これはゾンビですか? ~いいえ、彼は問題児です (白ウサギ@FGO)
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プロローグ 転生しました

 目を覚ますと何故か真っ白な空間にいた。

「はっ?」

 いったいどういうことだ?確か俺は学校の帰り道、行きつけの本屋でラノベを買ってそれから………

 駄目だ、そこから先が全く思い出せん。

 俺がそんなふうに考え事をしていると、

「いやーごめんごめん」

 そんな声が聞こえてきた。

 そちらを見ると子供がにこやかな笑顔で立っている。

「何個か聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

「うん。なんでも聞いてー」

「それじゃあまず始めに、あんたは誰だ?」

「僕は君たちの世界で言うところの神だよ」

「ふーん」

「あんまり驚かないんだね」

 俺の反応が意外だったのか、こんなことを聞いてくる。

「まあ、ドアもない真っ白な空間に突然現れたやつが人間ではないだろうなと思って。次に、なんで神様が俺個人に会いに来たんだ?理由もなしってわけじゃないんだろ?」

「うん。実は僕の部下が手違いで本来死ぬはずのない君を殺しちゃってね。それで僕が君に会いに来たの。あとついでに、どんな人間か気になって」

 なんかすごいこと言ってるぞ、この神様。

「つまり、あんたの部下のせいで俺は死んだのか?」

「うん。そういうこと」

「……まあ死んだのならしょうがないか。それで?」

「うん。だから君を転生させてあげようと思ってね」

 それはまた、随分太っ腹なことで。

「行く世界は?」

「それを今から決めるところ」

 神様はそう言うと、どこからともなく箱をとりだす。

「それじゃあ決めるよ。君が行く世界は………じゃん!『これはゾンビですか?』」

 これはゾンビですか?の世界か……これは楽しめそうだな。

「次は特典だけど何がいい?」

 うーん、そうだな……よし、決めた!

「まず一つ目に問題児シリーズの逆廻十六夜の能力。二つ目にこれも問題児シリーズなんだが、ギフトカードをくれ。三つ目にこれはゾンビですか?の原作知識の消去。最後にこれはお願いなんだが力の制御がちゃんと出来るようにしてほしい」

「うん、どれも可能だよ。でも原作知識は消してよかったの?」

「いいんだよ。先が分かったら面白くないだろ」

「まあ確かにそうだね。それで次は君の名前だけど……」

「元のままでいい」

「わかった。容姿は?」

「んー、なんでもいいや。でも流石に不細工はやめてくれ、それ以外だったら基本なんでもいい」

「うん、わかった。……よし、これで大丈夫だ。それじゃあ行ってらっしゃい」

「ああ、行ってくる」

 俺がそう言うと足元の感覚がなくなった。

「はっ?」

「それじゃあねー」

「ちょ、待てやこらあぁぁぁぁぁぁ!!」

 こうして俺の新しい人生はスタートした。

 

 

 

「さて、行ったか」

 そう言って僕はタブレットを取り出す。

「さて、取りかかりますか」

 そう言って僕はタブレットを操作する。

 数分後……

「よし、これでいいだろう」

 

『名前:九十九 神無(つくも かんな)

 容姿:問題児シリーズの逆廻十六夜

 特典:正体不明(コード・アンノウン)

    獅子座の太陽主権

    疑似神格・梵釈槍(プラフマーストラ・レプリカ)

    ギフトカード

    魔力 大

    あらゆる天賦の才

    神の加護』

 

「まだ入れても問題ないしサービスしとこう。これで彼もかなり楽しめるだろうしね」



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第一章 はい、魔装少女です
第一話 俺の親戚がゾンビになりました


 俺が転生して、大体十五年がたった。

 転生したときは少し……いや、かなり驚いた。まさかの赤ん坊スタートだったからな。

 ちなみに俺の親は二人ともいないぜ。まあ、金はあるがな。

 それで今俺が住んでいるのが親戚の家だ。その親戚というのが、

「おーい神無、一緒にコンビニ行こうぜ」

 こいつだ、相川歩。まあ悪いやつではないな。

「おう、今行く」

 そう言って俺は歩と一緒に外に出た。

 

 それで俺達はコンビニに着いた。その間は特に何もなかったな。

「おい、神無」

「あ?何だよ」

「見ろ、あそこ」

 そう言って歩が指を指してる方を向く。

「……。なんかのコスプレか?」

「そうじゃない。あんなに可愛い子がいるって言ってるんだ!」

 確かに歩が言うとおり、そいつは可愛いかった。

 銀髪で鎧と籠手という格好で、整った顔立ちをしている。

「確かに可愛い。が、それがどうかしたのか?」

「あの子と話がしたい」

「へー、だったら行ってこいよ」

「待て!何かアドバイスとかないのか?」

「アドバイス?……そういやあ前に織戸が突飛な言動は、女を惹き付けるんだ。とか言ってたな」

「そうか……よし、行ってくる」

「おう、行ってこい」

 さて、歩はあの子に何て言うんだ?

「すみません、もののけ姫を信じますか?」

 おいおい、突飛すぎるだろう。女の子の方も顔背けてるし。

 そして歩は突然走りだし、側転する。……あいつ、何やってんだ?

 ぐきっ。

「ぎゃああああああっ!足首がああああっ!」

 ほんと、何やってんだ?

「おい、大丈夫か?……大丈夫じゃなさそうだな。あんたも悪かったな」

 ちらりと少女の方を見るとメモを持っていた。

『ううん 面白かった』

 マジか。さっき顔を背けてたのは面白くて笑ってたからか。

『あなた達は何者?』

「ただの親切なお兄さんだ」

「いや、どう見ても怪しいバカだろ」

「うるさい。元はといえば神無があんなこと言ったのが悪いんだろ」

「いやいや、突飛すぎだろ。普通あんなこと言わないぞ」

「ぐっ」

 その後俺達は、たわいのない話をした。

 結局彼女は何もしゃべらなかったが、右手はとてもおしゃべりだった。

 かなりの時間、話していた。

 俺達は適当なところで話を切り上げ、家へ帰ることにする。

「じゃあ、またな」

「じゃあな」

『待って』

 どうやら俺に何か用があるようだな。

 歩には先に帰ってもらう。

「それで俺に何の用だ?」

『あなた 何者?』

「それはどういう意味だ?」

『あなたから魔力を感じる』

「魔力だと?」

 もしかして神様が何かしたのか?

 俺がそんなことを考えていると、

『来て』

「あ?どこにだ」

『来て』

 そんなふうにもう一度同じ紙を見せてくる。

「……質問を変える。なぜだ?」

『あなたと一緒にいた人が 危ない』

「なに?」

 

 彼女に言われ、ついてきた場所はとある家。

「窓に血がついてるな。こりゃ何かあったか?」

 とりあえず、中に入るか。

「邪魔するぞ」

 そう言って鍵の開いているドアを開ける。ドアを開けた先の廊下には、血を胸から流した歩が倒れていた。

「おいおい、マジかよ。洒落にならねえぞ……」

 近くには髪の長いやつがいる。十中八九、こいつが犯人だな。

 しばらくして、そいつは闇に溶けるように消えた。

『助ける方法ならある』

「ほんとか?その方法は?」

『彼を ゾンビにする』

 まさかのゾンビ。ゾンビってあれだろ?腐ってて、人を襲うやつ。

 だが、それしか方法がないのなら……

「分かった、それでいい。俺は何をすればいい?」

『人気のない場所に 彼をつれていって』

「任せろ」

 そう言って俺は倒れている歩と、ついでに彼女を持ち上げる。

『私は 持ち上げなくていい』

「どうせなら早くついた方がいいだろ?それじゃあ、行くぜ」

 そう言って俺は、二人に影響がでない程度のスピードで走る。

『すごく早い』

「もっと出せるぜ」

 そんな会話をしていると、すぐに墓場についた。

「ここなら問題ないだろ」

『生き返らせるから 離れて』

 彼女にそう言われ、離れる。

 しばらくして、歩が起き上がった。

「成功したみたいだな」

「神無……俺は、生きてるのか?」

「いや、死んだぞ」

『彼の言うとおり あなたは死んでる』

「お前がやったのか?」

『そう 私が 死なないようにした』

「じゃあ、何か?俺はゾンビにでもなったってのか?ネクロマンサーかお前は」

 歩にそう言われた少女はしっかりと頷いた。

「マジかよ……」

「まあしょうがねえよ。こういう不思議なことも世の中にはあるってことだ」

『たぶん 姿を見られたと思って また狙われるかもしれない』

「だったらどうするんだよ。命を狙われるなんて、俺は嫌だぞ」

『心配ない 私が一緒に居る』

 ってことは……

「お前はこれから俺達と一緒にいるってことか?」

『そう でも私はお前じゃない 私の名前はユークリウッド・ヘルサイズ』

 

 こうして俺達は、銀髪の少女。ユークリウッド・ヘルサイズと出会ったのだった。



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第二話 ゾンビで魔装少女

 歩がゾンビになるという事件からだいぶたった。

 今は授業中なんだがいかんせん、とても退屈だ。暇が売れたら一稼ぎできる自信があるぞ。

 そんなどうでもいいことを考えていると、歩から話しかけられる。

「カーテン、閉めてくれね?」

「無理。織戸にでも閉めてもらえ」

「その織戸が寝てるから頼んでるんだが」

「しょうがねえなあ。この授業が終わったら閉めてやる」

「助かる」

 さて、俺の親戚の相川歩だが実はゾンビで魔装少女だ。

 眠くなってきた頭で、俺は歩が魔装少女になった時のことを思い出した。

 

 

 

 十九時十二分ぐらいだったか。

 その日も俺は、学校で暗くなるまでのんびり過ごし、夜になってから校門を出た。

 あ?何でゾンビじゃないお前まで残ってるかだって?特に理由はねえよ。

 それで家まで歩いて大体五分で着くんだが、今日は俺と歩は寄り道したい気分だったわけだ。

 俺達の家の近くには墓場があるんだが、歩はそこが好きらしい。

 俺?俺はまあまあ普通だな。夏は涼しいし。

 俺達はシャリシャリと足音を鳴らして中ほどまで進み、墓石の上に腰を下ろす。

 俺が買ってきたばかりのパンを食べながら月見気分で空を見上げていると、歩がペットボトルを空に投げた。

「結構飛んでくなー」

 そんなことを呟きながら空を見てると、二つほどペットボトルじゃないものが落ちてきた。

「おい、歩。なんか熊と人間が落ちてきてるぞ」

「相変わらず目がいいな」

 俺達はそんな会話をしながら、その場から離れる。

 ドゴーン!と俺達がさっきまでいた場所には穴が開いている。

 そして俺達はよせばいいのに、面白そうだからと穴に近づいた。

「いたたたたたたた~」

「おい、歩。今年は墓場でコミケやるのか?」

「俺に聞くな。そうゆうのは織戸にでも聞け」

 そこには、学ランを着た熊の上にコスプレをした少女が腰を押さえていた。

 そして何故か俺の横にはチェーンソウが置いてある。

 とりあえず、拾ってみた。

「おーい、大丈夫か?」

 俺がそんなことをしている間に、歩がその少女に話しかける。

「あ――っ!」

 何やら俺の方を指差している。

「あたしの魔装錬器!返せっ!早く!急げ!すぐさま刹那の内に早々(そうそう)早々(はやばや)と即行で瞬く間に瞬時に一瞬でたちまち今すぐさっさとすぐさま返せっ!」

「歩、パス」

「うおっ」

 とりあえず、歩にチェーンソウを渡す。たぶんこのチェーンソウが魔装錬器だろう。

「待て。待て待て。魔装錬器ってなんだ?」

「たぶんそのチェーンソウだろ」

 俺達がそんな会話をしていると、その少女のコスプレがすーっと消える。

 おお?これは役得だな。

 歩がチェーンソウを差し出すと、その少女は奪い取ろうとする。

 だが、

「痛っ!なんで!」

 少女が触ろうとすると、火花が飛び散る。

「おい、そんなことより服とか着なくていいのか?」

「ほえ?」

 俺の言葉を頭のなかで反復しているのだろう。二秒ほどたって全身が赤く染まる。

「こっち見んなっ!こんの変態っ!エロスペシャルがっ!」

「エロスペシャルて……ウォーズマンの必殺技みたいに言うなよ」

「うっさいっ!」

 問答無用で俺達の顔面を思いっきり足蹴にして、近くの墓石に隠れた。俺は避けたけどな。

 すると、今まで何もしてこなかった熊が俺達に飛び蹴りをかましてきた。

 俺は避けたが、歩は当たって墓石に頭をぶつける。

 そして歩が持っていたチェーンソウは、俺の方に飛んできた。

「おい、そこのお前、この熊はなんだ?」

「そいつは凶悪女子高生クマッチだ!早く逃げろっ!じゃないと、あんたらなんかすぐに殺されちゃうんだからなっ!」

「ハッ!寝言は寝て言え。こんな熊程度に俺が殺されるわけないだろ」

「それは俺も同感だ。だが、神無は危ないんじゃないか?」

 そういやあ歩には俺の力については教えてなかったな。

「ばか!ほんとばか!あんたら相手の力量も測れないのか?これだから、この世界の人間は!」

 全く。と呆れた声を出す少女。お前も俺達の力量測れてないけどな。

 とりあえず石を拾い、投げた。

 俺が投げた石は、第三宇宙速度という馬鹿げた速度を叩きだし、歩ごと熊を吹っ飛ばした。

「ぎゃああああああっ!」

「あっ、手が滑った」

「てめえ、俺を殺す気か!」

「元々お前は死んでんだろ」

 俺達がそんな会話をしていると、さっき吹っ飛んでいった熊がこちらに襲いかかってきた。

 俺は熊の攻撃を避け、歩はまたしても吹っ飛ぶ。

 すると歩が、

「学ランでいいか?」

「知るかっ!は?何言ってんの?」

「お前の着替え」

 それだけ言うと、歩は一気に距離をつめ、熊の頭を両手でつかみ首を回す。

 ゴキャっという音がして熊の首が落ちた。

 何故歩があれだけの力を出せるのか、それはあいつがゾンビだからだ。

 痛みも感じないし怪我もすぐ治る。しかも、普通の人間の何倍もの力を出すことも可能だ。

 まあやり過ぎると腕とかもげるけどな。

「そういやあ、さっきのは一体なんだ?」

「さっきって言うと、お前と熊を吹っ飛ばしたことか?」

「ああ、そうだ」

「とりあえず、その学ランをあいつに渡してこい」

 俺がそう言うと、歩が少女に服を渡した。

 その時に「こっち見んなっ!」と言われて蹴られたけどな。

「それで、さっきのは?」

「ああ、俺には特殊な力があってな。あれはそれの一端だ」

「すごいな」

「まあな。それで、結局さっきの熊は何だったんだ?」

「さっき言ったじゃんかっ!凶悪悪魔男爵クマッチだっ!」

 さっきと変わってるぞ。

「それにしても、B級メガロのクマッチを一撃で倒すなんて――」

「一撃も何も、普通首が一回転したら死ぬだろ?あれで死なない奴は、今のところ一人しか知らないね」

 その一人は歩のことだろうな。

「それよりそこのあんた、あたしの魔装錬器取って」

「別にいいぞ」

 そう言って俺はチェーンソウを拾って持ってくる。

「全く。なんでこのあたしが、こいつに拒絶されなきゃなんない訳?」

「さあ?」

「俺が知るか」

「よし、……ちょっとあんたらの家に連れてけ。電話しなきゃ」

「電話ならここにあるぞ」

 俺がポケットから出すと、少女が一歩あとずさる。

「何よその魔道具……」

「ただの電話だが」

「ほんとにか?あたしを騙したら、そこのクマッチみたくなるからな」

「さっさと電話しろ」

 俺はそう言って、電話を渡すと少女はどこかに電話をかけだした。

「あ、大先生ですか?リフレイン年ライジング組のハルナです!」

 ようやく少女の名前が分かった。どうやら彼女はハルナというらしい。

「え?あ、まだ見つかってません……すみません。実はミストルティンがあたしを拒絶するんです。え、はい。こう、ばちばちっと。あ、はい。魔力枯渇ですか。なるほど――まさか!こんな世界の人間がそんな魔力持ってる訳ないじゃないですか!……なるほど。確かに、それしかないですね。わかりました。とりあえずこの世界で出来ることを先にやります。帰る手段は、また――はい。すみません。お忙しいところを――はい。ではまた」

 ようやく終わったみたいだな。終わったんなら携帯を返せ。手を差し出すと、乱暴に携帯を返された。

「あんたら、あたしの魔力奪っただろ」

「あ?何のことだ」

「とぼけんな!この天才美少女悪魔男爵ハルナちゃんの魔力を根こそぎ持っていくなんて、ありえないくらいの魔力がないと出来ないって大先生が言ってた!」

「確かに俺は魔力を持ってるが、お前の魔力は奪ってない」

「だったらお前か!」

「いや、俺はゾンビだ」

「ほえ?」

「ただの生きる屍。死人だ」

「不死者!ならあんたも?」

 確かに簡単には死なないが、

「残念ながら俺は人間だぜ。まあ普通ではないがな」

「ふーん」

 俺がそう言うと、ハルナは俺達に指を指してこう言った。

「あんたら、責任とって貰うからなっ!」

「責任だと?」

「そうだ。あたしの任務は、この腐った世界でアーティファクトを探し出すこと。それと、魔装少女としてこの世界に現れるメガロを倒すこと」

「あー、『魔法少女』ねー。そうじゃないかと思ってたんだ」

「はあっ?あたしは『魔装少女』だ!そんな陳腐なもんと一緒にすんな!」

「違いが分からん。で、メガロってのは、あのクマのことだな?」

「そう。さっきの恐ろしい奴だ」

「なんであんなのと戦ってるんだ?」

「メガロってのはね、あたしの世界を壊そうとする害虫だ。一匹残らず駆逐しないと、あたしら魔装少女に未来はない。つまり、あたしは戦士な訳。すごいっしょ!」

「なるほど、天敵って奴だな。お前の世界を壊したいんなら、なんでわざわざこんな世界に現れるんだ?」

「おいおい歩。そんなの自分のところに被害が来ないようにするためしかないだろ」

「その通りだ。とにかく、あたしは戦えなくなったから、あんたらがやれ!」

「は?」

「あんたらは今、現時点をもって魔装少女だっ!光栄だろっ!」

 びしっと指を指された。

「俺は別にいいぞ。だが、変身する気はない」

 俺は即答したが、歩はやりたくないようだ。

「歩、諦めろ」

「諦めきれるか!」

「とにかく、あんたらには魔装少女をやってもらう!その間……超スーパー究極ウルトラ不本意だけど、あんたらの家に居させて貰うからな。それで、あんた名前は?」

 どうやら歩に言ってるみたいだな。

「歩だ。相川、歩……ていうか、やっぱりもう少し考えて――」

「……アユム。そう、アユムだな」

「……わかった。その……魔装少女とやらは、やってやる」

 ようやくやる気になったみたいだな。

「そうと決まれば、早速魔装少女になる練習だ!」

 俺は練習しなくていいよな。

「ただし、一つ条件がある」

 まあ、そうだろうな。

「俺のことはお兄ちゃんと呼んでくれ」

 刹那の内に蹴られていた。そりゃそうか。

「歩、お前にそういう趣味嗜好があるのは別にいいが犯罪者にはなるなよ」

「ならねえよ!」

 まあそんな訳で、俺達の家に新しく住人が増えたのだった。



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第三話 VSザリガニ

 歩side

 目が覚めると、すでに数学の授業は終わっており、次の授業が始まっていた。というより、その授業も終わりのようだ。

 ふと左を見るとカーテンが風に揺れていて、暑いからなのか窓は開いている。さすが神無、ちゃんとカーテンを閉めといてくれたみたいだな。そんなことを考えていると、チャイムが鳴り始める。

 次は――おう、昼時ではないか。弁当、弁当っと。

 さっと取り出したるは手作り弁当だ。この弁当を作ったのは、何を隠そうあのハルナちゃん。そう、天才美少女悪魔男爵のあれだ。

「あたし、卵焼きには自信があるんだ!」

 とか言いながら、意気揚々と料理してくれた。にんまり。最高のゾンビスマイルを浮かべてしまう俺に、

「なあ、歩。一緒に弁当食わないか?」

「ああ、いいぞ」

 俺の隣に座っていた神無が話しかけてきた。癖っ毛の金髪に、首には猫耳ヘッドホンをかけている。

 ちなみに、いつもは神無が弁当を作ってくれている。

「歩、なんか顔が気持……すごいことになってるぞ」

「いや、お前俺のこと気持ち悪いって言おうとしただろ」

「気のせいだ。それよりも早く食おうぜ」

 そう言いながら、神無は弁当箱を開ける。それにつられて俺も弁当箱を開ける。だがすぐに俺の表情は困惑に満ちていった。

 オチが用意されている。そんな予感はしたさ。

「勘弁してくれ」

 頭を抱えて呟く。これならご飯がいい。白ご飯にふりかけのみの方がマシだ

 俺の弁当箱は黄色一色だったんだ。

『あたし、卵焼きには自信があるんだ!』

 それはよくわかった。が、自信ありすぎだろう。卵焼きのみかよ。

「面白い弁当だな」

 そう言う神無の弁当は普通だ。なにこれ、俺だけなの?

