とある過去の未元物質《ダークマター》多分 一時凍結 (吉田さん)
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第一章 光と影 Connecting_the_World.
Prologue


この物語は垣根帝督ことていとくんの過去を想像して書いたものです。あくまでも想像でしかありません。

以下注意事項です。
※オリジナル設定、独自解釈がございます。苦手な方はブラウザバックを。
※時系列がズレる箇所が中盤か終盤あたりに出てきますが、ご了承を願います。
※客観的に見ればヒロインの立ち位置であろうキャラがオリジナルです。原作における主要人物はていとくん以外存在をほのめかす程度の出演となっております。(一部は最後の方に出演しますが……)
※感想欄に展開予想(オリキャラの能力予想や伏線についての言及等)を書くのはご遠慮ください。
※クソッタレな世界です。


 風の渦が逆巻くような音が耳に入ってきた直後、垣根帝督の体に、重い衝撃が走った。

 

「……っ」

 

 痛みはない。

 だが衝撃によって僅かにバランスを崩してしまい、身体がよろめく。

 視界に映るのは徹底に破壊され尽くしたATMの残骸と、その中から出てきたであろう天使の羽の如く舞い散る紙幣。

 

「……、」

 

 覆い隠された視界の中、垣根帝督は声を聞いた。

 

「シケた遊びでハシャいでンじゃねェよ、三下が」

 

 聞いた事のない声。

 だが、垣根帝督には声の正体が分かる。

 自分をこうまでイラつかせてしまえる声の主など、もはや決まっているも同然だったからだ。

 飛び散る紙幣の隙間から、声のした方へと視線を送る。

 

 そこにいたのは、白い少年。

 しかしそれは、何処となく澱んだような。

 清潔さを感じさせる白ではなく、歪みを覚える白。

 

 一方通行(アクセラレータ)

 

 

 学園都市最強の超能力者(レベル5)

 あらゆる『ベクトル』を操り、指先ひとつ触れただけで人体を破壊し、文字通り世界を滅ぼすことすら可能とする者。

 

 そんな存在を前にして――

 

「……はっ」

 

 ――しかし垣根帝督は笑っていた。

 

 とてもこれから最強と殺し合いを演じるような人間が浮かべるとは思えない笑み。

 彼の表情を敢えて言葉に表すのなら、ようやくといった言葉が相応しいのかとしれない。長年探し続けた秘宝の在り方を、見つけた瞬間のような、様々な感情が織り交ぜられた笑み。

 

 一方通行はおろか、傍からも今の垣根の表情は紙幣が邪魔で見えないだろう。

 

(だから何だって話ではあるが……)

 

 今の表情を見られたいなどとは思わないし、見せる気もなかった。

 

 やがて彼の周りに舞い散っていた紙幣は風に飛ばされ、垣根帝督の身体から離れていく。

 

「痛ってえな」

 

 顔から一切の笑みを消し、聞くものが底冷えするような声で、垣根帝督は一方通行(アクセラレータ)へ向けて言い放った。

 不遜な態度を崩さず、両の手をポケットに突っ込んだ状態で、垣根帝督は一方通行(アクセラレータ)と向き合う。

 

「流石第一位、大したムカつきぶりだ。やっぱテメェからブチ殺さなくちゃダメみてえだ」

 

「笑わせンなよ、三下。ハンデを求めたチキン野郎が、何をほざいてンだ。あのガキを狙って俺の力を弱くさせようなンて手段を選ンだ時点で、もォ戦力差は決まってンだよ」

 

「バッカじゃねえの。そいつは保険だよ。誰がテメェみてえなクソ野郎相手に五分五分の戦闘なんか仕掛けるか。面倒くせえっつってんだ。テメェにそこまでの価値があるとでも思ってんのか」

 

 学園都市の第一位と第二位。

 学園都市において――いや、全人類の中でも頂点に位置する者たちは、隠蔽などに気を配る事なく殺意を振り撒く。

 

 誰も悲鳴を上げることすら出来ない。

 声を上げてしまった瞬間、災厄の引き金を引いてしまうような感覚に陥って、指先ひとつ動かす事すら叶わない。

 

「にしても、流石は『滞空回線(アンダーライン)』。予想以上に早いご到着だ。わかってはいたが、アレイスターのクソ野郎はよほど『計画(プラン)』にご執心らしい」

 

「あァ?」

 

 突然の独り言に一方通行(アクセラレータ)が怪訝な声を上げるが、垣根は取り合わなかった。

 侮蔑すら込めた視線を向けながら、彼は口を開く。

 

「笑えるな、犬野郎。そうしていれば、善人になれるとでも?」

 

「……ちょうどイイ。悪党にも種類があるって事を教えてやるよ、三下」

 

 ――刹那。

 轟音が、学園都市中に鳴り響いた。

 

 一方通行(アクセラレータ)と垣根帝督。

 二人の怪物が、真正面から激突した音だ。

 

 空間が悲鳴を上げる。

 激突によって生じた衝撃波が、あたり一帯に撒き散らされる。

 人々はなぎ倒され、街路樹が根元から折れ、オープンカフェの椅子や机が吹き飛ばされ、ビルのガラスが木っ端微塵に砕け散る。

 

 激突の結果は明らかだった。

 

 垣根帝督は後方へと凄まじい速度で吹き飛ばされ、一方通行はその場に無傷のまま君臨する。

 垣根帝督の体が後方にあったカフェの中へと突っ込んでいく。内装を突き破っていく音が、あたりに響いた。

 

 だが、

 

(――は、ははは)

 

 今の激突は、敗北したというのに。

 垣根帝督の顔に浮かぶのは、凄惨なる笑み。

 

(はははははは!! くっ――はははははははははッ!! はははははははははははははははははははっ!!)

 

 空気を切り裂くような音と共に、垣根帝督の背中から六枚の翼が飛び出した。

 

『――――――――――――』

 

 頭の中で繭のような形をイメージし、翼を動かしていく。自身の身体を完全に包み込む事で、衝撃から身を守る。

 

「……、」

 

 自身の身体に異常がない事を確かめながらゆっくりと翼を羽ばたかせ、垣根帝督は戦場へと舞い戻った。

 その顔に貼り付いているのは、余裕の笑み。

 

「……、」

 

 対する一方通行は垣根の背後の翼を見て、眉をひそめながら口を開いた。

 

「……似合わねェな、メルヘン野郎」

 

「……、」

 

 その言葉に対して、垣根帝督は。

 

『――――』

 

「心配するな」

 

『――――』

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………。

 

「自覚はある」

 

 第一位と第二位。

 二つの怪物は、轟音と共に再び激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『とある過去の未元物質(ダークマター)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園都市。

 東京都の三分の一ほどの面積を誇り、人口の八割が学生という所謂、学生の街。

 街の周りは『外壁』と呼ばれる巨大な壁で覆われており、外の世界とは完全に独立した空間。外より技術は数十年ほど進み、超能力開発と呼ばれる特殊な技術を使用されるそこでは、超能力者と呼ばれる存在がごく当たり前に存在している。子供たちにとっては、憧れや羨望を抱いてしまうような街だろう。

 故に、学園都市の外にいる者で、学園都市に行きたいもしくは行かせたいと思う人間は多く存在する。自分がもしかしたら、超能力者になれるかもしれないという希望を胸に抱く子供達だ。

 奨学金制度も充実しており、家庭に優しいシステムなので、親からも子供を預けやすいのもポイントだ。

 

 

 そんな街の、とある一角。

 

 

 人の行き交う雑踏に紛れ、一人の幼い少年がぼんやりと空を眺めていた。

 

「……」

 

 少年の名は、垣根帝督。

 

 学園都市の中でも極めて優秀とされる、大能力者(レベル4)の少年だ。

 そんな彼は()()()黒いランドセルを背負った状態で、とある人物を待っていた。

 

(……遅い)

 

 少年がここで立ち止まってから、既に十分以上の時が経過している。

 多感な年頃であるこの時期の少年少女にとって、何もせずに待つという行為は退屈でしかない。垣根もその例には漏れず、もう先に学校へ行ってやろうかとすら思い始める程に退屈だった。

 苛立ちから思わず舌を打ちそうになる――そんな時だった。

 

「ていとくーん」

 

 垣根の耳にかわいらしく、そしてやけに間延びした声が響く。

 垣根が待っていたのはその声の主なのか。ようやく来たかとばかりにため息を吐き、彼は声のした方へと顔を向けた。

 

 ――声の主の正体は、垣根と同年代だと思える年齢の少女のものだった。

 

 日本人らしい綺麗な黒髪を肩口の辺りで綺麗に切り揃えた髪型に、クリッとした丸い瞳。服から覗かせるのはシミひとつない白磁のように白い肌、と将来は美少女になる事間違いなしといった風貌の少女。

 

 少女の名前は、長谷川燕(はせがわつばめ)

 

 垣根の待ち人である。手を振りながらゆっくりとこちらに向かってくる燕の顔を見るなり、垣根は眉をひそめながら一言。

 

「遅い」

 

「……え?」

 

「え、じゃねーよ。俺ここで十分以上は待ってたぞ!?」

 

 そう叫びだした垣根に、「そ、そんな!?」と驚愕に目を見開く燕。漫画ならば、彼女の背後では落雷が起こっているであろう。

 垣根がそのままジトっとした視線で見つめると、じわじわと目に涙を溜めて嗚咽を漏らし始める。庇護欲を掻き立てる弱々しい姿を見ては罪悪感しか残らず、垣根は大きくため息を吐いた。

 

「……いや、なんでもない。おまえは普通に間に合った。俺が少し早すぎたんだ」

 

「よ、よかったぁー」

 

 心底安心した、とばかりにホッとため息を吐く燕に、垣根は内心でうな垂れた。

 どうにも、この少女は苦手である。

 なんていうか、勝てる気がしない。調子を崩されるというかなんというか、垣根は彼女に強く出れないでいた。

 

「じゃ、行きましょう」

 

 そんな風に悩む垣根とは対照的に、燕はひたすらにマイペースだった。

 垣根の手を取ると、学校に向けて歩き出す。後ろから付いてきている垣根がぎゃーぎゃーと何か叫んでいるが、彼女は鼻歌を歌いながら学校に向けて足を進めた。

 

「お前は俺を莫迦にしてんのかっ! 自分で歩ける! 自分で歩けるから!」

 

「ほぇ? でもこの前せんせいが、ともだちは手をつないで歩くって……」

 

「それは集団下校の時だけだ!」

 

 垣根が言葉を捲し立てるが、少女の理解は垣根の考えには及ばなかったらしい。

 首を傾げると、何が嬉しいのか楽しげに笑ってまた学校へと足を進める。垣根はもうどうにもならないのだと悟り、天を仰いだ。

 

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 垣根帝督は優秀な能力者だ。

 同年代の子供は勿論、既に学園都市で鍛えている学生たちと比べても、頭がひとつやふたつ抜けているほどに。

 能力開発を行ってから初めての検査の結果、彼の推定能力値は大能力者(レベル4)

 能力の内容は科学者たちにもまだ解明出来ておらず、垣根の演算能力もこれから上がるであろうという見込みから、最も超能力者(レベル5)に近い少年とすら言われている。

 

 所謂、天才だった。

 

 天才だともてはやされた垣根は、当然だとばかりに振る舞った。

 自分は選ばれた人間なのだとばかりに、自由気ままに彼は過ごしていた。

 その行為を咎める大人は、いなかった。

 

 そんな彼に他の能力者から向けられる視線は、負の感情を孕んだ物。同年代は勿論、年上からも忌々しげな感情を視線に乗せられ、垣根はぶつけられてきた。

 

 おそらく嫉妬だろうな、と垣根はなんとなしに当たりをつけていた。

 

 当然だろう。学園都市は、良くも悪くも学生の街だ。

 その待遇やらは能力の強度で決まり、無能力者の一部はゴミのように扱われる事すらある。

 

 垣根は彼の持つ能力の特異性から、珍しい能力者を多く集めた施設に通っていた。

 それ故、希少性と強さを兼ね備えた垣根はさぞ疎ましかったのだろう。

 中にはボロ雑巾のように扱われてきた能力が希少なだけの低能力者もいたのだか。

 

 くだらないと見なした学校はさぼり、基本的に施設で過ごす毎日。大した努力も労力も必要なく、彼の能力の強度は日に日に増していく。

 彼に向かう負の念はその都度に増え、やがては暴力に訴えようとしだす者まで出てきた。

 

 だが、垣根はそんな暴力を鼻で笑って蹴散らすだけの実力を兼ね備えていた。

 垣根の能力は希少性に強度――そして、殺傷能力も高かった。

 

 死なない程度に適当に痛めつけて、それでお終い。

 圧倒的な実力差を前に、向けられる視線は怯えに変わり、ついに垣根の周りには人がいなくなっていた。

 

 

 そんな時だ。

 

 

 垣根帝督が、彼女と出会ったのは。

 

『はじめましてっ。長谷川燕と申しますっ!!』

 

 研究所に来るなりそんな挨拶を宣った彼女に、垣根を含めた能力者全員が、ポカンとした間抜け面を晒す。

 そんな周りの様子に困ったような笑みを浮かべながらも、少女はぺこりと頭を下げた。

 

『……ハッ』

 

 ――すぐに潰されそうなやつだな、と垣根は思った。

 

 彼女の能力は知らないが、ここに来た以上ある程度以上に珍しい能力なのだろう。

 そしてここは垣根が知る限りでは、他者を蹴落としてでも上にのし上がろうとする連中が多い。多いといっても、それは垣根視点の話だが。

 そもそも、垣根はこの研究所にいる学生を把握していない。把握しているのは、自分に絡んできた連中だけだ。

 

 そんな彼らが一体どんな闇を見たのかは、実力を持つ側である垣根には知らない事ではあるが。

 

 どちらにせよ、燕という少女とここは縁が遠そうに見える。

 今も屈託無い笑みを浮かべながら、近くにいる少年少女に握手を求めながら挨拶をしていた。

 その少年少女の顔は、垣根にも見覚えがあった。

 確か、一番初めに垣根に絡んできた莫迦である。ある程度プライド高そうだったし、差し出されたその手をどうするのか、垣根は少しだけ興味を示した。

 

(くく、払いのけるか?)

 

 善意を仇で返すが如くの所業、とまではいわないが、友好を求めた燕としては相当応えるだろう。

 思わず、といった風にこれから起こる事に喜悦の入った表情を浮かべてしまう。

 

(まっ、これに懲りたら少しは現実を――)

 

 顔を見合わせた少年少女が、燕の方へと向き合う。これから燕の身に起こる現実を思い、より一層垣根は笑みを深め――――現実は、垣根の予想とは大きく異なった。

 

 手を差し出しれた少年少女は戸惑いながらも、彼女の手をおずおずと取り、垣根がいままで見た事のないような表情を浮かべたのだ。

 

「――――」

 

 それは、垣根にとってはありえない光景。

 仲睦まじ気に笑う三人の輪に、少しずつ人が集まっていく。

 ポツンと残された垣根は、

 

 垣根は、

 

 垣根は、

 

 垣根、は。

 

 ……。

 

「ふんっ」

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らし、垣根は研究所の奥へと踵を返す。

 少女――燕が待ってください! と慌てたように制止の声をかけるが、垣根は知った事じゃないとばかりに振り返る事なく歩みを進める。

 やがて声が聞こえなくなるほどに離れたところで、垣根は足を止めてポツリと言葉を漏らした。

 

「……くそっ」

 

 壁を拳で殴りつけ、垣根は忌々し気に先の光景を脳裏に浮かべていた。拳から血が垂れるが、垣根は気にも留めない。ただ胸中に浮かんだナニカに、苛立ちを隠せないでいた。

 その感情(ナニカ)の正体を、天才である垣根は――知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは後に学園都市の闇に堕ちる男が、努力や希望を信じるガキだった頃の物語。




吉田の作品を見たことある方は作風の違いに吉田ついに錯乱したかと思うかもしれませんが、吉田は至って正常です。

正直禁書読者さまなら想像が容易であろう理由で書ききるのが辛かったりしますが、精神が死なないように頑張ります。


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一話

うまく書けているだろうか、ものすごく不安です。


 学園都市。

 東京西部を切り開いて作られた、超能力開発のための空間。総人口二百三十万人弱の内の八割が学生という、学生の街。

 その学生は実生活で使える使えないは別として、皆が例外なく『超能力』に覚醒している。

 その能力の種類は多種多様。誰もが一度は憧れる所謂空間移動や世間で最もメジャーだと思われる念動力。汎用性の高さがピカイチ電撃使い。更には学園にも一人しか存在しない希少な能力者。外とは十年以上の技術力の高さを誇る学園都市でさえ一切解明不可能とされている全くの未知な能力者までもが存在する。

 

 それが、学園都市。

 

 さて、そんな学園都市は前述した通り学生の街だ。学生と聞けば大抵の人間が中高生を連想するかもしれないがこの場合、学生の中には当然、幼稚園児や小学生も含まれている。

 

 第十三学区。小学校の集中する学区の通学道路、そこで二人の子供が学校へ向かっていた。

 にこやかに笑う少女がどこかしら憂鬱な表情をしている少年の手を引く形で、彼らは少しずつ学校との距離を縮めていく。

 

 垣根帝督と長谷川燕。学園都市に住んでいる少年少女である。

 

 学校への距離が近づくにつれて、二人の間の会話は自然と少なくなっていった。

 垣根の額には汗が滲んでおり、不安気な色を表情に映している。そんな垣根の心境を感じ取ったのか、時々燕は垣根の方へと振り返り、

 

「だいじょうぶです。いまのていとくんなら、きっとみんなと仲良くなれます、ですっ!」

 

 そう激励(?)を飛ばす。それを受けた垣根は不敵な笑みを浮かべるが、それが強がりであることは明白だった。顔はひきつっているし、変な汗はとめどなく流れている。

 それを理解しているからか自然と、垣根の手にこめる力が強まった。

 

(……っ。何をビビってるんだ俺は。超能力者(レベル5)に最も近いんだぞ、俺は。その気になれば、学校ごと破壊できる……ッ!!)

