まどマギ【助けたい】少女 (yourphone)
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一周目
彼女は普通の女の子…だった


続くかどうか全く分からない小説です。
投稿者の小説レベルを上げたい為に書くものです。
一応まどマギの大体のあらすじ的な物は知ってます。

まずはプロローグ兼主人公紹介から、どうぞ。




「ハッピバースデイディア朱音~♪ハッピバースデイトゥーユー♪おめでとう!」

 

ふぅ~っと蝋燭の火を吹き消す。

今日3月29日、わたしこと本庄(ほんじょう)朱音(あかね)は12歳に成りました!

 

うん?目の前が一瞬揺れて・・・なんだこれ。

 

~○~○~○~○~○~

 

何とか夕食を食べ終えて、部屋に戻る。

 

「はあ、楽しかった。プレゼントは何だろーなー?」

 

駄目だ、棒読み過ぎる。感情が籠らない。

 

「・・・()()が女の子ねぇ」

 

さっき目の前が揺れた時、大量の記憶が流れ込んで・・・いや、()()()()()のが近いか。

それによるとどうやら前世では男・・・それも自称マニア、他人からみた…その…オタクだったらしい。

神様に12歳に成ったら記憶を戻すという約束でこの世界に転生したとか。そして、この世界はまどマギの世界らしい。

それはいいんだけど・・・。

 

「う、ん。うん」

 

どっちが自分だ?

 

おれとして過ごした時間はわたしより長い。それこそ、3倍以上ある。

 

だが、それは所詮記憶でしかない。

 

今、この体はわたしの物だ。両親も、わたしの両親だ。

 

「・・・この記憶をどうしろと」

 

5歳程度ならまだ受け入れ易かったかも知れない。まだしっかりした自分というものを作って無いから。

だが12歳である。もうすぐ中学生だ。

そう、いかんせん生きすぎた。おれを受け入れる余裕が無い。

 

「・・・わたしは、わたし。おれには戻らない。・・・そう、ただの記憶として、知識として使わせて貰おうかな…」

 

うん。それがいい。おれには悪いけど、わたしが本庄朱音だ。

 

「さて、となると記憶の整理をしなくちゃ。まずは、まどマギの世界ってどんなものか、からかな」

 

~○~○~○~○~○~

 

・・・えぇ~。

・・・・・・えぇ~~っ。

 

「なにこの鬱展開な終わりは。あ、いや、おれは黙ってて。これはこれで良い終わりだとか知らないから」

 

わたしはもっとこう、明るいのが好きなのだ。

てか、おれの記憶が確かならその魔女とかいうのがそこら辺に居るって事?

なにそれ怖い。

 

そして、見滝原って隣の街じゃん。

杏子とか居るのかな、ここら辺に、

 

・・・ん?あれでも待てよ?

わたしが鹿目まどかや暁美ほむらとかと同い年とは限らない・・・よね?

場合によってはわたしが大人になってから鹿目まどかが生まれるとか、誰かの親になるとか、後は逆に、もう既に暁美ほむらのお話は終わってたり・・・。

 

「・・・調べるしか無いよね」

 

明日は3月30日。まだ中学校は始まらない。




さて、後1、2話程の展開は見えてるけど、どうしたものか・・・。

主人公のプロフィールをば。

名前 本庄朱音
年  12歳(なったばかり)
性別 女
性格 明るい、優しい

前世の記憶を持つ。


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彼女は原作キャラに会いに行った。

チラシの裏投稿でも読んでくれる人が居るなんて…感激!

ああ、この作品の性格上、オリジナルの魔女やモブの魔法少女が出てきます。

それでも良ければ、どうぞ。

6/26修正。誰だよ巴まどかって。マミさんとごっちゃになってるやん。


ふぅ、疲れた。見た目よりよっぽど長い坂だった。

 

ここは、見滝原市。

 

本当は電車で来たかったけどお金が足りないし、親はお金をくれないし、しょうがないから自転車こいできた。

 

はー、なんでお金くれないんですかねぇ。こちとら中学生だぞ?っとこれはおれの考え方だ。

 

「わたしはわたし。おれじゃない。」

 

呪文のように唱える。

 

さて、えーとまずは…どうするか。

 

もしほむほむたちと同い年ならば見滝原中学校に行っても…ああ、マミさんが居るか。

んで、マミさんと同い年だとどうしようもない。

 

んー。とりあえずまどかの家を探しますか。

 

~○~○~○~○~○~

 

表札確認、鹿目。

家の見た目確認。清潔感溢れる白い家。風通しも良さそう。

 

ここだ!あくまでおれの記憶があってればだけど。

見つけ出すまでにけっこう時間がかかっちゃったな。

 

「あれ?あなたは?」

 

家をボーッと見てたら横から声をかけられた。

見ると、ピンク色の髪の毛を二つに結ってる女の子が居る。

 

「あ、えっと、あそこの家が気になって」

 

我ながら変なこと言ってるなぁって。

 

「あ、そうなの?あそこ、私の家なんだぁ。ティヒヒ。なんだか照れちゃう」

 

ああ、やっぱり鹿目まどかちゃんでしたか。かわいい。

…かわいいと思うのは男女関係無いよね。

 

「へぇ。そうなんだ。良いなぁ」

 

とにかく今は、好感度を上げないと。

 

「あ、そうだ。私、鹿目まどかっていうの。あなたの名前は?」

 

「本庄朱音。隣町に住んでるの」

 

「え、○○市に?」

 

「そう。昨日誕生日プレゼントで腕時計貰ったからつい嬉しくてここまで来ちゃったの」

 

いや、何が『ここまで来ちゃった』だよ。わたしはまどかの彼女か何かか!

 

「へぇー。腕時計かぁ。カッコいいね!」

 

「うん!」

 

腕時計を見つめる。…あ、そろそろ帰らないと暗くなっちゃう。

 

「あ、そろそろ帰らないと。あー、えーと」

 

よく考えたらこっちはまどかの事を知っててもあっちはわたしの事を知らないんだよね。

…馴れ馴れしかったかな。

 

「ティヒヒッじゃあね、朱音ちゃん。気を付けてね?」

 

「うん。…ねぇ」

 

「何?」

 

「なんか、また会えそうだね」

 

ななな何を言ってるの、おれ!いや、わたし!

 

「ティヒヒ。私もそう思うよ?」

 

「え?」

 

「だって私達、もう友達だもん」

 

「…そっか」

 

友達か。おれだったら泣いてた。わたしだから泣かないけど。

 

「じゃあ、また会おうね、まどかちゃん!」

 

「うん!」

 

自転車をこぎ始める。

いやー、まどかちゃん良い子だわ。

 

~○~○~○~○~○~

 

ああ、夕日が綺麗だなぁ。

 

……道に迷った。

滅多に見滝原市に来ないしね。しょうがないね。

んな訳あるか!

 

「ここどこぉ?」

 

大雑把な方向はあってる筈。

だから、進み続けるしかない。

 

そしてさらに進むこと十数分。

 

目の前にT字路。

あれ、どっちに行けば良いんだろう。右か、左か。

ここは…勘で右だ!

そして曲がると、

 

世界が変わった。

 

…え?なにここ!?

いや、まさか…ここは…

 

「魔女結界!?」

 

慌てて後ろを見る。

駄目だ。もう既に道が無い。

 

「嘘でしょ…」

 

だってまだキュウベエと会って無いんだよ?

こちとら、ただの女の子だよ?

生きて帰れる訳無いじゃん。

 

「あ、でも魔法少女に会えるかも。マミさんとか、杏子とか」

 

うん、少し元気が出てきた。

じゃあ、周りの確認。

 

この魔女結界は白黒で水墨画みたいだ。

空も道も真っ白。

家や木は黒の輪郭しかない。

 

そうだね…絵として見るならへー、スゴいで終わるけど、こう、世界全部がこんなのだと、その、こわい。

 

とにかく立ち止まってても仕方無いので自転車をこぎ始める。

 

~○~○~○~○~○~

 

「キャ~~~~!!!」

 

ヤバイヤバイヤバイ!

 

何あれ!おれの記憶だと使い魔ってのはヌイグルミサイズだから安心してたのに!

所詮使い魔しか出てこないとたかくくってたよ!

何あのカマキリ!でかすぎる!具体的には二階建ての家ぐらい!

なんなの!?魔女なの!?

 

「うひゃあ!」

 

真横に!カマが!

じ、自転車で良かった。でなきゃとっくに喰われてる!

 

    ガッッ!

 

「え?」

 

浮遊感。後ろを見る。自転車の後輪にカマが当たったみたい。

 

・・・えぇ!?

 

「がっくっがはっ」

 

地面に叩きつけられ、転がる。

 

「かふっ、はっ、はぁっはぁっ」

 

痛い…けど、それどころじゃない。

 

カマキリの魔女がカマを振り上げる。

 

「うっぐぅ!」

 

駄目だ。体が動かない。

このままじゃ、死ぬ。

い、いや、だ、大丈夫普通こういう時は魔法少女が颯爽と現れて助けてくれ ザクゥッ!

 

 

・・・腹を・・・かっ切られた・・・。

 

痛すぎて・・・痛くない。

 

ああ・・・目の前が・・・真っ暗・・・に・・・。

 

 

 

最後に見えたのはカマキリの頭に赤い何かが刺さったところだった。

 

~○~○~○~○~○~

 

「はぁ!?何こいつこんな図体して使い魔なの!?ちっ。近くにはもう気配が無いし…くそっ!外れかよ!…うん?おい!大丈夫か!?あー、もうっ!あたしは治癒の魔法は苦手なのに!」




最後に出てきた魔法少女は一体誰なんだー(棒)
(オリキャラでは)無いです。

てか、杏子は回復系の魔法使えたっけ?

…あ、バラしちゃった。


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彼女は目覚めた。

投稿者は辛い現実から逃げる為に脳内に妄想の世界を作りました。

その中で、投稿者は最強でした。

この小説はそんな世界から放出している物です。

それでもよければ、どうぞ。


ん……あれ?ここは…。

 

「病院?」

 

この白さは病院っぽい。

体を起こす~!?

 

「あたたたっ!いた、痛い!」

 

ふ、腹筋が!痛い!

 

「あら、起きたの?まだ動かない方が良いわよ?」

「もっすっあ、遅いっ!」

 

あまりの痛さに舌が回らない。

 

「ほら、落ち着いて」

 

落 ち 着 け る か !

 

「はっはひっはっふっふぅっふぅぅ」

 

とにかくお腹の痛みを和らげる。

第三者の目はこの際気にしない。

 

「はぁ、はぁ、んぐ、はあぁー。お、治まった」

「ぷっククク。あなた、面白いわね」

 

うるせー余計なお世話だ!

っとおれは出てこないで。

 

「えっと、わたしはなんで病院に?」

「強盗だか何だかに襲われてたらしいけど?覚えてないの?」

「うーん。はい、覚えてないです」

 

まあ記憶はあるけど、さ。

二階建てのでかいカマキリにお腹をぶった斬られましたなんて言っても…ね。

 

「そう。じゃあ先生呼んでくるから大人しくしててね」

「あ、良いですか?」

「何?」

「えっと、誰がわたしをここ(病 院)に連れてきたんですか?」

「んーと、確かあなたより少し背の低くて、赤っぽい髪の毛した女の子よ。お友達?」

「あー。知り合い…ではあります」

 

ふーんと言ってナースさんは部屋を出ていった。

良い尻だった…じゃーなーくーてー!!!

ヤバイ、考え方がおれに近付いてきてる。

 

「わたしはわたし。おれじゃない」

 

そう、わたしはわたし。本庄朱音は()()()

 

あれ?何を考えようとしてたんだっけ?

確か…そうそう、杏子の事。

 

「やあ、元気かい?」

 

元気だけどタイミング悪いです、先生。

 

~○~○~○~○~○~

 

先生は問診した後、名前、住所、電話番号を聞いてきた。

 

意識を失ってた上に携帯も財布も持ってなかったから身元が分からなかったらしい。

 

それと、2日間の間意識が戻ってなかったらしい。衝撃的だ。

 

先生が部屋を出た後お腹を確認すると数針縫ってあった。

 

何故かまだ入院してなくちゃいけないらしい。

 

ベッドから下りる事も出来ず、ぼんやりと考え事をする。

 

…お母さんとお父さんに心配かけたな。

 

…身分証明書とか無くても入院って出来たっけか?

 

両親が来た。

お母さんはわたしを見ると泣き出した。

お父さんはほっとしてた。

 

 

次の日

 

 

…暁美ほむらもここに入院してるのかな。

 

…勉強着いていけない気がする。

 

 

次の日

 

 

…わたし、おれ。わたし、おれ。

 

…おれ、わたし。おれ、わたし。

 

「キュップイ」

「…。…!? 何!?」

 

え?え!?なんでQB(キュウベエ)が!?

 

『やぁ、君の事は調べさせて貰ったよ、本庄朱音』

「プライバシーのなんたらで訴えさせてもらいます」

 

いやいやそうじゃないでしょ、おれ!

 

『え?』

「えっと確か、ここら辺にあの伝説のナースコールが…」

『キュイッ!?ス、ストップ!待ってくれ本庄朱音!』

「う、だってあからさまに怪しい生物じゃない。てか病院に人間以外の動物が入ったらいけないの!」

『む、そ、そうだけど…』

「ね?だからナースコールオン!」

 

ナースコールを押す振り。

 

『キュイッ!?』

「ふふふ、楽しい!暇で暇で辛かったの!」

『あ、あれ?こんな性格じゃ無かったはず…』

「え?わたしはあなたと会ったことは…ああ、調べたんだっけ?スリーサイズとか分かるの?この変態!」

『お、落ち着いて。落ち着くんだ、本庄朱音!』

 

おれとわたしの、主におれの暴走が止まらない!

 

~○~○~○~○~○~

 

ここ数日分の鬱憤を晴らさせて貰いました。

 

「ふぅー。…で、あなたは?」

『……ボクはインキュベーター…キュウベエと呼んでくれ……』

「あれ?お疲れ?大丈夫?」

『誰のせいだと…コホン、まあ良いや。ボクは本庄朱音、君を魔法少女にスカウトしに来たんだ』

 

来た。ここからの対応が今後を分ける。

荒ぶれ、おれの妄想力。

高まれ、わたしの演技力。

 

「ま、魔法少女…?」

『そう。魔法少女になればあのカマキリと戦う力が貰える』

「あいつ…と?」

 

うん、自分で言うのもなんだけど良い演技だと思う。

 

「ど、どうすればその、魔法少女に成れるの?」

『簡単さ。本庄朱音、君の願いを言えば良い。ボクがその願いを叶える。その代わりに魔法少女になって貰うんだ』

「願い…」

『そう。なんでも良い。ボクが叶えてあげる』

 

どうしよう…おれの記憶ではその願いで魔法の強さとか能力が決まるらしい。

 

おれが強く願う事。

わたしがおれの記憶を見て願う事。

 

わたしの…わたしとおれの、願いは。

 

「……。この世界で、強く、なりたい。皆を守れる位強く」

 

まどかを、ほむらを。マミさんを、さやかを、杏子を。

 

助けたい。

 

例え、ストーリーが変わっても。未来が変化しても。

 

『強くなりたい。それが君の願いかい?』

「うん。」

『そうか。契約は成された。君は今から、魔法少女だ』

 

キュウベエが光り始め、眩しさに目を閉じて…。

 

~○~○~○~○~○~

 

ん…あれ?夢…だったの?

ベッドから身を起こす。

横の机には花瓶と名前も知らない綺麗な花と…。

 

「…これは、ソウルジェム!?」

 

やっぱり、夢じゃ無かった!

ソウルジェムは薄い水色。ほとんど白に近い水色だ。

 

「……。綺麗…」

「けっ。キュウベエの奴、見境なしかよ」

「!?」

 

慌ててソウルジェムを隠し、声のした方を見る。

 

「あーあー、そんなに慌てんなよ。あんたを助けたのはあたしさ」

 

そこには、赤い髪をポニーテールにした小柄な女の子が居た。

 

「あなたは…?」

「あたしは佐倉杏子。魔法少女さ」

 

知ってる。

 

「わたしは本庄朱音。魔法少女になったばかりです。よろしく」

「うん。で、話があるんだが」

「何ですか?」

「あんたの『願い』。あれ、どういう意味だ?」

「え?そのまんまですけど…」

 

皆の、主にほむらの為に強くなりたい。

 

「『皆を守れる位、強くなりたい』だったよな。あれ、本気で言ってんの?」

「は、はい。本気です」

 

…嫌な予感。

 

「はん、馬鹿馬鹿しい。魔法ってのは自分の為だけに使うもんさ。強くなりたいってのは良いけど、そんなんじゃあ他人は守れない」

「あなたの様に、ですか?」

 

杏子がギロッとこっちを睨み付ける。

あ、選択肢間違えたな。

…いやなにしてんのおれ!

 

「何だと、おい。あんたが何を知ってるって言うんだ!」

「…色々知ってます。杏子さんの事も、マミさんの事も、キュウベエの秘密も」

「な…あんた、マミと知り合いなのか?」

「いえ、こっちが一方的に知ってるだけです。会ったことは無いです。…信じてないですね?」

「当然だろうが。信じられねーな」

 

じゃあ、毒を食らえば皿まで。

 

「金髪縦ロール」

「は?」

「リボンの魔法。『ロッソファンタズマ』」

「んな!?なんでそれを!?」

「言ったでしょう?()()()()()()()って」

 

ほむほむレベルで掴みをミスってる気がする。

ま、まあとにかくキュウベエの思惑ぐらいは話しておきたい。

キュウベエの思惑を知ってるのと知らないのとではかなり選択肢が変わるし。

 

「さあ、何が聞きたいですか?わたしの事?それとも自分の過去?或いはキュウベエの…!?」

 

世界が歪み始める。

 

「はぁ!?魔女結界だぁ!?こんなタイミングで!?」

 

杏子が叫ぶ。

わたしはいつの間にか立っていた。毛布もベッドも無い。

ってか水墨画風の白黒な世界って…え?

 

「あ、あのカマキリが魔女じゃ無かったの?」

「あん?あんた、なんでも知ってるんじゃ無いの?」

「何でもとは言ってないです。色々です。あと、朱音です、杏子さん。」

「ふんっ、使えないな。あぁ朱音だっけ?そこで大人しくしてな。邪魔だけはするなよ」

 

と言って、杏子は魔女結界の中を走り去る。

 

「変身もしないで行っちゃった。わたしは…変身しようかな」

 

病院服のままだと動きにくいし。しっかり握っていたソウルジェムを目の前に掲げる。

 

「うーん、どうするの?うわっ!?」

 

ソウルジェムが光を放つ。

 

「う、うん?あ、変身出来てる」

 

真っ白の服。裾の長いスカート。袖も手を隠せる位長く、ダブダブ。内側にこれまた白いフリルがあしらってある。

 

頭には大きく白いリボンが着いている丸っこい麦わら帽子。

 

だが、一番目を引くのは緑の閉じた目(?)とそれに繋がっていて体にまとわり付いている緑のケーブルの様なもの。

 

「ん…何処かで見たような…」

 

見たとすればおれだね。

んー。あ!

 

「なんだっけか、何かのゲームのキャラの服にそっくりなんだ。キャラの名前は…こいし?」

 

でも知ってるのと色が違う。確か服は黄色っぽかった筈…。

 

まあいいや。

 

「何が出来るか分からないけど、今行くよ、杏子ちゃん!」

 

~○~○~○~○~○~

 

迷子ナウ。

 

なんでや!使い魔一匹出てこないじゃんけ!

って何語だよ、おれ。あ、ノリですかそうですか。

 

はぁ。それより、杏子ちゃんが見つからない。

結界は消えてないから魔女が倒されたって事は無い筈だし。

 

「どういう事なの~!」

「動かないで。」

「はい?」

 

背中に固い何かを当てられる。

 

「えーと、どちら様ですか?」

「それはこっちの質問よ。貴女、縄張りって知ってる?」

「え…いや、今日魔法少女に成ったばかりでして」

「そう。なら、これが良い機会だから覚えなさい。魔法少女には縄張りがある。これを犯すとそこの魔法少女と戦う事になるのよ」

「は、はぁ。成る程。後ろ向いても良いですか?」

「…良いけど、もう少し緊張感持ちなさいよ」

 

振り向く。

マミさんが居る。




こうやって活字にしたものは『小説』なのに、
ノートに手書きしたものは『黒歴史』になるんですよね。
違いは何ですかね?

さて、マミさん出現。
原作キャラが徐々に出てきています。


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彼女は戦い、知る。

親からスマホの契約切るよと脅されてます。

めんどいっすね、勉強。

楽しいっすね、小説投稿。

さて、マミさんと遭遇したところから、どうぞ。

7/04 後書きを訂正しました。


「あ、そうだ。わたし、本庄朱音って言います。あなたは?」

「…巴マミよ。というか、この銃が見えないの?それともこんな銃程度じゃ殺されないとでも?」

 

そういえば確かに銃を突きつけられてた。

今は下におろしてるけど。

 

「だって…ええと」

 

危ない。危うく「マミさんがそんなことするわけ無い」って言うところだった。

 

「ああ、もしかしてこれがただのオモチャだと?」

「いえ、その…あ、いや、そうです!」

 

そういうことにしてください!

 

「…そう。そっか、魔法少女に成ったばかりだと言ってたわね」

「は、はい」

 

マミさんが銃をこっちに向ける。

 

「ええと」

 

パァン!

 

「…へ?」

 

顔の横を正確には頬の辺りを銃弾が掠める。

 

「見ての通りこの銃は本物。貴女を殺す事なんて簡単に出来るわ」

「う…は、はい」

 

血がたらーっと流れる。

 

初めて感じる『死の恐怖』。

 

……初めて?

 

いやまあわたしは初めてだけども。

 

「はあ。やっと緊張感を持って貰えた?ここは、魔女結界は戦場なのよ。今回は…!伏せて!」

 

マミさんが目を見開き、いきなりわたしを押し倒す。

 

一瞬前までわたしの頭があった空間を黒い鎌が薙ぐ。

 

ってカマキリ!

しかもチラッと見えた!マミさんの向こうにも…居る…!

 

「魔女が三体も!?」

「違います、マミさん。あれは使い魔です!しかも、多分、六体!」

「え!?…後ろ!?」

 

これは…まずい。前に三体、後ろに三体。

囲まれた。

 

「くっ。流石にあの大きさの使い魔を六体は…」

「いえ、三体です。わたしだって魔法少女です!」

 

良いとこ見せてやる!

 

「でも、貴女初心者じゃ…」

「戦場に素人も玄人も無いです!」

「~っ!分かったわ。死なないでね?」

 

マミさんと同時に駆け出す。

 

 

さて、さてさて。

 

さっき見栄を張った。これは乙女心(わ た し)にも親父心(お れ)にも分かってる。

 

駆ける脚は震え、歯はカチカチなり、既に何度か転びかけてる。

 

何より……わたしの魔法が分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?どうするの?

 

急停止。キキー。

 

三匹のカマキリがこっちを見る。

 

「あー、えっと。…ちょっとタンマ!」

 

せめて!せめて武器を!

 

袖を振る。

 

何か、何か!出て!

 

と、左の袖から何かが落ちる。

 

「あ!これ、は…携帯電話?」

 

しかもガラケー。いやまあこの世界にスマホがあるかは知らないけど。

 

三匹のカマキリがこっちを見つめる。

 

「えっとぉ、そのぉ…ごめんなさい?」

 

真ん中のカマキリが鎌を振り上げる。

 

「え、ま、ヒィ!?」

 

思わず目をつぶり、頭の上で両腕をクロスさせる。

 

駄目だ…

死んだ…

終わった…

ゲームオーバー…

ああ、走馬灯が駆け巡る…

腕に軽い衝撃が…ポフンと…

 

 

 

あれ?まだなの?こっちは準備万端なんだけど。

……もしかして、さっきのポフンが…いやいやいや。

 

 

恐る恐る、ソローッと目を開ける。

 

…あれぇ!?カマキリが一匹居なくなってる!?

後ろを振り向く。まだマミさんはカマキリと戦っている。

 

となると、わたしの魔法?結局何なんだ?カマキリ一匹は消せたみたいだけど。

 

わたしが混乱していると右側のカマキリが鎌で薙いできた。

 

鎌はわたしの横っ腹に当たり、ポフンと衝撃(?)を与え、()()()。…え?

 

鎌が消えたカマキリはあたふたした後、何処かに逃げ出した。

 

考える。さっき『鎌が消えた』と言ったが、どちらかと言うと…『削られた』のがあっている。

なら、何が鎌を削ったか。勿論おれ…わたしだ。

鎌が当たった場所を見る。一瞬、黒いモヤモヤが見えた気がしたけど、何でも無い。異常は見当たらない。

 

思考する。わたしの魔法は。おれの予想によると。

 

「吸収、或いは無効。若しくは、両方。…強い」

 

残ったカマキリが鎌をわたしに叩きつける。肩に当たる。

が、ポフンとした衝撃と共に()()()()()()()()()

カマキリを形作る黒い何かを吸った服は、しかし純白。

 

「じゃあ、最後の確認」

 

カマキリに突進する。カマキリは避けれず、わたしはカマキリに抱き着く。

 

シュシュ~

 

何とも気の抜ける音と共に、カマキリはわたしの服に吸収されていった。

 

 

…ええと、強すぎない?よく考えたら魔法かどうか分からないけど、これってつまり相手の魔法が効かないって事だよね?多分。

 

後ろを振りかえり、マミさんの方を確認。苦戦してる…あ、そうでもないか。

ちょうど一匹のカマキリが吹き飛んだところだった。

 

ってやば!走り出す。

 

マミさんはカマキリを一匹倒したせいか一息ついている。

そして、後ろにもう一匹いるカマキリが、鎌を振り上げている。

 

間に合え!

 

「たーーっ!!」

「え、朱音さん!?」

 

跳ぶ。カマキリの顔面に貼り付けた。よしっ!後はしっかりしがみつくだけ!

 

シュ~

 

カマキリが暴れる。首を振り、鎌でわたしを落とそうとする。

 

シュ~

 

が、鎌はわたしに触れると消える。

 

シュシュ~

 

そのうち、首を振る力も無くなったのか、動きがなくなり、倒れ伏す。

 

シュシュ~

 

吸収しきる。やったね!マミさんを助けたよ!

 

後ろを振り向き、笑う。

 

「良かっ」

 

パアンッ!

 

おでこを撃たれた。

 

~○~○~○~○~○~

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

最後の一匹を倒す。

 

「ふぅ。それにしても、本当に使い魔なのね」

 

と、空が陰った。

慌てて後ろを振り返る。

 

そこには、新しいカマキリが鎌を振り上げていて

「たーーっ!!」

 

「え、朱音さん!?」

 

朱音さんがカマキリの顔面に貼り付いた。

 

「朱音さん!無理よ!離れて!」

 

銃を魔法で作り、構える。が、

 

シュ~シュ~

 

何とも気の抜ける音が聞こえてきた。

 

「な、何?」

 

その音は朱音さんから聞こえてきているようで。

 

と、カマキリが鎌で朱音さんを引き剥がそうとする。

 

「!させな…え!?」

 

鎌が朱音さんに触れ、消えた。いや、吸収される。

 

ど、どういう事!?これが朱音さんの魔法だと言うの!?

 

そして、カマキリが倒れ、朱音さんに全てを吸収される。

 

朱音さんが振り返る。

その目は暗く、深く、黒く、死の恐怖が、見えて、

 

「良かっ」

 

パアンッ!

 

思わず、撃っていた。

 

朱音さんは仰け反り、倒れる。

 

 

 

 

「あ…ああ…」

 

 

 

声が漏れる。

殺ってしまった。

罪の無い魔法少女を。

命の恩人を。

私が。

この手で。

なんて事を。

 

 

 

 

 

今までの経験は急所を確実に撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

だから。

 

「イタタタタ」

 

朱音さんが起きたとき、

 

「ビックリしたぁ」

 

信じられず、その場に立ち尽くした。

 

「マミさん優しいからね、殺すことなんてしないって信じてましたよ!」

 

嘘。

有り得ない。

こんな事って。

確かに殺した筈なのに。

頭を撃ち抜いた筈なのに。

 

朱音さんのおでこは傷一つなく、その目はさっきのが見間違いだったかのように元気に満ち満ちていた。

 

「貴女、一体、何者なの?」

 

「えっと、色々知ってるだけのただの魔法少女ですよ、マミさん♪」

 

魔女結界が崩れる。

 

~○~○~○~○~○~

 

魔女結界が消えて、病院の屋上になった。

 

白い空は青く、黒い家はカラフルに。

やっぱりわたしは白黒よりカラフルのが良いな。

それにしても、魔女結界が消えたって事は…

 

「あれ、てことは杏子さんが魔女を倒したのかな?」

「え、杏子?杏子が居るの?」

「はい。正確には居たですね。近くに居ないみたいですし」

「…そう」

 

マミさんがしょんぼりする。

 

「まあまあ、何時か会えますよ。それより、何か聞きたいことありますか?色々知ってますよ?」

 

と、マミさんがわたしを鋭い目で睨み付ける。

 

「なんでまだ貴女が生きているのか教えて欲しいわね?」

「ちょっと目が怖いです。ええと、それは多分わたしの能力…魔法だと思います。わたしの魔法は恐らく、『魔力を吸収する』ものと、『魔法を無効化する』ものだと」

「待って」

 

こめかみを抑えてマミさんが止める。

 

「なんですか?」

「魔力を吸収?魔法を無効化?にわかには信じられないわ。…確かめても良い?」

「良いですよ。痛くしないで下さいね?」

「分かってるわ」

 

急に足元からリボンが現れる。

黄色いそれらはわたしにまとわりつこうとする。

が、わたしに触れると力を失ったようにへなり、下に落ちる。

 

「ありゃ?吸収すると思ったんだけど…お?」

 

言ったとたん、まだ触れていたリボンが黄色い粒子になり、服に吸収される。

 

「へー。わたしの考えに対応してくれるのか」

「貴女色々知ってるんじゃないの?」

「はい。何でもは知らないんです。けどまぁ…そうですね…キュウベエについてと未来について、どっちかならある程度話せますよ?」

「そう…キュウベエについて?」

 

掛かった。やっと伏線張れるよ。

あれ?今のは失敗フラグ…まさか。

 

「はい。キュウベエにはちょっと理解しがたい目的が有るんです。」

「それは?」

「簡単に言うと、魔法少女からエネルギーを…」

 

と、カツ…カツ…と音が聞こえた。

 

「とと、マミさん、人が、人が来ます!話は後で!」

「え?わ、分かったわ」

 

マミさんが変身を解く。

さてわたしも変身を解く…方法が分かんない。

 

「えーと、えーーと」

「ソウルジェムを撫でるのよ?そうすれば、変身は解けるわ」

 

マミさん流石に苦笑い。

 

「成る程!」

「それか、目を閉じて念じれば良いわ」

 

ソウルジェムが見当たらないので、目を閉じて…。

 

変身が解ける。

 

「あ、ありがとうございます」

「いいえ」

 

ガチャ

 

ナースさんが屋上に入ってくる。

 

「あ、屋上に居たの、全く。まだ動かない方が良いのよ?」

「ご免なさい」

 

(いさぎよ)く頭を下げる。

 

「全く。と、あなたはこの子の…」

「先輩です。私が無理を言ってここまで連れてきたんです、すみません」

 

あわわ、マミさんが頭を下げてくれてる!

 

「ま、マミさん!良いんです、っ痛ぅ!」

 

お腹に鋭い痛み。

怪我人なのを、忘れてた、くそぅ!

 

「朱音さん!?」

「もう。ほら、部屋に戻るわよ?先輩さんも手伝って」

「は、はい」

 

~○~○~○~○~○~

 

「痛い…ぐふっ」

 

あの後、ナースさんによってマミさんは帰されてしまった。

ああ、結局伝えられなかったのか…。

 

あと、わたしは三日後…つまり、4月6日に退院出来るらしい。

 

見滝原中学校じゃないのがなぁ。残念だ。

 




因みに、この小説ではほむらのループは4/16から5/25と捉えております。

と、書いたけどよくよく考えたらこれ、おかしいですよね?ほむらループは最高で一ヶ月だし。

となると…うん。

とりあえず、ワルプルギスの夜が来るのは5/25なのは確定です。

次回は朱音宅から…かな?


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彼女は疑問する。


評価が高い作品って本当に良い作品ですよね。
内容は濃いし、分かりやすいし、キャラの性格はぶれないし、地の文が綺麗だし。
投稿者は文を読むとイメージが湧く…つまり脳内でアニメ化をするんですけど、それがしやすい。

そんな小説を書きたいもんですね。

では、朱音の日記から、どうぞ。


4/06(日)

退院しました。

退院祝いは豪勢な料理…には出来なかったけど、両親が喜んでくれて良かったです。

 

4/07(月)

学校開始。

部屋の中で魔法の確認。

判明したのは新たに

 

テレパシー(?) : 携帯電話の使い道が通話しか無かった為。メールもWi-Fiも無かったし、恐らく登録した他人にテレパシーを送れるものと推測。次にマミさんと会ったら確かめる予定。

 

変な結界 : 音と色が無くなる空間を生成出来た。試しに部屋全体に張ってみたらメッチャ静かで色が反転?した。わたしの声だけ通すみたい。

 

小型ナイフ : 厳密にはナイフを作り出す魔法。右の袖からしか出せない。左の袖からは携帯電話が出てくる。

袖のなかに落とすと消えた。

 

分身 : マジで驚いた。わたしとおれが分裂した。どうやら記憶は常時共有しているらしく、わたしから見たおれとおれから見たわたしの記憶がある。ゴチャゴチャになりそう。

 

4/08(火)

昨日から続けて魔法少女の実験。

 

分身したまま変身を解いても分身は残ったままだった。

ただし両方が変身を解くと強制的に一人に戻った。

後から変身を解いた方に立ってた。

 

試しに携帯電話に『マミさん』と登録して電話したけど繋がらなかった。考えの末、『巴マミ』と登録し直してから電話したら繋がった。

勉強中だったらしく驚かれた。

改めてキュウベエについて話した。

 

内容としては、

キュウベエが欲しがっているのは『人間の感情エネルギー』

目的は『宇宙の寿命を延ばすこと』

 

ここでふと、マミさんの超有名な台詞である『皆死ぬしか無いじゃない!』を思い出す。

魔女化についてはテレパシーじゃなくて面と向かって話すことにした。

 

4/09(水)

分身を学校に送ってみた。

これで完璧だね。片方が勉強。片方が魔女狩り。

問題はどっちが行くかだけど…。

どうやら、わたしが強い方とおれが強い方に分かれるらしいからおれの方が学校に行くことになった。

結局は同じ経験するのにね。

 

~○~○~○~○~○~

 

「うりゃあ!」

 

ズバッ!

 

「ガギャリァァアァァァァアアアアアアアア」

 

よぉし、魔女撃破!

分身のお陰で真昼間から魔女狩り出来る。

今は…三時間目、数学の時間か。

 

魔女結界が壊れる。

 

グリーフシードを回収。左袖に落とす。

念のため『無し無し結界』を展開して別の場所へ移動する。

 

あ、『無し無し結界』っていうのは音と色が無くなる結界の事ね。

これを展開しておけば一般の人に見られず、安全に移動できるんだよね。まあ、あくまで人通りの少ない場所に限るけど。

 

…それと、他の魔法少女には見付かるみたい。

 

「ええと?」

 

目の前に魔法少女が立ち塞がる。で、口をパクパクさせる。

何言ってるか分からないので、周りを見て一般人が居ないことを確認してから『無し無し結界』を消す。

 

「それで、わたしに何か用?」

「聴こえなかったの?アンタ、グリーフシード持っているんでしょ?私に下さいな」

 

この失礼な魔法少女を改めて眺める。

お嬢様みたいなふわふわでフリフリとしたドレス。

武器はランスとシールド。

全体的に白っぽく、鍔の広い帽子には緑の蔦が絡み付いている。

弱点であるソウルジェムは…首に懸かったブローチかな。

無理矢理貼り付けたような嘘っぱちな笑顔。

 

確信。わたし、こいつ嫌い。

 

「何で?」

「だって面倒じゃない。わざわざあんな汚ならしい魔女なんか倒さずとも、アンタみたいなド素人を狙った方がマシでしょう?」

「ちょっと!ド素人って何よ!」

「だってそうじゃない。わざわざ魔力使ってまで変身したまま移動するなんて、魔力の無駄遣いじゃない。グリーフシードだって数に限りがあるのでしょうし、できる限り魔力の消費を少なくした方が良いのよ?分かる?」

 

ム、成る程一理ある。一理あるけど…。

 

「その言い方、まるで自分以外はどうなってもいい、みたいね」

「だって実際どうでもいいもの。アンタは違うの?」

「違う。それじゃあ詰まらないよ」

「ふーん?私は楽しいわよ」

 

えーと、あれだ。『両雄相容れぬ』ってやつだ。

何処まで行っても平行線。分かり合う事は未来永劫有り得ない。

 

「…どっちにしろ、あなたにグリーフシードは渡せない」

「そう。じゃ、強行手段を採らせて貰うわ。怪我しても知らないわよ!」

 

ランスを突きだし、突進してくる。

 

「最初からそのつもりだった癖に!」

 

ジャンプしてかわす。

ランスを踏み、帽子を踏みつけ、後ろを取る。

 

「キーーーッ!ド素人の癖に生意気な!」

「人を勝手にド素人扱いする方が悪い!」

 

は?xの二乗?……あ、おれの方か。

 

「もらった!」

 

動きを止めてしまったわたしに向かってランスが突き出され、触れる先から魔力となりわたしに吸われていく。

 

「……はぁ?」

「この能力、やっぱり狡いよね。対魔女、対魔法少女なら無敵レベルの能力だし」

 

魔法の無効化、吸収。実にチートだ。

 

「…ねぇ、あなたの魔力、全部頂戴?」

 

両手を魔法少女の顔に伸ばす。

 

「ひ、ひぃっ!」

 

んー。流石にバックステップで距離を取られるか。

ま、最初っから吸収するつもりは無いけど。

 

「な、ななな…!」

「まだやるの?勝負は火を見るより明らかだけど」

 

相手の魔法少女は後ずさり、

 

「お、覚えてなさい!」

 

逃げ出す。

 

「……ふぅ~。疲れるね」

 

まぁ、踏み台にしてかわして能力使った後に脅しただけだけど。

……xの二乗のグラフを書け?え?中学校ってそんなにレベル高かったっけ?

 

いやおれ、頑張ってよ?わたしは頑張ってるからさ。

 

~○~○~○~○~○~

 

「んー。使い魔しか見付からなかった」

 

結局回収出来たグリーフシードは一つだけか。

左袖から取り出す。…んー?

 

「少し濁ってる…?」

 

いや、こんなもんだった気もする。違う気もする。

どっちだ、おれ!?

 

「ま、どっちでも良いか」

 

…良いのか?…良いか。…良いんじゃない?

じゃ、ソウルジェムにグリーフシードを……あれ?

 

「そういえば、わたしのソウルジェムどこ?」

 

帽子にはそれっぽい飾りは着いてない。

緑のケーブルにも……あ、もしかして。

 

「この目?がソウルジェムなんじゃ…」

 

有り得る。というかそれ以外無い。この目の中にソウルジェムがあるのだろう。

 

「それじゃあ、グリーフシードを近付けて~っと」

 

何も起きない。

 

「えー、はぁ?」

 

ぶつかる程に近付ける。

何も起きない。

 

「どういうこと?」

 

~○~○~○~○~○~

 

ちょうど三時間目の授業が終わったし、おれは指輪型にしてあるソウルジェムを確認する。

 

メッチャ綺麗。穢れは一切見当たらない。

 

「んー、どういうこと?」

「お、あかねん。どうしたんよ?」

 

ここ数日で仲良くなった植村明子が話し掛けてくる。

 

「えーと…さっきの授業、難しかったな~って」

 

明子は魔法少女じゃないから、この悩みは話せない。ゴメンね(わりぃな)

 

「あー、確かに。x×(かける)xでxの二乗とか急に言われても、ねぇ?」

「だよねー」

 

こっそりソウルジェムをポケットに入れる。

…そういえばグリーフシードは何処に行ったんだろ?

 

「それよりそれより!聞いてよ!昨日ポケモンでね…」

 

疑問は明子の声に流されていった。

 

~○~○~○~○~○~

 

 

 

 

 

 

 

これ……ふーん……あはっ……そっか……そう使うんだ……でも……うーん……でもなぁ……()が勝手に……でも……お腹すいた……手触り良いなぁ……だよね……()()()?……()()?……仲良くね……

 

 

 

 

 

 

 

~○~○~○~○~○~

 

長かった授業が終わったみたいだ。さて。

 

「マミさんにでも会いに行きますか」

 

数々の疑問の解明はおれの仕事。わたしは主に人間関係を深めるのだ!

 




前回に比べたら1000文字ほど文字数少なめ。

さてさて。記憶共有している分身の描写が難しすぎる。
そもそも投稿者は二重人格じゃ無いんですよねぇ。

んじゃ、次回はマミさんと共闘&疑問解消…かな?


