魔法少女リリカルなのはVivid Saiyan (伝説の超サイヤ人になりたい。)
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番外編『作者の戯れ集』
番外編 もしもイクサが転生者だったら


お久しぶりブリーフ博士!!(四星龍)
ドラゴンボールZカカロット、メインストーリークリア記念に思い付き単発を投稿!投稿!!

「遅くね(二重の意味で)」とは言うな。

今回はイクサが外側と内側が別人じゃね系転生者だった版です。頭空っぽにして見てね。
それではごゆっくり、…腐腐。





『───数十年前。幾多もの世界ほしの一つ。今では既にそこに住む人間と共に滅びた惑星。その惑星には『宇宙の悪魔』と呼ばれる者達がいた。

 

その種族の名は”戦闘民族サイヤ人”。

 

屈強な体と高い戦闘能力をもち、好戦的で凶暴、残忍な性格であるサイヤ人は他の異世界人から”全世界最恐の戦闘民族”と恐れられていた。

 

サイヤ人は様々な世界を侵略、制圧し、食べ物を強奪し、生き残った者は奴隷とし他の異世界に共に売りつけるという星の地あげ屋をしている。

だが、そのサイヤ人も今では既に住処としていた世界ほしに巨大な隕石が衝突したことで星と共に大半は滅びた。

 

サイヤ人の特徴は、黒髪に黒い瞳に大半が猿のような尻尾が生え、月を見ると戦闘量が大幅に上がる”大猿”に変身する。

 

そして、サイヤ人にはもう一つ、変身方法がある。

これはサイヤ人の中でもごく僅かな者のみが変身できる姿。

金色に逆立った髪、翠色の瞳、大猿を遥かに超える戦闘量の上昇。

 

私たちはこれを『(スーパー)サイヤ人』と名付けた。

 

管理局はサイヤ人をAAA級、超サイヤ人をS級を超える実質測定不能レベルの危険な存在と認定し───』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大半は滅びた、か」

 

今、ここ無限書庫にて“サイヤ人について記された本”を頬杖をつきながら読む少年。彼の名は『イクサ』。

彼はサイヤ人と人間の間に生まれたハーフサイヤ人だ。

 

「……」

 

彼は本を閉じ、その表紙に書かれた『宇宙の悪魔、サイヤ人』の文字をじっと見つめる。静かな表情、だがその瞳に浮かび上がる想いは一体、何なのか?

 

(此処って『リリなの』の世界じゃねぇの?え、なんでサイヤ人居んの?『ドラゴンボール』とクラスオーバーしてんのこれ?)

 

世界観に対する疑問だった。

 

 

 

 

 

 

おっす、(オラ)『イクサ』!

気が付いた時には前世の記憶は無く知識だけ持ってこの魔法文化が発達した星『ミッドチルダ』でオギャってた転生者兼半サイヤ人だ。いやー、アレだね。最初はまあ、「な、なんじゃーこりゃぁあ!?」と見えない太陽に向かって叫んだり(勿論他の人には赤ん坊の泣き声にしか聞こえない)したけど前世の自分の記憶がすっからかんだと返って気にならないね。今は優しいマザーとベジータとバーダック足した様なファザーに育てられてすくすく育ち、めでたく18歳になりましたし。

そんな俺は現在。

 

「よう、ヴィヴィオか」

(ああ〜ヴィヴィオたんきゃあわいぃ〜)

「はい!イクサさん」

 

金髪美幼女とお喋りしております。

彼女の名前は『高町ヴィヴィオ』。鮮やかな金髪に宝石の様な紅と翠のオッドアイの笑顔が似合う美少女なのだよ。

いやー、ホント転生者はいいねぇ。理想にして仮想、現実の逃げ場である夢の世界、即ち創作物の世界にin出来るのだからな!俺の場合前世の記憶ねぇからよく転生者系の小説である現実感が無い的な悩みもねぇ!俺からすればこの世界こそがリアル!ビバサイコー!!

そして、転生者になったのだからやるべき事は一つ。原作メンバーと関わりながら『カッコイイ自分(キャラ)』を演じるのだ!

男の子ならば誰もが考えるであろうカッコイイ自分、中二病とも言うね。現実では所詮妄想といずれ卒業しなければならない儚い夢。だが、その妄想で構成された物語の中ならカッコイイ自分を貫き通す事が可能なのだ!

おまけに何故かはわからんがこの『魔法少女リリカルなのは』。しかも今の時代から『vivid』なのは確定と、命の危機や世界の命運を賭けた戦いなんてない、せいぜい格闘技の大会でボコスカ殴り合う程度の世界。半分とはいえサイヤ人の血を引く俺なら理想の自分をロールプレイできるって訳さ!

ヒィィ…ッハァァア!!転生者最高だぜぇぇぇえええ!!!!

 

「イクサさん?」

「……どうした?」

「いえ、気のせいかな?」

 

やべ、もしかして顔に出てた?

 

 

 

◇◇◇◇

 

なんとかヴィヴィオちゃんやその後やってきた友達二人に俺のシークレットゾーンである内面を悟られない様最大限の注意をはらいつつ接し、別れた帰りナウ。

 

「……っ!」

 

電灯の光と月明かりのみが照らす夜道を歩いているとピキィーン!!と俺のセンサーが過去最高の反応を示した。

 

(キタ!キタキタキタキタキタキタキター!!)

 

『気の感知』。半サイヤ人たる自分が真っ先に行ったのはドラゴンボールでお馴染みの気のコントロール技術を身に付ける事だ。その結果得たこの気の感知能力が、今俺に告げている。物影から俺を覗く人物の存在を!!そんな事するのはリリなのvividの中でもあのキャラクターしか合致しない、俺の一番の推しキャラである彼女しか!!

俺が隠れる彼女に向けて興奮ハイボルテージの内心に影響されない様心掛けつつ声を掛ければ彼女が姿を表す。

 

銀に近い薄緑色、作中では確か碧銀と表されていた髪。白と緑を主体にした服。目元を隠す黒いバイザー。

あ、あ、ア。は、ハルにゃんだぁぁあ!?!?

 

「───貴方を実力者と見込んでお願いがあります」

「……まぁ、聞くだけ聞いてみるよ。で、なに?」

 

アアァァァァア!!ハルにゃん!生ハルにゃんの能登ボイスだヤッター!カワイイー!

 

「私と、戦っていただけませんか」

「………」

 

カワイイ!気が高まるゥ…溢れるゥ…ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙っ!?!

 

「拒否権がある様には思えないが?」

「………」

 

───ハッ!?しまった。つい興奮値が限界突破してしまった時の自動会話モードに移ってしまっていた。くそ、自動会話モードの唯一の欠点であるどうな会話したかがわからない所為でどういう状況なのかわからねぇ!?

だが、今回はいける!何故なら彼女が俺に話しかけてくる理由なんて一つしかないからだ!そう力比べ───つまり戦闘だ(ドヤ顔)

へへ、この日の為に前回のインターミドルに出場して名を残した甲斐があったぜ。(なお相手側はインターミドルの存在そのものを知らない模様)

いいぜ、こいよハルにゃん!バイザーなんか捨ててかかってこい!そのカワイイ御尊顔たっぷり拝ませて脳内保存させて貰うからよぉ!?

あ?キモい?───知ィィってんんんだよぉ、そんな事わよぉぉぉおおおお!?!?

 

「断っても無駄そうだな。わかった。ならまず最初に自己紹介をお願いできるかな?」

 

内心を表に出ない様心掛けるが多分ニヤけてるなこりゃ。ならしゃあない、せめてニヒルなスマイルになる様路線変更しよう。

俺の渾身のクールな微笑み(自称)と言葉にハルにゃんは素直に答えてくれる。やっぱり根は良い子やで。

 

「失礼いたしました。私はカイザーアーツ正統、ハイディ・E・S・イングヴァルト。覇王を名乗らせて貰ってます」

 

うん、知ってる。




情緒不安定かなこの主人公?
続きません


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本編
ミッドチルダの半サイヤ人


書き直し版です(2019/12/22)





『───数十年前。幾多もの世界(ほし)の一つ。今では既にそこに住む人間と共に滅びた惑星。その惑星には『宇宙の悪魔』と呼ばれる者達がいた。

 

その種族の名は”戦闘民族サイヤ人”。

 

屈強な体と高い戦闘能力をもち、好戦的で凶暴、残忍な性格であるサイヤ人は他の異世界人から”全世界最恐の戦闘民族”と恐れられていた。

 

サイヤ人は様々な世界を侵略、制圧し、食べ物を強奪し、生き残った者は奴隷とし他の異世界に共に売りつけるという星の地あげ屋をしている。

だが、そのサイヤ人も今では既に住処としていた世界(ほし)に巨大な隕石が衝突したことで星と共に大半は滅びた。

 

サイヤ人の特徴は、黒髪に黒い瞳に大半が猿のような尻尾が生え、月を見ると戦闘量が大幅に上がる”大猿”に変身する。

 

そして、サイヤ人にはもう一つ、変身方法がある。

これはサイヤ人の中でもごく僅かな者のみが変身できる姿。

金色に逆立った髪、翠色の瞳、大猿を遥かに超える戦闘量の上昇。

 

私たちはこれを”(スーパー)サイヤ人”と名付けた。

 

管理局はサイヤ人をAAA級、超サイヤ人をS級を超える実質測定不能レベルの危険な存在と認定し───』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大半は滅びた、か」

 

今、ここ無限書庫にて“サイヤ人について記された本”を頬杖をつきながら読む少年。彼の名は『イクサ』。

サイヤ人と人間の間に生まれたハーフサイヤ人だ。

 

「それに好戦的で凶暴……」

 

本来の目的とは違うが、偶然目に付いたサイヤ人について記された本を読みながら小さく笑みをこぼすイクサ。

イクサはこの本に書かれているような好戦的な性格では無い。と、言ってもそれは今現在の事で、数年程前は荒れていてかなり喧嘩っ早かった。その時のことを思い出して自虐に近い笑みを浮かべている。

 

「………」

(父さんが死んで数年、『サイヤ人』がどんな種族(やつら)なのか気になって調べてみたがロクなものじゃないな)

 

イクサの父ロータスは既に死んでいる。

ロータスは詰まる所の素直じゃないツンデレで、あまり他の一般の父子(おやこ)程話した事がない。

こちらから話しかけても無視、或いは“あっちに行け”とつっかえされ、少ししつこくすれば“うるせぇ!ブッ飛ばすぞ!”と怒鳴られる。───が、その後少し後悔してチラチラと見てくるのを母子(おやこ)で知っているので気にしていなかったりする。

唯一の父と二人だけの時間といえば修行などの戦い方を教える時だけで自身の種族───つまりはサイヤ人の事については一切話してくれなかった。

 

「結構な時間だな。…帰るか」

 

気付けば予定以上に無限書庫に居たイクサは本を閉じ、本棚に戻そうと立ち上がった時。

 

「──あ!イクサさん!!」

「……ん?」

 

イクサが聞き覚えのある声のした方向を向くと、そこには太陽のような金髪のツーサイドアップヘアーで赤と翠のオッドアイな可憐な少女。

 

「よう、ヴィヴィオか」

「はい!イクサさん」

 

イクサの言葉に頬を綻ばせた高町(タカマチ) ヴィヴィオがいた。

 

「おまえが此処に来るのは珍し…くはないな。どうしたんだ?」

「あ、実はこの後、リオやコロナと一緒に勉強する為に」

「なるほどわかった」

「え?は、はい」

「そうか、じゃあな。頑張れよ」

「あ、はい。さよなら──って、待ってください!!」

 

ヴィヴィオに背を向け歩きだすイクサを呼び止める。

 

「………なにかようか?」

「──え?なんですか今の間は?」

 

面倒な事になりそうと直感的に感じとったイクサは間を置いて尋ねる。

 

「こ、ごほん!あの!私たちに勉強を教えて」

「すまんな、デートの約束があるんだ」

「え!?そ、そうなんですか、ごめんなさい」

「嘘だ」

「えぇ!?」

 

そう言って早歩きで立ち去ろうとするイクサ。

実は、この後になにか用事がある訳ではない。純粋に面倒事はごめんな為話を誤魔化し頼み事の内容を聞かずに去ろうとしているのだ。

後、からかった時の反応の返しが面白いのもあるにはある。

 

「待ってくださいイクサさん!なんですか今の!」

「……チッ」

「今舌打ちしました!?」

「“図書館では大きな声を出してはならない”。常識だぞ」

「あっ、ごめんなさい」

 

イクサの言葉に両手を口に被せ、そして離し、シュンとして謝る。

ヴィヴィオは学習できる良い子だ、次は同じ事をしないだろう。

たぶん。

 

 

「わかればいいさ、じゃあな次は気を付けろよ」

「───逃がしませんよ」

「………。ハァー、じゃいい勝手に通る」

「させませんよ、待ってください」

 

両腕を広げて行く手を遮るヴィヴィオの横をまわって歩くイクサ。

ヴィヴィオはイクサの腕を掴み止めようとするが。

 

「……」

「あ、あれビクともしないって、えぇ!」

 

イクサの腕を掴み引っ張るが返ってイクサの力に負け引っ張られるヴィヴィオ。諸事情により身体を鍛えてるヴィヴィオは筋肉マッチョの大男ならともかく至って平均レベルの身体に見えるイクサなら止められると思ったが失敗した。

 

すると、二人の少女が現れた。

 

「おーい、ヴィヴィオ」

「ヴィヴィオちゃーん」

「あ、リオにコロナ!いい所に。手伝って!」

「え?いきなりどうしたのヴィヴィオちゃ」

「おっけー!任せて!」

「ちょっとリオ!」

 

一人は、大きなリボンと元気な笑顔、そして八重歯が特徴的で快活そうな雰囲気で藍色でショートヘアーの少女、リオ・ウェズリー。そしてもう一人はクリーム色の髪を飴玉(キャンディ)の様な形の髪留めで二又に分けたおさげにした大人しめで真面目そうな少女、コロナ・ティミル

彼女達は今日此処、無限書庫で勉強会を開く為集まったヴィヴィオの友人達だ。

 

「「そーっれ!」」

 

右腕をヴィヴィオ。左腕をリオが掴んで引く。

この三人の中でも飛び抜けて筋力の強いリオが加わりヴィヴィオは勝ちを確信するが。

 

「その程度のパワーで俺を止められると思っていたのか」

「うわー!?」

「わーー!?」

「え、嘘!」

 

ヴィヴィオだけならともかく、怪力少女リオちゃんを含めた二人に引っ張られても尚止まることなく歩くイクサに驚愕する三人。

 

「うえーん、止まってくださーい!後で何か奢りますから!」

「何をやっている、早くしろ」

「「「え? …え?………え」」」

 

ヴィヴィオの「奢りますから」を聞いた次の瞬間、既に椅子に座っているイクサ。

 

「ほら、突っ立てないで座れ。勉強見てほしいんだろ」

「…はい。わかり、ました。…ほら座ろリオ、コロナ」

「う、うん」「わ、わかった」

「あと、さっきも言ったか図書館では静かにしろ」

「あ、ご、ごめんなさい…」

「……それで?どこを見てほしいんだ?」

「ええっと、ここを───」

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

「よし、そろそろ時間的にキリがいいし今日はここまでにしよう」

「はい!ありがとうございました」

「「ありがとうございました」」

「おう、しっかり礼が言えるとは偉いな。さすが名門学校育ちの生徒だな」

 

三人の頭を軽く撫でたイクサは立ち上がる

 

「じゃあな、帰り道に気をつけてな」

「はい!それではイクサさん!」

「「さようならー!」」

 

無限書庫から出て行くイクサを手を振りながら見送る三人。

 

「…あ、約束忘れてた」

「「……あ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に初等科に奢られるほどプライド捨ててないさ」

 

気づいていたイクサなのでした。

 

「……はぁ、それにしてもまた食べ物につられるとは俺もサイヤ人の血を引いてるんだな。……それで、誰だ?」

 

大食漢である、戦闘面とはまた別のサイヤ人の特徴に反応した事にやんわりと笑うイクサ。たが突如、先程から感じ続けずっとつけてきている”気配”の主に声を掛ける。

すると、気配の主が物陰から姿を表す。

 

「………」

 

気配の主は、碧銀色の髪にバイザーをつけた女性だった

 

「───貴方を実力者と見込んでお願いがあります」

「……まぁ、聞くだけ聞いてみるよ。で、なに?」

「私と、戦っていただけませんか」

「………」

 

突然告げられた“戦って欲しい”という要望にイクサは僅かに目を細める。目の前の女性からは抑える気がないのは戦意を滾らせている。

 

「拒否権がある様には思えないが?」

「……」

 

イクサはやれやれといった様子で肩を竦めてから言った。

 

「断っても無駄そうだな。わかった。ならまず最初に自己紹介をお願いできるかな?」

 

イクサの言葉に女性は素直に答えた。

 

「失礼いたしました。私はカイザーアーツ正統、ハイディ・E・S・イングヴァルト」

 

───()()と名乗らせて頂いてます。




オリジナル設定
超サイヤ人は伝説ではない。稀にだが存在していた。
サイヤ人は全滅してない。少ないが生き残りはいる。
ブロリーの方こそが伝説、だがサイヤ人にだけ知られているのでイクサは知らない。

オリ主『イクサ』の設定
年齢 18歳 身長 172㎝ 体重 58㎏
イメージカラーは黒

戦闘量(通常時) 9000弱 魔力ランク D
超サイヤ人に変身 可能

名前の由来は白菜


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自称覇王vs半サイヤ人

この娘は一体、ナニハルトちゃんなのか。

※書き直し版です(2019/12/22)


「…失礼いたしました、私はカイザーアーツ正統。ハイディ・E・S・イングヴァルト。

───『覇王』、と名乗らせて頂いてます」

 

 相手は通り魔だと実質冗談で聞いた質問に律儀に答えた事に一瞬固まったが、すぐに彼女の名乗った名に反応した。

 

「……イングヴァルド? 確か、戦乱(ベルカ)時代の王の名の一つだったか」

「はい。その覇王で間違いないです」

 

 歴史に名を残した偉人の姓名を名乗る碧銀の女性───イングヴァルドは静かに構えた。

 身体はこちらを正面に捉え、広げられた両の足はしっかりと大地を踏み締め、左手を前に伸ばし手刀に近い形の掌に、右腕は脇で締めてコンパクトにし拳を握る。

 

(これは、『古流武術』…だな)

 

 イングヴァルドの独特な型の構えからイクサは分析。構えの型と己を称する名、嘗て覇王が治めていた国の主流の流派───それか覇王本人が扱った古流武術と推測する。

 

(ちょっと、楽しみになってきたな)

 

 自身の半分を構成するサイヤ人の(さが)か、イクサは目の前の自称覇王に期待を抱き始めた。だが、それは若き女覇王の実力ではなく自身も知らない武技に対してだが。

 

「……」

「……」

「…っ」

「……?」

 

 どちらからも仕掛ける事なく暫しの間、睨み合いが続く。

だが突然覇王を名乗る女性が困った様な反応を見せる。どうかしたのかとイクサが疑問を持ち始めると、イングヴァルドが「構えてください」と小さく言葉を放った。

 ほんの一瞬、唖然としたイクサたがすぐに理解した。『あ、こいつ。真面目な奴だ』と。

 イクサはイングヴァルドの言葉を聞き、少し魔を置いてから両腕を軽く広げると小さく口端を吊り上げて告げた。

 

「いつでもどうぞ」

「……そうですか」

 

 噛み締める様に言った(のち)、すぅっと切り替わるのを感じた。

 碧銀の女覇王の滾る戦気が魔力に乗って威圧感として放たれる。ぶわっ、と馳せる風の様な魔力がイクサの髪を揺らす。

 

───仕掛けたのは女覇王からだ。

 

 地面を強く蹴って前に出る、速く重い突撃(チャージ)で距離を潰しイクサの目の前で地面を踏み込み正拳を突き放つ。

 イクサは彼女の魔力光である若緑色の風を帯びて捻りながら撃ち込まれる正拳に、まったく同じ速度で後ろに下がる事(スウェイ)で避ける。続く女覇王の攻撃も同じ様に一定の距離を保ちつつ避け続ける。基本の動き、技の繋ぎ、呼吸の置き場、足運び、他にも様々な要素を観察しながら避ける。

 

「…くっ!……ッ!はぁっ!!」

「………」

 

 連撃に次ぐ連撃、拳の弾幕。そしてしなやかな脚で放たれるハイキックを躱して距離を取るとイクサが両腕を上げる。その動作に何らかの行動に出ると思った女覇王は構えを取りバイザー越しにイクサの動きを注意深く視る。

 だが、イクサは上げた両腕をまっすぐ下ろし手をズボンのポケットに入れる。

 

「──」

 

 一瞬、唖然とする。だが、次の瞬間には怒りに染まった。

 

───嘗められている。

 そう感じた彼女は大きな屈辱に奥歯を強く噛み締め前に出る。一歩で距離を詰め、一切の容赦の無い拳がイクサの頬を捉えた。

だが、

 

(…!? 重い!)

 

 拳から伝わる感触は、びくともしないイクサの重み。びくともしないどころかぐぐぐっと首の力だけで押し返される。

 怯み、今度は彼女の方から距離を取る。イクサは片腕をポケットから出して彼女の拳を受けた頬を親指で軽く拭う。

 

(まぁ…こんなもんか)

 

 痛みすら感じない打撃跡を撫でてから、もう片方の腕もポケットも引き抜き脇を締め、両拳を握って固め胸の前に配置。両足も適度に広げたその戦闘体勢(ファイティングポーズ)は現代ミッドの主流格闘技、ストライクアーツそのもの。

 

「それじゃあ」

「(…っ! 来る!) つッ!」

 

 その場でタンッタンッとステップでリズムを刻みながら女覇王に告げる。

 

「いくぜ」

 

 軽快なステップから一転して前に出る。

───そして背後に現れる。

 

「!?」

 

 碧銀の女覇王はイクサの速度を捉えられなかった。そして捉えられないまま背後を取られ、背後を取られたことすら気付く間も与えられずに打撃を受ける。拳打なのか掌打なのか蹴打なのか、如何とも判断し難いダメージを背中に感じながらも勢いを利用して前に出て距離を取ってから向き直せばすぐ目の前で拳を引き絞ったイクサが居た。

 

「づぅ!?」

 

 解き放たれ拳を咄嗟に首を傾けて躱し、反撃の上段蹴りを放つがイクサの伸ばした左腕を戻し、そのまま蹴りを遮る。

 そして片足が地を離れた女覇王に空いた右拳を打つ。不安定な体勢ながらなんとか防ぐも硬い拳から繰り出される重い衝撃に軋む身体、けれど引く訳にはいかないと果敢に攻めるが、左腕で捌かれ再び右拳が放たれる。今度は両方の足でしっかり身体を支え尚且つ両腕を交差したクロスガードで迎えたが、それでもイクサのパワーに押されてザザザッと音を出して後方へ滑り地面を削る。

 

「くぅ…ッ」

 

 両腕に響く鈍痛に小さく呻く、がその痛みも呑み込んで覇王は猛る。

 全ては悲願を叶える為。

 

 自身の力を、技を、

 

───覇王流を!

 

「はあぁー!」

 

 最強と示す為に!!

 

 血気盛んに前に出る。

 油断も余裕も無い、それでも引けない理由がある。全身全霊を持ってこの志をぶつける。

───そして勝つッ!!

 

「はああああ!!」

 

 裂帛の気合いと共に放たれる打撃の数々。休みなく繰り出され続ける攻撃、けれど全て防がれる。受け、流し、はたき、躱す。一撃も直撃(クリーンヒット)させないイクサの防御は鉄壁。

 超至近距離の攻防が繰り広げられる。一方が攻め、一方が守るという立場に関わらず押されているのは攻め側(イングヴァルド)。防御のみの行動だが一歩、また一歩イクサが前に進み。その度に女覇王が後ろへ下がる。

 

 そして次第に攻防は反転する。

 イクサが反撃を加え始めた、そしてそれは覇王の身を防御の上から削る。反撃の回数が段々と増え、やがてイクサの方が攻める様に変わり、しまいには女覇王の方が防戦一方となってしまった。

 荒い殴打が連続する、隙さえ見付けられれば反撃できるがイクサのパワーがそれをさせない。単純なパワーは振りの速さにも繋がり剛速の打撃へと昇華する。

 

 ダンダンダン!と重い衝撃が襲い腕が痛い。けれど腕を下げて直撃してしまえば最後、意識など紙屑の様に吹っ飛ぶ事は明らかだ。

痛みが弱く感じる、腕の痛覚が鈍くなっていってる。もう先程のような猛攻はできないだろう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。───()()()()()()

 あの技に賭けるしかない。ならば、あとはその一発を打ち込める隙を作るだけ。だけだが、どうすればいい?覚悟を決めて一撃耐えるか?───無理だ、耐えられない。

 

 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ考えろ考えろ考えろ考えろーーー

 

「オォ…ラァ!」

 

 大きく振り被って放たれた拳の徹甲弾、それを彼女は、

 

「……マジかよお前」

「づ、ぅぅ…ッ」

 

 片腕で防御した。勿論、両腕でもダメージが通る一撃を片腕を防ぎ切れる筈もなく、イクサの拳にも少々拙い感触が伝わる。筋肉を貫き骨にまで損傷が達しただろう感触に流石のイクサも少し怯んだ。

 

「おい、大丈」

 

 これはヤバいと感じ、心配から声を掛けようとしたが彼女の───揺るがない戦意を宿した目を見て理解した、まだ終わっていない

 虚空からイクサの四肢に絡み付く緑色の魔力鎖、拘束魔法(バインド)だ。

 

「覇王──」

 

 ダン!と力強く大地を踏む彼女の足、ギュルン!と捻りから生み出された回転が技術と魔法で練り上げられて脚を伝わり昇る。回転は力へと昇華し、右腕に収束する。

 これが彼女の最高の技。覇王が編み出した覇王流の奥義。

 

 其は、

 

「───断ッ空ぅッ、拳!!!!

 

『覇王断空拳』

 

 決まった。彼女の断空拳は油断したイクサを確実に捉え直撃した。回転が産んだ暴風の様な一撃がイクサの顔に見舞い、それから更に解き放たれた回転が魔力風を乗せて蹂躙する。炸裂する烈風が広がり周りの物を吹き飛ばす。

 そして風が去り、後には結果だけが残った。

 

「……そん、な…」

 

 碧銀の覇王が立っていられず崩れ落ちる。覇王の一撃『覇王断空拳』を額で受け止めたイクサは伏せた目を開き笑みを浮かべながら告げた。

 

「少しは、効いたぜ」

 

 勝負は決した。万全では無かったとはいえ最高の技を受けて立っている彼と、立ち上がる事も拳を握る事すらできない自分。誰の目から見ても勝敗は明らかだった。

 

「……ッッ」

 

 ()()()。泣いてしまいそうなくらいに。手も足も出なかったのだから。

 俯き、自身の手が視界に入る。ボロボロでまともに感覚もない弱者の拳。こんな事じゃ守りたいモノも守れない。こんな拳に一体何の価値が在るというのか。

 負けた反動か、ネガティブな感情が溢れだして止まらない。自身に宿る自分以外───とある男の後悔に染め上げられ

 

「大丈夫か?」

 

 温かな光に包まれた。

 

「……あ」

 

 ───白だ。それも、元から白いのではなく元々はあったであろう色を極限まで薄まり脱色したかの様な白。そんな白い小さな淡い光の粒がぽわぽわと浮かび碧銀の覇王の腕を照らす。

 それは治癒魔法だった。あまり高位の魔法ではなく、寧ろギリギリ中位ランクと呼べる様な魔法な為効果は全然だが、それでもこのランクの割には効果のある魔法が彼女の腕を癒している。特に骨にまでダメージが届いている左腕を。

 

「……」

「……」

 

 顔を上げればすぐ近くで自分に治癒魔法を掛けてくれているイクサの顔が目に入る。ジッと自身の腕に集中して魔法を掛けてくれている彼の顔を見つめる。

 

「悪いな」

「え?」

「俺は魔力量がたかが知れててな、こんな低位の魔法しか使えないんだ。出来ればもっと高位の魔法を使ってやりたいんだが。…だから悪いなって」

「い、いえ!そんな事はありません!!」

「そうか?ありがとう」

 

 それから数十分程経ち、イクサが手を除ける。

 

「こんなモンかな。どうだ腕?」

「は、はい。お陰様で動きますし痛みもかなり薄まりました」

「それはよかった」

 

 小さく笑みを浮かべるイクサだが、その額には汗が流れている事から本当に魔力量が少ないのだろう。そして無理をして治癒魔法を掛け続けてくれた事に申し訳なく感じる。

 自分がやってる事は通り魔だ。誰彼構わず強い者に喧嘩を売っている。今回も同じだ。違いは前情報があるか、ないか。

 今回は後者。偶然彼が目に入り、その瞬間彼は強者だと直感し確信した。まるで最初から知っていたかの様に。それから疑う事もなく彼に挑んだ、半ば本能的に。

 

「よし、少しここで待ってろ」

「…?どうかしたのですか?」

「ん?あぁ、念の為に近くの店で包帯とかの医療品を買ってくる」

「え!い、いえ!そこまでして頂く訳には!」

「うるせぇ」

「あう!」

 

 ぺしっと指先で額を小突かれる。その衝撃でバイザーが外れて落ちた。

 そして露わになる彼女の顔。バイザーで隠された紫色の右目と藍色の左目の虹彩異色(ヘテロクロミヤ)。美しさと愛らしさを併せ持った顔は美女───或いは美少女と呼ぶに相応しい。

 

「ふーん。思った通り綺麗な顔じゃないか」

「……え?あ、うぅ」

「……?……あ」

 

 顔を俯かせて小さく呻く女性(イングヴァルド)の姿に首を傾げ、何かおかしな事を言ってしまったかと自身の言葉を振り返り、そして理解した。

 

()()、やっちまった)

 

 知り合い曰く『イクサの悪い癖』だそうだ。

 思った事を正直に言い過ぎてしまう。そしてその言葉がタラシ込む物ばかり。イクサの整った顔立ちも合わさってその言葉は女性の胸に深く突き刺さる。

 母は複雑そうな笑みを浮かべながら「遺伝かしら?」と呟いていた。

 

「ぁぁ…、それじゃあ近くの店みてくるから此処で大人しく待ってろよ」

「は、はい。わかりました」

 

 少々気まずくなったイクサは強引に話を切り出す。イングヴァルドもこの空気を変える為便乗する。

 

 

 

「これで、よしっと」

「…ありがとう、ございます」

 

 腕を痛めない様優しく、そしてしっかりと包帯を巻き終える。イングヴァルドも律儀に礼を言い頭を下げる。

 

「……」

「……?」

 

 応急処置を済ませ、少し距離を取ったイクサはイングヴァルドをじっと眺める。イングヴァルドもイクサの視線に少し困った様に首を左右に振って周りを見渡す。

 

「(こいつ、やっぱり)なぁ」

「はい!なんでしょう?」

「お前、子供だろ?」

「──ッ!?」

 

 イングヴァルドの身体がビクリと大きく反応する。もはやその仕草が正解を言っているも同然である。なんとか誤魔化そうと言葉を探るが───何も思い付かず俯きつつ正直に明かした。

 

「何故、わかったのですか?」

「見た目と反応が釣り合っていない」

「──」

 

 絶句する。家族や周りの人達からは子供らしく無いとよく言われると言うのに目の前の少年にはすぐに露見されてしまった!!

