Dies irae 番外の軍神 (祇園)
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1話

それでは皆様、私の歌劇をご観覧あれ

その筋書きは在り来たりだが

役者が良い

至高と信ずる……

故に面白くなると思うよ


―――ドイツ ベルリン

 

第二次世界大戦も佳境である1945年5月1日

 

この日のベルリンは炎の海であった

 

ドイツが迎え撃つのは赤軍

 

ベルリンを守るためドイツ軍人は戦い続けるが、第二次世界大戦当初の快進撃は彼らにはない

 

総統が自殺した

 

親衛隊全国指導者が降伏を申し出した

 

それだけで、彼らの戦意を失うほどであった

 

「この……大馬鹿野郎共がッ!!」

 

それでも諦めない者もいる

 

階級は少佐でありながらも、その男の声は戦意を失った者を震い立たせる

 

彼がいる隊は全員生き残る

 

彼がいる隊は全戦全勝

 

いつからか『軍神』と呼ばれるようになった男の一言一言は絶望から希望へと変わっていく

 

「死ぬなら、守って死ね!赤軍から家族を!女房を!子を!国を!己を守れ!!」

 

「――もう、守んなくていいよ」

 

その一言と共に白い影が降り立った瞬間、爆発が起きた。

 

軍神を除く軍人全員その爆発に飲まれ命を落とすが、軍神は傷一つ付いていなかった

 

「ヤッホー、軍神様。表舞台お疲れ様」

 

「何の用だ。シュライバー」

 

軍神は今の行為に静かに怒るが、シュライバーと呼ばれた少年はあどけなく答える

 

「どうせこれから死ぬんだから、早いか遅いかの違いじゃない」

 

シュライバーが空を指指す

 

ベルリンの赤い空に浮かぶのは巨大な鉤十字

 

その中心を貫くような尖塔には何者かが立っている

 

鬣のごとくたなびく髪、全てを見下す瞳は黄金

 

人体の黄金比とも言われる肉体を持つ男

 

人の世に存在しはならない、愛すべからざる光の君

 

その横には輪郭の曖昧な影絵のごとき男

 

対照的なこの二人こそ、黒円卓聖槍十三騎士団第一位と十三位

 

首領と副首領である

 

「始める気か……」

 

「そうだよ。本当ならもう少し魂を食べたかったんだけどね」

 

「程々にしておけ。アイツへの分が減る」

 

「はいはい」

 

軍神とシュライバーが話している間にも黄金の男の声はベルリン全体に響き渡ってた

 

逃げる住民は足を止め先ほどまで戦っていた軍人も手を止め黄金の男を声を聞いていた

 

そして――

 

『ならば我が軍団に加わるがいい』

 

その言葉が紡がれた瞬間に、異変が起きた

 

銃を持つ者はそれを口に入れて撃ち、刃物を持つ者はそれを胸に突き刺し、何も持たぬ者は火の中に飛び込み自殺した

 

ベルリンにいる万人ともいえる住民、軍人が異常な速度で死んでいき、その魂は黄金の男へ吸い寄せられていく

 

「ふん……」

 

「あれ?もう行くの?」

 

「聞いていなかったのか?『城』に行くのはお前とザミエルとマキナだ。番外の俺がどこに行こうが勝手だろうが」

 

「まぁ、選ばれたのはいいけどなぁ……しばらく人間を殺せなくなるなぁ。ねぇ、殺してい――」

 

シュライバーが殺気も漏らした瞬間、シュライバーは瓦礫の山に吹き飛ばされていた

 

「寝言は寝て言え」

 

『やはり、行くのか?』

 

黄金の男は軍神に問いを投げ掛けたが、軍神は黙ったままベルリンの外へと歩き出した

 

『沈黙なら是ととろう。ならばいずれまた会おう――少佐』

 

そう言うと、黄金の男と影絵の男は尖塔から姿を消した

 

同時にシュライバー、ザミエル、マキナの三人もベルリンの地から消えた

 

残っていた他の7人も歩き出す

 

何年先に始まるかは分からないが目指すは東方の島国

 

「なら覚えておけ。ラインハルト……次に会ったら――」



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2話

火刑台に恐ろしい炎が燃える

その炎は五体に火をつけ、燃え立たせた

貴様ら今すぐこの炎を消せ

さもなくば、貴様らの血でこの炎を消そう

武器を取れ、武器を取れ、今すぐに

共に戦い、共に死のう

Briah―――


「あの!少佐の創造って、何なんですか!!」

 

