小噺集 (畑の蝸牛)
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インフィールドフライ

専門用語って難しい。以上。


インフィールドフライ

 

俺は死んだ。いや、俺たちは死んだ。高校球児としての俺たちは死んだ。俺たちは皆、小学生の頃から野球をやって来ていた。言い換えれば、人生の半分を野球に捧げてきたメンバーだった。

 

死因は俺のインフィールドフライだった。満塁でツーアウト、ツーストライクでツーボールのフルカウント。俺はアウトを審判から告げられた。腕から力が抜けて、バットが地面を叩いた。

 

焦点の合わなくなった瞳には、自分の肩を叩く監督の姿が映った。練習の時には厳しい指示を飛ばし、試合の後には1人ずつダメ出ししたりと、冷徹のように思っていた監督の行動に涙が零れそうになった。

 

そして、試合が終わった。俺の野球人生最後の試合が。一列に並んで対戦相手に礼をし、泣きながら土を集めたり、円になってそれぞれの思いを語り合ったりと最期らしいことを色々やった。

 

それでも、自分のやったこと。インフィールドフライは脳裏にこびりついて離れようとはしなかった。

 

 

今思えば、私の人生は野球に彩られたものだった。同窓会で変わったようなどこか変わらない同級生達とあの頃の話をするにも、野球が絡んで来ない話がいくつあっただろうか。

 

自分の仕事について話せば驚かない同級生はいなかった。特に野球部のヤツらが顕著だったが。あの頃の私は、あのインフィールドフライで終わったものだと思っていた。

 

実際、そうでは無かったのだけれど。

 

あぁ、何の因果だろう。私の監督としての最後の試合があの時と同じ甲子園の1回戦だったということは。でも、考えてみれば正しい終焉とも言えるかもしれない。

 

私が監督になろうと思ったのはあの時がきっかけとしか思えないから。

 

そんなことを考えながらも試合は進んでゆく。自分が手塩にかけて育てた選手がボールを必死に追っている。あの頃の私もああだったのだろうか。

 

選手たちの汗がきらめいて見えた。私ではもう取り戻せない若さがそこにはあった。自分が老いたことを思い知らされる。

 

カキーンと小気味よい音が鼓膜に響いた。ボールとその向こうの電光掲示板が瞳に映った。そして、何者かに心臓を掴まれている。そんな感情に襲われた。

 

9回のウラ、2アウト、全て埋まったら塁。そこに打ち上げられたフライ。

 

インフィールドフライだった。俺はヤツに嗤われている気がした。

 

コイツにしてやられた高校3年の夏から、俺の心には黒くて不定形の何かが残った。コレを拭い去りたいがために監督になった。あぁ、間違いない。

 

俺は、あの夏から、コイツに、インフィールドフライに。どうしようもない因縁を持っていた。

 

目から涙が零れた。あの時、俺が流せなかった涙だろうか。

 

ようやく、泣けた。あの夏を終わらせることが出来た。

 



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とある町のはなし

クトゥルフ神話TRPGで使った町についての物語。


その町の名を古霧と言った。海に面した気持ちの良い風が吹く町であり、強いて都会でもなく、田舎でもないと言ったちょうど良い町だった。住民も気立てが良く、迷う観光客などが居れば声を掛けて目的地まで案内してくれる程である。

 

このように、表面上は問題無いように思える。それはあくまで、99%の人にとってであり、ごく一部の人間からすれば大変な問題がいくつも存在していた。それこそ数えるのが馬鹿らしくなるほどに。

 

いや、数えることが出来るかも怪しい。その道に通ずる者からすれば、こんな所に住むのは正気じゃないとまで言える。その理由を列挙して行こうと思う。

 

古霧の町には川がある。だからどうした、と思われるかも知れないが、問題はこの川の来歴である。

 

その昔、山奥に大蛇がおり、定期的に捧げ物(生贄とかでなく、作物などと伝えられている)をすれば特に害があるという存在でも無かったそうだ。そのように少々奇妙ではあるが、穏やかな日々が村では過ぎていたらしい。

 

そんな村に、ある日白い尺八を携えた虚無僧がやって来て、珍しい来客に喜んだ村人はその僧をもてなした。ここまでは良かった、問題になるのはここからである。

 

宴が盛大に行われる中で、誰も手をつけない大皿があったのを不思議に思った僧が、何故かと問うたところ、「これは大蛇への捧げ物だ」というようなことを村人から聞くや否や、僧は怒りの形相で立ち上がり、すぐさま山へと向かって行ったという。

 

そのまま、その僧は戻って来ることが無く、また大蛇も姿を見せなくなったという。それから数ヶ月で山から水が流れてきて、今日の川が出来た、ということらしい。

 

書物に記されていたのはここまでだが、当時の農民たちの日記らしいものも見てみると、収穫量が減ったり、疫病が流行ったりと厄に憑かれた、とも言えることが次々と起こっている。

 

これが意味するのは、大蛇が土地神であり、それを失ったことによって、邪なるモノが町に入り込み易くなっている、ということである。通常であれば土地神や守り神、またはそれに類するものがある程度の邪悪を祓ってくれるのだが、古霧の町にはそれが無い。

 

ということは、邪悪なモノからすればこの町は最高の立地である。なんならこれを書いている今でも、地下で何が蠢いてるかわからない。この文章を書いている俺を嘲笑っているかもわからない。

 

このことに、この町の真実に気付いてしまった俺には町に居ることが耐えられない。

 

とにかく、どこか、遠くに…

 

 




古霧というネーミングの元ネタが分かったら凄いと思う。あと気づいたらホラーになってしまったです。


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ソロ充

※あくまで個人の思想です。間に受けないでください。


 

うん、このタコさんウィンナーは成功だな。どうやってワサビを仕込むかに七転八倒したけど。程よく調整されたワサビが程よくツーーンとくる。思いついた俺に感謝。

 

そんなことを考えている昼休み。ランチタイムである。自分の席から一歩も動くこと無く、隣で女子が机をトライアングルにしてても意に介さずに、弁当を頂く。

 

え?何故に動かないのかって?逆に問おう、何故動くのか、と。自分の席を明け渡してまで、他人に席を譲る必要があるのだろうか。いや、無い。全く無い。微塵も無い。

 

「なんでコイツいるの??」的な視線を突きつけられようとも、めげてはいけない。しょげてもいけない。今さら流れる涙はねぇ。

 

これが俺の群れる奴らへの反抗だ。独りレジスタンスだ。まぁ、純粋に一人が好きってのもあるけど。あと、他人に使う脳容量は空いて無いです。

 

取れるだけ良い成績もらって、推薦で手早く合格を勝ち取ってしまいたい俺としては、学校で人間関係までやっている暇は無い。他人と喋る余裕があるのなら予習・復習に時間を回したい。

 

いや、別にコミュ障とかそんなんじゃないよ?友だち居ないとかじゃないよ?喋ろうと思えば喋れるけど、そう思わないだけだから。きっと同じ趣味の奴とか居ないし。

 

どこの学校に呪術趣味の生徒が居るだろうか、いや、ここにいるぞ!ここだけにいるぞ! …まぁこんな感じである。高らかに宣言したいところだが、そんなんしたら流石に社会的に…ね?

 

そう考えつつ、しかし表情を動かすこと無く、黙々とソロランチを全うする。それが俺の昼休みだった。あ、よく噛んで食べてますよ?4月からなんにも変わらないルーティンワークって奴だ。働いてたんだな俺。

 

そう、4月から昨日まで変わらない状況だったのだが、少し変わってしまった。といっても俺は微動だにしていないわけだが。なんなら変わってないってことでもいいのだけれど。

 

月が変わって、連動して行われる席替え。俺はいつも通りに真ん中らへんの真ん中という、俺としてはベストな位置に収まっていた。問題はここからである。問題は愛しの昼休みに顔を出した。

 

なんということでしょう。隣の奴もソロランチを始めたではありませんか!驚いて声を上げなかった俺を褒め称えたい。そこまでの衝撃であった。心内おだやかでないままに弁当を取り出して、俺もソロランチを開始しようとしたところ、隣からガタリと音がした。

 

気にしたら負け、というのが家訓である俺なので視線をやることも無く、横を見たいという欲求に負けることも無く、どうにか昼休みを過ごせた。

 

お陰様で、味に集中できない。思索に集中できない。という二大事件が勃発した。ならばよろしい戦争だ。昼休みの安寧をかけた戦争だ。ぎゃふんと言いながら吠えづらをかき、自分の行動をハンカチを噛みつつ後悔するがいい。

 

そう考えつつ、朝の日差しを浴びながらも登校する俺だった。

 




途中からとんでもない方向に行った気がする。だがしかし、彼が勝手に動いたのだわたし悪くない。


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蜃気楼

今回は前半と後半で人物が違うので注意です。後半の人は再登場。


 

 

視界がぼやけた。遠くに見えるビルの群れが揺らいでいる。あぁ、これが蜃気楼ってやつか。ビルってことは何気に摩天楼ともかかってるな。自然というものは風流に満ちたものだなぁ。

 

いや、最初は目が悪くなったのかとも思ったが、視力検査万年フルスコアが慌てるところだった。視力2.0の誇りが失われるところだったぜ。メガネは別にイイけどね、コンタクトが超怖い。

 

しっかし不思議なこともあるもんだな。今日はそんなに暑いわけでも無いのに。蜃気楼の出番じゃないだろうに。どっちかっていうと、昨晩雨だったから虹が出てても可笑しくないってのに。

 

でもなかなかお目にかかれないもんな。この後の事を考えると、祈っとくのが吉かもしれん。流れ星よりは効果があるように思える。だって、流星群はニュースになっても、蜃気楼には出演オファーが無い。少なくとも、僕の人生では無かった。

 

「日頃の成果が出ますように」

 

手刀を合わせて言ってみる。他人の願いなんて三回も聞きたかねぇだろうし。さて、立ち往生の時間は終わり。早めに着きたい僕としては気持ち急ぎ目で行かないと。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、今日も今日とてソロランチの時間がやって来た。

 

「そう言えばさー朝のやつ見た?」

「え〜なんのこと〜?」

「なんかビルの方、ぼや〜〜ってしてなかった?」

「そいえばしてたねぇ。誰も話題にはしてなかったケド」

「アレってなんて言うんだっけ?」

「さぁ?わかんね。」

「普通に霧とかじゃないの?」

「しん、しん、シンタローだっけ?」

「それだとどっかの県知事だよ…」

 

頭が痛い会話がとなりで行われていることを除けば、最高のソロランチと呼べただろうに。このトライアングル(仮)の知識の足りなさに思わず、ツッコミそうになった。なんなら心では突っ込んでいた。

 

「蜃気楼だろ!!」とか、「それ都知事だから!!」とか。なんかずっとこの席順で生きていれば優秀なツッコミになれそうな気がする。ボケの人をどっかで拾う必要が出てくる。