 

 破壊したら色んな意味で無価値と化すのだが、緊張感により思考回路が単調となった垣根には判らない。目をぐるぐると回しながら、垣根の頭脳は思考(暴走)を続けていく。

 

(取り敢えず俺の邪魔をする奴は片っ端から潰すから覚悟しろ――じゃねぇ。頑張れ垣根帝督。俺はやれば出来る子だ)

 

 垣根が学校に通うのは、幼稚園の始めの方以来の事だ。研究所に入り浸っていた垣根には、他の生徒との距離感を詰めるなどという哲学的なものを理解出来ない。

 だが、これから通う学校では友達という曖昧な概念を捉えなければならない。垣根の心が圧迫されるのは自明の理だった。

 

 天才故に、垣根はそんな簡単な事すら、知らなかったのだ。

 

(友達、か……)

 

 垣根がそんな事をぼんやりと考えていると。

 ふと、燕の足が止まった。それを見た垣根の足も、燕に倣うかのように自然と止まる。

 視線を上げると、その先には一軒の学校がそびえ立っていた。

 

 一言で言うなら、ボロい。いや、風情のある、といえばいいのだろうか。

 

 最新の科学技術が詰まった学園都市において、まさに時代錯誤といった言葉の似合う外観だった。

 昭和の学校を連想させる木造建築の校舎。校庭に植えられている桜の花が舞い散る光景が、なんともいえない奥ゆかしさを生み出している。

 日本人である垣根には、言葉には出来ないが感じる物があったのだろう。先ほどまでのごちゃごちゃとした思考がクリアになり、彼は校舎を見つめていた。

 

「ここが、今日からていとくんも通う学校、なのですっ!」

 

 校舎を見て、思いに耽っていた垣根に顔を向け、燕はそう言った。

 

 そのままじゃじゃーん! という効果音の付きそうなポーズを取り、燕は学校を指差し垣根の手をぐいぐいと引っ張りながら校舎に入ろうとする。

 

 思いを馳せ、半ば放心状態だった垣根はその感覚にハッとなり、燕の後に続いて校舎へと足を踏み入れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カッカッカッ、と垣根は軽快なリズムを鳴らしながら黒板にチョークを走らせる。学園都市でも上位に位置する頭脳を持つ垣根である。この程度のことは当然であり、朝飯前だった。

 だが、他の人間からしたらそうではない。小学生とは思えないほどな見事な達筆に、生徒と教師は口をぽかんと開いた。そんな周りの様子を気にすることもなく、垣根は最後に『帝督』と記すと、クラスメートと向き合うように振り返る。

 教室の前に立った。黒板に字も書いた。後は自分の名前を告げて頭を下げるだけだ。

 

「……」

 

 そう、それだけのこと。簡単な事だ。普通の人間ならば。

 

「……」

 

 垣根は入って早々に学校(幼稚園)をくだらないものだと見なし、数回通ってからは行っていない。卒園式すら無断欠席の不良男子である。

 

 そんな彼に、大勢の前で友好の念を示す挨拶を述べるなんて不可能である。そのようなコミュニケーション能力を、垣根は有していない。これが「この学校を支配する」とかいう魔王様プレイなら可能ではあるのだが。

 

 コミュニケーション能力強度がレベル5(垣根視点)の燕による協力と、図書館で発見した『無能力者でも出来る、挨拶の仕方』、垣根の演算能力を出し惜しみする事なく使用したイメージトレーニング、と準備は万端のはずだった。

 

「……え、あー。あ?」

 

 これが、学校という社会の縮図を放棄した人間の末路である。

 垣根は周りの様子を気にしなかったのではなく、気にする余裕がなかっただけだった。

 イメージトレーニングは所詮、イメージトレーニングでしかなかった。繋がりを求める対話ではなく、繋がりを断つ対話しかしてこなかった結果。首を傾げてこちらを見るクラスメートを前に、自分からすれば塵芥程度の能力しか持たない者達を前に、垣根は萎縮してしまう。

 コミュニケーション能力が著しく欠如した彼の背中は、とても小さかった。

 

 そんな時だった。

 

 ポンっと、後ろから肩を優しく叩かれる。

 

 その感触に驚いたように目を見開いた垣根は、その人物の方へゆっくりと顔を向けた。

 そこでは、今日から垣根の教師となる男が、優しく微笑んでいた。それを見て恥ずかしそうに顔を赤くして逸らした垣根は、ぽつりと一言。

 

「……垣根、帝督。今日から世話になる」

 

 おおよそ、小学生のするような挨拶とは思えないほどにぶっきらぼうなそれ。

 だが、それでも垣根としては大きな一歩だった。

 

 パチパチ、と先生が手を叩く。アホみたいに盛大な拍手を、燕が送る。

 それに釣られたかのように、教室中から垣根に向けて大きな拍手が鳴り響いた。

 

 それらに迎えられながらも垣根は、どこか悪くない感覚に戸惑いながら、割り当てられた席に着く。

 

 偶然か、それとも学校側の配慮なのか、垣根の隣の席に座していたのは燕だった。

 燕は心底嬉しそうな笑顔を浮かべながら、垣根に声をかける。

 

「ほら、ていとくんもみんなと仲良くできるんですっ」

 

 燕の言葉に、垣根は数瞬だけ考えるような素振りを見せ、

 

「……そう、だな」

 

 首肯した。

 

 その言葉に、燕は更に破顔し、垣根は照れ臭そうに頬をかいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、そがぁぁああああっ!!」

 

 苦渋にまみれた顔で叫びながら、スポーツ刈りの男が左手から炎を噴出した。噴出された炎の渦は、そのまま標的へと襲いかかる。

 床を焦がしながら襲いくるそれに、標的――垣根帝督がした事は至極単純だった。

 

「……」

 

 右手を、横に薙ぐ。

 

 周囲に飛ぶ鬱陶しい虫を払うかのような、単純な動き。それだけの動作。それだけで、

 

「うそ、だろ……っ!?」

 

 男の放った炎は、垣根に触れる事なく霧散する。それを見た男の仲間に、動揺が走った。

 

 男には、垣根がなにをしたのか全く理解出来なかった。

 呆然自失といった状態の男を見て、垣根はつまらなさそうに鼻を鳴らした。

 

「ふんっ」

 

 ゴッ!!という轟音が炸裂した。

 直後。三人の男達が宙を舞い、そのまま壁に勢いよく叩きつけられる。

 

 壁には大きく穴が開き、男達は意識を失いながら崩れ落ちた。

 

「……」

 

 そしてそんな光景を生み出した少年、垣根帝督はあの日以来晴れないモヤモヤ感に苛立っていた。

 

 あの日――長谷川燕と名乗る少女との対面の日は、垣根帝督という個人に大きな『何か』の爪痕を残した。

 捉えきれない『何か』が、垣根の心体を蝕んでいく。己の知らない感情に、垣根の苛立ちは増していく。

 

 それを晴らすための、男達。

 

 これまでと同じように、垣根は格下をぶっ飛ばした。自分の気を晴らすために、垣根は有象無象を(こわ)して(こわ)して(こわ)し尽くした。

 

 だが、男達を壊しても鬱憤は晴れず、寧ろ一層『何か』は強まった。

 

 これまでとは違い、垣根の喉につっかかった『何か』を取り除く事が出来ない。

 

「……ッ!!」

 

 ギリッ、と歯をくいしばる。

 

 原因は分かっている。この意味不明な状態に陥ったのはそれを見た瞬間だったのだから。

 だが、原因は分かっても結果として起きた事象が掴めない。まるで雲をつかむようだと、思わず舌を打つ。

 

「……ムカついた」

 

 垣根の背後の空間で、白い物質が生成されていく。それは徐々に長く細く形を成していき、やがて槍のような形状に至る。

 

 これが垣根の能力。能力名はまだない。そもそもこれがどういった系統の能力に属するのかも全くの不明。

 あるいは、全く未知の能力ではないかとすら謳われている異能。

 

 先端を鋭く尖らせたそれは、例え鉄であろうと容易に穿つ。

 それらを、気絶した男達へと照準を合わせる。

 

「……」

 

 殺しはしない。先も言ったように所詮これは憂さ晴らし。男達は垣根にとってサンドバッグでしかなく、垣根はその行為を咎められた事もないためにそのような認識が覆る事もない。

 

 善と悪の境界。光と闇の狭間。道徳心などというものを、垣根は教わった事が――ない。

 

 故に、これは自明の理だ。

 垣根は目の前のサンドバッグを殴り飛ばし、サンドバッグはサンドバッグらしく殴り飛ばされる。

 

 ゆっくりと右手を挙げ、軍隊の指揮を冠する軍師が如く、垣根が槍を放とうとした、まさにその瞬間。

 

「ストップですっ!」

 

 凛とした声が、垣根のいた場所に響いた。

 

「――――」

 

 初めての出来事に、垣根の思考が一瞬停止する。降ろそうとした右手は挙げられたままで、垣根の周りで待機していた槍が演算の乱れにより空気に溶けていく。

 

 垣根の視線は、既に男達の方へと向けられていなかった。

 

 その視線は、顔は、乱入してきたイレギュラーへと、

 

 腰に手を当て、私怒ってます! といった顔をしている少女へと向けられていた。

 

「……、」

 

 何か、何かが垣根の心に引っかかった。気がした。

 そんな垣根の思惑を一切知らぬ少女――燕はビシッと垣根を指差し、清廉な声音で言葉を紡ぐ。

 

「弱いものいじめはっ、ダメですっ!! みんななかよく、ですっ!」

 

「…………は?」

 

 燕の言葉に、垣根は彼にしては珍しいことに困惑した。燕の口にした言葉は、垣根にとっては異世界の言語のような言葉だった。

 

「どんな理由があったのかはしりませんが、これ以上のばんこうは見すごせませんっ!」

 

 たどたどしく言葉を紡ぎながら、燕は言葉を続ける。

 

 ごく当たり前の、しかし垣根にとっては未知の言葉を。

 

「ふしょうこの長谷川燕っ! わるい事をしたあなたを怒りますっ!」

 

 これが垣根帝督にとって人生で初めての、怒られた日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 状況を整理しよう、とばかりに垣根は顎に手を当て思考を巡らせた。

 研究所にいたら目の前にいる少女に話しかけられイラつきが増すので、垣根は外に気晴らしに出ていた。

 だが、いくら外を歩こうと怒りは収まらず、下を向いていたおかげで前方不注意となっていた垣根は男の三人組と身体がぶつかり、そのまま尻餅をついて転倒。

 

 火に油を注ぐとはまさにこの事か、垣根の怒りは有頂点に達し目の前にいた男の一人を怒りのままに吹き飛ばした。

 その事に固まった残りの二人のうち、もう片方もまた同様に吹き飛ばす。

 思考がようやく追いついたのか、最後の一人が垣根に襲いかかり――そして今に至る。

 

(……。なんでこいつはこんなに叫んでんだ?)

 

 突然の事に一周回って怒りが収まったのか、垣根は不思議そうな顔をしながら燕に問いかけた。

 

「なんでこんな場所にいるんだ?」

 

「はやくあやまりますよっ! わたしも頭を下げますからっ」

 

 ダメだ言葉が通じない。

 なにをトチ狂ったのか、近づいてきた燕は垣根の頭をぐいぐいっと下げさせようと髪の毛ごと掴む。痛かった。単純故に、普通に痛い。

 

 ブチッと、血管の切れる音が鮮明に響いた。

 

 音源はもちろん垣根の額から。そもそも、垣根が先ほど苛立っていたのは誰のせいだったか。

 

(……ああ、そうだよな。原因は取り除かなくちゃならねえ……ッ!!)

 

 この不届きものには分からさねばなるまい。自分に不敬を働く事が、どのような報いを受けるのかを。

 

 垣根は演算を開始し、少女を気絶させぬ程度の攻撃を加えようとし、

 

(……あ?)

 

 能力がうまく発動しない予兆を感じ取った。

 言葉では上手く説明出来ない。今まで感じ取った事のない奇妙な感覚に、垣根は今から行使する予定だった能力が発動しないと察知した。

 

 事実、今頃垣根の足元に横たわっているはずの燕は一向に倒れる気配がない。今も懸命に垣根に頭を下げさせようとし、それ以上に燕自身が気絶している男達に向かって謝り続けている。

 

 珍しく困惑しながら垣根はこの状況を生み出した可能性に目線を配った。

 

(こいつの能力か……?)

 

 他に考えられる要因はない。なかなかどうして、この少女は自分を狂わしてくるらしい。

 

「……ちっ」

 

 燕の手を強引に振り払い、垣根は踵を返す。

 後ろから「ううっ。ふりょーしょうねんのこうせいの道はとおいですっ」と燕がなにやら呟いているが、垣根は無視した。

 

 思えばこれが、垣根帝督と長谷川燕の、本当の意味での出会いだったのかもしれない。

 




燕に能力が効かなかったのはていとくんが苛立ってたり、思いっきり距離が近かったりと様々な要因が上手いこと繋がった結果です。
燕はめちゃくちゃ高レベルなのか!? という誤解を招かないように一応ここに記しておきますね。


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二話

お待たせして申し訳ございません。そして待たせた割に短めでさらにすみません。でもここがキリが良かったもので()


『私のなまえは長谷川燕です。あなたのおなまえもおしえてはくれませんか?』

 

『らんぼうはダメですよっ! ほら、いっしょに謝りましょう! 』

 

『あいさつはきちんと返す。これがともだち作りのだいいっぽ、なのです』

 

 ――なんなんだ、こいつは。

 

 それが垣根の燕に対する印象だ。

 この研究所で、垣根に好き好んで話しかけてくる人間はいない。いるとしたらそれは損得の絡む『裏』があるか、もしくは下剋上を目論むバカがつけあがって挑んでくるだけだ。

 それ以外の者たちは皆、垣根に負の感情を孕んだ視線を向けてこそいれど、垣根に話しかけたり頭を掴んで下げさせようなどという愚行に及ぶ事はない。

 

 垣根帝督に対して不敬を働けば、それ相応の報いが起こると理解しているために、誰も彼もが垣根帝督という少年に絡もうなどと思わないのだ。

 

 だというのに、目の前の少女は周りから垣根の事を聞き及んで理解しているであろうに、垣根に歩み寄ろうとする。今も彼女の友人であろう少女に止められようとしているのに、彼女は「だいじょうぶです」と微笑みながら垣根の元へとやって来る。

 

 邪気のない声で自分に話しかけ、裏のない笑みを浮かべて手を差し伸べてくる。

 それを見た垣根の心中に生まれたものは、苛立ち以上に困惑だった。

 

 先日、垣根が燕に暴行を諌められて以来、燕はこれまで以上に垣根によく話しかけてくるようになった。

 どれだけ垣根が燕を邪険に扱おうと、どれだけさりげなく能力を見せびらかして自分という脅威を示そうと、燕は気にも留めない。彼女は何度でも、何度でも垣根に話しかけてくる。

 

 実は燕は俗にいうぼっちであり、燕の話し相手が垣根くらいしかいない――などという事ではない。

 

 彼女と研究所にいる子供達との仲は極めて良好だ。あの屈託無い笑みを前にすれば捻くれた人間でも――否、捻くれた人間だからこそ、彼女と打ち解けてしまう。

 

 垣根にとっては本当に釈ではある事に、彼女が来てから研究所にいる子供達の雰囲気がガラリと変わった。

 能力の強度を上げようと躍起になる子供は減少し、普通の子供のように笑い、涙を流す子供が増えた。垣根に向けられる負の視線も、何と無く、その()()()()()()()が変化したように思える。

 恨み嫉み嫉妬ではない何かに、負の感情が変化したように思えるのだ。

 

(……なんだ、長谷川燕になにがある?)

