仮面ライバーサンシャイン 光の導き手 (シママシタ)
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序章
さらなる初まり


人は必ず何かを抱えて生きている。思い、責任なんて挙げていったらキリがない。そんなで無数にあるもの中でも必ずと抱えてると言ってもいいほどものがあるんだ。

それは心の闇。嫉妬や妬み、捨てたい過去、過ち……簡単に言えば心にへばりつく呪い。そんな呪いを人は必ず抱えている。それでも人はそんな闇を隠し、必死に生きる。でも……もし抱えきれないほどの闇だったら、どうなると思う?それはね怪物になるんだ。……比喩とか例えかと思ったのかい。残念。文字どうり怪物になってしまうんだよ。

人は闇にのまれると、Seadと呼ばれる怪物になるんだ。Seadは心の海から生まれる悪意の種。そんな小さな種が開くことで人はたちまち怪物へと変わってしまう。

……Seadになってしまった人達は素の姿に戻れるかって?残念なことに現在においてはそんな手段はない。そんな落胆することじゃない。現在はって言っただろう。あぁ、見つけたんだ。Seadから人へと戻す手段をね。だから、僕はそんな希望の光を探しに旅に出るんだ。……心配するな光助。父さんは必ず戻ってくる。

ついでにおもしろい土産話でも持って帰ってくる。それまで……家族のことを頼むぞ。

 

♦︎♦︎♦︎

 

とある海岸線に一つのバイクが唸りと環境に悪そうな煙を御構い無しに蒸し、颯爽と走る。そのバイクの乗り手、舘 光助は暖かな日差しと心地よい海風を感じながら、とある目的地へと向かっていた。

 

「あぁ、いい風だ。まるで、新天地へと向かう俺を歓迎しているようだな。」

 

興に乗った光助はアクセルを踏み、さらにスピードを上げる。

 

「これから目指す場所でどんな出会いがあるかなぁ!ワクワクするなぁ!」

 

光助は先程から同じ言葉を何度も繰り返し呟いている。それほど新しい場所が楽しみなのだ。つい先日まで、光助は東京に住んでいたが、わざわざ母親に無理を言って、とある場所に行かせてくれと懇願した。その場所とは静岡県、沼津市。行方不明の光助の父親が最後に目撃された場所であった。

光助の父親は考古学者で光助が幼いころに調査に行くと言って、家を出て、それから1度も帰ってくることはなかった。光助はその父親を探すため、そして父親の言っていた希望の光というのも探すためにこの内浦に来たのだ。

 

「待ってろよ、父さん。あんたとあんたの探していた物を見つけ出してやるさ。」

 

唇を噛み締め、ハンドルを強く握りしめ、光助は内浦へと向かっていた。

 

それは新たな伝説の幕開けとなるのは光助自身も知る由もなかった

 

 

 

 

 

仮面ライバーサンシャイン! 光の導き手

 

 

 

 

 




ラブライブサンシャインの小説だよ!
本格的に始まるのはサンシャインのアニメが終わるころかな?←何故、今始めるのかというのは禁句ね

もう一つ、仮面ライバーを連載してるけど繋がりは……考えています。ていうか、まだもう一つのは序盤だからね。
よかったらそっちのほうも見てください。


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目覚める光

はい、第2話です。
今回は何と、変身します。2話でですよ!早くないですか?早くないですね。



日本一の富士山と海を望める町、静岡県沼津市。桜内梨子はつい最近この町に来た高校二年生である。親の事情で東京の秋葉原から引越してきたのだ。

梨子はこの町についてよく知るために、現在、海岸沿いを散歩をしている。海からの心地よい潮風と気持ちのよい暖かな日差しを楽しみながら散歩を楽しんでいた。

 

「あ、第一町人発見。」

 

すると、急にバイクに乗った男に声をかけられ、梨子は驚き、思わずこけそうになってしまう。

 

「いやいや、ただ道を聞きたいだけなんだよ。このさ、空丸遺跡に行きたいんだけど。」

 

男はそう言って警戒心解くために、素顔を見せるようにヘルメットを外す。

ヘルメット外したその顔は、白い髪にパッチリの二重で鼻が高く、中性的な顔立ちでモデルでもやっているのかというくらい顔が整っていた。素顔を見せたことで梨子の警戒心は和らいだものの、この町に来たばっかりであり、道の案内など教えることは出来ず、むしろ教えて欲しいくらいだった。

 

「えっと……すみません。最近この町に引越してきたばっかりであまりよく知らなくて……」

 

「そうか。どうしよっか……」

 

「あの、何かお困りですか?」

 

めぼしい情報を得れず、これからどうしようかと少年が悩んでいると、みかん色の髪とグレー色の少女が現れ、少年に声をかける。

 

「あぁ、うん。空丸遺跡って所に行きたいんだけどね。」

 

「あっ!それならこの道をカクカクシカコ、それで三森商店の角を曲がってクスクスくっすんすれば辿り着くよ。」

 

「おお!ありがとう!おかげで助かった。」

 

初対面だと言うのに、快く道を教えてくれたみかん色の少女に少年は目一杯の感謝をする。

 

「そういえば見かけない顔だけど?」

 

するも、グレー色の少女が梨子と少年の顔をマジマジと見つめてそう言った。道を教えてくれた時には気づいていたが、どうやらこの2人の少女は長くこの町に住んでいると少年は思った。

 

「あぁ、今日この町に越してきたからね。因みにこの子もだよ。」

 

「えっ?……うん。」

 

まるで長年一緒にいる友達のように少年に紹介され、その自然さに梨子は疑問に抱きつつもただ少年と2人の少女の会話を聞くだけであった。

 

「そうなんだ!それならこれから顔を合わせることも多くなるかもね。そうだ!自己紹介しようよ。私は高海千歌。ちかっちって呼んでね。」

 

「私は渡辺曜。よろしくね。」

 

みかん色の子は高海千歌とグレー色の子は渡辺曜は元気よく自己紹介し、少年に好印象を与えた。

 

「ちかっちと曜ちゃんね。よし、覚えた。次は君だね。」

 

「えっ!わ、私は桜内梨子って言います。」

 

また突然に話を振られ、準備が出来ていなかったことと緊張でどもりながら何とか自己紹介をすることが出来た。安心して大きな息を吐くと最後に少年が名前を言った。

 

「それじゃあ、俺の番だな。俺の名前は舘光助。よろしく!」

 

「光助君か〜それじゃあ、こうちゃんって呼んでいい?」

 

「ちょっと、千歌。年上かもしれないよ?」

 

確かに光助は身長が高く、顔つきも少し大人っぽいというか中性的なせいか何処か色っぽく、少なくとも千歌と曜と同じ高校生には見られなかった。

 

「ということは君たちは高1?」

 

「いえ、私たちは高校2年生で。」

 

「なら同い年じゃん。だったら別に問題なんてないよ。」

 

光助が同い年だと知った、3人は驚きを隠せない。それほど、見た目とのギャップがあるのだ。

 

「というか、みんな同い年なんて……」

 

「梨子ちゃんもなの⁉︎すごい!こんだけ同い年が集まるなんて、私たちは何か持ってるね!」

 

梨子はその偶然に驚き、千歌は楽しんでいた。そんな2人の態度を見た曜はやっと光助との距離を縮め、改めて曜なりの自己紹介をする。

 

「そうかも。なら改めて光助君、梨子ちゃん、ヨーソロ!」

 

「ヨーソロ?」

 

右手で敬礼をして、軍人かなんかのように振る舞う曜。その様子に2人はぽかんとするが、なかでも気になったのがヨーソロという言葉であった。都会から来た2人にはその言葉の意味がまったくわからず、頭の上にハテナマークがたくさんを浮かべる。そんなよくわかってない2人に曜はその意味を話した。

 

「私のお父さんはね船の船長をやってて、ヨーソロっていうのは船を操縦する時に真っ直ぐに進みたい時に言う言葉だよ。」

 

「父さんが船長……すごいなぁ。」

 

とりあえず、その言葉が船にかんす父さんという言葉に少しだけ光助は反応を示すが、すぐに切り替える。

 

「そういえば、何で空丸遺跡なんかに行くの?」

 

「まぁ、探検かな?」

 

「探検⁉︎私も行きたい!」

 

「でも、空丸遺跡って数年前に周辺で土砂崩れがあって立ち入り禁止って内田さんが言ってなかったっけ?」

 

好奇心旺盛な千歌は一緒に遺跡に行こうとするが、曜は衝撃の一言を放ち、千歌は不満足そうな表情へと一転する。

 

「そうか……俺には関係ないけど。」

 

「行くきなの⁉︎危険じゃないかな……」

 

それでも光助は行こうとしており、梨子は危険だと引き止める。しかし、そんな警告を光助は耳に入れることはなかった。

 

「そうかもしれないけど、命をかけてでもやらなきゃいけないことなんだ。」

 

「ほら、こうちゃんもこう言ってるんだし。……因みに今のはこうちゃんのこうとこう言ってるんだしをかけて……」

 

「千歌、説明しなくていいから。」

 

千歌の悪い癖が出たと曜はため息を吐く。千歌はいきなりよくわからないダジャレを言い、周りを困らせる。本人にはその気はないのだが。さらにしなくてもよい種明かしも込みで周りはさらに反応に困るのだ。

 

「というか、ちかっち。命かけるって言ってるのに行く気なのか……」

 

「まぁ、いいじゃん!道案内も兼ねてね。」

 

「だがなぁ。」

 

「よーし、レッツゴー!」

 

光助の心配を他所に千歌はそう勝手に決め、1人で歩き始めてしまった。

 

「なぁ、曜ちゃん?」

 

「何?」

 

「もしかしてちかっちって、大変な子?」

 

「……そうだね。」

 

光助は曜の今まで苦労とこうなれば千歌を止めることはできないと悟り、半ば諦めた様子で千歌の後を追った。そして、そんな2人が心配な曜と梨子も渋々だがついていくことにした。

 

♢♢♢

「ここが空丸遺跡の入り口……」

 

歩き始めてから30分後、ようやく目的地である遺跡の入り口に辿り着いた。その入り口は海岸沿いの林のところにあり、曜の言っていたとうり、立ち入り禁止のようで、黒と黄色のテープが設置されてあった。

 

「とりあえず俺だけでも入るか。」

 

「えー!ずるい、私も入る!」

 

「千歌……流石に危ないよ。」

 

千歌が光助に続き、立ち入り禁止エリアの入ろうとするが、やはり危険と判断した曜は引き止める。しかし、千歌は子供のような理由で曜の警告を一掃する。

 

「でもおもしろそうじゃん!ねぇ、梨子ちゃんもそう思うでしょ?」

 

「えっ⁉︎私は……止めたほうがいいと思う。」

 

千歌に話を振られ、同意を求めるが、梨子も曜と同様に反対だったため、賛同せずに曜と同じようなことを言う。

 

「まぁな、普通なら曜ちゃんと梨子ちゃんの言ってることが正しいな。」

 

「わかってるなら光助君も……」

 

「だからさっきも言ったろ、命かけてもやらなくちゃいけないんだから。」

 

発案者である光助もその危険性を知っており、2人の意見には理解は十分であった。だからといって、光助にとってそれは止める要因には弱く、1人で行こうとテープをくぐる。

 

「とりあえず俺は行くよ。来たいなら来ればいい。」

 

「よーし!探検に出発!」

 

「ちかっち!危ねぇから走るなって!」

 

光助の後に続くどころか先を行く千歌に光助は慌てて、千歌の前に出る。誰かがついてくるのなら光助は前に出なければならいないのだ。そうすることによって、誰よりも先に危険を察知し、後ろの安全を最大限にすることが出来るからだ。

 

「もう千歌ったら!」

 

危険なのは承知だが、先行く千歌が心配になり、曜もテープをくぐって行ってしまった。

 

「ちょっと……」

 

そして1人取り残された梨子は、どうすればいいかわからず、半ばやけくそでテープをくぐった。この先に祠があるということで道はそこまで荒んでおらす、予想以上にはあるきやすかった。そして、すぐにみんなと合流することが出来た。

 

「結局みんなついてきたのか。」

 

後ろを振り向き、光助は少し呆れ越しにそう呟いた。これからどんな目にあうかわからないのにと内心思っていたが、それが間違いだったことに気づく。なんと、そんなことを思っている間に目的の遺跡に着いてしまったのだ。土砂崩れの影響で周り道など覚悟していたのだが、そんなことはせず、道を辿るがままだった。

 

「これが空丸遺跡……」

 

「なぁ、曜ちゃん。本当に土砂崩れなんてあったのか?」

 

「うん、確かにそう聞いたけど……」

 

「そうか……見る限り。土砂崩れどころか落石すらも起こってないはずなんだか。まぁいい。」

 

光助は事前情報との大きな矛盾に頭を悩ませるが、今は考えてもしょうがないと思い、頭を切り替える。

 

「祠以外何もないね。」

 

千歌が残念そうに呟く。確かに広場の中心に古びた祠がポツンと建てられていただけだったのだ。しかし、光助にとっては都合のいいことであった。なぜなら、目的の物を探すのに目星が祠が以外無いのだから、無駄な時間が割けられるのだが。

早速、光助は祠を開け、中に何かないかまさぐる。

 

「光助君⁉︎何やってるの!」

 

「そんなことしたらバチが当たるよ!」

 

「父さんの言う通りになら……」

 

曜と梨子はその行動に驚き、止めようとするが光助はただ無我夢中に目的の物を探す。そして、ピタリの動きを止め、不審に思った3人は急いで光助の元に駆け寄った。

 

「見つけた……」

 

「何これ……」

 

梨子は光助の探し求めていたものを目の当たりにして、顔を歪ませる。

 

「ただの石だよね?」

 

千歌は光助の手に握られた物を見て、思わず本音を漏らしてしまう。だがそれもそうで、光助自身も現物を目の当たりにして千歌と同じ思いを抱いていた。

 

「だよな……。でも、父さんが言うにはこれの希望の光っていうアーティファクトらしいんだけど……。これじゃあ、海岸の石と見間違えてもおかしくないな。」

 

「父さん?希望の光?」

 

「いや、こっちの話だから気にしなくていいよ。とりあえず、家に戻ってゆっくり調べてみよう。」

 

バックから袋を取り出し、そのアーティファクトを仕舞おうとしたその時、後ろから突然声をかけられ、全員がビクッと反応してしまう。

 

「ここで何をしているんだい?」

 

恐る恐る後ろを振り向くと、いたって普通の格好をした30代の男性がこちらを睨んでいた。何故そんな普通の男がこんなところにいるのか。そんな理由など安易に予想できた。

 

「ここは立ち入り禁止ではないのか?」

 

若い男女が立ち入り禁止エリアに入るところを見れば、誰だって気になるし、注意するのは当然だ。直様、曜は頭を下げ、ここから離れようする。

 

「ごめんなさい!すぐにここから離れますから。」

 

「それだけで済むと思ってるのかなぁ?」

 

「じゃあ、どうすればいい?」

 

光助がそう言うと男はニヤリと笑い、不穏な空気を醸し出し始めた。

 

「なら、渡してもらおうか……」

 

すると、当然男が黒い霧に包まれる。そしてその霧が払われるとその中から男性ではなく。

 

『君達の命を!』

 

青と紫の色をしたジャガーのような怪物だった。

 

「人が……化け物に!」

 

千歌と曜はそんな突然のことに恐怖し、パニック状態になる。しかし、梨子は恐怖こそするが、2人とは違った恐怖だった。

 

「オ、オーガ⁉︎……」

 

「違う!あれは……Seadだ!」

 

光助は怪物の名前を言うと3人を守るように前に立ち、ジャガーSeadと正面から対峙する。

 

「みんなは早く逃げるんだ!」

 

「こうちゃんはどうするの⁉︎」

 

「あいつの足止めをする。」

 

「無茶だよ!」

 

「自分で蒔いた種だ!自分でどうにかするさ!」

 

千歌の制止を振り切って、光助は無謀にもジャガーへと立ち向かう。

 

『人間のくせに生意気な!』

 

光助はジャガーの腹に全力のパンチを叩きこむがビクともせず、逆に腕を掴まれ、地面に叩きつけられてしまう。

 

「グハッ!」

 

そしてジャガーは光助の胸を何度も踏みつけ、その度に光助の口からは空気が抜けるようにひゅうひゅうと音が漏れる。

 

『ふん、他愛もない。』

 

瀕死の光助を他所にジャガーは千歌たちのほうにゆっくりと迫る。千歌たちは急いで逃げようとするが、恐怖で足が竦み、動けずにいた。

 

「やめろ!」

 

だが、そんな彼女たちを少しでも逃げる猶予を稼ごうと光助は地面に伏せながらもジャガーの足を掴み、動きを少しでも止めようとする。

 

「友達には……死んでも手を出させない!」

 

そう光助が言ったその時!地面に落ちていたアーティファクトが光っていたことに梨子は気づき、急いでアーティファクトを手に取る。

 

『小癪な!なら、望み通り死なせてやる!』

 

そして、ジャガーが光助の頭を踏み潰そうとした足をあげた瞬間!

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

梨子がアーティファクトを持ったまま、ジャガーに体当たりをくらわす。幸いなことに片足をあげていたため、ジャガーはそのままバランスを崩し、その場に倒れた。そして、梨子はすぐに光助を引っ張り、ジャガーと距離を置く。

 

「梨子……ちゃん……」

 

「光助君!これ!」

 

梨子は光り輝くアーティファクトを光助へと差し出す。

 

「何で光ってるんだ?」

 

「わからないよ!でも、それが希望の光じゃないのかな?」

 

光助はその光ることに疑問を抱いたが梨子のその一言で理解した。そしてニヤリと笑い、アーティファクトを手に取り、握りしめる。すると、光助の頭の中に声が響き渡る。

 

『お前は自らを犠牲にして戦えるか?』

 

実態のない声は光助にそう問いかける。自分を犠牲にとはと光助は考えた。命、記憶、体、存在……それらを犠牲にしてまで戦う。背後から得体の知れない何かが這い寄ってくるような気がした。そしてそれに捕まったら最後、二度とそれからは逃げられないのだろう。死ぬまで背負う呪い。そこまでして戦う必要などあるのか?光助はひたすらに自分に問いかける。

ふと、ジャガーを見る。ジャガーの背後には男性の幻が苦しんだ様子でこちらを見ていた。そして手を伸ばし、助けを求めていた。光助はその手を掴もうと目一杯は伸ばしたが届くことはなく、男性の幻は消えてしまった。

 

「この手じゃ……何も掴めない。」

 

そして光助は自分の無力さ知る。さらに目の前に男性の末路が映し出される。

ジャガーは光助達を皆殺しにし、元の男性へと戻る。そして、遺体が重なる現場を見て、男性は恐怖で発狂し、嘔吐する。さらに心からジャガーが男性に頭にこの殺人のシーンは流し込ませる。男は見たくないと目を瞑るも映像は途切れることなく、逃げ場すらない。男性がジャガーへとなり、自分たちを殺し、男性へと戻る。それを何度も見せる。これは自分じゃないと男性は否定もする、時間が経つにつれ、男性の精神は崩壊し、終いには自分がやったと言ってしまう始末。

そして、心の闇に囚われた男性は完全にジャガーに乗っ取られ、死んだ。

 

「どうして……こんな!」

 

光助の心に霧がかかる。心の闇という無情な悪意に絶望する。そして、誰の心にも潜む悪意に怒り、嘆いた。一体これをどうやって救えばいいと心の中で叫ぶ。そんな悩み、立ち止まる光助に救いの手が述べられる。

 

『お前なら出来る。』

 

「と、父さん⁉︎」

 

先程の声とは打って変わり、ただの声から暖かく、優しげな声が光助に語りかける。そして、その声は光助の霧かかった心に突き刺さる。

 

「父さん!父さん!」

 

ハッと気づいた時には声が聞こえなくなり、視界が明るくなる。ふと回りを見回すと、最初に声が聞こえたあの時から状況は変わっていなかった。まるで今まで時が止まっていたかのようだった。そして、その時間に見たもの思い出す。バラバラだった思いは1つになり、自然とやるべきことが見えた。

 

『小娘が!』

 

怒りを露わにし、ジャガーは立ち上がり、梨子を殺そうと標的に定める。梨子はそれに恐れ、足が震える。だが、そんな梨子を庇うように光助が再び前に出る。

服は土で汚れ、顔は傷だらけで体にはガタがきている。にもかかわらず、勇敢にジャガーへと立ち向かう。そしてポツポツと自分の思いを語り始めた。

 

「俺は……父さんの言ってた希望の光ってものを見つけたかっただけだ。父さんの研究は嘘じゃないし、無駄じゃなかったって証明したかっただけなんだ。だからSeadとなんて戦いたくないし、今すぐ逃げたいさ。でも……折角できた友達を失いたくない!」

 

右手に握りしめられたアーティファクトを強く握りしめる。すると、アーティファクトが目を開けることが出来ないほどの光を発し、梨子達とSeadは思わず、目を瞑ってしまう。しかし、光助はずっとアーティファクトを見つめていた。

 

「それに父さんはきっと、Seadになった人達を救いたいからこそこんな研究したんだろうな。……だから、俺はそんな意志を継ぎたい!」

 

アーティファクトをお腹に当てると、とある変化が起きる。今まで、石同然だったものが、鉄のようなものにかわり、黒と金色のラインの入ったドライバーへと変わる。そしてベルトとなり、光助の腰に巻かれる。

 

「覚悟……決めた!俺は戦う。みんなを救うために!底知れぬ闇に飲まれた人達を俺はこの手で助けたい!例え俺がどうなろうとも俺は戦う!」

 

手を目一杯前に出し、手を開けてグッと握りしめる。そして、光助が覚悟を決め、勇気ある一歩を踏み出した時、アーティファクトの中心にある透明な玉が輝き、光助は光に包まれる。

 

「光助君!」

 

梨子は光に向かって光助の名前を叫んだ。もしかしてこのまま消えてしまうのではないかと不安を抱きながらその光を見つめた。そして、光の中現れたのは光助ではなく

 

 

金色の肉体をまとった戦士であった。胸と腹筋は筋肉のような金色の鎧武となり、肩と脚にも同様の鎧をまとい、それ以外の所は黒く染まっていた。顔は額に一本角があり、目は水色の複眼で目の下には赤い涙が流したような跡があった。

 

 

「あ、あれは⁉︎」

 

「光助君……なの?」

 

目の前の超常的な光景に千歌と曜は目を疑うばかりであった。

 

『お、お前は何者なんだ!』

 

『さあな、自分でもよくわからないさ。でも、これであんたの心の闇を振り払えるのは確かだ!』

 

光助は構えを取り、ジャガーに挑発する。その挑発にまんまと乗ったジャガーは体制を低くし、光助に狙いを定めた。

 

『ふん!折角、体を乗っ取ったていうのに簡単に手放してたまるか!』

 

ジャガーは一気に走り出し、光助に襲いかかる。それを光助は悠々と避け、後ろからジャガーを掴み、投げとばす。

 

『パワーが上がっているだと⁉︎』

 

ジャガーはさっきより格段に力が強くなっていることに気づき、緩んでいた心を一気に引き締める。

 

『おりゃあ!』

 

光助は一気に跳び、ジャガーの顔面を殴ろうとするが、腕を掴まれ、防がれしまった。そしてジャガーは空いた左腕で光助の腹にパンチを決める。

多少、呻き声を上げるが、パンチによって防ぐ術を失い、がら空きになったジャガーに思いっきり蹴りを入れ、吹っ飛ばす。

ジャガーが痛みで動けないその隙に光助はジャガーと距離を取る。そして、助走をつけジャガーに方に跳び、左足を突き出し「ライダーキック」繰り出す。

 

『ガァァァァァァァァダァッ!」

 

突き出した左脚には光の衣がまとわれ、そしてジャガーへと激突する。

 

『ぬわぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

断末魔の叫びをあげるジャガーは左腕にまとわれていた光の衣に包まれ、叫びが聞こえなくなると同時に光の衣が消え、中から元の男性が倒れた状態で現れた。千歌たちは男性の状態を確認するため、急いで駆け寄った。気を失ってはいたが幸いなことに、命に別状はなくホッと胸を撫でおろす。

 

「どうやら無事だったようだね。みんなもその男性。」

 

その声に反応し、千歌たちは一斉に振り向く。そこには金色の戦士ではなく、中性的な顔立ちをした光助がそこにいた。そして、光助の顔を見るや否、千歌は説明を求めた。

 

「こうちゃん!あれって何なの?」

 

「さあな、自分でも何なのか本当にわからないんだ。」

 

「仮面ライダー。」

 

梨子はとある英雄の名前を呟き、光助達は一斉に梨子を凝視する。

 

「私には光助君が……仮面ライダーに見えた。」

 

「仮面……ライダー……」

 

光助は自由と平和の為に戦う戦士の名前を呟いた。

 

伝説は再び蘇る




今回の仮面ライバーはクウガとかアギトみたいなテイストで行こうと思います。
そして、別の自分の作品と続くことも決定しました。が、別にそっちの方は読まなくてもいいように話は考えます。ここはクウガとアギトの関係性をイメージしてください。
あっ、読まなくてもいいって言いましたが、暇があれば読んでください。


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その戦士の名は

舘 光助
学年 高校2年生
誕生日 6月30日
星座 蠍座
血液型 AB型
身長 175cm
趣味 歴史 史跡散策
特技 大食い
好きなもの 激辛のカレー
嫌いなもの 酸っぱいもの

風都から沼津に引っ越してきた青年。容姿は極めて中性的で初見では女性と間違われることも多い。また、目の色は黄色で白髪。スタイルは極めてよく7頭身。
性格は容姿に似合わず明るく熱血漢で大胆。一度決めたら、何が何でもやるというのが光助のスタンス。
父親の影響もあり、歴史に関しては既に東大教授レベルの頭脳を持つ反面、それ以外の科目については並のレベル。
沼津に引っ越してきた理由は行方不明の父親と希望の光を探すため。




光助は防波堤に座り、遠くの海岸線を見つめる。海の匂いと心地よい潮風を肌身に感じながら、先程のことを考える。

突如、Seadが現れ、それを光助は希望の光を使って、異形の戦士へと変身し、Seadを倒した。そのあまりにも浮世離れしたことに、体感した光助ですら理解が追いつかず、答えを出そうにも色んな考えが頭の中でごちゃ混ぜになり、まともな答えが出ない。

 

「考えるの辞めた。」

 

全てを投げ出し、寝そべって青空を仰ぐ。空には雲ひとつのなく、光助の頭の中とは正反対にすっきりとしていた。

そんなスッキリとしあ空に軽く嫉妬していると、飲み物を買いに行っていた千歌と曜と梨子が戻って来た。そして、光助は起き上がり、3人を迎える。

 

「光助君、これ!」

 

そして、梨子が光助に買ってきた飲み物を差し出し、光助はそれを快く受け取る。

 

「ありがとうね。なんかパシらせちゃって。」

 

「ううん、別に平気だよ。それに光助君は戦ったんだから。」

 

梨子は優しげな笑みを光助を向け、光助はそれにどぎまぎとし、慌てて飲み物を口をつける。しかし、慌てたせいで光助はとんでもない目に遭うことになった。

 

「ブハッ!」

 

「こうちゃん⁉︎」

 

突然、光助が空に向け、飲み物を噴水のように吹き出したのだ。そのあまりのことに3人とも光助の方に注目してしまう。

 

「だいじょうぶ⁉︎」

 

梨子を筆頭に3人は何か異変があってのことなのかと一抹の不安を抱き、急いで光助の元へと駆け寄る。

そして、光助のその表情を見て絶句する。

 

「しゅ、しゅっぱぁい!」

 

目は細くなり、口はすぼんでおり、なんとも言えない表情であった。その顔はまるで本気で緊張して、プルシェンコのような顔になった宮田さんのようだった。

 

「えっと……もしかして、酸っぱいのダメだった?」

 

「うん……」

 

曜の質問に、涙を溜めながら光助は弱々しく答える。Seadに勇敢に立ち向かった光助が、酸っぱい飲み物を飲んだだけで涙ぐむ姿を見て、3人は変わってるなと思った。

 

「いや……疲れた時にはクエン酸をとるのがいいかなって思ってて……ごめん。」

 

「しょうがないよ……前もって言わなかった俺にも責任があるし……」

 

光助も曜には悪気があってやった訳ではないことなど十分承知であった。謝る曜に光助は自分が言わなかったのが悪いとフォローしたが、気まずい状況になる。

 

「酸っぱいものを買って、すっぱいだったね。」

 

すると、そんな状況を打開するためか、はたまたただ思いついだけなのか、突然、千歌がダジャレを言い、気まずい空気から反応しづらい空気へと変わる。

 

「あっ、因みに今のは酸っぱいと失敗をかけて……」

 

「説明しなくて、いいから………」

 

千歌がダジャレをし始めようとした時、真っ先に梨子が遮り、これ以上、場を冷えることを阻止した。

 

「まぁ、気を使ってくれてありがとうね。」

 

だが、何はともあれ千歌のダジャレが気まずい空気を吹き飛ばし、明るい雰囲気になる。

 

「そういえばさ、梨子ちゃんはこうちゃんのあの姿を仮面ライダーって言ってたけど?仮面ライダーって何?」

 

「確かに私も仮面ライダーが何か気になるなぁ。」

 

一旦、区切りがついたところで千歌が梨子に仮面ライダーとは何なのかと聞いた。それに梨子はとても驚いている様子だった。まさか千歌と曜が仮面ライダーという存在を全く知らなかったのだ。さらに誰もが知っているものだと梨子は思っていたので、それだけ驚きが大きかった。

 

「自由と平和のために戦う戦士ってことは知ってる。」

 

「おー!まさに正義のヒーローだね!」

 

その仮面ライダーの説明に千歌と曜は目をキラキラと輝かせる。沼津市はそのような都市伝説がなく、2人にはそのような話が新鮮に感じたのだろう。

 

「その仮面ライダーとあの姿がどう繋がるんだ?」

 

「えっと……複眼のところとか、角があるってところが似たたから。」

 

「梨子ちゃんは仮面ライダーに会ったことがあるの?」

 

「うん、一度だけ助けられたことがあって。」

 

その梨子の一言は3人を驚かせた。さらに千歌と曜にとってそんな梨子のような一般人でさえ、仮面ライダーに助けられる状況がある東京がまるで魔界のように思えた。

 

「仮面ライダーね……」

 

「どうしたの?光助君?」

 

「いや、何でもない。ただ、気持ちのいい響きだなって。」

 

曜の目には光助は異様に仮面ライダーにこだわっているように見えた。その理由はわからなかったが、おそらく光助も仮面ライダーのことを知っていて、あの姿を何か特別な思いを抱いている。曜にはそんな気がしてならなかった。

 

「なら俺は仮面ライダーって名乗ろうかな。」

 

「でも、それだけじゃ、梨子ちゃんの知ってる仮面ライダーと被っちゃうね。」

 

そう千歌が言い出し、確かにと光助は頷く。すると梨子がある名前を提案した。

 

「ホープ……希望の光だから仮面ライダーホープ……はどうかな?」

 

流石に安直だと梨子は思っており、どうかと不安だった。しかし、光助自身にとってはそれが逆に気に入り、その名前を名乗ることを決めた。

 

「仮面ライダー……ホープ……」

 

光助は太陽に手を伸ばし、かざした。自分もこんな太陽のような光になろうと一人決心した。

♢♢♢

「まさか、帰り道までも一緒だとはね。」

 

辺りは茜色に染まり、光助と梨子から伸びる影も昼に比べて大きくなっている。つい先程、千歌と曜と別れ、家が同じ方向ということで2人は一緒に帰っていた。

 

「そうだね。もしかして、家も近いかもね。」

 

梨子は不思議な気持ちに囚われていた。どちらかというと人見知りの自分が今日会ったばかりの人と、さらに男性とこんなにも仲良くなって、気楽に話せているのだ。まさか、

きっと、光助がいい人だからなのだろうと思った。

 

「じゃあ、俺はこの家だから。」

 

「え?」

 

「どうした?梨子ちゃん?」

 

光助か指差す家を目の当たりにして、梨子は驚きを隠せなかった。確かに家が近いかもとは言ったうえ、心の中でそれを願った。すると、まさかこんなことになるとは思いもよらなかった。

 

「ここ私の家!」

 

「ほへ?」

 

間の抜けた返事をして、光助はすぐさまメモを目をやる。

 

「メモ帳……うん間違ってない。ということは……」

 

何度もメモを読んだが、そこに書かれていた住所には間違いなく、梨子の家をさしていた。すると、光助は自分が居候の身であることを思い出した。それなら、梨子の家にたどり着くのも可笑しくはないという答えに行き着いた。

 

「よろしくね、梨子ちゃん!」

 

満面の笑みを浮かべ、光助は梨子に握手を求めた。状況が全く読み込めず、慌てふためくしかなかった。

 

 

 

♢♢♢

「ここが俺の部屋か。」

 

光助の部屋の部屋を見て、梨子は開いた口が塞がらなかった。それなりに広かった部屋は本棚で半分程狭くなり、その本棚には所狭しと本が置かれていた。

 

「これ全部光助君の⁉︎」

 

「正確には父さんの何だけどね。」

 

梨子は本棚に近づき、じっくりと本を見る。ほとんどの本は分厚く、題名は歴史に関するものだった。

 

「歴史が好きなの?」

 

「父さんの影響でね。」

 

「光助君のお父さんって、どんな人だったの?」

 

まだ高校2年生の光助にここまで

すると、一瞬複雑そうな表情を浮かべるがすぐに崩し、ポツポツと語り始めた。

 

「父さんは考古学者だったんだ。暇さえあれば歴史の話をしてくれて……楽しかったな……」

 

光助は感慨深そうな表情を浮かべ、思い出を振り返る。

 

「そんな父さんがある日、突然あることを話したんだ。心の海に潜む悪意の種、sead。そして、それを祓う希望の光のことを。」

 

「それがあれ……」

 

「うん。」

 

そう言ってバッグから希望の光、もといホープドライバーを取り出し、それをじっと見つめる。

 

「その話をした後、父さんは行方不明になったんだ。多分、これを探しに旅に出たんだ。」

 

そしてドライバーをぎゅっと握りしめる。

 

「それで、俺はそんな父さんとこれを探しにこの町に来たんだ。そしたら早速、お目当の物がひとつ見つかった。」

 

「でも……」

 

「本当。お父さんは何処行っちゃたんだろうな。俺も姉さんも母さんも置いてさ……」

 

光助は呆れたように笑いながら語っているが、その目には寂しさや悲しさが映っていた。

 

「それで、早く父さんを見つけて家族全員で過ごしたいな思ってるんだ。そうすれば……」

 

そして、光助は無邪気な子供のように夢を語る。そんな光助を見て、折角仲良くなったのに、離れるなんて嫌だという思いが生まれ、梨子は思わず本音が出てしまう。

 

「もし、父さんを見つけたら……戻っちゃうの?」

 

「まったく、梨子ちゃんは気が早いなぁ。」

 

そう言って、光助は梨子に薄く笑みを浮かべる。

 

「1年は絶対にいる。少なくともそれまでは梨子ちゃんの家が俺の帰る場所だから。」

 

光助は優しげな笑みでそう答える。そんな光助を見て、梨子はホッと安心したのだった。

 

 




主人公の風都出身は特にストーリーに関係はありません


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伝説の幕開け

長い間、お待たせしました。
第4話です。
今回で序章が終わり、次回から本格的に話が動きます!