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彼女はやっと話す


やけに調子が乗る日と全くやる気が出ない日の差がヤバイな~と思う今日この頃。
初心者の癖に三つも小説を同時に進めてるとか、自分の気を疑います。
なんてね。

では前回の続きから、どうぞ。


見滝ヶ原市、人の居ない公園。

 

あ、居た居た。マミさん発見。いい感じに後ろを取れた。じゃあ、やりますか。

 

左袖から携帯電話を取り出す。通話先は巴マミ。

 

プルルルル…プルルルル…ガチャ。

「私メリーさん…今あなたの後ろに居るの…」

 

バッ!とマミさんが振り向く。

 

「どうも」

「……朱音さん、魔法はむやみやたらに使うものじゃ無いわよ。感心しないわね」

「おっしゃる通りで」

 

本日二回目。耳に痛いね。

とはいえ、まだ変身を解くわけにはいかないので。

おれはまだ家に着いてないしな。

 

「それで、面と向かって話したいことって?」

「それはですね…」

 

さてさて、どう切り出したものかな。いきなり『魔法少女の成れの果てが魔女です』なんて言っても信じてもらえない。信じたら信じたで錯乱するだろう。

…となると、だ。ワンクッション入れるしかない。

入れるクッションは…マミさんが魔法少女になる切っ掛けでいいかな。

 

「…マミさんの両親は生きています」

「!?」

 

マミさんの顔が驚愕に染まり…すぐに怒りに燃える。

 

「それは冗談じゃ済まされないわよ、朱音さん」

「冗談です」

「っ!」

 

マミさんが一瞬で変身、銃をこちらに向ける。

残念ながら魔法の銃(そ れ)はわたしへの脅しにはならない。淡々と話す。

 

「これから話すことはそれと同じくらいの衝撃を与えます。それでも聞きますか?」

「っ~~!聞くわ。聞いてあげる!だけどもし、嘘だったりふざけたりしたら撃つわよ」

 

マミさんが銃を降ろす。

だから意味無いんだってば。まあ聞いてくれるのなら良いけど。

 

「分かりました。…マミさんは、魔女の成り立ち……というか、どうやって魔女が産まれるかご存知ですか?」

「…いえ、考えたことも無いわ」

「そうですか。まあ、そうでしょうね。キュウベエは聞かれたことしか答えませんし」

「……貴女は知ってる、と?」

「はい。…話は変わりますがソウルジェムが完全に穢れに呑まれたら、魔法少女ってどうなるか知ってますか?」

「分からないけど、何か良くない事になるんでしょう。でなければ注意する必要が無いもの」

「そうですね。単純に考えて、魔法が使えなくなるというのが一番に考え付きます。魔法を使うと穢れるから、当然の思考ですね」

 

ここまで話して、一息つく。

ふぅ、ハラハラドキドキだ。

 

「……結局貴女は何が言いたいの?全く見えてこないのだけど」

「本当ですか?どことなく分かってるんでしょう?心の奥底では理解しちゃったんでしょう?マミさんぐらい聡明なら分からない、なんて事有り得ませんよ…ね?」

 

あれ?なんかわたし、意地の悪い人みたい?

まあ良いや。

 

「それは…」

「ちゃんと思い出してください。魔女の成り立ち。ソウルジェムの終わり。わたしは無駄な事はほとんど話して無いですよ」

「嘘……よ。そんなこと、あるわけ無いじゃない!」

「なら撃てば良いじゃないですか」

「!」

「何驚いているんです?さっき自分で言ったじゃないですか。『嘘ついたら撃つ』って。しょうがないですよね、わたしにとって真実でもマミさんにとっては嘘なんですもん」

「う…」

「あーいや、マミさんを責めてる訳じゃ無いですよ。文句を言ってる訳でもないです」

 

ん?本題から外れてきてるぞ?

 

「さてさてさて。撃つんですか…じゃなくて。明言しますと、魔法少女のソウルジェムが完全に穢れに呑まれたら、魔女に成ります。魔女は、魔法少女の成れの果てです」

 

少し早口に言い切る。

これは半ば博打。

信じてくれるのか。信じたとして錯乱しないのか。錯乱しないとしても絶望しないのか。

この情報を信じて、錯乱せず、絶望もしない。

 

ハードルは高いが、乗り越えられれば…きっと悪くはならない。

 

「……それが嘘じゃないと、何故言い切れるの?」

「えー、それは…」

 

前世の記憶、なんて言っても信じてもらえないよな。

 

「キュウベエに確認すれば分かります」

「そう。キュウベエ、居る?」

 

キュウベエを待つ。

 

 

 

と、おれは家に着いたから、部屋に籠り変身。

それじゃあとわたしは代わりに変身を解く。

それにしても……

 

「来ないですね」

「はぁ。…嘘と思いたいけど、朱音さんが嘘を付くとは思えないわ。だから、キュウベエと話せるまでこの話は保留で良いかしら?」

「まあ、マミさん次第です。わたしとしては信じて貰えれば万々歳、信じて貰えなくてもそういう考えがあると知って貰えれば万歳ですから。あ、いや嘘じゃ無いですよ?」

「はいはい。何か放っておけないわね、貴女」

「はい?」

 

おれはぁ!今!テンションが!上がってきた!

だが話しているのはわたしだ。

 

「こ、告白…!?マミさんそんな趣味が…!?」

「え!?いえそういう事じゃ無いわ!というかそんな趣味って何?」

「知らないなら良いです」

 

ポソッとベンチに座る。

 

「まぁ、わたしはマミさんの味方ですよ 」

「えぇ?あんなに脅してきたのに?」

「あ、あれはその、あれですよ。けっこう重要な事だから慎重にゆっくりですね!」

「ふふふ、分かってるわよ」

 

マミさんも隣に座ってくる。

 

「あれ?今日は魔女狩りに行かないんですか?」

「そんな気分じゃ無いわ。ねぇ、貴女について色々聴かせて頂戴?」

「えぇ、良いですよ」

 

何を話そうかな?

 

~○~○~○~○~○~

 

さてその間。おれはカリカリ宿題をこなしていく。

数学と国語のドリル。あぁ、懐かしい。先の方を見てみる。

……国語は記憶通りだけど、数学の方がおかしい。

あっれぇ?中学生で微分とか、嘘だろ?

まあ、ほんとに最後の最後にちょびっと紹介されてるだけだけど。

 

「なんかおかしいでしょ、これ。いくらなんでもレベルが高すぎ」

 

幸い、最初の方は三十代で色々忘れたおれでも解ける。

問題は…半分ぐらいからの発展的な問題。

パッと見、分からない。

 

「これは…授業ちゃんと効かないと不味いな…」

 

なんとか宿題の範囲を終わらせる。

さーてと。今日はソウルジェム関連を調べないと。

 

「あー、変身解きたいんだが…無理っぽいな」

 

わたしはマミさんと楽しくお喋り中。いきなり変身したら驚かせちゃうよ。因みに内容は普段の生活。

おれの事をツラツラ喋ってる。

 

「なんだろう、この理不尽感。はぁ」

 

とりあえずケーブルに着いているこの目…名前を付けようか。そうだな…。サー…サード。

 

「ありきたりだが、第三の眼(サードアイ)で」

 

こういう名前を付けるのって苦手だったんだけど、案外スラッと決まったな。

名前も決まったところで、手を使わずに第三の眼(サードアイ)を開けようとしてみる。

 

「ん~無理っぽいな」

 

そもそも感覚が繋がってないみたいだ。じゃあ次。ごり押し。

 

「せーのイタイタイタタ!」

 

体全体が引っ張られたように痛む。

 

「うぐぃ…」

「どうしたの~?」

「何でもなーい!」

 

おっとと。『無し無し結界』を張る。

わたしも叫んじゃってマミさんへ言い訳。

 

「この結果はビックリだな…これ自体がソウルジェムなのか」

 

ソウルジェムの性質的にそうだと思う。

……いやいやいや。

 

「そうなるとソウルジェムの形が変わってる事に…それを言ったら指輪型にもなるか」

 

うーん?訳が分からないよ。とにかく今のとこ分かることをまとめるか。『無し無し結界』を解く。

 

「まず、第三の眼(サードアイ)がソウルジェムなのは確定。ただし中に入っているのか、第三の眼(サードアイ)そのものがソウルジェムなのかは不明…と」

 

机に向かい、ノートに書いていく。

 

「後は…変身したら外からソウルジェムの観測をすることは不可能。変身を解けばソウルジェムの確認が出来るけど…」

 

思い出す。少なくとも学校に居る間おれの方は穢れは無かった。今は?

わたしの指にはまっているソウルジェムをチラ見。穢れは無いかな。…いや。

 

「有り得ない!」

 

小声で呟く。これでは頭の片隅で形になってきた仮説が成り立たなくなる。

 

「どういう事だ?てっきり分身でソウルジェムが二つに別れたから魔法を使っても片方は穢れが溜まらないのかと思ったのに!」

 

グリーフシードのお陰か?……両袖を振る。

出てきたのはナイフ、携帯電話、グリーフシード。

 

「グリーフシードは…少し黒くなってる?いやだが、目の錯覚かもしれないくらい微妙な差だな」

 

一応、グリーフシードは穢れを吸っているみたいだ。

 

「んー。おれ…わたしの魔法の効率が良いのか?一個のグリーフシードを何回かに使い分けれるぐらいに?」

 

或いは、ソウルジェムが穢れをグリーフシードに渡しにくいのか。

あと可能性としては…おれの能力。

 

「他人の魔力を吸収、大量の魔力が穢れを溜めさせない、作らせない。…これが一番それっぽいな」

 

果たして魔力吸収=穢れ激減なのかは疑問だが。

 

~○~○~○~○~○~

 

4/10(木)

マミさんと話した。何とか魔女の事を話せた。

ただ、マミさんの判断は「保留」。キュウベエに話を聞くんだと。そういえばキュウベエに会ってないなあ。

わたしのソウルジェムについて色々調べたが、結局ほとんど何も分からなかった。

一番の疑問は穢れが全く無いこと。

予想としては魔力吸収の能力で穢れが無くなってるだけど、実際はどうなのか。





キュウベエ『小説に出してもらえないなんて、訳が分からないよ』
投稿者「んなこと言われても」


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彼女はのんびり狩る


あ、危ないところだった…。

違う小説の方に投稿→ミスった消してこっちにしなくては→小説削除→あ、コピーしてない→い、いや、履歴巡れば可能性が!→完全に消える→あびゃぁぁぁぁ!!!→ま、まて、バックアップには…→有ったよっしゃあ!

小説を量産してるとたまにこうなるから安心出来ない。

さて前回の次の日から、どうぞ。



今日は遂に!一週間だ!

おれは何が言いたいんだか。なんとなく分かるけど。

そうだね、金曜日だね。

 

わ た し に は 関 係 な い

 

なので、今日も今日とて魔女狩りです。

今日の予定。午前中は見滝ヶ原と逆方向に行って魔女探し。午後はマミさんと合流して魔女探し。

 

リアルが充実してるね。

 

さてさて、こんなことを考えてるうちに魔女結界を見つけたので早速入ってみる。

 

「うわぁ、これは……プール?」

 

広大な海みたいだ。ただ、プール独特の塩基の臭いが凄くキツいからプールだと分かる。

そうだね……まるでわたしが小さくなったみたい。

 

「う~ん、臭いがキツ過ぎる。さっさと倒していこうか」

 

と、プールから使い魔が。見た目は豚、ただし脚が蜘蛛みたいになっていて節々に泳ぐ為のヒレが生えている。

 

「何これキモい!」

 

となると武器を使うか。何となくだけど触るとデバフかかりそうだし(RPG脳)

右袖からナイフを取りだし、切りつける。頭をさっくり二等分にする。

 

「よし、一体!」

 

走り出す。と、水の中から第二、第三の豚が飛び出してくる。

 

「うわっ!うひゃあっ!」

 

この豚、口から緑色でドロドロしてる液体を吐いてくる!汚ない!

 

しかも強…いや、超酸性らしく液体がついた床がシューシュー音をたてて溶けている。

まあ、能力で吸収出来るだろうけど…。

 

「触りたくない!」

 

精神的に攻撃をするとは、恐るべし。

さっさと魔女を倒さないと!

 

幸い、水の外にいる豚共の動きは遅い。奇襲だけ気を付ければ怖い相手では無い!

 

「どけどけ、退けー!」

 

おれの方も体育の授業で走ってるから動きやすい。

目の前に立ち塞がる豚はナイフで切り裂く。

横からの突進はとにかく走って避ける。

液体は…少し大きめに避ける。だって近付きたくないもん。

 

~○~○~○~○~○~

 

んで、一番奥まで来たんだけど。

 

「うらぁっ!」

「CARUUUUU!!!」

 

何で杏子さんが居るのかな?いや別に良いんだけどさ。

 

魔女はビート板とマンタを組み合わせたみたいな姿。水泳の魔女と名付けよう。空を優雅に飛んで例の液体で絨毯爆撃を仕掛けてる。

杏子さんは槍?を投げつけて攻撃してるけど、液体に阻まれて魔女まで届いてない。手伝おうか。

 

「横から失礼!」

「んなっ!?」

 

飛び上がり、少し躊躇いながら液体を踏み更に飛ぶ。

液体を足場にして飛び飛び飛ぶ。さながら配管工のごとく!

 

「てやぁっ!」

「CARUUUUUAAAAA!!!」

 

右手のナイフを魔女にブッ刺す。そして、左手で魔女を掴む。…布みたい。

 

「今です、杏子さん!」

「!…おらあっ!!!」

 

魔法で巨大化した槍がわたしの真横を貫く。

 

「CAAAAAAARUUUUU!!!???」

 

魔女が断末魔をあげ、溶けていく。

あ、そうだ。吸収しとこう。

 

シュシュシュ~~

 

~○~○~○~○~○~

 

「礼は言わねぇからな」

「それは別に良いんですけど…何この状況」

 

第三者の目線で今の状況を説明すると、杏子さんに槍を向けられている。

 

「グリーフシードを横取りされないようにするためだ。あれはあたしのもんだ!」

「むぅ…良いですよ。あげます。」

「…は?」

「だって先にここを見付けたのは杏子さんですし。わたしはまだ一つ残ってますし」

「あぁ?ま、まあそう言うなら…くそっ調子狂うな」

 

杏子さんが床に刺さったグリーフシードを回収する。

あ、そうだ。

 

「杏子さんはグリーフシードってどうやって保管してるんですか?」

「……袋に入れてある」

「あーやっぱりかぁ」

 

わたしもそういうの作った方が良いのかな?

と、杏子さんがドスの効いた声をかけてくる。

 

「おいてめえ」

「な、何ですか」

「何で助けた」

「へ?」

「普通あそこはあたしが負けるのを待つだろ!あたしが負ければ手柄を横取り出来る!あたしが勝ったとしてもグリーフシードの横取りは可能だろ!?何で助けたんだ!答えろ!」

 

槍が変型し、まるで蛇のようにわたしの周りを回る。

 

「それは…助けたかったから、じゃ駄目ですか?」

「駄目だ」

「え、理不尽。なら、わたしは知り合いには優しいから、です」

「嘘つけ、あたしとあんたは知り合いじゃねぇだろ」

「へ?いやいや、病院で会ったじゃ無いですか。てかわたしの命の恩人ですよ、杏子さんは」

「はぁ?」

 

あれれ?

 

~○~○~○~○~○~

 

「んー、確かにそんなことした記憶もある…気がする…うーん?」

「いや、更年期障害には早すぎますよ?」

「うるさい!あたしは過ぎたことは覚えない派なんだよ!」

「あーあーそういう事にしといてあげますよ」

「信じてねぇな?」

 

というかそろそろ槍の拘束を解いてほしい。触れてはこないけど真綿で絞められてるみたいで落ち着かない。

 

「あ。あーあー。そうだそうだ思い出した!あんた、朱音だろ!」

「そうですよ…やっと思い出したんですか」

「にゃはは、わりぃわりぃ」

 

ニカッと笑う杏子さん。サバサバした性格は好きだね、うん。

 

「んで、本当にグリーフシード貰って良いのか?」

「良いんですよ、杏子さん」

「じゃあ遠慮なく貰うよ」

 

杏子さんが変身を解き、グリーフシードをズボンのポケットにしまう。そしてズボンのポケットから飴を取りだし、口に放る。

 

「朱音は変身を解かないのか?」

「はい。ちょっとした理由で」

「ふーん?理由を聞いても良いか?」

「ふふ、それじゃあ問題!」

 

にっこり笑って杏子さんを指差す。

 

「何故わたしは変身を解かないのでしょうか!ヒント、今日は金曜日です」

「あぁ?んー……わっかんねー」

「せめてもうちょっと考えましょうよ。じゃあ、二つ目のヒント!わたしは未だに無遅刻無欠席です!」

「あ、学校行ってるのか。…んん?でも朱音お前、今此処に居るじゃねーか」

「そうですね」

「まさか、魔法でどうにかしてんのか?」

「ピンポーン、大正解!魔法で分身してるので片方は変身を解けないのです!」

 

杏子さんが呆れたように首を振る。

 

「そんなことの為に魔法を使ってんのか」

「そんなことって何ですか…っと杏子さんは学校行ってないんでしたっけ」

「そうさ、あたしは不良なのさ!」

「いや、それを自慢されても困るんですけど」

 

今度はこっちが呆れる番だ。

そういえばおれの記憶が流れて来ないね。どうしたんだろ。

……体育で疲れて寝てる、だと!?

しょうがないね体育だしってんな訳有るか!

 

「あーそうだ、杏子さん」

「何だ?後あたしの事は杏子で良いぞ」

「そうですか。じゃあ杏子、ちょっと一緒に行動しない?マミさんと会う約束してるし」

「マミ!?」

 

ありゃ、地雷を踏んだかな?

 

「……って誰だっけ」

「ズコーーッ!」




別にそういう訳じゃないけど杏子に忘れんぼ設定が出来てしまった感。
うーむ、なるべく設定は原作の物でありたい。
何か原作と違っておかしいところが有ったら感想で教えてください。お願いします。


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彼女は(非常識な)日々を楽しむ

8/16現在、東京のおじいちゃんの家に居ます。
いやぁ、素晴らしいね。来週の再試験の事なんて忘れちゃいますね。

・・・えぇ!?

ま、まあとにかく前回の続きから、どうぞ。


「にゃはは、冗談だよ」

「冗談に聴こえませんでしたよ?」

 

今はとあるビルの屋上。杏子が買ってきた大量のお菓子を一緒に食べているところ。

お、おれが起きた。おはよう。

 

「ん、どうした?」

「はい?何も無いですけど?」

「敬語は止めてくれよ。何でもないなら別に良いんだ」

「うん、分かったよ杏子ちゃん」

「ちゃ、ちゃん!?」

「何かおかしかった?」

「い、いや、別に…」

「顔赤くしちゃって可愛いなぁ」

 

そう言うと、杏子ちゃんは慌てて顔を隠す。

 

「う、うるさいうるさい!御菓子あげないぞ!」

「えぇー」

 

あぁ、可愛いなぁ。原作ではどちらかと言うとクールでアクティブな感じだったのに。

 

「でもこれ全部を一人では食べきれないでしょう?残すんですか?」

「……残さねぇよ。明日のために取っておくんだ」

「ふぅん?ま、そういう事にしときますよ」

「ってか、また敬語になってるじゃねぇか」

「ありゃ」

 

おれの性格だから仕方無いな、うん。

 

~○~○~○~○~○~

 

駄弁ってたら何時の間にやら放課後の時間。

これでマミさんも学校が終わり、一緒に魔女狩り出来る。

さて行こうかと立ち上がるが、なんか杏子ちゃんの様子がおかしい。

 

「どうしたの?」

「あーいやーそのーだ、な。知ってるか知らないか分かんないけど…あたしはだな、その、えぇとな」

「マミさんと会うのが気まずい?」

「そういうこった。ちっとばかし意見が割れちまってなぁ」

 

ふーん。知ってた。

 

「因みに、どんな意見で?」

「……マミの奴はショート、あたしはフルーツ」

「はい?」

「だから、マミはショートケーキが好きであたしはフルーツケーキが好きなんだよ」

「いや、流石に騙されま…ないよ。もっと深刻な何かでしょ?」

「いやいや、これはマジで。馬鹿みたいだろうけどな」

「えぇ~」

 

そんな理由だったなんて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え、違うに決まってるじゃん。

 

「杏子ちゃん、わたし…おれは知ってるよ?」

「朱音?」

「大体知ってる。粗方知ってる。マミさんの弟子だった事も、杏子の家族の事も、杏子の願いも、ほとんど」

「……まぁそんな感じの事言ってたしな、今更驚かねぇよ」

「けどさ。おれは()()()()()()なんだ。その事でどう思ったかまでは分からない。…ねえ、杏子ちゃん、教えて?」

「……やだ」

「そっか」

 

しばしの沈黙。

 

「何か湿っぽくなっちゃったね。さ、行きま…行こう!マミさんの元へ!」

「あぁ、湿っぽいのは嫌いだしな。行こうか」

 

~○~○~○~○~○~

 

「マミさ~ん!」

「朱音さん――に、佐倉さん!?」

「う。よ、よぅ、マミ」

 

勢いに乗せて連れてきちゃったけど、やっぱりまだ気まずいかな?

 

「アレー知り合いだったんデスカー?」

「朱音さん…棒読みよ」

「わざとデスヨー」

「はあ、全くもう。それにしても佐倉さん?」

 

マミさんが杏子ちゃんの方を向く。

 

「な、なんだよ」

「良く戻って来たわね。良かったら、また一緒に」

「悪いけど」

 

マミさんがまた共に戦えるのかと嬉々として話しかけるが、杏子ちゃんは遮る。

 

「あたしは朱音について来ただけ、戻って来た訳じゃない。…あたしの考えが変わった訳じゃないからな」

「…そう、残念だわ」

「ま、まあまあ!何にせよ今は仲間なんですから、仲良くしましょうよ、ね?」

 

何か雰囲気が悪くなってきたのを感じて慌てて間に入る。

 

「ったく、今日だけだからな」

「えぇ、分かってるわ」

 

ふぅ。よし、じゃあ魔女探しだね。大変だ。

 

~○~○~○~○~○~

 

「もう、食べ歩きは止めなさいって前も言ったわよ」

「あん?別に良いじゃねぇかそんぐらい」

「良くないから言ってるのよ…朱音さんも!」

「はーい、次から気を付けまーす。だから今は見逃してください」

「駄目よ」

「マミさんのケチ~!」

「ケチンボマミ~!」

 

三人で町を徘徊。

 

あ、おれが家に帰ったので変身は解いてあります。

しっかしまぁ、今のわたしたちは学校帰りの(かしま)し三人娘ってところだね。

とてもじゃないが、命を懸けて町を守る『魔法少女』には見えない。

いや、或いは他の皆も案外こんなものなのかも知れないけど。

 

「ん、お! マミ、朱音!」

「見付けたの?」

「ああ!最高に旨そうな鯛焼きをね!」

「お、良いね!マミさん、奢ってください!」

「……怒らない怒らない。深呼吸するのよ、私」

「素数を数えた方が良いと思いますよ?」

「余計なお世話よ!」

 

マミさんをからかい、杏子ちゃんと一緒にケラケラと笑う。

 

「あたしはつぶあんで!」

「わたしは…カスタード!」

「うぅ…財布が…どんどん軽く…」

 

軽く泣きながらもしっかり買ってくれるあたり、やっぱりマミさんは仲間思いだよねぇ。

と、杏子ちゃんが呼ぶ。

 

「おい、マミさ…マミ。こっちで食おうぜ?」

「え?…あ、そうね。ほら、朱音さんもこっちに」

「はい?でもそっちは……あぁ、成る程」

 

鯛焼き屋の隣の路地裏へと足を踏み入れる。少し進んだところに、魔女のマーク。

 

「なんだ、ちゃんと見つけてたんだ」

「当たり前よ。あたしを誰だと思ってるんだ、ベテラン魔法少女の佐倉 杏子だぞ?」

「あぁ、そういえば」

「おい!?」

「ほら、朱音さん、佐倉さん、変身して。行くわよ?」

 

うん、マミさんがやる気マンマンなのは良いけど。

 

「あ、マミさんストップ」

「何?」

「先にこれ、食べちゃいましょう」

 

手に持っている鯛焼きを指差す。





俺の他の小説が微妙に評価低めなのは、やはり文才の無さのせいなのかね。


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彼女は共闘する。

ふぅ、ようやっと投稿しましたね。
休みに入っちゃうと執筆の手が進まないんですよねぇ。

では、鯛焼き食べ終えたんで、どうぞ。



「それじゃあ、行きましょう!」

「ええ!」

「おう!」

 

三人で魔女結界の中へ乗り込む。

中は…暗い。なんか、嫌な予感がする。

 

「マミさん、なんか嫌な感じですね」

「そうね…佐倉さんは?」

「あたしもだ。そういう魔女なんだろ、さっさと…っとお出迎えだ!」

 

奥から出てきた使い魔の姿はザザザッ …え?

 

「ふぅ、こんなもんか」

「そのようね。朱音さん、大丈夫?」

「え?あれ?」

 

いつの間にか戦いが終わってる。さっき見たはずの使い魔の姿を思い出せない。

 

「いやぁ、朱音もなかなかやるじゃん。一番倒したんじゃないか?」

「え……」

「そうね、この調子だと朱音さんにグリーフシード譲らないといけないかしらね」

 

何だ?何が起こった!?

わたしには理解できない。おれにも…こんな現象は見たこと無い。

 

「…どうした?変な物でも見たような顔してさ。…もしかしてどっか傷でもあるのか?」

「え!それならそうと言ってくれないと!何処を怪我したの!?」

「ま……待ってください。わたし…何匹使い魔倒しましたっ…け?」

 

恐る恐る尋ねる。

 

杏子ちゃんが答える。

 

「あー、とにかくいっぱいだ。嬉々として狩ってたぞ?あたしやマミの獲物もかっさらってったしなぁ」

 

マミさんも続ける。

 

「大体……30匹位じゃ無いかしら。佐倉さんが15匹、私が…5匹、ね」

「あ?マミの癖にその程度しか倒してないのかよ」

「私は後衛でサポートだから良いのよ」

 

な に か が お か し い

 

いや、でも、悪いことにはなってないし、記憶が吹き飛んだだけみたいだし、それが怖いけど、大丈夫…だよね?

 

「それで、怪我とかは大丈夫、朱音さん?」

「なんか様子がおかしいけど何かあったのか?」

「……いえ、大丈夫です。さ、次行きましょう!」

 

声を出して無理矢理奮起する。意識の切り替え。社会に出た(社畜になった)ときにそこそこ使えるスキルだ。まさかこんなことに使うとは思ってなかったけど。

 

~○~○~○~○~○~

 

「あ、使い魔」

「何言ってんだ、さっきまでボコボコにしてただろ」

 

そうらしいけど…ね。

使い魔は三角錐の形で宙に浮いている。四つの面に顔が描かれていて、どれ一つとして同じ表情は無い。

笑顔、怒り顔、悲しい顔、悔しい顔、我慢顔、etc.

 

「よし、やりますか…って」

 

ナイフを取りだしたら、使い魔が大声で叫び、他の使い魔が大量に現れてきた。

 

「うっわぁ、きもっ!」

「だからさっきもこんな風に出てきたろうに…ま、お喋りは後だ!」

 

杏子ちゃんが槍を構える。と、マミさんが前に出てくる。

 

「私が!」

 

マスケット銃を乱射する。使い魔はそれこそ壁のように津波のように大量に居るのでろくに狙いを定めなくてもどんどんやられていく。

 

「マミさん凄い…」

「はんっ、さっき倒せなかった腹いせか何かか?横取りしやがってよ」

 

杏子ちゃんが構えを解く。確かにこの調子ならわたしたちが手伝わなくても大丈夫そうだ…っ!?

 

「だっ!」

「うおっ!?」

 

マミさんの流れ弾が杏子ちゃんに向かってた。危うくわたしが伸ばした手に吸い込まれたけど…。

 

「おいマミ!どこ狙ってるんだ!」

「はあああぁぁ!」

「駄目だ、聞いてねぇ。どんだけだよっくそ!」

「ま、まあまあ。流れ弾だしマミさんだって失敗はあるから」

 

……おれには、明らかにこっちを()()()()()ように見えたけど。今それを言ってもどうしようもない。

狡いようだけど、このチームの仲をわざわざ割る必要は無いしね。

 

「と、何匹かこっちに漏れてますね」

「ま、こんくらいなら楽勝だろ」

 

ぶった切る。

 

~○~○~○~○~○~

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

マミさんの必殺技でとりあえず使い魔は見当たらなくなった。

 

「マミさん、お疲れ様です!」

「・・・」

「? …マミさん?」

「…へ?あ、何かしら?」

 

デジャビュ。この反応は…

 

「おいマミ!」

「佐倉さん?そんなに怒ってどうしたの?」

「こっちに銃弾飛んできたぞ!朱音が止めたからどうにかなったけど、あたしに当たってたらどうするんだ!」

「!? そ、それは…ごめんなさい!まさか周りが見えなくなってたなんて…」

「あん?まさか、あたしを、敵と、間違えたのか!?」

「まあまあまあ!怒ってても仕方ないですし!イライラするのは多分この結界のせいですし!さっさと魔女を倒しましょう!ね!」

 

渋々と頷く二人。

不味いな。おれの予想だと、ここの魔女の能力は…

 

「また来たわよ!」

「ちっ、またかよ!」

「わたしが先行します!」

 

飛び出す。

多分次に狙われるのは杏子ちゃん。ただでさえ脆いチームなんだから、これ以上亀裂は入れたくない。

 

「うりゃうりゃうりゃぁ!」

 

仲間を呼ばれる前にナイフで切りつけていく。

右手で切り、左手で使い魔を掴み吸収していく。

あ、くそ、叫ばれた。

 

「朱音さん!危ない!」

「え?がっ!」

 

背中に衝撃。後ろを見ると、杏子ちゃんの槍がわたしの背中に吸収されていくところだった。

 

「がぁぁあぁぁぁ!」

「うわあっ!」

 

杏子ちゃんがわたしの上を飛び越し、使い魔の中に突っ込んでいく。

 

「むぅ…遅かったか…」

 

少しでも速く倒し終わるようにナイフをやたらめったらに振り回す。当然、杏子ちゃんに当たらないように。

 

「朱音さん、下がって!」

「ん…!? マミさん! 駄目ですってまだ杏子ちゃんが居るのにティロ・フィナーレは!」

 

後ろをまた見ると、マミさんが巨大な大砲をこちらに向けていた。

 

「もういいわ!佐倉さんは朱音さんに手を出した!少しは丸くなってないかと勘違いした私が馬鹿だったわ!」

「だーかーらー!何にせよ今撃ったらわたしが吸収しちゃいますってば!」

「む…だったら朱音さん、下がって!」

「同士討ち宣言されたのにどく馬鹿はいませんって!」

 

なるべくマミさんと杏子ちゃんの間に立ち、使い魔を倒していく。

 

「よっ!はっ!とうっ!」

「おらあぁぁぁぁ!」

 

そうこうしてるうちに使い魔は粗方倒し終えた。

数匹逃がしたか。

 

「はあ…はあ…っは!あれ?」

「杏子ちゃん!頭下げて!」

「へ? うわっ!?」

 

杏子ちゃんの頭を無理矢理下げる。

 

「な、何すんのさ!」

「良いから!マミさん!まだ魔女が残ってますしここは寛大な心で見逃してください!」

「はえ?」

 

杏子ちゃんが変な声を出す。可愛い。

じゃなくて!

 

「ほら、杏子ちゃんも謝って」

「何でだよ」

「良いから!」

 

「朱音さん、何で佐倉さんを庇うのかしら?」

 

うわ…マミさん超怒ってる…。怖い…うん。

 

「別に庇ってる訳じゃ無いです。とにかく、わたしは大丈夫ですから、魔女を倒しましょう!ね!終わってからのが安全に話せるでしょう!ほら、魔女も近いみたいですし!」

 

顔をあげて、二人の手を引っ張る。

何とかかんとか魔女に近付いて行けるけど…マミさんはまだ怒っている。

 

 

あ、恐らくの魔女の能力の事を話せば少しは緩和するかも。

と、思い付いた時には目の前に魔女。

 

「うわぁ…気持ち悪い」

 

見た目は体が黒いカタツムリ。目の部分にはヒョットコとおたふくの仮面が着いている。そして、背中の殻から使い魔がどんどん出てきてる。

 

「マミさん、杏子ちゃん、魔女です!」

「分かったから手ぇ放せよ!」

「流石に痛いわ、朱音さん!」

「あ、ごめんなさい」

 

手を離す。

 

と、

 

ガンガンガンガン

 

魔女(何となく仮面の魔女と名付けよう)が二つの仮面をぶつけ合う。

そして、

 

「らあぁぁぁぁあぁぁぁぁ!」

「はあああぁぁ!」

「うわっ!」

 

二人まとめて暴走。

 

杏子ちゃんは槍を巨大化、分裂まで使い…あれだ、どこぞのアルティメットドラゴンみたいにしている。

 

マミさんは大砲を五門造り出し、魔女に向けて構える。デクリンクのラッパみたい。

 

 

じゃなくて! 嫌な予感、というか確信がある。

……二人の魔法。魔力が、足りないんじゃないか?

 

ガンガンガンガン

 

「ぐぅっ…」

 

背骨が削られていくかのような音。きっっっつい…。

でも、何故だかわたしは暴走してない。

 

「なら、やらなきゃ!」

 

まずは近い方のマミさんに駆け寄る。

帽子の飾りに…マミさんのソウルジェムに袖から出した二つのグリーフシードを押し付ける。

 

じわぁ~と穢れが吸われていく…けど、これじゃ遅すぎる。

 

ガンガンガンガン

 

グリーフシードをマミさんの帽子の飾りに刺して、杏子ちゃんの元へ。

 

蛇のようにうねる槍を登る。

わたしが触れても吸収しきれない。この状況ならありがたいけど、逆に言えばそれだけの魔力を使っているって事だから…急がないと。

 

ガンガンガンガン

 

ようやっとたどり着く。

足元が安定しない。

 

「杏子ちゃん!」

 

あ、やべ。

足が滑って…

 

「あわわわわ!?」

 

あわやと言うところで杏子ちゃんに抱き付く。

 

あーあーあー!手、手が!胸元に!?

い、いや!逆に考えるんだ!杏子ちゃんのソウルジェムは胸元にある!

 

最後のグリーフシード二つ!袖から取りだし、押し付ける。

 

「ティロォォォォ・フィナーレェェェェ!」

「砕けろおぉぉぉぉ!」

 

目の前が爆発する。




さてさてさてぇ…。
次回は朱音ちゃん、歪みますよぉ…。


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彼女は暴走する

筆が乗らないよぉ(泣)
2000文字行ってないよぉ。
ま、良いか。

さてさて、ではでは、どうぞ。



「んむぅ…あれ、ここは?」

 

「起きたか、朱音」

「朱音さん、大丈夫!?」

 

どうやら気を失っていたようだ。身を起こす。

 

「えと…仮面の魔女は?」

「倒したわ」

「けっ、グリーフシード四つ使って報酬は一個でさ。割に合わないよな」

「ちょっと佐倉さん、まずは朱音さんに謝りなさい」

「あ?何をさ」

「朱音さんに槍を投げ付けたでしょう!?朱音さんは気にしてない様だけど、私は許さないわよ!」

「あ?んなことしてねえよ!」

「したわ!」

「してない!」

 

あわわ、何か喧嘩が始まっちゃった。

どうしよどうしよ!

 

「それを言うならマミだってこっちに向かって銃を乱射してきたじゃねえか!」

「言うに事欠いて話を逸らすの?そもそも私がそんなことする訳ないじゃない」

「ほーう?詰まりあたしは朱音を刺し殺そうとする殺人鬼に見えるって事かぁ?」

「そういう訳じゃ無いけど、事実は事実よ!」

「けっ、上等だ!」

 

杏子ちゃんが槍を構える。

それに応じて、マミさんも銃を作り出す。

 

ちょ、いや、止めないと!

 

「前やった時はあたしが勝ったんだ、覚えてないのかよ?」

「前とは違うわ。それに、今回は朱音さんの為に戦うのよ?」

「それがなんだ?」

「他人の為にこそ、人は強くなれるのよ!」

「あぁ?やっぱりマミは分かって無いな」

 

でも、どうやって止めるの!?

 

「人ってのは「危ない!」うおっ!?」

 

えーと、えーと!

 

「お、おい、朱音!」

「朱音さん!何してるの!?」

 

何って、二人の喧嘩を止める為の案を考え…てて…

 

気付く。

 

マミさんが杏子ちゃんを押し倒して、こっちを見ている。

 

杏子ちゃんも驚いた顔をして、こっちを見ている。

 

わたしは、ナイフを持って、ナイフを振り切った姿勢をしてて、え?あれ?

 

~○~○~○~○~○~

 

 

 

 

 

あらら~…失敗しちゃった…どうしよ…仕方無いなぁ…少し…()()()()()()…お話…しようよ…謝るから…ねえ…わたし?…それとも…おれかな?…

 

 

 

 

 

~○~○~○~○~○~

 

言い合いをしてたら朱音さんが佐倉さんに斬りかかってきた。

 

「おい、朱音、何で…」

 

佐倉さんが呟く。それは私の考えを代弁していた。

まさか…そんな…騙し討ちするような子には見えなかったのに…。

 

と、何か様子がおかしい。

 

「?佐倉さん、静かに」

 

 カラン とナイフを落とし、朱音さんが地べたにへたりこむ。

 

「朱音…?」

「待って、何か呟いてるわ」

 

聞き耳を立てる。

 

「何で何で何で何でこんなことをしたのわたしはただ喧嘩を止めたかっただけなのにでも片方が居なくなれば喧嘩は止まるよでもそれだと意味が無いだって皆を助けるための願いだものいやそれを言ったらいやいやこれは触れちゃダメナイフナイフをナイフで斬るなんてそんなそんなそんなそんな」

 

「朱音…さん…?」

 

「でもでもでもこれが一番楽な方法なんだけどだからって暴力はいけないよだけど話を聞いてくれるような状況じゃ無かったしわたしが無理矢理止めようとすると二人の魔力を全部全部奪うことになるしそれでも他の方法はあるはずだしじゃあ教えてよいやでもそれはでもでもでも」

 

「おい…朱音…!」

 

「とにかく人を殺すのは駄目だよおかしいよでも魔女は殺してるよ使い魔も殺してるよあれも人だよあれは別あれは別なの救う必要があるのそれはおかしいじゃない魔女も使い魔も人も同じでしょ違う違う違う違うだからそのあの違うのとにかくとにかく人を殺すのは駄目だよおかしいよでも魔女は殺してるよ使い魔も殺してるよあれも人だよあれは別あれは別なの救う必要があるのそれはおかしいじゃない魔女も使い魔も人も同じでしょ違う違う違う違うだからそのあの違うの」

 

「朱音さん!!!」

「朱音!!!」

 

ビクウッと震える。

 

「あ…あ…ご、ごめ、ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

すぅ…と姿が薄くなり、見えなくなる。

 

「あ、朱音さん!?」

「ちっ、おいマミ!あたしは朱音を追う!マミさんは家に先回りして!」

 

佐倉さんが走り出す。

私は、まだ何が起こったのか理解が追い付いていない。

 

「何だった…の?」

 

呟いている時の朱音さんの、眼。

 

初めて会ったあの時みたく、深く、深く、濁っていた。

 

~○~○~○~○~○~

 

4/13(日)

金曜日から今日までの記憶がない。あと、日記も書かれていない。

何が起きた?何をしてた?何があった?

分からない。覚えていない。思い出せない。

…宿題やろっと。




本当は布団に潜って自問自答ってシーンも入れたかったけど、無理だった。主に投稿者のやる気の関係で。


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彼女は何を…?


サブタイトルに深い意味はないのよね。
サブタイトルなんて只の飾りです!(嘘

ふざけてると怒られっちゃうから。
それでは前回の終わりの次の日から、どうぞ。


学校には行った。けど、今日は魔女狩りはお休み。

それどころじゃ無いし。

日記が書かれてない空白の二日間。わたしは、何をしてたの?

 

「朱音!お客様よ~!」

「…え?はーーい!今いく!」

 

お客さん?誰だろうか…。

 

~○~○~○~○~○~

 

「お邪魔します」

「邪魔するよ」

 

まあ、そんな気はしてたよ。

来客はマミさんと杏子ちゃん。

 

「いらっしゃいませ」

 

何でだか、気まずい。何でだろう?

 

「へぇ、ここが朱音の部屋かぁ。…質素だな」

「そうね、ってそういう話をしに来たんじゃないでしょ佐倉さん」

 

だってさ、おれ。

なんだ、結局別々にしたいのか?

 

「なーんて」

「ん?」

「あぁ、こっちの話です。それより…」

 

二人の顔を見つめる。

 

「仲直りしたんですか?」

 

ギクッ

 

「仲直り、したんですよね?」

「と、当然じゃない!ね、佐倉さん?」

「も、勿論だ!じゃなきゃ二人で来るわけ無いだろ?」

「……仲直り、してないんですか…?」

「なんでそんな結論になるんだよ!」

 

ジトーッと見つめる。

 

「まあ良いですけど。良くないけど」

「どっちだ「しっ、佐倉さん。それで、そのぅ」

「多分」

「え?」

 

マミさんが言葉に詰まった様なので先に喋る。

 

「あの魔女は相手を暴走させる能力…いや、魔法を使えたんだと思います。あの魔女の最後、覚えてないですよね?」

「ん…言われてみれば…」

「誰が倒したのかしら…覚えてないわね」

「ですよね」

 

グラスからオレンジジュースを一口。酸っぱいけど甘い。

 

「魔女を倒した後、わたしが何をやったか、何をしたのか。実は分からないんですよ」

「…それって」

「マミさんたちが魔女を倒したのは覚えてる。マミさんと杏子ちゃんが喧嘩を始めたのも覚えている。そこから先。全く覚えて無いんですよ」

 

そう言うと、杏子ちゃんとマミさんが目配せをする。

 

「何も、無かったわ」

「馬鹿マミ。朱音は()()()()()んだ。自分が暴走したことを。何もない訳があるかよ」

「でも…!」

「あーあー、マミの言いたいことは分かる。朱音」

「何?杏子ちゃん」

「あの時何をしたかは…あんたは知らない方が良い。知ったところでどうにもならないしな」

 

杏子ちゃんは真剣な表情で言い切る。

暫し、お互いに見つめ合う。

 

「…分かった」

 

その事には、もう踏み込まない。振り返らない。

 

「……ふぃ~、緊張した。朱音ってば目力強すぎ」

「え、そ、そう?そうかなぁ~」

「………。…え、これで終わり?てっきりもっと何か、こう、ドロドロとしたドラマチックな展開になるかと…」

 

「マミさん、おばさん臭いです」

「ドラマチックの使い方間違ってねえか?」

 

「お、おば…!?な、ま、まだ私は貴女たちより一つ年上なだけです!小じわ一つ無いわよ!」

「その発言がおばさん臭いって言われてんだよ、マミ?」

「なっ……もうっ!」

 

プンスカと怒るマミさん。

ケラケラと笑う杏子ちゃん。

 

そんな平和な一時。

そっと呟く。

 

「わたしはわたし。おれじゃ、無い」

 

 

~○~○~○~○~○~

 

 

 

 

 

 

 

 

あらら…平和だね……それ私が欲しいな…美味しい……はあ…薄々とは気付いてるよね?…… わたしの中の…矛盾……おれの存在…()の存在…あと一つ……わたしは…おれは…気付いちゃいけない……矛盾…それは…

 

 

 

願いの矛盾

 

 

 

 

 

 

 

 

~○~○~○~○~○~

 

4/14(月)

マミさんと杏子ちゃんが遊びに来た。

さりげなく土曜日の事を聴こうとしたけど、教えてくれなかった。

曰く、知らない方が身のため、と。

過去を振り返らないでくれ、って事かな。

グリーフシードの在庫が無くなったから明日一杯魔女探しに行かなきゃ。

 

わた   無理    。皆 助ける   て。

 





文字数が奮わない。むぅ…。
ま、まあ次回は魔女バトルが入る筈だし可能性は有るから(震え声


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彼女は嘘を付く


うむ、なかなか執筆の手が進まない。
なんて言いながら今回のお話の3/4は一日で書いたものです。
何なんだかなぁ?