 

 長谷川燕という少女相手に思うところが出来たために、垣根は研究者にさり気なく探りを入れてみたが、長谷川燕の情報は中々にランクが高いのか返答はどれも要領をえないもので彼の望むものではなかった。

 故に、彼は思考する。未だに全貌を捉えられない長谷川燕という少女の器を測ろうと思索する。

 

(俺の能力がうまく演算出来なかったのもキナ臭ェ。精神に干渉する類いのものか? ……いや、能力発動にまで影響が及ぶとすれば流石に精神系能力者専門の研究施設に行くか。確か、精神系能力者のレベル5候補が二人――――)

 

 執拗に話しかけてくる燕を無視しながら思考を巡らせ、垣根は熟考する。

 元々この研究所は珍しい能力者を集めて開発と研究を進めている施設だが、その中でも燕の能力は自分に近い、もしくは同等の価値を学園都市からは見出されているらしい。見るからに間抜けそうな少女と同レベルに扱われているのは割とカンに触る事実ではあるが、それは今は置いておこう。

 

「むぅ。聞いているのですか?」

 

 垣根の反応がない事に気付いたのか、燕が眉をひそめ頬を膨らませるが、垣根は彼女を完全に視界から外し、顎に手を添え瞳を閉じる。

 

(演算――いや、能力を阻害する系統の能力となれば残る答えはひとつだけだが……)

 

 AIM拡散力場に干渉する能力。

 

 AIM拡散力場は、能力者を多数擁する学園都市でもその全容は掴めていない代物だ。すべての能力者が無意識のうちに身体から放出している微弱な力であり、能力者が扱う能力と密接に関係している力場。

 それに干渉する類の能力者ならば、垣根の能力を阻害出来たのにも納得が出来る。

 

(……中々に厄介な能力だ)

 

 垣根にしては珍しく、素直に燕の能力の高さを認めた。

 強固な自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)を持つ垣根のAIM拡散力場に干渉し、能力の阻害を行ったのだ。彼女の演算能力の高さは認めざるを得ない。

 

 だが、

 

(……それがこの研究所の空気の変化に直接的に結びつくかと言われれば、否だ)

 

 垣根が知りたいのは、そこだ。

 あそこまで鬱憤としていた研究所の空気を一変させた『何か』。自身に向けられる視線の意味を変化させたであろう要因の『何か』。

 その『何か』を、垣根は知りたかった。

 

(能力を使って脅した? それはねェ。んな事が出来るような人間(タマ)じゃねェ。今見せてる顔に裏があるってんなら、それはそれで大したもんだが……)

 

 チラリと、横を見る。

 そこでは燕が嬉しそうに何やらペチャクチャと喋っていた。思考しながら頷く癖により、垣根が自分の話を聞いていると思ったのだろう。もしそうでないのなら、彼女の話相手は垣根でなくて電信柱で構わない。

 

(……ガラじゃねェが)

 

 少しだけ、少しだけ彼女と会話をしてみるのも悪くないかもしれない。

 そうすれば、自分では見つけられないパズルのピースを見つけられるかもしれないから。

 研究所をここまで変えてのけた少女に対して垣根は今、少しばかりの興味を覚えた。

 

「……おい」

 

「それで――――」

 

 話しかけても気付かない燕に苛立ち、思わず声を荒げて呼びかける。

 

「おいっ!」

 

「ひふっ!?」

 

 滑稽な程に肩を震わせ目に涙を溜め始める少女に、垣根は「選択を間違えたか……?」と内心で思いながらも、それを押し殺して言葉を続けた。

 

「なぜ、俺に話しかける?」

 

「ていとくんがひとりぼっちだからです」

 

 その日、研究所の屋根が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれは俺、悪くねーよな」

 

「? どうかしました?」

 

「なんでもねェよ」

 

 授業は終わり、給食の時間。

 割り当てられた班ごとに机を連結させ、皆で顔を合わせ、和気藹々としながら食事を取る。

 コミュ症の垣根には難易度が高そうな任務だが、燕が同じ班でかつ真向かいなためか、彼に然程の緊張感はなかった。過去の記憶に思いを馳せる余裕すらある。

 

(ひとりぼっちって、おまえ)

 

 コッペパンを千切り、口に放り込みながら垣根は思わず乾いた笑みを浮かべる。

 今でこそ笑い話だが、あの時の自分はそれはもう怒り狂った。何故あそこまで切れたのかと訊かれれば、おそらく無意識のうちに思うところがあったのだろうとしか言いようがない。

 

 不思議そうな顔をしながら顔を覗き込んでくる燕を見て、垣根は目を瞑りながら咳払い。

 その後彼は、燕の顔に自らの顔を近づけ。小声で話しかけた。

 

「……な、なあ。ドッヂボールとやらに誘われたんだが、なんだそれ?」

 

「ドッヂボール、ですか?」

 

「あ、ああ」

 

 席を連結させた事により、隣の席となった短髪の少年をチラリと視線だけで見ながら垣根は燕の答えを待った。

 無知な事を知られるのを恥ずかしいという、ごく当たり前の感情だった。そのごく当たり前が今までなかった垣根だが、その事に彼は気付いていない。

 

 尋ねられた燕はというと「そうですねぇ」と前置きし、

 

「ボールの当て合い、ですっ」

 

「球の当て合い、か」

 

 なんだ、楽勝じゃないか。垣根は不敵に笑みを浮かべる。

 脳裏に浮かぶのは、能力で生み出した球体で(人間)サンドバッグを蹂躙する光景。まるで帝王のように高笑いしながら、豪速球を投げ付ける自分の姿。

 

 余裕だ、と垣根は笑う。

 

『無能力者でも分かる友達の作り方』という本でもみんなに良いところを見せれば、一躍ヒーローで人気者になれると書いてあった。

 周り全てを薙ぎ倒してしまえば、自分は一躍ヒーローに――――

 

「ただ、当たったらがいやに行かされます」

 

「外野……?」

 

 イマイチ分からないルールだ。そう思った垣根は続きを待とうと、彼女の言葉に真剣に耳を傾け――――ようとしたところで垣根の優秀すぎる脳は、その言葉の意味を瞬時に理解してしまった。

 

「……ッ!!」

 

 脳内に電流が走るとは、まさにこのことか。垣根は大きく目を見開きながら、ドッヂボールという遊びの恐ろしさに戦慄する。

 

(外野、つまり用無し……役立たず……ッ!!?)

 

 負けた者に、用はない。

 つまるところ、ドッヂボールとはそういう事なのだろう。負ければ外野に連行され、友達の輪というものに加わる事は未来永劫許されない。謂わば、友達になるための一次試験。

 

(成る程な。確かに、『友達』っつう概念は雲を掴むみてェに手応えがない)

 

 謂わば、知り合いと友達の境界線。自分だけが友達だと思っていた最悪のパターンを回避するための試験とも言える。

 

(思い返せば。幼稚園ではじゃんけんが全てを支配していた……)

 

 つまり、小学校ではドッヂボールを制するものが森羅万象を制するのだろう。

 恐ろしいが、合理的でもある。垣根は素直にそのシステムに関心した。

 

(危なかった。負ける気は元々なかったが、ドッヂボールの意味を知ってるのと知らないのではかなり違ってくるからな)

 

「感謝するぜ」

 

「? ……はいっ!」

 

 垣根の感謝の言葉を、燕は朗らかな笑みを浮かべながら受け取った。

 

 

 なお、余談だが。垣根はドッヂボールで張り切りすぎて空回りしたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前半部分は1ヶ月前に書いてたのに(空いた更新期間を見ながら)ドウシテコウナッタ。もしかしたら加筆するかも?その時は次の話の前書きあたりで伝えますね。

はあ。モチベーションが欲しいなあ。


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三話

ある程度納得が出来る形に収まったので投下。
ある程度なので、修正入る可能性はあります。けど話の大筋は変わらないので問題はないかと。


 垣根帝督が小学校に通い始めてから約一ヶ月。彼の変化は目覚しいものだと言える。

 今の彼はクラスメイトと交流を持つ事が出来るし、コミュニケーションを取ることも可能だ。話しかければ辿々しくとはいえきちんと答えるし、不遜な態度もある程度はなりを潜めたといっていいだろう。

 研究所の子供達との間に出来ていた溝も、燕を通して少しずつだご埋まって来てはいる。

 以前の彼を知る者からすれば、これは大きな変化である。

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 

 

 垣根帝督は天才といっても過言でない頭脳を持つ少年だ。

超能力者(レベル5)』に最も近い『大能力者(レベル4)』というだけで、学園都市においてどれほどの地位に立っているかは明白である。

 

 そんな彼にとっては当然、小学校の勉強なんて朝飯前だった。

 

(……暇だ)

 

 机に頬杖を付きながら、垣根はぼんやりと教師が黒板にチョークを走らせている光景を眺めていた。

 黒板に記されている内容は、どう見ても小学校低学年のやる内容ではない。現に、隣の席に視線を移せば、燕が頭を抱えながら唸っている。

 周りを見渡しても、垣根ほど余裕に溢れている生徒はいない。皆が皆教科書と睨めっこしながら、苦悶の表情を浮かべている。

 

(……おっ?)

 

 いや、斜め前の席の生徒は自信に満ちた表情を浮かべていた。

 ニヒルと笑いながらその生徒は腕を組み、顎を上げて舐めくさった態度を取っている。

 

「……武田。余裕そうだな」

 

「フッ。当然です、先生。なにせ、ひとつも理解出来ないのですから!」

 

 訂正。真理という名の諦めの境地に至っていただけであった。

 二人のやりとりを見て、思わずずっこける。

 それを見た教師の顔が、垣根の方へと向く。

 

「垣根……まさかお前も……」

 

「……いえ、なんでもない、です」

 

 頬を少しだけ赤らめながら、軽く頭をさげる。教師が溜息を吐いて天を仰いでいる姿に、授業を一切聞いてないことに罪悪感を覚えながら垣根は思考を続けた。

 

(……他の学校でもこの程度のもんなのかねぇ……)

 

 垣根は今まで、基本的に研究所で引きこもり生活を送っていた。

 能力強度なんかは日に日に勝手に増していくため、『努力』などというものを行ったことすらない。勉強にしても、著書を読めば全て吸収してしまう。

 

 そんな彼が、ごく普通の学校の授業でつまずくはずがない。

 この学校でさえ明らかに小学校レベルの課程ではないが、垣根にとっては至極簡単な、それこそお粗末な内容だった。

 

「つまりエネルギーってのは――――」

 

(……まあ、この程度のものでも外では中学生がやるんだっけか?)

 

 学園都市の外と中の違いで最も有名なものといえば、超能力開発である。薬品を投与したり、脳に電極をぶっ刺したりする割とぶっ飛んだものである。

 

 そして、能力の行使にはある程度イメージ力とも呼べるものが必要となってくるのだ。

 そのイメージを手助けするのに使えるもののひとつが所謂勉学である。身につけた知識等は、演算の補助にもなるのだ。

 故に、学園都市内部と外部では教育課程がまるっきり変わってくる。

 名門ともなれば、中学生の時点で大学の課程を終えてしまっている場合まであるのだ。

 学園都市における底辺――『無能力者(レベル0)』でさえ、外に出れば割と優秀な生徒である。サラリと『うちはしがない偏差値六十五ですし』に至れるのである。

 

 閑話休題。

 

(……暇だな)

 

 思えば、幼稚園をサボったのも無意味だとみなしたからだった。

 今の垣根はあの頃とは変わっている。学校に通うということは、何も勉学のためだけじゃないということを理解している。この暇を我慢する事でさえ、大切な事なのかもしれないのだから。

 

(けど、暇だ)

 

 理解は出来るが、納得は出来ない垣根であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勉強会?」

 

「はいっ! ていとくんはよゆうそうなので、べんきょうを教えてほしいのです!」

 

 燕の言葉を聞いた後、垣根はめんどくさ気に彼女の後ろにてニコニコと笑みを浮かべてるクラスメイト達を見やる。

 

(……いやいやいやこれはねぇよ。つーか全員ってやべーだろ。それ以前にこういうのは委員長がやるって『無能力者にも分かる学校のいろは』に書いてあったんだが、何故に俺? 俺無所属だよな?)

 

 垣根はコミュニケーションの大切さを知っている。というか燕に口酸っぱく言われまくってイヤにも知ってしまった。

 故に今の彼に話しかけても怪我の心配はない。ドッジボールで醜態を晒してしまったとはいえ、元々美形な彼がクラスに馴染むのは割と早かったし、研究所でもちょくちょくとではあるが話すことが出来るようになった。

 

 余談だが、垣根にドッジボールの話をするのは禁句である。

 パニクった垣根が能力を行使したドッジボールを始めてしまい、『警備員(アンチスキル)』まで出動するハメになったドッジボールである。真近で警備員を見れて興奮した子供たちもいたが、それはまた別の問題だ。

 

 兎にも角にも、今の垣根はコミュニケーションを取れる。

 受け答えはきちんとするし、挨拶も交わす。敬語まで使えるようになったというのだから、研究員が「明日ハレー彗星でも降ってくるのかなあ」と遠い目になったのは仕方のない事だった。

 

 だが、何事も例外というものがある。

 

 垣根はコミュニケーションを取れるが、基本的に受け身であるし、そもそも遊びや世間話限定でのコミュニケーションだ。それでもまだまだ燕以外だと慣れていない様子である。

 研究所で「能力強度の上げ方を教えてくれ」と尋ねてきた年上の少年に「あ? そんなもん寝てたら勝手に上がるぞ。つーか俺始めっから大能力者(レベル4)だから細けーことは分かんねーわ」と答えたといえば察せるだろうか。

 挙げ句の果てには「こんな事も出来ねーとかバカじゃねえの?」である。コミュニケーション能力の欠如は凄まじかった。とはいえこれでもマシになってるのだから始末に負えない。

 

 後に燕が『ていとくん……あれはないです……』と冷ややかに言った時に『……心配するな。自覚はある』とへこんでいただけマシなのである。

 

 とにかく、垣根は勉強というか物事を教える事が大の苦手であった。

 というか、()()()()()()()()()()()()()()のだから教えようがないという自覚があるのだ。

 

「他ァ当たれ」

 

 故に垣根は断る――――が、それで引き下がる燕ではない。

 この程度で「はいそうですか」と引き下がってしまう殊勝な人間ならば、垣根を研究所から引っ張り出す事など出来はしない。

 

「えーっ。おしえてくださいよ」

 

 口を尖らせながら、燕は言う。

 

「ダメなもんはダメだ」

 

 しかし、垣根も今回ばかりはおいそれと頷くわけにはいかない。

 勉強などという行為に勤しむ連中は度し難いが、それを非難する事が正しいことではないと理解しているからだ。価値観は直ぐに変わらないが、自分自身に折り合いはつけられた。だからこそ、この場は引かなくてはならない。