光助の目の前は真っ赤に染まっていた。草木は火に焼かれ、黒い煙が立ちこめ、少しでも呼吸をすればむせて咳が止まらない。そして、岩や地面にたくさんの血がべっとりとつき、あたりには死体やその一部がゴロゴロと転がっていた。残念なことに悲鳴は聞こえなず、助けを求める声も何も聞こえない。おそらく生存者はいないだろう。

そして光助はとある闇の集団を見た。おそらくあの闇がこの惨劇を起こしたのだろう。その闇の集団は光助に気づくことなく、周りの木をなぎ倒しながら何処かに向かって歩いていた。すると、そんな惨劇の最中、一つの光が現れる。その光は闇の集団を祓い、一瞬のうちになぎ倒して行った。

しかし、その光は突然、もがき苦しむようにゆらゆらと揺らぎ始め、その光は闇に染まり、闇の存在へと変わった。

そして、その闇の存在は光助に気づき、とんでもない速さで迫ってきた。そのあまりの速さに光助は逃げることも出来ず、一瞬のうちにその闇にのまれてしまった。

 

♦︎♦︎♦︎

「ハァハァ……ゆ、夢……か?」

 

悪夢によって最悪の目覚めとなった光助。全身は汗でぐっしょりと濡れ、シャツが肌にこびりつき不快な気分だった。そんな不快感から逃れようと、シャツを脱ぎ、タンスから新しいシャツを取り出す。

着替えながら一体あの夢は何なのかと考察してみるもあまりいい考えは思いつかなかった。ただ、あの光に関しては何処かで感じたことのあるとてと強い光だったことは確かだった。

 

「光助君、おは……」

 

梨子が光助の部屋のドアを開けて光助を呼んだ。しかし、梨子の目には上半身の裸の光助が映り、梨子は顔を真っ赤にして壁に隠れる。

 

「おはよう、梨子ちゃん。俺の部屋に何しに来たの?」

 

だが、そんな梨子の気など知らず、光助はそのままの梨子の元へと近づいた。そして、梨子は恥ずかしさと背徳感で光助をまともに見れず、目をそらしながら、呼びに来た理由を言う。

 

「う、うん……朝食の準備が出来たから……」

 

「そっか。待ってて。今すぐ着替えるから。」

 

そうとわかると光助は急いで着替えて、梨子と一緒に一階のリビングに降りていった。

 

♢♢♢

朝食後、光助は自室に籠もってひたすら希望の光についての資料と睨み合っていた。しかし、依然としてめぼしい情報は得られずにいた。

 

「どうしたものかね。」

 

机に置いてあったホープドライバーを手に取り、じっと眺める。これはseadと対抗する為に作られたという予想は出来る。しかし一体いつ、何処でどうやって作られたのかは予想することも出来ない。さらに仮面ライダーに変身するメカニズムすらわからず、謎だらけである。

 

「……ダメだ。」

 

光助の脳はあまりの謎の多さでパンク寸前。まともな考えが思い浮かばず、唸ってしまう。

とりあえず、一旦気分を切り替えようと、光助は外へと出る。

 

「やっぱり海はいい。」

 

目の前にある砂浜まで赴き、果てまで広がる海を見て、心を落ち着かせていた。心地よい潮風、さざ波の音、水面に反射する光の全てが綺麗で、その感動がごちゃ混ぜだった光助の心を洗い流す。

 

「いい町だな。」

 

突然、隣から見知らぬ青年が立っていた。横顔からでもイケメンだということはわかり、髪は赤みがかかった茶髪で癖っ毛がすごく、少し不思議な雰囲気を醸し出しいた。

そして、その雰囲気は何処か光助自身と通じるものを感じた。

 

「あなたは?」

 

「まぁ、旅人かな?」

 

青年はただ海を見つめながら光助の質問に答える。

すると、その青年は光助を見るや否、はっきりと言い放った。

 

「君は何か悩んでる気がするんだけど。」

 

まるで自分の心を見抜いてるような気がして、光助は驚きを隠せずにいた。

 

「は、はい。ちょっと調べ物で行き詰まってて……」

 

「本当にそれだけかい?」

 

「はい?」

 

「君は他に何か迷ってるような気がするんだ。」

 

この時、光助は感じた。自分はこの人には何一つ勝てない。おそらく、仮面ライダーに変身してもだ。この人は若いにもかかわらず、まるで何十年間も壮絶の日々を送って、悟りを開いた老人のような貫禄があった。

だからなのだろうか。その溢れ出る安心感と頼もしさに惹かれ、光助は胸の奥に追いやっていた悩みを打ち明けた。

 

「……突然、すごいものを手に入れたんです。」

 

「うん。」

 

「手に入れた時はただ無我夢中で……その時はどうなってもいいと思ってたんです。……でも今になって怖くなったんです。そんなものをちゃんと正しく扱えるのか……それに、自分が自分じゃなくなるみたいで……。」

 

光助の本気の悩みを青年は真面目に聞く。そして、青年は光助に問いかける。

 

「じゃあ、君はどうしてそんなものを手に入れたんだ?例え、それを手に入れることが偶然でも何でも、君にそれを掴ませたきっかけがあるはずだ。」

 

「それは……。」

 

それはseadから梨子達を守るため。かと言って流石に見知らぬ人にそんなことは言えるわけはなく、言葉を濁らす。

しかし、青年はそんな光助の思いを察し、あえてそのきっかけを深く掘り下げることはしなかった。

 

「そのきっかけを忘れなければ道を踏み外すことはないはず。大丈夫だよ。見る限り君は強い。その力に悩んでる間はきっと心配はないよ。」

 

「えっ⁉︎力って!一体あなたは何者なんですか!」

 

青年は光助の抱えていた悩み、力に気づいていた。当然、光助は驚き、一体何者なのかと問いかける。しかし、青年はただニヤリと笑い、そばに置いてあった白いバイクのエンジンをかける。

 

「うん……先輩の言葉を借りるなら……」

 

そして去り際にバイクのまたがり、ヘルメットを被りながら、ある人の決め台詞を呟いた。

 

「通りすがりの仮面……」

 

最後の方はバイクのエンジンと強い潮風の音で聞こえなかった。そして、その青年はそのまま何処かに行ってしまった。

 

「あの人は一体……」

 

結局、あの青年を何者なのかわからず終いであった。しかし、光助はあの青年から自分と似たようなもの同士のような気がしてならない。

さらに、この出会いは何処か運命じみたものではないかと感じたのだった。

 

♢♢♢

「いや〜買った買った。」

 

夕暮れであたりはオレンジに染まっているなか、バイクにまたがりながら大きな荷物を抱え、沼津から帰ってきた光助は満足そうであった。結局、希望の光についてこれ以上調べても何もわからないだろうと考え、とりあえず中止にしたのだ。そして、明日から学校が始まるということでその準備と、その他の日用品を買うために沼津に出ていたのだ。

 

「梨子ちゃんも誘えば良かったかな?」

 

光助の中では女の子は買い物が好きというイメージがあったため、どうせなら連れてくれば今更思った。とは言っても東京に比べてお店も少ないため、満足してくれるかと思えば、そうとは限らなかった。

 

「それじゃ、家に帰って、おばさんのご馳走でも……」

 

ふと、人の気配を感じ、その方向、砂浜に目をやる。

 

「……ちかっちに……梨子ちゃん⁉︎」

 

砂浜にはセーラ服を着た千歌と何故か水着を着た梨子がそこにいた。一体何事かと気になった光助はバイクを道の脇に置いて、2人の元に向かった。

 

「あっ、こうちゃん!」

 

「光助君?」

 

「2人ともこんな所で何をしてたの?それに梨子ちゃん、その格好は?」

 

「……海の音が聞きたくて……」

 

「は?」

 

まず、光助には何故海の音が聞きたいのかということがわからなかったが、千歌が直ぐにその理由を教えてくれた。

 

「実はね、梨子ちゃんはピアノが出来て、さらに作曲も出来るんだって。でも、作曲が行き詰まっててね、それで海の音を聞こうとしてたんだって。」

 

「はぁ。」

 

梨子がピアノを弾けたことと作曲が出来ることに驚きつつも、その奇想天外な行動のおかげで、インパクトとが薄く感じられた。

 

「後ね、東京から来たって言ってたから、スクールアイドルについても聞いてたんだ。」

 

「スクールアイドル……?」

 

千歌の口から聞いたことのない単語を聞いて、光助は顔をしかめる。今まではずっと父親の研究について調べるくらいしかしていなかったため、光助はこういう芸能などの娯楽の情報については少々疎い。

 

「うん、これ見て。」

 

「これが……スクールアイドル……。」

 

すると、千歌はスマートフォンを取り出し、光助に画面を向ける。その画面には制服を着て、何やらポーズを取っている9人の少女達が映っていた。

 

「どう?」

 

「……割と普通でビックリした。なんかこう……煌びやかなイメージがあったんだけど。」

 

「ふふ、こうちゃんと梨子ちゃん、おんなじこと言ってる。」

 

光助は正直に感想を言うと、千歌はほんの少し微笑んだ。それは光助と梨子が全く同じ感想を言ったことに対してだったからだ。

 

「だから、びっくりしたの。」

 

突然、千歌から真面目な空気が醸し出される。

 

「私ね普通なの。」

 

千歌は海を見ながら、自分のことについて語り始めた。

 

「私は、普通星に生まれた普通星人なんだってどんなに変身しても、普通なんだってそれでも、いつか何かあるんじゃないかって思ってたんだけど……気がついたら高2になった。」

 

そして、千歌はスマートフォンにイヤホンを取り付け、光助に手渡し、梨子の隣に座らせる。さらに、光助には右耳に、梨子には左耳にイヤホンをかける。

 

「そんな時出会ったの……あの人たちに!」

 

千歌はスマートフォンの音楽アプリの再生ボタンを押し、音楽を流した。

 

《START:DASH》

 

光助と梨子の片方の耳には心地の良い歌声、メロディが流れこんでいく。

 

「みんな私と同じような、どこにでもいる普通の高校生なのに……キラキラしてた。」

 

千歌は話を続けるも、2人の耳にはμ’sの歌しか入ってこない。特に光助はその音楽に聞き惚れていた。

そして、聴き終えると光助の目から一筋の涙が溢れ落ちる。

 

「光助君?」

 

急に泣き出す光助を梨子が心配する。一方、千歌は聖母のような暖かな笑顔で光助を見つめていた。

 

「……すごいな……この人達……感動しちゃった。」

 

光助にとって初めての感覚だった。時間にしてわずか5分。しかし、そのたった5分が光助の心を強く掴んだ。

 

「ね、すごいでしょ!」

 

千歌は話を聞かれていないにの関わらず、得意げな笑顔を振りまき、光助の感動をしたことを喜んた。

 

「だから、私も思ったの。私もこの人達のように輝きたいって!」

 

そして、千歌は高々に宣言する。自分もμ’sのようにたくさんの仲間と一緒にスクールアイドルをして、輝きたいと。その言葉には何も曇りもない、純粋な憧れと希望があった。

 

「うん……これなの見ちゃったら憧れちゃうよ。」

 

光助は涙を拭きながら立ち上がり、千歌のその決意に同情する。

 

『ぬふふ、いいねぇ。かわいこちゃんがそろってるわ。』

 

突然、不穏な空気と声が聞こえ、3人はその方向を向く。そこには巨大で鋭利な爪を持ち、女性らしい体型をしたSead、「ネイルsead」がチキチキと爪を鳴らしながら、近づいていた。

 

「Sead!」

 

感動的なところを邪魔されたこともたり、光助はseadにギッと睨みつける。

 

『さぁて、私の美の為にこの素晴らしい爪をあなた達の鮮血で染めさせて!』

 

「ひっ!」

 

ネイルのその狂気に梨子は思わず悲鳴が漏れてしまう。

 

『あなた達の体を切り開いてあげるわ!』

 

「いや、切り拓くのは……未来だ!」

 

爪を立て、ジリジリと3人に詰め寄るネイルの前に光助がホープドライバーを携えて立ちはだかる。

 

「あんたにちかっちの夢を、希望を潰させやしない!」

 

そして、ホープドライバーを腰に巻く。すると、ホープドライバーの中心の玉が光り、光助は光に包まれる。

 

『あなたは何者?』

 

ネイルはその光に本能的な危機感を感じ、怖気付く。しかし、何もわからないものにこうも恐怖を覚えるのかわからず、少しでも知ろうと、光助に問いかける。

 

『俺は……仮面ライダーホープ!悪を絶ち、希望を紡ぐ戦士!』

 

その問いに答えるように、光が消えると同時に黄金の戦士、仮面ライダーホープが現れた。

 

『くだらないわ!』

 

文字通り、恐怖を間に当たりにしたネイルはそんな弱気をぬぐうため、くだらないと一言で一層し、気を紛らわせる。そして、一気にホープに詰め寄り、その自慢の爪を振り下ろす。

 

『はっ!』

 

ホープはその攻撃を余裕で避ける。ネイルは攻撃を繰り返すも、ホープは全て避ける。なかなか攻撃か当たらず、ネイルは苛立ちが募る。

 

『ええい!ちょこまかと!』

 

『あんたの動きが大きすぎるんだよ!』

 

ホープは横から振るわれた爪をジャンプで避け、そのままネイルに顔面にキックを決める。

 

『オラッ!』

 

『グワァァァァ!』

 

そして、ネイルが怯んだ隙に、パンチとキックを不規則にかつ連続で畳み掛け、ネイルにダメージを与える。

 

『みんなの希望を消させやしない!』

 

ホープは助走をつけ、高く跳ぶ。そして左脚に光の衣が纏われ、その脚をネイルにめがけて突き出し、跳び蹴りをする。?

 

『ライダーァァァァキィック!』

 

必殺のライダーキックはネイルに直撃し、左脚に纏われていた光の衣は徐々にネイルを包み込む。

 

『ガァァァァァァダァッ!』

 

最後に光の衣がネイルを完全に包み込み、球体になると、ホープは後ろに回転しながらネイルとの距離を取る。

そして、光の球が崩れ去ると中からネイルに取り憑かれていたOLがバサリと倒れた。その女性をホープは咄嗟に抱き上げ、隅へと置いておいた。

 

「光助君……大丈夫?」

 

梨子が心配になり、ホープにそう言うと、ホープは変身を解く。

 

「うん、俺は大丈夫だよ。それより、2人は怪我ない?」

 

ホープから戻った、光助は振り向きながら2人に優しげな笑みを浮かべた。

 

♢♢♢

次の日、梨子は洗面台の鏡の前で真新しい制服を身にまとい、最終確認をしていた。今日から始ま学校生活では幸先のよく始めたいということで、

髪の調子、服のシワなど念入りに確認する。

 

「うん。これで大丈夫。」

 

準備が出来たところで、出発しようと洗面所から出る。

 

「長かったね。」

 

「光助君⁉︎待ってたの⁉︎」

 

「まぁね。」

 

すると、左側で光助が暇そうにスマホを弄りながら梨子を待っていた。光助もこれから学校ということで、中学生の時から愛用している学ランを着こなしていた。顔立ちが中性的なこともあって、まるで男装している女子にも見えなくないということと同時に、わざわざ待たなくてもよかったのにと梨子は思った。

 

「それじゃあ、行こうか。」

 

「うん。」

 

そして、2人は学校に行くために玄関へと向かう。

 

「あら、もう行くの?」

 

すると、後ろから梨子の母親、凛子が2人を見送るために現れた。

 

「うん。」

 

「そうなの。梨子ちゃん、がんばってね。それに光助君も。」

 

「おばさん、ありがとうございます。」

 

凛子に見送られながら、2人は玄関のドアを開け、外へと出る。すると、光助はバイクの方へと向かい、近くに置いてあったヘルメットを2個を手に取り、その1つを梨子へと渡した。

 

「一緒に行かない?」

 

「でも、危なくない?」

 

「大丈夫だよ。俺にしっかり掴まっていればね。」

 

梨子はバイクの2人乗りに少々不安があったが、光助の言い分聞いて、とりあえず乗ってみようと決意し、ヘルメットを被る。それを見た光助は少しだけ笑みを浮かべ、同様にヘルメットを被り、バイクにまたがり、エンジンをかける。そして梨子は光助の背中にくっつくように乗る。

 

「それじゃあ、行きますか。」

 

バイクは唸りを上げて、勢いよく走り出した。

 

「ねぇ、光助君?」

 

「どうしたの?」

 

バイクに乗りながら、梨子が光助にこれからの学校生活のことについて質問した。

 

「……私達が通う学校のことわかってるよね。」

 

「あぁ、わかってるよ。」

 

2人は同じ学校に通う。一見、普通なのだが、光助にとって、否、男子にとってはその学校に行けることはありえないのだ。

 

「……大丈夫だよね、光助君。」

 

そんな学校でたった一人の男子として、少なくとも1年間を過ごす光助が梨子には心配だった。しかし、光助はそんなことはまるで気にしておらず、むしろ前向きに捉えていた。

 

「心配しないでよ。例え、女の子ばっかでも上手くやってみせるよ。」

 

そんな話をしている間に、2人はその学校へと続く坂道にたどり着き、そのままその道を進んでいった。

その坂の近くの看板にはこう書かれていた。

 

浦の星女学院高校

 

そう光助は男子でありながら女子校へと通うのだ。

 

♢♢♢

千歌はため息を大きく吐き、机にうつ伏せになる。

 

「スクールアイドルを始めるのも大変だね。」

 

同じく隣に座る曜も、机に伏せる。

 

「もぉ〜せっかく曜ちゃんが手伝ってくれるのに〜。」

 

「仕方がないよ。規定の人数には足りてないんだから。それに……作曲だね……」

 

2人は今まで、生徒会長に部の設立の申請を行ったのだが、5名という規定のから外れていたことと、いくらスクールアイドルを始めたとしても作曲出来る人がいなければ話にならないと言われ、突き返されて、現在に至る。

 

「作曲なら、私がやれば!」

 

そういうと、千歌は小学生が使うような可愛らしい絵が表紙の音楽の教科書を取り出す。それを見た曜は苦笑いをせずにはいられなかった。

 

「みなさん!これから転校生を紹介します。」

 

すると、担任の先生が教室に入ってきて、クラスの生徒全員か席に着き静かになる。しかし、転校生の話を始めた途端、ざわめき始める。

 

「それで……2人いるんですが……その…………もう1人に関しては特殊な事情があって……とにかく仲良くしてあげてくださいね。」

 

さらに、特殊な事情というのが少女達の好奇心を湧かせ、さらにざわめきが大きくなる。

 

「特殊な事情って……誰なんだろうね。」

 

曜は千歌の耳打ちをする。

 

「それでは、入ってきてください。」

 

「「あっ!」」

 

「それではもう1人の方も。」

 

「「あぁ‼︎」」

 

千歌と曜はその新しい転校生を見て、思わず声をあげてしまう。特に2人目に関しては何故、ここにいるのかと大きな疑問を抱く。

 

「東京の音乃木坂から来ました。桜内梨子です。」

 

「風都の風都高校から来ました。舘光助です。」

 

2人の転校生を見て、クラスは当然どよめく。それもそのはず。浦の星女学院は女子高のはずなのに、新しい転校生はその女子高には似合わない学ランを身にまとっていたのだ。

 

「光助君……」

 

案の定の反応に、梨子は隣にいる光助を心配そうに一瞥する。しかし、そんな心配は無用であった。

 

「あっ、ちかっち!それに曜ちゃん!」

 

「あなた達は!」

 

「こうちゃん!」

 

光助は早速、千歌と曜を見つけて、周りなど気にせず大きな声で2人に挨拶をする。そして、千歌と曜も驚きもあって、それに反応してしまう。

 

「こ、光助君⁉︎何で女子高に⁉︎」

 

「言ったろ、特殊な事情だって。」

 

曜は光助にこの学校に転校してきた理由を聞いたが、光助はただ事情としか、言わなかった。

 

「奇跡だよ!」

 

すると突然、千歌が立ち上がり、光助と梨子の元へと駆け出した。クラスの生徒達は何事かと一斉に千歌に注目する。

 

「2人共!」

 

そして千歌は2人に手を差し出して、あることをお願いした。

 

「一緒にスクールアイドル!始めませんか!」

 

2人は一瞬驚くが、光助はすぐに笑みを浮かべ、その手を取ろうとする。その時、横目で梨子を一瞥する。梨子も笑みを浮かべていて、自分と同様に手を取るのだろうと思っていると、梨子は予想と正反対のことを言い出した。

 

「ごめんなさい。」

 

「ええええええ!」

 

梨子は頭を下げ、丁寧に断ったのだ。直前まで、このまま千歌の勧誘に乗ってくれそうな雰囲気だったのだが、

♢♢♢

とある薄暗い廃工場でひときわ異様で妖艶な雰囲気を漂わせる女性が何かを待っていた。

 

「シキリ様。」

 

すると、何処からか、顔も何もなくただの人形の黒の怪人が現れ、シキリと呼ばれる女性の横に出る。

 

輝惡澄(キオス)が現れました。」

 

それを伝えた黒の怪人は輝惡澄のことを伝えるとすぐさま影となって消えた。一方、シキリは何やら不可解な笑みを浮かべていた。

 

「おい、シキリ!が現れたって本当か!」

 

すると、話を聞きつけたオールバックで上裸の屈強な男、ゴウダメが玩具を見つけたような目をしながらシキリの元に現れた。

 

「落ち着け!ゴウダメ。今は仕掛けるにはまだ早い。」

 

今度は入り口からヘッドホンを首にかけ、眼鏡をかけた細身の青年、メザーグがゴウダメを静止しながら2人の元に歩み寄ってきた。

 

「おい、メザーグ!折角ツェー奴が現れたんだ!早く殺したいとは思わねぇのか!」

 

「確かに早めに対処したいのはわかる!しかし、奴の力がどれほどかわからない以上、無闇に手を出すのは危険だ!」

 

「このチキン野郎!」

 

「脳筋が!」

 

後先を考えないゴウダメと知能派のメザーグは意見か全く合わず、相当仲が悪い。そのため、顔を合わせる度にこうやって互いに噛みつきあっている。

 

「待ちなさい、2人共。」

 

するとシキリが2人の喧嘩を仲裁する。これにはゴウダメもメザーグは何もできない。

 

「今回は私もメザーグの意見に賛成だわ。」

 

シキリのお墨付きをもらい、メザーグはゴウダメに挑発するように目線を送り、ゴウダメは地団駄を踏む。

 

「しかし、いずれは倒さなくてはいけないわ。そうしなければ我々seadの未来はないのだから。」

 

♢♢♢

場所は変わって淡島。この淡島のダイビングショップでは今、松浦果南が開店の準備をしていた。本来なら、千歌達と一緒に浦の星女学院に通っているはずなのだが、ダイビングショップを経営している祖父が怪我をしてしまい、祖父が回復するまで果南はダイビングショップの手伝いをしているのだ。

 

「ふぅ、とりあえずこれでいいかな。」

 

男性でも重く感じる酸素ボンベを果南は何とか運び、酸素ボンベを置くと、額の汗を拭う。そして、目の前の海を眺める。

 

「ちょっとだけ潜ろう。」

 

準備を終え、まだ開店までまだ時間があるということで少しだけ潜ろうかと思い、荷物を持って、沖まで船を出そうした。

 

「……あれは?」

 

しかし、ふと岩場に目をやると何かが打ち上げられており、奇妙な胸騒ぎを覚え、急いでその場所へと向かった。

 

「えっ⁉︎何でこんなところに!」

 

そこの岩場には何と人が打ち上げられていたのだ。うつ伏せであったが、肩くらいにまで伸びた緑色の髪。そして水に濡れたせいで体に服がピッチリとくっつき、細身の綺麗な体のラインと大きなお尻から見るに女性であることはわかった。

 

「と、とりあえず救急車呼ばないと。」

 

果南は冷静に119番をして、救急車を呼んだ。そして、女性を安全な所へと運ぼうと抱きかかえると、女性のズボンのポケットから何かが落ちた。

 

「な、何これ。」

 

果南はその落ちた物へと目をやる。果南の目には黒く銀色のライン、そして中心は丸い玉が入った、アーティファクトが映っていた。

 

 

 

 

 

 

序章 終

 

 

 

 

次回、仮面ライバーサンシャイン

 

「梨子を捕まえろ!」

 

第1章開幕!

 




いかがでしたか?
光助が変身する仮面ライダーにも何やら秘密があり、そしてseadの集会、謎の女性と謎が深まるばかりです。
因みに、海で光助と会話していた人物に深い意味はありません。ただ、自分の作品を読んでいる人なら、あれ?と思うかもしれません。
後、序章では自分のもう1つの学校仮面ライバーと繋がってるのではというところがありますが、次からそういう描写は一切やらないようにします。


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未知なる力

長い間お待たせしました!



「だからね一緒にスクールアイドルやろうよ!」

 

廊下で千歌が梨子を引き留め、スクールアイドルの勧誘をしている。これで何回目なのだろうか。もう数え切れないほど勧誘され、ことあるごとに梨子はそれを断わっているのだが、それでも千歌はめげず、再度勧誘してくるため、梨子は嫌気が指していた。

 

「ごめんなさい!」

 

そして、いつも通り逃げるように千歌達の元から去っていく。

 

「また逃げちゃったね。」

 

千歌の隣で毎度同じやり取りを見ている曜は苦笑いを浮かべる。

 

「あぁ、女子高って不便だな。男子トイレが一個しかないとか辛いよ。」

 

すると、2人の後ろから光助が愚痴をこぼしながら2人の方へ歩いていた。そして、光助を見るや否、千歌は光助に話を聞いてもらおうとした。

 

「ねぇ、聞いてよこうちゃん!」

 

「あぁ、どうせ梨子ちゃんにまた断られたんでしょ?」

 

「嘘!こうちゃんってエスパー⁉︎」

 

「千歌ちゃん……。」

 

毎度同じことを聞いてくるため、光助も千歌の話したいことがわかっており、千歌が言う前に光助が言ってしまった。すると、千歌は光助

 

「まぁ、梨子ちゃんがやりたくないならしょうがないんじゃないかな?」

 

「でも、可愛いし、作曲出来るんだよ!」

 

「とりあえず、何であろう勧誘したいわけね。」

 

まるで話を聞いていない千歌に光助は苦笑いをせずにはいられなかった。しかし、それほど梨子の力が必要なことは十分理解は出来た。

 

「それで、光助君はどうするの?」

 

すると、曜が光助の顔を覗き込み、光助の答えも聞いた。光助もマネージャーという立ち位置でスクールアイドルの手伝いをしてくれないかと2人から誘いを受けていた。

 

「俺?あぁ、手伝えるのならそうしたいんだけど……。」

 

しかし、光助にはやらねばならないことがある。仮面ライダーとしてseadと戦うことに、行方不明の父親を探さなければならず、はっきり言ってマネージャーなどやってる暇などなかった。その為、断ろうとしているのだが、梨子と同じようにすぐに断るのは何か申し訳ないと思い、多少考えるフリし、そして断る理由を伝えた。

 

「仮面ライダー……だから。」

 

「うん……。」

 

案の定、曜はやっぱりという様子で、特に千歌のようにしつこく勧誘などはしてこなかった。

 

「そうだよね……。」

 

千歌も流石に光助にしつこく勧誘も出来ず、そのまま引き下がる。微妙な空気の中、チャイムが鳴り、光助はやるせない気分のまま授業に参加するのであったり

 

♢♢♢

学校が終わり、光助はバイクの後ろに梨子を乗せ、風を感じながら、帰り道を走っていた。

 

「ねぇ、どうして梨子ちゃんはそんなに千歌ちゃんの誘いを断るの?」

 

「それは……。」

 

特に深い意味など考えず、光助はただ気になっていたことを梨子に聞いてみた。しかし、梨子にとってそのことはとても重要な問題であった。かと言って

 

「あのね、光助君。1つだけ言っておきたいことがあるの。」

 

「何?」

 

あまり他の人にこんなこと言うのは光助になら言ってもいいと信頼し、梨子は思い切って悩みを言ってみた。

 

「私は作曲が出来るって千歌ちゃんから聞いているでしょ。でも、今は出来ないの。」

 

梨子のその告白に光助は前を向いたまま、黙って聞いていた。

 

「実は自信が無くなっちゃって……最近はピアノにすら触れてないの。」

 

「そう……いわゆるスランプってやつだね。」

 

光助は冷静にかつ、慎重に言葉を選びながら、会話を続ける。

 

「だけど、海の音さえ聞ければ……。」

 

「梨子ちゃんは本当にピアノが大好きなんだね。」

 

表情こそ見えなかったが、背中が小刻みに震えていたことから梨子は光助が笑っていることに気がついた。

 

「スランプになったらそれから逃げ出すのが常なのに、梨子ちゃんははちゃんと振り払おうとするなんてすごいよ。」

 

「そんなことないよ……。」

 

光助にそんなことを言われて、梨子は照れて、恥ずかしくなってしまう。

 

「でも、だからっていきなり海に飛び込むのは関心しないけどね。」

 

「もう、光助君ったら!」

 

あのことを意地悪そうにからかう光助に顔を真っ赤にしつつ、

すると突然、光助か急に道の真ん中でバイクを止めた。

 

「どうしたの?」

 

「……梨子ちゃん。ちょっと降りてくれない?」

 

梨子は何事かと疑問に抱きながら言われた通り、バイクから降りる。そして、不意にヘルメット越しに光助の顔を見て、思わずあっと言ってしまう。

 

「seadが現れた。」

 

「ちょっと!光助君!」

 

再びエンジンをかけ、光助はもと来た道を戻ってしまった。

梨子は見てしまった。光助がseadを反応した途端、瞳孔が開き、さらに血走って、まるで蛇のような恐ろしい目になっていたことを。

 

♢♢♢

「ねぇ、2人とも可愛いんだからスクールアイドルやろうよ。」

 

ゆっくりとバスの走るなか、千歌は一緒に乗り合わせていた、一年生、黒澤ルビィと国木田花丸をスクールアイドルへと勧誘していた。

しかし、梨子と同様に二人は断っていた。

 

「何?」

 

ふと後ろを見ていた千歌は、追ってくる何かに気づいた。それは徐々にバスとの距離を詰めていき、小さく見えなかったそれの正体がはっきりと見えるようになった。

 

「う、後ろ!」

 

「か、怪物……ずら……。」

 

長い耳を持った人型の異形、ラビットseadがとてつもないスピードでバスを追ってきていた。

 

「うわぁぁあ!」

 

『ウジャァ!暴れてやるぜ!』

 

「ななな何だ!」

 

千歌たちと運転手は迫り来るラビットに耐えがたい恐怖を覚える。逃げるにしても追いついてくるという絶望的な恐怖。すると、ラビットはジャンプして、千歌たちの視界から消える。

一体何なのかと、訳がわからなくなったその時、運転席の窓からラビットが勢いよく蹴り破って侵入してきた。

 

『あひゃひゃひゃひゃ!』

 

「ひっ!」

 

そして、入るやいな、奇妙な笑いを響かせながら運転手をがむしゃらに殴り始めた。そのため運転手は全く運転することは出来ず、壁に激突し、大きな衝撃と共に強制的にバスが止まった。

車内には窓ガラスは散乱していたが幸いなことに千歌たちに怪我はなく、逃げることには問題はなかった。しかし、逃げられるということは確実ではないが。

 

『あぁ……可愛い女の子がいっぱぁい……。』

 

ラビットは千歌たちを狙いを定める。

千歌は咄嗟に周りを見回す。すると、道路側の窓が割れて、何とか人が通れるほどの大きさの隙間ができていた。

 

「みんな、こっち!」

 

千歌は急いでみんなを窓から逃がそうとするがそれを黙ってラビットが見ているわけはなく、ジリジリと詰め寄ってきた。

 

「それ!」

 

『こんなもん!』

 

千歌が時間稼ぎとしてラビットに向け、バックを投げる。それをラビットは軽くあしらう。しかし、曜、花丸とルビィも次々と物を投げ、流石の物量に対処出来ず、千歌たちの作戦通り、時間稼ぎに成功し、その隙にバスからの脱出に成功した。

 

「はやく逃げないと!」

 

曜は車内から脱出したみんなを急かすように言って、その場から逃げようとする。

 

『と思うじゃん?逃げられないんだなぁ……これが!』

 

しかし、いつの間にかに後ろにはラビットが立っていた。この距離から逃げられわけがない。そう、諦めたその時、エンジンの唸りが千歌たちの耳に届く。

 

「……まさか!」

 

ラビットの背後から1つのバイクがスピードを上げ、そのままラビットに突撃した。

 

『ぶげら!』

 

ラビットはその衝撃で大きく吹っ飛ばされた。

 

「だいじょうぶ!」

 

「こうちゃん!」

 

バイクの乗り手である、光助はヘルメットをとって、千歌たちに声をかける。

そして、バックからドライバーを取り出し、腰へと巻く。

 

「変身!」

 

光助の掛け声ともにドライバーから光が発し、光が光助を包み込む。そして、その光が消えると、そこには仮面ライダーホープがいた。

 

『何⁉︎お前は!』

 

『仮面ライダーホープ!悪を絶ち、希望を紡ぐ戦士!』

 

『かっこつけやがって!殺してやる!』

 

名乗り

ホープはラビットの向け攻撃を仕掛けるも、ラビットの俊敏な動きを捉えることは出来ず、かわされるばかりであった。

 

『くそっ!』

 

『ほらほら、俺はこっちだぞ!』

 

ラビットの翻弄され、思うように動けないホープ。

 

『グワッ!』

 

一瞬だけ出来た隙をラビットにつかれ、ホープはよろめいてしまう。それからラビットの猛攻が始まり、ホープはただ蹂躙されるだけだった。

 

「こうちゃん!」

 

千歌達はただ一方的にやられるホープを眺めるだけで、歯がゆい気持ちになる。

 

『はは、他愛もない。』

 