そんな程度のクオリティですが、どうぞ。



「うー、見つからないなぁ」

 

あんまり魔法を使いたくないから分身さえせずに、放課後まで待って一人で町を探索してる。

…なーんか、わたしに限ってグリーフシード要らない気がしてるけど。

 

「無いよりはマシだしなぁ。後々の為に二、三個は常に確保しておく必要があるし」

 

数分後

 

…駄目だ、見つからない。魔女結界が無い。

理由は分かりきってる。狩りすぎた。

要するに、魔女が近場に居ない。

 

と、なると……。

 

「見滝原市、行こうかな」

 

~○~○~○~○~○~

 

自転車お久し振り。てか、直ってたのね。知らなかった。

…そ、それどころじゃ無かったし(目剃らし)

 

「ふんふんふーん」

 

シャーッと自転車で坂道を下る。一番下まで来て、上りに変わる。

 

ん、やっぱり一度通った道じゃないと迷っちゃうしね。

 

 

 

 

 

ふぅ、疲れた。見た目よりよっぽど長い坂だった。

 

ん?前も同じこと思ったような…ま、いいか。

ここから~、こうして~、右右左~、少し進んで左~。

 

「はい、ここがまどかちゃんの家です。今日は通り過ぎまーす」

 

ちらっとまどかちゃんが見えた気がしたけど、多分気のせい。

そこから進んで見滝原中学校へ。

特に魔女結界が見当たらないので次は…公園へ。

 

「ん、あったあった」

 

公園の滑り台の下。分かりにくいけど、魔女の結界が張ってある。

 

「ここだと誰も来ない気がするけどなぁ」

 

と、小学校低学年ぐらいの男の子が話しかけてくる。

 

「お姉ちゃん、何してるの?」

「んー…世界の平和を守ってるの」

「へー、かっけえ!」

 

時間が時間だけに、子供たちやそのお母さんたちがたくさん居る。流石にこのど真ん中で変身する気は無い。

 

「じゃあさ、なんでこんなところに居るの?世界には困ってる人がたくさん居るってアニメでやってたよ?」

「それはねー、えーと……困ってる人っていうのは前世で悪いことをしたからなんだ。だからわたしには助けられないの」

「んー?」

「君には少し早すぎる内容かもね?」

「む、知ってる。それ、大人ぶったお姉ちゃんが子供に言う言葉だ」

 

…最近の子供は、何て言うか、ませてるなぁ。

確かに誤魔化そうとしたけど。

 

「僕を子供扱いするなんて、許さない!お母さんに食べられちゃえ!」

 

ドンッ!

 

「え?」

 

男の子に突き飛ばされて、魔女結界の中へ。

 

「えっと?」

 

「お母~さ~ん!!!」

 

男の子の大声に誘われ、使い魔が現れる。

 

「っ!?」

 

慌てて変身。

…どう言うこと?男の子が使い魔を…いや、しかし。

 

「うわぁっ!すっげえ!お姉ちゃんが変身した!」

「ふふん。言ったでしょ?わたしは世界の平和を守ってるのよ!」

 

言いながら、右手のナイフを振る。

エプロンを着た保母さんみたいな使い魔を切り捨てる。

 

「あ~~!!!」

「な、なに?」

「よくも僕のお母さんを!許さない赦さないユルサナイ!」

 

使い魔が男の子の影から溢れ出てくる。

 

「オネエチャンナンカシンジャエ!」

「うわっ!」

 

使い魔が注射器やらロボットのオモチャやらレンガ等を投げつけてくる。

距離を取って避ける。

 

「ナンデニゲルノ!?オネエチャンハ世界の平和を守ってるンジャナカッタノ!?」

「痛いとこ突いてくるなぁ……残念!わたしはわたしなのだ!」

「ワケワカンナイ!シネ!」

 

ジェンガを避ける。

むう、男の子が魔女なのか?だとしたら…かなり詰んでるんだけど。

 

「戦略的撤退!」

 

『無し無し結界』で体を包む。これで男の子からはわたしの姿は見えない筈だ。

 

「!?――――――、――――!――――……――――――……」

「うわ、泣き出した」

 

『無し無し結界』のせいで何を言っているのかは分からない。けど、流石に気がとがめる。

 

……いや、待てよ?先に魔女を探そうか。

 

いや、でも…うーん。そうだ。

『無し無し結界』を解除。

 

「君、名前は?」

「うぅ……たくや」

「ふむ。たくや君、かくれんぼしましょ?鬼はたくや君ね」

「え…?」

 

『無し無し結界』発動。泣き顔よりはマシだよね?

 

~○~○~○~○~○~

 

居た。魔女だ。広い公園のような場所の中心に座っている。見た目は等身大のお母さんって感じ。

 

「あー!オネエチャンミツケタ!」

「あ、見付かっちゃった」

 

うーん、やりにくいなぁ。たくや君、この魔女の事をお母さんって思ってるみたいだし、魔女もこっちを見守るだけで攻撃してこないし。

 

「じゃーあー!次は僕が隠れるね!」

「うん、分かった」

 

たくや君の姿が掻き消える。…探せと。

 

「むー。何処だ~?」

 

この魔女について考察してみよう。と言っても、ろくな情報が無いから意味ないかも知れないけど。

 

取り合えず母親の魔女と名付けます。

使い魔は保母がモチーフっぽい。

そして、魔女結界の中にいるたくや君を襲わない事から、たくや君のお母さん…或いは、親戚、知り合いだったのかも知れない。

 

人妻魔法少女…凄い。

 

何が凄いって魔法少女なのに()()()()()()事だ。

…いやまあ、違う可能性のが高いけど。

 

「あ、見付けた」

「あー見付かっちゃった。…かくれんぼ飽きた。ねえねえ!次は何して遊ぶ?」

「んー、鬼ごっことか?」

「いいね!ジャア、オネエチャンが鬼ね?」

「えー?そこは公平にじゃんけんしようよ」

「……しょうがないなー」

 

この魔女を倒すにしろなんにしろ、たくや君の存在がネックになる。

杏子ちゃんだったら無視して魔女を攻撃するかも知れないけど、最早わたしにも、おれにも無理。情が移っちゃった。

 

「ヤッタァ!勝った!」

「う…むむ……」

 

どうするかーマジどうしよっかー。

多分、倒すだけなら簡単。見た感じ、身体は人間の物とほぼ同じみたいだから、心臓をひとつき。或いはわたしが触れるだけで消える。

即物的な危険が無いから、こうして遊んでられるんだけど…

 

「タッチ!」

「うわ、速い!?」

「ふふん、人生最高期舐めるな」

「うぅ…じゃあ、十秒数えるよ!」

「はいはい」

 

良いシナリオが思い付かない。このままだと、その内他の魔法少女がやって来て、魔女を倒しちゃう。

 

「タッチ!オネエチャンオソーイ!」

「むむむ…」

 

…そうだ。多分、それしかない。

 

 

 

 

たくや君に、真実と向き合ってもらおう。

 

 

 

 

「…ねぇ、たくや君」

「ん?なぁにオネエチャン」

「お母さんの事、好き?」

「うん!」

「…そっか」

 

あぁ、辛いな。これは、かなり、辛い。

 

「じゃあ、たくや君は、わたしの事を恨んで良いからね?」

「え?」

 

走り、ナイフを出し、魔女の首を切り裂く。

魔女の抵抗は、無かった。

 

「ごめんなさい。こうするしかなかったの」

 

魔女に…名前も知らない魔法少女に謝る。

 

「!?オネエチャン…?」

「……ごめん、少し寝てて?」

「え?っ!?」

 

ナイフの柄で首の後ろを強く叩く。

ぐったりと倒れたたくや君を担ぎ、魔女結界の外へ。

 

~○~○~○~○~○~

 

グリーフシード回収。外は夕方になっていた。

 

「ん…んん…」

「…起きた?」

「…お姉ちゃん……!お母さん!お母さんは!?」

 

あぁ……魔女に洗脳されていた方がよっぽど楽だったのに。洗脳されている事を望んでたのになぁ。

その方が楽だっただろうに。

 

「…お母さんって、あの魔女の事?」

「お母さんは魔女じゃない!お母さんをどうしたの!?何処にやったの!?」

「…そうだね、たくや君のお母さんは魔女じゃ無かった。よく聞いて?たくや君のお母さんは、もう此処には居ないの」

「嘘だ!嘘つき!お前がお母さんを隠したんだろ!」

「ううん、お母さんは居なくなったの。隠れた訳じゃ無い」

 

そう言うと、たくや君はわたしを殴ってきた。

 

「やだ!やだやだやだ!お母さんを返して!返してよ!」

 

身長差のせいか年の差か、痛くない。けど、痛い。

 

「わたしには出来ないの」

「お姉ちゃんは世界の平和を守ってるんでしょ!?僕のお母さんを返してよ!」

「わたしは守るだけ。無くした物を戻すことは出来ないの」

「嘘つき!嘘つき!嘘つき嘘つき!嫌い嫌いお姉ちゃんなんて大嫌い!あっち行け!」

 

言われた通り、公園から出ていく。

 

「うわぁぁぁぁあん!お母~~さ~~ん!うあぁぁぁぁ!」

 

男の子の泣き叫ぶ声がずっと響いていた。

 

 

 

 

 

4/15(火)

 

たくや君は迷子扱いになっていたらしく、偶然通りがかった警察に引き取られていった。

他の方法は無かったのかな?

わたしにも、おれにも、分からない。

 





後味わりぃ…。

でも、まどマギ自体がこんな雰囲気なんだよなぁ確か。
全く、鬱々としてるね。


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彼女はライバルに何を見る


朝っぱらからの投稿です。
朝御飯食べてない内にこれ書いてるので、まえがき、あとがき、及び本編ラスト十数行がおかしいかも?

気にしなくても良いので、どうぞ。



4/16(水)

水曜日の学校の授業は他の曜日に比べて一時間だけ早く終わるから、颯爽と魔女狩りへ!

と、行くはずだったんだけど、先生に部活入れーって言われた。

確かに部活決めて無かったな。どうしようかと考えた結果、今にも潰れそうな「文芸部」に入った。

変な先輩方が居た。

 

 

 

4/17(木)

わたしは分身して魔女狩り。おれは先輩方の無茶ぶりをこなす。

 魔女狩りは順調。今日はマミさんと一緒にタワーの魔女(命名わたし)を倒した。

 先輩はなんかお題を決めて小説を書くと言うもの。慣れてないと言うのもあって辛かった。

ちなみにお題は『洗濯機』『ブランコ』『恋』

 

 

 

4/18(金)

学校の友達が家に来た。危うく魔法少女の姿を見られるところだった。

危ない危ない。

ポケモン意外と楽しいね。ゲーム買おうかなぁ?

魔女は良い感じに倒している。けど、そろそろ見滝原市でも魔女が見付けづらくなってるね。

 

 

 

 

~○~○~○~○~○~

 

 

 

学校おやすみです!

よって!魔女狩りです!

 

なんだけど。

 

「そろそろ見当たらなくなってるんだよねー。どうしよっかな」

 

見滝原市の魔女はそれなりに残しておかないといけないしなー。

 

あ、そうだ!杏子ちゃんの所に行ってみよ!

えぇと、風見野市だったかな?

 

うーん…見滝原市挟んで反対側だし、少し遠いか。いやでも、休日ぐらい良いかな。

 

「それじゃあ、行ってきます!」

「暗くなる前に帰ってくるのよ?」

「はーい!」

 

おれとしては、不審者に襲われて病院行きにまでなった娘をこうも簡単に外に出すかねぇ? と不思議でならない。

諦めてるのか、気にしてないのか、それとも、魔法のせいか。

 

まあ、わたしとしては都合が良いけどね。

 

「わたしはわたし。おれじゃない」

 

呟き、自転車をこぐ。向かうは一度も行ったことの無い、風見野市!

 

 

 

 

と、意気揚々と自転車をこいでいたんだけど。

 

「退いてくれない?」

「嫌よ。私のリベンジを受けてくれるでしょう?」

 

目の前にはいつぞやの魔法少女。あの、お嬢様じみたいけ好かないあいつだ。

 

「わたしは今から風見野市まで行くの。だから退いて」

「あ~らあらあらあら。ま さ か 私に恐れをなして逃げるのかしら?」

「違うけど?」

「全くそれならそうと言ってもらわないと。で、も、ね?」

 

わたしを指差す。

 

「アンタのせいで最近魔女が見付かりにくくなってるのよ。ここら辺は私の縄張りなのよ?荒らしているアンタを成敗しますわ!」

「ごめんなさい。魔女見当たらないよね、うん」

「キーーーッ!その余裕の態度!崩してさしあげますわ!」

 

少女がパチンッと指を鳴らすと、地面からわらわらと泥人形が出てくる。

はっきり言ってグロい、キモい。

周りに一般人が居なくて良かったよ。

 

ん?もしかして目の前の少女が人払いしたのかな?

 

「はぁ、ま、別に良いか」

「行きなさい、私の騎士(ナイト)たち!」

「あー、めんどくさいな」

 

少女がランスを振り上げると、泥人形が突撃してくる。

自転車を脇に移してから、変身。

 

「はっ!」

右手の裾からナイフを取りだし、先頭の一体を切り捨てる。

 

ふむ、泥人形は大体三種類に分けられそうだ。

 

「突撃兵、重装兵、弓兵かな?」

 

突撃兵の槍をナイフで払いのけ、左手で殴り付ける。

 

「うげっ、泥が手についた。汚ない」

 

呟く間もナイフは閃き、次々に泥人形の首を落としていく。

 

重装歩兵(ホプリテス)、前へ!弓兵(アーチャー)、撃てぇ!」

「げ」

 

突撃兵をあらかた倒したのに、まだ沢山泥人形は居る。

大きい盾を持ったごつい人形がザッザッと歩いてくる。プレッシャーが酷い。

しかも、その上から矢が降り注いでくる。

 

手をかざし、矢を吸収してみる。

 

「うわぁ、泥は残るし」

 

つまり、彼女の魔法は『泥に魔力を注ぎ、自由に動かす』みたいな感じかな?

わたしは魔力を吸収出来るけど、それ以外の物体は吸収出来ない。

 

まあ、泥だけなら痛くは無いな。かゆいけど。

 

「オーッホッホッホ!良いざまです事!似合ってますわよ?」

「ちっ糞が」

 

おっといけない。口が悪いね。

全身泥まみれになりながらもそっと呟く。

 

「わたしはわたし。おれじゃない」

 

良し、反撃のお時間だ!

 

「うりゃあぁぁ!」

 

重装兵に単騎突撃をかける。

わたしが触れると泥人形はたちまち崩れていく。

泥だらけの体で少女へ向かう。

 

「な、なぁ!?」

「汚 れ て し ま えぇーーーー!」

 

弓兵を払いのけて、少女に抱きつく。

 

泥だらけの状態で。

 

「ギャーーーーッ!?や、やめ、離しなさいよ!」

「え、話せ?昔々、あるところに」

「そうじゃなくてーーーー!!!」

 

後ろで泥人形が全て崩れる。

 

「どうだ、参ったか!」

「参った!参りましたわ!ですから離して下さいーー!」

「ふん、わたし相手にふんぞり返るからだよ!」

 

離してあげる。

 

「う、うぅ…服が、服がぁ…」

「わたしとお揃いね。『似合ってますわよ?』」

「う…う……ふえぇぇぇん…」

「!? え、ちょ、おま」

「ふえぇぇぇぇん…馬鹿ぁ……」

 

泣き出してしまった。う、ど、どうしよう、どうしよう!?

 

~○~○~○~○~○~

 

「二人揃って泥遊び? 良い年して何してるのかしら、全く」

「いやその…ごめんなさい」

「そ、その、お風呂を貸していただき、ありがとうございます」

 

わたしの家。

泣き出しちゃった彼女の手を引いて帰ったよ。

結局、風見野市へは行けなかったなぁ。

 

「貴女、お名前は?」

「私は小崎 鈴音ですわ」

「鈴音ちゃんね? おうちの電話番号って分かるかしら?」

「えっと…覚えて無いです、わ」

 

鈴音ちゃんって言うのか。変身している時は分からなかったけど、わたしよりも小さいね。

 

「そう…おうちは近くにあるの?」

「はい」

「そう…朱音」

「なに?お母さん」

「送っていってあげなさい」

「え゛」

 

マジで? この子と? 家まで一緒に?

 

「泥遊びするほど仲が良いんでしょ? お母さん、朱音にお友達が出来て嬉しいわぁ」

「う、うぅ」

「だ、大丈夫ですわよ? 私、一人で帰れますもの」

「良いから良いから」

「で、でも」

「 良 い か ら 」

 

泣く子と親には勝てなかったね。うん。

 

~○~○~○~○~○~

 

鈴音ちゃんの家の前で立ち止まる。

 

「うわ。でか」

 

鈴音ちゃんの家、でかい。まさか本物のお金持ちの子だったのか。

流石に上がらせてもらう訳にはいかないな。せめて服装をしっかりしたい。

 

「か、勘違いしないでよ! 別にアンタに家を教えたかった訳じゃ無いですわ!」

「うん」

「アンタとお友達になった訳でもありませんわ!」

「そうなの?」

「当然ですわ!」

 

あれだ。

鈴音ちゃん、ツンデレ。可愛い

 

「…何でニヤニヤしてるんですの?」

「べ~つに~?」

「なんなんですの!? 教えなさいよ!」

「え~? どーしよっかなー」

「キーーーッ! 教えなさい!」

「分かったからそんなに怒らないの」

 

ポンポンと鈴音ちゃんの頭を撫でる。

 

「可愛いなぁ~」

「は、はい?」

「だから、思ったより可愛いんだなぁって」

「う…ぁ…」

 

照れてる照れてる。

この子とは気が合わないと思ってたけど、それはあくまで同年代だと思ってたからだ。

わたしより小さいなら、むしろ駄々っ子可愛いになる。

 

「それじゃあ、またね? 鈴音ちゃん」

「……ええ、また、会いましょう。朱音さん」

 

 

 

~○~○~○~○~○~

 

 

 

4/19(土)

鈴音ちゃん可愛い。あ、鈴音ちゃんって言うのはお嬢様みたいな女の子の事で、前に一度戦った事がある。

今回は泥人形を魔法で作り出し、攻撃してきた。

わたしの弱点は、魔法で造られていない物は吸収出来ないってことだね。

 





オリキャラその2 鈴音ちゃん。ツンデレお嬢様。
使う魔法は『泥人形を生み出し、戦わせる魔法』と『???』。
うわーなんだろなーきになるなー(棒)


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彼女は連れられて

お気に入り21件、嬉しい!

チラシの裏なのに結構読んで貰えてる!

執筆の手が軽い!

もう何も怖くない!

綺麗にフラグを立てたところで、どうぞ。


4/20(日)

宿題忙しい。分身して二人がかりでやっていったんだけど、それでもそれなりに時間を取られた。

そのせいで今日は一日家で過ごした。

あれだね。朝の内にやっておけば良かったね。

 

 

4/21(月)

おのれ宿題~!

 

 

4/22(火)

体育キツイね。

いやまぁ、魔法を使えばいくらでもってとこではあるけど、わたしはね、ほむほむみたいに分かりやすくする必要が無いからね。

むしろ、ほむほむがわざわざ体育で県内トップをとった理由が分からないけど。負けず嫌いだったのか、それとも気にして無かったのか。

 

 

4/23(水)

魔女狩りは順調に進んでるよ。一日一匹倒してるから、グリーフシードは合計六個。20と21で魔女狩りに行けなかったのがなぁ。仕方無いけど。

 

 

4/24(木)

何となく日記を見返してたら書いた記憶の無い言葉が書かれていた。

何なんだろうか。どことなく、わたしにとって嫌なことを書こうとしたんだろうって気がする。

 

 

4/25(金)

魔女……見付からなくなっちゃったな。

本当は喜ぶべき事なんだけどなぁ。

 

 

~○~○~○~○~○~

 

ピンポーン

 

魔女が増えるのを待つ為に、今日は家でノンビリするよ。

で、誰が来たんだろうね。どうせ新聞の勧誘か何かだろうけど。

 

「朱音~。鈴音ちゃんよ~」

「はえ?」

 

鈴音ちゃん? 朝から一体何なんだろう。

 

「今行く!」

 

さて、パジャマから着替えてっと。

 

「はいはいはいはい、待った?」

「外で待ってるわよ。中で待っててって言ったんだけど、断られちゃったわ」

「分かった」

 

外へ出る。

 

「おはようございますわ」

「おはよう。…『ございます』に『わ』は合わないと思うよ?」

「良いのですわよ。さ、こっちに来てくださいまし」

「あ、うん。行ってきます!」

 

取り合えず家に向かって怒鳴っておく。

鈴音ちゃんに腕を引かれつつ歩く。

 

「腕を掴まなくても良いんだよ?」

「良いから」

 

……この子、本当にわたしより小さいの? いやまあ、わたしより魔法少女歴は長いんだろうけど。

 

「何処に向かってるの?」

「……本当に、本っ当に嫌々ですし、心苦しいですわ」

「え?」

「だから、先に謝っておきますわ。わたしの両親がすみませんでしたわ」

「は、はい?」

 

着いた先は、鈴音ちゃんの家。…なんだけど。

 

「何だか、ものものしいね」

 

前に鈴音ちゃんを送ってあげた時とは違い、お出迎えのメイドや執事が門から玄関までずらっと並んでいる。

そして、玄関先に大きい男の人とほっそりした女の人が立っている。

 

「御父様、御母様、朱音さんをお連れいたしましたわ」

「えーっと、はじめまして。本庄 朱音と言います」

「朱音ちゃん、かね? いやすまない、少々耳が遠くてね」

 

取り合えず挨拶したら鈴音ちゃんのお父さんが話し掛けてくる。

がっしりしてて少し怖いけど、話してみるとなかなか良い人そうじゃないか。

 

「私は、小崎 竜一(りゅういち)。こちらが、妻の純香(すみか)だ」

……ふんわたくしの娘と遊んでくださり、ありがとうございますわ」

 

う わ ぁ 。

分かる。オタクチックだったとはいえ、前世でサラリーマンやってたおれだから分かる。この人、他人……わたしを見下してる。

にしたって、ここまで露骨に顔に出す人初めて見た。

 

「いえ、えっと、どういたしまし…て?」

「さてさて、折角うちに来たんだ。鈴音のお友達をもてなさせてもらおうか。お前たち」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「美味しいクッキーと紅茶を用意してくれ」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

~○~○~○~○~○~

 

鈴音ちゃんの部屋。広い。

 

竜一さんは「子供の話に親が出るのは無粋だろう」と言って、純香さんを連れて部屋から出ていった。

 

目の前の机にはかなりの量のクッキー。それとベンザ……じゃなくて、なんだったかっていう紅茶。

 

「まあ、つまり、『朱音ちゃん、あーそーぼっ』って事で良いのかな?」

「むしろ、『娘に彼女!? 一大事だ!』の方が近いですわ」

「あー、成る程。よくそんな言葉知ってるね?」

「えぇ、まぁ」

 

うーん、メイドさんがひっそりとたたずんでいるから魔法少女関連の話がしづらい…というか、出来ない。

出来なくは無いけど、鈴音ちゃんが分かるかなぁ。

 

「ねぇ、それでさ、鈴音ちゃんの『お願い』ってなんなの?」

「はい?」

「ほら、結構前に言ったじゃん。えと、『さあ、君の願いを』…なんちゃらって」

 

分かってくれ。多分分かるはずだよね?

 

「え。それは…その…」

「あーいや、言いたくないなら良いんだよ? 無理して聞くことでもないしさ」

「……。………ですわ」

「え?」

「私の願いは、『お友達が欲しい』、ですわ」

「……そっか、良かったね。叶ったよ、願い」

 

クッキーを1つ、口に入れる。おぉ、美味しい。

 

「本当に?」

「え?」

「いえ、何でも無いですわ」

 

これは何かあるな。それじゃあ。

 

「ふーん? あ、メイドさん」

「何でしょうか」

「紅茶のお代わりってありますか?」

「はい。ただ今お持ちしますね」

 

メイドさんが部屋から出ていく。

 

「さて、これで少しの間わたしたち二人っきり。で、どういう懸念が?」

「・・・言わなきゃいけないの?」

「別に。言いたければ言えば良いんだよ。言いたくないならいいし」

 

結局は鈴音ちゃんの問題だしね。

 

「これは持論だけど。魔法少女は誰しも心に闇を抱えていると思うんだ。まぁ闇が無い人間なんて、人じゃないとは思うけどね」

「なら、朱音さんはどんな闇を?」

「それはねぇ……うーん、複雑だからヒントだけね」

 

わたしはわたし、おれじゃない。

 

「…それが、ヒント?」

「そう」

「難しいのね」

「簡単だと詰まらないでしょ?」

「まぁ、そうですわね」

 

メイドが戻ってくる。

ありゃ、結局ほとんど話せてないじゃん。

 

と、突然のカミングアウト。

 

「御母様は、私を嫌っているの」

「うん。そんな気がする」

 

わたしがあっさり返したせいか、少しだけ驚いてるね。

 

「えっと、私は養子だから、御母様は私の事をゴミ扱いするの。ゴミが喋らないで――って」

「うわ、それは酷い。お父さんの方は?」

「御父様は優しいけど、お仕事で何時もは居ないから。今日は偶然お休みだけど…」

「ふーん」

 

ていうか、養子だったのか。養子とか今でも居るんだね、初めて知った。

 

「湿った空気は苦手だし、外で遊ぶ?」

「服が汚れてしまうわ」

「子供は風の子だよ。ほら!」

「あっ、ちょっと!」

「外弁慶の内地蔵。地蔵様も良いけど、一緒に居るのなら弁慶の方が頼もしいってね!」

 

腕を引っ張り、広い庭へ・・・行くまでに十分かかったんですけど広すぎませんか、ここ。

 

「かくれんぼは詰まんないし、鬼ごっこもなぁ。砂場は流石に無いみたいだし」

「ちょ、ちょっと!」

「んーーー、『無し無し結界』でも張る? いやでもその為には変身しなくちゃいけないし」

「だから」

「そうだ、脱走劇でもしてみる? わたしが居るから安全だよ!」

「何がですか!」

 

鈴音ちゃんが悲鳴のような叫びをあげたので流石に一旦止まる。

 

「はぁっ、はあっ」

「……」

「はあっ、ふぅ~」

「……」

「……え、何で急に黙るんですの?」

「……」

「ちょっと、ねぇ」

「……」

「あ、あの? 朱音さん?」

「……」

「あぁ…あの…」

「……」

 

あ、ちょっと泣きそうになってる。意地悪しすぎたかな?

 

「すずねちゃ」

「やっぱりその子も駄目だったのね」

「?」

 

声をかけようとしたら何故か純香さんの声が聞こえてきた。

多分、わたしの後ろに居るのかな。

何だろう、今わたしは動いちゃいけない気がしてる。

 

「御母様…」

「全く、これだから貴女には友達が出来ないのよ」

「…っ!」

「ふん。わたくしを睨んでも貴女の魔法とやらは解けないわ」

「お、御母様に、朱音さんの何が分かるのよ!」

「知らないし、知りたくも無いですわね」

 

そう言うと、後ろから私の肩に手を置く。

 

「…あら。ふぅん」

 

うわっ、引き倒された! 頭に石が当たらなくて良かった。

 

「えと、急に何ですか?」

「!? 朱音さん、朱音さん!?」

「そうだよ、鈴音ちゃん」

 

何故か鈴音ちゃんが抱き着いてくる。

 

「朱音さん朱音さん朱音さん朱音さん!」

「えっと…? うん、わたしはここに居るよ?」

「…朱音さん、だったかしら?」

 

純香さんが見下ろしてくる。

 

「少し、二人でお話しさせてもらいたいのだけど」




何か、これ書いてたら区切りが上手く付けられなくて長くなった。気がしてるだけ。

鈴音ちゃんはどんな闇を抱えているんでしょうね。
あなたの、闇は?


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彼女はそれでも

ふう、書き終わった。

前回からかなり間が空いた感じがしてたけどそんなことは無かったぜ!

更新を待っていた方々、それではどうぞ。


「それで、お話って鈴音ちゃんの事ですよね?」

「えぇ」

 

ところ変わって鈴音ちゃんのお母さん、純香さんの部屋。暖炉の中で火がパチパチ弾けて……ってこの時代に暖炉ですか!?

 

「いやまぁそんなに驚くことじゃないね。それで、お話ってなんですかっていうのも聞きましたし……えと、どうぞ」

「鈴音は養子、というのは」

「聞きました」

「そう。あの子は…いや、その前に。私は子供を産めない体質だったのです」

 

純香さんは真顔で話す。

 

「あの子を養子にしたときは、嬉しかったんです」

 

そこから、純香さんはせきをきったように話し始めた。

 

「私に子供が出来た。お腹を痛めた子ではないけど、それでも私の子供です。まだ貴女も子供ですから分からないかも知れませんけど、『子供が出来る』ということは存外嬉しいものなのです」

「はい」

 

いや分かる、とは言わない。

わたしは言われた通り子供だし、おれは子供こそ居たものの、女としての『嬉しさ』は分からない。

おれが居ようとわたしであろうと分からない事はある。

 

「しかし、あの子は、悪魔の子でした。あの子が養子に出されたのにはそれなりの理由があったのです。……魔法少女、というものを知っていますか?」

「はい。……でも何故、あなたがそれを?」

「あの子自身から聞きました。悲しい話です。あの子はただ、友達が欲しかっただけなのに」

 

やはり、デメリットがあったのか。

 

「あの子と親しくなった者はすべからず不運に会いました。それも老若男女問わずに、です。

 ある子はあの子と遊んでる際に病院送りになりました。

 ある老人はあの子と親しくなった次の週にお亡くなりになりました。

 ある教師はうちの家庭訪問の帰りに交通事故に会いました」

「……それは」

「あまりにおかしいのである日、あの子に聞いたのです。そしたら、魔法少女の事を教えてくれました。あの子の願いを。それと、彼女の両親の末路を」

 

聞きたくない。聞きたい。聞く気にならない。

 

「詳しくは言いませんが、死ぬより辛い目にあっているらしいです」

「そう、ですか」

「その日から、私達はあの子を出来る限り避けるようにしました。常に一緒に居る私は、あの子を目の敵にして。あの人は、なるべく家に帰ってこないようにして」

「でも、鈴音ちゃんはお父さんは優しいって」

「ふりです。心の中では、きっと『悪魔の子め』とでも思っている筈です。そう思うように教えましたもの」

「……!」

 

なんて、なんて、狂ってる……いや、違う。これは、きっと、

 

 

「それが、貴女の鈴音ちゃんへの愛情の示し方、ですか」

「さげずんで貰って結構ですわ。ですが……」

 

純香さんが立ち上がり、わたしの手を握ってくる。

 

「お願いです。あの子から、離れて頂けますか。今はまだ大丈夫でも、いつか必ず貴女に不運が訪れますわ」

「ごめんなさい」

 

即答する。

 

「……何故、ですか?」

「友達だからです。その程度じゃわたしは退きません」

「……」

 

見つめ合う。わたしは純香さんに自らの意思を伝えるために。純香さんは、きっとわたしの意思を確かめるために。

 

「どうしても、ですか?」

「はい。不運程度なら、わたしが吸い取ってあげます」

 

純香さんは改めて椅子に座った。

どうやら、説得を諦めたみたい。

 

「……貴女は強いのですね。私は、あの子よりも自らの命を選んでしまいました。ずっと悔いていました。本当にこれで良かったのか。もっと他の方法は無かったのか」

「多分、純香さんは間違って無いです。魔法少女の問題はただの人間が解決するには難しすぎます。だから、わたしに任せて下さい」

「えぇ、あの子を、あの子をお願い致します……!」

 

~○~○~○~○~○~

 

中庭に戻ったらいきなり抱き着かれた。

 

「朱音さん! 大丈夫ですか毒を盛られたり殴られたり蹴られたり叩かれたり悪口を言われたりされていませんか!?」

「だ、大丈夫だよ」

 

仕方無いとはいえ鈴音ちゃんの中の純香さんのイメージが酷い。

 

「まあ、思ったよりは良い人だったよ」

「はぁ!? 何を仕込まれましたの!?」

 

鈴音ちゃんがわたしの顔をペタペタ触ってくる。

 

「ちょっと、くすぐったいよ」

「毒……じゃ無いみたい。ならお香? それか……変な事を吹き込まれましたね!?」

「被害妄想が過ぎる!?」

 

その後、鈴音ちゃんを静めて一緒に遊んで帰った。

楽しかったよ。うん。

 

 

 

 

4/26(土)

鈴音ちゃんとお友だちになった。親公認だよ!

そう言えば今日も魔女狩りしなかったなぁ。

まあ楽しかったから良いけどね。




最近スマホの充電の減りが速いです。
あーやだやだ。

てか、そろそろホムホムループ起点(あるいは終点)まで進んでますねぇ。
……ん? オリジナルキャラばっかり出てる?
・・・・・・あ。


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彼女は遊べない

投稿期間開きすぎちゃってます。
お久しぶりです。

それで、今回はリハビリがてらに短めです。
いやぁ、なかなか良い言い訳ですね。

では、どうぞ。



魔女狩りしなくちゃなぁ。

 

そんな事を考えながら宿題カリカリ。

 

とはいえ、グリーフシード自体はそこそこ残ってるしなぁ。

 

カリカリ。

 

……ん、ここなんだっけ。えーと。あぁ、はいはい。

 

カリカリ。

 

「終~了~!」

 

まだぎりぎり簡単だね。分かんなくなったら教科書見れば良いし。

次の(中学初めての)テストはいつだっけ?

 

「あ・か・ね・さーん!」

「この声は」

 

窓から顔を出す。

 

「あそびましょう!」

 

うん、やっぱり鈴音ちゃんだ。タイミングが良いね。

 

「お母さん、出掛けてくる!」

「何時に帰ってくるの?」

「暗くなったら!」

 

軽く誤魔化して走り去る。腕時計持ってないしねー。

 

「おはよう鈴音ちゃん」

「おはようございますわ、朱音さん」

 

わたしは薄い長袖にジーパン。長袖は赤地に白で英語が書かれてるパンクスタイル、だっけ? 鈴音ちゃんはお嬢様らしくゴスロリ、ゴスロリ!?

 

「ま、間近で見ると思ってたより凄い格好だね」

「まったくですわ。朱音さんみたいな服のが良いのに。早く中学生になりたいものですわ」

「でも土日に関わらず制服でいろっていう中学もあるしねぇ。場所によると思うよ?」

 

言うまでもなく見滝原中学校のことだね。

つらつらと喋りながらのんびり歩く。

と、前から見慣れた人影が。

 

「明子ちゃんおはー!」

「お、あかねん。こんにちはだけど?」

 

ニヤニヤしながらハイタッチしてくる。当然それに応じる。

 

「んで、そこのゴスロリコスのお子さんはあかねんの子供?」

「何でよ!? この子は友達の鈴音ちゃん。鈴音ちゃん、こっちのお姉さんは明子ちゃん」

 

紹介するも、鈴音ちゃんは警戒心剥き出しで睨んでいる。

 

「おりょりょ? 嫌われちゃったかな?」

「……ふん、わたくしは俗物なんかとは友達にはならないのですわ」

「うっわ、なに? そういうキャラなの? 残念だけどあたしよりかあかねんの方が俗物だけど?」

 

あ、やべ、そういや明子はそこそこけんかっぱやいんだった!

鈴音ちゃんも喧嘩を売られたら迷わず買うような性格だし……。

 

「朱音さんを、」「まあまあほらほら早く行かないと! それじゃあまた明日ね明子ちゃん!」

 

鈴音ちゃんの手を繋ぎ脱兎のごとく逃げ出す。

悪いな明子、おれのその場しのぎの実力を、貴様ではまだ越えられない!

 

 

~○~○~○~○~○~

 

 

「何処へ行くんですの?」

「見滝原市。ちょっと遠いけどね」

 

正直、徒歩で行ける距離じゃ無い。けどまぁ、変身すればどうにかなるよね、うん。

 

「こっちこっち」

「? 路地裏……ああ、成る程」

 

鈴音ちゃんも分かったみたい。二人でこっそりと変身。

すぐさま『無し無し結界』を張る。

周りの色が無くなり、耳に痛い程の静寂が訪れる。

 

「鈴音ちゃん、じゃあこっちに……!?」

 

路地裏から出ようと後ろを向いたのは偶然か? 必然だ。

ならば()()を見付けるのも必然だったのか。

 

 

 

路地裏の出入口。明子がこっちを見失いキョロキョロしている姿があった。

 

 

 

「……。………!」

「あ……どうしよう……」





……どうしましょうか。

……展開をどうしようか。

……どうにかなるでしょ。


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彼女は諦める?

お久し振り……ってほどでも無いですかね?


まどマギ……まどかもほむほむも、もうちょっとしたら多分出てきますよ。多分。

今回は杏子だけで我慢してください、どうぞ。


「えっと……良いんですの?」

「んー。正直、後が怖いかな」

 

明子ちゃんは魔法少女(こ っ ち)の事は知らなくて良いから、こう、ナイフの柄の部分で首筋をガンッと。

 

あー。明日の学校行きたくねーなー。追及が面倒くさそうだなー、なんて。

 

「そんなことより、魔女結界見つかった? 使い魔でも良いけど」

「いえ、今のところは全く。……あの女さえ居なければ今頃は見滝原市でしたのに」

「まぁ計画通りにいかないことなんて幾らでもあるし。……近場で済まそうかって感じになるのはおかしいと思うけどね」

「ですわ。そもそも近場に居ないから遠出しようとなった筈ですけど」

 

変身は結局解いて、歩いている。わたしは変身を解かなくても別に良いんだけど、鈴音ちゃんに悪いしね。

あー、本当に明子ちゃんに尾行されてたのは辛かった。

 

「……どこまで見られてたのかなぁ」

「さぁ? 考えても分からないのですから、本人に聴くしか無いですわ」

「それしかないのかぁ……!」

 

わざとらしく頭を抱えて呻いてみせる。

 

「おっ! よー朱音!」

「ん、この声は杏子ちゃん!」

 

前を見ると杏子ちゃんが。

 

「なんだなんだぁ? 朱音が弟子を取るのは二百年早いんじゃねぇか?」

「いやなに言ってるの? 鈴音ちゃんは友達だよ。 鈴音ちゃん、この人は杏子ちゃんって言って、わたしが魔法少女になるきっかけとなった人だよ」

「…………つまり、良い人?」

「まぁ、そうかもね」

「おいかもってなんだ、かもって!」

 

いいね、杏子ちゃん。わたしの突っ込ませポイントに綺麗に引っ掛かってくれた。

 

「さっきの人とは違うのですね……?」

「んー。まぁ、ね。杏子ちゃんはれっきとした魔法少女だし」

 

明子だって悪い人では無いんだけどなぁ。たまたま相性とタイミングが悪かっただけで。

 

「んっとまぁ、あたしは佐倉 杏子だ。そこの朱音の先輩。あんたは?」

「私は小崎 鈴音ですわ。朱音さんの友達ですわ」

「ふぅん?」

 

杏子ちゃんが鈴音ちゃんの事をジロジロ見る。

 

「な、なんですの?」

「いぃや、何でも? ……朱音、こいつも魔法少女なんだな?」

「うん」

「そうか」

 

うむうむと頷く杏子ちゃん。そして、腕を組んで鈴音ちゃんに言い放つ。

 

 

「あんたが朱音の友達に相応しいかどうか、あたしが判断してやる」

「上等ですわ」

 

 

鈴音ちゃん即答。

 

「ちょ、ちょっと! 杏子ちゃん、何言ってるの!? 鈴音ちゃんも即答しなくて良いから!」

 

慌てて待ったをかけてみたけど、綺麗に華麗にスルー。

完全にバトルモードに入っちゃってる。

 

……え、ほんとに何でこうなっちゃってるの?

 

 

~○~○~○~○~○~

 

 

場所は変わって何処かの橋の下。

既に杏子ちゃんと鈴音ちゃんは変身している。

 

「んじゃ、条件の確認だ。あたしが勝ったらあんたは二度と朱音に近付くな。朱音から近付いてきたら逃げろ隠れろ。逆に、」

「私が勝ったら貴女に謝って貰いますわ。それも土下座程度じゃ済ませないですから。……泣いて謝る覚悟は?」

「そっちこそひとりぼっちで寂しく膝を抱えることになっても恨むなよ?」

 

ここに来るまでに『わたしの事で争わないで!』とか『やめて! わたしのライフはもうゼロよ!』とか『怒った! 帰るからね! かかか、帰っちゃうよ良いの!?』とか言ってこのバトル……いや、決闘を止めさせようとしたけど駄目だった。

 

もう、わたしは諦めた。運に天を任せよう。

 

「始まりの合図、頼むぜ朱音!」

「……はぁ」

 

なんとなく変身。このまま合図しなければ決闘は無くなるかな? ………駄目だろうなぁ。

右の袖からナイフを出す。

 

「じゃあ、このナイフが地面に落ちたらスタートで。えぃ」

 

適当に上へ投げる。その瞬間。

 

「来てください、私の軍団(レギオン)!」

 

鈴音ちゃんがランスを振り上げ、泥人形を生み出す。

 

「はんっ、ショボい魔法だね!」

 

カツンッとナイフが地面に刺さる。と、同時に。

 

弓兵(アーチャー)重装歩兵(ホプリテス)!」

「トロい!」

 

鈴音ちゃんの泥人形の内二種類……鎧で武装しているのが前へ並び、泥の矢が杏子ちゃんに降りかかる。

が、既に走り出していた杏子ちゃんにはかすっているとはいえ致命打にはならない。

 

「おらぁっ!」

 

一瞬にして……赤い残像さえ残しながら距離を詰め、槍で凪ぎ払う。

 

一撃で、杏子ちゃんと鈴音ちゃんの間に居た泥人形は居なくなった。

 

「っ、わたくしの騎士(ナイト)ぉ!」

「はあぁぁぁっ!」

 

騎士の泥人形が剣を突き出して杏子ちゃんの足を止めようとするけど、杏子ちゃんの素早さに追い付かない追い付けない。

 

「うらぁ!」

「ちぃっ!」

 

杏子ちゃんと鈴音ちゃん、お互いの槍がぶつかる。

 

「はっ! やっぱり自分の手で戦わなくちゃ!」

「こ、ちらに……そんな義理は有りませんわ! 重装歩兵(ホプリテス)ぅ!」

「おっと!」

 

ごつい装備の泥人形が杏子ちゃんの横から槍を突き出す。

だけど杏子ちゃんはあっさりと飛び退いてかわす。

 

「多対一か。流石にやるね」

「貴女がどれだけ長く魔法少女をやってるのかは知りませんけど……」

 

新たに泥人形が産み出される。

 

「そう簡単にわたくしに勝てるとは思わないでくださいまし!」

 

杏子ちゃんもニヤリと笑う。

 

「良いね」

 

もはや両者の激突は避けられない!

