アクセル・ワールド〜過疎エリアの機動戦士〜 (豚野郎)
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プロローグ
プロローグ


「よう、リクヤ。今日、暇してるか?」

「部活に入っていない俺に、暇じゃない日があると思うか?」

 

 放課後、親友のカラトが声をかけて来た。どうせいつもの遊びの誘いだろう。

 小学校一年の頃、趣味や性格が意気投合して、入学直後から大親友に。六年連続で同じクラスになり、この江戸川第十一中学校でも二年連続で同じクラスだ。

 

「渡したいアプリがあるからさ。俺ん家来てくんね?どうせ最後はいつも通りに、二人でゲームやるんだし」

「別に良いけど…。……一体、何のアプリだよ?」

「まあ、来りゃ解るさ。フルダイブ苦手なお前でも、なかなか楽しめると思うぞ」

「ふーん。んじゃ、帰ったらすぐにそっち行くから。待ってろよ」

 

 

「おーっす。来たぞー」

「はいよ。やっと来たか」

 

 いくら二十一世紀の頭頃から技術がうなぎ上りに進歩したと言えども、この江戸川区にはまだ背の低い一軒家が目立つ。俺の家も、こいつの家も、昔ながらの一軒家だ。まあ、言う程不便でもないし、快適に暮らしている。

 カラトはあらかじめ、机に置いてあった1mのニューロリンカー用の直結ケーブルを手に持ち、………俺の首元に装着してあるニューロリンカーに近づけて来た。

 

「って、うおぉぉぉいっ!何しやがる!?」

「何って…直結に決まってるだろ?」

 

 通常、直結は恋人同士や異性同士が二人きりで会話をしたい時に行ったりする物で。直結時には、相手のニューロリンカーのファイルを好き放題に操作することが出来て、当然ウイルスなども仕込める為、直結するには高度な信頼関係が求められる。

 断じて、むさい男二人がするものではない。

 

「ちょっ…ちょっ……直結って、おま、おま………!!かの、かのかの…かのじょとかとするんじゃ…!」

「はあ?何考えてんの?ホモかお前?…やらないかか?」

「お前がだよっ!!」

「ああ、ああうるせぇうるせぇ。アプリ渡すって言ったろ。早く刺せよ」

 

 そう言えばそうだった。

 ……やれやれ、カラトがあまりにもせっかちだった物だから、勘違いしてしまったじゃないか。

 

「今から送るアプリ、少し重いかもしんねーけど、空き容量は大丈夫だよな?」

「俺がフルダイブ苦手なの知ってるだろ…。空き容量なんて、くれてやるくらいあるよ」

 

 産まれた直後からニューロリンカーを装着している俺だが、フルダイブシステムには一向に慣れることが出来ない。

 当然、フルダイブ専用のゲームアプリケーションなどは一切、ニューロリンカーには入れていない。

 かと言って、別にゲームが嫌いという訳ではなく、良くこいつの家に来ては骨董品級の2DTVゲームをして楽しんでいる。

 

「了解。んじゃ送るぞ」

 

 目の前にアプリケーションをダウンロードしますか?と書かれた仮想デスクトップが開かれる。付属して来た同意書に適当にチェックを入れ、OKを押す。

 うわ……、本当に遅いなこれ………。

 今時のニューロリンカーにしては珍しく、たっぷり三十秒も掛かった。

 

「おっ、大分凝ってるな…」

 

 カラトのニューロリンカーが業火に包まれ、ケーブルを伝い、俺の端末に燃え移る。

 炎は耐えること無く飛び火し、やがてはカラトの部屋全体を包む程に………。

 もちろん、これはニューロリンカーの見せた仮想の炎であり、決して火事など起こっていない。

 目の前に燃え盛る鉄板でつなぎ合わされた英文字が広がる。うん、俺バカだから読めない!

 

「どうやらタイトルは見れたようだな。…あとはインストールが完了すればOKだ」

「了解だ。んじゃ始めるぞ」

「おう、始めてくれ」

「……ん、完了した」

 

「はいよ。…今更なんだけど、インストールするのに実は適性検査とかあったりしたんだよね」

「検査?なんだそりゃ?」

「いやぁ、実はこのアプリ、産まれた頃からニューロリンカーを装着していて、その上、廃人シューティングゲーマー並みの反応速度を持ってないとインストールできなかったりするんだよ」

「ホントに今更だな…」

 

 まあ、とにもかくにもインストールは成功したわけだし、コイツの抜けてる所は今に始まった訳ではないし、良しとするか……。

 

「んじゃ、用は足りたし、いつもの様にグロゲーでもやるか?」

「そうだね」

 

 

 ……親父!!

 

『だめだ六矢!こっちに来るな!早く逃げるんだ!!』

 

 ……やだよ!このままじゃあ親父………殺されちゃうじゃんかよぉ!!

 

『言うことを聞きなさい六矢!警察がもうじき来るから、早く逃げるのよ!』

 

 ……なんだよお袋まで!二人で掛かれば助けられるだろ!!早く助けなきゃ!!

 

『何をしてるんだ母さんッ!早く六矢を連れて逃げるんだ!!』

『六矢早く!こっちに来なさい!!』

 

 ……やだよ…!離せよお袋!俺は親父を助けるんだ!!離せって!!

 

『……六矢……!…ぐ……あぁああ!!』

 

 ……親父ィ!!!

 

 ……強く……!もっと強くなれたら………ッ!!

 

 ソレガキミノノゾミカ?

 

 

 布団を蹴飛ばし、反射的に起き上がる。

 カーテンの隙間から入る太陽の光が目を焼く。

 

「…なんか凄い嫌な夢を見てた気がする……」 

 

 ニューロリンカーを装着して時間を確認する。大体午前十一時半。そういえが今日は土曜日で休日か。

 

「大分ぐっすり寝たな…」

 

 家の中にチャイムの音が響く。

 ……何時だと思っているんだ……。

 未だ眠気の冴えない目をこすって玄関のドアを開ける。

 

「……カラトか。……一体何時だと思っているんだ?」

「十一時三十五分だ。まあ、普通に昼間だな」

「うるさい…。今日は土曜日だぞ。予定じゃ一時まで寝るつもりだった」

「すこしお前に用があってな…。……バーストリンク」

 

 突然、雷に打たれたような音が頭の中に響き、周囲がガラス張りになったかの様に静止する。

 視界が暗転し、目の前に黄金の草原が広がる。

 ……ああ、こりゃVRゲームだ。

 目の前に一体のロボットが佇んでいる。

 翼が生えていて…、こう、はばたいちゃう感じだ。

 すると、唐突に、目の前のロボットがしゃべり始めた。

 

「よう。……誰だか解るよな?」

「おま…、カラ———」

「おっと、この世界でリアルネームを口にしちゃいけねーぜ」

「はあ?じゃあ、なんて呼べば……」

「上、見てみろよ」

 

 うながされて視線を上にむける。

 そこには青いバーと緑のバー。そして四桁の数字が並べられていた。

 右の青いバーの下に、英語で何かが書いてある。

 

「ウイング・ゼロ………?」

「ちゃんと読めたようで安心したぜ」

「あまりバカにするなよ」

 

 もう一つのバーに目をやる。その下はおそらく俺のネームだろう。

 

「…バンシィ・ノルン…」

「やっぱり、お前もか」

「何がだよ」

 

 手のひらを見てみる。カラトと同じくロボットのような装甲だ.

 真っ黒な装甲……。所々に黄色いラインが入っている。

 両腕にはいかにも武器チックなアームがついている。

 

「普通はな?このゲームのキャラクターには、名前の頭に色に関係ある物がつくんだよ。…レットとか、ブルーとか」

「えっ?だってウイングに、バンシィって全然関係ないんじゃ……」

「全くだ」

「バグか何かか?」

「このゲームに限ってあり得ない話だ」

「そんな精密なゲームなのか」

「精密なんて物じゃないな。………このゲームには、俺とお前みたいな名前に色が無いイレギュラーなヤツが複数存在する。…そういう奴らを、俺達は機動戦士と呼んでいる」

 

 …機動戦士。そういえば昔、その名前そっくりのアニメがあった気がする。もしかしたらそれを取ったのかもしれない。

 

「へえ。…で、これってどんなゲームなの?」

「対戦格闘ゲームだ。他にも俺達みたいなゲームプレイヤー、いやバーストリンカーが東京にはうじゃうじゃいる。あいにく、この江戸川区は過疎エリアと言われていて、バーストリンカーが少ない。どうだ?今からこのゲーム、ブレイン・バーストのいろはを学ぶためにアキバにでも行かないか?」

「別に構わないけど…」

 

 今日この日、俺がこのブレイン・バーストを手に入れた日から、俺とカラト、いやウイング・ゼロとバンシィ・ノルンの過疎エリアの最強伝説は始まった。




小説初投稿です。誤字脱字、おかしい文章等、読者様の気分を害することもあるかもしれません。それでも温かい目で見守って頂ければと思います。コメントや指摘があればじゃんじゃんお願いします。
おそらく、新話を投稿するのにかなり時間がかかると思います。秋あたりからはペースアップするつもりです。


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序章 A New Hero A New Lgend
リクヤは一足先に大地に立ちました


 ご無沙汰しております、リクヤです。カラトから例のアプリを渡されてからかれこれ一週間。渡されたあとから知った話、このブレイン・バーストというアプリケーションは持ち主の思考を一千倍まで加速させ、それと同時に日本の至る所に設置されている超高性能カメラ、ソーシャルカメラのとらえた映像をハッキングしてステージを作り上げるという、犯罪行為丸出しのヤバい格ゲーであります。

 ただいま、そのやばいアプリケーションを俺は秋葉原でおもいっきり遊んでおります。

 

「ノルン……気をつけろ。いつ、どこからバーストリンカーが来るかわからないんだからな」

「わかってるさ。でもガイドカーソルの矢印は真っ正面だぜ?そんなに警戒しなくても……」

「この世界で敵を確認するのに最も有効なのは、ガイドカーソルではなく、何よりも己の目だ。カーソルは相手のいる方向しか示さない。…ということは、相手がどのぐらいの距離にいるのかも解らないということだ……。俺とて、人に威張れるほどバーストリンカーになってから日が深くない。十二分に用心しろ」

「……了解した」

 

 今、行っているのは二対二のタッグバトルで、相手の名前は<グレー・ツループス>と<グレープ・シバー>だ。

 ツループスは近距離よりのスタイルで、シバーの方は中距離型だと言う情報は既にこちらに伝わっている。

 ステージは砂漠ステージで、目の前には穴ぼこだらけの巨大な岩(現実ではビルだった)がある。

 相手は両方ともレベル4。それに比べて、バンシィ・ノルンことこの俺のレベルは1、相方のウイング・ゼロことカラトはレベル4と、合計するとこちらのレベルは3も劣っていることになる。

 カラトによれば、

 

『大丈夫大丈夫!お前センスあるから、多少のレベル差もどうということはないぜ!』

 

 とのこと。

 まあ、このノルンには秘密兵器も隠されていることだし、今回も何とかなるだろう。

 これまでの経験から、相手はレベル差を武器にして恐らく、真っ正面から突っ込んでくるだろう。

 視線やや下側にあるこのガイドカーソルという方位磁石は、相手との距離が十メートルを切ると消滅する。それが狙い時だ。

 

「ノルン、……様子がおかしい」

「え?なんで?」

「時間が掛かり過ぎている」

「そう言えばかれこれ四分くらいこの状態だね」

「相手はレベルが三つも上で、近と中距離。ということはそれなりに距離をつめないと攻撃が通らないはず…」

 

 改めて背筋に緊張が走る。

 ……もうすでに、先手を打たれた可能性が高い………!

 

「気をつけろ…。嫌な予感がする」

 

 瞬間、正面の岩が爆発した。

 煙の中からおびただしい数の何かがこちらを襲って来て、視線右上の体力ゲージがガリガリと減って行く。

 これは……銃弾!

 俺とゼロは同時に逆方向の横に飛び退く。レベルの低い俺の体力は既に三割近く削られている。

 岩ビルの壊された壁から二つの陰が出てくる。

 

「ふーん。初見でアタシの機関銃を避けるんだ〜」

「なかなかやるね。少しはやりがいがあるかな……」

 

 予想通り、グレープ・シバーとグレー・ツループスだ。

 シバーはほっそりとした女性型。台詞の通り大口径の機関銃を右に担いでいる。

 ツループスは、身体からは解りにくいが口調と声の質から見て男性型だろう。見た限りでは何も持っていないが、まさか近接型のそれもかなり純粋な青系アバターじゃあるまいし、何かしらの武器を持っていると考えていいだろう。

 

「ゼロ、俺はブドウ野郎をやる。片方は任せた」

「おいおい、冗談言うんじゃあねえぜ。お前はレベル1なんだぞ?経験も紙みたいに薄いし、一人でやれると思ってるのか?」

「もちろん」

「マジで言ってんのか?いいかげんにーーー」

 

 カラトが台詞を言い終わる前にシバーが機関銃を放って来た。

 あっ、なんか怒ってる…。

 

「だ、だだだ誰がブドウ野郎よーーーーーっ!!ハチの巣!ハ・チ・の・巣にしてやるわーーーーー!!そこを動くんじゃないわよ!!」

 

 あれ?割とコンプレックスだったのかな?やべえやべえ、このままじゃまじでハチの巣になっちまう。

 左腕に装着されたナックル状の強化外装<アームド・アーマーVR>を盾にして、横に飛び退く。ちなみに、右手には大火力のビームマグナムを持っている。

 つーか弾数考えないで乱射してるだろあれ。

 機関銃の取り回しが悪いのはどのゲームも同じ。このまま弾が切れるまで逃げ切れば勝機はある。

 

「これはやれるぞゼロ!」

「そのようだな…。よし、そいつは任せた」

「やれやれ……。グーはああなると手に負えないからね〜。まずは君を倒してからあのニュービーをやらせてもらうよ!」

 

 シバーの右横に滑り込み、左腕のナックルウエッポンのアームド・アーマーVRで頭を叩き付ける。

 上体は大きく前によろけ、無防備になる。そこから頭へビームマグナムのゼロ距離射撃。

 反動で大きく腕が上がる。

 シバーは砂煙を巻き起こしながら地面を大きく転がる。

 シバーの体力ゲージを見る。レベル差のせいか、二割程度しか減っていない。

 相手が立ち上がる。

 

「よくもやってくれたわね………」

 

 右腕がない。射たれる瞬間にとっさに頭を抑えたのだろう。それならこの体力なのも頷ける。

 

「悪いな。痛っかただろうに」

 

 そう、このブレインバーストにはVRゲームでは御法度の痛覚がある。もちろん、リアルに食らうほどの痛さではないが。

 

「でも、悲しいけどこれ、バトルなのよねん」

 

 そんなのお構いなしにビームマグナムを連射する。さすがレベル4のバーストリンカー。すぐに横に走り、弾を避ける。

 そうこうしているうちにビームマグナムの弾数が切れる。

 だがこれも、計算のうち。

 外れたビームマグナムは岩ビルの壁を破壊し、バンシィ・ノルンの必殺技ゲージが半分程度まで溜まる。

 

「この瞬間を待っていたんだ!!」

 

 必殺技ゲージが三割近く減る。ビームマグナムを背中の<アームド・アーマーXC>にマウントし、右腕を前に出す。

 右腕にマウントされていた二枚のアームが展開される。

 

「<アームド・アーマーBS>ッ!!」




コメント、指摘等があればよろしくお願いします


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ジャブロー上空に可能性の獣を見た

 どうも、リクヤです。ただいま右手の<アームド・アーマーBS>にエネルギーが収束中です。

 一拍を置いてアームの間からエネルギーが放出される。

 ビームマグナムとは違い、収束したビームの照射がシバーをとらえる。

 レベル差の影響でHPの減りは少ないがこれならば一気に半分程度までは削り落とせるだろう。

 ここまで来て気づく。シバーの必殺技ゲージが被ダメージボーナスで七割近く溜まっている。

 まずい……!

 ビームの照射をシバーの後ろの岩ビルにずらし、いざという時にステージ破壊ボーナスで再度必殺技ゲージを溜めておく。

 ここで必殺技は終わり、再びステージに緊張が走る。

 

「なかなか勘の良いニュービーね……。でも、一足遅かったわね」

 

 その通りでございます。既に相手は大抵の必殺技なら十分に使えるほどのゲージが溜まっており、引き換えにこちらは先ほどの必殺技がやっと使える程度しかゲージが溜まっていない。

 ……何をするつもりだ?

 相手は機関銃を腰にマウントしたまま動かない。

 

「…………!!」

 

 シバーは一気に駆け、こちらに向かってくる。

 ああ、もう!取り回しが悪い!

 牽制のビームマグナムを射とうとするが、癖の強いこの強化外装は発射までに少しのタイムラグがある上に、発射時の反動が大きいため、真っ正面から射とうとすると気配で気づかれて先に避けられてしまう。

 まずい、後ろに回られた!?

 アームド・アーマーVRで振り向き様に殴り飛ばそう思うが時既に遅く、がっちりと羽交い締めにされてしまった。

 

「アタシを侮辱したバツね。くらいなさい、<ピーコック・ハモニカ>!」

 

 首だけを振り向かせてシバーの様子を見る。胸の装甲が大きく開き、現れた無数の穴が赤紫の輝きを放っている。

 今まで散々ロボット系ゲームをやってきた俺には解る。これは拡散ビーム砲だ!

 そんなものゼロ距離でくらったらひとたまりも無い。いそいでシバーの拘束から逃れようともがくが、がっちりと脇の間に腕を通されていてどうにも抜けられそうにない。

 こうなれば強硬手段に及ぶほか無い。

 気づかれない様にビームマグナムの銃口をシバーの足に向け、発射する。

 足への衝撃で拘束の手が緩んだ隙におもいっきり斜めに飛び出す。

 しかし、予想より早くシバーは体制を整え、こちらに拡散ビームを放って来た。

 

「ぐ……!」

 

 避けきれず、右肩が焼き切られる。体力もごっそりと削られてしまい、残り四割となってしまっている。

 

「くそ……!」

「ふふふ、良い気味ね。このままゆっくりハチの巣にしてやるわ」

 

 まだ手はある。俺のたった一つのアビリティ……。条件はそろった!

 

「まだだ!まだ終わらんよ!」

 

 ノルンの装甲が開き、隙間から新たに黄金の装甲が現れる。

 アームド・アーマーVRがクロー状に変形し、フェイスマスクが外れてアバター本来の顔があらわになる。

 

「<角割覚醒(NT-D)>始動!!」

 

 

「あーあ。グーのやつ、やられちゃってるよ」

「へぇ〜、お前には相方を哀れむだけの余裕があるのか?」

 

 離れた所でグレープ・シバーとバンシィ・ノルンが戦闘を繰り広げる中、こっちはこっちでグレー・ツループスとの激戦が行われていた。

 互いにHPは六割程度残っていて、向こうよりかはまだ長持ちしている方だ。

 

「余裕なんてある訳無いじゃん。こっちだってギリギリさ。……ただ、僕は君に勝てると言う確証があるだけさ」

「上等抜かすんじゃあねえぜ!俺がお前に負けるなんざあ万に一つもねえぜ!」

 

 と口で言いながらもこれはなかなかヤバい状態だ。

 このウイング・ゼロの常時発動アビリティ、<低飛翔(ロー・フライ)>はアバターそのものが身軽になり、跳躍やステップの飛距離が自然と伸びるというものだ。

 ヒット&アウェイなどには最適だが、ここに来てこのアビリティは仇となった。

 飛距離が長過ぎて着地を突かれる……!

 ツループスの持つやたらと砲身の長いピストルの鉛玉が着地の度にパチパチとこちらに飛んでくる。

 なんとか近づいてビームサーベルをぶち込んでここまで削ったが、正直キツいな………。

 

「さて…。どうした物か…」

 

 

 視界中央やや上に新たなゲージが現れる。これがNT-Dの稼動時間だ。せいぜい持って二十秒と言った所だろう。

 機関銃を構えるシバーに正面からダッシュで近づく。

 

「何よこれ!さっきより早いッ!?」

 

 見くびるなよ!NT-Dで変化するのは見た目だけじゃあないぜ!火力も機動性も抜群のNT-Dだ!