その考えが顔に出ていたのかイクサは苦笑しながら続けた。

 

「質問に正直に答えたり、律儀だったり。なんというか…無垢って感じで子供ぽいからな」

「……」

 

 イクサの言葉を聞き終わった途端に猛烈に恥ずかしくなる。

 

腕試し(コレ)だって、子供ながらに焦って無鉄砲に突っ走った結果なんだろうな)

 

 そんなイングヴァルドにイクサは既視感を覚えた。数年前、激情をぶつける先が無く()()()()()()と重なってみえた。

───そう思うと、僅かにだが背中を押してやりたくなった。

 

「なあ」

「なん、でしょう?」

 

 だから、せめて()()()()()()、真っ直ぐ進める様に道を提示してやろう。

 

「お前が、何を思い何の事情があってこんな事してるかは知らないし聞かない。だから『やめろ』や『間違ってる』なんて偉そうな事は言えない」

「……」

 

 イングヴァルドがイクサの言葉に真摯に耳を傾ける。

 

「だけどこれだけは言っておく。()()()()()()

「……」

「別に公式な試合をしろなんて言わない。できればそうしてもらった方が健全だけどな。まぁ、中には相応の立場や報酬がなければ試合を引き受けてくれない様な奴も居るが。それでも、誰彼構わず殴り掛かるような真似を絶対にするな。一度それをすれば、もう歯止めが効かなくなる。人は一度許してしまえばズルズルと引き摺っちまうからな。そうなれば直すのは困難だ。余程強いナニカが起きるか、周りの人達に止めてもらうかしかない。どっちにしろロクな状況じゃないだろうよ。だから、相手は選べ。決して間違えるな。いいな?」

「…はい」

 

 真剣な顔で頷くイングヴァルドにイクサは満足した様子で頭に手を乗せ、そのまま撫でる。

 

「…ぁ」

「素直ないい子だ」

「………」

 

 その後も暫くイングヴァルドの頭を撫で続け、ふと我に帰ったイクサが手を離す。

 

「あ、あはは…」

「……」

 

 頬を人差し指で掻きながら愛想笑いを浮かべるイクサと撫でられた感触を逃さないようにと掌を頭に添えるイングヴァルド。

 

「それじゃあ、お前はそろそろ帰れ」

「……はい」

 

 立ち上がり頭を下げてイクサに背を向けて歩き出すイングヴァルド。イクサは数秒程離れていくイングヴァルドの背中を見つめ、自身も帰路に着こうとする。

 すると、

 

「すみません!」

「……ん?」

 

 後ろから呼び掛けらる。上半身だけ捻って軽く振り返ればイングヴァルドがこちらを向いて立っている。

 

「お名前を聞かせてもらえませんか!」

 

 少し距離が空いている為か大きな声で訪ねてくる。イクサはフッと笑った後に答えた。

 

「イクサだ!」

「───()()()()()!」

 

 早速、教えてもらった名前を呼ぶ。

 その顔は真剣で、

 

()()()()()()()()()()!」

 

 感謝や()()といった感情が浮かんでいた。

 軽く手を上げて応えるとイングヴァルドは今度こそ去っていた。

 そんなイングヴァルドの背中を見て、イクサは自身にしか聴こえないような小さな声を漏らした。

 

───そういう所が子供ぽいんだよ。




その後帰宅後
「こんな時間まで何してたの!?」
「ご、ごめんなさい母さん」
「罰として今日は晩御飯抜き!」
「ファッ!?それだけはお許しを!」
「ダメ!」
「もうダメだ、お終いだ」Orz


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翌日の再会、覇王様

書き直し版だZE(2019/12/22)



「………」

 

 覇王を名乗る女性と出会った翌日の朝。イクサは見るからに機嫌が悪いといった感じにむすっとした顔で歩いている。その身を魔法学院の大学部の制服で包んで、片手についさっき買ったばかりのサンドイッチを持って。

 歩き食いは行儀が悪いと判っちゃいるがそれでも腹の虫は治らない。

 

(昨日の晩飯抜きが辛い)

 

 そう、腹の虫(くうふく)が治らないのだ。

 

 その後も何度か登校中に見かけた店に寄って食べ物を食い歩く。

 おにぎり、パン、巻き寿司、ホットドッグ、フライドチキンにフランクフルト。

 

「…んむ?」

 

 フランクフルトをぶちりと噛みちぎり咀嚼していると、ふと覚えのある気配を感じた。

 目を閉じれば色彩は碧銀みどり、性質は駆け抜ける風を思わせる生命力(いのち)(かたち)

 是れはそう、

 

(昨日の覇王様の『気』だ)

 

 自分と戦った()()の気を感じ、探る。

 そうすれば───見つけた。気の持ち主を。

 

「……ふーん」

 

 気の位置から目でも探し、後ろ姿を見つけた。

 中等部程の少女、碧銀の髪から間違いないだろう。

 格好は制服、それもこのミッドチルダでは有名な学院の物。

 

「……(近いな)」

 

【st.ヒルデ魔法学院】

 自身の通う大学院からも比較的近い位置に在る、名門中の名門たる学院に───、

 

「これじゃあ、まるでストーカーだな」

 

 自身の思考が不審者気味てきてる事に首を振って切り替え先程までの思考を廃棄する。

 そして首を振った拍子にクレープ屋が視界に入る。

 

「……デザートと行くか」

 

 

 

 

 そして学院に着く頃にはそれなり満たされた為表情から不機嫌さが消えている。複数の店に寄った分いつもよりも大幅に遅れてしまった。教室の部屋の扉を開け時計を見ると授業の時間まであと5分と無かった。

 

「このッ、クズ野郎!」

 

 教室に入り自分の席に座ると同時に前の席から裏拳が飛んできたを軽く避ける。

 

「……なんだいきなり」

「『なんだいきなりキリッ』───じゃねぇよ、このバカヤロー !」

「『キリッ』、は余計だ」

「うっせぇー!」

 

制服の胸元を大きく開き紺色のシャツを覗かせる左右非対称な特徴的なハネのある髪型の男同級生が今にも掴みかからん勢いで話しかけて来る。

 

「お前が来るのがこんなギリギリな所為で課題が写せねぇーじゃねぇーかぁぁああ!!」

「知るかよ、いつもいつも。自業自得だろ、日頃からちゃんとやれ」

「何だとこのヤロー!?」

「……ハァ」

 

元から課題を写そうとしていた友人の最低な怒りの声に溜め息を漏らす。

 

「ほらよ。一先ず貸してやるから頑張ってみろ。……あと1分も無いが」

「できるかぁ!?」

「うっせぇ」

 

友人が騒がしく喚いている内に1限目が始まり頭を抱え絶望を嘆く。いつもより少し、いや、かなり騒がしい授業の始まりだった。

 

 

 

 

 

「……」

 

 一日の授業を終えた大学院を出て、

 

「結局来ちまったよ」

 

 やってきたのはst.ヒルデ魔法学院校門前。

 

「まぁ、来ちまった以上はしょうがない。うん」

 

 まるで誰か言ってるかのような言い訳で自身を納得させる。

 そんな事をしている間にお目当て人物が見えてきた。

 

「よ」

「……?え?」

 

 ツインテールで結んだ碧銀の髪と、紺と青のオッドアイが象徴的な年相応の可愛らしさの中に凛とした美しさを含む貌をした少女は突然声を掛けられ振り返れば、そこに立っていたイクサを視界に捉え困惑した。

 

「……あ。え、えぇと。あの…」

 

 数秒茫然とした後、我に帰ると途端に狼狽え始める。一応『今の』自分とは初対面であるのだから。

 だが、

 

「昨日ぶりだな」

「!?」

 

 バレている。碧銀の少女は更に狼狽る。

 校門前であわあわと狼狽ている美少女、そして青年。(はた)から見れば美少女に絡む不審者に見えなくもないが今回はそうならなかった。何故ならイクサの容姿も整っていたからだ。

 すらっとした手足にしっかりとした健康的な体付きとスタイルは良く、そして何より顔立ちが整っていた。表情しだいでクールさやワイルドさの両方を引き出せる、俗に言うイケメンだ。

 美少女とイケメン。そんな二人が向かい合っている。そんな光景は女子達は胸をときめかせ、男子達は嫉妬と憧憬の篭った視線を向ける。優れた容姿というのはそれだけでプラスに見られるのだ。

 

「……あぁ、場所変えて話すか?」

「……は、はい」

「おう。じゃあ、こっち来い」

 

 歩き出すイクサ、そしてイクサの後に続く碧銀の少女。二人の後ろ姿を見ながら女子達がきゃー!と集まり騒いでいた。

 

 

 

 

 

 

「俺の自己紹介は別に要らないな?」

「はい。イクサさん」

 

 学園の裏側、時間も時間な為周りに人の居ない広場のベンチに二人は座っていた。

 

「それなら、今度はこちらがお名前を伺いしても覇王様?」

「あ、アインハルト・ストラトス、です」

「…?あぁ『E・S』の部分か」

 

 アインハルト・ストラトス。昨日は『ハイディ・E・S・イングヴァルド』と名乗っていた事から正式な本名は『ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルド』なんだと理解した。

 

「そ、それで…」

「……?」

「本日は、どういった用件…で?」

 

 心配そうに訪ねてくるアインハルト。その恐る恐るといった仕草に小動物の様な愛らしさを見出し小さく微笑む。

 

「別に管理局に話そうとか弱みを握ろうだなんて思ってないさ。ただお前だってわかったら少し興味が湧いただけだよ」

「そ、そうですか」

 

 管理局───正式にはもっと色々あるのだが今回は治安維持組織、別世界で言う『警察』の様な組織だと思って欲しい───に話そうとしている訳ではないと知り一先ず安心したのか小さくほっと息を吐いたアインハルト。

 そんなアインハルトの仕草を見て、やっぱり見た目相応の子供だなと再認識する。

 

「……」

 

 だからこそ気になる。何がこの少女を駆り立てるのか、この幼い少女は何を焦っているのか。誰にも相談できず、あんな通り魔として力比べを行うなんて発想に至ったのか。

───この少女が何を秘めているのか。

 

(なんて、少し図々しいよな)

 

 わかっている。でも気になってしまった。

 自身がサイヤ人の血を引く事を隠してきたイクサ。当然、高まる戦闘欲求。けれどそれを表に出す訳にいかず積もり重なるフラストレーションを誤魔化す為に勉強に没頭した。知らない事はなんでも調べた、そして拗れて出来上がった探究心は人一番大きなモノだった。

 だから興味を持ってしまった以上、聞かずにはいられなかった。

 

「なぁ、なんであんな事してたんだ?」

「……」

 

 真剣な顔で尋ねるイクサにアインハルトは暫し黙し、ポツリポツリと胸の内を明かした。

 

「私は、この覇王流(ちから)が最強だと示したいのです。それが私に宿る彼の悲願なんです」

「…彼?」

「───戦乱の世を馳せた、覇王『()()()()』です」

 

 其の名は教科書にも載っている嘗て起きた大きな戦争、この世界(ほし)がミッドチルダと呼ばれる前───ベルカという次元世界が終末を迎える時代を生きた男の名であった。

 

「ーーー」

「………」

 

 アインハルトが胸の内に秘めた想いをイクサへ語った。イクサは彼女の言葉を唯々黙々と聴いた。

 端的に言えばこの碧銀の少女は先祖返りだ。この髪の彩、虹彩異色の瞳、そして部分的な覇王(クラウス)の記憶を持って産まれ落ちたのが、このアインハルト・ストラトスという少女だった。

 

 幼き頃、ある日突如として夢に見続ける様になった光景、まるで自身が体験したかの様に感じた記録《ユメ》は段々と頻度を増し、起きている間にまで影響を促す程にまでなった。幼く未熟な精神の彼女が先祖の記憶に『刷り込み』をされるのは必然だった。

 彼女(アインハルト)は言った、『嘗て覇王(クラウス)には大切な人が居た、その人は自分を犠牲にして戦乱の世を収めようとした。その人を止めようと、自分を犠牲にするなんて事をやめさせようとした。だが、自分(かれ)には力が無かった。大切な人を救うどころかその貌に悲しみを浮かべさせる事すら出来なかった』

 

「私は、クラウス(わたし)は、〜〜〜ッ! もうあんな思いをしたくないんです! この手から大切なものが溢れて離れ届かなくなる絶望を!!……弱さは罪です。弱ければ何も護る事が出来ない。力が欲しいんです。もう何も失わなくて済むように、もう誰にも奪わせないち、ちか、ら……が…ぅぅ」

 

 少女は涙した。言葉にすればする程、亡霊(クラウス)の悲しみが胸から溢れ出る。

 嘗ての覇王が彼女に与えた力───『覇王流(カイザーアーツ)』。これはとても優れた武技だ。素晴らしき贈り物だ。だが同時に、覇王は彼女に呪詛を刻んだ。

 なんて迷惑な遺産だろう。そしてその怨念を浴びた少女は真面目すぎた。覇王の記憶を真摯に受け取ってしまった。関係無いと割り切れればよかった、所詮夢だと切り捨てられればよかった。

 だが、アインハルトには出来なかった。捨てる事のできない想いは彼女の弱い心を縛り上げる。心に罅が走ろうとも砕けられない程に強く強く。

 

「……」

 

 彼女の想いを知った、彼女の重荷を知った、彼女の秘めたモノを識った。

 それを識ってイクサは、

 

(───面倒(めんど)くせぇ)

 

 イクサには彼女の想いは理解(わか)らない。だってイクサはアインハルト・ストラトスではないのだから。

 彼女の悲しみも、彼の悲願も、拳に込められた想いも、何もかもイクサには通じない(伝わらない)

「頑張ったな」と慰める事などできない───だって彼女は悲願を遂げられていないのだから。

「理解できるよ」と共感してやる気もない───だって彼女が惨めになるだけだから。

「応援してる」と背中を押してなんてやれない───だって彼女が背負い込んでしまうから。

「捨ててしまえばいい」と無責任な事は言えない───だって彼女を否定しているも同然だから。

 

───ましてや同情なんて想いに対する侮辱だ。

 

 結局の所、イクサに出来る事なんて、

 

「…っ、ぅぅ……づ…」

「……」

 

 彼女が泣き止むのを隣で待ってやるだけだった。

 溢れる涙と漏れる嗚咽が治るまでイクサは黙っていた。見ざる、聞かざる、言わざる。まるで何も聞こえてないし何も見えていないかの様に、聞こえないし見えていないのだから何も言わない。ただ静かに待ち続けた。

 やがて涙と嗚咽が収まり、目尻の滴を指で拭う少女にイクサが言う。

 

「悪いな。ハンカチでもあればここでカッコよく涙を拭いてやれるだが」

「いえ、私こそすみません。突然泣き出して」

「……もういい時間だ。今日は帰ろう、お前も落ち着きたいだろう?」

「はい」

「今日はもう、誰かに挑んだりするのよ」

「……わかりました」

「送ろうか?」

「いえ、大丈夫、です」

「……そうか」

「はい」

 

 イクサに頭を下げ、鞄を持って帰路に着くアインハルトの背中を見ながら一人ぼやく。

 

「……ほんと、儘ならないな」



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砲撃番長と半サイヤ人

書き直し版です


「んん?お、イクサじゃねぇか!」

「…ん?」

 

 とある日。書店にてお目当ての本を買って出てきた所で呼び掛けられ、聞き覚えのある声の方へ顔を向ければ一人の少女が視界に入った。赤い髪を後頭部で結んだ髪型(ポニーテール)にし、無邪気な笑顔でこちらに腕を振る美少女の姿が。

 

「よ!イクサ!」

「よ、ハリー」

 

 赤い少女の名を『ハリー・トライベッカ』。数年前までイクサと同じ学校に通っていた少女だ。

 

「こんな所で会うなんて奇遇だな!」

「そうだな」

「今日はどうしたんだ」

「見ての通り本を買いに来た」

 

 手に持った書店の店名が描かれた紙袋を見せる。大きめのサイズの紙袋の中には新品の本が数冊入っていた。

 

「なんの本だ?」

「勉強用に資料集を幾つか、それと古代ベルカの歴史本」

「古代ベルカ?それってあれだろ、聖王様や覇王様とか出てくるヤツだろ。なんでいきなりそんな本買ったんだ?」

「最近ベルカと所縁(ゆかり)のある知り合いができてな、ちょっと興味を持ち始めたんだ」

「…ふーん」

 

 あんまり興味が無さそうなハリーにイクサは内心でため息を吐き話を切り替える事にした。

 

「そういうお前こそ今日はどうしたんだ?いつもの三人もいないみたいだしな」

「ん?」

 

 ハリーには自分を慕ってくれる妹分が三人居る。普段はこの妹分三人も共に行動しているのだが今回は珍しく一人だった。

 

「ああ、あいつらな。なんか今日は其々用事があるみたいでな」

「そうなのか?」

「おお、そうだなあ。リンダは今日ーーー」

 

 妹分の事について本当に楽しそうに話すハリーの姿をじっと見つめる。

 するとハリーはイクサの視線に気付き「な、なんだよ」と少し赤くなった頬を人差し指で掻きながら顔を逸らす。

 

「いや、皆がお前みたいな奴だったら世界は平和なんだろうなって思って」

「……それ、褒めてんのか?」

「勿論」

「へ、へへ。そ、そうか?」

 

 イクサの言葉に嬉しそうにはにかむハリー。

 心配になる程チョロさにイクサも苦笑い。

 

「と、そんな事はいいんだよ」

「ん?」

「イクサ頼む!ちょっと付き合ってくれ!!」

「……?」

 

 

 

 場所は変わってファミレス。イクサとハリーの二人は向かい合って座っている。

 

「それで頼みってのは?」

 

 ロクな説明もないままファミレスまで来た為ハリーがイクサに何を頼もうとしているのか把握できていなかった。イクサはファミレスのメニュー表に手を伸ばしながら尋ねる。

───といってもあらかた予想はできているのだが。

 

「いや〜、その、魔法プログラムの調整とかをして欲しいんだ」

「…やっぱりか。あ、定員さん。このチーズハンバーグセットハンバーグ500グラムライス大盛り。あとオムライスにナポリタンとフライドポテト、食後にイチゴサンデー。あぁ、ドリンクバーも付けてください」

「いや構築自体はできてるんだぜ!?……でも、その、使い辛いっつーか、うまく起動しないってつーか。は、ははは。てか頼みすぎだろ!」

「お前は頼まないのか?」

「ちょっ待て、メニュー見せろ!」

 

 イクサの手からメニュー表を奪い取り急いで目を通すハリー。そしてキノコとシャケのムニエルのセット、それに苺ミルクを頼み注文を聞き届け去っていく定員を見届けてからため息ひとつ溢しイクサをジトッとした目で見つめる。

 にししと笑ってからイクサが手を差し伸べる。

 

「…んん?」

「……魔法式、見せてみろ」

「お、おう!」

 

 ハリーのデバイスから魔法式のプログラムを掲示され、イクサが投影された魔力ディスプレイに指を伸ばし調節していく。

 

「不必要な部分が多い、詰め込みすぎだ。どうせ幾つも作るのが面倒くさくなって一つにしたら調子に乗ったんだろ」

「うっ」

 

 図星である。

 

「あれもこれもと欲張るから無茶苦茶になるんだ。一つの魔法に多様性を求めるよりも複数の魔法を創るなり既存のモノを自己用に改造したりする方が効率的だぞ。使用魔力量も少なく済むしな」

「……へーい」

「……一応分解して別々の魔法として再構築しておくぞ」

「おう、任せた!」

「……お前はほんと」

 

 浮かび上がる魔力ディスプレイで魔法式を弄りながら小言の様にしっかり助言するが聞く耳をもっちゃいない。いつもそうだ、そして結局イクサが手直しする。今回の会話も一体何度目なのか当事者達にもわからない。

 

「ほい、あらかた調整終わったぞ。後は自分で試して改良していけばいい」

「サンキュー!さっすがイクサ!」

「へいへい」

 

「どれどれー?」とイクサが調整した魔法を一つ一つ目を通すハリー。すれと注文した品が届いた。

 

「ほら、目を通すのは後にして食べるぞ」

「……えー」

「えー、じゃない」

「ちぇ、わかったよ」

 

 チーズハンバーグセットを切り分けて一口、ファミレスの品と思えない程にしっかりした肉の噛みごたえに濃いチーズの味付けが良い感じの一品。続けてライスも口含みハンバーグの濃さを和らげつつライスに味が移る。口の中の物を飲み込んから思う。旨い。

その後食事を進め、食後にはたわいもない世間話を交えながら時を過ごした。

 

「あ、魔法式見てやった礼に今回奢れよ」

「!?ぜってぇーやだ!!」

「冗談だよ」

 

 以前、イクサ(大食漢)に奢らされた事をトラウマに持つハリーはイクサの奢れよ発言に過剰なまでに反応してみせ、わかっていたイクサ軽く返す。

 

 そこからファミレスを出て其々の帰路に着こうとしていた。

 

「今日はありがとな」

「どういたしまして」

「また、頼むわ!」

「自分でできる様になれ」



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ある日の休日、幼き少女とスパーリング

書き直し版ディス!


「よろしくお願いします!」

「………」

 

 紺色のジャージに身を包み両手にトレーニング用のフィンガーレスグローブを装着したイクサが立っている。正面にはスポーツウェアを着てイクサと同じフィンガーレスグローブを装着した艶のある金色を青いリボンで左側頭部のサイドポニーにし赤と翠のオッドアイの女性───変身魔法、通称大人モードへと変わったヴィヴィオが爛々と目を輝かせ、近代格闘技ストライクアーツの戦闘姿勢(ファイティングポーズ)を取っている。

 

 場所はミッドチルダ中央第4区、公民館練習場。

 

 辺りには二人のスパーリングを観戦しようとする人達で囲まれている。その中にはヴィヴィオの親友であるリオとコロナがヴィヴィオと同じ様に目を輝かせて観ている。そして三人のコーチである赤髪の女性『ノーヴェ・ナカジマ』は二人の間に立ち審判の役割を担いつつ興味深そうな目線を向けてくる。

 

「それじゃあ、二人とも準備はいいな?」

「はい!」

「……いつでも」

 

 一見近い年代に見える二人。だが実際は大学部と初等部、其処には明確な年齢の差があり、しかも片方は男でもう片方は少女。イクサはとっては戦い難い相手であるのは間違いない。

 だが、対戦相手の少女の輝く瞳を見ては「無理です」なんてとても言えなかった。

 

「よし、それじゃあ───開始!」

 

 ノーヴェが掲げた腕を振り下ろす開戦の合図と同時にヴィヴィオが勢い良く駆け出す。

 ヴィヴィオの突進を避けながらも振り返りヴィヴィオを視界に納めつつもイクサの思考は練習試合(スパーリング)とは別の事を考えていた。

 

───どうしてこうなった?

 

 果敢に向かってくるヴィヴィオの攻撃を捌きながらイクサは事の顚末を振り返った。

 

 

 

 

 同日の午前。イクサは大学院が休みな事もあって家で暇を持て余していた。課題も出されたその日に終わらせ、予習復習も十分。朝のテレビはニュースばかりでつまらない。撮り溜めした番組は母の趣味なものばかり。バラエティ、ドッキリ、映画、ドラマ、動物モノ、都市伝説、深夜アニメ、恐怖怪談、更にも様々なジャンルの番組。多趣味過ぎない?

 

「……」

 

 別にこの中から何か興味の引かれる番組を観てれば良くないかと思い始めたその時、ひょこっとキッチンの扉から母が顔を出した。大学部の息子を持っているとは思えない若々し───過ぎる印象を与える容姿をした女性。身長も同年代(に見える女性達)に比べると少し低め事もあり親子で並べば弟より身長が僅かに小さい姉に見えるという。

 

「暇なの?」

「……」

 

 何故分かったのかという視線を向ければ“ふふん”と誇らしげな表情を浮かべるイクサの母。

 

「『(わたし)にはなんでもお見通しなのです』って顔だな」

「なんでわかったの!? ふっ、流石は私の息子ね」

「……あぁ、うん」

 

 親子の茶番を経て漸く母が本題を繰り出した。

 

「偶にはジムとかで運動とかしたらどう?」

「……なんで?」

「だって最近流行ってるみたいよ格闘技。主に去年のイクサの活躍で」

「……」

「仕事先の若い男の人からも私と貴方が親子だって知られたらよく聞かれるのよ、『()()()()()はどんな練習をしているのですか!!』って」

「………」

「それなのに貴方と来たら一度もジムとかに行かずに勉強ばっかり」

「いいじゃん別に」

 

 イクサの言葉にむっとして言葉を放つ。

 

「サイヤ人にはサイヤ人に相応しい生き方をしなさい、とまでは言わないけどせめて『あの人』に恥じない程度には強くなりなさいよ?」

「……むぅ」

 

 イクサの母───『アルヴィナ』は“あの人”、つまりは純正なサイヤ人であり父親であるロータスの事を出された途端に考え出すイクサに微笑みを浮かべる。

 ロータスがイクサの中で今でも大きな存在である事に暖かい気持ちに成りながらもイクサの背中を押す。

 

「ほらほら、早く行きなさい」

「あ、わかった!わかったから押さないでくれ母さん」

「はーやーくー」

 

 

 

 そうして午後。イクサの近場の公民館練習場にて身体をほぐしていたらふと、覚えのある声が聞こえた。声の方に振り返れれば見覚えのある少女達が拳を交えているのが見えた。

 

「ヴィヴィオ。それにリオとコロナも」

 

 そういえば以前格闘技をやっていると聞いた覚えがあるな、と思い暫く三人の様子を観ていれば、後ろから声をかけられた。

 見目麗しい少女達をジッと観ている青年が居るとすれば当然怪しいのだが、どうやら今回は別の要件だったようだ。

 

「イクサじゃねぇか」

「……っ、ノーヴェさん」

 

 イクサに話しかけたのはちょっとした知り合いである『ノーヴェ・ナカジマ』という女性。

 短く切られた赤い髪と金色の瞳が特徴的で、その言動からボーイッシュな雰囲気を感じさせる女性だが、豊かな胸とくびれた腰回りなど魅力的な女の体付きに金色の瞳が映えた優れた顔立ちは誰が見ても美人と言うと確信できる。

 どういう訳かわからないが彼女と彼女の身内は気を感じない事もあり接近に気付けなかったイクサが少しばかり驚きを含ませた対応をする。

 

「珍しいなお前が此処に来るなんて。それで、どうだ。ウチのチビ達は」

「ウチの?」

「…まぁ、あれだ。コーチ、の真似事みたい事してんだよ」

「なるほど」

 

 口ではあーだこーだ言いながらもなんだかんだで面倒見の良い性格をしている女性であるノーヴェに相変わらずだなと思いつつもノーヴェの教える三人娘を見る。

 リオは元々別の流派を学んだいたのか動きがぎこちなく、コロナは動きがまだまだ初心者だ。だがヴィヴィオは違った。三人娘の中で最もキレのある突きや蹴りを放ち脚運びも良くできている。

 

「……?」

「どうした?」

 

 だがふと疑問に思った事があり、それが隣にいるノーヴェにも伝わったようでこちらを伺ってくる。

 

「何故ヴィヴィオ、それにコロナは格闘技をやっているんです?」

「……あぁ〜」

 

 イクサの質問に後頭部をガリガリと掻きながら視線を逸らすノーヴェ。

 先程、ヴィヴィオが一番良く動けていると表記したがそれは“あの三人の中では”の話。もっと視野を広げてみれば上手い者は沢山いる。同世代の中では優れた方かもしれないがそれもすぐ壁にぶつかるだろう。

───何故なら根本的に格闘技、というよりは接近戦向きではないのだ、ヴィヴィオとコロナは。コロナの動きが初心者レベルなのは本当に初心者だというのもあるが格闘技が不向きだという事を顕著に表していた。

 

「あぁ、その。それは、だな…」

 

 まさか初見でその事を見抜かれるなどとは露程も思わなかったノーヴェが言葉に迷っている。

 

「別にそこまで追求するつもりではありませんよ。当事者である彼女達が楽しそうですので」

「……すまねぇな」

 

 視線をノーヴェからヴィヴィオ達に戻す。談笑しながら打ち合う姿は本当に楽しそうだった。

 それから暫く三人の打ち合いを観、丁度いいタイミング見計らってからノーヴェに連れられて三人娘に声を掛ける。

 

「おい、知り合い見つけたから連れてきたぜ」

「あ、ノーヴェ!…とイクサさん!?」

「え!?」

「ほんとだ!」

 

 予想外の人物に驚きを隠せない三人に「よ」と片手を上げて挨拶すればあっという間にイクサの前に群がり質問攻めにされる。

 次々と放たれる質問に答えながらノーヴェに助けてくれと視線を向ければにししと笑顔で返される。

 

(こいつぅ…)

 

 誰もが見惚れるであろうノーヴェの笑顔だが、イクサからすればたまったもんじゃない。だからといってヴィヴィオ、リオ、コロナの三人を無下にする訳もいかないのも事実だ。そうして漸く質問攻めにも終わりが見えてきた所でヴィヴィオがとある質問をした。

 

「イクサさんもストライクアーツを?」

「ストライクアーツも、だな」

「『も』?」

「色々な格闘技を修めてるんだよそいつは」

 

 横からノーヴェの解説が入り三人娘はより一層目を輝かせ「凄い凄い!」と騒ぎ立てる。そこにノーヴェは大きな爆弾を投下した。

 

「それにそいつ、去年のインターミドルで男子部準優勝だぞ」

「「「え?」」」

「…あ」

「……?」

 

 一瞬の沈黙、そして放たれる音の衝撃。

 

「「「い、インターミドル準優勝ぉー!?!?!?」」」

「ぬをー!?」

「…(やっぱりな)」

 

 三つ重なったサウンドバズーカをもろに直撃(うけ)たノーヴェとは違い、予め両手で耳を覆ったイクサ。周りの人達も三人娘の声になんだかんだと視線を向けてくる。

 興奮状態の少女三人、「お、おお、おぉぉ」と呻き声を上げるノーヴェ、そして集中する周りの視線。この状況にイクサ唯々内心でため息を一つ溢すのだった。

 

 魔法戦競技最大の大会、それがインターミドル。勝ち進み優勝すれば『十代世界最強』の称号が与えられる今大会。勿論スポーツ選手として称号だがそれでも『最強』の二文字は大きい。それはヴィヴィオ達にとっても例外ではない。

 そのインターミドル男子部準優勝、しかも話を聞けば敗因は魔力切れによる続行不能。つまり魔力さえあれば優勝できていたかもしれないイクサはヴィヴィオ達にとって憧れの的なのだ。

 

 

 

 そして時は最初に戻る。

 

 次元世界最強の男子に最も近いイクサに一度だけでも手合わせがしたいと初等部の少女達に頭を下げられ、復帰したノーヴェからもお願いされ、三人娘の声で辺りへと知れ渡ったイクサの戦歴から期待の目を向けられ出口は完全に封じられたイクサが諦めて少女達の願い了承し現在に至る。

 

 うん、全部母さんの所為だな。

 どこからか「なんでぇ!?」と声が聞こえた気がしなくもないが無視する。イクサは静怒した、必ずやあの天然暢気な母を成敗しなければならなぬと決意した。

 

 

 

 

 

 イクサはきっちりと三人とスパーリングを終え、周りの人達から自分もと申し込まれる前にそそくさと練習場から離れると帰りに少し高いケーキを買って母の前で見せ付けるように一人で食ってやった。

 ひどいよぉ〜、と喚く母親を尻目に最後の一口を口に含むとやってやった感が胸を満たし、満足したイクサはもう一つ買っておいたケーキを母に渡した。

 悲壮感漂う姿から瞬時に喜びに満ち溢れた顔を浮かべる母親にイクサは苦笑を浮かべた。

 

 なんやかんやで仲は良い親子だった。



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ロリコン疑惑の半サイヤ人

書き直しますた。




 幼き少年少女達が学院に入学し、既に入学していた者達は新たな学年を迎え、卒業した者も新たな環境へと移る時期、イクサも無事進級する事ができ早めに学院を終えたある日の夜。

 

(…!これは?)