「は?」

 

第二次世界大戦が終結してから50年程の時が経った

 

東方の島国である日本は敗戦国でありながらも、焼け野原を建て直し、再び人々が平和を謳歌出来る時代を築いていた

 

そして、そんな日本に黒円卓は集まり始めていたのだが……

 

ぶっちゃけ、軍神と呼ばれていた男の前に黒円卓第五位の『ベアトリス・キルヒアイゼン・ヴァルキリア』が学生服を着ていると、この諏訪原市で儀式を行うなど更々ないのではと思ってしまうほどだ

 

それはさておき

 

諏訪原学園の授業が終わってすぐにやって来たベアトリスにすっとんきょうな質問に軍神は呆れた顔をしていた

 

「聞いてどうするつもりだ?むしろ、俺の事をあまり詮索するな。お前のツキが落ちるぞ」

 

「どういうことですか?」

 

「だから、聞くな。それと、学生がこんなとこに来るな……営業の邪魔だ」

 

ベアトリスがいるのは、軍神が営むBAR

 

つまり、未成年である学生が入るのはお門違いな場所である

 

「いーじゃないですか。まだ、開店するまで時間があるんですから。それに私、70代ですから問題ないです」

 

「そういう問題じゃねぇよ……学生服姿のお前がこんな所に来てみろ……ややこしい事になるに決まっているだろ」

 

「ベアトリス……」

 

「ほら、見たことか……飼い主がやって来たぞ」

 

BARに入ってきたのは、ベアトリスと同じようにこのBARに似合わない長身でロン毛の色男

 

「すいません、またベアトリスがお邪魔して……」

 

「だったら手綱くらい、しっかりしろ。戒」

 

軍神に戒と呼ばれた青年

 

彼はベアトリスと同じ黒円卓

 

第二位死を食らう者(トバルカイン)を継いでしまった青年である

 

継いだと言ったのには理由がある

 

戒より前にもトバルカインは存在していたということだ

 

初代は櫻井武蔵

 

戒から見れば曾祖父にあたる人物

 

彼が櫻井一族の呪いの始まりであった

 

とある聖遺物の模造品を作らされるために呼び寄せられ、あまりにも出来がよすぎる模造品を作ってしまった結果、自分が生ける屍となって朽ちることを呪い、いつか自らを解放させるために『呪いを代々引き継がせたい』という強烈な意志は魂からの渇望となり、呪いを生み出してしまった

 

二代目は櫻井鈴

 

彼女は武蔵の孫であり、戒から見れば叔母にあたる人物

 

彼女は屍兵の呪いを受け継ぐことを徹底的に嫌がり、どうせ死ぬならさっさと死のうと戦場を駆け回る傭兵となった

 

しかし、ベトナム戦争で不運にもヴィルヘルムと出くわしてしまった

 

鈴はただの人間であったにも関わらずヴィルヘルムに形成位階までも使わせるほどに善戦するも、絶体絶命の状況で生きるために偽槍を使ってしまったために呪いを受け継ぐことになってしまった

 

結果としてはヴィルヘルムを退けたものの、屍兵となり彼女は櫻井一族の呪いから逃れることは出来なかった

 

「ほら、帰るよ。ベアトリス……蛍も君の帰りを待っているんだから」

 

戒に帰宅を促されるとベアトリスは渋々ながらもBARから出ていった

 

戒もBARから出ていくが立ち止まると、軍神に質問を投げ掛けた

 

「ベアトリスは何でここに来たか何か言っていませんでした?」

 

軍神は自分の創造について聞かれただけと答えると戒は「そうですか」と呟くと一礼してBARから出ていった

 

「…………出てこい、ヴァレリア。俺に用があるんだろ?」

 

軍神が誰もいないはずの店の奥に声をかけると、神父が現れた

 

彼が大隊長、副首領、首領が抜けた黒円卓の最高指揮権を持つ司令官『ヴァレリア・トレファ・クリストフ・ローエングリン』である

 

「そんな殺気立てないでください……私は貴方にお願いがあって来たのです」

 

「願い?俺に頼むくらいならシュピーネやルサルカを使え。俺だとヴィルヘルム以上の損害が出るくらい知っているだろ……」

 

「その損害を出して構わないからお願いに来たのです。ヴァルキリアが裏で東方正教会と繋がっていることが判明しました……ですので、裏切者の彼女の始末をお願いします」

 

「なるほど」

 