 そんな俺の視線に気づいたのか神無が、

「ちなみに俺は自分で作ったぜ。よかったら、交換してやろうか?」

「助かる」

 そう言って俺は神無から適当なおかずをもらう。

「相川、九十九。一緒に弁当……」

 そこに、一人の男が現れた。名前は織戸。茶髪でツンツン頭にメガネを掛けた、どこにでもいるただのウザいクラスメイトだ。

 身長も体重も並で顔立ちもそこそこの、特徴がない男子生徒。自分でもそれを理解しているのか、唯一のトレードマークであるツンツン頭はいつも手入れしている。保育園の頃からの腐れ縁で、何かにつけて俺に付きまとう困った奴さ。

「うわあ……」

 織戸は俺の弁当を見てマジで引いたようだ。

 頼むから、その死に逝く動物を見るような哀れみの目はやめてくれ。

「さすがにそのボケは体張りすぎだろ?やりすぎは笑えねえ」

 首を横に振りながら、織戸は前隣の席から椅子を引っ張ってきて、ごくごく普通の弁当箱を俺の机の上に広げた。

「俺、卵焼きが好きなんだ」

 そう言い訳しながら、一口食べようとする――が、箸が付いてねえ。

 おいおい、なんて凡ミスしてくれてんだ、あの悪魔男爵め。俺がコンビニマニアで割り箸のストックがいっぱいあったから良かったものの。

 俺は教室の後ろにあるロッカーから割り箸を取ってきて、目の前に広がる黄色い悪魔と戦うことになった。

 ちらりと神無の方を見ると、俺が交換した卵焼きを食べるところだった。

「…………」

 卵焼きを食べた神無は無言だ。俺は余計に怖くなった。

 俺は勇気を出して一口分を一気にいった。

「ふむうっ!」

 思わず変な声が漏れた。

 うまい!なんてうまさだ!口から宇宙とかが出てきそうになるくらいのうまさだった。

 だから神無は食べたとき無言だったのか。

「おい、歩」

 そんなことを考えていると、神無が話しかけてきた。

「なんだ?」

「あと二つほど交換してくれ」

「お前の米となら交換する。織戸も米と交換してくれ」

「はあ?だったら最初から飯入れてこいよ。変なボケをするから――」

 なんだかんだ文句言いながら、ちゃんと交換に応じてくれた。

 口の中に銀河が広がるほどのうまさを誇る卵焼きに、織戸は程なくして目を丸くした。

「おい!相川の卵焼きがすごいぞ!今なら白飯と交換してくれるそうだ!」

 おいおい織戸君。大げさなことにしないでくれたまえ。ゾンビって結構、静かに暮らしたい小心者なんだぞ。

 その言葉を聴き、何人かが俺の許へとやってくる。やれやれ仕方がない。卵焼きはアホほどあるのだ。分けてやろうではないか。

 最初はそう思っていたが、気づいたときにはご飯だけとなっていた。

 

 

 

 神無side

 午後の授業も特に何もなかった。あったとしても、歩がカッサカサになったぐらいだな。

 夕焼けに照らされたグラウンドに目をやると、陸上部がグラウンドを走り回っている。

 今、教室には俺と歩と織戸しかいない。

 織戸ももう帰るらしく、大きなあくびをしている。

「そういやお前ら、最近帰るの遅いな。学校で何やってるんだ?」

 俺は少し考え、

「音楽を聞いてるな」

「ヘエ、相川は?」

「寝てる」

「あんだけ寝てたのにか?」

 織戸はケラケラと笑いながら、歩の背中をベシベシ叩く。まあ歩のあれは寝ていたというより、太陽に倒されたって感じだがな。

「家が近いから、別に大丈夫だろうけどさ。最近、殺人事件が多いじゃん?気ぃつけろよ?」

「会ったとしても、返り討ちにしてやるよ」

「確かに、九十九ならできそうだよな」

 そう言って織戸はケラケラと笑う。冗談だとでも思ってるんだろうな。

「まあ、俺は殺人犯に会いたいけどね」

「そうそう、忘れてた。会いたいと言えばな、相川。俺の妹の友達なんだけどな、その連続殺人事件に遭遇したらしいんだ。京子っていうんだが、知ってるか?」

 生き残りだと?あの殺人事件には居なかったと思ったんだが。

 ……これは何かありそうだな。

「知らない名前だな。神無は知ってるか?」

「いや、俺も知らない。どんなやつなんだ?」

「歳は、妹と同じだから十四だな。中学生にしては少し背が高くて、でも童顔で、胸がデカかったな。俺の妹の数倍可愛い子だ」

「心当たりねえな」

「俺も同じく」

「ふむふむ、二人とも知らないが、京子は知っている。つまり、一目惚れと見た!」

 にへら。と、バカのような笑顔を作る。おいおい、それだけで決めつけんなよ。

「それだけで決めつけるのは、どうかと思うが」

 どうやら歩も同じに思ったみたいだな。

「どれだけお前らのことを聞かれたか……。絶対お前に恋してるって!両親をなくして可哀そうな中学生の女の子に、好きな男を会わせてやりたいこのダンディズム。わかんねぇかな~。ま、会うだけでいいから、頼むよ、な?」

 まあ何か手ががりがあるかもしれないし、いってみた方がいいな。

「俺は問題ないぜ。歩はどうする?」

「俺も大丈夫だ」

「それじゃあ、明日の夕方にでも行くから」

「いくと言えば、最近相川達の家にいってねえな。昔はあんなに通いつめたのに」

 来ていいとは言ってないんだが。

「久々に寄っていいか?」

 それは困るな。今、家にはユーとハルナがいるからな。

「ダメだ。ほら、……色々大変なんだよ。一人暮らしってのは気楽なもんだが、忙しいんだよ」

「それは仕方ないな……」

 織戸は悲しそうな瞳を窓の外に向けた。

「すまんな。そうだ、今度三人でボウリングでもいくか?」

「俺は別にいいぞ」

「よっしゃ!久々に漫画本一冊賭けて勝負だ!明後日いこうぜ!」

 腕をぐりんぐりんと回して、織戸が口の端を吊り上げて笑う。

 こうして俺達はその後も他愛ないお喋りを楽しんでから、織戸は一足先に退室した。

 その後も、歩と他愛ない話をしていたら、

「ん?なんだあれ?」

 キラリと何かが光り、窓を突き破って学ランを着たザリガニが教室に突っ込んできた。――確かメガロだったか?

「魔装少女の魔力を感じてきてみれば……」

 ザリガニは学ランに降りかかった窓ガラスの破片をハサミで叩き落としながらキョロキョロと教室内を見回す。そして俺達の方に目を向け、

「魔装――少女……?」

 人間味溢れる仕草で首を傾げるザリガニ。

「何者だ?男の魔装少女とは珍しい。それに、片方の魔力は大きいがもう片方はずいぶんと小さい魔力だ。貴様、本当に魔装少女か?」

 後半は歩のことを言ってるみたいだな。

「否定したいんだが、一応魔装少女ということになっている」

「ちなみに俺は魔装少女じゃねえぞ」

「……まあいい、この辺りには複数の反応があるな。そちらに期待しよう」

 複数だと?つまり、ハルナ以外にも魔装少女がいるってことか?

「ん?一つはここに向かっておるな……好都合だ。魔装少女を三人も殺せるとはな」

 どうやら俺もその三人の枠に入ってるみたいだな。

 そのとき、カーテンの横にTシャツにパンツ一枚で、手にはチェーンソウという格好のハルナが現れた。

「アユム、ヘッドホンの人!何やってんの!早くメガネをけちょんけちょんにしろ!」

 ちなみに、ハルナが言ったヘッドホンの人は俺のことだ。それにしても変わった格好で来たな、ハルナ。

「ふぉっふぉっ!これはこれは!またハズレだったか!残りに期待させてもらうとしよう……貴様らを殺してな!」

 ザリガニはハサミをガチガチと動かしながら軽快に笑う。

「二人とも、早くやっちゃえ!って、こらっ!こっち見るなっ!」

 あからさまに苛立ちを見せるハルナに言われ、歩はザリガニに相対する。

「おい、ハルナ」

「なんだよ、ヘッドホンの人」

「この教室が壊れたら、直せるか?」

「はん。そんなの歩が直せる。なんたって魔装少女なんだからな!」

「それなら安心だ。それであのザリガニは?」

「そう、あいつこそダブルA級メガロ、魔法使いザリー」

 あいつ、魔法使いなのか。全然そうには見えんが。

「違った。極悪非道のザリーだったかな?」

 どこをどう間違えたらそうなるんだ。

「ふぉっふぉっふぉ!さあ、始めようかっ!」

 突如、ザリガニを中心にぶわっと生暖かい風が吹いた。

 すると、ハルナが「うくっ」と低く声を出し、体を抱く。

「何、これ……嘘」

「どうかしたのか?」

「ヘッドホンの、人……何このゾクゾクした感じ……」

 ザリガニが一歩こちらに近づく。ハルナが目を閉じ、ビクリと肩を上げた。……もしかして、怖いのか?

「お前、もしかして怖いのか?」

 歩も同じことを思ったみたいだな。

「ふ、ふざけんな!あたしが、メガロに恐怖するなんて……そんな――」

 そこでハルナの言葉が途切れ、座り込んでしまう。

 ……はあ、しょうがねえな。

「よっと」

「な、何すんだ」

「こんなとこに座り込まれたら危ないだろ。それに歩の邪魔になるしな」

「……わかった」

 ハルナも納得したようで、何も言わない。

 ちらりと歩の方を見ると、右手の手首が床に落ちている。どうやらあのザリガニのスピード、かなり早いみたいだな。

「アユム!」

 ハルナが心配して、声をあげる。ハルナが心配するのも無理はないだろう。死なないとはいえ、歩の攻撃力は下がったからな。

「アユム!さっさと魔装少女になれよな!」

 そう言って、いきなりチェーンソウを投げ渡す。普通、今渡すか?

 案の定、歩はハサミの先で腹を貫かれている。

「呪文を唱えろ!」

ハルナの命令が聞こえたようで、歩は呪文を唱え始めた。

「ノモブヨ、ヲシ、ハシタワ、ドケダ、グンミーチャ、デー、リブラ!」

 すると、歩の制服が弾けとび、光が集まり始める。

 光が一つに集まり、歩の体をハルナが着ていたコスプレ衣装が包む。

 ……はっきりいって、かなり気持ち悪い。鳥肌が立つ。

「歩……かなり気持ち悪いぞ」

「神無、それは言わないでくれ……」

「だが、事実だろ?絶対十人中十人が気持ち悪いって言うぞ」

「くそっ……」

「こらアユム!早く……早く行けよなっ!」

 ハルナにそう言われ、歩はザリガニを殴り、蹴りをお見舞いする。その時にザリガニは廊下に吹っ飛ばされた。

 俺も廊下に出ると、歩がチェーンソウを降り下ろしていたが、防御される。

「ふぉっふぉっ。打たれ強い奴だな。私はこれまで六人の魔装少女を殺したが、貴様が一番厄介だ。それに……奇怪だ」

「それはどうも。奇怪なのはお互い様だろ?」

 歩がそう言った後、ザリガニが右手をつき出す。そしてそのハサミが飛んだ。

「「うわっつ!」」

 まさか飛ぶとはな。それよりもやべえぞ。後ろに織戸がいる。

 まあこんなすごい音がしているんだ。何かあったと思って戻ってくるだろうな。

 そんなことを考えているうちに、歩は吹き飛ばされる。

「おい神無!織戸がいる!頼む!」

「分かってる。とりあえず、ハルナはここにいろ」

「わかった」

 俺はそう言って、教室を通り織戸のところに行く。

「おい、織戸。大丈夫か」

「あ、ああ。それよりも、いったい何が起きてるんだ」

「ああ、実はな……」

「九十九っ!後ろ!」

 織戸に言われ、後ろを見るとすごいスピードでこちらにハサミが向かってきている。

「神無!」

 歩のそんな声が聞こえる。

「――ハッ!しゃらくせえ!!」

 そう言って、俺はハサミを殴り付けた。

「「…………はっ?」」

 歩とハルナはポカーンとして固まっている。ちなみに織戸は気絶してるぜ。

「おい、ハルナ。とりあえず教室をどうにかするぞ」

「え、あ、うん」

 ハルナはそう言いながら、織戸に近づき額を触る。すると織戸の体から力が抜けた。

「お、おい、何をしたんだ」

「記憶操作。この辺一帯は今のあたしじゃ無理だから、あんたがやれ」

「それは俺もできるか?」

「魔力があるからできると思う。何でそんなこと聞くんだ?」

「もしかしたら歩がいないところで戦うかもしれないだろ。だからだ」

「ふーん。とりあえず、さっさとやれ」

「へいへい」

 ハルナにそう言われ、歩は魔法を使う。一応俺も聞いていたので、大体やり方はわかった。

 

 

 

 ザリガニの襲撃から間もなく、俺達は家に帰った。

 とりあえずギフトカードに入れていた服をハルナと歩に渡す。……ギフトカードに服を入れといてよかったぜ。

 さて、今目の前にあるのが俺と歩が住んでいる家だ。五、六十坪の二階建て住宅だ。今この家に住んでるのはハルナを入れて四人だ。

 歩の両親は新婚旅行という名目で、かれこれ五年ほど帰ってきていない。

 先にハルナが入っていったので、俺も中に入る。

 とりあえず制服から私服に着替え、居間に行く。

 居間には、バラエティ番組を見ているユーがいる。

「今日は何もなかったか?」

 するとユーは、ちらりとこちらを見て小さく頷いた。そして目を戻し、テレビをじっと見つめる。

 俺の姿をもう一度目で確認し、ボールペンを取ってテーブルにあるメモを一枚切り離した。

 メモの上にボールペンを置き、トントンと二回テーブルをノックする。

 メモを見ろという合図なので、メモを見ると、

『飯の用意を』

「何が食べたい?」

『スティーブン・セガール』

 それはさすがに無理だ。

 俺がそんなことを考えている間に、歩とハルナがこちらにやってくる。

「ヘッドホンの人、ご飯まだ?お腹すいたんだけど?」

『肉がいい』

「歩は何がいい?」

 俺が歩に聞くと、

「俺も肉かな」

 ふむ、それなら豚キムチかな。ちょうど材料があったはずだしな。

「豚キムチでいいか?」

「ああ」

「うん。それでいい」

『素敵』

 それじゃあさっさと作るか。

 

 

 

 今で四角いテーブルを囲みながら、食事をする。テーブルの上には、ご飯と味噌汁、そしてかなり多めに作った豚キムチが並んでいる。

「ヘッドホンの人、おかわり!」

 元気よくハルナが茶碗を渡す。ついでにユーもおかわりをする。

 こいつら、ほんとよく食うな。

「そう言えば、今日の卵焼き、うまかったぞ」

「確かにあれはうまかったな」

「あ、当たり前だ。あたしを誰だと思ってんだよ」

 歩は、いつのまにかニヤニヤと気持ち悪い笑みを見せている。

「何笑ってんだよ。気持ち悪い……死ね!バーカっ!」

 パン。と乾いた音がして、俺は少し驚いた。

 ユーが身を乗り出してハルナの頬を叩いた。歩達も唖然としている。

『軽々しくその言葉を使うな』

「ユー、気持ちはありがたいが、ハルナも本気で言ってる訳じゃないんだぞ」

「いや、本気で死ねよ。そっちの根暗マンサーも一緒に死ねっ!」

 そう言って、ハルナはユーを叩く。

『死ぬのは つらい』

 その一文を見て、ハルナと歩は言葉を失っている。俺も同じく無言だ。

 すると、ハルナは沈黙を破るように「だああーっ!」と奇声を上げ、ご飯を口の中に掻き込む。ユーも澄まし顔で食事に戻る。

「ヘッドホンの人!おかわりだ!めっちゃおかわりだっ!」

「分かったから大声を出すな。近所迷惑だ」

「私は味噌汁を頂きたいのですが?」

「はいはい。味噌汁だな」

 俺はそう言って味噌汁を渡した。



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第四話 VSセラ

 俺が味噌汁を渡して、ご飯を黙々と食べていると、

「って、お前誰だよ!」

 ずっと黙っていた歩が声を出す。

「なあ、あんた。歩もこう言ってるし、自己紹介してくれねえか?」

「わかりました。私の名はセラフィムです」

 セラフィムって天使の名前だったな。意味は、熾天使だったか?

「それだけ?好きなものとか特技とか、趣味とかあるじゃん。あ、あんたもしかして魔法使いか!あたしを爆破するつもりだな!」

 ハルナが言う魔法使いは、かなり物騒だな。

「好きなものは秘剣、燕返し。特技は秘剣、燕返し。趣味は秘剣、燕返しです」

「なんでここにいるんだ?」

「任務です」

「任務だと?」

「ええ。ユークリッド・ヘルサイズ殿に、お力をお借りしたい」

「ふーん。つまり、お前は吸血鬼ってことでいいか?」

「その通り。私は、吸血忍者です」

 どうやら違ったみたいだな。

 話を聞くと、人の生き血を吸うことで若さと力を手に入れた忍者らしい。

 山奥でひそかに暮らしていたのだが、頭領が死んでしまい跡継ぎ戦争が勃発。百年以上も続いているそうだ。

「ってことは、今までここに来てたやつらもそうなのか?」

「そうです。彼らはヘルサイズ殿の命を奪い、その類まれな力を我がものにしようと企んでいました。それは、私の目的を阻止することと同義です。私の任務は、ヘルサイズ殿へ同行を求めることと、その命を守ることにあります。誘拐しろという強硬な考え方を持つ者も確かにいますが、私達はヘルサイズ殿のお力に敬意を払っております。出来るだけ、ご本人の意思でお越し願いたい」

 ユーにどうするか聞こうと思い、ユーを見ると、

『神無 かまわない 追い返せ』

「だ、そうだ。交渉決裂だな」

「そうですか。ならあなた達を倒せばいいんですね?」

「へえ。俺を倒せると思ってるのか……」

「ええ。ただの人間に負けるほど弱くありません」

「それじゃあ、人気のない場所にでも行こうぜ」

「ええ、行きましょう」

 どうやらセラフィムもやる気みたいだな。

 こうして俺達は、人気のないところに向かった。

 ――人気のないところといえば、あそこだな。

 

 

 

 墓場は今日も静かだった。

 ハルナとクマッチが現れたときの穴は綺麗になくなっていた。

「一つ、聞いていいか?」

「何か?」

「吸血忍者は人を襲うのか?」

「もちろん。と言っても、殺したりはしません。少し血を分けて貰うだけです」

「それは強行派の連中もか?」

「絶対とは言い切れませんが、絶対にしません」

 どっちだよ。

「だが、今から俺を殺す気なんだろ?」

「目的のためでしたら、仕方がないでしょう?」

 セラフィムがそう言うと瞳が赤く染まり、全身を覆うようなマントが現れる。

 周りにはすごい数の葉が落ちている。

「いきます」

 セラフィムはそう言って、こちらに切りかかってくる。

 ――これは、燕返しか?

 俺はその攻撃をバックステップをして避ける。

 今のは危なかったな(棒)

「見事です。私の燕返しを二度もかわすとは」

「おほめに預かり、光栄だぜ。だが、そんな攻撃は当たらねえぞ」

「それなら!秘剣、燕返し。――八連!」

 おいおい、俺を殺す気か?危うく死ぬところだったぞ。

「これで終わりですね」

 倒したと思って油断してるな。まあ、教えないが。

 とりあえず、少し力をいれて殴る。

「なっ!」

 セラフィムは俺に殴られ、近くの木に激突して止まった。

「参りました。残念ながら、あなたを倒せないようです。私の秘剣秘技をもってしても。修練が足りませんね。奥義を出す気にもなりません。新しい技を考えないと」

 もう終わりか。久しぶりの戦いでテンション上がってたんだけどな。

「それでは、私は家に帰らせて頂きます」

 そう言って、セラフィムはその場を去っていった。

 ……俺も帰るか。

 

 家のなかに入ると、玄関に一足ほど余分に靴がおいてある。

 居間に入ると、何故かセラフィがいた。

『どういうこと?』

「それは俺が聞きたい」

 どうやらセラフィムは俺の下僕になるらしい。

「私のことはセラと呼んでください」

「ああ、わかった。よろしくな、セラ」

 こうして俺達の家に、また新しい住人が増えたのだった。



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第五話 VSアリクイ

 セラと戦った翌日、俺は歩達との約束を断り学校に来ていた。

 今日は土曜日で、何故学校に来ているのかというと、

「遅いよー神無」

「悪い悪い」

 そう言って俺は、少女――クリスに酒とおつまみを渡す。

「わーい。神無大好きー」

「はいはい」

 そう言って、クリスはお酒をぐびぐび飲み始めた。

「ぷはー。やっぱり神無が選んできたお酒は絶品だねー」

「そりゃよかったな」

 俺はそう言ってつまみをつまむ。

 俺とクリスが出会ったのは、つい最近のことだ。

 何を隠そう、彼女は最強の魔装少女だ。普段は冴えないおっさんだけどな。

「それで何で俺を呼び出したんだ?」

「うーんとね、最近連続殺人が起きてるでしょ。あれって魔装少女の仕業なんだよね」

「やっぱりそうか」

 まあ予想通りだな。

「それで一応心配しておこうと思って」

「おいおい、何言ってんだよ。俺がお前より弱いやつに負けるとでも思ってるのか?」

「あははははははっ!そんなわけないじゃん。神無なら女王でも倒せるだろうしね」

「そういうことだ。それで、クリスの用事はそれだけか?」

「うん、それだけだよ」

「そうか。なら俺は帰るぞ」

「えー、もう少しここにいてよー」

 突然クリスがごねだした。

「あ?何でだよ」

「えーっとねー。神無といるとお酒が美味しくなるからかな」

「俺にそんな力はねえ」

「とにかく、もう少し一緒にいてよ。ねっ、お願い」

「……はあ、分かったよ」

 その時、突然でかい音がした。

「あ?なんだ?」

 見れば、ぐじらのメガロがいた。

「クリス、悪いが用事が出来た」

「えー、しょうがないなー。そのかわり、今度一緒に居酒屋いこう」

「ああ、わかった。それじゃあ行ってくる」

「いってらっしゃーい」

 クリスに見送られ、俺は窓の外に出ていった。

 

 

 

 どうやらあの音の正体はくじらが出した潮のせいだった。

 ぐじらの方を見ると壁のようなものが見える。あれは、結界か?

 とりあえず、くじらのところに行こうとしたとき、アリクイが現れた。

 こいつもメガロだろうな。そんなことを考えていると、アリクイがこちらに向かって拳を突き出す。

「ハッ、そんなの当たるか」

 俺はその拳を避け、カウンター気味にアリクイに拳を当てる。チッ、避けられたか。

 だが、腕には当たったようでアリクイの片腕はなくなっていた。

 するとアリクイは、こちらに向けて舌を伸ばしてきた。

「やっぱり、遅いな。俺に当てたきゃ、クリスぐらい早くないと無理だぜ」

 俺はアリクイの舌をつかみ、こちらに引っ張る。それでバランスを崩して足をふらつかせた。

 俺はその隙に、アリクイに近づき拳を叩き込む。

 それを食らったアリクイは倒れ、粒子になって消えた。

 空を見ると、くじらは倒されたようで、いなくなっていた。

 

 

 

 あのあと、俺は家に帰ってきて居間でくつろいでいた。

 ちらりとユーの方を見ると、歩が話しかけていた。

「ユー、聞きたいことがあるんだが?」

 そう言った歩は、少し威圧的だ。いったいどうしたんだ?

「俺たちが出会った日、ユーは俺を助けてくれたんだよな?」

 ユーはそれに頷く。

「本当にか?俺を殺そうとしたのはユーなんじゃないのか?」

 今何て言った?

