新武将の野望in恋姫†無双 ROTA NOVA (しゃちょうmk-ll)
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第一話 始まったら小田原の民家へLet's襲撃!
さてはて参った、いったいここはどこなのだ。そして己れはだれだ・・・?
対岸の見えないほどの、海と見まごう大河のほとりに一人の男がぽつんと立っていた。
腰には安っぽい脇差、薄汚れた着物の下には鎖帷子を着込んでいる。それ以外の持ち物は特に見当たらず旅人というには軽装すぎて散歩していたら見知らぬ土地に迷い込んでしまったようにも見える。
体は鍛えこまれているがその顔には思慮深さとどこか憎めない魅力の持ち、どことなく洗練された所作を持つ不思議な男だった・・・
名はわかる、新武将(あたらしたけまさ)だ。しかしなんでこのようなところにいるのかがわからない。
剣術の稽古の最中に頭をぶったたいた相手の記憶を飛ばしたことなら何度かあるが・・・、いや待てそれでは自分は剣術の師範だったのか?
男は腕を組み途方にくれていた。自分の名は覚えているがどうにも自分がどういった来歴の人間であるかかがいまいちつかめない。記憶喪失ではなく記憶混濁といった状態だ。
武士だったような、商人だったような、忍者だったような、はたまた海賊だったような・・・、いや待て、本当に己れは男であったか?女であったような気もする・・・
自分の性別すらもあいまいというのはいささか危険な状況である。
小大名に仕えて主君に天下を献上した名臣でもあれば、大大名に仕えて上司に謀反を促しその主さえ裏切り、主家を滅ぼし主君を手にかけ主殺し、奸臣、梟雄とも謗られた悪逆非道であった気もする、いったい何者なのだ・・・?
軍神、天下無双、縦横家、天下一博徒などそれらすべてが彼が今まで確かに得てきた称号であるが一人の人間が一生の中で得られる栄光にしてはいささか多すぎる
では単なる気のせいであるかといわれるとそうでもない、確かにそう称されるに足るだけの功績を打ち立ててきたという自負があった。
まぁそんな細かいことはどうでもいい、よく考えたら物心ついたころから槌すら握ったことないのに天下一鍛冶とか言われていたこともあったし、米転がししまくって賢侯()とか言われたり・・・、天下には不可思議なことがあふれていよう!
この男、かなりポジティブである。
とりあえずこのまま突っ立ていても埒が明かないので周囲の景色を見て自分がどこにいるのか確認することから始めたのだったがどうにも見覚えのない場所であった。
日ノ本であればどこであろうと自分の居場所がわかるほど駆けずり回った記憶のある男であってもこのような大河は日本で見たことがなかった、瀬戸内のどこかかと思ったがそれならすぐに見当がつく
これほどの大河・・・、ならばここは大陸か?大陸のどのあたりかまるで見当もつかぬ
寧波(上海)のあたりなら貿易で何度も立ち寄ったような販路を引いてそれっきりだったような気もするが、とにかくにこの当たりに覚えがない
日本ならば川沿いに歩いていけばいずれは集落につけるだろうが大陸となれば話が違う、普通なら無計画に歩くのは得策ではない
なるようになるか、川沿いに歩いていけば飢えて死ぬこともあるまい
えらく楽天的なようにも思えるが男にとって肝心なのは、どうやって生きるのかではなくどのように生きるのかである
武士であれ商人であれ忍者であれ海賊であれ、それを志し極め、天下に名声を轟かすことこそ男にとって〝生きる”ということであり生き様でもあるのだ
やはり天下は広く、空は果てしなく高い・・・ 四海踏破などと称されようが所詮は日本周辺のみ、南蛮商人たちとは比べることもおこがましい
堺や平戸で出会った商人たちは日本の中では見たこともない名品、珍品を携えてこの星の裏側から世界を股にかけ船を駆りやってきた。
特に堺の商人はたった一隻の小型船で七つの海を舞台に大暴れし、恐ろしいまでの槍の使い手でまさしく”悪魔”と呼ぶにふさわしいほどの武人であった。
そんな彼らと出会い、新武将という男は世界の広さを痛感した。ならば七つの海に漕ぎ出し立身出世を志すのもまた一興
~さて、往くか・・・
新武将の新たな人生が日本から遠く離れた中華の地で始まるのであった。
「んで、お兄さんは東の島から朝貢しに来た人なんすか?」
あれから歩くこと数時間、偶然にも一人の少女と出会うことができ情報収集がてらに同行を申し出た.
最初はこんなところに男一人でいたことで川賊の一味かと疑われたが、東にある異国の島から商売をするためにやってきたが船が賊に襲われ命からがら逃げてきたという話を持ち前の弁舌ででっちあげなんとか同行に成功した。
そして少女から話を聞いていると、ここは明の時代からはるか昔の後漢の時代であることが分かったのだった。
大抵世界史で習うだろうが、朝貢とは中国周辺の国々が貢物として特産品を献上しその見返りとして献上品以上の褒美を授けるというものだ。
一見中国が不利に思えるが反乱起こされたときにかかる軍事費よりは大幅に安上がりとなる。軍隊はいつの時代も生産性が乏しい上に金食い虫である。
彼の時代では朝貢はすでに形骸化しており、倭寇が跋扈し密貿易が盛んに行われている。正式な文書を持たないものは貿易ができないという決まりになっていた
大抵、三好氏か毛利氏あたりから御用商人になるか部下に命じて盗ませるかして王印か勘合を工面して初めて貿易が可能となる.島津家は大抵大友家に滅ぼされるのでルソンに行けるかは運次第だが
自分が生きていたあの戦国の世からゆうに千年は時をさかのぼっていたと知りさすがの彼も言葉を失い、その様子を見ていた少女も不思議そうに首を傾けた。
「東の国から来たってことはお兄さん、真名については知らないんすか?」
「ああ、全く知らなんだ。 己れの国にはそのような習慣はなかったのでな」
真名というものは初めて聞いた。なんでも自分が信頼できる人物にのみ呼ぶことを許す名であり無断で呼んでしまうとその場で斬られても文句は言えないほど重要なものであるらしい
人によっては自分の一人称を真名で呼ぶものもいるらしく、習慣を知らぬものにとっては初見殺しもいいところの迷惑な風習である
「へ~真名を知らないとは・・・ずいぶん遠くからきたんすね~」
「こちらとしてはそんな初対面の相手と会うたびに死亡判定が出るような物騒すぎる風習は勘弁願いたいな」
「あ、申し遅れました! 自分は姓は呂、名は範、字は子衡というっす! お兄さんはなんというのでしょうか?」
新武将、という名であるが中華風にいえば姓は新、名は武、字は将、真名はタケマサといったところだろうか
「こちら風に言うなら姓は新、名は武、字は将という。己れの国とは色々勝手が違うようなのでな、頼りにさせていただきたい」
「そうっすね、将殿と呼ばせていただくっす。 困ったときはお互い様ですから何でも聞いてください。金額次第っすけど」
無一文の男から金を巻き上げようとするとは、なかなか根性の座った娘である。
呂子衡と名乗った少女ではあるがいささか幼すぎるのではないか、この時代では一人旅は危険で賊や獣、急な災害など危険が伴うものであった。
きっと食うに困った家族がせめてもの贈り物として字を送り、幼い少女を送り出したのであろう・・・
「なんかすげぇ失礼なこと考えてる顔してるっす!」
「いやいや、まだ幼いというのにずいぶん利発だと思いましてな、つらいことがあったいつでもいって下され。歩き疲れてはおりませんか、よければおぶりましょうか?」
「馬鹿にするなっす!これでも2,3人相手なら負けないっす! 人を見た目で判断すると損をするっすよ!」
そうやって大声で主張する姿は彼女の背格好や外はねの髪型もありどこか子犬を連想とさせるものがあった。
「まぁいいっす、私はこのあたりで一番栄えてる襄陽で一発あてるためにはるばる豫章のほうから旅をしてるっす」
「ふむふむ、襄陽に向かっているのか、とすればここはどのあたりなのか?」
「そ~っすね~、あと4、5日もすれば襄陽ってとこっすかね? 船があれば早いんですけどさすがに高くて・・・」
そういって困ったように頭をかく呂範、どうやら途中までは商人の一団と共に旅をしていたようだが江陵を出たあたりから一人旅をしているらしい
「この時代、何をするにも名士の紹介がなければ厳しいと思うが何か伝手はあるのか?」
「う・・・、でもあのまま郷里でくすぶっているよりましっす。出世して故郷に錦を飾ってやります!」
どうやら最初は故郷で仕官しようとしたが家が貧しく満足に学問ができなかったため襄陽で学んで一旗揚げようとのことらしい
ここまで金にがめついのは家が貧しく幼いころから節制しなければならなかったからなのだろう
「うむうむ、その意気やよし。人間どんなに才能がなくても優秀な人間に諦めず師事すれば技能を極めることができるものだ」
「いいこというじゃないですか~、あたし頑張りますよ!」
能力とはいわば才能であり、その個人の資質でもある。これは生まれた時から決まっていて伸ばすのはそれなりに手段が限られてくる
しかし技能は鍛錬によって伸ばすことが可能で、それによって得られる特技こそ乱世の中で大きな力を発揮するのだ
数多くの特技の中でも特定の人間しか会得していないものなどは特に強力のなものが多い
例えば魅力や智謀が一桁だろうが技能と特技(札)がそろっていればその家の主の息子だろうと、家臣ごと或いは城ごと寝返らせることが可能である。
具体的に言うと某M利家のT・KさんとかT田家のM・Sさんとかが有力候補
この娘は見たところ武力はあまり高くないようだが他はそこそこ、能吏や軍師、商人向きの人材である。武官でやっていくには武力が厳しい
他は鍛え方次第ではどうにでもできるが武力のは生まれ持った才能によるところが大きく、いくら剣術を修めていようと各上相手には一撃でやられることが多い
とはいっても鹿島の妖怪ジジイやフラフラ出歩く厩橋の不良道場主等の人外クラス相手だと武力1だろが100だろうがあまり関係なくなってくるのだが・・・
「まとまった時間があれば己れがじっくり指南することもできるのだがな、今はそういうわけにもいくまい。 襄陽についたら礼にいくらか教授して差し上げよう」
「う~ん、無一文でさまよってた人に教授してやると言われてもいまいち頼りないっすね。 将殿はどんな特技を持ってるっすか?」
「そうさな、効果的な城の壊し方からいかに領主から軍資金と兵糧を脅し取るかまで様々な分野を網羅しているぞ」
「分野がやけに限定的かつ非合法な匂いがするっす! あんた今まで何やってたんすか!?」
世の中生きるのには金が必要なのだ、金がなければ生きてゆけない。 ならばあるところから頂戴するしかないのだ
「いいか、狙い目は拠点が一つしかない領主だ、戦もせずにため込んでいる。あらかじめ周到にぶっ壊しておいてぎりぎりまで攻め込んでから交渉すれば有り金すべてむしり取ることが可能だ」
「聞きたくないっす!完璧に盗賊の手口っす!」
「交渉の時に停戦とか言われるが別に構わん、協定が切れるころにはまたしっかりため込んでいるからまた強請りにいけばよい。ただし援軍には気を付けろ、いろいろ面倒だ」
「考え方がもろ野盗の類じゃないですか!?」
「あと仕官するなら家老が2、3人いて城数もある程度ある勢力がいいぞ。手っ取り早く城主になれるし謀反した後に滅ぼす時も楽だ」
「なんで謀反すること前提なんすか!?あんためっちゃ危険人物じゃん!」
「はははは、冗談だ」
「嘘だぁ!!」
主君に殺意がわくときは主に落とせもしないのに半年以上だらだらと城攻めしたり,せっかく立派に仕上げた城に勝手に拠点移してパクるなどがあげられる。
「ほんとになんなんすかこの人、発言がいちいち物騒っす。こんな野盗もどきと一緒にいられないっす、私は自分の寝室に帰るっす」
「おいおい、そういう発言は縁起が悪いぞ。まぁこんな無一文の男にそんな大それた事ができるわけないだろう、冗談だ冗談 ・・・イマハナ」ボソ
「なんか最後に言ったよう気がするけど気のせいっす。ほんと頼むからおとなしくしといてください、もう少しで無事に襄陽につけるんですから・・・・」
案の定、その日の晩に野盗に襲われた。
「やいやいやい! 命が惜しくば金と積み荷を置いていけ!」
野営をしていたときに河から数十人の男たちが現れ、あっという間に囲まれてしまった。どうやら近くに船を泊め、気取られないように泳いで一気に近づく江賊の一味だったようだ
こちらは2人で、武装は護身用。向こうは20人ほどでこちらを包囲しており、武装は剣や槍などで弓はない。向こうのほうが人数が多くこちらは無勢、普通に考えればこの時点で詰みである。素直にみぐるみ置いていくかいくらか払うかが得策だ
「なぁ、こういう時のために普通は用心棒を雇っておくのではないのか?」
「そんなの雇うぐらいならもっと金になりそうなもん買うっす」
「命あっての物種だろうに・・・」
「なにいってんすか? 金は命より重いんすよ」
この娘、真顔で言いやがった・・・、ここまではっきりと言い切るとは、いい商人になるだろう
「んで、この状況何とかできないんですか? 将殿ガタイがいいからなんか〝ここは拙者にまかせて~”とかなんとか」
「なんかそれやったら死にそうだな」
「大丈夫っす!尊い犠牲は決して忘れないっすよ。 天からあたしの活躍を見守っててほしいっす」
ほんとぉぉにいい根性してるなこの娘は・・・ このまま無一文の不審者だと思われるのは癪だな、面倒だがやるか
集団から一歩前に出て賊の前に立つ、賊はいかにもな男が出てきたことにより警戒を強めるが脇差一本腰に差しているだけとわかり武器を突き付けた
「あぁ?なんだてめぇやる気か!? どうやらおめぇから死にてぇらしいな」
語気強く言い放つが将はどこ吹く風といった様子でまるで気にしていない、それどころかまるで相手を憐れむかのような表情をしている
「すまんが素直にひいてはくれんか。あいにくと貴様らにくれてやる金も積み荷もないのでな」
「なに、渡さねぇだと!? 舐めた面しやがっていい度胸だ、地獄へ行って後悔しやがれ!」
「子衡殿、あんまり動くなよ」
臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前 神隠しの術!
その瞬間に子衡の姿がその場からあたかも神隠しにあったかのようにふっと見えなくなった。賊に動揺が走る。この男はいったい何者なのだ、妖術使いかはたまた仙人、化生の類か
「て、てめぇいったい何しやがった!?」
「何でもよかろう、お前たちには関係ない。さっさとかかってくるがいい」
腰から脇差を抜き放ち、両の手で握り脱力したかのように腰のあたりで構える、いわゆる無形の型だ
「よくわからねぇがおめぇをやれば済む話だ!一勢にかかれ!」
「数が多いのでな、一気にかたをつける」
ーーーーーーーー新陰流 究極奥義 〝転”ーーーーーーーーー
その少女、呂子衡はそこらの男2,3人には負けないくらいの腕っぷしはあるが武に関してはあまり造詣が深くはない。
故郷の近く、呉群のほうには人を吹き飛ばす勢いで戦場を駆ける女傑がいると聞いたことがあるがその目で見たことはない
彼女の中ではそういった暴風のようなものこそが”武”であると考えていた
しかし、今自分の前に立っている新武将の武は違った、敵を圧する強大な戦気と違うまるで一振りの鋭い刃のごとき殺気だ
その殺気に気押されつつも多勢に無勢と四方より賊が一気に押し寄せる。それに対してタケマサはただ構えるだけで動こうとはしない
一人が袈裟切りで斬りかかる、半身をずらして頸を一閃
またある一人は槍で突きを放つが躱され槍を持たれて引き寄せられ胸を一突き
後ろに回り羽交い絞めにしようとしたものは背に構えた刃によって自らの勢いで腹を断った
動きは最小限に、相手の動きを完全に読み切りあたかも自ら斬られに行くかのように次々に賊が斬られていく
あらかじめそのように定められた舞踏のごとく、一寸の乱れなくこれを断つ
ーーーー相手がどのような動きをしようと、自在に対応しこれを打つ
これこそが剣聖・上泉秀綱が開眼した新陰流の基本にして究極奥義 「相手に応じる円転自在の剣」の境地ーーーー”転”ーーーー
「ひ、ひいぃ! 強すぎる! 助けてくれぇ!」
20はいただあろう賊が気が付けば2~3人にまで減っていた。
武将に斬りかかったものは皆斬り捨てられ残っていたのは遠巻きに周囲を警戒していた者たちのみだ
瞬く間にたった一人で数十人を切り捨てたこの男は、化生か天魔か・・・。残った賊は我先にと逃げていった。
「とまぁこんなところか、得物がこれではいかんな」
四方八方に血や骸が散乱している中で武将はあっけからんに、何でもないかのように言い放つ。軍を率い日ノ本を駆けり、屍の山の上に天下泰平を成し遂げた男にとってはこの程度些細なことであるのか・・
ただただ魅せられていた。呂範はこの惨状を前にしても、武将に対する恐怖よりその極められた一個の武に惹かれていた
この只者ではない男についていけば自分は成り上がることができるのではないか
例え化生や魔物の類であってもこちらは学のない小賢しいだけの小娘だ、千載一遇の気を逃すわけにはいかない
何としてでもこの男についていかねば、そしてその技を手に入れて見せるーーーーーーーーー
タケマサの前に跪き礼を取る
「改めまして!あたしは姓は呂、名は範、字は子衡、真名は陽花っていうっす! どうか弟子にしてください!」
戦国の世にから来た男に弟子入りした少女の運命はいかようになっていくのであろうか・・・
「別にいいが・・・君に武術の才能ないぞ」
「ばっさり!?ひどいっす師匠ぉぉぉ!」
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第二話 鍛冶屋で小遣い貰って茜で稼げ
呂範の突然の弟子入り宣言だったが、あたりには血やらモツやら骸やらが散乱しており落ち着いて話すこともできぬということでひとまず場所を移す。
少し進んだ先で夜半の川のほとりに腰を据え改めて話を聞くこととなった
「さて、弟子にしてほしいということだったが己れから指南を受けたいということでいいのかな? 建築、弁舌、鉱山、算術、礼法一通り身に着けているぞ」
「いやいやもちろん武術っすよ!さっきのアレすごかったっす!並みいる敵をバッサバッサ切り倒していく感じで!」
「教えてやってもいいがあれは剣聖と称された方の起こした新陰流の究極奥義、そうやすやすとは身に着けられるものではない」
「じゃあどうやったら身に着けられるんすか?こう滝に打たれながら精神統一とかするんですか?」
「己れを倒すごとに奥義を一つづつ教えてやろう。安心しろ手加減はせん、全力で潰す」
「安心できる要素がどこにもないっす!教える気あるんですか!?」
「未熟なものに秘技はおしえられん。大丈夫、サクサク行けば1年以内に体得できるさ」
秘技を習得するためには師匠を倒さねばならない。剣客、剣豪クラスの相手ならばなんとかなるが剣聖相手となると一回勝つのだけでも運ゲーとなる。
ガード不可だったり全画面攻撃だったりな究極奥義を稽古で連発してくるなど戦国の剣豪たちは基本容赦ない
そんな相手と戦うには装備を整えたり別の秘技を学んだり色々と準備が必要となってくるが今の呂範ではタケマサから秘技を習得するのはほぼ不可能だ。
先ほどのタケマサの大立ち回りを見ていた呂範は彼我の戦力差を鑑み、秘技を教わるのは現実的ではないということを実感している
「ぶ、武術はちょっとあたし向きじゃない見たいっす・・・」
「まぁ気を落とすな、人間武術だけではない。例え腕っぷしが弱くても別のことで身を立てればいいではないか」
「そ、そうっすよね。大丈夫・・・あたしは強い子、こんなところで挫けないっすよ・・・」
やや気落ちした呂範をしり目にタケマサはこれからのことについて考えを巡らせていた。
後漢の時代と一口に言っても歴史は長い。道すがら聞いた話では洛陽の都では宦官と官吏が争っていたり官位が金で売り買いされようといているとかいないとか。さらにどうやら華北のほうでは年々気温が下がりだしているそうだ。
中央政権の腐敗と権力闘争による官位の形骸化、それに加えて食糧難の兆し・・・どっかで聞いたような状態である。どう見ても乱世にリーチかかってます本当にありがとうございました。
戦国時代と同じく三国時代もどうやら小氷河期であったらしく、黄河の流域である華北ではその影響が大きかった。曹丕の時代には九州と同緯度にある淮河が冬季に凍り付いたという記録もある。
確かこれから朝廷の悪政、黄巾の乱、群雄の割拠、董卓の台頭、それから何やかんやあって蜀、魏、呉の三国鼎立、最後は晋が統一を果たすという流れであった気がする。
兵法書は読んできたが詳しい情勢の動きなどは把握しきれていない。迂闊なところに仕官しようものならどんな巻き添えをくらうことか。
そんな状況でこれからどう動いていく・・・?
