しずか酒 (nowson)
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ラーメンと餃子

ラーメンと餃子、この組み合わせは鉄板でありほとんどのひとがこの組み合わせをした経験があると思います。
 炭水化物のラーメンに肉と野菜のギョーザ、以外にも栄養的にもお互いを補うこの組み合わせです。

今回はそんなラーメン餃子と酒で書かせていただきました。


作者の趣味全開なのでその辺りご理解のほどよろしくです


平塚静は悩んでいた。

 

悩みの種の原因は昨日、土曜日の昼にさかのぼる。

 

 

休日

それは学生と社会人のどちらにとっても待ち遠しく、平日に比べ少ない日数と早く過ぎる体感時間に楽しさと切なさを感じる日。

 

平塚静は撮り貯めしたアニメを見ながら酒を楽しむという、優雅で堕落した独身にのみ許される休日を過ごすべく近所のコンビニへ徒歩で向かっていた。

 本来なら愛車に乗って颯爽と現れ、つまみに弁当、週刊誌にタバコといったラインナップ(酒は酒屋からケース買いなので自宅にある)を買い、その綺麗な髪をたなびかせ車に乗り込み帰宅する所だが、その日は違った。

 

 

彼女の借りる駐車場にいつもの車はなく、普通の軽自動車。最近車のタービンの調子が悪くちょうど車検も近かった為、良い機会だということで丁寧に見てもらうべくいつもの車屋へ車検に出したのだ。

 

普段乗り慣れてない車にあまり乗りたくなかった静は、歩いて最寄りのコンビニへ向かっていた。

 

 

 

 

いつものコンビニでいつものを物を買い帰宅、その帰り道の事だった。

 

 

 

 

朝から何も食べて食べていない静の鼻腔をくすぐる匂い。

 

「煮干しの匂い?この近くにラーメン屋ってあったか?」

千葉のラーメンを網羅した彼女には千葉ラーメン食べ歩き紀行ができるほどの知識がインプットされている、そんな彼女にとって自分の知らない店があるのか?

 

 

スマホで調べるも、ラーメン屋なんて出てこない。

 

 

たまにいるラーメン自作派な人が休みを費やし作ってるのだろう、その時は気にも止めず帰宅した。

 

 

 

そして日曜日

ふと気になった昨日の煮干しの匂い。

 

もしかしたら、ラーメン屋が存在するのでは?

 

「近所でおいしいラーメン屋があるならこれは大発見だ」

休日に腹が減った時、ラーメン食べるために街に出るのも怠い、そんな時近くにラーメン屋があったら……。

 

もしかしたら空振るかもしれない、不味いかもしれない。

 

 

 

だが、彼女のラーメンに対する知的探求心が体を突き動かす。

 

 

「行くか!」

仮に無かったらコンビニ寄って帰ればいい、そう言い聞かせ腰を上げスウェット姿から、カジュアルな姿に着替え外へと繰り出した。

 

 

 

 

「たしかこの辺で煮干しの匂いがしたはずなんだが……」

五感を特に嗅覚を研ぎ澄ませる。

 

 

「こっちが匂うな!」

自分の感を頼りに道を突き進む。

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

「ここか?」

ついた場所はラーメンの暖簾を出してなければ提灯もない、所謂普通の大衆食堂だ。

 

確かにラーメンを出す大衆食堂は多数ある。

だがそれは昔ながらの鶏がらと野菜ダシの中華そばみたいなものが多い。

 

(どうする?自分の勘を信じるか経験を信じるか)

 

「まあ、入ってみて決めてもだろう……それも経験だ!(ラーメンがダメでも定食が当たりなら近所というだけで価値ありだ)」

 

 

後悔は後ですればいい、静は暖簾をくぐり戸を開ける。

 

 

「ごめんくださ~い」

 

「いらっしゃい!」

歳は50くらいのだろうかエプロンをかけ三角巾をかぶり清潔感あふれるカッコをしている、その女性が静に声をかける。

 

 

 

静は一指し指で一人ですというジェスチャーをする。

 

 

 

これを怠ると「おひとり様ですか?」という強烈な一撃を食らうことになるのを彼女は分かっていた。

 

 

「お好きな席へどうぞ!今お茶お持ちしますね!」

 

 

店内は昼時を過ぎているためか客もまばら、昼から飲んでる客とタクシーの運ちゃんくらいしかいない。

 

 

適当な席に座り厨房を見る。

(歳は店員さんと同じくらい……夫婦でやってるのかな?)

 

「はい、失礼します」コトッ

 

(お冷ではなくお茶なのか?色は茶色いから麦茶か)

 

コップを口につける。

 

(なるほど、ほうじ茶か……)

口を潤した後に広がるほうじ茶特有の香りが静に安心感を与える?

 

 

(料理の邪魔をしない程度にほんのり薄め、こうゆう何気ないのは嬉しい)

 

 

 

続いてメニューを眺め作戦を練る。

 

 

 

(さて、どう攻めるか……)

 

 

 

 

メニューはご飯物が親子丼に焼肉丼、かつ丼、天丼、チャーハン

 

定食が、カツ、海老フライ、カキフライ、焼肉

 

サイドメニューはモツ煮、冷奴、ギョーザ、メンマ、チャーシュー、各種揚げ物、おろしポン酢、おしんこ、日替わり刺身

 

飲み物はビールに、サイダー、キリンレモン、コーラ、オレンジジュースにウーロン茶

 

麺類が肉、たぬき、きつね、ワカメ、天ぷらの各そばうどん、焼きそば

ラーメンは醤油とチャーシュー麺のみ

 

静の心にワクワクが広がる。

 

(もし、ここが当たりなら最高の店だ!ビールも置いて居酒屋使いできる、何より近所なのもいい)

 

 

ただ、一抹の不安もあるのが事実だ。

 

これだけの数のメニューをこなすということはもしかしたら全体のレベルはかなり低いのでは?メニューとにらめっこしながら疑心暗鬼に陥る。

 

 

(どうする?いっそラーメン外して当たり障りのない焼肉定食でいくか?)

 

 

「ん゙~……」

女性があまりだしてはいけない音を出し悩む。

 

 

 

 

 

 

 

 

(ええい!女は度胸!何でも試してみるもんだ!!ラーメンに行く!!)

 

 

 

 

 

「すいません!ラーメンと餃子!あと、おしんことビール」

 

 

「はいただいま」

 

 

(さて、この選択が吉と出るか凶と出るか)

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

「お先にビールとおしんこ失礼します」コトッ

 

 

「ドモッ!」

 

 

(さあ!まずはビールに行かなきゃな!)

 

 

グラスを持って近くに寄せる。

 

 

(おっ?グラスかなり冷えてるぞ、という事は……)

 

続けて栓が開けられた瓶ビールを持つ。

 

(いいじゃないか!かなり冷えてるぞ!)

 

グラスを傾けビールを注ぎ、傾けを直し泡を作る程度に再び注ぐ。

 

 

 

(さあ飲むぞ)

ニヤニヤした顔でグラスを掲げ……。

 

 

グイッ!一気に流し込む!

 

ホップの苦味、のどにギューッとくる感覚、ホップの香り、炭酸の爽快感それらが一連の流れでやってくる。

 

「か~~!!たまらん!!」

大満足と言わんばかりの表情で再びビールを注ぐ。

 

 

(そういえば、「ビールがおいしい季節になりました」とかよく聞くが……)

もういっちょグイッとビールを煽る。

 

 

 

(ビールは一年中旨い飲み物なんだよ!わかっとらん!!)

 

「オッとイカンイカン」

 

(ビールに夢中でおしんこを忘れていた)

 

 

シンプルで少し大きめのさらにのっそり盛られたおしんこ。

 

キュウリ、ナス、キャベツ、ニンジンの糠漬け、自家製なのか漬かり具合もかなりよい。

 

(これは自家製なのか?この辺のスーパーじゃ見ないレベルで漬かってるぞ)

 

 

(まずはキュウリから行こう)コリッ

 

糠漬けとしては強い酸味であるものの、嫌味な味わいがなく昆布の旨味も感じられる丁寧な味わい

 

「うまい……」

 

 

 

「ありがとうごいます」

 

「えっ?」

 

「その糠漬けは私作ってるんです、だから嬉しくて」

 

「ああ、そうなんですか」

 

「本当においしいですよ、おみやに持ち帰りたいくらいです」

(実際これはうまい、スーパーで売ってる物と大違いだ)

 

「うちの店、持ち帰りもできるから是非どうぞ!」

 

 

 

「本当ですか?ありがとうございます!」

(これは嬉しい、家でアニメ見ながら糠漬けに酒が楽しめるなんて最高だ)

 

(もしくは家系ラーメンとかこってり系の物食った後、家でまったり食べるのも悪くない。)

 

 

 

 

「ラーメンと餃子失礼します」

そうこうしているうちに本命が到着する。

 

(ラーメンは若干濁ってる以外は普通、餃子は羽根つきか)

 

 

(先ずはラーメンだ!)

やや濁りは見えるものの、麺が見えないほどではないスープ、具はチャーシュー、メンマ、ネギのスタンダードなもの。

 

(私にはわかる……このラーメン、見た目は普通だが心してかからないとやられる!)

 

先ずはレンゲにスープを掬い一口。

(見た目通りのあっさり系、だが煮干しの旨味が凄い!カツオやサバ節、隠し味程度の鶏ガラと言った組立ては分かる。だが、この旨味のバランス取りが絶妙だ!こんなレベル高いあっさり系は中々お目にかかれないぞ……)

 

(あっさり系でありながら旨味たっぷりのスープをまとめ上げるとは……)

 

 

続いて麺を啜る

加水率高め、かん水は控えめの自家製麺。

 

(程よく麺にからむ縮れ麺と歯切れの良さがいい……。スープと相性も抜群だ)

 

 

 

「旨いな……」

(旨くて箸が止まらないのに落ち着く……不思議だ)

 

(普段私が食べるラーメンがワクワクドキドキな旅行や祭りだとすると、このラーメンは居心地の良い実家なんだろうな)

 

「おっと、餃子忘れてた」

 

 

 

「羽根つきは嬉しいな」

パリパリの羽根が付いた餃子、一緒に頼んだおろしポン酢を存分に絡ませて口に入れる。

 

口に広がる餃子の肉汁の甘味と旨味、それをおろしポン酢がさわかに包み込む。

 

(これもうまい!!だがこれはダメだ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」トクトクトク、グビグビグビ

 

(ビールが進んでしまう!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」ポリポリ

(糠漬けが箸休めになるから飽きが来ない)

 

 

 

 

 

 

「……」ズルズルズル

(酔いが回ってきたら余計ラーメンが旨い!!!!)

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

「ごちそうさまでした!!」

一通り平らげ満足した表情の静。

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「あ、すいません糠漬けおみやで!」

 

 

 

「かしこまりました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

「美味しかったです、また来ます!」

 

「ありがとうございます、またよろしくおねがいします」

 

「ありがとうございます」

厨房からもお礼の言葉が聞こえる。

 

 

 

 

扉をしめタバコに火をつける。

 

 

「この店、大当たりだな!近所でこんな店に出会えるとは」

これからの事を考え笑みがこぼれる。

 

 

 

「つまみも手に入ったし、帰るか」

 

 

 

 

 

 

 

 

(今度比企谷でも連れてくるか……いや、さすがに教え子の前で飲むのはまずい、おまけに車で送っていけない、酒飲みたいからあいつが成人するまで我慢だ)

 

 

 

「とりあえず陽乃あたり誘っておくかな、あいつもこういう店好きだし」

 

 

 

「♪」

鼻歌鳴らしながら、ルンルン気分の家路につく静。

 

 

 

現在の時刻は14:30

 

 

 

家路と独身街道、ともにまっしぐらな日曜の昼下がりだった。




次の更新未定です。





追記
酒入れて書いたせいか誤字脱字、間違いすごいっす。
申し訳ありません


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一人焼肉

今回は一人焼肉です。


※キャラは相変わらず静ちゃんのみなので注意。


焼肉、言葉の通り肉を焼いて食べる至ってシンプルな料理。

 

 

一般的には網や鉄板の上で焼いた肉を、醤油ベースのタレに薬味などを合わせたタレや塩レモンなどで食す料理

 食の欧米化や飽食の時代と言われ、様々な肉料理が食べられるようになった現在においても性別を問わずその人気は1,2を競うだろう。

 

 

そんな焼肉を食べたいが為に焼肉屋を求め街を歩く一人の美人女性。

 

 

 

「腹へった、早く焼肉食いたい!!今日は何から行くかな……」

 

 

 

 

 

平塚静の姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ!ついたついた!」

目的の店に到着する、焼肉を食すという行為に胸が躍っているのかその顔には笑みがこぼれる。

 

 

外に漏れ出す肉の焼けた匂い。

焼肉と生でガーッといきたくなるこの匂いは静の空腹をより一層刺激する。

 

 

(辛抱たまらん!早く店内へ!私はとにかく肉が食べたいんだ!!)