「じゃあ、俺を助けたあと、俺が意識を取り戻すまで時間があったよな?その間何をしていたんだ?」

『歩の傍にいた』

「本当に?……お前に家族を殺されたって情報を得たんだ。おかしいだろ?被害者の人間と、訳のわからない力を持った人間と、どっちの証言を信じる?ユー、頼むから真相を説明してくれ!」

「歩、少し口調が強すぎませんか?ヘルサイズ殿は嘘を言うようなお人ではない」

「そうだな、少し強く追及してしまった。それは謝るさ。……すまんかった。――じゃあセラ、お前が判断をしてくれ。被害者の人間がユーの姿を指摘できる理由はなんだ?さあ、答えてくれよ。どっちの言葉に信憑性がある?」

「歩、少し落ち着いて下さい」

「俺は冷静だ。冷静に、真実を聞きたいんだ」

『嘘は言っていない』

「信じてやりたいさ。だから、そういう言葉じゃなくて、もっと簡単で確実な証拠はないのか?お前が人殺しをしていな――」

「歩」

 思った以上に平坦な声が出たな。まあ、今はそれはいい。

「なんだよ」

「それは、俺も疑っていると受け取っていいんだな?」

「は?何でそうなるんだよ」

「俺はユーとお前を一緒に運んだんだ。お前と別れた後も、ずっと一緒にいたしな。つまり、ユーが犯人なら俺も関係者、もしくは犯人ということになるんだが?」

「なら、お前も犯人なのか?」

「もしそうだとしても、生き返らす必要はないだろ。わざわざ殺したのに」

 俺の言葉を聞いて、そんなこと考えてもいなかったのか、目を丸くする。

「それに、犯人は魔装少女だ」

「……何でそう思うんだ?」

「俺がお前が殺された場所に来たとき、犯人はその場から消えた。可能性としては吸血忍者もあり得るが、吸血忍者は人殺しをしないらしいしな」

 「だろ?」と俺が聞くと、セラは頷ずく。

「それに魔装少女は記憶操作ができるんだ。目撃者の記憶をいじるなんて簡単だろ。魔法なら出来ることは色々あると思うしな」

 俺の言葉に、歩はとりあえず納得してくれたみたいだ。

「歩、神無、私は空腹です。そろそろ夕飯にしましょう。……今回は私が作ります。歩、ハルナを呼んできて下さい」

 セラにそう言われ、歩は居間を出ていく。

 ユーの方を見るとメモをこちらに見せてきた。

『ありがとう』

「お礼を言われるようなことはしてないぞ」

『それでも ありがとう』

 まあ、お礼を言われて悪い気はしないな。

 

 セラと歩が出ていって十五分後。俺達の目の前にはセラが作った料理がある。

「おい、セラ。これはなんだ?」

「見たまんま料理ですが?」

 おい、これのどこが料理だ。歩も同じことを思ったようで、表情がひきつっている。

「さ、食べて下さい」

 ユーの方を見ると、この料理に見向きもしなかった。

「ヘルサイズ殿。さ、どうぞ食べて下さい」

「ちょっと待った!俺が食べる」

 歩がそう言って、オタマで液体をすくうが、オタマが溶けた。

「歩。そのようなヤワなものでは、この料理に触れることも出来ませんよ?」

 もうそれは料理とは言えないだろ。

「一応聞くが、調味料とかは入っているよな?味付けするために、さ」

「調味料?そんなものが、この料理に通用するとでも思っているのですか?」

 セラはそう言って、小さなザルのようなものですくい、歩の皿に入れる。

「歩。早く食べないと。ほら、皿が溶けてますよ?」

 やっぱり料理じゃねえだろ。これは早急にセラに料理を教える必要があるな。

 歩は、意を決したように一気にスープを口に流し込む。と同時に噴出した。

 そして急いでキッチンに走っていった。

「セラ」

「はい、なんでしょうか」

「今度一緒に料理を作ろう」

「別にいいですが」

「約束だぞ」

 とりあえず俺はセラに約束を取り付け、そのあと簡単な料理を作った。



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第六話 ユーの秘密

 今日は織戸と歩と共にボウリング場に行くことになっている。外が曇り空のお陰で、歩も昼間に外出できた。

 駅前で織戸と合流し、昼食を食べたあと、目的地のボウリング場についた。

 手続きを済ませ、ボウリングをしていると、

「おい相川と九十九、隣見てみろよ。すんげぇ可愛い子がいるぜ?」

 織戸がニヤニヤ顔で言う。そちらを見ると、

「だらっしゃあっ!」

 ハルナがいた。他にもユーやセラがいる。

「よし!やっぱあたしは天才だね。天才美少女悪魔男爵だ!」

 まさかあいつらも来てたとはな。すると、変な覆面を着けた歩がこちらに手招きする。何やってんだ?

「なんだ?」

「ハルナ達にばれないようにしてくれ。織戸に知り合いだってばれたくない」

「いや、無理だろ」

 俺たちがこそこそしゃべっていると、

「おい相川と九十九!見ろよあの子、すげえスタイルいいぞ……」

 織戸はセラの腰に見入っている。

「いきます。秘剣、燕返し!」

 セラもストライクか。

「ようし、相川と九十九!こっちも負けるなよ!」

 とりあえず俺の番なので投げる。よし、ストライク。

 その次は歩だが、スペアだった。

「へたくそ。集中力不足もいいところ」

「ようハルナ」

 俺がハルナに話しかけると、歩が「バカ!なに話しかけてんだ!」という表情でこちらを見てくる。……殴るぞ。

「こ、こんにちは……」

 織戸はいきなり声をかけられ、戸惑っている。

「えーっと、確か……夏侯惇、元嬢さんだっけ?」

「違うぞハルナ。こいつは織戸だ」

「オ……オーベルシュタイン?」

「ドライアイスの剣とかマニアックなものは控えろ。というか、あなたは誰ですかね?」

「は?何言ってんの?てか、なんでそんなの被ってんの?」

 やっぱりばれてるな。

「ハルナ。あなたの番ですよ」

 そう言うセラ。その言葉に歩は安心した表情になる。

「おい、九十九。お前さっき話しかけてたけど、あの子と知り合いなのか?」

「まあ知り合いだな」

「それなら俺に紹介してくれよ」

「……気が向いたらな」

 俺が織戸と話している間に、歩はセラと会話していた。

 

 ボウリングの結果だが、織戸が一一三、歩が一七〇で俺はパーフェクトだった。

「負けちまったな。九十九、何か欲しいものあるか?」

 確か漫画本一冊だったか?欲しいものもなかったので断る。

 すると、

「アユム、ヘッドホンの人!服買って!」

 声がした方を見ると、ハルナがアユムに抱きついていた。他の二人もいる。

「アユム、お前も知り合いだったのか。俺に紹介しろ」

 そう言って、織戸は歩ににこりと笑う。

 歩が三人の説明をしたあと、衣服売り場をうろつく。

「あー、あれ可愛い!見てアユム!」

 ハルナはそう言いながら色んな服を見て回っている。

「セラ、欲しいものがあったら言えよ?買ってやるから」

 俺が聞くと、「いいのですか?」と聞いてくる。

「ああ、問題ないぜ。金ならあるしな」

「ですが、下僕である私にそんなもの……」

「それなら命令だ。今日はわがままを言え。これならいいか?」

「その命令は卑怯です。ですが――」

「ありがとうございます」

 そう言って、セラは商品を吟味しだす。

 ちらりと歩を見ると、ユーに何か言いたそうにしている。

「セラ、ちょっと三人で話したいことがあるから離れるわ」

 俺はそう言って、歩とユーの手をつかみ、エレベーターに向かった。

 

 

 

 歩side

 屋上につき、神無がベンチに腰を下ろす。その隣にユーと俺が座る。

「歩、ユーに何か言いたいことがあるんだろ?」

 神無の言葉に、俺は少し驚いた。まさか気づいていたとはな。

 二秒か三秒か、気の利いた言葉を探してみるが、何も出てこない。俺はユーの方へ体の向きを変えた。

「ユー、教えてくれ。お前がなんで感情を殺してるのか」

 俺は真剣な表情を作っていたが、ユーはいつものように無表情だった。神無も黙っている。そのまま見つめ合っていると、ユーは目を閉じて、スカート部分のポケットからメモ帳を取り出す。

『どうしても?』

「ああ、どうしても、だ」

 そのとき、初めてユーは溜息を吐いた。そのときの心情を、俺が知る由もない。面倒くさいと思っているのか、言いたくないと思っているのか。どう思っていようが、俺は無理にでも聞くつもりだ。知る権利はある。ないなら今すぐくれ。

 もう一度メモ帳を開いて俺達に見せる。そこには長い文章があった。

 

『運命の糸というのは ゆらゆらと横に揺れながら前へと進んでいる

 揺れあい重なった糸と糸は 出会いを生む

 そこに強い魔力の影響があると その揺れは大きく 激しくなる

 故に 強い魔力を持つものは それを抑えなくてはいけない

 私の魔力は 抑えることは不可能だった

 動揺 不安 心の動きで魔力がすぐに乱れてしまう

 だから私は 感情を出すことが許されない』

 

 思ったよりよくわからない。つまり……どういうことだ?

「……つまり感情が動くと、人の運命が変わる。そういうことか?」

 神無が助け船を出してくれた。

 その質問に、こくり。うな垂れるようにユーは頷いた。

『言葉を出せないのは 私の言葉には力が込められてしまうから

 私の言葉を聴いた者は その言葉通りになる なってしまう

 だから 私は声を出すことが許されない』

「言葉を聴いた者はその言葉通りになる……ぅ?」

 怪訝な表情を浮かべた俺に、ユーはメモを見せる。

『私が寒いと言えば 聴いた者は炎の中でも寒さを感じる』

「それ、すごすぎだろ!」

『そう 私の言葉は 重すぎる

 いつ どの言葉が力に変わるかわからない

 だから 一言も発することは許されない』

「いや、それはおかしいだろ?あーとかうーとかにゃーとか、声を出すくらいは別にいいんじゃないか?」

『出来ない 言葉が力に変わるとき 私の頭に激痛が走る あれは もう嫌』

 強い力を出すためには、強い代償がいる。って奴か?それほどすごい力の代償が痛みだとすると、とんでもない痛みなんだろうな。

「それだけの力があるから、命を狙われているのか?」

『まだある』

 まだあんのかよ。

『私の手には治す力 血液には不老の力があり 心臓は膨大な魔力を放出している』

 頭がどんどん混乱してきた。聴けばすっきりすると思っていたが、まさか逆効果とは。

「ガントレットとプレートアーマーを外さないのは、その力を封じるためってことか?」

『正解』

 神無の答えに、ガチガチとガントレットで拍手する。

「もっとこう、山を破壊したり、時を止めたり、無敵になったりとかないのか?」

『私の特異な力はそれだけ

 これらの力に 私の意思は関係ない

 私が死んでも 能力は発動することが出来るだろう

 だから 私を殺したがる 体を手に入れるために』

「お前を殺して血を絞り取れば、不老になるワインが出来上がるってか?」冗談でそう言ったのだが、

『出来る』

 ガチガチと、ガントレットが鳴る。出来るのかよ。――もしかして、吸血忍者はこいつが作ったんじゃないだろうな。

「お前は、誰に狙われているんだ?吸血忍者だけなのか?メガロか?」

『把握できていない 吸血忍者にも メガロにも 魔装少女にも 殺されそうになったことがある』

 ふう。一息吐き、俺は近くにあった自販機へと向かう。コーラを三本買ってきて、ユーと神無に一個ずつ渡した。しかし、ユーと神無はそれを飲もうとせず、ベンチに置いた。

「で、他に隠し事は?」

『全て話した 嫌いにな――』

 そこで、文章は終わっていた。ポタリ、ポタリと何かがメモ帳に落ちる。

『嫌いになったでしょう?』その字は、ひどく乱れていた。

 すると、途中から黙っていた神無が喋りだした。

「ユー、なぜ俺たちがお前を嫌いになったと思ったんだ?」

『私の感情が動くと 近くにいる神無と歩の運命が一番変わってしまう』

 なるほど。確かに、今まで無表情で感情を表さなかったユーが、最近になって涙を流したり色々感情が動いていた。それに合わせて、メガロとか吸血忍者とか魔装少女が突如として一気に現れた。

『こんなバケモノみたいな奴が傍にいる それを知ったら 嫌いになるでしょう?』

「ハッ、嫌いになる?何言ってやがる。歩はどうか知らんが、俺は感謝してるんだぜ?」

『感謝?』

「ああ。ユーに会えたおかげでハルナ達に会えたんだ。それに、メガロやセラとの戦いは楽しかったしな」

 楽しかったって……命がけだったと思うんだが。

「それとも、ユーは俺達やハルナ達に会わない方がよかったか?」

『よくない』

「ならそんなことこれからは言うんじゃないぞ」

『私 一緒に居てもいいの?』

「ああ、当たり前だろ。歩はどうだ?」

「ああ、好きにしてくれ……」

 捻くれた言い方をした自分に、なぜか無性に腹が立った。「はあ」と肺の中に溜まっていた空気を吐き出す。

「ユー、笑いたいときは笑え。運命なんか俺たちが何とかしてやる。――だから、ずっと俺達のところにいろ」

 ユーの涙は止まらなかった。その間、神無は優しげな表情でユーの頭を撫でていた。

 

 

 

 神無side

 買い物を終え、俺達は家に帰っていた。別れ際に織戸が歩に、次のボウリングには是非彼女らを呼ぶようにと言ってたな

「は~疲れた。なかなかこの世界もいいじゃんか!捨てたもんじゃないって奴だな!」

 ハルナは戻るなり俺に渡された服を持って、階段を飛ぶように上がっていった。

「待ったハルナ!これを付けてくれ!出来れば裸、いやメイド服で!」

 歩がハルナを追いかけつつ、そんなことを叫んでいる。そしてハルナに吹っ飛ばされていた。

「暴れないで下さい!邪魔です」

 セラにそう言われて気分を害したのか、ずかずかと乱暴に階段を上がっていった。歩はユーと共に居間に入っていく。俺も行くか。

 そう思い、居間に行こうとしたところでセラを見ると、

「………………にゃー」

 猫耳ヘアバンドを頭につけ、ポーズをとっていた。

 セラにもあんな可愛いところがあったんだな。

 そんな俺の視線に気づいたのか、セラがこちらを見る。

「……もしかして、見ましたか?」

「ああ、バッチリな。セラにもあんな可愛いところがあったんだな」

「忘れてください」

「いやいや、そんな簡単に忘れられるわけないだろ」

 セラの意外な一面が見れて、俺としては満足だぜ。

「それに、似合ってたしな」

「なっ!」

 おっ、セラの顔が真っ赤になったな。

「な、何を言ってるんですか!」

 セラの言葉に、俺は笑いながらその場を後にした。

 

 

 

「やったーあ~っ!」

 そう言いながら大はしゃぎするハルナ。目の前にはピザがテーブル狭しと並んでいる。

「アルフレッドガンナーソンLなんて久しぶりだなぁ。いただきま~す」

 ってかアルフレッドガンナーソンLってなんだ。もしかしてハルナがいた世界の食べ物か?

「あれ?」

 一口頬張ったハルナは、首を傾げている。

「これ、アルフレッドガンナーソンLじゃないっ!」

「おい、ハルナ。お前の言うアルフレッドガンナーソンLってなんだ?」

「え?薄く伸ばしたアルフレッドにガンナーソンをふんだんに載せ、とろけるLをパラパラ~っと――あっ!この世界の食べ物じゃなかったっけ?」

「恐らく、違うと思う」

「そっか、そうだよな。こんなクソみたいな世界にアルフレッドもガンナーソンもある訳がないか……あ、でもおいしい。これでいっか」

 いいのか。

 それにしても、ハルナがいる世界には一度行ってみたいな。

「神無……『今日はわがままを言え』という命令は、まだ有効なのですか?」

「別に大丈夫だが。……どうかしたのか?」

「私は、和食以外を口にしたことがありません。このような料理など……恥ずかしながら少々怖いのです。味噌汁を頂けますか?」

「作ってやってもいいが、一応食べてみろ。それにこれからは和食以外も食べることがあるかもしれないだろ?」

「分かりました。……吸血忍者たるもの、如何なる敵が現れようとも臆することなく戦うべし」

 そう言いながら、一気にぱくり。

「素晴らしいですね。これほどとは……」

「食べてみて正解だっただろ?」

「はい、とてもおいしいです」

 どうやらお気に召したみたいだな。あっという間にピザがなくなったぜ。

「ふい~、ピザってのも、なかなかやるじゃん。ヘッドホンの人、ケイタイ貸して」

「ああ、いいぞ」

 携帯電話を手渡すと、ハルナはその場で電話をかけた。

「あ、大先生ですか?――え?あ、そうですか。でしたら、リフレイン年ライジング組の出席番号六三四五二六三九七のハルナから電話があったことだけ、お伝えください」

「留守……だったのか?」

「なんか、研究材料を探しに別世界にいってるって言われた」

 うだーっとテーブルに体を投げ出してそのまま目を閉じる。

「はあ……アーティファクトも見つかんないし、魔装少女にもなれないし、大先生に電話繋がらないし、もう最悪~だあっ」

「……ところでハルナ。そのアーティファクトっていうのは一体なんだ?俺も探せたら探しとくが」

「はん。あんたなんかに見つけられる訳ないじゃんか」

「でも、もしかしたら俺達が知っているものかもしれないぞ?なんて名前だ?」

「――うん、そうだな。確かにその通りだと思う。えっとね……名前は、キョウドウ……ううん。キョウフ……うん。恐怖という名のものだ」

「それはどんな形なんだ?」

「こう、四角くて柔らかくて」

 大きさはそんなに大きくないみたいだな。四角くて柔らかいものか……さっきのハルナの発言を鑑みるに……

「もしかして、京豆腐か?」

「そう、それだ」

 ふむ、京豆腐か。ネットで取り寄せるか?

「神無、よく分かったな」

「さっきハルナが途中まで言ってたからな」

 俺達がそんな会話をしていると、

 ピンポーン。

 玄関のチャイムが鳴った。歩はそれに返事をして、居間を出ていった。

 少しして大きな音がなり、歩が戻ってきた。

「おい歩。すごい音がしたんだが何か……」

「ユーっ!すまん。いきなりだが、治してくれ!」

 なぜか歩の肩が抉られていた。いったいこの短時間に何があった。

「往生際が悪いですよ相川さん。早く死んで下さいよ。ちゃんと――」

 声がした方を見ると、トレンチコートを着た犬が立っていた。

 こいつ、今喋ってたな。もしかしてメガロか?

 とりあえず、いつでも動けるようにしておくか。

「おや?最近見ないと思っていたら、こんなところにいらっしゃったんですか。ヘルサイズ様。――なるほど。あなたの仕業ですね?そうですよ、ね。ただの一般人が冥界から戻ってこれる訳ないですもん、ね。もう、早く言ってくださいよ」

 どうやらユーの知り合いみたいだな。

『忘れてた』

「困りますよ全く、無駄足を踏まされました。一言言ってから魂を呼び戻してくださいよ。あなたの仕業だとわかっていたら、こんなところに来なかったのに」

 やれやれと犬が首をふる。

「もう、俺と戦わないのか?」

「はい。ヘルサイズ様がしたことなのでしょう?彼女は、どんなことをしても許されるんですよ。冥界の王たちもヘルサイズ様に会ったら土下座ですよ。もう……ね。なんていうか……ね。すごいんですよ」

「ユーはそんなにすごいのか?」

「そうですね。『全ての中心である』と冥界の王たちは言います」

 すごい人物だったんだな。まあユーが何者だろうが関係ないが。

「それより、気になったんですけど、ね。先ほどの肩の傷、重症のはずですよ、ね?もしかして――いえ、違ったらすいませんが、もしかしてヘルサイズ様に能力を使わせたのですか?」

『大丈夫 耐えられる痛み』

 そういやあ能力の代償は痛みだったか?

 犬は「やっぱり」と嘆息し、歩を殴った。

「ヘルサイズ様の手には物を治す力があります。それは、触れている対象物が治したいと思っていた場所を治す能力です」

「ヘエ、案外すごいじゃん、何でも治せるの?」

 珍しいな、ハルナが興味を示すなんて。

「しかし、その代償として、治した痛みを請け負うことになるのです」

「てことは、今ユーは肩を抉られる痛みを受けてるのか?」

「そうです。あなたのせいでヘルサイズ様が苦しんでいるんですよ?私はヘルサイズ様がこの力でどれだけの苦痛を味わってきたかを知っています。だから殴らせて頂きました」

「ユー、すまなかった。ちゃんとデメリットも聞いておくべきだったよ」

『かまわない』

 その一文を見て犬は、目を丸くする。

「――そう、ですか……あ、そろそろ、おいとまさせて頂きます。この度はどうもお騒がせ致しまして……そうそう、この近くで人が殺されかけているので、その魂も連れて行こうかな」

「なに?それは本当か?」

 もしかして、歩を殺した犯人か?

「……あなたは?」

「そういやあ自己紹介してなかったな。俺は九十九神無だ」

「ふむ。人間の割には魔力がかなり高いです、ね。いったい何者ですか?」

「俺はただの人間だ。それよりも、さっき言ったことは本当か?」

「はい、本当です。それがどうかしましたか?」

「それなら俺もついて行っていいか?歩も行くだろ?」

「ああ。この近くで殺されかけているってのは聞き捨てならないからな」

「なぜです?あなたたちとはなんの関連もない殺人ですよ?まさか、助けたいなどと言うつもりですか?まさか……ね?」

「そんなんじゃねえよ。とにかく、俺達もついていくが問題ないか?」

「…………まあ、いいでしょう」

 こうして俺達はその場所に向かった。

 

 

 

「この辺りです、ね。まだ生きている者がいるようですが」

 俺達が着いたのは、これといった特徴のない普通の家だ。

 二階の窓を開けて中に侵入する。

「――やられました。魂はもうここにはいません」

「どういうことだ?死んだのか?」

「死んだ魂を冥界に送るためにここにきたのですが、どうやらもうなくなってしまいました。最近多いんですよ……ね。死んでも冥界にこない魂」

「つまり、他の誰かに取られたってことか?」

「はい、恐らくサクられたのでしょう」

「サクられた?」

「サクリファイスされた。の略です。聞いた話ですが、夜の王という人物に魂を生け贄として捧げると、とんでもない量の魔力を貰えるとか。最近多いんですよ、ね」

 俺達は部屋を出て、階段を降りていく。一階には血がびっしりだった。

「二人とも、警戒してください」

 先を行く犬がトレンチコートの袖で額を拭った。

 確かに、なかなか強そうな奴がこの先にいるな。しかも、魔力がどんどん上がってるみたいだし。

「おおー、魔力がどんどん上がっています、ね。いやはや人間界の者がこれほどの魔力を持てるわけが――そうか!そうですよ!」

 歩は魔力を感じ取れないようで、首を捻っている。

 暗がりのなかで、キラリと何かが光った。とりあえず手で受け止めようとしたら、犬が前に出て手を広げる。

「なんで俺を庇うんだよ!」

「別に俺は庇わなくてもいいぞ」

「……あなたたちに何かあれば、ヘルサイズ様が悲しむでしょう?」

「大丈夫だって。俺は――」

「ヘルサイズ様は、とても楽しそうな表情をしていました。……自分はそれを奪えない。早く逃げてください!奴は、この世界……」

 言い終わる前に犬と歩が切り裂かれる。俺の方にも来たが、俺に剣が触れた瞬間、弾かれた。

「!」

 剣が弾かれて動揺したのか、動きが止まる。とりあえず俺は、その相手に拳を叩き込んだ。

「ガッ」

 俺の拳を受け、相手は近くの壁に吹っ飛ぶ。……顔はあまり見えなかったな。

 しばらくして煙が晴れると、そこには誰もいなかった。

「チッ、逃げられたか」

 しばらくすると、上半身だけの歩が外から中に入ってきた。

「神無、さっきのやつは?」

「残念ながら逃げられた」

「そうか……」

 今回は運が悪かったと思うしかないな。

 

 

 

 ブ~ブ~。

 あんなことがあり、俺達が家路についていると携帯がしんどうする。

 俺は歩に先に帰るように言い、電話に出る。

「もしもし?」

「あれ~?ハルナじゃーないようですね~」

「ハルナ?もしかして大先生か?」

「そうですぅ~。あなたは~?」

「ハルナの変わりに魔装少女やってる知り合いの手伝いをしてる、九十九神無だ」

「そうなんですかぁ~。ちなみに、魔装少女をやっているのは、誰なんですかぁ~?」

「相川歩って名前の男ですけど」

「って、その人少女じゃないじゃないですかぁ」

「俺もそう思うぜ。そういやあ大先生の名前って何て言うんだ?」

「アリエルって言いますぅ」

 アリエル?どこかで聞いたような……まあいいか。

「ところで、何か用があって電話したんじゃないのか?今近くにいないから、あとで伝えておくが」

「ん~。ではお願いしますねぇ。京豆腐はもういいですから~、魔力の回復に専念してくださ~いって伝えてもらえますかぁ?」

「わかった、伝えておこう。ついでに、京豆腐は俺が用意しようか?」

「あ、だったらお願いします。私、京都のお豆腐大好きなんですよ~」

「ふーん」

 俺はアリエル先生との電話を切り、家に向かうのだった。

 

