私の住む村がちょっとおかしい (ぴぴるぴる)
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プロローグ

今更らんまかよと思うかもしれません。ですが、私はらんま1/2が大好きです。


やっとある程度の紙束が手に入ったので、これを機に今日から日記を書くことを習慣にしようと思う。

筆記用具が墨と筆しかなかったので練習ついでにはいいんじゃないだろうか。

 

こんな中国のド田舎じゃ紙束を手に入れるだけでも一苦労だ。

なんせ電気ガス水道はこの村じゃ初代ポケモンにおけるミュウみたいな存在だ。どこ探したって見当たらない。

仕様がなく誕生日プレゼントに紙束を希望した。親には近年まれにみる変な顔をされてしまった。

来年までは持つだろうか。来年の誕生日プレゼントも紙束かなぁ。

 

 

私が日記を書こうと思った契機を書いておこう。

生まれた時から知るはずのないことを知っていた。

当初は混乱したり動揺したり恐怖を感じたりしてはいたが、人は慣れる生き物で3歳を過ぎた頃には自然と受け入れていた。

正確には私の周りが普通ではなく、記憶の継続なんて他と比べればちっぽけなものだと思えただけだったりもする。

 

さて、この現象に慣れたとはいっても何も思わないわけではない。

無い知恵絞っていろいろ考えてみたものの思いつくことなんて一つしかなかった。

どうやら私は転生というものを経験したようだ。

 

しかし、私が生きていた前の世界ではないのだろう。

この世界は前の世界に似てはいるが、決して同じ世界ではないと確信している。

なぜなら呪術や氣なんていう摩訶不思議なものが普通にまかり通っているのだから。

 

 

 

中月 国日

 

 私の名前は鳳梨酥(フォンリースー)。年は5歳。

 村のみんなからはフォンと呼ばれている。

 

 名はあるが性はない。

 苗字がいるほどこの村には人がいないと言った方がいいのか。

 それともネーミングセンスが他と逸脱しすぎていて必要ないと言った方がいいのか。

 もしかしたらどちらともかもしれない。

 

 この地域での名付けは固有名詞なら何でもありだから困ったものである。

 私の名前も日本語で訳せばパイナップルケーキである。パイナップルケーキ……女児につける名前じゃないと思う。まぁ親に直接文句は言うまい。

 しかし私はまだまだいい方で村長一家の名前なんて上から、コロン、リンス、コンディショナー、シャンプーと整髪剤やら化粧品の名前で統一されている。しかも中国語表記でそっくりそのまま発音できるのだ。

 こいつら絶対に中国語話す日本人だ。

 

 村がおかしいのは何も名前だけではない。

 村に住むほとんどの家族が女系家族で、しかもこの村の女性全てが生粋のバトルジャンキーだ。

 力なきものは生きるに値せずと村全体で公言している。

 

 そのこともあってか幼少期から厳しい訓練が課されることになる。

 私も4歳を過ぎたころから同じ年ごろの子供たちと近くの山を走らされている。しかもwith家の手伝い。

 重たい水瓶になみなみと水を入れて零さないように走らされるのだ。この村は走り屋でも量産しようというのだろうか。

 

 今でも初めて山を走らされた時のことを覚えている。

 生まれて初めて這いつくばって帰宅するという貴重な体験をさせてもらった。もちろん水瓶なんて持っていなかった。前の人生を加算してもあれが初めてのことだ。

 声を絞り出すようにマイマザーに助けを求めたら、声が出る内は大丈夫だと言われそのまま放置されたっけ。

 そのまま寝床に戻ることもできず玄関前で寝転がっているとお向かいさんも同じような状況で少しだけ笑えた。

 しばらくすると父が私を優しく部屋に運んでくれた。見た目は厳ついが優しいパパさんだ。そのとき私は将来の夢がパパのお嫁さんになった。

 そして翌朝起きたらマイマザーに何事もなかったかのように水瓶と一緒に家の外に放り出された。

 将来の夢がニートに変わった。

 

 それでもまだこれはほんの小手調べ。

 明日から基礎的な集団訓練が開始される。走るのには慣らされたが明日は本番の戦闘訓練。

 死なないか不安だ。この日記が遺書代わりにならないことを切に願っている。

 すべて日本語で書いているが村長なら読めるに違いない。

 

 

 

 

 

 私の住む村に名前はない。ただ周りから畏怖を込めてこう言われている。

 

 ―――女傑族と。

 



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5~6歳ごろ

青海月 省日

 今日は日記を書く気分ではなかったが今日の訓練の余韻なのか興奮していて気が鎮まらない。手慰みに書いてみようと思う。

 どうにか戦闘訓練は終わった。

 体の至る所が痣だらけだが顔だけは守った。守り通した。悔しいがちょっとだけ自信がついたのがわかる。

 

 初めは同じ年頃の子と合同訓練だった。足運びの型の模倣とか当たり障りのない練習のみ。

 あれ?楽勝じゃんと思ったが、そんな甘っちょろいことはなかった。

 訓練の最後は模擬戦になり、突如として周りの子たちがピリピリし始めた。気分は牛追い祭りに巻き込まれた観光客のようだった。

 

 いやー、初めて子供が怖いと思ったね。

 技術なんてないからどの子もノーガードの殴り合いから始まり、最終的にはどちらかがマウントポジションとられて殴られるまで終わらなかった。

 顔面パンチは当たり前。目つぶしはお辞儀のようなものだった。

 なぜ村の女には美人かゴリラしかいないのかわかった気がした。

 

 そんな模擬戦を見ながら私は戦慄していた。

 どこが模擬戦なんだろうか。模擬戦という名のデスマッチに限りなく近い。ちょろっと何か出た気もするが全部じゃないからセーフだと思いたい。

 不思議なものでいざ模擬戦が始まると命の危機と感じたのか体はちゃんと動いてくれた。防戦一方だったけど…。

 

 明日もこの訓練が続いていくのかと思うと憂鬱だ。しかもこれが少なくともあと1年は続き、水瓶マラソンがお休みになることはないというのだ。もちろん雨天中止になることもない。鬱だ。

 しかもこの戦闘訓練が終わったら各家の母親からマンツーマンの指導に移ることになる。

 村のみんなが民族衣装を着た蛮族にしか思えなくなった。

 あぁ、やっと眠くなってきた。おやすみなさい。

 

 

 

バヤンカラ月 山脈日

 戦闘訓練が始まってちょうど1ヶ月がたった。訓練内容はいまだ変わらない。殴り合いがより白熱し始めたくらいだろうか。

 この頃持ち始めていたちっぽけな自信はアイスクリームのようにベチャッと地面に落ちた。

 さすが村長の家系だわ。曾孫さんちょーつよい。

 しかし顔だけは指一本触らせなかった。

 

 

 

ボロ月ボロ日

 戦闘訓練が始まって3か月。体捌きの型が増えてきた。

 おかしい。この頃、村長の曾孫としか模擬戦をしていない。

 守るのに必死で他の娘よりも面白味なんてないと思うのに毎日のように絡んでくる。

 ちくしょーっ。私が一体何をした!

 

 

 

心を月 燃やせ日

 相も変わらず村長の曾孫に毎日のように模擬戦で殴られている。

 理由を聞いてみたらスカッとするからだとさ。ハハッ。

 こいつはいつか絶対泣かすと心に誓った。

 

 

 

不思議月 発見日

 戦闘訓練4か月目にしてついに氣について教わることになった。

 これで人外の領域にまた1歩踏み出せると思うとワクワク……なんてしなかった。

 しかしやらねばこれまで以上にタコ殴りにされるので、嫌でもやるしかなかった。

 

 氣と言っても大きく別けて2種類あり、内気功と外気功というものがあるそうだ。

 これからは身体強化にあたる内気功を中心に習うことになる。

 大まかな説明が終わると先生に考えるな感じろと素で言われた。この人先生に向いてないじゃないかな。

 

 今日は初めてということで先生の体に触りながら実際に氣を感じてみることとなった。

 結局私は一番最後までかかってしまい、終わった時にはさすがの先生も辛そうだった。

 そして、そんな私を見てあの娘は鼻で笑いながら私の側をこれ見よがしに通って行った。

 あのクソガキがあぁぁ!

