七色のドリフト使い(再制作予定) (独田圭(ドクタケ))
しおりを挟む

秋名スピードスターズ編
第1話 秋名のハチロクとの邂逅


えー、皆さん初めましてDoctor Kです。
初めての小説投稿ですので至らない部分が多々あるかと思いますが、何卒よろしくお願いします。


群馬県某所

 

夜の帳が降りて人々が寝静まった時間帯

 

静寂の闇に包まれた住宅街から1台の白い車が飛び出して来た。

 

その車は秋名山という山に向かっている、何故こんな夜中に山に向かうかというとこの車に乗っているドライバーは毎晩秋名山を走り込んでいるのだ。

 

??「今夜は上りから攻めてみましょう。」

 

白い車に乗っていたのはまだ成人にも満たない女の子、名前はアリス・マーガトロイド。

 

更に愛車はS2000、アリスは毎晩住人が寝静まったタイミングで車を走らせては夜な夜な近所の秋名山を攻めている。

 

いつもならこの時間帯はギャラリーなどほとんどいないはずだが、最近は夜中であるにも関わらずコーナーの至るところにギャラリーの姿が見える。

 

というのも、1ヶ月程前に赤城レッドサンズという走り屋チームが関東エリア全ての峠のコースレコードを塗り替えるという伝説を残した。その影響がまだ消えておらず走り屋が峠を攻めている所を見てみたいって事でこうしてギャラリーが集まっているのだ。

 

しかしアリスからしてみれば迷惑な話である。

 

何故なら彼女は現役の高校生である為、人がいない時間帯を狙って峠を攻めているのにギャラリーが多いと峠で噂になって最悪学校にまでその噂が広がりかねない。

 

今現在アリスの気分は沈みきっていた。

 

アリス「(本当はもっと走り込みたいけど下り一本攻めたら帰ろ。)」

 

そう決意した時だった。先のコーナーから物凄いスピードで立ち上がって来た対向車の姿が見えた。

 

対向車は更にスピードを上げてアリスの目の前に迫って来る。

 

アリス「えっ・・・ハチロク!?」

 

あれだけのスピードが出ていたのだからアリスはてっきりハイパワーな車かと思った。しかし自分の目の前にまで来た車は予想に反してハチロクだった事に驚きを隠せないでいた。

 

ハチロクとアリスのS2000がすれ違う。

 

アリス「・・・!!」

 

その瞬間、電気が走ったかのような衝撃を受けた。

 

ただすれ違っただけだったがその車からはマシンコントロールを極めた者だけが持つ独特のオーラを放っていた。

 

すれ違った後ハチロクはあっという間に次のコーナーへと消えていった。

 

アリス「(凄い・・・秋名の峠をあそこまで走れる人がいたなんて・・・)」

 

アリスは一瞬にしてあのハチロクの虜になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真夏の夜の秋名山で唐突に訪れた秋名のハチロクとの出会い、

 

そしてこの出会いがアリスの運命を大きく変える事になろうとは、この時彼女は思いもしなかった。

 

【完】

 

 




えー、どうだったでしょうか。

アリスを主人公にした理由は、アリスはインドア派のイメージが強いのでそこを変えてみたかったのと自分がアリスの大ファンという事が主な理由です。

無事完結出来る様に頑張りますので皆さんよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 豆腐屋の息子は同級生

えー、どうも。いきなり誤字をやらかしたDoctor Kです。

明らかに間違っているのに読んでみるまで気付かないのは何故なんでしょう?







 

 

 

衝撃的な出会いがあった数日後、

 

学校の授業も半分が終わり昼休みの時間になった。

 

昼休みになるとほとんどの生徒が食堂に向かう為アリスのいるクラスには彼女を含め数人しか残らない。

 

アリスが弁当を広げていると正面に誰かが座ってきた。

 

??「アリス、一緒に飯食おうぜ。」

 

アリス「あら、今日は学食じゃないのかしら魔理沙。」

 

魔理沙「給料日前だから金が無いんだぜ・・・」

 

アリス「そ、そう・・・」

 

「~だぜ」という口調が特徴的な少女、霧雨魔理沙はアリスの数少ない友人の1人で【普通の女子高生】を自称しているが、遅刻の常習犯で授業中居眠りしている姿をよく見かける。挙げ句の果てには授業をサボって学校の屋上でくつろいでいたりと果たしてそんな生徒が普通の女子高生と言えるのだろうか。

 

魔理沙「余計な情報を言わなくて良いんだぜ!!」

 

アリス「誰に向かって言ってるのよ・・・」

 

一方のアリスは魔理沙とは対照的で1年生の時から無遅刻・無欠席を続けており頭も良くて成績も優秀。その為魔理沙に勉強を教える事もしばしば。

 

まさに高校生の鑑である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事が終わると2人はガールズトークに華を咲かせる。

 

といっても内容は普通のガールズトークとは違って専ら車の話なのだが・・・

 

魔理沙「それにしてもS2000なんかよく買えたな、あれはホンダの技術のしゅう・・・何とかみたいな車なんだぜ。」

 

アリス「集大成よ。まぁ1年の時からほとんど毎日バイトをやっていたから、それくらい普通に貯まるわよ。」

 

魔理沙「そのS2000は幾らしたんだぜ?」

 

アリス「中古で200万ちょっとかな。」

 

魔理沙「そんな額普通の高校生じゃ払えないんだぜ・・・」

 

余談だが2人ともアルバイトをしており魔理沙は新聞配達をアリスはハンバーガーショップでアルバイトをしている。

 

「そういえば」とアリスが何かを思い付いたかの様に口を開いた。

 

アリス「霊夢から聞いたんだけど、魔理沙も車買ったらしいじゃない。」

 

魔理沙「そうなんだぜ!!やっと買えたんだぜ、これから楽しみで仕方ないんだぜ。」

 

アリス「もしかして、それで今日はお弁当なの?」

 

魔理沙「その通りだぜ!!」(ドヤ顔)

 

そこは胸を張る所じゃ無いでしょうとアリスは思うがそれを口に出さない辺りが彼女なりの優しさなのだろう。

 

魔理沙「・・・ってことで今度の土曜日、秋名でお披露目会をやるんだぜ。アリスも来るか?霊夢も一緒だぜ。」

 

アリス「そうねぇ・・・特に用事も無いし、わかったわ。行きましょう。」

 

アリスがそう言うと魔理沙は万歳しながら喜んだ。少し大袈裟なのではとアリスは思った。

 

やがて授業が終わり下校の時間となった。

 

歩いてバイト先に向かうアリスにまたしても誰かが声を掛けて来た。

 

??「先輩、こんにちは。」

 

??「アリスさん、こんちはー。」

 

アリス「あら、上海と蓬莱じゃない。どうしたの2人とも?」

 

アリスに声を掛けて来たのは2人の女子生徒、アリスに対して礼儀正しい話し方をするのが上海で、若干フランクな接し方をするのが蓬莱だ。

 

2人ともアリスの1学年後輩なのだが子供の頃から家が近所という事もあってよく一緒に遊んでいた。今では家族同然の付き合いとなっている。

 

蓬莱「いきなりなんですが、また山に連れてってくださいよぉ。」

 

アリス「本当いきなりね、でもどうせなら土曜日にしない。私の親友が車買ったんだけどそのお披露目会をするの、もし良かったら2人とも来ない?」

 

上海「良いんですか先輩。私達が行ったら迷惑にならないですか?」

 

アリス「先輩の命令には素直に従っておくものよ♪」

 

蓬莱「ラッキー、交渉成立♪」

 

上海「ですが先輩の車って確か2人乗りですよね。」

 

確かにS2000は2シーターであり3人乗る事は出来ない。しかしアリスには既に解決策があるようで上海の質問にすぐに答える。

 

アリス「それについては霊夢にでも頼んで上海を乗せて貰うようにするわ、それに上海は私の運転は苦手でしょう。」

 

そこまで言われると流石に上海も断る事が出来ない。上海の真面目さはアリスもよく解っているので特に気にしていない。蓬莱に関しては余程アリスの車に乗る事が楽しみなのか先程からテンションが上がりまくっている。

 

どこまでも正反対な2人にアリスは苦笑する。

 

アリス「じゃあバイトあるから先に行くね。」

 

上海「はい、お疲れさまでした。」

 

蓬莱「あ~楽しみだなぁ、早く土曜日にならないかなぁ~。」

 

もはや自分の世界に入ってしまった蓬莱はアリスの言葉を無視する始末。しかし蓬莱の性格上、こうなる事はいつもの事なのでやはり気にする事は無い。

 

別れの挨拶を済ませたアリスは足早にバイト先へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の深夜、いつものように車を走らせ秋名山に向かうアリス。

 

ギャラリーがいない状態で走りたいと思っていたが秋名に到着すると案の定ギャラリーがおり、思わず溜め息を漏らす。

 

ちなみに今回は下りから攻めている。先日のハチロクのインパクトに衝撃を受けてとてもじゃないけどあの後下りを攻める気になれなかった。

 

車を走らせている間はハチロクの事を忘れようとしたが無意識の内に意識してしまいどうにも集中出来ない。実際走りにも影響が出ていて、先程からベストラインを外したりブレーキポイントが遅れている。

 

アリスのストレスは溜まる一方である。

 

アリス「(はぁ・・・こんな状態じゃ駄目ね、一旦下の駐車場で休憩しましょ。)」

 

下まで降りて来たアリスは駐車場に車を停めてシートを倒して休息を入れる。

 

横になっていても考える事はあのハチロクの事、自分よりも技術を持っている事は明らかだった。

 

一体どんな人が乗っているのか、どこでそんな技術を身に付けたのか、そして何故ハチロクなのか興味が尽きなかった。

 

しばらく休憩していると気が付けば時計は朝の4時を過ぎていた。もうこんな時間かと思っていると上の方から車のエンジン音が聞こえてきた。

 

アリス「(誰かしらこんな時間に・・・待って!?このエンジン音は・・・・・・4AGサウンド!?)」

 

思わず飛び起きた。もしかしてあのハチロクが峠を攻めるいるのか、そのエンジン音は確実に此方に近付いてくる。

 

やがてその車が姿を現した。

 

アリス「・・・!!」

 

見間違える筈が無い、その車は先日この秋名山ですれ違ったあのハチロクだった。

 

するとハチロクはアリスが停めている駐車場に入って来て自動販売機の前に車を停めた。

 

アリスは車から降りてハチロクの元へと駆け寄った。

 

アリス「あの・・・!!」

 

しかしアリスの口からは次の言葉を発さなかった。否、発する事が出来なかった。

 

その顔に見覚えがあった。その特徴は少し背が高く、茶髪がかって前髪の伸びた、少し眠そうで童顔の青年。それと全く同じ特徴を持つ人物が彼女のクラスに1人いた。

 

アリス「藤原くん!?」

 

拓海「ア・・・アリス!?」

 

青年、藤原拓海はまさかこんな時間に自分のクラスメイトと会う事になるとは思っていなかったらしく驚愕の表情をアリスに向けている。

 

アリス「藤原くんもこの時間に秋名を攻めているの?」

 

拓海「えっ・・・あぁ、そう言う訳じゃ無くてこれは家の手伝いで豆腐の配達をしてて今はその帰り、かったるいし早く帰りたいから豆腐乗っけて無い下りは思いっ切りすっ飛ばして帰るんだ。」

 

言われてから改めてハチロクを見てみると運転席のドアの所に【藤原とうふ店】と書かれてある。

 

アリス「へぇ、藤原くん豆腐屋さんやってるんだ、今度行ってみても良いかしら。」

 

拓海「あぁ、良いよ。ところで後ろの車はアリスの車なのか?」

 

アリス「そうよ、ホンダのS2000ていう車よ。」

 

拓海「S2000か・・・」

 

拓海はアリスの車を見ながら言葉を繋ぐ。

 

拓海「前にその車とすれ違った時、物凄い衝撃を受けたよ。とてつもなく速そうな感じだったし俺が人の車に興味を持ったのは初めてだったんだ。でもそれがアリスの車だったなんて・・・」

 

アリス「それは此方のセリフよ、まさか藤原くんがあれ程のテクニックを持っていたなんて思っても見なかったんだもん。」

 

「まっ、お互い様って所ね。」と言葉を締めると拓海は親父にどやされると言ってアリスと別れて帰って行った。

 

その後アリスも自宅に帰る為に車を走らせた。その表情は何か吹っ切れたかの様な晴れ晴れとした表情だった。

 

【完】

 

 




えー、はい、第2話でした。

アリスと拓海が運命の?出会いを果たしました。

この小説独自の設定なんですが、まずアリスと拓海は同じクラスです。そして上海と蓬莱は人形では無くれっきとした人という事にしました。

これは小説を書き始める時点で決めていました。

次回はあのチームが登場する予定です。

ではご機嫌ようサヨナラ!!

※ちなみに上海と蓬莱はしえら式上海蓬莱人形をイメージしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 魔理沙のマイカーお披露目会!!そして・・・

えー、どうもDoctor Kです。

題名の通り、今回の話は魔理沙がマイカーをお披露目する回です。

そしてあのチームも登場します。お楽しみに!!


 

 

 

アリスと拓海は峠で出会った日を境に2人で走り込みをするようになった。

 

初めは渋々付き合っていた拓海だったが、次第に峠を攻める事の面白さに気づき始め、近頃はアリスに駆け引きやメカの知識について教えてもらっている。

 

そして学校でも車の事で分からない事があれば積極的にアリスに質問している。

 

今日もアリスは拓海にメカの知識を教えていた。

 

アリス「早速質問するけど、ハチロクとS2000は1つだけ共通点があるの、それは何だと思う?」

 

拓海「共通点?う~ん・・・・・・駄目だ、全然分かんねぇ・・・」

 

色々な答えを考えてはみたものの正解を導き出す事が出来ず結局拓海はギブアップを宣言した。

 

アリス「正解はどちらもターボ、つまり過給機が付いていない事よ。」

 

拓海「確かに言われてみれば・・・・・・でも、どうすればそんな事が分かるんだ?」

 

アリス「ターボ車にはブーストメーターって言う物が付いているの。ほら、この写真に写ってるヤツ、これがそうよ。」

 

言葉だけで説明するのは難しいので自宅からわざわざ写真を持参してきて事細かに教えている。

 

アリス「で、このメーターが付いていない車の事を総称してNAエンジンって呼んでるの。」

 

拓海「NAって何だ?」

 

アリス「Normal・Aspiration【ノーマル・アスピレーション】の略よ。日本語に訳すと自然吸気って意味、この2つの単語の頭文字を取ってNAって言うの。」

 

その後もアリスによるメカニック講習は続き拓海に対して自分が知っている限りの知識を与えていった。アリスの言葉を拓海は真剣な顔で聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

この日は土曜日で学校は半日で終わり皆が足早に帰る中アリスは門の前に立っていた。アリスはある人物に用事があったのだ。

 

??「ごめん、待った?」

 

アリス「そんなに待って無いわ、私もついさっき来たばかりだし。」

 

??「そう、ならいいわ。」

 

随分とドライな性格の少女が目の前に現れた。特徴的な赤い大きなリボンの髪飾りを着けているこの少女の名は博麗霊夢。アリスと同級生だが実家が神社であり彼女自身もその神社の巫女をしている。

 

しかし巫女でありながら車の知識はアリスよりも豊富でアリスにメカ知識を教える事も珍しくない。

 

アリス「例の件、お願い出来るかしら?」

 

霊夢「良いわよそれくらい、只バトルとかそう言うノリは無しよ。」

 

アリス「大丈夫よ、上海はそういう娘じゃないから。」

 

霊夢は車自体は好きで自分の車も持っているのだが、バトルや峠を攻める事をしない。理由はただ単に面倒くさいから。

 

アリス「バトルをした事無いのにどうして駆け引きとかには詳しいのかしら?」

 

霊夢「バトルの駆け引きも他のスポーツも基本は一緒よ。相手との力量の差、勝負を掛けるポイントと大まかな部分は他のスポーツと変わらない、ただそれだけよ。」

 

アリス「じゃあメカは何で詳しいのよ?」

 

霊夢「自分の車ぐらい自分でメンテナンスする事は当たり前でしょ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋名山に到着すると既に魔理沙が頂上に車を停めて待っていた。

 

道中、蓬莱のテンションがおかしな事になっていたのは割愛しておこう。

 

アリス「へぇ、FDを買ったんだ。」

 

魔理沙「あぁそうだぜ、一目見た瞬間ビビっとくる物があってな、迷わず買っちゃったぜ。」

 

霊夢「でもロータリーエンジンって燃費の悪さで有名よ。アンタお金大丈夫なの。」

 

魔理沙「それは言いっこなしだぜ・・・」

 

早速霊夢にロータリーの欠点を指摘された魔理沙はガックリと項垂れる。どうやら現実逃避をしていたようだ。

 

アリス「それにしても黄色いFDだなんて、また珍しい色を選んだのね。」

 

魔理沙「私が珍しい物に目がないのはアリスもよく知ってるだろ。」

 

アリス「まぁそうね、でも魔理沙に似合ってるわよその車。」

 

アリスがそう言うと魔理沙は親指をグッと立ててドヤ顔を決める。分かりやすい親友のリアクションにアリスは微笑ましいと思う。

 

上海「ところで先輩、峠に入った途端急にスピードを上げましたよね、何があったんですか?」

 

霊夢「そうよ、アンタの事だから何か訳があったんでしょ。」

 

アリス「あ~・・・その事ね・・・」

 

アリスは言葉を濁しながら隣にいた人物を指差す。

 

蓬莱「・・・流石アリスさん、街中での全開走行は断られましたが峠に入ってからは私のリクエストに応えてくれました。その走りは圧巻の一言、アリスさんはやっぱり天才です。私の要望で手放しドリフトもしてくれましたし、なんだかんだ言ってアリスさんは優しいですね。あぁ私はなんて幸せ者なんでしょう、惚れてまうヤろぉー!!ブツブツ・・・」

 

霊夢「・・・事情は解ったわ。」

 

上海「さらっと何個か問題発言してましたね・・・」

 

霊夢「アンタもナニ手放しドリフトなんかやってるのよ。」

 

アリス「イヤ・・・蓬莱に鬼気迫る表情で頼まれたからつい・・・」

 

霊夢「そう言う問題じゃ無いでしょ・・・」

 

その後蓬莱の暴走は1時間近く続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後、ようやく蓬莱の暴走が収まり話題は再び魔理沙のFDの事になっていた。

 

霊夢「アンタまだメカの事とか詳しく無いでしょ、私とアリスが教える前に車の異変を感じたら私達の所に持って来なさい、メンテナンスぐらいはしてあげるわ。」

 

魔理沙「サンキュー霊夢、やっぱ持つべき物は車と親友だな。」

 

2人のやり取りを黙って見ていたアリスだったが複数の車のエンジン音が此方に近付いてくるのに気が付いた。

 

アリス「何台か下から上がってくるわ。」

 

魔理沙「チームの奴らでも来るのか?」

 

霊夢「秋名を地元にしているチームって言ったら、アイツ等ね。」

 

どうやら霊夢は誰が上がって来るのかおおよその見当が付いているようだ。

 

やがて、連中が頂上に姿を現した。

 

ふと霊夢の方を見ると予想が当たっていたのか、溜め息をつきながら頭を抱えていた。何故そんな反応をするのか疑問だが・・・

 

先頭の車、明るい緑とシルバーのツートンのシルビアが車を停めた。その中からなんか冴えない感じの男性と、坊っちゃん刈りの見覚えのある青年と、そして何故かやつれた様子の拓海が降りて来た。

 

アリス「藤原くん!?それに武内くんまで!?」

 

拓海「あぁ・・・アリスか・・・」

 

樹「あれ?アリスじゃん、それに魔理沙と霊夢もどうしたんだこんな所で?」

 

??「樹、この娘達と知り合いなのか?」

 

樹「知り合いも何も霊夢達とは同じ学校のクラスメイトですよ。」

 

アリス「って言うか藤原くんどうしたの?そんなにやつれて。」

 

拓海「えーっと・・・ここじゃあれだから、ちょっと来てくれ。」

 

満身創痍な様子の拓海を見ていられなくなったアリスは拓海に声を掛けた。拓海はアリスを霊夢達から離れた距離まで移動すると2人にしか聞こえない声で事の真相を語り始めた。

 

アリス「つまり、池谷って人のドラテクが余りにも下手でそれで車酔いをしたって事?」

 

拓海「そう言う事・・・何で樹が平気なのか分かんねぇよ。」

 

聞けば池谷は拓海のバイト先であるガソリンスタンドの先輩社員であり、拓海達の面倒をよく見ているのだとか。さらに【秋名スピードスターズ】のチームリーダーであり、毎週土曜日になるとこうして秋名山に集まるらしい。

 

アリス「(そんな下手な人がリーダーなんかやってて大丈夫なのかしらこのチーム・・・)」

 

拓海の話を聞いて身も蓋もない事を思うアリスだった。

 

池谷「2人共、少しいいかな。」

 

池谷に呼ばれた2人は霊夢達の下に戻って来た。

 

アリス「貴方が池谷さんですね、私はアリス・マーガトロイドと言います。池谷さんの事は先程藤原くんから話を聞きました、バイト先の先輩なんですよね。」

 

池谷「話が早くて助かるよ、君がアリスちゃんか。俺も君の事は拓海から聞いてるよ、高校生なのに物凄いテクを持ってるんだってね。」

 

樹は今まで知らなかったのか、とても驚いた様子でアリスを見ている。

 

池谷「それで・・・いきなり押し掛けてきた連中がこんな事言うのはおかしいと思うけど、君に頼みがあるんだ。」

 

アリス「?・・・なんでしょうか。」

 

アリスは池谷の言葉を待った。

 

そして池谷の次の一言がこの場にいた全ての人々を驚愕させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

池谷「俺達のチーム、秋名スピードスターズに入ってくれないか?」

 

アリス「・・・・・・へっ?」

 

【完】

 

 




えー、第3話でした。

はい、ついに我らが池谷先輩が登場しました。

今回の話は随分と滅茶苦茶な感じになっちゃいました。

魔理沙の車に関してはイニDのゆっくり実況を観たことのがある人は多分気が付いたと思います。

この小説での霊夢は頭脳チートです。

そして蓬莱の思考が暴走していましたね、今後も蓬莱の暴走シーンを書く予定です。

後アリスさん、しれっと手放しドリフトするのはやめて下さい・・・

ではご機嫌ようサヨナラ!!







手放しドリフトをリクエストする蓬莱って一体・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 vs池谷 覚悟と決意

えー、どうもDoctor Kです。

今回は初めてのバトル描写となります。

余り自信が無いのでいつも以上に無茶苦茶になってるとは思いますが自分なりに頑張りました。

ではどうぞ



 

 

 

アリス「えーっと、何で急にそんな話になるんですか?」

 

池谷「俺が他力本願なのは重々承知している、今は弱いけどいずれは強いチームを作って見せる、そして以前レッドサンズが成し遂げた以上の事を俺達がやる。だから頼む、俺達のチームに入ってくれ。」

 

初めて会った時のような優しい口調では無く、強くはっきりとした口調で池谷はそう言った。

 

何でも秋名スピードスターズは池谷が立ち上げて3年近く経つがまともなバトルは数える程しかした事が無く、まだ一度もバトルに勝った事が無いと言う。強くなる為にこのままではいけないと思った池谷は優秀なドライバーを探してはこうして勧誘活動を行っているのだとか。

 

ちなみに後で聞いた話になるが、実は霊夢も池谷から勧誘された事があり、熱烈なアプローチを受けたのだとか。それで池谷達が現れた時ああいう反応をしていたのかとアリスは納得する。

 

魔理沙「おぉ!!これはいきなり凄い展開になって来たな!!」

 

蓬莱「何と!!アリスさんに熱烈オファー。果たしてアリスさんはチームの救世主になれるのでしょうか!?」

 

アリス「勝手に話を進めないでよ!!」

 

拓海「何かこの2人、樹と被る・・・」

 

2人の後押し(?)を背に受けアリスは暫し考える。

 

確かにチームに入るという事は必然的に他のチームとの交流、もしくはバトルする機会が増えるという事になる。最近自身のやり方に物足りなさを感じてきたアリスにしてみれば、レベルアップを図るにはこの上無い機会という訳である。

 

しかし問題は、もしそうなった場合チームリーダーである池谷は仮に負けた時にその責任を1人で背負う覚悟があるかという事。

 

本当に強くなりたいと思っているならばその覚悟はとっくに出来ている筈、もしそれが只の見切り発車で始めた事ならば、そんな中途半端な覚悟は長くは続かない。

 

アリス「・・・1つ確認したい事が有るんですけど。」

 

池谷「?・・・何かな。」

 

アリス「もしチームがバトルで負けた時、池谷さんは敗戦の責任を1人で背負う事は出来ますか?」

 

池谷「・・・出来る、どんな事があってもその全てを俺が背負う。」

 

池谷ははっきりと宣言した、【全てを背負う】と。

 

その言葉を聞いて池谷の覚悟が生半可な物では無いと知った。

 

だからこそアリスは1つの結論を下す。

 

アリス「ならその覚悟を・・・見せて下さい。」

 

・・・アリスの雰囲気が変わる。

 

それは1つの事を極めた者だけが持つ強いオーラを纏っていた。

 

魔理沙「(アリスの奴があんな顔してる所初めて見たぜ。)」

 

蓬莱「(・・・先輩が本気になりましたね。)」

 

拓海「(凄いオーラだ・・・)」

 

その場にいた全員がアリスのオーラに身を震わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋名山のスタート地点には2台の車が並んでいた。

 

1台はライムグリーンツートンのS13シルビア。

 

そしてもう1台はグランプリホワイトのS2000。

 

霊夢は車が横一列に並んだ事を確認するとバトルのルール説明を始めた。

 

霊夢「勝負は下りの一本勝負よ、麓の駐車場がゴール地点だから先にそこに到着した方が勝ち、麓には魔理沙と蓬莱が向かってるから着いたら向こうから連絡が来ると思うわ、そしたら始めましょ。」

 

魔理沙「『上海、今麓に着いたぜ。』」

 

上海「そうですか。蓬莱、対向車は来てるかしら?」

 

蓬莱「『来てないわよ、いつでも始めて良いわ。』」

 

上海「分かったわ・・・霊夢さん。」

 

霊夢「コクッ・・・それじゃあそろそろ始めるわよ。」

 

霊夢の言葉を合図に2台の車のエキゾーストが鳴り響く、・・・いよいよバトルが始まる。秋名山にはいつの間にか沢山のギャラリーが集まっていた。

 

霊夢「スタート5秒前!!・・・4・・・3・・・2・・・1・・・GO!!」

 

2台の車が一斉に走り出した。

 

スタート直後、アリスは池谷の走りを観察する為後ろに付いた。

 

上海「アリス先輩は・・・勝てるのでしょうか、このバトル。」

 

霊夢「心配ないと思うわ、スタートの様子を見ていたけどクラッチの繋ぎ方はアリスの方が上手かったわ。」

 

アリスは池谷の後ろに付きながら思考を巡らせていた。

 

アリス「(まずは最初のコーナーね、その処理の仕方で大体の事は解るわ。)」

 

コーナーが目の前に迫って来て2人共ブレーキングに入る、そして車速を落として第1コーナーに突っ込んで行く。

 

池谷は無難にグリップ走行でコーナーを抜ける、それに対してアリスは見事な4輪ドリフトを決めてクリアした。

 

「凄えぞあのS2000、コーナーの幅をめーいっぱい使ってドリフトして行ったぞ!!」

 

「物凄いテクだ、S2000は高い操縦性を要求されるから乗り手を選ぶ車なんだ、あれを平然と乗りこなすとは・・・」

 

「もしかして、あのS2000のドライバーは俺達が思ってる以上に凄腕の持ち主じゃないか?」

 

アリスはそんなギャラリーの感想など聞こえる筈もなく池谷の走りに素直に感心していた。

 

アリス「(へぇ、藤原くんの話を聞いていたから腕の方は期待していなかったけど、思ってたよりやるわね。)」

 

アリスは更に分析を進める。

 

アリス「(よく言えば手堅いけど悪く言えば面白みが無いわね、それに走りを見ていると車の性能を使いこなせて無い感じがあるわ、この程度なら私が負ける事は無いわ。もっともこのバトルは・・・)」

 

アリスはその表情に笑みを浮かべながら、

 

アリス「(勝敗なんて二の次だけどね!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バトルは中盤を過ぎて5連続ヘアピンにさしかかっていた。

 

アリスは相変わらず池谷の後ろに付いており一見膠着状態に見える。

 

しかし、池谷の表情には焦りの色が浮かんでいた。

 

池谷「(くっ!これだけ我武者羅に攻めても振り切る事すら出来ないのか!?)」

 

いくら限界ギリギリで攻めてもアリスのS2000を振り切る事が出来ない。池谷は明らかに追い詰められていた。

 

一方のアリスはそんな池谷の欠点を見抜いていた。

 

池谷はコーナーに進入する際、インに付く事を意識し過ぎて早めに減速する傾向がある。シルビアはコーナリングマシンであるがそんな走りをしていればシルビアの利点を殺している様な物だ。

 

5連続ヘアピンの1個目、それまで黙って後ろから見ていたアリスが動いた。

 

コーナーの入り口で減速を始めた池谷に対して、限界ギリギリの突っ込みでイン側に鼻面を捩じ込む。

 

突然起きた出来事に池谷は一瞬対応が遅れたが、直ぐに立ち直りインを占めようとする。

 

しかしその一瞬が命取りとなった。

 

コーナーに進入する時には既に横に並ばれており、インベタのラインを描きながらアリスのS2000はあっという間にS13をオーバーテイクした。

 

余りにも呆気ない展開にその場に居たギャラリー全員が言葉を失う。

 

「あっさり抜きやがった・・・」

 

「マジかよ・・・信じられねぇ。」

 

全員が静まり返る中、たった今起こった事を冷静な顔で傍観している1人の男が居た。

 

??「成る程良い腕だ、コーナーを立ち上がるあの後ろ姿には得も言われぬ余韻がある。」

 

「そうですか?俺には何も分かりませんが・・・」

 

??「(解る奴にしか解らねぇか・・・)自分の車を手足の様に操れる領域に達した走り屋の車からはオーラが漂う、あのS2000からは強いオーラが出ていた。並の走り屋じゃ無いな。」

 

アリスの走りに興味を持った男は何とも形容し難い高揚感に駆られていた。男は表情に笑みを浮かべていた。

 

中里「高橋涼介以来だな、とんでもねぇ奴が世の中には居るな。アイツを仕留めるのはこの俺、妙義ナイトキッズの中里毅だ!!」

 

男、中里毅は新たなライバルの出現に心を躍らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ゴール地点では魔理沙と蓬莱が待機していた。

 

魔理沙「なぁ蓬莱、お前ならアリスの横に乗った事があるから分かると思うけど、アリスの得意技ってなんだ?」

 

蓬莱「先輩は基本的にドリフトと呼べる物は全て得意ですよ。サイドブレーキを使った初歩的なドリフトから慣性ドリフトまで、私がリクエストすれば手放しドリフトだって出来ますよ。」

 

魔理沙「・・・そんな事までするのか?普段の優等生ぶりなアイツからはとてもじゃないけど想像出来ないぜ。」

 

蓬莱「まぁそうですね。」

 

魔理沙「ていうかお前、さっきから思ってたけど何か口調が変わってねぇか?」

 

蓬莱「バトルをしている時はふざけないでおこうと決めているんです。」

 

魔理沙「あっそう・・・」

 

そう言う蓬莱の表情はバトル前のお調子者な感じとは違い、凛とした顔つきをしていた。

 

「来た、来たぞ!!」

 

ギャラリーの誰かがそう叫んだのと同時に最終コーナーから1台の車が姿を現した。

 

その車とは・・・

 

魔理沙「S2000・・・アリスの車だ!!」

 

蓬莱「分かりきっていた事ですが、勝ちましたね。」

 

アリスのS2000はそのままゴールへと到着した。

 

勝者、アリス

 

車から降りて来たアリスの元に2人が駆け寄る。

 

魔理沙「凄えなアリス!!本当に勝っちまったぜ!!やっぱり出来る女は違うぜ。」

 

蓬莱「流石アリスさんは私の憧れですね、これぞまさに完全勝利、七色のドリフト使いの片鱗を見せ付けましたね、ではアリスさん今の気持ちをどうぞ♪」

 

アリス「急にそんな事言われても困るんだけど・・・」

 

魔理沙「(いくらなんでもテンション変わり過ぎだろ・・・)」

 

バトルが終わった途端いつものお調子者に戻った蓬莱に魔理沙は唖然とする。

 

そしてこの蓬莱の言葉を聞いたギャラリーがアリスの事を【七色のドリフト使い】と呼ぶようになるのはまた別の話。

 

3人が話をしていると少し遅れてゴール地点に到着した池谷がアリスの元に近寄って来た。

 

池谷「負けたよ・・・やはり強くなる為には人を頼ってばかりじゃ駄目だな、俺の覚悟が足りなかったな。」

 

アリスは池谷の言葉に首を振る。

 

アリス「そんな事ありません、このバトルは勝ち負けなんか関係ありません。」

 

池谷「じゃあどうして・・・」

 

アリス「あなたの覚悟を知りたかっただけですよ。」

 

アリスは更に言葉を続ける。

 

アリス「言葉で伝えるのはとても簡単な事です、ですがそれが本物かどうかは言った本人にしか分かりません、私はあなたの覚悟が本物か確かめたかったんです。その上で・・・」

 

一旦言葉を区切り、そして・・・

 

アリス「あなたの気持ちが本物だと解りました、私を・・・スピードスターズに入れて下さい。」

 

しばしの沈黙の後池谷は笑い出した。

 

アリス「何か可笑しな事言いましたか?」

 

池谷「いやごめん、君みたいに自分の走りと真っ直ぐに向き合っている人間を初めて見たからついね。」

 

そう言うと池谷はアリスに右手を差し出した。

 

池谷「改めて、俺が秋名スピードスターズのリーダー池谷浩一郎だ。これから宜しく頼むよ。」

 

アリス「はい、宜しくお願いします。」

 

2人は固い握手を交わした。

 

こうしてアリス・マーガトロイドは晴れて秋名スピードスターズの一員となった。

 

【完】

 

 

 




はい、第4話をお送りしました。

途中、板金王こと中里さんを登場させました。なんかフラグを建てていましたが・・・

そしてバトルはアリスの圧勝でした。まぁ当然ですね。

なんか途中拓海達が空気になってましたね。いやはや申し訳ないです。

さて、アリスはこれで池谷の仲間になりました。これからアリスと拓海の関係をどう発展させて行こうか考えている今日この頃であります。

えっ、茂木なつき?

よく分からんなぁ(すっとぼけ)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 豆腐屋デート?そして衝撃の事実

えー、どうも。
誤字が半端無いアホな作者ことDoctor Kです。

改めて思いますが小説を書くのって、かなり頭を使いますね。そのせいかストーリーやキャラ設定を考える度に苦労します。

完結するまでかなり時間が掛かりそう・・・(白目)


 

 

 

 

池谷とのバトルに勝ったその翌日

 

アリスは自室のベッドに寝転がりながら昨日のバトルを振り返っていた。

 

昨日のバトル、結果的にはアリスが勝利したが反省すべき点も勿論あった。

 

池谷の後ろに付いて走っていた時は相手の分析に専念していたが自分でも知らぬ間にテンションが上がり、池谷を追い抜いた後はパフォーマンスドリフトを多用し過ぎた。

 

バトルには勝ったが彼女の性格上、勝ったから良いかという気持ちにはなれなかった。

 

アリス「(はぁ・・・あの時の私は限度という物をわきまえていなかったのかしら、その点藤原くんは私とは違うわね。)」

 

拓海の走りもドリフト中心のスタイルだが、アリスのそれとは違って彼の場合のドリフトは速く走る為の手段に過ぎない。これは一緒に走り込みをしている彼女だからこそ分かる事だ。

 

普段はメカや駆け引きを教えているが、アリスもまた拓海にテクニックを言葉ではなく走りそのもので教えられていた。

 

アリス「考え事をしていても仕方がないわ、今から山に行きましょう。」

 

新たな課題が見つかれば答えが出るまで走り込みあるのみ、まだ昼間なのだがアリスは家の玄関を出て車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

住宅街を出て車は商店街に入る。

 

どうせなら拓海も一緒に誘おうと思った時、拓海の実家が豆腐屋をやっている事を思い出し、ついでだから少し寄って行こうと思い立った。

 

アリス「確か藤原くんの家は商店街の入り口付近にあるって武内くんから聞いたんだけど・・・」

 

どういう話の流れでその話になったかは覚えていないが以前アリスは拓海の親友の樹から拓海の家の事について聞いていた。

 

その時は拓海とほとんど接点が無かった為大して興味は無かったが、今思えば結構重要な情報だったとアリスは思う。人生何が幸いするか分かった物では無い。

 

探し始めて数分程で目的の場所はあった。

 

でかでかと藤原とうふ店と書かれており、その家の横には今ではすっかり見慣れたハチロクの姿があった。

 

本当はコインパーキングみたいな場所に車を停めたかったが商店街の中なので生憎そのような場所は無く、仕方がないので他の車の通行の邪魔にならない様に車を停めた。

 

アリス「ごめん下さい!!」

 

程々の勢いで戸を開け、来客を告げるべく普段出した事の無い程の声量で呼び掛けた。

 

しかし少し待っても反応が無い。

 

??「おぉ、少し待っててくれ。」

 

と思いきや居間から目が開いているのか閉じているのか分からない目を持つ、若干ぶっきらぼうな感じの中年の男がのっそりと現れた。

 

恐らく拓海の父親なのだろうとアリスは見当を付ける。

 

??「はい、いらっしゃい。」

 

アリスを客だと思って対応しているこの男こそ、かつて伝説の走り屋と呼ばれた男、藤原文太。拓海の実の父であり拓海に走りを教え込んだ張本人でもある。

 

とりあえず豆腐の事は後にして、アリスは此処に来た当初の目的を伝える事にした。

 

アリス「あの、拓海くんの友達で拓海くんに用事があって来たんですけど。」

 

文太「拓海に用か、これまた珍しいな。ところであんた、名前は何て言うんだ?」

 

アリス「私はアリス・マーガトロイドと言います。拓海くんとは同じ学校の同級生です。」

 

文太「マーガトロイドだと?・・・なんか久しぶりにそんな名前を聞いた気がするな。」

 

アリス「えーっと、どういう事ですか?」

 

文太「いや、此方の話だ。拓海に用が有るんだろ、ちょっと待ってな。」

 

そう言うと文太は奥に引っ込んで行った。

 

文太「『たくみー!!起きろ!!いつまで寝てんだ!!お客さんだぞ!!』」

 

拓海「『どーせ樹だろぉ。』」

 

文太「『いいから早く来い!!』」

 

ドタドタとゆっくりとした足取りで2階からいつも以上に眠そうな顔をした拓海が降りて来た。

 

拓海「はい、どちら様・・・ってあれ?」

 

アリス「こんにちは、元気にしてた?」

 

予想もしていなかった人物の突然の訪問に拓海は呆然とする。

 

アリス「ふふっ、私が来た事に驚いたかしら?」

 

拓海「そりゃ驚いたよ。てっきり樹が来たと思っていたからさぁ。」

 

文太「ほぉー、この娘は拓海の彼女か何かか?」

 

アリス「か、彼女!?私と拓海くんは友達という関係であって、彼女なんて・・・//」

 

拓海「親父ぃ!?何茶化してんだよ!!」

 

文太のまさかの言動に2人共赤面し、必死に弁解する。だが内心では・・・

 

アリス「(藤原くんの彼女と言われて悪い気はしないけど・・・・・・って何考えてんのよ私!?)」

 

拓海「(アリスの彼氏だったらどんなに良かったか・・・)」

 

なんて事を思う2人だった。

 

拓海「と、とりあえず上がってよ、ここで立ち話してるのも何だし。」

 

アリス「え、えぇ。お邪魔します。」

 

逃げるようにその場を離れ、拓海はアリスを2階の自室に案内した。

 

その道中、先の文太の発言を意識してか2人共無言だった。

 

一言で言えば拓海の部屋は殺風景な感じだった。物が散らかっている訳じゃ無ければ、特別何かがある訳でも無かった。あるのは机とベッドだけ。

 

拓海「良く俺ん家が分かったな。」

 

アリス「武内くんから藤原くんの家の事は聞いていたし、藤原くんの車にステッカーが貼ってあったでしょ、それを頼りに探してみたのよ。迷惑だった?」

 

拓海「別に迷惑なんかじゃ無ぇよ、それと拓海って呼び捨てで良いよ。名字で呼ばれると何だかむず痒いんだ。」

 

アリス「分かったわ、でもなんとなく呼び捨てで呼ぶのは嫌だから拓海くんで良い?」

 

拓海「別に良いよ。」

 

アリスは拓海のみならず異性を呼び捨てで呼ぶ事に抵抗があった。理由は単になんとなくだが。

 

時刻は昼を過ぎていた。アリスは拓海の誘いもあって、拓海の家で昼食を採る事にした。

 

拓海「商売の売れ残りしか無いけど、大丈夫かな?」

 

アリス「良いわよ、気にしてないわ。」

 

昼食のメニューはご飯と野菜炒めに商売で作っている手作りの豆腐で作った厚揚げと冷奴だった。豆腐はご飯のおかずにはならないがアリスはそれでも良かった。

 

一口運ぶと大豆特有のほのかな甘味が口に広がる。

 

アリス「・・・美味しい。」

 

拓海「そうか?市販の豆腐とあまり変わらないと思うけど。」

 

アリス「そんな事無いわ、拓海くんが丹精込めて作っているからやさしい味がするわ。」

 

拓海「俺が作ってる訳じゃ無いけどね・・・」

 

拓海に向かってニッコリと微笑む。拓海はアリスの笑顔にしばし見とれていた。

 

その後食事を終えてアリスが拓海に峠に行こうと言い出し、拓海もそれに了承した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、池谷達が勤めるガソリンスタンドでは・・・

 

池谷「それはもう一瞬の出来事でしたよ、大人しかったと思ったら急にパッシングされてあっという間に突き放されたんですよ。」

 

??「負けた割には随分嬉しそうじゃ無いか。」

 

池谷「あそこまで力の差を見せ付けられると悔しさ通り越していっそ清々しいんですよ。」

 

樹「池谷先輩、バトルの後も同じ様な事言ってましたよねぇ。」

 

??「それほどインパクトの強いドライバーだったという訳か。」

 

池谷と樹の会話に参加している、これまた中年の男性がいた。

 

男の名前は立花祐一。ガソリンスタンドの店長をしており昔は走り屋をやっていたらしく、文太と良く一緒に秋名山を攻めていたという。

 

店長「それで、その娘の名前は何て言うんだ?」

 

池谷「店長、その事なら前に話したじゃないですか。」

 

樹「そうですよ、俺や拓海と同じクラスで走り屋をやっている女の子の事ですよ、名前はアリス・マーガトロイドって言います。」

 

樹がそう言うと、祐一の表情が変わった。

 

店長「何!?マーガトロイドだと!!」

 

池谷「どうかしたんですか店長?」

 

店長「いやなに、久しぶりにその名を思い出したんだよ、20年振りかな。」

 

祐一は自分達が走り屋やっていた頃の話をし始めた。

 

店長「その頃、俺や文太は毎日のように秋名山を攻めていたんだ。その時ぐらいかな、秋名に一人の走り屋が現れたんだ。腕も凄かったが驚いた事にその走り屋は女性だったんだ、名前は【アリシア・マーガトロイド】って言う。俺達は半分ナンパみたいな感じで声を掛けたんだ、あっさり断られたけどな。それからアリシアは俺達と良く一緒に秋名を攻めるようになったんだ。バトルでは文太とアリシアが秋名を走れば、プロのドライバーですら相手にならなかった。いつしか2人は【秋名の2大巨頭】と呼ばれるようになっていたよ。その後文太ともバトルをしてな、アリシアが文太を負かしたんだ。」

 

池谷・樹「「ええぇぇぇぇ!!」」

 

あまりにも衝撃的な事実に池谷達は開いた口がふさがらなかった。

 

店長「その直ぐ後にアリシアは子供が出来たからと言って走り屋を辞めたから文太を負かしたのは後にも先にもアリシアだけとなったんだ。」

 

池谷「その子供ってまさか・・・」

 

樹「絶対アリスの事だ!!」

 

店長「恐らくそうだろう、その息子達が今では一緒に秋名を攻めてんだ。全く、まさに運命的な巡り合わせだな。」

 

過去の文太の秘密を知った池谷と樹。

 

文太を唯一負かしたアリシア・マーガトロイドという女性の存在。

 

そして十数年の時を得て、秋名山で出逢ったその息子と娘。

 

このままいけば2人は確実に親と同じ道を辿るだろう。

 

一つ違う所があるとすれば、アリスと拓海は互いに好意を持っているという事。

 

この違いがこの先どう影響してくるのか、

 

それはまだ誰も知らない・・・

 

【完】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





まず初めに原作との違いをお伝えします。

・拓海がすでに走り屋をやっている。
・池谷達は拓海が走り屋をやっている事を知っている。
・レッドサンズと交流戦をやっていない。
・文太がバトルで一度負けている。
・樹が空気・・・などなど。

以上の点です。

尚、アリスの母親に関しては物語の展開上、必要だと判断し登場させました。

ちなみにアリス母の名前は戦ヴァル1のヒロインの名前を頂戴しました。

前書きで白目剥いてましたよね?