 急いで機関銃を盾にするシバーの胴体目掛けてクローを振り下げる。

 クローは機関銃とシバーの左手を貫通してボディに深い傷を作り、吹き出たオイルがノルンの装甲を汚す。

 そのまま身体をクローで鷲掴みにし、持ち上げる。

 

「我が世の春が来たァーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」

 

 シバーの装甲をクローが貫通してアバターが胴体、腹、下半身に分かれる。ここでシーバーのHPは空っ穴になり、ポリゴンの粒子となって消える。

 まだ十秒残っている。

 見ればツループスが少し離れた所で俺に背中を向けている。相手は相方がやられたことに同様しているみたいだ。

 勝機!

 ツループス目掛けて大跳躍をする。

 

「なんとおぉぉぉぉぉぉおおおお!!」

「な……っ!?…がああああ!!」

 

 アームド・アーマーVRをツループスの胴体に突き刺し、力任せに上へとクローをかち上げる。

 ツループスの上体は縦に三枚に裂け、傷口から血を彷彿とさせるどす黒いオイルが吹き出る。

 これでツループスのHPも尽き、戦闘が終了する。

 NT-Dの稼動時間も終わり、装甲が閉まって、アバターが一回り小さくなる。

 

「まさかあそこから巻き返せるとは思っていなかった……」

「まあ、俺の手に掛かれば楽勝だな」

「ほざけ」

「まあ、終わったことだし、さっさと抜けるか」

「…そうだな」

 

 二人でこの世界から抜ける魔法の言葉を口にする。

 

「「バースト・アウト」」

 

 

 視界が現実の物へと戻る。

 目の前には食べかけのハンバーガーとSサイズのソフトドリンク。

 ここは秋葉原駅のファーストフード店。

 

『ひぇ〜。疲れた〜……』

『今回は少し調子に乗り過ぎたな。今度からはレベル差を少し低く見積もらないとな』

 

 ちなみに、目の前のカラトとはニューロリンカー同士で直結していて、思考通話で話している。

 

『しっかし、今になっても信じられないな…』

『何がだ?』

『決まってるだろ。ブレイン・バーストだよ。…向こうで散々ドンパチやっといてこっちじゃまだ始めてから一秒ちょいしかたってないんだからな……』

『まあ、普通じゃありえないよな』

 

 食いかけのハンバーガーとドリンクを急いで平らげる。

 秋葉原はブレイン・バーストで呼ばれている六大レギオンの内の一つ、黄色のレギオンの支配下で、無駄足を踏んでいるとバースト・リンカーに余計なバトルを引っ掛けられない。

 

『さてと…。用は済んだ訳だし、今日は帰るか』

『そうだね』

 

 俺達はまた一歩<機動戦士>へと近づいた…。

 




今回は展開を急ぎ過ぎました。すみません。

アドバイス、コメント等があればよろしくおねがいしますm(_ _)m


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追撃!転校生サトウ

色々、私情を挟んだ結果、投稿が一ヶ月も遅れてしまいました。

私の小説を楽しんでみてくれている方に心からのお詫びを申しますm(_ _)m


 どうも、ご無沙汰しております。リクヤです。カラトからあのアプリを貰って早一ヶ月。見事LV2になりました。

 

 今日は天気予報の通り、朝から大雨。大粒の雨は、通学路を行く俺の傘を容赦なく叩き付ける。

 

「……はぁ…」

 

 意味の籠らないため息が出る。

 ……昔から雨は好きじゃない。自分でも品がないと自覚しているし、今更ずぶ濡れになる———流石に通学中は勘弁———ことに大した抵抗は覚えない。でも、こういった大雨が降る度に昔のことを思い出してしまって胸が痛む。 ………あの時も、こんな雨だった……。

 

「……………やめよう」

 

 嫌なことを思い出したと、頭(かぶり)を振る。あのことは、もう振り返らないと心の中で決めたハズだぞ……。今でもたまに夢に見る。———そう言えば、カラトから<BBプログラム>を貰った日に見たあの夢はずいぶんと、「りっくん、おっはよーっ!」腰に激痛が走るゥゥゥッ!!!

 

「ブベラッ!!」

 

 衝撃で身体が中を舞う。そのまま水々しい路上をペンギンよろしく、腹で滑る。

 犯人はだいたい検討が付く……。

 

「……ンの野郎……!何しやがる愛華(あいか)ッ!!」

「べっ、別にりっくんの為に鞄でどついた訳じゃないんだからねっ!」

「こっちから願い下げだ!!どうすんだよ、制服ぐしょぐしょじゃないか!!」

「だって……いくら呼んでもりっくんが振り向いてくれないから………!」

「たったそれだけか!?それだけで俺は冷たい路上に腹からダイビングしなきゃいけないのか!?」

「当たり前でしょ!りっくんは私の幼なじみなんだからっ!」

「幼なじみは路上でどつかれなきゃいけないだなんて世も末だな!!」

 

 これの名前は多摩美 愛華(たまみ あいか)。俺ん家の隣に住んでいる。性格は元気もとい凶暴で、先ほどの意味の分からない行動が証拠だ。昔からの付き合いで、幼、小、中学校も同じ所に通っている。

 ———あえて言わせてもらおう。幼なじみであると!!

 まあ、今の通り、幼なじみだからといって何があるという訳でもなく、『朝は毎日同じ時刻に登校』などと言ったマンガやアニメでしか見たことが無いリア充な行動などもあまりない。だからといって、仲が悪いとかそう言うことではないのだが。

 

「畜生……。早く行ってジャージに着替えないと……」

「早くしないと間に合わないよ〜?」

「誰のせいだと思ってんだお前!?」

 

 

「何だお前。朝からジャージなんか着て」

 

 教室に入って席に座るなりカラトが話しかけて来た。まあ、無理も無いよな。

 

「ああ、これか?来る途中に少しこけてな。制服がビショビショになっちまって……」

「そうか……」

 

 別に心配をする風も無く、眠たそうにあくびをする。

 あっ、そうだ、とカラトが口を開く。

 

「今日来るって言ってた転校生。どういうヤツなんだろうな」

「転校生?何だそりゃ?」

「はあ?お前知らないのか?」

「知らんぜ(グッ)」

 

 話によると、結構前から先生が帰りの会などで口にしていたそうだが、まあ、大体俺はその時間は机に突っ伏して寝ている最中なので、聞き逃していたのも無理は無い。

 どうやら今日は二人の転校生が杉並区からこのクラスに来るらしい。

 丁度このクラスは先月と三週間前に二人のクラスメイトが転校と退学をしていて、人員のストックは丁度ぴったり空いているのだ。

 

「どんなヤツなんだろうな。片方で良いから、可愛い女の子だったら良いなぁ…」

「…名前からして、それはあり得ないだろうな」

「なんだ。名前まで聴かされているのか?」

「ああ。佐藤 優斗(さとう ゆうと)と畠山 裕雅(はたけやま ゆうま)。……ま、諦めな」

「ちぇ……」

 

 学校中にHRのチャイムが鳴る。カラトは自分の席に戻り、俺は机に額を押し付けて寝る体制に入る。

 教室の戸を開けて担任が入ってくる。転校生も一緒だろう。まあ、女子じゃないと解った以上、見る気すらないが。

 

「席に着いてください。HRを始めますよ」

 

 さて、寝るか……。

 すると、担任の女教師が怒った声で俺に話しかける。

 

「こら!小和田(おわだ)君も、今日くらいはちゃんと起きてHRを受けてくださいっ!」

「………………」

 

 ちっ…。仕方ない。起きるとするか。

 俺の担任、川崎 恵子(かわさき ちえこ)は二十代とは思えないくらいの低身長で、俗にいうロリとやらなのだが。まあ、なんと言うか…。身体の一部が幼い女体に釣り合わないほど出っ張っていて、凄く…その…、

 

「了解です」

 

 ―——エロチックだ…。推定Dカップ。男である以上、俺は彼女に逆らえない。ちなみに俺はロリコンではない。

 全員が席に座り終えた所で、先生が開けっ放しの教室の入り口に向かって呼びかける。

 

「じゃあ、転校生の紹介をしますね。畠山君と佐藤君は中に入って来てください」

 

 教室に二人の男子が入ってくる。一人はぼのぼのとした印象で、凄く緊張しているようだ。もう片方は眼鏡をかけていて、男子にしては少し髪が長い。先の男子に比べて、慣れているのか、緊張した様子は微塵も無い。二人とも中肉中背。顔立ちもそこそこ。

 ま、女じゃないのだから俺に関わる筋合いは無い。

 

「それじゃあ、自己紹介をしてください」

「え?………はっ!…あの……そのぉ……えっと……」

「…佐藤君、名前名前」

「はいっ!佐藤っ、優斗デスっ!よろしく御願いしまチュッ!……っ〜〜〜〜〜〜!!」

 

 最後の一言で見事に舌を噛みやがった。それも、結構な勢いで噛んだらしく、口から血が垂れている。クラス中から何処となく悪意の無い笑いが出る。

 等の本人はハンカチで必死に口を押さえている。

 

「だ、大丈夫ですか!?保健室に行きますか!?」

「だ…大丈夫です…。少し、緊張しただけで……」

「そう…ですか…。じゃあ、次。畠山君どうぞ」

「畠山裕雅です。隣の佐藤と同じ、杉並第9中学校から来ました。これからよろしく御願します」

 

 佐藤とは裏腹に、非常に落ち着いた口調で淡々と喋って行く。やはりこういうことに慣れているのだろう。

 

 

『ねえねえ、好きな物とかあるの?』

『彼女は居るの?』

『好きな女性の好みは?』

『え……好きな物?えっと…それは…』

 

「良くやるな……」

「全くね」

「おっ、休み時間に俺の所になんか、珍しいな」

「何よ。私がここにいちゃ悪いって言うの?」

「いや、そこまでは言っとらんだろ…」

 

 今は昼休み。俺は自分の席で、クラスメイトからの質問攻めにあたふたしているサトウを眺めている。ちなみにハタケヤマはこういうことになるのを予測していたらしく、クラスメイトが寄る前にどこかへ消えてしまった。

 俺の隣にいるのはこのクラスの保健員、姫島 輝(ひめじま あきら)。黒のロングヘアーで、その姿は中学生と思えないくらい大人びている。

 まあ、見るからにツンな訳で……。話しづらいのは確かなんだが、なぜかいつも向こうから俺に寄ってくる。

 こう見えて、彼女もブレインバーストのプレイヤーで、アバター名は<ディクライン・スカート>。赤よりの黄色系。夕日色の優美なアバターで、名前の通り、腰より下はロングスカートで覆われている。

 

『…み、皆、……ちょぉ〜っと待ってくれる?』

 

 サトウが、群がるクラスメイトを両手を上げて必死に制している。何だ?トイレにでも行きたいのだろうか?

 

『…………………』

 

 ―——バースト・リンク

 サトウの口が小さく動いたのを俺とヒメジマは見逃さなかった。

 雷の音が俺の頭を穿つ。視界が暗転したかと思うと、気づけば身体は黒い装甲に包まれ、周りは植物だらけとなっていた。

 ………仕掛けて来たのはやはりサトウか……?丁度十メートル隣に険しい表情をした<ディクライン・スカート>の姿が見受けられる。

 とにかく……サトウの席…ああ、やっぱり居た。やたらとゴツゴツした赤い鬼の様な姿。名前は……<ヤークト・アルケー>かな?そして何故か……

 

「え!?…近っ!!うわっ!近っ!!」

 

 凄く驚いていた。仕掛けて来たくせに……。

 

 




投稿が大変遅れてしまいました!

マジですんません!

コメント等があったらよろしく御願します!!


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果て無き泥試合(デスマッチ)

今回はだいぶ長くなりました。どうやら私はねちねちした戦いが好きなようですねwww


 どうも、ただいま転校生のバースト・リンカー、<ヤークト・アルケー>とバースト・リンク中のリクヤです。

 

「近いって……。喧嘩ふっかけてきたのはお前だろうに」

「え………、あっ、そうだった…」

 

 聞いているこちらが拍子抜けしてしまう。少し離れたところから見ている<ディクライン・スカート>も同じようで、やれやれ、と両手を上げている。

 

「とりあえず確認するけど、…サトウ ユウトで間違いないんだよな?」

「そうだけど。………じゃあ、逆に聞くけど、君達二人は誰なの?同じ教室ってことは、クラスメートなんでしょ?こっちだってリアルが割れちゃった訳だし……」

 

 サトウの質問に少し戸惑う。……こう、やすやすとリアルを教えて良いのだろうか?噂でしか聞いていないが、こうやって入学、転校を利用してPK——プレイヤーにリアルアタックをしてポイントを根こそぎもぎ取ること——を執り行う<バースト・リンカー>も居るらしい。

 しかし、今回は向こうからリアルを割らせて来た訳だから………いや、この状況だって事故であることに代わりは無いのだから………。

 

「あっ、別にPKとかは狙ってないからね?…って言っても信じてもらえないか……」

 

 そうは言っているが、真相がどうなのかはあいつにしかわからない。

 どうしたものかと考えているさなか………、

 

「川崎 輝。保健委員をやっているわ」

 

 話を聞いていないとしか考えようの無いスカートの狂言。

 

「お前話を聞いていたのか!?」

「勿論よ。別に良いじゃない。ウチには華水希(はなみずき)が居るのよ?そんなちょっとやそっとのPKくらい、なんてことは無いでしょ?」

「そう言う問題か!?」

「な、何よっ。そう言う問題でしょっ?」

 

 ダメだこいつ……。俺が言いたいのは、そうおいそれとリアルを相手にばらすなって言いたいのに、てんで伝わらない………。

 

「あの、だから……、別にPKを狙ってる訳じゃないんだけどな……。…それと華水希 空徒(はなみずき からと)君だっけ?その人なら、今頃ユウマと対戦をしているんじゃないのかな」 

「…ユウマってもう一人の転校生の方か?」

「そうそう。何を隠そう、僕の親はあいつでね。レベルは6。ブレイン・バーストが配布された初期の頃から居たらしく、<七聖剣(セブン・ソード)>と呼ばれる程の手だれだよ。ウイング・ゼロだっけ?君達の大将にあいつが倒せるかな?」

 

 嫌味の無い口調でサトウが淡々と言葉を並べて行く。確か、カラトの今のレベルは5。客観的に見れば武は確かに転校生にあるだろう。

 ………だが、なあ…。見ず知らずのバースト・リンカーにあのカラトが何も対策を考えていないなんてことはあり得ない。口先では知らない風を装っていたが…ましてや、今日まで何も知らなかった俺とは違って、相手の情報、タイプ、戦術、その他の色々なことを調べて、そして考えているだろう。

 

「カラトが負けるとは思えないぜ。知らないだろうが、ウチの大将は相当のひねくれ者で嫌なヤツなんだよ。例え話だが、ハタケヤマがやつにPKを仕掛けるとしたら、きっと返り討ちに会うだろうな。それも十倍。いや、百倍返しくらいは覚悟しといた方が良いな。本人曰く、実際にやったことがあるらしいしな。……バースト・リンカーのアビリティや必殺技を盗む<略奪者>にPKを食らったとき、無制限フィールドで逆に相手のバースト・ポイントをミリにしたことがあるってこの前豪語していたし」

「…ずいぶんと彼を高く買っているんだね」

「ああ。何を隠そう、俺の親だからな」

 

 サトウがまいったな〜、とでも言いたそうに頭を少し下げ、頬をポリポリと掻く。

 

「………実は、僕の大将もそんな感じなんだよね……」

「…え?マジで?」

「…マジで」

 

 自分で喋っているにもかかわらず、サトウの口からは呆れた声が出ている。

 

「知らないだろうけどウチの大将もずいぶんロリコンで変態でオタクでアニオタで変態でロリコンなんだよ。君の親と同じ様にPKを食らおう物なら十倍や百倍で返すだろうね」

 

 なるほど。つまり、この学校にバースト・リンカーとしてのクソ野郎が二人もそろった訳だな。

 

「よし、三人で考えてみようか。…その二人がバトルをしたらどうなるかを」

 

 考えるまでもないと、俺達の口から深いため息が出る。

 

「徹底的な醜い泥仕合になるわね……」

「……正解です」

 

 再度ため息。

 

「話がかなり脱線したな。結局の所、お前達は何がしたいんだ?」

「別に荒っぽいことは考えていないよ?こっちに来る前に二人で考えたんだ。転校先にバースト・リンカーが二人以上居たら、一緒に頼んでレギオンを作ろうって。そして、どんどん領地を広げて、この江戸川区を六大レギオンの様に巨大なバースト・シティにしようって」

「何よ。あなた達の生まれは杉並じゃないの?」

「そうだよ」

「それならわざわざこっちで作らなくても、杉並でやれば良かったじゃない」

「無理無理。…知ってるでしょ?<ネガ・ネビュラス>が崩壊してからは、杉並には細かいレギオンがパズルの様に配置されてて、万が一向こうで仲間を見つけてレギオンを作ったとしても、上手くやって行ける訳ないよ」

「ふぅーん。別に江戸川区に思い入れがある訳でもないのにね……わざわざ」

 

 川崎が解りやすく探りを入れる。なんで今になってけんか腰になるんだよ、意味わかんね……。

 

「夢を持つのに深い理由は必要はないさ。どのみち、転校してしまったのだから、こっちでやるしか無い訳だし…」

「りょーかい。レギオンを作るのは俺は構わない」

「ちょっと!」

「良いだろ別に。……見た感じ、あんまし悪いヤツじゃねえよ、コイツは」

「………………はぁ〜。全く!意味解んない、男って!」

「……あの〜…それで…」

「仕方ないわよ!認めてあげるわ!」

「あ、ありがとうございます!」

「……とすると問題は……」

「あいつね……」

 

 無駄にプライドの高いカラトのことだ。そういうことは簡単には許さないだろう。

 

「ま、それは向こうに任せば良いでしょ。…それに、まだ十分くらい時間が残っているし……」

「一発やとくか?」

 

 返事の代わりに<ヤークト・アルケー>は肩にかけてある大剣の様な物を引き抜く。それに習って俺もビーム・マグナムを握り直す。相手のレベルは3。この程度の差ならどうということはない。

 ほんの一瞬の沈黙。先に動いたのは俺だ。ビーム・マグナムを構えてトリガーを引く。

 もらった!

 次の瞬間、自分の目を疑った。ビーム・マグナムの銃口に一筋の赤い光が入り込み、爆発した。なんだ!?今のはビーム!?あいつ、飛び道具なんか持ってたか!?

 アルケーが手に持っているのはやはり大剣———いや、様子がおかしい。中央の部分がばっくりと横に割れている。

 

「まさか………」

「そうよ。そのまさかよォ!」

 

 大剣の割れた所から赤いビームが発射される。フェイクかよ畜生!そう言えば相手は普通に遠隔射撃の赤色かッ!やっべ、連射率ヤバいんだけど……!

 つーか、良く燃えるなここ!たく、<密林ステージ>じゃ相性悪いな!

 教室にビームで引火した炎が燃え広がる。このままじゃ火だるまになってしまう……!

 アルケーの手元から石を打った様な乾いた音がする。丁度良いタイミングで相手がオーバーヒートを起こした!今のうちに脇を通り抜けて、教室から脱出する!既に使い物にならないビーム・マグナムを捨てて、相手に向かって走り出す。

 

「ところがギッチョン!」

「がっ…!」

 

 脇を抜けようとした瞬間、口を閉じたアルケーの銃にひっぱたかれた。否、斬りつけられた。右ひじから下が弾け飛ぶ。それでも、教室の入り口に転がり込み、廊下に出る。

 まずい!これで当てにしていた唯一の必殺技が使えなくなった!

 

「逃がすかよぉ!!」

 

 キャラ変わりすぎだ!

 後方からアルケーがまたもやビームを連射してくる。でも、外に出れば学校内の土地勘で勝る俺の方が有利だ!