 

 

 家に帰ると、セラが顔面蒼白だった。

「どうかしたのか?」

「血が足りません……今歩にハルナを呼んできてもらってます」

 聞けば、吸血忍者は定期的に血をとらないと死んでしまうとのこと。

「俺じゃ駄目なのか?」

「それは……無理です」

「……何か理由があるのか?」

「はい。血をもらうときは接吻をして、薬を注入しなくてはいけません。異性との接吻は婚儀の際に行うものですので」

 確かにそれは問題だな。

「キスなしは駄目なのか?」

「薬無しでの吸血は……激烈に痛いですよ?」

 俺達がそんな会話をしていると、歩が二階から降りてきた。

「やっぱり俺じゃダメなのか?」

 歩がそう言う。

「嫌です。絶っっっっっっっっ……っ対に嫌です」

 そこまで嫌なのか。

「やっぱり俺じゃ駄目か?キスなしでも俺は別にいいぞ。それに、仲間に死んではほしくないしな」

 俺の言葉にセラは諦めたようにため息をつく。

「はあ、分かりました。それではお言葉に甘えて」

 どうやら俺は問題ないみたいだな。セラは目を閉じて、俺の首筋にかぶりつく。

「うっ」

 確かにセラが言っていた通りかなり痛いな。しばらくして吸血が終わると、セラは俺に土下座してきた。

「誠に申し訳ございませんでした!」

「いや…………かなり痛かったが大丈夫だぞ。少しフラフラするけどな」

 俺はセラにそう言って部屋に戻り、携帯で京豆腐を注文した。明日には届くみたいだな。

 とりあえずその事をアリエル先生に言おうと、着信履歴の番号に掛け直す。

 プップップップップ……プルルルルル……プルルルルル……

「お電話ありがとうございます。マテライズ魔法学校、エルスと申します」

「アリエル先生って今いるか?」

「アリエル先生は現在、席を外しておりますので、よろしければ伝言を承りますが?」

「それじゃあ、例のものが明日手に入りそうです。って言っておいてくれ」

「かしこまりました。それではですね、お名前の方をお願いできますでしょうか?」

「九十九神無だ」

「ツクモカンナ様ですね?承りました。他に御用はございませんでしたか?」

「いや、特にない」

「そうですか。本日はお電話ありがとうございました。では失礼します」

 さて、電話も終わったしさっさと寝るか。



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第七話 犯人は……

 次の日、俺がいつものように学校に向かう準備をしていると、ユーがトントンとボールペンでテーブルを叩く。

『今日は ここにいろ』

 珍しいな、ユーがこんなこと言うなんて。これは何かありそうだな。

「わかった。今日はここにいる」

 豆腐ももらわなきゃ駄目だしな。歩もメモを見たが、早く帰ると言って学校に行ってしまった。

「あれ?ヘッドホンの人は今日は行かないの?」

「ああ。ちょっとな。それと……」

 俺は、ハルナにアリエル先生との話を伝える。

「あんた大先生と喋ったの!大先生はあんたなんかが気軽に喋っていいような人じゃないんだからっ!すごいんだぞ!大先生なんだからなっ!」

 そんなことを大声で叫ぶ。

「まあとにかく、魔力回復に専念しろだとさ」

 俺はそう言って私服に着替えるため、二階の自分の部屋に上がっていった。

 

 

 

 午後には豆腐が届いたので、アリエル先生に電話する。

「はい~。こちらマテライズ魔法学校で~す」

「アリエル先生か?九十九神無だ。京豆腐が手に入ったから渡したいんだが」

「あら?もう渡せるんですか~?」

「ああ」

「じゃあ取りにいきます。そうですねぇ、そちらの時間でぇ、九時にいきますねー」

「わかった。どこで待っていたらいい?」

「そうですねぇー。あまり人気がないところの方がぁ、いいかも知れませんね。結構ぉ目立ちますので~」

「わかった。それじゃ住所を教えるからそこに来てくれ」

「はい~」

 これで問題ないな。

 

 しばらくたって、歩が帰ってきた。

 居間でテレビを見ているとハルナがこっちを見て言う。

「ヘッドホンの人、お腹すいたんだけど?」

「わかった」

 さて、さっさと作るか。一応弁当の残りは昼に食べておいたから問題ないしな。

 

 ご飯も食べ終わったし、時間もちょうど九時だから行くか。

「歩、ハルナ。今からアリエル先生に会いに行くがお前らどうする?」

「アリエル先生?」

 俺の言葉に歩は首を傾げている。

「そういえば歩には言ってなかったな。アリエル先生はハルナの担任の先生で、大先生って呼ばれてた人だぞ」

「へえ、そうなのか」

「それでどうするんだ?」

「俺は行こうかな」

「あたしは……いかない」

「それじゃあ歩と俺だけで行くか」

 もうすぐ九時なので豆腐を取り出し、家を出る。隣にはハルナが何故かいる。

「いかないんじゃなかったのか?」

「コ、コンビニにいくんだからねっ」

 そう言ってハルナは途中で別れる。たぶんあとで来るんだろう。

 

 

 

 墓場はいつものように静かだった。予想通り人は全くいない。

 卒塔婆の陰には、ツインテールをした中学生くらいの少女がいる。あれがアリエル先生か?

「大先生ですよね?」

 歩がそう言う。だが彼女がとった行動は――

 歩を『刃物で突き刺す』というものだった。

「……はっ?」

 これには俺も驚いた。歩もかなり驚いている。

「こんばんは。相川さん、九十九さん」

 どうやら彼女は俺のことを知っているみたいだな。

「……お前は誰だ?」

「京子ですよ」

 京子って確か織戸が言ってたやつか?

「ノモブヨ、ヲシ、ハシタワ、ドケダ、グンミーチャ、デー、リブラ」

 京子がその言葉を言うと服がコスプレ衣装に変わっていく。

 ……こいつが犯人だったんだな。

 ふと歩の方を見ると、微動だにしない。

「そんなちっぽけな魔力で戦おうなんて……笑止です。結界一つで動けないんですか?」

 とりあえず歩が結界で閉じ込められているので、結界を殴る。

「そんな攻撃が効くと思って……なっ!?」

 驚いてるな。まあそりゃあそうか。結界を拳一つで砕いたしな。

「あなた、何者なんですか?結界を素手で壊すなんて」

「ただの魔力を持った一般人だぜ」

「あなたみたいな一般人がいてたまりますか」

 そんなこと言われてもな。

 しばらくしてハルナもこっちにきた。

「なあ、アユムとヘッドホンの人。こいつ誰?」

「歩を殺した魔装少女だ」

「アユム達の敵?……だったら、あたしの敵だな」

 そう言ってハルナが両手を広げて立ちふさがる。

「へえ、面白い。ミストルティンはどうしました?素手で戦うつもりですか?……思い上がりもいい加減にして下さい!」

 だん。砂利だらけの地面を蹴り、こちらに向かってくる。歩はハルナを抱えてその場から飛ぶ。

 俺に迫っていた剣は体に触れた瞬間弾かれる。

「やっぱり武器は効きませんか……あなたもどうやったら死んでくれますかね」

「そう簡単に死なねえよ。……歩、とりあえずチェーンソー取ってこい。今のお前じゃ勝てないぞ」

 俺の言葉に歩は心配そうにしている。

「……わかった。絶対死ぬなよ」

「絶対死なねえよ」

 とりあえず京子に軽く攻撃して、歩の方に行けないようにする。

「……ほんとにあなた、何者なんですか?人が殴った威力じゃありませんよ」

「そう言われてもな。それに、これでも手加減してるんだぜ?」

 そんな会話をしながらも、俺は攻撃を続けている。

「武器が駄目なら……これならどうですかね?」

 そう言った京子の剣の先が赤い光を灯し、火球が現れる。

「そんなの効くと思ってんのか?」

「いいえ、思っていませんよ」

 破裂音と共に、ものすごい速さで火球が打ち出される。それは俺ではなくハルナの方に飛んでいった。

「……まさか結界まで使えるとは思いませんでした。ハルナに教わったんですか?」

「いや。知り合いの魔装少女に教えてもらった」

 俺達がそんな会話をしながら戦っていると、ようやく歩がやって来る。その隣にはセラもいた。

「遅かったな」

「悪い、少し遅れた」

 セラも来るとは思わなかったな。

「やれやれ、歩とヘルサイズ殿に言われて加勢に来てみれば……敵は人間――ですか」

「心配するな。あれは人間の皮を被ったバケモンだ」

「そうですか……あなたたちも大変ですね。この町は、私がいた里よりも殺し合いが多い」

「あれ?その目――」京子がセラを刃で指す。

「私と同じじゃないですか」

 そう言った京子の目が赤く染まる。くるりと身を翻せば、黒いマントを着ている。

「セラ……「知りません。私とはまた、別の力を感じます」」

 どうやらセラの知り合いではないみたいだな。

 京子を中心に紫の風が吹く。……メガロでもあるのか。

「なんでだよ……なんであいつ、メガロと同じ魔力持ってんだよ」

 ちらりとハルナを見ると、ぶつぶつと何かを呟いている。これじゃあハルナは戦えそうにないな。

「いきます」

 セラがそう言って木の葉の剣で突撃すると、紫の風が渦を巻く。

 幾度か剣を交えた頃、セラの背後の紫の風が細長い竜巻になった。

 逆手に握られた木刀が脇腹に食い込もうと襲い掛かり、セラは後ろに飛ぶ。そこで竜巻に巻き込まれ、弾き飛ばされたセラを俺は受け止める。

 怪我はそこまで酷くないな。

「なあ、どうしても聞いておきたいんだが、なんで人殺しなんかしたんだ?」

「相川さんだって、人を殺して永遠の命が貰えるなんて知ったら……殺すでしょう?」

「ふざけんな……そんなもん、欲しくねえよ」

「それは嘘ですよ。だって相川さん、不死身じゃないですか。九十九さんはどうですか?貴方は相川さん達と違って、不老じゃないみたいですし」

「そう言われてもな。別に俺は永遠の命なんて欲しいとは思わねえし」

「そうですか。……がっかりです」

 京子がそう言うと竜巻がもうひとつ作られ、バレーボールほどの大きさの独楽のようになった。

 高速回転しながら、竜巻は京子のまわりを衛生のように回る。

「なんだよ、あれ。あたし、あんなの知らない」

 ハルナが目を丸くしている。魔法の類いではないみたいだな。十中八九、吸血忍者の能力なんだろう。

「では、本気でいきますよ?」

 そう言って京子は突進を掛け、俺達はそれを迎え撃つ。

 俺は京子の後ろにまわり、京子の背中に攻撃をする。

「後ろから攻撃なんて卑怯ですね」

「不意打ちしたやつがなに言ってやがる」

 ……チッ、やっぱり避けられたか。本気というのは本当みたいだな。

 もう一度攻撃しようとしたところで、歩がこちらに抱きつく形で倒れてきた。

「セラ、お前何しやがる!」

「歩、さっさとどけ。俺にそういう趣味はない」

「俺にもねえよ!」

 歩がどいたので俺も立ち上がる。

「やっぱり変態ですね」

「お前が俺を蹴ったんだろうが!」

「あの竜巻は危険です。危うくすりつぶされるところでしたよ」

 だからって蹴るなよ。巻き込まれたじゃねえか。

 歩が正面から、セラは側面から、俺は後ろから攻撃する。まずはあの竜巻をどうにかしないとな。

 セラと歩の方に気をとられている隙に、竜巻に拳を叩きつける。

「なッ!竜巻を破壊した?ほんとに何者ですか、貴方!」

 やっぱり動揺したな。結界を破壊したときも驚いてたしな。

「秘剣、燕返し!」

 その隙にセラが京子に攻撃を仕掛けるが、ギリギリでかわされる。

 攻撃を防がれて舌打ちしたセラへ剣が払われる。

 セラが咄嗟に足を引いてかわしたからか、切断はされていないみたいだな。

 京子が追撃しようとしたところで、俺は石を投げて牽制する。

「ほんとに鬱陶しいですね。さっきから邪魔ばかり――」

 そこで歩が京子に踵落としをしたが避けられ、逆に攻撃される。

 歩が距離をおこうとバックステップをしたが、京子の竜巻に直撃する。

 あの竜巻、いつの間に作りやがった。

「このまま体をすりつぶしてあげます」

「それは困るね」

 歩はそう言って、攻撃してきた京子を抱き締める。

 京子の背後からセラが剣を歩ごと突き刺した。

 セラが剣を引き抜くと、京子の体は砂利の上に倒れた。

「終わったみたいだな。ゾンビの歩らしい倒しかただったぜ」

 そう言って俺は歩に近づき、手をさしのべて立ち上がらせる。すると、セラが俺に倒れ込んできた。

「おいおい、セラ。どうしたん――」

「歩!」

 セラの背中には、剣が突き刺さっていた。

 京子のやつ、死んだはずじゃなかったのか。

「一回死んでしまいました――ですが、残念です」

「どういうことだ?」

「私は、あと九回ほど死ねますから」

 まるでゲームの残機みたいだな。そういえばクリスが、膨大な魔力が必要だけど死人を生き返らせるアーティファクトがあるって言ってたな。

「歩、いったん下がるぞ」

 とりあえずセラを抱えてハルナのところまで下がった。歩も俺の言葉を聞いて下がる。

「もしかして生体の宝珠を使ったのか?」

「生体の宝珠?」

 俺の言葉に歩が首をかしげる。

「おや、どうして知ってるんですか九十九さん」

「言っただろ、俺の知り合いに魔装少女がいるって。そいつに教えてもらったんだ」

「そういえばそんなこと言ってましたね」

 京子はそう言いながらゆっくり歩いてくる。

「なあ神無、生体の宝珠ってなんなんだ?」

「生体の宝珠は、死人を生き返らせるアーティファクトだ。生きてるやつに使うと、一度だけ死を無効にする。確かそれには膨大な魔力が必要なはずだ」

「なるほど、そこでサクリファイスか」

「そういうことだ」

「サクリファイス?」

 ハルナが困惑に満ちた声で俺達に聞き返す。

「ようは、膨大な魔力があれば作れるんだろ?この世界の人間を殺して、それを膨大な魔力に変えれば、生体の宝珠とやらを作ることが出来る。そうだろ?」

「正解です」

「でも、こんな世界の人間の魔力なんかじゃ全然足りないはずだ!」

「夜の王ってやつに魂を生け贄として捧げると、すごい量の魔力がもらえるんだったか?」

「案外詳しいですね。まさかあの方のことも知っているなんて」

 次の瞬間、京子の体がぶれて歩の目の前に現れる。巨大な火球が歩へと放たれるが、いきなり消失した。

「あはっ、やっと来てくれました。お待ちしてましたよ」

 背後を振り返ると、そこには何故かユーがいた。

 なんで来たんだ?いつもはいたいはずなんだが。

 炎をユーが襲ったが、手を払うだけで消える。

「歩、なんでユーがここにいるんだ?」

「分からない。でも、ユーと一緒に戦えば――」

 歩がしゃべっているうちに、京子がユーに剣を降り下ろす。

 ユーはそれを防ぐが、一撃の重みに耐えきれず、ひざを崩す。

「あら?」

 京子が怪訝な顔をし、ユーを蹴り飛ばそす。

「……なるほど。その籠手には魔力を消す力があるのですか。すごい防具です。ですが、扱う人間が弱すぎます。……ちょっと残念ですね。膨大な魔力も勿体ない」

 ユーは戦闘能力はそこまでないのか。だから、いつも戦わないみたいだな。

 ユーはハルナからチェーンソーを奪い取り、何かを呟く。

 まさかユーも魔装少女になれるのか?

 俺の予想通りユーの姿は魔装少女の衣装に変わる。

「……着るやつが違うとここまで変わるんだな」

「俺もそう思ったけど、なんで俺の方を向いて言う!」

 そりゃそうだろ。歩とは雲泥の差だぞ?

 そんなことを考えていると、ユーがこちらに吹き飛んできた。

 やっぱりユーじゃ、京子には勝てないみたいだな。

「よし、ユー。一緒に――」

 ユーが地面を指差す。

『逃げろ 邪魔』

 逃げろと言われてもな。

『せめて 動くな 絶対に』

「あいつは九回も殺さなきゃダメなんだぞ?俺も一緒に――」

「歩、ここはユーの言う通りにした方がいい」

 俺の言葉にユーはうなずく。

「神無!?」

「ユーには京子に勝てる策があるんだろ」

 俺の言葉を聞き、歩はユーの目を見て一つ頷いた。

 

 

 

 歩side

 俺は、迷っていた。

 ユーは京子と斬り合いながら大木の方へと戦場を移したんだ。先ほどの青い目が忘れられない。暗がりの中、遠くに見える二人のところに向かうべきなのか、それともユーを信じてここで待つべきなのか。

 神無はユーの方をじっと見つめている。

「歩……」

 セラが意識を取り戻したようだが、顔が蒼白になっている。

 これは恐らく、あのときと同じだ。地が足りないんだろう。

「ハルナ、セラに血を分けてやってくれ」

「しゃーないなぁ。今回だけだからな」

 セラがハルナに口付けするのを見届けると、俺は立ち上がった。やっぱり、ユー一人に任せるなんて出来ないだろ。どんな勝算があるのかは知らないが、さっきの戦いかたを見てたら、心配で仕方ない。

 砂利を踏みしめた瞬間に、セラが俺の服を掴んだ。

「待ってください」

「何をだよ!」

 俺はセラの手を振りほどき、一歩前に進む。次にセラは肩をつかんできた。

「あなたがいっても邪魔になるだけです。ヘルサイズ殿の言葉には、とても強い力がある」

「その能力については聞いているさ」

 確か、言葉を聴いたものが言葉通りになる。みたいな恐ろしい能力で、使うと頭が痛くなるんだろ。

 ――ん?

「言葉を聴いたものが……。それって、対象者を選べないのか?」

「その通りです。見てください」

 セラに言われて大木の方を見ると、京子が膝から崩れ落ちている。すぐに立ち上がるが、また崩れ落ちた。それに対して、ユーはチェーンソーから手を離し、頭を抱えていた。

「ヘルサイズ殿は今、こう発言しているのです」

 

「死んで」

 

 その言葉を聞いて神無は、ユーの居る方向に歩き出そうとする。

 俺は慌てて神無の腕を掴むが、無視してそのまま進んでいく。

 くそッ、なんて馬鹿力だ。

「神無!今ユーの所に行ったらお前も死ぬぞ!!」

「止めるな、歩。そんな重い言葉、ユーに使わせられるかよ」

 確かに俺もそう思う。けど今ユーに近づいたらお前も死んじまうぞ。

 俺が神無の腕をつかんでいる時、墓場に激しい光が瞬いた。目を開けていられないほどの光に、力が抜ける。

 空から何かが降ってきた。それは、見るも無残になったガントレットにプレートアーマーの少女だった。綺麗な髪がふわりと広がり、神無のところに落ちていく。

 ユーが着ていた魔装少女のコスチュームが淡い光となって消える。

「おい、ユー!しっかりしろ!」

 珍しく神無が焦ったような声をあげている。

「まだ死んでいませんよ……その人の魔力を手に入れるために、わざわざこの姿で戦っておびき寄せたんですから」

 耳から血を流した京子が、こちらに歩いてくる。その表情は、狂気に満ちていた。

 こいつ、まさか自分で耳を破壊してユーの言葉から逃れたのか?無茶しやがる。

 京子は自分に剣を突き刺し、一度死んで傷を治す。

「おい、歩。ユーを任せる」

 そう言って神無が服を羽織っているユーをこちらに預ける。

 神無の方を見ると、珍しく怒ってるみたいだった。

「先に行くぞ」

 そう言って神無は京子に攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 神無side

「貴方だけで私が倒せますかね?」

「どうだかな」

 そう言いながら、俺は京子に拳を当てる。

「さっきよりもスピードが上がっている……?」

「言っただろ。手加減してるって」

「あれは本当だったんですか……」

 そんな会話をしながらも、俺は京子に攻撃し続ける。

 その時、木の葉の手裏剣が京子に突き刺さる。

「だらっしゃあああっ!」

 ハルナが緑色の剣を降り下ろすが、京子はしゃがんで避けた。

 セラが京子に攻撃し、変わり身の術で隙を作る。その隙に、魔装少女になった歩がチェーンソーで切りかかった。

「変――歩、すごく気持ち悪いぞ」

「お前、いま変態って言おうとしただろ!」

「何言ってんだ。変態じゃなくて変質者だ」

「余計悪いわ!」

 歩の攻撃は京子に避けられ、こちらに吹き飛ばされる。俺は歩の腕をつかんでたたせた。

「悪い」

「いや、問題ない。それよりも次で決めるぞ」

 俺はそう言いながらギフトカードを取りだし、疑似神格・梵釈槍(プラフマーストラ・レプリカ)を出す。

「なんですか、それ」

「そんなの教えるわけないだろ」

俺はそう言いながら、槍を京子に投擲する。

 京子は避けようとしたが、ハルナが結界を張ってくれたようで動かない。

「くっ」

 槍を木刀と剣で防ごうとするが、全て砕けて京子に刺さる。

 一際激しい雷光が周りを照らし、圧倒的な熱量を撒き散らして爆ぜた。

「おい、神無。今のはいったいなんだ!」

「今のは俺の切り札の一つだ。刺されば必ず相手を殺す槍だぜ」

「何で今まで使わなかったんだ?」

「負荷がすごいから1日一回しか使えないんだよ」

「終わりましたね……」

 俺達がしゃべっていると、セラ、ハルナ、遅れてユーがこちらにやって来る。

『終わったの?』

 ユーの質問にセラが答えた。

「ええ、神無がやってくれました」

 その言葉を聞いて、ユーが満足気な表情を浮かべる。

「それで、こいつはどうするんだ?まだ死んでないみたいだが」

 そう言って俺は裸の京子を見下ろす。まだ諦めてないみたいだな。

「ちゃんと息の根を止めてやらんとな」

 そう言って歩が京子に一撃を加えようとしたとき、白衣の少女が歩の腕を止める。……誰だ?

「おい、止めるなよ。こいつは生かしておく訳にはいか――」

「あなたがアユムさんですねぇ?ウチの生徒に何をするんですー?」

 この声、……アリエル先生か?