 

 

「ごめ~ん」ガラガラ

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

 

 

静は慣れた手つきで一人ですジェスチャーをする、なかなか堂の入った姿である。

 

 

「かしこまりました、こちらのお席へどうぞ」

 

店員に案内され、指定された席に座る。

 

 

(さて、どうやって攻めるか……)

メニュー表とにらめっこしながら注文の組み立てに入る。

 

 

(とりあえず生はドライだが焼肉だしアリだ、肉はどうする?最初は無難にタン塩か…いやしかし!)

一応女性である静、量も一般男性よりは食べるものの松重ゴローさんのようには食べられない、というかゴローちゃん食べ過ぎ。

 

とにかく腹が減ってる時は前後不覚に陥りやすいもの、腹が減った状態でコンビニやスーパーに寄った時など必要以上に買い物をしてしまい後悔することがあるように、焼肉屋のような飲食店の場合は最初の段階や食欲に火が付いた途中段階で頼みすぎてしまう事が多い。

 

(もう、同じ轍は踏まん!少しずつ注文するか?)

 

 

「ん?」

ふと一つのメニューが目に止まる。

 

 

 

 

 

一人焼肉セット

内容は牛タン、カルビ、豚サガリ、ホルモン

量は大中小のどれかを選べる仕様、丁寧に写真まで貼り付けてある。

 

 

「これだ!」

静の体に電気が走る。

 

(一皿ずつ頼めばどうしても量が増えるが、これなら程よい量で食べられる)

 

 

「すいません!生と一人焼肉セットの中、後ニンニクのホイル包み下さい」

 

 

「はい、かしこまりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お先に生とお通しになります。お肉もすぐ持ってきますので少しお待ちください」

お通しは千切りキャベツにキムチ、もやしにほうれん草のナムル。

 

 

 

(これは嬉しいな、肉がメインで偏りがちな栄養的にも助かるし箸休めにもなりそうだ。実際このくらいでは足りないが、あるとないじゃ大違い、外食なんだからある程度でOKだな)

 

 

生のジョッキを手に持つ。

 

(おおっ!ちゃんと冷えてる、この前行った居酒屋のチェーン店で出たモルツの生と大違いだ、食洗器で洗い立てのジョッキで入れたからか温くなってしまい恐ろしく不味かった!!それとは大違いだ)

ジョッキをビールと同じ冷蔵庫で保管し十分に冷やし、そのジョッキに生をいれた物、静の心は期待に揺れ動く。

 

 

(肉が来るまで待てん!先に飲んでしまおう!!)グビグビ

手に伝わる冷たいジョッキを持ち豪快に飲む、喉にギューッと来る冷たさと苦味と炭酸のさわやかさが、口に広がり爽快感を残し洗い流すかのように消えていく。

 

「ックーー!!!(家でも冷やして飲んでるがやっぱり店の生は違う!!)」

 

 

 

 

 

「お肉とニンニクホイル包みお持ちしました」

 

 

「ドモッ!(キタキター)」

 

 

牛タン、カルビ、豚サガリ、ホルモンが数枚ずつとアルミホイルに包まれたニンニク。

 

 

 

(まずは牛タンから焼くことにしよう)

 

網に牛タンを乗せる。

 

 

(牛タンは薄切りで早く焼けるのが良いな)

食べたい!今すぐ食べたい!早くそれを口に入れて噛みしめたい!そんな逸る気持ちが静の心を支配する。

 

(よし!もういいだろう!!)

牛タンをササッと皿に取り上げる。

 

 

(先ずは塩のみで……)パクッ 

牛タンならではの食感、そしてあっさりながらもジュワーッと広がる肉汁と旨味、塩のみの味付けが出しゃばる事無く牛タンの旨さを引き立てる。

 

(やはり牛タンは旨い!!そんでもって……)

牛タンを飲み込み、その余韻が残る中ビールを煽る。

 

「プハーッ!!」

(焼肉とビールの組み合わせはたまらん!!)

 

続いてレモンを少し垂らし、牛タンにレモンの清涼感と酸味を加味する。

 

(以前、レモンをかけるタイミングで口論になった事があるが、やはりレモンは後にかけるのが好きだな)

人間、何故か食べ物のことになると譲らなくなる。

 

 

(牛タン行った後は豚サガリかカルビかホルモンか……どうする?)

 

 

「それぞれ適当に焼こう」ジューッ

 

 

 

(焼いてる間にタレを合わせるか)

ここの店は甘口、辛口の2種類のタレにコチュジャン、レモン汁、塩、醤油が卓上に置かれている。

 

(辛口が2、甘口が1、コチュジャン少しっと…オッとひっくり返さなければ!)

焦げ付かないよう一通り返す。

 

(さて、お通しの野菜も食うか)シャクッ

千切りキャベツを口に運ぶ

(味がついてる?清涼感ある酸味と微かな塩気……もしかして、塩とレモンか?)

 

 

(なるほど、これなら箸休めにもなるしキャベツのほのかな甘味も楽しめる、塩レモンだから出しゃばる事なく肉と合わせて食べてもいい)

シャクシャク言わせながら口に運んでいく。

 

(こういう細かいところを考えたお通し、いいな)

 

 

そうこうしているうちに肉が焼ける。

 

 

(さあ、食うぞ!!)

 

先ずは焼肉の定番カルビ

ここの店は厚めにスライスしてあるためジューシーな肉の旨味と脂、歯ごたえが存分に楽しめる。

 

静は先ほど合わせたタレにつけ食べる。

 

(う、旨い!!!肉自体の旨味もさることながら厚めの肉の歯ごたえが良い、噛むと押し返す弾力と肉汁が素晴らしい)

 

 

 

そして

 

 

 

グビグビグビ

「すんません!生おかわり!」

 

旨い焼肉はビールが進む。

 

 

次は豚サガリ

豚肉の中でも少量しか取れない部位、食感と肉の旨味、脂どれも存分に味わう事ができる。

 

 

(豚サガリは普段あまり食べないな……)パック

豚の旨味の甘味のある脂、サガリの食感がタレと絡みながら口の中で踊る。

 

 

(豚サガリ最高じゃないか!!!ビールにも合う!!!)グビグビ

 

 

ホルモン

セットのホルモンはB級グルメでも話題になった豚の大腸であるシロコロ、この店では味噌ダレに漬けて提供する。

その旨味と脂は、コリコリとした歯応えはグランプリを制しただけあって素晴らしいの一言。

 

 

(ホルモンは歯ごたえと脂の旨味が良いんだよな)パック

 

コリコリコリ……。

 

熟成された味噌ダレと脂が焼く事によって焦げ目ができ、旨味だけでなく香ばしさも加味された味わい、歯応えも相まって噛めば噛むほど口の中にうまみが広がる。

 

 

 

(こりゃたまらん!!!)グビグビグビ

 

 

(濃い味の焼肉とビールは最高だ!!)

 

 

(そういえば、昔は濃い味の物を食べると“ご飯欲しい”ってなったものだが、いつの間にかビール欲しいに変わったな……)

 

 

(そのビールだって初めて飲んだ時は“苦炭酸麦茶”だ不味い!!って状態だったのに、人の好みは流れゆくものだな)

 

 

(というか、ご飯の事思い出したら急にご飯食べたくなった……)

 

 

「すいません!ライス下さい!」

 

 

続いて、皿に残った肉を全て網に乗せる。

 

 

(おっと!ニンニク忘れてた!)

網の端で静に佇むアルミホイル。

 

 

(こんなに特徴的なのに気付かないなんてあいつみたいだな)

自分の教え子を想像しすこしニヤニヤ。

 

 

(特にクセがあるとこなんてそっくりだ)クスッ

アルミホイルを剥きながら、一人の男を考える。

 

 

 

「おお、いい感じに焼けてるな」

 

アルミホイルを剥くと、湯気と香りを上げながらニンニクが現れる。

 

(焼肉屋行ってこれあるとついつい頼んじゃうんだよな)

 

ホクホクに焼けたニンニク、最初は塩を軽く振り口に運ぶ。

 

まるで芋のような、それでいてねっとりと下に絡むニンニクの旨味。

 

 

(やはりこれは旨い!クセはあるが、それがクセになってしまう)

 

 

次にホイル焼き用の味噌ダレをつけてパクッ!

 

 

(これは見事だ、酒とご飯どちらでも行ける旨さだな)グビグビ

 

 

「ライス失礼します」

 

「どもっ!」

ライスを自分のベストポディションに寄せる。

 

 

(さて、少しお行儀悪いがいいか!)

 

 

焼けた肉を次々ごタレにつけご飯に乗せる、次にニンニクとナムルにキャベツ、キムチも乗せ、皿に残ったタレもかける……焼肉丼の完成だ。

 

 

 

(さあ、食うぞ!!)

ご飯、肉汁とタレを吸ったご飯を肉と一緒に口に運ぶ。

 

(旨い!やっぱ焼肉はご飯も合う!!)

 

ナムルの食感やキムチの辛味と酸味、ニンニクが良いアクセントになる。

 

 

(これもまたビールにぴったりだ)グビグビ

 

 

 

 

そして

 

 

 

「ごちそうさまでした!!」

見事綺麗に平らげる。

 

 

(食った食った!やはり肉は良い……)

 

 

 

「すみません、お会計!」

 

 

 

「旨かったです、また来ます」

 

 

「ありがとうございました!」

 

 

 

「ふう……」ガラガラ

 

 

(良い店だったな)

会計の際にもらったミントガムを口に運ぶ。

 

 

「今度は奉仕部の奴らをつれて来るか……」

 

 

 

(それにしても、一人焼肉セットは考えたな……)

 

 

 

(世間は独り身に冷たいというが、独り身に優しいところもちゃんとあるんだな)

 

 

 

「肉食べたい時ちょくちょく来るか」

 

 

 

 

 

 

土曜日の夕方

平塚静は今日もひとり家路につく。

 

 




酒入れて書いてるので誤字脱字あったらすみません。


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から揚げとハイボール

久しぶりの更新です。


息抜きがてら書くのでこれからも亀更新かと思いますが、エタらない程度にしこしこ書きます。


から揚げ

鶏もも肉を醤油や薬味に漬け、粉を打って揚げた物を想像する方も多いはず。

 料理的には粉を打って揚げた物=から揚げや別名で竜田揚げと呼び、アレルギー等特殊な事情が無い限りこの料理を食した事があるだろう。

 

 

今回はそんなから揚げのお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総武高校職員室

今日は金曜日、という事で平塚静は月曜日に仕事を残さぬよう仕事を片付けていた。

 

 

「失礼します」

ノックの音と共に自分が顧問を務める奉仕部の部長、雪ノ下雪乃が入室してくる。

 

 

「鍵、返しに来ました」

雪乃はいつも通りに鍵を渡す。

 

 

「おおご苦労、今日は何かあったか?」

静もいつも通りに鍵を受け取り一言かける。

 

 

「別に、いつも通りでした」

 

 

「そうか、それは何よりだ、気を付けて帰りたまえ」

 

 

「はい、お先に失礼します」

いつものやり取りをし、雪乃は退室する。

 

 

 

 

自分の教え子が退室するのを見届けると、机に上がっている缶コーヒーを手に取り軽く振る。

次にプルタブに指をかけカッシュと蓋を開け口をつける。

 

 

マッカン程ではないものの十分に甘いそのコーヒーは、静の口の中でコーヒーの香りと共に確かな余韻を残し疲れた体にカフェインと共に染みていく。

 

 

 

「何だかんだでこのコーヒーとも長い付き合いだな」

自分が物心ついた時からある味、その昔からの味が静に落ち着きを与える。

 

 

 

「さて、もうひと頑張りするか」

コーヒーを飲み干し再び仕事にかかる。

 

 

 

 

 

 

―数時間後―

 

 

 

「よし終わった!」

書類をファイリングし、両手を上にあげ軽くストレッチ。

 

 

 

「時間も良いころ合いだし帰るか」

帰り支度をパパパッとすませ自分の車のキーと携帯、セカンドバッグ!?を持ち颯爽と自分の車へと向かう

 

 

 

「さて……」

静は車に乗りタバコを咥え、少し悩む仕草をする。

 

 

「腹減ったが何食べるべきか」

現在の時刻は8時近く、昼に軽く飯を食べただけの静にとって空腹になる時間。

 

 

「気分的にコンビニ飯とかは避けたいな」

明日はせっかくの休み、そんな開放感から普段より少し良いものを食べたい乙女心。

 

 

「どこかに寄りたい所だが、あいにく今日は花金だ」

花の金曜日という事で繁華街は賑わいをみせる、静はそこまで人ごみが苦手なわけではないのだが……。

 

 

 

「下手に外食行ってリア充見ながら飯を食うのはイヤだ」

独り身である彼女にとって金を払ってリア充を見ながら飯というのは苦行に等しい行為である。

 

 

「こんな時はあそこで決まりだな」

静は携帯を取り出しリダイヤルから電話をかける。

 

 

「あ、もしもし平塚ですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、お願いします」

ニコニコしながら電話を切る静。

 

 

 

「よし、行くか!!」

エンジンをかけて車を走らせる。

 

 

 

 

 

 

 

―自宅最寄りのコンビニ―

 

 

(予定の時刻までまだ時間がある、必要なものを先に買い揃えよう)

静は財布を手に取り、その長い髪をなびかせコンビニへと入っていく。

 

 

 

「いらっしゃいませ~」

 

 

 

(とりあえず、週刊誌かな)