 

まぁ、そんな未来はノーセンキューなので、別の世界線の自分に任せるとしよう。頑張れ芸人志望の俺。

 

さて、件の蜃気楼だけれども。俺は見ていないのが甚だ疑問なんだよな。俺は歩き登校だから、目にしていても可笑しくない。だのに見ていないというのは一体…

 

元ネタから考えたらハマグリが蜃気楼の犯人なわけだけど。いや、意味わかんないね。なんでハマグリさんがそんな能力持ってんの?真珠貝が真珠つくれるならイケルイケルとか昔の人は思ってたんだろうか。

 

まぁ、昔の人ってオリジナルの妖怪を創って遊んでたらしいからね。"ボクのかんがえたさいきょうモンスター"の概念が前からあったかと思うと笑えてくる。

 

せっかく出てたんだったら見るなり、撮るなりしたかったんだけどな。割と結構な残念がある。

 




キャラが勝手に動いた、というのを存分に味わっております。あとソロランチ氏の動かしやすさが高い。これからもちょいちょい出てくるかもわからんです。


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BL

記念すべき最初のお題「BL」
BL初書きですので、色々と御容赦ください。


BL

 

そんなことは自分には関係ないことだとタカをくくっていた。せいぜいTVの向こうの出来事だろうと。"この国の人口のうちの何割かは、そのような人である"と言われても、現実味は薄いだろう。実際につい昨日までは自分だって薄かった。下じきの厚さぐらいには。でも、

 

『キミのことが好きなんだ』

 

と言われた今日からは違った。

 

そう言われて何も言い返せ無かった。ただただ呆然と立ちつくすことが自分の取った行動だった。そして、

 

『こんなこと言われても困るよね・・・』

 

そう言ってソイツは走り去った。何かが空中にきらめいていた。今思えば、あれは涙だったのだろうか。確かめるには本人に聞くほか無いだろう。

 

だが、その本人とどう顔を合わせればいいのだろう。いつもどうりに「やぁ。」とでも言えば良いのか。出来るかそんなこと。それが出来るのは人間やめた奴だろう。

 

今日の出来事を頭の中で繰り返してみたが、睡魔がやって来る気配は無い。そろそろベットに寝っ転がって1時間が経とうとしている。なのに眠れない。羊を数えるという最終兵器に縋るべきだろうか。

 

 

「朝かぁ・・・」

開き切っていないカーテンからの光に目を細める。さて、今日も今日とて学校だ。

「あ、どうしよ・・・」

思い出されたのは昨日のこと。返事とかするべきなのだろうか。いや、その前にどう接したらいいのだろう。シミュレーションしてみよう。

 

その1、無かったことにする。

その2、仮病する。

その3、しっかり話を聞く。

 

その1は、自分の精神力では出来そうな気がしない。その2は論外だ。問題の先延ばしにしかならないし、後から余計にこんがらがるに違いない。ならばその3しかないな。

 

徒歩約10分。愛しの母校にたどり着いた。嘘だ。愛しの母校とか反吐が出そう。まぁ、何にせよ学校には無事に着いたのだ。

 

しかし、待てどもアイツは来ない。SHRが始まっても来ない。それに担任いわく、特に連絡が来たわけでも無いらしい。自分はアイツとは小学校からの仲だ。全てを察した。

 

SHRが終わった頃を見計らって、

「頭が痛いので保健室行ってきてもいいですかね?」と担任に告げる。

「保護者が速攻で迎えに来てくれたりする?」

「そうでしょうね」

「なら、ちゃんと明日までに治しておきなさい」

「はい」

 

やはり、担任は騙せなかったみたいだ。まぁ、それでも自分を止めなかったのはありがたい。今度、きのこの山でもあげよう。

 

他の教師に見つからないよう裏門から学校を抜け出す。あ、カバン置いてきた。でも、いいか。カバンより大事なことがある。

 

走る。走る。これほどに走ることは人生で二度と来ないレベルで。あの場所へと。

 

「やっぱり、バレちゃうか〜」

探していた人物はのんびりブランコを漕いでいた。

「バレない理由が無いからな」

「それも、そうだね」

「なんで学校サボってこんな所に居るんだよ」

「本当に聞きたいのはそんなことでは無いでしょ?」

「バレたか」「バレない理由が無いからね」

 

そろそろ、茶番はおしまいにして、本題と行こうか。

 

「なんで、唐突にあんなこと言い出したんだ?」

「そりゃあ、言いたかったからだよ」

「お前、実は女の子だった。とかってオチは無いよな」

「あるわけないじゃん。アニメじゃあるまいし」

「そっか」

 

覚悟・・・決めないとな。

 

「これから凹むこと言うぞ」

「どうぞ」

「お前のことは嫌いじゃない。でも、好きとは言えない。」

「あ〜良かった〜」

「ハァ!?なにかだよ!?」

「あんなこと言ったら、嫌われるって思ってたし」と安心したように言う。

 

告白されたんだから、振ったら凹むのかなぁと思っていた自分としてはかなり意外な反応だった。

 

「嫌われて、無視とかされたらどうしようって怖くなってさ」

「それで、サボってここに来たと」

「そうゆうことだね」

「杞憂だった上に、あっさり見つかったと」

「本当にあっさりだったね〜」

「何年つるんでると思ってんだ」

「それも・・・そうだね」

 

「で、どうする?」

「どうするって?」

「学校サボったからには大人しく帰るわけにはいかんだろ」

「ボウリングでも行く?」

「なら、そうするか」

「ねぇ」

 

「手・・・繋いでくれないかな?」

「まぁ、それくらいなら」




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BL:2

1話の方の「BL」と話が繋がってますので、そちらからご覧になることを勧めます。※お題なので作者の趣味とはみじん切りにされた玉ねぎひと欠片分も関係ないと言っておきます。


BL:2

 

ボウリングに来るのは久々だった。ボウリング場にはちょくちょく来てたけど、それはあくまでゲーセン目当てで、ボウリングをするので来たのは久しぶりだった。ボウリング場を象徴するピンのオブジェが誇らしげに立っているのを俺は見た。

 

隣からルンルン気分が漂ってくるけど、そっちには目をやれなかった。正直ハズかった。今、悟り妖怪が出て来たら勝てる気がしない。

 

まぁ、ルンルンなのもわからない訳じゃない。学校サボってボウリングなんて、なんとワクワクすることか。こどもの俺が目を覚ましていた。

 

「そう言えば、秘密基地とかつくったよな」

「あぁ、放置されたログハウスのっとってね」

「いや、アレはもう使ってくださいって言うようなもんでしょ」

「初めて案内された時はホントびっくりしたよ」

 

そう言って二人して笑った。どのくらい笑ってたかは知らんが、視線を感じて二人して止めた。受付の人が怪しみを持って見てる。そりゃそうだ、何しに来たのコイツらって感じだろう。

 

とりあえず、三ゲームくらいを予定して受付する。自前のシューズはもちろん無いので、自販機(?)で借りて、一旦席へと行く。

 

「はぁ…」

ここまで勢いでなんとかした感じだけど大丈夫ですかね。体の最重要機関が普段のダイヤを守っていないようなんですが。落ち着け、落ち着け、落ち着けたら乱れるかぁ!クッソ、ピンの野郎覚悟しとけよ…

 

ピンに八つ当たりすることを決めた時、左からぬっと手と玉が現れた。

 

「前来た時、コレ使ってたんじゃない?」

「ん?そうだっけか」

「そうだと思うよ?」

 

持ってみる。重くもなく軽くもなく、投げやすい感じだ。

 

「しっかし、よく覚えてたな」

「キミのことだもん」

 

動くことを許されたのは感情だけだった。

(ナニコレ?何こいつ?ハァ?今の何?クッソカワイ…じゃなくて何?殺す気?萌え殺す気?もう抱きしめていいか…いや良くない!負けるな!ここで負けたら廃るぞ!え、何が?男だよ!いやあいつも男だよ!?ハァ???)

 

世界の観測では一秒かもしれない。だがこの一秒は彼にとって人生で一番濃い一秒だった。その結果として、彼は、彼の頭は、オーバーヒートを起こし、システムダウンを避けられなかった。

 

ゴンと鈍い音がした。

 

「ちょっ大丈夫!?あれ!?熱でもあるの!?」

 

病気的な意味での熱はない。犯人には自覚がないのだ。

 

「おーい、おーい、戻ってこーい」

 

内心ではせっかくのデートがこれじゃ台無しだと犯人は慌てつつ蘇生を試みる。

 

「ボウリングしようよー何のためにここまで来たのさー」

 

犯人が涙目で揺さぶりをかけていく、ソレを見たら見たでダメだと犯人にはわからないのだ。

 

「あれ?ここどこ?」

 

古典的な目覚めの被害者。どうやら寝ぼけていたのか、まだ熱が引いていないのか。どちらかは定かではないが、次にこう言った。

 

「ん?て、天使?おれ死んだのん?」

 

犯人と被害者が入れ替わった。あーして、そーして、あんなことや、こんなことをする内にボウリングは終わって、そのやり取りを見ていただろう太陽も、名残惜しそうに帰る時刻になった。

 

「今日、楽しかったね」

「まぁな」

「また、二人でどっか行こうね」

「そうだな」

「で、なんでコッチ向かないの?」

「もう心臓が持ちそうにない」

「ふーん、正直だね」

「嘘ついても意味無いだろ」

「バレるし」「バレるからね」

 

「じゃあ、また明日。学校とかで」

「おう」




今までで一番文字数が多いという事件。


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たこやき/たこ焼き

二十五時だしセーフセーフ。すいません真面目にやります。明日から頑張る。あと飯テロ注意。書いててよだれが止まらんでした。


 

 

そもそも、誰が最初にたこやきを作ろうと思ったのだろう。私には不思議でならなかった。どうしてタコを入れようと思ったんだろう、何故イカではダメなんだろう、どんな経緯で球形に至ったんだろう。

 

お祭りでたこやきを買う度に、この疑問を抱いたあの時から。私はずっとこの疑問に困ってきた。毎年の夏祭りでその機会はいつも顔を出した。

 

たこやき資料館、とかたこやきの歴史、みたいなわかりやすいものは身近には無くて、聞いたところで答えられそうな人も居ない。どこにぶつけたらいいのかって、夏祭りの季節の度に思ってた。

 

だけど、別にたこやきがキライとか、そういうことじゃなくて。むしろ好きな食べものトップ10に入るかなーぐらいで。タコを食べない国があると聞いてびっくりしたまではある。

 

きっと、私以外にはこんな疑問を持つ人なんて居ないんだろうけど。たこやき開発者に思いを馳せる人なら、行くところ行けばわらわら居るとは思うけど。

 

そう考えてるうちに順番が私まで回ってきた。

 

「たこ焼き一つください」

「あいよ、300円ね」

 

