ダンまちに転生したが、脇役でいいや (冬威)
しおりを挟む

序章
うっそ!マジでか!神様転生


始めての小説投稿です。

拙いものですが、誤字などその他ご指摘があれば教えて下さい。

できる限り投稿して行きたいです。


「あぁ自分は死んでしまったのだろうか」

 

真っ白な世界を見渡しながら、そんなことを考えた。

 

なぜ死んでしまったか?ここに来る前に何をしていたか?

ふと思い当たる事があった。

 

あの日は15連勤という耐久レースが終わって、久々の休みを堪能しようと、峠にバイクで走りに行っていた。

山の空気はメットごしでも気持ちよく、周りの景色も綺麗だった。

ふと横を見てみるとウリボーが三匹いた。微笑ましかった。だが、この時気付くべきだった。

 

 

 

 

そう、

ウリボーの近くには親が必ず居る。

猪突猛進とはこの事だろうかと、訳の分からない事を考えながら時速80キロ近いスピードのバイクごと崖の下に吹き飛ばされた。

 

 

 

…猪強すぎん?

 

 

 

 

『あっ気がつきました?』

 

何か白い羽生やして、頭にリング浮かべた人から声をかけられた…

 

えっ?

 

『?・・・あっ‼︎自分神様見習いなんすけど‼︎』

 

うっそ!マジでか!

 

『 間違えてあなたの事を事故で殺しちゃったんすよw』

 

あぁ゛⁉︎

 

『ちょっ‼︎ガラ悪いっすよお姉さん‼︎兎に角話を聞いて欲しいっす』

 

はぁ、で?

 

『ありがとうっす‼︎それで、さっき言ったように自分のミスでお姉さんは死んでしまったっすσ(^_^;)』

 

イラァ…

 

『Σ(゚д゚lll)え…と、とりあえず、お詫びとして別の世界に転生して貰いたいっす‼︎』

 

…うっそ!マジでか!

 

『マジっす‼︎ちなみに特典を3つ付けるっす‼︎さぁ何でも言って下さい‼︎あっ戦闘能力を付けることをお勧めするっす』

 

戦闘能力を付けるってことは、強くならないと行けない世界なのか?色々考えた結果、

 

マンガやゲームの剣術を訓練次第で使えるようにして

 

『オッケ‼︎』

 

ワンピースの覇気も訓練次第で使えるようにして…あっ覇王色はいいや

 

『オッケ‼︎』

 

男にして

 

『オッケ‼︎…え、いいんすか?』

 

うん。どうせ生まれ変わるのなら、違う性別になってみたい。

 

『オッケ‼︎分かりました‼︎でわ、早速転生の準備しますね』

 

『…あの、』

 

ん?

 

『怒んないっすか?』

 

はぁ?

 

『だって自分の失敗で、死なせてしまって…』

 

あーうん、まぁ新人のミスはあるさ。それに転生させてくれんだろ?プラマイゼロ?って感じ?

今後気をつけたらいいよ。私は家族いないし、ほかの人に比べたら悲しみも少ない…と思う

 

『お姉さん…』

 

まぁ、次会うときには立派な神様になりなよ

 

『…‼︎オッケ‼︎さぁ準備ができました‼︎良い人生を』

 

神様に手を振りながら私は光に包まれた。

 

 

『いい人だったな…』

『そうだ僕の加護を付けよう‼︎お姉さんに本当の家族ができますように‼︎』

 

 

 

 

 

『あっ、転生先言うの忘れてた‼︎( ̄◇ ̄;)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか。
今回は死んだのでとりあえず転生‼︎

次回はドキッ!オラリオ探索!ポロリもあるかも!

では、これにて失礼します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オラリオと主神



2話目です。

果たしてポロリはあるのか⁉︎





 

 

私は光に包まれている間、恐らく新しい体と思われる五感全てを感じながら目を覚ました。

 

 

 

まっ先に目に飛び込んできたのは、少し離れた所にある大きな街に一際目立つ、天を貫くようにそびえ立つ巨大な塔だ。

 

 

……これ、ダンまちの世界か?

えっ?マジで?

 

 

 

そりゃ戦闘能力あったほうがいいわな‼︎

てか、言えよ‼︎心構え出来てないっつの‼︎

チート能力の方がよかったかな?

まぁ、剣術+ステータスでどうにかなるかいな?目立ちたくないし。

そもそも転生じゃなくね⁉︎

記憶あるし!赤ん坊じゃないし!

 

 

はぁ、とため息を吐きとりあえず自分の体を確認してみる。

服は甚平?

腰に刀?脇差し?をさしている。

背格好は低い。子どもみたいだ。

ポケットに入ってた鏡を見てみると髪は前世と同じ黒。

中性的な顔立ちだ。5・6歳位か?

そして最後にやらなければならないことが…

 

 

 

 

 

股間を握り、そして叫ぶ。

 

 

「六実に知らない棒が増えて、七実になってる‼︎」

 

 

そう某サムライアニメ「き○んたま」のネタを!

光の中で考えてたことだ。

一通りネタをやるとこれからを考えてみる。

前世の名前がムツミ、棒を足してシチミ?ナナミ?

うーん、女の子みたいだな。

七の字は入れたいな…

 

よし、7人ぐらいの侍にあやかって『七郎治』にしよう!

あれ?刀使いだっけ?まあいいや。

 

さて、行きますか。オラリオへ‼︎

 

 

 

 

 

 

ギルドに行く前にあちこち探索しようとしたが、字が読めないうえにお金がない。

ギルドの場所は先ずバベルに行って出てきた冒険者の後をつけて辿り着いた。

 

 

 

 

うん、ギルドに行ってあちこちのファミリアに行ったがどこも門前払いだ。

(もうすぐ夜になる、どうしよう…)

 

公園のベンチに座りながら途方に暮れていた。

 

「そこの可愛いお嬢さん、うちのファミリアに入ってくれへん?」

 

近くでファミリアに勧誘されている人がいる。いいな。

美少女に転生した方がよかったかな?

 

はぁ、とため息を吐く。

 

「なあなあってば、無視せんといて〜。うち悲しいわ〜」

 

ひょっこり人影が目の前に現れた。

朱色の髪に細められた目、とても美人で、朗らかに笑っていた。

 

あれ?この人はあれじゃね?

神ロキじゃね?胸は…

無い!間違いない!

 

思考がフリーズした。

呆けていると、不思議そうにロキが聞いてきた。

 

「なぁ、可愛いお嬢さんうちのファミリアに入らへん?」

 

ハッと我に返り、即返答。

 

「あっ、人違いです」

 

「何がや⁉︎」

 

「僕男です。」

 

「うそん⁉︎自分男なん⁉︎」

 

驚愕の表情を浮かべた神ロキが、私の肩を掴んでメッチャ揺すってきた。コクコクと頭を縦に振るのがやっとだった。

 

 

うちの美少女センサーがどうのとブツブツ呟いたかと思うと、徐に顔を上げた。

 

「すまんな取り乱してもうたわ。」

 

「別に気にしてません。」

 

「それでな、うちのファミリアに入らへん?」

 

「凄く嬉しいお話ですけど、女の子じゃなくてもいいんですか?」

 

「ああ、かまへんかまへん。うちはあんたの事が気に入ったんや」…ボソッ

 

「そ、それでは、僕をファミリアに入れて下さい。」

最後になんて言ったか聞こえなかったけど、最敬礼で頭を下げた。

 

「よっしゃ、今日からうちの家族や。さあ、帰るで【黄昏の館】に」

 

その日、ロキに手を引かれて帰る途中、自然と涙がこぼれていた。

 

 

 

 

ロキはそっと呟いていた

「男の娘…ありやな」

 

 




2話完了です。

ポロリはなかったですねー
街中では無理でした。

いつか必ずやり遂げてみせる‼︎


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

入団試験とリスペクト

3話目です。

自分の好きなセリフをぶっこんでみました。




「着いたで、ここが黄昏の館や」

 

ロキに連れられて、【黄昏の館】に着いた私はあまりの大きさに唖然としてしまった。

縦に伸びたそれは子供だからか異様に大きく感じ、立ち入ることをためらってしまう。

 

つか、館ってか城やん!

 

心の中で、思わず突っ込みを入れてしまった。前世の知識で知ってはいたが…

某夢の国にある、灰かぶりの城を初めて見た時の気分だ。

 

 

「どないしたんや?ほら行くで」

 

「あっ、はい」

 

 

再び、ロキに手を引かれてホームに入る。途中ロキが何人かに声を掛けていた。

失礼と思いながら、あちこち観察しながら着いた先は中央の塔の最上階だ。

 

 

「ここがうちの部屋や」

 

 

酒瓶がところ狭しに転がっていた。酒に余り強くない私は匂いで酔ってしまいそうだったが、ポーカーフェイスを作ってやり過ごす事にした。

 

 

「もうすぐしたら来ると思うから、ちょっと待ってな」

 

「あっ、はい」

 

 

あれ?ここに来てから「あっ、はい」しか喋ってない。まずい、緊張しすぎて冷や汗が出てくる。

ロキはニヤニヤしながらこちらを見ている。ムカつく。

 

そうこうしているうちに、ドアがノックされた。

中に入って来たのは、背は余り高くないが筋骨隆々でいかにも屈強な戦士といったドワーフのおっさん。

次に入って来たのは、翡翠の髪に女神も嫉妬するほどの美貌。特徴的な尖った耳が示す種族、エルフ。しかも王族(ハイエルフ)だ。

そして最後に綺麗な金髪に整った顔立ち。幼い外見に似つかわしくない落ち着いた雰囲気を醸し出していた。小人族(パルウム)だ。

 

 

 

もう、今すぐ逃げ出したい…

御三方の存在感ハンパねーわ!

ビビって泣きそうっちゃけど!標準語ちゃんと喋れるかいな!

ロキ・ファミリアだからいつかは会えるだろうとは思っていたが、初日に会えるとは…

入団試験か?

 

 

「おっ!3人とも来たな!」

 

「なんじゃいきなり呼び出して」

 

「もうすぐ夕飯の時間なのに、珍しいな」

 

「ハハ。で、そこにいる子は入団希望者かい?」

 

 

ビビクッ⁉︎

いきなり3人にみられて、全身の水分を冷や汗で放出しながら、変な反応をしてしまった。

そんな私をみて、ロキとガレスは声にして笑い。リヴェリアとフィンは苦笑いを浮かべる。

 

 

 

…死にたい。

第一印象が大事なのに、初っ端からつまずいた!

ズーンと落ち込んでいると、ロキが笑いを堪えながら話しかけてきた。

 

 

「すまんすまん、なかなかオモロイ反応でつい笑ってしもうたわ」

「さて、今から入団試験を始めるで」

 

 

スッとロキの目の色が変わった。細まっていた目が僅かに開かれた。

また、ビクついてしまう。

 

 

「自分、名前はなんて言うんや?」

 

 

そういえば、自己紹介してなかった。他の3人もやれやれといった感じだ。

ここで、予め考えていた名前を言う。

 

 

「七郎治。名字はありません。」

 

「七郎治…か。」

ロキが私の顔をジッと見てくる。

 

 

「もうちょっと可愛い名前の方がええんちゃう?ナナリーとか」バキッ‼︎

 

 

ロキがリヴェリアに叩かれた。突っ込みにしては痛そうだ。さっきの真面目な雰囲気はどうした?

そんなロキを無視してガレスが続ける。

 

 

「お主はなにを求めて冒険者になる?」

 

 

考えてなかった。えぇっどうしよう。

ダンまちに転生したから?ダメだろ?

強くなりたいから?べつに…。

モンスターに怨みがあるから?あっ初対面です。

一攫千金?生活に困らなければ…

何も無い!ヤバイよヤバイよ!

どう言おうかうつむきながら考えていると、ふと腰の重みに意識がいく。神様に貰った特典は剣術だ。これを使おう。

最強の剣士?武を極める?…あるマンガの登場人物が流派に入門するときの言葉を思い出す。

 

 

「剣ってやつは楽しい。それだけさ。」

 

 

フムっとガレスは、目を細め自身の髭をなでる。

 

やっちゃった?ロキに、神には嘘がつけない。ばれたか?

でも、嘘では無い。その理由がしっくりきたから言ったんだ。

 

 

「お前は、仲間が危機に陥った時どうする?」

 

 

リヴェリアが問いかけてくる。ハッと思考を切り替える。

仲間の危機?絶対助ける?私に出来るのか?でも、状況は打開したいと思う。なんて言えば…よし神食いゲームのアニメ主人公の決めゼリフだ‼︎

 

 

「そんな状況…覆してやる」

 

 

リヴェリアは片目を伏せた。えっ、またやっちゃった?もう無理ー‼︎どげんしよー‼︎やっちまっただー‼︎ああぁ

 

 

「それじゃあ最後に…君は僕たちと、ファミリアの為に命をかける覚悟はあるかい?」

 

 

フィンの真剣な声に息を飲む。

命をかける?かけたことが無いから分からん!

じゃあ出来ないのか?それじゃあ、前世の時と同じだ家族の死を何もできずに近くで感じるだけだ…

大好きなマンガの、オカマウェイな言葉を送ろう。

 

 

「命を賭けて友達を迎えに行く。友達を…見捨てておめぇら明日食う飯がうめえかよ‼︎」

 

 

フィンがめを見開く。またまたやっちゃった?流石に意味わからんかったか?友達じゃなくて、家族とか仲間が良かったか?使いどころ間違った?リヴェリアの質問の答えに使えばよかったかなぁ?あっ敬語使ってないわ〜

 

 

 

 

 

しばしの沈黙のあと、全員いっせいに笑い始めた。

 

 

 

「「「「ぶっ!あははははー‼︎‼︎」」」」

 

 

 

恥ずかしくて死にそうだ。赤くなる顔を隠しながらうずくまる。私は貝になりたい。

 

 

「いやー、笑ってすまなかった。予想以上だったよ。」

 

「あっ、よく面白いねって言われます…」

涙目だ。

 

 

「ちゃうちゃう、七郎治お前は合格や‼︎」

 

「…えっ?うっそ⁉︎まじでか⁉︎」

 

 

「まじでや‼︎」

ロキがニッと笑う。

 

 

「僕は団長のフィン・ディナム。二つ名は【勇者(ブレイバー)】。

さっきは君のロキ・ファミリアに入る覚悟を試したんだ」

フィンが、笑いかけながら私の頭を撫でる。

 

 

「私は副団長のリヴェリア・リヨス・アールヴだ。二つ名は【九魔姫(ナイン・ヘル)】。しかとその想い受け止めたぞ。」

リヴェリアが微笑みかける。惚れてまうやろー‼︎‼︎

 

 

「………」

ガレスは先程から何か考えているようで何も言わない。

儂は認めん‼︎とか、言われないだろうか。また、ビクビクしてしまう。

 

 

「?、ガレスどうしたんだい?」

フィンが問いかける。

 

 

「フム、この小僧っ子は儂が鍛えよう。儂はガレス・ランドロック。二つ名は【重傑(エルガルム)】じゃ」

 

 

ファッ⁉︎

うっそ⁉︎マジでか⁉︎え〜キツそう〜でも断れんよね〜

でも待てよ…しゃあない腹くくるか。ここは戦国の赤い槍兵風に

 

 

「ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます。親方様‼︎‼︎」

 

 

「ガハハハハー‼︎‼︎」

と盛大に笑うガレス。ここに新たな師弟が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ふう〜
自分でもこのセリフの使い回しはおかしいと思うけど、オカマウェイ好きなんだよな〜

タグ増やさないといけんですね。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

主神の1日、入団試験の裏側


今回はロキ、フィン、リヴェリア、ガレスの4人の視点です。




 

 

ロキside

 

今日は天界切ってのトリックスターの勘が、うちの美少女センサーがビンビンしよる。

 

何処かに居るはずや。美少女が‼︎

 

ロキは持ち前の勘と変なセンサーを頼りに、朝から街中を何かに誘われるようにぶらついていた。

 

 

 

 

 

 

あかん、もう夕方や…

ほんまにどこおるん?

 

おっあれは…

 

 

公園のベンチで途方に暮れているであろう小さな背中を見つけた。ニヤける顔を抑えながら、声をかける。

 

 

「そこの可愛いお嬢さん。うちのファミリアに入ってくれへん?」

 

 

返事がないただの屍のようだ。

 

 

って‼︎ちゃうわー‼︎‼︎

あれ、無視された?気づいてへんのか?

もう一度や‼︎

 

 

「なあなあってば、無視せんといて〜。うち悲しいわ〜」

 

 

前に回り込んで声をかける。

 

よっしゃ‼︎センサーの通り、美少女や‼︎

黒髪の中性的やけど、将来が楽しみやー

 

いきなり現れたからビックリしとるんかな?固まってもうたわ…

 

ん?今一瞬視線が…

なんか失礼なことを言われた気がするんやけど…

まぁええわ。

 

 

「なぁ、可愛いお嬢さんうちのファミリアに入らへん?」

 

 

その時うちは思いもしなかった。

 

 

「僕、男です。」

 

 

うそやろ?問いただすも肯定のみ。

 

うちの美少女センサーが狂うなんて…そんなはずは‼︎

…確かにこの子は男の子や。

 

はっ‼︎男の…娘なのか⁉︎

 

いや、それよりもこの子訳ありやな。おもろい。

 

うちはこの子ファミリアに入れることにした。

 

【黄昏の館】に向かいながら感じるこの子の手のひらは、小さくてとても冷たかった。ふと握り返された感覚に目をやると、顔を背けていたが泣いてるのが分かった。出会ったばかりの子供を愛おしく思った。

 

 

ファミリアに着いて、団員の子に声をかけフィン達を呼んできてもらった。さぁ入団試験や。でもこの子は大丈夫や。ニヤけが止まらん。

 

 

 

ロキside,END

 

 

 

 

ガレスside

 

 

飯の前だというのにいきなりロキに呼ぼれた。

どうせくだらんことだと思うがの。

 

ファミリアの古参が集まっておった。

ロキの部屋に入ると無愛想な子供がおった。新しい入団希望者か?まぁロキが好きそうではあるな。

 

子供を見やると面白いくらい反応をした。

思わず笑ってしまった。無愛想かと思えば、そうでもないようじゃ。

 

さて、入団試験が始まった。

ロキがふざけて…いやあれは本気か?リヴェリアにしばかれたがとりあえず無視じゃ。

 

 

問おう

 

 

「お主はなにを求めて冒険者になる?」

 

「・・・・・」

 

 

えらく考えるのう。覚悟もなしか。

不合格にしようと思ったその時

 

 

「剣ってやつは楽しい。それだけさ。」

 

 

はっきりした口調で言い切った。

その瞳は先程とは違い迷いがなかった。

フム、こいつは鍛えがいがありそうだ。

 

 

ガレスside,END

 

 

 

 

 

リヴェリアside

 

 

珍しく夕飯前にロキに呼ばれた。食事はなるべくいる者全員でとることになっている。

どうやら呼ばれたのは私だけではないらしい。

2人とも呼ばれたれた理由を知らなかった。

フィンは勘づいているようだな。

 

ロキの部屋に入ると感情のない子供がいた。

なるほど、入団希望者か…

それにしても幼い。訳ありだろうか?

私達が見ると、怖がらせてしまったか怯えているように見えた。

 

入団試験が始まった。

いきなりロキがふざけたので、正してやった。

 

ガレスが試験を続ける。

 

 

私は問おう

 

 

「お前は、仲間が危機に陥った時どうする?」

 

「・・・・・」

 

 

子供は考え込む、はなから仲間を見捨てるやつをファミリアに入れることはできない。

 

 

「そんな状況…覆してやる」

 

 

仲間のために動けるようだな。その瞳には、確かな意思があった。

私はこの子を侮っていた。

 

 

リヴェリアside,END

 

 

 

 

 

 

フィンside

 

 

団員から言伝で、ロキの部屋に呼ばれた。

どうやら、呼ばれたのは僕だけではないようだ。

呼びにきた団員が、ロキが子供を連れたいたといっていた。入団希望者かな?

 

ロキの部屋に入ると無表情の子供がいた。

入ってきた僕らを見て怖がっているようだ。

主神の趣味は分かってはいるが、この子は大丈夫か?と思ってしまった。

 

入団試験が始まる。

ロキがふざけてリヴェリアに制裁をくらった。ガレスが何事もないように話を進める。

 

2人の問いに子供が答えるたびに、親指が疼く。

 

 

さぁ、僕の番だ。

 

 

「それじゃあ最後に…君は僕たちと、ファミリアの為に命をかける覚悟はあるかい?」

 

「・・・・・」

 

 

子供が考え込む。

覚悟のない者を、

ファミリアのために命をかけられない者を、

団長として認めることはできない。

子供の顔が悲痛に歪む。トラウマでも思い出したか?

訳ありかな?

 

 

子供が感情的に答える。

 

 

「命を賭けて友達を迎えに行く。友達を…見捨てておめぇら明日食う飯がうめえかよ‼︎」

 

 

親指がとても疼いた。この子は誰かのために何かをできる子だ。

合格だ‼︎

 

 

 

フィンside,END

 

 

 

 

 

 

 

 





難しかった〜

次回は七郎治に戻ります。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

団員との顔合わせ


なかなか冒険しないなー





 

入団試験を無事に終え、夕飯を食べる為みんなで食堂に向かった。そこで、私の紹介をしてくれるらしい。

 

広い食堂には、ファミリアの団員のほとんどが集まっていた。

 

 

「みんな食事の前に聞いてほしい‼︎いきなりですまないが、今日僕らのファミリアに新しい家族が増えた‼︎」

 

 

フィンがそう団員に語り掛けると、ザワザワと騒ぎ出す。

 

 

「さあ、自己紹介をするんだ。」

 

 

リヴェリアがそっと、押し出してくれた。

食堂を見渡す。

やばっ緊張して吐きそう。

落ち着け〜今までだって会議とか胃もたれするものを乗り越えてきただろ‼︎

大丈夫やればできる子‼︎

よし‼︎

 

 

「初めまして。

七郎治と申します。名字はありません。

年は5、6歳で、ヒューマンです。

こんななりですが、性別は男です。主神がなんと言おうと男です。

大事なことなので2回言いました。よろしくお願いします。」

 

 

よし‼︎やりきった‼︎

ロキがうなだれた。

笑いと拍手がおこった。掴みは良いみたいだ。

みんなはよろしくと声を掛けてくれた。

食事のあと、ガレスに連れられて挨拶回りだ。

さっきは気づかなかったが、ソード・オラトリアのメンバーはほとんどいないな。原作の何年前なんだ?

考え込んでいるうちに、人間の少年と猫人の少女がいた。12、13ぐらいか?でも、見たことあるような…

 

 

「こいつらはついこの間入団したばかりじゃ。お前の同期になるかの。」

 

「ラウル・ノールドっす‼︎よろしくっす‼︎」

 

「アナキティ・オータムよ。アキって呼んでね」

 

「七郎治です。男です。呼びづらかったら適当に呼んで下さい。」

 

「て、適当っすか…」

 

ラウルが苦笑いをする。

 

 

うん、まさかのサブメンバーと同期だった!

まったくの初対面だけど、知ってる人がいて安心だ。

ラウルとアキと話していると、ロキが誰かを連れてきた。

 

 

 

 

 

一目でわかった。

金髪近眼の美少女。【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだ。

ベルが一目惚れするのもわかるわ〜

 

 

「ほれ、アイズたん。挨拶し?」

 

「…アイズ・ヴァレンシュタインです。」

 

 

それだけだ。うん、興味なさそうだな。

ロキの話ではもうLevel.2になり、世界最速の記録を叩きだしだようだ。

現在8歳だ。すげーわー

 

 

結局アイズ以外に年の近そうな人はいなかった。

原作だとヒュリテ姉妹はLevel.3の時に入団してたな。ベートはその少し前か、レフィーヤは12歳ぐらいで、学区から来たんだっけ?

そんなことを考えているとガレスに風呂にぶち込まれ、自室へと案内された。なんとラウルと相部屋だった。

風呂の時に気づいたが、体が男の為男の裸を見たり見られたりしてもなんとも思わなかった。

 

 

「ロージ君、改めてよろしくっす‼︎」

 

 

あだ名はロージみたいだ。

 

 

ラウルに冒険者について色々話を聞いたあと、寝たふりをした。今後について考える為だ。

正直、ベルのように英雄に憧れたりはない。

ベートのように強さだけを求めるつもりもない。

フィンのような志もない。

むしろ、今後の展開が少しわかる為、前に出て巻き込まれたりしたくない。前世よりは長生きしたい。やっぱり目立たない方がいいな。

 

 

 

 

 

 

 

ただ、剣を極めたい。入団試験の時からこの想いが胸の中で渦巻いている。

 

 

 

 

 

 






年齢や入団時期は適当なところがあります。
ベートとかいつ入ったか出てきてないしw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

恩恵

 

 

森の中を歩いていた。

木々の隙間から木漏れ日がさす。

少し肌寒い空気が心地よかった。

ここは何処だろう?

 

ふと後ろを振り返れば、両親が手を振ってた。

 

思い出した。生前、家族でよく登山をした山だった。

 

手を振る両親に近づくと、顔がぼやけてよくわからない。

何かを言っているようだが、何も聞こえない。

 

辺りが真っ暗になる。

両親のことを思い出そうとしても、何も思い出せない。

涙がとめどなく溢れる。

 

私は…僕は…

 

 

 

ハッと目を覚ます。

 

 

「あっロージ君。起きたっすか?」

 

 

ラウルがいた。

 

はぁと溜息を吐いてしまった。

 

 

「えっ⁉︎自分何かをしたっすか⁉︎」

 

「うんにゃ、べつに」

 

 

どうやら夢を見ていたようだ。懐かしいような、寂しいような、変な夢だった。夢のことを考えているとラウルに話しかけられた。

 

「さぁ、朝食の時間すよ‼︎早く行くっす‼︎」

 

「あと50分」

 

 

ベットに潜り込む。

 

 

「ダメっすよ⁉︎それに普通はあと5分っす‼︎

ロージ君は、朝食の後に恩恵を刻んで、ギルドに登録をしにいくんでしょ⁉︎」

 

 

あぁ忘れてた。

 

 

 

 

朝食後、予定通りロキの部屋に向かった。

昨日は気づかなかったかけど、最上階だから結構キツイなロキは毎日上り下りしているのか?ハッ!だからあんなに胸筋付いて平らに⁉︎

 

などとバカなことを考えているとロキの部屋に着いた。

中に入る。

 

 

「失礼します。」

 

「おっ?来たなロージたん‼︎」

 

 

…ロージたん?

 

 

「ほれほれ〜そんなとこにおらんと、早く服脱いでベットにき?」

 

「全部ですか?」

 

 

知ってるけどなんか聞いてみた。

 

 

「ぐっ‼︎…う、上だけでええで」

 

 

ロキが苦しそうだ。

早速言われた通りにベットに仰向けで寝転がる。ロキが私の上に跨り、血を一滴たらす。私からは余り見えないが背中が光っている。どうなっているか超見たい!

 

ロキの手が止まる。

終わったのか?

しばらく動かない。呼んでみるか?あれ?なんて呼ぼう…。ロキ様?神様?そういえば片目の鍛治師は主神様と呼んでたな?

 

 

「あの…主神様?」

 

「・・・・・」

 

 

返事がない。ただの屍のようだ。

 

 

「…ハッ!すまんな。終わったで、今からステイタスを書き写すから、ちょっと待ってな〜」

 

その間に服をきた。ロキが少し残念そうだ。

…美少女と美女が好きだったよな?

 

 

「ほい、ロージたんのステイタスや」

 

 

七郎治

 

Level.1

 

力 :I 0

耐久:I 0

器用:I 0

敏捷:I 0

魔力:I 0

剣豪 I

 

魔法

 

スキル

 

 

 

これが私のステイタスだ。

 

 

 

うん、読まれんげな…

 

 

 

字が読めない。一通り真剣な顔でふむふむと眺めたあとロキに渡す。

 

 

「 ? 」

 

「字が読めんがな…(´・_・`) 」

 

 

ガクッ‼︎

ロキがこけた。

 

 

「じゃあ今の真剣な顔は何やったんや‼︎」

 

「いつだって真剣です。」

 

「ウソつけー‼︎うちら神にはウソがつけんのや‼︎」

 

「そんなことより、なんて書いてるんですか?」

 

「そんなことて…まぁええわ。基本のステイタスはまだ0や、けど珍しいアビリティが発現しとるな。アビリティ名は(剣豪)や。なんか心辺りはあるか?」

 

 

少し考える。

間違いなく特典だろうが、それは言えない。ではどうする?ロキが納得するか分からないが、前世の経験を言うか…

 

 

「亡き父に剣を習っていました。」

 

「ウソ…でわないなぁ」

 

 

本当のことだ。実質親の影響で高校まで剣道をやっていた。本当は卓球がしたかった。

 

 

「まぁええわ、これで終わりや。後はガレスに任せてあるから、正門にいき。待っとるはずや」

 

 

「分かりました。ありがとうございます!主神様‼︎」

 

「かたいな〜うちのことはロキたんでええで〜」

 

「絶対に嫌だ」

 

 

ロキが崩れ落ちた。思ったことが口に出てしまった。

とりあえずガレスを待てせてはいけないと理由をつけて逃げた。

 

 

 

ロキside

 

あぁロージたんが行ってもうた。

しかしこのステータスなんやねん。

 

 

七郎治

 

Level.1

 

力 :I 0

耐久:I 0

器用:I 0

敏捷:I 0

魔力:I 0

剣豪 I

 

魔法

 

スキル

【仕事人】

・役割をキッチリ、ミスなくこなす事でステータスに+10%補正。また、フォローに回る事で、仲間のステータスに+5%。また、諦めた時点で補正効果終了。

 

【家族の加護】

・失った愛情を取り戻すたびに、ステータス向上。

・???

 

 

 

スキルや魔法は本人の本質を表す。

 

なんや?仕事人て…自分のステータス上げて、仲間をフォローするかとで、仲間のステータスを上げる…

それに、家族の加護。読まれん部分もあるが、愛情を取り戻すたびにステータスが上がる。なにかあるとは思っとったが…

あんな小っこいのにどんな人生歩んでんねん。

 

こらしっかり守ってやらないかんな〜

 

 

ロキside,END

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

冒険者登録



冒険…
まだ?





 

ロキの部屋を逃げるように出て、ガレスが待つ正門に向かう。

 

 

「おっ?来たな。今日はギルドに行ってお前の冒険者登録をすませる。その後に軽く訓練をするぞ。夜はリヴェリアにダンジョンの基礎知識を教えてもらえ。では、行くぞ」

 

 

今日の予定を言い渡された。

結構キツくね?まだ6才児だからそこまで厳しくないよね⁉︎

いろいろ考えながらガレスの後を着いてメインストリートを歩く。途中はぐれそうになったのでガレスの服の裾を掴む。徐々にいかにも冒険者‼︎って感じの人が増えてくる。

 

 

「ほれ、着いたぞ。早く登録をすませるぞ。」

 

 

中に入ると昨日私に冒険者になる為の説明をしてくれて、探索系のファミリアの場所を書いたメモまでくれた人がいた。茶髪を下の方で二つ結びにしてパッチリとした目が可愛らしく受付嬢が似合う少女だ。歳は15、6だろうか。

入ってきた私に気づき微笑みながら近づいて来た。そして、横にいるガレスを見て驚愕の表情を浮かべ、私とガレスを交互にみる。

 

 

「冒険者登録に来たんじゃが、任せて良いか?」

 

「…‼︎っはい‼︎ではこちらへ‼︎」

 

 

受付まで着いて行く。周りの冒険者達がヒソヒソ何かをはなしていたが、耳に入ってこなかった。

 

私は大事なことに気付いたからだ!

 

 

 

ガレスに字の読み書きが出来ないことを伝えていない!

 

 

 

「えーと、改めまして。担当をさせていただきます。ソフィア・ディーンと申します。

では、この用紙に必要事項をご記入下さい。」

 

 

ヤバイよ!ヤバイよ!

変な汁が止まらない!昨日からちょっとしたことでテンパりまくりだよ!

 

 

固まったまま動かない私をみて、ガレスが察したのか何も言わずに用紙を埋めていく。時々質問をされたが、なんて答えたか余り覚えていない。ガレスとソフィアが一言二言話して冒険者登録が終わったようだ。

ギルドをでてから、ホームへの帰り道。余り情けなくなりうつ向きながら歩いていると、ガレスに問いかけられた。

 

 

「何故、何も言わなかった?」

 

「…忘れてました。すみませんでした。」

 

「儂等はもう家族だ。遠慮せずになんでも言え。」

 

「親方様…」

 

 

ガレスの大きな手で頭を撫でられた。

嬉しい反面、罪悪感を覚えた。

転生者であること。

フィンやリヴェリアのような原作で活躍する人ではなく、ファミリアの主要人物でありながら余り登場しないガレスを師事したのも、本人の申し出もあったが、余り目立たずに、厄介事に巻き込まれたくなかっただけだ。

 

 

結局、何も言えずにホームに着いた。

 

 

「さて、朝話した通り軽く訓練を付けてやる。今から訓練所に行くぞ!」

 

 

ガレスはニッと笑うと私の頭を乱暴に撫でた。髪の毛を整えながら、後を着いてゆく。

 

 

いつか全てを話せる日が来るだろうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この人結構脇役じゃね?ちょうどいいかも!

 

 

…なんて思った昨日の自分をしばき倒したい

 

 

「ほれぇ!どうした!脇が甘いぞ‼︎」

 

 

ッバキ‼︎

 

 

痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎

 

 

もう嫌だ。とりあえず木刀振ってみ?って言われて、筋がいいなんて言われて、まぁ剣道してたから( *`ω´)なんて思ってたら、じゃ模擬戦ね☆ってなって、今メッチャしごかれてます!

 

 

「どうしたぁ!その程度では冒険者など務まらんぞ‼︎」

 

 

ドカッ‼︎‼︎

 

ちょっ!マジやめて!まだ6歳よ!容赦なさ過ぎばい‼︎

えっ、てか、ほんと、うん…

やめろやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎

いいよやってやんよ。ああやんよやんよ!

 

 

「リャァァァァァァァァァ‼︎」

「面‼︎」

 

 

スパン‼︎

 

 

「ふん!その程度かぁ!」

 

 

ドコンッッ‼︎

 

 

 

私は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

ソフィアside

 

 

昨日の可愛い子どうしたんだろ?ちゃんとファミリア見つかったかな?

 

なんて考えていると入口に昨日と同じ小さな姿が。私は思わず駆け寄った。ふと、小さな手が掴んでいるものをみると、なんと【ロキ・ファミリア】の最高幹部【重傑】ガレス・ランドロックだ。

 

え?うそ?まさか都市最強派閥のファミリアに入ったの?たしかに神ロキが好きそうではあるけど…

 

 

えぇー⁉︎

 

 

そんなことを考えていると冒険者登録をすることに…

 

受付に案内して説明を進めると、あの子が固まって動かない。困ったような、焦ってるような表情だ…

 

 

ひょっとして字が…

 

 

【重傑】ガレス・ランドロックが用紙を埋めていく。書き終えた用紙に目を通す。

 

 

ロキ・ファミリア

 

七郎治

 

 

 

・・・・・・え?男?うそ?

 

 

今日1番の驚きだった。

 

 

用紙の記入が終わると、ギルドでの冒険者ようの講習があるのだが、読み書きが出来ないのでファミリアで教えるようだ…。ロキ・ファミリアなら安心だけど、少し残念かな?私はうつむいた小さな背中を見送った。

 

 

 

ソフィアside.END

 

 

 

 

 

ガレスside

 

 

ロキに言われ、七郎治の冒険者登録に同行することになった。ロキ・ファミリアであることを証明するのに手っ取り早いからのぅ。

 

 

ギルドに向かう途中、何かに服の裾を掴まれた。目線を下げると七郎治の小さな手だった。笑いそうになるのをこらえた。…ロキに見られたらからかわれそうだが。

 

ギルドに着くと受付の1人がこちらに向かってきた。七郎治を見てから儂をみて驚いているようだ。まぁ無理もない。

登録をするように促すと、用紙を前に七郎治が固まったまま動かない。

 

 

…こやつは読み書きができんのか?

何故言わん。

 

 

ホームへの帰り道で問いただすと、どうやら伝え忘れたらしい。しかし、その顔はひどく悲しそうだった。

 

 

「儂等はもう家族だ。遠慮せずにいなんでも言え。」

 

 

複雑な表情を浮かべた。

 

 

ホームに着くと、まず訓練所に向かう。予定通り訓練をする。最初にどの程度出来るか確認だ。

 

木刀を構えるその姿は、先程の感情を捨て剣にのみ集中されていた。

 

 

ほぅ?良い構えだ。振るわれる太刀筋も年の割にしっかりとしそれなりの期間剣を振るっていたかのようだ。どれほど出来るか試してみるか。

 

 

結果を言えば、型にはまりすぎている。実戦経験が無いというわけではなさそうだか、これではダメだ…。とことん鍛えてやろう。

 

 

 

 

気を失った。力加減を間違ってしまったようだ。

 

 

 

しかし、のぅ…最後の打ち込みは悪くなかった。こらからが楽しみじゃわい!

 

 

 

ガレスside.END

 

 

 

 





次回はリヴェリア。
もう少しでダンジョン。(遅)




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

講義と現実



もうすぐ…もうすぐです。冒険。

最後の方に…





 

 

目がさめる。

 

 

知らない天井だ。

 

 

周りを見渡すと、医薬品の様なビンなどが並べられた棚がある。医務室かな?

ガレスにやけくその面を打ち込んだ後の記憶がない。

体を起こす。あちこちが悲鳴をあげる。節々が痛む。年かな?

 

 

部屋を出ると、どうやら夕方らしい。廊下の奥から誰かきた。

 

 

「あっ‼︎ロージ君、目が覚めたっすね⁉︎」

 

 

ラウルだ、はぁとため息をつく。

 

 

「えっ⁉︎また自分なんかしたっすか‼︎」

 

「えっ?いや、べつに〜」

 

「ま、まぁもうすぐ夕飯の時間だから呼びに来たっす」

 

「あぁ、ありがとう」

 

「⁉︎ロージ君がお礼を⁉︎」

 

 

何ビックリしてんだよ。失礼やがなお前。

2人で食堂に向かう。腫れたホッペのせいで、ものっそい食べづらい‼︎クソガレスめ。

 

 

「おっ、目が覚めた様じゃな‼︎」

 

 

ガハハと豪快な笑い声と共に、後ろから掛けられた声に反射的に飛びかかる。首根っこを掴まれて、宙ぶらりんだ。

 

猫かわしは‼︎

 

 

「まったく、力加減を考えろ」

 

「あぁロージたんのホッペがめっちゃ腫れとる〜」

 

 

呆れた様に片目を瞑るリヴェリアと、泣き真似をしながらロキもきた。

 

 

「七郎治。気分はどうだ?」

 

「ロージたんムリしたらあかんよ?うちが添い寝しよか?ご飯あーんしたろか?」

 

 

バキッ!

ロキがリヴェリアに殴られた。

 

 

「夕飯の後は、私がダンジョンの基礎知識を教えよう。風呂に入ったら、私の部屋に来い。」

 

 

リヴェリアが優しく微笑みかける。

 

 

「先に風呂に入れてロージたんにナニする気やリヴェリア⁉︎」

 

 

ドカッ‼︎

ロキが地面にめり込んだ。

あっぶね〜「ナニってナニでしょうww」とか言わんでよかったわ。

 

 

 

 

 

夕食後、言われた通りリヴェリアの部屋に来ていた。中は綺麗に整頓されてあり、気品が溢れている。

 

 

「七郎治は読み書きができないようだな。図解で説明していこう。字はそのうち覚えていけばいい」

 

 

リヴェリアの講義始まった。とりあえず忘れないように日本語でメモを取っていく。リヴェリアがその様子を見ていたが何も言わなかった。講義はダンジョン誕生の話から、仕組み、必要なこと、注意事項、上層の地図にモンスターの弱点etc…

 

 

うん、なっっがいし‼︎量多いし‼︎終んねー‼︎‼︎

 

 

最後に本日のまとめ。小テストだ。読み書きが出来ないので、口答になるが…

なめるな!こちとら高校は特待生だったんだぞ!施設だから行ける高校の上限が決まってて、すんげー勉強してきたんだ。この位楽勝だわ‼︎

 

 

 

リヴェリアにテストの結果を褒められた。

照れるわ〜

 

 

今日の講義は終わり、字を覚えるように帰り際に本を渡された簡単な絵本だった。

 

リヴェリアにお礼を言って、部屋に戻る。

 

 

 

 

 

リヴェリアside.

 

 

七郎治に講義をする事になったのだが、どうやら読み書きが出来ないらしい。年齢を考えればおかしな事ではないが本人は気にしているとガレスに聞いた。

 

 

夕飯のとき、七郎治の様子をみたが元気そうだ。些か不機嫌そうにガレスに持ち上げられていたが…

 

 

ロキは…はぁ、七郎治の講義より長い説教が必要なようだ。

 

 

 

約束通り七郎治が私の部屋にきた。

図解で説明していくのだが、なんと七郎治はメモをとり始めた。読み書きができないのでは?

…極東の文字を使っているようだ。なるほど、共通語がわからないだけのようだ。それもその内覚えるだろう。

 

最後に軽く小テストをするのだが、今まで初日のテストで6割正解する者も殆どいないが、この子はどうだろうな?

 

 

 

 

私は驚愕した…

 

 

 

初の全問正解だ。知識の取り入れ方を分かっている。6歳なのになぜ?…しかしガレスに指導役を取られたのは惜しいな。

 

 

帰り際に絵本を渡す。興味深そうに眺めていた。その顔はまだまだ子供だな。

 

 

さて、七郎治の講義も終わった。ロキの説教の時間だ。簡単に済むと思うなよ。

 

 

 

 

リヴェリアside,END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁやっと終わった。

あまり感情を顔に出さずに講義を受けたが…

ダンジョン面白そう‼︎

 

よし、ちょこっとだけ行ってみるべ‼︎

 

部屋にリヴェリアに貰った絵本を置き、脇差を腰にさげ、爆睡するラウルの顔に落書きをし、いざ出発‼︎

門番がいたが、こっそり屈んで通りすぎる。

…警備以外とザルやな。

 

 

 

さぁやって来ました‼︎ダンジョン1階層‼︎

 

 

夜だからか、他の冒険者は誰もいない。静まり返る空気は不気味で、どこか遠くでモンスターの鳴き声がする。

しばらく歩くと、ビキッ!と壁にひびが入る。

 

 

来た。

 

 

脇差を下段に構える。ダンジョンに生み出されたのはゴブリンだった。リヴェリアとの講義で行動パターンは分かる。相手が仕掛けて来るのを待つ。

 

 

ゴブリンが私を殺そうと、向かって来る。一瞬怯んでしまうが、斜め横に動きゴブリンの死角に入る。体制を建て直される前にその背中を逆袈裟で切り上げる。

赤い液体を吹き出した。ゴブリンが悲痛の叫びをあげる。まだ、絶命していない。尖った爪を振り下ろしてくる。半歩横にズレてかわすも、少し腕をかすった。攻撃直後の隙をつきゴブリンの胸を横に切る。また、赤い液体を吹き出した。今度は紫紺の石が飛び出た。灰になり消えた。

 

 

私は紫紺の石を見つめる。魔石だ。モンスターが死んだ証拠。

 

 

 

そう…私が殺した。

 

 

 

吹き出した赤い液体は、私が腕から流して入るものと同じ“血“だったのだ。

 

吐きそうだ。冒険者はモンスターを狩るもの。それは命を奪う行為だ。

 

 

私はがむしゃらにホームに向かって走った。ベッドに勢い良く飛び込んで、毛布を被る…

 

 

これからどうすれば良い?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






七郎治の初ダンジョン。
なんか散々な感じですね〜



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

冒険者


七郎治…
大きくなれよ。




 

 

これからどうすればいい?

 

 

冒険者を辞める?

本当に?

殺しだから?

モンスターが人を襲うから良いのでは?

千年前に娯楽を求めて天界から降りた神々が人類に恩恵を与えたんだ。その力を使わなくては…

 

 

ただの言い訳だ。

そもそも命を狩りとる事とは…

食事をする。これも何かの犠牲の上だ。

生きるために仕方ないから?

この世は弱肉強食。弱ければ死に強ければ生きる…

私は間違いなく弱者だ。

では死ぬのか?嫌だ。前世よりは長生きしたい。

 

では、強くならなくては。

 

 

 

脇差を手にとり、裏庭に行く。

 

 

 

ひたすら基本の素振りをする。

 

また、考える。

 

 

なぜ強くなる必要が?命を奪うんだぞ。

死にたくないから?ダンジョンに潜らなければいい。

拾ってくれたファミリアにまだ何も出来ていないのに?

 

 

入団試験を思い出す。

あの時は必死だった。ならあれは本心では無いのか。

そんな事は無い。剣道は死んだ父と私を繋いでいる気がする。危機に陥れば打開しなければならない。もう何かを失いたくない‼︎

 

 

素振りが止まる。

 

 

あぁこれで良いじゃないか。ダンジョンに潜る理由はある。モンスターの命を奪う事は変わらないが…

では、モンスターの死を無駄にしないように魔石やドロップアイテムは有効活用しよう。モンスターに敬意を表しよう…

 

 

 

私は…僕は…

冒険者になろう‼︎‼︎

 

 

 

 

そうと決まればとにかく特訓だ。特典の効果で特訓次第でアニメやマンガの技が使えるんだ。よしやれば出来る子‼︎

 

 

あれから何時間たった?もう朝だ。向こうから誰かが走ってくる。

 

 

「ロージ君そこにいたっすね‼︎この顔は何すか‼︎」

 

 

変な顔のラウルが走ってきた。やべぇ忘れてたわ。落書きしてたわww

全力疾走しようとした時、足が思う良いに動かず思いっきり転けた。

 

 

「ちょっ!ロージ君大丈夫っすか⁉︎」

 

「zzzz」

 

「寝てるっす…」

 

 

 

 

 

私は昼過ぎに目が覚めた。

お腹が空いているので、とりあえず食堂に向かう。

誰もおらん…

キッチンに行って何か食べ物は無いかと探していると、後ろから首根っこをつかまれた。またか‼︎猫かわしは‼︎

 

 

「目が覚めたようだな七郎治。お前に話がある。このままロキのところに行くぞ」

 

 

やべぇ…ラウルのイタズラの事だべ。怒られる。

ヤバイよ!ヤバイよ!ロキの部屋ってことは幹部が揃ってるだろ。詰んだわ…

 

 

 

ガレスに運ばれながら、腹を鳴らしながらロキの部屋に着く。案の定ロキ、リヴェリア、フィンがいた。

 

 

「来たな。ロージたん」

 

「さて、七郎治。昨日、私の講義の後何をしていた」

 

 

ヤバイよ!ヤバイよ!

ロキ達って仲間を大事にしてたっけ?新参者が、イタズラとかまずいよな…正直に言うか。

 

 

「ラウル…さんの顔に落書きをしました。すみませんでした‼︎」

 

「そんな事はどうでもいいわい。その腕の傷はどうしたときいているのじゃ」

 

 

えっ?傷?

…ダンジョンに潜ったこと?