女性誌並びにその下段にあるゼ○シィには目もくれずいつものコーナーのいつもの雑誌を手に取りる。

 

 

(後は……これだな)

続いて飲料水コーナーと冷凍品コーナーから望みの品を手に取り、レジで会計をすまし店を出る。

 

 

 

「時間は……ちょうどいいころだな」

携帯で時間を確かめると、車に乗り込み目的の場所へと向かった。

 

 

 

 

 

「よし、ついた」

近所の食堂(1話に登場)へとやってくる。

静は車を止め、財布を持ち颯爽と暖簾をくぐる。

 

 

 

「ごめんください」

 

 

「あ、平塚さんいらっしゃい」

静の性言う店員、どうやら静はあれ以来ここの常連になっていいるようだ。

 

 

「ご注文の物はもう少しでできるのでお掛けになってお待ちください」

冷たいほうじ茶をコップに注ぎながら静かに席に着くよう促す。

 

 

 

「ありがとうございます」

軽く会釈しほうじ茶に口をつける。

 

 

 

(やはりほうじ茶は落ち着くな……)

ほうじ茶特有の香ばしさが鼻腔をくすぐり、仕事中に飲んだコーヒーとはまた違う落ち着きを与えてくれる。

その清涼感と冷たさが喉を洗い流すように通っていく。

 

 

 

「お待たせしました」

店員が袋を大事そうに抱え持ってくるその中には、包装されたパックの姿。

 

 

 

「ありがとうございます」

静はワクワクを感じているのか、その袋をハニカミながら受け取る。

 

 

 

「一応確認しますがご注文はから揚げ、おにぎり、豚汁、糠漬けでよろしかったでしょうか?」

店員が念の為に確認をとる。

 

 

※1話ではメニューにから揚げと豚汁がありませんでした、モデルになってる店にはちゃんとあるのに、酒飲んで書くからこんなことになるんですよね……酔っ払いって本当にヤァね。

 

 

 

「はい、大丈夫です」

静はコップに残ったほうじ茶をグイッと煽り飲みほし、財布に手を付け会計を済ませる。

 

 

 

「ありがとうございました、また起こし下さいませ」

店員が静にお礼を言う。

 

 

静は笑顔を向け会釈し扉を開け車へと向かう。

 

 

 

「フフフ!!今日はコイツで晩酌を楽しみながら録り貯めしたアニメを見るぞ!!」

静にとって最高の癒しのひと時、逸る気持ちを抑えながら車を自宅に向けて走らせる。

 

 

 

 

 

―静宅―

帰宅するなり靴を乱雑に脱ぎ捨て、着ていた服をベットにポイッ!

いつものジャージに着替え、机に先ほど食堂で買った物を置きキッチンへ向かう。

 

 

「さて、今日は何にするかな?」

冷蔵庫を開けしばし考え込む。

 

 

冷蔵庫の中にはビールとジョッキに日本酒、食料などほとんど見かけない。

 

 

「いつもならは揚げ物だからビールにするところだが……今回は違う!!」

静はジョッキと野菜室からレモンを取り出し、コンビニ袋から氷と炭酸水を取り出す。

 

 

「先週買った角もあるし、今日は角ハイボールだ!!」

ジョッキに氷を入れ、レモンをまるでのこぎりのようにキコキコと危なっかしい手つきで切る。

それらを机に持って行って置き、ソファーに腰かけリモコンを手に取りテレビをつけ録画したアニメを垂れ流す。

 

 

 

シャンランランラーン♪♪

テレビから流れる、爽やかな日朝アニメの音楽を垂れ流しながら静は角ハイボール作りに取り掛かる。

 

 

 

「先ずは氷をくぐらせるように角を入れていって……」

氷の入ったジョッキにウイスキーを注いでいく。

 

 

「種は入ってしまうがスイカの要領で口に入ったら飛ばせばいい!フンガーー!!」

半分に割ったレモンを片手で豪快に握り締め、レモンを絞る。

 

 

※注意:平塚先生は女性です。

 

 

「後は炭酸水入れて混ぜ混ぜだな」

ジョッキに炭酸水を注ぎ、炭酸が抜けないようにマドラーで混ぜる。

 

 

「よし!今日は花の金曜日!!飲むぞぉぉぉ!」

独り身で一人自宅で独り言(5・7・5)

 

 

「……プハーッ!!暑い時のハイボールは旨い!!!」

ウイスキー特有の芳醇な香りと味わい、それらをレモンと炭酸水がさわやかにさせ、口と喉に爽快感を残し消えていく。

 

 

「そんなハイボールにはから揚げだよな!!」

先ほど持ち帰ったから揚げをパックから取り出す、揚げてまだ間もないそれはまだ熱を持ち、サクサク感も残ってる。

 

 

「この香りは醤油か……いいじゃないか!!」サクッ

辛坊たまらんと言わんばかりに豪快にかぶりつく。

 

サクッとした衣、もも肉のジューシーな肉汁に歯応え、噛むほど口に広がるその味わいに静の空腹だった腹は歓喜に満ち、静自身もその味に舌鼓を打つ。

 

 

「醤油の香りに鶏ももの旨味、薬味はシンプルにショウガニンニク、気取らない味だがこれが旨い!!」

口にから揚げの余韻が残っている間に再びハイボールを煽る、その爽快感がから揚げの余韻を洗い流し、口飽きさせることなく、から揚げを美味しく味わえるのだ。

 

 

「プッ!」

口に入ったレモンの種をスイカの種を飛ばすようにゴミ箱へ飛ばす静。

 

 

「これ実家でやったら相当怒られるんだろうな」

自分でも行儀が悪いのは分かってる、だが止められないとハイボールを口に含み再び種を吐き出し、から揚げを頬張る。

 

 

「そういえば、遠足や運動会の時とか弁当はいつもから揚げだったな」

 

 

 

 

―二桁年前の幼き静―

「お母さん!!明日の遠足、から揚げがいい!!」

エプロンをしめ、キッチンに立つ母のエプロンを握りしめる幼い静。

 

 

「大丈夫よ、明日はちゃんと作るから」

そんな娘を慈愛に満ちた目で見る母。

 

 

「うん!お母さんありがとう!!」

年相応に可愛らしい笑顔を母に向ける静。

 

 

 

 

 

 

 

(そんな母の言葉が嬉しくて、明日の弁当が楽しみで中々寝付けなかったな)サクッ

から揚げを頬張りながら、昔を思い出し物思いにふける。

 

 

「あの頃は、将来は自分も結婚して母になって自分の子供にお弁当作って、から揚げ入れるんだとか考えてたっけ……」

それが当たり前だと思ってたあの頃を思い浮かべ、思わず苦笑になる。

 

 

「大人になって結婚、当たり前が一番難しいな」グビグビ

そんな人生の苦味を飲み干すようにハイボールをグイッと煽る。

 

 

「ああ~~!圭君みたいな彼氏欲しい……」

テレビの画面に映るふきのとうの天ぷらを作る男の子を見て思わず呟く。

 

 

「とはいえ、こんな優良物件がリアルにいるわけない」

 

 

「料理ができて、共通の話題持ってて、一緒にいて楽しい人とかいいな……んっ!?」

突如頭に浮かぶ一人の男、見た目は悪くないくせに性格がひねくれている男、でも自分の振ったアニメのネタにも返してくれ、一緒にいるだけで楽しくなる、そんな男の姿が頭に浮かぶ。

 

 

「イカンイカン!!!何を考えてるんだ私は!!!」

あわててそれを振り払い、照れ隠しのように空になったジョッキにウイスキーを注ぎレモンをギューッと絞る。

 

 

「まだまだ宵の口、酔っぱらうには早いぞ!平塚静!!」グビグビ

先ほどの事を忘れるようにハイボールを再び煽る静。

 

 

 

―そして―

 

 

「いかん、飲みすぎた」

調子にのって途中からビールも開けて飲みだした為か、かなり酔っている。

 

 

「そろそろ締めにするか」

パックからおにぎりと豚汁を取り出す、時間がたって冷めているの為、静はそれらを器に移しレンジで温め机に持ってくる。

 

 

 

「先ずはおにぎりだろ」

ゴロンと丸く握られたおにぎり、静は豪快に口に運ぶ。

時間がたちご飯にしっとりと馴染んだ海苔と、軽く塩気のあるごはん、そして舌にジワーッと自己主張する旨味と塩気の固まりである筋子。

 

 

「うまいなぁ」

アルコールが回った体は塩分と炭水化物、この二つを欲しがる傾向にある。

飲みの後にお茶漬けや麺類などを欲しがる理由のひとつがそれ、静にとってもそれは例外ではなく、体が待ち侘びたその味わいに頬が綻ぶ。

 

 

「そんでおにぎりには豚汁が合う!」ズズッ

アチアチ言いながら出汁の利いた汁を飲む、豚の味、出汁の味、野菜の味、それらを味噌が包み込みまとめ上げた豚汁、これが不味いはずがない。

 

 

 

そして

 

 

「ふう……ごっさんでした!!」

酒と飯で心を満たした静は爪楊枝を咥えシーシーやりながら満足げにソファーに寝転ぶ。

 

 

 

「いかん、腹満たしたら眠くなったきた」

仕事終わりで疲れた体、酒、飯このキーワードに対する静の答えなど一つしかない。

 

 

「風呂は明日入ればいい、私は今すぐ寝たいんだ!!」

酔っていて冷静な判断が出来ない静は寝室に戻る事無く、ソファーで電気をつけたまま睡魔に誘われ、寝落ちした。

 

 

 

時間はそろそろ日付が変わる頃、独り身の静の夜は今日も過ぎていく。




次回の更新、当然未定ですがネタだけはすでに沢山あるのでご安心を。


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鯵のなめろう

一昨日は誤って別作品を投稿してしまい申し訳ありません。
間違って投稿してしまったから、早く正しいの投稿しなきゃと、帰宅後さっさとキッチンに立ち、お酒飲んでなめろう食いながら話を考えました。


今回こそ問題なくしずか酒です。






そんなわけで、今回の話は“なめろう”千葉の郷土料理であり、現在では鮨屋や居酒屋でも定番になっているこの料理。
わたくしも大好きで鯵以外でもカツオやサンマ、イワシなどその時の気分で作り酒のアテにしたり、シャリの上に乗せてがつがつやったりします。


前書き長くなるのもよろしくないので本編はいります。


-千葉県某所-

とあるホテルで、ある夫婦の結婚式が行われていた

新郎新婦とも30代前半程だろう、どちらもこれから始まる結婚生活に思いを馳せているのか、自分たちの門出をたくさんの人たちに祝ってもらえてるからか、多分両方なのだろう。祝いに訪れた親戚や友人、職場の仲間に恩師など交友の深い人たちと、幸せいっぱいの面持でにこやかに談笑や余興を楽しんでいた。

 

 

結婚式も終わりに近づき、ブーケトスの番になり、親戚の女の子や新郎新婦の未婚の友人などが集まる。

 そんな中でひときわ目を引く女性の姿、170センチ後半と女性にしてはかなり長身とダイナミックなプロポーション、10人中10人が美人と言うだろう整った顔立ち……総武高校教師、平塚静(独身)である。

 

 

(このブーケトスは非常に難しい、20代前半ならノリで我先に~!!と出来るが今は30代、もしガチで狙いに行ったら「うわ!あの人本気すぎで怖っ!だから結婚できないんじゃ……」と陰口たたかれる事になる。とは言えこのブーケは欲しい!私だって幸せになりたい!結婚したい!!)

子供たちや同じく未婚の女性たちとポジショニングする中で、女としてのプライドと欲求の狭間で静は揺れていた。

 

 

「それでは!!いよいよ……ブーケトスです!!未婚の方は結婚の為に、子供たちは将来の為に……頑張ってゲットしましょう!!」

司会の男性が盛り上げる。

 

 

ブーケを持った新婦は一旦、後ろをチラッと見てから前を向き、きれいな放物線を描くようにブーケを放る。

 

 

(この放物線の軌道は私の方向だ!速度は足りないが手を伸ばせば届く)

チャンスだ!と静は手を伸ばそうとする。

 

 

(まて!私の前にいるのは子供じゃないか!!仮にこのまま取っても問題はないだろう……しかし、先ほどブーケ欲しい!と無邪気にはしゃいでいた子供を悲しませたくはない!!)

静の良心が一瞬の中で葛藤をみせる。

 

 

 

そして

 

 

 

(ダメだ……やはり私はイチ教師だ、子供の悲しむ顔なんて見たくない)

伸ばしかけた手を、愁いを込めた瞳と笑顔を浮かべ引っ込め、ブーケが女の子の手に吸い込まれるのを静は優しく眺めた。

 

 

 

 

―披露宴が終わり二次会―

 

 

二次会会場が禁煙ということもあり、静は喫煙所で煙草をふかしていた。

 

 

「静、今日は来てくれてありがとう!」

私服に着替えたのだろう新婦が静の元を訪れる。

 

 

「なあに、大学の同期のよしみだ、というか披露宴の時も同じ事を言ってたではないか。」

「そうなんだけど、嬉しかったからちゃんとお礼言いたくて。」

 

「それを言ったら私の方も呼んでくれてありがとうだな、同期の君の晴れ舞台に私も立ち会う事が出来て嬉しいよ。」

静は新婦の頭をポンポンと叩く。

 

 

「えへへ……。」

新婦は目を細め、その頭ポンポンを受け入れる。

 

 

「私さ、ブーケトス静を狙ったんだよ、届かなかったけど!」

「私を?」

「うん、静は私の親友だから!早く静の晴れ姿見たくて!」

「そうか、それなら期待に答えるよう頑張らなきゃな」

「うん!!静なら美人だしその気になればすぐだよ!!」

「ハハハ」

「じゃあ私皆のところに行ってくるね」

「おう、言ってきたまえ」

新婦は静に手を振ると二次会会場へと歩いて行った。

 

 

 

 

―二次会の帰り道―

 

 

「フフフ」

(美人だからすぐ出来る……か)

 

 

 

(それで出来たら苦労しないんだよ!!!!ワザとか!?あいつワザと言ったのか!?)