 

「「なんてね」」

「は?」

「うぐっ!」

 

わたしとおれが、それぞれ鈴音ちゃんと杏子ちゃんの意識を刈り取る。

 

「まったく、何が楽しくて友達の首筋を叩く日になってるのよ」

「本当にね。あとおれ、少し口調が崩れてるよ」

「あ……っと、ごめんわたし。じゃあ、変身解くからね」

「うん」

 

 

 

わたしは諦めたけど、おれは諦めたなんて一言も言ってねぇぜ?

 

 



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彼女は彼女で

気付いたら投稿する予定すら立っていない小説を書いている日々……。
ただでさえ暇じゃない筈なんだけどなぁ?

………………あ、メリクリです(遅い)あけおめ(早い)

いやぁ、流石に元旦に投稿出来る気がしないのでここで挨拶を。

ん、いつもよりまえがき長いかな?
それでは、どうぞ。


「ほらほら起きて」

「ん……んん?」

「………はっ、な、何が?」

 

鈴音ちゃんの反応が意外と面白いね。

 

「駄目だよ、わたしの事を無視しちゃ。うさぎは無視されると寂しくて死んじゃうの…」

「……こっちが死にかけたんだけど」

「殺してないから大丈夫でしょ?」

「いや、まあ……んん?」

 

杏子ちゃん、もしかして寝ぼけてる? 可愛いなぁ。

 

「朱音さんっ! どうして止めたんですの!? あのまま戦っていればわたくしの勝ちでしたのに!」

「あん? それは聞き捨てならねぇな」

「はいはいストップ。今度はくすぐるよ?」

「「っ!?」」

 

二人の動きが止まる。……もしかしなくても二人ともコチョコチョ苦手なんだね。今度試してみよう。

 

じゃなくて。

 

「何なの? 急に戦い始めちゃってさ。せめてわたしにも説明してよ」

「喧嘩を買っただけですわ」

「ん~。それは……うーん、言うべきか言わないべきか……」

 

鈴音ちゃんは軽快に返事をして、杏子ちゃんは悩んでる。

 

「…………取り敢えず、鈴音ちゃん、こっち来て」

「?」

 

鈴音ちゃんは不思議そうな顔をしながらも寄ってくる。

 

「アルティメット・メイコ・サンダー・スクリュー・フルオート・ゲンコツ!」

「はぐふぅっ!?」

 

飛び上がり、腕を捻り回転させ、鈴音ちゃんの脳天に拳を叩き付ける。

鈴音ちゃん、再起不能(リ タ イ ア)

 

「うわぁ……えげつな……」

「ふん、当然のお仕置きだよ」

 

一度だけ冗談混じりに喰らった事あるけど…………二度と喰らいたくないな、おれは。脳が潰れるかと思ったし。

そんなの他人に使わないでよ、おれ……ん、わたしの決定だっけ?

 

んん?

 

「まぁいっか。で、杏子ちゃん?」

「あーんんーー、あんまり朱音には言いたく無いんだけど…………なぁ……」

「わたしは心が広いからね、何でもドーンと言ってよ」

「その……朱音…変わってるからさ。付き合うんならそれなりに覚悟が必要だと「アルティメット・メイコ…」まてまてまて!」

 

ちっ、距離を取られたか。

 

「まぁ、今のは冗談だったけどね!」

「嘘つけ! 目が本気だったぞ!?」

「わたし、ウソ、ツカナイ」

 

うろんげにこちらを見てくる。わざとらしく目をそらして吹けない口笛フーフー。

実際に嘘は言ってないけどねぇ。嘘なんて高度なこと出来るのはおれの方だし。

 

「…………その」

「まぁ分かるけどね。魔力は吸い取るし魔法は効かないしなんか隠してるみたいだし実際に隠してる事あるし新人のわりに強いし」

「えっと……自覚はあるんだな」

「そりゃ勿論。むしろこんなワケわかんない胡散臭いのをよくもまぁ信頼出来るねー」

 

杏子ちゃんが顔をしかめる。それはもう、ぐぎぎ……って感じに。

 

「なーんてね。冗談とは言わないけど」

「う、ぐぐぅ……あ、朱音さんはそんな変な気色悪い人じゃありませんですわ!」

「鈴音ちゃんありがと。お礼に、つん」

「あでででで!?」

 

頭のてっぺんを右手の人差し指で突いてみた。うーん、サーベラス。じゃなくて、えぇと。

 

「朱音、そんぐらいにしてあげろよ。見てるとすごく可哀想なんだけど」

「悪い子にはお仕置きだべー」

「……はぁ。なんか嫌なことでもあったのか? 今日は一段と弾けてるけど」

「んーーーー?」

 

そうかな? そうだな。そうっぽいね。

 

「まあね。どーにもこーでもしないと憂さ晴らし出来ないね」

「……話聞いてやるよ、な?」

「ふふん。わたしより身長の低い女程度に理解できるような、そんな簡単な事じゃ無いんだよ、杏子くん?」

「うわうぜぇ」

 

うん、言ってて自分でもうざいと思うよ。ほんとどうしちゃったんだろう、わたし?

 

 

4/27(日)

うーん、鈴音ちゃんが人見知りなせいか、他の子と友達になってくれない。わたしだって何時までも鈴音ちゃんと一緒に居られる訳じゃ無いんだけどなぁ。




本文が短いからまえがきを長くすることによっていつも通りの長さだと錯覚させる戦術!

これが『先々のまえがき』という戦法です!(大嘘)


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彼女ははしゃぎ、

新年明けましたね。今年もよろしくです!
今年は末吉、勉強をしろと言われました。おみくじに。

それでは勉強もせずに書いた小説です、どうぞ。


4/28(月)

明子が怖いよ。マスター・メイコ・スリープホールド喰らって死にかけたよ、いやマジで。

なんとか無理矢理知らないで通したけどね。

魔女は見付からなかった。

 

4/29(火)

……そういえば、そろそろ四月が終わるね。

 

四月は死月。何事もなく終わるわけが無いよね

 

~○~○~○~○~○~

 

「マミさ~ん! ……と、あれ?」

「あ、まどかちゃん」

「あら、知り合いだったの朱音さん?」

 

久し振りにマミさんと一緒に魔女狩りしようと連絡をとって、見滝原に行ったら……まどかちゃんだー。

 

「てかまどかちゃん、わたしの事覚えてるの?」

「当然だよぉ。朱音ちゃん、だよね?」

「そうそう! なんだ~マミさん誰を待ってるのかと思ったら」

「ティヒヒッ」

「朱音さんに鹿目さんの修行に付き合って貰おうと思っててね。心配はしてなかったけど、知り合いなら安心ね」

「ふむふむ」

 

まどかちゃんかぁ。ってことは何時の間にやら本編が始まってたのか。何日からなのかな。

 

「ちなみにまどかちゃんは何で魔法少女に?」

「えっと、トラックにひかれそうになってた子猫を」

「はいストップ。まどかにゃん!」

「はい! ……ってにゃん?」

 

ふふ、早速先輩ぶってみよう。

 

「わたしとかマミさんとかなら良いけど、滅多なことじゃ魔法少女になった理由は教えないこと。いい、まどかにゃん?」

「はいっ、朱音さん!」

「よろしい。それと、返事は『にゃんっ!』でしょまどかにゃん!」

「え、にゃん……?」

「分かった?」

「に、にゃんっ!」

「可愛い~!」

「うわわっ」

 

ナデナデナデナデナデナデナデナデ。この子触り心地最高じゃん!

 

「ふぅ~」

「えっと、そろそろ良いかしら朱音さん?」

「あ、はい。まどかちゃんもほら」

「あはは……」

「病院に魔女結界があったわ。前衛を朱音さん、後衛は私と鹿目さんで。質問は?」

「いえ、大丈夫ですマミさん」

「まどかちゃんの武器は?」

「あ、私は弓を使ってます。朱音さんは?」

「わたしはナイフ。まどかちゃん、間違ってわたしを攻撃しないようにね?」

「き、気を付けます!」

 

マミさんがジーっとこっちを見てくるけど無視無視。わたしの能力は隠してなんぼのもんだからね。

 

「ほらほら、マミさん行きましょう!」

「はいはい。鹿目さんも行きましょう」

「は、はい!」

 

さて、病院に魔女、しかもまどかちゃんも居る、ってことは……

 

 

~○~○~○~○~○~

 

 

あ、やっぱりお菓子の魔女ですか。うーむ。

 

「これが……魔女結界」

「まどかちゃん、そこらに落ちてるお菓子は食べちゃ駄目だからね」

「その心配は朱音さんがした方が良いんじゃないかしら?」

「どーゆー意味ですかマミさん」

 

なんて喋ってると、来た来た。丸っこい身体に細い手足。カエルみたいに四つん這いな使い魔。

 

「マミさん、変身しましょう!」

「えぇ!」

 

おー、マミさん張り切ってる。なんかわざわざ回転してくるくる光って……え、わたしもそれやらなきゃ駄目ですか?

うわ、まどかちゃんもやってる。

あ、ま、待って。わたしは今から考えるんだよ、二人してそんなキラキラした目で見ないで!

あー、もうっ!

 

「……え、変身ポーズしないの朱音さん?」

「朱音さん、ダメじゃない。どうしちゃったの?」

「いやいやいやどうしちゃったもこうしちゃったも無いよ。無茶言わないでよ。わたし別にアドリブに強い訳じゃ無いんだから」

 

普通に変身したよ。無理無理、変身をカッコつけるなんて無理! そもそもさ。

 

「そんな暇、くれないみたいですしっ!」

 

襲いかかってきた使い魔を切り捨てる。そっか、前衛か。

 

「それじゃ、ガンガン行きますよ!」

「えぇ!」

「行きます!」

 

~○~○~○~○~○~

 

スパスパーっと。うーん? なんか多いね。こんなに多く使い魔が居たのは……保母の魔女ぐらいかな?

 

「うらっ!」

「危ないっ!」

「おっと、ナイスまどかにゃん!」

 

後ろから忍び寄っていた使い魔をまどかちゃんが撃ち抜いてくれた。

 

「しまっ―――」

「ほいっと!」

 

マミさん狙いで飛び掛かってきた使い魔を切り裂く。

意外といいコンビ……じゃなくて、トリオだねわたしたち。

 

「あ、それっぽい扉がありますよマミさん!」

「そうね。きっとこの先に魔女が居るわ」

 

ふむふむ。……使い魔の襲撃も一旦止まったね。

 

「休憩しましょっか、マミさん、まどかちゃん」

「いえ、この勢いのまま突入するべきじゃないかしら。鹿目さんはどう思う?」

「えっと……私はこのまま行けます」

「んー、じゃ、行こっか」

 

マミさんが慎重に扉を開ける。

 

「……今言うことじゃ無いけど、マミさんに対するまどかちゃんとわたしの口調、なんか被ってるよね」

「え?」

「二人とも、来るわ!」

 

お、人形のシャルロッテさん。ちっすちっす。

 

「わたしが先行します!」

 

駆け出す。ナイフを振るうがヒラリヒラリとかわされる。

 

「的が小さくて当たんない!」

「援護します!」

 

まどかちゃんの矢がシャルロッテの移動先を潰すように飛んでくる。ピンクの矢が綺麗なことで。

 

「それじゃ、ここ!」

 

縦に切り裂いてあげた。途端に力を無くし落っこちるシャルロッテ。

さてさて、 ここからだよ。マミら無いようにしないと……。

 

「終わった……の?」

「朱音さん、どうかしら。グリーフシードは?」

「………………」

 

……あれ? シャルロッテさーん?起きてるんでしょー? いつでもかかってこいやー!

 

カツッ

 

あ、グリーフシードだ。

 

「あれれぇ?」

「意外と呆気なかったわね」

「やりましたね、マミさん! 朱音さん!」

 

うーーーーん? ナイフで吸収出来たっけ? 出来ないよね。

ま、まぁマミらなかっただけましかな?

 

「はい、グリーフシード。まどかにゃんにあげる」

「え、良いんですか?」

「うん。グリーフシードならまだそこそこあるしね」

「ありがとうございます!」

「…………にゃん、でしょ?」

「にゃ、にゃんにゃんっ!」

 

恥ずかしそうに照れながらにゃんにゃん言うその姿……ヤバい、鼻血出そう。

 

「……えっと、私は?」

「マミさん……自分がまだ『にゃんにゃん』とか言って『可愛い』とか言ってもらえる歳だと?」

「え、いや、そうじゃなくて、えっと、その」

「ふふ、可愛いですよマミさん」

 

 

 

 

 

…………事件は、マミさんたちと別れてから起きた。





危ない危ない、始めに書いた伏線をもののみごとにスルーするとこだった。
どんな事件にしようかなー。


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そして壊れた

長くなりましたよ。よって無用な前書きは要らないでしょう。それでは、どうぞ。


「それじゃあさようならです、マミさん、まどかちゃん」

「また一緒に戦いましょうね」

「またね、朱音さん!」

 

二人は見滝原市に住んでるからわたしとは別。

 

さよならして帰ろうそうしようって事で帰ろー。

 

自転車に乗ってゴー♪

信号に阻まれずサイコー♪

戻ってきたハヤイー♪

鈴音ちゃんだハイホー♪

倒れてるヤバソー♪

 

………………ちょっとまておれ! いやわたし!

 

「鈴音ちゃん!?」

 

路地裏で倒れてる鈴音ちゃんに駆け寄る。

 

「鈴音ちゃん、鈴音ちゃん!」

「あ…………ぅ………… あ か ね、さ ん……」

 

鈴音ちゃんはごみ捨て場のごみ袋に埋もれていた。良く見つけられたね、わたし。

 

で、どうする!?

鈴音ちゃんは変身すらしてないのに服がボロボロで傷だらけ。

 

病院? 無理、ちょっと遠い!

家? それだ! でもどっちの家に!?

 

「あーもう! 鈴音ちゃん、わたしの家に行くよ!」

「ょ……けて……!」

「!?」

 

とっさに鈴音ちゃんを抱えて横に転がる。

直前までわたしの居た場所に大剣が降り下ろされ、ごみ袋が四散する。

 

「ちっ」

「…………誰?」

 

そこに居たのは一人の魔法少女。紫のパーティードレス。背中が大きく開いている。

 

「縄張り意識の無い、そいつと、お前を、殺しに来た」

 

一言一言はっきり発音する少し男っぽい子だな。

要するに、強そう。

 

「理由だけを端的にありがとう。さよなら!」

 

鈴音ちゃんを抱えたまま後ろに走り出し―――

 

「ダメヨォ?」

 

金髪長髪ストレートの外人っぽい魔法少女に行く手を阻まれた。

 

「ニガサナイワァ、ヨ?」

「…………貴女、日本人とのハーフ?」

「? No、ヨ」

「にしては発音が日本語っぽいし鼻が低いしなにより……」

 

服装を改めて眺める。

 

「あからさまに着物じゃない」

「Oh, ジャパニーズキモノヲムゲニシナイデ!」

 

と言いながら腰に差した刀を抜刀する。

危うく斬られそうになったから大きく後ろに跳ぶ。何か堅いものにぶつかる。

 

「いたっ」

「…………」

「ってなんだ、貴女か」

 

大剣担いだ魔法少女。……ん、堅い?

………………これには突っ込まない方が良いね。同じ女のよしみで。

 

ばっと離れて距離をおく。

 

「この状況、私なら、そいつを置いて逃げる。何故そうしない?」

「友達だから」

 

問いかけてきたから即答してあげる。

大剣に刀か。どっちもリーチが長いから逃げるのは困難かも。なんかやたらに路地裏広いし。

 

「鈴音ちゃん、わたしが助けるからね」

「……まだ……あと……ひと……り……!」

「分かった。だから喋らなくて大丈夫。わたしが、何とかするよ」

 

鈴音ちゃんを背負う。ただこれ、機動力は上がるけど背中から攻撃されたら鈴音ちゃんに当たるんだよね。

 

だから、背をマンションにくっつける。

正確には、鈴音ちゃんを、だけど。

 

「……ふん。無駄だ。私たちからは、逃れられない」

「ソモソモォ、ドウシテヘンシンシナイノデスカァ?」

「強すぎて鈴音ちゃんまで巻き込んじゃうから」

 

「アララァ」

「ほぅ?」

 

まぁ、はったりなんだけど。でもそれに対するそれぞれの反応で大体どう考えてるか分かる。後は…………じゃあ、

 

ビシッと金髪ちゃんを指差す。

 

「『変身出来ないのぉ、可愛そうに獲物ちゃん』って傲慢に考えた」

 

表情が歪んだ。当たらずとも遠からず、かな? まさか図星じゃ無いだろうけど。

次に大剣ちゃんを指差す。

 

「『厳しいな、まだ攻撃はさせない方が良いか』ってところかな?」

「……読心でも出来るのか?」

「まさか」

 

恐らく三人目は遠距離攻撃。じゃなきゃ三対一とはいえ鈴音ちゃん相手に無傷は無い。

けど、パッと見ても見当たらない。なら居るとしたら……上。

 

「ふっ!」

「「 !? 」」

 

ダダダッと限り無く高速で反対側の壁に移動する。

 

「速い……が、無意味だ」

「チョットビックリシチャッタネ。ケド、『ムイミ』ダネ」

「けど、これで鈴音ちゃんは狙えないでしょ?」

「そう、思うのか?」

「違うの?」

 

…………てっきりあっち側のマンションの屋上に居るのかと思ったけど、違うのかな?

それだとかなり厳しくなるけど。…………。

 

「あぁ、なんだ。ビックリした。そういうことか」

「……む?」

「エット、コワレチャッタノカナ?」

「鈴音ちゃん、ちょっとここで寝てて。すぐに終わらせるからね」

「…………気を……つけて……くださいまし」

 

うん、鈴音ちゃんもかなり回復してきたね。

鈴音ちゃんを下に降ろす。コンクリートが冷たいかもしれないけど我慢してね。

 

「やけになったのか?」

「フッフーン。イマダッ、ヤッチャッテー!」

 

金髪が何か合図を出す。

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ

 

 

 

 

上から何かが落ちてきた。

 

「アハハハハハハ!」

 

そして、わたしの笑い声。

けど、わたしは笑ってない。

笑ってるのは、もう一人のわたし。笑いながら小脇に抱えてた誰かを放り投げる。

 

「な、何!?」

「フタリ!? ッテ、ナルミ!」

 

分身って本当に使えるね。兎に角、予想通り三人目は遠距離攻撃持ちで、マンションの屋上に陣取ってた。

ここ、思ってたより撃てる範囲が広くて反対側に移動した後の鈴音ちゃんも簡単に撃てるよ。危なかった。

 

さて、これで三人目を気にする必要は無くなった。

 

「どういうことだ!」

「さっき、移動したでしょ? その時に分身したの」

「ブンシン…………ニンジャメ! ナルミノカタキ!」

 

金髪ちゃんがやけにノリノリで攻撃してくる。

大剣ちゃんはあっちのわたしに任せて、変身。

 

「デヤァッ!」

「真剣白羽取り!」

 

刀は両手で挟み込むように掴む。刀はわたしに吸収された。

 

「わ、ワタシの刀が!」

「脆い脆い!」

 

ふ、武器が無くなった魔法少女は弱いものだね。なんて。

足払いして首もとにナイフを叩き付ける。あっさり気絶した。

 

 

大剣は振った後の隙が大きい。懐に潜り込んで鳩尾掌底。

 

「ごふっ」

「からの~、押さえ込み!」

 

大剣ちゃんを押し倒し、口と口が触れ合いそうになるまで抱きつき、首もとにナイフ。

 

「「 はい、わたしの勝ち 」」

 

ハモる。きっと二人にはエコーがかったように聴こえたかもね。

 

「く……あ、貴女だって! あいつの本性を知ったら突き放す!」

「なんで?」

 

大剣ちゃんが吠える。から、聞いてあげる。

 

「あいつの魔法よ! あいつは幻覚、いや、幻惑の魔法を使うのよ!」

「それが?」

 

互いの息がかかる距離。意外といい匂いだねこの子の口臭。

 

「分からないの!? 貴女は騙されてるのよ!?」

「有り得ないよ」

「ほら見なさい! あいつのチャームにかかって――」

「うるさいよ。あんまりうるさいと……その、キス、するよ?」

「!?」

 

うっは恥ずかしぃ。どっちも顔が真っ赤だ。

 

「そもそもわたしにそんなの効かないし」

 

と、頭を後ろから叩かれる。

で、大剣ちゃんとわたしのお互いの息がかかり鼻が触れ合う距離。

そこに衝撃が加えられればどうなるかは一目瞭然。

 

「んむっ!?」「んっ!?」

 

ズバアッと離れる。

 

「は、な、な、なぁ!?」

「なっちょっ、ごごごごめん!?」

「クッハッハハハハ!」

 

わたしぃ! いや、おれ!

 

「何してくれちゃってんのよ!」

「だって二人して顔が真っ赤だったし」

「わ、わ、わわわわたしのぉ! は、はは、始めてをぉ!」

「大丈夫大丈夫、始めての半分だし」

 

わたしに向かってギャンギャン吠えるわたし。

なんて無意味な事なんだか。でも吠えるよ。

 

「それより、あっちさんは?」

「むぅ、話を逸らさないでよ。……あっちはわたしより酷いよ」

 

顔真っ赤なのを通り越して煙が立ってる。へたりこんで顔を両手で覆ってる。しかも何かブツブツブツブツ呟いてる。

 

「えっと……そのぅ、ごめんね」

「………………………です」

「え?」

「せ、責任は、し、しっかり取って、貰います。あ、あ、朱音さん」

 

なんで名前を……あぁ、鈴音ちゃんが言ったのかな?

 

 

と、

 

「ヘイ! リッスン!」

 

刀使いの金髪の子の声が響いた。そっちを振り向く。

 

「……ちょっと、人質は狡いんじゃない?」

「ニンジャニイワレタクナイネ!」

「ごめん…………なさ……」

 

金髪の子が、まだ動けない鈴音ちゃんの首筋に刀を添えている。

 

「サァ、オトナシクコウサンシナサイ!」

「………………むむむ」

 

どうしようかな。どうすりゃいいのかな。どうしても良いんじゃないかな。

 

「マズハ、ブンシンとヘンシンをトキナサイ!」

「だ……め…」

「……むむ」

 

仕方無く言われた通りにする……訳無い。

先に分身を解くふりして『無し無し結界』発動、片方は姿を隠す。

そしてわたしは変身を解く、と。

 

「これでいいの?」

「フッフーン。デハ、アナタノソウルジェムヲワタスノデース」

「…………ちっ」

 

卑劣な。それだとわたしと鈴音ちゃんの両方が殺さねかねないじゃん。

 

「チナミニ、ワタシニナニカアッタラナルミガウツカラネー!」

「ナルミ? …………あぁ」

 

ちらっと横を見ると屋上に居た銃持ちの魔法少女が構えていた。成る程、やけに気絶から立ち直るのが速いと思ったら。

 

「……けど、なら……いやでも……うーむ」

 

怖いのはナルミとかいうあの子の銃が『本物』の可能性があること。

魔法で創った銃ならばどうにでも出来るけど……。

 

「ハヤクシナサィ!」

「しょうがない、ね」

「…朱……音……さん……!」

 

ソウルジェムを右手の平に乗せて、前に突き出す。

ゆっくり歩いて近付く。

 

5m……4m……3m……2m…………

 

「今っ!」

「んなぁ!?」

 

ソウルジェムを()()()()()

同時に、ナルミの銃を蹴り上げる。

 

わたしのソウルジェムは狙い通りに金髪ちゃんの顔面に当たる。

ドンッと体に衝撃が走る。ソウルジェムの反動のせいだ。

と、同時。

 

バァンッ!

 

ナルミの銃があらぬ方向に撃たれる。

 

 

何故か、その弾道が見えた。

 

 

蹴り上げられた銃口は空を向いていた。

弾は上へ向かって飛び出し、しかし不自然に曲がる。

 

 

 

狙いは、わたしのソウルジェム

 

 

 

バリンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ではなく、鈴音ちゃんの、ソウルジェムだった。

 

 

「ウ……ソ……ア、アア、ウアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

――――――――――――――――――あはっ




ここで何となく三人組のステータスを。

大剣の子
強い。とにかく強い。その実力はほとんど一人で鈴音ちゃんを圧倒出来るほど。
ただ、武器が大剣という隙の大きな武器なので三人組をつくっていた。三人組のリーダー。
固有魔法は属性付与(エンチャント)。付与出来るのは今のところ風と炎だけ。
ソウルジェムは右耳のイヤリング。

金髪の子
実力は大体さやかぐらいかな? 日本かぶれの外人魔法少女 ……を演じている。
実際はかなり血の薄いハーフ……というかクォーター(よんぶんのいち)
見た目だけは外人だけど普通に日本語を喋る。着物大好き。
固有魔法は縮小化。刀を一時的に小刀の大きさに出来る。
ソウルジェムは髪止め。

ナルミ
三人組で唯一名前が出てきた子。武器の銃は魔法で作られたもの。朱音は忘れてるけど、そもそも本物の銃を持ってる中学生なんて日本には居ない。(ほむほむは例外)
見た目は陸上自衛隊。ただ、色が黄色なのでまったく隠れられてない。
固有魔法はリンク。銃口と視認した相手を『繋げる』ことで必中となる。リンク先の片方は必ず自分、もしくは自分の魔力で創られた物でなければならない。
ソウルジェムは指環。


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二周目
彼女は戻った


今回はちょいと長め……なんてね。前回よりは短くて前々回よりは200文字ぐらい長め。

サブタイトルから大体分かるよね? 無粋なことは言わぬが花。
それでは、どうぞ。


気付くと机の前に座っていた。

な、何を言っているか分からないと思うけどわたしにも分からない。超スピードとか瞬間移動とか、そんなチャチなもんじゃない。もっと恐ろしい何かの片鱗を……いや、まあ、うん。

 

「……ん、日記?」

 

机に乗せていた手の下。いつも書いている日記が置いてあった。

なんとなしに見てみる。

 

4/23(水)

魔女狩りは順調に進んでるよ。一日一匹倒してるから、グリーフシードは合計六個。20と21で魔女狩りに行けなかったのがなぁ。仕方無いけど。

 

4/24(木)

何となく日記を見返してたら書いた記憶の無い言葉が書かれていた。何なんだろうか。どことなく、わたしにとって嫌なことを書こうとしたんだろうって気がする。

 

4/25(金)

魔女……見付からなくなっちゃったな。本当は喜ぶべき事なんだけどなぁ。

 

 

「…………んん? あれれ?」

 

その先は無い。書いたはずの日記が書かれていない。……これは、つまり。

 

「タイムリープが、起こった、の?」

 

なんと。となるとほむらちゃんが魔法少女になったのかな。でも、なんで記憶が………………鈴音ちゃん……。

 

「……んん? あれ? ん…………れれ?」

 

色々違和感が。例えば、鈴音ちゃんが殺された後の記憶が

 

ピンポーン

 

「朱音~。鈴音ちゃんよ~」

 

……そうか。今日はあの日か。あの日のことはしっかり覚えてる。

 

「今行く!」

 

なるべく一回目と同じにしないと。幸い、おれが中にいるせいか知らないけど、記憶力だけは超抜群だから完璧に再現できる。

 

さて、パジャマから着替えてっと。

 

~○~○~○~○~○~

 

「はいはいはいはい、待った?」「外で待ってるわよ。中で待っててって言ったんだけど、断られちゃったわ」「分かった」

 

~○~○~○~○~○~

 

「おはようございますわ」「おはよう。…『ございます』に『わ』は合わないと思うよ」「良いのですわよ。さ、こっちに来てくださいまし」「あ、うん。行ってきます!」

家に向かって怒鳴る。

 

~○~○~○~○~○~

 

「腕を掴まなくても良いんだよ?」「良いから」「何処に向かってるの」「……本当に、本っ当に嫌々ですし、心苦しいですわ」「え?」「だから、先に謝っておきますわ。わたしの両親がすみませんでしたわ」「は、はい?」

着いた先は、鈴音ちゃんの家。

 

~○~○~○~○~○~

 

「御父様、御母様、朱音さんをお連れいたしましたわ」「えーっと、はじめまして。本庄 朱音と言います」「朱音ちゃん、かね? いやすまない、少々耳が遠くてね。私は、小崎 竜一。こちらが、妻の純香だ」「……わたくしの娘と遊んでくださり、ありがとうございますわ」「いえ、えっと、どういたしまし…て」「さてさて、折角うちに来たんだ。鈴音のお友達をもてなさせてもらおうか。お前たち」

「「「「「はい!」」」」」

「美味しいクッキーと紅茶を用意してくれ」「「「「「はい!」」」」」

 

~○~○~○~○~○~

 

鈴音ちゃんの部屋。

 

「まあ、つまり、『朱音ちゃん、あーそーぼっ』って事で良いのかな?」

「むしろ、『娘に彼女!? 一大事だ!』の方が近いですわ」

「あー、成る程。よくそんな言葉知ってるね?」

「えぇ、まぁ」

 

どうしよう。あんまり一回目と変えたくないけど……。

 

「まぁ、それなら遊ぼうか」

「…………あの、その、ですね」

「うん?」

「私、夢を見たんですの。怖い、不思議な、夢を」

 

……え? そんなの一回目には無かった。それとも一回目では言わなかっただけ?

 

「どんなの?」

「えぇとですね。不吉なんですけど……私が殺される夢です」

「!?」

「そして、そのせいで朱音さんが壊れる夢……です」

「…………」

 

そ れ は 、 一 回 目 の 夢 で は ?

 

「朱音、さん? すごい顔してますわよ?」

「あ、う、ううん。もう少し詳しく教えてくれる? わたしが壊れるなんて物騒だし」

「えぇ。えっと始めは今日みたく朱音さんの家に向かっていましたわ」

 

~~~~~~~~

 

けど。

 

「え、居ない?」

「ええ。確か、見滝原市の先輩に会いに行くって言ってたわ」

「そうですか。分かりましたわ」

 

それで、歩きで見滝原市まで行くんですわ。

見滝原市までは意外と遠くて夕方にやっと着きましたわ。

そこで、以前『友達』だった人たちに襲われたんですの。

…………悔しいことに、全然敵わなくて。逃げようとしても狙撃されて。

思わず、朱音さんに助けを求めたのですが、それを聴いた三人は私を囮に朱音さんを『助ける』、と。

 

~~~~~~~~

 

「それでわたしは助けに?」

 

本当は聞くまでもない。

 

「えぇ。夢のように思いましたわ。実際、夢でしたけど」

 

夢じゃないよ。()()は本当にあったことなんだよ。

そう、言えるわけもなく。

 

「ふふ、さぞかし格好いい登場だったんだろうね、夢の中のわたしは」

 

代わりにからかいの言葉が出てきた。

 

「えぇ、凄く格好良かったですわ。あの三人を次々に倒してしまうんですもの」

 

分身使ったズルだけどね。と言ったら何で知ってるのかって追及されるから言わない。

 

~~~~~~~~

 

それで、結局私はソウルジェムを撃ち抜かれて死ぬんですわ。

……朱音さんのせいじゃ無かった、とだけ言っておきます。

 

けど、夢の中の朱音さんは凄く気に病んで、三人を殺しましたわ。…………泣きながら笑いながら。

 

それで私は、死んだはずなのに朱音さんの側に浮かんでて、ずっと朱音さんを見守るんですけど、朱音さんの様子が全然変なんですわ。

 

家に帰らず、学校にも行かず、魔女だろうと魔法少女だろうと倒して殺していましたわ。―――狂ったように笑いながら、泣きながら。ずっとずっとずっと。

 

ナイフを振って身を隠して魔力を吸って。

 

………………まるで、魔女のようでしたわ。

 

~~~~~~~~

 

 

鈴音ちゃんの話が終わったんだと気付くまで、少しかかった。

 

「…………それは……酷い夢だね…」

 

ようやっと、それだけを呟く。頭の中はろくなことになってない。

 

魔女……わたしが? でも、今はほら、この通り、人間だよ?

 

震える自分の身体を抱き締める。

 

あ、あはは。ね、ほら。自分の華奢な腕だよ。女の子らしい細い腕だよ。そんなにきつく抱くと壊れちゃうよ、わたし。ほら、でも大丈夫。わたしは強いから、この程度じゃ壊れないよ。あは、あははは。

 

「…………ねさん? ……朱音さん?」

「ぁ…………うん。ごめん。ちょっと寒く感じただけだよ」

「そう、ですか? メイドさん、タオルケットを一枚くださる? 朱音さんが寒いんですって」

 

鈴音ちゃんがメイドさんに何かを言ってる。

そして、わたしを心配そうに見てくる。

 

だめだ、身体の震えが止まらない。

 

「ほ、ほら、夢の話ですし、そこまで真に受けなくても良いんですよ、朱音さん?」

「う、うん、分かってる……」

 

分かってない。それは、()()()()()()()()なの。事実なの。目をそらすにはどうしようもないくらい事実。

 

と、身体にタオルが掛けられる。

 

「鈴音」

「っ、御母様!?」

 

鈴音ちゃんのお母さん、純香さんだ。




朱音の固有魔法は『魔力吸収』と『魔法無効化』の二つ。他人にも多少とはいえ影響を及ぼすようですね。

朱音がほむほむと出会う時はいつになるのやら……


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彼女は告白する

今回のキーワード

告白―――― 意味:心の中の思いや秘密を打ち明けること。また、その言葉。

魔法少女の心の闇。

一周目の最後。

それでは、どうぞ。


純香さんの部屋。今回も鈴音ちゃんとは別々に。

純香さんと向かい合って座る。

 

「それで、そのぅ?」

「失礼な事を聴きますが、貴女は何者ですか?」

「はい? 何者、とは?」

 

魔法少女の事かな? 確か純香さんは魔法少女の事を知ってたし。

 

「……歴戦の商人ならまだしも、貴方の様な子供があの出迎えに驚かないとは思いません。しかし、貴女は驚きませんでした」

「えぇ」

 

成る程。ちゃんと驚いたんだけどなぁ。何回見ても慣れそうにないし。

 

「魔法少女……でしたか。しかし、貴女以外の子たちは驚きました。故に、魔法少女ということは貴女が驚かない理由にはなりません」

「ん……それは……」

 

ちっ、逃げ手を封じられたか。でも、正直に言っても……

 

「どんな突拍子の無いものでも聞きますわ。……もう一度聞きます。貴女は、何者ですか?」

「っ……」

 

どうする……いや、ここは……

 

「多分信じて貰えないですけど、それでも?」

「二度も同じ事を言わせるのですか?」

「……なら。これでわたしは二週目です」

「はい?」

「わたし自身の魔法ではないですけど、間接的にタイムリープしたんです」

「……詳しく教えていただけますか?」

 

教えた。おれの記憶とわたしの経験を、ほとんど。

純香さんはじっと静かに聞いてくれた。

 

「……転生、ですか」

「正確には前世の記憶があるだけですけど」

「その五人の魔法少女の中に鈴音は?」

「居ません。わたしも、鈴音ちゃんも」

「貴女の知る未来を変えよう、と?」

「はい。それがわたしの使命です……なんて」

 

恥ずかしくなったので少しごまかす。けど、

 

「いえ、立派な事です。どんな形であろうと人助けは素晴らしい事ですから」

「…………そうですか」

 

純香さんは肯定してくれる。

 

そっか。間違って無いんだね、わたしは……でも、本当に?

 

「鈴音ちゃんが見たって言う夢の話は聞きましたか?」

「えぇ。あの子が私に泣き付いて来るなんて有り得ないはずですのに」

「鈴音ちゃんの為に嫌われる……ですか。いや、良いんです。それも一つの愛情ですし」

「そう、ですか。……いえ、それは良いんです。それより、夢の話でしたね。確か、鈴音が……死ぬ……まさか」

「はい。鈴音ちゃんが見たのは、恐らく一周目の()()です。途中までわたしの記憶と一致しますから」

 

そう言い、

 

バンッ!

 

純香さんが机を叩く音に驚く。

 

「貴女はっ! 鈴音を見殺しにしたんですか!?」

「っ…………」

 

言い返せない。

 

「鈴音が――親友が死ぬのを見て! なんでそんな澄ました顔を出来るのですか!?」

「……澄ました、顔?」

 

右手で口元を触る。……無表情。むしろ、微笑んでさえ…………。

 

「何ですか……その表情(かお)は! どうして鈴音を助けなかったのですか!」

 

助けなかった……わたしは、鈴音ちゃんを助けられなかった……何故?

 

――――――それはね?

 

「鈴音ちゃんは五人の中に居なかったから」

「なっ…………」

「……違う…そうでしょ」

「……?」

「…違う…嘘つき……違う……」

「朱音、さん?」

 

「人殺し、違う、人でなし、違う違う、友達一人助けられない臆病者、う……、元から助ける気が無かったんでしょ、違う……違う、違う違う、違う違ウ違う違ウ違う違ウ違ウ違ウッ!」

「朱音さんっ!」

 

抱き締められて、我を失っていたことに、気付く。

 

「あ……ご、ごめんなさい……取り乱しちゃって……」

「良いんです。こちらこそ、貴女が何も感じてないだなんて、そんな酷い事を言ってしまいました。決してそんなこと、それこそ有り得ない事なのに……」

「―――― 違う」

 

あぁ、そうか、家で気付いた違和感は……記憶だけじゃなくて……

 

「わたしは、鈴音ちゃんが死んだのに……悲しく思わなかった……友達の為に…悲しめなくて……!」

「…………」

 

もう、駄目だ。止まらない。止められない。ここで懺悔(ざんげ)しないと、本当に、どうにかなっちゃう、気がする――――

 

「鈴音ちゃんが死んだって聞いても! 悲しいより、そうか、しか無くて! おかしいって分かるけど、だからなんだって、そんなの、『やり直したんだから大丈夫』だって、そうなって! わたしは、わたしは! もう、もう人間の心が、無いんじゃないかって! 鈴音ちゃんが、一周目のわたしの最後は、魔女みたいだったって! わたしは、もう、鈴音ちゃんの友達でいられない――――」

 

「馬鹿をお言いにならないで」

 

ピシャリ、と。頬を叩くように言い切られる。

 

「鈴音の夢の話の最後、覚えていますか?」

「……わたしが暴走して、」

「魔女や魔法少女を倒していった。……笑いながら、()()()()()

「それ、は……」

「私は、貴女が自分で言うほど非情な人間だとは思いません。貴女なら鈴音の友達として一緒に過ごしても安心です」

「……それだとまた、鈴音ちゃんが」

「大丈夫です。今度こそ守ってくれるでしょう?」

「…………」

 

頷く。厚かましくて、言葉には出来ないけど、今度こそ、必ず。

 

「困ったら相談しなさい。貴女の母親に言えない事でも、私なら言えるでしょう?」

「……うん。ありがとう、純香さん」

 

感謝の意味も込めて、強く抱き締め返す。

 

願わくば、二度とこの人を悲しませませんように。

願わくば、純香さんと鈴音ちゃんの仲が良くなりますように。




懺悔――――意味:犯した罪悪を神仏の前で告白し、悔い改めることを誓うこと。
または、過去の悪事や過ちを悔いて他人に告白すること。

ふぅ、これで一段落。朱音は二週目をどう過ごすのでしょうか。


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彼女の日常?

いやぁ、久々の投稿です。おひさしぶり。
何で遅くなったかってテストとかなろうとか忙しかったんですよ。
んだもんで代わりにちょいと長目に……なってると思ったのか!?
テンションがやばいので、どうぞ。


日誌はもう役にたたない。だからもう書かない。

 

さて、しかし、今日は魔女探しはおやすみ。

何時もの(ただし二回目の)学校生活だ。

 

放課後、部活をサボって明子ちゃんと一緒に中庭でお喋り。多分あの個性的な先輩たちなら許してくれると思うんだ。……明日謝っておこう。

 

「んでさぁ、ころっちってばさぁ、何をとち狂ったんだかあたしに告白してきたのよ」

「え゛……で、断ったの?」

「もっちろん! あたしに出来る最大限の言葉を駆使してばっさり切り捨ててやったわよ」

「うゎぁ……詳しくは聞かないよ?」

「あ、そ。ってかあたしが断らないっていう選択肢は無かったの?」

「むしろあるの?」

「無いわね」

 

アハハハハハと笑い合う。うん、明子ちゃんは好きだよ。友達としてだけど。…………ん、良いこと思い付いた。

 

「じゃあじゃあ、わたしと付き合う?」

「はぁ? あたしが? 朱音と?」

「そ。わたしたち気が合うしさ」

 

よし、冗談の言い合いで遂に明子ちゃんに勝った!

 

「うぅん……」

「どう、明子ちゃん?」

「あ、あ、あたしなんかで良いなら……」

「!?」

 

ちょ、てっきり顔を真っ赤にして慌てふためくと思ったのに!

 

「そ、その」

「……ぷ。プフーッ! あははははは! 冗談よじょうだん! あたしにそんな趣味は無いわよ女好きの朱音ちゃん?」

「な、べ、別にそんなこと無いもん!」

「あはは、朱音はやっぱりからかいがいがあるわねぇ」

「う、ぐぅ…また負けた……」

「そうねぇ、そんなことない()()なんて言わないで嘘泣きでもしてたら少しは本気にしたかもねぇ?」

「むぐぐぅー」

 

か、勝てないよぉ! どうしたら明子ちゃんをギャフンと言わせられるの!?

と頭を抱えていると。

 

「なぁ、君」

 

髪の長い上級生に声をかけられた。

んん? なーんか見たこと有るような無いような。

 

「あ、うるさかったですか? すみませんねぇ」

「ちょ、明子ちゃん」

「いや。うるさくするのは自由だ。私だってついうるさくしてしまう事ぐらいある」

「あらそうなんですか」

「もう。明子ちゃんひやひやさせないでよ……」

「あれ? んだったら何で声をかけてきたんですか?」

 

確かに。なんでだろう?