ッ‼︎ヤバイよ!ヤバイよ!なんも考えてなかった。あぁまた変な汁を身体から吹き出す。

 

 

「まさかとは思うけど、ダンジョンに潜ったなんてことは無いよね?」

 

 

ビビクッ⁉︎

バレとるがな⁉︎やべぇ…何も言えねー

ぐ〜

腹が鳴る。空気を読め‼︎

 

 

「何も言わ無いとゆうことは、肯定と受け取るぞ」

 

「はい…ダンジョンに行きました」

 

 

やはりかと全員ため息をつく。

 

 

「なぜだ?私はダンジョンがどのようなところが教えたつもりだぞ?」

 

「正直に言うと、興味本位です。モンスターに勝てるとも思っていました。」

 

「どうしてだい?君はもう少し考えて行動できる子だと思っていたよ」

 

「・・・・」

 

「それで、モンスターを倒したのか?」

 

「ガレス‼︎何を言っている⁉︎」

 

「すまんのぅ、リヴェリア。こやつは儂が面倒を見ると決めたのじゃ…で、どうなんだ」

 

「…ゴブリンを1匹だけ」

 

「そうか!勝ったか‼︎」

 

 

ガレスは豪快に笑い、私の頭を撫でる。

 

 

「七郎治!腹が空いているだろう‼︎飯にするぞ‼︎」

 

 

そのまま私を抱えて部屋を出ようとする。リヴェリアは納得していないようだ。

 

 

「ふざけるなガレス‼︎これは大事なことだぞ‼︎」

 

「説明してくれるかい?ガレス」

 

「ふむ、こやつはダンジョンから戻って、ずっと剣を振っていたからのぅ」

 

「見ていたのかい?」

 

「まぁな、こやつは何かを吹っ切りおった。太刀筋から迷いがなくなったのじゃ。七郎治は間違いなく冒険者じゃ」

 

「はぁ〜。必ず誰かと行くこと、これが条件だよ。」

 

「フィン…」

 

「七郎治…自分のなりたい冒険者になれ」

 

「はい…親方様」

 

 

 

私は…僕は…いや、

ワシは冒険者じゃ‼︎‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





冒険者になる事を決めた七郎治。
幼少期はこれで終わりです。挿し話であるとは思いますが。次回からはソードオラトリアの本編に入ります‼︎
それでは‼︎


ロキ「うちもおったのに、喋ってへんやんか…」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一章
遠征


ソードオラトリア本編スタートです。





ーダンジョン49階層《モイトラ》ー

 

 

 

「前衛‼︎盾構えぇぇー‼︎」

 

 

号令と共に49階層に鳴り響く衝突音。

人の怒声や雄叫び。

人ならざるものの咆哮。

様々な種族が織り成す一団。オラリオ最強派閥の一角【ロキ・ファミリア】と、山羊のような頭を持ち黒い巨体を誇るモンスター。ファモールの群れが対峙していた。

 

一団の指揮をとるのは、金髪の小人族。状況を見極め、素早く的確な指示を飛ばし、この戦場を支配する。

勇者(ブレイバー)】フィン・ディナム。

 

 

「隊形を崩すな‼︎後衛は攻撃を続行‼︎」

「ティオナ、ティオネ!左翼支援に回れ‼︎」

 

「あ〜んっ、体がいくつあっても足りないよー!」

 

「文句言ってないで働きなさい‼︎」

 

 

団長の指令を受け、浅黒い肌に可憐な容姿を持つ双子のアマゾネスが一瞬でファモールを斬り伏せる。

大切断(アマゾン)】ティオナ・ヒュリテ、

怒蛇(ヨルムンガンド)】ティオネ・ヒュリテ

 

 

「リヴェリア〜!まだぁー⁉︎」

 

 

ティオナが叫び掛ける先には、後衛に守られ、女神が嫉妬する程の美貌をもつオラリオ最強の魔導師が詩を紡いでいた。

九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴ

 

 

「【ー間も無く、焰は放たれる】」

 

 

『ーオオオオオオオオ‼︎‼︎』

 

 

ファモールの群れが吠える。

前衛の一角をその巨体と剛腕で吹き飛ばさんとたたみかけていた。

 

 

「ッ!ベート穴を埋めろ‼︎」

 

「チッ、めんどくせーなぁぁ‼︎」

 

 

頬に刻まれた雷の様な入れ墨を歪ませ、狼人は吠える。

凶狼(ヴァナルガンド)】ベート・ローガ

 

突破されようとしている前衛の元に狼人が駆けるも間に合わず、何匹かの侵入を許してしまう。ファモールは魔導師の少女の元へ。

 

 

「っあ」

 

 

少女は体が硬直して動けない。ファモールの剛腕から繰り出される鈍器の一撃が迫り来る。が…

 

 

「ーえっ?」

 

 

攻撃は届く事はなかった。

少女とファモールの間に、金髪金眼の女剣士が滑り込み一瞬にして切り裂いたのだ。

 

 

「大丈夫?レフィーヤ」

 

「ァ、アイズさん⁉︎」

 

 

【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン

千の妖精(サウザンド・エルフ)】レフィーヤ・ウィリディス

アイズに差し出された手を掴み、起き上がろうとしたとき、ファモールが振りかざそうとするのが見えた。

 

 

「アイズさん‼︎後ろ‼︎」

 

 

だが、アイズは全く気にしていない様子。まるで、絶対に攻撃が当たらないと言わんばかりに。

 

 

「よいしょ」

 

 

間の抜けた声と共に、斜めに一筋の線が入る。ファモールの動きがピタリと止まり、線に沿うように上半身が滑り落ちる。その先にいたのは鞘に収まった刀を持つ中性的な顔立ちの黒髪の剣士。

 

 

「っ!七郎治さん」

 

 

【抜刀斎】www オウギ・七郎治

 

 

「そうですぅ。私が七郎治ですぅ。」

 

「ッ⁉︎何言ってるんだすか⁉︎こんなときに‼︎緊張感無さ過ぎです‼︎」

 

「?副団長に常に大木の心を持つ様に言われてるがや」

 

「それは緊張感を無くすことではありません‼︎」

 

「あっ、アイズ嬢が行っちゃったべ」

 

「えっ?」

 

 

七郎治が後を追う。

 

 

「どうして、あんな人がアイズさんの相棒なんですか…」

 

 

アイズは風を纏い、前衛の頭上を飛び越えファモールの大軍に突っ込む。大軍の中に1人飛び込んできた獲物を殺そうと迫って来る。風を纏った斬撃が近づく者を全て切り裂かんと振るわれる。さらに後から黒い影がそっと降り立った。まるでその背を護る様に邪魔者を排除していく。

 

 

「【汝は業火の化身なり】」

「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」

 

 

リヴェリアの魔力が最高まで高まり、詠唱を完成しようとしている。

 

 

「二人とも戻りなさい!」

 

 

ティオネに呼び戻される。

 

 

「ッ!」

 

 

アイズは風を纏い後方へ大きく跳躍し自陣へ。

 

 

「はいよ〜」

 

 

七郎治は一瞬にして姿が消え、いつの間にか自陣に立っていた。

 

 

「【焼きつくせ、スルトの剣ーー我が名はアールヴ】」

「【レア・ラーヴァテイン】‼︎」

 

 

豪炎。

魔法陣から幾つもの大炎にが飛び出し、ファモールの巨体を全て飲み込み絶叫と共にモンスターが息絶えた。

 

 

49階層での戦闘が終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




二つ名怒られないかな…




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

50階層の休息


暫く時間が空きました。
決算時期キッツ〜




 

 

50階層に野営陣を敷いていく。テントを張るもの、夕食の準備をする者、伝令の為に駆ける者。ヒューマンと亜人が忙しなく動き回る。

 

 

野営陣の奥にある一際大きな天幕。道化師のエンブレムが刻まれた旗が立っている。

 

 

「来たかい、アイズ、七郎治」

 

「ワシなんも悪いことしとらんがや」

 

「開口一番がそれか、七郎治」

 

「ガハハハ!」

 

 

二人の姿を確認するフィン。七郎治の言葉に嘆息するリヴェリアと笑うガレス。

 

 

「どうして呼ばれたか分かるかい?」

 

「…うん」

 

 

フィンの問いかけにアイズが気まずそうに答える。

 

 

「どうして前衛維持の命令を無視して、敵の群に飛び込んだんだい?」

 

「だってアイズ嬢が飛び込むけん」

 

「ッ⁉︎し、七郎治がついてくるから…」

 

「ワシをストーカーみたいに言わんでくれん⁉︎こちとらアイズ嬢の援護を任されとるきの‼︎」

 

「………」

 

 

二人のお互いに指をさし、冷や汗を流しながら怒られまいと罪をなすりつけ合う姿に、呆れと子を見るような微笑ましさを感じながら、三人は溜め息をつく。

 

 

「アイズ、君は強い。しかし組織の幹部でもある君の行動は下の者に影響を与える。そこを理解してもらわないと困る。」

 

「七郎治、スキルだけでなく君の実力をみて、アイズの援護に回しているんだ。君が止めないでどうする」

 

 

静まり返る天幕。

ぐ〜。

七郎治の腹が鳴る。

 

 

「はぁ、アイズ窮屈かい?今の立場は」

 

「ッ‼︎…ううん、ごめんなさい」

 

 

ぐ〜。

七郎治の腹が鳴る。

 

 

「…フィン、アイズは前衛の負担を軽くしようと、あえて突っ込んだのだろう。実際、前衛は崩れかけたからのう」

 

「それを言うなら、詠唱を手間取った私にも落ち度があるな」

 

 

事の成り行きを見守っていたガレスとリヴェリアが助け舟を出す。二人の言葉にやれやれとフィンは肩をすくめる。

 

 

「アイズ、ここはダンジョンだ。何が起こるか分からない。全員が七郎治のように君についていけるわけではない。それだけは理解してほしい」

 

「…はい」

 

「七郎治、君もだよ」

 

「へい」

 

ぐ〜。

腹が鳴る。

 

 

「全く君は…。行って構わないよ」

 

 

天幕をあとにした二人は無言で歩く。

 

 

「あの、七郎治、ごめ「腹減って死にそうだべ。さっきも鳴らさんごと必死だったわw」」

 

 

アイズの言葉を遮り、ニカっと笑う七郎治。気にするなと言いたげである。

 

 

「ア、アイズさん!」

 

 

呼び止められる声に振り返る。レフィーヤだ。

 

 

「先ほどは助けて頂き有難うございます‼︎…七郎治さんも」

 

「ケガは平気?」

 

「ワシはオマケか」

 

「すいません。いつも足を引っ張ってしまって…」

 

 

謝るレフィーヤ。今にも泣きそうだ。どうしようかと焦るアイズと固まる七郎治。

 

 

「アーイズー‼︎」

「何してるの?またレフィーヤがへこんで、アイズに慰められてるの?」

 

「べ、べつに私は!」

 

「そんなに謝られたらアイズ達も困るわよ」

 

 

後ろからガバッとアイズに抱きつくティオナ。いつもの事かと笑い、活発な彼女の言葉とさり気なく助け舟をだすティオネ。二人が加わり和気藹々とした雰囲気になるが…

 

 

「邪魔だテメェら‼︎遊んでんじゃねーよ‼︎」

 

 

横からムダに長い足が、ティオナと横にいた七郎治を足蹴にする。

 

 

「ちょっとベートいきなり何するのよ‼︎すごく痛かったんだけど‼︎」

 

「そうよ!そうよ!このクソ毛玉‼︎」

 

「キメェんだよ七郎治!女みてーなツラしやがって‼︎遊んでるテメェらが悪いんだろうが⁉︎」

 

「ふふん、どーせ毛玉はアイズ嬢に絡みに来ただけだべ?このカッコつ毛玉♡」

 

「あぁ?ぶっ殺すぞカマ野郎‼︎」

 

「はい!本日も頂きました‼︎毛玉君の実行されない殺人予告(笑)」

 

「テ、テメェ〜〜‼︎」

 

 

恒例のベートと七郎治の鬼ごっこが始まった。

 

 

 

 

 

ガレスにゲンコツをくらい二人の鬼ごっこは終了した。

食事の後始末をし、フィンが見張り以外の全員を見渡す。

 

 

「それじゃあ、今後の話をしよう」

「今回の遠征は未到達階層の開拓以外に【ディアンケヒト・ファミリア】のクエスト、「カドモスの泉水」をこなさなければならない。必要な泉水の採取の量を考えると少数精鋭2班で同時に2カ所に回る。メンバーは…」

 

「はーい!私が行く!」

 

「少数精鋭よ。私達第一級冒険者が行かないでどうするのよ、バカティオナ…」

 

「じゃあ、ティオネも一緒ね!アイズと七郎治もね!」

 

「うん」

 

「ワシ行かんけん、レフィーヤが行くがや」

 

「「ええ⁉︎」」

 

 

七郎治のまさかの同行拒否にティオナと、突然名前を出されたレフィーヤが驚きの声を上げる。

 

 

「ええじゃろ?団長、副団長?」

 

「…そうだな。レフィーヤはいずれ私の後釜になるんだ。経験を積んでこい」

 

「それじゃあ、リヴェリアと七郎治はキャンプの護衛だ。」

 

「するともう一班はワシとフィン、ベートとサポーターにラウルを連れて行くかの」

 

 

モンバーの選出を終えて、数時間の仮眠の後リヴェリアが束ねる団員に拠点を任せ、一行は51階層に出発した。

 

 

 

 

 

 





ダンジョンだと、大好きなロキが出せないな〜



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハードボイルド



ハードボイルドって難しいよね





 

 

 

ふぅと息を吐く。

 

 

この世界には、モンスターを生み出す「大穴」が空いている。約千年前「大穴」から溢れ出すモンスターと人類は生存をかけて戦っていた。人間とは非力で愚かな生き物だ。モンスターに蹂躙され絶望に打ちひしがれていた。

 

 

そんな人類に救いの手を差し伸べたのは、暇を持て余した神々だ。人類は恩恵を受けモンスターの進行を止めた。迷宮(ダンジョン)の誕生だ。

 

 

千年たった今では、ダンジョンに潜るのは人類の生存をかけてモンスターを止める為ではなく、一攫千金を狙う者、強さを手に入れたい者、名を上げ名誉を欲する者ばかりだ。人間の欲望に満ちている。

 

 

本当にバカな生き物だ。俺もその内の1人なのだろう…こんな夜には行きつけのバーで命の重さを考えながら(カミュ)を片手に朧月に照らされる。そうすれば俺の心は満たされる。俺という生き物はどうしてもハードボイルドに生きてしまう…

 

 

ハードボイルドな男ってのは「何してるのロージ‼︎サボらないの‼︎」

 

 

ふっ…ハードボイルドに生きるのは辛いぜ

 

 

「さっきから何してるの?」

 

「いや….ちょっとハードボイルドごっこを…」

 

「はあ?」

 

 

同期の猫人(キャットピープル)のアキだ。留守を任されている者にも仕事はある。

 

 

「ほら早くそれ運んで。あっこれもね」

 

「ハードボイルドな男は常に片手をあけているものだ…」

 

「早く持て‼︎」

 

 

怒られたので荷物を運ぶ。

 

 

「ねぇ、ロージはどうしてカドモスの泉に行かなかったの?」

 

「それは私も聞きたいな」

 

「副団長⁉︎」

 

 

いつの間にか後ろにリヴェリアが立っていた。

 

 

「えっ?だってワシ第一級冒険者じゃねーもん」

 

「それだったらレフィーヤもでしょ?」

 

「もともとレフィーヤは同行させるつもりだった。他にも理由があるのだろう?」

 

 

ん〜…というか言わないか悩む七郎治。

 

 

「…ダンジョンで出来たわだかまりは、遠征が終わる前に片付けた方がいいべや」

 

「?」

 

「49階層でレフィーヤはアイズ嬢の足を引っ張ったって思っちょる。ティオナ嬢達もいれば、口下手なアイズ嬢も思いを伝えられると思うから?かいな」

 

 

 

「…ロージ。お前は周りをみているな」

 

「ロージはそこまで考えてたんだね」

 

「…ハードボイルドな俺には似合わないな」

 

 

 

「はぁ〜」

 

「あ〜せっかく感心したのに…」

 

 

呆れたと言わんばかりにりリヴェリアがため息を。アキがじと目で見てくる。二人とも拠点の本部へ行ってしまった。

 

 

…別にそれだけじゃないんだよな〜

 

 

原作では、この遠征中にイレギュラーに見舞われる。51階層に向かったメンバーは各々で対処しきったが、拠点組は防戦一方だ。怪我人が何人も出ていた。

 

 

…もう自分はこの世界の住人。そして家族(ファミリア)がいる。

 

 

当初は目立って原作を壊さない様にしようとしたが、どうしても体が動いて危機に飛び込んでしまう。それでも第一級冒険者達が凄すぎて、存在が霞んでいるからよしとしよう。

 

 

 

「敵襲ーー‼︎」

 

 

 

見張り番が声を上げ、敵の存在を仲間に伝える。リヴェリアが指示を飛ばし、団員達が迎撃の準備に入る。

 

 

 

 

来たな…。どこまでやれるか分からない。まるで真っ暗な闇の中を彷徨う様な不安に駆られる。それでもぶち当たって砕けようとも仕事後の一杯の(カミュ)を思うと自ずと前を向く。

 

 

ハードボイルドな男ってのは背中で語るもんだ。仲間達に背を向けるのは別れの時じゃねえ。敵と戦う時だ。

 

 

 

さぁ、ちょっくら行ってくるか。

 

 

 

そして前に歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「七郎治ーー‼︎早く戦闘につけーー‼︎‼︎」

 

 

 

 

リヴェリアに怒られた。ハードボイルドは辛いぜ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







ルビの使い方を覚えた今日この頃‼︎

今までの話もルビを入れて手直ししていこうかな





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キャラクターデータ オウギ・七郎治


ちょっと脳内の七郎治を出してみました。





 

オウギ・七郎治

 

【抜刀斎】

 

所属:ロキ・ファミリア

種族:ヒューマン

職業:冒険者

武器:刀

 

 

Skill Lv.4

力:A861

耐久:B796

器用:S982

敏捷:S912

魔力:A951

剣豪:G

索敵:H

耐異常:I

 

 

魔法

【鬼千切】

・魔力を乗せた斬撃を飛ばす。

 

付与魔法(エンチャント)

・魔力を身体の一点に集める事で、身体能力を向上させる。魔力の放出も可能。

 

 

 

スキル

【仕事人】

・役割をキッチリ、ミスなくこなす事でステータスに+15%補正。また、フォローに回る事で、仲間のステータスに+10%。諦めた時点で補正効果終了。

 

【覇気】

見聞色の覇気

・相手の気配を感じ取り、視界に入らない敵の数、位置を知る事が出来る。また、敵が次の瞬間に何をするか先読みする事ができる。

 

???

 

 

【家族の加護】

・失った愛情を取り戻すたびに、ステータス向上。

・???

 

 

 

名前の由来

オウギ

・Lv.2になった際にガレスが尽けてくれた名字だ。

 

七郎治

・六実に知らない棒が増えた。

 

 

二つ名

・一つ目お化けの鍛治師に暇つぶしに話した「人斬り抜刀斎君」が彼女の主神に伝わり、神会でそのままつけられた。

 

 

性格

・普段はだらーとしてやる気が無さげ。短気で切れやすい面もあるが、根は真面目で義理堅く人情家だ。※ヤ◯ザではありません。

 

・普段は一緒に悪ふざけをしているが、ロキを主と認め忠誠心が高い。

 

・手先が器用で大抵の事はそつなくこなすが、こりすぎて素人の枠を超える職人気質がある。【ヘファイストス・ファミリア】団長 椿・コルブランドとは、気が合う為、専属鍛治師の間柄。

 

・ガレスを師事しているので、一人称はワシ。前世では主張のであちこちを訪れていた為、いろんな訛りが混ざる。本気で切れると土佐弁が飛び出す。

 

 

見た目

・中性的な顔立ちで、よく女に間違われる。冒険者の中では線が細めで、優男だ。

 

・黒髪を肩まで伸ばして一部を結んでいる。

 

・切れ長の目だが、何処か眠たげで普段は目が死んでいる。

 

・着流しと陣羽織の組み合わせ。

 

 

主要メンバーの呼び方

ロキ:主神様、ロキ

フィン:団長、フィン

リヴェリア:副団長、リヴェリア

ガレス:親方様、ガレス

アイズ:アイズ嬢、アイズ

ティオナ:ティオナ嬢、ティオナ

ティオネ:ティオネ嬢、ティオネ

ベート:毛玉

レフィーヤ:レフィーヤ

 

呼び方は所要所用で使い分ける。普段は敬称をつけるが、大事な話では敬称なしで呼ぶ。

 

毛玉は毛玉。

 

※ベートを嫌っている訳ではなく、突っかかってくるので、ただいじっているだけ。

 

 

 

 

 





七郎治を手書きですが、書いてみました。
誰やこれ?という方は脳内から削除して下さい。



【挿絵表示】





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

防衛戦

なんか、変なところでキャラ紹介したな〜





 

50階層に突如として現れたのは、全体的に黄緑色の身体に濃密な極彩色の模様が刻まれている。無数の足が蠢いてずんぐりとした巨体を運んでいる毒々しい芋虫だ。

 

 

うん、知ってたけど。実物見ると気っっ持ち悪か〜‼︎

えっあれに突撃すんの?まじで?えぇ〜

 

 

崖の上の開けた平地に拠点をかまえているが、芋虫の群れは崖に張り付き防衛を行うロキ・ファミリアに腐食液を浴びせていく。

 

盾を構えた団員達が腐食液を防ぐも盾を溶かされ、防ぎきれなかったものが腐食液を受ける。

 

 

「うわぁ‼︎た、盾が溶かされた‼︎」

 

「あああ‼︎腕がっ‼︎」

 

「奴らが吐き出す液に触れるな‼︎矢を放て、その隙に怪我人を下げろ‼︎」

 

 

リヴェリアの指示が飛び、団員達も混乱する中、的確に指示に従う。

 

 

(フィン達が戻ってくるまでにまだ時間がかかる。矢には限りがある…。魔法を詠唱出来る時間を貸せがなくては…どうする?)

 

 

リヴェリアは指示を飛ばしながら、打開策はないかと思考を張り巡らせる。しかし相手は待ってくれない、極彩色の芋虫達が再び腐食液を放とうと構える。

 

 

「前衛!盾構え‼︎腐食液を被った盾はすぐさま放棄しろ‼︎」

(っ‼︎どうすれば⁉︎)

 

 

第二波。盾で防ぎ、すかさず矢を放ち芋虫の僅かな数を減らす。しかし、巨体のすぐ後ろで第三波が待ち構えていた。

 

 

「マズイ‼︎盾をすぐ構えろ‼︎」

 

 

リヴェリアの指示に、慌てて次の盾を構えようとするも間に合わない。もしこの腐食液に触れてしまったら?前衛の顔が青ざめる。

 

 

スパッ

 

 

風を切る音がなり、腐食液が届くことはなかった。何が起きたのかわからず、団員達は唖然としていた。

 

 

「人の世三十六煩悩。『三十六煩悩砲』‼︎」

 

 

斬撃が飛ぶ。先頭の芋虫を切り裂く。芋虫は倒されると破裂し、周りの仲間を巻き添えに腐食液を撒き散らす。そんな地獄絵図から前衛の目の前までバックフリップで後退してくる人影。

 

 

「あっぶね〜‼︎マジ、ベーや‼︎」

 

 

少し涙目になりながら、焦った顔の七郎治だった。

 

 

「七郎治‼︎お前がやったのか⁉︎」

 

 

リヴェリアが驚愕の声を上げる。

 

 

「あっはい。切っちゃった♡テヘペロ」

 

 

他の団員達は声も出さずに固まる。今なんと言った?このバカは鋼の盾さえも溶かす腐食液液を()()()と言ったのだ。

 

 

「…まぁ、時間は少しだけなら稼ぐけん、魔法の詠唱ば始めてくれんね?」

 

 

七郎治が飛び出していった。

 

 

「っ!待て‼︎七郎治‼︎…くっ、魔導師部隊は詠唱に入れ‼︎前衛は盾で進行を阻止、使えるものは鍋でもまな板でも構わん‼︎後衛組は矢を構えろ‼︎」

(無茶するなよ七郎治…)

 

 

芋虫の群れに飛び込む。飛びかかる腐食液は『見聞色の覇気』で先読みしてかわし、相討ちにさせる。かわしきれないものは剣先でそっと添えるように、決して触れてはいけに無い、力に逆らわず逸らす。

 

その巨体をもって踏み潰さんと迫り来る。

 

 

焔燃型(カグツチノカタ)第一式 火柱」

 

 

刀を持つ右腕を頭上に地面に平行構え、左腕をその下に添え力を加え押し上げる。右腕を鞭のようにしならせ、全体重を乗せた一撃が芋虫を縦に一刀両断にする。

 

 

「げっ‼︎少し刃こぼれさせちゃったべ…」

 

 

七郎治の刀は、不壊属性(デュランダル)が寄付されてる訳でもなく何か特別な力がある訳でも無い、ただの良く切れる刀だ。

 

 

もう、なんじゃこいつら?好かんわ〜

崖の上のポニョならぬ崖の下のブニョってか?

アホウか!つまらん‼︎

お前の話はつまらん‼︎つまらん‼︎

 

ん〜。どうすっかな〜思ってた以上に難しいな。腐食液が刀に触れる前に振り抜く。()()()()()()なのにな〜。斬撃飛ばすのはタメがいるからな、どうするか…

 

 

思考しながら、次々に襲い来る腐食液をかわし『見聞色の覇気』で周りの様子を伺う。魔道部隊の詠唱完成までもう少しだが、レフィーヤは51階層から戻っておらずリヴェリアが指揮な回っている為、一撃でこの数を葬ることはできない。

 

 

 

一か八かだ、試すしかなかろうや…

 

 

 

左手で脇差しを抜き放ち、二刀流で構える。

Lv.4に上がるきっかけ、神々が認める「偉業」を達成した時に僅かばかり感じ取れた自分自身の力。

 

身体に見え無い鎧を纏う感覚でより硬く練り上げる。

 

右腕の付け根から刀の剣先まで、左腕の付け根から脇差しの剣先まで、黒く変色する。

 

 

「リャアアアアアアア‼︎」

 

 

腐食液を斬りはらい、巨体を切り捨てる。破裂して飛び散る腐食液をさらに芋虫めがけて斬り飛ばす。休む事なく繰り広げられる斬撃。覇気を纏った刀は溶けるとこもなく、次々と芋虫を切り裂いていく。

 

 

「うっ!ぐぁぁ」

 

 

しかし、覇気を纏うことが出来たのは腕のみ。僅かに避けきれ無い、捌き切れなかった腐食液が七郎時を襲う。装備を溶かし、剥き出しの肌を溶かし、顔の左半分と左足は感覚が無い。

 

 

「っ!はっ!」

 

 

仲間の声を拾う。足先に魔力を貯めて放出。『縮地』と名ずけたこの技は瞬間的な速度は目にも映らぬ速さだ。崩れかけた前衛部分へ走り、敵を斬り捨てる。

 

 

 

 

「七郎治‼︎下がれ‼︎詠唱が完成する‼︎」

 

 

リヴェリアの指示に従い自陣に戻る、と同時に魔導師部隊の一成攻撃だ。

 

 

ドドドカーン‼︎‼︎‼︎

 

 

芋虫の数を減らすも、まだ残っている。すぐさま突撃しようとするが身体がダメージに耐えれず、膝から崩れ落ちる。意識が薄れ…

 

 

「っ!七郎治‼︎早く手当を‼︎」

 

「リヴェリア様‼︎残りが来ます‼︎」

 

「っ‼︎密集陣形を崩すな‼︎もうすぐフィンやアイズ達が戻ってくる‼︎それまで何としても持ちこたえるんだ‼︎」

 

「あぁ足がぁ」

 

「盾、盾はもう無いのか⁉︎」

 

「くそぉ!」

 

「っ、ロージ!あんたは寝てなさい‼︎」

ペシッ‼︎

 

 

数を減らせてもこちらの消耗が激しい為、苦戦を強いられる。団員達に不安と焦りが広がり「ここまでか」と諦め始めるものもいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな不安を薙攫うように一陣の風が巻き起こる。風は絶望を断ち、希望を運んで来た。

 

 

「アイズ‼︎間に合ってくれたか…。魔導師部隊‼︎全員詠唱開始‼︎私も入る‼︎援護を頼む‼︎」

 

「「「「はい‼︎」」」」

 

もう誰も絶望するものは居なかった。ロキ・ファミリアが誇る第一級冒険者が集まったのだから。その姿は団員達全員を奮い立たせ、必ず生きて帰る、帰る事ができる。そう鼓舞するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





一生懸命頑張ったのに美味しいところを持って行かれた七郎治(笑)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

イレギュラー



さぁ今回の遠征のラスボスです‼︎





 

 

ーーー僅かな意識の中、戦闘音が聞こえてくる。

 

目を覚ます。

自分は誰かに運ばれているようだ。

相変わらず左半身の感覚が無い。

音の方に目を向ける。信じられ無い光景が映った。

 

林をなぎ倒し、先程の芋虫より遥かに大きく、およそ6M(メルド)の黄緑色の巨体に極彩色の模様。二対四枚の翼のような腕。芋虫を彷彿させる下半身に、女体を象った上半身。

 

四枚の腕を広げ、光が舞う。七色の粒子群が辺りに広がった瞬間、爆発を起こす。そんな中、風が盾となり爆発を防いでいる場所がある。

 

化け物(モンスター)と一人で戦っているのは、自身が主神より相棒になるよう言い使った少女。

アイズ・ヴァレンシュタインだ。

 

 

えっ?マジで?なんで?

 

 

起き抜けの頭を必死に動かす。そうこうしている内にアイズが必殺の『リル・ラファーガ』で止めを刺しにはいる。

 

 

なんだこの感じ?変な気配だ…

 

 

『見聞色の覇気』により何かを感じとる。七郎治は嫌な予感が身体を突き動かし、アイズのもとへ()()()()()

 

空中歩行(スカイ・ウォーク)』。これは『縮地』と違い一定間隔で魔力を放出し、空中を駆ける。

 

 

「ッ⁉︎七郎治⁉︎」

 

 

リヴェリアの声を背に前を見据える。アイズが女体型に止めを刺し、上半身を風が削り取る。敵は膨れ上がり爆発を起こし殲滅したと思えたが…その巨体の下から、爆煙に包まれた2体目が現れた。

 

 

「ッ‼︎‼︎⁉︎」

 

 

アイズは回避へと移行する。もう一度このモンスターを倒すには魔力を練り直さなければならない…。

ふと背後に感じる何時もの安心感。そちらに目を向けると宙を駆けるボロボロの相棒の姿があった。

 

 

「七郎治…」

 

 

 

 

 

 

【悪しき魂を持つ鬼の群れ。この世に禍をもたらす】

 

 

空中歩行(スカイ・ウォーク)』を止め、宙に身を投げ出し詠唱に入る。

 

 

【邪なる者を打ち払う。我、四ツ目ケ金眼の守人。鬼を打つ鬼とならん】

 

 

七郎治の身体が金色に輝く光を纏う。さすれば四ツ目の鬼が現れる。

 

 

【鬼・千・切‼︎】

 

 

魔力を纏った金色の巨大な斬撃が、横一閃に女体型を切り伏せる。切られた女体型が膨れ上がり巨大な爆発を起こす。

 

 

あっやべっ…避けきらんわ…

 

 

七郎治が冷静に考えていると、風が自分を包む。更には脇腹に手が下から添えられ、両膝の下を抱えられる。

俗に言うお姫様抱っこだ。

 

 

 

仲間達全員が固唾を飲んで、舞起こる爆煙を見つめるなか二人の人影が見えた。アイズとお姫様抱っこされた七郎治だ。

 

 

 

「「「ーー‼︎‼︎」」」

 

 

歓声が湧き起こる。誰もが仲間の帰還を喜んだ。

ようやく50階層での戦闘を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて?七郎治、なぜ勝手に飛び出した?」

 

 

凄く良い笑顔のだが、目が全く笑っていないフィンとリヴェリアの前に、アイズにお姫様抱っこされたまま突き出される。

 

 

「だっ、だってアイズ嬢が飛び込むけん…」

 

「今回は、フィンの指示に従ったんだよ?」

 

 

アイズがどこか得意げに答える。

 

 

「うっそ⁉︎マジでか⁉︎…ワシも心の中の団長の指示に従っただけじゃ」キリッ

 

「七郎治〜?言いたいことはそれだけかい?」

 

「すんませんでした‼︎‼︎」

 

 

七郎治が全力で謝る。

 

 

「ガハハハ‼︎まぁ良いではないか。実際2体目が現れたときはどうなるかと思ったわい」

 

 

そう言うと近ずいてきて乱暴に七郎治の頭を撫でる。我らが親方様が助け船を出してくれた。

 

 

「はぁ〜しょうがないな。アイズ、帰りは七郎治を見張っておくように。」

 

「うん。…」

 

 

アイズは何かを考えると、七郎治を背負い直し落ちないように紐でくくる。

 

 

「アイズ嬢…どげんしてこうなった?」

 

 

そうアイズは背中合わせになるように結んだのだ。アイズの頭から少し七郎治の頭が出て、足は地に付かない。余談だが七郎治の身長は少しアイズより小さい。

べっ!べつにまだ14歳だから、これから身長が伸びるんだからね‼︎

 

 

「抱えてたら、戦えないでしょ?」

 

「いやいや、背負わんでも良かろうもん‼︎ワシは荷物か⁉︎文字通りお荷物ってか⁉︎」

 

 

そんな二人の姿をみて爆笑する団員達、一部はアイズと密着する七郎治を睨み付ける者と毛玉。

 

 

「…七郎治。あんまり無茶したら、ダメだよ?皆んなを守る為でも、ダメ…。約束、覚えてる?」

 

「アイズ…」

 

 

二人には他の誰も知らない約束がある。だから、アイズは心配し、怒っているのだ。七郎治はコツンとそっと頭でアイズの頭を小突く。

 

 

「さぁ、主発するぞ」

 

「えっ?このまま?」

 

 

フィンの号令と共に団員達が動き出す。

自分達の帰りを待つホームへと。

 

 

 

 

 

 

ダンジョン内に七郎治の絶叫が響きわたるとも知れずに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 






七郎治の運命はいかに‼︎

七郎治とアイズの約束とは?そのうち放り込みます。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

出会い



ペース配分が…







 

 

「ふおおおおーー‼︎うおっ⁉︎こえー‼︎」

 

 

50階層からアイズは七郎治を背負いったまま、お構いなしに人一人を背負っているとは思えないスピードでモンスターの群れに飛び込み次々と殲滅させる。

 

アイズが敵の攻撃を屈んでかわすと七郎治の鼻先をギリギリかすめて通過する。

 

 

「いやああああ‼︎前髪切れた〜‼︎」

 

 

右へ左へ、上へ下へとGの衝撃が全身を襲う。

 

 

「うぷっ…。吐きそう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー17階層ー

 

 

「まだまだ暴れ足んないよ〜」

 

「しつこいわよあんた。いい加減にしなさいよ」

 

 

遠征を断念し、二隊に分かれての帰還途中。各々が隊列を崩さない程度に小休憩をとる中ヒリュテ姉妹の会話が響く。

 

 

「もう、いやだべ…。いいかげんおろして〜」

 

「ダメ、だよ?…暴れないで」

 

いやだ、いやだとアイズの背中で子供のようにジタバタと駄々をこねるも、ゴスッ‼︎七郎治の脇腹にLv.5のアイズの肘が入る。うっ⁉︎と呻くと大人しくなる。アイズは何かに目を止めるとそちらへ近づいて行く。

 

 

「はぁ…」

 

「リーネ。手伝おうか?」

 

「えっ?だ、大丈夫です‼︎アイズさんに荷物を持たせるなんて‼︎これは私達サポーターの仕事です‼︎」

 

「でも…」

 

「止めろってのアイズ、雑魚に構うな。間違っても手を貸すんじゃねぇ、せいぜい見下してりゃ良いんだよ」

 

 

けっ!と言い捨てるとベートは隊の前方に行ってしまう。ティオナに見られていたようで、いつもの言い合いが始まる。ベートに言われてから何かを考え込むアイズ。事の成り行きを黙って聞いていた七郎治か徐に口を開く。

 

 

「なぁ、アイズ嬢。言い方は悪いかもしれんけど、ワシも手を貸さん方が良いと思うがや」

 

「えっ?」

 

 

七郎治がまさかそんな事を言うとは思わなかったアイズは、驚いた表情をする。普段無表情なアイズと余り変わらない気がするが

 

 

「ああ、勘違いせんで?強い弱い関係なく人には役割があるけんな、リーネ自身も言っとったろ?サポーターの仕事だって」

 

「…」

 

 

七郎治はアイズに頼んでサポーターの男連中のところまで行き声を掛ける。

 

 

「キャー‼︎やっだ〜‼︎屈強そうな良い男がいっぱい‼︎誰にしようかな〜」

 

 

普段は死んでいる目を輝かせて、声色を変え女言葉で話し掛ける。団員達はなんだ?と笑いながら声に耳を傾ける。

 

 

「リーネの荷物が他より少し多いと思うの〜。誰か手伝って〜」

 

 

なるほどと、男達は確かに他より多い荷物を背負っているリーネへと歩み寄る。分担して運んでくれるようだ。

 

 

「ファミリアなんじゃけー、アイズ嬢だけ手伝う必要はないんよ」

 

「…うん」

 

 

七郎治はスキル『見聞色の覇気』で主神曰くツンデレな毛玉が言いたかった事、アイズが今何を考えているかを感じとっていた。まぁ前世の知識もあるのだが…そこまで覚えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

『『ブモオオオオーーー‼︎』』

 

 

「進行方向にミノタウロス…大群です‼︎」

 

大群か…。これアレやな、アイズ嬢も行くパターンやな…

 

これからあの恐怖がまた始まるのかと、1人憂鬱になっているとふと思い出す。

 

 

ん?遠征でミノタウロス…。ッ‼︎ヤバイ‼︎これベルがミノタウロスに襲われるときだべ‼︎

 

 

『ブモオオ〜〜』

 

 

そうこうしているうちにミノタウロスが逃げ始める。リヴェリアの指示もあり、団員達が慌てて追いかける。アイズの背中から、追い抜きざまに逆手に構えた刀で居合を放ちミノタウロスを斬り伏せる。

 

 

「アイズ嬢‼︎ダッシュ‼︎ダッシュ‼︎」

 

「うん」

 

 

ダンジョン5階層。残るは後一匹…

 

 

「ほああああー‼︎」

 

 

叫び声が聞こえる。七郎治ナビのもと、猛然と走り抜けるアイズ。

 

恐らく新米であろう白髪の少年がミノタウロスに追い込まれていた。

 

ミノタウロスが、少年を殴り殺そうとした瞬間。ミノタウロスに交差する線が入る。線に沿って崩れ堕ちた巨体は血飛沫を撒き散らし少年へと降りかかる。

 

白髪て赤目はまるでウサギを彷彿させる少年だ。

 

 

「あの、大丈夫、ですか?…」

 

 

返事がない、ただの屍のようだ。

 

 

「おーい、少年。ケガはねーか?」

 

「だ…」

 

「だ?」

 

「だああああああ‼︎」

 

 

ダンまちの原作の通り、兎のような少年。ベル・クラネルは脱兎の如く逃げて行った。

 

 

 

がんばれよ〜

 

 

 

いつの間にか追いつき、ギャハハハ‼︎と下品に笑うベートと、それに対してムスッとするアイズを無視して七郎治はこれから沢山の試練を与えられるベルに心の中で声援を送る。

 

 

 

 

 

 

 

 






なんか、話の進行ペースが遅い様な気がする…

もっとテンポよく進めた方が良いのだろうか?





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帰還と更新



やっと帰ってきた〜





 

 

北のメインストリートから外れた所にそびえ立つ、赤茶色の外壁で黄昏時を彷彿させる城。ロキ・ファミリアのホーム【黄昏の館】。亜人で構成された一団が門をくぐる。

 

 

ドドドドド‼︎

 

「おっかえりーーー‼︎‼︎‼︎」

 

 

鍛え抜かれた冒険者でも驚く程のスピードと勢いで、男性陣をすり抜け女性陣へと突撃する自分達の主神の姿があった。

 

 

「キャーー‼︎」

 

「ぐへへへ…」

 

 

慣れたようすでかわす者の中に、かわしきれず魔の手にかかった犠牲者が…。

 

〈レフィーヤ〉を生贄に〈セクハラ神ロキ〉を召喚‼︎

レフィーヤのおっぱいにアタック!必殺の〈神の手(ゴッド・ハンド)〉‼︎‼︎

 

 

「レフィーヤ!おっぱいちょっと大きゅうなった⁉︎」

 

「ッ⁉︎なってません‼︎」

 

 

そんないつもの光景を、主神の姿を見て呆れつつも帰って来たと実感する団員達は談笑しながら、遠征の片ずけに入る。

 

 

「…ただいま、ロキ」

 

「ん、お帰りアイズたん。…ズキズキ痛むな〜、無理したらあかんよ。ゆっくり休み。」

 

 

遠征での無理な戦闘はアイズの体に負担を掛けていた。誰にも悟られない様にしてきたが…。あっさりと見破り、労ってくるロキ。やはり神様なんだなと改めて実感しさせられた。

 

 

「ちゅうか、アイズたん何背負っとるん?」

 

「…七郎治」

 

 

アイズはくるっとロキに背を向ける。そこにはダンジョンから地上に出た瞬間、緊張の糸が切れたのだろう口を半開きにして、スヤスヤと眠るボロボロな七郎治の姿があった。

 

 

「こいつ‼︎アイズたんの背中で何居眠りこいてんねん⁉︎」

 

 

うがー!と憤怒し、うちもされたい、おんぶしてー‼︎と宣い始めた。ロキの騒がしい声に目を覚ます。

 

 

「うっさいわー‼︎今何時だと思っとるんじゃ⁉︎まだ、おネムの時間じゃろうがー‼︎」

 

「もう夕方や‼︎アイズたんの背中にそんなに引っ付いてから〜許さへん‼︎」

 

 

飛びかかってくるロキ。巻き添えはごめんだと紐を素早く切り離し戦線離脱をするアイズ。アイズがいなくなったことにより、不安定な体勢からロキを受け止め踏ん張る七郎治。

 

 

「…ロージ、お前も大概無茶したな」

 

「えっ?あぁ、うん」

 

「ったく、揃いも揃って…。ロージお前のかわええ顔が台無しやんか‼︎ほんま何で女の子やないんやお前はー‼︎」

 

「えぇ、そんなことは…「ムギュ」ほんまやー‼︎‼︎」

 

 

ゲラゲラ笑う二人。

眷族の無茶な行動を咎めたと思ったら、いきなりハイテンションで訳の分からない八つ当たりを始めた。それに対してさ◯まさんのノリで、股間を握り自身が女の子ではないことを確かめる。男性陣は笑い、女性陣からは白けた目で見られる。

 

こうして、ロキ・ファミリアは遠征を終え、自分達のホームに帰って来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕刻。シャワーを浴び、夕食を終え、団員達が思い思いの時間を過ごす。

【黄昏の館】中央棟最上階。

ロキの私室に1人の少女が険しい表情をしていた。

 

 

…低すぎる。

 

 

アイズは夕食を食べ終え、今回の遠征の成果を、ステイタスの更新に来ていた。ロキの手によって蓄積された経験値(エクセリア)がその背中に新しく刻まれていく。

 

レベルが上がるに連れて、経験値(エクセリア)取得が難しくなり上昇値は少なくなるのが通常だ。

 

今回の遠征で、新種のモンスターとの戦闘を加え沢山のモンスターを葬ったアイズのステイタスは10オーバーしか上がっていなかった。

 

Lv.5に上がって3年の月日が経つ。今回の更新はアイズのLv.5としての限界を指している。後は器を昇華させて次のレベルに行くしかない…

 

 

「アイズ…。いつも言っとるな?つんのめりながら走っとったらいつか必ず転けてまう。これからも何度も言うで?忘れんようにな…」

 

「…」

 

 

思いつめているアイズを見守っていたロキが、優しく諭すように語りかける。

 

アイズはロキの優しさが伝わっているからこそ答える事が出来ずにいた。どうしたものか…

 

コンコン…。ドアがノックされる。

 

 

「ワシ入りま〜す」

 

 

七郎治が返事を待たずに入ってきた。

 

 

「七郎治…」

 

「おまえ、返事くらい待たんかい‼︎アイズたんが着替えとったらどないするんや⁉︎」

 

「あぁ、ワシ別に気にしないんで」

 

「おまえのことちゃうわ‼︎」

 

「そげんことよりも、ステイタスの更新してくれんね」

 

「おっ?珍しいな〜、いつ以来か覚えとるか?」

 

「あー確か、1ヶ月…いや2ヶ月…3ヶ月、4ヶ月…。分からんわ」

 

「1年ぶりや、そんぐらい覚えとき」

 

 

ロキと七郎治の締まらない会話を聞きながら、アイズは七郎治のステイタスに興味を持った。

 

 

「ねぇ、見ててもいい?」

 

「ん、今回の遠征はワシの中で実りがあったけん、多分そろそろ…」

 

 

七郎治は上着を脱ぎ、ロキが更新の作業を進めて行く。

 

 

「おっ?キタでー‼︎ロージー‼︎今、ステイタスの更新うつすな‼︎」

 

 

ロキに渡されたステイタスを見る。

 

 

Lv.4

 

力:A861 → S903

耐久:B796 → S900

器用:S982 → SS1006

敏捷:S912 → S941

魔力:S951 → S961

 

 

トータル200オーバー

全アビリティ・オールS

 

アイズは驚いていた。1年間更新をしていないと言ってもLv.4の上位でこの上昇値。さらにオールSどころか限界突破したものまであった。

 

 

「よし、じゃあロキ。ランクアップしてくれい‼︎」

 

「おう‼︎任せとけー‼︎」

 

 

2人の会話が聞こえる。今なんといったのだろうか?たしかランクアップと…

 

 

「えっ?ランク、アップ?」

 

「ん?…1年前にはランクアップ出来たんよ。でも、まだ伸びそうやったけん保留にしとったけんな」

 

 

アイズはまたしても驚いた。いつの間にか器まで昇華させていたとは知りもしなかった。自分は相棒なのに…。

 

思うように上がらない自身のステイタス。自分の知らないところで強くり、自分と同じLv.5へと追いついてきた。焦燥感にかられる。

 

考え込んでいるうちに更新が終わったようだ。

 

 

「よし、寝るべ」

 

「おー、ロージおやすみな〜」

 

 

部屋を出て行く七郎治を追いかける。

 

 

「あの、七郎治、私…」

なんて言えばいいの?どうしてそんなに上がるの?何をしたの?

 

 

聞きたいこと、言いたいことがあるのに…うまく喋れないアイズを尻目に歩き出すとアイズも黙って付いてくる。どうしてもうまく言葉にできない、そんなアイズの心を感じ取る。とある剣豪の師匠の言葉を贈ろう。

 

 

「…1枚の葉にとらわれている者には、木の全体は見えん。1本の木にとらわれている者には、森は見えんよ」

 

「えっ?」

 

 

七郎治は、あっこれ全然伝わってないな…。恥ずかしさを我慢しながら自室に帰っていく。

 

アイズはその背中を見つめるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







久しぶりのロキです。
嬉しいです‼︎




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

豊穣の女主人



さて、ようやくここまできましたー。






 

 

夜明け前。遠征から帰還したばかりのロキ・ファミリアはまだ眠りについているなか、七郎治は1人抜け出し都市の外れにある小さな森へと向かう。

 

 

ふふふ…遂にLv.5‼︎

Lv.2に上がった際に全アビリティオールSば叩きだしてから、今までずっとそうして来たけんな…。

長かったわ〜。後から入ったヒリュテ姉妹、毛玉にも追い抜かれるし…。特に毛玉‼︎散々、雑魚扱いしやがってからホント‼︎まぁいいんだけどさ、ツンデレだから。あれ?あの時ツンデレになってたか?ガチじゃね?

 

 

いつもの基本の型を一通りこなし、目の前に立ててある丸太に集中する。力を抜き自然体に立ち、正中線を真っ直ぐに…。一歩を踏み出すと、いつの間にか丸太を通り過ぎ、刀を鞘から抜いていた。

 

 

「鼻唄三丁 矢筈斬り…」

 

 

刀を鞘に収めると、丸太の上半分が斜めに滑り落ちる。

 

 

ふぅ…。なんとか形になってきたばい。

 

 

【抜刀斎】の二つ名がついてから、必死に抜刀術に部類される技を練習して来た。

 

 

飛天御剣流が出来れば一番いいんじゃけど、なかなか上手く行かんのよね〜。一つ目お化けこと【単眼の巨匠(キュクロプス)】のせいで、めっちゃ大変〜。ワシたいへーん。

 

さて、今日はやらないかんことが沢山あるけん帰るか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠征から帰還したロキ・ファミリアは魔石の換金から、ドロップアイテムの売却、消耗したアイテムの補充etc…。兎に角やる事が山積みなのだ。

 

ギルド本部の前。役割を分担された団員達がフィンの声に耳を傾ける。

 

 

「僕とリヴェリア、ガレスは魔石の換金に行く。みんなは手筈通りに動いてくれ。換金したお金はどうかちょろまかさないでおくれよ?ねぇ、ラウル?」

 

「あ、あれは魔がさしただけっす⁉︎あれ一回きりっす‼︎」

 

「たーけしー‼︎お金をちょろまかすなんて…。母ちゃんはそんな子に育てた覚えはないよ‼︎」

 

「ちょっ、たけし⁉︎何言ってるんすかロージ君‼︎誰が母ちゃんすか⁉︎」

 

「えっ?副団長」

 

「誰が母ちゃんだ…。遊んでないでさっさと行かんか」

 

 

リヴェリアに怒られた為、割り当てられたドロップアイテムを売りに行く。いつもの素材屋だが、貴重なドロップアイテム、相場の値が高いものをすきあらば安く買い叩こうとしてくる。

まぁ今回は大したものがないから大丈夫だろう…。

 

ラウルが手際よく交渉を進めて行く。店の店主も特に問題は無さそうだが…。

 

 

「ちょい待ち、前回と比べて安くね?」

 

「相場が値崩れしてるからな…。価値が低いんだよ」

 

「それはおかしい、他の店では通常価格で売られていたけんな。価値が無いなら安売りしとるはずばい。なんなら他の店に持って行くきの…」

 

「あぁ、分かった‼︎分かった‼︎ちゃんとした金額で買い取るよ」

 

 

無事に交渉を終え、割り当てられた役割は終わった。

 

 

「さて、換金したお金をホームに置いてくるっす。ロージ君はこの後どうするんすか?」

 

「とりあえず、ヘファイストス・ファミリアやね。武器の手入れに行かないけん。」

 

「そうっすね〜。自分も防具溶かされたし…」

 

 

2人は一度ホームに帰り、バベルにあるヘファイストス・ファミリアに向かう。それぞれが契約している鍛治師と話す為、別れる。この後は打ち上げだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー豊穣の女主人ー

 

「みんなー‼︎ダンジョン遠征ご苦労さん‼︎今日は宴や、飲めーー‼︎」

 

主神ロキのカンパイの音頭で打ち上げが始まる。ロキを中心に幹部、準幹部達が集まる席。後は仲の良いメンバーまたはただ黙々と酒を煽るやつらの席にいくつも分かれていた。そんな中、キョロキョロと辺りを見渡す少女が。

 

 

「アイズ、どうしたの?」

 

「…七郎治がいない」

 

「あれ?ほんとうだ。ラウルー!ロージは⁉︎」

 

「ロージ君ならヘファイストス・ファミリアっす‼︎まだ、かかるそうっす‼︎」

 

「なんやー!あいつ打ち上げに遅れよってから〜、ランクアップのお祝いもかねとるっちゅーに…。これは脱がな許されへんでー‼︎」

 

 

 

 

 

 

辺りは真っ暗だ。七郎治はヘファイストス・ファミリアで言われたことを考えながら豊穣の女主人へとトボトボ歩いていた。

 

 

中から騒がしい声が聞こえる。打ち上げが始まってだいぶ経っている。ほとんどが酔っ払いだ。中に入ろうとした時中央のテーブルからベートの声が響く。

 

 

「よっしゃあ‼︎アイズ、あの話しを聞かせてやれ‼︎」

 

「…あの話し?」

 

「ほれ、あれだって、俺たちが何匹か逃がして泡食って追いかけたミノタウロスだよ‼︎」

 

「それって17階層の?」

 

「そうそうそれだよ!最後の1匹を始末した時にいたんだよ‼︎ミノタウロスに追い詰められているいかにも駆け出しのヒョロくせーガキが‼︎」

 

 

ベートの声を聴き思い出す。確かベルも来ていたはず…。カウンターの隅にベルの姿を捉える。

 

 

「ふむん?で、その子はどうなったん?」

 

「間一髪でアイズと七郎治がミノタウロスを殺してよ!そのガキ、ミノタウロスの臭っせー血を被って真っ赤なトマトみたいになったんだよ‼︎くくくっ、腹いてー、なぁアイズ‼︎あれわざとだよな⁉︎」

 

「そんなこと、無いです…」

 

 

アイズは絞り出すように声を出すが、ベートは聞き入れず、上機嫌で話しを続ける。

 

 

「しかもだぜ⁉︎ウチのお姫様とカマ野郎、助けた相手に叫びながら逃げられてやんの‼︎」

 

「…くっ」

 

「アハハハハ!そりゃ傑作やー!冒険者怖がらせてまうアイズたんマジ萌えー‼︎」

 

「ごめんアイズ‼︎我慢でき無い‼︎」

 

 

どっと周りも笑い出す。アイズは悲しい気持ちになる。

 

「見聞色の覇気」により、アイズとベルの気持ちが流れ込んでくる。

 

なぜ笑う。自分は別にいい、これじゃあ助けたアイズが報われ無い…。

 

止めに入りたいがこれはベルに取って必要な事なので、気持ちを堪える。

 

 

 

「しかし、あんな情けねーやつ久々見たわ、泣くわ喚くわ胸糞悪いわ!冒険者なんかなるなよなー俺達の品位が下がるぜ、なぁアイズ?」

 

 

やめろよ、今のお前の言葉はいつもよのような裏返しじゃない。

 

怒りがこみ上げる。

 

 

「いい加減うるさい口を閉じろ、ベート。我々の不手際で巻き込んだ少年に謝罪することはあれ、酒の肴に走る権利はない。恥を知れ」

 

 

リヴェリアの言葉に先ほど笑ったもの達は気まずそうに肩を縮こませる。

 

 

「チッ‼︎ゴミをゴミといって何が悪い、アイズお前はどう思うあんな情けねーやつ」

 

「…あの状況じゃ仕方なかったと思います」

 

「…んだよ、いい子ちゃんぶりやがって。じゃあ質問を変えるぜアイズ。あのガキと俺、番にするならどっちがいい?雌のお前はどっちの雄に尻尾を振って滅茶苦茶にされたいんだ⁉︎」

 

「…私は、そんな事を言うベートさんとだけは御免です」

 

「無様だな」

 

「黙れババア‼︎じゃあ何かあいつを選ぶってのか⁉︎雑魚じゃアイズ・ヴァレンシュタインにわ釣り合わねー‼︎」

 

 

ガタンッ‼︎

白い掛けが出口へと駆け抜けていく。七郎治の横を通り抜け、泣きながらダンジョンへと走っていく。

 

ウェイトレスとアイズが出てくる。追いかけようとするアイズの腕を掴む。

 

 

「…七郎治」

 

「自分の気持ちが整理しきれて無いのに追いかけても相手を傷つけるだけぜよ…」

 

 

七郎治は怒っていた。いくら原作の流れとはいえ、自分の身内が、家族(ファミリア)が誰かを傷つけた。そして家族であるはずのアイズさえも…。

分かっている酒の席だと、空気を壊してはいけない。では、壊さずに元凶に制裁を。せこい気もするが…。

 

七郎治はアイズと共に店に入る。

 

 

「ようやく来たか七郎治。Lv.5になったそうじゃな!ほれ、お前も飲め‼︎」

 

 

ガレスが杯を勧めるてくる。

 

 

「また、戻らないかん、顔を出しに来ただけぜよ」

 

「七郎治…。おまえ…」

 

 

七郎治の様子にガレスは気づく。自分が育てた弟子である。表面上は変わらないが、口調が僅かに変わり、その目には怒りの色に染まっている。

ガレスの杯に酒を注ぐ。ロキ、フィン、リヴェリアとアイズ以外の全員に酒を注いで回る。それぞれお祝いの言葉や等、話しかけられるが軽く流す。そして最後、紐で縛られて天井に吊るされるベートの所へ。

 

 

「ほれ、毛玉。はよーせい、注いでやるぜよ!なに?ジョッキが持てん?じゃあ直接飲ませるぜよ‼︎ワハハ‼︎」

 

七郎治はそういうとベートの口を僅かに外し、鼻から酒を注ぎ込む。アルコールが鼻に入ると相当痛いのだろう。ベートが暴れまわる。どっと皆も笑い出す。ヒリュテ姉妹は本当に楽しそうだ。

 

 

「ちょっ!ゴボッ!何しやがるテメェ‼︎」

 

「お前だけ注がんわけにはいかんぜよ」

 

「このヤロー‼︎雑魚の分際で‼︎だいたいお前みたいな雑魚がなんでアイズの相棒なんだよ⁉︎釣り合わねーよ‼︎さっさと消えちまえ‼︎」

 

 

辺りが静まり返る。あろうことか仲間に対してとんでもない言葉を投げつける。ベートを咎めようとするリヴェリアを手で制する。

 

 

「なんで?…か」

 

 

七郎治は喉の調子を整える。

 

 

「…じゃあ、質問を変えるぜアイズ。この発情毛玉とオレ、番にすらならどっちがいい?め「えっ?七郎治がいい」早いよ⁉︎最後まで言わせて〜ん」

 

 

ベートの声真似をしながら、アイズに先ほどと同じ質問を問いかけるも、オチまでいかなかった。周りは一瞬呆気にとらわれるもまた笑い出す。アイズに想いを寄せるレフィーヤからは殺気を放たれ、ベートは余りのショックに真っ白に燃え尽きる。

 

 

「じゃあ、ワシはもう戻るぜよ」

 

「ちょっと!ロージー‼︎」

 

 

店を出て、一目散にダンジョンへと走り抜ける。手を貸すわけでもなく、ただ見守るしかできないが…。ベル、君の勇姿をしかと見届けよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ベート。お前はこのネタでしばらくいじり倒す‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ベート…。これで反省しなさい!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

英雄の卵



ベルを追っかけた七郎治が見たものは…。







 

 

どこにいる?思い出せ。

 

 

前世の記憶を辿る。

 

 

確かベルは6階層まで降りていたはず…。

 

 

豊穣の女主人からダンジョンまで、一気に駆け抜けて来て、現在3階層。ふと思い付き『見聞色の覇気』で辺りの気配を辿る。

 

 

見つけた…。

 

 

自分の足下から感じた。

4階層だ。

近くの縦穴を使いベルのもとへと一目散に走り、一定の距離を置き見据える。

 

 

 

 

 

 

 

少年は、ただ我武者羅にひた向きに、モンスターへと()()をぶつけていた。

 

 

(ちくしょう‼︎ちくしょう‼︎僕はバカかよ)

 

 

ろくな装備もせず、ギルドから支給されるナイフのみでモンスターを追い求めて全力でぶつかる。

 

 

「うおおおおお‼︎」

(悔しい‼︎悔しい‼︎何も反論できない‼︎)

 

 

少年は自分を蔑んだ狼人(ウェアウルフ)でも、自分を馬鹿にして笑った者でもなく。ただ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

ついに5階層まで降りた。5階層からは出現するモンスターが今までと異なってくる。普通の駆け出しの冒険者では対処しきれないのだが…。

 

 

「っぐ‼︎せやああああ‼︎」

(こんなところで…。立ち止まれない‼︎ただ何もせず、待ってるだけじゃあの人達に近づけない‼︎)

 

 

足に力を込め、すれ違いざまに切り捨てる。立ち止まらず、前へ前へと進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ、ここは何処だろう?」

(…5階層?いや、6階層だ)

 

「帰らなきゃ…。神様が心配しちゃう…」

 

 

ベルは満身創痍の体を引きずる。七郎治も先回りして、ベルに注意を向けながら梅雨払いをし、地上へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーバベル・ダンジョン入り口ー

 

 

真っ暗だった空は僅かに明るみをおび始めた頃、ダンジョンからボロボロな兎のような少年が現れる。

 

 

「やぁ、少年。朝帰りか?」

 

 

黒髪の剣士がダンジョン入り口前の広場に繋がる階段に腰掛けていた。ロキ・ファミリア所属【抜刀斎】オウギ・七郎治。ベルを助けた一人だ。

 

 

「ッ⁉︎あなたは…。どうして此処に?」

 

「ん?このダンジョンと地上の境目から見る景色が好きでの〜。生きて帰れた、ワシは生きていると感じるんじゃ」

 

「…そう、ですか」

 

 

ベルは今この人に会いたくなかった。そっと横を通り過ぎようとしたとき、足がもつれるが…。肩を支えられる。

 

 

「少年、手を貸そう」

 

「いえ…。僕は…。僕は‼︎」

 

 

払い除けようとする手を、あっさり掴まれる。

 

 

「甘ったれるなよ少年。いつでも誰かが助けてくれるわけじゃないけんな、差し伸べられた手を掴めんようなやつに次はないとぜ?」

 

「ッ⁉︎…」

 

「ホントは、おぶってもええけど…。地に足を付けて帰った方がええじゃろ?」

 

 

カラカラと笑う。支えられる手は、自分と変わらないくらいの線の細さなのに、しっかりと力強く安心を感じられた。胸が痛む。

 

 

「すまんな少年。うちの者が君を蔑んだ事を心から謝罪する…申し訳ない」

 

「謝らないで下さい。…何も間違っていません。」

 

 

ベルは奥歯をギュッと噛みしめる。

少しの沈黙の後、七郎治が問いかける。

 

 

「…少年は冒険者になって何を目指す?」

 

「…僕は、…英雄になりたいです」

 

 

自分は何を言っているんだと、こんな事を言えば笑われてしまうじゃないかとベルは後悔する。

 

 

「そうか…。力を振りかざすだけじゃ強者になれても、英雄にはなれん。…ワシは少年は優しいやつだと思っちょる。その優しさを貫き通せ。そしたら、いつかきっと少年の力に変わる」

 

 

この人は笑わなかった。弱い自分がこんな事を言っても真剣に聞いてくれた。

 

 

「…は、い」

 

 

涙が溢れて止まらない。僕は英雄になりたいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メインストリートを外れて裏路地を進んで行く。

 

 

「あの、もう大丈夫です。あとは1人で帰れます。」

 

「ん、そうか。じゃあな、ゆっくり休めよ、ベル」

 

「はい、ありがとうございました」

 

 

去っていく背中を見つめる。

 

(あのとき、アイズ・ヴァレンシュタインさんと一緒に助けてくれた貴方は、貴方たちは僕の理想の姿でした。背中合わせに息を合わせて佇む姿は本当にカッコ良かった。

僕もいつかなれますか?貴方達のような冒険者に)

 

ベルは自分のホームへと足を向ける。

 

(あれ?僕、名前言ったかな?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七郎治side

 

 

やっべーわ。自己紹介もしてないのに、ふつーに名前呼んじまったべ…。

 

原作で知っとったけど、ベルの心は純粋やね〜。優しいわ〜。

あんだけ馬鹿にされて、一回もロキ・ファミリアの事を悪く思わんかったな〜。自分やったらめっちゃ愚痴るわ‼︎毛玉、ゴラァ‼︎ってな。

ははは、自分の心の汚なさに落ち込む今日この頃…。

 

しっかし、ウォーシャドーと対峙した時はハラハラしたばい、無茶ばっかしよってから〜。んーとにもー。

まぁ、これで一安心やね。

帰って寝るばい。

 

 

 

 

 

 

 

 






なんか脇役のつもりで、当初書く予定だったのにガッツリ絡んでるんだよな〜
七郎治〜、お前〜。

タイトル変えるか検討中です。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

朝帰りとステイタス



タイトルが思いつかなくなってきた。





 

ー黄昏の館ー

 

ロキ・ファミリア本拠地 正門。二人組の門番が立っていた。オラリオの最強派閥の一角であるファミリアであるため、第二級以下の団員が交代で行っている。もっとも、主神であるロキは「べつにせんでもええんやでー」と言っているので、これは団員達が自主的にやっているのだ。

 

 

「あれ?ロージさん」

 

「ほんとだ。朝帰りっすか?相手はだれですか?」

 

 

門番をしていた女性団員が七郎治に気づき、男性団員がニヤニヤしながら問い掛けてきた。

 

 

「野暮なこときくなや、コレじゃコレ」

 

「えっ⁉︎どっち⁉︎」

 

 

七郎治は門を通り過ぎながら、小指と親指を立てて見せた。後ろから「彼女?彼氏?」「まさか両刀…」等と聞こえてくるが、あえて無視して自室に向かう。

 

着ていた服を脱ぎ捨てながらベットの倒れこむ。ベット脇に置いてある机から一枚の紙を取り出し眺める。

 

 

 

ーーーーーーー

オウギ・七郎治

 

Skill Lv.5

力:I 0

耐久:I 0

器用:I 0

敏捷:I 0

魔力:I 0

剣豪:F

索敵:G

耐異常:H

 

 

魔法

【鬼千切】

・魔力を乗せた斬撃を飛ばす。

 

【付与魔法エンチャント】

・魔力を身体の一点に集める事で、身体能力を向上させる。魔力の放出も可能。

 

 

 

スキル

【仕事人】

・役割をキッチリ、ミスなくこなす事でステータスに+20%補正。また、フォローに回る事で、仲間のステータスに+15%。諦めた時点で補正効果終了。

 

【覇気】

見聞色の覇気

・相手の気配を感じ取り、視界に入らない敵の数、位置を知る事が出来る。また、敵が次の瞬間に何をするか先読みする事ができる。

 

武装色の覇気

・体の周囲に見えない鎧を纏うことが出来る覇気。攻撃にも転用可能。また、武器や防具にも纏うことが出来る。

 

 

【家族の加護】

・失った愛情を取り戻すたびに、ステータス向上。

 

???