 

 机の上に並んだ教材を使って予習しているとふと覚えのある気を感じた。それは嘗てイクサに挑んだ覇王と名乗る少女(アインハルト)の気だった。

 

(また、誰かと戦ってるのか?でも相手の気が感じられない)

 

 ペンを手から離し窓の方へ振り返ると目を閉じて気の動きに集中する。───間違いない、誰かと戦っている。相手からは以前気を感じる事が出来ない。そして気を感じ取れない相手には心当たりがある。

 

「……もしかしてノーヴェさん?」

 

 或いはその身内か。どちらにしろ懲りずに挑み掛かっている様だあの覇王様は。

 

「……」

 

 相手があの面倒見の良いノーヴェなら問題は無いだろうと意識を勉強に戻す。

 

「……っ」

 

 が、気になる。

 そして、

 

「来てしまった」

 

 また、好奇心に負け現場へと向かってしまった。一度気になると我慢出来ないのはイクサの悪い癖だ。本人も自覚がそのあり、直そうと思った事も多々ある。が、結果はご覧の有り様である。

 

 そして来るのが少し遅かった様で件の少女、アインハルトは気を失い倒れている。息が荒く気が乱れているのと周りには彼女以外に誰も居なかった事から無茶をした上でのギリギリの勝利だったのだろうと予測出来る。そして現場から離れたが時間が経ち意識を保つ事が出来ずに倒れてしまった。

 結果的に来て正解だったかと思いつつどうしたものか考える。このまま我が家に連れ帰るのもどうかと思う──勿論母しっかりと説明すれば信じてくれるだろうが──かといって彼女の家に届けようにも彼女の家を知らない。管理局に通報しようか考えるが説明を求められたらなんと答えよう。偶然通り掛かったら少女が倒れていた?そんな話を信じてもらえるかどうか、信じてもらえるとしてもそれなりの時間を求められるだろう。

 そして何よりイクサ個人としてはあまり()()()()()()()()()()

 

「さて、どうしたものかな。……ん?」

 

 腕を組んで悩んでいると、赤く点滅する小さな機械を見つけた。

 片膝を突き小さな機械へと手を伸びし拾う。

 

「なんだこれ?」

 

 チカチカと点滅している機械をじっと見つめ、そして思い至る。もしかしてこれ発信器じゃね?と。そう考えた瞬間に背後から声を掛けられる。

 

「その子から離れなさい」

「……ん?」

 

 振り返れば其処には橙色の長髪の女性が拳銃型のデバイスを両手で握り此方に向けている。その服装が管理局の制服である事から管理局員である事がわかる。

 

「……ふむ」

「聞こえないの、早くその子から離れなさい」

 

 状況からして勘違いをされている、だがよくよく考れば人気のない場所で倒れた少女に近付き、手を伸ばしている青年。仮にアインハルトが通り魔の犯人だとわかっていたとしても誤解されてもしょうがない。

 目の前の女性からすればイクサは気を失い抵抗できない少女に手を出そうとしている男にしか見えないだろうから。

 此処は一先ず言う通りにしようとゆっくり立ち上がりアインハルトから離れる。その際に抵抗する意識が無いということを示す為に両手を上げておく。

 

「……」

「……そのまま、その場から動かないで」

 

 銃口(デバイス)を此方に向けたまま、ゆっくりとアインハルトに近付く。チラチラとイクサの様子を伺う事も忘れずにアインハルトから何かを探っている。そしてある物を拾い上げる。

 それは、イクサも触っていた点滅する機械だった。

 

「……」

「……確かにあるわね。けど…」

 

 管理局員の女性から微かに聞き取れた言葉からやっぱり発信器だったのだと確信する。

 そして女性もアインハルトが目的の人物だと理解するとイクサに目を向ける。

 

「貴方、彼女に何をしようとして」

 

 途中まで言いかけて突然『PPPP!』と機械音が鳴る。女性の側に浮かび上がる魔力ディスプレイ。女性はディスプレイに浮かぶ通信相手の名前を確認するとコールと書かれて箇所を押す。

 

『ティア〜、見つかった?』

「ええ。見つけたけど同時に不審者も見つけたわ」

『不審者?』

「倒れていた少女の近くに(しゃが)み込んでいたわ」

『……ああ』

「えぇ」

 

 自分が関与できない所でどんどん犯罪者(ロリコン)に仕立て上げられていく事に流石に不満が洩れる。流石にこれ以上黙っていると拙いと感じて話し掛ける。

 

「すみません、此方の言い分も聞いてもらえませんか。誤解なんです」

「貴方の話は聞いてないわ」

「そう言わずに話だけでも」

「しつこいわよ!」

『……ん、その声はイクサか?』

「そういう貴女は……ノーヴェさん?」

『知り合いなのノーヴェ?』

 

 救世主現るその名はノーヴェ・ナカジマ。

 そんなくだらない事が思い浮かぶ程に今のイクサにはノーヴェの存在がありがたかった。

 ノーヴェともう一人の人物との会話があらかた終わったのか女性は先と違って柔らかな表情でイクサに話しかけた。

 

「貴方。一緒に来てもらうわ、いい?」

「はい。あ、先に親に連絡してもいいですか?」

「ええ、構わないわ。それとごめんなさい、疑ってしまって」

「いえ、疑ってもしょうがない状況だと思います」

「そう言ってもらえるとありがたいわ。自己紹介が遅れたわね、私は『ティアナ・ランスター』。執務官をしているわ」

 

 橙色の髪の女性ティアナ・ランスターから謝罪を受けて漸く挙げた両腕を下げることができた。そして自身のデバイスを使って母アルヴィナに連絡を入れてからティアナの代わりに気を失っているアインハルトを背負う事になった。

 ティアナを非力だと言うつもりではないが肉体派にも見えない、どれ程の距離を歩くのか知らないがティアナよりもイクサの方が体力はあるのだから自分が背負うと告げると少し間悩ましげにしてたが了承してくれた。

 

「よいっしょと。やっぱ軽いな」

 

 アインハルトの小さな体を背負い、改めて少女の幼さを確認する。

 

「う、うぅ…」

「…ん(うなされてるのか?)」

 

 するとアインハルトが小さく声を上げる。呻き声の様なそれはイクサの耳に届く。

 

───イクサにだけ届く。

 

「よくも……、よ、くもーーーー、め」

……

 

 それは少女の声音では無かった。その喋り方は男のそれ、幼い少女の声ながらに男の話し方というちぐはぐな言葉にイクサは硬直してしまう。

 

「……?どうかしたの?」

「……。いえ、なんでもありません、大丈夫です。行きましょう」

 

 そう言ってティアナを催促すると歩きだす。

 ティアナも違和感を感じながらもイクサの言う通り先を進む。

 

(どういう事だ。なんでもお前が()()を知ってる?いや、違う。今のはアインハルト(こいつ)じゃなくクラウス(祖先)記憶(こえ)か?)

 

 イクサを動揺させた、その言葉は。

 

───サイヤ人。

 

 それはイクサの秘密、自身に流れる血のルーツに向けられた言葉だった。

 

(何故この場で、まさか俺に反応した?)

「……」

 

 あれ以降、アインハルトは何も言わない。結局あの言葉の意味はわからずじまいだった。そして目覚めたアインハルトに聞いてもわからない可能性が高い。

 

(お前は、お前の先祖は一体何を知ってるんだ?)



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時代を超えた出会い、覇王と聖王

書き直し版です。何なりとご覧ください




 それは運命だった。

 太陽の光の様な明るい金色の髪、紅と翠の虹彩異色(オッドアイ)

 覇王(クラウス)の記憶通りの、けれど記憶とは違う少女の姿に失望を感じた。

 

 ()()()()()()。わかっていた。わかっていたつもりだった。彼女はオリヴィエではないのだと。

 

 でも、だからこそ出会えたのだ。誰でもない彼女(ヴィヴィオさん)と。(アインハルト)を知って、向かい合ってくれる人が。

 

 そしてイクサさん。あの人にも───

 

 

 

 

 

 

 

 私、ハイディ・E(アインハルト)S(ストラトス)・イングヴァルドがストライクアーツ有段者であるノーヴェさんへ戦いを挑み辛くも勝利したが気を失ってしまった次の日。目を覚ますと私は知らない家にベッドの上に居た。私が先日戦った相手である女性ノーヴェさんと一緒に。

 

 困惑する私に管理局員であるティアナ・ランスターさんと同じく青い髪のスバル・ナカジマさん、そしてノーヴェさんの三人が諸々の説明をしてくださいました。

 途中から問答へと切り替わり、話をして一段楽着いた所でスバルさんがとある事を話されました。

 

「いやー、それにしても良かったねアインハルト。偶然見つけてくれた人がいい人で。もしも下心のある悪い人だったら大変だったよ」

「見つけてくれた人?」

「おい、スバル」

「えぇ、いいじゃん」

「あ、あの…?」

 

 私の顔を見てからノーヴェさんはしょうがないと言った様子で話されました。

 

「偶々街歩いてら倒れてるお前を見つけたらしくてな、管理局か救急車か連絡しようとしてた所で」

「私が辿り着いたの」

 

 ノーヴェの話を途中で補足するティアナさん。

 

「そ、その方は?」

 

 恐る恐る尋ねる私にノーヴェさんが答えた。

 

「イクサって名前の一般市民さ。連絡先は聞いてあるから落ち着いたら感謝の礼でもしとけ」

「───あの人が?」

「んん?もしかして知り合いなのか」

「あ、えっと、その…ぅぅ」

「あ、ああ〜。なるほどなぁ」

 

 言い淀む私に察した様なノーヴェさん。その様子にスバルさんとティアナさんも気付いたようだ。

 

「ノーヴェ、もしかして?」

「まぁ、うん。多分、だけど以前に襲い掛かった事があるんだろう」

「………はい」

「そんな話聞いてないわよ」

「あたしもだよ」

 

 頭を抱えるノーヴェさんとティアナさん。スバルさんだけが微笑みを浮かべながら私を見ている。

 

「後で聞いておくよ」

 

 ノーヴェさんがそう言い。

 

 

 

「え?だって聞かれませんでしたから」

「お前なぁ…」

 

 その日の午後。

 大学院を終えた放課後、ノーヴェに呼び出されたイクサが悪びれる気もなくそう答え机に広げたノートにペンを走らせている。

 辺りにはノーヴェの他に昨日知り合ったティアナやスバルの他にも様々な女性が居たが皆苦笑いを浮かべている。一人ばかり中世的な外見をしているが男はイクサ一人。とても居心地が悪い。そりゃあ気を逸らす為に勉強にも集中しますわ。

 

「……ハァ」

 

 けれどそんな男の精神構造など女性のノーヴェに理解できる訳も無くため息を溢すがイクサは存じ得ぬと机に目を向けて教材片手に勉強に集中する。

 

「お前な、話の途中ぐらい手を止めろよ」

「今更そんな硬い事言い合う仲ではないでしょう?」

「親しき仲にも礼儀あり、だぞ」

「異世界の諺、でしたかそれ?」

 

 確か“チキュウ”って世界(ほし)の言葉だったよな、とどうでもいい事を思考の隅で考える。魔法文化がない星でありながら最高レベルの魔力と才能の持ち主が見つかる魔境、それがチキュウ。しかも聞いた話では十にも満たない幼い子供が星の滅亡の危機を何度も救ったとか。

カケラでも構わないからその才能を分けて欲しい。

 

「それで、要件はそれだけですか?」

「それだけってお前。大丈夫なのか?」

「……、何がです?」

「いや、アインハルトに襲われたんだろ。怪我とかしてないのか?」

「いえ、普通に撃退(いな)しましたよ」

「………」

 

 油断してたとはいえアインハルトに敗れたノーヴェがイクサの言葉に沈黙する。

 

───普通に撃退した。

 

 それがどれ程難しい事かコイツはわかっているのだろうか?そんな考えがノーヴェの脳裏を過ぎる。

 例え自身が傷付こうとも勝つ、そんな不退転の覚悟をアインハルトは持って挑んている。実際ノーヴェは自分の一撃を受け止められ拘束魔法(バインド)で動けなくなった所を反撃をくらって敗れた。

 

「……?」

 

 急に黙ったノーヴェにどうしたのか、と机からノーヴェへと目を移したイクサが見える。

『男子世界最強に最も近い男』、その称号が誇張でも何でもない本当の事実だって事を改めて理解させられた。そして『最強』の頂きの高さを知った。イクサにとってアインハルトはなんて事のない相手に過ぎないのだと。

 

「ノーヴェさん?どうかしましたか?」

「……いや、何でもねぇよ。要件だったな。それは──」

「ノーヴェ!!」

 

 タッタッタッ、と軽快な足音と共に明るい声が響く。「おっ、来た来た」と声の方に振り向くノーヴェにつられて首を向ければ、

 

「と、スバルさんにティアナさん。それに、イクサさん!?」

 

 ヴィヴィオ、リオ、コロナの仲良し三人娘。制服姿な事から学院が終わって直で来たのだとわかる。

 予想外だと思われる様な反応をするヴィヴィオにイクサは片手を上げて挨拶しノーヴェにだけ聞こえる様に話す。

 

「合わせる気ですか、アイツと」

「流石にわかるか」

 

 ヴィヴィオがノーヴェやイクサの座るテーブルに近寄るとイクサは一度口を噤む。ヴィヴィオやリオにコロナが礼儀正しくイクサに挨拶してからノーヴェとヴィヴィオが会話する。その間、イクサはリオとコロナに何かドリンクを頼むか尋ねる。

 

 そうしていれば、碧銀の少女が現れる。

 アインハルト・ストラトス。覇王クラウスの血を継ぐ末裔で先祖返り。覇王の容姿に武技、そして部分的にだが記憶を引き継いだ少女。

 

 ノーヴェの紹介を受けアインハルトにヴィヴィオが自己紹介する。アインハルトもヴィヴィオに続いて自身の名前を教えながらヴィヴィオと握手を交わす。

 ノーヴェが二人の出会いに何かを期待する様に見詰める隣でイクサは一人思う。

 

(不満、そうだな)

 

 天然か、それともワザとか、内心を表に出さない様にしているのだろうがイクサにはアインハルトの表情が複雑そうな顔に見えた。

 

「二人共格闘技者同士、ごちゃごちゃ話すより手合わせでもした方が早いだろ。場所は押さえてあるから早速行こうぜ」

「「……」」

 

 ちゃんとした説明とは言えないノーヴェの言葉にアインハルトとヴィヴィオの二人は困惑気味だが、有無を言わせずに強引に話を進めるノーヴェにイクサは苦笑いを浮かべつつ自分には余り関係無いなと気配を消して離れようとするが。

 

「勿論お前も見に来いよ、な?」

「……」

「な?」

「…わかりました」

 

 強引に押し切られてしまう。そしてイクサが声を発した事でアインハルトが漸くイクサの存在に気が付く。

 じっとアインハルトから視線を向けられるがイクサは気付かないフリをした。

 

 

 

 

 そして一同が移動したのは区民センター内のスポーツコート。ノーヴェが貸し切ったのか自分達のグループ以外には誰も居ない。

 そこでスポーツウェアに着替え両手両脚にプロテクターを身に付けた二人が体をほぐしている。

 

「んじゃ、スパーリング。4分1ラウンド。射砲撃と拘束(バインド)は無しの格闘オンリーな」

 

 二人共構えるのを確認してから審判を務めるノーヴェがルール説明をし、片手を上げて。

 

「レディー、ゴー!」

 

 振り下ろした。

 ノーヴェの声を開始の合図にヴィヴィオが駆け出す。アインハルトの懐に入り込み鋭いアッパー、ガードされても果敢に続けて攻める。ヴィヴィオの拳や蹴りをアインハルトが受ける度にドッ! やガッ! 、バン! といった打撃音が響く。

 周りの人達はヴィヴィオが予想外に強い事に驚いている。

 

「……楽しそうね、ヴィヴィオ」

「ええ、ほんとにそう」

 

 果敢に攻めるヴィヴィオの顔は笑っている。本当に格闘技が好きでアインハルトとの手合わせを楽しんでいるのだとわかる。

 

(確かに、楽しそうだな。───()()()()()()

 

 ヴィヴィオとは反対にアインハルトの表情は暗い。アインハルトの記憶にある『手が届かなかった人(聖王女オリヴィエ)』と似た特徴の容姿を持ったヴィヴィオ。

 けれど性格も笑顔も───何より実力が違う。

 そしてその事実がアインハルトに現実を押し付ける。彼女が望んでいるのは戦場だ、戦乱の世を生きる王同士の信念の決闘だ。

 だがそれは絶対にあり得ない、不可能な話だ。何故なら異常なのはアインハルトの方なのだから。彼女が求めているのモノは今の時代には無い、遠い過去にのみ在るのだから。

 

 それがたまらなく哀しい。求めていたモノはとっくの過去に消え失せ、有るのは時代遅れの(おも)いだけ。

 

 そして真面目な彼女は思い至る。目の前の少女(ヴィヴィオ)は自分とは違う。今を生きているの唯の女の子だと。自分が戦うべき信念を持ってはい(王なんかじゃ)ない。

なんて皮肉だろう。過去(かつ)勝ち(救い)たかった、けれど手も足も出なかった相手は現在(いま)じゃ自分より遥か格下で、尚且つ幸せそうだなんて。この両の拳は涙を流さなかった彼女の涙を拭う為に鍛えたというのに、その相手はもう涙を流す事すら無いだなんて。

 

「……」

 

 そんなアインハルトの考えを見抜けたのはイクサだけ。けれどイクサに何もできない、してやるつもりもない。イクサのスタンスは何も変わらない。

 そんな事よりもイクサには気になる事があった。

 ヴィヴィオが一方的に攻めてる様に見えるが、全ての打撃をアインハルトは巧く捌いている。その姿にイクサは僅かにながら自身の姿が重なった気がした。

 

「気にしてるのか?」

「……?どうかしたの?」

 

 ぼそりと呟いた小さな言葉にスバルが反応する。「なんでもありませんよ」と返すイクサに暫く目線を向けるも、時期にヴィヴィオとアインハルトの二人へと戻した。

 イクサが思い出すのはアインハルトがイクサに襲い掛かった夜。アインハルトの覇王流を観察する為に防御に徹底していたあの動き。今のアインハルトからはあの時のイクサの防御に近しい動きを感じる。明らかに意識されている。強者(イクサ)の動きを取り込もうとあの日以来何度もイメージトレーニングを繰り返したのだろう。

 

 それも終わりを見せる。

 ヴィヴィオの勢いの乗った拳を躱して反撃の掌底がヴィヴィオの胸へと打ち込み吹っ飛ばす。威力は高く、だがダメージは極限まで削り、方向、そして吹っ飛び具合まで調整された掌打を受けたヴィヴィオをシスター服に身を包んだディードという女性と、外見と服装から中性的な容姿の女性オットーの二人に受け止められる

 

 ヴィヴィオは二人の腕の中で荒れた息を整えながら対戦相手の少女に想いを馳せる。見事な技だ、強いと素直に思える。

 凄い、そんな称賛がヴィヴィオの胸を興奮で埋める。

 

「お手合わせ、ありがとうございました」

 

 けれど。その想いはアインハルトには伝わらなかった。仮に伝わったとしてもアインハルトには届かなかっただろう。

 ヴィヴィオに背を向ける去ろうとするアインハルト。何かやってしまったのか、とヴィヴィオは慌ててアインハルトを呼び止める。アインハルトはヴィヴィオに振り返る事なく背中越しに言葉を返す。

 落胆、今のアインハルトの胸を占める感情はそれだけだった。目の前の少女にその表情を見せない為の気遣いも含めたその行動は返ってヴィヴィオを追い詰める。

 そしてヴィヴィオの「私、弱過ぎました?」の言葉に突き放す様に返された言葉。

 

───趣味と遊びの範囲内では十分かと。

 

 一瞬、ショックから何も言葉が出なくなるヴィヴィオ。身勝手な八つ当たりの様な言葉を何も知らない少女に放ってしまった自己嫌悪に苛まれながらアインハルトはヴィヴィオの再戦の申し込みに困った様なノーヴェに視線を向ける。

 きっと口を開けばもっと傷付けしまうと思ったアインハルトの気遣いにノーヴェは来週。もう一度、今度はスパーリングではなくもっと本気な模擬戦として約束を取り付けた。

 

「……、わかり、ました」

 

 きっともう関わらない様、断って欲しかったのだろうがヴィヴィオへの罪悪感から模擬戦の約束を了承するアインハルト。時間と場所はお任せします、そう言い残しアインハルトは足を進める。最後に一瞬立ち止まってイクサを見て、目が合うが何も告げる事なく今度こそアインハルトはこの場を去った。

 

 ヴィヴィオの側に駆け寄りアインハルトのフォローに入るノーヴェを見つつ、気不味くなった雰囲気のまま本日はお開きとなった。



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コーチはイクサ!?ヴィヴィオの反撃(リベンジ)特訓

書き直し版ですじゃ。う わ へ へ www


「頼む、この通りだ!!」

 

 パンッ!と強く手を合わせ頭を下げて頼み込むのは赤い髪の女性ノーヴェ・ナカジマ。

 そしてノーヴェの頼み込む相手は。

 

「……ハァ」

 

 勿論、イクサだ。

 

 

 

 

 ヴィヴィオとアインハルトの初邂逅から数時間後。

 アインハルトとの再戦に奮起するヴィヴィオの為にコーチであるノーヴェはヴィヴィオに何としても勝たせてやりたいと思い、考え付いたのはイクサにヴィヴィオの特訓に付き合ってもらう事だった。

 過去に一度本気のアインハルトに勝利したイクサならアインハルトとの戦い方もわかるのではないかと予測したのだ。

 

「フェア、とは言えませんよそれ」

「うっ」

 

 知ったか知らずか街の真ん中でノーヴェの様な美人に頭を下げさせておきながら断るのは不利だと間違いなくわかるので、取り敢えず近くのカフェにて話をする事にしたイクサ。

 適当に周りに他の客の少ない場所を取りコーヒーとケーキを注文してから詳しく話を聞いたイクサの一言にノーヴェが少し狼狽る。

 だがノーヴェの気持ちもわかる。いくらアインハルトの事情を知っているとは言え関係としてはヴィヴィオの方が深く、そして何よりヴィヴィオはノーヴェにとって愛弟子だ。本人は言葉で否定するだろうがヴィヴィオを贔屓目にするのは当然だと言えた。

 

「あむ……ん。で、具体的に何をしろと?」

「やってくれんのか!!」

「取り敢えず話だけは聞こうと思っただけですよ」

「……なんだよ」

 

 ケーキを一口含み飲み込むと内容を尋ね、その言葉にノーヴェは期待を込めた声音で身を乗り上げるがイクサの返しにふてくされた様に椅子に座り直す。

 頬杖を付きながら反対の手でフォークでコーヒーをかけ混ぜながらノーヴェが言う。

 

「具体的にも何もさっき言った通りだよ。ヴィヴィオにアインハルトへと対処法をアドバイスしてもらったり、できれば手ほどきしてやったり、兎に角ヴィヴィオの特訓に付き合って欲しい」

「………」

 

 ノーヴェの言葉に考え込むイクサ。特訓に付き合って欲しいと言うが、イクサにはイクサのスケジュールというものがある。実際大学部のイクサは初等部や中等部のヴィヴィオやアインハルトよりも忙しい。

 時間を開けようとすれば開ける事自体はできるが、わざわざ自分の時間を削ってまで二人の事情に肩入れする義理は無い。イクサにとってヴィヴィオとアインハルト、それにノーヴェとの関係はあくまで知人。それ以上では無い。

 それにイクサはアインハルトの事情に余り関わる気が無い。アインハルトの事情はあくまでアインハルトの事情。自分にとっては関係無いのだから。

 

「……」

「……」

 

 唯、大人の女性の癖に不安そうに見詰めるノーヴェの姿はとてもズルく思える。天然なのか、もしもわかっててやっているのなら魔性と言わざるを得ない。

 もしも断れば完全にイクサが悪者だ。もしも周りに人が居れば例え詳しい事情を知らなくてもイクサを責める様な目線を揃って向けられるのは間違いないだろう。

 暫し悩んでから、口を開く。

 

「貸し一つ、ですよ」

「……え?」

「だから貸し一つ、です」

「!! それじゃあ!」

「受けますよ、その話。その代わり、この貸しは何倍にもして返して貰いますよ」

「おう! 任せとけ!」

 

途端に明るい笑顔を咲かせるノーヴェにイクサは苦笑い。コーヒーを一口含んでから日程を決める話し合いへと移った。

 

 

 

 

「───と言う訳だ。よろしく頼む」

「は、はい! よろしくお願いします!!」

 

 イクサがノーヴェの頼みを呑んでから数日の午後、大学院を終えたイクサは一度家に帰宅してから体操服(ジャージ)を持ってノーヴェから連絡のあった場所に移動した。更衣室でジャージに着替えたイクサをスポーツウェアを着て先にノーヴェと特訓を始めていたヴィヴィオと合流する。ノーヴェとの約束の場所にはノーヴェやヴィヴィオ、その友人のリオやコロナ以外には誰も居なかった。

 予めノーヴェからイクサが特訓に付き合ってくれる事、イクサが本気のアインハルトに勝利している事を聞いているヴィヴィオは緊張した様子でイクサと向かい合う。

 

「…いつでもどうぞ」

「は、はい。い、行きます」

「……」

 

 互いに構えはストライクアーツの基本となる姿勢(ポーズ)だった。

 暫く互いに黙していたがヴィヴィオが仕掛けた。拳を放つ、それだけの筈なのに上手くできない、緊張で硬直した体は思い通りに動いてくれない。とてもキレのある動きではないのはノーヴェだけでなくリオやコロナもわかった。

 それから暫く経つも一向に改善される様子は無く、ヴィヴィオは不調子のままだった。このままじゃ意味が無いと判断したのだろうノーヴェが一度中断させようと声を掛けようとした瞬間。

 

「……ふぅ」

「ひゃうん!?」

 

ヴィヴィオに接近して横に付き右耳に吐息を吹きかけた。突然の事にヴィヴィオはビクンと大きく痙攣し足から力が抜けてペタンとその場に座り込む。

 

「な、何をするんで、す…ふぇ? わー!?」

 

 息を荒げながら左手を地面に付き、右手で息を吹きかけられた耳を覆い突然の行動について追及しようとして右手首を掴まれる。じっと自分の手首を掴むイクサの手を見詰め、我に返るよりも先に引っ張られる。

 グイッと引っ張られ無理矢理立たされたかと思えば今度はそのままブン!と振り回される。足が地面から離れ遠心力が体に掛かり、手首を離されたかと思えば腰に腕を回される。まるでテレビのドラマとかで見る舞踏会のダンスのフィニッシュの様に反り返る姿勢になるヴィヴィオ。

 

「え?…え?」

 

 困惑の極みに達し、回復する間も無く今度は腰に回された腕を勢い良く引いてヴィヴィオを回す。まるで独楽(こま)遊びの様にくるくるくると片足の先を軸に回るヴィヴィオにノーヴェにリオやコロナも呆然としている。

 

「うへ〜…、きゃっ!」

 

 回転が弱まり目を回しフラフラのヴィヴィオの腕を持ってまたもダンスのポーズを決めるイクサ。

 それからも次々とヴィヴィオを使って様々な行動をするイクサ。その様子はまるでヴィヴィオで遊んでいるかの様だ。

 

「う、う〜…っ」

 

次第に慣れて来たのかヴィヴィオの意識がはっきりしてきた。そしてまたもヴィヴィオの腕を掴もうと手を伸ばされるを───弾いた。

 

「いい加減にッ」

「…お」

「してください!!」

 

 イクサの手を弾いてから咄嗟に放たれたアッパーがバシィ!と音を出して直撃する。

 ヴィヴィオの拳はイクサの顎を捉える───事なく間に割り込んだ掌で受け止められていた。

 

「くっ!」

 

また、遊ばれてなるものかとすぐさま距離を取るヴィヴィオ。

 

「……」

「…ふー…ふー…」

 

ヴィヴィオの拳を受けた掌を暫く見詰め、目を離しヴィヴィオに向けると視線を向けられ身構えるヴィヴィオに言った。

 

「緊張、解けたろ?」

「……え?」

「うん、それに思った通り勢いの乗ったいいパンチだ。その感じを忘れるなよ」

 

 状況を飲み込まないヴィヴィオが唖然し、暫くして漸く理解する。

今の一連の行動がヴィヴィオの緊張をほぐす為の行為である事を。

 

「え〜」

 

 一気に脱力するヴィヴィオ。ノーヴェ達も遅れて理解が及びイクサやヴィヴィオに詰め寄る。

 ヴィヴィオの側に寄ったリオとコロナに大丈夫?と心配され、それにぎこちない笑顔ながら「大丈夫だよ」と答える。だが、今のヴィヴィオには心配してくれる友人よりも先に自分が放った一撃───アッパーカットに気が行った。

 

───勢いの乗ったいいパンチだ。その感じを忘れるなよ。

 

 イクサの言う通り、あの一撃は自分でも会心と言える。威力、速度、キレ、どれをとってても自分にできるとは思えなかった程だ。それをイクサは『思った通り』と言った。自分の思ってた以上の力をイクサは見抜き、そして引き出してくれた。やり方はアレだったが。

 ヴィヴィオがイクサの方に目を向ければノーヴェにもっとやり方はあっただろうと責められておりイクサは苦笑いで対応していた。

 

 もう一度自身の手を見る、そして握る。

 モノにしたい。今の一撃を、忘れない内に。

 

「イクサさん!」

 

 突然立ち上がり大きな声を上げるヴィヴィオに呼ばれたイクサ以外が驚いた様にヴィヴィオを見る。ぐぐぐっと心の内側から湧き上がるモノを感じる。宙を浮く動くうさぎ型のぬいぐるみに視線で呼び掛ける。うさぎのぬいぐるみはヴィヴィオの視線に敬礼し、フワーと近寄ってくる。

 うさぎのぬいぐるみの正体はヴィヴィオの専用デバイス、名前を『セイクリッド・ハート』、愛称を『クリス』。

 ヴィヴィオはクリスを優しく両手で包むと頭上に掲げて愛機の名を謳い変身魔法───大人モードを使う。

 

「……ふぅ、イクサさん」

「なんだ」

「続き、お願いします!」

 

 ギラリと強い光がヴィヴィオの瞳に灯った気がした。イクサはヴィヴィオの言葉に小さく笑みを浮かべるとストライクアーツと異なる構えを取る。

 握り締めた右拳を腰に据えるように配置し、左手は指を揃えた掌の形にし正面に伸ばし上げるよう。ノーヴェには構えに見覚えがあった。

 いや、ノーヴェだけでない。初めて見る構えでありながらヴィヴィオ、それにリオやコロナでさえ理解(幻視)した。

 

「アイン、ハルト…さん?」

 

 イクサの姿に半透明の薄い姿だが碧銀の少女が重なって見えた。困惑するリオやコロナを置いてヴィヴィオは本能的に理解した。これがアインハルトの覇王流(カイザーアーツ)なんだと。───それは彼女の産まれが故か。

 

「マジ、かよ…」

 

 ノーヴェは一条、汗を流す。なんて高度な再現か。完全にアインハルトの実力を見抜き、模倣している。ノーヴェ達が幻視したアインハルトの虚像はイクサの技術が高すぎる余りに見えたノーヴェ達の妄想像(ヴィジョン)だとノーヴェだけが気付けた。

 戦慄するノーヴェ、理解が及ばないリオやコロナ。そしてヴィヴィオはぎゅっと拳を握り締めた。

 相手がリベンジを目標とするアインハルトと幻視した事で気合十分、やる気が盛り盛り湧いてくる。

 

「───来い」

「───はい!」

 

 向かってくるヴィヴィオにイクサは迎え撃った。

 イクサはヴィヴィオに覇王流(アインハルト)を叩き込んだ。




☆★おまけ★☆
とある親子(母娘)の会話

「ーーーって事があったんだよ!」
「……へぇー」
「……?どうしたのママ」
「───なんでもないよ。それよりなんて名前の男の子なの?」
「え?…い、イクサさん、だよ」
「イクサ君、て言うんだ。へぇ」
「ま、ママ?」
「ちょっと、OHANASHI(おはなし)しなきゃね♪」
「な、()()()ママ」
「ふふふー♪」

白き魔王に目を付けられた、そんな話。


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覇王と再戦!!想いを伝えろ、ヴィヴィオの拳!超えてみせる、覇王の拳で!

