Fate/Zero 聖娼婦とおじさん (八神っち)
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英霊召喚

 雁夜おじさんを救いたい勢の作者が必死にキーボードを叩いて書いた作品だよ。


 聖杯戦争・・・それは7人のサーヴァントとそれを使役する魔術師達による万能の願望機を巡る血塗られた歴史。此度で4度目になるその争いの参加者の一人、間桐雁夜が蟲に体を蝕まれながらも召喚の準備を行っていた。

 

 

「おいジジィ……本当にこんな触媒で大丈夫なのか?」

 

「カッカッカッ!心配するでない雁夜よ。その石板はかつてのウルクにて採掘された物語の一幕が書かれた物だ。さぞ強いサーヴァントを召喚出来るであろう」

「チッ……!」

 

 

 舌打ちするもこの戦争では強力なサーヴァントを引き当てなければ勝ち目は無い。情報によれば自身の娘である桜をこの地獄に叩き落した「遠坂時臣」もこの戦いに向けて強力なサーヴァントを召喚出来る触媒を準備している。

 

 

「おい、もう一度確認するぞ……俺が聖杯を獲得してお前に渡したら桜ちゃんから手を引けよ」

 

「ああ約束しよう。孫の頼みを聞き入れるのも親の務めじゃ」

 

「……残りのクラスは確かキャスターとバーサーカーだったか?」

 

「そうじゃ。ワシとしてはバーサーカーを薦めるがのう」

 

「……フン!」

 

 

 ニヤニヤとバーサーカーの召喚を促す臓硯の意見を聞き流し後ろで見ている桜に視線を移す。濁って死んだ目をしている大事な人の娘を日常に返す為に召喚の陣の前に立ち詠唱を始める。

 

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 

 魔力が急造の回路を熱する。その痛みに耐えながらも詠唱を続ける。

 

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する―――――Anfang」

 

 

 魔力に体が耐えられなくなり腕から血が噴き出る。それでも尚詠唱は続く。

 

 

 「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

 虫による魔力も少なくなっていき、それに伴い意識も遠のいていくが自身の事など構わないとばかりに確かな意志を持って最後の詠唱へと至る。

 

 

 「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」

 

 

 詠唱を終えると召喚陣を中心に魔力の奔流が始まる。それが渦となり一帯の軽い物を吹き飛ばすそうして渦が収まると陣の中心には一人の女性が立っていた。その女性はこの汚く暗い部屋には似つかわしくない黄緑の綺麗な髪と全てを魅了する一糸纏わぬ体を持っていた。目を開き柔らかい声色で告げる。

 

 

「サーヴァントキャスター、召喚に応じ参上しました」

 

 キャスターは周りを見渡して召喚の疲れで座り込んでいる雁夜の手の甲に出現した令呪を確認する。召喚に成功した喜びとこんな女性で戦えるのかという不安が混じる表情を浮かべる雁夜に近づき手を差し伸べる。

 

「問いましょう――――貴方が私のマスターですか?」

 

 差し伸べられた手と朗らかな笑顔を二度見返した後、その手を取り弱弱しくも答える。

 

「ああ、俺がアンタのマスターだ……うっ」

 

 

 そう告げると同時に雁夜は気を失う。それを見てあらあらと慌てる様子もなくしゃがみこみ頭をなでる。

 

 

「こんなに体をボロボロにして……早く休ませないといけませんね。それで……」

 

 

 状況を理解しようと周りの人物に尋ねようとするがただ何も言わずたたずむ臓硯と自身に意思が無いかのように近づいてくる桜。あら?と疑問に思い様子をうかがっていると、顔がキスの寸前の距離まで近づくと桜が大きく口を開けるとそこから蟲が飛び掛かる。

 

 まるで魅了されたかのようにキャスターの肌に張り付き魔力を吸い取る。だがその魔力に触れた瞬間に蟲は浄化され消滅する。そうして消滅した数舜後に臓硯がうめき声と共に体が崩壊していく。

 

 

「ぐぅ……一体何が……起こったんじゃ?蟲の制御が出来んかった……!?貴様!一体何をした!?」

 

 

 唐突に核である蟲が消滅した原因であろう雁夜が召喚したキャスターに尋ねる。尋ねられたキャスターは素直にその問いを返す。

 

 

「私の体に魅了された蟲が神聖な魔力によって浄化された、それだけですよ?……まさか消滅まで至るとは思ってませんでしたが」

 

 

 その答えを聞いた臓硯が憎悪をぶつけるが時すでに遅し。油断はあった、何のサーヴァントが召喚されるかはある程度分かっていた。それでも令呪があると御しきれると思っていた。単に対策が不足していた……いや対策していても無駄だったのだろう。何せ相手はかの英雄王の友……神の泥を魅了した者。最後まで生へすがりつきながら臓硯がその真名を口にする。

 

 

「おのれ……おのれシャムハト!」

 

 

 完全に体が崩壊し500年の執念はそこで幕を閉じた。キャスターは何で恨まれているのか理解出来ないままその最後を見届ける。蟲を吐き出し気を失って倒れ込む桜を抱き留め自身のマスターと共に部屋から出ようと立ち上がろうとする。体に纏わりついて魅了し浄化されていく蟲を気にも留めずに。

