暗殺教室 with 黒羽零士《凍結》 (grey)
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コラボ&番外編
零士と陽菜乃の座談会


あけましておめでとうございます!

新年一発目は座談会という名の自由なトーク会です。ほとんど地の文はなし。あってもふざけてます。


「なぁ、そこのミカンとってくれー」

 

「いいよ~。はい」

 

 こたつに入ってテレビを見ている2人の男女。1人は黒髪の目つきの悪い黒猫。

 

「なんか、変な紹介された気がする……」

 

 もう1人は天真爛漫な女の子で頭の中がお花畑な彼女。

 

「……うん。私もなんか悪口言われた気がする」

 

「うーん、でも気のせいかもな。だって、今の俺らに悪い事なんて起こるわけないじゃん。ミカンとこたつがあって、テレビがあって、もうそろそろ年明け。グレー?とかいう奴に追加のミカンを買わせるために外に出したしさ」

 

「零士君って、結構そこらへん雑だよね」

 

「まぁね」

 

「褒めてないよ……」

 

零士と倉橋はこたつに入ってテレビを見ていた。最近流行っていたダンスで有名なドラマの主題歌が流れた時、倉橋は零士を誘って踊り始めた。零士はやった事もないダンスでぎこちなかったが、倉橋のリードでやり遂げた。やたらとカッコいいアレンジがされたリンゴとパイナップルとペンの歌には2人共盛り上がった。そして番組も終わり、いよいよ2016年が終わる。2人はカウントダウンを始める。

 

「5!」

 

「4!」

 

「3!」

 

「2!」

 

「「1!」」

 

「「あけましておめでとうございます!」」

 

とうとう年が明けた。

 

「それにしても、今年も色々あったよね」

 

「ホントな。不倫から始まって、国民的アイドルグループの解散報道、新幹線が新たに出来て、都知事選、オリンピック」

 

「リンゴとかパイナップルの人もいたよね~」

 

「ホントな。でも、一番衝撃だったのは……」

 

「だったのは?」

 

「BLEACHにこち亀、トリコにニセコイが終わった事だよなぁ」

 

「……零士君、暗殺教室もね」

 

「そうそう。確か3月だったよな。作者は受験終わって、久々にジャンプを見たら、連載終了のカウントダウンやっててビックリしたって言ってたよな」

 

「だからその勢いで全巻揃えようってなったんだよね~」

 

「その勢いのまま、俺達を始めたんだよな」

 

 12月27で“暗殺教室 with 黒羽零士”を書き始めて半年経ちました。ここまで続けられたのも、お気に入り登録をしてくださった76人、評価をしてくださった8人、見てくださっている方々18000人以上の皆様のおかげです。ありがとうございます。

 

「随分と中途半端な位置にいれたな……」

 

「ホントだね……」

 

「でもよぉ、半年で設定とかコラボとか合わせて49話だろ。これいれてようやく50話。作者のクソ文才でもせめて後1話ぐらい書いとけよな」

 

「零士君……ちょっと辛口過ぎない?」

 

「まさか。あの駄作者、途中でソードアート・オンラインに浮気しやがったんだぜ。11月中はあいつらの更新はしたくせにコッチはゼロ。やる気あんのかよ」

 

「零士君、本音が漏れてる……」

 

「って、こんな事してる場合じゃねぇんだよ。今回の本題に入んねえとな」

 

 ちなみにここまでで1000文字近いです。全く、何でこの2人は無駄話ばっかり……。

 

「うるせぇ、駄作者。テメェの出番は今日はねぇ。引っ込んでろ」

 

 はい…………。

 

「今日の本題はこれだよ~」

 

 ー「“暗殺教室 with 黒羽零士”の本編を軽~く、緩~く、振りかえろー」ー

 

「ホントに軽くて緩いな……」

 

「仕方ないよ、駄作者だもん」

 

「さて、ある程度刻みながら話してくか。まぁ最初は俺がE組に来る所だよな。今思うと、最初はすげぇ猫かぶってるよな」

 

「うん。でも私はそんな零士君に助けられたし。でも、あんなチョロい手に騙されるなんてなぁ。私、まだまだだね」

 

「それ以上、ビッチには習わなくてもいいんだけど……」

 

「次は、転校生がいっぱい来たね。律に優希君、そしてイトナ君」

 

「律と優希はすげぇ戦力だよな。射撃による援護が得意な2人の加入は、俺としても嬉しいよ」

 

「零士君は近接担当だもんね」

 

「ああ。でも、イトナやシロ、そしてクロは厄介だ。これから先も、邪魔してくるぜ、あいつら」

 

「大丈夫だよ。だって、私達のクラスには零士君がいるんだもん」

 

「お、おう……///。任せとけ。絶対に守ってやるよ」

 

 少し甘い空気になりかけたが、ヘタレの零士は行動出来ず、ギリギリならずに済む。

 

「だからうるせぇΣ!」

 

 はいぃぃぃっ! すいません!

 

「次が零士君と優希君の過去だね。ホントびっくりしたよ」

 

「ホントに色々あったからな。でも、俺はあそこでメアリに守られてばかりでよかったのかな。ホントは、俺が守ってやらないといけなかったのに……」

 

「零士君……。でも、もう守れるでしょ。これから先、零士君はそんな間違いはしないよ」

 

「ああ。もちろんさ。でも、それに気づけたのはお前のおかげなんだぜ。ホントにありがとな」

 

「ううん。いいんだよそんなの」

 

「って、もう終わったな、振り返り。あいつ、少な過ぎるんだよ」

 

「でも、今期末テスト編を頑張っているらしいよ」

 

「頑張っても成果が出ないとな」

 

 はい。精進します。

 

「じゃあ、俺達のこれからの抱負を言って終わろうか」

 

「うん、じゃあ私から。私は、もっとクラスのみんなと仲良く楽しく殺せんせーを殺したいな」

 

「陽菜乃らしくていいじゃんか」

 

「えへへ~、でしょ。零士君は?」

 

「俺はもちろん、殺せんせーを殺す事さ。でも、それ以上にお前らと楽しい学校生活を送る事かな」

 

「うん! これからも楽しい思い出作ろうね!」

 

「おう!」

 

 2人はこたつに入ったまま、前を見る。

 

「今年一年ありがとうございました!」

 

「来年も私達は頑張ります!」

 

「「これからも応援よろしくお願いします!」」




新年から2人は絶好調です。特にゲストも出さずに自由にやらせました。

今日中に本編の更新出来るよう頑張ります。

今年もよろしくお願いします!


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番外編 クリスマス

クリスマスというわけで番外編です。なぜ。18時かと言うと、クリスマスとは本来前日の日没からだからです。
※今日の0時に間に合わなかった言い訳です。

前半は零士とメアリのクリスマス。後半は零士と倉橋のクリスマスです。本来まだ付き合っていない2人ですがネタバレを控えつつ付き合わせています。


「レイ君、レーイー君」

 

「……んだよ、メアリ」

 

「遊びに行こうよー。行き降ってるんだよ。今行かなきゃいつ行くの?」

 

「い・や・だ!」

 

 ここはヨーロッパのとある国。そこにある激安のボロ宿の一室。人数分の硬いベッドと質素な机が1つだけ。零士はその机にパソコンを置いて使っていた。

 

「今日は12月24日だよ。クリスマスイヴだよ! ね、遊ぼ!」

 

「そうか、クリスマスイヴか……」

 

「うんうん」

 

「ターゲットを殺すなら、明日の夜だな。クリスマス気分が抜けて、警戒を怠ったその隙を突こう」

 

 メアリは零士のそんな答えにガッカリする。2人は殺し屋。遊びに来ているわけではないのだ。

 

「そうかもしれないけど、偶には殺しは忘れて……」

 

「無理だ。俺らは殺し屋。殺し以外に生きる術はない。別にやりたくないなら、お前はやんなくていい。それぐらい1人で出来る」

 

 零士はパソコンを閉じ、立ち上がる。かけてある黒いコートを着て外出ようとする。

 

「ま、待ってよ。私も……」

 

「いいよ、別に。行きたくないならそれでも大丈夫」

 

 結局零士は、メアリを置いて外に出た。

 

「せっかくのクリスマスなのに……。デートぐらいしてくれてもいいじゃん……」

 

 メアリも殺し屋と言えど立派な乙女。彼氏である零士と恋人らしい事をしてみたいのだ。だが、零士という人間が硬派なのかウブなのかはメアリには分からないが、とにかく奥手なのだ。恋人らしい事なんて、告白をしたあの日のキスだけだ。

 

「レイ君……一緒にいたいよ……」

 

 

「あ、おかえり、レイ君」

 

「ん、ただいま」

 

 零士は19時頃に帰って来た。お互い言葉は交わしたものの、気不味い雰囲気だ。

 

「なぁ、メアリ」

 

 そんな中、先に口を開いたのは零士。

 

「外出ないか?」

 

「今から?」

 

「ああ。どうだ?」

 

「……いいけど」

 

 服は普通の服をで、自分が殺し屋だとはバレない格好。とはいえ、癖でナイフと銃は忍ばせてしまうのは職業病だろう。

 

「わぁ、キレイ……。街中ピカピカだよ!」

 

「そうだな。すげぇチカチカする」

 

「もう! 何でレイ君はムードをぶち壊すような事言うかなぁ。行こうって言ったのレイ君だよ」

 

 2人が歩くのは、クリスマスのために飾り付けられた街。街中がイルミネーションで溢れている。見渡す限り、カップルだらけで皆手を繋いでいる。繋いでいないのは零士達ぐらいだ。

 

「お前はさ、クリスマスって何やった?」

 

 零士が尋ねたのは、クリスマスの思い出。それはつまり、殺し屋になる前であり、元の家族との輝かしい思い出。

 

「私はねー、家でパーティーをやったよ。いっぱいご飯とかあって、普段なペコペコしてる使用人の人達も一緒でね。それで……!」

 

 メアリは明るくなる自分とは対照的に零士の表情が暗くなっていくのに気づいた。話すのをやめ、下を向く。

 

「なんか、ゴメンね。レイ君の家の事、分かってたのに」

 

「俺が聞いたんだからいいんだよ。俺も、一回行ってみてぇな」

 

「ゴメンね、レイ君」

 

「バーカ。謝んじゃねぇよ。俺さ、今日は悪い事したと思ってさ、少しでも楽しめればと思ってよ。でも、お前ん家のクリスマスナメてたわ」

 

 不器用に笑いながらそう言った零士。それは、メアリが久々に見た零士の作り物ではない笑顔だった。

 

「ううん。私は今が一番楽しいよ。好きな人と、こんな素敵な所で並んで歩けるんだもん。後は、その人が勇気を出して、キスとかしてくれると嬉しいんだけどね」

 

 それを聞いて顔を真っ赤に染める零士。メアリはこの時、零士は硬派ではなくウブなのだと理解した。

 

「……キスはその、あれだからさ、手を繋ぐで勘弁してくんね……///」

 

 零士はポケットに突っ込んでいた手をメアリの方に出す。

 

「手袋、外して」

 

「寒いじゃん」

 

「いいから! じゃないとキスするよ」

 

「わ、分かったから。ていうか、そういう事普通に言うなよ……///」

 

 零士は手袋を外してメアリと手を繋ぐ。しかし、メアリは不満そうな顔をやめない。

 

「な、何だよ?」

 

「……繋ぎ方」

 

 頬を膨らませ、上目遣いで零士に対し訴えるメアリ。何を求めているか理解した零士は再び顔を赤らめる。

 

「…………これでいいのか?」

 

「うん……///」

 

 零士はメアリの指に自分の指を絡めた所謂恋人つなぎをする。自分で求めて顔を赤くするメアリ。恋に積極的な乙女はまだまだ純粋な女の子だ。

 

「えへへ」

 

「何笑ってんだよ。……気持ち悪い……」

 

「すぐ言う! デリカシーないなー。そんなんじゃ、私と別れちゃったら、二度と彼女なんか出来ないよ!」

 

 そんなメアリの言葉に零士は笑って答える。

 

「へぇ、そうか。でも、要するに俺がお前と別れなきゃいいんだろ。それとも、メアリは俺の事嫌いか?」

 

「……そんなわけないじゃん。ていうか! レイ君こそ、ホントに他の女の子、好きにならないの?」

 

「……バーカ。俺は一途なんだ。お前以外の女になんか惚れるかよ。つぅか、こんないい女、手放さないし」

 

 零士はサラリとキザな事を言う。これが平常運転だ。

 

「ほら、色々見て回ろうぜ。依頼の報酬で金なら結構あるから」

 

「……台無しだよ、レイ君」

 

 2人は、今夜だけは殺し屋である事を忘れて楽しんだ。好きな物を食べたり、飲んだりして腹を満たした。職業柄、世界中を旅しているため、大きな物は買えないので、ちょっとした小物を買ったらもした。

 

「ところで、依頼の方は?」

 

「下見だけ済ませて来た。こんだけ派手なイベントだ。祭り好きな標的がはしゃがないわけがねぇ。その隙に屋敷に侵入して、経路だけ頭に叩き込んで来た」

 

「流石ゼロ君、頼りになるー。仕事がはやーい」

 

 メアリはここぞとばかりに零士を煽てる。

 

「褒めても何も出ないからな。それに……」

 

「それに?」

 

「やっぱ、せっかくのクリスマスだからな。自由になってから、初めてゆっくり出来たし、こういうのもいいかな、って思ってさ」

 

 これには言われたメアリも本人も羞恥心で互いの顔を直視出来なくなる。

 

「あ、あそこ行こ! カップルの人達、みんな行ってるよ!」

 

「お、おう」

 

 この高台はこの国でも有数のデートスポット。ここからの眺めはとにかく素晴らしいと評判らしい。しかも、クリスマスのため飾りつけがされ、普段以上にぼっちは近づけない雰囲気。

 

「わぁっ、すごーい!」

 

「綺麗だな、本当に」

 

 そこからは、近くにある他の街が一望出来る。現在の時刻は21時。より綺麗な夜景が楽しめる。

 

「あっ、雪だ……」

 

「わぁっ、本当だ!」

 

 雪が降り始めた。夜景に雪が合わさり、幻想的な風景を見せる。他のカップル達も談笑をやめ、景色に見入る。

 

「レイ君レイ君。こういうのって、ホワイトクリスマスって言うんだよね。なんかロマンチック!」

 

「こんなに俺らに似合わない1日ってあるのな」

 

「偶には、こういう1日もいいでしょ」

 

「かもな」

 

 しばらくはまた、沈黙する。だが、そこに気不味い雰囲気はなく、他のカップルとは変わらない、いや、それ以上に甘い空気が流れる。

 

「……ねぇ、キスして」

 

「…………おう」

 

 零士はメアリを抱き寄せ、唇を重ねる。キス自体はまだまだ子供な触れ合うだけのキス。だが、2人に不満はなかった。重ねた時間は短くても、交わされた想いは誰よりも熱く、幸せだった。

 

 

「ふぅん。それが黒羽のクリスマスの思い出ねぇ。よくもまぁ、彼女の前でそんな話が出来たわね。優希、ブラックコーヒーおかわり」

 

「あんまり飲むと、今夜眠れなくなるぞ。でもまぁ、凛香の言う事も分かる」

 

 そして、時は巡り現在。東京の椚ヶ丘市にある商店街。そこにある“Assassin’s cafe”の奥に彼らはいた。本来はこの店の本当のオーナー神田龍牙や彼の娘の舞、ルリや剣を含めた殺し屋たちは今はいない。

 

「お前らがクリスマスの思い出を話そう、とか言ったんだろ。俺にはこれぐらいしかねぇんだよ」

 

「寂しい男ね」

 

「余計なお世話だよ」

 

 零士と同じ殺し屋の白河優希にその彼女の速水凛香がコーヒー片手に会話する。だが、この店にいるのは彼らだけではない。

 

「なぁ、陽菜乃。何でそんなハムスターみてぇに頬膨らませてんだよ。……まぁ、そんな所も可愛いけどさ」

 

 零士の今の彼女、倉橋陽菜乃だ。彼女は今、零士の正面に座っているが、楽しそうにはしていない。

 

「……別に。メアリちゃんと楽しそうだな、とか、メアリちゃん羨ましいな、なんて思ってないから」

 

 目の前で彼氏から元カノとの思い出話を聞かされて気分のいい彼女はいないだろう。倉橋は大変ご立腹である。

 

「零士最低」

「女の敵」

 

「優希、速水、てめぇらなぁ……。なぁ、陽菜乃。悪かったって。悪気はなかったんだよ。ただ、こいつらが話せって言うから……」

 

「うわぁ、そうやって俺らのせいに」

「責任転嫁」

 

「オイコラ、てめぇらそろそろ怒るぞ」

 

 未だに倉橋はイライラしている。何とか機嫌を治そうと奮闘する零士だが、普段は喧嘩ばかりのはずなカップルによってからかわれる始末。

 

「陽菜乃、機嫌治してくれよ。せっかくのクリスマスだぜ。まだイヴではあるけどさ」

 

「いやだ。そうやってメアリちゃんとの思い出を振り返ってればいいんだ。手繋いだり、夜景みたり、キスしたり、その後ベッド上であんな事やこんな事……。この変態」

 

「最後のはやってねぇから! 頼むからそれはやめて! 俺は変態じゃない!」

 

 危うく、変態になりかけた零士。そして、それを聞きながら必死に笑いを堪えるスナイパーカップル。

 

「くくくっ……お前ら最高……じゃなくて。零士、陽菜乃ちゃんの事、送って帰りなよ。そろそろ時間ヤバイだろ」

 

「もうそんな時間なのね。優希、店の片付け、手伝わせてよ」

 

「ありがとよ」

 

「了解。陽菜乃、帰ろうぜ」

 

「……別に1人で帰れるもん」

 

 そう言って、倉橋は先に店を出る。零士はそれを追って外に向かう。

 

「悪い、優希。バタバタしちまって。じゃあ先に帰るわ!」

 

「ねぇ、黒羽帰り道、オオカミになっちゃだめよ」

 

「それやったらシャレになんねぇからΣ!」

 

「零士。最後に少しいいか?」

 

 優希が真面目な顔で言う。速水も似たような顔だったため、零士は嫌な予感しかしない。

 

「何だよ優希。急いでくれよ」

 

「R18な展開とかやめろよ。需要はあるかもだけど、まだお前らは本編じゃあ付き合ってねぇんだからな」

 

「メタいわΣ!」

 

 取り敢えず、2人をほっといて零士はコートを着て外に出る。

 

「待てよ、陽菜乃!」

 

「……うるさい」

 

「待てって」

 

「いや!」

 

「陽菜乃」

 

「…………」

 

 零士はその優れた身体能力であっという間に追いつく。

 

「……零士君。私の事、嫌いじゃないんだよね。メアリちゃんの方が好きとかないよね。私の事、見てくれてるよね」

 

「陽菜乃…………」

 

 倉橋はただ不安だったのだ。零士が本当に自分の事が好きなのか。一緒にいてくれるのかどうかが。

 

「当たり前だろ。今の俺が好きなのはお前だ。言ったはずだろ。殺し屋の俺はもう一生恋愛なんて無理だと思ったって。なのに、俺はお前に惚れたんだよ。それこそ、一生大事にするし、ずっと一緒にいるよ」

 

 零士は倉橋の背に手を回し抱きしめる。

 

「……そっか。私の事、好きなんだ。えへへ……///」

 

 倉橋も零士に抱きつく。そして、零士の胸に頬ずりをする。

 

「お、おい。そういうの反則だろ……///」

 

 恥ずかしがってはいるが、満更でもない様子の零士。倉橋はもう一度零士の方を見て「えへへ」と笑い、頬ずりをやめる。

 

「じゃ、帰ろっか。零士君、手繋ごう」

 

「……分かりましたよ、お姫様」

 

 零士は今回はちゃんと恋人つなぎをする。

 

「零士君、やっぱりキザだよね」

 

「これが素なんだよ」

 

「そういう所もカッコいいんだけど」

 

「どっちだよ」

 

 そんな感じで軽い言い争いをしながら帰る。先ほどまでの険悪ムードはすっかり息を潜め、良い雰囲気だ。

 

「今度はどんな所に行こうか……って、あ!」

 

「どうした?」

 

「雪! 雪だよ雪! ホワイトクリスマスだね」

 

「ああ、そうだな」

 

 倉橋は自分で言ってから、もう一度頬を膨らませる。おそらく、零士の思い出話と情景が被ったからだろう。

 

「なッ……///。お、おい、陽菜乃……///?」

 

「いいでしょ、寒いんだし。こっちの方が暖かいでしょ」

 

 倉橋は零士の左腕に抱きつく。すると当然、女子特有の2つの膨らみの感触が零士の腕に伝わるわけで、

 

「陽菜乃、胸……当たってんだけど……///」

 

「メアリちゃんのは直接触ったんでしょ。服越しなんだしいいじゃん」

 

「そんな事ヤってねぇからΣ! ていうかまだそれ引きずるのかよΣ!」

 

 結局、零士は倉橋の事を直視出来ないまま、家まで着いてしまった。

 

「着いちゃったね」

 

「ああ」

 

「何でコッチ見てくれないの?」

 

「いつまで、抱きついてるんですか? そろそろ放してくれると嬉しいんですが……」

 

 倉橋は「仕方ないなぁ」と言いながら離れる。だが、「じゃあ……」と言った。零士は嫌な予感しかしない。

 

「キスして」

 

 特大の爆弾が投下された。

 

「……マジ?」

 

「マジマジ」

 

 やらないと自分の家の敷地はまたがないという感じの倉橋。零士も、彼女をこんな雪が降り寒い中に立たせているほど鬼ではない。

 

「分かったよ」

 

 雪降る聖夜の下、2人の影は重なった。零士はキスした後、すぐに離れようとした。しかし、倉橋が零士に抱きつき、そのままキスを続ける。ビッチ先生仕込みのキステクを発揮する。

 

「ひなの……」

 

「えへへ。

 零士君、また来年も楽しもうね、クリスマス! 今度は何しようかなぁ」

 

 少しずつ正気を取り戻した零士は笑顔で言う。

 

「俺も今から楽しみだよ。そのためにも、殺せんせーを必ず」

 

「うん! そうだね」

 

「じゃあおやすみ、陽菜乃」

 

「おやすみ、零士君」




いかがでしたか。どちらとも、零士らしいと思って書いたのですが。そして、零士がイチャイチャラブラブしています。羨ましい……。爆ぜろリア充!

必ず、零士と倉橋がこんな関係にします。それまでお待ちください!


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ライとゼロの暗殺教室 後半

まずはコラボして頂いた蒼月ミカロさんありがとうございます。

初めてのコラボなので上手くいっているかは分かりませんが楽しんでいただけたら幸いです

なお、これは後半です。前半は「銀蒼の王の暗殺教室」でご覧ください

では本編スタート!



「みなさん、今日からE組に新しい仲間が加わります!」

 

 殺せんせーが勢いよく告げる。

 

「どうせ、また殺し屋なんだろ」

「そうそう。今度は何が来るんだ?」

「ライさん、どんな人なの?」

 

「みんなも知ってると思うよ。多分、僕よりも詳しい」

 

 みんなはその意味が分からなかった。殺し屋なのに自分達の方がよく知ってる。そんな人、いるのだろうか。

 

「入って来ていいよ」

 

 ライの声を聞いてドアを開けて入って来たのは黒髪の少年。

 

「初めまして…じゃないよな。えっと、知ってる奴も多いと思うけど、元A組の黒羽零士です。よろしくお願いします」

 

 クラス中が驚きの表情で溢れる。

 

「何でお前がE組に?」

「A組だったのに……」

 

「あー、やっぱそう思う?まぁ、サボり過ぎたんだ…」

 

 今度クラス中が拍子抜けという感じになった。

 

「なぁ、殺せんせー。さっそくだが明日にでも殺してもいいか?」

 

「ヌルフフフフ、別に今日でもいいんですよ」

 

 なんか…あの顔ムカつく! 殺意が湧いてくる。でもまだだ。今日一日で準備を完璧に整える。

 

「明日、放課後、楽しみにしてるよ」

 

 

「零士君、よろしくね」

「よろしく、零士」

「明日どんな風に殺るんだ?」

 

 同じ学校だからか、思ってた以上に仲良くなるのは早かった。殺し屋の訓練を受けた中学生か…。でも所詮はこんなもんか。正直こいつら全員その気になれば殺せる。この間言っていたイリーナ・イェラビッチも俺なら楽勝だ。殺せんせーも俺には手を出せない。烏間先生も俺が本気さえ出せばどうにかなるだろう。

 

「なぁ、ライさんってどんな人なんだ?」

 

 でも、こいつの事だけは気になる。ライ・ランペルージ、この男だけは。

 

「ライさんは…すごくカッコいいよ」

 

「優しいし、素敵だし」

 

「そして何でも出来るよ」

 

 零士の質問に矢田、速水、中村の順に答える。

 

「へぇ、そっか。(そっちじゃなくて強さの事なんだけど…。まぁ、聞いてる限り生徒からの信頼はあるわけだ)」

 

 零士は他の生徒にも聞き続けた。

 

「渚、茅野、カルマ、ライさんってどんな人だ? 只者じゃないと思うんだけど……」

 

「うん、確かに只者じゃないね」

 

「烏間先生に勝ち越せるぐらいだし」

 

 マジかよ…。あの人もかなりの手練れだぞ。それ以上かよ。尚更警戒しねぇと。

 

「正直、チートだよね。触手をいきなり8本も破壊してたし」

 

 はァ! ウソだろ。殺せんせーはそんな簡単に殺らせてくれそうな奴じゃなかったぞ。

 

 結局、零士はライのチートさを知っただけだった。ほとんどアクションを起こす事なく、初日は幕を閉じた。

 

 くそッ、やっぱハッキング出来ねぇのは辛いな。本当に生徒を殺さねぇといけないかもな。

 

 零士の思考は殺せんせーよりライの方に向いていた。初めて会った時、そして今日もう一度会った時、その二回で彼の強さが分かっていた。

 

 

 翌日の放課後

 

「さて、零士君。君はどんな方法で先生を殺しに来てくれるのでしょうか?」

 

 ナメている顔だ。でも……殺れる。油断してんならその首、気づく前に殺ってやる。

 

 俺は縮地術で素早く殺せんせーの後ろに移動し、しまっていた特製のダガーで斬りかかる。

 

「ヌルフフフフ、惜しいですねぇ。確かに君のスピードは驚異的だ。でも……君が殺し屋であると分かっていれば簡単に見切れます」

 

 ! バレてた…だと。

 

「おい、ライさん。テメェ……喋りやがったのか?」

 

「いいえ、零士君。ライ君は話していません。君の殺気、隠されている様で微かに漏れています。特に、ライ君を見ている時にです」

 

 ターゲット以外を意識し過ぎてたのか。ターゲットにバレたら俺の有利はなくなる…。ならば…やるしかない!

 

「…はははっ、そうか。じゃあ、改めて自己紹介をするよ俺はゼロ。殺し屋だ。殺せんせー、俺は今からもう一度アンタを殺るよ」

 

「どんな方法で来るんですか?楽しみですねぇ」

 

「しっかり守れよ…自分の生徒をな!」

 

 するとゼロは縮地術を使い、近くで見ていた生徒達の背後に移動する。

 

「! 倉橋さん、矢田さん、危ない!」

 

 ライの声が聞こえる。でも、その声は2人が逃げるには遅すぎた。

 

 ゼロは倉橋の頭に銃、矢田の首にダガーを当てる。もちろん対人用のだ。

 

「怖いよ……助けて!」

「た、助けて…殺せんせー! ライさん!」

 

 2人は助けを求める。

 

「零士君、2人を放してください!」

 

 ゆっくりと近づいてくる殺せんせーに対して零士は蹴りを放つ。それもただの蹴りではない。靴に仕込んだナイフで斬りつけたのだ。

 

「まず、一本。さぁ、どうする?」

 

 ゼロは有利に見えた。だが、最初の一撃をかわされたことにより明らかに焦っていた。その結果、1人の男の存在が頭から完全に抜け落ちていた。

 

「…ゼロ。僕は言ったよね。生徒の命が危険になるなら殺すと」

 

 するとライは先ほどのゼロと変わらないスピードで後ろに周り攻撃を仕掛ける。

 

「チッ、ライさん。やっぱりアンタが邪魔をすんのか。仕方ねぇ、ターゲットを殺る前にテメェを殺ってやるよ!」

 

 零士は縮地術で懐に潜り込み、ダガーを振る。

 

「やるね。でも遅いよ」

 

 ライはMVSを構え、ゼロの次の攻撃に備える。

 

「もう、手加減はしねぇ! 死ね、ライ・ランペルージ!」

 

 ゼロの両眼が黒から赤に変わる。

 

「くッ……速い!」

 

「オラオラ! その程度かよ! 守るんだろ、この生徒達を! やれるもんならやってみろ!」

 

「……だったらやるよ。僕も本気を出さないとね!」

 

 今まさに生徒達の前で行われているのは次元の違う戦い。2人とも人間の出せるスピードを超えている。

 

「はァァァッ!」

 

 ゼロの放った一撃をライは剣で完全に受け止める。

 

「なッ……」

 

「これで最後だ!」

 

 ライは自分の剣をゼロに向かって振り下ろす。誰もがゼロの死を確信した。

 

「…ッ! 何で…殺さねぇんだよ、ライ・ランペルージ!」

 

「僕は倉橋さんと矢田さんが助けを求めた。だから2人を助けた。君を殺してもよかったけど、それは殺せんせーが許さない。それ以上に君の力はこの教室でこれからも発揮するべきだ」

 

 自分を殺そうとした相手に向かって手を差し伸べるライ。戦意を喪失した零士はその手を黙って見つめる。

 

「……後悔してもしらねぇぞ。ライさん」

 

「その時はまた相手してあげるよ、零士君」

 

 零士はその手を取った。

 

 

 数日後の昼休み

 

「殺せんせー、ちょっと来てくれませんか?」

 

「どうしました、ライ君。先生まだ食事中なんですが……」

 

 そんな話をライは無視する。そのまま校庭に殺せんせーを連れて歩いて行く。

 

 次の瞬間、殺せんせーの触手が一本、宙を舞った。

 

「にゅやッ!」

 

 そこにいたのはダガーを持った零士。

 

「更にもう一本!」

 

 次はライが剣を振る。そしてまたもや一本破壊される。

 

 その後も2人は素早い動きで殺せんせーの逃げ道を封じている。

 

「「これで最後!」」

 

 同時に振った刃は更に触手を破壊する。

 

「にゅやッ! ライ君! 零士君! いきなり何なんですか!」

 

「あの時は殺せんせーの暗殺、半端だったからな」

 

「今度は僕と零士君のコンビで殺ろうとしたんですが…」

 

「でも…また先生を殺せませんでしたねぇ」

 

 殺せんせーは10本の触手を破壊されながら口では余裕だと言う。

 

「まぁ、それもそうだな」

 

「じゃあ、次までにもっとコンビネーションを磨かないとね、零士君」

 

「おうよ。まぁ、とにかく、絶対に殺るよ」

 

 2人は息を合わせて言った。

 

「「卒業までに!」」

 

 そうして2人は再び殺せんせーに向かって行った。




もう一度、蒼月ミカロさん、ありがとうございました!

今回コラボさせていただいたのは蒼月ミカロさんの「銀蒼の王の暗殺教室」です。暗殺教室×LOSTCOLORSの小説です。メインヒロインは矢田さん、サブヒロインが速水さんと中村さんです。是非、そちらの方にも足を運んで見てください

これからも「暗殺教室 with 黒羽零士」、「銀蒼の王の暗殺教室」をよろしくお願いします。感想や評価、コラボのお誘いなど待ってます


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オリキャラ紹介
黒羽 零士


もう直ぐアニメも終わってしまいますが、好きな作品なので思い切って投稿してみました。初めてなのでお見苦しい所もありますがよろしくお願いします。
まずはこの作品のオリ主、黒羽零士の紹介です。



黒羽 零士(くろば れいじ)

 

 

 

誕生日:2/6

身長:160cm

体重:52kg

血液型:B型

好きな教科:英語、国語

嫌いな教科:美術

趣味:サッカー

所属部活(過去):サッカー部

宝物:メアリから貰ったペンダント

好きな食べ物:コンビニのおにぎりとパン

弁当派or買い食い派:買い食い

選挙ポスター:大事な物は全部守る!

容姿:百夜 優一郎(終わりのセラフ)を目つきを悪くして、目の色を黒にした感じ

イメージCV:花江 夏樹

 

 

 

 

個別能力値(5段階構成)

 

体力:3.5

機動力:5

近接暗殺:5以上

遠距離暗殺:3

学力:4.5

固有スキル

(鈍感):5

(ガラスのハート):4.5

 

 

 

 

作戦行動適正値(6段階構成)

 

戦略立案:3

指揮・統率:2

実行力:6

技術力:5

探査・諜報:2

政治・交渉:5

 

 

 

 

概要

 

椚ヶ丘中学校の3-Aに在籍していて、サッカー部でもエースストライカーだった男子生徒だがその正体は現役中学生の殺し屋。

 

コードネームは“ゼロ”で近接暗殺においてトップクラスの実力と殺し屋歴6年で殺した人数は50人以上の実績を持つ。

 

使う武器は刃の長さがナイフ以上刀以下の刃物で、特によく使うのはダガーやナイフを仕込んだ靴。暗殺の依頼を受けた時も使っているダガーと同じモデルのダガーやナイフを仕込んだ靴を用意してもらっている。

 

殺し屋でも使える人の少ない縮地術を使いこなす。そのスピードは一瞬だけなら殺せんせーを上回る。

 

ある日、防衛省から殺せんせーの暗殺の依頼を受け、E組にやって来る。E組に来た当時はE組の事を見下しており、殺せんせーを殺す為の駒としか考えていなかったが後にその考えを捨て、皆と共に暗殺を続ける。

 

性格はとてもクールで個性の強いE組の中では渚と共にツッコミ役やストッパー役になる事が多い。

 

意外とメンタルが弱いところがある。豆腐メンタルではないが結構傷つきやすいデリケートな奴。特に倉橋を人質にした時の事を指摘されると盛大に凹む。

 

周りが驚く程自分や他人関係なく色恋に鈍感でE組は全員手を焼いている。倉橋から好意を寄せられているが全く気づく様子はなく、天然たらしとも言える言動で倉橋の顔をいつも真っ赤にさせている。

 

絵は壊滅的で歌も超音痴と芸術センスは乏しい。普段着も基本パーカーなのでファッションセンスがあるとは言えない。

 

リフティングをするのが癖で考え事をしている時、暇な時関係なくよくしている。とても上手く、歩きながらやっている時もある。

 

過去に恋人だったメアリを殺されており、それからは友達はいても心を開いていなかったがE組に来たことにより元の優しい性格に戻った。色々あったが今はE組に来てよかったと思っている。

 

 

 

 

E組から見た零士

 

カルマ→からかうと面白い

磯貝→頼りになるいい奴

岡島→扱いが酷い

岡野→鈍感過ぎて陽菜乃が可哀想

奥田→ナイフを使うのがとても上手いです

片岡→鈍感過ぎて見ててウザい

茅野→頼りになる!話してて楽しい

神崎→とても優しい頼りになる人

木村→足以外敵わない

倉橋→凄くカッコいい。好きだけど中々気づいてくれない…

渚→一緒にツッコんでくれるし、今まで苦労したんだろうなぁ

菅谷→あの絵心のなさは俺にも手に負えない

杉野→サッカー上手いけど野球も上手い

竹林→メイド喫茶に連れて行ってみたい

千葉→信頼できる奴

寺坂→ムカつくけど認めざるを得ない

中村→弄りがいがある

狭間→闇がありそう

速水→鈍感過ぎ

原→料理を教えてあげたい

不破→ジャンプ好きかな?

前原→頼りになるいい奴

三村→芸術のセンスが本当にない

村松→コイツの味覚どうかしてる

矢田→陽菜ちゃんの気持ちに気づいてあげて!

吉田→頼りになる

律→援護のしがいがあります

 

殺せんせー

「とても優秀な生徒です。暗殺も勉強もとても積極的です。殺し屋という事もあり、彼が来てからE組の暗殺がより面白くなりました。しかし彼自身、心の中に闇を抱えている様な感じで少し心配です。それと倉橋さんとの関係の進展も個人的に気になる所です。」

 

烏間先生

「近接暗殺においてE組でもトップクラスの実力の持ち主だ。彼がこのクラスに来てからクラス全員の近接暗殺の技術が高まった。得意な分野で戦うのが上手く、彼の土俵に乗せられると俺も苦戦してしまう程だ。まだまだ個人技に頼る場面も多く、他の生徒との連携がどこまで上手くいくかが暗殺成功の鍵になるだろう。これから彼を中心により技術の向上が期待出来る。」

 

ビッチ先生

「初めて会った時から本当に生意気でとにかくムカつく奴だわ。あれがあの殺し屋“ゼロ”だと聞いた時は驚いたわ。でも実力を見る限り認めざるを得ないのも確かね。陽菜乃との事もしっかりして欲しいわ。見ててコッチがイライラする。」

 

 

 

 

零士から見たE組

 

カルマ→ウザい、とにかくウザい

磯貝→イケメン

岡島→変態、エロい。(アイツを思い出す…)

岡野→体が柔らかい

奥田→理科凄い

片岡→イケメン

茅野→甘い物好き。話していて楽しい

神崎→ゲームやべぇ

木村→足速っ!

倉橋→何でいつもあんなに顔真っ赤にしてんだろう?

渚→本当にいい奴。一緒にいて落ち着く

菅谷→絵を教えてくんないかなぁ

杉野→野球バカ

竹林→オタク?

千葉→狙撃凄い。俺敵わねぇ

寺坂→ジャイ○ン?