申し上げます!書き直し版が現れましタァ!
<ダニィ⁉︎




 そして迎えたアインハルトとヴィヴィオの再戦の日。

 場所はアラル港湾埠頭という人気のない廃棄区画、今や使われていない廃倉庫が幾つも並んだ此処はスバルやノーヴェの様な管理局の救助隊なんかが訓練に使用する場所だ。

 そして集まった顔ぶれは前回と全く同じメンバー。勿論イクサも居る。

 

 観客たる者達と離れた箇所に立つ者は三人。

 一人は此度模擬戦を行うアインハルト・ストラトス、高町ヴィヴィオ。そして今度も審判の役を務めるノーヴェ・ナカジマ。

 ノーヴェに今回の模擬戦のルールを説明を聴きながら静かに佇むヴィヴィオとアインハルト二人をイクサは観察する。結局イクサがヴィヴィオの特訓に付き合ったのはあの一度だけだった。それでもイクサが教えられる事は全て教えたつもりだ。

 

 ノーヴェがある程度の説明を終えて二人から離れるとヴィヴィオとアインハルトの二人が切り替わるのを感じる。

 ヴィヴィオは愛機であるクリスを掲げ、アインハルトは目を閉じて静かに告げる。

 

「セイクリッド・ハート、セット・アップ!」

「───武装形態」

 

 ヴィヴィオは虹の軌跡、アインハルトは緑の旋風。それぞれが自身を表す魔力資質に包まれその姿を変える。幼いながらに端正に顔立ちは凛々しく美麗な女性の貌へ、小さく未発達の身体は成熟した女の体躯に。互いに豊かな乳丘、すらりと伸びた四肢、きゅっと括れた腰回り、健康的で優れた魅力的な肉体は彼女達の未来か、或いは要望(あこがれ)を露わにしていると思われる。

 金色の髪をサイドテールにしたヴィヴィオと、碧銀の髪をツー・サイドアップにしたアインハルト。

 変身を終えて改めて向かい合う。そしてアインハルトが漸く気付く。ヴィヴィオの紅と翠の瞳に前回とは明らかに違う意思の光が宿っている。

 

「……っ」

 

 強い、強く堅い意思が眼光に乗っている。それは前回彼女(ヴィヴィオ)には無いと思っていた信念をギラギラと証明していた。

 そしてアインハルトは心の中で謝罪した、ヴィヴィオに向かって信念が無いと思った事を。彼女には彼女の信念(おもい)がしっかりと存在しているのだと。

 アインハルトは彼女を王だとは思わない、けれど戦うべき相手であると認識を変えた。

 

「……!」

 

 そしてアインハルトの認識の切り替わりをヴィヴィオも感じ取った。前回と違い本気で来ると直感で理解した。それでも尚戦意が揺らぐ事無し。寧ろ更に燃え上がった。

 

(伝えるんだ、私の想いを。一発一発、言葉ではなく一撃(こぶし)に載せて!)

「時間は五分、一本勝負。試合───」

 

 二人のボルテージが上がるのを一番近くにいたノーヴェが理解した。両者気合いは十分。余計な言葉は不要だろうと判断し端的に開始の合図を告げた。

 

「───開始ッ!!」

 

 

 

 

 その試合は驚く程に静かに始まった。

 両者互いに不用意に動かずに探りから入った。一定の距離を保ち、ゆっくりと円を描く様に足を運ぶ。

 

「……」

「……」

 

 そしてアインハルトが仕掛けた。

 

「ーーー!!」

 

 得意の一瞬で距離を詰める覇王流の歩法で接近、解き放たれる右の正拳。両腕を胸の前で交差したクロスガードで防御、重い一撃に揺らぎそうになるのを踏ん張って耐え、続くアインハルトの左拳の突きを右半身を背後へ捻って躱せばアインハルトの左腕の外側から回り込む様に反撃の右フックを放つ。

 

()ッ」

 

 突きに使った左腕をそのまま外へ払ってヴィヴィオの右腕を弾きアインハルトは左拳を放つ。

 

「……!!」

 

 ()()()()()。その動きをヴィヴィオは()()()()()()

 アインハルトの左腕を掻い潜り前へ出る。ヴィヴィオとアインハルトの鼻先が触れ合いそうな程に接近してからヴィヴィオのアッパーカットがアインハルトの顎を()()()

 

「───くっ」

 

 ヴィヴィオの拳は、咄嗟に背後へ跳んだアインハルトの顎先に微かに触れただけだった。だが、掠めただけでも十分。アインハルトは顎を掠めた事で脳が揺れてバランスが崩れる。

 

「……ぅ、ぅぅ」

 

 一歩、また一歩と後ろへ下がる。ふらふらと不安定な後退をするアインハルトをヴィヴィオはじっと油断無く見詰める。

 アインハルトも段々とバランス感覚を取り戻し、首を振って構える。

 

「……何故、追撃しなかったのですか?」

 

 油断や手加減している様に見えないヴィヴィオの様子にアインハルトは純粋な疑問として問う。

 

「私にも、正々堂々と正面から(ぶつ)けたい想いがあるんです」

 

 ぎゅっ、と改めて握る拳。ヴィヴィオの想いを真っ直ぐに伝えられてアインハルトは「愚問でしたね」と答えると口を噤み試合に集中する。

 そしてアインハルトが疑問に思うのは先のヴィヴィオの動き。まるで、そうまるでアインハルトの動きを知っているかの様な動きだ。何故? 何故? 何故何故何故──

 

「次は、こっちから行きます!」

「っ!!」

 

 わざわざ声を掛けてからの突進。アインハルトも思考を切り上げて迎え撃つ。ヴィヴィオが仕掛け、アインハルトが受ける。攻守が反転しアインハルトが攻撃する。重いハードヒッターの一撃にガードしても尚顔を顰める。それでもしっかりと見極める。見逃さない様に集中する。

 そしてヴィヴィオの目が捉える。イクサも認める動体視力を最大限に発揮して()()()()()()()から隙を探し出し一撃(カウンター)を打ち込む。

 

「うぐっ!?」

 

 腹部に入るヴィヴィオの一撃(カウンター)。続けてもう片方の拳が頬を捉え、アインハルトが反撃を繰り出すも苦し紛れと躱され上段蹴りが決まった。

 

「づっ(まただ、また読まれた!)」

 

 

 

 

 

「……へぇ」

 

 ところ変わって観客エリア。周りの人達がヴィヴィオの快進撃に驚き喜んでる中、イクサは冷静に自身がヴィヴィオに叩き込んだ模倣アインハルトの動きを上手く活かしているのを見て感心する。

 ヴィヴィオの教えた事を真面目に受け取り反復練習とイメージトレーニングを繰り返した賜物と言えるだろう。

 だが心配な事もあった。それはイクサが模倣したアインハルトの動きはイクサと戦った時のアインハルトの動きなのだ。あれから幾日も経ち様々な相手と対戦を重ねたアインハルトは間違いなく巧くなっているだろう。それに反復練習やイメージトレーニングをしたのはヴィヴィオだけでは無い、アインハルトも嘗てイクサが見せた防御術を倣い自身の技術に組み込んでみせた。

 イクサの教えた通りにだけに動けばヴィヴィオはまず勝てないだろう。何より、イクサはヴィヴィオに教えていない技が()()()()()()()

 

「さて、決着の行方はいかに?…なんてな」

 

 少しばかり楽しみだとイクサの口端が吊り上がっている事に誰も気付いてはいなかった。

 

 

 

 

 

「ぐ、ぅぅ…ッ」

 

 またも、アインハルトの動きを見抜いて掻い潜りヴィヴィオが一撃入れた。拳だけでなく蹴りも放つが対処され反撃を入れられる。

 

「はぁぁあっ!」

「ッッ、やぁー!」

 

 両者互いに傷付く。ヴィヴィオはアインハルトの重い攻撃をガードする度に防御の上から削られる。対してアインハルトはヴィヴィオの様にガード越しのダメージもあるが大半はヴィヴィオのクリーンヒットが原因だ。

 

「くっ…ッ」

「はぁっ…はぁっ…」

 

 状況的にはヴィヴィオの方が圧倒的に有利な筈なのにヴィヴィオの方が疲労している様に見える。

 ここでもアインハルトにはイクサとの戦いが活きていた。イクサの拳、技術のカケラもない純粋な暴力。ガードしても尚大きく効く連続殴打を受けた経験のあるアインハルトからすればヴィヴィオ一撃は如何(いかん)せん()()()()。一撃だけではない、防御も体幹もアインハルトからすれば軽いのだ。

 

「…!」

 

 ヴィヴィオと拳を交えながらアインハルトは思考を走らせる。何故かは未だわからないがヴィヴィオの先読みにも慣れてきた。そしてこれまでで理解した。

 ()()、それだけ。何か一撃がまともに入れば勝てる。

 

「……ッ!」

 

 決意した。アレしかない、と。

 その為に掴んでみせる、決定的なチャンスを!!

 

 アインハルトが完全に防御に入る。ヴィヴィオの攻めがより苛烈になる。防御すら先読みされガードを抜けてヴィヴィオの打撃が入る。それでもアインハルトはひたすらに耐える。

 

 

 

 

 

「いけー!ヴィヴィオー!!」

「頑張れ、ヴィヴィオ!」

 

 ヴィヴィオを一生懸命応援する少女達の傍でイクサが腕を組んでヴィヴィオを観る。

 

「……うーん(ヴィヴィオの奴、段々攻撃が単調になってきやがった。それに俺の教えた動きに頼り切りにもなってきてるな)」

 

 冷静にヴィヴィオを分析しつつアインハルトの方も観る。

 

(逆にアインハルトの方は、抜かれる覚悟で防御に移った。ああなったアインハルトはかなり堅いからな、これはわからなくなってきたなかもな)

 

 状況は変わりつつあった。

 

 

 

 

 

「てやぁあ!!」

 

 ヴィヴィオの大きく振りかぶった一撃が防がれる。次の一撃も、その次の一撃も、更にその次の一撃も防がれる。

 動きはわかっているのに守りを抜けられなくなってきている。少し焦り出す。そしてその焦りをアインハルトは的確に見抜いていた。

 

「…っ(あと、少し)」

「はあぁ!!」

「ぐっ…(もう、少し!)」

「やぁぁ!!(なん、でっ?)」

 

 ここで、相性と格闘技者としての技術の差が明確に表れていた。

 ヴィヴィオのスタイルは優れた動体視力で見抜き、そこから放たれる一閃が決めての『カウンター・ヒッター』。一方的に攻める戦い方は得意では無い。ならば技術は上であるアインハルトが防御に徹すれば攻めあぐねるのは当然の事、寧ろよくここまで有利でいれたと褒めるべきかもしれない。

 だが焦りは積もり、まだ幼い彼女には小さな焦りと言え失敗に直結する。つい込め過ぎてしまった力、自分のバランスを崩してしまう程に張り切ってしまったヴィヴィオ。その力に乗って距離を取ったアインハルトの足元に緑色の魔法陣が浮かび上がる。

 古代ベルカ式と呼ばれる魔法陣の上で両の足を捻って回転を練り上げる。練り上げられた回転は魔力と合わさり烈風へと変わる。それは嘗てイクサにも、ノーヴェにも放った覇王流の奥義、覇王・断空拳だ。

 

「〜〜〜!」

 

 アインハルトの回転(かぜ)を見て、即座に理解する。アレは拙い。

 判断は一瞬。ガードは不可、崩れる体勢じゃ退く事も出来ない、なら前のめりに進むのみ! 足を前に出して地面を蹴って進む。

 アインハルトもこれには驚愕、編まれた風がほつれてしまう。

 

()()()()ッ!!」

 

 好機はここしかない、これで決まらなければ勝機は無い。その覚悟でヴィヴィオが自身の右拳に魔力を灯す。思い出すのはイクサ相手に放った会心のアッパー。虹色の燐光が拳を覆いその一撃を閃光へと変える。

 

「───『アクセル・スマーシュ』ッ!!」

 

 虹色の軌跡を刻みながらアクセル・スマッシュがアインハルトの顎を撃ち抜く。確実に意識を刈り取る一撃が決まりヴィヴィオが勝利を確信し、

 

「───ッッ!!」

「え?」

 

 耐えた。

 

───赦せるものか。

 

 その瞳から光が消える。

 

───もう二度と、

 

 あるのは冷たい勝利への執念。

 

───()()に負けるなど。

 

 口を開く、そこから出たのは女とは思えない絶叫だった。

 

───あってはならないッ!!

 

「 あ" あ" あ" あ" ぁ" ぁ" ー!!!」

 

 もはや言葉とは言えない咆哮を放ち、今一度、断空(かぜ)を練り上げる。ほつれ、解かれかけている既存の断空を呑み込み更に威力を増大させる。

 

───暴風が解き放たれる。

 

「おっと、そこまでだ」



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生まれた絆と覇王の申し出。

今、此処に書き直し版を迎え、悲願は達成されます


「おっと、そこまでだ」

 

 アインハルトの断空拳がヴィヴィオに届く前に、別の手によって受け止められる。凄まじい暴風がその人物の手の中で暴れるが、握り潰された。

 

「今のは怪我じゃすまなかったぞ。アインハルト」

 

 アインハルトの拳を横から割り込み掴んでいるのはイクサだった。

 イクサは、アインハルトに諭す様に優しく話しかけるが名を読んだ瞬間に変化する。

 握った拳を引っ張り、アインハルトがイクサに引き寄せられる。イクサもアインハルトに寄って互いの顔が近くなる。目と目が合う、虚な紺と青の瞳にイクサの黒の瞳が写り、淡々と冷たく突き刺さる様な声音で覇王の記憶(ゆめ)に呑まれたアインハルトに呼び掛ける。

 

「───戻ってこい」

 

 パァン! と音がなる。アインハルトの拳を握っていた手を離し、脱力した状態で振るい手の甲でアインハルトの額を叩いた。

 

「───ぁ」

 

 一瞬、アインハルトの瞳に光が戻る。虹彩異色の瞳はイクサをじっと見つめ、目蓋を閉じる。

 

「…よ」

 

 倒れそうになるアインハルトの腰に腕を回して受け止める。イクサの腕の中でアインハルトの身体が薄く光る。光のシルエットは成人女性の身体から少女の身体へと変化してから剥がれる。

 後には変身魔法が解けて元の姿に戻ったアインハルトがイクサの腕の中で気を失っていた。

 

「……ふぅ、割り込んで悪かったなヴィヴィオ」

「……い、いえ」

 

 背後へ振り返れば、状況が飲み込めずに尻餅を付いたヴィヴィオ。

 そして次々と近寄ってくるノーヴェや観客の人達。

 

「一体何があった?」

 

 全員の考えを代表してノーヴェがイクサに尋ねた。イクサはアインハルトの眠る顔を見てからノーヴェに顔を向け、

 

「さあ?」

 

 首を傾げて言い放った。

 

「お前、ふざけてる場合じゃ──」

「おおよそ、覇王の記憶に呑まれたんでしょ」

「……」

「コイツは覇王イングヴァルドの記憶を継承している。そしてクラウスは聖王女オリヴィエに敗れて武を極めた。きっと聖王女とそっくりのヴィヴィオに負けそうになった事で暴走したんだと思いますよ」

「それで、お前が飛び出したと?」

 

 ノーヴェは恐る恐る尋ねてくる。イクサはノーヴェの問いにポカンとしてから苦笑いを浮かべた。

 

「違いますよ、さっきのアインハルトの技はとても加減してある様には見えなかった。あんなの受ければ流石に怪我じゃすまないと判断したので割り込ませてもらった次第です」

「………そうか」

「はい、そうです」

 

 にこやかにそう語るイクサにノーヴェは戦慄を隠せない。

 アインハルトの変化を見抜き、ヴィヴィオの危機を察知し、そして覇王の技を受け止めた。

 そして()()()()。ノーヴェにも、いやこの場にいる誰にも視認させない超高速。ノーヴェ達の知り合いで速度を誇る人物が一人いるが、もしかすれば彼女よりも速かったかもしれない。

 イクサのポテンシャルの高さにノーヴェは唯々驚愕するばかりである。

 

「……ぅ、ぅうん」

「…ん?お、目が覚めたか」

 

 するとイクサの腕の中でもぞりとアインハルトが身じろぎしイクサの声を聞いてゆっくりとアインハルトが目を開く。

 

「……」

「大丈夫か?立てるか?」

「……あれ?」

 

 目前のイクサの顔、地面に足が付いた感覚はなく、背中と膝の裏にある硬い人の感触。

 目覚めたばかりで状況を飲み込めていないアインハルトが首を横に振って見えるのは苦笑いを浮かべたノーヴェと、その後方からの様々な視線。頬を赤くして見詰める人、ノーヴェの様に苦笑を浮かべる人、にししと面白そうに見てくる人。

 ここで漸くアインハルトの頭が正確に稼働してくる。はっきりしだした意識で状況を整理していく。

 

「……」

「……?」

 

 最後にもう一度イクサの顔を見る。そしてそれが引き鉄となり、

 

「……!(ボンッ)」

「うおっ」

「離して、離してください!!」

 

 真っ赤な顔で暴れ出した。

 今のアインハルトはイクサに抱き上げられていた、そしてその体勢を人々は『お姫様抱っこ』と読んだ。

 

「〜〜〜!!」

「あ、危ッ、危ないって!暴れんな!」

「んーんーんー!!」

 

 腕をジタバタ、足をブンブン、身体を揺すって、頭も振り回す。

 腕の中で暴れるアインハルトの腕や足を避けながら落とさない様にバランスを保つイクサ。

 

「はーなーしーてーくーだーさーいー!?」

「わかったわかったから一度落ち着け───ぶっ!?」

『……あ』

 

 暴れるアインハルトのツインテールの片方がイクサの顔面を叩いた。パァンと軽快な音を鳴らしイクサの顔から滑り落ちていくアインハルトの髪。

 瞬間、ゴゴゴとイクサから怒気(プレッシャー)が放たれる。ゼロ距離で怒気を浴びたアインハルトはカチンと固まった。

 

「落ち着け、な?

「は、はい。ごめん…なさい」

 

 大人しくなったアインハルトを抱き上げたままイクサは観客席の方へ歩き出す。イクサが近寄ればシュバッ! とティアナやスバル達は左右に別れてスペースを作る。其処にアインハルトを優しく下ろす。イクサの手を離れる最後までアインハルトは借りてきた猫の様に大人しかった。

 あからさまに不機嫌です、ってオーラを発しながらの笑顔はとてもとても怖かったそうです。

 

 

 

 アインハルトが回復するのを待つ間ヴィヴィオがアインハルトとお話しする。視界の端に少し遠くで腕を組んでムッスーとした表情のイクサをノーヴェが宥めているのが見えた。

 

「……アインハルトさん」

「ヴィ、ヴィヴィオ、さん」

 

 未だにイクサからの怒気に怯えているのか小さく震えているアインハルトに内心で苦笑しつつ真剣な顔で問い掛ける。

 

「どうでした、私は?」

「……」

 

 ヴィヴィオの問いにアインハルトは一瞬間を置き、深呼吸をしてから答えた。

 

「先週は失礼な事を言って申し訳ありませんでしたヴィヴィオさん。訂正します」

「〜〜!!」

 

 それはアインハルトに認められた、という証だった。ヴィヴィオの顔に喜色が広がる。

 

「はい! ありがとうございます!!」

 

 太陽の様な満面の笑みをアインハルトは懐かしさを感じ、けれど記憶の中の彼女とは違うのだと再認識した。

 

(彼女は覇王(わたし)が会いたかった聖王女じゃない。だけど、わたしはこの子とまた戦えたらと思っている)

 

 アインハルトはヴィヴィオの信念を認め、努力を認め、心を許した。彼女はオリヴィエではないけれど、ヴィヴィオというれっきとした少女なのだと。

 

 それからも二人は言葉を交わし関係を深める。格闘技の事から趣味や好物、家族との思い出などと。周りの大人の女性達の暖かな目に少し気恥ずかしく思いながらも目の前の少女の笑顔の為に答えていく。

 すると、ふとアインハルトの脳裏に一つの疑問が浮かんだ。

 

「あの、一つ聞いてもよろしいですか?」

「はい!なんでしょう?」

「ヴィヴィオさんと戦っている最中、私の動きを所々で見抜いていらした様に思えたのですが、何か秘密があるのでしょうか」

「…あ」

 

 アインハルトの質問にヴィヴィオは一瞬困った様な反応を見せ、ちらりとアインハルトの背後の方に視線を配る。

 その様子にアインハルトは首を傾げ、ヴィヴィオが恐る恐る言った。

 

「その、イクサさんに教えてもらったんです」

「え?……あの人が?」

「はい」

 

 視線を背後の方に向ければ未だに不機嫌オーラ全開のイクサにこりゃダメだ、とお手上げのノーヴェが見えた。

 ヴィヴィオに向き直し説明を求めた。

 

「アインハルトさんとの再戦に向けた特訓にイクサさんが付き合ってくれたんです。その時にアインハルトさんの対策としてイクサさんがアインハルトさんそっくりになったんです!」

「…?…???」

「あ、あの! えぇっと。…あ、ぁぅ〜」

 

 ヴィヴィオが何を言っているのかさっぱりわからないアインハルトの頭に無数の❔マークが浮かぶ。

 言葉で表すのが難しいのかヴィヴィオはえぇとえぇと、と慌てながら椅子からぴょんと降り立ち、見様見真似だがイクサが見せたアインハルトの構えを取って見せた。

 

「イクサさんがこうやると、イクサさんの姿と薄いアインハルトさんの姿が重なって見えたんです」

「……」

 

 まだ全然わからないが必死に伝えようとしてくれてるヴィヴィオに黙って説明を受けるアインハルト。

 

「そ、それで、イクサさんの動きがアインハルトさんそっくりだったんです!」

「は、はぁ…?」

「あうぅ〜」

 

 困り助けを求める様に周りを見渡せば、ぽんと頭の上に手を乗せられる。ヴィヴィオが顔を向けばノーヴェがヴィヴィオの頭を撫でていた。

 ノーヴェがしょうがねぇなとヴィヴィオの代わりに説明した。

 

「アインハルト、『象形拳』って知ってるか?」

「い、いえ」

「簡単に言えば、何か動物を真似た拳法って所だな」

「動物から?」

「テレビとかで見た事ないか?例えば……蟷螂拳!とか」

「……す、すみません」

 

 手で鎌の様にしてカマキリの様なポーズをするノーヴェ、だかテレビをあまり見ないアインハルトには伝わらなかった。

 気恥ずかしかったのかノーヴェは頬を赤めつつ言葉を続ける。

 

「ま、まぁ、要するにだな。アイツはお前と戦った時の経験からお前の動きを分析し完璧に模倣して見せたって事だ」

「私の覇王流を?」

「正確にはアインハルトの動きだな」

「私を?」

「おう。アイツが真似たのは覇王流という武術じゃなく、アインハルトという格闘家の動きを真似た、そしてその完成度の高さからアイツにお前の幻が重なって見えたって訳だ。ありゃあスゲェぞ、動きだけでなく考え方までも再現してるぜ。名付けるならアインハルト拳、なんてな」

「……」

 

 アインハルトは自身の手を見る。自分を真似た技法、実際に見た訳じゃないからなんとも言えないが凄まじく高度な技術であるのは間違いない。それも自身を真似たのだ。

 

「その、わ、わたし……アインハルト拳を使ったイクサさんと組み手する事で私の覇王流と経験を積んだって事ですね?」

「は、はい」

 

 恥ずかしそうに『アインハルト拳』と言うアインハルトの姿にイクサ以外の全員が萌える。

 アレはキュンと来たわね。byティアナ・ランスター

 

「わかりました」

 

 噛み締める様にアインハルトは言い、視線をイクサへ向ける。相変わらず此方の方を見向く気の無いイクサがアインハルトの瞳に映った。

 

 

 

 

 ヴィヴィオとアインハルトが仲良くなり万事解決、一件落着!

と、なればよかったのだが。

 

「……」

「……コソコソ」

「……(チラ)」

「…!(サッ)」

「……ハァ」

 

 帰り道を歩くイクサ。その背後の電柱に、

 

(なんで付いて来んだよ)

(何故私は隠れているのでしょう?)

 

 アインハルトが隠れていた。(バレバレです)

 

「……」

「……!コソコソ」

 

 イクサが歩みを進めればアインハルトは電柱から姿を出して後を追う。

 

「……」

「……! ……!?(サッ)」

 

 イクサが立ち止まればアインハルトは隠れられる場所を探して其処に隠れる。

 別にアインハルトに疚しい目的がある訳ではない。だが、不機嫌な様子のイクサに話し掛け辛く、何より彼を怒らせたのはアインハルトな為更に話し掛けるタイミングを逃しこうして後を付けているという訳である。決して彼女のコミュニケーション能力が低すぎてどう話し掛ければいいのかわからない訳ではない事をご理解いただきたい。

 

「…(このまま家まで付いて来るつもりか?)」

 

 イクサからすれば別に家まで付いて来る事自体は構わない、けれど時間帯が問題なのだ。

 もう日も暮れてきた夕方、空はオレンジ色に染まり良い子は家に帰る時間だ。そんな時間に家に中等部の少女を大学部の青年が連れ込めばご近所さんから疑いの目を向けられかねない。世間体を守る為にも是非家に辿り着くまでに話し掛けてほしい、もしくは帰って欲しいのだ。

 

「……」

「コソコソ」

「あら?」

 

 其処に第三者が現る!!

 

「どうかしたの?」

「!?」

 

 アインハルトの背後から話し掛ける人物有り、びくりと震えたから振り返ればブロンドヘアーの女性が優しげな瞳で自身を見つめていた。

 

「大丈夫? 道に迷ったの?」

「え、えっと、あの…その…」

「……?」

 

 チラチラと助けを求める様な視線が向けられる。

 おい、お前さっきまで隠れてたんじゃねぇのかよ。

 

「母さん」

「……。え? い、イクサさんのお母様?」

「あらイクサ、この子とお知り合いなの?」

「まぁ、うん。家で話すよ」

 

 

 

 

「それでは、ごゆっくり〜♪」

 

 お菓子とジュースの乗ったトレイを運んだイクサの母アルヴィナがにこやかな笑顔で去っていく。

 

「……」

「別に普通の部屋だぞ」

「す、すみません」

 

 異性の部屋に入った事がないのかキョロキョロと部屋中に視線を走らせていたアインハルトがイクサの言葉に恥ずかしそうに身を縮こまらせた。

 

「…そんな珍しいか?」

 

 イクサもアインハルトの様に自身の部屋を見渡す。ベッドがあり机があり本棚がありクローゼットがある。テレビやゲーム機などもあるが至って普通の部屋だとイクサは認識している。

 

「い、いえ。そのトレーニング器具とが無いな、と」

「いや、普通は無いだろ」

「あう」

 

 アインハルトが住むのはマンションの一室だが、そこは家というよりはジムと言ったほうが近い。ベッドがありテーブルがあるが、すぐ隣にはベンチプレスやサンドバックなどのトレーニング器具、更にはダンベルが転がっている。一方の壁は一面の鏡となっておりクローゼットはベッドの隣の壁に並んでいる。というよりはクローゼットの傍にベッドを寄せているのだろう。

 大凡一般的な部屋らしさは一方向の壁の隅に寄せられている。キッチンなどもあるにはあるが小部屋はキッチンにトイレや風呂場だけと、やっぱりジムに必要最低限の家の要素を足しただけにしか思えない

 

「それで?一体何の用なんだ。わざわざ後を付けて来て」

「……単刀直入に言います」

「…おう」

 

 真剣な表情で話して来るもんだからイクサも真剣に応える。

 

「見せて欲しい技があります」

「………技?」

「はい」

 

 トレイの上のジュースを手に取り一口、次に菓子を一つ口に入れて咀嚼、飲み込んで一息つくと。

 

「どんなだ?」

「は、はい。その───あ、アインハルト拳を」

「は?」

「え?」

 

 ついつい漏れた一言、アインハルトが何を言っているのかイクサにはさっぱり理解できない。

 

「アインハルト拳?」

「は、はい」

 

 聞き間違い、或いはアインハルトの言い間違いではないかと尋ねるとアインハルトは頷く。

 

「……なんだそれ?」

 

 暫し考え込むもやっぱりわからない。

 それもそうだ、『アインハルト拳』というのはノーヴェがその場で作った即席の名なのだから。実際にアインハルトにも「名付けるなら」と言っていた。

 アインハルトはあたふたしながらノーヴェから聞いた話をイクサに伝えた。最初こそ「何言ってんだこいつ」という表情を浮かべていたが次第に納得がいったのか心当たりのある反応を見せる。

 

「アレ、か」

「お、恐らくは」

「……まぁ、別にいいか」

 

 立ち上がるイクサ。アインハルトは姿勢を正して真剣にイクサを観察する。ヴィヴィオやノーヴェの話ではイクサに薄いアインハルトの虚像が重なって見えたと。

 イクサが切り替わるのを感じる、ゆっくり構えを取る。覇王流の構えを。次に雰囲気ががらりと変化したのを感じ取った。

 

「……っ」

 

 そして視えた。もう一人の自分(アインハルト)を。

 彼女達の虚言や誇張なんかではない、間違いなく真実だったと。

 

「───」

 

 言葉を失う。居る───間違いなく自分が其処に居る。

 鏡を見ている様だ───否、反射(うつ)しているだけの鏡なんかとは違い、明確な存在感が其処には在る。

 

 正にもう一人のアインハルト。

 それ以外に表せる言葉が無かった。

 

「満足したか?」

「ーー!?」

 

 ふっ、と虚像(アインハルト)が消失する。湯気が掻き消されるかの様に。そしてイクサが現れる。

 

「……はい」

「そうか」

 

 なんて事ない様にイクサが言う。あれだけの神域の御技を魅せておいて。数多の達人が到達できないだろう領域、仮に同じ事ができたであろうと、それは長い年月を掛けて極めた者のみだろう。そんな技を二十にも満たない彼は見せた。いや、魅せられた。

───確信した。この人こそが私の目指すべき目標だと。

 

「イクサさん」

「ん? なんだ、まだ何かあるのか?」

「はい。何度も頼む様で図々しいのは承知してますがお願いします」

 

 両手を床に付けて正座の態勢から頭を下げる。

 

「どうか私の、師になっていただきたく思います」

 

 それは所謂(いわゆる)土下座というモノだ。謝罪や頼み事の際に使う最大限の意思表示。自身の方が明確に格下だと証明しつつも念を込める。

 それだけアインハルトは本気だというのが伺える。

 

───

「どうか、どうかお願いしますっ」

 

 ここで二人の構図を第三の目線から観てみよう。

 中等部一年生の少女に土下座させてる大学部の青年。あら不思議、何も悪くないイクサが問答無用で悪者に見える。それも最低の。

 

「お、おい、それやめろって」

「お願いします、お願いします」

「話をしよう!だからそれやめろ」

 

 一向にやめる気配のアインハルト、押し切るつもりだ。了承してもらえるまで、この想いが伝わるまで誠心誠意を持って頭を下げ続けるつもりだ。

 だが、イクサ焦る。兎に角土下座だけでもやめさせようとして言葉を放つ。別にアインハルトの申し出を断ろうとしている訳ではないのだが。

 だがアインハルトからすればイクサの対応は拒絶の意を含んでのものだと勘違いし土下座を続ける。

 すれ違いからなる完全な悪循環の完成である

 

「やめろ!頼むからやめろ!!」

「やめません!お願いします!!」

 

 アインハルトがムキになり出した。ここでイクサももっと言葉を凝らせばいいのにを慌てててその発想に至らない。

 すると、ガチャリと扉が開きアルヴィナが顔を出す。

 

「イクサ?どうかし、た…の……」

「──」

「お願いしますお願いします」

 

 土下座する少女と(やめさせようと)手を伸ばす息子の図。そこから来る答えは、

 

「イクサ。貴方、何をしているの?」

「ひぃッ、母さん誤解だ! アインハルト! お前も土下座をやめろォ!」

「どう、か、お願い…ッします」

 

 最悪な事にアインハルトの声に泣いている様な声音へと変わり始めてきた。もう完全にイクサがアインハルトの弱味を握り、嫌がるアインハルトに無理矢理迫っている様にしか思えない。

 

「…イクサ…」

「ちょっ、まっ!?母さんストップ!!誤解だ誤解!」

「この…ッ」

 

───バカ息子ォーー!!?!?