ホープはラビットの攻撃に耐えきれず、地面に伏せてしまう。そして、ラビットは再び千歌達を標的に定め、じりじりと詰め寄っていく。

 

「ピギィィ!」

 

「こ、来ないで・・・・・・。」

 

『ほおら、怖いのは一瞬だから。』

 

ルビィと花丸は迫り来るラビットに恐れてしまい、逃げることも出来ず、ただ

しかし、再び立ち上がったホープはラビットの肩を強く掴み、後ろへと投げ飛ばした。

 

『チッ!まだ諦めねぇのかよ!』

 

ラビットはすぐに立ち上がり、ホープに怒りを込め、睨み付ける。

 

『これで終わりにしてやる!』

 

そして、ラビットは助走をつけ、ホープに飛びかかり、渾身のパンチをくらわせようとした。だが突然ホープドライバーから思わず目を瞑ってしまうほどの青い光が発し、ラビットはその光にやられて、空中で体勢を崩してしまい、その場に落ちてしまう。

 

『何⁉︎』

 

『あんたはもう……許さねぇ!』

 

青い光が消えるとそこには黄金だった肉体が青に変わり、竜を象ったような仮面に変わったホープが佇んでいた。

 

『ダァッ!』

 

ホープはラビット以上の跳躍力で一気に間合いを詰め、倒れているラビットをサッカーボールのように蹴り飛ばす。

 

『何なんだよ!お前!』

 

ついに怒りが最高点に達したラビットはすぐに立ち上がり、ホープに殴りかかる。しかし、ホープは先程のラビットの同じように俊敏な動きでその攻撃を避ける。そして、ホープが右手を前に出すと、青い光が集まり、直刃の刀、青竜刀へと変化する。

 

『ハァァァァァァ……。』

 

青竜刀を構え、ホープは跳躍力し、ラビットに斬りかかる。

 

『ライダァァァァァスラッシュ!』

 

青い光に纏われた青竜刀でラビットを両断する。すると、ラビットは黒い影となり、真っ二つに割れる。その影の中から青年が現れ、地面に倒れる。

 

「ハァハァ……。何なんだよ……今の……。」

 

変身を解除するやいな、ドライバーを見つめる光助。どういうわけ突然、青い姿となっていたことに光助は驚きを隠せずにいた。今まで体感したことがない感覚。体の中から何か生

 

「こうちゃん!」

 

そんな中、後ろから千歌に声をかけられ、一旦考え事を止めて、咄嗟に振り向く。

 

「曜ちゃん!それに千歌ちゃん!怪我はない?」

 

「うん。私達はだいじょうぶだから。」

 

取りあえず二人の安全を確認して胸をなでおろす。すると光助は後ろのほうにいる、花丸とルビィの存在に気付いた。

 

「そっか。って、その2人は?」

 

「あ、この2人は花丸ちゃんとルビィちゃん。」

 

曜が光助に花丸とルビィのことを紹介する。

 

「あ……えっと……あ、ありがとうございます。」

 

「あ、あの……助けてくれてありがとうございます……。」

 

2人は光助に丁寧に挨拶するも何処かぎこちない様子だった。無理もない。目の前で光助が別の何かに変身して、怪物と戦っていたのだ。そう簡単に理解することは出来ないうえ、そんな光助にすぐに心を開けるわけはない。

 

「そっか……見られちゃったのか。」

 

あまり正体を知られたくなかった光助はバツの悪そうな表情で頭を掻く。そして、花丸とルビィにゆっくりと近づき、ある約束してもらおうとする。

 

「2人とも、このことは内緒にしてもらってもいいかな?」

 

唇の前に人差し指を出し、秘密にするように伝えると2人は静かに頷いた。すると、遠くからサイレンの音が聞こえてきて、数台のパトカーがこちらに向かってきた。

 

「これは……面倒なことになった。」

 

その後、警察の事情聴取され、千歌がうっかり仮面ライダーの正体を明かしてしまう場面もありながら、1時間後には解放されたのだった。

 

 




サンシャイン見てると書きたいシーンとかがたくさん湧いてくるけど、言葉にするのは難しいです。


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思惑と疑念

久しぶりです!
スランプと用事でなかなか書けず……
ですが、最近は余裕も出てきたんで、ドンドン書いていきます!
そして仮面ライダーホープのスピックです

仮面ライダーホープ
身長180cm
パンチ力 50t
キック力 75t
ジャンプ力 20m

光助がホープドライバー(仮名)によって変身した姿。黄金の肉体をまとった闇を絶つ戦士。
戦闘能力は変身前に比べて飛躍的に上がり、並の人間や兵器では太刀打ち出来ない。最大の特徴はseadだけを絶ち、乗り移られた人間を救うことが出来る、特殊な光を生み出すことが出来る。また、状況に応じて対応し、進化すること確認されている。
だが、それ以外の能力は未だ判明出来ず、謎が多く残り、変身するリスクもわかっておらず、危険が付きまとっている。
必殺技はライダーキックとライダーパンチ

仮面ライダーホープ ブルーフォーム
ラビット戦にて、ラビットの跳躍力とスピードに対応するために発現した、新たな姿。
全身の色は名の通り青が中心となり、頭部は竜のようになり、その姿は四獣の青竜を象ったよう。
戦闘スタイルも素手中心から、専用武器、青竜刀を使った剣術が中心となる。
必殺技はライダースラッシュ。その斬撃は例に漏れずseadだけを斬る。


辺りは夕暮れ。事情聴取が終わり、光助達は帰ろうとしていた。因みに曜とルビィと花丸はこのままパトカーで家に帰される予定で、千歌は光助に送ってもらう予定だった。しかし、その予定はある男が現れたことで破綻してしまう。

光助達の目の前に、スキンヘッドで褐色、黒いサングラスとスーツを着こなしたガタイのいい男が現れた。

 

「ちょっと、よろしいですか。」

 

「あんたらは?」

 

光助は千歌達を背中に隠れさせ、男をギッと睨みつける。

 

「先ほどの戦い、見させてもらいました。」

 

しかし、男は屈することなく淡々と話を続ける。

 

「私はOHRコーポレーションという所の者です。」

 

「OHR⁉︎」

 

「何それ?」

 

楊はその男がOHRコーポレーションの人間だと知って、驚きで声が大きくなる。そんな曜とは対照的に光助は訳が分からず、

 

「世界的大企業です。電化製品とかで有名で……。」

 

花丸に隠れながらルビィはOHRについて小声ながら説明した。

 

「へぇ。それでそんな人たちが俺に何の用?」

 

世界的大企業が仮面ライダーとわかっていて光助と接触したことが、光助にさらに疑念を持たせ、男に探りを入れるような話し方をする。だが、男はそんな探りなど無視して、誠意を持って本題を切り出す。

 

「単刀直入に言います。我々と共にseadと戦って欲しいのです。」

 

「……理由は?」

 

「無論、世界の為です。」

 

「もし、断るって言ったら?」

 

突然、seadと一緒に戦って欲しいとにわかに信じがたいことを言われて、光助は疑ってかかる。しかし、次の一言で光助の心を大きく揺らぐ。

 

「あなたの父親、舘 正義の手がかりが遠のくかも知れません。」

 

「父さんの⁉︎」

 

聞いたこともない大企業がまさか、父の名を出し、光助は驚愕する。今まで掴めなかった手がかりが、もしかすれば掴めるかもしれない。しかし、簡単に信用してよいものか。

だが、それを見極めためにもまずは話を聞いてみようと光助は決意する。

 

「……わかった。協力する。」

 

「光助君!」

 

曜が心配そうに光助の名前を呼ぶ。しかし、光助は笑顔を見せ、曜を安心させようとする。

 

「大丈夫だよ。俺には力があるから。」

 

「では、我々と共にこちらへ。」

 

そして、男の乗る車に光助はバイクでついていった。

 

♢♢♢

男の乗る車の後を光助はバイクでついていくと、たどり着いた場所はこの町で淡島ホテルであった。どうやらこのホテルもOHRコーポレーションのものだったらしい。

そして、光助は男に案内され、ホテルの中へ入る。すると、ホテルの応接間へと案内される。応接間はよくテレビで見るよう社長室のようで、高級感溢れるソファーと机がおいてあり、何処か硬い雰囲気があった。

 

「こちらでお待ちください。」

 

男は光助を部屋へと案内し終えると、すぐに退室し、光助は1人、広い部屋にポツリと取り残される。光助はとりあえず、椅子に座る。光助は待っている間、ソワソワとしていた。一刻も早く父親のことを聞きたく、焦っていたのだ。

そんな光助の心境などつゆ知らず、5分後に40代くらい白髪のダンディな男と光助と同じくらいの金髪のハーフ少女が部屋に入ってきた。

 

「やぁ、君が光助君かい?」

 

「あなたは?」

 

「私は小原 源。そして、この子は私の娘の……。」

 

「チャオ!小原鞠莉よ!」

 

源は見た目通りの渋い声で、鞠莉はハイテンションなソプラノボイスで自己紹介をした。

 

「源さんと鞠莉さんか。俺は舘光助です。よろしくお願いします。」

 

「光助⁉︎」

 

光助は手短に自己紹介すると、鞠莉は光助と聞いた瞬間、一瞬で光助の目の前までに迫り、光助は反射的に身を引いてしまう。

 

「な、何でしょうか?」

 

「光って……まさにshiny!ね。」

 

「は、はぁ……。」

 

「すまない、光助君。娘はこういう性格でな。」

 

鞠莉の独特なテンションについてこれず、固まってしまい、この先上手く付き合っていけるか不安を抱くのと同時に、苛立ちが募る。その苛立ちのせいで光助はいきなり、父親のことについて聞き出そうとしてしまう、

 

「それで父さんは今!」

 

「まぁ、落ちつきなさい。まず、私の話を聞いてくれないかい?光助君は私達と共に戦ってくれるのだね?」

 

そんな光助を他所に、源達はゆっくりと光助の反対側へと座り本題を切り出した。光助は渋々、源に合わせる。

 

「一応ですが。」

 

光助はぶっきらぼうに答える。

 

「そうか……ならありがたい。こちらも出来る限り戦力を増やしたくてね。」

 

すると、源はバッグからたくさんの資料を取り出し、光助に見せるように机に置いた。よく見ると、何かの図面や契約書など、様々なものがあった。

 

「そうとなれば、光助君にサポートをしなくてはね。まず、バイクを支給して、さらに情報公開と……。」

 

「待ってください。」

 

光助は源の言っていることに大きな違和感を持ち、一旦、源に話を止めるように割って入った。

 

「一つ聞きたいことがあります。俺は対価として何を差し出せばいい?」

 

ただ協力するだけなのに、バイクの支給など虫のいい話があるものかと光助は源に疑いかかる。

 

「それは無論、seadを倒してさえくれればいい。」

 

だが、源も先ほどの男と同じようにseadと戦えばいいと言うだけ。納得のいかない答えかつ、何か隠してるような様子に光助は苛立ちが募らせてしまう。

 

「わからねぇ。そんなのあなた達に何のメリットがある。それにまず、あなた達がseadと戦う理由もわからない!何が目的だ!本当は自分達の野望のために仮面ライダーの力を利用したいだけじゃないのか!」

 

「落ち着いて、シャイン。」

 

「シャ、シャイン?」

 

突然、鞠莉から変なニックネームで呼ばれて、完全にペースを崩され、光助の沸騰した頭が徐々に冷めていく。そして、憶測だけで自分は何てことを口走ってしまったのかと酷く後悔する。

 

「……まず、私達が戦う理由はただ一つ。君の父さん、正義の意思を汲んでだ。全く、一緒に説明しようと思っていたのだけどもね。」

 

「父さん……の。」

 

すると源は思い出話をするかのように感慨深そうな表情で語り始めた。

 

「私は3年前、この内浦で希望の光を探していた正義と出会った。その時にseadのことも同時に知った。」

 

そして、机の下で力強く拳を握り始める。

 

「初めこそは彼の言うことは信用出来ずにいた。しかし、seadを目の当たりにすれば信じざる得なかった。そして、彼が言うにはseadは救えると聞いた。それなら救えるものなら救いたいと私は思った。いや、彼のあの真っ直ぐな目を見れば自然とそう思ってしまうよ。」

 

源の表情は以前として、厳格だった。しかし、言葉には明確な思いが込められていた。そして、そんな源に少しでも疑っていたことに光助は罪悪感を抱いてしまう。

 

「すまない、熱くなってしまった。残念なことに、正義の今の行方はわからない。だけど、彼も彼なりに戦い続けているはずだ。」

 

源の真っ直ぐな言葉に光助はただ圧倒される。源の言葉には微塵も嘘も感じられず、相当な決意と覚悟が込められており、それには光助も納得せざるをえなかった。だが、結局、父親の行方がわからなかったのは光助にとっては痛手であった。ただ、源が父親となんらかの関係がある以上、協力していれば、いずれ父親の手がかりを掴めるのではと考えた。

 

「わかりました。とりあえず納得します。」

 

「……ありがとう……。」

 

光助が納得したと伝えると源は頭を深々と下げる。

そして、顔を上げると窓の外を見た。外はすっかり暗くなっていた。

 

「呼び出しておいてすまないが今日はもう遅い。バイクの支給などはまた後日にしよう。」

 

すると、わかっていたのか、先ほど光助を案内した男が部屋に入ってきた。

 

「光助様。どうぞ、こちらへ。」

 

そして光助は立ち上がり、男の後をついていった。

 

「それと光助君。」

 

光助が部屋から出ようとする瞬間、源は最後に光助にあることを願った。

 

「戦っては欲しいが……無理しないで欲しい。」

 

光助は一旦歩みを止める。そして、振り向き、こう返した。

 

「わかってます。でも、俺にも戦う理由も守りたいものもあります。そのためなら自分の犠牲にするかも知れません。だから……絶対は約束出来ません。」

 

「……やっぱり君は彼の息子だね。」

 

「……お父様、黙っていていいの?」

 

鞠莉は光助を見送った後、源を心配そうな様子で見つめた。

 

「……あぁ。今の彼に事実を伝えるのは酷だ。」

 

鞠莉の頭を優しく撫で、源は鞠莉に優しく語り掛ける。

 

「かと言って、このまま黙り続けるのもよくはないのだがな……。」

 

そして、机に散らばった資料をバックに戻し、部屋を後にする。その最中に源は一人、ポツリと呟いた。

 

「それと……そろそろ彼女を連れ戻さないとな。」

 

♢♢♢

その後、光助は無事帰宅して、現在は梨子の部屋で梨子と話をしていた。部屋には大きなグランドピアノがあり、毎日手入れがされているようで、埃一つ付いていなかった。

 

「へぇ〜、それで千歌達とダイビングするのか。」

 

すると、梨子は千歌に海の音を聞くために今度、ダイビングに行くと話した。

 

「それで、よかったら光助君もどうって。」

 

「そっか、それなら俺もついていこうかな。」

 

「それなら、今度の日曜日空けておいてね。」

 

「了解!……って!り、梨子ちゃん!」

 

「えっ?」

 

光助が右手に暖かな温もりを感じ、目をやると梨子の左手が覆いかぶさっていた。光助は恥ずかしさで顔を真っ赤にし、すぐに離れようとするが、逆に梨子はギュッと光助の手をつかんだ。

 

「ねぇ、光助君。」

 

梨子はうつむき、かすれそうな声で光助を心配する。

 

「千歌ちゃんから聞いたよ……今日のこと。怖いよ……私。光助君がもう手のと届かない場所に行きそうで……。」

 

梨子の光助をつかむ手が強くなる。考えてみれば、自分の知らない所で戦い、そして、見知らぬ誰かについていけば、誰だって不安になるだろうと光助は思う。

そんな梨子の思いに気づいた光助は梨子を安心させるため、空いている左手で梨子の手を握る。すると、梨子はうつむいて顔をゆっくりと上げる。

 

「だいじょうぶだよ。俺は何処にも行かないよ。」

 

光助は真っ直ぐ梨子の瞳を見つめ、優しく語りかける。梨子はそんな光助を見て、安心し、微笑みかけた。

 




本格的にマリーも話に絡んできて、どんどん展開してきますののでお楽しみに!


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海の音

やばいよ、もうサンシャインが終わってしまうなんて!
こっちはまだ、2話の途中なのに……。
時が進むのって速いなぁ(執筆スピードが遅いだけ。)


そして、日曜日。光助と梨子は淡島にあるダイビングショップに来た。そこには既に千歌と曜がおり、二人は光助と梨子を見つけると、大きく手を振って、声をかけてきた。

 

「あっ、梨子ちゃん!それに光助君!」

 

「おはよう。千歌ちゃん。曜ちゃん。」

 

「よっ、ちかっち、曜ちゃん。」

 

梨子はお淑やかに、光助は軽く手を挙げて挨拶を返す。

 

「みんな集まった?」

 

4人が集まると、ダイビングショップから青い髪で大きなポニーテールを下げたダイビングスーツ姿の少女が現れた。この人が

 

「あなたは?」

 

「私は松浦果南。千歌と曜の幼馴染でね。梨子ちゃんと光助君だっけ?よろしくね。」

 

初対面の光助と梨子に果南は優しげな笑顔を振りまく。その笑顔と健康的なボディーラインがくっきりと浮き出るダイビングスーツを目の当たりにして、年頃の光助は顔を真っ赤にして目をそらす。

 

「果南、こっちも終わったよ。」

 

「ありがとう。」

 

すると、ダイビングショップから果南と同じく、大人びた少女が果南に声をかける。千歌は見たこともない少女を見て、果南に誰かと聞く。

 

「ねぇ、果南ちゃん。この人は?」

 

「そっか、千歌も曜も初めてだよね?」

 

「お呼びかい?果南。」

 

果南がその少女紹介しようとすると、タイミングよくその少女は5人の前に現れ、自ら紹介し始めた。

 

「私はレイラ・ガルシア。気軽にレイって呼んで欲しい。」

 

エメラルドのような綺麗で繊細な長い髪をかきあげるレイ。瞳は青目で鼻は高く、スラリと伸びた脚に光助ともさほど変わらない身長。果南もかなりスタイルのいいが、レイはそれ以上にスタイルがよかった。

 

「レイか……。名前的に日本人じゃないけど……何処出身?」」

 

「一応スペインでね。まぁ、物心つく前にはアメリカに移住したんだけどね。」

 

「へぇ、それにしては日本語が上手だね。日本に来たことあるの?」

 

「いや、ないんだけど、アメリカでずっと勉強していたしね。それに日本語を話せる友達がいたからね。」

 

外国人にもかかわらず、流暢に日本語を話すレイに曜は感心する。

 

「それで、アメリカからこの果南の家に?」

 

「いや、違うけど?本当は別の家にいたんだけど、いやぁ〜、脱走して海で溺れているところを助けられてね。そのまま、果南の家に居候ってわけ。」

 

光助の質問に予想外の答えが返ってきて、果南を除く4人は驚きを隠せない。一体、脱走したくなる家とはどんなものなのかと光助は恐怖を抱かずにはいられなかった。

 

「い、居候?」

 

「私はいわゆる家出少女でね。」

 

「どうして家出?」

 

「まぁ、気に入らないことがあってね……そんなことはどうでもいいじゃん?それより、千歌だっけ?」

 

千歌が家出の理由を聞こうとする。しかし、レイはあまり言いたくないのか、適当に話題をはぐらかし、千歌へと近づく。

 

「そうだけ……わぁ!」

 

すると突然、レイは千歌の腰に右腕を巻き、左手で千歌の顎をクイっと持ち、無理矢理目線を合わせた。あまりの予想外の出来事とレイの女性としてのカッコよさと美しさに惹かれ、千歌は顔を真っ赤にして慌てふためいてしまう。

 

「うん。童顔で可愛いねぇ。果南の言う通り、妹って感じだね。」

 

「わわ、レイ……ちゃん///」

 

「ねぇ、今日から私の妹にならない?それより、姉妹以上なんか私と一線、超えて見ない?」

 

レイが硝子の花園を展開するのを目の当たりにして、梨子と曜は千歌と同様に顔を真っ赤にし、光助は顔を引きつらせ、果南はまたいつものかと呆れ、止めに入る、。

 

「レイ、やめなさい。」

 

「もぉ、果南ったら。いいところだったのに。」

 

唇を尖らせ、不満そうにするも渋々、千歌を手放す。千歌は手放された後も、意識が朦朧としていて、ただ茫然と立ち尽くしていた。

 

「あの、果南さん?レイって……。」

 

「まぁ……レイはああいう人だから……。」

 

「何か……すごい人だ。」

 

「ちょっと、光助だっけ?誤解してない?私はどっちもイケる口だからね!」

 

「……。」

 

レイという得体のしれない人間に光助はただ、ヒクことしかできなかった。しかし、すぐに、光助のレイの評価が」すぐに変わる。

 

「それよりあなた、いい目してるわね。」

 

するとレイが光助をまじまじと見始め、光助は思わず後ずさりしてしまう。それは千歌のように餌食にされるのではというのと、その野獣のような瞳に気圧され、殺されるのではないかという二つの恐怖からだった。

 

「もう、やましいことはしないから。ただ、なんか真っ直ぐで強い目をしてたから気になっただけ。」

 

しかし、レイにはその気は全くなく、ただ光助が勝手に怖気づいていただけであった。

 

「レイ、こっちに来てくれない?」

 

「あ、うん!今から行くわ。」

 

すると、レイは光助にウインクをして、果南の元へと向かっていった。一人取り残された光助はただレイという謎の人物にただ畏怖するだけだった。

 

♢♢♢

「梨子ちゃん、聞こえた?」

 

「ううん……。」

 

海面に上がってきたダイビングスーツ姿の梨子に千歌が海の音が聞けたかと聞くが、梨子はあまりぱっとしない表情で首を横に振るだけだった。海に潜り始めて、既に30分以上が経過していたが、海の音は聞こえず、行き詰っていた。

 

「なぁ、果南さん。海の中だと音は聞こえにくいんでしったけ?」

 

「うん、だから聞くってよりかは、イメージするのが大事だね。」

 

「なるほど……。」

 

「熱心だね。」

 

顎に手をあて、真剣に考える光助を横目に見て、果南は

 

「いえ……、あいつらの力になれることって、ただ一緒になって探すくらいしかできませんし……。」

 

すると光助はおもむろに口を開いて、語り始めた。

 

「それに楽しいですし。みんなと何かするってことが。俺は今まであんまりこういうことしたことなくて……だからなんか新鮮で、ワクワクするっていうか。例えるなら、徳川の埋蔵金を探すような……。」

 

「……。」

 

話すことに夢中になっている光助は横目で果南を一瞥すると、どこか上の空のような様子で黄昏ていることに気がついた。いや、正確には別のところを眺めていたようどこかを思いを馳せて、なにか遠くの見えない何かを見てるようだった。

 

「果南さん?」

 

「よかった。千歌が突然、男の子の友達が出来たって聞いたから、一体どんな人なのかなって心配だったけど、君なら千歌達を任せられるよ。」

 

果南は手を高く上げ、体を伸ばし、安心したような様子だった。しかし、光助はその安心は先程の黄昏ている時とは何か違うような気がした。

 

「こうちゃん!もう一回潜るから、来て!」

 

「ほら、千歌達のところに行きな。待ってるはずだから。」

 

「あっ、はい!」

 

果南に背中を押され、光助はそのまま千歌達の元へ向かった。

 

♢♢♢

春先の海はダイビングスーツを着用してもまだ肌寒い。曇りということもあって薄暗く、静寂で孤独な空間がそこにあった。しかし、母なる海と言われるように、妙に居心地が良く、安らかな気持ちになる。

 

(確かに果南さんが引き込まれるのもわかる気がする。)

 

陸とは違う景色を楽しみながらも光助は本来の目的である「海の音」を探していた。わずかな音、肌に伝わる感覚、視覚。ありとあらゆる感覚を研ぎ澄まし、そしてイメージして「海の音」を探す。

しかし、一向にわからず、ただゆったりと潜っているだけの時間が続いている。ふと、梨子達のほうを見ると、

 

(明るくなってきたな。)

 

すると、今まで薄暗かった空間に一筋の光が差し込む。太陽が出てきたのかと、光助はただそれだけを確認するために上を向いた。

 

(なんだ……これ!)

 

海面から光が一筋となって差し込み、まるで柱のようだった。そして、その景色はやがてイメージとなって頭の中を駆け巡る。

 

(これってもしかして!)

 

もしかしてと気付いて周りを見回す。梨子たちも上を向いて同じ景色を見ていた。すると、梨子がピアノを弾くように手を出す。それを見て光助は確信する。

 

これが「海の音」なんだと。

 

♢♢♢

「えっ!梨子ちゃん手伝ってくれるの!?」

 

翌日の放課後、梨子がスクールアイドルを手伝ってくれると聞き、千歌はすごく喜び、梨子に跳んで、抱き着こうとするも、避けられてしまう。

 

「勘違いしないでね。あくまでも作曲の手伝いをするだけよ。ピアノの練習があるからスクールアイドルをやってる暇はないの。」

 

「そんなぁ……。」

 

一緒にスクールアイドルと勘違いしていた千歌は余程ショックなのか、がっくりとうなだれる。

 

「むぅ、こんな時、こうちゃんがいたら説得してくれるのに。」

 

「千歌ちゃん。光助君に一体何を求めてるの……。」

 

千歌の光助頼りに曜は光助を気の毒に思った。

 

「そういえば、光助君は?」

 

「用事があるって、生徒会室に行ったよ。」

 

「生徒会室!?」

 

生徒会室と聞いて、千歌はあの堅物の生徒会長を思い出した。

♢♢♢

夕日が生徒会室を紅に染める。光助は背筋を伸ばし、緊張した様子で目の前に座って書類を確認する黒髪の少女を凝視する。

 

「確認しました。これで、一応の手続きは終了しましたわ。」

 

この学校の生徒会長、黒澤ダイヤは受け取った資料を封筒にいれ、机の引き出しにしまう。取りあえず、今まで滞っていた編入の手続きが終了して、光助はひとまず安心する。しかし、生徒会長の前ということで無駄に緊張してしまい、

 

「申し訳ございませんでした。理事長が不在とのことでいろいろと迷惑をかけてしまって。」

 

「い、いえ……、俺は全然気にしてませんし!」

 

本来ならば手続きなど入学した当日に終わる予定だった。しかし、理事長が交替することになり、さらに新理事長がいないという不測の事態になり、学校側も混乱してしまい、光助の手続きどころではなく、そして現在に至る。そのことを理事長の代わりに生徒会長であるダイヤが謝罪し、光助は逆に申し訳ない気持ちになり、慌ててしまう。

 

「でも理事長が変わるって相当……。」

 

「はい……。だからこそあなたの力が必要なのです。」

 

浦の星は年々、入学希望者が少なくなっていきこのままでは廃校になってしまうと危惧されている。光助はそんな廃校を阻止するために入学してきたテスト生なのだ。

 

「わかってます。でも、男女共学への判断材料のために女子高に入ってほしいなんて言われたら、驚いちゃいますよ。」

 

光助は廃校を阻止するための一つの計画、共学化のためにこの学校に入学してきた。しかし、光助は共学なんかにせず、このままの状態で廃校を阻止できたらと望んでいる。

 

「でも、あいつらがいるか……あっ。」

 

ダイヤの前でしてはいけない話を思わず話してしまいそうになり、光助は自ら口を押さえる。

 

「千歌さん達のことですね。」

 

しかし、ダイヤは既に光助の話そうとしていたことがわかっており、光助はダラダラと大量の汗を流す。曜曰く、ダイヤは古風な家の出身で、スクールアイドルのような浮ついたものを毛嫌いしているらしい。だから、ダイヤの前では千歌達の話題を出さないようにしていたが、自分のそういう詰めの甘いところを憎む。

 

「生徒会長は……スクールアイドルの活動を認めてないんでしたっけ。」

 

「ええ、そうですが。」

 

「どうしてなんです?」

 

「まず、部活を立ち上げるには最低でも5人の部員が必要にもかかわらず、千歌さんは……。」

 

千歌の部活申請のことをダイヤは思い出すと、わなわなと震え、怒りを表す。千歌から何度も部活の申請を断られていることを聞いていたが、ダイヤの気苦労を見ると、これはルールを守らない千歌が悪いのではと思わずにはいられなかった。

 

「それに……。」

 

「それに?」

 

「……いいえ、やめておきますわ。とにかく、わたくしはどんな理由があろうとスクールアイドルは断固として認めません。」

 

ダイヤは何かを言いかけようとしたが、思う節があったためか結局それ以上は言わず、ただスクールアイドルは認めないと宣言しただけだった。真面目で頑固なその姿勢は名前通りのダイヤモンドのよう。これを砕くのはかなりの労力が必要だなと、光助はただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 

「あと、光助さん。あなたはこの資料を書かれている通りだとあなたは風都出身だそうですね。」

 

「はい、その通りですけど。」

 

「なぜ、東京のほうの風都からわざわざ、この町に来たのですか?」

 

「それは……行方不明の父親を捜すためなんですけど……。」

 

特に普通の口をしかし、真面目なダイヤだ。行方不明の父親なんて単語を聞いたら、ものすごく申し訳なさそうにするのではと考え、口を紡ぐ。

すると案の定、ダイヤは思い詰めたような表現で光助を見ており、光助は慌てて、心配しなくていいと言う。

 

「あぁ、そんな難しい顔しないでください!そんなデリケートなことじゃないですから。」

 

「そうですか……。よろしければ舘さんのお父様の名前をうかがってもよろしいですか?私もできればお力添えになれれば……。」

 

ダイヤはせめてもの詫びとして、光助の力になりたいと言ってきた。光助は難色を示したが、この町でそれなりの大きさを誇る黒澤家なら何か知っているのではと思い、取りあえず、ダイヤのその願いを聞き入れた。

 

「ありがとうございます。名前は舘正義って言うんですけど。」

 

「正義先生!?」

 

名前を聞いた途端、ダイヤは机から乗り出し、光助の目の前にまで迫る。思わぬ行動に、光助は驚きは尻餅をついてしまう。

 

「先……生!?」

 

「どうりで苗字が同じで……。」

 

「父さんを知っているんですか!」

 

先生と言われている理由などさておき、光助はダイヤに話を聞くため、尻をさすりながら、詰め寄る。

 

「知ってるも何も、私たちにとって……。」

 

「ちっ!こんな時に!」

 

ダイヤが話をし始めたその時、タイミング悪く、光助の携帯から着信音鳴り響く。こういう時限って苛立ち、無視しようかと思ったが、相手がOHRだったため、仕方なく通話に出る

 

『光助様。seadが現れました。至急、現場に急行してください。』

 

オペレーターらしき女性はただそう言い残し電話を切る。その直後、画面一杯に地図が現れ、交差点のところに赤い点があり、そこが現場らしい。

 

「すみません。また今度、父さんの話を聞かせてください。」

 

「どうしましたの!?」

 

ダイヤの言葉を無視し、光助は苦虫を噛み潰したような表情のまま生徒会室を後にした。

一人取り残されたダイヤはその光助の後ろ姿を彼の父親である自らの恩賜と重ね合わせた。

 

 

「よく見ると似てますわ、先生と。見た目も……こうやって何も言わずに勝手に何処かに(・・・・・・)いってしまうのも……。」

 

 

 

 

 




次回にはアニメ2話が終わる予定です
お楽しみに!


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狼の雄叫び

今回は新しい仮面ライダーが現れます!