 

 

 

「……ハッ!ここは?確かサーヴァントの召喚に成功してそれで……」

 

「気が付かれましたかマスター?」

 

「キャスター!俺はどれ位寝ていた!?」

 

「丸二日と言った所でしょうか」

 

「二日!?聖杯は?桜ちゃんはどうなっている!?ぐぅ!」

 

「無理しないでくださいマスター。ただでさえ体がボロボロなんですから」

 

「俺の事なんかどうでも……」

 

 

 そこで雁夜は自身の体の変化に気付く。顔の爛れた皮膚はそのままだが上半身には丁寧に綺麗な包帯が巻かれている。そして体内に居た蟲が全て取り除かれているにも関わらず魔力も程良く流れている。それだけでは無く屋敷全体の薄暗さが、蟲の気配がこれっぽちも感じないのだ。

 

 

「おいキャスター……臓硯は……あの妖怪はどうした?」

 

「……?ああ、あの蟲の事ですか何か勝手に消滅しましたよ」

 

「消滅?あいつがか?キャスターお前がやったのか?」

 

「まぁ……私がしたという事になるんでしょうかね」

 

「一体どうやって……いや、それはいい。そろそろ姿を現せ」

 

「わかりました」

 

 

 霊体状態を解除する。それは召喚した時と同じ一糸纏わぬ姿であった。ガッツリと裸体を見た雁夜はかぶっていた毛布をキャスターに投げつけ前を隠すように命じる。それに従い毛布を体に巻き話を再開する。

 

 

「それでキャスター、俺が気絶した後何があった?」

 

「何がですか……しいて言うならこの屋敷に居た蟲が私に群がって全部消滅した後、マスターに治療と魔力の供給を施して一緒に居た少女の世話をしていただけですね」

 

「!?桜ちゃんは無事なのか!?」

 

「魔力の濁りは浄化されたのですが記憶と心までは……あそこまでの苦しみはそう簡単に抜けないかと」

 

「お前……まさか記憶を」

 

「魔力の供給の際に少し覗きました」

 

「そうか……いやそれは別に良いんだ。よくやったキャスターありがとう」

 

 

 桜の無事に驚きながらも嬉しさでその頬を緩ませる。憂いが無くなり安心していると扉が控え目に開かれる。そこには件の桜が顔を覗かせていた。

 

 

「シャムハトさん、雁夜おじさんは目を覚ましたんですか?」

 

「桜ちゃん……!ああ見ての通りだ。良かった……よかった」

 

「雁夜おじさん……」

 

 

 お互い間桐の呪縛からの解放に喜びを顔に出し抱きしめあう。それを微笑ましそうに眺めるキャスターにお礼を述べた後、互いに自己紹介を始める。

 

 

「知ってるかもしれないけど、俺は間桐雁夜、一応お前のマスターだ」

 

 

「桜さんが申したと思いますが、真名シャムハトと言います。好きなようにお呼び下さいマスター」

 

「キャスター……いいやシャムハト短い間だけどよろしくな」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 

 聖娼婦・シャムハト。世界最古の英雄譚ギルガメッシュ叙事詩で登場する、神イシュタルに仕える女性の名前。主人公ギルガメッシュの友である神の泥エルキドゥを獣から人に変えた逸話で有名である。

 

 

「それでシャムハトは聖杯を手に入れて何か望みでもあるの?」

 

「私ですか?これと言ってございませんね。王や神に仕える身でしたので生活に不自由はありませんでしたし」

 

「そっか。俺も臓硯が居なくなった今、聖杯に望みなんて無い。後は桜ちゃんを葵さんの元へ送り届ければそれでいいかな。俺ももう長くないからね」

 

「雁夜おじさん……シャムハトさん……」

 

 

 聖杯戦争が終わればサーヴァントは現界が困難になる。如何に魔力が膨大なキャスターのクラスをもってしてもである。自身の恩人が消えるなんて考えたくない桜であるが、それが少し顔に出ていたのか雁夜が頭をなでて諭すように言う。

 

 

「桜ちゃんはこれから家族と幸せになるんだよ。凛ちゃんや葵さんと一緒にね」

 

「……です」

 

「あ、その前に時臣にはガツンと言ってやらないとね」

 

「……やです」

 

「ごめんね、おじさんは最後まで付き添えないけど」

 

「嫌です!」

 

「桜ちゃん?」

 

 

 そこには当の昔に枯れたと思っていた涙を溢しながら雁夜とキャスターにすがり付く桜が居た。泣いた幼い少女はお願い(わがまま)をする。

 

 

「嫌です……一緒に居て下さい。雁夜おじさんもシャムハトさんも……もう別れなんて嫌です。ですから!……ですから……」

 

「桜ちゃん……」

 

 拙く、上手く言葉に出来ない。それでも本心を伝える少女を見て困り顔の雁夜。キャスターは桜のお願いを聞き告げ口をする。

 

 

「マスター。お互いに聖杯への願いが出来てしまいましたね」

 

「シャムハト……そうだな。勝とう」

 

「ええ」

 

 少女の願いを叶えるために2人の聖杯戦争が今、始まる。




 とりあえずこんな感じです。

 一応バーサーカー枠なんかも考えてますが続くかどうかは分からないゾ!