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

遠征から帰って来た日に更新した自身のステイタスだ。やはり『武装色の覇気』が追加されていた。これで、転生する際に貰った特典の一つの習得が完了した。

 

 

それにしても【家族の加護】これはなんなん?発現してから未だに読めん部分もあるし…。

まぁ、いっか。考えても分からんし

 

 

それよりも…。

 

 

チラッと壁に立てかけた刀を見る。ヘファイストス・ファミリアで言われたことを思い出す。

 

ー ー

「七郎治…。お主、何を切った?」

 

「なんでも溶かす液体とその本体」

 

「…。この刀はもう治せんぞ」

 

「えっ⁉︎なして⁉︎」

 

「刃こぼれは直せるが、刀の芯がダメになっておる。このまま使い続けたらその内折れる。何度も鍛え直してきたが、限界じゃな」

 

「…」

 

言葉も出ないで惚けている七郎治に椿が声をかける。

 

「武器が今のお前の実力についてこれてないのだ。まぁ、何にせよ新しい刀を新調するなら要望は聞いてやる。不壊属性(デュランダル)でもつけるか?」

 

「え、あぁ、考えとく」

 

七郎治は刀を受け取り、ヘファイストス・ファミリアを後にした。

ー ー

 

 

どうすっかな…。

 

 

はぁとため息ふつき、目を閉じる。あの刀はLv.2に上がった際にガレスからお祝いに貰ったものだ。武器に頼りすぎないよう分不相応にならないように見合った物を見繕ってくれた。

 

本来ならもうとっくに使えなくなっていてもおかしくないのだが、何度も鍛え直し、手入れも欠かさず大切にこの「無銘刀」を扱ってきたのだ。

 

 

はぁともう一度溜息をつくと、モヤモヤする気持ちを、頭を振って、のそのそと着替えて街に出る支度をした。遠征前に頼んでおいた陣羽織と着流しが出来上がっているはずだ。今回の遠征で溶かされて予備もないので、取りに行かなくては…。

 

 

 

 

 

門を出ようとすると、後ろから声を掛けられた。ラウルとアキだ。

 

 

「ロージ君!帰ってきてたんすね」

 

「ん、また出かけるけん」

 

「あっ!待って。その、言いたいことがあって…」

 

「?」

 

「「昨日はホントにゴメン‼︎」」

 

「ロージ君が怒ってたのは分かったんすけど、原因が分からなくガレスさんに相談したんす」

 

「そしたら、例の駆け出しの冒険者を笑った事だろうって言われて…」

 

 

二人は言いにくそうに、昨日の事について謝ってきた。

 

 

「…ワシ等は助けた命を笑われた」

 

「うん、そうだよね…。ホントにゴメンね」

 

「もう、そんな事しないっす‼︎」

 

「おう」

 

 

二人の真剣な思いが伝わってくる。自分達を思ってくれている事、ベルに対して笑った事の反省の意。それが嬉しくて自ずと顔が綻んでしまう。

 

 

「じゃあ、ワシはもう行くけん」

 

「あっ‼︎昨日できなかったお祝い今夜するっす」

 

「ホームの食堂だけど、ちゃんと帰って来てね‼︎」

 

「おう!」

 

 

七郎治は少し晴れた気持ちで街にでる。夜が楽しみだ。

 

 

 

 

 

 






次は新装備!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

急がば回れ



なんか内容とタイトルが合わん気がする。





 

 

メインストリートに建ち並ぶヘファイストス・ファミリアの店の一つ【はごろもや】は知る人ぞ知る極東の衣類専門店だ。

 

主神より店長を任されているのはLv.3二つ名は【羽衣】のシホウイン・天華。武具製作の最高峰のヘファイストス・ファミリアの中でも裁縫を得意とし、様々な生地を作り出す。

 

冒険者が着る戦闘服(バトルクロス)は破れにくく体の動きを阻害しないフィットする物が好まれる。

極東の衣類以外にも、エルフ、アマゾネス、小人族(パルウム)等、様々な種族の店から冒険者向けの生地の作製依頼がある。武器の製作も出来るが、あまりしていないもよう。

 

 

「天華さん。こんちわー」

 

「あら?七郎治、いらっしゃい。注文の品は出来上がっているわよ」

 

 

店のカウンターから顔を覗かせたのは、シホウイン・天華。艶のある黒髪に少し癖のある、ゆるふわパーマを後ろで高めに結び、泣き黒子が色っぽく、煙管(キセル)を片手に着物を少し着崩している。官能的でロキ・ファミリアにはいないタイプの大人の美女だ。以前一緒に訪れたロキが興奮してまともに買い物ができなかった。

 

 

「今回は前回のと比べて、生地を頑丈かつ伸縮性を取り入れて動きの阻害を少なくしてみたの。早速試着してみて。気になるところは教えてね?」

 

 

七郎治は着物を受け取ると、早速着替えた。白と黒のバイカラーの着流しに、薄い青を基調とした陣羽織。

 

 

「どうかしら?」

 

「んー、動きやすくて問題はないんじゃけど…。なんでまた花柄なん?蝶々までおるし、ワシ無地で頼んだはずやけど?」

 

 

前回のと比べて、裾と袖口に派手に色とりどりの花柄があしらえてあり、柄は男物に使われるものではなく、どちらかと言えば女物であった。

 

 

「あらぁ?私の作品にケチ付ける気?タダで刺繍入れてあげたのよぅ?」

 

 

ふーと紫煙を吐き出す。天華が施す刺繍はどれも美しく、それに似合った金額が掛かる。

 

 

「そうは言わんけど、どうせするなら竹とか虎とか燻銀とか、もっとこう渋い柄にしてくれんね」

 

「あなた自分の顔、鏡で見なさいよ。渋い柄なんて似合わないわよ?もっと男を磨いてから出直しなさい」

 

 

ふふふと笑い完全に七郎治を子供扱いしている。少しイラつきながら代金を払い、店を出ようとするが天華に声を掛けられる。

 

 

「今日のこの後の予定は?」

 

「ん?ランクアップしたけん、ギルドに報告せないかん」

 

「あら?ほんと?ふふ、おめでとう」

 

「おう」

 

「ねぇ?何を落ち込んでいるのか知らないけど、近くでバザールをしていたわよ。気分転換に行ってきたら?」

 

 

見透かされていた。努めていつも通りを装っていたが、さすが客商売のプロ。常連さんのことはよく見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーギルドー

 

魔石の換金や依頼(クエスト)の受注。他にも様々な用事で、冒険者達がごった返していた。

 

 

「おいっす、ソフィア」

 

「あっ!七郎治君、久しぶりー。今日はどうしたの?」

 

 

七郎治はカウンターにいた、自分の担当アドバイザーに声を掛けた。担当アドバイザーと言ってもロキ・ファミリアは熟練者が多い為、あまりギルドで講義は受けていなかったが、何かと自分を気にかけてくれたので仲が良いのだ。

 

 

「ランクアップしたけん、手続きしに来た」

 

「えっ⁉︎ホントに⁉︎Lv.5になったの⁉︎」

 

 

声が大きく、周りの冒険者に聞こえてしまったようだ。「Lv.5?どこのファミリアだ?」「おい、あれ【抜刀斎】じゃねーか?」「てことはロキ・ファミリアかよ」「マジかよ⁉︎また第一級冒険者が増えたのか‼︎」ザワザワと周りの話し声が聞こえてくる。

 

 

「あっ⁉︎ゴメンね、大きな声で…」

 

「どうせ分かることやけん、気にせんで。それよりも手続きよろしくな」

 

「あっ、うん。分かったわ」

 

 

周りの視線を浴びながら、ギルドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーメインストリートー

 

新しい武器の事を考えないといけないが、どうにも頭が回らない。武器に関しては慎重に選ばなければならない。それに近々また遠征がある。出来るだけ早く用意して慣らさないといけない。はぁとため息をつき椿のいるバベルではなく、天華に言われた通り気分転換にバザールに行ってみる事にした。

 

色んな露店が引っ切り無しに声をあげ、客寄せに精を出している。装飾品に食べ物屋の屋台、ちょっとした古本屋など色んな店が出ていた。ふと、目に付いたのは武具屋だ。店主は駆け出しの冒険者であろう数人と話しをして売り込んでいた。ド◯クエの小さな町にありそうな簡素な露店だが自然と足が向かう。

 

露店の端には、樽に乱雑に差し込まれた刀剣類があった。「どれでも3,980ヴァリス‼︎」とかなり安めの金額だが、よく見ると刃こぼれしていたり、何かしら問題があった。修理に出せば使えるし、ダンジョンの上層では十分通用するだろう。樽を漁っていると、一つの刀の柄を掴んだ。

 

 

なんじゃあ?この刀は…。

 

 

触れた瞬間、背筋に悪寒が走り今迄見てきたどの武器にも感じた事がない感覚だ。気になって樽から取り出す。鞘は朱塗を基本として布を巻き付けたような拵えだ。どこかで見た事があるような気がして、鞘から引き抜き刀身を眺める。

 

少し刃こぼれをしていて、恐らく血であろう錆も浮いていた。それでも鋭い光を放つ刀身に禍々しく紫がかった乱れ刃の波紋が広がる。七郎治はこの刀を知っていた。

 

 

これは…‼︎ゾロが使ってた三代鬼徹じゃねーか⁉︎マジで⁉︎

 

 

良く見てみる。アニメでもマンガでもみた、バイト代の中から8,000円を掛けて取ったUFOキャッチャーのフィギュアにもついていた物と酷似していた。

 

 

「おい、店長さん。この刀は?買いたいんだが」

 

 

横入りは申し訳ないと思いながら気持ちを押させきれず、店主に声をかける。途中で割り込まれた冒険者はなんだ?と訝しんだが、七郎治に気づき一歩引いた。店主もこれに合わせて七郎治の接客に移るが、その手にしていた物を見て青ざめる。

 

 

「そ、その刀は極東の名工が作った業物でしてね…。お、お客さん本当にそれを買われるんで?」

 

「あぁ、気に入ってね。何か問題でも?」

 

「う‼︎その刀は三代鬼撤と言って、鬼撤一派の物でして…。鬼撤一派は初代から名刀なんですが、使い手をことごとく死に追いやる妖刀でもあるんでさぁ。なんでも、その刀を使って死んで行った者たちの怨念が乗り移っているとか逸話もありましてぇ」

 

「エェ⁉︎」

 

 

周りの冒険者が驚きに声をあげる。

 

 

ッ⁉︎やっぱりそうだ。

なんでそんな物が此処に実在しているのかサッパリ分からん。あの神様見習いのミスかいな?

 

 

考え込む七郎治に店主が声をかける。

 

 

「あの〜やっぱり辞めといた方が…。私としてもそれで貴方に死なれたら目覚めが悪くてですねぇ」

 

「…。じゃあ、運試じゃ!こいつの呪いとワシの悪運どっちが強いか勝負じゃ‼︎」

 

「「はぁ⁉︎」」

 

 

七郎治はゾロの真似をし、三代鬼撤を宙に放り右腕を突き出し、目を瞑る。

 

 

正直いって怖い。それでもワシはこの刀が欲しい。

 

 

触れてもいないのに、自分を殺そうとする殺気。『見聞色の覇気』により、より強く感じる。

 

 

【お前は…。我の担い手たるや?】

 

 

三代鬼撤!お前が欲しい‼︎

ワシを主人と選べ、絶対に後悔はさせん‼︎

 

 

周りが見守る中。くるくると円を描きながら落ちていた刀が、不自然に右腕を避けて地面に深々と突き刺さる。

 

 

「三代鬼撤‼︎ワシが主人じゃ‼︎」

 

「あっ…。あぁ」

 

 

店主や周りの冒険者達、はたまた様子を見ていた街の人たちは驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「店主、3,980ヴァリスでいいけ?」

 

「い、いや!お代なんかいらねえ、持って行ってくれ‼︎」

 

「いや、タダって…。じゃあこの1,980ヴァリスの下緒を売ってくれんね」

 

 

七郎治はお金を払うと店を後にした。

 

 

 

よっしゃー‼︎三代鬼撤‼︎イチキュッパでGETだぜー‼︎

そうや、椿の所に持ってって手入れしてもらわな♪

 

 

七郎治はすぐにこの事が噂で広まるとはつゆ知らず、ハイテンションのルンルン気分でスキップしたいのをこらえ、ポーカーフェイスで椿のいるバベルへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






こんな事して良かっのか分からんが、後悔はしてない‼︎
妖刀ってカッコイイよね‼︎



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

妖刀のちお祝い

 

 

三代鬼撤を手に入れた七郎治はバベルにある椿の工房に訪れていた。

 

 

「椿ー‼︎ワシやで‼︎」

 

「おっ?七郎治ではないか!新しい武器の事は決まったか?」

 

「おうよー!この刀を手入れしてくれい‼︎」

メコッ‼︎

 

 

ハイテンションの七郎治は椿に三代鬼撤を差し出すも、椿は七郎治の顔面に渾身の一撃を叩き込む。同じLv.5でも年季が違う為、簡単に吹き飛ばされた。

 

 

「お主は専属鍛治師の意味を分かっておるのか⁉︎他所の鍛治師の打った物を持ってきおってー‼︎」

 

 

椿にマウントを取られボッコボコに殴られた挙句、正座をさせられ、叱られるも取り敢えず経緯を話す。

 

 

「何?その刀が三代鬼撤とな?」

 

 

椿は七郎治から刀を受け取り、真剣な表情で観察する。

 

 

(本当にこの刀が三代鬼撤であれば…)

「…。今から主神様の所へ行くぞ」

 

「え?」

 

 

暫く考え込んでいた椿が徐に顔を上げ、返事も待たずに七郎治を小脇に抱えて、ヘファイストスの執務室へと走り出した。

 

 

「主神様‼︎この刀を見てくれ‼︎」

 

「椿、どうしたの急に?」

 

 

ヘファイストスは突然来訪してきた、自身の眷属に渡された刀を手に取り驚きの表情を浮かべた。

 

 

「この刀…。何処で手に入れたの?」

 

「実は、かくかくしかじかで…」

 

 

七郎治が小脇に抱えられたまま、ヘファイストスに説明する。

 

 

「主神様。それは本物か?」

 

「ええ、間違いないわ」

 

「?」

 

「良いか七郎治、この刀はかつてヘファイストス・ファミリアに所属していた鍛治師が打った物じゃ」

 

「あの子が打つ武器は、どれも名剣の類なのだけれど…。余り良くない噂が流れたの。いえ…噂と言うよりは現実味があったわね。」

 

 

ヘファイストスは三代鬼撤をそっとなで、かつての我が子を思い出していた。

 

 

「武器には鍛治師の魂が込められているの。『冒険者にとって武器は使い手の体の一部、最期の瞬間まで共にあるべきだ』それがあの子の口癖だったわ。使い手に合う最高のものを真剣に考えながら剣を打っていたの。でも、いつしかその想いは枯れ葉て“使い手が武器の一部“そう考えるようになったわ…」

 

 

我が子が道を踏み外した時に止めきれなかった事を悔やんでいる。

 

 

「自分の武器に相応しくない人間を見捨て、分不相応で使いこなせず死んでいった人間に気にも止めない。歪んでいく心…。それに合わせて美しい刀身も鋭く濁っていったわ。特に鬼撤一派は、ね」

 

「手前が入団するよりも前の話での、もうその鍛治師はおらんが…。まさか巡り巡ってこのオラリオに戻ってくるとはな」

 

 

道を踏み外した子を想う主神。椿も同じ鍛治師として思うところがあるのだろう。部屋に沈黙が流れる。

 

 

「ねぇ、七郎治。貴方は本当にこの刀を使うの?」

 

 

ヘファイストスはじっと七郎治を見つめ、問いかける。

その表情、雰囲気から彼女が神である事を証明する神威を強く感じとり顔を引き締める。

 

『見聞色の覇気』を持ってしても神々の思考は読み取る事は出来ない。だが、「お前も妖刀に殺されてしまうのではないか?」そう言われている気がした。

 

小脇に抱えられていたので、椿に降ろしてもらい真っ直ぐにヘファイストスに向き合う。

 

 

「はい。三代鬼撤は自分を主人と選びました。まだ、見極め、試練の段階かもしれませんが…。それに、剣士として触れる物すべてを傷付けるものを、自分は剣とは呼びません。必ず使いこなし、使い手が切りたいものだけを斬る。そんな剣にしてみせます。」

 

 

普段は言葉使いなど気にもせず、ふざけているようにしか見えない七郎治だが、表情と共に言葉使いも改る。真摯な問いかけには自分も真摯に向き合うのだ。

 

 

 

ヘファイストスは七郎治の意志を認め、妖刀と呼ばれた剣をこの剣士に託してみたくなった。三代鬼撤を掴み取る。

 

 

「そう、分かったわ。…椿はどうする?私がこの刀の手入れをしてもいいけど?」

 

「何?手前がこ奴の専属鍛治師だ。妖刀だろうが鍛え直してみせる!七郎治、4日後に取りに来い。必ずものにしてみせる‼︎分かったらサッサと帰れ‼︎」

 

 

キッチリと決めるところは決めた七郎治だが、ポイっとヘファイストスの執務室から追い出されてしまい大人しくホームへと帰って行った。

 

 

なっ、泣いてなんかないんだからね‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー夜、黄昏の館ー

 

「ロージ君!ランクアップ!おめでとー‼︎」

 

「「カンパーイ」」

 

 

約束通り、ラウルとアキがランクアップのお祝いをしてくれた、2人以外にも聞きつけた何人かが集まってくれた。

 

 

「はい、コレ。お祝いのプレゼント」

 

「自分も用意したっす‼︎」

 

「おーありがとう!二人とも」

 

 

アキから冒険者用のアクセサリーのブレスレット。

ラウルからはポーション類が入ったメディカルパックだ。

 

 

「急だったから大したものじゃないけど」

 

「私からはコレ!」

 

「お、おぉう、ありがとう」

 

 

ティオネからは武器の手入れ道具。

ティオナからはよく分からんぬいぐるみ。…要らんものくれたんじゃなかろうや?

 

 

「これ、よかったら飲んでください」

 

「…はい、七郎治」

 

「ありがとう…」

 

 

レフィーヤからは紅茶の葉っぱだ、美味しそうだ。

アイズからはジャガ丸君あずきクリーム味。冷めとるがな…。

 

若干二名ほどおかしいがプレゼントを受け取る。

 

 

「おっ?やっとるな‼︎」

 

 

ロキ、フィン、リヴェリアにガレスまで来た。

 

 

「そや!七郎治‼︎お前、昨日の打ち上げに遅れた罰ゲームが済んでへんで‼︎ほら、はよぬげや‼︎」

 

「…」

 

「〜〜♪〜♪〜ちょっとだけよ?あんたも好きねぇ」

 

 

周りが白い目でロキを見るが、言われた本人はノリノリだった。風呂上がりの七郎治は浴衣一枚。艶めかしい音楽を口ずさみながら、長椅子に女座りをし、流し目を送り肩をはだけさせていく。ロキは鼻息荒く「ウヒョー!ええで、ええでー‼︎」と声を上げる。

 

 

「やめんか‼︎」

ガス‼︎ゴス‼︎

 

 

二人揃ってリヴェリアに鉄拳制裁をくらい床にのたうちまわる。

 

 

「まったく…。七郎治、コレは私からだ。これからも精進しろよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

殴られた頭を抑えながら、難しそうな分厚い本を受け取る。

 

 

「僕からはコレをあげるよ」

 

「団長、ありがとうございます」

 

 

フィンからは七郎治の好きなみたらし団子と細かな細工が施された扇の形をした帯の根付だ。カッコイイ。

 

 

「儂からこれじゃ」

 

「親方様ー‼︎」

 

 

ガレスに渡されたのは銀色の腕に付ける防具の手甲だ。刀をダメにしたが、新しくもらった防具が嬉しくて飛びつく。この人にもらう事に意味があるのだ。

 

 

「ぬあ⁉︎ガレス、ずるいで‼︎ウチからはコレやー!さぁロージたんカモン‼︎」

 

「いや、いらんがな」

 

「なんでやー‼︎」

 

 

ロキが取り出したのは猫耳つきのメイド服だった。

他の団員達からもお祝いの言葉やプレゼントを貰い、皆んなで酒を飲み楽しく過ごす。

 

 

 

酔い覚ましに食堂を出た七郎治はベートと鉢合わせした。

 

 

「…ちっ!」

 

 

ベートは舌打ちするも、昨日自分がやらかした事は分かっていた。

 

 

んーとにもー。許されたいんじゃ無くて、せめて欲しいだべ?このツンデレ毛玉…。はっ!ドMなのか⁉︎

 

「毛玉、酒は呑んでものまれるなって、極東の言葉があるべ?」

 

「ちっ!うるせー」

 

「お前の実力主義に対して全部が全部間違っているとは思わん。けど、共感は出来ん。仲間内でならそれでもええと思うが、あの少年は他所のファミリアじゃ…。それにワシらは酒の肴に、笑い者にする為に助けたんじゃないとぜ?」

 

「分かってる…」

 

「それにお前だって、必死こいてミノタウロスを追いかけとったろ?あの少年が雑魚だから、死んどけば良かったなんて思ってないんじゃろ?」

 

「ッ⁉︎たりめーだ‼︎それに俺はテメェのケツはテメェで拭いただけだ」

 

「じゃあ、なんで自分等のミスを棚に上げた?最後まで責任持たな。あの時、副団長の言った通りじゃとワシは思うきの」

 

「ちっ!ゴミはゴミだろ…」

 

この毛玉はまだ言うか…。

「人の事をゴミっていう奴がゴミじゃろうもん。人に言った悪い言葉はいつか自分に返ってくるけんな。もう、ガキじゃないっちゃけん、自分の言葉には責任持たな」

 

「…」

 

 

沈黙が二人の間に流れる。黙り込むベートにたいして、はぁとため息を吐きだす。

 

 

「ん」

 

「あぁ?なんもねーよ」

 

 

七郎治はお前も何かよこせと言わんばかりに手をさしだすが、ベートはあっさり払いのける。

 

 

「はぁ、まあええわ。お前には昨日散々笑かしてもらったけんな〜」

 

「あぁ゛?」

 

「俺とアイツ、番にするならどっちがいい⁉︎…ベートさんとだけはごめんです(笑)」

 

 

器用にベートだけでなく、アイズの声マネをしながら七郎治は昨日の場面を再現する。ベートは一気に頭に血が上り牙を剥き出した口角をヒクつかせる。似ていたからこそムカつく。

 

 

「てめぇ…。このカマ野‼︎」

 

「ワハハハ!お酒の力に頼っちゃダメだべwヘタレ毛玉ww」

 

「ぶっ殺す‼︎」

 

 

七郎治は笑いながら食堂に逃げ込み、ベートも後を追いかける。

突然の七郎治とベートの追いかけっこに何事かと皆んなが見やるが、まぁいつもの事かと笑い飛ばす。そんないつもの光景がファミリアに戻ってきた。

 

 

 

 

 

「俺とアイツ、番にするならどっちがいい⁉︎」

 

「やめろ‼︎」

 

「雌のお前はどっちの雄に尻尾を振ってメチャ「黙りやがれーー‼︎」

 

「ベートさんとだけはごめんです」

 

「もう…やめてくれ」

 

 

真っ白な毛玉が出来た。

 

 

 

 

 

 





ベート(笑)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神の宴



他の方々が書かれるオリ主はみんな外見だけじゃなく中身もイケメンですね。

自分とこのオリ主は…。
けど、決めるときは決めますよ‼︎






 

 

新しい武器と装備を手に入れた七郎治はヒマを持て余していた。昨日のバカ騒ぎで外に出る気もなく、同じヒマを持て余していたラウルとアキ、リーネと麻雀をしていた。もう半日近くなる。

 

 

「はい、国士無双」

 

「ぎゃー‼︎それダメっす‼︎」

 

「ワハハ!有り金全部おいてきな」

 

「またラウル君のビリだね」

 

「七郎治さんマージャン強いですね…」

 

 

泣き叫ぶラウルと高笑いをする七郎治、二人の様子を見て笑うアキとリーネ。そこに突然の乱入者が。

 

 

「おっ⁉︎ヒマそうやな〜」

 

「嫌でーす」

 

「うち、まだ何も言うてへんやんけ⁉︎」

 

「どうしたんすか?ロキ」

 

 

いきなり現れたのは自分達の主神ロキだった。

 

 

「バッカ!ラウル面倒ごとに巻き込まれるべ‼︎」

 

「よーし、七郎治。お前は確定や」

 

「それで、ロキ様何かあったんですか?」

 

「ん?今日のガネーシャ主催の【神の宴】にエスコートして欲しいんや!ラウル、七郎治!よろしく頼むな‼︎アキとリーネは二人をおめかししてやってな!因みに拒否権はないで〜‼︎」

 

「あ、はは。了解っす」

 

「うぇ〜」

 

 

夕暮れ時、黄昏の館の前に立派な馬車が用意されていた。

 

 

「遅いっすね。ロキ」

 

 

馬車には、燕尾服にネクタイをしめ、普段はツンツンと逆立てた髪をオールバックにしたラウルと

 

 

「もう、行かんでよかろう?」

 

 

同じ燕尾服に蝶ネクタイを付け、左サイドをオールバックにして肩まである髪は後ろで一つ結びにした気だるそうな七郎治がいた。話を聞き付けた女性団員にオモチャのように着せ替えさせられたので、すでにくたびれていた。

 

 

「よっ!待たせたな」

 

 

いつも後ろで結ばれている髪は、丁寧にアップされ、髪と同じいろの鮮やかなドレスを着こなし、綺麗にドレスアップされたいつもと違う主神が現れた。

 

 

「おぉ!ロキきれいっす!」

 

「黙ってれば美人なんやね」

 

「ロ〜ジ〜。どういう意味やコラァ‼︎」

 

 

一悶着のすえ、如何にかガネーシャ・ファミリアの本拠地【俺がガネーシャだ!(アイ・アム・ガネーシャ)】にたどり着いた。巨大なガネーシャ像が胡坐をかいて入口が股間だった。因みに団員達からは不評を買っていた。

 

 

「うわぁ」

 

「あいかわらず、奇天烈やな〜。すまんけど、終わるまでここで待っとってな」

 

 

ロキは他の神々と同様に股間の中に入って行った。ドレスアップされた、美男美女な神々が楽しそうに股間に群がる姿はとってもシュールだった。

 

 

 

周りをみると他のファミリアも主神の従者として団員達が来ていた。友好関係のあるファミリアと世間話をしているようだが、ロキ・ファミリアともなれば、下手に反感を買いたくないのか少し避けられていた。

 

 

「ヒマやな〜。麻雀でも持って来れば良かった。イーピンしかない」

 

「ダメっすよ。てか、何でイーピン持ってるんすか?」

 

「ポケットに入っとった。あと、どんぐりと3ヴァリス」

 

「なんすか⁉︎そのわんぱく少年みたいなポケットの中身は⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

俺がガネーシャだ‼︎(アイ・アム・ガネーシャ) 内部ー

 

「俺がガネーシャだ‼︎」

 

「「イエーイ‼︎」」

 

 

主催者であるガネーシャがいつも通り、自分の名前を叫び近々行われる【怪物祭(モンスター・フィリア)】の協力を集まった神々に演説していた。

 

 

「盛況やなっと」

 

「やぁ、ロキ。久しぶりじゃないか」

 

「おっ、デュオニソスやないか…。おぉう、デメテルもおったんか」

 

「ふふ、久しぶりねロキ。いつもご贔屓にして貰って助かるわ」

 

 

ロキに話しかけたのは、貴族のような豪華な衣装を着こなす、美男子の神。豊穣と葡萄酒の神デュオニソス。ロキにはない、巨乳をたわわに実らせた美女の神。穀物の豊穣の女神デメテルだった。

 

一通り、自分達のファミリアについて世間話を終えると、デュオニソスがさり気なく問いかけてきた。

 

 

「そういえば、ロキは行くのかい?

怪物祭(モンスター・フィリア)】」

 

「そうやな〜。行こうとは思ってる」

 

「本当かい?なにか企みなしで?」

 

「おいコラ!どういう意味や!」

 

「いや、ほら。天界での君を知っているから、つい、ね?」

 

 

ロキは悪戯神と呼ばれ、暇潰しに神々に殺し合いをけしかけるほどの悪神であった。

 

 

「まあ、ええわ…。おっ?ドチビや!ウチはもう行くで」

 

 

ロキは掴んでいたデュオニソスの胸ぐらを離し、駆けて行った。

 

 

「何か企んでるのは貴方じゃないの?デュオニソス。悪い顔しているわよ?」

 

 

デュオニソスは、片手で顔を覆っているが不気味な笑みがこぼれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい!ファイたーん!フレイヤー!ドチビ‼︎」

 

 

ロキはピンヒールとは思えない速度で、美の女神フレイヤ、鍛治の女神ヘファイストス、竃の女神ヘスティアの三人の輪に突撃していった。

 

 

「あら?ロキ、久しぶりね」

 

「何しに来たんだよ君は⁉︎」

 

「なんや〜?今日は宴じゃー‼︎てノリやろ?マジで空気読めてへんよこのドチビ」

 

 

ロキと犬猿の中であるヘスティアは一気に怒りのボルテージが上がるが、自分の眷属の為に確認したいことがあったのでなんとか堪える。

 

 

「そうだロキ、君に聞きたいことがあるんだ」

 

「なんや〜ドチビがうちにか?明日は岩でも降るんかいな?アルマゲドン!ラグナロクー!て」

 

「…。聞くよ、剣姫に付き合っているような異性はいるのかい?」

 

「アホウ!アイズたんはウチのお気にや!近ずくヤツは八つ裂きにしたる‼︎」

 

「チッ!」

 

「まあ、全くおらんと言うわけでもないけどな。二人とも鈍いから気付いてへんのやろうな〜」

 

「それって抜刀斎のこと?」

 

「ん〜?どうやろな〜?」

 

「あっそうだ。僕の子供がお世話になったみたいなんだ。抜刀斎君にお礼を言っておいてくれないかい?」

 

「七郎治に?あいつの主神はウチやぞ?先にウチに言うのが礼儀とちゃうんか?」

 

「ぐ⁉︎ぼ、僕が感謝しているのは抜刀斎君であって君じゃない‼︎」

 

「なんやと!このロリ巨乳」

 

「やるのかい!ロキ無乳」

 

 

恒例のロリ巨乳VSロキ無乳の勝負が始まり、宴は盛り上がる。

 

ロキがヘスティアの頬っぺたを両サイドからひっぱり、ぶん回す。リーチの差で、全く届かない腕をバタつかせ動きに合わせてヘスティアの巨乳が縦横無尽に揺れまくる。

 

結果として、頬を抓られて真っ赤に腫らしているヘスティアが、ロキの精神にマダンテ並の大ダメージを与えて勝利した。

 

 

「お、覚えておけよ〜アホウ〜‼︎」

 

 

泣きながらロキが撤退した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がガネーシャだ‼︎(アイ・アム・ガネーシャ) 前ー

 

「んー、【黒翼の天使(ダーク・エンジェル)】」

 

「る、る…。【赤石の鷹目(ルビー・ホークアイ)】」

 

「い〜。【無限の剣使い(インフィニティ・ソードマスター)】」

 

「た、た…」

 

「違うべ、マスターの"(伸ばす棒)"だべ?」

 

「ズルイっす‼︎"(伸ばす棒)"から始まる言葉なんてないっすよ!」

 

「じゃぁ、タで」

 

「じゃぁって…。んー【巨人の拳(タイタン・ハンズ)

 

 

七郎治とラウルが、「ありそうな二つ名しりとり」をしていたら、ガネーシャの股間から泣きながら勢いよく走ってくるロキの姿が見えた。

 

 

「うおおお‼︎帰るで‼︎帰ってヤケ酒や〜‼︎」

 

「ど、どうしたんすか⁉︎」

 

 

いきなりロキが泣きながら突進してきたので、ビックリするラウル。そんなラウルとは対照的に七郎治は落ち着いて抱きとめ、そっと手を差し出す。

 

 

「ほら…」

 

「うう…。ロージた〜ん」

 

 

七郎治は普段は目が死んでいるが今は優しげな笑顔を浮かべ、ロキの手をギュッと握る。

 

 

「泣くなよ…。ほら、どんぐりやるけん」

 

「いらんわー!!ちゅうか、何でお前は今どんぐり持っとんねん⁉︎」

 

 

ベシッ‼︎と七郎治に差し出されたどんぐりを地面に叩きつける。

 

「なんでやねん!ちゃんと慰めんかい!アホウ!」と暴れるロキをラウルが羽交い締めにし、八つ当たりをされまくっている。

 

仕方がないので泣き叫ぶロキを馬車に放り込み帰ることにした。しかし、黄昏の館に馬車を走らせる二人に待ち受けていたのは、ロキのヤケ酒から逃れることが出来ずにずっと付き合う地獄の試練だった。

 

 

 

 

 

 

 

 






泣いている女性を抱きしめ、そっとどんぐりを差し出す七郎治はイケメンだと思う。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

怪物祭

 

 

ー黄昏の館 男子棟【七郎治の間】ー

 

 

「う…。おぇ、気持ち悪〜」

 

 

神の宴の後、七郎治はラウルと供にロキの「巨乳がなんやねん!貧乳にもええとこがあるんやで‼︎の宴」に付き合わされ、黄昏の館に帰った夜から昨日の昼過ぎまで呑まされていた。

 

 

日本以上の呑ミュニケーションもといアルハラばい…。あ、ダメや

「おろろろろろ〜」

 

 

マーライオンも顔負けの勢いで吐き出す。生前より酒にあまり強くなかった七郎治には地獄だった。何度もラウルを生贄に逃亡を図ったが、全て失敗に終わった。

 

 

「うぅ〜、頭がいてぇ」

 

コン、コン

「入るぞ」

 

 

布団に丸まり、吐き気と頭痛に耐えていたらドアがノックされ誰かが入ってきた。

1ミリも動きたくないので無視。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

布団を覗き込んできたのはみんなの母親(ママ)リヴェリアだった。

 

 

「だいじょばん…」

 

「ラウルより酷いな。アキ、水をついでやれ。リーネは薬を」

 

 

アキとリーネが介抱してくれるが、いやいやをする七郎治を見てリヴェリアはため息をつく。

 

 

「まったく、ロキにも困ったものだ」

 

「ッ⁉︎副団長‼︎乳神様を呼び捨てるなんて‼︎祟りで巨乳にされてしまうばい⁉︎」

 

「…」

 

 

七郎治は乳神様(ロキ)にすっかり洗脳され、無乳を崇める信者になっていた。

 

吐こうとする七郎治を押さえつけ、無理矢理薬を流し込む。あとは首に手刀を叩き込み強制的に寝かしつけ薬が効くのを待つ。

 

 

「気分はどうだ?」

 

「さっきよりはマシ」

 

「そうか。ロキには怪物祭(モンスター・フィリア)から帰ってきたら久しぶりにキツイ灸を吸えよう」

 

リヴェリアは恐ろしい言葉を残し、部屋を後にした。ロキざまぁw

 

 

あぁ、そういえば今日やったね…。

確か…。なんやっけ?乳神様(ロキ)とアイズがフレイヤに会って、それから…。

そうだ、ベル君と遊ぶためにあの女神様がモンスターを逃がすんよね。アイズ達も巻き込まれとったな。

 

 

前世の記憶を思い出しながら、今日の事を考える。

 

 

怪我とかしよったけど、まぁ、なんちゃ解決するしいっか…。

 

 

再び眠りにつこうとするが、一度思い出した記憶が頭から離れない。

 

 

怪我…。うん、

「うぇ、行くだけ行くか」

 

 

七郎治は一昨日の格好のまま燕尾服と蝶ネクタイを外した白のシャツに黒のズボンを履いていた。着替えるのも面倒でそのまま無銘刀を片手にフラフラと闘技場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場周辺は逃げ惑う人々で混乱していた。怪物祭(モンスター・フィリア)の最中に捕らえたモンスターが逃げ出したのだ。

 

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 

美しい金髪をなびかせ、風を纏う。

 

 

(一匹目…。)

 

「ガッ⁉︎」

 

(二匹、三匹…。次。)

 

「グギャ‼︎」「ギャッ‼︎」

 

 

止まらない。次々に逃げだしたモンスターを一撃で仕留めていく。街の人々は一瞬何が起きたのか分からず唖然とするも、絹の様な金髪に美しい少女。【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだと直ぐに理解する。

 

たまたま近くにいたロキとアイズはギルド職員に頼まれモンスターの討伐をしていたのだ。

 

 

「うわー、出番なさそう」

 

「まあ、アイズがいればあの程度のモンスター直ぐ終わるでしょ」

 

「お、お二人とも、武器もないのによく落ち着いていられますね…。きゃ!…地震?」

 

 

怪物祭(モンスター・フィリア)に来ていた、ティオナとティオネ、レフィーヤは合流したロキの指示に従い、アイズが討ち漏らしたモンスターがいないか確認及び討伐の為、屋根伝いに進んでいた。

 

 

「きゃあああああー!」

 

 

地震が起こり轟音を轟かせ石畳の地面から蛇のような巨大な黄緑色のモンスターが現れた。近くにいたのであろう女性の叫び声が響く。その独特な雰囲気を纏うモンスターにティオナ達は悪寒を走らせた。

 

 

「何あれ⁉︎新種のモンスター⁉︎」

 

「レフィーヤは隙をみて詠唱を。ティオナ、叩くわよ」

 

「は、はい」

 

「分かった」

 

 

 

ティオナ達に気づいたモンスターは攻撃態勢に入る。長い体をくねらせ鞭のように鋭く体当たりをしてきた。

 

ティオナとティオネは素早くかわし、すかさず強烈な拳を叩き込む。第一級冒険者の打撃ともなれば、並みのモンスターは簡単に倒すことができるのだが…。

 

 

「イッ〜!」

 

「かったぁー⁉︎」

 

 

このモンスターには通じなかった。僅かに陥没しただけで凄まじい硬度を持ち合わせているようだ。

 

モンスターは再び、攻撃をしかける。ティオナ達は攻撃を掻い潜りながら反撃を試みるもあまり効果がない。

 

 

「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て必中の矢】」

 

 

ティオナ達がモンスターを引きつけているうちに、レフィーヤは魔法陣を展開し素早く詠唱を唱える。練り上げた魔力を解放しようとした直後、モンスターがレフィーヤを見やる。

 

 

ドス!

「…あ」

 

 

地面から触手のようなものが飛び出し、詠唱中で無防備になっていたレフィーヤは腹部の叩き込まれ、華奢な体が宙を舞い地面に倒れこむ。内臓をやられたのだろうか、吐血する。

 

 

「レフィーヤ⁉︎」

 

 

「オ゛オ゛オ゛オォォォ‼︎」

 

 

モンスターが咆哮を響かせ無数の触手が地面から突き出て、その正体を表す。蛇のような外見から、中央に無数の牙がある毒々しい極彩色の咲いた花のような型に変わる。食人花とでも言えば良いだろう。

横たわるレフィーヤの元へと迫る。

 

 

「レフィーヤ‼︎早く起きなさい‼︎」

 

「あーもう!邪魔ぁ‼︎」

 

 

レフィーヤを助け出そうとするティオナ達は触手に行く手を阻まれ、応戦を強いられる。

 

 

(嫌だ。体が動かない、立ち上がれない)

 

 

自身を捕食しようと迫り来る食人花の黒い影。しかし、レフィーヤの目に映ったのはそれだけではなかった。

 

 

(いやだ…。嫌だ、また同じだ。また私は…あの人に)

 

 

悔しくて涙が流れる。

 

 

「グギャアァァァ」

 

 

首を一つ切り落とされた食人花の絶叫が響き渡るらせ、切断された体は崩れ落ちた。

輝く金色の髪。鋭く光る細剣の輝き。憧れてやまない、ずっと見てきたその背中。また、守られてしまった。

 

 

「アイズ!」

 

 

逃げ出したモンスターのうち6匹を殲滅し、遠方から新種のモンスターを目視したアイズは風で一気に仲間のもとまで飛んできたのだ。

 

レフィーヤを助け起こす。しかし、地響の後直ぐに5匹の新たな食人花が地面より現れた。

 

アイズは迎撃に入り、飛びかかる。が…

食人花に切りつけた瞬間、ビキッと音を立てレイピアが砕け散る。自分が愛用している剣は整備に出していた為、代剣を借りていたのだ。

 

 

(これは、怒られる)

 

 

アイズはいの1番にそんな事を考え、(エアリアル)でガードしようとするも、相手は目の前だ。

 

 

(間に合わない!)

 

 

横一線が入る。

 

ストン

 

食人花の頭が落ち、その向こうからよく知る人物が現れた。食人花を斬り捨て、アイズ胴に手を回し宙を蹴って離脱する。

 

 

「えっ?あれって七郎治⁉︎」

 

「なんか雰囲気ヤバくない?」

 

 

クマができた目は充血し、顔は青ざめるを通り越して血の気のない真っ白になり、幽鬼のようだ。

 

七郎治は無言でアイズを降ろしチラッとレフィーヤを見やる。

 

 

バカたれが…。間に合ってねーとか、何をしよるんじゃ‼︎

 

 

七郎治は自分自身に沸き出す怒りを抑えつけ静かに構える。いつもと違う雰囲気は冷たい空気を創り出しその場を支配する。敵を見据え襲い掛かってきた一匹目を居合で真っ二つに。

 

 

シッ‼︎(ピシッ)

 

 

二匹目。刀を抜き、持ち手を反対側の肩にもっていく。右腕と体の間に左腕を入れ力を溜める。

 

 

焔燃型(カグツチノカタ) 第二式 紅蓮旋」

 

 

溜めた力を開放し、刀を持つ手を押し出し引く。同じ要領だが、縦方向に斬撃を放つ「第一式 火柱」と違い横方向に切り裂く。

 

 

ズバン‼︎(パキン)

 

 

無銘刀が折れた。

 

 

「……。いやああああ‼︎折れたああああああ‼︎」

 

 

腹の底からの大絶叫。先程の空気を一瞬で壊し涙を流しながらのたうち回る七郎治。

 

 

「ええ〜」

 

 

呆れたようにティオナが呟く。「ええ⁉︎ウッソ!マジでか‼︎えっ?なんでなん?」と相変わらず一人で騒ぎまくっていたが、ピタッと叫ぶのをやめ、トコトコと道の端にいき…。

 

 

「おろろろろろー!げぼろしゃー‼︎」

 

 

吐いた。

 

 

「うわぁ、ドン引きだよ」

 

「ないわね」

 

「最低です」

 

「…う、ん」

 

 

せっかくピンチに駆け付けてカッコイイ姿を見せたのに台無しである。ジト目で仲間達に見られるも本人はそれどころではない。吐くに吐きまくり腹の中を空っぼにする勢いで、ようやく落ち着く。

 

 

「この、よくもワシの刀を…。マジで許さんぜよ」

 

 

迫り来る食人花。

 

 

「死ね‼︎コラァ‼︎‼︎」

 

 

食人花の顎を真下から蹴り上げる。ビンと茎が伸びて落ちてくる。蹴り上げる。また落ちてくる。蹴り上げる。の繰り返しだ。

 

あっけにとられていたティオナ、ティオネも参戦する。

 

 

「レフィーヤは、ここで待ってて」

 

「ゲホッ…、ゴホッ。ア、アイズさん…」

 

 

アイズも3人に続く。(エアリアル)で威力をました拳を叩き込むも決定打にならない。 アイズに標的を切り替え、一斉に襲い掛かる。

 

 

「アイズ嬢⁉︎」

 

「ええー⁉︎なんで今度はアイズばっかり‼︎」

 

「…⁉︎魔法に反応してる?」

 

 

七郎治達の攻撃を無視するたのように食人花は執拗にアイズを追いかけ回す。周りの屋台や石畳の地面を破壊していく攻撃を全て紙一重でかわす。

 

 

レフィーヤは目の前で繰り広げられる戦闘を見つめている事しか出来なかった。自分じゃこの中には入れない。唇を噛みしめる。

 

ふと、戦闘中の七郎治と目が合う。ただじっと真っ直ぐに見つめられる。震える足で立ち上がる。

 

 

「【ウィーシェの名の下に願う】」

(…。私は何もできない。)

 

 

「【森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ】」

(分かっている。私は弱い…。足を引っ張るだけだ。)

 

 

涙を流しながら、痛みに堪え詠唱を続ける。

 

レフィーヤにとって、七郎治は憧れのアイズの側にいる妬ましい相手で、時には邪魔者扱いをしてしまう。どうしてこんな適当な人が?と何度も思った。だけど自分でも分かっていた。ティオナ達とは違い、1ランク下のレベルでありながら、遅れを取らずついていく。どんな時でもアイズの背中を守る姿を見てきた。羨ましくて、嫉妬してきた。

 

 

「【どうか、力を貸して欲しい】」

(…それでも、負けたくない!)