先輩は少し困り顔で

 

「いや、その、あまり理由は言いたくないのだがな……そっちの」

 

と、わたしを指差してくる。

 

「朱音、だったか。彼女に話があるんだ」

「え?」

「あらまぁ、朱音いつの間に彼女を作ってたのかしら」

「いやいやいや、わたし女だしこの人と初対面だよ!?」

「ふぅん? のわりにはあちらさんも満更じゃ無さそうだけど?」

「へ?」

 

え、なんで顔真っ赤にしてるの? ……きっと初心なんだねそうだね。

こ、これは取り合えず明子ちゃんから逃げ出そうそうしよう。

 

「そ、それじゃあちょっと行ってくるね」

「はいはい」

「……着いてきてくれ」

「はい」

 

先輩の後を着いていく。

 

~○~○~○~○~○~

 

わたし インザ 公園。

 

「ここなら良いだろう」

「良いんですか?」

 

まさか学校の外に出ることになるとは思ってなかった。とはいえすぐ近くだしむしろ家には近い方だ。最悪変身すれば逃げられるしね。

 

「魔法で人払いもしてある」

「……ん?」

 

なんか今聞き捨てならない一言が聞こえたんだけど。

 

「本庄 朱音。お前は魔法少女だな?」

 

それは疑問文ではあったが、疑問ではなく確認といった風だった。

それと、思い出した。この人……大剣使いの魔法少女だ。一周目で鈴音ちゃんを襲ってた三人組の一人……!

つまり、ここは魔法少女でないと言わないと何されるか分からない……!

 

「ち、違います」

「まさか正夢だとは思わなかった」

「違うんです」

「さて、話したいことがいくつかある」

「違います! わたしは魔法少女なんかじゃ無いです!」

 

やっと聞いてくれた。と思ったら

 

「それはない。それならここに居られない」

「そ、それは……」

「それに鈴音ちゃんはあれで案外口が軽い。あれが正夢ならばお前は鈴音ちゃんと友達だろう?」

「はい」

 

これは、この質問だけは即答しなくちゃいけない。だってこれを即答しないならば、それは鈴音ちゃんと純香さんの事を裏切る事になるんだから。

 

「やはりな。……だが、あの夢のようにはならない。させない」

「…………」

 

夢? 正夢ってさっきからずっと言ってるけど……まさか。

 

「さて、ようやくこれを言える」

「…なんですか?」

 

と、大剣使いさんが頭を下げる。

 

「鈴音ちゃんの事をよろしく頼む」

「はい?」

 

頭が話に追い付いてない。あれ? この人たち鈴音ちゃんを殺そうとしてたんじゃないの?

 

「お前が居れば鈴音ちゃんは大丈夫だ。誰かを……いや、友達を殺してしまうという呪いはお前が断ち切ってくれるはずだ」

「……もしかして」

「少なくとも私は全て鈴音ちゃんの為に殺そうとしていたということだけは…いや…そんなのは後付けだな」

 

そっか。そういうことなら。

 

「大剣さんは……もしかしたらまだ鈴音ちゃんの魅了にかかってますよね」

「……そうかも、な」

「分かりました。わたしは鈴音ちゃんとずっとずっと友達でいます」

「うん」

 

大剣さんは、少し嫉妬してしまうがなと笑う。

良いなぁ。わたしもこういう友達が欲しい。そして、鈴音ちゃんにとってこういう友達でありたい。

徹頭徹尾相手の事を思っている、そんな友達に。

 

「やりようはもっとある気がしますけどね」

「う…それを言われると痛いな。それと、魔法少女として話すときは敬語で無くて良いぞ」

「あ、はい……じゃなくて。うん、大剣ちゃん」

「た、たいけ……私の名前は戦刃(いくさば) 無霧だ!」

「ふぅん。じゃ、普段はせんじょう先輩って呼びますね」

「それは……まぁ良いか」

良いんだ。もっと嫌がっても良いんだよ?

 

「それで、だ」

「はい?」

「その、だな。あの、えっと……」

「?」

 

大剣ちゃんの歯切れが悪い。うわ、わたしうまいこと言った。

 

「一応、あの夢の事があまりにもリアルだったからこうして問い詰め、鈴音ちゃんの事をお願いした訳なんだが」

「はい」

「あれ、本当の事なんだな?」

「……あれって言われても」

 

とはいえ、鈴音ちゃんも見た筈だからきっとそうなんだろう。

しかし、大剣ちゃんに何したっけ………………!?

 

「ちょ、ちょっとストップ! 待って待って待ってまさか……!」

「その、あれは本当の事なんだな?」

「っ~~~!」

 

やばいやばいやばい! 一周目の最後、 わたしは大剣ちゃんを無力化したけどその方法って……

 

「本当にあったことなら――」

「あれはもう起こらない未来の事なんでセーフ! そう、現実には起こらないし起こってないんだから気にしなくていいの大剣ちゃん! ね? 忘れよう、ね!?」

「は、はい」

 

わたしの勢いに大剣ちゃん思わず敬語。ふぅー。なんとかなった。

 

「つまり君の初キスの相手は」

「 ぶ り か え さ な い で よ ! ? 」




変なとこで切っちゃったけど一応の区切りです。
さて、日記を書かせなくしちゃったよ。時間とばしをどうしよう。まじどうしましょう。


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彼女の想いは

他の小説書いてたらいつの間にか一ヶ月近く。
何ともなんですかね。


「ふぃ~。ようやく宿題終わったぁ~」

 

学校の宿題を終わらせて一息。さぁて春の5時はまだ日も高いし何処に行こうかな。

 

「……鈴音ちゃんの様子でも見に行こうかな」

 

大剣ちゃんにも頼まれたしね。服は帰ってからすぐに着替えてある。

 

「鈴音ちゃん()に遊びに行ってきまーす!」

「早めに帰ってくるのよー」

「わかってるー」

 

家を出て、自転車に……乗ろうかな、歩こうかな。

歩こうか。

 

「……ん?」

 

何か視線を感じ振り向く。……わたしの家がある。

お母さんが見てたのかな? なんとなく小さく手を振り、改めて歩き出す。

 

「…………」

 

……歩いてる、ね。うん。

 

「…………」

 

信号。赤なので止まる。止まった。

 

「うーん」

 

青になった。歩き出す。歩く。

 

「…………よし」

 

道を曲がる、その先は路地裏か。あー、鈴音ちゃんの家に辿り着ければいいなぁ。

 

「……!?」

 

実はね、ここ、魔女結界が張ってあるんだ。

あんまり速いペースで消してっちゃうと他の魔法少女に迷惑がかかるから魔女狩りを控えめにしたせいで残ってたんだけど、いやぁ。

 

まさか追っ手を撒くのに使うとは。

 

「魔女結界っていうのは外からじゃ中の様子は見れなくて、中からも外の様子は見れない。……久し振り、塔の魔女の使い魔さん」

 

わかりやすい雷マークの使い魔が五体ほど浮いている。

わたしを警戒しているのか、襲ってはこない。

 

一周目ではマミさんと一緒に倒した塔の魔女。魔女自体は見滝原市に居るんだけど、何分使い魔の行動範囲が広い。ここみたいに近隣の町まで飛んでくる。

 

「んー、ついでだし倒そうかな? でもなぁ」

 

倒しても逃げられても結界は消える。追っ手が魔法少女か否かで反応が困ることになる。

 

魔法少女ならば『たまたま結界があった』ということにすれば良いのだが、一般人相手だとそうもいかない。

虚空からひょいっと出てきたところを見られたら釈明が必要になるし、かといって説明したら魔法少女の世界に巻き込むことになる。

 

「……でも魔法少女だったらそろそろ入ってくるよね」

 

様子見していた使い魔が襲ってきたので変身。ナイフで切り捨てる。

 

「悪いけど始末させて貰うね」

 

残りは四体。

 

~○~○~○~○~○~

 

わたしだけを薄く覆うように『無し無し結界』を展開してある。こうすることで周囲に影響を及ぼすことなく堂々と隠れられる。

 

魔女結界が消える。

 

「……居ない、か」

 

追っ手は逃げた、或いは見失ったと思い何処かへ行ったか。怖いとは思わないけど、もやもやしてイライラしてくる。

 

「は~ぁ。それじゃあ改めて鈴音ちゃんの家に行くか」

 

『無し無し結界』を解き、変身も解く。

謎の追っ手め、勝手に名前付けてやる。んー、そうだなー、

 

「追っ手……ひっそり…恥ずかしがり屋…乙女? …は、駄目だから……カクレンボさん? ちゃんかな。でも君の可能性もあるしなー」

 

ん、考えてる内に鈴音ちゃんの家まで着いた。

それじゃあピンポーンとな。

…………もう一回。ピンポーン。

 

んん?

 

「すいませーん、鈴音ちゃん居ますかー?」

 

反応が無い。

……広すぎてインターホンの音が聞こえてないのかも。でもそれってどう考えても欠陥構造だよね。

 

「いいや、勝手に入っちゃえ。お邪魔しまーす!」

 

門を乗り越え中に。

 

………静かだ。人の気配がしない。何で?

 

「鈴音ちゃーん。純香さーん。メイドさーん?」

 

呼び掛けてみるがやはり返事は無い。

玄関扉は開いてない。鍵がかかってる。仕方なく周囲をうろちょろ。

 

「んー、なんだろ、なーんか変な感じ」

 

あ、窓が開いてる。……ただ、場所が三階の窓だ。変身しなくちゃ届かない。

しょうがない。変身するか―――

 

ガチャッ

 

どこかで扉の開く音がした。

 

「玄関の方かな? 行ってみよう」

 

なんてホラゲー風に言ってみる。とにかく中に入ろう。

 

「お邪魔しまーす……」

 

玄関を開けた人は居ない、と。まぁ開いてから少し時間がたってから開いたからね。その間に隠れたんだとガチャンッ

 

「……え?」

 

勝手に扉が閉まった。

 

 

けど、これって………内鍵だから普通に開くんだけど。

だから別段閉じ込められてはいない。それに、そもそも誰か見付けるまで外には戻るつもりも無かったし。

 

「おーい。カクレンボさーん。どーこでーすかー」

 

返事があるわけもなく。まずは鈴音ちゃんの部屋に行こうかな。

 

~○~○~○~○~○~

 

「ここだね」

 

二階、鈴音ちゃんの部屋。

 

ここまでの部屋は全部扉を開けてったけどやっぱり誰も居なかった。ただ、中をしっかり確認してきた訳じゃないからクローゼットとかに隠れてるのかも。

 

「トントン、誰か居ますかー?」

 

と言いつつ開ける。鍵はかかってなかったし中には誰も居なかった。

 

「ふぅむ。これは……ん?」

 

鈴音ちゃんの机。何か赤ペンで書かれている。

 

「えぇと………っ!?」

 

あかねあかねあかねあかね

ひどいひどいひどいひどい

 

うらぎった

 

「な……どういう、こと……」

 

バッと後ろを振り返る。誰も居ない。

……裏切った? わたしが? 鈴音ちゃんを?

 

覚えが無い。

 

「鈴音ちゃん……そうだ、純香さん!」

 

荒っぽく書かれたあの文字からは、深い感情を感じた。深い深い、負の感情が。

鈴音ちゃんにそんな感情があるとは思ってなかったけど、もし隠してたんだとすれば、まず純香さんが危険だ!

 

「っ、誰!」

 

……今、何処かから声が聞こえた気がした。気のせい?

 

「っ~、今は純香さんを助けないと……!」

 

走る。比較的近くだったからすぐに辿り着く。

 

二階、純香さんの部屋。鈴音ちゃんの部屋から部屋五つ分離れてる部屋だ。

……鍵がかかっている。

 

「くっ……純香さんゴメン!」

 

変身。右の袖からナイフを取り出してドアノブに柄を叩き付ける。全力で。

一回、二回、三回、四回。

 

「こんのぉ!」

 

両手でナイフを持ち、全身を使い振り下ろす。

ドアノブが壊れる。すぐにドアを蹴飛ばし、中へ。

 

「純香さん!」

 

純香さんがベッドの上で寝ていた。

駆け寄り、呼吸を確認。息はある。

脈を確認。……多分平常。

 

「よかった……。………?」

 

気配を感じ、振り返る。振り上げられた包丁が見えた。

 

「っ!?」

 

ナイフを振り上げ、包丁を受け止める。

包丁を持つ相手に肩からぶつかり、距離を離す。

 

「な、メイドさん!?」

 

倒れた相手はメイド。この小崎家に仕えるメイドさんの内の一人。

 

「 」

 

メイドさんは何も言わず立ち上がり、無機質な顔を向けてくる。

どうする? まさか殺す訳にもいかないし、無力化させようにもその手段がナイフだけじゃ厳しい。

それに、ここであんまり暴れたら場合によっては純香さんに怪我をさせてしまう。

 

「……ねぇ、目的は何?」

 

話して時間を稼いでみる作戦。

 

「 」

 

失敗か。容赦なく襲い掛かってきた。

 

「ならばこうっ」

 

腰だめから突き出された包丁をしゃがんでかわし、転がる。

 

その勢いのまま体制を立て直し部屋から飛び出る。

 

「 」

「 」

 

メイドさんBとメイドさんCが右からやってきた!

 

「なら左!」

 

なんなの!? この魔法は知らないよ! 確か、アニメで魔女が催眠使って人間を集めたりしてたけど、あれはあくまで見滝原市での出来事であってここで起きる筈はない。そもそも操られた人達は襲ってきたりしない!

 

「 」

「 」

 

うわ、前からも来た。つまり、挟まれた。

ならばととっさに部屋に入る。鍵も閉める。

 

うっわ、めっちゃ叩かれてる。包丁も刺されてる。

こわっ!

 

ヤバい、すぐに扉は破られる。逃げ場は……

 

「外しかない、か」

 

クローゼットに隠れたとしても意味がない筈。あの調子ならクローゼットどころか部屋そのものを壊しかねない。

 

窓を開け、飛び降りる。

 

着地。な、中庭の土が柔らかくて良かった……衝撃が少しでも緩まった。

……ま、変身してるしせいぜい二階から飛び降りただけだしそんなにダメージは無いね。

 

「……で、こんにちは鈴音ちゃん」

「………」

 

中庭の中央。

 

鈴音ちゃんだ。



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彼女の特異は

うーん。本当はもう一個日常パート挟みたかったんですけどね。
何とか終わりに近付けたいんです。


「鈴音ちゃん……」

「朱音さん。誰かを傷付けましたか?」

「へ?」

「傷付けましたか?」

「………部屋を壊した程度かな」

「そう。そうですか。なら良いです」

 

鈴音ちゃんが右手を上げる。中庭を囲うようにメイドが出てくる。全員、手に包丁を持っている。

 

「やっぱり、鈴音ちゃんの魔法だったんだね」

「えぇ。素晴らしいでしょう? (わたくし)の本気ですわ。ソウルジェムが濁るからあまり使わないんですわ」

「そっか。つまり、全力でわたしを……」

「殺しますわ」

 

鈴音ちゃんが右手を振り下ろす。

 

「行きなさい(わたくし)軍団(レギオン)。敵はあの裏切り者です」

 

メイドたちが襲いかかってくる。

ジャンプ。一番前のメイドさんの肩に足を乗せ、頭を踏み、更に高く。鈴音ちゃんの元へ!

 

「鈴音ちゃん!」

弓兵(アーチャー)!」

 

鈴音ちゃんの両脇に泥人形が現れる。矢をつがえ、放たれる。空中じゃ避けられない。

右脇腹と左肩に当たる。吸収。

 

駄目だ、わたしは魔力しか吸えないから……衝撃と泥は残る。

そして衝撃は鈴音ちゃんからわたしを遠ざける方向にかかっている。

 

「うぐっ」

「 」

「あっぶなっ!」

 

落ちた瞬間に包丁が突き出された。転がって避ける。

 

「鈴音ちゃん! 裏切り者って何!」

「分からないなら分からないまま死んでくださる!?」

 

ぐぐ……メイドたちの攻撃が激しい。

分身、『無し無し結界』!

 