今まで生きてきた日本とは時代も土地も違うので勝手がつかめず頭をひねる。仕官するにも商売するにも土地勘がなければ話にならない。
だがとりあえずは何よりも優先しなければならないことは・・・
「なぁ子衡殿、どこかで茶を手に入れたいのだがなにかあてはないか?」
「茶ですか?あたしみたいな娘がそんな高級品手に入れる伝手なんて持ってるわけないっす。あたしら庶民には縁の遠いものですよ~ 襄陽についたら手に入るんじゃないですか、お金あればですが」
そうだ茶だ、最優先事項である。
茶は素晴らしい。飲んで良し、嗅いで良し、飲ませて良しの三拍子に加えて朝廷との交渉もしやすくなるし極めていけば茶室に敵将を拉致監禁も可能という万能の外交手段となる
憎まれ口をたたき何かと喧嘩売ってくるライバルや親密度の上がりにくい無欲な連中も茶をふるまえばあっという間に親密になれる。月に一度は配下の者たちに茶を振る舞い家中の結束を高めたものだ。
中には茶を好まず、”妖怪茶飲んでけ”などと揶揄する心無い者もいたがある日を境に酒を飲めない体質になり芸術品に凝り始め茶の魅力に気づいていった。
”はい!拙者は疑いようもなく茶が大好物でござる”としきりに呟くようになったが見事な心掛けだと感心するがどこもおかしくはない
まさしく茶は万能の飲み物だ、これから生きていくうえで欠かせない
まず茶の入手こそ第一課題であり、何事にも優先されるべき課題なのだが後漢の時代の茶は飲用ではなく薬用として用いられており高価で庶民が入手することは困難である。
無一文の武将と田舎から出てきた呂範は茶を買うような大金など当然持ち合わせてはいないし交易しようにも元手がない状況ではどうしようもない。
ならばやることは一つである。
「とりあえず山籠もりだ」
「は?」
事態を把握できぬままの呂範の首根っこをつかみ、襄陽近くの野山につくなり川辺の日陰を見つけると、”ここを野営地とする!”といわんばかりに呂範の荷物を物色し一通り道具をそろえて彼女の文句を聞き流しながら薬草採取を行う。
幸運なことに多くの薬草が自生しており使えそうなものを一通り呂範に伝え、逃亡防止のため自らは拠点で生薬を加工する作業を行い、ついでに彼女に医学の指南を行うこと早十日と少し。
そんなこんなである程度数がそろったので作成した生薬とついでに作った各種薬を背負い襄陽の門前までやってきた。
「う~、あと少しで襄陽ってとこで山に連れてこられひたすら草集め・・・そこから草やら石やら獣の肝やら角やらなんやらを煮たり干したり潰したり・・・」
「これが飯のタネになるのだ、文句ばっかり言ってないで少しは我慢してくれ。簡単ではあるが傷薬の作り方も教えてやっただろう」
「確かに役には立ちそうですけど・・・ うぅ服にあの独特な何とも言えないような臭いが染みついてるっす」
「医学が少しは身についた証拠だ、よかったな」
「よくないっすよ~こんなのうら若き乙女の体からしていい臭いじゃないっす~ これ絶対洗っても取れないやつだぁ」
「ほらほらがんばれ、もうあんなに近くではないか」
「重いっす~臭いっす~なんだかみじめっす~」
文句を垂れながらもついてきているの彼女はなかなかに丁稚気質がある。
呂範としてもタケマサが人の話を聞かない上に行動力は人並み外れているというのは痛感していた。しかし一応薬草に関する知識は教えてくれたし採取の最中に熊やら狼やらと遭遇した時もどこからともなく現れて救ってはくれた。
そして弟子入りの際に真名は預けたが、”自分はまだ真名の重みを理解しきれていない”と自分のことを陽花と呼ぶことはない。異国人ではあるがそこらへんは誠実なようだ。
若い男女だというのに自分に見向きのしなかったという点については思うことがないでもない。あと作業中になぜか3~4人に分身していたのは疲れからの見間違いだと思いたい。
呂範の恨み節に相槌を打ちながら門前に差し掛かると少し様子がおかしいのに気が付く。夜も明け市場が開く時間であるというのに人通りもまばらで活気がない。
「ねぇねぇ守衛さん、こんな時間なのに何でこんな人通りが少ないっすか?精進日かなんかっすか?」
「む、なんだお前たち知らんのか。今ここ襄陽では流行り病が起きていてな・・・ 人々は町にこもって出てこんのだ。 私だって仕事で仕方なくこうして立っている」
「は、流行り病っすか。好都合っちゃ好都合ですけど・・・」
「ん?その匂いとその荷物、お前たち薬を売りに来たのか? 紛い物つかませようとしてもそうはいかん、華佗先生の目はごまかせんぞ」
「人聞きの悪いこと言わないでください!正真正銘まっとうな薬ですよ! んで華佗先生ってのは誰なんすか?」
「疫病が流行りだしてからこれ幸いと藪医者やら薬売りやらが集まってきてな、どいつもこいつも胡散臭いこと言って金をだまし取ろうとしていたんだが華佗先生ご一行が現れて詐欺師共を懲らしめてくださったんだ」
「へ~立派な方っすね~」
「それからここにとどまって治療をしてくださっているのだがいかんせん手が足りていないという状況だ。薬を売りたいのならまず華佗先生のところに行ってみるといい」
「あい分かった、それではまず華佗先生を訪ねてみることにしよう。ところで守衛殿、今ここで流行っている病はどのような症状なのかな?」
「主に高い熱が出て次第に衰弱していきひどくなると手足のしびれが出てくるな。華佗先生はこの通りをいって右手側に見えてくる楼で診療を行っていらっしゃる」
「よくわかりました。それでは行こうか子衡」
城門を後にし襄陽の通りを歩く、人の通りも少なく閑散としている。
それにしても華佗ときたか。神医とよばれ嘘か誠か、腹を割って直接臓腑を治療したという逸話を持つという。明から来たやたら熱血な医者も彼がいきてその技を後世に伝えていたなら歴史は変わっていたであろうと言っていた。
薬といってもあくまで気血を整え本人の免疫を高めることしかできず、手遅れになるまで弱っていたり臓腑がダメになっている場合は手の施しようがない。
万能薬である反魂丹は強力だが患者の体にかける負担も大きく使いどころが難しい。
それゆえに神医・華佗の治療とは言ったどのようなものであろうか、非常に興味深く楽しみである。ただ商売敵になるようなら相応の対処が必要かもしれんが
「やたら好戦的な顔してますけどもめごとは起こさないでほしいっすぅ~」
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第三話 没年不明の武将は病気でポックリいきやすいので健康管理はしっかりと
「あ、師匠! あの建物じゃないっすか?」
呂範が指をさした先には三階建ての楼があり具合の悪そうな住民が集まっている。扉を叩き、なかに入るとそこには
「御免、華佗先生はいらっしゃるかな、薬を売りに来たものなんだg・・・・」
「うぅ~ん?いいオ・ト・コの声がするわねぇ~ だぁあれぇ?下腹部がキュンキュンするチャ~ミングな男の気配はぁ~?」
「このほのかに漂ってくるのはいいオノコの香り、それも一級品。わしの小さなお胸の先っちょがピクピクしておるわぁ!」
なんじゃこりゃ・・・ なんじゃこぉ↑りゃ・・・
なんじゃこぉ↑りゃ・・・ なんじゃこっりゃ↓・・・
なん↑じゃこりゃ・・・ なん↓じゃこりゃ・・・
なんじゃこりゃ・・・ な"ん"じゃこりゃ!・・・
「あらぁ?いらっしゃ~い どこか調子が悪いのかしらぁン?でも安心してぇ、あたしが誠心誠意看病してあげるわぁ~ん」
「貂蝉よ、お前のようなものでは役者不足よ。この方はわしが手取り足取り腰とり添い寝して差し上げるのだ 引っ込んでおれ!」
「うっふ~んいい男を見つけた漢女は一直線の早い者勝ちなのよ~ん! ほぉ~んらベッドまで運んで差し上げるわ~ん」
扉を開けるとそこはピンクのパンツ一丁のガチムチとふんどしに前開きの袖だけのガチムチがいた。あきらかに似合っていない
さすがのタケマサでもこれには意識が飛び、茫然自失となり惚けてしまった。呂範に至ってはまるで敵に大筒があったときの某東北地方の武将のような顔でフリーズしている。
そんな彼らに対しこれ幸いとばかりにキャプチャーにかかる二人? はたして単位は人でよいのか、匹・体・柱あたりが適切な気がする
彼らの手がタケマサに触れようかというその一瞬
--------------------------一刀流奥義 夢想剣!!!!--------
かの剣豪、伊藤一刀斎はさらなる剣の奥義を求め鶴岡八幡宮に参籠したことがあった。
しかし満願日を迎えても、何の啓示も受けられず、一刀斎は失意のまま去ろうとして境内を歩いていると、突然に闇に潜む男が斬りつけてきた。
参籠を終え、気力体力が限界であった一刀斎は影を斬るように刀を振り、確認もせず帰宅したのである。
そして翌朝、それが夢か、事実かを確かめるために境内に行くと一太刀で絶命した男の死体があり、そのときの夢心地で剣を振った剣こそ”夢想剣”となずけた。
人間は無意識で体が反応し、達人の無意識は意識した動きを超える。無意識の動きには、恐れも不安も迷いなく、それゆえに正確であり、的確だ。
数多くの修羅場を越え、幾百も強者たちとの立ち合いを経験したタケマサの肉体は意識が飛んでいるにもかかわらず眼前に迫る脅威に対して無意識のうちに必殺の一撃を叩き込んだ
「む!」「あらぁん!」
無拍子で抜き打たれた抜刀は並みの達人では反応できずに叩き斬られるほどの鋭さを持った一撃であったが紙一重で身をひるがえした彼らの身を断つことはなく髪の一房に掠るのみ
躱された・・・、そう認識したタケマサの肉体は距離があるうちにできる限りの迎撃態勢を整える
意識がなく理性的な考えができないため本能によって肉体が眼前に迫る脅威に対し、己が生命をも燃やす勢いで最大限の抵抗を行う。
---------------独妙剣・天狗抄・神気・羅刹!!!
「な、なんて気なのぉ!? 私の全身の筋肉がぁビクビクしちゃうわ~ん!」
「この肌を刺す鋭い闘気、そしてその鋭い視線・・・わしの下腹部も熱くなってきよったわ!!」
二人の漢女も闘気に充てられ構える。そんな中でフリーズしていた呂範もようやく動き出し、目の前のクリーチャー2体と臨戦態勢のタケマサという構図に慌てて場を収めようと声を上げる
「ちょ!ちょっと師匠落ちついてくださいっス! そっちの方々も! あたしたちは薬を売るために華佗先生にお会いしたいだけっすからぁ!」
「・・・・は! 子衡、一体どうしたのだそんなに声をあげて? う、己れはどうしていたのだ、戸を開けてからの記憶が・・・」
「思い出さなくていいっす。とりあえず師匠、剣を収めてゆっくり深呼吸しましょう、ひっひっふぅ~」
タケマサの意識が戻ったことで場に張りつめていた闘気が四散する。そこになにやら物騒な気配を感じ取り奥からやってきた熱血な印象を受ける若い男が声をかけた。
「貂蝉、卑弥呼いったいどうしたんだい? ずいぶん物々しい雰囲気だったけどなにかあったのかい?」
「あらぁんダーリン、この人たちが訪ねてきたからお出迎えしようとしたのよぉ~ん」
「歓迎しようとしたのじゃが恥ずかしがってしまってな、この御仁なかなかに初心じゃな」
「いやいや、そういうレベルの問題じゃあないっすよ・・・ あたしたちは薬を売りに来たものっす、華佗先生はいらっしゃいますか?」
「薬?それはありがたい。俺が華佗さ、詳しい話は奥で聞くよ。さぁ入ってくれ」
奥に通されて一息ついたところで改めて自己紹介と相成った
「俺は華佗、大陸の病魔を治療する旅をしているものだ。薬といっても正しく処方しなければ毒になる、君たちの持ってきたものを見せてほしいんだ」
「己れは新武将という。ここでは病気が流行っていると聞いてな、薬を売りに来たんだが華佗先生を通せと言われてやってきた。」
「あたしは呂子衡っす。一応この人の弟子ってことになってるっす。これが持ってきたものっす!どうぞ見てください」
ひとまず薬を華佗に渡し、残りの二人のほうに向きなおる。鍛え上げられた肉体、浅黒く焼けた肌、絵にかいたような偉丈夫が並んで正座している様子は威圧感がハンパない
「あたしは貂蝉よぉ~ん。都の美人踊り子っていえば私のことなんだからぁン」
美人?踊り子? 確かに鍛え上げられた見事な肉体をしているが女もの下着一枚でふらつくのはどうかと思う
「(なぁ子衡? こっちではああいうのが踊り子なのか、進んでるな)」
「(いやいや違うっす!てか進んでるって・・・それダメな方向ですよね、踏み外してますよね!?)」
良かったそこら辺の価値観は一緒だったらしい。もし違っていたら全力で国外逃亡を考えなくてはならなくなっていた。
こっちもすごいがもう一人も珍妙な恰好をしている。褌に胸当てというかほぼ紐、立派な髭という一度見たら絶対に忘れられない。
そして一番恐ろしいことになぜだが既視感がある。どこだったか忘れたがこれと似たようなのと遭遇したことがあるような・・・
「わしの名は卑弥呼、漢女道亜細亜方面継承者をやっておったが今はこの貂蝉に譲って東の島国、倭の国の女王をやっておる」
「えっ女王?あと東の島国って師匠gムグッ」
慌てて子衡が余計なことをいう前にその口をふさぐ
「(お、思い出してしまった・・・)」
あれは剣の道を志し、打倒剣聖を目標に富士山の山中で秘技に目覚めんと瞑想していた時のこと。
そこに何度も平将門を名乗るムキムキ半裸の変態が襲い掛かって来たのだ。そいつも気味の悪い女口調で漢女道がどうとか言っていた。
そんな態度に反して鍛え上げられた肉体から放たれる技は剣聖共に劣らぬほどの腕前であるので余計にたちが悪い。
何より血走った目でこちらを捕食せんばかりに襲い掛かってくるので毎回撃退するのに死力を尽くし剣術、忍術の奥義をもってして一晩中戦い続けるほどの激戦を繰り広げてきた。
夜明けとともに霞のように消えるので夢か何かと思い忘れようとしたがこの卑弥呼とかいうの同類だということを一目見て理解した。
「(昔の日本人はすごかったのだな。きっとこの妖怪共の支配に反抗し自由をえたのだろう・・・)」
「師匠・・・もしかして師匠も・・・」
「何を考えてるかはだいたいわかるがとりあえずその何とも言えないような目で己れを見るな!連中と一緒にするな!」
憐れむような、ヒいているような、懇願するような何とも言えない生ぬるい視線は心に来るものがある。自分に見向きもしなかったのも怪しげな術を使うのもすべてこれらの同類なら説明がついてしまう、そういう目をしている。
呂範の誤解をいかに解くべきか、タケマサが頭を抱えていると薬の見聞をしていた華佗が問いかけてきた。
「なぁ君たちこの薬の製法はどこで学んだんだ。この薬は五斗米道の流れを汲んでいると思うんだが・・・」
「ごとべいどう?なんなんすかそれ、師匠知ってます?」
「違う!ゴッドヴェイドーだ!!間違えるな!」
「ひぃ急にキレたっす!ゴッドベイドーっすか!?」
「おしい、もう少し舌を巻け! ゴォオオッドヴェイドォォォォー!!」
急に部屋の温度が上がってきたようだ。五斗米道、確か万能薬の製法を教えてくれた明の医師もそこにこだわっていたな。
城下で酔っ払いに絡まれていたところに声をかけたら「光になれぇぇぇぇ!!」とばかりに相手を吹き飛ばしていた。なかなかの腕前だった。
吹っ飛ばされた相手は起き上がった後、妙にキラキラとした目で丁重に謝罪して立ち去って言ったのは中国医術の秘技の一つであろう。
二人でひたすらゴッドヴェイドーを繰り返していたがだんだんボリュームが上がってきている。
「ふぅこんなもんでいいだろう、君はなかなか筋がいいな」
「はい!ゴッドヴェイドーっす!!なんだか叫んでると元気が出ますね!」
ただ単純に叫びたいだけではないのだろうか。
「君が彼女の師匠だったね。俺は五斗米道の中でも鍼を使った治療を専門としているんだ。この薬の製法はいったいどこで学んだんだい?」
「己れは南の方の国から医術を学びにこの国やってきたのだが、ある町の飲み屋で偶然知り合った薬師に教えてもらったのだ。一夜限りだったが得難い経験となった」
「(東の国って言ってたのにさらっと設定変えたっす。まぁ気持ちはわかるっす)」
「そうか、まだ天下には五斗米道の教えを受け継ぐ同志がいるんだな・・・。この薬を見ればわかるよ、君はかなりの腕前をもっているんだな。正直俺一人では手が回らなかったんだ、君が来てくれて助かるよ」
「それはよかった。してずいぶんたくさんの患者がいるようだがいかほどで治療しておるのだ?」
そこが一番気になるところだ。この時代の物価についてはよくわからんが自ら作ったこの生薬の品質は1級品だという自負がある。
疫病が起きているこの街で高すぎれば人の不幸に付け込む悪党として悪名が上がり、安ければ儲からない。そのラインの見極めとして華佗の診察料が非常に気になるところだ。
「ああ、俺の目的はこの大陸中の病魔を治療することだからお代は気持ち程度だ、具体的には~~~」
「えっっそれだけっすか!?華佗さんほどの人ならもっともらってもいいと思うっす!」
「襄陽での生活は町の人のご厚意に甘えさせてもらってるし、何より俺には病に苦しんでいる人を見過ごせないんだ」
「さっすがあたしのダァーリン/// 素敵だわぁん!」
さすがは華佗、神医と呼ばれるだけの仁徳を備えている。自分も無料で診察というのはよくやっていたが所持金に余裕のある時だけだ。
しかし今は何より金が必要となる、そんな中で安値で診療されるというのは非常に困る。
「心意気は見事なものだと思うがもう少しお代を貰ってもよいのではないかな?華佗殿の技術からすればまっとうな対価だと思うが・・・」
「襄陽の町は栄えているがみんなが豊かなわけではないんだ。それに俺のところにやって来るのは薬を買えずに重症化した貧しい人がほとんどなんだ。俺は等しく命は尊い、貧富の差によって取捨されるものではないと思っているんだ。」
「り、立派な方っす・・・ 医者の鑑っす!」
「なるほど、協力したいが薬代を貰わねば・・・。己れ達はもう少し豊かな住人の住む地区を回って、余裕があればこの辺りでも安く診療するとしよう。その時にでも診療の様子を見学させていただきたいのだが・・・」
「ああ、俺も君の持つ知識と技術には興味がある。また訪ねてきてほしい。」
さてはて一にも二にも金を稼がねば、などと考えながら腰を上げようとしていると大勢の柄の悪い供を連れた太った体を上等そうな服で包んだ顔色の悪い、いかにも悪徳商人といった風体の男がいきなり入ってきた。
「おい、ここに華佗というものがおるらしいがどいつだ、そこの赤毛か?それともそこの貧相な身なりの男か? まさかそこの珍妙な恰好をしたののどちらかではあるまいな」
「だぁ~れが夜道であったら死ぬ系のキモカワ筋肉だるまですってぇ~!」「だれが一度見ただけで夢に出そうで夜も眠れず、夜中に背後に立ってそうな筋肉ひげだるまじゃとぉ~!」
「ひ、ひぃぃぃ!き、貴様らよるんじゃないっ!」
「いや、そこまでいってないだろう・・・ 俺が華佗だ。それでどうしたんだこんなに大勢でやってきて、診察かい?」
2人の圧に押されていた商人だったがなんとか落ち着きを取り戻したようで華佗に向きなおり威勢よく怒鳴り散らす
「おまえか!私の運んできた薬に難癖つけて商売の邪魔をしたのは!いったいどれほどの損をしたと思っているのだ!」
「ああ、この前の連中か。薬どころか体に悪影響を及ぼす毒まがいのものを高値で売っていたから医者として当然のことをしたまでだ」
「えぇいだまれ!商売の邪魔をしよってからに!者ども、懲らしめてやれ!」
そういって連れてきた男たちをけしかけてくる。しかし人数はいるようだが彼らの敵ではなかったようでバッタバッタとなぎ倒されていく。
あの半裸の変態2人と一緒に思われてくなかったのと面倒だったので呂範と二人で隅によって観戦していたが、あの2人だけでなく華佗も相当なやり手らしく2人に劣らぬ暴れっぷりである
「しかしいかにもな恰好のやつがいかにもなことを言っていかにもな行動をするとは、そういう決まりなのか?様式美というかなんというか・・・」
「なんか最近ではこういうのをテンプレっていうらしいっす。あ、なんかケリつきそうっすよ」
「そうか、では交渉にはいるとするかな。よく見ておけよ子衡」
「師匠何しに行く、ってすげぇ悪い顔してるっす・・・」
連れてきた手勢が粗方やられ目の前に華佗一行、腰を抜かして逃げることもかなわない商人に近づくと半狂乱の商人が縋り付いてくる
「ば、化け物ぉぉぉ!お前でもいい、助けてくれ!」
「助けろと言われてもあなたが急にやってきて因縁つけてきただけではないか。だがどうしてもというなら・・・」
「な、なんだ、金か財宝か!い、いいから助けてくれ!なんでもする!」
「ん?」「おぬし今なんでも」「するっていったわよねぇん?」
なぜだが知らんが漢女2人も反応した。「なんか反応しなくちゃいけない気がしたのよぉん」「わしも」そうですか・・・
困惑する商人の肩をつかみ立たせて羽交い絞めにする
「い、いったい何をする!?」
「あなたは今心に病を抱いていらっしゃる。心に巣くった病は邪念を生み、周囲の恨みつらみを糧としやがて宿主の体を食いつぶす。ならばそうなる前に直接病魔を治療することこそ五斗米道の神髄」
「鍼をとおして氣によって直接病魔を治療するのが俺のやり方だ!貴様の心が病んでいるというのなら、この俺が治してみせる!」
華佗のもつ鍼に氣が集中し大気が震える。集まった氣はまばゆい光を放ち商人の胸に叩き込まれる
「わが身、我が鍼と一つなり!心に巣くう病よ!一鍼同体!全力全快!必察必治癒病魔覆滅!げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「がぁあああああああっ!!」
大量の氣を一身にうけた商人は目を見開き叫び声をあげたのち、意識を失った。
「・・・・・病魔、退散!」
気絶した商人の顔は穏やかなもので心なしか顔色もよくなっていた。意識を失った商人を寝台まで運び、周囲に伸びている連中を一人ひとりきれいに寝かしていく
「い、いったい何が起こったっすか?」
「この男の心の病を治療したのだ。五斗米道に伝わる鍼の技によってな。見事なものだ、己れの修めた薬の法ではこうはいかん」
「いや、一目で心に巣くった病魔を見つけた君の眼力も見事だ。多くの人を見てきた経験がなければできないことだ」
分野は違えど同じ五斗米道を修めた者同士、ともに称えあい笑いあう声が楼の中に響いていった。
「いいオトコ同士の熱い友情・・・あらやだぁん、なんだか胸があつくなってきちゃったわ~ん」
「うむ、いつの時代もオノコたちの熱き絆は美しい!ワシの胸もキュンキュンしておるぞ」
その姿をみた漢女たちも興奮して内股になっている。急に犯罪チックになった。
「なんか互いに認め合ってるっす・・・ あたしは何がなんだがさっぱりっすよ」
がんばれ呂子衡、君が医術の道を究めるその日まで!