「大先生!あの、違うんです!アユムはバカだけど違うんです!」

 ハルナが今までで一番動揺している。やっぱりアリエル先生みたいだ。

「アリエル先生……助けて……」

「大先生、こいつはな、この世界でしてはいけないことをしたんだ。離してくれ」

「嘘です!私、そんなことする訳ないじゃないですか……」

「今更何を――」

「私、何度も説明したのに……その人たちが、よってたかって……ハルナまで」

「大先生、俺たちを信じてくれ」

「と言われましてもー、この子はいい子ですしぃ、何より――少なくとも今、あなたがしようとしていることがぁ、いけないことだと思うんですがぁ?」

 そう言いながら、アリエル先生は歩を投げ飛ばす。戦うしかないか。

「大先生!なんでアユムを信じないんだよ!アユムは……こいつらは……めちゃ良い奴なんだぞ!」

「んー、信じるにはぁ、材料が少なすぎますねぇ」

 アリエル先生がポケットから両手を出すと、剣が握られていた。

「そこの金髪の男の人、さてはとてもお強いですねー。私と組みませんかぁ?」

 俺のことみたいだな。

「ハッ、お断りだ」

「おや、その声はカンナさんですかー」

 俺はアリエル先生の言葉を無視し、攻撃を仕掛ける。

「素晴らしいですね~。これほどの人間がぁ、こんな世界にいるなんて」

「お褒めにあずかり光栄だぜ」

 そう言いながら、俺はアリエル先生を蹴りつける。

 アリエル先生はそれを避け、剣で俺に切りかかった。

「どうなってるんですかぁ~?剣を弾くなんて」

「誰が教えるか」

 そんな会話をしながらも、俺達は攻撃を続ける。

 その時、アリエル先生の背後から京子がアリエル先生を串刺しにした。

「楽しいダンスだった」

 京子から男の声が聞こえる。こいつ、京子じゃない?

「そんな……なんで……」

 そう言ったのは、怯えた顔をしたユーだった。

「おい、お前は誰だ」

「やあ、元気そうで何よりだ。そんなに恐い目をしないでくれ、ユークリウッド。まだ何もするつもりはないんだから」

 俺の言葉を無視して、男の声は喋り続ける。青い霧が京子の体を包み、持ち上げる。

「では、皆さん。また会いましょう」

「……アユムさんが正解だったのですね。もう、私を騙すなんて、駄目ですよ!」

 アリエル先生が刺された腹部を押さえながら声をかけるが、暗い霧と共に風にのって消えた。

「逃がしませんよぉ!待ちなさい!」

 そう言って、アリエル先生は京子を追いかけていく。これで終わりか?

 そう考えていると、ユーが俺の腰に手を回す。

「ユー?」

 何故かユーの手は震えていた。

「あんたすごいじゃん!大先生とあんなに戦えるなんて!」

 ハルナはそう言いながら、こちらを満面の笑みで見てきた。

「うまく歩けません。肩を貸してください」

 そう言われたので、俺はセラに肩を貸す。

「ユー、さっきのはなんだったんだ?」

 歩が、俺も気になっていたことをユーに聞く。

『あれは あの霧は 私が消滅させたはずの――』

 

『ゾンビの力』



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第八話 みんなで料理

 京子の事件が終わった。

 アリエル先生は結局京子を逃がしたらしい。一応捜索は続けるらしいが。

 そして今、俺が何をしてるのかと言うと、

「おい、セラ。どうしてプリンを作ったら石鹸が出来るんだ?」

「神無が用意した材料に問題があるのだと考えますっ!」

「俺が用意したのはちゃんとしたものだ!」

 俺達は料理を作っていた。はっきり言って料理とは言えないが。

「もう一度言うが、アレンジを加えようとするな。そういうのは、ちゃんと出来てからだ」

「全く。ちゃんと教えてるのに、なんで葉っぱの人は出来ないんだ」

 ハルナが文句をいっている。俺も同感だ。

「みんなでもう一回作ればいいんじゃないか?」

 いつの間に帰ってきたのか、歩がそう言う。

「……まあ、アユムがそういうなら」

「――そうですね。すぎてしまったことは忘れましょう」

「でも、プリンが石鹸にはならんよな」

 やっぱりプリンはまだ早かったか?

「ほら、アユムとカンナ!さっさとじゃんじゃんバリバリ作るぞ!」

 ハルナが俺達の手を引き、大きく足を踏み出す。

 あの事件から、ハルナは俺のことをちゃんと名前で呼ぶようになった。どういう理由かは知らないが。

「では、私が牛乳を唐津焼に――」

「セラ、プリンを作る行程に牛乳を唐津焼にするなんてものはない」

 もっと簡単なものにした方がよかったか?

「そういえば、なんで急にプリン作りなんか始めたんだ?」

 歩がそんなことを言う。そういえばそうだな。俺としては料理ならなんでもよかったんだが。

「喜べアユムっ!メガロ駆逐作戦に抜擢されたんだっ!」

「……お前、変身も出来ないのに?」

「あたしじゃないっ!アユムとカンナがやるのっ!」

 歩だけかと思ったら俺もやるのか。まあアリエル先生と二人とも本気ではなかったとはいえ、ほぼ互角で戦ってたからな。

「この世界にメガロも魔装少女もたっくさん集まるんだ!ああ、爽快だろうなー」

 ハルナは両手を広げ、くるくると楽しそうに笑う。

 ユーの方を見ると、どこか寂しそうな表情を浮かべている。

 そういえばユーはこの生活のことはどう思ってるんだ?

 ハルナは楽しんでるみたいだし、歩も同様だ。セラも心を開くようになった。

「なあ、ユー。お前はこの生活のこと、どう思ってるんだ?」

 俺が聞くと、トントンと机を叩く。視線を落とすと、

 

『嫌いじゃない』

 

 そう書かれていた。

「そうか」

『神無はどう?』

 俺か?俺は――

「毎日楽しいぜ」

 俺の言葉を聞いて、ユーは――少し微笑んだような気がした。



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第二章 そう、私は死を呼ぶもの
第九話 テスト勉強ともう一人のゾンビ


 京子を取り逃してから四日が過ぎた。

 京子は未だに行方が知れない。アリエル先生も探してるみたいだが、どうも難しいようだ。

「なあ神無……お願いがあるんだ」

「どうしたんだ、歩」

 突然歩が俺に話しかけてくる。どうしたんだ?

「勉強、教えてくれないか」

 そういやあ、歩はいつも授業中寝てたな。

「しょうがねえなあ」

「助かる」

 復習になるし、別にお礼なんて言わなくても良いんだけどな。

 

 

 

 俺達は家に帰って鞄を部屋に置き、居間に行く。

「さて、早速始めるか」

「ああ」

 歩はそう言いながら、数学の問題集を広げる。

「アユム、カンナ。なにやろうとしてるわけ?」

「勉強だ。来週からテストだから歩が俺に教えてほしいんだと」

「テスト?なんの?」

 ハルナが小首を傾げ、ユーがテーブルを二回叩く。

『多分 耐久力』

 それはない。

「衝突実験だなっ!」

「無茶言うな。そんなテスト、俺と神無しか受けられないだろ?」

「ハルナ、筆記試験だ」

 俺は簡単に説明する。

「なあ神無。ここの問題ってなんだ?」

 そう聞かれたので、歩が指している問題を見る。

「ああ、ここはな――」

 そう言いながら、俺は歩に分かりやすく教える。

「ああ、そういうことか」

「ていうかさ、こんなとこテストに出るの?」

 そういえばテスト範囲はもう少し先だった気がするな。

「……いや、テスト範囲はもっと先だが」

「はあ?じゃあなんでこんなとこやってんだよ。アユムってそんっなにバカなの?脳にシロアリでも棲んでんの?」

「でもさ、やるなら最初からやらないと」

「で、このテストいつなんだよ」

「月曜日だ」

「あんた、勉強嘗めてるだろ?あたしがヤマ張ったげるから、ちょっと貸せよな!」

 ハルナはそう言って、歩の問題集をパラパラとめくり、

「なんだよこの簡単な問題集。このレベルで……今の時期から見て――この辺りからがテスト範囲?」

 さすがだな、ハルナ。歩はそれを聞いて少し悔しそうだな。

「じゃあ、ねー。こことここ、あとは――」

 そう言って次々と丸をつけていく。

「でもな、ハルナ。俺にはそんなところ、全然わからないんだよ」

「知るかっ!やってみない内から何言ってんだ!カンナにでも教えてもらえ!」

 正論だな。まあ、頼まれた以上はちゃんと教えるが。

「テスト科目の教科書全部持ってこいよなっ!」

 そう言うハルナはいつもの笑顔だ。その反面、ユーはとても寂しそうな顔をしていた。

 いつもは無表情だが、最近はずっと寂しそうな顔をしている。

 やっぱりあの時のことが関係してるのか?

 京子の背後にいるやつは、歩と同じ『ゾンビ』らしい。そいつと何があったのか、今まで気になっていたがこの際聞いてみるか。

「そういやあ、ユー。歩以外に、ゾンビっているのか?」

『居ないと 信じていた』

 信じていた――ねえ。

「それはいったいどういう奴で、ユーとの間に何があったんだ?」

「それは俺も気になってたんだ。俺にも教えてくれ」

「私も興味があります。差し支えなければ、是非」

「あたしはどーでもいいけど、聞いとく」

 俺達がじっとユーを見つめていると、ユーは少し考えてから机を二度叩いた。

『冥界には 私と同じように強い能力を持ったものが居る

 彼はその中の一人で とても強くて頼りになる存在だった

 だが メガロに死があるように 彼にも死が訪れた

 私は 彼をゾンビに変えたが 死なない体を手に入れた彼は 悪意に飲まれていった

 私だけが 彼を止めることができた だから 私は言葉にした

 

 消えて と

 

 私たちは彼が消滅したと思っていたが

 どうやら その場から消えただけだった』

「その者がヘルサイズ殿へ、なにをするつもりだとお考えですか?」

『彼は とても私を恨んでいた

 どんなことがあっても守ると誓い合ったのを

 裏切ってしまったのだから 当然』

「も、もしかして恋人とかっ?」

 ハルナが顔を赤くしている。確かにそれっぽいが。

 だが、それを聞いてユーは首をふった。

『彼は何かを企んでいる』

 ………面倒ごとが起きそうな予感がするな。

 ユーの話を聞いて、みんな黙っている。そんな空間に耐えられなかったのか、ハルナが、

「し、心配すんなよなっ。あたしに任せろっ!絶対絶対、大丈夫なんだからなっ!」

 何の根拠もなく、胸を張る。ハルナらしいな。

「そうです。私が守ります」

「俺も、ユーのためならなんでもするさ」

「俺も同感だ」

『ありがとう』

 俺や歩だけではなく、セラとハルナがユーのために何かしたいと考えたのは、京子との一件で絆のようなものが芽生えたからかもな。

 他にも聞こうとしたが、携帯が鳴ったので俺は居間から出つつ携帯を取り出す。

 この特徴のある電話番号、アリエル先生か?

「もしもし」

「あ、カンナさんですかぁ?」

 やっぱりアリエル先生か。

「ハルナに変わった方がいいか?」

「いえいえー、カンナさんにー、お願いがあるんですぅ」

「――何かあったのか?」

「え?わかりますぅ?ちょっと困ったことになりましてぇ、カンナさんにしか頼めないことができちゃったんですよー」

 だんだん喋るペースが早くなる。どうも切羽詰まった状況みたいだな。

「俺でよかったら、やってもいいぞ」

「そう言ってくれると思ってましたよ~。助かりますぅ。えっとですねー、ちょっと預かって欲しいものがあるんです。あ、私が取りに行くまでの間だけでいいんですけどぉ」

「別に問題ないが、ハルナには言わない方がいいか?」

「はい。ハルナにも内緒でお願いしますぅ。あ、もう切りますねー。とにかく~、絶対送りますからぁ、ハルナにもわからないようにしてくださいねぇ」

 そう言って電話が切られる。

 そういやあ、いつ来るのかも、何が来るのかも言ってなかったな。



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第十話 偽メガロ

 三日後の月曜日、テスト当日。

 アリエル先生は急いでるようたったし、すぐに預かりものが来ると思ったが、一向に送られて来なかった。

 その間、俺は歩の勉強を見ていた。

 あれだけ分かりやすく教えたんだ、八十点はいってほしいところだな。

 俺が帰る準備をしていると、一人の男子生徒が大急ぎで入ってきて、教室に残っていた生徒をほぼ全員連れて廊下に出ていく。何かあったのか?

「騒がしいな」

 歩の言葉に呼応して、織戸が席を立つ。

「俺も、ちょっと見てくるわ」

 そう言って織戸が廊下に向かい、顔を出すとかなりの速さで俺達の席にやって来る。

「相川!九十九!」

 うるせえな。ちょっとは落ち着いてから話せ。

「セラさんが来てるぞ!」

「は?」

「あ?」

「相川か九十九、お前らが呼んだのか?」

 俺は呼んでないはずだが。歩の方も同じみたいだぞ。

 ドアの方を見ると、セラがこちらに近づいてきていた。その手には弁当箱を持っている。

「歩、ハルナからこれを預かってきました」

 ん?今日は弁当は要らなかったはずだけどな。

「お前が、わざわざ弁当を届けるために来てくれたのか?」

「いえ――ついででしたから」

「ついで?」

「この学校には、旧友が居るのですよ」

 へえ、旧友ねえ。まあ、ゾンビや魔装少女がこの学校に居るくらいだ。吸血忍者が居てもおかしくないか。

「そうそう、ハルナから伝言です。『あたしの料理が食べれないって言うのか。死ね。気持ち悪い』……確かに伝えましたよ」

 ああ、そういうことか。大方、歩が今日は弁当いらないからとか言って、ハルナが勘違いしたんだな。

「では、私はこれで――」

「そうだ、セラ。今日はもう授業がないし、一緒に帰らないか?」

 俺の言葉に、セラは足を止めてこちらを見る。

「……歩、授業がないのに弁当を届けさせたのですか?」

「どうせハルナが勘違いしたんだろ。それで、どうする?」

 俺の言葉にセラは少し考える仕草をし、

「わかりました。私もこれから帰ろうと思っていましたので」

 そう答えた。

「じゃあ、俺も一緒に――」

「「来んな」」

「おいおい相川と九十九、卑怯だぞ!ちょっと一緒に住んでるからって――」

「な、なにいいいぃいぃぃぃぃーっ!」

「うるせえ」

 俺がそう言いながら睨むと、教室は静かになる。

 織戸が俺の肩をつかんで激しく揺らしながら、

「なあ九十九ぉ……セラさんもそうだが、ハルナちゃんもユウちゃんも、美少女ばかりとどうやって知り合っ――」

「てい」

 とりあえずうざかったので俺は織戸の額にデコピンをした。

 俺のデコピンを受けた織戸は額を押さえながら床の上を転がる。

 すると、歩が俺とセラの手をつかみ、教室を出た。

「おい、待てよ相川っ!」

 そう言った織戸は涙目だった。

「歩、そんなに急ぐ必要もないでしょう?」

「セラ、お前はいいのか?変な注目を浴びて。神無もそう思わないか?」

「俺は特にそうは思わないぜ。それに、今さら気にしても遅いと思うぞ?」

「ええ、私も同感です。それに、気にすればさらに注目を浴びますよ」

 確かにセラは目立つからな……。俺も注目を浴びることがあるから分からないこともない。

 そんなことを考えながら歩いていると、その横を駆け抜けたツンツン頭がいた。

「セラさん!お久しぶりっす!」

「……」

「いやあ、今日もお美しいっすねぇ!」

「……」

「あ、昨日のクイズ番組で――」

「五月の蠅ですね」

「ハエ?どこですか?叩き落としてやりますよ!」

 織戸、もしかして気づいてないのか?……まあ、知らない方が幸せなこともあるしな。

 下駄箱についたので、上靴を靴箱にいれて校舎から出ようとすると、歩が立ち尽くしていた。

「?……ああ、そういうことか」

 そういやあ、歩はゾンビだったな。

「悪いが、今日は傘を持ってきてないから引きずってくが問題ないか?」

「それでいいから運んでくれ」

 俺は歩の襟首を掴み、歩を引きずって校舎を出た。俺が歩を引きずっているからか、周りから変な目で見られたけどな。

 ……明日はちゃんと傘を持ってくるか。

 

 

 

 歩side

 なんとか家に辿り着いたようで、目が覚めると、自分の部屋で寝転がっていた。

 ちゃんと部屋に入れてくれるとは、流石神無。これがセラだったら玄関に放置するんだろうな。

 気だるい体をなんとか起こし、大きく伸びをする。

 ん~……さて、とりあえずカバンから教科書を出すか。

 少し動くのもダルい。日光を浴びるとここまで気分が悪くなるものなのか。ゾンビの体ってのも、難儀なもんだ。

 机に置かれていたカバンから教科書を取り出す。

 ……勉強はあとからやろう。今の状況じゃ無理だわ。さっと着替えを済ました俺は、愛用の弁当箱を取り出す。

 ハルナの作る料理に不味いものはない。人にはそれぞれ味の好みがあるが、あいつはなぜか万人に愛される味を作り出せるんだ。

 なので、せっかく用意してくれたんだし、とりあえず腹ごしらえをしようじゃないか。

 今日のメニューは……えーっと……ヒジキ……のみ。

 ヒジキのみかよ!こんにゃくとか五目にするとかあるだろ?ヒジキオンリーなんて初めて見た。真っ黒とか、食べる気が失せてくるな。――いや、まあ、食べるけどさ。

 全く、少しは神無を見習ってほしい。神無なら、ちゃんと彩りも考えてるぞ。

 くそ……やっぱり美味いじゃないか。ヒジキあんまり好きじゃなかったのに……。それでも、弁当箱一つ分はいらんな。

 そうだ。抗議しにいこう。今は学校じゃない。部屋を出てすぐそこの部屋に、ハルナは居るはずだ。

 勉強は、そのあとで。

 俺はヒジキにまみれた弁当箱を持参して、ハルナの部屋の扉を勢いよく開けた。

「ハルナ!」

 ……あれ?

 ハルナの部屋には誰も居なかった。飯時とか何か悪巧みを思いついたとき以外は、ずっと引きこもっているはずなんだが。――てことは、悪巧みをしているのだろうか?

 もしかしたら、ユー達と一緒にテレビを見ているかもしれない。

 弁当箱を持って居間に顔を出してみたら、ユーとセラが主婦のように昼ドラに夢中だった。その横では、神無が昼飯を食べていた。

 こちらに顔を向けることなく、ユーはボールペンを持ち、机を二回叩く。机に目を向けると、いつもの切り離すタイプのメモ帳とは違うメモ帳が開いていた。

 新しく買ってきたのだろうか。

『おかえりなさい』

 俺はその文章を目にして驚いた。

 なぜならば、一ヶ月ほど一緒に暮らしてきて初めて言われたからだ。やっぱりこういう挨拶があると嬉しいもんだな。

 まるで……そうだ。

 

 まるで家族みたいじゃないか。

 

 思わず笑みが零れてしまった。挨拶っていいもんだな。

 正座して俺を見上げるユー。いつもは瞬くことのないまぶたが、ゆっくりと下りる。そしてまた開かれた大きな青い目が俺を見つめていた。

 返事を待っているのかもしれない。

「ただいま。ハルナを見なかったか?」

 俺はあぐらをかいて弁当箱をテーブルに置き、ユーへ最高の笑顔を投げ掛けたが、ユーはいつもから想像も出来ない素早さで俺から顔を背けた。

 あれ?なんで?

「ハルナなら出かけてますよ?」

 正面に座るセラが小さく答えた。セラはちらりと俺の顔を見ると、人差し指を曲げて魅力的な唇に置く。

「どこへ?」

「存じません」セラはコホンと喉を整えた。「私が帰ったとき、すでに姿は――」コホンコホンと何かを隠すようにわざとらしく咳をする。

 こいつ――なにを隠そうとしているんだ?

「神無は聞いてないか?参ったな。言いたいときに言わないと、また忘れそうだ」

 神無はこちらをちらりと見ると、口を手で押さえ顔を背けた。

「いや、聞いてない」

 神無は俺に背を向けたままそう答えた。

 俺はやれやれと首を横に振りながら、

「あのバカ、どこへ消えたんだ。全く――」

 ハルナの噂をしていたからだろう。玄関の扉が開く音が聞こえ、続けて階段を駆け上がる音、そして階段を駆け下りる音がする。

「アユム帰ってるだろっ!こんのバカ!変態!」

 居間へやってきての第一声からこれだった。

 俺がもたれかかるように首だけを向けると、そこにはチェック柄の短いスカートを履いたハルナが居たんだ。

 スカートなんか珍しいな。学校の制服か何かだろうか?

 いいところに帰ってきたな。俺はヒジキの入った弁当箱をハルナに見せるようにして、声を掛ける。

「ハルナ――」

「やっぱり!あんた、あたしの部屋に入ったろ!」

 あー、そう言えば戸を閉め忘れたな。

 ハルナは俺を見下ろして硬直した。

 俺は少しからかい気味に、

「ハルナ、パンツ見えそうだぞ」

 こう言うと、ハルナは顔を紅潮させて、いつもみたいに「うきゅー」とかアザラシのような声を出すと思ったのだが、

「あはっははは、あはははは!」

 なぜかの大爆笑。腹を抱えてアホ毛をぴょこぴょこさせている。それにつられたのか、神無も腹を抱えて笑っている。

「なんだよ……その顔……ヤバッ!にゃは、はははははは!」

「顔?」

「鏡見てこいよ!もう、ダメ……あははははは!」

「ちなみに、私ではありません。あのハリネズミのような男がやったことです」

「ちなみに、俺でもないぞ。俺は止めようとしたんだが。……というか早く顔をどうにかしてくれ」

『てっきり 笑わせようとしているのかと』

 鏡……ハリネズミのような男……笑う。

 これらのキーワードが指すものは一つしかない。

 ユーがそっぽを向いていたのも、セラがわざとらしく咳をして何かを隠そうとしていたのも、神無が口を手で押さえていたのも、そのためか!

 急いで洗面所にいき、鏡を見る。

 俺の顔には、中学生の教科書のような、程度の低い落書きがされていた。

 額には『无』の文字、口の端からは赤いペンで吐血した感じを出している。目の周りやこめかみ、隅々まで歌舞伎役者を参考にしたような落書きがされていた。

 頬には吹き出し風に『いえいえ、滅相もありませんよ』

 額への落書きは『肉』だろ、普通。

 セラが買ってきたであろう、『炭の成分で毛穴の頑固な汚れまで落とす洗顔フォーム』を使って顔を洗う。

 明日、絶対織戸を殴ろう。いや、それだけじゃ気が済まん。拷問に掛けてから完膚なきまでに粉砕し、釜茹でにしてやろう。――メガネをなっ!

 すっきりした俺が居間へ戻ると、ヒジキしか入っていない弁当をセラと神無に食われていたので、俺は口を薄く開けた状態で一瞬固まった。

 まさか二人が盗み食いをするなんて。

「セラと神無、それ俺のなんだけど」

「お気になさらず。私はヒジキが好きなので」

「ハルナが新しく作った料理が気になってな。つい」

 そうか。それはよかったな。――もう我が手には帰ってこないことを確信し、俺はタオルを首に巻いたままあぐらをかく。まるでおっさんのようだと自分で思ってしまった。

「なあなあ葉っぱの人、美味い?」

 ハルナは是非ともヒジキの感想を聞きたいようだ。いや、褒めてほしいのだろう。頬杖をついたままに幸せそうな笑顔でゆっくりアホ毛だけを揺らし、セラを眺めている。

「……それなりに」

 捻くれた表現だった。セラはハルナの料理が出来る部分に嫉妬してるからな。認めるが褒めたくはないんだろう。

「じゃあ、カンナはどうだ?」

 ハルナはその表現では満足できないようで、次は神無に感想を聞くようだ。

「かなり美味いぞ。どうやったらこんなに美味く作れるんだ?」

 神無の感想を聞いて嬉しいのか、ハルナのアホ毛がぴょこぴょこ動いている。

「ほら、根暗マンサーも食べていいんだからな?しゃーなしだぞ?」

 あれ?俺のじゃなかったのか?