 廊下の分かれ道を曲がり、トイレの入り口に入り息を殺す。

 あのテンションの上がりようだ。ガイドカーソルは全く見ていないだろう。

 案の定、忙しい足運びでアルケーが目の前にやって来た。すかさず<アームド・アーマーVN>で殴りつける!アルケーの頭が俺の腕ごと壁にめり込む。左腕を大きく引き、再度殴りつけようとする。一瞬の判断でアルケーが腕を伸ばし、俺の肘を抑え、逆に起き上がり俺を押し倒そうとして来た。

 両者の力比べが始まる―——が、右腕のハンデ。アンバランスな左腕の強化外装とレベルの差と続き、そんな根比べは一瞬で終わってしまった。今度は逆に俺の頭が壁にめり込み、間髪入れずに大剣が俺の頭を切り落とそうとする。それを左腕で払い、横に転がる。

 またもやしばしの沈黙。

 考えるんだ。今俺にできること……できること……。答えはひとつ。

 

「じゃっ」

 

 きびすを返して猛ダッシュ!百パー木製の階段を必死に駆け上がり、屋上に出る。

 ここだ………!

 なるべく広い所に来たかった。ここであいつを待ち伏せ、出て来た瞬間に<角割覚醒(NT-D)>を発動。一気に攻撃を畳み掛け、決着を付ける。

 緊迫した空気。

 頭をおもいきり殴りつけたというのに、アルケーの体力はまだ一割程度しか減っていない。防御力は相当の物だ。故に本体の速度はそうでもない。一体どんな手を使っても同レベル同ポテンシャルのルールは破れない。十分余裕はある。

 

「にしても遅い……」

 

 かれこれ四十秒…。装甲重視の鈍足にしたっていくらなんでも遅すぎる。

 …………………あっ、なんか………、

 

「…………デジャブ『<ハイメガ・ランチャー>!!』……………はっ!」

 

 アルケーの必殺技ゲージが急減する。秋葉原でのタッグ戦のことを思い出し、横に飛び退く。

 次の瞬間、例えようの無い熱が身体を襲った。突風が起こり床が破壊される。

 原因は、屋上の入り口から伸びる大木よりも太い血の様な色のビーム。熱に耐え、それをギリギリで回避する。つま先が焼け、黒い煙が上がる。

 

「……避けられちゃったか」

 

 舞い上がった煙が晴れ、アルケーの全貌が見える。その肩には、細長い筒の様な物があった。ロボゲーマニアである俺には解る。ビーム・キャノンだ。銃口の先端が赤く火照っている所を見ても、先ほどの攻撃はこれで間違いないだろう。

 

「………はっ!」

 

 何をやっているんだ。相手の足は泊まっている!畳み掛けるなら今しかない!

 

「<NT-D>、発動!」

 

 装甲とノルンのシンボルである角が開き、露出したサイコ・フレームが金色に輝きだす。

 そのまま全速前進。飛び上がり、クロー状に変形した<アームド・アーマーVN>を振り下ろす!

 

「…ぐあ……ッ!」

 

 突き出された大剣に己から突っ込む状況が一瞬で構成される。予想通り、腹から串刺しにされるものの、勢いを殺さずにアルケーの胸を無理矢理引き裂く。振り下しからの切り上げによる二撃目に入る。俺の体力は二割を切っている。それに比べてヤツの体力はまだ七割。なんなんだこいつは!?同レベル同ポテンシャルの域を明らかに脱している!

 俺の一瞬の静止を見逃さなかったアルケーは、俺の腹に刺さりっぱなしだった大剣に手をかけ、思い切り前に向かって押しだして来た。

 反動で腹から大剣が抜けるのと同時に、せき止められ続けて来たダムに穴が空いたかの様に、腹から血の様にどす黒いオイルが吹き出る。

 なんとか起き上がり、ヤークト・アルケーを見る。その姿はほんの五秒程度前の姿とは全く違う物になっていた。

 皮を剥ぐ様にアルケーの装甲がぼろぼろと落ちて行き、中から細身の本体が露出する。

 

「…なるほど。…追加装甲か…」

 

 それならあの堅さも頷ける。右肩のビーム・キャノンもなくなっているあたり、どうやらあの必殺技ももう使えないらしい。一定のダメージを受けたら大幅に弱体化。これなら同レベル同ポテンシャルのルールは守れるだろう。

 …そして、こういう機体は大体こうなると……、

 

「装甲が紙になる!」

 

 すかさず猛ダッシュ。振り下ろされる大剣を回し蹴りでかわし、大きくよろけたアルケーの身体にクローを振り下ろす!

 良い感触だ!吹き出るオイルが俺の身体を汚す。

 止めにもう一発をくれてやろうとした時、身体のバランスが一気にずれた。体力がミリにまで削れる。

 足首を切り落とされた!?いつの間に!?

 アルケーのつま先にはいつの間にか一本のビーム・サーベルが立っていた。

 

「隠し腕か!」

 

 再度蹴りを食らう前に決着を付ける!相手も同じ考えの様で、大剣を既に振りかざしている。

 狙うはデュエル・アバター共通の弱点、頭部!

 首に鈍い痛みを感じる。大剣が俺の首にめり込んだ証拠だ。だが、あちらとて同じ。突き出されたクローがアルケーの顔を捉え、ひしゃげさせる。

 

 

「ひえ〜、疲れた……」

「なによ。転校生に負けるなんて情けないわね」

「負けてねえよ。引き分けだよ引き分け」

 

 結局、バトルの結果はドロー。引き分けになってしまった。

 

「ま、いろいろと解り合えたし。結果オーライだよ」

「解り合えたって………結局何の話もして無いじゃない」

「こぶしだよこぶし。男はこぶしを交えて始めて解り合うことができるんだよ」

「何それ…気持ち悪いわね。……で、どうするのよ。作るのレギオン?」

「ああ、俺としては作ろうと思っている。ま、結局はあいつが決めることだけどな」

「そうね。……案外、ボッコボコにされてるかもしれないわね」

「まさか」

 

 

「………参りました」

 

 

 WIN <WING ZERO>

 

 

 




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変革のカレー

またまた投稿が遅れてしまいました!
マジですいません!m(_ _)m

これからなるべくスピードアップするつもりです!

あと、登場するMSの要望などがあったら、承ります。


side yuto

 

「時間ね。ちゃんと煮込めたかしら……」

「大丈夫だよ姫島さん。ちゃんとレシピ通りに作ったんだから」

「家族以外に作るのは始めてだから、少し緊張するわね…」

 

 目の前の圧力鍋の蓋を開ける。中には大量のビーフカレーが煮込まれていた。うむ、これはなかなかのできだね。

 いつもならこんなに大量に作らないが、今日は家に友達を四人程招き入れているから特別にたくさん作った。手間こそ掛かったものの、それ故のやり甲斐と言うのもあるし、何より最近仲良くなった女子の姫島さんが手伝ってくれたこともあって、それほど苦じゃなかった。

 最近ハマっているVRゲームのことを話し合う予定なんだけど、腹が減ってはなんとやら。先に腹ごしらえをしようという僕の提案からこの状況は生まれた。リビングの方からは僕が持っている三十年以上前のTV用FPS(R-18)ゲームをプレイしている他男子三人のにぎやかな声(たまに悲鳴も混ざっている)が聞こえてくる。楽しそうで何よりだ。

 

「さ、皆お腹空かしているだろうし、早いとこ持って行っちゃおう」

「そうね。……ふふ」

「ん?どうして笑うの?」

「ごめんなさい。あまり深い意味は無いわ。…ただ、佐藤君って優しいな、って思ってね」

「そうかな?当然のことだよ。…人には義理と人情と礼儀を尽くすのが当然。僕はただそれを護っているだけさ」

「なんだかおっさん臭いわね」

「そ、それは酷いよ……」

「ふふ、冗談よ。冷めないうちにさっさと持って行きましょう」

 

 トレイに載せた五人分のカレーをリビングに持って行く。テレビ前に溜まっていた三人を呼び、さっき物置から引っ張りだして来た大型テーブルにカレーを置く。

 姫島さんがテレビの画面を見て表情をほんの少しゆがめる。

 

「…ちょっと、あの画面、どうにかならないの?」

 

 どうやらゲームのストップ画面のことを指しているらしい。そこには、毛を剥いだサボテンの様に顔を穴だらけにしたプレイヤーの悲惨な阿鼻叫喚の表情がドアップにされている。うん、長年プレイした僕でもあんなプレイヤーの顔は見たことが無い。

 

「あっ、ごめんごめん。今消すから」

 

 六矢君がテレビの電源を消す。あとで聞いた話、六矢君VS裕雅&空徒君で対戦をしていた所、弾数が尽きた六矢君がリスボーンによる弾数確保を狙って手刀で突撃して、ハチの巣になった瞬間がただいまの画像らしい。

 席に着いた所で、全員で合掌をし、最初の一口を口に放り込む。

 

「…………………うまい」

 

 誰かがそう言った。美味しくて何より。

 

「案外、旨く作れたものね」

「そう言えば、姫島って料理できたんだ。意外だな」

「なっ……!料理くらいできたっていいじゃない!な、何か悪いことでもっ?」

 

 そこまで言ってないだろ、とちょっかいを出した華水希君が両手を上げる。顔を赤くして怒っている姫島さんは何処となく小動物みたいで微笑ましい。

 すると、転校前から付き合いが———というより、一緒にこっちに引っ越して来た裕雅がカレーを頬張りながら喋りだした。

 

「姫島よりも俺は、佐藤が料理を出来ることに対して驚きだな」

「え?裕雅知らなかったの?」

「ああ。俺と二人で遊ぶ時は飯を作るなんて言ったことが無いからな」

「そうだっけ?」

 

 あっ、そう言えばそうだったかもしれない。ひねくれた性格のせいで喋り方もひねくれている。まあ、相変わらずだし、僕はもう慣れているけど。

 

「悪かったよ。今度、何か作ってあげるからさ」

「……やめろ、気持ち悪い」

 

 裕雅が本気でいやそうな顔をする。こいつは一体何がしたいいんだろう?

 

 

side rikuya

 

「ふー、食った食った〜」

 

 いただきますをしてから三十分。一ミリ残らずカレーを食尽した(勿論鍋の中も)俺達は本日の御食事会の本題に入ろうとしていた。

 

「確認だけするけど、サトウ達が転校して来た当日。俺とサトウみたいにカラトとハタケヤマも決闘して、結局カラトが勝った訳だよな?」

「……ああ、そうだ」

「間違いはないな」

 

 そこまでは解っているし、負けた本人も認めていることだから、信頼も出来る。だが、ここで問題になってくるのが、カラトが勝利を得た経緯だ。話さなくても顔を見ただけでひねくれ者だって解るくらいクズ野郎なこいつのことだ。まともに勝ったとは到底思えない。

 学校でそれをカラトに言ったら売り言葉に買い言葉で、じゃあ、目の前でもう一回見せてやる、と言ったので今日、皆でサトウの家に集まって俺とヒメジマとサトウで二人の戦いを見届けてやろうと言う話になったのだ。

 そもそも、なんでこんなに決闘にこだわるのかと言うのがまあ、流れ的にこうなってしまったんだが。俺達が建てることになったレギオンのマスターはカラトとハタケヤマの二人のうち、勝った方にしようと決めたのだが………まあ、俺も含め三人とも卑怯者の下には付きたくないもので。じゃあ、ヒメジマを審査官として、ついでに俺とサトウを加えた四人でバトルロワイヤルをして、最後に生き残ったやつをレギオンマスターにしようと言う話になったのだ。

 

「確認した所で何か変わる訳でもないんだし、早く始めるわよ」

「はいよ。んじゃ、準備は良いな?」

 

 全員が頷くのを確認する。

 

「「「バースト・リンク!」」」

 

 頭の中に雷の打ち付ける音が駆け抜ける。頭の天辺と爪先からみるみるうちに黒い装甲が身体を包んで行く。仮想の地に足がついた感触を得る。

 

「トリントンステージか……」

 

 足下は平らだが、もろくて埃が舞いやすいのが特徴。重量系は、少し踏ん張るだけで足が地面にめり込んでしまい、動けなくなる。これ、豆知識。

 サトウの家はマンションの二十五階。ステージを構成するために使うソーシャルカメラがマンション内には存在しないため、地形データの習得が出来ず、今俺達がいるのはただだだっ広い床だ。ベランダのあった場所から下を見ればほら、目がくらむ程の断崖絶壁。どんな頑丈なアバターでも落ちれば昇天間違い無しの無料サービス付きです。送料無料。買うなら今ですよ。

 離れてこそ居るものの、アバターの配置は食卓の席の場所と同じ。右隣にカラト(ウイング・ゼロ)、正面にサトウ(ヤークト・アルケー)とハタケヤマ(アヴァランチ・エクシア)とヒメジマ(ディクライン・スカート)。戦闘の審査員であるスカートは離れた場所に移り、ルールの確認を始める。

 

『私の見た限りで卑怯な行為をしたものと、戦闘に全く参加していなかったものは即失格になるから、それだけ気をつけなさい』

 

 ずいぶんとアバウトだな……。まあ、間違いは無いんだけどね。

 すると、エクシアが異議を唱えたいと言わんばかりに挙手をする。

 

『意義あり。あのさぁ……所詮世の中、勝てば良いんですよ。それが戦(いくさ)なら尚更。それをどうこう言われる筋合いは無いと思いますー』

『次にそのようなこと口にしたら即行失格にするわよ』

『すみませんっ。やっぱりなんでもないです!』

 

 転校して来てから日が経ったと言うのに、なかなかどうして。こいつのキャラが未だに把握できないんだよな。ただ、解っているのは、こいつが幼女好きの卑怯者と言うことだけ。

 しかし、バトルロワイヤルのデスマッチと言えども、このまま闘えばレベルの高い卑怯者二人が勝つことに代わりは無い。そこでだ、あえて俺は……

 

「ゼロ。ここは一時休戦として、先にあいつら二人を片付けてしまわないか?」

 

 ウイング・ゼロに同盟の誘いをかける。むこうはこちらに顔を少し傾けるだけ。むぅ、何かが引っかかるが、了解と見て間違いないだろう。

 向かい側の二人も同じ様にペアを組んでいる。要するに、一時的な『親子ペアVS親子ペア』だ。なんだか幼児向け朝番組のうさんくさいキャッチフレーズみたいだな…。

 

「はい、準備は良い?勿論良いでしょうね?———それでは、スタート!」




前書きにもありましたが、これからどんどん小説を投稿して行くつもりです。
三週間に一回は投稿できたらと………。


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さよならサトウ

 スカートの有無を言わせない合図と共に戦闘が始まる。

 牽制のためにビーム・マグナムを構えた瞬間、横っ腹にいきなり強い衝撃が走った。不詳の自体に何の反応も出来ない俺は、埃をまき散らしながら床を無造作に転がる。蹴られた………!?

 遅れて何事かと顔を上げる。……そこには悪魔———もとい俺の親、ウイング・ゼロが今にも俺に襲いかからんとばかりに手に携えた明るい緑色に輝く<ビーム・サーベル>を振り上げていた。まあ、勿論振り下ろすよねー。

 

「って、あぶねえっ!」

「…チッ……」

「舌打ちした!今、完全に舌打ちしたぞ!こりゃどういうことだ審査員!!」

 

 審査員が何故か考え事をしている。これって即失格じゃないのかよ!?

 

『って、あぶなっ!』

『…チッ……』

『舌打ちした!今、完全に舌打ちしたよ!これってどういうことですか審査員!?』

 

 向こうも同じ感じ。尻餅をついたアルケーに親であるエクシアが実体剣、<GN・ソード>を突きつけている。ああ、格好まで俺と一緒だな。

 

「ちょっと、これって明らかに『卑怯』な行為だよな!?」

『そうだよ!どこに迷う理由があるのさ!』

『………………』

 

 なぜに沈黙!?どう考えたって反則だろ!?

 

「はい、審査員」

『………何よ』

「俺は顔を向けただけで、はい、と言ってもいなければ頷いてすらいません」

「そういうこと自体が卑怯なんだよ!いい加減理解して学べ!そして自重しろ!」

『そうだそうだ!』

『うるせぇ!だまされるお前達が悪いんだよ!…あっ、これはだましてないからね?』

『だましたって言ったよ今!』

「審査員、判定は!?」

『そうだよ!これは決定的な反則だ!』

 

 俺達の必死の抗議に審査員がようやく口を開く。

 

『………ギリギリで』

「「『『ギリギリで!?』』」」

『———セーフ……?』

「『ふぁ!?』」

 

 なんでこうなる!?ってか何故に語尾に『?』がつくんだよ!おかしいだろ!

 

『声に出していない分、まだセーフよ。…………多分』

「TABUN!?おい、誰だこんなヤツを審査員にしたヤツ!」

「騒ぐな。まあ、そういうことだ。覚悟しろノルン」

 

 更にもう一度<ビーム・サーベル>を俺に叩き付けようとするのを決死の転がりで回避する。なんだこいつら!?裏で暗躍でもしてるのか!?

 

『こうなったら出来る所までやってやる!ノルン、こっちきて!』

 

 アルケー(いつの間にか追加装甲はげてる)がエクシアの斬撃を振り切り、誰もいない方向に走り出す。俺もそれに習い、アルケーに向かって走る。

 集合した所で、手短な作戦会議を始める。

 

「二人が間合いを詰め切れていないうちは射撃で迎撃をして、格闘の間合いに入られたら君の<NT-D>で大立周りをしてくれ。そこを僕が闇討ちする」

「おう、了解した」

「君にかなり任せっきりになると思うけど……」

「構わないさ。それに………」

「それに?」

「………どうせ、勝てやしねえよ」

「…そうだね」

 

 どうあがいたとしても、勝率は〇,〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇一パーセントも無いだろう……。まあ、だからといって、そうやすやすと負ける気はないんだが。

 

「へこんでも仕方ないよ!人生はやるかやるか!ほら、行くよ!」

「ああ」

 

 息を合わせた様にエクシアとゼロがこちらに走り込んでくる。すかさず<ビーム・マグナム>をゼロにむけて射つ。隣ではすでにアルケーがエクシアにむけて<GNバスター・ライフル>を射ち始めている。こちらも遅れを取るわけにはいかない。

 

「お前、ちゃんと狙っているのか?」

 

 牽制とは名ばかり。ゼロにあっという間に取り付かれてしまった。この<ビーム・マグナム>は反動が強いためそもそも、ちゃんと狙いを定めて射つことが出来ない。というか、ちゃんと両手で反動を押さえて精密に射てる様に左手を添えるための取手みたいなのがあるんだが、見ての通り俺の左手は邪魔な強化外装が取り付いていて、添えるどころか何かを持つことすらままならないため、正直この取手には存在意義がない。

 まあ、そのせいでかすりもしないままゼロに斬りつけられているんだけど。だからといって、何もしない俺ではない。すぐに邪魔っ気な左腕のナックル状強化外装、<アームド・アームズVN>で受ける。最近気がついたのだが、どうやらこの強化外装には対ビーム特性があるみたいで、このようにゼロの<ビーム・サーベル>やビーム系の射撃武器ならある程度はじくことが出来る。

 

「…ああ、めんどうくさい」

「がっ………!」

 

 流石レベル5のハイリンカー。効かないと解ってからの行動が早い…!すぐに回し蹴りをかましてきた。

 

「ノルン、大丈夫!?」

 

 俺が横に吹っ飛んだ気配を感じたアルケーがエクシアから一瞬、注意をそらす。それを見逃さなかったエクシアがアルケーに斬撃を入れる。どす黒いオイルを撒きながら、アルケーの上半身が中を舞う。体力は残っているのか、辛そうにアルケーが起き上がる。

 

「大丈夫かアルケー!」

「正直だいじょばない……あっ、エクシア君。少し待ってくれる?最後まで喋らせてぶほぉ!!」

 

 容赦のかけらも無いエクシアがアルケーを蹴り飛ばす。真っ赤な上半身がボールの様に転がる様はまさに地獄絵図。

 

「よくもまあ、俺に歯向かおうなんて気が起きたもんだな」

「……はい、すみませんでした………」

 

 敗北を確信したアルケーが無惨に懺悔する。ちなみに俺はこの状態でゼロのビームサーベルを受けている。

 

「………でもねエクシア。…それでも…それでも僕は…………前より成長できたと信じている」

 