 もし、自分が何気なく呟いた一言で周りからまた人が減れば……。

 恐ろしい。

 昔ならば普通だと思っていたことが非現実的になるとはな、と内心で自嘲気味に笑いながら垣根は言葉を続けた。

 

「俺は教えるのが苦手だからよ……。まあ、なんだ諦めろ」

 

「むむ……」

 

 燕も垣根の言わんとしてる事を理解はしている。……が、忘れがちだが燕はまだ小学生である。感情論で動く年頃なのだ。

 機微に聡いし、垣根を救ったほどの少女だが、それとこれとは別だった。

 

「……でも」

 

 と、動かない垣根の態度に、痺れを切らしたのかクラス中から抗議の声が上がる。

 

「そうだそうだー」

「垣根かしこいだろー」

「おしえてくれたっていいじゃない!」

「ドッジボールでのうりょく使ったくせにー」

「うんどうじょう穴だらけになってたぞー」

「レベル4のくせにけちだぞー」

「レベル4はけちなのかー?」

「はっ! レベル4もたいしたことねーなあ!」

「てかレベル4っておかねいっぱいもらえるんじゃ……?」

「おかねもち?」

「おかねもちだろー」

「かねもてぃだろー」

「おかねくれよー」

「ふりょーのくせにー」

「なまいきだー!」

 

「おいお前ら。何人か表出ろや」

 

 あまりにもの横暴さに、垣根も口をひくつかさざるをえない。

 しかも何個かはただの悪口である。加えて明らかに無関係な言葉まで混じっている。

 丸くなったとはいえ、看過出来ない事もあるのだ。中指を立てる事で、垣根は返答とする。

 

「おねがいしますていとくん! すこしだけ、すこしだけでだいじょうぶですからっ! むずかしい場所を、かいせつしてくれるだけでいいんです! ()()()()()()してくださいっ!」

 

「……む」

 

 燕の放った言葉に含まれていた『協力』の二文字に、垣根の表情が変わる。

 

(……協力、か)

 

 顎に手を当て、記憶を振り返る。

 そう。あの出来事を――――

 

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 ――全くもって、理解出来ねぇな。

 

 目の前で能力の精度を上げようと必死こいている連中を見て、垣根は吐き捨てるように内心でそう口にした。

 連中の中には、先日観察対象に指定した少女――長谷川燕の姿もある。額に汗を垂らしながら彼女達は必死に能力を行使していた。

 

 垣根達は現在、研究所にある能力の訓練所のような施設に来ていた。

 垣根は一度も訪れた事がないし、今後も訪れる気はなかったのだが。燕の能力の一端でも掴めるかもしれないと思い、付いて来たのである。

 燕は何を勘違いしたのか喜び、周りの人間は胡乱気に垣根に視線を送っていた。

 垣根が一睨み効かせれば視線が消えたのは余談である。

 垣根としては能力の訓練などというものに必要性を一切感じないので、壁に背を預けながら床に座り込んでいた。

 

(まあ、AIM拡散力場に関係する能力なんざ、直接知覚出来るはずもねぇか)

 

 予想していた事だが、落胆は隠せない。

 額に汗を垂らしていながら、彼女の心身共に大した変化も見られない以上、もしかしたら相当低いレベルなのかもしれない。

 

(……まっ。この女にそこは期待していねえからどうでもいいと言えばいいけどな)

 

 今の所有象無象と変わらない様子に、少しだけ興味が薄れて始めてはいるがな、と内心で続けながら、垣根はため息をついた。

 

(研究所を一変させた割には、どこにでもいる普通のヤツに見えるんだがな)

 

 この場所でも普通でいられる事が特別なのか? などと考えながら垣根は自分の手に視線を移した。

 手のひらを頭上に翳すと、その部分の空間が歪んだ。その歪みは徐々に収束していき、やがて白い物質が彼の手中に収まる。

 

(……はあ、くだらね)

 

 手を振って物質を霧散させ、垣根は天井を見上げた。

 そこには、無機質なコンクリートの天井が広がっている。以前研究所の天井を丸ごと破壊したばかりだというのに、直るのが早いななんて思考を逸らしながら。

 

「……はあ」

 

 視線を戻す。

 何故か視界いっぱいに映ったのは、燕の顔だった。

 

「うお――――つっ!?」

 

 思わず仰け反り、そして後頭部を壁に叩きつけてしまう。

 視界が点滅し、突然の痛みに柄にもなく目の端に涙が溜まる。

 

(ぶっ殺す――――ッ!!)

 

 垣根の行動は早かった。

 目の前にいる塵芥を殺すために、能力を発動させようとして――――

 

(――――ッ! クソがッ!)

 

 またしても、『何か』に能力発動が阻まれた。ならもう物理的に潰す、と垣根が燕の顔面を鷲掴みにしようと手を伸ばした瞬間、

 

「ていとくんっ! いまのもういっかいみしてください!」

 

「……は?」

 

 パアッと顔を輝かせながらそう言った燕に、垣根の思考が思わず停止する。

 そして再び稼働。

 この俺の本気の殺意を叩きつけられているというのに、なんでこんな平然なんだよ何者だこいつ――――とかなんとか思っているとまたもや燕が口を開いた。

 

「いまのっ! いまのっ! ねんどみたいなのをだしたやつ! もういっかいみしてください!」

 

「……粘土」

 

 垣根の気分がガタ落ちになった瞬間である。

 思い返すと確かに、粘土に見えなくもなかった。殺意が一瞬で削がれた。げに恐ろしきは燕の天然さか。

 少しだけいじけながら、垣根は素直に手元に白い物質を生成した。

 

(殺意が無ければ問題なく発動する? ……この女を迎撃しようとしたら自動で能力が阻害されてんのか?)

 

 いまここでこの物質を叩きつけたらどうなるんだろうか、などと思いながら垣根は燕に能力で作ったそれを放り投げる。

 

(精神系能力の類なら無意識に悪意に反応して、俺の精神を乱して間接的に演算の阻害をしている可能性はある。……が、それはない。精神系能力者の『超能力者(レベル5)』候補が別の研究所にいるのは確認済みだ)

 

 伸ばしたり丸めたりして遊ばれている能力の産物を見て、思わず背中から哀愁を漂わせながら垣根は思考を続ける。

 

(情報が足りねぇな。そもそもとして、能力発動の邪魔をしているのがこの女じゃない可能性すらあるしな)

 

 自分と同程度の価値を見出されているのなら、殺されるのは学園都市としても面白くないだろう。

 何かしらの防衛策を講じている可能性は十二分にある。これ以上は不毛とし、ひとまずはこの議論は終了である。

 右手を軽く振り、垣根は燕に遊ばれている物質を虚空に霧散させた。

 

「ああっ!?」

 

「人の能力で遊んでんじゃねえ」

 

 垣根にしては珍しく至極まっとうな意見である。燕も言い返すことが出来ないのか、ぐぬっと言葉が詰まった。

 

(……初めて口喧嘩で勝った気がする)

 

 少しだけ、気分が良くなった。自然と頬が緩んでしまう。

 気分が良くなったついでに垣根は気になっていた事を燕に尋ねた。

 

「なあ」

 

「?」

 

「なんで、『ひとりぼっちだから』話しかけてきたんだ?」

 

「……」

 

「お前はあの時言った。『ていとくんがひとりぼっちだからです』と。何故だ? 俺がひとりぼっちであることと、俺に話しかけることの何が関係ある?」

 

 ――理解出来ない。無駄な行為でしかない。意味不明だ。

 

「俺がひとりぼっちでいようが、んなもん勝手だろうが」

 

 ――なのに何故、

 

「答えろ。長谷川燕」

 

 ――何故、質問したのだろうか。

 

「……」

 

 垣根が口を閉ざす。答えを待つ、とばかりに。

 燕は垣根の瞳から、何かを感じ取ったのだろうか。ゆっくりと頷いてから、口を開いた。

 

「……一人は、とても、とてもさびしいことだからです」

 

 あ? と。垣根の呼吸が止まった。

 それを無視して、燕は言葉を続ける。

 

「ていとくんが、ほんとうに一人が好きなら、わたしも話かけなかったかもしれません」

 

 ポツンと残された自分。

 変わっていく周囲の顔。何も変わらない自分。それに苛立つ自分の心。

 

「ていとくん――あなたの目は、とても、ひとりぼっちを楽しむひとの目じゃ、ありません」

 

『……くそっ』

 

『長谷川燕には何がある……?』

 

 思い起こすのは、ここ最近の自分自身。

 自分は何故あの程度で苛立ったのだろうか。

 自分は何故、変化をもたらした長谷川燕の事を()()()()などと思ったのだろうか。

 相手を理解しよう、なんて考えは良くも悪くも垣根帝督にはなかったはずのもので。理解しようとする行動、思考の原理は、他人との交流を図ろうとした人間こそが起こすもので。

 それは、つまり――――

 

「……、」

 

 無意識に思考は回る。

 答えに辿り着く。辿り着いてしまう。

 心臓が停止してしまいそうな程の衝撃を受ける。呆然としてしまい、周りの光景がものすごく遅く感じる。

 一瞬が永遠に続くような感覚に埋没してしまう。そんな、壊れてしまいそうな垣根に、

 

「わたしは、もしかしたらよけいなことをしたのかもしれません。けど、ていとくん」

 

「……」

 

「――――わたしは、あなたを知りたかった」

 

 儚気に笑いながら。燕は、止めを刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

「……わかった。やってやる」

 

「っ! ほんとうですかっ!?」

 

 やったー! と諸手を挙げて喜んでいる燕の姿に内心で笑みを浮かべ、

 

(……理解はできねえ)

 

 けど、納得は出来るかな。

 

 はしゃぎ過ぎたせいで、床にランドセルの中身をぶちまけ涙を浮かべる燕の姿を見ながら、垣根は静かに笑った。

 




研究所時代のお話と並行しての書き方はこれで終わりかなーと。
研究所での垣根と燕の会話がうまいこと出来なさすぎてつらい……違和感を感じたら教えてもらえると助かります……若干投げやり感はあるので……。
今回の話を読んで、一方通行の打ち止めとの会話を思い浮かべた人もいるかもしれません。ある意味では作品全体を通してのテーマですので、一方通行と垣根の対比を楽しんでください。(展開予想はダメだよ!)
書き始めた理由が『俺なりのていとくん及び禁書の考察を小説にしちゃるぜ!』だったりします。そうなると一方通行との対比は外せないんですよね……。

偏差値六十五に「十分たけーよ!」と言ってた上条さん。とある高校の中でもおバカと言われている上条さん。しかし流体力学なんて言葉が戦いの最中にポンと出てくる上条さんェ……。

さて、次は大覇星祭編(編?)。それが終わったら一気に時間が飛びます。


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第二章 炎天下の中で Glimpses_of_the_Truth.
四話


 窓のないビルの一室。

 四角いスペースの真ん中にある円筒型の生命維持装置の中に、その『人間』はいた。

 

「……ふむ」

 

 生命維持装置の中に満たされた液体のなかでたゆやう彼の正面には幾つもの照明が浮かび上がっており、この場を静かに照らしていた。

 

『人間』は何もない虚空に浮かぶ無数の映像(ウィンド)と文章が記載されているモニタに目を通す。

 彼の視線の動きに連動するかのように、映像は場面を次々と切り替えていく。その映像には何人かの人間が映っているが、『人間』が注視しているのは二人の子供だけだった。

 

 茶髪の少年と黒髪の少女。

 

 どこにでもいそうな。普通の子供たち。彼らが様々な表情を浮かべながら、遊んでいる光景。

 そんなありふれた光景を、『人間』はただただ観察していた。

 

 そして、

 

 そして、

 

 そして――――、

 

「……、」

 

『人間』はその映像を見ながら、モニタに記されている文字列を見て――――

 

「ほう」

 

 ――――目に留まった一文と映像に映されたとある場面を見て、『人間』は、その口元を小さく歪めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 ――大覇星祭。

 

 普段は外部との繋がりを末恐ろしいまでに絶っている学園都市が、外部から一般人を招き入れる数少ないイベント。

 余りに外部との接点を取らない学園都市に出入り出来る機会というだけで注目度は高いというのに、大覇星祭中、学園都市の能力者は普段禁じられている能力の使用を寧ろ奨励されているため、注目度は更に上がっている。

 毎年のようにテレビ中継まで行われるため、学園都市の超能力に夢を持ってしまう人間は多い。見た目は自分たちと変わらない少年少女が派手に電撃やらを放つ瞬間を、間近で見たいと思う人間が多く出てくるのは仕方のないことだと言えるだろう。

 

 さて。保護者が来るとなると、学校側としてはそれ相応に準備しなければならないというのは、学園都市内でも変わらない。

 保護者に恥ずかしい姿を見せられないという大人の都合という名の天の力が働き、その割を食わされるのは何時だって子供たちなのが世の常である。

 子供たちは「別にどうでもいいじゃん……」と不満を胸の中で抱きながらも、大人の都合に巻き込まれてしまうのだ。因みに我慢を覚えるのはとても大切なことなので、これも重要な教育の一環である。

 

「……なんで俺が、こんな事を」

 

 夏の残暑が続き、まだまだ暑い九月の上旬。垣根帝督は学校の運動場にてラジオ体操を行っていた。

 太陽の熱でグラウンドは熱せられ、その影響で空間が揺らいでいる。

 全身から汗を垂れ流し、汗で濡れた髪の毛が顔に張り付く。前髪は目元まで伸ばしているため、非常にうざったい。体操服のズボンやその中のパンツもジメジメとしていて、今すぐに全裸になって開放感に浸りたい衝動に駆られる。

 しかし、それをしてはただの変態だ。垣根帝督は常識を持つ好少年なのだ。そんな常識外れな行為には走らないたぶんきっと。

 

「……チッ」

 

 照り付ける太陽の熱が恨めしい、とばかりに垣根は空を見上げた。太陽光の眩しさに、自然と目は細くなる。

 肌がジリジリと焼かれるような感覚が疎ましい。赤白帽を頭から取り、内輪のように扇ぐ。生温い風なため、涼むもクソもない。苛立ちから、八つ当たり気味にすぐさま帽子を地面に叩きつけた。

 

「……くそっ。なんで、俺がこんな……っ!」

 

 去年までならこの季節は、研究所のクーラーの元、快適な生活を過ごしていた。

 だが、今の自分はどうだ?