先ほどの言葉を反芻した静はマイナス方向に解釈し、やさぐれモード。

 

 

(結婚どころか彼氏だってできないのに……ああああああああああ!!!!!!!!)

彼女のダミープラグは暴走寸前。

 

 

(おまけに二次会会場の酒は不味いし、微妙なサラダや揚げ物ばかりだし。)

 

(せっかくおしゃれしてるし、今日は宿も取っている事だ、気分を変えて飲み直すか!)

ここから家までは地味に離れている、そのこともあり静は代行を使わず宿をとっていた。

 

(時間はかなり来てるが、やってる店はどこかにあるだろう、とりあえず店探しだ!!)

静は飲食店の立ち並ぶ街中へと足を向けた。

 

 

 

 

―数分後―

 

 

暖簾を下げている店が多い中、やっている店といえばフランチャイズ展開している店が多く、今回も例にもれずフランチャイズがほとんどだ。

 

 

(どうする?フランチャイズで妥協するか?いやしかし……)

早く飲み直したい、でもどうせだから別な店にしたい、静の心は揺れ動き、悩みながらひたすら途方もなく歩く。

 

 

「ん?」

行先も定めぬまま歩いた静の目の前にある暖簾。

 

「鮨屋か、盛り塩もしてるし良さげな店だな、営業時間は3時までか」

暖簾と店構えを細かく確認する静。

 

「この店、当たりくさいな!!」

ここはもう入るしかない、そう決断した静は暖簾をくぐる。

 

 

「いらしゃいませ!」

板前の威勢の良い声が響き渡る。

 

(板前が二人にお客が3人、時間が時間だから空いてるな)

静は店内をさらりと眺める。

 

 

(おっと!先ずはいつものアレしなくては!)

初めて入る店で静が必ず行うこと、人差し指を上にあげ少しハニカムような顔を作る“一人です”ジェスチャー。

 結婚式後で傷心中、これを怠ろうものならハートブレイクすること間違いない。そのジェスチャーを見た板前はこちらの席へどうぞとカウンターへ手を向ける。

 

 

「お飲み物は何にしましょう」

おしぼりを渡しながら板前が聞く

 

(どうする?見たところ日本酒と焼酎が豊富だな、ビールはラガーにドライ、エビスに黒、で生はラガーか……)

静は少し悩むしぐさを見せる。

 

(こう種類が多いと悩むな、とりあえず腰を据えてから攻めることにしよう)

 

 

「お茶ください」

 

 

 

「こちらのお客さんあがりね!」

「はい分かりました!」

板前は裏にいる店員に声をかける。

 

 

「あがり失礼します」

「ども!」

静の元にお茶が運ばれてくる、湯呑を上から眺めると濃い色のお茶が程よい量入っている

 

 

(見た所、底が見えないくらい濃いお茶、鮨屋特有の粉茶だな)

店の考えにもよるが鮨屋のお茶は、鮨という色々な味のネタを楽しむ特性上、口の中を洗いリフレッシュさせ次を味合う意味合いから基本的に濃い(ガリも同じ理由)。

 

静は出された粉茶を少し口に含み転がすように味わった後、それを飲み干す

 

(うん、いい感じにリフレッシュ出来た!早速だが攻めるとするか)

 

 

「すいません、今日は何がおススメですか?」

目利きがよくわからない静は、板前から直に情報をもらおうとする。

 

 

「そうですね、今日は釣り鯵入ってますよ」

振り向き水槽を見ながら板前が言う。

 

 

「釣り鯵?」

「うちの店、釣り好きなお客さん多くて釣った魚を持ち込んだり水槽に入れてったりするんですよ、おかげで千葉の地物の魚を安く仕入れること出来て助かってます」

「へぇぇ、そうなんですか」

情報を聞き出した上で静は少し考える。

 

 

(鯵を頼むのは確定として、どう頼むか……だな。素直に刺身にするか、握りにするか、タタキも捨てがたい!)

静が悩んでいると

 

「なめろうにしましょうか?」

「ああ!なめろういいですね!」

千葉の郷土料理でもあるなめろう、酒にも合うし何より旨い、静の心はなめろうに支配された。

 

「そのまま酒のあてにもできますし、うちではシャリの上に乗せた丼もできますよ」

「おお……」

(それはいい!先ほどからご飯も食べたい、魚も食べたい、酒飲みたいだったから助かる!!)

 

「じゃあ、丼でおねがいします」

「かしこまりました」

板前は水槽から鯵を取出し慣れた手つきで卸ていく。

その後漬け場へと鯵を持ってきて皮を剥ぎ、細かく切ったあとショウガ、大葉、ネギ、味噌と一緒に鯵の活けが楽しめる程度に粗さを残し叩く。続いて丼にシャリを装い、なめろうを乗せる。

 

 

「お待たせしました、なめろう丼です」

「ども!(キタキター!!)」

粒の立った光り輝くシャリの上に豪快に乗ったなめろう、鮮度を生かすためか、鯵の身が粗く残っている。

 

 

(辛抱たまらん!いただきます!!)

なめろうを箸でつまみ一口、鯵の旨味を味噌と薬味がガツンと口の中で一体となり、粗い鯵が適度な歯ごたえを残す。

 

 

(うまっ!そんで次はすし飯と一緒に!!)

今度はシャリの上になめろうを乗せ口に運ぶ、先ほどのガツンとくる味わいとシャリが混ざり合い、飽きの来ない味わい。

 

(これはいい!!簡単に平らげてしまいそうだ……が忘れてわいけないことが!!)

静は壁に書かれているメニューを眺める。

 

 

(まだ酒を頼んでいない、このままでは孤独のグルメになってしまう)

このSSはあくまでも“しずか酒”である。

 

 

(気分的にも今は日本酒に行きたいところ、幸いこの店はそれなりに酒を置いているから好きなの頼もう。えっと……田酒、亀吉、八海山、千寿、盛益……綾花?)

静の脳裏には先ほど祝った新婦の姿。

 

(まさか、同じ名前の日本酒があるなんてな、これも何かの縁だ綾花を頼むか)

静はクスリと笑い綾花を注文する。

 

 

 

 

 

 

「綾花お待たせしました」

店員が綾花を持ってきて注いでいく。

 

 

(これが綾花か、どんな味だろうな)

溢れないように、少し口をつけ口元に持っていきグイッと一口、日本酒特有の吟醸香、旨味、酸味、辛味が口の中にひろがっていく。

 

(米の味を最大限に生かした味わいだな、香りや酸味と旨味はバランスよく適度に抑えられている、なめろうとの相性も抜群だ)

 

 

「綾花となめろう、いいな……」

そうつぶやき、なめろう丼と綾花を楽しんでいた時だった。

 

 

「いらっしゃい!」

「ども~!」

聞き覚えのある声が店内に響く。

 

 

「あれ?静ちゃん何その恰好?どうしてここに?」

声の主は雪ノ下陽乃、静の元教え子である。

 

 

(静に飲みたい時にこれか……)

静は頭に手を当て少しため息をつく。

 

 

「友人の結婚式の帰りだ、それよりお前は学生の分際で鮨屋とはいい身分だな」

「いい身分だからね」

静の嫌味にケラケラ笑いながら彼女の隣に腰をかける。

 

 

「あっ!静ちゃんいいもの食べてる!すいませ~ん、私にも同じの下さい」

 

「かしこまりました。おおい!これよろしく!!」

板前は鯵の骨の乗った皿を裏に回す。

 

 

 

―そして―

 

「おっ来た来た!」

なめろう丼に綾花が運ばれてくる。

 

「すいません失礼します」

それとは別に、何か一皿運ばれてくる、静は何だこれと覗き込む。

 

「鯵骨の素揚げ?頼んでませんよ」

「ああ、うちでは1尾頼んだ方にはサービスでお出ししてるんですよ、ちょうどお二人で1尾分だったのでお出ししました」

「ああ、そうなんですか、ではありがたく」

ぺこりとお辞儀しそれを受け取る。

 

 

(鯵の骨せんべいか、軽く岩塩がかかってるな)

静は骨せんべいに、添えられた酢橘を絞り口に運ぶ。

サクッとした食感になめろうとはまた違う、鯵の強烈な旨味が静の舌にガツンと響き、岩塩と酢橘といったシンプルな味つけが鯵をさらに引き立てる。

 

 

「これは、旨いな!!」

「私と一緒で得したね」

「今はそういう事にしておこう」

私に感謝したまえな態度の陽乃に苦笑いしながら静が答える。

 

 

「それより静ちゃん」

「ん?」

「乾杯してないよ」

グラスを軽く持ち上げ、笑みを向ける。

 

「それもそうだな」

静もグラスを持ち上げる。

 

「何に乾杯する?」

 

「そうだな……」

静は少し考えるそぶりをし

 

 

「綾花に乾杯だな」

笑顔をみせそう答える。

 

「お酒に乾杯って、変なの。」

まあいいけどと笑って返す。

 

 

 

「「綾花に乾杯!!」」

 

 

たまには誰かと飲む酒も悪くない、そう思う静であった。




次回の更新は未定ですが、なるべく早く更新したいと思います。


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じゃがバター塩辛

ご無沙汰です。

今回の話はじゃがバター塩辛。

その名の通りじゃがバターに塩辛を乗せた物。
北海道の郷土料理のようなもので、簡単、安い、旨い三拍子揃った一品料理。

私、これがかなり好きで、つまみ作るの面倒な時は結構な頻度で作ります。





 

 

「いつも通りの寄り道♪」

何やら歌を口ずさみながら、車を運転する一人の女性。

 

「家に帰るその前に……今日は何を食うか」

総武高校教師、平塚静の姿があった。

 

 

「ここの所、店屋物続きだから自炊としゃれ込むのも有りかもしれんが、中途半端な自炊は返って金がかかる……」

ここ最近の自分の食生活を振り返り、このままじゃいかんと思いつつ悩みに悩む静。

 

「まあ、これも花嫁修業と思えばいいか!私まだ若手だし!」

自分に言い聞かせるようなその言葉……自分を慰めつつ今日やることを決定する。

 

「そうと決まれば出発だな、スーパーに寄っていこう」

交差点でいつもと違う方向にウインカーを点滅させ、静は車を走らせた。

 

 

 

―某スーパー―

 

駐車場に車を止め、財布の残高を確認し車を降りキーをロック、そのまま店内へと向かう。

 

「とりあえず適当に見て回ろう、全てはそれからだ」

静はそのまま買い物カゴを手に取り店内をうろつくことにした。

 

 

 

(まず最初は肉だな!)

決めるが早いかすぐに食肉コーナーへ向かう。

 

(豚コマでいいな!どうせフライパンで炒めるだけだし)

思い立ったら即行動、お買い得品の豚コマ200gパックを目利きもせずカゴに放る。

 

 

(次はモヤシだな)

静の作る料理の中でも最もポピュラーな肉モヤシ炒め。

大量のモヤシ炒めの上にガッツリと肉炒めを乗せ、焼肉のタレをドバドバかけた物。これを出来立てアツアツの内に、キンキンに冷やしたビールと一緒にモグモググビグビとやっつけるのが彼女のスタイル。

 

(モヤシはいつも安いからありがたいな)

これもまた、賞味期限などを一切確認せずカゴの中に放る。

 

 

(おっと!焼肉のタレも残りわずかだったな!)

醤油やソース、スパイスに○○の素や焼肉のタレ等が置かれているコーナーに向かう。

 

 

「あったあった」

いつもの焼肉のタレをカゴに入れ次の目的の場所へ。

 

(そう言えば、カンカンカンカン晩餐館♪焼肉焼いても家焼くな♪てCMあったなぁ……買ったのエ○ラだけど)

静はカゴの中にある黄金の瓶を見る、どうやら辛口がお気に入りらしい。

 

 

 

「どうしようかな……」

そんな事を考えている静の近くで何やら悩む声、振り向いた先にいるのは自分の教え子である川崎沙希、スパイスコーナーで何やら悩んでいるようだ。

 

 

「おお川崎、君も買い物かね?」

「?ああ先生、まあそんなとこ」

沙希は偶然居合わせた静に対して、特に気にしたそぶりもなく、そっけなく返す。

 

「何か悩んでるのかね?」

「別に、先生には関係ないよ」

「関係ないかどうかは聞いてみないとわからないな、試しに言ってみたまえ」

彼女はイチ教師、なんだかんだで見過ごせないのだ。

 

「大したことじゃないんだけど……花椒どうしようかなと思って」

「ほ、花椒?」

それ何語?あまり聞くことのない単語に固まる静。

 

「……はぁ、中国の山椒の事、今日の家のメニューは麻婆豆腐なんだけど、ちょうど切らしてて買いに来たの、でもここに置いてないから普通の山椒でいいかなって悩んでて」

やっぱりわかってないじゃんと言わんばかりにため息をつき、静に説明する沙希。

 

「ま、麻婆豆腐って○美屋じゃないのか?」

「なんで○美屋使わなきゃならないのさ……業務用の豆板醤と甜麺醤に中華スープ買って作った方が全然安いじゃん」

「ま、まあそうだな(言ってる単語が理解できない)」

どちらが先生か分からない状態にタジタジの静。

 

(もしかして川崎は私より料理が上手いのか!?私は雪ノ下だけじゃなく、彼女にも負けてるのか?)