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状況整理

 むむむ……やはり2次創作は難しい


 聖杯戦争への決意を新たに雁夜はキャスターに飯(流動食)を作って貰い、それを食べながら現在の状況の確認を行う。

 

 

「シャムハト、今はまだ聖杯戦争の開始は宣言されて無いんだな?」

 

「はい。未だにバーサーカーの召喚が行われていないため監督側からの宣言はございません」

 

「そうか。それでシャムハトは聖杯戦争についてどれ位知っている?」

 

「聖杯から与えられたルールと知識分だけですね。相手の情報とかはさっぱりです」

 

「相手に関する情報は無しか。じゃあシャムハトはサーヴァントとして何が出来るんだ?」

 

「サーヴァントとしてですか?そうですね……」

 

 

 自身のステータスを確認しながら出来る事を伝わりやすい様に配慮して一つずつ上げていく。

 

 

「私が出来る事は前提の超効率の魔力の供給を除き、大体3つだと思ってください。まず、人ならざる者もしくは狂化やそれに属するスキルを持つ者への強力な魅了ですね」

 

「人ならざる者への魅了……か」

 

「はい。そして魔力の浄化、又は狂化及びそれに属するスキルの解除。こちらは魔力を供給する必要があります」

 

「魔力の浄化……成程それであのジジィを」

 

「普通なら消滅まで至らないのですが……それは置いときましょう」

 

「ああ、すまない続けてくれ」

 

「3つ目は魔力の供給を行った相手との記憶・知識の共有ですね」

 

「……その3つだけなのか?」

 

「陣地作成や道具作成には期待しないで頂けると幸いです。あとは宝具なのですが」

 

「何か問題があるのか?」

 

「2つあるのですが、1つは発動したら長時間マスターの傍を離れる事になってしまい、その間マスターが無防備になってしまいます」

 

「マスターである俺が狙われたら危険だと」

 

「そうです。そしてもう1つの宝具がその宝具を発動しないと使えない物でして……」

 

「その宝具でサーヴァントを相手どれるのか?」

 

「ほぼ勝てるかと」

 

「大きく出たね。やっぱり俺のサーヴァントは最強なんだ」

 

「慢心はダメですよマスター。宝具以外は戦闘向きじゃ無いんですから」

 

 

 雁夜をなだめながらもキャスターは自身の事をふまえて今後の行動に2つの案を出す。

 

 

「戦争の間、屋敷で相手が減るのを待つ。安全策ですが陣地作成が出来ないので、複数の相手から一度に狙われるとキツいですね」

 

 

 普通のキャスターなら陣地作成の能力での神殿構築で穴熊を決め込む事が出来るのだが、雁夜のキャスターはその戦術が不得手である。そこでもう1つのキャスターらしい戦い方を提案する。

 

 

「そこで他のマスターと同盟を組んで戦うのが2つ目の案です。こちらが魔力の補助を行い戦って貰う。こちらの案のリスクは言うまでもなく同盟相手の裏切り行為ですね。契約によって不可侵の締結を許可して貰えるのが必須でしょう」

 

「キャスターとしてはどちらの案が良いと思っているんだ?」

 

「どちらもリスクが存在しますがマスターの寿命を考えると後者で短期決戦を申し出たいのですが……コレは相手を見てからでも遅くないかと」

 

 

 桜の願いの1つである雁夜の生存だがこちらはリミットが存在する。バーサーカーの召喚がいつ行われるか分からない以上、悠長に構えてられないのが現状である。

 

 

「そうか……そうだね。ひとまず方針としては相手の情報を集めながら同盟相手を決めて同盟を組む。これで行こうか」

 

「マスターの意のままに」

 

 

 その後、同盟を組むにしてもこの土地について知らないといけないのとキャスターの服や食料の購入の為に一旦買い物がてら冬木市での探索を行う。

 

 

「それにしてもシャムハトは俺のシャツとズボンでごめんね」

 

「いえ、ご配慮感謝します。雁夜さん(・・・・)

 

 

 人前でマスターと呼ぶのはおかしいという事で名前で呼ぶことになったキャスターであるが、その恰好が下着なしのYシャツと男物のズボンと街を歩くには少し煽情的な姿である。たわわに実っている胸に視線を集めながらもそれを気に掛ける事無く雁夜に話しかける。

 

 

「それにしても知識としては知っていますが実際に見てみると人類の進歩はすごいですね。ウルクとは大違いです」

 

「時代が違うからね。気に入ったかい?」

 

「空気の汚れを除けば気に入りました。人々がこんな安心しきった顔で生活できるのは喜ばしいことです」

 

「普通に暮らす分には不自由が無い国だからね」

 

 