 煉獄がごとき暑さは、どう考えても快適とは程遠い。クーラーという便利機器はもはや遠き理想郷で、いくら垣根が望もうとこの手には届かぬ存在となった。

 これまでそのような自堕落な生活を送ってきた垣根にしてみれば、夏の太陽は拷問器具のように感じられる。ていうか、拷問器具にしか感じられない。

 能力を行使して日傘的な物を作って太陽光を遮断したいが、教師や燕に注意されること間違いなしで、それはそれで面倒くさい。

 暑さに騒々しさまで加われば、垣根帝督は死ぬだろう。それはもう決定事項といっても過言ではない。

 それ以前に、自分の能力をそのような形で使いたくない。なんか、一家に一台垣根帝督みたいなキャッチコピーが生まれそうで嫌だ。

 

「休み時間に遊ぶ分には問題ねえってのに。……何が大覇星祭の練習だクソッタレ。練習? この俺が、練習? why?」

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎるってやつか……などと途方に暮れていると、『垣根ー! 真面目に体操しろーッ!』という声が、前方から響く。

 サボりを中断して、苦々しく思いながらも垣根はリズムに合わせて体を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 ラジオ体操が終われば、続いて行われるのは団体競技の練習だった。指定された場所に同じ種目に出る生徒が集まり、そこで練習を行うかたちである。

 そして、垣根の出場する団体競技の名前は、

 

「……バルーンハンター、ねえ」

 

 バルーンハンター。

 各校から選抜されたら三十名により、互いに頭につけた紙風船を割り合うゲームである。

 頭の風船が割れた時点でその選手はゲームから除外。競技終了時に生存者の多いチームが勝利、というのが基本ルールだ。

 

 だが、ただのバルーンハンターではない。

 

 上記の通り、大覇星祭では能力の行使を推奨されているのだ。ようは競技中に能力を使用出来るのである。

 つまるところ能力による武力行使、妨害、なんでもありのデスマッチだった。

 そして競技の特性上、能力強度の高い者が有利なシステムであるのは自明の理である。

 

「……燕、対戦校はどこだっけか?」

 

「常盤台中学付属ですね」

 

「勝てるわけねえだろ!?」

 

 常盤台中学付属。その名が示す通り、常盤台中学の系列校だ。

 とはいえ所謂完全なエスカレーター式の学校というわけでもない。小学校とは思えない厳しい教育課程に、少女達には品性方正さが求められる。系列校だからと慢心すれば義務教育だというのに退学させられる。

 分かりやすくいうのなら、常盤台中学の体験学校みたいな感じである。因みに入学するのに必要な最低限の『異能力者(レベルは2)』だ。小学校入学前の時点で『異能力者(レベル2)』というのは、相当優秀な部類に入る。

 さらには『強能力者(レベル3)』などというこの時点なら人外認定レベルの生徒も多く保有しているまさにエリート校なのだ。

 

 一方、垣根の通う小学校はごく普通の小学校だ。

無能力者(レベル0)』が大多数を占め、ほんの少し、申し訳程度に『低能力者(レベル1)』がいるような、平凡な学校である。因みにこの学校における『低能力者(レベル1)』は天才レベルである。勿論垣根は例外だ。

 

 まとめると。天と地ほどの隔絶された力の差が存在するのである。

 

 勝てるはずがない。やる前から分かっている勝負だ。結果なんて目に見えている。練習するだけ無駄、冷静に垣根はそう判断してしまう。

 

(玉入れだとかなら俺が妨害に徹して本気を出せば勝ち目はあったが……。流石にこれはキツイ)

 

 風船を能力で直接割っていいのならともかく、この競技では指定された球を使って風船を割らなければならない。

 

(……俺だけ生き残っても意味はねえしな)

 

 垣根の頭の中には、自分が敗北を味合う事になるなどという可能性を考慮する場所はない。不遜だと捉えられるかもしれないが、それを裏付けるだけの力を有しているのが垣根帝督である。

超能力者(レベル5)』に最も近い『大能力者(レベル4)』の名は伊達ではないのだ。相手に同じ『大能力者(レベル4)』がいたとして、軽く蹴散らしてくれると鼻で笑えるほどに。

 

「……燕。お前の能力はなんだ?」

 

 同じく、バルーンハンターに選抜された燕に問いかける。

 AIM拡散力場に干渉する類の能力を持っていると予想している彼女の力があれば、あるいは。

 

(俺の能力に干渉したんだから。少なくとも『強能力者(レベル3)』はあると思いてえが……。自分に降りかかる能力に対して特化している可能性は否めねえ)

 

 故に、問う。

 垣根の予想はあくまで予想でしかない。能力の種類を知らなければ立てる事の出来る作戦も立てられないだろう。

 他の連中には悪いとは思うが、戦力となり得るのは自分と燕のみ。これは変えられない現実なのだから。

 そして垣根は燕の方へと顔を向け、

 

「……?」

 

 燕がばつの悪そうな顔をしている事に気が付いた。

 

(……あ?)

 

 おかしい。この善意と天然が服を着たというか善意と天然が人間の形をしているような少女が、物を尋ねられてこのような顔になる事があるだろうか。

 

(都合が悪いならアホみてえに頭下げるタイプだよな。こいつは)

 

 訝しげな視線を送り続けるてみると、燕は「うう……」と唸りだす。

 

「……」

 

「……うっ」

 

 罪悪感がヒシヒシとこみ上げてくるが、ここで視線を外すわけにはいかない。

 外したら何か、決定的な何かが起こると垣根帝督の持つ第六感的なものが囁いていた。

 燕が顔を逸らす。垣根は体ごと回りこむ。それを六回ほど繰り返し、がっくりと肩を落としながら燕は口を開いた。

 

「うう。ていとくんはいじわるですっ」

 

「いや。無理なら無理って言えばいいだけだろ」

 

 呆れたようにそう口にすると、「それはそれでもうしわけない気がして……」と心底申し訳なさそうな顔をしながら返ってくる。

 善人にもほどがあるだろうと頭を抱えざるを得ない。騙されたりしないかが心配になってしまうのは仕方ない事だろう。

 この調子だと、話しかけられればホイホイ人に付いて行きそうである。

 

(俺なんかより自分の心配してろこのアホ!)

 

「……で、結局のところどうなんだ?」

 

「……じつは――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――解析不能、だと?」

 

「……はい」

 

 燕から放たれた言葉に、思わず猜疑的な声をあげてしまった。

 

(どういうことだ?)

 

 自分の身を振り返る。

 垣根の持つ能力は、現在未確認の物質を生成する能力。原理だのは未だに解明されていないものの、ある程度の予測は付けられている。

 故に『大能力者(レベル4)』という位置付けはされている……はずだ。研究員が嘘を言っていなければの話だが。

 

 対する燕は暫定的に一切不明の扱いをされているそうだ。

 AIM拡散力場の揺らぎ方から一応能力が発動しているのは確認されているため、取り敢えず『異能力者(レベル2)』だそうだが。

 

(AIM拡散力場から能力を逆算出来ねえってことは、こいつも俺と同じで唯一無二の能力を秘めてる、ってことか)

 

 自分の能力を阻害した程の人物が、『異能力者(レベル2)』というのはほんの少し癪である。

 しかし、いま考えるべき問題はそこではない。

 

(はあ。……なんにせよ、こりゃ勝てねえわ)

 

 現状の問題点はそこである。

 頼みの綱だった燕が戦力として役に立たない可能性が高い以上、この競技で勝ちを拾える可能性は限りなくゼロに近いといっていい。

 

(つーかなんで俺をこの競技に選抜したんだか。……勝ちより、常盤台とも戦える程の生徒がいるって宣伝目的か?)

 

 アホくさ、と内心でぼやく。なら尚更練習に参加する意義を見出せないな、とも。

 プロパガンダとして扱う気なら、自分が特別練習をする必要はないだろう。全体的な流れはルール説明を聞いた時点で把握した。もはやこれ以上参加する理由はないといっていい。

 

(そう。理由はねえ……が、)

 

 目の前にいる少女がそれを許すかどうか。まず許されないだろう。

 長谷川燕という少女は、この垣根帝督を学校という世界に連れ込んだ人物なのだから。

 加えて、みんなを放って練習をサボるというのはどう考えても垣根の目指す未来の自分の姿ではない。少なくとも、長谷川燕なら練習するはずだ。

 

 例え、勝てないと分かっていても。

 

(……ふん)

 

 いや、あるいは勝てないなんて考えていないのかもしれない。

 天然だから、ではなく、長谷川燕という少女ならもしかしたら――――

 

(見せてみろ。……いや、見せてくれ。燕)

 

 集まっている集団の輪の中に入りながら、垣根は思う。

 

(俺が無駄だと考えている――努力ってやつをよ)

 

 垣根帝督の持つ価値観を、この少女ならぶち壊してくれるかもしれない。

 才能こそ全てだと考えている垣根帝督の選民思想にも近しい見解を。垣根帝督の持つ常識を。彼女ならば、

 

(……お前には、常識が通用しねえからな)

 

 内心で笑みを浮かべながら、暑さも忘れて垣根は練習に取り組んだ。

 

 そして、

 

(大覇星祭は一般客が来るってことは……燕の親も来んのか? こんな底ぬけのバカを育てた親か……興味あるな)

 

 頭の片隅で、

 

(……ま。少なくとも俺のとこみたいなロクでもねぇ家庭じゃねえだろうしな)

 

 ふと、そんな事を思い浮かべた。

 

 

 




余談ですがていとくんがあの場面でこの日照りのなか日傘的なものを能力で作れば太陽光が独自の法則で動き出して事故ります。事故って多分能力の一端に触れるでしょう。

……一家に一台垣根帝督(冷蔵庫)。

現時点のていとくんは努力が報われると信じてるから練習に参加するのではなく、みんなに嫌われたくないから合わせとこうって感じです。
信じる云々以前に努力するのは天才としてのプライドが許さないってのも若干ありますが。

常盤台中学付属はオリジナルです。
義務教育課程以内に世界で活躍出来る人材を……って設定なら付属校があってもおかしくはないよなーって感じのやつです。

ではまた次回。だが、それが何時になるかは誰にも分からないのさ……!


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五話

「ていとくんも。どりょくを知っていますよ」

 

 努力が分からない、と垣根は思っている。

 大覇星祭の練習をする前から、燕と交流を共にしてから、燕と出会う前から、垣根がずっと思っていたことだ。

 

 ――なんで、こいつらはこんなにも必死になれるんだ?

 

 自分でも冷めた事を言っているんだろうな、という自覚はあるし、これを口にすれば嫌われるという事も自覚はしている。

 故に、垣根はその事を口にしないし、表向きは練習にも参加する。

 だが、それでも理解出来ない事にもどかしさは感じてしまう。

 垣根は生まれた頃から、努力なんてものを積んだ覚えがない。

 参考書を読めば全て理解出来てしまうせいでまともな勉強なんてした事がないし、能力も開発を行った直後に行使出来てしまった。

 一時期はアイツらは無能だからと結論付けていたが、燕と交流を共にし出してからはどうにも違うように思える。

 

 だから、尋ねた。

 そしたら、そう返ってきた。

 

 意味がわからないと垣根は思う。

 努力を知っているのなら、こんなにも自分は今悩んでいるはずが無いのに。

 今の今まで、努力なんてした事がないのに。どうやったらそんなものを知っている事になるのか。

 

 ――バルーンハンターの練習風景を思い出す。

 

 みんな、頑張っていた。

 泥だらけになりながら、全身から汗を流しながら、みんな必死に練習に取り組んでいた。笑い合いながら、大覇星祭に向けて頑張っていた。

 

 対して、自分はどうだろうか。

 自分は、ポケットに片手を突っ込みながら悠々と球を弄んでいた。

 大覇星祭の練習なので能力の使用は可能だから、飛んできた球は能力で弾いてるし、能力のちょっとした応用で念動能力紛いの戦い方で球を投げている。

 体操服には汚れひとつ付いていないし、暑さ以外の要因で汗を流した覚えも無い。

 

 自分は努力とは最も縁が遠い人間だ、と垣根は燕に睨みながら言い放った。

 

 苛立ちを乗せていたからか。

 

 出てきた声は、自分の思っていた以上に低くて、何より冷たかった。

 その事実にハッとした垣根が謝ろうとしたところで、それを遮るように、

 

「ていとくんは、どりょくという言葉を、難しく考えすぎです……。ていとくん……あなたは今、どこにいますか?」

 

 

 燕の言葉に、思わず眉根を寄せる。

 哲学的な事を聞いているのだろうか。

 しかし、燕にそのような頭があるとは思えない。少なくとも、垣根帝督の頭には記憶されていない。

 ならばからかっているのか、と思った。

 だが、燕の顔からふざけた様子は見当たらない。

 顎に手を当てて少し悩んでから「……学校だ」と答える。今いる場所は、学校のグラウンドである。

 垣根の答えを聞くと、燕は続けて言った。

 

「ていとくん。いぜんの……少し前までのあなたは、どこにいましたか……?」

 

 同様にして、研究所だ、と答える。

 ……イマイチ要領を得ない。

 燕が何を伝えたいのか、わからない。

 腕を組んで、唸る。

 しかし考えども考えども答えは出ない。学園都市最高クラスの頭脳を持ってしても、答えは出ない。

 そんな垣根の様子を見て、燕は優しげな表情で口を開いた。幼い子供をあやす、母親のように。

 

「ていとくん……。ていとくんががっこうに通えるようになったのは、ていとくんががんばったからです」

 

 えっ、と思わず声を漏らす。

 燕は微笑みながら、何時もとは少し違う声音で、

 

「ていとくん。貴方も努力をしているんです。以前までの貴方は、繋がりを持とうとしていなかった……。誰かと歩み寄ろうという姿勢を、見せていなかった……」

 

 けど、と一旦そこで言葉を区切り、

 

「――今は違う。今のていとくんは、相手を理解しようとしています。相手の気持ちを理解しようと努めているし、感情的にならないよう頑張っています……。慣れない事を放棄せずに、慣れないなりに努力しているんですよ……。努力の意味を知ろう、なんて発想も、昔のていとくんには無かったもののはずです」

 

 だからていとくん。貴方は努力を知っているのです、と燕は締めくくった。

 

(アレが……努力?)

 

 あんなものが、努力というのだろうか?

 自分はただ、ただ燕のようになりたいと思っただけで。

 研究所を変え、垣根帝督という男を変えた『何か』を、自分も手にしたいと思っただけで――――そこまで考えて、気付く。

 

(――ああ、そっか……)

 

 努力とは、

 頑張ろうという想いの根幹は、

 別に深く考えるようなものじゃなくて、

 ただ、

 ただ――――

 

(――――)

 

 カチリ、とパズルのピースが当てはまるような音が響いた。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 大覇星祭。

 九月十九日から二十五日の七日間にわたって学園都市で催される、街に存在する全ての学校が合同で能力を駆使した体育大会を行うという、スケールが半端ではない行事。

 

 その開催日である十九日。

 

 学園都市の空には花火が打ち上げられ、宣伝目的のバルーンが飛び、飛行船のようなものからはスケジュールのお知らせが映し出されている。

 平日の早朝だというのに人が溢れ、動くことすら困難な状態だ。

 普段とは異なり学園都市内は活気に溢れ、喧騒があちこちで起きている。道を見れば祭りのように出店が沢山設置されていて、学生達が声を上げて客寄せを行っていた。

 

 そんな場所を、二人の子供が歩いていた。

 人の波に流されないよう、時には大人の足をくぐったりしながら、二人は目的地に向かって進んでいく。

 

「……毎年この時期は研究所から出ねえようにしてたのが仇になったか。人の波に酔いそうだ。一体何人いやがる……?」

 

 そう言った茶髪の少年の名は垣根帝督。

 不機嫌そうな様子を隠そうともしない彼の声音は、大の大人であっても肩を震わせてしまうほどの凄みがあるのだが……今回ばかりは違った。

 げんなりとした様子が、彼の凄みを軽減させているからだ。

 顔色を悪くしながら、彼はスタジアムまでの道のりを歩いていた。

 言葉の通り暑さ以上に、人の多さに精神的にまいっているのだろう。ついこの前までは引きこもり生活(?)をしていた人間に、この混雑の中を歩くのは厳しい。

 大覇星祭の参加者は百八十万人を超え、更にその父兄、さらには一般客までもがこの街に集まっているのだ。周りを見渡せば人人人。彼頭の中はもうゲシュタルト崩壊寸前であった。

 

 そんな垣根に対して、隣を歩いていた少女――長谷川燕は柔い笑みを浮かべながら口を開く。

 

「これからもっともっとふえますよ?」

 

 彼らがスタジアムに向かっているのは、競技に参加するためではない。開会式に参加するためだ。

 故に燕の言う通り、これから人の数はどんどんと増えていくのだろう。形式ばった堅苦しい開会式ほど、見ていてつまらないものはない。当人たちにとっても、観客たちにとっても。

 特に、大覇星祭を見学にくる一般客なんかは派手な能力バトル見たさありきなのだ。参加者の父兄ならともかく、一般客が開会式にまで足を運ぶのは稀なケースだろう。

 

 燕の言葉から、瞬時にそれを読み取った垣根は「うげっ」と踏みつぶされたカエルのような呻き声を漏らす。

 顔はひくついていて、今すぐにでも帰りたいという心情が見て取れた。

 そして、それを察知した燕はガシッと垣根の腕を掴む。振り解けば折れてしまいそうな程に華奢な腕に掴まれているというのに、垣根はギリギリと万力のように締め付けられていると錯覚した。

 

 燕が笑みを浮かべる。

 垣根は笑顔とは本来威嚇のために用いられる云々を思い出して引きつった笑みを浮かべる。全身からは暑さ以外の要因によって汗がダラダラと流れる。

 

「ていとくん。早くいきましょう? このままじゃおくれてしまいますっ」

 