おじさんに小銭を渡して、私はたこ焼きを受け取る。踊る鰹節ができたてを証明している。とってもおいしそう。おっと、座る場所は…お、あったあった。ちょうど良くベンチが空いている。

 

ベンチに腰掛けて、標的を観察してみる。ソース、マヨ、青のり、そして添えられた紅しょうが。薬味に不備は無いみたい。伊達にたこ焼き屋をやっていないんだね。強いこだわりが香りでわかる。

 

つまようじで少しだけ割る。猫舌な私はそうしておかないと後でツライのだ。ふーふーと息を吹いて冷ます。・・・・そろそろいいだろうか。手を合わせて「いただきます」と口の中で呟く。

 

口の中に放り入れたたこ焼きはそれはそれは美味だった。気づいたら皿が空だった。私は満足と不満足の境界を歩いていた。

 

まぁ、辛うじて満足が勝ったようで。そろそろやかましくなるだろう夏祭りからはオサラバだ。

 

たこやき問題は来年のこの頃までは、セミの幼虫よろしく眠っていることだろう。

 

もし、あの会場に心が読める存在。名前…なんだったっけ?セトリ…じゃないし、ニトリ…は家具だし、まぁいいや。なんかそんな感じの妖怪がいたとしたら、さぞかし私の思考はつまらないものだったろう。そう考えるとなんか罪悪感まで沸いてくる。

 

ということに気付いたのは、夏祭りの次の日。はて、そんな感じの本って最近読んだっけ?私の趣味ジャンルじゃないハズなんだけどなぁ…でも、せっかくの夏だしそこらへんに手を出してみるのもありかもしれない。実に面白そうだな。

 

突発的に行動するのがいつもの私だった。その日もいつものように突発的に行きたいところを決め、速攻で準備して、その場所へと向かっていた。




やはり、ひとりモノローグは文字数伸ばし辛いのかと気付き始めた。ナントカしないとね〜と思う今日この頃。


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場違いな工芸品

リクエストじゃないやつです。昨日のお題で思いついたです。シリアスしか書けない病かもしれない。暗いの注意。


場違いな工芸品

 

僕は暑さにやられていた。クーラーの聞いた部屋、あたり付きのアイス、風鈴の鈴音、なんならセミの声でも良かった。夏を感じたかった。

 

このセカイは僕に優しくない。ことごとく優しい世界ってのも怖いけど。このセカイは特に僕に優しくない。暑さを和らげる物を知っているのに使えないところが。本当にね、よくキレずにいれるよな僕。

 

僕は今、冒険者ギルドのカウンター席でぐでーっとしている。正式名称は他にあるのだが、僕はギルドと呼びたい。強く呼びたい。この施設の正式名称を知れば、同郷の者はみんなそう思うだろう。というか思え。

 

右にはジョッキがある。薄桃色かな?まぁ、そんな色をした、炭酸の飲み物があるわけだ。コレは美味い。コレのために働く人がいても可笑しくない。僕なら働ける。

 

そんな白昼に事件は起きた。

 

「おい、ナオキ。コイツを見てくれよ」

「ぅん?」

 

半ば眠りかけてた僕は眼を疑うことになった。

 

それは鉄で出来ていた。いや、鉄であった、と言うのが正しいか。古いものなのかとても錆びていて、今にも朽ち果てようとしていた。しかし、ソレはしっかりと己の形を保ちつつ現れた。

 

それは武器ではなく、防具ではなく、機械でもなかった。このセカイに存在すること自体がアンビリーバボーだった。

 

月の表面のように、クレーターがいくつもあった。されど、そのクレーターはきちんと整列し、底はきれいな球面となっている。

 

そう、たこ焼き器の鉄板だった。

 

「コレ…どこで?」

「ダンジョンの宝箱に入ってたらしい。ってか見たことあるってぇ顔だな。」

「え、えーーーっとアレだよ!うーんと…そう!古代人の調理器具かなんかだよ!」

「そうなのか?古代人スゲェなぁ〜こんなん何に使うんだよ」

「そ、そこまでは…知らないカナー」

「そうか、まぁなんか思い出したら教えろよー」

 

再びテーブルに沈んだ。一体どうなってんだよ…いや、一体じゃねぇ、二体も三体もある。これからも、きっとある。

 

「処理しきれねぇよ…」

 

独り言が思わず口から転がった。常識を殴られるのは精神に効く。アイデンティティに地震がやってくる。

 

今までの自分の人生が、時間が、ぐらりと倒れそうになる。異世界とは、そういうことだ。常識も、良識も、知識も、全てが覆される。手の震えが、足の震えが止まらなかった。

 

たぶん、こんなときに仲間が居たのなら、こんなにも揺さぶられることはないのかもしれない。だけど僕は一人だ。

 

自分の事情がバレたらアウトな僕には。仲間など、つくれなかった。




感想くれたらとっても喜びます。


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空に落ちる

※二部構成、会話メインでお送りします。ぐだってるかもわからん。
あと僕はクトゥルフ神話大好き人間です。


 

 

「なぁ(まなこ)、知ってるか?」

「あの、名字で呼ぶの辞めてもらっていいです?トラウマがコンニチハするんで」

「じゃあ、メガネ」

「それはソレで…まぁ、いいや。で、何の話です?」

「お前さ、UMAとかオカルトとか好きなタイプ?」

「どのレベルなら好き、と言えるかは知りませんけど…嫌いじゃないですよ」

 

「うーん。なんか納得いかねぇなぁ」

「何がですか」

「いや、こっちの話。でさ、こっからが本題。お前、空の国って聞いたことある?」

「なんですかその飛行機雑誌みたいな」

「あるけど。そんなの確かにあるけど、そうじゃないんだよ!」

「珍しいですね、部長がハツラツなの」

「そんなに普段のオレ元気ないのん!?じゃなーくーて!しないの!?」

「何がですか」

「ワクワクテカテカだよ!」

「しねーよ」

 

ここで部長氏アメリカ式やれやれの型である。

 

「あの…無言でソレやられると右ストレートが黙って無いんですが」

「うん、シャレにならないから止めようね。」

「で、ラピュタがどうしました?」

「そうそう不思議な石がね〜って違う!オレをのせるなよ!」

「のった人が悪いです。それで証拠とかあるんですか?」

「そのセリフ犯人ぽいな」

「アタマをかち割ってやろうか」

「間に合ってます」

 

部長は雰囲気を変えるために咳払いをひとつして空の国の証明を始める。

「最初に見つかったのは、壊れた陶器だったらしい。出土品なら壊れてるのも不思議じゃない。問題だったのは…どの時代のものでもないってことだ。」

 

「え?どういうことですかソレ」

「陶器のデザインとかさ、焼き方とかさ、そういうの全部が、どの文化でもないんだよ。地球産じゃないって言ってもいい。」

「…それ、もうホラーじゃないですか」

「そうだな。お前がそう思うならそうなんだろう」

「私の中では、ですか」

「そういうことだよ」

 

「他にもあるんでしょう?」

「察しが良くて助かる。決定的じゃないのならまだまだある。」

「例えば?」

「UMAの墜落死体、決まった場所、時間に現れるUFOとかな」

「聞くだけで鳥肌なんですけど…」

 

「でさ、メガネ。」

「なんですか」

「そんなのが本当に居たら、どうする?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

どうしたらいいんだろ。さっきからクシャミが止まらないんだけど。

 

「オマエ、誰かに呪われてんじゃねーの」

「ナチュラルに心っクシュン、あー読むのやめろって」

「止められないし、なんなら止まらないんだ」

「そーですかー」

「どうでもいいかよ」

「そだよっクシュン」

「いや、ホントまじで大丈夫?」

「大丈夫、じゃ、ない」

「寝とけば?」

「今日のっクシュン、当番だし」

「真面目だな」

「知るかよ」

 

心配するよりも鼻かむもの寄越して欲しいんだけど、と目で訴えてみる。チッこっちの意図分かっていながら笑いおったぞコイツ。

 

「そいえばさ、空の下に何か居るかもしれないって聞いたぜ」

「ふーん」

「やる気無いねぇ、どうしたのさ」

「いやそれ何年前の話だよ。つーか学者の話題だろ?興味ねーよ」

 

空の下に思いを馳せる学者は確かに居る。だが、そんな学者は大体が気が触れてる、とか頭が焼かれてしまった、とか言われて隅に置かれるのが定石なのだ。

 

「この目で見たんだよ、空を白いモノが…泳いでる?動いてる?んーなんて言えばいいんだろ」

「ハァ?お前も遂に頭がやられたのか?」

「そう思ってもらってもいい。暇なときにでも空を覗き込んで見ればいいさ」

「暇があったらな」

「おう、頼むぜ」

 

こんなバカ話してる間に仕事の時間だ。隣のコミュとしっかり情報交換しないと、明日をもしれない身となる。そこまではないか。無いといいなぁ。

 

"他のやつの話を聞かないヤツだな"と怒られたことがある。自分は、その言葉を、省みることなく、生きてきたんだな、と思い知った。




会話したり、登場人物が増えると、文字数も増えることがハッキリと分かったのでがんばる


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ある旅のモノのはなし

すまない、投稿出来てなくてすまない。お題に悩んでおりまして。今回はオリジナル。続くかも知れないです。


「どーなってんだこれ?」頭の中を我が物顔でクエスチョンマークが駆けている。どうなっているか、と言えば見た通りなんだろうけど、この光景を見て、首を傾げなかった者、疑問を持たなかった者だけに石を投げる権利をやろう。

 

そこは村だった。旅で立ち寄ったオレにとっては特に有名でも無い村で、とりあえず休めればいいや〜とか思ってたんだ。村に着いた頃は夜だったし、疲れていたからヒトの顔なんてよく見なかったんだよ。

 

朝起きて、伸びをして、今日も一日頑張ろうかなとでも思った時だ。男が見えたんだよ。そいつは眼帯をしていた。そんな所をケガするなんて穏やかじゃあ無いなぁと思ったよ。次に女…つってもまだ子供か。まぁ、見えたんだよ。で、こいつもまた眼帯してんだよ。

 

なしてこんな子供まで眼帯してんだって思ったよ。そんなに頭の良くないオレでもここまで来れば分かる。「眼の病気でも流行ってんのかね」って。ヒトからヒトに感染る眼がかゆくなるやつだろうってな。

 

そのまま起きた場所でのんびりしてたんだが、転げ落ちなかったことを褒めてもらいたい。だってみんなして眼帯してんだ。オレの見た分では全員がしてた。しかも、ひとりひとり地味にデザインまで違うんだ。ああ、叫べたなら叫びたかったね。「どうなってんだ!!」って。

 

デザインに気付けたのは女がかしましく話してたからなんだけどよ。「そのビーズめっちゃイカしてる〜」「だよね〜ちょーつよそ〜」「わかるぅ?竜のウロコ加工したんだけどさ〜」みたいな。竜のウロコはどこから?とも思ったよ。そこは今大事じゃないけどさ。

 

なるほど、ひとりひとりがこだわりを持って作ってんのなーとオレは理解したわけだ。この村ではそういうファッションなんだと。でも、これがヤバイ宗教とかだったら笑えないよな。マジで。やることやらにゃきゃならねぇ。

 

微笑ましくも怖くも眺めてたんだ。そしたら、

 

「ぐ、ぐわぁぁぁー」

「お、おいどうした!?」

「大丈夫か!」

「左手が…左手が疼く!!」

「「な、なんだってー!?」」

 

「オイ、クソ茶番やめろや」って言いかけた。堪えたオレはノーベル賞もらっていい、平和のやつな。何が楽しく悲しくて、こいつらは村の中心でバカを叫んでるんだ?と冷ややかに見やると、左手が輝いてる。先ほど騒いでいた青年の左手が光ってる。それはもう小さな太陽かってレベルで光ってた。

 

光が数秒して収まってから、

 

「ついにやったなぁ」

「おう、これで俺も一人前だ!」

「ちゃんと使いこなしてこそだろ?」

「「「ハハハハハハハ」」」

 

みたいな。この村では結構に感動なシーンだったようで、他の村人もワラワラしてきて、そっから胴上げやら、今日はパーティだ!とか言っていたりと実に楽しそう。

 

腕が光る。そんなの初めて見た。旅をライフワークとしてるオレでも見たことが無い、と言うことは、他のヒトが知り得るのか?というかバレたらマズくないか?いや、悩んでやる必要無いけどね?