ありゃ嘘だ!!オラ、スンゴクワクワクシテキタゾ!!




・・・失礼しました。




ではご機嫌よう。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 アリシア・マーガトロイド



ゴッホより~♪普通に~♪

ア~リスが好っき~!!




・・・ゴホン。急にスミマセン・・・

とにかくアリスが好きだと言う気持ちを伝えたかったので、ついうっかり・・・

さて、気を取り直して今回はアリスの母親が登場します。

予め言っておきますが物語上非常に重要なポジション(原作における文太ポジ)ですので今後も登場させる予定です。




そう言えばハーメルンで頭文字Dの小説が非常に少ない事が判明しショックを受けました。

何故だ、解せぬ・・・




 

 

アリス「うぅ・・・体がだるいわ・・・」

 

上海「先輩、大丈夫ですか?」

 

この日アリスは体調を崩して寝込んでいた。

 

昨晩からどうも体の調子がおかしかったが、今朝になって体調が急激に悪化。全身の倦怠感と喉、頭の痛みが彼女を襲い、熱を測ってみたら39度5分もあり、明らかに風邪を引いていた。

 

上海はアリスに用事があった為、今朝電話したのだが彼女が鼻声だったので風邪だと判断し、わざわざ見舞いに来たのだ。

 

アリス「ごめんね上海、気を遣わせちゃって。」

 

上海「気にしないで下さい、先輩には普段からお世話になってますので、蓬莱も後で来るって言ってましたよ。」

 

これは本心から出た言葉で、普段自分達(特に蓬莱)がアリスに迷惑を掛けているので、少しでも彼女に恩返しがしたいと上海は思っていた。

 

勿論蓬莱にもその気持ちはあるのだが、彼女の性格からしてじっとしているのは苦手なので見舞いに来たとしてもすぐに帰ってしまうのでは無いのだろうかとアリスは思う。

 

その時、家のインターホンが鳴った。

 

アリスは体を無理やり起こしてモニターの元へと歩み寄った。

 

アリス「・・・はい。」

 

蓬莱「『ホウライでーす。見舞いに来ました♪』」

 

玄関に向かおうとしたが上海に止められアリスは自室へと戻る。代わりに上海が玄関の扉を開けた。

 

蓬莱「ヤッホー、来たよ♪」

 

相変わらずのテンションでやって来た蓬莱に上海は思わず溜め息を吐く。

 

上海「貴女ねぇ・・・少しは大人しく入って来なさいよ、先輩が風邪を引いているんですよ。」

 

蓬莱「アハハ、ゴメンゴメン・・・だが断る♪」

 

上海「・・・・・・はぁ。」

 

「これでも抑えてる方なんだけどね。」と言う蓬莱にどの口が言ってんだかと上海は思う。

 

??「久しぶりね上海ちゃん、元気だった?」

 

上海「お久しぶりです、アリシアさん。」

 

蓬莱の後ろにいた女性、アリシア・マーガトロイド。

 

アリスの母親であるが昔は走り屋をやっていて、文太と共に【秋名の2大巨頭】の一角を担っていた伝説の元走り屋。

 

何故蓬莱と一緒なのかと言うと、風邪を引いたと上海から連絡を受けたので、早めにバイトを切り上げてアリス宅に向かっていた途中、たまたまアリシアとバッタリ出くわし事の顛末を伝えると私も行こうと言い出し一緒に来たのだと言う。

 

アリシアが部屋に入るとアリスは目を丸くした。

 

アリス「ママ・・・どうして此処に?」

 

アリシア「蓬莱ちゃんから話を聞いてね、可愛いアリスちゃんが苦しんでいる姿を想像したら居てもたっても要られなくなってね。」

 

仮にも娘である自分をちゃん付けで呼ぶ母にアリスはズッコケそうになる。元より寝ているのでそれは出来ないが・・・

 

アリシア「今日1日ママが看病してあげるから安心して寝てなさい。」

 

アリス「うん・・・」

 

素直に頷くその姿を愛おしく思い、アリスの頭を撫でる。いつまで経っても我が子は可愛い物だとアリシアはつくづく思った。

 

アリシア「所で前来た時とは随分良い目つきになったけど何かあったの?」

 

アリス「実はね・・・・・・」

 

アリスは母親に全てを話した。拓海との出会いや、走り屋としてデビューした事も。

 

アリシア「へぇ、アリスちゃんが文太の息子と一緒に走ってるんだぁ。これは意外だったねぇ。」

 

アリスの話を途中うんうんと頷きながら聞いていたアリシアはしみじみとした表情でそう漏らした。

 

アリシア「それで、その文太の息子とは何処まで関係が進んでいるの?」

 

アリス「ふぇっ!?」

 

何の突拍子も無しに爆弾を投下してきた母親にアリスはベッドから飛び起きた。アリシアは純粋に気になっただけであって特に深い意味で聞いた訳では無い。

 

だがアリシアは失念していた。

 

今この場所に蓬莱という暴走機関車が居た事を・・・

 

蓬莱「それがですね、この間藤原さんと2人きりでデートしてきたらしいんですよ。」

 

アリス「ちょっと蓬莱!?」

 

アリスの代わりに蓬莱が答え、ただでさえ熱で紅くしている顔を更に紅潮させる。

 

アリシア「あらあら、青春してるわね♪」

 

アリス「そ、そんな事n・・・蓬莱「しかも携帯の番号まで交換したって聞きましたよ。」だっ、誰から聞いたのよそんな事!?」

 

アリシア「最近の恋は進展するのが早いわね、早いうちにウェディングドレスでも用意しておこうかしら。」

 

蓬莱「もういっそのことベビー用品も買い揃えておいた方が良いんじゃないんですか?」

 

アリス「だから何でそんな話になるのよ!!」

 

自分1人では2人を止められないと思ったアリスは上海に助けを求めた。しかし・・・

 

上海「私から言うべき事は特にありません。」

 

・・・あっさり見捨てられた。

 

もはや突っ込む気力さえ無くしたアリスはベッドに倒れ込むとあっという間に意識をフェードアウトさせていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・どれくらい寝たのだろうか。

 

キッチンの方から食欲をそそる匂いがしてきて、アリスの意識を覚醒させる。

 

背筋を伸ばして外を見ると、すっかり日も落ちていて結構長い時間寝ていたんだなと思わせる。

 

リビングに向かうと上海と蓬莱はすでに帰っており、アリシアが小さいテーブルに手料理を並べていた所だった。

 

アリシア「あら起きたのね、調子は良くなったかしら?」

 

アリス「だいぶ良くなったわ。」

 

アリシア「そう、じゃあご飯にしましょ。」

 

テーブルを見るとアリシアの手料理が並んでおり、その中にアリスの大好きなカルボナーラもあった。

 

アリス「私の大好きな食べ物を覚えててくれたんだ。」

 

アリシア「可愛い我が子の大好物くらい覚えてるわよ、後デザートにアリスちゃんの大好きなロールケーキがあるから食後に食べましょ。」

 

母親が作ってくれた料理の数々を見ると、母が如何に自分を心配してくれたかが分かってきて、こっちも嬉しくなってくる。

 

久しぶりに食べる母の手料理、アリスは存分に堪能しようと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事が終わりデザートのロールケーキを食べている時に不意にアリシアが声を掛けた。

 

アリシア「アリスちゃん、今は走る事が楽しい?」

 

アリス「楽しいよ、凄く。」

 

アリシア「そう・・・」

 

何を当たり前な事をと言うような娘の回答にアリシアは苦笑する。

 

アリシア「今からママが話す事を良く聞いておいて欲しいの。」

 

一息つくとアリシアは語り始めた。

 

アリシア「走り屋の世界は貴女が思っている程楽しいと思える世界じゃ無いの、これといったルールも無い無法地帯な物よ。真面目な人間が居ればそうでない人間も居るわ、努力は嘘を付かないけどそれに溺れて他人を馬鹿にする人間だって居るのよ。だからこそアリスちゃんは天狗になっちゃ駄目よ、自分にも他人にも謙虚でありなさい。」

 

アリスは黙って母の話を聞いている。

 

それを肯定と受け取ったアリシアは更に話を続ける。

 

アリシア「それに走り屋である以上、常に頂点を目指し続けなさい。ママはアリスちゃんが産まれて走り屋を辞めてしまったからそんな事言えた立場じゃ無いけど、それでもママは後悔してないわ。だってアリスちゃんの夢はママの夢だから、挫けずに頑張りなさい。ママはいつだってアリスちゃんの味方だから。」

 

アリス「ママ・・・・・・」

 

どんな事があっても見捨てないと母は言ってくれた。

 

感謝のあまり泣きそうな自分を見たのか、アリシアはアリスをぎゅっと抱き締めた。

 

最後に抱き締めて貰ったのはいつの時だろうか、そんな事も思い出せないままアリスはそっと母親に身を委ねた。

 

体調を崩して、気持ちが落ち込んでいたであろう自分をたった一言で勇気づけてくれた。

 

母は強し。

 

アリスは改めて感謝の気持ちを言葉にした。

 

アリス「ママ、ありがとう。」

 

アリシア「・・・どういたしまして。」

 

アリシアはアリスの言葉に笑顔で返した。

 

その後アリシアは夜も遅いからと言って娘の家に泊まる事にした。

 

この日、アリスは母の言葉を胸に秘めて床に就いた。

 

【完】

 

 

 

 

 





なんか凄くイイ感じ纏まったような気がします。

らしくないって言うな、分かってるんだから・・・

さて、これで主要キャラが全て出揃いましたので次回は主要キャラの説明をしていきたいと思います。

その次からはバトルパートを増やせる様にしたいですね、なんせ6話投稿してまだ一度しかバトルをやってないですから。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キャラ設定(秋名スピードスターズ編)※ネタバレ注意

毎度お馴染み、清く、正しい・・・かどうかは微妙なDoctor Kです。

今回は前の話の後書きにも書いた通り、東方&オリキャラのキャラ説明をしていきます。

今更ですが、作者の車の知識は素人に毛が生えた程度と思ってこの小説を読んで貰えたら幸いです。

というか主要キャラを全員登場させるのに6話も掛かるって・・・




 

 

 

戦闘力パラメーターの説明。

 

・戦闘力(全6項目)

 

・操作力

・集中力

・度胸

・走り屋センス

・駆け引き

・メカ知識

 

・パラメーター(全5段階)

 

Lv,1・・・ド素人レベル

Lv,2・・・一般人レベル

Lv,3・・・並の走り屋レベル

Lv,4・・・一流の走り屋レベル

Lv,5・・・カリスマレベル

 

・特殊スキル

 

東方で言うスペルカードの様な物。

 

そのキャラだけが持つ特殊な能力的な事。スキルの数は戦闘力の高さに比例し、その特長や効果は人によって様々。

 

例:藤原拓海【藤原ゾーン】

 

 

 

 

アリス・マーガトロイド

 

18歳

 

愛車・・・S2000(AP1)

 

カラー・・・グランプリホワイト

 

好きなもの・・・S2000の顔、山、読書

 

嫌いなもの・・・ターボ車(特にGT-R、ランエボ、インプ等)、走りのマナーが悪い人、辛い食べ物

 

得意技・・・ドリフトと呼べる物全て

 

アリスの愛車↓

 

【挿絵表示】

 

 

戦闘力パラメーター

 

操作力・・・Lv,4

集中力・・・Lv,4

度胸・・・Lv,5

走り屋センス・・・Lv,5

駆け引き・・・Lv,4

メカ知識・・・Lv,3

 

特殊スキル

 

・【巨頭を継ぐ者】

かつて秋名の2大巨頭と呼ばれた母、アリシアの遺伝子を受け継いだスキル。見る人を魅了する走りで常にギャラリーの注目の的になりやすい。その為、チームの評判を上げる時に便利。

 

・【閃きの天才】

レベルが拮抗している相手とのバトル中、ふとした事が切っ掛けで相手の致命的な欠点を見抜く事が出来る。主に後追い時に有利。

 

・【ドリフトの名手】

様々なドリフトを駆使して、相手との実力の違いを見せ付け、相手ドライバーの戦意を喪失させる。特にモチベーションで攻めるタイプの走り屋には効果的で勝敗を分ける決定的な切り札となる。先攻、後追い問わず有利に働くチートスキル。

 

 

元走り屋の母親の影響で12歳の時にステアリングを握る。次第にドリフトに興味を持ち始め、どんな種類のドリフトがあるか遊び半分で研究した結果、今ではほぼ全てのドリフトを使える。リクエストされれば手放しドリフトだって出来る。ヒルクライム、ダウンヒル共に得意だがどちらかと言えばダウンヒルの方が好き。

 

基本的に仲間想いで誰に対しても優しいが怒ると怖く、怒られた相手は無意識に土下座の姿勢に入る程の迫力がある。

 

秋名で拓海と出逢ったのを機に拓海の事を意識し始めるが、それが恋心という事に彼女自身まだ気が付いていない。

 

本人曰く走りのスタイルは感覚派と理論派の中間だと言っているが霊夢に言わせれば「両方のスタイルを持ち併せている」らしい。気分次第で走りがコロコロ変わる為に彼女の走りを見たギャラリーからは「走りに無頓着」又は「どっち付かず」と言われる事が多い。

 

 

博麗 霊夢

 

18歳

 

愛車・・・COROLLA LEVIN GT-APEX(AE86)

 

カラー・・・ハイフラッシュツートン

 

好きなもの・・・車、車いじり、掃除(キレイ好き)

 

嫌いなもの・・・バイク、走り屋、バカな奴

 

戦闘力パラメーター

 

操作力・・・Lv,3

集中力・・・Lv,5

度胸・・・Lv,2

走り屋センス・・・Lv,3

駆け引き・・・Lv,5

メカ知識・・・Lv,5

 

特殊スキル

 

・【戦利眼】

相手の車、ドライバーの特徴、コースの特徴など様々な情報を元に、勝つ為のシミュレーションや作戦を素早く組み立てる。戦術参謀的な役割を持つスキル。

 

・【博麗の精神論】

勝敗を左右するのは技術ではなく集中力。集中力を上げるという事はメンタルそのものを上げる事に繋がる為、峠を攻める上で優先して鍛えるべきなのは集中力であり、技術や駆け引きはその副産物に過ぎないという霊夢の理論に基づいて出来た味方の戦闘力を上げるお助けスキル。

 

 

実家が神社をしており、彼女自身も巫女として働いているが、車の知識や駆け引きに関してはアリスより優れている。自分から峠を攻める事は無いが、頼まれたら条件次第で走る事もある。

 

アリスがスピードスターズに加入して数日後に霊夢も加入するが、彼女の場合ドライバーとしてではなく、外報部長兼戦術参謀としてチームに加わり後にその手腕を発揮する。

 

今作では彼女は常識人の部類に入る為、アリス同様ツッコミ役に回される事が多い。

 

 

霧雨 魔理沙

 

18歳

 

愛車・・・RX-7(FD3S)

 

カラー・・・コンペティションイエローマイカ

 

好きなもの・・・ロータリーエンジン、ハイパワー車、ドリフト

 

嫌いなもの・・・軽自動車、掃除、学校の授業

 

得意技・・・ブレーキングドリフト

 

戦闘力パラメーター

 

・操作力・・・Lv,3

・集中力・・・Lv,2

・度胸・・・Lv,4

・走り屋センス・・・Lv,3

・駆け引き・・・Lv,2

・メカ知識・・・Lv,1

 

 

アリス、霊夢の無二の親友。好きなロータリー車を買う為にバイト代を貯めて念願のFD3Sを購入するがロータリーは燃費が悪く、ガソリン代を払えるか不安なんだとか。

 

自称、普通の女子高生と言っているが、学校での授業態度は悪く普通とは言えない。だから学力は一般常識程度の事しか知らない。

 

秋名スピードスターズには入らず、ギャラリーとしてアリス達を応援する。

 

アリスの横に同乗した際、一度失神した経験があるのでもう乗らないと頑なに決意したがその後何度かアリスの横に乗る事になる。(因みに失神事件は本人曰く黒歴史との事)

 

 

上海

 

16歳(早生まれ)

 

好きなもの・・・アリス達、勉強、読書

 

嫌いなもの・・・幽霊、高いとこ、アリスの運転(嫌いというより苦手)

 

 

アリスの後輩で蓬莱の親友。基本的に誰に対しても他人行儀な接し方をする為、よく誤解されがち。

 

大人しい性格で怒る事も滅多に無い。そのせいか、蓬莱に度々振り回されている。しかし極稀に毒舌キャラに変貌して周りに毒舌を撒き散らす時がある(被害者は主に蓬莱)。

 

以前、アリスの車に同乗した時、ある事が切っ掛けでアリスが本気で峠を攻めた為、それ以降アリスの運転がトラウマになっている。

 

 

蓬莱

 

17歳

 

好きなもの・・・無茶ぶり、アリスの走り、テンションの上がる事

 

嫌いなもの・・・運転の下手な奴、ノリの悪い奴、じっとしてる事

 

 

アリスの後輩で上海の親友。お調子者で基本全ての事をノリで何とかしてしまう豪快な性格の持ち主。その為バカだと思われがちだが、意外と頭は良い。

 

テンションが上がり過ぎると思考が暴走して、誰も止める事が出来ない。巻き込まれた人は彼女の暴走が自然沈下するのを待つしかない。それが1時間以上掛かる事も・・・

 

だがバトル中はガチモード(モード賢者)に切り替わると、普段のお調子者っぷりは影を潜め、凛とした顔つきで冷静な話し方をする。アリス曰く、普段の蓬莱は仮面を被っているのだとか。

 

スピードスターズ加入後はコース攻略が主な仕事だが霊夢と共に戦術参謀の役割を担う事も。コース攻略の仕事中は単独で行動している事が多くそれが原因で置いてけぼりを喰らう事もしばしば。

 

アリスの走りに憧れており、いつか自分もアリスの様な走り屋になる事を夢見ている。

 

 

アリシア・マーガトロイド

 

42歳

 

愛車・・・EUNOS COSMO

 

カラー・・・ホワイト(正式名忘れた)

 

好きなもの・・・アリス、車、タイヤの焦げる臭い

 

嫌いなもの・・・アリスを馬鹿にする奴、一部の走り屋、日産車(東京から来た2人が原因)

 

得意技・・・自分が知っているテクニック全て

 

戦闘力パラメーター

 

・操作力・・・Lv,5

・集中力・・・Lv,5

・度胸・・・Lv,5

・走り屋センス・・・Lv,4

・駆け引き・・・Lv,5

・メカ知識・・・Lv,5

 

特殊スキル

 

・【巨頭の真髄】

 

アリシアが持つ唯一にして最強のスキル。そのほとんどが謎に包まれているが一つだけ解っている事は走りそのもので相手を威圧するという事。

 

 

アリスの母親にして、かつて文太と共に秋名の2大巨頭と呼ばれた伝説の走り屋。

 

おっとりとした性格で人当たりが良い。だが祐一によれば何を考えているのか分からない時が偶にあるんだとか。また、娘のアリスの事を溺愛しており、一部の人からは親バカと言われる事も。その溺愛っぷりは娘のアリスでさえも呆れる程。

 

現役で走り屋をやっていた時は自分と同等かそれ以上のテクニックを持つ走り屋としかバトルをしない主義だった為、彼女の走りを知っている人物は文太を含め数人しか知らない。速さの追求の為なら常識外れな事も実践していたらしく、祐一からは「クレイジーアリシア」と呼ばれている。

 

文太をバトルで唯一負かした人物であり、そのバトルは伝説の名勝負として古くからのギャラリーの間では有名。

 

関東で最速の走り屋になる事を夢見ていたが、アリスを出産した事でそれを断念。その夢を娘であるアリスに託す。

 

42歳なのだが、その容貌は20代後半と言われても違和感が無く、金髪ロングヘアーと瞳の色を除けばアリスと瓜二つ。年齢の事を聞かれても怒る事無く普通に教える肝っ玉の太い人物。

 

最近、長年乗り続けた愛車が寿命を迎えつつある為、新しく車を購入しようかと考えている。

 

 




はい、以上です。

今までの話と今回の設定の矛盾点が無いか、とても気になります。

所で東方をアニメ化するならば、アリス役の声優は誰が一番しっくり来るのでしょうか?

最近それが気になっている作者でございます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 vs東京から来た2人 霊夢の理論

どうも、夢の中でアリスに「早く続きを書きなさい!!」と人形を使って脅されたDoctor Kです。

どうしてもネタに詰まるとギャグに走ってしまいます。どうしたものか・・・

えっ、面白くない?

それは言いっこなしでしょう・・・




 

 

 

アリスが秋名スピードスターズに加入して数日後、

 

この日の夜、秋名山ではスピードスターズのメンバーが集まってミーティングをしていた。

 

メンバーの中には池谷を始め、健二、樹、拓海、そしてアリスの姿があった。

 

池谷「まず、メンバーの振り分けについてだけど、ドライバーは拓海とアリスに、健二と樹はメカニックを任せる事にした。」

 

4人共黙って頷く。技術、センス共に飛び抜けている2人をドライバーに抜擢して、アリスには健二を、拓海には樹を専属のメカニックとして働いてもらう事になった。

 

なお、これは余談だが、池谷はアリスをちゃん付けで呼ぶのを止めた。理由はアリスがちゃん付けで呼ばない様に言ったからである。

 

池谷「2人共ダウンヒルのドライバーを任せるつもりだけど、アリスに関しては相手の要望があった時のみヒルクライムを担当してもらう。」

 

現在、バトルは基本的に下りの勝負がメインとなっており、上りの勝負は行われていない。しかし稀にヒルクライムバトルを要望してくる走り屋もおり、その時はアリスがその役目を受け持つ事になっている。

 

と、ここでアリスが疑問に思っていた事を口にした。

 

アリス「じゃあ、作戦は誰が考えるんですか?池谷さんがその役目を担う事になるんですか?」

 

お世辞にも池谷はコースや車に応じて作戦を考えられる様な軍師的な役割は向いていない。その事を懸念してアリスは池谷に聞いてみた。

 

池谷「あぁ、その事なら・・・霊夢「ごめん、遅れたわ。」来たか。」

 

アリス「霊夢!?どうして此処に?」

 

蓬莱「蓬莱もいるよぉ♪」

 

突如としてこの場に現れた霊夢と蓬莱に全員の視線が集まる。

 

健二「池谷、この娘達は?」

 

池谷「俺が呼んだんだ、落ち着いた娘の方が博麗霊夢と言って、明るい感じの娘が蓬莱って言う。拓海達の学校の同級生だよ。蓬莱は1つ年下だったと思うけど。」

 

霊夢「自己紹介の手間が省けて助かるわ。」

 

池谷が呼んだ事には納得したが何故今更了承したのか気になった。霊夢が池谷に何度も勧誘されていた事は知っていたし、絶対参加しないだろうと思っていた。それに蓬莱まで呼んだ理由が解らなかった。

 

アリス「なんで参加する事にしたのよ?」

 

霊夢「話せば長くなるけど、この間池谷にまた勧誘されたから断ろうとしたけど、今までと違ってドライバーとしてではなく裏方として誘われたから興味が湧いてきたのよ。蓬莱の件については私が参加するにあたって、池谷から記憶力の高い人間を連れて来てって頼まれたから私達の中では一番記憶力が良い蓬莱を呼んだ訳。」

 

蓬莱「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン♪みんな大好き蓬莱で~す♪」

 

アリス「・・・・・・。」

 

何時みたく軽いノリで現れた蓬莱。相変わらずヘラヘラした態度でアホの子に思われがちだが、実は記憶力、引いては頭の回転の速さは此処にいるメンバーの中では群を抜いている。蓬莱の頭の良さが分かるエピソードが何個かある。高校生が習う数学の問題を小学3年生の時点で既に解いていたり、同じ時期には既に麻雀が出来て地元の雀荘で無敗だったり(この物語独自の設定です)、中学3年で英検と漢検の1級を同時に取得したりと見た目に似合わず反則級の頭脳を持っている。それを踏まえると蓬莱がこの場に呼ばれた理由も納得である。

 

その後の話で池谷は霊夢を外報部長兼戦術参謀として、蓬莱は霊夢の補佐とコース攻略に仕事が振り分けられた。

 

池谷「それじゃあ今後の活動方針についてだけど、まず群馬県内の峠に乗り込んで地元の走り屋達にバトルを仕掛ける。秋名でのバトルは基本的に受け付けない事にした。県内全ての峠を総なめにした後は関東全域に活動範囲を広げる。最終的な目標はレッドサンズを討つ事。大まかに説明するとこんな感じかな。」

 

あぁそれと、と池谷は新たに言葉を付け加えた。

 

池谷「拓海とアリスに話があると霊夢が言っていたから聞いて来なよ。」

 

言われた2人は頭に?を浮かべながら、霊夢の元に向かった。

 

霊夢「・・・来たわね。早速質問するけど、バトルに勝つ為には何が一番重要か解るかしら?」

 

拓海「ドライバーの技術じゃ無いのか?」

 

アリス「駆け引きか何かかしら?」

 

霊夢「どっちも外れよ。勝負事で大事なのは集中力、つまり精神面よ。集中力と精神は綿密に関係してくるからこれが無いと何も始まらないわ。集中力を上げる為には座禅とかが一番良いけどお坊さんじゃ無いから、手っ取り早く上げる為には睡眠が効果的ね。バトル前の30分程仮眠を取っただけでも大分違うわ、覚えておく事ね。」

 

2人が頷いた所で霊夢は話を進める。

 

霊夢「これは私の持論なんだけど、いくら技術があっても集中力が続かなければ宝の持ち腐れよ。集中力があって初めて実践的な技術が身に付くと思うわ。この話で分かったと思うけど、技術や駆け引きは集中力を上げた事で身に付く、言わば副産物的な物に過ぎないのよ。」

 

そう霊夢は締めくくった。頭脳派の彼女らしい考え方と言える。

 

今の言葉を要約すると、バトル前に仮眠を取ってリフレッシュした状態でバトルに臨む事、技術を磨く前に自身の精神面を鍛えて土台作りをしておく様にという事だ。

 

その後もミーティングは続き、今後の計画を更に立てていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長々と続いたミーティングが終わり、気が付けば時計は夜の12時をまわっていた。

 

アリスは秋名を何本か走って帰ろうと思い横にいた拓海に声を掛けた。

 

アリス「私は秋名を走ってから帰ろうと思うけど、拓海くんも付き合う?」

 

拓海「そうしたい気持ちはあるけど、配達の時間に遅れて親父にグーで殴られたく無いから今日は帰るよ。」

 

そう言って拓海は帰っていった。その他の面々も帰っていき残っていたのはアリスと蓬莱だけだった。

 

アリス「蓬莱、帰ったんじゃ無かったの?」

 

蓬莱「せっかくアリスさんが秋名を攻めるというのに横に乗らない訳無いじゃ無いですかぁ。」

 

さも当然の様にそう言い切った蓬莱に対して苦笑を浮かべつつ車に乗り込もうとした時、誰かが声を掛けて来た。

 

??「やぁ、君達って地元の人?」

 

そこにいたのは小物臭が漂う太った男と見た目がオタクっぽい眼鏡をかけた男だった。恐らくアリス達に声を掛けたのはデブの方だろう。

 

アリス「・・・私達に何か用ですか?」

 

デブ「僕達東京から来たんだけど、なんか思ったよりも少ないね、走り屋の人。」

 

メガネ「そうそう、もっと賑やかな所だと思ったんだけど。」

 

アリス「(そりゃあ、流石にこの時間帯は皆いないわよ。)」

 

蓬莱「(な~んか感じの悪そうな人・・・)」

 

アリスは心の中で突っ込み、蓬莱は嫌悪感を示す。そんな2人をよそにデブとメガネは勝手に話を進める。

 

デブ「だからソレっぽい車を見掛けたらつい嬉しくなって、どれどれちょっと見せてよ。」

 

アリス「はぁ・・・」

 

そうしてデブ達2人はアリスの車を見た。

 

デブ「うわぁ~、カッコつけてS2000なんかに乗ってるよこの娘。」

 

メガネ「まっ、カッコつけてみたい気持ちは解らなくは無いんだけどね。」

 

デブ「でも、S2000の乗り方をこの年若い小娘が解っているかは微妙だよね・・・プププッ」

 

メガネ「そんな事言っちゃ悪いよ、本人も気にしてるみたいだし・・・クククッ」

 

蓬莱「何なのコイツら・・・」イラッ

 

アリス「ちょっと蓬莱、落ち着いて。」

 

怒りを露にする蓬莱。アリスはそんな蓬莱を宥める。

 

無論、アリスも不愉快な気持ちはあったが、蓬莱の方が明らかにイラついていたのでなんとか蓬莱を落ち着かせようとした。

 

しかし凡そデリカシーという物を知らないこのデブが放った次の一言がアリスの怒りを爆発させる事になる。

 

デブ「それにしても、この娘を見てると昔会った女の走り屋を思い出すね。僕のスーパーテクニックを見せてやろうと思っていたのに逃げられちゃって、【秋名の2大巨頭】の1人があのザマじゃあね、あの時は本当参っちゃったよ。」

 

アリス「・・・・・・。」

 

そう、実はこの2人はアリシアに絡んだ事があるのだ。と言ってもアリシアは自分より弱い奴とはバトルはしない為全く相手にしなかったのが真相なのだが。

 

しかしアリスにとって、今そんな事はどうでも良かった。

 

この2人は言ってはいけない事を口にした。

 

彼女が唯一尊敬し、大好きな母親をこのデブはバカにしたのだ、それも娘であるアリスに向かってだ。いくら彼女が優しい性格でもここまで言われたら怒らない筈が無い。

 

現にアリスは怒りのオーラに溢れていた。

 

アリス「・・・蓬莱、」

 

蓬莱「・・・コクッ」

 

蓬莱は無言で頷く、それを確認するとアリスは車に乗り込みエンジンを始動させた。人に接する時のマナーがなってない奴は走りで黙らせる。それが彼女の哲学だ。

 

デブ「おや、僕とバトルするつもりかい?サーキット仕込みのテクニックに付いて来れるよう精々頑張ってね。」

 

相変わらずの減らず口を叩くデブ。しかしアリスの胸中はこのバトルが終わったら2人を土下座させる事しか考えていなかった。

 

一方の蓬莱はガチモードに入り、早速相手を分析していた。

 

蓬莱「(先輩のオーラに気付かず減らず口を叩くとは、これは走り屋としては3流以下ね。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果的にバトルはアリスの圧勝に終わった。

 

バトルの後、デブとメガネは心身共にボロボロの状態で正座させられ、その後1時間近く論破されたと言う。

 

このバトルで我々が覚えた教訓、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出る杭はメッタ打ちにされる。

 

 

 

 

その後デブとメガネが秋名山に来る事は無かった・・・

 

【完】

 

 

 

 

 

 




はい、第7話でした。

バトル描写はカットしましたが、どうしても見たいという方はその一部をどうぞ。




~5連ヘアピン~

デブ「行くぞォ、必殺のォ、超絶!!ウルトラスーパーレイトブレーk・・・アリス「言わせないわよ!!」うわあぁァァァ!!」




これが10回続きました(笑)

うちのアリスは怒らせたら精神的にフルボッコにします。

皆さん、くれぐれもお気をつけ下さい。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 その親子、正にクレイジー

毎度どうも。

原作で文太と拓海がやる事をマーガトロイド親子がやらかします。

一体誰が被害に遭うんでしょうね~(棒読み)




東京から来た2人と秋名山で一悶着あった数日後、アリスが学校に登校して教室に入ると魔理沙が近寄って来た。

 

魔理沙「アリス、少し話があるんだけど。」

 

アリス「何かしら?」

 

魔理沙「アリスの母さんも走り屋やってたんだろ、だからどういう走りをしていたのか気になってな。」

 

アリス「そうね・・・ママの走りを一言で言うならクレイジーね。」

 

魔理沙「ク、クレイジー?」

 

アリス「そっ。ママは車の事になるとトコトン突き詰めるタイプなのよ。でもその考え方が頭がオカシイと言うか何と言うか・・・」

 

魔理沙「そ、そんなに言う程なのか?」

 

アリス「そうよ、昨日だって・・・」

 

話は昨日の夜に遡る・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拓海達のバイト先であるガソリンスタンドは閉店時間を間近に控え、池谷達は既に帰宅しており店長の祐一は1人残って本日の売り上げを計算していた。

 

仕事が一段落した所で祐一は時計を見て、時間が11時を回った事を確認するとスタンドの照明を消した。

 

するとその時、1台の車がガソリンスタンドに入って来た。

 

祐一「何だよ、今日はもう終わりだぞ。」

 

至極面倒くさそうに祐一は店内から出たが、入って来た車・・・白いユーノスコスモを見た時、誰が来たのか見当が付いた。

 

アリシア「久し振りね、祐一。」

 

祐一「あのなぁ・・・今日はもう終わりだと言ってるだろ。」

 

アリシア「まぁそんな固いこと言わずにハイオク満タン入れて頂戴♪」

 

祐一の言葉をさらりと流すアリシアの態度に祐一は頭痛に似た感覚を覚えた。

 

アリシア「終わったらドライブ行かない?私の車で。」

 

祐一「お前とか?・・・嫌なんだよなぁ、お前のドライブは普通じゃねぇから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリシアは嫌がる祐一をやや強引に連れ出して秋名の山を車で登っていた。

 

その車内で2人(主にアリシア)は楽しく談笑しており、いつしか話題はアリスの事になっていた。

 

祐一「池谷達の話を聞く限りじゃかなりの腕になってるらしいじゃ無いか、お前んとこの娘は。」

 

アリシア「そりゃあ私がアリスちゃんに一から走りを教え込んだからね、そうなるのは当然の事よ。」

 

得意気に語るアリシア。その顔は真剣そのものだ。

 

アリシア「だけど今は只速いだけに過ぎないわ、更にその上のステップに上がる為のプラスアルファの何かがあの娘にはまだ足りないのよ。」

 

祐一「だがアリスはここんとこ拓海と走ってるから互いに良い刺激になってるんじゃ無いのか?」

 

アリシア「ある意味そうかも知れないわね。もっとも、私と文太の関係とは少々異なるようだけど。」

 

祐一「?どういう事だ。」

 

アリシア「私と文太は仲間というよりライバル的な関係だったじゃない。アリスちゃんの場合は文太の息子の事を強く意識してるみたいよ。異性としてね。」

 

祐一「そこまで解る物なのか?」

 

アリシア「解るわよ。何年あの娘の母親やってると思ってんのよ、まぁアリスちゃんはその事に気が付いてないみたいだけどね。」

 

そう言った後、しばらくしてアリシアは頂上の展望台の所で車を停めた。2人は車から降りて街並みの夜景を眺める事にした。

 

しばらく夜景を眺めていた2人であったが不意に祐一がアリシアに話し掛けて来た。

 

祐一「そう言えば、その車も乗り始めてからもう20年以上経つよな、買い換えようとは思わないのか?」

 

アリシア「そうね・・・正直に言えば今の車もガタが来てるからその気持ちはあるのよねぇ。この間もエンジンのオーバーホールもしたし、足回りも弄ったけど基本設計の古さはやっぱり否めないわね。」

 

祐一「政志に頼んで新しい車を探して来るか?」

 

アリシア「・・・考えておくわ。」

 

そう答えたがアリシアの頭の中に今の車を売り払うという選択肢はさらさら無かった。

 

祐一の言った通り、彼女の愛車は乗り続けて20年以上になる。それだけの期間乗っていれば愛着が湧くのは当然とも言える。

 

しかしながら、さっき彼女が言った様にアリシアの車はガタが来ており、最早いつ寿命を迎えてもおかしくない状態なのだ。

 

オークションにかける事も考えたがお金に変えられない程の濃密な時間と伝説を共に築き上げてきた相棒的存在を手放すのはどうかと考え、ならばいっその事コスモスポーツが命尽きる瞬間まで乗り続けていようとアリシアは心に決めていた。

 

アリシア「あの車と出会ったから今の私があるのよ。」

 

祐一「・・・そうだな、確かにお前があの車で秋名を走っていたから伝説の走り屋になれたのかも知れないな。」

 

祐一もアリシアの気持ちを理解していた様で、それ以上彼女の車について何か言ってくる事は無かった。

 

そして祐一は以前から疑問に思っていた事をアリシアに尋ねた。

 

祐一「なぁアリシア。」

 

アリシア「?・・・何?」

 

祐一「自分の娘に早い内から英才教育を施して、一体アリスに何を求めているんだ?」

 

アリシア「・・・別に深い意味は無いわよ。アリスちゃんが走りを通じて走り屋として、1人の人間として成長していくのが楽しみなだけよ。」

 

祐一「・・・・・・。」

 

アリシア「その内アリスちゃんは私を超えていくと思うわ、アリスちゃんの走り屋としてのセンスは私より上だもの。これから色んな壁に突き当たると思うけど、私は命を懸けてでもアリスちゃんを応援するわ。」

 

祐一「そうか・・・。あの時と何一つ変わって無いな。お前も、この街も。」

 

2人は感傷に浸ったまま車に乗り込んだ。

 

このまま何事も無く帰るかと思われたがアリシアは何か大事な事を忘れていた様で、その事を思い出した彼女は隣の祐一に声を掛けた。

 

しかし、それは祐一にとってどんなお化けよりも恐ろしい恐怖体験の始まりだった。

 

アリシア「あっ、そう言えば足回り変えたのにチェックするの忘れてたわ。・・・ねぇ祐一、【ちょっとだけ】コーナー攻めても良いかしら?」

 

祐一「ギクッ!!・・・ちょっと待て!?」

 

そう言うと祐一はドアと天井の手すりを持って万全な体勢でアリシアの走りに備えた。何故そんな事をするのか気になるが、その答えはそのすぐ後に解る事になる・・・

 

祐一の言葉を合図にアリシアはアクセルを全開にした。コスモスポーツはそれ程馬力がある訳では無いが長いストレートをあっという間に抜けて車はヘアピンに差し掛かった。

 

そしてこのままではぶつかると思ったタイミングでアリシアは一気にブレーキを踏み、素早くシフトダウンさせる。急激な減速に祐一の身体は思わず前につんのめる。

 

そんな祐一に見向きもせず、これまた素早いスピードでステアリングを切り込み車はドリフト体勢に入る。

 

祐一「(・・・凄え進入スピードだ。こりゃたまらん横Gが斜め後ろからくる・・・)」

 

そう思った祐一は何気なくアリシアの方を見た。

 

アリシア「~♪」

 

何を思ったのかアリシアはステアリングから手を離し、ドリンクホルダーに置いてあった缶コーヒーの蓋を開けようとしていた。それも呑気に鼻歌を交えながら・・・

 

祐一「のわあァァァァァ!!ばっ・・・バカッ!!アリシア、何やってんだぁ!!」

 

アリシア「何って、普通に手放しドリフトよ。」

 

祐一「さも当然の様に言うなぁ!!」

 

そんな祐一の言葉を無視して、アリシアは缶コーヒーを口に流し込む。そうしてる間も車はコーナーの外側に流れていく・・・

 

祐一「(もうダメだ・・・)」

 

ガードレールが目の前に迫り祐一は全てが終わったと思った時、アリシアは漸くステアリングに手を戻した。

 

アリシア「さて、次は本気で行きましょうか♪」

 

祐一「降ろしてくれェェ!!だから俺は嫌だって・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言ったんだあァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリス「・・・という事があったらしいのよ。」

 

魔理沙「何と言うか・・・かなりクレイジーな人だな、お前の母さんって。」

 

アリスは昨晩あった出来事を魔理沙に話した。

 

話を聞いた魔理沙は驚きを通り越して呆れしか出てこなかった。

 

アリス「ママは人を弄んで困った顔を見るのが好きなのよ。」

 

魔理沙「随分面倒な性格を持っているんだな。」

 

アリス「まぁ否定は出来ないわね・・・」

 

アリシアは走り屋をやっていた時、携帯電話も無く、他の走り屋とも交流する機会も少なかった為、自己流でドラテクを身に付けていった。

 

速さを追求する為なら、型破りなアイデアを実践していた様で、祐一を含めた一部の走り屋からは【クレイジーアリシア】と呼ばれていた。

 