───なんでだーーー!?!?

 

 とある親子の絶叫が住宅街に響き渡った。

 

 アインハルトは無事にイクサの弟子に成れました。




アインハルト宅ってあれマンション?マンション…だよね?
もしかしてあのでかいの全部アインハルトの家?

今SSではマンションって事にしておきます。

おまけ
「バカ息子ォー!」
「やめ、ヤメテェー!実の息子に包丁を振り翳すなぁー!」
「お願いします。お願いします」
「わかった!弟子にでも何でもしてやるから土下座をやめろ!」
「ホントですか!?」


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イクサ師匠の修行、目指せ気の操作!

チチ〜、今回の話ってのは書き直し版なのか?

前回の続き
アイン「では、早速修行を」
イクサ「時間を考えろ、バカ野郎」
アイン「(´・ω・`)」



 ヴィヴィオとアインハルトの模擬戦、そしてアインハルトの弟子入りの次の日。

 最後の授業を終えて大学院を出たイクサが向かったのは約束の場所である公園。その入り口に彼女───昨日弟子となったアインハルト・ストラトスは居た。

 制服姿で鞄を持ったままな事から学院が終わると直で来てずっと待っていたようだ。アインハルトの通う中等部と大学部は終わる時間が違うと事前に言ってあった筈なんだが、と後頭部を掻きながら歩く速度を上げる。

 

「……!」

 

 向こう(アインハルト)も如何やらイクサ到着に気が付いた様で此方に駆け寄ってくる。

 

「よろしくお願いします、イクサさん」

「おう、よろしく」

 

 礼儀正しく挨拶するアインハルトにイクサは挨拶を返す。

 

「では早速此処で?」

「それなんだが、結局の所お前は俺から何を教わりたいんだ?格闘技か?」

「いえ、その、技術もありますが私には覇王流が在りますので。私がイクサさんから教わりたいのは主にその強さの秘密です」

「強さの秘密?」

「はい」

「ふーん。まぁ、あれだ歩きながら話そう」

「あ、はい!」

 

 歩き出すイクサにアインハルトが続く。

 

「それで強さの秘密、だったな」

「はい。イクサさんの身体能力(フィジカル)面や瞬時に行われる判断力。それら全てを含めたイクサの強さを」

「うぅん。……」

 

 顎に手を当てて考え込むイクサ。アインハルトが不安そうな顔でイクサを見上げている。

 

「正直言って判断力は経験が全てだし、フィジカルについてはお前が覇王の身体資質を引き継いだのと同じで生まれつきだしな」

「……」

「あー、いや。アレなら教えられるか?」

「……! 是非ともお願いします!」

 

 まだ内容も聞いていないのに頼み込む姿にイクサは苦笑する。

 

「なら行き先は俺の家だな」

「イクサさんの家に?」

「ああ、今日は特訓というよりは座学に近いかもな」

「……なるほど」

 

 いまいち納得できていないの不満げな様子を見せるアインハルトの頭に手を乗せる。

 急な事で驚きイクサを見上げるが、イクサは優しい笑みをしながらアインハルトに言い聞かせる。

 

「安心しろ、修得する事が出来れば確実にお前の強さに繋がる技術だ」

「……!! はい!」

「いい返事だ」

 

 ニカッと笑うイクサ。

 その笑顔がアインハルトは忘れられなかった。

 

 

 

 

 

 所変わってイクサの部屋。

 昨日の事もありイクサの母に会う事に緊張があったが、意外な事に会ってみれば初めて会ったときの様に優しげな雰囲気を醸し出していた。

 昨日と同じくお菓子と飲み物だけ用意して離れるイクサの母の姿を見送ってからイクサが話す。

 

「お前にこれから教えるのは“気”と呼ばれる技術だ」

「キ? それはいったい?」

「わかりやすく言えば生物が持つ潜在的なエネルギーやパワー、的なものだな」

「……」

「まぁ、魔力とは異なる力と認識しておけばいい」

「わかりました」

「取り敢えず、一度感じてみるか。手を出せ」

「…? はい」

 

 イクサの言葉に従い右手を伸ばす、その手をガシッと掴む。

 

「な、何を?」

「集中してろ」

「……っ」

 

 異性に手を握られた事が初めてのアインハルトは恥ずかしさにモゾモゾと身じろぎしている。どうにも言った通りに集中してる様には見えない。

 

「……!」

 

 だが、それもすぐに止む。自身の手を握るイクサの手からナニカが流れてくるのがわかった。

 

「これ、は?」

「それが気だ」

「これが、気」

 

 不思議な感覚だった。魔力とは違うエネルギー。元からそうなのか、それともイクサがそうしているのか優しく、そして暖かい感覚がじわりじわりと広がる。

 

「……ん、ぁぁ…んん」

 

 心地の良い感覚だった。つい目蓋を閉じてこの心地良さに身を任せてしまう程に。

 だが、ぴたりとそれが止んだ。イクサが手を離したのだ。

 

「こんな感じだ。どうだ、大体わかった…か〜、…どうした?」

「……ぁ。い、いえ。なんでも、ないです」

 

 まさか名残惜しいだなんて言える訳無く俯い小さな声を出すのが精一杯のアインハルト。

 

「ま、いいけど。それで講義の続きだ」

 

 いつの間にか装着していた眼鏡を右手の人差し指でくいっと押し上げてから言葉を続ける。

 

「気ってのはイコール生命力だ。生命力の強さは肉体の強さにも繋がる。強いエネルギーが常に体を満たしている状態になるからな。魔法だってより魔力を多く込めた方が純粋に威力を増すだろ?」

「なるほど」

「気ってのは割と汎用性が高くてな。肉体の強化や純粋な破壊エネルギーに変換して放出したりバリアの様に展開して身を守ったりと攻守にも使えるし、応急処置や空を飛ぶ事にも使える。わざわざ魔法式を用意しない分魔法より手軽かもしれないな」

「……」

「ある程度自由に気を操作が出来る様になれば今度は外の気の感知も出来るようになる。見えない相手の位置を把握したり、相手の気の大きさから実力を判断したり」

「……」

「俺の強さに気が関わっているのは間違いないな」

「……!」

「どうだ? 興味湧いたろ?」

「はい!」

 

 それからイクサはアインハルトに気のコントロールを教えた。最初は勿論最も簡単で基礎中の基礎である放出。

 まずはイクサが手本を見せる、両掌を胸の前で向かい合わせ手と手の間に小さなアメ玉くらいの大きさの気の塊を形成する。暖かな光を放つ黄色の小球体。

 

「こんな感じだ。兎に角、真似してみろ」

「……はい」

 

 イクサと同じ様に両の掌を向かい合わせて集中するアインハルト。だが、イクサの様に小球体はなかなか出来上がらない。

 

「……んっ、んん」

(りき)むな、落ち着いて、ゆっくり、力を引き出す様に」

 

 イクサはそう簡単に出来る事では無いとわかっていながらも間違いを正したりとアドバイスする。気の感覚は自分で掴まなくてはならない、仮に此処で手助けして気の感覚を覚えてもそれはイクサありきの方法だ。そうなればアインハルト一人では気を扱うことができなくなってしまう。だからイクサは口で説明するだけ、コツ自体はアインハルトに自力で見つけてもらわないといけない。

 

「……(頑張れアインハルト)」

「……ふっ、くぅ」

 

 時が経つのを忘れてアインハルトは気の扱いの特訓を続けていたがアルヴィナが二人を夕食だと呼び掛けた事で一時中断となった。

 

「すみません。私の分も用意していただき」

「ふふ、気にしないで。大切なお客様ですもの。はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

 チキュウのニホンと呼ばれる国で主食として好まれているコメと呼ばれる食べ物を茶碗によそってもらい受け取るアインハルト。

 黙々と箸を進めるイクサの正面でアインハルトが箸の扱いに苦戦したり、息子の初めてのガールフレンドが幼すぎるのでは? とアルヴィナが茶化してアインハルトが口に含んでいたコメを吹き出してイクサの顔がコメまみれになりアインハルトが何度も謝罪しアルヴィナはイクサに制裁されたりといつもより騒がしい夕食だったとイクサは語る。

 

「…ぅ…ぅぅ…ぁ、ぅ」

 

 夕食後も続けて気の放出の特訓を行うが、ずっと集中していた精神的な疲労、そして夕食で腹が満たされた事で眠気が募りうつらうつらとしだす。かく、かく、と何度も落ちそうになるのを我慢するがやがて寝落ちしてしまう。

 

「……しょうがないか」

 

 座ったまま眠ってしまったアインハルトを抱き上げ自分のベッドに寝かせるとイクサは椅子に座り机にノートと教材を広げて勉強する。

 かりかり、とペンの走る音とアインハルトの規則正しい寝息のみがこの部屋を響いた。

 

 

 

 

 

 

「すみません。こんな時間まで」

「気にするな」

 

 夜の十一時を超えた時間、イクサとアインハルトは二人はアインハルトの住むマンションの前で話していた。

 数時間程眠っていたアインハルトは夜も遅いとイクサに起こされ、泊まっていかないか? とアルヴィナに聞かれるも明日も学院があるからと断り、ならばせめてイクサが送る事になった。アインハルトは最初こそ渋るもイクサとアルヴィナの二人に強引に押し切られてしまった。

 

「……」

 

 夜の暗闇に紛れて見難いがアインハルトの表情は暗い、今回気の放出が上手くいかなかった事を気にしているのだろう。

 

「暫くは気の操作の特訓に専念するぞ」

「……はい。わぷっ」

「あまり重く捉えすぎるな」

 

 俯き気味のアインハルトの頭に手を乗せて乱暴に撫でる。

 

「最初から上手く出来る奴なんかいない、俺だって最初は苦労したさ」

「そう、なんですか?」

「ああ。こればっかりは感覚の問題だからな。俺の方でも何か良い方法を考えておくよ」

「はい」

「よし、いい子だ。あ、今日はもう夜更かしせずにシャワーでも浴びて寝ろよ」

「わかり、ました」

 

 若干気恥ずかしそうなアインハルトを見て満足するとイクサはバイクに跨りヘルメットを手に取り被ろうとしてやめた。

 

「あ、そうだ」

「……?」

「なぁ、アインハルト」

「はい、なんでしょう?」

「こらからお前の事、『()()()』って呼んでもいいか? アインハルトって少し長いしな」

「え?…あ、はい。構いませんが」

「そっか、ありがとよ。それじゃあまたなアイン」

「──……はい、イクサさん」

 

 今度こそヘルメットを被り、バイクをエンジンを付けて帰っていった。

 アインハルトもマンションに入り自身の部屋に戻る。

 

───またなアイン。

 

「イクサさん」

 

 何故だかイクサに呼ばれた愛称と声がアインハルトの頭から離れなかった。



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気の操作と相談。

これより書き直し版を読みに出掛ける、後に続け!
<トウサン!


「で、できました!」

 

 特訓を始めてから二日後。アインハルトは漸く気の小球体を作れる様になった。

 

「三日で出来るようになったか。これは結構早いぞ」

「そう、なんですか?」

「ああ、俺はこれが出来るようになるまで二週間は掛かったからな」

「……!」

 

 アインハルトの顔に喜びが浮かぶ。イクサよりも早く修得した。その事実がアインハルトの自信に繋がる。

 

「それじゃあ次のステップに移る」

「もう、気の放出はいいのですか?」

「それについては寝る前に少し自主練すらぐらいで構わないさ、感覚を忘れない様にする程度で」

「わかりました」

 

 イクサの言葉に納得したアインハルトにイクサは次の指示を出す。

 

「次は…そうだな。気を巡らせてみろ」

「巡らせる…」

「ああ、イメージ的には断空なんかが丁度いいと思うぞ」

「断空がですか?」

「ああ、足先から練り上げた力を伝わせ拳足から打ち出す断空は気を巡らせる動きにかなり近い。断空ができるのなら簡単だろう」

「わかりました」

 

 アインハルトが目を瞑り集中する。すると右腕を薄い気の光が覆う。それがゆっくりとだが腕先から二の腕、二の腕から肩、肩から胸を通って左腕へ、今度は左腕から左脚へ、次に右脚、そして右腕に戻ってくる。それを繰り返し行い段々と速度が上がりだす。

 

「ん、もういいぞ。……アイン?」

「……!」

「お、おい、アインー? 聞こえてるかー? もういいって」

 

 イクサが呼び掛けるもアインハルトからの反応は無い。集中しているアインハルトにイクサの声が届いていない。

 まだまだ上昇する気の巡る速度、次第に気の流れが断空に近くなっていく。ギュル…ギュルギュル、という回転音と微弱ながら余波を放ち始める。

 

「アイン! ストップ!」

「……はぁー!」

「てい」

「あう!」

 

 言葉じゃ止まらないと判断したイクサのチョップがアインハルトの頭に下される。アインハルトの身体を巡る気は集中が途切れた事で霧散する。もう少し勢い付いていたら暴発したいかもしれない。

 そんな事など知らないアインハルトはイクサに何をするんだ、と抗議の目を向ける。

 

「部屋、見てみろ」

「…? なんです、…か」

 

 勝手に開いた本、床を転がるペン、乱れた服など荒れた部屋。

 

「加減しろアホ」

「す、すみません」

 

 申し訳なさそうにアインハルトが謝罪する。

 特訓は一時中断し二人で部屋の掃除を始める。

 

「部屋の中だとそろそろ限界だな」

 

 散らばる服を畳みながらイクサがぼそりと呟く。

 

「なら何処かの練習場とかでしますか?」

「……うぅん、俺達のやってる事は結構特殊だからな。ま、それについてはこちらで考えておくから任せておけ。一先ず今日は部屋の中で出来る事をしよう」

「わかりました」

 

 

 

 

 

 その日はいつもより早く切り上げ、いつも通りバイクでアインハルトのマンションまで送ると、いつもと違いこのまま帰るのではなく別の方向へバイクを走らせた。

 

 現在、場所はミッドチルダの南部湾岸道。目的地は知人の家族が務めるとある道場。

 

(……ん?アレは?)

 

 海沿いの道路をバイクで走っていれば、砂浜に知っている少女の姿が見えた。地面に突き立った的に向けて拳や蹴りを打ち込んでいるアインハルトと歳の近い容姿をした何処か加虐心をくすぐられる少女。

 

「……」

 

 むくむく、と湧き上がるこの感情。一言で表すなら『悪戯心(いじめたい)』。

 駐車スペースにバイクを止めてから降り、そして海岸へと階段を下りれば足の裏に砂浜の感触を感じる。一歩一歩足を進める度に崩れる砂に足を持ってかれる。今度アインハルトに砂浜を走らせてみるか、なんて今後の特訓候補を一つ増やし本題である少女にする悪戯の内容を考える。

 

「……ん?」

 

 ふと的から距離を置いた少女の感覚が研ぎ澄まされるを感じる。集中している。その姿にイクサの加虐心が働いた。

 小さく口端を吊り上げると少女の後方、数十メートル離れた地点から気を増大させて存在感を少女の背中にぶつける。

 

「!?」

 

 集中してた事も合わさりビクッと震え慌てて振り返れば、()()()()()。あれ、おかしいな?と少女が思った直後に足を払われる。

 

「ひゃ!?………? って、えええええ!?!?」

 

 足を払われ背後へ倒れ咄嗟に目を瞑るも、尻餅を付く感触は訪れない。

 代わりに妙な浮遊感と気持ち悪さがあった。恐る恐る目を開ければ自分の立っていた砂浜が遥か真下に、しかも自分は逆さの状態。

 

「あわわ、一体なに───びゃあ!?」

 

 目を開ければ砂浜より数百メートル上空に逆さま状態、理解が追い付く間もなく浮遊していた身が突如落下し始めた。

 

「ぴゃぁぁぁぁあ!?!?た、たす、助け」

 

 あっという間に近くなる地面。墜落すれば怪我じゃ済まないのは目に見えてわかる。少女に出来たのは迫る恐怖に対して目を瞑り身体を丸める事だけだった。

 

「よっと」

「あぶっ!」

 

 だが予想外に衝撃は軽かった。クッションでも顔に押し付けれる程度のそれ。未だ地面に足は付かないが背中に腕を回され抱き留められている感触。

 

「よ、『ミウラ』」

「……」

 

 すぐ上から名前を呼ぶ声が聞こえ見上げれば、黒髪黒眼のよく知る青年の顔が間近にあった。

 

「どうだ、驚いたろミウラ?」

「………………………………………………」

「ミウラ?」

 

 悪戯が成功した悦びから笑顔を見せる青年に少女は反応を示さず。疑問に思った青年がもう一度少女の名を呼べば、

 

「きゅう〜」

「み、ミウラー!?!?」

 

 目を回して気絶していた。

 

 

 

 

 

「それで慌ててミウラをおぶってやって来た訳か」

「ええ、まあ、そうなります」

 

 白い髪、褐色の肌、側頭部には青い犬耳の生えた偉丈夫。この人物こそが今回イクサが此処に来た目的の人物である『八神ザフィーラ』だ。

 ザフィーラは自宅である八神邸のソファーに愛弟子であるミウラ───『ミウラ・リナルディ』を寝かせると家族である。銀色の髪の女の子に扇がせイクサと対応した。

 そして事の一部始終をイクサから聞けば呆れたような視線をイクサに向ける。イクサも今回はやりすぎたと後悔しているのか反省した様子を見せる。

 

「う、うぅん……あれ?」

「あ、ミウラちゃんが目を覚ましたですよー!」

 

 銀の髪の女の子──名前を『八神リィンフォース・ツヴァイ』と云う──がミウラが目覚めた事に気付くと大きな声で手を振りながらイクサとザフィーラに伝える。

 

「大丈夫かミウラ」

「ごめんなミウラ」

 

 ミウラが目覚めれば男二人はミウラに近寄り其々別の言葉を投げ掛ける。

 

「え?あ、はい。……大丈夫、です?それとイクサさん。えっと、何が、ですか?」

 

 自身の師であるザフィーラから心配されるが何を心配されているの理解が及ばず、兎に角肉体的に問題は無いので疑問形ながらも大丈夫と答える。

 続いてイクサからの謝罪。こちらも理解が及ばず、オマケに心当たりまでない為ミウラは何を謝っているのか聞き返した。

 

 イクサは砂浜で練習中のミウラに悪戯を仕掛け、あまりに苛烈だった所為でミウラが気を失ってしまった事を正直に打ち明ける。

 

「え?あれ、イクサさんがやったんですか!?」

「お、おう。やりすぎたと思ってる。わるい」

「ほんとうですよぉ〜!すっごくびっくりしたんですからねー!!」

「す、すまん。本当に悪かったと思ってる」

「むー!むー!」

 

 悪戯の内容を思い出し涙目になるミウラにイクサもたじたじになる。

 そんな様子にザフィーラは嘆息し、リィンはやれやれと言いたげな仕草をする。

 

「今度埋め合わせするから許してくれ、頼む!」

「埋め合わせ、ですか?」

「ああ、何でもいいぞ」

「!!…何でも、ですか?」

「ああ、勿論!」

 

 ザフィーラが目を細める。女子相手に「何でもする」と言ったイクサのうかつな行動にほんの少しだけ哀れんだ。

 

「何でも、何でも、何でも」

「ミウラ?どうした?」

「何でも……えへへ」

「み、ミウラ?」

「許します!」

「……へ?」

「許しました、ボク! その代わり、今の約束忘れないでくださいね!」

「お、おう。勿論」

「やった!」

 

 先までと一転して嬉しそうにはにかむミウラ。今もえへへ、と笑いながら頬に両手を当てて御機嫌だ。

 

「……?……???」

「…イクサ、今日は何の用だ?()()()()()()主に用か?」

「あ、いえ。今日は違います」

 

 何が何だかよく理解できていないイクサにザフィーラが本題を尋ねる。

「いつもの」とはイクサがやっているアルバイトの事で、定期的に八神邸にやって来てはイクサが毎回この家の家主である『八神はやて』からアルバイトの依頼を受けている。偶に同じ八神家の一員である『八神シグナム』や『八神ヴィータ』を交えて話し合いを行っており、内容自体は知っているが直接的に関わった事の無いザフィーラはまたイクサのアルバイトの事でやって来たものとばなり思っていたがイクサは別に用件があると言う。

 

「今日はザフィーラさんに少し相談があって来ました」

「俺に相談、だと?」

「はい」

「…ふむ、なんだ?」

「実は、つい先日弟子を取りまして」

「なに?」

「え?」

「……?」

 

 イクサの言葉にザフィーラだけでなくご機嫌な様子ではにかんでいたミウラまでもが反応した。

 イクサはザフィーラとミウラの反応に「変な事でも言ったか」と疑問に持ちながら二人の反応を見る。

 そしてリィンは未だにやれやれ、と言いたそうに様子で肩を竦めている。

 

「やれやれですー」

 

 というか言った。




遂に出てきたミウラたん。
アインハルトに並ぶ推しキャラです。

作者「フフ、カワイイなぁ…ジュルリ」
たぬき「気持ち悪りぃ、いややアンタ」
作者「(´・ω・`)ションボリーデス」


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相談と模擬戦!?崩れ落ちる夜天の主

これも、書き直し版のようだな。
<…ハイ



「お前が、弟子を?」

「ええ、はい。そうです」

「イクサさん!そ、そのお弟子さんって男の人ですよね!?」

「ん?いや、お前と同じくらいの女の子だが」

「………」

「ミウラ?」

 

 硬直するミウラを無視してザフィーラが話し出す。

 

「それで相談だったな。何が聞きたい?」

「え?ミウラはこのまま放置ですか、固まってますよ」

「いつもの事だ、気にするな」

「そ、そうですか」

「それで相談についてなんだが」

「あ、はい」

 

 ゴホンと咳払いを挟んでからイクサは話す。

 

「先も言いましたがつい先日弟子を取ったんですよ」

「うむ。それはあれか、お前の記録を知ってか?」

「ああ、いや。それはまだ知らないと思いますよ」

「……お前は、本当にその辺を隠すのが上手いな」

「まあ、バレた所でいい事なんて余りありませんし」

 

 イクサのインターミドル世界本戦準優勝という実績を知っているザフィーラからすればイクサの巧妙な情報の隠し方は称賛できるものだと思う。世界的に注目される存在である筈のイクサが特に顔バレを気にせずに外出なり生活できるのはイクサの印象の変化などの努力あってこそだ。

 実際は普段の生活時と違いインターミドル出場時は気を少しばかり解放する事で存在感マシマシにしてたからだが。だから初対面、或いは名前も知らない人物からは外見は似てる人として認識されているだけだ。

 

「話を戻しますよ、弟子を取ったのはいいんですが正直何をどういう風に教えていいのかわからないんですよ」

「……なるほどな」

 

 イクサの相談の内容がわかり納得するザフィーラ。今回、用がある人物が自分なのも理解した。

 自分はストライクアーツ、それも自身や仲間達によって改良された半オリジナルの八神家流の道場で師範代を務め、多くの門下生に格闘技を教えている。このミウラも八神家道場の門下生の一人だ。

 初めて弟子を取ったイクサにとって自分は格好の相談相手なのは間違いないだろう、そう納得したザフィーラは主人であるはやてからも頼りにされているイクサの相談にのってやる事にした。

 

 

 

 かちんこちんなミウラを置いて、ザフィーラの助言を一言一句溢さずメモ帳にメモしていくイクサ。暫くそうして時間を過ごしていると、

 

「ただいまー。あれ、お客さん来てんの?」

 

 玄関の方から女性の陽気な声と複数の人物が入ってくる気配が届く。

 

「あ、イクサやん!いらっしゃい」

「お邪魔しています、八神さん方」

 

 この家の家主であり少し変わった話し方をする女性、八神はやて。そしてその後に続く三人。

 

 ボン!キュッ!ボン!その破壊力まさにセクシーダイナマイト、剣を握らしゃ戦闘狂。主の敵には「首を置いてけ」、薩摩産まれのドリフターもニッコリ。赤いポニテの美女、八神シグナム。

 柔らかな雰囲気、そして雰囲気通りの優しいお姉さん、治療魔法に秀でている癖に作る料理はまさかの最終兵器暗黒物質(メシマズダークマター)。八神シャマル。

 戦闘時になれば赤いゴスロリ鉄槌振るって粉砕玉砕、けれどまさかの永久幼女(エターナルロリ)。比較的今SSの原作であるvividには出番の多い八神ヴィータ。

 

 やっぱり魔法少女物はロリが主役なんですよ!!

 

「「「………」」」

「ん?どないしたん皆?」

「いえ、何か馬鹿にされた気がしまして。な?」

「「うん/はい」」

「……?まあ、ええか。それで今日はどないしたん、まだこっちから連絡してへん筈やけど」

「いえ、今日はザフィーラさんに用件がありまして」

「ザフィーラに?ザフィーラ、一体どうしたん?」

「どうやらイクサが弟子を取ったようです」

「へぇー。どんな子なん、その弟子って」

 

 イクサがはやてに弟子であるアインハルトの事を教えた。アインハルトが覇王イングヴァルドの子孫で先祖返りである事、クラウス・イングヴァルドの記憶を部分的に引き継いでいる事、更につい最近管理局で問題になっていた通り魔事件の犯人である事も流れから話してしまった。

 

「大丈夫なん?怪我とかしてへん?」

「俺の実力は知ってますよね?今更聞きますかそれ」

「知ってても心配するもんなんやで。仕事依頼する時もいつもめちゃくちゃ心配してるんやで」

「そんなもんですか。まぁ、平気ですよ。軽くいなしてやりましたよ」

「……っ」

「……む」

「どないしたんシグナム?」

「……いえ、何でもありません主はやて」

「……」

 

 一瞬ぴくりと反応したシグナムにはやてが問い掛けるがシグナムは何でもないと言う。

 けれどイクサには伝わった。シグナムは今、イクサに興味を持った。そして戦意を向けた。

 そしてうかつな事にイクサはシグナムの戦意に反応してしまった。これによりシグナムの興味は更に加速する。

 ここから導き出される答えはわかりきっている。イクサの頭脳は今から速攻帰る事が最善の策だと至った。

 

「それじゃあザフィーラさんから助言もいただいたので(面倒な事にならないうちに)今日は帰る事にします」

「ちょっと待て」

「……はい。何でございましょうシグナムさん?」

 

 内心で「くそっ!捕まった!!」なんて考えながら用件を聞くイクサ。

 

「今の話が本当ならお前は覇王流を継いだ覇王の子孫に勝ったんだな?」

「……まだ完全に修得したという訳ではありませんが一応」

「ふむ、前々から聞いて気になっていたんだ」

「何を…でございましょう?」

「お前がどれ程に強いのか」

「ジグナム?」

 

 急に立ち上がるシグナムに家族達は困惑した目を向ける。だがシグナムはそんな周りの目などに気付かずイクサに近付くと言う。

 

「イクサ、私と戦え」

「───丁重にお断りします」

 

 即答だった。驚く程に早い返しの言葉だった。

 それに一番驚いて見せたのはシグナムだった。

 

「……何故だ?」

「当たり前では?」

「相手の実力が気にならないのか?」

「いいえ、まったく」

「私はなる」

「聞いてないんですが」

 

 助けを求める様にはやて達に視線を向ければ其々が別々の反応を見せる。たが、皆共通している事は「また出ちゃったかー」といった反応をしている事だ。

 ザフィーラ、シャマル、ヴィータ、リィンが哀れみを込めた視線をイクサに送り。唯一はやてだけが両手を合わせてお願いする様に小さく頭を下げている。「付き合ってあげて」そう思っているのだろう。

 

「……」

「「「「……」」」」

「……」

「……ふん!」

 

 シグナムを除く現在居る八神家のメンバーから視線を外しシグナムを見れば。「さあ行こう!早くやろう!」と隠す気の無い()る気が感じられる。

 イクサは内心でため息を一つ溢すと。

 

「わかりました、受けますよその話」

「そうか、なら早く行こうではないか。場所はいつも修練に使っている砂浜でいいな」

「わかりまし…ってもういないし」

 

 イクサの返事を聞くよりも先に家を出て行ったシグナム。

 

「ははは、堪忍なイクサ」

「次の仕事(アルバイト)、報酬いつもより期待してますよ」

「ぐっ」

 

 イクサのアルバイトははやてのポケットマネーから出ている為はやてが胸を押さえる。しかもイクサのアルバイトは大小違いはあるものも危険がある仕事な事もありそれなりに高額。それを更にアップするとなるとはやてのお財布事情に大損害になるのは確定事項。

 

「ぐ、ぐぬぬ。そ、そこをなんとか…」

「じゃあ何か代わりの対価あります?」

「………お姉さんが一日恋人になってあげるで」

「却下で」

「なんでや!?」

 

 イクサとはやてが漫才を繰り広げながらも残りのメンバーが八神邸を出る。

 

「………はっ!あれ?みなさんは何処へ?」

 

 漸く復活したミウラを残して。

 

 

 

 

 目的地の砂浜に着く。先程もミウラが自主練をしていた場所で戦闘装束である騎士甲冑を身に付け愛機である剣型のデバイス『レヴァンティン』を握るシグナムが待ち構えていた。

 シグナムの姿にヴィータが「ガチじゃねぇか」と呟いた。他の皆もそれぞれ違いはあるが同じ事を心の中で言った。

 

「……」

「……!」

 

 イクサがジト目をはやてに向ければはやてはプイッと顔を逸らした。

 心無しかはやての顔にはダラダラと汗が流れている気がする。

 

「次の給料、期待してます」

「くっ」

 

 イクサが残していった言葉にはやてが膝から崩れ落ちてOrzの体勢となる。

 

「ルールは魔法無しの完全接近戦のみで制限時間は5ふ……10分。一回勝負でいいですね」

「……まあ、いいだろう」

「……」

 

 制限時間を5分と言い掛けたところでギロリと睨まれた為に10分に延ばしたというのに渋々認めたといった様子のシグナムに、“まだ文句があるのか”、なんて目を向ける。

 そんなイクサの視線など知らずジグナムが自身のデバイスであり、武器でもある愛剣(レヴァンティン)を構える。

 

「ザフィーラさん合図頼めますか?」

「…む。わかった」

 

 イクサに頼まれ了承したザフィーラが近寄ってイクサとジグナムの間に入る。

 

「それでは二人共、準備はいいな?」

「ああ」

「いつでも」

「───開始ッ!」

 

 ザフィーラが単語を言い終えると同時にシグナムとイクサが飛び出す。シグナムは剣を振り被り、イクサは拳を引き絞る。

 

「はああ!!」

「オラァ!!」

 

 解き放たれた両者の剣/拳がぶつかり火花を散らした。




書き直しによる設定変化点
・イクサとはやての関係
・イクサがアルバイトをしている。


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対決!この世(ミッド)で一番(胸が)凄い奴!?