 他愛ない事を話しながらも近くのデパートに到着し、洋服の購入を行う。途中で雁夜が彼女ですか?と尋ねられたのはご愛嬌である。

 服の購入を完了させ、現在の恰好は地味な緑のワンピースとカーディガンとまるで思い人を投影したかのような洋服のチョイスであった。

 

 

「これが遠坂……桜さんの元の家ですか。随分裕福に見えますが」

 

「ああ、実際裕福なんだ……本当は桜ちゃんがあんな地獄に行かなくても良かったのにっ!」

 

「雁夜さん……」

 

「あら?雁夜さんじゃありませんか」

 

 

 憎まし気に屋敷を睨みつけていると横から声がかかる。そちらに視線を向けるとキャスターと似た格好の女性が立っていた。

 

 

「あら?そちらの女性は彼女さんですか?雁夜さんも隅に置けませんね」

 

「葵さん……いやこの人は……」

 

 

 言い淀む雁夜を見かねたキャスターは誤解の無いように自己紹介を行う。

 

 

「どうもシャムと申します。雁夜さんとは向こうで知り合い、日本の観光を行う際に泊めてくれると言って貰ったので泊まっている所です」

 

「あらあら外国から……流暢な日本語ですね。私は遠坂葵と言います。雁夜さんとは昔からのお友達(・・・)でこの屋敷の持ち主の妻です。桜は元気に(・・・)していますか?」

 

「……ええ桜さんは元気ですよ」

 

 

 悪意無く雁夜の地雷を踏み抜く葵にキャスターは内心で苦笑いしながらもそれを悟らせない様に返す。チラリと雁夜の顔を横目に見やると哀愁と憎悪が入り混じった表情を浮かべていた。

 

 

「では、私達はこれで。機会があればまた会いましょう」

 

「あ、はい。いつでも遊びに来てください」

 

 

 雁夜の暴走も配慮して早々に屋敷から離れる事にしたキャスター。なお、キャスターの存在は葵から時臣に伝わるのは1時間後の事であった。

 

 そんな事がありながらも3日後、バーサーカーの召喚が確認され聖杯戦争の開始が宣言された。




 シャムハトの能力は逸話の超独自解釈の結果です。今のFateならこれ位いけるだろうと思いました。
 シャムハトの超ピンポイントすぎる能力でどう戦っていくのか……次回を待て(書くとは言ってない)。

最後にシャムハトのステータスだけ公開

【CLASS】キャスター
【真名】シャムハト
【性別】女性
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力E 耐久C 敏捷E 魔力A+ 幸運B 宝具A
【クラス別スキル】 陣地作成E 道具作成D
【スキル】 魔力譲渡A 魔力浄化A+ 狂化解除EX フェロモンA
【宝具】『???』B 『???』A

 スキル的には冬木や月のタイマンやそれに近い形は不向きで、どちらかと言えばアポやGOの大戦方式の方が向いている感じですね。
 スキルは文字の通りの効果です。記憶・知識の共有は魔力譲渡の中に含まれています。


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狂者襲来

 その少女が求めたのは唯々母の存在であった。無垢な殺人鬼は自身の母を探しながら狂ったように殺戮を続ける。だが少女にその良し悪しは分からない。なぜなら少女は……生まれる前に死んだのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 狂者襲来

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖杯戦争の開始が宣言されてから最初の夜、雁夜はキャスターと共に街へと繰り出していた。

 

 

「なあキャスター、何かあったのか?どの陣営も最初の2、3日は動かないって言ってただろ?」

 

「少し状況が変わりました。それに確かめたい事が出来ました」

 

「確かめたい事ってさっきやっていたニュースの事か?」

 

 

 雁夜は先程やっていたニュースの内容を思い出す。それは女性が腹から股にかけて切り開かれ子宮を抉り取られた変死体で発見されたというモノである。それだけを見ればただの殺人事件であるが、それが4件起きていて目撃証言も無ければ、女性の共通点も無い、極めつけは……

 

 

「どうやって切り開かれたのか、凶器が分からないんだっけ?」

 

「その通りですマスター。同じ角度で寸分違わず全く同じ切り口で切り開かれていたんです。しかも縛られた……抵抗した跡も無く上の服は無傷のままバッサリと」

 

「それがサーヴァントによる物だと言いたいんだな」

 

「はい。しかも最初の犯行が陽がほとんど沈んだ夜……召喚確認から1時間です。聖杯戦争は基本深夜に近い時間から始めるのにも関わらずこんなに堂々と。野放しにしてしまうと今後も被害が増えるでしょう。こんな事をするクラスはおおよそ1つしか無いでしょうから」

 

「バーサーカー……か」

 

「相手のマスターがどの様な理由で殺害を命じているのかは分かりませんが、止めておくには越したことは無いかと」

 

「キャスターはバーサーカーを止めるのに向いているからね。っと着いたね。ここが……」

 

「最後に事件があった場所です」

 

 

 警察による黄色と黒のテープが張られた現場では血の跡がこびりついていた。ここに来たのは魔力の残留を確かめる為であった。キャスターが手の平を翳し目を瞑る。そうしていること10秒で解析が終わったのか目を開く。

 

 