そんな常識とはかけ離れた独自の思考を持つアリシアだからこそ伝説の走り屋と呼ばれた根本的な理由なのかも知れない。

 

だからと言って人を弄ぶ性格は決して褒められた話では無いが。

 

アリス「まぁそれは良いとして、ママの話を聞く為に私を呼んだ訳じゃ無いでしょ。」

 

魔理沙「当たりだぜ。実はアリスに頼みがあるんだ。」

 

アリス「何なの?」

 

魔理沙「今夜私にドラテクを教えて欲しいんだ。」

 

アリス「良いの?さんざんママの事を話しておいて何だけど私もママと大して変わらないわよ?」

 

魔理沙「お前の母さんと違って少しは常識あるだろ、だから頼む、一生のお願いだぜ!!」

 

アリス「ハァ・・・分かったわよ、ドラテクを教えれば良いんでしょう。」

 

若干魔理沙の気迫に押されて了承すると魔理沙は興奮を抑えきれず天高く拳を突き上げてガッツポーズをした。

 

しかし、この時魔理沙は知らなかった。

 

アリスもまた母親の遺伝をしっかりと受け継いでいるという事を・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリス「じゃあ先ずは魔理沙の走りがどんな物か確かめるから私を横に乗せて攻めてみて頂戴。」

 

魔理沙「了解したぜ!!」

 

秋名山に到着し早速ドラテクを教える前に、アリスは魔理沙の今現在の実力を把握する為に先に魔理沙に峠を攻めてもらう事にした。

 

【少女走行中・・・・・・】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下り1本走り終えて車は頂上に戻って来た。

 

アリスを横に乗せて走っていた際、アリスは一言も発さず睨む様に魔理沙の手足の動きを見ていた。

 

最早圧力を掛けているのではと疑う程の沈黙っぷりに魔理沙は終始プレッシャーを感じながら秋名の下りを攻めた。

 

頂上に戻ってくるとアリスは魔理沙に1つの疑問を投げ掛けた。

 

アリス「魔理沙。1つ聞くけど、ドリフトって何と訊かれたら貴女ならどう説明する?」

 

魔理沙「確か、コーナーの【出口】でアクセルを全開にしてタイヤを滑らせる事をドリフトって言うんだろ。」

 

自信満々に答える魔理沙、しかしアリスはその答えを予想していたのか首を小さく横にふった。

 

アリス「残念だけど貴女の言ってるそれはパワースライドと言って、ドリフトとは別物よ。」

 

魔理沙「何故だ?タイヤを滑らせる事がドリフトなのでは無いか?」

 

アリス「概ね合ってるけど、正確に言うとドリフトはコーナーの【入口】でタイヤを流すのよ。」

 

アリスの言った通りパワースライドとドリフトの違いはそこにある。

 

更に言えばパワースライドはコーナーの出口でタイヤを流す為 、コーナーの立ち上がり加速に影響を及ぼす。それに対してドリフトはコーナーの入口でタイヤを流す為、立ち上がりさえ決まればタイムの短縮に繋がる。

 

そしてアリスは、先ほどまでの魔理沙の走りを見て思っていた事を口にした。

 

アリス「後、魔理沙はカウンターを当てすぎよ。ドリフト後半の安定期に入ったらそこまでカウンターを当てる必要は無いのよ。」

 

魔理沙「何でだ?」

 

アリス「ステアリング操作と言うのは車の姿勢作りの切っ掛けにしか過ぎないのよ。まぁ大抵の走り屋はこれが解って無いんだけどね。」

 

魔理沙「??」

 

つまりアリスが言いたい事はカウンターを当てる時はドリフト始動時の向きや角度を調節する為であって、それ以外でカウンターを当てる必要性は無いという事。

 

しかし魔理沙は話がよく解って無いのか頭に?を浮かべている。

 

アリス「まぁ、実際に私の走りを見て貰った方が解りやすいと思うから取り敢えず横に乗って頂戴。」

 

魔理沙「了解したぜ。」

 

という事でアリスは魔理沙のFDを借りて秋名の下りを走る事になった。

 

魔理沙にとって生き地獄とも言える恐ろしい体験が待ち受けているとも知らずに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつものS2000ではなく魔理沙のFDの運転席に座り、魔理沙を助手席に座らせて車をスタート地点に移動させる。

 

魔理沙「なぁ、アリスは色んな種類のドリフトが出来るって蓬莱から聞いてるけど私の車でも出来るのか?」

 

アリス「そうね・・・FDに乗った事無いから何とも言えないわね。・・・何か要望でもあるの?」

 

魔理沙「そうだな、ブレーキングドリフトを頼むぜ。」

 

アリス「やれるだけやってみるわ、・・・じゃあ行くわよ!!」

 

そう言ってアリスは車を走らせた。魔理沙はチラリとアリスの方を見ると彼女の目付きが変わっていた。

 

魔理沙「(アリスもこんな顔するんだな。・・・まぁいいや、私のFDをどんな風に走らせるのか見物だぜ。)」

 

走り始めて間もなく最初のコーナーが見えてきた。

 

魔理沙はアリスの技術を盗もうとコーナーの先を見ていたが・・・

 

魔理沙「お、おいアリス・・・ブレーキ!!ブレーキイィィィィィ!!」

 

明らかなオーバースピードでコーナーに突っ込むというアリスの常軌を逸した行動に魔理沙は思考が追い付かずパニックに陥った。

 

隣でぎゃあぎゃあ喚く魔理沙を余所にアリスは一気にステアリングを切る。すると車は一気に横を向き、ドリフトの体勢に入る。そこからカウンターを軽く当てて車の姿勢を安定させてからコーナーを抜ける。

 

勿論アリスも手加減はしていた。無闇に攻めて魔理沙のFDを事故らせたら本末転倒な事は解っていた。

 

しかし、アリスの思う手加減と魔理沙の手加減とでは意味合いが全く違うという事にアリスは気付くべきだった。

 

魔理沙「もう次のコーナーが!?・・・ア・・・アリスウゥゥゥゥゥ!!」

 

次のコーナーでも同じようにオーバースピードからのブレーキングドリフトを決めるアリス。最早魔理沙の頭の中は今この瞬間何が起きているのか全く解っていなかった。

 

たった1つ解っていた事は、

 

魔理沙「(降ろしてくれエェェェェェ!!)」

 

・・・という気持ちだけだった。

 

普段は男勝りな発言が多く弱気な所を見せない魔理沙が泣き喚いている姿をアリスは不謹慎だが可愛らしいと思うと同時にサービス精神を燻られた。

 

そしてこの後、アリスが取った行動が魔理沙を生き地獄から本当の意味での地獄へと叩き落とす事になる。

 

コーナーの遥か手前のストレート、そこでアリスは何を思ったのかいきなり車を横を向けた。所謂直ドリである。

 

魔理沙「ぎゃあアァァァァァ!!そ・・・そんな事されたら、私は・・・もう・・・・・・」

 

車は直ドリを維持したままストレートを抜け、ヘアピンへと差し掛かる。

 

右コーナーだった為その様子が魔理沙の視界にダイレクトに入ってくる。

 

魔理沙「(も・・・もう・・・・・・ダメ・・・だ・・・・・・)」

 

遂に魔理沙の中の何かが限界を超えて魔理沙の意識は闇に落ちていった。

 

アリス「(成る程、この車の乗り方が大体分かったわ。次は本気のブレーキングドリフトで・・・・・・ってあれ?)」

 

急に静かになった魔理沙を不思議に思ったアリスが横を向くと、

 

魔理沙「・・・・・・」←失神中

 

アリス「・・・す、少しやり過ぎちゃったかしら?」

 

まさか魔理沙が失神するとは思っていなかったらしく何故失神したのかアリスは首を傾げた。

 

 

 

 

 

その後、意識が戻った魔理沙はもう2度とアリスの横に乗らないと心に誓った。

 

そして翌日、その事を霊夢に話すと、

 

霊夢「そんな事なら私に頼めば良かったじゃない。私だってドリフトぐらい出来るわよ。」

 

魔理沙「それを先に言って欲しかったぜ・・・」

 

こんな事になるなら最初から霊夢に頼んどけば良かったと今更後悔する魔理沙であった。

 

【完】

 




はい、第8話でした。

イヤ~時間掛かったなぁ~。

オホンッ、本当はもっと早く書き上げたかったんですけど、作者の脳が低スペックなせいで書いては消し、書いては消しを繰り返した結果、前回の投稿から1週間近く経ちました。

でも、ぶっちゃけ物語としてはまだプロローグの段階なんですよねぇ。

もう後何話かはプロローグ的な話を進めたかったんですけど、流石に「多くね?」と思ったので急遽この話で終わりにして、次回からスピードスターズの関東最速プロシェクトを始動させます。皆さん乞うご期待!!




もう1人東方キャラを出そうかな・・・



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 いざ、妙義山

最近、イニDのユーロビートを聞きまくっているDoctor Kです。

イヤ本当に楽しいんですよ。

個人的には今時のJ-POPよりも面白いと思います。

ん?歌詞が解らない?

細けぇこたぁ良いんだよ(笑)



魔理沙「やれやれ、この間はヒドイ目に遭ったぜ。」

 

上海「魔理沙先輩、どうかしたんですか?」

 

魔理沙「イヤ、ドラテクを教わろうと思ってアリスの隣に乗ったんだが・・・」

 

上海「そう言う事ですか・・・」

 

学校からの帰り道、魔理沙は先日のアリスの走りを思い出していた。

 

その走りは恐怖の一言だった。その事を思い出そうとしても、どういう訳か直ドリを見せられたのを最後にそれ以降の記憶がすっぽりと欠落していた。それは最早思い出してはいけない物だと本能的に悟った。

 

上海「ああいう走りをされたら誰だって怖がると思いますけどね。」

 

魔理沙「でも蓬莱はアリスの横に乗る時はいつも楽しそうにしてるじゃ無いか。」

 

上海「それは蓬莱の感覚が異常なんだと思います。多分・・・」

 

魔理沙「だよなぁ~。」

 

上海の言葉に同意する魔理沙、しかしその表情は嬉しそうな顔をしていた。

 

魔理沙「でもあれのお陰で何だか人生観が変わったぜ。車って本当に奥が深いな。」

 

上海「貴女も大概ですね・・・」

 

どうしたらそんなプラス思考な考え方が出来るのか、魔理沙の言葉を聞いて上海は疑問に思った。

 

上海「そう言えばアリス先輩達はどうしたんですか?学校が終わった途端急いだ様子で帰って行ったんですが。」

 

魔理沙「多分チームのミーティングでもあるんじゃ無いか?あいつらここの所それで忙しそうにしてたし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わってガソリンスタンドの店内では、スピードスターズのメンバー全員が1つのテーブルに集まっていた。

 

池谷「急に招集して悪いな、今さっきチーム宛に1通のメールが届いたんだ。」

 

健二「チーム宛って事はもしかして・・・」

 

池谷「ご察しの通り、これは挑戦状だ。しかも相手は・・・ナイトキッズだ。」

 

樹「ナイトキッズって・・・確か妙義最速の走り屋チームと言われているあのナイトキッズですか?」

 

健二「あぁ、そのナイトキッズのリーダーが中里毅という奴で黒のR32GT-Rに乗っている。」

 

アリス「その人ならこの間のバトルでそれっぽい車に乗ってギャラリーに来てたわね。私が池谷さんを抜いた5連ヘアピンの1個目にいたわ。」

 

拓海「(そんなとこまで見ていたのか・・・)」

 

バトル中にギャラリーの人間まで観察していたアリスに拓海は素直に関心する。

 

蓬莱「ナイトキッズって言えば大分前にアリスさんと妙義に行った時にやたらしつこく絡んで来たからさぁ、あのチーム余り好きじゃ無いのよねぇ。」

 

霊夢「それは良いとして、交流戦はいつなのよ?」

 

蓬莱「霊夢さんヒドイですよ・・・」

 

霊夢は蓬莱を無視して話を進める。蓬莱はそんな霊夢に対して不満の視線を送るが霊夢は知らぬ存じぬの態度を貫く。

 

池谷「次の土曜日夜の10時に行う。何、それまでにしっかりとした準備をしていれば負ける事は無い。」

 

霊夢「当然よ、うちには優秀なドライバーが2人もいるんだから。」

 

拓海「・・・買いかぶり過ぎだよ。」

 

アリス「まぁ、ご期待に添えられる様に努力するわ。」

 

その後は土曜日の交流戦に向けて準備や作戦を練ってこの日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交流戦を明日に控えた金曜日。

 

霊夢と蓬莱は妙義山の下見に来ていた。

 

本来なら2人で行く予定だったが、蓬莱がアリスを妙義に強制連行して来た。

 

故にアリスの機嫌は最悪だった。

 

アリス「・・・・・・ムスッ」

 

蓬莱「あの~、アリスさん・・・何か喋って貰えますか?」

 

アリス「・・・・・・。」

 

蓬莱「ア、アリスさん・・・?」

 

アリス「・・・・・・・・・。」

 

蓬莱「す・・・すみませんでしたぁ(泣)」

 

アリスの無言の威圧についに耐えきらなくなり蓬莱は凄まじい速さで土下座の姿勢に入る。

 

霊夢「蓬莱も一応反省してるんだから、もう許してやりなさいよ。」

 

アリス「ハァ~・・・しょうがないわね、別にいいわよ。」

 

アリスから許しが出た所で3人は妙義山のコースとGT-Rの特徴を調べ始めた。

 

霊夢「下りのスタート地点は初めがヒルクライムになっているからスタート直後は特にハチロクの方はきついわね。」

 

蓬莱「そうですねぇ。それにコースとしては秋名よりかは勾配がそれ程きつく無いですからスピードレンジも上がりますしねぇ。」

 

アリス「GT-R相手に加速競争では分が悪いかしら?」

 

霊夢「そうとは言い切れないわ。確かに低速コーナーの立ち上がり加速では負けるけど、旋回性能と軽さでは此方に分があるから良い勝負にはなるんじゃないかしら。」

 

アリス「相手のドライバーの事とか何か解っているの?」

 

霊夢「バトルをするのは2人って聞いてるわ、1人は私達に挑戦状を送って来た中里って奴よ。GT-Rの特徴を活かした走りをするけどその分精神面に若干のムラがあるから勝つのは案外簡単かもね。」

 

蓬莱「そしてもう1人は庄司慎吾って言って赤のEG6に乗っててダーティーな走りをするみたいですよ。」

 

アリス「多分、拓海くんはEG6の相手をするんじゃ無いかしら、同じテンロクだし。」

 

霊夢「分からないわ。もしもアリスが慎吾って奴と走る事になった時の為に一応作戦を考えておく必要があるわね。」

 

挑戦状には誰がどちらの相手をするのか書いていなかったのでどちらが相手になってもいい様に2つのシミュレーションを考える3人だった。

 

【完】

 

 




今回は少し短めにしました。

本当は他のナイトキッズメンバーとの絡みを書きたかったんですが、面倒くさかったので端折りました。




小説は長さやない、中身の濃さが全てなんや!!(言い訳)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 拓海vs中里 躍動する豆腐屋

いやぁ~、この小説も遂に10話を突破しました。

タグに亀より遅い更新速度と書いていますが、思いの外速いペースで投稿出来ている事実に自分自身ビックリしてます。いつまで続くか分かりませんが・・・(汗)




 

 

 

交流戦当日、アリス達は妙義山に向かって車を走らせていた。いつもならアリスの車の助手席には蓬莱が座ってる筈だが、この日は珍しく霊夢が助手席に座っていた。それどころか、蓬莱は現在この場に居合わせていない。

 

アリス「ねぇ霊夢、蓬莱がいないみたいだけどどうかしたの?」

 

霊夢「蓬莱なら先に妙義山に行って貰ったわ。」

 

霊夢の答えにアリスは納得する。更に霊夢はコース攻略の仕事内容を説明しだした。

 

霊夢「前の日に下見には行ったけど、バトル当日の路面コンディションが前の日と同じとは限らないのよ。それにコーナーの所々に何があるか、ヘアピンの数はいくつか、パッシングポイントの見極めとか、それらを全部頭に叩き込んでおかないと車のセッティングも出来ないし作戦も立てられないのよ。コース攻略ってのは極めて重要な仕事なのよ。」

 

アリスは霊夢の言葉を聞いて何故蓬莱にコース攻略の仕事を任せたかが何となく解った気がした。

 

普段は能天気でヘラヘラしている所為でアホの子と思われがちだが、実際はスピードスターズのメンバーの誰よりも記憶力がずば抜けていて1度脳内に情報をインプットすると何時経っても忘れる事は無い。

 

霊夢も頭は良いのだが、彼女は外報部長と戦術参謀を掛け持ちしている為、コース攻略まで手を回す事が出来ない。しかしコース攻略の仕事が無ければチームとして機能しない。戦術参謀は相手の車だけでも作戦はある程度組み立てられるが、それをより具体的な物にしていく為にはやはりコースの情報は欠かせない。メカニックに至ってはコースの情報無くして車をセッティングする事は不可能だ。路面状況や直線の長さ等はその峠によって違ってくる為それに応じて足回りやギア比を設定していかなくてはならない。

 

そこでコース攻略の仕事にアリス達の中で1番記憶力が良い蓬莱に白羽の矢が立ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妙義山に到着すると、既にナイトキッズの面々が待ち構えていた。

 

池谷「俺が秋名スピードスターズ、リーダーの池谷だ。宜しく頼む。」

 

中里「ナイトキッズの中里だ。この日が来るのを楽しみに待ってたぜ。」

 

互いに自己紹介を済ませ池谷は霊夢にアイコンタクトをとった。霊夢はそれに頷くと池谷達の前に出る。

 

霊夢「外報部長兼戦術参謀の博麗霊夢よ。バトルのやり方やルールは地元のあなた達が決めて頂戴。私達はどんな要望でも呑むわ。」

 

中里「ほぉ、大した自信だな。・・・まぁ良い、勝負は下り1本スタートは同時だ。俺の相手はそこのS2000の女だ、これでいいn ??「ちょっと待て毅。」・・・何だ慎吾。」

 

中里が話を締めようとした時、1人の男、ナイトキッズのNo.2庄司慎吾が割って入って来た。

 

慎吾「黙って聞いてれば毅1人で何話進めてやがんだ、俺にその小娘の相手をさせろ。これ見よがしにS2000なんかに乗りやがって・・・ムカつくぜ!!」

 

中里「おい慎吾、何企んでんだ。」

 

慎吾「アイツらはどんな要望でも呑むって言ったろ、だったら俺のバトルの時はガムテープデスマッチでやらせて貰うぜ。」

 

慎吾は霊夢にその趣の事を伝えると霊夢は若干驚いた表情をしたが了承の返事をし、そしてその事をアリスに伝えた。

 

アリス「霊夢、ガムテープデスマッチって何なの?」

 

霊夢「ガムテープデスマッチってのは右手とステアリングをガムテープで縛った状態でバトルする事よ。ステアリング操作が制限されるからFRはアクセルワークだけでコーナーをクリアしなければならないのよ。それに対してFFはオーバーステアをアクセルで止められるしサイドブレーキを引けばアンダーも消せる、FR殺しのルールなのよ。」

 

アリス「ふーん、要は荷重移動の技術を使って走ればいいって事ね。」

 

霊夢「しれっと難しい事言うわね・・・」

 

霊夢はアリスの発言に呆れたが、アリスはこのルールのコツを知っていた。

 

アリスの言う通りこのルールをFR車で走りきる為には荷重移動の技術を駆使して走らなければいけない。だが幸いな事にアリスは拓海と秋名を走り込みをしていた過程でこの技術を修得していた。故にアリスにとってガムテープデスマッチはさほど難しいルールではなかった。

 

アリス「じゃあ私は仮眠をとって来るから私の番になったら起こして頂戴。」

 

そう言ってアリスは自分の車に戻って行った。その頃スタート地点ではハチロクとGT-Rがバトルのスタートに備えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中里「改めて、ナイトキッズの中里だ。そっちの名前は?」

 

拓海「・・・藤原拓海。」

 

中里「覚えておくぞ、その名前。妙義の谷は深い、精々命だけは大事にしろよ。」

 

拓海のハチロクを興味深そうに見る中里。いつも通り眠そうな顔でバトル相手の中里を見据える拓海。

 

ひとしきり挨拶を交わした後、2人は車に乗り込んだ。霊夢はそれを確認すると2台の車の前に立った。

 

霊夢「こちらスタート地点、そろそろ始めても良いかしら。」

 

健二「『OK、いつでもいいぞ。』」

 

霊夢「分かったわ。それじゃあカウント始めるわよ!!」

 

霊夢がそう宣言するとさっきまで騒いでいたギャラリーは途端に静かになった。まるでこのバトルの行く末を見守るかの様に。

 

霊夢「5秒前!!・・・4・・・3・・・2・・・1・・・GO!!」

 

霊夢の合図と共に2台の車が走り出した。スタートダッシュに於いては4WDのGT-Rが圧倒的に有利。2個のタイヤで路面にパワーを伝えるFRとは違って4WDは4つのタイヤ全てを回す為、ホイールスピンという現象が殆ど起きない。

 

馬力の差と上り勾配を活かして中里のGT-Rが先頭に立った。

 

「速ぇェ、中里のGT-R。あっという間にハチロクとの差を広げているぞ。」

 

「妙義のダウンヒルのスタートは最初は上りだからな、ハチロクじゃあ勝負になんねぇよ。」

 

第1コーナーを抜けた頃にはGT-Rが既にハチロクとの差を広げていた。しかし霊夢にして見ればこれは予想通りの展開だ。確かに上り勾配でハチロクがGT-Rに付いて行くなど無理な話だが、上りの区間は最初だけでそれ以降は永遠に下りの区間が続くのだ。拓海の腕を持ってすれば充分勝機はあると霊夢はにらんでいた。

 

そこまで考えていた時にサポートカーの扉が開いて中から蓬莱が出てきた。

 

蓬莱「フワァ~、渋川から妙義までスクーターでの遠出は流石にキツ過ぎますよぉ・・・」

 

霊夢「あら蓬莱、もう起きたの?」

 

蓬莱「どっちみち車の中じゃあまともに寝れないですから。・・・それでバトルは?」

 

霊夢「もう始まったわよ。32が頭を取ってハチロクとの差を広げているわ。」

 

蓬莱「そうですか・・・」

 

霊夢からの報告を聞いた蓬莱は思考を切り替えた。いわゆるガチモードの突入である。目付きが変わり、纏う雰囲気も一瞬にして変わる。

 

・・・そこにいたのはいつものお調子者の蓬莱ではなく、賢者の雰囲気を纏った蓬莱の姿があった。

 

蓬莱「私が見る限り、あのR-32の馬力はおよそ380馬力、それに比べてハチロクは150馬力出てれば良い方ですね。確かに車の性能では勝負になりませんがそれはあくまでサーキットでバトルした場合の話です。だけどバトルのステージが公道である以上、その優位性は絶対とは言えません。それにR-32には唯一にして最大の弱点があります。」

 

霊夢「ずばり、ボディの重さでしょ。」

 

蓬莱「そう言う事です。スーパーフロントヘビーから来るアンダーステアがGT-Rの弱点。ドラテクや足回りのチューニングで誤魔化しても基本特性は変わりません。限界領域で下りを攻めていたら必ずフロントタイヤとブレーキが苦しくなって来ます。」

 

霊夢「まっ、そこはGT-Rのみならず重たいターボ車に乗ってる走り屋の宿命でしょうね。」

 

蓬莱「麓まで降りてくる頃にはコーナーの入り口でアンダーステアと格闘している事でしょう。藤原さんがそこに勝機を見出だせるかどうかがこのバトルの鍵になります。」

 

一通り話し終えた後蓬莱は一息ついた。その時、無線から信じられない情報が飛び込んで来た。

 

「『こちら中間地点、たった今2台の車が通過しました。中里さんがハチロクに煽られています!!』」

 

霊夢・蓬莱「「!!」」

 

2人は一瞬驚いたがその表情は直ぐに笑みへと変わった。

 

霊夢「これは嬉しい誤算だったわね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中里のR-32は快調なペースで下りを攻めていた。

 

中里「(最初の内にあれだけのマージンを作ったんだ。そう簡単には追い付けまい。)」

 

スタート直後の上り勾配を利用して5秒程のアドバンテージを築いた中里はそう思っていた。

 

中里「このバトル、貰った!!」

 

最早勝利を確信した中里は何気無くバックミラーを見た。

 

するとそこには・・・

 

中里「何だと!?」

 

バックミラーには2つのヘッドライトが映し出されていた。リトラクタブル式のそれは間違いなくハチロクの物だった。

 

中里「(何故そこにいる!?まだ中盤を過ぎて少ししか経ってないんだぞ!?)」

 

余りに早く追い付かれた中里は思わずバックミラーを二度見する程驚愕していた。

 

しかしそれも束の間、中里の表情は驚愕から歓喜へと変わる。相手がハチロクと決まった時は正直落胆していたが、拓海がハチロクの元へと近付いた時拓海とハチロクから強いオーラが出ていたのを中里は見逃さなかった。

 

それを見た瞬間、中里は対戦相手に対する評価を改めた。この時中里はこれは予想以上にタフなバトルになると思った。

 

ところが蓋を開けて見れば、中里の予想の遥か斜め上を行くバトル内容になっていた。その事実に中里は喜びを噛み締めていた。

 

実は中里は以前、S13に乗っていた事があった。その頃にライバルだった走り屋は中里がR-32に乗り換えてからはライバルですら無くなった。つまり中里は自身がR-32乗り換えてから現在に至るまで自身が熱くなる様なバトルを経験した事が無かった。

 

それ故か今、中里のテンションは最高潮に達しようとしていた。

 

中里「(上等だ、そこまでやられちゃあハチロクが非力で型遅れな車だという意識はこれで完全に吹き飛んだぜ。一級品の戦闘力を持った良いマシンじゃ無ぇか!!目一杯ヤバいモードに突っ込んで行くぜぇ、付いてこれっか!!)」

 

久しく忘れていた自身が熱くなる感覚を噛み締めながら中里は更にアクセルを強く踏み込んだ。

 

そこから更にスピードを上げてハチロクを振り切ろうとする。

 

しかし拓海のハチロクは離される事無くR-32の後ろにピッタリと付いたまま追い掛ける。

 

始めは喜んでいた中里の表情にも次第に焦りの色が浮かぶ。

 

中里「(くっ・・・降りきれない。それどころか食い付かれたままの時間の方がどんどん長くなっていく。)」

 

後ろからのプレッシャーに押し潰されそうな気持ちを奮い立たせ猛然と下りを攻める。コーナーが目の前に迫って来ても中里はギリギリまでブレーキを我慢してコーナーに突っ込む。そこから一気にフルブレーキングでコーナーに進入しインベタのラインを描こうとする。

 

しかしその時、中里のR-32に異変が起こった。

 

中里「(・・・!?フロントタイヤの応答性が怪しい。アンダー気味だぜ。)」

 

先程の霊夢と蓬莱の会話でもあった様に中里のR-32は1500㎏をゆうに超す身重な車なのだ。そんな重い車で峠を攻めていればどの道タイヤとブレーキは熱ダレを起こす。

 

ペース配分をきっちり行っていたら熱ダレを起こすタイミングを遅らせる事は出来たが、中里の熱くなりやすい性格がそれを許さずスタートから全開走行を続け、更に拓海のハチロクに追い付かれた事により中里の性格に拍車をかけた。そしてムキになってハチロクを振り切ろうとした結果、遂にGT-Rの弱点が中里に牙を向いた。

 

今の中里に余裕など一切無かった。ハチロクからのプレッシャーとタイヤとブレーキの熱ダレが重なり、集中力が切れかかっていた。

 

左のヘアピンが迫って来てブレーキを踏むが、明らかなオーバースピードで進入した為にステアリングを切っても車は曲がろうとしない。中里痛恨のアンダーステア。その隙を拓海が見逃す筈が無い。チャンスとばかりに拓海のハチロクがガラ空きになったインを突く。

 

横に並ばれた事により、頭の中が真っ白になった中里はまだコーナーを抜けてないにも関わらずアクセルを全開にした。こうなった時、車はどういう動きをするか峠を攻めた事のある人なら分かるであろう。

 

4WDでアテーサETSという日産独自のトルク配分システムを搭載したGT-Rと言えど、このような事をすればトルクの配分作業が追い付かずリアタイヤは力負けしハーフスピン状態となった。

 

そして外側のガードレールに右のリア側面がヒットし反動で車はコーナーとは反対側にスピンしてようやく停止した。

 

 

 

 

 

この瞬間バトルの勝敗は決した。

 

【完】

 

 




はい、中里さん板金7万円コース決定です(笑)

とまぁそれはさて置き、原作とは違って妙義でのバトルだったのでバトルシーンを思い付くのに時間が掛かった挙句、結局原作頼みとなってしまいました。

オリジナリティーの無さを改善していかなければいけませんね、本当に・・・



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 vs慎吾 怒りのデスマッチ


※注意!!

アリスがキレます。





誰に対してかって?

言わなくても解るでしょう(笑)




拓海と中里のバトルはペース配分を怠った中里が自滅する形で決着した。この結果にナイトキッズのメンバーらは驚きのあまり誰も言葉を発しなかった。

 

ただ1人だけ中里の敗北を喜ぶ男がいた。

 

慎吾「(ハチロク相手にこの様とはなぁ、これで当分デケェ面は出来ねぇだろ。)」

 

何故チームメイトである筈の中里に対してそんな態度を取るのか、それは中里と慎吾は互いが仲間と思わない程犬猿の仲であるからだ。

 

理由は2人の走りのスタイルの違いにある。特に中里は勝つ為ならどんな卑劣な手段も平気で使ってくる慎吾のラフな走りを相当嫌っていた。

 

チームのトップ2が対立していれば自ずとチームのムードも悪くなる。現に最近では中里派と慎吾派との派閥争いが泥沼化しており、ナイトキッズは崩壊の危機に瀕していた。

 

この事態を重く受け止めた中里はチームを立て直す切っ掛けとして他所からの刺激が必要と考え、スピードスターズ宛に挑戦状を送ったのだ。

 

勿論勝ち負けも少なからず意識はしていたが、それよりもチームリーダーとして失った仲間同士の絆を取り戻す事に重点を置いていた。

 

本当は自分がバトルしたかったアリスの相手を慎吾に取られたが中里はそれでも良かった。自分は愚か慎吾ですら歯が立たない相手なのかも知れない。だがそれでも、否、それだからこそ中里はアリスとのバトルを慎吾に譲った。

 

もうすぐ次のバトルが始まる。負け犬である自分は黙ってバトルの結末を見届けようと決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中里の心境など知る由もなく慎吾はアリスと向き合っていた。

 

慎吾「噂の走り屋が女だったとはなぁ、こいつは期待外れだぜ。」

 

バトル開始前からアリスを挑発的な態度を取る慎吾。アリスは慎吾の相手をする気が無いのか終始無視し続けている。

 

その態度が気に入らなかったのか慎吾は更に高圧的な態度でアリスに言葉を掛けた。

 

慎吾「テメェみたいな小娘は車ヘコまされてヒイヒイ泣いてる姿がお似合いだぜ。」

 

散々アリスを罵倒する慎吾に傍らにいた蓬莱が怒りの表情を露わにする。そんな蓬莱を霊夢が宥める。

 

霊夢「落ち着きなさい、蓬莱。」

 

蓬莱「ですが、あそこまで言われて黙ってる訳には・・・」

 

霊夢「ここでキレたらあいつの思うつぼよ。少し冷静になりなさい。」

 

霊夢に言われて蓬莱は渋々引き下がる。尚この場には拓海もいたが拓海もまた慎吾を睨み付けていた。

 

拓海「(・・・あれ、何で俺こんなに怒ってるんだ?)」

 

言われた本人は落ち着いているのに何故自分は柄にも無く感情を露わにしているのか不思議に思う拓海であった。

 

慎吾はまだ言葉を発していたようだが、その全てを無視してアリスは車に乗り込んだ。そんなアリスを見て慎吾は舌打ちしながら自分の車に乗る。

 

両者が車に乗ったのを確認するとナイトキッズメンバー、主に慎吾派の連中が中心となって右手とステアリングを縛り付ける作業に入った。

 

その最中、アリスの方を担当していた男が卑劣な笑みを浮かべながらアリスの方に視線を向けていた。まるでアリスが負ける事を確信しているかの様に。

 

この様子にいままで黙っていたアリスが遂に口を開いた。

 

アリス「・・・良い年してチンピラ口調で挑発してきて、あなたの大将って子供なのね。」

 

その瞬間、卑劣な笑みを浮かべていた男の顔が凍り付いた。そしてその表情が怒りの色に染まる。男は乱暴にガムテープを千切るとアリスを睨み付けながら去っていった。

 

慎吾「先に行きなよ、S2000の嬢ちゃん。」

 

ここまで行くと最早溜め息しか出ない。慎吾の言動に暫し呆れながら走り出そうとした時、拓海がアリスの所に歩み寄って来た。

 

拓海「あいつに散々言われたからこのバトル、絶対勝とうな。」

 

アリス「解ってるわ。さっさと終らせるよこのバトル。」

 

拓海がアリスに声を掛けたのは先程の慎吾の挑発でアリスの集中力が乱れていないか心配した為であったがその心配は杞憂に終わった。

 

集中力を極限まで高め、一呼吸置くとアリスのS2000はスタートラインから飛び出した。

 

ダウンヒルバトル2回戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダウンヒルゴール地点、

 

そこには人目を引く様な真っ青な車が2台停まっていた。1台はフロントがS13シルビアの顔でリアがワンエイティの奇妙な車、その名もシルエイティー。もう1台はランサーエボリューションⅨ(以下、エボⅨ)

 

その車の持ち主らしき3人の女性が何やら会話をしている。

 

??「それにしても、まさかハチロクがR-32に勝つなんてね誰が予想したかしら。」

 

??「未だに信じられないよ。ナイトキッズの中里って言ったら群馬エリアを代表する走り屋の1人なのよ。」

 

??「R-32の戦闘力はハチロクの比ではありません。それでもR-32はハチロクに負けた。考えれる理由はドライバーの力量の差という所でしょうか。」

 

1人が先程のバトルの結末に感心してもう1人は中里の敗北に驚いており更にもう1人が先程のバトルを自分なりに分析していた。3人の反応は三者三様でそして髪の色もまた三者三様だった。

 

3人共同じロングヘアーだが上から言葉を発した順に、茶髪、黒髪、そして最後の1人は緑髪という地毛なのか疑いたくなる髪を持つ少女がいた。

 

??「あなたは相変わらず冷静ね。本当に高校生なの?」

 

??「この性格は生まれつきです。それに巫女という仕事柄もありますので。」

 

??「まぁ、巫女が走り屋やってる事自体がおかしな話だけどね。」

 

話にもあった通り、緑髪の少女は巫女でありながら走り屋をやっている少し変わった少女。だが考えてみればスピードスターズのメンバーの霊夢も同様に博麗神社の巫女なのだからこの2人は不思議な存在と言える。本人達は否定するだろうが・・・

 

??「とにかく、次はEG6対S2000のV-TEC同士のバトルです。これはどう予想しますか?」

 

??「車の性能で言えばS2000が有利な気もするけど、ナイトキッズのEG6は妙義の下り最速って言われてるし、正直分からないわ。」

 

??「慎吾はああいう奴だけど腕は確かだしね、でもあのS2000の事が分からないから今の所慎吾が勝つ確率は五分と五分ね。」

 

一体どんなバトルになるのか、ナイトキッズが一矢報いるのか、それともスピードスターズが完膚無きまでに叩きのめすのか3人は興味津々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所はスタート地点に戻る。

 

蓬莱「何なんですか、あの慎吾って奴は!!先輩の事をあそこまで馬鹿にして!!ほんっと腸が煮えくり返りますよ!」

 

蓬莱は大声を出しながらスタート前の慎吾の態度に憤慨していた。先程は霊夢が宥めてくれたお陰で揉め事が起こる事は無かったが、蓬莱の怒りはまだ収まっていなかった。

 

拓海「蓬莱の奴まだ怒っていたのか。」

 

霊夢「えぇ、冷静になる様に言ってるんだけど、あの様子だと聞いて無いみたいね。」

 

蓬莱「そうそう、この間なんかもナンパして来たデブ共が先輩と先輩の母親の事を馬鹿にして、その時は先輩が私に変わって説教してくれたから良かったですけど、もしその場に私しか居なかったらデブ共を物理的にフルボッコにするつもりでs・・・って、そうじゃ無くて!!」

 

霊夢「まーた何時もの暴走癖が始まったわね。」

 

拓海「・・・あれって本当に怒っているのか?」

 

蓬莱の怒りの矛先が全く違う方向にずれていってる事に対して霊夢は呆れ顔で、拓海は若干困惑しながら1人文句を言っている蓬莱を見ていた。

 

本来、人間という生き物は二面性を持つ。本音と建前を上手く活用してこの現代社会を生きている。しかし人間はそう簡単には本音の部分を見せない。それは何故か。

 

例えば自分に唯一無二の親友が居たとしよう。そんな親友の嫌いな部分、または直して欲しい所があったとする。自己中心的、時間にルーズ等々・・・。

だが親友はそれを直そうとしない。その場合、人間はどういった行動を取るか?思った事をストレートに本人に伝えるか、それとも気付かないフリをするか。

 

大抵の人間は後者を選ぶだろう。理由は簡単、何故なら単に親友を傷付けたくないからである。

 

勿論それが悪いという訳では無い。しかし親友と本音で言い合えない関係ならそれは最早親友とは呼べないのではなかろうか。

 

・・・話を戻そう。だが蓬莱の場合は本来人間が隠したがる筈の本音の部分を何の躊躇いも無く表に出している。何故隠さないのか、それは蓬莱しか知らない。

 

蓬莱「この際だからもう1つ言わせて貰いますけど、この間先輩にやたらk・・・霊夢「蓬莱、アンタに聞くけどこのバトルのポイントは何処と思うかしら?」・・・そうですね、やはり右手をガムテープで縛ってる分ステアリングの舵角も制限されますからいかに少ない舵角でコーナーを曲がれるか、つまり先輩の技量の高さがこのバトルのキーポイントになりますね。」

 

全員「(切り替え早っ!?)」

 

蓬莱の思考の切り替えの早さに思わず全員がズッコケる。だが蓬莱の見解はかなり的を得ていた。

 

蓬莱の言葉を要約すると、勝敗はアリスのドラテクの幅の広さに懸かっていると言っても過言では無い。FF有利なこのルールでアリスに勝機があるとすればその一点に尽きるという事になる。

 

霊夢「アリスは荷重移動の技術を習得してるって言ってたわ。」

 

蓬莱「でしたら案外楽な展開に持っていけそうですね。」

 

霊夢「そうね・・・確かに【単純】な技術勝負なら勝つ見込みはあるわね。」

 

蓬莱「ただ、あのシビックのドライバーが何か仕掛けてくる可能性がある・・・という事ですね。」

 

霊夢「そう言う事。・・・どうも嫌な予感がするのよ。私の勘だけど。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慎吾は現在かなり焦っていた。それもそのはず、アリスは未だ頭を取っており、事故を起こすどころか軽快な走りで慎吾を圧倒していた。

 

スタート直後、慎吾は後ろから高みの見物を決め込むつもりでいたが、今ではプレッシャーを掛ける事は愚か付いて行くだけでも結構厳しい状況。

 

慎吾「(何故だ、何故まがれる!?いきなりやってこなせる程ガムテープデスマッチは甘く無いんだぞ。)」

 

慎吾自身ガムテープデスマッチをマスターするまで右手を持ち替えずに峠を走る練習を山の様にしてきた。だから慎吾はこのルールに自信があった。それが今ではどうだ、バトルは中盤に差し掛かろうとしていてアリスに対してプレッシャーを掛けているのだが一向に手応えが無い。

 

対するアリスは序盤こそ慣れないルールで手探りの状態で走っていたが呑み込みの早さからすぐに慣れてキレのある走りを見せていた。

 

元々荷重移動の技術を習得していたアリスにとってガムテープデスマッチのコツを掴むのにさほど時間は掛からず現在では慎吾を上回るペースでダウンヒルを攻めていた。

 

ルールに慣れてしまえばそこからはアリスのペース。一気に慎吾を突き放そうとするが慎吾も地元の意地とこのルールを持ち出した側のプライドがあるのか負けじとアリスに食らい付く。

 

勾配のきついS字コーナーをアリスは荷重移動だけで車をドリフト状態に持ち込み、カウンターを当てないゼロカウンタードリフトを完成させる。そして次の切り返しの右をタコ躍りの現象を応用して逆ドリフトを完成させてS字コーナーをクリアした。

 

「あそこのS字を逆ドリフトでクリアする奴初めて見たぞ!!」

 

「信じられねぇ!?地元でもあそこまで出来る奴居ないのに・・・」

 

「しかも速えェ!!とても右手をガムテープで縛ってるとは思えねぇよ・・・」

 

アリスの走りを間近で見たギャラリーは口々に感想を述べていた。そしてその走りを後ろから見ていた慎吾は予想以上の技量の高さを見せ付けられ度肝を抜かれた。

 

慎吾「(とんでもねぇ食わせもんだぜ。あそこまでやられちゃもうまぐれじゃ無ぇ。・・・だが関係ねぇ、要は勝ちゃ良いんだよ、どんな手を使ってもなァ!!)」

 

ニヤリと卑劣な笑みを浮かべる慎吾。それは何か良からぬ事を企んでいるかの様な表情だった。

 

左の中速コーナーに差し掛かり、アリスは軽く減速をし、ドリフトの姿勢作りをしていた時それは起こった。

 

慎吾のEG-6はコーナーが目の前に迫っているにも関わらず、一切減速せずにアリスのS2000目掛けて突っ込んできた。そして・・・

 

 

 

 

 

・・・ゴンッ!!