「……、」

 

「ね?」

 

 コクコク、と壊れかけの人形のように頷く垣根を見て満足気に頷いた燕は、地を蹴って駆け出した。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 校長先生のお話。

 それは、学校生活における最終兵器といっても過言ではないほどの絶大な破壊力を持つ代物だ。

 全校集会にてひとたび校長先生が壇上に上がれば、待っているのは地獄のような苦痛の時間。校長先生の話は長いと、相場は決まっている。学園都市内であろうと、これは普遍の真理なのだ。

 

 午前十時三十分。

 開会式が終わると同時に、垣根帝督は地面に勢いよく倒れた。彼がいたスタジアムは、運よく学園都市製の高級人口芝――感触がほぼ天然の芝生そのもの――を使用していたため、人工芝で転んだ時の刺すような痛みはほとんど感じない。

 ただ、厳しい残暑に熱せられていたため、死ぬほど暑い。合成樹脂の人工芝だというのに、暑さで溶けてしまいそうなほどに暑い。

 故に、別の意味で痛かった。

 

(ず、随分とナメた真似をしてくれるじゃねえか……学園都市)

 

 垣根は死に体の状態で、内心でそう呟く。

 次いで、「く、はははは!!」と壊れたテープレコーダーのように哄笑しだす。瞳は虚ろで焦点が合っておらず、まったく笑っていない。

 声音には強い怨嗟が篭っていることに加え、芝生に顔面が埋没しているせいでくぐもった不気味な声だけがやたら響いた。垣根の近くにいた他校の生徒が、ギョッとした顔を向ける。それに気付く事なく、垣根は内心で言葉を続けた。

 

(校長の数が多すぎんだろクソッタレ。バカじゃねえの? バッカじゃねえの? 誰得だよクソ野郎。よほど愉快な死体になりたいと見える)

 

 とてつもなく物騒な事を考えているが、しかし周りの参加者たちも皆似たような思考をしていた。

 想像してみてほしい。炎天下の中、初老の男性が無駄に長い話を延々と続ける姿を。そしてそれが一度ではなく、二度も三度も、といった風に繰り返される地獄のような光景を。

 誰であろうと嫌気が差すだろう。それも内容は要約すれば全て似たようなもの。殺意の波動を抱くのは自明の理だった。

 

 統括理事会側も厳選しているつもりではあるのだろうが……それにしても多すぎる。十五連続のお話コンボは凄まじすぎたと言っていい。

 しかも、当人たちは素知らぬ顔でテントの中で涼んでいるのだ。これでもし、全校の校長先生がご登場した暁には垣根は能力を行使していたかもしれない。それほどまでに苦痛の時間だった。

 

 垣根が少し顔を上げてクラスメイトを見渡せば、やはり皆が辛そうな表情を浮かべていた。

 あの真面目な燕でさえ、ぐったりとした様子で崩れ落ちている。

 

「ながい……」

「し、しんでくれ……」

「あそこでわざとたおれとけば……」

「く、くくっ。だらしが無いな貴様ら……この俺はこの程度の暑さには屈しない……きゅう」

「ふ、ふかくです……」

 

 バタリ、バタリと次々に倒れていく。まだ競技は始まってすらいないというのに、皆が皆疲労困憊といった様子だ。

 だが、無理もないだろう。小学校の高学年や中学生はたまた、高校生などのひとつ上のステージに立っている者ならともかく、小学生にあれはキツイ。

 なにせ身長が低い分、地面で熱せられた熱をダイレクトに浴びるのだ。日射病にでもなっていないか心配なレベルである。

 ていうか、少なくとも自分は日射か何かな気がする。

 なんか、昔見た本に似たような症状が――――

 

(ふざ、けんなよ……!!)

 

『――小学校。参加者全員が日射病のため、棄権』の文字列が脳裏に浮かぶ。

 そんなおバカな結末だけは、なんとしてでも避けなければならない。

 戦う前からの敗北など、許されるわけが無い。

 

(この俺に、あらゆる常識は通用しねえッッッ!!)

 

 震える手足に力を込めて、垣根帝督は灼熱の大地の中立ち上がる――――ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――日射病により、垣根帝督くんは医務室に搬送されました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




禁書っぽい雰囲気を出そうとして書くのはやっぱ難しいですね……
あ、ぽさのために章タイトルとか何気に付けました。
僕、形から入るタイプなんですよね……そのせいでタイトルも……数字だけにして……こう……こう。

大覇星祭で回収しなければならないイベントは二つ……それが終わったら……終わった、ら……。


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六話

 常盤台中学付属。

 世界中のあらゆる教育機関を凝縮させたような街――『学園都市』の中でも五本指に入ると言われている名門、常盤台中学の附属小学校。

 常盤台中学の系列校の生徒だけあって、おそらく彼女達の力量は学園都市の中でも最高クラスのものだろう。

 

 一方垣根達の所属する小学校は、特筆する点が何もない。

 良くも悪くも普通。希少な能力者を集めている学校というわけでもないし、能力開発が進んでるわけでもないし、勿論進学校でもない。本当に個性のない『極めて普通の一般的な学校』である。

 それこそ、教育課程以外は外の学校ともなんら遜色ないといえるだろう。

 

 普通なら、やる前から諦めてしまうような対戦の組み合わせだ。勝ち目がない事は、自明の理なのだから。

 だが、彼等は諦めなかった。

 諦めるという事を、知らなかった。

 幼いから能力者と無能力者の戦力差を理解していない、というのも少しはあるのかもしれない。

 しかし、そんな意見は瑣末なことだ。

 賽は投げられた。

 彼等は練習に練習を重ねたし、やる気を出した垣根が、以前までならあり得なかった事をしてみんなの戦力は向上した。

 

 後は戦うだけ。

 彼等の頭の中には敗北の二文字はなく、ただただ勝利の二文字が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 

 常盤台中学附属小学校の面々は、優雅な待機時間を過ごしていた。

 記念すべき初戦の対戦校はごくごく普通な小学校。凡俗、といってもいい学校だ。

 そんな学校を相手にするのに気負うものが必要なわけがなく、彼女達はのんびりと世間話に興じていた。

 

「対戦校には『大能力者(レベル4)』が一人いるとの噂を聞きましたが、実際のところどうなんでしょうか」

「噂は噂ですわ。まあ本当にいたとしてもこちらはその『大能力者(レベル4)』が二人、残りは『強能力者(レベル3)』で固められた超精鋭部隊でしてよ? お相手に勝ち目があるとは思えませんが……」

「蜜花さんの言う通りですわ。それにその『大能力者(レベル4)』の方も大したことないんでなくて? わざわざ凡百の学校に身を堕とすなど……。自身を高める事を放棄した人間など、恐るるに足らぬ、ですわ!」

「確かに……」

「でも、少し不自然じゃありません? 何故、あのような普通の学校との対戦に、わざわざ精鋭部隊を選抜するなんて……。何か意図が――――」

「我々は、こんなところで躓いてなどいられません! 名門常盤台中学の名に恥じぬよう、エクセレントでエレガンスな戦いを示さなければ……!!」

「まだ常盤台の生徒ではありませんけれど……」

「何を弱気になっているのですか楓様!!」

「そうですよ! 私達以上に常盤台に相応しい人間なんていません!! ええ、いませんとも!!」

「そ、そうですわきゃっ! ……少しお待ちくださいませ久留美さん? あなた、どこを触って……!」

「淑女の嗜みです!!」

「素晴らしい悲鳴ですわ!」

 

 世間話に興じていた。

 一部女子小学生の少し危ないシーンが垣間見えたりしたが、女子校ならではの世間話に違いはないのである。

 

 兎にも角にも彼女達は誰一人として負けるなどと考えていないし、そもそもこれから行われる競技の事が頭にあるのかすら怪しい。

「殿方に変な手つきで触れられたりしないかしら」とか「一般来場客に素晴らしいパフォーマンスを」とか「汗をかきたくないですわ」とか「服が汚れたりしないかしら……」とか、競技に対する発言はほぼ皆無である。

 

 と。

 待機室に備え付けられたスピーカーから、選手入場のアナウンスが告げられた。

 

「あら、もうそんな時間でしたのね」

 

「では、行きましょうか」

 

 彼女達は会話を中断し、入場門まで足を運ぶ。

 自然と歩いているだけだというのに、彼女達の並びには乱れが生じない。集団行動ひとつとっても、育ちの良さを表していた。

 

 暫くしてから入場門を潜り、グラウンドに立つ。

 

「……あら?」

 

 ごく一般的な、地面に不規則な凹凸のある土で出来たグラウンドだ。風が吹けば砂埃が舞い、細かい砂が靴底の合間を縫って入り込み、場所によってはバランス感覚が異なるグラウンド。

 普段の整備された常盤台中学附属の校庭とは異なる感触に、彼女達の一部は眉をひそめた。

 

「砂埃なんて、初めて見ましたわ」

「靴が汚れてしまいます」

「このような場所で、どうやって能力測定をしていらっしゃるのかしら……。精密な検査が出来る環境とは思えません」

「……これが普通、ですか。だとすれば学園都市は各学校の教育環境を見直すべきですわ。金銭で優劣が決まるのは、私的にはあまり……」

「転んだら服が……」

 

 本当にこれから戦う気があるのだろうかといった集団だが、その実は集団ならば笑顔でイージス艦を沈めかねない戦闘力を持つご令嬢方である。

 彼女達と戦う事になる対戦校には、御愁傷様と言うほかない集団なのである。

 それ故に学園都市の『外』から来た一般来場客からすれば微笑ましい光景かもしれないが、学園都市の『中』から見た意見は全くの逆である。

 

 彼女達がそんな風にして時間を潰していると。

 

 ザッザッザッ、と。

 土の上を複数の人間が歩く音が、グラウンドに響いた。

 そのくせ、話し声等は一切聞こえない。

 普通、このようなイベント毎なら話し声のひとつやふたつ聞こえてしまうもののはずなのに。

 その異様な空気を第六感で感じ取ったなだろう。自然と、お嬢様方の口が閉じられる。

 

 やがて、彼女達の視界にひとつの集団が映り始める。

 反対側の入場門を潜ろうとしているのだから、彼等が彼女達の対戦校に違いないだろう。

 

 そして、

 

「……ひっ!?」

 

 その悲鳴を上げたのは、果たして誰だったのだろうか。

 一人か、あるいは全員か。

 先ほどまでの余裕そうな表情とは一変して、顔を青褪めさせながら、彼女達は見た。

 

 

 人を超越した、修羅の集団を。

 

 

 先頭を歩く茶髪の少年を筆頭に、彼等は軍隊のように統率された集団行動を見せつける。その動きだけで、自分たちと明らかに気迫が圧倒的に異なる事を彼女達は理解してしまった。

 猛禽類が如く双眸を爛々と輝かせ、彼等は横並びに整列する。大地を踏みしめる音が、彼女達の耳朶を叩いた。

 とても、スポーツをしに来た人間の迫力と動きではない。これから戦争を起こしまーすと言われた方がまだ納得出来るような軍勢だった。

 

 彼等の妙な威圧感を浴びて、常盤台中学附属の面々は一瞬にして身を竦ませてしまう。

 

 だが、これも仕方のない事だろう。

 

 なにせ彼女達は蝶よ花よと愛でられて健やかに生きてきたお嬢様達だ。

 学園においても『敵は己の内にあり。他人より優れている事を証明するために鍛錬をするのではない』と教わっているため、競争意識に希薄な少女達も多い。

 つまるところ勝利にかける執念と力強さが存在しないのだ(勿論血の気の多い少女や能力をひけらかす少女もいるにはいるが)。

 

 荒事なんてあり得ない少女達にとって、眼前にいる軍勢は常識の埒外にいる。

 今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られる。

 

 しかし、そこは流石というべきか。

 

「「「………」」」

 

 彼女達は恐怖心を様々な感情で捩じ伏せ、彼等を気丈にも睨み返す。

 それを見た敵陣の中央に立つ茶髪の少年が「ほう」と感嘆の息を漏らした。

 

 ごくり、と誰かが唾を飲み込んだ。

 

 大覇星祭の運営委員は何かを告げると、ピストルを真上に掲げる。

 パンッと競技開始を示す、空気を引き裂く音が辺りに鳴り響くと同時に二つの陣営は激突した。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 競技開始の合図と共に、垣根達は駆け出した。途中、グラウンドに散らばっている球を拾い集めておく事を忘れない。

 相手に狙いを定め、いざ球を投げようとしたその瞬間、閃光が瞬いた。

 敵陣から飛んでくる能力の光が眼前の地面に着弾し、砂煙が舞い上がる。

 視界を遮断されたが、しかし垣根の顔に焦りはない。

 

(俺の能力に、テメェらの常識は通用しねえ!)

 

 演算を、開始。

 空気中に、能力によって生成した物質を散布する。

 肉眼では見えないほどに細かい物質の動きを見て、相手の動きを予測した垣根は大きく声を上げた。

 

「武田、左だ! 松崎! お前はそのまま直進しろ!」

 

「舞うが如く!」

 

「りょうかい!」

 

 ――直後。

 先ほどまで松崎と武田のいた地点には念動能力(テレキネシス)で操られていたであろう複数の球が殺到する。

 垣根が声を上げなければ、避ける事は出来なかっただろう。

 

「燕! 右に向かって投げられるだけ投げろ! 多分当たる!」

 

「はいっ!」

 

「後藤! セクハラで訴えられたくなかったら暫くそこから動くな目を閉じろ! 」

 

「ええっ!?」

 

 次々と能力で相手の位置と球の動きを補足し、言葉を発して味方を指揮し、垣根は目まぐるしく動き続ける。

 

(つっても能力で操れる範囲は限られてるし、持続時間もそこまで長くねえ。……超能力者(レベル5)になれば、限度は解決しそうだがな)

 

 垣根がここまで流動的に能力を使えるようになったのは、大覇星祭の練習中に燕がポツリと漏らした言葉がきっかけである。

 

 ――ていとくんののうりょくって、じゆうにかたちをかえられるのなら、目に見えない大きさにしたらすごくないですか?

 

(他人の発想ってのは案外バカに出来ねえな。俺なら多分、こんな使い方は思いつかなかった)

 

 実際。

 垣根がいままでこの能力でしてた事はといえば物質を生み出す事と、槍のような形にして殺傷能力を高めいてたくらいだ。

 もっと応用は効くのかもしれない。飯の時間にでも、燕に他にアイデアはないか尋ねてみよう、そんな事を考えながら垣根は身体を動かす。

 

(……とはいえ、だ)

 

 垣根の指示が間に合わない場合もある。

 相手が強い風を起こせば、散布した物質が吹き飛ばされてしまう。

 加えて、奇妙な現象が起きることもある。

 物理法則上絶対にあり得ない、あり得てはならない『何か』を観測する事があるのだ。

 垣根が能力を行使している本人だからか、数式や数値が無意識のうちに浮かび上がるため対処は出来るのだが……。

 

(なんなんだ、この妙な感覚は……ッ!!)