 

 

「【エルフ・リング】」

(あの人達の側に…。アイズさんの近くにいたい‼︎)

 

 

魔法が紡がれ、レフィーヤの山吹色の魔法陣が翡翠色に変わる。

 

 

「レフィーヤ⁉︎」

 

「くはは…!よか‼︎」

 

 

ティオナがいち早く気づき、七郎治は不敵な笑みを浮かべる。

集まる膨大な魔力に食人花は標的を切り替える。

 

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け】」

 

「この詠唱は⁉︎あんた達、詠唱が終わるまでレフィーヤの援護よ‼︎」

 

 

ティオネの指示に一斉に行動をうつす。決して傷つけさせない。この唄を紡ぐ仲間を最後まで守りきろうと一人一人が全力で挑む。

 

3匹の食人花が、魔力に導かれ急追する。

 

 

「はいはいっと‼︎」

 

「大人しくしてろ」

 

「ッッ!」

 

「武装色硬化…」

 

 

信じられない速さで、一瞬で追い抜き食人花の、前に立ち塞がり弾き飛ばす。

 

 

「【吹雪け、三度の厳冬ー我が名はアールヴ】」

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】」

 

 

食人花の巨体を一瞬で凍らせ、時を止めたかのようにピクリともしなくなる。

 

 

「いっくよー‼︎」

 

「この糞花‼︎」

 

首肉(コリエ)シュート‼︎」

 

一糸乱れぬヒリュテ姉妹の回し蹴りと、七郎治の覇気を纏って適当に技名を叫んだ蹴りが食人花を粉砕する。

 

アイズがいつの間にか現れたロキがどこからかパクってきた剣で残りを切り裂き、食人花との戦闘がようやく終わった。

 

 

 

「レフィーヤ…。ありがとう、リヴェリアみたいだったよ」

 

「ア、アイズさん」

 

 

その言葉が嬉しくて、気恥ずかしくて顔を真っ赤にさせる。ティオナに抱きつかれて頭を撫で回される。

 

 

「ほいほい、まだ仕事は残ってるでー!って、あそこで吐いてんのは七郎治か?」

 

「「えっ?」」

 

「げぼろしゃー」

 

 

ロキに言われた方を見ると、七郎治が道の端で盛大に吐いていた。

 

 

「うわぁ、ホントないわ〜」

 

 

最後の最後で決められない。

怪我をしたレフィーヤと、二日酔いの七郎治はギルド職員に医務室に運ばれ、アイズ達は残りのモンスターの討伐へと向かっていった。

 

 

 

 

 






乳神様の呼び方

シシガミ様のニュアンスでチチガミ様
龍神様のニュアンスでニュウジン様と呼ぶのもよし


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

怪物祭(その後)

 

 

黄昏時。逃げ出したモンスターを全て討伐したアイズ達はギルド職員に治療を受けていたレフィーヤと七郎治に合流して北のメインストリートを歩き家路についていた。

 

 

「あーあ、せっかくのお祭りだったのにー!」

 

「あはは…。疲れちゃいましたね」

 

「まぁ、被害が少なくてよかったんじゃない?」

 

ティオナがふくれっ面をし、レフィーヤが苦笑いを浮かべる。ティオネが自分の双子の妹に呆れながら言う。

 

今回のモンスターが逃げ出した事件はガネーシャ・ファミリアとギルドの迅速な対応で、死傷者を出さずにすんだが、モンスターを逃した犯人は捕まえられなかった。

 

アイズは前を歩く3人の会話を聞きながら、ふとボロボロになった自分の服を見て黙り込む。

 

 

「どげんした?アイズ嬢?」

 

「えっと…。」

 

 

七郎治の声に前にいるティオナ達が振り向く。

 

 

「アイズ?」

 

「…ティオナ。ごめん、服、ボロボロにしちゃった…」

 

 

普段ダンジョンに潜る戦闘服(バトル・クロス)ではなく普段着を着ていた。この服は酒場での一件で落ち込んだアイズを励まそうと、ティオナ達が買い物に連れ出したときに買ったものだ。

 

 

「また、一緒に買いに行こうよ!」

 

「…うん」

 

「あれ?アイズ嬢いつもと雰囲気違うな?…それ似合ってるばい!」キリッ

 

「えっ⁉︎今さらですか⁉︎」

 

「あんたそれ最初に言う言葉よ…」

 

 

アイズとティオナがいい感じで話をまとめたのに、七郎治が場違いなことを言いレフィーヤとティオネが咎めるような視線を送る。

 

 

「そういえば七郎治さんは何で来たんですか?二日酔いですよね?」

 

「あ〜。色々あるったい…。ボソ(意味なかったけど)」

 

 

まさか前世の記憶で、何が起きるか知っていたなんて口が裂けても言えない。自分が転生者である事は主神と最高幹部以外知らないのだから。それに途中時間を取られてしまったことを思い出す。

 

 

ーー

 

七郎治は黄昏の館を飛び出し、屋根伝いに闘技場に向かう。辺りを見渡しながら、アイズ達の居場所を探っていた。

 

 

「あら?奇遇ね。こんな所で何をしているの?」

 

 

美しい声色に問いかけられ振り向くと、美の女神が立っていた。

 

 

「ちっとな…。先を急がせてもらうけんな」

 

 

立ち去ろうとするも、行く手を阻まれる。フレイヤ・ファミリア所属の都市最強の冒険者。Lv.7【猛者(おうじゃ)】オッタルだ。

 

仕方がないと七郎治はフレイヤに向き直る。

 

 

「なんね?」

 

「ふふ、少し確認したい事があるの。この間、貴方が見守っていた白髪の子について…。まさかこれから探しに行くのかしら?」

 

 

遠征の打ち上げの後、ベルの後を追いかけたことを見られていたのだ。七郎治は何が言いたいのか察した。

 

 

「ワシが探しとるのはファミリアの者やけん。神フレイヤの邪魔はせんよ」

 

「そう…それならいいわ。…ねぇ、私の所にこない?」

 

「ッ⁉︎お誘い頂き、ありがたいがこちとら一度仕えると決めた主神から鞍替えするきはありませんので」

 

 

七郎治はフレイヤに見つめられ、その美貌と抜群のスタイルに息をするのも忘れるぐらい魅入ってしまいそうになるが、乳神様(ロキ)の御利益で魅了されずに踏みとどまる。

 

 

「あら?残念ね。ずっと気になっていたのよ?貴方の魂はとても変わっているわ…。暖かみのある赤と透き通るような青に縁取られているのに、中心は真黒な穴が開いているわ。こんな魂は初めてみたわ」

 

 

ドクンと胸が鼓動をうつ。七郎時は前世の事で思い当たる節があった。だが今それどころではない。

 

 

「…今はそんなちんけなもんより、大切なことがお互いあろーもん」

 

「…そうね。気が向いたら何時でもきて頂戴」

 

 

お互いが目的の場所へと動き出す。

 

 

ーー

 

 

結局間に合わずレフィーヤに怪我を負わせてしまった。

 

 

「?」

 

「でも、刀が折れて吐いたロージにはビックリしたなあ!」

 

「言うなや!ワシは宝もんが折れてガラスのハートがバランバランなんぞ‼︎」

 

「吐いた事じゃなくてそっちなのね…」

 

「…七郎治。どうして、あの黒くなる?の使わなかった、の?」

 

「ファッ⁉︎」

 

 

確かに『武装色の覇気』を使えば折れずに済んだかもしれない。二日酔いのせいか全然思いつきもしなかったようで、ズーンと周りが黒くなりものすごい勢いで落ち込む七郎治。

 

アイズはまずい事を言ったと思いオロオロし、ティオネとレフィーヤは苦笑いを浮かべ、ティオナは爆笑しながら七郎治を元気づける。そんな一時がアイズの心は暖かくさせる。仲間達との会話が楽しいのだ。

 

 

しかし、それだけではなかった。食人花を倒した後にアイズとロキが残りの1匹であるシルバーバックを探していると、「ダイダロス通り」と呼ばれ複雑に入り組んだ通りで他の冒険者が倒していた。

 

その冒険者はウサギのような少年で女の子をかばって戦ったとのこと。アイズは一瞬すれ違った少年を思い出す。自分達のファミリアに馬鹿にされ笑い者にされた少年が駆け出しの冒険者では倒せないモンスターを倒したのだ。「街角の英雄 ベル」思わず、顔がほころんでしまう。次は

いつ会えるかな?伝えたい事がある。

 

 

「そういえばロキは?」

 

「主神様なら吞ん方さ…」

 

「またお酒?こんな日によく呑めるわね」

 

 

ここには居ない自分達の主神に呆れる眷属達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

都市の南にある繁華街。その一角にある高そうな高級酒場に二柱の女神が広い個室で向き合っていた。

 

 

「1日に二回も呼び出して、いったい何の用?」

 

「しらっじらしーこと言うやっちゃな〜」

 

 

美の女神フレイヤは余裕のある美しい笑みを。悪戯神と呼ばれるロキはニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「今日、ガネーシャんとこからモンスターを逃したんは自分やな?」

 

「あら、証拠でもあるのかしら?」

 

「ああん?ガネーシャんとこの子どもらも、ギルド職員も何かに()()されとるみたいに骨抜きになっとったな〜。逃げ出したモンスターも()()()さがしとるように見えたな〜」

 

 

「…」

 

 

「魅了、魅了、魅了!全部魅了や‼︎決まりやろ?」

 

 

美の女神はその美しさを持って種族、老若男女問わずに魅了する。それに抗うことは出来ないだろう。

 

 

「それにお前、七郎治に接触したんやて?」

 

「ふふ。バラされちゃったわね」

 

「当たり前や!ロージたんはウチの嫁‼︎貴重な男の娘や絶対にやらんで‼︎」

 

「あらあら、愛されてるわね。それに私はふられちゃったわ」

 

「…んで、今朝話しとった子どものことでこんな騒ぎ起こしたんやろ?ギルドにちくったろうかな〜?」

 

 

当たり前のように脅しをかけるロキに対して、フレイヤは笑みを崩さずに一言つぶやく。

 

 

「あなたに貸した鷹の羽衣。そろそろ返してくれない?」

 

「はぁ⁉︎あれは天界にいたときにいただいゲフンゲフン、借りパク、じゃなくて借りたやつやぞ⁉︎」

 

「うふふ、もし今日のこと黙っていてくれたら貴方にあげてもいいわよ」

 

「〜ッ!くっそー‼︎ずるいで⁉︎ウチの子供達は気色悪い花みたいなモンスター相手にさせられて怪我もしたんやぞ⁉︎七郎治は吐くし‼︎」

 

「…なんの話?私が放ったのは9匹だけよ?そんなモンスターはいなかったわ。それにあの子が吐いたのは貴方のせいでしょ?」

 

「じゃあ、あのモンスターは何やったんや?」

 

「さぁ?」

 

 

顔を見合わせるロキとフレイヤの間に沈黙が流れる。結局極彩色のモンスターについては謎に包まれたまま、幕を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ふー、やっとソードオラトリアの1巻が終わりました。
次からは閑話を挟みながら、2巻にあたる話を考えていきたいと思います。

ふと最初の話を見返して、序章なのに長くね?文字数も少ないしと思い改変しようか考えてる今日この頃


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【閑話】毛玉とオカマ

 

 

ー黄昏の館 食堂ー

 

団員達が朝食をとる為に談笑しながら集まる。その中に長身で引き締まった体躯を持ち、鋭い眼差しの狼人(ウェアウルフ)がいた。

 

ロキ・ファミリアで最速を誇る【凶狼(ヴアナルガンド)】ベート・ローガ

 

そんな彼は絶賛片想い中。お相手は【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだ。何とか一緒に食事が出来ないかと毎日試行錯誤し、今日もアイズの姿を探しているところだった。

 

 

(チッ!バカゾネス共しかいねーな…。机の下みて何してんだ)

 

「おはよう、ございます…。ベート、さん。一緒に、どうですか?」

 

 

ベートの心臓が跳ね上がる。自分の斜め後ろから声が掛けられ、しかも声の主は自分の思いびとだ。

 

 

「あ、ああ!いいぜ」

 

 

ベートは平静を装いながらゆっくり振り向く。視界にはなびく金髪。ぃよっしゃー!と心の中でガッツポーズをする。が…

 

 

「ッ⁉︎」

 

「アイズ嬢かと思ったか?残念ワシでした‼︎」テヘペロ

 

 

そこに居たのはアイズではなく、金髪のカツラを被った七郎治だった。

 

 

「こ、の〜!カマ野郎‼︎ぶっ殺す‼︎」

 

「そん、な…。ヒドイ、です。ベートさん」

 

「その声やめやがれー‼︎」

 

 

朝からベートと七郎治の追いかけっこが始まった。そんな様子をみていたティオナは爆笑する。

 

 

「アハハハー!ベートざまぁ‼︎」

 

「あんたね…。自分の復讐の為に七郎治とアイズを巻き込むんじゃないわよ」

 

「え〜!だってベートが人の事をど貧相とか言うし、ロージもノリノリだったよ?」

 

「あ、はは…。アイズさん、もう出てきてもいいですよ?」

 

「う、ん」

 

 

ティオネは自分の双子の妹に呆れ果て、レフィーヤも苦笑いし、アイズも机の下から出てきた。

 

 

「またやってるっすね」

 

「ほんと、仲が良いわね」

 

 

ラウルとアキも何時もの光景に苦笑いを浮かべる。

 

 

「あたし少し気になるんだけどさー。ベートって最初の頃どんなだったの?あんな態度なのにファミリアに溶け込んでるよねー」

 

「確かに私達が入団した時には、もうあんな感じだったわね」

 

「あー、まぁいろいろあったんすよ」

 

「確かにね〜」

 

 

ティオナのふとした疑問にラウルとアキがまたしても苦笑いを浮かべる。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

8年前、七郎治がロキ・ファミリアに入団してから半年が過ぎる頃ベートが入団してきた。

 

 

「七郎治。新しく入団した狼人(ウェアウルフ)のベート・ローガじゃ。儂が面倒をみることになった。」

 

「ロージたんは年も近いし仲良くしてやってな〜」

 

「はい、主神様。親方様」

 

「けっ!何で俺がこんな女みてーなガキと仲良くしなきゃなんねーんだよ!雑魚だろ?」

 

 

ガレスとロキに紹介されたベートは七郎治をみて悪態をつく。完全に見下しているのだ。

 

 

「わっはっは!ベート、見た目で決めるな。七郎治はなかなか筋がいい」

 

「けっ!それでも俺より弱い雑魚だ‼︎」

 

 

七郎治はそんなやりとりをボケ〜と眺めていた。

 

 

おお、ベートだ!割と早く入って来たな。10歳ぐらいか?そして、子供の頃からベートはベートだな‼︎

 

 

前世の記憶にある原作の登場人物が現れたことに興味がいき、バカにされていることは全く気にならなかった。

 

 

「おい!クソガキ、俺と勝負しろ‼︎」

 

「ええ〜、嫌です」

うーん、多分勝てんばい。恩恵を受けているとはいえ元々のポテンシャルが違うやろーもん。

 

「そう言うな。七郎治、手合わせしてやれ」

 

「…はい。親方様」

 

 

対峙するふたり

 

 

「死ね、オラァァ」

 

ベートの鋭い蹴りが飛んで来る。

 

「ふっ‼︎」

死ねっておまえ…。

 

 

ベートの蹴りに合わせて、手の平をそっと足に添え力を受け流す。ガレスとの訓練でいつも気絶する程強力な攻撃を受ける七郎治は耐久力もあるが、相手の力を受け流し、相殺する技術を身に付けつつあるのだ。でないと死ぬから。マジで。

 

 

「この…ガキ〜‼︎生意気なんだよ‼︎」

 

 

蹴りの連打が打つこまれる。

 

 

ッ速い⁉︎これ、ムリやな

 

 

何とか2、3発目迄はいなしていたが、結局は腹部に一撃を叩きこまれ受けた力を殺せず大きく後方に吹き飛ぶ。

 

 

「へっ、結局雑魚じゃねーか!…俺は雑魚と馴れ合うつもりはねーからな」

 

 

ベートは七郎治を見下し吐き捨てると、ガレスと早速訓練に入る。二人の手合わせを見ていたガレスとロキはやれやれとため息をつく。

 

 

「ロージたん大丈夫か?ウチが痛いとこさすったるからお腹出し?」

 

 

ロキがワキワキと手を動かしながら、七郎治に近ずく。面倒くさいので大人しく脱ぐ。

 

 

「えっ⁉︎ええの?…いや、あかん鎮まれウチの右手‼︎」

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、何でもあらへん…。ああ、そうやった七郎治、ベートはあんな感じやけど根は良いやつやねん。仲良くしてやってな」

 

「はい、主神様」

 

 

ロキがベートの態度を見てフォローを入れながら再度お願いしてきた。その顔は利かん坊な子供を見守る優しげな親の顔だった。元々知っていたので特に機にする事もなく返事をした。

 

 

 

 

 

 

ベートが入団して三ヶ月が経った。アイズには及ばないが成長速度が早く先に入っている団員達にも追いつく勢だ。そのせいか、他の団員達にも悪態を付き見下す態度取るため度々喧嘩をしては問題を起こし、ファミリアに馴染めておらず、相変わらずの一匹狼だった。

 

それを見ている幹部勢はベートにとってもファミリアにとっても芳しくない状況だと思い、喧嘩の仲裁に入り叱咤するがベート本人はもちろんの事、他の団員もなかなか態度が改まらない。

 

 

「良いか、七郎治。儂から見ればお前はベートの兄弟子だ。しっかり面倒をみてやれ」

 

「はい、親方様」

 

「七郎治。私からもベートには言っておくが、お前からも注意してやってくれ」

 

「はい、副団長…」

 

「すまない、七郎治。僕達はファミリアだ。ベートの事を頼んだよ?」

 

「…了解です。団長」

 

「すまんな〜、ロージたん。ベートはホンマは優しいやつなんや。仲良くしてやってや〜。そや、ロージたんが傷付いた時はウチが慰めたる‼︎」

 

「あっ、はい」

 

 

何故か分からないが、ベートが問題を起こすたびに後から七郎治もそれぞれに呼び出されては同じ事を言われる。歳が近いからただそれだけなのか…。実際、歳の近いアイズは相変わらず無口で興味がなさそうで、ベートに普通に話しかけるのは七郎治くらいだ。

 

 

「おい、ロージ!あの狼人(ウェアウルフ)どうにかしろ‼︎」

 

「あっ、はい」

 

人間(ヒューマン)の男性が七郎治を叱る。

 

 

「何とかならないの?あなたの後輩でしょ?」

 

「はい、すみません」

 

エルフの女性団員が注意する。

 

 

「ベートが文句ばっかでやらないから、お前がやれ。たく、ちゃんと躾けとけよ」

 

「…」

 

ドワーフの男性団員が雑用をわたす。

 

 

うん、どげんすればやかろうやー

アキとラウルは担当違うし…。それに、あまり関わりたくないのかベートに必要以上に喋らんし。いや、それでもワシに気を使ってベートと打ち解けようとしてくれちょる…。

 

 

七郎治は遠い目をしながら雑用をこなしていた。ベートはプライドが高いからかこう言った雑用はしないで、ダンジョンに行ってしまう。急ぎな分は注意して、幹部勢の力を借りて無理矢理二人でこなすが、急ぎでない分は一人でやった方が早い為、二人分を引き受ける。

 

 

それにワシにばっか言われてもなー

ベートに態度をどうにかするよう、色々試したが聞かんし。

他の団員にベートの誤解を解こうとしても聞く耳持たんし。

ベートのレベルが上がれば原作みたいになるんかな〜

しゃーない、実力行使ばい…。

 

 

はぁとため息を吐きながら、どうしたものかと考える。しかし、状況は全く良くならず悪くなるばかりだ。

 

 

 

 

 

 

夕食時、ベートは食事のトレイを受け取り。空いているテーブルに一人でつく。団員達は誰も近付かず、むしろ嫌そうな雰囲気を出す。そんな様子を厨房の陰からロキ、フィン、リヴェリア、ガレスは覗いていた。

 

 

「嫌やなー。こんな夜メシ」

 

「全く困ったものだ。我々があまり口出しすると表面上だけになりかねない…」

 

「冒険者とは実力がものを言うが…。一人ではできん事も多いと言うに…」

 

「そうだね。ベートは強くなる。だけど、あれでは…おや?」

 

 

フィンは言葉をくぎり、食堂に視線を向ける。そこにはベートのところに向かう七郎治の姿があった。

 

 

「ここ。座りますよ」

 

「チッ、雑魚はあっち行け。飯が不味くなる!」

 

 

ベートが凄むが、七郎治は無視して座り食事を取り始める。今日は好物のカラアゲなので、心なしか嬉しそうだ。周りの団員達もチラチラと様子を伺うなか、そんな視線も無視して七郎治は連絡事項や当番の事を話し出す。

 

だが、その場の雰囲気がベートの癪に触り、七郎治のトレイを横に弾き落とし、床に散乱する。食堂が静まり返る。

 

 

「鬱陶しいんだ…。お友達ごっこがやりたいんなら他所でやれ」

 

「…」

 

 

七郎治は静かに立ち上がり、床に散らばったカラアゲを拾い上げ、何事もなかったように食べた。

 

 

「「「「ええ⁉︎」」」」

 

全員あっけにとられているなか、カラアゲを食べ終わりベートに向き直る。ふ〜と一息つくと怒りを抑え込む。役者は揃っている。気持ちだけは熱くしたまま叫ぶ。

 

 

「いい加減にせーよ⁉︎こんのクソ狼‼︎貴っ様、自分が何ばしとるかわかっちょるんか‼︎」

 

「…あ?」

 

 

その場にいた全員が驚愕する。たまにイタズラをしたりロキとふざけたりするが普段は敬語を使い、雑用もキッチリこなしあまり手のかからない子供である七郎治が感情的になり、言葉も鈍り丸出しで叫んでいるのだ。

 

 

「食べもんを粗末にしやがってから、マジで許さんげな‼︎」

 

「いや、お前、キャラ変わりすぎだろ!」

 

「あぁ゛?そげなもん猫被っとったに決っとろーもん‼︎アホウかお前⁉︎」

 

「いやいやいや!堂々としすぎっすよ⁉︎」

 

「社会人なんじゃけー、普通に第一印象を大切にするばい‼︎」

 

「社会人って、ロージはまだ子供じゃない‼︎」

 

「親元離れて社会に出たんなら、立派な社会人やろーもん‼︎」

 

 

ベートが余りの豹変にツッコムも、さも当然のように言い放ち。周りの団員達も次々にツッコミを入れる。

 

 

「ちゅーか、コイツとまともに向き合えん外野は黙っとれ!クソ共が‼︎しゃーしか(うるさい)‼︎ワシは今こいつと話しとるけんな‼︎」

 

「「「なっ⁉︎」」」

 

 

七郎治は騒ぎ立てる周りを睨みつける。余りの形相と怒気をはらんだ声に押し黙る。

 

 

「そんで…。おい毛玉‼︎」

 

「テメェー!誰が毛玉だ‼︎カマ野郎の雑魚が‼︎」

 

「せからしい‼︎オカマでも雑魚でもええわい‼︎それよかお前は何時までこげん事続けるつもりじゃ‼︎ガキみたいに駄々こねやがってからに…ケツん穴ば小さか男やな‼︎」

 

「テ、テメェ…。黙って聞いておけば!死ねオラァ‼︎」バキッ!

 

 

ベートが怒りに任せ七郎治を殴り飛ばすも、何事もなかったかのように立ち上がる。

 

 

「はっはー!こげん腑抜けた攻撃で死ぬわけなかろうもん‼︎」バキッ!

 

 

そこからは二人の手加減なしの殴り合いが始まり、止めに入る団員達も巻き込んで大乱闘だ。

 

 

「やれやれ。まさかこんな事になるとはね。七郎治ならもう少し上手く立ち回ると思っていたんだけどね」

 

「そうとう溜め込んでいたのだろう。七郎治が怒りを爆発させるとはな。我々にも責任がある。」

 

「ガハハハ‼︎彼奴らにはこんぐらいが丁度ええわい‼︎」

 

「んー、でもロージたん本気で怒っとると思う?」

 

「何?どういう事だロキ?」

 

「いや〜」

 

 

結局、フィン達が止めに入り、暴れるヤツを押さえつけその場を収める。そして明け方まで団員達全員を説教をした。ベートと七郎治は謹慎処分で黄昏の館の地下にある謹慎室(牢屋)に入れられる。残りの団員でグチャグチャになった食堂を片付けることに…。

 

 

「ふぁ〜。眠いっす」

 

「ちょっとラウル君!サボらないで」

 

「それにしても昨日はビックリしたっす」

 

「そうねー。ロージがあんなこと言うなんて…。」

 

「まぁ、アイツに八つ当たりしちまったからな後で謝らないとな」

 

 

「私も…。」「俺も」と他の団員達もアキとラウルの会話に加わり口々に言う。

 

 

「それに、ロージ君は団長達のお説教に意見してたっす」

 

「ああ、それもビックリした!誰も反論しないで、黙って聞いてるだけなのに、キッチリ自分の意見を言っていたわね」

 

「しかも、私達だけじゃなく…。ベートの事もかばってたわ」

 

「子供のくせにどんだけしっかりしてんだよ」

 

「仕方ない。私達も悪いところがあったもの…。今後を考えないと」

 

 

はぁとため息を吐き、黙々と後片付けを続ける。

 

 

 

 

 

 

 

ー謹慎室ー

 

「チッ、クソが…。なんで俺がこんな所に」

 

「仕方なかろーもん。そんだけの事をしたっちゃけん」

 

「だいたいテメェが…。くそ!」

 

「?あぁ、なんや」

 

「別に…」

 

 

ベートは悪態を吐こうとするも飲み込む。ベートなりに心境の変化があったのだろう。そんなベートをみて七郎治は話しかける。

 

 

「こっちはお前のおもりで大変やったんやぞ?」

 

「…」

 

「まぁ、いい機会やったけどね。猫かぶるんも面倒になっとったし」

 

 

カラカラと笑い牢屋も住めば都と言わんばかりにくつろいでいた。そんな七郎治の話に答えず。ベートは昨日の事を思い出す。

 

 

『いいかい?僕達はファミリアだ。互いに助け合い研磨しあっていくものだ』

 

 

乱闘騒ぎを止めた後、全員を床に座らせフィン達が説教をする。

 

 

『何が助け合いだ!足の引っ張り合いだろ⁉︎』

 

『毛玉‼︎いい加減にせい‼︎ダンジョンに潜りゃあ一人で行けるとこなんてたかがしれとるんぞ⁉︎それに一人で居れば誰だって自分が最強じゃろーもん‼︎井の中の蛙たい』

 

 

ベートが否定するも七郎治が反論する。

 

 

『オレ達だって、おまえと組みたくないね…』

 

『なんじゃ⁉︎ボソボソと、言いたい事があるんなら腹の底から声ばださんね‼︎毛玉の言いよる事が全部間違っとる訳じゃないんぜ⁉︎』

 

 

他の団員がベートに対して文句を呟くと七郎治が反論する。

 

 

『七郎治。少し黙ってくれないかい?』

 

『やかましいわ‼︎立ち場やなんだ気にしてワシに押し付けといてから、都合が悪くなったらしゃしゃり出てきてよ、引っ込んどれ‼︎』

 

『『『なっ⁉︎』』』

 

 

団長であるフィンに対してあんまりな態度の為、全員が目を丸くする。

 

 

『ボソ(ロージ君、マズイっすよ〜)』

 

『せからしいわラウル‼︎ワシは皆んなにどうにかせーって言われとるんじゃ‼︎そんならワシに任せてもらわな‼︎』

 

『そうだね。確かに僕達幹部は表面上の仲間にならない為に団員達に任せてきた。しかしこの有様だ。君はどう思っているんだい?』

 

『はん‼︎表面上のお付き合いが嫌なら、良かったろうもん。どうせ何言ったってお互い聞く耳もたんのやけん、言葉で理解しあえんならボディーランゲージだべ‼︎』

 

『『『はあ⁉︎』』』

 

 

あんまりな爆弾発言に団員達の声が揃う。その後も、ベートが何か言えば叱咤し、団員達が文句を言えば叱咤し、フィン達が全員を叱ろうとするものならそれを良しとせず、それの繰り返しだ。

 

 

『ほんで…。この事に責任者が欲しいんならワシをファミリアから追い出すなり好きにしたらええがな。後悔なんぞしとらん』

 

『『『ええーーー⁉︎』』』

 

『あっはっはっは!まったく、そこまで咎める気はないよ』

 

 

団員達は七郎治の一言一言に驚かされる。フィンも七郎治の思い切りの良さに清々しい思いを抱き、結局ベートと七郎治の謹慎処分で話を付けたのだ。

 

 

 

 

ベートは少し黙り込むと、七郎治に語りかけた。

 

 

「…俺は、弱いヤツが大嫌いだ。何もしないで諦めて、弱い事を嘆くだけの雑魚が、見てるだけで腹がたつ」

 

「あっ、そうなん?お前の本音はそれなん?…能ある鷹は爪を隠すって言葉があるように、上っ面だけじゃ、相手の本当の力量は分からんよ。これから、しっかり見極めたらどうなん?」

 

「…ああ」

 

 

ベートの意外と素直な返事にビックリするも、俯けているベートの顔が少し赤くなっているのに気づき、七郎治は気付かれないように小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

騒ぎの後処理を済ませたロキ、フィン、リヴェリア、ガレスは執務室に集まっていた。

 

 

「はぁー、取り敢えずひと段落ついたかな?」

 

「そうじゃの。七郎治には苦労をかけたわい」

 

「そうだな。まさかあそこまでとは…。」

 

「むふふ…。見た目は幼女!中身は仁侠!その名もロージたんはウチの嫁‼︎」

 

 

ロキが訳の分からない事を叫び、はぁと自分達の主神に呆れ返る。

 

 

「それで…。ロキ?さっき言ってた七郎治が本気で怒ってないと何でわかったんだい?」

 

「ん〜?ロージたんはあんなに感情的に怒り狂うタイプとちゃう…。どこまでも静かに怒るタイプなんや」

 

 

ロキは普段は細められている目を薄く見開きフィンの問い掛けに答える。

 

 

「なぜそうと言いきれるのじゃ?」

 

「ッ⁉︎え?まぁあれや、ほらウチは主神やし〜なあ?」

 

 

ガレスの問いにビクッと震える。

 

 

「ロキ…。七郎治に何かしたのではないだろうな?」

 

「そ、そそそんなことせーへん⁉︎ウチはただ風呂に乱入したり?勝手に布団に潜り込んで柔肌蹂躙した…だ、け」

 

 

リヴェリアの怒気の含む声にロキはたじろぎ、ボロを出す。リヴェリアの背後に金剛羅刹像をみたロキは逃走をはかるも失敗し、乱闘騒ぎを起こした団員達より長い説教をくらい、ベートと七郎治が入っている牢屋にお隣さんが出来た。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「と、まぁこんな事があったっす」

 

「へぇー!結局ベートはベートだったんだ」

 

「七郎治っ‼︎あの野郎、団長に向かってなんて事を⁉︎」

 

「し、七郎治さんが礼儀正しいかったなんて嘘ですよね⁉︎ね、アイズさん‼︎」

 

「ん、ほんとだよ?」

 

 

ティオナはよく分からない納得をし、ティオネは七郎治のフィンに対する態度に激怒し、レフィーヤは普段適当な七郎治の子供時代に驚愕する。論点がずれた感想に昔の事を話したアキとラウルは苦笑いを浮かべる。

 

 

 

 





今回はベートと七郎治の話でした。
思ってた以上に文字数がいってビックリしました。

ベートは絶対最初からあんな感じだろうと勝手に決めつけました。そして七郎治の猫被りも捨てさる場面がようやくかけた次第です。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二章
妖刀と使い手


 

 

ー黄昏の館ー

 

朝の訓練を終えて、汗を洗い流し食堂に向かう。途中ガレスに朝っぱらから正座をさせられ、説教をされるティオナとベート、アイズの姿を見かけたが巻き込まれたくないので無視。

 

食堂に入るとメッチャでかい魚を嬉しそうにテーブルに並べたティオネと、もの凄く苦笑いしているフィンがいた。その様子を眺めながら朝食のデメテル・ファミリアの作った野菜で料理されたサラダと野菜スープ、オムレツを食べる。

 

 

今日は椿に預けていた三代鬼撤の整備が終わっとるから取りに行かな…。試し切りにダンジョンに少し潜るかな。アイテム買いに行かないけんな…。

あっフィンが逃げた。どーでもいいけど、ティオネのエプロン姿は裸エプロンみたいだなwあと野菜うまか

 

 

そんな日常を眺めるこの時間はなかなか飽きないものだ。ファミリアのほぼ全員が集まる為、何かが起きるときもあれば、自分が起こすこともある。朝食を食べ終え出かける支度をする。子供の頃から愛用している脇差に、新調したばかり着流しと軍羽織を装備して黄昏の館を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーバベル(ヘファイストス・ファミリア店舗)ー

 

 

「椿おる?三代鬼鉄取りに来たげな」

 

「あら?七郎治じゃない」

 

「おお!七郎治か、火事場にこもりきりでな。人肌恋しかったところだ!抱きしめさせてくれぬか⁉︎」

 

 

椿の工房に入ると主神のヘファイストスまでいた。

 

 

「椿の力で抱きつかれたら背骨折れるやん」

 

「はっは!そんな事はせん!それより三代鬼徹だな、整備はこの通り完了しておる‼︎」

 

椿は七郎治に三代鬼徹を差し出す。鞘から刀身を引き抜き目の前にかざす。刃こぼれと血で出来た錆は綺麗なくなるり、禍々しくも美しく輝いていた。改めてこの妖刀に心踊ろされる。

 

 

「…すげぇ」

 

「うむ。この刀は歪んだ鍛治師の魂が打ち込まれているが、その想いすらも真っ直ぐなものだ。妖刀にして名刀。間違いない」

 

「…七郎治。使いこなしてみなさい」

 

「はい、必ず…」

 

 

刀身を鞘に収めるが、どうしても今すぐ試したくて仕方がない。もともと、このままダンジョンに潜るつもりだったので、一式揃っている。椿に代金を払い急ぎ足でダンジョンへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ早く試したい…。

三代鬼徹にどれ程の力があるのか、上手く使いこなせるか…。あかんは、にやけが止まらん。

 

 

ダンジョンの入り口に差し掛かろうとしたとき。

 

 

「あれー⁉︎七郎治だー‼︎」

 

 

後ろからでっかい声で呼ばれたので振り返るとそこにはファミリアのメンバーがいた。元気良く腕をふるティオナと双子の妹に呆れているティオネ、いつもと表情が変わらないアイズと少しふくれっ面のレフィーヤ。団員たちの様子をみてニコニコしているフィンとやれやれと片目を閉じるリヴェリアまでいた。

 

 

うわー、何でこのタイミングかいな…。

 

「探したんだよ!ロージもダンジョンに行くの?私達と一緒に行こうよ‼︎」

 

「ワシは武器の試し切りに中層ぐらいに行くだけばい?そっちはメンバー的に探索でもするんやないん?」

 

「うん!ウルガのお金を稼がなきゃ‼︎アイズもだよね」

 

「うん。壊した武器の弁償を…」

 

 

其処まで長いする予定じゃない七郎治は少し嫌がる。それにティオナとアイズの借金の額を予測しただけでもかなりの大金が必要なのは目に見えている。

 

 

「そっか〜。うん、頑張って」

 

「えー‼︎ロージも手伝ってよ‼︎」

 

「えーめんどくさいわ」

 

「まぁ、そう言うなよ七郎治。僕達はファミリアだろ?」

 

「じゃってなー」

 

「あぁ゛⁉︎七郎治、テメェ団長の誘いを断る気⁉︎」

 

「スンマセン、同行させていただきます」

 

 

同行を渋っていたがティオネに胸ぐらをつかまれ脅されたので瞬時に手の平を返す。

 

 

 

 

 

 

 

ーダンジョン 中層ー

 

 

前衛を借金コンビのティオナとアイズが勤めた為、あっという間に上層を超え、中層の17階層まで来ていた。

 

 

「うおりあああああ‼︎」

 

 

巨大な双刀を腕力のみで回転させながらミノタウロスが次々となぎ倒されていく。

 

 

「よし‼︎二代目ウルガは絶好調‼︎」

 

「危ないわね〜、当たったら痛いじゃない」

 

「い、痛いで済むんですか?」

 

 

狂戦士な姉妹の会話を聞いてレフィーヤが苦笑いをもらす。

 

 

「ん、いたぁ」

ドコン‼︎

 

「えぇー⁉︎七郎治さんに当たったー‼︎」

 

「あはは、ごめんごめんw刃は当たってないでしょ?」

 

 

試し切りをしようと刀に集中していた七郎治に振り回されたウルガの峰部分が当たり軽く吹き飛ばされダンジョンの壁にめり込む。

 

 

「んーとにもー。試し切りさせてくれる約束だべ?あと、レフィーヤ嬢は前来てるべ」

 

「えっ?きゃあ!」

 

「喉をつけレフィーヤ!」

 

 

リヴェリアの指示に瞬時に対応したレフィーヤは事無きをえるが、接近戦の不得手さをリヴェリアに指摘される。

 

 

「ははは、皆んな後ろに下がって。七郎治との約束もあるんだし」

 

 

後ろで様子を見ていたフィンが苦笑いしながら指示を出す。七郎治以外の全員が下がりようやく試し切りできる体制になった。

 

 

「レフィーヤ、七郎治の動きを見ておけ。お前も疑問に思う事があるのだろう?」

 

「えっと、それは…その」

(七郎治さんが自分より格上のアイズさん達について行ける理由….)

 

 

リヴェリアはレフィーヤが七郎治に抱く疑問を知っていた。魔導士と剣士、役割は違うがそれでも近接戦が全く出来なくて良いわけではない。

 

アイズはリヴェリア達の会話を横で聞きながら、2匹のミノタウロスと対峙する七郎治を見据える。

 

 

(冒険者はレベルやステータス頼りになりがちになる…。けど、七郎治は違う)

 

 

七郎治は自身の身体を制御し、より速く、鋭く、力強く。ステータスに頼らない戦い方を技術力を重視している。その為ステータスの更新を疎かにしがちで、何ヶ月も更新しないこともある。

 

 

ミノタウロスか…。全然物足りんけど、試し切りには丁度ええな。恨むなよ、お前らの死を必ず力にする。

 

 

正直に言うとLv.2に部類されるミノタウロスは素手でも勝てる相手ではあるのだが、武器の使い勝手の調整をするのにいきなり強い相手と対峙すれ訳にはいかない。それに使うのは妖刀だ。徐々に慣らしていくしかないだろう。

 

 

「ふっ!ッ⁉︎ぃあ⁉︎」

 

 

1匹のミノタウロスに斬りかかる。ただの袈裟切りだったのだが狙いを定めたミノタウロスだけでなく、後ろにいたミノタウロスまで真っ二つに斬り裂き、更には地面にも切り跡を残した。

 

 

「えー‼︎なに今の⁉︎」

 

「あんた、どうしたのよ?…」

 

「…七郎治?」

 

 

「いかん…。切れすぎる」

しかも斬撃もとんだか?確かゾロも言っとったな。名刀は主人の切りたいものだけを斬り。妖刀は主人の意識に関係なく切り裂く。

 

 

「凄い、切れ味ですね…」

 

「なるほど、それが噂の妖刀か?」

 

「えっ、副団長なんでそれを?」

 

「街で噂になっているよ。なんでも、妖刀を手にする為に命を賭けた冒険者がいたとかなんとか…。次が来ているから後で詳しく聞かせてくれるかい?」

 

「…」

 

 

フィンとリヴェリアに笑顔だが全く笑っていない目を向けられる。仕方ないと諦め、今は目の前のミノタウロスと三代鬼徹に集中する。

 

 

「ふーっ」

 

 

数体のミノタウロスをほぼ同時に斬る伏せる。先程と同じ袈裟切り、逆袈裟、突きと基本の動作をするのだが、刀を振るう腕、踏み込む足。体の筋肉と関節。そして三代鬼徹に意識を集中させる。

 

 

まだ…。荒い。集中しろ。武器を身体の一部に。

 

 

「シッ」

 

「ヴ、モ?」

 

 

横から斧を振りかざすミノタウロスの胴を居合で横一線に斬る。ワンテンポ遅れて胴体が滑り落ちる。

 

 

今のはいい感じや。次は飛ばす斬撃やな。

 

 

左手で脇差を引き抜き、二刀を構え力をためる。

 

 

「二刀流…。七十二煩悩砲!」

スババ‼︎

 

いかん、脇差の斬撃が三代鬼徹の斬撃に飲み込まれてしもうた。

 

 

固まっていたミノタウロス3匹をまとめて切り倒し、壁に当たり半円をを描くような穴が開く。

 

 

三代鬼徹…。お前、覚えとれよ。必ず使いこなすけんな‼︎

 

 

「「「ヴモオオオオオオオ」」」

 

 

怪物の宴(モンスター・パーティー)が始まり、ダンジョンが大量のモンスターを生み出した。七郎治はニヤリと口角を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「改めてみると凄いよねロージは‼︎」

 

「まぁアイズの相棒なだけはあるわよね」

 

「凄いです…。格下のモンスターとはいえあんな動きするなんて」

 

「七郎治の身体操作はなかなかのものだ。ロキ・ファミリアでもあそこまで出来る者はそういないだろう」

 

「そうだね。回避もギリギリのところを危なげなく交わすし、相手の力も上手く利用している。もっと深い階層のモンスター相手でも、同じ動きができるんだ」

 

「うん、七郎治に一撃入れるのは、難しい…」

 

「えっ⁉︎アイズさんでもですか⁉︎」

 

「うん」

 

 

レフィーヤは驚愕した。普段は第一級冒険者達の陰に隠れ、派手な攻撃をせず、サポートに回っている為、単体での戦闘はあまり見た事がなかった。

 

 

(遠い…。アイズさんの背中を守れる様になるには、魔法だけじゃダメだ。もっと、もっと強くならなくちゃ‼︎)

 

 

レフィーヤは大量のモンスター相手に一撃も貰わず、只々斬り捨てる七郎治を見つめ決意を新たにする。

 

 

 

 

 

 

 

 






少し時間が開きましたが、二章スタートです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七郎治の事件簿 1

 

 

怪物の宴(モンスター・パーティー)をきりぬけた一行は17階層の最奥にある大広間の入口まで来ていた。中の様子を確かめる。

 

ここは階層主『迷宮の孤王(モンスターレックス)』と呼ばれる通常のモンスターとは比べ物にならない程強力なモンスターが現れる場所である。ただし、このモンスターは一度倒すと一定の周期が経たないと現れない。

 

 

「あれ?ゴライアス(階層主)いないよ?」

 

「んー、リヴィラの街の冒険者が倒したんじゃないかな?」

 

なんじゃ、おらんのかい…。せっかく三代鬼徹を試したかったんに…。

 

 

階層主がいない大広間にいたのは先程大量に倒したミノタウロスだった。七郎治が三代鬼徹を握りしめながらそんな事を考えていたら不意に話しかけられる。

 

 

「それで?妖刀を手に入れた経緯をはなしてくれないかい?」

 

チッ!忘れとらんかったな…。

「あ〜これはですね。かくかくしかじか」

 

 

フィンに目が笑っていない笑顔で問われた七郎治は大人しく三代鬼徹を手に入れた経緯を話す。

 

 

「えー‼︎片腕かけたの⁉︎」

 

「あんたバカなんじゃない?」

 

「ありえないです」

 

「お前という奴は…」

 

「……」

 

 

その場にいた全員から非難の目を向けられる。あの時は三代鬼徹を見つけたことでテンションが上がりきっていて、確かに普通に考えたらありえない話だ。

 

 

「それにしても…。まさかヘファイトス・ファミリアの妖刀とはね。一時期すごく話題になっていたよ」

 

 

フィンが思い出すように七郎治の腰にある三代鬼徹を眺める。リヴェリアも思い当たることがあるのだろう、表情を曇らせる。二人は心配をしているのだ。妖刀を手にした冒険者の末路を知っていたからこそ。

 

 

「私はその妖刀を使う事に反対だ」

 

「そうだね。僕も賛同出来ない」

 

 

二人の真剣な空気が場をつつむ。アイズ達も二人から妖刀の危険性を感じ取り七郎治をみつめる。

 

 

「…神ヘファイトスとも約束をした。決して妖刀には飲み込まれない。必ず使いこなしてみせると」

 

「……」

 

「じゃけんが、そげな顔せんでほしいわ」

 

 

普段見せない真剣な顔で自分の意思を主張し、ふっと笑顔をみせる。

 

 

「はぁ、分かったよ。いざとなったら僕がとめる。それだけは約束してくれるかい?」

 

「そげんことにはならんけど、団長と約束するべ」

 

「よし!じゃあ早く18階層に行こうよ‼︎」

 

 

難しい話は終わりとティオナが先陣をきってミノタウロスに突っ込んで行く。他のメンバーもそれに続き18階層に繋がる連絡路まで進んで行く。

 

 

 

 

ー18階層ー

 

 

17階層の連絡路を抜けると、そこには先程までの殺伐とした洞窟ではなく。緑豊かな森と暖かな日差しが降り注いでいた。モンスターが生まれない、ダンジョンに幾つか存在する安全地帯の一つである。

 

 

「どうやら今は昼のようだな」

 

 

リヴェリアが天井を見上げる。そこには大小様々な水晶が連なり光を放っていた。その光は所々に地面から生える水晶の光と合わさって階層全体を照らす。この水晶は一定時間で光を消し、また時間が経つと光出すためダンジョン内にも関わらず昼と夜を作り出す。

 

 

「いつ見ても綺麗ですね!ね、アイズさん」

 

「うん、そうだね…」

 

 

自然を愛するエルフであるレフィーヤは感嘆しながらアイズに話しかけ、美しい森木漏れ日と小川が流れるせせらぎに耳を傾けるが、

 

 

ボリ、ボリ、ボリ…。

ボリ、ボリ、ボリ…。

 

 

美しい自然が奏でる音に相応しくない雑音が入る。レフィーヤはジト目で音の方を向くと…。いつもの死んだ目でおかきを食べる七郎治の姿があった。

 

 

「…なんで、おせんべい食べてるんですか?」

 

「えっ?これ、おかきばい?食べる?」

 

「いりません‼︎あと、どっちでもいいです‼︎」

 

 

レフィーヤはせっかくの美しい雰囲気を台無しにされむすっと膨れてしまう。

 

 

「ねぇ、このまま19階層に行っちゃう⁉︎」

 

「バカティオナ、街に行くのが先よ魔石とドロップアイテム換金しないといけないでしょ?」

 

「あっそうか‼︎」

 

 

双子の会話を聞きながら、おかきを食べつつふと思った事を口にする。

 

 

「そういや、誰も野宿道具を持っとらんけど…。ダンジョンにこもるんやろ?どげんするん?」

 

「街の宿を使うよ」

 

「いけません!団長。街で宿をとったらいくら請求されるか…」

 

「えー!ティオネけち臭い‼︎」

 

「ケチいうなー‼︎借金返すためでしょうが⁉︎」

 

「あ、はは。ここは僕が出すよ」

 

 

ティオネ達のやり取りに苦笑いを浮かべながらフィンが団長の懐の大きさをみせる。

 

 

「さっすがフィン‼︎太っ腹ー‼︎」

 

「団長ステキ!抱いて‼︎」

 

「七郎治テメェ‼︎団長に色目使いやがってぶっ殺すぞ⁉︎」

 

「いや、ちがっ!冗談じゃけん!」

 

 

ティオネに追いかけられる七郎治は街の方へ全力疾走する。捕まったら人生に終止符うたなければならない。

 

 

 

 

 

 

ーリヴィラの街(333)ー

 

安全地帯に設置されたリヴィラの街。ここは冒険者が営む街である。その為地上に比べて市場価格がものすごく高く、魔石やドロップアイテム等の買取価格はものすごく安く買い叩かれるのだ。

 

それでも一度地上に戻って、またダンジョンに潜るよりはるかに効率が良い為、中層にいけるLv.2以上の冒険者でにぎわっているのだ。余談だが333という数字は333代目と言う意味で今までに332回崩壊しているのだ。その原因は他の階層から辿りつくモンスターだったり、冒険者だったりする。

 

 

「まぁてぇ‼︎ゴラァ‼︎」

 

「ムリムリムリー‼︎」

 

 

鬼神のような形相のティオネと真剣な眼差しの七郎治が街中を全力疾走する。リヴィラの街が334代目になるかもしれない。

 

 

「そこまでだよ。二人とも」

 

「「団長‼︎」」

 

 

フィンに話しかけられて喜ぶティオネと、フィンに救われた七郎治の歓喜な声がハモる。

 

 

「街の様子がおかしいんだよ。今リヴェリア達に聞き込みをしてもらってる。みんなと合流するよ」

 

「はい」「…」

 

 

フィンに言われて二人も気付く。普段は冒険者でごった返しているのに妙に静かだ。

 

三人はリヴェリア達と合流し、情報を確認する。

 

 

「どうやら、街中で殺人があったようだ…」

 

「街中でかい?」

 

「ああ、それも宿屋だ」

 

「それは…。僕らも使う予定だから見に行ってみようか」

 

 

リヴェリアが聞いた情報を確認し、フィンが少し考えてから決断する。一体街で何が起きているのか?どうしても拭えない違和感が、フィンの危険を知らせる親指を疼かせるのだ。

 

 

 

 

 

18階層の殺人ってなんやっけ?