「いやあたし別に医者になりたかったわけじゃないんすけど・・・」
今んところ以上です。
サクサク行きたい、けど自分で読んでて面白いものにしたい・・・
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第四話 京の茶と茜で稼いだら萩焼がオヌヌメ
太閤立志伝6・・・合戦は決戦3で個人戦は剣豪3、箱庭要素も入れて城下町とか城の防衛機能とかいじれて、あと商人プレイで大名同士を争わせてそこに武器兵糧を売りつけていい感じに疲弊したところで本命大名けしかけるプレイとかしたい。
華佗の五斗米道による鍼の技は自らの氣を高め練り上げ、鍼を通して体内の病魔を直接治療するというもので元手はかからないし効果は抜群に高いがその分華佗本人の負担も大きく、重病人相手となると1日に行える診療にかぎりがある。
一方、タケマサの修めた薬の法は薬草、鉱石、動物の肝など様々な材料が必要となり元手もかかる上に処方を誤れば毒となってしまう。だが逆に言えば材用がそろって正しく処方すれば大勢の患者を診ることが可能になる。
因縁つけてきた商人の性根を叩き直し華佗の口入れで薬の販売を始めたタケマサたちであったが、薬を売る傍らで診察と処方を行ったことで腕のいい医者がよく効く薬を売っていると評判となり呂範と二人がかりで用意した生薬は飛ぶように売れた。
その日の診察を終え宿に帰ったタケマサたち。連日の売り上げを目の前に呂範は満面の笑みを浮かべはしゃいでいた。
「いやー、ホント飛ぶように売れたっすね師匠!うはうはってやつです!あたしこんな大金見たのはじめってすよ。師匠の客引きもすごかったっす!」
「香具師口上というやつだ。確かに売れたがもう在庫がなくなってきてしまっている。そのうちまた山籠もりだな、準備しておけよ子衡。」
「え~またっすか~、せっかく薬臭さも薄れてきたのに・・・。近所の子供に、ねぇちゃん変な臭いする~って言われたときは泣きたくなったっすよ」
連日の診察と薬の販売によって呂範の医学の経験もメキメキと伸びタケマサに比べると品質は落ちるがそれなりの生薬を調合できるようになっている。
薬を販売する傍らで診療を行ってきたが襄陽での疫病は思った以上に深刻らしく、それなりに高値で販売した薬もあっという間になくなってしまった。
ならばもう少し高値で・・・とも考えたが名声と金銭の双曲線を考慮するとこれ以上の値上げは損となる。
それにこの需要に対して二人で薬草採取しても焼け石に水、どこかで原料を仕入れてきてそれを加工するのが良いのだがあいにく伝手がな・・・・いこともない気がする
「子衡、出るぞ」
「え、こんな時間にっすか?」
夜もふけた時間ではあったが時は金なり、儲け話は時間との戦いなのである。早ければ早い方がいい。
価格が高騰している商品も、在庫がいっぱいじゃないからとのんきに放置していると城攻めに拉致られ終わったころにはブームが終わっているなんてことが多々ある。
交易とはこまめな確認と迅速な流通の確保が重要なのである。もし同じエリア内の商品が流行すれば移動用の数パーセントのシェアなどあっという間に分捕られてしまうのだ。
まだ明かりのついた家がぽつぽつみられる夜の街を歩き、訪ねたのは港近くの商店と倉庫が立ち並ぶ商業区の一角、この前焼きいれてやった商人の店である。
華佗の施術をうけたあの商人は目を覚ました時には妙にキラキラした目で爽やかな笑みを浮かべ非礼をうかべ帰っていった。キレイなジャイ〇ンばりの浄化っぷりでやったのは自分たちだが気味が悪かった。
夜中に訪ねてきた二人に対していやな顔一つせず出迎えタケマサの手を取りブンブン握手する商人
「これはこれは!先生御久し振りでございます!この前はお世話になりました。評判は聞いております、大層なご活躍で!」
「(すごい性格の変わりようっす・・・師匠ホントにただの治療だったんすか?)」
「(まぁあれだ、それだけこの男の心が病に冒されていたということだろう、タブン 人間、欲が絡むと心が歪むからな)」
心を入れ替えたというか頭の中をキレイキレイしたといった方がいいような人格の変わりっぷりである。
通された奥の部屋は一目で豪勢なつくりをしていることがわかるぐらい派手な内装で、壁には絵やら木製の像やらが置いてありこの商人の資産額の高さをうかがわせた。
「ささっこちらにどうぞ!だれか、お客様にお茶をご用意せよ」
主自ら椅子を引き、使用人にもてなしの用意をさせた。人が変わったような善人ぶりに面喰いつつも商人と話を進める。
「あれからどうだ、調子が悪いところはないかな?」
「えぇまぁ、先生方に治療していただいた後から憑きものが落ちたように心が晴れやかになりました!悪徳商売からは手を引き、誠心誠意商売させてもらっております」
「それは結構。それでたしかここ襄陽を拠点に船を使って商いしているとか」
「確かにそうですがこの前のことで住人の皆様をお騒がせしたようで少々・・・」
この商人は以前は随分あくどいやり方をしていたらしく評判が悪い。華佗の治療を受けてからは心を入れ替えたようだが悪名は下がりにくく名声は上がりにくいもので難儀しているようだ
「やはり苦労しているようだな。商売は信用が第一だがこればっかりは金だけでは補えんからな。そんなところにいい話をもってきたのだが・・・」
「ほぉ、いい話とは・・・詳しくお聞かせ願えませんかな?」
さっきまでキラキラと爽やかな笑顔だった商人の目が鋭くなる。心の病はなくなったようだがやはり根っからの商売人、儲け話には敏いようだ。
評判が悪く、貸しのある人間への儲け話。碌な話でないように思えるが商人から見てタケマサに自分を騙す利がない。
それにわざわざ自分に話を持ってきたということは他の商人との繋がりがないということ。ならば双方に何らかの利がある内容の可能性が高い
「なに簡単な話だ、己れが作る薬の材料を調達してもらいたい。」
「しかしわたくし共は以前それで失敗しておりますが・・・」
「同じ材料で毒にも薬にもなる、そういうものだ。持ってきてもらえれば己れが買い取り煎じて薬にする。悪い話ではないだろう、己れは金が必要でそちらは評判をよくしたい。」
質のいい薬を売り的確な診療で代金は薬代のみ、ここ最近タケマサの名は良医として襄陽内にとどまらず他の郡まで広がっている。
ならばそんな人間を心を入れ替え手伝っていると噂になればいくらか悪名もましになる。
「ほうほう、それは大変良い話ですな!それで材料に関してなのですが・・・」
「別にタダでとは言わん、そうだな~~~~~で・・・」
「む、薬の材料といって安いものではありません、せめて~~~~~~」「いやいやこのくらいは~~~」「ぐぐぐぐぐ、お世話にまりましたがこちらも商売ですので~~~」
「(すげぇ白熱してるっス。なんか原価率とか占有率とかもうついていけないっす・・・師匠って腕も立つわ医術は修めてるわ交渉もするわでめっちゃ多芸っすね~)」
「ならば販路襲撃を・・・・」「しかし商家との友好も考えると~~~」
そんな中に「失礼します、お茶をお持ちしました」と外から声がかかり白熱していた交渉も一旦中断となる。
入ってきた女中が丁寧に大きめの茶碗にすった生姜、柑橘系の皮などの薬味と共に塊状となった茶の葉を崩して入れ、湯を注いでいく。
「最近揚州の方から渡ってきたお茶です、どうぞ召し上がってください」
「」
「へぇ~これがお茶っすか~。あたし初めてっす」
茶の歴史は古く前漢の医学書『神農本草経』に記述がみられ、この時代では三国時代の書物「広雅」によると、茶は茶の葉を蒸して餅状に丸めたものをあぶってつき湯をかけ、みかんの皮、ねぎ、しょうがなどと混ぜて他の材料と一緒に煮るスープのようにして飲まれていた
主に貴族の飲み物で庶民に広がるのは宋の時代、日本で一般的な緑茶が飲まれだすのは明の時代とタケマサが生きてきた戦国時代とは茶の文化も違ったものになっている。
茶は周囲の影響をうけ品質が変化しやすく、長江流域で栽培された茶を都のある華北まで運ぶためには餅茶とよばれるように緊圧して輸送されていた。
タケマサとしても別に日本茶しか認めないといった偏った考え方はしておらず、明との貿易や南蛮商館との取引で中国六茶を嗜んだこともある。
ただ単純に好みの問題である。
「・・・・・・茶とはこういった飲み方をされるものなのか?」
「ええ、そうですが・・・どこかおかしかったでしょうか?貴人の方向けの商品ですのであいにく不勉強なところがあるやもしれませんが・・・」
「いや、初めていただくものでな。少々戸惑ってしまった」
「なんか体によさそうな感じっすね」
日本では京や駿河で交易品として扱われていた茶であるが軽い、利益率が高い、消費地が近いの三拍子そろった序盤のお供として優秀な品であった。
また茶によって古今東西の様々な武将と友好を築いてきたタケマサにとって一層思い入れのある品である。茶の2、3杯で主家を寝返るのもどうかと思うが
忠義が盛んに言われたのは江戸時代からで、戦国の時世では七度主君を変えねば武士とは言えぬとは言われたことを考えるとおかしくはないかも知れない。
薬で利益が出たらそれを元手に交易で荒稼ぎだ。そして茶の産地に投資しよう、喫茶に革命を起こしてやる。そう心に誓ったタケマサであった。
商人との交渉の結果、薬の原料を安定して仕入れることに成功したタケマサたちは拠点を構え、昼は診察と薬の販売・夜は薬の調合と呂範の医術師事と精力的に活動した。
その話は華佗たちの耳にも届いており、合間を見つけて様子を見に行こうという話になった。
昼間は客と患者で賑わっている診療所の前だが夕方になると客が引いてやや静かになる。そのころを見計らって華佗たちはタケマサ宅を訪ねた。
「ここがあのオトコのハウスねぇ~ん」
「いや、そうだけどなんだいその言い方は・・・」
「気にするでないだぁ~りん。もし、将殿はおられるか!」
「急患っすかぁー?うちは内科専門なんですけどとりあえず空いてるんで入ってほしいっす」
客はいなくなったが診療所の内部は呂範が忙しく動き回ってるようで何やらバタついている。修行もかねて生薬の調合を任されているようだ。
「あっ!華佗さんたちじゃないっすか、お久しぶりっす」
「やぁ久しぶりだね子衡君。将殿はいるかい?」
「ちょっとまってくださいね、師匠ぉ~華佗さんたちがいらっしゃったっす!」
タケマサは奥にいるらしく、呂範が声をかけると複数人がこちらにやってくる足音がした。
複数人?
「おぉ華佗殿ひさしぶりだな」「壮健そうで何よりだ」「貂蝉殿、卑弥呼殿もお変わりないようで」
奥から三人のタケマサが現れた。い、今起こったことをありのまm(ry
その光景に華佗はもちろん、さすがの漢女達も言葉を失っている。
「やっぱし師匠はまた港っすか。最近診療所は皆さんに任せっぱなしっすね、いったいなにやってるんすか?」
「ふふふ、それは」「完成してからの」「お楽しみだ弟子よ」
「いや、3人で話されるとうっとおしんで2人は戻って下さい・・・」
「それでは」「失礼する」「狭い場所だが」「くつろい「いや面倒なんで早くどっかいってください」さらばだ!」」
3人のうち2人は奥に戻り改めて華佗たちに向き合った。
「い、いったい何だったんだ・・・目の錯覚か?医者の不養生にはならないように気を付けていたんだが・・・」
「おそらく氣を使った技の一種ねぇ、あんな器用なことする人がいるとは思わなかったわぁ~ん」
「うむ、幻影ではなく実体を持っておった。それを3体も生み出すとはすさまじい手練れじゃな」
「ふふふ、おぼろ影の術という。詳しくは秘密だ」
不敵に笑うタケマサ1号、剣聖相手だと転で一掃されたり炯眼で消されたり、ピンポイントで本体叩き斬られたりする不憫な存在だ
「いいオトコに囲まれるなんて素敵だわぁ~ン。ご主人様も覚えてくれないかしらぁん」
何やらよからぬ想像をしているようでその鍛えられあげられた肉体をくねらせている
「貂蝉殿もお変わりないようで・・・」
「いやねんもっとよく見てちょうだぁい。今日のあたしは紫の下着でちょいワル小悪魔なのよ~ん」
「なるほど(頭が)ちょいワルですか」
こればっかりは万能薬でも華佗の氣功でも治せそうにない
場も落ち着いたところでお互いの近況方向と相成った。
華佗たちはあれからも貧困地区で治療を続けており重体な病人は粗方治療し終えたがまだまだ油断できない状態で、もうしばらく襄陽にとどまるようだ。
華佗やタケマサの尽力もあって襄陽の疫病は小康状態といえるが今度は襄陽以外の郡や荊州全体で疫病の兆しが見られ始め、医薬品に対する需要が高まっている。
そのため依然として生薬は売れており、最初のあたりは儲かって喜んでいた呂範だが最近では真剣に病の根絶を願うほどに忙殺されている。
タケマサも忍術によって三体の分身を出し製薬に勤しんでいる。
「ん?ではここにいるのは分身ということなのか。本体はなにをやっているだい?」
「それが港の方に行ってるらしんすけどあたしも詳しくは・・・。こんな忙しい時になにやってるんだか」
商人と手を組んでからタケマサは製薬は分身に任せ、商人の所にいったり港にいったり市場に行ったりとあれこれ忙しく動いている。
そのことに関して呂範にはただ「秘密だ」などとワルい顔で答えるのみで詳しいこと一つも言っていない
「まぁそのうち教えてやるからいまは医術の修行だ、そろそろ強壮剤について教えてやってもいいころかもしれんな」
「う~ん、うれしいような仕事がまた大変になるから遠慮したいというか・・・」
呂範がタケマサとであってからそれなりに時間は立ったがその期間呂範はひたすら医術に打ち込んできた。
診療の経験はないが製薬に関する知識と技術も順調に伸びてきている。
「ははっ元気そうでなりだよ。顔も見れたし、邪魔しちゃ悪いからそろそろ失礼するよ」
「えぇっダーリンもう帰っちゃうの~」
「日も落ちたしあんまり長居するのも迷惑だしな。それじゃ将殿、子衡君まだしばらく襄陽に留まるつもりだから何かあったら訪ねてきてくれよな」
「ねぇダぁーリン~あたし夜道が怖いの~だ・か・ら手をつないで帰ってもいいぃ?」
「な!?貂蝉貴様!その上目ずかい、漢女のか弱さを前面に押し出しだぁーりんと恋人つなぎでプチデートを演出するつもりじゃな!」
「すみません、ただでさえ夜中まで明かりをつけてご近所さんに迷惑かけてるんであんまり騒がないでほしいっす」
「「ごめんなさい」」
呂範も妙に図太くなって冷ややかな視線が板についてきた。あの頃の子犬のように初々しかった彼女はどこに行ったのやら
「あの者、いったどう見る貂蝉」
「うーん、導術まがいの技は使うけどこの外史に直接干渉したりとかはできそうにないわね~ん。ご主人様もまだ現れてないしどこからか紛れ込んだのかしら」
「あの者の使った術、おそらく大陸から渡ってきた導術が倭の国で独自に進化したものじゃろう。じゃが今の時代の技ではない」
「じゃあご主人様と同じ世界から来たってこと?」
「いやそこまで未来ではないな。おそらく戦国時代、忍術の最盛期あたりからやってきたのじゃろう」
「かなり腕は立つようだったけど、なにより・・・」
「うむ!まっこと良いオノコであった!」
「そうよね~ん、アタシも心に決めた人がいながらお腹のそこからキュンキュンしちゃったわ~ん」
「ヒッッ!」ゾゾゾゾ
「師匠風邪っすか?あたしの作った風邪薬飲みます?」
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第五話 利益率は春慶塗が一番いい
どうぞ生暖かい目でご覧ください
夕暮れの襄陽の市場をその日の夕飯の材料を買った呂範が疲れた顔で歩いている。
タケマサと出会い、ここ襄陽で薬師を始めてそれなりに時間がたった。住民たちからも薬師のお嬢ちゃんと言われ親しまれている。今日の買い出しでも魚屋のおっちゃんからおまけをしてもらった。
「う~、忙しいっす~。師匠本体は最近帰ってこないし分身さんまで借り出していったい何やってるんっすか・・・」
華佗たちの訪問からしばらくの後、荊州全体に広がっていた疫病にも終息の気配が見られ始めた。診療所に来る患者は徐々に減り始め薬の売れ行きも徐々に落ち着きだしたが、依然と比べてというだけで安価とは言えない値段だがそこそこの売り上げを保っている。
しかし呂範にとっては相変わらず激務の日々だ。タケマサの分身が1体減り2体減り、残りの一体も診療を行う昼間だけ顔を出し夜間の製薬作業は呂範1人で行うことなった上、算術修行がてらに会計作業も任されるようになり呂範の仕事は減るどころか逆に増え続けている。
「確かに儲かってるには儲かってるっすけどなんか想像してたのと違うっす。なんかもっとこぉ優雅な生活ができると思ってたっす・・・」
金は入るが使う時間がない、仕事に悩殺され給料だけがたまっていく・・・などという仕事に疲れたOLのような雰囲気を醸し出している。
とぼとぼと歩き診療所に帰ってきた呂範、分身すらおらずより物悲しく思いってしまい気分が落ち込む。
そのまま買ってきた袋を床に置き、板間に寝転がり薄暗くなった天井をぼんやりと見つめる
「はぁ~家に帰っても一人、なんだか妙に寂しっす・・・あたしはこのまま働きずめで孤独に年老いていくんすかねぇ~」
「何を年寄り臭いこと言ってる、それに下手に結婚などしても良いことなどないぞ」
にゅっ、とどこからともやってきたタケマサが呂範の顔を見下ろした。
「のわぁっ!分身さんこっち来てたんすか!」
「いや己れは本体だ。直接顔を合わすには久しぶりだな呂範」
「え、本体っすか!?珍しいっすね、あと師匠結婚してたんすか!?」
タケマサという男は見る人によっては若者にも壮年にも見える不思議な外見をしている。
いや外見のみならず呂範にとっては過去も能力も思考も謎な男であるが底が知れないという事だけははっきりしている。
「昔な。ただ結婚初夜に会話したきり3年ぐらい口きかなかったら飯に毒を盛られた。以来結婚に夢を見るのはやめた。」
「いやそれは当たり前っすよ・・・なにやってんすか、酷すぎっす」
宿屋の看板娘だろうがお見合い結婚だろうが囚われの姫だろうが放置していては夫婦関係はしっかり冷え込む。そこらへんは妙にリアル
「それで、珍しく戻って来たっすけどどうしたんですか?またなんか新しい製薬法の指南っすか?」
「ああ、準備ができたのでな。そろそろ襄陽を立とうと思っている、お前はどうする子衡?」
「え、どうするって・・・」
「医術に関して現時点で教えられることは教えた。疫病も治まりはじめてもうお前ひとりでも診療所を回せるだろう。襄陽で薬師として生活することもできるがどうする?」
呂範の知る限りタケマサという男は医術のみならず腕も立ち弁舌にたけ怪しげな術を使い、おまけに妙に行動力もある。そんな男がおとなしく1か所にとどまっているわけもない。
詳しくは知らないが分身まで出して忙しく動き回っていたのもその準備とやらだったのだろう。ただでさえ想像を超えてくる男だ、どうせまた碌でもないことに違いない。
呂範の脳裏にはタケマサと出会い過ごした日々が浮かび上がる・・・おかしい、医術やら算術やらの修行風景しか思い出せない。
このまま分かれて襄陽で薬師を続けるというのもありだ・・・
だがしかし
「あたしは師匠についっていくっす!」
「ほう、別にわざわざついてこなくてもここで薬師として十分に食っていけると思うが?」
「だってついていった方が面白そうっす!」
なによりこの新武将という男がなすことに興味があった。
この不穏な時代、新武将という天下の傑物とも悪逆非道の逆賊とも知れぬ男が歩む道は波乱に満ち、刺激的な旅路となるに違いない。
その活劇を特等席から見物し、時に壇上に上がりともに舞うことは天下に二つとない最高の娯楽といえる。
「物好きめ」
「師匠にだけは言われたくないっす」
お互いにしばらく見つめあう。視線が交差し無言の時間が続く・・・が、同時にふき出した。
「はははは、ならば今後ともよろしく頼むぞ、陽花」
「っ!?・・・・・・はいっす!」
「お前に己れの真名を預けておこう、タケマサという。これからは好きに呼ぶといい」
「はいっす!好きに呼ばしていただくっす師匠!」
「さぁまた明日から診察と修行三昧の日々だ、今日はしっかり寝ておけ」
「はいっす! ってええぇまた修行っすかぁ!?」
「学ぶべきことはまだまだある。己れについてくると決めたのだ、安心しろ容赦はせん」
「勘弁してほしいっすぅぅぅぅ~~~!!」
少女の叫びが襄陽の夜に消えていった
呂範がタケマサについていくと決めた日から旅立ちの準備は始まった、というほど大層なものはなくすでに呂範の意思確認のみといった段階だった。
もし呂範が襄陽に残るといえば商人に診療所の管理や材料の仕入れなど後見を任せ、タケマサに同行する場合は取引は終了という手はずになっていたのだ。
商人としても大口の取引先であり声望もあるタケマサを引き留めようとは思ったが、十分すぎるほどに利益は出ているし無理に引き留めてまた漢女でもけしかけられたらたまらん、ということで素直に旅立ちに協力することとなった。
時を同じくして華佗一行も襄陽を離れるということでしばらく旅の道ずれとなる。いろんな意味で道連れである、別に華佗に他意はない
出発の日、呂範と華佗たちは襄陽の広場に集まりタケマサを待っていた。
「華佗さんたちはこれからどこに向かわれるんすか?」
「特に決めてはいないよ、病魔に苦しむ人々がいる限り俺はどこへだって行くさ。けど河北の方で病気が流行り出したって噂を聞いたからまずそこに向かってみるよ」
「ダ~リンが行くならアタシは例え火の中水の中(ryダーリンの寝室のベッドの中!どこへだってついていくわぁん」
「惚れ込んだオノコの為なら地獄に落ちることもいとわん、それが漢女というものじゃ」
一度ロックオンすれば地獄の底まで追ってくるということであろうか、視覚的にはすでに地獄の1丁目あたりだが
「それであのステキなオノコ、将殿はどこにいるのじゃ?」