全宇宙の中でもっとも環境の整った書き直し版でございます。
<ウソデス‼︎
シュワット!?





 奏でられる金打音。振るわれる鋼の刃を真っ正面から鉄拳で迎え打ち、巧みに動かした腕の側面を滑らせてから払い弾く。

 

「…ほう?」

「はっ!」

 

 いくら非殺傷設定だとしても真剣の刃面に拳をぶつける胆力、拳から腕へと刀身を滑らせる技術力、そんな作戦を一瞬で決断し決行する思考力と行動力。シグナムは自身の愛剣(レヴァンティン)が弾かれながらも感心した様な声を発し、自身に迫るイクサの右拳を冷静に躱して距離を取る。

 

「…なかなかやるな」

 

 強い事は知っていた。【インターミドル世界戦準優勝】という実績があり、主からの依頼もこなしている。興味があった、ずっと手合わせしたいと思っていた。

 

───そして今、叶った。

 

「……ふっ」

 

 シグナムは口端が自然と吊り上がる。一合、互いの武力をたった一合交えただけでイクサを識った。イクサの実力を。

 

───否!!

 イクサの実力の底知れなさを!?

 

 愛()レヴァンティンの柄を両の手で改めて握り直し、正眼で構えるシグナム。

 

───ヴォルケンリッターが烈火の将、主はやてが剣の騎士。

 

 嘗て戦場に生きた英傑の情報から構築されたプログラム体(そんざい)であるシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの四人の守護騎士ヴォルケンリッター、その将である彼女が目の前の強者に敬意を込め改めて名乗りを行う。口から放つのではなく、念話に込めるのでもなく、唯己の心の中でのみ自身の本性を告げた。

 

───シグナム、押して参るッ!!

 

「づっ!!」

「!!」

 

 レヴァンティンを上段へと振り上げ、一気に距離を詰める。移動するのは剣の間合い。踏み込みと同時に振り下ろされる一刀。魔法の使用や非殺傷設定など限定された条件下で繰り出される手加減無しの一振り。防御を許さない肉体ではなく意識を断ち切る剣撃。

 

「ーーっ!」

 

 当然躱される。防御を出来ないのなら後は回避しか選択肢は無い。

 右半身を後ろへ捻り胸の前を刃が通り過ぎてから拳を握り締めた右腕を引き絞る。そして放たれる直前。

 

「甘い!!」

「!?」

 

 躱されて地面に接触するギリギリの位置で刃面を上下逆さに回し切り上げる。完全に終わったと思った一撃から繰り出される二撃目。昇り迫る刃を前に右拳による攻撃を中断(キャンセル)して回避に移る。

過ぎる刃、舞う髪先。直後にバク転を一度、二度、三度と繰り返し距離を取って両方の足で砂浜を踏み締める。

 

「……っ」

 

 右頬を左手の甲で拭うイクサ。左手の下に隠された箇所には非殺傷設定故に裂傷には至っていないがはっきり斬撃痕が刻まれていた。

 

(……ああ、(まず)い)

 

 つー、と汗が一滴額から顎へと流れ、最後に落ちる。

 

(ホントに、ああ…くそ)

 

 手首で隠された口元。

 そこにはうっすらとだが、

 

「───(たの)しく、なってきた」

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 それは八神はやての口から自然と溢れた言葉。

 

「え?強ない?」

 

 第二ラウンドを開始したイクサとシグナムの戦いを尻目に家族達に目を向ければ、それぞれが別の反応を見せる。

 

「……ふむ」

「まったくもう」

 

 鋼の守護獣ザフィーラはイクサの動きに感嘆し、癒しの騎士シャマルは困った様な笑顔を見せる。

 そして鉄槌の騎士ヴィータは、

 

「なぁ」

「……どないしたん?」

「シグナムの奴、マジになってないか?」

『え?』

 

 ヴィータの言葉に皆が一斉にシグナムへ目を向ける。

 鋭き剣閃、的確な立ち回り、何よりシグナムの目。主や仲間を守護するザフィーラや傷付いた仲間を癒すシャマル達後衛と違いシグナムと共に前線へ出続けたヴィータだからこそいち早くシグナムの変化に気付く事が出来た。

 

「…ッ!ははっ!!」

「オオォッ!」

 

 イクサの拳打を首を傾けて避けるシグナム。続くイクサの猛攻を前に笑いながら剣を振るう。

 

「もう止めた方がいいじゃねぇか?」

「……ザフィーラ」

「はっ、主はやて」

 

 ヴィータの提案を聞いたはやては暫し考えてから自身の守護獣の名を呼ぶ。

 

「いざとなったら、頼むで?」

「御意」

「………」

 

 もう少しばかり様子見を続ける判断を下した主にヴォルケンリッターは従う。

 

「……」

 

 はやては先程までの陽気な雰囲気を捨てて歴戦の勇士の様な面構えに変わっていた。

 

 

 

 

 

「ふっ!!」

「……ッッ」

 

 当たらない。条件下とはいえ全力での剣技をイクサは見切り始めている。

 そもそも初撃の剣と拳の激突は兎も角、その次からの二連斬りを擦り傷程度で抑えられた事事態が彼女にとって予想外と言えた。

 自分は歴戦を乗り越えた女英傑の復元体でプログラムで編まれた肉体の為、データ以上の事は出来ない。だがしっかりとデータが残っている以上その技が錆び付く事もあり得ない。

 

「はあぁ!!」

「…っ!」

 

なら何故こうも自身の剣を躱され続けるのか?

 

 理由はすぐにわかった。

───(イクサ)は、()()()

 

 眠っていた才能が───否、鈍っていた才能が今、戦乱を駆けた女英傑の戦意によって研ぎ磨かれている。

 

「オオッ!」

「くぅっ、はあっ!」

 

 イクサの鋭い飛び蹴りをシグナムは前方に倒れて躱し、左腕で自身を支えて後方に剣を横薙ぎに振るう。

 目前に迫る刃にイクサは地面を殴り付け、その反動で右に跳んでシグナムの剣を避ける。勢い余って背中で砂浜を10メートル近く抉るがぐるりと後転、腕の力で飛び上がり着地する。

 

「ッッはあああああっ!!」

「っっオオオオォォッ!!」

 

 互いに同時に駆ける。自身の武器に渾身の力を込めて今、解き放つ。

 

「そこまで!」

「!?」

「づッ!」

 

 制止の声に反応してピタリと両者の渾身の一撃が───止まる。

 シグナムの剣がイクサの首まで僅か数センチの所で、イクサの拳がシグナムの頭部のすぐ真横で停止していた。

 二人は声の主であるザフィーラの方へ目を向ける。二人の視線を一身に受けたザフィーラは腕を組んで何処か責めている様な、呆れている様な目で返してくる。

 

「二人共、熱くなり過ぎだ」

「「……」」

 

 ザフィーラのセリフに二人は自身の行動を振り返る。次の反応は二人とも別々のものだった。

 

「……ふむ、確かに少し熱くなっていたな」

「……はぁ」

 

 ザフィーラの言葉に納得した様子のシグナムが愛剣を待機状態へ戻し、姿も戦闘衣でもある騎士甲冑から私服へと変化する。

 対してイクサは、

 

「……っ」

 

 シグナムや八神家の人達に背を向けると、握り締めた自身の拳をジッと見つめ、表情を歪ませる。

 

(くそッ!なんてザマだ!?)

 

 内心で自身に悪態をつき、掌の皮を爪が突き破る程強く握り締めた。ぽたぽたと血が砂浜に数滴落ち、小さな痛みを確かに感じる。まるで自身を戒める様に。

 隠し通すと決めた戦闘衝動、抑えてみせると決意した闘争欲求、否定こそしないが肯定もしなかった───自身の半身と言える『サイヤ人としての側面』が表に出ていた。

 この魔法世界(ミッドチルダ)ではこの『サイヤ人としての側面』が不適合なのは百も承知。管理局にとってサイヤ人とは最高ランク危険存在と認識されている。

 

───もしもサイヤ人だとバレれば?

───もしも管理局に狙わたら?

 

 それはこのミッドチルダそのものを敵に回すのと同義。イクサ一人なら問題無い、寧ろ返り討ちにする自信がある。

 

 だが、

 

(だが、もし、───母さんが狙われたら?)

 

 それが、何よりも怖い。

 

───きっと彼女ならイクサを助ける為なら一人犠牲となるだろう。

───きっとイクサが捕われれば彼女は一人で管理局に挑むだろう。

───きっと自身がイクサにとって重荷になるとわかれば自ら命を断つだろう。

 

 彼女は家族の為なら平気で死を選べる女性(ひと)だから。

 

 父が()()()()となった時、誰よりも多く長く涙を流し続けた母。愛する夫を失った悲しみ───()()()()、何も出来なかった悔しさから涙を流した母の姿がイクサの脳裏に刻まれ、今この瞬間浮かび上がる。

 

(二度と…ッ!二度とあんな思いをさせるもんか!)

 

 だから隠す、墓場まで隠し通してみせる。

 

「……」

 

 決意を新たにするイクサの後ろ姿をはやてだけが見つめていた。そしてイクサに話し掛けようと一歩踏み出そうとした時。

 

「み、みなさーーん!!ようやく、みつけましたーー!!」

 

 少女の大きな声が全員の耳に届く。疲労と喜びの混じり合った声だ。

 

「はぁ…はぁ…」

「……ミウラ」

 

 声の主は桜色の髪の少女ミウラだった。ミウラはイクサ達のやってくると乱れた息を整えてから「ボク怒ってますよ!」といった様子で詰め寄る。

 

「もぉ〜!酷いですよボクを一人置いていくなんて〜!」

 

 ムーっと頬を膨らませるミウラをはやてとシャマルが宥めている。

 

「……」

 

 突然のミウラの登場に怒りも鎮まり幾分か冷静になったイクサはザフィーラの元へ歩み寄る。

 

「ザフィーラさん、今日の所は帰ろうと思います。助言の方、参考にさせてもらいます」

「……そうか」

「ありがとうございました」

 

 深く頭を下げる礼をした後、背を向けて歩き出すイクサの背中をザフィーラはじっと見つめていた。八神はやてと同じくザフィーラもイクサの変化を感じ取っていた。そして何か言葉を掛けようと思った。けれどザフィーラには何と声を掛ければいいのかわからなかった。結局、口から出たのは「そうか」なんていう愛想の無い一言のみ。

 ザフィーラは小さく自己嫌悪に陥りながらイクサの後ろ姿に目を向ける。

 

 

 

 

 イクサの後ろ姿に目を向ける者がもう一人いた。

 

「……」

 

───シグナムだ。

 イクサと戦った彼女はイクサがバイクを運転して見えなくなると、シグナムは自身の左頬に触れる。つい先程、イクサの拳が掠めた箇所である頬を。

 

「……」

 

 シグナムはIF(もしも)、を考える。

 もしもあの時、ザフィーラが止めなければ。倒れていたのは()()()()のだろう、と。

 シグナムの刃は彼の首に届いていなかった。それに比べてイクサの拳はシグナムの頭の横にあった。ズラしたのだ。

 

───つまり、イクサの拳は、あの時届いていた。

 

「ザフィーラが制止するより一瞬先に我に返っていたのか」

 

 つい、口端が釣り上がる。

 シグナムは先程終えたばかりだというのに再び戦いたい欲求に駆られた。彼の性質は善()()だ。彼となら主はやての為(騎士として)でなく、誰かの為(管理局員として)でもなく、余計なしがらみなど無く一人の戦士(ジグナム)として全力で戦う事が出来るだろう。

 

「嗚呼、楽しみだ」

「シグナム?」

「…なんでもないさ、ヴィータ」

「……そっか」

 

 ヴィータがシグナムから離れる。何か思う所はあったのだろうが聞きはしなかった。聞いた所でしょうがないというもあったのだろうが、一番の理由はそれがシグナム個人の想いだと直感で理解したからだろう。

シグナムは気付いているであろうヴィータの行動に感謝しつつ、この想いだけは胸に秘める。主は勿論、他者を巻き込まない、果たされるかもわからない自分だけの想いなのだから。

 そしてシグナムは振り返る。イクサが居なくなっている事に今更気付いて項垂れるミウラにあはは、と一部を除いた者達が苦笑いを浮かべている家族の元に。




【女英傑】騎士シグナムの好感度がアップしました。
新たなサブイベントが解放されました。

半サイヤ人193「要らない」

ミウラちゃんてさ、ちょっといじめた後の反応が一番可愛いと思うんだ。


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黒の超越者

魔改造タグを追加しました。


 そこは荒野。ミッドチルダとは違う、第30管理世界。

 僅かな雑草と岩山ばかりの偽りの空間(結界魔法)。現実を真似て造られた現実とはズレた幻想の空間。まるで鏡の世界(ナカ)のよう。

 

 そこに二人の黒が在り。

 片方は黒髪黒眼、黒のインナーに赤と金の上着の戦闘衣の少年、イクサ。サイヤ人の血を引き細身で形成された肉体に宿す戦闘力は無双を語るに自負する程。邪魔なモノを削ぎ落とし短所を埋め長所を磨き続けた構えは美しさすら感じる、己が知る中で最たる強者に彼の真たる武技で迎える。

 そして対峙するは少女。艶のある長い黒髪を二つ対になるように結んだツインテールに漆黒の鉄腕を身に付けた蒼目の少女。ジークリンデ。古代ベルカに名を馳せ現代の今でも高い認知度を誇る闘争の一族、エレミヤの末裔。肘の上まで覆う黒鉄の防護武装『鉄腕』と、人間性の無い500年分のベルカの武人、その一族たる先祖達の戦いの経験と記憶。戦闘技術が創り上げた『あらゆる戦法をとれる』コンパクトで理想的な構え。その端整な顔を形成する一部である瞳が全力全開でいくと少年に語りかける。

 両者互いに戦闘衣(バリアジャケット)を身に纏い、向かい合う。

突如、両者の体から戦意を示す白い闘気(オーラ)を放出する。視認できる程に濃密で強力なチカラ。魔力とは異なる純粋な『(リキ)

 大気を震わせ波動を放つ白のオーラに髪を揺らし己が武技を構える。

 

「………」

「───」

 

 強くなり過ぎて並ぶ者を失った二人の超越者。互いの気が戦意と闘気を天井知らずに昇る。

 久しく味わえなかった強者(とも)との戦の高揚に抗うことなく身を委ね流れる血を滾らせる。

 

 向き合い見つめ合うこと数瞬、

 互いの笑みが開戦の合図

 

「ガイスト・クヴァール」

 

 捻ねられた上身を解放し、大振りの滅びの左鉤爪。触れるものを一切合切消し飛ばす破壊の御手。長き永き闘争の中で編み出された一族の技が対面する相手に向けて振るわれる。

 

「───」

 

 胸の前で両方の拳を向かい合わせ、気を解き放つ。目前に形成される直径1メートル程の気塊。そこから右腕を引けば気塊から五条の光の芳流が掌に集束され、腕を突き出す事で撃ち出される。

 

 一撃必殺と謳われる技で開幕を飾る。

 己の必殺は相手の必殺に相殺され、結界を突き抜け現実の大地を、大気を振動させるインパクトを発す。

 愚手(あいさつ)は終わりだ。容易く破られる大技の何が必殺か。ここからが真の闘争、戦いだ。

 

 仕掛けたのはどちらか、───少年(イクサ)だ。

 姿勢を低くして無意識の笑みを隠さず歯をむき出しにして駆ける。

 イクサの笑みに少女(ジーク)も微笑みで返し左右の手にバスケットボールサイズの魔力弾を形成、投擲。並の魔導師の砲撃魔法(バスター)を超える魔力弾をイクサは軽いフットワークで避ける。この程度ではイクサは止まらない。

 懐に潜り込みパンチを一発。容易くガードしたジークは衝撃を利して後退、距離を取る。

 クスッと笑い右手の人差し指を指揮棒(タクト)のように振るい魔力弾を形成。二十はくだらない数の黒い魔力弾がジークを周りを螺旋を描き旋回する。

 

「ゲヴェイア・クーゲル。───ファイア」

 

 ジークの従い魔力弾が飛来する。次から次へと魔力弾が放たれ、魔力弾が即座に補充されるイクサには出来ない魔力をふんだんに使った攻撃。羨ましい限りである、なんて思いながらイクサはジークを中心に周る。魔力弾の配置、発射の順番、補充のタイミングに速度、それらを覚え弾幕の中を潜り回避しながらチャンスを待つ。

 

「っ!」

 

 一定数撃ち込んで補充に入る瞬間イクサが駆ける。咄嗟にジークがイクサを近付けさせない為に一斉発射、全ての魔力弾を放つ。

並の軍なら簡単に一掃出来る面制圧。だが相手は並でもなければ軍でもない。超級の個である。

 体の表面に触れる物は無視、肉体にクリーンヒットする物だけ素手で弾きジークの懐に潜る。腕を伸ばせば打てる、足を上げれば蹴れる、完全な格闘の距離に居る、そしてイクサは片足を軸に()わった。

 

「うそ!?」

 

 吃驚(びっくり)するジークの声が聞こえる。

 身を捻る回転が絶妙なタイミングで二つの魔力弾を躱す。目前のイクサを狙った魔力弾が躱されジークに迫る。姿勢を無理矢理変えてなんとか避ける。身を捻り向き直るイクサと目が合う。

 蹴りがジークのガードをかいくぐりヒットする。腹に直撃した蹴りに吹っ飛ばされ地面を転がる。ばっ、と左右の腕を伸ばして飛び上がり追撃がくるだろうと構える

───いない。目前広がる荒野に人影は無い。

 

「っっ!」

 

 地を馳せる影を視た、それだけで十分。

必要な情報を集め闘争(エレミヤ)の経験に従い即座に後退するジークに隕石が墜ちる。

 ギリギリで回避出来たが衝撃は殺せず吹き飛んで、目前で笑うイクサの攻撃を対処する。

 鉄腕で威力を遮りイクサの拳を(やわら)かに、だがしっかりと握り片方の腕もイクサに伸ばし関節技を決めようとする。が止める。

飛翔し迫るするイクサの片腕、大木を切り裂く刃のような手刀がジークの首を狙う。

 

「うわ!…っと」

 

 咄嗟に手を離しイクサを蹴って距離を取り片手で跳ねて対峙する。蹴られた衝撃で体が揺れ狙いがズレ、修正するのに一瞬有した為手刀はジークに当たることなく右の髪を数本巻き込んだだけだった。

 振り下ろした手刀の姿勢から自然体の立ち姿へ戻し距離を開いたジークを見つめる。

 

「……は、はは、ははは」

「……ぷっ、あははは」

 

 突然我慢出来なくなったようにに笑いだすイクサ。つられてジークも花のように笑う。耐えきれずに吹き出し我慢することなく笑い続ける二人の男女。

 二人は今、楽しくてしょうがないのだ。

 サイヤ人としての、エレミヤとしての、戦闘種族の本能が久々に出逢えた本気で戦える相手に歓喜して全力で打つことができる相手に感激している。

 

 両者にやける顔を隠す気もなく気を放出して構える。

 イクサは前かがみに構え。ジークはしっかり地を踏み受けの構え

 飛び出したイクサ。地面を砕き盛って一歩、白い炎の軌跡を残し近付き互いのオーラが交叉(まじ)る距離で拳を奔らせる。

 一撃目は小手試し、続くは左フック。迫る返し手を顔を傾け右回りの後回転蹴りからの左着蹴りを見舞う。

 地面を削り後退させたジークに向かう。迫るイクサに強く握った魔拳、だが手首を握られ無理矢理矛先を変えられる。そして頬へ向かう拳を受け止められ力比べに成る。能力的には劣るジークはすぐに根負け、腹を蹴り抜かれ岩山を三個貫く。追うイクサに気弾を発射。

 螺旋回転で避けて追撃しようとして背中に衝撃。さっき避けた気弾がUターンして戻ってきた。そこに頬へ強打、ジークの蹴りが突き刺さる。

 空中で身を捻り優雅に音も無く着地する。背後のジークの連打を避けて距離を取るがジークが攻める。イクサのガードをかいくぐり強烈なアッパー、見上げる形となり視界の端に映る右脚を腕でガード、同時に右足でジークの左足を払う。

 そして今度こそしっかりと距離を取る。

 

「いって」

 

 近付けさせない為に気功波を連発して牽制しつつ顎をさする。

 

「えぇい鬱陶しい! 諸共吹き飛ばすで!!」

 

 巧みな気功波になかなか接近することのできないジークが我慢出来ず特大のガイストて気功波もろとも消し去ろうとする。

 小さく舌打ちしてイクサは両腕を腰に添え気を溜める。青白い光が辺りを染めて放たれる。何もかも破壊する黒い魔手に強大な気功波(しつりょう)をぶつけて搔き消す。

 

「くぅ〜、さっすがイクサ!」

「お前もなかなかやるじゃないか」

「けどそろそろ終わりかなぁ。結界ももう持ちそうに無さそうやし」

「……確かにそうだな」

「じゃあ、最後にアレ…やろか?」

 

 返事を聞かずに気を高めるジークに溜息一つ吐いて、

 

 強く地面を踏み込み体に力を入れる。

───(ウチ)じゃ、イクサを本当の意味で本気を出させる事はできひん。

 

 高まる気はとどまることを知らず。

───イクサのほんまの本気を受け止められる奴は居ない。

 

 魔王や覇王も青褪めるようなパワー。

───やから(ウチ)が成る、絶対に!

 

 小さな人の身に惑星を砕く大力を宿す。

───でもな、イクサを()()()()()()()()()ことはぐらいはできる。

 

 

 

瞬間、黄金の閃光がぶつかり爆ぜた。

 

 

 

───やから(ウチ)を、独りにせんでください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

「……っ……っ……」

 

 太陽と大地、上下からチリチリと焼かれ汗を流すが動かない。

 今立てば高まった戦闘熱に吹かされ再開してしまうだろう。

 

「どう、やった?」

「マーベラス」

「なんや、それ」

 

 くすくすと笑うジークに釣られてイクサも笑う。

 

「そういえば」

「ん??どうした?」

「弟子、とったんやって?」

「…ああ、あいつの事か。弟子といっても気ぐらいしか教える事がないから手合わぐらいしてやる事ないんだが」

「……やっぱり」

 

 イクサは気付いた。

 アインの事を何故ジークが知っている?

 

「どんな子、なん?」

「いい奴だ、俺みないな奴の弟子なのに真面目にやってる」

「やっぱり、強くするのが目的?」

「間違っちゃいない。覇王の末裔なだけあって才能もあるし若い。育てれば光るだろうさ」

「覇王……の、末裔」

「………」

 

 さっきまでとは裏腹に気の沈んだジークの声。

 

「なあ、イクサ」

「…なんだ?」

(ウチ)は、もういらんの?」

「──」

 

 ああ、そうか。確かにこいつ(ジークリンダ・エレミヤ)には依存癖があったな。

 幼い頃、望まぬ記憶と技術そして常人を超える能力を背負った少女。自分の大切の物、友人の大切な物、オモチャ人形ペンダント机ベッド、壁床天井。砕かれ抉られ塵と成る。

 何も触らず何も持たず誰とも居れず、何も無かった少女。そんな彼女が初めて出会った壊れない人間。

 

『お前が破壊王か!?』

 

 それがイクサだった。

 目を輝かせながらとても少女に付けるアダ名じゃない名で呼んだ少年。

 

『……(ウチ)に近付かんといて』

『なあなあ!お前強いんだって!』

『………あぅ』

 

 人の話をろくに聞かない少年イクサに困惑する少女ジーク。

 

『おれと戦ってくれよ!』

『え、そんな』

『よぉし、いくぞー!』

『あわ、待って───え?』

 

 急な事だった。話を聞かずにパンチしてくる少年イクサにエレミヤの本能が反応した。子供がだすべき速度と威力じゃないパンチが迫り咄嗟に破壊の爪(ガイスト)を振るってしまった。

 だが少女が驚いたのはそこじゃない。

 

『───いってぇぇえ!?!?』

 

 一瞬で襤褸に成った服を着た少年が勢いよく転がりまわった。

 少年は自身を襲う魔の手に対し()()()()()を行なった。

 

 まず、気を波のようにばらまき威力を落とした。次に全身を全部の気を総動員させて覆り膜を張った。バリアーだ。

 そして申し訳程度のものだが衣服を簡易的な魔法で強化した。

 

 過剰かと思うかもしれないがそんな事は決して無い。

 何者でもないイクサ本人がこれだけ必要と、いやできる事ならもう少し欲しかったぐらいだと感じたのだ。

 仮に何もせずに受けていたのならイクサはこの世に居なかっただろう。

 

『───うそ』

『いちちちちち』

 

 ここから二人の関係は始まった。

 身に余る力を宿した二人が対等にぶつかる事のできる相手を見つけたのだ、二人は何度も話し遊び競い比べそして高めあった。少し歪な関係は彼らにとって普通の人達が言う友達と同義だった。

 互いに初めての友達、笑い怒り泣いて絆を固めた。

 そしてやがて完全に力のコントロールをできるようになり友達や知り合いが増え、様々な友人と色々な場所に遊びに出掛けた。

ジークリンデ・エレミヤにとってイクサは自分を変えてくれた人、幸せを連れてきてくれた人。最愛の人なのだ。

 

 

 

「なあ、どうなん?(ウチ)は、いらん?」

「………」

「お願いや。独りにしんといて。どんな事でもする。体やって差し出す。やから、」

 

 一緒に居てください。

 

「───アホか、お前は」

「………」

「お前は、モノじゃないだろう」

「え」

 

 ジークと目を合わせる。

 

お前(ジークリンデ)お前(ジーク)だ。あいつ(アインハルト)あいつ(アイン)だ。代わりなんていない、一緒にはしない」

「───」

「次、似たような事言ったらぶん殴るからな」

「うん。…うん!わかった!」

 

 溢れ出て止まらない涙を両腕で拭いながら笑う少女に何笑ってんだと顔を背け立ち上がる少年。

 

「ほらはやく泣きやめ。ヴィクターの所にいくぞ」

「うん、ごめん。すぐ、すぐに止めるから。───うん、止まった!」

「はぁ。じゃあ転移の魔法式入力するから魔力渡せ」

「ああぁ、イクサ」

「なんだ?はやくしろ」

 

「魔力無い!」

 

「は?」

「やから魔力無い!スッカラカンや!!」

 

 目尻の赤い満面の笑み。

 

「───何笑ってんだアホ」

 

 イクサも釣られて二人で笑った。




ジークリンデ・エレミヤ
『エレミヤの真髄』を既にコントロール済みの伝説の(スーパー)ミッド人。
戦闘力は大体7500ぐらい。
イクサがサイヤ人の血を引くことをしる唯一の人物で全力に近いイクサと戦える唯一の人間(ミッドチルダの人間で)。実は強さの理由はエレミヤの血だけじゃない。

回想シーン。
描写されてないがヴィクターも居るよ!

おまけ
実はジークは最初ヤンデレ枠だった。
そしてヴィクターはヤンデレ仲間(同士)

次の投稿は、果たしていつになるのでしょう(白目)


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イクサ参加、修行旅行へ。

壁| °)チラ
壁| ω-)ペコ
壁| ω°)<投稿です。


「丁重にお断りします」

 

 デバイスを通じてのビデオ通話。相手は“ツンデレコーチ”のノーヴェ・ナカジマ。

 

『な、なんでだよ?』

「なんでも何も」

 

──イクサ!合宿があるんだ!お前も来るよな!

