唇に人差し指を当て、可愛らしくウインクをしてくる。

そして踵を返すと軽くスキップをしながら部屋に戻っていった。

その後ろを顔を真っ赤にしながらも、幸福に頬を緩ませた倫也がついていく。

 

 

 

「今更だけど、ホントにとんでもない人を好きになっちゃったなぁ……俺」

 

 

 

詩羽に聞こえない声で倫也はそんな言葉を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作との違いはこのSSオリジナルと思って頂くとありがたいです。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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