 

 

 

 

 

アリス「・・・!!」

 

突然の出来事にアリスは一瞬思考が停止した。だがすぐに自分の車がバンパープッシュをお見舞いされた事に気付いた。相当スピードに乗っていた所為で立て直そうにも車は回り続けるばかりで全く言うことを聞かない。かと言って車を停めてしまったらその分慎吾との差が余計に開いて追い付く事が難しくなる。そこでアリスは咄嗟の判断でスピン状態に陥った車を立て直そうとするのでは無く、【あえて】車を1回転させる方向に持っていく事にした。

 

車が180度回った頃に慎吾のEG-6は空いたスペースから悠々とアリスのS2000を追い抜いた。その後アリスの車はガードレールに衝突し大破、走行不能に陥りS2000はあえなく解体屋送りになる

 

 

 

 

 

・・・はずだった。

 

 

 

 

 

車は進行方向に引っ張られながら元の向きに戻ろうとする。そしてS2000のフロントノーズが進行方向に向いた瞬間、クラッチを繋いでフルスロットル。するとS2000は体勢を立て直し、そして何事も無かったかの様に走り出した。

 

アリスの咄嗟の判断が功を奏して絶体絶命の窮地から見事脱した。

 

この事は無線を通して頂上にいる霊夢達に知らされた。当然全員が怒りに満ち溢れているかと思いきや予想に反して皆が冷静さを保っていた。先程まで散々文句をぶち撒けていた蓬莱ですら意外な程冷静だった。

 

蓬莱「予想はしていましたが、バンパープッシュとは・・・卑怯な手を使ってきましたね。」

 

池谷「いくらラフな走りが好みだと言ってもこれは流石にやり過ぎだ。」

 

拓海「アリスに与えるダメージも大きい筈、これは相当厳しい戦いになったな。」

 

霊夢「・・・それはどうかしら。」

 

霊夢の言葉に池谷達が一斉に視線を霊夢の方に向ける。その言葉の真意を確かめるべく池谷が霊夢に話し掛ける。

 

池谷「どういう事だ?霊夢。」

 

霊夢「考えてもみなさい。スタートする時に慎吾は態々アリスに先行する様に言ったのよ。普通に考えれば何か裏がある事位解るわよ。」

 

拓海「成る程・・・」

 

霊夢「それにアリスは我がスピードスターズが誇るダブルエースの1人なのよ。こんな子供騙しに動揺する程ヤワじゃ無い。アリスを舐めて貰ったら困るわ。」

 

蓬莱「ともかく、これで先輩は攻守のスイッチが切り替わる筈です。狙いを定めた時の先輩の走りは他の追随を許さない程の物があります。攻守のスイッチが切り替わる時・・・その時こそギリギリの所で保っていた均衡が崩れる時です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スピン状態から立ち直ったアリスは慎吾に追い付く事以外何も考えていなかった。只々無心で愛車のS2000を走らせる。ベタ踏みのアクセルを通じて奏でられる甲高いV-TECサウンドがまるで今のアリスの心情を表している様だった。

 

アリス「(・・・ムカついた。わざとやったわね・・・)」

 

アリスの体は怒りで震えていた。アクセルを踏み込む足に力が加わる。それと同時にステアリングを握る手を力強く握り締める。ハイライトの消えた目は少し離れたEG-6を確実に捉えていた。

 

アリス「(アンタみたいなカスには・・・何があっても絶対に負けない!!)」

 

コーナーが目の前に迫って来てもアリスのS2000はアクセル全開で突っ込んでいく。スピードを殺しきれずS2000はガードレールに真横から衝突する。だがその反動を利用して次のコーナーを逆ドリフトで駆け抜ける。

 

アリスの走りの豹変っぷりにその場にいたギャラリーが言葉を失う。車をガードレールに当てようが何しようが一度床まで踏み込んだアクセルを戻さない。

 

並のドライバーならキレたら最後。ミスを繰り返すばかりで速くは走れない。

 

だがアリスの場合は違っていた。長年の走り込みで体に染み付いたドライビングセンスが自分の手足の様に馴染んだS2000を紙一重の所で操っていた。

 

 

 

 

 

【キレればキレるだけ速い】

 

 

 

 

 

ゼロカウンタードリフトでも無く、逆ドリフトでも無い。これこそがアリス・マーガトロイドの走りの真骨頂なのである。

 

 

 

 

 

猛然と迫り来るS2000に慎吾は動揺を隠しきれなかった。これ以上攻め込めないスピードで攻めているのにS2000はEG-6との差を徐々に詰めてくる。あのS2000何かがおかしい。慎吾の体に悪寒が走った。

 

そこまで考えた時、慎吾は周りの景色がいつもと違う事に気づく。走り慣れた筈の妙義の下りがまるで全く違う峠に化けて慎吾に牙を向ける。こんな事は今まで経験した事が無かった慎吾にとってそれは恐怖すら覚える程だった。

 

恐怖心と戦いながら慎吾は後ろから鬼神の如く迫り来るS2000から必死に逃げようとする。だが、標的をロックオンしたアリスがそれを許さず慎吾を威圧しながらその差を詰めてくる。そして完全にテールトゥノーズとなり、後ろからの威圧感が更に増す。

 

左の低速コーナーの入口でアリスのS2000は強引にインを差してきた。予想外のパッシングに動揺した慎吾は対応が遅れる。アリスはイン側の壁に車体を擦り付けながら慎吾のEG-6を抜き返した。

 

慎吾「(う・・・嘘だろ・・・この俺が、こうもあっさりと・・・)」

 

慎吾はこの時、もしかしたら自分はとんでもなく桁違いな相手とバトルしてしまったと思った。今の自分では到底歯が立たない。踏んできた場数が違う。走りに懸けてきた想いの強さが違う。自分とアリスとの実力の差を慎吾は痛感した。

 

逆境に立たされてこそアリスは真の力を発揮する。あの時、慎吾のバンパープッシュを喰らい窮地に追い込まれたその時点で、このバトルの勝敗は決まっていたのかも知れない。

 

モチベーションを無くした慎吾はアリスのS2000のテールが徐々に離れていくのをただ見送る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

妙義ナイトキッズ対秋名スピードスターズの交流戦は妙義山のコースレコードを大幅に更新したスピードスターズの圧勝で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔妙義山、ゴール地点〕

 

 

 

 

 

??「そんな・・・あのナイトキッズが完敗するなんて。スピードスターズってそんなに凄いチームなんだ・・・」

 

??「慎吾に大差を着けて勝ったあのS2000・・・何者なのかしら。」

 

??「スピードスターズのハチロクとS2000のドライバーはかなり高い能力の持ち主ですね。・・・これは調べてみる価値はありますね。」

 

先程の3人の女性はスピードスターズの実力の高さに驚いていた。ナイトキッズの圧勝という前評判をあっさりと覆したスピードスターズに興味が湧く。

 

??「このまま群馬エリアを総ナメにするつもりだろうけど、碓氷峠最速の私達『インパクトブルー』がいる限りそうはさせないわ。」

 

碓井最速の走り屋チーム、インパクトブルーの沙雪が次の標的として秋名スピードスターズに狙いを定めた。沙雪はドライバーのサポート兼ナビゲーターを務める女性。自らが走る事は無いが常に的確な指示でドライバーを支える縁の下の力持ち的存在だ。

 

後の2人はインパクトブルーを代表する碓井屈指のドライバー。碓氷峠で圧倒的な存在感を放つ2人はどちらも青い車に乗っている。シルエイティーを操るは、抜群のセンスとモチベーションの高さで勝負する感覚派ドライバー、佐藤真子。そしてもう1人、青いエボⅨを操るのはランエボを走らせたら彼女の右に出る者は居ないと言われる【奇跡のエボ使い】の二つ名を持つ天才ドライバー。

 

 

 

 

 

その名も東風谷早苗。

 

 

 

 

 

2人の会話から外れた早苗はゴールしてスピードスターズメンバーから祝福を受けているアリスの方に視線を向けた。

 

早苗の視線の先には何時の間にかゴールして霊夢達からの祝福に1人困惑しているアリスの姿があった。蓬莱から強烈なハグをお見舞いされ、あたふたしてるアリスを差し置いてスピードスターズのメンバーらは和気藹々としていた。

 

早苗「貴女とは一度本気でバトルしてみたい物ですね。その時が来るのを楽しみにしてますよ【七色のドリフト使い】さん。」

 

誰に言った訳でも無く、囁く様にそう零したタイミングでアリスが自分に向けられた視線に気付いたのか早苗の方に振り返った。2人の視線が交錯する。両者がどういう感情を抱いているか、それは本人達にしか解らない。

 

霊夢「アリス、どうかした?」

 

霊夢に声を掛けられアリスは早苗の方から視線を外した。

 

アリス「何でも無いわ。・・・そろそろ帰りましょう。」

 

そう言うとアリスはS2000の運転席に乗り込んだ。バンパープッシュを喰らってからゴールするまでの記憶が曖昧だが、勝ったなら良いかと割り切ってエンジンのセルを回す。

 

早苗は走り去って行くS2000の姿を見届けると雲1つ無い夜空を見上げた。明日になれば今回のバトルの事で走り屋達の間で持ちきりになるだろう。早苗は携帯の画面を開き、スピードスターズのホームページに目を通した。「当面の目標は群馬エリアの制覇」と書かれた文章を見ただけでも意志の強さが伝わってくる。

 

早苗「・・・私はそう簡単にはやられませんよ。全く・・・これから楽しみで仕方がありませんね。」

 

 

 

 

 

何の気なしに呟いた早苗の言葉を聞いた者は誰1人として居なかった。

 

【完】

 

 

 

 





蓬莱!!そのポジションを俺に変われ!!

・・・てな訳でアリスのバトルパートでした。

うちのアリスさんは静かにキレるタイプです。決してぎゃあぎゃあ騒いだりドンパチやったりもしません。

そして早苗さん登場です。やっぱアリスさんのライバルは東方のキャラが一番相応しいと思った次第でございます。

今後も東方のキャラを何人か出す予定です。誰にするかはまだ決まってませんが。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 GARAGE Water Bridge

最近知った事なのですが、アリスさんの母親って神綺さんだったんですね。

・・・ガチで知らんかった(汗)

まぁそこはご都合主義という事で作者の脳内設定を変えるつもりは微塵もありませんが。←開き直り

そんな訳で随分と時間が掛かりましたが第12話です。

タイトルで誰が出て来るか見当が付いてる方が大半でしょう。





・・・あぁ妬ましい。



 

ある日の昼下がり、藤原豆腐店に来客が訪れていた。その客は豆腐を買いに来た訳では無く、豆腐屋の店主の文太と談笑していた。

 

文太「拓海の奴から話を聞いたが、お前ん所の娘も結構なレベルにまで成長してるらしいじゃ無ぇか。」

 

アリシア「そうかしら?私からしたらまだヒヨっ子よ。アンタん所の息子はどうなのよ?」

 

文太「まだまだだな。以前に比べたら少しはまともになってきたが。」

 

客として来ていたのはアリシア・マーガトロイドだった。かつて秋名山を席巻していた2人の伝説の走り屋が引退してから一堂に会する機会は滅多に無い。アリシア自身もこうして文太の元を訪れるのはおよそ2年ぶりだった。

 

文太「豆腐食ってくか?昨日の売れ残りだが。」

 

アリシア「客人に売れ残りを出すってどういう事よ。」

 

文太「偶に来たと思ったらただ無駄話して帰る奴を客とは思っちゃいねぇ。」

 

アリシア「本当、良い性格してるわね。」

 

文太「お互い様だろ。」

 

売り言葉に買い言葉でお互い皮肉を交える。一見仲が悪いのかと思うがこの2人は昔から顔を合わせると前述の様な掛け合いを繰り広げるのだ。特別仲が悪いという事では無いという事だけは言っておこう。

 

冗談混じりに皮肉のキャッチボールをしていた2人であったが不意に文太が話題を変えた。

 

文太「ところで今日は何の用で来たんだ?」

 

アリシア「・・・ちょっと悩みがあるのよ。」

 

さっきまでの明るい空気から一転して神妙な顔付きで悩みがあるとアリシアは打ち明けた。アリシアの暗い表情を見て重要な話だと思った文太は黙って話の続きを促す。

 

アリシア「・・・最近会ってない所為で私の中のアリスちゃん成分が満たされて無いのよ~。」

 

 

 

 

 

文太「・・・は?」

 

 

 

 

 

アリシア「・・・えっ?」

 

表情と悩みの内容の違いに文太は肩透かしを喰らう。アリシアはそんな文太を見て自分が何かおかしな事を言ったのだろうかと疑問に思う。

 

文太「何だそのしょうもない悩みは。」

 

アリシア「しょうもないって何よ!!私からしたら充分な死活問題なのよ!!」

 

文太「そんなもん会いに行けば済む事だろ。」

 

アリシア「それが出来たら苦労しないわよ。今日なんかも久し振りに会いに行こうと思って電話してみたら「車を板金に出しに行くから無理」って断られたのよ。最低でも週に一度は会いたいのにもうかれこれ1ヶ月近くは会えて無いわ。これは最早非常事態よ。」

 

文太「・・・お前の親バカっぷりは良く解ったよ。」

 

呆れて物も言えないとはまさにこの事か、と思いながら文太はしっかりと自立してるアリスに称賛の念を送る。それに比べてウチのバカ息子は・・・とこの場に居ない拓海を心の中で毒ついた。

 

文太「それより、板金に出すなんて珍しいな。お前の娘は一体何をやったんだ?」

 

アリシア「昨日の追いかけっこで何かあったみたいよ。まぁ、詳しい事は聞いてないけどね。」

 

アリシアはアリスから前日のバトルの事については少ししか聞いていなかった。だが普段車を大切に扱うアリスがあそこまで傷を付けたのだから余程許せない出来事があったのだろうと自分なりに解釈する。

 

アリシア「どういう事情があったかは知らないけど、車に傷を入れる程度じゃあまだまだ未熟って事ね。私達はどんな事があっても絶対ぶつけたりなんかしないわ。そうでしょ、文太。」

 

アリシアの言葉に文太は違いないと頷く。事実2人は現役で走り屋をやってた頃、自慢の愛車を事故らせた事など一度も無かった。その点で言えば拓海とアリスはまだこの2人の足元にも及んでいなかった。

 

アリシア「・・・久々に来た訳だし、アンタん所の豆腐でも買って帰るわ。・・・取り敢えず厚揚げ何枚か適当に入れて貰えるかしら。」

 

文太「へいへい、毎度。」

 

折角だから、文太の作った厚揚げを愛娘と一緒に食べようと思いアリシアは携帯を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのアリスはS2000を走らせながら、いつも贔屓にしているディーラーを目指していた。

 

今朝、母親から電話が来て今日会おうと言われたが、昨日の出来事があった所為でとてもそんな気分になれず結局アリスは断った。

 

車を走らせる事約10分、【GARAGE Water Bridge】と書かれてある店の前に車を停める。此処がアリスの行き付けのディーラーである。

 

店の辺りを見渡すとその店のチューナーが仕上げたチューニングカーが所狭しと並べてある。どの車も派手過ぎない程度に仕上げてある所にそのチューナーの拘りが見てとれる。

 

ガレージの方に歩を進めると1人の少女が車のシャシーの下に潜っていそいそと作業をしていた。

 

アリスはその少女に声を掛ける。

 

アリス「こんにちは、久し振りね。」

 

??「あらいらっしゃい・・・って誰かと思えばアリスじゃない。」

 

車の下から出て来たのは首元に白いスカーフを巻き、尖った耳が特徴的なオレンジのつなぎを着た金髪の少女だった。

 

少女もとい水橋パルスィはこの店を1人で切り盛りしていてアリスとは同い年。元々は【水橋商会】を経営してた女性の1人娘で幼少期から母親の仕事の手伝いをしていたが中学卒業を機に独立し今の【GARAGE Water Bridge】を開いた。【シンプル且つ速い車づくり】をモットーに幾多の走り屋達に様々な車やパーツを提供し、若干18歳にして現時点で自身の仕上げた車は軽く1000を超える。今やこの界隈の走り屋から絶大な支持を集めるチューナーにまで上り詰めた。

 

当然だが、アリスのS2000を仕上げたのもこのパルスィで、外観からエンジン、足回りの至る所に彼女の手が加わっている。

 

余談だが、アリスのS2000の外装パーツは全て無限というメーカーで統一されている。外観のパーツを同じメーカーにして統一感を持たせる事もパルスィのモットーの1つである。パルスィ曰く「パーツの手配が面倒じゃなくて済むというのが本音。」と漏らしていたがそこは触れないでおこう。

 

アリス「貴女に板金を頼みに来たわ。」

 

アリスの後ろに停まってるS2000を見てパルスィは眉を顰める。結構な傷の入り具合にパルスィは溜め息をついた。

 

パルスィ「・・・全く妬ましいわね。貴女、一体何を仕出かしたのよ。」

 

アリス「これにはちょっとした事情があって・・・」

 

アリスは事の顛末をパルスィに話した。昨日のバトルやこのような事に至った経緯なども。パルスィは「何やってんのよ・・・」と漏らしていたがやがて「まぁ良いわ。」と言うと真剣な眼差しで車の状態をチェックし始めた。

 

パルスィ「・・・傷の入り方からして車をガードレールにぶつけたみたいね。塗装が剥げてる程度で傷自体は浅いわ。これなら少し手を入れるだけで直ぐに元に戻りそうね。」

 

アリス「それを聞いて安心したわ。」

 

パルスィ「でも今日中は無理よ。直るまでの間この車は預かるからそれまでは此方を使いなさい。」

 

そう言って差し出したのはパルスィが店のデモカーとして使っているNBロードスターだった。

 

ターボは付いておらずコーナリング性能の良さを重視したセッティングになっている。ターボ車を嫌うアリスにとってまさに打ってつけとも言える車だ。

 

「そう言えば、」とアリスは昨日のバトルで最も印象的だった出来事をパルスィに話した。

 

アリス「走り屋の情報に詳しい貴女に聞くけど、この辺のエリアで緑髪の女の走り屋っているかしら?」

 

パルスィ「緑髪?・・・あぁ、それってインパクトブルーの早苗の事ね。」

 

アリス「インパクトブルー?」

 

パルスィ「碓氷峠最速って言われてる走り屋チームで、その名の通り車の色を青で統一しているのが特徴よ。その1人、青いエボⅨを操るドライバーが東風谷早苗。実家が守矢神社って所で早苗もそこの巫女よ。噂によると滅茶苦茶速いらしいよ。妬ましい程にね。」

 

アリス「へぇ・・・」

 

パルスィの説明を聞いてアリスは1人考える。

 

妙義山のゴール地点で一瞬だけだが早苗と目が合った。その時彼女からとても速そうなオーラを感じた。・・・こいつは出来る、アリスの直感がそう告げていたが彼女の走りを見た訳では無かったので自分の勘が正しいかどうかも怪しかったのだが、今の話を聞いて自分の勘が正しかったのだと思った。

 

アリス「私なら・・・勝てるかしら?」

 

パルスィ「やってみなければ分からないけど貴女も妬ましいくらい速いから、多分紙一重の勝負になるんじゃないかしら。」

 

アリス「私はその早苗って人の走りを知らないから何とも言えないわね。・・・そうだ、直接碓氷に行ってどんな走りをするのか観て見ましょう。パルスィ、貴女も一緒に来る?」

 

パルスィ「随分と急な話ね。・・・その突拍子の無さが妬ましいけど、どうせ客も居ないし付いて来てあげるわ。」

 

結局は自営業なのでこれ以上の集客が見込めなければ臨時休業にした所で経営に何ら支障は無い。パルスィはそう結論付け、アリスの提案を受ける事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

群馬と長野の県境に位置するここ碓氷峠はかの有名なドリキンが若かりし日に自らの腕を磨いた場所として知られている。

 

今でも走り屋達が夜な夜なドラテクを磨いており、群馬エリア屈指の走りのスポットと言っても過言では無い。尚、碓氷峠は道幅が狭く見通しも悪い為、この峠を走る場合はかなりの技量が要求され、故に碓氷峠は総じて高いレベルを持った走り屋達が密集している。

 

その碓氷の走り屋達の中でもインパクトブルーは群を抜いているとはパルスィの弁。

 

 

 

 

 

さて、アリスとパルスィはそのインパクトブルーの走りを一目見ようとこうして碓氷峠にやって来た訳だが・・・

 

アリス「・・・で、何でママが此処にいるのよ。」

 

何故かそこにはアリシアが居て、しれっとアリス達の輪の中にに紛れ込んでいた。

 

・・・厚揚げを片手に。

 

アリシア「つれない事言わないの。私はアリスちゃんに会いたかったのよ~。」

 

アリシアはアリスの携帯に連絡してみたが繋がらず仕方なくアリスの家に向かっている道中、NBロードスターを運転するアリスを見つけて此処まで付いて来たという訳だ。

 

アリシア「私の電話を無視するなんて何時からそんな冷たい子になったのかしら。・・・これはお仕置きが必要ね。」

 

お仕置きという言葉にアリスは顔を青くする。お仕置きと言ってもアリシアはアリスに対して暴力を振るったり暴言を吐く訳でも無い。では何故アリスはそんな態度を取るのか?原因はそのお仕置きの内容にあった。

 

アリシア「必殺、全身羽交い締め!!」ガシッ!!

 

アリス「イヤアァァァァァ!!」

 

全身羽交い締め・・・それは関節技でも何でも無く只の抱擁なのだが、問題なのは所構わずそれをやるという事。アリスが小学生ならまだしも、思春期真っ盛りの高校生が母親からの分厚い抱擁を喰らったら、アリスにとってそれは最早拷問でしか無い。

 

アリシアは何かある度に【躾】と称してそれをやってきた。

 

アリス「ママ、お願いだから離してよぉ・・・」

 

アリシア「い~や~だ♪」

 

満面の笑みでキッパリと断る母親を見てやっぱりかと肩を落とす。1人空気となったパルスィは隣で「妬ましい・・・」とボヤきながら碓氷に来た目的を忘れていないか確認をとる。

 

パルスィ「あのねぇ、そう言う茶番は後にしてくれないかしら。アリス、貴女は此処に来た目的を忘れて無いでしょうね?」

 

アリス「勿論覚えてるわよ。でもママが・・・」

 

アリシア「あら、貴女確か水橋商会の所の娘じゃない。」

 

パルスィ「・・・今頃気付いたんですか?久方振りですね、アリシア・マーガトロイドさん。」

 

アリシアはパルスィとは面識があった。・・・正確には彼女の母親と面識があったのだが。パルスィの母親とはアリシアが10代の頃からの付き合いで自身が知ってる知り合いの中では最も付き合いの長い友人である。パルスィの母親はアリシアが文太と組む前に彼女と組んで秋名山を攻めていた元走り屋でその当時の愛車はサバンナRX-7(FCより前の型)。2人の車の色から【紅白のロータリー使い】と言われ、当時では今よりも女性の走り屋の存在が珍しかった為人気があったのだが、活動期間僅か2年という短さで走り屋を引退した。その2年後秋名の走り屋達を裏から支えたいという理由で水橋商会をオープン。腕前の良さと過去の名声、そしてその時には既に秋名の守護神的存在にまでなっていたアリシアの宣伝効果もあって瞬く間に店は繁盛していった。

 

パルスィは12歳の時にマーガトロイド親子と知り合っている。その時のアリスはアガリ症で人見知りが強かった事もあり、パルスィが話し掛けても碌に応答も出来ずアリシアの後ろに隠れてばかりだった。あれから6年、あの時からアリスは心身共によく成長したものだとパルスィは1人思う。

 

思い出に耽っていると、先程までとは違うスキール音が近付いて来て3人は会話を中断する。

 

周りのギャラリーの騒ぎようから見ていよいよインパクトブルーのお出ましかと3人は視線をコーナーの先に集中する。スキール音が聞こえて来てからそう時間が経ってない内に先のコーナーから1台の車が飛び出して来た。特徴的なリアウィング、漆黒の闇を照らす2つの横長のヘッドライト、グリルのド真ん中に3つの菱形のエンブレムが付いてる【それ】は東風谷早苗のエボⅨだった。

 

エボⅨはフェイントモーションを使い、先のコーナーから次のコーナーへと流しっぱなしで進入する。驚異的なスピード且つ理想的なラインを描いて3人の目の前を通り過ぎて行った。

 

アリス「(・・・速い!!)」

 

パルスィ「この狭い碓氷のコーナーを流しっぱなしで抜けるなんて、妬ましいくらい凄腕の持ち主ね。」

 

アリシア「へぇ~、最近の走り屋にしては結構やるわね。最も、本人は軽く流してるつもりなんでしょうけど。」

 

アリス「あれで流してるの!?・・・信じられないよ。」

 

普通ターボ車はコーナーの突っ込みではNA車に劣るというのが世間一般の常識なのだが、今のエボⅨはNA車に匹敵する程の進入スピードで突っ込み、スピードを落とさないまま抜けて行った。

 

それだけでも衝撃的だったのだが、更に凄い事に今のでまだ本気では無いと言うのだ。アリスとパルスィはてっきり全開で攻めていたかに思えたがアリシアだけはその事実をしっかりと見抜いていた。

 

アリス「・・・何て言うか、世の中広いわね。あの走りは常識では語れない程の何かがあるわ。」

 

パルスィ「何言ってんのよ、貴女だって私から見たら充分非常識な走り屋よ。」

 

アリス「ふえっ!?・・・そ、そうかしら。」

 

パルスィ「自覚が無いとは・・・何て妬ましい。」

 

パルスィは終始妬ましいと連呼しながら先程の早苗の走りを見て、奇跡のエボ使いの異名は伊達では無いと感心していた。

 

【完】

 

 




皆さんの予想通り、パルスィさんが登場しました。

ここいらでこの小説での東方キャラの設定をしておきます。ついでに早苗さんも一緒に。





水橋パルスィ

好きな事・・・日本車、車いじり

嫌いな事・・・外車、派手な車、妬ましい事全て

妬ましいが口癖。アリスと同い年でありながら自らのディーラー【GARAGE Water Bridge】を経営する少女。メカの知識は霊夢と同等。小学6年の時にアリスと出会い、以降アリスは彼女のディーラーの常連となっている。【シンプル且つ速い車造り】をモットーとしている為、派手なパーツやデコレーションを心底嫌う。彼女がディーラーを経営する事になった経緯は本文に書いてある通り。





東風谷早苗

愛車・・・ランサーエボリューションⅨ

カラー・・・ブルーマイカ

好きな事・・・MT車、自身の2つ名、釜飯

嫌いな事・・・AT車、ワゴン車、差別・偏見

碓氷峠最速の走り屋チーム、インパクトブルーのエースの1人。その実力はもう1人のエースである佐藤真子以上。データや駆け引きを重視して走る所謂理論派ドライバー。【奇跡のエボ使い】と称され群馬エリアでは彼女以上にランエボを操れるドライバーは居ないと言われている。また、早苗自身もその2つ名を気に入っている。妙義での交流戦の際にアリスの走りを見て衝撃を受けると同時にライバル心を抱く。





・・・という所です。

この2人は今後も出番があります。特に早苗さんに至ってはアリスさんのライバルポジですのでパルスィさん以上に登場させる予定です。

ではサヨナラ!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 アリスのドラテク特訓教室(魔理沙の場合)

ヨッシャァァァァァ!!

前回の投稿から僅か2日で次の話を書き上げたぞぉ!!

見たか!!これが俺の底力だあぁぁぁぁぁ!!





・・・すいません、嘘です(泣)

本当はストック分を少し修正して投稿しただけです・・・

ぶっちゃけ仕事中も今後この物語をどう展開させて行くか考えてます。・・・じゃないと次の更新が超不定期になりますので。



 

キーンコーンカーンコーン♪

 

昼休みを告げるチャイムが鳴り、ほとんどの生徒が教室を出て我先にと食堂へと向かう。その集団から少し遅れてアリスが教室から出て来た。彼女も今日は食堂を利用するのだ。

 

いつもなら彼女は弁当を作ってきていて教室で1人食事を摂る筈だが、寝坊した所為で弁当を作れず仕方なく食堂を利用する事になった訳である。

 

学校の食堂は広く、アリスが遅れて来ても空席が何個かあった。特別食べたいメニューがある訳では無いので適当に定食を注文して料理が出来るのを待つ。

 

運ばれて来た料理を手に取り、空いてる席を探していると・・・

 

魔理沙「おーい、こっちだぜ。」

 

魔理沙が手を振ってアリスを呼んでいた。断る理由も無いのでアリスは魔理沙の元へと向かう。

 

アリスが席に着くと周りには魔理沙の他に霊夢に上海、蓬莱といつもの面子が集まっていた。

 

魔理沙「アリスが食堂に来るのも珍しいな。」

 

アリス「今日、寝坊したからお弁当作って無いのよ。」

 

上海「先輩が寝坊するなんて、高校に入って初めてじゃないですか?」

 

アリス「・・・そうね。昨晩、碓氷峠に行って来たから帰るのが遅くなったのよ。」

 

霊夢「碓氷峠に何しに行ったのよ?」

 

アリス「インパクトブルーの走りを見に行ったわ。」

 

インパクトブルーと言う単語を聞いた途端、霊夢の顔付きが変わる。霊夢も走り屋の情報には詳しく当然インパクトブルーの事も頭に入っている。

 

霊夢「・・・で、どうだったのよ。インパクトブルーの走りは?」

 

アリス「どうもこうも無いよ。軽く流しているレベルでも物凄く速かったわ。」

 

魔理沙「よくそんな事が解ったな。」

 

アリス「私が気付いた訳じゃ無いよ。ママが気付いたのよ。」

 

魔理沙「お前の母さんチートだな・・・」

 

霊夢「多分、私でも気付かないわ。」

 

アリスの母、アリシアは車の挙動1つでその車のセッティング内容やドライバーの心理状態を一瞬で見抜く事が出来る。アリスは以前、その秘訣を聞いてみたが「自分で見つけてみなさい♪」と一蹴された。我が母ながらバケモノ染みているとアリスはその時思った。

 

霊夢「所で、アンタのS2000、いつ板金から帰ってくるのよ?」

 

アリス「ついでに他のパーツが傷んで無いか確認するって言ってたから、後2、3日って所かしら。」

 

あのディーラーはパルスィが1人で経営しているのでいくらアリスが贔屓にしてるからといって彼女の車に掛かりっきりという訳にはいかない。だがパルスィは手際が良い事をよく知っているので長く見積もってもその程度だろうとアリスは判断する。

 

魔理沙「なぁアリス、頼みがあるけどさぁ、今夜秋名山でドラテク磨こうと思うけど、付き合ってくれねぇか?」

 

突然の魔理沙のお願いにもアリスは笑顔で「良いよ。」と返事をする。だがそれを聞いていた霊夢が顰めっ面になり、喜んでいる魔理沙に釘を差した。

 

霊夢「アンタ、またこの間みたいに『恐怖のダウンヒル!!霧雨魔理沙、コーナー3つで失神事件!!』にならないでよね。」

 

魔理沙「縁起でもねぇ事言うなよ!!」

 

上海「どうして魔理沙さんは1度恐い思いをしたのに先輩の車にまた乗ろうと思ったのでしょうか。私だったら2度と乗りませんよ。」

 

アリス「上海、貴女随分と辛辣な態度を取るのね・・・」

 

上海の一言にアリスは顔を引き攣らせる。普段は大人しい上海だが、偶にこうして毒を吐くので案外油断出来ない。しかも無意識と来たものだから余計に質が悪い。だが普段から蓬莱に振り回されている事をよく知っているので憂さ晴らししたい気持ちも分からなくは無い。それにアリスはこの程度で怒る程器は小さく無いという事を覚えておこう。

 

アリス「所で、蓬莱はさっきから一言も喋って無いけど何かあったの?」

 

上海「それが朝からずっとこんな調子でして・・・」

 

蓬莱「・・・・・・。」ボーッ

 

皆さんは気付いたであろうか。いつもハイテンションな蓬莱がいつになく大人しい事に。心ここにあらずといった表情でアリス達の会話に全く参加していない。

 

アリス「蓬莱、どうしたのよ。」

 

蓬莱「・・・蓬莱、只今電池切れです。」

 

蓬莱はそれを言うと「保健室で寝てきます。」と言って食堂を後にした。何があったか上海に聞くと、どうやら昨日遊び過ぎたらしい。それを聞いたアリスと霊夢は「自業自得じゃない。」と呆れ果てていた。

 

魔理沙「じゃあ私も保健室で寝てくるぜ。」

 

アリス「ダメに決まってるでしょう。そうやって魔理沙はまた授業をサボろうとする。」

 

魔理沙「お前は保護者か!?」

 

魔理沙の突っ込みに霊夢は堪らず吹き出し、上海は苦笑いを浮かべる。もしこの場に蓬莱が居たら魔理沙を弄り倒していたに違いないであろう。

 

アリス「それで、待ち合わせ場所には何時に行けば良いの?」

 

魔理沙「いいや、その必要は無いぜ。私がアリスん家に迎えに行くからアリスはその時間に家に居れば問題ないな。私の車で行くからアリスの車はいらないぜ。」

 

アリス「あら、乗せて行ってくれるの?珍しいわね。」

 

魔理沙「その代わりガソリン代はアリス持ちだからな。」

 

アリス「ちゃっかりしてるわね・・・」

 

魔理沙の魂胆を知ったアリスは魔理沙だから仕方無いと諦める。どうせ魔理沙の事だから帰る頃になれば夕食を奢る羽目になるだろうと多めにお金を持って行こうと思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校が終わり、日も暮れた時間帯の秋名山にアリスと魔理沙は居た。アリスは車を持って来ておらず秋名の頂上に停まっているのは魔理沙のFDだけだ。

 

現在、魔理沙はサイドブレーキを使ったドリフトの練習をしている。

 

 

 

 

 

魔理沙「サイドターンの練習?」

 

アリス「そ。まずはタイヤが滑る感覚を体で覚える事が大事よ。でもいきなりコースに出ると危ないから、何回かこの場でサイドターンを繰り返してコツを掴むのよ。」

 

魔理沙「今回は前みたいにコースに出て実践的な技術を磨かないのか?」

 

アリス「実践的な技術よりもまずは基本を磨く事が重要ね。サイドターンも一見簡単に見えるけどステアリングとのタイミングがキモなの。」

 

魔理沙「・・・ドラテクってかなり奥が深いな。」

 

ドラテクの基礎を身に付けなければ実践テクニックは覚えられないが、そう易々と覚えられる物では無い。ドリフトの初歩であるサイドブレーキドリフトでさえもマスターするまで早くても1ヶ月は掛かる。それだけ峠のテクニックは奥が深いのだ。

 

今や数多くのドリフトを使いこなせるアリスでさえもサイドブレーキドリフトをマスターするまで数日は掛かった。最も、それでも充分早い方なのだが。

 

アリスは以前、つい本気を出し過ぎて魔理沙を失神させてしまった事を反省し前回みたいに段階を端折るのでは無く、きちんと1から基礎を徹底的に教える事を決めていた。

 

魔理沙「アリス、大分コツを掴んできたぜ。」

 

何度かサイドターンを続けている内にステアリングとのタイミングが分かってきた様で魔理沙はアリスに嬉々とした表情でそれを伝える。アリスは外からFDの様子を見てそろそろ次のステップに進んでも良い頃だと決める。

 

アリス「じゃあ次は実際にコースに出てサイドブレーキドリフトの練習をしましょう。」

 

魔理沙「オォ!!やっと次の段階に入るか!!・・・あぁ、でもなぁ・・・」

 

急に言葉を濁した魔理沙にアリスは何事かと首を傾げる。魔理沙は頬を掻きながら「・・・え~っと」と言いにくそうにしながら次の言葉を発する。

 

魔理沙「その・・・いきなり上手く出来る自信が無いから、何個かのコーナーはアリスが手本を見せてくれ。」

 

アリス「えっ!?・・・う~ん。」

 

アリスは返答に困った。というのもこのまま安請負をしてしまったら、この間の二の舞になってしまうのでは無いかと不安になったのと、今回は車を運転せずに助手席からレクチャーしようと決めていたからである。

 

魔理沙も前回のアリスの走りは確かに恐かったが、それでも自身のレベルアップの為にはアリスの教えは必要不可欠と考え、こうして懇願している。

 

アリスにはその気持ちが良く解るので、必死で懇願する魔理沙の姿を見ていると自分の判断が正しかったのかどうしても揺らいでしまう。

 

魔理沙「なぁ頼む、この通りだ!!」

 

終いには地べたに両手を着けて土下座をする始末。アリスは魔理沙をそこまでさせてしまった自分の優柔不断さに腹が立ち、そして情けなく思った。何時から親友の願いも聞かない程貴女は偉くなったつもりかしら、とアリスは自分を心の中で叱咤した。

 

アリス「・・・分かったわ。但し、コーナー3つまでよ。それ以上はいくら頼んでもダメだから。」

 

魔理沙「本当か!?サンキューだぜ!!」

 

結果的にアリスが折れる形となり、了承の返事をした。それを聞いて喜ぶ魔理沙を見てアリスは前回のデジャブとならない様に気を引き締めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリス「それじゃあ始めるけど、恐くなったら遠慮せずに言って頂戴。」

 

魔理沙「おう!!」

 

アリス「じゃあ・・・行くよ!!」

 

FDのギアを1速に繋げると、アリスはアクセルを一気に全開にした。ホイールスピンを発生させながらアリスの乗ったFDは秋名のコースへと飛び出した。

 

キンコン、キンコン♪←鳴りません!!