 

やっぱりアブナイ宗教とかじゃないのか、とも思ったが、そんな雰囲気は無い。その道の奴らは一目でわかる。一体どーなってんだこれ?

 

どうしようか、原理とかわかるまで滞在すべきか?でもなぁ、それは主義に反するって思うよなぁ。主義は偶には捨てておくべき、とも言われているけどなぁ…

 

まぁ、せめて今夜の様子を見ておこうか。わかることもあるかもだし。




ファンタジーかもしれない。何気に初かも。


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七つ揃うとなにかが起こるアレ

リクエストです。サブタイはほぼスルーで参ります。マジで悩んだですよこのお題。文句があるなら感想でも送り付けるこったなはっっはっはーすんません。


「俺さ、他力本願説ってさぁ。胡散臭いと思うのよ」

返事はない。

「往生させてくれ〜って唱えるだけでいいとかさぁ、都合良すぎない?なんなら唱えた後に魂をどうにかされてるって方が、説得力マシマシだと思うんだよね」

黙秘権行使中。

「なぁ、さっきはあんなにセールストークかましてくれたのにダンマリ決め込むのさぁ辞めようよ」

へんじのないただのしかばねのようだ。

「ぶっ壊すぞマジで」

カタリと少しだけ動いた気がする。

「さって、釘バットは何処にやったっけなぁー」

「やめてくださいそれだけはホントマジ勘弁です!!」

「…ようやく再起動か」

 

「でさ、おたく何だっけ?全自動卵割り機の親戚?同業者とかそんなんだっけ?」

「そんなトンチキな機械の親戚になったおぼえは無い!」

「いや、俺から見たらまだ全自動卵割り機の方がマトモな機械だわ」

そう、なんの事情も知らないサラリーマン、オフィスレディの方々が今の俺を見たらどう感想を述べるか。決まってる。

『あぁ、そんな箱に話しかけているなんて、頭でもヤラレタのだろうか(かしら)』

 

そう、俺が話しかけているのは箱だ。透明なように見えて、覗いても内部構造が全くわからない。そんな奇妙な箱だ。持ってるお前の方が奇妙だよ!というクレームはコールセンターにしてくれ。番号は教えん。

 

経緯を説明すると、天体観測してたら近くに何か落ちてきて、小さなクレーターが出来てたから、探って見たらコイツがあった。そして、俺が今日という日にサヨナラしようとしてたら、箱が喋りだした。というのが今の現状だ。今の現状って意味かぶってんな。

 

で、そしたら箱さん(仮)はあろうことかこんなことを言い出しやがりくさったのだ。

「キミの願いを叶えてやろう」とね。

なぁんだ夢か、と思ってもおかしくはない。状況はおかしいけど。いや、訂正。笑えねぇわ。コイツは俺の琴線に触れた。

 

「願望機ってのは大抵ろくなもんじゃねぇ。願いの叶え方が荒いか、願いたい奴が荒いかな二択だ。どっちにしろひでぇ事しか起こらねえ」と言ってやった。そしたら黙り始めたのが冒頭になる。だが、俺はそんなことに構いやしなかった。

 

「俺あんま詳しくないけどさ、ドラゴンボールを作った意図がわかんねぇんだよ。鳥の方じゃなくて龍の方な。そんなん要らないじゃん。しかも、そんなん争いの火種にしかならないってさ、仮にも神の名を冠す者として気づけなかったのかなぁ…」

 

まぁ、そんな風に懇々と箱さん(仮)に語っていた訳だよ。最初の威勢は何処に行ったんだテメェ。

「で、結局おたくはなんなわけ」

「箱さんです(ぶいっ)」

「釘バット」

「すいません」

マジメに答える気無さそうだし、なんならコッチの思考が読める疑いすらある。拾った場所に返して来ようかな…それとも埋め

「悪かった!悪かったですからほんとやめて!!」

これで声がロリだったら良かったのになぁーとも思わなくもない。…なんか今箱が引いた気がする。やっぱ分かってんなコイツ。

 

そんなわけで(どんなわけだよ)、我が一人暮らしの居城は崩壊した…




深夜テンションかも知れません。ところどころにネタぶっ込んだけどわかる人はいないと思われる。分かったら褒めて遣わすレベル。次のリクエストは「サイダーと夕やけ」


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サイダーと夕やけ

長らく放置すまない。詰ってもらって構わん。今回はリクエストをやっていきます。


 

 

「今日も暑かったなぁ…」

 

独白に答えてくれるのは、涼しげな風鈴の音。確か、父の知り合いが作ったらしいソレは、物心ついた時から、縁側の住人だった。

 

下手したら僕よりも縁側にいた時間が長いかも知れない。カランと涼しげな音がした。こちらはガラスのグラスに入った氷の音だ。

 

このグラスも確か、どっかのお土産かなんかだったような気もするけど、今大事なことじゃあ無い。

 

そのグラスの傍らには、八割の人間が酒だと思うような、かなり上等な入れ物をした、サイダーがある。

 

送られてきた時は桐箱に入っており、最初はびっくりして落としそうになった。物に驚いたのも確かだが、贈り主にも驚かずにはいられなかった。

 

まず、あいつが贈り物をして来たこと、それにどうやら元気でやってるらしいということ。この二つが僕を驚かせるには充分な要因だった。

 

ちょうどいいタイミングで夕日が沈んでいく。サイダーの肴にはちょうどいいんじゃないか?そもそも、サイダーの肴、なんて使ったのは人類初じゃないかな。

 

あいつは僕の酒嫌いを知っていたらしい。言ったことなんて、あったかな?まぁいいや。とにかくこのサイダーは美味い。

 

その手の人じゃないから上手い感想かはわからんが、言えることはある。

 

透き通っている。透明度が高すぎて、そこまで見通せる、そんな川の水を飲んでいる。そんな気分になる。

 

もちろんサイダーだから炭酸が弾けるのだが、透き通り具合とケンカせずにいい具合に弾けている。

 

あいつ中々センスあるじゃないか。これ、こっちからもお返し奮発しなきゃかな。

 

夕日を眺める。7割ぐらいが地平線の向こうに沈んでいる。こんなにぼんやりと夕日を眺めたのはいつぶりだろうか。

 

小学生の頃だったような気もするし、あるいはもっと幼かったかもしれない。でも、これだけは覚えている。

 

「ゆうひはもぐってどこにいくんだろ」

 

今ならどんな原理で日が沈んでいるか分かってるし、自分が見えなくなった夕日を地球上の誰かが目にすることも知っている。

 

でも、そうじゃない。きっとあの頃のぼくが言いたかったのはそういうことじゃない。

 

"夕日にも帰るところがあるんだろうか"

 

今、言葉に起こせばこんなところになるのだろう。時間を経て、ズレを得ているが、確か彼が考えたのは、きっとこんなことだった。

 

誰にでも、それこそ夕日にだって帰る場所がある。そう思ってた。信じていた。一部の疑いも無かったんだろう。

 

それでも、短針も長針も止まってくれることは無くて、全てのモノがうつろい、流れていった。もちろん彼も止まることはできなくて、ついにこうなった。

 

彼は僕をみて、どう思うんだろう。何を言うんだろう。そのためだけにタイムマシンを作って見たいとも思う。

 

残念ながら天才科学者でない僕は想いを巡らすだけに終わるんだけど。天才科学者だったら作ってた。断言できる。

 

あ、彼の言うであろうことがひとつだけわかった。

 

「そのサイダーぼくにもちょうだい!」

 

きっと彼は、そんなことを僕に言う。




絶対にお題から脱線する病気のようなので詳しい医者の方がいらっじゃったら助けて欲しい。


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クソリプ

リクエストのやつです。クソリプと言えばtwitter泣きもするけど、ここは敢えて、というのがある。下手したら続くかも。


 

 

またか、と口の中でつぶやく。いったいぜんたいどいつの仕業なんだ。確か俺は友人A(プライバシーを考慮して仮名)に明日の時間割を聞いたハズだ。

 

『木曜日だよっ♪』

 

what do you mean、と英語圏の人間でなくとも言いたくなる。なんなら叫んだ。

 

さて、問題点を列挙していこうか。

 

その1、人の話を聞いていない。

 

どこの文化圏ならこんな問答が成立するのか教えて欲しい。おかげで時間割表を四分の一時間探すハメになった。キレそう。

 

その2、なんで♪ついてんのキモい。

 

いや、Aくん?君はそんなキャラクターデザインじゃないだろう?君のキャラは瓦を無表情で割っちゃうタイプのそれだ。そんな君だからこっちの質問にちゃんと答えてくれると期待してたんだけど。訴訟。

 

その3、今気付いたけど誰コレ!?

 

メアドに見覚えが無いです。脳内にログがございません。ダリナンダアンタイッタイって感じ。Aくんごめんなさい。君がくしゃみに苦しまないことを祈る。

 

いや、ホントに誰なの。怖いんだけど。ケータイの画面からなんか出てきたりしないよね?しないでね。

 

そもそも、メールアドレス知ってる人がそんなに居ない。天邪鬼とその天敵と不憫会長とその妹、それにAくん。あと家族。上記以外でありうるのは教師くらいのもんだろ。

 

え、待って。マジ待って。教師はガチで笑えない。把握されてるのはまぁ、もろもろ仕方が無いとして、犯行に動機が見えない。こんなクソリプよこす意味がわからん。

 

送信履歴を改めて見てみる。宛先はしっかりとAくんのものだ。送った文面も思った通り。おかしいのは返信だけだ。こっち側になんら落ち度は無い。

 

時間割を忘れるのは落ち度じゃないのか!と言われると大人しく両手を挙げるしかない。白旗も必要かい?