『いいの?』=『お兄ちゃんのじゃないの?』

 ハルナは俺に荒んだ目を向けてから、

「しゃーなしな」嫌みったらしい声を出した。

 なんでそんな目で見るんだ?部屋に入ったのがそんなにイヤだったのか?

「そういやあ、ハルナはどこに行ってたんだ?」

 丁度俺が聞きたかったことを、神無がハルナに質問する。

「学校」

「は?」

 神無はその言葉で納得したのか、なにも言わない。

「なんだよ。あたし学生なんだけど?」

「いやいや……どこの学校だよ」

「どこって……マテライズ魔法学校に決まってるだろ?」

 ハルナは普段、あまり履かない。どうやらこのチェックのスカートは魔法学校指定のものらしい。

「お前が授業をまともに受けるとは思えんが」

 もしかしたら、俺が勉学に勤しんでいる姿に心打たれ、自分も授業へ出ようと思い立ったのではないかと思ったが、

「授業なんか二秒しか受けてない……ほんと、あんなの何が楽しいんだか」

 どうやら違うらしい。

「じゃあ、何しにいったんだよ」

「ちょっとミーティングに呼ばれただけ。なんか、この地域にメガロが大量発生してるらしいからって。どうせ全部狩るんだし、ミーティングするまでもない話だけどな」

 へー、そうなのか。

 ……って、この地域の話かよっ!勘弁してくれよ、もう。

「そうか。まあ、でもヴィリエに帰れるようになったんだな」

 よかったよかった。と言葉を続ける前に、ハルナは怒りの形相を見せた。

「……帰れる訳ないだろ!早くあたしの魔力返せよな!」

 ハルナの言葉にユーがびくりと反応した。

 ハルナはどうやら、まだ俺が魔力を奪ったものだと考えているようだ。だが、奪ったのは俺じゃなくこのユーだろうと俺は推測する。

『ハルナ お菓子を作って欲しい』=『ねえねえ、ユーお腹空いちゃったよぉ』

 だからユーはこの話題を変えたかったのだろう。

「私が「俺が作ろうか?」」

 ヒジキを口に残したままセラが提案しようとしたところで、神無が口を挟む。

 ナイスだ!神無。

 セラは神無に遮られ、少し不満気にしていた。

 神無の言葉にユーが頷く。

「それで、何が食べたい?」

『クリスチャン・ベール』=『え――――っとぉ』

 おやつにしては、えらい豪華な俳優を選んだな。俺にはその名詞を脳内変換することが出来なかった。翻訳用の脳内ユーがしどろもどろになっている。

 神無も分からないようで、表情がひきつっていた。

 だが、

「シュークリーム?」とハルナが聞けば、ユーはこくりと頷いた。

 お前は暗号解読のプロか?

「分かった。材料は大体あったから作れると思うぞ。ちょっと待ってろ」

 そう言って、神無は台所に向かって歩いていった。

「そういえば、ハルナはいつもどこから食材を調達してるんだ?」

 日頃の疑問をぶつけてみた。

「あんたバカでしょ?支給されるに決まってんじゃん」

 どうやら、支給されることが決まっているようだ。「これだからバカは困る。少しはカンナを見習え」と、アホ毛が肩を落としているように見えた。

 まあ、ハルナはバケモノ退治にこの世界へやってきて命を懸けている訳だし、それなりのものを用意してもらえるんだろうな。

 ハルナの作る料理が妙に美味いのは『この世界の材料を使っていないから』なのかもしれない。

「でもな、メガロ退治の報酬がヒジキじゃ割に合わないだろ?」

「はあ?なんだよそれ。――仕事ってのは、食うためにやるんだろ。それ以外に何が必要な訳?なんだったら納得出来るんだよ。ダーツ投げて、パジェロでも当たれば満足すんの?」

「ヒジキよりはな」

「ですが歩、このヒジキはそこそこの味ですよ?恐らくパジェロよりも――」

 セラは険しい表情でごくりと白い喉を鳴らした。

「お前、パジェロがなにかわかってないだろ?」

『黒人歌手のこと』

 ……パの部分はどこへ飛び立ったんだ?

 

 

 

 神無side

 三日後の木曜日。テストは順調に進んでいた。

 今回のテストも問題なく終わり眠くなってきたので寝ようとしたところで窓の叩かれる音がした。いったいなんだ?

 ちらりとそちらを見るとハルナが張り付いていた。もしかしてメガロか?

「アユム、カンナ!メガロが出た!いくぞ!」

 窓越しに大きな声を出す。おいおい、そんな大声出したら気づかれるぞ?

 一応テスト問題の書かれた用紙に『ちょっと待ってろ』と書いて見せたとき、丁度チャイムが鳴り響いた。

 テストを提出して窓の方を見ると、ハルナはいなくなっていた。

 ……もしかして先に行ったのか?

 とりあえず歩にその事について聞くか。

「おい歩、ハルナは?」

「たぶん、先に行ったんだと思う」

 マジかよ。

 とりあえず窓から外を見るとハルナらしき影が走っていくのが見えた。

「歩、ハルナを見つけた。行くぞ」

 そう言って俺は歩を担ぎ上げ、窓から飛び降りる。

「は?」

 後ろから驚きの声が聞こえるが放置だ。

 全く。ちょっと待ってろって言ったんだがな。

 

 

 

 太陽の下だろうが関係なく進んだせいか、ハルナにはすぐに追い付いた。

 ……歩は干からびたが。

「ウマー」

 そう言いながらハルナに攻撃しようとしたのは三メートルを越える巨大な馬。

 俺はハルナに攻撃が当たらないよう、馬の蹄を弾く。

「アユ、ム……?」

「いや、俺は神無だ。それより歩はさっさと変身しろ。その状態じゃ足手まといだぞ?」

 そう言いながらハルナの持っていたチェーンソーを投げ渡した。

「わかってるよ。……はあ。ノモブヨ、ヲシ、ハシタワ、ドケダ、グンミーチャ、デー、リブラ!」

 変身シーンは省略する。ただ一つ言えるのは、俺のSAN値が削られただけだ。

 俺が馬から眼を離した隙に、馬の蹄が俺に向かってくる。

 それを片手で受け流し、回し蹴りを馬の顔面に当てる。

 それをもろに食らった馬はマンションの壁に吹っ飛び、粒子となって消えた。

「……俺、要らなかったんじゃないか?」

「そんなわけないだろ。それに、こいつだけじゃねえぞ?」

「アユムっ!後ろっ!」

 歩が何か言う前に背後から触手のようなものが歩の体を貫通する。

 俺の方にも来たが、気配には気づいていたので触手を弾く。

 攻撃してきたのは、何十匹ものクラゲだった。

 ハルナを庇いながらだと、流石に少しきついか?

 このクラゲをどうやって倒そうか考えていると、ふわりとマントが広がる。

 セラか?いや、あの身長からしてセラじゃねえな。

「誰だ?」

「あなたに、会いに来た」

 そう言った少年――いや、少女か?それにあの顔、どっかで見たような……

 俺に会いに来たってことは、もしかしてアリエル先生関係か?

「あれ?オレ――」

 きょろきょろと辺りを見回す少女。すると、片手に持っていたものをクラゲにぶっかける。あの臭いは……とんこつラーメン?

 それがかかったメガロはのたうち回り、キラキラと粒子になって消える。

 十中八九、あのメガロが特別で弱点はとんこつスープなんだろう。そうじゃなきゃ、魔装少女なんていらないからな。

 そんなことを考えていると、セラがやって来て周りのメガロを切り伏せていく。

 全てのメガロを倒したあと、少女がセラに笑顔で話しかけた。

「セラフィム!ひっさしぶりだなー。元気にしてたか?」

「近寄らないで下さい」

 そう言ったセラは少女の足を払い、チキンウイングで腕を固めてから冷ややかに言った。

 騒いでいる少女を無視して、俺は歩を立たせる。

「歩、大丈夫か?」

「ああ、一応な。それよりセラ、そいつは知り合いなのか?」

「ええ。まあ」

 やっぱり知り合いか。それよりもこのままじゃ腕が折れそうだな。

「おい、セラ。離してやれ。このままじゃそいつの腕が折れるぞ」

「しょうがありませんね」

 そう言ってセラは少女の腕を離した。

「お前のおかげで助かったぜ、ありがとな」

「気にするな」

 俺達が話している間、ハルナを起こしにいっていた歩がセラに質問する。

「セラ、そいつは何者なんだ?」

「名はメイル・シュトローム。吸血忍者ですが、私とは敵対している派閥の人間ですよ」

 そういやあ、吸血忍者同士で争ってたって言ってたな。

「現在、吸血忍者には二つの派閥が存在するのです。我々は保守派、メイルは革新派の吸血忍者です」

 へえ。つまり、セラが来る前に来ていたやつらは革新派か。

「それよりもセラフィム!お前本気で腕折るつもりだったろ!」

「まあ、セラとくっつけたんだし、いいだろう?」

 そう言いながら、歩がメイルの肩を組む。

 あいつ、何やってんだ?もしかしてメイルが女って気づいてないのか?

 歩がメイルに何か耳打ちすると、メイルは体を震わせて肩をすくめる。

「うわぁあっ!み、耳元で喋るなーっ!」

「相川君、それ以上はセクハラになると思うのでやめた方がいいと思いますよ?」

「相川君!?それよりも神無、なんだその敬語は!というか、こいつは男だぞ?」

 やっぱり女だって気づいてなかったか。敬語は悪ふざけだが。

「アユム……もうメガロも倒したんだし、帰ろ?」

 そう言いながら、ハルナが歩の服をつかむ。

「なん、なんだ……こいつは……離れろよ。キショイんだよっ!お前どこ中だよっ!」

「歩、そいつからさっさと離れろ。そいつは――」

「もうっ!アユムのバカっ!あたしを無視するなよなっ!」

 ハルナが歩の背中を押し、メイルは歩に押し出される感じで倒れてくる。――何故か俺の方に。

 ……これ、避けられないぞ。第一、メイルが腕を伸ばしてるから左右どちらにも移動できねえし。

「う、うわっ!うわああああ!」

 次の瞬間、その場にいる全員に衝撃が走った。

 体勢が悪かったのか、俺とメイルは唇を重ねてしまったようだ…

 

 歩side

 目の前の少年が神無を押し倒すように唇を重ねている。

 俺はその後ろで倒れていた。

 すまん、神無。

 ……まあ、男同士だしノーカンだよな。神無もそこまで気にしないだろ。

 ん?セラは「うわあ」と言いたげな表情で引いてるし、ハルナは口を三角形にして顔を赤くしてる。なんだこの感じ。俺、何か取り返しがつかないことやっちゃったか?

「……悪い、ちょっとどいてくれ。歩と話がある」

「お、おう」

 少年は顔を赤らめて、その場から離れる。

 なんか、神無の後ろから怒気のようなものが――

「おい、歩」

「は、はい!」

「まず一つ、こいつは女だ。男じゃない」

「なん……だと」

「二つ目、後ろを見ろ」

「へ?」

「アユムの変態っ!ヤックデカルチャーがっ!」

「では、私もっ――」

「ついでに俺にも殴らせろ」

 俺が背後を振り返った瞬間、ハルナとセラの蹴りが俺の首を刈った。

 その後、神無の右ストレートを顔面にもらった。

 

 

 

 神無side

 歩の顔面に右ストレートを当てた後、ハルナは顔を赤くして逃げるように帰っていった。

 今現在、俺達は屋根の上を足音も立てずに走っている。歩は足音を消していないが。

 メイルが足を止め、指を指す。

「最近、妖怪の数が半端ないんだ。ほら、見てみなよ――」

 そこにはくまのような巨大な生物――学ランを着てるからメガロだろうな。

 だが、たぶんあれは今までのメガロと違うな。もう少し知性があったはずだ。

 そのメガロを対処してるのは三人の吸血忍者。その手にはラーメンの鉢が握られている。

 メガロの一瞬の隙をつき、とんこつラーメンをかけた。

 それをかけられたメガロはもがき苦しんだ後、粒子になって消えた。

 あのメガロもさっき戦ってたのと同じで、とんこつスープが弱点か。

「何をしたのですか?」

 メイルの話を聞くと、俺の予想通りとんこつスープが有効とのこと。

「それでもやつらの強さはすげえよ。一発で倒せる手段を持ってても、今みたいに三人がかりじゃないと無理ゲーなんだぞ?」

「メイル、あなたの力でも?」

「オレを嘗めんなよ。オレなら一人でもやれるぜ。……そこで、オレたちは対策を練ったんだ。まあ、ついて来いよ」

 再び走り出したメイルのあとを俺達は無言でついていった。

 

 

 

 俺達が連れてこられたのは、廃ビルの中の一際大きな部屋。

 そこには十三人ほどの吸血忍者がいた。

 部屋の隅には貯水タンクのようなものが置かれている。

「セラ、あれが何か分かるか?」

「この装置は――天候を操ることの出来るものです」

「へえ。ってことは、とんこつスープの雨でも降らせるのか?」

「お前、よくわかったな!これが、オレたちの対抗手段さ。すげえだろ」

 やっぱりそうか。まあ、これくらいは考えればわかると思うぞ?

「メイル!どうしてセラフィムなんかを連れてきたんだ!奴は保守派だぞ!」

「ああああっ!敵対してたの忘れてたっ!」

 おいおい、マジかよ。敵対してたの忘れるとかバカなのか?

「いや、お手柄だった。セラフィム、お前にお願いがある」

 装置の横で座っていた男が口元を隠しながら、そう切り出した。セラは何も答えず、表情も変えない。とりあえず聞くって感じか。

 その反応に満足したのか、ウェーブのかかった髪をした女性がにっこりと微笑み、

「セラフィム。妖怪が大量発生しているのはもう知ってますか?」

「ええ」

「じゃあ、その妖怪たちがとんこつラーメンに弱いことも?」

「あー、それもさっき聞いたわ。で、その装置は?」

「この装置は、さっきの彼が言った通り、とんこつスープの雨を降らせるものです」

 

 そこからの話をまとめると、

・この装置を使ってメガロを一網打尽にする。

・この装置にはリスクがあり、生態系に影響する可能性がある。

 だいたいこんな感じだな。

「もっと別の方法を考えろよ!」

「落ち着け歩。逆に聞くが、お前にはもっといい案があるのか?」

 俺の言葉に歩は押し黙る。まあ、分からなくはないけどな。

「ここにいるのは、皆私と同等かそれ以上の力を持った者です。とりあえずここは引きましょう」

「くっ……分かったよ」

「意図は理解しました。成果を期待します。では――」

 心にも思ってないといった感じでセラは言い放ち、部屋から出ようとした。

「待て、セラフィム。……実はな。何者かが、この装置を破壊しようとしている。って情報を得たんだ」

「それが何か?」

「誰が刺客だ?」

「知りません」

「そうか。お前じゃなくてよかったよ」

 それだけで信じるのか。もっと深く追求すると思ったが。

「それだけでいいのか?」

 歩も同じことを思ったのか、男に質問する。

「ああ。セラフィムって女は、バカ誠実だからな」

「でも、そこがセラフィムの良いところだよな」

 メイルが笑顔のままそう言った。――それには俺も同感だぜ。

「――最後にセラフィム。お前、こっちの派に来ないか?」

「嫌です。――では」

 流石だな、セラ。

 

 俺達は吸血忍者たちと別れたあと、帰路についていた。

「それにしても、とんこつスープの雨なんか降ったら町中ぎとぎとになっちまうな」

 確かにそうだな。

「心配しなくても良いですよ」

「そうなのか?」

「私の上司は、ちゃんと別の手段を考えてくれてます。内容はまだ知りえませんが、これはもう確実なのです。……あの装置に関しても、すでに手は打ってあるでしょう。歩がここで無茶なことをする必要はありません。……ところで、神無。あなたは軽薄すぎます」

「ん?」

 なんのことだ?

「吸血忍者にとって、異性との接吻は婚儀の際に行うもの。いつ、どこであってもそれは変わりません。あの瞬間、婚儀は終了したのです。あなたはメイル・シュトロームを愛しているのですか?」

「いや」

「でしたら、どんなことをしてでも避けるべきだった。……まあ、歩が悪いのですが」

「本当にすまん」

「終わったことはしょうがねえだろ。それに、あれで婚儀が成立したとはメイルも考えてないと思うぞ?」

「そうですね。しかし、吸血忍者は自分の感情より掟を優先します」

 面倒だな、吸血忍者って。

「じゃあ、もし――俺が今ここでセラにキスしたら、セラは俺と結婚するのか?」

 歩が冗談混じりにそう言うと、セラは迷うことなく、

「ええ、あなたを愛すると誓います。――出来れば、の話ですが」



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第十一話 七夕とゲームセンター

 次の日の金曜日、すべてのテストが終わった。

 最終日は天気が曇りだったこともあり、歩が外を歩いても問題ないので、俺たちは今家に帰ってきているんだが……

「なんだありゃあ……」

 歩がそう言ったのも無理はないだろう。俺も、少し驚いたしな。

「どう見ても笹だな……。ハルナが用意したんじゃねえか?」

 何故かベランダの床を突き破っていて、飾り付けられた笹があった。

 今日って何かあったか?……ああ、七夕か。

「とりあえず、ハルナにでも聞いてみたらいいんじゃないか?」

「それだ!」

 歩はそう言って駆け足で二階へと上がっていく。

 ハルナのことだから、七夕とクリスマスを混同したんだろ。

 

 

 

 その後、歩にハルナがどうして笹を用意して、飾り付けしたのかを聞いたところ、俺の予想した通り七夕とクリスマスを混同してたみたいだ。

 ポニーテールじゃないと願いを叶えてくれないらしいので、みんな髪を結っている。

「歩、よく似合ってますよ」

 セラはそう言いながら、フンと鼻で笑っている。

 まあ、俺と歩は髪が少ないからな。しょうがないと思うぞ。

 ……さて、俺は何を書くかな。

「よし!これなら!」

 ハルナの方を見ると、短冊を掲げていたが納得できなかったのか、くしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てていた。

 歩が気になったのか、一つ拾って開けている。

 俺も気になったので見に行くと、ユーも気になったのか、歩が持っている短冊を覗き込んだ。

『甲子園の魔物殺し(大剣)』

 ハルナはそんなもの手に入れてどうするんだ?

「あ!こら!見んなよなっ!他人に見られたら無効なんだぞ」

 そんなルールがあったのか。

「変なものは願うなよ。せめてこの世界にあるものを「“トントン”」頼んでくれ」

 ユーが机を叩いたので、メモに目を落とす。

『甲子園の魔物を殺して どうするの?』

「根暗マンサーはしらないのか?甲子園に住むモンスターを倒せば、コウカが流れ出るんだぞ?……それよりっ!あたしのはいいからっ!ほら、アユムとカンナも早く書けよな!今二人待ち状態なんだぞ!」

 残りは俺と歩だけか。そうだな……。

『ずっとこんな日常が続きますように』

 これでいいだろ。

『神無の願いはなに?』

 俺の願いが気になったのか、ユーが俺に聞いてくる。

「内緒だ。ハルナも言ってただろ?『他人に見られたら無効』だって」

 さて、書き終わったしさっさと風呂にはいるか。

「こらアユム!まだ儀式が始まってないの!」

 俺がそんなことを考えていると、ハルナが大声を出す。

 ハルナの世界では七夕で儀式なんてあるのか?

「おいハルナ、いったいどんな儀式なんだ?」

「え……っと」

 俺が気になったことをハルナに聞くと、ハルナはセラの顔を窺う。

 十中八九、セラが教えたことをハルナが混同させたんだろうな。

「セラ、お前ハルナに変なことを教えるな」

「変なことは教えてません。教えたことをハルナが勝手に改変、混同しているだけです」

 やっぱりそうか……。

「やってる途中で違ってるって教えてやれよ」

「いいじゃないですか。同じ行事を繰り返すより、少し変化を付けた方が」

「あのな、完成されたものには手を加えない方がいいんだよ。イチゴのショートケーキがスイカだったらイヤだろ?お好み焼きの具がミカンだけとか」

「……ハルナがしているのは、そんな戦争にまで発展しそうなことと同義ですか?恐ろしいですね」

「俺はそんなことで戦争に発展させようとするお前の思考が恐ろしいよ」

「よし、出来た!さあ儀式を始めるぞ!」

 歩たちが漫才じみたことをしている間に準備が終わったのか、俺たちの短冊を裏向きのまま集める。

 ハルナは指の間にロウソクを挟み、胸の前で腕を交差させて呪文を唱える。

「カイザード、アルザード、キ・スク・ハンセ、グロス・シルク。灰塵と化せ冥界の――「ちょっと待て!呪文はパクリかよ!そのネタ使うならハロウィンのときだろ?ってか、そんなもん撃てんのか!」」

 歩が何やら慌てている。何をそんなに慌ててるんだ?

「ほえ?撃てるよ?魔法だしな。頑張って練習したもん」

「いやいや、だったら余計に困る。やめてください」

「歩。何をそんなに慌ててるのか知らないが、たぶん大丈夫だと思うぞ?ハルナはまだ魔力が戻ってないから、心配しなくても大丈夫だろ」

『神無の言う通り ハルナには魔力が全然ない』

 俺とユーの言葉に安心したのか、ほっと息をつく歩。

「あ、あるに決まってるだろっ!結構戻ったもん!やって見なきゃわかんないだろ!」

「だからやめてくださいと言ってるだろ?」

「それで結局、何の儀式なんだ?」

「そうだ。何の――「こういうイベントをしていると、まるで家族のようですね」」

 俺の言葉に便乗して、歩が何かを言おうとしたところでセラが含み笑いをして言う。

 確かにそうだな。歩も同じことを考えたのか、セラに合わせて微笑んでいる。

 ユーもその意見に賛成のようで、こくりと一つ頷く。

 ハルナの方を見ると、むすっとした顔で歩を睨み付けていた。

「ハルナ?」

「な、なんだよ!こっち見んなよっ!」

「ハルナ、お前」

「もうっ!あっち向け――」

「その髪型も可愛いな」

「んなふっ!」

 へえ……。歩もなかなかやるな。まあ、無自覚なんだろうが。

「歩、なかなかやるな」

「は?何が?」

「アユムの髪型は可愛くないっ!何でそんな髪型してんだよっ!バーカっ!」

 そう言ってハルナは、歩にローリングソバットを仕掛けている。

 ハルナなりの照れ隠しなんだろ。

「神無、私に何か用がありませんか?」

 ん?……ああ、そういうことか。

「いつも通り美人だぞ」

「……そうですか」

 そう言って少し嬉しそうに居間に戻っていくセラ。

 儀式も終わったことだし、風呂にはいるか。

 

 

 

 三日後の月曜日。いつものように教室に来ると、眼鏡をかけた歩と歩を睨んでいる織戸が目に入った。

「……なにやってんだ、織戸。それと、歩はいつの間に眼鏡なんて買ったんだ?」

「…………」

 俺の声に気づき、こちらを見て動かなくなる歩。

「歩?」

「……神無って、いい身体してるよな……」

 こいつ、急に何を言い出した?今の言葉で鳥肌がたったんだが。

 少し前からそっちの気があるんじゃないかと思っていたが、まさか本当にそうだとは。

「悪いが、俺にそっちの気はない」

「……相川、お前……」

「違うんだ、神無!これは誤解なんだ!」

 歩が何か騒いでるが、無視して席につく。

 まあ、歩に何かされたとしても撃退できる自信はあるが……。

 

 今日はテストが帰ってくる日なのだが、予想通り点数はかなりの高得点だった。

 そして昼休み。織戸に無理矢理連れられ、繋げた席に座る。

「神無、さっきのは本当に誤解なんだ」

「……本当か?俺は前々からお前にそっちの気があるんじゃないかと思っていたんだが」

「本当だ!俺はいたってノーマルだ!」

 それならいいんだが……いまいち信用できないな。

 とりあえず歩のことはいいとして、さっさと昼飯食べるか。

「ほー、今日は豪勢だな」

 歩の弁当を見て、織戸がそう言う。

 俺も気になったので、ハルナが作った歩の弁当を見る。

 今日はいつもと違って普通だな。まあ、汁物が入ってる時点で普通じゃないが。

「そうだ、相川と九十九。お前らに渡しておきたいモノがあるんだよ」

 俺らに渡すもの?