中村→ウザい、とにかくウザい

狭間→魔女っぽい

速水→ツンデレ

原→料理凄い

不破→アイツオススメの漫画は面白い

前原→女たらし。(アイツを思い出す…)

三村→アイツの映像面白い

村松→アイツの家のラーメン美味い

矢田→直ぐ怒ってくるんだけど

吉田→バイク好き

律→チート

殺せんせー→速い、ウザい、エロい

鳥間先生→強過ぎ、マジ怪物

ビッチ先生→本当にビッチ

 




感想や誤字脱字などありましたらいくらでも言ってください。
この回は予告なしに変更する事があると思います。
ではまた次回



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白河 優希

2人目の殺し屋、“ブレット”こと白河優希の紹介です。

ステータスや概要を見るとこっちの方が強そう。でも零士が主人公ですよ!

何か質問があれば感想などでどうぞ



白河 優希(しらかわ ゆうき)

 

 

 

 

誕生日:8/5

身長:166cm

体重:55kg

血液型:B型

好きな教科:英語、数学

嫌いな教科:特になし

趣味:銃のカスタマイズ、コーヒー

宝物:初めて使った銃(今はお守りとして使わずに持っているだけ)

弁当派or買い食い派:買い喰い

選挙ポスター:あなたの心臓(ハート)、射止めます

容姿:キリト(SAO)を茶髪にした感じ。※キリトのイメージで優希を見ると全てが崩壊します

イメージCV:小野 賢章

 

 

 

 

個別能力値(5段階構成)

 

体力:3.5

機動力:3.5

近接暗殺:3.5

遠距離暗殺:5以上

学力:5

固有スキル

(感覚器性能)5以上

(天才肌)5

 

 

 

 

作戦行動適正値(6段階構成)

 

戦略立案:6

指揮・統率:4

実行力:5

技術力:6

探査・諜報:5.5

政治・交渉:5

 

 

 

 

概要

 

E組に突然来た転校生暗殺者。“ゼロ”とは2年前からコンビを組む。圧倒的なスキルと生まれつきの感覚器の性能の高さでターゲットを殺す

 

普段は思いっきりのボケキャラ。とにかくふざけた奴。E組は全員このテンションに着いて行くのに精一杯。卒業までには着いて行こうとみんなは誓った。

しかし殺し屋“ブレット”として活動する時は超真面目。クライアントからの依頼には最高の形で応える。普段はツッコミをされている零士にもこの時だけはツッコむ。

とにかく普段と殺し屋の時とのギャップが零士以上にある。

 

優希にとって速水は初めて自分をちゃんと正面から見てくれる相手。だから執拗に絡む。そこに現時点で恋愛感情はない。がこの先どうなるのだろうか……。

 

殺し屋として様々なスキルを極めている。必要に応じてそのスキルを組み合わせてターゲットを追い詰める。

例)

・射撃(距離は問わない)

・ワイヤー(ワイヤーをそのまま使う事もあればお手製のワイヤーハンドガンを使う事もある)

・コーヒー(師匠の龍牙と渡り合える程の腕)

・女装(様々な色のウィッグや多くの化粧道具を使って女装する。見た目はキリト(SAO)のGGOver)

etc

 

耳が良く、その様々な音を聞き分ける事ができる。もちろん絶対音感もあり音楽も得意。また、目も良く、時にはスコープを使わずに狙撃をする。空間認識能力の上位互換能力の“空間把握”は自分の周りの人や建物を頭の中で模型のように認識する。目を瞑る事で使える。

 

無類の甘い物好き。飴を何種類も常備しており、何かをする前後で口に入れる。茅野や倉橋、殺せんせーとスイーツをよく食べている。

 

普段からヘッドホンをつけているが周りの音は余裕で聞こえる。本気になると外す。零士と模擬暗殺をしてよく壊す。

 

E組に来た理由は面白そうだから、といったものだが、最終的には来てよかったと思っている。

 

男子は全員下の名前で呼び捨て。女子は全員下の名前にちゃん付け。シリアスになると名字の呼び捨てになることもある。

 

千葉と速水とは同じスナイパーとしても仲が良く3人合わせて“スナイパートリオ”と言われる。また、イタズラ好きでゲスい一面もあり、カルマと中村とも仲がいい。

 

 

 

 

E組から見た優希

 

カルマ→同類。そして玩具

磯貝→色々と任せられる

岡島→ブラザー!

岡野→チャラい

奥田→色んな薬品の作り方を教えてくれます

片岡→すごく信頼出来るけど……

茅野→甘い物好きに悪い奴はいない!

神崎→黒羽君といいコンビ

木村→完璧過ぎる

倉橋→零士君の事でよく相談に乗ってくれる

渚→同じ女顔だから親近感がわく。でもツッコミが大変…

菅谷→絵もすごく上手い

杉野→フレンドリーですごくいい奴

竹林→君にはまだまだ新たな可能性があるはず

千葉→最高の師匠。もっと色々教わりたい

寺坂→カルマと同じ匂いがする

中村→仲間。そして玩具

狭間→鬱陶しい。だけどいい闇を持ってる

速水→ウザい。しつこい。ムカつく。…だけど…………

原→淹れてくれたコーヒーが美味しい

不破→少年漫画の主人公みたいな能力

前原→殺し屋っぽくない

三村→メインで動画を撮りたい

村松→料理もすごく上手い

矢田→凛香ちゃん、ファイト!

吉田→何でこんなに何でも出来るんだ?

律→アップデートを手伝ってくれます

 

殺せんせー

「何でも出来てしまう生徒です。殺し屋としてもとても手強いですねぇ。彼の加入で暗殺がますます楽しくなりそうです。ですが、もう少し中学生らしい行動を心掛けて欲しいです。速水さんとは健全な関係になって欲しいですねぇ」

 

烏間先生

「遠距離や中距離からの射撃において右に出る者のいないスナイパーだ。仕事とプライベートのメリハリも出来ていて、とても信頼出来る。特に零士君と組ませると俺も本気を出しても怪しいぐらいだ。最近は千葉君や速水さんを中心に射撃の指導をしていて、クラスのさらなる成長に期待出来る」

 

ビッチ先生

「コイツとは何度か顔を合わせた事があるわ。女装してる時だけど。でもとにかく何でも出来て、器用な奴。零士ほどムカつかないけどウザいわね。凛香も大変ね」

 

 

 

 

優希から見たE組

 

カルマ→才能の塊だな。後は精神面が課題だ

磯貝→我らが頼れるイケメンリーダー

岡島→ブラザー!

岡野→小柄でとても可愛らしい

奥田→メガネっ子、俺は嫌いじゃない

片岡→本当は誰よりも乙女な事、俺は知ってるぜ

茅野→巨乳か貧乳か。その答えは()()!俺はお前の事が好きだ

神崎→清楚でお淑やか、だけどそこに隠れた才能。いやぁ、美しい

木村→とにかく速い。コイツを軸に作戦でも考えてみようかな?

倉橋→天真爛漫で可愛い。まぁでも零士の女だもんなぁw。手は出せないや

渚→ある意味同類だ。お互い頑張ろう

菅谷→アーティスト。これ以上の言葉はない

杉野→お前の恋、応援するぜ

竹林→お前の頭脳、必ず役に立つ

千葉→出来の良すぎる弟子

寺坂→コイツ中心の作戦は考える価値ありだな

中村→誰よりも真面目なお前は本当に魅力的だ

狭間→お前は魅力で溢れている。自信をもて

速水→えっと……まぁツンデレだな

原→お前のような彼女がいれば、俺は自慢をしないわけにはいかない

不破→その積極性に俺は惹かれたよ

前原→もっと身近に目を向けろ

三村→お前の作る映像、最高だ!

村松→ラーメン、また食いに行くよ

矢田→胸だけじゃない。君の可能性は無限大だ

吉田→バイク、また乗せてくれ

律→2次元、俺は好きだ

殺せんせー→殺すよ、卒業までに

烏間先生→人外、チート、怪物

ビッチ先生→ゴメン、ビッチだけは恋愛対象じゃないんだ

 




「優希から見たE組」、すごく優希のキャラが現れてると思いませんか?…思わないかもしれませんね

彼のヒロインは速水です。零士と倉橋とはタイプの違ったカップルになりそうです

今後も応援、よろしくお願いします!


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本編
依頼の時間


ようやく本編。
最初に出た原作キャラがまさかの浅野君。そして理事長、倉橋。
それと倉橋とのフラグ立てられたかな?微妙かも…。



『…メアリ……、おい、メアリ! 何で俺を庇ったんだよ!』

 

 少年の前には、たった今銃で撃たれた血塗れの少女が横たわっている。

 

『…レイ君に…生きて……欲しかったから…』

 

『何言ってんだよ! ずっと一緒だって言ったじゃないか! 死ぬな、メアリ!』

 

『…ゴメンね……レイ君…。でも……私…幸せだよ…。大好きな人を……守って……、大好きな人の…腕の中で死ねるんだから………』

 

 少女の声はどんどん小さくなり、少年の目からは涙が溢れ出す。

 

『…そんなに……泣かないでよ…。死ぬのは…レイ君じゃなくて……私だよ……』

 

『…何で…何でお前が死ななくちゃいけないんだよ! …もう少しでお前は…家族全員と会えたのに……。お前は…幸せになる権利があるのに! 何で!』

 

 少女は死にかけているとは思えない程の力強い目で少年を見る。

 

『そんなの……どうだって…いいよ。私は……レイ君と…一緒にいれた…それだけで…幸せだから…。だから…生きて……私の分まで………。私の分まで……幸せに…なって……、レイ君』

 

 その言葉を最後に少女は命を落とした。

 

 

「……また…あの夢か…。今日は良い事ねぇな…」

 

 彼の名前は黒羽 零士。椚ヶ丘中学校3-Aの生徒だ。

 

「今日は…確か中間の結果が発表される日か…。仕方ねぇ、行くか」

 

 零士は眠そうな目を擦りながら起き上がり、僅か数分で支度を済ませ家を出る。学校の途中でコンビニに寄り、おにぎりとお茶を買い、それを食べながら学校へ向かう。

 

 

「やぁ、おはよう黒羽。いつも通りの遅めの登校だな」

 

「ははは、まぁね。おはよう、浅野。テストの結果出てるよな、見に行こうぜ」

 

 この間やった1学期中間試験の結果が廊下に貼り出されている。零士と浅野はそれを見るために廊下に出る。

 

「流石、浅野。安定の1位じゃん! やっぱスゴイな」

 

「まだまださ。この程度で満足していてはこの先、足元を掬われてしまうよ」

 

「(よく言うよ。こんなの出来て当然。どうせそう思ってんだろ)ええと、僕のはどこかな?」

 

 本音を言葉に出す事なく、零士は自分の順位を探す。

 

「あったよ、黒羽。15位だ。前回より上がったんじゃないか?」

 

「あぁ、本当だ。この間は25位だったかな? まぁ、今回は数学と理科がいつもより良かったし、当然って言えば当然かな?」

 

「そうだな。君は文系の3科はいつも高得点。今回に限っては3科共に100点。苦手なその2つも80点、調子良いみたいだな」

 

 この学校では成績が物を言う為、零士は少し安心する。そんな時、上から順位を見た時、普段トップ5は五英傑が独占しているのに、今回は違う名前が載っているのに気がつく。

 

「なぁ、浅野。今回五英傑がトップ5独占じゃないんだな。赤羽…何て読むんだ? …ゴウかな?」

 

「赤羽 (カルマ)だ。彼はE組だが、成績で落とされたわけではないからな」

 

「へぇ、赤羽 業ね…。あの停学処分ばかり受けてるっていうあの。ていうか、数学100かよ…。化け物か…」

 

「君が出来なさ過ぎるんだよ。数学なんて簡単だろ」

 

 零士は浅野も100点だった事に気づく。

 

「(化け物め!)まぁ、僕にとって国語が簡単である様なものか」

 

 そんな時、校内放送が流れた。

 

 {3-Aの黒羽 零士君。理事長室に来てください。繰り返します。3-Aの黒羽 零士君。理事長室に来てください}

 

「…なぁ浅野。僕、何かしたっけ?」

 

「君がそんな事するわけないだろう。君が問題なのは欠席が多過ぎる事だ」

 

 そう、零士は学校に殆ど来ていない。週に2回来るか来ないかという感じなのだ。来たとしてもHRギリギリなのだ。

 

「おそらく、この間の大会の事だろう。集会で皆の前で表彰されていたが理事長自ら言いたい事があるんじゃないか?」

 

 零士はサッカー部に所属しており、チーム内でも一目置かれる程の実力がある。そして何故か部活関係では決して欠席も遅刻もしない。

 

「だといいんだけどね。まぁ、行ってくるよ。E組に行けとかだったらどうしよう」

 

 零士は冗談の様に言う。浅野も“そんな事はないだろう”といった様子で笑う。

 

 この学校では本校舎の生徒の殆どはE組を差別している。零士もその例外ではなく、むしろ積極的に差別をしていると言える。

 

 そんな様子で零士は理事長室に向かう。

 

 

「理事長、黒羽 零士です」

 

「どうぞ。入っていいですよ」

 

「失礼します」

 

 零士はあまり理事長の事が得意ではない。嫌いではないのだが自分の事を全て見透かされているという様な感じがするのだ。

 

「えっと…今日はどういったご用件で…」

 

「まぁ、その話をする前に、黒羽君、この間の大会では得点王、そして大会MVPだったそうじゃないか。改めて、おめでとう」

 

「ありがとうございます。“その話をする前に”という事は…別の要件で僕は呼び出された、という事でしょうか?」

 

「そんなに焦らなくてもいいじゃないか、黒羽君。相変わらずだね君は」

 

「(あなたが苦手なんですよ)今日は少し悪い夢を見てしまったもので…」

 

 本音は言う事なく無理矢理でも理由をその場で考えて言う。全くの嘘というわけではないが。

 

「そうか、明日は良い夢が見られるといいね。では本題に移ろう。結論から言うと君は明日からE組だ」

 

 その言葉を聞いて零士は一瞬固まった。この世で一番聞きたくない事を聞いた気がしたからだ。

 

「ええと…僕の聞き間違いか何かでしょうか?“E組行き”という風に聞こえたのですが…」

 

「あぁ、聞き間違っていないよ。その通りだ、黒羽君」

 

「どうしてですか! 今回のテストは悪いどころか前回より良くなっているんですよ! それに理事長が言った通り大会でもしっかり結果を残しています!

 それなのにどうして⁈」

 

 零士は理事長に言われた“E組行き”が納得いかないといった様子で声を荒げて言う。

 

「そんなに大声を出す事ないじゃないか。少し落ち着きなさい。

 いいかい、黒羽君。これを見たまえ」

 

 そう言って理事長が出したのは一枚の紙だった。

 

「これは……?」

 

「これは君がこの学校に入学してから今日までの出席や遅刻、早退を記録したものだ。これを見れば分かる様に君は2年と1ヶ月程この学校に在籍し、遅刻や早退をせずに出席していたのは1年分もない。要するに君のE組行きの理由は出席日数の不足だ」

 

 その紙には零士の出席の状況が細かく記されており、お世辞にも優等生とは言えず、むしろ劣等生という言葉が似合う状況だった。

 

「納得いきません! たかが休みが多いだけで、成績も悪くなく、部活でも結果を残している僕をE組に行かせるんですか!」

 

 零士はそれでも諦めず、何とかしてE組行きを阻止しようとしている。

 

「黒羽君。よく聞きたまえ。休みや遅刻、早退の多い人間はどんなに仕事が出来ても信頼されないんだよ。君なら信頼というものがどれだけ大切かを知っているはずだ」

 

 その言葉を聞いて、零士は反論する事が出来なかった。

 

「はい、分かりました。明日からで「しかし、それは表向きの理由だ」…えっと…それはどういう意味ですか?」

 

 理事長が零士の言葉を遮って話を始めた。

 

「本当の理由は今日中に分かるだろう。そして、その理由を聞いた時、君はどうすれば本校舎に復帰出来るのか、自ずと理解するだろう。頑張りなさい、黒羽君」

 

 どういう事かさっぱり分からない、という顔をしながら零士は理事長室を後にした。

 

 

「黒羽! どうだった?」

 

 理事長室から出て来た零士に声をかけたのは呼び出される前に話していた浅野だった。

 

「全く…この世で一番聞きたくなかった言葉を聞かされたよ」

 

「! …まさか………」

 

「あぁ、E組行きだ。理由は…情けねぇよな。出席日数の不足だってよ。本当に笑えねぇよ」

 

「あの人は何を考えているんだ! 僕がもう一度話をしてやる!」

 

「待てよ浅野。良いんだ、僕が悪い事に変わりはない」

 

 先程の理事長室での零士の様に浅野は不満そうにしている。

 

「だが「安心しろ。次の期末までにしっかり結果出して本校舎に復帰してやるよ」そうか…、分かった。絶対、戻って来いよ!」

 

「おう、もちろんだ。

 じゃあ僕はもう帰るよ。理事長がさ、E組行きを言われた後なのにA組の授業を受けるのは辛いだろう、って言ってくれたから。その好意に甘える事にしたよ」

 

「そうか、じゃあな、黒羽」

 

「あぁ、じゃあな、浅野」

 

 そう言って零士は机に置いておいた鞄を持って学校を後にした。

 

 

 家に帰る途中、零士のスマホに一通の電話が来た。

 

「(知らない番号だな…。誰だ?)」

 

 零士はそう思いながらも電話に出る。

 

 {もしもし、君は黒羽 零士君で間違いないか?}

 

 聞こえて来たのは男性の声だ。

 

「はい、そうですけど。あなたは…?」

 

 {俺は防衛省の烏間 惟臣(からすま ただおみ)という者だ。君は明日からE組に行く、間違いないな}

 

「はい、ところで防衛省が何の用ですか? 僕が防衛省に関わる理由なんてないはずなんですが…」

 

 確かにその通りである。しかしそれは彼が普通の中学生ならばという話だが。

 

 {そのE組に関係ある。そして君自身にも関係がある。この教室で暗殺をして欲しい。ここまで言えば分かるか?殺し屋“ゼロ”}

 

 そう、黒羽 零士は中学3年生にして殺し屋。彼は普通の中学生ではない。

 

「へぇ、俺の事知ってんだ、鳥間さん。この国を少しナメてたな。まさか俺の事を突き止めるなんて。E組で暗殺? 別にいいけどターゲットは? まさかそこの教師を殺して欲しいって事?」

 

 零士は一人称を“僕”から“俺”に変え、言葉使いも雑になって話す。

 

 {察しがいいな。とはいえ電話で依頼というのもおかしな話だ。君の家で話せないか? 今君の家の前にいるんだが、後どれ位で帰って来る?}

 

「じゃあまず俺ん家から離れろ。国の人とはいえ依頼者を自宅に上げるつもりはない。依頼をしたかったらきちんとした手順を踏んでもらいたい。だが、俺の事を突き止めたご褒美に手順を教えてやる」

 

 零士はあくまでも上から目線で話す。

 

 {どうすればいい?}

 

「簡単だ。まず俺ん家から離れる。そんで近くに商店街があるだろ。そこの“Assassin’s cafe”(アサシンズ カフェ)っていう店に行け。そこで“Assassin’s coffee”(アサシンズ コーヒー)を頼め。いいな、分かったな」

 

 {あぁ、分かった。ではそこで}

 

「あぁ、俺も着替えて直ぐ行く」

 

 その会話で電話は終わった。

 

 

 烏間は先程電話した相手に指定された店に来ていた。

 

「まさか…殺し屋の指定した店の名前に“Assassin”と名付けるとは…」

 

 自分から殺し屋です、と言っている様なものである。

 

 烏間は覚悟を決めて中に入る。

 

「いらっしゃいませー。お一人様ですか?」

 

 対応してくれたのは20代位の若い女性だ。

 

「後で連れが来る」

 

「分かりました。

 当店では先にご注文をして頂いてから席にご案内する事になっています。勿論追加で注文する事は可能です。何にいたしますか?」

 

「“Assassin’s coffee”を頼む」

 

 烏間は彼に言われた物を頼む。

 

「……分かりました。では席にご案内します」

 

 そう言って彼女は他の席から死角になっている所まで行き、そこの扉に鳥間を案内する。

 

「(確かにこれなら殺し屋に依頼する所が見られずに済む。この店自体が殺し屋のアジトなのか? それとも彼が個人的に利用しているだけなのか?)」

 

「こちらの席になります。お連れ様が来たらここまで案内しますね」

 

 すると目の前にコーヒーが出て来る。

 

「はいよ、“Assassin’s coffee”。ところでアンタ、どこで“ゼロ”の事を知った?」

 

 鳥間に話しかけて来たのは自身と同じかそれ以上の年齢の男。

 

「彼に直接電話した。俺は防衛省の烏間 惟臣だ。あなたも殺し屋か?」

 

 烏間は男の問いに答える事なく逆に質問する。

 

「あぁ、俺は神田 龍牙(かんだ りゅうが)。殺し屋“ファング”とも名乗っている。そんでこの店のマスターだ」

 

「お父さん、殺し屋でしょ。お役人さんなんかに簡単に名乗っていいの?

 烏間さん、初めまして。娘の(まい)です」

 

「大丈夫さ、舞。こいつはレイの客だ。心配いらねぇよ。

 烏間さん、コイツは殺し屋ではねぇが俺の技術を少し教えてる。この店でバイトと情報収集をしてもらっている。」

 

 ファングを“お父さん”と呼ぶ彼女はファングの娘で舞というらしい。

 

「そうか。ゼロ、いや零士君はまだか?」

 

「ん?あぁ、もう直ぐ来るさ。上から今来たって連絡があった。

 ほら、噂をすれば」

 

 烏間が入って来たのと同じ扉から待っていた彼が入って来る。

 

「よう、烏間さん。無事に着けたみたいだな」

 

 零士が椚ヶ丘の制服から黒のパーカーにジーパンという姿に着替えてやって来た

 

「あぁ。まさかこんなストレートな名前の店だとは思わなかった」

 

「ははは、だろうな。

 それじゃ、知っているとは思うが改めて自己紹介だ。俺は“ゼロ”、殺し屋だ。本名は黒羽 零士(くろば れいじ)。偽名でも何でもねぇから安心しろ」

 

「俺は防衛省の烏間だ。今はE組で体育教師をしている」

 

 すると舞がパソコンを弄って何かをしている。

 

「零士、烏間さん、ちゃんといるよ、防衛省に。データベースをハッキングしたから間違いない」

 

 その言葉に烏間は何とも言えない表情をしている。

 

「まぁ、疑っちゃいなかったがこれでハッキリしたな。じゃあ依頼とやらを聞こうか」

 

 烏間の目の前にいる零士はとても中学3年生もは思えない雰囲気で話を進める。

 

「君が明日から行くE組では今、暗殺を行っている。君にはそれに参加、いや方法は問わない。そこにいるターゲットを暗殺して欲しい。そのターゲットというのが「殺せんせー」!何故それを…」

 

 烏間が言おうとした事を舞が先に言う。

 

「E組の教師でタコ型の超生物。3月に月の7割を蒸発させた張本人であり、来年の3月には地球も破壊すると宣言している。生徒から“殺せんせー”と呼ばれ、慕われている。奴を殺すには国が開発した対超生物用の物質を使うしかない。そんな所かしら?」

 

 舞は本来なら国家秘密であるはずの事をペラペラと喋って行く。これには烏間も開いた口が塞がらない。

 

「そんなに驚くな烏間さん。コイツには俺の技術を仕込んだって言ったろ。その1つがハッキングだ。今じゃ俺なんて足元にも及ばねねぇ位の腕前だ」

 

「はははっ、国のセキュリティーを再確認した方がいいんじゃねぇの、烏間さん」

 

 烏間は一度仕切り直すといった風に咳払いをして話し始める。

 

「まぁ、そういう事だ。そして奴を殺せた場合、成功報酬として100億円を用意しよう。出来るか?」

 

「“出来る”か“出来ないか”じゃねぇよ。“やる”か“やらねぇか”だ。そして答えは勿論“やる”。俺が“やる”と答えた以上、必ず結果は出すぜ」

 

「ではこちらからは奴に効くナイフとBB弾を支給する」

 

 烏間はトランクに入ったそれらを零士に渡す。それを一通り確認した後、再び烏間の方を向き直す。

 

「本当にこんなゴムみてぇなのが効くのかよ」

 

「あぁ、効く。実際に触手の破壊に成功した生徒もいる」

 

「へぇ、そりゃすげぇや。そんでさ、烏間さん。武器のオーダーメイドって頼める? 俺もそこそこ殺し屋やってるつもりなんだよね。そうすると普段使ってるやつの方がしっくり来るわけよ」

 

「あぁ、構わない。出来る限りそちらの要望に応えよう」

 

 “それじゃあ”と言いながら零士は鞄からダガーと靴を取り出す。

 

「1つはこのダガーと同じモデルで頼む。形はこれと同じで重さはそちらの都合に任せる。個人的には重さも一緒にして欲しいが、その素材じゃ無理そうだしな。そんで柄の部分は金属で頼む。無理してここの重量をあげる必要もない」

 

 烏間は注文が多いという様な顔をしながらダガーを受け取る。

 

「次はこの靴。これにはナイフが仕込んであって、このストッパーを外すとナイフが出る様になってる。これは靴は同じものでそこにナイフを仕込んでくれ」

 

 烏間はこれを黙って受け取る。

 

「分かった。大体1ヶ月位で出来るだろう。出来るだけ開発を急がせる」

 

「ちょっと待った! 遅い、遅過ぎる。1ヶ月は長いぜ。俺は潜入暗殺は専門じゃねぇんでな、あんまり長いとボロが出る。出来れば1週間で頼む」

 

 烏間はその無茶な要求に顔を顰める。

 

「それは無理だ。このダガーも靴も君の特注品だろう。それを再現するんだ」

 

「あのなぁ、俺が行かねえと殺せねぇんだろ。この国は技術力だけはトップクラスだ。その気になれば出来るだろ。1週間で頼む」

 

 烏間はその言葉に押し切られる。本来ならこんな無茶な要求は却下するべきなのだが零士の言う事も間違ってはいない。彼がターゲットに一番近づく事ができ、尚且つ技術や実績を持った殺し屋なのだ。

 

「分かった。戻ったら開発チームに最優先でやらせる。他に何か言いたい事や質問はあるか?」

 

「そうだなぁ、まず俺らを捕まえる事はしねぇよな」

 

 殺し屋としては当然の質問を零士がする。

 

「勿論だ。国もこうして力を借りざるを得ない状況だ。それは保証する」

 

「次は生徒とターゲットに俺が殺し屋だという事を話すな。警戒されると厄介だ」

 

「分かった、こちらからは言わない。ただし、E組の講師に1人殺し屋がいてな、彼女にはバレてしまうかもしれない」

 

「構わねぇ。じゃあ明日早めに行って釘を刺しておく事にしよう」

 

「それで全てか? では…「悪い。後もう1つ」何だ?」

 

「ターゲットを殺す際に生徒を巻き添えにして報酬が支払われないって事はねぇよな」

 

 烏間は零士が何をやろうとしているのか分かったのか零士を睨みつけながら言う。

 

「それはない。だがそんな事をするつもりなのか?」

 

「あぁ。そのやり方が1番可能性がある」

 

 今の零士に中学3年生の面影はまるでない。残虐な殺し屋、そのものだった。

 

「どうするつもりだ」

 

 烏間は質問をせず、それを阻止しようとするかの様な強い口調で言う。

 

「E組の生徒の中で1人でいい。何も知らずに俺の事を信用し、尚且つ俺に歯向かうことのない非力な駒、それを作る。その準備を武器が出来るまでに済ませるつもりだ」

 

「具体的に何をやるつもりだ! 生徒の命が脅かされる様な事は…」

 

 教師として当然の反応だ。

 

「教師の鏡だねぇ烏間さん。でもそれをここで言うわけにはいかねぇ。どこからターゲットに漏れるか分かんねぇからな」

 

「……分かった。依頼内容は以上だ。明日からよろしく頼む」

 

「よろしく、烏間先生」

 

 零士は不敵な笑みを浮かべながら手を差し出す。そして烏間はその手を取り、2人は握手をする。

 

「さて、龍さん。今から明日に向けて少し買い出しに行くんだけど足りない物とかある?」

 

「そうだなぁ、砂糖がなくなりそうだ。いつものを頼む」

 

「りょーかい。じゃあ、烏間さん。僕は買い物に行って来ます。ゆっくりしていってくださいね」

 

 零士は先程の殺し屋としての雰囲気を一切感じさせない中学3年生らしい表情で店から出た。

 

「悪いね、烏間さん。レイの奴はちょっと昔色々あってな」

 

「何があったんですか?殺し屋とはいえまだ14歳。何があったらあんな風に…」

 

 ファングは零士が出て行ったのをしっかり確認して話し始めた。

 

「レイは…恋人を殺し屋に殺されてな。恋人も殺し屋だった。レイと恋人、そして殺した奴の3人で当時チームを組んでいた。つまり裏切られたんだ」

 

「そんな事が…」

 

「あぁ。それからアイツは誰も信頼しちゃいない。依頼者の事も心のどっかでは疑ってんだろう。そして俺や舞、仲間の殺し屋の事さえな」

 

 そう話すファングの顔はとても悲しそうだった。

 

 そしてファングはコーヒーを一口飲み、再び口を開いた。

 

「烏間さん、アイツを、レイをどうかよろしくお願いします。依頼なんて失敗してもいい。アイツを周りと信頼し合える様にしてやってくれ」

 

「私からもお願い。あの生意気なクソガキを生意気なガキにしてやって」

 

 舞の言葉に烏間は笑みを浮かべながら“分かった”と一言言って席を立った。

 

「烏間さん、いや()()また来いよ。サービスしてやるよ。それに暗殺の方も少しは手を貸す」

 

「あぁ、また来る、()()

 

 

 零士は買い物を済ませ、“Assassin’s cafe”に砂糖を届け、自宅に帰っていた。

 

「はぁ、明日からE組かぁ。依頼とはいえ行きたくねぇなぁ」

 

 零士はやや大きめな声で独り言を言う。そして先程から零士の事を二度見する人が多い。しかしその理由は独り言を言っているからではない。

 

「ねぇねぇ、お母さん。あの人凄いね。ボールが全然落ちない」

 

「本当ね。サッカーが上手いのね」

 

 親子がそんな会話をしている。そう、零士はただの買い物帰りではない。リフティングをしながら帰っているのだ。足やヘディングを駆使して一度も落とす事なくやっている。

 

「はぁ、E組ってスッゲェ設備悪いんだよなぁ。エアコンねぇし。知り合いも前原や磯貝位しかいねぇしな。まぁそれは寧ろ好都合だけど…」

 

「やっ、やめてください!」

 

 そんな時、1つ先の角から声が聞こえた。

 

「お嬢ちゃん、買い物の帰り? 偉いねぇ」

 

「ホントホント。俺達がご褒美をやるよ」

 

「こっちにおいでよ。ほらっ」

 

「離してください!」

 

 そこにいたのは零士と同い年位の女子だ。

 

 零士はフードを深く被り、リフティングをしながら近づいていく。

 

「お前らさぁ、女の子を誘うならもっとマシなやり方できねぇのかよ? 今時漫画でもねぇぞそんなの」

 

 零士がイライラした様子で話す。彼は今、人生の中で3本の指に入る程イライラしている。

 

「んだと? お前こそ、今時そんなヒーローいねぇぞ」

 

「別に、ヒーローになりたいわけじゃねぇよ」

 

 そう言うと零士はその場にボールを残しいきなり不良達の前から消える。

 

「なっ!どこ行った、あのガキ! いきなり消えやがった…」

 

「大丈夫か、君。怪我とかない?」

 

「えっ……はい。でもどうやって…」

 

 零士は女子を不良達から助けていた。不良達はそれに驚き、イラついている。

 

「テメェ、何しやがった!」

 

「ん? まぁ一種のスキルだと思ってくれよ。で、どうすんの?帰る?」

 

 零士は不良達に挑発を続ける。

 

「バカかよ。お前をボコって、お嬢ちゃんと遊ぶだけさ!」

 

 そう言うと不良達は一斉に零士に襲いかかる。

 

「君は少し離れてな。この程度1人で十分だ」

 

 零士は女子を自分から離し、不良達の攻撃を全て防御している。

 

「(スゴイ…。烏間先生みたい…)」

 

 女子がそんな事を思っている事を知らず、零士は防ぎ続ける。

 

「大したことないね、お前ら。さぁて、こんだけ攻撃されたんだ。やり返しても正当防衛だよな!」

 

 すると零士は不良達に攻撃の仕方を教えるかの様に次々と反撃していく。

 

「チッ! このガキ! 調子に乗るなよ!」

 

 すると残った最後の1人の不良がナイフを懐から取り出し零士に襲いかかる。

 

「危ない!」

 

「安心しろよ。この程度、そこら辺の石ころ1つあれば十分だ」

 

 零士はそう言うとしゃがんで石を1つ拾うと不良に向かって投げる。

 

「ヴッ………」

 

 バタンっ

 

 不良は石が当たると直ぐに倒れた。

 

「あの…何を……?」

 

「ん?石を投げただけさ。石でもある程度の威力と当たり所さえ良ければ人を倒せる」

 

 零士はそう言って女子の方を向く。零士は先程の戦闘でフードが外れていた。その顔を見て女子は思い出した様に言った。

 

「あ!もしかしてあなた、A組の黒羽 零士君?」

 

「お…じゃなくて僕の事知ってんの?」

 

「うん!この間の試合見たよ!カッコよかったね!あっ、私は倉橋 陽菜乃(くらはし ひなの)。E組だけどね」

 

 零士が助けた女子は明日から通うE組の女子生徒、倉橋陽菜乃だった。

 

「あ、あぁ。ありがとう。怪我とかない?」

 

「うん、ないよ。助けてくれて本当にありがと。じゃあまたね、サッカー頑張ってね!」

 

 倉橋はそう言うと走って帰って行った。

 

「しまったぁ。よりによってE組かよ…。少し本気出したからバレないといいんだけど…。まぁ、好都合かもな。アイツ、倉橋とか言ったっけ? なんかムカつくし、平和そうな頭してるし、いい駒になりそうだ」

 

 零士は倉橋の方を見ながら不敵な笑みを浮かべ、ボールを拾い、帰って行った。




オリ主がとんでもない人になりそう…。
安心してください。その内柔らかくなりますから。
近い内に神田 龍牙や舞の紹介も更新しておきます。


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転級の時間

今回は零士がクラスに初登校する話です。
関係ないけど書いてて思った。赤羽(あかばね)黒羽(くろば)って似てる。うっかり黒羽の方も“くろばね”にしそう…。



 零士は皆が登校するよりも少し早く来ていた。理由は校舎が変わってどれ位で行けばいいか分からなかったから。そしてもう1つの理由は自分が殺し屋である事を口止めする為だ。

 

「失礼します!」

 

 零士は勢い良く扉を開ける。すると中には昨日会った烏間先生とやたらと胸の大きい外国人。

 

「おはよう、零士君。早いな」

 

「おはようございます、烏間先生! それと…そちらの方は…」

 

「へぇ、アンタが転級生の黒羽 零士ね。私はイリーナ・イェラビッチよ。イリーナ先生と呼びなさい」

 

「やだね。知ってるよ、アンタがこのクラスで“ビッチ先生”って呼ばれてんの。俺もそう呼ばせてもらうよ、ビッチ先生」

 

 零士はあらかじめビッチ先生について舞に調べてもらっていた。当然呼ばれ方やどんな殺し屋かも分かっている。

 

「このクソガキ!