んー、原作にあったげなー。思い出せん…。

 

 

 

 

 

 






暫くダンジョンの話です。
また、ロキが出せないことが悲しいです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七郎治の事件簿 2





 

 

『ヴィリーの宿』。リヴィラの街の宿屋で街の中心部を外れ、洞窟を掘って出来ている。その入り口には野次馬の多くの冒険者が集まっていた。

 

 

「人が多すぎて進めないよ〜!」

 

「何も見えんね…。よし!アイズ嬢、肩車たい」

 

「分かった」

 

「よいしょ」

 

人が密集していてガヤガヤと騒がしく先に進むことはおろか、どんな状況かも分からない。とりあえず何か見えないかと七郎治が提案を出す。

 

 

「ッ⁉︎ちょ、ちょっと七郎治さん‼︎何を言い出すんですか⁉︎アイズさんはスカートなんですよ⁉︎」

 

 

七郎治の発言にレフィーヤが驚く。アイズの戦闘衣(バトルクロス)はスカートであり、丈も中々短い。コレはアイズの趣味ではなく、オンナノコスキーの主神が下心満載で選んだものだ。肩車なぞしたら、露わな太ももが触れてしまう。そんな破廉恥な事は許さない。と憧れのアイズを肩車させまいと慌てて阻止しようと振り向くが…。

 

 

「七郎治、何か見える?」

 

「んー、アイズ嬢何も見えんな」

 

「…どうして()()()()()()、七郎治さんを肩車してるんですか⁉︎」

 

「え?アイズ嬢はスカートばい?」

 

「いや、そうなんですけど‼︎それより早く降りてください‼︎」

 

「やっかましーのぅ」

 

 

予想と違った肩車を見てレフィーヤは一瞬呆気にとられるも、すぐさまアイズと七郎治を離そうと奮起した。そんな団員達を見てフィンがやれやれと動き出す。

 

 

「しかたない。僕が様子を見てくるよ」

 

「ちょっと待って下さい⁉︎団長、私も行きます‼︎」

「ねぇ!通して!団長がいるのよ‼︎」

 

 

小人族(パルウム)であるフィンはその小柄な体格を活かして縫うように野次馬達の足下を進んで行くが、ティオネはその人混み掻き分けて進めず呼びかけるも中々道が開けない。

 

 

「…おい、どけっつってんだろうが‼︎張り倒すぞ⁉︎」

 

「ひ⁉︎【怒蛇(ヨルムンガンド)】⁉︎」

 

 

よほど恐ろしかったのだろう、ざざっと冒険者達は左右に分かれフィンのいる先頭まで一直線に道が出来た。

 

 

「最初からこうすれば良かったんじゃない?」

 

「…いいわけないだろう」

 

 

フィンの元までティオネを先頭に進みティオナがあっけらかんと言うのを、リヴェリアが呆れながら叱咤する。洞窟の入り口には数人の見張りがいたが、ロキ・ファミリアに逆らいたくないのかアッサリと中に入れてくれた。

 

洞窟を掘って作っている割には、通路は広々としていて閉鎖的な圧迫感は無かった。奥に進んで行くと部屋の扉代わりである布の帳の前に数人の冒険者がいた。少々強引に中に入る。

 

 

「「…」」

 

「ぐろっ…」

 

「うわっ、ワシちょっと苦手やな…」

 

「何情けないこと言ってんのよ」

 

「レフィーヤ、見ないで」

 

「えっ?」

 

 

フィンとリヴェリアが先頭にティオナとティオネ、七郎治が続きアイズが後ろにいるレフィーヤに見せないよう押し戻す。

 

一行の目に飛び込んできたのは、床に打ち捨てられたように横たわる、下半身だけ衣服を纏い鍛え上げられた屈強な男性冒険者の死体だった。その死体は頭部を潰されたように失い真っ赤な血と肉片で床を染め上げていた。

 

 

「あぁん?おめぇら此処は立ち入り禁止だぞ?見張りは何してやがる」

 

「やぁ、ボールス。お邪魔してるよ」

 

 

死体の横で現場検証を行っていた冒険者の1人が、いきなり押しかけてきた一行に目を向け吐き捨てる。

 

Lv.3 ボールス・エイダー。眼帯をつけた凶悪な人相に屈強な巨漢でとても堅気には見えない。実質、冒険者達が好き勝手商売をし、力がものをいうならず者の街(ローグタウン)で買取所を開き『オレのものはオレのもの、てめえのものもオレのもの』とジャイアニズム全開の男だ。

 

リヴィラの街で最も実力を誇るボールスは、緊急時には街全体を仕切る立場にある為、各ファミリアの団長や幹部等の関わりを持っている。

 

フィンはボールスにまぁまぁと制し、話を進める。

 

 

「僕達も此処を利用するつもりだったんだ。探索に集中する為にも、事件の解決に協力しようと思うんだが…。どうだろう、ボールス」

 

「けっ!ものは言い様だな。てめぇらみたいに強え冒険者共はそれだけで何でも出来ると威張り散らしやがる」

 

「この街で一番言っちゃいかんやろーもん、あんたは」

 

「うるせぇよ【抜刀斎】‼︎」

 

 

フィンの提案にボールスは嫌味を言うが、七郎治にアッサリ返され周りにいた他の冒険者達もうんうんと頷く。

 

 

「あ、はは。それで現状はどうなっているんだい?何かわかった事は?」

 

「ああ、…この野郎は昨日ローブを被った女といたらしい。野郎はフルプレートで兜までしっかり被っていたから顔は分からねーが、連れの女が消えてやがる。犯人はその女で間違いねえだろう。…おい、ヴィリー。昨日の事を話してやれ」

 

 

ボールスは現状分かっている事を簡単に説明し、宿屋の主人である中肉中背の獣人に話を振る。

 

 

「ん、昨日の夜に2人で来て宿を貸し切らせてくれって言われてよ、2人とも顔を隠していたんだ。オレはその2人以外通してねえ」

 

「2人で宿を?…ああ、そういう事か」

 

「そういう事だ。この宿にドア何てもんはないから、喚けば洞窟中にダダ漏れだ。覗こうと思えばできるしな」

 

 

フィンは言わんとしている事を直ぐに察し、アイズ以外のメンバーも察している中レフィーヤだけは顔を真っ赤にしてうろたえていた。

 

 

「レフィーヤ?…どうしたの?」

 

「何でもありません‼︎気にしないで下さい‼︎」

 

「?。…七郎治、どういう事?」

 

「え゛?ワシに聞くん?…ほら、あれよ。みんなのママ(リヴェリア)に聞きなさい…」

 

「七郎治…。後で覚えておけ」

 

「はい…」「?」

 

 

結局アイズだけ分からずじまいで話が進んでいく。

 

 

「その女性の特徴はないのかい?」

 

「んー、フードを目深に被ってたから顔とか分かんねぇ。ああ、そうだ!ローブ越しでも分かるくらいいい体してたな‼︎ありゃ絶対いい女だ」

 

「おお、実はオレ様も街で見かけたな!色っぽい体つきだったな」

 

 

グヘヘと下品な笑いを発しながら、ボールス達は盛り上がる。その反対にティオナ達女性陣は冷めきった目を向け、その間に挟まれるフィンと七郎治の男組みは居心地が悪いにも程がある。

 

 

「そげんことより他にないとね?」

 

「あん?【抜刀斎】てめぇも年頃の男だろ?そんな事じゃねーはずだ‼︎」

 

いたたまれなかった七郎治が口を開けば、ボールス達は反論してきた。

 

 

「今は関係なかろうもん。ちゅうか自分の店じゃろ?何か気づかなかったん?」

 

「何言ってんだ。目の前であんないい女連れ込まれたら飲まずにやってらんねえよ。満室の札出して酒場に転がり込んだんだよ」

 

「そもそも抜刀斎。てめぇだって同じだろうが?いい女前にして素面でいられっか⁉︎」

 

「いやいや、中身が大事やろう?」

 

「おまえそれでも男かよ!エロい体を前にして下心出さねーでどうすんだ⁉︎」

 

「あんな…。ロキ・ファミリアは美女、美少女揃いぜ?いちいち下心ださんばい?それに見た目だけで良し悪しは決まらん」

 

「そんな事言ってよ、見た目が大事だろう。でなきゃ興奮出来ねーし」

 

 

そうだそうだとその場にいた街の冒険者達はボールス達に加勢し、男共のいい女談議は止まらず七郎治を巻き込んで続く。

 

 

「おまえは巨乳を見て何もおもわねぇのか⁉︎」

 

「胸の大きさでは決まらんげな」

 

「じゃあ、抜刀斎は女の体の何処をみて色気を感じんだよ?尻か?」

 

「えぇ…。尻っていいか、腰?」

 

「ほう?どの辺りだ?」

 

「いや、男にない曲線美?っちゅうんかいな…」

 

「おっ!お前も分かってるじゃねーか」

 

「はあ?くびれなんざ、太ってたらねぇじゃねーか。やっぱ乳だろ⁉︎」

 

 

ワイワイとあーじゃないこーじゃないと男共のディスカッションは止まらない。この場に女性がいる事をわすれドンドン下世話な話になっていく。転生者である七郎治はおっさん達との下ネタ話など慣れっこであった。

 

フィンが流石にマズイと思い止めに入ろうとしたが意外な人物が話をまとめた。

 

 

「華に醜も美もねぇ…。あるのはそれを愛でる男の力量のみ」

 

「「「おお」」」

 

 

七郎治の放った一言にボールス達は感心した様に声を出す。これでひと段落と清々しい気持ちの七郎治の直ぐ後ろには危機が迫っていた。

 

 

「話が済んだようで何よりだ…。七郎治、覚悟は出来てるな?」

 

 

何処までも冷たい声に、ギギギと首を後ろに傾けると冷たい目で周りに怒りのオーラを立ち込めたリヴェリアが立っていた。

 

 

「お前はまだ14歳だ…。1度教育をしなおせばまだ間に合う。と言うかお前にはまだはやい」

 

「いや、あの、ワ…ボクは人は見た目ではないと、ですね…」

 

「問答無用…」

 

七郎治に死刑宣告が言い渡され、ボールス達まで顔を真っ青にし震え上がった。宿の中は勿論、外まで七郎治の悲痛な叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 

外にいた冒険者達は後日ボールス達に詳細を聞こうとしたが、顔を青くして冷や汗を流し誰も答えなかった言う。そしてボールスにより「死にたくなければ【抜刀斎】に下ネタ禁止」と禁止令が出された。

 

 

 

 

 





本当は今回で現場検証を終わらせる予定でしたが…。

しかたないよね☆テヘペロ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七郎治の事件簿 3





 

 

ー18階層 ヴィリーの宿ー

 

 

リヴェリアの「七郎治更生プログラム」が終了し、本題の殺人事件に戻る。

 

 

「それで、結局そのローブの女性の事は分からず終いか…。殺された冒険者の方はどうなんだい?」

 

フィンが何事も無かったかのように話を進める。

 

 

「あ、ああ。野郎についてはこれから直接本人の身体に聞く。おい!解鍵薬(ステイタス・シーフ)はまだか⁉︎」

 

 

ボールスの命令と同時に獣人の冒険者が小瓶を持って来た。手早く作業を進めていく。

 

解鍵薬(ステイタス・シーフ)。一般的に冒険者の背に刻まれたステイタスを主神達の手によって他者に見えないように(ロック)されているのだ。複雑な手順があるが主神の手を借りずに外せる薬なのだ。

 

 

「…たく、コッチの野郎なら身元も犯人も分かってるんだがな」

 

 

ボールスはアイズ達の足下にチラッと視線を移す。うつ伏せでピクリとも動かない冒険者の姿があった。その冒険者の指先には血文字で“MA☆MA“と床に書かれていた。

 

 

「あ、はは…。ボソッ(ボールス?余計な事は言わないでくれ)」「ボソッ(お、おう)」

 

 

フィンの忠告に背後から放たれる威圧感にボールスは冷や汗を垂れ流す。

 

 

「ボールス、出来た‼︎」

 

「お!さてどこのファミリアだ?…と、神聖文字(ヒエログリフ)が読めねえな」

 

「…神聖文字(ヒエログリフ)なら私が読める」

 

「私も…」

 

 

リヴェリアは先の七郎治の件で、すこぶる機嫌が悪かったが頭を切り換えて事件に協力し、アイズもそれに続く。

 

 

「名はハシャーナ・ドルリア。所属は…」

 

「【ガネーシャ・ファミリア】」

 

「「「ッ⁉︎」」」

 

 

リヴェリアとアイズが読み上げたステイタスの内容にその場にいた冒険者が息を飲む。

 

 

「ガネーシャ・ファミリアはオラリオの上位派閥だぞ⁉︎」

 

「おい!おい‼︎おい⁉︎ハシャーナって言ったら【剛掌闘士】。…Lv.4じゃねーか‼︎」

 

 

ボールスの言葉に辺りが静まり返る。

 

 

「ボールス…。確認させてくれ、事件の発見からこの場を触ったりはしていないかい?」

 

「…ああ、してねえ」

 

「争った跡も、複数が立ち入った跡もない…。犯人はLv.4を一撃で仕留めている。少なくともLv.4…。いや、それ以上だ」

 

 

冷静な判断を下すフィンの言葉に、ゾクリと悪寒を走らせる。今この場にはオラリオ屈指のロキ・ファミリアの第一級冒険者が揃っているが、殺人犯は同等の力を、へたしたらそれ以上かもしれないとそう言っているのだ。

 

 

「そ、そんな事があり得るのかよ?」

 

「死体を見る限り首の骨を折られている。恐らくその後に顔を潰されたのだろう。何か目的があったのか、あるいは苛立って死体にあたったんじゃないかと思う」

 

 

フィンは目線を死体から血にまみれたハシャーナの荷物に移し、その中から一枚の用紙を取り出す。

 

 

「これは冒険者依頼(クエスト)の依頼書だ。血が滲んで読めないが…。わかる部分だけ見るとハシャーナは30階層に何かを取りに行っている」

 

「犯人はそれが目的で、見つからず。それで死体に…。確かに筋が通りますね、団長」

 

 

フィンが自分の見立てた推理をざっと説明し、ティオネ達も納得していく。

 

 

「…ボールス。街を閉鎖して、街にいる冒険者を全員集めてくれ。この事件はまだ終わっていないはずだ」

 

「お、おう!テメェら手分けして冒険者全員集めろ‼︎従わねえヤツは街のブラックリストに載せる脅せ‼︎」

 

 

自体を把握したボールスは子分達に指示をだし、迅速な対応をしていく。

 

 

 

 

 

 

ーリヴィラの街 中央広場ー

 

通達を受けた街の冒険者達でガヤガヤとひしめき合っていた。

 

 

「おい、これで全員集まったぜ。街の出入り口も封鎖してきた」

 

「よし、では早速始めよう。女性冒険者の身体検査は私達で進める。…フィン?」

 

「…いや、上手くいきすぎじゃないか?何か騒ぎが起きると思っていたんだが」

 

 

先程から黙り込み自分の親指を見つめるフィン。その様子を感じ取りリヴェリアは考え込む。フィンの親指は危険を察知する第六感のようなものだ。これには何度も助けられてきた。今、その親指が疼いているのだろう。何か危険が迫っているのだと。

 

そんな二人の様子をアイズは見つめていた。

 

 

「この中から探すんですよね、アイズさん」

 

「…うん。…レフィーヤ、あれ」

 

 

レフィーヤに問いかけられ、視線を外した先に街の外へと繋がる階段に挙動不審な犬人(シアンスロープ)の姿を捉えた。その腕には何かが抱き抱えられていた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

「はぁ、はぁ、」

(マズイ!マズイ!マズイ‼︎もし捕まったら)

 

 

アイズとレフィーヤに追われている犬人(シアンスロープ)の少女は荷物を抱え、焦りでおぼつかない足を必死に動かす。後ろを振り返り、追ってとの距離を確認する。

 

 

(あれ?一人だけ?…ッ⁉︎)

 

 

自分を追いかける者が一人減っていることに疑問を感じたが、突如として進路を塞がれた。

 

 

(も、もう、ダメだ…)

 

 

ヘナヘナとその場にへたり込んでしまった。

 

 

「ハァ、ハァ…。アイズさん、流石です!」

 

「ん、レフィーヤありがとう。…あの、貴方が持っているのは、ハシャーナさんの荷物?」

 

「ッ⁉︎あ、それは…。お願いだ!逃がしてくれ‼︎でないと今度は私がころされちゃう‼︎」

 

 

少女は完全に怯えきっていた。アイズとレフィーヤは困ったように顔を見合わせて、取り敢えず話を聞くことにした。

 

少女の名前はルルネ・ルーイ。黒髪に黒い肌、ヘルメス・ファミリア所属で二つ名は【泥犬(マドル)】。Lv.3の冒険者だった。

 

ルルネは冒険者依頼(クエスト)を受け、18階層の指定された酒場でフルプレートの冒険者から荷物を受け取り、依頼人に届ける手はずだったようだ。

 

 

「その、依頼人はだれ?」

 

「分からない。真っ黒なローブと仮面で顔を隠していて…。結構な前金を貰ったから、そこまで確認しなかったんだ」

 

「…やはり、団長達に話したほうが」

 

「それはダメ‼︎人のいるところは怖い…」

 

 

ルルネは今にも泣きそうだった。アイズ達はどうしたものかと考え、その荷物を預かることにした。布に包まれた丸い物体を受け取る。

 

アイズが中身を確認すると、それは宝玉の中に胎児のようなモンスターが閉じ込められていた。瞑っていたモンスターの目が薄っすらと開く。

 

 

「ッ⁉︎」

 

 

アイズは目が合った途端、一瞬訳のわからない目眩が襲う。

 

 

「アイズさん⁉︎大丈夫ですか‼︎」

 

「う、ん。大丈夫」

 

 

レフィーヤはすかさずアイズの手から宝玉を取り上げる。これは一体何なのか?アイズに何が起きたのか?もう嫌な予感しかしない。レフィーヤの全身に悪寒が走る。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「見つけたぞ…」

 

 

 

 

 

 






タイトルは七郎治の事件簿ですが、現在再起不能の為活躍しません‼︎

…こいつ大丈夫か?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

調教師 1








 

 

「見つけたぞ」

 

「ッ⁉︎…あなたは?」

(男性?でも、声が…)

 

 

アイズ達の前に現れたのは、真黒なフルプレートを身につけた男だった。その放たれる雰囲気はどこか不気味で決して関わってはいけない、と危険を何度もくぐり抜けてきたアイズ達の本能が騒ぎ立っている。

 

 

「…出ろ」ピィーー‼︎

 

ドオオン‼︎‼︎‼︎

 

「ッ、あれは⁉︎」

 

 

いきなり目の前に現れた人物に、臨戦態勢に入っていたが、指笛の音ともに極彩色の食人花の群れが街に現れた。

 

 

「レフィーヤ、ルルネさんとフィン達の所へ」

 

「でも、アイズさ「はやく‼︎」」

 

 

アイズの言葉に従いレフィーヤはルルネと共に街へと走り出す。

 

フルプレートの男は対峙するアイズを無視してレフィーヤを追おうとするも、アイズによって阻まれる。

 

 

「行かせない」

 

「邪魔だ」

 

 

男が腰に下げていた真黒な片刃の両手剣を引き抜きアイズへと切り掛かる。アイズは振り抜かれた剣を愛剣【デスぺレード】で受け止める。

 

 

ガキン!

(ッ⁉︎この人、強い)

 

 

鍔迫り合いを行いながら男は、片手を剣から離し再び指笛を吹く。

 

 

「オオオオオォ‼︎」

 

「きゃあ⁉︎」

 

「レフィーヤ!」

 

 

街へと向かおうとしていたレフィーヤ達の前を食人花が立ちはだかる。

 

 

「くっ!」

キン!

 

 

アイズは剣に力を込めて、男を弾き飛ばす。一気にレフィーヤ達の元に駆けつけ食人花を葬る。が…。

 

食人花の群はアイズに狙いを定め、襲いかかってきた。アイズとレフィーヤ達は分断されてしまう。その隙を逃さず男はルルネを投げ飛ばし水晶の柱が飛び出す岩肌に叩きつける。

 

 

「と、止まってください‼︎」

 

 

レフィーヤが、杖を向け男を威嚇するも一瞬で接近されてしまった。男はレフィーヤの細い首を片手で掴み持ち上げる。

 

 

「あ、ぐぁ」

 

 

地面から足が離れ掴まれた首がどんどん絞められる。掴まれる手を振りほどこうと必死にもがくがびくともしない。

 

 

(ーアイズ、さん)

 

 

朦朧とする意識の中、敬愛する彼女の名を呟く。ミシッと音を立て手足がだらんと力を無くす。もう、駄目だと。諦めかけたとき…。

 

周りの水晶ごと複数の食人花を薙ぎ倒しながら金髪金眼の少女が現れるのが見えた。少女はそのまま男に切り掛かり、真黒な兜を弾き飛ばす。ああ、また助けられた…。と自分を情けなく思う。

 

 

「大丈夫?レフィーヤ」

 

「ゴホッ、ゴホッ…。はい、大丈夫です」

 

 

アイズによって切り飛ばされた男がのそりと立ち上がる。

 

 

「ああ、窮屈でかなわん」

 

 

男はフルプレートの鎧を次々と脱ぎ捨てていく。

 

 

「え?…あなたは、男性なんじゃ?」

 

 

レフィーヤは鎧の下から現れた、細くしっかりと鍛えられた手足、七郎治が魅力を感じると言ったくびれ。そして女性特有の双丘。

 

 

「あなたが、ハシャーナさんを殺した人?」

 

「それがどうした?」

 

 

最後に()()()()()()()()()

皮のしたから目つきは鋭いが整った容姿の赤毛の女が現れた。

 

 

「そ、それは?」

 

「知らないのか?死体の皮をポイズンウィルミスの体液に浸せば腐敗を止められる」

 

「そ、それじゃあ…。もしかしてハシャーナさんの?」

 

 

レフィーヤはとてつもない吐き気に襲われる。死体の皮を被って変装するなんて人として考えられない。目の前の女の行動が信じられなかった。

 

 

「…宝玉を渡せ」

 

 

迫り来る赤毛の女にアイズが応戦する。あまりの出来事に固まったレフィーヤとルルネを庇いながら剣戟を繰り広げる。

 

 

(くっ、人間相手に使いたくない、けど)

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 

アイズの風を纏った一撃が赤毛の女を吹き飛ばす。受け身をとり地に着地した女はゆっくりとアイズを見据える。

 

 

「今の風、…そうかお前が()()()か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

「なんだ、こいつらは⁉︎モンスターの侵入を許しやがって…。見張りは何してやがる⁉︎」

 

「こいつら、怪物際(モンスター・フィリア)のときの!」

 

 

突如、リヴィラの街に現れた食人花に街の冒険者達はパニックを起こし逃げ惑う。

 

 

「ボールス!5人一組で小隊を作らせろ‼︎リヴェリアは詠唱を!ティオナ、ティオネは彼らを守れ‼︎」

 

「もう、どっから現れたの⁉︎」

 

「ちょっとバラバラに逃げるんじゃないわよ!」

 

 

突然の異常事態(イレギュラー)にも関わらず、都市最強派閥の一角を束ねる団長であるフィンは的確で迅速な指示をとばす。

 

 

(このタイミングでモンスターの強襲。まさか…。)

 

 

安全地帯である18階層はモンスターを生み出さない。上下の階層から紛れこむ事があっても此処までの規模はそうないことだ。

 

明らかに不自然すぎる。まるで誰かが裏で糸を引いているようだ。

 

フィンは指示を出した後、すぐに街の外壁へと駆け抜けて行く。水晶が突き出す岩肌を一直線に縦断し、崖の淵から下を見下ろす。

 

そこには湖の中から数十にも及ぶ食人花が押し寄せていた。

 

 

(間違いない。殺人犯は調教師(テイマー)だ‼︎)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

「ーー!ーーー‼︎‼︎」

 

「ーー〜⁉︎〜〜ー‼︎」

 

 

途切れていた意識が少しずつ戻ってくる。周りの喧騒に何事かと思いゆっくりと起き上がった。

 

 

あれ?…ウソやろ?

 

 

目に飛び込んできたのは、食人花がリヴィラの街で暴れまわり、街にいた冒険者が混乱し逃げ惑っているように見えるが、何とか応戦しようと奮起していた。その中にフィン達も食人花と戦う姿が。

 

自分は宿の中に居たのでは?いつの間に中央広場に?

頭を振り、記憶のたどっていく。

 

 

あー、殺人事件の犯人の話をしとって?悪ノリし過ぎてリヴェリアにとんでもないもんくらったんよね。…ヤベッ、思い出したくないわ。

 

 

ハッキリと思い出してもいないのに体が拒否反応を起こし、全身に寒気が走る。

 

 

って、そげんことじゃなか!ばかたれがー!

原作を思い出さんか!…取り敢えず死体の身元確認が取れたんやろうな。街の冒険者を集めてたな。そんで転がってたワシもここに運んだんやろか?…で?次が?

 

確か、アイズ達がハシャーナの荷物を持った人を捕まえて?…鉄拳制裁?いや、違うな…。

 

ゾクリッ‼︎

 

 

記憶を次々と辿っていき、今がどんな状況なのかやっと理解し、全身に鳥肌が立つ。

 

 

やべーな…。食人花を街にけしかけたのはハシャーナを殺した女。そして犯人は今‼︎

 

 

弾かれたように立つ上がり、一気に駆け出す。『見聞色の覇気』を使い周りの声に集中する。

 

 

『うおおおおー‼︎』

 

『ぐあぁ!』『怪我人を下げさせろ!次が来るぞ‼︎』

 

『うわぁぁ⁉︎』『おい⁉︎しっかりしろ‼︎』

 

『くそ!何なんだ⁉︎』

 

 

周りの声をどんどん拾い上げる。冒険者達の必死に健闘する声、傷を負った悲痛の叫び。そして、一つの声を拾い上げる。

 

 

『【目覚めよ(テンペスト)】』

 

トクン

 

いつも自分の傍で聞く、探していた声を見つけた。だが同時にドロドロとした気持ちの悪い得体の知れない鼓動を感じ取る。

 

 

なん、じゃ?

 

『ーーー。お前が()()()か…。』

 

ドクンッ

 

『アアアアァアアァアアアアアーー‼︎‼︎‼︎』

 

うっ、うあ…。

 

 

訳のわからない鼓動の後に、頭が割れそうなほどの凄まじい人外の絶叫が体の中から響き渡り、足がもつれ走っていた勢いのまま前方へ突っ込む。

 

一度『見聞色の覇気』を切り、冷静になるよう落ち着かせる。

 

 

ズズッゴゴゴゴゴゴーー‼︎‼︎‼︎

 

街の外にいた一体の食人花が周りの食人花を次々に取り込み、前回の遠征で50階層に現れた女体型の食人花へと変貌した。その姿を七郎治はボーとみつめる。

 

 

…あぁ゛、うっとおし〜のぅ。

 

 

ゆらあと立ち上がる。

 

 

ほんに腹がたつぜよ。毎度毎度、先の事が分かっちゅーに…。

原作をこわさんように?阿呆か?

貴様ん家族(ファミリア)が目の前で傷付くのを黙って見とるんか?阿呆かそげなことあるか‼︎

 

 

怒りに任せて地面を蹴り自身の相棒の元へと駆ける。

 

 

赤毛の調教師(テイマー)は今のアイズよりも強かったはずぜよ。

 

アイズより弱い自分が行っても何も出来ん。

 

…知らん!強いとか弱いとかどうでもいいぜよ‼︎自分の思うように動くだけぜよ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






あまり上手くまとめられなかったな…。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

調教師 2



すいません。
15日に間違えて書きかけのを投稿してしまったので再度上げます。




 

 

「今の風。…そうかお前がアリアか」

 

「ッ⁉︎」

(今、なんて…?どうしてそれを)

 

 

アイズは赤毛の女の言葉に思わず固まってしまった。なぜ知っているロキ達以外に知る人はいないはず…。頭が混乱し、どうして良いか分からない。

 

固まって動かないアイズの後ろで動くものがあった。何かに起こされたように瞑っていた目を徐々に開けていく。

 

 

「アアアアアアアア‼︎」

 

 

覚醒し産声に成るのだろうか、甲高い人外の叫び声を上げる。思考を停止させていたアイズ達の意識を一気に引きずり込む。

 

宝玉の胎児は自身を覆う宝玉を突き破り、アイズ目掛けて飛び出してきた。アイズはギリギリでかわし、背後に離れて居た食人花に張り付いた。そして、ズブズブと一体化していく。

 

ズズッゴゴゴゴゴゴ‼︎

 

寄生した食人花は周りの食人花を取り込みながらその姿を変貌させた。

 

 

「一体なにが⁉︎」

 

「チッ…、全て台無しだ」

 

 

赤毛の女は睨みつける。その視線の先には変貌し、女型の食人花の姿があった。

 

女型の食人花は街の方を見やる。おそらく魔導士達の魔力を感じ取ったのだろう。

 

 

「レフィーヤ、早くフィン達の所へ。私はこの人の相手をする」

 

「ッ⁉︎…」

 

 

レフィーヤはルルネの手を引き再び街へと駆けていく。フィン達にはやくこの事を知らせる。それが自分の役目だ。

 

 

「…街を襲え」

 

 

赤毛の女は食人花に指示を出し、アイズを見据える。ふっと姿が消えたと思えばすぐ目の前に現れ、真黒な片刃の剣が振り下ろされる。しかし、オラリオで1、2を争う剣士であるアイズはデスペレードで受け止めいなす。

 

その僅かに出来た隙を逃さず(エアリアル)を発動させる。風を使った強制的な瞬間移動で赤毛の女の背後に回り込み、渾身の一撃を叩き込む。

 

 

「ふん…」

 

「ッ⁉︎」

(避けられた⁉︎)

 

 

赤毛の女は難なくアイズの一撃を屈んで避け、腹部に強烈な蹴りを叩き込み弾き飛ばす。

 

風のクッションを作り地面から突き出す水晶の柱に衝突しないように受け身を取る。威力を殺しきり目の前を向くと既に赤毛の女の剣が迫っていた。

 

 

「…」

 

「くっ‼︎」

(このままじゃ⁉︎)

 

 

鍔迫り合いのなかアイズは徐々に押され始める。赤毛の女は剣の柄から片手を離し、アイズに拳を叩き込もうとした時。2人の間に斬撃が飛び込んできた。

 

 

「なに⁉︎」

 

「七郎治…。」

 

 

アイズはこんな緊迫した状況にも関わらず、いつも自分の背中を守ってくれる相棒の姿にどこか安心感を覚えた。

 

何も言わずチラッとアイズを見やる。言葉など交わさずとも分かる。後方にとびのいた赤毛の女に追撃を加える。

 

 

「リャアアア!」

 

「…ふっ!」

 

「クソッ‼︎」

 

 

赤毛の女は一気にペースを乱される。アイズが振るった剣を受け止めると、死角から七郎治の刀が追随する。こちらから攻撃を仕掛けると七郎治が受け流し、アイズが攻撃を仕掛けてくる。

 

2人の一糸乱れぬ攻撃。このまま押し切れるかと思った瞬間、七郎治目掛けて剣撃が打ち込まれた。目の前に迫る刃を体を回転させて紙一重でかわす。

 

 

「…ギトーか」

 

「すまない、レヴィス遅くなった。…いや、邪魔したか?」

 

「ふん…」

 

 

少し癖のついた黒髪に浅黒い肌。まるで血のような赤黒い瞳。よく鍛えられたその体は黒の戦闘服(バトル・クロス)を身に纏っていた。その手に握られているのは刀だ。刀身は吸い込まれるような黒、その刃に浮かぶ波紋は怪しく、禍々しい紫が煌めいている。

 

 

「…あの人の仲間?」

 

「…やろうね。それよか、お互いご指名みたいやね。気いつけて」

 

「うん、七郎治も…」

 

 

レヴィスと呼ばれた赤毛の女はアイズを見据え、ギトーと呼ばれた黒髪の男は七郎治を見据える。一歩一歩横に間合いを取り始めていた。

 

七郎治は普段の眠そうな顔を真剣なものに変え、ギトーに視線をぶつける。

 

 

誰こいつ?知らんっちゃけど?

原作で赤毛の調教師(テイマー)にこんな仲間おらんかったろうもん。仲間が出てきても今じゃなかろう?

…マジか〜。イレギュラーかこれ。

 

 

それぞれ邪魔にならないぐらいの距離を開けたら戦闘が開始された。

 

アイズとレヴィスの剣を打ち合う音が響き渡る。七郎治達は動かず相手の様子を探る。

 

 

向こうの出方を見たかったんだが…。こっちから仕掛けな埒があかん。

 

 

間合いを少しずつ詰める。ギトーは相変わらず動かない。

 

顔はギトーを捉えたまま、刀の柄に手をかけているのを隠すように体を右に向け腰を落とす。

 

 

雷電型(イカヅチノカタ)第二式 紫電閃(シデンセン)

 

 

左足を軸に残し完全な脱力にし、右側へと倒れこみ体を落下させる。

 

 

「ッ⁉︎」

(はやいな…)

 

 

重力による落下速度は普通に倒れこむより予想以上に早い。地面すれすれまで倒れこむとここに脱力していた体の筋力を全開にし、魔力を踏み込む足に集中させ超加速へと移行。

 

重力と筋力が合わさった疾さと威力。それら全てを殺さずに体を半回転させながら逆袈裟に抜刀。普通なら反応できずにただ切られるのみ。

 

 

ガキン!

 

 

だが、ギトーは上段からの振り下ろした刀で七郎治の下段から斬り上げを難なく防いだ。

 

 

クソッ!こいつ受け止めおった‼︎…それに

 

「ふふっ。どうした?この程度か?」

 

ワシを殺す気ねーな?完全に遊ばれとるわ

「そげん余裕かましてええんか?自分より弱い奴に足元すくわれるぜ?」

 

「ふふふ。僕は楽しいんだよ。正直、君より強い奴はいくらでもいるだろう。でもね、剣士として僕はこんなに楽しいのは久しぶりだよ」

 

 

鍔迫り合いを押しのけ、何度も斬り結ぶ。

 

七郎治は都市でも最高峰に位置するロキ・ファミリアに所属している。

他の第一級冒険者や第二級冒険者のレフィーヤのようなずば抜けてはおらず陰でアイズの腰巾着だとか、ランクアップもアイズのおこぼれだとか言われたりもしている。だが、目立たないだけでその剣士としての実力は本物。今まで幾度となく敵を斬り伏せてきた。

 

そんな七郎治が、目の前の剣士に手も足もでず只々遊ばれていた。

 

 

「セヤッ!」

 

「甘いよ」

 

「う!ぐぁ」

 

 

後方に跳びのき威力を殺しながら受け身を取る。刀を構えた直後、別の場所から何かが叩きつけられたような大きな音が響き渡る。

 

ハッとして音の方に目を向けるとアイズが岩壁まで吹き飛ばされ、レヴィスがとどめを刺そうとゆっくりと近づいていた。

 

ほぼ反射的にアイズの方へ駆け出そうとしたが、ギトーにより阻まれる。

 

 

「何処に行くつもりだい?君の相手は僕だよ」

 

「くそ邪魔やのぅ」

 

 

抜けきれない。隙をつこうとしても直ぐに阻まれ、鍔迫り合いを強いられる。

 

アイズの方へ目を向けると、レヴィスは拳を握りアイズへと振り下ろそうとする瞬間だった。

 

 

「アイズ‼︎」

 

 

普段は敬称呼びだが、そんな事は気に留めずなりふり構わず叫んだ。七郎治には周りがスローモーションに感じた。

 

 

嫌、だ。

 

 

自分は相棒なのに、その背中を護る為にいるのに、何も出来ずに終わらせてしまうのか?

怒り、悲しみ、焦燥感。いろんな感情が押し寄せて来る。アイズへ迫る死の気配をただ見ている事しか出来ない。

 

 

間に合わん、のか?

 

 

アイズに迫る拳を呆然と眺める。

 

 

 

 

 

しかし、レヴィスの殺意をはらんだ拳はアイズに届く事は無かった。

 

黄金の穂先を持つ槍と、九つの魔法石が輝く長杖が交差し受け止めていた。

 

 

「うちの姫君に手を出すことは」

 

「我らが許さん」

 

 

我らが団長、フィン・ディムナ。副団長、リヴェリア・リヨス・アールヴ。家族(ファミリア)の危機に颯爽と駆けつけ、家族(ファミリア)に仇なす敵を打ち払う。2人の姿がとても輝いて見えた。

 

 

カッケ!お二人さんかっけぇー‼︎お二人三角形‼︎

 

助けに来て分断された阿呆とは大違いだ(笑)

…もう泣きたいわ、ばか

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

妖刀の片鱗

 

 

 

「うちの姫君に手を出すことは」

 

「我らが許さん」

 

 

フィン、リヴェリアによる反撃が開始され、七郎治は戦闘中にも関わらず安堵と共に脱力感を感じてしまった。

 

 

「よそ見しないでよ」

 

「ッ⁉︎」

 

 

ギトーが鍔迫り合いを押し返し、切り掛かってくる。七郎治は目の前の敵に集中する。もう、心配する事は何もない。

 

ギトーの斬撃をいなし、袈裟斬り。それをかわされ突きを放たれる。バックステップで跳びのき距離をあけ、力を溜める。

 

 

「一刀流 三十六煩悩砲」

 

 

刀を振り下ろし、見えない斬撃が飛ぶ。

 

ギトーは大気中の空気の流れの変化を感じ取り難なくかわす。さらに七郎治と同じ要領で見えないが殺気を纏った斬撃を飛ばした。

 

 

「ッ⁉︎」

 

 

真横に跳びのく。さっきまで七郎治がいた場所に切り跡が残っていた。

 

 

「へぇ、斬撃を飛ばせるんだ?」

 

「そっちこそ、えらいもん飛ばしてくるんやな」

 

 

同時に飛びかかり互いの攻撃を刀で受け止め合う。

 

 

「…ねえ、君の刀って妖刀だろ?」

 

「っ⁉︎…だったらなんね?」

 

「ふふっ、分かるんだよね。気づいてなかった?僕の刀も妖刀だよ?」

 

「はっ!そげんことワシには関係ないわ」

…全然分からんかった。そうなん?

 

 

七郎治は一瞬刀から力を抜き相手の力を下へと受け流す。その流れのまま切り上げるも瞬時にかわされ、距離を取られる。

 

 

「ねぇ、どうせなら妖刀同士の戦いをしようよ」

 

「はぁ?」

 

「ふふっ」

 

 

ギトーは笑みを浮かべると、殺気を放つ。その殺気に一瞬ひるみそうになるも踏み止まる。七郎治は警戒心を一気に引き上げた。

 

 

…何がおきとるんや?

 

 

目の前のギトーが放った殺気かと思ったが、どうやらそうではないらしい。人が放つ殺気とは異なる、異質でこの世のものではないような、逃れる事のできない、そんな感覚に陥る。

 

 

「行くよ」

 

 

ギトーが視界から消え一瞬にして間合いを詰められる。その斬撃は速く荒々しく今までの遊びの攻撃とはわけが違う。

 

 

「…あ?」

 

 

気がついたら切られていた。無意識的に半歩分程の回避をしていたようだが、左肩から右脇腹まで切られた。七郎治の着流しと陣羽織は普通の服とは違い強固な戦闘服(バトルクロス)だ。それを易々と切り裂きその身に到達された。

 

 

「ぐ、ぁ」

結構深いぞこれ…。『武装色の覇気』を纏うことも出来んかった。

 

ドクンッ!

 

は、あ?

 

 

決して浅くはない傷を負ってしまった。その傷口から何かが入り込み体全身に行き渡る感覚に襲われる。右手から更に別の何かを感じ取る。

 

 

なん、じゃ?

 

ドクンッ!

 

 

自分のものではない鼓動を感じたが、直ぐにおさまり思考を切り替えギトーを睨みつける。

 

 

回復する余裕はくれんやろうね…。

 

 

ふーと息を吐き、攻撃態勢に入る。相手の呼吸を読み、合わせる。自分と相手の呼吸が合わさった瞬間、魔力を込め『縮地』を使い『雷電型(イカヅチノカタ)第二式 紫電閃』を目にも映らぬ速さで繰り出す。

 

 

「へぇ?速いね」

 

 

ギトーは反応に一瞬遅れ僅かにかわしきれず左肩に傷を負う。

 

 

ドクンッ!

 

またや…。何なんじゃこれは

 

 

さっきはギトーに切られた時に感じた鼓動、そして今回はギトーを斬った時に感じた鼓動。以前どこかで感じたものと似ている。この正体に辿り着きたい『見聞色の覇気』を使えば分かるのだろうが、決して使ってはいけないと本能がブレーキをかける。

 

 

ドクンッ‼︎

 

【ーーーー】

 

 

何かが語りかけてくる。だが、その声はハッキリとせずざわめいているだけだ。

 

 

【…ーー、ーー】

 

 

全身に悪寒が走る。

 

 

う、あ…。

 

 

その足は震え、全身から汗を噴き出し、切られた傷口から血が滴り落ちる。七郎治は崩れ落ちそうになるのを必死に堪えていた。

 

 

…三代鬼徹なんか?

 

 

右手に持つ三代鬼徹をじっと見つめる。それは三代鬼徹を初めて手にした時に僅かに感じたものだった。

 

 

「気付いたみたいだね。今、君の中で妖刀が支配しようとしているんじゃないかい?」

 

「ッ⁉︎…まじか」

 

「ふふふ。ほら、はやく妖刀に身を任せなよ」

 

「そげんことしたら死ぬやろうもん」

 

「それは違うよ。妖刀を扱おうとして、死を迎えた馬鹿は腐る程いるだろう。けどね、理解し身を委ねる。それだけで良いんだよ」

 

「…何を言いよるんだ?」

 

「だって、僕の望みと妖刀の望みは一緒なのだから」

 

 

ギトーは口角を吊り上げ、眦を歪ませ不気味に笑う。妖刀が血を求めているかのように、自身の刀に着いた七郎治の血を手ですくい取り、それを舐める。

 

全身の身の毛がよだつ光景だ。

 

 

こいつ、危ないやつや!気持ち悪か〜、ワシの血を舐めたばい⁉︎マジで関わったらいかん部類だべ‼︎

 

 

七郎治はさっきまでの三代鬼徹の騒めきなど、すっかり何処かに吹き飛ばし、目の前の危ないやつに鳥肌がたって仕方がない。鳥肌が立つ腕をさすりながら、平常心へと戻る。

 

 

「ふん!ワシは妖刀には呑み込まれん‼︎」

 

 

さっきまで呑み込まれそうになっていた癖に、変な思考で平常心を取り戻し偉そうに言い放った。

 

 

「…つまらないね」

 

 

ギトーはため息を吐くと、先程と同じように消え、切りかかってくる。

 

 

「おや?」

 

「それはさっき見た」

 

 

腐っても第一級冒険者である七郎治は同じ攻撃を易々とくらはない。しかし、同じ攻撃を仕掛けてくるとは完全に舐められていた。

 

 

つっても、相手から感じる妖刀の不気味なんもんは相変わらずやんね。気い抜いたら、一気に持ってかれるわな。

 

 

七郎治の反撃は空振りに終わり、ギトーの斬撃を浴びる。こちらの攻撃は一向に当たらず、相手の攻撃を受け止めることも出来ない。

 

先程とは違い全身に『武装色硬化』を纏っているにも関わらず最初に切られた傷程ではないが、七郎治の身に確実に刀傷が増えていく。

 

『武装色の覇気』は相手が自分より上だった場合、負けてダメージを受けてしまう。ギトーが纏っているのは覇気ではないが、妖刀から放たれる殺気、自身が放つ殺気が合わさって七郎治の覇気を超えていた。

 

 

また遊ばれよるな…。

血ぃ流し過ぎて、武装色も保てんくなってきた…。

 

 

朦朧とする意識の中、片膝を地面に着いてしまった。何とか立ち上がろうとするも、力が入らない全身の傷口から血が溢れる。

 

意識を手放す一歩手前で目の前に影がさす。ギトーが止めを刺しに来たかと一瞬思ったが、その影は禍々しい殺気など放たず、凛とした風を纏っているようで七郎治のよく知る人物だった。

 

 

「大丈夫?」

 

「…アイズ」

 

 

自身の相棒の姿に心から安心を感じた。

 

 

「そこまでだよ」

 

 

聞き覚えのある声が耳に響く。声の方を見やると何時もの頼もしい仲間達の姿があった。

 

 

「君のお仲間は撤退したけど、どうするんだい?」

 

 

フィンは七郎治達とギトーの間に立ち、いつの間にかレヴィスが撤退し、女型の食人花もたおされた事を伝える。

 

 

「…そうか。なら、僕も引かせて貰おう」

 

「話が早くて助かるよ」

 

 

ギトーは妖刀を鞘にしまう。まるでフィンとアイズの姿が見えていないかのように七郎治だけを見据え口を開く。

 

 

「次に会うときは楽しみにしているよ。今度はこんなお遊びじゃなくて、本気の斬り合いをしようよ。…()()からは簡単には逃れられないよ」

 

 

そう言い残すとギトーは姿を消した。

 

 

 

 

 






戦闘シーンを表現するのが難しいです。
今後の課題ですね。

さて、前回からいきなり出てきたオリジナルの敵。こいつ誰や?と思われた方も多いでしょうが、七郎治も思っています!

まぁ、妖刀使うんなら妖刀同士の戦いをしてみたかった訳で…。気がついたら生まれてましたギトー君。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

渇望



はい、もうタイトルも思い付かなくなってきたのでそのまま活用ささました。




 

 

リヴィラの街で起こった殺人事件から、六日が経つ。ギトーが去った後、七郎治はリヴェリアの回復魔法とポーションで傷の手当を受け、リヴィラの街の冒険者達と合流して地上に戻ることになった。

 

地上に戻ってからは、主神であるロキの指示により、調教師(テイマー)のことは伏せてギルドに報告した。その為、ハシャーナを殺した犯人として赤毛の女と仲間である黒髪の男は指名手配され、他の下級冒険者に混乱を招かない為に一部を除き隠蔽された。

 

 

 

 

 

ー37階層 白宮殿(ホワイトパレス)

 

事件の後始末を終えた後、アイズ達はサポーターに兎人(ヒュームバニー)のラクタを加え再びダンジョンに潜っていた。

 

 

「それにしても、リヴィラの街はもう治ってたね!」

 

「まぁ、ないと困るしね」

 

 

途中で立ち寄ったリヴィラの街を思い出しながらヒリィテ姉妹が話をしていた。街の頭であるボールス曰く『この街は冒険者の要だ‼︎俺様達が一肌脱がないでどうする⁉︎』といっていたが、金儲けがメインだろうと言わずもがなであった。

 

 

「それに、調教師(テイマー)達の動きもほとんどないね?」

 

「ンー、この短期間でアレだけのモンスターは手懐けられないだろうから、暫くは動かないと思うよ」

 

 

ティオナの質問に答えたフィンの言う通り、あれだけの事件を起こしたのにも関わらず、レヴィス達の動く痕跡は一切ない。

 

その為、襲撃を受ける事なく37階層という深層まで難なくこれた。まぁ、深層に入ってからはLv.3のレフィーヤとラクタは他の第一級冒険者達の戦いを見ている事しか出来なかったが。

 

 

「やっぱりリヴィラの事件からアイズの様子が変よね?鬼気迫ってるっていうか…。それに七郎治もあまり喋らないし」

 

 

最前列で戦闘するアイズと七郎治を見ながら、ティオネがそっと妹であるティオナに話しかける。

 

 

「そうだよね〜。…よし、私もアイズ達の所に行くね‼︎」

 

「あっ!こら、周りのモンスター倒してから行きなさいよ‼︎」

 

 

周りにモンスターがいるにも関わらずティオナが抜けてしまった為、ティオネはその分カバーしなければならなくなり愚痴をこぼす。

 

 

 

 

一通り戦闘を終え、ルームで休憩をとる事に。この37階層は真白な壁に包まれており、さらに上層とは違い壁の高さから幅の広さ全てが大きい構造だ。

 

現在は37階層の最奥に当たるそれまでより遥かに大規模なルームに来ていた。この最奥のルームは階層主が現れる場所だが、ロキ・ファミリアが三ヶ月前の遠征で倒してからまだ復活していない。

 

モンスターが生まれないようにルーム内の壁を傷を付け。その際、大量のアダマンタイトが採れたのは思わぬ収穫だ。

 

各々が軽い食事をしたり、武器の手入れをしている中。アイズは地面に座り込み顔を伏せていた。

 

 

(…あの赤毛の調教師(テイマー)はいったい何者なの?どうしてアリアの事を…)

 

 

アイズはリヴィラの街の事件で退治した調教師(テイマー)の事を考えていた。

 

 

(強かった。このままじゃ辿り着けない…。それに…)

 

 

ギュッと唇を噛み締める。

 

 

(七郎治にあんな、怪我をさせてしまった。私がもっと強ければ…)

 

 

どんな時でも自分の背中を守ってくれていた相棒が、自分を助けに来て怪我を負った。敵に分断されなければ?自分がもっと強ければ?あんな事にはならなかった。自責の念が沸き起こり治まらない。

 

 

「ねぇ、アイズ?聞いてる?」

 

「…ごめん、ティオナ」

 

 

思考に没頭していたアイズは、話しかけてきたティオナに気付く事が出来なかった。

 

 

「だから、そろそろお金も貯まったんじゃないかな?」

 

「そう、だね」

 

 

ティオナの話にアイズは何処か上の空だ。

 

 

「…リヴェリアは何か聞いていないのかい?一度負けたくらいでは、あそこまでならないだろ」

 

「ダメだ。なんでもない、の一点張りだ」

 

 

アイズの様子を見ながらフィンが困ったようにため息をつき、リヴェリアも片目を伏せる。

 

 

「今、灸を据えても意味はないだろう」

 

「そうだね…。七郎治もあんな感じだし、今は放っておこう」

 

 

フィンはチラッと視線を移す。その先には、いつもの死んだ目ではなく、何かを見据えるようにただジッとアイズを見ている七郎治の姿があった。

 

休憩を終え、バックパックも魔石やドロップアイテムで一杯になっているので、地上に帰還することに決めた。しかし、その矢先にルームの入り口から大量のスパルトイが現れた。

 

スパルトイ。Lv.4にカテゴライズされる骸骨の兵士。この階層では最強に部類され、力も強く、スピードも速い。その上骨で出来た様々な武器を携えている。

 

七郎治は初めて見たときにブルック!と叫び。二回目に遭遇したときは遠征中にも関わらず、わざわざ持参したアフロのカツラを一番背の高いスパルトイに被せ、最高幹部の3人から大目玉をくらったのは、また別のお話。

 

 

「…私が行く」

 

 

アイズはデスペレードを引き抜く。スパルトイの軍団に単身で突っ込もうとするも、アイズの前に七郎治が立ち塞がる。

 

 

「七郎治。私が、行く」

 

「【悪しき魂を持つ鬼の群れ。この世に禍をもたらす】」

 

 

七郎治はアイズをチラッと見やるも、構わず魔法の詠唱に入った。

 

 

「【邪なる者を打ち払う。四ッ目ヶ金眼の守り人。我、鬼を討つ鬼とならん】」

 

 

金色の光が七郎治を包み込み、四ツ目の鬼の形をなす。

 

 

「【鬼千切り】‼︎」

 

 

魔力を集結した金色の巨大な斬撃が飛び、たったの一撃でスパルトイの軍団を一掃してしまった。

 

 

「…七郎治」

 

「…」

 

 

アイズは悔しそうに顔を歪めた。何故邪魔をした?私はもっと強くならないといけないのに。焦燥感に駆られて、気づかない内に七郎治を睨みつけていた。

 

 

「…アイズ嬢。ワシと勝負しようや」

 

「…」

 

「は?何言ってるんですか⁉︎七郎治さん」

 

 

いきなりの七郎治の提案に全員が何言ってんだこいつ?みたいな顔をした。しかし、そんな事はおかまい無しに七郎治は構える。

 

 

「ほら、こいよ」

 

「…」

 

「こんのなら、こっちから行くばい」

 

 

七郎治はアイズに向かって飛び掛かり、そのままの勢いで刀を振り下ろす。七郎治が冗談ではない事が分かるとアイズも応戦する。

 

 

「ちょっと!何やってんの⁉︎」

 

 

ティオナが二人を止めに入ろうとすると、リヴェリアとフィンが待ったをかける。

 

 

「少し様子を見てみよう」

 

 

本来であればダンジョンの深層で、手合わせとはいえ仲間同士での戦闘など関与されるものではない。だが、団長であるフィンと副団長のリヴェリアがこれを許すのであれば他の者は口出しできない。

 

ルーム内に剣の打ちあう音が響き渡る。

 

アイズの攻撃はいつものようなキレはなく、荒々しくなっていた。今のアイズの目には赤毛の女、レヴィスしか映っていない。

 

そんな中、七郎治が距離を取り、刀を鞘に収め腰を据え居合の構えをとる。アイズはその様子を見て上段から斬りかかる。

 

 

「ッ⁉︎」

 

「「「「「ッ⁉︎」」」」」

 

 

今しがた起こっている事に全員が唖然とした。アイズの一撃を止めたのは、七郎治の居合ではなかったのだ。アイズのデスペレートは七郎治の両手で挟み込まれていた。七郎治は俊速のアイズの剣を真剣白刃取りで止めたのだ。

 

七郎治はゆっくり立ち上がり、デスペレートから手を離しアイズをじっと見つめる。

 

 

「…今のアイズ嬢じゃ、ワシを倒すことは出来んよ?」

 

「ッ⁉︎…私は‼︎」

 

「前に言ったげな?一枚の葉にとらわれてたら木の全体は見えん。一本の木にとらわれてたら森全体を見ることは出来んよ」

 

 

『見聞色の覇気』により、アイズがレヴィスのことで悩み、自分自身の弱さに怒り、七郎治に傷を負わせた事に責任を感じていた事を知っていた。

 

 

「…」

 

「…アイズ嬢。一枚目の葉すら見えてなかろう?今闘っていたのはあの赤毛の女ではなく、ワシやって知ってたか?」

 

「ッ⁉︎…」

 

 

前世の記憶でアイズがこれを乗り越えることを知っていた。だが、自分が傷を負った事で余計な重荷を背負わせてしまった。そんな自分の不甲斐なさに腹がたつ。

 

だからアイズの重荷を減らそう、あの日の約束を絶対に果たすと誓ったのだから。

 

 

「アイズ嬢が何を思おうと、ワシは約束を破る気はないとぜ」

 

 

七郎治は笑う。

一緒に行こう。共に約束を果たそうと。

他の誰も知らない二人だけの約束。

 

 

 

 

 

そんな七郎治の言葉を聞いて、アイズは少し肩の力が抜けた。

 

目を瞑り考える。今の自分に必要なこと、やらなければならい事を。

 

 

(約束、だからこそ強くならなくては…)

 

 

決意を新たにアイズは一歩を踏み出す。

 

 

「フィン、リヴェリア。お願いがあるの」

 

 

アイズの願い。

 

 

「…私だけ、もう少しここに残りたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アイズの限界突破 1






 

 

「フィン、リヴェリア。お願いがあるの」

 

「…私だけ、もう少しここに残りたい」

 

 

アイズが発した言葉に一同が驚く。

 

普段は自己主張をせず、天真爛漫なティオナに振り回されたり、七郎治のしょうもない悪ふざけに巻き込まれたりするアイズの申し出はとても珍しかった。

 

 

「みんなには迷惑を掛けない。食料も分けてくれなくていい。…だからお願い」

 

 

アイズの珍しいお願いが、今度は懇願に変わった。

 

 

「ちょ⁉︎こんな所にアイズを一人だけおいてけないよ‼︎」

 

「そうね。モンスターのレベルが低いからって、危険すぎるわ」

 

 

たまらなくなったティオナとティオネが、アイズに詰め寄る。二人は心から心配して、アイズの意思より命を大事にする為に反対したのだ。

 

二人にそう言われ黙り込んでしまった。その思いに気づかないほど、アイズはもう鈍くはない。

 

 

「フィン、私からも頼む。滅多に言わない我儘だ。アイズの意思を尊重してやってくれないか」

 

「「リヴェリア⁉︎」」

 

 

少し下がったところから見守っていたリヴェリアがフィンに問いかける。

 

 

「ンー…?ティオネ達の言っている事が正論だ。そんな子を見守るような気持ちでは、団員の命を預かる身としては許可出来ないよ?」

 

 

フィンは少し考えてから、問いかけるようにリヴェリアの顔を見返す。これが団長としての答えだよ?君はどうする?と言わんばかりに。

 

付き合いの長いリヴェリアはそれだけで、フィンが求める答えが分かり心の中で感謝する。

 

 

「私も残ろう。もし、何かあれば私の責任だ」

 

「分かった。許可しよう」

 

 

やれやれと肩をすくめて、フィンはアッサリと承諾した。団員一人の我儘で深層に一人おいていく事は出来なくても、監視役を付け、更にそれが副団長であれば話が変わってくる。

 

 

「えー‼︎フィンも説得してよー‼︎」

 

 

フィンの決定にティオナがおもいっきり文句を言うが、ティオネは想い人の言葉に僅かに不服そうではあったが、何も言わなかった。

 

サポーター役であるレフィーヤとラクタが、先程七郎治が一掃したスパルトイの魔石の回収を終え合流し、事のあらましを聞いて驚愕する。

 

 

「えっ⁉︎アイズさん残るんですか⁉︎」

 

「うん、我儘言って、ごめんね」

 

「い、いえ…。あ、あの、それなら私も残ります‼︎サポーターをやらせて下さい‼︎」

 

 

レフィーヤは、憧れであるアイズの何か役に立ちたいと自分も残ると言い始め、じゃあ私も!とティオナも便乗してきた。

 

 

「いや、物資が残っとらんよ?二人分ならともかく、そんな何人も分けれんばい」

 

「え〜‼︎なんとかしてよ‼︎」

 

「そうですよ!なんて事言うんですか⁉︎」

 

「え?…これ、ワシのせいなん?」

 

 

割と真っ当な事を言った筈なのに、非難の嵐を受ける七郎治。そんな様子を一歩離れて見ているフィンがリヴェリアに小声で問いかける。

 

 

「それで…。ほんとの狙いは何だい?まさか言葉通りじゃないんだろう?」

 

「…あの子が、今溜め込んでいるものを吐き出させたい。でなければ、いつかきっと何かをやらかす。七郎治も、その事が分かっていて勝負を仕掛けたのだろう」

 

「なるほどね。お見それするよ」

 

 

フィンは肩をすくめながら、リヴェリアにからかう様な視線を送る。そして真剣な表情で、仲間の事を思って言葉を贈る。

 

 

「…例の調教師(テイマー)達は現れないと思うけど、注意しておくんだ。僕の精神力回復薬(マジック・ポーション)は置いていく」

 

「分かっている。ありがとう…そして、すまない」

 

 

リヴェリアはフィンの思いと共に精神力回復薬(マジック・ポーション)を受け取った。

 

 

「じゃあ、アイズ!地上で待ってるね‼︎」

 

「頑張って下さい‼︎アイズさん‼︎」

 

「うん、ありがとう」

 

 

アイズはティオナとレフィーヤから激昂を貰い、七郎治に歩み寄る。

 

 

「…七郎治」

 

「…ん」

 

 

言葉をかわす必要はない。お互いが思う事は分かっているのだから。

 

一行はアイズとリヴェリアを残し、後ろ髪を引かれる思いでも、仲間の事を信じて引き返さないよう、真っ直ぐに地上へ向けて帰還する。そんな中、一人だけ企てる馬鹿がいた。

 

 

さて、適当に見計らって、アイズの勇姿を見に行くべ!