「港に用事があるって言って先に出てからそれっきりっす。いったい何やってんすかね?」
タケマサを待っている間に襄陽での思い出話やこれからの行先などを話あって時間をつぶしていた。しかしだんだん会話の方向性がおかしくなっていく
「そ・れ・で!子衡ちゃぁ~ん? 彼とは何か素敵なイベントはなかったの?」
「え、どういう意味っすか?」
「将殿と何かToLoveる的なことはなかったかと聞いておるのじゃ!あのようなイイオノコと一つ屋根の下に暮らしておったのじゃろう」ズイ
「着替え中にお部屋に入っちゃたりとかぁ~、脱衣所で鉢合わせとかぁ~、朝起こしに行ったら肌蹴てあらわになった胸元にトキめいたりとかぁ~ん」ズズイ
「そういう漢女心をくすぐるようなス・テ・キなエピソードはないのかと聞いておるんじゃ!」ズズズズイ
「いや、あの・・・顔近いっす・・・。というかなんであたしがする側?普通逆じゃないっすか?」
微かな疑問を抱きつつ襄陽での生活を思い出す、あの真名を預かった夜のことが一瞬頭に浮かび目じりが下がるが次々とあふれてくる修行の日々に苦虫を噛み潰したような形相になってゆく。
「・・・・・・ひたすら修行と仕事漬けの日々っす。夜中の作業が終わったら泥のように寝て、朝早くに叩き起こされる生活をしてました・・・」
そういって肩を落とした。呂範の背負う影の深さに漢女達もそれ以上の追及をやめる
「(・・・この様子だとホントに何もなかったみたいねぇ~ん)」
「(甘いぞ貂蝉、彼女の目尻が少し下がったのを見逃したな。じゃが今はこれ以上の詮索は無理じゃな)」
「モウイヤッス、シショウカンベンシテクダサイ、ネムイッスツライッスシンドイッス、ヒッモウイッカイハジメカラハイヤッス・・・」
碌な技能を持っていない一般的な武将はひたすら長期修行で叩き上げるしかないのだ。
そしてそのうち島津か大友、武田あたりが滅びて家臣が充実し、結局一度も戦に出ることなくひたすら治安口上、破壊、軍資金調達あたりをやり続けることになる。
呂範が闇サイドから浮かび上がってきた頃、ようやく広場にタケマサが姿を現した。
「遅れてすまない、ようやく準備ができたのでな」
「あっ師匠遅かったっすね」
「そうよ!こんな可憐でか弱い漢女を待たせるなんて!あたしは深く傷ついたわぁ~ん。しっかり慰めてくれないと許してあげなんだから////」
「くぅ~貂蝉貴様抜け目のない奴め、すかさずお強請りとは・・・」
「随分遅かったじゃないか、用事とやらは済んだのかい?」
「ああ、済んだというか今からが本番というか。見せたいものがあるから港まで一緒に来てくれないか」
遅刻の詫びもそこそこに一行を港へと案内するタケマサ。漢女二人は意図的に視界に入れず無視した
襄陽の港は北門を出てすぐのところにある。広場からまっすぐ北に伸びる道を歩いていくと北門付近にいく人々が多いことに気が付く
「師匠、北門に行く人が多いみたいっすけど珍しい品を乗せた交易船でも来てるんですか?」
「ふふふふ、それは見てのお楽しみだ・・・」
タケマサはほくそ笑むだけで答えようとはしない。まるで落とし穴にはめるために必死にニヤケ顔を抑えながら誘導する悪ガキのようにも見える。
こうなったら埒が明かないということを知っている呂範はそれ以上聞くことはなく黙って港まで歩いていく。
北門を通り過ぎ港に入ったところでタケマサの見せたいものとやらは一目でわかった。
それは埠頭に停泊している一隻の船だ。
中国の伝統的な船といえばジャンク船であり、これは竜骨を持たず平らな船底をしていることから喫水の低い河や近海での航行に適している。
また帆の横方向に竹などによって芯を入れ帆の変形を抑え、向かい風での切り上りに適した特殊な帆を持っていることなどが特徴である。
これらは主に宋の時代に発展し、明の時代には外洋交易のためにキールを持つものや、同年代の西洋のキャラック、ガレオンといった船よりも操作性に優れたものもあらわれた。
特に明の永楽帝に仕えた鄭和の航海は有名で、彼の指揮した船団の中で最大の船は宝船と呼ばれ『明史』によれば長さ44丈(約137m)幅18丈(約56m)重量8000tマスト9本という嘘くさいほどの巨艦を用いたといわれている。
とはいえ後漢の時代ではまだ帆走術や天文学を基礎とする測量術なども発達しておらず大陸沿岸や大河での運用が想定され、帆走よりもオールを用いた漕走が主であった。
後漢の時代、海戦で主に用いられた楼船の全長はおよそ20mほどで、帆があるものは一枚の大きな四角形のジャンク帆であったと考えられている。
そんな時代情勢はいざ知らず、その船は船体長約55m、幅約10m、3本のマストを持つというこの時代ではなかなかお目にかかれないような大型船である。
また帆は一番前のフォアマストに3段の横帆、2番目3番目のメイン、ミズンマストにはガフセイルと呼ばれる縦帆が取り付けられており、フォアマストから船首に向けて斜めに張られたロープにはステイセイルと呼ばれる縦帆が張られている。これは一般的にバーケンティンと呼ばれる帆装である。
ちなみにこの帆装形式は18世後半から19世紀初頭に用いられたもので明らかに時代に合っていない。なぜ戦国時代の人間がそんなことを知っていたのか、その理由はタケマサが商人をやっていた世界線にある。
戦国時代、それは日本が中国のみでなく東南アジアや遠くヨーロッパ諸国と本格的に交流を持ち始めた時期であり商人だったタケマサは日本国内でだけでなく海外との交易で利益を上げようと試み、海賊衆の力を借りて海外へ行くことがあった。
海外との交易は莫大な富をもたらした、しかしそんな海外交易にもただ一つの欠点がある、非常に時間がかかることだ。
当たり前といっては当たり前だが大きな利益を上げるルソン島マニラとの交易は往復3か月の長旅で途中嵐やら海賊やら危険も大きい。
そんなところでビードロを買って来いとしつこく催促してくる男に対して、てめぇが行けよと思ったことがある商人の方々も多いのではないかと思われる。
あまりにしつこさに渋々二度目のルソンへの取引に向かっている最中、自分の乗っている船とはけた違いの速さで海を行く船にすれ違ったのだ。
その時に決意したのだ、何としてでもあの船のような優れた造船術、測量術、航行術を手に入れなければと。
そうしてタケマサは堺の町の南蛮商館の主人に師事させてほしいと頼み込み、一騎打ちの末何とか生き残りこれらの知識・技術を得るに至ったのだ。
詳しい話は割愛するが、ただ教師役だった科学至上主義者のフランス人が、あれ?この年代だと~~やら、まぁ2世紀なんて誤差誤差~~~などと言っていたのが気になるところであった。
そんな時代錯誤の船を前にして呂範たちは言葉もなくじっと船を見つめている。。
「ふふふ、もっとしっかり驚いてくれなくてはつまらんだろ。何しろこの船は全財産の3/5をつぎ込み建造したのだからな」
なぜだろう、急に出落ち臭が漂ってきた。
「・・・って師匠!さっき全財産の3/5って言いませんでした!?」
「ああ、そうだ。ちなみに残りの2/5は積み荷台と人件費、水食糧その他もろもろに消えたぞ」
「」
この男、弟子が必死こいて稼いだ金を勝手につぎ込んでこの船を建造したのだ。
「ちょちょちょっとぉぉぉ!もしあたしが襄陽に残るって言ってたらどうしてたんすか!?あたし取り分ほぼ無しっすよね!?」
「ああ、だから一緒に来てくれると言ってくれて本当に安心したぞ、陽花」
「」
弟子やめたい&真名返してほしい・・・、そう切実に思う呂範であった(3日ぶり16回目)
???「え、オレら出番なしかよ」
???「説明が長すぎて次回に持ち越しのようですね、作者のやる気が続けばですが・・・」
Wikiと大航海時代4を頼りに書きました。
突っ込み大歓迎ですが、よろしければオブラートで3重ぐらいに包んでからお願いいたします。
感想よろしくお願いします!
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第六話 個人的に商人プレイが一番楽しい
商人にひたすらガラクタ売りつける生活をしてました。
襄陽の港に停泊するバーケンティン帆船、その船体によって港に大きな影を落としており、同じく停泊している船に比べてもその威容は一際目を引くものがある。
大きくそびえたった3本のマストには帆がたたまれておりそれを支えるために船上の張り巡らされた数多くのロープは船を姿を際立たせている。
それを背に「さぁなんでも聞くがいい!」とばかりに腰に手を当てこちらを見ているタケマサ
が、必死に働いて稼いだ金がいつの間にか消えており茫然とする呂範を除き、華佗たちは何とも言えない顔でタケマサを見ている。
「(確かに見たこともないような大きい船だしすごいんだが・・・)」
「(普通に町で噂になってたのよねぇ~ん)」
「(じゃがここは驚くなりなんなりしてやるというのが筋ではないか?)」
荊州全体に疫病が流行した中で薬によって莫大な利益を上げ、名医と称されるまでになったタケマサ。そんな人間が4人に増えてまで忙しくあちこちと動き回ればかなり目立つ。
船を建造するための資材の確保から造船所での技術指導、船員の手配に積み荷や物資の調達などをすべて同時進行で行い今日ようやく出港ということで襄陽の町から多くの見物客が港に集まっている。
大きな木造船であり屋外で建造していれば目立ってしょうがない、タケマサ本人としても噂になることで後々便利になると考え積極的に触れ回った。ただ呂範にだけは伝わらないように周到に口止めを行っていた。
「す、すごいじゃないか!なんだいこの大きな船は?」
「こんな立派な船、都でもめったに見ないわぁん」
「それにあの見事な船首、まるでいきり立っておる。見事なご立派さまじゃ!」
「うむうむ、そうだろう!天下に二つとない自慢の船だ」
「「(意外に子供っぽいところがある(わねぇ~ん)(のじゃな)///」」
華佗たちのリアクションに満足したのか腕を組みうんうんとうなずいている。ちなみに船首像は翼を広げた大鷲であり断じて名状しがたき〇ーラ様ではない
船の周囲では見物客はもちろん艤装の最終確認や積み荷の点検などで忙しく水夫たちが動き回っており、その動きを遮らないような位置で埠しばらく船を見ながらあれこれとタケマサの話を聞いていた彼らに2人の女性たちが声をかけた。ちなみ呂範はいまだ闇モードのまま立ち直っていない。
「おうどこ行ってたんだよ旦那!」
「もうすぐ出港ですよ先生、準備のほどはいかがですか?」
「ああ問題ない、作業の進捗はどうだ?」
「積み荷と物資の積み込みは終わり、今は出港に向けての最終確認中です。もうしばらくというところでしょうか」
「水夫共の配置や航海中の役割分担も終わってるよ。こっちはいつでもいけるぜ」
1人は背が高く薄く焼けた肌、背中には得物と思われる身の丈以上の鉄棍を下げている。南部の人間らしく露出が多い臍出し短パンスタイル、短めの髪も相まって快活な印象を受ける。
なお例え話だが葡萄は豊かな土地でたわわに実るという、彼女の土地は肥えているようだ。
もう一人は黒髪を腰まで伸ばし、真面目そうという印象をうける。袖のダボついたゆったりとした服装だが動きやすいよう下は短めの短パンで、額に巻いた鉢金と背中にかけた直刀からあからさまに隠密めいた格好をしている。
なおどことは言わないが特に平坦でも豊満でもなく、最も正解に近い大きさであると明記しておく。
「ところで旦那、そっちの人らは誰なんだい?なんというか・・・えらく個性的な恰好をしてるが」
「・・・正直、長時間視界に入れておきたくないですね」
「「だぁ~れが筋肉ムキムキキモカワ系中の人の無駄遣いキャラ(ですってぇ~(じゃとぉ~!!!」」
「「ごめんなさい、あとそこまで言ってないです」」
「なんか恒例行事になってないかコレ? 俺は華佗、こっちの二人は貂蝉と卑弥呼だ。病魔を治療するために大陸中を旅してるしがない医者だ」
漢女2人の圧力にビビり腰が引け華佗の挨拶も半分耳に入っていない。やはり初対面の人間には刺激が強いようだ
「お、オレは王平、字は子均、益州巴西郡の出だ。旦那の手腕を見込んでこの船に乗った」
「私は蒋欽、字は公奕、揚州九江郡の出身です。こんな大きな船を作っている人に興味があって調べていたら先生に出会い師事することに決めました。」
「両名ともなかなか見所があってな、己れの弟子ということになる。陽花、いつまでブツブツ言ってる。早く挨拶しないか」
「ソンナタンジカンニソンナソウサデキナイッスアアモウジカンガガガガガ・・・っはあたしは何を!?あれ師匠この人たちは誰っすか・・・?」
意識が帰ってきた呂範が二人と目が合う、がお互いに言葉を発さず見つめあう。目は時に言葉よりも雄弁だ、互いに理解した。この人は同類だ
ガッ!とその場に三人で抱き合い初対面ながらも互いの苦労を慰めあう
「あたしは呂範、字は子衡っす!同じ師匠の被害者(弟子)、陽花って呼んでほしいっす!」
「おうオレも朱燐って呼んでいいぜ!旦那からもう一人弟子がいるって聞いてたがあんた一人で良く頑張ったな!」
「私たちは互いに励ましあって何とかやってきましたからあなたの苦労はよくわかりますよ。私のことは杏明と呼んでください」
「はっはっは、仲が良いようで大変結構」
ああそうだよお前のせいでな!とは言えない弟子たちの心情はいかに
「それでは最終確認が終わり次第直ちに出港だ、華佗殿も旅立たれるということならよろしければ乗っていきなされ」
「あらいいのぉ?こんな立派なお船で船旅なんてステキだわぁん」
「確かに、河での航行のみならず外洋航海にも耐えられそうな頑丈なつくりをしておるようじゃな」
「それは助かる。それでこの船はいったいどこに向かうんだい?」
「長江を下り海に出て黄河をさかのぼり都・洛陽へと向かう予定だ。寄港する予定はないが言ってもらえれば好きなところまでお送りいたそう」
「ええっと、師匠。あたしまだ状況が理解できてないんですがこんな大きな船まで用意して一体なにをする気なんすか?」
「それを今から言うのだ。早く乗り込むといい」
タケマサ達が襄陽で稼いだ金はそれはもう莫大な額である。宋の時代、1つの商家だけでは船は持てず合同で出資して船を建造したという記録がある。
その船を1から建造できるほどの金額を荒稼ぎし、この後一生遊んで暮らせるだけの金を稼いだ男がいったい何をしようというのか
タケマサ達が船に乗り込むと作業中の水夫たちが手を止め甲板に集まってくる。ざっと見たところ100人にはやや届かないほどの人数が甲板に集まった。
その集団を前に黙してうなずくと甲板からやや高くなっている船首の楼に立ち彼らを見回す
「まず初めに、作業ご苦労。なにぶん珍しい船の作りをしているから荷の積み込みに不便やもと思ったが間に合ったようで何よりだ。」
いやまぁ遅れるようならどんなシゴキがあるか想像もしたくないから、というのが弟子2号と3号の内心である。
弟子2号こと王平の場合は儲け話を嗅ぎ付けて酒場で賭博やってたところ,タケマサに軽い気持ちで声をかけ、統率と武力を見込まれ酒をおごってもらい弟子となった。
軍学と並行して武術の師事も行っており、もともと武力が高く鉄棍が得物ということもあり剣術と槍術を中心に師事を受けたが今のところ連敗記録が増えていくのみである。
とりあえず槍術では引落し、剣術では吉岡流のある意味究極奥義を習得することが今後の目標となっている。
弟子3号の蒋欽は幼馴染の妹分と共に学んだ技を生かすため、どこぞに仕官しようかと街中を忍び足で歩いていたところをタケマサに発見された。
忍術は個人戦で良し交易に良し調略に良し、と何かと便利な技能でありさらに忍犬の術まで習得しているあらば完璧にキャプチャー対象である。
彼女は知力が高く、武力も王平ほどではないがそこそこあるので現在は正面での戦闘ではなく苦無を使った遠距離戦と術の技の指南を受けている。
なお彼女は犬派であるが仲の良かった妹分の少女は猫派であり、事あるごとに互いの主張をぶつけ合ってきたが決着がつかぬまま襄陽にやってきている。
さて今回船に積み込んだ荷というと江南でとれる果物類で、青果であるため日持ちがせず通常の船では遠方への交易は向かない品目である。まぁ北海道の宇須岸(函館)でとれた牡蠣を鹿児島までもっていくとか普通にやってたので今更ではあるが
「今回は都で積み荷をさばいて服を仕入れ、それをまた幽州でさばいて薬剤と毛皮を仕入れ~~~~」
「だ、旦那もうその辺で・・・とりあえずいったいどれくらいで襄陽に戻ってくるんだ?」
「さぁあな、流行というのはいつ起きていつ終わるかわからんものだ。いうなればこの船が己れ達の本拠地といったところだ」
「ですが先生、長江流域には江賊が跋扈しており最近では錦帆賊という賊が出没してきているそうです。長距離の航海は危険ではありませんか?」
「それは確かにもっともだ。こいつの快速で一気の逃げ切るのが一番だが逃げ切れん時は・・・交渉の時間だっ!」
「「「「(すごく悪い顔をしている・・・)」」」」
商売の基本は安く買って高く売ることであるが喧嘩に関してはその限りでない、捨て値で売って尻の毛一本残さないぐらいの高値で買い取ってやるのだ
戦争とはあくまで経済もしくは外交手段の一環であるが時には手段と目的が入れ替わった頭のおかしい連中がいる。友好度が最高ランクであっても何の脈絡もなく攻め込んできたり引き抜けない武将がいるから勢力ごと吸収したり、まぁプレイヤー以上の狂犬はいないともいえる。
例えば大義名分もなしに飲み屋のハシゴ感覚で城に攻め込んだりして悪名がすごいことになるのは稀にでもなく普通によくあること。
基本的にこの時代の海戦は接舷しての白兵戦か、艨衝や火船による船の破壊が主となり、この船も戦闘用に前部の竜骨は鋼板で補強しており衝角を取り付けるといったヤル気満々の構造である。
ややおいていかれ気味だった呂範ではあったが今までの流れでこれから商売をやっていくというのは理解できた。しかしここである素朴な疑問が浮かんだ。
「えっと師匠、この船で商売をするってのはわかったんすけど屋号はどうするんすか?」
「屋号か、特に考えてなかったな・・・そうだな、大和屋とするか。これより己れ達は大和屋として活動していく!」
自称・倭の女王の卑弥呼に感づかれたくはなかったが時間さえも遠く離れた大陸の地で生きていく中で自らのルーツを何らかの形で残しておきたい、そういった郷愁めいたものをタケマサは感じていた。
この地に来てから短くない時間を過ごしてきたが主に襄陽を中心とした範囲に限られておりこれからは本格的に大陸全土にかけて活動していく。中華の大地は日ノ本の何倍も広大だ、この世界で自らの力がどこまで通用していくか。
まずは交易で資金稼ぎ、そこから船の改築と増産を行い規模の拡大を図る。さらに華北と比べて発展度の低い江南一帯に投資を行い地盤を築く。
特に揚州の長江南岸は茶に陶磁器に酒にと、投資次第で高額な特産品が生まれる可能性がありそこから生まれる利益は莫大なものとなるだろう。が、そのために必要な投資もまた莫大なものになる。
加えて部下の修行も欠かせない、今のところ王平に軍事、蒋欽に調略、呂範に内政系といった技能の指南を行っている。ゆくゆくはそれぞれが独立して船団を率いることができる程度の技能を身につけさせたい。
また来るべき乱世に向けて拠点の確保も視野に入れておきたい、そのためにはさらなる資金の確保が必要となるだろう。
何をするにも金、金、金。商人として生きていくには何より資金が必要となる。町に特産品を生み出すためにこれまでウン百万貫投資してきたことがあるが今回はお米の錬金術()が使えないため地道に交易で稼ぐしかない。
部下の教育に拠点の整備と課題は多く、前途は未知数。にもかかわらず柄にもなくワクワクとしている自分に気づく。
身分も様々、生まれもまちまち、能力もそれぞれながら天下に立志を志し、己を磨き技を究める。そうやってのし上がっていく過程は何度経験しても実にたまらぬ。
しかしある程度の出世してしまえば途端に同じことの繰り返し、実に詰まらなくなってしまう。大志と野望を胸に駆けずり回っていた日ノ本といえどいささか手狭に感じてしまうものだ。
だがこれから向かうは未知で未踏な天下の英雄達が駆け巡る広大な大陸の地、そしてその先のまだ見ぬ星を裏側へとめぐる果てのない旅路
いままでにない絶好の遊び場を前にして胸が高鳴る。漢女風にいうならドキがムネムネして股座がいきり立つといったところであろうか。
「さぁ者ども出港だ!錨を上げろ、帆を下ろせ!目指すは都、金儲けを始めるぞぉっ!!」
「「「「「「うおおおぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!」」」」」」
タケマサの覇気に充てられた水夫たちの怒号にも似た雄たけびが響く。その声を皮切りに総員が持ち場へと向かうために忙しく動き回り、やがて3本のマストに張られた帆が風をつかみ船が襄陽の港から離れていく。
彼 が海賊砦で伝授された操船術秘伝とかつて参加した南蛮商会名物・スーパー航海士育成サバイバルブートキャンプ2年コース(温泉付き)の効果はいかんなく発揮され、船は見る見るうちに加速し長江を下って行く。
船上で忙しく動き回る水夫や弟子たちに指示を出すタケマサの様子はそばで見ていた華佗たちからみれば長期休みを前にした子供のようにこれからおこること全てが待ち遠しくてたまらないかのように見えたのであった。
「あの陽花さん、少しモフらせていただいてもよろしいでしょうか」
「ちょ!?杏命さんなにするっすか!そのワキワキとした手が怖いっす!」
「さ、先っぽだけですから・・・暴れんな暴れんなよ、です」
「いやぁぁぁ!」
「あれは助けなくていいのかい旦那?」
「別に同性で乳繰り合うとかよくあるから当人同士で何とかするだろう、己れは馬にけられたくはない」
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第七話 どんな警備もものともしない忍び足ってすごくね?