 

 

 

訓練月 半年日

 この頃、やたらと見切りと守りの型だけがうまくなっていくのを実感する。

 人は日常的に殴られ続ければ人の気配に敏感になるようだ。

 しかし有効な攻撃が全くできていない。氣もあまりうまくないから結局はただ最後まで耐えるだけである。

 明日から模造だが武器解禁だ。このままで大丈夫だろうか。

 

 

 

狩猟月 解禁日

 まだ体が痛い。頑丈になってきたと思っていたが今日は本格的にぼっこにされた。

 無駄に器用に持ち手の位置を変えてくるのでリーチが測りづらい上に、相手が鈍器なのも問題だ。

 

 みんなが思い思いの模造刀を手に取っていく中、あの娘だけは嬉々として鈍器を選んでいた。

 なぜかって?刃つぶす必要もないし破壊力も高いからだ。さすが蛮族である。

 こっちはトンファーで応戦したが如何ともし難かった。

 しかし武器の選択は間違っていなかったようだ。トンファーキックを試してみたら綺麗に入ってくれた。

 その代り向こうの火をつけてしまったのか最後はぼこぼこだった。顔だけは守れたからよしとしよう。

 

 

 

そんな装備で月 大丈夫か日

 どうしよう。この頃防戦すらできていない。今日初めてまともに顔にもらってしまった。

 くそう。何か!何か私に有効な攻撃手段を!トンファーキック以外で!

 

 そんな私を神は見捨てなかったのか見かねた村長が直々に鍛えてくれることになった。

 やったね!これであの娘をギャフンと言わせてみせる!

 村長としては何か思惑はあるのだろうが構うものか。

 

 

 

神は月 死んだ日

 やばいよ、あの村長。人外どころじゃないよ。ほぼサイヤ人だよ。

 いざ訓練となりどこへ行くかと思えばいつも走らされている山の中へ。

 そして大人の身の丈を超える大岩の上に陣取り今から教える技をご教授頂けたのだが、指先一つであの大岩を粉々にしてくれやがりましたよ。

 爆砕点穴という技らしい。どうやらこの村長この技を習得しろとおっしゃるようだ。

 

 この技もし人間相手に使えば肉片くらいしか残らなくなると思うが、村長の曾孫相手に使ってもいいのだろうか。

 まぁ、いざとなったら相手の足もとでやってあげよう。

 これであいつの泣き顔が拝めるならやるしかなかろう!女は度胸である。

 

 ちなみに近くにいた私はがんせきほうをまともに食らった。

 こうかはばつぐんだった。

 

 

 

かたく月 なる日

 もうそろそろで9ヶ月になりそうだ。

 模擬戦では防戦に持ち込めるようになったし、硬気功だけはずば抜けて上達している。

 それもこれも村長のおかげである。村長のせいとも言う。

 訓練内容からしておかしいんだよ。目隠ししながら振り子のように迫る大岩を粉砕しろと言われても無理がある。

 爆砕のツボを見切って突くだけだと事も無げに言ってくれるが、そう簡単に見切れるはずがなかった。

 

 最初の頃は気配もない大岩がただただぶつかってくるだけで生命の危険をヒシヒシと感じるだけだった。

 常に硬気功を維持しないと気づいた時には走馬灯を見ているといえばどれほどつらいかわかるだろうか。

 トイレ以外では排便をしないという信念を数回ほど曲げざるを得なかった。

 何度朝食べた朝食にこんにちわしたことか。

 その甲斐あってか爆砕点穴の方はついに3回に1回は成功するようになっている。

 今では目隠しをしてもぶつからずに歩けるというのが私の特技である。

 

 あとひと月もすれば完成するだろう。今から楽しみだ。

 私は慈悲深いので、百回くらいやったら満足するだろう。

 

 

 

訓練月 10ヶ月日

 ついに念願かなって爆砕点穴を習得した。

 しかし、村長が蛮族の長だということをすっかり失念していた。

 これで終わりなんかじゃなかったのだ。爆砕点穴はただの前座でしかなかった。

 この言葉を聞いたとき、私は膝から崩れ落ちた。

 少し呆然自失としていたが、村長から物理的に喝を入れられ訓練は再開された。

  

 今度覚える技は飛竜昇天破。

 本来であればこの技が私に教えられることなどない程の秘拳中の秘拳らしい。

 ではなぜ教えるのかというとあの曾孫の鼻を明かすためだと村長は言った。

 傲りの目がでてきたので少し軌道修正を図るそうだ。私にしかできないとも言われた。

 この一家ストイックすぎるだろ。アンタ6歳児に何を求めてるんだ。

 しかしこれは悪くない。せっかくの機会なので村長の企みに私も乗せられておこう。

 

 ところで村長の持ってるあの杖なんなの?石つぶてごときはもう小雨と変わらない私が普通にタンコブこさえさせられたぞ。

 アダマンチウムでも中に入ってるんじゃなかろうか。

 

 

 

訓練月 11ヶ月日

 ただひたすらに飛竜昇天破の型の練習をしている。

 傍らには人の羞恥心をこれでもかと刺激してくる鬼婆が二匹。

 村長とマイマザーが爆砕点穴の訓練時の醜態を執拗に攻めてくる。くそがっ!

 

 技自体はすでに問題ないがどれだけ相手を乗せられるかが鍵だ。

 爆砕点穴はまだシャンプーには見せてはいないがそろそろ期限が迫っている。

 あと2週間ちょっとでシャンプーの方が合同訓練を終えてしまうのだ。

 この鬱憤ごとシャンプーを絶対に吹き飛ばす!

 

 

 

訓練月 終了日

 やった!ついにやってやった!

 飛竜昇天破で上空へと吹き飛んでいくシャンプーの姿はまるで心が洗われるようだった。

 先生からも合格を貰いホッとしている。これで集団訓練は終了だ。

 

 明日からは家々に伝わる一族の秘術や秘拳などを教わることになる。

 この日記を書いてもう1年近くになるのか。長いものだ。

 感慨深げに日記を読み直してみると……。

 

 あれ?私洗脳されてる?

 

 次第にバトルジャンキーの思考へとシフトチェンジしているように思えるのは間違いだろうか。

 

 

 

新しい月 朝が来た日

 いくら私が思い悩んでも明日は来てしまうもので、今日から新しい修行が始まった。

 と思っていたのは私の勘違いだったのだろうか。マイマザーから教えを乞うはずがなぜか訓練場に村長とシャンプーがいた。

 

 え?合同訓練終わったよね?なんて思っているとマイマザーがこうなった訳を教えてくれた。

 秘拳である飛竜昇天破を私に教えた時点で村長からいろいろ教わることは確定だったらしい。

 解せぬ。ていうか私聞かせれてないんだけど!

 

 ついでにマイマザーからおめでた宣言された。私聞かされてないんだけど!?

 一子相伝の秘技は代わりがいるから大丈夫だという冷たいお言葉もいただき修行が開始されてしまった。

 目の前には私をどう料理しようか思案している妖怪が一匹。隣には私に対して闘志を燃やす紫髪の娘っこが一人。

 ……神なんてこの世にいない。

 

 家に帰ったら今日から村長の家で暮らす段取りになっていた。泣きたい。



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7~8歳ごろ

最後に抜けがあったので追加します。
すいません。

追記 アニメ見てみたら婿は早い者勝ちと判明しました。
   すこし修正します。



生傷が月 絶えない日

 合同訓練が終わってまだ1週間しか経っていない。私としては1日でも速く遠い過去の思い出にしてしまいたい。

 相も変わらず朝から晩までシャンプーと稽古をしている。最後の模擬戦はもう慣例と言ってもいいだろう。

 今でもまだ負けることはあるが、一応シャンプーなりに私を認めてくれてはいるようだ。

 

 2人とも同じ内容の修行かというとそうでもない。

 シャンプーは専門知識と繊細さを求められる秘伝を、私の方は外気功の秘技を中心に教えられている。

 村長に言わせると私はもう内気功は十分合格点になるらしい。

 どうやらあの地獄の日々に意味はあったようだ。人としての尊厳を手放したのは無駄ではなかった。

 

 

 

いい加減月 譲歩しろコラ日

 この頃朝から晩まで一緒にいる私達だが、さすがに少しは互いに歩み寄らないと息がつまる。

 合同訓練のときは意地でも名前を呼ばないほど毛嫌いしていた私達だったが、いつの間にかお互いを名前で呼ぶようになっていた。

 しかしシャンプーの私に対する対抗心は衰えることを知らない。何がシャンプーをあんなにさせるのか…。

 

 

 

驚月 愕日

 この村で男児がいないから前々から不思議ではあったのだが、今日正式に村長から一族の掟を聞かされた。

 どうやら男児が生まれた場合は他村に出されるそうだ。この村に戻る方法はただ一つ、一族の未婚女性に勝って嫁にするしかない。

 一体どこのアマゾネスだ。

 

 一族以外の女に負けたらどこまでも執念深く追いつめて殺せとか子供に教えることではないだろう。

 しかも男に負けたら一族総出で囲い込むというオマケ付きだ。もうやだこの村。

 一族の中で恋愛結婚できた夫婦は一体どれだけいるだろうか。いや、いない。

 

 

 

迷探偵月 フォン日

 シャンプーと一緒にいることで気付いたことがある。

 戦闘において同世代の中でも無類の強さを誇っているシャンプーだが、実は外気功のセンスが全くない。

 氣を外に出したり、対象に付与させることがかなり苦手なようだ。そりゃあ、鈍器を選ぶしかないわ。

 