残っちゃいかんと言われとっても、見に行っちゃいかんなんて言われとらんげなー‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ありがとう、リヴェリア」

 

「まったくだ。これっきりにしてもらいたい、と愚痴だけは言わせてもらおう」

 

「…ごめん」

 

 

はたから見れば、子供の可愛い我儘に付き合う母親の様に見えなくもないが…。我儘のレベルが高すぎる。

 

二人の会話はそれっきりで、広いルームは静寂に包まれた。遠くで聞こえるモンスターの雄叫びを気にもとめず、アイズは一歩も動こうとせず、幾分かの時間が流れる。

 

リヴェリアが怪訝に思ったその時、ルームの地面が揺れ始める。

 

 

「…来た」

 

「⁉︎…まさか」

 

 

激しい揺れに襲われる中、アイズが何をしようとしているのか、リヴェリアは瞬時に理解した。

 

ビキッと音を立て、ルームの中心の地面が盛り上がり、亀裂が入る。激しい音を立てながら亀裂は広がっていき、耳をふさぐ様な轟音と共に地面の岩や土が流れ落ち、遂に漆黒の巨体が地面から姿を表す。

 

 

「オオオオオオオオオオオオ‼︎」

 

 

今しがたダンジョンより生まれ落ちたモンスターが大咆哮を上げる。

 

37階層の階層主【迷宮の孤王(モンスターレックス)】。

ウダイオス。該当レベル L()v().()6()

 

その外見はスパルトイに酷似した骸骨だが、頭部には二本の角、瞳は怪しく揺らめく朱色、全身は吸い込まれそうなな闇を彷彿させる漆黒に染め上げらている。

 

下半身はダンジョンに埋もれたままだが、上半身だけでもゆう10M(メルド)は超えている。

 

その胸部の空洞の中心に座する巨大な魔石は、肋骨により覆われていた。

 

 

「…リヴェリア、手を出さないで。私一人でやる」

 

 

このウダイオスは三ヶ月前の遠征で、ロキ・ファミリアが全戦力をもって打ち倒したモンスター。それをたった一人でやるとアイズは言った。

 

 

「…本気か?」

 

 

たった一人で討伐する。アイズは成し遂げようと言うのだ。神々が認める『偉業』を。

 

これが示すところは自身の限界を超える器の昇華。ステイタスが伸び悩むアイズに残された選択肢。レベルアップへの唯一の道だ。

 

 

「大丈夫。すぐに終わらせるから」

 

 

アイズはデスペレートを抜き。ゆっくりと歩き出す。もっと強く、もう誰にも負けず、屈しないように。

 

目の前の巨体がゆれる。自身の射程圏内に一人で入りこんだ無謀な冒険者に殺意を解き放つ。『貴様を殺す』絶対的な強者から放たれる殺気は並の冒険者を怯ませ、瞬く間に命を刈り取るだろう。

 

しかし、幾度となく死線をくぐり抜けてきたアイズは、怯むことなく一直線にウダイオス目掛けて駆け抜ける。

 

歯向かってくる冒険者を捉えたウダイオスは、その強大な片方の腕を振り上げ、アイズ目掛けて横薙ぎに放たられる。

 

 

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 

七郎治の使う「雷電型(イカヅチノカタ)」と同じ要領で走る勢いを殺さずに、全身の力を抜き前方に倒れ込み攻撃をかわす。短文詠唱で全身に風を纏い勢いを上乗せし一気に敵の懐に潜り込んだ。

 

一瞬にして敵の死角に入り込み、狙うは肋骨に覆われた魔石部分。アイズは鋭い跳躍で飛び上がり、剣に(エアリアル)を纏わせ協力な一撃を放つ。

 

 

ガキン‼︎

「ガ、ウウウ」

 

 

肋骨の隙間を狙ったものだが、ウダイオスは己の肋骨を動かし魔石を守った。結果、アイズの一撃は魔石はおろか、肋骨にさえヒビも入れることが出来なかった。

 

再度、魔石目掛けて攻撃を仕掛けようとしたそのとき。アイズの足元から鋭利な骨が飛び出す。体を捻りかわしていくも次から次へと地面から飛び出してくる。風を使いながらバク転で後方に退避する。

 

これが、ウダイオスが上半身のみ地面から出ている理由。根の様にこのルーム全体に行き渡り、黒骨のパイルが地面から突き出す。剣山のように突き出し、歯向かうもの全てを殺し尽くす。

 

それだけでは終わらない。ウダイオスに呼び出されたように地面からスパルトイが溢れ出す。

 

通常、30人以上のパーティーで討伐するのがセオリーである。だが、今はその攻撃全てがアイズ1人に向けられた。

 

後方から迫るスパルトイを薙ぎ払い、ウダイオスの叩きつけをかわし、再び飛び上がる。

 

 

(この程度の風では足りない。もっと強く!もっと速く‼︎)

「風よ!【吹き荒れろ(テンペスト)】‼︎」

 

 

更に風を纏いウダイオスの頭上を飛び越え、彗星の如く速さと威力を乗せた一撃を放つ。

 

 

バキンッッッ‼︎

「オオオオオオオオオオオオ‼︎」

 

 

ウダイオスの右腕を付け根から破壊した。これで、攻撃力は半減。

 

 

「なんて、ヤツだ」

 

 

リヴェリアは今目の前で起きている光景に驚愕の表情を浮かべる。アイズはこの短時間で、ウダイオスから片腕を奪ったのだ、通常であればあり得ない話だ。

 

しかし、次の瞬間。リヴェリアの驚愕は別の事でかき消される。

 

 

「ヴオオオオオオオオオオオオオ‼︎」

ドンッッ‼︎ズズズズッ‼︎

 

 

ウダイオスは地面に掌をつき、6M(メルド)程の黒大剣を取り出したのだ。天然武器(ネイチャーウェポン)。こんな事は今までなかった。幾度となく遠征の度に葬ってきた相手だ。間違いはない。

 

 

ゾクッ

「ッ⁉︎(エアリアル)最大出力」

 

 

ウダイオスが大剣を振りかぶるのを見て、アイズの全身に危険信号が響き渡る。

 

 

「全力退避‼︎」

 

 

風を最大まで高め、一気に退避する。それでも本能が撃ち鳴らす危険を報せるアラームは鳴り止まない。

 

 

「アイズッ⁉︎」

 

 

ウダイオスの巨体から繰り出される、あり得ない速度の剣撃は自身が出したパイルやスパルトイを一瞬で蹴散らし。間一髪で剣の間合いから離脱したアイズを凄まじい爆風が襲い簡単に吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






次の話は原作と漫画で少し違う部分がありますので、漫画を元に話が進みます。

…しかし、シリアスが結構つづくなぁ。ボケれない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アイズの限界突破 2

 

 

ーダンジョン 中層ー

 

 

「レフィーヤ!無茶しないで、まだ中層に入ったばかりよ‼︎」

 

「ッはい!…」

 

 

アイズ達と別れたフィン達は中層に差し掛かっていた。ティオネに注意されたレフィーヤは、アイズの足手まといになりたくない。早く強くなりたい一心で杖を振るっていた。

 

 

「早く強くなりたいよね‼︎」

 

「はい‼︎」

 

 

そんなレフィーヤを見てティオナは飛びついて気持ちを声に出した。みな同じなのだ。強くなりたい。仲間と共に歩みたい。ただそれだけなのだ。

 

 

「しっかし、ベートを置いて来て正解だったよね〜。絶対うるさく騒いでたよね‼︎」

 

「そうね…。アイズが残るなら自分も‼︎って言って聞かないでしょうね」

 

 

少しでも力を抜こうとヒリィテ姉妹のここには居ない、置いてけぼりをくらった同僚弄りが始まった。

 

 

「七郎治もそう思うでしょう?…ってあれ?」

 

「…七郎治さんが、いない?」

 

「「「まさか⁉︎」」」

 

 

さっきまで一緒にいた七郎治が、忽然と姿を消した。タイミング的に何処に行ったかなど直ぐに分かる。

 

 

「…やれやれ、七郎治は僕らと一緒に地上に帰った。いいね?」

 

 

はあーと大きなため息をつき、ずるい!自分達もと引き返すと言い出したメンバーを無理やり帰還させる。

 

 

(帰ったら説教だよ…)

 

 

フィンはもう一度大きなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー37階層 白宮殿(ホワイトパレス)

 

 

ウダイオスによる、剣撃。そのとてつもない威力の剣圧によりアイズは吹き飛ばされた。

 

 

「アイズッ⁉︎」

 

「う、げほ」

 

 

リヴェリアが駆け寄るも、周りの惨劇をみて驚愕の色を浮かべる。アイズ1人では危険だ。白銀に輝く長杖を構える。

 

 

「ッ⁉︎リヴェリア!手を出さないで‼︎」

 

「私にお前を見殺しにしろと言うのか⁉︎」

 

「お願いだから‼︎‼︎」

 

 

叫ぶ。今ここで諦めてしまったら自身の限界を超えられない。だから、どうしても一人でやらなければならない。

 

 

「…くっ」

 

 

アイズの強い意志を感じ取り、リヴェリアは苦渋に顔を歪め長杖を下す。

 

再びアイズはウダイオスと対峙する。

 

 

(あの攻撃は直ぐには放てない…。最短で、最速で残りの左腕を奪えば、…勝機はある‼︎)

 

「【目覚めよ(テンペスト)】…」

 

 

両手でデスペレートを握り、真っ直ぐに構える。

 

 

「エアリアル‼︎‼︎」

 

 

黒の大剣を再び振りかぶるウダイオス目掛けて一直線に飛び。全身を包む風が道に憚る邪魔なものを吹き飛ばしていく。

 

 

(私は、弱い…。どうして今までそれを許していられた⁉︎)

 

(いつの間にか牙を抜かれて、たった一つの願いを、思い出にするつもりなのか‼︎)

 

 

ウダイオスが剣を振り下ろすまで、一手速く届く。力を込め直し、更に威力を上げる。

 

 

(私は…。勝つーーー)

 

ビキッー

 

 

全身を突如として凄まじい痛みが襲う。

 

 

(反動ーー?)

ビキッ

 

(風の最大出力に体が、ついていかない…)

ガクン

 

 

空中で徐々に風が弱まり、威力も低下して行く。そんな標的を捉えたウダイオスは一気に大剣を振り下ろす。

 

アイズはウダイオスの一撃を受け、地面に叩きつけられ転がる。残った風により威力は軽減されたが、それでも一歩間違えれば死んでしまう程だ。

 

 

(早く…立ち上がら、ないと)

 

 

朦朧とする意識の中、手足に力を込めるが立ち上がることが出来ず、意識を手放した。

 

 

「アイズ⁉︎…邪魔だ」

 

 

リヴェリアはアイズのもとに向かおうとするも、スパルトイの軍勢が邪魔をする。

 

 

「くっ!」

 

 

それでも、手早く詠唱に入る。

 

 

(アイズ、お前を死なせはしない‼︎)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

『…弱いな、アリア』

 

 

その声に、言葉にアイズは目を見開く。自分の傍に赤毛の女が立って冷たい目で見下ろしていた。

 

 

『なぜ?…あなたがここに?ウダイオスは?』

 

 

先ほどまで、ウダイオスと対峙していたはずでは?アイズは混乱しながら赤毛の女を見やる。

 

 

『…見ろ』

 

 

何処からともなく、目の前に食人花が現れた。その口に咥えられているものを見てアイズは目を見開く。そんな?どうして?

 

 

(ティオナ、ティオネ、レフィーヤ…)

 

 

それは地上で会おうと約束し、先に帰還した仲間の姿であった。

 

 

『いったい、どうなって…⁉︎何を…』

 

 

赤毛の女はゆっくりとアイズの横を通り抜け、ティオナ達へと近づく。

 

 

『決まっている。殺すんだ』

 

グチャ。ドスッ。グチャッ。

 

 

アイズの目の前で大事な仲間が殺された。

 

 

『みんな…。どう、して…』

 

 

とめどなく涙が溢れる。

 

 

『お前が、弱いからだ。お前の()()が仲間を殺したんだ』

 

『無様に這いつくばっているお前は、()()()んだ』

 

『ーーッ⁉︎ーー』

 

 

アイズは声も出せずに赤毛の女の言葉を聞いている事しか出来なかった。

 

 

(私の、せい。私が弱いから…。負けた。勝てない。もう嫌だ。夢は叶わない…)

 

 

足元から徐々に押し寄せてくる。自分自身の声が、その背に押し寄せてくるのは自分の弱さ。自分に呑み込まれる。

 

 

『お前は、何度だって大切なものを失うのさ』

 

 

再び、食人花と仲間達が現れる。また、殺されるのを見なければならない。

 

 

『嫌だ…。絶対に嫌だ!』

 

 

アイズは全身に力を入れ立ち上がろうとする。しかし、まだまだ自分自身がまとわりついて離れない。

 

 

『もう、失いたくない!夢は決して諦めない‼︎』

 

 

揺るがない意志を新たに、立ち上がる。その瞬間、重くのしかかっていたものが消える。振り返って見ると、そこには相棒であり、自身の背中を守ってくれる七郎治の姿があった。

 

 

『そうだよ、アイズ。約束したばい‼︎』

 

 

笑いながらアイズの背中を押す。

 

 

(ありがとう)

 

 

アイズは押された背中の温もりを感じながら、赤毛の女を切り裂く。

 

 

『私は…。私自身を超える‼︎‼︎』

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤毛の女を切り裂いた後、目に飛び込んできたのはスパルトイとウダイオスのパイルを切り裂いた跡だった。

 

 

(ッ⁉︎これは…?)

 

 

自分は僅かな時間、気を失っていたのだ。先ほどの光景は全て夢だったと安堵の胸をなで下ろす。次に自分は暖かな白い光に包まれていることに気づく。この光は…。

 

 

「この位は許せ。バカ娘」

 

 

後ろを振り返ると、離れたところでリヴェリアが杖を掲げていた。

 

緑光の加護(ヴェール・ブレス)】。リヴェリアの防御魔法だ。この魔法は物理、魔力攻撃から対象を守り、僅かだが傷の回復もさせる。

 

 

(ありがとう、リヴェリア…)

 

 

時に厳しく、時に優しく。いつも自分を見守ってくれるリヴェリアに心の中で感謝した。

 

 

(…七郎治もいた、気がするんだけど…。気のせいかな)

 

 

僅かに背中から感じる温もりは、アイズを後押ししてくれる。だが、そこには七郎治の姿はなかった。

 

アイズは再び、ウダイオスに向き直る。絶対に負けない。その瞳には強い意志が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「攻撃も弾かれ、溜め攻撃も簡単には出来ないウダイオスだが…。アイズの体も限界だ…。これでも、お前はまだ手を出すなというのか?七郎治…」

 

 

リヴェリアは長杖を握りしめ、自分の後ろに隠れている七郎治に問いかける。

 

 

「アイズなら大丈夫や。絶対に乗り越えられる」

 

「…」

 

 

リヴェリアは七郎治の返答を聞き、アイズの方を見る。この馬鹿はアイズがウダイオスの一撃をくらい、倒れた直後に現れた。意識を飛ばし起き上がらないアイズを助け起こし、いつものように背後から迫る敵の軍勢を斬り捨て、『縮地』を使いリヴェリアの後ろまで瞬時に移動して隠れたのだ。

 

アイズと七郎治がコンビを組んでから、幾ばくかの年月がたつ。主神であるロキやフィン、リヴェリア、ガレスには話さないことも七郎治には話すことを知っている。二人の間には確かな絆がある。リヴェリアはこの七郎の言葉を信じる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(もう一度、立ち向かおう…)

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 

風が吹き荒れる。主の前に立ち塞がるスパルトイを蹴散らしながら突き進む。地面から飛び出す漆黒のパイルをかわすことなく、風を纏った不壊の剣で斬り裂いてゆく。

 

 

(もっと強くなる。願いを叶えるために‼︎)

 

 

邪魔者はもういない。その場所に立つのは漆黒の孤王と金髪の少女のみ。勝者は一人だけ、生き残るのも一人だ。

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎」

 

「ーうああああああああああああっっ‼︎‼︎」

 

 

階層主と冒険者の雄叫びが響き渡る。お互いの全力を乗せた一撃が衝突する。

 

 

ドオオオオンーー‼︎

 

 

ルーム全体に響き渡る轟音。ウダイオスの黒大剣にヒビが入り、剣先から徐々に崩れ落ち半ばほど折れた。

 

 

「グウウウウウ⁉︎」

 

 

迷宮の孤王は今まで感じたことのない恐怖に襲われる。目の前の金髪の剣士は何度追い払おうと、力を放りかざしてもなお立ち向かってくる。

 

 

「ーオオオオオオオオオオ‼︎」

 

 

ウダイオスの咆哮が轟く。それを合図に最後の勝負が始まった。

 

何度も何度もぶつかり合う黒大剣と風を纏った銀の剣。両者は一歩も引かず、己の全てを賭して目の前の強敵にぶつける。その死闘は一時間にも及ぶ。

 

 

 

お互い残りの力はあと僅か。次の一手で全てが決まる。自身の持てる全てをこの一撃にかける。

 

 

「オオオオオオオオオオ‼︎」

 

 

ウダイオスが折れた黒大剣を振りかざす。渾身の一撃。

 

 

「リル・ラファーガ」

 

 

アイズが銀の剣に最大出力の(エアリアル)を纏う。一撃必殺の大技。

 

 

ドオオオオーーーーン‼︎‼︎‼︎

 

 

ルーム全体に二つの力がぶつかった衝撃が走る。地面が揺れ、大気が震撼しする。今、この瞬間、全てが決まった。

 

 

「オオ、オォー…」

 

 

漆黒の骸骨はひび割れ、何本もの骨を折られ、音を立てて崩れた。その紫紺に輝く巨大な魔石が砕ける。

 

 

 

 

 

勝者は【剣姫】

 

 

 

アイズ・ヴァレンシュタイン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アイズのウダイオス戦が終わりました。
もう最後の方は、文才がなさ過ぎて泣きたくなった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アイズと七郎治






 

 

 

先程まで戦いが繰り広げられていた戦場を、静寂が包む。

 

迷宮の孤王(モンスター・レックス)】ウダイオスが倒され、その地に残るものはドロップアイテムの漆黒の大剣。そして、この戦いの勝者。金髪金眼の剣士、アイズの姿のみ。

 

 

「…アイズ」

 

 

目の前の強敵を倒し、立ちすくんでいたアイズに今までずっと見ていたリヴェリアが近づいて来た。

 

 

「…リヴェリア」

 

 

アイズは自分の我儘でウダイオスとの戦いに手を出すことを許さなかった。叱られる子供のように気まずそうに体を揺すっていた。

 

 

「じっとしていろ」

 

 

リヴェリアに手を取られ、強制的に寝転がされた。俗に言う膝枕された状態で体を温かな緑光で包まれる。リヴェリアの回復魔法だ。

 

 

「何があった」

 

 

回復魔法をかけながら、叱るわけでもなく、咎める訳でもない。ただ静かに尋ねてきた。そんなリヴェリアに対してアイズはこれ以上隠し通せなかった。いや、隠すべきではないと思ったのだ。

 

 

「あの赤毛の調教師(テイマー)が、私のことを、アリアって」

 

「っ⁉︎」

 

 

アイズはリヴィラの街で起きた事件のことを全て話した。そして、『アリア』この言葉が出た瞬間にリヴェリアの表情が驚愕の色に染まる。しばらくの間、沈黙し思考に浸りアイズが変貌した理由に行き着く。

 

 

「アイズ…。私はそんなに頼れないか?」

 

「え?…」

 

 

突然のリヴェリアの言葉にアイズはすぐに理解できなかった。

 

 

「私は…。いや、ティオナやレフィーヤ達も、皆家族のように思っている」

 

 

その優しい声色と温かな言葉が、アイズのことを包み込む。

 

 

「忘れるな。お前は、もう一人じゃない」

 

「…うん。…リヴェリア」

 

「なんだ?」

 

「ごめんなさい」

 

 

リヴェリアは優しくアイズを撫で、我が子を愛しむ様に小さく笑い。アイズは母親に寝かしつけられる様に意識を手放した。とても懐かしくて大切な夢をーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

通常、ダンジョンは上に昇るよりも下に降りる方が遙かに楽なのだ。ダンジョン内に幾つも存在する縦穴を利用すれば簡単に下の階層に行ける。

 

ならばこの縦穴を使えばよいのでは?と思う者もいるだろうが、階層が変わればモンスターの強さも変わる。また、穴の下に大量にモンスターがいるかもしれない、逆に穴を登っている所をモンスターに襲われたり、登った先にいるかも知れない。

 

そんな様々な理由で冒険者にとって不利な状況を作りかねないので殆どの常識的な冒険者はこれを利用しない。が…

 

 

「よっこいしょういち!」

 

 

七郎治は空中散歩(スカイ・ウォーク)を使い、縦穴を駆け抜け、次の縦穴まで縮地を使い目にも映らぬ速さで駆けて行く。

 

縮地と縦穴を使い、通常の何倍の速さで地上に向かう。

 

 

はよう、団長達に追いつかんとな。

レフィーヤとラクタがおるけん、まだダンジョンは出とらんやろ…。

それに…。

 

七郎治は走りながら、アイズとウダイオスの戦いを思い出し、三代鬼鉄を握りしめる。

 

 

これで、アイズとの差がまた開いたな。

…三代鬼鉄をかならず使いこなし、力にせんとマジで置いて行かれるげな。

 

ははは!強くならねばよ。

 

 

七郎治は笑う。大切な約束をしたあの日を思い出しながら、決意を新たに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

七郎治は2年の時を経てLv.2になった。ランクアップを果たしてから周りの声が直接頭の中に流れ込んできて辟易とした毎日を過ごす。

 

 

あーもう、やかましいわ。多分『見聞色の覇気』なんやろうけど…。嫌んなってくるわ。ステイタスには現れとらんけどなんなんや…。主神様に聞いてみるべ。

 

 

うーと唸りながらロキの部屋へと向かっていると、突然とてつもない感情に襲われた。悲しみ、怒り、焦り…様々な負の感情が流れ込む。ズキズキとむねが痛み訳が分からず狼狽えていると、風を纏った金髪の少女とすれ違った。

 

 

あれは…。

 

 

七郎治はすれ違った少女を目で追うと、少女は門を飛び出して行った。

 

 

「まて、アイズ‼︎話しは終わってないぞ‼︎」

 

 

背後から少女を呼び戻そうとする凛とした声。

 

 

「まぁまぁ、落ち着きなよ」

 

 

宥めるような、困ったような少年の声。

 

 

「腹が空けば戻って来るだろう」

 

「しゃあない、帰って来たらうちがギュッと抱きしめて慰めたる」

 

 

太く渋みのあるおっさんの声と、おっさんみたいな事を言う女神の声も後に続いた。

 

どうやら、アイズはロキと最高幹部に叱られて飛び出したようだ。

 

 

「お?七郎治か、何かようか?」

 

「ちょっ…と、きっ、聞きたい…こと、が」

 

 

ガレスの問い掛けに答えるも、声が震えてうまく喋れない。振り向いた七郎治の顔を見て4人がギョッとする。

 

 

「うおっ⁉︎ど、どないしてん、なんで泣いとるんや⁉︎」

 

「…え?」

 

 

ロキに指摘されて初めて気がつく。いつの間にか自分が泣いている事に驚愕する。ぬぐっても、ぬぐっても溢れる涙が止まらない。

 

 

「大丈夫かい?」

 

「何があった?」

 

「珍しいのぅ、訳を話せ」

 

 

フィン、リヴェリア、ガレスも優しく問い掛けるが、答える事が出来ない。一体なぜ?そう思っているとズキリと胸が痛んだ。

 

 

ひょっとして…。アイズか?

 

 

先程アイズが飛び出した門を見つめ、一気に駆け出した。後ろから呼ぶ声が聞こえた気がするが、止まらずに走り続ける。

 

 

雑多に賑わう街の声がの中から、たった一人の声を辿る。

 

 

(会いたい…。早く強くなりたい)

 

 

繰り返される言葉を追って辿り着いたのは、市街地を外れ普段は誰も寄り付かない古びた城壁だ。上に登ると小さな影が膝を抱えてうずくまっていた。

 

 

「アイズ嬢…。泣いてんの?」

 

「ッ⁉︎」

 

 

突然、背後から話しかけられた声にアイズは驚く。そこには涙を流す七郎治の姿が。

 

 

「あなたは…。この間Lv.2になった、七郎治?たしか、二つ名が【ひ「それは言わんでくれん?」う、うん」

 

 

基本的にダンジョンと強くなることにしか興味の無いアイズは、同じファミリアでもあまり興味を示さなかった。なんとか思い出したものの、本人は神々が与えた二つ名を気に入っていないようで、ひきつった笑顔で口を押さえられた。

 

 

「ワシでよかったら話聞くばい?」

 

「…話したくない」

 

 

アイズは七郎治を拒絶した。今は誰とも話したくない。心を閉ざし誰も寄り付かせないように自分の殻に閉じ籠る。

 

 

ああ、いかんな…。そっとしといたほうがええんかなぁ?

…会いたいとか聞こえたけん、多分両親の事なんじゃろうけど…。

 

 

前世の記憶で真相までは分からなくとも、アイズが強さを求める理由は知っていた。どうしたものかとしばらく考えたが、取り敢えずアイズの横に腰を下ろす。

 

 

(会いたい。早く会いたい。どうして?どうしておいて行ったの?なんで一緒に連れて行ってくれなかったの?)

 

 

アイズの気持ちが流れ込み、自然と口が開き言葉を発していた。

 

 

「…ワシな、家族がおらんのよ」

 

「えっ?」

 

 

何故この事を話すのか自分でも分からない。それでもアイズに寄り添いたい思うほど、言葉が出てくる。

 

 

「チビん頃に事故でな」

 

「…そう」

 

「家族で車…、馬車で出かけた時に土砂崩れに巻き込まれたんよ。隣におったオカンが庇ってくれて、ワシはちと頭から血がでとったけどそれで済んだんよ」

 

 

家族で登山の帰りに山の中を車で走っていた。辺りは暗くなっていたがよく行く山だったので慣れた道だ。けれど、その日はいつもと違っていた。

 

崩れる音と共に大量の土砂が車を飲み込み、激しい衝撃と共に車体は横転し押しつぶされた。

 

 

『怪我はない?』『みんな大丈夫か?』

『おとん、おかん…。うわあああん』

『泣かないの。あなた、ーーーーは?』

『ッ⁉︎ーー、ーーーー』『ーーーー‼︎』

 

 

あの時起きた事を話していたが急に、両親が何かを言っている途中でモヤがかかり、激しい頭痛に襲われた。なぜ思い出せない?何を忘れた?冷や汗が噴き出し、心が揺れる。自分はとんでもない事を忘れたんじゃないか。

 

 

「…大丈夫?」

 

「えっ?あ、ああ」

 

 

いきなり苦しみだした七郎治をみて、黙って聞いていたアイズが心配そうに声をかける。ハッとして息を整え、再び話し始める。

 

 

時間が経つに連れて、両親の意識は飛び飛びになり会話もままならなくなってきた。自身も出血のせいなのか、酸素が少ないからなのか、意識が朦朧としていた。

 

夜が明けたのだろう、外から救援の声が聞こえ、一番最初に助け出されたのは自分だった。外に連れ出された瞬間に気を失い、目が覚めた時には病院だった。

 

結果として掘り出された両親は死んでいた。潰された車体に挟まれて怪我をし出血多量だったそうだ。

 

親を失い身寄りもない。両親は孤児で祖父母もおらず施設へ預けられることになった。

 

 

「なあ、アイズ嬢。病院で目を覚ました時な、ワシは何を思ったと思う?」

 

「…」

 

 

アイズには分からなかった。答えることが出来なかった。

 

 

「"生き延びれてよかった"そう思ったんよ。家族が誰もおらんくなったのに…。本当最低だよな」

 

 

自分だけが生き残った事に罪悪感を感じ、辛そうに涙を流しながら自分を責めるように笑った。

 

 

「…そんなこと、ないよ」

 

「…」

 

 

アイズはそっと七郎治を抱きしめた。自分でも何故こうしたのか分からないが、このまま放っておく事が出来なかった。自分と似た悲しみを持つこの少年の事を。

 

 

「そんなことないよ」

 

 

七郎治はしばらくの間泣き続け、アイズは抱きしめたまま拙い言葉を紡いで励ました。

 

 

「…はは、アイズ嬢を励ますつもりが、励まされてしもうたの!でも、少しスッキリしたばい」

 

「そう、良かった」

 

 

泣き腫らした顔で笑い、いつもの調子を取り戻した。

 

 

「…で、アイズ嬢は?無理強いはせんけど」

 

 

真っ直ぐな目で問い掛けてきた七郎治に、アイズはゆっくりと話し出した。

 

 

「私は早く強くならないと、お父さんとお母さんの所に行くために」

 

 

アイズの焦燥感が流れ込み、胸が痛んむ。恐らくロキ達に叱られたのは無茶をするなと言う事だろう。その事が自分の思いとぶつかりジレンマになっていた。

 

 

「そっか…。何処におるん?」

 

「ダンジョン…」

 

「…マジや」

 

「うん、奥の奥。もう、置いて行かれないぐらい強くなりたい、のに」

 

 

その時、騎士のような姿をした男性とアイズに似た金髪の綺麗な女性の姿が見えた。

 

 

『行くぞ…。アリア』

 

『はい…』

 

 

必死に小さな手を伸ばすアイズ。

 

 

(行かないで…。私を、一人にしないで‼︎)

 

 

小さなアイズが叫ぶ。

 

 

アイズは両親と再会する事を悲願として、危険を犯し力を手に入れようと強さを求めている。強くなりたい、ならなければいけない。会いたい、会えない。

 

胸を締め付けられる。けど、自分にはアイズを両親の所まで連れて行ける力がない。

 

 

 

 

 

七郎治は目を閉じ、そして決意する。

 

 

「だったら会いに行けば良かろうもん」

 

「…でも」

 

「生きとるんやろ?」

 

「うん」

 

「じゃあ、何年掛かっても行けばいい、ワシもついて行く」

 

「え?」

 

 

七郎治の言葉にアイズは驚いて目を見開く。

 

 

「ワシは弱い。守ってやるなんて言い切らん。けんど、後ろは守るけん、前見て進み?転びそうになったら引っ張り起こすべ」

 

 

Lv.2になったばかりの七郎治と既にLv.3のアイズでは力の差は簡単には埋まらない。ならばせめて何か出来ればと考えた七郎治なりの答えだ。

 

 

「ワシがアイズ嬢と両親の記念すべき再会の立会人になるけんな!一緒に行こう‼︎」

 

 

君を一人にしない。ニカッと屈託無く笑い手を差し出す七郎治をみて、アイズは涙が溢れてきた。いつか父が言っていた言葉を思い出す。

 

 

『私はお前の英雄には慣れないよ。もうお前のお母さんがいるから』

 

 

強く、優しい父が大好きだった。そんな父はアイズを抱きかかえ、優しくなで

 

 

『いつか。お前だけの英雄に巡る会えるといいな』

 

 

両親がいなくなったあの日、自分には英雄は現れない。自分が強くならなければと思っていた。

 

けれど私の前に現れた。普段は死んだ目をしていて訛り丸出しの女の子みたいな少年。なにより自分より弱い。

 

英雄とはかけ離れているが、それでも思ってしまう。この人なのだと。自分を救ってくれる。傍にいてくれるのだと。

 

アイズは両親と過ごしていた時のような、見るものが思わず顔を綻ばせるような、とても可愛らしい笑顔を浮かべた。

 

 

「うん、約束だよ?」

 

「おうさ!」

 

 

この日、初めてアイズと七郎治の心が通い合った。

絶対に叶えたい願い。

二人だけの約束。

願いを追い求める少女。

少女を支える少年。

後に【剣姫】と【抜刀斎】の剣士コンビはオラリオ以外にも知れ渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロージたんやるな〜」

 

「わはは!明日から猛特訓じゃのう‼︎」

 

「ふふっ、あの二人の座学の時間も増やすか」

 

「あはは、程々にね?」

 

 

アイズと七郎治が飛び出した後、あとを追って隠れて終始見ていた。四人が見ていたことを二人は知らない。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

進もうーー

 

アイズは壁を一つ乗り越えた。

 

 

強くなろうーー

 

七郎治は奮い起つ。

 

 

前を向いてーー

 

後ろを気にする必要はない。

 

 

その背中を守るーー

 

支えたい、力になり人の為に。

 

 

 

 

離れていても、二人を結ぶ絆がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい。暫く時間が空きましたが、チラホラ出していた「二人の約束」。アイズと七郎治の過去編でした。
思っていた以上にインパクトねーなと、しかも聞かれとるやんと思われる方もいらっしゃるかも入れませんが…。
これが限界でした。人間だもの。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その後 1


しばらく時間があきました。申し訳ないです。





 

 

 

ーダンジョン 6階層ー

 

 

「もうすぐ地上だね!」

 

「ちょと、いくら上層だからって気を抜き過ぎよ」

 

「アイズどうしてんのかな?」

 

「って聞きなさいよ‼︎」

 

 

ヒリュテ姉妹が呑気に会話をしながら前にいるモンスターを片手間に文字通り蹴散らす。その後ろを歩くフィン、レフィーヤ、ラクタは渇いた笑みを漏らした。

 

 

「あ、ははは。た、確かにアイズさん達の事は気になりますね…」

 

 

37階層で別れた自分達の仲間の安否が気になり、ティオナの言葉に同意した。

 

 

「アイズ嬢なら心配いらんめぇ?副団長も付いてるんやし」

 

「「「「え⁉︎」」」」

 

 

ここに居ないはずの人物の声が聞こえ、いっせいに後ろを振り向く。そこには皆んなと一緒に後ろを振り返った七郎治の姿があった。

 

 

「…何もおらんよ?ビックリさせんでくれん」

 

「いやいや、えっ?七郎治いつからいたの?」

 

「はっ?ずっとおったばい?」

 

 

いけしゃあしゃあと言う馬鹿に対して詰め寄る。

 

 

「ねぇアイズは⁉︎1人なの⁉︎」

 

「あんたアイズのとこにいたんでしょ⁉︎」

 

「どうして1人なんですか⁉︎アイズさんとリヴェリア様はどうしたんですか⁉︎」

 

「じゃけん、ワシはずっとおったろうもん!何これ新手のイジメなんか⁉︎」

 

 

ギャーギャーと言い合いを始め、問い詰めるティオナ達に対して知らぬ存ぜぬを突き通す七郎治。ラクタはオロオロとし、フィンは大きなため息つく。「アイズに余計な心配をかけない為に、七郎治は皆と一緒に帰った事にする」と決めたのだが…。本人が戻ってきた途端これだ。

 

 

「はぁー。その位にしてくれないかい?…七郎治は僕らと一緒にいただろ」

 

「はい、団長‼︎七郎治はいました‼︎」

 

「「え〜」」

 

 

フィンの一言で治まったものの、思い人の言葉に手のひらを返したティオネ以外は不満気だった。これ以上、団長の言葉に文句を言うと今にも怒り出すだろう。ティオナは、んーと考えこむ。普段は何かを考えて行動しないので上手く聞き出す方法を思案していた。

 

 

「…ねぇロージ、アイズは大丈夫なんだよね?」

 

「大丈夫やろ」

 

 

心配そうに問いかけるティオナに対して、あっけらかんと答えが返ってきた。

 

 

「…そっか!」

 

 

結局聞けるのはこのぐらいだった。七郎治がアイズの元に向かったのは間違いない。その七郎治が1人で戻って来たなら心配は要らないのでは?それに大丈夫だと言っているのだ。今はこれで充分。本人が帰って来たら聞けばいいと結論した。

 

 

「そうだ、帰ったら話があるんだ。覚悟は出来ているかい?ねぇ、七郎治」

 

「あ、はい」

 

 

勝手な行動をとった団員を許すはずがない。物凄く良い笑顔を、逃がさないよ?と言わんばかりに向ける。あっコレいかんパターンや、と七郎治は諦めた。

 

 

 

ー黄昏の館ー

 

 

門番が帰還したメンバーを優しく迎えてくれる中、1人だけ憂鬱としていた。

 

 

どげんしようかな〜。逃げたら余計怒られるしな…。

 

 

どうしたものかと考えていたが、救いの神は手を差し伸べてくれた。

 

 

「おっ?お帰り〜!」

 

 

一つにまとめた朱色の髪を揺らしながら、嬉しそうに眷属を出迎える主神の姿があった。

 

 

「…あっ!お、おおお!主神様ー‼︎会いたかったyo‼︎」

 

「むふふ、なんや〜?ロージたん今日はえらい甘えん坊やな〜」

 

 

キャッキャ、ウフフ、ロージタンノウナジ、ハアハアとじゃれ合う。普段は出迎えてもセクハラのせいで冷たくあしらわれるだけなのだが…。今回に限っては七郎治のみ抱き付いて喜びセクハラし放題である。

 

 

「はぁー。ほら、七郎治は僕と行くよ」

 

「なんや?フィン、ヤキモチか?」

 

 

フィンは大きなため息をつき、七郎治の首根っこを掴み主神ごと引きずって行く。これから待ち受けている事をつゆとも知らずに、ロキは見当違いな発言をし戯れ続ける。

 

目の前で起こった一瞬の出来事をポカーンと見つめていたレフィーヤはラクタと顔を見合わせ同時に首を捻り、ティオナ達は至って普段通りにダンジョン探索の後始末を始めていた。

 

 

「あ、あの〜。今のは?」

 

 

レフィーヤがおずおずと今しがた起こった事に問いかける。

 

 

「んー、たぶん1人で怒られるのが嫌だったんじゃない?」

 

「タイミング良くそこにいたロキを道連れにしたんでしょ?」

「なんか思い付いたみたいに「あっ!」って言ってたし!」

 

(か、神を道連れって…)

 

 

そんな話し聞いた事がない。と呆れなが3人が去って行った方を見つめ、聞かなかった事にしようと決め一つ間を置いてティオナ達の手伝いを始めた。

 

 

 

2時間後

 

 

 

「さて、説教はこれ位でいいかな?今後は気をつけるんだよ?」

 

 

勝手な行動をとった事に対する説教が30分程。ティオナ達を押さえて帰還する苦労に対する愚痴が1時間程。ロキに対して普段のダラシない生活と態度の説教に30分程。執務室に正座をさせられて、主神と眷属は仲良く説教されていた。

 

たまたま執務室で作業をしていたガレスは、最初は何事かと思ったが、早く出て行けば良かったと後悔していた。完全なとばっちりだ。

 

 

「う、おお…。足が…」

 

「うう…。ウチ神やのに…。お前わざとウチを巻き込んだな〜?」

 

「…主神様、こう考えたら良いいばい「副団長よりは遥かにマシ‼︎」ってな。それに後半は主神様の事だったけんな」

 

「そらそうやけど!」

 

 

子供じみた言い合いを始めた2人はお互いの痺れた足を突きあう。それをよそにフィンは疲れ切った表情で執務室のソファーに腰掛けた。

 

 

「フィン、お主も大変じゃったのう」

 

「あ、ははは…まぁね。それより留守を任せてしまってすまないね、ガレス」

 

「ふむ、その事なら別にええんじゃが…。あの様子だと大丈夫そうじゃのう」

 

 

ロキとじゃれ合う弟子の姿を見て眼を細める。リヴィラの街の事件後に見たときは何か思い悩んだ様子だったが、今は気が晴れた様だった。

 

 

「まぁね…ガレス、七郎治の事で話があるんだ」

 

「妖刀の事か?それならリヴェリアが戻ってからじゃな」

 

 

フィンはコソッと耳打ちで話し、ガレスの問いにも素直に頷く。ガレス自身も首脳陣で話さなくては思っていたので直ぐに理解した。

 

 

「よっしゃ!うちを巻き込んだ罰や!後でお酌してもらうで‼︎」

 

「わしは呑まんけんな」

 

「ええ〜!ロージたんのいけず〜」

 

 

酒に弱い七郎治は頑なに呑まんと言い張り、泣き真似をしながら縋り付くロキは神とは到底思えない。

 

 

「どれ、儂も付き合うかのぅ‼︎フィン、お主もどうじゃ?」

 

「そうだね。僕も少し呑みたい気分だ」

 

 

二人のやりとりを呆れながら見ていたが、自分達も呑もうと話に加わる。この二人がいれば七郎治に呑ませ過ぎないようにストップがかけられる。

 

 

「よっしゃー‼︎今晩は呑み明かすでー‼︎……ママ(リヴェリア)が帰ってくる前にハメを外しとかな」

 

「よし、言うとこう」キリッ

 

「やめて‼︎」

 

 

そんな主神と眷属の宴会は、たわいのない話や飲み比べ。他の団員に止められるのも無視して明け方まで続いた。

 

 

 

 

 

 

そして翌朝、いつもと変わらないガレス。二日酔いで頭痛を堪えるロキとフィン。途中で巻き込まれたベートとラウルは燃え尽きていた。そして…

 

 

「オロロロロ〜!げぼろしゃ〜‼︎」

 

 

まぁ、いつもの事だ。

 

 






久しぶりに始めたモンハンが楽しすぎた。人間だもの。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その後 2



更新遅くなりました。
前回はモンハンにハマりすぎて遅くなりましたが、今回はちがいます!ちゃんとお仕事してました。まぁ、研修及び勉強会に出されていたのです。


…生まれて初めて使ったよ。

電卓の√ボタン…。





 

 

 

 

ー36階層ー

 

 

 

「起きたか?アイズ」

 

「リヴェリア」

 

 

階層主ウダイオスとの激闘の後、意識を手放したアイズはリヴェリアに膝枕をされながら眠っていた。

 

 

「…随分と嬉しそうだな?良い夢でもみれたか?」

 

「うん、懐かしい夢を見た」

 

「ほう、どんな夢だ?」

 

「七郎治とした、約束の夢…」

 

「…ふふふ、そうか」

 

 

あの日の夢を見たアイズはとても穏やかな表情を浮かべていたのだ。リヴェリアは一瞬考えた後、深く聞くのは野暮と言うもので、特に問いただすこともしない。

 

 

「さて、我々も地上に帰還するか」

 

「うん」

 

 

その後、最短ルートでアイズを気づかうリヴェリアがモンスターを討伐しつつ、ゆっくりと時間をかけ地上へと向かった。

 

途中リヴィラの街に立ち寄った際にウダイオスのドロップアイテム《黒大剣》を街の頭であるボールスに預け…、と言うよりも昔、鍛冶師を目指していたボールスに泣きながら「必ずものにするから‼︎」と懇願されたのだ。大の男が鼻水を垂らしながら、泣きついてくるものだから取り敢えず預けてきたのだ。

 

 

 

 

 

ー5階層ー

 

6階層から上がって直ぐの通路に人が倒れていた。その周りにはモンスターが群がり、意識の無い冒険者など格好の獲物と捉え自分が一番にありつこうとにじりよっている。

 

今にも襲いかかろうとした瞬間。金色の風が一瞬にしてモンスターを打ち払う。

 

 

「…外傷は無し。典型的な精神疲労(マインドダウン)だな」

 

 

基本的にはダンジョンでの怪我や死亡は自己責任であり、他ファミリアともなれば関わらずに放っておく事もある。しかし、リヴェリアは倒れた冒険者の現状を確認し、治療の必要が無い事を告げる。

 

 

「あっ…。この子」

 

 

その冒険者の顔を見てアイズは驚きの表情に変わる。下級冒険者が身に纏うような軽装備、なにより兎を彷彿させる白髪の少年。アイズがあの時以来、会いたいと思っていた人物、ベル・クラネルだったのだ。

 

 

「知り合いか?」

 

「ううん。…その、前に話した、ミノタウロスの」

 

「成る程。あの馬鹿者(ベート)がそしった少年か…」

 

 

リヴェリアはため息を吐く。前回の遠征の打ち上げで酔っ払ったベートが罵った、アイズと七郎治が助けた駆け出しの冒険者。打ち上げ後、何時もと様子の違うアイズに聞いた話では本人があの場に居たというのだ。

 

 

「リヴェリア、私はこの子に償いをしたい」

 

「…言いようは他にあるだろう」

 

 

やれやれと再びため息を吐くと、ふと考え込みアイズにある方法を伝えた。そんな事で良いのか?とアイズは疑問を投げ掛けたが笑って肯定をする。

 

 

(よもやまた逃げられはしまい)

 

 

その場にアイズだけを残し、リヴェリアは思うところがあり先に帰還する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

ー黄昏の館ー

 

 

門番に出迎えられたリヴェリアは目的の人物を探す。すれ違った団員に居場所を聞けた為、直ぐに見つかった。場所は訓練場とは別に団員達が鍛錬によく使う中庭だ。

 

 

目的の人物は自然体で立ち、目を瞑っていた。その目の前には丸太の上に小石が置かれていた。空気が張り詰め、静寂に包まれている。

 

ーバサ、バサ、バサッ

 

近くの木から鳥が飛び立ち、僅かに空気が壊れた刹那。七郎治の手には刀が握られ、小石は僅かに震えていた。

 

常人は勿論、中級以下の冒険者でも何が起きたのか理解しえないだろう。しかしリヴェリアはLv.6の視力を持って捉えていた。まず居合で小石の下よりを真横に振り抜き、返す刃で小石の上よりを真横に一閃。高速の二度切り。

 

 

(これ程とは…。抜刀斎(二つ名)は伊達では無いという事か)

 

 

リヴェリアは素直に感心した。見えたと言っても瞬時には判断出来ない程のスピード。

 

多くの人はロキ・ファミリアで最強の剣士は?と問われれば【剣姫】であるアイズが思い浮かべるだろう。だが…

 

とんだ伏兵がいたものだ…。とリヴェリアは片目を瞑り、短息する。

 

 

「…?副団長、お帰んなさーい」

 

 

リヴェリアの存在に気付き、気の抜けるような出迎えの言葉と共に、振り返りながら"チン"と刀を鞘に収めると、同時に小石は三等分に分かれた。

 

 

「七郎治。…少し話がある」

 

 

次の小石を拾い上げようとしていた七郎治の動きが"ピタッ"と止まり、冷や汗をダラダラと流しながら、ゆっくりと顔を上げた。

 

 

「えっ…。ちゃんとイイ子にしとったよ?」

 

「…いいから来い」

 

 

はぁーと大きな溜息を吐き、首根っこを掴み有無を言わさずに引きずって行く。「え?なして皆んなワシを運ぶとき、首根っこば掴むとね?ワシは猫か⁉︎」と聞こえたが無視。

 

館内の中央入り口がある2階には、広めの応接室があり室内の階段を上がった所には、ちょっとした娯楽でバーカウンターが備え付けられている。誰もいない事を確認しリヴェリアは果実水をとり、ダンジョン5階層での事を話した。

 

 

「…お前も、本人があの場にいた事を知っていたのだろう?」

 

「まぁ、ワシがついた時にちょうどすれ違ったけんな」

 

 

オシャレなバーカウンターなのに、梅昆布茶を啜る七郎治はあっけらかんと答えた。

 

 

「そうか。…お前は何を思った?」

 

 

あの酒場での一件の後、アイズは酷く落ち込んでいた。少年を悪く言った事を本人に聞かれて傷つけたと。そして、遅れてやって来た七郎治は怒っていたことを思い出したのだ。事の顛末はガレスに聞いていたので、自分の出る幕はないと思い、特別気には止めていなかった。

 

 

「あー…。ワシはあの後少年を追っかけたけんな〜」

 

 

七郎治はあの時の事を簡単に説明した。そしてリヴェリアは驚愕の表情を浮かべた。そんな話は聞いていなかった、いや恐らく誰も知らないだろう。駆け出しの冒険者がまともに装備を付けずにダンジョンに挑むなど自殺行為でしかない。それ程までに追い詰めてしまったのか、とあの時ベートを止めきらなかった自分を責める。

 

 

「んで、その後な?少し話をしたんよ。本人は毛玉や笑ったロキ・ファミリアの事を全然恨んどらんかったばい。優しい少年よ?」

 

 

な?凄くね?っと何処か自分の事のように嬉しそうに笑う。そんな七郎治を見てリヴェリアの目が細まる。自分も嫌な思いをしたのではないか?何故言わない?

 

 

(こいつは昔からそうだ…)

 

 

打ち上げを直ぐに抜け出し、何も言わずに仲間達の尻拭いをしていた。

 

幼い頃から知っている目の前の少年は、自身の秘密を打ち明けてくれてはいる…。

 

いるのだが、何処か人に頼ろうとせず自分で解決しようと奔走する癖がある。事が大きければ大きい程、1人で抱え込む…。

 

 

「…以前がどうであれ、お前はロキ・ファミリアの七郎治だ。それは変わらない。何か困った事や嫌な事があったら何時でも頼ってくれ」

 

 

突然のリヴェリアの言葉にビックリするも、言わんとしている事は分かる。

 

 

そげん気ぃ使わんでも、良いっちゃけど…。

 

 

妙な照れくささを感じながら、フッと笑い感謝の言葉を口にする。時には言葉に表す事が大事なのだ。

 

 

「…サンキュー、おかん」

 

「誰がおかんだ」

ゴン‼︎

 

 

言葉を少し間違えたようだ。まあ、何時もの戯れなのだが…痛いものは痛い。

 

 

「あ、あの‼︎リヴェリア様、アイズさんが戻って来ました…」

 

 

床に転げ回る七郎治をさも当然の様に無視し、レフィーヤはアイズ帰還の報告をした。だが、何処か歯切れが悪い。聞けばアイズの様子が明らかにおかしいとのこと。あの天真爛漫のティオナですら、声を掛けづらいらしい。

 

仕方ないとリヴェリアは床に転げ回っているものを引きずりながらアイズの元に向かった。

 

 

 

中央入り口は広間があり、その左右に半円の2階に繋がる螺旋階段がある。その階段の上には引きつった顔のティオナとティオネがいた。

 

 

「アイズがどうした?」

 

 

廊下の奥から掛けられた、リヴェリアに声にハッとしたが、2人は顔を見合わせて何も言わずに指差した。その先にはどんよりとした暗い空気を背負い項垂れているアイズの姿があった。

 

 

「…はぁー」

 

 

リヴェリアは直前まで一緒にいたので、訳を聞くことにした。階段を降りて問いかける。

 

 

「アイズ、どうかしたのか?」

 

「……ちゃった」

 

 

とてもか細い声で返答があったが、聞き取れない。

 

 

「なに?」

 

「また…、逃げられちゃった…」

 

 

リヴェリアは呆気にとられる。以前助けた時に叫びながら逃げられて、少年に怖がられていると言っていたのであの方法を伝えたのだ。しかし、また逃げられるとは…。

 

 

「……くっ!」

 

「ッ⁉︎」

 

「ぷっ…くくく…!」

 

 

アイズの顔が一気に真っ赤にふくれ上がる。リヴェリアにしろと言われたからしたのに、また逃げられて、それを笑うなんて!

 

 

「〜〜‼︎‼︎」

ドン!

 

「えっ⁉︎ちょっとアイズ⁉︎」

 

 

アイズの行動にティオナが声をあげる。

 

いきなり笑いだしたリヴェリアとそれを突き飛ばすアイズ。2人の普段見ない姿に皆んな驚いていた。しかし、その姿は姉妹のようであり、親子のような仲睦まじい姿に見えた。これで大丈夫?かな、とティオナ達は笑い合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、アイズが階段の上に人がいることに気づき、顔を上げると。

 

 

「どん☆まい‼︎」ビシッ!

 

 

メチャクチャ良い笑顔で親指をグッとする、七郎治がサムズアップされた。アイズの怒りの矛先がリヴェリアから七郎治に向けられたのは致し方ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その3時間後、未だにプンプン!と頬を膨らませているアイズと、酸欠状態の七郎治が改めて黄昏の館の門を潜り、我が家に帰って来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





さて、これでようやくソード・オラトリアの2巻にあたるお話が一通り終わりました。結構長くなりましたね…。
一章同様、閑話を挟みながら第3章をまとめて行きます!
これからもお付き合いの程、宜しくお願いさします‼︎


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【閑話】初めてのランクアップ 1

今回は閑話として、過去の話です。暇つぶし程度に読んで頂ければと思います。








 

 

 

ーダンジョン11階層ー

 

 

上層の中では中層に近く、モンスターの強さも上がっている。ダンジョンの作り自体は8、9階層と変わらないが、大きく異なる点がある。9階層までは薄暗い洞窟のようであったが、10階層〜12階層は辺りは霧で覆われ、先を見通すことが出来ない。

 

11階のメインルートから外れたルーム内で、白い霧の中でモンスターと対峙する1人の冒険者がいた。その冒険者の周りには、幾つもの紫紺に輝く魔石が転がっていた。どうやら、戦闘は終盤に差し掛かっているらしい。対峙するモンスターはハード・アーマードだ。

 

ハード・アーマード。頑丈な甲羅に覆われ、上層のモンスターの中では最も高い防御力を誇る。頑丈な甲羅に覆われていないの腹と胸部分は柔らかく脆いが、その弱点を補うように体を丸め転がりながら突進してくる。

 

 

「セヤァ‼︎」

ザシュッ!

 

「グギャ」

 

 

突進を交わし、その後を追いかける。ハード・アーマードは獲物を捕らえきれなかった為、回転を止め再び突進しようと立ち上がった。だが、振り向いた瞬間その柔らかい胴体に一閃が入り絶命した。

 

刃に着いた血をピッと振り払い、鞘へと納刀する。その剣士の風貌は黒髪を肩まで伸ばし、中性的でまだまだ幼い。しかし、何処か目に光が無く活力をあまり感じられない。

 

少年はロキ・ファミリア所属のLv.1 七郎治である。

 

 

七郎治が入団してから二年の月日が流れ、後から入ったベートはすでにLv.2になり【凶狼(ヴァナルガンド)】の二つ名を得ていた。同期のラウルとアキも先月ランクアップを果たし、次の3ヶ月に一度行われる神会(デナトゥス)で二つ名が決まる。

 

 

うーん、どげんすればランクアップするとかいな?

主神様(ロキ)が言うには経験値(エクセリア)は充分溜まってるから、偉業ば成し遂げろって言ってたけど…。

まぁ、そろそろ帰らなね。

 

 

七郎治のステータスはLv.1の上位に差し掛かり、ランクアップを視野に入れても良い頃合いだった。周りに落ちている魔石を回収しながら、考えにふけっているとルーム内の四方の壁に亀裂が入る。

 

 

ビキッ…ビキ、ビキッ

 

もう次が来たんか…。ちと早過ぎやない?

 

 

脇差しを抜き、ダンジョンから産み落とされたモンスターへ構える。

 

 

ハード・アーマードが3体か。まぁ、大丈夫やな…っ⁉︎

 

ビキッ、ビキッビキッビキッ‼︎

 

 

更に壁に亀裂が入ると、全身を白い体毛で覆われた巨大な猿に似た外見のモンスターが生み出された。

シルバーバック。両腕は筋肉が隆起し銀色の頭髪は長く尾のようになっている。

 

 

シルバーバックが…。くそ‼︎7体もおる‼︎

 

 

現在の敵は全部で10匹。ロキ・ファミリアの団員の殆どが、上層での今の状況を容易く突破出来るだろう。しかし、七郎治は今だLv.1の冒険者。視界の悪い状況下では決して油断は出来ない。

 

 

いかん…、囲まれとる。

多対一にならんよう、出来るだけ一対一にせな…。

 

 

刀を脇構えにし、今だ突進状態に入っていないハードアーマードに一気に距離を詰める。すれ違いざまに柔らかな部分を斬りつけ包囲網を一時的に抜ける。

 

 

まずは一匹!