 織戸が手提げのビニール袋を手渡す。

「なんだこれ。雑誌か?」

 そう言って歩が開けようとしたところで、

「バカかっ!相川っ!こんなところで開けんなよ。――死ぬぜ?」

 死ぬってなんだよ。もしかして、公共の場に出せないようなものか?

 織戸のことだし、エロ本とかか?

「はははは!なんだよ、その気持ちわりぃ弁当――」

 ガタガタガタッ!――ゴン!

 歩、動揺しすぎだろ。

 メイルが来たことに動揺したのか、イスからころげ落ちそうになり、横に倒れて窓に頭をぶつける歩。

「お、お前!――何でこんなところに」

「落ち着けよ、歩。メイルの制服がここと同じなんだから、この学校の生徒だろ」

「た、確かに、神無の言う通りだな……」

 俺の言葉に、ようやく落ち着く歩。

 俺もメイルがここの生徒とは思わなかったが。

「おー、トモノリ。どうした?」

 トモノリ?ずいぶん男っぽい名前だな、俺と違って。

「トモノリじゃねぇっつってんだろ!ユキだ!友紀!」

「織戸、知り合いなのか?」

「何言ってんだよ相川。陸上部のホープじゃねぇか。ほら、隣のクラスの――体育で会ってるだろ?知らないのかよ」

 へえ、そうなのか。

「で、トモノリ。どうしたんだ?」

「その名で呼ぶなっつってんだろ!」

「その、トモノリってのは?」

「ああ、こいつのあだ名。『吉田 友紀』って名前なんだが、ユキって部分が友達の友に糸偏の紀。トモノリって読めるだろ?それに、男みたいな性格してるからな」

「だからトモノリか、納得した」

「トモノリって言うな!――えっと……」

 そういやあ、自己紹介はまだしてなかったな。

「九十九神無だ」

「そうか、九十九か。な、なあ、九十九……す、好きな食材は?」

「特にこれといって好きなものはないが……強いて言うなら、魚だな。で、それがどうかしたか?」

「あーっとだ……まあ、アレだよアレ。あ、明日から……弁当を作ってやろうと」

 カタンッ

 音のした方を見ると、織戸が箸を落として固まっていた。

「トモノリ……九十九……お前ら、付き合ってたのか」

「付き合ってねえよ」

「じゃあ、なんで弁当なんかを……」

 つーか、そんなことで泣くなよ。

「う、うっせーなっ!オレの夢は――『お嫁さん』になったんだよ!」

 もしかして、あのときのことか?

「ちょっと待て。いまいち状況がつかめないんだが。あれは事故だし……無効だろ?」

 さっきからずっと黙っていた歩が、ようやく声を出す。

「――オレたちにとって、あの行為ってのはな、そんなに軽いもんじゃないんだよ。どんな状況でも守れなかったオレが悪い……オレは覚悟を決めてからここに来た」

 ……吸血忍者って面倒くせえな。

「ところで、一つだけ気になんだが」

 俺がそんなことを考えていると、歩がメイルに質問する。

「なんだ?」

「お前のことはなんて呼べばいいんだ?メイル?」

「そっちの呼び名はこの学校じゃおかしいだろ?頭悪ぃなお前」

「じゃあ――トモノリ?」

「せめて苗字で呼べよっ!」

 ふむ……歩はトモノリって呼ぶのか。

「なら、俺は友紀って呼ぶかな」

「お、おう」

 俺がそう言うと少し顔が赤くなる友紀。

「やっぱりお前ら、付き合ってるだろ!!」

「もう一度言うが、付き合ってねえからな」

 

 

 

 学校帰り、俺は歩たちと一緒にゲーセンに来ていた。

 俺と歩の他には、ユーやハルナもいる。

 学校が終わったあと、寝てたせいでどうして行くことになったのかはわからないが。

 学校にハルナがいたときは、メガロが出たのかと思ったぞ。

「何ここ!これ全部魔道具?ヤバ!アユムあんた!あたしを殺す気か!」

「心配すんな。ここにある魔道具とやらは、全部お前が遊ぶためにあるんだ」

「お、おおー。いい心がけだな!」

 そう言って駆け出すハルナ。それを眺めていると、俺の服の裾が引っ張られた。

 振り向くと、先に来ていたユーが俺の服をつかんでいた。

『神無 こんなところに何があるの?』

「いろいろなゲームがあるな。……そういやあ、セラはどうしたんだ?」

『用があるから 少しだけ遅れる』

「へえ」

 俺たちはそんな会話をしながら、ゲームセンターの中を見て回る。

 クレーンゲームコーナーにつくと、ユーはキョロキョロと辺りを見回した。

「なにか欲しいものでもあったのか?」

『全部』

「ユーって、こういうのが好きなのか?」

『メガロみたい 助けてあげないと』

 俺は両替機で紙幣を両替して、ユーのところに戻ってくる。

「それじゃ、簡単に説明するぞ。

 まず、ここに百円玉を入れる。次に、このボタンを押してアームを移動させ、欲しいものの辺りに持っていけば取れる。

 とりあえず、やってみるから見ていてくれ」

 ユーにそう言った俺は、目についた黒いウサギのぬいぐるみをクレーンゲームで取る。

「……とまあ、こんな感じだな」

 そう言ってユーの方を振り替えると、いつのまにかイルカのぬいぐるみを持っていた。

『救出した

 でも 手遅れだった』

 そもそも、生きてないからな。

 その後はセラも合流し、俺たちはいろいろなゲームを見て回った。

「なあ、アユム!あの箱何?」

 ハルナがアホ毛で、ある一点を指した。

「プリクラですね」

「おー、あの噂に聞く……」

「噂に聞いてるんだ」

「あれだろ?一八八一年に即位したネパールの第七代国王の略称だろ?」

「……一応言っておくが、プリトゥビ・ビール・ビクラム・シャーのことじゃないからな?」

 俺がそう言うと、歩が驚いた顔でこっちを見てきた。……知ってるのがそんなに意外か?

『プリクラッシュセーフシステムのこと?』

「それも違う。あれは、簡単に言えば写真を撮る機械だ。文字を書いたりもできるぞ」

「よし!撮り殺そう!」

 そう言って、ハルナがプリクラの中に入っていったので、俺たちも中に入っていく。

 そういやあ、前世でもプリクラはやったことなかったな。

 俺がそう考えていると、ハルナがカメラに向かって歩を蹴飛ばしていた。

「……ハルナ。なんで歩を蹴飛ばしたんだ?」

「え?なんか飛び出してくるんじゃないの?」

「飛び出してこないぞ。あと、ついでに言えばプリクラは、じっとしているもの「どえぇぇい!」だ……」

 俺が説明している途中で、もう一度歩を蹴飛ばすハルナ。

「ハルナ、お前な!動くなよっ!」

「ハルナ、神無と歩の言う通りですよ。これはじっとしているものなんです」

「え?……まあ、知ってるけどね」

 そう言って、ようやくおとなしくなるハルナ。

「はい。笑顔を作って――」

 俺はいつも通りの笑顔でプリクラを撮る。

 セラが出てきた画像にペンタブでそれぞれの名前を書きながら、説明する。

「こうやって、撮った写真に落書きが出来るのですよ」

「どんな魔法使ってんの?」

「科学です」

「あ、ああ。あの魔法だな」

 そういやあ、最初携帯を見たときも魔道具って言ってたな。

 俺がそんなことを考えているうちに、プリクラをほとんど仕上げるハルナ。……いつの間にやったんだ?

 そのあと俺たちは、出来上がったプリクラを五人で分けた。

 たまにはこういうのもいいな。

 

 

 

 そのあとゲームをセラとハルナが何個かやっていたのだが、

「少し休憩しましょう。喉が乾きました」

 ハルナのテンションに疲れたのか、セラはハルナにそう提案した。

「えーっ……じゃ、次は根暗マンサーだなっ!」

 セラの提案に不機嫌そうにしていたが、ハルナは満面の笑みでユーを連れていく。

 かなりゲーセンが気に入ったみたいだな。

 二人はエアホッケーを始めたが、力が互角で一点も動かない。

 途中で俺はユーと交代したが、予想通り一点も動かない。

 ……やっぱりハルナは強いな。

 最終的には、決着が着かずにゲームの時間切れになってしまった。

 ユーの所に戻ると、俺にメモ用紙を見せてくる。

『また いつか 来たい』

「そうだな。また今度、来よう」

 ユーも、楽しんでくれていたようでよかったな。

 

 

 

 ゲーセンで存分に楽しんだ俺たちが外に出ると、俺たちの目の前にウサギのメガロが現れた。

 ウサギのメガロは歩の顔を見るや否や、

「うさげっ!魔装少女っ!」

 と叫んだ。

「ハルナ、お前、大丈夫なのか?」

「ほえ?何が?」

「メガロを前にすると、動けなくなってただろ?」

「ほえ?これメガロなの?どこが?全然強そうに見えないんだけど……あ、これウサギかっ!」

 そう言ってハルナが近づくと、何故かウサギは俺の陰に隠れた。

「どうも、バケモノという感じはしませんね」

 セラはそう言いながら、瞳を朱に染めていく。倒す気満々だな。

「た、助けてくれ」

 そう言ってこちらを見てきたので、そのウサギを俺は腕に抱える。

 おっ、さわり心地はかなりいいな。

「おや、何か持っていますよ?」

 セラはそう言って、ウサギから一通の封筒を取り上げる。

「返せよーっ!うさぐぞコノヤローっ!」

 そう言って取り返そうとするが、俺が抱えているからか、手が届かない。

「ハルナ、このメガロはどのくらいのランクなんだ?」

「ウサギのメガロは一番下のD級。あたしたち魔装少女は、ウサギ狩りから始めるんだ。多分根暗マンサーでも片手で倒せると思う」

 それなら倒さなくても問題ないな。たまたま出会っただけっぽいし。

 セラが封を開けていたので中に何が書いてあったのか聞いてみると、

「何も書かれていません」

 そう言って俺に封筒の中身を見せてきた。

 もしや、それもアリエル先生と何か関係があるのか?

「返せよもーっ!何て仕打ちだ!恩を仇で返すのかよ!」

 俺が考えていると、抱えていたウサギが騒ぎだした。

 だが、やはり俺が抱えているからか、封筒に手が届かない。

「……なあ、歩」

「ん?」

「このウサギ、家で飼おう」

「は!?」

 俺の言葉に、すっとんきょうな声を上げる歩。

「……駄目か?」

 もし駄目なら、それはそれで諦めるんだが……

「あー……まあ、いいんじゃないか?」

 微妙な表情で許可を出す歩。まあ、メガロをペットにするなんて言ったら驚くわな。



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第十二話 夜の王

 あの後、ウサギは俺の発言になにか危険を感じ取ったのか逃げていってしまった。

 少し残念だが……まあ、いいか。

 そのあと俺たちは、ようやく帰路についた。

 UFOキャッチャーでとったぬいぐるみは全て、俺のギフトカードに入れておいた。本当に便利だな、ギフトカード。

 信号が青に変わり、俺たちは横断歩道を進む。

 ふと、目に入ったユーを見ると、高校生くらいの長身の男がユーに顔を寄せていた。ナンパか?

 歩がユーに声をかけようとしたところで、ユーがいつも使っているボールペンを取り出す。

 それを振りかぶると、ボールペンは巨大な鎌に変わった。

 へぇ、あのボールペンって武器だったんだな。

 それを見た一般人は、慌てて俺たちから離れていく。そんな周りの様子などお構いなしに、ユーは鎌を降り下ろした。

 それを避けもせずに、肩で受け止めた男は笑顔で声を出す。

「いいのかい?そんなに興奮して」

 そう言って、含み笑いを見せる男。

 あの声……京子の時のやつか?

「何をしに現れたって言いたげな目をしているな。ユークリウッド」

 男がそう言うと、ユーは強く頷く。ユーの足下から青い光が巻き上がり、銀髪がふわりと広がった。

「偶然だ。そう、たまたまここを歩いていた。――ユークリウッド、君のせいだろう?」

 なぜ偶然がユーのせいになるんだ?

「ぬいぐるみをたくさん持ってるね。さぞ楽しかったんだろう?それが悪い。いつだってお前が原因なんだ。――ユークリウッド」

 ユーの体から、澄んだ青色のオーラが出ている。……あれがユーの魔力か。

「皆さん!あれは抱き枕です!慌てないでください!抱き枕ですからーっ!」

 歩は歩で何を口走ってるんだ?お前が一番慌ててるだろ。

 ユーが鎌を引き抜き、もう一度振るうと男は後ろへと跳んだ。

「楽しいという感情で揺れ動いたときは、一番会いたくないやつが現れる。そんなに会いたくなかったのか?ユークリウッド」

「あぁぁあ!」

 ユーが声をあげ、鎌を大きく振りかぶって特攻する。

 男はやれやれと首をふったあと一瞬で距離を縮め、ユーの懐に入る。

 男がユーの顔面を殴ろうとしたところで、俺は男を横から蹴り飛ばした。

 あまり手応えがないな。ギリギリでかわされたか?

 男が吹っ飛んでいった場所を見ると、霧のようなものが漂っていた。

 あれは……京子を連れていったときの霧か?

 その霧が晴れるとそこに男はおらず、その代わりにメガロの大群がいた。

 ……つーか多すぎだろ、めんどくせえな。

 ユーの方を見れば、鎌を手放して瞳に絶望の色を浮かべていた。

「ユー……大丈夫か?」

 歩がユーの肩に手をやると、ユーが顔をあげる。ユーの体は小刻みに震えていた。

 少ししてユーは鎌をボールペンに変えると、無表情に戻ってメガロの大群がいる道路に目をやった。

『私の せい』

 歩はそれを見てなにも言わずに黙っている。かくいう俺も、その言葉を見てなにも言えなかった。

「歩、神無――」

「逃げるぞ」

「いや。それよりも結界で囲った方が早い」

 そう言うと同時に、俺は先程現れたすべてのメガロと自分だけを結界で包む。

 さすがに全部は無理だったが半数はできただろう。

 俺は結界を維持しながら、ギフトカードから疑似神格・梵釈槍(プラフマーストラ・レプリカ)を取り出した。

「これなら結界内のやつらを全滅できるだろう」

 少しやり過ぎかもしれないがそんなに時間はかけられないしな。

 俺はメガロの大群に向かって槍を投擲した。

 それと同時に結界への魔力を増やして強度をあげる。

 槍は結界に刺さり、周りのメガロを雷で焼き尽くした。

 思ったよりもこっちの負担が……

 すべてのメガロを全滅させると同時に、俺の意識はブラックアウトした。

 

 

 

 歩side

 結界がなくなるのと同時に立ち込めていた煙が晴れる。

 煙の先には半数以上が減ったメガロと神無が倒れていた。

 ……倒れていた?

「か、神無!?」

 神無が倒れてるところなんて初めて見たぞ。

 俺は神無が倒れている場所に駆け寄っていく。

 どうやら、意識を失っているだけのようでそこは安心する。

 あとからやって来たユーが神無の様子を見てこちらにメモ帳を見せてきた。

『たぶん 魔力切れ

 一気に大量の魔力を使ったから そのせいで 気絶したんだと思う』

 そういえば神無には元々魔力があったんだったか。たぶん槍を使ったのも原因のひとつだろう。槍を使うと負担があるとか言ってたしな。

「とりあえず逃げるぞ。神無が半数以上を削ってくれたお陰で逃げやすくなったしな」

「ですが……」

「言い方を変えよう。――距離をとるぞ。あいつらは俺たちを狙ってくる。少なくとも、まだ残ってる一般人が巻き添えを食らわないようにしなきゃな」

「了承しました。……では、ヘルサイズ殿は私が。歩はハルナ神無をお願いします」

「わかった」

 セラはユーをお姫様抱っこして、俺はハルナと神無を抱える。

「こら!へ、変なところ触んなっ!」

 無理にしゃべんなよ。――あれ?

 俺はハルナに腑に落ちないものを感じ、ハルナの方に顔を向けた。

「ハルナ、お前なんともないのか?」

「ほえ?なにが?」

 あれだけのメガロが出現してるのに、ハルナの様子はいつもと変わらなかった。

 どういうことだ?いつもなら「うきゅ」とか言ってガタガタ震えるのに。

『あれは メガロの偽者』

 ユーがそんなメモを俺へ向けていた。

 そうか――確かにいつもより狂暴で可愛らしさの欠片もないしな。ハルナが普通なのも偽者だからか?

 ちょっと待て。あのメガロ、さっきの男が消えたとこにあらわれなかったか?

 ――このメガロは、あいつが作り出したものなんじゃないのか?

「ユー、さっきの男にメガロが作れるのか?」

『メガロには 死んだ人間と 同じく冥界に来る 魔装少女の魂が必要 彼には完成されたメガロは作れない だけど 人間の魂だけの偽者なら 作れるかもしれない』

 ユーも俺と同じ意見だったようだ。なんのためにメガロもどきなんかを大量発生させたんだ?しかも、こんなはた迷惑なものを作る必要せいがどこに……

「歩、何を立ち止まっているのですか?」

 考え込んでいたせいか、俺の足は止まっていた。

 包囲されないようにセラが周りを確認し、逃げるためのルートを探る。

「ハルナ、お前安全な道がどこかわからないのか?」

「辺りにメガロの気配がありすぎてわかんない」

 セラのあとに続いて走っていると、ぴょんぴょんと跳ねながらメガロが追いかけてきた。

「アユム、あれ!」

 ハルナが追いかけてくるメガロに向かって叫ぶ。俺が振り向くとそこには、可愛い衣装に身を包んだ少女たちがいた。恐らく魔装少女だろう。

 メガロ退治に来たのかと思えば、魔装少女までこっちにやって来る。

 へ?何でこっちに来るんだよ。

 その魔装少女はセラとユーの方へは向かっていないようだ。てことは――

 全員俺狙いかっ!それか神無狙いかだな。

 勘弁してくれよもう。なんで魔装少女まで俺の方へ来るんだよ。

 逃げ惑う人混みにまぎれて俺たちは逃げていく。突如出現した化け物の大群に、パニックに陥った人々が蜘蛛の子を散らすとかそんな感じで逃げていく。

 そんな中、果敢にもメガロの方を向く一団がいる。その中の一人を俺は知っていた。

「トモノリ!いや、ユキか?」

「今はメイルでいいだろうがっ!それよりも神無は大丈夫なのか!?」

 そう言って神無を指差す。

「気絶してるだけだから心配するな。それよりも俺たちを助けてくれるのか?」

「当たり前だろ!それに、俺は神無の……嫁だし」

 友紀はポリポリと鼻の頭をかいた。俺のとなりにいたセラが、何故か俺の脛を蹴ってくる。

 しばらくして、セラの蹴りが止まる。

「どうかなさいましたか?ヘルサイズ殿?」

 そう言って抱えているユーに視線を落とす。

「セラ、どうかしたのか?」

「いえ――別に」よく見れば、ユーがセラの服をぎゅっと強く掴んでいた。

「セラ、とにかく今は任せて退くぞ」

「……わかりました」

 なにか言いたそうにしていたセラだが、ユーの寂しげな表情を見て戦うことを放棄したようだ。

「トモノリ、あとは頼んだ!」

「おう、泥の超ド級艦に乗った気分で早く行け!」

 とんこつスープを持った少年のような少女は、とても頼もしく見えた。たとえ泥の船でもドレッドノート級の大きさなら頼もしいさ。

 黒いマントを羽織った集団の中へ、ユーを抱えたセラが走る。吸血忍者たちは横に退いて道を開けてくれた。

「セラフィム、貸し一つだかんな」

「――感謝します」

 敵対しているはずのセラと友紀がふふっと笑みを浮かべる。吸血忍者にとっては何よりも妖怪退治が優先なんだろう。

 俺たちは友紀たちにメガロを任せ、この場から少しでも離れようとしたが――足を止めてしまう。

 ビルの屋上にひとつの影を発見したからだ。

「京子……か」

 京子はひとっ飛びでこちらへやって来ると、行く手を遮るように両手を広げた。

「お久しぶりです相川さん、九十九さん。お元気そうで残念です……九十九さんはそうでもないようですが」

 京子も俺たちを狙ってるのか?

「お前たちは、メガロの偽者なんか大量に作って何をするつもりだ?」

 俺の問いかけに、京子は目を見開いた。

「あるものを探すためですよ」

「あるもの?」

 京子が何を探しているのかわからず、俺は首をかしげる。

 俺の様子を注意深く見たあと、ひとり納得した様子で頷く京子。

「なるほど。相川さんではないとしたら九十九さんが持っているんですかね?」

 結局どういうことなんだ?