 当の本人はそのことを酷く気にしているようだ。今日偶然彼女の布団の中から小さな嗚咽が漏れているのが聞こえてしまった。

 さすがに見て見ぬ振りもできないので、布団の上に優しくのしかかってあげた。

 私の意識は空に還った。

 

 ったく、アンタはよく頑張ってるよ。そんな欠点吹き飛ばすぐらいに強いくせに何気にしてるんだか…。

 

 あー、もしかしたら私が引き取られた理由はシャンプーの欠点にあるのかもしれない。

 

 

 

明かされる月 真実日

 どうやら私の推測は正しかったようだ。

 今日村長に私がなぜ引き取られたかを聞いてみると私の推測通りだと言われた。

 村長としては全ての技術を継承できないというのはどうしようもないネックなのだろう。

 婿養子に覚えさせるという手もあるが、確実性もないので私に白羽の矢が立ったというわけだ。

 お婿さん問題はこの村の中では大きな問題になっているようだ。

 

 まぁ私の何かが村長の目を引いたのだと思えば悪い気はしない。

 しかし、私はそこまで男探しに躍起になる気はない。シャンプーには頑張ってもらおう。

 そんなことを思っていたら村長に私が婿を見つけない場合はシャンプーが許可すればお情けで妾にしてやると言われた。

 男が複数の女を囲い込むのは困難だが、複数の女が男を囲い込むことは比較的容易だとか…。

 なん…だと…。私が、シャンプーに勝率5割を誇るこの私が、シャンプーの匙加減ひとつで情けをかけられる?

 冗談ではない。私たちは対等なのだ。そんなことになれば舌噛んで死んでやる。

 

 さてどうしたものか。

 あまりがっつきたくはないのだが、ああ言われてしまえば私もお婿さん探しを頑張るしかない。8歳から婚活か。新しいな。

 贔屓目に見てもシャンプーは美人だ。将来いくらでも男を引き寄せることだろう。

 彼女が誰かに負ける姿は想像できないが、シャンプーより先に見つけてやろうではないか。

 さぁ男共よ、かかってこい。私の審美眼はちょいとばかり判定が厳しいぞ。

 

 

 

ワク月 ワク日

 意外にもシャンプーは一度懐に入れてしまえば手厚く受け入れてくれるようで面倒見がいい。

 私よりも生まれるのが少し早かったことに気をよくしたのかことある毎に姉ぶっている。

 美人の上に実は性格もかわいいとか卑怯じゃないっすかね。

 

 明日は外へ買付に向かう日だ。私も連れていってくれるというので楽しみである。

 

 

 

心に月 くるものがある日

 朝早くから荷馬車の後ろで揺られされることになり、隣ではシャンプーが村に着くまで舟をこいでいた。

 美人は歩くだけで男を引き寄せるようだ。村に入った途端シャンプーに男の子たちが群がっていた。

 妬ましくなんてない。ないったらない。この世界は子供のころから肉食系のようだ。

 

 しかし私達が女傑族だとわかると一人は泣き叫び、一人は失禁し、一人は死んだふりをし、一人は脱糞した。

 情けない奴らだ。肉食系でも臆病者が大半らしい。

 それでも態度の変わらない気骨のありそうな男子が1人いたにはいたが如何せん弱すぎた。

 瓶底メガネを外せば顔はよかったのにな。残念残念。せめて私ぐらいは勝てないとね。

 

 しかしあの反応が村の外では普通なのかぁ。初めて知ったが近隣でも悪名高き女傑族として有名なのだとか…。

 まぁもうすでに気づいてはいたよ。うちの村は普通じゃないってさ。

 でもそれで平気かって言われればそうではないのだ。帰ったらとりあえずやけ食いした。

 あの村に自分から進んでいくことはもうないだろう。

 

 

 

摩訶月 不思議日

 どうやら私はまだまだこの世界を見くびっていたらしい。

 今日とてつもなく怪しい訪問販売がきた。胡散臭い説明を真剣に聞いている村長がボケたのかと心配になった。

 鏡に反射した光にあたると石化するとかいかにも胡散臭い。

 がどうやら効果は本物のようだ。私の体で実証された。

 いつになったらこの下半身の石化が治るのか非常に気になる。明日までに直らなければシャンプーにサンドバックにされてしまう。

 

 

 

カリスマ月 美容師日

 今日は村長がシャンプーに髪の洗い方を伝授していた。

 さすが整髪剤の名前をつけるだけあって髪については一家言あるのだろう。

 

 

 

よろしい月 戦争だ日

 私が楽しみにとっておいた貴重な甘味がなくなっていた。

 こんなことする奴なんて一人しかいない。女傑族の執念深さをその身で味わわせてやる。

 

 

 

頭が月 スッキリしている日

 水が貴重なので髪を洗うのにも苦労するが、この頃はシャンプーのおかげで助かっている。

 髪の洗う技術もすでに相当なものだ。ただ何か忘れている気がする。ん~、なんだろ?

 

 

 

ひたすら石を月 積み上げる日

 珍しいことに今日シャンプーの頭に村長の雷が落ちた。

 いったい何をやらかしたのかと思えば私にやらかしていたらしい。

 あの洗髪技術は対象者の記憶を失くさせる秘技だったという。その名を洗髪香膏指圧拳(サイファツヘンゴウしあつけん)

 何を忘れたのかすら思い出せないがやってくれるわ、このアマは。

 シャンプーが正座してしこたま村長に怒られている横で、爆砕点穴で作り出した岩石を彼女の膝の上に積み上げていった。

 最終的にシャンプーの姿が積み上がった岩岩で見えなくなったのでこれで許してやることにした。



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9~11歳ごろ

前回の話で最後に抜けや設定の祖語がありましたので昨日のうちに追加修正しました
ご迷惑おかけします


めげない月 漢日

 今日も買付に行く日だった。

 行きたくはなかったが、村長に荷物持ちを頼まれたので仕方なくついていくことにした。

 まだあのメガネっ漢はシャンプーに引っ付いている。聞けば買い付けのときはいつもあんな感じらしい。

 すぐにおらがシャンプーを迎えに行くだと息巻いていたよ。なぜか私に。

 ちゃんとメガネをかけてろ、デコ助野郎。

 ダボッとした服を着ていたので暗器あたりでも習い始めたのだろう。あれだけシャンプーに素っ気なくされてよくやるわ。

 そのシャンプーはというと薬師の娘をコテンパンにしていた。パチモンでも掴まされたのだろうか?

 

 

 

どんどん月 毒されている日

 久しぶりに村長にお叱りを受けてしまった。

 新しい技を伝授されたが、この頃行き詰っている。

 やり方はわかっているのだ。特大の重い氣を自分の頭上から落とす。

 だが氣を受け流せなければ自分を巻き込むだけでしかない自爆技だ。

 コツは自分の不幸を嘆くことが何よりも大事だと言われた。

 そんな不幸だと思ったことあるはず……ないこともなかった。あれ~?

 

 

 

また月 村長か日

 いつもより朝早くに村長に叩き起こされるとシャンプーと一緒に山二つ越えた先の拳精山に連れていかれた。

 場所変えて修行をし気分転換をさせる気らしい。久しぶりの遠出だと私達は喜んでいた。

 

 着いた先は大小様々な泉が湧きでるどこか神秘的な場所だった。

 岩だらけの拳精山をひたすら歩かされて遂に拝めた絶景に私はついつい(はしゃ)いでしまった。

 だが喜んでいられたのはこそまでだった。

 

 シャンプーと水を掛け合うと彼女はどこかに掻き消えていた。

 ただ彼女の服だけがその場に鎮座していた。痴女か、あいつは。

 シャンプーを呼ぼうと声をあげようとするが、私の声がどこか変だった。妙に甲高いというかなんというか。

 喉に手を当てようとして私は気づいた。姿が変わっていたのだ。

 

 ―――鶏に。

 

 また私は村長に謀られたのだ。そんなに私を掌の上でコロコロするのが楽しいか!

 村長おぉおお!と叫ぼうとしてもコケーッという間抜けな鳴き声しか出なかった。

 当の村長は腹を抱えて爆笑していた。私の獅子咆哮弾がついに完成した。

 ちなみにシャンプーは服の中で蛙になっていた。一緒に潰しちゃってごめんよ。

 

 管理人らしき人が慌てながら私たちにお湯をかけられると元に戻ることができた。

 よかった。本当によかった。

 

 このふざけた修行場は呪泉郷というらしい。名前からしておかしかった。

 泉の一つ一つに悲劇的伝説があるそうだ。

 泉の水に触れたら最後その泉に過去溺れた動物達の姿を変わってしまうらしい。

 何だそれは。変身体質の付与とか下手すると秘宝級の呪詛に匹敵するぞ。

 

 この呪いをどうにかする手立てはあるそうだが、しばらくそのままでいるしかないらしい。

 さすがのシャンプーもその言葉を聞いて真っ白になっていた。私はまだ鶏溺泉の水でよかったと思うべきか。

 

 この呪いを解くことは不可能に近く、同種の呪いで上書きするしか手がないそうだ。

 しっかりと呪いが体に定着しないとただ変身能力が追加されていくだけだとか。どんな結果になるか予想もつかないらしい。

 完全に定着するまで個人差はあるが20日ほどは我慢するしかないそうだ。

 

 シャンプーと二人で黄昏ていると現地ガイドの人からこの呪泉郷で水遊びをする馬鹿は初めて見たとオブラートに言われた。

 知らなかったんだよ!