「それと、カインにも彼女の始末をお願いしましたので確実にお願いします」

 

ヴァレリアはそれだけ言うと姿を消した

 

残された軍神は店を出ると諏訪原の夜の街に姿を消した



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3話

「さて、ベアトリス……お前に2、3聞きたいことがある……大人しくして貰おうか」

 

諏訪原の夜の街が燃えている

 

東方正教会によるものもあるが軍神とベアトリスの周りを囲むように燃える炎は軍神の創造によるもの

 

「少佐……私は大人しく出来ません。この諏訪原の人々のためでもあり、戒のためでもあるんです」

 

「それはお前でなければいけないことなのか?」

 

「私がやるんです。東方正教会のメンバーの魂でスワスチカを開いて首領……いえ、ラインハルトを討つんです」

 

ベアトリスの目には決死の覚悟が浮かんでおり、テコでも動かない程の決意だと軍神は感じ取った

 

「50年前なら軍法会議をすっ飛ばして銃殺刑ものの発言だな」

 

「そうですね……ですけど、私は少佐を前にしても決意は変わりません。少佐にお聞きしたいことがあります」

 

「……ツキが落ちるぞ」

 

「落ちても構いません……どうして、少佐は黒円卓に入られたのですか?」

 

「守るためだ」

 

「え……?」

 

ベアトリスは信じられないという顔をするが軍神はそのまま話を続ける

 

「軍人として当たり前のことだが、祖国を守るために俺は力を求めた。全ての害悪から祖国を守るため……ただそれだけだ。それが俺の渇望であり、死しても祖国を守るため、俺がメリクリウスに求めた力だ」

 

「祖国を守るためならなんで貴方は!あの惨劇を止められなかったんですか!!」

 

「そこまでだ……ベアトリス」

 

戒は腐毒を撒きながら炎を抜けてベアトリスの前に立った

 

「戒……ッ!」

 

「足止めありがとうございます。あとは僕がやります……」

 

「なら、早くしろ。お前の時間もあと僅かだと言うことを忘れるな」

 

戒は「はい」と答えるとベアトリスと対峙する

 

「ベアトリス。ここまで来てしまったのなら、僕はもう……」

 

「分かっているわ……私もそのつもりで来ている」

 

「それならいいんだ。いや、よくはない。どうして……どうしてなんだ」

 

「私は死人で出来た道を照らしたくない。それが光の道なんて信じられない!私は戦場を照らす光となりたい。だから……ここを暗闇の世界へ変えている根源を破壊しなくちゃいけないの!分かるでしょ……?」

 

「あぁ、分かっている。その姿こそがベアトリスだ」

 

「だけど」そう言いながら櫻井は贋作を取り出す

 

真に近づけようとしたため、真よりも忌むべきものとなった槍

 

一族を呪いという枷で縛り続ける、最悪の槍

 

戒は巨大な槍を地面に突き刺す

 

持ち手によって形状を変えるため槍というよりも、その形状は太刀に近い

 

その槍からベアトリスへ怨念、後悔、憎しみ、ありとあらゆるものが伝わってきた

 

そこにプラスの感情など一つもない

 

恐ろしいまでにマイナスで創り上げられた槍だった

 

ベアトリスも稲妻をまとった剣を取り出す

 

その剣で戦場を照らし、上官と愛する人を救いたかった

 

叶うのならば、今からでもそう願い続けたかった

 

先に動いたのは戒

 

戒の上段から振り下ろされた攻撃をベアトリスは受け止める

 

だが、力で押し切られるのも時間の問題だった

 

間合いを取ろうと後ろへ下がるが、戒の槍は依然としてベアトリスを捉えたまま動かない

 

「どうして……どうして君は一人で解決しようとするんだ!」

 

「それが、私に出来る唯一のことだから!」

 

「他にも出来ることはあるはずだろう!」

 

「私はこのやり方しか知らない。それを言うなら戒にだって別の選択はあったでしょ!」

 

「なっ……」

 

動揺した戒の一瞬の隙をつき、ベアトリスが間合いを取る

 

櫻井は追撃する素振りを見せなかった

 

(僕は君と蛍を守るためだけを思っているのに……ほかにどんな方法があるというんだ)

 

「戒……どうして」

 

戒の異変に気が付いたベアトリスの口から、心配の言葉が漏れる

 

戒はそっと自分の目に手を当てると雨とは違う、生暖かい滴が溢れていた

 