 

聞く者を虜にさせる程のロータリーサウンドを奏でながらFDは第1コーナーへと差し掛かる。魔理沙は恐る恐るといった様子で隣のアリスに声を掛ける。

 

魔理沙「い、いきなり行くのか?アリス。」

 

アリス「・・・・・・」

 

魔理沙「ア、アリス?」(汗)

 

アリス「・・・えっ!?そ、そんな訳無いよ。あくまで見本を見せるだけだから手加減してるに決まってるじゃない。(・・・危ない、つい本気で走る所だった。)」

 

ついムキになりそうな所をどうにか抑えたアリスはコーナー手前でブレーキを踏む。その行動に魔理沙は首を傾げた。

 

魔理沙「なぁ、サイドブレーキドリフトをするのに何でブレーキを踏む必要があるんだ?」

 

アリス「あぁ、この方が荷重が前に移ってよりリアを滑りやすくするのよ。」

 

魔理沙「・・・成る程。」

 

そう言った直後、

 

 

 

 

 

ガッ!!←サイドブレーキを引いた音

 

 

 

 

 

魔理沙「のわぁ!?」

 

急にサイドブレーキを引いたものだから心の準備が出来ていなかった魔理沙は素っ頓狂な声をあげた。悲鳴をあげそうになるのを必死に堪えて、魔理沙はアリスの手足の動きを観察する。

 

アリスの右足はアクセルの開度を調整している為、とても忙しなく動いている。それとは対照的に右手の方はある程度ステアリングを切った所でピタリと動きを止めコーナーを立ち上がるまで1ミリたりとも動かしていなかった。因みにその間左手はシフトレバーに置きっぱなしであった。

 

言い方は悪いがアリスにしてみればこれは軽く遊んでる程度なのだが、そんな事が魔理沙に分かる筈も無く・・・

 

魔理沙「(これの何処が手加減してるんだあぁぁぁぁぁ!!)」

 

と心中穏やかでは無かった。

 

アリス「・・・う~ん、今の走りは私的には50点って所かな。」

 

魔理沙「(あれで50点かよ・・・)」

 

信じられない事に今のアリスの走りは自身の中では低評価だったらしい。一体何が気に食わなかったのか、恐らくそれは我々凡人には到底理解出来ないレベルの問題なのかも知れない・・・

 

どうにかこうにか2度目の失神を免れた魔理沙は頂上に戻るや否や地べたに座り込んだ。強気な魔理沙がここまで疲弊しているので、やはりアリスのドライビングはクレイジーである。

 

こうしてアリスのドラテク講習会は疲労がピークに達した魔理沙が続行断念した事により強制終了となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、池谷達が勤めるガソリンスタンドには1人の少女が来店していた。

 

池谷「・・・俺の事だけど、何の用かな。」

 

??「何寝惚けた事言ってるんですか。・・・私が此処に来た目的、貴方ならもう既に気が付いてるんじゃないんですか?」

 

緑髪を靡かせて、池谷の前に立つ少女はそう言うと顔に強気な笑みを浮かべた。少女の傍らには彼女が乗って来たと思われる車が停まっていた。青く輝く車、それはこのエリアでは知らぬ者は居ない「奇跡のエボ使い」が乗るエボⅨ。

 

 

 

 

 

・・・そう、このガソリンスタンドに来た少女の正体はインパクトブルーの東風谷早苗だった。

 

早苗は呆然とする池谷に向かってこう切り出した。

 

早苗「・・・私達インパクトブルーの挑戦を受けてくれますか?」

 

 

 

 

 

話は数分前に遡る・・・

 

【完】

 

 

 

 

 

 

 

 




なんだかスッキリとしない終わり方になりましたが偶にはこういうオチもアリかなと。

早苗さんがスタンドに来た事により次のバトルの相手はインパクトブルーに決まりました。これからバトル描写もより面白くしていきたいと思いますので楽しみに待ってて下さい。





・・・あれ、もしかして俺、ハードル上げちゃった?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 早苗の実力


まず始めに一言。

今回、アリスは出番無しです。代わりにライバルの早苗の方に焦点を当ててみました。

早苗の速さの秘密が解る!!・・・かも(汗)



秋名山にてアリスの走りに魔理沙が心の中で絶叫していた頃、池谷達はいつも通りガソリンスタンドで働いていた。

 

スタンドには何時もの如く健二が来ており、今日もスタンドは和気藹々としていた。

 

その時、1台の青い車がスタンドにやって来た。池谷達は何時もの様に一般客として対応する。しかし、その客は何故か車から降りてきた。普通の客なら車を降りずに窓を開けてガソリンの種類と入れる量を告げる筈。もしかしてと池谷は思わず身構える。

 

青い車・・・エボⅨから降りてきたのは早苗だった。取り敢えず池谷はいらっしゃいませと声を掛ける。

 

早苗「・・・ハイオク満タン、入れて下さい。」

 

池谷「(・・・なんだ、只の客か。)はい。ハイオク満タン!!」

 

拓海・樹「「はい!!」」

 

自分の思い過ごしかと思い、池谷は拓海達にハイオクを満タンに入れるように指示する。ガソリンを入れてる最中、早苗が池谷の元に歩み寄って来た。

 

早苗「私、東風谷早苗と言います。秋名スピードスターズの池谷さんって貴方ですか?」

 

池谷「・・・俺の事だけど、何の用かな。」

 

名指しで呼ばれた池谷はしばし考える。

 

自分と早苗と言った彼女とは何の面識も無い。しかしこの彼女は自分がスピードスターズのメンバーだと言う事を知っている。

 

・・・とすれば、考えられる事はと思った所で早苗がおもむろに口を開いた。

 

早苗「何寝惚けた事言ってるんですか。・・・私が此処に来た目的、貴方ならもう既に気が付いてるんじゃないですか?」

 

この言葉を聞いて只の憶測に過ぎなかった事が池谷の中で確信に変わった。もしかしなくてもこの娘は・・・

 

池谷は恐らく早苗が言うであろう次の一言を黙って待った。

 

早苗「私達、インパクトブルーとのバトルを受けてくれますか?」

 

早苗は顔に強気な笑みを浮かべながら単刀直入に用件を伝えた。それを聞いてやはりそう来たかと池谷は思ったが、直ぐには返答しなかった。何故ならチームリーダーとして言っておかなければならない事があったからだ。

 

池谷「言っておくが、俺達スピードスターズは地元でバトルする気は無い。もし君達が秋名でバトルするつもりで此処に来たのなら、・・・悪いけどお引き取り願おうか。」

 

この時早苗は池谷が二つ返事で了承してくれるものだと思っていた。ところが予想と違った返し方をされ早苗は表情にこそ出ていなかったが、内心ではとても驚いていた。

 

とはいえ、早苗の中に帰るという選択肢は毛頭無かった。池谷の言葉を言い換えると、要するに彼女らの地元でやるならバトルを受けても良いと言ってるのである。この条件は彼女達にとってはむしろ有利な条件となるのだ。それを態々断って帰るなど、そんな馬鹿な真似をする筈が無い。

 

早苗は池谷に了承の返事をする。池谷は交流戦の日にちと時間を伝えると早苗から離れようとした。だが早苗にはもう1つの要件が残っていた。先のやり取りと関係はあるがインパクトブルーとは関係の無い個人的な要件が。

 

早苗「それと【七色のドリフト使い】に伝言を頼めますか?」

 

池谷「・・・!!」

 

池谷は思わず足を止めた。その場に居た拓海と樹も作業の手を止める。七色のドリフト使いとはアリスの二つ名だと言う事は知っていたが、何故その名前を早苗が出したのか、池谷にはその意図が解らなかった。

 

因みに話は逸れるが、池谷を含めスピードスターズのメンバーのほとんどがアリスの二つ名は秋名山のギャラリーが言い始めた事だと思っていた。まさかその出所がスピードスターズの【誰かさん】が言い出した事だという事実を彼らは知る由もないであろう。

 

 

 

 

 

給油も終わり、キャップの閉め忘れが無いかを確認し、客としての対応を終えた所で早苗に先程の話の続きを促した。

 

池谷「さて、うちのチームのドライバーに伝言があるって言ってたな。要件は何かな。」

 

早苗「次の交流戦でインパクトブルーの東風谷早苗が【七色のドリフト使い】とバトルが出来る事を楽しみにしてると伝えて貰えますか。」

 

池谷「・・・その要望が叶う保証は無いけど、分かった。一応伝えておくよ。」

 

取り敢えず自分の言いたい事は相手に伝えた。早苗は自分の車に乗り込むと颯爽と駆ける様な走りでガソリンスタンドを去って行った。

 

拓海「池谷先輩、今のは・・・」

 

池谷「・・・あぁ、恐らくアリス宛への挑戦状だろう。それにあの雰囲気、流石は奇跡のエボ使いと言った所か。」

 

樹「何処かで聞いた事あると思ったら・・・まさか!?」

 

そう言うと樹は何時の間にか持って来ていたスポーツカー雑誌を手に取り、ペラペラと捲り始めた。

 

樹「・・・青いエボⅨ、奇跡のエボ使い、・・・あった、この娘だ!!」

 

樹が開いたページの中には、ド派手なドリフトを見せるエボⅨと、そのエボⅨのボンネットに座ってカメラに向かってウィンクとピースサインをする早苗の姿を写した2つの写真が載せられていた。「碓氷峠に彗星の如く現れた奇跡のエボ使い、東風谷早苗の素顔に迫る!!」とやたら長い見出しを付けた彼女の記事はおよそ2頁に渡って特集されていた。

 

樹曰く、こういう雑誌の特集記事に2頁を費やすのはレッドサンズの高橋兄弟以来なのだと言う。

 

しかし、高橋兄弟を特集した時の場合は2人で2頁という使い方をしていた為、1人の走り屋を2頁にも渡って特集する事はこれが実質初めてという事になる。

 

拓海「・・・凄いですね。写真を見ただけでもこのドライバーの凄さが解りますね。」

 

池谷「・・・ドリフトは速く走り為の過程で覚えただけであって、目的その物では無いか・・・」

 

早苗のインタビュー記事を見ながらそう呟いた池谷は何気なくその次のページを捲った。すると次のページには1台の車がカメラに写し出されていた。ドライバーの情報が無い事から、恐らく隠し撮りした物だと思われる。しかし池谷達はその車に見覚えがあった。

 

池谷「これって、アリスのS2000じゃないか?」

 

ドライバーの写真とかは載って無いので確証は無いがその車はどう見てもアリスのS2000と瓜二つだった。無限で統一されたエアロパーツ、同じく無限のブロンズのアルミホイール、青白く光るヘッドライトetc....。

 

その外観的特徴がアリスの車と良く酷似していた。

 

樹「アリスの奴、こんな取材を何時受けたんだ?」

 

拓海「・・・イヤ、多分その線は間違いだと思うよ。」

 

池谷「どういう事だ?」

 

拓海「無免許の時からずっと秋名を走ってたって言ってましたから、公になると色々マズイと思いますよ。」

 

池谷「無免の時からって、アリスは何時頃から秋名を走ってるんだ?」

 

拓海「俺が聞いた話では12歳の時から秋名を走ってたって言ってましたよ。だから運転歴では俺よか長いっすよ。」

 

拓海が車を乗り始めたのは13歳の頃。父文太が配達の手伝いを拓海に強要した事が切っ掛けだった。つまり拓海は今年で運転歴5年になる。単純に計算するとアリスは拓海より1年程運転歴が長いという事だ。余談だが、アリスが車に乗る様になった切っ掛けは【秋名の2大巨頭】と呼ばれた母アリシアへの強い憧れがあったからである。

 

その話を何時の間にか隣で聞いていた祐一は息子(娘)に法を破らせる親が何処に居るんだと思い、1人頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガソリンスタンドを出た早苗はその足で帰路に着いた。だが直ぐに就寝はしない。彼女には寝る前にある事を日課にしていた。

 

彼女は守矢神社の敷地内にある母屋を住処にしている。その母屋から更に奥に進むと学校のグラウンド並の広さを持つ中庭に出た。中庭に着いた早苗はそこに車を停めると、物置からパイロンを何個か取り出して規則的に並べ始めた。

 

そうして出来たのは即席で作ったジムカーナのコースだった。

 

早苗はこうして即席でジムカーナを作っては毎晩違うコースを自分で考えて走り、自身のドラテクの向上に励んでいる。だがそれだけでは飽き足らず、暇さえあればサーキットの草レースに参加している。早苗は自身のドラテクを極める為なら弛まぬ努力を一切惜しまない。

 

以前はプロのレーサーになる為に走り込みの練習を積み重ねてきたが今ではそれに加え、自身がライバル視しているアリスに勝つ事を目的に日々精進を重ねている。

 

今までは女というハンデを逆手に取って男の走り屋を追い詰める事をモチベーションとしてきたが、今回ばかりはそれが通用しない。だからといって同じ女の走り屋に負ける訳にはいかない。

 

今度のバトルは自分にとって特別な意味を持つ事になるであろう。だからこそ、態々ガソリンスタンドに出向いてスピードスターズに宣戦布告をして来たのだ。

 

早苗「(・・・もし情けない走りをしたら、奇跡のエボ使いの名が廃る。だから悔いだけは残さない!!)」

 

あれだけの事をしておきながら無様な走りを見せようものならチーム内のみならずアリスにも笑われてしまう。こうして啖呵を切った以上は自分が持っている技術を総動員して挑むつもりだ。

 

普通ならプレッシャーを感じる所だが、東風谷早苗はそれをモチベーションの糧としていた。しかし早苗の走りの本質は常に緻密な作戦を練って正確な理論を持って相手の欠点を突く走りを主にしている。

 

ジムカーナで鍛えた腕を持つ早苗は低速コーナーの処理が抜群に上手い。道幅が狭く、アベレージスピードが低い碓氷峠のコーナーも彼女の手に掛かればいとも容易く処理出来てしまう。しかもありとあらゆるコーナーの全てをだ。

 

その中でも低速コーナーはまさに彼女の独壇場と言える。アウト・イン・アウトのライン取りは勿論、ドリフトしながら車をクリップに付ける技術、低速ギアのパンチの強さを活かした立ち上がり加速で他を凌駕する。

 

こうした技術を習得するまでにかなりの年月を要した。だから早苗は自身が身に付けた技術にはプライドがある。

 

今度のバトルでは、そのプライドと奇跡のエボ使いの誇りを賭けてアリスを迎え撃つ。明日からは対スピードスターズ戦に向けた作戦会議やら何やらで忙しくなるだろう。

 

最後は華麗なスピンターンでフィニッシュした早苗はパイロンを片付けて母屋へと戻り漸く就寝する事にした。

 

早苗「(早く彼女と走りたい。その日が待ち遠しいですよ。)」

 

布団を被り、横になった早苗は沸き立つテンションにワクワクしながら眼を瞑った。

 

【七色のドリフト使い】対【奇跡のエボ使い】のバトルは直ぐそこにまで迫っている。

 

・・・果たして勝つのはどっちだ。

 

【完】

 

 

 

 





自分で書いておいてアレですが、最後の方がメチャクチャになってしまい少し分かりにくかったと思います。

反省しないと・・・

話は変わりますが、イニDのユーロビートこそ至高と思っていましたが、東方ユーロもなかなか良いですね。Drive My LifeとかGrip&Break down!!とかEndless Sleepless Nightなんか特にね。

後、活動報告の方に質問コーナーを設置しました。気になる事があったら書き込んで下さい。質問返しは後に茶番回を作って、その本文の中で答える予定です。





・・・書き込み無かったらどうしよう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 釜飯で勝利祈願


毎度どうもです。

連休中という事で沢山投稿出来る!!・・・っと思っていたらこの体たらく。・・・なんてこったorz

作者の頭が低レベルなんだから仕方ない(コラ!!)




 

『車の修理が終わったから取りに来て頂戴。』

 

学校帰りにパルスィから連絡を受けたアリスは制服姿のまま代車のNBロードスターを走らせ大急ぎでディーラーへと向かう。

 

何せパルスィのディーラーは群馬エリアの走り屋達から絶大な支持を集めているディーラーなのだ。この時間帯から客も増え始めるので、急がなければ他の客の対応に時間を取られて自分の用件が後回しになってしまう。

 

アリスがこうして急ぐのには理由がある。実はこの後、池谷から至急ガソリンスタンドに来るようにと呼び出されたのだ。それも自分1人が。

 

自分1人が呼び出されたとなると考えられるのは池谷個人の用件か。それにしては電話口での池谷の声がかなり切羽詰まってた様な印象を受けた。つまり自分を呼び出したのはそれなりに重要な理由があるという事なのだろうか。

 

 

 

 

 

考え事をしているうちに車は【GARAGE Water Bridge】に辿り着いた。アリスは考えるのを止め、恐らくパルスィが居るであろうガレージに向かって歩を進める。

 

ガレージに着くとそこには案の定パルスィがおり、1人で作業をしていた。

 

アリス「こんにちは、パルスィ。」

 

パルスィ「いらっしゃいアリス。車、出来てるわよ。」

 

パルスィはそう言うと自分が作業している車の横を指差した。視線を移すとそこには完璧なまでに元通りになった我が愛車S2000があった。たった2、3日で元に戻したパルスィの腕の良さにアリスは感嘆する。

 

シートに座ってエンジンを掛ける。・・・とここでアリスは何かに気付いたのか隣のパルスィに疑問をぶつけた。

 

アリス「ねぇパルスィ、もしかしてセッティング変えた?」

 

パルスィ「良く気が付いたわね。細かい部分を変えただけなのに。」

 

どうやらパルスィはアリスの車を板金するついでにエンジンや足回りを弄ったらしい。アリスは本来、自分以外の人間が自分の車を弄る事を良く思ってはいない。だがパルスィに関しては自分が頼まない限り勝手にパーツを付ける様な真似はしないので特に思う所は無い。元より心配すらしていないが。

 

パルスィ「大まかに説明するとまずエンジンのオーバーホール(以下OH)に圧縮比の変更ね。まぁOHは貴女が定期的に点検してたみたいだからそんなに時間は掛からなかったわ。それとコンピューター系統(以下ECU)のセッティングの見直しに後は左右のアライメントのバランスの狂いを直したわ。・・・取り敢えずはこんな所ね。」

 

アリス「それをたった3日で仕上げたの!?」

 

流石は県内屈指の腕前を持つチューナー、水橋パルスィ。その作業1つ1つに無駄が無く、それでいて素早い。アリスは改めてパルスィの手際の良さを再確認させられた。

 

アリス「それで合計幾ら?」

 

パルスィ「7万円でいいわ。」

 

アリス「はぁ!?・・・いくら何でも安過ぎじゃないの?」

 

予想していた金額よりも遥かに安い値段であった為、何かの間違いなのではと思ったがパルスィ曰く、

 

パルスィ「車のセッティングは私が勝手にやった事だから、その御代は要らないわよ。」

 

・・・との事らしい。何と言う器の広さだ。

 

アリス「全く貴女って人は、・・・その器の広さが妬ましいわね。」

 

パルスィ「・・・人の真似してんじゃ無いわよ。妬ましい。」

 

アリスがパルスィの物真似をしてパルスィがそれに対して突っ込みを入れる。6年に及ぶ付き合いは2人の関係を只の店員と客という枠を超えて互いに信頼し合う友人同士という関係にまで発展させた。

 

本当だったら何時ガレージに引き篭もってるパルスィを峠やらファミレスやらに誘うのだが、先約があるので生憎そういう訳にはいかない。アリスは代金をパルスィに渡すと帰ってきた愛車を走らせながらパルスィの店を去って行った。

 

パルスィ「・・・アリスも随分変わったものね。全く、その成長の早さが妬ましいわね。」

 

誰も居なくなったガレージでパルスィは1人言葉を漏らすと、まだ作業の途中だった事を思い出してガレージの奥へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリスがガソリンスタンドに到着したのはすっかり日も暮れた時間帯だった。パルスィの所で少々喋り過ぎたのと予想以上に道が混んでいた事もあって到着が遅れてしまった。

 

スタンドに着くと建二は既に居らず、拓海と樹もバイトを終えて帰宅の準備をしていた。拓海は制服姿のアリスを見ると目を丸くさせた。

 

拓海「あれ?こんな時間にどうしたんだ?」

 

アリス「池谷さんに呼び出されたんだけど、池谷さんは何処?」

 

拓海「池谷先輩は事務所の中だよ。」

 

アリス「そう。有り難う。」

 

アリスは拓海に微笑みながら礼を言うと言われた通り事務所へと走って行った。拓海は暫しアリスの笑顔に目を奪われていたが、隣に居た樹に小突かれて現実に戻る。

 

樹「何ボケッとしてんだよ。さてはお前アリスの事を考えてたんだろ。」

 

拓海「・・・ほっとけよ。」

 

お世辞を抜きにしてもアリスは可愛い系美少女の部類に入る。そんな娘から笑顔を向けられたら拓海でなくとも健全な男子なら誰だって魅入ってしまうに違いないだろう。・・・閑話休題。

 

拓海「(・・・何だろう。俺、最近何時アリスの事を意識してる。)」

 

あの日秋名山の麓で出逢って以来一緒に過ごす時間が増えた為か、ここ数日アリスの事ばかり考える様になった。ここまで話せばもうお分かりだろう。拓海はアリスに対して恋心を抱いているのだ。

 

だが拓海は自身の色恋沙汰には大変疎く、拓海自身が異姓にモテた事が無かった(少なくとも本人はそう思っている)ので自分が抱いている気持ちが何なのか気付いていない。・・・閑話以下略。

 

拓海の心中の事はまた別の機会に話すとして、樹はアリスが何故ガソリンスタンドを訪れたのか、その真意を拓海に尋ねた。

 

樹「アリスは池谷先輩に呼ばれたって言ってたよなぁ。拓海には何か解るか?」

 

拓海「・・・多分昨日の事だと思うよ。ほら、あの青いランエボに乗って来た女の事。」

 

拓海の見解を聞いて樹は成る程と納得する。確かにそれならアリスが呼ばれたのも合点がいく。それにしても何故制服姿のままなのか、新たな疑問が浮かんだが何も急いで答えを出す必要は無いと思い2人は思考を放棄した。

 

 

 

 

 

アリス「・・・そんな事があったのですか。」

 

池谷「直接スタンドに来てアリス宛に挑戦状を叩き付けて行ったよ。ほら、この娘だ。」

 

池谷は事の顛末をアリスに話しながら樹が持っていた雑誌のページを指差す。そのページにあったのは勿論早苗の写真でそれを見たアリスはパルスィが話していた事を思い出していた。

 

板金出しに行った時、パルスィはアリスに【奇跡のエボ使い】こと東風谷早苗の事についての情報を聞いた。いずれ彼女とバトルする事になるだろうと思ってはいたが、思いの外早い段階でその時が来た事に若干驚く。

 

アリス「実際に彼女の走りを見たんですけど、流してる程度でもとても速かったですよ。まぁ、妙義山の麓で目が合った時にもそう思っていましたが。」

 

池谷「俺も一目見て直感で思ったよ。ハッタリじゃないってね。・・・で、受けるのか?」

 

最終的な判断はアリスが下す。受けるにしろ受けないにしろインパクトブルーとのバトルは行う予定でいるがまだ時間はある。池谷は今すぐ決めなくともゆっくり考えれば良いと思っていた。

 

だがアリスの答えは既に決まっていた。

 

アリス「・・・受けます。私も【奇跡のエボ使い】とバトルしてみたいです。」

 

池谷「・・・分かった。俺はアリスの意思を尊重するよ。だが相手は相当の腕を持つ走り屋だ。心して挑まなければ逆にやられるぞ。」

 

アリス「分かってます。【七色のドリフト使い】の名に賭けて絶対に勝ちます。」

 

滅多に言う事の無い自身の二つ名を口にしてアリスは池谷にこのバトルに掛ける思いを伝えた。アリスの強い意思を受け取った池谷はそれ以上何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事があった日から数日が経ち、いよいよ交流戦の前日の金曜日になった。アリス達スピードスターズ一行は高速道路を使い交流戦の舞台である碓氷峠を目指して車を走らせていた。因みに前回同様蓬莱は一足先に現地入りしている為、この場には居ない。

 

魔理沙「なぁ、何時になったら着くんだ?もう腹が減って死にそうだぜぇ。」

 

アリスの車の助手席には何故かスピードスターズのメンバーでは無い魔理沙が座っており、シートを倒した状態で退屈そうに愚痴っていた。尚、魔理沙が来た理由は「面白そうだったから」らしい。

 

アリス「・・・あのねぇ、魔理沙はさっきからそればっかりじゃない。もう少し我慢しなさい。」

 

魔理沙「アリスって本当にオカンみたいだな。」ケラケラ

 

アリス「・・・降ろすわよ。」

 

魔理沙「ちょっ!?冗談だって。」

 

行き過ぎた冗談を言った魔理沙を降ろす為に助手席のドアを開けようとする。こんな所で降ろされたら帰るのは愚か命すら危うい。慌てて魔理沙は謝罪を入れる。そんな魔理沙を見てアリスは深い溜め息を付いた。

 

アリス「・・・でも魔理沙の言う通りお腹が空いて来たわね。碓氷に着いたら蓬莱には悪いけど先に腹ごしらえをしましょう。」

 

碓氷に到着した後の行動を皆に知らせるべく、アリスは魔理沙にチームのメンバーにメールする様に指示する。運転しながらの携帯の操作は法に触れる為隣の魔理沙を使う。峠を攻めるという既に法に触れる様な事をやっているが細かい事は気にする事なかれ。

 

 

 

 

 

暫くしてメンバー全員の了承の返事を確認したアリスは目的のインターで高速を降りると隣の魔理沙が生きる屍にならないうちに、急ぎぎみに目的地へと向かう。何だかんだ言って友達想いなアリスである。

 

車を走らせる事約数十分、漸く目的の場所が見えてきた。オレンジ色の看板に竈の絵と黒い文字で【峠の釜めし】と書かれてある場所に車を停める。先程まで空腹のあまり沈みきっていた魔理沙のテンションも幾分か回復する。

 

店に入ろうとした所でアリスの携帯の着信が鳴る。電話を掛けてきたのは蓬莱であった。アリスは電話に出る。

 

蓬莱『到着予定時刻を大分過ぎてますけど、どうしたんですか?』

 

アリス「実は、カクカクシカジカ・・・」

 

蓬莱『・・・何ですとぉ!?待って下さい!!今すぐそっちに向かいます!!』

 

何やら慌てた様子で電話を切った蓬莱。恐らく此方に来るつもりだろうが残念ながら蓬莱を待てる程胃袋に余裕がある訳では無い。(特に魔理沙が)

 

先に店に入っても良いだろうと思い、アリス達は蓬莱を待たずに店内へと入って行った。

 

 

 

 

 

蓬莱「酷いですよアリスさん。蓬莱に電話を寄越さないなんて。・・・それに蓬莱が来るまで待ってても良かったじゃないですか。」

 

アリス「それについては謝るわ。でも仕方が無かったのよ。皆だってお腹が空いていたのだから。」

 

蓬莱「ぶうぶう。」

 

蓬莱の言い分も解るが、あの時魔理沙が死にそうな顔をしていたのでどうしても待つという選択肢を取れなかった。それはともかく今時「ぶうぶう」と言う人がいたのかとアリスは内心思う。

 

アリス「まぁ、蓬莱も釜飯を楽しみにしてたんでしょう。何せ碓氷の名物なんだから。」

 

蓬莱「いえ、朝と昼に釜飯食べましたから、別に楽しみって訳ではありません。」

 

蓬莱の言葉にその場にいた全員がずっこける。じゃあ何故あんなに蓬莱は怒っていたのか。

 

霊夢「何よ。さっきまでの私達の罪悪感を返しなさいよ。」

 

蓬莱「だって釜飯は碓氷の名物ですよ。1日3食キッチリ食べなければ私の沽券に関わります!!」

 

アリス「意味が分からないわ・・・」

 

何故か自分のポリシーを力説し出した蓬莱に全員が呆れる。名物でも全く違う食べ物を1日に3食食べると言うのならまだ解るが、蓬莱の場合は同じ食べ物を1日3食食べるという意味になる。相変わらずよく分からないポリシーだが蓬莱だから仕方ないかとアリスは結論付ける。

 

やがて釜飯が運ばれて来るとそれまで騒いでいた蓬莱も大人しくなり目を輝かせている。魔理沙に至ってはもう我慢出来ないようだ。

 

一口口に運ぶと昆布から取った出汁と椎茸の風味が口の中に広がる。具材も豊富な為様々な食感が楽しめる。濃すぎない味付けは家庭的な味を彷彿とさせる。成る程、これは美味しい。何処か懐かしささえ感じるその味にアリス達は舌鼓を打っていた。

 

途中、蓬莱が某グルメリポーターが言いそうなセリフを連発していたが、特に触れる必要も無いので割愛しておく。

 

釜飯を食べながらアリスは碓氷峠に到着した後の事を考えていた。此処で時間を潰してるので走り込みをする時間はあまり残されていない。ならせめて上りと下りを最低でも1本ずつは走っておきたい。

 

それに明日はいよいよインパクトブルーとの交流戦が控えている。一体早苗がどんな走りをするのか、前に1度彼女の走りを見た事はあるがあれは本気ではなかった。彼女の本気の走りとはどんな物なのか。今から楽しみで仕方が無い。

 

アリス「(ふふっ、何だかテンションが上がって来ちゃった♪)」

 

恐らく今夜は眠れないだろうと思いつつ残りの釜飯を平らげるアリスであった。

 

因みに食事代は「言い出しっぺが自分だから。」という理由でアリスが全額支払ったんだとか。

 

【完】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





制服姿のアリス・・・想像しただけでも抱け・・・ゲフンゲフン、可愛いなぁ~。

さて、次回から交流戦に入ります。アリスと早苗のバトルをどう描こうか考え中です。決着シーンは浮かんでるんですが、そこに至るまでの描写が全く浮かんで来ない・・・どうしましょ(汗)

因みに峠の釜飯は元々駅弁として販売されていたそうな。初耳やそれ。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 vs早苗(前編) 崩れない均衡


イヤ、本当に申し訳ない。

約1ヶ月程放置してしまった事を深く反省しています。←土下座

中々ストーリーが思い付かずに気分転換として読み専の方にまわっていました。何個か面白い小説があったので集中的に読んでたらこんな事に・・・

さて、今回はギャグ要素無しで頑張ってみました。




 

金曜日の夜、碓氷峠に集まったギャラリーはインパクトブルーと秋名スピードスターズの交流戦が始まるのを今か今かと待ち構えていた。

 

レベルの高い走り屋達が密集している碓氷峠で特にずば抜けた実力を持つインパクトブルーと今や絶賛売り出し中のスピードスターズとの一戦は開始前にも関わらずギャラリーのテンションは最高潮に達しようとしていた。

 

勿論ギャラリーの殆どはインパクトブルーが勝つと信じていた。だが中にはもしかしたらと思う人間も少なからず居た。

 

何故そう思う人間が居るのか?答えは以前のナイトキッズとスピードスターズの交流戦の結果がそれを物語っている。あの時も妙義山に集まったギャラリーの誰もがナイトキッズの勝利を信じて疑わなかった。だがナイトキッズは地元という有利な要素がありながら蓋を開けてみたらスピードスターズに完膚無きまでに叩きのめされたのだ。そんな前例があるからこそ、有利不利でで勝敗を決め付けるのは早計では無かろうか、そんな風に思う人が少数だが存在している。

 

もう1つ理由を挙げるとすれば、ギャラリーの大半はスピードスターズにはとても優秀な人物が指揮官を務めているのだろうと思っていた。だが事実は違う。

 

池谷は特別頭が良い訳でも突出した能力がある訳でも無い。只バトルの行く末を黙って見守っているだけに過ぎない。

 

だが何も頭の良い人物が優秀な指揮官になれるとは限らない。三國志で例えるなら劉備玄徳が良い例だろう。彼は王族の末裔という事以外はごく普通な青年に過ぎなかった。だが彼の周りには関羽を始め、張飛、趙雲、馬超、黄忠といった所謂五虎将軍と例えられたとても優秀な将軍と諸葛亮や鳳統といったとても優秀な参謀が居た。

 

恵まれていたと言われればそれまでだが、彼がこれ程優秀な人材に恵まれたのは彼の人望の厚さによる物が大きかった。だがそれだけでは無い。

 

適材適所という言葉があるのはご存知だろう。簡単に言えばその人の能力に合った役割にその人を振り分けていくという意味だが、劉備はまさに【それ】だった。自分が出来ない事、役割を出来る人に割り当てる。簡単な事の様に思えるが、自分の程度を良く理解し尚且つ仲間の能力を理解して信頼していなければとても出来ない。それが出来た彼だからこそ魏や呉といった強国と互角に戦う事が出来たのだろう。

 

池谷の場合もそれに当て嵌まる。自分は頭も良く無ければ技術的に優れている訳でも無い。だが池谷には人を見る目があった。

 

博麗霊夢をチームに誘った経緯を思い出して欲しい。彼は霊夢を【ドライバー】として幾度となくスピードスターズに誘った。だが霊夢は当初チームに入る気は全く無かった。それでも折れずに何度も霊夢と話しているうちに彼女が頭脳明晰だという事を知る。ならば彼女をドライバーとしてでは無く【戦術参謀】としてチームに誘った方が良いのでは無いのか、そう思い始めた頃にアリスと出会った。アリスの技術の高さとセンスの良さにいち早く気付いた池谷は彼女をドライバーに抜擢した。その後池谷は霊夢に「戦術参謀としてチームに参加しないか?」と持ち掛けた。霊夢はそれに承諾したという事だ。

 

しかし霊夢は面倒事をとても嫌う性格の持ち主である為、そう言った話には先ず乗らない。では何故霊夢は池谷の話に乗ったのか?

 

霊夢はスピードスターズに入る事を決めた理由として「興味を持ったから」と言った。つまり霊夢にそう思わせるだけの【何か】が池谷にはあった。それが人を惹き付ける物なのか、それとも別の物なのか、それは池谷本人にも分からない。

 

只、1つだけ言える事は池谷のこうした姿がある意味でチームリーダーとしての【あるべき姿】なのでは無かろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタートラインには2人の少女が睨み合っていた。

 

片や青いエボⅨに乗り【奇跡のエボ使い】と呼ばれ自他共に認める群馬エリア随一のランエボの使い手、東風谷早苗。

 

もう片や【七色のドリフト使い】と呼ばれ、多種多様なドリフトで人を魅了する最速のドリフト使い、アリス・マーガトロイド。

 

暫く黙ったまま視線を合わせていた2人であったが、その沈黙を破ったのは早苗の方だった。

 

早苗「・・・東風谷早苗です。宜しくお願いします。」

 

ペコリと頭を下げて礼儀正しい口調で自分の名前を告げる早苗。だがその口調とは裏腹に早苗の表情には好戦的な笑みが浮かんでいる。

 

アリス「アリス・マーガトロイドよ。今夜は楽しいバトルにしましょう。」

 

対するアリスも早苗と同じ様な表情を浮かべている。唯一違う所があるとすれば、早苗とは違ってそこまで好戦的な表情では無いという所か。

 

2人はそれ以上の言葉を交わさず黙って車に乗り込んだ。尚、碓氷峠は道幅が狭い為インパクトブルーの方針でバトルは先行後追い方式を採用する事にした。その際、1本目のポジションをアリスが選ぶ事になったが彼女は後追いを選んだ。アリスはその時、後追いを選んだ事に特に意味は無いと言っていた。

 

アリスは自分の愛車に乗り込むと直ぐに霊夢を呼んだ。作戦内容を確認する為である。

 

アリス「霊夢、今回の作戦は?」

 

霊夢「まぁ負けない様に頑張りなさい。」

 

アリス「・・・それだけ?」

 

まさかの頑張れという一言しか無かった為に、思わずアリスは唖然とする。幾らなんでもそれは作戦とは言えないのでは無いかと思うと同時に少し投げやりなのではとも思った。アリスがそんな風に思っている事を知ってか知らずか霊夢は言葉を続ける

 

霊夢「・・・冗談よ。只アンタが入れ込み過ぎているんじゃないかと思ったから肩の力を抜いてあげただけよ。」

 

どうやら先程の霊夢の発言には彼女なりにアリスの緊張を解す意味合いがあったらしい。戦術参謀というのは只作戦をドライバーに伝えるだけが仕事では無い。ドライバーが最高のパフォーマンスが出来る様にドライバーを気遣う事も彼女の仕事の1つだ。

 

霊夢「じゃあ今から作戦の内容を説明するわ。話す内容は2つよ。先ず1つ、アンタはこのコースを詳しくは知らない。そのハンデを逆手に取る事。それともう1つ、勝負は【下り】で相手の車は【ハイパワーなターボ車】よ。この意味を考えなさい。」

 

アリス「・・・分かったわ。」

 

霊夢の説明は具体的とは言えなかったがアリスは口を挟まず黙って霊夢の話を聞いていた。頭の良い霊夢ならより詳しく説明する事も出来ただろう。だが敢えてそうしなかったという事は、「後は自分で考えろ」と遠回しに言ってるんだろうとアリスは思った。

 

作戦をそのままドライバーに伝えるのでは無く、バトル攻略のヒントしか与えず後の事は自分で考えさせる。そうしてドライバーの駆け引きの幅を広げる。それこそが霊夢の狙いだった。

 

霊夢の狙いなど当然知らないアリスは今さっき霊夢が言った事を心の中で復唱しながら車をスタートラインに並べた。その時助手席側のドアからノックの音が聞こえた。

 

蓬莱「アリスさん、隣・・・良いですか?」

 

ノックをしてきたのは蓬莱だった。これからバトルが始まるというのに彼女は横に乗って一体何をしようというのか?

 

アリス「あのねぇ蓬莱、もうバトルが始まるのよ。この間の時とは違うんだから自重しなさい。」

 

この間というのは東京から来た2人との追いかけっこの事を指している。アリスにとってアレはバトルでは無く単なる遊び・・・というよりかはお説教とも言いべき物だった。その時も蓬莱はアリスの横に乗っていた。だが今日のバトルはあの時とは勝手が違う。その為、アリスは蓬莱の要望には難色を示した。

 

・・・どうせまた変なリクエストをしてくるに違い無いと、この時アリスはそう思っていた。

 

しかし、蓬莱の口から出た言葉はアリスの予想とは全く違う物だった。

 

蓬莱「・・・それは解ってます。霊夢さんと池谷さんに言われたんですよ。横に乗って来いって。」

 

アリス「霊夢と池谷さんが?」

 

何故その2人の名前が出てくるのか?アリスは蓬莱の意図が解らず首を傾げた。

 

蓬莱「今回は【チームの仕事】として私を隣に乗せて下さい。」

 

この言葉を聞いたアリスは蓬莱が言わんとしている事を理解した。蓬莱は池谷と霊夢の指示によってアリスのナビゲート役をするつもりなのだ。要はラリーでドライバーのサポート役的ポジションを蓬莱がするのだ。

 

これは池谷と霊夢が2人で話し合って決めた事だった。アリスは寄り道をした代償で碓氷を上りと下りの1本ずつしか走れなかった。故にアリスの頭の中には漠然とした全体的なコースの情報しか無かった。コースの情報が不足していれば、ここ一番の場面でどうしても後手に回ってしまう。その事を懸念した霊夢が池谷に相談して話し合った結果、その解決策として先に現地入りして各コーナーの特徴を調べた蓬莱にアリスの横に乗って色々とアドバイスをしろ、と命令したのだ。

 

蓬莱「それにアリスさん、隣を見て下さい。」

 

言われた通り横を見ると、なんと早苗の横にも誰かが乗っているではないか。早苗の横に乗っていたのは、インパクトブルーが誇る最強の参謀、沙雪であった。

 

遡る事数分前、早苗が車に乗り込むと同時に沙雪も横に乗って来た。その沙雪の行動に早苗はキョトンとしていた。というのも早苗がバトルする時は基本的に沙雪が隣に乗る事は無い。逆に真子の時は隣に沙雪が乗っている事が多い。

 

特別真子の運転が下手という事では無い。というより寧ろ車をコントロールする技術に於いては早苗にも匹敵する実力を真子は持っている。

 

 

 

 

 

では何故沙雪は早苗の隣には乗らないのか?

 

 

 

 

 

答えは簡単、単純に【その必要が無い】からだ。

 

確かに真子は技術的な面に於いては早苗と同等だが、真子の走りはモチベーションの高さが生命線となっている。絶好調の時は手が付けられない程の走りを見せるが、そこから少しでも外れると泥沼にはまってしまう。それを防ぐ為に沙雪が隣に乗って真子のメンタルケアをしているのだ。

 

対して早苗の場合はモチベーションという物はあくまでオマケに過ぎず感情1つで自分の走りが左右される事は無い。というより感情の変化を理論で抑えていると言った方が正しいか。

 

早苗はプロへの意識が強い。自分がプロのドライバーになる為には感情に左右されない走りを身に付ける必要がある。そう考えた早苗は感情を抑え付ける手段として正確な理論に裏付けされた走りを身に付けるに至った。

 

つまり早苗にとって理論とは自分の走りの美学だけでは無く、感情をコントロールする手段でもあるのだ。

 

だとしたら、何故今回のバトルで沙雪は早苗の横に乗る事にしたのか?

 

・・・それは、沙雪が今まで通りのやり方では通じないという事を本能的に察したからだ。

 

沙雪から見てアリスの走り屋としての実力は未知数な所が多かった。技術面、メンタル面共に優れている事は周知の事実だったが沙雪が気になったのはアリスの走りの本質が読めない事だった。

 

感覚派と呼ぶには走りにムラが無く、かと言って理論派なのかと聞かれればそれも違う気がすると沙雪は思っていた。故に沙雪はどっち付かずで独特なスタイルを持つアリスの走りを不気味に感じたのだ。

 

兎に角、走り出せば何らかの情報が掴めるだろう。そう思った沙雪はアリスの走りの本質を見極める為、早苗の横に乗る事にしたのだ。

 

只1つ誤算だったのはアリスが後追いを選んだ事だった。通常慣れないコースでこの様な形式のバトルになった場合、先行を選んだ方が1本分余分に練習出来るというメリットが発生する為大抵の走り屋は先行を選ぶのが普通である。だがアリスは後追いを選んだ。余程の自信があるのか、それとも只単にこのルールのメリットを知らないだけなのか。

 

早苗「・・・じゃあ、スタートします。」

 

早苗の言葉を聞いて沙雪は考えるのを止めた。早苗はインパクトブルーが誇る2枚看板の内の1人なのだ。いかなる強敵が相手でも簡単にやられる程ヤワじゃ無い。それに今回は隣に自分が居るのだ。負ける要素が何1つ見当たらない。沙雪は自信に満ち溢れた表情でスタートに備えた。

 

この形式のバトルではゆっくり走り出した後、第1コーナーを立ち上がったのを合図に全開走行に入る為、チームの誰かがカウントを取る必要が無い。何時もカウントを取っていた霊夢もこの時ばかりは思案顔で見守っていた。

 

早苗のエボⅨが走り出すとアリスのS2000もその後に続く。ゆっくりとした走りで第1コーナーに向かう両者の車。やがて第1コーナーを立ち上がると2台の車はアクセルを全開にした。

 

蓬莱「スタート直後はタイトなS字コーナーが連続で続きます。S2000の旋回性能を活かした高いアベレージスピードで進入して下さい。」

 

蓬莱の指示に従って出来るだけ車速を落とさずにコーナーに進入する。そして次の切り返しではノーブレーキで突っ込み、あり得ないコーナリングスピードでクリアして見せた。余りに速いスピードに蓬莱も少しばかり顔を歪める。

 

今まで何度もアリスの隣に乗ってその走りを見てきた蓬莱であったが、ここまで本気のアリスの走りを見るのは初めてだった。

 

ふと隣を見ると険しい表情でステアリングと格闘しているアリスの姿があった。その姿からは余裕など微塵も感じられない。こんな表情のアリスを見るのも初めてだった。

 

アリスは現在苦戦を強いられていた。それもその筈、碌に走り込みも出来ていないまま半ばぶっつけ本番という形でバトルに挑んでいるのだ。もう少しじっくり走り込みが出来ていれば霊夢の作戦を基に細かい部分のシミュレーションを組み立てる事も出来たが準備不足が祟ってそれも出来ない。

 

こんな事ならせめて自分だけでも釜飯を後回しにして走り込みをするべきだったとアリスは自分の軽率な行動を後悔した。

 

とはいえ、もうバトルは始まってしまったのだ。今更後悔した所で失った時間は取り戻せない。それはアリスも解っていた。

 

だが、解ってはいても早苗にペースを握られているこの現状を打開する術を持ち合わせていない。その事実がアリスをイラつかせていた。

 

アリス「(ここで離されたら絶対追い付けない。意地でも喰らい付いていかないと。)」

 

早苗に追い縋るべくアリスは早苗より厳しいラインでコーナーに突っ込んだ。

 

 

 

 

 

だがその時・・・

 

蓬莱「先輩!!インに寄せ過ぎです!!」

 

アリス「えっ?・・・!!」

 

気付いた時にはもう遅かった。突然S2000が外に投げ出される様にアウトへと膨らんでいく。一瞬何が起こったのか解らなかったが直ぐに起こった出来事を理解した。

 

あのコーナーのイン側には砂が浮いていたのだ。それに気付かずインをデッドに攻めた所為でタイヤが砂に乗ってしまいラインを外してしまったのだ。

 

必死の操作でどうにか立て直したアリスであったが、そのおかげで早苗との差が少し開いてしまった。

 

アリス「蓬莱!!そう言う事はもう少し早く言いなさいよ!!」

 

蓬莱「何を言ってるんですか。イン側砂が浮いているんで気を付けて下さいって私は言いましたよ。」

 

アリス「・・・えっ?」

 

アリスは怒りに満ちた表情で蓬莱に詰め寄ったが蓬莱の言葉を聞いた途端、熱くなっていた頭が一気に冷やされた感覚になった。

 

実はコーナーが迫っていた時、蓬莱は砂が浮いている事をアリスに知らせていた。だがアリスはその時自分の思考に溺れていた為に蓬莱の忠告を無視してコーナーに突っ込んだのだ。

 

蓬莱「・・・何の為に私が居ると思ってるんですか?もっと私を頼って下さいよ。1人で抱え込まないで下さいよ!!」

 

アリス「・・・ゴメン。」

 

それは蓬莱の悲痛に似た叫びだった。自分の憧れの象徴であるアリスは走りに対する気持ちは熱く、だけどそれを表には出さず淡々と仕事をこなすその姿に蓬莱は憧れていた。だからこそ、何時になく取り乱しているアリスの姿を見るのは嫌だった。

 

蓬莱「・・・すいません。生意気な事を言い過ぎました。」

 

アリス「良いのよ。蓬莱のおかげで目が覚めたわ。」

 

冷静さを取り戻したアリスはここからこの差をどう埋めるかを考える事にした。相手は自分と同じかそれ以上の実力を持つ走り屋である。そう簡単には差を縮められないだろう。仮に差を詰めたとしてもゴールまでに相手の前に出なければ意味が無い。

 

霊夢の2つのアドバイスの意味を考えてみるが、イマイチ明確な答えが浮かんで来ない。

 

アリス「早速貴女に助言を求めるけど、エボⅨとの差を埋める為にはどうすれば良いかしら?」

 

故にアリスは蓬莱に助言を求めた。蓬莱は少しの間考えた後に口を開いた。

 

蓬莱「・・・今の所、エボⅨと先輩との間にはコースの熟練度という大きな差があります。現状では追い付くのでは無く、離されない走りに切り替えた方が得策だと思います。」

 

アリス「言い方を変えるならそれしか策が無いという事ね。」

 

蓬莱「【今の所】はですよ。碓氷の最難関のコーナーのC-121に差し掛かるまでにこのコースのリズムを掴めていれば勝機は充分にあります。」

 

C-121・・・タイトなコースで知られる碓氷峠の中でも特に難しいとされるコーナーである。C-121は碓氷峠のちょうど中間地点に位置し、このコースの最大の見せ場であると同時にクリアするにはかなりの技量が要求される為、地元の走り屋でもクリア出来る人間は極僅か。かのドリキンが碓氷を走っていた時もクリア出来たのは彼を含めても数えられる程度の人数しか居なかったという。

 

そこまでにアリスが早苗に追い付いて、且つコースのリズムを掴んでいれば早苗に勝つ可能性は充分にあると蓬莱は言う。

 

厳しい事には変わりないが勝ち目が無い訳では無い。そう・・・相手が同じ人間である以上、勝負事に絶対など無いのだ。

 

蓬莱「(だけど、こればっかりは先輩の走り屋としてのセンスに賭けるしか無いんですよね。)」

 

蓬莱の思考能力を持ってしても未だ活路を見出だせないでいるが蓬莱の表情に焦りは無い。何も出来なくても我慢の走りで後ろに付いていれば必ず隙が出る筈。そう信じて蓬莱はアリスに指示を飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、前を走るインパクトブルーの2人は必要最低限の事しか喋らず巧みな走りで後ろのS2000を牽制していた。

 

沙雪「次のコーナー、インベタグリップで!!」

 

早苗「はい!!」

 