 

「時に川崎、君は料理が得意なのかね?」

やらなきゃいいものを、念のため事実確認をする静。

 

「別に、普通だと思うけど」

静の買い物かごの中をチラリと見る。

 

「……でも、先生よりは上手いと思う」

沙希はそう言いながら普通の山椒を手に取りかごに入れ、それじゃまたと手を軽く振り去って行った。

 

 

「……グスン」

心の中に往年の名曲、越冬つばめのBGMが流れる。

 

そのBGMを流しながらその場を後にする静だった。

 

 

 

―数分後―

 

(小娘如きにコケにされたままではおれん!ちゃんと自炊せねば)メラメラ

心の中に、某GガンダムのBGMが流れ闘志を燃やす静。

 

(私の持つレパートリーの中で作れるもの……それはカレー!!)

故人曰く思い立ったら吉日、静はカゴの中にカレールー、タマネギ、ニンジン、ジャガイモを追加していき、レジへと持っていく。

 

 

「ありがとうございました、またお越しくださいませ」

 

静はレジでさっさと会計を済まし車に乗り込み自宅へと向かった。

 

 

 

―自宅―

 

帰宅し、いつものスウェットに着替えキッチンに立ち調理開始、鍋に水を張り火をかけ、沸騰するまでの間に野菜を切り分ける。

 

「ピーラー使うの久しぶりだな」

明らかに使い込まれていない100均のピーラーを取出し、手に持つ。

 

「先ずは、ジャガイモからだな」

ぎこちない手つきで慎重に皮を剥く。

 

 

「次は貴様だ人参野郎!!人間みてぇなその名前、まったくふざけた野郎だぜ」むきむき

 

※彼女はまだシラフです。

 

 

「カレーはゴロゴロ野菜が良い、決して面倒だからというわけではない」

そう言葉にするとさきほど皮を剥いた野菜を豪快に乱切り……というより乱雑に人参とジャガイモを切る。

 

「問題はこいつだ、タマネギ……」

お世辞にも切れ味の良いとは言えない包丁、それで切ることにより細胞を押しつぶすように切る為、涙が出るような刺激がでてしまう。

 

「くそぅ!タマネギが目に沁みやがるぜ!」ウルウル

 

「よし終わった……後は肉をパックから出してと」

静はそういうと鍋の方に目をやる。

 

「ばっちり沸騰してるな!うりゃぁぁ!!」

切った食材をそのまま鍋にぶち込む静ちゃん……。

 

 

「火が通れば問題ない!!」

フライパンで炒めるという工程が面倒だったのか豪快に具材をぶち込んだ鍋をかき混ぜる。

 

 

―グツグツ煮込み数十分後―

 

「後はカレールーをぶち込んで完成だな」

ルーを別鍋にとりわけたスープに溶かし、少しずつ鍋に入れていく……なんて事をするわけもなく、ルーをバキバキ割ってドサーッと入れる。

 

 

―そして―

「うん旨い!私の料理も捨てたもんじゃないな!!」

味見をしすっかりご満悦。

 

「よし!早速食うぞ!!」

カレー皿を取出しジャーの前へと向かう……が。

 

「ご飯炊くの忘れてた……」

一人暮らしで店屋物ばかりに頼った生活をしていた静にとって、ご飯を炊くという習慣などあるはずもない。

しょんぼりと肩を落としながら、米を研ぎジャーにセットしスイッチオン!そんで深いため息を吐く。

 

 

「待ってる間暇だから何か食うか」

冷蔵庫を開け何かあるか確認する。

 

冷蔵庫の半分はビールとジョッキ、残りにバターやマーガリン、塩辛やチャンジャ、チューブの薬味があるくらい。

 

「いつもならある冷凍枝豆も昨日アニメ見ながら食べてしまったし、どうする?」

冷蔵庫だけではなくキッチン全体に何かないか確認し……

 

「じゃがいもか……バターもあるし、じゃがバターにするか!」

腹が減っては何とやら、空腹状態の静は我慢できず、ジャガイモを手に取り水で洗いラップに包んでレンジでチン。

 

「ふむ、バッチリだ!」

出来上がったふかし芋につまようじを刺し火の通りを確認する。

 

「あちち!」

ラップを熱々言いながら剥がし、包丁で四等分。

 

冷蔵庫を開け、切れてるバターを手に取り、それをジャガイモの上にかけてじゃがバター完成。

 

 

「そういえば北海道ではじゃがバターに塩辛乗せるんだっけ?」

何気なく先ほど冷蔵庫にあった塩辛を手に取る。

 

「げっ!賞味期限一昨日までではないか!今食わなくては不味い」

賞味期限が少々切れたくらいなら構わない、静は封を切りじゃがバターにドバっとかける。

 

「見た目はグロいな……心して食わねば!!」

 

箸で芋を軽く崩し、バターと塩辛が絡んだ部分を持ち上げる。

 

 

「ええい!女は度胸なんでも試してみるもんだ!!」パクッ

気合いと共にじゃがバター塩辛を口に運ぶ。

 

塩辛の濃厚で塩味の強い味わいとジャガイモのほっくりとした優しい味わい、そしてバターのコクが口の中で絶妙に調和し、それぞれの食材がお互いの持ち味を存分に高め合う。

 

 

「旨過ぎじゃないか!!だがコレはイカンぞ!!」

とすぐに冷蔵庫を開けビールとジョッキを準備する。

 

「酒を飲まずにはいられないじゃないか!!」トクトクトク グビグビグビ

舌に余韻が残るうちにビールを流し込む。

ただ塩辛を食べるのと違い、ほっくりとした芋の味わいとバターのコクというプラスアルファがビールにも対応したつまみへと進化させる。

 

「この、ほんのり熱が通った塩辛の歯ごたえも良いアクセントになってるな」

噛めば噛むほど味が出て、芋とバターが口の中でさらに絡み合う。

 

「じゃがいも、少量のバター、塩辛という安価な食材でこの旨さ」

じゃがバター塩辛をもぐもぐさせ、ビールで洗い流し、再びその旨味を飽きる事無く味わう。

 

「簡単に作れて、安く、旨いの三拍子……これはもう食のノーベル平和賞だな」

と意味不明な供述をしております。

 

 

―そして―

 

「いやー旨かった!!」

皿の残りまで舐めるような程綺麗に完食。

 

 

「こんな発見があるなら自炊も悪くないな!」ピィィィ

 

「おっご飯炊けたか」

カレー皿を再び手に取り、ご飯を装いルーをかける。

 

「うん、旨い旨い」モグモグ

シンプルな具材のシンプルなカレー、だがこれが旨い。

 

 

「自分で作ったつまみを味わい自分で作った飯を食う、こんな日も悪くはない」

 

「料理のレパートリーも一つ増えたし、今日は一つ上の女になった気分だな」モグモグ

 

今日も今日とて、ひとり身で一人自宅で独り言(5・7・5)を呟く静。

 

 

ご満悦な夜は静かに過ぎていく。




やっぱり、スポコンよりこっちのが書きやすいですな……。


今後も息抜き兼ねた不定期更新になりますがよろしくお願いします。


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蕎麦屋で昼酒

お久しぶりです、今回は蕎麦屋で昼酒。

私も行きつけの店が潰れる前は月に1、2回程行ってました。

今では周りにコレだ!って店がないため数か月に一回、腕が鈍らないようにやる蕎麦打ちついでに、蕎麦&昼酒をする程度です。

今回はそんな蕎麦&昼酒のお話。


蕎麦屋

言葉の通りお蕎麦屋さん。

立ち食い蕎麦、えきそば、高級店、大衆店など様々な客層、ニーズに合わせた店の派生があり、食事に呑みに小腹がすいたおやつにと色々楽しめる日本が誇るお店。

 

 

平塚静はそんな蕎麦屋に行くべく、道を歩いていた

 

 

「本当にこの辺りにあるのか?というか旨いんだろうな?」

これから行こうとしている店の名刺なのだろう、歩いていた足を止めそれを訝しげに眺める。

 

 

『ここの蕎麦屋、凄い美味しいんだよ!昼間酒とかやるなら最高だから!』

静の頭に昨日の陽乃の言葉が浮かぶ。

 

 

「まあ、あいつの行きつけらしいから大丈夫か」

止めていた足を動かし、静は再び歩き出した。

 

 

 

 

 

―昨日、自家用車車内―

 

 

 

「絶対~♪運命~♪黙示録♪」

車の中という密室空間、誰もいない、誰も聞いていない、そんな時ついついしてしまう大声で歌う。

平塚静にもそれは例外ではなく、昔よく見たアニメの歌を口ずさんでいた。

 

 

「さて、今日は花の金曜日で明日は休みとなると明日は何をするか悩みどころだが、それよりも今だ」

行くべきところはただ一つ。

 

 

「今日は何を食べて何を飲むか……まあ、それは店行ってから決めればいい」

帰宅しカジュアルな服に着替えた静は、ある場所へと向かった。

 

 

 

―近所の大衆食堂―

 

 

「ごめ~ん」

いつもの扉を開け、藍色の暖簾に手をかけ店内へ。

 

「あ、平塚さんいらしゃい!」

「ども!」

軽いやり取りをし、空いてる席を探そうと見渡す。

 

 

そんな時だった。

 

 

「あ!静ちゃんだ」

「なんだ、陽乃も来てた……」

自分の名を呼ばれ向いた先にいたのは雪ノ下陽乃、それは別にいつもの事なのだが。

 

 

「あ、ども」

「ひ、比企谷!」

そこに一緒にいたのは自分の教え子でもある比企谷八幡の姿があった。

 

 

「どうしたの静ちゃん」ニヤニヤ

「貴様の仕業か!陽乃!!」

陽乃には以前「私……比企谷が成人したらここ連れてきて……一緒に酒、飲むんだ!」って言ったことがあった。

 

それまで連れてくるのを我慢していたのだ。

 

 

「えっ?私は偶然会った義弟をお気に入りの場所へ案内しただけだよ」

「いや、校門前を歩いてたら突ぜ……」

「比企谷君、少し黙ろうか?」

「ヒッ!」

否定しようとした八幡に笑顔という名の威圧感を向ける。

 

 

「この店は、比企谷が成人した時に連れてきて一緒に酒飲もうと思ってたのに、それを貴様は!」

「ごめんね比企谷君の初めては私が貰っちゃった」

「誤解を招く発言はやめていただきたい」

大衆食堂で誤解を招く発言はやめてほしい、八幡は即座にツッコミを入れる。

 

 

「ふざけるな!比企谷の初めては私が貰うはずだったのに!」

「せ、先生もおちついて下さい!」

沈静化させる事無く、火に油を注ぐ静。

 

 

「えっと……」

お茶とおしぼりを持った店員さんはどうしたもんかと苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

―十数分後―

さほど変わらない時間に到着したのか八幡と陽乃はまだ注文をとってなかったらしく、3人は同じタイミングで注文し、料理が運ばれてくる。

 

 

 

(ウマッ!ここのラーメン期待してなかったけど旨い!)

(ギョーザも皮がモッチとしてて、噛むと肉汁やニンニクの旨味がジュワっと口に広がる……おろしポン酢とも合う)

大衆食堂という事で期待していなかった八幡だったが、予想を良い意味で裏切られたのだろう、アホ毛をピコピコさせながら料理を堪能する。

 

 

「ここの唐揚げも旨いぞ、食うか?」

「頂きます!」

静は八幡の空いた餃子の皿に数個乗せる。

 

 

「あ、私にも頂戴」

「やらん!自分で頼め」

そう簡単に許すわけない、静はそっぽ向きビールを煽る。

 

 

「もう、機嫌なおしてよ静ちゃん、お詫びに良い店紹介するから~!昼酒するには最高なんだよ」

「一応聞こうか?」キリッ

明日は休日、なので何処に行くか悩んでいた静には渡りに船、急に態度を変え振り向く。

 

 

(昼酒って……この二人、昼間っから酒飲んでんのかよ)

 

 

「はい、これお店の名刺。私の行きつけだからあまり教えたくないんだけど、ここ紹介してもらったお礼だよ」

「恩を仇で返されたがな」

先ほどの事を蒸し返すように静は嫌味を向ける。

 

 

「だからごめんって~」

これはしばらく根に持たれそうだ、鉄仮面の下で陽乃は苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

―そして現在14:30―

 

「ここか…」

住宅街に佇む和な店構え、俗に言う蕎麦屋の前に立ち止まる。

 

 

「ごめ~ん」

暖簾をくぐり店内へ。

 

「いらっしゃいませ」

店員が声をかけてくる、静はそれに対し、人差し指を上に向け軽い愛想笑いのような顔

 

 

一人です!のジェスチャーをするのだが

 

 

「はい!お一人様ですね!空いてるお席へどうぞ!」

(ぐはぁ!!!)