 

「なんて急に言われて『はい、行きます』なんて言うと思いましたか?」

『そ、それは……、アインハルトも来るぞ』

「だから何ですか?」

『───…』

「要件は終わりですか?…なら失礼します。おやすみなさい」

 

 これが昨日の夜の通話だった。

───だったのだ。

 

「よう」

「行きましょうイクサさん!」

「」

 

 翌日。

 インターホンが鳴り扉を開けると───アインハルト、そしてノーヴェの二人が立っていた。

 イクサは絶句した。

 

「俺は断った筈ですが?」

「………そうだったか?」

「おい待て目を見て話せ」

 

 イクサに指摘されてノーヴェは顔を背ける。

 ノーヴェと違いアインハルトはジッとイクサを見据えて言う。

 

「行きましょうイクサさん」

「断る」

「行きましょうイクサさん」

「嫌だ」

「行きましょうイクサさん」

「話を聞け」

「行きましょうイクサさん」

「ノーヴェさん、どうにかしてください」

「いいぞもっと攻めろアインハルト」

「行きましょうイクサさん」

「まともなのは俺だけか……」

 

 

 

 

「…はぁ、一応聞くが何故?」

「今回の合宿には管理局の魔導師ランクAやそれ以上の方が来られると聞きました」

「…ふーん、それで?」

「きっと良い経験になる筈です」

「そうか」

「はい、だから一緒に」

「頑張れ。じゃあな」

「──っ!」

 

 扉が閉まる前に足を入れて阻止してそのまま扉を掴み無理矢理開けようと力を込める。

 気が付けばアインハルトは大人モードになって筋力強化の魔法を掛け、おまけにまだ未熟でつたないが“気”も込められている。

 

「諦めろアイン!俺は行かん!!」

「いいえ!私は諦めません!イクサさんと共に合宿に行くんです、ノーヴェさん!」

「任せろ」

「おい待て、きたないぞ!」

 

 声を上げて扉を引き合う三人。

 そして

 

「───何をしているの?」

 

 イクサの母が動きだした。

 

「か、母さん」

「騒がしいようだけど、どうかしたの?あら、アインハルトちゃんこんにちは」

「はい、失礼しています」

「お前」

 

 サラッとイクサの隣に立っているアインハルト。イクサが自分の母に意識が向いた瞬間を見逃さず玄関に入っていた。

 その後ろには、家にあと一歩で入れるってところで立ち、優しげな笑みを浮かべるノーヴェがいる。

 

「こんにちは。ご無沙汰しています」

「まあ!お久しぶりですノーヴェさん!どうぞどうぞ中へ」

「はい、失礼します」

「か、母さん」

「何しているのイクサ。せっかく二人が来てくれたのよ」

「……はぁー」

 

 イクサは左手で顔を隠しため息を吐いた。

 

 

 

「実はこの度、ウチの子らやその関係者達で集まって合宿を行う事になりまして」

「『ウチの子』っというとあの女の子達?」

「はい。それでアイツらとも仲の良いイクサも一緒にどうかと思いまして」

「まあ!いいじゃないイクサ行ってきなさいよ!」

「………は、はは、はは…は。わかったよ」

 

 イクサは知っている。己が母は優しくちょっと抜けていしたまに突飛な事をしたりするトコもあるが強い意思の持ち主だという事を。今回も拒否は出来ないしさせないだろう。伊達にサイヤ人の妻をしてない。

素直に仕度する為自室に向かうイクサにノーヴェはちょっとだけ意外そうな顔をする。対してアインハルトは満足そうに笑う。

こうして、イクサは抵抗虚しく合宿参加となった。

 

 

 

 

 

 着替えにタオルや歯ブラシなどの日用品に資料集にノートやペンなどの勉強道具も詰めたリュックを背負ってヴィヴィオの家。高町宅にノーヴェやアインハルトと共にやって来た。

 

 今回の旅行合宿の動向を認めてくれたヴィヴィオの二人の母、高町なのはとファイト・T・ハラオウン。

イクサはこの二人に挨拶していた。

 

「本日は急な事となりながらも参加を許可していただき有難うございます」

「え?前から来るって聞いてたんだけど?」

「───」ギロッ

「───」ブンッ

 

 睨むイクサに顔をそらすノーヴェ。

 無鉄砲なノーヴェの行動にイクサはノーヴェの警戒度を上げる決意をした。

 

「あ、あはは…」

 

なのははそんな二人の様子に苦笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

 その後軽い自己紹介を終えた後に車に乗り、次元港で待ち合わせしていた二人の女性。スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスターと合流、共に次元船で目的地の『カルナージ』へ向かった。

 

「エリオ・モンディアル、よろしくイクサ」

「私はキャロ・ル・ルシエ。そして飛龍のフリードだよ。よろしくね」

「イクサだ、よろしく」

 

 ヴィヴィオがアインハルトに紫色の髪の友達の少女、ルーテシア・アルピーノを紹介している間、イクサは薪を持って現れた二人と話していた。

 赤髪の長身少年、エリオ・モンディアル。ピンク色の髪の短身少女、キャロ・ル・ルシエ。そしてキャロの後頭部に隠れてイクサを伺う可愛らしいサイズの翼竜、フリード。

 

「あれ?どうしたのフリード?」

「これは、怯えてる?」

「…む?」

 

 キャロの後頭部からヒョコっと顔を出したと思えばまた引っ込める。

 そして時折威嚇するなどと、完全に警戒している。

 

「あれ〜?大丈夫だよフリード。ごめんね」

「いや、気にしなくてもいい」

「ほら、大人はトレーニングでしょ。子供達はどこに遊びに行く?」

「折角だしイクサくんも一緒にする?」

「……?いえ、自分は管理局員では無いので」

「じゃあ、一緒に川に行くか?水着も持ってきたんだろ?」

「まぁ、言われた通りに持ってはきましたけど」

「じゃあ、ノーヴェと一緒に子供達を観ていてくれるかな?」

「……わかりました」

 

 イクサはカバンからタオルと水着を取り出そうとして肩に手が乗る。

 乗せたのはなのはだった。

 

「子供達に、手を出したらダメだからね?」

 

 瞳は閉じている為わからないが少なくとも表に現れてる満面の笑顔の様に優しくは無いだろう。

 それに対してイクサは、

 

「無論、理解していますよ」

 

 さも当然だと微笑んで答える。

 

「それでは行ってきます」

「……うん、楽しんでおいで」

「はい、失礼します」

 

 水着とパーカーを持って着替え室に向かうイクサの背中をなのはは呆然と見つめていた。

 

「??…なのは?」

「凄いね、あの子」

「???」

 

 愛娘やその友人達にノーヴェやイクサが見えなくなってからフェイトと共に歩きだしたなのはは隣の親友にも聞こえない程の小さな声で呟いた。

 

「ちょっとだけブル、ってきちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

 海パンを履きパーカーを羽織ったイクサが川岸に来た時、子供達は皆既に遊んでいる。どうやら一人出遅れた様だった。

 

「…………」

 

 イクサは頭痛がし、眉間に右手を当てて俯いた。

 そして再度顔を上げる。視界には水着姿の少女達。

 リオ、コロナ、ルーテシアなんかは別に問題無い。幼げな少女らしい水着だ。

 

 だが、問題はヴィヴィオとアインハルトだ。

 ヴィヴィオはビキニ、アインハルトはバンドゥ。

 どちらも二人には年齢には早過ぎる。親は何を考えているのか、何とも思わないのか心配になった。

 

「お、やっと来たなイクサ」

「ええ、まあ、はい」

「ん?どうかしたのか」

「──あの二人の水着に疑問を持ちまして」

「ん?……ああ」

 

 イクサの視線の先を辿り全てを理解したノーヴェ。ノーヴェにはイクサの言いたい事が理解できた。

 

「まあ、貴女も中々大胆な物を着てるようですがね」

「………なっ!?」

 

 イクサの言う通り、パーカーを羽織ってはいるものもチャックを閉めず前を開けてるので中の水着が見えている。

 

「う、うるせぇ」

「??? 自分で着たのでしょう?」

「うぐっ」

 

 自分で用意して自分で着たのに何を恥ずかしがっているのか。女心がわかっているのかいないのかよくわからないと言われているイクサには理解できなかった。

 自分はガサツで女らしくない、だなんて言っているが実際はかなり乙女乙女しているノーヴェ。そんなノーヴェはなにも考えずに前々から選んでおいた水着を準備し終わった後にアインハルトも誘い、アインハルトを誘うならイクサも誘おうとしたのだ。男性から見た自分の水着姿に付いて考えてもいなかった。

 

 ノーヴェは首を傾げるイクサの視線から逃げるようにそそくさと離れ、川遊びで疲れて息切れしたアインハルトの所へ行った。

 逃げたノーヴェから視線を外して木々の葉陰に座り、川遊びしているヴィヴィオ達元気娘を見る。

 アインハルトは既にダウンしているのに関わらずまだまだ元気一杯に川遊びを楽しんでいるヴィヴィオ達。

 

「ふーん、あれは慣れた動きだな」

 

 川を元気一杯にはしゃぎ遊び泳ぐヴィヴィオ達。

 確かに水泳は肉体作りや体力作りには効果的だ。魔力量の問題から必然的な短期決戦が求められるイクサも以前、修行時代は良くしていた。というかさせられた。

 

 すると元気に遊ぶヴィヴィオ、リオ、コロナの魔法格闘技(ストライクアーツ)三人娘にノーヴェが話しかける。どうやら『水斬り』なるものをするようだ。

 一列に並んだ三人娘は右腕を引き正拳突きに近い体勢になる。

 

「えいっ!」

 

 そしてコロナから拳を突き放つ。“シュパァッ”と音を立てて水柱と波を上げる。

 

「はあぁ!!」

 

 続いてリオ。コロナよりも大きな波を上げ、距離も範囲もコロナの倍以上だ。

 

「いきますっ!…ふっ!!」

 

 そして最後にヴィヴィオ。他の二人よりも更に強い水柱と波を起こす。

 三人娘の動き、突き出した拳、水の流れから『水斬り』の意味を察して「へぇー」と呟き、続ける。

 

「打撃の威力調べっと言ったところか」

 

 それもかなりコツのいる。今実際にやってるアインハルトがいい例だ。

 アインハルトが行うと水は前へじゃなく上へ広がった。“水中では踏み込みが不可能な為抵抗の少ない回転で最大まで柔らかく打つ”、大体の考えは正しいが。

 

「初動が早い…と言ったところか?」

 

 そしてノーヴェがアインハルトに近づき、ゆっくりと手本を見せながら説明する。そしてノーヴェが実際にやってみせる。

 脱力状態から始め、ゆっくりから加速、そして力を込めてノーヴェが脚を振り上げる。すると『モーゼの十戒』の如く川が割れた。

 (因みにモーゼの十戒は地球の言葉なのでイクサは知らない)

 

 そして説明を聞いて、手本を見たアインハルトが再度『水斬り』を試す。が、いきなり早々出来るものじゃなく先程より少し進んだだけにとどまる。

 

 それからも何度も試すアインハルト、格闘家魂に火が付いたのかヴィヴィオも隣で『水斬り』をする。

 水飛沫がイクサの方にも及んでくるようになった、イクサは立ち上がり距離を取ろうとして。

 

「イクサもやってみろよ」

「…はい?」

 

 ノーヴェに止められた。

 

「お前の弟子がやってるんだぞ?師匠もやってやらなきゃな」

「興味あります」

「「「私達もー!」」」

「私も興味ある」

 

 さっきまで『水斬り』をしていた筈のアインハルトもいつの間にかノーヴェの一歩後ろでイクサを誘う。

 川から上がってきた三人娘とルーテシアも続く。

 

「………はぁ、わかりました」

「よっしゃ」

『やったぁー!』

 

 ノーヴェ、したり顔。子供達、大喜び。イクサ、苦笑。

 歩きだし川に踏み入るイクサ。

 

「ん?おい、上着は脱がないのか?」

「…はい。これは濡れても問題無いので」

「そうか」

「それにこいつらには異性の裸とか耐性なさそうですし」

「………ああ」

 

 キョトンとしている少女達を放ってイクサは川を進む、そして川の流れに逆らうように立つ。

 

『ドキドキワクワク』

 

 少女達の期待の目を全身に受け右腕を引く。

 

(さて、どうしたものか?)

 

 ここでイクサに小さな探究心が浮かんだ。

 あまり大ごとにしたくはない、それに試してみたい事もあった。初めて行うし其れ程大きくはならないだろう。

 そう思考したイクサは体の中で気を練り上げる。

 

「っ」

 

 イクサの体を奔る気の奔流を感知したアインハルトは“どれ程のものか”なんてプレゼントの箱を開ける子供のような気持ちから、師の教えを聞き見て盗もうとする教え子の如き──いや、まさにその通り──真剣な表情で目を鋭くする。

 アインハルトの変化に気付いたノーヴェや少女達もアインハルトを見た後つられてイクサを先よりも真剣に観る。

 

(なんだ?雰囲気が、変わったが)

 

 当の本人(イクサ)は傍観者の変化に戸惑っていた。

 

(……まあ、いいか)

 

 気の流れ、体の中心で気を練り上げそれを身体中に巡回させながら加速させる。そして最後に右腕に螺旋状に回転させながら込め、回転が巻き込んだ大質量の風と共に撃ち抜く。

 

()()()()

 

ドッバアァァンッ!!

 

 ヴィヴィオ達の押しだす波とも、ノーヴェの川を割った斬撃のようなものとも違う、イクサの一撃。

 それは川を“撃ち抜いた”。気で練られた螺旋状の回転エネルギーが生んだ暴力的な風圧をイクサのパンチで放射される。余波はトルネードを作り川の水を巻き込みアーチ、否、トンネルを作る。

それが川をまっすぐ辿り視えなくなってもまだ進む。

 

「………」

『………………………………』

 

「やっべぇ、やりすぎた」と内心で呟くイクサ、初めてやる事だからと力を入れ過ぎてしまった。

 甘かった。

 実験程度だから其れ程巧くはいきはしないなんて自身を過小評価し過ぎていた。

 

 そして遠くで巨大な弾ける音と水飛沫が上がる。

 遠くからでも30メートル以上は上がったとわかる水柱にイクサは頭痛を覚え、二度と浅はかな行動はしないと心に誓った。



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温泉ハプニング!?主人公なんてそんなもの!!

サブタイトルによる主人公に対する風評被害





「やっちまった」

「な、なな」

 

───なんじゃこりゃぁぁあああ!!??

 

ノーヴェの声が木霊する。

それに我に返った少女達がイクサに詰め寄る。凄い凄い、とキャッキャッと笑う少年達に驚いている自分がアホらしいとノーヴェが嘆息する。

 

「…………」

 

そんな中、一人離れて困惑する少女アインハルト。

 

「今、イクサさん。確か『断空』って」

 

 

 

 

 

「モシャモシャモシャ」

 

口一杯に肉を詰め込んで咀嚼するイクサ。川遊びを終えてバーベキューを昼食にしている一行。

イクサの皿に積まれた串の山に他の者達は仰天していた。大食漢で知られるスバル・ナカジマやエリオ・モンディアルすら驚く量を食べているイクサ。

 

「もぐもぐもくもぐ」

「よ、よく食べるんだね」

「…??んぐ。まあ、はい。抑えましょうか?」

「いいのよ折角のお客様ですもの、好きなだけ食べていってね」

「……御言葉に甘えて」

 

少しばかり抑えるか、とイクサは思った。

 

 

 

 

 

昼食に器具の片付け皿洗いを終えて暫く自由時間となったイクサは一人平原に立ち風を感じていた。

 

軽く息を吐き足を広げ右拳を腰溜めにして強く握ってから適度に脱力する。閉じた瞼をあげて視界に文明を感じられない自然を写す。

 

「はぁ……、フッ!」

 

左右両方の足を捻り回転を生んで加速させながら脚を伝って上昇させ腰部で衝突、融合、一体化させ気で増幅。不要な無駄を除き完成形に近付ける。

腰溜めにした腕にとどまる回転が風を巻き込む。小さな竜巻を纏っているように見える。

 

「───ダメだな」

 

ブワッ、と腕の風が溶けて霧散する。

 

「練りが甘い、初動が早い、集束が強すぎる。暴れるモノを抑えつけるじゃなく全て完璧に制さなくちゃ意味がない」

 

嘆息してもう一度初めから、イメージするところから始める。

アインハルトの断空拳、それを自分用に思い描く。

 

覇王断空拳

古流武術覇王流(カイザーアーツ)の基本にして奥義たる回転、その極限技。抉り削り時に莫迦に成らない貫通力を生む回転をトコトンまで極めた()()()()の絶技。

弱者が強者の暴力に対抗する為の技術。その一つ。

聖王(オリヴィエ)に敗北した覇王(クラウス)が今後誰にも負けないために編み出した武術。

覇王の末裔(アインハルト)が使う断空拳は打撃がメイン。纏う風は回転を強める為の副産物。要はおまけだ。

 

だがイクサはその風に()()()()()

 

イクサは断空の技術に手を加え、風は強める回転を編み出した。

回転が巻き込み、加速させて運動量を高め、気で強化して集束する。この行程を続け何層もの風圧を練る。そして放たれる一撃は蹴散らし蹂躙してズタズタに吹き飛ばす単・群・城に対する兵器と成る。

断空の技術と気の応用、サイヤ人のパワー。技術(さいじゃく)暴力(さいきょう)を組み合わせた神業の一。イクサが目指すはソレだ。

 

「……違う」

 

何度も繰り返し改良点を見つけ改善していく。何度も行き詰まり途中数点改善前に戻り別の方法を試しそこから進める。そうして段々と精度上げていく。

 

それが、暫く経ち。

 

「イクサさん?」

 

ふと、背後から声がした。

 

「アイン、にヴィヴィオか」

「はい」

 

額の汗を袖先で拭い向き合う。

 

「どうした?」

「いえ、あの」

「何をしたんですか?」

 

言い淀むアインハルトの代わりにヴィヴィオが話す。

 

「何、ちょっとした技の開発だよ」

「ちょっとじゃないですよ、凄いじゃないですか!」

 

ヴィヴィオの隣でブンブンと顔を上下に振るアインハルトに小さな笑みが湧く。

 

「そんな一から作るなんて大したものじゃないさ、既にあるものを改変してるだけだ」

「それでも十分凄いです!」

「何の技を元にしていたんですか」

「……」

「……?……(汗)」

 

じっとイクサに見つめられキョロキョロしながら困惑するアインハルト。

 

「断空拳」

「え?」

「だから断空拳。まあ、正確には断空の技術を、だが」

「──」

「え、え!?」

 

絶句するアインハルトに吃驚ヴィヴィオ。

 

「見せてくださってもいいですか?」

「完成はしてないぞ」

「構いません」

「……」

 

真剣な受け答えの二人に置いてけぼりのヴィヴィオ。

 

「わかった。少し離れてろ」

 

イクサの言葉に従い十分に距離をとった事を確認して構える。やる事は同じ。違いは打つ事。

 

「───はあ!」

 

まっすぐ奔る正拳突き。腕を纏う風が拳に乗せられ弾ける。

芝生を吹っ飛び余波が飛ぶ。アインハルトとヴィヴィオが左右の腕で頭部を守り、衝撃が収まり腕を退ける。

イクサの少し前、拳の地点から半径2メートル半。この範囲の中の全ての草が無くなり土が姿を見せていた。無惨にバラバラにされた草がチラチラと降る。

 

「こんなものか」

 

それは成果とは裏腹に失望に近いものを含んでいた。「こんなモノだろう」と、「この程度のモノか」の二つの意味がごちゃ混ぜになったような声だった。

 

「……」

「ーー」

 

絶句して言葉を失う。

二人の少女は何も言えない。これほどの技だ、賞賛に値するも同然、たが使った本人が認めていない。

アインハルトは自分の師の高さを知った。己の目標、その遠さに眩暈を起こしそうになるが気合いで堪える。

こんな所じゃ終われない、倒れられてる暇なんてない。

ぎゅっと手を握るアインハルトを見てイクサが内心で嘆息する。

 

「アイン」

「…………」

「アインハルトさん?」

「はぁ、───アインハルト!!」

「!?はい!!」

「考え込むのは結構だがこれだけは聞いておけ」

「……はい」

「今の技は真似するな」

───。何故、ですか?」

「今のは俺の断空(わざ)だ、お前のじゃない。お前はお前だけの技を身に付けろ。お前が考えお前が望んだ覇王流で」

「…」

「いいな?」

「はい」

 

これだけ伝えて満足したのかアインハルト達に背を向け歩き出した。

イクサの言葉に噛み締め数秒俯き己の手を見つめ、顔を上げて歩き出す。その瞳には小さな、けれど確かな光があった。

 

「え、えっと??ま、待ってください!」

 

そしてヴィヴィオ置いてけぼり。

 

 

 

 

 

仕留めた巨獣を抱き抱えて空中浮遊。

急参加なうえに昼食をかなり食べ夕食までいただくというのに何もしない訳にはいかないと自分で狩りに出た帰り。

 

ふよふよと浮かびながら獣を運ぶ。つい先ほど3メートル越えの魔猪に一角熊に巨大魚を運び、今は怪鳥を運んでいる。

比較的小さいが身の引き締まった怪鳥をどうやって食べようかなんて考えに胸を躍らせながら飛行していると、

 

…っ……っっ…!

 

「丸焼き、照り焼き、塩焼き」

 

ぁ…ぁぁ…ぁぁぁッ

 

「煮物、ステーキ、親子丼」

 

ぁぁぁあああああ!!

 

「たたき、手羽先、フライドチキン」

 

ああああ!?!?

 

「なにがいい──げぶっ!?」

 

下から打ち上げられたモノが顎を直撃した。

突然の衝撃とぶつかってきた物体が帯びていた電気に痺れてバランスを崩し怪鳥を離して真っ逆さまに落下する。

脳が揺れ朦朧な意識の中イクサ見たのは水色髪の水着女、そして温泉と女性達。

 

(これ、あかんやつじゃ……)

 

 

 

 

 

「ああぁ、やっぱセインか」

「だろうと思った」

 

能力を使いどこぞの魚雷女が如く温泉内を潜り移動して入浴している女性陣にイタズラして最後に選んだリオの胸を背後からわしづかみした結果、手痛い反撃を喰らって制裁された知り合いが打ちがられる様を見上げていた女性陣達。

 

ひゅー

 

風を切って落下する音が聞こえ、温泉に叩きつられ水飛沫と音をあげる。

そしてもう一人地面に落下して大音と砂埃をあげる。

 

「え?」

「痛い、超痛い、メチャクチャ痛い」

 

煙が晴れて姿を見せる男。

───もう一度言う、

 

『 お と こ 』

 

『キャアアアアアアアアアア!!??』

 

複数の甲高い悲鳴が響いた。

 

 

 

 

一人孤独に離れた所で正座するセイン。

そして様々な色の様々な種類のバインドを何重にも重ねられぐるぐる巻きにされて横倒しにされたイクサ。

性別が違うだけでここまで処罰で差がある。しかもイクサに非は無い。セインがイタズラしてぶっ飛ばされなければ肉を運び終わってゆっくりしていただろう。

 

「……酷過ぎない?」

SHUT UP(だまりなさい)

「……ぉk」

 

すまない嘘をついた。

少しばかり非がある。女子温泉内に墜ちて片手で頭を押さえて顔を上げ周りを確認した、そうその時に見えてしまった。

 

女性陣のHA・DA・KA☆

 

その結果がこの始末。他の男性が聞けばまあ、不可抗力と言えなくもないと言ってくれるかもしれないが、そんな事など関係無い。この場にいる全ての女性から砲撃魔法が飛んできてリンチにあいバインドでミイラにされかけた。

 

「何か言うこと(遺言)ある?」

「ストップ、待ってくれ。罰は受ける、だが命はやめてくれ。死にたくない」

「まぁまぁ、落ち着いてティア。ね?」

 

よく知らぬ青髪の女性スバルに感謝するイクサ。

どうも、ありがとうございますスバルさ

 

「イクサくんだって興味のある年頃なんだから」

 

ふぁっ◯んしっ◯。ふざけんな。

余計に誤解を生んで敵意と殺意が高まった。幼少組から視線が痛い。アインハルトからさほど敵意と殺意を感じないのが不思議だが困惑は感じる。

 

あと照れを感じる。何故……?

 

「ねぇ、何を見ているの??」

「あ」

 

橙色の長髪の女悪魔が仁王立ちしていた。

 

 

 

 

 

数時間後、一人離れた席で頬に赤紅葉の痕がある少年がちびちびと夕食を食べていた。

 

 

 

 




温泉イベントでのラッキースケベは王道、そしてロマン
戦闘機人=人造人間の方式でナンバーズ+αの気は感じ取れないイクサくん。
17号と18号はあれ、細胞レベルでパワーアップした人間だからね、爆弾と無限エネルギーしか機械要素ないしネ。たしか


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試合開始!一対多!?イクサの相手は!?

今回、かなり無茶苦茶やってます。
大丈夫(でぇじょうぶ)だ、て方のみご覧下さい。
あと独自設定ありです。





オフトレツアー二日目恒例行事陸戦試合。

合宿二日目の朝、歯を磨くイクサに今日行うと教えられ「また急に…」と呆れさせてから数時間。

都会の街並みを模した訓練所のビルの最上階に集合した一行。

 

試合の形式は六対六、だったのだがイクサの参加とDSAA、インターミドル準優勝の経歴からイクサを青組、格闘技娘四人を赤組に入れた八対五に変更した乱戦試合に。

ポジションによって与えられたLIFEポイントがゼロになったら敗北のルールでやっていく。

ノーヴェが説明を終え、赤組代表ファイトと青組代表なのはの二人の掛け声に合わせ己のデバイスを掲げ「セットアップ」の言葉でバリアジャケットを身に付ける。

 

「ソルジャー、セットアップ」

 

イクサもボックス型の一般的な戦闘用デバイス『ソルジャー』でセットアップを行いバリアジャケットを身に纏う。黒いインナーの上に袖も裾も短く肩や胸元に鉄色のプロテクターがくっ付いた赤色のジャケットを着込み、下はこれまた黒いジーンズに黒を主体に赤い線が入ったブーツと全体的に黒い。

 

 

 

赤チームと青チームに別れそれぞれのチームの待機地点で作戦会議。

イクサに命じられたのは『遊撃』。出会って間も無いイクサの戦い方を知らない為、下手に指揮できないが故の独自判断の指示だ。

 

そして陸戦試合が開始した。

 

スバルの『ウイングロード』、ノーヴェの『エアライナー』──簡単に言えば魔力で出来た道──が練習場中に巡らされ空中に道ができる。その上を格闘技選手達や陸戦魔導師が走りぶつかる。

 

「行きます! イクサさん!」

 

魔力道路の上、アインハルトがまっすぐと単独行動のイクサに接敵する。

馬鹿正直に声を出して向かってくるアインハルトに内心で呆れながらも足を止めてアインハルトを正面に捕捉する。

 

「……」

「はあああ!!」

 

返事は返さず、代わりに構えで返すイクサに少女が薄緑の魔力を帯びた拳を放つ。

向かってくる右拳を内側から柔かに左手の甲で押し払い腰の位置に携えた右拳を放ち戻すコンパクトなピストンパンチを打つ。パァン!と軽快な音を放ちアインハルトを弾き飛ばす。直前でガードされたようで大したダメージにはなっていない。

後ずさりしながら4メートル程弾き飛ばされたアインハルト。

 

「どうした! そんな馬鹿正直な突撃が通用すると思ってるのか!」

「雷光拳!」

「なに……!」

 

どこに潜んでいたか背後からのリオの奇襲をジャンプして回避する。

 

(なるほど。最初のアインの突撃は油断を誘うための囮か)

「……、!」

 

黄色の鎖がイクサの身体を拘束した。

腕、胸、胴、脚を深く巻き付かれたバインドが魔法の法則で身体の動きを阻害する。

 

「リボルバー…」

「……っ」

「スパーイク!!」

 

そして現れた真打。今回の作戦の真の攻撃役。

高町ヴィヴィオが虹色の魔力光(きせき)を残す回し蹴りをイクサに向けて繰り出した。

 

「!! ──だぁあ!!」

「ええ!?」

「オオオッ!」

 

バキンと左腕部分だけ魔力鎖が引きちぎられる、縛りが解け自由になった左腕を振りかぶり、ヴィヴィオのリボルバースパイクへと拳を叩き付け、逆に押し除けた。

 

地面に背中から墜落して煙を立てるがすぐに晴れ、身体に巻き付いたバインドを引きちぎるイクサが見てとれる。

 

「ふむ、なかなか面白い作戦だな」

「あはは、予感はしてたけどなんとかされちゃった。みんなで頑張って考えたのになぁ」

「悪くはなかったぞ。それで、今ので品切れか」

「もちろん、そんな訳ないです!」

「みんなで案をだして」

「沢山考えました!」

 

元気に答える少女達によろしいと頷き構える。

 

「じゃあ、見せてみろ。採点してやるよ」

『はい!』

「みんな、最初から全力で行くよ!」

「「「はい!(わかった!)」」」

 

ヴィヴィオの言葉に三人が答える。イクサさん相手に加減してられないと魔力を込める。

 

「……」

 

ヴィヴィオとアインハルトが同時に駆け出し攻めてくる。

イクサは左手に魔力弾を作り投擲。爆弾のように爆発する魔力弾を二人は左右に別れて避ける。

 

「一閃必中! ディバインバスター!」

 

左方面のヴィヴィオから迫る虹色の砲撃魔法。イクサはそれを、

 

「ふんっ!」

「えぇ!?」

 

素手で弾いた。

そして接近したアインハルトの相手をする。早々の断空拳をいなし、返しの一撃で後退させる。

そのまま追撃することはなくヴィヴィオのバインドから逃れ距離を取る。追ってくるヴィヴィオの攻撃を後退しながら捌く。

 

「……ん」

「イクサさん、覚悟!」

 

いつの間にか先回りして後ろから走り寄るアインハルト。このままでは挟み撃ちに合う。

イクサはヴィヴィオを一度払い魔法道路から飛び降りる。

 

「行ったよ! リオ! コロナ!」

「オッケーヴィヴィオ!」

「任せて!」

「……」

 

下を見ると、二人並ぶリオとコロナの姿が。

 

「創主コロナと魔導器ブランゼルの名のもとに」

 

魔力結晶(クリスタル)を核に魔力を込めて練った物質を望む形に変えて自在に操る創成魔法(クリエイション)

魔力による遠隔操作を得意とするコロナが見つけた自分なりの戦い方。

 

「ゴーレム作成、か」

「叩いて砕け! 『ゴライアス』!!」

 

そして今ここに、岩の巨人が産声をあげた。

 

「わたしも行くよ!」

 

コロナのゴライアスに感化され、リオが魔力を解放させる。

魔力変換資質。無色の魔力を属性を持ったモノへ変えるレアスキル。リオはそれを『炎』と『電気』の二種を併せ持つ。

 

「双龍円舞ッ!!」

 

大人も羨む魔力量に物を言わせ、猛り吼える炎の龍と雷の龍を象る。

 

「「行きますよ! イクサさん!!」」

「……ほう」

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルの根元を砕き姿を現わす。

両腕をクロスしてガードしながら吹き飛ぶイクサとそれを追う二匹の龍と主人の少女(リオ)。イクサのLIFEポイント残量は2030。およそ三分の二。

 

「炎龍! そして雷龍!」

 

双龍の片割れ、炎の龍が飛来する。熱の顎を広げ喰らいつこうと襲来するのをジャンプして避ける。続いて迫る雷の龍に飲み込まれるが気合いで搔き消す。

着地したイクサ。リオは既に姿を隠しビルの壁を砕いて肩に創造主(コロナ)を乗せた巨人が出現する。

 

「はあ!」

 

向かってくるゴライアスに真っ正面から対峙する。

全身に力を巡らせ強く握った拳に魔力で薄い膜を張って咆哮するゴライアスの巨人の拳とぶつけ、拮抗する。

コロナの驚愕も一瞬、すぐに続く二撃三撃と続けてパンチを繰り出す。

 

「はああああああ!!