 

 

おまけ

 

「はい、作者のどうでも良い気まぐれで今回から始まりますおまけコーナー!司会を務めさせてもらいます、佐藤です!」

 

 パチパチパチパチパチ………

 

「基本はすばらしいゲストとの雑談や今回の小説の感想などを面白おかしく進めて行くように見せて、適当に登場キャラクターのプロフィールを紹介したりしなかったりするこのコーナー。今日もすてきなゲストをよばせて頂きましたー!最近学校で友達になった小和田 六矢君ですー!」

 

 キャー。パチパチパチパチ………

 

「………どうも」

「いやだなぁ小和田君。一言目からそんなにテンションが低いと視聴者さんに良い印象を抱いてもらえないですよー」

「そういうお前も、なんでそんなにテンションが高いんだ?あれか?こういうイベントになるとやたらとテンションが上がっちゃう、あれ的なタイプなのかお前?」

「はいはい、質問する側がこっちだってことに早く気づいてください小和田君ー。さて小和田君に質問です!ただいまのあなたの趣味はズバリなんでしょう!?」

「趣味ってほどじゃないけどまあ、強いて言うなら読書と散歩ですかね」

「じじいみたいな趣味ですね憧れちゃいますよー。はい、次の質問行きましょー」

「さっきからお前の言葉に刺がある様な気がするんだけど……」

「気のせい気のせい!それじゃあ、小和田君に今回の感想を聞いてみましょう!どんな感じでしたかー?」

「どうって、別に………いつも通りでした」

「もっと気の効いた感想が言えないんですか小和田君ー?そんなおつむの悪い感想ばかり言ってると視聴者さんが楽しくこの小説を読んでくれないじゃないですかー」

「嫌なヤツだなお前!」

「はいどうでもいいことはさておいて、もっとまともな感想とか無いんですかー?んんー?」

「………強いて言うなら、なんでいつもあんな訳の解らんタイトルをしているのか少し気になるけど……」

「それにはちゃんとした理由があって、当然お気づきの方もいらっしゃると思いますが、このタイトルが良く解らなくなるのは、歴代ガンダムシリーズの各話のタイトルのパロディだからなんです!こちらをご覧下さい!」

 

 

第一話 リクヤは一足先に大地に立ちました = 機動戦士ガンダム一話より『ガンダム大地に立つ!!』

第二話 ジャブロ上空に可能性の獣を見た = MS IGLOOより『ジャブロー上空に海原を見た』

第三話 追撃!転校生サトウ = ターンAガンダムより『追撃!泣き虫ポゥ』

第四話 果て無き泥試合(デスマッチ) = ガンダムSEEDより『果て無き輪舞(ロンド)』

第五話 変革のカレー = ガンダム00より『変革の刃』

今回  さよならサトウ = Zガンダムより『さよならロザミィ』

 

 

「こうなっております」

「へーすごいやー」

「それじゃあ尺も埋まって来たので、今日はこの辺で。次回をお楽しみにー!」

「じゃあねー」

 

 

 




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強襲、沸点限界点

 遺言だけを聞いたエクシアがアルケーの頭を踏み砕く。アルケーの腕は力を失い情けなく垂れ、間もなくポリゴンの粒子となって全てが消えた。唯一の、たった一人の同胞が死に行く様を目の当たりにし、憎しみを帯びた激情が腹の底からぐつぐつとこみ上げてくる。

 

「……ヤッタな………ッ!!」

 

 ゼロを強引に押しのけ、溜まっていた必殺技ゲージを全て使い、<NT-D>を発動する。アバターの内に抱えきれなくなった憎しみが溢れ出すがごとく、黒い装甲が解き放たれ、輝きを帯びた黄金の<サイコ・フレーム>があらわになる。

 

「足が止まったな」

 

 隙を見つけたゼロが俺の頭部目掛けて突きを放ってくる。<NT-D>発動状態のバンシィ・ノルンに、この程度の攻撃を避けさせることぐらい雑作も無い。横にステップを踏み、すかさず鉤爪状の形態となった<アームド・アームズVN>でゼロの胴体を鷲掴みにし、強く握りしめる。

 

「…くそ……!」

 

 ゼロの青い装甲に亀裂が入り、悲鳴を上げる。<NT-D>の活動限界時間は短い。早い所止めを刺すため、<ビーム・マグナム>をゼロの頭部にゼロ距離射撃をする。彼の頭が吹き飛んだのを確認し、『いつのまにか』懐に潜り込んでいたエクシアに投げつける。

 

「チッ………」

 

 惜しい所で避けられた。

 彼が体制を立て直すのを待たずに<アームド・アームズVN>で飛びかかる。間一髪で避けられるものの、<ビーム・マグナム>で追撃をする。<NT-D>の補助により、腕力が格段に上がっている。片手でも……今度は外さない………!

 

「……逃がさないッ!」

「…さっきよりはましになったみたいだが、まだまだ俺を捉えるには考えが浅いな」

 

 エクシアが少しの跳躍とともに腰裏に装着してある短剣、<ビーム・ダガー>を投げつけてくる。それが吸い込まれる様に<ビーム・マグナム>に刺さり、誘爆する。使えなくなった銃を投げ捨て、力任せにエクシアに飛びかかる。<NT-D>の稼動時間はあと五秒。早々に決着を付けなければこちらが負けてしまう。多少強引だが、このまま馬乗りになってタコ殴りにしてやる!

 ……妙な浮遊感。おかしい。地面に衝突する衝撃が身体に伝わらない。

 

「…お、落ちてる!?……なんで………!?」

 

 どうやら走り回っているうちにマンションの隅っこに来ていたみたいだ。そして、俺の急な突進によって二人とも大空に投げ出されたと………。

 

「…いいから離せ!」

「…ぐ…………っ!」

 

 手が緩んだ隙にエクシアに真下へと蹴り飛ばされる。このままでは俺が先に墜落してゲームセット。勝利はヤツに下ることになる。

 

「……やらせるかよ!」

 

 最後の足掻き。右腕を前に突き出す。折り畳まれていた<ビーム・スマートガン>が展開される。残っていた必殺技ゲージが全て消費される。最後の希望を込めたエネルギーが強化外装の中心に集まる。

 ……負けられない!!……あの青い悪魔に……卑怯者に……ロリコンに……アニオタに……絶対に……負けられない!俺のプライドと、……そして、死に行ったあいつの為にもッ!!

 

「<アームド・アームズBS>!!」

 

 展開した二枚の板状の<サイコ・フレーム>から<NT-D>の補助によりパワーアップした収束ビームが照射される。あいつも……勿論俺も今は空中のど真中。この必殺技を避けるのは容易ではないハズ………。

 

「バンシィ、ヤツに憎しみを流し込めッ!!」

「………クソッ……まずった…………!」

 

 気持ちだけでも、とエクシアが腕を交差するがもう遅い。そのような淡い防御でこの必殺技が防げるものか!

 一瞬、アルケーの最後の断末魔が頭をよぎった。

 

『…それでも…それでも僕は…………前より成長できたと信じている』

 

 ………ああ、アルケー。同じだよ俺も。実感できていなかっただけなんだ……。俺は、ここまで来れていたんだな……。

 嫌になるほどのスローモーションの世界で、収束する光線がエクシアの胴体を貫く。……勝ったのか……?

 ほどなく鈍い衝撃と痛みが身体を駆け巡り、視界が暗転する。地面に衝突したのだろう。

 

 視界が現実の物へと戻る。ヒメジマ以外の男子全員(俺も含め)、何処となく疲れ切った表情をしている。

 開口一番、ハタケヤマが口を開いた。

 

「……はああぁあぁ…………。…俺としたことが……、ニュービーに負けるなんて……」

「同感。親が子に負けるなんて、目も向けられねぇよ……」

 

 あっ、俺、勝ったんだ………。さっきはつい、熱くなって力任せにウイング・ゼロとアヴァランチ・エクシアをぼこったけど……。………え……………俺が、………二人を……ぼこった…………?

 

「まさか、実感できてないの?あなたがこの五人のトップなのよ?」

「………トップ……?…マジで言ってんの?」




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危険と理想

「マジも何も、事実だろうが」

「……じゃあ、まさか、俺がこのレギオンのマスター……?」

「『この』というより、『これから』だね。……改めて。おめでとう六矢君」

 

 マジか………。

 つーか、俺、よくあの二人に勝ったな……。俺のアバターってもしかして、同レベル同ポテンシャルの域を脱しているんじゃないのか?

 何が面白いのか、ハタケヤマが微笑を浮かべる。

 

「まあ、相当熱くなってたみたいだしな。あれで勝たなきゃ…………なあ?」

 

 なあ?ってなんだよ、意味深なこと言いやがって。

 熱くなってた?そりゃ熱くなるだろうよ。

 

「解ってないみたいだな。それとも覚えていないのか?……お前、すげえ恥ずかしいことを言ってたろ?」

 

 はて、恥ずかしいこととは?そこまでヤバいこと、俺、言ってたっけ?

 

「ほら、『……アンタだけは、……墜すッ!!』とか『バンシィ、ヤツに憎しみを流し込めッ!!』って。私、こらえきれなくて、隅っこでお腹抱えて大爆笑しちゃったわ」

「まあ、普通に見たらただの中二野郎だよな」

「いくらヒートアップしたって、ああはならないよな」

 

 なんだろう、この違和感。せっかく勝ったのに、中盤以降、罵倒されっぱなしな気がする………。

 見かねたサトウが仲介する。

 

「こらこら、気に食わないのは解るけど、いくらなんでも往生際が悪いよ三人とも」

 

 サトウはいつもこうやって、臨機応変に対応してくれる。良いヤツだ。この歪みに歪んだ連中からは、一ミリも感じられない神々しさを醸し出している。

 

「レギオンマスターも決まったことだし、次はレギオンの方針と名前だね」

「方針なんて簡単だろ?領土戦でがつがつ勝って、領土増やすだけだろ?」

 

 俺の答えを、カラトが咎める。

 

「馬鹿かお前。んなもん当たり前だろ。ようは、どんな潰し方をするのか。何処のレギオンから潰して行くのか。他にも———」

「私、恨み買ってPKなんかにあいたくないから、指揮って良いわよね?」

「どうぞどうぞ」

 

 カラトが何か言い返そうとしたが、ヒメジマの一睨みで口を塞いでしまう。

 

「方針としては、どうせ五人なんだから、そんな目立たった闘いはしないで、こつこつ順調に領土を増やして行けば良いんじゃないのかしら。あまり目立ちすぎると、訳の解らない恨みを買ってPKにあいかねないし。少なくとも、私は御免よ」

「はあ?それじゃあ、つまんねぇだろ。もっと片っ端から他のレギオン潰して行こうぜ!」

「はあ?何華水希。文句でもあるの?あんた、そんなんでPK食らったりして、責任とれるの?」

「なんだよ。PKくらい別に食らたって良いじゃん。そんなのに負ける俺らか?……なあ、皆?」

 

 おお、カラトが珍しくまともでかっこいいこと言っている。

 

「はあ?何かっこつけてるの?この戦力でPK集団に太刀打ちできる訳無いでしょ」

「………………」

 

 はい、一刀両断。ヒメジマと言い、幼なじみのアイと言い、なんでこう、女って強いのかな。俺には理解できん。

 

「俺もヒメジマの意見に賛成だな。あまり活発的なことは苦手だからな」

「そりゃあ、休日に一日中エロゲばっかやってたら運動不足にも成るわよ」

「まあな。良いぞ〜、ロリは。あの未成熟で華奢な手と足。地平線を彷彿とさせる小さな胸。小さくて可愛い童顔。どれを取っても最高だぜ。もはや国宝だな」

「知るか変態」

「気持ち悪い。その口を引っ込めろ」

「そんな話、話せと言ったヤツは何処にもいないわ。わかったら黙りなさい」

 

 最近気づいたこと。サトウを覗くこの四人のメンバー。人を貶す時だけ妙に息が合うんだよな……。どこまで腐ってるんだか。

 

「まあ、お前らには解らないだろうよ。人が物の価値を真に知るのは、その物に心を開いた時だからな。解るか?お前らはロリを恐れているのだ。ロリコンと言う汚いアーバンネームを付けられるのが怖くて、逃げているのだ!だがしかし、ロリコンの何処が汚いんだ!?ロリコンはタッチさえしなければ犯罪ではないのだ!!かわいらしい幼女を愛でて護り続ける紳士の嗜みなんだよ…………!!全うな性癖なんだよ解ったか!?故にロリコンは恐れるに足らず!解ったらおとなしくロリコンを受け入れろおおおおぉぉぉぉぉぉおおおお!!!」

「……俺は今、何より一番お前が怖い」

「……度し難いわね」

「まあまあ、裕雅はああやってたまにオーバーヒートするから、適当に放っておいてて良いよ。相手にしなければ勝手に黙るから」

 

 一緒に引っ越して来ただけあるな。相方の扱いに慣れている。

 サトウの言った通り、無視を決め込むとハタケヤマはすぐにおとなしくなった。

 

「さて、それじゃあ———」

「ちょっと、提案があるんだけど………」

「?何かしら佐藤君?」

「普通にレギオンやってるだけじゃつまらないからさ、他にやることを決めておこうと思うんだ」

 

 やることか?なかなか難しい問題だな……。心当たりがないこともないけど。

 

「俺、提案だけど。傭兵団ってのはどうだ?バーストポイントと引き換えに、用心棒として依頼主と共闘するんだ。………他にも同じ様なことをやっているヤツもいるしな」

「それって、<ザ・ワン>のことだよね?レベルがたったの1で、受ける依頼人もレベルの指定が1か2。アバターネームは<アクア・カレント>。レベルに似つかわしくない程の戦闘技能を持っていて、負けを知らないらしい。僕も、直で見たことは無いけど、向こうの世界じゃそれなりに有名だよ」

「それのことだ。詳細はあとで決めるとして、……どうする?退屈はしないと思うぞ」

「なかなか良い考えだね。依頼を受けることで、いろんなバースト・リンカーと知り合えるし、レベルアップの効率も良くなるもんね」

「……小和田にしてはよく考えたわね」

「……ちょっと待った」

「?なんだ、カラト?」

 

 俺の提案に何か不都合なことでもあったのだろうか?悪いことは言ってないと思うんだが……。

 

「……俺はあまり、気が進まないな」

「え?どうして?なかなか魅力的な案だと思うんだけど………」

「まあ、話は最後まで聞け。……古参リンカーなら知ってるヤツもいるだろうが、昔、同じことをしようとしたバースト・リンカー二人組が依頼を受け、無制限中立フィールドに呼び出され、二人組のうち一人が、その場で『無限EK』にあったことがあるらしいんだ」

 

 場の空気がにわかに重たくなる。

 無制限中立フィールド。それは、レベル4にまでたどり着いたバーストリンカーにだけ許される上級フィールドのことだ。

 普通、ブレイン・バーストの対戦は三〇分の制限時間が掛けられていて、フィールドはエリアごとに区切られている。勿論、それ以上を超すことは出来ない。

 だが、無制限中立フィールドにはその制限時間とエリア区画がなく、やる気さえあれば、どこにだっていける。

 ………そして、無限EK。これは、無制限中立フィールドに住む住人、エネミーを利用した凶悪な行為だ。

 その名の通り、エネミーは自分の縄張りに侵入したバーストリンカーを容赦なく襲う。

 このサイクルを利用し、エネミーのテリトリーの中に敵のリンカーを放り込むことを無限EK(エネミーキル)と呼ぶ。さすれば、エネミーに襲われたリンカーはポイントが枯渇して行き、最終的にはポイントがゼロになってしまい、加速世界での死を迎えることになる。

 この方法は大体集団で執り行われ、PK集団などが良く用いる。




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恐怖!ドSファイター出現

話の内容の区切りがつかず、気づけば9000文字近く書き連ねていました……


「安全の為にも、俺はやめておいた方が良いと思う」

 

 うーむ………、カラトの言っていることは至極的を射ているんだが………。なんか、味気ないよなぁ…。

 

「ってかお前、さっきまでPK集団なんてぶっ飛ばしてやるぜ!!みたいなテンションだったじゃないかよ。それはどうした、それは」

「んなもんノリに決まってるだろ。鈍いなぁお前。受け狙ってたの解らないの?芸人気質ゼロだな」

「ノリでやってたのか!?ヤなヤツだなお前!変な期待させやがって!」

 

 少しでも見直した俺が馬鹿だった………。

 全く……。ろくでもないヤツだな。

 

「じゃあ、面倒くさいから、小和田君の案は保留ね。異論は認めないわ。考えるの面倒だから」

「最低だな!なんだよ!?俺だから保留なのか!?俺だからか、おい!」

「つけあがってんじゃないわよ。誰がアンタなんかの為に」

「サトウなら良いのか?」

「勿論」

「ふぁあ!?」

 

 即答!?一体なんなんだこの俺に対する扱いは!?

 

「…ヒメジマの中に俺は漢を感じる」

「今時の男子にゃああり得ない根性だな」

「………問題は、言われてる本人が何も気づいていないことだな」

「え?何?僕の顔に何か付いてる?」

「…ほら見ろ」

「ちょっ、ちょっと!何二人でこそこそやってるのよっ!佐藤君に変なこと吹き込まないのっ!」

 

 また、俺だけ除け者にされている……。

 せっかく勝ってレギオンマスターにまでなったのに、たった五人の御食事会の話の輪にすら入れないとは、なんと惨めなことか……。

 よし、ここは一つ、俺から話を振ってみるか。

 

「あのさあ、そろそろレギオンの名前を決めた方が———」

「ん?もうこんな時間か………」

「あ、本当だ。そろそろ帰らないと家族に怒られちゃうな…」

「……一〇時か。ボチボチお開きにするか」

「そうね。夜道も危ないし」

「あの、ちょっと………」

「ん?どうした、リクヤ」

「……レギオンの名前って……まだ決めてないよな?……どうすんの?」

「………え?あ、それか……」

 

 あちゃー。完全にタイミング間違えたなこりゃ……。

 もう皆、帰る気満々で身支度とかしてるじゃん……。これじゃあ俺、構って欲しいだけのただのKY野郎じゃん………。まあ、実質そうだケド。

 

「まあ、また別の機会で良いんじゃない?」

「そうね。いちいち考えるの面倒だから、レギオンマスターの小和田君、考えといて」

 

 えー。完璧に押し付けじゃんそれー。

 それになんで俺の職権が悪用されてるんだよ!おかしいだろそれ!

 ………まあ、他にやること無いから良いけどさ。

 

 ———洗い物を皆で片付けて身支度を済ませ、サトウのマンションを後にする。

 一階の入り口でさよならを言い、各々が自分の帰路へと遷る。夜道は暗くて危ない為、ヒメジマはサトウに家まで付き添ってもらうことになった。

 カラトと途中で別れ、帰り道、ハタケヤマと二人きりになってしまった。

 ………何処となく気まずい…。

 転校して来てからまだ日も浅い為、こうやってつるんではいる物の、ハタケヤマとは未だに打ち解けていない。持ち前の明るさでもう一人の方とは、転校初日からだいぶ打ち解けたのだが、コイツとは大したきっかけも無く、ここ最近はこういった気まずい雰囲気が二人の間に漂っている。

 

 ………インテリな感じがするんだよな。

 そうだ、インテリ系オタクなんだコイツは。なんか、近寄りがたいんだよな…。

 俺の考えすぎか?

 

「……なあ、小和田。お前まだ、時間空いているか?」

「……は?……えっ………ちょっ…」

「…何キョドってんだよお前」

 

 人が真剣に考え事してるのに、話しかけられたらそりゃキョドるだろッ!!畜生!何も知らないくせに!