(いちいち確認するなよあの店員!)

見事にハートブレイクさせられる。

 

 

 

「……ったく」

席に座り、メニュー表を開く

 

 

(さてどう攻めるか)ペラリ

メニュー表を開きにらめっこ。

 

 

(けっこうメニュー豊富だな、絞めの蕎麦は後で頼むとして、まずは酒とつまみ……)

 

 

(酒は熱燗で決定、つまみをどうするかだな。板わさ、湯葉刺しとか良いな……おっ出汁巻きもあるぞ!他には、炙り海苔山葵?それと地鶏のタタキに鶏皮ポン酢か)

 

 

(居酒屋に比べ数は少ないが、実力派揃いと見た!ここは采配が試されるぞ)

 

 

(よし!注文は決まった!)

 

「すいません!」

手を上げ店員を召還する。

 

 

「炙り海苔山葵と板わさ、出汁巻きと湯葉刺し、あ……あと熱燗!人肌程度に燗できます?」

「大丈夫、できますよ」

「じゃあ、それでお願いします」

「かしこまりました」

(フフッ今から楽しみだ)

 

 

―そして―

 

「お待たせしました」

「どもっ!」

注文した料理が運ばれてくる。

 

 

(先ずは海苔からいくか)パリッ

炙った海苔に、本わさびをすりおろした物、醤油代わりに蕎麦用の返しというシンプルな物。

 

※返し

醤油に砂糖やみりんを合わせ熟成させた物、蕎麦ではこれと出汁を合わせ、めん汁にします。

 

海苔で山葵を包むように巻き、返しにちょこっと着け口に運ぶ。

 

炙った海苔の磯の香、それを山葵の鮮烈さが鼻を通し、返しの深さと会いまって素晴らしい調和を描く。

 

(これはイイな!手頃なのにワサビと海苔の相性が素晴らしい)チビッ

続ざまに日本酒をやっつける。

 

 

(次は出汁巻きに行こう、熱いうちに食べねば)

蕎麦に使う出汁と返しをやや濃い目に合わせ軽くザラメを加え、ギリギリまで出汁を吸わせ銅で焼いた出汁巻き。

 

箸が簡単に入るような出汁巻きは、吸わせた出汁の量に比例して難易度が増す。

銅で出汁巻きをひっくり返し巻く際にちょっとの動きの乱れで簡単に崩れてしまう、この出汁巻きには料理人の腕が現れている。

 

 

(これもイイ……卵の味も濃いがそれ以上に出汁が旨い)

 

(そして口に出汁が広がったら熱燗!これがたまらん!)

 

気が付くとすぐに熱燗が無くなる。

 

 

「すいません熱燗お代わり!」

「かしこまりました」

旨い料理は酒の進みが早い。

 

 

(そして定番の板わさ、さっきのワサビはかなり良かったからな、これはたのしみだ)

本わさびと返し、紅白ではなく真っ白、面の荒い分厚く切られた蒲鉾、あまり見ないルックス。

 

(分厚く切った蒲鉾かこれは期待できる)パクッ

歯を返すような歯ごたえに魚の味、山葵と返しの相性が抜群。

 

「旨っ!何だこれは?」

そんな蒲鉾の旨さに思わず声が出てしまう。

 

 

「ああ、うちの店、蒲鉾は手作りしてるんです」

「へ~だから今まで食べたことない旨さなんですね」

そう言いながらもう一口。

 

 

(さすが陽乃推薦の店だな……旨いもの続きで酒が空だ)

 

 

「すいません熱燗お代わり!」

「かしこまりました」

 

 

酒が運ばれてくると、続けて湯葉刺しに目を向ける。

黒い器に白く艶やかな湯葉の相対比でより美しく見える。本わさびに出汁醤油が添えられている。

 

 

(湯葉なんて何年ぶりだろうな)パクッ

ねっとりした食感に大豆の旨味を摘出したような味わいと出汁醤油、それぞれが持ち味を引き立て合い味わいを膨らませる。

 

 

(おお!これも旨い!だがこれはイカンぞ!)

 

(酒が殺人的に進むではないか)

口に残る湯葉の旨味が酒を飲むのを止めさせてくれない。

 

 

「すいません熱燗お代わり!」

「かしこまりました」

 

 

 

静はしばらく酒と料理を楽しんだ。

 

 

―そして―

 

(そろそろ締めに入るか)

メニュー表を眺める。

 

 

(こんだけ旨い料理を出す店だから天ぷらも旨いんだろうが……ちょっち食いすぎだからな)

飲み過ぎという概念は無いようです。

 

 

(でもいいや!まだ食べたいし酒も残ってる事だ、頼むことにしようではないか)

 

 

「すいません!天ざる下さい」

「かしこまりました」

 

 

(旨い蕎麦屋の天ぷらに外れ無しと聞いた事がある、これだけ料理が上手い店だから期待大だな)

 

 

「お待たせしました」

「どもっ」

エビ、アナゴ、かき揚げ、シシトウ、カボチャの天ぷらと、ざるそばが運ばれてくる。

 

 

(天ざるとか頼むと何から食べていいか悩むよなぁ)

エビから行くかアナゴからいくか……いっそかき揚げかで悩む。

 

 

「ん゛~~」

 

(決めた!エビ天からだ)

エビ天に箸を伸ばし口へと運ぶ。

 

 

(おお、こりゃまた絶妙な火加減だな)

大きめのエビ、ちゃんとスジ切りをし硬くなりすぎなく、それでいて生過ぎない火加減であげたエビ天に舌鼓を打つ。

 

 

(尻尾までいくのは下品かもしれんが、ここ好きなんだよな)バリッ

 

 

(そんで、シシトウを箸休めにつまんでっと)モグモグ

 

 

 

(次はアナゴさんだ!鮨や白焼きで食うのも良いが、天ぷらも良いよな)

アナゴ特有の癖と淡白な味わいが、衣と油、つけ汁とまじりあいホックリと

 

 

(さて、次はかき揚げだな)

箸で持ち上げ、まじまじと見つめる。

 

(色んな具が合わさった掻き揚げ、これはまるでお楽しみ袋のようなだな)

 

(塩で食うか汁で食うか悩むな、かと言って半分に割ってしまうのはなんか違う……こう、かぶりつくのが醍醐味だ!)

今回は汁にしよう、そう判断しつゆにかるく浸し豪快にかぶりつく

 

小柱、イカ、三つ葉、長芋の掻き揚げ

噛むと口に広がるイカと貝の旨味に長芋の食感三つ葉の風味がまとめ上げるかき揚げ、噛むほど広がる味わい。

 

 

 

(うん、うん!これいいなぁ!!長芋がこんなに合うとは思わなかった)

 

(んでカボチャの天ぷらで再び箸休めしてと)パクッ

 

 

 

(さて、最後は蕎麦だ!)

全粉を使った十割蕎麦、小麦粉を使わず蕎麦の香りと旨味を味わえる作り。

 

 

(この前知ったやり方、やってみるか)

山葵を汁に入れず、軽く口に含み髪をかき上げると、そばをススる。

 

 

(山葵の鮮烈さに、そばの香りに汁の味、まるでこれは蕎麦の刺身だな……という事は)

 

 

(うん、熱燗とも相性バッチリだ)

しばし、蕎麦と残った酒を楽しんでいると酒が無くなり、蕎麦だけとなる。

 

 

 

(残りは蕎麦のみ、まさにこれは締めだな)

少しクスリと笑うと山葵を口に含み、残りの蕎麦を楽しんだ。

 

 

 

「失礼します、こちら蕎麦湯になります」

 

「ども」

 

 

(蕎麦湯、好き嫌いはあるがこれ結構好きなんだよな)

汁に蕎麦湯を入れ、汁と蕎麦を余すことなく味わう。

 

―そして―

 

 

「ご馳走様でした」

「ありがとうございましたまたお越しください」

「はい、また来ます」

静は会計を済ませると、笑顔を向けそう言い残し店を後にした。

 

 

 

 

 

 

「さすが陽乃だな」

「というかあいつの行く店、とても女子大生とは思えんな」

お好み焼き屋、鮨屋、大衆食堂、そして蕎麦屋、とても女子大生が行く店とは思えない。

 

 

「あいつもアラサーになったら私と同じようになったりしてな」

その時になると静はアラフォー、もしくはアラフィフの可能性ありなのだが、酔っぱらっている彼女はそんな事を気にも止めず歩き出す。

 

 

時刻は既に昼の三時過ぎ

独身街道まっしぐらな昼下がりの帰り道だった。

 



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焼き鳥

お久しぶりです。

リハビリがてらこっちの方を書いてみました。

今回は某作品とクロスオーバーしてますので苦手な方はご注意を。


焼き鳥

一般的には串打ちした鶏肉を焼いたもの。

昔の話ですが「事、肉料理に関してフランス料理以上の物はない」と豪語する友人と肉料理について口論になった事があり。

 

「俺はフランスの肉料理食えなくなるのと焼き鳥が食えなくなる二択なら、迷わずフランス料理食えなくなる方を選ぶね!」と言ったら「すまん……。俺もだ」となって仲直り。

 

ビバ焼き鳥。

 

フォーエバー焼き鳥。

 

 

モモ、皮、レバー、ハツ、つくね、砂ぎも、他色々……シンプルに塩もよし、醤油のタレで濃厚に食べても良し。

ご飯から酒まで何でも合う素敵な食べ物、それが焼き鳥。

 

 

今回は、そんな焼き鳥のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―花の金曜日―

 

「スーパーエ○ジェルフェニックス♪輝く明日を掴もう♪」

キラキラしたシール入りのビックリなチョコを連想する歌を口ずさむ一人の女性。

 

総武高校教師平塚静、彼女は女性らしくない歌を口ずさみながら車を走らせ帰宅している最中だった。

 

 

「今日は、もう遅い……。行きつけの食堂も閉まってるだろうしイ○ンで適当なの買って帰るか」

静はそう呟くと、ウインカーをいつもとは反対に点滅させ、スーパーへと寄り道するべく進路を変更した。

 

 

―千葉 某スーパー―

 

 

(やはり今の時間はロクな物がないな……)

半額シールが貼られてから結構な時間がたったのだろう、目当てとしていた弁当や寿司、空揚げ等が微妙な物を除いて軒並売り切れている。

 

 

(これとこれ……あとこれでいいか)

そんな中、残っていた硬くなった焼き鳥を数パックカゴに入れる。

 

 

(今夜はビールと行きたいところだが……タマにはこういうのもアリだな)

この串焼きでビールはなぁとおもった静は、近くにあった氷な缶チューハイを手に取り定番のレモンをはじめ数本カゴにぶち込む

 

(何か学生の頃に戻った気分だ)

カゴの中はまるで大学生の頃のよう。総菜コーナーにて半額シールが貼られる時間を狙いすまし手に入れた戦利品を安いチューハイで流し込んでいたあの頃。ただ酔うだけでも良かった時代を思い出す。

 

(……いっそあの頃食べたものを買うか……となると、あそこだな)

あと一つ足りない、酒コーナーから離れとある場所へと向かう。

 

 

(あった!これこれ!学生の時よく食べたな)

それをカゴに入れると静は、昔を思い出しながらレジへと向かった。

 

 

 

 

―自宅―

帰宅し直ぐにスウェットに着替え、買い置きの冷凍枝豆を解凍し、串焼きをレンジでチン。アイスペールに氷を入れテーブルに持っていく。

 

「さて今日は何を見るか」

動画を見ながら晩酌モードに入る。

 

「いつもなら熱くなる展開のが見たくなるが今日は、昔をまったりと味わいたいもの……」

あれじゃない、これじゃないと動画一覧を適当に流して行き。

 

「おっ!これいいな」

一つの動画に目が止まり、それを再生することにした。

 

 

「曖昧3センチ♪」

なんか出る~ような歌が流れ、かわいい女の子たちが埼玉で踊っている姿が流る。

 

静は味が濃く甘だるい串焼きをレモン味のチューハイで流しながら動画をしばらく見た。

 

 

 

「懐かしいではないか。しかし……黒井先生か。あの頃はクリスマスケーキネタで笑っていた私だが、今は全然笑えんのは何故だろうな」

それについて答えは書くまでもない、真実はいつも一つ。

 

 

「ふっ、認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものは」

笑えない意味が頭に浮かぶと同時に思考を切り替える。それが出来なければ彼女の精神は生き残れない。

 

 

「それにしてもだ……。チューハイに見切り品の惣菜にあの時のアニメ、昔と変わらないはずなのに今改めると全然ちがうな」

あの頃、良く食べた物も今になって食べると、また違った味わいに感じる。

 

 

「とはいえ甘だるい焼き鳥に冷凍枝豆、安っぽいチューハイ……まあ、なんだかんだでこれが合う」

 