夕方、果南とレイは晩御飯の材料を買いに、交差点にあるスーパーに来ていた。

 

「やけに嬉しそうだね。」

 

鼻歌交じりで果南の隣を歩くレイを見て、果南もつられて嬉しくなり、つい笑みがこぼれてしまう。

 

「だって、果南の料理が大好きなんだもん。それに、こうやって一緒に買い物なんて家族みたいだしね。」

 

まるで子供、否、新婚夫婦のようなことをレイは言う。レイは誰かと一緒に何かをすることが好きだ。

そんななか突然、買い物していた客がカゴに入れていた物を置いて一斉に逃げ出し始めた。

 

「何?」

 

レイは突然、頭の中を紐で縛られたような鈍いを痛みに襲われ、頭を抑える。この痛みはあれかと、予想はつき、果南との買い物を邪魔されたことにイラつき舌打ちしつつも、人の流れに逆らい、その元凶の元へ急いだ。

 

『ひゃっはー!あばれてやるしっなー!』

 

たどり着くと、そこには赤や黄色などの奇抜な色で、体にはぶどうやオレンジがたくさんの種類の果実が実っているフルーツseadが棚などを倒して、暴れていた。

 

「あれって!」

 

レイの後を追ってきた果南はseadを再び目の当たりにし、ひっと小声で悲鳴をあげる。

 

『まだ人間がいるのか!』

 

レイと果南に気づいたフルーツは突然、頭から液体を噴射し、射線上にいた果南にぶちまける。

 

「果南!」

 

咄嗟にレイは果南のそばに駆け寄り、異常がないか、確認する。果南の体は果汁でベトベトになってることは以外は問題はなかった。どうやら、あの汁はただの果汁らしく、害はない。むしろ甘くて美味しい。

 

「sead!」

 

果南が無事だと安心すると、レイはおもむろに立ち上がり、キッとseadを睨みつける。その目は、獲物を狩る野獣のよう。

 

「果南をこんな目に合わせて……絶対に許さないわ!」

 

大切な人に被害を被ったフルーツに怒りを露わにし、レイはバッグから銀色のラインがはいったホープドライバーに酷似したものを取り出す。それを見た果南の脳裏にあの出来事が浮かび上がる。

 

「ちょっとレイ!それはまずいって!」

 

「離して果南!私はこいつを倒さないと!」

 

咄嗟に果南はレイの後ろから抱きつき、変身させまいと身を呈して止める。しかし、レイはそれでも戦おうと制止を振り切ろうとする。

 

「でも、それを使ったら!」

 

「わかってる!でも、これが私の役目!仮面ライダーとしての役目なの!」

 

レイの言葉には明確な責任感と覚悟が備わっていた。その言葉を聞いて果南は初めてレイが目の前で変身した時に言った言葉を思い出した。例え、自分が自分でなくなっても、自分が犠牲になっても世界の平和の為なら戦える。

だが、変身した後のレイを見てしまっては簡単に変身なんてさせたくないと思ってしまう。立つのも困難になるほどボロボロになり、見ていて胸が痛くなる。

 

「……わかったよ。だけど、無理はしないでね。」

 

「ありがとう果南。お礼はベッドの上でね。」

 

果南にウインクをして、レイはドライバーを腰に巻く。

 

「変身!」

 

すると、ドライバーの中心にある玉から黒い霧が発生し、レイを包み込む。その霧は一点の淀みもない、純粋な黒。まるで、光を通すことのない、純粋な闇。

その闇の中から、鋭い爪が顔を出し、闇を斬り裂いて、中から銀色の戦士が現れる。

 

『仮面ライダー……狼渦(ロウズ)

 

薔薇のような真紅の複眼に、狼のような仮面。肩や膝、胴体の生態鎧はシャープで角ばっている。そして、鋭い爪が生え、その姿はまさに狼、否、人狼のよう。

 

『さぁ、喰らってあげる!』

 

『ひっ!』

 

狼渦のその殺気にフルーツは小さく悲鳴をあげて、一歩後ろにたじろぐ。そして、狼渦を標的を定め、野獣の爪を立て、右手を後ろに、左手を前に出し、姿勢を低くして構える。

 

『ウォォォォォォォン!』

 

そして、狼渦は野獣のように雄叫びをあげ、獲物を狩るため、フルーツに飛びかかる。

 

『く、来るなぁ!』

 

既に狼渦の殺気に気圧され、戦意の無いフルーツは完全に背を向け、みっともない声を発し、逃げようとする。しかし、狼渦に一度でも標的に定められれば逃げる切ることなど不可能。

 

『逃さない!』

 

フルーツの背後に狼渦取っ組み合いになり、二体は地面にゴロゴロと転がる。すると、転がってる最中に狼渦は上手く、フルーツに馬乗りになる。そして、身動きが取れないフルーツの顔面を狼渦は殴り始める。

 

『ハァッ!ガァッ!』

 

一方的に殴り続ける狼渦には、あの美しいレイの面影は一切ない。ただ獲物を仕留めるために本能の赴くままに襲う野獣の血生臭さしかない。

 

『い……いい加減にしろ!』

 

一方的になぶられるフルーツは狼渦に対し怒りを通り越して、殺意を抱く。そして、今まで貧弱だったフルーツは力いっぱい、上に乗る狼渦を突き放し、ゆっくりと立ち上がる。

 

『もう怒ったぞ!お前なんか、ギダギダにして殺しやる!』

 

『ガルルルル……。やってみなよ……。』

 

地面をダンダンと踏みつけ、激しくいきり立つフルーツ。野獣のように唸り声を上げる狼渦。純粋な感情と純粋な本能のぶつかり合い。

 

『うぉぉぉぉぉ!』

 

『どうせ無駄な足掻きだけど……。』

 

まず先にフルーツが頭から果汁を吹き出し、狼渦へとかけようとする。先ほど、果南が受けた時は何もなかった為、普通なら避けずに突っ込むのが最善手だろう。しかし、狼渦の本能はあの液体は危険だと察知し、咄嗟に避ける。

避けた後、ふと液体のかかった地面を見る。地面はドロドロと溶け、まるでマグマのようになっていた。

 

『ほらほら!まだまだ行くぞ!』

 

ようやく、本気を出したフルーツは薬物を摂取したように興奮し始め、その酸性の果汁をあたりに撒き散らす。果汁はまるで雨のように降り注ぎ、全てを避けるのは至難の技。

 

『なら!』

 

雨は絶えず、狼渦の体にあたり、ジワジワと体を溶かしていく。だが、狼渦は動かず、次の一手のために耐える。

全てを避けられないのなら、ある程度受けつつ、速攻で狩る。それがこの状況で選択した最善の手。

酸性の果汁の雨の中、狼渦は地面に這い蹲るように、体勢を低くする。そして、腕を地面につき、狼のように4本足にし、ギッとフルーツを睨み、逃さないように標的を定める。

 

『ウォォォォォォォン!』

 

周囲の空気を震わせるほどの雄叫びを上げ、二本の腕と二本の脚を使って、尋常ではないスピードめフルーツに迫る。

二本の脚だけではでない爆発的な瞬発力。狼の本能を持つ、狼渦にしか出来ない技。その人間を超越した技で一気にフルーツの懐に入り、鉄をも切り裂く爪で脇腹を抉る。

 

『ぎゃぁぁぁぁ!』

 

突然、気絶するほどの痛みを感じ、フルーツを果汁を噴き出すのをやめて、甲高い悲鳴を上げる。

そんなフルーツの背後では狼渦が再び、体勢を低くし、止めの機会を伺っていた。

 

『喰らえ!』

 

フルーツが痛みで悶え苦しみ、体の重心が偏ったその刹那、再び4本脚で飛びかかる。そして、両手の爪で何回も切りつけ、次に軽くジャンプして、空中でフルーツを何度も踏みつけるように蹴り、とどめのに両脚を突き出す。

 

『うわぁぁぁぁぁぁ!』

 

必殺技、「ウルフアクロバット」が完全に決まり、フルーツは爆発し、炎に包まれる。

 

「レイ!?」

 

戦いが終わった瞬間、果南は足元がふらつきながらも立ち続ける狼渦の元にすぐさま駆け寄り、その大きな体を支える。狼渦の体は所々が火傷のようにただれており、果南は泣きそうなほど心配になる。

 

『ハァハァ……だいじょうぶ……まだ……喰われてない……から……。』

 

慢性的なダメージと痛み。そして、仮面ライダーという呪いによって狼渦は既にボロボロで一人で立つことさえ困難。しかし、少しでも果南に心配をかけまいと必死に平静を装う。

 

「あっ……。」

 

『油断したな!死ねぇ!』

 

フルーツは大きな腕を振り下ろす。万事休すかと思ったその時。

 

『ガァァァァァダァッ!!』

 

仮面ライダーホープの「ライダーキック」がフルーツに直撃する。そして、フルーツは地面に叩きつけられると消滅し、元の人間である、緑色のエプロン姿の優しそうな青年へと戻った。

 

「仮面ライダーが……二人!?」

 

果南は仮面ライダーが二人もいることにただ、驚かざるを得なかった。

そんな果南を他所に、ホープと狼渦は異様なほど冷静であった。金と銀の対称的な仮面ライダー。

 

『あなた……光助なの?』

 

『この殺気……レイか。』

 

仮面をつけ、顔など見えないにも関わらず、二人は互いの正体を見破った。なぜそうなったか説明するとなると難しい。あえて説明するのなら雰囲気。

そして、二人は変身を解除し、素の顔で再び対面する。

 

「やっぱり……通りであの時すごい殺気を感じたのか。」

 

「あなたこそ……そんな可愛い顔して……。」

 

レイらしく冗談を交えて驚くと、膝をガクンと落とし、支えてる果南も一緒に倒れそうになる。

 

「だいじょうぶか?」

 

だが、咄嗟に光助が二人を支えたおかげで、倒れることはなかった。

 

「はは、ちょっと疲れただけだよ。」

 

「……いろいろ聞きたいことがあるけど、とりあえず、救急車を……。」

 

「呼ばなくていい。」

 

光助はレイの状態をすぐさまスマホを取り出し、救急車を呼ぼうとしたが、レイに止められる。

 

「ねぇ、仮面ライダーなら小原家を知ってる?」

 

この時、光助は気づいた。レイがOHRから家出をしたことを。

 

「……あぁ、一応手を組んだ。」

 

「それなら、彼らが必ず来るはず。その時に連れていかれるはずだから。」

 

光助がOHRと手を組んでいることを知り、もう逃げられないとレイは悟り、逃げることを諦める。

 

「折角、家出したのにいいのか。」

 

「しょうがないよ。私が悪いからね。」

 

「ちょっと、どういうことなの!話が全く読めないんだけど。」

 

二人の話に間で勝手に話が進むなか、蚊帳の外に追い出されていた果南は何が何だかわからず、詳しい説明を求める。

 

「私は元々、小原家に引き取られた養子なの。だから、元の場所に帰るだけ。」

 

小原家。果南はその単語を聞くことすら嫌だった。あの二年前のあの苦い思い出が蘇るからだ。しかし、そんな果南の様子に二人は全く気づかない。

 

「なぁ、どうして家出なんかしたんだ。そんな劣悪な環境だったのか。」

 

光助は元からOHRについては未だに信用しておらず、むしろ怪しんでいる。そんな組織がこんな少女に脱走したいまでという感情を抱かせるほどの環境とは一体どんなものかと、怒りを抑えながらレイに問う。

 

「私にとってはね。でも、普通の人なら充分すぎるくらいの環境だけどね。ご飯は一流のシェフが作ったものだし、身の回りのことは使用人が全部やってくれる。

だからかな……冷たいの。空気もご飯も人も。みんな冷たくて……寂しくなるの。あの人達は仕事として割り切ってるおかげで、愛情も温もりも感じないの。

だけど、果南は温かった。ご飯も温かいし、ちゃんと私を叱ってくれるし、褒めてもくれる。こういうの、ずっと憧れてたの。」

 

レイの偽りのないその言葉に、果南は恥ずかしさと照れが混じり、思わず顔を真っ赤にしてしまう。

一方、初めて聞いたレイの家出の真相に光助はどこか昔の自分と近いものを感じ、思い出したくもない記憶が不意に思い出される。

レンジで温めたはずなのに冷たく感じる愛も何もこもってないご飯。町を歩けば痛いほど感じる冷たい視線。世間からの冷たい風当たり。

全てが冷たくて、自分だけが世界から隔絶されたようなあの感覚は今でも忘れない。おそらくレイが感じているものはこのようなものなのだろう。だから、光助にはレイの求めるものが自然とわかった。

 

「あんたは……人の温もりに飢えてるんだな。」

 

「……よく気づいたね。」

 

「似た者同士……だからかな?」

 

すると、レイは光助の悲哀に満ちた目から本心を読み取り、あえて優しく笑いかける。

 

「だけど、もうひとりぼっちじゃない。マリーと果南もいる。さらにあなたもいる。……あーあ、なんかスッキリした。よっと!」

 

溜まっていたものを吐き出し、爽快な気分になったレイは多少、痛みを感じながらも、飛び跳ねるように起き上がる。

するも、三人はあることに気づいて一斉に同じ方向を向く。

 

「こんなところにいたのか、レイラ。」

 

「おじさん……。」

 

三人の視線の先にはスーツを完璧に着こなし、ハードボイルドな雰囲気で真剣な表情でこちらを見る源が立っていた。

 

「それに光助君に……松浦さんでいいかな。」

 

そして、光助と果南を見ると、軽く会釈をする。だが、二人とも挨拶を返すことなく、ただ少し怖いくらいに真剣な表情で源を見ていた。

 

「久しぶりおじさん。迎えに来たの?」

 

「それを決めるために私は直接会いに来たんだ。」

 

まるで友達のように接するレイ。だが、源は変わらず固い様子で接する。

 

「レイラ、不調はないか?」

 

「うん、変身した後は辛いだけで、後はだいじょうぶ。」

 

「そうか。なら、問題はないな。」

 

レイラの無事を確認すると、何と源はくるりとレイラ達に背を向け、あっさり引き返そうとする。これには無理矢理連れて行かれることを覚悟していたレイラは唖然としてしまう。

 

「あれ?私を連れて行かないの?」

 

「君が無事なら充分だ。それに、戦いから逃げたわけではないからな。無理矢理連れて帰る必要はない。」

 

「おじさんらしいね。」

 

例え、脱走しようとなんだろうと結果として、seadと戦ってくれればそれでいい。結果至上主義である源ならではの考え方だ。

 

「だが、一つだけ言っておく。たまには鞠莉に会ってやれ。」

 

「そうだね。私もマリーに会いたいから。」

 

最後に源はそう言い残して、近くに停めてあった黒いベンツに乗り込み、元来た道を戻っていった。

 

「なんか……予想外だったな。」

 

「うん。私も拍子抜けしちゃった。」

 

予想もしなかった結末に、光助は驚きを隠せない。だが、レイが一番信頼できる相手とまた一緒に過ごせるのは喜ばしいことだ。光助は純粋に嬉しかった。

 

「ねぇ、レイ?鞠莉とはどういう関係なの?」

 

すると突然、果南が光助とレイの間に割って入り、レイと鞠莉の関係を聞き出そうする。すると、レイの表情がクールなものから乙女のような可愛いらしいものになる。

 

「……大切な家族だよ。」

 

レイは少し照れくさそうに言う。どうやら、レイにとって鞠莉は果南と同様に大切な存在、もしくはそれ以上の存在らしい。それを聞いた果南はどこか難しそうな表情を浮かべる。

まぁ、何はともあれ一件落着だと、光助はおもむろにスマホを取り出す。

 

「げっ!まじかよ!」

 

スマホの画面には千歌からLINEが数十件も来ていた。それも全部が「早く来て」という内容であった。

 

「もしかして、千歌ちゃん達を待たしてるの?」

 

「な、何でわかった!?」

 

「女の勘ってやつだね。ほら、早く行きなさい。女の子を待たせる男は最低だよ。」

 

「わ、わかった!」

 

そして、レイに言われるがまま光助は急かされ、30秒で支度をする。

 

「あっ、その前に!」

 

「何!?」

 

急かした本人が急に光助を引き止め、若干キレ気味で反応してしまう。すると、レイはゆっくりと光助に向け、右手を差し出した。

 

「仮面ライダー同士、助け会いましょ!」

 

これには一瞬だけ戸惑うも、光助もすぐに右手を差し出した。

 

「あぁ!よろしくな!レイ!」

 

同じ苦しみ、痛みと哀しみを背負う者同士、二人は硬い握手を交わす。

そして、光助は愛用のバイクにまたがり、千歌達の元へと向かった。

 

「何だか、嬉しそうだね。レイ。」

 

「だって、また果南と一緒に暮らせるんだよ。嬉しいに決まってるじゃん!それに……大切な仲間が出来たしね。」

 

すると、レイは果南の左腕に抱きつき、密着する。いつもなら暑苦しいと拒む果南だが、今日くらいはいいかなと思い、あえて何も言わずにそのままにした。

 

「じゃあ、帰ろっか。」

 

「うん!」

 

そして、二人はそのまま家路を歩いていった。

 




いかがだったでしょうか。
狼渦に関しては、銀色で狼がモチーフということで、何処の魔戒騎士だよとツッコミたくなるかもしれません笑。
因みに戦闘スタイルはアマゾンズのアマゾンオメガから影響を受けてます。
野生溢れる戦闘スタイル。しかし、変身者は美人の外国人という何というギャップ。よろしければいわゆるギャップ萌えというのも楽しんでもらえれば笑。
それではまた、次回!


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夢の扉 

やっと2話が終わる


レイと果南と別れ、同じ思いを共有できる同志と出会ったことに喜こびつつも、少し前の苦い思い出を思い出し、複雑な気持ちになりながら、千歌の家に向かうためバイクを走らせていた。

 

「ここが……千歌の家!?」

 

地図アプリに示されていた場所に着くと、そこには見慣れた旅館、「十千万」であった。

 

「まさか、こんなことがあるなんて……。」

 

まさかの偶然に驚きを通り越して、運命じみたものを感じてしまう。

 

「うん?」

 

ふと視線を感じ、視線を左に移す。そこにはきのこの傘のような大きな耳と細目の大型犬が犬小屋から光助を見ていた。

 

「犬?名前は……しいたけ……。」

 

犬小屋に張ってる名札にはしいたけと書かれていた。そのしいたけはじっと拓人を見つめていた。

 

「まぁ、きのこに見えなくはないけど……。」

 

何とも言えないネーミングセンス。もしかして、いちもつが立派なしいたけみたいなのがという理由でこういう名前なのかと考えたがそんなわけはないとすぐに考えを取り下げる。

 

「あら、あなたは?」

 

ふと、後ろから大人っぽくおしとやかな女性が光助に話しかけ、思わず光助は背筋をピンと張り、固まってしまう。

 

「あっ……あのちかっちの友達の……。」

 

「光助君でしょ。千歌から聞いてるわ。さぁ、入って入って。」

 

そして、誘われるがまま手を引っ張られ、裏口から旅館の中へとお邪魔する。

 

「それにしても、千歌がこんな可愛い男の子の友達が出来るなんてね。」

 

「は、はぁ。」

 

光助はあまり可愛いと言われるのは好きではない。男ならばかっこいいと思われたいというのが当たり前だ。

しかし、彼女も悪気がある訳ではなく、むしろ褒めているつもりなので、光助は気を悪くしないように苦笑いで返す。

 

「あっ、ごめんなさい。紹介が遅れたわね。私は千歌の姉の志満と申します。」

 

「よ、よろしくお願いします。」

 

志満の優しく、温かな笑顔を振りまき、思わず光助は顔を赤める。光助は果南といい、志満といい、年上で大人っぽく包容力がある女性がタイプなので、ああいう可愛いらしい一面を見ると、思わず見惚れてしまう。

 

「千歌は二階にいるからね。」

 

「ありがとうございます……っと!」

 

すると、二階から志満とは正反対のボーイッシュな女性が階段を駆け下りてきた。

 

「おっ、ごめんごめん……って志満ねぇ、この子は。」

 

「ほら、千歌ちゃんが言ってた男の子。」

 

「へぇ〜、あんたが。」

 

その女性は光助の目前まで顔を近づけ、じっくりと見定める。また、女みたいだなとか言われるんだろうなと予想をするも、その予想は大きく裏切られることなく。

 

「へぇ、結構いい顔つきしてんじゃん。」

 

美登はそう言うと、足早にその場から去っていった。

 

「全く……ごめんなさいね。美登ちゃんが迷惑をかけちゃって。」

 

「いえ、別に気にしてませんから。」

 

嵐のような人だなと思いつつも、褒められたことに内心喜んでいた。そんな浮かれた気持ちで、二階に上がるとすぐその気持ちはなくなる。

千歌の部屋に前にたどり着くと、深呼吸をする。女の子の部屋に入るのはどうも緊張する。だが、このまま立ちっぱなしもいかがなものかと思い、意を決して襖を開ける。

 

「あっ、こうちゃん!」

 

襖をあけると真っ先に千歌が光助に気づき、声をかける。続いて曜も満面の笑みで光助に手を振る。

そんな三人に迎えられて、先程まであった緊張はどこかに行ってしまった。

 

「ごめん、遅くなった……って梨子ちゃん!?もしかして!」

 

「うん。作曲(・・・)は手伝うことにしたの。」

 

あくまでも作曲だけを手伝うことを強調する梨子。だが、光助にとっては梨子がこうやって楽しんでもらえれば何でも良かったため、ホッと胸をなでおろす。

 

「それで、今は何をやってるの?」

 

「曲を作るために詩を書いてるんだけど……。」

 

「へぇ、どんな感じにするの?」

 

「スノハレみたいな恋愛の曲にしたいんだ。」

 

「スノハレ?……まぁ、いいんじゃない?」

 

スノハレという単語に首を傾げるも、おそらくμ’sの曲の一つなのだろうと勝手に解釈をする。

それにしても、なぜ恋愛の曲なのだろう。やはり、女子というのは恋愛ごとが好きなのだろうかと偏見交じりに考える。

 

「でも、恋愛したことないのにそういうのって難しいでしょ。だから、やめた方がいいって思うんだけど……。」

 

「ん!?ちょっと待って?恋愛したことないの?」

 

「むしろあるの?」

 

千歌は恋というものをまるで都市伝説か何かと勘違いしてるような言い草で、光助は動揺を隠せない。

 

「いや、高校生だよ!普通はあるでしょ!曜ちゃんはあるよな!」

 

「私も……そういうのなかったなぁ。」

 

「ふぁっ!?り、梨子ちゃんは!?」

 

「私も……。」

 

「マジか……。」

 

思春期という多感な時期に恋愛をしたこともないことに、驚きを通り越して心配になってしまう。

因みに光助は人というのは恋を通じて成長するものと考えている。現に光助は恋を通じて成長したと自負している。

かと言って、全てがいい経験だったとは思っていないが。

 

「なら、こうちゃんはあるの?」

 

恋愛をしたことがないことに驚かれたのが、余程なのか、対抗するように千歌が光助に話を振る。

その瞬間、光助の脳裏にあの少女の姿が思い浮かぶ。学校で美人でまかり通っていた、茶髪の少し今風の少女。そんな女子と付き合えていたのなら、本当なら誇れるものだろう。しかし、光助にとっては苦痛の思い出でしかない。

 

「……短い間だけど……いた……。」

 

「えーー!?」

 

これには三人とも驚きを隠せず、大きな声をあげてしまう。そして、光助の気も知らず、問い詰めてしまう。

 

「ねぇねぇ、どんな感じなの!?」

 

これには曜も興味を示し、光助を問い詰めていく。しかし、彼女との思い出には華も何もなく、ただ苦しい思い出しかない。

縫われたはずの心の傷がグロテスクな音ともに開いていく。光助を掴むあの手の感触、見つめるあの視線が再び蘇り、恐怖で発狂しそうになる。

しかし、そんな思いをグッと心の奥底に押しとめる。

 

「まぁ、悲恋の曲になっていいなら話すけど。」

 

すると、千歌は曲のイメージには合わないようでそれ以上、問い詰めることはしなかった。やれやれと光助は心の中で汗をぬぐう。

 

「っていうことはμ’sがこの曲を作った時、誰かが恋愛してたってこと?」

 

「まぁ、その可能性もなくはないかもね?」

 

「そっか……なら調べてみる。」

 

梨子がその可能性を示唆すると、千歌はパソコンを開いて調べ始める。画面を見るその表情は真剣そのもの。

 

「全く、ちかっちはスクールアイドルのことになると、途端にやる気を出すね。」

 

「千歌ちゃんはスクールアイドルに恋してるからね。」

 

「それだよ!」

 

「スクールアイドルにドキドキする気持ちとか大好きって感覚とかなら書ける気がしない?」

 

「書ける!それならいくらでも書けるよ!」

 

そう気づくと、千歌は夢中でペンを走らせる。

夢中になる千歌を見て、梨子は幼い頃のことを思い出す。あの頃は迷いや悩みなど全くなく、ただ純粋にピアノを楽しんでいた。

ピアノの音が好きだから。褒められのが嬉しかったから毎日のように弾いていた。

いつからこの気持ちを忘れていたのだろうか。

 

「私、その曲みたいなの作りたいんだ。」

 

「何々。ユメノトビラ?」

 

千歌は光助と梨子に「ユメノトビラ」というμ’sの曲の歌詞を見せる。あくまで光助の解釈でだが、この曲は自信を無くして路頭に迷いながらも、大切な友達と出会ったことで、進むべき道を見つけ、そして共に歩んでいくという、希望の籠ったものだと感じた。

 

「それを聴いてスクールアイドルやりたいって……μ’sみたいになりたいって本気で思ったの!頑張って、努力して、力を合わせて、奇跡を起こしていく。私でも出来るんじゃないかって。今の私から変われるんじゃないかっ

て、そう思ったの!」

 

千歌は目を輝かせながらそう語る。すると、梨子がそんな千歌にこう言った。

 

「本当に好きなのね。」

 

「うん!大好きだよ!」

 

梨子の言葉に混じりけのない笑顔で返す千歌。他愛もないただの一言。しかし、それが梨子の思いを大きく変えることを千歌は知る由もなかった。

 

♢♢♢

自宅へと帰宅し、時計の短い針がちょうど真上を指す頃、梨子はベッドの上で膝を抱えながらスマホを眺めていた。

すると、ドアをノックして光助が入ってきた。

 

「梨子ちゃん、まだ起きてたの?」

 

それはこっちのセリフだと言いそうになるが、光助の様子を見て、グッと押しとどめる。

 

「光助君。どうしたの?」

 

「いや、なんか寂しくなってね。」

 

今の光助はどこか弱々しい。いつもは明るい性格のうえ、仮面ライダーとして命をかけて戦っているあの勇姿からは想像も出来なかかった姿なため梨子は戸惑いを隠せない。

だからこそ、梨子は光助の力になりたいと思った。

 

「ねぇ、何かあったら相談に乗るよ。」

 

「……ありがとう。でも、大丈夫。もう、終わったことだから。それより、梨子ちゃんは何聞いてたの?」」

 

先程の暗い表情はまるで嘘のような優しい笑顔を光助は見せると、梨子の隣に座り、梨子の手にあるスマホの画面を覗き込む。

 

「ユメノトビラ……。」

 

それは先程千歌が二人に勧めていた曲。やはり、梨子も何か思う節があるのだろかと光助は予想していた。というのも光助が捉えるこの曲の意味と、梨子を取り巻く心情と状況があまりに一致していたのだ。

自信を無くした梨子と、手を差し伸べる千歌と曜。もしかして、梨子も自信とこの曲と照らし合わせているのでは

光助は思った。もし、そうなら、一歩踏み出すチャンスなのではと光助は意を決する。

 

「弾いてみない?」

 

光助の突然のことに梨子は目を丸くする。

 

「でも……。」

 

どうしても怖くなって、思わず固まってしまう。実際のところは弾いてみたいと思っている。しかし、いざ弾こうとピアノに手をかけるとあの日のことがフラッシュバックして、手が震えてしまい、結局弾けないのだ。

梨子は無理だというように、光助から目をそらし、俯いてしまう。そんな梨子の心情を察した光助は優しげな表情を浮かべて、梨子の白くなめらかで細い手を優しく握る。

 

「今の梨子ちゃんならきっと弾ける。」

 

光助の暖かな体温が梨子の冷え切った手に伝わる。すると、梨子は心がゆっくりと熱を帯びるような感覚を感じた。そして、決心したような面持ちで立ち上がり、ピアノの前へと座り込む。久しぶりに触るピアノ。しかし、案外緊張はせず、むしろ相当リラックス出来ていた。

不思議な感覚であった。あれほど恐れていたものが、今ではむしろ弾きたいとさえ思っていたのだ。

そして、深呼吸して、そっと鍵盤を押す。

 

〜ユメノトビラ ずっと探し続けて 君と僕との つながりを探してた〜

 

薄暗い部屋に梨子の綺麗な歌声と透き通ったピアノの音が響き渡る。その二つは綺麗に合わさり、心地の良い美しいものへと変化する。

光助はその美しいものをただ黙って聞いていた。

 

〜そして少しずつ進むんだね ときめきへの鍵はここにあるさ〜

 

鍵盤を叩く梨子の指はまるで何かを思い出すためにかのようにしっかりと踏みしめるよう。

 

〜青春のプロローグ〜

 

弾き終えると梨子はゆっくりと深呼吸をし、余韻に浸ろうとした。だが、外から拍手の音が聞こえ、その方向にゆっくりと顔を向ける。

 

「そこって梨子ちゃんの部屋だったんだ。」

 

目線の先には風呂上がりで頭に白いタオル巻いた寝巻き姿の千歌がベランダから梨子の演奏を聞いていた。

光助と梨子は既に気づいてはいるが、梨子の家と千歌の家はまさかの隣同士だったのだ。もちろん、初めて気づいた時には二人とも驚いていたがさらに部屋も向かい側だったことに、さらに驚いてしまう。

 

「こっちもそこがちかっちの部屋だったことに驚いているよ。」

 

「えっ!?光助君!?なんで梨子ちゃんの家に!?……まさか!!」

 

「残念なことにちかっちが思っているような関係ではないよ。ただの居候さ。」

 

梨子の背後から当たり前のように現れた光助に千歌は驚く。そして、二人の事情を知らない千歌は勘違いをしてしまうも、すぐに光助が否定する。

すると、千歌はどこかホッとしたように息を吐き、安心した素振りを見せる。

そして、話題を変え、梨子に声をかける。

 

「ねぇ、梨子ちゃん。今のユメノトビラだよね?」

 

「私どうしたらいいんだろう。何をやっても楽しくなくて……何をしても変われなくて……。」

 

「やってみない?スクールアイドル。」

 

届くはずもないところから千歌は梨子に手を差し出し、何度も断られたスクールアイドルを再び勧誘する。普通ならこんなのは無駄なこどだろう。しかし、彼女は本気だった。

 

「梨子ちゃんの力になれるなら、私は嬉しい!みんなを笑顔にするのがスクールアイドルだから!」

 

千歌の言葉には下心何もない。ただ、梨子を助けたいという願いの他何もない。すると、千歌は身を乗り出し、さらに手を伸ばす。

 

「それって、素敵なことじゃない?」

 

梨子も千歌の手を掴もうと手を出す。しかし、普通に考えて届く距離ではないと諦めてしまう。

 

「流石に……届かないよね。」

 

「ダメッ!」

 

だが千歌は諦めず、頭に巻いていたタオルを落としながらも梨子の手を掴もうとさらに身を乗り出す。

 

「梨子ちゃん。また逃げるのかい?」

 

雲が風に流れ、月を覆い隠す。諦めようと手を引く梨子の背後から、光助が冷たく言い放つ。

 

「だって!……もう、あんな思いしたくない!」

 

不意にあの光景が思い浮かぶ。大勢が見守る中、ピアノに手をかけるも、プレッシャーに負け、何かも蓋をして逃げたあの時。屈辱とか後悔ではない。ただ怖かった。今でも抱いてるのはただそれだけ。

光助もそれを十分承知だ。

 

「怖いのはわかる。だけどね、ずっと逃げてばっかじゃダメだよ。変わるには一歩を踏み出さきゃいけない。」

 

だからこそ、逃げずに再び立ち向かわなければいけないと光助は必死に梨子に言い聞かせる。

 

「でも、その一歩が難しいさ。だけど今!梨子ちゃんの目の前にあるのは何!?折角のチャンスなんだ!それを掴まないでどうする!」

 

 

情と熱のこもった言葉が、梨子の凍った心の蓋を溶かしていく。

変わるには……一歩を踏み出さなくては。そして、目の前にあるものそれは……。

 

「……くっ!」

 

光助に言葉に後押しされ、梨子も必死になって千歌の手を掴もうと手を伸ばす。

 

「あと……少し!」

 

二人は危険を顧みず、その手を掴もうと身を乗り出す。届きそうで届かない距離。だが、絶対に届かせる。変わるために、前へ進むために。そして、ついにその時が来る。

 

「「届いた!」」

 

二人の指先がついに触れ、思わず二人は声をあげてしまう。二人の表情はとてもいいものだった。まるで、富士山を登頂したような達成感のあるそんなものだった。そんな二人を祝福するように月の光が二人を照らす。

 

「うわっ!」

 

「梨子ちゃん!」

 

だが、身を乗り出しすぎて、梨子がベランダから落ちそうになる。しかし、間一髪で光助が梨子を支えたおかげでこと無きを得た。

 

「全く、危なっかしいな。」

 

「光助君……。」

 

梨子の肩を掴みながら呆れたように、だが嬉しそうな様子の光助。そんな彼は二人を見てある決心をした。

仮面ライダーとして、たくさんの人を救う。だけども千歌達とも一緒にいたいとも思っていた。そして、彼女の行く末を見守っていたいとも思ってもいた。

至極、単純なワガママだろう。しかし、やりたいからやる。好きだからやる。そんな簡単なことを千歌から教わったからこその答えだった。

 

「2人の手が離れそうになったら俺が無理にでも繫ぎ止める。だから、俺も手伝うことにする。」

 

光助がそう言い切ると、二人はさらに明るい表情になっていく。

月はスポットライトのように三人を照らす。

 

今、優しい風が流れ、新たなステージ幕を開ける。

 




曜ちゃんがどうしてもないがしろになってしまう。次回からはちゃんと出番をふやさないと。
まぁ、それは置いといて、どうでしたか?
表現なんか頑張ってみたんでしたが……。
あと、ユメノトビラの解釈に関しては、間違っていたらごめんなさい。

さて、主人公にまさかの彼女が(笑)
因みに主人公の元カノ、出そうか迷ってます。出るとなると、小説版ファイズ並みのドロドロした感じになりますが

では、次回もよろしくお願いします


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突然の来訪者

レイラ ガルシア
学年 高校三年生 17歳
誕生日 8月25日
星座 乙女座
血液型 o型
身長 174cm
体重 46kg
趣味 女の子をナンパ
特技 上と同じ
好きなもの 大人っぽい女性 あったかい食べ物
嫌いなもの 冷たい食べ物

アメリカ人とドイツ人のハーフの母とスペイン人とドイツ人のハーフの父から生まれたクォーター。
容姿は日本人離れしたスタイルで8頭身。髪は肩まで伸び、緑色。瞳は青い。
性格はお調子者だが、しっかりする時はしっかりする。
とある理由で両親を失っており、児童養護施設に預けられていいたが、そこでは問題児として扱われていた。
そこから色々とあって源と出会い、仮面ライダーとして戦うことを条件に養子となった。

仮面ライダー狼渦

レイラ ガルシアがローゼンドライバーで変身した姿。白のスーツに銀色の生態鎧、指には鋭い爪が有り、鋼鉄程度ならいともたやすく斬り裂く。
seadを倒す開発されたことはホープと同じだが、それ以外は対をなす存在。ホープは光を使ってseadと戦うが、狼渦は闇の力でseadと戦う。わかりやすくなら毒は毒を持って制すならぬ闇は闇を持って制す。
モチーフは狼、もしくはフェンリル。
名付け親は源。見た目が狼なのと、レイがバラのように美しかったから。



紅の夕日が海を染める頃、千歌と曜と梨子は砂浜でダンスの練習をしていた。それをスマホのカメラで動画として撮影しているのはマネージャーとして正式に千歌達の手伝いをすることになった光助だ。

 

「よし、とりあえずフォームを確認するか。」

 

ある程度きりのいいところになったので、光助は3人に一旦呼びかけ、ダンスの確認をする。光助含め、ダンス経験がある人がいないので、確認するときは全員集まって意見を出し合いながら確認している。

 

「どうかな?」

 

「だいぶ良くはなってる気がするけど。」

 

「でも、ここを見て。みんなここの蹴り上げが弱いのと、ここの動きが。」

 

梨子にとってはだいぶ良くなっているように見えていた。しかし、曜には細かなところまで見ており、誰も気付かないようなミスに気付いた。

 

「あぁ!本当だ!」

 

「すごいな曜ちゃん。すぐに気づくなんて。」

 

「高飛び込みやってたからフォームの確認は得意なんだ。」

 

確かに高飛び込みはフォームが命の競技だ。10mの高さから、いかにフォームを崩さずに美しく着水出来るかを競う競技だ。それなら、当然

 

「なるほどね……テンポはどうだろう?」

 

曜のすごさに感心しながらも、光助も負けじと問題点を見つけようとする。

 

「千歌ちゃんが少し遅れてるわね。」

 

「私か~。」

 

梨子に指摘され、千歌上を向く。その時、ピンクのヘリコプターが通り過ぎるのが見えた。

 

「あれは?」

 

「小原家のだね。」

 

「小原家?」

 

梨子は内浦に来て、初めて聞くその名前に疑問を抱く。

 

「世界的大企業の家らしい。ここら辺だと淡島ホテルを経営してる。後、seadの存在を知ってる。」

 

「そうなの!?」

 

「そういえば、浦の星の新理事長も小原家の人なんだって。」

 

「そうなのか。」

 