 

ゴガンゴガンゴガン、と岩の巨人と青年が何度も拳をぶつけ合い、

 

「オオオオオ!!」

「キャッ!」

 

押し勝ったのはイクサだ。ゴライアスの片腕を砕き、尚且つ後退させる。

 

「喰らえ土塊(つちくれ)!」

 

最低限の魔力の砲撃魔法(バスター)がゴライアスの上半身を撃ち抜き、直後に砕け散った。

コロナには押し退けられた時点で離脱しているのでダメージは無い。

 

「ソニックシューター、ファイヤ!」

「チッ……!」

 

降り注ぐ魔力弾を連続バク転からの側転、バク宙で退避する。

そして土煙を破って死角から現れるアインハルトの攻撃を跳んで躱す。

アインハルトとヴィヴィオにリオとコロナの二人が合流する。

 

「もぅー! 完全に決まったと思ったのにー!!」

「流石イクサさんです」

「アインハルトさんは何故得意げに?」

「あはは…」

 

悔しそうなリオと何故か誇らしげなアインハルトに苦笑いするコロナとヴィヴィオ。

 

「じゃあ次の作戦行こう!」

『了解!』

 

ヴィヴィオの意見に全員が了承する。

 

「行くよリオ! アインハルトさん!」

「いっくぞぉ!」「わかりました!」

 

リオ、ヴィヴィオ、アインハルトの順に並んで馳せる。

コロナのみが動かずその場にいる。

 

「……」

「させません、ブランセル!」

『Rock bind』

 

上に跳ぼうとするイクサの片足を盛り上がった土塊が捉え邪魔する。跳ぼうとしたが遮られ変な姿勢のまま三人の相手をする。

イクサの目前でリオが左に、ヴィヴィオが右に駆け、アインハルトはそのまま直進と、三方向から攻めにくる。

 

アインハルトのパンチを顔を傾け躱し、リオの回し蹴りを左腕で防ぎ、ヴィヴィオのパンチを右手で受け止め両手が埋まり、続くアインハルトの二撃目を対処できず頬に突き刺さった。

初めてのクリーンヒット、数値にして300と少しのダメージをイクサに与えた。

 

「やった! ───え?うわっ!?」

「きゃ!」「うぐっ!」

「みんな、きゃあ!」

 

ヴィヴィオの歓声の直後、リオの蹴りを払いのけヴィヴィオの腕を両手で掴みスイング。アインハルトとリオにぶつけて投げ飛ばし足を固めた岩を無理矢理破壊、飛び上がり速射砲をコロナに放つ。

四人を瞬く間を攻撃、飛び上がりビルに飛び込んで姿を隠す。

 

「いったぁーい!!」

 

遅れて少女達の声が聞こえた。加減はしたから大したダメージにはなっていないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!」

「させない!」

 

少女達から離れたイクサはティアナと対峙していた。

二丁の拳銃型デバイスと周りに展開された砲台の役割も持つ魔力弾から連射される弾丸を避けながら接近しようとするが進む先を予測して発砲し、阻害している。

昨日の温泉を気にしているのか普段よりも連射速度と威力が高い。

 

(ラチがあかない、なら───)

「真っ向勝負でぶん殴る!!」

「!? させないって言ってんでしょ!」

「関係無いですよ。はぁあああ!!!」

 

回避を捨て真っ正面から突撃してくるイクサに橙色の魔力弾が殺到し全て直撃する、が。

 

「ッッ雄雄オオォォ!!」

「!?出鱈目よ!!」

 

煙から飛び出すほぼ無傷のイクサに更に魔力弾を連射するが、拳の連打で破壊され接近を許してしまった。

 

「この距離ならどうだぁ!!」

 

そして大振りの拳が───避けられた。

 

「なっ」

「管理局員ナメんじゃないわよ!」

 

彼女は四年前、ミッドチルダそして管理局滅亡の危機と言われたjs事件を解決した『機動六課』のメンバー。それからも管理局員として働き多くの修羅場をくぐってきた間違えようのない強者。射撃専門で近接戦は苦手だから、と何も出来ない素人とは違う。

足を払いデバイスを押し付け引き鉄を引く。地に足付かずのゼロ距離射撃は流石のイクサも吹き飛ばしビルに激突して地面に墜ちた。

 

「いってぇな、ほんと」

 

後頭部を右手で抑えながら立ち上がる。その口端をつり上がっていた。

今のでLIFEを大きく削られもう1000を切っている。

だと言うのに、

 

「はは、面白くなってきた」

『イクサくん!』

 

突然イクサの前になのはが映ったホロウィンドウが出現する。

 

「?? どうしまし」

『そっちに二人行ったから気を付けて!』

「……行ったって、誰が」

「───くらぁえやぁあ!!」

 

なのはの忠告の直後、ノーヴェが飛び込んできた。

ノーヴェの不意打ちを上身を反らして回避する。倒れない様に地面に片手を突いてから身体を捻ってノーヴェを正面に捉える。

 

「ノーヴェさん……!」

「よう、イクサ!大人しくぶん殴られろや!」

「イヤです」

 

初撃の不意打ちを避けて、続く連撃を躱し、いなし、弾きながら対処する。

 

「でぇやあ!」

 

ノーヴェのボディに一撃入れて退け、飛行して距離を取る。

 

「逃すかよ!」

 

四本のエアライナーを伸ばし駆けながら追い、ローラーブーツデバイス『ジェットエッジ』の出力を上げて飛びかかり右腕に装備したアームドデバイス『ガンナックル』でイクサをガードを掻い潜って殴り、続けて左拳の連打を顔面に浴びせ、最後にジェットエッジに備えたナックルスピナーをフル回転させて得意技の回し蹴り、リボルバー・スパイクで吹っ飛ばす。

 

「くぅ……っ!」

 

吹っ飛ばされながらノーヴェに手を向け砲撃魔法(バスター)を撃とうとして、

 

───二人行ったよ

「!?」

 

なのはの忠告(ことば)を思い出し砲撃魔法の狙いを変えてブースト代わりにして方向転換して()()()()()を躱す。

迫る地面を目視してウィングロードに手をかけ昇りイクサは通信魔法をなのはに送り話し掛ける。

 

「簡潔に説明もらえます?」

『フェイトちゃんの相手をしていたエリオくんをヴィヴィオとリオちゃんが、ノーヴェの相手をしていたスバルをアインハルトちゃんが相手して、キャロの援護を受けたコロナちゃんがルーテシアに向かったから私が向かってる』

「……了解しました」

 

状況確認を兼ねたなのはとの通信を切り魔力道路の上でノーヴェ、ファイト、そしてたった今合流したティアナの三人の魔導師と対峙する。

 

「年下に大人三人がかりとか潰しにきてません?」

「正直、お前はチビ達の相手には荷が重いからな」

「……そこは信用してやるべきでは?」

「無理とわかっていて押し付けるのは間違ってると思わないか?」

「む……」

 

言葉を失ったイクサに満足そうに笑いノーヴェが戦闘態勢に入る。

少し離れた位置でフェイトが困ったような笑みを浮かべている。彼女はイクサ一人に対して三人の構図に思うところがあるらしい。

 

そこから戦いを凄まじいものだった。

ノーヴェと近距離格闘戦を、ノーヴェが離れるとフェイトのスピードを生かしたヒット&アウェイを、そして二人の援護射撃するティアナ。なかでもフェイトとティアナのコンビネーションは抜群。

そしてその三人を相手にしながらも急所は外させ決定打は与えないイクサ。

 

「うぅらぁあ!!」

「ちぃ…っ」

 

ノーヴェの強打をガードしながら吹き飛ばされ、後ろに回り込んだフェイトの打ち上げられ、追ってくるフェイトに魔法を灯した手を向けると弧を描いて飛行して背後を位置取ろうとするので魔力弾を投げるがティアナの狙撃弾がイクサの魔力弾を撃ち落とす。そして魔力弾に意識が向いてるイクサをエアライナーから飛んだノーヴェが蹴り飛ばした。まっすぐ飛ばされビルに激突。いくつもの破壊音を鳴らし屋上を破って現出、いくら上手く防御出来ているとはいえLIFEは着々と削られ残量が300を切り流石に不味いと背を向け思いっきり地面を蹴って離脱する。

彼女達とイクサでは魔力量に差がある為仕方ないのと、魔力を節約してスピードを出せない。更に言えば飛行魔法よりも気の浮遊術の方を優先して使う為飛行魔法は慣れていない。

 

伸びる無数のエアライナー。曲りくねり、捻れたり、螺旋状を描いたりと様々な動きをしながらビルの屋上から屋上に跳んで移動するイクサに迫る。

次から次へとエアライナーの陰に隠れ姿を認識させまいとしながら追跡するフェイト。次々にエアライナーを飛び移るノーヴェ。

 

「───ああ、なるほど」

 

この二人がイクサに向かわされた訳。

それは、()()()()()()

赤チームの陸と空で一番のスピードを持つのがこの二人。

ノーヴェの能力エアライナーがフェイトを隠し壁となる。そしてそのノーヴェがジェットエッジのローラーブーツを使いイクサを逃さなず追い続ける。ノーヴェが追いつく必要はない。ノーヴェはエアライナーを巡らせフェイトが攻める、ノーヴェはイクサが足が止まった時だけ攻撃すればいい。そしてイクサがビルの屋上から飛び降りようとすれば即座にティアナによって狙撃されてしまう。

最悪イクサを逃さない為の戦い。完全に対策されている。

 

そして何よりイクサでは、この三人に対して有効打を持っていないのが厄介だった。

 

 

 

LIFEポイント性魔法戦試合。

それは魔力が大きく左右する試合方式。現在ミッドチルダの繰り広げられる大きな競技大会などでは多く適応させるルールだ。

その真価は実際に傷を負う事が無くなり、あらゆる攻撃が魔力ダメージとして数値に変換される事にある。この試合方式によって負傷する事なく練習試合で怪我を負う事が大幅に激減した。

 

たがこのルールには欠点がある。ミットチルダの住民なら気にも留めない欠点が。

 

それは、魔力が含まれなければ反応しない事だ。

 

即ち全ての攻撃、防御にも微小でも魔力を込めなければLIFEポイントルールは稼働しない。

そして、魔力ダメージの数値は込められた魔力量に左右されると言っても過言ではないのだ。勿論、より多くのエネルギーが込められた方が強い攻撃というのは当然の事である。だが、魔力所持量が少ない者と多い者では圧倒的に魔力量が多い者が有利だ。なんせ100パーセントの魔力を防御に回したとしても相手の魔力量が上回っていたのなら防御の上からダメージを与える事ができるのだから。

これによりイクサの様に魔力量が少ない者は勿論、魔力をそもそも持たない者はこのルール自体出来ないのだ。

 

そして今、イクサが対峙する三人は全員イクサよりも魔力量が上。それも大きく。更に魔力の扱い一流と来た。

イクサの魔力量では攻撃した所で微小のダメージにしかならない。全魔力を攻撃に回して打撃として扱えば戦い自体は成立するだろうがそんな事をすれば魔力があっという間に切れて終わりだ。唯一高いダメージを出すとすれば、フィールドのビルや地面にぶつけるぐらいだ。

魔法戦試合用のフィールドにはまるで電線の様に魔力が一定量流れている。それを利用したフィールドダメージしかイクサに安定したダメージを与える方法が無い。

だが、

 

「きゃっ!」

「させるかよっと!」

「ごめん、ありがとうノーヴェ」

「いえいえ」

 

苦労して吹っ飛ばしてもノーヴェがフェイトを、フェイトがノーヴェを救う。

実質どうしようもない、袋小路、正に追い詰められた状況な訳だ。

 

「大人って怖いなぁ」

「ごめんね」

「ッッ!」

 

ボソリと呟いた言葉に背後から申し訳なさそうなフェイトの声が返ってくる。完全に後ろを取られ急ぎ振り向くと「は?」と声を漏らし固まった。

イクサの背後にはコートの様なバリアジャケットを脱ぎ捨てレオタードの様な姿となったフェイトが居た。フェイトの状態は、見た目通り防御力を捨てた超スピードフォーム。防御力を放棄し、代わりに雷光が如きスピードを出せる短期決戦形態。

デバイスを戦斧ではなく柄の先が魔力縄で繋がった魔力刃の双剣を未だ硬直するイクサに向けて振るう。

 

黒い人影が黄色の斬光に切り裂かれれる。

 

「──あっぶ」

「!?」

(今のを避けたの!)

 

切り裂かれたのはイクサのインナーのみ。横一線の斬られたインナーが捲れてイクサの胸板を微かに晒す。羽織っているジャケットにも小さな切れ目が刻まれていた。

 

「っ!はあぁ!!」

 

フェイトが加速する。再び黄色の閃光へと変わったフェイトが超高速で飛翔しイクサを何度も襲う。電撃を帯びた魔力刃が幾度もはしり、その度にイクサのバリアジャケットが斬り裂かれる。

 

(全部、紙一重で躱されてる)

(き、キツイ。ギリギリでしか躱せねぇ)

 

ノーヴェもティアナも少し離れた所で見ている。今飛び込む、或いは射撃すればイクサの周りを縦横無尽に飛び交うフェイトの邪魔になると判断しての傍観だろう。

 

(だが、チャンスは今しかない!!)

 

ノーヴェとティアナが戦闘から離れた今なら邪魔は入らない。スピードを増す代わりに防御力を下げた今の形態のフェイトにならイクサの魔力でもダメージになる。この状況を切り抜けるには今、フェイトを退けるしかない!

 

「づっ…!ォォオオオオ!!!」

「!?…っ!逃さない!!」

 

攻撃の隙間を掻い潜り一気に飛び出す。フェイトが慌てて後を追ってくる。

 

「……良し」

 

作戦の第一段階は最高だ、とイクサは感じ取った。

何せ、急な事にノーヴェとティアナの行動が遅れている。二人を引き剥がす事に成功した。

あと、

 

「……!」

 

追跡するフェイトをどうにかするだけだ。

瞬く間に距離を詰められるが、フェイトが追い付く瞬間に方向転換して再度距離を離す。『飛んでいる』のでなく『跳んでいる』イクサだからこそできる壁を蹴っての高速転換にフェイトの反応が少し遅れる。入り組んだビルの間を巧みに駆け抜ける。時にはビルの窓を突き破っての豪快な逃走もする。

 

「くっ、だったら!」

 

痺れを切らしたフェイトが更に加速する。───()()()()()()()()!!

 

「───え?」

 

フェイトが更に加速した瞬間、イクサは飛行魔法で急ブレーキを掛けた。フェイトは勢い余ってイクサを追い抜き無防備な背中を晒す。そこに飛来した三つの白い魔力輪(リング)がフェイトを身体を締め付けて捕縛する。

 

「!? 拘束魔法(バインド)!」

「───オオォッ!!」

 

拘束魔法で身動きが取れなくなったフェイトをイクサの拳が襲う。殴られた際に拘束魔法も解け、空中で何とか体勢を整えようとするフェイトにイクサが飛来。途中で身を捻って反転し、胸を上に向けた状態でフェイトに追い付き肩を両手で掴んで倒れ込む様にフェイトの背中を蹴り上げる。

 

「おおぉらぁぁあ!!」

 

打ち上げられるフェイトに追撃を加えようとするイクサを追い付いたノーヴェが襲う。

だが、

 

「タイミングばっちしですよ」

「ぐふっ」

 

ノーヴェの攻撃が当たるよりも先にイクサの足がノーヴェの胴体を捉え、蹴った。───足場代わりに。しかも蹴り飛ばされたノーヴェがティアナの射線上に入る様に。ノーヴェとティアナを同時に無力化し打ち上げられるフェイトに追い付くと両腕を頭上に掲げた両手の指を噛み合わせてスレッジハンマーを形取り。

 

「落ちろ破廉恥ッ!!」

「え?」

 

───フェイトを打ち落とす。

高速で落下するフェイト、途中ビルの一角を粉砕して地面に撃墜。爆煙じみた砂塵が舞い上がる。

薄れゆく意識の中、最後に残ったのは、

 

「は、はれ…んちじゃ、ないもん」

 

イクサの言葉だった。

【赤チーム】フェイト・T・ハラオウン。

LIFEポイント0、及び気絶につきリタイヤ。




フェイトそんは天然破廉恥、しょうがないね。


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続く模擬戦、新星煌めく後半戦

前回(番外編)からまた間が空き、数年ぶりの本編、更には最近RTA物の小説ばっか読んでるので初投稿です。




「フェイトさーーん!!」

 

声が聞こえた。見上げればビルの屋上から此方を見下ろすノーヴェの姿が見える。

 

「……今しかないな」

 

イクサはノーヴェの意識がフェイトに向いている隙に近くの建物内へと姿を隠し身を潜める。ノーヴェもイクサの姿が見当たらない事に気付いて降りてくるが時既に遅し。イクサはその場から離れノーヴェ達の元へ向かっているティアナに見つからない様に離脱していた。

 

 

 

「ああ〜、疲れた」

 

イクサはティアナの気を感じて十分距離を取り念の為建物内の窓の無い廊下で壁を背もたれにして座り込んでいた。

ノーヴェやフェイト、それにティアナがガンガン魔法を使ってくれたおかげで何とか集束魔法を放つ事ができたが、それでも魔力の消耗は激しい。チームには申し訳ないが暫しの間此処で休ませてもらおうと決めるや否やチームリーダーのなのはに通信を送る。

 

「もしもし、こちらイクサです」

『イクサくん!大丈夫なの!?』

「はい、なんとか。ですがLIFEも残り僅かなので暫く回復に徹しようと思います」

『そっか。……うん!ならルーテシアちゃんに回復してもらうといいよ』

「……なるほど。了解しました、すぐに向かうとします」

『うん!!あ、あと、油断して見つかって撃沈とかダメだよ!…気を付けてね?』

「ええ、勿論です。そんな情けない負け方は嫌ですからね」

 

ぶつりと通信を切るやいなや立ち上がり足を進めた。なのはの助言に従いルーテシアの元へ。

 

 

 

フェイトがリタイアした事は赤チームによって大きな動揺を誘った。フェイトがチームのリーダーである事は勿論だが実力者であるフェイトが──更にノーヴェとティアナの二人も加えて三人を相手にしながら──イクサに倒された。

そして逆に青チームの士気はかなり高まった。イクサに負けてられないと鼓舞され、その勢いは数で劣る筈なのに互角以上の戦いを繰り広げる程に。

 

その様子を空中に浮かび上がったホログラム越しにルーテシア・アルピーノは一人笑みを浮かべながら眺めていた。すぐ近くで攻めてきたキャロとコロナの二人から自身を守る為になのはが戦っている。

だが、二人共に攻め切れていない。いや寧ろなのはに翻弄されていると言っていい。ホログラムに映るチームメンバーも皆、獅子奮迅の活躍だ。

 

───()()()()()()()

 

ルーテシアはこの状況でチームメンバーの殆どが士気を上げている中、唯一人いまいち調子の出ていないメンバー、エリオに目を向ける。

 

『……』

 

彼は余程ファイトがイクサに倒された事がショックだったのだろう。心ここにあらず、模擬戦に集中出来ていない様だった。

流石にヴィヴィオとリオの二人を相手に押されている訳ではないが攻めきれずにもいる。膠着状態が続いていた。

 

「もう、エリオったら」

 

ルーテシアがホログラムを見て溜め息を吐く。

 

「まったく、しょうがないわね。所で今イクサはどこに居るのかしらーと」

 

やれやれと言った様子で首を傾げるとエリオのホログラムから目を逸らし、なのはから自分の元に向かっていると聞いている良くも悪くもイクサのホログラムに目を向けようとし。

 

「俺ならここだぞ」

「ぴゃぁ!?」

 

いつの間には背後に立っていたイクサに声を掛けられルーテシアがビクリと反応し可愛らしい驚き声を上げた。

ルーテシアがゆっくり振り返れば、イクサが申し訳なさそうな微妙な表情を浮かべていた。

 

「……」

「いや、その、驚かすつもりはなかったんだ。ごめん」

「まぁ、いいけど」

 

何処か不貞腐れた様に頬を膨らませながらぷいとそっぽを向く。耳が微かに赤くなっている事から照れているのかもしれない。

 

「それで、あの…」

「……」

「LIFEポイントを、回復して、その、欲しいんだけど。…いいか?」

「……………そこに立ってて」

「…了解」

 

イクサの足元に薄紫色の魔法陣が浮かび上がり淡い光が放たれた直後、イクサのLIFEポイントが回復し始める。

 

「…………」

「…………………んっ」

「なに?」

「いや、なんでもない。……です」

 

気不味い空気が充満している。イクサはルーテシアから目を離し少し離れた所で戦うなのはを観る。

コロナの岩の巨人(ゴライアス)の攻撃が届かない上空から一方的に魔法を放ち、迫りくるキャロのピンク色の鎖を回避して反撃する。だが、次第にキャロの魔力鎖がなのはの行動範囲を縮めている。

やがて、動かなくなった所をゴライアスの強力な一撃をくらわせるつもりだろうか。

 

「……」

 

ルーテシアはキャロとコロナの作戦に気付いているのだろうか?チラリと視線を向けるがルーテシアには特に気付いた様子は無い。先の事をまだ引き摺っているのか、純粋に気付いていないのか、それとも心配する必要がないのか。

 

「……」

(お手並み拝見といくか)

 

イクサも何か行動に移す事なく観戦に徹する事にした。

 

 

 

 

「ん?…あ」

 

キャロの魔力鎖で移動範囲を縮め、コロナのゴライアスの腕が高速回転からの射出(ロケットパンチ)。大きな音と衝撃を炸裂させ、砂煙が舞う。

二人の少女が「やったー!」と喜んでいる。

 

だが、

 

「油断大敵だよ♪」

 

桜色の魔力弾が砂煙を穿ち、そのままキャロの額に着弾する。「へうーっ!?」と情けない声を出して倒れるキャロ、そしてコロナも急展開について行けず反応が遅れ、そのまま桜色の拘束魔法(バインド)に捕われる。

砂煙が散ると其処には、

 

「良い作戦だったけど、ちゃんと相手を確認するまで油断してはいけません。鉄則だよ〜」

 

身に纏うバリアジャケットこそ少し傷付き破けているが半分以上LIFEポイントを残したなのはが平然と浮かんでいた。

驚愕しているキャロ、そして自身の戦いぶりを観察しているイクサに向けて自信満々のドヤ顔を見せるなのは。だが、一発の魔力弾がなのはの後頭部を叩いた。軽快なパコーン!という音と「いったー!?」という素っ頓狂な声を上げる。

 

「この弾丸、ティアナ!?」

「……はは」

 

油断大敵と言ったなのはが油断して魔力弾をくらった光景を観てイクサが苦笑を浮かべている。

 

続けて橙色(オレンジ)の魔力弾が打ち上がる。幾多もの魔力弾が絨毯爆撃の様に彼方此方に着弾する。無茶苦茶な様に見えてしっかりと標準された魔力弾は当然なのは、そして近くにいるイクサとルーテシアも狙い迫る。

 

「……ふむ、()()()?」

「え?」

 

心無しかイクサを狙った魔力弾が多く思える。いや、確実に多い。

そして同じビルの屋上に居るルーテシアも当然巻き込まれる。

 

「ちょ!?やば───」

 

───爆裂。更に続く爆発、爆破、爆撃!!

爆煙が舞うビル屋上に更に次々と着弾する魔力弾。一人(イクサ)(とついでにもう一人(ルーテシア))を狙うには明らかに過剰な火力を、倒壊する建物の惨状に、

 

「うわー」

「…う、うぅ」

 

───イクサが声を漏らした。

両腕にはお姫様抱っこ状態のルーテシアを抱え、空を跳んでいる。

そのまま、別の建物の屋上へと着地。ルーテシアを下ろそうとするが。

 

「い、イクサ!後ろ!?後ろ見て後ろ!!」

「ん?」

 

抱き抱えられたルーテシアだからこそ気付けた背後から襲撃をルーテシアを抱えたまま回避し、回避中に身を翻して襲撃者を視界に入れる。

碧銀の髪と左右で異色の瞳の少女、スバルの相手をしていた筈のアインハルトが何処か怒った様子で立っていた。──おそらくノーヴェが代わりにスバルの相手をしているのだろう。

 

「アイン」

「………いつまでルーテシアさんを抱いているんですか?

「す、ストラトスさん?」

 

つい敬語且つ姓名と他人行儀に呼んでしまい、更にもう一段アインハルトの機嫌が悪化した。

滲み出す威圧感、“凄み”としか呼び用のない覇気。

 

「…い、イクサ。下ろして」

「お、おう」

 

若き覇王(アインハルト)の覇気に直接当てられ若干涙目になりつつ懇願するルーテシアを下ろす。するとルーテシアはすぐさま離れていく。

あっという間に遠去かるルーテシアから目を離してアインハルトに向ける。変わらずアインハルトの鋭い眼光がイクサを射抜く。

 

「……御相手、お願いできますか?」

「……」

 

イクサは目だけで周りを見渡す。アインハルトの他に視界に映るのはなのはとティアナの魔力弾がアインハルトの後方で飛び交っている光景だけだ。

イクサは軽く息を吐くと一言、「いいぞ」と応える。

 

「!…今度こそ勝ちます!」

 

そう言うや否やアインハルトが構える。滾る闘士が身体を巡り、四肢に無限に湧き出るのでは思ってしまう程の力が充填(こめ)られる。序盤のイクサとの交戦。続くスバルとの戦闘を通じてアインハルトの感覚は研ぎ澄まされている。そして今の精神状態も加わりアインハルトの状態(コンディション)は正に最高と云える。

 

「……ふぅ」

 

イクサも構える。

右足を前へ出して足を広げ地面をぐっと踏み、半身を右回りに軽く捻り、両腕を胸の前で交差してから左腕を前に、右腕を腰にゆっくりと(ひろ)げる。地面を踏み締める力み。浅い息吹による脱力。この二つの動作を並行して行い最適な形態を作り出す。

 

「………」

 

アインハルトは観察する。覇王流(カイザーアーツ)の様な古流武術とは異なる近代格闘技(ストライクアーツ)とも異なる構えの型に一層警戒を強める。その動きをカケラ程も見逃さないと視線がイクサ一点に集中する。

 

「……」

「……ッ!往きます!!」

 

暫しの睨み合いを経て、ラチが開かないと覚悟を決めたアインハルトは自ら仕掛けた。

実力差は言わずもがなわかっている、それでもアインハルトは足を進める。高まる緊張感に比例して鼓動が大きく、そして激しくなるのを感じる。そして同時に強い高揚感も感じ取っている。

 

───彼は何を魅せてくれるのだろう?

 

───彼は何をしてくれるのだろう?

 

イクサがフェイトを倒した事実は既に()らされている。流石だと思った、誇らしく感じた。果たして同じ事が自分に出来るか?───悔しいが不可能だと確信を持って言える。フェイト一人相手にするのも難しいだろう。無論自身の力が通じない、などとはカケラも思ってはいないが“勝てるか”と訊かれればすぐに答える事は出来ない。

そんなフェイトにイクサは勝利した。しかも、ノーヴェとティアナの二人も同時に相手にして、だ。

 

(嗚呼。やっぱりイクサさんは凄い)

 

気が付けば先程の凄まじい怒りは何処かへときれいさっぱり消え失せていた。代わりに様々な想い───喜びや高揚といった感情が胸を渦巻き満たしていた。今のアインハルトにはこのごちゃ混ぜになった感情が何なのかわからない。だがそんな事はどうでもいい、どうせわからないものはわからないのだから。

それよりも今は唯、純粋に彼と戦っていたい。

 

「───覇王…ッ!断っ空…っ拳ッッ!!」

 

初手から解き放たれる覇王の技。地面を踏む足先から練り上げた力が、下半身から上半身へ移り、そして右腕に乗せられる螺旋回転。回転と共に魔力も込められた一撃はアインハルトの髪と同じ碧銀の旋風を帯びている。小細工無し、真っ直ぐに全力の一撃を解き放った。

 

「……少し遊んでやるよ」

 

アインハルトの断空拳がイクサの顔を撃ち抜く瞬間───イクサの姿が掻き消える。

拳を伸ばし切った姿勢のアインハルトの隣を寄り添う様に近く、囁く様に小さく通り過ぎる瞬間に言う。

 

「『リボルバー・スパイク』」

「あ、ぐぅ…ッ」

 

魔力光が軌跡を残す回し蹴りがアインハルトの横腹を捉え、蹴り飛ばす。建物屋上から弾き飛ばされ別の屋上へ落下。そのままゴロゴロと転がり屋上から転落しそうになるも咄嗟に腕を伸ばして屋上端を掴み取り留まる。

 

「うっ、くっ」

 

腕の力だけで屋上へと登り上がる。

荒れた呼吸を整え、鈍痛が響く横腹に手を添える。

 

「ッッ!」

 

だが、アインハルトに休む暇は与えられなかった。空中から迫る気配を感じ取ると無意識の内に飛び出していた。一瞬遅れでアインハルトの居た場所をナニカ、いや誰かが着弾、砂塵が舞う。

再び転がるアインハルトだが、腕の力で跳ね飛び着地しすぐさま相手へ目を向ける。

 

煙から姿を現したのは、

 

「───なっ!?」

 

()()()()()()()

 

「……」

「な、何故貴女が…ぐっ」

 

無言で歩んでいたノーヴェは、突如として駆け出し味方である筈のアインハルトに接近し拳を突き出す。アインハルトも両腕を交差させるクロスガードで防御するがパワー負けして後退する。

すぐさま駆け出しアインハルトを追うノーヴェに前に、アインハルトは何がなんだかわからないが迎撃に入る。

 

「ノーヴェさん!?待って、ください!私達は味方の、筈、です!!」

「………」

 

同じチームだと呼び掛けるアインハルトをノーヴェは無言で攻め続ける───所か大きく引き絞った右拳に電撃の様に弾ける()()()()()を帯びたスタンナックルをアインハルトへぶつけた。

 

「…ッ…?」

 

ノーヴェのスタンナックルをガードする、そして異常な感覚に気付いた。

 

(弱……い?)

 

拳打の重さは十分だ。だが、一撃に込められた魔力量がかなり少なかった。

以前、通り魔を行っていた頃にアインハルトはノーヴェのスタンナックルを受けた事がある。その時はノーヴェがバリアジャケットを身に付けていなかった事もありそこまで威力は高くなかったが、今の一撃はそのバリアジャケットを纏っていない時よりも更に少なかった。

一度、違和感に気付くば次々とおかしな点が見つかる事ができた。

 

一つ、ノーヴェの魔力光は“白”ではなく“黄色”だ。

二つ、ノーヴェのバリアジャケット、その脚部にはローラーが仕掛けられノーヴェも愛用している。走るなどあり得ない。

 

そして何より、()()()()()()()()()()()()()

 

(───あ)

 

理解した。思い出した。

以前、見せて貰ったその妙義。

そう、其れこそが、

 

「象形…拳っ」

「───正解、だ!」

 

瞬間、目前にまで接近していたノーヴェの幻惑(スキン)が剥がれイクサが姿を露わにした。だがイクサの拳弾(いちげき)は既に引き金指が掛かっており、魔力を纏ったブローをアインハルトの腹部に叩き込み、振り切り、ふっ飛ばし隣の建物へ衝突させた。

 

「気付くまで三十秒とちょい。……まだ、合格点はやれないな」

 

イクサはLIFEポイントを全て失い気を失ったアインハルトに向けて悪戯に成功した子供の様に笑い掛けた。

 

「ふぅ、さて」

 

撃沈(リタイヤ)したアインハルトから目を離し、向けるのは二つの魔力大塊。桜色のものと橙色のもの、小太陽の様な巨大な魔力。

 

「ブレイカー、だよなアレ」

 

嗚呼〜ダメだ〜、こりゃ間に合わんわー。とわざとらしいセリフを吐きながらブレイカー同士の衝突による超エネルギーの爆裂がドーム状に拡散し建物を呑み込む最終戦争(アルマゲドン)じみた光景から目蓋を閉じてシャットアウト。

 

 

 

イクサ。ブレイカー同士の衝突による魔力爆発に呑み込まれ撃沈(リタイヤ)

 




次回は番外編予定です


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