「私と同じ魔力の反応を感知しました。ほぼ間違いなくサーヴァントによる犯行です」

 

「そうか。それで辿れるのか?」

 

「何とかやってみます」

 

 

 神秘の秘匿が第一である魔術師の間でこんなにもあからさまに殺害されていると聖杯戦争の一時中止も起こってしまう。時間が無いキャスター達にとってそれは最も避けたい事柄である。

 魔力を感知しながら辿っていくとそこには5人目の遺体があった。その横にはその女性の子宮と思われるモノを手を血で真っ赤に染めながら持っているボロボロのマントを着けた幼い少女がいた。

 

 

「おかあさん……ねえ、あなたがわたしたちのおかあさん?」

 

「マスター下がって」

 

「ああ」

 

 

 相手がバーサーカーである以上問答無用で魅了にかかっている、だがそれでも警戒を解くことが出来ない。ゆっくりと近づいてくるバーサーカーはその子宮を見せながら話しかける。

 

 

「ねえおかあさんみて、これがわたしたちのいえだよ。とりかえしたよ」

 

「……そうですか。よく出来ましたね」

 

 

 母親の様な優しい声色で近づいてきたバーサーカーに答える。褒められたと感じたバーサーカーはその歩を早める。そうしてキャスターの手が届きそうな距離まで近づき腕を上げて子宮を顔の前まで持ってくる。血の匂いがキツいがそれを気にせずに手を血に染めながら子宮を受け取る。

 

 

「えらいですね。よしよし」

 

「えへへ、おかあさんにほめられた。おかあさんいっしょにおうちにかえろう」

 

 

 頭を撫でられたバーサーカーは嬉しそうにしながら、おもむろに腰からナイフを取り出しキャスターの服を切り裂く。スカートと下着を切られて下半身を晒すと同時にキャスターの女性器にバーサーカーは吸い付く。

 

 

「おかあさん……おかあさん……おかあ……さ……」

 

 

 性器から流れ出る体液を吸った瞬間バーサーカーの反応が変わる。成仏していくように元気が無くなっていく。キャスターの魔力を吸えば吸うほど体が拒絶を起こすがそれでも止まらない。魅了されたから止めれない。そうして1分も満たない時間でバーサーカーの意識が断たれる。

 

 

「この子も悪霊の類でしたか……消えない様に調整しましたがどうしましょうか」

 

「キャスター大丈夫か!?」

 

「私は問題ありません。しいて言うなら服が破けてしまいました」

 

「そうか……無事でよかった。バーサーカーは?」

 

「気を失いました。浄化による負荷が強かったのでしょうね。それにしても……」

 

「どうした?」

 

「この子の記憶を読み取ったのですが、マスターは既に死んでいます……召喚してから30秒で殺されました。それに生前の記憶というモノが1つもありません」

 

「マスターが死んだ?」

 

「はい。とは言っても令呪は切り取って持ち運んだ様です」

 

 

 マントの下のナイフをしまう場所に令呪が刻んである手が筋肉を糸替わりに使って縫い止められている。狂化と精神汚染の解除は完了しているバーサーカーを抱きかかえ雁夜に尋ねる。

 

 

「さて、どうしますかマスター。この子を仲間に引き入れますか?」

 

「そうは言ってもマスターはどうする?キャスターがなるのか?」

 

「私の魔力をマスターとして流したら消滅するかと。そうですね……桜さんに協力して貰いますか」

 

「桜ちゃんに!?ダメだそれは!」

 

「それではマスターがなりますか?魔力の供給は私の魔力をマスターの魔力に変換する形で。戦力が多いに越したことはありません」

 

「出来るのか?」

 

「恐らく」

 

「……この戦争に勝つためだ、何だってしてやるさ」

 

「そうですね」

 

 

 例えそれがサーヴァントだとしても子供を戦わせる事になったとしてもである。

 なお、その後遠坂家にアサシンが侵入し撃退されたが魔力の供給を行っていた雁夜達は知る由は無かった。




 バーサーカーはジャック・ザ・リッパー(幼女)になりました。触媒としてはそこらに無数の子供の死体があるため妥当と判断しました。
 
 アサシンクラスでは無いため気配遮断も無く、狂化&魅了状態のため宝具は縛っているため弱いっちゃ弱いです。
 
 ジャックが浄化で消えないのは完全にご都合主義です。……一応理由を付けるなら消えない程度に魔力の譲渡を抑えていたシャムハトさんの技量という事にしといて下さい。伊達にランクAでは無いのです。


 聖母解体の条件の1つである夜と最初の犯行ですが、聖杯戦争の開始は11月とあり、その頃には6時にはもう暗くなり始めていると判断し夜にしました。


 さて、次は港での一幕なのですが……ここで1つのルート分岐で原作に近い形で進めるか、原作?何それおいしいの?的な宝具解放ルート(作者的にMSNルートと呼びたい)のどちらが良いのか迷っています。はてさてどっちを書こうか……。


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幕間その一

 ほのぼの回


 バーサーカーが目を覚まして最初に見たのはキャスターの顔であった。理性が働く頭で言葉を探しているとキャスターが先に口を開いた。

 