 

「悪い悪い。ちょっと考え事をしててな。……時間なら空いてるよ」

「そうか、なら少し付き合ってくれ」

「…………へ?どこに?」

「そうだな……。ここからだったら秋葉原かな。……ちょっと、暴れ足りなくてさ」

「まさか、今からやりに行くの……?」

「ああ。構わないだろ」

「構わないだろって、そりゃ構わないけどさ………。そもそも、こんな時間にいるのか?」

「案外いるぜ。昼間よりは少ないが、それだけハイリンカーの密度が濃くてな。腕試しには割と向いているんだよ」

 

 腕試しっておい……。俺、まだレベル2なんだけど………。

 

「俺、まだニュービーなのにそんなのとやり合えるのか?」

「大丈夫だ。お前はセンスがある。少しのレベル差ぐらい、なんとかなるさ」

「………そ、そうなのか……?」

「安心しろ。お前はお前が思っている以上に強い」

 

 こんな積極的なハタケヤマは始めて見る。意外と軽いヤツなのかもな。

 

「……それで、行くのか?それとも行かないのか?」

「…………………ああ、それじゃあ、行こうか」

 

 

「……さてと、それじゃあ、始めるか。ほら、ケーブル」

 

 結局、二人で電車に乗り、秋葉原駅まで来てしまった。

 駅のそばのベンチに、二人して座る。

 加速世界では思考が一〇〇〇倍になる為、こっちにいる時間は実質三〇分にも満たないだろう。

 渡されたケーブルを装着型携帯端末のニューロリンカーに差し込む。

 

「「バースト・リンク」」

 

 キーを口にした途端、脳内に雷鳴の様な物が走り、みるみる内に身体がバーチャルアバターに成り代わって行く。

 辺り一面はガラス張りにした様な青い空間。ハッキングしたソーシャルカメラが捉えた映像をそのまま繁栄しているため、周りは先ほどの風景と何ら変わりない。

 一つ変わっているとすれば、全てが止まっていることだ。

 正確には止まっているのではなく、速度が一〇〇〇分の一になっているのだ。

 目の前を走る車も、路面をつつく鳩も、全てが微動している為、止まって見える。

 

「おい、こっちに来てみろ」

 

 一つ目の鬼みたいなアバター(彼曰く、中級の妖怪らしい。ちなみに俺は、上級のにゃんこ先生)になったハタケヤマのいじっているウインドウを見てみる。そこには、たった今、タッグデュエルをしているバースト・リンカーの表みたいなもがある。それには勿論、リンカーのレベルも書いてあるのだが……。

 

「…………うわぁ……」

 

 とにかくレベルが高いこと。とりあえず、レベル3より下はいない。

 

「安心しろ。ちゃんと相性とレベルの良いヤツを選んでやるから」

「……お、おう。よろしく頼む…」

 

 すらすらと動いていたハタケヤマの指が止まる。どうやら相手が決まったらしい。

 相手のネームは、<グレイシュホワイト・イージーエイト>レベル3と、<エメラルド・ウッズ>レベル5だ。ちゃんと闘える程度のレベルを選んでくれたみたいだ。

 レベル2の俺とレベル6のハタケヤマ。足した合計は相手と同じな為、十分闘えるはずだ。

 

「基本、俺が前に出てじゃんじゃん注目取るから、お前が闇討ちしてくれ」

「了解」

「それじゃあ、始めるぞ」

 

 ハタケヤマが中央のデュエルのボタンを押す。身体がにゃんこ先生からおなじみの<バンシィ・ノルン>にかわり、周りの風景が一変する。

 

「腐植林ステージか……。嫌な所を引いたな」

「文句を言うな、とにかく相手を捜すぞ」

 

 周りには腐った巨木やキノコが生えており、紫色の瘴気の様な物が漂っている。なんと居心地の悪い空間だろう。臭いはしないのだが、息をするだけで気分が悪くなる。

 

「……………!ノルン、止まれ!」

「え?…わっ!」

 

 エクシアに無理矢理後ろに押しのけられる。間髪入れずに、俺の足下の木に三センチ程度の大穴が空く。

 真っ正面を凝視する。五〇メートルほど先に人の様なシルエットが二つ見える。

 右片方は、しゃがんだ形でこちらを見据えている。灰色がかった白の装甲。おそらくあれが<グレイシュホワイト・イージーエイト>。手にかけているのは長距離実弾砲か………?先ほどの牽制も、あれによる物だろう

 そして、左片方は………、

 

「…なんか、凄い目立つ色だな……」

 

 不植林ステージの淀んだ太陽光を照り返す程の滑らかで純粋な緑色の装甲が身体の至る所を覆い、角や肩や肘の装飾が植物らしさを醸し出している。

 見て暮れだけでもすぐに解る。———<エメラルド・ウッズ>だ。

 

「……二射目が来るぞ!ボサッとしてないで跳べ!」

「……………ッ!!」

 

 エクシアとは反対の方向に跳躍する。間一髪、イージーエイトが放った砲撃が肩をかすめ、俺の体力ゲージが1ドット減る。

 すかさずエクシアが二人に向かって疾駆し、俺も遅れを取るまいと後を追う。

 エクシアがイージーエイトに<GNソード>を展開して切り掛かる。<エメラルド・ウッズ>がエクシアに拳を叩き込もうとした所を、俺が<アームド・アームズVN>で遮り、右拳で顔面パンチをお見舞いする。

 

「……って、痛ってー!」

 

 堅い!堅い故に痛すぎる!流石純粋な緑系統!堅さがハンパじゃない!!

 鐘を打ったがごとく、右拳から全身へと振動と痺れが伝わってくる。そして、殴られた本人は……、

 

「踏み込みが甘いっ!!」

「ぐはっ!」

 

 ぐへぇ〜、チョー痛ぇ〜!こいつ、殴り返してきやがった〜。

 うわっ、体力ゲージ一割も削られてる………。堅さ故の攻撃力か……。

 

「この堅さは無視できない堅さだ!」

「……だから、……何だって言うんだ!」

 

 確かに、この防御力とそれ故の攻撃力は無視できない………!

 だが、これだけ堅ければ柔らかい所があるはずだ。同レベル同ポテンシャルの域は何者にも破れない。

 これだけ反則的な堅さを持っているならば、極端に柔らかい所もある。絶対に。

 

「…食らえよッ!」

 

 エメラルドの腹に蹴りを入れ、食らった本人は跳ねるように吹き飛ぶ。さっきと明らかに感触が違う。圧倒的に柔らかい。

 エメラルドの装甲の中でも、一際明るい配色で厚い装甲は腕、足、頭、肩と胸だ。

 他の腹や太もも、各間接はエメラルド、と言うより薄暗い緑色になっている。ここが穴場だ。

 今蹴った腹と同じく、二の腕。あるいは首、あるいは太ももを狙って行けば自ずと勝機は見えてくるに違いない。

 

「こっちは大丈夫だ!お前は目先の敵に集中しろ!」

 

 エクシアからのありがたい一言。………これで存分に闘える。

 ちなみにエクシアは、<ビーム・サーベル>を引き抜いたイージーエイトと格闘中。思っていたより手こずっているみたいだ。

 

「……ハッハー!これでいたぶってやれるぜ〜。覚悟しろよ兄ちゃん!!」

 

 エメラルドが起き上がり、さながらボクサーのごとく、ファイティングポーズをとる。

 先手必勝。<アームド・アームズVN>で勢い良く殴り掛かる。狙うは一番避けにくい腹部!

 

「うわっ………!」

 

 拳は空を切った。身をひねって躱され、足を掛けられる。見事にバランスを崩した俺は地面に倒れ込む。

 

「……って、あぶなっ!!」

 

 目の前には、腐植林ステージ最大の特徴。毒沼が広がっていた。ドラクエなどでおなじみの、あれだ。

 万が一、飛び込もうなら、レベル2の俺の体力はみるみる削れて行ってしまうだろう。

 

「………今からお前をここに落とす」

 

 ひぇ〜、何だその宣言。あれか?これが俗に言う犯行予告ってやつか?おーい。おまわりさーん。助けてくださーい。

 

「……って、それどころじゃないな!」

「…つべこべ言わずに、早く落ちろ……!」

 

 上半身しか起き上がらせていない俺を、エメラルドは情け容赦なくぐいぐいと毒沼に押してくる。

 …ちょっ………それ以上はやばいって!誰か!誰か助けて——————!!

 

「た、助けてー!」

「はいよー」

 

 エメラルドが一瞬で毒沼に蹴り飛ばされる。ついでに、ぼろぼろになったイージーエイトも毒沼に投げ飛ばされる。

 

「見た感じ、大丈夫そうだな」

「助けるの、少し遅くない…?」

「んなこたぁ、ないだろ。こっちだって抜け出すの大変だったんだからな。何がしたいんだか、あの野郎、牽制と受けしかしなくて、上手く攻められなかったんだよ」

「…まあ、二人とも沼に浸かっちまえばこっちのもんだな」

 

 ああ、多分俺今、すげえにやけてるんだろうな……。すげえ悪いこと思いついた。

 言わずともエクシアも気づいているみたいで、俺と肩を並べて二人を待ち構えている。

 ———案の定、二人はあわてて岸に上がろうとこちらに走って来た。……フフン!その考え、チョコレートよりも甘いッ!!

 

「ゴルァ!!んだぁ、誰が上がって良いっつったコルルァ!!」

「すったらぁ、一〇〇〇数えるまで頭まで浸かれやボケッ!!」

 

 二人そろってエメラルドとイージーエイトを毒沼に向かってキックオフ!!

 凄い悪いことしてるな俺ら!!でも、凄い充実感!!溜まらねぇぜこりゃぁ!!!

 

「…ギヒャヒャヒャ!!ほらほら、早く上がらないと死んじまうぜぇ!!」

「…ちょっ、マジ、……このままじゃシャレにならないわ……!……エメラルド!止む終えないわ!やっちゃって!」

 

 二人が足を止め、何やらこそこそやっている。ついに諦めたか。なんだ、面白くない。

 エメラルドがしゃがみ込み、技名を発する。

 

「<エメラルド・ウッド>!!」

 

 何が来るかと、身構える。

 次の瞬間、俺は、度肝を抜かれた……。

 

「はあ!?なんじゃそりゃ!?」

 

 エメラルドの足下から、エメラルドで出来た巨木が生える。極太の幹。無数に別れる枝。上空で掌を広げる葉。その全てがエメラルドで出来ている。トトロの住まう御神木みたいだなこれ。

 緑系アバターは、近接系の青アバターと間接系の黄色アバターの間の子だ。必殺技には見かけだけじゃ必要性が解らない物も多く、この巨木も想像の範疇外だった。

 仕様なのだろうか。雪とも、胞子とも捉えることが出来るエメラルドの粉が木の下に降り始める。

 絶え間なく伸びる幹に掴まったイージーエイトとエメラルドが、毒沼から脱出する。

 枝を伝ったエメラルドが、こちらから少し離れた所に着地する。

 

「……勝負はここからだ」

「けっ、何言ってやがる。てめえ一人で俺ら二人に勝てるわけないだろ」

 

 確かにそうだ。イージーエイトは恐らくあのまま木の上から砲撃をしてくるだろう。

 そしたら、地上で俺達二人の相手をするのはエメラルドただ一人。どう考えたってレベル5の彼では俺らは倒せまい。

 

「…俺は一人じゃないさ」

「はあ?何を言ってやがる。どこを見たって、お前一人しかいないじゃないか」

 

 ガシッ!無警戒の足首を何者かに掴まれた。……何が起きた……!?

 足下に視線を走らせる。

 ———地面から、腕が伸びていた。

 

「な、なんだよこれ……!?」

「この巨木がただの木だとでも思ったか?」

 

 畜生!なんだこれ!?いくら足掻いても離れやしない!

 

「………<エメラルド・ウッド>の真の能力。それは、俺の複製(クローン)だ」

「クローン……?…まさか…!」

 

 地面から生えたエメラルドの腕がさらに伸び、肩が現れる。やがて<エメラルド・ウッズ>そっくりの頭部、もう片方の腕、上半身が全て複製され、穴から這い上がってくるように俺を引っ張って、全身を積もったエメラルドの地面から引っ張りだす。そして、俺に対するホールドも強くなる。

 

「これは、積もったエメラルドの粒子が一定量を超した時に生成できる、俺の忠実な下部だ」

 

 そう言い、エメラルドは自分の隣に更にクローンを作り出す。

 

「さてさて。数だけ見ればこちらの形勢逆転。……一体どうする?ヤクザの御二方」

 

 イージーエイトの砲撃により、エメラルド闘君ごと俺の右肩が吹き飛ぶ。……クソッ………!エメラルドばかりに気を取られて、見落としていた!

 鈍い痛みを気合いで遮り、弱くなった闘君の拘束から逃れ、振り返り様に<ビーム・マグナム>をお見舞いする。

 闘君は、思ったよりあっけなく原型を崩し、もとの粒子となって消えた。

 

「はっ、所詮闘君は闘君。一撃くれてやればこんなもんよ!」

「それはどうかな?これだけ積もったエメラルドから、どれだけ俺のクローンが作れると思っているんだ?」

 

 更に一体追加。これじゃらちがあかない!

 

「……問題ない。要は、お前を叩き切れば良いだけの話だ」

 

 エクシアがエメラルドに切り掛かる。それをエメラルドは闘君一体を盾にすることでやり過ごそうとする。

 止むなく、闘君を叩き切る。…………しかし、その先にエメラルドの姿は無かった。

 ならばどこに?……俺の目の前にいる。

 

「……………ッ!」

「ぶべらっ!!」

 

 手痛い右ストレートをお見舞いされる。さらにそれと同時に、イージーエイトの砲撃がエクシアを捉える。

 間一髪。身を横にずらしたエクシアの胸を、直径二〇ミリの実弾がかすめた。

 なるほど、ようやくあいつらの手のうちが見えて来た。

 闘君とエメラルド本体で俺達の足を止め、イージーエイトが主砲で射ち抜く。至ってシンプルな戦法だ。作戦名を付けるとすれば、『結局、空気になったゼルダとサムスが最後に勝つ作戦』だ。うむ、我ながらクソみたいなネーミングセンスだ。

 

「クソ………ッ!まとわりつくな気持ち悪い!!」

「……身動きが取れない……!」

「……何も出来ないまま死に行く気分はどうだ、おい?……さっきはずいぶんと好き勝手やってくれたからな。今度はこっちの番と行こうじゃないか」

 

 再複製された闘君がエクシアの足を捉える。もう一体の闘君が更に胴体を捉え、完全に身動きが取れなくなる。

 もがく彼をあざ笑うかのように、ゆっくりとエメラルドが拳を振り上げる。

 

「エクシア!今行く———」

 

 エメラルドに殴り掛かろうとした瞬間、イージーエイトが俺の足下を射ち抜く。

 

「そっちには行かせないわ!」

 

 更にもう一発、俺の胸に鉛玉がぶち込まれる。

 ……やべぇ。そろそろダメージが洒落にならなくなって来た……。

 

「へっへっへ……。このまま嬲り殺しにしてやるぜ……!」

「……ぐふっ……!……ごふっ……!」

 

 エクシアはサンドバックのごとく殴り続けられている。……畜生!このままじゃ、消耗し切ってやられちまう!…あいつ、古参のハイリンカーじゃないのかよ!?

 

「…たく……嫌なんだよな。………こういう本気っぽいこと…」

「世迷い言を!お前のライフも既に残ってはいないだろ!…次の一撃でお前のライフポイントはゼロ!!ひょーひょっひょっひょ!!やったぁ!俺の勝ちだぁ!!」

「………何勘違いしてるんだ。…俺のバトルフェイズは終わっちゃいないぜ!!」

 

 あれぇ。これ、こんな小説だったけ?

 

「何を言っているんだ!お前はもう身動きがとれないじゃないか!」

「………速攻アビリティ発動!!<アヴァランチエクシアダッシュ>!!」

 

 やめろー!それ以上やると他のアニメになっちゃうからー!!

 手札捨てるのか!?手札ってなんだ!?どこからドローして、どこに捨てるんだ!?この状況を作り出す為の素材がほとんどと言って良い程そろっていない!!

 て〜ててて〜ててて〜♪

 ほらみろ!変なことするからBGMにクリ◯ィウスの牙流れ始めちゃったじゃないか!!どうすんだこれ!!

 

「まず一枚目ドロー!!…モンスターカード、<バンシィ・ノルン>を墓地に送り、<アヴァランチ・エクシア>、追加攻撃ッ!!」

 

 手札って俺かよー!!

 つーか、お前、その状態でどうやって攻撃すんだよ!

 

「はい、やってみたかっただけだから、冗談と余興はこれくらいにして。<アヴァランチエクシアダッシュ>、ブースト全開!」

 

 即座の轟音。

 闘君二体が捉えていたエクシアは、凄まじい早さで突進。エメラルドの頭を捉え、更に加速をし、巨木に衝突した。

 エクシアの肩、足、背中のブースターからは、エメラルドとは違う輝きを帯びた緑色のGN粒子が吹き出している。

 叩き付けられたエメラルドは、巨木にどんどんとめり込む。その度に、くぼみから枝のように伸びた罅が広がって行く。

 

「………どうやら、俺の方が一枚上手のようだったな。このまま圧死させてやんよ」

「……ぐっ……畜生………!」

「エっちゃん!?させないわよ!!」

 

 イージーエイトがエクシアに主砲を射つ。

 しかし、その弾はエクシアには届かなかった。

 

「そんな柔な弾じゃ、効かねえよ!!」

 

 エクシアを捉えた銃弾は、ブースターから吹き出す凄まじい量のGN粒子に遮られた。

 ………勝機!!