 まぁいいわ。アンタ殺し屋だそうじゃない。私、アンタみたいなの知らないし。大した事なさそうね」

 

「…へぇ、じゃあ、試してみる?」

 

 そう言うと零士はビッチ先生に昨日倉橋を助けた様な動きで近づきナイフを心臓の上に当てる。

 

「もしこれが本当の暗殺だったら……イリーナ、お前()()()()()

 

 ビッチ先生はその言葉とその殺気に怯む。

 

「…っ! 何なのよ、アンタ」

 

「俺か?俺はゼロ。結構有名なつもりだったんだけどなぁ。俺は一応お前の事知ってんのに。イリーナ・イェラビッチ、20歳。ハニートラップを駆使した潜入暗殺の使い手。割とやる方っぽいけど俺の敵じゃないね」

 

 ビッチ先生はその言葉に驚きを隠せないでいる。その理由は零士が彼女の個人情報を知っているからではない。“ゼロ”というコードネームを聞いたからだ。

 

「…ア、アンタがあの“ゼロ”なの? 近接暗殺の………」

 

「あぁ、そうだ。イリーナ、彼はあくまでも普通の生徒としてこのE組に来ている。彼が殺し屋である事は生徒や奴にも話すな。それが彼が暗殺をする条件だ」

 

 烏間先生が零士が早めに来た一番の用事を果たしてくれた。

 

「という訳でよろしく、ビッチ先生! 僕、英語得意だからさ、楽しみにしてるよ!」

 

「え、えぇ。よろしく」

 

 ビッチ先生も最初の烏間先生の様に殺し屋“ゼロ”と中学生“黒羽 零士”のギャップに戸惑いを隠せない。

 

 するといきなり凄いスピードで何かが職員室に入って来た。

 

「おはようございます、烏間先生、イリーナ先生。おや? そこにいるのが今日から転級して来る黒羽 零士君ですか?」

 

 やって来たのは殺せんせーだ。流石に零士もその速さや見た目に驚く。

 

「うん、そうだよ、殺せんせー。僕の事は下の名前で呼んでくれて構わないよ。それにしても本当にタコみたいだし、速いんだね。これからよろしく!」

 

「はい、E組のみんなも最初は驚いていましたよ。こちらこそよろしくお願いします、零士君」

 

 

「陽菜ちゃん、これ知ってる?今日このクラスに本校舎から転級して来る人がいるんだって!」

 

「うん、知ってるよ。どんな人なんだろう?」

 

 そんな話をしているのは矢田 桃花と倉橋 陽菜乃だ。

 

「渚、その転級生って殺し屋かな?」

 

「どうだろう?時期的にそろそろ来てもおかしくないとは思うけど…。元々この学校にいた生徒らしいからなぁ」

 

 こちらは髪型の似ている小柄な男女、潮田 渚と茅野 カエデだ。

 

「皆さん、おはようございます。席に着いてください」

 

 そこへ殺すせんせーと烏間先生が入って来る。

 

「殺せんせー、烏間先生! 転級生がいるんですよね」

 

 聞いたのはアホ毛の学級委員、磯貝 悠馬。

 

「あぁ、今廊下で待たせている。入って来てくれ」

 

「皆さん、初めまして! 元A組の黒羽 零士です! よろしくお願いします!」

 

 あくまでも良い人、優しい人、普通の人という印象を持たせる事を心掛け、零士は最初の挨拶をする。

 

「あれ?アイツって…」

「そうだよね。この間の集会で表彰されてた」

「サッカー部のエースストライカーで大会得点王とかMVPとか獲ってたじゃん」

 

 教室のあちこちからその様な声が聞こえる。

 

「あ! 黒羽君⁈どうして…昨日はそんな事一言も…」

 

 1人周りとは違う事を言ったのは昨日、一足早く顔を合わせている倉橋だ。

 

「昨日ぶり、倉橋さん。何か言うタイミングがなくってさ」

 

「陽菜ちゃん、知り合い?何かあったの?」

 

 矢田が倉橋に尋ねる。

 

「うん! 昨日、不良に絡まれてた時に助けてくれたんだ」

 

「へぇ、そうなんだ。黒羽君、そういうの大丈夫なんだ」

 

「まぁね。ある程度なら喧嘩もいけるよ」

 

 零士と倉橋、矢田の3人で会話が始まりそうだったので殺せんせーが言う。

 

「倉橋さん、矢田さん、他のみんなにも質問をさせてあげましょう。

 皆さん、零士君に質問はありますか?」

 

 その声にいち早く反応した生徒が1人。

 

「はい、カルマ君」

 

「ねぇねぇ、黒羽、失礼かもしんないけど1つ聞いていい?」

 

「いいよ、赤羽。答えたくなかったら答えないからさ」

 

「黒羽ってさ、本校舎の中でも特にE組が嫌いって事で有名だったんだ。実際ん所どうなの?」

 

 カルマは宣言通り失礼な事をいきなり聞く。失礼過ぎてこの後はとても質問し辛くなるだろう。

 

「本当に失礼な質問だな。でもいいよ、答える。

 確かに僕のE組への差別発言は酷かった。言い訳をするつもりはないし、素直に謝るよ、ゴメン。でも少し言い訳をしてもいい? 実は僕、少し周りに流されやすい所があってさ、少し流されてた部分はあったんだよね。だから実際に来てみて、そんなに悪くないと思った。それに“暗殺”なんて面白そうじゃん」

 

 零士は全くの嘘でカルマの問いに答える。だが彼の表情はまさにそう思っているかのような物で、誰も疑う者はいなかった。嘘だと気づいていたのは零士が殺し屋だと知っている烏間先生とビッチ先生だけだ。

 

「へぇ、そっか。確かに暗殺なんてそうどこでもやってる物じゃないしね。何か俺ら仲良くなれそうじゃん。黒羽、俺は赤羽 業。カルマでいいよ」

 

 零士の言葉をその通りに受け取ったカルマは自己紹介をする。

 

「うん、よろしく、カルマ。じゃあ僕の事も零士でいいよ」

 

 2人の会話が終わった所で再び殺せんせーは質問があるか聞く。しかし先程のカルマの質問の後なので中々手が挙がらない。

 

「はい、殺せんせー! 私、質問してもいい?」

 

 そんな中、元気手を挙げたのは昨日既に自己紹介を済ませている倉橋だ。

 

「いいよ、倉橋さん。質問、何でもいいよ」

 

「私、生き物が大好きなんだけど、黒羽君って生き物好き?」

 

「「「「「(良かった! やっとまともな質問だ!)」」」」」

 

 その時E組のカルマと倉橋を除く全員がそう心の中で言った。

 

「へぇ、良かった…。やっと普通の質問来た…」

 

 勿論、零士も同じ様な事を思っていた。

 

「生き物かぁ、どうだろうな。ペットは飼ってないけど、好きだよ。あんまり動物園とか水族館とかには行ったりしないけど」

 

「動物好きかぁ、良かったぁ。じゃあさ、今度行こうよ!」

 

「良いよ、その内な」

 

「「「「「他所でやれ!」」」」」

 

 全員が同じ様にツッコんだ。2人にそんなつもりはないのだが…。

 

「君達も中学生。そういう会話、大いに結構。むしろ皆さんもそういう会話をしてください。先生もそういうの見たいです」

 

「「「「「Σ余計なお世話だ!」」」」」

 

 殺せんせーのゲスい言葉に皆が一斉にツッコむ。

 

「はぁ、殺せんせー、1回黙って」

 

 ついに今日来たばかりの零士にさえ言われ、殺せんせーは凹む。

 

「ええと、他にある? ないなら…「はい!」…いいよ。その前にお前誰? 名前全然分かんねぇからさ」

 

 手を挙げたのは金髪の女子生徒、中村だ。

 

「ゴメンゴメン、私は中村 莉桜、よろしく。質問いい?」

 

 クラス全員がまたしても“やめてくれ”という顔をする。おそらくどんな質問をするのか想像がつくのだろう。

 

「了解。よろしく中村さん。いいよ、答えたくなきゃ答えないからさ」

 

「昨日、陽菜乃の事助けたんでしょ。どうして助けたの?自分に関係ない人の事ってさ、助けようとする奴少ないじゃん。何か事情があるのかなぁって」

 

 中村はニヤニヤしながら言う。本当に安定している。

 

「ん? 何で助けたか? 逆に聞くけど誰かを助けるのに理由っている? そういう現場に居合わせたら“助けたい”と思うのが普通だと僕は思うね」

 

「「「「「黒羽(君)/零士マジかっけぇ!」」」」」

 

 中村は質問の意図とは違う回答だったがとてもカッコいい回答だった為、納得して座る。

 

「黒羽君、僕からもいい? あ、僕は潮田 渚、渚でいいよ。よろしく」

 

「よろしく、渚。だからいいよ、答えたくなきゃ答えないから」

 

「黒羽君ってA組だったんだよね。どうしてE組に?この間の中間も悪くなかったのに。もしかして黒羽君って殺し屋? 時期的にそろそろ来るかもとは思ってたけど…」

 

 渚はいきなり零士の正体を見破る。しかし零士は驚いた表情を見せる事はない。

 

「…僕が殺し屋? …()()()()()()()()()()()()

 

 逆に殺気を出して威嚇した。そしてその殺気にクラス中が、そして殺せんせーまでもがビックリする。烏間先生は“なぜそんな事をする?”という目を向けている。

 

「…えっと…じゃあ黒羽君は…「なぁんてね! 僕が殺し屋?まさか!」…えっ? じゃあ…、黒羽君は殺し屋じゃないの?」

 

 渚を含めクラス中が“訳分からない”という顔をしている。

 

「だからそう言ってんだろ、渚。驚かしてゴメン。E組落ちの理由は簡単。出席日数の不足。ちょっと休み過ぎたんだ。それと、僕の事、零士でいいよ、渚。改めてよろしく。」

 

 先程の雰囲気がまるでなかったかのような話し方で零士は言う。

 

「う、うん。よろしく、零士君」

 

 そこでタイミング良く、チャイムが鳴り、零士への質問は休み時間でという事になった。

 

「なぁ、渚。次の授業って何だ?」

 

「あぁ、零士君まだ知らないもんね。次は体育だよ。まぁ訓練だけど」

 

「なぁ、零士って暗殺どれ位出来るんだ?」

 

 零士が着替えていると前からいかにもスポーツ好きという様な奴が話しかけて来る。

 

「やった事ねぇよ。っていうかお前は? 名前分かんねぇんだ」

 

「ゴメンゴメン、俺は杉野 友人、よろしく」

 

「よろしく、杉野。

 暗殺かぁ、どれ位って言われてもやった事ないしなぁ。サッカー位しか真剣にやった事ないし」

 

 それは真っ赤な嘘である。当然殺し屋である事を隠しているので本当の事を言う訳ないが。

 

「まっ、それもそうか!じゃあ、早く行こうぜ」

 

「おう」

 

 

「では今日は2人1組で俺にナイフを当てる訓練だ。とはいえ1人余ってしまうので、零士君は最初見ててくれ」

 

 その言葉の後、仲の良さそうな2人組が次々と出来上がり、訓練が始まった。

 

「(まぁ、訓練始めて1ヶ月じゃこんな物か。見た感じ俺の邪魔になりそうな奴はカルマか?でもアイツも強いけど俺には敵わねぇか)」

 

 そんな事を考えている内に零士は烏間先生に呼ばれた。

 

「零士君、まずは君の実力が知りたい。そのナイフを俺に当ててみてくれ」

 

「りょーかいです」

 

 すると烏間先生が近づいて来て、小声で話し掛ける。

 

「零士君、どうする? 本気でやる必要も俺に勝つ必要もない」

 

「ある程度はやりますよ。この教室では暗殺力がある奴の方が信頼されるので」

 

「そうか。では俺もそのつもりでやるぞ」

 

「りょーかい」

 

 零士はナイフを咥えて、軽く準備体操をする。そして殺し屋“ゼロ”の癖でペン回しならぬ“ナイフ回し”を無意識にやる。

 

「へぇ、何か様になってるな」

 

「うん、何か凄く似合ってる」

 

 杉野と渚が話す。

 

「じゃあ、行きますよ!」

 

 その声とほぼ同時に走り出し、零士は烏間先生に向かってナイフを振る。

 

「フッ、やるな。だがまだ甘い」

 

「あんまり油断してるとやられますよ」

 

 そんな会話をしている間も2人は激しい攻防を繰り広げる。零士は時々ナイフを持つ手を入れ替えたり逆手持ちに変えたりしながらナイフを振ったり、突いたりしている。

 

「凄い、黒羽君。烏間先生を押してるよ!」

 

「うん、烏間先生の表情もだんだん余裕がなくなってきてる」

 

「手数が多い。普通に振ってる様にしかし見えないのに…」

 

 倉橋と矢田と速水が零士の攻撃を見ながら言う。

 

「これは中々手強いですねぇ。1つ1つの動作がとてもコンパクトです。だからこそのあの手数で攻撃出来るのです」

 

 殺せんせーが冷静に評価する。

 

「やるな……零士君! だがこの程度では………俺に…ナイフは…当たらんぞ!」

 

「そろそろ、決めますよ!」

 

 すると零士はいきなり回し蹴りをする。そしてその回し蹴りに烏間先生は必要以上に避けてしまった。

 

「しまった!」

 

「隙あり!」

 

 そして零士はナイフを当てる事に成功した。

 

「凄い、凄いよ、黒羽君!カッコよかったよ!」

 

「ありがと、倉橋さん。僕も当てられると思わなかったよ」

 

「本当に凄かったよ、黒羽君。1人で烏間先生にナイフ当てたの、零士君が初めてだよ」

 

「そんなに褒めないでよ、矢田さん。偶然偶然。烏間先生は僕がいきなり回し蹴りをしたもんだから少し驚いただけだよ。2度目はないさ」

 

「驚いたな。まさか当てられるとは…」

 

 烏間先生は別に手を抜いていた訳ではない。むしろ、零士には他の皆よりは本気を出していた。

 

「回し蹴りを必要以上に避け過ぎました。」

 

「あぁ、流石に驚いた。体が無意識の内に避けてしまっていた」

 

「まぁ、ナイフを当てるのに蹴りをやる奴はそういませんから」

 

 そしてこの日の体育は終わった。

 

 

 その後2時間目から3時間目までは殺せんせーの授業だった。

 

「(やべぇ、凄く分かりやすい。本校舎と違って分かるまでちゃんと教えてくれる)」

 

 この時零士は自分が殺し屋である事さえ忘れる位授業に集中出来ていた。

 

 そうやって授業に集中している内に授業はスムーズに進み、今は昼休み。

 

「黒羽君、お弁当一緒に食べよ!」

 

「いいよ、倉橋さん。まぁ、僕は弁当じゃなくてコンビニのパンだけどね」

 

 零士が倉橋に着いて行くとそこには他に矢田や速水、片岡に岡野がいた。

 

「零士の奴、羨ましいぜ…。初日からハーレムかよ!」

 

 後ろから岡島の妬みの言葉が聞こえるが零士は無視を貫く。

 

「それにしても黒羽君、凄いね。私達も1ヶ月も訓練してるのに当てた事ないのに」

 

 そう言うのはクラスの学級委員、片岡 メグだ。

 

「(そりゃそうだろ。俺は1ヶ月なんてもんじゃねぇんだから)だから偶然だって言ってんじゃん。まぐれだよまぐれ。片岡さんは男子並に動けるんだから直ぐ当てられるって」

 

「ありがと、黒羽君」

 

「それにしても黒羽、勿体無いよね」

 

「何が勿体無いの、ひなたちゃん?」

 

 岡野が黒羽に“勿体無い”と言い、倉橋がそれを疑問に思う。

 

「だってさ、黒羽って顔良し、頭良し、運動良し、性格良しの四拍子そろっててさ、私達が1年の頃からモテてたじゃん。しかもサッカー部のエースストライカーでさ。なのに出席日数が足りなくてE組って、何かね…」

 

「確かに。黒羽、アンタってバカなの?」

 

「速水さん? いきなり“バカ”は酷くない…? 岡野さんも言いたい事は分かるけど何かもう少しオブラートに包むとか出来ないの?」

 

「ヤバい……黒羽君がどんどん残念な人に見えて来る…」

 

 矢田が零士を“可哀想”とでも言いたげな目で見る。

 

「僕をそんな目で見ないでよ、矢田さん!」

 

 零士はそれが真の理由ではない為それ程傷ついてはいない。でも怪しまれない様にそういう演技をする。

 

「ゴメンゴメン、私、何でもストレートに言っちゃうからさ」

 

「ゴメンゴメン、私もそんな感じ」

 

 岡野と矢田が棒読みで謝る。

 

「謝る気ねぇだろ」

 

「でも私はそれでも良いと思うよ。だってそのおかげでこうやって話せるんだもん♪」

 

「倉橋さん以外僕の事ディスるってどう言う事だよ……」

 

「まぁ、仕方ないんじゃない?自業自得だし」

 

「ゔっ………何も言えない…。はぁ、ごちそうさま。じゃあ僕少し外行ってくる」

 

「早っ、もう食べたの?」

 

 岡野が驚くが零士は“まぁね”と言って外に出る。

 

 

 零士がサッカーボールを持って外に出ると烏間先生が木の下でお昼を食べていた。

 

「烏間さん、ぼっちですか?」

 

「ゼロ、どうだ? 殺れそうか?」

 

 零士のおふざけを完全にスルーして烏間先生は零士、いやゼロに話し掛ける。

 

「速過ぎる。それにあのタコ、教えんの上手過ぎ。本校舎の何倍も」

 

「だろうな。教師としての奴は俺が見た中でも素晴らしいものだ。

 それと零士君、訓練ではやられたよ」

 

 烏間先生は“零士君”と呼び直し、訓練での事を話す。

 

「烏間先生、避け過ぎですよ。まぁ殺気をあの一瞬だけ思いっ切り出しましたから」

 

「バレるかと思ったぞ」

 

「安心してくださいよ、バレる前に殺りますから」

 

「それにしても……」

 

 烏間先生が零士の方を見ながら驚いた表情をする。

 

「何ですか?」

 

「リフティング、凄いな。さっきからずっとやっているが落ちる気配がまるでない」

 

 そう、零士は烏間先生と話している間ずっとリフティングをしていた。一度もボールを落とす事なく、体のあちこちを使ってやっている。倉橋の時といい、今回といい器用な奴である。

 

「所詮は遊びですよ、こんな物。殺し屋業は依頼がないと何もしませんから。これは退屈凌ぎの為の趣味です。まぁ、最近はこれやってると頭が冴えるんですけどね」

 

「そうか。明日からも頑張ってくれ」

 

 烏間先生は昼飯が終わったらしく、この場を立ち去ろうとする。

 

「待ってください、烏間さん」

 

「! どうした?」

 

 烏間先生はいきなり零士が殺気を出して自分を呼び止めた事に驚く。

 

「必ず殺るぜ、俺は。そして殺る為に手段は選ばねぇ。だから、()()()()()()()()()()()

 

「……分かった」

 




ヤバい…長くなり過ぎだ…。でもキリが悪くて切れない。次回からは短くできるかな?……多分無理だ…。


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班決めの時間

ようやく原作の話です。零士は倉橋と一緒の1班にしました。
零士とゼロの書分け面倒い。多分その内どちらかの話し方で統一させる予定。それまで我慢。



「渚、黒羽君。班の人数揃った? 決まったら学級委員の私か磯貝君に言ってね」

 

「……班?」

 

「忘れたの? 来週の修学旅行のよ」

 

 椚ヶ丘は来週から修学旅行。だからみんなのテンションは少なからず高い。

 

「あぁ、班か……」

 

「どうしたの、零士君」

 

「A組ではもう決めてたからさ。完全に忘れてたよ…」

 

「そっか…。やっぱり、残念だった?」

 

「いや、このクラスで行けるんだ。むしろ楽しみだよ」

 

 すると殺せんせーが不満でもあるのか言ってくる。

 

「全く…3年生も始まったばかりのこの時期に総決算の修学旅行とは片腹痛い。先生、あまり気乗りしません」

 

「「「「「ウキウキじゃねーか!」」」」」

 

 殺せんせーは側に自分よりも大きなリュックを準備し、興奮した様子で言う。

 

「殺せんせー、説得力ないよ」

 

「にゅやッ、そ、そうですか、零士君」

 

「うん、たかが修学旅行なのに何、その荷物。黒ひげとかミニ四駆とか大根? とか絶対いらないよ」

 

 零士は呆れ顔で指摘する。大根が何であるのだろう。コンニャクや曲線定規まである。

 

「…バレましたか。正直先生、君達との旅行が楽しみで仕方ないです」

 

「(こんな教室でも行事は沢山ある。だけど殺せんせー、お前は修学旅行には行けねぇよ。俺が()()()()()()()()())」

 

 

「知っての通り、来週から京都二泊三日の修学旅行だ。君等の楽しみを極力邪魔はしたくないがこれも任務だ」

 

 烏間先生が体育の時間終わりに皆んなに説明する。

 

「…て事はあっちでも暗殺?」

 

 岡野が代表して烏間先生に疑問を言う。

 

「その通り。京都の街は学校内とは段違いに広く複雑。しかも…君達は班ごとに回るコースを決め、奴はそれに付き添う予定だ。狙撃手を配置するには絶好の場所。既に国は狙撃のプロ達を手配したそうだ」

 

 烏間先生がそう説明するが零士は別の事を考えていた。

 

「(烏間さんから昨日もらったオーダーメイドの武器。試して見たけどいい感じだ。国には悪いけど早い所実行しねぇと)」

 

 

「所で黒羽君、班決まった?」

 

「ははは、まだ。やっぱり、元A組だから警戒されてんのかな、僕」

 

 そんな話をしていると倉橋が近づいて来る。

 

「やっほ~、黒羽君。班ってもう入れてもらった?」

 

「まだだよ。今その事で片岡さんと話してた」

 

「じゃあよかったら、私達の所来ない?」

 

 倉橋が嬉しそうな顔で零士を誘う。

 

「本当? 倉橋さんがいいなら入れてもらおうかな? あ、だけど他のメンバーは? いきなり僕なんかが入ったら何て言うか……」

 

 すると倉橋は片岡の方を見ながら笑顔で言った。

 

「だってよ、メグちゃん。何て言う?」

 

「そうねぇ、いいと思うよ。多分みんなもそう言うと思う。じゃあ黒羽君は私達1班でいい?」

 

「何だ、片岡さん、僕の事誘ってくれても良かったのに…。誰も誘ってくれなくて凹んでたんだよ」

 

「ゴメンゴメン。じゃあ、みんな所行こうか」

 

 

「というわけで、黒羽君もこの班でいいかな?」

 

「いいぜー、よろしく、零士」

「零士、よろしく」

「よろしくな、黒羽」

「よろしく、黒羽」

「黒羽君、よろしくね」

 

 上から前原、磯貝、木村、岡野、矢田の順で言う。

 

「あぁ、よろしく、みんな」

 

 

「じゃあみんな、殺せんせーの暗殺のスポット、どこか良い所ある?」

 

「私、八ツ橋食べたいなぁ~」

 

「陽菜乃、それは後ね…」

 

 こんな感じで食べ物や観光の方に逸れて中々進展しない。

 

「そうだなぁ、中々いい案がでないな。零士はまだ言ってないよな。何かあるか?」

 

 磯貝が困った様子で零士に尋ねる。

 

「僕? そうだなぁ、殺せんせーって速いからなぁ。動ける範囲が狭くなるといいよね。だけど周りに被害が出ないようにしないと…」

 

 零士は真面目に答える。

 

「じゃあさ、ここなんかどう?」

 

 岡野がガイドブックを差しながら言う。

 

「ん? 嵯峨野トロッコ列車か。確かにこれなら鉄橋の上で停車するし、どうにかして殺せんせーに窓から身を乗り出させればいけそうだな」

 

 零士が岡野の意図を読み取り、補足の説明をする

 

「じゃあ、俺ら1班はここにするか!」

 

 その後はより完璧な計画を目指して意見を出し合ったり、観光などの話で盛り上がった。

 

 とはいえ零士はこの話に加わらず、自分のプランを練っていた。

 

「フン、みんなガキねぇ。世界中を飛び回った私には旅行なんて今更だわ」

 

 ビッチ先生がはしゃぐみんなをバカにする様に言う。

 

「じゃ留守番よろしく、ビッチ先生」

「花壇の水やりやっといて~」

 

 そんな感じでビッチ先生をスルーし、みんなは会話を続ける。

 

「何よ! 私抜きで楽しそうな話、してんじゃないわよ!」

 

「あーもー! 行きたいのか、行きたくないのか、どっちなんだよ!」

 

「ビッチ先生! 教室で銃出さないでよ! しかも本物!」

 

 零士も思わずツッコむ。

 

 そんな時、殺せんせーが何かを持って入って来た。

 

「あ、殺せんせー、何それ」

 

「よくぞ聞いてくれました、渚君。はい、1人一冊です」

 

 そう言って、マッハで全員に渡してくる。

 

「重っ…」

「何これ、殺せんせー?」

 

「修学旅行のしおりです」

 

「「「「「辞書だろこれ!」」」」」

 

 全員がツッコむ。零士もだんだんこのクラスでツッコむ様になってそのスキルが上がった事を実感している。

 

「殺せんせー。僕これ、広辞苑か何かかと思ったよ。こんなに厚くて何書いてあんの?」

 

 すると殺せんせーが興奮して言う。

 

「イラスト解説の全観光スポット。お土産人気トップ100。旅の護身術、入門から応用まで。昨日徹夜で作りました。初回特典は組み立て紙工作、金閣寺です」

 

「どんだけテンション上がってんだ!」

「揃いも揃ってウチの先生は!」

 

「殺せんせー、出来たよ、金閣寺。でも僕、金閣寺より銀閣寺の方が好きかな? それはないの?」

 

 零士はさっきの説明の間に金閣寺を作りあげていた。

 

「そうなんですか? ではその内全員分用意しておきます。このしおりの銀閣寺バージョンを」

 

 殺せんせーがもう1つ作りそうになると皆がまたツッコむ。

 

「いらねぇよ! 零士も殺せんせーに乗るな!」

 

「大体さぁ、殺せんせーなら京都まで1分で行けるっしょ」

 

「もちろんです。ですが移動と旅行は違います。皆で楽しみ、皆でハプニングに遭う。先生はね、君達と一緒に旅出来るのが嬉しいのです」

 

 

 3-Eは暗殺教室。普通よりも盛り沢山になるだろう修学旅行にクラスの多くはテンションが上がっていた。

 

 

 

 

 …………()()1()()()()()()()

 

 

「烏間さん。ちょっといい?」

 

 零士は放課後、みんなが帰り、殺せんせーもどこかに行ったのを確認してから職員室に行った。

 

「どうした、零士君。いやゼロ。武器の方に何か不備があったか?」

 

「いや、期待以上の出来だ。という訳で明日の朝、奴を殺します」

 

 零士は殺し屋“ゼロ”の雰囲気を漂わせ、暗殺をやると告げる。

 

「分かった。何か他に準備するものはあるか?俺は明日、会議があってここには来れないが、部下に用意させよう」

 

「そうだなぁ、じゃあさ、殺せんせーに効く長い縄を何本か用意してくれ」

 

「ゼロ、そんなの当たらないわよ。あのタコは知っての通りマッハで動くのよ」

 

 ビッチ先生が職員室に入って来て、零士の言った事に指摘する。

 

「んな訳ねぇだろ。ちょっと違うんだよ。でも教えねぇよ。お前に横取りされちゃ困るからな、まぁ、お前に横取りなんて無理だろうけど」

 

「本当何なのよ、アンタ! 本当にムカつく!」

 

 ビッチ先生が零士の言葉に腹を立てる。とはいえ、全く気にする様子は零士にない。

 

「分かった。明日この部屋に置いておく様に言っておく。他にはあるか?」

 

「ん? もうねぇよ。まぁ、あるとすれば“駒”かな? まぁ、今から連絡して準備するよ」

 

「駒? 何よそれ」

 

「まぁ、黙ってろって」

 

 そう言うと零士はスマホを取り出し電話を掛ける。

 

 {もしもし、黒羽君? どうしたの?}

 

 零士が電話を掛けた相手は倉橋だ。

 

「あっ、倉橋さん? ゴメンね、いきなり電話しちゃって。今大丈夫?」

 

 {うん、大丈夫だよ}

 

「実はさ、明日、いつもより1時間位早めに学校に来てくれない?」

 

 {黒羽君、暗殺でもするの? じゃあ他にも何人か声かけとくね}

 

「あ、待って!」

 

 零士がわざとらしく声を大きくして言う。

 

 {えっ…何? 他にも何かあるの?}

 

「えっと…そうじゃなくて……///。倉橋さん、暗殺じゃないんだ。その……///あの…、明日の朝学校で2人っきりで話したい事があるんだ…////」

 

 零士の様子は烏間先生とビッチ先生から見ると実にわざとらしいものだった。しかし中学生を騙すのには十分だった。それがルックスのいい黒羽からの話なら余計に騙されてしまう。

 

 {えっ……///う、うん///。いいよ、分かった…///。明日早めに行けば良いんだね…///}

 

「うん、じゃあお願いね。また明日」

 

 {また…明日……///}

 

 そう言って零士は電話を切った。

 

「ふぅ、いやぁ、慣れねぇ事はするもんじゃねぇな」

 

「アンタ、陽菜乃に何するつもりなの? あんな期待させる様な事言って」

 

「さぁね、でも嘘は吐いてない。

 そうだ、烏間先生、少し模擬暗殺に付き合ってくださいよ」

 

「分かった。君の本気が見れるのを期待してもいいんだな」

 

「…勿論。期待してろよ」

 

 

 そして裏山の方に3人は出た。

 

「じゃあルールは授業と同じでお願いします」

 

「分かった。イリーナ、開始の合図を頼む」

 

 零士は靴のストッパーを解除し、ダガーを右の腰に下げ、ナイフを左手に持つ。

 烏間先生を重りを少し外して準備万全だ。

 

「では、模擬暗殺開始!」

 

「はぁ!」

 

 その掛け声と共に零士は勢い良く攻めていく。主に靴に仕込んだナイフを駆使して蹴りを繰り出す。

 

 烏間先生はそれを授業と同じ様に捌いていく。だが確かに違うのは2人共無駄な事を話す様子はなく、零士の手数の多さに烏間先生が焦っている点だ。

 

「くっ……これが…本気か!」

 

「まだ50%ってとこですかね? んじゃそろそろダガーで行きますよ!」

 

 すると零士は右腰からダガーを抜き、右手で持つ。すると先程をはるかに上回るスピードと手数で押し始める。

 

 その結果烏間先生も1つギアを上げ2人の模擬暗殺は10分を経過した。

 

「はぁはぁ、烏間さん、アンタ化け物かよ…。10分そろそろ経つよ」

 

「俺も…そろそろヤバいな」

 

「じゃあ、折角の新しい武器なのに勝てないのはダサいので次の一撃で決めます」

 

 その言葉に烏間先生は身構える。しかし次の瞬間、烏間先生はいつの間にか背後にいた零士にダガーを当てられていた。

 

「なっ……。後ろ?」

 

「俺の勝ち。もしこれが本当の暗殺だったら……烏間先生、()()()()()()()()

 

「縮地術! まさか…アンタが使えるなんて」

 

「イリーナ、何だそれは?聞いた事がないぞ」

 

「当たり前よ。このスキルは使える奴が10人いるかいないかと言われる程の幻のスキルなんだから」

 

「そんなスキルなのか?」

 

 烏間先生は驚きが隠せず、説明をしたビッチ先生も驚いている。

 

「まぁな。まぁ、簡単に言うと高速移動って所かな? でもちゃんとしたやり方でやんねぇと全身の筋肉をつる様なスキルだ。その分出来れば初速だけならあのタコよりも速いぜ」

 

「確かに、あれは知らなければ避けられないな」

 

「って事だ。明日、ちゃんと頼んだの、よろしくな。そうそう、烏間さん、イリーナ、殺せんせーに最後の挨拶しておけよ」

 

 そう言って零士は帰って行った。

 

「ねぇ、カラスマ。ゼロの奴、殺せると思う?」

 

「さぁな。だが、今まで密かに送り込んで来た殺し屋の中では一番可能性がある」

 

「そうね。明日、どうなるのかしら」

 

 2人は狂っているとも言える零士のやり方に複雑な心境になっていた。

 

 2人が不安を抱く中、殺し屋“ゼロ”が暗殺を実行する。成功する事は出来るのか…。

 

 全ては明日の朝、決まる。




次回は零士、いや殺し屋“ゼロ”の暗殺。彼のチート技“縮地術”。実際の意味とは大分違いますがこの小説内では高速移動の様なものという事でいきます。
お気に入りも少しづつですが増えてきて嬉しいです!これからもよろしくお願いします!


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殺し屋“ゼロ”の時間

遂に殺し屋“ゼロ”が動きます。彼の暗殺方法はどんなものなのか。果たして、成功するのか?



 倉橋は昨日零士に呼ばれ、いつもよりも早く登校している。

 

「お、おはよう、黒羽君!ゴメン遅くなっちゃって」

 

「大丈夫だよ。まだ誰も来てないから。ありがと、今日は来てくれて」

 

「う、うん///。そ、それで…は、話って…///?」

 

 零士はゆっくりと倉橋の方に近づいて行く。

 

「ねぇ、倉橋さん。僕さ、ずっと倉橋さんの事、気になってたんだ…///」

 

 わざとらしい演技で近づき、今は倉橋の目の前だ。

 

「へっ……///、い、いきなりどうしたの///? ひゃっ…///。」

 

 すると零士はそっと倉橋を自分の方に抱き寄せる。倉橋の顔も誰が見ても分かるくらい真っ赤だ。

 

「ねぇ、倉橋さん。僕…「ちょっと待って! わ、私達…まだ知り合って2週間も経ってないんだよ…///。それなのに…///」…」

 

 こんな風にされれば誰だってそう思う。零士は倉橋の耳元まで顔を近づけて言った。

 

「倉橋さん。「Σひゃっっ!」ゴメンゴメン、驚かせちゃったよね。実はさ、倉橋さん、僕…君の事が……」

 

 ここまで来れば次の言葉は決まった様なものだ。

 

 

 

 

 ………それが“告白”であればの話だが。

 

「倉橋さん、僕………君の事が嫌いだ」

 

 その言葉と共に零士はいつの間にか持っていたスタンガンを倉橋の首に当てた。倉橋は零士に体を預ける様にして気絶する。

 

「えっ………。く……ろ…ば…くん?」

 

「…おやすみ、倉橋さん」

 

 その言葉を最後に倉橋は意識を手放した。

 

「ふぅ、本当に慣れない事はするもんじゃねぇな。しかし、こんなに簡単に引っかかるとは思わなかったぜ」

 

 零士はそう言いながら倉橋を近くの椅子に座らせ、教室を出る。そして向かった先は職員室だ。

 

「えっと…これが縄だな。強度もバッチリだ。いい仕事するねぇ、やっぱり」

 

 そう言うとその箱を持って教室に戻る。

 

「さて、暗殺の準備をしますか。他の奴等が来る前に終わらせねぇとな」

 

 

 倉橋はスタンガンによって気絶していたがようやく目を覚ます。

 

「んっ……私…どうして?」

 

 そして倉橋は今の自分の状況を理解する為、辺りを見回す。教室中の机と椅子は全て後ろに下げられている。そして自分が椅子に縛られているのが分かる。手足や体はしっかりと椅子に縛られ、動かす事も出来ない。

 

「どうして…こんな…」

 

「おっ、お目覚めかな? 倉橋さん」

 

 そこへ零士が入って来る。零士の腰には対殺せんせー用のナイフや銃などが見られる。

 

「黒羽君! 何で私、縛られてるの?」

 

 倉橋は既に零士が自分に告白をする為に呼んだ訳ではない事は理解している。

 

「ん? さぁね。でも安心してよ。俺に女で遊ぶ趣味はねぇから。寝てる間も何もしてないから。これだけは信じてくれよ」

 

「黒羽君、話し方…いつもと違くない? 何か乱暴な感じで」

 

「ん? だろうな。こっちが本来の話し方だし」

 

 零士は倉橋の問いに丁寧に答えていく。

 

「黒羽君、どうしてこんな事するの? 暗殺するなら言ってくれれば良かったのに…」

 

「お前まだ分かってねぇの? 質問なら幾らでも答えてやるから自分で知ろうとしろよ」

 

 倉橋は“じゃあ…”と言って恐る恐る質問を始める。

 

「黒羽君は…殺し屋なの?」

 

「そう、俺は殺し屋。コードネームは“ゼロ”。殺し屋“ゼロ”。結構この業界では有名なんだよね」

 

「いつから殺し屋なの? だって黒羽君、1年生の頃からこの学校にいたじゃん!」

 

「…俺が初めて殺しをしたのはもっと前だけど、殺し屋って名乗り始めたのは…6年前。お前の場合、小学4年生の頃な。別に殺し屋が学校行っててもよくない?」

 

 零士は淡々と質問に答えていく。その様子に倉橋はだんだんと怖くなってくる。

 

 そんな時教室に何人かが登校して来た。

 

「おはよう…って陽菜ちゃん! って何で…それに黒羽君も…」

 

「おはよう、矢田、片岡、岡野。」

 

「桃花ちゃん! メグちゃん! ひなたちゃん! 助けて!」

 

 倉橋は少し安心したのか涙目になりながら助けを求める。

 

「待ってて今「動くな!動いたらコイツの頭をこの銃の弾丸が貫くぜ。」…黒羽君?」

 

 零士は一丁の銃を取り出し倉橋の頭に当てる。

 

「いっ、いや! やめて…黒羽君!」

 

「黙れって言ってんだろ、黙っとけ。まぁ、そろそろみんな来る頃だしもう一度自己紹介でもしますか。俺はゼロ、殺し屋だ!」

 

 その言葉を聞いて次々と登校して来た生徒は皆、彼が何者で何をしようとしているのかを理解する。

 

 そして零士は倉橋を人質にとり、ただひたすらターゲットを待つ。

 

 

 そしてようやく、零士の待ち望んだターゲットがやって来る。

 

「やっと来た。俺もう待つの飽きちゃったよ」

 

「零士君…なぜ倉橋さんが縛られているんでしょうか?」

 

「分かんない? こうやっても。」

 

 零士は銃を倉橋の頭に当てる。それだけで倉橋は涙目になり、怯えているのが分かる。

 

「もういいです、零士君。倉橋さんが怖がっているのでそこら辺で下ろしてください。さて、君は何者ですか?」

 

「俺は殺し屋、殺し屋“ゼロ”だ。ターゲット、俺が言いたい事、分かるよな。倉橋を助けたけりゃ、ゆっくりこっちに歩いて来い」

 

 殺せんせーは零士の要求に素直に応じる。

 

「流石殺せんせー、教師の鏡だな。じゃあ、触手を1本ずつ破壊してから殺してやるよ」

 

 そう言うと零士は腰のホルスターから銃を取り出した。そして多くは避けられるものの宣言通り確実に触手を破壊していく。そしてそれを直ぐに再生させる。それの繰り返しだった。

 

「いやぁ、いい先生だね、殺せんせー。自分の命よりこんな負け組の命を優先するんだから」

 

 その言葉はE組のみんなを怒らせるのには十分過ぎた。

 

「おい! どういう意味だよ! 負け組だと? ふざけんな!」

 

 そんな声があちこちから聞こえる。

 

「何? 俺間違った事言ったか? お前らはこの歳でもう既に人生詰んでるって事分かんねぇのか? だから俺はその内の1つの命を有効活用してやってんだよ!」

 

 その言葉に更に反感を買う。

 

「零士君、それは聞き捨てなりませんねぇ。その言葉、撤回してください!」

 

「やだね。俺は間違ってねぇ。倉橋が死ぬとしたら、その原因を作った殺せんせー、自分を恨みな!」

 

 さらに零士は殺せんせーに射撃を続ける。触手を破壊した数は5本を超えた。

 

「(さて、そろそろこの銃の引き金を引くか。そうすりゃ倉橋は死んで、殺せんせーは動揺する。それで殺れる!)」

 

 零士は殺せんせーへの射撃の手を緩めず、尚且つ、倉橋に向けている銃の引き金に指を掛ける。そして引く…はずだった。

 

「(…何で引けないんだ?誰かに邪魔されている訳じゃない。銃が壊れている訳じゃない。ならどうして?)」

 

 その一瞬の隙や動揺を殺せんせーは見逃さなかった。

 

「しまった!」

 

「ヌルフフフフ、惜しかったですねぇ、零士君。殺し屋とはいえまだ中学生、引き金を引くのを躊躇しましたね」

 

 零士横にいたはずの倉橋は椅子ごと殺せんせーの横に移動している。

 

 そしてそれを見て、クラスでは倉橋が救出された事に歓声が起こる。

 

「さて、零士君、君にはやらなければいけない事があります。倉橋さんやクラスのみんなに謝らなければいけません」

 

 そう言いながら殺せんせーは倉橋の縄を解こうとする。

 

「にゅやッ! この縄…対先生物質! 先生では解けない…」

 

 倉橋を縛っていた縄は昨日零士が頼んでいた縄だ。零士はもしもの為にこれを用意していた。

 

「はははっ、引っかかった! さぁ、殺せんせー、第二ラウンドの開始だ!」

 

 そう言いながら零士は新たに別の銃を取り出す。

 

「この銃はさ、自分で少し弄ったんだ。連射性能を失う代わりに弾速と威力を上げた。勿論、人を殺す事は出来ない。だけど制服の上からでも当たれば痣くらいは残るだろうな!」

 

 零士はその銃で発砲する。狙うは殺せんせーではなく、隣で縛られている倉橋だ。

 

「にゅやッ! 大丈夫ですか、倉橋さん。」

 

「殺せんせー!」

 

 倉橋に向けて放たれたBB弾は殺せんせーが触手で代わりに受ける。

 

「へぇ、やっぱり教師の鏡だよ、殺せんせー! その落ちこぼれを庇いながらどこまで保つかな?」




キリがよくてここで切ったら、今回少し短めに収まった。こんな感じで出来るといいな…。ていうか倉橋との仲がどんどん凄い事に…。ここから付き合う様になるとか凄いな…。


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殺し屋“ゼロ”の時間 二時間目

さて、遂に零士の最初の暗殺が完結です。どうなるのか。そしてE組のみんなとの和解は…。
という今回の話です。



「さぁ、殺せんせー、そろそろ見捨てた方がいいんじゃねぇか?」

 

 零士は銃口を倉橋の方に向けながら殺せんせーに言う。

 

「そんな事するわけないじゃないですか! 倉橋さんは私の大事な生徒です! だから必ず守ります!