太閤熱が再燃したので投稿します.
荊州・襄陽の港より出港し早3日目の朝、タケマサ率いる大和屋一行は長江を下り江夏、丹陽を過ぎ河口近くの揚州・広陵へと差し掛かろうとしていた。
外海と違い大河は荒れることもなく悠々と流れる。海から吹く初夏の季節風を縦帆にうけ、日が昇りかかった空に船が帆を満帆に広げ進む。夜通したかれていた火も消され、船室より船員たちが起きだしてきた。
「はぁ~よく寝たぁ。ようやく揺れる寝床にも慣れてきたって感じっすかね~」
その中に呂子衡こと陽花の姿もあった。彼女は他の船員たちとは違い、船での移動経験が無かったため初日と二日目は船酔いでダウンしていた。
そのあまりの気持ち悪さに華佗とタケマサに助けを求めたところ、帰ってきたのは華佗の苦笑いと酔い止めの製法とバケツのみであった。
タケマサ曰く、医師はいつ薬を求められてもいいよう、いかなる時でも調合ができなければならない。とのことらしい。
人の出会いは一期一会、稀有な機会を逃してはならない。具体的には薬の製造経験のために限界まで製薬し、病気の状態で万能薬イベント起こった時などである。
なんとか酔い止めを作り上げ、ようやっと起きだしたのがこの3日目の朝。陽花がバケツを使用したか否かは乙女の尊厳につき黙秘とのこと。
「ふぁ~~ぁ眠みぃ。よう陽花、ようやく起きてきたみてぇだな。だいぶ回復したんじゃねーか?」
「あ、朱燐さん。おはようございまっす。めっちゃ眠そうっすね?」
「夜番だったからな~、夜が明けたんでお役御免だぜ。いや~仕事上りは酒がうまい!」
「いやさっさと寝ろっす」
甲板に現れた陽花に声をかけたのは王平子均こと朱燐である。酒瓶片手に帆のロープの結び目の確認をしており顔だけ陽花に向け作業を続けている。夜通し作業を続けていたせいか、いささか動きに精彩を欠いている。
船上での船員の仕事はさまざまである。周囲を見張る監視員や帆を操作する操帆手、舵を操作する操舵手に加え、外海航海を行う場合には位置を確認する測量士などが主な仕事になる。
この船での船員たちのローテンションは8時間交代の3交代制となっており24時間船を航行させている。
通常は日の落ちた夜は視界の確保が難しく、座礁の危険があるので停泊するのだが、タケマサのもつ技能により夜間の航行が可能となる。
「いやしっかし、旦那はほんとに仙人じみてんな。初めてあった時もトンデモねぇ腕っぷしだったが分身はするわあれやこれやと見通すわ・・・」
「おまけにこの二日間不眠不休で動き回っても疲れた様子が全くなく平然としています。ほんと、人間とは思い難いですね・・・。」
「あ、杏命さん。おはようございまっす。」
「はい、陽花さん。おはようございます。ご気分はいかがですか?」
後部のミズンマストの見張り台よりロープを伝って蒋欽公奕、杏命が甲板に降りてきた。彼女も少し前に起きたらしく朝日に目を細め眩し気にしている。
「だいぶ良くなってきたっすよ。まったく華佗さんも師匠もひどいんですよ!薬の作り方だけ渡して放置とかあんまりっす!」
「た、確かに先生らしいですね・・・」
「ほんとっすよまったく。そーいや師匠の本体さんはどこにいるんすか?」
「本体さんですか?分身さんなら操舵に一人と操帆に二人ですから・・・」
「旦那の本体ならずっと一番前の見張り台にいんぜ~。そんじゃオレはさっさと部屋に帰っとくわ」
そういってひらひらと片手で手を振り、朱燐は酒瓶片手に早々に船室に戻っていった。
この二日、タケマサはおぼろ影の術により3人の分身を作り出した上で休まず航海を続けている。普通に考えれば不眠不休で動き続けるのは困難である。いや分身してる時点で普通ではないのだが
彼の習得している忍術―――――その歴史は古く、起源は古代インドに君臨したバラモン達の操る秘術にまで遡る。
苦行により人智を超えた力を手にした彼らバラモンは「ヴェーダ」と呼ばれる聖典を求め争い、それにより国は荒れ人々は嘆きと苦しみに包まれた。しかしそんな中、国の惨状を憂い立ち上がった男がいた。かのシャカ族の若き皇子・シッダールタである。
彼はその類まれなる法力と武術により一大勢力を築いた。そして支配者たるバラモンに決戦を挑み、見事勝利し「ヴェーダ」をその手に収め人々にその教えを広めたのだ。この教えこそが仏教であり、彼の教えを受けた弟子たちの末裔が仏門の「BONZU」である。
つまり仏門とはシッダールタの技を受け継ぐ生粋の戦闘集団なのだ。その証拠に戦国時代に仏門は諸国に大きな影響力を持ち、各地の大名はこぞって出家した。その代表例が武田徳栄軒信玄や毘沙門天を信仰した上杉不識庵謙信だ。
現在でも寺生まれに特別な力を持つものがいる理由でもある。
また古代中国でも肉体を捨て、魂の扱いに長けた仙人たちが異星からの訪問者・女?と熾烈な戦いを繰り広げていた。各国の英雄・仙人たちの魂を保管するといった秘術も行われ、その苛烈な激戦は書物にまとめられ現在でも読み継がれている。
その仙人たちが操った仙道の仙術、道術は仏教とともに不屈のアークBONZU・「GANZIN」によって日本に伝来し広まっていった。そして日本古来の「SUMOU」・「KAMIKAZE」を代表とする神道・山岳信仰とまじりあい、それらが鎌倉・室町の戦乱の中で独自に進化したものこそ忍術である。
そして、忍術を操りその比類なき戦闘能力によって戦乱の世に暗躍した存在―――――「NINJA」なのだ。
近年、忍術のルーツは仏門・仙道にあるという「仏門仙道起源説」説は通説となっており、多くの作品に取り入れられている。ここ5年のNINJAを扱った著名な作品にも「忍術を極めると仙術に行き着く」「過去のNINJAの魂が近未来に蘇る」といった設定が用いられているのがその証拠である。
戦国の世、忍び達は12の里に分かれ各々の里の秘伝の忍術を継承していた。タケマサは全国12の里をめぐり、すべての秘伝忍術を会得したのだ。彼の使う分身を生み出すおぼろ影の術も甲賀の里に伝わる秘奥の一つである。
「忍術奥義皆伝」、すべての忍術を会得したことにより彼の肉体は森羅万象と一体化し、めったなことでは疲労すらしない。それはもはや人間でありながら人間でない、仙人やアークBONZUに近い存在、いうなればリアルNINJAなのだ。
ちなみにそんな忍び達を従えていたのが「SAMURAI」であり、
・圧倒的義理1・爆弾正 戦国ボンバーマン 松永弾正久秀
・八丈島より泳いで参った!・帰りも泳ぎだ 戦国スイマー 宇喜多備前中納言八郎秀家
・説明不要・「チェスト関ケ原b」 戦国プレデター 島津惟新斎義弘
といった面子である。
「アイエエエ!?NINJA!?NINJAナンデ!?」
「い、いったいどうした陽花?」
「はっ!いやなんか急にどこからか念が・・・」
どこからともなく怪電波を受信しN。R。Sを発症した陽花。渡した酔い止めの製法が急に心配になってきたタケマサであった。
そう広くはない見張り台は2人入ればやや手狭、3人入れば窮屈なほど。縄梯子を上ってきた陽花がタケマサの隣に立ち彼に目を向ける。朝の涼やかな空気が流れる見張り台でタケマサは遥か水平を見ていた。
それはただを見ているのではなくその両目に氣を集め、川底や漂流物など座礁の危険となりえるものを監視しているのだ。
これは信州北部・真田家に仕えた戸隠の里に伝わる千里眼の術で、本来は伏兵や陥穽を見破るために用いられた合戦忍術である。
まぁぶっちゃけ “凝”と“白眼”を足して2で割った感じと思っていただいて構わない。
「お疲れ様っす師匠。なんか見えますか、具体的には高そうな箱とか身なりのよさそうな人とか!」
「またえらく限定的だな。今のところとくにはないぞ。」
「なぁ~んだ。つまんないっすね」
「ああ、確かにつまらんな。初日の夕方以降は賊に絡まれることもなければ怪しい船もない。たまには運動しないと体が鈍る」
「あっ・・・(察し)」
襄陽では診察や造船、荷物の手配などに忙殺されろくに弟子に稽古をつけることがかなわなかった。そのため合間合間の僅かな時間で朱燐や杏命のかわいがりを行っていたのだ。
多少怪我してもタケマサの薬でたちまち回復する無限ループである。薬といってもmedicineというよりdrugかchemical的な雰囲気を感じなくもない。
「陸での戦いと揺れる船上での戦いは勝手が違うからな。多少手間取っても今のうちに経験した方がいい」
「ふ~ん、やっぱいろいろ考えるんですね~」
「と言いつつ先生が一番ノリノリでしたけどね」
音もなく陽花の後ろに忍び寄ったのは甲板にいたはずの杏命であった。陽花の特徴的なボリュームのある外はねの髪をもふもふワッチャワッチャクンカクンカprp「だぁ~やめるっす!」といきかけたところで暴れる陽花に引きはがされる。
「おっとケチですね。もう少し愛でさせていただいてもよかったではないですか。」
「急に人の後ろに回り込んで髪いじくりまわすとか何考えてんですか!」
「うんうん、もうすっかり元気になったようで安心しましたよ陽花さん。朝は心配で様子見でしたがこれからは存分にモフらせてもらいますよフフフフ。」
「やぁめてほしいっす!なんか獲物を狙う目っす!」
狭い見張り台でタケマサの背で杏命から少しでも距離を取ろうとする陽花。我関せずのタケマサだったかさすがに煩わしくなったのか杏命に声をかけた。
「狭いところで暴れるな。落ちたら危ないだろ」
「ですって陽花さん。もう少し落ち着いて行動してください」
やれやれと言わんばかり肩をすくめる杏命にそこはかとなくむかつく陽花。実際、見張り台から転落した場合、怪我をするのは自分のみで他二人は10点満点の着地をするだろうことが予想でき余計にむかついた。
「それで公奕、子均はどうしている?」
「交代して酒瓶片手に部屋に帰ってましたから今頃飲んでるんじゃないんでしょうか。曰く。たとえ船が揺れてもオレの視界も揺れてりゃ無問題!だそうです」
「末期的だなおい。」
王平子均こと朱燐は見た目に違わず酒と喧嘩をこよなく愛する娘で、彼女の親友曰く
「酒瓶と朱燐を見分ける方法は、酒瓶には酒が入っていない時もある」と言わしめたほどの飲んべぇである。彼女の保護者も似たような感じだったらしい。
彼女がタケマサについてきた理由は、「酔いが醒めたから」とのことである。
「夜中にひたすら操帆でしたから退屈だったんじゃないんですか?一昨日の江賊の時も貂蝉さんと卑弥呼さんが、先生に良いとこ見せる、って二人で敵船に乗り込みちぎっては投げちぎっては投げ・・・」
「やっぱ見た目はアレだけど強いんすねあの二人。」
「――――しているところを先生が口から火を噴いて敵船に放火して一網打尽にしてました。相変わらず人外じみてますね先生。」
タケマサが用いた術の名は紅蓮の術、奥州伊達家を陰から支えた黒脛巾の里n(ry
そのあとなぜか爆発した敵船からハリウッドジャンプ決めて何事もなく帰ってきた2人に対して、「あの程度で死ぬんなら誰も苦労はせん・・・」と実行犯は供述している。
「う~む、場所さえどうにかすればたぶん公奕にも習得できるかもしれんがどうだ?」
と首を傾げながら、これからドゥンドゥン船を焼こうぜ?と目で問いかけてくるタケマサに対して、「汚物は消毒系女子はちょっと・・・」と冷や汗を流し逃げるように甲板に飛び降りた杏命であった。
??「やれやれ,やっとわしらの出番かのう・・」
??「正直年齢設定とかかなりガバガバなのよねぇ~.ホント大丈夫かしら?」
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第八話 外交の基本は札束でビンタ
中途半端ですいません、できたところまで先にあげておきます。
ちなみに原作前の結構前という設定となっているためキャラの年齢が少し違います。
原作で孫堅がなくなったのが2年前とのことなので少なくともそれより前です。
長江を下りそろそろ河口に差し掛かろうかというところまで来たタケマサ率いる大和屋一行。日は上り風も穏やかになり、船員たちがそろそろ昼飯かと談笑している頃合いであった。
その時はちょうど、
3日目から参加の陽花が操舵について分身3号に指導をうけ、
甲板の杏命がロープの組み換えを行い、
部屋で朱燐が酒かっくらって寝こけ、
漢女たちの熱い視線が分身1号2号の股間付近に突き刺さっているころであった。
「前方に船だ。たぶんここいらの領主の船だろう。挨拶していく、縮帆ッ!」
見張り台より河面を見通していたタケマサが声を上げる。肉眼では遥か遠方にやや見えるか、といったほどの距離だ。だがタケマサの千里眼の術により船上の動きがつぶさに見てとれた。
2~30人乗りのこの辺りは大きめのジャンク船だ。帆を張りながら川上であるこちらに向けてやってくる。船員の装備には統一性が見られ、よく訓練された動きであたりを警戒している。どうやらあちらもこちらを発見したようで指揮官らしき女性の声で船員があわただしく船上に配置され始めた。
「よく訓練されているようだな。船員の動きも早いし、いい目を持っているものがいる。」
こちらの船上でも船員が配置につき帆の操作が行われている。杏命をはじめとする身軽なものたちがロープを伝い上から順に帆を畳んでいく。そして操舵をしていた分身3号の手によって江の中ほどあたりでちょうど落ち合うよう進路がとられた。
帆が縮められ少しずつ速度が落ちていく。こちらが帆を畳みながら減速したことを確認したらしく、相対する船も舵を切り速度を緩めながらこちらに向かってきた。
見張り台から甲板に飛び降り音もなく着地したタケマサ。向かってくる船は一応見た限りではよく訓練された兵士といった様子だったが、下手に妖鬼だの邪仙だの騒がれては敵わん、ということもあり分身を解除し甲板に出てきた船員たちを見回した。
「陽花、子均が見当たらんが・・・」
「朱燐さんなら水夫長さんがもう少しで起きてくるだろう、って頬腫らしながら言ってたっす」
「なんだ着替え中だったのか?またベタな。」
「いや違くて、何度戸を叩いても起きなかったから部屋に入って直接起こしたみたいっすけど、その時に間違えて酒瓶に触ったらしくて無意識に空瓶でぶん殴られたらしいっす。それで目が覚めたらしくて着替えてますよ。」
「・・・陽花、あとで湿布と痛み止め出しておくように」
「了解っす」
弟子2号こと朱燐はウワバミなのに加えて寝起きが非常に悪い。特に酒瓶抱えて寝ているときに起こそうものなら寝ぼけ半分に迎撃してくるため迂闊に起こすこともできない。
「まぁともかく、余計な諍いは避けたい。己れはただの医師兼商人という体で行くんでそこんとこ頼むぞ。」
うぅ~っす、と船員たちから気だるげな返事が上がった。
武人や隠密が商人や旅人に身分を偽ろうとする際、その歩き方や重心の取り方など体に染みついた動きというのはなかなか偽れるものではない。わかる人間が見ればその隙のなさや歩法、体の動かし方からそのものの来歴がある程度把握できてしまう。
しかしタケマサの場合、商人として全国の商業圏を制覇したことや何を思ったか武力統率100で脳筋商人だったり、武力一桁のもやし剣豪でKENSEIに挑んだりと千差万別の経験がある。
そのため見ただけでは演技を見抜くことは難しく、切りかかりでもしない限る見破ることは困難となる。
華佗は領主やらの権力者の類はいい予感がしないとのことで船室に帰ってしまい、漢女2名は言わずもがなで船室待機である。
そうしているうちに2つの船は隣り合い停泊した。やってきた船はこの時代の船としては大き目であったが相対する大和屋の船はその二回りは大きい。船との間に戸板がかけられ2人の女性と4~5人の護衛の兵たちが船にやってくる。
一人は南部の人間に多く見られる褐色の肌に薄紫の髪をくくり腰まで伸ばした妙齢の女性だ。赤紫の動きやすい露出多めの服で豊満な体をしている。その口元の黒子が彼女の妖艶さを引き立てている。
もう一人は、同じく褐色で少女から女性になるあたりの少女だ。薄桃色の髪を大きなリボンでくくり、ニコニコと人懐っこそうな笑顔が少し彼女を幼く見せている。その薄手の服装から同年代に比べて大変発育が良いことがうかがえる。
「儂は黄蓋、字を公覆という。呉群富春県令、孫堅様にお仕えしておる。そしてこちらはそのご息女、孫伯符様じゃ。」
「こんにちは~、孫策、字は伯符で~す。よろしくね!」
黄蓋と名乗った女性は腰の弓から見て取れるように射手であり、こちらの船を見つけたのはおそらく彼女だ。身のこなしからしておそらく武力80後半に弓術4武芸2は固いであろうことが見て取れた。
孫策という少女もまだ若いながらその武力90半ばに達しようとする天稟とも呼べる驚異的な才能が感じられた。その服に秘められた胸囲的な意味でも。
「これはご丁寧にありがとうございます。わたくしは新武、字は将と申します。大和屋とお呼びください。襄陽で薬を取り扱っていたのですがこのたび新たに船で商売をさせていただいております。」
どこぞの濃尾無双ほど露骨ではないがへへぇ~と言わんばかりの笑みをうかべ礼をとり頭を下げる。後ろから見ていた陽花に杏命、様子を見ていた船員たちもその違和感から内心微妙な表情となった。
この時代、揚州の都市部は主に長江の北側、寿春や盧江郡であり長江の南側は田舎な地域であった。そして呉郡では主に四姓と呼ばれる豪族四勢力が力を持っており、顧家、陸家、朱家、張家がそれにあたる。
孫家はもともと呉群のその他の豪族のうちの1つであったが孫堅の人柄と武勇に惚れ込み規模は小さいながらも各地から英傑が集っていた。
また周囲の豪族たちも息女たちを孫堅のもとに奉公に出すなど四家の後押しを受け呉群の治安維持やほかの豪族たちとの折衝など、呉群の顔役としての働きも行っていた。
「ここいらに江賊が出るということで見回っておったのじゃがお主らは大丈夫じゃったか?このような立派な船、いの一番に狙われてもおかしくはなかろう」
「いやはや、昨日怪しげな船に襲われそうになりましたが名医・華佗様とそのお連れ様のおかげで無事に航海できております。それが件の江賊でありましたなら・・・。本当に命拾いいたしました。」
その恩人ごと焼却しようとしてたけどな!っと顔には出さない船員一同。
今までに見たことのない大きな帆船、その船上で珍しげにあたりを見回していた孫策であったがタケマサの名を聞いたことで顔をほころばせて話に加わってきた。
「新武将と華佗っていえば名医ってここらへんでも評判じゃない。荊州じゃずいぶん活躍したみたいね。なんでも4人に増えてなみいるムキムキのオカマたちをバッタバッタとなぎ倒したとか!」
だいぶ情報が錯綜しているようだ。
タケマサが黄蓋と孫策の応対をしているその後ろ、陽花は彼女らをじっと見つめていた。正確にはある一点、具体的に言えば大胸筋付近に付着する乳腺を含む脂肪細胞の塊だ。そして彼女の心中にある疑問が沸き上がり渦巻いていた。
あれが同年代の乳だと?じゃあ自分はなんだ。
黄蓋と名乗った妙齢の女性。それはまだいい、そういうものなのだと納得できる。しかしおそらく自分と同年代であろう孫策の胸部にぶら下がっているもの。アレは駄目だ許容できない。
同じ弟子である杏命はそこそこ、朱燐も確かに大きいが体格も含めた発育で考えればわからないでもない。しかし孫策の胸囲は朱燐のそれすら上回り、さらに薄手の服によって強調されている。しかも会話の中で「最近服がきつくなっちゃって~」などとのたまっている。
陽花の隣にいた杏命も陽花ほどではないが生命の神秘について軽く考えないでもないといった感じであった。だがとなりであからさまにガン見している陽花に対してどう言葉をかけていいのか見当もつかない。