 京子になんのことか聞こうとしたところで、神無がもぞりと動いた。

「うっ……」

「神無、起きたか。大丈夫か?」

 俺はそう言って神無を地面に下ろすと、神無は頭を振りながら立ち上がった。

「九十九さん、アリエル先生から何か預かってますよね?」

 どこか核心的な様子で神無に聞く京子。

「…………なんのことだ」

 神無が無表情でそう答えると、京子はクスクスと笑いだした。

「そんなこと言われたら『私が持ってます』としか聞こえないですよ。

 確かに、あの兵器は魔装少女には渡せませんもんねー?なるほどなるほど、いつまでたっても思い通りにいかない訳です」

 ――兵器?あまり聞きたくない言葉が俺の足を止めた。

「大先生は、そんなものを神無に――?」

「カンナ、何か預かってんの?あたし、そんなの聞いてないっ!」

 抱えていたハルナが耳元で大声を出したので、俺は首を傾けて眉を寄せる。

「お前は兵器なんて手に入れて、どうするつもりなんだよ!」

 京子はご機嫌なのか、鼻歌でも歌いそうな軽快な声色を出す。

「アリエル先生の魔装兵器さえあれば、この世界をあの方が望むようなハチャメチャなものに出きるんです。メガロを大量発生させれば使わざるを得ないと考えたんですけど、全然発動してくれなくて困ってたんですよー」

 そんなことのためだけにメガロを大量発生させたのか。――あ、なんかイライラしてきた。

「私の……せい」

 ユーの小さな呟きが耳に届いた。頭を抱えて苦しい表情を浮かべているのは、言葉を出してしまった代償なのか、それとも何かを後悔しているのか。

 ――楽しいと感じたせいで、一番会いたくないやつが現れてしまう。ユーにとってはあの男だった。ハルナにとってはメガロの大群。いや、一般人にとっても会いたくない存在だろう。そして、俺にとって会いたくない人物が、今現れた。

 ばかばかしい。ただの偶然がすべてユーのせいなんて。それにまだ神無はそんな人物に会ってないしな。

「歩、神無!」

 セラの切羽詰まった声が聞こえてちらりと振り向いたとき、何か黒いものが飛んできたので俺はとっさに横へとんだ。神無はそこから動かず、その黒いものを受け止める。

 何かの攻撃かと思ったが、それは吸血忍者だった。

「――メイル?」

「なんだよあいつら!めちゃくちゃ強ええぞ?」

「当然です。あなたはとても弱そうですし」

 にっこりと京子が笑う。可愛らしいガッツポーズに、俺は憎さが百倍だった。

 可愛いことはいいことだが、だからってなんでも許される訳じゃない。

 俺は恐らく、一生死ぬまでこいつを恨み続けるだろう。

 ――もう死んでるけど。

「あ?お前どこ中だよ!」

 むすっとした表情の友紀が神無から離れて京子の肩をつかむ。

「メイル・シュトローム!/メイル!」

 セラと神無が同時に友紀の名を呼んだ。その言葉の真意は「バカかお前!そいつには触れんな!」だろう。俺も同意見だ。

 友紀を包み込むように、竜巻が発生する。以前見た竜巻に比べてとんでもなく巨大な竜巻。風で粉塵が巻き上がり、激しい風に俺は顔を背けた。ハルナを抱えていたから、顔を背けるしかなかったんだ。

 ほんの数秒でその竜巻は消える。そこにはキョトンとした表情の友紀が無事な姿で立っていた。

 その様子を、信じられない表情で見る京子。

「なんで無事なんですか、あなた……ああ、そういうことですか」

 そう言って神無の方を見る京子。俺も京子に倣って神無の方を見ると、肩で息をする神無が立っていた。

「神無!?」

「私の竜巻を結界で防いだんですね。ですが……二回目はさすがに無理でしょう?」

 そう言うと同時に、もう一度友紀を竜巻が包み込む。

 さすがに二回は無理だったのか、神無が悔しそうに京子を睨み付けた。

 竜巻が消えると、ボロボロになった友紀が膝から崩れるようにしてその場に倒れた。

「メイル!おい!ユキ!トモノリ!」

 どの名で呼んでも起きる気配はない。死んじまったのか?

「アユム!来てる来てる!」

ハルナの声で振り向くと、口から紫色の吐息をはくゴリラのメガロが壁に張り付いていた。

 メガロもどきに追い付かれた?いよいよもって不味い。戦うしかないか。

 魔装錬器もなしに?無茶に決まってる。せめて神無が万全なら大丈夫なんだが……

 そのとき、妙な寒気が襲った。それは恐怖から来るものではなく、本当に凍えるような寒さだ。

 みるみるうちに凍りつく道路。壁や建物もすべて凍っていく。

 なんだ?京子の仕業か?

「あはっ……やっぱり持ってるじゃないですか――アリエル先生の魔装兵器をっ!」

 驚きの声をあげたのは京子だった。京子の足元にも霜が降りている。無差別攻撃か。

 セラは咄嗟に屋根へと飛び上がり、京子もそのあとに続くように屋根へ。俺は冷たい地面がどんどん冷たくなっていくのを感じながら、どうすればいいのかあたふたしていた。

 靴が凍りそうになったところで、神無が俺を屋根へと投げ飛ばす。

 助かったが……もう少し優しくしてくれよ。

 神無の方は俺を投げると同時に離れたからか、無事なようだ。

 そういえば友紀は?

 目を落とせば、地面に倒れる友紀の体の周辺はすでに凍りついていた。

 このままじゃ、友紀も氷漬けのマンモスみたいになっちまうな。

 俺が神無にハルナを任せて友紀のところに行こうとしたところで――

 

「――逃げてっ!」

 

その声は、透き通っていた。

 

 

 

 気がつくと、俺たちは我が家の玄関へたどり着いていた。

「あれ?あたし――」

 キョロキョロと辺りを見回すハルナ。何かを考えている様子のセラと神無。そして、いつもと変わらないユー。

 あのとき、何があったのか。俺たちは全然覚えていない。

「ユー、お前が何かしたのか?」

 俺の質問にユーが答える前に、神無が答える。

「ユーの声を聞いて、お前ら全員逃げ帰ったんだよ」

 神無の言葉にこくりと頷くユー。

 なるほど、ユーの声が聞こえたらその通りになるんだったな。あれ?だったらなんで――

「神無はその事を知ってるんだ?」

「あ?そんなの、ユーの言葉が俺には聞かないからに決まってるだろ」

「は?」

 何をいってるんだ?

「そういえば言ってなかったな。俺はそういうのが効かない体質なんだよ。ま、例外はいくつかあるが」

 マジかよ。本格的にチートだな、神無って。

「歩、とりあえず中へ入りませんか?」

「だなっ!あたし、お腹すいたんだけど?」

 ハルナが力強く頷いたあと、「そうだ!」と声をあげて俺の鞄を漁る。――なにしてんだよお前は。

「さっきメダルコーナーでお菓子をいっぱいいっぱい取ってきたんだっ!」

 そう言ってハイテンションで鞄の中身を出す。――家の中でいいだろ?今すんなよ。

「歩、それはなんですか?」

 セラが発見したのはひとつのビニール袋。それは織戸から預かったものだ。

「ん?なんだこれ?」

「ハルナ!お前何を勝手に――」

 ハルナは織戸から預かったビニール袋から勢いよく中身を取り出した。

 そこから出てきたのは、セクシーな若い女性が笑顔を見せている一冊の本。

 ――裸の。

 エロ本かよ!まあ、学校で開ければ死ぬっちゃあ死ぬな。

「アユム……あんた本当に最っ低っ!」

 口から火を吹かんばかりの勢いでアルゼンチンバックブリーカーを仕掛けるハルナ。

「待てハルナ!男ならエロ本の一つや二つ持っててもおかしくは――」

「確かに、その通りです。ですが――問題はそれを持ち歩いているということです」

 たしかに。

「いや、これには訳が」

「軽蔑します」

 軽蔑されない日は訪れないのか!

 俺は唯一事情を知ってる神無に助けを求める。

 俺の表情で察したのか、ため息をつきながらもセラたちに説明し出した。

「歩の持ってたそれは今日、織戸から受け取ったやつなんだ。だから歩がいつもエロ本を持ち歩いているわけではない……と思う」

 そこは言い切ってくれ!

「はあ……またあの男ですか」

 ハルナとセラが呆れた表情をしながらため息をつく。そんな中、ユーだけが寂しそうな顔をしていた。

 こいつは、あの夜の王が出てくると簡単に感情を爆発させていたな。過去に何があったのか俺にはわからないが。

 ――なんて寂しそうな瞳なんだ。くそっ!俺はなにもしてやれないのか?

 ガントレットに包まれた手を胸部のアーマーに当てる。何かに思い耽るように。

 あの出来事がすべて自分のせいだと、自責しているのだろう。

「ユー」俺はかける言葉もわからずにユーの名前を呼んだ。

『私は ボンキュッボンじゃない』

 あ、そっち?

 

 

 

 神無side

 次の日の夜、俺は居間でくつろいでいた。廊下ではハルナが騒いでいる。

 すると携帯電話から電話がかかってきた。

「もしもし」

「カンナさんですね?マテライズ魔法学校、エルスと申します。アリエル先生の代理でお電話差し上げました。今お時間大丈夫でしょうか?」

「ああ、問題ない」

「電話が遅くなってすみません。ちょっとバタバタしてまして。それでですね。まず、えーっとですね。例のものはちゃんと届いてますよね?」

「…………」

 そういえば何ももらってなかったな。

「あの、もしかしてまだ届いてませんか?」

「ああ。まだ届いてない」

「困りましたね……とりあえず、二十一時頃に取りに行くとのことなので、アリエル先生に説明してきてください」

 二十一時か。……ん?二十一時?

「今、二十二時なんだが?」

「あ、あはははは」

 さすがにこれはダメだろ。

「で、場所は?」

「場所は確か――ポチだったかな?」

 ああ。

「墓地のことか」

「はい。たぶんそれであってると思います」

「じゃ、今すぐ向かう」

「お願いします。本日は誠に申し訳ございませんでした。――ではでは」

 俺は電話を切り、廊下に出る。もしかしたら歩の手に渡っている可能性もあるからな。

 丁度歩がトイレから出てくる。

「おい歩。何かもらってるものとかあるか?もしかしたらアリエル先生からの届け物かもしれない」

 俺がそう聞くと歩は少し考えたあと自室に戻り、しばらくして色々と持ってきた。

 歩の手には、

・くろぶち眼鏡

・みかん

・鉛筆

・封筒

・エロ本

 の五つだった。

「…………。とりあえず全部持ってくか」

 たぶんどれもハズレだろう。たぶん、友紀が持ってる可能性が一番高い。俺に会いに来たとか言ってたしな。

「今からどこか行くのか?」

「アリエル先生に届け物をな。今こっちに来てるらしいんだ。……歩も来るか?」

 俺がそう聞くとしばらく考えたあと、こくりと頷く。

 とりあえず居間にいるユーとセラに一声かけ、廊下に出ると丁度ハルナがトイレから出てくるところだった。

「ほえ?どこ行くの?」

「大先生に届け物」

 歩が簡潔に答えると、ハルナが少し焦ったような表情を見せた。

「――あ、あたしもいく」

「そうかい」

「早くしろよ。アリエル先生を待たせてるからな」

 俺がハルナにそう言うと、ハルナが自分の部屋に向かいながら「わかってる!」と答えた。

 数分後、着替えを終えたハルナが二階から降りてくる。

「それじゃ、行くか」

「ああ」「OK」

 歩が手にビニール袋を持ち、ハルナはチェーンソーを持って家から出る。

 そんなに距離もないしすぐにつくだろ。

 やや早足で歩いていると、途中でハルナがいないことに気づいた。

「おい歩。ハルナは?」

「――まさか」

 少し道を戻ると、ゆっくりと歩くハルナが目にはいる。

「大丈夫か?」

「ア、ユム」

 ハルナの様子に、もしやと思い訊ねる。

「もしかして、メガロの気配でもするのか?」

 俺の言葉にハルナはこくりと頷いた。

 やっぱりか。まあ予想通りといえば予想通りだ。

「――ちょっと待っててくれ」

 そう言うと歩は俺にビニール袋を預け、ハルナからチェーンソーを受けとる。

「ノモブヨ、ヲシ、ハシタワ、ドケダ、グンミーチャ、デー、リブラ」

 ……いまだに歩の格好は慣れないな。見た目は完全に変態だし。

 少し泣いてるような歩が車道に出る。それに続いて俺たちが出ると、丁度一匹のメガロが現れた。

「走るぞ。ハルナ、神無」

「……ああ」

「ほぇ?倒さないの?」

「数体なら、な……」

「さすがにあの数は構ってられない」

 倒せないことはないがかなり面倒だ。さすがに奥の手を使うわけにもいかない。歩がハルナの手をとって走りだし、その後ろに俺は続く。

 俺たちに気づいたメガロたちが雄叫びをあげながらこちらに向かってくる。

「アユム、カンナ!めっちゃ来てる!」

「「わかってる!」」

 対向車線からやって来る車Uターンで戻っていく。まあこんな光景を見たら逃げたくもなるか。

 ふと音が聞こえなくなり、ちらりと後ろを向けば丁度こちらにメガロたちが飛びかかるところだった。

「ちっ」

 何体かを石を投げて打ち落とすが、全く減らない。

「うにゃっ!」声が聞こえ、そちらを見るとハルナが足をもつれさせていた。

 まああれだけメガロがいればそうなるか。歩がハルナが転けないように胸元に抱き寄せる。

「あ――」「へえ……?」

 歩、流石だな。

「二人ともどうした?」

「ううん……なんでもない」

 少し動きを止めていたハルナだったが、すぐに足を動かした。

 十字路を右折するとその先では吸血忍者とメガロが戦っていた。

 このまま行くという手もあるにはあるがかなり面倒だな。このまま行っても道がない気がする。

「歩」

「なんだ?」

「このまま行ってもダメな気がする。――だから空からいこう。道は俺が作る」

 俺だけなら突破は容易だからな。

「……わかった。頼んだぞ、神無」

 歩はそう言うとハルナを抱えて空を飛ぶ。歩に襲いかかろうとしたメガロや吸血忍者たちを結界で弾く。

 こちらに来た魔装少女たちは意思を投げて牽制する。

 歩たちが墓地の近くに降りたのを見て、俺も急いで歩たちのもとに向かう。

 道路が壊れたがあとで直せば問題ないだろう。

 若干本気を出したお陰もあり、魔装少女やメガロに捕まることなく歩たちのもとまでたどり着いた。

 なぜか止まっている歩たちの先を見れば、やはり京子がいた。

「こんばんは、相川さんに九十九さん。こんなところで何をしてるんです?」

「それはこっちのセリフだ」

 ハルナは歩の背中に隠れ、俺と歩は辺りを見回す。京子以外には誰もいない。

「二人とも行くぞ」

「ほえ?お、OK!」「わかった」

 歩の言葉に頷き、俺たちはそのまま進む。

「アリエル先生の秘密兵器、お持ちですね?この先にいるのも確認しましたし」

 歩が目の前にいた京子にチェーンソーを降り下ろすが京子は横に避ける。その隙に俺とハルナが走り出した。

 チッ、やっぱりこっちにメガロが来るか。ハルナの方は一体だけみたいだが……

 一体一体に蹴りや拳を叩き込むが全然減らない。かなり面倒になってきたな。

 いったん下がると、丁度ハルナも戻ってくるところだった。

「九十九さんには感謝してます」

 そう言ってクスクス笑いながら竜巻を発生させる京子。

「この間、魔装錬器(私の木刀)を破壊してくれたお陰で竜巻を操れるようになったんですから」

 その竜巻を京子は剣に変える。見た目は剣っぽくないが、持ち方は剣の持ち方だ。

 京子が竜巻の剣を横薙ぎにする。嫌な予感がし、歩とハルナを引っ張ってその場から飛び退く。

 少し遅かったせいか、お腹の辺りの服が破れた。延びるのか、あれ。

 変則的な動きの竜巻を勘で避ける。さすがに全部は無理だったせいか、ところどころ服が破れていた。歩の方を見ると体の至るところが抉りとられていた。

「どうする歩。このままじゃ先に進めないぞ」

「わかってる」

「――あたしに考えがある。アユムとカンナはあいつとメガロの気をひけよなっ」

「わかった。俺は京子をやる。だからメガロは歩に任せるぞ」

「わかった。――そういえばお前、怖くないのか?」

 そう言って歩がハルナを見る。

「なんか、アレ――メガロっぽいけど……なんか違うと思う」

 今更か。やっぱり興味ないことは覚えてないんだな、ハルナって。

 話が終わり、俺は京子に特効を仕掛ける。メガロが邪魔してきたが、回し蹴りで吹き飛ばす。

 俺がギフトカードから疑似神格・梵釈槍(プラフマーストラ・レプリカ)を取り出すと、墓場での戦いを思い出したのか京子は咄嗟に飛び上がった。咄嗟だったせいか、背後にいたハルナには気づいてないようだ。

 背後からハルナがなにか投げつける。京子は反射的にそれを切り落とそうとした。

 ふわりと宙を舞うみかん。

 それを見た京子が口をポカンと開けて目を丸くする。

 それと同時にみかんが爆発した。

 あまり規模はでかくないな……これならそこまで怪我をしてないだろうな。

 歩がハルナの手を引き、俺は立ちふさがっているメガロを疑似神格・梵釈槍を振り回して蹴散らす。そうやってようやくついた墓場はメガロだらけだった。――街灯に集まる虫みたいだな。

 このままだとかなり時間がかかるので、俺は歩とハルナを腕で抱えて空に飛び上がった。さすがに空は飛べないのでメガロを踏み台にしながら進む。

 しばらく進んでいると誰かとすれ違った。そちらを見ると、ボロボロとなった京子が俺からビニール袋を奪うところだった。さすがにもう来ないと思って油断してたせいか、あっさり取られてしまう。

「これですね。アリエル先生の切り札――では九十九さん、さようなら」

 満足気な顔を浮かべて去っていく京子。

 確かあの中身ってエロ本……だったよな?

「カンナ!あそこ」

 そう言ってハルナが指差した先には、アリエル先生が踊るように戦っていた。

 ……すげえな。俺の場合基本力業だからな……

「すごいな……」

「当然だ。大先生だからな」

「アリエル先生!」

 俺が呼び掛けるとアリエル先生はこちらに体を向けた。

「あら、カンナさんとアユムさんじゃないですか~。助太刀に来てくださったんですかぁ?」

 そう言ってこちらに手を降りながらクスクス笑う。

「話の前にとりあえず」

「ごみ掃除だなっ!」

「ハルナ、いいところに来ましたねー。結界をお願いできますかぁ?面倒くさくなっちゃいました」

 アリエル先生はクスクス笑いながら大きく剣を振る。アリエル先生の言葉にハルナが嬉しそうにしている。

「アレやるのかっ!ですねっ?やった!」

 何をする気だ?

「アユムとカンナはあたしの後ろに居ろよな」

「えらい嬉しそうだな?」

「大先生の魔法は見てて楽しいもの!この世界で使うのは初めてなんじゃないかな」

 魔法か……そういえば魔法なんてクリスのやつくらいしか見てないかもな、俺。

 ハルナが両手を前に出し、結界を張る。

「ネヨ、ダシマガウホノカウゴ、ノクゴジャ、ジレコ、イサダクテッ、ナニミズ、シケガン、セマイダ、ゴケワシ、ウモニ、トコマヨ、モドノモカ、ロオノテ、ベスンゼンガ」

 アリエル先生が歌うように呟いた。やけに呪文が長いな。

「焼尽せよぉ!ドラゴンクリムゾンっ!」

 その瞬間、結界の中で炎が上がった。結界の中のメガロは燃やされてボロボロに崩れる。

 ハルナが目を輝かせながら「きれー」と言っている。

 俺もやろうと思えばやれるか……?

「……結界は、なんだったんだ?」

「周りに被害が出ないようにしたんだろ。結界を張りながら他の魔法は使えねえし」

 俺の言葉に納得したように頷く歩。ハルナが隣でぴょんぴょんと跳び跳ねていた。

「さすがですっ!超先生になる勢いだなっ!ですねっ!」

「どうもどうもぉ」

「――ああ、そうだ。大先生、これで合ってますか?」

 そう言って歩が変身を解除して眼鏡と封筒を取り出す。

「それが、なんですか?」

 やっぱり違ったか……

「いや、預かってたものを渡しに来たんですけど……」

「どこですかぁ?どこにも居ないじゃないですかぁ。もう~」

 居ない……?つまり生物ってことか?――もしかして友紀、か?

「でもさっきまで京子に狙われてたんですよ?俺たち。……まさか、本当にエロ本が兵器だったのか?」

「アユムさん。いやらしい本が兵器なんて、どう使うおつもりなんですか~?もう、アユムさんのエッチぃ」

 クスクスと口にてを当てて笑う。歩は顔を赤くしながら慌てて言った。

「京子が兵器を狙ってたんです。そして、俺の持ってたエロ本をさっき奪われて」

 歩がしどろもどろに説明すると、アリエル先生は真剣な表情になる。

「もしかしてぇ、偽メガロの大量発生は京子の仕業ですかぁ?」

「ああ」「大先生は偽物だって気づいてたんですか?」

「ええ。メガロはぁ、あんなに弱っちくないですもの~」

 俺はあんまり本物と偽物の強さの違いがわからなかったが。

「ヴィリエではメガロ駆逐作戦が敵側にばれてしまったからだって言ってますけどねぇ。駆逐作戦を潰すためにただ暴れるだけなんてぇ、メガロっぽくないじゃないですかぁ」

 とそこで、今まで大人しかったハルナが声をあげた。

「もう!なんの話だよっ!あたしにわかんない話は禁止だっ!」

「ハルナ、今大事な話を「うっさいっ!」」

「――ハル「うっさいって言ってるだろっ!」」

 ……小学生かよ。

「大先生は何であたしに黙ってカンナに任務なんて頼んだんだ!」

「ヴィリエの人間には、知ってほしくないからです」

「なんだよそれ!なんでカンナなんだっ!」

「カンナさんなら兵器だと知っても使わないでしょうしぃ、連絡もとりやすいですから。それに――カンナさんなら頼りになるかなーって」

「ぐぬぬっ」

 アリエル先生の言葉に唸っているハルナだったが、次の瞬間、

「大先生のバカっ!天才バカっ!かっこよくてバカっ!強くてバカっ!すごいバカっ!」

「弱い犬ほどなんとかですね~」

 ハルナが稲妻に打たれたように硬直する。それを見た歩が少し吹き出すように笑うと、ハルナは顔を真っ赤にした。

「では私はもう帰りますねぇ。アユムさんとカンナさんもご苦労様でしたー。最後にぃ、何かありますかぁ?」

「あー、ちょっとそこに立っててください」

 そう言った歩は、持ってきていた眼鏡を何故か顔にかけた。

 ……あいつ、なにやってるんだ?

 

 

 

 アリエル先生が帰ったあと、俺たちが家に帰るとユーが家の前で佇んでいた。帰りを待ってたって訳じゃなさそうだが……

「根暗マンサー、ここでなにしてんの?」

『夕飯が』

「夕飯がどうしたんだ?」

「ユー、もしかして待ちきれなかったのか?」

 アユムの質問にユーは首を振り、メモを一枚見せた。

『待ちきれなかったのは 私じゃない』

 その言葉で俺はなんとなく事情を察する。背中から流れる嫌な汗を感じながら俺たちは居間へと向かった。

 ……やっぱりな。

「やっと戻りましたか。冷めますよ」

 テーブルの上にはすでに料理(?)が並べられていた。

 俺たち三人ともいなくなれば、そりゃあ夕飯はセラが作ることになるだろうな……

「ここは俺に任せて、ハルナと神無はキッチンへ行ってくれ」

「お、OK」「わかった」

 状況を把握し、俺とハルナがキッチンに向かおうとしたところでセラに腕を捕まれる。

「どこへ行くんですか?」

 満面の笑顔で言うセラに、キッチンに行くとは言い出せなかった。

 俺は覚悟を決めると、歩と共に席につく。

 目の前には味噌汁と黒い塊。なんだこれ?

「セラ、この黒いのはなんだ?」

「唐揚げです。これぞ我が必殺の一品、ブラック唐揚げ。劣化ウランメッシュでアレンジしました」

 ダメだこれ。さすがの俺でも死にかねない。歩の方を見れば顔が青ざめている。

「神無、歩。さあ食べてください」

 セラにそう言われ、俺は覚悟を決めて唐揚げ(?)に手を伸ばす。

 箸では掴めなかったので手でつまみ、口の中に入れる。そこで俺の意識はブラックアウトした。



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