曜の噂話を聞いてすぐに思い浮かんだのは立派な机を前にふんぞり返って座る源の姿だった。あのダンディな容姿のせいか異様に似合ってしまうのが恐ろしい。

 

「ねぇ、何か近づいてない?」

 

「気のせいだよ。」

 

すると、ずっとヘリを眺めていた千歌がヘリが段々こちらに近づいてきてないかと言う。梨子はそんなわけないと否定する。しかし、今まで豆粒のように小さく見えたヘリが段々大きくなっていく。

 

「やっぱり近づいてる!?」

 

4人が気付いた時には既にヘリコプターは頭上すれすれを通り過ぎ、4人は咄嗟にかがむ。そして、砂浜の砂をまき散らしながら着陸する。

 

「うわっ!砂に目が!目がぁ!」

 

舞う砂が光助の目に入り、某3分間待ってくれる悪役のセリフを吐いて、目を抑える。

 

「チャオ!」

 

「あなたは!?」

 

ヘリコプターの中から現れたのは浦の星の制服を着た鞠莉がいつも通りのハイテンションで現れた。

 

「久しぶりね、シャイン!」

 

「そのシャインっていうのやめてくれません?」

 

目に入った砂を涙で落とし、光助は薄目で鞠莉を見る。相変わらずの鞠莉に光助は思わずため息を吐いてしまう。

 

「まぁ、いいんじゃん。私たちの仲なんだし。」

 

「雇い主と雇い人ってそんな深い仲でもないですよ。それで、何であんたがこんなところに?」

 

的確に突っ込みを入れ、光助は鞠莉がここに来た理由を聞いた。

 

「それはね、新しいスクールアイドルを見にね。」

 

「わ、私たちを!?」

 

「Yes!」

 

これには千歌達も驚いてしまう。

 

「他には?見に来るためだけにヘリコプターを使うなんて、大袈裟すぎないか?」

 

「Oh!流石シャイン!鋭いわね!」

 

もう名前については指摘するのは諦めた。そんな光助をよそに鞠莉は一緒に乗っていた男性二人に、ヘリの後ろに積んであったある物を運ばせる。

 

「餞別のpresentよ!」

 

運び出された物を見て、光助は少年のように目を輝かせて、喜ぶ。運び出されたの金色と赤と黒のラインが入ったバイクであった。

 

「これは?」

 

「えっと、パパが言うにはマシンライトレイザーって名前だって。存分に使って!」

 

フルカウルのボディーに二つのライト。おそらくベース車体はCBR400Rだろう。結構しっかりとしたもので光助は驚いていた。

 

「あぁ、大切に使わせてもらう。」

 

表情には出してはいないが、光助は内心、相当喜んでいた。やはり男であるが故にかっこいいものを見ると、興奮してしまうのだ。

 

「それじゃあ、シャインもあなたたちも頑張って!see you!」

 

そして、鞠莉はそのままヘリに戻り、淡島ホテルへと戻っていった。

「すごい……人だったね。」

 

初めて鞠莉に会って、梨子は少し固まっていた。悪い人ではなく、むしろ良い人なのだが、いかんせんテンションについていけないのだり

 

「まぁ……慣れるよ。たぶん。」

 

いや、慣れなくては半ば言い聞かせるように光助は言う。

 

♢♢♢

「はぁ!?あんたが理事長って!」

 

翌日、朝から光助の驚愕の声が学校中に響き渡る。それもはず。光助の目の前では予想外のことが起きているのだ。

光助は梨子と登校するやいな、千歌と曜、そして光助と梨子は理事長室に呼び出された。光助は一体何事かと不安と疑問を抱きながら、三人とともに理事長室へと訪れた。

そして、その部屋には千歌達と同じ制服で、淡い緑色のベストを着た鞠莉が理事長の席に座っていた。

 

「YES!でも、気にしないで気軽にマリーって呼んで欲しいの。」

 

そう、この浦ノ星女学院の新しい理事長は光助達の一つ年上の小原鞠莉だったのだ。学生が理事長を兼任するなど聞いたことなどない。いや、普通はあり得ない。

さらに生徒数が年々減少しているという未曾有の問題を抱えてる学校にもかかわらずだ。

 

「この学校の生徒兼理事長。例えるなら、カレー牛丼ってところね?」

 

「例えがよくわかりません。」

 

「えー!わからないの?」

 

光助も悩まされた鞠莉の独特のテンションに梨子も振り回される。

 

「わからないに決まっています!」

 

すると、先程からずっといたダイヤが、しかめっ面で鞠莉を見る。一瞬、鞠莉はダイヤを見るやいな、突然抱きついた。

 

「ダイヤ久しぶり!随分大きくなって。」

 

「あなたも相変わらずですね。」

 

「でも、胸は相変わらずね。」

 

どうやら二人は知り合いで、長い間あっていなかったらしく、かと言ってダイヤは再会を大袈裟に喜ぶことはしなかったが、皮肉を交えた返事からするとそれなりに仲が良いのだろう。だが、反面、鞠莉は相当嬉しいようで、挙句にはスキンシップとしてダイヤのお世辞にも大きいと言えない胸を揉む。

 

「やかましい!ですわ!」

 

「イッツジョーク!」

 

ダイヤは顔を赤らめ、すぐさま鞠莉の手から離れ、胸を両腕で覆い隠す。

 

(胸って結構柔らかいんだな。)

 

光助も年頃の男子だ。目の前に繰り広げられる、男子には少し刺激的な光景にに思わず見惚れてしまった。

 

「光助君!」

 

「ふぁいっ!?」

 

すると梨子には光助がいやらしい目で二人を見ていたことに気付いおり、まるで刃物のような鋭い目線を光助に贈る。

 

「まったく、1年のときにいなくなったと思ったら、こんな時に戻ってくるなんて……。」

 

「シャイニー☆彡」

 

「人の話を聞かないクセは相変わらずのようですわね!」

 

「イッツジョーク!」

 

鞠莉の自由奔放な性格に振り回され、ダイヤは思わず鞠莉のネクタイを掴んでしまう。しかし、鞠莉か笑ってごまかす。

 

「とにかく、高校三年生が理事長なんて、冗談にも程がありますわ!」

 

確かにと後ろで蚊帳の外だった4人はうんうんと頷く。

 

「でもね、これは冗談じゃないのよ。」

 

すると、鞠莉は自慢げな表情で机に置いてあった任命状を、5人に見せびらかす。

 

「私のホーム、小原家のこの学校への寄付は相当な額なの。これくらいの見返りがあってもいいとは思わない?」

 

その任命状はしっかりと浦の星女学院の印が押してあり、偽造もないもない、正式な書類であった。

 

「流石……としか……。」

 

現実を目の当たりにし、光助は開いた口が塞がらない。

 

「それにこの学校にスクールアイドルが誕生したって聞いてね。ダイヤに邪魔されちゃ可哀想なので応援しにきたのです。」

 

「なっ!」

 

鞠莉の予想外の一言に、ダイヤは一瞬、悔しそうな表情を浮かべる。おそらく鞠莉にいっぱいくわされたたからだろう。一方で、自分たちを応援してくれると聞いて、千歌はとても嬉しそうだった。普通なら理事長という大きなバックを手に入れたことに喜ぶところだが、千歌はそこまで考えていなかった。

しかし、光助は鞠莉の千歌達への異様な執着に疑問を抱いていた。

 

「本当ですか!?」

 

「イエス!このマリーが来たからには心配はいりません。」

 

しかし、光助の心配をよそに話は進んでいく。そして、鞠莉は任せてと言わんばかりの表情で、パソコンを開きある写真を千歌達に見せる。

 

「デビューライブはアキバドームを用意したわ!」

 

「そんな、いきなり!?」

 

「き、奇跡だよ!」

 

これには千歌と曜は先ほど以上に驚いている。一方で、光助はアキバドームの存在を知らず、何がすごいのか理解していない。これは後で調べてわかったことだが、アキバドームとはμ‘sが最後にライブをした場所であり、スクールアイドルにとって、聖地だそう。

因みに光助曰く、織田信長が最後を迎えた本能寺のようなものと理解したらしい。

 

「イッツジョーク!」

 

「ジョークのためにわざわざそんなもの用意しないでください。」

 

だが、そんな場所でデビューライブができるはずもなく、全ては鞠莉の手の込んだジョークであった。これには千歌も呆れられずにはいられなかった。

 

「だけど、場所はちゃんと用意してるから。私についてきてくれない?」

 

「は、はい!」

 

そして、鞠莉は4人に手招きをして、その場所に連れて行こうとする。だが、光助だkrははダイヤに呼び止められる。

 

「舘さん、ちょっといいですか。この後少しだけ残ってくれませんか?この前、話しそびれてしまったので。」

 

「あぁ、ちょうどいい。俺もこの前の続きを聞きたいしね。」

 

先日、seadによって父親に話を聞きそびれてしまったため、ダイヤはわざわざその埋め合わせを作ってくれたのだ。光助は千歌達に遅れると言って、千歌達を先に行かせて、そのまま残ることになった。

 

「それで、父さんとの関係は?」

 

「……私達に夢を見させてくれた恩人です。」

 

「恩人?」

 

あの堅物なダイヤに恩人と呼ばれるほどなのかと光助は驚いた。確かに光助も父親を尊敬してはいるが、はっきり言って世間からの評判は悪い。そんな人が恩人だと言われて、不思議に思ったのだ。

もしかして、ダイヤはあのことを知らないのでは?いや、おそらく知らないのだろう。なら、わざわざ失望させるようなことは言わなくていいだろうと光助は思い、黙って話の続きを聞く。

 

「舘先生は私達が一年生の時、臨時講師でこの浦ノ星に赴任してきたました。」

 

「2年前……。」

 

源と出会った3年前といい、何故正義は家族に連絡の一つも寄越さなかったのか。研究に没頭していたならまだしも、臨時講師をやってる暇があるなら少しは家族のことを気にして欲しかったと光助は正義にちょっとだけ失望する。

 

「でも、結局いたのはほんの二ヶ月でした。」

 

「二か月だけって……、どうして?」

 

「……行方不明になったんです。当然、学校に来なくなって、そのまま……。」

 

ダイヤはどこか寂しそうで、暗い様子で話す。それもそうだろう。恩人と呼べる人が別れの言葉も何も言えず、行方を眩ましたのだ。心配と不安、悲しみを抱くのは決まっている。

 

「そうですか……ありがとうございます。」

 

これ以上、ダイヤから話を聞くのは酷だろうと思い、光助は早々に話を切り上げる。そして、礼を述べ、千歌達の後を追おうと部屋を後にしようとした時、ダイヤは最後に正義のある話をした。

 

「あの、光助さん。実は舘先生はあなたのことを少しだけ話してました。自慢の息子だって。早く家に帰って、成長した姿を見たって、楽しそうに話してました!」

 

「そっか、俺のことを……。」

 

正義は自分のことを忘れていなかった。さらに自慢の息子と言ってくれて誇らしく思えた。しかし、同時に何故そんな大事な存在をほおっておいていたのだろう。そのせいで、自分たちはあんな辛い思いをしたのに。

 

「……だったら、早く帰ってくればよかったのに。」

 

父に対する初めての不信感。光助はダイヤに聞こえない音量で、吐き捨てるように呟いき、部屋を後にした。




実は希一さんのラブライダー企画参加するか迷っています。そのため、こっちの更新が遅くなるかもしれません


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吹き荒れる旋風

やっとこさ。やっとこさ、書き終えた。


学校が終わり、千歌の家に来ている光助は曜の衣装作りを手伝っていた。

 

「そりゃあ……大変なことだ。」

 

「だよね……どうしよう……。」

 

布を丁寧に扱いながら、2人は先程の事を話す。鞠莉は学校の体育館でライブを行い、満員にすれば人数関係なく、部の設立を許可してくれたのだ。しかし、ここで鞠莉の策に溺れてしまった。廃校間際で浦の星の生徒を全員集めても、体育館は満員には出来ないのだ。

 

「……あのおっさんの娘だけあるな。」

 

(侮らないほうがいいな。)

 

ふざけていそうな態度とは裏腹、否、あえて懐に忍び込むためなのにわざとあんな態度をしているのか。どちらにしろ、鞠莉にいっぱい食わされ、光助は苦虫を噛み潰したよう表情を浮かべる。

 

「だけど、まだ対策はあるんだよな。」

 

「うん。千歌ちゃんのお姉さん達が協力してくれれば。」

 

千歌が提案した作戦は姉である美澄か働いている職場の人達の仰ぐということだ。

 

「あっ、ちか……。」

 

噂をすればと千歌が現れた。額にバカチカと書かれ、ムスッと不機嫌な表情で。

そんな千歌を見て、2人は作戦は失敗したと察した。

 

「おかしい……完璧な作戦なはずだったのに……。」

 

作戦が完璧かどうだったかはさておき、失敗したのなら、また次を考えなくてはならない。

 

「それなら俺たちでどうにかしないと。」

 

「町内放送で呼びかけたら?」

 

「そんなことが出来るのか!?」

 

田舎ならではのやり方に光助は驚きを隠せない。光助が昔住んでいた風都ではありえないことだ。

 

「そういえば梨子ちゃんは?」

 

「さっき、トイレに行くって言ってたけど……長いな。」

 

千歌の部屋からトイレはそう遠くない。それなのに梨子は何をやっているんだ。とりあえず光助は梨子を探しに廊下に出る。

 

「……何やってるの?」

 

結論から言うと、梨子はすぐ近くにいた。それだけなら、手間がかからなかったで終わる。しかし、梨子は謎の行動をしているのだ。手すりにつかまり、襖に足をかけ、まるで橋になっているようだった。

 

「光……助君……助けて……。」

 

助けてって何を疑問に思うが、ふと梨子の下を見る。そこにはしいたけが動じることもせず、そこで寝そべっていたのだ。

 

「もしかして、犬が嫌いなの?」

 

光助がそう聞くと梨子は踏ん張った顔でコクコクと頷く。

 

「わかったとりあえず、しいたけは退ければいいんでしょ。ほら、しいたけ。」

 

少なくともしいたけは人に噛み付いたりはしないだろうと思いながらも、しいたけを無理矢理起こして、千歌の部屋へと入れた。

 

「あ、ありがとう。」

 

「……えみつん。」

 

「ひゃう!」

 

梨子は安心して、謎のポーズを崩そうとすると、何と光助が脇腹をツンと突き、梨子はだらしない声とともに地面に落下する。

 

「ゴメン、なんか悪戯したくなっちゃって。」

 

しょうがないと言わんばかりの光助の態度に梨子の堪忍袋の緒が切れる。

 

「光……助……君……。」

 

「あっ。」

 

光助は自分のした行いを酷く後悔した。今まで、優しいイメージしかなかった梨子。しかし、目の前にはその優しい梨子が鬼の形相でこちらを睨みつけていた。

 

次の瞬間、内浦全域にパンと乾いた音が響き渡る。そして、晴れた頬を千歌と曜に笑わられたのは言うまでもない。

♢♢♢

そして、日曜日。4人はチラシを持って沼津駅に来ていた。

 

「ねぇ、千歌ちゃん。本当にやるの?」

 

「うん!やらなきゃ何も始まらないよ!」

 

あまり目立つことが得意ではない梨子は不安な様子であった。4人はここでライブの宣伝をするのだ。

 

「お願いします!」

 

千歌が女子高生の2人組の前に元気良くチラシを差し出すも全く相手にされず、唖然としてしまう。

 

「あれ?」

 

「思ったほど上手くいかないね。」

 

千歌と同様に上手くいっていない、というかチラシを渡す勇気がない梨子が

 

「だけど……。」

 

千歌と梨子は反対に上手くいっている2人に視線を移す。

 

「ライブのお知らせです!」

 

元気良く、ハキハキと声をかけ、去り際にウインクと敬礼をして、無自覚にアピールをしながら、曜は順調にチラシを配っていた。

 

「来てください!」

 

曜のコミュニケーション能力の高さに千歌と梨子は驚かざるを得ない。

一方、光助は。

 

「ちょっと……押さないでください!」

 

光助は可愛い女子に囲まれて、軽く鼻の下が伸びていた。想像以上に情けない顔をしているが、可愛い女子に囲まれればそれは嬉しいに決まっている。

 

「光助君……。」

 

「こうちゃん……。」

 

千歌と梨子もそれはわかっている。しかし、自分達には見せない様子を見て、何とも言えないモヤモヤした気持ちになる。

 

「2人ともどうしたの?」

 

「「何でもない。」」

 

突っ立っている2人を見て、曜が声をかけると、2人の返事がハモる。

一方の光助はそんな2人の思いをつゆ知らず、自分の置かれている状況を楽しんでいた。

 

(もしかして……俺ってかっこいい?)

 

光助は慢心を超え、自己愛にまで膨れ上がっていた。光助が囲まれる時は大抵、この身なりで男だということに珍しがられる時か、浮ついた男に絡まれるケースが多い。しかし、今は男として見られ、囲まれている。それが何よりも嬉しかったのだ。

 

ただそう思っていたのは光助だけだった。

 

1人1人に丁寧にチラシを配っていると、黒タイツを履いた女子高生が声をかけてきた。

 

「ライブ、頑張ってください!」

 

「はいっ!……ん?ノーノー。俺は出ないけど……。」

 

思わずつられて返事をしてしまうも、あくまで出るのは自分ではなく、千歌達だ。それを勘違いしているようだった。

 

(勘違い?)

 

改めて考えてみると可笑しい。男がスクールアイドルなんて基本的にはあり得ない。光助に一抹の不安が過ぎる。

そんな光助を他所に今度は眼鏡をかけた女子高生が顔を赤らめながら声をかけてきた。

 

「あの……もしかして……彼氏とかいますか?」

 

「はへっ!?いないいない!だって……!」

 

「そうですよね!女子校に通ってるですもんね!いたとしても彼女ですよね!……良かった……私にもチャンスが……。」

 

「えっとね、チャンスはあるかもしれないけど、色々と誤解してるよね?」

 

いわゆる腐女子というものかと思ったが、そうではなかった。いや、光助にとってはそちらの方が良かっただろう。まだ、男として見られるからだ。

すると、たまたまその場に通りかかった女子高生3人が光助を見るやいな、ヒソヒソと話し始めた。

 

「あの人、宝塚の男役が似合うよね。」

 

「はうっ!」

 

「男装の麗人とか良さそう!」

 

「ロゲッツ!」

 

「あ〜あ、私もあんなイケメンな女性に抱かれたいわ!」

 

「ブゲラボッ!」

 

急速に積み上げていった塔は度重なる攻撃を受け、最終的に会心の一発をくらい、ボロボロ崩れ去る。そして、光助は真っ白になりその場に座り込む。

 

「光助君……。」

 

梨子は慌てて、光助の元に駆け寄る。真っ白になり、燃え尽きた光助は弱々しい声で問いかけた。

 

「……なぁ……俺ってそんなに女の子に見える?」

 

「……。」

 

梨子はバツが悪そうに目線を逸らす。

 

「何か言ってよ!」

 

光助は目を潤ませる。実際、そんな表情をされると女子にしか見えない。その後、光助は何とか立ち上がり、いつも通りに戻る。

すると、千歌が女子高生にいわゆる壁ドンとものをし、そして呆気なく逃げられていた。

 

「何やってんだ、ちかっちは。」

 

「こうちゃんみたいなことすれば、いけるかなって。でも無理だよね。こうちゃんみたいにかっこいい女の子じゃないと……。」

 

千歌はニヤニヤと笑いながら女扱いされていた光助にちょっかいをかける。これには優しい光助でも癇に障り、千歌の柔らかい頬をつまんで引っ張る。

 

「ちかっち……何て言ったかな?」

 

「い、いひゃい!ほへんなひゃい!」

 

目を潤ませ、チワワのような目で反省したと訴えかける。そんな様子から反省していると判断した光助は千歌の頬から手を離す。

 

「全く、ちかっちは。」

 

「それじゃあ、この調子で梨子ちゃん行ってみよう。」

 

「えっ!?無理だよ!?……私ってこういうの苦手だし……。」

 

千歌は頬をさすりながら、梨子に同じようにやってみようと言う。だが、

 

「何でこの調子でいこうと思ったのか疑問に思うけど、まぁ、挑戦するのは

 

「光助君まで!」

 

光助まで便乗してきて、梨子は戸惑ってしまう。

 

「大丈夫だって。梨子ちゃんならやれるよ。」

 

「ねぇ、そこの美少女。今夜暇かな?」

 

「ほら、梨子ちゃん。あんな風にやるんだ……レイ!?」

 

光助の隣で、先ほど千歌から逃げた女子高生がレイに壁ドンされ、顔を赤らめたいた。

 

「おお、光助。それにかわいこちゃんたちじゃない。」

 

光助達に気づいたレイは、壁ドンしていた女子高生を頭を撫で、連絡先が書かれた紙をこっそり手渡す。すると、女子高生はその紙を大事そうにし、その場から走り去っていった。

 

「レイちゃん!こんにちは。」

 

「てか、何でこんなところに!?」

 

「まぁ、ナンパしにね。」

 

「全く……レイは……。」

 

相変わらずのレイに拓人は頭を抱える。

 

「あっ!花丸ちゃん!ルビィちゃん!」

 

すると、千歌は緑色の風呂敷を背負った花丸もその後ろにルビィに気づいて、声をかける。

 

「こんにちはずら。」

 

「おお!ロリ!」

 

花丸とルビィを見て、レイがまるで獲物を見つけた狼のように狙いを定め、舐め回すように見る。花丸の成長途中の小さな体に似合わないたわわに実った胸。ルビィの高校生とは思えない体つき。

2人を例えるなら、まだ甘くは青い果実。しかし、レイにとっては十分食べごろだ。

 

「おい。いくら女同士だからって、それは犯罪だぞ。」

 

だが、レイの暴走は寸前で光助によって止められる。

 

「花丸ちゃん達は何してるの?」

 

「今まで、本屋に行ってました。」

 

流石図書委員のことだけあると、千歌達は感心する。すると、光助は

 

「その風呂敷は?」

 

「本ずら。」

 

「はぁ?」

 

あまりの予想外の答えに光助は間の抜けた声を出してしまう。この時代に本をバッグやリュックではなく風呂敷で持ち運ぶとは、なかなか風情があるというか、時代遅れというか。

 

「あはは!全く、花丸ちゃんだっけ?面白い子だね。」

 

「それで、先輩達はここで何してるずら?」

 

「私達ね、今度ライブやるんだ。よかったら花丸ちゃんたちも来てよ。」

 

すると、曜が花丸にチラシを渡す。

 

「ルビィちゃんも。」

 

「ピギィ!」

 

そして、千歌は今まで花丸の後ろに隠れていたルビィにチラシを渡す。ルビィはおどおどとしながらもチラシを貰い、すぐに目を通す。

すると、ルビィがあることに気づく。

 

「あの……ちょっといいですか?」

 

「どうしたんだい?」

 

「グループ名ってないんですか?」

 

「……あっ!」

 

この時、指摘されて4人はやっと気づいた。自分達はまだグループ名を決めていなかったことを。

 

「あはは……考えてなかった。」

 

「というか、そんな余裕もなかったしな。」

 

千歌と光助は互いに苦笑いを浮かべる。確かに、光助の言う通り、梨子の勧誘や練習、作詞作曲、そして、seadの襲撃などでそんなことを考えて暇はなかった。

 

「まっ、名前なんかなくても大丈夫でしょ。」

 

「いや、名前は大事だ……ろ。」

 

「こうちゃん!レイちゃん!どうしたの?」

 

突然、光助とレイに激しい頭痛が起こり、同時に頭を抑える。

 

「おい、光助!」

 

「わかってる。」

 

突然訪れる時は決まって、seadが現れる。2人はあたりを見回す。

 

「ねぇ!あれ!」

 

梨子が何かに気づき、指を指す。その先には小さな竜巻が起こり、風が集まっていく。そして、その竜巻の中から緑色のマントを羽織ったウインドseadが現れる。

 

『ははは!下等な人間どもに儂の力を見せてやる!』

 

すると、ウインドは右手を高くあげる。その右手を中心に竜巻が起こり、あたりの物を吹き飛ばしていく。

 

「強い……風……。」

 

「それだけじゃない……みんな何処かに隠れなさい!」

 

その突風は物を飛ばすだけだと梨子は思っていた。しかし、レイはそんな生温いものではないことを直感で感じ取る。すぐさま、光助以外の5人を建物の影に隠れるように指示する。

 

「グオッ!この風!やっぱり!」

 

突風はまるで刃のように鋭く、光助の腕を切り裂く。

 

「光助君!」

 

「構うな!速く逃げろ!」

 

光助の怒声に背中をど突かれ、5人は急いで建物へと避難する。

 

「というものの。」

 

だが、安心するのはまだ早い。何せ、seadが繰り出す切り裂く風だ。当然、人の肌を切り裂くだけには止まらない。

 

『フウンッ!』

 

ウインドはさらに強い風を起こし、窓ガラスを割り、辺りの建物を豆腐のように簡単に切り裂いていく。

 

「建物が……こんな簡単に……。」

 

目の前で起こっている、現実でありながら現実離れした状況にルビィは今にも泣きそうになる。

 

「好き勝手しや……マジかよ!」

 

好き勝手に暴れるウインドに怒りを覚え、光助は直ぐに変身して迎撃しようとする。しかし、不意にあるものが目に入り、変身する暇などなくなった。

 

「光助!?……嘘っ!」

 

突然、ウインドとは違う方向に走っていった光助をレイは目で追う。すると、光助の向かう先には、マスクとサングラスをした人の真上から瓦礫が迫っていたのだ。

 

「間に合えぇぇぇ!」

 

自分の危険など顧みず、光助はただ人を救うために全力で走り続ける。そして、何とかその人の元へたどり着いた。

 

しかし、その瞬間、2人に重い瓦礫が覆い被さる。

 

「こうちゃん!」

 

「光助君!」

 

押し潰される瞬間を見た、千歌と梨子は真っ先に光助の名前を叫ぶ。いくら光助が仮面ライダーとはいえ、生身の状態で瓦礫には押し潰されるだろうと思っていた。最悪のビジョンが頭に映し出される。

 

「いっ……つ!」

 

だが、光助は希望だ。誰かを絶望に陥れることなど決してしない。瓦礫をまるで布団のように軽々と退け、光助が現れる。

 

「危なかった。」

 

体や顔には砂がついてはいたが傷に関しては一つもない。

 

「良かった……。」

 

光助が無事で千歌達はホッと安心する。しかし、梨子はそれと同時に大きな疑問を抱く。

何故、あんな瓦礫を軽々しく扱っているのか?何よりあれほどのことがあって、傷1つ無い。普通に考えておかしい。

確かに光助は仮面ライダーなのだから、特別なんだと思えばそれでいいかもしれない。しかし、そんな簡単な問題ででは無いと梨子は感じとっていた。

 

「君!大丈夫?」

 

「う……えっ!?私は……。」

 

マスクとサングラスをつけた少女は光助が覆い被さっていたおかげで、擦り傷などはあったが大きな問題はなかった。

それならと光助は彼女の手を取り、無理矢理立ち上がらせる。

 

「早くこの場から離れろ!」

 

光助は彼女にそう言う。すると、彼女は何か言いたそうに様子だったが、光助の切羽詰まった表情を見て、結局、やめることにして、その場を後にした。

そんな彼女を見送っていると、レイが光助の元に駆け寄る。

 

「大丈夫か?」

 

「あぁ、大丈夫だ。」

 

「だよな。それじゃあ、どうする。」

 

「まぁ、とりあえず……変身しないとな!」

 

このまま生身でいても、いずれ細切れのサイコロステーキになるだけだ。2人は懐からドライバーを取り出し、腰に巻く。

 

「「変身!」」

 

その掛け声とともに、光助は光に、レイは闇に包まれ、仮面ライダーへと変身する。

 

「嘘……レイさんも仮面ライダーなの!?」

 

レイの正体を知らなかった千歌、梨子、曜は驚きを隠せない。

 

『仮面ライダーホープ!悪を断ち、希望を紡ぐ戦士!』

 

『さぁ、喰らってあげる!』

 

2人は決め台詞を吐き、ウインドに攻撃を仕掛ける。

 

『ぬしは仮面ライダー!』

 

『ご名答!』

 

仮面ライダーに気づいたウインドはすぐさま、2人に向け、突風を起こす。だが、2人は左右に避ける。

 

『ハァッ!』

 

そして、ウインドの懐に忍び込み、強烈な2つの拳がウインドに炸裂し、吹っ飛ばされる。

 

『ぬぉっ!貴様ら!』

 

『さぁて、よくも暴れてくれたわね!』

 

手を鳴らしながら、狼渦は野獣のようにウインドを睨みつける。

 

『暴れたも何も、人間という下等生物を減らしてるのだ。この上位の存在である儂らseadがな。』

 

『ふざけんじゃねぇ!』

 

ウインドの勝手な戯言に光助は怒り、一気に殴りかかる。だが、ウインドはその拳を何とか両手で受け止める。

 

『お前達の勝手な理由で、無関係な人達を傷つけるなんて許さない!』

 

『許さないもなにも、所詮、淘汰されだけの存在なのだよ!人間は!』

 

ウインドはそう言い切って、ホープの拳を弾く。

 

『クッ!』

 

『さぁ、切り裂いてやる!』

 

左手を前に突き出し、風のカッターを繰り出す。

 

『光助!逃げろ!』

 

『無駄だ!この刃は左右からお前を挟み撃ちにする!よって、逃げることは不可能!』

 

『果たしてそうかな?』

 

確信を持って言い切ったウインドをホープに仮面の奥で嘲笑う。その瞬間、ホープは青い光に包まれその場から消える。

 

『何!?消えただと!?』

 

あれほど自信があった攻撃を簡単に避けられ、さらに忽然と姿を消され、ウインドは動揺を隠せない。

 

『俺はここだ!』

 

その声はウインドの真上から聞こえ、ふと上を向く。そこには青い鎧へと変化したホープが青龍刀をウインドに向け、落下していた。

 

『ウオォォ!』

 

そして、ホープはウインドに刃を叩きつけるが紙一重で避けられる。

 

『ははっ!残念だな。あと少しだったのだがな。』

 

『ウルフストライク!』

 

ホープの攻撃を避けただけなのに慢心するウインドの背中に狼渦の両足のキック、「ウルフストライク」が決まる。

 

『何ぃ!』

 

ウインドはそのまま激しく吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられる。

 

『爪が甘いのよ、バーカ!』

 

大口を叩く割りには弱いウインドに狼渦は激しく挑発する。

 

『光助。あんな奴、ちゃっちゃと倒すわよ!』

 

『あぁ!』

 

そして、2人は必殺技のために構えを取る。すると、ホープの左足に光の頃が、狼渦の両足に闇の衣が纏われる。

 

『『ハァッ!』』

 

そして、2人は高く跳び上がり、ウインドに足を向ける。

 

『ライダァァァァァキィック!』

 

『ウルフストライク!』

 

2人の必殺の蹴りは問答無用にウインドに迫り、この戦いは決着を迎える。

 

はずだった。

 

『ヌワッハァッ!』

 

2人の最高威力の蹴りはたった2つの剛腕に憚れ、弾かれる。

 

『何だ!今のは!』

 

素早く着地して、狼渦は前を睨みつける。少なくともウインドが止めた訳でないのは明白であった。

 

『ぬははは!貴様らがライダーか!俺の名前はゴウダメ!さぁ、生尽くす限り戦おうぞ!』

 

ライダーの視線の先には、鬼のような強面に角。赤く屈強な筋肉を持ったseadの幹部、ゴウダメがまるで仁王像にように、2人の前に立ちはだかっていた。




いかがだったでしょうか。
投稿日の今日、希一さんのラブライダー企画に自分の作品が投稿されます。
もし、よろしければ目を通していただければ幸いです。


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逃れぬ運命

年内最後の投稿!
明るく終わると思わせて?