「(陽花さん陽花さん、確かに気になるのはわかりますけど・・・)」
「(いやだっておかしいっす!なんすかアレ。何が詰まってるんですか!?めっちゃバインバインっすよ!杏命さんも気にならないっすか!?)」
「(ああいうのは個人差が大きいものですから・・・というか陽花さんは貧乳というかそれ以前に幼児体k・・・)」
「・・・・・貧乳と申したか」
「ごめんなさい謝るんでその顔でこっち見ないでください怖いです…」
聞き捨てならぬ言葉であった。
血涙を流さんばかりに目を見開いた陽花は心なしかぎょろ目になり異様な雰囲気を醸し出していた。
その彼我の圧倒的なまでの戦闘力の差に思考がまとまらず何やらおかしな物まで降りてきている。なにやらどこからともなくチュパチュパ聞こえてきそうなほど鬼気迫る表情である。
ステータスだの希少価値だの嘯いてみてもやはり負け犬の遠吠えに過ぎない。やれ肩が凝るだの合う下着がないだの男どもの視線がいやらしくうっおとしいだの巨乳のデメリットをのたまう者たちがいるがそんなものは持つ者の理論に過ぎない。
これ見よがしに見せつけやがって。こちとら哀れみの視線を向けられるかそもそも向けられることすらないというのに。視線が煩わしいならもっと体型のわかりにくい服を着ればいいのだ、そしてそのまま蒸しあがってしまえばいいのだ。
乳は大小にあらず、みな素晴らしい。とかなんとか言っている男どもいるようだがそういうやつに限って巨乳の女に鼻の下を伸ばし、貧しい乳には見向きもしないのだ。
もはや乳をもいで伊達にするしか・・・陽花の脳内が危険な領域に差し掛かろうとした頃、船倉からドタドタと駆け上がってくる音が聞こえた。
「やっべぇすまねぇ旦那寝過ごした!まだ獲物は残ってるか!?」
ようやく起きてきた朱燐である。戦装束に得物の身の丈以上の鉄棍、苦無を刺したベルトなど完全武装で甲板に飛び出してきた。意気揚々と飛び出しては来たものの明らかに戦いの空気ではないことと周囲からの微妙に白けた視線にたじろぎみるみる戦意が萎えていく。
「あ~なんというか、じゃオレ酒もらって帰るから・・・」
「ちょっと待ってよ!せっかく来てくれたんだからお話しましょ!私は孫策、字は伯符、あなたは?」
「お、オレは王平、字は子均だ。なんというか話の邪魔して悪かったな・・・」
踵を返して船室に戻ろうとした朱燐を呼び止めたのは孫策である。人懐っこいニコニコとした笑顔で気まずげな朱燐に話しかける。その笑顔のほだされたじろいでいた朱燐も次第に心を開き会話が弾んでいく。
「そこのあなたたちもお話しましょ?名前はなんていうの?あと、ずいぶん眉間に皴が寄ってるけどどうしたの?」
「あ、えと。何でもないです!ほら陽花さんあいさつしましょ。私は蒋欽、字は公奕と申します。」
「っは!じ、自分は呂範、字は子衡っす。よろしくお願いするっすおっぱいっさん!」
杏命の呼びかけで意識を取り戻したかに見えた陽花であったが暗黒面からまだ完全には抜けきっていなかったようだ。
三人そろって「あっ」という顔をする。ほぼ初対面の相手をいうに事欠いて“おっぱいさん”呼びである。
「あはははっ面白い子ね!大丈夫よ、あなたの大きくなったらこれくらいになるわよ。それよりも偉いわね、もうお仕事手伝ってるの。まだこんなに小さいのに」
「「「(いやたぶんあんたと同い年なんですが・・・)」」」
船員たちの内心が一つになったがまた話がややこしくなるので口に出す者はいなかった。おっぱいさん呼びも気にせず笑ってすますあたり彼女の器の大きさが現れている。
そこから4人で会話が弾んでいく。実家でのことや船での仕事、流行りの服や人気のお菓子。3人は短い間ではあったが孫伯符の持つ人をひきつける徳、天性の魅力を感じていた。
その人柄、魅力は徳とも呼ばれその人物もつある種の才能ともいえる。それは交渉や取引の際にも顕著に表れる。多くの場合は礼法などの身に着けた所作によって大方が決まるが最後はその人物の魅力によって左右される。
これは例だが、ある世界線において桶狭間で父親を失った某青年は非才ながらも自分を磨き一流の武将となった。そして突然ショタっ子からおっさんにジョブチェンジする狸親父や、父親の仇敵の回さない方のノッブ、ついでに嫁さんの実家も滅ぼし関東東海を支配する大大名になったのだ。
そんな折、某軍神さん家が珍しく武田家に滅ぼされそうになっていたため慌てて服従を呼び掛けた。しかしいくら技能札を持っていようが札束で殴ろうが決して従属せず説得のかい空しく滅亡してしまった。
彼は自らの非才を嘆いた。もう少しでも自分に才能があれば彼を死なせずに済んだのではないか。統率100というその才能はあまりにも惜しい。
いくら嘆こうと城は落城し、彼が白刃の露と化してしまったことは取り返しようのない事実であった・・・
まぁロードし直してエクストリーム外交の末、力ずくで服従させたので問題はなかったのだが
ご意見ご感想,ネタになりそうな太閤立志伝の面白エピソード,6を出さないKOEIへの愚痴等大募集中です!!
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第九話 口利き相手は次期当主がいい
方言変換ソフトとかないかなぁ
場面は変わらず船の上。真昼の長江の江上に二隻の船が隣り合って停泊している。大和屋の船上には黄蓋と孫策、その護衛達と彼らの応対をするタケマサ達のみ。他の船員たちは揉め事も起こらんだろうと昼食のため船室に戻っていった。
4人の乙女たちが談笑していくうちに孫策はふと朱燐の腰の酒瓶に目を付けた。
「ねぇ子均ちゃん。その腰に下げてるお酒ってだいぶ上等なやつじゃない?さっきからいい匂いしてるわよ~?」
「おっ!良い鼻してんな。なかなかいける口かい伯符?」
「とーぜんよ。そんなおいしそうなお酒見逃すわけないじゃない!」
のんべぇの朱燐は基本的に酒臭いのだがその中でも孫策の嗅覚は上等の酒の芳香をかぎ分けた。
一応彼女らを形容するときには少女としているためあまり飲酒に関する描写は好ましくないのだが・・・「この作品の登場人物は全員20歳以上でーす♪」さいですか
朱燐の腰にぶら下がっている酒瓶、その中身は十年以上熟成された老酒で早々お目にかかることができない代物だ。タケマサに出会うまでは行商の護衛や酒場の用心棒をやっていた朱燐には到底手が出ないものである。
ならばその出所はおのずと限られてくる。酒の出所に感づいた陽花と杏命は顔を青くし朱燐たちから半歩距離を取った。
「朱燐さんそれってもしかして・・・」
「師匠が買ってた樽からぎってくるとか勇気あるっすね・・・」
「っバカ!でかい声でいうんじゃねーよ。聞こえたら「ほう。確かにいい酒じゃな。見る目があるのう大和屋殿」ってうわ旦那!?」
やや離れた場所で話していたはずの黄蓋とタケマサであったがいつの間にやら朱燐の手から酒瓶を取って利き酒を始めた。銀蠅の証拠をばっちり聞かれていたため朱燐の顔も青くなる。思わず後ずさったがタケマサに視線で抑えられたため逃走も叶わずその場で力なく笑うしか他にない。
「うむ、香りよし味よし酔いもよし。実にいい酒じゃな。それで大和屋殿、やはり我が殿に力を貸しくれましか。その若さで店を立ち上げ、これだけの船を操って見せるその手腕は実に見事!それに酒の趣味もいいと来れば必ずや文台様も重用してくださろうぞ。」
「お言葉はありがたいのですが今は航路の最中故、申し訳ありませんが・・・それに公覆様も若くお美しいではありませんか」
「はははっさらに口もうまいと来たか!ますます気に入ったぞ」
先ほどから話していた2人であるが、その内容はぜひ孫堅に仕官してもらいたい、というものでそれをタケマサがのらりくらりとかわしているという状況である。
いうなればべらぼうに有能な浪人が目の前にいるわけだ。誰だって勧誘する俺だってそうする。
基本的に親密度を上げようとする場合、毎月好みの贈り物をするか茶席に誘うことが常道である。もし相手が無欲だったり茶が嫌いな脳筋だったときは手合わせでしばきあげて仲良くなる。そうやって親密度を上げていくことで技能の師事や勧誘などが可能になるのだ。
しかし相手が道場主の剣豪の場合は贈り物と茶席ができないため手合わせ一択となる。通常の剣豪ならまだしもKENSEI、特にあんまり出歩かない方の妖怪ジジイ相手だと親密度を上げるのが非常に困難となる。
タケマサの場合はいうなれば無欲な上に武力100、おまけに仕官傾向が武士以外優先のため勧誘はおろか親密度を上げるのすらままならない。素直に編集で性格を書き換えた方が早いぐらいである。
「それにその酒は都での接待のために仕入れたもの。わたくしは酒よりも茶を嗜みますゆえ」
「それはもったいないのぉ。かように見事な酒の目利き、ぜひ文台様とも語り合ってもらいたかった。それにしても茶か、たしか城の近くの邑でそろそろ茶摘みが行われる時期だっt「その話を詳しく!!」おおう!急にどうしたのじゃ一体!?」
「黄蓋殿茶の産地をご存じなのです茶良けれ茶その話を詳しくお聞かせ願いません茶また茶口利きなどしていただけるのであれ茶それはもう!!!」
「ちょ、ちょっとお主落ち着け!顔が近い!顔が近いぞ!」
これまで飄々とした商人めいたタケマサであったが黄蓋から茶の話題が出た瞬間に態度が豹変する。肩をがっしり掴んだ上、黄蓋の眼前ににじり寄り早口でまくし立てる。どうやらカテキンが不足していた所にブロックワードを検知して情緒不安定になっているらしい。
薬の仕入れの際に元悪徳商人の邸宅で茶を振舞われた時の衝撃から襄陽での活動の合間に独自に茶を入手できないものかとアレコレと探してはいた。しかし探してはみたもののどれも餅茶のように加工された後のものであった。
それに嗜好品という扱いではなく薬の類として扱われていたため流通量も少なく襄陽では手に入れることができなかったのだ。また造船や弟子達の修行のため生産地である揚州に足を延ばすこともできずここに至ったのである。
「力強っ!?かなり痛いぞ!わ、分かったから落ち着けというに!ええい急に性格が変わったな!」
「おっとこれはお恥ずかしいところをお見せいたしまし茶。ですがよろしければその茶の産地の方に口利きをしていただきたいのです茶・・・?」
「語尾がおかしくなったままじゃぞお主」
長らく茶を服用していなかったことによるカテキン欠乏症と思われる。巨乳を前にした陽花といい、この師匠にしてこの弟子ありとはよく言ったものだ。
まとわりついてきたタケマサを何とか引きはがしコホンと咳払い一つ。
黄蓋曰く、孫堅の居城の近くで茶の栽培を行っている村があり、見回り等でよくそこに顔を出す。確かに高価なものだが薬の一種という扱いでそこまで量はないとのこと。規模はそこまで大きくはないが一筆書けばおそらく売ってもらえるだろう、とのこと。
「じゃがまだ葉をつんでおるかどうかという頃合いじゃぞ?もう少しの後がよいのではないか?」
「いえちょうどよき頃合いです。お手数ではございますができれば一刻も早く一筆いただきたいのですが」
「うーむ、流石にそこまで急な話になるといくらなんd「老酒3樽でいかがでしょう」うむ、それでは一筆したためるのでちょっとまっておれ!」
見事なまでの変わり身である。今にも小躍りしそうな軽快な歩調で自らの船に帰っていく黄蓋を背に一仕事やり終えたかのようにすがすがしい汗を拭うタケマサ。
戦術の基本の一つとして、効果的なタイミングで致命的な箇所を全力で殴りぬくというものがある。商談も同様に相手の好みに合った袖の下を送ることが重要となる。
要は嫌がらせと死体蹴りだ。
贈り物をケチって師事が受けられずもう1月待つより価値5以上のものを渡した方がよいときもある、どうせそのうち行商人が売り出すのだから。
例えそれがプロポーズの時に嫁さんに贈った財宝だとしても・・・
「ずいぶんと気前がいいのね大和屋さん。祭が独り占めしないようにあとでお母様に言いつけとかないと♪」
「い、いいのかい旦那あんな気前よく渡して・・・あれ相当いい酒だろ?」
上等の酒が不意に手に入ったことを無邪気に喜ぶ孫策と対照的に酒飲みとして酒の値段をなんとなく察して青くなっている朱燐。そんな彼女に向けてタケマサは肩をすくめ小さく笑みを浮かべる。
「別にかまわんさ。元々茶の代わりに仕入れたものだ、それで茶が手に入るなら別に構わん。むしろ儲けものだ」
「ならいいけどよ。そんだけ太っ腹ならオレにももっといい酒買ってくれよぉ旦那ぁ~」
「(先生にしてはずいぶんと気前が良くないですか?)」
「(いやそろそろオチがつく頃合いだと思うっすよ?)」
背中にしな垂れかかってきた朱燐の酒気を帯びた吐息を感じながらまだ見ぬ茶に思いをはせると同時にあることについて考えた。
タケマサがこの世界にやってきていままでしばらくの時が経ったが、その中で彼は常々思っていたことがある。他の者たちは疑問にも感じていないようなので誰かに話したことはない。
女の子の露出が多すぎね?ということである。
確かに温暖な気候とはいえ若い女子が足やら肩やら尻やらむき出しなのはいかがなものであろうか。他の男ども慣れてはいるようで露骨に前かがみになるようなことはないが、某リトさんだったら外を出歩くだけでToLoveル&ジエンドになりかねない。連載開始早々ダークネス不可避である。
だが世の性少年と違いタケマサの場合、薄手の着物からこぼれんばかりの胸や内太腿にホイホイ誘われていった先に待っていたのは大概命を狙うむさい忍者であった。
一番酷かった時は抜け忍狩りから逃げる合間、匿ってくれた色っぽいおねえさんとのお色気シーンに及ぼうとした時だ。いざっ!とお姉さんの手に惹かれ股の間に手を伸ばした時、そこにあったのはアワビではなくお稲荷さんであった。
一瞬なにが起きたか理解できず呆けているとそのまま変化をといた忍びの襲い掛かってくる。そのまま握りつぶしなんとか撃退したものの彼には深い心の傷が残されたのだった・・・
「(そのまま見えるよりも隠されたものにこそ想像が掻き立てられる。やはり露出が多いというのはいかんな、うむ。)」
どうやら彼のムーブメントは低露出のようだ。
そうあれは茶の湯に目覚め茶仙と言われたあのころ、大名を茶室に呼びつけその間に奥方様とあれやこれやのそんなことまで・・・そんな間男まがいのこともやったようなやらなかったような。
※ただし吉川元春の嫁は除く
とんだ淫獣(ケダモノ)フレンズである。
さて、まだ見ぬ茶へと思いを巡らすタケマサをじっと見つめる少女が独り。彼女は黄蓋たちについてきた護衛、その中でもやや小柄な少女であった。他の護衛達が珍しげに船を見ている中でその少女はタケマサから目を離さずにいた。
タケマサは自分を見つめる視線には気がついていたが物珍しさからだろう、と気に留めていなかった。茶に思いをはせている間もその視線は変わらずにじっとこちらを見つめている。
孫策や弟子たちはマストの見張り台に昇ってにぎやかにしている。それを他の護衛達がひやひやしながら見ている中も少女の視線はタケマサから動くことはない。
タケマサとしては、よもや商人の演技が見破られたのでは、と内心穏やかならず。手持無沙汰というのもありひとまず少女に声をかけてみる。
「もし。先ほどからわたくしめを見ておられるようですが・・・なにか気になるようなことでもございましたでしょうか」
「あっ、えと、その、こ、こらいやったもし!」
話しかけられた少女は動揺からか赤面しぺこぺこと頭を下げる。陽花ほどではないがその小柄な体で頭を下げている様子は小動物めいて愛嬌があった。それになにやら言葉に特徴的な訛りがある。今はやりの方言女子というやつであろうか。
「あ、あの、あたいは氣ぃの流ればみっことでくって!おはんの“氣”ぃばわっぜかみごってうっかいとみいほがいてしまいもした!どげんしたらそげんみごって“氣”ぃば習得でけもすか!?」
かなり独特な訛りをした少女であった、主に九州南部あたりの。
じゃあ今はいったい何語で会話しているのだ?と聞かれてもそれは禁則事項である。基本的に二次元の公用語は日本語なのだ。
タケマサは“氣”が見事、と言われて思わず面食らう。少なくとも今まで言われたことのない台詞だ。おそらく何らかの方法でその実力を感じ取ったのだと思われるが、今は商人ロールであるためすっとぼけるしかない。
「氣、ですか?あいにく不勉強ながら武術のことには疎いもので。残念ながらお力にはなれそうにないかと・・・」
「あたいはじっぱなぼっけもんばなりたかとです!なんぞ秘訣ばいっかせっくいやい!どうかお願いしもす!」
少女のまっすぐな視線を正面から受け止める。透き通ったまっすぐな少女の目、その熱意を感じ不意に自らの修行時代を思い出した。
弟子入りのため道場の門を叩いたあの日
師匠に勝つための秘技を習得するためには師匠に勝たなくてはならないという矛盾
金に目がくらんだ師匠の背中を思いっきり叩き斬った修行時代
秘境で瞑想していたら筋骨隆々の漢女に襲われたあの夜、負けた次の夜明けはなぜだか尻が痛かったような・・・
・・・なぜだろう、ろくな思い出がないうえに思いだすと背筋に薄ら寒いものを感じた。
「ま、まぁ自分には武芸の覚えがありませんが知り合いの武芸者の方から聞いたお話をすることならできます。それでもよろしいでしょうか?」
「あいがとごわす!」
さて話をするといったもののどうしたものか。見たところ彼女の得物は腰に差した剣のようだ。もちろん立ち合いでの心構えも重要ではあるが彼女は実際に戦場にたつ兵士である。実践的なアドバイスの方が好まれるであろう。
一応商人ロールであるためあまり詳細には語れない。そのうえで的確な助言ができるようにうまく言い含めねばならん。
やや頭を捻りつつ知人から聞いた話である、とタケマサが語った内容は、
・戦場で敵に切り込んでいく際、怯めば死につながるため己を鼓舞し敵を怯ませるため思い切り声を出す
・三寸切り込めば人は死ぬ。相手より長い得物を使い、毛一本でも早く打ち込むべし
・どう防ぐかよりどう殺すかが肝要、細かいことは斬り捨ててからでも構わない
・日々鍛錬を欠かしてはならない。心身の充実する早朝から鍛錬すべし
といったものであった。
「・・・以上ですがなにぶん聞きかじりなものでお耳汚しだったやもしれませんが」
「うんにゃそげなこちゃなかとです!わっぜかためになりもした!ほんのこてあいがとぐゎした!」
彼としてはほぼ当たり障りのない話をしたつもりではあったが根が素直でよい子なのだろう、彼女は必死にうなずきながら目を輝かせて聞き入っていた。
タケマサはあまりに感謝されるので首筋がこそばゆくなるのを感じた。大大名や各地の有望な剣士を弟子にすることはよくあったがここまで純真なまなざしを向けられてはいささか据わりが悪い。
どうしたものかとポリポリ頬を掻いていると書き物を終えた黄蓋が船に戻ってくるのが見える。それとほぼ同時、姦しくしていた孫策たちも甲板を一通り回り終えこちらに戻ってくる。
「おやおや大和屋殿、儂の部下を口説かれては困りますぞ?」
「あらあらこの子顔真っ赤じゃない。色男ね大和屋さん?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながら二人してタケマサをいじりにかかる。見事な連携、流石に息ぴったりである。こうなっては敵わんとすごすごと礼をとり釈明も試みるも苦しい言い訳にしかならない。
「いやいや、こちらの方に聞きかじった話を語らせてもらっていただけですよ。ええっとあなたは・・・?」
「こここ、こらいやったもし!名ぁも名乗らんとごぶれさあぐゎした!