 勿論、零士君、君も大事な生徒です。こんな事やめて、みんなで楽しく先生を殺しましょう。

 

「はははっ、アンタ、バカじゃねぇの? “楽しく殺す”? ふざけた事言ってんじゃねぇよ!」

 

 零士は倉橋に銃口を向けたまま引き金を引き続ける。殺せんせーは触手で受ける事もあるが基本は避けている。しかし倉橋が縛り付けられた椅子を持っているのでその縄に触れてしまい、ジワジワと削られる。

 

「そろそろ終わりにするぜ、お別れの準備は出来たか、殺せんせー? 大事な生徒の目の前で…死ね!」

 

 そう言って零士は再び引き金を引く。

 

 しかしその弾は殺せんせーに届く前に何者かによって防がれた。

 

「……んだよ。アンタまで、俺の暗殺を邪魔するのかよ。テメェら防衛省が俺に暗殺を依頼したんだろうが! なぁ、烏間さん!」

 

 烏間先生はその弾を片手でキャッチして零士の目の前に来る。

 

「悪いな、ゼロ。生徒を危ない目に遭わせる暗殺を見過ごす事はできない。今すぐ暗殺をやめろ」

 

「やだね。あのタコは俺が殺す。てか会議はどうした? アンタがいない時を狙ってたんだけど。」

 

「会議は途中で抜け出して来た。何か悪い予感がしたんでな」

 

「…あっそ。じゃあ早く戻りなよ。怒られるよ」

 

「彼女が怪我をしてからでは遅いからな。彼女が怪我をして、その事情を説明する方が大変だ」

 

 そんな会話をしている2人はおそらくその場に立って話している様に思うだろう。しかし、実際には2人は戦いながらその会話をしている。

 

「スゲェ、黒羽が抑えられてる…」

「殺せんせーをあそこまで追い詰めたのに…」

 

 生徒達もそんな烏間先生の人外っぷりに驚いている。

 

「チッ、強すぎるだろ…。仕方ねぇ、烏間さん、アンタを殺してでも俺は奴を殺す!」

 

 すると零士は腰のホルスターから実弾入りの銃を取り出し、烏間先生に向かって放つ。

 

 しかし、烏間先生はその弾を避け、零士を投げ飛ばす。そして床に思いっきり叩きつけられる。

 

「っ! …あれを避けんのかよ……烏間さん…」

 

「「「「「Σ烏間先生ハンパねぇー!」」」」」

 

 みんなは零士の弾を軽く避けてみせた烏間先生の人外っぷりにツッコまざるを得なかった。

 

 そして殺せんせーは零士に近づきながら言う。

 

「零士君。君の負けです。どうです? ここでみなさんと一緒に勉強しながら先生を殺してみては」

 

「ふざけんなよ。何で俺が、コイツらなんかと一緒に殺らねぇといけねぇんだ!コイツらは“エンドのE組”だ! どんなに訓練しようと関係ぇねぇ! 俺の足を引っ張るだけだ!」

 

「ゼロ、お前がこのクラスで暗殺を続けたいのならコイツの言う通りにしろ。でなければお前への依頼はなかった事にする。」

 

 敗北によるショック、殺せんせーの言葉、そして烏間先生からの依頼取り消しの話。積もりに積もった零士のイライラを遂に頂点に達した。

 

「うるせぇ! だったら今ここで! すぐに! 殺すだけだ!」

 

 零士はそう声を荒げて言い、縮地術で殺せんせーの後ろに回った。

 

「死ね!」

 

「ヌルフフフフ、遅いですねぇ零士君。あまりに遅いので手入れしておきました。そのホルスター、使い込んでいますね~。」

 

 殺せんせーの顔は黄色と緑のしましまになっていた。完全にナメている。

 

 零士はナイフを持っていた手を殺せんせーに抑えられ、ナイフを当てられない。しかも腰のホルスターは買ったばかりの新品並に輝いていた。

 

「…嘘だろ…縮地術を初見で防ぐのかよ……。あぁ! クソッ!」

 

 バンッ

 

 零士は悔しさのあまり床を殴りつける。

 

「…殺せんせー、殺せよ。俺はアンタを殺そうとして失敗した。殺されても文句は言わねぇ。さぁ、早く殺れよ」

 

「確かにそうかもしれませんねぇ。特にみなさんは倉橋さんを傷つけられて怒っていますしね」

 

 いつの間にか教室に入って来ていたE組のみんなは床に座り込む零士を見下ろしていた。

 

「んだよ、その目は。お前らも俺の事、殺してぇのかよ。勝手にしろ。お前らに、殺れるもんならな」

 

 こんな状況でも零士は挑発する様な言動をやめようとしない。おそらくこれが零士の基本スタイルなのだろう。

 

「ですが、先生は契約上、君を殺せません。まぁ、契約がなくても殺しませんが」

 

 零士はその言葉に驚きを隠せない。それもそのはず。彼の生きてきた世界は“失敗=死”なのだから。

 

「君に何が足りなかったか分かりますか?」

 

 殺せんせーが零士に問いかける。その問いに零士は答えない。

 

「それは仲間です。今回の暗殺もせめて倉橋さんだけでも協力者にしてれば結果は変わっていたかもしれません。1人で殺そうとしないでください」

 

 零士はそれにも反応しない。

 

「その為にも君はここから生き返り、みんなと仲良くしなければなりません。まずは倉橋さんに言うべき事を言ってください」

 

 そう言いながら殺せんせーは烏間先生に解放してもらったばかりの倉橋を零士の前に行かせる。まだ倉橋の目には涙の跡があり、この時までどんな心境だったのかが分かる。

 

「言わないといけない事か……だよな…。倉橋……俺…お前に酷い事したよな。本当に……ゴメン……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぁんて言うと思ったかよ、バーカ! はははっ、何その顔っ! ウケるわ! はははっ、ヤベェ、腹痛ぇ!」

 

 零士は文字通り腹を抱えて笑う。そんな様子を見て倉橋は呆然とする。そしてそれを見ていた他のみんなも…

 

「オイ! どういうつもりだよ!」

「ちゃんと謝れ!」

「自分が何したのか考えろ!」

「陽菜ちゃんの気持ちも考えて!」

 

 あちこちから怒号が聞こえる。

 

 零士はそんなのは痛くも痒くもないといった様子で立ち上がり、鞄を持つ。

 

「お前らさ、調子乗んなよ。弱い者は強い者に喰われる。これ、常識だぜ。倉橋は弱い、だから俺に捕まって人質にされた、ただそれだけだ。

 それと、コイツらと協力? バカ言うなよ。俺とコイツらじゃ実力が違い過ぎる。足手纏いになるだけだ」

 

「零士君!」

 

 殺せんせーが何かを言おうと叫ぶ。

 

「黙れターゲット。この教室の奴等は分かってるはずだ。自分は弱者であり、強者には逆らえないと。それがこの学校のルールだ。とはいえ俺もこのタコに負けた弱者だ。大人しくこの教室を去るとするよ」

 

 零士は誰にも謝る事なく、教室を出て行った。

 

 

 ー渚sideー

 

「何なんだよ、アイツ!」

 

 前原君が納得いかないといった様子で机を殴る。

 

「陽菜ちゃん、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫だよ。実際、縛られただけで何もされてないから。」

 

 矢田さんが倉橋さんに心配そうに話しかけるが倉橋さんは笑って返す。

 

「殺せんせー、烏間先生、ビッチ先生。零士君って何者なんですか?」

 

 僕は雰囲気を変える意味も含めて聞く。

 

「彼は中学3年生、君達と同い年で既に一流の殺し屋だ。イリーナとはスタイルが真逆の真正面からの殺しを得意とするタイプだ。

 それと今回の事はすまなかった。俺の人選ミスだ。彼がこんな事をするとは…」

 

 烏間先生が珍しく頭を下げる。それだけ今回の事を重く受け止めているのだろう。

 

「いえ、烏間先生、そんな事はないですよ。やり方は間違っていましたが彼は一番先生を追い詰めました。みなさんにとって、彼が仲間に加われば心強いでしょう」

 

 確かにその通りだ。みんな分かってる。でも…、

 

「俺は嫌だ。あんな奴と一緒だなんてな」

 

「私も」「俺も」「本校舎の奴等よりも最悪ー」

 

 前原君の言葉を引き金に次々と不満のの声が漏れる。

 

「待ってよ、みんな!」

 

 そんな中で彼女がそれを言うとは誰も思っていなかった。

 

「確かに黒羽君は…私を人質に取ったし、殺されるかと思って怖かったけど…、そんな悪い人じゃないよ!」

 

 倉橋さんは必死に零士が悪い奴ではないと主張する。

 

「倉橋、アイツに言わされてんならやめろよ。本当はお前も嫌なんだろアイツ」

 

「そんな事ない! だって初めて黒羽君に会った時、私を助けてくれたんだよ! 黒羽君は本当は優しいんだよ! ただ、ちょっと不器用でプライドが高いだけなんだよ、きっと」

 

 大声で言い切った倉橋さんの頭に触手を置きながら殺せんせーが話し始める。

 

「倉橋さんの言う通りです。君達は彼が本当はどういう人なのか、分かっていません。同時に彼も君達の事を分かっていません。他人の事を理解できない暗殺者ではいけません」

 

「じゃあ、どうすればいいんですか、殺せんせー?」

 

 僕は殺せんせーに尋ねる。殺せんせーはその質問を待っていましたと言わんばかりの顔で答える。

 

「明日の修学旅行、先生が何としても零士君を連れて来ます。そういうイベントなら普段は聞けない様な本音や意外な一面が見られるはずです。みなさん、彼のやった事は許される事ではありません。ですが、道を間違えていたら正しい道に戻してあげる、それが仲間だと思いますよ。そして君達は全員、それが出来る生徒です」

 

 そう言うと殺せんせーは“零士君の所に行って来ます!”と言って授業を烏間先生とビッチ先生に任せて行ってしまった。

 

 僕達は彼との関わり方を考えながら明日の修学旅行に向けて準備を進めた。




最初の暗殺は失敗に終わりました。そしてこの2話でE組の中で零士の評価はドン底まで落ち、落ちるとこまで落ちました。
次回からは修学旅行編です。零士はE組に馴染む事が出来るのか?

三人称だけだと書きづらい。だけど一人称だけもつらい。不自然にならない程度に混ぜて書ければなぁ。


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修学旅行の時間

更新できずすいません。実はテストがありまして…。結果は…ご想像にお任せします。
それと現在作者は原作を9巻までしか持ってません。今週中にファンブックを含めて買うつもりです。買ったら設定を含めて少し変わるかもしれません。
というわけで修学旅行編開始です。零士とE組がどうなるかお楽しみに。



 ー渚sideー

 

 そして修学旅行当日。僕達は東京駅で電車を待っていた。

 

 その間、E組への明らかな差別などはあったがビッチ先生の場違いな格好で収まった。

 

 まぁ、烏間先生がその後に怒って、着替えさせたけどね。

 

「みなさん、お待たせしました」

 

「殺せんせー、おはようございます! 遅かったね」

 

「はい。少し手間取ってしまいまして…」

 

 そう言うと殺せんせーはE組の前に1人の生徒を出す。

 

 彼は昨日、倉橋さんを人質にとって暗殺をしようとしたプロの殺し屋“ゼロ”だ。本名は黒羽零士。僕達は誰1人、彼の到着をよく思っていなかった。僕達と彼との間には昨日の一件によって埋める事の難しい深い溝が出来ていた。

 

「んだよ! このタコ! 俺は行かねぇって言っただろうが!」

 

 おそらく、無理矢理連れて来られたのだろうな。それだけには少し同情する…。荷物、多いな…多分殺せんせーに色々入れられたんだろう。可哀想に…。

 

「ダメです。サボりは許しません。休みたければ欠席すると前もって連絡してください」

 

「はぁ? じゃあ休みまーす。」

 

「ダメです。もう来ちゃってますから」

 

 その言葉に零士は諦めたのか黙ってE組の普通車に一番に乗り込んだ。

 

 それを見て、僕達を乗り込む。

 

 そしてみんなは零士君が来る事に納得してない様子だ。でも僕は…倉橋さんの言っていた通り、彼の優しさとかが知れたらなと思ってる。

 

「なぁ、渚。電車出たけど…殺せんせーどこ行った?」

 

 杉野が渚に尋ねる。

 

 そういえば見てない。零士君を連れて来た後どこに行ったんだろう?

 

 そう思いながら僕は窓の外を見てみる。

 

「うわっ!

 何で窓に張り付いてんだよ、殺せんせー!」

 

 何故か窓に張り付いていた。国家機密が何やってんだろう…。

 

 僕はとりあえず殺せんせーに電話して聞いてみる。

 

 {いやぁ、零士君が朝食を食べていなかったので駅弁を。沢山あって迷っちゃいまして…}

 

 なぁんだ、零士君の為だったのか。

 

 僕がそう思っていると、殺せんせー手に持っている袋の中の物見ながらヨダレを垂らしていた。

 

 ……これ…絶対…スウィーツ狙いだ…。

 

「先生、その手のやつスウィーツだよね」

 

「にゅやッ! バレてしまいましたか…。いゃあ、本当は駅中スウィーツを買ってて遅れまして。次の駅までこのままです」

 

「渚、何だって?」

 

 茅野が聞いてくる。

 

「えっと…このまま次の駅だって」

 

「それ、バレちゃうじゃん…」

 

 確かに茅野の言う通りだ…。バレる…国家機密なのに…。

 

「ご心配なく、渚君、茅野さん。保護色にしてますから。服と荷物が張り付いている様に見えるだけです」

 

「「「「「それはそれで不自然だよ!」」」」」

 

 

 そんな事をしてる間に次の駅に着き、殺せんせーは乗り込んで来た。

 

「はい、零士君。駅弁です。美味しいですよ」

 

 最初に零士の所へ行き袋から弁駅弁を出す。

 

「……いらねぇよ…」

 

「そんな事言わずにほらっ。あーん」

 

「…“あーん”じゃねぇよ! 自分で食うわ!」

 

 零士は殺せんせーから弁当をひったくる様にして取る。

 

「それにしても疲れました。目立たないようにするのも大変ですねぇ」

 

「殺せんせー、ほれ。

 まずそのすぐ落ちる付け鼻から変えようぜ」

 

 菅谷がひょいと何かを投げた。

 

「…おお! 凄いフィット感!」

 

「顔と雰囲気に合うよう削ったんだ。俺そんなん作るの得意だからさ」

 

 修学旅行になると菅谷君の様に、みんなの意外な一面が見れる。零士君の事も何か見えるんだろうか?

 

 ー渚sideoutー

 

 ー零士sideー

 

「なぁ、みんなトランプしようぜ」

 

 前原が1班のみんなに声をかけてトランプが始まる。

 

 とはいえ“みんな”というのにも語弊がある。

 

「黒羽はどうするんだよ。やりたいのか?」

 

 前原は明らかに俺にやってほしくなさそうな顔で聞く。

 

「やらねぇよ。分かってるくせに聞くんじゃねぇよ、バカ」

 

「んだと! お前はいちいちそういう事ばっかりだな! 少しは謝ろうとかクラスに馴染もうとかないのかよ!」

 

 前原が零士のそんな態度に対し、思わず声を荒げる。周りの席に同じ班のメンバーはいるものの誰も止めようとはしない。おそらく前原の意見に肯定的なのだろう。

 

「だから…テメェらと仲良くするつもりはねぇって言ってんだろうが!」

 

「前原君、黒羽君、やめなよ! 修学旅行くらい楽しくやろうよ。」

 

 倉橋は見ていられなかったのか止めに入る。

 

「俺は無理矢理連れて来られたんだ。楽しむつもりは微塵もねぇ。

 そんじゃあ、邪魔者は移動するとしますよ」

 

 零士は荷物を持って席を離れた。

 

「ちっ、何で俺がこんな事しないといけねぇんだよ」

 

 零士は昨日の暗殺失敗を未だに引きずっている。その為、誰が見ても分かる程イライラしている。

 

「それは君が殺し屋である前に生徒だからです。生徒が学校行事に出ても全くおかしくないですよ」

 

「そういう事言ってんじゃねぇよ、ターゲット!」

 

「だから間違った事に対してはきちんと謝罪をするべきです。まずは倉橋さん。続いてE組のみんなにです」

 

「無理だよ。俺が土下座しても許さねぇ奴は許さない。するつもりはねぇけど」

 

「では零士君。君に宿題です」

 

 いきなり殺せんせーがよく分からない事を言い出す。

 

 宿題? 意味分かんねぇ。

 

「この修学旅行で他のみんながどんな人なのか、少しでも知ってください」

 

「…どんな人かを知る? バカ言え。無理だよ…。俺は…もうこのクラスには馴染めない」

 

 零士は表情を暗くする。まるで自分のやった事を後悔するかの様に。

 

「本当はみんなと仲良くしたいと思っているんじゃないですか?」

 

「! …んなわけねぇだろ! 俺は殺し屋だ。1人で殺ってやるよ、テメェをな! あんな奴等と協力なんてするかよ!」

 

 零士は声を荒げた後、殺せんせーから離れて行く。

 

「零士君、やはり君は倉橋さんの言う通り、根は優しい生徒です。この修学旅行で変われると先生は信じていますよ」

 

 殺せんせーの呟きは零士に向けられたものだったが、零士の耳に届く事はなかった。




零士は実際の所どうなんでしょうかね。修学旅行編は少しオリジナル設定を入れつつ全部で4話か5話になる予定です。
さてこれからどうなっていくのかお楽しみに。


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修学旅行の時間 二時間目

投稿できた…。12時間に合わないかと思った…。
少し急いだので間違いはあるかもしれませんがここまではシナリオ通り。
零士のメンタルが…。さりげなく新キャラ出てるし…。




 E組は1クラスだけ普通の旅館に泊まる。その名前は…“さびれや旅館”

 

 何でそんな名前にしようと思ったのだろう。謎だ…。

 

「…1日目で既に瀕死なんだけど」

 

「新幹線とバスで酔ってグロッキーとは…」

 

 殺せんせーは2人が言う様に酔っている。岡野が口では心配するもののナイフを刺そうとしている。

 

「なぁ、殺せんせー、そこ座りたいからさ、退いてくんない?」

 

 零士が殺せんせーに退くように言う。周りのみんなはどうでもいいという風に見ている。

 

「もう少ししたら退きます、零士君。先生これから東京に戻りますし。枕を忘れてしまいまして」

 

「「「「「あんだけ荷物あって忘れ物かよ!」」」」」

 

 超生物が枕変わって寝れないとかふざけてるだろ。でも…俺はこんな奴に負けたのかよ……。情けねぇ。

 

 零士は殺せんせーやみんなのいる所から離れて烏間先生の所へ向かう。

 

「なぁ、烏間先生。京都に雇ったスナイパーを呼んでるんですよね。誰なんですか」

 

「零士君か…。生徒である君に教える意味はない。それに殺し屋の君に国は依頼をしないと言っただろう」

 

「もうあんな事はしません。実力で殺ります。知り合いならターゲットの弱点をちゃんと教えておくんです」

 

「そうか…なら仕方ないな。今回雇ったのは“レッドアイ”という殺し屋だ。知っているか?」

 

「あぁ、知ってます。相棒と仲が良くて、会った事があります」

 

「相棒?」

 

 烏間先生は零士の口から初めて聞いた言葉について質問する。

 

「あぁ、3年前に今までの相棒がいなくなって龍さんの所に行ってから組んでるんです。コードネームは“ブレット”。レッドアイと同じくスナイパーです。この任務にはそいつの方が向いてる気がするんですけど…」

 

「俺もそう思ったんだが…龍牙の奴にこの任務を受けてもらえなくてな。それに今はロンドンにいるらしくてな」

 

 そういやそうだったな…。

 

 そういえば“レッドアイ”の番号知ってたな…。助言してやるか。

 

「まぁ、“ブレット”の奴は俺と違って色々出来るから仕事多いんですよ。その内受けてくれます。じゃあ俺は“レッドアイ”に電話でもしてきます」

 

「零士君。君の技術は素晴らしいものだ。君がクラスで協力しながら出来るのであれば国はもう一度依頼をすると言っている」

 

「了解です」

 

 零士は烏間先生との話を終わらせて外に出る。そして電話を掛けた。

 

 {よう、ゼロ。久しいな。お前が掛けて来るなんて珍しいな}

 

「まぁな。今日は明日の暗殺に向けて少し助言を、と思ってな」

 

 {! 何でお前がそれを知ってんだ? 国家機密だと聞いたんだが…}

 

「俺もその任務やってんの。ていうか俺の通ってる学校がターゲットのいる所なんだよ。まぁ、昨日派手にミスったけど」

 

 {へぇ、お前がミスんのかよ。自慢の縮地術はどうした?}

 

「初見なのにかわされた。そんな奴だ」

 

 {へぇ、そうか。情報ありがとよ。“ブレット”によろしく}

 

「おう」

 

 零士はそう話して電話を切った。

 

 ブレットか…また久々に会いたいな。

 

 そう思いながら零士は烏間先生に“そこまでするか”という程頼んで同じ部屋に寝させてもらった。

 

 

 翌日、E組は暗殺実行の為に出発した。

 

 俺ら1班は嵯峨野トロッコ列車の鉄橋の上で実行する予定だ。まぁ、俺は完全に浮いていて誰とも話さず着いて行くだけだが。

 

「おぉ~~~! 窓がないから凄い迫力!

 これだけ解放的なら酔いませんし。しかし時速25kmとは速いですねぇ」

 

 殺せんせーのテンションが上がっている。ここを指定したのはやはり成功らしい。

 

「マッハ20が何言ってんだ」

 

 そして磯貝が頷き、1班全員に合図を出す。それに零士以外は頷き返す。

 

 {鉄橋の上で少しの間停車します。保津峡の絶景が一望出来ますのでどうぞゆっくりご覧ください}

 

「あ!見て見て殺せんせー! 川下りしてる!」

 

「どれどれ」

 

 倉橋のわざとらしい演技に騙されてるのかは分からないが殺せんせーが窓から身を乗り出す。

 

 この班ではそれが暗殺の合図だ。

 

 レッドアイもそれを合図にライフルの引き金を引く。

 

「おっと、八ツ橋に小骨が。危ない事もあるもんですねぇ」

 

 あるわけねぇだろ! あったら異物混入で店をやってらんねぇよ!

 

 1班の奴等も思わず顔を逸らす。

 

 そんな感じで1班の暗殺は失敗した。

 

 まぁ、これで成功出来たら俺が失敗するわけねぇよ。

 

「では皆さん、先生は次に2班に行って来ます。皆さんも楽しんでくださいね」

 

 そう言って殺せんせーはマッハでいなくなった。

 

「ダメだったね~」

 

「だね。まぁ、難しいとは思ってたけど」

 

「うん、まさか八ツ橋で止めるとは…」

 

「でも俺らはやるべき事をやったんだ。残りは観光しよう」

 

「流石磯貝! いい事言うなぁ。よし、行こうぜ!」

 

 そんな感じでこの班も観光に向かった。

 

 

 俺は観光が始まって直ぐに1班から離れた。理由は簡単だ。気まずいからだ。

 

「はぁ、俺も…ついこの間まではコイツらと色々考えてたんだよなぁ。って何考えてんだよ。俺は…殺し屋なんだ。アイツらとは違う」

 

 零士はファ●タのグレープを片手にベンチに座っていた。

 

「もしも…アイツらと協力してたら殺れたのか?いや、出来るわけねぇ。俺とアイツらは実力が違い過ぎる。俺に仲間なんていらない。」

 

 俺は…1人だ、昔から…。唯一心を許した奴等も、もういない。今も、これからも…。

 

「なのに…何で俺はあの時、引けなかったんだ…」

 

 零士はこの時一昨日の暗殺の時、人質であった倉橋に対して引き金を引けなかった事を思い出していた。

 

「俺は…殺し屋だ…。今の俺には殺し以外何もないのに…。それも失ったら……俺は…どうすれば…」

 

 零士は段々と顔を暗くしていく。メンタルが弱いとも取れる様子だ。

 

「なぁ、黒羽」

 

 その時、目の前に1班の6人が来た。あれ、6人?班のメンバーは全部で7人じゃ……。

 

「何だよ。俺なんか放っておいて、観光すればいいだろ」

 

「ねぇ、黒羽君。陽菜ちゃんの事見なかった?」

 

 矢田が先程の零士程ではないが顔を暗くして聞く。

 

「倉橋? 見るわけねぇだろ。どうせ迷子だろ。全く、ガキかよ…」

 

 零士は目の前から文句を言われると構えた。

 

 しかし…、

 

「なら…いいんだけど…」

 

「電話も繋がらなくて……」

 

 

 ー倉橋sideー

 

「いやぁ、君椚ヶ丘の娘だよなぁ。可愛いねぇ」

 

 倉橋の前には高校生が10人程いた。

 

「いっ、いやっ。た、助けて…」

 

「その怖がった顔も可愛いじゃん」

 

 磯貝君、前原君、木村ちゃん、桃花ちゃん、メグちゃん、ひなたちゃん………

 

 

 ………黒羽君…助けて!




倉橋が攫われてしまいました。ちなみにリュウキとは違うグループなので4班も別の所で巻き込まれてます。
次回は皆さんが想像する通りのシナリオになるかと…。



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修学旅行の時間 三時間目

少し内容が薄いかも…。でも仕方ない。こういうラストを書きたかったので。
零士がどう変わっていくのか、ご期待ください。
ていうか…この作品の倉橋って結構不幸体質かも…。3日間の間に2回も拘束されてる…。本当にドンマイ。

ー追記ー
まずはすいません!後半だけ投稿してました。前半も追加したのでちゃんと話は繋がるかと思います。


「なぁ、お前らさ、友達とか仲間とか恋人とかってどう思う?」

 

 零士は目の前にいる6人に尋ねる。それも深刻そうな顔で。

 

「いきなり何言い出すんだよ。今は関け「いいから答えろ…じゃなくて教えて欲しい。お前らにとって何だ?」…それは決まってるじねぇか! 大事なものだ、俺達にとってかけがえのないものだ」

 

 前原は零士の質問に戸惑いながらも答える。零士はその回答に満足そうな顔をする。

 

「じゃあ、倉橋ってどんな奴だ?」

 

「陽菜ちゃんは…すごく明るくてフレンドリーで誰とでも仲良くなれて…自慢の友達、親友。生き物が大好きでその知識はすごい。だから…陽菜ちゃんに何かあったら……」

 

 矢田が涙目で答える。

 

「そっか…。ありがと、前原、矢田、教えてくれて。じゃあ、俺はそれが知れれば満足だ」

 

 零士は6人を置いてこの場を離れる。目指すは倉橋がいる場所だ。

 

 

『なぁ、メアリ。何で俺をそんなに信用してんだよ。俺みたいな奴をさ』

 

『だって…レイ君優しいから。レイ君は……私を助けてくれたんだもん! そんな人を信用できない訳がないよ!』

 

『あっそ。お前って意外と単純なんだな』

 

『ちょっ…そういう事言う? ていうかレイ君ってあんまり他人を信用しないよね』

 

『他人は信用出来ない。どいつもこいつも私利私欲に塗れた奴等ばかりだ』

 

『そういう言い方しなくても…。でもいつかレイ君が信用出来る人、現れると思うよ。レイ君の良さを認めてくれて、レイ君が嫌でも信用しちゃう人』

 

『どうだかな。まぁ、そういう意味ではお前に会えたのはラッキーなのかもな』

 

 

 倉橋を探して走っている途中、零士は今朝見た夢を思い出していた。

 

「(メアリ……お前みたいな事、言ってくれる奴はもう現れないかもしれない。でも…信用してみたいと思った奴は現れたよ。信用し合えるかって言うと無理だと思うけどさ)」

 

「にしてもどうすりゃいいんだよ!」

 

 そんな時、零士は足元に落ちていた物を蹴ってしまった。

 

「何だこれ? …スマホ?」

 

 零士はこれを持っている人を思い出した。

 

「アイツはここで何かに巻き込まれたのか…。でもここら辺で何か事件はないし…。! 拉致か!」

 

 って…ダメじゃん…。どこに行ったのか検討もつかねぇ。

 

『イラスト解説の全観光スポット。お土産人気トップ100。旅の護身術、入門から応用まで』

 

 そんな時零士の頭には殺せんせーの言っていた言葉を思い出した。

 

 確かあの先生、俺の鞄を用意した時…あれを突っ込んでいたような…。

 

「あった! えっと…1243ページ“班員が何者かに拉致られた時の対処法”。犯人の手掛かりがない場合ってこれは見てないから何とも言えないな。次は付録134のマッハ20で下見した“拉致実行犯潜伏対策マップ”…か」

 

 すげえなこの広辞苑(※しおりです)。マジで持っておくべきかもな、この広辞苑(※しおりです)。いや売ったら金になるかも、この広辞苑(※しおりです)。

 

「さて、近くから順に潰すか」

 

 

 そして零士は3箇所目に誰かがいるのを確認した。

 

「ここか…」

 

「零士君!どうして君がここに…」

 

「! 殺せんせー、実は倉橋が拉致られたっぽいんです」

 

「倉橋さんもですか? まずいですね…先生は茅野さんや神崎さんの方にも行かなければ…」

 

「任せてよ。倉橋は俺が助けるから」

 

「! 零士君…分かりました。ではお願いします。ですが念の為、烏間先生や1班の皆さんにも連絡しておきます」

 

「………はいよ」

 

 殺せんせーはマッハで次の箇所に向かった。

 

「さて……殺るか」

 

 

 ー倉橋sideー

 

 私は殺せんせーの暗殺に失敗した後、1班のみんなと京都の街の観光を楽しんでいた。

 

 でも…ちょっと人混みではぐれた隙に人通りの少ない所に連れて行かれた。そして車に乗せられた。そして両手両足を縛られ今に至る。

 

「離してよ! 私…今修学旅行でここに来てるの…だから…」

 

 こんな事を涙目で言っても逆に煽る事になるのを倉橋はまだ知らない。

 

「はははっ、修学旅行か…。俺らと一緒じゃねぇか。同じ修学旅行生同士楽しくヤろうぜ」

 

「おい、ケイゴ、撮影班まだ来てねぇよ。もうヤんのか?」

 

「当たり前だろ。リュウキの所では2人拉致ったって言ってたろ。だけど撮影班が到着するまで待つそうだぜ。俺らはこの娘1人だけど10人ぐらい相手してもらおうぜ。きっと狂っちまうと思うがそこそこ楽しめると思うぜ」

 

 イヤだ……そんなの…。私だって何をされそうになってるかは分かる。…でもそういうのは好きな人としたかった……。誰か…助けに来て!

 

「はぁ、目の前に少し若いがこんな上玉がいるんだ。我慢できねでよ! なぁ、お嬢ちゃん、そろそろヤろうか」

 

 ガシャンっ

 

「んだよこんな時に…。オイ、誰か見て来いよ」

 

 倉橋を取り囲んでいた不良の1人が今の音を確認する為に離れる。

 

 ドカッバタン

 

「はァ? 勢い良く向かって来た割に弱過ぎるだろ」

 

「何だ、テメェ!」

 

 あの乱暴な話し方に人を見下す様な態度…間違いない…黒羽君だ! じゃあ…私の事、助けに来てくれたの?

 

「黒羽君!…助けて!」

 

「ん? 何でお前ここにいるんだよ?」

 

 えっ? ……私がここにいるの知らなかったの? じゃあどうしてここに……。

 

()()通りかかったら不良が襲って来て、倒した後中に入ってみると倉橋が拉致られてたなんてな。いやぁ~()()だなぁ」

 

 零士が“偶々”や“偶然”をやたらと強調しながら棒読みで登場する。

 

「何だよ、お前。“囚われのお姫様を助けに来たナイト”って事か? そういうのは漫画の中だけにしてくれよ」

 

「そんなんじゃねぇよ。俺は()()通りかかっただけだけど。あえて言うなら“捕らえたはずのお姫様に逃げられて、それを追ってきた魔王”かな、俺は。まぁ、()()通りかかっただけど」

 

 黒羽君……“偶々”を言い過ぎだよ…。なんか胡散臭い…。

 

「まぁでも、()()通りかかったとはいえクラスメートが拉致られてたんだ。助けないわけにはいかねぇな!」

 

「フンっ、調子に乗るなよ中坊が!」

 

「こっちのセリフだ、()()()!」

 

 一般人って…まぁ黒羽君って殺し屋だから間違いじゃないけど…。そういえば私…こんなにツッコんでる。やっぱり黒羽君が来てくれて安心してるんだ。

 

 零士は次々と不良を殴ったり蹴ったりしていく。不良は後ろから鉄パイプで殴りかかったりするものの全て避けられる。

 

「……凄い…カッコいい…、黒羽君……」

 

 ー倉橋sideoutー

 

 

 ー磯貝sideー

 

 黒羽は俺らによく分からない事を聞いた後直ぐにどこかへ行ってしまった。

 

 でも…“友達や仲間、恋人”に“倉橋の事”か…。アイツなりに知ろうとしているのか?

 

「なぁ、磯貝。アイツを当てにしてもしかたないさ。俺らで探そうぜ」

 

「あぁ。でもその前に殺せんせーに連絡を…」

 

 磯貝がスマホを取り出し、電話をかけようとすると、後ろから話しかけられた。

 

「磯貝君、君達は大丈夫だったか?」

 

「烏間先生! どうしてここに…。」

 

「奴が倉橋さんが拉致されて零士君が1人で行ったと聞いてな。君達が心配なのと彼の援護をと言われた」

 

 黒羽が…倉橋を助けに行った? じゃあアイツ…あんな事言ったのに…。実際黒羽ってどういう奴なんだ?

 

 前原達も同じ様な事を考えたらしく微妙な表情だ。

 

「どうした、君達。彼女の事なら心配いらない。零士君が行っているし、俺も今から行くつもりだ。だから君達は先に旅館に戻っていてくれ」

 

「烏間先生! 黒羽と倉橋はどこに…」

 

「お願いします!倉橋の事心配だし、それに……黒羽がいくら強いって言っても人数次第では分かんねぇから…」

 

「お願い、烏間先生! 私達も連れて行って!」

 

 俺を含めた1班全員が似たような事を言う。

 

 俺達は少し誤解していた。黒羽はいい奴だ。でもプライドが高くて不器用だから周りに敵を作ってしまうだけなんだ。そんな風に過ごしている内にアイツも周りに壁を作ってるだけなんだ。

 

「「「「「「お願いします!」」」」」」

 

 烏間先生はやれやれといった様子で頷いた。

 

「危ない事だけはするなよ」

 

「分かってます」

 

「ではこっちだ。行くぞ」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

 ー磯貝sideoutー

 

 

「はははっ、あんな事言った割に手応えねぇなぁ」

 

 不良達は壁際で1人の男を文字通り見下していた。

 

「黒羽君! 大丈夫⁈ 何か言ってよ! やられてないよね! 黒羽君!」

 

 その壁際には…頭からも血を流し、痛々しい様子の零士が寄りかかっていた。




負けた主人公…。理由は思いっきりベタです。
次回は今回が薄かった分、内容は濃く、量も多くなります。だって重要な回の予定なので切れなそうなので。
というわけで次回もお楽しみに!評価や感想待ってます!


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修学旅行の時間 四時間目

まずはすいませんでした!前話の前半を書き忘れていました。まだ読んでいない方はこの話を読む前に読む方がいいと思います。
では本編スタート!