「そして酒の締めと飯を兼ねてポロいちの塩を茹でて、野菜ミックスに肉入れて……と」

 

「出来た出来た!」

これも学生時代の定番、肉野菜入れインスタント麺。

 

「うん、旨い旨い!」

なんだかんだでアルコールが回った彼女には美味しいもの、ペロリと平らげる。

 

 

「それににしても……飯はなんだかんだ旨いし、アニメも面白いのだが。満たされないのはなんだろうな」

 

 

「やっぱり焼き鳥は焼き立てが食いたい。チューハイも良いが、やはり焼き鳥にはビールだ」

 

 

「塩ちょい強めのネギまに七味をパラパラかけてかぶり付いて、熱々の肉汁とトロッとしたネギが口に広がって、ん~!ってなった時キンイキンに冷えた生でグイッとやって爽やかな香りと苦みで流して、喉にギューッとくる感覚がたまらんのだよな」

 

「それと比べてしまうと、どうも満足できない」

一度連想してしまうと物足りなくなってしまう、こんな時にすることはただ一つ。

 

「……まだ宵の口ではあるが寝るとしよう」

さっさと寝るに限る。静はそう判断しッさっさと床についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……寝れん!焼きたての焼き鳥を連想したせいで寝れん!」

 

「焼き鳥か~。フランチャイズの店も結構旨いし、居酒屋の焼き鳥も悪くない」

 

「そういえば学生時代にタマの贅沢で行ってた店のは旨かったな」

焼き鳥と言えばで、静は昔よく言った店を思い出す。

 

「幸い明日は休み、店は4時からやっていて、早い時間なら比較的空いている。いっそ食いに行くか?いや行こうではないか!」

もはや彼女に行かないという選択肢は存在しない、そうと決まればさっさと寝よう。

 

静は顔をにやつかせながら、寝息を立て深い睡眠へと入って行った。

 

 

 

 

 

―翌日―

 

 

(開店時間まではかなりある、何せまだ昼ちょい過ぎだ)

朝昼兼用で10時頃に立ち食いソバで軽く食べた静は、何となく街を散策していた。

 

その時だった。

 

 

「ねぇ、俺らとちょっと付き合ってよ」

 

「え?あの……困ります」

静の耳に入るナンパしている男とされてる女の声。

 

「いいじゃん、ちょっとお茶するだけだから」

 

「いや、だから僕は……」

 

「「僕っ子キターーー!!!」」

 

(チッ!ナンパか)

別に自分がナンパされないのが気に食わないわけではない。

 

「断る婦女子を無理やり誘う。男の風上にも置けんな」

彼女から溢れる男気が答え。こまった人を見過ごせない。

 

 

「……ん?あのナンパされてる子もしかして」

ナンパされてるショートカットのジャージ姿の子、どこかで見たことがある。

 

(あれは戸塚ではないか!)

仮にも男?とはいえ自分の教え子、見過ごせない!下手をすればナンパ野郎の世界に腐った扉が開きかねない。

 

「どうしたのかね戸塚」

 

「あ、平塚先生!」

静は戸塚に声をかけると、戸塚は困っていた顔から笑顔になる。

 

 

「ああ先公だぁ!?関係ねぇ奴は引っ込んでろ」

 

「それとも何?先生が相手してくれるなかなぁ?」

ナンパを邪魔されご機嫌斜めだったが、邪魔してきた人も何だかんだ美人さん。すぐさま行動を切り替える。

 

 

「どちらもお断りだ、私にも選ぶ権利はある」

 

「じゃあちょっと力ずくで相手してもらおうかなぁ」

そう言うとニヤニヤ近づく野郎ども。静の格闘能力なら、こんな奴ら簡単にねじ伏せることができるが……

 

(チッ!流石に生徒の手前で暴力は不味いどうする?)

さすがに今は生徒の前、手出しが難しい。静は窮地に陥っていた。

 

 

―少し前―

 

(ようやくついた……。そして仕事の待ち合わせの時間には、ほんのり余裕)

駅から出てきた長身の男、個人で輸入雑貨商を営む、井之頭五郎。

 

 

彼は目的の場所まで歩きながら、大いなる悩みにより葛藤していた。

 

 

(無性に甘いものが食べたい!喫茶店でパフェを食うか?いやギリギリだな……いやしかし!)

彼は非常に甘党、そんな訳で頭の中では仕事より糖分を欲していた。

 

 

「え?あの……困ります」

「ん?」

その時聞こえてきた女性?の声。

 

 

(女の子がナンパされてる。おっ美人さんが助けに入ったが……あいつら!)

助けに入った女性にも手を出そうとしている。

 

 

(仕方ない……)

ここはさすがに見過ごせない。

 

 

「その辺にしたらどうだ?」

 

「ああん!?……っ!」

(デカい、それに何か威圧感あるなヤクザか?)

もしサングラスをかけていたらヤクザにしか見えない風貌の男にたじろぐ男。

 

 

「ああ!?おっさんは引っ込んでろ」

「お、おいバカ、止め!」

だがもう一人は状況が見えていなかったのだろう、止めようとしてる仲間を無視し襲い掛かろうとする

 

 

「痛ぁ!!」

 

(脇固め!?入りが早い!初動に無駄がないな……経験者か?)

一瞬の出来事で動きがわからない。唯一、静だけが見極めた。

 

「く、くそっ」

 

「ほ、ほら逃げるぞ!」

明らかに普通じゃない風貌に実力、ナンパ野郎たちは逃げ出した。

 

 

(やってしまった)

暴力はきらいな彼は少し落ち込む。

 

 

「危ないところを助けて頂き、ありがとうございました」

 

「あ、ありがとうございました!」

静がお礼を言うと戸塚もそれに習い同じく礼を言う。

 

「あ、いえ、当たり前の事をしただけですので」

 

「恩人に礼も無しでは申し訳が立たない、何かお礼でも――」

 

「――いえいえ私、少し急いでますので失礼します。お気をつけて」

(本当は喫茶店でも寄りたいところだが。仕方ない先を急ごう)

可愛い子と美人に言われ少し気恥しくなった五郎は逃げるように、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

―自動販売機前―

 

(イカン、甘いものを口にしたくて仕方ない。さっきの喫茶店が悔やまれる……おやっ?)

俯き、落ち込みながらため息をつく五郎、そんな彼の目に一つの光景が映る。

 

 

(あれは……噂のマッカンというやつか。にしてもあの少年、美味そうに飲んでるなぁ)

そこには身長が170中ごろくらいの高校生、彼は黄色いマッカンを缶の注意書きに書いてある通りに振ってプルタブに手をかけ、非常にいい顔で飲んでいる。

 

 

「よし、俺も飲もう」

アレを見てたら自分も飲みたくなって仕方ない。直ぐに自販機へ向かいお金を投入し迷うことなくマッカンを購入する。

 

 

(ふむふむ、振らせていただきます)

右手に持ち、ちょうど目に付く赤文字“軽く振り、少し待ってから、あけてください”の文字に従う五郎。

 

その後プルタブを開け一口

(甘い!けど、この甘さは何か懐かしい気がする。これは、昔よく飲んだベ○ミーコーヒーのような甘さ。コーヒーと言えばこの甘さだった頃を思い出すような味……そしてこの甘さは何だか癖になる)

初めてのようで懐かしい、そんな不思議な気分。五郎はそんな空気に包まれながらマッカンに酔いしれれる。

 

 

 

(さて、エネルギーチャージ完了!血糖値も上がった事だ、バリバリ働きますか!)

残すは仕事だけ。五郎は空になったマッカンをゴミ箱に入れ気を入れ直し、お客のもとへと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

―ゲームセンター―

 

 

「ふむ、見回り以外で来るのは久しぶりだな」

何となく時間をつぶしに来た静はむかし良く行ったゲーセンに来ていた。

 

(昔はよくバーチャルファイターや鉄拳をやりに来たものだが、当時と比べるとラインナップが変わっているな)

 

「おっ!マジアカか懐かしいな、まだあるのか……ん?」

 

(比企谷だ、マジアカやってるのか)

プレーに集中している八幡を気遣い声をかけずに後ろから眺める。

 

 

(おっ!決勝まで進んだのか)

 

(比企谷は文系で後の奴らはアニメか……)

結果は八幡の一位で幕を閉じた。

 

 

「やるではないか比企谷」

 

「あっ、ども」

 

「ここで会ったのも何かの縁だ、一勝負と行こうではないか」

勝負事は血が滾る!静は小銭を取り出し勝負を挑む。

 

「……俺の負けでいいんで帰って良いですか?」

 

「つれないことを言うな、どうせ一人なんだろう」

 

「何んで確定してんすか、てか先生に言われたくな――――」

 

「――――何か言ったか比企谷」

言わせねぇよ!!殺気ととに拳を握る静。この殺気を出せばナンパ野郎も逃げ出しただろうに……。

 

 

「な、何も言ってませんでさぁ」

いのちだいじに、八幡は作戦を変更した。

 

「そうか、では一勝負と行こうではないか」

 

「一応この後予定あるんで始まるまでに終わらせてくださいよ」

 

「ああ構わん、デュエル開始だ!」

 

 

 

―そして―

 

 

(平塚先生は回答は早かった……そして弱かった)

そう、回答は早いのだがひっかけ問題にすこぶる弱く、普通に八幡がかってしまった。

 

「クソ!もう一回だ!両替してくるついでに花を摘んでくる!」

財布に小銭がないことに気づいたのだろう、トイレに行くついでに両替してくるようだ。

 

 

「あの人、どんだけ負けず嫌いなんだよ」

 

「何をしてるのかしら貴方」

 

「ゆ、雪ノ下……お前こそ何してんだ」

 

「用事ついでに寄っただけよ」

 

「ついで……ねぇ」

手に持っているパンさんのぬいぐるみ、それを見る限りとても、ついでとは思えないあきらかに

 

「そのゾンビのような目で見ないでくれるかしら戦利品がゾンビになってしまうわ」

 

「いつから俺の目が感染源になったんだよ。てか人形に感染するわけねぇだろ……って何してんだお前」

プレーしている人が八幡以外にいないとはいえ、いきなり隣に座る雪乃。

 

「別に、少し疲れたから座っただけよ」

 

「そうかよ」

 

「待たせたな、おや?雪ノ下ではないか」

 

「平塚先生、こんなところで何やってるんですか?」

あきれ顔で静を見る雪乃。

 

 

「なあに、偶然会った比企谷とデュエルしていただけだ。そうだ雪ノ下もやるかね?」

 

「え゛?」

嫌な予感がする、八幡ピンチ。

 

「結構です」

 

「そうか、雪ノ下と言えどもクイズで負けるのは怖いという事か、仕方ないな。比企谷、デュエルの続きと行こう!」

 

(何挑発してくれてんの先生!?)

 

「いいでしょう、先生の顔を立てて、その安い挑発に乗ってあげます」

 

(やっぱりこうなったか……)

このような展開になるんだろうな、そう思った八幡だったが、それが的中する形になった。

 

 

 

―そして―

 

1位 八幡

2位 雪乃

3位 静

 

「「「……」」」

 

(この二人、引っ掛け問題に弱すぎだろ、てかヤバくね?)

 

「……(ギリギリ)」

すました顔で歯ぎしりしてないのに伝わってくる悔しさと熱気。

 

(ガチの負けず嫌いに火が付けてしまった)

 

(イカン、これは雪ノ下が勝つまで止めない流れだ)

片方熱くなると冷静になる法則、静は突然冷静になる。

 

「わ、私は用事を思い出したからドロンする、良かったらこれを使ってくれたまえ」

小銭と八幡をサクリファイス、静はエスケープを唱えた。

 

「お、俺も用事があるので」

この流れは不味い!彼もすぐに逃げようとするが「初心者相手に勝ち逃げするつもりかしら逃げ谷君?どうせ大した用事なんて無いと思うのだけど」と逃がさない雪乃。

 

 

「おい決めつけんな、これから塾なんだよ」

 

「あら、そんなの私が後で貴方に勉強教えてあげるから今はこっちをやれば良いじゃない、みっちり教えてあげるわ。感謝なさい」

 

「えっ?ちょっ!」

雪乃は困惑する八幡を無視し小銭を投入し座らせる。

 

 

「ハハハ……じゃあ後はお若い者同士二人でごゆっくり。私は失礼させてもらう」

何とか逃げ出せた!静はすたこらサッサとゲーセンを後にした。

 

 

 

(さて、開店5分前……か。結構いい時間だな)

時計を見る限り、到着時間がちょうどピッタリになる計算。

 

(ついた!この暖簾、店構え、あの時と変わらないなぁ)

 

「ごめんください」

静は暖簾をくぐり懐かしの店内へと入る。

 

「いらっしゃい……あら静ちゃん!久しぶりじゃない!!」

店員のおばちゃんが嬉しそうに声をかける。

 

「どうも、しばらくです」

 

「すっかり美人さんになっちゃって~、今日は一人?」

 

「はい、お恥ずかしながら」

ここでは、一人ですジェスチャーはいらない。静にはそれが嬉しかった。

 

「それで、どうしたの今日は?」

 

「昨晩、無性に、ここの焼き鳥が食べたくなってしまいまして。せっかくの休みだし足を運んだんですよ」

 

「うれしいこと言ってくれるじゃない、飲み物はどうするの?」

 

「そうですねぇ……」

メニュー表ではなく壁に書いてあるドリンクを眺める。

 

(いかん……頭の中ではビールのつもりでいたが、ハイボールも飲みたくなってきた!いや、ここは初志貫徹と行こう。だが問題はタレにするか塩にするかだな)

しばし悩む静。

 

 

「とりあえず生に……砂肝酢漬け、あと盛り合わせ塩で」

 

「かしこまりました。盛り合わせ1入ります」

どうやら接客では敬語に切り替えるタイプのようだ。

 

「はいよ!」

奥で店主が焼き物をしながら返事をした。

 

 

―少しして―

 

 

「お先にビールと酢漬けの方失礼します」

 

「ども!」

 

(先ずは生から)

ビールがしっかり入った上での泡、静好みのバランスによく冷えた中ジョッキに胸が高鳴る。これは飲まずにはいられない自然な流れで口に運びグイッとあおる。

 

「……~~ッ!!」

軽く顔をしかめた後、思わず笑みがこぼれる。

 

(生にして正解だ!やはり生は旨い!!)