 

…いや、なんかおかしくないか。宛先、問題なし。文面、問題なし。返信、問題しかない。だよな。

 

そうだよ、宛先だ。Aくんに届くはずのメールが、届いてない。知らない奴に、途中で奪われて、いる。

 

どこかの国では電話やらが傍受されている、という話を聞くが…ここでこんなとは。他人事と笑えない。

 

一応、Aくんにメールが来てなかったか聞いてみる。ここは敢えて、メールを使うことにする。検証をかねて。

 

返信はすぐに返って来なくて、待っている間にその日は眠ってしまった。

 

 

次の日。学校にて。

 

「昨日、メール来てなかった?」

 

「…来てない、と思う」

 

律儀に携帯を取り出して確認してくれるあたりが本当に良い奴だと思う。

 

「うん。ないけど、どうかした?」

 

「あーなんというかさ、昨日、ケータイ弄られててさ、見られてたのがメール画面だったからいらんことされてないかなーって」

 

「そっか」

 

一瞬こちらを不思議に思ったけど、理由を説明すればあっさりと納得してくれるあたり、ホンっトーにに良い奴。感謝しかない。

 

さて、これでわからなくなった。このメールにクソリプかまして来たやつは、本当にわからなくなった。

 

 




次はぬっぺぷほふ


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ぬっぺふほふ

お題のもの。お題から逸脱するのが趣味になってきている。どうかお許しください。頭は爆発しないけど。あと文量がいつもの1.5倍くらいあります。


ぬっぺふほふ

 

『……子供連れの方はお足元に気をつけるようお願いします。本日は…』

 

エスカレーターに乗っていた。俺は上の階を目指してエスカレーターに乗っていた。…乗っていたでいいのか?エスカレーターって乗るって言い方であってるっけか。まぁそれは今度聞くとして、何階だったっけ。そもそも何を買いに来たんだろ俺。なんか頭がふわふわするんだけど。低気圧かな?…ぼーっとしてるわけにも行かない。ここは色々入ってるから、下手したら迷ってしまう。…実際、小さい時に迷った気がする。迷子センターで大泣きしてた、そんな気がする。

 

「このエスカレーター長くないか?」

 

見たところ、普通のエスカレーターの3倍とかありそうだ。…普通と言われても何メートルとかはわからんけど。高所恐怖症の人にはキツそう。そう思える程はある。加えてスピードが遅いので普通に怖い。視界に人が居ない、というのもある。

 

「久しぶり」

 

肩を叩かれ、振り返って見れば、知り合いだった。

 

「お、おう」

 

エスカレーターで前の人を知り合いと間違えたことのある俺としては、おいそれと真似できない行動だ。勇気あるなこいつ。

 

「あの時ぶりだね」

「そうだな」

「…せっかくだし、遊ぼうよ」

「…そう、だな」

 

今、何かが頭をよぎったけど、そんなことはどうでも良かった。女子と二人で遊ぶ。これはもうデートだろ?落ち着いてる場合じゃない。行くべき所は山ほどある。なんせここはデパートだ。

 

ゲームセンターでホッケーのゲームをした。力み過ぎてすかぶって、可笑しくて二人で笑った。

 

本屋でおすすめの本を教え合った。好みが被っててあんまり意味がなかった。嬉しかったけど。

 

アイスクリーム店に言った。アベック割をどうですか、と言われた。俺の顔も多分赤かった。

 

他にも色々行って、遊んで、笑って、楽しんで、時間が過ぎて、気付いたら夕方だった。「屋上に行こう」というのでついて行った。今日は休みなのにやけに人が少ないな、と思った。まぁ、そんな日もあるか。屋上に行く階段を登る。彼女は数段上を行っていた。

 

ドアを開けたら、大きな夕焼けが見えた。落下防止のフェンスの外はオレンジの世界だった。…なんとなく、世界が終わる光景はこんなものじゃないかと思えた。

 

「その通りだよ」

「え?」

「もう、お別れだ」

 

そう言った彼女はフェンスを握りしめ、夕焼けを睨んでいるように思う。

 

「なんでそんなこと言うんだよ」

「あなたがそう思ったから」

 

振り返った彼女に表情は、顔は…………

 

 

 

「なんか、変な夢を見た気がするんだよな」

「それだけだと話題にならねーよ?」

 

と天郷。平常通りのドライ営業である。

 

「ん〜なんか幸せな夢だった気がするんだけど」

「…ついに告白成功、とか?」

 

無闘くん、トンチンカンな予想はやめようね?

 

「いや、そもそも居ないから」

「とか言って、お前。バレバレだからな?」

「なっ、えっ、マジ?」

「…え、居たの?」

「いや、居ないけど」

 

やっぱりこのメンバーで話してるとズレるな。いや、ズラしてる犯人は一人で一人はおとなしく聞いてくれるんだけど。

 

「…お前の恋愛事情より、大事なことがある」

「おまえ、唐突に酷くなるよな」

「シャラップ。よく聞け。また、出たってさ」

「幽霊?」

「かもな」

 

かも、って情報が荒い…もう少し情報だせと目で訴える。通じたらしく得意げに話しだす。

 

「それがさ、ちっちゃなおじさんって流行っただろ」

「流行った、かな?」

「芸能人にもちょくちょく目撃者いるし、流行ってたんじゃねぇの?」

「そっか」

「話を戻すぞ。警備員によると昨日の夜、居たらしいんだよ」

「ちっちゃなおじさん?」

「そう。駆けていくのがチラッと見えたんだと」

「別に良くないか?妖精とかそんなんだろ?」

「良くない。タネの割れていないオカルトは許せないんだ」

「で、どうすんの?」

「捕獲してしかるべき機関に売り払う」

「そうか、一人で頑張れ」

「目指せ一攫千金」

「お、おう…」

 

そんな馬鹿みたいな話より、俺には夢のことが引っかかる。どうしてか分からないけど、忘れてはいけない、そんな気がする。

 

数日して後、夢の意味を知るのだが、その時の俺は首を傾げているだけだった。

 

 

 




ぬっぺふほふが気になる方はWikipediaを見るといい。なかなか面白いぞ。


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耳があるのは壁とは限らない

"彼"は以前にも書いたので探すとよかろう。


「なんと私、読モになることになりました!」

「え、すごいじゃん!!」

「どの雑誌?どの雑誌?」

「RUNRUNってやつなんだけど〜」

 

ドクモってなんだったっけ。俺は弁当をパクつきながら思った。より正確に言えば箸でタコさんウインナーを摘み上げたまま思った。…盗み聞きは良くないんじゃないかって?いや、人に聞こえるように喋る奴が悪いのだ。なんなら聞かせる為に大声で喋ってるまである。なんたってドクモになるんでしょう?多くの人に…知ってもらった方がいいんじゃない?知らんけど。

 

昼休みの教室はいつもこんな感じである。俺は黙々と弁当を食べ、女子は楽しそうに喋る。他の人も思い思いのことをやっているに違いない。興味ないので詳細はウェブ検索でもしてくれ。…ドクモの話は続いている。

 

「…やばくない?相当レベル高いやつでしょコレ?」

「でしょ〜?スカウトされちゃってさ〜」

「どこで?どこで?」

 

何やら本をめくりながら喋ってる、と思う。音的に。ドクモってなんだったっけ。なんか頭に引っかかるんだよなぁ。僕の内心の質問には会話中では答えてくれないらしい。本…?ってことは読む、だろ。そういうことか!ドクモのドクは読者のドクだ!よし、これで解決の糸口が見えた!

 

「それがさ〜駅の南口で〜「このコーディネートやばくない?」

「どれ?」

「これ。」

「確かに。ちょーやばい!え、こんなん着るん?」

「…かもね」

 

モは何なんだ…?俺は箸の動きを止めてまで考えていた。出そうで出ない感じがどうも気に入らなかったのである。魚の骨が喉に引っかかてる感じ。モ、モ…モスラ、は違うし。というかどんな絵面だよ読者モスラ。とっても大きな本が必要なことだな。

 

「上と下の色の合わせ方とか完璧じゃない?」

「わかる!センスあるよね!」

「あのーお二人様?もしもーし?」

 

色の合わせ方…?塗るのか?で、それが本になって紹介されている…絵画は違うよな。塗装、リペイント?あ、なるほどそういうことか。しっかり「モ」じゃないか!

 

「読者モデラーだな!!」

 

と指を突きつけて言ってやりたいところだが、ここで我慢できるのが俺の大人な所だ。謎も解けたので安らかに食事を続けられるな。

 

『キーンコーンカーンコーン』

 

時計を見る。もう授業の五分前になっていた。俺はアメリカ人みたいにやれやれしてから、弁当の残りを急いで食べることにした。

 

彼は、恐るべきことに自分が普通の人間だと思っている。…訂正。ちょっとエリートぐらいに思っている。さらに恐るべきことは、彼はあんまり喋らないことでクラスの皆さんはこんな奴だと知らない、ということだ。このクラスは偽りの平和で満ちているのだ。爆弾がいつ爆発するかわからない状態の、まさにまな板の上の鯉なのだ。



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アノマロカリス

スペシャルサンクス・ウィキペディア。今回、真面目。めっちゃ真面目。


アノマロカリス、という生物をご存知だろうか?

男子なら図鑑で見て「なんだこいつ!?」と笑ったり驚いたりした事だろう。女子は「なにこいつきもっ」と大半の人が言う中で、「そんなに気持ち悪いかなぁ」と思う子が居た事であろう。

 

名前を検索してもらった方が早いのだろうが、ここはどうか私の拙い文章に付き合って欲しい。アノマロカリス(以下、彼とする)の容姿を説明するのは非常に難しい。なぜなら、私たちが見た事あるであろう生物に、一致している点が無いように思えるからだ。強いて言えばエビに似ている。けれども、あくまでどちらも甲殻類であろうという一点だけである。

 

実際、彼は「分類不可能生物」である。

 

という主張もある。節足動物に近いが、異なる点も多く、学者の間でも意見が別れるらしい。私は専門では無いので詳しくは無い。上記は全て適当に拾ってきた物だと思ってくれていい。

 

所詮は話の掴みに過ぎない。

 

私は生物の専門では無い、と言った。……化石や古代生物を研究するなら地学の分野になるのか?まぁいい。それすらも曖昧なのか私だ。妙にもったいぶってしまったが、私の専門は歴史だ。何がどうなったら歴史の専門家がアノマロカリスに思いを馳せるのか、こうして筆をとったのか。

 

それは、誰も信じないような事を遺しておく為だ。

 

この文書がある事で誰が助かるかは全く分からない、だが記さずには居られなかった。記せなくなる前に、地球とサヨナラする前に、書いておかねばならない。

 

奴らの基準が知ったことでアウトなのか、それとも世間に報せることがアウトなのか。私の知識は答えを出せない。

 

だって、歴史には宇宙人との対談記録なんて無いんだもの。

 

NASAは宇宙人と密約している、などの噂があるが、私には甚だ疑問である。NASA、地球側は宇宙人と何らかの取り引きをすることにメリットを感じるかもしれないが、果たして宇宙人もそうだろうか?