「戒、貴方はまだそんなに綺麗じゃない……だったら、そのままでいてよ!私のためにも蛍のためにも!汚れるなんてそんなのやめて!」

 

「誰かが汚れることで救われるなら、僕は喜んで引き受ける。それは僕にしかできない。全身腐り果てている櫻井戒にだけ許されていることだから!」

 

「貴方はどうして!」

 

ベアトリスが振る剣には迷いがあった

 

『戒を殺したくない』

 

その思いは戒も分かっている

 

それでも、真に2人を守るためには、あの悪知恵を働かす黄金の代替を納得させるために戒も剣を振るい続けなくてはいけなかった

 

二つの剣がぶつかりあおうとした、その瞬間だった

 

Briah―――

 

「時間切れだ……ベアトリス。先にヴァルハラに行け」

 

軍神の口から絶望の言葉が紡がれる

 

次の瞬間、ベアトリスの体は炎に包まれた

 

「お前に恨みはない……だが、お前は焦りやり方を間違えた。誰かと共になら出来た」

 

ベアトリスの体が燃え尽きると第一のスワスチカが開かれた

 

「すいません……最後までお手を煩わせてしまって」

 

戒の体は屍化が進行して立つのもやっとの状態だ

 

「ここまで進行していたか……よく、あそこまで戦えたものだ」

 

「えぇ……自分でもそう思います。最後に貴方に蛍をお願いします」

 

「妹……蛍をか?」

 

「はい……僕がどうなったかは伝えないでください。きっと蛍は僕を救うために手段は選ばないと思うので」

 

戒はそう言うと完全に屍となった

 

「くそっ…また救えなかったのか!俺は!!」

 

軍神は、苛立ちを博物館にぶつけるが何も変わらない

 

過去は変わらない

 

雨の降る諏訪原の街はただ静かに朝を迎えることとなる



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4話

軍神は眠っている

 

戒から託された蛍を床に寝かしつけたあと、軍神もそのまま眠りに落ちていた

 

魔人となった黒円卓聖槍十三騎士団は睡眠を必要としない

 

しかし、軍神の眠りは深く、深く、過去の記憶に潜るように深い眠りであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー1940年 ベルリン

 

「よくやった、大尉!いや、もう君は少佐だったか」

 

「いや、お……私には勿体無いお言葉です。アルミン少将」

 

「いや、気にするな。この部屋には私と君しかいない。それに、君に敬語を使われると背中が痒くなるよ。アルベルト」

 

アルミンは軍神もといアルベルトに対して陽気に笑ってみせていた

 

「さて、祝福するのはここまでとして、君に移動の命令がきている。しかも総統閣下直々の指名だ」

 

アルベルトは上官から指令書を受け取り、中身を確認すると驚愕の色を浮かべた

 

「『最後の大隊(ラストバタリオン)』……ッ!?」

 

「そうだ……君には、総統特秘第666号に基づく特務についてもらう。前任の少佐が亡くなったのでね」

 

「これは本当なのか!?答えろ、アルミン!!」

 

アルベルトはアルミンの胸ぐらを掴み問いかける

 

アルベルトの顔を怒りの色一色だが、アルミンは冷たく鉄仮面の如く表情を崩すことはなかった

 

「アルベルト……君は常に勝利を勝ち取っているが、第三帝国は確実に滅びへと向かっている。だからこそ、総統閣下はこの戦況を打破するために最後の大隊(ラストバタリオン)を結成したんだ」

 

アルベルトはアルミンの胸ぐらから手を離すと椅子に崩れ落ちた

 

「この国は滅びるのか?俺達の故郷は……」

 

「戦争さえ起きなければ違ったのかもしれない……だが、ここまで来たんだ。せめて、交渉の場へ持ち込めるように戦況を変えるしかないんだ」

 

「……分かった」

 

アルベルトはそう言うと部屋から出ていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ……ッ!!」

 

部屋から出ていったアルベルトは酒を浴びるように飲み荒れていた

 

国を救えないことへの怒りもあるが、アルミンの言うことも分からないでもない

 

しかし、今まで自分がしてきたことが全て無意味に思えてならなかった

 

「おやおや、随分と荒れていますね」

 

アルベルトは路地からぼろ切れを纏った男から声をかけられ、足を止めた

 

青年にも、老人にも見える男にアルベルトは足を止めた

 

「見るからに、相当飲まれたようだ。酔い覚ましに私の占いでもお聞きになられますかな?」

 

アルベルトは内心では下らないと思いながらぼろ切れを纏ったも男の言葉に耳を傾けた

 