 

「いつまでもいもってねえで、降りてこいよ!<アームド・アームズBS>!」

 

 右腕から伸びたサイコフレームの板二枚に圧縮されたビームを、イージーエイトではなく、彼女の立っている枝に放つ。

 程なく、ビームは枝を貫通し、イージーエイトはようやく地面に墜落した。

 それと、ほぼ同時に、窪んだ巨木の幹の中心で爆発が起こる。

 過度な圧迫に寄って、幹が完全に粉砕されたらしく、それより上の木が力なく倒れてゆく。

 

「ちっ、手こずらせやがって。…あとは、雌豚ただ一人……」

 

 体力の尽きたエメラルドは、エクシアの掌の中でポリゴンの粒子となって消える。

 そう、残るは、この忌々しい女ただ一人…………。

 

「「覚悟しろよ、このクソアマがぁ!」」

 

 妙な巡り合わせから、今日、ここに、加速世界最悪のドSコンビが産まれた。

 

 

おまけ 『帰りの電車にて』

 

「はぁ〜、疲れた……」

「何言ってんだ。たったの一〇戦だろ」

「おい君、ちょいと多過ぎやしないかそれ?」

「良いじゃねぇか別に。おかげでレベルが一つ上がったんだ。感謝しろよ」

「…まあ、そりゃそうだけど……」

「……それに」

「それに、なんだよ?」

「俺のことも、だいぶ解ってもらえたみたいだしな」

「……………え?」

「お前、俺のこと避けてるだろ?上手くはぐらかしてるつもりなんだろうけど、丸わかりだよ」

「…………………………」

「まあ、解らなくもねぇよ。一緒に転校して来たのが、馬鹿みたいに明るくて、知らないヤツでもすぐに解け合う様なヤツだからな。……俺が暗くて近寄りがたく感じるのも仕方ねぇ」

「…………………………」

「どうせお前、俺のこと、なんか近寄りがたいインテリ系アニオタロリコン野郎とでも勘違いしてるんだろ?」

「…………まあ……そうだけど…」

「俺は、お前が思っている程気難しくも、インテリでもねぇよ」

「ロリコンとアニオタなのに関しては否定しないんだな?」

「そりゃそうだ。俺の唯一のポリシーにして、生き甲斐だからな」

「なんじゃそりゃ……」

「まあ、それだけ覚えておいてくれれば良いってことだ。…そうすれば、自ずと仲は短くなるもんさ。今日はありがとよ」

「……あっ、こちらこそ」

「また行こうぜ。今回は、なかなか面白いデュエルが出来たからな」




感想、コメント、アドバイス等ありましたらよろしく御願しますm(_ _)m


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BEYOND THE BONODRI

大変長らくお待たせしました!
次話の投稿が完了しました


「私、小和田六矢は焼きそばとフランクフルトが好きです」

「ん〜、僕は茄子かな」

「いきなりどうしたのよ?」

「実はさ、今週の土曜日に、葛西の行船公園で盆踊りがるんだよ。ハタケヤマとカラトと愛華も誘って、皆で行かない?」

「ええ〜。暑いし、嫌よ」

「何言ってんだよ。…お前ら、最近引きこもりや過ぎないか?暑いだのなんだの言って、全然外に出ようとしないじゃないかよ」

「……本当にそう思っているのなら、友達に誘われたくらいでこんな炎天下の中、わざわざ屋上で購買のパンなんか食らわないわよ…」

「良いじゃん屋上。夢があって。今時、学校の屋上なんてなかなか開場してないぜ」

「だからどうしたのよ。……はぁーあ〜。汗だくよ。どうしてくれるのよこれ?」

 

 リボンを解き、Yシャツを第二ボタンまであけて、中を手で扇ぐ彼女。

 Cカップはあるのだろうか。シャツの間から、中学生にしては少々大きめの谷間が覗く。更に、にじんだ汗が彼女の白い肌に張り付き……目のやり場に困る。

 

「…姫島さん」

「どうしたの佐藤君?」

「……………………」

「………ちょっと…どうして目を背けるのよ?」

「……その……ブラジャー、透けてるよ……」

「………え……あ……!」

 

 ヒメジマの顔がだるまのように赤くなる。ついでに佐藤も。

 両手を交差して胸を隠し、何故か股も内側に閉じる。

 これだけみると、ちょっとしたエロ画像だよな……。写メ取ったらオークションで売れないかな?その前に殺されるか。

 

「……ジャージ貸すからさ。もう下に降りようか…」

「………………ぅん」

 

 やれやれ……。特に理由もないのに、なんか悪いことした感じだな…。

 ……さてと。二人は教室に帰る雰囲気だし、一人で寂しく飯を食うのも乙な物だが、さすがにそれは俺の人間性に関わってくるので……、

 

「ほんじゃまあ、教室に帰るか」

「そうだね。………災難だったね、姫島さん。……皆には言わないからさ。ね?ほら、元気出して」

「…………………はぃ」

「なんで敬語なんだよ…。人生、下着が透けることの一度や二度くらいあるだろ。そう落ち込むなよ」

「あんたの慰めはレベルが低いのよ!もう黙ってて!私を傷つけないで!佐藤君と私の前から消えて!!」

「嫌な本音出たな!!」

「……ははは。暑いのに二人共、元気が良いねー…」

 

 

「盆踊りぃ〜?少し時期が早すぎないか?面倒くさいから俺パース」

「強制参加だ。貴様に断る権利はない」

「…ふざけんな。俺は暑いのが嫌なんだよ。少なくとも、夏休みが始まるまでは外には出ない」

「ただのニートじゃないかよ」

「構わん!」

「どういうカミングアウトなんだそれは……」

 

 全く……どいつもこいつも暑いだの何だの抜かしやがって…。こんなんだから俺の周りには非リア充しかいないんだ…。

 

「お前らなぁ。そんなんだからモテないんだよ。モテたかったら土曜の盆踊りに参加しろよな!」

「……余計なお世話だ。俺は涼しい部屋にいられれば、それで良いんだ。後は知らん」

「なんでお前ってそう、意味の無い所で男前なんだ………。…全く……。どのみち決定時効だから、つべこべ言わずに来いよ!さぼったら許さないからな!」

 

 即興劇タイム突入。

 

「なんでそんなものに執着する!?これでは身体が熱くなって、家に住めなくなる。冷房の冬が来るぞ!?」

「冷房の効いた部屋に住む者は、自分のことしか考えていない。だから、連れて行くと宣言した!」

「人が人に罰を与えようなどと!」

「私、小和田六矢が粛正しようと言うのだ、カラト!」

「エゴだよそれは!」

「ならば、今すぐ愚民共全てにクーラーを授けてみせろ!!」

「エゴだよそれは!」

「カラト、冷えた部屋に残った人類などは地上のノミだということが何故わからん!」

「エゴだよそれは!」

「台詞切れてんじゃねーよ!もっと乗れや!」

 

 ハタケヤマにバトンタッチ。

 

「……世直しのことを知らないんだな……。夏祭りはいつも町内会のジジババが始めるんだ。今時やらない金魚すくいみたいな、やりもしない目標を持ってやるから、いつもロリを苦しめることしかやらない!」

「私は世直しなど考えていない!」

 

 と言いながら、瞬時に仮想デスクトップのタブを開き、祭りのホームページを開く。

 

「フハハハハハ!」

「何を笑っているんだ!?」

「私の勝ちだな!今確認してみたが、金魚すくいは開催されるそうだ!貴様らの頑張りすぎだ!」

「ふざけるな!たかがロリっこ一人、俺が連れ帰ってみせる!!」

「正気か!?」

「……明らかに正気じゃないわね。ついでにあなたも」

「貴様程急ぎすぎもしなければ、ロリに絶望もしちゃいない!」

「お前の印象の落下は始まっているんだぞ!?」

「ロリータコンプレックスは伊達じゃない!!」

「馬鹿なことはやめろ!」

 

「……話がだいぶ脱線してるけど……。結局、皆行くの?僕は行きたいけど……」

「サトウは行くのか?」

「うん。僕は金魚すくいに目がないんだ」

 

 サトウも、また妙な趣味をしてるよな……。

 こいつが行くとなると………まあ、必然的にこいつも付いてくるよな。

 

「…私も行くわよ」

 

 チャンス到来。

 

「あれぇ〜、ヒメジマは盆踊りに行かないんじゃなかったっけ?」

「べ、別に良いじゃない!気が変わったのよ。絶対に行くわよ!」

「良いって良いって。無理して空気読まなくても。お祭りは俺と、愛華と、……サトウと行くから。暑いのが嫌いなヒメジマは冷房の効いた家で、ゆ〜っくりくつろいでると良いさ」

「うぅ〜………!」

 

 小和田六矢、真ゲス顔発動中。

 いやぁ〜。いつも威張ってるヤツを虐め倒すのは、溜まらねぇ〜ぜ〜!

 ギヒャヒャヒャヒャ!最高だな〜!

 

 ———いよいよ、ヒメジマは涙をぽろぽろと流し始めた。

 

「…………ぅっ……ぅっ………!………わ…たしっ………ぜっ、たい…いくもん…………っ!」

 

「…………………」(ジーーー…)

「…………………」(ジーーー…)

「…………………」(ジーーー…)

「…………………」(…………プイッ)

 

「目を反らすんじゃないわよッ!!」

「だってさぁ!普通、ガン泣きするか!?ちょっとからかっただけだぞ!?」

「あなたのゲス顔が気に食わなかっただけよ!!さっさと消えなさい!!」

「……まだまだ詰めが甘いな小和田。真のドS道を極める者ならば、反論される前にもっと畳み掛けねばな」

「あなたは黙ってなさい!」

「ンだとコルァ!もういっぺん言ってみろアマァ!!」

「黙りなさい!このロリコン野郎!!」

「何を!男が変態で何が悪いんだ!!」

 

 なんか、いつの間にか除け者にされてるんだけど……。最近こんなのばっかだよなぁ…。

 よくもまあ、キャラが濃いのがこんなに俺の周りに集まったもんだな。

 

「お前らなぁ…。少しは自重しろよな。ここは教室だぞ?クラスメートがドン引きしてるだろ」

「………何よ。中盤以降、話の輪に入れなかったヤツが」

「お前ら、注意されても全く反省しない所が凄いよな」

「…うるさい。静かに飯が食えんだろうが」

 

 あっ…、そういえば俺も購買のサンドイッチ食い終わってなかったな。

 ………さてさて。食事に集中して、皆黙ってしまった訳だが………。暇だ。

 

「……………で、結局盆踊りには誰が行くんだ?」

「僕は行きまーす」(もぐもぐ)

「私もよ。…………絶対に」(もぐもぐ)

「俺も」(もぐもぐ)

「皆が行くなら」(もごもご)

「お前ら、喋るなら咀嚼を済ませてからにしろ。……結局、皆盆踊りにくるんだな?」

「仕方ないから行ってやるよ」

「はいはい。んじゃ土曜の夕方五時にサトウん家前ね。チャリで行くから動きやすい格好で来いよ」




空けた日数の割にはこれまた脚本みたいに台詞の多い小説が出来てしまいました。
誠に申し訳ありませんm(_ _)m

なんかいつも謝ってる気がします。
誠に勝手ながら、MSの応募は一旦、打ち切らせて頂きます。数々のご応募、ありがとうございました。

コメント、感想等がありましたらよろしく御願します。


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私の孤独は現実です

PCの液晶修理など、ハプニングが続き、投稿が1ヶ月も遅れてしまいました。

誠に申し訳ありません。


「……一〇分前か…。ちと、早く来過ぎたか」

 

 待ちに待った盆踊り当日。

 待ちきれなくなって、早めに家を出てしまったのは良い物の……誰もいないと言うのも、考えものだ。

 集合場所のサトウのマンション前に見事に一番乗り。

 夏もまだまだ中盤。五時前だと言うのに、まだまだ太陽は明るく、ぼっちの俺を嘲笑うかの様に燦々と輝いている………。

 ちなみにまだ夏休みではない。終業式は来週の金曜日。中二で部活に入っていない俺は、受験勉強や部活動に追われることもなく、夏休みを思うがままに過ごせる。

 

「ああ〜。夏休みかぁ…。何して遊ぼうかな……」

「考えた所でやることなんて、高が知れてるんじゃないの?」

「…降りて来たのか。早いな」

「六矢君だって。自分家の前に呼んでおいて、待たせたら悪いからね」

 

 背にしていたマンションから降りて来たのは、転校生———と呼ぶのには、もう日が経ち過ぎたか。いつもつるんでいるサトウだ。

 整った顔立ちと持ち前の明るさから、転校当日にしてクラスに溶け込む強者。内向的な俺とは正反対だ。最近、女子の間では密かに『神様』と呼ばれている。どんだけ優しいんだお前。そのハッピー成分を少しで良いから、俺に分けておくれ。

 

「……にしても、お前、またそんなパッとしない色の服なんか着て来て………」

「良いでしょ別に。僕は目立たない色が好きなんだ」

 

 今日のサトウの私服は、薄い紫のTシャツと淡い茶色の短パン。

 表に出している笑顔には決して似合わない地味な服装……。本人曰く、『あまり目立ちたくない』『地味な色が好き』、だそうだ。

 他にも緑、水色、灰色、深い赤など、なんかパッとしない色の私服ばかりをいつも着てくる。それだけギャップがあると、逆に浮いて見えるから気をつけたまえサトウ君。

 

「ちょっと待っててくれる?自転車取りに行ってくるから」

「おう」

 

 ぼっち再来。

 先ほどより、にわかにオレンジ色を帯びてきた太陽が、俺を照りつける。寂しさと孤独感に打ち拉がれそうだ………。そして暑い。

 五時まであと五分くらいあるな…。皆まだかなぁ…。サトウも早く、自転車取って来ないかなぁ……。

 

「はあ………。…暇だ」

 

 何かやる訳でもなく、仮想デスクトップをいじり始める始末。……ため息が止まらない。

 ———そこに、救世主の足音が一つ。 

 

「りっくんおっはよぉ———!!」

「ぶるるるぁぁぁぁぁぁ———————!?」

 

 ぐぼぁ………!脇腹が強烈に痛い!若本さんみたいな声が出るくらい痛いっ!

 ……それに、地面を転げ回ったせいで、全身擦り傷だらけだッ!!

 

「………おいおいアイさんよぉ。出会い頭にドロップキックとは………なかなか痛ぇじゃないですか……。…ちなみに、おはようじゃなくてこんにちはな……?挨拶くらい間違えない様にしろよ…」

「え?これってもしかして、もう一回蹴って良いって言う、りっくんの遠回しな愛情表現!?」

「だれもそんなこと言ってねぇよ!!………全く、どうすんだよ服汚れちゃったじゃないか……」

「こらっ!りっくんなんて、何も着てなくて当然なんだから贅沢言わないの!」

 

 ぐへぇ……。なんか凄く理不尽に怒られてる気がするぅ……。

 ……これとは長い付き合いだから、今更大して驚く訳ではないが……いつまで経ってもこいつの常時オープン天然フルバーストには手を焼かされる………。

 見かけが幼女なら脳みそも幼女と言った所か……。やれやれ、とても同い年とは思えないぜ。一部の特殊な人間の間では、アイドルの様な存在になっているらしいが。こいつも誰かしらには好かれているようで何よりじゃないか。

 そうこうしているうちに、足音がもう一つ増える。……地面に這いつくばってるから、良く聞こえる。………おいおい、惨め過ぎやしねえか?

 

「おいおい、一体どういう状況なんだこれは?」

 

 『一部の特殊な人間』の首相現れる。

 

「…………聞かなくても見れば解るだろハタケヤマ…」

「なんだお前。また愛華ちゃんにちょっかい出したのか?」

「この状況をどう解釈したら、そうなるんだ!?」

「どうもこうもねえよ。何もされてないのに、愛華ちゃんに限って、まさかお前にドロップキックなんてかます訳ねえよ」

「おい!なんでドロップキックなんて単語がお前の口から出るんだ!?さてはお前全部見てただろ!?」

「なんのことだかさっぱり解らんな」

 

 怒りに任せたがむしゃらな俺の視線と、冷徹な嘲笑を浮かべたハタケヤマの視線がぶつかり合い、バチバチとスパークが飛ぶ。

 ……こいつと口喧嘩をした所で、結果は火を見るより明らかだろう…。

 ならば、やることは一つだけだ………。

 

「……覚悟しろよロリコン野郎……!」

「どうやら、…いつぞやの対戦で少し、調子に乗っているようだな。先輩として、ここは一つ、修正してやるか」

「その減らず口も今日で効けない様にしてやる!行くぞこの野郎!!」

 

 気合いを込め、掌を堅く握る。………別にリアルで喧嘩をする訳ではないんだが。

 そんなことをしなくても、俺達には、こうなった時に、相手を徹底的に叩きのめして服従させる為の特権があるじゃないか。

 アイは、面白い物見たさに、掌をきゅっと握り、馴染みののポニーテールをピコピコと揺らしているが、どんなことをしたって、今からやることは喧嘩好きのコイツの予想している展開にはならないだろう。どうせ一.八秒で終わる。

 大きく息を吸い、かの国へと俺を誘う魔法の呪文を吐く。

 

「バースト———」

 

 アイは、何事かと、驚くだろう。まあ、馬鹿のコイツのことだ。適当にいなしておけばば、そのうち忘れるだろう。

 ハタケヤマは、止めるどころか、掛かってこいと言わんばかりに、瞳を光らせている。

 

「リンむぎゅぅ」

 

 …すみません、ボケじゃないんです。至って真面目です…。

 なんか、寸前で頬を抓られたかと言うか〜、真横にヒメジマが現れて、発言を妨げられたと言うかぁ〜……。

 

「………全く!公衆の面前で何やってるのよ、あなた達はッ!!」

 

 耳が痛くなる程の、怒号が飛ぶ。空気を読まないハタケヤマが、俺の代わりに、キーワードを口にしようとするが、彼女の『灼熱空裂弾アキラブラスト』一撃で撃沈されてしまう。

 ヒメジマは呆れ顔でため息をつくと、再びキッと、俺とハタケヤマを睨んで、説教を始めた。

 

「二人とも、ニュービーじゃないんだから、もっと自覚を持ちなさい!!ニュービーですら心得てるわよ!!」

「姫島!男の間に入ってくるな!!」

「ただ幼稚なだけでしょ、アニオタ野郎!!馬鹿のくせに一人前の口を効くんじゃないわよ!!………特に小和田君!あなた、曲がりなりにも、『ウチ』の頭なんだから、もっとシャンとしなさい!!」

 

 ………それも大分、危ない発言じゃないのか?

 「わかった!?」と押され、耳を押さえながら、こくこくと頷く。

 ……レギオンマスターか………。あんまり、自覚が無いんだよな………。現にレギオンの名前も決まってない訳だし。

 そもそも、まだレベルが3だから、<無制限中立フィールド>にある、レギオンを作る為のダンジョンにもまだ行けてないし…。

 まあ、それはこれからコツコツと頑張れば良いだけか。

 

「よう、皆そろってるか?」

「おうカラト。あとは———」

「やあ、皆揃ったみたいだね。それじゃあ、行こうか」




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略奪の光

「わ——!!たこ焼きだ!わたあめだ!お好み焼きだ!我が世の春が来た—————————!!」

 

 到着してすぐ、縁日ならではの、色とりどりの屋台を見つけたアイは、流石陸上部。鍛え上げられた脚力で、一瞬の内に、屋台を彩る様々な提灯の光に消えた。

 時期が早いせいか、それともまだ午後の五時四五分だからか、去年に町内会で催した夏祭りより、客足が少なく見える。こっちとしては、抱えた問題児を見失わないで済む反面、何処か寂しい雰囲気が漂っていて、ほんの少し居心地が悪い…。

 

「我が世の春が来たって……………もう夏だろ。バカかアイツは」

「そんなの、会った時から解り切ってたことだろ」

「…はぁ〜………やれやれ…。祭りなら、皆で回った方が楽しいだろ?アイツ、連れ戻してくるから。皆、先に遊んじゃってて」

「………………………」

 

 アイを追いかけようと、一歩を踏み出しかける寸前、何者かの強い視線が背中に当たるのを感じた。

 振り返ると、真顔なんだか、うすら笑っているんだか、なんとも形容しがたい表情をしているハタケヤマがこちらを向いていた。

 

「……? どうかしたかハタケヤマ…?」

「いや、少し、思う所が有ってな」

「……? 何だそりゃ…」

「まあ、歩きながらで良いだろう。悪い、佐藤、華水希、姫島。先に行っておいてくれ」

 

 そう言うと、ハタケヤマは早足で、残る三人と反対方向に歩き出してしまう。

 ……呼び止めたのはそっちなのに……と、内心軽く愚痴りつつ、彼の後を追う。

 

「……で、何だよ?」

「いや、別に対したことじゃないんだがな。…小和田って、なんだか愛華ちゃんの保護者みたいだ、と思っただけだよ」

「………………まあ、そうだなぁ。…家が隣だし、付き合いも幼稚園からで長いし、…見ての通り、本性が行き当たりばったり以外の何でも無いから、当然と言えば当然なのかもなぁ……」

「華水希は違うのか?」

「アイツも、さして変わらんよ。良く三人で遊ぶし、二人掛かりで世話を焼くことだってあるし……」

 

 すると、ハタケヤマは、顔に苦笑を浮かべ、言った。

 

「それにしては、お前の方が愛華ちゃんの面倒を、倍見ている様に見えるが?」

「まあ、アイツがめんどくさがりだってのも有るが、ただ単に俺が、世話焼きなだけなのかもしれないなぁ」

 

 また一つ、ハタケヤマは苦笑を作り………

 

「それ、自分で言うか?」

「仕方ないだろ。………俺もアイも、親の帰りが遅くて、小学生の頃は遅くなるまで二人で遊んでたんだから。今だって、どっちかが片方の家に泊まることなんて、珍しくもないことだよ」

「まあ、そうだろうな」

「……………ああ、そうでもなきゃ、俺は、あれを手に入れられなかったんだからな」

 

 あれとはすなわち、<ブレインバースト2039>のことだ。

 プレイヤーの思考クロックを一千倍にまで加速させ、超高速空間の中でプレイするVR対戦格闘ゲーム。

 そのインストール条件は至極厳しく、粒子接続端末ニューロリンカーを乳児の頃から装着していることを第一条件とし、大脳応答に高度な適正を持っていることを第二条件とする。

 晴れてプレイヤーと成れた<子供>には、頭にプレイヤーの属性に応じた<色>、最後にプレイヤーの特性に応じたその世界の名前が与えらる。プレイヤーの特性は十人十色で、それにはプレイヤー本人のトラウマが深く関わっている。

 リアルで虐められていたプレイヤーのデュエルアバターは、己を守る盾や厚い装甲を持って産まれ、何かに並々成らぬ恐怖を覚えているプレイヤーのデュエルアバターは、恐怖を寄せ付けない為の火器を手にして産まれる。