多分ハイボールでも同じことを思いそう。

 

(よくビールは泡が旨い、泡がビールの味を決めると言うが、私個人としてはビールがあるから生が旨いだ!)

つまりビール最高。

 

 

(これはこれは、ご無沙汰しております)

次につまみに頼んだ砂肝酢漬けに手を伸ばす。

 

(いい漬かり具合、それに硬すぎず柔すぎず、あの頃と同じ味ではないか)

南蛮酢に漬けた砂肝、コリコリした歯ごたえと独特の旨味が絡み合い、アクセントに効いた、ごま油の香りが酒のアテにピッタリ。

 

(野菜のほうもいい漬かり具合だ)

細く切った、大根と人参それらも砂肝との相性は勿論、単体でも活躍できるレベル。

 

 

(だが、ここで調子に乗って食べきってはいかん。焼き鳥屋と寿司屋は待つ時間も重要だ)

一気にガツガツ行く人は例外として、ゆっくり食べる場合は冷めてしまい、せっかくの店での串焼きの味が落ちてしまう。

 

 

 

 

―時間が少し遡って千葉某所―

 

「それでは、この条件でお願いしますね井之頭さん」

和服美人の依頼主、雪ノ下母が鉄仮面な空気を漂わせながら笑顔で言う。

 

「はい、かしこまりました。商品が到着次第、ご連絡させて頂きます」

こちらも営業スマイルで返す五郎。商談は無事うまく行ったのだろう、笑顔でその場を後にする。

 

 

「ふぅ」

 

(今まで会った依頼人の中で1、2を争う美人だが威圧感も1,2を争うな。なんというか笑顔が怖い。マッ缶飲んでなかったら途中で力尽きたかもな)

 

 

(それにしても雪ノ下建設か……。あ~~怖かった!)

気持ち的にも開放されたのか、軽く背伸びをする。

 

 

(解放されたら急に……腹減った)

顔をしかめ、口が半開き。ガチで腹が減ってるもよう。

 

 

(良し!飯にしよう)

空腹が彼を突き動かす。五郎はすぐさま足を動かし飲食店のありそうな場所へと急いだ。

 

 

(焼肉……は昨日食べたな)

 

(鮨は……何か気分じゃない)

おなかは空いているが、いまいちフィーリングが合わない。

 

 

(いかん!これは前後不覚になるパターンだ!)

 

(落ち着け、俺は腹が減ってるだけなんだ)

ここでハズレをひいたら目も当てられない、彼は悩む。

 

「ん?」

 

(この匂いは焼き鳥か?)

 

頭に浮かぶのはタレの焼き鳥とご飯……五郎の頭の中が支配される。

 

「いいじゃないか!ここにするか」

そうと決まれば即行動、五郎は暖簾をくぐる。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

「ん?ああ!先ほどはどうも!」

店内に新しく入ってきた客に目を向ける静、その先にいた五郎を見るなりすぐに挨拶をする。

 

「え?ああ、いえいえ」

まさか再開すると思わなかった五郎がびっくりしながらも言葉を返す。

 

「あら静ちゃんの知り合い?」

 

「ええ先ほど、生徒と不良に絡まれてる所を助けて貰ったんですよ」

 

「あら~、そうなの!」

 

 

「ここで会ったのも何かの縁だ。一杯おごらせてください」

「いえいえ、お構いなく」

これで礼ができる、しずかは酒を頼もうとするが五郎がそれを断る。

 

「そうご遠慮なさらずに」

 

「いや~その私、下戸でして」

お酒が飲めない五郎は、今まで何度言ったか分からない台詞を言う。

 

「なんと!」

「あら、お酒強そうなのにね」

以外だ、そう思った静と店員。

 

 

「よく言われます」

 

「飲み物はどうなされます?」

 

「じゃあウーロン茶で」

五郎はいつも通りウーロン茶を頼む。

 

 

(どうする?態度から察するに一見さんだろうな)

酒がダメなら食べ物だ、静は少し悩み

 

(この人は人見知りというわけでは無いだろうが飯の時間は一人でゆっくり行きたい派みたいだな、これ以上は失礼になるから一品なにか出すくらいがちょうどいいのかもな)

 

「奥方、これと同じのをあちらの方に」

どうやらこの店は夫婦で営んでいるのだろう、静は小声で店員に注文をし店員は頷く。

 

 

「失礼します。こちら、あちらのお客様からです」

 

「ああ、どうもすみません、ありがたくいただきます」

 

「いえいえ」

 

(ここで断れば失礼に値するな)

こういう好意はありがたく頂こう。五郎はそう判断し少し料理を見つめてから箸をとった。

 

 

 

 

(おお、これは旨い……。酸味のおかげで、さらに食欲が湧いてきたな)

五郎は砂肝と野菜を小気味よく噛みながら厨房眺める。

 

(この店、あたりだな)

続けてメニュー表を開く。

 

 

 

「う~ん」

 

(塩も良いがタレ捨てがたい。だが今はご飯も食いたい)

 

 

(おっと、焼き鳥定食なんてものもあるのか。よし!ここは攻めるとしよう)

少し悩み注文をする

 

「すいません」

 

「はい」

 

「焼き鳥定食と串焼き盛り合わせを下さい」

 

「塩とタレはどうします?」

 

「えーっと……定食の方をタレ、盛り合わせを塩で、あっ!あとご飯大盛出来ます?」

 

「もちろん出来ますよ」

 

「じゃあ大盛でお願いします」

 

「かしこまりました。盛り合わせ2一つ塩で」

 

(盛り合わせが2?ということは、盛り合わせと定食は一緒ということか)

タレだけではなく塩も堪能できる。どうやら今回は両方で攻めるようだ。

 

 

 

(にしてもこれ旨いな~。この酸味は箸休めにもなりそうだから、野菜だけ少しおいておくか)

箸を起き少し待つことに。

 

「お待たせしました。焼き鳥定食大盛と盛り合わせです!」

 

(きたきた!)

最初にご飯と味噌汁、浅漬けの入った小鉢。ねぎま、皮、レバー、ぼんじり、ハツの串焼きが塩とタレに分かれて運ばれてくる。

 

 

「では、ごゆっくりどうぞ」

五郎はそう言って去っていく店員にかるく一礼し料理に向き合う。

 

 

(先ずはねぎまの塩から。……おっほ~!いい火加減と歯ごたえネギの甘味もイイ)

モモ肉の肉汁が口に広がり、次いでやってくるほど良い歯ごたえの肉とネギが味に膨らみを持たせる。

 

(旨い!今の俺ならこの量の串焼きはペロリと行けそうだ)

柔らかく焼きあがったレバーとハツ、程よく火がとおり濃厚な味わいのぼんじり、パリッと焼けた皮、それらをあっという間に平らげる。

 

 

(あの人、旨そうに食べるなぁ……)

あまりにもおいしそうに食べる姿に静にも思わず目が行ってしまう。

 

 

(次はタレ……。このタレ旨っ!これは間違いなくご飯に合うぞ)

甘さだけではなく醤油の持ち味を生かしたタレ。当然、継ぎ足しではあるものの、それだけでは無い、元のタレには火を通すが、継ぎ足すタレは火を通しすぎないようにしあえて醤油の風味が残るように調整された物。熟成の管理が徹底された味わい。

 

 

(少し辛めのタレがご飯にも合うな)

そして閃く五郎。

 

(どうしよう、行儀が悪いか?いやしかし……。だがこのタレは我慢できん、男ならやってやれだ!)

串焼きをご飯の上に外して乗せ、タレをかけ丼にする五郎。

 

 

(う~ん!これは想像以上に旨いぞ!)

醤油の風味と熟成の深みが両立したタレ、焼いた肉の香ばしさと、肉の味が白米に絡み箸が止まらなくなる。

 

 

(箸休めに酢漬け食べて……と)

強めの酸味が、口の中をリセットし、また食べ出す度に同じ感動を与えてくれる。

 

(この店、入って大正解)

気づいたらご飯もあっという間に完食。

 

 

 

(これはいかんな。あの人の食べている姿を見ると無性に私もご飯が食べたくなってきた……。分かっている!ここのタレはご飯に絡めると滅茶苦茶うまい!だが今はダメだ、私には、もう一つの目的がある)

ご飯を頼むと、お腹の容量的に、それをきつくなる。

 

 

(なにせ、ここのラーメンは絶品なのだ。質の良いガラを徹底的に煮込んだ鶏白湯に醤油の香りが立ったスープ。麺は加水率低めの、やや細い麺。具は、ぼんじりと砂肝、モモとネギの網焼き……これらの調和のとれた味わいは、まさに絶品だ)

 

(だが、タレとご飯が頭にチラついている、どうする?)

 

(モノを食べる時はね誰にも邪魔されず自由でなければいけない……そしてこういう時こそ冷静にならねば)

 

「すいません!ラーメン一つ」

 

「あら、もう〆入るの?」

 

「いえ、なんだか小腹も空いていたので、その後ご飯と串焼き頼みます」

 

「あらそうなの。ラーメン一、お願いします」

 

「はいよ~」

 

 

 

 

(ラーメン……焼き鳥屋でか)

まだ食い足りないのかメニューと睨めっこしていた五郎が顔を上げる。

 

 

 

「お待たせしました。ラーメンです」

 

「どうも(コレコレ!久しぶりだなぁ)」

早速レンゲでスープをよそい一口。

 

鶏白湯と生醤油のタレが混ざったスープ、それらをささえる香味野菜の甘味が出しゃばる事無く支え、鶏と醤油の旨味を存分に味わえるようになっている。

 

また、チャーシュー代わりの網焼きの具が、スープにさらなる風味と形を持たせる。

 

ラーメン専門店にも引けを取らない味わいに、ラーメンマニアの静は一心不乱にラーメンを食す。

 

 

 

 

(何アレ?めちゃくちゃ旨そう!にしても、あの美人さん旨そうに食うなぁ……よし!)

さっきやった事をやりかえされた五郎。

 

 

「すいません!ラーメン下さい」

 

(少し食いすぎか?いや今食わなければ、きっと後悔する)

モノを食べる時はね誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ 独りで静かで豊かで・・・。

かつて、そんなことを言っていた彼は食べないで後悔はしたくなかった。

 

 

(うほ~!実に旨そうだ。まさか、焼き鳥屋でこんなラーメンに出会えるとは)

 

 

(あ~やばい)

風味や具の旨さもさることながら、麺もそれに見合った味わい。五郎の食べるスピードが落ちない。

 

 

―そして―

 

 

「ごちそうさまでした」

いつものごとく、お行儀よく挨拶。

 

「すいません、お会計お願いします」

 

「ありがとうございます」

 

 

「あ、砂肝ありがとうございました。すごくおいしかったです」

本当に美味しかった。普通に注文していたらスルーしていたかもしれない五郎は素直にお礼を言う。

 

 

「いえ、お口にあったようでよかったです」

お礼に頼んだかいがあった。しずかはの残ったビールを煽ると、そう言った。

 

 

 

「ありがとうございました~」

 

 

(あ~旨かった!近くに来た時はまた来よう)

五郎は暖簾をくぐり店を出ようとしたした時だった。

 

 

「あ、失礼」

 

「あ、いえ、こちらこそ」

ちょうど出入りのタイミングだったのだろう、ニコニコしたオジサンとぶつかり、お互い謝りながら別れる。

 

 

(にしても……さっきの人、この前もどこかで会ったきがするんだよなぁ)

 

「まあ、いいか」

 

(美味しいご飯に出会えたし、帰ってからも仕事を頑張れそうだ)

五郎は軽く背伸びをすると、そのまま駅へと歩き出した。

 

 

 

―一方店内―

 

「千葉の麦茶は旨いなぁ~……。うんうん、タレも旨いから余計に旨い!」

そういいながらニコニコとビールと焼き鳥をやっつけているオジサン。

 

 

(あの人もヤケに旨そうに食べるではないか……。いかん飲みたくなってきた!)

 

「すいません!皮をタレ、それとおしんことハイボール」

 

静の夜はまだ始まったばかりのようだ。

 

 




次回の更新は未定です。


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