沙雪が的確な指示を送り、早苗がそれに応える。2人のコンビネーションは抜群で互いが信頼しあっている事を窺える。流石は碓氷最速を自負するだけあってその走りには隙が見当たらない。アリスが苦戦するのも納得である。

 

早苗はチラリとバックミラーを見た。そこには少し距離を置いて付いて来ているS2000の姿があった。

 

早苗「(・・・何かを仕掛けて来る気配を感じない。アリス・マーガトロイド、貴女は何を考えているんですか。)」

 

早苗はこうして頻繁に後ろの様子を確認しているが、何も仕掛けて来ないアリスの走りを見て不気味さを感じていた。アリスがミスした直後、焦ってペースを上げてきてくれれば儲け物だと思っていたが、落ち着いて(実際は少し違うが)追い掛けて来るアリスに驚きを通り越して気味の悪さを抱いていた。

 

沙雪「(早苗の調子は絶好調なのよ。それなのに、これだけのハイペースに付いて来るなんて・・・何て奴なの。)」

 

アリスの走りを不気味に感じていたのは早苗だけでは無かった。沙雪もまた同様に、と言うかそれ以上に後ろのS2000の走りにプレッシャーを感じていた。バトルはもうすぐ中間地点に差し掛かる。沙雪は次の一手を打つべきだと考え、早苗に話し掛けた。

 

沙雪「早苗、もうすぐC-121だからね。勝負を賭けるわよ。」

 

それを聞いた早苗は横目で沙雪を見ただけで何の反応も示さなかった。それはまるでもう少し具体的な説明は出来ないのかと言わんばかりの表情で。そんな早苗の心情を知ってか知らずか沙雪は言葉を続ける。

 

沙雪「あそこは入口から出口まで流しっぱなしで行くわよ。ガツンと1発、アンタの力を見せ付けてやりましょう!!」

 

早苗「そう言う事ですか。・・・わかりました。」

 

早苗は口ではそう言ったが内心ではそう簡単に勝負は決まらないだろうと確信していた。確かにC-121は自分が最も得意としているコーナーではある。あのコーナーを全開ノーブレーキで突っ込んでドリフトしながらクリア出来る自信がある。だが同時にこの勝負は最後まで縺れる事を予感していた。

 

早苗の頭の中では既に別の事を考えていた。何処で勝負を仕掛けるべきか、そのポイントを探っていた。

 

仕掛けるのが早過ぎても遅過ぎても失敗する。早ければゴールまでタイヤが持たないが逆に遅いと振り切れない。それに仕掛ける時は常に自分の心に余裕を持っておかなければならない。そうでなければ作戦は破綻する。

 

だが早苗には理論を用いて感情を抑える事が出来る。それ故に自身の精神状態についてはそれ程重要視していない。

 

唯一不安要素があるとすればアリスの走りの本質が未だ掴めていない事だ。

 

早苗「(感性に任せて走るタイプじゃなければ理論に裏付けされた走りをする訳でもない。・・・まるで得体の知れない何かを相手している気分ですね。)」

 

一言で言うならアリスの走りは空気のようだと早苗は思う。確固たるスタイルがあるようで実は無色透明。何色にも染まる事の無い走りをするアリスを見て早苗は違和感を拭いきれないでいた。

 

早苗「(・・・とにかく、今は考える事に集中しないと。)」

 

常に思考を巡らせる事は早苗が峠を攻めるうえで最も重要視している事である。相手の車の状態はどうか、それに対して自分はどういう走りが出来ているか等、早苗にとって考える事は相手の弱点を知るだけでは無く自分の走りを客観的に見れる事にも繋がるのだ。

 

普通考えると言っても精々相手のクセや欠点を探るだけであって自分の走り、況してや地元の峠を攻めているならコースの事など先ず考えない。

 

だが、それでも早苗は考える事を止めない。余程自分の走りに自信があるのか、それとも・・・

 

 

 

 

 

C-121はタイトなコーナーが続く碓氷峠の中では比較的Rの大きい高速コーナーの部類に入る。その特徴として入口から中間に至るまでは道幅が広く逆に出口は極端に狭い。高いスピードを維持したまま進入する事がクリアするコツだが進入スピードが高ければ高い程出口の狭さに恐怖を感じる。大抵の走り屋は此所で怖じ気づいて途中でスピンしたり、最悪クラッシュしたりする。つまりその恐怖心に打ち勝った走り屋のみがゴールまで辿り着く事が許される言わば関門の様な場所なのだ。

 

そのコーナーが目の前にまで迫って来た事によりテンションが最高潮に達した沙雪は早苗に向かって大声で叫ぶ様に声を上げた。

 

沙雪「対向車無し!!早苗、派手に行くわよォ!!」

 

早苗「・・・はい。」

 

対照的に早苗は静かに返す。正直やかましいと思ってしまったが沙雪がハイテンションなのは何時もの事なので諦めた。

 

一方後ろのS2000も、

 

蓬莱「来ました。此処は全開ノーブレーキで突っ込んで下さい。」

 

アリス「了解。」

 

此方は両者とも落ち着いた口調で上記のやり取りをしていた。

 

2台の車がC-121に進入する。早苗もアリスも共にノーブレーキで突っ込み、そこから4輪ドリフトに移行し、中盤の道幅の広いポイントを抜ける。そして終盤の道幅の狭いポイントに差し掛かるが2台の車はクリップにピッタリと付いて1ミリ足りともラインを外す気配を見せない。

 

・・・その様子を見ていたギャラリーは後にまるで2台の車がシンクロしているようだったと語っている。

 

S2000とエボⅨの2台は一度も車の挙動を乱す事無く見えない糸に引っ張られるかの様にC-121を抜けていった。

 

早苗・沙雪「「!!」」

 

何事も無く立ち上がったアリスのS2000を見て早苗と沙雪は目を見開いた。特に沙雪の驚きようは半端では無かった。

 

早苗も一瞬驚きはしたが直ぐに立ち直ったかと思うと直後には歓喜の笑みを浮かべていた。早苗は未だ動揺している沙雪に声を掛けた。

 

早苗「・・・予想はしていましたがまさか1発でクリアするとは、やはり相手にとって不足は無いですね。」

 

沙雪「・・・アンタ、妙に落ち着いているわね。」

 

早苗「巫女という職業柄、常に冷静な判断を要求されますので・・・」

 

沙雪「はぁ・・・勝手に取り乱した私が馬鹿みたいじゃない。」

 

深い溜め息を吐いた沙雪だが直ぐにその表情は強気な笑みへと変わる。それに釣られるかの様に早苗の笑みも深まっていった。

 

一方アリス達の表情には笑みは無く、睨む様な視線で前を走るエボⅨを・・・というより正確にはコースの先を見ていた。

 

蓬莱「・・・問題は此処からですね。相手が何時仕掛けて来るか、その見極めが重要です。」

 

アリス「準備は出来てるわ。かかって来なさいって感じね。」

 

心の準備は出来ていると言うアリスに蓬莱は「頼もしいですね。」と返す。スタート直後にはあった焦りの表情は今はもう何処にも無かった。

 

だが蓬莱は念の為にアリスに釘を差す。

 

蓬莱「ですが此方が仕掛けるポイントはまだ先ですのでそれまで喰らい付いて行かなければいけませんよ。」

 

アリス「・・・分かってるって。」

 

蓬莱の忠告にアリスは苦笑いを浮かべる。全く蓬莱は心配し過ぎだと心の中で肩を竦めた。

 

 

 

 

 

両者の思惑が交錯する中、バトルは終盤に差し掛かる。

 

アリスはこの均衡を崩す事が出来るだろうか?

 

後半へ続く・・・

 

【完】

 

 






ギャグ要素無しで頑張ってみた結果、まさかの10000文字越えという事になりました。←Σ(・ω・ノ)ノ

おまけに決着シーンまで行かないという始末・・・

という事でアリスと早苗のバトルは前後編に分けたいと思います。

でも次回は決着シーンを書こうか茶番回にしようか迷ってるんですよねぇ~。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 vs早苗(後編) アドバイスの意味

早苗って誰に対しても敬語を使うイメージがあるのは俺だけでしょうか?

毎度どうもDoctor Kです。

今回でインパクトブルーとの交流戦は終わりです。

前半では霊夢の頭脳チートっぷりが炸裂します。そして後半は決着シーンにしてます。

過去のシーンを読み返して見たら霊夢が車のメカについて語ってる描写が無かったので今回急遽ブッ込みました。間違ってたらすみません・・・



両者共に膠着した状態のバトルが続いている中、碓氷峠のスタート地点では池谷と霊夢が何やら話し合っていた。その輪の中には霧雨魔理沙も入っており、時折霊夢に疑問に思った事をぶつけている。

 

3人の話題は主にアリスのバトル相手、東風谷早苗についてだ。

 

霊夢「東風谷早苗というドライバーはプロ志望が強く、ジムカーナやサーキットの走行会に出場しては表彰台の常連に立っている程の腕を持つドライバーよ。」

 

魔理沙「そんな本格的な技術を持ちながら何でまた峠の走り屋なんかになったんだ?」

 

霊夢「それは当人にしか分からない事だけど、それが早苗の走りの原動力になってるのは確かね。」

 

魔理沙「厄介な相手である事には変わらないって事か。」

 

池谷「・・・そう言えば、樹が持ってた雑誌の中のインタビューで自分にとってドリフトは速く走る手段の1つだって言ってたな。」

 

霊夢「それはつまり、目的そのものでは無いって事ね。」

 

中々面白い考え方だ、と霊夢は思う。本格的なレーシング技術を持つ早苗にとってドリフトとは言ってみれば邪道なのだ。

 

【ドリフトはグリップ走行より遅い】というのは世間一般の常識ではある。普通に考えれば解る事なのだが車(正確にはタイヤ)には前に進もうとする力が働いている。タイヤのグリップ力を使い切る事が出来るうえに前に進もうとする力を殺さずに走れるグリップ走行とは違い、ドリフトで横向いているタイヤではその力を活かす事が出来ない。これがこの定説を裏付ける理由なのだ。

 

そんな事が解っていながら何故早苗はドリフトをするのか?

 

早苗がジムカーナをする事はとっくに分かっているだろう。ジムカーナというのは以前説明した通り、広い舗装路にパイロンを一定の数並べてコースを作りそこを如何に速く走れるかを競う競技である。だが、パイロンとの間隔はとても狭く、グリップで曲がろうものならアンダーステアを誘発してしまい曲がれるだけのスピードにまで落とさないと曲がらない、もっと簡単に言えばグリップ走行では処理出来ない箇所が出てくるという事になる。

 

これらを処理する為に使われるのがドリフトと呼ばれる技術である。つまり早苗は前述の定説が場合によっては当て嵌まらない事を知っているのでコーナーの種類に応じてドリフトとグリップを使い分けているのだ。

 

魔理沙「霊夢は早苗がどういう走りをするのか分るのか?」

 

霊夢「さっき池谷が持ってきた東風谷早苗のインタビュー記事を見てみたけどこれが中々面白いのよ。東風谷早苗の走りの哲学はシンプルさ。単純明快な思考こそ速く走る上で一番大事な事だと提唱しているわ。」

 

池谷「走り屋なんかがよく言うモチベーションなんかは彼女にとっては単なるおまけに過ぎないと言ってるしな。」

 

霊夢「東風谷早苗は雑誌のインタビューの中で感情の起伏を理論で制御するって言ってるけど、コレがもたらす恩恵というのはこうする事で無駄な情報を取っ払って冷静且つシンプルに物事を考える事が出来る。

…間違った事は言ってないわ。人というのは多くの知識を得るとかえって単純な事が見えにくくなるし、常に冷静さを保つ事はあらゆる分野に於いても重要な事だしね。モチベーションをおまけって言ってるのはそういう事が理由なのかも知れないわね。」

 

魔理沙「…そんな奴相手にアリスに勝機はあるのかよ。」

 

霊夢「…あるわ。」

 

俯いたまま弱々しく聞いてきた魔理沙の質問を即答で返した霊夢に驚いた魔理沙は思わず顔を上げる。

 

霊夢「私と早苗は職業が一緒だから早苗の考え方に共感する部分はあるけど、モチベーションは速く走る為には絶対に必要な資質だと私は思うわ。それに早苗の考え方にはある欠点が存在するのよ。」

 

魔理沙「ある欠点?」

 

霊夢「物事をシンプルに考えるという事はそれ以外の要素を一切排除という意味になるわ。私が思うにこの理論はサーキットを走る事を前提とした考え方だと思うわ。サーキットでは余計な事を考えなくても走れる環境が整っているからね。だけどバトルの舞台が峠である以上この理論の優位性は絶対とは言えないわ。何故ならこの理論は不確定要素に対応していない。」

 

霊夢曰く、峠のバトルはドライバーの技術の差や車の性能の差以外で決着するケースがあるとの事。そういった決着になる場合、必ず起こり得る事が不確定要素の介入だと霊夢は話す。セオリーだけで勝てる程峠のバトルは甘くはない。その他の要素を有り得ないの一言で終えてしまったらいざそれが起こった時に咄嗟の判断が出来なくなると霊夢は言う。

 

霊夢「その不確定要素を起こす起爆剤となるのがモチベーションよ。アリスに勝機があるとすればその一点に尽きるわ。」

 

魔理沙「アリスにはモチベーションという物はあるのか?」

 

霊夢「アリスの走りを皆どっち付かずって言うけど私から見ればアリスは感覚派と理論派の両方を併せ持っていると思うわ。守りに入ってる時は相手の車を観察したりしてるけど攻撃的になった時のアリスはモチベーションの塊みたいな物よ。」

 

霊夢はアリスの走りをそう評価していた。事実、思い返せば池谷とのバトルの時もアリスはオーバーテイク直前まで静観を貫いていたが5連ヘアピンの1個目で何の前触れも無く池谷を料理した。霊夢曰く、その時にモチベーション主体の走りに切り替わったのではと言う。

 

早苗達がアリスの走りの本質を見抜けないのは妙義山で見た時の走りと今の走りが全く違うからである。早苗は感覚派でも理論派でも無いと言っていたがそれは間違い。霊夢の言う通り、アリスは2つのタイプの走りを持ち併せているのだ。だが殆どの走り屋にはそれが解らずアリスの走りを【無頓着】と捉える人が多い。これこそがアリスの走りがどっち付かずと言われたる所以である。

 

 

 

 

 

霊夢「ランエボはWRCを制覇する目的で三菱が開発したのは知ってるわよね。」

 

魔理沙「まぁ一応・・・」

 

霊夢「その9代目に当たるエボⅨは初代から脈々と受け継がれている4G63型エンジンとこれまた初代から受け継いでいる前後違った形式のサスペンションを組み込んでコーナーでのスタビリティの高さを実現していると同時に、今代から連続可変バルブタイミング機構【MIVEC(マイベック)】を採用し、タービンコンプレッサーホイールを従来のアルミ合金からマグネシウム合金に変更した事によりランエボの弱点だったトラクションの弱さを克服したと同時にレスポンスの向上を実現させた。加速競走ではS2000は分が悪いわ。」

 

魔理沙「・・・専門用語が多過ぎて何が何だか分からないぜ。」

 

池谷「・・・要は歴代のランエボの中ではかなり高い戦闘力を持ってるって事だ。」

 

魔理沙「そういう事か、なんとなく解ったぜ。」

 

残念ながら魔理沙はメカの知識は全くの素人である為、霊夢が言った事の1割も理解出来て無かったが、いちいち最初から説明するのも面倒なので池谷がざっくりとした説明をしたところ、なんとか理解してくれたようだ。

 

・・・最も、根本的な部分は解っていないと思うが。

 

池谷(・・・こんなんで良いのか?)

 

霊夢(魔理沙には充分でしょ。)

 

これでも分かりやすく説明したつもりなんだけどと霊夢は思い、あれ程長々と説明したのに何一つ解っていなかった魔理沙にガックリと肩を落とす。・・・が、直ぐに切り替える。

 

魔理沙「それで、霊夢がスタート前にアリスに言ってた2つのアドバイス、・・・あれってどういう意味なんだ?ハイパワーターボ車とコースを知らない事があーだこーだって。」

 

霊夢「1つは簡単よ。ターボってのは前半は強力な味方になるけど、逆に後半はそのパワー故にタイヤを傷めつける足枷にしかならないのよ。特に碓氷の様なタイトなコーナーが続く峠ではタイヤの寿命も早くなる。況してやエボⅨとS2000の車重差はおよそ200kgあるから先に苦しくなるのは早苗の方ね。」

 

池谷「それにダウンヒルだから後半になればなる程エボⅨの方は不利な材料が多くなるって訳だ。」

 

霊夢「だからといってアリスの方も余裕がある訳では無いわ。この後半でなんとか隙を作って1発で早苗を仕留める事が出来なければこの勝負、アリスの負けよ。」

 

アリスも早苗と同じ状況に置かれている中で勝機を見い出すにはアリスの瞬発力と類稀な閃きに掛かっていると霊夢は言う。魔理沙もその事は理解したようで霊夢にもう1つのアドバイスの真意を促す。

 

霊夢「それともう1つ、コースを知らない事を逆手に取る。此方の方が重要よ。これには2つの真意があるの。」

 

魔理沙「だからそれが分からないって言ってるだろ。勿体ぶらないで教えてくれよ。」

 

霊夢「(・・・もう少し考えて欲しかったんだけど)・・・わかったわよ。まず初めに両者のテクニックが互角な場合、最終的に勝敗を分けるのは如何にコースを知っているかに限られる。これは走り屋の常識で【揺るがない】事実よ。ここまでは解るわね?」

 

魔理沙「おう・・・」

 

霊夢「ここで蓬莱をナビシートに乗せた理由を話すけど、蓬莱は昨日の昼間からスクーターに乗って碓氷のコースを何本も往復してるから私達よりも多くの情報を持ってるのよ。それならアリスにとって不利に働く要素をリカバリー出来ると踏んで蓬莱を横に乗せた訳。但し、アリスに余計な情報を与えないという条件付きでね。」

 

魔理沙「何でだよ、それじゃあ意味が無いじゃないか。」

 

霊夢「多過ぎる情報は時として思考の邪魔をするのよ。アリスみたいに閃きで勝機を見い出すタイプの走り屋には特にね。だから蓬莱にはコーナーの処理の仕方以外はコースの情報を詳しく教えるなって言っておいたわ。」

 

魔理沙「・・・よく池谷さんが許可したよなぁ。」

 

池谷「確かにリスクは大きいけど、霊夢が何の考えも無しに言い出したとは思えなかったからな、だから心中するk・・・霊夢「イヤよ。心中なんて。」・・・例えばの話だろ。」

 

相当嫌そうに言い放った霊夢に池谷はヤレヤレと肩を竦める。初めて会った時から自分に対する態度が全く変わってない事に池谷は苦笑する。

 

霊夢「で、話を戻すけど、1つ目の真意はそれ。そしてもう1つの真意は最初にも話した通り、最終的にはコースに対する熟練度の差が勝敗を決める。何度も言うけどこれは揺るがない事実なのよ。」

 

魔理沙「でもそれだとアリスに勝ち目が無いんじゃないか?」

 

霊夢「最後まで話を聞きなさいよ。それで今さっき早苗の理論の欠点として不確定要素に対応出来ないって言ったわよね?」

 

魔理沙「それは知ってるけど・・・・・・ちょ、まさかそれって!?」

 

霊夢「気付いたみたいね。・・・そう、恐らく早苗はそれを【当然の事】として捉えてると思うわ。それが早苗の理論だからね。」

 

流石の魔理沙も霊夢の言わんとしている事が分かったのだろう。霊夢のアドバイスにそこまでの意味があったとは・・・と言いたげな表情をしていたが驚きの余りそれが言葉に出来ない。

 

霊夢はそんな魔理沙を見て口角を吊り上げると魔理沙も気付いたであろうこのアドバイスの真意を口にした。

 

 

 

 

 

霊夢「アリスの天性の閃きで、早苗の【揺るがない】理論を・・・破綻させるわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バトルは終盤、早苗のエボⅨ先行で始まったバトルは早苗が前を走り、その後ろをアリスのS2000がピッタリと喰い付いたままの状態が続いていた。

 

サドンデスデスマッチが採用されているこのバトルは後ろとの差が開いていなければポジションを入れ替えて決着が付くまでそれを繰り返す。つまり現状では2本目に入る可能性が濃厚になりつつある。

 

早苗の頭の中は2本目に入る事を想定したシミュレーションを考えていた。

 

早苗「(流石にタイヤが厳しくなってきましたね。でもそれは相手も同じ、況してやS2000はFRだからその負担は全てリア側に集中する。いくらドリフトが得意な貴女でもリアが踏ん張ってくれないとドリフトするのも厳しいでしょう。)」

 

このまま粘って2本目に入ればコッチの物。2本目に入れば4WDのエボⅨには有利な材料が多い。対するアリスのS2000はFR、1本目で決着を付ける事が出来なければアリスにとって圧倒的に不利な条件が突き付けられる。

 

蓬莱「(スタート前に霊夢さんは先輩に余計な情報を流すなって言いましたが、・・・本当に大丈夫なんでしょうか。せめて路面状況ぐらいは知らせておいた方が良かったんじゃないですか。)」

 

蓬莱は心の中で葛藤していた。この戦況が動かないまま2本目に突入してしまうといくらアリスでも付いていくのはかなり厳しい。だが霊夢の事だから何か裏があるに違いないと思ってる自分も居る。そのジレンマが蓬莱を縛り付けていた。

 

自分が尊敬するアリスの負ける姿は見たくない。だけどこの状況を打開する策を見付けられない。蓬莱は心の中で舌を打つ。歯痒い・・・今はその気持ちが大半を占めていた。

 

その時、幾つもの先のコーナーから木の葉を照らす車のヘッドライトの光を蓬莱は見逃さなかった。・・・対向車が来る。その事をアリスに知らせる。

 

蓬莱「対向車が来ます。でも距離からして、すれ違うのは3つ先ですね。気を付けて下さい。」

 

アリス「・・・OK。」

 

口では余裕ぶって返したがアリスは車の異変を感じ取っていた。先程からリアタイヤの踏ん張りが甘い。無理して車を走らせたツケがまわってきたんだとアリスは思った。

 

だが、それでもアリスの表情に焦りは見えない。自分が苦しい時は相手も苦しい筈、だから絶対に諦めてなる物か。なんとしてでも勝ちたいという気持ちが今のアリスを支えていた。

 

蓬莱の言葉通りなら、このコーナーで対向車とすれ違う筈、アリスはイン側に逃げる準備をしていた。そうして対向車とすれ違う準備をしたアリスだったが、すれ違う寸前、アリスは前を走るエボⅨに1つの違和感を覚えた。

 

アリス「(?・・・なんか対向車とすれ違う寸前に一瞬迷いが見えた様な気が。)」

 

それは些細な出来事だった。パッと見では気が付かない程の違和感。対向車とすれ違う間際、早苗の車からほんの一瞬だけ迷いが見えた。

 

アリス「(今の今まで隙が全く見当たらなかったけど、どうしてあの瞬間だけ・・・・・・まさか!!)」

 

アリスは閃いた。まさか今のが早苗の欠点では無かろうかと。イヤ、きっとそうに違いないたアリスは確信した。

 

この瞬間、アリスの頭の中で守りから攻撃へとスイッチが切り替わる。待ちに待った瞬間にアリスは心の中でほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

両者共に舞台は最終セクションへと移る。最後の区間は不規則なS字コーナーが続く区間でその殆どが低速コーナーになっている。ジムカーナを走り込んでいる早苗にしてみれば比較的得意な区間である。

 

2本目に持ち込むべく懸命に逃げる早苗。しかし、闘争心を前面に押し出すアリスの走りがそれを許さない。

 

そして、4つ目のS字コーナーに差し掛かった時、沙雪は早苗に指示を出した。

 

沙雪「次のコーナー、外側に砂が浮いてるわよ。ここはインベタグリップで。」

 

早苗「・・・・・・。」コクッ

 

この時早苗は外側に浮いてる砂に乗らないようにインベタのラインを描く事を意識し過ぎたせいでほんの僅かだが早めに減速してしまった。このバトルで初めて見せた早苗の隙をアリスは見逃さなかった。

 

アリス「(突っ込みが甘い!?・・・今だ!!)」

 

イン側に付く早苗とは裏腹にアリスは車を外側に振る。ドリフトしながら勢いそのままにアリスのS2000は一気に早苗のエボⅨに並びかける。

 

早苗「・・・なっ!?(そんなスピードでは絶対に曲がらない!!況してや外には砂が・・・)」

 

まさか此処で仕掛けて来るとは思っていなかった早苗は動揺を隠せなかった。直ぐにブロックしようにも体が金縛りの様に硬直して思うように動かない。

 

その間にアリスのS2000は外側の苦しいアプローチながらエボⅨを上回るコーナリングスピードであっという間に早苗の横に並んだ。

 

早苗「(・・・っ!?完全に横に並ばれた!!・・・でも次は私の得意な低速コーナー、絶対に前は譲らない!!)」

 

早苗は地元のメンツに賭けて、なんとしてでも2本目に持ち込む為に、アリスはチームの為に、次を走る拓海の為に、そして何より蓬莱の憧れの象徴であり続ける為に、互いの意地とプライドがぶつかり合う。

 

そして次の右のヘアピンに差し掛かるとアリスと早苗はブレーキを踏む。ブレーキング勝負は両者互角。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いに互角の勝負を繰り広げる中、先にブレーキランプが消えたのは・・・アリスのS2000だった。

 

ヘアピンの真ん中でアリスのS2000が頭1つ抜け出すとそこからの立ち上がり加速でも早苗のエボⅨを凌駕する。

 

早苗「(・・・やられた!!・・・一番得意な低速コーナーでやられた!!)」

 

ゴールも間近、そんな中で土壇場の大逆転を喰らった早苗は瞬間的に自身の敗北を悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘・・・だろ、・・・早苗が・・・負けるなんて。」

 

碓氷峠のゴール地点に集まっていたギャラリーの殆どがこの結末に愕然としていた。

 

一瞬見間違いかと思ったが前を走っていたのは間違い無くスピードスターズの白いS2000だった。勿論早苗はその後ろに居た。

 

碓氷峠、引いては群馬エリアでも指折りのランエボ使い、東風谷早苗の敗北にギャラリーはスピードスターズもとい、アリス・マーガトロイドもとい、【七色のドリフト使い】の底力を思い知らされた。

 

ゴール地点に車を停めて一息付くとアリスは車から降りた。同じタイミングで車から降りた蓬莱に前回の妙義山同様抱き着かれたが、前回とは違い蓬莱の目には涙が浮かんでいた。蓬莱にしてみれば自分の仕事が全う出来たか不安に思ったであろう。

 

だがこれだけは言える。

 

 

 

 

 

蓬莱は確実にアリスの精神的支えになっていた事は間違いない筈だ。

 

現にアリスは静かに蓬莱の抱擁を受け止めていた。その光景は言葉にしていないが「お疲れ様。」と言っているようだった。

 

暫くして、早苗も車から降りてきた。負けた筈なのに何故か清々しい表情をしている。

 

早苗はそのままアリスの元に歩み寄ると未だ抱擁を受けてるアリスに声を掛けた。

 

早苗「・・・今回の負けは認めます。でも、いつか私は貴女を超えてみせます。その時が来るまで、・・・絶対誰にも負けないで下さい。」

 

いつか必ずリベンジを果たす。そう言い切った早苗はアリスに握手を求めた。その言葉は負け惜しみでも何でも無く、自分が長い間探し求めてきた真のライバルに出会えた嬉しさに満ち溢れていた。

 

その早苗に応えるかの様にアリスは握手を求めてきた早苗の手を握ると笑みを浮かべた。そして1言だけ早苗に言葉を返した。

 

アリス「・・・その時は、受けて立つわ。」

 

たった1言だけだったが早苗にはその1言で充分だった。自分もライバルとして認められた。それだけで心が満たされるのが分かった。

 

早苗に1言だけ声を交わしたアリスは蓬莱に「帰るわよ。」と言い車に乗り込むと心地良いV-TECサウンドを奏でながら走り去って行った。

 

残された早苗は夜空を見上げた。あの日、妙義山で出会った時と同じ様に。雲1つ無い綺麗な夜空に照らされた満月が今の早苗の心情を表してるようだった。

 

早苗「(峠で負けたのは久し振りだなぁ。・・・でも、次は負けませんよ。)」

 

次にあいまみえるのは何時になるだろうか。そう思いながら早苗は必ずリベンジを果たす事を心を誓った。

 

 

 

 

 

その後の拓海対真子のバトルも拓海が勝利を収め、ナイトキッズ、インパクトブルーの2大勢力を下した秋名スピードスターズが群馬エリアを代表する走り屋チームに登り詰めるのにそう時間は掛からなかった。

 

【完】

 

 




アリスも好き、早苗も好き。後は蓬莱の泣き顔が見たい←ゲス顔

・・・オホンッ、冗談です。

今後の予定としては、

茶番回を挟む→後1、2話程東方キャラとバトルする→エンペラー群馬侵略(もしくは渉とバトル)・・・の予定です。

尚、拓海対真子のバトルは原作以外の決着シーンが思い付かなかったのでカットしました。・・・申し訳無い。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

茶番回 蓬莱のラブカー放送局



※この話を読む前に注意!!

・ラジオ風
・何時も以上の駄文っぷり
・凄く短い
・自由奔放な蓬莱
・純度100%のメタさ

以上の点を踏まえた上でゆるりとお楽しみ下さい。



 

 

 

蓬莱「アー、アー、只今マイクのテスト中、・・・・・・大丈夫ですか?・・・OK?

 

 

 

 

 

ハァーイ、今回から始まりましたラブカー放送局、

わたくし司会進行を務めるDJ蓬莱で〜す。・・・この番組ではリスナーの方から寄せられたこの小説に関する感想や疑問の声をわたくし蓬莱が出演者を代表して答えていくという番組でございま〜す。

 

え〜、まずはこの度はDoctor Kさんの七色のドリフト使いの小説にお気に入り登録して下さった皆様に対して作者さんに変わってこの蓬莱が感謝の意を申し上げます。皆さん、大変、誠に、ありがとうございます!!←ジャンピング土下座

 

 

 

 

 

・・・ハイッ、では早速メッセージの方を拝見させていただきま〜す。

 

まず1つ目、ラジオn・・・あっ、匿名希望の方が良いんですか。そーなのかー、そーなのだー、わはー。

 

・・・オホンッ。気を取り直していきます。まずは活動報告の返信欄から。・・・と言っても2つしかありませんが。

 

え〜、では読んでいきます。『初めまして、個人的にアドバイスを1つ。バトル描写に深みを出したいと思ったら車のチューニングやセッティング描写は欠かせないと思います。今後は物語により深みが出る事を期待しています(一部省略)。』

 

 

 

 

 

・・・ほぉほぉ、中々鋭い指摘ですね。

 

原作で言う所のプロジェクトD編のバトル描写の仕方ですかねぇ。確かにバトルする上で相手の車のチューニング、セッティング内容は重要ですよね。

 

前回の話で霊夢さんが早苗さんが乗るエボⅨの特徴を話してましたが、恐らくはその延長線上の事を言ってると思いますねぇ。

 

霊夢さん程頭の良い人ならチューニングやセッティング内容は丸分かりだと思いますが、その描写を書くのは低脳な作者さんですからねぇ。直ぐには期待しない方が良いと思いますよぉ。

 

でもそんな作者さんもこのままでは続かないと分かってますから、そういう意味では良いヒントを貰ったと思います。作者さん、良かったですねぇ。

 

 

 

 

 

では2つ目参りま〜す。『初めまして!イニDと東方のコラボは難しいと思いますが頑張って下さい!!個人的には咲夜さんを出して欲しいです。出来れば白か銀のFCで。』

 

 

 

 

 

・・・これは作者さん同様、イニDのゆっくり実況動画の影響を受けてると思いますねぇ。間違ってたらすみません。

 

ネタバレになりますが、元々紅魔館メンバーの誰かを登場させる予定ではあったんですよねぇ。そんな中でこの話が来たので作者さんにしてみれば嬉しい誤算だったらしいですよぉ。

 

だったらいっその事その誰かさんと咲夜さんとでチーム組んでスピードスターズとバトルさせようと作者さんは考えたみたいです。

 

だけど肝心なチーム名がまだ決まって無いんですよねぇ。近い内に投稿したいようですけどまだバトル描写も思い付いてないのが現状です・・・

 

咲夜さん=FCというイメージが定着したのはやはりイニDのゆっくり実況が原因ですねぇ。まぁ作者さんも蓬莱もむしろウェルカム!!・・・ですけど。

 

 

 

 

 

続いては小説の感想欄から一部を抜粋して読み上げたいと思います。勿論、匿名希望で。

 

本当は全部の感想を読みたいと思いましたが、何せ尺が足りないので。・・・えっ!?それって蓬莱の所為ですかぁ?・・・そんなぁ(泣)

 

 

 

 

 

・・・狼狽えるでない。蓬莱はこの程度では動じません!!・・・あっ、それが時間の無駄だと。すいませ〜ん。・・・だが断る!!←ドヤァ

 

 

 

 

 

え〜っと、今回読むのはこの2つですねぇ。では1つ目。『主人公である筈の拓海が全く活躍してない······』

 

 

 

 

 

あ~・・・これに関してはある程度仕方無いと言えるんですけどねぇ。

 

拓海さんのバトルを書こうとすると結局原作頼みになってしまう事があるんですよぉ。て言うか現時点ではそればっかりです。

 

それでも今後はそれを改善していくつもりではありますが、本当何時になるか蓬莱にもわかりませ〜ん。

 

・・・ですので、今は目を瞑って貰えたら幸いって所です。

 

 

 

 

 

ではもう1つを読んでいきます。『名言(?)の「ダブルクラッシュと行こうぜぇ!!」が無いんですね······』

 

 

 

 

 

これについては返信を書きましたが、これには2つの理由があるんですよぉ。

 

1つはアリスさんがドライバーという事を除いてはそれまでの展開がまんま原作通りになっていたので、せめて決着シーンだけでもオリジナリティを出そうと無い脳みそをフル回転させた結果あの様な感じになりましたとの事です。

 

もう1つの理由は簡単に言うとアリスさんと慎吾さんではレベルが違い過ぎたというのが大きいですねぇ。まず運転歴の長さが違いますし(慎吾さんが何時頃から車の運転を始めたのかは知りませんが)、それにアリスさんと慎吾さんとでは走る事に対する入れ込み方が違いますから、まぁ当然の結果と言えばそうですねぇ。

 

以上が主な理由ですけど、後1つ付け加えるとしたら慎吾さんはかなりのホンダ党なので引き分けに持ち込んででも面子を保とうとは思わなかったんじゃないですかぁ。

 

バトル前のやり取りと矛盾してるじゃないかとお思いでしょうが、あれは言葉の綾って奴です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回はこれで以上です。皆さん、ちゃ〜んと理解してくれましたかぁ?

 

次回の放送が何時になるかはわかりませんがコメントが集まり次第また放送する予定で〜す。

 

最後に、お気に入り登録と多くのコメント(実際そんな多くありませんが)本当に有難うございます。皆さんの暖かい応援の声が作者さんの原動力になります。

 

 

 

 

 

以上で蓬莱のラブカー放送局を終わりま〜す。司会進行はわたくしDJ蓬莱でしたぁ。

 

それでは御機嫌よう、サヨナラ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・あ~、終わった。今からアリスさんと一緒に秋名に行って来ようっと。」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 恋と凄技と噂と



長い事、間を開けて申し訳ありません。最新話です。

この話でアリスの追加設定が入ります。

ではどうぞ。




 

 

 

インパクトブルーとの激戦から翌日が経過した。

 

スピードスターズのメンバーの全員が帰ったと思いきや、池谷はただ1人チームの輪から外れ別行動をしていた。

 

何の為に1人別行動をしているのかというと・・・

 

 

 

 

 

池谷「うん、やっぱ此処の釜飯はうまいな。」

 

ランチタイム時の峠の釜飯お○のやで池谷は1人釜飯に舌鼓を打っていた。インパクトブルーとの交流戦の前日に立ち寄って以来、すっかり虜になってしまったようだ。

 

池谷「出汁が具材に染み込んで良いアクセントを出している。名物になるのも頷けるな。」

 

池谷は余程この釜飯を気に入ったようでおかわりをするのに躊躇は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思う存分釜飯を堪能した池谷は帰路に着く事にした。釜飯を食べる為だけにわざわざ群馬から来たのだからご苦労な話である。

 

そうして自分の車へと向かっている最中、池谷の目にある光景が飛び込んできた。

 

駐車場の隅っこの方で1台の赤い軽自動車がボンネットを開けたまま停車していた。そしてそこには1人の人間が立っていた。身体のラインからして恐らく女性だろう。女性はエンジンルームの中を覗いては時折首を捻っている。

 

池谷「・・・故障かな?」

 

状況から察するに恐らくは車に何らかのトラブルがあったのではないのかと思った池谷は何とかしてあげたいという気持ちになった。

 

スピードスターズのリーダーである以前に車マニアである池谷は霊夢程ではないにメカの知識は少なからずある。元々単車を弄って遊んでいた池谷は自身の今の愛車を買ってからも毎日の様に車を弄って楽しんでいた。気が付けばメカの知識を手に入れ、軽い故障程度なら自分で修理出来るまでになった。

 

生まれつきお人好しな面がある池谷はこうして目の前で困ってる人がいれば男女問わず首を突っ込んでしまうきらいがある。特に車の故障と聞けば自ら修理を買って出る程であり過去にも健二や祐一らの車も修理した経験があった。その際、両者から腕が良いなと褒められた為、割と本気で板金屋を営もうかと考えている今日この頃である。

 

やがて女性の顔が見える位置まで近づいた時、女性の方も池谷が近づいて来たのに気が付いたのか顔を上げてきた。

 

池谷「・・・あれ?君は確か、」

 

??「・・・もしかして、スピードスターズの池谷さんですか?」

 

なんと両者は面識があった。というかついこの間初めて顔を合わせたばかりである。

 

車のボンネットを開けたまま立ち往生していたのはインパクトブルーが誇るもう1人のエース、佐藤真子であった。

 

真子「どうして此処にいるんですか?交流戦はもう終わったじゃないですか。」

 

池谷「此処の釜飯が美味くてさぁ、ドライブがてらつい立ち寄ったんだよ。ところで君の車は故障でもしたのかい?」

 

真子「・・・はい。スターターは回るんですけど何故かエンジンが掛からなくて・・・」

 

池谷「ふむ・・・(という事は原因はヒューズ切れか何かかな)・・・少しエンジンを見せて貰っても良いかな。」

 

真子「良いですよ。」

 

池谷は真子から許可を貰うとボンネットの中を覗き込んだ。池谷の手元には何時の間にか六角レンチとスパナが用意されており完全に修理する気満々である。

 

余談だが池谷の車のトランクにはその他の工具やジャンプコードといった物まで積んであり、あらゆる原因から成る故障にも対応出来る様にしてある。

 

もしかすると、車をメンテナンスする技術に於いては霊夢よりも優れているのかも知れない。

 

真子の方は残念ながらハイレベルな運転技術とは裏腹にタイヤの山の残り具合やセッティング内容などメカに関しては驚く程チンプンカンプンであった為、エンコした時にこうして立ち往生するしか無かったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言えば真子の車の故障の原因は池谷の推測通りヒューズ切れによるものだった。池谷はヒューズ切れを直したついでにヒューズボックスからスターターへと繋がるコネクターの配線も交換して真子に「エンジンを掛けてみて」と促した。

 

真子が言われた通りセルを回すとそれまで何の反応も無かった車のエンジンが一発で掛かった。

 

真子「うわぁ〜、凄い。掛かりました。池谷さん、メカに強いんですね。」

 

池谷「そんな大した事無いよ。霊夢なんかに比べたらまだまだだし。」

 

真子「それでも凄く尊敬します。いつかお礼がしたいんで、もしよろしければ携帯の番号を教えてください。」

 

池谷(・・・幾らか段階を端折ってる気がしないでも無いが、これも何かの縁だろう。)

 

随分と積極的だなぁと思いつつも断る理由が無いので池谷は赤外線通信を使い自分の番号を真子に教えた。真子の事を知らなければ舞い上がっていたであろうが真子の走りを知ってる分、有頂天になる事無く冷静さを保つ事が出来た。

 

真子「もう知ってるとは思いますが、アタシ佐藤真子って言います。電話してね。」

 

そう言うと真子は自らの車に乗ってその場を去って行った。1人残された池谷は今更ながら何故真子の車がシルエイティでは無かったのか疑問に思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって此処は秋名山。

 

日も暮れて静寂に包まれているかと思いきや、秋名山には何故かギャラリーが集まっていた。

 

・・・その理由はというと、

 

 

 

 

 

「今日も来てるぞぉ、スピードスターズの双璧がぁ!!」

 

「【七色のドリフト使い】が乗る白いS2000と北関東最速の豆腐屋が乗るパンダトレノって言ったら今や群馬で知らない奴はいないからな。」

 

「2人共ドリフト主体の走りだけどコーナーがめちゃくちゃ速いんだ。一度生で見たら度肝抜かれるぜ!!」

 

ギャラリー達が憧れと尊敬の眼差しを向ける先にはアリスと拓海がバトル形式で走り込みを行っていた。無論、2人共本気である。

 

2人が秋名で走り込みをやる場合は最後に必ず下り一本勝負行う事になっている。ついさっき言ったばかりだが手加減無しのガチンコ勝負である。

 

これまでの戦績は全くの互角。あっさり勝敗が決する時もあれば最後まで縺れる事もある。そのガチンコバトルを見物する事がギャラリー達の最近の日課になりつつある。

 

「俺は豆腐屋のハチロクに2万。」

 

「じゃあ俺はS2000に1万。」

 

「なんだよ、もっと賭けろよ。」

 

「今月ピンチなんだよ・・・」

 

中には前述の様に賭博紛いな事をしてる奴等もいる。賭け事をするのは結構だが、程々の額でしてもらいたい。何故ならバトルをしている当人らはその為にバトルしてるのでは無いのと、下手をすれば自己破産街道まっしぐらになるからである。

 

 

 

 

 

さて、勝負の方はアリスが先行を走り、その後ろを拓海が追いかけるという展開になっている。両者の実力は言わずもがな。走り込みのキャリアでは拓海より1年長く走り込んでる分アリスに分があるが、秋名山という峠の熟練度に於いては拓海の方が1年長い。

 

実を言うとアリスは生まれこそ群馬だが生後間もなくアリシアの仕事の都合で神奈川に引っ越した。それから小学校6年生までの間を神奈川で過ごした後、群馬に戻ってきた。その為、秋名山の走り込みの期間は拓海よりか1年短い。

 

バトルは終盤、秋名名物5連ヘアピンへと差し掛かる。拓海が一気に真後ろに食っ付いて出方を伺うが、アリスが巧みにブロックして拓海を牽制する。

 

アリス(明らかに何か仕掛ける気満々じゃない。でも、そうはさせないわ!!)