 中にはメタルカラーと言われるアバターが存在し、トラウマが自分でも解らない程の強固な殻に覆われていると、そのようなアバターが産まれると言われ、アルミやマグネシウムの名の通り、強固な装甲を持つアバターや、ブロンズやシルバーなど、毒や腐食に体制を持ったアバターが存在する。

 過剰なまでの目的意識を持った者や、前向きな願望や希望を抱いたプレイヤーにはカラーネームが付けられず、全く関係のないファーストネームや武装が与えられることがある。そのプレイヤー達は機動戦士と呼ばれ、一部の古参のプレイヤーからは、出来損ないと煙たがられている。

 

 ———これら全てのプレイヤーをまとめて、バーストリンカーと呼ぶ。

 バーストリンカーには、リアルに置いて共通と言って良い程の特徴が有る。

 

『親の愛をあまり受けていない』

 

 第一条件からして、教育の省略化や、直接見ていなくても体調が解る様に、産まれた直後からニューロリンカーを装着しているバーストリンカーは多い。

 そのような子供はほとんど、教育の省略化や、夜泣きを防ぐため、乳児の頃からネット内の仮想空間にフルダイブをさせられている。

 俺は例外だが、両親共に仕事が忙しく、産まれた直後にニューロリンカーを装着させられた。

 両親曰く、俺は夜泣きなどはあまりしなかったそうなので、フルダイブはあまりしなかったそうだ。

 結果、今の今までフルダイブをあまり使用していなく、俺自体、そこまでフルダイブが好きではない。

 

「……まあ、お前達とこうやっていられるんだから、ある意味、親には感謝しないとな」

「それに関しては同意だな」

 

 今度は二人して苦笑する。昔は嫌なことも有ったが、俺も、多分ハタケヤマも、いや、ここに来ているバーストリンカー全員が、自分が不幸だとは感じていないだろう。

 そう思うと再び、二人して顔から笑みがこぼれる。

 すれ違った女子高生三人が、こちらを見ながら、微笑していたことに遅れて気づく。

 

「………………アイを探そうか」

「………………そうだな」

 

 そのあと、フランクフルトを指の間いっぱいに詰め込み、レッツパーディ〜していたアイを捕獲し、俺達はカラト達と合流するのであった。

 

 

 横2m、縦70cmの水色の箱の前に鎮座する男が一人。男は、中に並々と注がれた真水の中を縦横無尽に駆け回る無数の陰の一つを、キッ、と睨み、右手に掲げた虫眼鏡の様な物———ポイ———を水面ギリギリに浸し、右から左にスライドさせた。

 これで何回目だろうか。パシャッ、と小気味のいい音を立て、虫眼鏡の中央に張られた紙に救い上げられた陰は、水を注いだ椀の中にダイブする。

 男は椀に入ったかを確かめもせず、次ぎの標的を探す。

 

 ———詰まる所、金魚すくいだ。

 

「…………兄ちゃん。これで何匹目だい……」

 

 呆れ声にも聞こえる、年老いた店主の声にすら、<サトウ>は耳を傾けない。

 

「……凄いな……。まさか、サトウにこんな特技が有ったなんて………」

「………ああ、俺も知っていたが、去年見た時よりも上達している。あれでまだ、一回目だぜ……」

 

 ほとんど見せ物と成ったこの屋台のこの光景を見て、若干引き気味である俺達。ヒメジマに関しては、一匹目を掬った頃からずっと複雑な表情をしている。

 

「まあ、姫島が一番ショックを受けてるんだろうなぁ」

「いつもの様子を見ているだけじゃあ、ああもマニアックなヤツだとは気づかんだろうよ」

「俺とカラトが知らないんだから、当たり前か………」

 

 姫島はと言うと、顔を一度俯かせ、やがて、決心したのだろうか。一度頷き、ポソっと呟いた。

 

「………それでも好きだ……………!」

「何がだよ」

「あれはあれで、このメンバーの中である意味、一番バカだからなぁ」

「それに関しては、俺たち全員が当てはまるだろ」

 

 サトウがもう一度、腕をスライドさせた。しかし、金魚は空中に掬いだされず、ポイの幕を突き破った。

 俺達を含め、サトウの金魚すくいを見物しに来ていた客全員が肩から力を抜き、声を出す。

 

「あ〜あ。終わっちゃったな…………」

「おいサトウ。お前、一体何匹掬ったんだ…………?」

「え?…ああ、三十六匹だけど」

 

 誰からと言う訳でもなく、拍手が巻き起こる。

 サトウは、忙しい動きでぺこぺこと頭を下げる。

 屋台の親父は、椀に入った金魚を全部でかい袋にいれ、パイプで酸素を送り込み、キツく口を縛ってサトウに渡してくれた。

 

「さてと、遊ぶだけ遊んだし、後はなんか食って帰るか」

「私たこ焼き食べたい!」

「はいはい。解りましたよ」

 

 

「はぁ〜………。少し、はしゃぎ過ぎたか……」

「そうねぇ……疲れちゃったわ」

 

 俺とヒメジマとサトウ。ラムネ便を片手に、溜まった疲れを癒すため、公園の脇のベンチに腰を掛けようとした時……

 後頭部に雷鳴が轟いた。身体は黒い装甲に覆われ、現実の世界は跡形もなく崩れ去り、目の前に鉄で繋いだ英文字が広がる。小和田君はヴァカなので、英語が読めません!

 

「畜生……。めんどくさい時に吹っかけられたな……。ぱっぱと終わらせて休むか」

 

 ステージは墓場ステージ。また嫌なのを引いたな…………。

 毒々しい霧のせいでかすむ景色の向こう、一つの陰が朧げに浮かぶ。俺にデュエルを吹っかけて来たバーストリンカーとみて、間違いないだろう。アバターネームは<ダスク・テイカー>レベル5。

 ダスク・テイカーはこちらに歩み寄り、霧の中から姿を現した。

 顔全体を覆うバイザーメット。装甲全体が禍々しい宵闇(ダスク)色に覆われている。鉤爪にも見える鋭利な左手、右には触手型の強化外装を携えている。

 

「…まさか、一発でヒットするとは思いませんでしたよ。<バンシィ・ノルン>さん」

「なんだ。対戦ではなく、俺に用があるのか」

「ええ!とてもとても、大事な用事がありましてね」

 

 一体なんだ?レベルがまだ3の俺に用事って。それとも、話に意識を集中させて、不意打ちをするつもりか……。

 何はともあれ、どのようなことが起こるか解らない。右手に持った<ビーム・マグナム>を強く握り直す

 

「あなたの大事な物、頂きますよ。<黒獅>」

 

 即座、赤く図太い光線が墓場ステージに漂う霧と、二人の間に流れる静寂を打ち破った。

 ダスクテイカーは身を斜めに屈めそれを避けると、その姿勢を保ち、さながらクラウチングダッシュのごとく、こちらへ高速で走りよって来た。

 

「………………………!」

 

 肉薄するダスク・テイカーを返り討ちにするべく、左腕の<アームド・アームズVN>で殴り掛かる。テイカーは、素早い身のこなしで俺の脇を抜け、背後に回り、鋭利な右手で斬りつけてくる。すかさずビーム・マグナムを脇下から覗かせ、テイカーの腹にぶち込む。

 流石高速移動系のデュエルアバター。まともに攻撃を食らった身体は盛大に吹き飛び、体力ゲージが一割半ほど削れる。

 

「フフフ………。適当に場数は踏んでいると言うことですか……。これは少し、手こずりそうですね……」

「なんだか知らねえが、聴いている限り、長期戦は芳しくないみたいだな」

「おっと、これは少しおしゃべりが過ぎたか……な?まあ、十分必殺技ゲージも溜まったことですし、そろそろかな……」

「お前は…何を…………言っているんだ?」

「そうですね………………それは…………こう言うことですよッ!」

 

 突如、テイカーの肩から垂れ下がる三本の触手がビュルッ!と突進して来た。横に飛び、二本は避けたが、残る一本がノルンの腕を捉える。しなる残りの触手が腰に巻き付き、ダスクテイカーへと吸い寄せられる。

 

「………あなたのそのアビリティ、頂きますよ」

 

 ダスク・テイカーのアイレンズが禍々しく輝く。半分以上溜まっていたテイカーの必殺技ゲージが端まで減る。

 ———必殺技が放たれる!!

 

「<デモニック・コマンディア>」

「………………………!」

 

 ダスク・テイカーの単眼式バイザーから、ノルンの顔に向けて宵闇色の光線が放たれる。

 顔をそらすだけでは避けられる訳でもなく、光線をまともに食らう。しかし、どういうことか。体力ゲージが1mmたりとも減少しない。寄生、呪い系の必殺技か。

 

「…はい、ちゃんと頂きましたよ。………………ハハハ、これは運が良い。まさか一発で手に入るとは思いませんでしたよ」

「一体…………何を………」

 

 唖然とする俺を放り投げ、テイカーはしばらく笑うのをやめなかった。

 さっきから引っかかっていた疑問が再び頭の中をよぎる。

 

『あなたの大事な物、頂きますよ。<黒獅>』

 

「…………まさか………!!」

「おや、なかなか察しが良いですね………。ああ、気持ちがいい……!この略奪の快感は、何にも変えられない!」

「…き………さまァ……!!」

 

 情報を確認せずとも、俺には解った!!

 

「か……えせェェェェェェェェェェ!!オレの………<NT-D>をををををををををを!!」

 

 我を忘れ、テイカーに殴り掛かる!!

 残り時間1500秒!これだけ有れば、コイツを徹底的にブチノメスことは可能!!対戦が終了次第、リアルのコイツを取っ捕まえ、直結対戦でコイツのバーストポイントが尽きるまで何度だって対戦してやる!!

 

「…………無粋ですねぇ。冷静さを失った人ほど、叩きのめしやすいことはない」

 

 突進するオレの足を触手で掬い、墓石へと叩き付ける。続く動作で触手を伸縮させて、墓石を次々と破壊し、必殺技ゲージを溜める。

 

「さあ、使わせて頂きましょうか………………あなたのタカラモノを」

 

 満タンに成ったゲージが端まで沈む。ダスク・テイカーの身体に、血管の様な模様が浮き出る。その現象が、何を意味するのか、使い手であったオレには見ずとも解った……………。

 

 暗転。

 

 

 横に居た小和田君が、ラムネの瓶を落とした。ぽかんと口を開け、二秒経ったかと思うと、一目散に何処かへ駈けて行ってしまった。

 

「ちょっと!小和田君!?どこに行くの!?」

「何か有ったみたい!姫島さん!!追いかけよう!!」

「う、………うん!!」

 

 佐藤君と、小和田君の後ろを追いかける。

 頬を擦る空気と一緒に、小和田君の力の入ったつぶやきが、耳に入り込んでくる。

 

「……出現位置からして、出口近くだったが、走れば間に合うはずだ………!!……絶対にブチコロシてやるッ!!」

 

 普段の彼からは聞き取れない、血の様にドス黒い声が小和田君の口から流れ出ていると考えると、背筋が寒くなった……。

 

「……………ッッッ!!!」

 

 やがて小和田君は、視線を一点に集中させた。その先には、年下だろう。顔立ちの整った、女の子の様な顔をした男の子がいた。その子はこちらを一瞥し、微笑を浮かべると、背をこちらに向け、公園の出口へと走って行った。

 

「…………マァァァァァァテェェェェエエエエエエエエエッッッ!!!!」

 

 どこからそんな力が出るのか……。小和田君は、今よりもっと速度を上げ、私たちと差をつけて行く。

 やがて、公園の出口についたが、あの男の子の姿を捉えることは出来なかった。

 立ち尽くした小和田君は、拳を強く握りしめ、歯を軋ませ、全身から負のオーラを散漫させている。

 

「絶対に見つけてやる…………!!…やられたらやり返す………………倍返しだッ!!」

「小和田君………………きゃ………っ」

 

 小和田君の両拳から血が滴っている。佐藤君が小和田君の肩を揺さぶり、私は状況が並々成らぬことだと今更ながらに察する。

 

「落ち着いて六矢君。一体何が有ったんだ?」

 

 佐藤君の甘い言葉を耳にした小和田君は、一気に脱力したかと思うと、泣き崩れた。

 

「…………オレの………力を……アイツに盗られた!!」

 

 小和田君は、一通り泣き終わると、そのあとはいつもの通りに振る舞っていた。あの数秒の内に彼の身に何が有ったか、日を改めて知らされたとき、私たちは絶句することしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 




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嘆きと思惑

ぎにゃーーーーーーーーーーっ!!書き終わった————————————————————!!!


 <NT-D>発動により、拡大されたダスク・テイカーの装甲の隙間から血の様にドス黒いライトエフェクトが覗く。

 鉤爪状の両の手は、解放した<アームド・アームズVN>の様に鋭く変形し、大きな単眼形状のバイザーの奥からは、鋭い眼光がこちらを金縛りにしている。

 ………どういうことだ……何が起きた……?……何故アイツは、オレのアビリティを使っている………!?

 いくら心の中で叫ぼうが答えてくれる者は誰もいない。

 目の前に立つ宵闇色のアバターが、不適な笑みを喉から漏らす。

 

「…フフフ………あはははははははははっ!これはイイ!!そのマスクの奥の、あなたの拍子抜けした表情を想像するだけで、笑いが止まりませんよ!!」

 

 ノルンの体力は既に一割を切っている。四肢は引きちぎられ、腹には風穴。アバターの特徴である金の角も、根元からへし折られている。

 テイカーが変身を遂げた後は、実にあっけない物だった。もはや、対戦とすら呼べない。純粋な殺戮だった……。

 不規則に明滅する視界の中で、テイカーの生物的な触手が音もなく動いた…。もはや身動き一つ出来ないオレの身体を包み、引き寄せる。

 

「…フフフ……可哀想なので、種明かしをしてあげましょう。僕の必殺技、<魔王微発令(デモニック・コマンディア)>は、当てた相手の必殺技、強化外装、アビリティをランダムに一つ選び、永続的に我が物とする必殺技です。…意味が分かりますか?あなたの<NT-D>システムはこの対戦が終わっても、永遠にあなたの元へ返ることはありません!」

「……そん……な………!………返せ!オレの……『力』を……!!」

「わざわざ奪っておいて、返せと言われて返す訳がないでしょう!この力は、僕の為に……存分に使わせてもらいますよ。…………フフフフフ……!」

 

 発動時間が切れたテイカーの装甲が輝きを無くす。

 もう十分な程傷ついたノルンの装甲が触手に締め上げられ、みしみしと嫌な音と鈍い痛みが全身に駆け巡り、掠れ声を出すことすら許さない。

 

「さてと………あなたを痛めつけるのも飽きて来ちゃったので、そろそろ終わらせてあげますよ」

 

 滑る様に伸びた触手がノルンの首筋に巻き付き、頭と胴体を断たんと、容赦なく力を入れてくる。……そろそろ……限界だ………!

 

「最後に伝えておきますけど、妙なことは考えないでくださいよ。もし、この僕にPK集団を送りつけでもしたら………………………………あなたのバースト・ポイント、どうなるか解りませんよ」

 

 そこでオレの視界は途切れた。

 

 

 一切の妥協を許さず覚醒する。

 起き上がったせいで愛用の黒色の毛布が胴を滑り、膝まで落ちる。冷や汗と鳥肌が体中に浮かび上がり、愛用の黒いパジャマに皮膚が張り付いて気色悪い感触が全身を覆う。

 窓の外からは今年も見事に元気な太陽がオレを照りつけ、アブラゼミの合掌が今日も律儀に真夏の訪れを知らせてくれる。

 

「畜生…………!またこの夢か!」

 

 これで何回目だ!?夏休みの一週間前にヤツに遭遇してから今日ここに至るまで、何度同じ夢を見た!?

 理由は解り切っている。オレが<NT-D>に、ダスク・テイカーに執着しているからだ。ハタケヤマやカラトからは半分は諦めた方が良いと忠告されている。しかし、奪われたオレの『力』とそれを奪ったあのスネ夫野郎のことを思い出すと、腹の底からふつふつと怒りが込み上げて来てどうにも押さえられそうにない………。あれから、何度も東京中を嗅ぎ回り、他のバースト・リンカーから情報を探ったが、信じられないことに成果はゼロ。あれだけレベルが高いのに名前は愚か、存在すら知らない奴らしかいなかった。

 お世辞にも穏やかじゃない気分でリビングに行き、冷蔵庫から瓶牛乳を取り出し一気に飲み干す。

 

「……はぁ…………」

 

 好物の牛乳のおかげかはたまた最新型冷蔵庫の冷蔵性能のおかげか、寝起き早々上がりっぱなしだったテンションが下がって行く。

 視界左上のカレンダーには丸文字で8月6日と書かれており、隣で小さい時計の針が午前10時丁度を際している。

 

「さてさて………メシはっと……」

 

 そう言えば腹が減ったな……。適当に何か作って食べるか。

 一旦廊下に出て、キッチンへと向かう。お袋はだいたいこの時間帯はいつも仕事で外出していて帰りも遅く、会えるのはオレが夜更かししている時くらいだ。

 確か、一昨日特売してた卵がまだ残っていたハズだ。アレで適当にベーコンエッグでも作ってトーストを焼けば良いだろう。卵とベーコンを取り出すべく、調理用の冷蔵庫を開く。

 

「あれ?………っかしいな……」

 

 卵とベーコンがない。昨日の朝飯と夕飯にはどちらも使っていなかったから、よもや全く無いなんてことはないハズだ。

 もしかして、お袋が朝飯か弁当に使ったのか?まあ、それなら仕方ないか…。それなら他にトマトソースとチーズとハムがあるから、ピザトーストでも作るか。

 はて?廊下から激しい水流の音がする。これはトイレの音か?かなり少ない確率だが、まだお袋がいるのだろうか?

 疑問に思っていると、入り口から小柄な人影が現れた。良く見知った幼なじみだ。

 

「りっくんおっはよーーーっ!!」

「おう、おはようアイ」

 

 出会い頭の爆走ヘッドバットを右に一歩動いて避ける。ちなみに、これのおかげで一回腰骨にひびが入ったことがある。陸上部で鍛え上げられた筋力にこの凶暴性が加わったらもはや怖いものなしだ。これくらい避けられなければ身が持たん。

 アイが一瞬、普段はしない様な悲しい顔をした様に見えた。いや、気のせいかもしれない。その証拠に振り上げた顔はいつものニコニコ笑顔だった。

 

「あ、ご飯作っといたからね。テーブルの上においてあるから、早く食べないと冷めちゃうよ」

「そうか。手間をかけさせて済まないな」

 

 アイと揃ってキッチンに置いてあるダイニングテーブルに座る。そこにはこんがりと焼かれたトーストと黄身が膨らんだベーコンエッグが置かれていた。ふむふむ。実に上手そうだ。オレの作るヤツより三割増輝いて見える。

 …………そんなことはどうでも良い。オレには他に気にすることがあるだろう?

 

「いただきますをする前に、ちょっと聴きたいことがある…………」

「ん?なぁに、りっくん?」

「———お前、また無断で俺ん家に侵入したな」

「え?今更ぁ?」

「何が『今更ぁ?』だ!!これで何回目だ!いい加減にしろよ!」

「イイじゃん。私だってりっくんの家のキー持ってるんだし。問題ないじゃん」

「それが問題なんだよ!なんでお袋はこんなヤツに無期限でホームキーを渡したんだ!?」

「さあ?わっからないなー。昔から仲が良かったからじゃないのぉー?おばさまは『遠慮せずにヨバイしにきて良いのよ』とか言ってたけど……。ねえりっくん、ヨバイってなぁに?」

「お袋はなんてことを吹き込んでるんだ!?」

 

 実の息子なのに、母親の思考が全く読めないとは何事だ?もしかして、オレはじつは別の人の子とか………?