 

もう既に、それこそ人類が始まる前の前に、自分たちの手下を、地球に送り付けて居ると言うのに。

 

そう、私は彼、アノマロカリスこそが宇宙人の尖兵なのでは、と疑っている。異議があるのなら彼にはここまで出向いて無実を主張して欲しい。最も、地上にノコノコとやって来る時点で「犯人はワタシだァ!!」と言うようなものであるが。

 

私はその時、天体の歴史について調べていたところだった。いや、この言い方は的を少し外す。正しく言えば、天体に対する人類の思想だ。曰く、旅人は北極星を見て自分の方角、行き先の方角などを知り得ていたらしい。今の電気に脅かされた夜では、実行不可能でロマン溢れた旅だったことだろう。

 

そういう類の話を収集し、何かしら統一性や普遍性が無いものかなどと思っていた訳だ。ひと段落ついて、どうするものかと思った時、前髪を引っ張られるような、そんな気がして、開かれたままの本の隅っこに目をやった。

 

「アノマロカリス、太陽系の小惑星帯を形成する、小惑星のひとつ」

 

とあった。

 

パンドラという娘が渡された箱の話を私は思い出した。




続き希望は何らかのアクションをくれ。頑張るから。


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ソーラン節

お題が全然関係ないけど許して。想像力の弱さと限界を感じた。これ書くのめっちゃ悩んだからね俺。マジで。ではどーぞ。


 

ある日、本当に驚愕の事件が村を襲った。どれくらいの驚愕だったかって?それこそ何月何日何曜日、この星が何回廻ったのか、分からなくなるぐらいにさ。様式美に則ったつもりであるけど、こういった出だしは蛇足というか野暮であると感じるのだが、どうだろうか。……最近理屈っぽくていけない。中二病とか、高二病とかが舞い戻って来たのだから、多少は目をつぶって欲しい。ここからは事実だ。起こった事だけを話そうか。

 

村に突如として、神殿が現れた。

 

ああ、そりゃあ村中が大騒ぎだ。祭の時を遥かに超えた騒ぎようになった。昨日の夜に、何も無かったところに突如として現れた神殿。いや、村のみんなはそう呼ぶが、今の俺にはそれの正しい呼び方を知っていた。

 

それは教会だった。

 

西洋式の、それこそ結婚式をあげるような。その時の俺は、それが何か分からずに「すっご綺麗な建物だなぁ〜」と感心してたはずだ。そうだよ。どうせなら怖れて近付かない方が、彼にとっては良かったのかも知れない。

 

今、こうして事件を振り返っているのは彼、すなわち善良な村人であった彼の、前世であるだろう俺だった。

 

彼は村の人達が騒ぐ神殿の下に、自分も行ってしまうぐらいには好奇心があったらしい。どうにか神殿の扉を開けようとする村人。細身の男が開けようとする、がビクともしない様子で「変われ」といかにも力の強そうな大男が出てきて、また扉を開けようとする。開かない。どうやらその男は村一番の力持ちだったらしく、村人はみんな揃って首を傾げた。

 

それを彼は人だかりの最後尾で見ていた。

 

「ん?……おい、なんか書いてあるぞ!」

 

先ほど退かされた、細身の男が扉に文字が書かれていたのを目ざとく見つけたらしい。顔をこれでもか、と近づけ見ている。息を呑んで村人たちはその様子を見守っていた。

 

「………コレ、古代文字だわ」

 

村人の三割がコケた。

 

「どれ、道を開けてみぃ」

 

コツ、と杖の音がした。長老だ。神殿の前までの道がパッと開ける。鶴の一声、とはこのことだろうか。ゆっくりながらも神殿の扉へと近づく村長。その様子を、再び息を呑みつつ見守る村人たち。

 

「…………『ヤーレン、ソーラン、ソーラン』後は掠れて読めんのぅ」

 

村長の、低く小さい声があたりに響いた。そして、読み上げられた古代文字、その一節に震えた。彼の、もしくは俺の、何か大切な臓器のような物が。その言葉が耳に届いてから、震えている。だんだん強くなる。鼓膜までもが震える。全身が震える。

 

「おい!どうした◻︎◻︎!しっかりしろ!」

 

視界が、彼のものか、俺のものか分からない視界が、膝が崩れて。そのまま倒れた。

 

で、今はベッドで目が覚めて、経緯を脳裏に浮かべたわけだ。うん、わけわからんな。よし!覚悟かんりょー!

 

二度寝をキメた。

 



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Dr.pepper

世界に散らばった「シーズニング」、調味料の名を冠した研究者で構成されたチーム。国を治める世界各国の要人から、指名手配のようなことをされてまで求められる人材。

 

その一人、Dr.pepper。

 

「え、なに?数式にどこかミスがあるって?知らないよ。お前の職業は何。数学者だろぉ?専門でもない人に聞くのさぁ、プライドとかそういうの無いの?あ、言い訳は聞きません。作業の邪魔でしかないから。背後に立ちながらしょぼくれないでくれる?そのジメジメしたので部品が錆びたらどうしてくれんの?」

 

人型のロボットの胸部を開き、半分顔を突っ込みながら、困って頼ってやって来た新人の数学者をなじる。コショウの名に恥じない、性格の黒さが彼にはあった。

 

「しょ、所長って、確かあの伝説の……シーズニングの一員なんですよね…?」

 

「ああ、そういうことか。入所してからここまで、お前と喋ったこと無かったのにいちいちチマッとしたことで話掛けてくるんだなぁ、と思ったが、本命はこっちか。よっと。数式は実際出来てるんだろう?ここに来る口実だ。俺に本当に聞きたかったことは、そのことだったんだな」

 

ロボットの胸部から顔を出して、新人の方へと向きなおる。新人は肩を跳ねさせ、意識しないまま気を付けをする。持っていたボード、数式が書かれた紙が挟まった物が落ちた。

 

「お前、研究者の端くれなら自分の研究は息子とか娘だと思え。今ので骨が折れましたー救急車呼ばなきゃーちゃんと救急救命士に状況報告とかしなきゃいけないなー、ということでじゃーねー」

 

落とされたボードを恭しくすら見える手つきで拾い上げ、まくし立てた後、華麗に新人を横切って去ろうとする。

 

「話を聞くまでは行かせませんよ」

 

確固たる意志で通せんぼする新人。それを見ると、彼はチッ、と短く舌打ちをした。

 

「まぁいいか。実験台だ」

 

と新人に聞こえない程度で呟くと、おもむろに右手を高く掲げた。キツネのハンドサイン。それが何を表すのか、それは彼のみぞ知る。

 

「起動〈アウェイクン》我が息子《マイリトルサン》!!そして活路を確保しろ!」

 

蒸気がロボットの背より吹き出す。開けられていた胸部は蒸気に伴って閉まる。そして、両のデジタルアイが緑の閃光を放った!

 

「了解、攻撃を開始、します」

 

電子音声とともに前方、新人の方へと向けられた左手には、本来あるべき場所に拳がなく、どこか大砲思わせる機構が付いていた。緑の閃光が、砲の中へと満ちる!

 

「えっ!?ちょっそれ人に向けるもんじゃ無いですよね!!??」

 

「大丈夫!空気中の二酸化炭素を勢い良く酸素に変えるだけだから!」

 

「チャージ完了まで、5、4、3……」

 

「カウントダウン始まってますけど!?死にませんよねこれ!!??」

 

「……………グッバイ」

 

「え」

 

「…1、ゼロ、シュート」

 

緑の光の奔流が新人を、新人の体を染めていく。光の中、新人の意識はその光の明るさに反して、だんだんと暗く、潰れていった。

 

「所長…!なん、で…?」

 

そのまま、新人は地面に崩れ落ちた。

 

それを彼はじっと見ていた。




続きが欲しけりゃ言うんだな!!


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Dr.pepper 2

続編!新人視点!以上。


自分が緑の閃光、名前を呼んではいけないあの人が使うような。恐ろしい光に呑まれる。そんな、夢を見たんだ。そう思って、何故か寝ていたようだったので半ば無意識に体を起こそうとする。動かない。動かない?・・・もう一度、起きてみようとする。起きれない。いやいやいや何かがおかしいぞ、と彼女は瞼を開けた。

 

「知らない天井、かなぁ」

 

四角く、将棋盤みたいな模様の天井が見えた。全く見たことがないような、そうでもないような。・・・それと、誰かの気配がする。え、怖いんだけど。

 

「あぁ、目が覚めたかい。なんかノリで実験体にしてしまって済まないような気がするんだが。どうかな気分とかその他もろもろは。元気になったかね」

 

起き上がれない彼女の耳に、低い男性の声が届く。

 

「なぁんだ。誰かと思えば所長ですかーってあれ!?」

 

「ん?どこか痛いとこあった?」

 

「じゃなくて!なんで私の部屋に!?」

 

「いや、ここは高貴なる所長室なんだけど。それと、起きないんじゃなくて、起きれないんだ。じゃあ大人しく寝ておけよ?俺は整備に戻っから」

「へ!?ではコレは所長のベッド!?」

 

「なんでそんな赤くなるかは知らんが、そうだな。俺のベッドだな」

 

・・・・・・これから私、どうされちゃうんだろう。ももも、もしかして。

 

「眠れ〜眠れ〜さっきのことなど忘れて眠れ〜」

 

そういってひも付きの五円玉を揺らす所長。それで眠くなるのって、子供くらいじゃないかなぁ。なかなかお茶目な面もあるらしい。意外!・・・ここは免じて眠ってしまうのがいいのかな。実際、ちょこっと眠くなって、来たし・・・・・・って何!?さっきって何!?

 

「所長!さっきって何のkふごぅ!!ごふっごふっ」

 

起きあがって聞こうとしたら、シートベルトのような物で押さえつけられ、また無理矢理に寝かしつけられた。どうなってんのコレ。どうやら私が不思議に思うあまり、テレパシーとして伝わったらしい。所長が語りだした。

 

「くくくく、あんなにキレーにキマるとは。予想外だったなぁ。まぁ実を言えばソレが完成してたのも予想外だったけど。あぁ、ごめんごめん。そのベッドは、体の疲れが完全に取れるまで起こすのを許さないってやつなんだけど、くくくく」

 

話してる途中で耐えられなくなったらしく、所長は思いっきり笑っていた。くくくと笑っていた。他でもない私を笑っていると思うと、上司といえど流石にいらっとくる。ベッドに許される範囲、首の可動域を利用して、笑ってる輩を睨みつける。

 

「さて、代償行為として質問に答えてあげようか。確か、シーズニングがどうとか言ってなかったっけ?」

 

私はおそらく、人生において一番目を見開いていただろう。超びっくりした。

 

「ここでは所長としか呼ばせてないんだけど、以前はペッパー。Dr.pepperとも呼ばれていたな。で、新人。なんで分かったわけ?相当に気を使ってたんだが」

 

睨み返される。・・・・・・言い訳は、眠りの中で考えよう。

 

「おやすみなさーい」

 

「え、ちょっ」



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学校図書館

お題と文章の乖離に頭を抱えるべきなのか、と悩む毎日で夜しか眠れません。ほのぼのした会話には自信があるんや…!食べていけ…!