 

拓海(・・・隙が無い。しょうがねぇ・・・アレやるか。)

 

ここで敢えて両者の欠点をそれぞれ挙げるとしたら、アリスは先行逃げ切りが得意ではなく、拓海はアリスに比べて駆け引きに乏しい。故にアリスは突き放す事が出来ず、拓海はアリスに走行ラインを潰されて攻めあぐねていた。

 

5連ヘアピンの3個目、アリスはワイドなラインを描く為に車をアウト側に振った。それを見た拓海がここだと言わんばかりに開いたイン側にノーブレーキで突っ込む。

 

アリス「なっ!?」

 

アリスだけでは無い。その場にいたギャラリーの誰もが見てもそれと解る程のオーバースピードでコーナーに進入した拓海。絶対に曲がる筈が無い。この時アリスを含めた誰もがそう思った。だが・・・

 

 

 

 

 

・・・ガリッ

 

 

 

 

 

アリス「えっ?」

 

一瞬何が起きたのか分からなかった。どう見てもインベタの苦しいラインの筈なのに拓海のハチロクはアリスのS2000を上回るコーナリングスピードでヘアピンを立ち上がったのだ。

 

混乱するアリスをよそに拓海は自慢のハチロクでスイスイと5連ヘアピンを抜けてゆく。その後どうにか落ち着きを取り戻したアリスは拓海に離される事は無かったが結局最後まで抜き返す事が出来ずゴールラインを通過した。

 

 

 

 

 

この日の勝負は拓海に軍配が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴール後、何時もなら1言2言程度交わして解散する所だが、アリスは拓海に抜かれた時の事が気になって拓海にもう一度走ってと頼んだ。拓海はあっさりと了承してアリスを横に乗せた状態で頂上へと戻ってきた。

 

拓海「本当はあまり見せたくないけど、普段アリスには色々と教えて貰ってるから特別に見せてあげるよ。」

 

そう言うと拓海は何故か紙コップに水を入れてドリンクホルダーに置いた。アリスは何故そんな事をするのか解らず頭の中に?マークが浮かぶ。

 

アリス「・・・まさかとは思うけど、その状態で攻めるの?」

 

拓海「配達の時は何時もこうやって走ってるんだ。でないと豆腐が崩れるってオヤジが五月蝿いから。」

 

ただ下りではあまりやった事無いけどと拓海は言う。聞けば拓海は配達を始めた時からコレをやっていたが初めの頃はノロノロ走っても水がバシャバシャこぼれていたとの事。アリスは水をこぼさずに走れるだけでも凄いと思うと同時に拓海の卓越した運転技術がコレによって培われたのならば豆腐を崩さないという目的以外に何か本当の意図があったのではと思った。

 

拓海が走り始めるとアリスは更に驚いた。水をこぼさずに走る事は予想出来たが、まさかドリフトまで出来るとは思ってもいなかった。それでいて半端なく速い。

 

アリス(・・・冗談でしょ。)

 

複合コーナーをドリフトしっぱなしで抜けた時には流石のアリスも衝撃を受けた。このテクニックがどれ程凄い事かアリスにはそれが解る。

 

複合コーナーをドリフトしっぱなしっていうのはかなりの技量が問われる。繋ぎのストレートを流しっぱなしで行くといざコーナーに入ってからのドリフトアングルが決めにくい上に立ち上がりでのタイヤのグリップが戻る感覚も掴みづらい。それに下手な奴はシフトチェンジでとっちらかる事もあるので、コレを出来る人間はプロのレーサー並のテクニックを持っているとかのドリキンは言う。

 

アリスは拓海の速さの秘密が解った気がした。非力なハチロクでは一旦スピードを落とすと回復するまでに余計な時間が掛かる。だから拓海は無駄な減速を一切しない。一見凄い技に見えても恐らく拓海にとっては日常茶飯事なのだろうとアリスは判断する。

 

そして問題の5連ヘアピンへとやって来た。すると走り始めてから今まで無言だった拓海が口を開いた。

 

拓海「じゃあ、このヘアピンを減速せずに曲がるから何をしたか良く見といて。」

 

アリス「・・・イヤイヤ、その宣告はおかしいよ。」

 

さらっと爆弾発言をする拓海にアリスは即座に突っ込みを入れる。あからさまに死刑宣告してるみたいじゃないと言いたかったがそれは心の中に留めておいた。

 

そうしてる間にもコーナーは目の前にまで迫ってきておりアリスは焦り始める。もしここで失神でもしてしまったら魔理沙や蓬莱から当分の間笑いのネタにされるに違いない。冗談じゃない、それだけは絶対にイヤだと迫り来る恐怖心に必死で抵抗する。

 

だがその瞬間、ソレは起きた。

 

 

 

 

 

ドンッ!!

 

 

 

 

 

アリス「ふえっ?」

 

一瞬にして恐怖心という物は遥か彼方にすっ飛んでいった。氷点下にまで下がりきった思考は拓海が何をしたのか理解するまで少しばかり時間が掛かった。

 

だが若干イン側に傾いて、まるで電車がレールの上を走ってる様な感覚を覚えた時、アリスはその答えを見つける事が出来た。

 

アリス「・・・もしかして、道路脇の側溝にタイヤを落としたの?」

 

拓海「そう、俺はコレを【ミゾ落とし】って呼んでるけど、コレをやると面白い様にスイスイ曲がるんだ。」

 

拓海が語ったミゾ落としという技は一見破天荒な技に見えるが、実際にラリーの世界でもよく使われている実践的なテクニックだ。極端に言えば速く走る為のテクニックであり、車のポテンシャルの違いをリカバリーする事だって出来る。ミゾに片側のタイヤをわざと落とす事で車の遠心力から来るアンダーステアを殺す事が出来ると同時にタイヤのグリップ以上のコーナリングフォースを得る事も可能である。但し、ミゾに引っ掛けるタイミングが悪いととっちらかってスピンしたりミゾから飛び出す恐れもあるのでコレをやるにはかなりの練習が必要となる。

 

自分の目の前拓海の凄技をまざまざと見せ付けられたアリスはただただ感心するばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び麓まで降りてきて今度こそ解散かと思われたが、拓海が腹減ったからメシ食いに行こうと言い出したので2人は秋名山の麓から程近い深夜営業をしているファミレスに立ち寄った。

 

真夜中なのにも関わらず店内にはそれなりに客が入っていた。秋名山のギャラリー達なのだろうか、そこかしこの席で車と峠の話題が上がっており盛り上がりを見せている。

 

拓海はトンカツ定食をガツガツと頬張っており、余程腹が減っていたのだろうと思われる。アリスは普段から夜食は摂らない主義なので紅茶だけ頼んでのんびりとくつろいでいる。あっという間に定食を平らげた拓海は口直しにコーヒーを頼んで一息ついた。

 

今から帰って寝たとしても寝坊する事間違いないので2人は学校が始まる時間までファミレスに居すわる事にした。

 

拓海「真夜中なのに結構人が多いね。」

 

アリス「深夜営業するだけの事はあるってとこかしら。」

 

2人は他の客の会話を小耳に挟んで紅茶(コーヒー)を啜っていた。客の話題は専ら走り屋に関する事ばかりで他に話す事は無いのかと2人揃って苦笑していたが・・・

 

 

 

 

 

「それにしてもスゲェよなぁ。」

 

「何がだよ。」

 

「スピードスターズに決まってんだろ。あのS2000とハチロクのコンビは今や俺達秋名の走り屋のヒーローなんだぜ。」

 

アリス・拓海「「ブブーッ」」

 

この言葉を聞いた途端、2人共々飲んでいた紅茶とコーヒーを吹き出して盛大にむせた。スピードスターズが話題に上がる事は仕方の無い事だが当人達がいる前でその話をするかと2人は同時に同じ事を思った。

 

「何が凄いって、そりゃ勿論ドリフトだろ。」

 

「あのドリフトには見る者を圧倒させる程の強烈なインパクトがあるよなぁ。」

 

「俺達、平凡な走り屋には到底マネ出来ないぜ。」

 

アリス・拓海「「・・・・・・//」」

 

ベタ褒めである。当の本人達がこのファミレスに居る事を知ってか知らずかそれぞれが各々の賛歌の嵐を述べている。嬉しい気持ちは多少はあったがそれ以上にむず痒い気持ちが大半を占めていた。

 

「そういえばさぁ、俺この間秋名の麓で白いFCを見たんだよ。」

 

「白いFCって言ったらレッドサンズの高橋涼介の車かぁ?」

 

「イヤ、多分違うと思うよ。」

 

「なんでそう言い切れるんだよ。」

 

「レッドサンズのステッカー貼ってなかったからな。それにもし秋名に偵察に来たなら弟の啓介も一緒に居た筈だ。だけど一緒に居たのは赤いSW20の車だった。レッドサンズに赤いSW使いが居るなんて聞いた事も無いからな。」

 

アリス・拓海「「・・・・・・」」

 

2人の手が同じタイミングで止まった。アリスと拓海はその2台の車の事がどうしても気になった。

 

アリス「ねぇ、秋名にそんな車なんて居たかしら?」

 

拓海「・・・少なくとも俺は見た事も聞いた事も無いな。」

 

では一体何者なのか?それはまだアリス達には解らない。

 

ただ、2人の頭の中ではその2台の車とバトルに発展するような気がしてならなかった。

 

【完】

 

 






最近仕事が忙しくて執筆する暇が無い・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 蓬莱の二面性

お待たせしました第19話です。題名の通り今回は蓬莱がメインです。

そういえばここの所上海の出番が無かったなぁと思い久し振りに上海を出してみました。やや強引に登場させたので若干違和感があると思いますがそこはまぁご愛嬌という事で(コラ!!)

表紙を描こうかと思ってはいますが作者は絵心とは無縁なもんで…

だーれか表紙描いてくれないかなぁ←人任せ


 

 

朝までファミレスで時間を潰した2人は登校の時間になると解散した。

 

拓海「じゃあ、また学校で会おうな。」

 

アリス「えぇ、またね。」

 

拓海は着替えに一旦家に帰る事になった。拓海のハチロクがファミレスを出るまで見送るとアリスは愛車S2000のトランクを開けた。

 

中から出てきたのは学校の制服でアリスは車の中でせっせと着替えた。アリスの自宅は学校から微妙に離れており今から着替えに戻ったとしてもそこから徒歩で通学すると間に合わない。かと言って走って学校に向かう気分ではない。ならばと学校の近くまで車を走らせて何処か近くのコインパーキングに車を駐めてそこから徒歩で通学すれば良いやと考えたアリスはこうなる事を予め予想して車のトランクに制服を積んできたのだ。

 

車での通学は当然禁止されているのだが要はバレなければ良いだけの事なのだ。

 

時計を見ると学校が始まるまでまだ少し時間がある。そこでアリスはボンネットを開けてエンジンの状態を確かめる事にした。…と言ってもエンジンはこの間OHを済ませたばかりなのでやるとしてもオイルチェックぐらいなのだが。

 

アリス「…おかしいわね。最後にオイル交換したの結構前なのに全然汚れてないわ。」

 

何故かと思ったがその理由は直ぐに解った。恐らくだが以前板金を出した際にパルスィが気を利かせてOHついでにオイルも交換してくれたのだろう。幾ら知り合いだからといってそれをサービスでやってくれたのだから水橋パルスィ様々である。

 

その後バッテリーの状態や配線の接触具合など色々確かめてみたが特に異常は見当たらず最後にエンジンのセルを回して正常に掛かるか確認した後ボンネットを閉じた。

 

ここで再び時計を見ると丁度良い時間帯になっていたので学校に向かって(厳密にはその近辺のコインパーキングに向かって)車を走らせた。

 

途中、見覚えのあるシルエットが猛ダッシュをかまして通学していたのでアリスは車を停めてその人を呼び止めた。

 

アリス「…魔理沙、また寝坊したのね。」

 

魔理沙「アリスゥ〜。一生のお願いだぁ、乗せてくれ〜。」

 

アリス「…仕方ないわね。隣、乗りなさい。」

 

魔理沙「た、助かったぜ〜。」

 

息も絶え絶えに魔理沙はアリスの助手席に乗り込んだ。

 

魔理沙「それにしても、自慢のS2000で登校するなんて、アリスも大胆だなぁ。」

 

アリス「バカ言わないの。このまま学校まで行ったらそれこそ自殺行為よ。」

 

魔理沙「まっ、そりゃそうだよな。ウチの学校の生徒指導もうるさいからな。特に閻魔教師なんかに捕まったら地獄だぜ。」

 

魔理沙は捕まった事があるのか、心底嫌そうな顔で言った。

 

アリス「でもあの先生はなんだかんだ言って説教だけで済ませてくれるから他の生徒指導よりかは優しい方だと思うよ。」

 

魔理沙「アリスは捕まった事が無いからそんな事言えるんだよ。あの説教は地獄以外の表現のしようが無いぜ。」

 

魔理沙の発言にそんなものかなとアリスは思う。以前アリスのクラスで無断でバイク通学をしていた生徒が居た。その時に閻魔教師と呼ばれる先生に見つかり1日中刻々と説教を喰らったのだが、あれがもし別の生徒指導に見つかっていたら説教だけでは済まなかっただろうと後にその生徒は語っている。

 

無断でのバイク通学は重大な校則違反である為、発覚したら停学処分は免れない。それが説教だけで済んだのは案外ありがたい事である。もし捕まるなら閻魔教師に捕まった方がかえって良いのではとアリスは思った。…最も捕まるつもりは微塵も無いが。…閑話以下略。

 

その後コインパーキングに車を駐めて歩いて学校へと向かう2人、だが学校に到着すると先程話に出ていた閻魔教師が門前に立っていた。まさに噂をすればなんとやらである。

 

隣の魔理沙を見ると明らかに嫌そうな表情で「げぇ」と漏らしていた。

 

閻魔教師こと四季映姫は2人の姿を見つけると早速呼び止めた。

 

映姫「アリス・マーガトロイドと霧雨魔理沙。貴女達は通学の方向が逆の筈です。これはどういう事ですか。」

 

魔理沙(…目敏い。)

 

会って早々容赦が無いとアリスは思った。とはいえそれを顔には出さず咄嗟に思い付いた言い訳をサラッと述べる。

 

アリス「実は昨日、魔理沙と2人で知り合いの家に泊まってたんですよ。今日はその人の家から通ってるんです。」

 

咄嗟に出た嘘の割には事のほか饒舌に話す事が出来た。映姫はアリスの目をしばらく見つめるとはぁと1つ息を吐いた。

 

映姫「…疑わしいですが証拠が揃ってない以上正当な裁きを行えませんね。ですので今日の所は不問としましょう。」

 

魔理沙「やったぜ!!」

 

映姫「但し!!今後同じ様な事が起きた場合は問答無用で裁きを下しますので覚悟しておくように。」

 

アリス「…肝に銘じます。」

 

喜ぶ魔理沙に釘を差すかの様にそう宣言きた映姫にアリスは閻魔教師ならやりかねないと思い気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊夢「はぁ!?…アンタ車で来たの?」

 

アリス「これにはちょっと訳ありで…」

 

教室に到着するなり霊夢から来るのが遅かった事を指摘されたアリスは正直な理由を述べた。霊夢は特別な理由があったのかと思い聞いてみたが話を聞いて呆れ返ってしまった。

 

霊夢「アンタねぇ、曲がりなりにもスピードスターズのエースドライバーなんだからあまり目立つ様な行動は控えなさい。」

 

アリス「…分かってるわよ。」

 

映姫の説教は免れたが結局霊夢に説教を喰らったアリスは何とも言えない気持ちになった。アリスはどうにかして話題を変えて話を逸らそうと試みる。

 

アリス「…そういえばさ、昨日小耳に挟んだ事があるんだけど、最近秋名山で白のFCと赤のSWが出没してるって噂を聞いたんだけど、霊夢は何か心当たりはない?」

 

霊夢「FCとSW?……今の所心当たりは無いわね。」

 

上手い事霊夢の気を逸らす事に成功した。とは言ってもこの件は遅かれ早かれ霊夢の耳には入れておく必要があったし心当たりが無いとなれば霊夢は直ぐにでも調査を始めるだろう。

 

霊夢「…どうも気になるわね。…良いわ。この件は私が調べておくわ。一応池谷と蓬莱にも何か知らないか聞いておくわ。」

 

アリスの予想通り霊夢はスピードスターズのメンバー総出で調査する事になった。スピードスターズは霊夢が加入した事によりただの仲良しチームから徹底的に速さを追及する戦闘集団へと様変わりした。このご時世、相手に挑戦状だけ叩き付けてぶっつけ本番でよーいドンは時代遅れなのだ。

 

そこで霊夢は情報捜査の確立をチームを運営する上での第一の課題に挙げた。

 

彼女が中心となって造り上げたネットワーク回線を駆使して対戦相手のドライバー、コース、そして車のチューニングやセッティング内容を事細かに分析しその上で最も有効な作戦を組み立てる。

 

ホームページを使って対戦相手を募集しているのはその為である。自分達の情報をわざとおおっぴらに公表して餌をばら撒き相手が食い付くのを待つ。そして対戦の申し込みが来た直後には相手の戦力を細部に至るまで調べ上げて丸裸にする。つまり、スピードスターズの対戦相手として名乗りを挙げた時点で相手は既に霊夢の手の平の上で躍らされているのだから対戦相手には気の毒な思いになる。

 

まさにスピードスターズ躍進の影の功労者である。

 

そんな霊夢だがチームの屋台骨を支えているだけあってこなしている仕事量もまた多い。チームに加入した当初から外報部長と戦術参謀を掛け持ちしていたが今ではそれに加え情報管理やセッティングパターンの作成も霊夢が受け持っている。

 

だが霊夢も1人の人間である為、一度に大量の仕事が舞い込んでくると流石に対応出来ない。そこで霊夢が対応出来ない部分の仕事を池谷や蓬莱が変わりに受け持つのだ。

 

今回の調査はスピードスターズの対戦相手ではない為全ての情報を一から調べる必要がある。霊夢はそう考え効率良く情報を集めるべく池谷と蓬莱を頼る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、霊夢は早速池谷と蓬莱を呼び出して前述の内容を2人に告げた。だが2人の反応は今一つで、むしろ霊夢の言ってる意味が分からないと言いたげな表情で首を傾げた。

 

池谷「…そんな事する必要があるかな。第一、まだ対戦相手と決まった訳じゃないんだろ?」

 

池谷の言葉に同意するかの様に蓬莱も頷く。

 

池谷は間違った事は言っていない。スピードスターズの次の対戦相手であるならば相手の情報を調べるのは至極当然の事なのだが、そうでない以上この件について調べるのは時間の無駄である。池谷はそう考え霊夢の発言に異を唱えたのだ。

 

霊夢「確かにそうだけど、近い内にバトルするかも知れないから事前に情報は得ておきたいのよ。…アリスの話だけしか聞いてないけど私の勘ではかなり出来る奴だと思っているわ。」

 

蓬莱「速い走り屋なら何処の峠にも1人や2人は居ると思いますよぉ。…それになにも此方から調べなくても向こうから挑戦の申し込みがあれば私達の情報網を駆使して調べても遅くはないと思いますけどねぇ。」

 

蓬莱の意見も最もである。どのみちバトルする事になるのなら向こうから挑戦状という名の情報提供が来るのを待っていれば良いだけの話。それをわざわざ自分達が躍起になって調べる必要が無いと蓬莱は言う。

 

霊夢「…アンタ達ねぇ、事の重大さが解ってないの?これがただ速い走り屋が居るって程度の噂話で済むなら私も自ら動く様な事はしないわよ。だけど問題なのはソイツ等の出没場所が秋名だって事よ。この意味が解らない程アンタ達は馬鹿じゃないでしょ。」

 

蓬莱「…成る程、そういう事ですか。」

 

霊夢の話を聞いて蓬莱はそれが何を意味する事か瞬時に理解した。一方の池谷は依然として何の事だかよく解っていない様子。

 

蓬莱はそんな池谷に分かりやすく説明する。

 

蓬莱「つまりアレですよ。私達スピードスターズは秋名山最速を宣言しているチームでギャラリーの大半もその認識を持ってます。でもそこに別の速い走り屋が現れたら、スピードスターズは本当に秋名最速なのか?って疑問に思う人が出てきて私達が今まで築き上げてきた名声が失われる危険性があります。そうなる前に手を打っておこう、って事ですよね霊夢さん。」

 

霊夢「正解よ。蓬莱の言う通りこれは放っておくと私達の地位を脅かす事態になりかねないのよ。不安の芽は実る前に摘み取った方が良いって事。」

 

漸く言ってる意味を理解した池谷はただただ感心するばかりだった。同じ秋名を地元にしている走り屋だからこそこの問題を放っておく事は出来ない。関東最速を目標に掲げていても地元を蔑ろにする訳にはいかないのだと霊夢は話す。

 

蓬莱「しかしながら霊夢さんの頭は一体どうなっているのでしょうねぇ。脳科学者も真っ青になる程の頭脳ですよぉ。」

 

それを言うならアンタも一緒だろと霊夢は思う。

 

確かに霊夢は頭脳明晰で聡明な少女だ。だか彼女以上に頭が切れる人物が居たとしたらそれは誰かと問われれば霊夢は真っ先に蓬莱を挙げるだろう。

 

普段こそ人を弄り倒して聡明のその字も無い態度を取っているのにいざバトルが始まるとなると狙ったかの様に思考のスイッチが切り替わる。その時の蓬莱は前述とはまるで別人格になる。

 

ガチモードやモード賢者と呼ばれるソレに切り替わるとバトル中相手のクセや欠点、ひいてはバトルの要点となるポイントをズバズバと言い当てる。その的中率は霊夢でさえも一目置く程だ。

 

それならば何故蓬莱はわざわざ馬鹿丸出しな態度を演じるのか。その点については霊夢の頭脳を持ってしても解らない事だった。

 

霊夢「とにかく、秋名山最速のプライドに賭けても今から情報収集に努めるわよ。出来るだけ早急に頼むわ。」

 

池谷「心配はいらないさ。俺達のネットワークを駆使すれば鼠達を捕捉するのに時間は掛からないさ。」

 

蓬莱「えー今からですかぁ!?蓬莱この後用事g…霊夢「つべこべ言わずにやる!!」…分かりましたよぉ……ぶぅぶぅ。」

 

霊夢の鶴の一声に蓬莱は不貞腐れながらも了承した。…しかしながらアリスが思ってた通り本当に今どきぶぅぶぅなんて言う人間が居るのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、秋名山には蓬莱の姿があった。

 

何でも…

 

霊夢「私がインターネットで池谷はガソリンスタンドで情報を集めるからアンタは直接秋名に行って噂の真偽を確かめてきなさい。」

 

蓬莱「えぇー!!また蓬莱だけボッチですかぁ!?嫌です面倒くさいです!!」ウダウダ

 

霊夢「我が儘言うなら今日から1ヵ月間私の神社でずっと座禅を…蓬莱「全力で行かせて参ります!!」ビシッ…よろしい。」

 

…という事があり蓬莱は単身で秋名山に向かった。

 

いくら自由奔放な蓬莱であってもどうやら霊夢には逆らえないらしく前述のやり取りを見ればそれはもう一目瞭然である。

 

蓬莱はじっとしてる事が大の苦手だ。どんな経緯があったかは不明だが、以前霊夢の住む博麗神社で座禅をした事があるがやはり性に合わず5分もしない内にそわそわし出してその度に霊夢からバシバシ棒で叩かれていた。以来蓬莱はその事がトラウマになり霊夢が座禅という単語を出しただけで過剰反応を示すまでになってしまった。

 

さて、秋名山にやって来た蓬莱はゴール地点に原付を停めて2台の車が来るのを待つ事にした。

 

噂の2台が現れる時間帯は大体夜の8時から9時までの間、事前に調べた事により出没時間は大体把握している。

 

上海「…蓬莱、なんで私を此処に連れて来たの?」

 

蓬莱「ボッチになるのが嫌だったから。」キリッ

 

上海「…そんな事だろうと思ったよ。」

 

秋名には何故か蓬莱だけでなく上海もその場に居合わせていた。2人のやり取りから察するにどうやら蓬莱が強引に連れ出したらしい。

 

上海「私なんかが居ても大して役には立たないと思うけど。」

 

蓬莱「別に役に立って貰おうとは思ってないよぉ。上海は蓬莱の立会人って事でアーユーオーケー?」

 

上海「…英語棒読みになってるよ。」

 

上海は蓬莱が立会人と言った事よりも蓬莱がわざとらしく英語を棒読みで読んだ事の方が気になった。が、気にしたら負けだという結論に至り上海は立会人という言葉の意味について尋ねた。

 

上海「それよりも、さっき私が蓬莱の立会人って言ってたけど、あれってどういう意味?」

 

蓬莱「言葉通りだよぉ。って言っても伝わらないかぁ。あれは何かあった時の蓬莱のストッパー役って言う事。アンダースタンド?」

 

それって蓬莱の思考が暴走する前提の話だし、また英語が棒読みになってるしと上海は思った。蓬莱が暴走すると止めるのは非常に面倒くさい上に止めようにも止まらない事は上海のみならず蓬莱と関わっている者全員が良く知っている事実である。現時点で蓬莱の暴走を止められる人物が居たとしたら彼女の弱みを握っている霊夢だけだろう。

 

どちらにせよ上海は蓬莱の提案に賛成する気は毛頭なく、どうでも良いから早く帰りたいとさえ思っていた。

 

ただ、帰ろうにも上海は蓬莱の原付に2人乗りでこの秋名に来た為、蓬莱が用事を手短に済ませない限り帰る事は出来ない。その事実が上海の心を憂鬱にさせていた。

 

その後はお互い他愛もない会話(と言っても蓬莱が一方的に話し掛けて上海はテキトーに返すと言った感じだが)をしながら時間を潰していた2人だったが、上の方から2台の車のエキゾーストノートが聞こえ蓬莱は会話を止めた。

 

蓬莱「…この音、FDとは違うロータリーサウンドに3Sエンジンの排気音、…どうやら来たみたいだねぇ。」

 

上海「……?」

 

この時上海は蓬莱に違和感を覚えた。

 

口調こそ先程までのと一緒だが何時もの蓬莱とは何かが違う。思考が暴走したにしても静か過ぎるしそれに妙に落ち着いた表情をしている。普段の蓬莱とはどうもしっくり来ない、それが上海の抱いた違和感だった。

 

やがて2台の車が姿を現すと蓬莱は口すら動かさなくなった。2台の車はゴール地点の駐車場に入ってくるとそこに車を停めた。

 

蓬莱(ナンバーを確認したら帰ろうと思ってたけど、…これはラッキーな展開ですねぇ。)

 

上海(…蓬莱のこんな顔、見た事無い。)

 

蓬莱はてっきり真っ直ぐ帰るのかと思っていた2台の車が駐車場に入ってきた事でドライバーと接触出来る機会を得た事に思わず口角を吊り上げた。

 

傍らに居た上海は蓬莱の様子がまた変わった事にますます違和感が強くなった。

 

蓬莱とは幼馴染の上海だが蓬莱のモード賢者という物は霊夢や魔理沙から聞いている程度で実際にこの目で見た事は無い。故に上海は蓬莱の変化を何かが違うという捉え方しか出来ない。

 

上海が混乱してる内に2台の車から2人のドライバーが降りてきた。1人は銀髪にメイド服を着た女性でもう1人は金髪に帽子をかぶった小さな少女だった。蓬莱の視線にも気付かず2人は会話をしていた。

 

??「妹様、セッティングの具合は如何でしょうか。」

 

??「バッチリだよ。咲夜のセッティングは何時も完璧だから走っててとても楽しいよ!!」

 

??「そう思っていただけて何よりです。」

 

話を聞いた限りだとこのメイド服を着た女性は本物のメイドのようで妹様と言われた少女の車のセッティングも彼女がやっているらしい。余程メカに精通した人物であると蓬莱はにらんだ。

 

蓬莱は2人の元へと歩み寄る。上海もその後に続く。コース偵察という真面目な仕事以外で蓬莱を1人にしておけば何を仕出かすか分からない。下手をすれば初対面の相手を平気で弄り倒す可能性も無きにしもあらず(というか事実それをやらかした事がある)。尚、依然として2人は蓬莱達が近付いている事に気が付いていない。

 

??「でも咲夜と2人で走るのもいい加減飽きちゃったからそろそろバトルがしたいなぁ。」

 

??「…そうですか。でもこの秋名山には私達より速い走り屋なんて居ないと思いますよ。」

 

蓬莱「聞き捨てなりませんねぇ。今の一言。」

 

??「…!!」

 

??「…?」

 

メイド服を着た女性は蓬莱がすぐ近くに居た事に驚き警戒心を露わにした。もう1人の少女の方はこの人誰?と言いたげな視線を蓬莱に送る。

 

??「…どういう事でしょうか。」

 

蓬莱「言葉通りの意味ですよぉ。相当腕には自信があるようですねぇ、お2人さん。」

 

??「貴女達は誰なの?」

 

蓬莱「アハッ、これは失礼しましたぁ。…でも人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗るのが筋ではないでしょうかぁ。」

 

上海「ちょっと蓬莱!!」

 

蓬莱「…上海は少し黙っててねぇ。」

 

上海「…ッ!!」

 

挑発的な態度で相手に話し掛けた蓬莱に上海は堪らず抗議の声を挙げるが蓬莱の一言に押し黙った。口調や飄々とした態度は普段の蓬莱と変わりなかったが今の蓬莱の一言には有無を言わせぬ程の威圧感を上海は感じた。

 

咲夜「…失礼しました。私の名は十六夜咲夜。職業はメイドをしております。」

 

フラン「私はフランドール⚫スカーレット。みんなからはフランって呼ばれてるよ。で、貴女達は?」

 

蓬莱「自称峠のアイドル蓬莱で〜す。」

 

上海「……」

 

あの威圧感の後にこのノリである。先程までの張り詰めた空気は何処へやら、蓬莱のコロコロ変わるテンションに上海はツッコむ気力をごっそり持っていかれた。

 

蓬莱のノリが平常運転なのが分かった所で上海は自分も名前を名乗るべきか蓬莱に尋ねた。

 

蓬莱「上海は別に良いと思うよぉ。」

 

上海「イヤでも、此処に居合わせた者として名乗っておくのも礼儀じゃないのかな。」

 

蓬莱「関係ないと思うなぁ。元々上海はスピードスターズのメンバーって訳じゃないんだし。」

 

蓬莱の口からスピードスターズの名前が出た直後、蓬莱のテンションにすっかり置いていかれていた咲夜の顔色が変わった。

 

咲夜「…スピードスターズって、あの自称秋名最速の走り屋チームの事ですか。」

 

蓬莱「自称じゃなくて事実ですよぉ。って言ってもメンバーはこの蓬莱だけですけどねぇ。」

 

咲夜「でも貴女、車で来てないじゃない。」

 

蓬莱「別に蓬莱がドライバーな訳じゃないですよぉ。蓬莱はチームの裏方として働いてま〜す。」

 

だからさっきの言葉を無視する事が出来なかったんですよぉと蓬莱は続けた。確かに秋名山最速を自負するスピードスターズなら自分達の存在を無視するは出来ないだろうと咲夜は思う。

 

…が、咲夜もフランも走り屋である以上自分達が最速だと気持ちは譲れない。そもそもそうでなければ走り屋なんかやってない。

 

咲夜「そうですか。…ですが私達も秋名を地元としている走り屋です。例え貴女達が秋名山最速を宣言していたとしてもはいそうですかって引き下がるつもりはありません。」

 

蓬莱「ですよねぇ〜。蓬莱もこればっかりは話し合いで解決出来る問題ではないと思ってますよぉ。ですから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…どちらが秋名最速か白黒はっきりつけましょう。」

 

咲夜⚫上海「…!!」

 

…空気が変わった。先程までの飄々とした雰囲気とはまるで違う賢者としてのオーラを纏った蓬莱に咲夜は警戒の色を強め、上海は初めて見る蓬莱の別の顔に驚いていた。

 

蓬莱「ルールは至って簡単、貴女方2人とウチのチームのダブルエース2人とでバトルして貰い勝ったチームが真の秋名最速の座を手にします。勝敗が五分だった場合はどちらか1人が代表で出てもう一戦行いそれで勝敗を決めます。バトルは次の土曜日夜10時、場所はここ秋名山という事でよろしいでしょうか。」

 

咲夜「…えぇ。」

 

蓬莱の雰囲気に圧倒された咲夜は空返事を返す事しか出来なかった。

 

フラン「バトル出来るの!?やったぁ!!」

 

フランは蓬莱の威圧感に屈する事無くバトルが出来る事を喜んでいた。

 

上海「……」

 

逆に上海は蓬莱の放つオーラに圧倒され言葉を発する事すら出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バトルは次の土曜日夜10時。このバトルの火蓋はこの瞬間切って落とされた。

 

【完】

 

 




誰も触れていなかったので蓬莱のモード賢者について解説。

蓬莱はモード賢者になると一人称の呼び方が蓬莱から私に変わります。口調も間延びした話し方から淡々とした喋り方に変化します。後は普段の蓬莱は面倒くさがり屋ですがモード賢者の時の蓬莱は自ら率先して行動します。

…とまぁこんな所です。

後、ウチの咲夜さんは完全で瀟洒なメイドさんです。決してレミリアとフランを見て鼻血出す様な駄メイドなんかじゃありません。(レミリアの出番があるとは言ってない)





…オイコラ、誰だ今咲夜さんの事をPAD長って言った奴は。

苦しゅうない、近う寄れ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 仲違いはチームの結束を高める為のフラグである

何時の間にか通算UAが5000件を突破している事を知りついつい頬が緩みがちになっている今日この頃。

毎度どうも、Doctor Kです。

遅れ馳せながら新年一発目の投稿です。皆さんはお正月をどう過ごしてましたか?因みに作者は寝正月でした(笑)。

ギャグとシリアスがごちゃ混ぜになってますが予めご了承下さいまし。



アリス「何があったというのよ……」

 

アリスは学校の屋上で広がっている光景を前に朝っぱらから大きく溜め息を付いた。

 

アリスの目に映っているのは、鋭い視線で仁王立ちしている霊夢と…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その霊夢と向かい合う形で正座したまましおしおと縮こまっている蓬莱の姿があった。しかも頭にたんこぶを付けた状態で。

 

どうしてこうなったのか、話は数分前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、アリスが学校に登校(今回はちゃんと歩いてきた)するなり魔理沙がアリスの元に近寄って来て…

 

魔理沙「アリス、屋上に行こうぜ。」

 

アリス「…いきなりどうしたのよ?」

 

魔理沙「説明は後、面白い物が見れるぜ。」

 

と言われ、魔理沙に先導される形で屋上へと向かった。

 

面白い物とは一体なんだろうかと思いながら屋上へとやって来たアリスであったが屋上に来た途端目の前に広がる光景を見て思わず「は?」と声を上げた。

 

霊夢「蓬莱、アンタは自分が何をしたか解ってるの。」

 

蓬莱「はい…」

 

霊夢「確かにアンタに秋名に行って来いって指示したのは私だけど喧嘩売って来いって何時私が言ったかしら。」

 

蓬莱「はい……」

 

霊夢「アンタは何時まで私達を振り回せば気が済むのかしら。」

 

蓬莱「スミマセン……」

 

霊夢に刻々と説教されている蓬莱を見て恐らくは蓬莱が何かやらかしたのだろうとは思っていたが霊夢がここまで怒るというのも珍しい。

 

一体蓬莱はどんな失態を犯したのか、そう思ったアリスは冒頭の台詞を呟いたのだ。

 

アリスの呟きに対して霊夢は蓬莱を指差しながら答えた。

 

霊夢「コイツは昨日秋名で例の2人組の走り屋にバトルの段取りをしたのよ。しかも私達に何の相談もせずに。」

 

アリス「あぁ……」

 

魔理沙「あちゃ〜。」

 

蓬莱「でもしょうがないじゃないですかぁ。だって向こうが自分達が秋名最速だって言い張ってきましたから売り言葉に買い言葉でつい…」

 

霊夢「言い訳は良い。」キッパリ

 

蓬莱「うぅ……」

 

霊夢に自らの主張をバッサリと切り捨てられしゅんとする蓬莱。確かに勝手に事を進めた事はまずかったかなとアリスは思う。だが…

 

アリス「でも蓬莱も良かれと思ってやったんだから、そこまで頭ごなしに怒る事も無いじゃない。」

 

アリスは蓬莱を擁護した。勿論非があるのは蓬莱の方だが自分の言い分も聞いて貰えず情けなく項垂れている蓬莱を見たアリスはなんだか無性に霊夢に腹が立った。思わず語気を強めて霊夢に反論する。

 

霊夢「何言ってんのよ。物事には段取りってのが必要でしょ。でも蓬莱が余計な事をした所為でバトルまで今日を入れて後2日しか無いのよ。」

 

しかし霊夢も自分が秋名スピードスターズというチームの屋台骨を支えているという自覚があるからか引こうとしない。2人共似た様な性格をしているだけに一度意見が食い違うと中々終わりを見せない。

 

魔理沙「あ…あの、アリス?」

 

アリス「ごめん魔理沙、少し黙ってて。」

 

魔理沙「お、おう……」

 

魔理沙はアリスの気圧に圧倒され首を縦に振る事しか出来なかった。何で怒ってるんだと思ったがそれを口にすると自分もとばっちりを食らうのでは無いかと思い言葉にしなかった。

 

事実、アリスは霊夢に怒っていた。アリスが霊夢に怒っているのは霊夢が蓬莱を頭ごなしに説教していたからではない。

 

アリスが怒っている訳は霊夢が蓬莱に対して「余計な事」と言ったからだ。蓬莱は曲がりなりにも秋名スピードスターズの一員なのだ。蓬莱は彼女なりにチームの為にと思ってした事を真正面から否定されて弁明すらさせて貰えなかった。

 

アリスは自分が家族と認める者が何者かによって傷付けられた時に怒りが爆発する。幼い頃から家族ぐるみの付き合いをしてきた蓬莱も勿論自分の家族だとアリスは思っている。だからせめて言い訳の一つぐらいさせても良いじゃないかと思い蓬莱を庇ったが霊夢が蓬莱を除け者にした事によりアリスは完全に怒った。

 

アリス「……余計な事って。蓬莱もスピードスターズのメンバーなんだよ。それに貴女はリーダーでも無いんだから蓬莱にあれこれ指図する筋合いは無い筈よ。もしこれ以上蓬莱を邪魔者扱いするなら私はチームを抜けるわ。」

 

霊夢「……っ!!」

 

痛い所を突かれて霊夢は押し黙った。アリスの言う通り、スピードスターズの実質的なリーダーは池谷であって霊夢ではない。チームの方針で池谷より霊夢の方がリーダー的な行動を取っているが霊夢の立場はあくまで外報部長兼戦術参謀であるのだ。それを忘れるなとアリスに言われた様な気がした。

 

それにアリスがスピードスターズを抜ける事になると霊夢だけではなくチームにとっても死活問題となる。

 

表に立つ人間は裏方の仕事無くして最高の仕事は出来ないと言われているがその逆も然り、表に立つ人間が居なければ裏方は仕事すら出来ない。それは即ちチームの崩壊を意味する。

 

拓海とアリスの二枚看板を支えているのが霊夢達裏方である様に裏方の霊夢達を支えているのも拓海とアリスなのだ。

 

秋名スピードスターズは藤原拓海とアリス・マーガトロイドの2人が居て初めてチームとして成立する。当初全く面識も無く赤の他人だった池谷と霊夢を繋げているのも前者の2人である。もしどちらか片方でも抜けようものならふとした事が切っ掛けで池谷と霊夢の間に亀裂が生まれ、それは次第に両者の溝を深め、結果としてチームは崩壊する恐れもあり得る。

 

蓬莱「(…どうしよう。私の所為でアリス先輩がキレちゃったよ。最悪なムード…)」

 

アリスと霊夢の板挟み状態となっている蓬莱は2人の間に入れずどうして良いのか解らず途方に暮れていた。やっぱり自分は必要とされていないのかなぁと自己嫌悪に陥り、蓬莱の表情に影が差す。

 

そんな蓬莱の姿を見てアリスはハッと我に返った。こんな些細な理由で喧嘩してる場合じゃない、それ以前に今の自分達は他にすべき事があるだろと。

 

アリス「…ごめんなさい霊夢。きつく言い過ぎたわ。」

 

霊夢「…良いのよ。私の方こそ少し出しゃばり過ぎたわ。」

 

アリス達が万全な状態で走る事が出来るのは霊夢が中心となってアリス達をサポートしているから。その事を知っていながら自分は霊夢に対してあんまりな事を言ってしまったとアリスは自分の失言に心から反省した。

 

拓海「…なぁ、蓬莱の件はともかく、これはプラスに考えるべきじゃないかな?」

 

いつの間にかその場に居た拓海が呑気な声でそう言った。拓海曰くアリスと霊夢が口論になっていた時に樹によって連れて来られたらしい。アリスの時と全く同じ状況である。

 

拓海の一言に何時だったら「何呑気な事言ってんのよ」と霊夢がぼやく所だが、アリスと和解した事により落ち着きを取り戻した霊夢は拓海の言葉を黙って聞いていた。

 

アリス「それってどういう事?」

 

拓海「確かにバトルまであまり時間は無いけど、蓬莱のお陰で相手の情報を調べる手間が省けたじゃないか。それに場所が秋名ならわざわざコースを調べなくても良いし。」

 

霊夢「…一理あるわね。」

 

なる程そういう事かとアリスは思う。相手の情報を事前に掴んでいれば霊夢は短期間で勝つ為のシミュレーションを完成させる筈。ましてや同じ秋名を地元にしている走り屋ならば当日の路面コンディションさえ知っていればその分車のセッティングやミーティングに時間を稼げる。その点で言えば蓬莱は大仕事をやってのけたと言える。

 

霊夢もアリスと同じ結論に辿り着いたようで、拓海の言葉に素直に感心していた。

 

霊夢「…なる程、それを考えれば残り2日でも充分間に合うわね。」

 

アリス「それに仮に何かあっても私達が勝てば良いだけの話でしょ。」

 

蓬莱「おぉ!!なんて頼もしいお言葉なんでしょうか。」

 

霊夢「…言ってくれるわね。」

 

すっかり何時もの調子に戻った蓬莱に呆れつつも霊夢はアリスの言葉に頼もしさを感じていた。

 

霊夢「それじゃあ、放課後早速だけど全員スタンドに集まってミーティングするわよ。皆遅れない様に。」

 

霊夢が全員の返事を聞いた所でこの場は解散となった。そんな中、アリスは教室に戻ろうとする蓬莱を呼び止めた。

 