 

 

そのまま四方を囲まれないように移動を開始。シルバーバックの飛び掛かりを横にステップをし交わす。着地した地面は大きく陥没しクレーターが出来ていた。着地の隙を逃さず死角から脇腹に一太刀。深追いはせず直ぐに回避行動へ。

 

回避の直後、ハードアーマードの突進攻撃が通り抜けた。

 

 

よし、このまま一撃離脱で確実にいくべ!

 

 

シルバーバックに刀傷を与えつつ殺せるものにはとどめを、優先的にハードアーマードを殲滅させる。残るは傷を負ったシルバーバックが5体。このままやりきれるかと思った直後、一斉に飛びかかってきたシルバーバックの攻撃と今までに出来た地面の陥没が重なり、運悪く地面が崩壊しモンスター共々下の階層に落下した。

 

七郎治は崩落の中、降ってきた岩が頭にぶつかり瞬間的に意識をとばしてしまった。

 

気がついた時には岩と岩の間に挟まれていた。奇跡的にその小さな体は隙間に収まり五体満足である。だが、全身を打ち付ける痛みはあり、あちこちから血も流れている。

 

 

「うっ…ぐぅ!」

シルバーバックの気配がせん…、岩の下敷きになったか。

…骨は肋骨が少しだけやね、手足は無事か。

まずは頭の血を止めんといかんな。

 

 

ウェストに付けているポーチに手を伸ばすも、中の回復薬(ポーション)は落下の衝撃で全て割れていた。仕方がないのでポーチに染み込んだの回復薬(ポーション)を手につけ頭に塗り込み、心ばかりの治療を施す。

 

 

そげん落ちてないし、霧がかかっとるから12階層やろうけど…。此処はどの辺りやろ?まずは自分の居場所を確認せんと。

 

 

片方の道は落下した岩で塞がれているので、残った一方に進む。すぐに大きめの通路に差し掛かったが、その通路は()()と繋がっていた。それは13階層、中層へ繋がる道だ。

 

 

「うっそ…、マジでか…」

ちゅうことは、上に上がるにはかなりの距離があるな…。回復アイテムは無し。最短でいかなダンジョンの出口までもたんぞ。

 

 

一度でも道を間違えれば、それだけ危険が増す。失敗は許されない。考えている暇も惜しいと頭の中の地図を思い出し、視界の悪いダンジョンを警戒心を最大に引き上げながら進みはじめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落下した場所から最短ルートで進むも何度かモンスターをエンカウントし、焦らずに着実にダメージを与え切り抜けて来た。次の12階層では取り分け大きいルームを抜けると11階層に戻れる。

 

その思いが僅かばかり気を抜いてしまい、濃艶な霧の奥に潜む危険に気づけなかった。

 

ルームの中程までに来て初めて目視した。普段のダンジョン探索で見かける事がなく、今このタイミングで出くわすとも思っていなかった。その考えが甘かったのだ。七郎治は声も出せずに固まってしまう。

 

それは絶対数が少ない希少種(レア・モンスター)。体高150C(セルチ)、体長は4(メルド)を超す。その姿は生物の中でも頂点に君臨する強者のもの。まさしく"竜"であった。階層主が出現しない上層の事実上の階層主。インファント・ドラゴンだ。

 

インファント・ドラゴンはゆっくりと視界に捉えた小さな冒険者を見据える。ダンジョンより生み出されたモンスターに情はない、只々ダンジョンに足を踏み入れた獲物を狩るのみ。

 

 

「グオオオオオーー‼︎‼︎」

 

 

竜の咆哮が辺りに響き渡る。獲物を狩る強者の咆哮は、一方的に弱者を押さえつける。

 

一瞬の硬直の後、はじかれたようにその場を離脱する。七郎治のいた場所をインファント・ドラゴンが抉り取った。懸命に足を動かし距離をとる。

 

 

っ‼︎マズイ、どうする?どうすればいい⁉︎

 

 

神の恩恵を受けていようが、懸命に逃げたところで人間(ヒューマン)の子供が逃げれる距離などたかが知れている。インファント・ドラゴンはゆっくりと少しだけ距離を縮め、その長い体で薙ぎ払いを仕掛ける。

 

 

「ぐあ‼︎」

 

 

間一髪で回避をとるも、鞭のようにしなる尾が叩きつけられ、いとも簡単に吹き飛ばされる。

 

 

「ううっ…」

くそ!逃げきれん‼︎仮に逃げきれたとしても、コイツがいる限り上には行けん…。どうすれば…っ⁉︎

 

 

考える猶予など与えてはくれず、体当たりを仕掛けてきた。

 

それを必死に転がりながら、無様に逃げ回る。

 

 

「ハァ、ハァ…」

どうする?他の冒険者が来るまでルームの外で待つか?何時まで待てば良い⁉︎来るかも分からんのに‼︎

 

「グオオオ‼︎」

 

 

何度も執拗に追いかけ回すその姿は、逃げ回る獲物を弄ぶ絶対的な捕食者そのものだ。再びその長い尾で弾き飛ばされ、ダンジョンの壁に叩きつけられる。

 

 

「あ…、がはっ…」

逃げ回るんも限界やろ…。

…さっさ覚悟を決めろや。阿呆が

 

 

ゆっくりと立ち上がるも、体が悲鳴をあげる。だか、そんな事で根を上げている場合ではない。脇差を鞘から引き抜き、インファント・ドラゴンを睨みつける。

 

 

「グオオオオオーー‼︎‼︎」

 

 

その目つきが気に入らなかったのか、"竜"は咆哮を挙げ真っ直ぐに突進して来た。その突進を紙一重でかわし、がら空きの長い首に一太刀を入れる。

 

 

「…グルルル」

 

 

七郎治が付けた傷など、致命傷にもならないがそれでも"竜"は小さな冒険者を敵とみなし排除にかかる。

 

しかし、七郎治もまた目の前の"竜"を倒すべき敵とみなし、腹をくくっている。後はどちらかの命が尽きるまでぶつかり合うのみ。

 

 

ゆっくりと間合いを詰める七郎治。インファント・ドラゴンも迎撃態勢に入り、長い体を丸めるように力を溜める。

 

七郎治が一気に駆け出す。インファント・ドラゴンの間合いに入った瞬間、力を解放し今までの薙ぎ払いとは比べ物にならないぐらいの速さと威力が乗った一撃がきた。

 

それを瞬時に上に跳び上がり回避し、勢いを殺さないように回転しながら顔を斬りつけた。

 

 

「グギャアア⁉︎」

 

 

片目を奪われたインファント・ドラゴンは悲鳴を挙げる。その一撃は相手の視力を片方奪うと同時に、怒りを買う事になった。怒り狂った"竜"は出鱈目な威力を持つ攻撃を次々と繰り出し、完膚なきまでに小さな冒険者に襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー黄昏の館ー

 

ロキ・ファミリアの拠点である黄昏の館。落ち着きのない様子で2人の姿があった。

 

 

「う〜、大丈夫っすかね〜」

 

「ラウル君少し落ち着いたら?」

 

「けど、ロージ君がまだ戻って来てないっすよ⁉︎夕飯の時間も過ぎたのに…」

 

「…やっぱり遅いよね?朝早くからダンジョンに潜ってたから…。何かあったのかな?」

 

「「……」」

 

 

ダンジョンで何か起きた場合は自己責任。だが、ファミリアの仲間の事となるとそうは言ってられない。2人は七郎治がいつも帰ってくる時間になっても戻って来なかったので、探しに行こうかと何度も話していた。

 

同期の2人がランクアップを果たし、後から入ったベートにも先を越された事で、きっといつも以上に頑張っているんだと思い何度も踏み止まっている。それにアイズというソロでダンジョンに挑みまくる、型破りな子供がいるので大丈夫では?とおかしな方向に納得してしまった部分もある。

 

しかし、それにしても遅すぎる。探しに行くにしてもダンジョンは広大だ。上層にいると分かっていてもLv.2になったばかりの2人では探し出すのはそう簡単ではないだろう。

 

 

「…ガレスさんに相談してみるっす」

 

「…そうだね」

 

 

2人は悩んだ末、幹部に相談して探しに行ったほうが良いか決めることにしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーダンジョン12階層ー

 

吹き飛ばされては立ち上がり、斬りつける。斬られればまた、弾き飛ばす。もう何度目か分からない。繰り返されてきた攻防戦も、じきに終わる。

 

 

「…グルルル」

 

 

片目から血を流し、その長大な体には幾つもの切り傷が刻まれ血に塗れている。インファント・ドラゴンはゆっくりと最後の一撃の為に攻撃態勢に入る。狙うは目の前の小さな冒険者、ただ一人。

 

 

「……」

 

 

何度も吹き飛ばされ、地に叩きつけられた小さな体は腫れ上がり視界はかすれ、感覚を失いかけている。そして、相手と同じく血で染め上げれられている。七郎治はゆっくりと腰を落とし、鞘にしまった脇差を地面と強い直になる様に左手で構え、右手で柄を握る。

 

七郎治は何度もぶち当たるたびに感じていた。いや、()()()()()()()()()()と言うべきか…。ハッキリと其処に存在している事が分かる気配。目の前に対峙する"竜"の声が、意思が…。頭の中に流れ込んでくる。

 

 

これで…。最後…。

 

「グオオオオオオオー‼︎‼︎」

 

 

インファント・ドラゴンの最後の咆哮。今までに無いくらいの威圧と殺意を纏う。そして持てる全ての力を解放し、死力を尽くした一撃。

 

 

七郎治は動かない。すぐ其処まで"竜"の牙が、長大な体が、《死》が迫っているのに…。

 

 

分かるんよ…。お前の呼吸が…。

 

 

 

 

時が止まったかのような静寂が包む。

 

 

竜と冒険者は違いに背を向けて佇んでいた。

 

 

「一刀流居合 獅子歌歌…」

カチン…

 

 

その瞬間、インファント・ドラゴンの体に一閃が入り、血を吹き出しながら崩れ落ち、やがて灰になる。残されたのは紫紺の魔石とたった一つの牙。

 

人と竜の全てがぶつかり合う瞬間、全ての呼吸を知る事で物体を切り裂くことに必要な絶妙な角度、力、速度を把握し、神速の居合で斬ったのだ。

 

 

 

 

七郎治は強敵が残して行ったものを拾い上げ、機械的に足を動かし上へと向かう。遠くで聴こえるモンスターの呼吸。更に遠くで感じるとても暖かな呼吸。それらを道標に前へと進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





インフェント・ドラゴンって上層の階層主扱いなんですよねぇ…。
ベル君は一撃て倒してたけど…。
七郎治弱すぎん?と思われる方もいるかもしれませんが、アニメでも他の下級と思われる冒険者達が逃げていたので間違ってないと思います。…たぶん。

えーと、1話完結のつもりが、終わらなかったです。
次は後日談です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【閑話】初めてのランクアップ 2

 

 

 

ーダンジョン9階層ー

 

 

10階層へと繋がる通路の前で合流する2人の姿があった。ラウルとアキの話しを聞き、天界きっての道化師(トリックスター)の感と危険を知らせる勇者(ブレイバー)の親指に従い未だに戻らない小さな冒険者を捜しに来ていた。

 

 

「いたか?」

 

「いや…。此方にはいなかった、それらしい子供の目撃情報もない」

 

「そうか、儂の方も同じじゃ」

 

 

ガレスとリヴェリアはLv.6のスピードをフルに生かして、二手に分かれ各階層をしらみ潰しに探していた。だが見つからず、すれ違う他所のファミリアの冒険者に聞いてみたが七郎治と思わしき子供は見ていないとのこと。

 

では次だと、10階層に向かおうとしたその時通路から声が聞こえて来た。

 

 

「いや〜参ったぜ。今日の稼ぎは良くないな」

 

「そうだなぁ…。たくっ!何だったんだアレは⁉︎」

 

「11階層のルームは崩れているわ、12階層はインファント・ドラゴンが暴れてるし散々だぜ」

 

 

その会話を聞いた途端、嫌な予感がした。まさかと思いその冒険者達に詰め寄る。

 

 

「すまんが、その話を詳しく聞かせてくれんかのぅ!」

 

「ぉ、おわぁ‼︎エ、【重傑(エルガルム)】⁉︎…【九魔姫(ナインヘル)】まで⁉︎」

 

 

オラリオ最強派閥の一角であるロキ・ファミリアの幹部に、突然話しかけられた下級冒険者である彼等は驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「突然すまない。11階層と12階層の話を聞かせてくれ」

 

「あ、あぁ…。11階層の奥にあるルームに行ったんだが…。床が崩れていていたんだ。それでモンスターが出なさそうだったから、12階層に向かったんだ。そしたら12階層に降りて直ぐにあるルームでインファント・ドラゴンが暴れてやがったんだよ」

 

「インファント・ドラゴンが?冒険者の姿は?」

 

「いや、霧が濃くて見えなかったが…。何処かのパーティーがいる様には見えなかったぜ?」

 

 

2人はその話に違和感を覚えた。モンスターは基本的に例外を除けばモンスター同士で争わない。インファント・ドラゴンが暴れていたのであれば、必然的に相手は冒険者になる。パーティーであれば霧が濃くても何かしら動きを感じ取れるはず…。先ほど感じた嫌な予感が的中している事を確信した。

 

2人は冒険者達に短く礼を言い、全速力で12階層へと向かう。無事でいくれ、願うはそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

最短ルートで10階層を走り抜け、11階層へと突入した。もし、逃げおうせていれば上を目指す。さらに怪我を負っているのであれば、回り道をせず最短ルートで上がってくるはずだ。

 

結果として、2人の考えは当たっていた。霧に覆われた通路の奥の方でぎこちなく動く小さな影、そして荒々しく動く3つの人とは違う大きな影。見つけた。

 

地面を抉る程の力を込め、駆け抜ける。リヴェリアがおぼつかない足取りで必死に応戦する子供を抱き抱え、ガレスが3体のシルバーバックを殴り飛ばし瞬殺する。

 

 

「しっかりせんか‼︎七郎治‼︎」

 

「待っていろ!直ぐに治療をする」

 

 

意識を手放している七郎治に呼びかけるガレス。詠唱を唱え回復魔法を施すリヴェリア。2人はボロボロになった姿に顔を歪めるも今は治療が先決だ。

 

 

「一体何があった?…やはり七郎治にはまだ1人で行かせるべきではなかった!私がもう少し気にかけていれば」

 

 

リヴェリアは自分自身を責めた。無茶ばかりするアイズにばかり気に掛け、もっと幼い七郎治に目を向けきれていなかった。

 

 

「此奴は儂の預かりだ、お主が気にやむことではない」

 

「しかし‼︎…」

 

「それにお主が自身を責めている姿を見たら、帰りを待つひよっこ共も自責の念にかられるぞ?」

 

「ッ⁉︎」

 

 

確かにそうだ。自分のこんな姿を見せてしまったら、ラウルとアキまでもが自分自身を責めてしまう。今は急ぎ黄昏の館につれて帰る事が最優先だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー黄昏の館 ー

 

 

窓から差し込む日の眩しさに目を覚ます。白い天井は何度か見覚えがあった。自身の師との訓練の中で何度も運ばれた場所だ。

 

 

ここは…。医務室かいな?

…戻って来れたんやね

 

 

はぁーと安堵の息を吐き、体を起こそうとするも全身に痛みが走り、起き上がることが出来なかった。

 

 

「いっ⁉︎…たぁ」

あ、これダメなやつや…。よし、二度寝しよう。

 

 

再び眠りに着こうとしたその時、入り口の方から声がした。

 

 

「目が覚めたかのぅ?」

 

 

声の方に目を向けるとガレスが立っていた。心配する眼差しが居た堪れなくなる。

 

 

「親方様?あー、まぁ大丈夫ばい」

 

「そうか…。今、ロキ達を呼んでくる」

 

 

ふんと鼻を鳴らしそう言い残すとガレスは出ていった。直ぐにロキを始め、フィン、ガレス、リヴェリア。そしてラウルとアキが集まった。七郎治が目を覚ました事に全員喜び、ラウルにいたっては泣き出してしまった。

 

 

「さて、七郎治…。一体何があったんだい?」

 

「んーと、どう説明したらいいかいな?あんま覚えとらんけんな…。ドカーン!ちなってギャーてなったんよね」

 

 

七郎治はんーと唸り考え込む。正直、突然の出来事過ぎて覚えていない部分がある。最後の方なんか特に…。そんな抽象的過ぎる説明に呆れ果てる。

 

 

「よっしゃ、ウチがステイタスから読み取るわ」

 

「頼むよロキ」

 

 

ロキが七郎治をひっくり返し、背中に跨りステイタスの更新を始める。その背に刻まれた神の恩恵には眷属の物語が綴られているのだ。皆が見守る中、更新するロキの手がピタリと止まる。

 

 

「…ロージたん、怪物の宴(モンスター・パーティー)におうたんか?」

 

「「「ッ⁉︎」」」

 

 

上層とは言え、中層に近い場所でLv.1のソロの冒険者が合えば危険極まりない。周りが驚いている中、当の本人は…

 

 

「はあ?モンスターパンティ?何ばいいよるんよ主神様。…こぉの、ドスケベが!」

 

「えっ!ウチ言うてへんやんけ⁉︎辛辣ぅ‼︎この男の娘、メチャ辛辣ぅ‼︎」

 

 

一文字違うだけで意味が変わることはよくあることだ。余りの物言いに抗議をするも、この程度で終わる我らが主神ではない。

 

 

「ちゅうかモンスターパンティってなんやねん⁉︎モンスターがパンティ履いとるんか⁉︎それともモンスター柄のパンティなんか⁉︎なぁ、リヴェリアはそこんとこどう思う⁉︎今どんなパンティ履いとる…「知るか馬鹿者‼︎」へぶち‼︎」

 

 

セクハラ発言にリヴェリアの鉄拳がとぶ。殴られたロキは医務室の窓を突き破り、フェードアウトした。

 

此処が1階でなければ…。いや、よそう。こんなくだらないことで主神を失ったなど、口が滑っても言えない。何のためらいも無く神を殴り飛ばしたことにラウルは恐ろしさに震え、アキは今起きた事を瞬時に記憶から消した。

 

 

一呼吸置いて、ロキが窓から這い上がって来たので、更新を再開させる。今度は真面目に話始める。

 

11階層での怪物の宴(モンスター・パーティー)に続く地盤の崩れ、そしてインファント・ドラゴンとの戦闘。七郎治の朧げな証言と、持ち帰ったドロップアイテムの「インファント・ドラゴンの牙」で全てが判明した。

 

 

「それでな、ロージたん。…ランクアップ出来るで‼︎」

 

「ウッソ?まじでか⁉︎ドスケベ様‼︎」

 

「マジや‼︎ちゅうか誰がドスケベ様やねん⁉︎」

 

 

神々が認める偉業を成し遂げた七郎治は晴れてLv.2に器を昇華させた。同期のラウルとアキは手放しに喜んでくれた。次の神会(デナトゥス)で3人一緒に二つ名が決まる。

 

 

「それでやステイタスの更新とランクアップをするさかい、すまんがラウルとアキは席を外してくれへん?」

 

「あっはい!じゃあロージ君また後で‼︎」

 

 

ラウルとアキが退出したのを見届けるとロキはLv.1最後の更新を始め、ステイタスを書き写した。

 

 

七郎治

Skill Lv.1

力:C642 → S901

耐久:B786 → S972

器用:A869 → SS1004

敏捷:C681 → S931

魔力:I0 → I0

剣豪:I

 

 

ステイタス上昇値 900オーバー。全アビリティ オールS。この2つが壮絶な戦いを物語っていた。

 

「そんでこれが新しいステイタスや!発展アビリティは1つあったから更新したで‼︎」

 

 

七郎治

Skill Lv.2

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

剣豪:H

索敵:I

 

スキル

【】

 

 

ロキに手渡されたステイタスの写しを見て疑問に思う。朧げながらに覚えている、インファント・ドラゴンとの最後の勝負の瞬間に感じていたアレは何だったのか?と。

 

 

転生特典の『覇王色の覇気』やと思ったんやけど…。スキルには出とらんね。発展アビリティの『索敵』なんかいな?

 

 

まあ、いっかと考える事を直ぐにやめた。冒険者の中にはLv.1で生涯を終える者も少なくない。Lv.2になり上級冒険者に組み込まれた事を噛み締める。

 

 

こっからやな…。冒険者として進み始めたばかりやけん、気張っていかないけんな‼︎

 

 

新たな気持ちに切り替え、これからの自分のあり方を、どうしたいかを考え先を見据える。

 

 

「七郎治、ちょっと良いかい?」

 

「ん?なんね団長?」

 

「僕からは、ランクアップおめでとう。とだけ言っておこう」

 

「あ、どうも?」

 

 

そう言うとフィンは医務室から去っていった。次にガレスが七郎治の前に立ち話しかけてきた。

 

 

「これからもしっかり鍛えてやるわい!儂からはそれだけじゃ」

 

「はあ…」

 

 

先程のフィンと同じように医務室の外へ。ぐへへへ、とロキが七郎治に抱きついてきた。

 

 

「ロージたん、泣きたくなったら何時でもウチの胸に飛び込んできて良いんやで‼︎」

 

「や、結構です」

 

 

「拒否られた…。しかも敬語て…」と肩を落とし、背中を丸めながらロキも退室していった。何コレ?と思いながらドアを見つめていると、ふと声をかけられる。

 

 

「七郎治…」

 

「副団……長?」

 

 

ようやく自分のおかれている状況に気付く。全身の毛穴から嫌な汁が噴き出す。

 

自分は見捨てられたのだ。尊敬する団長に、最も信頼する師に、そして自分を拾ってくれた大恩ある主神に…。

 

目の前に迫る危機からもう逃れる事は出来ない。

 

 

「〜こぉの、……馬鹿者がーーー‼︎‼︎」

 

「ごめんなさい‼︎」

 

 

これでもかと言うぐらい怒気を含んだリヴェリアの怒声に、瞬時に跳び上がり土下座をするも、焼け石に水だ。

 

 

「おまえはっ!自分が何を!したか分かって!いるのか⁉︎」

 

バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!

 

「いたっ!ちょっ!マジで!やめっ!」

 

 

リヴェリアの怒声と叩かれる音、七郎治の苦痛の声が小気味良いリズムで響き渡っていた。

 

 

「全く反省していないようだな…」

 

「いや、この歳でコレはないわ!ワシはコレをご褒美と呼ぶ界隈の人じゃないとぜ⁉︎」

 

 

口答えする七郎治に対して、リヴェリアは勢いよく腕を振り抜く。

 

 

「やかましいーー‼︎‼︎」

 

バシーン‼︎

 

「いったぁー‼︎」

 

 

普段は割と黙って説教を受ける七郎治だが、この時ばかりは反抗した。まあ、リヴェリアは知らないとは言え、本来であれば26歳。正直キツイ。

 

今の状況は、七郎治の体は仰向けにリヴェリアの膝に乗せられ、押さえつけられている。そして、振り抜かれるリヴェリアの手のひらで尻を叩かれる。

 

そう、「おしりぺんぺん」をされているのだ。

 

そして七郎治の断末魔が黄昏の館に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

団員達は医務室から1番離れた所にひしめきあっていたが、2時間後にようやく解散した。

 

恐怖の絶叫が鳴り止み、心配になって医務室を覗いたラウルが目にしたのは…。

 

 

 

布団にくるまり、静かにすすり泣く七郎治の姿だった。

 

 

 

ラウルはそっと扉を閉め、何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





えーと、この【閑話】あと1話続きます。この回に入れ込んで終わらせようとしたんですが、ちょっと長くなりまして…。次で終わりです。

ソード・オラトリオの本編に戻るのはもう少し待って下さい!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【閑話】初めてのランクアップ 二つ名



大変時間をあけてしまいました。
これで閑話休題は終わります。結構長くなりましたが最後までお付き合い頂ければと思います。




 

 

 

インファント・ドラゴンとの死闘。ママ(リヴェリア)からのおしりぺんぺんを耐え抜いて1週間が経った今日、3ヶ月に一度の神会(デナトゥス)が開かれる。

 

バベルの30階にある大広間に多くの神々が集まっていた。この神会(デナトゥス)では、オラリオで行われる催しものや近況の確認及び情報交換などが行われる。だが、神々にとって1番の目的は器を昇華させランクアップした冒険者の『二つ名』を決めること。これがメインと言っても過言ではない。

 

 

「では、これより第ン前回神会(デナトゥス)を開催しま〜す!司会はこのヘルメスが進行するぜ‼︎」ビシ!

 

「「「イェーイ‼︎‼︎」」」

 

「俺がガネーシャだ‼︎」

 

 

商業系ファミリアの主神。伝令神ヘルメスが開催の宣言をしビシッとポーズを決め、それに同調し盛り上がる神々。そして、唐突に自分を主張する群衆の主ガネーシャ。こうして神会(デナトゥス)が始まった。

 

まずは軽い流しで思い思いに発言し、悪ノリしながら近況報告を行っていく。今回は管理機関であるギルドからも特に連絡事項もなかった為、只の雑談会になっていた。

 

 

「んー、今回は特に変わった事はないかな…。それじゃあいっちゃう?」

 

 

進行役であるヘルメスの一言で、神々の表情が一変した。ニヤ〜と口角を吊り上げ意地悪く笑う神、今回のランクアップ者の中に自神の眷属がいる下級ファミリアの主神は顔を青ざめる。

 

 

「これより!命名式を始めまーす‼︎」

 

「「「イェーイ‼︎」」」」

 

 

神々が与える二つ名は「これは痛いはw」と自神達が思っているのとは裏腹に、名付けられた眷属(子ども)達は「カッコイイー」と目を輝かせるのだ。

 

いつの世も権力、財力、武力、力を持たないものは叩き伏せられる。それは神々とて同じ。力のあるファミリアでない限り、その願いは届かない。我が子にはまともな二つ名をと神は奮闘するが、その想いをへし折るのもまた神なのだ。そして今日もバベルの30階の大広間は阿鼻叫喚が響き渡る地獄絵図と化した。

 

 

「で、最後がロキのところか。3人も上がるとは凄いじゃないか」

 

「ふふん!せやろ?この子達は初めてのランクアップやねん。…分かっとるやろうな?」

 

 

血の涙を流し、愛しの我が子に謝罪の念を呟き続ける。そんな下級ファミリアの主神達を他所に、都市最強派閥の一角の主神であるロキは眷属(子ども)を自慢しながらニヤリと笑い悪ノリが過ぎる神々に牽制をかけた。

 

 

「えーと、まずはヒューマンのラウル・ノールドだね。何か意見は?」

 

「んー、悪くはないが…普通?」

 

「そうだなぁ。普通だな」

 

 

美女・美少女が多いロキ・ファミリアの中で、男であり決して悪くはないが普通の容姿であるラウル。扱う武器も両手剣と短槍を使い分けていて、特筆する部分が余りない。普通ならここで好き勝手思いついた二つ名を上げるが、ロキ相手ではそれが出来ず神々は思案する。

 

 

「これはどうだ?ーーー」

 

「「「それだ‼︎」」」

 

 

一柱の男神の言葉に他の神々は一斉に声をあげた。こんなにピッタリな二つ名はないと。ようやくラウルの二つ名が決まった。

 

 

「よし!次は猫人(キャットピープル)のアナキティ・オータムだ」

 

「黒猫ちゃんキターーー‼︎」

 

「ああ、撫でまわしたい!尻尾で叩かれたい‼︎」

 

「殺すぞ」

 

まだ、あどけなさが残る可愛らしさがあるアキの似顔絵をみた男神達が沸き立つ。しかし、自神のセクハラを棚に上げロキは言い放った。

 

 

「「スンマセンした‼︎」」

 

 

そんな不穏な空気の中話し合いが進んでいく。可愛い黒猫に自分で二つ名を付けたい!でも、怖い!と神々は下手を打たないよう慎重に発言をしていく。その中の一つからアキの二つ名が決定。

 

 

「これで最後だ。ヒューマンのオウギ・七郎治…本当に男の子なの?」

 

「おお!これは…」

 

「なっ!なんだと…。男の娘は実在していたのか⁉︎」

 

「いい…。実にいい…」

 

「なぁ、本当に男の娘なのかズボンの中を確かめる必要があるんじゃないか?」

 

「それもそうだな。…よし!行こう‼︎」

 

 

七郎治の女の子のような容姿に男神達が怪しい笑みを浮かべ、更には本当に男かどうか確かめるとのたまい始めた。だが主神であるロキがそんな事を許すはずがない。

 

 

「殺すぞ」

 

「「「スンマセンした‼︎」」」」

 

「たく、見た目は美少女!中身は仁俠!ロージたんはウチの嫁‼︎分かったかボケナスども‼︎」

 

 

別に七郎治はロキの嫁ではないのだが…。取り敢えず変なテンションになっていた男神達をバッサリ切り捨てた。そんなやり取りを終え、ようやく二つ名決めに戻る。

 

だが、あーじゃないこうじゃないと、中々纏まらず今日の神会(デナトゥス)で一番時間がかかっている。なんでも時間をかければいいというものではないのだが…。

 

 

「決まんねー!」

 

「極東出身で刀使いか…」

 

「あっ!俺思いついた。意味はともかくいいのがある…」

 

「おお!それだ‼︎」

 

「あなたは神か!」

 

「お前も神だろ」

 

「「「決まったーーー‼︎‼︎」」」

 

 

最後はトントン拍子で決まり、神々は達成感に包まれ爽やかな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー黄昏の館ー

 

食事の時間はいつも賑わっているが、今は殆ど人がいないガラガラの食堂を行ったり来たりする落ち着きのないヒューマンの少年の姿があった。

 

 

「ねえ、ラウル君。もう少しじっとしたら?ロージを見習いなさいよ」

 

 

そんな同期に少し呆れたようにアキは苦笑いしながら隣で「茶がうめー」とほうじ茶を啜る七郎治を見やる。

 

 

「けどアキ、ついに二つ名が決まるんすよ‼︎ああ〜どんな二つ名が貰えるんだろう‼︎」

 

 

期待に満ちた表情で、自分に命名される二つ名はどんなものかと想いを馳せる。

 

 

「ケッ!二つ名なんざどうでもいいだろう?」

 

 

狼人(ウェアウルフ)のベートが不機嫌そうにどかっと椅子に座り込み鬱陶しそうに吐き捨てた。

 

 

「二つ名なんか気にしやがって雑魚の証拠だろうが」

 

「いや、どんな証拠になるったいそれは」

 

「え〜!俺も【凶狼(ヴァナルガンド)】みたいなカッコイイ二つ名が欲しいっす‼︎」

 

「ふん!」

 

ベートの二つ名【凶狼(ヴァナルガンド)】は、速く鋭く、なおかつ荒々しい攻撃は敵を八つ裂きにする。プライド高く更なる強さをもとめる孤高の狼へと神々が名付けたものだ。

 

二つ名が決まった時も興味が無い、と口では一瞬してすぐに去っていったが、その後ろ姿は自慢の尻尾がピンと立ち、左右に振られていた。

 

それを見て七郎治は「主神様?毛玉の二つ名【澄照乙女☆毛玉‼︎(ツンデリング)】の方がよくね?」とボソッと言い放ち、それを聞いたロキが「次のランクアップまでに検討しとくわ」と言っていた。この2人の会話をベートは知るよしも無い。

 

この馬鹿2人の話は置いておいて、実際ベートは二つ名を気に入り、今もラウルにカッコイイと言われて態度とは裏腹に機嫌が良さそうに尻尾を揺らしていた。

 

 

「良かったなー毛玉。お気に入りの二つ名をカッコイイち言って貰えて」

 

「ばっ馬鹿かテメェー‼︎別に気に入ってなんかねえよ‼︎」

 

 

そんなベートの素直じゃない言葉に七郎治はニヤニヤとしていた。

 

 

おおー「バッカじゃない!別に気に入ってなんかないんだからね‼︎」毛玉ver.やん!マジでツンデレっちゃんね

 

「ツンデレ、テンプレ、マジワロス」

 

「カマ野郎がロキみてーなこと言ってんじゃねーよ‼︎」

 

 

ギャーギャーと騒ぎ始めた食堂の一角を微笑ましそうにロキ・ファミリアの最高幹部3人は見ていた。

 

 

「相変わらず元気がいいのう」

 

「少し騒ぎすぎだ…」

 

「まあ、今日くらい良いじゃないか」

 

 

自身の二つ名が気になって仕方がない者。言い合いを始めた仲間をなだめようとする者。投げ掛けられる暴言をのらりくらりとかわす者。悪態をついているが自身の二つ名ではないのにわざわざ居合わせる者。

 

そんな眷属達の賑わいは唐突に終わりを告げた。

 

 

「決まったでー‼︎」

 

 

主神の帰還により、皆ピタっと動きを止め開け放たれたドアに目を向ける。

 

 

「ロ、ロキ!早く教えて欲しいっす‼︎」

 

「まあ、待いや!ラウルの二つ名は…」

 

 

ごくっ!と生唾を期待のような緊張をまとったラウルは知らずに両手を握っていた。

 

 

「【超凡夫(ハイ・ノービス)】や‼︎」

 

「おおーー‼︎……へっ?」

 

 

二つ名の響きに感嘆の声をあげるも、よくよく噛み砕いて愕然とするラウルは地面に膝をついた。そんなラウルに対してロキは次の話を進めようとしていたので、団長自らフォローに入る。

 

 

「次はアキや!二つ名は【黒猫戦士(ケットシー)】や‼︎」

 

 

アキの戦闘スタイルは猫人(キャット・ピープル)の身軽でしなやかな動きを活かしたものだ。武器は片手剣(ライトソード)小型盾(バックラー)を装備している。そんなアキに意外にもピッタリであった。

 

 

「最後が〜ロージたんやー‼︎なぁなぁ、なんやと思う?」

 

 

よっぽどロキは気に入っているのか、勿体つけてきた。しかし、七郎治は前世の知識で神会(デナトゥス)の命名式がどういうものか知っていたため、元々乗り気ではなかった。

 

 

「え?…【三分の一の純情な感情の残った三分の二はさかむけが気になる感情】とかかいな?」

 

「どんな二つ名やねん⁉︎そんなわけないやろ‼︎」

 

 

何となく思い出した猿の名前の一部を言ってみたが違ったようだ。というかそんな事はありえないだろう。

 

 

「まあ、ええわ。気を取り直してー‼︎ジャジャン‼︎【姫若子(ヒメワカコ)】や‼︎」

 

「……は?」

 

「どや⁉︎ええやろ‼︎みんなピッタリやろ⁉︎」

 

 

1人テンションのメーターが振り切れているロキはワッホイ!ワッホイ!と小躍りしていた。

 

 

「飛鳥文化アターーック‼︎」

 

「アウチ‼︎」

 

「仏教文化の重みを知れ‼︎」

 

 

浮かれまくるロキに体を丸めた七郎治がローリングアタックをかました。これには食堂にいた皆んなが一様に驚く。

 

 

「なんでやねん!ちゅうかロージたん、なんで『飛鳥文化アタック』使えるんや⁉︎」

 

「練習した。てか、【姫若子】の意味分かっとるんか⁉︎」

 

 

唐突に飛鳥文化アタックを仕掛けた理由はどうやら二つ名が気に入らなかったようだ。やれやれと肩をすくめたフィンが七郎治に問いかける。

 

 

「姫若子とはどう言う意味なんだい?」

 

「姫若子はお偉いさんの息子、若様が男なんに本ばっか読んでたりして女の子みたいやねって悪口なんよ」

 

 

確かに男なのに女の子みたいな七郎治にはピッタリではあるが…。言葉の雰囲気だけで決めたのだろう。はぁーと主神に呆れるフィンとリヴェリア。ガレスにいたっては自身の弟子にはもっと強そうな二つ名が付いて欲しかったのだ。

 

 

「ギャハハハハ‼︎やっぱカマ野郎だな‼︎」

 

 

七郎治の説明を聞いたベートは腹を抱えて笑い始めた。そんなベートも飛鳥文化アタックの餌食に…。

 

 

「僕は良いと思うよ?」

 

「【勇者(ブレイバー)】に言われてもなぁ。てか、慰め方が適当過ぎるとワシは思うばい」

 

 

取り敢えず飛鳥文化アタックを仕掛けたが、本心では暁の聖竜騎士(バーニングファインディングファイター)みたいな二つ名にならなくて良かったと思っていた。

 

二つ名はランクアップした時以外では変更はしない。ならば次のランクアップでまともなものに変えて貰わなければならない。

 

 

「次にランクアップしたときは分っちょるやろうな?また変なもんにしたら『フライング摂政ポセイドン』ば食らわすけんな‼︎」

 

 

その後、七郎治はアイズが叩き出した最短記録に追いつく勢いの一年と半月でランクアップを果たした。その間ロキは隙あらば飛鳥文化アタックをくらい続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランクアップを果たしたところで、ハーフドワーフの鍛治師【単眼の巨匠(キュクロプス)】のせいで今度は名前負けしないように苦労する事になるとも知らずに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






はい!閑話休題おわりです。ぶっちゃけアキの二つ名がメチャクチャ悩みました。考え過ぎて収拾がつかなくなっていたところソード・オラトリオの最新刊が出ましたのでそれをヒントに無難なところに落ち着けました。

次回からは本編に戻ります‼︎


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三章
こんな日もたまにはいいよね?




さぁ、前回の後書き通りソード・オラトリアの3巻にあたる話がスタート…。

出来ませんでした‼︎

一応、始まったっちゃ始まったのですが、なんかアイズと七郎治の話です。




 

 

 

ロキ・ファミリアの拠点。黄昏の館。普段は団員達が談話室として使用している一室で、1人の少女が膝を抱えていた。

 

少女は普段の戦闘衣(バトルクロス)ではなく、純白の清楚なワンピースを見に纏い、絹のようなサラサラとした金髪、膝に埋めた顔から僅かに覗く金眼。【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだ。

 

念願だった白兎との再会も、脱兎の如く逃げられるという結果に終わり激しく落ち込んでいた。

 

 

(…リヴェリアがいけないんだ)

 

 

ダンジョンで倒れていた白兎を護衛すると共に、リヴェリアのアドバイス通り膝枕をしていたが、それがいけなかったのだと。アイズはとうとう涙ぐんでしまった。

 

そんなアイズの様子をドアの隙間からコッソリと見ている人影があった。

 

 

(あかんな〜。結構重症やで)

 

(ほっとけば良かろう?ワシは用事あるけん、もう行くばい)

 

 

ヒソヒソと話していたのは、アイズの明らかに様子がおかしい事に気を掛けた主神と、所用で出かけようとしたところを捕まったアイズの相棒だった。

 

 

(なんやと⁉︎この薄情もん‼︎)

 

(したっけ、どうしようもないべ?なんか良い考えばあるん?)

 

(うぐっ!せやな〜)

 

 

さっさと出かけようとする七郎治に対して、ロキは薄情者呼ばわりするが、問いかけられて打開策を探す。

 

 

(…そうや!その用事ついでにアイズたんを街で遊ばせてきいや‼︎)

 

(はぁ?そんなんで(いいから行け!早よ行かんかい‼︎))

 

 

七郎治の抗議を最後まで聞かずに、ドアへと突き飛ばしにべもなく実行させた。

 

 

「…七郎治」

 

 

普段着の青紫のシンプルな浴衣を着崩し…というか着崩れ、下駄を履いた七郎治がドアから転がりこんできた。

 

 

「あ〜、アイズ嬢?ちとワシの用事に付きやってくれんね」

 

「…うん」

 

 

アイズはソファから立ち上がり、元気のないまま七郎治の後をついて行く。七郎治は横目でチラッと廊下の角をみやると、親指をグッと立て満面の笑顔の主神がいた。腹立つ。

 

 

目的地であるヘファイストス・ファミリアの店舗。「羽衣屋」を目指す。その間、2人の間に会話はなく、フラフラと歩くアイズが危なっかしくて仕方なしに手を引く事に。普段着の【剣姫】と【抜刀斎】の姿は周りの目を引き、しかも手まで繋いでいるとなれば余計に目立つ。

 

 

そんな視線を浴びながら、ようやく目的地に着いた。

 

 

「こんちわー」

 

「いらっしゃい…。あら?珍しいわね。逢い引きでもしているの?」

 

「ほんとにそげん見えると?」

 

 

常連が可愛い女の子と手を繋ぎながら現れれば、自然とそう思ってしまうだろう。ふふふ、と笑うと七郎治に紹介を促す。

 

 

「アイズ嬢。この人はヘファイストス・ファミリア所属で、この「羽衣屋」のオーナー。Lv.3シホウイン・天華。二つ名は【羽衣】」

 

「ふふ、よろしくね。七郎治とは防具限定で専属契約を結んでいるわ」

 

「んで、こっちが【剣姫】のアイズ嬢。これだけで良かろう?」

 

「適当ね」

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン、です」

 

 

2人の挨拶を終え、さっそく七郎治は本題にはいる。18階層の事件でギトーに切られた、着流しと陣羽織を修繕に出していたのだ。

 

専属契約鍛治師達との話は冒険者にとってはとても大切なもの。その場に居合わせては申し訳ないと思い、その間アイズはやる事がないので店を見て回ることにした。

 

 

 

 

この店はオラリオでも珍しい、極東の衣類専門店。前回の遠征の後にテォオナ達と訪れたアマゾネスの店、エルフ御用達の店。そのどちらとも似ても似つかないものばかりだ。正直に言うと着方さえ分からなかった。

 

 

(すごく、綺麗…)

 

 

アマゾネスのような露出はなく、エルフのような煌びやかな装飾もない。ただシンプルなものから色とりどりのものまで幅広くあり、また細かい刺繍や美しい色合いになっていた。

 

一通り見て回り、店の入口付近に戻ってきた。入った時には見ていなかったが、窓の近くに設置されたそこには簪や櫛、扇子、また和風のブレスレットや耳飾りといった小物が並べられていた。陽の光に照らされたそれらは美しく輝いているようだ。

 

アイズはその中の一つに目をとめる。青と白の紐で編み込まれ、アクセントに可愛らしい桃の花のチャームが付いていた。

 

 

(かわいいな…。買っちゃおう、かな)

 

 

普段の戦闘衣(バトルクロス)とも合いそうだったので、買おうとした矢先アイズは断念した。

 

 

(…お金が、ない)

 

 

元々出かける予定ではなかったアイズは、そのまま出て来た為、お財布を持っていなかったのだ。しょんぼりと元の場所に戻すと、後ろから声をかけられた。

 

 

「アイズ嬢、待たせて悪かったの」

 

「ううん」

 

「ちょっとコッチ来てくれん?」

 

 

七郎治の後をついて行くと、試着室の前で天華がいくつもの浴衣を見繕っていた。

 

 

「さて、こん中から好きな物選んでな」

 

「えっと…」

 

「ん?振袖とかの方が良かった?あれらは慣れんと結構、動きづらいとよ?」

 

「そう、じゃなくて…。いいの?私、お金とか、持ってないよ」

 

「良かよ」

 

 

しどろもどろするアイズをお構いなしに後ろから押し、試着室に押し込み後は天華に任せた。

 

試着室の中から天華の楽しそうな艶のある大人の笑い声、アイズの照れたような戸惑ったような声が聞こえてくる。そして今この場にロキがいなくて良かったと思う七郎治であった。

 

 

 

 

2人が楽しそうにしている間、今度は七郎時が時間を潰す為に店内をぶらぶらしていた。

 

 

「終わったわよ」

 

 

天華の声で試着室に戻ってみると、声も出さずに固まってしまった。

 

 

「あの、どう…かな?」

 

 

白地に薄ピンクのグラデーションが掛かり、大小様々な大きさの桜の花が散りばめられ、可愛らしさの中に清楚さも感じられる。長い金髪にも白の桜の花が1束になった髪飾りがつけられていた。

 

元より美少女であるアイズの普段とは違う雰囲気に思わず見とれてしまった。

 

 

「…お?おぉふ、なんちゅうか、メッチャ似合っとると、ボクハオモイマス」

 

 

変な文法で感想を述べるが、もう少し言いようはないのかと、天華は呆れてしまった。しかし、当事者であるアイズは照れたように顔を少し伏せた。

 

 

「さて、せっかく着たんだから、このまま遊びに行っちゃいなさいよ」

 

「えっ、でも…」

 

「イイわね?七郎治」

 

「おっK‼︎」

 

 

戸惑うアイズをおいて、サッサと会計に入る七郎治と天華。今回は修理費と少ししか持って来ていなかったが、修理費の足りない分を請求書を発行してもらい後日払いにし、アイズの浴衣一式にお金を回した。

 

 

「さて、じゃが丸くんでも食べに行くべ」

 

「じゃが丸くん」キラッ

 

 

先ほどまで戸惑っていたアイズだが、七郎治のその一言で簡単に切り替わる。そんな二人を微笑ましそうに見送る天華だった。

 

 

下駄をカランコロンとならし、浴衣姿で歩く2人はとても目立っていたが、ロキ・ファミリアの第1級冒険者ともなれば視線を浴びるのは割と日常茶飯事だ。

 

じゃが丸くんの屋台で、小豆クリーム味を五つと、梅シソ味を二つ購入し近くの広場で食べることに。その間もめちゃくちゃ見られていたが…。

 

 

「あの、七郎治…。今日は、ごめんね」

 

はは、ごめんね、か…。

 

「ああ、ええよ。気にせんで」

 

「でも、私は、その」

 

 

上手く言葉に出来ないアイズは黙りこみ、じゃが丸くんを食べはじめてしまった。

 

 

…ほっとけんよなぁ。

 

「なあ、アイズ嬢。白兎に逃げられた事ば気にしよるんやろ?」

 

「…うん。私は、怖がられ「違うやろ」えっ?」

 

 

アイズの言葉を途中でさえぎり、アイズの頭に手を伸ばしワシワシと撫でながら話を続ける。

 

 

「助けてもらった相手を怖がる程、弱いヤツやないとワシは思うけんな」

 

「……」

 

「てか、逃げられるんなら追いかければ良かろう?Lv.1ぐらい簡単に追いつけるんやし」

 

「ッ⁉︎…その手があった」

 

「ウソやろ…」

 

 

目から鱗と言わんばかりにアイズはハッとして、そんなアイズに七郎治は若干呆れた。乱してしまった髪を整えていると、あることを思い出した。

 

 

「アイズ嬢、手ぇ出して」

 

「?」

 

 

差し出された、じゃが丸くんを持っていない左手にそっと着けた。

 

 

「…これって」

 

「ん、ワシからのプレゼント」

 

 

それは、「羽衣屋」でアイズが買う事を諦めた、桃の花のブレスレットだった。

 

アイズが試着をしている間に、自分の支払いの物に追加していたのだ。正直買うかどうか迷ったが、まぁ意味を知らないだろう、とプレゼントしようと決めたのだ。

 

 

「天華さんが作ったもんやけん、そう簡単には壊れんよ」

 

「…うん、ありがとう」

 

 

そっとブレスレットを大切そうに胸元にあて、今度は感謝の言葉を贈った。はにかむように笑うアイズはとても愛らしく、【戦姫】と恐れらる冒険者は鳴りを潜め、ただの1人の少女に。

 

目の前の少女に対して、七郎治の普段は死んでいる目はとても嬉しそうに。そしてどこか照れたような笑みを返す少年の姿があった。

 

 

「さて、帰るべ。アイズ嬢はダンジョンから戻って、まだステイタス更新しよらんのやろ?」

 

「うん」

 

 

差し出された手をとり、この時間がもう少し続けばいいと願いながら、お互いの温もりを感じる手を離さずに夕暮れに染まる黄昏の館へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウソ…だろ?」

「チクショー‼︎【抜刀斎】の奴、とうとうやりやがった‼︎」

神々の嫁(オレたちのヨメ)がぁ‼︎」

「いや待て!ロージたんも神々の嫁(オレたちのヨメ)だぞ‼︎この場合はどうなる⁉︎」

「百合百合でイイじゃないか」

「いや、【抜刀斎】は男だろ」

「違いますー!ロージたんは男の娘なんですー‼︎」

「はぁ〜、浴衣、デート、いい、実にいい」

 

 

無言で手を繋いで歩く2人の情報はあっという間に広がり、羽衣屋から2人の後をずっとつけていた、暇を持て余した神々の緊急神会(デナトゥス)が開催されていた。

 

 

※注 アイズと七郎治は恋人ではありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






なんか、もうね。前回までの閑話休題でね、自分の中のアイズたん成分が足りなくなったわけですよ。ムシャクシャしてやった。後悔はしてません。

…次回からちゃんと始めますねニッコリ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最高幹部の苦悩


長らく時間が空きました。スンマセンした‼︎





 

 

 

 

 

暇を持て余した神々が緊急神会(デナトゥス)を開催している中、アイズと七郎治は黄昏の館に帰っていた。

 

 

「ただいまよー」「…ただいま」

 

「あ!アイズさん‼︎おかえり、なさ…い」

 

 

中央玄関に入ると、いつものメンバーがいた。敬愛するアイズの姿を認識したレフィーヤが出迎えるも、硬直して動かなくなってしまった。

 

 

「わあー!アイズが七郎治と同じ服着てるー‼︎」

 

「あら?可愛いじゃない。似合ってるわよ」

 

「んと、…ありが、とう」

 

いつもと違うアイズを見て、ティオナは勢いよく抱きつき、ティオネはそんな妹に呆れつつアイズへ感想を述べ…。

 

 

「えっ?七郎治さんとアイズさんが…。そんな…。どうして⁉︎羨ましい‼︎…でもグッジョブです!」

 

「レフィーヤは色々と大丈夫け?」

 

 

ブツブツと呪詛のような言葉を呟いたかとおもえば、いきなり褒めたりと忙しないレフィーヤ。そんなレフィーヤに軽く引きながら、ふと窓を見るとコソコソとアイズを見ようとする毛の塊が見えた。

 

からかおうと思ったが、よく見ると体を左右に揺らしイライラしていた。なんじゃ?と思いよく観察すると、ティオナがアイズに抱きつきつつ、ベートに見せないように上手く自分の体で隠していたのだ。

 

 

ティオナ!…恐ろしい子‼︎

 

 

ベートの存在に気付いていることを、周りに感知させず自然な流れでの妨害行為。その末恐ろしさに七郎治は白目を向いて青ざめ、口元に手を当て驚愕した。

 

 

「おい、騒がしいぞお前達。…ほう、似合っているぞアイズ」

 

 

階段の上から騒がしい団員達を叱るリヴェリアであったがアイズの浴衣姿に目をとめ、すぐに優しい笑みを浮かべた。

 

 

「うひょー‼︎アイズたんの和服姿キターー‼︎」

 

 

リヴェリアの後ろからひょっこり顔を出し、階段から一気に飛び降りアイズへと一直線に急降下する。…が、アッサリ避けられ冷たい床にめり込んだ。

 

 

「ん?ギルド職員?」

 

 

リヴェリアの少し後ろで事の成り行きを眺めていた、眼鏡を掛けたハーフエルフの女性ギルド職員に気づくき、なぜこの人がここに?と考えていると、リヴェリアが察してくれたようだ。

 

 

「ギルド職員だが、私の知人の娘だ。警戒することはない」

 

「初めまして。ギルド職員のエイナ・チュールです」

 

 

通常、ギルドが特定のファミリアに干渉することはない。そのギルド職員がファミリアの拠点に来ているとなれば訝しがられても仕方がない。

 

いつもの受付のように、丁寧かつ爽やかに自己紹介をされた。ならば礼には礼を。

 

 

「ご丁寧にありがとうございます。ロキ・ファミリア所属、オウギ・七郎治と申します」

 

「えっ⁉︎」

 

 

七郎治の丁寧なしゃべり口調にエイナは驚いてしまった。同僚のソフィアと話してる姿や、一部の神々から「方言和服男の娘萌える」と言われている様に、もう少し乱雑な喋り方だと思っていたからだ。

 

リヴェリアはそんな2人のやり取りに苦笑いを浮かべながら、床にめり込んだロキの代わりに七郎治と共に門の外までエイナを見送ることに。

 

その中で、エイナは神酒であるソーマ、もといソーマ・ファミリアについてロキとリヴェリアに話を聞いていたのだと言う。

 

 

そっか。原作はそこまで来とるんやね…。

 

 

前世の知識で、この出来事はベルにとってとても大事な仲間を手に入れ、愚直に困っている人を助けたいという思いが描かれていたなと思い、1人でしみじみとしていた。

 

 

「あっ!そう言えばオウギ氏に是非お礼を言わなければと思っていまして」

 

「お礼?ワシに?」

 

「はい。私が担当している新米冒険者のベル・クラネルが、貴方とヴァレンシュタイン氏に助けて頂いたと聞きました…。本当にありがとうございます!」

 

 

何処までも丁寧に頭を下げる姿、そして感謝の言葉は誠意を感じられた。元話といえば、ロキ・ファミリアの失態に巻き込んでしまったのだから、礼を言われる事ではないが…、エイナの礼は素直に受け取ることにした。

 

エイナを見送り、中央玄関に戻るとロキとアイズの姿が見えず、ティオナとベートがケンカし始めていた。リヴェリアの叱責が飛ぼうとした瞬間、主神の声が響き渡った。

 

 

「Lv.6キターーーー‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

翌朝、食堂にて朝食をとる団員達はいつも以上に騒ぎ、興奮した様な面持ちだった。それはたった一つの話題によるものだ。

 

【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインがLv.6に至る。

 

ロキ・ファミリアの最高レベルは、

勇者(ブレイバー)】フィン・ディナム、【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴ、【重傑(エルガナム)】ガレス・ランドロックのLv.6。とうとうアイズはファミリアの最高位におい迫ったのだ。

 

「先に行かれたー‼︎」と叫び、悔しいやら嬉しいやらで騒ぎ立てるティオナとその横で「やかましい!」と騒ぎまくる妹を叱るティオネ。他の団員達も思い思いの言葉を発していた。