あたいの名ぁは呂蒙、字を子明ばいいもす!こんたびはほんのこてあいがとぐゎした!」
上司二人に絡まれたせいか、彼女は余計に委縮しまい慌てて礼を取りうわずった声で名乗りを行った。
「へぇ~自己紹介より前に口説きにかかるんだぁ。ほぉんと手が早いのね?」
「これは儂も気をつけねばならんかのぉ~策殿も酒につられてホイホイ寝屋について行ってはなりませんぞ?」
「いい加減に勘弁してください・・・」
口利きをしてもらう身、強くは出れず気のすむまで2人の玩具にされるタケマサと、そのそばでアワアワと顔を真っ赤にしてうろたえている呂蒙。
そして珍しく師匠がいじられているところをニタニタとみている弟子たちの姿はしばらく続くのであった。
・・・・その後しばらくのち
黄蓋と孫策は長江を下り去っていく大和屋の船を見送っていた。船はすべての帆に風を受けみるみると加速し、すでに水平線に差し掛かっている。
あのどこか掴みどころのない、茶キチの主人はこれより呉群によりつつ海を北上し黄河を遡り都へと向かうと語った。
「なかなか面白いものたちでございましたな雪蓮様。それにみな腕も立ちそうじゃ」
「ほんとね。呂範ちゃんはそうでもなかったみたいだけど蒋欽ちゃんと王平ちゃんはかなりできそうね」
「それにあの大和屋殿の手腕、あの若さで見事のなものじゃ。ぜひ炎蓮様に会っていただかねば。必ずやお気にめされるであろう」
「確かにそうなんだけどなぁんか引っかかるのよねあの人・・・」
大和屋と名乗ったあの若い男、孫策はその姿にどこか違和感を覚えていた。確かに会って話した感じ、町でたまに見かけるやり手の商人のような飄々とした雰囲気ではあった。
本心を悟らせずこちらを立てる物言い、親切のように見えても内心算盤をはじいているようなどこか胡散臭い感じ。それらをすべて分厚い面の皮で覆い隠しているような独特の気配がある。
だがそれだけではない、そう野生の勘ともいえる彼女の直感が囁きかけてくる。それがどういったものかまではわからない。しかしたがかの少年ともいえる年頃の男になにやら底知れぬものを感じていたのだ。
「なんじゃ雪蓮様、そのように考え込まれて?もしや儂がおらん間に大和屋殿にでも口説かれましたかな?いけませんぞぉ~孫家の姫がそのような・・・」
ニヤニヤとした黄蓋の視線に考えが霧散する。彼女はそれで深く考えることをやめた。たしかに別に今気にすることもない。それに、
「(また近いうちに会えそうだわ。なんとなく長い付き合いになる、そんな気がするわ」
こういった根拠のない勘ほどよくあたるものだ。
「そんなんじゃないわよ!あっそういえばあのお酒私にも頂戴ね。ねこばばしたら母様に言いつけてやるんだから!って聞いてるの祭!?」
「はっはっはっどうでしょうなぁ!さてこちらも警邏を続けるぞ。者ども帆を張るのじゃ!」
黄蓋の一声で兵士たちは動き出し船は長江をゆくのだった。
方言女子ってかわいいよね(白目)
やっと話が進む
ご意見、ご感想募集中です!
以下、作者のスーパー言い訳タイムとなります。
さて、これ以降は新武将が言った「襄陽から長江を下り、北上して黄河をさかのぼり洛陽へ向かう」についての作者なりにがばがば考察というか理由付けというか。
まぁ結論から言えば、「こまけぇことはいいんだよぉ!!(AA略」ということになりますが・・・
一応いろいろグーグル先生に聞いてみた結果をまとめたものになるので興味がなければ飛ばしていただいてもかまわないです。いろいろ考えてんだぜへっへっへということです。
さて問題点となるところは「黄河を遡り洛陽へ」というところです。すでに大河とはいえ比較的浅い河川で喫水(船底から水面の距離)の深い西洋帆船とか無理があるだろjk、ということになりかねませんがそこは置いときます。
中学高校で世界史、もしくは地理の時間に学んだ方も多いかもしれませんが、黄河は非常に氾濫しやすい河だそうで2年に1回の割合で大規模な洪水が起こったり、ひどいときには河の流れが変わるほどの大氾濫になってました。
またチベットの方から土砂を運んできて河口付近の黄海、渤海のあたりは水深が低くなっているため座礁の危険性が大きく、大型船の航行にはむかない、というかほとんど無理だったようです。
三国時代から400年後ぐらいの隋の時代になり、有名な大運河ができてようやっと大型船での交易が可能になりました。Wikipediaで見てもらえばわかりやすいと思いますが、だいたい濮陽あたりから北京までの約800kmを掘って作った永済渠という運河です。
地図だけ見れば黄河があるんだからそっち使えばええやん、と思ってましたがわざわざそんな大工事をしなければならないほど黄河、特に河口部は船での航行にはむかなかったようです。
1800年後の現代の話ですが、ある記事に漁船ぐらいの船で渤海から黄河を遡ろうとしたら底がめっちゃガリガリいってビビった。とありました。
んじゃあどう落とし前つけんねん?という話ですが
・言い訳その①:後漢の初めの方で治水工事がめっちゃ頑張ってた
・言い訳その②:西からの遊牧民族の拡大で牧草地帯が増えたため土砂が流れにくかった
ということにしたいと思います。
①については、治水策として華北の平野部から当時最も低く、なおかつ渤海へ最短距離で到達する河を選び、勾配をつけ土砂を押し流しやすくすることと、河北平野への分流を設け黄河の勢いをそぐことが行われました。このおかげで以後800年間は大氾濫がなかったようです。
②についてはそのまんまで、非常に分かりにくいですが黄河の流れは ~凡~ のような形になっていて、後漢の末期には 凡 の右上あたりまで匈奴、鮮卑の支配下でした。ちなみに洛陽は右の ~ の左端ぐらいです。
その広い牧草地帯のおかげで流れる土砂が減り、多少は船が通りやすかったんじゃないかなぁ~と考えました。
まぁ結局は主人公の分身と白眼もどきの技能札&チート性能頼りなんですがねぇ・・・
あと太閤立志伝は知ってるけど大航海時代はやったことがない方もいらっしゃると思います。という自分もPSP版4しかやったことないんですが・・・
まぁ交易やったり宝探ししたり、商売敵とエクストリーム外交したりと古き良きKOEIのゲームとなっております。
んで大航海時代4の要素は主に帆船関連についてです。史実では19世紀半ば、紅茶の輸送のため上海からマラッカ海峡、インド洋、喜望峰を経てロンドンへと向かう約25000kmの航路を100~110日で航海したという記録が残っており、その船の最大巡航速度は14。5ノットで現代のタンカーと同じぐらいの速さでした。
あんま早くなくね?と思いがちですがそれまでの船が1~2年かけていたものを3か月とちょいまで縮めたのはマジで画期的。
それとほぼ同じ航路を積み荷なし+食料マシマシ+船員能力ほぼMAXのデータで航海すると無寄港で上海からロンドンまで風向きもありますが約50日でつきました。まぁゲームですしおすし・・・
これを一日14時間操船したとして速度に直すと約20ノット、貨物船と同じくらいの速さになる。んでうちの主人公は船上サバイバルブートキャンプ2年コース温泉付きをやったという設定になっております。
よって季節風の利用できる夏と冬に限り、ほぼ能力カンスト+分身+睡眠不要-他の船員の疲労=だいたい12ノットぐらい出せると仮定してます(それでも大概だが・・・)
ちなみに普通のガレオン船は3。5ノットぐらいだそうです。
距離についてですが、襄陽~洛陽だとスペシャルアバウトな計算で、襄陽から長江河口まで約1000km・長江河口から黄河河口まで同じく約1000km・黄河河口から洛陽まで約800kmの計2800kmを航海します。
ちなみ襄陽から洛陽まで直線距離だと金沢~名古屋と同じぐらいらしいです。太閤立志伝5の場合、名馬(移動速度UP)+操船術秘伝(海上移動速度2倍)+早駆け(山間部移動速度UP)のマシマシで行く1日以内に着けます。こりゃひでぇ、まぁ函館から鹿児島まで6日ジャストだったんですけどね・・・
普通だとどのくらいかかるのかはちょっとよくわからないです。
あと現在の船はやや大き目なガレオン船といったところで積載量は最大で300t、リアルな兵糧に換算すると5000人が1月食える分になる。確かそんな計算になったはず・・・
今んところの設定は以上です。
いや~こういう細かな設定考えるのって楽しいっすわ。本編は進まないけんども・・・
これからもぼちぼちやっていこうと思ってます。
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第十話 年初めは浪人求めて全国行脚
どうせならやっぱ立志伝らしく有能武将いっぱい登用したいよね!
ってことでこれからオリキャラ、という名の他作品のキャラがたくさん出てきます、ご注意ください。
太閤要素薄めです。
長江河口部で黄蓋・孫策らと別れ、茶葉を入手した大和屋一行。初夏に吹く海風を受け、黄海を北上し現在は渤海との境目である青州、現在でいう山東省にあたる場所を進んでいた。
長江流域では水深が浅い部分や漂流物、江賊の襲撃など周囲警戒が厳重であったが黄海に出てからは帆を満帆に全速で航行している。
その為に人員的にいく分か余裕があり、タケマサは船員の中で実力のありそうな者たちに対してこれから予想される船上での戦闘に備え、早朝から船員同士での組み手を実施した。
船員の多くは荊州での活動中に勧誘したり引き抜いたりした人間であり、侠客や元江賊も多く、こぞって参加し船上では至る所で気声や得物をぶつけ合う音が響く。
前部甲板では非戦闘員かつ救急要員として陽花が待機していた。
現在は手持無沙汰のようで担いだ薬箪笥を下ろし欄干にもたれ掛かかりながら船上で思い思いの得物をふるう船員たちの様子を眺めている。
そんな彼女に組み手がひと段落つき休憩中であった杏命が声をかけた。
「そんなに見つめてだれか気になる人でもいたんですか?」
「あ、杏命さん。いやーあたしって出港直前に師匠からこの船の事知らされたんすよ。そんでその後すぐに寝込んでたじゃないすか。そんで復帰してからは師匠と茶葉の加工で医務室で缶詰だったんで他の人たちの事とか良く知らないんすよ。個性的な見た目の方が多いっすけど・・・」
「あーそう言われれば陽花さんと初めて会ったのって出港の直前でしたね。主だった皆さんは個性的なのは見た目や性格だけじゃなくて腕っぷしも立つ人が多いですよ。」
「せやで嬢ちゃん。水夫長のおっさんをはじめ、そこの杏命ちゃんや朱燐ちゃん、華佗先生ぇ、そして何よりオヤジ本人に漢女2人とエライ腕利きがおるんやでぇこの船には。ほんま、ついてきて正解やったわぁ~」
「良く言うぜ彩羽のネェさん。初めにオヤジに声かけられたときにはあんなに筋が通らねぇって怒鳴ってたのによ」
陽花と杏命に声をかけたのは伊月と彩羽と呼ばれた2人の女性であった。
彩羽と呼ばれた女は腰まである濃青色の髪と触覚のような2房が同じく腰まで伸びる髪形をしており赤いズボンのベルトには短刀を指している。
上半身は豊かな胸にさらしを巻き、紫地にド派手な大蛇の柄の着物を羽織っている。その眼光は鋭く赤い瞳が印象的である。
また伊月と呼ばれた女性は下腿まで伸びたボリュームのある黒髪をサイドテールでひとくくりにしており薄手の赤い服の上から上等な白い陣羽織を着ている。
彩羽と同じく圧を感じるような外見ではあるが凛とした美人でありその目は優しくどこか不思議な魅力を感じる女性である。
「なんや、そういう伊月ちゃんこそオヤジがカチコミかけてきたときに一番に殴り掛かったやないかい。」
ニシシィと悪そうな笑みを返す。
「うちら二人がかりでもかなわんよぉなごっつい漢がこないな立派な船こさえてやることと言えば、そりゃでっかい商いにでっかい喧嘩に決まっとるやないか。そう思うから伊月ちゃんも付いてきたんとちゃうか?」
「ふ、そうだな。」
彩羽の問いかけに対して伊月は小さく笑い答えた。
そんな彼女たちを見ていた陽花と杏命はといえば、
「ね、個性的な人たちでしょ?」
「て、ていうか明らかに堅気じゃないっすよね!いったいどこの組の方っすか!?」
ギロッ!!
「あぁん?なんやうちらみたいな善良な人間を捕まえて?うちめっちゃ傷ついたわぁ。あっちで酌の一つでもしてもらわんとこの心の痛みは治まらんわぁ」
彩羽は腰を落とし陽花に対してにじり寄って堂に入ったガンつけ。その眼力に腰が抜け怯んだ陽花はまさしく蛇に睨まれたカエルであった。
「ひ、ひぃ暴力反対っす!」
「おいネエさん、こわがってるじゃないか。それに侠客だったのは確かだろう。怖がらせて悪かったな、立てるか?」
伊月が差し出した手を掴み立ち上がる陽花。その手はしなやかなようで固く、戦う者特有の厚みと熱があった。
「あ、ありがとうございます。え、えっとなんてお呼びすればいいっすか?」
「自己紹介がまだだったな。わたしは丁奉、字は承淵、真名は伊月だ。船員同士よろしく頼む。」
「いやぁすまんなぁ~、杏命ちゃんから揶揄うとごっつおもろい言われたからついな。」
いたずらに成功した悪ガキの如く。言葉に誠意を感じさせない満面の笑みで共犯者を売り渡した。
あの腹黒忍者はいつか絶対泣かす。陽花の心のメモ帳に新たな項目が追加された。
「うちは李厳、字は正方、真名は彩羽や。嬢ちゃん、オヤジと一番付き合い長いんやて?お詫びに今度酒おごるさかい、オヤジの話聞かせてぇな。」
「私は呂範、字は子衡、真名は陽花っす。えーっとオヤジっていうのは・・・」
「船長のことさ。侠客の間では頭のことを敬意をこめてオヤジって呼んでた、その名残だ。わたしもよければ聞かせてほしい、あの人は何とも底が知れないからな。」
今まで陽花が接してきたタケマサという男はえらく単純な動機で行動するときもあれば深慮深謀を重ねた上で人を揶揄うこともある。少年の心を忘れないということは大事であるが老獪さをもってくだらないことをする。
そういうことも含めての“底が知れない”という評価であると陽花は認識した。
「師匠の話って言ってもそんなにお話しできることがあるかどうか・・・ってどこ行くんすか杏命さん!逃がさないっすよ、てか待てこらぁ!」
伊月と彩羽と真名を交換していた陽花ではあったが隣にいたはずの杏命がいないことに気づく。
彩羽に入れ知恵を暴露された杏命はすでに船室への扉近くまで退避していた。
逃がすまいと駆け出す陽花とそれを見送る彩羽と伊月。
「エラい揶揄いがいのある嬢ちゃんやったなぁ。あれがオヤジの弟子かいな。」
「医術を主に修めてるそうだ。前の疫病騒ぎの時に若くて腕の立つ薬師がいるって評判だったろう」
「あー、あれがあの嬢ちゃんかいな。あん時まではうちの一家も稼いどったんやけどなぁ。」
彼女らは以前荊州全域で活動する大規模な侠客一家の幹部であり、先の疫病騒動では高騰し中・下級住民に行きわたらなくなった医薬品の密輸入、時に襲撃・強奪を行っていた。
当然タケマサの関わる商家も標的となりブツをめぐってシノギを削り幾度となく対立した。
不可解に消えていく物資。こちらの動きの一手先を行く相手の動き。
そして見え隠れする第三の組織の存在。見定めるべき共通の敵。
盃を交わした組長と外部組織との繋がり。渡世の仁義と己が信念の間での葛藤。
すべてを操る黒幕への殴り込み。傷つき倒れたはずの仲間の助力。
渡世の仁義を果たすため、何より自身へのケジメのために立ちふさがる2人・・・
(そして捻りすぎていまいち盛り上がりに欠けるラスボス戦)
懐かしむように過去を振り返る彩羽だがすぐに切り替え伊月のもとに向き直る。
「まぁそんなことはどうでもええ。あの嬢ちゃんのおかげで今日は思う存分怪我ができるっちゅうわけやな。さぁ休憩は終わりや。本気でいくでぇ~伊月ちゃぁん!うちをたのしましてぇなぁ!」
「こいっ!気ぃ抜いてるとアンタでも怪我するぞ!」
互いに気炎を漲らせ短刀を抜き放ち躍りかかる彩羽と迎え撃つ伊月。二人の侠者の戦いは伊月が甲板清掃用のモップをあらかた壊し、乗り降り用の板梯子を振り回し始めて周りが止めに入るまで続くのであった。
「あはは、いったいどうしたんですか陽花さんそんな血相変えて。私はこれから会計部門の皆さんと今後の経営戦略について話合わなくてはならないのですが」
「半笑いで何言ってるんすかこの腹黒忍者ぁ!いちいちやることがこすいんすよ!」
「人聞きの悪い。あ、それとそこ危ないですよ陽花さん」
「え?」
視線を上に向けた杏命につられて足を止め上を向く陽花。
シャンッ!!