重い衝撃が戦場に響き渡る。ゴウダメは強く地面を踏み抜くと、大きな衝撃が起き、ライダー二人は吹っ飛ばされてしまう。

 

『こいつ……強い。』

 

よろよろと立ち上がりながら狼渦は思わず本音を漏らす。

ウインドにとどめを刺そうとした瞬間、二人の必殺技を簡単に止め、現れたオニseadのゴウダメ。大きな一本角に鋭い目、そして赤く強靭な肉体を持つその姿は名の通り赤鬼のようだ。

そして、ゴウダメが乱入しておかげで、ウインドは逃げてしまった。というのもわざわざウインドを逃がす為にゴウダメは乱入したのだ。

 

『ははっ!その程度かよ!』

 

満身創痍の二人とは対照的に、ゴウダメは余裕の様子でまだ戦い足りないといったところだ。

 

『くっ!言わせておけば!』

 

『落ち着け!あいつとまともに戦って勝てる訳がない!』

 

ゴウダメの安っぽい挑発にホープは乗せられそうになるも、狼渦が止める。狼渦はゴウダメとの間に圧倒的な力の差があることをしっかりわかっていた。ゴウダメの強さはその強靭な破壊力だ。ひとたび足を踏み出せば大地は揺れ、拳を振るえば風が巻き起こり、直撃すれば肉塊と化す。その力の強さは直撃してないにもかかわらず、衝撃だけでひび割れている生態鎧が物語っていた。

特に力が特徴のゴウダメに正面からまともに戦うのは最も相性の悪い戦法であり、無鉄砲に突っ込むホープを止めたのはその理由だ。

 

『だけど、あいつを倒さなくちゃ、みんなが危険な目に遭う!』

 

『光助!』

 

しかし、ホープは狼渦の制止を振り切ってゴウダメに立ち向かってしまう。ホープの後ろには千歌達がいる。守るべき存在が近くにいると、どうしても守らねばという責任感に駆られ、ゴウダメを倒すことしか考えられずにいた。

 

『ほお!いいね!そういうのは!』

 

恐れもせず向かってくるホープにゴウダメは楽しそうにはしゃぐ。そして、ゴウダメはホープに拳を振るうも避けられる。

 

『貰った!!』

 

そして、ホープは懐に入り、腹に渾身の一撃を叩き込む。しかし、ゴウダメの鋼鉄の肉体の前には意味を成さない。

 

『いい動きだ!だが、力が足りん!』

 

すると、ゴウダメは地面を強く踏み、大きな震動を起こし、ホープを宙に浮かせる。そして、踏み込んだ左足を軸に残った右足でホープに強烈な一撃を浴びせる。

その重い一撃に、呻き声すらも上げることは出来ず、ホープはサッカーのシュートように勢いよく壁に叩きつけられる。

 

『よくも!』

 

内心で言わんこっちゃないと舌打ちをするが、それでも仲間を傷つけられ、怒りを覚えないはすがなく狼渦は目にも止まらぬ速さでゴウダメに迫り、爪で斬り裂く。

 

『野生味溢れる攻撃!最高だな!』

 

しかし、ゴウダメはダメージを受けながらもまだ楽しそうに叫ぶ。そんなゴウダメを無視し、再び狼渦は攻撃を与えよう、突っ込む。

 

『だがな!その程度じゃ!俺は倒れん!』

 

『何!?』

 

狼渦の電光石火の攻撃をゴウダメは片手で防ぎ、そして首を掴んで高く上げる。狼渦の素早さは正に目にも止まらぬ速さで、残像すら見えるほどである。しかし、ゴウダメはその速さを諸共せず、狼渦を掴む。

ゴウダメは生粋の戦士。戦うことに喜びを感じ、戦いこそが生きる全て。その為、幾たびの戦いを経験し、当然、狼渦のように素早い相手とも戦っていた。その時、ゴウダメは速い相手の対処を見つけ出したのだ。

そして、狼渦を目一杯地面に叩きつけ、クレーターが出来る。

 

『ははっ!まぁまぁ、楽しめたかな?それじゃあ、終わりにするか。』

 

「やめて!」

 

そして、ゴウダメは目の前に力なく倒れる気を失った狼渦を踏み潰そうと脚を上げた瞬間、千歌が物陰から現れる。

 

「それ以上、レイちゃんに手を出さないで!」

 

『何だてめぇ。ただの人間だろ。さっさと失せろ。』

 

「嫌だ!そうしたら、レイちゃんが!」

 

『はぁ〜、俺はただの人間と戦うのが嫌いだが……てめぇがこいつを守る為に戦うってならいいぜ。』

 

初めは気乗りではなかったが、千歌の蛮勇を気に入り、ゴウダメはゆっくりと迫っていく。

 

「千歌ちゃん!逃げよう!」

 

後ろから曜が袖を引っ張るが千歌は石像のように動かない。否、動けないのだ。迫り来る恐怖に怯え、竦んでしまったのだ。

 

『させ……ねぇ……よ!』

 

『まだ、立つか!』

 

すると、背後からボロボロのホープはおぼつかない足取りでゴウダメへと迫っていた。

 

「光助君!やめて!それ以上無茶したら!」

 

「先輩!」

 

梨子とルビィはボロボロになっても戦い続けようとするホープを引き止めようとするも、ホープは全く聞く耳を持たない。

 

『しぶとい野郎だな!』

 

ゴウダメはクルリと振り返り、再びホープに迫り、渾身の一撃を浴びせる。

 

『何!?』

 

『俺は……みんなを守る!』

 

直撃すればただではすまない一撃を、ホープは片手で受け止める。その受け止めた片手には大きなガントレットが着いていた。そして、次第にホープの体が変化していく。鎧は重く、厚いものへと変え、まるで甲羅のよう。そして、鎧に色は灰色へと変わる。頭はターバンを巻いたようなものになる。

 

『貴様!その姿は!』

 

ホープ グレーフォーム

強靭な防御力で全ての攻撃を受け止め、その隙に重いカウンターを叩き込むことに特化したフォーム

 

『オラァッ!』

 

そして、ホープは空いた片手を思っ切りゴウダメの腹にめり込ませる。

 

『グアッ!』

 

鋼のような肉体をめり込ませるほどのパンチに流石のゴウダメもダメージを受け、腹を抑える。

 

『はは……いいねぇ!てめぇ!おもしろい奴だな!いいぜいいぜ!』

 

すると、ゴウダメは対等に渡り合える好敵手を目の当たりにし、目を輝かせ、興奮する。そして、ゴウダメも負けじと強烈な一撃を浴びせる。

 

『くッ!』

 

さらに強化された生態鎧でもゴウダメの攻撃は完全には防げない。だが、それでもホープは踏ん張り、再びゴウダメを殴る。

 

『ハァッ!』

 

『ガアッ!』

 

ゴウダメはホープの攻撃を受け、よろめきながらもホープにアッパーをくらわせる。

重い一撃をくらいながら、重い一撃を与える。そんな泥臭いを応酬を数え切れないほど繰り返す。

終いには互いはボロボロになる。だが、それでも戦いを止めることはない。大切なものを守る為、自らの喜びを満たす為。どちらかが倒れるまで終わることはない。

 

『ハァハァ……やるじゃねぇか……こんなに激しくやりあったのは久しぶりだなぁ。なぁ、輝惡澄。』

 

『ハァハァ、輝惡澄ってのは俺のことか……?それなら違うぜ……俺はホープ!』

 

ホープは左手を前に出す。すると、光が集まり、玄武ロッドとなり、かの孫悟空のように華麗に扱う。

 

『悪を断ち、希望を紡ぐ戦士だ!』

 

『……そうか……どーりで戦い方が違うってのかい!』

 

すると、ゴウダメは一瞬寂しそうな表情を浮かべるがすぐに笑みを浮かべる。

 

『なら、ホープ!この俺を楽しませてくれよ!』

 

新たなに見つけた好敵手にゴウダメは嬉しそうに叫び、尊敬の念を抱きながらゴウダメはホープに向け駆け出す。

ホープはロッドを構える。するとロッドの中にはチェーンが仕込まれており、伸縮自在の多節棍になる。

 

『俺はお前を倒す!』

 

ホープはロッドを振るい、ゴウダメは拳を振るう。ロッドと拳が混じり合う時、まるで決闘を邪魔をするものを吹き飛ばすかのように衝撃波が起こった。

♢♢♢

夕暮れの会議室。

 

「大分、被害は大きいな。」

 

沼津駅前の惨状を記された報告書を見て、源は眉をしかめる。

 

「まぁ、敵が敵だったしね。」

 

左手に包帯を巻き、右目には眼帯、体の至る部分にはガーゼが貼られ、いかにも怪我人という佇まいのレイがしょうがないと言わんばかりに言う。

 

「レイ、調子はどうだ?」

 

「まずまずかな?ライダーの回復力があっても完全に回復するのに3日はかかるほどだしね。」

 

「そうか。安静にしてなさい。」

 

仮面ライダーは常人より数倍の回復力がある。詳しい理由はまだ解明されていないがとりあえずその回復力があっても時間がかかる

 

「それで、聞きたいことって何?」

 

そして、レイは源にこんな状態の自分を呼び出した理由を問いただした。

 

「光助君……、いやホープについてだ。彼は戦闘中に姿を変えたんだね。」

 

「うん。フォームチェンジみたいに。」

 

「そうか……。」

 

レイは話を聞き、源は顎に手を置き、何かを考え込む素振りを見せる。

 

「それがどうしたの?」

 

「ホープの本来の力を引き出しているのか。」

 

「本来の……力?」

 

「ホープは状況に応じて進化する。ラビット戦でラビットに対抗するために跳躍力に長けたブルーフォームに、ゴウダメ戦ではその破壊力を防ぐためにグレーフォームに進化したんだ。これはホープにのみ許された力だ。」

 

「ホープだけって、じゃあ狼渦にはないの?」

 

「あぁ、その分より安全に扱うことが出来る。」

 

源は解明されている限りの情報を言う。だが、レイはその情報に疑問を抱く。

 

「……そう。それよりホープについてやたらわかっているのね。ホープってつい最近、出現したんじゃなくて。」

 

「……そのことについては無言でいいかい?」

 

するとは源はバツの悪そうにレイから視線を逸らし、窓の外を見る。外は綺麗な夕日に照らされていた。

 

「それはあなたのため?あなたの我が身の可愛さのため?」

 

「3割はそうだが……それ以外は彼ら(・・・)のためだ。」

 

「そう。おじさんらしいね。そういう中途半端なの。」

 

それこそ無言を貫き通せばいいのをわざわざ詳しく言うあたり、経営者である源らしいと思い、レイは信じて、それ以上は言及することはしなかった。

 

「それじゃあね。おじさん。これから私は愛の巣に帰るから。」

 

「あぁ。迷惑だけはかけないように。」

 

すると、話が終わったところでレイは果南の家に帰ることにした。

 

「っと、その前にマリに会いに……。」

 

「レーーーーーイーーー!」

 

「にゃふっ!」

 

その前に、久しぶりに愛しの鞠莉に会いにいこうかとドアノブに触れようとしと瞬間、勢よくドアが開き、そこから鞠莉がレイに飛びつく。

 

「レイレイレイレイ!会いたかった!もう何処に行ってたのよ!」

 

久しぶりの再会に喜びが爆発し、鞠莉は思わず強く抱きしめてしまい、レイから呻き声が漏れる。

 

「ま、鞠莉。それくらいにしておけ。レイが死ぬぞ……。」

 

「レイ!?Why!?その傷!?」

 

源に呼びかけられて、鞠莉はやっとレイの状態に気づき、離れる。

 

「う、うん。大丈夫……じゃない。」

 

「ちょっと!レイ!しっかりして!レイ!」

 

レイはそう言い残す、あまりの痛みに気絶してしまった。

 

♢♢♢

夕暮れの砂浜。現在、千歌達は砂浜を走っていた。コンクリートで走るよりも砂浜で

しかし、3人の横では走る必要のないマネージャーの光助が並んで走っていた。

 

「光助君……。」

 

だが、3人も光助がこんなことする理由はわかっていたので何も言うことはできない。

 

ゴウダメ戦。最後に強烈な一撃をくらい、ホープはあえなく敗れてしまった。このまま、ゴウダメにトドメ刺され、千歌達も殺されると最悪の事態が起きるとホープは予感していた。

しかし、ゴウダメはトドメ刺すどころか、千歌達にも手を出さなかった。

 

『てめぇはもっと強くなる。俺は最強のお前と戦いたい。その為に、てめぇと奴らの命は奪わないでおく。』

 

ゴウダメはseadとしてではなく、一人の戦士としてホープに労いの言葉かけつつ、好敵手として再び合間見えることを宿命づけ、ゴウダメは戦場を後にした。

 

「俺は強くならないと……。」

 

拳を強く握りしめ、唇を噛む。純粋に負けたことも悔しかった。それだけでなく、相手がゴウダメでなかったら自分も千歌達も死んでいたのだ。今回はたまたま運が良かっただけだ。ゴウダメとの戦いで、本当の戦いで負けることは全てを失うことと改めて思い知り、そして二度と負けない為に光助は自身を追い込んでいるのだ。

 

「まだ怪我も治ったばかりでしょ!あんまり激しく動くと!」

 

「わかってる!強くならないと!強くないと誰も守れない!」

 

しかし、光助は梨子の警告を全く聞き入れない。光助は昨日から「強くならないと」と同じ言葉を連呼していた。

光助も一人の高校生だ。戦いという恐怖を思い知り、そして焦っているのだ。

 

「戦わないでよ……こうちゃん!」

 

「ちかっち?」

 

すると、光助の仮面ライダーとして行為の全てを否定するようなことを千歌が呟く。

 

「怖いよ……あんなに怖いなんて……。」

 

今にも泣きそうな表情、そして震える声。そういえば、千歌はレイを助ける為に身を呈してくれた。その時に、ゴウダメと対峙し、異形と戦う恐怖を思い知ったのだろう。

そんな恐怖をもう光助にさせたくないと思いから言っているのだろうと光助は思った。

 

「確かに戦うのは怖いさ。でも、ちかっち達を失う方が俺にとっては何よりも怖い。」

 

「それなら、私だってこうちゃんがいなくなるのだって怖いよ!」

 

突然の千歌の叫喚に梨子も曜も身をピクリと震わせてしまう。特に曜は初めて見る千歌の様子に、事の重大さを感じざるを得ない。

 

「あんなにボロボロになって……今にも死にそうなあんな姿……見たくないよ……。」

 

「だけど……誰かが傷つかないと!」

 

「今日はここまでにしよっか。二人ともまだ気持ちの整理がついていないし。このまま練習したら不注意で怪我しちゃうもんね。」

 

「曜ちゃん!」

 

おそらくこのまま続けさせれば、状況は酷くなる一方だと曜は判断し、間に入るように言う。

 

「そうだ。今のうちにグループ名決めようよ。」

 

「そ、そうね!私は曜ちゃんの意見に賛成かな?」

 

曜の一瞥に梨子も気づき、その意見に乗る。

 

「……あぁ。」

 

「うん。」

 

残る二人も渋々了解し、一応険悪な雰囲気は振り払われた。

 

♢♢♢

その後、四人はたくさんの案を出した。スクールアイドルガールズ、制服少女隊と出たがイマイチピンとこない。

 

「やっぱり、スリーマーメイドがいいのかな?」

 

「もう光助君まで!そんなに言うならいいの思いついてるの?」

 

光助は先ほど、梨子の出した案を冗談で勧める。すると、流石に怒った梨子はやり返すように光助に案を求めた。

 

「オンドゥル(0w0)ってのは?」

 

「……やっぱり他のにしよう。」

 

「ナゼェダァ!」

 

何ともつまらない案に千歌と曜も苦笑せざる得ない。

そして、なかなか決まらず千歌はふと下を見るとそこには「Aqours」と謎の言葉が書かれていた。

 

「何だろう……アキュア?」

 

「多分、アクアって読むんだと思う。」

 

見たことのない単語だが、曜は何とか知識を駆使して読むことが出来た。

 

「アクア……ねぇ、この名前いいと思う!」

 

「でも、誰が書いたのかわからないのに?」

 

「だって、名前を決めようとした時に、この名前に出会った。運命感じない?」

 

「運命……か。」

 

運命と聞き、初めて仮面ライダーに変身した時を思い出す。運命と聞くと、あの時も運命だったのかもしれない。そして、この3人に巡り合ったのもまた……。

そう思うと、この運命を大事にしたい。より一層、3人を守りたい強く思った。

 

「それじゃあ、これから私達のグループ名はAqours!浦の星女学院スクールアイドル、Aqours!」

 

千歌は夕日に向かって、高く跳び、そう高々に宣言する。

 

そして、Aqoursの伝説が再び(・・・)幕を開ける。




運命とは時に残酷である

次回、いよいよファーストライブ!

それでは良いお年を!


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みんなのおかげ

お待たせしました!
今回はファーストライブ回!
ですが……何やら不穏な影が……


Aqoursと名前が決定してから一週間。町の放送や、チラシ配りなどありとあらゆる手段を使って、初ライブの宣伝をした。

 

そして、ライブ当日。初めてのライブに千歌たちは不安を隠せない。上手く踊れるだろうか。上手く歌えるだろうか。もし、観客が少なかったらどうしよう。塵のように不安が積もる。

さらにこの日に限って、今季最大規模の台風が上陸し、轟々と唸る雨風がより一層不安を掻き立てる。

 

「大丈夫かな。」

 

あの元気な曜ですら弱音を吐いてしまうほどの緊張。

 

「きっと大丈夫だよ。今までずっと練習してきたんだからな。」

 

そんな空気を打開しようと光助は励ましの言葉をかける。

 

「きっと成功する。てか、必ず成功する!ずっと近くで見てた俺が言うんだからさ。」

 

何も根拠もない言葉。それは光助自身もわかっていた。あくまで気休め程度になればと思ってのことだ。

 

「……そうだよ!あんなに頑張ったんだもん!必ず成功するよ!」

 

「千歌ちゃん……。」

 

だが、光助の言葉は思っていた以上の効果を上げ。その証拠に今まで曇っていた千歌の表情がまるで太陽のようであったこと。

 

「ねぇ、みんなで円陣組もう!」

 

千歌の提案に他の3人はすんなりと受け、手を差し出す。しかし、光助に突然、鈍い頭痛が襲い掛かる。

 

「この感覚!」

 

どうして、こんな時にseadが現れるのかと苛立ちが募る。だからと言って、無視する訳にもいかず、光助は手を引いて、すぐに現場に急行しようと体育館から出ようとする。

 

「光助君!」

 

「ごめん、ちょっとだけライブ見れないかも。だけど、安心して。俺が守ってみせるから!」

 

梨子に呼び止められ、光助は足を止める。そして、ライブを全部見れないことを謝罪し、そして、その代わりとは言わんばかりに、絶対にみんなと守ると誓った。

 

「わかった!私達も必ず成功するから!」

 

千歌も光助に負けじと絶対にライブを成功させると誓った。すると、光助は薄く笑みを浮かべ、サムズアップし、たった独りの戦場へと向かっていった。

 

♢♢♢

吹き荒れる風と横殴りの雨の中、びしょ濡れになった光助は浦の星のバス停の前に急行すると、そこにはこの前取り逃がした、ウインドが不敵な笑みを浮かべながら、光助をまじまじと見ていた。

 

『遅かったではないか。仮面ライダー。』

 

「てめぇ!何しに来た!」

 

『seadとしての役目、人間を闇に落とし、同志へと生まれ変わらせるというのをね。』

 

両手を広げ、さながら魔王のように振る舞う。2人がかりとは言え、先日の戦闘ではライダーが圧倒していたにもかかわらず、よく傲慢な態度とれるなと光助は不思議に思っていた。

 

『どうやらこの学校では何やらたくさんの人が集まるようで。』

 

「……あぁ、そうだ。たくさんの人が……集まるな。」

 

あれほど宣伝していたのだ。ウインドにも噂が届くというのもないことはない。しかし、生憎、今のところ観客はあまり集まっていない。

 

「だが、お前の思い通りにはさせない!」

 

覚悟を決め、光助はドライバーを取り出し、腰に巻く。

 

「変身!」

 

そして、光に包まれ、仮面ライダーホープへと変身する。

 

『仮面ライダーホープ!悪を断ち!光を紡ぐ戦士だ!』

 

『さぁ、来い!仮面ライダー!』

 

ホープはウインドは互いに一気に距離を詰め、拳をぶつける。

その衝撃は周りの空気をも震わせる程であった。

♢♢♢

ホープとウインドとの火蓋が切って下されたころ、ステージの幕が上がり、ライトが可愛らしい衣装に身を包んだ千歌達を煌びやかに照らす。

 

「そんな……。」

 

しかし、境界線がなくなると、千歌達に無情な現実が突きつけられる。千歌達の目の前にはそれなりに広い体育館。そこには観客は僅か8人。両手で数えられる程でしかない。

 

「……嘘……。」

 

これには曜も梨子も口元を抑える。あれほど頑張って宣伝したのに、来てくれた観客は僅か。

観客も同じだ。まさか、自分以外の観客がこれだけしかいないとなると、驚かざるを得ない。

現に、見に来ていたルビィと花丸も驚きと不安を抱いていた。

 

「……やろう!見に来てくれた人達がいるんだもん!」

 

しかし、千歌はめげずにライブを始めようとする。見に来てくれた観客のため、そして、光助との約束のため、スクールアイドルとして観客を楽しませようとしているのだ。

 

「そうだね。私達、スクールアイドルだもんね。」

 

千歌によって発破をかけられた曜は一旦、不安を拭い、キリッと前を向く。

 

「それでは、聴いてください。」

 

ダイスキだったらダイジョウブ!

 

千歌の始まりの言葉とともにAqoursのファーストライブが今、幕を開ける。

♢♢♢

場所は再び、浦の星の入り口に移る。

ホープの生態鎧に大量の雨が当たり、滝のように滴る。その傍でウインドの風の弾丸をまともに受け、火柱をあげながら、ホープは砂浜まで吹っ飛ばされる。

 

『この前よりも……強い!』

 

『ふふ、この状況は私のとってかなり追い風でね。正に天命なのだよ。』

 

そう、この荒れ狂う風によってウインドの戦闘力は格段にアップしている。暴風は我が身のように扱い、ホープは手も足も出ないまま、蹂躙されるだけであった。

 

『だからと言って、負ける訳には行かないんだよ!』

 

ホープは立ち上がり、再び闘志を燃やすと、体の色が変化し、グレーフォームに変化する。

そして、ウインドは風の弾丸をホープに撃ち込むがその鋼の鎧の前では傷つけることすら許されない。

 

『ふふ、なるほど。所詮は風。強固な鋼を前にすれば、何も意味を成さんと言いたいか。だがな!』

 

安直な作戦にウインドは馬鹿にされているように思え、苛立つ。そして、右手に大きな風の塊を作り出すと、ホープに足元に投げつける。すると、風の塊は大きな竜巻を起こし、ホープを閉じ込める。

 

『しまった!』

 

『守ってばかりではいかんぞ!』

 

風に捕らわれ、動きが取れなくなったホープはその場で身構えることしかできない。

 

『うむ?この感じは……。』

 

すると、ウインドは何かの気配を感じ、背後にある、道に目を移す。そこには嵐の中だろうと走る大型のバス。

 

『美澄さん!』

 

そのバスに千歌の姉である美澄を含むたくさんの乗客がおそらく浦の星に向かっていた。

 

『そうだ!あのバスは八つ裂きにすれば最高のショーになるだろう。』

 

ウインドは舌舐めずりをし、気持ちの悪い笑みを浮かべると、風を使って体を浮かせ、バスへと向かう。

 

『くっ!させる……かよ!』

 

焦りが最高潮に達する中、それでもホープは冷静に行動していく。まず、跳躍力に長けたブルーフォームに変化する。そして、高くジャンプして、竜巻から脱出。さらに、ウインドのように上手く風に乗り、ウインドを追う。

 

『そこだ!』

 

そして、青龍刀をウインドの目の前に投げつけ、動きを躊躇させる。

その一瞬で、ウインドはバスに追い付けなくなり、バスは無事に浦の星の入り口を通り、学院へと向かっていった。

 

『へへ!お前の好きにはさせねぇよ!』

 

ウインドの目的を阻止し、仮面の奥で得意げな表情を浮かべるホープ。これでウインドは悔しそうに歯をくいしばるのだろうと思っていた。

 

『果たしてそうかな!』

 

『何?』

 

風が音を立てて吹く中、ウインドの高笑いが響き渡る。そして、ウインドは真上に風の刃を発動させ、唯一、学院に繋がっている電線を切った。

 

『なっ……!』

 

『ふふ、これで奴らはライブは出来ない。』

 

あくまで、バスの襲撃は二の次であって、本当の狙いは最初からこれだった。

ライブには照明や音響などの機器が必要になり、それを使うには当然、電気が必要になる。そして、電気というのは当たり前のものである。

その当たり前のものが突然、使えなくなったら?それもライブ中なら?取り返しのつかないことになり、絶望するだろう。

それが、ウインドの作戦だったのだ。

 

『ふはは!見える!見えるぞ!ライブを行う奴らの絶望する顔が!』

 

思い通りに事が進み、ウインドは笑いを止めることができない。それは正に爽快であり、まるでテストで満点を取ったような感覚。

 

『が……あっ!』

 

その一方で、ホープにも千歌達の絶望するのが見えてしまう。

 

『何で……こんなことに……。』

 

ホープの複眼に俯き、涙流す、千歌の姿が映る。これが妄想なのか現実かはわからない。

 

ーちかっちの泣き顔なんて見たくないー

 

『千歌ちゃん……。』

 

そして、千歌の周りに曜と梨子が集まり、慰める。

 

ーやめろー

 

沸々と何かドス黒いものがこみ上げる。生まれてはいけない何かが生まれるような汚物を吐き出すような感覚。

 

『あんなに頑張ったのに……。』

 

ー……こんなになったのはウインドのせいか?=

 

『どうして、守ってくれなかったの……。』

 

=違う、お前(・・・)が悪いんだ=

 

『こうちゃんの……。』

 

=お前(・・・)のせいだ!!=

 

『嘘つき』

 

ドクン

 

鼓動が体の中から槍を突き刺されるように大きくうつ。ホープの体の中から怒り、否、憎しみが激しく燃え上がる。

 

『ゆ……さ……い……』

 

ホープは一瞬、紫色の光に包まれる。

 

『絶対に!許さねぇ!』

 

憎しみは容量を超え、絶叫として漏れ出す。そして、憎しみは肉体にも影響を及ぼす。複眼は赤くなり、生体鎧はより強固になり、肉体も隆々になる。

 

『ウオォォォ!』

 

そして、ホープは地面を踏み潰す程の脚力でウインドに突っ込む。

 

『グゥアァァァァ!』

 

ウインドの首を掴み、地面に何度も何度も叩きつける。

 

『き、しゃ!ぬ、ぬわぁぁ!』

 

ウインドは右手で風の球を作り、ホープにくらわせようとする。しかし、攻撃に気づいたホープは直ぐさまウインドの右手を掴み、阻止する。

 

『ガァァァァァァァ!』

 

そして、攻撃を完全に無力化させる為に、ホープはそのままウインドの右手を引っ張る。

 

『グゥアァァァァ!や、めろ!やめてくれ!痛い痛い!』

 

あまりの痛さにウインドはプライドを捨て、断末魔をあげながら命乞いをするが、今のホープには声も何も届かない。

 

『グゥオォォォォォ!』

 

グロテスクな音と共に、ウインドの右手が引きちぎられ、黒い影のようなものが血のように流れていく。

 

『アガァァァ!』

 

腕が無くなり、言葉にならない痛みにウインドはのたうち回り、悶え苦しむ。そんな裏返った昆虫のような非力なウインドをホープは見下す。

 

『ゆ、許してくれ!もう、何もしないから!』

 

酷く震えた声で再び、許しを乞うも、やはりホープに届かず、逆にホープはウインドを踏み付ける。

 

『グゥエ!ギャっ……』

 

徐々にウインドを踏む足の力が強くなり、ウインドは汚い声を漏らしてしまう。

まるで、ロードローラーに潰されているような感覚。

 

『ぐぅ……オオオオ!』

 

このままでは確実に殺されると覚悟したウインドは最後の力を振り絞り、風の刃を約千枚程作り出し、ホープに食らわせる。

 

『……!!』

 

風の刃をもろに受け、ホープはドロドロとした赤黒い血を傷口から垂れ流す。

そして、傷など諸共せず、ホープはゆっくりとウインドに近づく。

 

『ひ、ヒィィィィ!』

 

最大の攻撃にビクともされず、ウインドは情けない声を漏らしながら、地面を這いつくばって逃げようとする。

 

『……。逃がすかよ。』

 

その時、ホープは悪魔、または阿修羅のような全てを焼き尽くすような覇気を発しながら、・・・に光を集める。

 

『……散れ!』

 

そして、高く跳び、右足を突き出し、「ライダーキック」がウインドに直撃する。

 

『グゥォォォォォォ!』

 

ウインドは光に包まれ、球体の中に閉じ込められる。そして、球体は大爆発を起こし、中から傷だらけになったウインドの宿主が倒れた状態で現れる。

 

『ハァ……ハァ……。」

 

激しく肩を上下させながら、ホープは変身を解き、光助へと戻る。体は傷だらけ、目は真っ赤に充血していた。

 

「早く……戻らねぇと。」

 

ウインドの宿主には目もくれず、光助は千歌達の元へ急ごうと歩みを進める。

しかし、激しい戦闘と暴走によって体はボロボロでまともに動ける状態ではなく、数歩歩いただけ、地面に膝をついてしまう。

 

「光助!大丈夫か!」

 

すると嵐によって船が出せず、遅れてやってきたレイと果南が後ろから光助に駆け寄ってきた。

 

「舘君、すごい怪我……早く病院に行かないと!」

 

「そうだな、あそこに倒れてるあいつも、助けないとだしな。」

 

ボロボロの光助を見て、果南は一抹の焦燥に駆られ、ポケットに入れているスマートフォンに手を伸ばす。

だが、光助はその手を掴み、救急車を呼ぶことを止める。

 

「そんなことより……みんなの所に行かないと……。」

 

「そんな傷だらけの体で何言ってるのさ!」

 

「そうだ!下手したら、光助、あんた死ぬかもしれないだよ!」

 

光助の自らの身を案じない、我儘にレイも果南も激しく反対する。

 

「それでも……俺は!」

 

しかし、それでも光助は止まらず、再び立ち上がろうとする。彼は心の中で守れなかったと悔やんでいる。

ウインドに電線を切られ、おそらくライブは中断してしまっただろう。そして、千歌達は激しく動揺し、慌てただろう。いや、もしかすれば、そのまま中止になってしまっているかもしれない。

どちらにせよ、このライブのトラブルは全ては自分のせいだ。だから、謝らなくてはいけない。

そして、まだ続いているのなら一瞬でもいいから観たい。そういった贖罪と希望の混じった思いが無理矢理、光助の体を動かす。

 

「……わかったよ。私が肩貸してやるよ。」

 

「レイ!」

 

レイの言葉に耳を疑い、果南は顔をしかめる。しかし、レイも完全に納得したつもりではない。このままでは拉致が開かないため、仕方がなく手を貸すだけ。

 

「あ……ありがとう……。」

 

「……ほら、行くよ。」

 

レイは力が抜け、異様な程軽い光助を肩にかけ、複雑な表情で果南とともに体育館に向かうのであった。

 

♢♢♢

千歌達は歓声と拍手に包まれている。開始直後の閑散としていたあの景色から想像もつかない、満員の体育館。

これには千歌達は言葉を失う。

 

時は少し遡る。

 

ライブの最中に突然、音楽もライトも消え、ライブを進めることが絶望的になったにも関わらずだ。

こういう時に限って何故と千歌は下唇を噛んだ。ただでさえ、観客が集まらなく、せめて、観にきてくれた観客には最高に楽しんでもらえるようにと全力にパフォーマンスをしていた最中にこのザマだ。

 

「気持ちが……繋がりそうなん……だ。」

 

「千歌ちゃん……。」

 

だが、音楽が止まっても千歌は歌い続ける。しかし、その声は掠れ、涙が溢れそうなか弱い声。

そんな千歌の声を聞いて、梨子は胸を締め付けられる。このままでは、取り返しのつかないことになる。一体どうすればいい?

この状況を打開する手段が思いつかず、ただ千歌と同じように歌を歌うことしかできない。

 

どうすればいいの……光助君!

 

そして、一筋の光が現れる。

 

「開始時間間違ってるよ!バカチカ!」

 

体育館の入り口から美澄が呆れと笑みが混じり合った表情で現れた。そして、仮電源が作動したのか体育館が再び明るくなる。しかし、先程とは全く違う状況に、千歌達は驚きを隠せない。

スペースだらけの体育館は、たくさんの観客で埋め尽くされ、ざわめきが一層大きくなる。

 

「私……バカチカだ!」

 

先程とは正反対の景色に千歌は嬉しさのあまり、涙を零しそうになる。

 

「千歌ちゃん!もう一回歌おう!」

 

「うん!」

 

曜のキラキラとした表情で千歌にそう言うと、涙を拭い、千歌ははっきりと返事をする。

 

そして、止まっていたライブが再び始まる。

 

〜キラリ!キラリ!ときめいた!〜

 

その歌声とダンスに観客は魅了され、言葉を失う。煌びやかに舞う彼女達に目を奪われ、その綺麗な歌声に魅入られる。

観客の目に千歌達はまるで太陽のような存在に見えた。

輝いてる存在。夢や希望を与えるようなそんな存在に見えていた。

 

〜ダイスキがあればダイジョウブさ〜

 

パフォーマンスを終え、千歌達は激しく肩を上下する。一曲を踊って歌うのは確かにきつい。それでも、やりきった後の達成感は何とも言えないくらい清々しいものだ。

そして、さらに……。

 

「千歌ちゃん!すごかったよ!」

 

「梨子ちゃん、可愛い!」

 

「曜ちゃん、良かったよ!」

 

拍手と喝采が加われば尚、良い。

鳴り止まない拍手に囲まれ、千歌達は照れ臭くなってしまう。

 

「彼女達は言いました!スクールアイドルはこれからも広がっていける!どこまでも行ける!どんな夢も叶えられると!」

 

そして、拍手か終わるタイミングで千歌は自分が憧れる、かのμ’sの言葉を

 

「ちょっと待ってください!」

 

すると、神妙な面持ちのダイヤが観客の中から割って現れる。

 

「あなた達の今回のライブはこれまでのスクールアイドルの努力と、街の人の善意があってこその成功ですわ!……勘違いしないように。」

 

ダイヤの言葉は一語一句間違いはない。このライブは千歌達だけでは成功しなかった。たくさんの人たちがいたからこその成功だ。それは千歌達も重々承知のこと。

 

「わかってます!でも……見てるだけじゃ何も始まらないって……。」

 

そして、千歌はこのライブで初めて気づいた、「見ているだけでは何も始まらない」ことをダイヤに伝える。

 

 

「今しかないこの瞬間だから……輝きたい!」

 

そして、千歌達が高々に言い放つと、再び拍手が巻き起こる。

空は既に陽の光が差し込み、そして、その空を3羽の白い鳥と1羽の黒い鳥が空へと羽ばたく。

 

しかし、黒い鳥は直ぐに力を無く、地面に落ちていく。

 

すると、体育館の入り口の方から何か、大きな物が倒れるような音が聞こえた。

 

「おい!光助!しっかりしろ!」

 

「待って!あまり揺さぶらないで!取り敢えず、保健室に運ぼう!」

 

そして、レイと果南の決起迫った声も出始め、体育館内にはどよめき始める。

 

「こうちゃん!?」

 

光助の名前を聞き、千歌はステージから跳び降り、観客を間を掻き分け、急いで入り口へと向かう。その後を梨子と曜も追う。

 

「光助君!?その傷……。」

 

光助の元に着いた3人はボロボロの姿の光助を見て、絶句する。こんなになるまで戦って

 

「ち……か……。」

 

「光助君!喋らない方が!」

 

無理に喋ろうとする光助を曜は制止するも、光助は聞かず、か細い声と出来る限りの笑顔を見せる。

 

「最後の方しか……見れなかったけど……良かったよ……。」

 

たった一言。いつでも言えるような一言を残して光助は気を失う。

 

「光助!……気を失ったか。果南、足を持って、運ぶよ!」

 

「うん!」

 

そして、光助は果南とレイに運ばれていく。

 

「ありがとう。でも、私達だけじゃ、成功しなかったよ。こうちゃんとみんなのおかげで成功したんだよ!」

 

そして、千歌は遠のく光助に向け、大きな声でこう言った。

そんな光助が運ばれる中、梨子はあることに気づいた。それは光助の瞳から一筋の煌きが溢れたことを。

 




如何でしたか?
光助さんの異変は何なのか?
そして、涙の訳とは?
次回をお楽しみに


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傍にいることで

あぁあぁぉぁ!
Aqoursのライブ最の高でした!!!!
自分は2日目に行ったんですけど!!!
逢田さん!!!!本当に尊敬します!!インスタの言葉も素晴らしかった!!!
というかあんちゃんマジリーダー!!Aqoursの絆が凄すぎる!
それにファンの方々も最高でした!!!!