 

 故に、垣根帝督が一人で全てをカバーする事など出来ない。必ずどこかに穴は開く。

 

(だがまあ……問題はねえ)

 

 垣根の胸中に、不安はない。

 

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

「頼む。力を貸してくれ」

 

 時は少しばかり遡る。

 大覇星祭本番まで後一週間といった頃。

 

 垣根帝督は、先の言葉を言い放ちながら研究所の訓練室にて頭を下げていた。

 

「「「……」」」

 

 シーン、と。

 擬音の付きそうな静寂が、訓練室内を満たす。

 訓練室にいた少年少女は皆が唖然とした様子で、垣根の姿を凝視していた。

 

「……あー、……あ?」

 

 いち早く我に返った少年が、頭を掻きながら口を開く。

 

「……えっと。どうした、垣根。変なもんでも食ったか?」

 

 その少年は、燕と交流を持って丸くなった垣根と最も早く和解した少年だった。

 だからだろう、垣根の意外すぎる行動への耐性が強く、一番早く硬直が溶けたのは。

 尋ねられた垣根は、頭を下げたまま言葉を紡ぐ。

 

「……頼む、」

 

 垣根の声が、訓練室に響く。

 その声にフリーズが解けた者達は、彼の言葉に耳を傾けていた。

 

「能力を用いてのバルーンハンターの()()に、付き合ってくれねえか?」

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

「練習ねえ……」

 

 そうか練習か、と呟いた少年の体が再び硬直する。

 続いて信じられないといった形相で垣根の体をマジマジと見つめ、

 

「おいおい。明日はマジで隕石でも降ってくんじゃねえか」

 

「どういう意味だコラ!?」

 

 カラカラと笑う少年に、垣根は思わず声を荒げる。

 怒り心頭といった様子の垣根を暫く楽しげに見つめた少年は、ポツリと呟いた。

 

「……変わったな」

 

「あ?」

 

 怪訝そうに聞き返す垣根に「なんでもねえよ」と手を振りながら、少年は答えた。

 

「――来週いっぱい昼飯を奢れ。それで協力してやるよ、ていとくん」

 

 まるで()()()()()()()()()()()、気軽にそう答えた。

 




もし違和感を感じたらご報告願います。
後半部分が、個人的に少し違和感を感じるんですが、具体的に分からない……。気にならない程度だったらいいんですが……。

ところで大覇星祭って、能力者同士がぶつかり合うあたりにアレイスターさんの思惑が隠されてそうですよね。
不在金属とかいう怪しすぎる案件もありますし……。

ちなみに第一話の加筆修正を行いました。
千文字ちょっと増えました。
原作のとある場面の場所です。興味がある方は是非。


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SYSTEM

前回の更新から三ヶ月以上!すごーい!(白目)


 世界には、必ずこうであると決まっているものが存在する。

 それは死者は蘇らないだったり、一と一を足したら二になるだったり、上から落としたりんごは下に落ちたりだったり、そういったものだ。

 オカルトだが神の定めた『ルール』とでもいえばいいのかもしれない。

 先に述べたとおりこれらは不変のもので、決して変わることはない。

 それこそ、これらの『ルール』を定めた神以外に、変える事など出来るはずもない。

 オカルトの世界には魔神というものが存在しているが、科学の世界にそのようなものは存在しない。

 

 ……だがもし、もし、神ではない存在がそれを変えることが出来るとするならば。

 死者を蘇らせ、一と一を足せば三にし、下から落としたりんごを上に落とす事が出来るのならば。

 新たな法則をこの世界に敷くことが出来るならば、それは――――神のごとき所業といえるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 大覇星祭にて現在行われているバルーンハンター。その競技を、窓のないビルから俯瞰している一人の『人間』がいた。

 長い銀色の髪に、緑の手術衣。

 男性にも女性にも、大人にも子供にも、聖人にも罪人にも見える『人間』。

 生命維持装置を満たす液体の中でたゆやう学園都市の王――アレイスター・クロウリー。

 

「……」

 

 ビルから俯瞰している、と聞けば人間がビルの屋上から見下ろす人間の姿を思い浮かべるかもしれないが、アレイスターは窓のないビルの内部にいる。

 そもそも、アレイスターが窓のないビルから出てくる事例など殆ど存在しない。何故なら、体機能の大半を生命維持装置に預けている『人間』は、極論を言えば瞬きすらする必要がないからだ。

 故に、アレイスターが窓のないビルから出てくる事はない。

 運動も食事も睡眠も、人を人たらしめる要素の殆どを機械に任せている『人間』は、世界で最も健康な状態を保っていた。

 

 そんな、何もするは必要がないアレイスターの視線は、空中にあった。

 彼の視線の先には幾つもの映像《ウィンド》が浮かんでおり、その中で『人間』が最も注視するのはとある一つの映像(ウィンド)

 

「……垣根帝督の経過は良好、か」

 

 口元に薄い笑みを浮かべながら、アレイスターは次々と表示を切り替えていく。機械が脳波を検出する事で、アレイスターは文字どおり微動だにせず状況を把握していた(その状況把握すら機械が行っているため、もはやこの空間そのものがアレイスターと云えるかもしれないのだが)。

 そこに存在するのは、アレイスターと垣根帝督にしか読み取る事の―――否、()()()()()アレイスターと垣根帝督にしか読み取る事のできない特殊な数値。

 それらを視線で追いながら、アレイスターは静かに思考する。

 

(……やはり、多くの能力者同士が相互干渉する事によるAIM拡散力場の揺らぎが『垣根帝督』に与える影響は大きいか)

 

 ――と。

 アレイスターの眺める映像の中で、一瞬だが不可思議な現象が起きた。

 それは学園都市の内部にいる人間の大抵は一目見るだけで目を驚愕に見開き、とある一族なら笑みを浮かべながら実験に乗り出すであろう現象。

 既存の法則(ルール)を真っ向から嘲笑う、現在敷かれている法則を打ち破り、神に叛逆を齎すがごとき、新たな法則。

 アレイスターはその一端を見て、ゆったりと微笑む。

 

(……これを認識した事により、垣根帝督の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』はより強固なものになるだろう。今までではこれを認識する段階に至らなかったが、やはり()()との接触は大きいか)

 

 映像の中で、その事象を知覚したのは垣根帝督くらいなのだろう。

 現在、アレイスターの視界の中には動きを硬直させた垣根の姿が写り込んでいた。

 しかし、アレイスターの意識は既にその画像にはない。

『人間』の視界に、新たな画像が表示される。

 

(虚数学区の観測は完了した。垣根帝督を用いる事で、AIM拡散力場の方向性を決定し、虚数学区へ刺激を与えるまで持っていけるなら都合がいいが……)

 

『人間』が見据える先に何が映っているのか、それを知る事の出来る者はこの場にはいない。

 とあるカエル顔の医者なら……あるいはとあるダンディなゴールデンレトリバーなら、今の『人間』の考えが少しは読めたのかもしれない。

 

(―――足りないな。そもそも物質が独自に作用しているだけで、垣根帝督自身が新たな法則を生み出しているわけではない。……やはり垣根帝督では『第二候補(スペアプラン)』が関の山か。とはいえ、数値を入力せずともAIM拡散力場を無意識とはいえ『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』に組み込んでいる点は『彼』より秀でていると見るべきか)

 

計画(プラン)』の第〇段階とでも言えるものは、既に始まっている。

 それこそ垣根帝督が()()と接触する以前から、『人間』の計画は動いていた。

 

(私の人生を鑑みれば『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を手中に収めたことを含め、こうして複数の道筋を作れる時点で僥倖であるとはいえるのだがね)

 

 今まで通りだ、と『人間』は笑う。

 これまでも、そしてこれからも、『人間』のやる事は変わらない。

 人間の思い通りに事が運んだことなど、人生に一度として存在しない。

 だからこそ、『人間』は複数の『計画(プラン)』を同時並行に進行してきた。

 仮にどこかで行き詰まったとしても――確実に行き詰まるとしても、並行する別のラインに軌道を変更させ、確実に本線に戻し、最終地点へと到達させるために。

 

 ――故に、

 

(垣根帝督。彼には、『第一候補(メインプラン)』とは異なる道を辿ってもらわなければならない)

 

 垣根帝督という存在が、『第一候補(メインプラン)』が外れた時のための『第二候補(スペアプラン)』なれば。

 『第二候補(スペアプラン)』には、『第一候補(メインプラン)』とは異なる性質を埋め込まなければならない。

 垣根帝督では出力も能力の本質も第一候補には大きく劣る。

 だが、絶対条件は満たしている。こちらで調節すれば十分許容範囲には収まるはずだ。

 

(強固なパーソナリティを持つ高位能力者を操るのは困難だが、能力者自身がその方向へ向く可能性を秘めているのなら、その方向へ落とし込むことは難しくない。……さて、)

 

 ――と。

 考え込むアレイスターの視界に、新たな画像が表示された。

 そこに記されている内容を見て、アレイスターは「ふむ……」と悩む素振りを見せ、

 

「……()()()表向きの実験の火種も用意しなければならない、か」

 

 ポツリと、それだけを漏らした。

 

 既に、賽は投げられている。

『人間』は動き出す。自分の掲げる信条のために、その他一切の全てを切り捨てでも、『人間』はそれを成し遂げようとするだろう。

 全てが自分の敷いた盤上を、その手で動かすべく、行動するのだろう。

 

 

 

『だったら私が本物を見せてやろう。半端な神に代わって、正しいルールを見せてやろう』

 

 

 ……それらの行動が、彼の掲げる『もの』とは反するものだと云えるということに、気付くことなく。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

『制限時間となりましたので。競技を終了とします。なお保護者の方々は――――』

 

 競技終了の合図となるアナウンスが鳴ったが、垣根帝督の意識は既に競技に存在していなかった。

 

(……なんなんだよ)

 

 高校の教科書にでも載ってるような現象の数々の名前を脳裏に思い浮かべ、しかし即座に首を振って否定する。

 

(いや、あり得ねえ。()()()()()()()()()

 

 垣根帝督は優秀な頭脳を持つ学生だ。

 そんな彼の頭の中には、大人はもちろん研究員すら度肝をぬくような知識が色々と詰まっている。

 普通の小学生なら「そういうこともあるのかー」などといった風に楽観視したかもしれないが、垣根はそんなお気楽な性格をしていなかった。

 

 競技中は、まだ良かった。

 

 しかし競技が終わり、興奮から冷め始めた状態で改めて思い返せば、思わず背中から冷や汗をかいてしまう。

 

「……」

 

 ゆっくりと、視線を送る。

 そこには、競技によって焦げたグラウンドがあった。

 

「……」

 

 なにも、これだけなら不思議な事ではない。

 大覇星祭で競技を行った後のグラウンドなど、大抵小さなクレーターが出来ているものだ。

 特に、常盤台中学やら長点上機学園の競技が行われた後など、絨毯爆撃でも行われたのかと疑うレベルでグラウンドが抉れる。

 垣根だって、本気で能力を行使すればこれ以上の破壊を撒き散らす事が可能だろう。

 故に、グラウンドが発火能力や電撃操作などの余波によって焦げた程度の瑣末な事で、違和感を感じる人間はいないだろう。

 ……本当に発火能力や電撃操作によって焦げたものなら、の話だが。

 

(なんなんだ、この能力(チカラ)は)

 

 物質を生成するものだと思っていたが、本質は別の場所にあるんじゃないか、そんな事を考えてしまう。

 

 加えて、

 

(……この物質は、()()()()()()?)

 

 なんの、ではなく、どこの。

 何故か一瞬。一瞬だけ、自然とそう考えてしまった。

 

(……?)

 

 首を傾げるが答えは出ない。

 ともかく、今回で自分の生み出す物質の一端は掴めたかもしれない。

 

 異物が混ざれば、世界はガラリと変化する。垣根帝督は、それを大覇星祭という行事で実感していた。

 

 休み時間に行うドッヂボールにしたって、能力を交えれば大きく変化するように。

 

 既存の物質とは全く異なる異物が混じれば、法則は大きく変化するのではないか。

 

 ――神ならざる身にて、天上の意思へと辿り着くもの。

 

 何故か、それらの事が、垣根の頭に浮かんだ。

 

(……チッ)

 

 ムカつく。

 まるでここまで思い至るように、自分の行動が決められているようで、ムカつく。

 誰か()に決められたレールを歩くような、そんな反吐が出るような感覚。

 人間の意思決定は外界からの刺激で簡単に決められるという知識がチラつくのが、腹正しい事この上ない。

 

 高位能力者の自我は強く、その中でも頂点に最も近いとされる垣根の自我の強さは折り紙付きだ。

 自我が強いとはすなわち、自分だけの現実が強いということであり、他人からの干渉を受けづらいことも意味している。

 そんな彼が、意思の方向性を変えられるなど……。

 

「……」

 

 ふと、垣根は目を細めて空を見上げた。

 そこには大覇星祭専用の飛行船が浮かんでいるだけで、特段いつもと変わらない青空だった。

 ……なのに、何故か言い知れぬ違和感が、この身を襲っていた。

 

(バカバカしい。俺の人生は、俺のものだ)

 

 思考を無理やり打ち切る。

 身体の向きを変え、垣根はクラスメイト達の元へと足を運ぶ。

 自分の足で、自分の意思で、彼は歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

 




 何度か作中でチラッと出た『方向性の操作』。
 実は原作でも主要な場面でちょくちょく出てくる物だったりします(虚数学区周り、一方通行、フィアンマの悪意云々、新約四巻、人的資源、第六位、サンジェルマン、上里勢力、魔神)。
 多分割と重大なものなんじゃないかなーと思いつつ、でもこういうのってミスリードだったりするよねー、なんて思ってたり。

 それはそれとしてあんまりのんびりしてたらしらっと作中で矛盾が生まれて気づかなさそうだから早く更新しないとなあ、と思いながらもなんででしょう。更に遅くなる未来が見えました。
 とはいえせっかくの春休み。まとまった時間を確保出来るスペースを作ってアレイスター関連の資料も取り寄せてなんちゃって禁書考察をちょっと真面目な禁書考察に昇華させたいですね(あれ更新……)

 あとタグのバッドエンド、正しくはトゥルーエンドなんじゃないかと思い始めて訂正すべきか頭を悩ませてます。
 この手のエンド系の意味を詳しく知らないんであれですが、歴史通りというかなんというか決められた通りの終わりならトゥルーエンドですっけ(汗)
 まあこの辺後々考えないとですね。
 因みに書かないといけない事だけを詰めるならここが大体折り返し地点くらいです。
 次か次の次で大覇星祭が終わって、前から言ってたように時期が飛びます。

……うん、まあ、このペース(三ヶ月)でも来年の年末には完結するかな!けどフレンダ救済ss(なお考察した結果安易にそれすると下手したら禁書世界は破滅に向かう模様)とかも書きたいから頑張って更新早めますね!


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八話

 投稿するたびに不安しかないのだ…。


「―――じゃあ、『つばさ』とかつくったらかっこよくないですか?」

 

 大覇星祭の第一競技を終え、次の競技が始まるまでの空白の時間に、垣根は燕に尋ねた。

 

 ――なあ、なんかこの能力で作ったら凄そうなのねえか?

 

 その質問の答えが、先の燕の言葉である。

 その返答に、垣根は顎に手を当て考えるような素振りをした後。

 

「…………いや。流石に、それは、どうなん……だ?」

 

 思いっきり顔を引き攣らせながら、垣根は言葉を続ける。

 

「よく考えてみろよ。俺に……翼だぞ? 俺の背中に翼が展開されるんだぞ? ……なんか、色々キャラ的におかしくね?」

 

「むむ。そんなことありませんよ! むかしよんだ本にかいてました! 『てんしにはつばさが生えてる』って!」

 

「関連性が見えねえよ。それだと俺は天使じゃねえか。なんで俺が天使になるんだ天使に」

 

 ていうか天使って……と垣根は内心で呆れる。

 学園都市において、所謂非現実(オカルト)というものは全く相手にされない。

 そもそも、日本という国は宗教観に薄い国だ。何せ、降誕祭(クリスマス)交尾(デート)の日としか感じないような国なのだから。

 そして、そんな国に位置している学園都市はそれ以上に宗教観に薄い。

 そもそもが、科学で構成されたといっても過言でない街だ。非現実(オカルト)の類は信じていない。

『呪文を唱えて掌から炎を出す』なんて言われた日には「異世界人か何かか」と本気で考え込むだろうし、『魔術はあるもん!』とか力説されても「まあ学園都市とは異なる研究機関が独自にパクってるのかもしれないねー」と生暖かい目で返されるのが大半だろう。

 あり得るはずがないのだ。

 天使などという、そんな存在は。

 そんなものがあり得るのなら、この世界の法則は―――

 

「――――、」

 

 ―――頭にノイズが走る。

 

「―――っ、あ―――」

 

「ていとくん!?」

 

 思わず顔を顰めるも、切羽詰まったような燕の声で意識を戻す。

 心配そうな瞳で見つめてくる彼女を安心させるために大丈夫だ、と声を出す。

 

「――――」

 

 ノイズを振り払うよう、頭を左右に軽く振る。

 既に、ノイズはない。

 未だに心配そうな燕に笑いかけ、垣根は口を開く。

 

「つうかなんで天使なんだよ。俺に天使の翼とか全く似合わねえだろうが」

 

「うー、そうですかね? ていとくんならにあうと思いますよ? すこし、まえむきに考えましょう!」

 

「……」

 

 ――まあ、前向きに考えるくらいならいいか。

 

 そう結論付けると垣根は目を瞑って腕を組み、前向きに考えてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 科学に染まりきった学園都市に咲き乱れるは、この街の風景とは不釣り合いな美しい花。

 彼が一歩足を踏み出せば花弁が舞い散り、彼を際立たせるかのように広がっていく。

 少し離れた場所では、彼のよく知る人物たちが万雷の喝采をあげていた。

 それを見て、彼は愛おし気な表情を浮かべる。

 

 ――その姿はまさしく、神々の住む楽園より出でし、天界の片鱗を振るう者。

 

 彼が指を鳴らすと、背中から六枚の純白の翼が展開され、空気を軽く叩けば天使の羽が青く澄み渡る空に舞う。

 

 彼が指揮官のように指を振えば、それだけで天使の羽は空中で光帯を描いた。

 そしてそれを見た、彼の視界に映る人たちが惜しみない拍手を送る。

 

 

 ――そして、ついに彼は天を舞った。

 

 

 その彼を追いかけるように、どこからか顕現したキューピッドが、彼を中心にし弧を描くように翔ぶ。

 

 その光景はまさしく、天上の――――――

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 ――いや意味わかんねえよ!