「あんな事言ったくせにやっぱり人質取られちゃ何も出来ないよな」

 

「チッ……、クソが。グハッ!」

 

「黒羽君!」

 

 零士の目線の先にはナイフを突きつけられ、怯えている倉橋がいる。

 

「おいおい、どうしたんだよさっきまでの威勢はよぉ。何とか言ったらどうだ?」

 

 不良は鉄パイプで殴ったり、蹴ったりして零士を痛みつける。

 

「もう止めて! 黒羽君…もう逃げてよ……。私は大丈夫だから…。私の為にそんな事される必要なんてないよ!」

 

「お嬢ちゃん、もうコイツはここに来ちまったんだよ。だから関係は十分にある。

 さて、どうしてやろうか…。このままお嬢ちゃんの目の前で殺してやろうか…。それともお嬢ちゃんをコイツの目の前で犯してやろうか…」

 

 倉橋はその言葉に再び怯える。

 

 ……俺は…何やってんだよ…。償いのつもりでカッコつけて来て、そんで倉橋のまえでボコられて…。ははっ、ダサ…。俺…勘違いしてたのか?自分のスキルを持ってすれば余程の奴でなきゃ負けるはずがないと思ってた。なのにこのザマかよ……。じゃあせめて……一言アイツに言わねぇとな…。

 

「なぁ倉橋、本当に悪かったな。俺…間違ってたな……」

 

 倉橋はその言葉を聞いて驚いた様な表情をした。

 

「……何でそんな事言うの? まるでこれで終わりみたいな事言って…。」

 

「……そりゃそうだろ。俺はお前を人質に取られてんだ。下手な事出来ねぇんだよ」

 

「じゃあ私の事なんてほっといてよ! 私は…誰かを犠牲に助けられても嬉しくない!」

 

「んだと? テメェ、命は大事にしろよ。それがねぇと「それは黒羽君も同じでしょ! それが嫌だったら…」」

 

 倉橋は一度そこで言葉を切った。そして再び口を開いた。

 

「『()()()()()()()()()」』

 

 この言葉……どこかで聞いた事がある…。どこで聞いたんだ?そうだ…アイツ(メアリ)だ……。アイツ(メアリ)が昔俺に言ったんだ。

 

 なぁんだ……やっと分かった。俺が…倉橋を見ててイライラした理由。アイツ(メアリ)に向かって引き金を引けなかった理由…。倉橋は…アイツ(メアリ)に似てるんだ。

 

「………やっと分かった。」

 

「あァ? テメェ、何呟いてやがる! でもまぁ、最後に話したいって気持ちは分からなくもねぇ。少しだけ話してもいい」

 

 どうやらこの不良はどこか甘いらしい…。

 

「なぁ倉橋。俺が…お前の事嫌いな理由、分かったよ」

 

「……どういう事?」

 

「お前を見てると…アイツ(メアリ)を思い出すんだ。死んだはずのアイツ(メアリ)そっくりなんだよお前。考え方とか話し方とか…。だから………見てるとイライラするんだよ! あの日……アイツ(メアリ)を救えなかった俺を思い出すんだよ! アイツ(メアリ)に守られるくらい俺は弱いって事を認識させられるんだよ!」

 

「黒羽君ってやっぱり優しいよ…。口ではあんな事言ってるのに…実際は全然違う事してるんだもん」

 

 うるせぇよ……。その表情で言うんじゃねぇよ。お前の事見れば見るほど…自分が情けなくなってくる…。

 

「なぁ、倉橋、教えてくれ。お前、俺が来た時、何で助けを求めた…。俺がボコられてる時、何で心配したんだよ」

 

 零士は暗い顔で尋ねる。倉橋はその問いに笑って答える。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『だって…レイ君優しいから。レイ君は……私を助けてくれたんだもん! そんな人を信用出来ない訳がないよ!』

 

 倉橋の言葉を聞いて、零士の頭に1人の少女の言葉が蘇る。

 

 …そのセリフまでほとんど同じかよ。本当に腹立つ…。二度も…同じ目にあってたまるかよ!

 

「倉橋…今から2つ選択肢をやる。どれか選べ。

 

 1つ目 自分を人質にとった憎らしい殺し屋の最後を見る。

 

 2つ目 この憎らしい殺し屋に仕方なく助けを求める。

 

 少なくとも…お前を助けないっていう選択肢はねぇ。さぁ、どうする?」

 

 零士は倉橋が話す言葉を一語一句聞き逃さないように耳を傾ける。そして倉橋も…自分の答えを一語一句正確に伝え様と口を開く。

 

「私は………どっちも選ばない。

 

 私は……………

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 零士はその言葉を聞いてニヤリと笑う。そして手を使わずに立ち上がる。

 

「りょーかい!」

 

「あァ? テメェ、こっちには人質がいるんだ! 下手な事したらどうなるk「殺れよ…。殺れるもんなら殺ってみろよ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」…んだと!」

 

 零士はまるで目の前にいる不良以外にも言う様に叫ぶ。

 

「お前は人質を取ってる。って事は…殺されても構わねぇって事だよなぁ!」

 

 零士はありったけの殺気を自分と倉橋の周りの不良にぶつける。

 

「ヒィィィィ! 何なんだよテメェ! ガハッ!」

 

 零士は縮地術で倉橋にナイフを突きつけていた不良に近づき、腹を一発殴る。そして落ちたナイフを手に取り不良の首に突きつける。

 

「人質ってのはこうやんだよ」

 

「中坊が…調子に乗るなよ!」

 

「そうか……じゃあ殺っていいんだな…」

 

 零士はナイフを更に近づける。

 

「ヒィ! や、止めろ!」

 

「お前はこれと同じ事を倉橋にやったんだ。だったら…覚悟はあるだろ!」

 

 零士はナイフを首に当て、不良の首からは数滴の血が流れた。そしてその不良は気絶した。

 

「お、お前、殺したのか?」

 

 もうこの不良達に戦意はなくなった。後は…俺が少し脅すだけで十分だ!

 

「安心しろよ。お前らも直ぐ、後を追わせてやるよ!」

 

 零士から放たれた殺気により周りを囲んでいたはずの不良は泡を吹いて倒れた。

 

「く、黒羽君……もしかして…殺しちゃったの?」

 

 少し怯えた様子で倉橋は聞く。

 

 ヤベェな…少し怖がらせたか……。

 

「安心しろよ。倉橋が助けを求めたのは…殺し屋“ゼロ”じゃなくてらクラスメートの“黒羽零士”だろ。プライベートじゃ殺しはしねぇ。気絶してるだけだよ」

 

 零士は1人のクラスメートの顔になって話す。

 

「……倉橋、無事でよかったよ。怪我、どこもしてないか?」

 

「…うん。ありがと、黒羽君。

 …………うわぁぁん! 怖かったよぉ、黒羽君! 助けてくれてありがとぉ!」

 

 倉橋は緊張の糸が切れたかの様に泣き始め、零士はそんな倉橋黙って抱きしめる。

 

 いや、正しくは抱きしめようとした。そして抱きしめなかった。

 

 なぜなら…外から声が聞こえたからだ。

 

「倉橋! 大丈夫か!」

 

「陽菜ちゃん!」

 

 間も無く1班のみんなと烏間先生がやって来た。

 

「! よ、よう、お前ら…。あ、そうだ! ほらっ、前原、倉橋が泣いてるからさ、側にいてやってくれよ。俺はもう行くから」

 

 零士は自分にしがみついて泣いている倉橋を前原の方にやろうとするが倉橋は離れようとしない。

 

「バーカ。お前が助けたんだから、責任もてよ。それと、ありがとな」

 

「うん、本当にありがとう、黒羽君。おかげで陽菜ちゃんが無事だったよ」

 

「黒羽、ありがとな、本当に」

 

 そんな感じで6人が次々にお礼を言う。

 

「や、やめろよ、気持ち悪りぃ。()()()()()()()()()()()()

 

「照れてるね、黒羽。そういう所あるなんて結構可愛い所あるじゃん!」

 

「! うっせぇ岡野! 照れてねぇよ!」

 

「照れんなよ、黒羽」

 

 岡野の続き、前原も茶化す。

 

「本当にありがと、零士君!」

 

 倉橋が少し赤くなった目で、しかも上目遣いでお礼を言う。

 

 ヤバい……可愛い、理性飛びそう…。ってそうじゃなくて!

 

「お、おう…///。何ともなくて本当によかった…///」

 

 

 その後、警察がやって来たが烏間先生のおかげで俺らには何の影響もなかった。防衛省の権力ハンパねぇ…。

 

「なぁ、黒羽。やっぱり俺らってお前にとっては邪魔か?」

 

 磯貝が少し聞き辛そうに聞く。

 

「…どうだろうな。少なくとも…足手まといになる事は否定出来ない。「そうか…」でも…邪魔じゃねぇ。お前らは……信用出来る。まぁ、お前らは出来ないかも「出来るよ! 零士君、優しいもん!」お、おう。サンキュー、倉橋」

 

 あれ?倉橋…今…俺の事…。ていうかさっきも…。

 

「倉橋…お前今…俺の事…。」

 

「えっと…ダメ? 下の名前で呼んじゃ?」

 

 頼むから…その上目遣いやめてくれ…。

 

「だっ……ダメじゃ…ねぇ…けど……//。」

 

「よかったぁ! じゃあこれからもよろしくね、零士君!」

 

 そして倉橋に続いて1班のメンバーは男女問わず俺の事を下の名前で呼んだ。

 

 

 そして烏間先生が戻って来た。

 

「そうだ、零士君。もし、協力出来るのなら…防衛省は再び君に暗殺の依頼をしたい。どうだ?引き受けてくれるか?」

 

 倉橋達はみんな、零士の事を見る。

 

 そんなの…決まってる。

 

「すいません。その依頼…引き受けられません」

 

 俺は断った。その回答にみんな驚いている。

 

「そうか…では「でも…暗殺は続けます。だって俺は…E組だから」……そうだったな」

 

 烏間先生は“フッ”と笑う。

 

「零士! お前…カッコつけ過ぎだろ!」

 

「うっせぇ陽斗! 悪いかよ! これが俺だよ!」

 

「別に良いじゃん。本校舎の頃からどこかナルシストっぽかったし」

 

「えっ…そうなの? 俺って本校舎の頃からこんな感じあったの? いやそんな事はねぇと思うんだけど。なぁ、ひなた、そうだよな」

 

「言われてみればそんな感じあったよ」

 

「確かに~」

 

「言われてみればね」

 

「お前らまで……」

 

 そんな感じで1班のみんなと下の名前で呼び合う仲になった俺はコイツらと“さびれや旅館”(本当に何でこんな名前つけたんだよ…)に帰った。

 

 

「倉橋さん! 皆さん! よく無事で!」

 

 殺せんせーが零士達1斑を見つけて大声で呼ぶ。おそらくかなり心配してたんだろう。

 

「殺せんせー! ただいま~!」

 

「おかえりなさい。じゃなくて大丈夫でしたか?」

 

「うん! だって、零士君が助けてくれたから!」

 

 その事を知らない他のみんなはその事に驚いた表情をする。それもそのはずだ。だって一昨日倉橋を人質にとったのは零士なのだから。

 

「黒羽が助けたのか?」

 

「そうだよ、岡島。俺も倉橋も誰も嘘は吐いていない。まぁ、零士は恥ずかしがって自分じゃ言わないけど」

 

 うっせぇ悠馬! そういう事言うなよ。

 

「えっと……みんな。ちょっと聞いてくれ。その…あの…一昨日はゴメン! お前らの事バカにしたり、あんな態度とったりして…。本当に悪かった! 許してくれなくてもいい。だけど……よければ…俺もお前らと一緒に殺せんせーを暗殺させてくれ!」

 

 零士はしっかりと頭を下げ、誠意を込めて謝る。

 

「へぇ~、そんな簡単に謝っちゃうんだぁ~。有名な殺し屋って聞いてたけど大した事ないんだね、零士って」

 

「カルマ君……」

 

 渚もカルマの明らかなその態度に苦笑いをする。

 

 ウゼェ!

 

「あんなにプライド高そうなのにね。あ、そうだ! 許して欲しかったらさ、今から土下座しながら京都一周して来てよw」

 

 ウゼェ! とにかくウゼェ!

 

「あァ? カルマ、テメェ! 調子のんじゃねぇぞ! こっちが下手に出た途端によぉ!」

 

 思わず零士は本性を表してしまった。

 

「零士、無理して謝らなくていいんじゃないの? 実際に1班、特に一番の被害者の倉橋さんは許すを通り越して懐いているみたいだし。お前は俺らと一緒に暗殺するんだろ。遠慮なんてせずに殺す気で殺ろうよ」

 

 カルマはこうなる事を図っていたようだ。そしてそれを引き金に他のみんなも言い出す。

 

「そうだぜ、零士!」

 

「そんな堅苦しいのは無しな!」

 

「でも色々教えてよ!」

 

「ね、言ったでしょ、零士君。みんな受け入れてくれるって」

 

「俺の考え過ぎだったか…。ありがと、陽菜乃」

 

「えへへ」

 

 そんな2人の様子をイチャイチャしている様に見えたのか男子の多くが零士に向かっていく。

 

「おい、零士! テメェ羨ましいぞ!」

「お前いつからそんな関係に!」

「爆ぜろリア充!」

 

「あぁ、もう! 何なんだよ!意味分かんねぇ!」

 

 

「(今日、僕達の教室に本当の意味で仲間が加わった。名前は黒羽零士。プライドが高くて、ちょっとだけ不器用だけど根はとても優しいプロの暗殺者。これから先、彼と一緒なら殺せんせーを殺せるかもしれない)」

 

「なんか修学旅行編完結した感じあるけど後一話あるよ。いい感じにまとめた所ゴメンね、渚君」

 

「メタいよ不破さん! 今言わなくていいじゃん!」




いかかがでしたか?ようやく零士が本当の意味でE組の仲間入りをしました。これからは殺し屋“ゼロ”としてではなく中学生“黒羽零士”として暗殺をします。とはいえ殺し屋“ゼロ”として活躍する場面も数多くあると思いますので楽しみにしててください。

零士「という訳だ!これからもよろしく!感想とかお気に入り登録とかしてくれた読者の方ありがとな!」


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修学旅行の時間 五時間目

ええとまずみなさんに嘘を吐きました、すいません!本当は5話で修学旅行編をまとめるつもりが作者の文才ではまとめられず後一話追加しなければいけなくなりました。

零士「何やってんだ作者。ダラダラやってると見てもらえねぇぞ。お気に入りも外されるぞ。」

頼む、零士!君のスキルをもってすればそれを阻止できる!頼む!
龍さん、“Assassin’s coffee”1つ!

零士「バカ言ってんじゃねぇ!
まぁ、というわけで前書きからダラダラやってますが、見放す事なく見てやってください。
では本編スタート!」



「烏間先生。缶コーヒーいります?」

 

「零士君か。ありがたく飲ませてもらう」

 

 烏間先生と零士が缶コーヒーを開け、ほぼ同時に飲む。因みに2人ともブラックだ。

 

「どうでした、レッドアイの方は?」

 

「途中で辞退してしまってな。京都ではここまでだ」

 

「まぁそりゃそうですよね。だって殺せんせー、俺らの班では八ツ橋で弾丸止めてましたもん」

 

 烏間先生はそれを聞いて何とも言えない表情をする。まぁ、誰が聞いても同じ様な反応をするだろう。烏間先生はそれでも薄い方だ。

 

「ところで君は浴衣を着てないみたいだが…風呂にはまだ入っていないのか?」

 

「あぁ、はい。ちょっとリフティングをしようかと思ってまして。旅館の人に頼んで夜遅くに入るのを許可してもらったんですよ」

 

「そうか。ほどほどにしろよ。まだ頭の怪我だって治ったわけじゃないんだからな」

 

 零士の頭には包帯が巻かれている。その下には怪我の後がまだ残っている。

 

「分かってますよ」

 

「黒羽!卓球やろうよ!」

 

 三村が竹林との卓球を終えて声をかける。

 

「悪い、三村。俺今から外でリフティングして来るから…。烏間先生、やってみてはどうですか?」

 

「そうだな。三村君、俺もやらせてもらっていいか?」

 

「もちろんですよ」

 

 零士は烏間先生が三村と卓球を始めたのを見て、ボールを持って外に出た。

 

 

 零士は10分くらいリフティングをして部屋に戻った。

 

 ガララ

 

「おっ、零士! 良いとこ来た」

 

「ん? 何の事だ、悠馬」

 

 零士は磯貝に聞いたが前原が代わりに答える。

 

「これだよこれ。修学旅行と言ったら恋バナだろ!」

 

 そしてその言葉に木村が続ける。

 

「というわけで零士、クラスで気になる娘いる? 転級して2週間ぐらいだろ。1人くらい、いるだろ」

 

 中学3年生ってそういう事するのか……。ダメだ。分かんねぇや。

 そんで、気になる娘か…。

 

「…どうだろうなぁ~」

 

「逃げんのはなしだぜ。カルマだって言ってんだから。」

 

 磯貝が追い打ちをかける。いよいよ言わなくてはいけない状況になった。

 

「俺は……陽菜乃かな?」

 

「名前で呼びやがって!」

「羨ましい!」

 

「うっせぇよ、テメエら!」

 

 妬みの声が聞こえるが零士は一度ツッコミをした後はスルーをすると決めた。

 

「まぁ、意外でもないな。理由は?」

 

 磯貝も意外とこういう話題は好きらしい。ぐいぐい攻める。

 

「ん~そうだなぁ~。やっぱ3日間で2回もだろ。ちゃんとそこら辺のケアはしてやらねぇと。男性恐怖症にでもなったら可哀想だし。実際原因は俺にもあるからな。尚更気にかけてやんねぇと」

 

 今の言葉を聞いて零士以外の男子は皆、脱力する。

 

「お前なぁ~。」

「意味が違うよ。」

「零士ってかなりの鈍感?」

 

 ー零士の弱点③ー

 鈍感

 

 渚はそっと上の様にメモしたらしい。因みに①は“プライドが高い”で②は“不器用”だ。この先増えていくかは謎だが…。

 

「はぁ。零士のはちょっと期待とは違ったが「どういう意味だよ!」大半は知られたくないだろ。だからこの投票結果は秘密な。女子や先生には絶対に言うなよ」

 

 零士の指摘は無視して磯貝は話していく。

 

「なぁ悠馬。窓の方見てみろよ。殺せんせーに見られてる上にメモ取られてるけどいいのか?」

 

 ……………………。

 

 男子達の間に長い沈黙が流れる。

 

「殺せ!」

 

 前原の掛け声と共に(零士以外の)男子が一斉に飛び出す。

 

「みんないなくなったし、俺はもう一度リフティングやって風呂行くか」

 

 零士は皆に遅れる事1分、ボールと一応ナイフと銃を持って外に出た。

 

 

 ー倉橋sideー

 

「ビッチ先生まだ二十歳ィ⁉」

 

 女子部屋ではビッチ先生も加えて盛り上がっていた。

 

「経験豊富だからもっと上かと思ってた」

 

「ねー」

 

「毒蛾みたいなキャラのくせに。」

 

 ひなたちゃん…その言い方は…。まぁ、否定は出来ないんだけどね。

 

「それはね、濃い人生が作る色気が…Σ誰だ今毒蛾つったの!」

 

「遅いよツッコミ…。」

 

 いつも渚を筆頭に素早いツッコミの多いこのクラスにとって、ビッチ先生の今のツッコミは遅過ぎる。

 

「女の賞味期限は短いの。あんた達は私とら違って…危険とは縁遠い国に生まれたのよ。感謝して全力で女を磨きなさい」

 

「ビッチ先生がまともな事言ってる」

「なんか生意気~」

 

「なめくさりおってガキ共!」

 

 ビッチ先生は残り少ないビールを飲み干し、そんな様子の女子に言った。

 

「ところであんた達、どうなのよ。クラスの中に気になる男子ぐらいいるでしょ」

 

 その言葉をきっかけに女子でもランキングが始まった。男子とは違って自分の名前は書かず、気になる男子の名前を書く。

 

「あんた達、カラスマは無しよ。カラスマが圧勝する結果が目に浮かんで男子達が可哀想よ」

 

 それを聞いた女子の多くは一斉に書き直す。

 

 私は………やっぱり…あの人かな///? だって……あんな所見せられたら…好きにならないわけないもん……///

 

 倉橋は顔を真っ赤にしながら心の中で誰に言ってるか分からない説明を繰り返す。

 

「陽菜乃。紙、書けた? ぼーっとしてるけど」

 

「えっ? ああ、うん! 書けたよ。ゴメンね、はい」

 

 

 

 

 片岡の集計が終わり、結果はこの様になった。

 

 1位 磯貝  4票

 2位 前原  3票

 3位 渚、カルマ  2票

 5位 黒羽  1票

 

「へぇ、思ったより差がつかなかったわね。磯貝はまぁ、予想通りね。私としては…1票入ってる黒羽が気になるわね」

 

 ビッチ先生が女子の顔を見渡すと顔を赤くして目をそらす者が1人。

 

「ダメだよ、ビッチ先生。誰が入れたか分からない様にしたんだから」

 

「それもそうね。でもあんた達覚えておきなさい。私ぐらいになると表情を見れば一発で分かっちゃうから」

 

 ゔゔ……もしかして…バレてる…?

 

「でも零士君って磯貝君と違った感じのイケメンだよね」

 

 矢田が空気を変える為なのか話す。

 

「確かに。私、まだ2年生の頃、クラスメートに零士の事好きな人がいて一緒に試合見に行ったけど普通にカッコよかったよ」

 

「へぇ、あいつって結構モテるのね。あの性格さえ良ければ磯貝より上行きそうなのに」

 

「でもあの性格があっての黒羽じゃない?」

 

 そんな感じで次々と零士の話題が出て来る。

 

「ところでさ、ビッチ先生って今までどんな男をオトしてきたの? 私聞きたいな~。」

 

 倉橋は何となく話題を変えた。

 

「興味あるよね」

 

「フフ、いいわよ。子供には刺激が強いから覚悟なさい。例えばあれは17の時…」

 

 ビッチ先生が一度言葉を切る。

 

 私も含めて女子は全員ビッチ先生に注目する。殺せんせーは少し顔をピンクにしてニヤニヤしながら次の言葉を待つ。

 

 

 ………あれ?殺せんせー?

 

「おいそこォ!

 さりげなく女の園に紛れこむな!」

 

「いいじゃないですか。私も色恋の話聞きたいですよ。」

 

「そーゆー殺せんせーはどうなのよ。自分のプライベートはちっとも見せないくせに」

 

「そーだよ。人のばっかりズルい!」

 

「先生は恋バナとか無いわけ?」

 

「え?」

 

「そーよ。巨乳好きだし片想いぐらいあるでしょ!」

 

「え?」

 

 女子達によってだんだんと追い詰められていく殺せんせー。そしてついに………。

 

「逃げやがった! 捉えて吐かせて殺すのよ!」

 

 全員がナイフや銃を持って飛び出した。

 

「それと、陽菜乃。ちょっと残って」

 

 私はビッチ先生に残された。

 

「何? ビッチ先生。殺せんせー殺さなくていいの?」

 

「どうせ無理よまだ。

 そういえばあんた、黒羽の事、好きなんでしょ。気になるなんてレベルじゃなくて」

 

 ビクッ

 

「ソンナコトナイヨー。」

 

「本当?」

 

「ホントホント」

 

「本当にそうなの? 惚れちゃったんじゃないの?」

 

「ホレテナイヨー。」

 

「私の目を見て言ってごらんなさい。“私は零士君の事、好きじゃありません”って。言える?」

 

「私は……零士君の事…好きじゃ……無理です言えないです! 零士君の事好きです! 零士君に惚れちゃってます! ………///////」

 

 今倉橋は誰が見ても分かるくらい真っ赤だ。

 

「よく言えました。でも確かにあんな風に助けてもらったらそうなるわよね」

 

「…うん」

 

「でも陽菜乃、恋愛は自由だけど黒羽だけはやめた方があんたの為よ」

 

「! どうして? 自由なら…」

 

「あいつは殺し屋よ。それも私以上の凄腕。そんな奴がキッパリと足を洗ってなんて事は難しいわ。あんたの為にも「そんな事言わないで! 好きになっちゃったんです…。例えそうであっても自分の気持ちに嘘は吐きたくない!」…分かったわ」

 

 正直直ぐに納得してもらえるとは思っていなかった倉橋は驚く。

 

「あんたがそう思ってるなら私は応援するわ。頑張って、陽菜乃。私に手伝える事があれば協力する。でも覚悟しておきなさい。あいつは自分が殺し屋である事、そしてその意味も分かってる。あいつをオトすのは至難の技よ」

 

「うん、分かった。ありがとうビッチ先生。アピール、頑張るよ!」

 

 倉橋も殺せんせー暗殺の為に外に出て行く。そして部屋にはビッチ先生が1人残った。

 

「あの子、容姿は結構いいんだから、もっと普通の恋をすればいいのに。…でも、この教室自体、普通じゃないから無理か…」

 

 教え子の事が心配になるビッチ先生であった。




倉橋が自分の気持ちに気づきました!パチパチ
零士は見事な鈍感、天然っぷりを発揮しておりますが…。
正直作者も彼らが付き合うなんて信じられません。

次回は今度こそ修学旅行編ラスト。少し短めかな?無理かな?


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修学旅行の時間 六時間目

ようやく終わった修学旅行。まぁ、久々にゆる〜い感じになってます。まぁ、次からあの子が来ますから。

零士「あの子?誰だよそれ。」

君は知らなくていいの。それ言ったら君絶対面倒な事するから、

零士「あっそ。まぁいいや。というわけで今回はほのぼのと行きます。
では本編スタート!」



 零士はあの三日月の下でリフティングをしていた。

 

「メアリ……俺、やっと居場所が出来たよ。止まってた時間も動き始めた。ここでなら俺はやっていけそうだ。でも……いや、何でもない」

 

 そしてもうこの世にいない恋人に今まであった事を報告する。

 

「……月が綺麗だな…三日月だけど」

 

 ふと上を見上げて呟く。

 

「そうだね」

 

 すると後ろから誰かに声をかけられた。

 

「! なぁんだ、陽菜乃か…。驚かせんなよ」

 

 後ろから声をかけて来たのは陽菜乃だった。

 

「嘘吐かないでよ。ボール、落としてないくせに」

 

「そんなんで落とすかよ」

 

 倉橋は零士の言葉を無視して話す。

 

「それにしても月、本当に綺麗だね。

 そういえばさ、月ってなんか零士君に似てるね」

 

 何の前触れもなく、倉橋はそんな事を言う。

 

 “月に似てる”…か。アイツにも言われたな、そんな事。

 

「な、何で笑ってるの? 私、何もおかしな事言ってないよ!」

 

「はは、ゴメンゴメン。そうじゃないんだ。ただ…メアリ、死んだ恋人にも同じ事言われた事あってさ」

 

「へぇ、そうなんだ。じゃあ私の考えも間違ってないって事だね」

 

 おそらくあえてメアリの事には触れなかったんだろう。ありがたい。

 

「俺そんなに月っぽいか? 自分じゃ自覚ないんだけどなぁ」

 

「似てるよ。だって、零士君って色んな顔があるじゃん。例えば殺し屋“ゼロ”の顔とか、A組“黒羽零士”の顔とか、私のクラスメートの零士君の顔とかさ。まだ2週間ぐらいなのにもうこんなに見つけちゃったよ!」

 

 倉橋が楽しそうに言う。

 

「平和そうな頭してんなぁ。でもメアリも同じ様な事言ってたっけな」

 

「平和そうな頭って…何でそんな事言うかなぁ。口悪いとモテないよ。(私はそんな人の事好きになってるんだけど…)」

 

「じゃあ幸せな脳みそ?」

 

「変わってない!」

 

「でも……それでいいだろ。()()()()()()と同じ思考回路ってのは、褒められる事じゃないしな」

 

 零士の表情は少し暗くなる。

 

 やっぱり俺とこいつらは…少し違うのかもな…。

 

「………くん、…士君、零士君!」

 

「えっ…な、何?」

 

 どうやら呼ばれたらしい。

 

「またぼーっとしてる。やっぱり何かあったの?」

 

「何でもねぇよ。

 ところでさ、俺が月なら陽菜乃は太陽だよな」

 

 零士が強引に話題を変える。倉橋としては呼び掛けても反応のなかった零士を心配していただけなのだが…。

 

「どうして?」

 

「お前のおかげでクラスに馴染めたから。お前が月である俺を照らしてくれたからE組のみんなに本当の俺を見せる事が出来たから、かな」

 

 少し顔を赤くしながら言う。倉橋もいきなりお礼らしき事を言われ恥ずかしく顔を赤くする。

 

「それは褒めてるんだよね?」

 

「当たり前だろ。これのどこにバカにしてる要素があるんだよ。生き物ばっかりのその頭でも理解出来るだろ、それぐらい」

 

 どこか素直に慣れない。ツンデレとは少し違うが零士はそんな感じだ。

 

「何で零士君はそういう事ばっかり言うかなぁ。でもさ、メアリちゃんにもそんな感じなの?」

 

「さぁな。でもお前とは違うかも。それにアイツは太陽よりも星って感じだし」

 

「違うの? 私てっきり零士君には誰にでも同じ様な事言うのかと…」

 

 倉橋の本音が思わず出でしまう。おそらく今までの会話からそういう風に考えていたのだろう。

 

「お前の中で俺はそういう扱いなのか…。オーケーオーケーよぉく分かった」

 

「ちょっと待ってよ!そういう意味じゃないから!」

 

「はははっ、嘘だよ。陽菜乃、お前…そういう反応カワイイな」

 

「……///////(そういう事平気で言わないでよ…)」

 

 倉橋は零士に振り回されてばかりだと思っている。しかし零士も倉橋に振り回されていると思っている。おそらくこれくらいの距離感が丁度いいと2人は感じているのだろう。

 

「クシュんっ。……///。ちょっと寒いね…。もう直ぐ夏なのに…」

 

「バーカ。もう直ぐ夏でもまだ夜だ。そんな格好で来るからだ。別にこのパーカーを貸してもいいけど…その浴衣には合わないからな。そろそろ部屋戻ろうぜ」

 

「…うん、ありがと。心配してくれて。やっぱり優しいね」

 

 やばっ…普通に照れるんだけど……。

 

「……おう…//。ほら、早く戻ろうぜ」

 

 

 ー渚sideー

 

「……何だかんだで結局は暗殺になるね」

 

 茅野が渚に声をかける。

 

「うん」

 

「明日最終日かぁ。楽しかったね修学旅行。みんなの色んな姿見れて。特に黒羽君とか。あんなに毒気あったのにすっかり抜けちゃってさ」

 

 彼はこの修学旅行で変わった。むしろA組の頃よりも良い人になった。まあ、良い人って文字通りではないけど…。

 

「………」

 

「? どしたの?」

 

「…うん。ちょっと思ったんだ。修学旅行ってさ終わりが近付いた感するじゃん。暗殺生活は始まったばかりだし、新しいクラスメートとの関わりも本当のスタートは今日からで。

 地球が来年終わるか分からないけど。このE組は絶対に終わるんだよね。来年の3月で」

 

 渚は遠くを見ながら言った。

 

「…そうだね」

 

「零士君だけじゃなくてみんな事、もっと知ったり、先生。殺したり、やり残す事なく過ごしたいな」

 

「…とりあえず、もう一回位行きたいね、修学旅行」

 

「うん」

 

 そうすればもっと色々知れるんだろうな。

 

「例えばさ、零士君は……鈍感で少し天然、そしてそんな彼に倉橋さんは惚れてる。とかね」

 

 窓から見える2人を見ながらそんな事を言う。

 

「そうだね。倉橋さん、分かりやすいもんね、あの様子だと。…黒羽君も好きなのかな?」

 

「どうなんだろ。気にはしてるっぽいけど…意味が少し違ったんだよね」

 

「ははは…倉橋さん、頑張って」

 

 その時殺せんせーが烏間先生の部屋に入った。これはチャンスかもしれない。

 

「零士くーん‼ 今殺せんせーが烏間先生の部屋に入ったんだ。殺すの手伝ってよ! 倉橋さんも!」

 

 すると直ぐに手を上げて反応した。

 

「おう!今行く!」

 

 

 こうして僕達の修学旅行は終わった。新たな仲間も加わり、ますます殺る気が出てきた。




短くなった。割と。あの鈍感主人公を書いてるとこっちがイライラする!早くくっつけ!イチャイチャしろ!でもイチャイチャし過ぎるな!

というわけでお気に入り登録や感想はいつも通り待ってます。さらに零士への文句やら呪いやら色々あるでしょう。それらもどうぞ。零士の事呪っちゃってくださいw。

零士「はァ?どういう意味だコラ!」

気にせずどうぞ〜。


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転校生の時間

ついにあの娘がE組に登場!
実は作者この娘の変わりっぷりが結構好きで書いてみたかったんですよ!

零士「その割にはクソみてぇな文才のおかげで微妙な出来だけどな。」

それを言わないで……。仕返しにお前にもたっぷり凹んでもらうぞ!

零士「何するつもりだよ、アンタ…。まぁいいや。とにかく今回もこんな感じやっていきます。
では本編スタート!」



「あーあ、今日から通常授業か」

 

「だよなぁ~。面倒くせぇな」

 

「零士君…A組キャラの面影ゼロだね」

 

「ん~、まぁそうだな。あのキャラ疲れんだよ。良い子過ぎて」

 

 今零士は渚、カルマ、杉野、岡島と共にあの坂を登っている。

 

 そして話題は今日来る予定の転校生に移った。

 

「そーいやさ、昨日烏間先生から一斉送信メール見た?」

 

「あ~見たよ~。多分殺し屋って感じだよねー」

 

「転校生って事はビッチ先生とは違うんだよな。どっちかと言うと零士と同じ、同い年の暗殺者だよな」

 

 俺と同い年かぁ。俺の知ってる中だとアイツだけど…アイツは今ロンドンにいるからなぁ。

 

「そこよ。気になってさ、“顔写真とかないですか”ってメールしたのよ。そしたらこれが返って来た」

 

 岡島が烏間先生から送られてきた写真を4人に見せる。

 

「おぉ、女子か! 何だよ、普通に可愛いじゃん。殺し屋に見えねーな」

 

「分かんないよ、杉野。もしかしたら零士みたいに猫被ってるかもしんないし。いきなり俺らの事捕まえて誰かさんみたいに人質にするかも~w」

 

 グサッ

 

 零士に何かが刺さった。

 

「……カルマ…頼むからそういう事言うなよ…。結構反省してんだから………。はぁ、悪いのは俺なんだけどさ…」

 

「カルマ君! 本当に凹んでるよΣ!」

 

「おぉ、これは重症だな…」

 

 岡島がさっきの写真を零士に見せて聞いた。

 

「なぁ零士。同じ殺し屋ならこの娘の事知らないか?」

 

 何とか立ち直った零士は写真をもう一度よく見ながら言った。

 

「ん~、そうだなぁ。俺は見た事ねぇな。同い年の暗殺者って結構少ないからなぁ。忘れないとは思うんだけど……」

 

 俺らにはその転校生暗殺者に対して期待と不安が入り混じっていた。どんな奴でどんな暗殺をするのか。同じ殺し屋としてすごく興味がある。

 

 

「さーて、来てっかな転校生?」

 

「ダメだぁ~分かんねぇ。誰だよ、転校生」

 

 そんな様子の零士達は教室に入る。そして後ろに見慣れない黒い箱があった。

 

「おぉ、何かあるぞ…。まさかな………」

 

「おはようございます。今日から転校して来ました。“自立思考固定砲台”と申します。よろしくお願いします」

 

 プツッ…

 

「「「「「そう来たか‼」」」」」

 

 普段はツッコまないはずのメンバーもいる5人だがこの予想外の事態に思わずツッコんでしまう。

 

「き、機械かぁ……。こりゃ俺は知らねぇわ……」

 

 ガララ

 

 そんな時、倉橋が片岡と共に登校して来た。

 

「おはー、零士君、渚君、カルマ君、杉野君、岡ちん! 転校生ってもう…き……て…る?」

 

 ガララ

 

 倉橋が転校生を見た瞬間、“私は何も見ていない”と言わんばかりに扉を再び閉める。

 

「陽菜乃、現実だ! 受け止めろ!」

 

 

 

 

「どんな暗殺するんだろうね」

 

 何とか正気に戻った倉橋は片岡も含めた7人で転校生について話していた。

 

「さぁな。砲台って言うくらいだからなぁ、射撃だとは思うけど…」

 

「分からないよ~。どっかの誰かさんみたいに人質を取って…「もう止めてカルマ君Σ! 零士君が凹むよΣ!」…はいはい。」

 

 案の定また凹む零士。ややメンタルが弱い様だ。

 

「大丈夫だよ零士君。私、気にしてないからね!」

「そうだよ零士君。私達は零士君が優しい事知ってるから」

 

「…ありがとよ、陽菜乃、メグ」

 

 女子2人に慰められる零士。何とも言えない光景だ。

 

「とにかく、実際にどんな事やるかは見てからのお楽しみだね」

 

 

「みんな、知ってると思うが転校生を紹介する。ノルウェーから来た自立思考固定砲台さんだ」

 

「よろしくお願いします」

 

「(烏間先生も大変だなぁ…)」

 

「(俺、あの人だったらツッコミきれずにおかしくなるわ)」

 

「プークスクスクス」

 

「殺せんせーが笑うなよ。2人とも同じイロモノだ」

 

 完全に復活した零士が殺せんせーに言う。

 

「言っておくが“彼女”は思考能力(AI)と顔を持ち、れっきとした生徒として登録されている。あの場所からお前にずっと銃口を向けるが、お前は彼女に反撃出来ない」

 

 “生徒に危害を加える事は許されない”。それが殺せんせーがこの教室にいる為の契約だ。実際に俺もそれを利用して暗殺を仕掛けた。これを利用しない手はないだろう。

 

 ー渚sideー

 

 そして授業が始まった。

 

「でもどーやって攻撃すんだろ?」

 

「何が?」

 

「固定砲台って言ってるけどさ、どこにもないよ、銃なんて」

 

「うーん…多分だけど」

 

 ギラリ

 

 ガシャガシャガキィン

 

「やっぱり!」

 

「かっけぇ!」

 

 杉野が何か言ってるけど今は置いておこう。

 

 それより僕が気になるのは…この射撃、すごく邪魔だ。授業にならない。殺せんせーも避けながら何か言ってるけどさっぱり聞こえない。

 

 そしてようやく発砲が終わった。黒板の周りは沢山のBB弾でいっぱいだった。

 

「授業中の発砲は禁止ですよ」

 

「気をつけます。続けて攻撃に移ります」

 

 後ろから“分かってねぇじゃん”なんて声も聞こえる。全くその通りだ。

 

「弾道再計算。射角修正。自己進化フェイズ5-28-02に移行」

 

 ガ シャッ

 

「………懲りませんねぇ」

 

 殺せんせーの顔は黄と緑のしましまになった。ナメている顔だ。

 

 さっきと同じ様に沢山のBB弾が勢いよく発砲される。殺せんせーも同じ様に避けたり弾いたりしている。

 