 それにしてもこんな珍事に遭わせてくれたあの妖怪をどうしてくれようか。

 目と目があった瞬間、シャンプーと私の心は一つになった。

 

 

 

一歩踏み出せば月 即すなわち武となる日

 朝起きたら2人で顔を洗った後、洗面器の中身を猿溺泉の水に入れ替えて村長に渡してあげた。

 私達の腹の虫はおさまったが、特に変わった印象がしなかったのがなんか悔しい。泉の選択を間違えた。

 その後私たちはそのまま20日間も呪泉郷にいるわけにはいかず帰ることにした。他の呪いを受けたら色々と面倒そうだしね。

 

 帰ったら帰ったでまた村長から新たな技を教えてもらえた。名を土竜螺旋墜(どりゅうらせんつい)

 無駄にカッコいい名前だった。

 気弾をドリルのように回転させ地面に打ち込み対象者の足元から噴き出させ攻撃するという技だ。

 練習用の人形が錐揉みしながら打ち上げられそのまま尻から地面に陥没していた。

 技の威力は劣化飛竜昇天破だったが、相手の闘気が必要というわけでもないので使い勝手はよさそうだ。

 

 おいおい、この私を見くびってもらっちゃ困る。この前獅子咆哮弾を完成させたばかりだぜ。今の私の気功術はちょっとしたもんだ。

 とか調子にのっていたら実際にやってみると今の私ではめちゃんこ難しかった。

 地面に外気功を打ち込んで簡単に地上に戻ってくるわけがなかった。なぜ気づかなかった私。

 

 

 

汚ねぇ月 花火だ日

 なんとか氣弾を地面から打ち上げることはできた。

 しかし、打ちあがる場所がしっちゃかめっちゃかだ。村長に言わせると氣の捻り具合が重要らしい。

 氣とお友達になれとでも言うのか。要求される氣のコントロール技術がルナティックどころではない。

 あの、村長これ本当に私なんかが覚えられます?

 

 シャンプーはというと髪を掻き毟っていた。寸勁を覚えさせる気らしい。

 向こうの要求難易度も高そうだ。

 

 

 

もう月 待ちきれない日

 やっと明日でこの疎ましい呪いを受けてから20日が経つ。

 呪泉郷へ行く準備は済ませてある。明日が楽しみだ。

 もう誰にもチキンとは言わせない。

 

 

 

綺麗だろ月 でもこれ呪い解けてないんだぜ日

 呪泉郷に着いたら真っ先に娘溺泉に飛び込み私の体は完全に戻ることができた。

 そしたら村長だけ十代半ばまで若返っていた。違う泉に入ったらしい。かなりの美人さんだった。

 しかしこの村長、若い燕でも捕まえてみるかとふざけたことを抜かしていた。女傑族の掟はどこへいった。

 私の村では新しい結婚詐欺が流行りそうだ。

 

 冷静に考えてみると娘溺泉の水さえ確保しておけば約一月毎に面白体質になるだけだと気が付いた。

 しくじった。娘溺泉に入る前に気づけばよかった。

 手ぶらで帰るのもなんだかもったいなかったので、運べるだけのサンプルをなんとか持って帰ってきた。

 ただ同伴者二人の視線が無性に痛かった。

 

 

 

お前たちの力は月 こんなものか日

 村長は若返ったのがうれしいのか常時変身した状態でいる。関節痛が収まるらしい。

 村に帰ってから改めて村長の稽古が始まったがシャンプーと私の二人掛かりで手も足も出なかった。

 終始合気で受け流され、服にすら掠りもしなかった。

 あの皺くちゃの状態でも力の差があったのに、今では隔絶していると言っていい。

 コロンちゃんが強すぎて生きるのがつらい。

 

 

 

マッド月 サイエンティスト日

 やはり呪泉郷の呪いにはかなり強い呪詛が込められているようだ。

 猫に変身させた家畜の牛にマタタビをあげるとものの見事に酔っていた。

 変身したモデルの特性はちゃんと引き継げることが確認できた。

 どうりで一時期、物忘れが激しかったわけだ。

 

 さらに実験してみた結果、体の一部だけを変身させることも可能だった。

 馬の背中に羽を生えさせてあげたのだが、如何せん飛ぶことはできかった。

 浮力が足りないのか、それとも慣れが必要なのか。

 

 他にも実験をしたいが肝心の人間の対象者が私だけっていうのが問題だ。

 遅々としてデータが集まらない。何とか確保しなければ。

 

 

 

この月 ロリコン共め日

 この村に挑戦者(カモ)が来た。

 女傑族の噂を聞いて遠路遥々やってきたそうだ。誰かが婿ゲッチュしてきたのかと思ったわ。

 時々いるのだ。こういう奴らが。今回の男はどう噂が伝わったのか強さを見せつければ誰でも嫁にもらえると思っていた。

 村のみんなで何秒持つか予想していたら、あの男はなんと村長を指名しやがった。みんなでご冥福を祈ることにした。

 見るからに中年のくせしてコロンちゃん状態の村長を選ぶとかあの男ロリコンか。

 1秒と経たずにあの男は成敗された。慈悲はない。

 そして私は念願の実験体を手に入れた。テーレッテレー。

 

 実験の結果、人間相手にも体の一部だけに呪いをかけることができるみたいだ。

 これはおもしろいことになりそうだ。

 



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12~14歳ごろ

補充要因月 求ム日

 手持ちの水が切れそうだったので呪泉郷に補充しに行くことにした。

 シャンプーも誘ってはみたが手伝ってくれるわけもなく、一人寂しく荷車引きながら往復してきた。

 

 ただ歩くだけというのもつまらなかったので、前々から試してみたかったことをやってみた。

 下半身に馬溺泉の水をかけてみたのだ。

 予想通りにギリシア神話のケンタウロスのような姿になれた。

 

 最初は手足が6本もあることに混乱したが1kmも歩けばすぐに慣れた。

 山2つを越えるのにこの体は最適だ。

 

 しかし、水がかかる度にズボンがはじけ飛んでしまうのは困る。

 村長ならうまく手直しできるだろうか。しばらくはこのままの姿で過ごすことにしよう。

 

 追記 

 ガイドの人から面白い話が聞けた。

 もうひとつの呪泉郷がこのバヤンカラ山脈のどこかにあるという伝説だ。

 拳精山の呪泉郷を全て試したわけではないし、今のところ急いで探す必要もない。気長にちょこちょこ調べてみよう。

 

 

 

私の髪は月 手綱じゃない日

 朝起きたら農耕具が取り付けられ、田圃に出された。

 すでに逃げられない状態だった。現実は無常である。

 

 これも修行だと開墾の手伝いをさせられることになった。

 どう見ても村長の個人的な願いにしかみえなかったが、日ごろお世話になっているのだしこのくらいなら手伝ってあげることにした。

 

 洗濯を終えたシャンプーが救援に来てくれたが、ただ私の背中に乗りたいだけだったようだ。この娘、手伝いどころか邪魔しかしてくれない。

 シャンプーを振り落とそうとしても余計に喜ばせるだけだった。

 こいつは私をロデオマシーンか何かと勘違いしてないか。

 

 このケウタウロスもどきはダメだ。背中に乗られるといいように遊ばれてしまう。特にシャンプーに。

 さっさと他の呪いに上書きしてしまおう。

 

 

 

お前の誕生日を月 呪ってやる日

 今日はシャンプーの12歳の誕生日だ。

 寝ている間にシャンプーに猫の耳と尻尾をプレゼントしてあげた。

 そのまま寝起きドッキリをしてあげたら、飛び上るほど喜んでくれた。

 やはりツチノコに変身してからのエイリアンごっこは楽しい。

 

 夜中にシャンプーの部屋を覗いてみたら鏡に向かってニャアニャア言っていた。

 存外気に入ってくれたようだ。よかったよかった。

 私はそっと扉を半開きにして、村長を呼んであげた。

 

 ところでシャンプーにスパイクメイスなんて物騒なものをプレゼントした阿呆は一体どこのどいつだ?

 いつもよりも数倍は痛かったぞ。

 

 

 

どこまでも月 諦めない日

 瓶底メガネ君が遂に私たちの村にまでやって来た。

 あー、……名前なんていったっけ?