 

 垣根帝督は思考を打ち切り、そして自分の脳内妄想の酷さからかそのまま崩れ落ちた。

 今の妄想がもし自分の深層心理――すなわち求めている本性を表していたのだとしたら、もう自分は立ち直れない。垣根は確信した。

 幾ら何でもメルヘンすぎる。こんな想像が研究者にばれた日にはメルヘン星生まれの垣根帝督とからかわれるに違いない。

 

「どうでした、ていとくん?」

 

 しゃがみ込み、顔を覗きこんでくる燕に顔を合わせられる気がしない。

 羞恥心から頬を少し朱に染め、目をそらしながら垣根は答える。

 

「……いや、ああ、うん……全く似合ってなかったな」

 

 これは本音である。

 自分の容姿というか性格とでもいうか……心の奥底でそうなりたいと思っているかどうかは別として、自分に似合っているかと言われれば否としか言えない。

 せいぜい、子供(ガキ)ウケが良さそうだなくらいしか思わなかった。この場合、自分が子供であるということは棚にあげる。

 

 が、垣根は燕という少女の性格は理解している。

 つまり、

 

「どうでした、ていとくん?」

 

 無限ループの始まりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果として、垣根帝督はメルヘンになる事を宿命付けられてしまった。

 現在、垣根と燕は屋台エリアからは外れた公園にいた。

 ワクワクといった擬音が付きそうな所作で見守ってくる燕にため息を吐きながら、垣根は「一回だけだからな」と念を押して能力を発動するための思考の海に沈む。

 妄想の中の気持ち悪い自分が浮かび上がるが、全力で消去(デリート)する。

 

 ――直後。

 垣根の背に、一対の翼が展開された。

 

「……」

 

 地味である。

 妄想の中の自分に負けた気分である。

 メルヘンさが減少したことを喜ぶべきか、地味になった事を悲しむべきか。

 まあ六枚だろうが二枚だろうが似合わないから二枚の方がダメージは少ないが……性質としてはハデな物が好きで目立ちたがり屋でもある垣根としては、大いに悩むところだった。

 

 とはいえ、

 

「す、すごいですっ! ていとくん! てんし! むかし本で見たてんしさんみたいですよ!」

 

 こうして瞳を輝かせながら騒ぐ燕を見ていると、そんな細かなことは気にしなくてもいいかという気分になる。

 思わず内心で笑みを浮かべながら、垣根は不遜に言い放つ。

 

「ハッ。天使なんて存在じゃあ収まらねえよ、俺は」

 

 学園都市の住人は宗教観に薄く、神話にも疎い。

 が、それでも軽く知っている事は当然存在する。

 

「そうだな……神になってやろうじゃねえか! SYSTEM(システム)だっけか? この俺が、学園都市の頂点に位置してやる」

 

 天使は天――神の使い。

 それは即ち、神に命じられた事をこなすだけの機能ではないか。

 自分はそのような器ではない。

 天使自体非現実(オカルト)ではあるがそれでもどうせなら神がいい、と垣根は思う。

 

 

 その言葉に燕は更に「すごいすごい」とはしゃぎ、垣根は「そうだろうそうだろう」と頷く。

 

(まあ神なんて全く信じちゃいえねが)

 

 少し前の自分なら、「いるかもな」くらいは言っていたかもしれない。

 なにせ、自分の事を「天才」だと認識していたのだから。

 天才。即ち、天により授けられた才能。 選民思想とでも言うべき思考に囚われていた過去の自分なら、あるいは神という存在を認識したのかもしれない。 この世は強者と弱者に分けられていて、両者の間に隔てられている壁は努力などという無駄な行為で乗り換えられるものではないと。 その当時の荒んでいた自分なら神の存在を否定はしなかったかもしれない。

 

 ――が、今はそうではない。

 

 垣根はこの短い期間に様々な事を学んだ。

 人の人生に決められたレールなどというものはなく、努力次第でどうにでも出来るのだと。

 確かに、ハードル自体はそれぞれによって異なるのかもしれない。

 しかし、それでも諦めなければ絶対に越えられないというわけでもないと垣根は思う。

 それに、諦めるのも一つの選択肢だと思う。何故なら、人には得手不得手があるからだ。

 以前までの垣根なら能力値(レベル)だけで完全に見下していたが、今の自分はそうでもない。

 

(……燕には感謝しねえとな)

 

 恥ずかしくて言えないが、それでも大切な事を学ばせてくれた事に心の中で感謝を。

 あのまま何もせず生活を送っていたら、学校やみんなから学んだキラキラとしたものを見つけることなんて出来なかったかもしれないのだから。

 

 神に定められた『ルール』なんてものはないのだ。

 もし、そんなものがあるならば―――

 

 

 

 

 ―――と。

 燕が「そういえば」と居住まいを正して、

 

「―――似合ってますよ! ていとくん!」

 

「――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と、その時の燕の表情を、垣根は忘れない。忘れられない。

 




 大覇星祭編完結です!
 次回から時間が飛びます。物語の終了が見えてきました。


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終章 虚数学区 Dark_Matter.
九話


導入部分なので短めです。
思った通りに書けないのはスランプなのでしょうかね……。


「……どれだけ暗い世界にいようが、必ずそこから連れ戻す、だと……」

 

 血の色に染まった世界の中。彼は起き上がるべく全身に力を入れる。

 身体が軋んで悲鳴をあげるが、そんな事を気にする余裕はなかった。

 気にすることなど、できなかった。

 その言葉は、その言葉だけは、断じて認めることが出来なかった。

 

「ふざ、けんなよ……」

 

 そしてその言葉で、そんなもので自分の手を止めた一方通行(アクセラレータ)も、彼は認めることができない。

 全てが、全てが邪魔だった。

 この不条理な世界の全てが、憎かった。

 

「出来る訳ねぇだろうが!!」

 

 吼える。

 

「これが俺たちの世界だ!!」

 

 感情のままに、理性を解き放って、獣のように彼は吼える。

 

「闇と絶望が全てを呑み込むクソみてえな世界だ!!」

 

 整合性の取れない。支離滅裂な言葉だった。

 

「結局テメェは俺と同じだ! 誰も守れやしない!!」

 

 八つ当たりでしかないことを理解する思考すら放棄して、怒りと悪意だけが先行して、彼は無自覚に言葉の暴力を振るう。

 言葉の刃が、目の前の男を叩き潰す。

 

「これからもたくさんの人が死ぬ! 俺みたいなやつに殺される!」

 

 そしてゆっくりと、彼は身体を引きずりながら目的の場所へと歩む。

 即ち血の海に沈む黄泉川愛穂の元へと。

 そして―――

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ツバメという鳥は、神話においてある役割を担っていたとされている。

 

 世界には、神々の住まう世界と人間達の住まう世界が存在する。

 これらは全く異なるものだが、しかし交差していた時代も確かに存在したのだ。

 そしてその影響は、現在でも宗教あるいは神話として、フィルターを通して根付いている。

 

 例えば、ギリシャ神話のオリンポス。

 例えば、北欧神話のアースガルズ。

 例えば、

 例えば、

 例えば、

 例えば―――学園都市の虚数学区・五行機関。

 

 繰り返すがこうした神々の世界と、人間達の住まう世界は異なる。

 

 そしてこれらを、ある道に携わる者達はこう定義していた。

 

 ―――『位相』。

 

 即ち、現実世界に影響を及ぼす異世界。

 本来ならばこれら位相と現実世界は交わることなどないのだが、何事にも例外は存在する。

 

 そんな例外のひとつが―――ツバメという鳥だった。

 ツバメという鳥は、現実世界の異世界を行き来できる神秘的な存在とされていた。

 つまり、ツバメは学園都市風に言うならば『神ならざる身にて、天上の意思に至る』その可能性を秘めているのだ。

 

 世迷言だと、余人は嘲笑うだろう。

 だが、とある『人間』はこれに着目した。

 あらゆる事態を想定し、あらゆる事態に対応できるよう幾つもの計画を並列に進行させる『人間』は、僅かであろうと可能性が存在するならばと。

 それを切り捨てる事なく掬い上げたのだ。

 

 

 

―――科学(虚数学区)魔術(ツバメ)が交差するとき、物語は始まる。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 あれから時は流れ、かつては小学生だった少年もついには中学の終わりを迎える時期が近づいていた。

 

 時間が経つのは早いものだ、などと少年―――垣根帝督は薄く笑いながら校舎を出た、

 

(あっという間だったなあ)

 

 制服を軽く着崩して、正門前に設置されているベンチに腰掛ける。

 そうして懐から携帯電話を取り出すと、電話帳から『長谷川燕』の名前を選択し、コールを鳴らした。

 

「……」

 

 電子音がしてから暫く、垣根の耳朶を少女の優しい声音が叩く。

 

「おーっす燕ー。久しぶりだな」

 

『お久しぶりです! ていとくんっ!』

 

 まだ『ていとくん』か、と思わず呆れながらも悪い気はしない。

 むしろこの少女はこうでなくては、と思っている自分がいる。

 小学校卒業後、燕と垣根は別々の中学に入学した。

 垣根はコミュニケーション能力もとい社会適合スキルを磨くために、燕は自身の能力を向上させるために。

 彼らは自分たちのことを考えて、敢えて異なる中学に入学したのだ。

 勿論その後も度々会ってはいたのたが、この一年は高校受験のこともあって疎遠になっていた。主に燕が頭を抱える的な問題で。

 一度垣根が教えようと提案したのだが、燕に断られて割と本気でヘコんだのは余談である。

 

「んで、受験はどうだったんだ?」

 

 今日は学園都市において、高校の合格通知が届く日である。

 今日垣根が久しぶりに燕と連絡を取ったのも、その事について尋ねたいからだったのだが。

 

『……え?』

 

 燕の口から告げられるは、想定外ですといった風な言葉。

 これには思わず、笑いながら尋ねた垣根の口も閉ざされる。

 

(……まさか、落ちたのか?)

 

 たらり、と冷や汗が額を伝った。

 

 万が一燕が不合格で、触れて欲しくない部分だったとして、それをダイレクトに尋ねた自分は果たしてどれだけ畜生なのだろうか。

 ていうかそもそも、その手の話題を振るのはNGなのではないのだろうか。

 中学三年間で培ったと自負していたコミュニケーション能力は一体なんだったのか、と垣根は天を仰いだ。

 所詮、コミュ障はどこまでいってもコミュ障なのだろうか。

 

『えっと……合格発表はまだなのでは?』

 

 燕の心を傷つけた以上、俺は自決も辞さない―――という仰々しい覚悟を決めかけていた垣根であったが、続けて告げられた言葉になんとか復活する。

 

「……いや、今日が合格通知の届く日じゃねえのか? なんか特殊な学校だったりすんの?」

 

 霧ヶ丘女学院あたりなら、他の学校と日程をずらしててもまあおかしくはねえのか? なんてぼんやり考えていると。

 電話の向こう側から、慌ただしい物音が聞こえ始める。

 

(―――ああ、これ今日が発表だって忘れてただけだな)

 

 電話の向こう側の様子が、鮮明に脳裏に浮かぶ。

 多分今頃転びながら学生寮のドアを開け、ポストに猛ダッシュしているところだろう。

 かくして燕の口から再び言葉が発せられた時。その結果に垣根は心の底から安堵し、そして喜んだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 第七学区のファミレスのテーブルのひとつで、垣根は頬杖を付きながら目の前の光景に唖然としていた。

 

「いやお前、お子様ランチって……」

 

 垣根の言葉通り。

 彼の眼前に広がるのは旗の立ったオムライスを中心に添えたお子様ランチと、それを美味しそうに頬張る少女の姿だった。

 垣根は勿論目の前の少女も、あと二ヶ月もすれば華の高校生になる。

 子供というよりかは大人に近い年齢になるというのに、お子様ランチは如何なものなのだろうか?

 目の前の少女の事となると寛容になる垣根でさえ、疑問に思わずにはいられない。

 対して、垣根の目の前の席に着いている少女。即ちお子様ランチを食している本人である長谷川燕は、不思議そうな顔で言う。

 

「……? 中学生はセーフって書いてますよ?」

 

「いや、まあ、そうだが……」

 

 歯切れ悪く肯定する垣根に、ますます不思議そうな瞳をする燕。

 疑いようもなく、彼女は純真無垢な瞳をしていた。

 そしてそんな燕の瞳を真正面から見た垣根は思わず戦慄する。

 この少女は、未だに穢れを知らぬ純白の天使だと言うのか。そんな奇跡の存在がこの世の中にいていいのか。こんな腐りきった世界にこのような天然記念物がいるなどそれはこの身を賭してでも守らなければならない―――などと思考がズレ始める。

 

「……まあ、いっか」

 

 本人が幸せそうにお子様ランチを食しているのだ、偏見で諌めようなど無粋である。

 自分のように中二病になっていないだけ全然マシなのだ。うん。きっと。

 

『―――ていとくん。流石に毎日三食コーヒーは体に悪いですよ?』

 

 あの一過性の悪夢に終止符を打った燕のセリフは、今でも鮮明に思い出せる。

 同時にどこぞの白髪の少年が吐血した光景が何故か目に浮かんだが、まあ気のせいだろうと捨て置く。

 

「にしても、まさか燕が長点上機学園か」

 

 まさか自分と同じ学園に進学するとは、正直かなり予想外であった。

 そう言うと、燕は薄く微笑みを浮かべて。

 

「ふふふ。ていとくんの横に並び立ちたいですからね」

 

「…………そっか」

 

 そこでその笑顔は反則だろ、と思いながら思わず顔を逸らす。

 

 燕がこんなことを言い出したのは、とある能力者が『超能力者(レベル5)』に至ったと言う電撃ニュースを目にしてからだ。

 垣根や他の『超能力者(レベル5)』のように最初から高位の能力者だったのではなく、『低能力者(レベル1)』から『超能力者(レベル5)』に上り詰めたというのは、学園都市始まって以来の異例だ。

 そのニュースによって、どれだけの能力強度の低い学生達が励まされたことだろう。

 

 才能がなくとも努力次第でなんとかなるという実例が、ついにその目に現れのだから当然の帰結ではあるのだが。

 燕は勿論のこと、自分こそが学園都市最強だと思っている垣根でさえも、そのまだ見ぬ少女には敬意を示していた。

 

「私も今では大能力者(レベル4)ですし、もっともっと頑張れば、ていとくんに届きます!」

 

 そうにこやかに笑う少女に、垣根も不敵な笑みをもって答えた。

 

「ま、期待しないで待ってやるよ」

 

「むう。ていとくんはイジワルですっ」

 

「……くくっ」

 

「……ふふっ」

 

 なんでもない有り触れた日常。

 

 それを、二人は心の底から楽しんでいた。

 

 




禁書三期……三期はまだですかね……


あとモチベ維持のために他の原作キャラ出したい……ということで結末はそのままに……ちょっと流れを……


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