 バチュッ

 

 殺せんせーの触手が一本、破壊された。

 

 クラスみんなが破壊された触手とそれを破壊した彼女を見ていた。

 

「右指先破壊。増設した副砲の効果を確認しました。

 次で殺せる確率0.001%未満。次の次で殺せる確率0.003%未満。

 卒業までに殺せる確率90%以上」

 

 淡々の彼女は言う。今の2回の射撃を見ていた僕らには最後の言葉は納得せざるを得なかった。

 ここにきて僕らは初めて気づいた。“彼女”ならひょっとして殺るかもしれない。

 

「よろしくお願いします、殺せんせー。続けて攻撃に移ります」

 

 入力済み(プログラム)の笑顔で微笑みながら転校生は次の進化の準備を始めた。

 

 

 その後も転校生の暗殺は1日中続いた。撃っては増設、その繰り返し。授業が終わると…僕らが片付ける。そしてまた撃って増設。

 

 転校生の自分勝手な暗殺で僕達のイライラは募るばかりだった。

 

 ー渚sideoutー

 

 ー零士sideー

 

「はぁ、何なんだよ今日は。全然授業どころじゃなかったじゃねぇか!」

 

「少し抑えなよ零士君」

 

「でもさぁ、あんな暗殺、昔の自分を思い出して嫌なんだよなぁ」

 

 零士は自分のやった事を反省している。だからこその文句だ。

 

「まぁいいや。じゃあなまた明日」

 

 

 翌日

 

「朝8時半。システムを全面起動。今日の予定、6時間目までに215通りの射撃を実行。引き続き殺せんせーの回避パターンを分析…。⁉」

 

 教室にはガムテープで拘束された自立思考固定砲台がいた。

 

「…殺せんせー、これでは銃を展開出来ません。拘束を解いてください」

 

「…うーん、そう言われましてもねぇ」

 

「この拘束はあなたの仕業ですか?明らかに生徒(わたし)に対する加害であり、それは契約で禁じられているはずですが」

 

「違げーよ。俺だよ」

 

 そこにはガムテープを持った寺坂がいた。

 

「どー考えたって邪魔だろうが。常識ぐらい身につけてから殺しに来いよポンコツ」

 

 寺坂…コイツもこういう事するんだな。流石バカ。その実行力は素晴らしいな。

 

「…ま、分かんないよ。機械には」

 

「授業終わったら解いてあげるから」

 

「まぁ、こうなるよな。でも寺坂がやってなきゃ俺が粗大ゴミに出してやるつもりだったのに…」

 

「いいねぇそれ。明日はそれやろうぜ」

 

「黒羽君、カルマ君それはまずいんじゃ……」

 

 俺の前にいる奥田がやめるよう言う。まぁ無理もないだろうな。

 

「しゃあねぇ。今日は徹夜かな?」

 

 零士がそっと呟いたその言葉に気づいた者はいなかった。

 

 その夜

 

「自立思考固定砲台より開発者へ。想定外のトラブルにより2日目の予定を実行出来ず。至急対策をお願いします」

 

「はぁ、ダメだろ。親を頼るなんて」

 

「! あなたはゼロ…。どうしてですか?殺せんせーが死ぬ事はあなたにとってもメリットであるはずです」

 

「ここではゼロって呼ぶなよ。零士でいい。因みに俺は殺せんせーに死んで欲しいんじゃない。俺の手で、このクラスの手で殺したいんだ。

 テメェはただ弾を撃ち、俺らは授業を受けられず後片付け。そしてお前は1人で殺す。そうすりゃ賞金は俺らではなく親に行く。それじゃぁ誰も味方なんかしねぇよ」

 

 零士は自立思考固定砲台の周りをリフティングをしながら回る。

 

「……そう言われて理解しました、零士さん。あなた達への利害までは考慮してませんでした」

 

 へぇ、やっぱコイツ、頭いいな。

 

「どうする? 俺らと強調してあのタコ、殺してみないか?」

 

「どうすればいいんですか?」

 

「これ使ってみ。アプリケーションと追加メモリだ。知り合いのハッカーが授業中の暇な時作ったらしいけどこれが結構凄いんだぜ」

 

 これは舞が作った物でこの事を相談したらくれた。アイツは国家機密を堂々と防衛省の役人の前でハッキングしてみせているから知っている。

 

「……! これは…!」

 

「な、言った通りだろ。これ使えば暗殺、出来そうな気がしねぇか?」

 

「異論ありません」

 

「どうだ? 強調すれば殺せるって思うだろ。」

 

「でも方法が分かりません」

 

「だと思ったからこれもやるよ。これもそのハッカーが作ったんだ。豊かな表情、明るい会話術、それらを操る為の物だ。ハッカー曰く最高傑作だからどんどん試してくれだそうだ」

 

「これで強調をする事が出来るんですか?」

 

「あぁ。他にも必要なのはあるから…それは別の奴に任せた。殺せんせー、頼むぜ」

 

 呼ばれて出てきたのは殺せんせーだ。

 

「零士君、先生は君がこうやって他の生徒を正しい道に導くようになってくれて嬉しいですよ」

 

「こうなったのも先生に手入れされたからかな?」

 

 顔を少し赤くしながら受け答えをする。

 

「いえいえ、先生は何もしていません。君が変われたのは君の仲間たちのおかげです。ちゃんと感謝してくださいね。

 そして自立思考固定砲台さん、君の才能を伸ばすのは先生の仕事です。みんなとの強調力も身に付けてどんどん才能を伸ばしてください」

 

 先生が改造を始めたのを見て俺はリフティングをやめて鞄を持つ。

 

「んじゃぁ殺せんせー、後は任せたよ。また明日」

 

「はい、また明日。気をつけて帰ってくださいね」

 

 そうして俺は教室を後にした。まさかこの転校生が翌日、とんでもない事になってるとは、この時俺は知る由もなかった。




舞のソフトで殺せんせーの財布に負担が減った。とはいえ殺せんせーの財布が無事なわけがない。というわけで律の話は次回も続きます。

零士「作者テメェ、恨んでやる。」

自業自得だろ。倉橋を人質にとったのは君なんだから。

零士「ゔっ……それは…そうだけど⤵︎」

カルマ「これなら1学期中は大丈夫だね〜。」

おっ、カルマ!

カルマ「どうも〜。作者、こんな感じでやってるけどテストどうだったのw?」

それを言うなそれを!

カルマ「というわけで次回もよろしく〜。感想、お気に入り、零士への呪い待ってるよ〜」

零士「おいコラ!ふざけんな!」


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自律の時間

今回で律が仲間になります。零士はどんな活躍をするのか⁈

零士「さぁね。活躍なんかしねぇかもよ。期待せずに見てくれよ。どうせこんな作者なんだから。」

おいΣ!

零士「では本編スタート!」



「ふあぁぁぁ、眠みぃ…」

 

「おはー。大っきな欠伸だね、零士君」

 

零士が盛大に欠伸をしていると後ろから倉橋が挨拶してくる。零士も当然“おはよう”と返す。

 

「寝れなかったの?」

 

「ん? まぁな…。ちょっとやる事があってな。ふあぁぁぁ」

 

そんな感じで話している内に教室に着いた。

 

「今日もあの転校生いるのかな?」

 

「大丈夫だよ。今日はちょっと違うはずさ」

 

ガラッ

 

「あれ? 何か…体積がデカくなってんぞ…。あれ?俺、こんな予定なかったんだけど………」

 

「本当にデカくなってる…。何があったの?」

 

すると自立思考固定砲台が起動した。

 

「おはようございます! 零士さん、倉橋さん!」

 

………………。

 

「何だよこれΣ!」

 

零士が驚いている間にも倉橋は先にいた渚と杉野に事情を聞く。

 

「渚君、何がどうなったの?」

 

「…僕にもさっぱり……」

 

そんな時、殺せんせーが教室に入って来た。

 

「おい、殺せんせー! 転校生に何したんだよ! 俺ここまでやってねぇぞ!」

 

「はい。零士君が強調に使うソフトの一部を調達してくれたので早く終わりました。あれの他にも色々やってみたんです」

 

零士はもはやツッコむ気力をなくしているようだ。

 

「例えば、親近感を出す為の全身表示液晶と体・制服こモデリングソフト。全て自作で8万円!」

 

「今日は素晴らしい天気ですね! こんな日を皆さんと過ごせて嬉しいです!」

 

「殺せんせー! 俺の渡したやつこんなんじゃなかったぞ!」

 

「少し弄ってみました! せっかくなのであざとくしたんです」

 

「弄るな! そんでもってあざとさはいらねぇよ!」

 

「因みに零士君のソフトを少し弄ったので出費は5万です」

 

金かかるならわざわざそこまでやるなよ……。

 

「(転校生がおかしな方向に進化してきた)」

 

「渚君、戻ってきてΣ!」

「おい渚!」

 

渚はまさかの展開に驚いて何か色々とどこかに行ってしまった……。そしてそれを戻そうと杉野と倉橋が奮闘する。

 

「そして先生の財布の残高…5万5005円!」

 

「あ、わりぃ殺せんせー。そのソフトくれた奴からこれ。請求書と写真」

 

殺せんせーは請求書と写真を見ると顔を青くした。そして零士に諭吉と英世を5枚ずつ渡した。

 

「最終的に……先生の財布の残高…5円!」

 

「ご縁がありますように」

 

「零士君…何かズレてる……」

 

それにしても殺せんせーの顔を青くさせた写真とは何だったのだろう。殺せんせーがマッハで処分した為分からなかった。

 

 

「庭の草木も緑が深くなってますね。春も終わり近づく初夏の香りがします!」

 

因みにムード音楽再生機能で今教室には音楽が流れている。

 

「一晩でえらくキュートになっちゃって…」

 

「これ一応固定砲台…だよな?」

 

すると態度の悪い寺坂が言う

 

「なに騙されてんだよお前ら。全部、人質取るような殺し屋とタコのもんだろ。愛想良くても機械は機械。どーせまた空気読まずに射撃すんだろポンコツ」

 

自立思考固定砲台は寺坂の方を向き直し言った。

 

「……おっしゃる気持ち、分かります。昨日までの私はそうでした。“ポンコツ”、そう言われても返す言葉がありません」

 

流石あざとさを追加しただけの事はある。彼女は寺坂の暴言に泣いてしまった。

 

そしてもう1人暴言によって泣きかけている奴がいた。

 

「……だよな…そうだよな…。俺あんな事したんだもんな………。そう言われても仕方ねぇよな…。どうすりゃ俺は…許してもらえるんだ……?」

 

零士もまた盛大に凹み、やや涙目になっていた。

 

「あーあ、泣かせた」

 

「寺坂君が二次元の女の子と三次元の男の子泣かせちゃった」

 

片岡と原が寺坂を責める。

 

「何か誤解される言い方やめろΣ! ていうか黒羽テメェメンタル弱すぎだろΣ!」

 

「いいじゃないか2D(にじげん)…。Dを1つ失う所から女は始まる。そして男に興味はない」

 

「「「竹林、それお前の初ゼリフだぞ、いいのかΣ⁈ そして零士の扱い雑Σ!」」」

 

零士の心はどんどん傷ついていく。

 

「大丈夫だよ、零士君。私は気にしてないから」

 

「ありがとよ、陽菜乃」

 

そして零士は倉橋に慰めてもらう。僅か2日で定番となったやり取りだ。

 

「でも皆さんご安心を。殺せんせーと零士さんに諭されて…私は強調の大切さを学習しました。私の事を好きになって頂けるよう努力し、皆さんの合意を得られるまで…私単独での暗殺は控える事にします」

 

自立思考固定砲台は(零士が立ち直るよりも早く)泣き止み微笑んで言った。

 

「そういうわけで仲良くしてあげてください。ああ、もちろん先生は彼女に様々な改良を施しましたが彼女の殺意には一切手をつけてはいません」

 

自立思考固定砲台が武器を出しながら笑って反応する。

 

「先生を殺したいなら彼女は心強い戦力になるはずですよ」

 

 

理科の授業で居眠りをしていた菅谷に自立思考固定砲台がサービスという名のカンニングをしたり、自立思考固定砲台はクラスにさらに馴染んできているようだ。

 

そして………昼休み。

 

自立思考固定砲台の周りには人集りが出来ていた。

 

「へぇーっ。こんなのまで体の中で作れるんだ!」

 

「はい。特殊なプラスチックを体内で自在に成型できます。設計図があれば銃以外も何にでも!」

 

「おもしろーい!」

「じゃあさ、えーと…花とか作ってみて」

「分かりました。花の形を学習しておきます」

 

自立思考固定砲台は倉橋や矢田、岡野と話しながら千葉と将棋をしていた。

 

「王手です、千葉君」

 

「…3局目でもう勝てなくなった。なんつー学習能力だ」

 

「ヤバいなそれ。龍之介は別に弱いわけじゃねぇのにな」

 

「ああ、千葉も強いはずなのにな」

 

零士と菅谷がその結果に驚く。

 

因みに零士は千葉とも下の名前で呼び合う仲になっている。休み時間、よく将棋をやったりしているからだ。実を言うと零士も彼女にとっくに負けている。

 

「思いのほか大人気じゃん」

 

「1人で同時に色んな事こなせるし、自在に変形出来るし。」

 

杉野と茅野の会話が聞こえたのか、殺せんせーが焦り始める。

 

「…しまった」

 

「? 何が?」

「どうしたんだよ殺せんせー」

 

渚と零士が同時に聞く

 

「先生とキャラがかぶる」

 

「「かぶってねぇよ / かぶってないよ 1ミリも!」」

 

そして殺せんせーは何も間違えたのか大慌てでクラスのみんなに呼びかける。

 

「皆さん皆さん!

先生だって人の顔ぐらい表示出来ますよ。皮膚の色を変えればこの通り」

 

言葉通り殺せんせーは顔に人の顔を表示する。

 

もちろんみんなの評価は…、

 

「「「「「キモイわΣ!」」」」」

 

そして隅っこで小ちゃくなった。

 

そんな殺せんせーはほっといて片岡が提案する。

 

「あとさ、このコの呼び方決めない?“自立思考固定砲台”っていくらなんでも」

 

片岡の提案でみんなは一斉に考え始める。

 

「だよね」

 

「……そうだなぁ」

 

「何か1文字とって…」

 

「自…律…そうだ。じゃあ“律”で!」

 

不破が思いついたようだ。

 

「安直~」

 

木村が言う。

 

「“律”か…。俺はいいと思うぜ。なぁ、お前はどうだ?」

 

零士は不破のアイデアに賛成し、自立思考固定砲台に尋ねる。

 

「…嬉しいです! では“律”とお呼びください!」

 

少し離れた所では渚とカルマが話していた。

 

「上手くやっていけそうだね」

 

「んーどうだろ。寺坂の言う通り、零士や殺せんせーのプログラム通り動いてるだけでしょ。機械自体に意志があるわけじゃない。あいつがこれからどうするかは開発者が決める事だよ」

 

 

翌日

 

零士達が登校して来ると律は元に戻ってしまっていた。

 

「おはようございます、皆さん」

 

「「「「「(…………元に戻っちゃった)」」」」」

 

「“生徒に危害を加えない”という契約だが…“今後は改良行為も危害とみなす”と言ってきた」

 

そして烏間先生は寺坂からガムテープを取り上げた。

 

「君らもだ。“彼女”を縛って壊れでもしたら賠償を請求するそうだ。開発者(持ち主)の意向だ。従うしかない」

 

その時、零士は対人用のダガーを持って立ち上がって律の前に行った。

 

コンコン

 

そして軽く叩いた。

 

「なぁ、烏間先生。賠償さえ払えるんなら壊してもいいんですよね。こんなポンコツ、ない方がマシだろ」

 

「やめろ。いくらかかると思ってるんだ。防衛省でも庇えなくなるぞ」

 

「金なら他の依頼をこなせば何とかなる。とはいえそれは、“律がポンコツなら”の話ですけど。なぁ律、お前、ポンコツか?」

 

零士はしっかりと律の目を見て聞く。

 

「もう少し遊んでもいいじゃないですか、零士さん」

 

「へぇ、じゃあポンコツではないと? じゃあ証拠は?」

 

「でしたら…これでどうですか?」

 

ジャ キッ

 

律は銃を展開させる部分から沢山の花束を出した。

 

「花を作る約束でした。殺せんせーと零士さんは私のボディーに985点の改良をしました。そのほとんどは……開発者(もちぬし)によって削除・撤去・初期化してしまいました。

 

しかし学習したE組の状況から()()()は“協調能力”が必要不可欠と判断しました。そして消される前に関連ソフトをメモリの隅に隠しました」

 

零士は笑いながら律に尋ねる。もう武器は完全におろしている。

 

「律、要するにお前何したんだ?」

 

「はい。私の意志で産みの親(マスター)に逆らいました」

 

それを聞いてクラス中が笑顔になる。先程までの重い空気はどこかにいった。

 

「零士さん、殺せんせー。こういった行動を“反抗期”と言うのですよね。“律”は悪い子でしょうか?」

 

「さぁね。俺じゃあよく分かんねぇや」

 

代わりに殺せんせーが顔に丸を描きながら答えた。

 

「とんでもない。中学三年生らしくて大いに結構です」

 

「律、ようこそ、3-Eへ。歓迎するぜ」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

こうしてE組の仲間が1人増えた。これからはこの28人で殺せんせーを殺してやる!




というわけで律が仲間に加わりました!

零士「だな。本当に心強い仲間だよ。」

おっ、やけに素直じゃん。

零士「まぁ偶にはな。」

面白くない…。

零士「うっせぇ。」

面白くないんでここら辺で。次回は前原かな?


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湿気の時間

まさか…前原の回を2つに分ける事になるなんて……。それ程重要でもないと思ってたのに…。

前原「どういう意味だΣ!」

おっ、前原。だってさアニメでもやってなかったしさ。

前原「まぁ、そうだけどさ。」

零士「安心しろよ陽斗。そんな事言ってるけどちゃんと2つに分けてやってくれるから。」

早く零士のオリジナル回やりたいなぁ。

零士「陽斗の回なんてやる必要ないだろー!早くオリジナル回やれー!」

前原「おいコラΣ!
あぁ、もういい!とにかく本編スタート!」



 

今は雨の季節である6月。殺せんせーの暗殺期限まで残り9ヶ月

 

「(大きい)」

「(大きいぞ)」

 

「「「「「(何か大きいぞ)」」」」」

 

殺せんせーの頭が何かよく分からないがでかくなっている。

 

「殺せんせー。33%程巨大化した頭部についてご説明を。」

 

律がみんなの疑問をぶつけてくれた。彼女が仲間になると暗殺以外でもとてもありがたい。

 

ていうか33%でかくなってんだ…。

 

「ああ。水分を吸ってふやけました。湿度が高いので。」

 

「生米かよΣ!」

 

零士は思わずツッコむ。零士はこのE組に来て約1ヶ月が経った。いつの間にか渚と並んで“E組ツッコミ二大巨頭”となっていた。

 

「雨粒は全部避けて来たんですが、湿気ばかりはどうにもなりません。」

 

マジでアンタ、どんな体してんだよ。前から思ってはいたけど……。

 

「ま…E組のボロ校舎じゃ仕方ねーな。」

 

雨漏りもしている為、机の間にはバケツを置いている。

 

「はぁ、全教室エアコン完備だったA組が恋しい……。」

 

零士の中にあったちょっとした感情が出てきてしまった。

 

「ふざけんなー!」

「テメェまだ反省してねぇのか!」

「裏切り者!」

「拉致監禁快楽犯~w!」

 

教室が一時、零士へのブーイングで荒れる。そしてカルマはここぞばかりに弄る。

 

「あぁもう!悪かったよ!もうそんな事言わねぇよ!

それとカルマ!俺はそこまでしてねぇよ!」

 

「ごめんごめん。ただ人質をとっただけだよね~。」

 

零士はやはりいつものように凹む。

 

「だ、大丈夫だよ零士君!私は気にしてないよ!私は零士君が本当に優しい事知ってるから。ね!」

 

倉橋がわざわざ奥田の後ろの席まで行って慰める。最早お決まりなので殺せんせーも何も言わない。

 

「そういえば殺せんせー、帽子どうしたの?ちょっと浮いてるけど…。」

 

零士への慰めを終えた倉橋が殺せんせーの小さな変化に気づく。

 

「よくぞ聞いてくれました。先生ついに生えて来たんです。髪が。」

 

「「「「「キノコだよΣ!」」」」」

 

誰がどう見ても髪ではなくキノコだ。そして殺せんせーはそのキノコを食べた。

 

「食べんのかよ。髪を………。」

 

「だよね~。」

 

零士とカルマが後ろで話しているのは気にせず話す。

 

「湿気にも恩恵があるもんですね。暗くならずに明るくジメジメ過ごしましょう。」

 

「明るくジメジメって……。矛盾してるだろ…。」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「零士君、一緒に帰ろ〜!」

 

倉橋が岡野を連れて話しかけて来た。

 

「いいよ、陽菜乃。おっ、珍しいな、ひなたも一緒か。」

 

「うん。雨降ってて自転車使えないからね。」

 

「おう、じゃあ帰ろうぜ。」

 

 

 

 

零士達が帰っていると渚達を見つけた。

 

「渚、先に帰ったんじゃなかったのか?」

 

「あれ見てよ。前原君が他校の女子といるんだ。」

 

「あっそ。あの女たらし…。」

 

岡野が思わず呟く。それを聞いた零士達は苦笑いをせざるを得ない。

 

「一緒にいるのは…C組の土屋果穂とか言ったっけな。あいつもよくやるなぁ。まぁ、陽斗も人の事言えないけどな。」

 

「ほうほう。前原君、駅前で相合い傘…と。」

 

殺せんせーがレインコートを着て何やらメモをしている。

 

あれって…修学旅行の時の“ゴシップメモ”(※零士命名)じゃん。

 

「相変わらず生徒のゴシップに目がねーな、殺せんせー。」

 

杉野が呆れ顔で言う。

 

「ヌルフフフ。これも先生の勤めです。」

 

んなわけねぇだろ、この下世話な汚職教師!

 

「3学期までに生徒全員の恋話をノンフィクション小説で出す予定です。第一章は杉野君の神崎さんへの届かぬ思い。」

 

「…ぬー…出版前に何としても殺さねば。」

 

杉野…ドンマイ。

 

「因みに二章のアイデアはもう出ています。主人公は倉橋さんです。彼女のれ「わあぁぁぁぁぁ!」いきなり大声出さないでくださいよ。」

 

倉橋が大声を出して殺せんせーの言葉を遮る。

 

「陽菜乃、誰か好きな奴いるのか?いいじゃん、青春してるねぇ。何か俺に手伝える事あったら言えよ。出来る限りの事してやるからさ。」

 

しかし零士の言葉にみんなは零士を睨みつける。そしてそれに気づかない零士。

 

「倉橋さん、頑張ってください。」

 

「うん。ありがと、殺せんせー。」

 

倉橋は弄られるのは嫌だが零士が相手では話は別だ。猫の手、いやタコの手いやタコの触手も借りたいという状況だろう。

 

 

 

 

「あれェ?果穂じゃん。何してんだよ。」

 

あの2人に五英傑の瀬尾がやって来た。生徒会の帰りなのだろう。

 

「あっ!せ、瀬尾君!生徒会の居残りじゃ…。」

 

「あー、意外と早く終わってさ。ん?そいつ確か…。」

 

「ち、違うの瀬尾君!そーゆーんじゃなくて…。」

 

その後も言い訳を続ける土屋。

 

「あーそゆ事ね。最近あんま電話しても出なかったのも急にチャリ通学から電車通学に変えたのも。で新カレが忙しいから俺もキープしとこうと?」

 

「果穂、お前…。」

 

瀬尾は土屋に真実を尋ねる。

 

「ち、違うって、そんなんじゃない!そんなんじゃ………。」

 

土屋は一度言い訳モードに入ったが直ぐに攻撃モードへシフトした。

 

「あのね、自分が悪いって分かってるの?努力不足で遠いE組に飛ばされた前原君。それにE組の生徒は椚ヶ丘高校進めないし。遅かれ早かれ私達、接点なくなるじゃん。E組落ちてショックかなと思って、気遣ってハッキリ言わなかったけど、言わずとも気づいて欲しかったなァー。けどE組の頭じゃ分かんないか。」

 

土屋はペラペラと言葉を並べる。そして瀬尾もそれに同意する。

 

もう、黙って聞いてられない。

 

「お前な「お前なぁ、自分の事棚に上げて…よくそんな事言えるよな!」…おい、零士…。」

 

前原の言葉を遮って思わず零士は飛び出した。

 

「あれ?お前、学校サボってE組行きの“堕ちたエリート”黒羽零士君じゃん。同じA組だった者としてとても残念だよ。まだA組に戻ろうという気があると思っていたんだが、まさかE組を庇うなんてな。」

 

瀬尾は零士にも同じ様な事を言う。

 

「俺、そんな風に呼ばれてんのな。まぁいいや。お前ら、そんな事やって恥ずかしいと思わねぇのかよ!」

 

「お前だって昔はE組の事を散々バカにしてきたじゃないか。」

 

「それは…………。」

 

そう言われると零士は何も言い返せない。そして瀬戸は零士を蹴り、零士は前原ごとアスファルトに倒れた。そして近くにいた者は皆、2人を攻撃し始めた。

 

「あっ…零士君!前原君!」

 

「あいつら…。」

 

渚と杉野は思わず走り出そうとする。

 

「やめなさい。」

 

そこに到着したのは黒い車に乗った浅野理事長だった。

 

「ダメだよ。暴力は人の心を…今日の空模様の様に荒ませる。

これで拭きなさい。黒羽君、前原君。酷い事になる前で良かった。危うくこの学校にいられなくなる所だったね、君達が。特に黒羽君、君が手を出すという事が何を意味するかしっかり理解してくれ。」

 

2人に対する心のこもっていない言葉と笑顔。今の2人は誰から見ても弱者だった。

 

そして理事長は瀬尾や土屋達に声をかけ、去って行った。続いてその2人も去って行った。

 

そしてその去り際に土屋は前原にこんな言葉を残して行った。

 

「…嫉妬してつっかかって来るなんて、そんなに心が醜い人とは思わなかった。二度と視線も合わせないでね。」

 

 

 

 

「前原!へーきか?」

「零士君!大丈夫?」

 

杉野と倉橋が声をかけてくる。

 

「お前ら見てたんかい。ていうか零士、お前まで出て来る事なかったろ。」

 

零士は倉橋が渡してきたハンカチを受け取りながら立ち上がる。

 

「…まぁな。……でも…黙って見てられなかった。クラスメートがあんな事なってのにさ。」

 

「ありがとよ。それにしても、上手いよな、あの理事長。事を荒立てず、かといって差別も無くさず、絶妙に生徒を支配してる。」

 

「そんな事よりあの女だろ。とんでもねービッチだな!いやまぁ…ビッチはうちのクラスにもいるんだけど。」

 

杉野の言葉に零士と渚は反論する。

 

「杉野。それは違うぜ。ビッチ先生の場合あれは仕事だ。ビッチする意味も場所も知ってる。」

 

「うん。だけど彼女はそんな高尚なビッチじゃない。」

 

ビッチに高尚も何もないという反論はここでは置いておく。

 

「…いや、ビッチでも別にいーんだよ。」

 

「「いいのΣ⁈」」

 

前原の気にしてないという言葉と態度に零士の渚は驚く。

 

「好きな奴なんて変わるモンだしさ、気持ちが冷めたら振りゃあいい。俺だってそうしている。」

 

「中3でどんだけ達観してんのよ。」

 

岡野がハンカチを渡しながら言う。

 

全くその通りである。

 

「けどよ…さっきの彼女見たろ?

一瞬だけ罪悪感で言い訳モードに入ったけど、その後すぐに攻撃モードに切り替わった。後はもう逆ギレと正当化のオンパレード。醜いとこ恥ずかし気なく撒き散らして。

…なんかさ悲しいし、恐えよ。

ヒトって皆ああなのかな?相手が弱いと見たら…俺もああいう事しちゃうのかな?」

 

みんな何も言えない。今は自分が弱い立場だから分からない。でも自分が逆だった場合を想像しているからだ。

 

「…俺は……多分そうだ。あの土屋と同じだよ。A組だった時はお前らの事平気でバカにしてた。アイツらに言われて痛感したよ。」

 

すると横にいた殺せんせーがバカみたいにでかくなっている。

 

「殺せんせー膨らんでる膨らんでる!」

「国家機密がバレちまうよ!」

 

渚と零士がツッコむ。

 

全く…どういう体してんだよ。

 

「零士君。君がE組をバカにしていた事を気にしているのは分かります。ですが、今の君はもうそんな事をしていない。彼らと同じなんかではありません。」

 

「そうだよ、零士君!私は今の零士君、凄く好きだよ。A組の頃のエリートみたいな零士君よりずっと!」

 

「…殺せんせー、陽菜乃…。ありがと。」

 

そして改めて前原の方を向いて言う。

 

「仕返しです。理不尽な屈辱を受けたのです。力無き者は泣き寝入りをする所ですが…君達には力がある。」

 

「…ははっ、何企んでんだよ殺せんせー。」

 

前原は何をやるのか分かりかけたのか苦笑いだ。

 

そしてみんなの目が怪しく光る。

 

「屈辱には屈辱を。彼女達をとびっきり恥ずかしい目に遭わせましょう。」

 

こうして3-Eの暗殺者(アサシン)達による極秘ミッション(仕返し)が決行される。

 




ええと、はい。前書きで前原をいじりすぎたんで後書きは真面目にいきます。

次回は前原回の2話目、“仕返しの時間”です。

その後、オリジナル回が何話か入ります。


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仕返しの時間


終わったぁ!やっと終わった前原回。

感想でも書いていますがこの回は元A組の零士にとって意味のある回となっています。

まぁ、なくてもいいんですけど。

では本編スタート!



 

 

 

 

「へー果穂。お前、いい店知ってんじゃん。」

 

「コーヒーが美味しいんだよ。

パパの友達が経営してるの。私のとっておきの場所だよ。」

 

「そんな事言ってよぉ、昨日の前原とも来たんじゃねぇの?」

 

「そ、そんな訳ないじゃん!瀬尾君が初めてよ。

ゴメンね昨日は前彼がみっともないとこ見せちゃって。あんなに見苦しい人とは知らなかった。」

 

「あー、E組に落ちる様な奴なんて気にすんなよ。

しかし雨の中のオープンカフェも良いもんだな。ここだけ濡れてないっていう優越感?昨日の()()とは大違いだな!ははははは!」

 

「きゃははは、ひっどーい!」

 

瀬尾と土屋が笑っているとそこにおじいさんとおばあさんが来た。

 

「あんのー…、そこ通っても良いですかいのう。奥の席に座りたいので。」

 

「その足、ほんの少し引っ込めて…。」

 

「はァ?通ろうとすりゃ退きますよ、おじいちゃん。嫌味ったらしく言わなくても。ホラ。」

 

「ど、どうも。」

 

 

 

 

「…すげーな。あれが渚と茅野かよ。」

 

「パーティー用の変装マスクあるだろ。俺がちょいと改造りゃあの通り。」

 

「やっぱり菅谷を呼んで正解だった。それに零士の変装もいい感じだ。しっかり店員に成りきってる。」

 

零士は経緯は色々とアレなので省略するが渚達と同じ様にパーティー用のマスクで店員に変装している。彼にはこのカフェに迷惑がかからないように証拠を隠滅する役割がある。

 

「しかし、この向かいの民家、よく上げてくれたよな。」

 

「あぁ、家主を矢田と倉橋が押さえてる。ビッチ先生直伝のテク。かじっただけにしちゃ大したモンだ。」

 

「ヌルフフフ。首尾は上々の様ですね。では作戦を開始しましょうか。開始の合図は零士君が彼らにコーヒーを運んでからです。」

 

ついに極秘ミッション(仕返し)が開始される。

 

 

 

 

「お待たせしました、コーヒーです。ごゆっくりどうぞ。」

 

店員(零士)が瀬尾と土屋の席にコーヒーを持って来た。そしてそれが開始の合図だ。

 

「お兄さん、お兄さん。この近くのトイレは100m程先のコンビニだけですか?」

 

おばあさん(茅野)店員(零士)に尋ねる。

 

「はい、確かにそこにありますよ。ですがお客様は当店のお客様なんですから当店のトイレをご利用して大丈夫ですよ。案内しますよ。」

 

「ありがとね、お兄さん。」

 

こうしておばあさん(茅野)店員(零士)は店内のトイレに向かう。

 

「やだ、ボケかけ。あーはなりたくないね、私達。」

 

「くっくっ。」

 

「おっ、しまっ…」

 

ガシャッ ガラン ガラ-ン

 

おじいさん()が落とし、2人がそれを見ているうちにE組スナイパーコンビが2人のコーヒーに奥田の作った“ビクトリア・フォール”入れる。

 

「いーかげんにしてよ、さっきから!」

「ガチャガチャうるせーんだよ、ボケ老人!」

 

「すいませんのぅ、連れがトイレから戻ったら出ますので。」

 

「ったく、今日は客層悪いな。」

 

「ごめんねぇ、普段はスマートな客ばかりなのに。」

 

そして2人はコーヒーを飲む。すると奥田特製“ビクトリア・フォール”が猛威を振るう。

 

「な、なんか、お腹痛くなってきた。」

「え…お、俺も。お前、ここのコーヒー大丈夫か?」

 

「バッバカな事言わないでよ。私の行きつけに。」

 

「お、俺トイレ。」

「あ、ズルい、私が先!」

 

しかし、そのトイレにはおばあさん(茅野)が入っている。

 

「ちょっと、店員さん!他にトイレはないの?」

 

「す、すいません!当店にはここだけで…。後は近所に……。」

 

店員(零士)は2人のあまりの勢いに押される。

 

そして店員(零士)の言葉を聞いて2人の脳裏にこの店員(零士)おばあさん(茅野)の会話がよぎる。

 

瀬尾はいち早くその事を思い出し、傘を取って外に出ようとする。

 

「!傘がねぇ!…あーもう!それどころじゃねぇ!」

 

当然、傘がないのは店員(零士)が前もって全て回収しておいたからだ。

 

続いて土屋も走り出す。

 

店員(零士)はそれを見届けてからパーティー用のマスクを取る。

 

コンコン

 

「茅野、終わったぜ。」

 

「ちょっと待ってー。後10で100だからー。」

 

「別にいいだろ、んなモン。まぁいいや。俺は証拠を隠滅して来るよ。」

 

「りょーかい。」

 

 

 

 

「おっ、来た来た。ドンピシャリ。しかも傘もささずにビチョビチョだ。」

 

「零士が傘、ちゃんと隠したみたいだね。」

 

「あいつらプライド高いからな~。そこらの民家でトイレとか傘とかを借りるっていう発想はないんだよ。」

 

「零士みたいなプライドなら良いのにね。」

 

「最近あいつが殺し屋だって事忘れる時あるけどな。」

 

「カルマに思いっきり弄られてるしな。」

 

瀬尾と土屋の走る先の脇の木の上にはレインコートに身を包んだ3人組。

 

「まぁとにかく、その安いプライドを…サクッと殺りますか。」

 

その手にはナイフが握られている。

 

そしてタイミングを見計らって一斉にナイフを枝に向かって振り下ろす。

 

バサバサバサッ

 

勢いよく、切られた枝は瀬尾と土屋に向かって落ちる。

 

「ひっどい、何コレ!ヒャアア、毛虫!」

 

「誰だこんな…ってやっぱこんな事よりトイレだ!」

 

そして2人は何とも無様な姿でコンビニのトイレに向かった。そのコンビニでも醜い争いがあった事はまた、別の話。

 

「はは。状況を把握する余裕もないだろうね。」

 

 

 

 

「ま…少しはスッキリしましたかねぇ。汚れた姿で慌ててトイレに駆け込む。彼らには随分な屈辱でしょう。」

 

殺せんせーは満足気な様子だ。俺らも久々にスカッとした。正直俺もイライラしてたからな。

 

「ありがとな。ここまで話を大きくしてくれて。」

 

「まだ、自分が平気で弱い者をいじめられる人間だと思いますか?前原君、零士君。」

 

先に話したのは零士だ。

 

「俺は……どうなんだろう。両方の立場を知ってるからさ、分かるんだ。俺らにもちゃんと言い分はあるけど、あいつらにも言い分はある。あいつらはいつも何かに追われてて、余裕がない。だから誰かを見下す。実際、俺がどうなるかは……全然分かんねぇや。」

 

そして前原も口を開く。

 

「俺は……今のお前らを見たらそんな事出来ないや。

一見お前ら強そうに見えないけど、皆どこかに頼れる隠し武器を持っている。そこには俺にはない武器も沢山あって…。」

 

「そういう事です。零士君の言う通り、君達だけでなく彼らにも事情はある。前原君の言う様に強い弱いは見た目では分からない。それをE組で暗殺を通して学んだ君は…この先弱者を簡単に蔑む事はないでしょう。」

 

やっぱり殺せんせーはいい事言うなぁ。

 

「ですが、それは前原君の場合です。「はい?」零士君、君の場合は先生、少し心配です。前科もありますし。」

 

ゔっ……耳が痛い。

 

「でも、一先ず君はこれらの事に気づいただけ成長した、という事にしておきましょう。まぁ、△で部分点がもらえたって所でしょうか?ちゃんと卒業までには○がもらえるようになってくださいよ。」

 

「………りょーかい。」

 

零士は大分不満そうだ。

 

「殺せんせー。零士は…弱者を見下さないと思うぜ。」

 

前原がそんな事を言う。

 

「だって…メンタルの弱いコイツが今の仕返しを見た後に同じ事出来るわけないだろ。」

 

それを聞いたみんなは零士を除いて全員笑う。

 

「おいコラΣ!テメェら!俺がメンタル弱いだと⁈」

 

「弱いじゃん、零士君。」

 

倉橋も参戦した。

 

「んだと、陽菜乃!どういう意味だ!」

 

「零士君さ、私の事人質にしたじゃん。私、すっごく怖かったな~。」

 

倉橋がわざとらしく言う。

 

ゔっ………。

 

「本当マジですいません。許してください、許してください。お願いします。」

 

そんな零士を見てまた、みんなは笑う。

 

結局、零士にはもう弱者を蔑むだけの根性はないという判断になった。まぁ、零士は不満そうだが零士以外に異論を唱える者はいなかった。

 

これで全て丸く収まった。

 

 

 

 

はずだった。

 

「あっ、ヤバ!俺これから他校の女子と飯食いに行かねーと。じゃあみんな、ありがとな、また明日!」

 

せっかくのムードが一瞬で白けた。

 

「あいつ、変わってなくね?」

 

「…先が思いやられます。」

 

因みに雨の後、カミナリ(烏間先生)落ちた(怒った)話はまた、別の話だ。





次回は書きたかったオリジナル回。

舞台は日本を飛び出し海外へ!となればどこか分かりますよね。何回かこの小説内でも出ている場所です。

となれば何度も名前だけ出ているあの人も出ます。

次回もお楽しみに。


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護衛の時間

先に言っておきます。タイトル詐欺です。まだ護衛始まりません。作戦会議だけです。

ついに出ました。レッドアイとの会話でも出たり、零士も偶に考えていた彼が出ます。ついでに新たな殺し屋も1人追加です。


では本編スタート!