「……隠れて、逃げて。そればかり」

 

~~~ッ! メイドたちがやたらめったらに包丁を振り回すせいで鈴音ちゃんに近付けない!

なら!

 

「空へ跳ぶんでしょう? 弓兵」

 

……読まれてる。跳ぼうとした瞬間に弓が雨あられのように降ってきた。

 

「アハ、アハハ、ワタクシは、これほどまでに朱音さんの事を……なのに。何故裏切ったんですの?」

「裏切ってなんかない!」

「あぁ、もう答えすらしてくれないのですわね?」

 

『無し無し結界』の欠点だ。中から外への音を一切漏らさない……つまり、声が届いていない!

 

「ほら、もっと、もっと! ワタクシのレギオン!」

 

む、ぐぅっ! メイドが更に増えた。なのにフレンドリィファイアしない。的確にわたしだけを狙ってる……見えてないのに!

 

「アハハハハ! 消えて消えて消えて! 知ってますわよ、魔法以外は吸収出来ないことは! 知識も! 経験も! 能力も! ワタクシのホウがウエなんですわ!」

 

ヤバい、なんか鈴音ちゃんが壊れてきてる。

 

…よし……思い付いた……こうするしかない。

 

片方の『無し無し結界』を解く。

 

「あら……隠れるのは無しにしたんですの?」

「……」

 

メイドたちが邪魔で鈴音ちゃんの顔までは見えない。

メイドたちは、わたしに包丁を向けている。

 

「鈴音ちゃん……わたしの何が悪かったの? 教えて? 直すから……」

「朱音さん。本当に分からないんですの?」

「………」

 

分からない。何も鈴音ちゃんに悪いことはしてないし殴ったり無視したりもしてない。

そもそも……タイムリープした日から何日たったの?

今日は水曜日……あの日を入れて五日たった。

そんな短い間に、何が出来るの? しかも鈴音ちゃんと会ったのはあの日と、今日だけ。

 

「……滑稽ですわね。自分のしたことも分からないだなんて」

「…………」

「分かってますわよ。そろそろ、分身が私の近くに来るんでしょう? それまでの時間稼ぎなんでしょう?」

 

ぐ……ばれてる。っていうかもう真後ろまで来てる。

抱き着こうとした瞬間にこの台詞だよ。

 

「つまり。私が何を言っても直すつもりは無いんでしょう?」

「違う! わたしは、本気で」

「嘘つき。……そうね、教えてあげますわよお馬鹿の朱音さん」

「…………」

「お母様に、何を吹き込まれたんですの?」

「え?」

 

あ……そうか……忘れてたけど、純香さん、鈴音ちゃんの事を嫌ってる振りをしてた……

 

「無霧に何を頷いたんですの?」

「……見てたんだ」

 

無霧……大剣ちゃんとの、話し合い。あそこに鈴音ちゃんも居たなんて。

 

「その、ね? どっちからも鈴音ちゃんをお願いって頼まれたの。貴女は鈴音にとって初めての、えぇと、死んでないお友達だからって」

「……」

 

メイドたちが下がる。鈴音ちゃんとわたしの間に道が出来る。

そこを鈴音ちゃんはゆっくり歩いてくる。

そして、わたしの前で止まる。俯いてて表情は読めない。

隠れてるわたしは、そっと後ろから着いていく。

 

「ね? だから多分これは鈴音ちゃんの勘違いだよ。大丈夫、わたしはいつまでも鈴音ちゃんの友だ」

 

ドスッ

 

「……え?」

「ワタクシが包丁を持たないと思ってたんですの?」

 

腹を、鈴音ちゃんが持つ包丁が突き刺した。

 

「鈴音……ちゃ」

「うるさい。うるさいうるさいうるさい。その口を閉じなさい裏切り者。無霧がワタクシの事を殺そうと画策していたのは知っているんですわ。ワタクシをコロそうとするアイテが、ワタクシのコトを()()()()()()()? ウソツキ、ウラギリモノ」

 

体から力が抜ける。だめだ、立っていられない。

崩れ落ちる。

痛い。痛いよ。血が……止まらない……。

 

 

~○~○~○~○~○~

 

 

 

 

 

……うぅん?……血が止まらないのは……()だから……()()()は……その子を……

 

 

 

 

~○~○~○~○~○~

 

っ!?

 

「ねぇ。どんな気分です? 痛いんですか?」

「『こいし』ちゃんっ!?」

「え?」

 

『無し無し結界』を解き、倒れているわたし……いや、『こいし』ちゃんに駆け寄る。

 

「『こいし』ちゃんっ『こいし』ちゃん! 何で……何で!」

「アハハ……だって私はコピーだし。皆を繋ぐのが私の役目だし……良いかなってね」

「そんな……」

「……はい? まさか、一人二役の演技ですの?」

「鈴音ちゃんは黙ってて!」

「!?」

 

それどころじゃないんだから!

 

「『こいし』ちゃん……」

「駄目だよわたし。友達は大切にしなきゃ……ガフッ」

 

『こいし』ちゃんが血を吐く。

 

「血、血が……こ、『こいし』ちゃん、病院、病院に行かないと……!」

「遅いよ。もう遅い。だから……ちゃんと聞いて」

「でも……」

 

『こいし』ちゃんがわたしの顔で、わたしの眼で、わたしを見てくる。死にかけてるのに……強い、眼。

 

「………うん…聞くよ……」

「良かった。まずは……これ」

 

『こいし』ちゃんの、わたしの体に着いている緑色のケーブル。『こいし』ちゃんのそれが、動き、鈴音ちゃんを縛り、近寄せる。

 

「ちょ、ちょっと……」

「これは動かせるの。こんな風に」

「……うん」

「後、おれ。わたしの……本庄 朱音の、過去をしっかり見てあげて」

「……あぁ」

「鈴音ちゃん……ガフッ」

 

また、『こいし』ちゃんが血を吐く。駄目……喋らないで……死んじゃう……!

 

「ひっ……な、何……ですの……?」

「許してあげる。……はぁ、はぁ、わたしと、よく、話し合って、ね? ……はぁ、んぐっ、え……と……喧嘩は、駄目だよ……」

「…………」

 

なぁ、わたし。分かるだろ。もう、『こいし』の限界だ。

 

「『こいし』ちゃん……」

「名前。……あったんだね」

「……うん、うん……!」

「……名前は、ちゃんと…おし、え……て、ガフッゲホッゴボッ………あげ…………てね……」

「うん、分かった、分かったよ……!」

「…………」

 

スウッと。『こいし』ちゃんの身体が消える。

それは、分身を解いた時のようにあっさりで、だけど、確かにわたしの中の一人が消えた。

 

「う……うぅ……『こいし』……ちゃん……」

「………ねぇ。朱音さん。何がなんなんですの? 今のは? 朱音さんじゃ無いのですか?」

「グスッ………『こいし』ちゃん。……わたしの、中の、無意識ちゃん……」

「はい?」

「あの……子……」

 

次の言葉を出そうとして、意識を失った。




『こいし』ちゃんとは、一体、古明地なんなんだ……。
と、突然の東方要素ですけど……ちゃんとタグに付いてますからね。


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彼女の最後は

今回は、作者自身が、よく分からない展開に、なっています。
大筋は、良いんですけど、なんか想像と違う。
……しかも『こいし』ちゃんについての説明も出来なかったし。

後恒例のこれ、前回忘れてた。直さないけど。それでは、どうぞ。



目の前に朱音さんが倒れている。(わたくし)と朱音さんを囲んで人形(メイド)たちが立ち尽くす。

今なら。今なら、何の苦労もなく朱音さんを――裏切り者を――殺せる。

でも、それで良いの? せっかくの親友なのに?

いや、でも、こいつは私との友情を裏切った。

ならば殺すべき――

 

『わたしと、よく、話し合って、ね?』

 

……なんで、なんで。

 

『喧嘩は、駄目だよ…』

 

言葉が頭から離れない。演技なのに。自作自演の癖に。

 

「う……く…」

 

手の中の包丁が、重くなる。違う、重く感じているだけだ。刺した感触は忘れられない……でも、慣れている。

今更、何を躊躇うのか。いままで、何人の相手を殺してきたのか。

 

私を見てくれないおじいちゃんを殺した。

トンッと軽く押した、それだけで車にひかれた。

 

私を馬鹿にした男の子を殺した。

物陰に呼んで首を絞めた、泡を吐いていた。

 

褒めてくれない先生を殺した。

飲み物に洗剤を混ぜた、味も匂いも完璧だった筈だ。

 

沢山の魔法少女を殺した。

幼いからと襲いかかってきたから、ランスで串刺しにした。

 

私を愛してくれない両親を殺した。

魔法を初めて試した相手だった。

 

そう。私の手は血に染まっている。刺した感触、絞めた触感、押した感覚、全て残っている。

その点、戦刃 無霧は分をわきまえていた。私のライバルとなり、いつでも奇襲を警戒し、挙げ句には本気で殺そうとしてきた。

 

………あれ? 始めに殺そうとしてたのは私だったかしら。殺されまいとしていたのはあちらだったのかしら。

 

まあいい。私を殺そうとしているのは事実なのだから。その時はやり返せばいい。

 

そんな私が、他人を殺すのを躊躇っている?

他にはお母様を殺していない?

今のお母様は私を嫌っている。そもそもあまり面と向かってくれないから、殺しにくいから、生かしておいている。

対して朱音さんは、生かしておく理由が無い。

 

そうだ。このまま朱音さんを殺してしまうのは勿体無い。お母様の目の前で殺して、その後お母様も殺しましょう。

成る程、この考えに至るまで体が止めていてくれたのね。流石は私。確かに普通に殺すのはつまらない。

 

「そうと決まれば。そこの、朱音さんを持ち上げて」

 

近くのメイドを使い、朱音さんを持ち上げてもらう。

流石に小学五年生の女の子では中学生の体は持てない。

 

「ふふ、フフフ、お母様はどんな顔をするのかしらね」

 

急がなくては。

 

すぐに辿り着く。当然だ、私を邪魔する者は居ない。

 

「お母様? 起きてくださる?」

「…………」

「お母様、お母様!」

「……ん……すず…ね……?」

 

少し睡眠薬を飲ませ過ぎたかしら。いや、これくらいが丁度良いのか。

 

「お母様!」

「何ですか……珍しい……」

「朱音さんを助けてくださる?」

 

…………あら?

 

「はい?」

「あ、えっと、違くて……」

「朱音さん? 遊びに来てくれていたのですか? 大変、私ったらグッスリ寝てしまってましたわ!?」

 

何で、『助けてくださる?』なんて……

 

「お母様」

「あ……鈴音? 何で泣いているのかしら」

「泣いて……?」

 

顔に手をやる。水が手に着く。

…………。

 

「っ、包丁なんて危ない物を……あ、ら? 朱音さん?」

「……やっと気付いたんですの?」

「ッ! 何が起きたんですか! メイド、朱音さんをこちらに!」

 

メイドは反応しない。当然だ、まだ私の魔法は続いている。

 

「メイド? 速くしなさい」

「いつも」

「?」

「いつもお母様は」

「……」

 

え……私は、何を言おうとしている、の?

 

「…その……」

「…………。鈴音、お母様は聞きます。ですから――言ってごらんなさい」

「………」

 

良いや。何だか良く分からなくなってきた。朱音さんの事も、自分の事も、お母様の事も、何もかも。

 

話してしまえ、心のままに。

 

「私の事を蔑ろにする」

「……!」

「私は、ただ愛されたいだけなのに。うぅん、楽しく遊びたいだけなのに、楽しく生きていきたいだけなのに、なんで、なんで……私は……殺して、しまうの……ッ!」

「鈴音……」

「本当は殺したくなんかなかった! もっと私を見てほしかっただけなのに! 私は、何を間違っているの!? 何を、何が、どうして!」

 

急に抱き締められる。

……あの恐ろしい夢を見たときも、柄になく泣いて、お母様は抱き締めてくれた。

 

「きっと鈴音は、他の人より、少しだけ、愛情を多く持っているだけ」

「……」

「愛して欲しくて、愛を足りなく感じてしまってるだけ。間違っていません。それが貴女の……長所です」

「……違う」

「短所なのですか? 私はそう思いませんけど」

「……違うの。長所なら、なんで、なんで殺してしまうの……?」

「あら。確かに」

 

……え?

 

「となると私が間違えましたわ。えぇ。言い間違い」

「…お母様」

「……間違いは、誰にでもあるのですよ鈴音」

 

お母様の体を押して、抱き締めてくる腕から逃れる。

そして、睨み付ける。

 

「私は真剣に……真剣に…………」

 

真剣に、何をしてた?

 

「だから、私は鈴音、貴女への接し方を直しますわ」

「……はい?」

 

話が繋がらないし頭はこんがらがってるしで何がどうなってこうなっているのか分からない。

 

「待って。確か私はお母様の目の前で朱音さんを殺して、その後お母様も殺す筈だったんですけど……何処で狂ったんですの……?」

「……ねぇ、鈴音? 今までは、貴女のそれが怖くて距離を置いていました」

 

話を聞かないで、朱音さんを殺せば良いのか。

……でも、何で。顔が後ろを向いてくれない。お母様から目を離せない。

 

「だけど。今は朱音さんが居ます。貴女への接し方を間違っていると思って、それでも『それが正しい』と言ってしまう、少し変な女の子が」

「朱音さんを変と言わないで」

「はいはい。……良いですか? 人は誰でも間違うものです。貴女でも、私でも、きっと朱音さんでも」

「……」

「けど、間違えたなら正していけば良いのです。私にはその勇気が無かった。けれど、朱音さんから勇気を貰いました」

「………何が言いたいの?」

「遅いですけど、それでも、貴女への接し方を変えます。貴女が嫌がるほどに愛してあげますわ」

 

自信満々に笑うお母様。私と同じ喋り方。

……私()同じ喋り方なのか。

 

「……私は、お母様を、殺す、と、言ったのですけど。それでも?」

「殺してみます? 今の私に怖いものは無いですわよ? そうね……強いて言うなら、貴女が私を『嫌い』と言うのは、少し怖いですけど」

「嫌い」

「それは貴女の気のせいだと思いますわ」

 

…………こういうの、なんて言うんでしたっけ。

確か、そう、『興が削がれた』。

 

「もう良いですわ」

 

魔法を解除。変身も解く。包丁を放り投げる。

 

「殺すのはやめです。朱音さんが気絶したので、どうにかしてあげてください、お母様。私は部屋で……考えをまとめてきますわ」

「あら忘れてましたわ。メイド、メイド! 朱音さんを介抱してあげて!」

「え? あ、は、はい!」

 

疲れた。ソウルジェムもかなり穢れている。

……あれ? 徐々に綺麗になっていってる気が。

いや、有り得ないか。見間違いに違いない。

 

 

~○~○~○~○~○~

 

 

 

 

…最後の……お仕事……完了…………それじゃあ……バイバイ……わたしたち。

 

 

 

 

……楽しかったよ。



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彼の名は

サブタイトルはパクりじゃないですよーリスペクトですよー(棒)

『おれ』が頑張るお話です。どうぞ。


「ん……」

 

目が覚める。覚めたけど目覚めきってはないみたく周りがボンヤリに見える。

おかしいな、おれは寝起きははっきりしてる方なんだが。

……そういえば、さっき近くで女の子が起きたような声が聞こえたな。

 

「ふわぁ…………ん?」

 

おれが欠伸をすると同時に女の子も欠伸をした。

 

―――いや待て、違う。何か忘れている。

ぼんやりした頭を働かせる。何だ、何を思い出せば良いんだ?

 

布団の中でポリポリと頭を掻く。……まぁ、分からないのは後で考えよう。きっと何か夢でも見たのだろう。

身体を起こす。

 

「朱音さん!」

「ふぅ……起きましたか。もし目覚めなかったら親御さんに何て言えばと……」

「お母様不謹慎ですわ!?」

 

あぁ、そっか、思い出した。うん、夢じゃ無かったのか。

 

「おはよう……鈴音ちゃん、純香さん」

 

少なくとも今のおれは、本庄 朱音だ。

 

「ほら、鈴音」

「……その……ごめんなさい! …ですわ!」

 

鈴音ちゃんが謝ってくる。なんだっけ……そうだ、鈴音ちゃんが『こいし』ちゃんをころ……んん。

 

「許さない」

「え……」

「いや。正確には許されないよ、鈴音ちゃん。……それだけ、殺人の罪は重い」

「………分かってますわ。…分かってます」

「そうか。なら良いよ」

 

分かってるなら良い。最低限、鈴音ちゃんは本当に悔いてる。司法どころかもはや人間とも言い切れないおれなんかが裁けるような事じゃない。

 

「……はい」

「ところで、ねぇ朱音さん。そんな性格でしたか?」

 

一段落したと見たのか、純香さんが話に入ってくる。それは良いんだが……。

 

「……純香さん。変な所で勘が良いのは何でですか?」

「愛ゆえに」

「お、お母様?」

「そうですか」

「え、納得するんですの朱音さん?」

 

そうでもしないと話が進まないから、仕方無い。

 

「それについてだけど、どうも始めまして。朱音の人格の一つ、『おれ』こと……本庄 蒼太(そうた)と言います。朱音がお世話になってます」

「はい?」

「これはこれはご丁寧にどうも」

 

純香さんは美しくお辞儀をしてくる。対して、鈴音ちゃんはまったく訳が分からないといった顔をしている。

いや、てかさ。

 

「おれが言うのもあれですけど、純香さん動じなさすぎじゃないですか?」

「あら、この程度じゃ鈴音には勝てませんわよ?」

「お、お母様――」

「殺人に勝ちたく無いですけどね」

「朱音さ、じゃなくて、そうた……あーもぅっ! 訳が分からないですわ!」

「だろうね」

 

一度立ち上がり、さっきまで寝ていた豪華でふかふかなベッドに腰掛ける。

 

「今、おれに分かる事だけ教える。もしかしたら少し長くなるかもしれないけど」

「あらあら。予め人払いしておいて良かったですわ」

「いや何でそんなこと……まぁいいか。鈴音ちゃん、こっちこっち」

「あ、はい」

 

鈴音ちゃんを横に座らせる。うーん、横に女の子が居ると少し興奮してくるな。―――と考えたら、いつもならわたし……朱音の突っ込みが入るんだけどな。

 

「まず、おれの事だ。純香さんには既に話してあるな?」

「えぇ」

 

純香さんが頷きながら鈴音ちゃんの横に腰掛ける。そしてついでの様に鈴音ちゃんの頭を撫でる。まるで鈴音ちゃんが猫のようだ。

 

「ん……」

「続けてくださる? 鈴音に分かるように」

 

あれ? この二人ってこんな関係だったか? どうにか改善出来たのか? それなら良かった。

 

「端的に言うと、おれは朱音の前世の記憶だ」

「前世?」

「そう」

「前世…ですか」

「にわかには信じられませんわね」

「いや純香さんは前にあっさり信じたじゃないですか」

「そうでしたわ」

 

と、鈴音ちゃんがそっと耳打ちしてくる。

 

「蒼太さん、うちのお母様は天然でしたわ」

「だな」

 

それには肯定しかできない。おれとしてはもっとしっかりもののお母さんだと思ってたんだけどな。

 

「二人で何を隠し事かしら?」

「何でも無いですわー」

「そう。では、続きをどうぞ」

「はい。えぇと、おれは朱音の誕生日に……っていうのはいいか。とにかく、おれはこの世界……というか魔法少女について知っていた」

「はい?」

「知ってたんだ。あんまり追求しないでほしい」

 

だって大の大人がさ。女の子が出てくるアニメ見たりとかゲームやってたとか、小学生に教える事じゃ無いだろ?

 

「まあ、蒼太さんがそう言うなら」

「うん。で、おれについては大体良いだろ? おれの記憶のせい……お蔭か? で朱音は魔法少女について知った」

「ふむふむ」

「……だが、だ」

 

声を落として雰囲気を変える。

 

「おれは記憶だけとはいえ、男だ。本来おれは魔法少女になれない」

「まぁ、そうなりますわね」

「そんなおれが中に居るんだ。朱音が魔法少女になるときに……少し不思議な事になった。それが、『こいし』ちゃんだ」

 

鈴音ちゃんが気まずそうな顔になる。気まずくても聞いてもらうしかない。

 

「『こいし』ちゃんは、そうだな……」

「お待ちになって。私はその『こいし』ちゃんは初耳ですけど」

「あー。おれもさっき知ったばかりだ。『こいし』ちゃんの存在自体は……そう、朱音を調整してくれる存在が居るのは薄々分かっちゃいたが」

 

でなきゃ暴走を起こす筈が無い。一応暴走中の出来事もおれは記憶しているが、それこそ前世の記憶のように薄ボンヤリしているのだ。おれはそれ以外は完全に記憶しているから何かが働いているのは分かっていた。

 

「調整……」

「そう、調整。朱音が絶望しないように発散させる役割。……これからはおれがやる必要があるらしいけどな」

「絶望ですか……つまり今、朱音さんは?」

 

聞いてきた純香さんに頷いてみせる。

 

「多分絶望しかかってる」

「……!?」

 

ソウルジェムを取り出す。おれ自身は変身出来ないけど、ソウルジェムの形を変えるぐらいならできるらしい。

そして。

 

「っ、く、黒……!」

「あぁ。普段はかなり薄い水色なんだけどな」

 

ソウルジェムは魔女化一歩手前まで穢れている。

鈴音ちゃんはあまりの事に絶句してるし、純香さんは何も言えないらしく口元に手を置いている。

 

「~~っ。は、はやくグリーフシードを」

 

慌ててグリーフシードを取り出そうとする鈴音ちゃんの手を止める。

 

「無駄だ。魔力消費の穢れと違って、絶望の穢れはただ吸いとってもすぐに湧いてくる。……心の傷が癒えるまで、そっとしておくしかない」

「で、でも……」

「―――今やるべきことは、それじゃない」

 

恨み言を言おうか迷った。こうなったのはお前のせいだと言おうと思った。でも、そんなのはあまりに大人気ないし、それを言ってしまったら……負のループの始まりだ。

 

「そうだな、おれは家に帰る。……おれのじゃないとはいえ、お母さんが心配してるだろうしな」

「……」

「あらあら、言われてみれば確かに真っ暗ですわね。……一人で帰れますか?」

「むしろ一人にしてほしい」

「そうですか」

 

……立ち上がり、歩き、玄関へ。

 

「あの、蒼太さん?」

 

外へ出ようとすると、鈴音ちゃんが声をかけてきた。

振り返る。

 

「朱音さんを、お願いしますわ」

 

少し伏せた顔を見て、

 

「分かってる」

 

応える。

 

―――そう、どうせおれはシステム(記憶)だ。感情は理解できれど、持たない。

恐らく、鈴音ちゃんは怖く感じたのだろう。朱音の姿で無感情に話すおれの事を。

 

「分かってるさ。すぐに朱音を戻す」

「はい」

 

家へ。さて、どうやって言い訳しようか。




しかし……まどかとかほむほむとかマミさんとか一切出てこないですね。最低限次回も出てくる予定が無いですし。……あれ、これってオリジナル小説でしたっけ?


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彼は彼女は

一ヶ月ぶりの投稿です。いやぁ、何があったかって別段何も無くてですね。
まぁチラシの裏ですしほとんど見られて無いだろうと後回しにしてたら一ヶ月ですよ。
もし、もしも心待ちにしている人が居るのならば、謝りますすみません。

というか設定がめちゃんこになってきてて。展開も難しい状況に追い込まれてます。
あぁ、まどかは、ほむほむは、出番はいつになるのでしょうか。

それでは、どうぞ。


「あら、お帰りなさい」

「ただいま」

 

家についた。さぁて、何を言われるんだろうか。

 

「またこんな夜に帰って……どうしたの?」

「え?」

 

てっきり怒られるかと思ったのにな。

 

「元気が無いわよ」

「それはその、ほら、暗くなってから帰ってきたから怒られるかなぁって」

 

記憶の中の朱音を真似る。大丈夫、元々わたしの体なんだから。おれだけど。なんてね。

 

どうよ、完璧じゃない?

 

「あのねぇ。何年貴女を育ててきてると思うの? 何があったの?」

「……その。鈴音ちゃんと、ちょっと、ね」

「はぁ。喧嘩ね」

「……てへへ」

 

まったくもう。とお母さんが呟き、ふと頭を撫でてくる。

 

「……えっと?」

()()の名前は朱音が付けるから、だったかしら。ごめんね、不甲斐ない……姉で」

「!?」

「……さ、ご飯の用意をしましょうか」

 

…………あ、ね?

 

 

~○~○~○~○~○~

 

 

「ごちそうさまです」

「ご馳走さまでした」

 

……駄目だ。夕食の間ずっと考えていたけど、やっぱり記憶に無い。

 

「お母さん」

「なぁに?」

「わたしは……朱音には、何があるの?」

「あら……もしかして朱音でも、あの子でも無いの? どうしましょうかしら……そろそろ覚えきれないわよ」

「……」

「まぁ、まずは貴女の事から教えて貰おうかしら」

 

……え、この人動じなさすぎじゃない? 天然なお母さんだなとは思っていたけど。

 

「なら。わたし……()()は蒼太。簡単に言えば、朱音の前世の記憶だ」

「あらあら、今度は男。それに、蒼太、だっけ?」

 

お母さんが何かに気づいたようにうんうんと頷く。

 

「……名前が何か?」

「お祖父様の生まれ変わりかぁ」

「………はい?」

 

お祖父様? ってことはなんだ、おれの二世代後には二次元が現実になっているという――いや、偶然だろう。

 

「まぁ私は気にしないけど。で、朱音の事だけど貴方も薄々気づいてるでしょ?」

「……なんとなくは」

「そう。朱音は――――よ」

 

……ん?

 

「ご、ごめんお母さん。もう一回言って?」

「ふふ、朱音そっくり。いや、でも体は朱音なのよね」

「いいから!」

 

つい怒鳴ると、お母さんはいつになく真剣な表情を見せる。

 

「に、じゅ、う」

 

口を閉じる。なんだろうか。……復唱しろってことか?

 

「にじゅう」

「じ、ん」

「じん」

「か、く」

「かく」

 

……二重、人、か

 

 

~○~○~○~○~○~

 

 

そっか。……はぁ。ねぇ『こいし』ちゃん、まだ無理だったよ?

倒れた体を起こす。

 

「まだ。まだ、駄目なの」

 

お母さんにそう伝える。

 

「そう? 蒼太さん、だったかしら、あの人でも?」

「うん。……あれはただの記憶に過ぎないから」

 

そう言うと、お母さんは少し怒った顔をする。

 

「もう。人の事を、ましてや貴女の仲間の事をそんな風に言わないの」

 

本当の事だし。なんて言わないけど。

 

「ごめんなさい。……寝るね、お母さん」

「あんまり長く寝てると牛になるのよ?」

「…………」

 

お母さん、馬鹿にしすぎ。

 

―――なんて、()が言える訳なんてなく。

 

朱音。貴女は、まだ、また、目をそらすの?

 

「迷惑かけるね」

 

二階へ上がる直前、小声でお母さんに告げる。

 

「任せなさい。慣れっこよ」

 

力強く胸を叩くお母さん。

 

うん。朱音か、蒼太が起きるまで。

 

 

少し、ひきこもります。




お母さん、動じなさすぎ。慣れって怖い。


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彼女は起きて

設定が滅茶苦茶になりかけているので、一回見直して来ました。
さぁて、ここからは立て直せそうかな。ストーリーの終わりに向けて、どうぞ。


「お、朱音ぇ! 元気になったのねぇ!」

「う、うん。メイコちゃんは相変わらずだね」

 

鈴音ちゃんの家で倒れてから意識が戻るまで三日。

お母さんが、病気で欠席という事にしてくれたみたいだけど。

 

わたし、ずっと寝てたのかな。おれの記憶もほとんど残ってないし。

 

「相変わらずって何よ」

「元気だねって事だよ」

「知ってるわよ」

 

じゃあなんで聞き返したの? って聞きたいけど、まぁメイコちゃんだしなぁ。

 

「ねぇ、わたしが休んでた間のノート、見せてよ」

「良いわよ。一秒一円ね」

「えっ」

「三日分ともなればかなりの量になるわよー。うふふ、もうけもんよねぇ」

「と、と、友達からお金取るの……?」

「ふふーん?」

「いやふふーんじゃなくて!」

 

キーンコーンカーンコーン

 

始業のチャイムがなる。一時間目は……国語か。

 

「ま、友達だし特別にただで貸したげるわよ」

「……なんだろう、素直にありがとうって言えないんだけど」

 

そう言うと、メイコちゃんはケラケラと笑って自分の席へ戻っていった。

 

 

~○~○~○~○~○~

 

 

そうだ、魔女狩りに行こう。

家での宿題が終わって少しボーッとしてたら、ふとそんな考えが出てきた。

 

久し振りに杏子ちゃんとかまどかちゃんとかまどかちゃんとかマミさんとかに会いたいしね。

 

問題は……

 

「いってきま」「待ちなさい」

 

お母さんだ。やっぱりというか、やっとかというか。

取り合えず先手を打っておこう。

 

「しゅ、宿題は終わってるよ」

「何時に帰るの? 今日も鈴音ちゃんのとこ行くの?」

「えっと……夕飯ぐらいに帰ってくる、よ? 後、鈴音ちゃん家じゃなくて…見滝原に行こうかと……」

「そう。気をつけなさいね」

「あ、うん。……いやいやいやいや」

 

メイコちゃんによって鍛えられたノリツッコミが火を吹いた。

 

「あの、何て言うか、ねぇ?」

「んー。朱音の心配はしてるわよ? でも言ったところで行くのやめないでしょ?」

「う゛」

「大丈夫よ貴女なら。誰かが見てるから、ね」

 

見事なウィンク。

 

「見てる……?」

「それじゃあ悪者退治頑張ってきてね♪」

 

そう言ってわたしの頭をぽんぽんと叩き、キッチンへ戻っていった。

 

…え、お母さん……え?

ま、まって、どこまで知ってるの……?

 

 

~○~○~○~○~○~

 

「――――」

「――! ――――」

 

カチッ

 

時が止まる。

 

「――――――!」

 

ほむらちゃんがお手製の爆弾を投げる。魔女の少し手前で時に飲まれ、停止する。

 

カチッ

 

時が動き出す。

 

爆発。

 

「~~~~~ッ!?」

 

うわ、爆風が。

 

「うわっとっととと……あたっ」

 

尻餅をついてしまった。まぁ『無し無し結界』は防御用じゃ無いしね。

 

……しかし、時間を止めていても動けるんだね、わたし。やっぱりと言うかなんと言うか。

 

「――――」

 

眼鏡の位置を直し、後ろから見ていたマミさんに向かって笑いかける。

あぁ、その純朴な顔を見ていられるのは今だけなんだのなぁ。

それじゃ、そろそろ良いかな。

 

魔法少女服の左袖から携帯電話を取り出す。

 

プルルルルル……プルルルルル……

 

「わたしメリーさん、今貴女の髪型が校則違反じゃないかどうか考え中なの」

『だっ、大丈夫よきっと……というか久し振りの挨拶がそれなの?』

「お久しぶりで~す」

『まったく……え? ―――ふふ、大丈夫よ、頭がおかしくなった訳じゃ無いわ。ほら、姿を見せてちょうだい朱音さん』

「分かりましたよー」

 

通話を切る。

 

「さぁーってと」

 

こっそりこっそりほむらちゃんの後ろへ。

 

ひざかっくん。

 

「―――!?」

 

さぁて、次は影が薄かったまどかちゃんだ。

どうしてあげようかな。………にやり。

 

真後ろに回り込み、『無し無し結界』を解く。

 

「うひゃあっ!?」

「む!? ……けっこう着痩せするんだねまどかにゃん」

「あ、あ、あ、朱音ちゃん!?」

「むぐぐ……わたしより大きいだなんて……」

 

カチッ

 

おっと? ほむらちゃんが引き剥がしにかかった。時まで止めてるし。

 

うーん、なるべく時止めが効かないっていうのを教えない方が良いよね?

 

されるがままに引き剥がされる。

 

カチッ

 

「うわっと……!?」

 

演技演技。うーん、今回は地面に足付いてたから良かったけど空中に居るときに時間停止させられたらどうしよっか……。

 

…………って触れられてたから演技必要無かったんじゃ?

 

「えっと、ほむらちゃんありがとう」

「え、あ、いいんですよ……えへへ」

 

あぁ、眼鏡ほむは敬語だったなぁ。懐かしいなぁ。涙が出てきちゃうぜ。

っと、わたしはわたし、おれじゃない ――っと。

 

「ふぅ。マミさん、この子は?」

「まったく……鹿目まどかさんと暁美ほむらさんよ。二人とも、この子は朱音さん。一応、貴女たちの先輩になるのかしら」

「一応って何ですか。さて、久し振りまどかにゃん! そして、はじめましてほむらちゃん」

「……はじめ、まして」

 

うわ、めっちゃ警戒されてる。うーん、第一印象の与え方間違えたかなぁ?

 

「にゃ、にゃん……?」

「あれ? ……まどかにゃん、覚えてない?」

「……あ、ううん、久し振り朱音ちゃん」

 

……あぁ、そうか。にゃんは一周目の最後の時か。

 

「え……まどかちゃん、その人と友達、なの?」

「うん、そう。……だよ、ね?」

「その筈だけど、なんで疑問文なの?」

 

うーん、考えてみれば会うのはこれで二回目なんだね。

そりゃあ疑問文にもなるか。

 

「まぁ、最低限知り合いではあるよね。……じゃ、貴女たちの力を見せてみてよ」

 

では早速先輩ぶってみるかな。




日記を書かなくなってから日付感覚が無くなってます。(小説内)
今は何月何日なんだろうか。(小説内)


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彼女は疲れて

さて、今回は気が乗らなくてかなり短いです。
さして重要でもない繋ぎと思って読んでください。

それでは、どうぞ。


「う、ぐぐぅ……」

「あ、だ、大丈夫ですか!?」

 

だいじょーぶ……爆弾なんぞにやられないよ……って言いたいんだけどね。

無理だよ。魔法で出来てない、実物の爆弾は吸収出来ない。

 

「あ、朱音さんが……負けた……!?」

「手加減です!」

 

そういうことにして! 新人に負けたとか恥ずかしいから!

 

「あとは相性の問題です!」

 

倒れ付してマミさんにそう言い返してたら、

 

「ご、ごめんなさい! やり過ぎました!」

「朱音ちゃん、大丈夫……!?」

「止めて! 変な同情は要らないの!」

 

後倒れ付してるのはわざとだから! 起こそうとしなくても大丈夫だから!

…………なんかやられるのって初めてだから激しくテンションが上がる!

 

「ち、違う、わたしエムじゃない、極めてアブノーマル……アブ着いちゃ駄目ー!」

「まったく……朱音さん、落ち着いて。ね?」

「むうぅぅぅ、悔しい! ほむらちゃん!」

「は、はい!」

「リベンジ! 全力でぶっ飛ばしてあげる!」

「えぇ!?」

 

『無し無し結界』を展か―――あいたっ!

 

「いい加減にしなさい、今日はおしまい」

 

マミさんの鉄拳が頭に……ぐぐ、ぐぅ。

 

「……二人とも、おさらいよ。魔法を使いすぎると?」

「はい、ソウルジェムに穢れが溜まってしまいます!」

「鹿目さん正解」

 

そしてマミさんは二人に向けて魔法少女の説明をし始めた。

眼を輝かせながら素直に聞き入る二人。

 

「……」

 

二周目、か。確かインキュベーターの目論見がばれるんだったっけ。……うーん。おれの記憶のほとんどはテレビからなんだが、あれ、時間軸が分かりにくいんだよな。マミさん最後どうなるんだっけ。

 

「――と、言うわけ。分かったかしら?」

「「はい!」」

 

あ、話し終わったのかな。

 

「マミさん……意外とちゃんと教えてるんですね」

「意外とって何よ……落ち着いた?」

「はい、お陰さまで」

 

何となく笑顔でマミさんの髪を引っ張ってみた。

怒られた。

 

 

~○~○~○~○~○~

 

 

「わたしメリーさん。今からお(うち)に行くの」

『知ってるわよ』

 

あの後一度マミさんの家でお茶会をして、帰り道。

自転車を漕ぎながら片手で通話。

 

「……マミさん」

『何かしら?』

「魔女化の事、教えてないんですか?」

『………』

 

暫し沈黙。

 

『ええ』

 

そして肯定、か。

 

「何でですか?」

『まだ教える時じゃ無いからよ。あの子たちが魔法少女になる前なら止めたけど……既に魔法少女になっていたんだから、今言ったらむしろ逆効果じゃない?』

「………」

 

それもそうだけど。間違ってないけど。

けど、マミさん。

 

「そう言ってると教えられないまま死にますよ?」

『っ!? ―――余計なお世話よ』

「……そう、ですね。マミさんなら大丈夫ですよね?」

『当たり前じゃない』

 

誇るような、むしろ呆れるような声。

それにホッとするけど、同時に怖くなる。

 

「そうやって自惚れてると……死にますからね」

 

通話を切る。

 

…………うーん、今日でほむらちゃんに嫌われた感じがするなぁ。けっこう困るんだけどな。





ほむほむ登場!


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彼女は気付かない。

……最近、小説に手が付かない。その癖、新しいネタばかり浮かぶ。

うわあぁぁががががー!(錯乱)
一ヶ月近くも読者さん待たせやがってただでさえそんなに居ない読者さんが居なくなっちゃうでしょうがぁ!

そして低クオリティのまま出荷!
ストーリーが進まないとかどうでもいい! っていう寛大な心の持ち主は、どうぞ。


公園で、先輩としてまどかちゃんとほむらちゃんに稽古をつけている。

 

カチッ

 

おっと。『無し無し結界』展開した触手(ケーブル)で身体を支える。

これで空中で止まってるように見える筈。

 

「えいっ!」

 

ほむらちゃんが手製の爆弾――ではなく石の入った袋を投げる。

ま、稽古だし相手を傷付けちゃ危ないからね。

 

空中で袋は止まる。

 

カチッ

 

「うわっとぉ!」

 

触手をしまい、空中で身を捻って回避。

 

「ま、またかわされた……」

「よっ!」

 

左袖から電話を取りだし、投げ付ける。

む、流石に避けるか。

 

着地。

 

「やっぱり……強い……」

「まあね。でも、爆弾をほむらちゃんが使ったら……危ないかもね」

「それでも()()()、ですか」

 

そこは意地だよ。先輩としてのね。

だから朱音はバカなのよ

「すきありっ!」

「そんなもの無いっ!」

 

上から飛んできたピンクの矢をナイフで切り裂く。

ふぅん、逃げたと思ったら木の上に登ってたのか。

 

「そ、そんな……」

「てあぁっ!」

 

殴りかかってきたほむらちゃんの右手首を握り、左から右に受け流す。

 

「うわっ」

 

そのままねじり、ナイフを首に押し付ける。

 

「はいわたしの勝ち」

「う……」

 

ほむらちゃんが変身を解く。

 

「ほら、まどかちゃんも」

「くぅ……」

 

あ、仔犬みたいで可愛い。

 

「三人とも、稽古お疲れ様」

 

「「「マミさん!」」」

 

「それじゃあ私の部屋でお茶会にしましょうか?」

 

「「はい!」」「ごめんなさい帰らなきゃ」

 

三人ともこっちを見てくる。うっわ、気まずい。

 

「まあ、それもそうね」

「ご、ごめんなさい! ……けど、今度はマミさんの家のお茶飲みきってあげますからね!」

「やれるものならやってみなさい?」

 

ふふふ……と笑い合う。

 

―――横で、まどかちゃんとほむらちゃんが何故か震えてた。

 

~○~○~○~○~○~

 

……さ、て、と。

 

「流石にグリーフシード使いきっちゃったしなぁ……っと!」

 

ナイフで使い魔を切り落とす。

 

キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ

 

「うるさい……よっ!」

 

笑う使い魔を首チョンパ。

 

そうしながら進んでいくと、一昔前のパソコンだらけの部屋に辿り着く。

 

「やっぱり、貴女か……ハコの魔女」

 

パソコンに画像が映る。見ないように目を閉じる。

多分、精神攻撃に吸収は効かないからね。

ねぇ、それは間違って無いけど……

暗闇の中、やったらめったらにナイフを振り回す。

 

『なんで…………』

「そこっ!」

 

手応えが無い。ちっ、外したか。

 

『ねぇ……』

「らあっ!」

 

当たらない。むむむ……。

 

『こっちを……』

「ならこれでどうだ!」

 

ナイフを投擲。

…………やっぱり駄目かぁ。

 

『見てよ…』

「……」

 

聞いたことの無い声……の筈……なんだけど……いやいや、気にしちゃ駄目。

 

『向き合ってよぉ……!』

「ウルサイうるさい煩い五月蝿い!」

バリンッと割れる音。驚いて目を開けると、魔女の胴体の画面が割れてる。

悪いけど、貴女に教えて貰う必要はないの

「あ……チャンス!」

 

触手(ケーブル)を振り上げ、数本をねじり合わせて太くして、降り下ろす。

 

魔女は真っ二つになった。

 

魔女結界が崩れ、グリーフシードが地面に刺さる。

 

「ふーぅ。それじゃあ、改めて帰りますかね!」




最近のあれで文字に色が付けられるようになったんですよね(何時の話だ)
ですから、早速使ってみました。

……え? 使って無いって? 今までと変わらない?
そりゃあ、白文字ですから。量も少ないですし?

探してみても良いですよ。頑張れ(丸投げ)


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彼女は知らない。

遅くなったですよ。…なんかもう、この投稿ペースでいいんじゃないかと……いや、頑張る、頑張るから!

わたしはぁ! 短くても頑張って書いてるんですよぉおおぉお!(議員感)

こんなふざけた前書きは宇宙に飛ばして、どうぞ。


学校の一時間目終了。今朝は珍しく明子ちゃん遅刻スレスレに学校来たから喋って無いなぁ……。

 

「ヘーイあっかね~ん☆ 今朝のテレビ見たん?」

 

なんて思った瞬間これだよ。

 

「見たよー……って言うか……あー、待ってちょっと突っ込みどころ多すぎる!?」

「どこがよ」

「まず『あっかねん』って誰!? そして何で関西弁風!? てかわたしテレビ見たこと前提!? 見たけどさ! そして髪! ツインテール可愛いね! なのになんでサングラスにマスク!?」

「趣味よ! 文句ある!?」

「ある……やっぱり無しで」

 

面倒臭くなりそうだから無しの方向で。

 

「何よそれつまんない。マスクとサングラスは花粉症対策よ」

「あー成る程……ん? 待って。時期的に速すぎない?」

「そうかしら? じゃあ朱音対策」

「わたし対策って何」

「対朱音用決戦装備《エクゼンド》」

「え、なにそれわたしそんな化け物じゃないよ!」

「さぁて、どうかしら」

 

酷い!

魔法少女って化け物みたいなものでしょうに

「……ちなみに、わたしの何が危ない感じ?」

「当然、朱音菌ね。……? あー、ダメ。やっぱ無し。小学生っぽいわ」

「だねぇ」

あほらし

 

~○~○~○~○~○~

 

 

ピンポーン

 

久し振りに鈴音ちゃんに会いに来た。チャイムを鳴らすとメイドさんが出てきたから、挨拶して中に入る。

 

鈴音ちゃんは自分の部屋に居た。

ノックぐらいしなさいよ馬鹿

「やっほ、鈴音ちゃん」

「あ……朱音……さん……」

 

……うん? 最近会って無かったからかな、何か様子がおかしいね。

 

「どうしたの? 元気無いね」

「あ……その……」

「ん?」

はぁ。朱音にあの時の記憶は無いから……

なんだっけ? なんか忘れてるような……うーん?

け ん か よ

「……あ、そうだった、喧嘩してたんだっけ」

「…………その」

「ごめんなさい!」

「え?」

 

正直、何が理由で喧嘩したんだか覚えていないけどね。

 

「ほら、喧嘩したら謝って、仲良しこよし、みたいな?……あはは」

 

途中で『わたし何言ってるの?』ってなったから笑って誤魔化した。

 

「…………」

「あ、は、ははは」

 

やめて! そんな『何言ってるのこの人』みたいにポカーンとしないで!

 

「朱音さん」

「はっ、あのっうん!?」

「それは、こ、こっち……の……ぜりぶでずわぁーーー!」

「うわぁっ」

 

鈴音ちゃんがしがみついてきて、大泣きし始めた……。

えと、えーっと、こういうときは。

 

「…………」

 

何も言わずに頭を撫でてあげる。

ふん……

「ふぇええええんっ!」

 

泣き止むまで、ずっと頭を撫でてあげた。

 




そう、この小説は誰の為でも無い、自分自身の文章力の為に、書き続けるのよ。

ほむらちゃん……(自演)


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彼女は呑気に。

はあ~、ハーメルンも色々変わって便利になってますね。だけど便利になったとしてもそれで投稿速度が上がる訳では無いのだけど。

お待たせしました、それでは、どうぞ。


「えっと、落ち着いた?」

「うん……」

 

ところ変わらず鈴音ちゃんの部屋。撫で撫でしてあげてただけなのに随分と時間がたっている。

 

「ねえ鈴音ちゃん?」

「……なんですの?」

「もっとこうしてていいかな?」

「―――はっ! い、いえ駄目です! その撫でる手を止めなさい!」

「え~、やーだー」

「始めから拒否権が無いんですの!?」

 

あっ、逃げられた。やっぱり魔法少女は身体能力高いね。……ってわたしも魔法少女だったね。

 

「もう、朱音さんは……。それで、何の用でうちに来たんですの?」

「用が無かったら来ちゃいけないの?」

「え、いえ、そうゆう訳では……」

「じゃあ良いでしょ? ……鈴音ちゃんと会いたかったんだから」

「う……ず、ずるいですわそんなの……」

 

鈴音ちゃん可愛いなぁ。

このロリコン

「そうだ、魔女狩りに行かない? そろそろグリーフシードのストックが切れそうなんだよね」

「そ、そうですわね。……行きますか」

 

よし、それじゃあ狩り場は……ちょっとあっちまで行ってみるかな。

 

 

~○~○~○~○~○~

 

 

「で、なんで見滝原なんですの?」

「こっちのが安心でしょ?」

(わたくし)の縄張りじゃないから、全然安心できないですわ」

 

変身すればなんだかんだでアッサリと着くんだよね。今はでっかいタワーに二人で座っている。

 

「まぁまぁ、わたしも居るし」

「余計怖いですわね」

「えぇ……」

 

それはショックだなぁ……。

そんなのチッとも思ってない癖に

「それで、何処の結界に突っ込むんですの? 何だか大量にありますけど」

「そうだね……あんまり遅くなると怒られちゃうから、手近なので良いんじゃない?」

「使い魔の結界に当たらないと良いんですけど」

 

二人でタワーから飛び降りる。耳元で風がビュービュー鳴る。結構寒い。

 

「っていうか怖い!」

「ひゃあっ!?」

 

空中で鈴音ちゃんに抱き付く。あ、暖かい。

 

「ちょっ、あぶ、危ないんですけど!?」

「大丈夫大丈夫」

 

『無し無し結界』を展開。次いで、触手解放。そろそろかな……

いまっ!

「ほい」

 

触手でタワーを掴み、地面スレスレで急停止。……およそ女の子っぽくない声が聴こえたのはきっと気のせい。そういう事にしてあげよう、うん。

 

「ほらほら、立って。……っと、『無し無し結界』で聴こえてないかな?」

 

人が居ない事を確認して『無し無し結界』を解く。

 

「鈴音ちゃーん。おーい、生きてる?」

「う、ええ……」

 

うわグロッキー。誰がこんな酷いことを……なんて。

ふざけなくて良いから

「い、良いから腕を……離して……」

「え? あ、ごめん」

 

空中で抱き着いた訳だけど、きつく抱き着きすぎてて鈴音ちゃんが死にかけてた。危ない危ない。

 

「げほっげほっ……ところで、気付いてます?」

「うんうん、鈴音ちゃんが可愛いのは二回目に会った時に気付いたよ?」

「そ、そうでなくて……」

「分かってるって。……どうしよっか」

 

囲まれてる。これは恐らく飛び降りる所を見られてたね。

逃げる? 隠れる? 倒す?或いは、殺す?

どれにせよ相手の行動しだいだけど……ここに居るのはわたしだけじゃない。

 

「ざっと片付けるのも良いですし、ちゃっちゃと逃げるのもアリですわね」

「それにしても、襲ってこないね。たった二人に何もしてこないんだ」

 

囲んでいる相手に聴こえるように、敢えて声を大きくして挑発。

殺気が……後ろかな。つまりタワーの方。

 

「鈴音ちゃん、戦う?」

「面倒ですわ」

 

戦いたくない、と。だったら逃げるかな。

 

「……ってことで、さよなら!」

 

『無し無し結界』を再度展開、わたしと鈴音ちゃんを包んで走り出す。

『無し無し結界』で多少は見付けにくくなるでしょ。



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彼女はざわついて。

特に前書きに書く事も無いですし……いや、あの一言がありました。

随分お待たせしました、どうぞ。



「ワルプルギスの……夜が……!?」

「あ、知ってるんだ」

 

魔法少女たちから逃げた先の公園。ここはマミさんの縄張りの筈だから襲ってこない。

 

 

まあ、マミさんが死んでなければの話だけど―――。

襲ってこないんだから大丈夫に決まってるじゃない

「ほ、本当に、本当にもうすぐワルプルギスの夜がやって来るんですの!?」

「うん、それは確実。ただいつ来るかは……詳しくは分かんない。近い内に来る筈なんだけど……」

 

ほむほむに聞こうかとも思ったけど……よく考えたらこれ二週目だからほむほむはまだメガほむなんだよね。

でなくても、あんまりタイムループを共に経験してるって知られたく無いし。

 

「確実に……朱音さん」

「何で知ってるのかって質問だったらQBに聞いたって答えるけど、何?」

「あー……その……むうぅっ! 狡いですわ、そんな聞き返し方!」

「あはは、ごめんごめん」

 

ムッス~と膨れっ面するから謝った。うーん、鈴音ちゃん可愛いなぁ。ともするとおれの押しキャラの京子ちゃんより可愛いかも。

―――いや何言ってんのおれ。じゃなくてわたし……いやでも今のはおれだから……んんん?

心底どうでも良いわよ

「朱音さん?」

「―――え、あ、なぁに?」

「急に難しい顔で唸り始めて……どうしたんですの?」

「いや、うん……わたしはワルプルギスの夜を倒しに行くけど、鈴音ちゃんを連れていくかどうか悩んでたの」

 

うん、即興にしては良い難題だ。

 

「そんなのはなから決まってる事ですわ。も・ち・ろ・ん断らないですわよね?」

「……当然」

 

にっこり笑って返す。けど、本当は連れていきたくない。鈴音ちゃんなら大丈夫だろうけど、もしも、もしもの事があったら―――

 

「そろそろ暗くなるし、帰ろっか」

「そうですわね……全く、何でこっちまで足を運んだのか訳が分からないですわね」

 

どこかで何かが『台詞を取られた』と嘆いた気がした。

()()()()だけでしょ

 