六月二十五日、水曜日、天気は雨、図書館にて。

男子一名、女子一名。貸し出しカウンターに座っている。図書館に他の人は居ない。二人っきりだ。

 

「だーれも来ないな」

欠伸をしてから男子が言う。

 

「・・・・・・」

 

「どうしてこんなに読書日和な天気なのに、開店休業に追いやられてんだろな」

回転椅子を女子の方へ向け、男子が言う。

 

「・・・・・・」

 

「…あんまり売れてない書店で店員やるのって、こんな気分なんだろうな、な?」

距離感は取りつつ、しかし近付いて男子が言う。

 

「・・・・・・」

 

「ねぇ!?なんで乗ってくれないの!?ただでさえジメジメしてんのにオレの涙で余計にジメっとするぞ!?本が痛むぞ!?」

心からの叫びであるように、男子が言う。

 

「…言わなかった。」

ようやく、女子は男子の方を見た。横目ではあるけれど。

 

「なんだって?」

 

「返事して、とか。会話してくれ、とか。乗ってくれ、とは言わなかった。そうして欲しいなら言わないと伝わらない。あとウザい」

横目のまま、女子は言う。

 

「そうかそうか。人間言わないと伝わらないもんな〜ってアレ?いまウザいって言わなかった!?酷くない!?」

腕を組んで、さも納得した。と思いきや流し切れなかった点に男子がツッコミを言う。

 

「私の喋る声と比べたら圧倒的にウザい。事実だから酷くない。あと誰もいないからって図書館でウザいって人としてどうなんだろう?」

ウザい、とは言うもののそれほどには思わず、適当に女子は言う。

 

「うん、図書館で騒ぐのがよろしくないのは分かってるけどさ?転校して来たばかりの寂しさを、ちょーっと慮ってくれないかなーって」

あわよくば態度が軟化しないかな、と期待しながら男子が言う。

 

「転校前の友だちの幻覚が見え始めたら、さすがに思いやり必要かなーって思うけど。」

そんな場面を頭に浮かべつつ、口角を数ミリ上げながら、女子は言う。

 

「え、なに。教室の隅で膝抱えてればいいの?」

期待が別のシーンへと切り替えられ、凹みながら男子が言う。

 

「うーん。そのまま鍵が閉められちゃえばいいの」

そうしたらきっと泣くんだろうな、とか思いながら、女子は言う。

 

「よくないよ!?誰も望んじゃいねぇよそんながっこうぐらし!普通に恐いよ!?色々と!」

そんな状況になったら、と想像した感想をそのまま男子が言う。

 

「・・・・・・」

飽きたのだろうか。女子は本を読み始めていた。

 

「・・・・・・」

その姿に顎が落ちそうになる男子。

 

これが、初期の古霧小学校、図書委員の惨状である。



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飼い主をさがしています

 

コンビニで買い物を終え、帰ろうとした時にふと、目が止まる。

「飼い主をさがしています」写真の付いた広告が貼られている。その他にも細々と、居なくなった状況、性別、見て分かるような特徴などが書かれているんだろう。じっくりと読む気はあまりない。どうにも、そんな個人情報めいたものを強いて目的も無く目に映すのは好ましくないからだ。

・・・無いのだが、どうにも何かが捻れているような気がしてならない。何かがおかしい。そんな想いが、私の視線を外させない。

 

「そいつ、カワイイよな?おっさんも分かるクチ?」

 

横から、どうにも軽そうな声が掛けられる。「おっさんと呼ばれる歳じゃない!!」と言いかけて止めた。そうやって言い返す方が、おじさんであるように思われた。

声を掛けて来たのは、金髪に作業着の青年だった。時間から鑑みるに、休憩中の工事作業員とかそこらの職の人だろう。

問いの意味は、私にはよく分からなかった。口を噤むしか無かった。そんな私を見、あからさまにがっかりしたように言う。

 

「ちっ、期待してみればトーシロかよ。見れば分かるだろうがよぉ。見れば」

 

改めて広告に指が指されるので、従い見た。……何らおかしな、それこそカワイイと思えるような特徴は無い。ピアスするんだな、とは思うが。その点をカワイイと言うのなら、そうなのだろう。私は痛そうだなとしか思えないが。

しかし、そんな単純な事では無いだろう。今度は眉根を寄せて見てみる。

 

 

「分かるか?目が綺麗だし、爪もしっかり手入れされてる、かなり飼い主は"分かってる"やつだ。……こうなりゃ探してみるか。会ってトークしたいぜ」

 

と、言いながら青年は去っていった。私の事など、あんまり視界に入ってなかったらしい。……じゃあなんで話し掛けたんだろう。その手の界隈では、よほど素晴らしい仕事をしていた、あるいはされていたのだろうか。

かの有名な虹の感動の話と、同ベクトルの感情か?私には分からない。通りすがりの彼の気持ちなんて、ミジンコ程も、分からない。

 

冷たい風が吹いた。コンビニは案外、温められている事に気付いた。それと、先ほど肉まんを買っていた自分の慧眼に感謝した。久しぶりに買うこととなったが、大正解だ。

 

口を開いて、かぶりつく。

 

ぽとり、と液体に雫が落ちて、波紋が広がる。

 

さっき去っていった人の言う、"分かってる人"とは誰の事なのか。

 

肉汁と一緒に謎までじわり、と溢れて来た。幸いにも、考えることは肉まんを食べながらでも出来る。

 

「飼い主をさがしています」という広告を出したのは、飼い主が居なくて困っている本人、ではない。当たり前だ。体操したっていい。

さしあたって飼い主が居なくて困っている本人を保護した者であろう。……なんかややこしいな。拾い主としよう。

肉まんは三分の二になっている。

拾い主はこの広告を作るために、写真を撮った筈だ。スマホ、一眼レフ、デジカメのうちのどれか、あるいは私の知らない専門な撮影器具で。

もう一度写真を見てみよう。……キレイだな。瞳とか眼とか爪とかそういう所ではなく、全体的にだ。

おそらく、一度連れ帰って洗ってから撮ったのだろう。そう考える。写真の背景も、よくよく見れば手入れされた庭のように見える。

 

ここが問題だ。青年は飼い主を"分かってる人"と言ったけれど、それは本当に本当の飼い主であるのだろうか。拾い主がそういう職の人という可能性は、考えないのだろうか。

肉まんは三分の一になっている。

コンビニから出てきた学生らしき二、三人が胡乱げにこちらを見た。確かに、ずーっとこの広告を見てる人間は奇妙に見えることだろう。もしかすると、関係者にすら見えるかもしれない。

冷たい風が吹く。提げたままのコンビニ袋が、がさりと音を立てた。ああ、そう言えば昼休みだったな。

一度考え始めると、時間を忘れてしまう。時計を見た。慌てるほどの時間ではなかったけれど、もう戻った方が楽な頃合ではあった。

肉まんは胃の中へと消えた。私は広告から視線と踵を外した。

 

願わくば、早めに飼い主が見つかるといいな。



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ちゃおっす

ピカソごめん。


パブロは頭が痛かった。低気圧のせいではない。包帯もしていない。バファリンはいらない。昨日はぐっすり八時間は寝ただろう。ならば、どうして頭が痛いのか。どうして頭が痛いのか。笑いごとじゃないし、妖怪のせいでもない。「いちばん怖いのは人間だ」という言説を、鼻で笑ってきたパブロだったが。現状。もう笑えないな、と初めにその説を唱えた人に申し訳なくなっている。あと、敬服。素直にすごいなって。

 

では、頭痛の元凶。恋する乙女、ファンの言い分を聞こうではないか。パブロの気持ちを味わえ。

 

「なんて言ったらいいんだろ。ディエゴとは〜今回の劇で、恋人同士の役なんだけど〜そのせいかもわからなくもなくもないんだけど〜なんか〜ディエゴがカッコよく見えるっていうか?アレ?逞しくない?みたいな。あ、そうそうファンが〜後ろから抱きつく?飛び乗る?みたいなシーンがあって〜そんで、背中ぎ大きいっていうか〜」

 

パブロは止まらない怒涛の、のろけ話のような何かに溺れ、息が出来なくなるような感覚を覚える。いつまで続くのコレ、と。ファンは溺れかけてるパブロに気付かない。おそるべきお年頃。恋に恋するお年頃。パブロはファンが気付かないだろうことに気付いていた。長い付き合いなもので、ファンの性格はよく知っていた。……知らざるを得なかった、と彼は言うだろう。

 

その時、奇跡が起こった。(と、パブロは思った)なんと!教室に件の!超のろけられてる超本人!ファンの恋人役ことディエゴさんが入って来るではないか!