暖かな日差しが窓から差し込み、病院の真っ白な部屋を照らす。

 

「光助君……。」

 

神妙な表情で梨子はベッドの上で目を瞑っている光助を側で見守っている。ファーストライブから既に3日立っているが、光助は一向に目覚める気配を見せることはない。

 

「そろそろ……起きてよ……。」

 

1日1日が過ぎていくごとに重い不安が梨子の心にのしかかる。もう2度と目覚めないのではという最悪の事態が頭をよぎり、吐き気がするほど、暗い気持ちなる。

 

「梨子ちゃん……。」

 

「千歌ちゃん……曜ちゃん……。」

 

そんな重苦しい空気の中、たくさんのみかんが入った袋を下げて、千歌と曜が病室に入ってきた。

 

「……光助君、まだ目を覚まさないんだね。」

 

「うん……。」

 

見ればわかるがそれでも、曜は思わず呟いてしまう。

 

「ねぇ、こうちゃん。起きてよ。起きてくれないと心配で何も出来ないから……。」

 

そっと光助の手を取り、今にも泣きそうな声で千歌は言う。

ここ3日間、Aqoursは活動していない。光助が危険な状態であるなかで、活動するのは気が引けるうえ、サポートしてくれる人がいないためだ。

 

「千歌ちゃん……。」

 

光助に縋る千歌を見て、曜は複雑な思いが生まれる。

 

「……疲れちゃったのかもね。」

 

「曜ちゃん?」

 

「だって、私達の手伝いもして、仮面ライダーとして戦っているんだよ。そんなの大変なことやってるんだから、休ませてあげないと。」

 

発想の転換。マイナスよりプラスの方向で考えたほうが余程ましである。曜もAqoursと飛び込みを兼任しているので、多少は光助の辛さは理解しているつもりだ。

だからこそ、曜はこう言ったのだ。梨子や千歌が言うよりもそれに近い曜が言うことでより説得力が増すのだから。

 

「でも……。」

 

「そうだね……曜ちゃんの言う通りかもね。」

 

案の定、梨子は曜の言葉に理解を示した。

 

「少しだけ、休ませてあげよう。」

 

しかし、そんな考えは不安をほんの少し紛らわすものでしかない。

依然として、病室内では重苦しい空気が漂っていた。

 

♦︎♦︎♦︎

真っ暗な世界。光も何もなく、冷たいこの世界に光助は1人、ポツリと立っていた。

 

「ここは?」

 

目が覚めたら、こんな謎の世界。困惑せざるを得ない。すると、世界から声が聞こえる。

 

「お前は誰だ?」

 

暗くてよく見えないが、影のようなものが前方から現れ、くぐもった声で光助に問いかける、

 

「な、なんだ!お前こそ、誰なんだ!」

 

「お前は……何だ?」

 

「無視かよ!」

 

逆に光助が質問しても答えず、苛立ちが募る。質問を質問で返すなということか。

 

「俺は舘光助だ!それでいいか!」

 

半ばヤケクソのように質問を返す。すると、求めた答えが返ってきたからか、影は次の質問に移る。

 

「お前は何故戦う?」

 

「それはちかっち達を守るため!seadに乗っ取られた人達を救うためだ!」

 

その質問に光助は迷いなく答える。仮面ライダーになった時から覚悟していたことなのだから、今更迷うことなどなかった。

しかし、影はその覚悟を確かめるように、そして、壊すように質問をする。

 

「なぁ、本当にそうなのかい?」

 

「何……?」

 

突然、影の口調が変わり、光助は背筋を凍らせる。何やら嫌な予感がするのだ。そして、その質問の内容もまた、光助の心を揺さぶるのに十分であった。

 

「お前さんはこの前の戦いのこと覚えてるかい?」

 

「この前……はっ!」

 

「怒りに囚われて、宿主のことなんて考えずに戦った。」

 

口が達者になった影は光助にウインドとの戦いのことを思い出させる。ウインド戦は光助にとって苦い記憶しかない。千歌達を守れず、そして、我を忘れてウインドを痛ぶったこと。

それは光助の心に大きな傷を与えていた。そして、その傷に塩を塗るようなことを言われて、光助は激しく動揺する。

 

「そ、それは!」

 

「宿主は可哀想だなぁ。すげぇ痛い思いをしてさ……本人は悪くないのに。」

 

「う、嘘だ!だって!ホープの力はseadだけを倒す力なのに!」

 

「いや、お前はホープの力を理解していない。ホープの力はそんな綺麗な力じゃあねぇ!」

 

影ははっきりと怒りを露わにする。

 

「光と闇を隣合わせだ。まぁ、どんな言い訳をしようがあれはお前のせいだ。」

 

「お、俺の……。」

 

「そうだ、お前のせい。お前が弱いうえに身勝手だからだ。」

 

そして、ボクサーのジャブのように影はガラスのような光助の心に一気に畳み掛ける。

 

「や、やめろ!」

 

「お前の身勝手な願いでseadも、宿主を傷付ける。」

 

そして、影は最後にはっきりと光助に言い渡す。

 

「お前は……seadと何ら変わりねぇ……化け物だ!」

 

♦︎♦︎♦︎

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「光助君!?」

 

突然、発狂ともに起きて光助に梨子は思わず、椅子から立ち上がって驚く。さらに、目覚めた直後に関わらず、激しく取り乱し、目を見開き、発狂してる姿を見て、恐怖を覚えてしまった。

 

「光助君!しっかりして!光助君!」

 

しかし、恐怖を持っていても、光助を助けるため、暴れ牛のような光助に抱きついてまで静止させる。

 

「光助君!落ち着いて!私が……私がいるから!」

 

光助の力は異常な程強く、ただ女子高生である梨子にとっては止めることは難しいはず。しかし、それでも梨子は体を張って光助を止め続ける。

光助が倒れたあの時、誰も気づいてはいなかったが梨子は気づいていた。光助が涙を流していたことを。

あの停電はseadのせいでおそらく、光助はそれを防げなかったことに責任感じているのだろう。他にも理由があるような気がする。

どちらにせよ、光助は苦しんでいるのは確実。いつも救われている立場だからこそ今回は光助を救いたいと梨子は思っているのだ。

 

「ゥゥゥ……くぁ……はぁ……はぁ……。」

 

梨子の温もりに、ふんわりとした匂い。抱き締められる感触。そして、梨子の思いが光助に届き、徐々に落ち着いていく。

 

「……り、りこ……ちゃん……。」

 

落ち着いてきた光助は虚ろな瞳で梨子の瞳を見つめる。そして、安心しきったのか今度は目を潤ませる。

 

「怖い……怖いよ!助けて……梨子ちゃん!」

 

まるでお化けを見た子供が母親に助けを求めるように光助は梨子に泣き縋る。

 

「光助君……辛かったんだね。」

 

いつもとは違う光助。しかし、ある意味では本当の姿なのではと梨子は思った。仮面ライダーとして戦う光助は誰にも甘えられず、身を削って戦わなければならない。子供や少年では務まらない、大人にしか出来ないこと。

光助は無理に背伸びして大人になっているのだろう。そうすればいずれガタがきて崩れ落ちる時がある。光助はそれが来ただけだと梨子は思った。

 

「いいよ、光助君。気がすむまで泣いていいよ。」

 

梨子は優しく光助の頭を撫でる。

 

♢♢♢

ずっと泣き続け、目も顔を真っ赤にした光助はいつものしっかり者に戻っていた。

 

「は、恥ずかしい姿……見せちゃった……。」

 

子供のような姿を見せて、光助は穴に入りたい気分であった。

 

「ふふ、子供みたいな光助君も可愛かったよ。」

 

「う、うるさい!」

 

ニヤニヤと笑いながら茶化す梨子から視線を逸らし、光助は口を尖らせる。

 

「怖い夢を見たんだ。」

 

そして、子供らしい表情も、あのトラウマレベルの夢を話す時には綺麗サッパリなくなり、再び暗い表情へと変わる。

 

「この前の戦いで、ウインドに電線切らせちゃって、ライブも守れなくて、挙句に怒りでseadの宿主ごと傷つけて……そしたら、影に全部俺のせいだって責められたんだ。」

 

「そんな!光助君がいなかったら、私達は!」

 

ウインドに殺されていた。光助がいなければそれは確実な事実になっていただろう。だからこそ、戦ってくれた光助には感謝している。しかし、光助にとってそれは当たり前のこと。

 

「……そうだね。でも……仮面ライダーとして、俺は全部を守らなくちゃならない。だから……!」

 

そして、梨子達の思いが光助を蝕んでいるのもまた事実。それに関しては梨子は気づいていた。だからこそ、そのしがらみを少しでも柔らげたいと思っていた。

 

「ねぇ、それは重すぎない?」

 

「えっ?」

 

「まだ、光助君は大人じゃないの。それなのに全部背負うのは少し重すぎると思うの。」

 

「だけども!」

 

「それでも背負うのなら私も一緒にその責任を背負わせて。」

 

いつの間にか震えていた光助の手を握り、梨子は真っ直ぐな瞳で光助を見る。

 

「私は光助君の力になりたい!もう……光助君に辛い思いさせたくない!」

 

「梨子ちゃん……。」

 

光助は返答に迷う。こんな危険なことに、苦しいことに梨子を巻き込みたくはないという思い。一方で、こんな責任は肩代わりして欲しいとも思っていた。

苦渋の決断を迫られる。

 

「わかったよ。梨子ちゃん。俺と一緒に背負ってくれ。」

 

「うん。」

 

梨子の表情が一気に明るくなり、釣られて光助の表情は和らぐ。しかし、光助は純粋には喜べない。弱さのせいで、甘えたせいで、梨子に苦しい思いをさせるかもしれない。

結局、重い枷を外してもらったつもりがいつの間にかまた新しい枷を付けてしまった。光助はそんな負の渦に巻き込まれていることを薄々気づいいった。

 

そして、病室の入り口では梨子にジュースを買ってきた千歌が複雑な表情で2人を眺めていた。

 

(こうちゃん……。)

 

この病室に戻った時、光助か目覚めていたのを見て、何とも言えない嬉しさに千歌は勢いよく光助に抱きつこうとした。しかし、その前に梨子が光助の手に取り、何か真剣な表情で光助を見つめていた。

そして、その後、光助が安心したような表情を浮かべ、2人の雰囲気が明るくなった。

そんな二人を見て、千歌は痛みを覚えた。心に槍が突き刺さったような鋭い痛み。今にも泣いてしまいそうな痛み。

 

「なんで……私……こんなに苦しいんだろう……。」

 

千歌はこの苦しみの意味がわからなかった。寧ろ、光助が目覚め、喜ばしい状況なのにも関わらず。

 

「羨ましいなぁ……。」

 

千歌の口から気付かないうちに本音が漏れる。結局、光助の傍にいるのいつも梨子。登下校も、学校に居る時も、部活の時も、ご飯を食べる時もいつも一緒にいる。そんなに一緒にいれば自然と互いのこと知れるわけで、所詮、学校に居る時にしか一緒にいられない千歌よりも二人の距離は極端に近い。

それが羨ましかったのだ。もっと光助の近くにいきたい。そして、光助の力になりたい。しかし、特別でもない自分では到底無理だと千歌は拳を強く握りしめる。

 

「千歌ちゃん。どうしたの?」

 

すると、今までトイレに寄っていた曜が戻ってき、あからさまに様子がおかしい千歌に心配そうに話しかける。しかし、千歌は心配をかけまいと無理に笑みを浮かべる。

 

「何でもないよ。それより、こうちゃんが目覚めたんだよ!」

 

そして、千歌は重い足取りで病室へと入っていく。

 

「千歌ちゃん……。」

 

曜はただその哀愁の漂う千歌を見守ることしかできなかった。

 

 




はい、小説は平常通り運転しております笑
サンシャインは千歌ちゃんと梨子ちゃんのダブルヒロイン。ダブルヒロインなんだから、ドロドロしててもおかしくないよね?こういう感じになったのは全部小説版555のせいなんだ。(言い訳)
というわけで次回からルビィ丸加入回になると思います


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視線に注意

お待たせしました。
最近、勉強が忙しく、あまり執筆に時間が取れませんでした


波の音が静かに聞こえる淡島のダイビングショップ。そこで果南はボディラインがくっきりと出るダイビングスーツを着こなしながら、大人でも持つのが一苦労な重い酸素ボンベを運んでいた。

 

「ここで良いかな?」

 

ロッジを傷つけないようにゆっくりと酸素ボンベを置き、額にかいた汗を拭う。そして、次の作業に移ろうとしたその時、背後からある少女に抱きつかれる。

 

「果南〜シャイニー!」

 

金髪の少女、鞠莉は子猫が親猫に甘えるようにスリスリと擦り寄る。

 

「……何しに来たの」

 

しかし、鞠莉の反応とは真逆で果南はしかめ面で酷く冷ややかな言葉で突き放そうとする。

 

「会いたかったから」

 

「それだけ?……違うでしょ」

 

果南は鞠莉の本当の目的を見抜いていた。すると、鞠莉は大きく息を吸って、喋り始める。

 

「スカウトしにきたの!休学が終わったらまた一緒にスクールアイドルを始めるの!」

 

「……本気で言ってるの」

 

「じゃないと帰ってこないよ」

 

鞠莉の本気の眼差しに果南は冗談ではないと認めざる得ないと思いつつ、同時に怒りが込み上げてくる。

唐突に言い出し、いつも突っ走るのは相変わらずようだ。特に人の気持ちも考えないというところも。あれほど心配をかけさせたのだ。少しくらい変わっても良いと思っていたが、それは無駄なことであった。

 

「……私はやらない」

 

「全く……頑固親父なんだから」

 

鞠莉の予想通り、果南はスカウトを断わり、相変わらず変わっていない親友に寧ろ嬉しさを抱いていた。

だが、逆に果南は苛立っていた。頑固親父などとふざけた言葉で自分を片付け欲しくなかった。

あの時、ああなってしまったことをまるで鞠莉は反省していないように見えて仕方がなかった。

自分はこんなに苦しんでいるのに……戻せない時をずっと、悔やんでいるのに。それが鞠莉への八つ当たり混じりの怒り。

 

「マリー!」

 

怒りに囚われているとお店から目をキラキラと輝かせながら、レイが飛び出していき、鞠莉に向かって全速力で向かっていく。

 

「レイ!」

 

鞠莉もレイに気づき、両手を広げレイを受け入れる準備をする。そして、2人はまるで運命の再会にように大袈裟に抱き合いながら喜び合う。

 

「マリー!ごめんなさい!なかなか戻ってこれなくて!」

 

「いいの!レイが無事なら!」

 

あまりの喜びに思わず2人は涙を流す。そんな濃密な2人を見て、果南は思わずひいてしまう。

 

「ねぇ、レイはいつ戻ってくるの?」

 

「えっと……マリーとは一緒に居たいんだけど……果南とも一緒に居たいし……」

 

鞠莉の言葉に本気で悩むレイ。しかし、レイの悩みは二股かけてるクズの男の発想で、あまり褒められたものではない。それどころか芸能界であれば追放される程である。

 

「なら!私も果南の家に住めば!」

 

「来ないで!」

 

まるで名案が閃いたと言わんばかりの得意げな鞠莉に果南は拒否の一撃を与えるのであった。

♢♢♢

 

昼休みの図書館。いつもはカウンターで本を読んでいる花丸が今日は窓から外の景色を見て、物思いにふけっていた。

 

「どうしたんだい?花丸ちゃん」

 

「あっ、舘先輩。」

 

そんないつもと違う花丸の様子を光助は不振がり、なんとなく声をかける。すると、花丸は1度、迷った素ぶり見せ、考え込む。そして、何かを決めたような様子で光助にあることを伝える。

 

「先輩……昨日、本屋さんで気になってスクールアイドルの雑誌を読んでたら、少し気になっちゃって。」

 

「本当!?ということは!」

 

「でも……1人じゃ恥ずかしくて……ルビィちゃんと一緒にやりたいなって。でも……いきなりとなると……特にルビィちゃんの都合が……」

 

申し訳なさそうに、そして不安そうに花丸は言う。確かに、いきなり入部してスクールアイドルをやるというのは、いくら覚悟していたからと言っても、ついていけなかったり、合わなかったりすることもあるだろう。

それに無事に入部したとしても、事情があるルビィに関しては入部したからと言って、安心するにはまだ早いと言える。下手をすればダイヤの逆鱗に触れ、会長権限で廃部という可能性もなくはない。

せめて、ワンクッションあればまだマシなのだろうと光助は頭を捻る。すると、ある提案が思いつく。

 

「……なら、体験してみる?」

 

「体験?」

 

「そう。あるだろ、体験入部って。とりあえず体験入部という名目でスクールアイドル部に入って、気に入ったらそのまま続ける。気に入らなかったら辞めるってのはどうかな?」

 

「わかりました。舘先輩、ありがとうございます。」

 

光助の提案を花丸はあっさりと受ける。あまりの呆気なさに光助はちょっとした違和感を覚える。

 

「それじゃあ、ルビィちゃんにも言っておきます。」

 

「あぁ、頼む。」

 

話を終え、光助は図書室を出て、教室へと向かう。その途中で光助は花丸について考えていた。

スクールアイドルに興味を持ったのはわかる。そして、スクールアイドルをやりたいというのもわかる。だが、ルビィと一緒にやりたいと言うのはわからなかった。

男と女の価値観や考え方の違いだろうと思ったが、それにしてもルビィに固執しているように見えた。

 

「もしかして……」

 

一つの考えが浮かぶ。だが、判断材料が足りず、確信には至らない。

ならと光助はあることを代わりに思いつく。

材料足りないなら調達すればいいと。

 

♢♢♢

 

「やった!2人が入部してくれた!これでラブライブ優勝できるよ!」

 

放課後、部室で千歌の元気な声が響き渡る。

 

「だから千歌ちゃん。2人は体験入部だからまだ正式に入部はしてないよ。」

 

光助はあらかじめ説明したにも関わらず勘違いしている千歌に梨子は注意をする。

今、部室にはAqoursの3人と光助の他に運動着姿の花丸とルビィがいた。

光助の提案の後、花丸は順調にルビィを誘えたようだ。

 

「後、ちかっち。ルビィは生徒会長の件があるから内密にな」

 

「うん!わかった!」

 

光助は唇の人差し指を当て、身振りを使って千歌に言い聞かせる。

 

「「よろしくお願いします」」

 

「こちらこそよろしくね!」

 

ルビィと花丸は元気よく挨拶し、深々とお辞儀をする。

特にルビィは目を輝かせ、ニコニコと笑いながら、子供のようにはしゃいでいた。

 

「楽しそうだね、ルビィちゃん」

 

「だって!ワクワクするもん!」

 

憑き物が取れたように明るいルビィを微笑ましく思いながら、光助はホワイトボードに練習メニューを書いていき、説明を始める。

 

「それじゃあ、早速今日の練習内容について話すよ」

 

「これが本当のスクールアイドルの練習……」

 

「2人にとってはちょっと大変かもしれない。だからキツイと思ったら途中で休憩してもいいからね。無茶は禁物。怪我したらそれこそ廃部は免れないからね」

 

「「は、はい!」」

 

「よろしい」

 

2人の元気のいい返事に光助はご満悦の表情を浮かべる。

 

「よぉ〜し!早速練習に行こう!」

 

2人に負けず劣らずの元気で勢いよく部室から飛び出す千歌だが、ある問題によりその勢いは急激に落ちる。

 

「ちょっと待って千歌ちゃん!練習場所は?」

 

「あ……」

 

今までは部活として認められておらず、止むを得ず、校外で活動していた。

だが、今回からは部活として正式に認められ、やっと校内でも堂々と活動できるようになった。

しかし、肝心な活動出来る場所をマークするのを忘れていた。

 

「グラウンドや体育館は既に他の部活が使用してるし……砂浜まで行くか」

 

「それだと移動時間が勿体無いわ」

 

「走っていけ……いや、キツイか」

 

光助は梨子の言い分に横槍を入れようとしたが、流石に体力のある自身の枠組みで考えるのはあまりにも身勝手と思い、言葉を途中で押し留める。

 

「そ、それなら屋上はどうですか!あのμ’sも屋上で練習してたって!」

 

「それだよ!流石ルビィちゃん!」

 

千歌はルビィの手を取って、大袈裟に褒める。

今まで、培ってきたスクールアイドルの知識で役に立てたのが余程なのかルビィは照れ臭そうに、そして嬉しそうに笑った

 

♢♢♢

 

「わーい!屋上だ!」

 

そして、Aqoursメンバーは屋上に足を運んだ。良かったことに屋上は何処の部活も使用しておらず、問題なく使用できるようであった。

 

「いい眺め!」

 

「あぁ、絵になる眺めだな」

 

光助と梨子は屋上からの景色に思わず、目を奪われる。

瑠璃色に宝石のように煌めく海。堂々と構える富士山。

この内浦ならでは、浦の星女学院でしか見られない絶景に2人はこの学院に転校して本当に良かったと思えた。

 

「気持ちいいずら〜」

 

春の柔らかく暖かな日差しは人々を心地よい

睡魔へと誘う。

花丸はゆっくりと仰向けに寝そべり、気持ち良さそうに寝始める。

寝息とともにゆっくりと上下する花丸の2つの山。花丸の真意を確かめようと初めからから花丸に注目していた光助は思わず視線が移ってしまう。

 

「光助君、何処見てるの……」

 

光助のやらしい視線に気づいた梨子はまるで汚物を見るような目で光助を見る。

 

「り、りこちゃん……」

 

「光助君って、変態だよね」

 

梨子の言葉が鋭い槍となって光助の純粋な心に突き刺さるどころか貫通し、大きな穴を開ける。

 

「はう!だ、だって!俺はその……男だし……」

 

光助は身振り手振りを使って必死に弁解するが、梨子の痛い目線は途切れることはない。

 

「そんなに大きい方がいいの……」

 

「梨子ちゃん?」

 

「何でもない!」

 

梨子の独り言を呟くとそそくさと千歌たちのところへと戻っていってしまう。

 

「……次からは気をつけよう」

 

一緒に生活している梨子に嫌われたくない光助は次からは女子へ向ける視線をこれから気をつけようと自分に言い聞かせた。

 



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紡ぐ者

みなさんお久しぶりです!
いや〜匿名で書いてる作品にうつつ抜かしてたら全然書けなくて……


春の暖かな日差しが大きな窓から部屋に刺し込む。ゆったりと心地よい暖かさと静けさ。程よい薄暗さ。そして、古い紙の独特の匂いがその部屋の雰囲気を作り出している。

 

「読んでるところごめんね。これを帰したいんだけど。」

 

教科書の5倍ほどの厚さの本が何冊も載せられた塔をカウンターに置き、光助はカウンターで自分に世界に浸りながら本を読む少女に申し訳なさそうに、借りる為の手続きをお願いする。

 

「別に大丈夫です。それがマルの役割ですから。」

 

そう言って、花丸は栞を挟んで、一旦閉じ、本についているバーコードを機械で読み取る。

光助は花丸とはよく会う。光助休み時間やAqoursの活動がない放課後はこの図書室に足を運び、本を読んだり、勉強をしている。そして、光助が図書室に来る時は大抵図書委員の花丸がカウンターに座り、じっと本を読んでいる。

 

「よいしょっと……後はこの紙に書いてと……。」

 

本を読んでいる時に花丸は美しい。本を見つめるその黄色の丸い瞳。まだ幼さの残る顔つき。それとは裏腹にたわわに実った膨よかな胸は男である光助は思わず凝視してしまうほどの逸品であった、

 

「はい。手続き完了ずら。」

 

本ともに花丸の優しい笑みも渡され、光助は悟られぬように目線を逸らす。

 

「ありがとう。」

 

そして、簡単に一言だけ礼を言い、光助は図書室を出ようとすると、前からルビィが現れ、不意に足を止めてしまう。

 

「ピギィ!舘先輩!スクールアイドル部が承認されたって本当ですか!?」

 

「ああ、そうだよ。本当だよ。」

 

光助を見て、ルビィは一瞬怯えた表情を見せるが恐怖よりもスクールアイドル部が承認されたことを確認することが気になり、光助に聞いた。

そう。つい先ほど鞠莉によって正式にスクールアイドル部の設立を認められたのだ。そして、部室もでき、いよいよ本格的にAqoursの活動が始まろうとしていた。

だが、ここである問題が起きた。どうやら、部室は何年も使われていなかったようで物が散乱して、埃塗れだった。そのため、一旦片付ける必要があった。そして、部室にあった本を返すため、光助はこうして図書館に訪れていたのだ。

 

「よかったねぇ。」

 

「また、ライブが見られるんだ!」

 

あどけない笑顔でルビィは素直に喜ぶ。そんなルビィを見て、光助は思わず本音が漏れる。

 

「ルビィちゃんはスクールアイドルが好きなんだね。いっそのことやればいいのに。」

 

「それは……ダメなんです……。」

 

すると一転。ルビィの表情が見る見るうちに曇っていく。そういえば、ルビィはダイヤの妹で、古風な家の出身でスクールアイドルを嫌っていると曜から聞いたことがある。

おそらく、それでダメなのだろうと光助は思っていた。

しかし、そんな簡単な問題ではなかった。

 

「お姉ちゃんが……スクールアイドルが嫌いだから……。」

 

「あ……うん?」

 

「お姉ちゃんも……昔はすごくスクールアイドルが好きだったんだ。一緒に雑誌を読んだり、歌を聴いたり……踊ったり……。」

 

「ちょっと待って!?生徒会長が!?色々聞きたいことが山積みだけど、そんなに好きだったのにどうして嫌いに?」

 

ダイヤがスクールアイドルが嫌いなのは安易に予想はついた。しかし、それが今の話で昔は逆に好きだったと聞いて、光助は驚きを隠せずにいた。そして、思わず勢いでルビィにダイヤがスクールアイドルを嫌いになった原因を問い詰めてしまう。

 

「それは……。」

 

しかし、ルビィは答えようとはせず、言葉が続かない。余程言えない事情なのか、それとも言っても大したことの事情なのか。

 

「とにかく、ルビィも本当はスクールアイドルを嫌いにならなくちゃいけないんだ。」

 

「ルビィちゃん……。」

「お姉ちゃんが見たくないってものは好きにはなれないよ……。」

 

「意味わかんねぇよ……。」

 

しかし、光助はルビィの話に納得していなかった。

 

「どうして、生徒会長が嫌いになったからってルビィちゃんまで嫌いにならなくちゃならないんだよ!ルビィちゃんはやりたいことをやればいい!」

 

ルビィがスクールアイドルをやることとダイヤの好き嫌いなど関係無い。寧ろ、ダイヤがルビィのことを蝕んでいるのならそれは最低だ。

だが、ルビィにもルビィなりの考えがあるのだ。

 

「でも……スクールアイドルの雑誌を見た時のお姉ちゃんはものすごく悲しそうで……あんなのもう……見たくない……。」

 

「だからって……。」

 

光助は反論しようとするが、そこから先は詰まって言葉が出ない。結局、別にルビィは強制されてスクールアイドルから遠ざかっているのではない。姉を思ってのことなのだ。ただルビィがやりたいようにやっているだけで、部外者である光助はこれ以上踏み込むことは許されない。

 

「わかったよ……俺はこれ以上は言わない。後はルビィちゃんに任せるよ。」

 

納得は出来ていないが、これ以上は無理だと泣く泣く光助は引き下がる。

 

「ねぇ、花丸ちゃんはスクールアイドルに興味ないの?」

 

すると、ルビィはふと横にいる花丸に話題をふる。

 

「ないない!オラとかズラとか言っちゃうし……それに運動は得意じゃないし……。」

 

「それなら……ルビィも大丈夫。」

 

スクールアイドルは出来ないと花丸は真っ先に否定する。

 

「そう言えばルビィちゃん。よく舘先輩と話せるね。」

 

「どういうこと?」

 

「ルビィちゃんは極度の人見知りでそれに男性恐怖症ずら……です。」

 

「うん?男性恐怖症?ちょ、待てよ。」

 

花丸の言葉が光助に不穏な影を落とす。極度の人見知りでも、こうやって話せるのならそれはルビィもしくは光助、はたまたその両方が高いコミュニーケーション能力を有しているのだと思う。

しかし、ルビィは男性恐怖症を患っている。それは高いコミュニーケーション能力を持っていたとしても相手が男である限り、無意味であろう。

なのに、ルビィは光助と普通に話している。それは何故か?光助に一抹の不安が過ぎる。

 

「どうしてなの?ルビィちゃん?」

 

そして、花丸が禁断の扉を開けてしまう。

 

「あ……先輩は……命の恩人だし……それにあんまり男の人って感じがしなくて……。」

 

「あ……そっか……。男っぽくないか……あははは。」

 

男の人って感じがしない。それは中性的な光助ならではだろう。しかし、男として見られたい光助にとってそれは褒め言葉ではない。だが、そのおかげでこうやってルビィと話せていると思うと、複雑な気持ちになる。

 

♢♢♢

「大分片付いたな。」

 

本を返し、図書室から複雑な気持ちのまま光助は部室に戻ってきた。

物が散乱し、足の踏み場もなかった部屋は今では綺麗サッパリ片付けられ、まだ少し誇りぽかったが、それでも生活できる環境ではあった。

 

「光助君!遅い!」

 

「悪かったよ。」

 

花丸とルビィと話していた予定より約10分ほど遅れて戻ってきたおかげで梨子に軽く怒られたが光助は適当に返す。

 

「そうだ!光助君。そういえばこんなもの見つけたんだけど……。」

 

「何?これは……詩?」

 

すると、曜がホワイトボードの前で手招きをし、光助は曜の元へ行く。そして、曜はホワイトボードに指を指す。そのホワイトボードには薄っすらとだが、何か言葉が書かれていた。

 

「うん。何かわかる?」

 

「いや……流石に……。」

 

こんな意味深な言葉に曜はもしくかすると、父親の手がかり、もしくはホープの謎が書かれているのかと思ったのだろう。

しかし、そんなことはアニメの中だけの話だ。光助が読む限り、手がかりは何もなかった。

当たり前だろうと思いながら、不意にその文字に触れる。すると、突然に脳裏に映像がよぎる。見たこともない映像が。

何処かで見たことのある4人(・・・)が仲睦まじく、この詩を書いていた。しかし、次の瞬間、場面は打って変わってしんと静まり返ったこの部屋にある少女がたった1人でこの詩を見つめていた。

 

「どうしたの?」

 

石化したように一切身動きを取らなくなった光助に曜は顔を覗き込む。その時に光助は夢から覚めたようにハッと気づく。

 

「これは……詞でも歌詞なのか?」

 

「でも歌詞なら一体誰が書いたんだろう?」

 

「そこまではわからない。でも……その人は何処かで見たことある気が……。」

 

「見たことあるって?」

 

「いや……何でもないよ。」

 

梨子は光助を心配そうに見つめる。光助もこれ以上、先ほどの映像のことを言っても理解されないだろうし、果たして本当にあったことなのだろうかまだ不確定なため、これ以上追求するのはやめておくことにした。

 

「さぁ、それよりある程度片付いたんだ。そろそろ練習始めた方がいいんじゃないかな?」

 

「そうだね。じゃあ、着替えてくるから待っててね。」

 

そして、千歌達は着替えを持って、部室を後にし、更衣室へと向かい、たった1人、光助だけがこの部室に取り残された。

 

「希望を……紡ぐ……。」

 

ふと言い慣れたフレーズを口から溢れる。変身する時に不意に出る決まり文句。所詮、テンションの昂りで口走ってしまうただのかっこつけだと光助は思っていた。

しかし、先ほどの映像を見た時、それは違うと確信した。あの映像は希望から始まり、そして失望で終わった気がした。恐らく、自分はその失望からまた希望へと昇華させ、また紡いでいかなければならないのだ。

これは光助自身の役割と言うより、ホープとして役割、責任、そして1つの在り方なのだろう。もしくは……使命か運命か。

 

「ホープ……これは一体なんなんだ。」

 

ホープの謎に力。これには光助もただ不思議に思うばかりであった。




本ってものは確かに色んな知識や経験を得ることが出来るけど、結局は体験には勝てないものさ。だから、怖くても何でもやってみることが大事さ。
そして、もっと自分を主張しなくちゃな。だって、これは君の物語でもあるのだから。

次回 仮面ライバーサンシャイン
君の物語(ファンタジー)


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本音と建前

お久しぶりです!
他の作品に手を出していたら、なかなか進めることが出来ず、かなり期間が空いてしまいました。
ごめんなさい


「それじゃあ、この辺で今日は終わりにしようか」

 

陽が落ちる頃。長い時間続けた練習は光助の一言で終わりを告げる。

Aqoursメンバーと花丸とルビィは大きく深呼吸し、汗を拭う。

 

「お疲れ様! 」

 

練習でかなり体力を消耗した全員に光助は丁寧にスポーツドリンクを渡していく。

 

「それじゃあ、ある程度休憩したら、着替えて、帰ろっか」

 

「了解であります! 」

 

梨子の提案に曜は敬礼して、了解し、他のメンバーは同様に了解を示す。

そして、荒れた呼吸を落ち着かせ、メンバーが着替えに行こうとする時、光助は花丸を呼び止める。

 

「あ、花丸ちゃん。ちょっとだけ待って貰っていい?」

 

「何ですか?」

 

一体何なのかと不思議そうな様子で花丸は光助に歩み寄ってくる。

そして、光助は花丸の幼さの残る顔を何か、確かめるように凝視し、今日の感想を問いかけた。

 

「今日、スクールアイドルを体験してどうだった?」

 

「えっと……凄く楽しかったです!」

 

何も偽りも感じられない真っ直ぐな笑顔で花丸ははっきりと答えた。

 

「まるにとって、何もかも新鮮で……ルビィちゃん達と一緒に入れて、歌えて……楽しかったずら」

 

感想を語る様子はまるで子供のようにはしゃいでいた。

疑う余地もなく、花丸はスクールアイドルにのめり込んでいたのは明白だった。

 

「でも……反面……少し、きついかったです……」

 

「まぁ、初めての人にはなかなか大変な練習だよ、あれは。でも、毎日こなせば、大丈夫だよ」

 

今まで、楽しい話だったのが急に角度を付け、テンションは滑り落ちていく。

 

「でも……おらは全然ついていけなかったし……」

 

「出来もしないのにいられたら迷惑とか思ってる?」

 

「えっ!?」

 

「そんなことはないよ。あいつらはそんな辛辣じゃないし。少なくとも俺はそんなこと思ってない」

 

花丸は以前に自分は運動が苦手だと言っていたうえに自分に自信がないようなことを言っていた。

今日、体験してみて、もしかしたら楽しさを知った分、代わりに自分の今の限界を知ってしまい、挫折しかけてるのかもしれない。

 

「やりたきゃやる。単純だけと、1番大事なことだと思う。そして、やりたいことがあるなら我儘になってもいいと思う」

 