「……ってまたあの鬱陶しい奴らの合間を抜けていくんですの? しかも結局魔女狩り出来てませんし」

「じゃ、魔女結界寄ってから帰ろっか」

「また簡単に言って……足を引っ張らないでくださいね?」

 

笑いながら、そう言ってくる鈴音ちゃん。言葉とは裏腹に、わたしが足手まといになるとは思ってない眼だ。

自惚れるんじゃないわよ

だから、わたしはウインクしてみせる。

 

「任せてよ。わたしの魔法って、案外サポート向きなんだよ?」

 

 

~○~○~○~○~○~

 

 

一週間と少し経った。

 

『見滝原市に巨大な竜巻が接近しています。予想される被害は甚大となります。見滝原市及び周辺の市民の皆様は、地区ごとに決められた避難場所に移動するように―――』

 

……決戦は明日、か。




うぅむ……これくらい時間を吹っ飛ばさないと辻褄が合わないっていうか話が進まない。

次回! 『本庄朱音、死す!』(嘘) (嘘が嘘) (おい、デュエルしろよ)


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彼女は決して。

さて。終わりの時が近づいてきました。
次回か……その次か……。

何気に初めて連載ものを終わらせられるのでは?

そんなフィナーレなお話を、どうぞ。


お母さんの目を盗んで家を抜け出る。そして、鈴音ちゃんと合流。

意外と外に出てる人が少ない。……いや、これが普通なのかな? 基本的に日本人って自分に関係無い事に興味が無いからねぇ……隣町にスーパーセルって結構な事なはずだけど。

 

「朱音さん、自転車は?」

「置いてきた。あれはこれからの戦いに付いてこれない」

「へぇ……いえ、自転車に戦いも何もありませんわよ?」

こんな時に何遊んでんのよ

ふっ……小学生にこのネタは速すぎたかな?

 

「ま、どうにかなるよ。鈴音ちゃんが居るし、わたしも居るし」

「よくもまぁ、そんなに呑気に……相手はかのワルプルギスの夜ですわよ?」

「そんなこと言われても、わたしワルプルギスの夜を見た事ある訳じゃないし。どうせただでっかいだけでしょ?」

「それなら良いのですけど」

 

二人で並んで歩く。

まだ見滝原市じゃないのに風が強い。鈴音ちゃんの手を握る。

 

「……なんですの?」

「鈴音ちゃんが飛んでいかないように」

「私は子供ですの!?」

子供でしょ

いや、結構子供だと思うよ? 何だかんだで忘れがちだけどまだ小学生なんだから。

 

「それに何だか怖がってるみたいだったし」

「ふん、そんなの朱音さんの気のせいですわ」

 

……鈴音ちゃん、口ではこう言ってるけど。手を握るまで少し青ざめてたし、キョロキョロと落ち着かなかった。握った手が冷たくて、震えてた。

 

「鈴音ちゃん……」

「なんですの?」

「…………あー、いや、何でもないよ」

「?」

 

言いたい。『戻る?』って、『鈴音ちゃんは残ってていいよ』って。

 

―――でも。

 

言えない。言ったところで聞かないと思う。プライドの高い鈴音ちゃんは怒り狂うかもしれない。或いは子猫のように泣きそうな眼で見上げてきたり。ちょっと見てみたい。

こら邪念!

「走ろうか?」

「ん……そうですわね。ついでに変身もしましょう」

「そうだね」

 

変身して、走る。

 

 

 

 

~○~○~○~○~○~

 

本庄朱音は、倒れた。九重鈴音は、殺された。巴マミは死に、佐倉杏子は現れなかった。鹿目まどかは魔女となり、暁美ほむらは時を巻き戻す。

 

―――カチッ チッ チッ チッ ヂ ヂヂッ

 

ワルプルギスの夜は(わら)う。自らの存在を示して。矢に撃ち抜かれ、消えつつも、ただ、嗤う。其の声は少女の頭に残る。

 

 

―――アハ、アハハハ、キャハハハハ!

 

彼女は。絶望を押し込める。魔女を見つめ、友人から託された想いを胸に。

 

―――『騙される前の私を助けてあげて』

 

絶望は人を変える。絶望は運命を変える。絶望は存在を変える。

 

――――(わたしは)――――(どうして)……――――(どうして)

 

無視してきた歪みが現れる。歪みは(いびつ)な感情を作り出す。

 

――(もう)――――(頼らない)

……仲間が傷付くぐらいなら?

「わたしが一人で終わらせる。鈴音もほむらもまどかもマミも杏子も要らない。わたしが……全部終わらせるから」

 

―――貴女たちは生き抜いて。まどかちゃん、ほむらちゃん。

 

―――貴女は笑ってて。鈴音ちゃん。

……ばぁか。馬鹿朱音。馬鹿音。……泣いてないから。…………お姉ちゃん……。

 




次は長くなりますー。


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最後の戦い
彼女は荒れ果て、。


ナイフを振るう。使い魔を切り裂き、飛んできた黒い槍は敢えて喰らう。吸収。

 

「ッアァァァア!」

 

鈴音ちゃん。あの子は、実力はあるけど脆い。わたしが怪我をしただけで動けなくなる。だから着いてくるのを断った。それでも着いてくると駄々をこねたから……気絶させた。

朱音……

 

―――キャハハハハハ!

 

「嗤 う な ぁ !」

 

触手を一本、伸ばす。触手は一直線にワルプルギスの夜の顔面を貫き、即座に燃やされる。引火しないように切り捨てる。

 

やられない為に自らを傷付ける術を身に付けた。それを咎めたマミさんは今、わたしの懇願によってさやかとまどかの子守りをしてもらっている。

ねぇ……朱音……聞いてよ……

「ちっ」

 

触手を纏め、巨大な左手を作る。飛んできたビルの残骸を受け止める。《ゴッドハンド》……なんちゃって。

 

杏子ちゃんはそもそも見滝原に来ない。マミさんが生きているから、来る理由が無い。わたしと交流があったのは、わたしが向こうに乗り込んだから。杏子ちゃんの方からアクションがあったのは、仮面の魔女との戦いの後、あの時だけ。

やめて……無理だから!

「――――――ッッツ!」

 

黒い槍は避けないと知って、黒い槍ばかり投げてくる。

別に処理できないから喰らってる訳じゃ無いんだよ? 使い魔が鬱陶しいのと、触手を動かすのに必要な魔力を補ってるだけ。

 

もういいや。無視して突っ込もう。

 

「―――ァァァアァァァア!」

 

わたしは近距離型の魔法少女。遠距離攻撃なんて石を投げる程度しか無い。

だから走る。

 

―――アハ、アハハハハハハハ、キャハハハハハ!

 

「うるさい煩い五月蝿い!」

 

ワルプルギスの夜から見たらちっぽけなわたしだって。やるときはやるよ。

 

切って、喰らって、投げて、受け止めて。

 

「らぁっ!」

 

飛び上がる。飛んできた黒い槍を踏みつけて更に上へ。

 

 

 

逆さに浮遊するワルプルギスの夜。その頭と、同じ高さへ。

 

 

―――。

 

「―――殺す」

 

―――アハ。

 

「殺してあげるから。大人しく、しててよね!」

 

―――アハハハハハハ! アハハハハハハァァァアハハハハハハァキャハハハハハギャハハハハハ!

 

 

触手を纏めて作った巨大な両手。それでワルプルギスの夜を掴む。そして、

 

「うおぉおぉおおおぉぉぉああぁぁあ!」

 

全力で下へ落とす。

 

―――アハハハハハハ!?

 

「堕―――ちろぉ!」

 

着地し、触手を引っ張る。わたしの、魔法少女としての全力で、あの魔女を落とす!

 

触手にも魔力吸収の能力はある。だからこれは時間がかかればかかるほどわたしが有利! これがわたしの思い付いた必勝ほブチッ

お姉ちゃん!

 

 

―――アッッハハハッアハハハハハハァアハハハキャハハハハハハハハハハギィャハハハハッッハハハハハハ!

 

 

触手が耐えきれずに切れた。

「え―――」

そりゃナイフで切れる程度の強度だったけどさ。

「あ―――」

纏めれば行けると思ったんだけどなぁ。

「―――はぁ」

空からビルの残骸が降ってくる。現実の物質は吸収出来ない以上、それを止める術は無い。

「―――ごめん」

それは誰に向けた謝罪なのか。

 

 

 

 

 

あぁ。

 

 

 

 

 

 

無力だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(わたくし)軍団(レギオン)!」

 

聞こえるはずの無い声がして、頭上に泥の盾が現れる。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

居るはずの無い人の必殺技が、ビルの残骸を砕く。

 

「本庄朱音!」

 

時が止まる。空中の瓦礫が存在しない場所まで連れ去られ、時が動き出す。

 

「朱音ちゃん!」

 

二人に肩を担がれ、移動させられる。

 

「うわっ、不味いってこれ傷だらけ! こっち!」

 

回復魔法? だけど、やるだけ無駄。わたしは魔法を吸収するんだから―――

 

「これ絆創膏! いや、その前に消毒液!? あーもー続け出る超常現象にさやかちゃん困っちゃう!」

 

あれ。魔法少女じゃないの?……あぁ。そっか、マミさんが生きてるから。ほむらちゃんの説得が間に合ったのかな?

……そういえば。これで、願いは……わたしの願いは守れた事になるのかな?

 

「おいおい、つれねぇよ朱音ぇ。まさか私を忘れた訳じゃねぇよな?」

 

頬をペチペチと叩かれる。

 

「おーい。生きてるかー?」

「…………」

「あっりゃ、駄目だこれ燃え尽きてる……ねっ!っと」

 

多節槍が振るわれ、襲ってきた使い魔を切り落とす。

大きく横に振ったから危うく二人に当たる所だった。

 

「ちょ、杏子! 危ないでしょうが!」

「んだよ助けてやったんだから礼の言葉ぐらい言えよぉ」

 

…………なんで。

 

「だから助け方が荒いっての! もうちょっとで一緒にお陀仏だったじゃない!」

「そもそも一般人がここに居るのがおかしいんだよ!」

 

…………なんでよ。

 

「ま、まぁまぁ、二人とも落ち着いて」

「まどかの言う通りよ。……佐倉杏子、貴女は巴マミと一緒にワルプルギスの夜の撃退に」

 

…………どうして。

 

「あぁ。ちょうど子守りに疲れてた所だ!」

「誰が子供だっ!」

「ニシシッ!」

 

なんで……皆……

 

「ん? そりゃ、朱音。あんたが大好きなあいつのお陰だよ」

 

そう言って杏子ちゃんは走っていった。

 

わたしが大好きな?

それってわたし()大好きな? それともわたし()()()大好きな?

どっちにしろ、そんな人はここには……。

 

「朱音さん!」

 

えぇ? まさかね。

 

「鈴音ちゃん……」

「ふざけないでくださる!?」

「ふぐっ!」

 

鳩尾を蹴り飛ばされた。しかもそのまま押し倒される。

 

「勝手に戦って勝手に負けそうになって勝手に諦めて! 勝手に弱いと決めつけないでくださる!? 勝手に使えないと! 決めつけないでくださる!?」

 

耳が痛い。心に刺さる。

 

「二人で駄目なら三人、それで駄目ならもっと多くでしょう!? なんでそこで『一人でやる』になるんですの!? 頭悪いんですのこの馬鹿!」

 

酷い……いや、間違ってない、ね。

 

「私があの夢を見なかったら()()死んでたんですわ! 私が気絶したふりをしてなかったら! 気絶しても大丈夫なようにおつきを隠しておかなかったら! 死んでたんですわよ! 分かってますの!?」

「……ぅ」

「分かりますの!? 唯一の親友に! 急に首筋殴られる気持ちが! それでなまじっか耐えてしまったが故にお腹殴られたんですわよ! そして気がついたらその親友、死んでるんですわ。

 いやそれ、 どんな喜劇ですの? 悲劇にすらなりませんわ!? 笑うしか無いじゃない!」

 

そこで息が切れたのか、はぁはぁと息継ぎする鈴音ちゃん。何か言うなら今しかない。

けど。何を言えば良いの?

 

「……朱音さん。抱え込まないでくださる? それとも私では、力不足?」

「……ぅ……ん」

「そうですわよね、やっぱり私が居ないと……今なんと?」

「うん」

「…………」

 

わたしの思わぬ回答にフリーズした鈴音ちゃんを抱き締めてあげる。

 

「そんな弱い鈴音ちゃんの為に、わたし頑張ったんだけどなぁ」

「よ、弱!? 私は朱音さんより強いですわよ!」

「はいはい」

 

鈴音ちゃんを抱えたまま起き上がる。

 

「ありがと」

「……ん」

 

 

じゃあ。

 

 

やり直しますか。



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全てを終える。……?

鈴音ちゃんと共に立つ。視線の先、マミさんと杏子ちゃんがワルプルギスの夜が産み出した使い魔たちを相手に苦戦している。

 

「まどかちゃん、さやかちゃん。二人は避難して」

 

だけどまずやることは、魔法少女になってない二人の安全の確保。

 

「ええ! なんでよ! っていうか私あんたに命令されたくないんだけど!」

「危険だから。それにこれは命令じゃなくてお願い。……うーん、なんか違う。ちょっとわたしのキャラ思い出せない」

……あのねぇ。馬鹿言わないでよ

あっれぇ? わたしってもっとこう、ギャグチックな……こんな格好いい事言うような……うーん。

 

「私は賛成よ。まどか、さやかと共にここから逃げて」

 

お、ほむほむが良いこと言った。

 

「で、でも……」

「大丈夫。今までで一番……上手く行ってる。ここまで来て貴女を失いたくないの」

「……分かった。さやかちゃん、行こう!」

 

やっぱりまどかちゃんはメインヒロイン。

 

「で、でもまどかぁ!」

「ほむらちゃんたちの足手まといになっちゃうから!」

「~~っ! 分かったわよ! 負けたら容赦しないからね!」

 

そう言い残して、二人は走っていった。

 

「……負けたら死ぬんだけどね」

「そもそも負けませんわ。(わたくし)と、朱音さん。二人だと勝てませんでしたけど……こんなに居れば十分ですわ!」

「……うん、鈴音ちゃん。後で夢の話教えてね。多分それわたし覚えてない」

「生きてればですわ!」

 

三人で走り出す。

 

カチッ

 

時が止まるけど、もう隠し事は無し。

 

「ほむほむ! 何処まで止められる!?」

「っ!?……貴女が担げば、三人共最前線まで間に合うわ」

「了解!」

 

触手を一本使って固まっている鈴音ちゃんを担ぐ。……流石にわたしが触っても時間停止空間には来れないか。

 

「動けてビックリした?」

「……えぇ、少し」

「あ、少しなんだ」

 

そう言うとほむほむは、

 

「貴女ほど、予測不可能な魔法少女は居ないから……何でもありでしょう?」

 

と言って笑った。

うーん……何か、何だかなぁ。

 

カチッ

 

時が動き出す。

 

「よっとぉ!」

「へ、ふわぁっ!?」

 

鈴音ちゃんを投げる。その先には三角形の使い魔。

 

「え、ちょ、はあぁっ!」

 

鈴音ちゃんは空中で体制を建て直し、槍で使い魔を刺し殺した。

 

「おー、流石鈴音ちゃん……」

「ほら何でもありじゃない」

 

ほむほむが横を通りすぎながら耳打ちしてきた。くすぐったい。

 

「あ~か~ね~さ~ん~!」

「ごめんって!」

 

鈴音ちゃんに謝りつつ、周りを見回す。

さっきのはマミさんが撃ち漏らした使い魔だった……いや、と言うよりマミさんから命からがら逃げ出せた運の良い使い魔だったみたい。

 

「くっ……これじゃあキリが無い!」

「マミさん! 援護します!」

 

マミさんの前には大量の使い魔。

わたしだけでワルプルギスの夜と戦う時には、使い魔を呼び出す黒い槍を吸収するから分からないけど……他の魔法少女が戦ってるとちょっと笑えない量になる。むしろ気持ち悪くなってくる。

 

具体的には、目の前が真っ暗になってる。まっくろくろすけかっ! ってぐらいに。

 

「朱音さんっ! もういいの!?」

「鈴音ちゃんは杏子ちゃんの方に向かって! 大丈夫ですよ!」

 

使い魔の海に飛び込んだせいで、鈴音ちゃんの返事は聞こえなかった。

 

「掛かってきなよぉっ!」

 

触手はまだ完治してない。五本を1メートル出せれば言い良い方。

自己修復には時間と……魔力が必要。

 

カチッ

 

時間はほむほむが止めるからそこそこ有る。わたしが認識していれば時間停止は効かない。―――逆に言えばわたしの知らない所で止められるとどうしようも無いけどね。

 

「っと、今の内に」

 

時間停止していると、わたしからの干渉はほとんど『出来ない』と言える。時が止まってる物にナイフは刺さらないし、魔力の流れみたいなのも止まってるから吸収出来ない。

唯一出来るのが『止まってる物を動かす』事ぐらい。ほむほむと違って触れてもこっち(時間停止空間)に連れてこれないからね。

 

近くの使い魔を出来る限り一ヶ所に集める。

 

カチッ

 

「うわっとと」

 

時が動き出しちゃったから、急いで触手で簀巻きにする。

……一本で簀巻きって言わないんだけど?

「ほらさっさと吸収されちゃってよ!」

「ティロ・フィナーレ!」

 

右横をマミさんの必殺技が通り過ぎる。

当たっても効かないとはいえ、結構ひやひやもんだね。

 

「そういえば。マミさん、グリーフシードは!?」

 

振り向いて大声で尋ねる。

マミさんはにっこり笑って、取り敢えず一個取り出して見せてくれた。

親指を立てたグッジョブで返す。

 

カチッ

 

「さてさて、よっと!」

 

向きを変えつつ、回転切り。ってあーもう。ほむほむの時間停止と被った。

うーん。どうするか……。

 

「『無し無し結界』……は意味無いし。ケータイもまだ必要じゃない。となると……触手、ナイフ、後は……」

 

そうだ。分身があるじゃん。

 

カチッ

 

「ってことで!」

「効率二倍!」

 

分身して使い魔たちをバッサバッサと切り捨てて行く。

どうも使い魔自体を魔力として吸収するのは時間がかかる。だったらさっさと消し飛ばしてワルプルギスの夜から直々に魔力を貰おう。

 

「そっちはお願い!」

「こっちは任せて!」

 

自分同士の意志疎通。二手に別れて使い魔を殲滅していく。

……大丈夫なの?

 

 

―――いや、キリがない。切っても切っても使い魔が出てくるんだけど。

 

「ぐっ……わたしは特攻する!」

 

叫んで、使い魔を踏みつけて跳躍。

 

カチッ

 

ナイスタイミング!

使い魔を台にして、飛んで飛んで、とにかく上へ。

 

良い具合に上空に来れたから、全体を俯瞰(ふかん)する。

 

カチッ

 

ふーむ、上から見ると使い魔は『W』の形になってる。

マミさんとわたしで右側を、杏子ちゃんとほむほむで左側を攻めてる。……鈴音ちゃんは泥の軍団を使って被害の拡大を防いでる。

 

「うん、意外と良い感じだね」

 

ちなみに、黒い槍がわたしの背中に刺さりまくってる。その衝撃で浮かび続けてるんだけど……そろそろ鬱陶しいかな。

 

「とはいえ、魔力は必要だし」

 

カチッ

 

宙で固まる黒い槍を掴んで落下を防ぐ。そして黒い槍の上に立ち、ワルプルギスの夜と向かい合う。

 

「…………」

 

――――――うん、何か言おうと思ったけど特に何も無かった。

馬鹿でしょ

カチッ

 

時が動き出すと同時にジャンプ。

 

―――アハハハハハハ!

 

ワルプルギスの嗤い声が響く。頭に響き、心に鉤爪が刺さる。

 

けど、もう惑わされない。わたしには仲間が居る。

 

「わたし()()はそう簡単にやられないよ?」

 

返答は炎。全てを溶かす獄炎。ただしわたしには効かない。

 

「あっついなぁもぉ!」

 

形無い炎を踏める訳もなく、落ちていく。炎なんて良いから槍を使ってよ。

 

―――キャハハハハハハハハハハ!

 

うーん、わたしの弱点だよね。防御の面で見たら最強なんだけど、反面派手な攻撃が無い。精々が触手を纏めた手ぐらい。

それだってさっき破られたし……うーん。

 

使い魔の群れに落ちる。ついでに分身も消す。お疲れ。

 

「うっらぁ!」

 

とにかくナイフで使い魔を切り裂く。

 

カチッ

 

時が止まる。ちょいちょい休めるのは良いんだけどね。

 

「どうするかな。そこそこ使い魔は減ってるけど」

 

分身、吸収、触手に『無し無し結界』。後はナイフにケータイ。これがわたしの持つ手段。

たったこれっぽっちだけど、どうにかしなきゃ。

 

カチッ

 

やっぱり一番は吸収かなぁ。触手を使って張り付いて、全力で吸収しかないか。

 

「よっと」

 

手当たり次第に使い魔を切る。よしっ、じゃあ次の時間停止で実行するかな。

 

カチッ

 

分身! あっちは残って使い魔の殲滅。わたしは飛び上がり、触手を出す。

 

ま、どっちもわたしなんだけどさ。

 

「よっ、ほっ、やっと!」

 

なんとかワルプルギスの夜の頭を掴む。

 

カチッ

 

「ま、間に合ったぁ……」

 

―――アハハハハハハ?

 

よじ登る。とにかく全身で掴まれる場所まで行かなきゃ。

 

―――キャハハハハハキャハハハハハァハハハハハハ!

 

ん? なんか、重力が曲がって……ちょ、右に落ちる!

 

―――アハハハハハハァァァアァァァア!キャハハハハハハハハハハャハハハハハァァァア!

 

あ、違う。これワルプルギスの夜が正位置になろうとしてるのか。逆位置だったから正位置になるために回転してる、と。

 

 

 

 

え、それってかなりまずいのでは?

 

カチッ

 

よしっ、ほむほむナイス! 今の内に回転の中心部分にまで行かないと軽く落ちる!

 

触手を上手く使ってワルプルギスの夜を登る。

 

もうちょっと……ここは胸元らへんかな? 残念ながらワルプルギスの夜の中身は機械仕掛けなんだ。

何が残念、よ

カチッ

 

後は全力で掴まるだけ。触手も使って接地面積を増やす。

 

魔力吸収。ここからは―――

 

「根気比べだよ!」

 

―――フ、アハハハハハハハハハハハァアハハハハハハキャハハハハハギャハハハハハァァァア!

 

ワルプルギスの夜の回転に合わせて頭が上になるようにする。でないと頭に血が昇るし。

 

ん、触手を増やせるな。三本追加。

 

―――ァァァァァァァァァアァァァァァァァァァア!?

 

んん? 分身が消えた。殺された……訳じゃなさそうだ。こっちに全力を出す為に消えた。へぇ、そんなこと出来たんだ。もっと早めに知ってれば日常生活ももっと楽になったのに。

 

と、下に居た使い魔たちが戻ってきた。大方、おれに魔力を吸われているのに気付いたワルプルギスの夜が引き剥がしにかかったんだろう。

 

「って! おれじゃなくてわたしはわたし! おれじゃないの!」

 

使い魔たちが遠くから攻撃してくるけど、無駄無駄ァ!

そんなちまちましたのじゃ、むしろわたしを強くするだけ。

 

―――ァァァアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

 

よし、かなり魔力を吸えた。触手追加、十本。

 

―――ァァァアァァァア!

 

動きが止まった。さて、どうなるのかな?

 

―――ァァアハハハハハハッッ!

 

カチッ

 

時が止まる。後ろを見ると、使い魔たちが視界を埋め尽くしていた。

その使い魔たちの向こうから声が。

 

「本庄朱音っ! これ以上はまずいっ!」

「ほむらちゃん!?」

「この時間停止が終わったら、ワルプルギスの夜によって世界が壊れてしまう!」

「えぇ!?」

 

そんなレベル!? 流石に予想外!

 

「ど、どうすれば……」

「どうにか、どうにか動きを制限出来れば、或いは!」

 

動きの制限……やるしかない、か。

 

「ほむらちゃん! ティロ・フィナーレでわたしを撃ってってマミさんに!」

「え?―――分かったわ!」

 

お願い、間に合って。ほむほむ、時間停止頑張って!

わたしも何かしなきゃ。

 

「えっと、グリーフシードは……持ってないんだった」

 

魔女から吸収する魔力で十分だったから……。

 

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

ズドンッ

 

急に後ろから衝撃が。つ、潰れる!

 

カチッ

 

全力で吸収。わたしに触れる物は―――全部わたしの物だ!

 

魔力をフルに使って触手を展開。

 

ワルプルギスの夜に緑のケーブルが纏わりつく。

同時に皆の全力の攻撃がワルプルギスの夜を襲う。

 

それでもワルプルギスの夜は進む。まだゆっくりだけど少し……一瞬でも攻撃の手が緩めば、恐ろしい事になる。

 

「……もう…………ちょっと……!」

 

加速的に増えていく魔力を、全て触手に変換。宿り木のように―――喰ってやる。

 

「と……ど………………けぇ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ワルプルギスの夜は緑に包まれた。




おや、まだ続きそうですね。


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ま、いつかどこかで会えるかもしれないしな

最終回!

の、一歩手前のお話。というか閑話。

ちゃんと最終回の形は出来てます。後は書き出すだけ。

どこまで描写出来るか不安です。出来る限り細かくしたいけどそうすると文字数が……うぎぎぎ。

まあ。とにかく。彼は彼でしっかり終わらせましょう。

それでは、どうぞ。


気付くと、真っ白な空間に居た。よく分からないが、取り敢えず床はあるし重力もある。

歩こうとして、ずっこける。

見ると、体が自分の物になっていた。

自分の……本庄蒼太の物に。

 

「ってことは、何だ。おれはまた死んだのか?」

 

……有り得る。普通に有り得る。なんせ正位置のワルプルギスの夜に掴まってたんだ。触手で包み込んだ筈だが、振り落とされたか潰されたか。

 

「とはいえおれが居なくなったら、朱音はどうなるんだ? っていうか……いや、まずはここから出るか」

 

或いは神に会う。死んでたら神に、生きてたら外に。

ゆっくり歩き出す。まだ体が馴染んで無い。たまに転びそうになる。

 

「っててて……」

 

てか転んだ。手足が長すぎるな。と、自分の足を見たんだが。

その奥、つまりおれの後ろに何かがある。

 

「……逆方向かよ。危うく本当に迷子になるとこだったぞ?」

 

立ち上がりそちらへ歩く。

どうにもそれは鉄の壁のようだった。いや、塀か? 囲いか? へー、かっこいー。

 

―――高さは俺が手を伸ばして届くぐらい。冷たい。寒い。

巨大な凹凸(おうとつ)が壁に出来ている。

ふむ、これは……上から見たらどう見えるかと言うと……歯車。

出入り口を見付けるために一周してみる。この空間、有るのは本当におれとこれだけみたいだ。

真っ白で、見続けたらきっと狂う。だって地平線すら無いんだから。一寸先は白。

闇ならば何かあるが、白には何もない……ってね。

 

「無い、か?」

 

実を言うと一周したかどうか分からない。目印なんて無いから。

しかしこれでやることは無くなった。寝るかな?

 

「なんて。じゃあ登るかな」

 

歯車っていうのは、真ん中に嵌め込むための穴がある。そこに何かあるかもしれない。

 

「……登れるかな」

 

実を言うと運動神経なんて無い。

手をかけ、体を持ち上げてみる。無理だ。

手をかけ、歯車の歯の部分に足を付け、どうにかしてみる。お、今度は少し上手く行った。登れて無いけど。

手をかけ、足を使い、もう一度。肘を使って、体重かけて、今度こそ……!

 

「ふぅ~。疲れた」

 

コツはどうにか肘を上に乗せること、掛かる力を真下へ向けること。じゃないと滑る。

さて、案外見晴らしが良い。案外ってほどでも無いか。そして案の定中心に穴がある。こっちは案外でかい。

覗き込む。あ、誰か居る。金髪で、なんか薄汚い服を着ている。髪が長いから女の子か?

 

「やあ」

 

こう言うときは声を掛けるに限る。他にやることも無いし。

彼(彼女?)はビクリと肩を震わせてこちらを見上げる。あー、多分女の子かな。そして顔には赤の刺青。

……何となく分かってきたぞ。

 

「君は誰かな?」

「……」

「おれは本庄蒼太。まあ、見ての通りおじさんだよ」

「……」

「そこに行っても良いのかな?」

「……」

 

駄目だ、会話が成り立たない。言葉が分からないのか、話したくないのか。後は、話し方を忘れたとか。

 

「じゃあ、降りるよ?」

 

飛び降りる。幸い、着地は成功した。他人の目の前でこけるほど恥ずかしいのは無い。ごめん嘘。もっと恥ずかしいのは沢山ある。

 

「さて……名前、教えてくれるかな?」

「……」

 

灰色の壁の中、その少女はぼんやりとした顔でおれを見る。

 

「やっぱり駄目か……プリーズテルミーユァネーム?」

「……ヘンなの」

「喋れるのかよ!?」

 

くそ、てっきり英語じゃないと喋れないのかと思ってひやひやしてたのに……。

 

「あなたはどうやってココに?」

「さあ? 君の名前は?」

「あなたはナニモノ?」

「人間……かな。君は何て言うの?」

「ふぅん、ヘンなの」

「君に言われたくないんだけど、『ワルプルギスの夜』になった魔法少女ちゃん」

「……へぇ」

 

推察は当たりみたいだ。多分ここはワルプルギスの夜の中。そしてこの子は魔法少女。

理由はこの歯車。ここまで巨大な歯車はそう無い上に、ワルプルギスの夜の本体は歯車だからな。

 

「ザンネン、ワたしはワルプルギスのヨルじゃない」

「何だよ」

 

恥ずかしいな、まったく。偉そうに『~だからな(キリッ』とかやっちまったよ。

 

「でも、ワルプルギスかもしれない」

「うん? どっちなんだ?」

「わからない。分からない、解らない判らないワカラナイ」

「そ、そうか」

 

ちょっと目のハイライトが薄くなったよな? こえぇ……。

 

「じゃあ何が分かるんだ?」

「……ココはこころ。ダレかのココロ」

「ふぅん……誰かの、心か」

 

誰の心なのかによるな。ワルプルギスの夜の心か、朱音の心か。或いは……。

 

「……あなたはソータ」

「そうだな。蒼太だけど」

「…………ソータ」

「そうた」

「ソータ」

「そ、う、た」

「そ、う、だ」

「蒼太だよそうだじゃねぇよ」

「……ソータ」

「それで良いよもう」

 

何か、この子と喋ってると気が抜ける。小難しい事は考えなくて良いさ、のんびり構えよう。

多分それじゃ駄目だけどさ。おれは切り替えが出来る男だ。

 

「で、おれは何をすれば良いんだ?」

「……さあ」

「そりゃ、知らないよな」

 

やることが無い。やれることが分からない。どうしろと言うのか。

 

「私の力があればどうにか出来るけど」

「なら良いんだけどな……って誰だ!?」

「私!」

「なんだお前か!」

「「あっはっはっ」」

 

笑い合うおれたちを少女は見つめる。そういや、この子はずっと無表情だな。

 

…………はい現実逃避終わり。

 

「『こいし』ちゃん……死んだんじゃなかったのか?」

「ううん。だって私は偽物だし。オリジナルみたいに無意識を泳ぐ事なんて出来ない」

「そうか」

 

『こいし』ちゃん。不安定な朱音の調整役として産み出された存在。二週目の時に朱音の身代わりとして死んだ……と思ってた。

 

「ちなみにさっきの、微妙に理由になってないからな」

「えー。じゃあ、私は無意識そのものだからそう簡単には消えない、って感じで」

「ふーん。……で、どうやってここから出れるんだ?」

 

本題を切り出す。

 

「んっとねぇ。私が行きたい方に行けば良いの」

「ふぅん」

「だけど、着いてこれるのは一人だけ。私は死神じゃないからね」

 

……つまり『こいし』ちゃんに着いていけば成仏出来るか、或いは神に会えるって訳か。

 

「よし、じゃあこの子を連れてってくれ」

 

そう言って少女を指差す。少女は不思議そうにこっちを見てくる。

 

「……良いの? 多分、もう私はここに来れないよ?」

「だからだ。この子は恐らくずっとここに居たんだから、もう良いだろ」

 

少女の頭を撫でてやる。

 

「それに、おれは一度生き返ってるからな。三回も要らない」

「……それで良いなら、良いけど。後悔は無い? これから永遠に一人ぼっちになるよ?」

「夢のネタはもう十分にある。『こいし』ちゃんに、朱音のお陰でな」

 

もはや立ってる理由も無いから、座る。これはおれの意思表示みたいなものだ。ここから動くつもりは無い。

 

「…………オリジナルみたいに、無意識で行動出来たらなぁって、初めて思ったよ。行こう、ワルプルギスの夜の魔法少女ちゃん」

「……バイバイ」

 

『こいし』ちゃんが少女の手を掴むと、二人はスウッと消えた。てか、やっぱりワルプルギスの夜だったのか。

もうどうでも良いことだけどな。寝っ転がる。

 

「…………あ、両手使って貰えば良かったんじゃね?」

 

別に良いか。真っ白な空を見上げる。

ここはワルプルギスの夜の中。核心部分。

そこに居た少女は居なくなり、代わりにおれが寝ている。

 

『こいし』ちゃんとあの少女は何処へ辿り着いたんだろうか?

てか少女が居なくなってワルプルギスの夜はどうなってるんだ?

ここは誰かの心って言ってたけど、ならばこの空間は何なんだ?

 

疑問は沢山。けど、考察するための時間は無限。

飢え死にしないことを願いつつ、ま、これからはのんびりさせてもらうかな。

 

流石に三十路過ぎのおじさんに女子中学生のフォローは辛かったんだ。

 

「朱音、後は皆で頑張れよ。……ふわぁ」

 

まずは寝るかな。




というわけで『おれ』こと本庄蒼太さん、お疲れ様でした。
ちょいちょい出てきてはネタ役として使いやすいキャラになってて、その上シリアスも出来る万能キャラでした。
惜しむらくは、本来彼が主人公となれた筈なのに主人公になれなかった所。書きやすいのになぁ。

さて、では次回、最終回。まどマギらしい最期(さいご)を書けると良いな。


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『―――これで終わり?』っと。

一週間と少し。それが、ワルプルギスの夜との決戦から過ぎた日数。

 

あの日、わたしたちはワルプルギスの夜を倒した。

 

わたしが空から引きずり落として、皆が全力攻撃を喰らわせた。

 

その時危うく皆のソウルジェムが真っ黒になりかけたけど……ワルプルギスの夜から取れたグリーフシードは、全員の穢れを吸い取ってもまだまだ綺麗。伝説級の魔女はやっぱり核が違うね。

 

「おっはよぅ朱音~!」

「おはよ、明子ちゃん」

「おはようですわ」

「うん、おはよ」

 

ワルプルギスの夜によって壊された場所は普通の人たちの手で修復中。

 

「ねぇねぇ聞いた~? なんでも見滝原中学校はあの災害で休校だって! ったくもぉ、ずるい! あたしも休みたいし家でゲームしたい!」

「今と全然変わらないじゃないですの」

「なんだと~!」

「ま、まあまあ……その代わり宿題がっつり出たって聞くよ?」

 

ワルプルギスの夜の被害は見滝原中学校にも一部届いていたみたいで、学校が機能しなくなってるらしい。さやかちゃんが宿題多いって愚痴ってた。

 

「……ん~、いやでも、普通にしてても宿題出るでしょ? だったら一気に終わらせられる休校の方が良いわね」

「む、それはあんまり点数の良くないわたしへの当て付けかな? それとも皮肉?」

「いや、そんなつもりじゃ無いけどね。……あ、先生来た」

 

明子ちゃんは自分の席に戻る。

 

「……」

 

窓から外を見る。雲一つ無い綺麗な青空だ。

……ほむほむは生き残った。マミさんも生き残った。杏子ちゃんも、まどかも、さやかも生き残った。

鈴音ちゃんは純香さんに怒られたらしいけど、うん、生きてる。

 

しかもまどかちゃんとさやかちゃんは魔法少女になってない。

 

「……願いは、叶ったよ」

 

呟く。

 

「―――ではこの問題を、本庄!」

「は、ひゃい゛っ!?」

 

急に指されたせいで舌を噛んだ。い、痛い……。

 

「おいおいどうした。もしかしてボーッとしてたとかか?」

「ひ、ひぇ……ひゃいひょうふれふ……」

 

ぐ……教室の笑い者に……っていうか明子ちゃん笑いすぎ! どんだけ大声で笑ってるの!?

 

「ったく。じゃあ前に出てこの問題解いてみろ」

 

先生も結構鬼ですよね。

 

 

……まあ。

 

 

 

こういうのも、ありだよね。

 

 

 

 

素敵な毎日だ。平和……とは言い切れないけど。

 

 

 

 

 

皆と、仲良く。もっとずっとこんな日々が続けば良いな。

 

 

 

 

 

 

―――これで、魔法少女となったわたしのお話はおしまい。

 

 

 

 

 

 

 

わたしのお話(人生)は続くけど、それはこれを見ているあなたたちには関係の無いお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

一言伝えるとするならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、幸せだなぁ。これで終わらないでよね

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての運命の不幸は無くなるけど、地上のマホウは残っているから、これは彼女の生命(いのち)が続ける、最期の救い。

 

この世から悲しい事を消すために。

 

悲劇は無くならない物ではあるかもしれないけれど、ヒトは立ち上がれるから。 だからずっと救いを続ける。

 

皆の物語を守れるのなら。

 

わたしの物語なんて。

 

勝手に投げ捨てないでよ。ねえ。ねえってば!




さて、最終回読了お疲れ様でした。
実は今回も白文字使ってるんですけど、全部見付けられましたか?
サブタイトルを少し変えて分かりやすくしますから、この小説に使われている白文字を全部見てほしいですね。『訳が分からないよ』ってなる気がしますけど。こっそりアンケート。真相を見たいですか?


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真題 救いを求める少女の話
終わらないし終わらせないよ


~○~○~○~○~○~○~●~

 

 

「お、おい……何だよ、あれ……」

「あ……朱音さん……嘘……」

「くっ……時間操作が出来ない……!」

「あ……ぁ…あぁ……!」

 

四人の魔法少女の前。

 

暗黒の球体が居座っていた。

 

「マミさん! やった………んですよね?」

「マミさん、杏子ちゃん、ほむらちゃん、鈴音ちゃん……こ、これ……一体……」

 

そこに、本来ならば魔法少女となっている二人の少女が戻ってくる。

 

「…………そ……れは……」

「……っ」

 

魔法少女たちは答えられない。それはあまりにも残酷な事だから。

 

『あれは本庄朱音の成れの果てだね』

 

だから、最も残酷なモノが代わりに答える。

 

「キュ、キュウベエ?」

「インキュベーター!? 今更何をしに来たの!?」

 

時間操作の魔法少女が手に持っていた銃をキュウベエに向ける。が、白い毛並みのモノは全くもって気にしない。

 

『何もしないよ。ただ、君以上のイレギュラーを観測しに来ただけさ』

 

素っ気なく言う。魔法少女は気に入らないように、引き金にかけた指に力を入れて……結局その手を下ろした。

 

「ねぇ、キュウベエ。朱音さんは……助かるのよね? ね?」

「おいキュウベエ! どうにかしやがれ!」

「ね、ねぇキュウベエ? 朱音ちゃんはどうしちゃったの? どうなっちゃったの? 教えて!」

 

『やれやれ。ボクは聖徳太子じゃないんだから一人ずつ質問してくれないかい?』

 

少女たちの怒濤の質問責めに、さしものインキュベーターも呆れる。……少なくとも、呆れたように答える。

 

「じゃあじゃあじゃあ、さやかちゃんしつもーん! ワルプルギスの夜はどうなったの?」

『本庄朱音に吸収されたよ、美樹さやか』

 

ある意味ムードメーカーな少女が発した少しズレた質問は、あっさりと答えられた。

 

「じゃあ私たちの勝利~!……って雰囲気じゃないんだけど」

「さやかちゃん……」

 

勝利にしてはあまりにも暗い雰囲気に、少女は流石に黙る。

 

「次は私な。……朱音は生きてるのか?」

『さあ、そこまでは分からない。けれど仮にアレが本庄朱音が魔女になった姿だとしたら統計的に死んでいるね、佐倉杏子』

 

幻術を使う魔法少女への返答は、予想され得るものだったが……認めたくないが故に、その場に衝撃が走る。

 

「そ、そんな……う、嘘でしょう?」

『ボクが一度でも嘘を付いた事があるかい、巴マミ』

「っ!」

「あなたが大切な事を隠す事はあるわよ、インキュベーター」

『そうだね。だけどそれはボクが嘘を付くという事にはならないよ、暁美ほむら』

「……」

 

リボンの魔法少女は現実を突きつけられ、時間操作の魔法少女からの反論は軽く流される。

 

「……ね、ねぇ、キュウベエ」

『なんだい、鹿目まどか』

「あれは、本当に朱音ちゃんなの?」

『アレは本庄朱音()()()モノだよ』

「助けてくれる、よね?」

『ボクにそんな力は無いよ。鹿目まどか、君が魔法少女になるなら別だけどね』

 

悪魔の囁き。少女へのインキュベーターの言葉は、まさにそれだった。

 

「……それって」

『君が「本庄朱音を助けたい」と言えばいい。それで契約は成立』パンッ

 

インキュベーターの顔面に穴が開く。そのまま、力を失ったようにその場に倒れた。

 

「っ、暁美さん!?」

「ほむら、ちゃん?」

「駄目。それだけは……絶対に!」

 

何故ならばそれが彼女の願いだから。

だがそれを知らない少女たちから見た場合、彼女が何でそこまでまどかにこだわるのか分からない。

 

『まったく。本庄朱音と言い君と言いどうしてそんなにボクを殺したがるんだい? どうせ代わりはいくらでも有るのに』

 

ヒョイと戻ってくるインキュベーター。彼にとってその体は下位存在との円滑なコミュニケーションの為のアバターのようなモノ。

あっさり戻ってきたインキュベーターに対して敵意を剥き出しにするほむら。

 

だが。

 

「……キュウベエ。ねぇ、キュウベエ」

『なんだい、九重鈴音』

 

それまでずっと黙っていた魔法少女が言葉を紡ぐ。

 

「アレは……どういうモノなんですの?」

『ようやく理知的な話が出来るね。アレはワルプルギスの夜の魔力を吸い続けた本庄朱音の成れの果てだよ。そして面白い事にアレはそのまま巨大なグリーフシードとなっているみたいだ』

「……つまり?」

『ボクたちインキュベーターはこの感情エネルギー変換システムを少し手直しする必要が出来た。アレが有る限り魔女は産まれないみたいだからね』

 

さらっと紡がれた言葉。それはベテランの魔法少女たちを驚かせるのに十分だった。

 

「魔女が……」

「産まれない……だって……!?」

「どういう事なのインキュベーター!」

 

『君たちは人の話をもっとよく聞くべきだね。アレは巨大なグリーフシードだと言ったよね?』

「要するに、そこに在るだけで世界レベルで浄化していくと言うことですわね?」

『その通り』

 

愛されたかった魔法少女は、淡々と受け入れていく。

 

ふと、まどかは鈴音の雰囲気がおかしいと気付いた。怒るでもなく、かといって泣く訳でもなく、ただただ冷静なその姿に違和感を持った。

まどかは鈴音との交流はほとんど無い。二回ほど、朱音が連れてきた時に顔を合わせた程度だ。

だが、まどかは他人の機微についてはかなり勘が働く。

 

働いてしまう。

 

「す、鈴音、ちゃん?」

「なんですの?」

「ひっ」

 

振り向いたその目は、絶望に染められていて。

 

「人の顔を見て悲鳴だなんて、失礼ですわね。あはっ、朱音さんはどんなわたくしでもアイシテくれましたのに」

「っ、ご、ごめん」

「良いんですのよ。今のわたくしが少しオカシイのは自覚してますから」

 

まどかの隣で彼女の代わりに睨み付けてくるさやかを見て、そしてさりげなくいつでもまどかを助けられる位置に移動しているほむらを見て、微笑む。

 

「良い友達を持ってますのね。……わたくしには、朱音さんしか居ないのに」

 

そして、黒い球体に向けて歩く。

 

「お、おい鈴音! アレに近付いて何を―――っ!」

 

歴戦の魔法少女である杏子が、眼力だけで気圧される。

鈴音は小学生ではあるが、それでも彼女はベテランなのだ。それこそ、マミや杏子と対等に戦える程には。

 

「助けますわ」

「……それは良いんだけど、方法は? どうやって助けんのさ!」

 

「わたくしに出来る事は物量戦術ですわ。

 えぇ、わたくしの朱音さんへのアイさえあればきっと上手くイキマスワそうきっと大丈夫朱音さんは強いしわたくしをずっとアイシテくれましたからどんなに閉じ籠ってもわたくしを拒絶ナンテしませんわもし拒絶するのナラバ切り裂いて切り開いて抱きついてカラ一緒にシニマスわ。

 こんなことわざがありますの。強固な城も、一匹のネズミに崩される……わたくしにピッタリでしょう? アハッねぇ朱音さん? アハッアハハハハッ!」

 

 

 

そして、彼女は自らの魔法を発動した。




さぁ……劇場版と行こうか。


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キョウキ

「ん……あれ?」

 

違和感を持った。今は体育の時間。

 

「どしたん、朱音」

「……さっき何か聞こえた?」

「んー? 気のせいじゃないの? それともお化けとか」

「そうかな……」

 

なんだろう。なんか、見覚えがあるような……聞き覚えのあるような。うーん?

 

「明子さんの言う通り気のせいですわよ」

「うーん。そっか、そうだよね」

 

この間のワルプルギスの夜との戦いで疲れてるんだろうね。

 

「ふぅー、んで後二週ぅ? めんどいめんどいめんどーい!」

「明子ちゃん、荒れないでよ」

 

 

~●~●~●~●~●~

 

 

放課後。久々に見滝原へと行ってみた。

いつもの公園でベンチに座わり、砂場で遊ぶ男の子を眺める。

 

「あら本庄さん久しぶりね」

「あ、マミさん。お久しぶりです」

 

ぼんやりしていたらマミさんが来た。

 

「珍しいですね、マミさんが一人だなんて」

「そうかしら? そう言う本庄さんはまた一人で来たのね」

「またってなんですかまたっ……て……」

 

……あ、え? わたしは……いつも……一人……?

 

 

「朱音さん!」

 

 

いや……そっか。一人だったね。始めっから、ずっと。

 

「えぇと、本庄さん?」

「……もー、酷いなぁマミさんは。わたしだって友達くらい居ますよ?」

「あ……そういうつもりじゃなくって。勘違いさせたらごめんなさいね?」

「どーしよっかなー」

「今度うちに来たときに美味しい御菓子あげるから、ね?」

「それで手を打ちましょう」

 

男の子は迎えにきた父親と共に帰っていった。

 

「で、まどかちゃんとほむらちゃんは何してるんですか?」

「家で宿題よ。特に暁美さんが苦労してるみたいよ」

「えぇっ!? 嘘だぁ~! ほむらちゃんって頭良いイメージなのに!」

「時間操作の魔法に頼りきってた反動で、勉強をしない姿勢が出来ちゃったらしいのよ」

「うわ。それはツラいですね」

 

買い物の途中だったらしく、その後少し世間話をしてからマミさんは帰った。

 

「んっん~」

 

大きく背伸びをする。じゃ、わたしも帰ろうかな。

 

―――違和感。

 

なんか、何かがおかしい。おかしいのに分からない。

何がおかしいの? どうしておかしいの? いつからおかしいの?

 

分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない。

 

―――――分からないなら、いっか。

 

 

閑静な見滝原市を自転車で駆け抜ける。

 

あれ、そう言えば何で見滝原市(こっち)に来たんだっけ。

 

 

~●~●~⚫~⚫~⚪~

 

 

暗い。

 

凄く、暗い。

 

私は、眠い、けど。

 

私は、寝て、ない、から。

 

水の、中に、漂う、私は、(うずくま)る。

 

ねぇ、目を、開け、てよ。

 

一人、嫌い、なの。

 

ねぇ、早く。

 

朱音。

 

 

―――。

 

 

なんで起きないのよ起きてよちゃんと見てよ目を反らさないでしっかり見なさいよ逃げてばっかりで一回もこっちの言葉を聞かないで他人は二の次でやりたいことしかやらない癖に他の人にいい顔ばっかりして私の事を見てよ話してよ撫でてよ抱き締めてよ悲しいよ辛いよ無視しないでよ押し付けないでよねぇねぇねぇってば!

 

 

―――。

 

 

遠くから音が聴こえる。どれだけの時間が経ったの?

 

私は、わたしへ、声を伝えられない。

 

わたしは、私を、認識出来ない。

 

私は、わたしの中に居る。

 

わたしは、私の外に居る。

 

わたしは。生きている。

 

私は。……生きてない。

 

 

―――!

 

 

わたしは、私を、産んだ。

 

私は自分が何の為に産まれたのか知っている。

 

それはある意味それなりに幸福な事なのかもしれない。

 

だけど。

 

そんな幸せならいらない。

 

普通になりたいよ。

 

普通に生きていたいよ。

 

 

―――!

 

 

私はわたし。わたしは私。私はわたしは私はわたし。

 

私はわたしは私はわたしは私はわたしは私はわたしは私はわたしは私はわたしは私はわたし。

 

混じって、溶け合って、(ねじ)れて、消えてしまいそうで。

 

私は、そろそろ………自我、を……保てなく…な……るから、早く…誰か…………助けて……!

 

 

~⚫~⚪~⚪~○~○~

 

 

「はぁっ、はあっ!」

 

少女が息を切らしつつ、その場に倒れる。

 

「鈴音ちゃんっ!」

「まどか、近付いちゃダメ!」

 

倒れた鈴音の周りに、泥で出来た槍が沢山刺さっている。鈴音の切り傷から血が流れ出ている。

 

「お、おいおい! こっちは朱音の為におめぇの手伝いしてんだぞ!? 倒れんなよ、ちぃっ!」

 

京子が槍を振り、泥人形の攻撃をいなす。

 

「キリが無い……!」

 

この泥人形たちは倒れている少女の魔法によって産み出された。少女は泥人形を使い、中に取り込まれている少女を助けようとしたのだ。

 

―――しかし、黒い球体に触れた泥人形たちは侵食され、魔法の使用者へと反逆してきた。

 

「っ……!」

「まどか!」

「ま、まどか! 危ないってば!」

 

まどかは鈴音を助けようとするがほむらとさやかに止められる。

まどかは魔法少女ではなく一般人。泥人形に対する防御手段を持たない。

 

「でもっ! あのままじゃ鈴音ちゃんが死んじゃう!」