 

 

 

「着いたぜ、ロンドン!

はぁ、本当にテンション下がる!」

 

俺が何を言ってるのか分からない人が大半だろう。

 

俺はロンドンにいる。

 

え?そこから分からないって?じゃあ話は昨日の放課後、烏間先生に怒られた後から始まる。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「そうだ、零士君。急にロンドンに行く事になったそうだな。個人的にはこちらの暗殺に集中して欲しいんだが。龍牙から君の力がどうしても必要だから、と言われてしまってな」

 

烏間先生が零士にそんな事を言う。しかし零士にはそんな話、身に覚えがない。

 

「烏間先生、俺…何の事だかさっぱり何ですけど……」

 

「そうなのか?てっきり君の方にも話がいっているとばかり思っていた」

 

「はぁ、また龍さんか……。あの人、俺が他の依頼あるの知ってんのに別の仕事も入れてくるんだもんなぁ。

烏間先生、公欠扱いって出来ますか?出席日数ヤバいんで」

 

「…理事長にダメ元で交渉してみよう。期待はしないでくれ。

 

君も大変だな」

 

「烏間先生程ではありません。迷惑かけてすいません」

 

お互い色々と苦労している2人が互いの大変さを改めて理解した瞬間であった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

“Assassin’s cafe”にて

 

「おいコラ、龍さん!どういうつもりだ!何でロンドンに行くんだよ、俺が!」

 

殺気丸出しの零士が勢いよく、例の部屋に入る。

 

「よぉ、レイ。今日も学校お疲れさん」

 

龍牙はなぜか機嫌がいい。この店の殺し屋達曰く、龍牙は何の前触れもなく機嫌がよくなったり悪くなったりするらしい。

 

「お疲れ、零士。コーヒーいる?私も飲むから、ついでに淹れるよ」

 

「ありがと、舞。頼むよ」

 

零士は舞が淹れたコーヒーを一口飲んで落ち着いたのか、先程の龍牙に対する殺気が消えた。

 

「龍さん、今更依頼受けないとかしないからさ、その内容を教えてくれよ」

 

「おっ、分かってんじゃん。じゃあ依頼の説明いくぜ。舞、よろしく!」

 

………コイツ…本当に殺し屋か?父親か?無責任だな。

 

心の底からそう思った零士であった。

 

「はぁ、了解、お父さん。零士には明日の朝一番にロンドンに行ってもらうよ」

 

「…ちょっと待てΣ!何で明日に行くって話を前日の夕方に知らせんだよ!龍さん、テメェ死にてぇのか!」

 

「まぁ落ち着けよレイ。そのコーヒーでも飲め」

 

「ああ、飲むよ!アンタが淹れたわけじゃねぇけどな!

はぁ、もういいや。依頼の話を頼むよ」

 

「分かった。明日、ロンドンに向けて飛んでもらった後、そこで“ブレット”が迎えに来てくれてるから。あっ、因みにこの依頼は最初“ブレット”が受けたもので、1週間前に“ラピス”も追加で行った。零士は2人目の追加だよ」

 

“ブレット”も“ラピス”も龍牙の弟子やら仲間といった奴らだ。“ブレット”は零士と2年間コンビを組んでいる。殺せんせーの依頼が来るまではずっと組んでいた。

 

「ちょっと待てよ。その2人が行ってるのに俺も行くのか?近距離暗殺メインじゃないけどさ、2人がいれば大抵の奴は殺れんじゃねぇの?」

 

「今回の依頼ね、殺しじゃなくて護衛なの」

 

「護衛?」

 

「そう。そしてこの依頼はお父さんの知り合いの護衛。依頼主はお父さんだから、報酬は1ヶ月間のバイト代2倍だってさ」

 

しょぼい報酬だな……。

 

「へぇ、護衛ねぇ。龍さんが護衛して欲しい人なんだろ、仕方ねぇな。殺し屋“ゼロ”、その依頼、承った」

 

何となくそれっぽい事を言ってみた零士。後々、これを龍牙に録音されていて店で大笑いされたのはまた、別の話。

 

「何言ってんだ、レイ。この依頼、どっちかと言うとお前の為だぜ」

 

「は?」

 

「護衛対象はコイツだ。この書類にある程度の個人情報と今までの依頼の状況が載ってる。向こうに着くまでに読んどけ」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「“マーク・コバルト”、45歳。3年前からフリーの仕事師として活動。元“リュミエール家”の使用人兼用心棒か……」

 

零士は龍牙からもらった資料の個人情報のページを見ていた。

 

「確かにこれは…俺の為だな。全く……変な気、使いやがって」

 

その後も資料を必要以上に読み込み、気づけば一睡もせずに零士を乗せた飛行機はロンドンに着いていた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

零士は飛行機を降りた後、すぐに空港を出た。

 

理由は特にないが仕事上、あまり人がいない所の方が落ち着くのだ。

 

「よっ、零士。久しぶりだな。元気そうでよかったよ」

 

目の前に現れたのは茶色の髪をした零士と同じくらいの少年だ。

 

「お前も元気そうだな、優希」

 

彼の名前は白河 優希(しらかわ ゆうき)。コードネームは“ブレット”。同い年の殺し屋だ。

 

「悪いな、わざわざロンドンまで手助けに来てもらってさ」

 

「全くだ。昨日その事を知らされ、日本での依頼を一時中断して来たんだぜ」

 

「依頼の途中だったのか。なおさら悪いな。いいのか?その依頼は」

 

「あぁ。他にも暗殺者はいるからな。俺抜きでもそこそこ何とかなるさ」

 

「へぇ、同業者が他にもいるのか。どんな奴だ?俺も知ってる?」

 

ヤベッ、国家機密だった…。

 

「多分知らねぇと思うよ。というか他人の依頼の詮索はマナー違反だぜ」

 

「まぁ、それもそうだな」

 

零士と優希は話しながら今夜泊まるホテルを目指す。

 

 

 

 

「あっ、来た来た!遅い、2人共!」

 

そこにいたのは毛先を青く染めている少女(それは見た目だけで実年齢は26歳)だった。

 

「これでも朝一番の飛行機で来てんだよ、ルリ」

 

名前は青山 瑠璃(あおやま るり)。コードネームは“ラピス”。

 

「はいはい、分かったわよ。とにかく部屋、早く行きましょ。3人とも同じ部屋でいいよね」

 

「俺らはいいけどルリ姉はいいのかよ」

 

優希がルリに聞く。最もな質問である。

 

「いいのいいの。あんた達に私を襲う覚悟なんてあるの?あるならどうぞ、ご自由に襲ってください」

 

「バーカ。襲ったら返り討ち確定だよ。俺らがルリに敵うわけねぇだろ」

 

ルリはそれを聞いてやや不満そうだ。襲って欲しいのか欲しくないのかどっちなのだろう。

 

「ルリ姉。零士だって流石に疲れてんだ。部屋でゆっくり休ませてやろうぜ。まぁ、依頼の説明もするけどさ」

 

「はいはい。本当に“ブレット”は真面目だねぇ。優希はただの()()()なのにさ」

 

「ルリ姉、否定はしないけどさー、“変態”は酷くない?俺はただ沢山の女の子を同時に愛したいだけなんだけど……」

 

「それを世間は“女たらし”か“変態”と呼ぶんだ。はぁ全く、お前はオン・オフが激しいんだよ」

 

やはり日本とロンドン、場所は違っても零士の立ち位置は変わらないらしい。彼のツッコミのスキルはここから来ているのだろう。

 

そんな感じでくだらない会話をしながら3人は部屋に着き、中に入る。

 

「ふぅ~、疲れたぁ。荷物はあんまりないけど、やっぱり飛行機は疲れるわ」

 

「零士ー、ルリ姉ー!コーヒー淹れるけど飲むか?」

 

「「飲む!」」

 

優希が慣れた手つきでコーヒーを淹れていく。

 

「やっぱ優希のコーヒーは美味しいね。本当、何でも出来るわね、アンタ」

 

「本当だよな。狙撃にトラップ、潜入に尾行、コーヒー、そして…」

 

零士は一度言葉を切る。そしてルリと共に“せーの”という感じで息を合わせて言う。

 

「「女装!」」

 

ゴンッ

 

「やりたくてやってる訳じゃねぇんだよ!」

 

因みに優希はウィッグをつけると女にしか見えない。長さや色を変えるだけで様々な年齢の女性に変装出来る。本人は嫌なみたいだが。

 

「何言ってんだよ。今回の作戦を見る限り、また女装するんだろ」

 

「そうよ、優希。この作戦、アンタが女装する事前提じゃない」

 

「…うっせぇ。コレが一番成功確率が高いんだよ」

 

正直、本当は女装したいんじゃ、と思ってしまう。

 

「まぁ、それは置いといて、最終確認といこうぜ」

 

零士が仕切り直す。まぁ、事の発端はコイツなのだが。

 

「はいよ。まず明日以降の夜、俺が女装をしてマークさんと一緒にいる。」

 

「私とレイで2人を尾行してる奴を見つける」

 

「見つけたら優希が俺とルリがいるビルの下まで誘き寄せて、優希はマークさんと共にワイヤーでビルの屋上へ移動。俺はその尾行してた殺し屋を拘束」

 

「その後は私の役目。その殺し屋からマークさん、及び今まで殺された元“リュミエール家”関係者を狙った奴らを突き止める」

 

淡々と3人は作戦を確認していく。流石は今まで共に依頼をこなしてきた事はある。息がピッタリで無駄がない。

 

「よし、じゃあ作戦開始は明日の夜から。今日はそれに備えて寝よう!」

 

「何言ってんの、レイ。本番はこれからでしょ!」

 

「そうそう、明日の朝まで飲み明かそうぜ!」

 

ルリはビール瓶、優希はワインのボトルを持って笑っている。

 

「やめてくれ~!」

 

結局、零士は何だかんだ言って一番飲んだという。

 




1つ言っておきます。飲酒の描写がありますが殺し屋だからそういう事してもおかしくないんじゃないかと思って書きました。ルリは成人してるので大丈夫ですが。零士と優希は未成年です。零士はあまり飲みませんがかなり飲めます。例えばどこかの海賊剣士ぐらい。優希は結構飲みます。ですが零士ほど酒に強くありません。

後々詳しい情報は載せますが一応下に優希(ブレット)とルリ(ラピス)の簡単な紹介を載せます。


白河 優希(しらかわ ゆうき)
年齢:14歳
コードネーム:ブレット
武器:銃(ハンドガンからライフルまで)
特徴
・零士(ゼロ)とは2年前からコンビを組んでいて、その実力の高さから「このコンビと戦うと生きて帰れない」とさえ言われた
・零士が近距離暗殺及び戦闘に特化しているのに対し優希は遠距離暗殺に特化している。しかし二代目死神並の数のスキルを習得している為、スナイパーというよりオールラウンダー
容姿:キリト(SAO)を茶髪にした感じ。中身は似ても似つかないものが多い
イメージcv:小野 賢章


青山 瑠璃(あおやま るり)
年齢:26歳
コードネーム:ラピス
武器:ハンドガン(2丁拳銃)
特徴
・童顔なのがコンプレックスだが実年齢より若く見られる事が多いのでギリギリセーフ。おばさんと言われるとキレる
・自他共に認めるテキトー人間
・実は零士に“縮地術”を教えたのは彼女
容姿:篠崎 里香(SAO)の毛先を青く染めた感じ
イメージcv:喜多村 英梨


こんな感じです。容姿がどちらもSAO…。まぁ好きなので。

次回もオリジナル。どれぐらいで終わるかな〜


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護衛の時間 二時間目


前半のテンションのまま後半に入った所為で駄文になった…。まぁこの回より次回の方が重要だしまぁいいか。

零士「よくねぇよ!ちゃんとやれ!」

すいません

零士「というわけで許してやってください。
では本編スタート!」



 

 

 

 

ピロンッ

 

枕元に置いてあるスマホが鳴った。時間は現地時間で午前7時45分。表示を見ると倉橋からLI○Eが来ていた

 

「…あぁー、頭痛い。昨日、飲み過ぎたぁ」

 

昨日の夜、優希とルリに酒を飲まされた。日本との時差の違いがあるので中々眠れず、調子に乗って飲んでいた。その結果がこの二日酔いである

 

 

倉橋:「おは~。で合ってるよね零士君」

 

零士:「おう、合ってるよ。そっちは今休み時間か?」

 

倉橋:「うん。零士君がいなくてみんな寂しがってるよ。特に渚君とカルマ君が」

 

零士:「渚は…ツッコミが1人だもんな。カルマは……弄る相手がいないからか………」

 

倉橋:「も、もちろん、私もさみしいよ!」

 

零士:「ありがとよ」

 

そのとき、後ろから手が伸びて来て零士のスマホを掻っ攫って行った

 

「えっ、ちょっ!優希!テメェ!」

 

「へぇ、倉橋陽菜乃ちゃんかぁ。もしかしてお前の彼女?マジかぁー!マジでいいなぁ!」

 

「か、関係ないだろ!ていうか彼女じゃねぇし!」

 

「えっ………マジで?間違って“愛してるよ”って送っちゃったんだけど…」

 

何とかして零士は優希からスマホを取り返す。そこにはこう送られていた

 

零士:「陽菜乃、愛してるよ♡」

 

倉橋:「いきなり……どうしたの?」

 

陽菜乃の事だから多分向こうでは顔を真っ赤にしているだろう。

 

倉橋:「私も愛してるよ~♡」

 

!何があったんだよ…

 

倉橋:「ごめん!莉桜ちゃんに送られちゃって…。でも零士君の事嫌いなわけじゃないよ!」

 

中村の奴……。何かゴメン陽菜乃。俺のせいで向こうで弄られてんだろうなぁ

 

零士:「俺の方こそゴメン。あれ送ったの俺の相棒なんだよ。もちろん、俺もお前の事が嫌いなわけじゃねぇから」

 

倉橋:「そうだったんだ。びっくりしたぁ。あっ、そろそろ授業始まるからまた後で。じゃあ依頼、頑張ってね!」

 

零士:「おう」

 

零士の顔に熱が集まる

 

「ふざけんな!本当に送ってるし!」

 

「おぅ。マジで送ったよ。いいじゃん、付き合っちゃえよ。だって向こうと時間は違うけどさ、いわゆる“おはようメール”みてぇなもんだろ、それ」

 

優希は謝る事を一切せずあっけらかんとしている

 

「そんなんじゃねぇよ。そもそも、もう、二度と恋愛なんてするつもりねぇし」

 

「恋愛はいいよ。マジで楽しいし、女の子もみんなマジでカワイイんだぜ」

 

確かにメアリと一緒にいた頃は楽しかったよ……。でも…もう……あんな思いはしたくない

 

「俺はいいんだよ。遺体が恋人!それでいいの」

 

「それ、結構ヤバい奴だぞ、お前……」

 

「ガチでドン引きすんな!冗談だよ!」

 

するとあの女がその大声で目を覚ます

 

「うっせぇんだよ、クソガキ共!私が寝てるときは静かにしろ!」

 

ルリは寝起き、とても機嫌が悪い

 

零士と優希はこのままだとルリが実弾銃を抜きそうだったので騒ぐのをやめた

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

その日の夜

 

零士は依頼人と今日この場で顔を合わせる事になっている。とはいえ彼は以前会った事はあるのだが

 

「お久しぶりです、マークさん。お元気そうで何よりです」

 

「いえいえ、あなたこそ元気そうですね。それにしても、あの日、あなただけでも無事でよかった」

 

「……そんな事、ないですよ。俺が生き残るより、アイツが生き残った方がいいに決まってます。アイツは…“殺し屋を自分の代で終わらせる”なんていう理想をもってたんですから。俺にはとても出来ません」

 

零士はすごく辛そうな表情をしている

 

「あなたはお嬢様が選んだ方なのですから、そんな事ありませんよ」

 

「……ありがとうございます」

 

しばらくすると優希が女装をして戻って来た

 

「マークさん、今日もよろしくお願いします」

 

「それにしてもマークさんと優希かぁ。どう考えても20歳以上の年の差カップルだわ」

 

「いえいえ、私は昔から女癖が悪いもんで……以前、10歳の娘なんてのもありましたよ」

 

なぜが誇らしげに言うマークさん。そういうのを世間では“ロリコン”と言う。まぁ、マークさんは10歳のガキから90歳のばーさんまでとストライクゾーンが広すぎるのだが…

 

「じゃあマークさん。囮になってしまいますが、今日もよろしくお願いします」

 

そんな感じで護衛兼囮のスタートだ。

 

マークさんと(女装した)優希のデート(?)が始まった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

しかし、作戦は中々進まず、今日で3日目

 

「はぁ、いい加減出て来いよ殺し屋」

 

「ゼロ、出て来ない事に越した事はないのよ」

 

そう言うラピスも武器を持ちながら大分ソワソワしている

 

そのとき、インカムを通じてブレットから連絡が入った

 

{お忙しい中すいません。ブレットです}

 

因みに、基本面倒くさがりのゼロとラピスはインカムを常に繋げっぱなしだった。つまり先程の会話も聞こえていたわけで…

 

「えっと…ブレットさん?なんか不機嫌ですね」

 

「そ、そうだよ!もっとテンション上げてこうよ、ブレット」

 

{ゼロ、ラピス姉。……誰のせいだと思ってんだ!}

 

「「すいませんでした!」」

 

そんなやり取りをしていると時刻はもう2時

 

「はぁ、本当に来ねぇな」

 

{……来たぜ。2人いる。ゼロ、ラピス姉。作戦を始めるぜ}

 

「「了解!」」

 

作戦通りブレットはマークさんとデート(?)が始めた

 

 

 

 

{ゼロ、そろそろ頼むぜ!}

 

「りょーかい!」

 

零士はビルの外で殺し屋達を迎え撃つ

 

そしてブレットがワイヤーでビルの上に上がる

 

零士はそれを見てフードを被り直す。零士が殺し屋“ゼロ”になるときのスイッチが入った

 

「よぉ、お二人さん。どちらに行く予定ですか?」

 

1人は大男。もう1人はデブ

 

「ほう、我々は待ち伏せされていたというわけか…」

 

「お前みたいなガキに何が出来る」

 

「殺し屋“ゼロ”って知らない?結構有名なつもりだったんだけど」

 

なぜかゼロになるとやたらと強気になる零士。彼が普段はカルマに弄られる奴とは思えない雰囲気だ

 

「知ってるさ。お前も我が組織のターゲットだからな」

 

大男が答える

 

!俺もターゲットだと?

 

「どういう意味だ?」

 

「お前は3年前、生き残った“リュミエール家”の関係者だからな」

 

デブが答える

 

そしてそれを聞いたとき、零士の中で何かが切れた

 

「というわけだ、ゼロ、お前にも死んで「黙れよ」…っ!」

 

大男は零士の殺気に怯む

 

「もういい、黙れ。テメェらは殺すなって言われてる。だから………()()()()()()()()()()()()!」

 





優希「どうも、初めまして。白河 優希、またの名を“ブレット”です!」

ルリ「どうも〜、青山 瑠璃でーす。コードネームはラピスでーす」

というわけで前回から初登場した殺し屋のお二人に来てもらいました

優希「いきなりだけどさ、作者ってさマジで文才ねぇよな。特に今回酷くね?」

ルリ「確かに〜、なんか手抜き〜」

ゔっ……それは…

優希「まぁ、いっか。()()()()()()()()()()()()

………はい

ルリ「てなわけでこれからも見守ってやってください!」


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護衛の時間 三時間目


オリジナル編はこの回で終了です。

元々この「護衛の時間」はなくても良かったんですが色々これからに向けて伏線を入れているつもりです。(表現出来ていない気もしますが)色々考えて見てくださるとうれしいです。

では本編スタート!



 

 

 

 

「………死なない程度で殺してやる!」

 

そう言い放った零士の目は獲物を狙う獣の様だった。しかしその目も殺気も以前とは違っていた。その目も殺気も言葉とは裏腹に、とにかく純粋で真っ直ぐなものだった

 

「…くっ……何て鋭い殺気だ…。対峙しているだけで……これほどとは…」

 

「こんなに威圧感があるなんて聞いてねぇぞ!」

 

既にこの2人は戦意を失っている。もう、零士に勝つ事など出来るはずがない

 

「さぁて、烏間先生にも見せた事のない、俺の100%で殺ってやるよ!」

 

零士はしゃがんで靴のロックを解除し、仕込みナイフが出るようにした。左手にダガー、右手にナイフを持った。ここまではいつもと変わらない

 

「……さぁ、殺られる覚悟は出来たか?」

 

零士の2つの目が黒眼から赤眼に変わる

 

「……目の色が……変わった…」

 

「ヒッヒイィィィ!」

 

「ハアァァ!」

 

その掛け声と共に零士は普段とは比べ物にならない程のスピードで2人の後ろをとり、急所を外して斬りつける

 

「ふぅ、久々にやったけど…何とかなるもんだな。くっ……頭が…」

 

ヤベェ、頭痛が酷い…。最近使ってなかったからか?もう少しやった方がよかったかな?

 

{ゼロ!避けろ!}

 

次の瞬間、零士の左肩を弾丸が貫通した

 

それだけではない。その後も二発の弾丸が放たれた。その二発は零士の横にいる気絶した2人の心臓を貫通した

 

「……っ!……一体…どこから、誰が?」

 

{ゼロ、また来るぞ!}

 

「チッ!…危ねぇ!」

 

次は間一髪、避けた

 

「ああ、くそッ!ブレット、頼めるか?」

 

{任せとけ。ラピス姉、ゼロの援護を!}

 

「了解!」

 

 

 

 

ー優希sideー

 

「ふぅ、そうは言ったものの位置が悪過ぎるな」

 

俺がいるのはゼロとの距離が約20mのビル。スナイパーがいるのはゼロとの距離が約30m。俺とスナイパーの距離は合計約50m

 

「スコープは使わない方がいいな」

 

優希はスコープから目を離し、スナイパーがいると思われるビルをじっと見る

 

「ビルの高さは俺の方が低い。視界も悪く、風も強い。スコープを覗いてもよく見えない。頼れるのは俺の2種類の眼だけだ」

 

まずは…奴のいる位置を“把握”する

 

「………………見えた!」

 

次は……実際にこの目で位置を確認

 

「………オーケー。こっも大丈夫だ」

 

狙うのは足、または肩。殺さないように急所は外す。そして逃げられない程度のダメージ。ベストなのはスコープ貫通からの肩にヒット

 

「………今だ!」

 

優希の持つライフルから一発の弾丸が放たれる。そしてその弾丸は放物線を描く様に進む。弾丸は風に煽られる事なく綺麗にスコープを貫通し、肩にヒットした

 

{ナイス!}

 

「……いや、悪い。逃げられた。まさか直ぐに撤退するとは思わなかった。足を狙ってればよかった」

 

{いや、今のでよかったじゃねえか。俺は助かった}

 

「まぁ、それで良しとするか」

 

ー優希sideoutー

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

ー零士sideー

 

「この度は本当にありがとうございました。おかげで助かりました」

 

「いえ、取り逃してしまいました。それに、また狙って来るかもしれません」

 

正直、あのスナイパーなら殺られてしまうかもしれない

 

「安心しなよ。しばらくはこの私が個別で護衛するからさ。このまま“dragon party”ロンドン支部まで送ってくよ」

 

“dragon party”とは龍さんをリーダーとする大型殺し屋集団の事だ。正しくは支部はおろか本部もない。龍さんを慕う殺し屋達が勝手に名乗っているだけだ

 

「それはありがたい。そうだゼロ君。1つお願いが…」

 

「何でしょうか?」

 

「あなたも知っているはずですが“リュミエール家”の長女の事です。彼女を探してくれませんか?あの日、彼女もロンドンに来ていたはずなんです。その後行方は分からなくて……」

 

「分かりました。見つけたらその時は」

 

こうしてラピスはマークさんを連れて、支部に向かった

 

「さて、俺もそろそろ荷物を纏めようかな?」

 

「優希、お前日本に戻るんだろ」

「いやぁ、実はさもう一個仕事あんだよね。今度はフランス。臓器売買の組織のボスの首さ」

 

「なぁ、まだ時間あるか?」

 

「ああ。お前ほどじゃねぇけどな」

 

「寄りたい所があるんだ。着いて来てくれるか?」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

零士がやって来たのは墓だった

 

「ここってまさか…」

 

「ああ。“リュミエール家”の墓で………メアリが眠る場所だ」

 

3年前、このロンドンでも大きな権力を持っていた“リュミエール家”が崩壊した。現当主にその妻、三女と長男は自宅で殺された。そして零士の最愛の人“メアリ・リュミエール”も少し離れた場所で銃で撃たれ、殺された

 

「零士、俺さ、花でも買って来るよ」

 

「ありがとよ」

 

そして零士は再び墓の方に向き直した

 

「メアリ、久しぶりだな。こうやって墓に来たのは初めてだよな」

 

『ホントだよ。私結構寂しかったんだよ』

 

別にそんな声が聞こえているわけではない。ただ、そういう風に言っている気がするだけだ

 

「あの日…本当にゴメンな」

 

『もういいよ。私、言ったじゃん。あなたの幸せは私の幸せ。あなたが生きてる事が私にとって最高の幸せなの』

 

昔から変わってない、彼女の口癖

 

「変わんないな、メアリは」

 

『レイ君は変わったね。何か、柔らかくなった。信用し合える人、見つかったんだね』

 

…凄いな、何で分かるんだよ

 

「お前に、隠し事は出来ないな。あぁ、出来たよ。最高の仲間がさ。お前にも会わせてやりてぇよ」

 

『もしかして…その仲間の中に好きな人とか出来たんじゃないの?』

 

「んなわけねぇじゃん。俺は…ただの殺し屋じゃない。殺し屋である前に、殺人鬼だ。誰も愛せないし、誰にも愛されてはいけない。どの道、俺はもう普通に恋愛は出来ねぇの」

 

その決意に後悔はない。3年前、その決意を破り、起こった悲劇は繰り返したくない

 

『……そっか。まぁ、レイ君の人生だもん。好きな様にすればいいよ』

 

「ありがとよ、メアリ」

 

零士は一度そこで会話を切った

 

「零士、ほらよ」

 

戻って来た優希が花を零士に投げた

 

「投げんなよ、バカ」

 

「いいだろ別に。

ここがメアリちゃんが寝てる所か。メアリちゃん、可愛いんだろうなぁ」

 

「人の彼女を変な目で見るなよ」

 

「はいはい」

 

「じゃあ、帰るか。メアリ、今度は日本にある墓で会おうぜ」

 

『うん、絶対に来てよ』

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

零士がロンドンを発つ日

 

「じゃあな、優希」

 

「おう、じゃあな。そういえば、零士、お前変わったな」

 

優希がいきなり変な事を言い出す

 

「そうか?」

 

「ああ。今まで俺の事“ブレット”としか呼ばなかっただろ。それに今まで俺を頼るなんてなかったし」

 

「そうかな?まぁ、いいじゃん。」

 

「それもそうか」

 

そして2人は握手をした

 

「頑張れよ優希。またその内、コンビ組んで殺ろうぜ」

 

「おう、マジで殺ろうな。お前と組んでるとマジで楽しんだ。見てて飽きねぇんだよ」

 

「んだよ。人を動物みたいに…」

 

口ではそう言っているが顔は笑っている

 

「まぁ、頑張れ」

 

「おう、じゃあな」

 

そうして零士は日本に戻って行った

 





ヤバい……こんな主人公が倉橋と付き合えるのか?無理だろ。まぁ、彼は今までも変わって来たのだから変わってくれると信じよう

そしてしばらくオリジナル回はやりたくない。疲れる。そして駄文率が圧倒的に高くなる…

次回はビッチ先生の師匠登場!日本に戻った途端に災難に巻き込まれる零士。


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LRの時間


投稿遅れててすいません。高校の移動教室や夏期講習で遅くなりました。出来る限り更新ペースを維持出来るよう頑張ります

というわけでロヴロさん登場。作者の中では結構好きなキャラです←正直どうでもいい……

では本編スタート!



 

 

 

 

「ふあぁぁぁぁっ、眠みぃ………」

 

零士が盛大にあくびをする。そして今は授業中。もちろんあのタコが黙っていない

 

「コラ、零士君!授業中にあくびをしない!」

 

「すいませーん。ふあぁぁぁぁぁぁっ。でもさ殺せんせー、少し考えてみてよ。授業中に寝る生徒を容認する教師ってさ巨乳の女子大生にモテると思わない?」

 

反省の様子は全く見られない

 

「にゅやッ。そ、そうなんですか?じゃ、じゃあ仕方ないですねぇ」

 

何て大人だろう。こんな嘘に騙されている

 

「「「「「そんなわけないだろ / でしょ!」」」」」

 

「にゃやッ!騙しましたね、零士君!」

 

「ふあぁぁぁぁっ。騙される方が悪いんだよ、バーカ」

 

だが、殺せんせーがあまり強く注意しないのにも訳がある。なぜなら零士はほんの数時間前まで空港にいた。飛行機に乗ってロンドンから帰って来たばかりなのだ

 

「零士君、そんなに眠いなら学校は今日休んでも良かったんですよ。君は仕事で疲れてるんですから」

 

「………でもさー殺せんせー。俺の出席日数がヤバいの知ってんだろ。今回ロンドンにいってる間、理事長が公欠にしてくんなかったんだよ」

 

出席しても寝てるのでは意味がない、というツッコミは無駄なのはE組の中で共通の認識となっている

 

「はぁ、仕方ないですね。放課後や休みの日に補習も兼ねてやりますよ」

 

「ありがとよ、殺せんせー。おやすみ」

 

「だから寝ないでくださいΣ!」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「わかるでしょ?サマンサとキャリーのエロトークの中に難しい単語は1つも無いわ」

 

今はビッチ先生の英語の時間。ついさっきまでR指定があるであろう海外ドラマを見ていたらしい

 

らしいと言うのには訳がある

 

「零士!アンタが大変なのは分かるけど起きなさい!じゃないと公開ディープキスの刑よ」

 

………寝ていたのだ

 

その言葉を聞くと零士はとんでもないスピードで飛び起きる

 

「は、はい!すいません!起きます!なのでやめてください!」

 

「…そこまで言われるとしたくなるんだけど……。まぁいいわ、続けるわよ。

 

日常会話なんてどこの国でもそんなもんよ。周りに1人ぐらいいるでしょ?“マジすげぇ”とか“マジやべぇ”だけで会話を成立させる奴」

 

いるなぁ、そんな奴。基本チャラい感じのテンションでボケやツッコミをそつなくこなす“オールラウンドスナイパー野郎”

 

零士の脳裏にはそんな感じであの相棒が浮かんでいる

 

「その“マジで”に当たるのがご存知“really(リアリー)”。木村、言ってみなさい」

 

指名された木村が答える

 

「…リ、リアリー」

 

「はいダメー。LとRがゴチャゴチャよ」

 

手でバツを作って注意する

 

「はい、次。じゃあそこで寝ている零士。言ってみなさい」

 

「……へ?」

 

「へ…?じゃないわよ。言ってみなさい」

 

「えっと………」

 

ヤベェ。何を言えばいいんだ?隣のカルマは教えてくれそうになく、ニヤニヤしている

 

「You are really a bitch.Therefore I hate you.(アンタはマジでビッチ。だから俺はアンタが大キライだ。)」

 

零士はその場で英文を考えて話す。意味は………ただの悪口である

 

当然ビッチ先生には伝わるわけなので軽く怒る

 

「何なのよアンタはΣ!話聞いてなさ過ぎよ!今回はreallyが偶々入ってるから良しとするけど」

 

零士は内心ホッとしていた。なぜなら適当に英文を言ったのだ。公開ディープキスの刑は免れないと思っていた

 

「いい?LとRの発音の区別はつくようにしときなさい。外人としては通じはするけど違和感あるわ。言語同士で相性の悪い発音は必ずあるの。逆に零士は英文のチョイスは頂けないけど発音はよかったわ」

 

思いがけず褒められてガラでもなく照れる。そして零士は横のカルマにそれを弄られている

 

そんな様子を見ても気にする事なく続ける

 

「相性が悪いものは逃げずに克服する!この先、発音は常にチェックしてるから。LとRを間違えたら…公開ディープキスの刑よ」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「零士君、帰ろー」

 

「悪い、陽菜乃。俺、この後殺せんせーの補習なんだ。今日は帰れねぇや」

 

倉橋はそれを聞いて残念そうな顔をする

 

「そっか……。その内、何か埋め合わせ、してね」

 

「はいよ。じゃあな」

 

倉橋との会話を終えた零士は殺せんせーが待つであろう職員室に向かう

 

 

 

 

「あーもう!自分で言っといていないってどういう事だよ!あのタコ、また美味いもん食いに行ってんな。今度弱み握って奢らせてやる!」

 

ややイライラ気味の零士の前にはワイヤーに吊られているビッチ先生だ

 

「…何やってんの、ビッチ先生。ついにマゾにでも目覚めたのかよ」

 

「…そ…なこ…いって、ないで……けなさいよ」

 

上手い具合にワイヤーが喉に当たっているのか上手く声が出ないビッチ先生

 

「はぁ、いいよ。公開ディープキスの刑、一回免除な」

 

そう言いながら愛用のダガーで素早くワイヤーを切る

 

「‘驚いたよイリーナ。教室をやっているお前を見て’」

 

零士には分からない言語のため、何を言っているのか分からない

 

「‘子供相手に楽しく授業。生徒達と親しげな帰りの挨拶。そして商売敵であるはずの別の殺し屋に助けを求める。堕ちたなイリーナ。まるでコントを見てるようだった’」

 

何を言ってるか分かんねぇけど、コイツ…ビッチ先生をバカにしてんのか

 

「おい、あんた、何者だよ。俺らの先生に何の用だ?」

 

零士はダガーを構えながら威嚇する

 

「‘ほう、中学生にも関わらず中々の殺気だ。ウチの教え子に欲しいな’」

 

「だぁかぁらぁ、何語だよって言ってんだろ」

 

「零士君、何をしている?そのダガーも下ろせ。それとワイヤートラップか…。女に仕掛けるものじゃないだろ」

 

零士の殺気がすぅっと消えていく。烏間先生が来た途端に場が一時的に静かになる。とはいえ事態は一向に変わらない

 

「‘…心配ない。ワイヤーに対する防御くらいは教えてある’」

 

「何者だ?せめて英語だと助かるんだが」

 

「…これは失礼。日本語で大丈夫だ。別に怪しい者ではない」

 

日本語喋れんなら喋れよ。それにいきなりワイヤートラップを仕掛ける奴のどこが怪しくないんだよ

 

「イリーナ・イェラビッチをこの国の政府に斡旋した者…と言えばお分りだろうか?」

 

ビッチ先生の師匠って事か…。って事は……殺し屋!それもかなりのベテランで手練れか…

 

「ところで“殺せんせー”はどこに?」

 

「上海まで杏仁豆腐を食いに行った。30分前に出たからもうじき戻るだろう」

 

あのタコ…補習やるって言っておいて何してやがる!