ぼろ切れを纏った男は口角を上げるとアルベルトに語り始める

 

結果としては、人相、手相、星占術による運勢や性格判断のみで、普通の占いと変わりが無かった

 

「いかがでしたかな?」

 

「聞くだけ無駄だったが、それがお前達の生業なんだろ?釣りは入らねぇ。俺は帰る」

 

「どこに帰ると言うのだ?我が友よ」

 

アルベルトが帰ろうとすると聞きなれた声が聞こえてきた

 

振り返るとドイツの街ではなく、どこかの建物の中へと景色が変わっており、アルベルトの前には獣のように金色の髪をなびかせる男『ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ』がいた

 

「ラインハルト!なぜ、ゲシュタポ長官のお前がここにいる!?そして、ここはどこだ!!」

 

「そう慌てるな。我が友よ」

 

「いやはや、貴方の言うとおり一度火が着けば苛烈な男になるというのは本当ですな」

 

ぼろ切れを纏った男は先ほどの場所から、いつの間にかラインハルトの横にいた

 

先ほどのぼろ切れを纏った姿ではなく、まるで執事ようにきちっとした服を纏った青年であった

 

しかし、アルベルトは青年から、そしてラインハルトから人とは違う何かを感じとり警戒を強めた

 

「ほほう、さすがは常勝の男。私達に何かしら違うものを感じとりながらも、退くことはせず立ち向かうとは……獣殿が『友』と呼ぶのも納得だ」

 

青年は一人で納得するとラインハルトの後ろに下がった

 

「まずは、称賛を送ろう。そして、私は卿に聖槍十三騎士団に入ってもらいたいのだ」

 

アルベルトはラインハルトの提案に困惑した

 

そもそも聖槍十三騎士団とはヒムラーSS長官のオカルト遊びのものであり、なぜそんなものにラインハルトからスカウトされるのか、アルベルトはラインハルトが後ろにいる青年に騙されてるのかと至るが、ラインハルトがそんな嘘に騙されるような人間ではないとアルベルト自身、それを知っている

 

「卿が私やカールを疑うのも無理はない……が、実際にこれを見てもらえば分かるだろう」

 

ラインハルトが構えると黄金の輝きが手に集まり

 

「ーーー形成(イェツラー)

 

ラインハルトの手に黄金の槍が現れ、アルベルトを焼き尽くすように光り輝く

 

聖約・運命の神槍(ロンギヌスランゼ・テスタメント)

 

それは、ヒトラーがとある部隊に回収させた聖遺物

 

かの聖人の死亡を確認するために突いた槍

 

その槍の所有者は世界を制する力を与えられると言われている

 

「はぁ……はぁ……」

 

その力を身をもって知ったアルベルトは片膝をつき、肩で息をするほど消耗していた

 

「見事だ、我が友よ。凡普な魂の持ち主であれば魂ごと蒸発してしまうところであるが、卿はこの槍の輝きに打ち勝った。卿こそ、第2席に相応しい」

 

「ーーーふざけるなッ!!」

 

アルベルトの一喝でラインハルトは口を紡いだ

 

「何が第2席だ。俺はそんなモノに興味はない!!俺はただ、戦争に勝ち、このドイツを守る……それ以外ーーー」

 

「ですが、ドイツを守るならば我々に着いた方が何かと好都合ですよ」

 

今まで黙っていたカールが遂に口を開いた

 

カールはアルベルトに利点、聖槍十三騎士団の目的を説明した

 

アルベルトにとってこの戦争に勝利するということ以外には興味がなく、人を捨て魔人となること、魂を食らうことには全く抵抗を見せなかった

 

むしろ、敵の魂であるならと、アルベルトは好都合としか考えていなかった

 

「では、私からプレゼント(魔名)を送ろう。死を食らう者(トバルカイン)という魔名(プレゼント)だ。常勝にして死なない軍人の君にはぴったりだろう」

 

「ふん、ご託はいい。ただし、俺は俺のやり方でやらせてもらう。とりあえず、第2席にはいてやる」

 

「では、次の団員をスカウトするぞ。カール、アルベルト」

 

「分かりました。獣殿」

 

「最後まで付き合ってやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー夢。この俺が夢だと……!?馬鹿馬鹿しい」

 

目を覚ました軍神は、夢という過去の行いに苛立ち、蛍を起こさないように外へと出ていった

 

外は軍神の心と同じように未だ夜明けには至っていなかった

 



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