 

「おはようございます。よく眠れましたか?」

 

「おかあ……さん?」

 

「なんでしょう」

 

「ここはどこ?わたしたちは何でここに居るの?」

 

「ここは私達の住む家です。そして貴女は私達の家族になったのです」

 

「おかあさんが家族?」

 

「そうですよ。ほらおいで」

 

「おかあさんあったかい」

 

 

 キャスターはそう言って抱きしめる。バーサーカーは記憶には無い母の温もりを感じながら安心しきった表情をしていた。

 

 

「さて、そろそろ貴女の名前を教えていただけますか?」

 

「わたしたちのなまえ?」

 

「ええ。貴女の心に刻まれている真名(なまえ)です。家族なら名前で呼ばなければいけませんからね」

 

「わかった。わたしたちのなまえは『ジャック・ザ・リッパー』だよおかあさん」

 

 

 名前を聞くキャスターに何の疑いもなく真名を明かす。記憶には無いがスッと出てきた名を告げる。それを聞いたキャスターは「良い名前ですね」と褒めてあげる。

 

 

「ジャックちゃん。他の家族を紹介しますね」

 

「まだおかあさんがいるの?」

 

「おかあさんはいませんが……それでも大事な人達です」

 

 

 行きましょうかとそう言ってバーサーカーの手を取り雁夜達が待つ居間へ向かう。

 

 

「あ、その子起きたんだ。おはよう」

 

「シャムハトさん待ってましたよ。そっちの子もおはようございます」

 

 

 朗らかとは言い難い表情の雁夜と正座しながら待っていた桜がバーサーカーに挨拶をする。バーサーカーが少し警戒していたがキャスターが大丈夫と頭を撫でながら紹介を行う。

 

 

「ジャックちゃん。この人()はあなたのマスターですよ。令呪を持っているのが雁夜さん、女の子の方が桜さんですよ」

 

「よろしくね。えーとジャックちゃんでいいのかな?君とキャスターのマスターの間桐雁夜だ」

 

 

 手に刻まれた六画の令呪を見せながら警戒させないよに笑顔で言う。そしてもう一人のマスターである桜も雁夜に続く。

 

 

「貴女のマスターの間桐桜です。よろしくお願いしますねジャックさん」

 

「うん!よろしくね。えーとおかあさん?」

 

「雁夜さんはおとうさん、桜さんはおねえちゃんでいいんじゃないでしょうか?」

 

「そっか!おとうさんにおねえちゃんだね!」

 

 

 各人の呼び方が決まった所で現在は昼食の時間。家事が出来るキャスターが厨房に入り食事の準備を行う。その間に雁夜は昨晩の事を考えてキャスターにパスを繋げる。

 

 

(シャムハト、本当に桜ちゃんを襲わないよな?)

 

(大丈夫でございます。彼女には雁夜さん達を守るべき存在と少し刷り込みました。不安でしたら令呪を使ってもよろしいのですよ?)

 

(いやキャスターの言葉を信じるよ。それにしても結局桜ちゃんを巻き込む形になっちゃったな)

 

(雁夜さん1人では流石に2人のサーヴァントを扱うのは無理でございましたから……申し訳ございません)

 

(キャスターが謝ることじゃないよ。それに桜ちゃんを守る為に必要なんだろう?)

 

(同盟を組んでる間にアサシンのサーヴァントに桜さんが狙われたら厄介でしたもので)

 

 

 雁夜1人では2体のサーヴァントの使役は無理であったため、桜に協力して貰いどうにかバーサーカーへの魔力を確保した状態である。桜の護衛や同盟相手に裏切られた場合の抵抗手段としてなど説得の末雁夜が渋々首を縦に振った結果である。

 そんな話をしている横でバーサーカーは桜の真似をしてちょこんと正座をしていた。暇そうにしていた2人に何か出来ないかとキョロキョロして自身の鞄を見つける。

 

 

「シャムハトが来るまでちょっとお話ししようか」

 

 

 ルポライターとして撮って来た写真を見せながら2人に思い出話を聞かせる。日本の事、世界の事、旅した先で出会った人達等様々な事を話していく。途中でロンドンの写真を見たバーサーカーが浮かない顔をしていたがすぐに気を取り直し話に耳を傾ける。

 

 

「ご飯出来ましたよ」

 

 

 微笑ましい光景にニコニコしながら食事を持ってくるキャスターはそれぞれに配膳を済ませる。バーサーカーは出された食べ物(ハンバーグ)を見て目を輝かせているとキャスターが席に着き音頭をとる。

 音頭を取ると同時にバーサーカーは食べ物を一口。咀嚼をして飲み込みキャスターの顔を見て一言。

 

 

「おかあさんとっても美味しいよ」

 

「お口に合って良かったです」

 

 

 その後、桜も一緒になっておいしいおいしいと言ったりその光景をキャスターと雁夜がまるで夫婦の様に眺めていたりしながらも時間が過ぎていく。




 すまない・・・遅くなって本当にすまない。次回からMSNルートに入ると思う。
 桜はサブタンクになって貰いました。だってキャスター居ても2人使役は負担がデカすぎておじさんの寿命がマッハな気がしたんだもの。