「だけどあなたが死んだら意味が無いでしょう!」

「京子とマミさんに任せなってば! 私たちじゃ何も出来ないんだから!」

 

『勿論、ボクと契約すれば別だけどね』

 

インキュベーターが声をかけるが、直後に飛んできた泥人形の腕に掴まれ地面に沈んでいった。

 

「鈴音ちゃん!」

「…ふ……」

 

鈴音が、

 

「くふ……」

 

笑う。

 

「くふふふふふぅぁあははははははは!」

 

そして鈴音が手を振ると、黒く侵食された泥人形たちは崩れる。

 

「うおっ!? と、と」

「泥人形たちが消えた……? っ、鈴音さんは!?」

 

「やった、やったやったやってあげましたわぁ朱音さん! 起きて、起きてくださいまし!」

 

立ち上がり両手を広げて叫ぶ。その姿は神の降臨を迎える信者のようだ。

 

「朱音さん! (わたくし)は此処に居るんですわ! 私は、此処に居るのですわ! だから……だから……帰ってきて―――――」

 

そう叫ぶと、鈴音はばったりと倒れてしまった。

 

「鈴音ちゃん!?」

「お、おい!」

 

……少女たちは鈴音の方を見ていたから気付けなかった。黒い球体から伸びる影に―――。




キョウキ、狂喜(キョウキ)狂気(キョウキ)


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ハハッ 私は―――

チュウ

 

「……うん?」

 

信号待ちをしていたら目の前を茶色のネズミが通り過ぎていった。

 

「ふーん、ネズミなんて初めて見たなー」

 

……あれ。初めて、だよね?

うーん、えーと……うん、初めて。……初めて、だよね。

 

なのになんで見覚えがあるんだろ?

 

「気になる。……うぅ、でも、お母さんに怒られちゃうし」

 

チュウチュウ

 

「うわっ」

 

鳴き声が足下から聞こえてきた。見ると、走っていった筈のネズミがチロチロと尻尾を振っている。

うーん……これは……。お母さんに怒られたくない、けど。

 

「行かなきゃダメ?」

 

チュウ‼

 

「そっか。じゃあ、行くよ。……多少遅れても多分大丈夫だし」

 

……怒られたら、全力で謝ろう。うん。

 

チュウチュウ

 

「あ、待ってよ!」

 

走り出す。

ネズミは結構な速度で駆けていくから、着いて行くだけでも難しい。ネズミもそれが分かっているみたいで、時々立ち止まってはわたしのことを待ってくれた。

 

「……これ、魔女結界?」

 

チュウ‼

 

そしてネズミに連れてこられたのは、見滝原のとあるデパート。その裏の駐車場。

その隅に魔女結界が張ってある。

 

チュウチュウ‼

 

「あ、ちょっと!」

 

ネズミは魔女結界の中に入っていった。ど、どうしよう……。

 

「えぇい、ままよ!」

 

変身。そして結界へ飛び込む。

 

 

結界の中は水墨画で描かれた様に白と黒に分かれている。

 

「これって、あの大カマキリの……」

 

そう、わたしが初めて入った魔女結界。マミさんと出会うことになった、わたしにとって始まりの魔女の世界。

でもどうして? 杏子ちゃんが魔女を倒した筈なのに……。

 

チュウ‼ チュウチュウ‼

 

ネズミが走り出す。わたしは、それに着いていくしかない。

 

 

~●~⚫~⚪~○~○~

 

 

そこに現れたのは何者なのか。その場に居る魔法少女の誰も理解出来なかった。

 

「アァ、モウ。死ニカケジャナイカ」

 

倒れた鈴音に忍び寄っていた影は、一足早く()()に気付いたキュウベエを飲み込んだ。

そして、黒い影から現れた()()は少女達の視線を気にせず、倒れた鈴音の顔をそっと舐めた。

 

「キュウ…ベエ……?」

「ン? アァ、イヤ、確カニ見タ目ハいんきゅべーたー略シテきゅうべーノ姿ト似テイルダロウケド、別ノしすてむダヨ」

 

真っ黒な体に水色に光る眼。インキュベーターと同じ模様は限りなく白に近い水色。

 

「僕ハ…ナンテ言エバイイカナ………ソウ、『本庄朱音ノ創リ出シタしすてむヲ管理スル何カ』、略シテ、『えぐざむ』」

「何一つ略してないじゃない!?」

 

マミの鋭いつっこみにエグザムは猫の様に自らの頭を撫でる。

 

「良イツッコミダ。……ソウダネ、取リアエズ鈴音ヲ回復サセテモラエナイカナ? コノママダト朱音ガ悲シムコトニナルシネ」

「そ、そりゃまぁ……マミ、手伝ってくれ」

「えぇ」

 

杏子とマミ。二人の熟練(ベテラン)魔法少女が鈴音の治療を開始する。

彼女は暴走した泥人形によって体のあちこちを切り裂かれ、貫かれ、傷ついていた。

 

「サテ、ソレジャア少シ色々話ソウカナ。治療ノ合間ノ暇ツブシトデモ思ッテ聞キ流シテモラッテ構ワナイヨ」

 

エグザムはちょこんと座り、軽く咳払いをする。

 

「マズハ、本来ノ世界ノ姿ヲ教エヨウカ」

 

 

~○~⚪~⚫~●~●~

 

 

魔女結界を駆け抜ける。

 

また魔女結界だ。

 

 

また。

 

 

……また。

 

魔女結界の中に魔女結界が張ってある、その事に初めは驚いた。

しかもその結界の中は巨大なプール……見たことがある。

 

雲の上、仮面の洞窟、他にも、他にも。

見たことがある。来たことがある。そこで、戦ったことがある。

だけど、どこもかしこも使い魔一匹見当たらない。

 

チュウ‼

 

わたしはネズミを追い掛ける……けど。なんだろう、痛い……? 苦しい……?

怪我もしてないのに、悲しいことがあった訳じゃないのに、心臓が締め付けられるような……。

 

チュウ、チュウ‼

 

分からない。わからない解らない判らないワカラナイ。

 

『わたしは何も知らないしね』

「っ!? 誰!」

 

周りを見回すものの、誰も居ない。だけど視線を感じる。

 

「……」

 

チュウ‼

 

……うん、今はネズミを追い掛けるしかないか。

そして何度目か分からないけど、魔女結界へと入る。

 

 

 

闇が、わたしを包み込んだ。

 

 

 

「うわっ! っと、ととと、あたっ」

 

何かの段差につまづいた。慌てて手を伸ばすけど、何かに手が触れることもなく。

 

「あたたた……なんなのもー!」

 

それにしても暗い。一寸先は闇とは言うけど、目の前に持ってきた手が見えないなんて。

 

なんか、自分の体が見えないと、本当にわたしはここに居るのか分からなくなってくる。

……わたしは本当に存在するの? わたしの価値は? 存在意義は?

……体の先端、手とか足とかの感覚が無くなっていく。このまま……溶けていきそうで……。

 

『ちょ、バカ寝るな! 溶けてる、溶けてるから!?』

「……ふぇ?」

 

おっと、なんだか暗かったからうとうとしちゃった。寝るときは電気を消す派なんだ、わたし。

 

―――じゃなくて。

 

「だから誰なの! さっきも話しかけてきたよね!?」

 

チュウ‼

 

「なーんだ、ネズミ……じゃないよね? ネズミよりも人っぽい声だし」

 

ただ、どっかで聞いたことがあるんだよね。ん~。

 

『どーせ()()()()()でしょ?』

 

チュウチュウ‼

 

ネズミにも馬鹿にされた……!

 

『はぁー。知らぬは本人ばかりなりって言うけど、はた迷惑だし、ほんとやめて欲しいよ』

「う、ぐぐぐ……待って今思い出すから!」

『やだ』

 

闇が絡み付いてくる。両腕と両足にぐるぐると巻き付いて、わたしは動けなくなる。

 

「いや、どっちにしろこんな暗いところじゃ動けないんだけど」

 

闇はちょっと冷たくて少し湿っててなんだか生々しくて気持ち悪い。なんていうか、ニュルニュルしてる。

 

「んひゃっ! ちょっ、そこは……んんっ!」

『……えーと。マイテスマイテス。あー、あー』

 

声が何かしてるけど闇のせいで集中できない!

吸収! 『無し無し結界』! 分身! ひいぃっ、二人分絡み付いてきた! 解除!

 

『はい、ストップ。彼が見たら喜びそうだね……』

「はーっ、はーっ! こんの変態!」

『んー? 何の事?』

「とぼけないでよ!」

『……』

 

ブツッと放送が繋がる音。

 

 

 

『わたし、朱音だよ♪』

 

 

 

ゾクッ―――と。全身に鳥肌が立った。

 

そう、思い出した。この声は、初めてカラオケに行った時に聞いた事がある。

 

()()()()()()

 

 

「な…んで……わたしは、ここで……喋ってないのに……」

『そう、私はわたし。……やっと、こっちを見てくれたね』

「ひぅっ」

 

何かが、わたしの声をした誰かが、わたしの顔に触れる。それは物凄い嫌悪感を与えてきて、生理的に無理……!

 

『もう逃がさないから。今度こそ……約束を守ってもらうよ?』

「ひぃっ!」

 

約束?……はっ! いやまさか、そんな……わたし……体をあげるみたいな約束しちゃったの!?

 

「ゃ……やだ! そんな約束してない!」

『した! 絶対確実に神に誓って言った!』

「し、してないしてないしてない!」

『したもん! 私は覚えてるし!』

 

チュウ

 

「わたしが覚えてないからしてない!」

『覚えてないのは忘れたからでしょこの馬鹿!』

「馬鹿はそっちだし! この変態すけべあんぽんたん!」

『こっ…の! すぐなんでもかんでも押し付けてくる癖に!』

「そんなことしてない!」

 

チュウ‼

 

『したしたしたした!』

「してないしてなしてなひてない!」

『ぷぷっ、噛んでるし』

「うぎぎぎぃ……」

 

チュウ‼

 

「うわっ!」

 

ネズミの怒ったような声が耳元からしてきた。けど、やっぱり見えない。

って、そ、そうだった、なんか凄いナチュラルに口喧嘩してたけどこのままだとわたし殺される!

 

「う、くぅ―――」

『はぁ……良いから速く―――』

 

「殺さないで!」

『名前をつけてよ!』

 

「『 ……え? 』」

 

な、名前? はい?

 

『……なんで私が朱音を殺す事になってるの?』

「え、その、同じ顔ってつまりドッペルゲンガーで、ドッペルゲンガーってつまり殺すんじゃ……」

『誰がドッペルゲンガーよ!…似たようなものかも知れないけどさぁ』

「ひぃぃ! やっぱり殺される!」

『殺さないってば!』

 

スパコンと頭を叩かれる。不思議と、嫌悪感は無くなってる。

でも……名前を付けるって約束なんてしたっけ? うーん……。

 

『やっぱり忘れてるじゃん。あーもー、あんまりやりたくなかったけど……』

「え?」

 

チュウ?

 

『あー、ごほん』

 

誰かはいったん咳払いをする。

 

『約束どーり、名前をちょーだい、()()()()()

 

記憶の片隅がチクッと痛んだ。

 

「あ……あぁ……」

『あの時からずーっと、ずーっと、お姉ちゃんの代わりに辛いことを見てあげたんだから』

 

記憶の片隅から、刃が出て脳を半分にして背骨に沿って切られたみたいな衝撃。

その切られた断面から、わたしが忘れて、逃げてきた沢山の記憶が溢れ出てくる。

 

 

~●~⚫~⚪~⚫~●~

 

 

小さいときから姉というものに憧れてた。

どうしてだったっけ……そう、同じ幼稚園の友達にかっこいいお姉ちゃんが居たからだ。

あの人は優しくて、小さいながらにああなりたいって考えてた。

そして小さい子たちにお姉ちゃんだよって見栄張ったりしてた。

 

これが、前提の記憶。

 

そして、初めの記憶は―――目の前で猫が車に跳ねられた事。

近くに住んでたのか、いつも良く見掛ける猫だった。全身真っ黒で、大人たちからは少し嫌われてたみたいだけどわたしにはよくなついてくれてて……だから、目の前で動かなくなった事を受け入れられなくて。

 

わたしは、わたしに都合のいい妹を頭の中に産み出した。

わたしと一緒に泣いてくれる妹。わたしの代わりに怒ってくれる妹。わたしの辛さを一身に受けてくれる妹。

 

……そう。わたしは確かに言った。「名前は後でつけてあげるね」って。その場では名前を考えられなくて。

違う。現実はもっと酷いんだ。わたしは、(みにく)い。

わたしは……わたしは……。

「あの子には名前なんて必要ない」って思ったんだ……。

 

それからも、辛いことを全部押し付けた。

 

捨てられた犬を飼えなかった。次の日には段ボールの中で冷たくなっていた。

喧嘩してたせいで一人だけ遊びに入れてもらえなかった。

お母さんの大切な食器を壊した。多分、それでお母さんに妹の存在がバレたんだと思う。

 

他にも…他にも……沢山………数えきれないぐらい……! 一つでも辛いことを、わたしは……あの子に全部……!

 

わたしは、わたしは、何て事を……!

 

 

~●~⚫~⚪~⚫~●~

 

 

「ごめん、ごめんね……ごめん……!」

『えっと』

「そんな、そんなつもりじゃ……うぅっ、ごめんなざい~!」

『朱音?』

 

罪悪感なんて言葉で表せられない。全身が重い。立っていられない。今まで行ってきた罪に押し潰される。

 

「ごめん…ごめん…ごめんなさい…すみませんでした…もう……わたしは…………」

『おーい』

「…………そうだ、死のう」

『京都に行くみたいなノリで何言ってるの!?』

「もう合わせる顔がない……死んで、地獄に行って、閻魔様に断罪してもらおう……」

 

右手にナイフ。もう何十回もやってきた行動だから見えなくてもやれる。うん、このまま首を掻っ切って……それとも、第三の目(サードアイ)を突く?

そんなんじゃ償いにならないか。償いきれないとは初めから分かってるけど、せめて少しでも……。

 

『え、ちょ、ダメだってば!』

 

ナイフを取られた。―――あぁ、そっか。

 

「うん……好きに殺して……。好きなように、好きなだけ」

『はぁ!?』

「乙女ちゃんがスッキリするように殺して―――」

『いやいやいやだーかーらー!……待って、乙女ちゃんって?』

 

…あぁ……それは……。

 

「名前。最後だし、約束してたし……本当は、始めっから決めてて、でもわたしは……名前をつけたら乙女ちゃんが居なくなるって、そう思って……」

『……』

「ごめんなさい……酷い事してごめんなさい……」

『乙女…おとめ…ふ、ふふ……変な名前』

「変な名前でごめんなさい……」

『許す』

 

……え?

 

『許してあげる』

「……やだ」

『や、やだ? あー、お姉ちゃんはちゃんと約束を守ってくれたし……そりゃまあ、ちょっと駄目なところもあったけど……許してあげるよ?』

 

そうじゃない……そういうことじゃないんだよ……。

 

「わたしは…許してもらったとしても…生きていけないよ…罪悪感で……そんな軽い言葉じゃないけど………」

『……はぁ~。あーもー面倒臭いお姉ちゃんだなぁ!』

「面倒臭くてごめんなさい……」

『っ~~!』

 

ぐいっと。無理矢理立たされた。

 

『だったら! そんなに罪を償いたいって言うなら! 辛い事とおんなじぐらい、それよりもいっぱい私を幸せにしてみせてよ!』

「っ!」

『いい!? 絶対だからね!』

 

そっか。そう、だよね。今までずっと押し付けてきておいて、今更そんなのは……。

 

「……うん。うん、もう、逃げないよ。押し付けたりしない。ごめんね、乙女ちゃん」

『……うん。良かった』

 

チュウ…チュウチュウ‼

 

『え!?』

「どうしたの……うわっ」

 

周りの空間が鳴動する。まるでここは何かの体の中で、その何かが動き出したみたいな…………闇が、動き出してる?

 

『穢れの収縮……思ってたより早い……!』

「え、え?」

『大丈夫だよ、朱音。朱音には何もさせな……うぐぅっ』

「乙女ちゃん!?」

 

な、何が起きてるの!?

 



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終わり、始まり、そして未来へ

「……ザットコンナトコロカナ」

 

マミと杏子が鈴音の体の治療を終えるのとほぼ同時にエグザムは説明を終えた。

語ったのは、いわゆる原作と呼ばれる物語。

朱音も、鈴音も、エグザムも、存在しなかった場合の世界の姿。

 

それを聞いた魔法少女たちの反応はそれぞれだ。

 

「円環の理…まどかの、神の姿……」

「ほむらちゃん、鼻血出てる」

「……私何度か魔女にされてるんだけど」

「ねぇ! だからマミるってなんなの!?」

「ってぇか何であたしがさやかなんかと一緒に死ななきゃならねぇんだよ」

 

……全体的に気が抜けている。それはエグザムがなるべく重くとられないように面白おかしく話したからだ。

だから、少しでも冷静に考えると。『有り得た可能性』として噛み締めると。

 

「私は……無駄な時間を回っていたのね……」

「……ほむらちゃん…」

 

後悔が押し寄せる少女が居る。

 

「そーなると、私たち魔法少女にならなくて良かったね、まどか」

「さやかちゃん…」

 

安心できる少女が居る。

 

「……あたしは…あたしたちは、今まで運が良かっただけなんだな」

「杏子ちゃん…」

 

恐怖に震える少女が居る。

 

「―――ちなみに、()()ならなかったのは……朱音さんのおかげ、なのね?」

「答エル必要ハアルカイ?」

「……いえ」

「マミさん……」

 

静かに瞑目する少女が居る。

 

「サァテ、ヤルコトガ無クナッタ。ソロソロ朱音モ会ッテル筈……ン」

 

エグザムが振り向く。その視線の先には黒い球体。音もなく存在するそれを、静かに見つめる。

 

「エグザム、さん。どうしたの?」

「鹿目マドカ。美樹サヤカヲ連レテ帰ルンダ」

「え?」

「速ク! 魔法少女ジャナイ君タチガ巻き込マレタラ、最悪穢レニ犯サレテシマウ!」

「え? え?」

 

急に声を荒げたエグザムに、まどかは上手く反応出来ず。

 

 

 

ドドドド―――

 

 

 

 

地鳴り。いや、空気が振動を伝えている。それはまるで空間自体が揺れているかのような―――

 

「速ク!」

「まどか! これは流石に離れよう!」

「う、うん!」

 

魔法少女でない二人は瓦礫の上を走り、その場から立ち去ろうとするが、地震のせいで上手く進めない。

 

「まどか! 今助けるわ!」

 

それを見たほむらは魔法少女特有の身体能力で二人の元まで走り、二人のサポートへまわる。

さして時間もかけずに三人の姿は見えなくなる。

 

「……んで?」

 

杏子がエグザムに問い掛ける。それは主語も述語も無く。

 

「穢れはあの子たちより私たちのような魔法少女の方が危険よね?」

 

マミがその部分を補足する。

二人の魔法少女の視線に晒され、しかしエグザムは動じない。

 

「マア、普通考エタラソウカモネ。ダケド、果タシテ本当ニソウカナ?」

「……どういうこと?」

 

世界が壊れそうな地鳴りの中、それを気にせず話す二人と一匹。

 

「魔法少女ニ対シテ穢レハ毒。確カニソウダ。シカシ、ドウニカシヨウガアル」

「グリーフシード、か」

「ソウダネ。対シテ彼女タチハ? モシモ穢レニ犯サレタラ? 普通ノ人ハそうるじぇむナンテ便利ナ物ハ無イ」

「つまり、あの子たちの方が危険だったと?」

「ソウ」

 

徐々に、地鳴りが消えていく。

そしてすぐに地鳴りは収まり黒い球体に変化が起こる。

 

「これは……脈動してる?」

「……心臓みたいだな。気持ちわりぃ」

 

 

黒い球体は、音も無く肥大と収縮を繰り返す。

 

 

「―――ソレニ、コレハ僕ノ勝手ナンダケド」

 

それを見つつエグザムは小さな声で続ける。それは他の誰にも届かない声。

 

「ドウセナラ。心カラ帰還ヲ喜ベル人タチ()()デ迎エタイジャナイカ」

 

チュウ?

 

ポトリと落とした言葉に、茶色いネズミが反応する。いつの間にかそこに居たネズミはエグザムの足を甘噛みして鈴音の体にまで走る。

 

 

 

―――黒い球体が脈動を止める。

 

 

「動きが……」

「止ま……った?」

「ソレジャア、僕ハコレデ。マタネ」

「エグザム?」

 

唐突にエグザムは黒い球体へと駆けていく。そして、まるで黒い球体に食べられるように吸収された。

 

「なっ!?」

「マミ! ヤバそうだ!」

 

球体が蠢き、様々に形を変える。

 

 

そして、ゆっくりと、小さくなっていく。

 

 

「マミ、どうなると思う?」

「分からないわ。ただ、良いものにせよ悪いものにせよ―――何かが出てくるわね」

「……朱音だったら良いんだけどな」

 

念のために二人は戦闘態勢に入る。先のワルプルギスの夜との戦いの疲労は大分収まっている。

黒い球体―――既に球体ではないが―――は流動し、ある形に収束していく。

そして、あるタイミングで朱音を吐き出した。

 

「朱音!」

「朱音さん!」

 

朱音は意識を失って倒れている。慌てて駆け寄る魔法少女たちは、しかし朱音と二人を隔てるように現れた()()に足を止める。

黒いそれは横一文字に広がり、瓦礫を飲み込む。

 

「なっ、なんだ!?」

「これ……穢れ?」

 

「正解。そしてそれが私の力」

 

朱音の隣。収束していく黒い球体が存在していた筈の場所。一人の少女が立っていた。

紫のリボンが付けられた、傍目(はた)に見て上質そうな黒い布で作られた丸帽子をかぶり、暗い紫のフリルがふんだんにあしらわれている黒いドレス。

 

―――まるで、黒い朱音だ。

 

「なにもんだ、あんた」

「私? 私は()()()。私は穢れ。私は……だぁれ?」

「てめぇ! ふざけんな!」

 

杏子が怒鳴るが、黒い少女は動じない。

 

「ふざけてないんだけど。……あー、いや、ふざけてたわ。ごめんなさい」

「っ、てめ!」

「危ない!」

 

マミが杏子に体当たりをかます。魔法少女の筋力で突き飛ばされた杏子はそれなりの距離を転がる。

 

「なにすんだマ…ミ……!?」

 

そして怒鳴ろうと顔を上げて―――絶句する。

 

自身が立っていた場所に黒い氷山のような物体がそびえ立っている。マミが体当たりをしなかったらあれに体を粉々にされていただろう。

 

そして間一髪で杏子の命を救ったマミは穢れに全身を縛られている。その姿はマミのリボンで縛られた敵のそれと酷似していて。

 

「……ちょっと笑えないじゃねーか。マミ!」

「私は大丈夫よ! それより気を付けて!」

「うおっとぉ!」

 

杏子の足下から穢れが噴出する。間欠泉のように噴出した穢れは、黒い少女へと舞い戻る。

 

「ふーん。流石はベテラン。ちょっと煽るだけでカッとなるのが弱点かしら?」

「ちっ……」

「おぉ、こわ」

 

少女はニヤニヤしながら煽る。杏子はそれにぶちギレそうになるけれど、冷静でなければ倒せない相手だと理解した故に舌打ちで済ませる。

 

「さてさてベテランさん? 自分のせいでお仲間がやられちゃってるんだ、け、ど?」

「うっせぇ!」

 

杏子は駆け出す。少女へ向けて、一直線に。槍を構えて駆ける姿は朱い騎士のよう。

 

「そうこなくっぢゃぶっ!」

「!?」

 

対して、黒い少女はこけた。それはもう見事にこけた。『ビターンッ』という効果音が横に浮き出てきそうなほど綺麗にこけた。

まるで教室で机の間を歩いていたら席に座ってる奴に足を引っ掛けられたように、いや、片足で立っている時に軸足を払われたように、もしくは歩くのに慣れていない赤ん坊のように、顔面から盛大にこけた。

 

「お、おいおい……」

 

杏子はベテランだ。魔女との戦いは数えきれないほどしてきたし、魔法少女との戦いだって何度もしてきた。

その杏子とて、相対している相手がここまで見事にこけるのを見るのは初めてだった。

 

(そういう()()か? なんかの作戦? 顔を地面につければあの穢れをもっと素早く動かせるとかか? い、いや……にしたってあれは……無いだろ)

 

思わず立ち止まり思考に気を回してしまうほどには驚いた。その隙は戦いの中では致命的だ。

 

―――本来ならば。

 

「………ぁ」

「?」

「あ……かねえぇぇぇぇっ!」

 

黒い少女が跳ね起き、倒れている朱音へと穢れを叩き付け―――

 

「うひゃっ!」

 

()()()()()

ゴロゴロと転がった朱音はスタッと立ち上がる。

 

「何してくれてんのよ、このっ、このっ、このぉっ!」

「うわ、わ、ごめ、ごめんって!」

 

穢れを弾丸の様に撃ちまくる黒い少女。しかし朱音はひょいひょいと避ける。

 

「せっかく、せーっかくラスボスっぽくしてたのに! 朱音のせいでぇ!」

 

黒い少女へ向けて周囲に散らばっていた穢れが全て集まる。

そして形成されるのは八本の触手。炭のように黒いそれはまるでミサイルのように高速で朱音へと突き出される。

朱音は走って逃げるが、その速さは触手と比べるとウサギとカメ。すぐに捕まった。

 

「うわっ、これ冷たい! ヌメッてする! 気持ち悪いぃ!」

「あ~か~ね~?」

 

黒い触手から逃げられない朱音は黒い少女の前まで移動させられる。

 

「あーその……優しくしてね?」

 

 

 

杏子には、黒い少女の堪忍袋の紐が切れる音が響いた気がした。

 

 

 

~○~○~○~○~○~

 

 

 

ひ、酷い目にあった……!

 

「んじゃ、改めて。私は乙女……本庄乙女よ」

「あたた……えーと、乙女ちゃんはわたしの娘うそうそうそ! 妹だよ!」

 

そして、ところ変わってマミさんの家。移動中に鈴音ちゃんも起きて、避難してたほむほむ、まどかにゃん、さやかちゃんも合流。皆揃ってる。

……おかげで、少し部屋が狭いけど。

 

「朱音ちゃんって、妹いたの?」

「んー。まぁ、ね」

「?」

 

歯切れが悪くなっちゃって、まどかにゃんが首をかしげる。いやだって、ねぇ?

 

「質問するにはちょっと速い。そもそも私は人間じゃないんだから」

「ふぇ?」

「どういう事かしら、乙女さん」

「こーゆーこと」

 

乙女ちゃんの()()()()()。なんの予告もなしに、ポロッと。

 

当然、悲鳴が響き渡る。叫んでないのはわたしとほむほむ、杏子ちゃんぐらいか。まあ二人とも引いてるけど。

 

「お、乙女ちゃん……流石にそれはどうかと」

「んー? だってこれが一番分かりやすいでしょ? それにあれ取り出すのに必要だし……んっ」

 

乙女ちゃんは首から体の中に手を突っ込む。そのままごそごそと何かを探すように手を動かす。

もう、なんか、音とか血とか出てこないだけで普通にグロだね。……あと、首だけで喋らないでよ。

 

「あー、あったあった」

 

取り出したのは……拳二つ分ぐらいの大きさの石。黒いのに発光していて、不気味。

 

「……それは?」

 

恐る恐る聞いたのはほむほむ。少し顔が青ざめてるけど、その胆力は流石だね……。

 

「私の心臓(コア)

 

首を元通りにくっつけて、乙女ちゃんは石……心臓を眺める。

 

「それと同時に、今機能している最後にして唯一のグリーフシードよ」

「グリーフシード!?」

 

乙女ちゃんがしかめっ面でこっちを見てくる。耳元で大声出しちゃったからかな……ごめん。

 

「……はぁ。朱音は知ってなさいよ」

 

乙女ちゃんはそう言うと心臓を飲み込む。……これはこれで……なかなか……恐ろしい光景に……。

 

「さて。……あー、ちょっと悪いことしちゃったわね」

 

見回す。意識を失っているのが鈴音ちゃん、さやかちゃん。まどかにゃんとほむほむは顔が真っ青だし、マミさんは放心状態。杏子ちゃんはマミさんが出したケーキを食べてる。ず、図太い……。

 

「んで? 人間じゃないのはあたしたちもだし…モグモグ……グリーフシードの大きさには驚いたけど…モグ……それがなんだって? コア?」

「そう。私というシステムの根幹」

「システム、ねぇ」

「……あ。えっと、そのシステムって……?」

 

あ、マミさんが復活した。

 

「簡単に言えば、世界中の穢れの浄化よ」

「世界……」

「そりゃまた、スケールの大きなこった。で、気になるのが……妹?」

「あー……それは……」

「うん、わたしが言うよ」

 

それはわたしの責任だしね。

 

「乙女ちゃんはわたしの妹。それは正しいけど……血が繋がってる訳じゃ無いんだ。乙女ちゃんは……その……」

 

とはいえ、恥ずかしい……。でも言わなきゃ……。

 

「わたしの妹……っていう人格。わたしの頭の中で創られた、わたしの妹……です」

「……」

 

沈黙が部屋を包む。さっきの阿鼻叫喚が嘘みたいだね。……なんて。

 

「……あー、と? 人格?」

「それってつまり……」

「本庄朱音は二重人格者って事……ね?」

 

ほむほむの言葉は正しい、けど少し間違い。

 

「残念でした。わたしは二重なんて小さな枠に収まらない……あいたっ!」

「そんなカッコいいものじゃ無いでしょうに」

「だからって叩かないでよ!」

「あの! それって、乙女ちゃん以外にも朱音ちゃんの姉妹が他にも居る……ってこと?」

 

まどかにゃんが聞いてくる。んー、そっかあの言い方だとそう解釈されちゃうかもね。

 

「「 ううん。居ないよ」」

 

乙女ちゃんと被っちゃった。……あ、そうだ。

 

「ねえねえ、乙女ちゃん」

「なに、朱音」

「新しい妹か弟って欲しい?」

「要らない」

「そっかぁ。きっと可愛い子を産めると思うよ?」

「……別に要らないし」

 

まあ、聞いてみただけだから。もし仮に『欲しい』とか言われても困るしね。

 

「その、まとめると……元々乙女さんは朱音さんの頭の中の妹で、世界中の穢れを浄化していくグリーフシードの体に移った……ということ、かしら?」

「大体そんな感じ」

 

乙女ちゃんが頷く。

 

「まあ、さっきは暴れたけど……挨拶みたいなものだから。これからよろしく」

 

良い……笑顔だね。多分印象最悪だろうけど。

 

 

 

 

 

~○~○~○~○~○~

 

 

 

 

 

―――こうして。

幾つもの障害を乗り越えてわたしの願いは叶った。

 

―――こうして。

最も難関である私の願いが叶った。

 

―――これで。

わたしたちの生活は変わるかもしれない。

 

―――これで。

私たちの在り方は大きく変わると思う。

 

―――だけど。

 

―――だけど。

 

 

(わたし)たちは、これからも生き続ける。

 

さよなら。

 

 

 

 

 

 

全ての運命の不幸は無くならない。そればっかりは覆せないけど、これは彼女の願いが起こした、奇跡の救い。

 

この世で生きる辛さを教えるために。

 

悲劇は無くならない物ではあるかもしれないけれど、ヒトは立ち上がれるから。

 

だからずっと救いを続ける。

 

語られない物語を守るのだから。

 

わたしの―――私の―――物語は終わらない。

 




読了、誠にありがとうございます。感謝の言葉しかありません。

……しかし、なんと続きそうな終わり方なんでしょうか。

乙女ちゃんという新キャラ、乙女システムによる世界の変化、そもそものシステムの効果、そして最後の最後に出番なしの鈴音ちゃん―――――

こ れ は ひ ど い 。

だけど、個人的にも残念なことに、これが最終回です。
誰が何と言おうと――文句を言うのは主に自分の心ですけど――終わりです。

ですけど、本庄姉妹は残ります。投稿者の頭の中のキャラ表にしっかり入っています。

ですから、きっとまたどこかで出てくるでしょう。

それでは、また。別の小説でお待ちしております。


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本庄朱音という魔法少女

ん? 完結した筈では?


 私を知るには、まず私の姉の本庄朱音の事を知らなきゃいけないわ。すこーし長くなるかもしれないけど、いい?

 

 本庄朱音。平凡な家庭で産まれた平凡な少女。

 本当に普通の少女……ただ、精神的に弱くて少し夢見がちなだけ。

 幼い子供はイマジナリーフレンドを作るでしょ? 朱音はそれが凄く得意だったのよ。朱音が1人でするおままごとはそれはまぁ結構な規模だったわ。

 まあ、それで、ある時怖い目にあってね。トラウマになるわけ。そしてそのトラウマから自分を守るために、1つのイマジナリーフレンドに……全部押し付けた。そしてそれ以来イマジナリーフレンドは作らなくなった。

 

 要は二重人格って奴よ。都合の悪いことはこっちの責任、楽しいことはあっちの出番って感じでね。

 幸い、両親は理解を示してくれて二人とも可愛がってくれたわ。

 ただ、大きくなるにつれて朱音はもう1つの人格の事を忘れていった……。

 そして、運命の転換期が訪れるわ。

 

 それは12歳の誕生日。朱音は早生まれで中学校に入るちょっと前くらいの日なんだけど。

 そう……なんていうか……バグ? 或いは女神のミス? 分からないけど、変な記憶を思い出すの。

 その記憶は魔法少女の事を色々と知っていた。どうすればなれるのか、どういうことが出来るのか、どういう、運命なのかも。……ええ、魔法少女が最後にどうなるか知っているわ。知った上で魔法少女になったのよ。

 おかしいって言われても……話を戻すわよ。

 朱音は記憶を別の人格として処理したわ。本庄蒼太という男の人格として。おかしくならないように『前世の記憶』っていう設定まで付け加えて。

 ついでに秘密裏にもう1つ人格も生んで合計4つの人格。漫画みたいでしょ?

 

 それで色々とあって──無かったかも──魔法少女になれた訳。

 幸いだったのはインキュベーターの調査に引っ掛かる前にインキュベーターと接触出来たこと。もしも多重人格だって知られてたら契約してくれなかったかもしれないわね。

 あと、蒼太の人格のおかげで少しは精神的に成長していたこと。そうじゃなければ契約前に諦めてたかも。

 

 で、魔法少女となって得た魔法は……え? 長い? こっからがサビだから待ちなさいよ。

 こほん。

 それで、朱音の固有魔法なんだけど『魔力の吸収』『分身』『透明化』の3つってところね。そう、それぞれの人格がそれぞれに固有魔法を貰ったの。

 特に強力な『魔力の吸収』の魔法は蒼太の人格のもの。男だから本来は魔法少女になれず、けれど少女の身体ゆえになれてしまった彼は、自力では魔力を作れなかった。その為の魔法。

『透明化』は隠れた人格のもの。自分自身にすら気付かせない、悟らせない無意識の現れ。

 そして『分身』。これは……朱音が作った人格のもの。朱音の代わりに悪意を受け止めて失意を飲み込む分身。それが固有魔法として現れてしまったもの。

 

 朱音は魔法少女としての才能はかなり低いけど、固有魔法でなんとか戦えていけたわ。

 けど、そう……どこまで話そうかしら……そうね、じゃあざっくりとはしょるわ。

 

 朱音は仲間たちとワルプルギスの夜との戦いに挑んで、勝ったわ。

 

 え? 飛びすぎ? そんなこと言われても詳しく説明してたらもっとややこしいし。

 とにかく、確か5月の終わり頃にワルプルギスの夜と戦ったのよ。激戦というのに相応しい戦いで、人格の1つや2つは持ってかれたわ。

 

 で、ワルプルギスの夜を倒したあと、朱音のソウルジェムは異常な事になったわ。

 ワルプルギスの夜から奪った許容量を越えた魔力と、限界を越えて溜まった穢れがギッチギチに入ったの。穢れを浄化しようにも溢れるぐらい増えた魔力が邪魔してグリーフシードは意味をなさない。ま、そもそも全部浄化するとなるとグリーフシードが10個以上は必要になったでしょうね。消耗してた仲間たちにそんな余裕は無いわ。

 ……。朱音を助けるための人格は、1つ賭けにでることにした。

 ワルプルギスの夜の巨大なグリーフシードをソウルジェムと見立てて、新しく身体を造る。魔力の代わりに穢れを使う。人格は自身のものを移して、必要な穢れと魔力は朱音の余剰分を持っていく。

 

 そうよ。それが私、本庄乙女。元・朱音の『妹』としての人格。

 

 人型の魔女……と言われても否定出来ない。だって私の心臓は硬い石で、身体は見ての通り液体状の穢れを固めたもの。不定形でやろうと思えば別の身体にだってなれる。顔を増やせるしのっぺらぼうになってもいいしなんなら身体を増やせる。魔女結界みたいなのも作れるし使い魔なんて何体だって産み出せる。

 けど同時に私は世界から穢れを吸い取る巨大なグリーフシードでもある。

 だけど。だけどね、あくまで、私は、『穢れを扱う魔法少女』。そのつもりよ。

 

 

 

 

 

 ───これでいいかしら、超ベテランの七海やちよさん。



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外伝
レコードの少女たちと穢れの魔法少女(前編)


 時は遡って数日前。

 

「電車なんて久しぶりだねー」

「私は初めてだけどね」

 

 本庄朱音と本庄乙女が電車に乗っていた。同じ車両に乗る人はおらず、2人はのんびりと揺られている。

 

「何回でも聞くけど、マミさんが行ったのは神浜で間違いないのよね?」

「うん、ほむらちゃんがちゃんと聞いてたみたい」

 

 2人が電車に乗っている理由。それは、2人の知り合いである魔法少女、巴マミが行方不明となっているからだった。

 マミとは違う学校に通っている(どころか隣町に住んでいる)2人だが、マミの仲間である暁美ほむらはワルプルギスの夜を越えた事で時間操作の魔法を失い戦力として数えられず、佐倉杏子はその穴埋めの為に町を離れるわけにはいかないので、その代打に選ばれたのだった。

 ちなみにご存じの通りこの世界線では鹿目まどかと美樹さやかは魔法少女になっていない。

 

「すぐに帰るって言ってた筈なのにもう一週間も経つってさ」

「それに連絡も取れないんでしょ?」

「うん。珍しく杏子ちゃんがイライラしてたね」

「私たちに任せてじっとしてくれればいいんだけどね」

 

 あれで仲間思いだからねーと乙女が愚痴り、右手から真っ黒な塊を産み出す。その塊はぐねぐねと形を変え、ちっちゃな人間の形になる。ポニーテールに八重歯、細い腕に貧相な胸。黒い佐倉杏子といったところか。横に槍も産み出しポーズを取らせる。

 

「うーん、まぁこんなもんかしら?」

「ワンワン、犬の魔女だぞー」

 

 そこに朱音が手を出す。人差し指と小指を立て残りの指を合わせた、いわゆる狐の手だ。

 

「『お、やるかい? あんたじゃああたしには勝てないぜ!』」

 

 乙女はフィギュア杏子を操作し、朱音の手に槍を差し向ける。

 パクパクと口を動かす犬に、チクチクと槍を差すフィギュア杏子。大口を開いてからの噛み付きをなんなくかわし、飛び上がる。

 

「『たあぁぁぁぁあっ!』」

「いったあっ!?」

 

 小さい槍が犬の魔女に……朱音の手に突き刺さる。

 手の甲から赤い血がにじむ。

 

「あ……」

「いてて……もー」

「あ……ぁ……」

 

 そこまで出血はないがわりとぱっくりと傷が開いている。そうとう鋭い槍を作ったようだ。

 意図していなかったとはいえ朱音を傷つけたことに、乙女は随分とショックを受けている。

 

「ご、めん……」

「いーのいーの。そんなに落ち込まないで。えーとティッシュティッシュ。絆創膏ってあったっけ? ……ん?」

 

 ポケットからティッシュを取り出して傷口を押さえる。と、乙女がその手を取る。ティッシュをどかすと───ベロッ

 

「うひゃあっ!?」

 

 唐突に手を舐められて朱音は飛び上がる。大声を上げてしまって慌てて周りを見回すも、当然他に乗客は居ない。

 見ると、傷口に黒いテープのようなものがくっついている。触るとブヨブヨして冷たい。

 

「ば、絆創膏の、代わり。許して、許して許して許して許して」

「んもー2人っきりの時は甘えん坊なんだから」

 

 明らかに情緒が不安定になっている乙女に対して、朱音は優しい声をかけながら頭を撫でてあげる。

 乙女は普段は比較的強気な性格なのだが、どうやら他人に迷惑をかける事を極端に嫌うようで、例え相手が朱音だとしてもこのように発狂寸前になる。

 とはいえ朱音もこれが初めてではない。お姉ちゃんとして落ち着いて行動する。

 

「大丈夫大丈夫。わたしの方がいっぱい迷惑かけてきたんだから今更怒らないよ」

「うぅ」

「ほら、ギュー」

「ん……」

 

 ハグしあって落ち着く。端から見ればとても仲のいい双子姉妹だ。

 

『次はー神浜ー。神浜ー。お出口はー、右側でーございます』

 

 そんな車内アナウンスが流れる。もうすぐ目的地のようだ。

 

 

 ~○~○~○~○~○~

 

 

「は?」

 

 気付くと駅の前に立っていた。それが目的だからなんの問題もない。ない、はずだったが。

 記憶が飛んでいる。つい一瞬前まで朱音と一緒に電車の中に居た筈だ。

 だが、そこから切符を取り出して電車を降りて改札を抜ける、といった行動をした記憶がない。ほんのまばたきのうちに移動したのか? いくら暴走気味だったとはいえ、そんな。

 

「えっと。……朱音?」

 

 訳の分からない状況に、思わず朱音の手を握る───ことは叶わなかった。

 横を見ても、朱音は居ない。そこに居るべき存在が居ない。そこに居なければいけないのに。

 

 乙女は叫んだ。なりふり構わず。

 

 叫んで、走り出した。叫んでも反応が無かったから。

 

 どこだか分からない街を、どこに居るかも分からない相方を探して。

 走って、叫んで、人を押しのけ、当てもなく進む。

 

 そうして、ふと我に返る。むしろなんで我に返ったのか不思議に感じ、辺りを見回す。

 

「ハァッ、ハアッ……あれ、魔女の口づけ……」

 

 乙女は穢れを取り込むという特性があり、その穢れの発生源が近くにあると身体が引っ張られる感覚を覚える。無意識下に、その感覚を受け取ったのを感じたのだろう。

 乙女は朱音を捜索するのと口づけを受けている少女を助けるのを天秤にかけ……救助を優先する。

 このままやみくもに探したところで見つかるわけがなく、それならば魔女の結界に朱音が居る可能性の方が高い。

 なにより、魔女の犠牲が出たら朱音は悲しむだろうから。

 

 流石に大通りで暴れるわけにもいかないので少し離れた位置からゆっくり後を追う。最悪見失っても、使い魔の穢れカラスでも産み出して探せる。ちなみに朱音捜索用の穢れカラスは既に空を飛んでいる。

 足取り的に少女はどうやら電波塔へ向かっているようだ。

 

「ん?」

 

 同じ方向へ歩く二人組がいる。片方は紺色の私服を来た高校生か大学生。もう片方は制服の少女。恐らくこの街の中学生だろう。

 乙女は彼女たちからも僅かながら穢れを吸い取っている。つまり彼女たちも魔法少女で、あの少女を追って魔女を倒そうとしているということ。……まあ、どうにもこの街は魔法少女が大量に居るようでそこかしこから穢れを吸っているが。

 とにかく、最悪このままだとグリーフシードを巡って彼女たちと敵対することになる。乙女にグリーフシードは必要ないのだが、彼女たちには分かる筈がないし無償の協力は逆に疑われるだろう。

 魔女を彼女たちに任せて自分は朱音の捜索に戻る……これが一番現実的だ。が、当てもなく探すよりも恩を売って人探しの協力を得る方が良いか? 

 

「そっちのが良さそうね。これも縁って事で」

 

 タイミングを見計らって、彼女たちを助けることに決めた。

 

 適度に距離を取って歩くこと数分。電波塔の中に入る。

 

「あ、やちよさん!」

「しまった!」

 

 口づけを受けた少女がエレベーターに乗る。前の二人が慌てて走り出すも、間に合わずエレベーターは行ってしまう。

 少し迷う。私なら姿を変えれば先回り出来るけど……出来れば恩を売るために二人の後から入りたい。

 

「階段で追いかけましょう!」

「待っていろは。ここはエレベーターを待った方が速いわ。それに無駄に消耗したくない」

「モキュモキュ!」

 

 ん? なんか変な声が聴こえたけど……ま、いっか。

 んー、じゃあ逆に堂々と二人に着いていきましょうか。ぐにゃぐにゃと姿を変える。

 トランスフォーム、猫! なんちゃって。

 

「ニャーン」

「えっ?」

 

 エレベーターにささっと乗る。

 

「こんなところに猫?」

「かわいい……けど、このまま連れていくのは危険ですよね」

「そうね。ほら、降りなさい」

 

 ちっ、さっさと入ってエレベーター動かしなさいよ。私を降ろそうとする手をよけていく。

 

「やちよさん……はやくしないと」

「もう、仕方ないわね。大人しくしてなさいよ」

「は、はい!」

「……貴女じゃなくて猫に言ったのよ」

 

 いろはは天然ね。やちよさんとやらは冷静。どうにも歴戦の猛者って感じ。

 とにかくエレベーターが動き出し、すぐに最上階にたどり着く。さーてあの少女は……みっけ。

 

「やちよさん! あそこ!」

「あれは、屋上に続く階段……っ! まずいわね」

「どうしてこの人たちは止めないんですか!?」

「よく見なさいいろは、この人たちも魔女の口づけを受けているわ。……こんなところで集団飛び降りなんて悪夢、起こすわけにはいかないわ」

 

 二人は人だかりを押しのけて進むけど、傷つけないようにしてるせいで上手く前にいけない。私は足元をすいすいと駆けていく。猫の姿はこういう時に便利。

 

 さて屋上。けっこう広いわね。あの少女は既に端の方にいる。私が居なかったら不味いことになってたわね。てってこてってこと駆け寄り横に並ぶ。

 

「だめ────っ!」

 

 遅れて屋上に来たいろはの声が響く。

 それじゃあ右前足を少女の影において、『影踏み』。穢れが影を通して少女の身体を縛る。……なんか思ったより抵抗が強いわね。影から穢れを手の形にして伸ばし、もっと物理的に少女を掴む。計四本の腕に掴まれて少女は屋上に寝転ぶ。

 

「えっ、なにが起きたの?」

「いろは、変身しなさい。そこの黒猫! 正体を表しなさい!」

 

 んー、まあばれるわよね。黒猫から姿を変える。

 濃いピンクのリボンが付いた黒い帽子、白くて短い髪、紫を基調にした袖の長い服、白い変な模様の入った黒いミニスカート。

 薄い記憶の中にある、『古明地こいし』の黒いバージョンってところかしら。

 

「ま、魔法少女!?」

「自己紹介は後ででいいかしら?」

 

 屋上への扉を大量の穢れで糊付けして封鎖する。何人か登ってきてしまった人間は……ついでに貼り付けときましょ。

 

「魔女さんのおでましみたいだしね」

「……そのようね。いろは、やるわよ」

「え、あ、はい!」

 

 現れた魔女結界に三人で飛び込む。

 

「私は本庄乙女。よろしくいろはさん、やちよさん」

「あれ、どうして名前を?」

「猫の姿で聞いていたんでしょ。悪趣味ね」

「酷いわね」

 

 現れたのは杖を持った牧師のような見た目の使い魔。

 小手調べに穢れで切り裂こうとして、それより先にピンクの光が使い魔の胴体を貫く。直後にその首が飛んだ。

 いろはの武器は弓……というよりは腕に付いた小型のボウガンね。

 やちよの武器は大きな槍。前衛と後衛が分かりやすい。

 

「ヒュー、やるわね」

「貴女は構えるのが遅い」

「悪いけど、私の本領はサポート、よ!」

「ひゃあっ!?」

 

 いろはの足元に穢れを溜めて、一気に隆起させる。この結界が草原チックで遮蔽が少ないのもあって敵を一望出来る筈。そのまま魔女も見つけてくれるかしら? なんちゃって。

 

「そこからバンバン射っちゃってーいろはさん!」

「了解です!」

 

 ついでに筋力サポート用の穢れを腕に付けてあげましょ。うんうん、我ながら良い感じ。

 

「っと!」

 

 やちよの猛攻を避けて近づいてきていた使い魔の攻撃をしゃがんでかわす。杖が頭の上を横切る。

 地面から穢れを突き出す。槍状の穢れは使い魔の身体を貫通する。……まだ動けるの? 

 

「ちっ、往生しなさい!」

 

 使い魔の身体の中から穢れを侵食させる。隅々まで侵食したら、その穢れを一気に突き出す! 

 

「ふぅ」

「貴女もしかして、この街での戦いは初めて?」

「まぁね……」

 

私が使い魔を一匹倒す間に、やちよといろはは二匹ずつ倒していた。そして使い魔はまだまだやってきている。

 

「神浜の魔女は他の街の魔女よりも強い。油断していると、死ぬわよ」

「……じゃあ、ちょっと本気でいきますか!」

 

 さっきまでは少し下がり気味に戦っていた。だから、今度は前に出る。多分やちよかいろはがサポートするでしょ。穢れでナイフを形成する。

 

「てやっ!」

 

 ナイフを弱点である頭に突き刺す。さっき使い魔に穢れを刺したときに、ちゃーんと構造も把握済み。

 ビュンッと音がなり私の後ろに居た使い魔が射貫かれる。

 

「ナイッシュー」

「油断するなっていった側から!」

「今のは分かってたから良いの!」

 

 普段ならもっと効率よくやるんだけど、流石に二人の前でそれをやるわけにもいかない。地道に使い魔を倒していく。

 その中で分かったけど、二人の強さは相当なもの。私だって負けるつもりはないけど、もし二人とやりあうのなら一方的な有利を取らないとキツそう。

 まあそんなことにならないことを祈りましょ。

 

「ようやく魔女のおでましね」

 

 見た目はおおよそ羊。ただ、目が幾つもあってギョロギョロとこちらを睨んでいる。

 

「やちよさん、乙女さん!」

 

 いろはが足場から降りてきた。確かにあのまま居たらただの的だろう。足場に使っていた穢れを回収する。

 

「いろは、まだいけるわね?」

「はい! なんだか今日は調子が良いみたいです!」

「あ、敬語じゃなくて良いわよいろはさん」

「あ、はい……うん、乙女ちゃん。乙女ちゃんも敬語じゃなくて良いからね?」

「貴女、なんというか、随分と緊張感がないわね。本当に魔法少女?」

「緊張感が無いのはお互い様じゃない? おっと」

 

 羊の魔女が足のフォークを飛ばしてきた。二人は飛んで避けるけど私は穢れを手の形にして掴み取る。

 

「お返し!」

 

 そのまま投げ返す。フォークはそれなりの速度で羊の魔女に刺さる……けど、ダメージになってない。モコモコの羊毛を貫通出来ていない。

やちよといろはは左右に移動している。三方向から囲んで叩くつもりだろう。

 

「なら本気も本気よ」

 

 穢れを放出。地面から生える巨大な腕を形成。羊の魔女よりも巨大な、見上げないといけないそれに羊の魔女はフォークやハサミを飛ばして攻撃してくるけど、残念ながらダメージにならないのよ。ただの穢れですもの。

 こぶしを握り、振り下ろす。ジャストミート! 二回、三回と叩きつけた。

 

「えぇ~これで倒れないの?」

 

 羊の魔女は三回も潰されたにも関わらずふわりと浮き上がる。複数の目が全て私を見る。偉いわね、穢れの腕じゃなくちゃーんと私を見るなんて。スゴイスゴイ。でも私ばっかり見てると……。

 

「はあああああっ!」

「貫いてっ!」

 

 ピンクと青の光が交差する。羊の魔女は身体を硬直させ、フォークやハサミを落としながら消えていく。同時に魔女の結界も崩れて消えていった。

 慌てて穢れを回収。結界の外で被害者たちを貼り付けていた穢れも回収して、服装も魔法少女服から普段着のTシャツに変える。

 

「……必殺技で倒せないのって、けっこう自信なくすわね」



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