 

よし逃れられると心の中でガッツポーズ。左腕でガッツポーズ。右腕でガッツポーズ。立ち上がって全身で……と、喜びゆえの奇行をしようとしたパブロは、眼前の一幕に停止した。

 

「あのぅ、ファンさん?劇…やる前に役、とか。内容とか。話すの…やめよ?」

 

「っ!!そ、そっそっそそうだね。マーズイよね!?」

 

「うん…。だから…あの、なんというか。誰と誰がこういう役で…みたいなのは、

 

「あっうん!地雷?禁句?…えーっとNGワード!そんなんだよね!!」

 

「……そういうことで、よろしく」

 

「…うんっ!」

 

この会話。二人は目も合わせず、合わしきれず。二人してテレッテレである。パブロは幸いにも、また同時に辛いにも。鈍感な人間では無かったので。二人がどんな状態であるかを、しっかり把握出来ていた。流石に口にはしなかったものの、声を大にして、

 

「おまえらラブコメかよォ!!??」

 

と言いたかった。あくまで願望。教室の雰囲気が暖かく、皆も気付いたようである。少し見渡しただけなのに、どいつもこいつも青ダヌキ直伝、「あたたかい目」を発動している。パブロは改めて。妙な一体感のあるクラスだよなと思った。座った。

 

ファンは顔を覆っていた。や、やっちゃったどうしよ〜〜〜注意された……目も合わせてくれなかったし…でもでも!教室でも声かけてくれた!うれしい!みたいな。感情ジェットコースターなう。話し相手にしてたパブロは轢き殺して、座席のとなりにディエゴを据えている。パブロ哀れ……

 

恋は盲目、とはよく言ったものである。恋してる人には近付かない方がいいのかもしれない。

 

パブロは解放された喜びを忘れ、こんな事もあるんだな。とどこか感心しながら、図らずも遅れて昼食を始める。二段式の弁当箱。一段目はシャケフレークにスクランブルエッグにポパイ。見事な三色。二段目にはライス、ただしただのライスではなく、母曰く、「ザッコクっていうめっちゃヘルシーなやつ」である。パブロからすると白米に不純物が入ってるようにしか見えないのだが、まぁ普通のライスよりは、いくぶんゴージャスかな。ぐらいの感想だった。一段目の具を、少しずつザッコクの上に乗せ、下から持ち上げ、口へと入れる。うまい。いつも変わらぬ美味しさがあった。

 

でも、まぁ。変わらないように思っていた腐れ縁が目の前で変化を示したワケだけど。パブロは器用に机の上で照れ暴れるファンを、昼食の肴として眺めていた。……人は恋をすると、こうなっちまうんだな。と、一歩引きたいような、踏み込みたいような。表しきれない感情に襲われた。弁当が半分になっても、ファンの照れ暴れは終わりそうに無かったので、食べ終わったらいろいろ聞いてやろうと思うパブロであった。

 

一方、ディエゴ。

 

「ハァーーースゥーーーハァーーー」

 

自分の席に戻るや否や、深呼吸をしている。緊張していたのかもしれない。ファンの話によると、恋人同士の役らしいが、いちいち会話で緊張してしまっていては、まともに劇が出来るのか?疑問である。

 

「珍しいよなぁ。何してたんだ?」

 

ディエゴの隣席のトリニダードが、ディエゴに問うた。確かに昼休み教室からにあんまり動かないディエゴにしては、どこかに行っていたのは珍しいことだった。

 

「あー、アノマロカリスって言って…伝わる?」

 

「ばっちしばっちし。古代生物のだろ?」

 

「そうそう。アレの剥製が、注文してたのが届いてたらしくて。手伝いついでに見せてもらってたんだ!……すごかったよ。生命を感じた……」

 

「マジか!?え、どこにあんのどこに!?」

 

「生物室だよ!え、じゃあ放課後行く?」

 

「いやいやいやいや、お前さん何部だよ?」

 

「演劇部だよ!?それが!?」

 

「近々、劇あるーみたいな話を聞いたんだけど」

 

「あっ……うん。そうだった。…ぜひ楽しんできて」

 

「お、おう。………ところでディエゴくんよぉ。さっきからガンつけて来るアチラのお嬢さんはなに。彼女?」

 

パブロは見た。食べ終わったから話聞いてやろうかなーと思ったら。人を射殺さんと殺気を放つファンを。視線の先を追うと、困った顔のトリニダードが居た。どちらからともなく、会釈をした。

 

「え?」

 

トリニダードの言にのり、親指で示す方を見れば、そこにはニッコニコのファンが居た。すぐに向き直って小声で目の前のバカ言う奴に言う。

 

「いやいやいやいやいや。そんなんじゃないから。そんなの畏れ多くて無理だから死ぬから。むしろ殺す気かトリニダード・トバゴ」

 

「……ソッカァ。ボクノカンチガイカー」

 

「そうだよ。そうだからな。そうだよな」

 

「そろそろ食わないと、間に合わないんじゃないか」

 

「そうだな!!早く食べないとな!!さ、さーて今日のランチボックスは何をボックスしてるのかなーー?」

 

誤魔化すように、無駄な高テンションのディエゴを横目に、トリニダードは情報収集の必要を感じた。なので、連絡を取ろうとケータイを取り出し、見る。一件のメッセージ。

 

『放課後、生物室で』

 

返事は打つことなく、ケータイを仕舞った。




つづくよ!


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ちゃおっす 2

それぞれの放課後。


ーーーそして放課後。生物室。

 

トリニダードはガラリ、引き戸を引く。幸いなことに、または当たり前なことに。黒板消し落下ドッキリが仕掛けられている、なんてことは無かった。

 

「やぁ、待っていたよ」

 

「おい」

 

「キミなら"此処"に辿り着ける、と信じていたよ」

 

「……おい」

 

「さぁ。神々の黄昏《ラグナロク》の為の作戦会議と行こうか」

 

「その喋り方を止めろ!!」

 

「………テンション乗ってきたとこだったんだけどなぁ」

 

先に生物室で待っていたのはパブロ。妙ちきりんな口調に、らしくもなく怒鳴ってしまうトリニダード。どうして怒鳴ったのかについては、今紐解かれるべき話題ではない。

 

生物室は普通の教室の1.5倍程度の広さであり、黒光りするカウンターのようなテーブル、背もたれの無い不親切な椅子、窓際に鎮座する水槽。そこまではよくあるであろう生物室の様相だった。しかし、アノマロカリス・シーラカンス・カブトガニという三代剥製が並んで居てはどうだろう。男子にとってはたまらん生物室である。トリニダードはその剥製に目を奪われた。彼もやはり、男子だった。

 

「アノマロカリス、マジだったんだな」

 

「ディエゴ、嘘つくような奴じゃないだろ」

 

「でもさ、さすがにありえなさが高いっていうか」

 

「……耳を疑ったから反論出来ねぇ」

 

「まぁ、それよかありえん事態が起きてるってのが、俺の見解なんだが」

 

「それな。アンビリーバボーに投稿出来るレベルな」

 

肩を竦めてお手上げのポーズをとるパブロ。それにうなづくトリニダード。全く予想外の事態が明らかになって、二人してどうしたらいいものか。と思っていた。迷っていた。

 

「「まさかあの二人があんなになるとは」」

 

というのが二人の感想であった。パブロはファンの幼馴染で、トリニダードはディエゴの幼馴染。そういう、よーく似たスタンスの二人だから困るのだ。ノータッチで行くべきか、それとも気付かぬフリして口笛吹くか。……本人×2としてはこの二択であって欲しかった。ただし、それを幼馴染×2が許してくれるのか。非情にも微妙だった。特にファンは、容赦無いだろうな、とパブロの心は梅雨よろしくジメジメしてくるのだった。

 

ゆえに。何かを頼まれる可能性のある二人は。頼まれるうちに、可能な限り口裏を合わせる。または共謀しておこう。そういう算段である。ちなみにトリニダードが連絡しようとした相手はパブロであったので、トリニダード的にもちょうど良かった図式になる。

 

「何がどうしたら、あのアマがディエゴに惚れるのかが分かんねぇ…」

 

「喧嘩なら買うぞ」

 

「売ってないから。あ、そっか。解説、ファンという生命体はジャニーズ系が趣味であります」

 

「なるほど。ディエゴって……その、ガチムチ系だもんなぁ」

 

「ねぇ、なんか言い方悪い気がする。うーーんと、野球のキャッチャーみたいな?」

 

「あぁ、キャッチャーか。わかるわかる。たぶんプロテクターとかめっちゃ似合うぞ。見たこと無いけど」

 

「今度さり気なーく、そんな役になるように話てみるか?」

 

「いいなそれ。結構面白そうだ」

 

「だろ?……ってちげえよ。恋愛脳対策だろーがよ」

 

「すまんパブロ。脱線させてしまった」

 

「いちいち謝んなよ……で、どうよ?ディエゴはよ」

 

「どうって?」

 

「なんか普段と様子が違ったり?」

 

「いや別に」

 

こんな調子で大丈夫かね、とパブロは思った。もしかしたらコイツかなりの鈍感なのではとも。その呆れが、顔に出ていたのかも知れない。

 

「………なんか、たまーにディエゴがする眼と一緒の眼だ。バカにしてるな?違うからな。ディエゴが取り繕うの上手いんだからな?」

 

「いやいや、なんでそんなん隠すのが上手いんだよ。ディエゴっておっとりが人の形をとったような奴だろ?」

 

「パブロ。お前はバカか?」

 

「なんでそこまで言われなき「ぶーかーつ。ディエゴの。」

 

「………あ、そうだな。そういやそうだった」

 

そうパブロの頭からあっさり飛んでいたことだが。ディエゴも演劇部の人間であった。…自身の幼馴染が演劇部である事は、しっかり頭にあったのだけれど。いかんせん、それを軽く吹き飛ばすような事件があったもんで。

 

「それにしてもなぁ、どうすっかトリ公」

 

「なんかムカつくからその呼び方止めろよパブ公」

 

「「…………………」」

 

「とりあえず、なんか変化あったら連絡するって事で」

 

「りょーかい」

 

そう言い合って、二人は生物室を後にする。しかしパブロは前の出口から、トリニダードは後ろの出口から。一緒に帰るという選択肢は二人に無かった。

 

「ふふふ……面白い事を聞いてしまいましたねぇ…」

 

そして二人は、何者かがその話を聞いていたことに。全く、これっぽっちも、1ミクロンも気付く事はなかった。

 

ーーーその頃、演劇部。

 

「はいカット!どーして言った事が出来ないのかなぁ?ねぇ。浜辺でイチャつくカップルの目が泳いでるってどうよ?どうなのよ?おかしくない?」

 

黒いカチンとやるやつを持った監督らしき男が檄をとばしている。ディエゴとファンは二人して申し訳なさそうに縮こまっている。……指示の通り出来ていないことは、二人とも理解していた。しかし今の二人には、あまりに酷では無いだろうか。

 

「どーやったら伝わるかなぁ?実演した方がいい?それとも参考映像引っ張ってくる?」

 

監督は真剣なだけであって、悪い人でないことはみんながよく知ってる事だった。しかし……!他の演劇部メンバーがあっさり気付けたことに、彼は気付けて居なかった。そう、彼は恋愛経験ナシ!長ったらしく言えば彼女居ない歴=年齢!二人の間に流れる甘酸っぱい雰囲気を感知する事は不可能!ただ単に恋人役に照れてるとしか思ってない!

 

ディエゴとファンが教壇、前から二番目の席に監督、ロッカーのとこらへんに他の演劇部メンバーという布陣である。ロッカー周辺がざわついていた…!

 

あの二人が照れているであろう理由もしくは原因を伝えるべきか、伝えぬべきか。白熱教室を追い越すような熱を帯びている!(主に女子が)男子はディエゴへの妬み嫉み罵詈雑言パーティである。「どうしてあんなのが、ファンちゃんと……」みたいなセリフが無限ループ地獄を形成していた。

 

もちろん監督は気付かない。だって二人に指導するのに人間的キャパシティを割いている。魂の熱血指導だ。二人に事細かに注文を付け、それを二人は書き留める。

 

今、この部室をサーモグラフィで測ったなら驚くべき温度差であるだろうことは、もはや疑いようが無かった。

 

とりあえずこんな感じで、ディエゴとファンは部活してたのであった。




つづくよっ


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