 

そんな中、苛立たしげに肉にかぶりつく狼人(ウェアウルフ)の姿が。その視線の先には寝癖をつけたまま、今しがた食堂に入ってきた七郎治に向けられていた。

 

主神であるロキ、最高幹部の3人と一言二言交わすと席に着き朝食を食べ始めようとしていた。その姿に苛立ちながら近づく。

 

 

「おい…」

 

「ん?どげんした?」

 

 

朝食を食べ始めようとした矢先、ベートによって遮られる。

 

 

「…チッ!間抜けヅラしやがって雑魚が、テメェ分かってんのか?アイズはLv.6になったんだぞ⁉︎」

 

「そんで?」

 

 

まだ目が覚めきっていないような気怠げな返事に、苛立ちが更に増す。

 

 

「相棒名乗るんなら、いつまで雑魚でいやがるんだって聞いてんだよ‼︎」

 

 

胸ぐらを掴み上げ、睨み付け怒気をはらんだ声を上げる。ベートの突然の行動に賑わっていた食堂が静まり返った。

 

 

「雑魚っておまえ…。同じレベルやんか」

 

「ああ゛⁉︎ついこの間ランクアップしたばかりの雑魚と一緒にするんじゃねぇよ‼︎」

 

 

いきなりなんなんだ?と思い、覚醒仕切っていなかった頭を働かせ、『見聞色の覇気』で真意を探る。

 

 

ああ、そういうことか…。

 

 

恋い焦がれる相手に先を行かれた自分への苛立ち。さらに自分よりも格下の七郎治が、誰よりも想い人の近くにいることへの苛立ち。そして、おまえは悔しくないのか?ずっとこのままなのか?と言う問いかけ。

 

 

「アイズ嬢がランクアップした事は、嬉しいことやけん」

 

「ああ゛?」

 

 

その返答が気に入らないのか、更に凄み目を吊り上げ、胸ぐらを掴んだ手に力が入る。

 

 

毛玉の言いたい事は分かる…。けんど…。

 

「レベル差は簡単に埋まらんよ。ちゅうか簡単に埋まってたまるか」

 

「ッ⁉︎」

 

 

いつもより低い、重みのある声。いつもの死んだ目は消え失せ、強く光を宿し真っ直ぐにベートを見返してくる目。

 

ランクアップを果たすのにどれだけ大変な事か皆知っている。

 

アイズがLv.5になってから3年、その間どれだけ伸び悩み、焦り、自分を追い詰めてきたか、近くで見たきた。

 

特別な何かを成していない、大きな壁を乗り越えていない自分では簡単に埋めれない、絶対に埋まらないものなのが其処にある。

 

 

「チッ!腰抜け野郎が…」

 

 

七郎治の言わんとする事を感じ取り、乱暴に掴んだ手を離し、そう吐き棄てるとベートは食堂を後にした。

 

 

「なにあれー‼︎」

 

 

仲間であることは変わらないが、ベートの過剰なまでの実力主義を嫌がり、度々衝突するティオナはいかにも怒っていますとプンスカしていた。

 

 

「んー、毛玉なりの毛玉による毛玉の為の冒険者の矜持ってやつやね」

 

 

プンスカしているティオナを傍に、朝食を食べ始める。

 

 

悪いな、おまえが欲しい言葉を贈れんで…。ワシにもちゃんとした想いがあるったい。

 

 

ベートの言っていることは最もだと思う。だが、先程言ったことは本心であることに間違いはない。

 

では、このままでいいのか?そんな事はない。必ずそこに辿り着く。運が良かったやおこぼれなんて言わせない、自分自身で勝ち取ったもので。必ず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

七郎治と別れ食堂を出た瞬間、中から響く怒声に様子を見ていた4人。ことの顛末を見届け今は執務室にいる。

 

 

「まったく、ベートのアレはどうにかならないものか…」

 

 

額を押さえ、リヴェリアはため息をつく。

 

 

「まあまあ、言われた本人にはちゃんと伝わっているわけだし、いいんじゃないかな?」

 

「ガハハハ!いつもの事じゃわい。度が過ぎれば七郎治がちゃんと調整するじゃろう」

 

 

いつもの事だと、他の団員ならともかく七郎治だしと気にとめる様子もないフィンと、豪快に笑い自分でなんとかするから大丈夫だと投げやり気味のガレス。

 

 

「アイズたんもLv.6になったもんな〜。フィン達もうかうかしとれんのとちゃう?」

 

 

主神であるロキは、そんな団員達をニコニコとみながら、軽い口調でからかう。そして徐ろにすっと薄く目を開き口角を僅かに釣り上げる。

 

 

「さて、ロージたんが食べ終わる前に話しとこか?」

 

 

ロキの言葉に3人は表情を引き締める。18階層の事件、アイズと赤髪の調教師(テイマー)、七郎治の妖刀と黒髪の妖刀使い、もうすぐ控えている遠征の事。話し合う内容は山積みだ。

 

 

「よっしゃ、先ずはロージたんの妖刀のことやな」

 

「私は、やはり使わせるべきでは無いと思う」

 

「そうだね。黒髪の妖刀使いのことも気になるし、危険な事に変わりはない」

 

 

実際に妖刀を振るう姿を見たフィンとリヴェリアは反対した。妖刀に呑み込まれた訳ではないが…。あの時、黒髪の妖刀使いと対峙しする七郎治の僅かな変化に気付いていた。

 

 

「…儂は本人が望むのであれば、取り上げる必要はないと思うがのう」

 

「ウチもロージたんに判断させてええと思う」

 

 

そんな2人に対して、ガレスとロキは賛成派に回った。別に心配をしていないわけではない。

 

弟子が自分で選んだ道の行く末を見届ける義務がある師と、自神の眷属が良くも悪くも何かを起こすかもしれない種を摘みたくない主神。どちらも七郎治の事を思っていた。

 

 

「しかし、何か起きてからでは手遅れになりかねない」

 

「その時はぶん殴ってでも止めれば良い。…フィン?お主は奴と約束したのじゃろう?」

 

「そうなんだけど、ね。どうもあの黒髪の妖刀使いが気になるんだよね」

 

 

話し合いは平行線になっていった。

 

 

「はあ〜。まとまらんなぁ、しゃあないロージたんの話も聞いてから、決めよか?そろそろ食べ終わるやろし…」

 

 

ロキがそう締めくくった時、ちょうどドアがノックされた。

 

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!七郎治さんですぅー」

 

 

さっきまで、真剣に悩み相談してきたのが馬鹿みたいに思える程、気の抜けた声と死んだ目で飛び込んできた。4人は揃ってため息をついた。

 

 

「ちょうど良かったよ。七郎治、18階層の事について君の意見を聞かせて欲しい」

 

 

やれやれと肩をすくめ、フィンが代表して話を切り出した。

 

 

「18階層の?女型の食人花のこと?赤髪の女とギトーのこと?」

 

「んー、赤髪の調教師(テイマー)と黒髪の妖刀使いの事かな。…妖刀使いはギトーと言うんだね?」

 

「そげん呼ばれとったよ。…簡単に言うと2人ともかなり強かろう?」

 

「そうだね、赤髪の調教師(テイマー)は僕とリヴェリアで抑えられそうだったが、逆にLv.5のアイズが抑え込まれていた。…そのギトーと呼ばれた男はどうだい?」

 

「ワシは手も足も出んかった。ただ遊ばれとっただけやけんな。…それに、三代鬼徹。妖刀に固執してる感じやったよ」

 

 

やはりか、とフィンは自身の考えを肯定した。あの時、ギトーは敵を倒す為の戦い方ではなく、何かを試す様な、何処か遊んでいる様な戦い方だった。

 

それに、動きを見た限りでは、あの赤毛の調教師(テイマー)と同等の実力がある事は間違い無かった。七郎治の攻撃を受けていたようだが…、恐らくわざと受けたのだろう。

 

 

(アッサリと撤退する態度、そして最後に七郎治に向けた言葉。…確実に目を付けられたな)

 

 

黙り込むフィンに代わり、リヴェリアが問いかけてきた。

 

 

「七郎治…。お前はその妖刀を手放す気はないのか?」

 

「三代鬼徹を?そげん気は無いばい」

 

「…何故だ?」

 

 

七郎治のあっけらかんとした返答に、眉をしかめてしまう。ああ、ちゃんと答えなね、と少しばかり考えに浸る。

 

三代鬼徹を使いたい理由。大好きなワンピースに出てくる刀、ただそれだけじゃない。握ってみて、振るってみて分かった、自分に必要な物なのだと。けれど、それが何故なのかはハッキリと分からない。

 

 

「…上手くは言えんけど、三代鬼徹はワシに必要なんよ。ただ、それだけしか今は言われん」

 

 

只々、真っ直ぐに自分の意志を示すだけ。普段は覇気が感じられないせいか、たまに見せる強い意志を受け入れてしまいそうになる。

 

 

「お前がなんと言おうと、私は妖刀を使う事は反対だ。…お前に何かあってからでは遅い」

 

「「…オカン」」

 

「誰がオカンだ」バキッ!ゴスッ!

 

 

リヴェリアの子を思いやるような言葉に、七郎治とロキがハモるも鉄拳制裁されてしまった。

 

その後、一度妖刀の話から離れる事にし、赤毛の調教師(テイマー)の話題に切り替わった。

 

 

「…赤毛の調教師(テイマー)に関しては、アイズから話を聞こう。あぁ、七郎治?君も残ってくれ」

 

 

退室しようとした七郎治を引き止めながら、フィンはリボンが巻かれたベルを取り出し、チリンチリンと軽く鳴らした。すると…

 

ドドドドドドドドドドドド‼︎‼︎

 

と少し離れたところから物凄い勢いで、何かが接近してきた。

 

 

バターン‼︎「へば⁉︎」

 

「お呼びですか⁉︎団長‼︎」

 

 

凄まじい勢いで、ドアが開けられアマゾネスの少女が飛び込んできた。そう、愛する団長のベルの音を聞き付け、瞬時に駆け付けたティオネであった。

 

 

「やあ、ティオネ。すまないが、アイズを連れてきてくれないかい?」

 

「はい‼︎喜んで‼︎」

 

 

フィンのお願いに、恋する乙女は嬉々としながら部屋を飛び出していった。開け放たれたドアはユックリと閉まり、壁に埋め込まれた七郎治の姿が現れ、ズルリと床に落ちた。

 

 

「…ロージたん、大丈夫か?」

 

「ねえ?ワシの体どっか変になっとらん?大丈夫?」

 

「見た感じ大丈夫や。けど、ちょっとオモロかった。恐竜の化石みたいやったで」

 

「やった!ウケた!ウケた!」

 

 

何を喜んでいるんだと、呆れ返る幹部三人。

 

 

「…しかし、便利なものじゃのう」

 

「彼女に押す付け…贈られたものだよ」

 

 

何処か遠い目をしながら、フィンはベルを机に置いた。

 

 

「団長?それって何処に居てもくるん?」

 

「んー?どうだろうね」

 

 

好奇心に押され、机に置かれたベルを手に取り同じように鳴らし、すぐにベルを机置く。すると…

 

 

ドドドドドドドドドドドド‼︎‼︎

 

バターン‼︎

 

「七郎治‼︎‼︎テメェが鳴らしてんじゃねぇえええ‼︎‼︎‼︎」

ズドン‼︎

 

「すいません団長‼︎すぐにアイズを連れたきます‼︎」

 

 

ティオネは凄まじいスピードで現れ、七郎治に一発叩き込むと、直ぐに部屋を後にした。

 

 

「なん、で…。分かるん、よ」ガクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





前回からソード・オラトリオの3巻に当たる話が始まりましたが、七郎治を絡めながらなので少し話の進みは遅くなるかもです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

話合いと黒衣のクエスト

 

 

 

「…さて、アイズたんが来るまで、次の遠征の話でもしとこか?」

 

「そうだね。…七郎治?悪いけど起きてくれるかい?」

 

 

フィンは床に転がっている、ティオネに重鈍なボディブローを食らった七郎治の体を揺する。

 

 

「…口からいろんな内臓器官が飛び出るかと思ったばい」

 

 

 

 

ロキ・ファミリア遠征。ダンジョン未到達階層を目指すこの遠征は、既に2週間を切っていた。

 

 

「神ヘファストスとの交渉は完了したのかい、ロキ?」

 

「条件として深層のドロップアイテムを回すっちゅうことで了解はとれたで!」

 

 

前回の遠征では新種の芋虫型のモンスターの襲撃により、武器・装備品を溶かされ撤退をしいられ、その対処法として「武器を治すことができる鍛治師の同行」。大手派閥であるヘファイトス・ファミリアと交渉を進めていた。

 

 

「よし、次は魔剣だね。ガレス、手配は?」

 

「30程の上等なものを手配しておる。この後、受け取りに行くわい」

 

 

武器による直接攻撃が出来ない芋虫型に対して、魔剣による遠距離攻撃。魔導師でない者、下位団員に持たせ防衛に回すことに。

 

 

「最後は…リヴェリア、アイズ、七郎治を除いた主戦力に不壊属性(デュランダル)の武器だね」

 

「…七郎治、本当にいらないのか?」

 

「うん、大丈夫ばい」

 

リヴェリアが少し心配そうに問いかけるも、あっけらかんと答える。

 

なんでも溶かす芋虫型に溶かされなかったアイズの不壊属性(デュランダル)のデスペレート。そして『武装色の覇気』を纏った七郎治の無名刀。後者は七郎治以外無理だが、前者であれば手配が可能。これで主戦力の力を十分に発揮できる。

 

 

「はは、分かっとったけど金が飛んでくな〜」

 

「すまないねロキ」

 

「ええて、ファミリアの運営はフィン達に任せてるし、デカイことには注ぎ込むんがウチのやり方や!」

 

 

ロキはカラカラと笑い、楽しそうにフィンに笑いかけた。フィンもやれやれと肩をすくめるも主神の信頼を嬉しく思う。

 

 

「さて、七郎治。遠征の資金について君の見解を聞かせて欲しい」

 

 

フィンに言われ、執務室の棚から前回の遠征の帳簿を出す。

 

七郎治のファミリア内の立場は、ラウル、アキ、レフィーヤと同じ準幹部であったが、ランクアップを気に幹部へと昇格していた。

 

ロキ・ファミリアの幹部。それはティオネ、ティオナ、ベートそしてアイズといった、オラリオ中に名を馳せる第1級冒険者を指す。実力者の証でありファミリア内でも、憧れの的であるのだが…。

 

幹部になったのを口実に仕事が増えそうだったので、この昇格を本人は嫌がっていた。自分が転生者である事を話した後、たまたまガレスの書類仕事の手伝いをした際に組織の運営に関わることになってしまい、やっちまった…。と心底後悔したのは、また別のお話。

 

 

「んー、前回の遠征は装備品を溶かされたり、回復薬の消耗も激しかったけんな…。回復薬はディアンケヒト・ファミリアのクエストの報酬があるとして、そこからティオネがぶん取ってきた金もあるけんど。全体的にあんま利益は出とらんちゃんね〜」

 

 

僅かに眉間に皺を寄せ、ペラペラと帳簿をめくり、支出した分とクエスト、魔石の換金額、ドロップアイテムの売上を記した一覧表を見比べていく。

 

 

「次の遠征はさっきの話の通り、魔剣及び不壊属性(デュランダル)の仕入れ、鍛治師の手配…。

不壊属性(デュランダル)は手入れさえしとけば、ずっと使えるから今後の投資にもなるけど、魔剣は消耗品扱いになるんがな〜」

 

 

んー、と考えるも次回の遠征では利益を出すのは難しいだろう。

 

 

「…できるだけ金になるもんを取っておきたいんやけど。…まあ、未到達階層への進出を考えたら難しいやろうから、赤字が出ることは分かってほしいばい」

 

「そうか…」

 

 

やはりか、とフィンは七郎治の話を再度頭で整理していく。戦利品である深層のドロップアイテムを回して仕舞えば大きな収入源を失う。だが鍛治師達の同行も不可欠だ。七郎治は、棚からまた別の帳簿をとり出し、目を通していた。

 

 

「…まあ、ファミリア全体の資産を考えたら全然大丈夫やけど、出来るだけ予算内で回せるようにはするわ」

 

「無理をさせてすまないね」

 

「ええよ。いざとなったら『ロキのおこずかい!』から差っ引くけん」

 

「えっ⁉︎ウソやろ⁉︎ひどいでロージた〜ん」

 

 

よよよ、とわざとらしく七郎治に縋り付くも…

 

 

「じゃって、主神様は3ヶ月前に前借りした分が、まだ差し引き終わっとらんけんな!なんなら十一で利子ば取ってもいいとぜ?」

 

 

ビシッ!とロキの目の前に、前借りしたおこずかい…もとい借金額を見せ付ける。

 

うっ⁉︎とロキは言葉を詰まらせる。この駄女神は3ヶ月前に、調子にのって高額の酒を買い込みファミリア宛に請求書をきっていたのだ。それを見た普段本気で怒らない七郎治は激怒し、朝食中の食堂にすっ飛んでいった。

 

ただ淡々と静かに怒る七郎治は恐ろしく、運悪く食堂に居合わせた団員達は一言も発することが出来ず、正座させられて怒られる主神を見ている事しかできなかった。

 

というか、言葉はおろか一歩でも動く事が許されない空気になり、せっかくの温かい食事も瞬時に冷めきったように思えた。レベルの低い下位団員は食事が喉を通らなかったらしい。

 

結局、ロキは皿洗いや掃除といった下位団員達がこなしている雑務のお手伝いをすることを条件に、月々の分割で返済する事に。

 

主神であるロキに雑用をさせるのはマズイのではないか?と下位団員が七郎治に意見するも、もの凄く冷たい目で見られた為、すぐに引き下がった。

 

そんな七郎治の怒り具合に、普段であれば朝まで説教をするであろうリヴェリアも、この時ばかりは見逃したやったのだ。

 

一通り遠征の話を終えたとき、ドアがノックされた。

 

 

「団長。ティオネです」

 

 

フィンは返事をし、ティオネが入ってくるもその後に続いたのはティオナとレフィーヤの2人だけだった。

 

 

「アイズはどうしたんだい?」

 

 

ティオネのすまなそうな顔を見れば大方予想はつくが…。

 

 

「それが…。ダンジョンに」

 

 

予想通りの答えが返ってきて、やれやれと溜息を吐いた。広大なダンジョンで人一人を探し出すのは難しい為、仕方がないと諦めた。

 

 

「しゃあないな〜。…フィン、すまんけど地下水道を調べて貰ってもええか?」

 

「ん?ベートと調べに行ったところかい?」

 

 

リヴィラの街の事件の時、置いてけぼりをくらったベートはロキと共に、怪物際(モンスターフィリア)の食人花について調べていた。

 

 

「そうや、広いから調べきってないからなぁ。人数連れてって構わんから任せてもええ?」

 

「了解したよ。…ティオネ、ティオナついてきてくれるかい?」

 

「はい!何処までもついていきます‼︎」「よく分かんないけどいいよ‼︎」

 

 

フィンに引き連れられてティオナ達は執務室を後にした。

 

 

「さて、私も遠征の準備に取り掛かるか」

 

「そうじゃの、…下っ端共を連れて魔剣を取りに行ってくる」

 

「ワシはギトーの妖刀の手掛かりになるかもしれんから、ヘファストス・ファミリアに行ってくるべ」

 

 

続いてリヴェリア、ガレス、七郎治も退室していった。残されたのはレフィーヤとロキの二人だけ。

 

 

「…あの、私は何を?」

 

「んー、せやなぁ。ウチと一緒にお留守番しとこか」

 

「はい…」

 

 

魔導師であるレフィーヤは魔力に反応する食人花の調査には同行出来ず、かと言ってリヴェリア達の準備には他の団員達の役割である為、手は足りている。七郎治は内容的に連れて行ってくれないだろう。

 

ガックリと肩を落とし、大人しくロキとお留守番することに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーダンジョン10階層ー

 

 

白い霧が辺りを覆い尽くし、静まり返る広い空間にアイズは一人佇んでいた。その手には下級冒険者用のエメラルド色のプロテクターが握られていた。

 

 

(これは、あの子のかな?…今から追い掛けても、見つけられない、かな?)

 

 

アイズはバベルの入口前で、昨日ホームに訪れていたギルドのアドバイザー。エイナ・チュールと偶々鉢合わせていた。

 

兎の様な少年、担当冒険者であるベル・クラネル。彼を救った事に対する感謝の言葉、そして自分は怖がられていない事を聞かされた。あの時、七郎治の言った通りだった。

 

そして、彼が厄介ごとに巻き込まれている可能性があり、それを手助けして欲しいとお願いされたのだ。

 

他の冒険者から情報を集めながら、辿り着いた先は10階層。かつてのアイズは半年掛かってようやくたどり着けたところだ。

 

沢山のモンスターに囲まれ、応戦しながら必死に誰かの名前を呼んでいた。アイズは驚きの感情を仕舞い込み、助太刀したのだ。そして、突破口が見えると少年は直ぐに何処かに行ってしまった。

 

 

(君はもう10階層まで来ているんだね、どうしたらそんなに早く強くなれるの?)

 

 

今度ちゃんと話をしよう。まだ、言えてないことがある。アイズは優しく口元に笑みを浮かべ、次にいつ会えるか楽しみになっていた。

 

だが直様表情を引き締め、立ち込める霧の向こうを睨みつけながら抜剣した。何かいる。モンスターではない何かが。

 

 

「…気づかれてしまったか。さすがだね」

 

「…誰?」

 

 

霧の奥から現れたのは、全身覆う真黒なローブ姿。肌は一切見えず、その存在感は人であるか疑ってしまうような不思議な感覚だ。

 

 

「私はただの魔術師さ。以前、ルルネという犬人(シアンスロープ)にクエストを発注した者だ」

 

 

アイズの脳裏には、リヴィラの街の事件が直ぐに思い浮かんだ。

 

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン。君にクエストを発注したい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






中々進まず、しばらく時間が空きました。筆が進まない間何をしていたかと言うと、かけもしない絵に手を出していました。
ただアイズたんの事を考えていた事を分かって欲しい為、汚いですが挿絵をのせます。画力がない為、見ていただかなくとも結構です。…アイズは可愛いそれだけです‼︎


【挿絵表示】



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黒キ妖刀

 

 

 

 

話し合いの後、ロキ・ファミリアを出た七郎治はヘファイストス・ファミリアに来ていた。団員に通された主神の執務室に入るとヘファイストスだけでなく椿までいた。

 

 

「おお!七郎治か、今日はどうした?」

 

「…ヘファイストス様に聞きたいことがあってきたんよ」

 

「私に?」

 

 

ヘファイストスは作業の手を止め、七郎治に向き直る。さっそく七郎治は簡単に18階層で起きた事を説明し、ギトーが持っていた黒く禍々しい妖刀の話をした。

 

 

「何か分かればと思って来たんやけど…」

 

「手前は知らんな…。主神様はどうじゃ?」

 

 

話を聞く中、一度驚愕の表情を見せ、ヘファイストスは目を瞑り暫く沈黙していた。静寂が部屋を包み込む中、徐ろに口を開いた。

 

 

「…夜刀・常世ノ倶利伽羅(ヤトウ・トコヨノクリカラ)

 

「「常世ノ倶利伽羅(トコヨノクリカラ)?」」

 

「ええ、貴方の見たものに間違いが無ければ、ね」

 

「主神様、それは一体どんな刀なのだ?」

 

 

椿の問い掛けに僅かに眉を歪ませるが、現在妖刀を使う七郎治には知ってもらいたい。いや、話さなければならい義務がある。ちゃんとあの事を話そう。意を決して言葉を発した。

 

 

「そうね。…少し昔話に付き合ってくれる?」

 

 

それは七郎治が持つ妖刀・三代鬼徹を打った鍛治師。

名はイズミ・清佐衛門。当時のヘファイストス・ファミリアで最高峰に登り詰めた男。

 

 

「…当時の冒険者はあの子の作品を挙って買い求めたわ。私もあの子の作品はとても素晴らしものだと思っていたの。でも…」

 

 

いつしか清左衛門は刀にのめり込み、何の関心も持たず片手間で打った武器、防具を店頭に出すようになってしまった。それでも、性能自体は落とさない凄まじい鍛治の技術。

 

そして、清左衛門の打った刀を聞き付けた幾人もの剣士が手に入れようと躍起になった。本人はそれを嫌がったが次第に関心が失せたのか、望む者には売り始めたらしい…。

 

 

それが妖刀の悲劇の始まりだった。

 

 

元々ヘファイストス・ファミリアの一級品は高額で、上位冒険者しか手にする事を許されない。当時、冒険者として名を馳せた剣士は刀使いで無くともそれを手にダンジョンへと挑む。

 

最初は何も起きず、只々最高の武器を手に入れたと喜び勇んでいた。しかし、次第に変化が現れた。

 

 

ある者は、己の欲望に取り憑かれた様に強欲に。

 

ある者は、命を省みる事を忘れ蛮勇へと。

 

ある者は、穏やかな人格が何処かに吹き飛び悪に染まる。

 

ある者は、何かに怯える様に弱者に成り下がった。

 

 

異常だった。刀を手にした冒険者はオラリオに名をはせる者ばかり。神々の恩恵を受け、その器を昇格しせている。奴に皆、元からの人格に拍車が掛かるか、正反対へと豹変させられ、狂っていった。周りから止められ、刃傷沙汰を起こす者もいる中、誰一人として刀を手放し者は居らず…

 

 

 

皆、等しく死を迎えた。

 

 

 

最初の保有者がいなくなった後も、次に手にした者も一様に同じ最後をたどった。いつしか呪われた刀、『妖刀』と呼ばれる様になったという。

 

ヘファイストス自神、何が起きているのか分からず、本人に厳しく問い詰めるも…

 

 

『ただ扱いきれなかっただけだ』

 

 

と一言返答があるのみ。

 

この事は、オラリオ中で問題になり神会(デナトゥス)でも取り上げられ、清左衛門の刀の販売中止、及び回収が行われた。だが、販売中止は出来ても、何故か一本たりとも回収が出来なかった。

 

刀を手にした冒険者と共にダンジョンで消えた物も幾つもあるだろう。次の刀の持ち主が都市外に逃げたり、はたまた裏ルートを通して都市外に売り飛ばされていたらしい。

 

さらに、刀を手にし、死を迎えた冒険者達の主神が神会(デナトゥス)に清左衛門を召喚する様に訴えた。

 

妖刀を作り上げた真相を問い詰める為。神々に囲まれ各々から発せられるギリギリの神威。通常であれば人が耐えられる様なものではない。だが、神々に囲まれる中、最後まで清左衛門は沈黙を貫いた。

 

結局、真相は分からず仕舞い。

結果、恩恵の剥奪、及び都市外追放。

 

本人は突き付けられた罰をあっさりと受け入れてしまい、ヘファイストスは自神の眷属に何もすることが出来なかった。

 

 

「清左衛門が此処を立つ時、以前話した自分の武器への想いの変化を話してくれたわ…」

 

 

ヘファイストスは儚く悲しげな表情を浮かべていた。

 

 

「…その後に、ね。自分が打った最高の刀だ、と『常世ノ倶利伽羅(トコヨノクリカラ)』を見せてくれたわ。…私自神、今まで見てきた下界の子供達の作品で最高のものだと思ったわ。それと同時にこの刀は駄目だとも思ったわ」

 

「最高の物が駄目?どういう事じゃ?」

 

()()は…、常人が扱えるような代物じゃない。朧げながら、私はそう感じ取ったの。本人にもその事を分かっていたみたい」

 

常世ノ倶利伽羅(トコヨノクリカラ)に限らず、自分の打った刀は根底は同じ。真に扱える者を探しに行く』

 

「そう言って、あの子はオラリオを去って行ったわ…。その後の事は何一つとして分からないわ」

 

 

はぁ、と息をつきヘファイストスは冷め切った紅茶に口を付けた。

 

 

「…では主神様、常世ノ倶利伽羅(トコヨノクリカラ)を持っていたという事は、あの鍛治師が求めた“真に扱える者“という事か?」

 

「…さぁ、それは分からないわ。あの子に認められたのか、何らかの方法で手に入れたのか」

 

「ふむ…。七郎治、お主はどう思う?」

 

「…」

 

 

ヘファイストスの話の最中から、七郎治は黙り込み一言も発していない。椿の問い掛けもまるで聞こえていないかの様。

 

 

「おい!聞いておるのか⁉︎」ゴス‼︎

 

「いったぁ⁉︎何ばするとね⁉︎」

 

「だから!お主はどう思うのかと聞いておる‼︎」

 

 

椿に拳骨を食らった七郎治は、目尻に涙を浮かべながらようやく答えた。

 

 

「そげんこと分からん。…ただ妖刀が一体何なのか気になったんよ」

 

 

ヘファイストスは七郎治の言葉に、再び眉をひそめた。

 

 

「…ごめんなさい。それは私達(神々)にも分からなかったわ。どうしてあそこ迄人を狂わせられるのか、ハッキリとした答えが誰も出せなかったの」

 

「…そう、ですか」

 

 

今までの話しを頭にしっかりと入れながら、もう今分かる事はないと思い、一言礼を言い立ち去ろうとした。

 

 

「ねぇ、七郎治。無理は言わないけど、もし何か分かったら教えてちょうだい」

 

「はい。必ず…」

 

 

部屋を出る時にみたヘファイストスの表情は憂いを帯び、優しげなものだった。七郎治は同じ銘を持つ妖刀でも、明らかに別の物。自分の知らない何か、妖刀とは何か?この答えを導き出したいとは思い始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー黄昏の館ー

 

 

七郎治は帰るなり、団員に呼び止められロキのいる中庭へと足を運んだ。

 

 

「主神様。ただい麻婆豆腐、四川の極み」

 

「お?ロージたん。おかえリンボーダンス、トリニダード島発祥の地」

 

 

ロキと挨拶を交わすと、呆れた様にこちらを見ている、貴族の様な出で立ちの美男神の姿があった。どうやら来客中の様だった。

 

 

「初めまして。ロキ・ファミリア所属。オウギ・七郎治です」

 

「ご丁寧にありがとう。私はディオニソス・ファミリアの主神だ」

 

 

挨拶を交わす2人の様子を見ながら、ロキはサッサと話しを進める。

 

 

「早速やけどロージたん。今から24階層に行ってくれへん?」

 

「24階層?」

はて…。何かあったかいな?思い出せん

 

 

小首を傾げているとロキが簡単に説明してくれた。例の食人花の件でディオニソスと話をする中で、ダンジョン24階層で異変が起きているらしい、と聞かされた。

 

しかし、ちょうどロキ・ファミリアの首脳陣は粗方出払っていた為、面倒ごとはゴメンだとロキは断ったのだが…。

 

グッドゥタイミングでアイズから24階層に向かいます。心配しないでと、誰かの使い魔によって手紙が届いたそうだ。

 

 

「あー…」

これ完全に何か巻き込まれとるやん…

 

 

この事が原作のどの辺りなのか分からないままだが、厄介ごとにアイズが首を突っ込んだ事だけは確かだ。瞬時に理解し、普段の死んだ目を更に殺し、生きた人間では決して出来ない程輝きを失わせた。

 

 

「ッ⁉︎アカン!その目はアカンでロージたん‼︎死に過ぎや‼︎」

 

 

流石のロキでも狼狽えてしまう、過去に数回しか見た事のない七郎治の36の特技の一つ『死に過ぎの目』。ディオニソスも生者がこんな目をするのかと驚愕していた。

 

そんな神々を無視し、取り敢えず話の続きを促した。

 

 

「そ、そんでな?少し前にベートとレフィーヤを24階層に向かわせたばっかなんや」

 

「わ、私の子も同行している。エルフのフィルヴィス・シャリア。Lv.3だ」

 

「ロージたんなら途中で追いつけるやろ?お願いしてもええか?」

 

 

はぁーーー、と魂も一緒に脱け出そうな深いため息の後、一言返事をした。

 

 

「…了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






更新のペースが遅くなってます。申し訳ないです。

今回、妖刀について少し掘り下げてみました。もう設定とかはオリジナルになってます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

死妖精と悪夢



えー、前回の更新から1ヶ月以上経ってしまいました。
話を今後どうしようか、考えては迷い。
途中、たまたま観た別の作品にどハマりし浮気。ロリポジの娘にハマったのは初めてかもしんない。

まっこと申し訳ございません!

今後ともお付き合い下されば幸いです。




 

 

 

 

 

迷宮都市オラリオ。その地で中立を保ち、都市を運営させる機関であるギルド。

 

ギルド本部の地下に設けられた、ギルド主神ウラノスが祈祷を捧げる場。今そこには、他の神々とは違う巨体を持つウラノスが祭壇の神座に腰掛け、目の前にフードを深く被りローブを纏った黒衣の男がいた。

 

 

「フェルズ…。彼のファミリアだけでなく、何故【剣姫】に依頼を出した」

 

 

アイズに冒険者依頼(クエスト)24階層の調査を発行した黒衣の男に、ウラノスは問い掛けた。

 

 

「前回、例の『宝玉』に【剣姫】は異様に反応したらしい…。何かまでは分からないが、真相を解明できる手掛かりになるかもしれないと思ってのこと」

 

「……」

 

 

今回の冒険者依頼(クエスト)は、アイズより先に犬人(シアンスロープ)のルルネに依頼が出され、前回起きた事を聞き出したフェルズは一つの可能性を見出した。

 

フェルズの言葉に考えを巡らせるウラノスに、更に言葉を続ける。

 

 

「それに、前回の30階層では我々の()()()にも大きな被害が出た…。番人がいないにも関わらず、だ。相手も馬鹿じゃない、対策を取っているだろう。その為、戦力を整えたかった」

 

「…番人。例の調教師(テイマー)が…」

 

 

ウラノスは目を伏せ、一呼吸おいた。

 

 

「ヘルメスには私から話そう」

 

「ありがとう、ウラノス」

 

 

ウラノスの言葉に頭を下げたフェルズ。

 

ルルネの所属するファミリア。ヘルメス・ファミリアもまた危険に巻き込んでしまった。その事に対する罪悪感がフェルズの中で渦巻く。

 

 

「巻き込んだ冒険者達には悪いが、これ以上勝手な事をさせるわけにはいかない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーダンジョン18階層ー

 

 

さて、毛玉達は何処におるとかいな?

 

 

主神(ロキ)の命により、七郎治はLv.5の脚力と縮地をフルに使いダンジョンを最短距離で走破し、18階層に来ていた。

 

 

毛玉だけならともかく、Lv.3の2人がおるから追いついとるはずやけど…。

 

それにしても、原作だと()()か。ついこの間の事ば考えたら、あいつ絶対おろうもん…。

 

 

これから起きるであろう事を考え、テンションが下がりまくる七郎治の目が死んでいく。

 

 

はぁー、取り敢えず街に行くべ。

 

 

ダンジョン18階層にある、冒険者の街。リヴィラに向かい、そこを取り仕切る冒険者ボールス・エルダーを訪ねることにした。

 

 

「ボールス、こんちは。ちと聞きたい事があるんやけど」

 

「ん?何だ、またロキ・ファミリアか…。ホレ」

 

 

金にがめついボールスは基本的にタダでは動かない。情報料のヴァリスとチップ代わりにドングリをボールスの差し出された手に置く。

 

 

「ここに毛玉とエルフ2人が来んかった?」

 

「ああ、来たぞ。【剣姫】の情報を渡したな。詳しい話は【千の妖精(サウザンド・エルフ)】に聞け。まだその辺にいるんじゃねぇか?」

 

 

ボールスは渡されたヴァリスを確認し、ドングリを放り捨てながら教えてくれた。

 

 

「つうか、お前んとこの狼人(ウェアウルフ)どうにかしろ!ついさっき聞いた話だと、酒場にいた冒険者全員を罵ったらしいぞ」

 

 

話によると酒場にいた冒険者が

 

『普段、威張り散らしているくせに肝心な時に上位派閥はきやがらない』

 

と嘆くのを聞いたベートは口汚く罵ったらしい。

 

『他人の力に縋ることしか出来ない雑魚は目障りだから冒険者やめろ』と。

 

 

うん、知ってた。毛玉は何かやらかすち。

…まぁ、間違ってわないわなぁ。

 

 

ベートの人を見下し蔑む言葉も、たまに核心を突く時があると七郎治は思っている。冒険者とは何が起こるか分からないダンジョンで命を懸けた職業。何かあれば自己責任。

 

イレギュラーが起きているからといって、ギルドからの要請も無いのに上位派閥が必ず対処する決まりは無い。それに今まさにその件で動いているのだ。

 

うん、うんと1人納得しているとボールスに話しかけられた。

 

 

「それとよ、千の妖精(サウザンド)にも言ったが、死妖精(パンシー)とパーティー組むんだろ?」

 

「ん?ああ、今回はそうやね」

 

「お前も知ってるだろ?『27階層の悪夢』を」

 

 

27階層の悪夢。それは闇派閥(イヴァルス)と呼ばれる“悪“の眷属が集うファミリアによって引き起こされた最悪な出来事。

 

わざと漏洩(リーク)された情報で、多くのパーティーが27階層の一角におびき寄せられた。そこに待っていたのは殺戮の嵐。

 

闇派閥(イヴァルス)による捨て身の怪物贈呈(パス・パレード)。階層中のモンスターだけでなく、階層主まで巻き込んだものだ。人と人が、人と怪物が命を奪い合う。それは、階層中に広がって行った。

 

血の海。数え切れない死体。散乱する人の破片。それを捕食するモンスター。まさに地獄絵図と化していた。後から到着した冒険者は、二度と忘れることのできない光景を目にしてしまった。

 

多くの犠牲を出したこの事件は、今だに語り継がれている。当時、七郎治はLv.2に上がったばかり。ファミリアの意向により、七郎治だけでなく幼い者は直接関わっていない。

 

 

「まあな…」

 

 

苦虫を噛み潰したような表情をした、七郎治は何を言おうとしているか分かっていた。

 

『見聞色の覇気』を発動させ、街の喧騒の中からベート達の居場所を探る。

 

 

…見つけた、広場におるね。つか、初めからこうすればよかった。無駄に金とドングリ使っちまったわ。

 

「じゃあ、ワシはもう行くけん」

 

 

話を途中で切り上げ、3人がいる広場に向かった。だが、直ぐには合流せず、物陰に隠れそっと様子を伺う。

 

 

「詳しい事なんざどうでもいいが、仲間を見捨てて、テメェだけおめおめ生き残ったってわけだ。ざまぁーねえな、雑魚が」

 

 

せせら笑いながら身を乗り出し、罵声を浴びせるベートの姿。レフィーヤは今しがた発せられた言葉に唖然としている。

 

ベートに罵られているのはエルフの少女。黒髪で可憐な容姿、白を基調とした気品を感じさせる戦闘服(バトルクロス)を身に纏っている。

 

Lv.3。フィルヴィス・シャリア。

ディオニソス・ファミリア団長。そして、『27階層の悪夢』の数少ない生き残り。

 

当時、彼女はパーティーで1人だけ生き残り、生ける屍のように生気を失い、死んだ仲間達を探すように街を彷徨い歩いていたらしい。

 

 

「何でまだ冒険者やってんだよ、そのままくたばれば良かったじゃねーか」

 

「ベートさん‼︎」

 

 

当時の彼女の苦痛を理解し得る者はそういないだろう。

なおも続くベートの罵倒にレフィーヤが憤慨する。だが、当の本人は何も言い返さず、小さく口元に笑みを浮かべた。

 

 

「お前の言う通りだ」

 

「ああ゛?」

 

「あの日…。あの時。仲間達と共に死ねず、私は生き恥を晒している。無様だろう?」

 

 

今まで黙っていた彼女の言葉に、ベートは顔を歪ませ言葉を発する事が出来なかった。

 

 

「ここで別れるか?私の噂は聞いたのだろう?お前達も死ぬかもしれないぞ」

 

 

自嘲と自傷の笑みを浮かべた、フィルヴィスはベート達を見据えた。

 

フィルヴィスは死妖精(パンシー)と呼ばれる冒険者。これは神々が与えた二つ名ではなく、冒険者の間で呼ばれているもの。

 

事件の後なんとか再起したものの、彼女の周りで不幸が起き続けた。

 

パーティーの判断ミス、予期せぬイレギュラー、更に仲間割れ。フィルヴィスは四度も仲間を失った。

 

いつも1人残されて…。

 

そんな彼女を冒険者達は、死を呼び寄せると忌み嫌い。同じファミリアの団員でさえも彼女に近付こうとしない。

 

 

「テメェみてえな達観した雑魚が一番ムカつく」

 

 

ベートはそう一言吐き捨てると広場の出口へと足を向けた。

 

 

…毛玉よぉ。言って良いこと悪いことがあろうもん。そんなんじゃお前の気持ちは伝わらんぞ。

 

 

『見聞色の覇気』で今の3人の気持ちが流れ込む。

 

1人はこのままではいけないと悩み苦しむ。

1人は過去の自分、今の自分を怨み悲痛の声を上げる。

1人はどうしようもない苛立ちを他者と自分に向ける。

 

七郎治は眉間に皺をよせながら短息をついた。原作知識でこの事を知っている七郎治は、自分の出る幕ではないと残ったレフィーヤとフィルヴィスに視線を向ける。

 

 

(何か言わないと…。でもなんて言えば!)

 

 

ボールスからフィルヴィスの過去を聞き、どう接していいか分からず困っている中で、今しがた起きた事でレフィーヤは更に戸惑う。

 

エルフは自尊心がとても強い種族だ。仲間を失い、1人生き残った事を恥じているのだろう。自分自身を責めているのだろう。

 

レフィーヤにとって、フィルヴィスは同胞。このまま放っておくことは出来ないし、したくない。

 

 

「レフィーヤ・ウィリディス。間違っても穢れた私に近づくな。…同胞を汚すわけにはいかない」

 

 

フィルヴィスはそう告げると弱々しく微笑み、背を向けその場を去ろうとした。

 

ああ、このままではダメだ。今解決しないと二度と彼女に歩み寄る事が出来なくなる。レフィーヤのそんな思いが体を動かし、咄嗟に彼女の腕を掴んでいた。

 

 

「あ、貴方は穢れてなんかいません!」

 

 

突然の事にすぐに反応しきれなかったフィルヴィスは、目を見開きレフィーヤを見つめ返し、掴まれた手を振り払う。

 

 

「貴方は、私なんかよりずっと美しく、優しい人です!」

 

「お前は何も知らないだろう、何故そんな事だと言える!私とお前はあって間もないのだぞ」

 

 

レフィーヤはその怒りのこもった声と瞳に、たじろいでしまうがギュッと拳を握り言い返した。

 

 

「こっ、これから知っていきます‼︎」

 

 

フィルヴィスは呆気にとられ固まってしまい、2人の間に静寂な時が流れる。

 

 

「……」

 

「……」

 

「…くっ、くくく。お前は変わった同胞(エルフ)だな」

 

 

静寂を打ち破ったのは、フィルヴィスの笑い声だった。レフィーヤはフィルヴィスの何処か距離を置くような顔とは違う、初めてみた可憐な笑顔に思わず顔を綻ばせた。

 

 

「おい、さっさと行くぞエルフども‼︎」

 

 

広場の出口からベートの怒声が響く。2人は顔を見合わせ駆け出した。

 

これでもう大丈夫。大切な同胞を失わずにすんだ。レフィーヤの心に喜びの感情が広がった。

 

 

(早くアイズさんを追いかけないと!)

 

 

気を引き締め直しベートの後に続こうとしたその時、人影が3人の行く手を阻む。

 

 

「ぅあいたかった!ぅあいたかった!ぅあいたかったー!Yes‼︎け・だ・まぁーー‼︎会いたかっ「黙れ、殺すぞ」」

 

 

ベートは人影を認識した瞬間に眉尻を跳ね上げ、自分に向けられた人指し指を払い、胸ぐらを掴みあげる。

 

いつもよりワントーン高い女声で、可愛らしく小躍りしながら表れたソレは、レフィーヤのよく知る人物だった。

 

 

「し、七郎治さん!何故ここに⁉︎」

 

「主神様に頼まれたんよ、毛玉達と合流してアイズ嬢のとこに行けち。…あっ、さっきの"ぅ"は下唇を噛む感じやけん」

 

「どうでもいいですよ!…ハァ、もう。アイズさんは24階層に向かったみたいです。詳しい話は道中で」

 

 

一気に気が抜けたレフィーヤは肩を落とし、初対面の2人を紹介した。

 

 

「えっと、こちらはディオニソス・ファミリア所属のフィルヴィス・シャリアさんです。レベルは私と同じ3です」

 

「それでこちらはLv.5、オウギ・七郎治さんです」

 

 

お互いに軽く会釈し自己紹介を終えたが、フィルヴィスはやはり気になってしまう。

 

 

「…オウギ・七郎治、【抜刀斎】か。お前も私について知っているのだろう?」

 

 

先ほどの笑顔とは違い、沈んだ表情で問いかける。

 

 

「…ワシは()()()、チビやったけん直接関わっちょらん。当事者達の気持ちは分らん、簡単に分かるなんて言えんよ」

 

 

少し気まずそうに、だが真剣な表情で言うと、それにと付け加えた。

 

 

「ダンジョンで大事なんは、自分の経験と確かな情報やろ。噂を鵜呑みにしても仕方無かろう」

 

 

死妖精(パンシー)なんぞ、ワシ知らんよ。何か関係あるん?と言わんばかりいつもの死んだ目に戻っていた。

 

 

(…七郎治さんもブレませんね)

 

 

フィルヴィスは呆気に取られる横で、レフィーヤは思わず苦笑いを浮かべる。死んだ目に救われることもあるんだなぁと、生まれて初めて七郎治に感心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ソード・オラトリア8巻を読んで、ベートの入団時期が分かりましたが、もう出してしまった!くそっ‼︎

8巻を読んだ感想を簡単にまとめると以下になります。
1、ベート。お前なぁ
2、……もげろ‼︎
3、ベート。…お前(T ^ T)
結論
主神及びファミリア各員より、ツンデレと認証された為、ここに証明書を発行致します。


そして!ソード・オラトリア‼︎
アニメスタートじゃあ‼︎

…うん、ちょっと思ってたのと違う。
でも、ロキ・ファミリアが動いて喋ってる!嬉しい‼︎

何故かラウルのペア的な位置がアキではなくリーネ。あぁ、リーネ…。君は尊い!

早くアキが喋ってるとこが観たいゾ‼︎
…あるよね?

8巻読んだ後だと、ベートのセリフはニヤニヤしてしまう。


えっ、2話のアイズ。
コスプレ?それよりも!

アメを口に入れたまま喋るとか!
ほっぺが!…うぅん!カワイイ‼︎

はぁー、心臓弾け飛ぶかと思った。危なかった。

もう、何なん?勘弁して。マジでもっとやれ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

劣等

 

 

 

リヴィラの街を後にした七郎治達は、大量のモンスターの死骸(はい)と魔石、ドロップアイテムを道しるべに階層の北に位置する食料庫(パントリー)を目指していた。

 

 

「無駄口叩いてんじゃねえぞ」

 

 

ベートがレフィーヤに注意すると同時に、複数のデッドリー・ホーネットを空中で撃墜。

 

進路に立ち塞がるリザードマンの群と対峙する七郎治は、いつの間にか通り過ぎていた。だが、モンスターは現存のまま。背後に抜けた七郎治を食い殺そうと、その背に狙いを定める…。

 

 

「鼻唄三丁 矢筈切り」

 

 

チンと鯉口が鳴る音と共に、リザードマンは鮮血を噴き出し全滅した。

 

すれ違い様に放たれた高速の斬撃に、切られた者は気付くことが出来ない。【抜刀斎】の名を得てから必死こいて練習した居合抜刀術の一つである。

 

前衛のベートと七郎治の後を追随する、レフィーヤの周りの壁が音を出し割れる。新たなモンスターが生み落とされた。

 

 

「ッ⁉︎」

 

「下がれ、ウィリディス!」

 

フィルヴィスは短剣を抜き放ち、レフィーヤの前に踊り出てリザードマンを切り伏せる。そのまま生れ落ちたモンスターへと走り、腰から短杖を引き抜く。

 

 

「【一掃せよ、破邪の聖杖(いかずち)

 

モンスターとの戦闘を続けながら、呪文を紡ぐ。『並行詠唱』で魔法が完成すると共に、目の前のリザードマンにとどめを刺し、後方に控えていたダーク・ファンガスに狙いを定めた。

 

 

「【ディオ・ティルソス】」

 

 

短文詠唱の魔法を発動させ、ダーク・ファンガスへと一条の雷が駆け抜け一瞬にして焼き尽くした。

そんなフィルヴィスの戦いぶりに、レフィーヤは言葉を発する事が出来なかった。自分の憧れる戦闘スタイルを目の当たりにし、自分もあれぐらいできればアイズに近づけるのに、と劣等感を感じてしまった。

 

 

「テメーもあれぐらい出来るようになればな」

 

「うぅ…」

 

 

周りのモンスターを全て片付けた七郎治達が合流し、ベートがレフィーヤへと言い放った。その言葉に肩を縮こませる。

 

 

「火力特化の魔道士にそこまで求める必要はないだろう。ウィリディスの力は真の局面で必要になる」

 

 

ベートの物言いに反論したのは、フィルヴィスだった。大切な同胞の為に。

 

リヴィラの街までの彼女からは想像もつかないだろう。同じエルフであるレフィーヤさえ突き離し、距離を取っていた。だが、今は少しだけ憑き物が取れたようだ。

 

 

「へっ、随分仲良くなったな。エルフども」

 

 

いつもの人を嘲る言葉とは、少しだけ違うベートの言葉にレフィーヤとフィルヴィスは顔を見合わせた後、照れ臭そうに視線を逸らした。

 

 

「ほんと、毛玉のせいでパーティーが崩壊しかけとったのにな」

 

 

七郎治の余計な一言に、ベートはああ?と胸ぐらを掴み上げた。いつものやり取りを終えると再びレフィーヤに向き直る。

 

 

「…お前はそれでいいのか。テメー自身も守れねぇで」

 

 

レフィーヤは目を見開いた。

 

 

「バカゾネスどもに甘やかされてるみてえだが、魔法だけが取り柄だの抜かしているうちは、一生お荷物だ」

 

「ッ‼︎」

 

 

レフィーヤの中に衝撃が走る。図星だった。分かっていた事なのだ。だけど周りの優しさに…

 

 

「お前は甘い」

 

 

甘えていた。

 

それだけ言うとベートはサッサと進み始めた。いつもの人を蔑み、嘲笑うような物言いでは無く、ただ現実を突きつける言葉。だからこそ真に響く。

 

 

…間違っちゃないけど、コレばっかりは本人次第やしな。

 

「…まぁ、レフィーヤはなりたいものになれば良いっちゃない?誰かに決められるもんじゃなかろう」

 

 

七郎治もベートの後を追う。残されたフィルヴィスはレフィーヤに何と声を掛けていいか分からず、ただ見つめることしか出来なかった。

 

フィルヴィスの視線を感じながらも、ベートに何も反論する事も出来ずに悔しさが募る。

 

前回の遠征で感じた無力感。怪物祭(モンスター・フィリア)で少しだけ強くなれたと思った。リヴィラの街で強敵との戦いに参加する事も出来なかった。憧れの人が高みに登ろうとしている時に側にいる事を許されなかった。

 

先程の七郎治の言葉が駆け巡る。ベートのフォローと共に彼なりの考え。

 

誰に強要されるでもなく、自分で決めろ。

 

ベートに対して悔しさを感じるが、七郎治に対しては劣等感が沸き起こる。

 

憧れの人の相棒。相棒である事を許された人。それは本人だけじゃなく、最高幹部からも…。なにより主神にも認められている。

 

自分が立ちたい場所に居続ける七郎治。妬ましい彼に言われた言葉に理不尽に腹がたつ。

 

 

(このままでいいはずがない‼︎)

 

 

手に持つ杖をギュッと握りしめ、前へと歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なあ、毛玉よぅ」

 

「んだよ?」

 

 

後に続き始めたレフィーヤ達を、肩越しに見てから七郎治はベートに話しかけた。

 

 

「もし、今回のことがリヴィラの街の事件と関係しとったら、わしは役に立たんけん。後のことはよろしくな?」

 

「…チッ!雑魚どもの事なんか俺が知るかよ」

 

 

心無い言葉だ。だが、これはベートなりの了承の言葉。子供の頃からの付き合いだ、そんな事簡単に分かる。分かるのだが…。

 

一歩前に出た七郎治は振り返らずに問い掛けた。

 

 

「…男のツンデレとか誰得なん?わし全然萌えんばい?やっぱそういうキャラが誰とは言わんけど、あの娘にウケると思うちょるん?」

 

「殺すぞ⁉︎」

 

 

第1級冒険者のベートが繰り出す攻撃を、高速反復横跳びで躱す。

 

言わなければ良いものを、一言多いぞとファミリアの仲間から言われるが、ベートに対してはどうしても我慢出来ない。そもそも我慢出来るなら、『毛玉』なんて呼ばない。

 

ベートはからかうと必ず良い反応をする。

愛しのあの娘(アイズ)が絡むと尚よろし!この面白さをファミリアの仲間にも分かってもらいたいのだが…。なかなか理解を得られない事が七郎治の悩みの一つだそうな。

 

 

「うがー‼︎」

 

「フッ、残像だ」

 

 

姿がブレて見える七郎治に、後ろから見ているレフィーヤ達は何も言わなかった。そんなスピードで反復横跳びをしながら進む姿が、スゴイを通り越して何か気持ち悪かったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……』

 

 

七郎治達が去った後、静まり返るダンジョン。聞こえて来るのは遠くにいるモンスターの咆哮。

 

紫の外套から覗くは、不気味な仮面。音も無く彼らの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






えー、長らく時間が空き過ぎました。
ごめんなさい‼︎
感想欄にも続きの要望を頂いて感激です。出来る事なら完結まで持っていきたいです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。