顔面目掛け、短く空を斬って模擬剣が落下し、おお陽花よ死んでしまうとなさk「のわぁぁっ!!」になりかけたところで寸でで気がつき慌てて飛びのき尻もちをつく。
落ち来たのはやや長めで両刃の剣であった。模擬剣ということで刃はつぶされているが重さは鉄剣のそれである。
パンピーに毛が生えた程度の耐久力しかない陽花にとっては当たれば洒落にならない。たんこぶで済むのはギャグ補正のかかった人間だけである。
「危なかった出すね陽花さん、私の注意が無かったら大怪我ですよ。」
「注意するときはもう少しテンション上げてほしいっす!!寝ぐせ指摘するのと同じ感覚で命救われるって結構複雑っす!」
「いやぁさすがは陽花さん、わたしが見込んだことはある。今日もキレッキレですね。」
「いつの間にそんな見込まれ方されたんすか!?」
陽花、本日2度目の腰抜けであった。出会ってそう時間のたってない二人ではあるがすでに関係性というかパワーバランスが形成されつつある。餌を前に尻尾を振っている子犬につい意地悪して噛みつかれるイメージである。
「大丈夫!?ごめんなさいね、怪我はない?」
そんな二人のもとに模擬剣の持ち主が慌てて駆け寄り、腰が抜けている陽花の顔や体をあちこち触って怪我がないか確認する。
白に近い灰色の髪を後ろで一纏め結い、動きの邪魔にならないよう短めの皮と鎖帷子でできたジャケットを着た若い女性だ。
かわいらしいというより綺麗、美しいといった表現を思わせる整った顔立ちや目元を強調するアイシャドウ、そして左目の下にある一筋の赤い傷跡が彼女の美貌にアクセントを加えている。
「えっと、大丈夫っす・・・あなたは?」
「わたしは凌統、字は公績、真名は白燕っていうの。あなたはたしか呂子衡だったわね。ごめんなさい、父と鍛錬をしてたら剣を落としちゃって」
「は、はい真名は陽花っていいます。よ、よろしくおねがいします。」
この船に乗ってからあったことのないタイプの女性だったこともありつい敬語で返してしまう陽花。
彼女が襄陽から知り合った主な人間と言えば妖怪やら仙人やらわからない師匠に熱血医師と漢女2人、同じ弟子である腹黒忍者に飲兵衛、褐色おっ〇い2人にYAK〇ZA2人とイロモノばかりであった。
ただまっすぐ自分を心配してくれる彼女のその瞳と思いやりあふれる心を感じ思わず、
「お姉様、って呼んでもいいですか・・・?」
「はい?」
どうやら自分自身もイロモノ枠だということを失念していたようである。
「なにやってる白燕!早く上がってこい!」
頭上から彼女を呼ぶ水夫長の声がかかる。
「あ、わかったわ父さん!じゃ、それじゃね陽花、また話しましょ。」
「はい・・・」
そのまま白燕はマストの縄梯子を駆け上るような速さで昇るとそのまま組み手を再開した。
なお、彼らが戦っているのは甲板から10メートルはある見張り台近くのロープ、アスレチックにある格子状に組まれたロープの遊具を想像すると分かりやすい。
それの格子の目を成人男性の足がすっぽ抜けるぐらいの大きさにして潮風を足した環境で時に相手の足を払い、時にバク転で攻撃を躱しながら剣劇を続けている。
その様子を呆然と見上げる陽花と杏命。
「な、なんちゅう・・・」
「凄いですよね。私も不安定な足場での身のこなしには自信がありましたけど彼らを見ていると自信なくしそうです。あ、水夫長が白燕さん投げ飛ばしてますね、そして普通に受身とってますよ」
大陸は広い、そう実感する二人であった。
「おーい杏命~そろそろ交代だぁ!それと陽花、ちょっと用事があるから来てくんねぇか!」
「あっはいすぐ行くっすよ!」
「やれやれもう交代ですか。すみません先に行きますね陽花さん。」
後部甲板より朱燐の声がかかる。足早に向かう杏命に続いて陽花は急いで薬箪笥を担いで向かおうとするがふと疑問が浮かぶ。
たしか後部甲板には華佗にタケマサ本人もいるため怪我人の手当てであればわざわざ自分を呼ぶ必要はない。
組み手の相手、ととも考えたが先ほどの様子を見る限り自分では全く相手になりそうにない。
今度はなにをやらされるのやらやら、と半ば予想外のふりに妙に慣れつつある自分が少しだけ嫌になった。
「っと来たっすよ師匠。何の用・・・ってかどうゆう状況っすかこれは?」
後部甲板は船の舳先より幾分高くなっており階段を昇って最初に目に入ったのはうつぶせで白目むいて大の字に倒れている鉢巻を巻いた若い男。
その周りでは茶を飲んでいるタケマサと腰を下ろしている朱燐に杏命、彼女らと同年代の橙色の長い髪を発育のいい女性、やや年下で赤橙色のショートヘアの少女、大柄で活発な印象をうける男がいた。
そちらはなんとなく予想がつくので問題ない。
もう一方では船の縁でタケマサB、Cに漢女2人、チラチラとこちらをうかがう華佗と鮮やかな桃色の髪の少女が並んで腰掛け釣り糸を垂らしその後ろにはバカでかい鮫が横たわっている。
またやや離れたところには眉間に皴を寄せ不機嫌そうに七輪で魚を焼いている灰髪で眼鏡の少年と苦笑いで切り身を皿に盛りつけている女性、大量の皿を背に日傘の下で悠々と茶を飲む女性というよくわからない構図であった。
「お、来たか陽花。おい!お待ちかねの美人薬師の登場だぜ」
「なんのことっすか?ていうかその鮫はいったい・・・ってえ!?」
朱燐の手招きに答えた陽花の返事。その言葉に白目を向いていた男の耳がピクリと動く。
その動きは大きくなり四肢の痙攣が始まり胸が反りあがるほどの鼓動が起こる。
バンッ!!
響いた音はおそらく床をはねた音。体すでに陽花への突入態勢に入っていた。
その時確かに彼は己が肉体のみで音の速さへと迫ったのである。
「おっねぇぇっさぁぁん!!!僕の傷ついた心と体にあなたの薬という名の愛とぬくもりを塗り込んでくださああぁぁ・・・?」
そのまま一直線かに思えたが徐々に勢いをなくし陽花の前に四足で着地し目をぱちくり、じっと顔を見つめる。
「なぁ4~5歳年上のお姉さんとかいたりしない?」
「え、いや、いないっすけど・・・」
顔からつま先まで視線を下げもう一度胸元まで上げた後、だくだくと血涙を流しその場に倒れ伏した。
ジタバタ、ゴロゴロと自身の血涙の海の中を転げまわる。ちなみ掃除用のモップは伊月の手により無残にもその姿を変えカリスティックとして進行形で酷使されている。
「ちぃきぃしょぉぉぉ!!そんなこぉったろぉとおもったよぉぉぉ!!!」
もがきながら地の底から響くような深い悲しみと絶望を感じさせる声で叫ぶ。
おいてめぇさっきどこを二回も確認してその反応をしやがった、と陽花の眉間にしわが寄る。
「いつもそうや!!資本家は甘い嘘で労働者を騙すっ!!男の純情を踏みにじりやがってぇわいのムチムチボインな美人女医のイケナイ触診を返sグボッ!!」
ほとばしる熱いパトスの少年を神話にしたのは薬箪笥での顔面への一撃。
これは流石に答えたのか手足をぴくぴくと痙攣させるが沈黙させるには至らず。
「・・・あのすんません薬師さん、体中痛いんで手当お願いしてもいいでしょうか・・・?」
「ししょぉー、こいつ海捨ててもいいっすよね~?」
あぁかつてここまで他人の命を軽く、どうでもいいと感じたことは少女の人生においてなかった。
この瞬間、彼女は大事なものを失いそして確かものを得た。
それが乱世へと向かう寒い時代が産んだ悲劇の一つに過ぎないとしても・・・
??「変な終わらせ方すんなー!オチが雑だぞーなめんじゃねー!」
??「アンタは大人しくしてなさい!」ガスッ
続きは今書いてるんですぐに出せるかもです。
後半のキャラは次話に詳しく書きますので元ネタが分かった方は感想欄にどんどん晒していってください。お願いします何でもしますから!
関係ないですが一通り分かった方は5月に出る予定の初代ダクソのリマスター版で作者と一緒に鮮明になったクラーグ様鑑賞ツアーに参加しませんか?
参加費は一回につき人間性1つと大変お安くなっておりますのでふるってご参加ください。皆様のご応募お待ちしております。
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第十一話 忍術は肝心な時にかからない
文章量がいい感じになったのでとりあえずあげます。
場面は少し遡りその日の早朝、船員同士の鍛錬ということで自身も船室から甲板に上がろうとするタケマサを呼び止める者がいた。
「あの旦那様、ご報告しておきたいことが・・・」
「ああ千寿、頼んでいた物資の確認は済んだのか。何か問題でも?」
低めの身長、あめ色の髪を緩めの三つ編みでまとめ肩に流しているこの女性は闞沢、字を徳潤と言い大和屋経理部門の人間である。
航海中の物資の管理を担っており血の気が多くネジの外れた人間が多いこの商会の中で数少ないまともな分類に入る人材だ。
連日連夜不眠不休で活動し続けるタケマサを気遣い滋養強壮に効く飲み物を差し入れするできた女性だ。
その出所は不明でタケマサをもってしても掴み切れない流通ルートと華佗をもってしてもわからない原材料を除けば、であるが。
本人に聞いてもにこやかに話をそらし、作っている場面を誰も見たことがない。彼女の部屋から夜な夜なガチャガチャと不審な音がするというミステリアスな一面のある女性である。
「これを見ていただけませんか?食料の備蓄量なんですけど・・・」
実を言えばこの男、城に金がなくて困ったことはあっても兵糧が無くて困るという経験は忍びだった時を除きほとんどない。
武士にしろ海賊にしろ、金策は自分でやって部下に兵糧購入させれば早々足りなくなることはない。
国主となり複数の城持ちとなれば後方拠点から輸送するなり米を転がすなりすればよい。
城攻めでも自分が率いるのであれば最大限持っていけば足りなくなるということはまずない。撤退の理由は基本的に城が固すぎて自身が病気になるか忍者と海賊の援軍わんこ蕎麦に心が折れるかのどちらかである。
なお、忍者の場合は兵糧の確保が強奪か脅し取るかの二つしかなく、気が付けば悪名がえらいことになるので注意が必要だ。
さて襄陽から外海経由で洛陽までの道の大凡3/5を終えた現在。初航海ということもあり余裕をもってかなり多めに食糧は積み込んでいた。
「どれどれ、は・・・?」
はずであった。
「で?それで俺がこうやってわざわざ煙たい思いまでして魚を焼かにゃならんと?」
「まぁまぁそういわずに高瀬くん。これも仕事のうちですよ。」
「そーだよ。“魚釣りなんぞ性にあわーん!”って竿ほっぽり出したのは高瀬じゃないか」
このままだと食糧が持たない。その報告を受けたタケマサは比較的時間のある会計部門の人間に食糧確保のための釣りを指示した。
ついでに組み手中に事故に備えている華佗や漢女2人も釣りしながら待機、ということに相成った。
「うるさい桃蘭!だいたいもとはと言えば命姫のせいdボバッ!」
ガチコンッ♪
「いいからエビを焼くんだよ、エビを。高瀬や、手が止まっているよ。」
大和屋の主だった人員の多くは荒事専門の戦闘要員が多い。とはいっても全員がそう、というわけではなく頭脳労働専門の人間もいる。
先ほどタケマサに報告を挙げた黄緑色の服が眩しい闞沢。
ぶつくさ言いながら七輪で魚介類を焼いている灰髪に眼鏡の高瀬、と呼ばれた少年は法正、字を孝直。
釣り糸を垂らしているのは桃蘭とよばれた馬良、字は季常。はねた桃色の髪に二つの黒いリボン、腰まで伸ばした三つ編みに人懐っこい笑みを浮かべ大変かわいらしい見た目をしている。がこれでも荊州の名門、馬家の出身であり漢女の間で笑って釣りができる猛者だ。
そしてそれらを日傘のもとで悠々と眺め、獲れたての海の幸に舌鼓を打つのは費禕、字を文偉という。濡羽色というのだろうか、艶のある黒髪を背中辺りまでのばし上等な黒色の着物に身を包んだ女性である。一つ一つの動作に品があり、気位の高く上品な印象を受ける。
親を失った法正、高瀬を引き取り育てたのはこの女性であり、どこからともなく取り出したゲートボールスティック状のもので頭をシバキあげる動作も堂に入っている。
「それにしても命姫さん。なんていうかその、健啖家なんですね・・・」
「素直に大喰いと言えばいいよ千寿。」
千寿は命姫の後ろに積み重なった皿の山を見上げ冷や汗一つ。
「いやはや、生魚は抵抗があったが醤に生姜をとかせば臭いも気にならんものだね。こちらの味噌というのも見た目で食わず嫌いしておったが青魚と煮つけるとまっことうまい。」
何を隠そう食糧の大半を消費したのは彼女でありその細い体のどこにあれだけの質量が詰まっているのかは全くの謎である。
出港以来彼女の食事量と運動量を見てきたが隠れて運動しているわけでもなくどこで摂取したものを消費しているのか見当もつかない。
命姫が今食べているサバの味噌煮に使われている味噌はタケマサが個人的に用意していたものだ。流石に積み荷に手を出されてはかなわない、ということで慌てて引っ張り出してきた。
ちなみに刺身にはワサビだろ、と思う方もいるかもしれないがワサビの大まかな原産地は日本と東ヨーロッパであり2世紀ごろの中国には存在しない。恋姫時空、と言ってしまえばそれまでであるが。
「えっと、なにかこう体型を維持する秘訣とかっていうのはあるんでしょうか・・・?」
「おや紫苑と桔梗、あぁ益州にいたころの知り合いと同じようなことを聞くんだね。なに好きなように食べ好きなように過ごす、それが長生きの秘訣というものだよ。」
なんのことなげに茶をすする命姫とこめかみをヒクヒク、ぎこちない笑いを浮かべる千寿。質問の内容から返答後のリアクションまで非常に似通ったものであったそうな。
ところ変わって戦闘部門。いざ組み手を行おうとしたときにちょっとした問題が発生していた。
「さて、組み手をするにあたりどうせなら組合わせを変えた方がいいだろう。」
「まぁオレは別に構わないんだが・・・」
「私もかまいませんよ先生。しかしちょっと約一名不穏な方がいるようですが・・・」
後部甲板にいるのはタケマサ本体、杏命、朱燐のほかに、
「(こ、これはまさしく神が与えた好機!令さんとは同じ組になれないとしても太ももが眩しい杏命ちゃんに令さんに勝るとも劣らないナイスバディな朱燐さん!厳のおっさんと色々物足りない小蘭ちゃんもいるが確率は2分の1!)」
徐盛、字を文嚮。つんつんと跳ねた髪に赤い鉢巻をまいたやんちゃそうな青年である。何というか圧倒的なスケベっぽさというか三枚目くささが漂っている。現在も鼻息荒く鼻の下を伸ばしてよからぬことを考えているのが見て取れた。
「(グフフフ、組み手に事故はつきもの!あんなとこやこんなところにタッチしちゃっても、それはしょうがない事故なのだぁ!お、落ち着け大樹。ここは冷静に、冷静になれ。あくまで、あくまで自然におねぇちゃん達と同じ組になれるよう非の打ちどころのない完璧な理論を形成せねば!)」
「(ってなことを考えてるんでしょうね大樹のやつ。ほんと、良くも悪くも成長しないやつね)」
令と呼ばれたのは賀斉、字を公苗。赤橙色の艶のある長髪を後ろに流しているスタイルの良い女性である。南部の人間に言えることだが全体的に露出が多く派手目な印象を受ける。
襄陽では商人の護衛兼用心棒のような家業を営んでおり仕事は完璧だがその分ふんだくるというアコギな商売で有名であった。徐盛はその助手であり彼の伸びた鼻の下からいつでもドツけるよう得物に手をかけている。
「ワシもおつむの出来は良うないと思うが若いときでもあそこまでバカじゃあなかったぞ。(まぁ男として気持ちはわからんでもないが)」
厳と呼ばれたのは文欽、字を仲若。大柄でやや長めの髪を後ろで一纏めにしている中年ぐらいの男、とはいっても童顔であり実年齢より若い印象をうける。
一番の特徴と言えばその得物である身の丈ほどもあろうかという大弓の両端に槍の穂先がついている弭槍(はずやり)。
本来弦が切れたり矢を打ち尽くした等の非常用のものである。弓はしなり、槍は突き通すという相反する性質のため扱いには高い技量が求められる。
「なんかすっごくバカにされたような。この苛つきをどこにぶつけてやるべきか・・・」
そしてシャドウボクシングでキレのいいジャブを放っているのは文欽の娘の小蘭。
首元までのばした赤髪に小柄な身長。ぱっちりと開いた目に人懐っこく人を引き付ける爛漫さが感じられる。
両手には鉄甲をつけており右手には武骨な短剣が取り付けられた攻防一体の武器を操り、幼いながらその素質は船員の中でも頭一つ抜けている。
まぁ発育はあまりよろしくないようで同年代の少女よりもむn「誰が洗濯板に立体二次元だってぇ!?」…小柄で可憐な、今後の成長が楽しみな少女である。
「すっごいむかつく。誰でもいいから殴り飛ばしたい感じ。」
「まぁまぁ小蘭ちゃんももう少ししたら大きくなるわよ」
小蘭に視線を合わせるためにややかがんだ令。
谷間が強調され小蘭の不機嫌度と大樹の鼻の下の長さがアップ。
「そうだぜ。そんな心配しなくてもそのうち勝手にでかくなるもんさ」
あくびをしながら大きく伸びをした朱燐。
同じく小蘭の不機嫌度と大樹の鼻の下の長さがアップ。
「こういうのは親の血統、というものが大きいと聞いたことがありますね。厳さん、奥さんはどうだったのですか」
小首をかしげる杏命。足を組み替え短いスカートが揺れる。
今回は大樹の鼻の下の長さのみアップ。
「あ、それはだな・・・」
小蘭の母は彼女が幼いころに亡くなっており厳が男手一つで育てた大事な娘である。そして彼の妻は何というかその、大変慎ましやか女性だった。とだけ記述しておく。
大事な娘の今後の成長についてある種残酷ともいえる未来予想図を告げることへの大きな抵抗があった。が自分をまっすぐに見つめる娘に対して何と声掛けすべきか見当もつかない。
ポンッ
「お前はお前。それでええじゃないか。」
「それってどういう意味よお父さん!!」
ゴスッ!!
内角をえぐるような肝臓打ちが決まり崩れ落ちる厳。腕白でもいい、元気に育ってくれるなら…。その顔はどこか満ち足りていた。
慌てて飛び出る救護班。
「なんて正確な一撃なんだ!力を収束させ的確に内臓にダメージを与え、横隔膜の痙攣で呼吸がままならなくなっている!このままでは命に関わるぞ!」
「うむ、やはりここは人工呼吸が必要じゃな!」
「よく見るといい男じゃなぁ~い///あたし、胸がキュンキュンしちゃうわぁ~ん」
「・・・っはぁ!!娘の愛が重いって、ギャァーワシに近寄るなー!!」
ムッチュー ギャァー フンヌゥー ノワァァー チーン・・・
なお一命はとりとめたものの精神的疲労により本日はリタイヤとなった。
開始前から負傷者が出るという波乱の展開に組み分けがまたややこしくなった。
杏命と朱燐、令と大樹、厳と小蘭は共にいた期間が長く同じ組にするのは避けたい。
また大樹は訓練にかこつけてセクハラ→撃退→折檻というコンボが簡単に予測できたため厳と組ませるつもりだったが彼は小蘭の乙女心により撃沈。
ならば彼の守備範囲外の小蘭と組ませるというのも不安が大きい。
曲がり間違ってフォークボールに手を出すようになっては今後さらに手に負えなくなる。
退場を通り越してそのまま現行犯逮捕である。
ならばどうするかというと
「というわけで己れにいい考えがある。」
「なにがいい考えだぁっー!!いきなり人を簀巻きにしといてなんなんすかぁー!?」
この大樹という男、戦闘においてはいくつかの問題がある。
まず令とコンビを組んで戦うことが多かったため陽動、援護、攪乱など補助的立ち回りは大の得意だが自身が主体となって切り込んでいくことにはてんで慣れていない。
また回避や逃走などは並みの武人では掠らせることもできないが自ら攻撃するための動きが体に染みついていないという身体能力と格闘技能のアンバランスさが目立つ。
そしてド素人の頃から令に連れられて自身よりも格上と戦ってきたことから相手に勝つことよりも自身が生き延びるための立ち回りが染みついてしまっている。
令自身はまともな師匠に師事し基礎を身に着けた上での立ち回りであるため多少の無茶をしても切り抜けていくことができた。
しかしそれについていった大樹には基礎となるべき根幹がない状態で戦い抜き現在の歪な成長を遂げてしまった。
まぁ見かねた令が基本の立ち回りを教えようとしたことはあったがセクハラに走ってしまいそれどころではなかったという自業自得な理由があったのだがそれは置いといて。
「(こんな有り様で今まで生きてこれたのだから才能はあるはず、たぶんきっと。うむ。)」
非っ常に不安である。
タケマサにとってもここまで自身の人物眼が信じられないのは初めての経験であった。
「まぁ聞け大樹よ」
ゴニョゴニョかくかくしかじか
「このわたくしめにお任せください旦那様!!」
「(自分で言っといてなんだがこいつほんとに大丈夫か・・・)」
非っ常に不安である。大事な事なので2回言いました
「んでどうするつもりなのよ。前に私が稽古つけてあげようとしたらろくなことにならなかったわよ。」
「まぁ見てろ。臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前 傀儡の術」
「へ?」
ガクリ
タケマサの行動を怪訝そうに見ていた大樹であったが九字を切ったあたりで糸が切れたように白目を剥いてうつむいてしまった。
タケマサがかけた傀儡の術。それは越後長尾家お抱えの忍び、軒猿の里に伝わる最奥忍術である。
手練れが用いることで視線を合わせる、身体的接触などファクターをはさむことなく相手を視界に収めるだけで一方的に相手を支配下に置くことができる恐るべきものであり、一度術をかけられれば物言わぬ傀儡として操られることになる。
乱戦時や一対多の状況下では非常に有効な忍術であるとともに護衛を伴う重要人物の暗殺に適した忍術である。
三河松平家の守屋崩れや豊後大友家の二階崩れなど戦国の著名かつ不可解な暗殺事件にはこの術が関わっているとも噂されているが真実は闇に葬られている。
「え、ちょっあんた何やったの!?」
「なに、これは傀儡の術と言ってな、しばらくの間相手の体を思うがままに操る術だ。義理堅い者や理性的な相手にはそうそう効かんのだが、まぁ相手が相手だし」
「なら納得だわ。」
「そりゃしょうがねーな。」
「理性的とは一番程遠い人ですしね」
「大樹さんならしょうがないかな~」
全会一致であった。
誤字や表現のご指摘等ございましたらどしどしお願いいたします。
次回はいつになるだろう・・・
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