 背中に鳩溺泉の水をかけたのは失敗だった。

 鶏溺泉程ではないが時々物忘れしてしまう。

 

 思い出した。ムースという名前だったはずだ。

 確かに以前の彼とは見違えるほどに強くなってはいたが、それ以上にシャンプーも強くなっていた。

 早々に彼は肩を落としながらお帰りになった。

 

 ムースは気づいていなかったが、シャンプーは思いっきし手を抜いていた。

 このままだと彼は一生シャンプーに勝てないだろうな。

 暗器程度で今のシャンプーをどうにかできるはずがないのだ。それなら今頃私は常勝無敗だ。ただし村長は除く。

 

 しかし、シャンプーがまさかムース相手に手加減するとは…。

 もしかしたらもしかしたりするのかもしれない。

 

 

 

伸び月 悩み日

 土竜螺旋墜の完成は未だ遠い。

 手を使えば何とか狙った位置に吹き出すのだが、予備動作が多すぎて今のままでは実戦に使えない。

 足から出せとか村長も無茶を言うもんだ。

 手慰みにやっているどどん波モドキの方が上達していっている。

 

 シャンプーの方はすでに寸勁の練度を高める段階まで至っていた。

 愛用の玉錘を使うよりも徒手空拳の方が遥かに強くなっている。

 試しにどの程度なのか私にやってもらったらその場に止まることもできずに後ろに吹き飛ばされた。

 まだ痛みがとれない。

 

 頑丈なだけではもう不十分のようだ。

 このままだとシャンプーに負け越し続けてしまう。受け流す技術も必要か。

 村長から追加で合気も教えてもらうことにした。

 ついでに消力とかいう変態技術を見せてくれたが、さすがにあれは無理だ。

 

 

 

パパから月 オトンへ日

 突然オトンが村長宅に私を訪ねてきた。珍しいこともあるものだ。

 私の部屋で当たり障りのない会話を済ませると村長と少し話して帰っていった。

 娘に好かれたくなるお年頃なのかね。

 オトンと呼ばれるのがそこまで嫌なのだろうか?

 残念だが、お小遣いをくれなくなった時点でオトン呼びは確定だ。

 外で見かけたら少しは優しくしてあげよう。

 

 

 

今日から君も月 実験体日

 ムースは未だに足繁くこの村に通っている。

 毎回こっぴどく追い返されているのにちっとも心が折れる様子もない。

 頑張ってくれ、ムース。もしかしたらワンチャンあるかもしれない。

 ムースの頑張りに敬意を表して私も協力(実験)してあげよう。

 

 

 

逃げるのが先か月 食卓に上がるのが先か日

 ムースに犬溺泉の水をぶっかけてシャンプーに見せたら村長宅で飼うことになってしまった。

 やたらシャンプーに懐くので気に入ってしまったのだ。

 そりゃ懐くのは当然だ。中身はムースなんだし。

 暢気に尻尾振ってるけど村長には非常食としてしか見られてないといつ気づくだろうか。

 このまましばらく見ているのも面白いそうだ。

 なんて思っていたら目を離したすきにシャンプーがムースを連れて水浴なんかしてくれちゃったから、さぁ大変。

 バラすにバラせなくなった。

 

 これは非常にまずい。

 正体がバレたらムースと一緒に私まで地獄を見ることになってしまう。

 後で念入りに口止めをしておかなくては…。

 

 寸勁ができるからと興味本位でシャンプーに獅子戦吼なんて教えるんじゃなかった。

 あいつの寸勁は火中天津甘栗拳と合わさって今では立派な獅吼爆砕陣だ。

 いや、殺劇舞荒拳の方が近いか。

 

 

 

み~月 つけた日

 やっともう一つの呪泉郷の場所が判明した。

 自力で探してはみたのだが大した成果もなく、泣く泣く村長に頼ると確度の高い情報が聞けた。

 さすが齢三桁だ。長生きしているだけはある。こんなことならさっさと頼ればよかった。

 

 どうも聞くところによると拳精山近くの険しい山頂にしか泉はなく溺れる動物は鳥ぐらいだとか。

 拳精山の近くで険しい山と言えば南方に(そび)え立つ鳳凰山くらいしかない。

 鳥しか溺れないというのはちょっと肩すかしだったが、それでも気にはなるので機会があれば行ってみよう。

 

 

 

オトンの月 お客さん日

 オトンの親族がこの村にやって来た。

 一目で高いだろうなとわかるほどの煌びやかな服に身を包んだ3人の男性だった。

 あんなの着て眼が痛くならないのだろうか。

 やんごとなき血筋なのかあの村長が緊張していたのには驚かされた。

 オトンに呼ばれ男性3人に私を紹介すると途端に全員の顔が一瞬だけ厳つくなった。

 女性を見るたびに顔が強張るのはオトンの一族の特色なのだろうか。

 私が呪泉郷に月1で通っているのを知ると心底面白そうに笑っていた。

 オトン達の笑いのツボがよくわからん。

 

 御客人たちが帰っていくとオトンも弟を連れて村を出ていった。

 せめて私に何か言ってから出ていっていけよ!

 私のお別れの挨拶にどどん波にした。

 

 

 

氣は月 お友達日

 やっと震脚からの土竜螺旋墜ができるようになった。

 村長からも無事太鼓判を貰い、完成と相成った。

 なんだかんだで3年近くかかったんじゃないかな。まさかここまでかかるとは…。

 これでも覚えるのが早い方だと村長は言う。珍しく褒められた。

 

 3年でも早いってどれだけ難しいのさ。

 村長の要求するハードルがこれ以上高くならないことを祈るばかりである。

 私に消力覚えさせようとする時点で無理だとはわかっているがそう思わずにはいられない今日この頃である。

 

 

 

これは月 ピンチ日

 毎年恒例の武闘大会が開催された。

 シャンプーが出る様子もないし特に興味もなかったんだが、村長が言うには15歳になったら1度は出ないといけないらしい。

 それなら仕方ない。村長に薦められるがままに見てみることにした。

 

 会場近くの看板を見るに対戦方法はトーナメント形式のようだ。

 実際に試合を見てみると4本の柱から両端をぶら下げた1本の丸太の上で戦っていた。

 

 なるほど。村長が私に見せたがるわけだ。

 私は地上戦メインなんだぞ。不安定な足場の上では爆砕点穴かどどん波モドキぐらいしか使えない。

 早急に何か対策を練る必要がある。

 

 

 

そうだ月 ラミアになろう日

 たどり着いた答えは単純だった。

 要は丸太から落ちなければいいのだ。

 それなら話は簡単だ。

 私は自身の下半身に大蛇溺泉の水をぶっかけた。



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閑話

シャンプーの口調が難しくて土日潰してしまいました。
何かおかしな点あればご指摘ください。


 

 女傑族に生まれた私、村の誰よりも天才的だったね。

 どんな稽古もすぐ覚えた。家族のみな私を褒め称えたね。

 

 小さい頃から村の娘たちと訓練する。これ女傑族の伝統。

 稽古より他の娘と戦うこと多くなったね。

 もちろん私勝ち続けた。誰にも負けない。当然的結末。

 私皆から期待されてたね。

 

 ある日村一番の変わり者のフォンと戦った。

 皆訓練したがらない不思議的娘だったね。

 

 戦ってみると驚異的やりにくさだったよ。

 皆避けてる理由よくわかったね。

 攻撃してる私逆に傷つく。理不尽的硬さだった。

 

 私なんとか勝利したね。

 ひいばあちゃん直伝の投げ技なかったら危なかった。

 でも、勝った気しなかったね。

 両手真っ赤に腫れてた。拳握ることもできなかったよ。

 そして倒れてたフォンはいつもの半眼でジッと私を見てたね。

 

 屈辱的だったね。あんな想いしたの、あれが初めてだったよ。

 両手を見せないために走って家に帰ったね。

 

 私、フォンに屈辱的敗北味わわせると誓った。

 ひいばあちゃんに頼み込んでいっぱい鍛えてもらったね。

 たくさん修練積んだよ。

 

 でもフォンも強くなっていったね。

 拳が空を切ること増えた。投げ技も外された。

 あの避ける様、まさしく蛇だったね。

 

 だから私、画期的名案考えたよ。

 武器使う。殴ると違うから私傷つかない。

 これなら完璧と思ったね。

 早速私先生説得して訓練で武器の許可もらったよ。

 

 今日こそ殺す思たら、逆に鳩尾に蹴り入れられた。

 初めてまともな攻撃を食らったね。私驚異的に怒った。

 立ち上がれなくなるまで玉錘で殴りつけたよ。

 でもやっぱりフォンは悔しそうじゃなかったね。

 

 勝ったのに全く嬉しくない。

 意地でもフォンの顔を屈辱的表情に変えたかったね。

 だからいつも守ってる顔に無理やり一発入れてやったよ。

 そしたらフォンは悔しそうにしてたね。

 私大歓喜した。もっと殴ってやろうと思ったね。

 