「先輩……」

 

折角、楽しいスクールアイドルを自分から捨てるようなことはして欲しくなかった。

 

「俺から言いたいのは以上だよ。ごめんね、引き止めちゃって」

 

「大丈夫です!寧ろ……為になりました」

 

花丸は深々と頭を下げる。その表情は何か付き物のようなものが剥がれたようにスッキリととしていた。

 

「花丸ちゃん……君は……優しすぎる」

 

会話を終え、花丸は一人に着替えに向かい、光助は一人屋上に取り残され、ポツリと呟いた。

 

♢♢♢

夕日が地平線に顔半分を沈める頃。光助は誰もいない部室に鍵をかける。

 

「戸締りはOK。うし、みんなに追いつかないと」

 

他のメンバーは既に校門に移動しており、光助を待っている。

女性を待たせるのは、あまり褒められたことはないだろうと思い、光助は走りだす。

 

「こら!廊下は走ってはいけませんわよ!」

 

小学校から言われ続けた禁止事項を守らなかった光助を呼び止め、渋々光助は後ろを振り向く。

この時、光助は後悔した。廊下など走らなければ良かったと。後悔が重りとなって、光助に押し潰そうとする。

 

「すみません!……げっ!生徒会長! 」

 

「げっ、とは何でしょうか?まるで、私に会うとまずいことでもありますの? 」

 

「い……いや……」

 

まるで説教する前の母親のような佇まいでダイヤは光助をじっと見つめる。

しかし、ダイヤに隠し事をしている光助にとって、対面していること事態、気まずいことである。

隠し事がバレてしまうのではないかと緊張感し、不安に駆られる。あまりの緊張にダイヤに見つめられているだけなのに、まるで蛇に睨まれているような感覚に陥る。

 

「ちょうど良かったですわ。あなたとは話したいことが山程ありますわ」

 

光助の背筋が凍る。もしや、隠し事がバレてしまったのか。最悪の事態が脳内に浮かび上がり、嫌な汗が止めどなく流れ、不快な気分になる。

 

「外で千歌さん達が……ルビィが待っているのでしょう?おそらく話が長くなるので、連絡しておいたほうがいいですわ 」

 

ダイヤは光助に気遣いの言葉をかける。

しかし、さりげなく発せられたルビィという言葉に光助は絶望した。

光助の奮戦虚しく、作戦は失敗した。そして、このまま話し合いという名の尋問、否、拷問が始まるかもしれない。

あまりのパニックに光助の被害妄想がビックバン並みの速度で広がっていく。

終いにはダイヤの気遣いの言葉も脅しや脅迫にしか聞こえない状態になっていた。

 

「あ、梨子ちゃん。……先帰ってて。先生に宿題やってないのバレてさ。……だ、大丈夫だよ……ちゃんと生きて帰ってくるから……」

 

震える手で梨子に電話をかける。もしかしたら、これが最後の会話になるかもしれない。

もし、そうならば、遺言を残して置いたほうがいいかもしれない。

だが、光助は踏み止まった。野暮なことを話して、梨子達を不安にさせたくなかった。

 

「それでは、始めましょうか」

 

そして、ダイヤは話しやすい場所ーー生徒会へと連れて行く。この時間はあまり生徒や先生はいないのだが、万が一、話が漏れるのは嫌だったので、生徒会室を選んだ。

しかし、今の光助にはそんな気遣いなど理解しうることは不可能であった。

生徒会室はダイヤの根城。ここなら、誰にも邪魔されず、様々な方法で聞き出せる。

 

「い、いやぁ……小指とか詰められたくない……」

 

「人聞きが悪いですわ!私はそんな野蛮なことはしませんわ! 」

 

うっかり、口を滑らせ、ダイヤに聞かれてしまい、光助は怒られる。

そんな一層張り詰めた空気の中、いよいよ生徒会室の中へと連行される。

 

「まず、何から話しましょうか」

 

夕日が沈みかけ、窓の外の蜜柑色と群青色のグラデーションのかかった空を見つめながら、ダイヤは話を始める。

一方の光助は地獄のど真ん中に連れてかれたような絶望した気分であった。

 

「す、すみませ「別に怒っていませんわ」

 

「はへ?」

 

「ルビィをスクールアイドルの体験入部の件は別に怒っていませんわ。ただ、黙っていたのはあまりいい思いはしませんわね」

 

別にルビィの件に関しては怒ってはおらず、寧ろ好意的なよう。

本音を言うならば、スクールアイドル部はこのまま廃部させられ、光助自身も消されると思っていたの。緊張の糸が切れ、安心しきって、光助は女の子座りで床にへたり込む。

 

「黙っていてすみません! 」

 

「いえ。元はと言えば私が強くスクールアイドル部に対して威圧的に接していたのがいけませんでした」

 

ルビィの件を黙っていたことに対し、光助は深々と謝罪するが、ダイヤも自分に非があると、同様に頭を下げる。

 

「あの……生徒会長はどうして……スクールアイドルが嫌いなんですか」

 

「……自分勝手な我儘と言えばいいんでしょうか」

 

「自分勝手な理由?」

 

「えぇ。ただの私の我儘ですわ。そのせいでルビィに辛い思いをさせて……私は最低な姉ですわ」

 

ダイヤは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、目を伏せる。後悔しているのは目に見えていた。

窓の外の夕日が完全に沈み、暗い夜が始まる。

 

「……そんなことないですよ。生徒会長は今後悔してるんですよ。十分過ぎますよ」

 

だが、光助は後悔しているだけ、十分、姉としての役割を果たしていると思っている。

後悔しているのはルビィのことをしっかり想っているからこその賜物だろう。

 

「実は俺にも姉がいるんですよ」

 

すると、あまりにも黒澤姉妹が羨ましくなり、光助は思わず身の上話をしてしまう。

 

「羨ましいです。ルビィちゃんが。こんなに妹思いの姉がいて。俺の姉なんか……本当に俺のことが嫌いで……仲が悪くて……」

 

あまり姉のことは思い出したくなかった。話しただけでも姉から受けた傷が開いたしまうからだ。

それでも、話しておきたかったのだ。

ダイヤはちゃんと姉としての役割を十分に果たしていると。

 

「だから、気にしないでください。上には上がいるように、下には下がいるんですよ」

 

「光助さんは……お姉さんのことは嫌いなのですか? 」

 

「そんなわけないじゃないですか。大好きですよ。すごく」

 

頭を掻きながら、光助ははっきりと本音を言うの。

しかし、その表情はどこか憂いを帯びていた。

 

「そうだ!お父さんの話!聞かせてください! 」

 

「そ、そうでしたわ! 」

 

すると、光助は手をポンと叩いて、思い出したかのようにダイヤに父の話を要求する。

ダイヤは慌てて、話を始める。

 

「正義先生は私が入学した時に、この学院に臨時講師として来ました。授業も雑談も面白くて、容姿も整っていましたし、生徒からはかなり慕われてましたわ」

 

「やっぱり父さんはすごいなぁ。やっぱり、あの人には敵わないや」

 

ダイヤは正義のことは好きだった。勿論、恋愛的な意味ではなく、一人の良識ある人として、尊敬できる教師としてだ。

 

「いいえ。光助さんも先生とは違った魅力がありますわ。現に、千歌さん達には慕われているようですし」

 

光助にも正義に負けず劣らず、光助なりの魅力がある。

側から見てもそれはわかるし、今こうして面と向かって、話していれば、十分なほどわかる。

光助から滲み出る優しさ、懸命さ、相手にしていた、決して悪いものではない。

 

「それは……ありがたいですね」

 

「……話がそれましてね。でも、先生は突然姿を消したんです」

 

「姿を消したって……」

 

話は元に戻る。

 

「はい。突然、学校に来なくなったんです。他の先生の話だと、本職の研究が忙しくなって、研究室に戻ったと聞いていたんですが……」

 

ダイヤの話の途中で光助を一瞥する。

光助は顎に手を置いて、深く考え込んでいた。どうやら、この話に不審な点があったようだ。

 

「ありえない。父さんはその時は既に学会から追放されてた」

 

「なら、尚更理由は! 」

 

「……わかりません。ただ……きっと何かしら理由はある。とても大切な理由が……」

 

流石に、細かい理由までは光助でもわからない。しかし、わざわざ嘘を吐く程の理由というのはわかっただけでも収穫だ。

ここから先は自分の力で調べるしかない。

そう、決意する。

 

「生徒会長。貴重な父さんの話、ありがとうございました。他に話とかはないですか? 」

 

「他に……一つだけありますわ。明日は淡島神社の階段登り降りをすると聞いたのですが?」

 

「そうですけど……誰から聞いたんですか?」

 

「先程、一年生の国木田さんという方から、来て欲しいと言われまして」

 

「そう来たか…… 」

 

すると、光助は深く考え込む。

 

「どうしたのですか!?」

 

突然、考え込んだ光助にダイヤは不思議そうに見守る。

そして、光助はハッと思い付いたように顔を上げ、ダイヤの手を握る。

 

「生徒会長、図々しいとは思いますが力を貸して下さい」

 

「はい? 」

 

「花丸ちゃんの為なんです!お願いします!」

 

突然のことにダイヤは目を丸くして困惑する。

花丸の為とは一体何なのかわからなかった。

しかし、光助の本気の眼差しを見れば、自然と手を貸したくなってしまう。

 

「わかりましたわ。では、私は何をすれば良いのですか」

 

「えっと……それじゃあ……」

 

ダイヤの協力を得た光助は早速、咄嗟に考えた作戦を耳打ちで伝えるのであった。



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君の為の物語

長らくお待たせしました。
同人活動やらテスト勉強にとやることが多く、なかなか手がつけられずにいました


翌日。以前、言っていたように淡島の大階段で練習をすることになったAqoursメンバー。

しかし、階段に登っている途中で花丸はルビィを先を行かせ、背中を見送った後、花丸は一人で階段を降りて行った。

作戦は成功だ。花丸は元は本気でスクールアイドルをやるつもりはなかった。ただ、問題は自分が動かなければ、誰よりもスクールアイドルがやりたいルビィが動かないのだ。

その為に花丸はわざわざこんな作戦を企画したのだ。

 

「どうか、ルビィちゃんにスクールアイドルをやらせてあげて下さい!」

 

「国木田さん……」

 

そして、花丸は前から呼び出していたダイヤの前に立ち、頭を下げて、ルビィのスクールアイドルの許可を貰おうとする。

生真面目なダイヤも所詮、一人の人間。ましてや、姉だ。

妹でたるルビィの頑張っている姿を見て、何も思わないわけがない。

 

「やっぱり、そういうわけか」

 

「先輩……」

 

すると、組織を裏切ったどこぞのダイヤモチーフのライダーのように木の陰から見ていた光助が花丸達の前に出る。

 

「薄々気づいてたよ。花丸ちゃんがルビィちゃんをスクールアイドルをさせる為にあんな提案をしてきたってのはさ」

 

「幻滅……しました?」

 

「いいや。それが花丸ちゃんのやりたいことなんだろ」

 

光助は今までの花丸の行動は否定はせず、逆に肯定していた。

それが花丸のやりたいことなら光助には止める義理はない。

寧ろ、人の為の行動ならそれは賞賛されるに値するものかもしれない。

しかし、光助にはたった一つ、納得いかない点があった。

 

「でも、俺は昨日言ったよね?やりたいことがあるなら我儘を言ってもいいって」

 

昨日の花丸の様子。ルビィの話から花丸はスクールアイドルが大好きで、そして、やりたがっているのは明白だった。

だが、花丸は身を引いてまでも、自分を犠牲にしてまでもルビィをスクールアイドルにすることを選んだ。

 

「我儘言って、わざわざみんなにに迷惑をかけることなんてしたくないずら!まるは鈍臭くて……地味で……あんな華やかなスクールアイドルなんて……似合わない!」

 

花丸は声を荒げて反論する。

確かに花丸の言ってることは十分正しい。我儘を言って他人に迷惑をかけるのは褒められることではない。

 

「それは違いますわ」

 

「生徒会長?」

 

だが、ダイヤはこれに意を唱えた。

正論ではあるかもしれないが、花丸の言葉には一種の諦めや逃げがあった。

それがダイヤにとって気に食わないものであった。

 

「ルビィの好きなスクールアイドルの方国木田さんと同じように自らを鈍臭くて地味だと思っていました。ですが、友人達の後押しと勇気で彼女も夢に見たスクールアイドルになったのです! 」

 

ルビィの好きなアイドルーー小泉花陽もまた、花丸のようにアイドルに憧れていたものの、自分自身が無く、夢の一歩を踏み出せずにいた。

しかし、後に同じμ’sのメンバーとして手を取り合う、星空凛と西木野真姫に後押しされ、夢に--スクールアイドルになるという夢を叶えたのだ。

 

「おらはそんな物語の主人公でも何でもない!まるは所詮、脇役……そんな存在ずら!」

 

「違う!これは花丸ちゃんの物語だ!花丸ちゃんの人生はまごうことなき花丸ちゃんが主人公の物語だ!」

 

「まるが……主人公……。そんな大役……まるには務まらないよ……」

 

しかし、そんなシンデレラストーリーは簡単に起きる訳がない。何より、起こったとこほで自分はそんな主人公という大役は務まらないうえ、重荷を背負う覚悟はなかった。

だから、自分は脇役でいい。主人公を傍らで見守る脇役。

 

「なら、変身すればいいんだ!大役の務まる自分に!新しい自分に!花丸ちゃんの憧れるμ'sの星空凛さんのように!」

 

「な、なんで凛さんのこと!」

 

光助から口から凛という名前を聞いて、花丸は驚く。

 

「ルビィちゃんから聞いたよ。花丸ちゃんの……推しってやつ。その凛さんをさ……俺はあんまり知らないから語れないけど……あの人だって変われたんだよね」

 

「でも!あれは凛さんだから!」

 

花丸は凛に憧れていた。凛は可愛らしくもあったが、どこかボーイッシュさを感じる少女だ。そのせいで幼い頃にある男子達から言われた心ともない言葉によって、可愛らしい服装を着ることにトラウマを植え付けられた。

しかし、μ’sメンバーのおかげで、そのトラウマを克服し、あるファッションショーで花嫁衣装を着ることが出来た。

そんな変われた凛に花丸は憧れていた。

いつかは自分も変われたらと。地味な自分から輝ける自分にと。

だが、自分にはそんな勇気も力はない。あれは凛だから出来たことだと諦めていた。

 

「違うよ。誰でも変われるんだ。俺だって変われたし、梨子ちゃんだって、ルビィちゃんだって変われた!可能性はみんなに等しくあるんだ!」

 

今日、光助に説得されるまでは。

花丸の手を握り、熱い眼差しで見つめ、光助は一生懸命、後押しする。

花丸が変われると信じて。変わって欲しいと願って。

 

「先輩……」

 

光助の懸命な姿に花丸の心は揺れ動く。しかし、あくまで動くだけで、決心するには至らない。

まだ、関わりの浅い光助にはここまでが限界だろう。

 

「館さん……」

 

一方、いつの間にか蚊帳の外に追いやられていたダイヤは懸命な光助と恩師を重ね合わせていた。

親子だから似ているのもあったが、話すことも、何事にも懸命なその姿すら、似ており、複雑な心境に陥る。

 

「……ねぇ、花丸ちゃん。ポケットに入ってるのは何?」

 

「え?……本ずら……」

 

突然、熱い声色は冷まされ、氷のように冷たくなる。

いきなりどうしたのだろうと花丸は気になったが取り敢えず、本を出し、光助に見せる。

 

「花丸ちゃん!危ない!」

 

その本を見た途端、光助は花丸から本を取り上げ、がむしゃらに投げ捨てる。

あまりの突然のことに花丸は怒りを込み上げる間もなく、ただ動揺するだけ。

一方、宙を舞う本は突然、黒い瘴気に包まれる。

そして、瘴気は人型サイズにまで大きくなり、中から異形が現れる。

 

『チッ!気づかれたか』

 

「ほ、本が怪物に⁉︎」

 

「また、怪物ずら⁉︎」

 

『私はストーリー。悪夢という名の物語を司る者』

 

白いコートに読めない筆記体のような文字が縦縞模様が描かれ、白目の単眼にシルクハットの異形、ストーリーseadが丁寧な物言いで自己紹介をする。

 

「本がseadになるとか、何でもありか」

 

『本というのは書き手や読み手の思念が宿りやすいのだ。特に人目に触れる公共施設の物なら非常に生まれやすい』

 

「ご丁寧にどうも。それで、お前の目的は花丸ちゃんか?」

 

seadの分際でやたらと丁寧な説明に拓人は気に食わないと眉をしかめる。

 

「あぁ、そうだ。こんなチンケな女の物語など、誰が求める?」

 

「誰がっめ俺が求めているさ」

 

花丸の人生を侮辱しているような物言いに光助は怒りを露わにする。

ストーリーは所詮はたった今生まれた存在。刹那の存在が長い間生きていた花丸の人生を侮辱する資格はないと光助は思っていた。

 

「みんな、変われるんだよ!俺だって!あんな卑屈な人間からここまで変われたんだ!だから、俺は信じる!花丸ちゃんが、1人の主人公として、自分の物語を歩けるって!その為にも俺は!花丸ちゃんを!花丸ちゃんの物語を守る! 」

 

それに例え、今までの花丸の人生が意味が薄くても、これから濃くしていければいい。

花丸は若い。今から覚悟を決め、輝こうとしても決して遅いということはない。

そして、その人生を潰そうとする輩がいるなは、自分が叩きのめすだけ。

光助はそう意気込んでいた。

 

「変身!」

 

花丸の夢を--物語を守る為、光助は光の力を振るう。

ホープドライバーをポケットから取り出し、腰に巻く。

そして、ドライバーから光が発せられ、光助を包む。光の中から現れた光助は黄金の肉体を身に纏い、仮面ライダーホープへと変身する。

 

『仮面ライダーホープ!光を紡ぎ!悪を絶つ!』

 

『フン!貴様がどれ程意気込もうが、私の立てた勝利への物語はブレることはない!』

 

口上を高々に宣言し、ホープはストーリーに殴りかかる。

一方のストーリーはそのまま強く念じるだけであった。

 

『何!』

 

「舘さん!」

 

動かないストーリーをホープは殴ろうと拳を振り上げるが、その寸前で地面から生えて来た蔓によって、体を拘束されてしまう。

 

『ふふ。友人を守る為に奮闘する勇者を返り討ちにする物語も悪くはないな』

 

『はぁ?おいおい、テンプレを無視した斬新なアイデアとか思ってるのか?そんな捻りもない物語じゃ、読者は喜ばないぞ』

 

『読者など関係ない!私自身が満足出来る物語ならそれで良い!』

 

ホープの挑発を真っ向から否定し、ストーリーは攻撃を仕掛ける。

指をパチンと鳴らすと、ホープが突然、発火する。

 

『何⁉︎』

 

『ふはは!このまま、火炙りになってしまえ!』

 

ストーリーの能力。それは自身を中心に、半径100m以内の範囲を我が物とする能力。

範囲内なら完全に物理法則を無視をした攻撃や、ストーリーにとって都合のいい状況を作り出せる能力だ。

しかし、弱点として、その範囲及び物語に置いて、中心に居なくてはならず、中心から離れる瞬間移動や、消えてしまう透明かなどは使えない。

 

『ぐぅぅぅぅ!』

 

火に焼かれ、肌が剥がれるような痛みに呻き声を上げながらもホープは必死に耐える。

 

『貴様の物語はこれで終わる!このまま消し炭になってしまえ!』

 

『ふざけるな!俺の物語は俺が決める!花丸ちゃんの物語は花丸ちゃんが決める!てめぇが花丸ちゃんの物語に介入する余地はねぇんだよ!』

 

このまま、ストーリーの思うがままにされるのは許せなかった。

人の物語を私欲の為に終わらせる。そんなことをさせてはならない。

ホープは力任せに蔦を引きちぎり、炎に包まれたままストーリーの顔面を殴る。

 

『バカな!!』

 

ストーリーの能力を崩したホープを目の当たりにし、ストーリーは動揺を隠せない。

 

『何故だ!何故だぁぁ!』

 

『これで決める!』

 

一度、崩された物語は修復されことはない。

脚を震わせ、戦う気力がなくなった、ストーリーにホープは裁きの鉄拳を下そうと右腕に光の衣を纏わせる。

 

『てめぇのゲスじみた物語と一緒に砕け散れ!ライダァァァァパァンチッ!』

 

ホープはストーリーに必殺の「ライダーパンチ」を浴びせ、ストーリーは光の衣に包まれる。

 

『おのれぇぇぇぇぇぇ!』

 

衣の中から断末魔が漏れだす。

だが、次第にそれは聞こえなくなり、そして、光の衣が無くなると中からストーリーが憑依していた古い本が地面に置かれていた。

 

『全く。本までもがseadになるなんて、意外だな」

 

変身を解きながら、光助は本を拾い、汚れを軽く払う。

そして、ゆっくりと背後を向き、尊敬の眼差しで見つめる花丸とただ呆然と立ち尽くすダイヤの元へと歩く。

 

「二人とも、無事?」

 

「まるはだいじょうぶずら」

 

「ど、どういうことですの⁉︎こ、光助さん……あなたは!」

 

あまりの奇怪な状況にダイヤはパニックに陥っていた。

 

「まぁ……話すと長くなるなぁ。とりあえず俺はあの怪物と戦っている。それだけわかってくれれば良いです」

 

また、正体を知られてしまい、厄介なことになったと光助は気まずそうに頭を掻くのであった。

 

♢♢♢

 

「へぇ……本までがseadにね。もう、何でもありね」

 

松浦家が営むダイビングショップのロッジで光助から先日のseadの話を聞いたレイは驚きつつも、何でもありということに呆れてもいた。

 

「そうだな。本当に何でもありだから、レイにも伝えておくよ」

 

「そう。情報が無いのと有るのじゃ、全く違うからね。ありがとう」

 

ただ呆れる事実でも有益な情報には変わりない。レイはひとまず礼を言う。

 

「2人とも、飲み物飲む?」

 

「はい。いただきます」

 

「ありがとう。果南」

 

光助とレイが話し終えた頃、お盆を持った果南がタイミングよくダイビングショップから出てきた。

お盆の上には鮮やかな色をしたジュース。

どうやら、ダイビングショップで売っている商品のようだ。

 

「ありがとうございます。美味しい!」

 

ロッジに置かれた木の椅子とテーブルに座ってジュースに口をつける。

爽やかな味に甘みがあってとても美味しかった。

 

「そういえば、勧誘の件はどうなったの?」

 

「はい。ルビィちゃんはもう入部する気満々なんですけど、花丸ちゃんがまだ一歩踏み出せないようで。でも、それも時間の問題ですけどね」

 

「どういうこと?」

 

「自分で一歩を踏み出せないなら、誰かに手を引いて貰えばいいんです」

 

「でも、光助の説得があってもダメだったんでしょ?」

 

「俺はそんなカリスマじゃない。まだ、出会って間も無い俺は心を揺さぶることは出来ても、決心させるまでは出来ません。そこから先は友達や親友の役目です」

 

花丸にとって光助など所詮は先輩か命の恩人でしかないだろう。

それは確かに特別な関係ではあるが、大切な関係ではない。

特別な関係では表面上のことしかわからず、内面は詳しくわからないため、花丸を突き動かすのはかなり難しい。

大切な関係であり、花丸のことをよく知るルビィなら花丸を突き動かし、Aqoursへと導くことができるだろうと光助は考えていた。

 

「親友か……」

 

親友という言葉を聞いて、果南はどこか上の空をであった。

 

「あ、失礼」

 

すると、光助のスマートフォンから着信音が鳴り、すぐに出る。

 

「あ、千歌。……そっか!良かった!」

 

通話し始めるとすぐに、光助の表情がみるみるうちに明るくなっていく。

光助の反応を見れば、果南とレイもその喜びの理由が自ずとわかってくる。

 

「もしかして!」

 

「あぁ!Aqoursに新しく二人の新メンバーだ!」

 

そう、Aqoursに新たなメンバー。黒澤ルビィと国木田花丸が加入したのだ。




次回 仮面ライバーサンシャイン!

奴が降臨する!

「ヨハネ!降臨!」

「光助君と似てる?」

「仮面ライダーは厨二病じゃねぇ!」

次回、ヨハネ降臨!


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ヨハネ降臨

「上がり悩んでいるな」

 

パソコンの画面にはスクールアイドルの協会が運営しているサイトが映し出されていた。

 

「せっかく、花丸ちゃんとルビィちゃんが入ってきてくれたのに……」

 

先日。Aqoursに新たなメンバーとしてルビィと花丸が加入した。

二人ともとても個性的で可愛らしい少女であり、ランキングが上がると思っていた。

結果を言うならランキングは上がっていたが、予想程高くなかった。

 

「まぁ、入ってきてくれただけで、少しでも上がっているんだ。新曲が出れば、上がると思うよ……多分」

 

「そうね。これから五人のフォーメーションとか考えないと」

 

ランキングがあまり上がらなく落胆する千歌とは裏腹に光助は安心していた。

たった二人が加入しただけで、ランキングが上がったのだ。

この調子で新曲も発表できれば、きっとランキングも急上昇できるはずだと光助は考えていた。

 

「それなら、早速練習しようよ!」

 

ならば、善は急げと言わんばかりに千歌は早速練習をしようと全員に促す。

相変わらず突っ走る千歌に全員は和やかに笑う。

 

「それじゃあ、着替えて屋上に行こう」

 

「それなら俺は出ていかないと」

 

練習が始まるとなると、部室はAqoursメンバーの更衣室になる。

男子である光助が居続ければ、牢屋行きである。

クーラーボックスを肩に下げ、タオルやストップウォッチなどの器具を持ち、一足先に屋上に上がろうと光助は部室を出る。

 

「ちょっと待って。誰かいる……」

 

すると、体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下からこちらを見る誰かがいた。

誰だろうと光助はマジマジと見ていると気づかれたらしく、それは慌てて物陰に隠れてしまった。

しかし、完全には隠れておらず、頭のお団子が出ていた。

 

「あそこにいるのは誰だ?」

 

「あれは……」

 

光助が茂みに隠れている猫を凝視するように誰か眺めていると花丸が部室から出て、その団子を見るやハッと声を出して驚く。

すると、その声に驚いた誰かは団子を隠して、無駄に大きい足音を立て、逃げてしまった。

 

「ちょっと待つずら〜」

 

「待て!どうしたんだよ花丸ちゃん!」

 

誰かを追いに花丸は行ってしまう。

一体、何なんだと光助は花丸を連れ戻すために、駆け出していった。

 

♢♢♢

「しかし、あれは誰なんだ」

 

花丸の追いついた光助は一体どうしたのだと理由を聞く。

 

「多分、善子ちゃんずら」

 

「善子?」

 

「まるのお友達で……不登校の子です」

 

「なるほど。ん?あそこに……何かいる」

 

すると、ふと光助はとある物に目をつける。

それは何の変哲もないタンス。

 

「あの中に?」

 

誰がどう見てもあの中に人など入っているわけがないと思うだろう。

しかし、光助はタンスの中から黒い霧のようなものが漏れ出しているのが見えるのだ。

恐る恐る、タンスの戸を開けてみる。

 

「本当にいた」

 

「な、何よ!」

 

タンスの中には膝を抱える善子が威嚇する子犬のような目で光助達を見ていた。

 

「お前は……あの時の」

 

特徴的な髪型のお陰で、光助は思い出した。

タートル初戦。そして、ゴウダメ戦の時に瓦礫に押し潰されそうになったところを助けたあの少女だ。

 

「それより、この子が善子ちゃん?」

 

「違うわ。私はヨハネよ!」

 

「は?」

 

光助は口をあんぐりと開け、呆然とする。

ハーフや帰国子女ならばヨハネという名前でもおかしくなさそうだが、見た目は外国人ぽくはなく、鞠莉のように変なイントネーションもない。

だが、根本的に突っ込むなら、まずヨハネは男性名である。

 

「くっくっく!私は堕天使ヨハネよ!あなた達はみたいな下界の人間達とは……」

 

訳の分からないの言葉を多用し、聞いてる光助は痛い奴だと思わざるを得ない。

高校生になっても所謂、中二病というものを患っているのかと光助は呆れてものも言えない。

 

「善子ちゃん!やっと学校に来たんだね!」

 

「そ、それより!ずら丸!」

 

「どうしたの?」

 

「あの……クラスのみんなは何か言ってなかった?」

 

「花丸ちゃん。よし……ヨハネちゃんは何かしたのか?」

 

「自己紹介に時にヨハネとか紹介して……」

 

「なるほど。事故紹介ってことか」

 

確かに高校デビューの時、ましてや自己紹介で恥ずかしいミスをすれば、誰だって学校に行きづらくなるに決まっている。

かと言って、本当に学校に行かないのはどうかと思うが。

 

「あのね、善子ちゃん。クラスのみんなは何も言ってなかったよ。むしろ、来てないことに不安だったり、心配してたよ」

 

「本当に?」

 

「うん」

 

「本当に本当に?」

 

「うん」

 

花丸の言葉を疑う善子。だが、善子の不安と裏腹にクラスメートは心配していた。

 

「よかった〜。まだいける!まだやり直せる!」

 

変に思われていないと安心した善子はガッツポーズをして喜ぶ。

 

「しかし、よしk……ヨハネちゃん。やり直すと言ってもどうするんだ」

 

「そう。そのためにはずら丸の力が必要なの」

 

すると善子は真っ直ぐ花丸に指を指す。

 

「まるが?」

 

「ずら丸!明日から私を監視しなさい!」

 

「監視⁉︎」

 

「そう!私は気が緩むと堕天使が出してしまうの。だから、それを止めて欲しいの」

 

確かに善子の言う通りならば、常に誰かしらのストッパーがいれば済む話だ。

 

「わかったずら。善子ちゃんの頼みなら受けるよ」

 

しかし、花丸は二つ返事で了承した。



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三角

お久しぶりですね

リハビリ中なので内容には目を瞑ってほしいな


 昼時の屋上。今、ここで花丸を覗くAqoursメンバーと光助は昼食を食べたいた。

 

「今日も飯が旨いな」

 

 光助は梨子の母が丹精込めて作ったお弁当を頬張る。特に唐揚げがよく下味が染みて、絶品の一言であった。

 

「そんなに美味しいの?」

 

 千歌はそっと光助の弁当箱に箸を伸ばす。

 だが、そんな単純なことは既に見抜かれている。光助は届かない高さに弁当箱を持ち上げる。

 

「交換ならいいよ」

 

「わかった」

 

 光助は鬼ではない。

 

「ちょっとちかっち?」

 

 すると、千歌は今さっきまで使っていた自分の箸で卵焼きを掴むと光助の目の前に差し出す。

 

「ほら、口開けないと食べられないよ」

 

「でもこれってさ!?」

 

 光助は顔を赤くし動揺する。このまま食べれば所謂千歌との間接キスになる。男女を理解できる大人や逆に理解ができないが故に問題と思わない子供ならばどうということはないこと。しかし、過剰に異性を意識してしまう思春期の若者、ましてや男なら責任問題にまで発展する。

 

「あ、あーん」

 

 無自覚なのかわざとやっているのか。どちらにせよ、この危機を問題なく切り抜けるのは素直に好意を受けるしかない。

 光助は震えながら差し出された卵焼きを食べさせてもらう。

 

「どう?」

 

「お、美味しい」

 

 口の中に卵焼きの甘さが広がる。少しだけ砂糖の混じったそれは大変美味しい。だが、砂糖とは違った別の甘さが一際、中で主張する。

 ふと、目の前の千歌に目をやる。笑顔が眩しく、思わず目をそらしたくなる。

 

「あーん」

 

「ちかっち?」

 

 千歌は目を瞑って、口を開ける。

 

「ほら、早く食べさせてよ」

 

 案の定、千歌は本来の目的の唐揚げを要求する。それもわざわざ食べさせる形で。

 

「な、なら箸を貸してくれないか!」

 

「なんで?」 

 

「それは……」

 

 このまま光助の箸で食べさせればまたも間接キスになる。しかし、思い返せば千歌の箸は既に光助が口をつけている。

 四面楚歌と言ったところだ。

 

「間接キスになるから?」

 

 明らかに動揺する光助の背後から曜がオブラートに包むことなく答えを言い当ててしまう。

 

「……ふぇ!?」

 

 次第に事の状況を理解した千歌は自分の箸と光助の唇を交互に目をやる。そして、次第に顔が真っ赤に染まっていく。

 

「あわわわ! 私!」

 

「間接キスくらい気にすることでもないと思うけど」

 

 激しく動揺する千歌を不思議そうに曜は眺める。

 

「き、気にするよ! だって、こうちゃんだよ!」

 

「光助君も気にしているの?」

 

「そりゃあ……ちかっちだし……」

 

 二人の言い分を曜はぽけっとした様子で聞く。

 曜にとって二人は大事で大切な親友だ。手を繋ぐことも肩を組むことも悩みを打ち明けられることも平然とできるくらいの関係性だ。

 だが、千歌と光助はおそらくそれらが出来ない。仲が悪いからではなく、お互いを特別に思っているからだ。

 

「そっか……二人はそうなんだね」

 

 心に針が刺さるような軽い痛みが曜を襲う。

 

「梨子先輩、どうしたの?」

 

 ルビィは三人のことを苦しそうに見つめる梨子に声をかける。きっと話に混じれなかったことに疎外感を感じていると思っていた。

 しかし、光助を真っ直ぐ見る瞳を見て、感じ取ってしまう。

 

「大丈夫だよ。ルビィちゃん」

 

 梨子は精一杯の笑みを浮かべ、ルビィを安心させようとする。

 

「それなら千歌ちゃん。私の唐揚げ食べなよ。同じ味だから」

 

 梨子は自らの頬を軽く叩くと自分の弁当箱から唐揚げを取り、千歌の弁当箱に入れる。すると、千歌は赤い表情で笑みを浮かべ喜ぶ。

 

「ど、どうしよう」

 

 ルビィは驚きを隠せない。千歌と梨子は光助が好き。そして、光助は千歌のことが好きだと。

 アイドルが恋愛など言語道断。それがマネージャーなら尚更。だが、アイドルでもスクールアイドル。多感な思春期の少女に恋をするなと押し付けるのは無理なことなのはわかる。

 

「このままじゃ……」

 

「助けて欲しいずら!」

 

 今のAqoursに関係性にルビィが不安を覚えたその時、息を切らした花丸が現れる。

 

「花丸ちゃん!?」

 

「た、助けて欲しいずら!」

 

 内浦の空に花丸の助太刀を求める叫びが響き渡る。



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