 

 

「別にイイじゃん。今に始まったことじゃないし」

「それを貴様が言う権利はないからな!?」

 

 やれやれ……。コイツといるとやけに疲れる。

 

「オレ、午後から出掛けるから、それまでには帰ろよ」

「出掛けるって、どこに?」

「なんでお前に言わなきゃいけないんだ?」

 

 オレの発言が気に食わなかったのか、アイは眉に皺を寄せ、口を尖らせた。

 

「最近のりっくんは冷たいよ…………」

「いきなりどうした。お前が幼稚過ぎて呆れているだけだろ」

 

 突然、机が甲高い音を鳴らせて跳ね上がり、驚きに肩がビクッと震え上がる。

 何事かと横を見ると、そこにはテーブルに両手を打ち付け、泣きはらした顔のアイがいた。

 

「お、おい。どうしたんだアイ———」

「それでも、私がりっくんの行く所を知ってたって良いでしょ!?夏休みに入ってからりっくんてば、全然私のコト構ってくれないじゃん!!」

 

 狼狽するオレをよそに、ぽろぽろと涙を流しながらアイは叫び散らす。

 

「そ、そんなことないだろ………。一昨日だって———」

「昨日は構ってくれなかった!家にもいないし、メールの返事すらしてくれないし!なんでってきいても、どうせ答えてくれないんでしょ!?」

「それは………いろいろ立て込んでいて……」

 

 ダスク・テイカーの情報を探っていて、メールに反応しなかったのも、めんどくさくていちいち答えていられなかったとは今のアイをまっすぐ見て言える自信がない。

 

「いろいろって何よ!?私、夏休みになってからまだりっくんと七日と十八時間と二十六秒しか会ってないんだから!!もっと会ってよ!」

「それだけ会えば十分だろ……」

「そんなことないっ!!」

 

 オレの発言が紙切れの様にぴしゃりと叩き付けられる。

 言っていることはでたらめだが、アイツの感覚としては、毎日オレと会うと言うのは当然なんだろう。オレもアイも、親の帰りがいつも遅くて、それこそ物心つく前からいつだって一緒にいた。オレはともかく、コイツからすれば、一日俺と会わないだけで不安———いや、心配になって仕方がないんだろう。今や本当の家族より家族に近いオレがいなくなったら、と思うと心いっぱいに詰まった蟠りが延々とこねくり返るんだろう。

 こんなんだったらさっきの頭突き、食らっておけば良かったな…………。アイには本当に悪いことをしてしまった。こんど、杉並の美味い甘味屋に連れて行ってやろう。

 

「………悪かったよ」

「じゃあ、こんど二人きりでどっか連れてってよ」

「仕方ないな………」

 

 実は、今みたいなアイのヒステリックは今に始まったことじゃない。産まれた頃からちょっとした精神障害を患っていて、言動が幼稚じみているのも、今の様な感情の激化もそのせいだ。医師の治療やニューロリンカーの補強もあって、これでもまだましになった方だ。尚、見かけが幼稚なのは別に障害のせいではない。

 

「で、結局どこに行くの?」

「ん?ああ、ちょっとアキバにエロ本買いに行ってくる」

「え…………ええぇぇぇ!?」

「なんだ、いきなり驚いて…」

「だっ……だって、りっくんまだ未成年じゃんっ」

「知らないのか?アキバじゃあ年齢制限無しでエロ本買える店があるんだぜ?」

 

 アイが絶句するのを眺めながら、トーストにかじりつく。ぶっちゃけ嘘だが、情報収集に行くにはこの程度の嘘でもつかなければいかんだろう。

 

「ほい、ごちそーさん。食器洗うからお前も早く食っちまえよー」

「………あっ、う、うん………」

 

 また、アイに嘘をついてしまった訳だが、止む終えないと切り捨てる。

 いい加減あの夢にもうんざりだ。今日こそ見つけてやると、決意を改める。

 

 

「さてさて…」

 

 デュエルをする一歩手前の加速空間、ブルーワールドで対戦表をじっと吟味する。

 ヤツの情報収集だけなら対戦のギャラリーでも良いのだが、何もそれだけが全てじゃない。たとえアイツの情報を手に入れて、加速世界の隅に追いつめたとしても、アイツに対戦で勝てないようじゃ話にならない。

 ———てことで、対戦相手を決めようとしている訳だが………、ここはレベルが一つ上の<デメジエール・ソンネン>レベル5で良いだろうか。彼は機動戦士の一人で、<半身戦車(ヒルドルブ)>の異名を持っている。見知った顔なので、苦戦することはないだろう。ちなみに、夏休みに入ってからヒメジマに怒られる程対戦を続けていたので、オレのレベルは今一つ上がってレベル4になっている。

 

「よし、行くか」

 

 決意を決め、DUELボタンを押す。身体が瞬く間に艶のある黒い装甲に包まれ、足が地面につく感触が伝わる。

 

「———煉獄ステージか」

 

 血の様な赤を基調とした背景。足下には見たこともない節足動物が地べたを這いずり回っている。

 特徴としては、建造物の大体が硬質素材で出来ていること。壁などは重量級アバターでなければ基本、破壊は不可能。時折、建造物の窓などの代わりに柔らかい目玉みたいな者が生えている。足下の虫は潰せる。比較的軽量系のバンシィ・ノルンにとっては、あまり有利なステージとは言えない。

 

「………………………」

 

 じっと耳を澄ませる………。視界下部の方位磁石、ガイド・カーソルは相手の大まかな位置しか示さない。距離、高さなどは己の五感が頼りになる。幸い、ソンネンは渾名の通り、下半身が全くの戦車。キャタピラ走行で、走る速度は凄まじいが、代わりに大きな走行音が出る。この音を頼りにすれば、ソンネンの正確な位置がかなりの密度で割り出せる。

 やがて、東の方向からカラカラとキャタピラが地面を叩く音が小さく響いて来た。

 ———十字路から、奇怪な形状をした緑の長方形が現れた。初見のバースト・リンカーなら、ステージ特有の<小動物(クリッター)>と間違えても仕方がないほどの度肝を抜かれる見た目だが、アレが本命だ。

 アバターの両脇で高速回転する二つのキャタピラと、その上段からまっすぐに伸びる筒———砲身は、まさしく戦車。

 身体の半分以上の長さの砲身がオレを捉えるのと、そこから薬莢が爆発する音が響いたのはほぼ同時だった。

 

「……………!」

 

 来るHE弾を身体を横に転がして避ける。空を切った弾丸は遥か後ろの壁に軽々と風穴をあけた。

 ソンネンの砲撃は、その長い砲身から標準と軌道が読みやすいため、避けることは容易いが、一発でも食らえば大惨事を招くことになる。

 

「よう、久しぶりだな<雌獅子>。あんたのたてがみはいつなったら生えなおるんだ?」

「相変わらず減らず口が御得意だな<半身戦車>。お前こそ、いつになったらその不便な下半身は足になるんだ?それじゃあ、気になる女一人抱けやしねえだろう」

 

 ギャラリー達がどっと吹く。

 オレの目の前で戦車は止まると、小さく『形態変更(シェイプチェンジ)』と呟いた。長方形の上半部の装甲が開き、周りを覆っていた装甲は盾となる側面装甲に変形し、中からは五指を持つマニピュレーターが二本現れ、シンボルの砲身の付け根の下には楕円型。その中央で光るモノアイがこちらをまっすぐ見つめている。

 

「ハハッ、残念だぜ。お前にはこのキャタピラの良さが解らねえのかな〜」

「解る分けねえだろ。流石に自分の下半身がそうなるのは御免だぜ」

「………いろいろ頑張っているみたいだが、あまり無理はするなよ。お前がアビリティをなくしたのを、今や知らないヤツはいない。お前はどうだか知らないが、俺にとって、お前は大切な対戦相手だ。せめて………この世界からはいなくなるなよ」

「……ハッ!お前に言われなくても、そんなことは百も承知だ。くだらないことほざいてないてねえで始めるぞ」

「そうだな。いい加減にしないとギャラリーからヤジが飛んでくる」

 

 戦車のキャタピラが、ギュルッと地面を削る。全速前進するソンネンにビーム・マグナムを構える。銃口から重たい音と共に、一線の光が跳ぶ。

 人型となった彼の上半身が動いた。身体を横にひねり、装甲板に光の渦が吸い込まれる。金属板が弾ける嫌な音が頭の中に鳴り響く。

 深緑の防弾板にはかすり傷一つついてない………。やっぱり堅いな…。さっきは、散々バカにしたが、見てくれはともかく、あいつのフォルムには無駄がない。硬質な装甲板で確実に攻撃を防ぎ、高速回転するキャタピラで踏みつぶす。………全く、嫌なやり方だ。痛覚が現実に比べて軽減されてるとは言え、痛いモノは痛い。なるべく食らいたくないし、一回プレスされたら、抜け出せる自信も無い。

 急接近するソンネンを横っ飛びで躱し、右腕を伸ばす。

 防弾装甲にしがみつき、堅く張り付く。ビーム・マグナムをソンネンの背中につきつけ、ゼロ距離射撃する。最近この方法がパターン化していて、攻撃のバリエーションを増やそうとしているが、今は使い時だろう。

 ソンネンの身体がビクンッ、と跳ね、体力ゲージが2割程削れる。なかなかの高火力。もう一発くらいぶち込んでおくか。

 

「時限換装しないで張り付いたとこまでは褒めてやる。だが、…………まだまだ甘ぇーぜ」

「…………!?」

 

 ソンネンの身体がいきなり止まる。

 バカな!?あのスピードでこんな急に止まることは出来ないはずだ!?

 反動で身体がソンネンの前方へはじき出されたところで気づく。こいつ、やりやがったな!!

 ソンネンが衝突した壁に身体が打ち付けられ、体力ゲージが1割程削れる。

 左胸に主砲を押し付けられ、身動きが取れなくなる。

 

「<APFSDS・カノン>」

「———ッ!!」

 

 ほとんど状況反射だ。ソンネンが言葉を終える前に<アームド・アーマーVN>で目一杯力を込め、主砲を叩き付ける。

 標準が腹に移動するのと装弾筒型翼安定徹甲弾が発射されるのはほぼ同時だった。身体に鋭い痛みが走り、下半身の感覚が白く明滅する思考の中から吹き飛ぶ。

 限界の頭を回転させ、ソンネンの主砲を掴む。身体を引き寄せ、楕円形頭部のモノアイに<アームド・アーマーBS>を突きつける。

 

「…………一発あれば十分だ。<アームド・アーマーBS>」

 

 刹那、<半身戦車>の頭部が飛び散った。

 

 

 

 

 




先ほどは取り乱してすみませんでした。ちょっとしたスランプで書遅れてしまいました。

唐突ですが、息抜きにいったん、アクセル・ワールド〜過疎エリアの機動戦士〜を休んで、何か他の小説を書こうと思っています。

心配入りません。絶対豚野郎は必ず帰ってきます!出荷などされません安心してください!!


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第二章 Revival of a black lotus
ハルユキ


長らくお待たせしました……と言っても、またもう一つの小説の筆跡を始めるのでまたしばらくお待ちください。


 物語の前に……まあ、人の物語ってのは様々で、この地球に住んでる人間には必ず一つは物語があるわけで。誰しもがその物語の主人公を演じていて、かくいうオレも、オレの人生という名の物語の主人公なわけだ。

 勿論、オレの知らない人間にも物語があるわけで、今回はそんな話。

 

 

〜これまでの話〜

 有田 晴之(ありた はるゆき)十三歳は杉並区の私立中学校、梅郷中学校の現状スクールカースト最底辺の少年。見かけは『小柄なデブ』。ここのところ毎日の様に続くヤンキーの荒谷(あらや)のカツアゲに、彼は今日もあっていた。最後には明日のカツアゲの約束を押し付けられ、学校の屋上の床に殴り捨てられる。そして、それの憂さ晴らしに立ち寄った学校のローカルネット内に存在するスカッシュゲームゲームコーナー。ここに来ることも最近の日課となっていた。ひたすら壁にラケットでボールを打ち付けると言うゲームを気が狂った様に続けている間は、現実を忘れられた。その中に、聞き慣れた声の女子がいた。幼なじみの倉嶋 千百合(くらしま ちゆり)。彼女に現実に呼び戻され、カツアゲの現場を目撃されていたことを打ち明けられた彼は、差し出された彼女の母お手製のサンドイッチを手ではねのけ、ないがしろにしてしまう。とっさに逃げ出したハルユキは、再びスカッシュゲームへと逃げ込んだ。そこで出会ったのが、黒雪姫だ。容姿端麗、学力も優秀、そして生徒会の副会長をもこなす存在。彼女の仮想アバターは現実の彼女と全くそっくりで、黒を基調としたドレスの背中には、大きな黒アゲハの羽が一対あった。

 

『もっと先へ、加速したくはないか?少年』

 

 彼女はそれだけ言い残すと、ローカルネットから姿をけした。後に残ったのは人気の無いスカッシュゲームコーナーの静けさと、唖然と情けない表情を浮かべるハルユキだけだった。

 翌日、彼は彼女と学食のラウンジで面会し、彼女は彼にプロポーズと称し一つのアプリケーションを与えた。

 <ブレイン・バーストプログラム 2039>。思考を一千倍にまで加速させ、体感三十分の対戦を一,八秒で行うゲームプログラム。そのシステムとは、日本全国に設置された防犯セキュリティ用のメカ、ソーシャルカメラの写す映像をハッキング、習得した地形データを元に生成されたステージで与えられた戦闘用アバター、<デュエルアバター>となって戦闘をする『現実を舞台とした対戦格闘ゲーム』。

 ハルユキがそれを与えられた理由とは、ゲーム内で彼女を襲う謎のバースト・リンカー、<シアン・パイル>の撃退だった。

 翌日の朝、彼は早速対戦を挑まれた。ポリゴンで生成された自分のデュエルアバターの姿は、細身の身体に銀色の装甲、緑のバイザーメット。名は<シルバー・クロウ>。彼が自分の姿を見て真っ先に思ったことは、『ザコっぽい』の一言だった。

 対戦を挑んで来たのは、ガソリンエンジンを吹き鳴らす改造バイクにまたがったライダー、<アッシュ・ローラー>。初陣で状況を飲み込めないハルユキの心情を物ともせずに、アッシュ・ローラーはハルユキをバイクで翻弄する。結果は惨敗だった。

 その日の昼休み。学食のラウンジで、ハルユキは黒雪姫と再度面会を行っていた。そこでブレイン・バーストの基礎を習ったハルユキは、ガソリン式のバイクの弱点である後輪を持ち上げると言う荒技を駆使して、アッシュ・ローラーに見事リベンジを果たしたのだった。

 

 

 

 

 

 いつかの夏に見た煉獄ステージ。たくさんのギャラリーが離れた所で背を連ねている。

 そいつらが注目していたのは、オレではなく、ましてやこの場にいる他の誰でもない。

 視線は空へ。雲間から刺さる日光を反射し、輝くのは、一人のバースト・リンカーだった。

 

 

「ナイスファイトだったよ」

 

 トン、と背中を押される。俯きかけていた視線を一旦上へと向け、普通は昼の日差しが目に入るが、それを遮った人間がいた。それは、艶やかな黒いロングヘアとピアノブラックのニューロリンカーを装着した、この梅郷中学校でも、選りすぐりの美少女、黒雪姫だ。年は一つ上。

 ———そして、ブレイン・バーストの世界の中で最大の裏切り者であり賞金首である<ブラック・ロータス>の正体が彼女。二年前、彼女はブレイン・バースト内でのレベルが9に達した<純色の七王>の会議にて、『レベル9バーストリンカーを五人倒す』というレベル10に達するための必須条件を目の当たりにして、和平を歌う彼女以外の6人に異を唱え、剣を手に赤の王の首を落とした。その後泥沼の戦闘に落ち入り、タイムアップでその戦闘は終わった。それ以来彼女はニューロリンカーをグローバルネットに接続していない。

 そんな最近、彼女の身に問題が起きた———

 

「あ、ありがとうございます…………黒雪姫先輩…」

「うむ、頭突きはともかく、なかなかどうして、パンチもキックも様になっていたぞ」

「あ、ありがとうございます…」

 

 これ以上は耐えきれず、また視線が下へと落ちる。

 昨日、僕はゲームアプリケーション、ブレイン・バーストをこの人によって手に入れた。僕は初陣でアッシュ・ローラーなるバースト・リンカーに遭遇し、彼の操るバイクのタイヤに無惨に踏みつぶされてしまった。

 そして今日、このアプリケーションを授けてくれた本人の黒雪姫先輩の教授のもと、見事アッシュ・ローラーにリベンジを果たしたのである。

 

「さて、君のリベンジも見遂げたことだ。近くの喫茶店で問題の話に入ろう。おごるよ」

 

 問題とは、ここのところ学内ローカルネットを介してブレイン・バースト内で黒雪姫先輩を襲っている謎のバーストリンカー、<シアン・パイル>についてだ。

 先輩が僕を見いだした理由にも直結しているバーストリンカーであり、三週間前から毎日の様に彼女を襲撃している無法人でもある。そして、一番の特徴であり、最大の難所でもある問題、それはブレイン・バーストのマッチングリストに彼(または彼女)の名前が現れないことだ。彼女が対戦を挑まれた直後にマッチングリストを確認しようが、そこにシアン・パイルはいなかったと言う。

 一度、ちらりと周りを見ると、いつのまにか先輩と僕を囲むように人だかりが出来ていて、わりと近くの方に千百合もいる。いろいろと気まずい事が先日あったので、半ば本能的に彼女と目を合わせない様に顔を伏せる。僕の人生十三年の経験上、目立つ、それも好奇の視線を一点に受ける様なことは最も避けるべき事態であり、そんなことをしていたら、また変な奴らに目を付けられ、どんな目に遭うか知れたもんじゃない。ここは先輩の言うことに素直に従おう。うん、そうしよう。それが一番だ。

 そんななか、現状において一番聞きたくなかった声が黒雪姫先輩の背中、それも間近で響く。

 

「ハルをどうする気なんですか」

 

 一瞬で僕のSAN値パラメーターが大爆発した。

 な、ななななんでチユが!いやいやいやいやまって、ここは聞かなかったことにして、早くここから抜け出すことが先決———

 

「ン…たしか、君は……倉嶋 千百合くんだったかな?」

 

 もういっそのこと、二人とも放置してマンションの自室へ『猪突猛進ハルユキダッシュ』で逃げ込んでしまおうか。いやまて、ここでその技を使ったら、二人を怒らせる上に急ブレーキが効かなくて車にはねられて、二人の機嫌を損ねたままうっかり昇天してしまうかもしれない。じゃあ、どうすれば……………………………………………………ああ……ダメだ…何も思い浮かばない……。

 

「ハルを離してあげてください。昨日、ハルが怪我をしたのも先輩のせいなんでしょう?」

 

 怪我と言うのは、昨日黒雪姫先輩の『戦略』によってヤンキーの荒谷に僕がぶっ飛ばされた時の怪我だ。……まあ、それだけ聞くと僕がただ虐められてるだけなので、説明するけど、日頃僕が荒谷にカツアゲにあってるのを知っていた先輩が気を利かせてくれたのだ。『晴之くんから聞いているよ。———動物園と間違えられて送られて来たんじゃないかって』…………全く、あの時は驚いたよ。激憤した荒谷は勿論僕のことを殴ってくるし、吹っ飛ばされた先にいた先輩は窓枠にぶつけて頭から血を流すし………それも演出のうちだと先輩は言っているけど、まあ、おかげで殴られた場所がソーシャルカメラの視界外だった屋上の隅から学食のラウンジに変わって、荒谷の暴行はついに日の目を浴びたわけだ。そのあと荒谷はパトカーに押し込まれて、警察署に連れて行かれた。本当に先輩には感謝が耐えない。このことに限る話じゃないけど。

 

「……私が晴之くんの意にそぐわないことをしていると?」

「違いますか?ハルはこういうのが嫌なんです。じろじろ見られたり、無駄に目立ったりするのが」

「ふむ、確かにそうかもしれないが、君にそれを決める権利はないのでは?」

「あります!この学校でハルと一番中が深い友達は私なので!」

 

 千百合の最大放火をもろともせずに、先輩は口に妖艶な微笑をつくった。

 

「ならば、私の方が優先順位が上だな。私は今、彼に告白しており、ただいま返事待ちだ」

 

 ギャァ———————————————!!もうダメだ!明日から学校に通えない!もう転校するしかない———!




もう、なんで二つの小説を受け持とうとしたんだろう……後悔しかわきません。
あ、でも決して失踪などはしないので安心してくださいまた戻ってきます。


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