 それからフォンは驚異的に強くなったね。

 全身に闘気を纏いはじめた。まるで鱗ね。より一層硬くなったよ。

 試合時間どんどん増えていった。

 私焦ったね。このままじゃ負ける思たよ。

 

 私また頭悩ませた。

 そしたら家族の眼が変だと気づいたね。

 問い詰めたよ。

 私闘気を武器に乗せる下手くそだったみたいね。

 武器だけでは勝てない言われたよ。

 

 あれは憐みの眼。敗者へと向ける眼差し。

 私失望されたね。

 涙があんなに流れるなんて初めて知ったよ。

 

 もう武器は使えなかった。

 悲しい想い、私への苛立ち、フォンへの怒り、全部闘気に変えたね。

 全部フォンにぶつけたよ。

 今度は私の拳堅くなったね。

 

 闘気がなくなるまで殴り合う毎日になった。

 でもそう長く続かなかたよ。

 

 突然私の闘気が私を襲った。意味不明だったね。

 でもこれだけはわかったよ。

 私ついにフォンに負けてしまた。

 

 

 

 次の日からひいばあちゃんの家でフォンと一緒に暮らし始めたね。

 これ、どちらかが村の長を継ぐ。女傑族的名誉。

 だからひいばあちゃんの言うこと全部やった。

 家事も稽古も真剣だったね。

 

 なのにフォンは自然体だった。

 そして驚異的だらしなさだったね。

 朝起きられない。料理よく失敗する。

 洗濯下手。裁縫できない。

 よく今まで生きてこれたなと思たね。

 

 毎朝フォンを起こす。私の役目になった。

 フォンが起きる、できるまで同室になったね。

 悪夢見ると気絶させて同じ寝床に潜ったよ。

 フォン、ぐっすり眠れたか?

 

 一緒に家事やった。

 私を真似て家事をする姿がちょとだけ面白かったね。

 フォンは失敗したら私笑てやった。なのにフォン一緒に笑てたね。

 なぜ笑う。そこお前が悔しがるところ。

 

 いたずらしたら万倍返し。

 なのにフォン全く懲りないね。

 でも稽古とは違う楽しさがあった。

 フォン!待つよろし!

 

 

 私、拳交えると同じくらい言葉交わすようになってたね。

 こんなはずじゃなかった。どうしてこうなったか。

 ……ま、悪い気はしなかったけどな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ある日、我らの村に1人の男がやってきた。

 村一番の歌い手の娘が婿として連れてきた男じゃった。

 村の皆が祝福した。

 

 しかし、その男は女の前に立てばたちどころに緊張し棒立ちになった。

 この村でやっていけるのか心配したものじゃ。

 妻となる娘にとってはそこがいいと言う。

 ならばもう何も言うことはないと好きにさせた。

 

 

 生まれてきた第1子は娘じゃった。

 その夫婦は鳳梨酥と名付け、娘を大層可愛がった。

 あそこまで可愛がる夫婦も珍しいものじゃった。

 しかし、稽古も家事もさせないというのは甘やかしすぎであった。

 どうするべきかと気を揉ませられた。

 

 

 注意深くフォンを観察してみると、親と同じく変わった娘じゃった。

 物心がついてきた頃から本を求め、読み書きの教えを乞うた。

 女傑族の血を引きながら武よりも知を重んじる娘じゃった。

 

 男の血筋かと聞いてみれば、心当たりはないと言う。

 聞けば、その男はかの麝香(ジャコウ)王朝の末裔であり、更には王族の傍流であった。

 まさか伝説の武道集団の末裔が生きておったとは驚かされた。

 しかし、それならばなぜあのような娘が生まれてくるというんじゃ?

 

 

 いざ他の娘と競わせてみれば、儂の心配は杞憂に終わった。

 腐っても鯛。フォンは硬かった。堅牢な城壁のような硬さであった。

 決まってフォンは負けていたが、日を追うごとに守りが上達していった。

 

 次第にフォンはあの夫婦に任せることが歯がゆくなるほどに才気の片鱗を見せ始める。

 よって儂は一計を案じることにした。

 

 儂の自慢のシャンプーと武を競わせるよう仕向けたのじゃ。

 時にはフォンを、時にはシャンプーを儂が直々に鍛え上げた。

 

 もちろんそれだけでは終わらない。

 村の長として教育すると伝え、半ば強引にフォンを引き取った。

 フォンの父とは険悪な仲になってしまったが安い代償じゃ。

 

 両者は小気味好いほど強くなっていった。

 一体どこまで行き着くのか楽しみじゃ。

 老い先短いと思っておったがこれでは死ぬに死にきれん。

 呪泉郷…かの地ならば…。

 ふむ、ついでにあの二人も連れていくかのう。

 



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15~16歳ごろ

玉錘は月 止めて日

 下半身を蛇にしてからなぜか調子がいい。

 長年連れ添った相棒みたいにしっくりくる。

 この頃見上げ気味だったシャンプーを見下ろせるのも気分がいい。

 

 しかし蛇だからかどうしても寒さに弱い。

 変身したままだと早起きができなかった。

 今日は久しぶりにシャンプーに起こされてしまった。

 

 

 

フォンは月 はねるのこうげき日

 この頃またシャンプーに起こされてばかりだ。

 私が悪いのは認めるが毎朝熱湯で起こすのは止めぃ。

 もう変身したまま寝るのはよそう。

 毎朝打上げられた魚みたいになるのは御免だ。

 丸くなって眠るのが気持ちよかったのに…。

 

 

 

試行月 錯誤日

 まだ寸勁を食らうと態勢を崩して丸太から落ちてしまう。

 上半身の姿勢をいかに保つのかが胆になるようだ。

 平衡感覚と重心を捉えるのが難しい。

 体を慣らすなら走るのが最適なのだが、今回は違うことをした方がいいだろう。

 ん~、稽古の後に山登りをしてみようか。

 

 

 

でも月 おいしかった日

 下半身だけでも壁や険しい岩肌でも登ることができた。

 時間はかかるが登攀(とうはん)能力が意外に高いようだ。

 家の壁を伝いぐるぐると周回しているとシャンプーに中華包丁を投げられた。

 その程度ではこの鱗は貫けないぞ、シャンプー。

 

 今日の夕飯は豚足1本だけだった。

 明日から大人しく山に登ろう。

 

 

 

新しい月 実験日

 今までは変化させたい部分にそれぞれ水をかけて変身していた。

 なら、複数の泉の水を混ぜてから使用したらどうなるか。

 あのガイドの人も知らなかったのだ。

 試してみるしかない。

 稽古が休みになるまでまだ数日あるが準備だけはしておこう。

 

 

 

Let's月 experiment日

 ありったけの鷲溺泉の水と馬溺泉の水を取ってきた。

 混ぜる割合を変えながらネズミにかけて実験してみよう。

 目標はヒッポグリフに変身させること。

 

 鷲溺泉:馬溺泉

 1:9  ふさふさ羽毛の馬に変身。

 2:8  猛禽類の眼に変化。

 3:7  若干翼のようなものが生える。

 4:6  完全な翼が生える。

 5:5  蹄が鳥の爪に、口が嘴に変化。尻尾だけ残ってる惜しい。

 6:4  一回り小さいが目標のヒッポグリフに変身。

 

 ちゃんとヒッポグリフに変身した。

 やはり、割合によって変身後に引き継ぐ特徴が変化するようだ。

 

 さて、このなんちゃってヒッポグリフ君たちはどうしようかな。

 

 

 

ちょっと月 登山してくる日

 今日は朝から鳳凰山を登ってみた。

 山頂に近づくにつれて切り立った岩肌に無理やり取り付けたような建造物がチラホラと見え始めた。

 どうやら人が住んでいるらしい。

 

 そのまま登っていくと現地人を発見。

 その人は背中に翼があり、空を飛んでいた。

 接触しようとしてみるとなぜか怖がられ逃げられてしまった。

 あっちも私と似たようなものだと思うんだけどなぁ。

 

 人を呼ばれ攻撃されてしまったので敢え無く退散してきた。

 飛んでいる相手にはやはりどうしようもない。

 しかし、鳳凰山に呪泉郷があるとわかった今はぜひとも行ってみたい。

 闇夜に紛れて見つからずに山頂まで登るしかないか。

 夜に山を登るなら夜目が必要になる。ならばまた実験だ。

 

 

 

これは月 売れる日

 この前のデータを元に鷲溺泉の水と猫溺泉の水を7:3の割合で混ぜたみた。

 これなら夜目も利いて遠くまで見えるようになるはずだ。

 さて、どう試したものか。

 

 丁度ムースが視界に入ったので目が良くなる目薬と称してあげてみた。

 目薬を差してすぐに視界に酔いだして倒れてしまったのにはさすがに焦った。

 即座に飛んできたシャンプーに看てもらい、酔いが収まるまで経過を観察した。

 日が暮れるころにはムースの視力は格段に良くなっていた。

 成功だ。これでシャンプーと間違って私にアプローチすることもないだろう。

 

 目薬の効果にムースは(いた)く感動して、もっと目薬をくれとせがんできて鬱陶しかった。

 今さら本当のことを言うのも気が引けたので、目薬の容器に水を入れて売ってあげることにした。

 このお金は呪泉郷の水を運ぶために大切に使われます。

 

 今日の夕飯はまた豚足だけだった。

 あの、シャンプーさん、さすがに(わび)しいっす。

 

 

 

鳥目であっても月 慧眼である日

 やはり鳳凰山の住人達は鳥目であった。

 日が落ちてから建造物を避けて登ると何事もなく山頂へ辿り着いた。

 鳳凰山の呪泉郷をやっとこの目で拝んむことができた。

 

 そして驚くべきことに、あの山の住人はなんと呪泉郷の水を生活用水として使っていた。

 その発想はなかった。その発想はなかった!