アリス「蓬莱、ちょっと良い?」

 

蓬莱「…なんですかぁ。もう説教は勘弁ですよぉ(泣)。」

 

アリス「そうじゃなくて、蓬莱は例の2人と接触したのよねぇ。どんな感じの人だった?」

 

アリスが質問すると蓬莱は顔つきを変えた。

 

蓬莱「…ドライバーは2人共女性でしたよ。名前はFCに乗っていたのが十六夜咲夜、SWに乗っていたのがフランドール・スカーレットです。十六夜咲夜はドライバーとしても優秀ですし話した感じだと頭も良さそうですね。フランドールの方は多少粗さはありますが腕は確かです。」

 

アリス「車の方は何か解った?」

 

蓬莱「FCの方はフロントスポイラーとホイールを変えてる以外はそれ程弄ってはなさそうですね。それとシフトポイントが早かったので恐らくはラリー用のクロスミッションを組んでるかと思います。対照的にSWの方はエンジンの音を聞いた限りでは相当弄ってると思われます。多分あの車はビックタービンを搭載してますね。馬力は推定350ps以上は出てると思いますよ。」

 

流石は蓬莱の観察力といった所か。ただ無闇に喧嘩を売っていた訳ではなく相手の言葉一つでその人物の性格を把握したり、走ってる様子やエンジン音を聞いただけで大体のチューニング内容を同時に理解していた。何時も飄々としているがやはりこの少女は侮れない。

 

アリス「なんだかんだ言って見てる所は見てるじゃない。」

 

蓬莱「えっへへ〜それ程でもぉ。」

 

アリス「でも今度からはバトルの取り決めは霊夢か池谷さんのどっちかに一言言っておきなさい。次またやったら流石に私も擁護出来ないわよ。」

 

蓬莱「…へ〜い。」

 

アリス「(…本当に大丈夫かしら。)」

 

やる気の無い返事をする蓬莱に若干不安になりながらも自分の言い付けは守るからまぁ大丈夫かと結論付けアリス達はそれぞれの教室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、アリスがスタンドに到着すると既に他のメンバーが集まっていた。どうやら自分が最後だったようでアリスは慌てて席に着いた。

 

霊夢「全員揃ったようね。じゃあ早速始めるわよ。」

 

霊夢の言葉に先程まで騒いでいたメンバーも静まり返り皆耳を傾ける。

 

霊夢「まず最初に蓬莱から報告があったけど例の2人のドライバーと車の詳細が解ったわ。…池谷【さん】、説明をお願い。」

 

霊夢が池谷の事を初めてさん付けで呼んだ。朝方学校の屋上でアリスに指摘された通り、スピードスターズのリーダーは自分ではなく池谷だという事の再確認と、それを自分だけではなく他のメンバーにも意識付けさせる事が主な理由である。

 

霊夢からバトンを受けて池谷は言葉を紡ぐ。

 

池谷「解った。ドライバーは十六夜咲夜とフランドール・スカーレットの2人で前者がFCに、後者がMR2に乗っている。蓬莱の話では十六夜咲夜は腕も良く頭も優秀だそうだ。車のチューニング自体はそこまで手を入れてないらしい。それを踏まえてFCの相手は拓海、お前だ。」

 

拓海「わかりました。」

 

池谷「アリス、君の相手はMR2だ。蓬莱の話によるとフランドールは腕はそこそこだがツボにはまると速い走りをするらしいぞ。おまけに元々戦闘力の高いミッドシップレイアウトのMR2にビックタービンをドッキングさせてるようだから車そのものの戦闘力はかなり高いぞ。気を付けてくれよ。」

 

アリス「はい。」

 

咲夜の相手を拓海が、フランの相手をアリスが務める事で話は決まった。今度のバトルは場所が秋名山という事もありコース攻略等のミーティングは無しとなった。

 

拓海「なぁ、ミッドシップって何だ?」

 

アリスにメカの勉強を受けている拓海だが聞き慣れない単語が出てきたところで何のこっちゃか分からないので拓海は隣に居たアリスに問うた。

 

アリス「ミッドシップっていうのはドライバーの後方にエンジンが付いてる車の事を言うのよ。旋回性能は他のレイアウトの車よりもダントツで高いからコーナーが恐ろしく速い車なの。」

 

池谷「欠点としてはその高い旋回性能故にちょっとした事でもすぐとっちらかってスピンし易いから初心者には絶対扱えない車なんだ。」

 

霊夢「それに近い特性を持った車にフロントミッドシップレイアウトってのがあるわ。フロントミッドシップはフロントにマウントされているエンジンを出来るだけエンジンフードの奥に押し込んで本物のミッドシップにも負けないくらいの旋回性を持った車の事を指すわ。今回のバトル相手の十六夜咲夜のFC、そして魔理沙のFD、後アリスのS2000もこれに該当するわね。」

 

拓海「へぇ~。」

 

アリスの簡単な説明を池谷が補足し、更に霊夢がミッドシップと似たような特性を持つフロントミッドシップの説明を拓海にした。一度に多量な情報が入ってきたが、どうやら拓海はちゃんと理解したようだ。

 

今回はスピードスターズの地元秋名山でバトルする事になる為、チームの方針に則ってホームページの活動記録には残らず所謂【非公式バトル】として扱われる事になる。相手の土俵で勝ちをもぎ取る事に意味があるというのは霊夢の弁。

 

池谷「バトル当日の天気予報は雨だそうだ。2人共地元だからって油断するなよ。」

 

拓海・アリス「「わかりました。」」

 

揃って威勢の良い返事をする2人を見て池谷はまぁ2人なら大丈夫だろうと思う。

 

無論、2人が負けるとは思っておらずまた油断するとも思ってない。だがリーダーとして締めるべき所は締めていかないと足元を掬われる恐れがあると考え、最低限の注意喚起を促した。

 

少しづつではあるが着実に池谷はリーダーとして相応しい姿に成長していた。

 

長かったミーティングも終わり、アリスは自宅へ帰ろうとしたが久しぶりに母親の家に行こうかと思い立ち自宅とは反対方向へと車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アリスの母アリシアは愛車のボンネットを開けてエンジンの状態を確認していた。

 

その表情は芳しくなく、まるで傷付いた我が子を見ているかの様な目で愛車のコスモスポーツを眺めるアリシア。

 

アリシア「…う〜ん、やっぱりローターが傷んできてるわね。祐一の言う通り買い換えた方が良いのかしら。」

 

アリシアが免許を取得してから20年以上毎日乗り続けてきただけに愛着というのは当然ある。故にどうしても手放そうという気持ちにはなれない。

 

しかし、人間と同様に車にも寿命がありアリシアのコスモスポーツは何時走行不能になってもおかしくはない。既に秒読み段階に入っていると言っても良い。

 

それを考えると別の車に乗り換えるのは致し方ないと言えるがどの車もあまりピンと来ない。

 

政志に車探しを手伝ってもらうという手もあるがアリシアの知り合いの中では付き合いの浅い政志が彼女のお眼鏡に叶う車を見付けてくれるとは限らない。

 

いっそパルスィが営むディーラーで車を探そうかと考えていた時に聞き慣れたV-TECサウンドが耳に入ってきた。

 

アリシア「あら?」

 

音が聞こえた方向に目をやると純白のS2000がこちらに近付いて来る。それを見た時アリシアは心の底から喜びを覚えた。

 

アリス「ママ、こんな時間に何やってるの?」

 

S2000から出てきたのは勿論アリス。アリスがアリシアの家に来るのは久しぶりの事だ。思わず頬が緩み抱きしめたい衝動を抑えきれないアリシア。

 

アリシアは娘の身に何かあろうがなかろうがアリスを見ただけで抱きつくという妙な癖がある。思春期真っ盛りな高校生のアリスにとってこれは非常に恥ずかしい事である。

 

アリシアの様子を見てあっこれ絶対抱き付かれるなと瞬間的に察知したアリスは素早く回避行動を取ろうとしたが…

 

アリシア「つ〜かまえた♪」ガシッ

 

アリス「嘘でしょ!?」

 

思いの外アリシアの動きが早かった為に回避が間に合わずアリスはあえなく捕まってしまった。…無念、アリス。

 

アリシア「アリスちゃ〜ん、ママは嬉しいよぉ。こうしてアリスちゃんが家に来てくれて。」

 

アリス「分かったからもう離してよぉ〜…」

 

アリシア「い〜や〜だ♪」ムギュ

 

アリスの頼みをバッサリと切り捨てアリシアは抱きしめている腕の力を一層強める。時折アリスが「苦しい…」と呻いているがアリシアは聞く耳を持たない。おまけにスリスリと頬ずりまでする始末。

 

この抱擁はアリシアの気が済むまで終わらない。アリシア曰くアリス成分を自身の体内に取り込んでいるらしい。…アリス成分とは一体何なのだろうか。

 

マーガトロイド家には父親がいない。アリスの父親はアリスが産まれてすぐに亡くなった。

 

原因は交通事故である。アリスの父親も元ラリー屋だった。ある日、何時の様に峠を単独で攻めていた時に運悪くタイヤがバーストしてしまい制御を失った車はガードレールを突き破って崖下に落下、車は大破しアリスの父親も即死だった。

 

それからというものアリシアは女で一つでアリスを育ててきた。自分と夫との間に産まれた唯一の子供であるが故に誰よりも愛情を持って接してきた。勿論今もそれは変わらない。

 

元々親バカであったがアリスが親元を離れて一人暮らしを始めた事でそれがより顕著になった。アリシアがアリスと会う度に抱擁してくるのは親バカで子煩悩なアリシアが出来る最大の愛情表現なのだろう。

 

アリス「むきゅ〜……」

 

アリシア「……あれ?」

 

しかし、何事にも限度というのは大事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリス「…で、ママはこんな時間に何やってたの。」

 

かなり疲弊した様子のアリス。

 

あの後気が付いたら母親の分厚い抱擁から解放されていた。その時の記憶がゴッソリ抜けているがこういう事は良くある事なので特に気にしていない。というかいちいち気にしたら負けだと思っている。

 

アリシア「車の状態を確かめていたのよ。でもエンジン自体の基本設計が古いからこの子はもう限界ね。」

 

20年前は現役バリバリだったのにねぇ…と今では満身創痍となったコスモスポーツに意気消沈するアリシア。

 

世界初のロータリーエンジンを搭載した乗用車として華々しいデビューを飾ったコスモスポーツは走り屋の世界に革命を起こしたと言っても良い。

 

それまでのレシプロエンジンと比べて小型で軽量、尚且つ小排気量ながらパワフルさを兼ね備えたピュアスポーツマシンの元祖とも言える。

 

だが、ロータリーエンジンは燃費の悪さがネックで当時車を買うだけで精一杯であったアリシアは燃料代を捻出するのも一苦労だったそうだ。

 

アリス「じゃあ新しい車でも買うの?」

 

アリシア「今の所その予定になるわね。でも何にするか決まってないのよねぇ〜。」

 

アリス「パルスィに頼めば?」

 

考えてる事は親子共に一緒かとアリシアは微笑む。現状ではそれが一番妥当ではある。パルスィの目利きに狂いは無いのできっとアリシアのお眼鏡に叶う車を提供してくれる筈。

 

ともかく、パルスィのディーラーで車を探す事で話は纏まった。では、そうなるとアリシアのパートナーとしての役目を終える事となるコスモスポーツは一体どうなるというのか。

 

アリス「じゃあこの車はどうするの?廃車にでもするつもりなの?」

 

アリシア「嫌よ廃車だなんて。この子はウチに置いとくわ。」

 

どうやら手放すつもりは無いらしい。もし新たに車を買った場合、単純計算で維持費は通常の2倍掛かる事になるがちゃんと払えるのだろうかと不安になるアリス。

 

アリシア「それじゃあご飯を食べたら久しぶりに親子で峠に行きましょう。アリスちゃんのS2000にも乗りたいし。拒否権は無しね♪」

 

アリス「はぁ〜……」

 

峠に行く事自体は賛成なのだが勝手に話を進めないでせめて返事ぐらいは聞いて欲しい。

 

今日も今日とて自由奔放な母親に振り回されアリスは溜め息しか出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後秋名でアリシアのクレイジーなドライブにアリスの悲鳴が木霊したのは言うまでもない。

 

【完】

 

 





新たにキャラが出てきたところで簡単な説明を。

十六夜咲夜

搭乗車種…サバンナRX-7 ∞Ⅲ(FC3S)

カラー…クリスタルホワイト

ナンバー…群馬15 よ 13-417

装着パーツ… 藤田エンジニアリング製マフラー、WORK製アルミホイール、CHARGE SPEED製フロントスポイラー、トーコンキャンセラー、足回りはダンパーとブレーキのみそれ以外はノーマル

秋名山を地元にしている走り屋の1人。普段は大人しくて控えめだが走りの事になると勝ち気な性格に豹変する。フランの車のセッティングも彼女がやっている。熱狂的なロータリー信者。





フランドール・スカーレット

搭乗車種…MR-2(SW20)

カラー…スーパーレッドⅡ

ナンバー…群馬16 に 49-540

装着パーツ…FUJITSUBO製マフラー、SSR製アルミホイール、ボアアップ、大口径タービン、大容量ラジエター、過給圧アップ、フルコンピューター等

咲夜と同じく秋名最速を目指している走り屋の少女。非常に無邪気な性格で裏表が無い。走ってる時は感情的になりやすくそして泣き虫。メカに全然詳しくないので車のチューニングやセッティング等は基本的に咲夜任せ。実は小学生の時は上海や蓬莱と同じ学校に通っていたが本人達はその事を憶えていない。





以上です。

補足ですが蓬莱は相手がスピードスターズの敵だと判ると喧嘩腰な態度になります。咲夜みたいなタイプの人間とは相性最悪です。

ではまた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 ライバルは神出鬼没

いつの間にかお気に入り件数が80件を突破していた事についてww

どうも久々のDoctor Kです。

ここのところスランプで執筆が全く進まなかったのでしばらく放置していたら、評価増えてるわ、バーに色付くわで勝手にてんやわんやしてました(笑)。

いやぁ、今年一番のビックサプライズですなぁ(笑)。

誰が評価したのか確認していたら匿名で評価1付けられてました…

誰だコンチクショウ!!







…という事で最新話です。



 

……最速とは何か?

 

走り屋をやってるならば誰もが目指す領域。最速の座を手に入れる為に最速の走り屋に挑み、勝利し最速の称号を手に入れる。まさに絵に描いたサクセスストーリーだ。

 

……では最速とはどういう事か?こういう単純な疑問程明確な答えは以外と出ない。

 

アリス「……」

 

アリスもその例に漏れず先程から自問を繰り返していた。

 

アリスがこの疑問を抱く様になったのは走り屋の世界に関心の無い上海がこの疑問をアリスに問うた事が発端となった。

 

以来、アリスは暇になった時は答えを模索する毎日を過ごしていた。堪りかねて一度は母に聞いてみたが……

 

アリシア「……さぁねぇ〜。ママはそんな事考える前に最速になっちゃたから分からないわ。」

 

と言い全く当てにならなかった。そして今……

 

パルスィ「私が知る訳ないじゃない、妬ましいわね。」

 

パルスィにも同じ事い聞いたがバッサリ切り捨てられた。彼女なら何かヒントをくれるのでは無いかとGARAGE WaterBridgeにやって来たが空振りに終わったようだ。

 

アリス「パルスィなら何か知ってると思ったのになぁ〜……」

 

パルスィ「第一私は走り屋じゃないんだし、それを私に聞くのはおかしいと思わなかったわけ?」

 

言われてみれば確かにとアリスは思う。こう言ってはパルスィに失礼だが、走り屋でない彼女に答えられる質問とは到底思えない。

 

パルスィ「そんなに答えが知りたいなら走りの中で見付けなさい。他人の言った事なんて当てにならないものよ。自分で得たもの、それが答えよ。」

 

私から言える事はそれだけよとパルスィは締め括った。

 

パルスィの元に来ただけでも充分な収穫があったとアリスは思える。

 

自分の答えを信じる、

 

パルスィの言った事はあまりに単純明快な事だったが、答えを急ぎ過ぎたアリスはその事がすっぽり抜け落ちていた。

 

やはり単純な疑問程その答えは解りにくいものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、秋名山へとやって来たアリス。

 

パルスィから背中を押されたのもそうだが、うだうだ考えているより走りの中で答えを見つける方が自分の性にあっている。

 

パルスィ「……何で私まで付いて来なきゃいけないのよ。妬ましい……」

 

秋名に居たのはアリスだけではなくパルスィも居た。口ではそう言ってるがアリスの要求を二つ返事で了承し付いて来たのだからパルスィも割と乗り気なのかも知れない。

 

アリス「嫌だったら断れば良かったじゃない。」

 

パルスィ「夕飯奢るからって言われて断りきれる程人間出来てないわよ。」

 

……訂正、パルスィは乗り気だったのではなく単に食べ物に釣られただけであった。だがそれ以外にもパルスィが付いて来たのにはもう一つ理由がある。

 

それはディーラーのオーナーとしてアフターパーツの点検及び動作確認の為である。

 

特にアリスのS2000は装備してるパーツが多い。いくらアリスとは付き合いが長いとはいえディーラーの常連客である以上、客のニーズに合わせてパーツを改良していかなくてはならない。

 

先程パルスィは他人の意見は当てにはならないと言っていたが、それはあくまでプライベートでの話。仕事の場で人の意見を無視して独断で事を進めるのは愚の骨頂、商売人として失格である。

 

パルスィを隣に乗せて車は走り出す。今日はダウンヒルではなくヒルクライムを攻める。走りに集中しようとしていた矢先……

 

パルスィ「……何か悩み事でもあるの。」

 

と言われてアリスは思わず固まった。隠していた訳ではなかったが出来るだけ悟られない様に努めてはいた。

 

ここのところ……厳密には昨日からアリスは霊夢とギクシャクした関係になっていた。

 

昨日、蓬莱の立場を巡って霊夢と口論になって以降、まともな会話は無く互いにどこかぎこちない。その場で謝りはしたものの溝は埋まらず一夜明けてもその仲は改善されていない。

 

パルスィに勘づかれた以上隠し続けるのは野暮だと思ったアリスはその事をパルスィに打ち明けた。他人の与太話に全く興味の無いパルスィの事だから関係ないと切り捨てるだろうと思っていたが……

 

パルスィ「……下らな過ぎて妬ましいわね。」

 

予想の斜め上を行く辛辣な返しだった。自分から話を振っておいてその反応はあんまりではないかとアリスは思う。

 

アリス「パルスィ、下らないって言い過ぎだと思うけど…」

 

パルスィ「大体、お互いに謝ったならもう問題は解決してるじゃない。それを何でいちいち引き摺るのか私には良く分からないわ。」

 

アリス「……」

 

ぐうの音も出ない。パルスィの言う通りアリスと霊夢は互いに謝罪を交わして終わりになっていた筈である。

 

ところが1日経っているのにその仲は一向に修復されていない。

 

一体自分はどうすれば良いのだろうか。走りに集中するどころか益々思考の渦に溺れていく一方である。

 

バックミラーに一台の車のヘッドライトが近付いている事に気付いたのは沈んだ気持ちのまま車を流していた時だった。

 

パルスィ「……一台後ろから来てるわよ。」

 

アリス「分かってる。」

 

気持ちを切り替えてペースを上げるアリス。コーナーを立ち上がった時、アリスは相手の正体に気付いた。

 

アリス「(このエキゾースト、それにコーナーを脱出する時のこの加速、まさか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GT-R!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「(待ちわびたぜ、この時が来るのを。)」

 

前を走る無限エアロの白いS2000を見て口角を吊り上げるこの男は妙義ナイトキッズのリーダー中里毅。

 

中里はアリスとのバトルの機会を虎視眈々と窺っていた。

 

妙義での交流戦の時には良い経験になればと思いアリスの相手を慎吾に譲ったが、本当は中里自身がバトルをしてみたかった相手が今目の前に居る。

 

こうなると中里が取る手段は一つしかない。

 

中里「アリス・マーガトロイド、お前とは一度バトルをしてみたいと思ってたぜ!!」

 

吼える中里、そしてそこからのフルスロットル。中里のR-32はあっという間にS2000の背後にへばり付いた。

 

アリス「何よ!!そこまでムキにならなくて良いじゃない!!」

 

これを見たアリスは中里の行動に少々苛立ちながら更にペースを上げる。ここで忘れてはいけないのがアリスは今ヒルクライムを攻めているという事。

 

上りではパワーとトラクションで勝るGT-Rが圧倒的に有利。これではいくらアリスでも勝ち目は無い。

 

だがここは秋名山。毎日の様に走り込んでいるアリスにとっては自分の家の庭みたいなもの。例え相手がGT-Rといえど総合的な速さでアリスは中里を凌駕する。

 

だからといって中里が下手という訳では断じて無い。ここ最近の彼は自身の欠点だった感情任せなムラッ気のある走りを見つめ直し、現在少しずつではあるが安定感のある走りを見せつつある。

 

パルスィ「……あら、よく見ると後ろのGT-R、ナイトキッズの中里の車じゃない。」

 

アリス「良く分かったわね。」

 

パルスィ「彼の車も私のディーラーで仕上げているのよ。分からない訳が無いわ。この間もまた私に板金頼んできたし。」

 

アリス「またって……あの人そんなに板金頼んでくるの?」

 

パルスィ「少なくとも年に一回は必ず来るわね。まっ、ウチからしたら儲かるから良いんだけど。」

 

それは少し多過ぎるのではないのかとアリスは思う。

 

パルスィと呑気に話をするアリスだがそれでも速い。後ろの中里はアリスがまだ本気を出していない事に気付いてはいたがそのあまりの速さに次元の違いを感じていた。

 

中里「(…予想以上の速さだ。こちとら冷や汗ダラダラもんの全開だってのに。)」

 

アリスの走りの何処が凄いのか、かつてドリフトをしていた中里には分かる。

 

彼女は本物のドリフトを知っている。ドリフトはまずコーナーの入り口でブレーキングをし、次にステアリングを切ってリアタイヤを滑らせ、そしてカウンターを当てる。

 

ここで重要なのは以前アリスが魔理沙に言った様にステアリング操作はあくまできっかけ作りにしか過ぎないという事。下手なドライバーはこれを理解しておらず必死にカウンターを当ててわざわざアンダーステアを出してしまっている。

 

それに必要以上にカウンターを当てるという事はその分抵抗が増す事になり、結果車速の遅いドリフトになってしまう。

 

上級者ともなればターンイン直後の安定期から立ち上がりにかけてはステアリング操作はほとんど行わずアクセルワークだけでクリア出来る。当然アリスもその1人。

 

更にアリスみたくドリフトを極めた走り屋であるならば、ステアリング操作はコーナー進入時の車の姿勢作りに行う程度で後はステアリング操作を一切行わない。

 

ヒルクライムバトルはダウンヒル以上にリアタイヤを酷使する。特にアリスのS2000は後輪駆動な為、リアタイヤの熱ダレを避ける為にもドリフトの多用は避けたい筈。

 

それなのにアリスはドリフトを止める気配を一切見せない。それは何故か?

 

その答えはアリスのドリフトにあった。コーナーに進入する時は思いっきり突っ込んで派手なドリフトをかます。そして荷重がリアに移る立ち上がりでは出来るだけタイヤのスライドを抑えて立ち上がる。

 

こうする事でリアタイヤの発熱を抑え、熱ダレを軽減させる事が出来る。派手な見た目の割にはタイヤに優しいテクニックなのだ。

 

中里「(…速い!上りなら行けるかと思ったがとんだ見当違いだったな……)」

 

結局中里は最後までアリスを捉える事が出来ず、そのままヒルクライムバトルは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中里「…参ったよ、完敗だ。」

 

もし妙義でバトルをしたとしても恐らく同じ結果になっていただろうと思いながら中里はアリスに話し掛けた。

 

が、中里の言葉に反応したのはアリスではなく……

 

パルスィ「アンタまさかアリスに勝てるとでも思ったの?その過剰な自信が妬ましいわね。」

 

中里「水橋の嬢ちゃんに言われるとぐうの音も出ねぇや……」

 

パルスィのあまりに辛辣な言葉にガックリと肩を落とす。

 

過去に何度もパルスィに車を直してもらった借りがある為か、中里はパルスィに対して頭が上がらない様子。

 

そんな両者の関係など詳しくは知らないアリスはパルスィにまぁまぁと宥めながら話に割って入る。

 

アリス「中里さんはこの秋名に何か用事があって来たの?」

 

中里「まぁ強いて言えばお前と秋名のハチロクに会いに来たのさ。」

 

アリス「私と拓海くんに?」

 

中里「あぁ。俺はお前ら2人が気になって仕方がないのさ。ただ速いだけじゃなく見る者を魅了する何かを持っていると俺は思う。」

 

それが何かを確かめる為に夜な夜なこうして秋名山に出没しているのだと中里は言う。

 

だが、結局収穫は得られていないんだとか。

 

パルスィ「そんな事する暇があったら赤いEG-6のドライバーとさっさと仲直りしなさいよ。」

 

中里「慎吾の事か?心配無用だ。アイツもここのところ変わってきたからな。」

 

パルスィ「別に心配なんかしてないわよ。」

 

アリス「……」

 

慎吾の名を聞いて思わず眉を顰めるアリス。

 

妙義でのバトルで愛車のS2000にバンパープッシュをお見舞いさせられたからか、アリスは慎吾に対してあまり…というより全く良い印象を持っていない。

 

中里「以前までのアイツは勝つ為ならどんなラフな手段も選ばない卑劣な奴でな、良い腕を持っているだけに勿体ないと思っていたんだ。それが変わったのはスピードスターズと交流戦をした時だ。」

 

パルスィ、アリス共に中里の言葉に興味を持つ。特にアリスに至ってはあの慎吾にどういう心境の変化があったのか気になる様子。

 

中里「あの時慎吾はアリス・マーガトロイドとバトルをして手も足も出なかったんだ。特にアリスのS2000にバンパープッシュをして以降はな。その事については俺からも謝るよ。すまなかったな。」

 

アリス「いえ、もう終わった事なので…」

 

中里「話を戻すが、それ以来アイツはアリスの腕を褒めちぎるんだ。他人を褒める事なんてまずしないアイツがな。」

 

あの交流戦は慎吾と中里にとってとても良い経験になったに違いない。自身のレベルアップを図る意味でも、そして妙義ナイトキッズというチームを一つにする意味でも。

 

現状維持に満足するのではなく、更に上の領域を目指す事が速くなる上で最も重要な事だと中里は改めて思い知った。

 

中里は最後にスピードスターズはとのリターンマッチを宣言して秋名山を去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パルスィ「私達もそろそろ帰りましょうか。」

 

アリス「そうね。」

 

パルスィのパーツのチェックは特に大きな問題点も無く終わり、中里も帰った為、やる事も無くなった2人は山を下りる事にした。

 

帰りのダウンヒルを軽めに流しのんびりと車を走らせる。この時のアリスは本気で攻めるつもりは毛頭無かった。

 

バックミラーに映るベッドライトの光に気付くまでは……

 

アリス「…もぉー、今度は誰なのよ。」

 

中里の時と同じようなデジャブな展開にアリスはまたかとうんざりとした表情をしつつも気持ちを切り替えて少しペースを上げる。

 

ペース的には今の所七割程度で相手の出方を窺っている。それで相手が付いて来れないようであれば興醒めも良いとこである。

 

しかし、後ろを走る車はアリスの後ろにピッタリとくっついて離れない。どうやら並の走り屋ではないようだ。

 

パルスィ「…後ろの車、中々やるわね。」

 

アリス「私に煽りをくれたんだからあっさり離されてハイ、おしまいじゃあシラケるわよ。」

 

パルスィ「…妬ましい。」

 

自信に満ちた発言をするアリスだが、これは決して驕りなどではない。

 

事実、この秋名山でアリスと互角の腕を持つ走り屋はチームメイトの拓海を除けば誰1人として存在しない。確かな経験と理論に裏付けされた走りは他の追随を許さない。

 

もしアリスの腕を持ってしても敵わない相手が居るとしたら……それは恐らくアリスの母、アリシア・マーガトロイドだけかも知れない。

 

ヘアピンでツインドリフトへと移行した際にアリスは相手の車を確認してみた。

 

特徴的なベッドライト……そして夜の闇に染まり不気味な雰囲気を醸し出しながらも華麗な四輪ドリフトを決める青いエボⅨ。

 

アリス「(青いエボⅨ……まさか!?)」

 

それを見た瞬間、アリスはこの車の持ち主が誰なのか気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「約束通り、リベンジを果たしに来ましたよ。……七色のドリフト使いさん。」

 

アリスの二つ名を口にし、ほくそ笑むこの少女。一体何者なのか……読者の皆は既に見当が付いているであろう。

 

そう、この少女は群馬エリア屈指の四駆の使い手にして碓氷峠最速の座に君臨するインパクトブルーのもう1人のエースドライバー。

 

奇跡のエボ使い……東風谷早苗その人であった。

 

先の発言から察するに、どうやら早苗はアリスとのリベンジマッチをしに来たと思われる。

 

早苗は秋名山に来るのは初めてである。それでも勾配のキツイ秋名のヘアピンをいとも容易くドリフトで駆け抜けて行く様は流石の一言。

 

4WDのドリフトは一見簡単そうに見えて実はとても高度な技術を要する。

 

4WDスポーツマシン(GT-R、ランエボ、インプ等)でドリフトを決める為には2つの条件をクリアしなければならない。

 

まず第一に、進入スピードが高めである事。スピードを落とし過ぎると返ってドリフトが続かないからだ。

 

次に車が滑り出したらアクセルを全開にしてドリフトのコントロールはステアリング操作一本で行う。アクセル全開且つゼロカウンターの四輪ドリフトになって初めて4WDドリフトが完成するのだ。

 

この時気を付けなければならない事は、FRの車と同じ様にアクセルを踏む量を調節してカウンターを当てようとすると強烈なタコ踊りに見舞われてしまう恐れがあるという事。特に走り屋初心者が4WDドリフトを試みる際によく陥りやすいミスなので注意するように。

 

その点早苗は上記の条件をクリアしており、更にジムカーナ経験者という事もありコーナーを回るスピードも段違いに速い。流石は奇跡のエボ使いと呼ばれるだけあって、その技術は卓越してると言える。

 

アリス「…間違いない。あのエボⅨ、東風谷早苗の車ね。」

 

そうと解ればこっちも全力で攻めるとアリスはアクセルを踏む足に力を入れる。東風谷早苗というドライバーは半端な速さで逃げ切れる程ヤワな相手ではない事はアリスもバトルを通じて重々承知している。

 

アリスはドライビングに全神経を集中させる。それに気付いたパルスィはバトルの水を差さない様に黙って見守る事にした。

 

勝負は秋名名物、5連ヘアピンへと差し掛かる。アリスがこの秋名でバトルをした時、何時も決まってこの5連ヘアピンで勝負を決めてきた。

 

だが今回は違う。この日のアリスは5連ヘアピンを勝負所と見てはいなかった。

 

低速コーナーの処理が抜群に上手い早苗を相手にヘアピンで勝負を仕掛けても振り切れない事は目に見えている。

 

ましてや先のヒルクライムで中里と壮絶なバトルを繰り広げていたのでタイヤに余裕がある訳ではない。早過ぎるスパートは逆にタイヤを痛め付ける結果になり、仕舞いにはここ一番の場面でタイヤが踏ん張ってくれず相手に遅れを取る可能性も否定できない。

 

そんなカッコ悪い事はキャラ的にも出来ないアリスは5連ヘアピンではタイヤを温存し、終盤の中高速区画でアタックを仕掛けると決めていた。

 

早苗「(コーナーが速いアリスさん相手にヘアピン勝負はキツイですね……

 

…となると仕掛けるポイントはラストの中高速セクションになりますかね。)」

 

奇しくも、アリスの狙いは早苗の狙いと全く同じだった。

 

5連ヘアピンでは両者共に特に大きな動きはなく、バトルは最後の中高速区画へと入る。

 

依然として前を走るアリスの後ろを早苗がピタリと張り付いたまま離れない状態が続く。

 

先に仕掛けたのはアリス。ゴールまでの距離とタイヤのグリップの残り具合を考えスパートするなら今しかないとギアを上げる。

 

アリス「(頼んだわよ……私のS2000!!)」

 

早苗「(!!…やはりアリスさんもここで仕掛けてきましたか。)」

 

対して、アリスの走りの変化にいち早く気付いた早苗もランエボの瞬発力を活かして一気にペースを上げる。

 

迫り来るコーナーを慣性ドリフトで駆け抜けるアリスと早苗。ライン取りもコーナリングスピードもとても理想的だ。

 

パルスィ「……っ!!(…流石に横Gがキツイわね。)」

 

あまりの横Gの強さにパルスィは顔を歪める。

 

秋名山の下りのラストは比較的勾配が緩く、コーナリングスピードの高いコーナーが続く。だからそれほど横Gは掛からないだろうと踏んでいたがアリスにはそんな常識は全く通用しない事をパルスィは改めて思い知らされた。

 

因みに余談だが、峠を攻めるアリスの横に座った者は必ず悲鳴の一つや二つは出るとアリスの友人達の間では有名である。上海然り、魔理沙然り、果てはあの霊夢ですらアリスの横には乗りたくないと言う程アリスの走りは親譲りのグレイシーっぷりを見せている(アリス本人は無自覚)。

 

ところがパルスィと蓬莱は怖がる素振りを全く見せない。パーツの点検等でアリスの横に乗る頻度が多いからか、乗ってりゃ嫌でも慣れるとパルスィは言う。

 

そして蓬莱に至っては怖がるどころかむしろ楽しいとあっけらかんとした表情でそう言い放ったとか(これを聞いた上海曰く「頭がオカシイ」との事)。

 

蓬莱「蓬莱のどこがオカシイって言うのよ!!」

 

上海「全部。」キッパリ

 

蓬莱「ぶーぶー。(# ̄З ̄)」プンスカ

 

……閑話休題。

 

この最後の中高速区画で早苗はアリスとの差を痛感していた。

 

低速コーナーでは気が付かなかったが、この区画でハッキリと解る事が一つ。

 

アリスの突っ込みが速すぎる。

 

今でこそ立ち上がりの加速の差を利用して付いて行けてはいるもののオーバーテイクは厳しい様子。当たり前だが、前に出ないと勝負に勝った事にはならない。

 

アリスの前に出る為には彼女より速い突っ込み且つよりワイドなラインを描く必要がある。

 

そこで早苗は次の複合コーナーで一か八かの大博打に打って出た。

 

2つのRを結ぶ複合コーナーの入口、このコーナーは道幅の狭い峠道で唯一3車線になっておりラインの自由度は高い。

 

そこを早苗はなんとノーブレーキで突っ込んだのだ。

 

アリス「…なっ!?」

 

もはや暴挙とも言える早苗の行動にアリスは思わず声を上げる。

 

そんなスピードでは4WD特有のアンダーステアが出て絶対に曲がる筈がないと思っていたアリス。

 

だが次の瞬間…

 

早苗「行っけぇ!!」

 

ダァン!!

 

なんと早苗はイン側の歩道を強引に乗り上げる手段を取った。そして勢いそのままにアリスのS2000に並ぼうとエボⅨの鼻面をこれまた強引に捩じ込む。

 

アリス「嘘でしょ!?」

 

バックミラーでその一部始終を見ていたアリスは常識を逸脱した早苗の走りに目を丸くするしかなかった。だがそれ以上に、早苗の意地と執念を見た様な気がした。

 

コーナーでの安定感を高める為に車高を極限まで下げているアリスのS2000では絶対に真似出来ない芸当を見せアリスの横に並んだ早苗。

 

両者並んだまま最終コーナーへと差し掛かる。このコーナーは高速コーナーが続く最終セクションの中では比較的コーナリングスピードの低いコーナーとなっている。

 

ブレーキングのタイミングはほぼ同じ。ライン取りはアリスがイン側にいる分若干有利。対する早苗はアウトからアプローチしなければならないのでかなり苦しい。

 

早苗「(流石に苦しいですか……でも、立ち上がりの加速でぶち抜く!)」

 

コーナーを立ち上がってアリスのS2000が頭一つ抜け出す。しかし早苗も負けじとランエボの加速力を活かして並びかける。

 

早苗「(ゴールはすぐそこ。お願い…間に合って!!)」

 

ゴールラインを過ぎるまでにほんの少しでも前に出る事が出来れば自分の勝ち。早苗は最後まで己の勝利を信じ、渾身の力を込めてアクセルを踏み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…だが僅かに届かず、アリスのS2000が先にゴールラインを通過しバトルは終了となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリス「…まさかあそこまで追い詰められるとは思わなかったわ。」

 

車を降りて開口一番、アリスはボソリとそう漏らした。

 

紛れもなく本心から出た言葉だ。決して東風谷早苗というドライバーを侮ってた訳ではなかったが、まさかここまで縺れたバトルになるとは思ってもいなかった。

 

ましてや早苗は秋名山を走るのは初めてであるにも関わらず自分と互角の勝負を演じてみせた事がアリスにとって一番の驚きであった。

 

勝った気がしないというのはまさにこの事だろうとアリスは思う。

 

早苗「でも結果は貴女の勝ちで私は負けです。そんなに落ち込む事は無いと思いますよ。」

 

勝負の世界では結果が全て。どんな内容であろうと勝てば勝者、負ければ敗者として扱われ、その中間は得てして存在しない。

 

早苗「だから、もっと胸を張っていて下さい。でないと……私が満足しちゃうじゃないですか。」

 

敗者に出来る事は、次の戦いに備えて気持ちを切り替える事。勝者のアリスには断固たる姿勢を貫いていて欲しい。それが自分のモチベーションになると早苗は信じているからだ。

 

早苗「それで、話は変わるんですけど…」

 

早苗がアリスの元にやって来たのにはリターンマッチをやる以外にも別の目的があった。どうしてもアリスの耳に入れておきたい情報があったのだ。

 

早苗「アリスさん、次の遠征の相手は決まっていますか?」

 

アリス「遠征相手?…まだ決まってないわ。」

 

地元秋名山でなら咲夜とフランとのバトルが次の日に控えているが、ホームページには今のところ書き込みは無い。

 

早苗「この頃栃木エリアで不穏な動きを見せている走り屋チームがいるって情報をキャッチしたんですよ。その事をアリスさんに知らせようと思って。」

 

早苗曰く、その走り屋チームはメンバー全員がランエボに乗っているチームで栃木エリア最速の座に君臨する走り屋チームなのだとか。

 

そのチームの名は……

 

アリス「エンペラー……」

 

早苗「エンペラーのリーダーとは走行会やジムカーナの会場で良く会うんですよ。エボ乗りという共通点もあって良く話したりするんです。」

 

同じ車種に乗ってる者同士だと何かと共感する点も多い。早苗は一度エンペラーのリーダーに勧誘されたらしいがその時は既にインパクトブルーに入っていた為断ったんだとか。

 

アリス「でもそのエンペラーって言うチームが不穏な動きを見せているってどういう事?」

 

早苗「私が掴んだ情報だと、何でもエンペラーは群馬エリアへと侵攻する準備を進めているようです。目的は群馬エリアの制圧と赤城レッドサンズとのリターンマッチだそうです。」

 

ここまで聞いたら早苗が何を言いたいのかアリスにも理解出来た。

 

つまるところ早苗はエンペラーから名指しで挑戦を申し込まれる可能性があるから準備しておけと言っているのだ。

 

アリスと拓海が加入してから連勝続きでスピードスターズもここのところ評判が高い。そんなチームをエンペラーが放っておく筈がない。

 

ナイトキッズ、インパクトブルー、そしてスピードスターズは間違いなくエンペラーの標的になるに違いない。

 

しかし早苗は何故その事をわざわざアリスに伝えに来たのか。

 

早苗「実を言うと、この間碓氷峠でエンペラーの偵察隊と遭遇してしつこく絡まれたんですよ。向こうがバトルする気満々だったので仕方なく付き合ってあげましたよ。

 

…まぁ、私と真子さんで軽く捻りましたが。」

 

アリス「……」

 

パルスィ「妬ましい……」

 

それはその偵察隊とやらに同情するしかない。

 

アリスとほぼ互角の腕を持つ早苗と真子に無謀にも挑み、そして案の定返り討ちに逢った偵察隊は今頃エンペラーのリーダーに説教されている事だろうとアリスは顔も知らない偵察隊に心の中で合掌した。

 

早苗「もしアリスさんがエンペラーとバトルする事になった時は私達インパクトブルーも応援に来ます。だから絶対に負けないで下さい!」

 

早苗にとってアリスはただのライバルなんかではない。同じ女の走り屋同士という事もあってか仲間意識も強い。

 

いつか自分が負かす相手だからこそ、他の誰にも負けて欲しくはない。早苗はそんな想いを込めてアリスに激励を入れた。

 

アリス「…分かったわ。その時が来たら全力で迎え撃つわ。」

 

そしてその想いはアリスに確かに伝わっていた。

 

パルスィ「…あら、アンタの車バンパー割れてるじゃない。」

 

別れ際、パルスィは早苗のエボⅨのバンパーが割れている事に気が付いた。ディーラーを営む者として放っておく訳にもいかなかったパルスィは帰ろうとしていた早苗を呼び止める。

 

早苗「あぁ……やっぱりそれなりの代償はありましたねぇ。」

 

恐らく先程の複合コーナーで早苗が歩道を乗り上げた際に割れたものと思われる。早苗の言う通り、やはり代償は大きかった。

 

パルスィ「だったら帰りに私のディーラーに寄って行く?」

 

早苗「良いんですか!?」

 

パルスィ「どうせこんな時間までやってるディーラーなんて何処にも無いわよ。それにその格好のままで碓氷に帰るのも恥ずかしいでしょ?

 

10分程度で直してあげるわ。」

 

早苗「はい!ありがとうございます!!」

 

こうして早苗はパルスィのディーラーで車を修理して貰う事になった。

 

そしてその手際の良さに感動した早苗はGARAGE Water Bridgeの常連客の仲間入りを果たす事になるがそれはまた別の話。

 

パルスィ「アリス、そろそろ帰るわよ。

 

…夕飯奢る約束、忘れないでよね。」

 

アリス「…ハイハイ。」

 

余談だが、結局アリスはパルスィとそれに便乗してきた早苗の夕飯を奢る羽目になったとか。

 

【完】

 

 




本文中の複合コーナーのくだりはあくまで独自の設定です。

確かあのコーナーはガードレールがあった様な気がしましたが、早苗の走り屋としての意地を見せる為にもガードレールを取っ払う必要があったとです…

エンペラーの登場フラグは絶対に必要でした。

早苗をジムカーナ経験者にしたのも京一との接点を持たせる為の設定です。

さて、次回の投稿はいつになる事やら…

ではまた。





※コメント、質問等は感想欄か質問コーナーにお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。