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埠頭攻防

 埠頭攻防

 

 

「おや?」

 

「どうしたんだキャスター?」

 

 

 あれからバーサーカーを桜の元に待機させながら夜の街を歩いていたら、キャスターが分かりやすい魔力の残滓を感知する。それはどこかに誘うように続いている。

 

 

「誰かが誘っていますね」

 

「追ってみるかい?」

 

「どうしましょうかね……」

 

 

 ここまで堂々としていると罠の可能性も高い。だが他のマスターやサーヴァントの情報を集める為には虎穴に入らなければとも考える。雁夜はキャスターの判断に任せると言った感じである。

 

 

「そうですね……行ってみますか。危険だと判断したらすぐに撤退します」

 

「ああ」

 

 

 それではと魔力の残滓を感知しバーサーカーの時と同じように辿って行く。そうして歩いていくと人払いの済ませてある埠頭に着く。そこでは3人の人物が対峙していた。

 片や純白の女性を庇う様に立っている騎士の風貌をした人物。片や槍を携えた優男。辺りを警戒しながらも、物陰からその人物達の動向に注意を向けると、ランサーのマスターと思われる姿無き男性の声が響く。二、三言言葉を交わした後、騎士とランサーがぶつかる。

 

 

「獲物の長さが分からないのに中々やりますね、あのランサーは。技量の高さが伺えます」

 

 

 戦いを観戦しながらそんな事をポツポツと呟くキャスターであった。刃を交えて数分ランサーのマスターが痺れを切らして令呪を切って宝具の開帳を命じた。

 

 

「2つの槍を使うサーヴァントですか……」

 

 

 2つの槍、それも黄色と赤色の特徴的な槍を使う者はそう多くないだろう。聖杯から得た知識と照らし合わせておおよその真名を掴んだキャスター。セイバーの小指の腱を断ち少し優勢といった所で海の方から野太い声と少年の悲鳴が聞こえてくる。

 

 

「派手な登場ですね」

 

 

 2頭の牛が牽く戦車でセイバーとランサーの間に割って入る赤毛の大男。少しグロッキーになりながらも文句を言うマスターと思われる少年。勝負の邪魔をされた2人は不服そうな顔をしながら刃を向ける。

 

 

「双方とも剣を収めよ!王の御前であるぞ!」

 

 

 少年にデコピンを食らわしながらも堂々とした姿勢と共に声を張り上げる。

 

 

「余の名は征服王イスカンダル!此度はライダーとして現界した者なり!」

 

 

 いきなり真名を暴露するライダーにキャスターも含めたその場に居た全員が唖然とする。少年が慌てている様を見て「あぁ……本当の真名なのだな」と内心で察している。

 

 

「あの大胆不敵さはギルガメッシュ様を思い起こさせますね」

 

「え?キャスターが仕えてた王もいきなり真名を言うような奴なの?」

 

「そこまではしませんが……真名を知っていて当然といった反応はするでしょう。そして知らないと言ったら少し怒ります」

 

 

「おっかない王だね……でも、そんな王ならこんな戦争に参加なんて……」

 

「残念ながらその可能性は消えました」

 

 

 

 ライダーがセイバーとランサーに軍門に下るか尋ね一刀両断された後に、これを見ている者は来いと叫ぶ。その声に反応するのは黄金のサーヴァント。

 

 

「我をおいて王を名乗る不届き者が居るとはな!」

 

 

 その声を聴いたキャスターが少し顔を引きつらせていた。戦争はまだ始まったばかりである。




 すまない・・・遅くなって本当にすまない。これも全部グランドオーダーって奴の仕業なんだ!


 最初、セイバーをジークフリート(すまないさんに非ず)、ランサーをカルナ、ライダーをオジマンにでも変えてやろうかと思ったのですが止めました。冬木が滅びそうだからね!是非も無いよね!


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宝具解放

 

 ライダーの呼びかけに現れたアーチャーは自身以外の王を名乗る輩に憤慨しながらもフンッと鼻を鳴らしてもう1つの不満を口にする。

 

 

「して、王の御前で姿を見せぬ不敬な者が居る様だが?」

 

 

 そう言って見据える先から現れるはキャスターである。他のマスター達はこの場にキャスターが居る事とそれを見抜くアーチャーの眼に驚愕を表す。

 キャスターはアーチャーから威圧を物ともせずに優雅にお辞儀をし意を表する。

 

 

「挨拶遅れ申し訳ございませんギルガメッシュ様。元気な様で何よりでございます」

 

「こちらとしては貴様が参加しているとは思わなかったぞシャムハトよ」

 

 

 お互いナチュラルに真名を暴露していきセイバーとランサーは「隠すものではないのか?自分達がおかしいのか?」と聖杯とマスターの知識を疑ってしまう。が、そんな事知った事では無いと言わんばかりに話を始める。

 

 

「それはお互い様と言うものですよ、唯の娼婦を呼ぶ変わり者のマスターが居るとは思いませんでしたが」

 