 私もまだまだだったか。

 

 一通りの呪泉郷の水を少々拝借していくのはもちろん忘れなかった。

 どれから試してみようか楽しみだ。

 

 

 

本末月 転倒日

 いつの間にか武闘大会の日が迫っていた。

 鳳凰山に夢中で忘れていた。

 そろそろ真面目に稽古しよう。

 

 

 

もう一回月 お願い日

 ついに武闘大会の日がやってきた。

 ちょっと消化試合気味だったが着々と決勝まで進んだ。

 

 特訓の成果を今見せる!

 と意気込んでシャンプーとの決勝に挑んだら、呆気なく敗退した。

 足場を折られてそのまま場外となってしまったのだ。

 

 その手があったか。というか丸太壊すのは反則じゃないのか。

 ルールをよく確認しておくべきだった。これなら元の姿で戦って負けたほうがマシだったよ。

 

 優勝者のシャンプーは来年必ず参加する。

 ならば来年こそは絶対に勝つ!

 

 

 

修行月 開始日

 その場に踏みとどまれるほどの強靭な脚力と衝撃を受け流せるだけの消力が必要だ。

 やはり消力の特訓するしかないのか。

 ただ殴られるしかないので地味にきつい。

 しかも村長は拳で殴らずに掌底で浸透勁やってくるから余計につらい。

 ちょっとは手加減してください。

 

 

 

これは月 私の趣味日

 特訓は続けるが呪泉郷の研究を止めるつもりはない。

 これは私の趣味なのだ。止めるわけがない。

 

 そろそろ後回しにしていた水を試そうと思う。

 呪泉郷には複数の動物が溺れた泉もあれば、伝説とされる神獣や神などが溺れた泉もある。

 泉が呪われるわけである。

 

 以前に一度だけ試したことがある。

 しかし、溺れた対象の性格に影響を及ぼされていたので封印していた。

 より上位の存在に変身してしまうと自我が希薄になってしまうのではないかと考えている。

 

 今日は自身の体に試してみよう。

 私が選んだのは阿修羅溺泉。

 阿修羅は三面六臂の女神であり、太陽と火の神とも呼ばれている。

 伝承通りではないのか雷まで操って空も飛んでいた。天空を司る神様の親戚なのだろうか。

 

 何かあれば他の水をかけるだけだ。心配はない。

 両腕に徐々に馴染ませてみよう。

 

 

 

実験月 成功日

 無事に両腕に呪いが定着した。

 腕が6本になってしまったが想定の範囲内だ。

 どんなものかと試してみると雷を操れるようになっていた。やっとまともな遠距離攻撃を手に入れた気がする。

 空もなんとか飛べるのだが、実際は両腕が浮かべるだけで万歳しながら飛んでるようにしか見えない。

 これではいい的だ。

 それと残念ながら炎は出せなかった。

 

 性格には特に影響もないようだ。

 みんなに聞いたらいつも通り変だと言われた。

 失礼な。多少毒されているが、私は常識人だ。

 

 

 

使いすぎ月 ちゃった日

 鳳凰山の呪泉郷をちょくちょく拝借していたら目に見えて泉の水量が減ってきた。

 現地の方には大切な生活用水だ。しばらくは採取するのは中止しよう。

 そろそろ武闘大会の季節だし稽古に専念するか。

 

 

 

このパンダ月 只者じゃない日

 待ちに待った武闘大会だった。

 あの時の雪辱を晴らす絶好の機会だ。

 消化試合を連勝し、さぁシャンプーと決勝だというところで邪魔が入ってしまった。

 

 赤毛の女と目付きの悪いパンダが優勝賞品の食料を食べていたのだ。

 赤毛の女はなんと日本人だった。女性なのにかなり口が悪い。

 日本人ってこんな感じだったっけ?

 この世界の日本に大和撫子なんて言葉はないのだろうか。

 

 通訳として意外な人物まで一緒にいた。

 呪泉郷のガイドさんだ。娘さん賢いから学費いるもんね。

 頑張って稼いでください。

 

 さて、この女とパンダどうしてくれようか。

 などと思案していたら、止める間もなくシャンプーは赤毛の女を半殺しにしていた。

 シャンプーは基本的に村の外の人間に対して容赦がない。

 そのまま止めを刺そうとしてたがさすがに私が止めた。

 やりすぎだ。ムースに接するみたいに大さじ一杯分くらいの優しさを見せてほしい。

 

 しかし、私とシャンプーが決勝に進んだ時点であの優勝賞品は村長の家に持って帰れた。

 私も横から掻っ攫われて何も思わないと言うわけではない。

 パンダ君恨むなら君の飼い主を恨んでくれ。

 余裕こきながら勝負を仕掛けると私はあっさり返り討ちにあってしまった。

 このパンダ君、飼い主よりも強かった。剛と柔併せ持つ初めて見る武術だった。

 

 ならばと水をかぶってから、絞めつけながら電撃をお見舞いすると何とか勝てた。

 危なかった。

 パンダ君にあのまま負けていたら、村長に1晩中お小言を言われ続けてしまうところだった。

 村長のお小言は必ずどこかでループするので長いのだ。

 

 今年の武闘大会はそのまま有耶無耶のまま終わってしまった。

 

 

 

ネバー月 ギブアップ日

 あの赤毛の女はかなりの負けず嫌いのようだ。

 またこの村に来てシャンプーに挑んでボロ雑巾にされていた。

 勝ったら勝ったで生死を懸けた鬼ごっこが始まってしまうのだから、さっさと諦めてほしい。

 

 

 

男を月 作る日

 今日シャンプーにムース以外の男が勝負を仕掛けてきた。

 妙に赤毛の女に似ていた。構えも戦い方もそっくりだ。

 兄妹だろうか。妹思いのお兄ちゃんだ。

 ポテンシャルは高そうだったがシャンプーの方が何枚も上手だ。

 お得意の寸勁でズタボロにされていた。

 それにしてもまたシャンプーか。

 

 そういえば私もお婿さんどうしようかな。

 村に来る男は大体お手つきか粗暴者だ。

 強くていい男なんて早々出会えない。

 

 ふむ、なら作るか。

 手持ちにはムース用の男溺泉の水がある。

 私好みに育ててみるのもいいかもしれない。

 

 早速村に居ついていたパンダに男溺泉の水をかけてみた。

 変身した姿は40代後半近いおじさんだった。さすがに年上すぎる。

 パンダ君は突然のことに動揺している様子だった。

 このままにしておくのも忍びない。

 ということで手持ちの熊猫溺泉の水を大量にかけて上げると元の姿に近くなった。

 尻尾がない以外は普通のパンダだ。

 これでいいだろうと満足しているとパンダ君は私の足に縋り付いてきた。

 怖かったのだろうか。

 私が優しく撫でてあげているとどこかに行ってしまった。

 そのまま逃がしてしまったがこれでよかったのだろう。

 もう人間に捕まらないことを祈る。

 

 

 

何もしないから月 ちょっとおいで日

 マズった。

 あのパンダ君、本当は男だった。ついでに赤毛の女も男だった。

 ガイドさんがいる時点で気づくべきだった。

 

 あぁ、どうしよう。

 村のみんなには、あのパンダ男に一度負けたのを見られてるよ。

 最終的には勝てたが、女傑族の掟からすると判定は微妙なところ。

 下手するとあの海坊主のおじさんがお婿さんに決定になってしまう。

 なんとか隠し通さなければ…。



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原作開始

スニー月 キング日

 おさげ君がパンダ君をオヤジと呼んでいたのを聞いたのが昨日。

 今日は様子を窺ってお湯をかけたら変身するのを確認してきた。

 全然似ていないが親子のようだ。

 

 妻がいるならセーフなのだが、パンダ君がバツイチの可能性もある。

 確かめないことには安心できない。

 まずは情報収集だ。

 差し入れを持っていってそれとなく聞き出してみよう。

 

 

 

お湯は月 かけない日

 早速差入れを持って山中の野営地にいるパンダ君を訪ねてみた。

 苦労して調理した料理を渡したら颯爽とおさげ君が割り込んできて親子喧嘩が勃発してしまった。

 鳥肉っぽい馬肉料理になってしまったが気に入ってくれたようで何よりだ。

 

 話をしてみると、どうやらこの親子は武者修行の旅をしているらしい。

 武道家という奴らはなぜこうもストイックな生き様を選ぶんだろうか。

 おさげ君なんてどう見ても高校生くらいにしか見えないぞ。

 

 そのまま話を続けて肝心の奥さんについて聞き出してみるとパンダ君は妻は遠いところにいると答えてくれやがりました。

 おさげ君も悲しそうな顔をしていた。

 はい、アウト。お婿さんコースにストライクです。

 

 女傑族の掟を話しておくべきだろうか。

 いや、下手すると相手に主導権を握られてしまう。

 パンダ君がロリコンだったらどうしようもなくなる。

 

 ならばと女傑族が如何に恐れられているかを懇々と語ってあげると、おさげ君が更にやる気になってしまった。

 …失敗した。なぜこうなる。

 別れ際に、村には男嫌いの娘が多いから男の姿のままで来るのは止めたほうがいいとだけ言っておいた。

 これで少しは時間稼ぎができるだろう。

 

 

 

在庫が月 減ってきた日

 毎日の差入れが効いているのかパンダ君が村に来ることは少ない。

 あとはおさげ君が諦めるのを待つだけだ。

 

 シャンプーとの稽古中ずっと視線を感じたが、きっとおさげ君だろう。

 今は敵情視察をしているようだ。

 

 

 

みのむし月 おさげ君日

 日課の稽古を終えてから自室に戻ると私の部屋の中で気配がした。

 そっと中の様子を窺うと女姿のおさげ君が忍び込んでいた。

 元は男でありながらこの村で不法侵入をするとはいい度胸をしている。

 

 何をしているのかを訊いてみると、おさげ君はシャンプーの弱点を探していると答えてくれた。

 それにしたってやり方というものがあるだろう。あと、ここは私の部屋だ。

 今のおさげ君はストーカーの領域に片足突っ込んでいると気づいているのだろうか。

 

 気配を察したのか話の途中でシャンプーが壁を破壊して私の部屋に踏み込んできた。

 おさげ君を見つけると即座に縛り上げて山の中に行ってしまった。

 彼をどうしたのか訊いてみると木に釣るしてきたらしい。

 ま、これで少しは懲りてくれるだろう。

 

 ところでシャンプーさん、君が右手に持ってるのは火打石に見えるけど本当に木に釣るしてきただけかい?

 

 今回の騒動で部屋に常備していたほとんどの水瓶が割れてしまった。

 おかげで掃除が大変だった。この壊れた壁も修理しなくては…。

 

 

 

にゃん月 にゃん日

 また女姿のおさげ君がシャンプーに勝負を仕掛けると、戦いの最中に彼女に水をかけていた。

 シャンプーも水をかければ変身すると気づいたようだ。

 しかし残念。猫耳になるだけだ。

 いつもと変わらずおさげ君は負けていた。

 

 シャンプーが猫耳になってからおさげ君の動きがほんの少しぎこちなくなっていた。

 きっと猫耳シャンプーの可愛さにヤラれてしまったのだろう。

 あれは私の数少ない最高傑作だから見惚れてしまっても仕方ない。

 おさげ君も若いなぁ。

 

 

 

リアル月 鬼ごっこ日

 昨日の今日でまたおさげ君がやってきた。

 昨日と同じようにおさげ君はシャンプーに水をかけると彼女を挑発して激高させた。

 言葉は通じなくても何を言いたいかくらいはわかるようだ。

 シャンプーが寸勁を打ちこむとパァンッと大きな音が鳴り響いた。

 あ、まずい。

 そう思った時にはシャンプーがおさげ君にカウンターでいいのを一発もらっていた。

 

 シャンプーが倒れても起き上がってこないので近づいてみると彼女は失神していた。

 大きな音に弱いとよくわかったな。

 身構えてしまう瞬間にカウンター食らわすとはよく考えたものだ。

 

 それにしても、おさげ君がシャンプーに勝ってしまった。

 

 見守っていた村長もこれにはビックリしていた。

 シャンプーの介抱をしているとシャンプーの手が少し火傷していることに気がついた。

 おさげ君の方もシャンプーに殴られたところが酷い火傷をしていた。

 道着の中にかんしゃく玉を仕込んでいたみたいだ。

 そこまでして勝ちたかったのか。おさげ君の負けず嫌いを甘く見ていたようだ。

 

 シャンプーが起きるとおさげ君に死の接吻をして追いかけていってしまった。

 今日はいつもより我が家が静かだ。シャンプーはいつ帰ってくるだろうか。

 

 

 

外堀が月 埋められる日

 一夜明けてもシャンプーは帰ってこなかった。

 いつもの野営地に行ってみたら、パンダ君もいなくなっていた。

 私のお婿さん候補はおさげ君と一緒にいなくなったみたいだ。

 おさげ君には悪いが私にとってこの結果は大満足だ。

 

 鼻歌を歌いながら帰ると村長が旅の準備をしていた。

 

 冷や水を浴びせられた気分だった。

 恐る恐るなぜ旅支度をしているのか尋ねてみると、シャンプーの婿候補を迎えに行く準備に決まっておろうと言われた。

 バレテーラ。

 

 村長の中では、私はパンダ君に懸想をして毎日手料理を運んで気を惹こうとしていたということになっていた。

 ……確かにそう見えなくもない。

 そうじゃない。そんなつもりで差入れをしたんじゃない。

 そう言えたらどんなによかったか。女傑族の掟に反するので本当のことも言えなかった。

 

 どう言い繕っても村長に聞く耳を持ってもらえなかった。

 挙句の果てには、自ら進んで胃袋を掴もうとするとは感心したとお褒めの言葉もいただいた。

 なぜこうも裏目に出るんだ。もう腹をくくるしかないのか。

 

 ところで、村長はなぜシャンプーにおさげ君の正体を教えてあげなかったのだろうか。

 訊いてみたら今まで冷たくされていた女性が積極的にアプローチをしてきたらどう思うのかとギャップ萌えについて熱く語られた。

 村長は萌えの伝道師でもあるようだ。幾分か時代を先取りしすぎている気がする。

 

 

 

開店月 準備日

 結局私も旅の支度をすることになった。

 今はシャンプーの連絡を待ちながら飲食店を開店する手順を調べている。

 

 ムースもついてくると言っていたが下手すると海を渡ることになる。

 旅費は大丈夫なのだろうか。

 悪いが私はあんまりお金は貸せないぞ。

 この前特殊なフラスコを買いこんだばかりで手持ちが少ないのだ。

 

 しかし、シャンプーからの連絡が遅いってことは気軽に帰ってこれなくなる可能性もあるのか。

 水かぶれば空を飛べるが姿勢が安定しない。

 海を渡るのは不可能ということはないだろうが、ひどく疲れそうだ。

 気分転換に翼でも生やしてみようか。

 

 

 

フェニックスは月 ゾンビ日

 手持ちの呪泉郷の水で良さそうな物は秘蔵していた鳳凰溺泉の水くらいだった。

 

 四神の朱雀であり神鳥としても有名な鳳凰だが、ガルーダとも起源を同じくする神の乗り物でもあるらしい。

 以前ネズミで試した時はどれだけ絞めようとしても繭に包まれては生き返り、まるでゾンビのようだった。

 炎も出せるようで手痛い反撃をくらってしまったのを覚えている。

 

 今日はこの鳳凰溺泉の水を慎重に背中にかけてみた。

 しばらくすると鏡越しに背中から真っ赤な翼が生えているのが確認できた。

 うまくいったようだ。呪いが定着するまでは安静にしていよう。

 

 

 

いざ月 日本へ日

 丁度3ヶ月経とうかという日についにシャンプーから手紙が来た。

 やはりあの親子は日本に渡ってまで逃げたようだ。

 手紙の差出住所が東京練馬区になっていた。

 明日から出発だ。

 

 

 

押しかけ月 女房日

 手荷物と村長片手に3日飛び続けることで日本に着いた。

 眠たい。

 早く休むためにもシャンプーの下に向かうと接骨院でアルバイトをしていた。

 

 そして、パンダ君までアルバイトしていた。

 ここぞとばかりにニヤニヤしている村長が杖で私を突きながら何か言えと急かしてきた。

 ここまで来るとやけっぱちになってくるもので

 

 今日からあなたの妻になる鳳梨酥(フォンリースー)と申します。

 

 とやけくそ気味に自己紹介するとパンダ君は脱兎のごとく逃げ出した。

 望んでいた反応ではあるが、なんかムカつく。



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