「ハッ!貴様が唯の娼婦とは笑わせる。聖杯なぞ使わんでも願いを1つ2つ叶える事が出来る奴だろうに」

 

「それは買い被りでございますよ。ギルガメッシュ様は何故この戦いに?」

 

「なにこの時代の人間共が変わった祭りを催していると様子を見に来たが……我の宝の贋作を作ったばかりか汚しているという始末だ。心底落胆している所にこの状況だ」

 

「何かめぼしいものはありましたか?」

 

「序にそこのセイバーが中々に上物の様でな。我の嫁にでもしようと思っている所だ」

 

「あら」

「何?」

 

 

 突然名指しで指名されたセイバーは嫁と言われて眉を顰めアーチャーを睨む。キャスターはご愁傷さまとセイバーを横目に見ているとライダーが話に割り込む。

 

 

「待て待てセイバーもランサーもそこのキャスターも我が臣下に加えると決めているのだ。勝手に手を出すな英雄王よ」

 

「ぬかせ雑種、我が手にすると決めた物を横取りしようとは。それにシャムハトを臣下にだと?冗談でも笑えんな」

 

 

 ライダーの一言にアーチャーが言葉と共に殺意をぶつける。殺意に乗せられた魔力にあてられてしまい腰を抜かすウェイパーであったが、そんなマスターに構わず飄々としたままライダーは剣を向ける。

 

 

「然り!それこそが征服王と呼ばれる余の意志よ!すべてを手に入れた英雄王の宝!それを征服し尽くしてみせようぞ!」

 

「戯言を!」

 

 

 アーチャーがもう言う事は無いと言わんばかりに空中に無数の穴を空けそこに剣・槍・斧等々あらゆる武器を覗かせる。そんな一触即発の中キャスターとセイバーはと言えば。

 

 

「何か勝手に景品にされてますけどどうしますかセイバーさん」

 

「どうするも何も向こうが勝手に始めた事です、無視すればいい」

 

「ですが、その勝手に始めた事で此方に被害が来そうなのですが」

 

 

 どういう事かと疑問を投げる前にセイバーはその直感で感じ取った事に反応し飛んできたアーチャーの宝具を叩き落とす。ふとアーチャーの方を見ると一瞬こちらに視線を合わせすぐさまライダーに戻す。

 

 

「セイバーさんが逃げないように放った牽制ですね」

 

「くっ!」

 

 

 後ろにアイリが居る以上不用意に動けないセイバーは苦い顔をする。こちらが動こうとすればあのアーチャーは間違いなく撃ってくるだろうと。どうにか打開できないものかと飛んできている宝具を素手で弾き飛ばしているキャスターに話しかける。

 

 

「何か策はありますかキャスター」

 

「そうですね……セイバーさんが前に出てこう可愛い感じで『私のために争わ「却下です」駄目ですか」

 

「今は冗談を言っている場合ではありませんよ」

 

「ではそこの逃げようとしているランサーさんを盾にしてですね」

 

「待て!なぜ話を振る!」

 

「こんなか弱い乙女を置いて逃げるなんて騎士の風上にも置けないですよ?」

 

「うぐっ!」

 

「少し時間を稼いで貰うだけですよ?ね、セイバーさん?」

 

「ええ、ランサーが盾になっている間に私達が逃げる。完璧ですね」

 

「セイバーお前まで!」

 

「などと漫才はここまでにして私の宝具を使えれば状況を打破出来ますが、その間無防備になるので守って貰いたいのですが……お願いできますか騎・士・さ・ん?」

 

「……はぁこれだから女性はやり辛い。今回だけだぞキャスター」

 

「はい。1回だけで十分です」

 

 

 女性に弱いランサーを護衛にキャスターは宝具の展開のために魔力を高めていく。その圧倒的魔力量に警戒を見せながらもしっかり仕事をこなすランサーと後ろに下がる様にと目配せをするセイバー。

 

 

「移る場は深き森 何者も閉ざす不可侵の森」

 

 宝具を起動する為の詠唱を始めるキャスター。

 

「相容れぬ者には破壊を 穢す者には災いを」

 

 一節一節紡ぐ度に溢れる魔力。

 

「好意には恵みを 愛には生を」

 

 渦巻く魔力にアイリは目を細める。

 

「執行したるは泥の者 施したるは聖の者」

 

 キャスターが想像するはあの日の事。

 

「誘いましょう彼の地へと 昼夜問わずに語りましょう」

 

 詠唱が完了し宝具を解放する。

 

「さあ行きましょう『森よ、道を開けよ』」

 

 

 高純度の魔力が辺り一帯を包み込む。アーチャーにより位置を調整されたライダーを含めて。そしてキャスターの宝具に合わせ2つの光が交差する。




 スタイリッシュな詠唱って難しい。そう感じる作者です。

 と言う訳でシャムハトさんさっさと宝具を解放。宝具の読み方は決めてません!

 キャスターさん宝具を素手で弾いてるのはなんぞ?→手に魔力を高めて物理で弾けばいいというURUKU特有のアレです。


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