 

「フ…聞いてた通りの怪物のようだ。来てよかった。答えが出たよ。今日限りで撤収しろ、イリーナ。この仕事はお前じゃ無理だ」

 

「随分簡単に決めるな。彼女はあんたが推薦したんだろう」

 

「現場を見たら状況が大きく変わっていた。もはやコイツはこの仕事に適任ではない。潜入暗殺ならコイツの才能は比類ない。だが、一度素性が割れてしまえば一山いくらのレベルの殺し屋だ。挙句見苦しく居座って教師の真似ごとか。こんな事をさせるためにお前を教えたわけじゃないぞ」

 

「…そんな!必ず殺れます、師匠(せんせい)!私の力なら…」

 

ビッチ先生は必死にここに残りたいとアピールする

 

「ほう、ならば」

 

すると素早くビッチ先生の後ろに回り込み首に親指を沈ませる

 

「こういう動きがお前に出来るか?相性の良し悪しは誰にでもある。さっきお前は発音について教えていたが、教室こそがお前にとって…LとRじゃないのかね」

 

「半分正しく、半分は違いますねぇ」

 

「何しに来たウルトラクイズ」

「待たせ過ぎだ、この汚職教師」

 

烏間先生と零士がほぼ同時に言う

 

「零士君!待たせたのと汚職は関係ないですよ!烏間先生もいい加減“殺せんせー”と読んでください」

 

そして殺せんせーは顔をしましまにして言う

 

「確かに彼女は暗殺者としては恐るるに足りません、クソです」

 

「誰がクソだΣ!」

 

素晴らしいツッコミだ。ビッチ先生も零士と同じくこの教室に来てからツッコミのスキルが圧倒的に上がった人だろう

 

「ですが、彼女という暗殺者こそこの教室に適任です。殺し比べてみれば分かりますよ。彼女とあなた、どちらが優れた暗殺者か」

 

「どうやるんだよ、殺せんせー」

 

「ルールは簡単です。イリーナ先生とロヴロ氏のうち零士君を先に殺した方が勝ち!」

 

今まで赤の他人だった零士はその一言でいきなり当事者に変わってしまった

 

「ちょっと待て!何で俺なんだよ。俺、関係ねぇだろ!」

 

「その通りだ。零士君が巻き込まれるのは間違っている。それなら俺がターゲットになる」

 

「それでは2人共、烏間先生に当てられませんから。もちろん私がターゲットでも同じ事です。それに零士君。君はロヴロ氏にビッチ先生をバカにされて黙っていられないはずです」

 

「……はぁ、分かったよ。殺るからには本気でやるぜ」

 

零士の目はもう時差ボケで居眠りを繰り返す“黒羽零士”のものではなかった。圧倒的な近接戦闘のスキルで多くの人の命を奪ってきた殺し屋“ゼロ”の目だ

 

「では2人共、いいですね。イリーナ先生が勝ったら…教室で暗殺を続ける許可をください。使用するのは対先生ナイフ。期間は明日1日!互いの妨害は禁止です。もちろん、生徒の授業の邪魔も失格です」

 

「…なるほど。要するに模擬暗殺か。いいだろう、余興としては面白そうだ」

 

こうしてビッチ先生vsロヴロによる模擬暗殺が幕を開けた

 





あの英文あってるのかなぁ。間違ってたら指摘してください。作者は英語苦手なので……

では次回は模擬暗殺です。結末はどうなるのか、楽しみにしていてください


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師弟対決の時間

遅くなってすいませんでした!本当は0時に投稿するはずが寝落ちして完成出来ず、この時間になってしまいました

零士「はぁ、相変わらずだなぁ」

そんなこと言わないでくれ……

零士「さて、ローテンションの作者はほっといてどんどん行こうか
では本編スタート!」



 

 

校庭にはいつも通り、勢いよくナイフを振る音とその掛け声が響き渡る。しかし、今日の雰囲気はどこかいつもと違う

 

「零士君、あれ…」

 

「ん?ああ、分かってるよ」

 

倉橋が心配そうな様子で零士に尋ねる

 

「「「「「(狙ってる。狙ってるぞ。何か狙ってるぞ)」」」」」

 

明らかに危ない人たちである

 

「本当にすまないな、零士君。俺がもう少し強く言っていれば…」

 

「いいんですよ烏間先生。俺も少しはイライラしてたんで」

 

「「「「「(黒羽 / 零士も苦労が絶えないなぁ)」」」」」

 

「今日の体育はここまで、解散!」

 

「「「「「ありがとーございました~!」」」」」

 

「ふぅ、終わったぁ」

 

「なぁ、零士。どうなんだよ、ターゲットになった気持ちは」

 

岡島がニヤニヤしながら聞いてくる。他にも何人も気になっているようだ

 

「別に……」

 

そこへ小走りで近づいて来る女が1人

 

「零士~。お疲れ~。ノド渇いたでしょ。ハイ、冷たい飲み物!」

 

「「「「「…………」」」」」

 

当然の反応である

 

「ホラ、グッといって、グッと!美味しいわよ~」

 

「「「「「(何か入ってる。絶対何か入ってるな)」」」」」

 

あんなのをる受け取るやつは誰もいない、みながそう思っていた

 

「……おっ、センキュービッチ先生。丁度欲しかったんだよ!」

 

「「「「「(受け取ったΣ?!)」」」」」

 

もらった飲み物を零士が飲もうと…………しない

 

そして岡島の方に近づいていく

 

「なぁ岡島、お前今日の訓練、すげぇがんばってたよな」

 

「え?そうか?いやぁ~照れる…ブフォッ!」

 

バタン

 

「「「「「岡島(君)Σ!」」」」」

 

零士は岡島の口にその飲み物を突っ込んだ

 

「どうだ、岡島?美味いか?そうかぁ、美味いかぁ。じゃあ残りも全部やるよ」

 

零士ほカルマ並の笑顔で岡島の口に水筒の中身を流し込んでいく

 

「はぁ。なぁ、ビッチ先生。そんなんで俺を騙せるとでも思ったのかよ…。俺も………ナメられたものだな」

 

今の零士は“黒羽零士”ではなく“ゼロ”だ。真剣過ぎる

 

「次は、もう少しマシなのを頼むぜ」

 

零士はそう言って教室に戻った

 

「……ビッチ先生…」

「流石にそれは俺らでも騙されねぇよ」

 

「仕方ないでしょ!顔見知り、しかも零士みたいな鈍感に色仕掛けとかどうやったって不自然になるわ!」

 

近くで聞いていた倉橋が大きく首を縦にふる。倉橋もかなり苦労しているのだろう

 

「キャバ嬢だって客が偶然父親だったらぎこちなくなるでしょ!それと一緒よ!」

 

「「「「「知らねーよΣ!」」」」」

 

こればかりは倉橋も同意を示せない

 

 

 

 

「どうです?偶には殺される側もいいでしょう」

 

殺せんせーが零士に尋ねる

 

「んーそうだなー。でも確かに新鮮だよ。面白い経験だよ」

 

「そうです、もし零士君が当てられなかったら、先生、君の前で1秒間動きません。これ位あった方が君もモチベーションが上がるでしょう」

 

「はははっ、いいねぇそれ!殺せんせー、死ぬかもしれないぜ」

 

「ヌルフフフフ、どうでしょうねぇ」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

休み時間

 

「ふあぁぁぁぁっ、眠い…」

 

「あ!また零士君寝てる!」

 

「いいだろ、眠いんだから」

 

「ダメだよ!今日は零士君、ターゲットなんだよ。しっかりしないと」

 

零士はダルそうに少し頭を上げる

 

この2人のやり取りも割とお決まりとなりつつある

 

「何かさ、零士君って猫みたいだね」

 

「は?何で?」

 

「だって獲物を狙うときとかすごいじゃん。だけど他は全然怖くなくて。寝ててってまさにそんな感じじゃん」

 

「うっせぇ。ほっとけ」

 

要するに“スイッチが入らないとダメダメだ”というのを猫に例えて言っているのである

 

すると教室の窓がいきなり開き、外からロヴロが入って来た

 

…隙を突かれた…

 

零士は急いでイスを引く。しかしここでさらに細工がしてあった。なんとイスにストッパーがつけられていたのだ。当然イスが倒れそうになってしまった

 

「ヤバっ!」

 

「油断してたな!その一瞬が命取りだ!」

 

絶体絶命。そんな事、零士が思うはずがなかった

 

零士は素早くイスの背もたれを起点にしてジャンプし、空中で回し蹴りをした。そしてロヴロの持つナイフを床に叩きつける

 

「…なっ………」

 

「これがもし本当の暗殺だったら……ロヴロさん、アンタ()()()()()

 

零士から発せられた殺気にロヴロだけでなくクラス中が反応する

 

「……君は…一体…」

 

「俺か?俺は黒羽零士。業界では“ゼロ”と名乗ってる」

 

「!…お前が…“ゼロ”なのか……。フッ、それでは俺に殺せるはずがないな」

 

ロヴロの暗殺は失敗に終わった

 

「すごい、零士君!」

 

「別に。あんなの余裕だし」

 

そこへカルマが茶々をいれる

 

「そうなんだ~。“ヤバっ!”って言ってたのにね、()()()()()

 

「んだと?つーか、んだよその呼び方!」

 

「えー、だって倉橋さんが言ってたじゃん。零士は猫みたいだって。そんで黒いから黒猫」

 

「………あっそ」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

ービッチ先生sideー

 

師匠(せんせい)!」

 

「…フッ、まさかアイツが“ゼロ”だったとはな。実力を見誤り、怪我までするとは…。やはり、歳はとりたくないもんだ」

 

ロヴロの手は零士に蹴られ、怪我をしている

 

ロヴロはこの暗殺対決から手を引くようだ

 

「…そんな諦めないでロヴロさん!まだまだチャンスはありますよ!零士君は所詮はガキです!不器用ですし余裕です!」

 

なぜか殺せんせーはロヴロを応援する

 

「例えば殺せんせー。こんなに密着していても俺ではお前を殺せない。それは経験から分かる。まぁ、あの小僧は己の強さを上手く隠していたがな。だが、これで分かった。イリーナ、お前もあの小僧は殺せない」

 

師匠(せんせい)の言う通りよ。零士と私の実力の差は歴然。生まれたばかりの赤ちゃんがあのタコを殺すのと同じくらい、私が零士を殺せる確率はない。一体…どうすれば……

 

「…そうですか。あなたが諦めたのは分かりました。ですがあれこれ予想する前に…イリーナ先生を最後まで見てください。経験があろうがなかろうが殺せた者こそが優れた殺し屋なのです。それが例え、まだ14歳のガキだったとしても」

 

「フン…好きにするがいい」

 

そう一言言って、ロヴロは部屋を出た

 

「…アンタは本気で思ってるわけ?」

 

「もちろんです。あなたが彼から何を教わったかは知りません。しかし、教室(ここ)で何を頑張って来たかはよく知っています」

 

私は少しそれを聞いて嬉しくなった。このタコ…私の事、意外と見てるのね

 

「例えば昨日通販で発注した下着。頑張ってますねぇ」

 

ピンクの顔で言ってくる

 

「あーーーーッ、このエロダコ!」

 

「あなたの力を見せてあげてください。プライドの高い、彼を殺してみてください」

 

ビッチ先生は“…フン!”と言いながらナイフを受け取り、零士のいる外に出た

 

ービッチ先生sideoutー

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

ー倉橋sideー

 

「ねぇ、渚君。零士君ってどこ行ったか分かる?」

 

「あそこだよ。木の下でリフティングしてる。なんか“時差ボケはしても体はボケちゃいけない”って言って外に行った。僕たちに言わせれば、既にチートっぽいけどね」

 

「だよね」

 

私と渚君はしばらく零士君のリフティングを見ていた

 

「渚君、倉橋さん、見てみ、あそこ」

 

そこへカルマ君がやって来た。零士君の方を指差しながら言う

 

「零士君がリフティングしてるだけでしょ」

 

「その零士に近づいて行く女が1人。殺る気だぜ、ビッチ先生」

 

ー倉橋sideoutー

 

ー零士sideー

 

「ちょっといいかしら、零士」

 

「へぇ、正面から来たんだ。どんな方法で殺るのかな?」

 

零士はリフティングをやめ、ボールを地面に置き、その上に座る

 

「ねーえ、いいでしょ零士?私はどうしても教室(ここ)に残りたいの、わかるでしょ?ちょっと当たってくれればいい話よ」

 

結局……色仕掛けかよ…。ちょっと失望したな、ビッチ先生

 

「へぇ、どんな方法かと思ったら色仕掛けかよ。効かないって分かんないのかなぁ」

 

「本当はドキドキしてるんじゃないの?見返りはイイコト。あなたが経験した事のないような極上のサービスよ」

 

「…いいぜ。殺ってみろよ。当てられるもんならな」

 

「じゃ…そっち行くわね」

 

ビッチ先生は脱いだ上着をその場に置き、木の後ろにまわる

 

次の瞬間、零士は足を引っ張られボールの上から落ちた

 

しまった!ワイヤートラップか!

 

ボールは零士の足に当たり、どこかに飛んでいく

 

そして零士はビッチ先生に上を取られた

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ。(もらった!)」

 

 

 

 

「うおぉ!零士の上を取った!」

「ビッチ先生スゴイ!」

「零士ザマァ!」

 

教室でも色々な声が聞こえる

 

 

 

 

ビッチ先生は勢いよく零士に向かってナイフを振り下ろす

 

そしてそのナイフは零士に当たる

 

 

 

 

……はずだった

 

「……えっ…」

 

ビッチ先生の腕にボールが当たった。全く予想のしてなかった横から飛んで来たものだった。ナイフはそのままビッチ先生から遠いところに飛んで行く

 

「…そんな。ダメ…だった………」

 

「いや、俺の負けだよビッチ先生」

 

零士は突然の出来事に呆然としているビッチ先生の下から抜け出した。そしてビッチ先生のナイフを取って返す

 

「さっきのボールは本当に偶然だ。あんなボール1つに助けられるなんてな…」

 

「でも!この対決は私の全力だった!それがダメだったんだから……」

 

「ビッチ先生は…俺を殺すためにここに来たのかよ」

 

「!」

 

「ビッチ先生は殺せんせーを殺すために来たんだろ。だからビッチ先生が殺すのは俺じゃない」

 

零士はそう言いながらビッチ先生にナイフを握らせ、自分の心臓の上まで導く。そしてナイフが当たった

 

 

 

 

「当たった!」

「すげぇ!」

「ビッチ先生、残留決定だ!」

 

教室はビッチ先生の残留決定により、歓喜に包まれる

 

 

 

 

そこへロヴロがやって来る

 

師匠(先生)…」

 

「出来の悪い弟子だ。先生でもやってた方がまだマシだ。必ず殺れよ、イリーナ」

 

「…!もちろんです、師匠(せんせい)!」

 

その後、ロヴロは零士の方を向き直した

 

「“ゼロ”、俺の元に来ないか?お前のその技術、俺が更に伸ばしてやろう」

 

ロヴロは零士を勧誘する

 

「…お断りします。俺のスキルはたった1つだけです。不器用なんで他のスキルは中々使えないんですよ。それに、俺にはもう、師匠がいますから。クソみてぇな人ですけど」

 

その誘いを零士はキッパリと断る

 

「…フッ、そうか。“ファング”の奴、立派にやってるのか」

 

「会うなら場所教えますよ」

 

「いや、いい。この仕事をしていればその内会えるだろう。

じゃあな、“ゼロ”。君に会えてよかった」

 

「待ってください!ロヴロさん、生意気言ってすいませんでした!」

 

「…別にいいさ」

 

「それと、俺の事は“ゼロ”じゃなくて、零士って呼んでください」

 

「分かった。それじゃあな、零士」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「零士君!帰ろ〜!」

 

「おう、じゃあ行こうぜ」

 

今日は補習のない零士は倉橋と下校する

 

「零士!どうしてあの時、当てさせたの?」

 

「だから、偶然だって言ってんだろ」

 

ビッチ先生が後ろから来る

 

「アンタの事だから狙ってたんじゃないの?」

 

「買い被り過ぎたよ、ビッチ先生。でも、理由が欲しいなら作ってやるよ。俺はアンタの事が大ッ嫌いだ。卑猥で高慢で痴女だからさ」

 

いきなりの悪口。ここまではいつも通りだ

 

「………でも…真っ直ぐで純粋なアンタの事は…心から尊敬してる。アンタ程の“挑戦と克服のエキスパート”は俺は見た事ない。俺はビッチ先生のことは大嫌いだけど………結構嫌いじゃない」

 

最後の方は声が少し小さい。やや恥ずかしいのだろう

 

「……零士…」

 

ビッチ先生は思わず感動しかける

 

「まっ、所詮はビッチだけどな」

 

この一言で全て台無しだ…

 

「キーっ、やっぱりアンタの事嫌いよ!」

 

「おぉ、俺ら気が合うな。俺も嫌いだ」

 

そう言って零士と倉橋は帰る

 

「ねぇ、零士君。本当にあのボール、わざとじゃないの?」

 

「さぁね?()()って事にしといてくれよ。あのビッチでもこの教室にはいて欲しいだろ」

 

まぁ、どうせ勝っても殺せんせーが殺らせてくれるわけないしな。それだったらあのビッチを残らせた方がクラスのためになる

 

余談だが、その後烏間先生が職員室で甲冑を見つけたらしい

 

「うん!」

 

零士も何だかんだ言って、この暗殺教室にハマってしまっているらしい

 

「なぁ、陽菜乃。俺さ、明日の土曜に補習終わらせるからさ、日曜、どっか出掛けねぇか?」

 

「えっ……?いいの?!」

 

「何で嘘つくんだよ。それにこのクラスに最初来た時も、“その内行こう”って言ったろ」

 

零士は正体を隠していたとはいえあの日のことを覚えていた

 

「じゃあ…動物園行こうよ!最近私も行ってないんだ~」

 

「よく分かんねぇからさ、オススメんトコで頼むよ」

 

「うん!じゃあ、今日中に連絡するね」

 

「おう」

 

こうして零士と倉橋の動物園デート(?〕が決まった

 




いかがでしたか?原作とは少し違った感じを通っての原作通り。少し無理矢理過ぎですよね

まぁ、今回の反省は心の中でしつつ、感想で何か言われたらその都度答えます

次回は作者自身これが処女作なので初のデート回!……はい。特に何もありません。自身はほぼゼロですので期待せずに待っていてください。それにデート回じゃなくて《デート(?)回》ですから

では、また次回


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動物園の時間

約3/4はデート回。残りは急展開です

やや暗い雰囲気も出しつつ、でも楽しそうに。零士と倉橋の程よい距離感で書ければと思います

では本編スタート!



 

 

日曜日

 

俺は椚ヶ丘駅で陽菜乃の到着を待っていた

 

「遅いなぁ。何かに巻き込まれてないといいんだけど……」

 

すると駅に向かって走って来る人がいた

 

「ごめん、遅くなっちゃって。もしかして…待った?」

 

息を切らしながら走って来た倉橋は今、零士の足元でしゃがんでいる。相当疲れるほど走ったのだろう

 

「ああ…待った」

 

零士は倉橋から目をそらしながら短く答えた。それもそのはず、しゃがんでいる倉橋は気づいていない内に上目遣いになっているのだ

 

とはいえ零士の回答は倉橋の問いに対しては普通はありえないものだった

 

「ちょっ……普通そういう事言う?零士君、こういうの知らないの?“待った?”って聞かれたら“俺も今来たばかりだよ”じゃないの?」

 

「知るかよ、んなモン。じゃあイマキタバカリダヨー。これでいいか?」

 

「心がこもってないよー!

もういいよ、それが零士君だもんね。じゃあ早く行こ、動物園!」

 

倉橋は零士にはどんなに粘っても無駄だと察し、動物園に向かう事に決めた

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

動物園

 

「へぇ、ここが動物園か…。人も沢山いるなぁ」

 

「来た事ないの?」

 

「まぁな。俺は昔っから殺し屋ばっかりだから。家族とも……どこにも行った記憶はねぇし」

 

零士は少し悲しそうな顔をする

 

「何かごめんね。よしっ!じゃあ今日は私が零士君に動物園の楽しさを教えてあげるよ!」

 

「ああ。頼む」

 

 

最初に行ったのはパンダの所だ

 

「これがパンダだよ、零士君!」

 

「見りゃ分かるよ。パンダぐらい知ってるし」

 

「もう、冷め過ぎ。もっと楽しもうよ!」

 

ハイテンションの倉橋とローテンションの零士。2人のテンションの差はとても大きい

 

「へぇ、パンダってのは寝てんだな」

 

「零士君がそれを言うの?」

 

「ははは…」

 

 

続いてはライオンだ

 

「わぁ!大っきい!見て見て零士君!ライオンだよ!」

 

「おぉ、デカイな。わっ!近っ」

 

零士は倉橋に手を引かれ、前に出る

 

するとライオンがも一歩、また一歩と下がる

 

「零士君……威嚇しちゃだめだよ…」

 

「……俺やってねぇんだけど…」

 

「…ライオンはやっぱりそういう殺気とかに敏感なのかなぁ」

 

「俺ってそんなに怖いかよ…」

 

「零士君はプライドが高くて不器用で冷たい猫なだけだよ」

 

「猫じゃねぇよΣ!」

 

猫ネタはどこまで引っ張るのか。少なくとももうしばらくは言われそうだ

 

 

「零士君、その……あの…」

 

倉橋は零士の方に左手を近づけたり遠ざけたりしている

 

「ん、どうした?トイレか?」

 

「……違うよ!女の子にそれは失礼だよ!」

 

「おぉ、悪い悪い」

 

零士の言葉に少し怒った倉橋は少し歩くのを速める

 

「ちょっ…おい、陽菜乃。待てって。その先、人がすごいぞ」

 

 

ー倉橋sideー

 

本当に零士君は何なの!今日の朝から私の事、全然分かってなくて!

 

「おい、陽菜乃!」

 

私は無視しながら人混みを進んで行く

 

「きゃっ!」

 

しかしそう上手く歩き続けられる事もなく、倉橋は零士とはぐれてしまう

 

「どうしよう………零士くーん!零士くーん!どこー!」

 

大分遠くまで来てしまったのか、零士からの答えはない

 

「……零士君からあんなに離れなければよかった……。まだ…全然楽しめてないのに」

 

倉橋はこの日をすごく楽しみにしていた。零士は気づいていないが、倉橋は零士のことが好きだからだ

 

やっぱり零士君は…私なんてどうでもいいのかな?“好き”なんて勝手に思ってるのは私だけで…零士君は“友達”とすら思ってないのかな?

 

そんなことを考えていると段々悲しくなってきた。目の辺りが熱くなり、雫が頬をつたる

 

「おい、陽菜乃。何してんだよ」

 

「!れ…い…じくん?」

 

「…泣いてんのかよ……情けねぇな」

 

零士君は普段と変わらない口調で話してくる。聞いていて一々イライラするけど、今の私にとって何よりも聞きたい声だ

 

「ゔゔっ、零士くーん!寂しかったよー!」

 

普通はここで“大丈夫か”とか“心配かけてゴメンな”とか言うべきだろう。だがそれを言わないのが零士だ

 

「痛っ!いきなり何するのぉ!」

 

「デコピン」

 

「そうじゃなくて!」

 

「はぁ…。お前さぁ、何で携帯出ないわけ?何の為の携帯なんだよ。ネットやる為か?それともただのアクセサリーか?」

 

私はカバンに入れていた携帯を取り出す。着信履歴がはぐれていた間に5件以上零士君の名前があった

 

零士君とはぐれてパニックになってて携帯の存在を忘れてた。恥ずかしい……

 

「えへへ、忘れてた」

 

よく見てみると零士の顔は少しほっとしている様な感じだ

 

そっか……零士君、心配してくれてたんだ

 

「えっと……ごめんね」

 

「はぁ、今度は気をつけろよ」

 

「はーい」

 

「おい、どこ行くんだよ」

 

私が先に行こうとすると零士君が呼び止める

 

「どこって…次の動物」

 

「ほらっ、またはぐれたら大変だろ」

 

零士君は私の方を見ずに右手を差し出す

 

「嫌かもしれねぇけど我慢しろよ…////」

 

「う、うん……////」

 

私はそっと……彼の手を握った

 

ー倉橋sideoutー

 

ー零士sideー

 

それからも俺と陽菜乃は色んな動物を見て回った

 

キリンやカバ、トラなど有名なものも多くいた。まぁ、もちろん俺の知らない様なマイナーなやつもいたが

 

そして今は…

 

グ-ッ

 

「腹減ったぁ」

 

「フフっ。零士君、お腹空いたの?」

 

「…悪いかよ」

 

「別に~。じゃあさ、そろそろお昼にする?」

 

「いいな、それ。どっか売店とかあったっけ?」

 

「えっと………零士君。ちょっとコッチ来て」

 

零士が倉橋に連れて来られたのはイスとテーブル、パラソルがある広場だ

 

「こんな所に売店とかあんのか?」

 

「そうじゃなくて……」

 

倉橋はカバンから何かを出す

 

「…お弁当、作って来たんだけど…食べない?」

 

…オベントウ、ツクッテキタンダケド…タベナイ?えっと…それって…

 

「どういう事?」

 

「もう!お弁当を作って来たの!零士君と食べようと思って!」

 

「それって…手作りって事?」

 

倉橋は顔を赤らめながら小さく頷く。そして弁当をそっと開ける

 

「…嫌、かな?」

 

「嫌じゃねぇよ。これ…陽菜乃が作ったんだろ。こちらこそ食べていいのかよ」

 

「う、うん。お母さんにも手伝ってはもらったけど…」

 

「いやいや、それでも嬉しいよ!いただきます!」

 

“この卵焼き美味い!”とか“この味付け、俺の好みなんだよ”とか言いながら食事はスムーズに進む

 

「陽菜乃って料理出来んだな」

 

「酷いよー、その言い方。私ってそんなに出来なそう?」

 

「んーまぁ、イメージあんまり出来ねぇかも。でも出来るって言われりゃそんな気もするか」

 

とにかく今日の零士は失礼極まりない

 

「あー、美味かった!ごちそうさま!」

 

「えへへ、よかった。作った甲斐があったよ」

 

「それにしても幸せ者だよなー。お前に好かれてる奴は」

 

「!な、何で?って私別に好きな人なんて…(零士君の事は好きだけど…本人の前じゃ言えないよ~)」

 

「殺せんせーが何か言ってなかったか?まぁ、いるなら手伝うよ。俺に出来ることなら何でもやるからさ」

 

倉橋の恋心を分かっていないからこそのセリフである。今これを読んでいるあなたは零士に対してイライラしている事だろう

 

「…そういう零士君は誰か好きな人いないの?それともまだメアリちゃんのことが好き?」

 

「…好きだよ。でも……アイツがまだ生きてたとしても…もう一度付き合うなんて事はしないよ」

 

「どうして?好きなら付き合いたくないの?」

 

「……俺のせいで好きな奴が不幸になるなら……俺はキッパリ諦める。元々俺はこんな眩しい世界にいる資格はないからさ」

 

またもや暗い雰囲気になる

 

その時、倉橋は零士の手を取り、訴えかける

 

「そんな事ないよ!零士君は私達と何の違いもない!殺し屋だって…今からやめれば何とかなるよ!」

 

……そんなに簡単なものじゃねぇんだよ。事の大きさを理解もしてねぇのにんな事言うんじゃねぇよ

 

零士はそんな事を言う事は出来なかった

 

「…ありがと、陽菜乃。よしっ、残り時間はまだたっぷりある。もっと楽しもうぜ!」

 

「うん!」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「あーっ、今日は楽しかったねー」

 

「だな。まぁ、普段凶暴なイメージの肉食動物に近づくと怯えられたのは正直ショックだけどな」

 

「フフッ、零士君、やっぱり殺気出し過ぎなんだよ。もっと力抜いてリラックスしなよ」

 

零士はそれには何も言わず、倉橋にただ笑って見せる。そして倉橋も笑い返す

 

…カワイイな、笑うと。って何言ってんだよ、俺は…

 

「帰るか」

 

「うん!」

 

ー零士sideoutー

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

ー烏間sideー

 

「浅野理事長、彼が明日から急遽E組での暗殺任務に参加してもらう事になっています」

 

烏間が隣にいる茶髪の少年を紹介する

 

「烏間さん、ただでさえE組への転校生が多いんです。これ以上増やすようでしたら別の方法を考えなければ。まぁ、お金の方は振り込んで頂いていているので文句は言いませんが」

 

隣の少年は烏間に対し、申し訳なさそうな顔をする

 

「すいません、烏間さん。師匠が無理矢理交渉したみたいで…」

 

「いや、君が謝る必要はない。君の実力も彼から聞いている。必ず戦力になると思っている」

 

彼はどこか零士君に似ている。見た目も似ていない。使う武器も違う。だが似ている。彼の雰囲気や佇まい、殺し屋とそうでない時のギャップ、そういった所がとてもよく似ている

 

「君に1つ聞いてもいいかい?」

 

浅野理事長が少年に尋ねる

 

「いいですよ。俺の答えられる範囲なら」

 

「この六面体の色を揃えたい。素早く沢山、しかも誰にでも出来るやり方で。君ならどうしますか?」

 

浅野理事長はルービックキューブを少年の前に置く

 

「ルービックキューブですか……。俺はこれには全部で3つのやり方があると思います」

 

「ほう…3つもですか。では、1つずつやって見せてください」

 

「まずは……純粋に本来のやり方で揃える」

 

少年は素早くルービックキューブを揃えてみせる。こんな早技、俺にも出来ない

 

「中々器用だね。じゃあ2つ目は?」

 

「分解して並べ直す」

 

鞄から取り出したナイフでルービックキューブをバラバラにし、並び直してみせる少年

 

「私もそのやり方には賛成だ。実に合理的でね」

 

「最後は…もっと簡単です。

 

 

 

 

塗りつぶす。同じ色でこの全ての面を一色にします。どうせどんなやり方をしようと結果は同じ。なら全て一緒にした方が合理的かと」

 

!驚いた。浅野理事長と同じ事を考えるだけでなくそれ以外の方法まで考えてしまった…

 

「確かに…実に合理的なやり方だ。君の編入試験の結果も悪くない。本当なら我が校のA組に来てもらいたいぐらいだ」

 

「すいません。俺は…殺し屋なんで。表舞台には立てないんですよ」

 

「そうか。じゃあ頑張りなさい」

 

ここで会話は終わり俺と少年は部屋を出る

 

「では俺からも一言。明日から、よろしく頼む」

 

「はい。よろしくお願いします。烏間先生」

 

そして少年は最後にこう呟いた

 

「……俺が殺ってやるよ殺せんせー。

そして……

 

 

 

 

会えるのを楽しみに待ってるぜ“ゼロ”!」

 




イトナが来る前に新たな転校生出現!正体は一体誰なのか?どうやら“ゼロ”の事をよく知ってる様子だが……

という感じで次回も続けてオリジナル回。やっぱりオリジナル回は難しい

デート回もとても難しい。そしてとても大変だ……


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転校生の時間 二時間目


今回は新たにオリキャラを投入です

とはいえ思いっきりギャグ回。面白いかは別としてオリキャラのキャラが描けていればと思います

それと関係ないですが、評価に色がつきました!投票してくれた方ありがとうございます!感想や評価、これからも待ってます!

では本編スタート!



 

 

 

 

零士は朝食のトーストを食べ、コーヒーを口に運びながらニュースを見ている

 

{それでは次のニュースです。現地時間で夜8時、フランスで臓器売買の組織のボスと思われる女性が心不全で亡くなっているのが見つかりました。死体は死後3日程経過していますが目立った外傷がない事から現地警察は病死の線で捜査を進めています}

 

その後も何か言っていたが俺は耳を傾けなかった。俺にはこれが殺し屋による殺人である事もその手口も誰が殺したのかも分かったからだ

 

「……流石“ブレット”。仕事が早いな。まだ1ヶ月経ってねぇぞ」

 

零士はテレビを消し、鞄を持って家を出た

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「おは~、零士君。遅かったね」

 

「ん?ああ。ちょっと気になるニュースがあってな」

 

そこへ殺せんせーが自慢の触手を動かしながら教室に入って来る。烏間先生も一緒だ

 

「みなさん、おはようございます。今日はみなさんに新たな仲間が加わります」

 

「急な話ですまない。防衛省でも急遽決まった事でな。本来なら後1人の予定だったんだがもう1人追加する事になった」

 

このセリフから今日来るやつともう1人いる事が分かった

 

「烏間先生、その転校生は…その…やっぱり……」

 

学級委員の片岡が聞く

 

「ああ、そうだ。現役の殺し屋で君たちと同い年だ」

 

!よくもまぁ、そんなに見つけられるなぁ

 

「その転校生はどこですか?」

 

「すまない。彼は少し遅れていてな。コイツの暗殺をいきなり仕掛ける様で、その準備をしている」

 

「ヌルフフフフ、面白いですねぇ。予告暗殺ですか。まぁ、どんな殺し屋であろうと零士君や律さんの様に手入れしてやりますがね」

 

その時、とある2人がイラッとし、同時に何も言えなかったのは言うまでもない

 

「ねぇ、零士。その殺し屋ってもしかして俺らの中の誰かを人質にとるかなぁ?」

 

ニヤニヤしながら言うカルマ

 

「許してつかあさい、許してつかあさい」

 

零士はただそれだけを呟き続ける

 

苦笑いとニヤニヤして笑みを浮かべる奴がよく分かれている。誰かはみなさんお分かりだろう

 

「!メグ!体を後ろに反らせ!」

 

さっきまでの様子とは一転して零士が声を荒げる。何の前触れもなく、だ

 

片岡が言われた通りにした次の瞬間、窓から一直線に何かが飛んで来た。それは殺せんせーへと真っ直ぐ向かって行き、触手を一本破壊する

 

「「「「「!狙撃?」」」」」

 

零士が弾丸が飛んで来た窓の方へ急ぐ

 

窓は割れてない。予め窓の一部に穴が空いていたのか。こんな端じゃあ気づかなくてもおかしくない

 

零士は勢いよく窓を開け、叫ぶ

 

「誰だ!」

 

すると窓枠の上に何かが飛んで来た

 

「!これは……ワイヤー?」

 

さらにそのワイヤーを伝って何かが飛んで来る

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」

 

なんとか大魔王のセリフを言いながら少年が窓から飛び込んで来た

 

「呼んでねぇよΣ!」

 

いきなり窓から入って来たヘッドホンをつけた少年。しかもその少年は零士と見事な掛け合いをする

 

「まぁいいじゃん細かい事はさ。もっと歓迎してくれよ~“ゼロ”。せっかくお前の相棒が海を超えて来てやったんだぜ」

 

「うっせぇ“ブレット”。これは俺の依頼だ。龍さんもそう言ってただろ」

 

「ああ、言ってた。でも今日からは俺も()()()()()()

 

「はァァァァ?んだよそれ!」

 

「「「「「ちょっと待てΣ!」」」」」

 

今まで完全に空気だったE組メンバーが声を揃えて言う

 

「優希君。零士君とは積もる話もあると思うが…先に自己紹介をしてくれ。みんなもどうしていいか困っている」

 

ここで烏間先生が助け舟を出す

 

「あっ、そっか。忘れてたぜ。俺ってマジで忘れっぽいんだよな。いやぁ~失礼失礼」

 

零士と烏間先生以外誰1人着いて行けてない。いや、烏間先生もかなりギリギリだろう。彼の独特のリズムに皆、飲まれてしまっている。もちろん、殺せんせーもだ

 

「えぇ、じゃあ自己紹介します!白河優希です!一応殺し屋“ブレット”として活動してます!皆さんと同い年なんで気軽に優希って呼んでください!よろしくお願いします!」

 

元気な自己紹介だ。そして冒頭の勢いに飲まれたままのみんなは、ややフリーズしたままだ

 

「……ええ、ではみなさん。優希君に質問がある人はいますか?」

 

「はい」

 

「どうぞ、磯貝君」

 

「えっと…まずはよろしく、優希。俺は磯貝悠馬だ。学級委員でもある。何かあったら言ってくれ」

 

「了解、悠馬。よろしく」

 

そのまま質問に入る磯貝

 

「なぁ、優希。何でヘッドホンをつけてんだ?」

 

みながそれを気になっていた

 

「ん?ああこれな。実は俺、無駄に耳がいいんだ。だからこれぐらいしないと周りの音がうるさくてしょうがねぇ。絶対音感とかもあるしな。ちなみに目もいい。そしてまぁ特殊な能力的なのもある。それはその内説明するよ」

 

「ああ、分かった」

 

続いて手をあげたのはカルマだ

 

「俺は赤羽カルマ。カルマでいいよ、優希。じゃあ質問ね。零士との関係は?」

 

「ん?そうだなぁ~何て言えばいいのかなぁ。よしっ、じゃあ零士、よろしく!」

 

………はァ?ふざけんな!

 

「何で俺が答えんだよ!」

 

「いいじゃん!俺らパートナーだろ!」

 

「それが答えじゃねーか!」

 

またもや始まったコント?。この時、みなは零士がとんでもない苦労人である事を悟った。同時に面倒な奴が来たと思った

 

「えっと…優希?お前と零士は殺し屋としてのパートナーって事?」

 

「そうそう。頭いいなぁ、カルマ!」

 

もう零士はツッコまない。来てから10分経たない内に零士はギブアップをした

 

その後は優希が軽い奴だと分かり、様々な質問が飛び交う。全て答えたのは零士だが…

 

 

 

 

「零士ー、要するに優希ってどういう奴なんだ?色々あり過ぎて分かんなくなって来た!」

 

ついには優希ではなく零士に質問を始める始末。しかも優希はクラスの女子1人1人に声をかけ始めている

 

「ん~そうだなぁ。簡単に言うと、“万能”。習得しているスキルは数知れない。そしてそのスキルが全てハイレベルだ。本職はスナイパーかガンナーだけど、どんな役でもこなせる。潜入暗殺から正面戦闘まで何でも来いって感じだ」

 

説明をしている零士の方を見ようともしない優希は今、速水の前にいる

 

「ねぇ君、可愛いね。名前は?」

 

「ふぇっ……えっと、速水…凛香だけど…」

 

やや顔を赤くする速水。これではナンパだ

 

「へぇ、凛香ちゃんかぁ。顔だけじゃなく名前も可愛いや。よろしく」

 

優希は速水の手を取り握手をする

 

「暗殺以外のアイツを表すのにピッタリの言葉は“チャラい”だ」

 

「「「「「(変なスイッチ入ったΣ!)」」」」」

 

続いて優希は次の女子に声をかけようとすると1人の男と目が合う

 

「…お前、俺と同じ目をしてるな。名前、何て言うんだ?」

 

その目線の先にいたのは

 

「俺?名前は…岡島大河だけど……」

 

岡島だ

 

「そうか、大河か。出会いの記念にこれをやるよ」

 

すると優希は鞄の中から紙袋を取り出した

 

「…こ、これは!いいのか?本当に」

 

「お前なら、この価値がわかるはずだ」

 

「あぁ、分かる。俺にはこの…()()()の価値が!」

 

「やっぱりそうか…。大河、いや“ブラザー”!」

 

「ああ、優希。いや、“ブラザー”!」

 

2人は肩を組んでいる

 

「アイツは……“エロい”。そして“変態”だ!」

 

「「「「「(何か、方向性変わってるΣ!)」」」」」

 

「零士君!戻って来てΣ!」

 

みんなは心の中でそう言い、倉橋は叫ぶ

 

「コラΣ!優希君!学校にそんな物持って来ない!羨ましい…」

 

「「「「「本音が漏れてるΣ!」」」」」

 

ツッコミが止まない、今日この日。今日一日でE組全体のツッコミスキルが一気に上がったらしい

 

「まぁまぁ殺せんせー。んな事気にすんなよ。これやるからさ」

 

優希は再び紙袋を取り出し、渡す

 

「……お主も悪よのう」

 

「いえいえ、お殺様ほどでは」

 

またもや聞いた事のある様なやり取りだ

 

「殺せんせー、何やってんのΣ!」

「ノリノリかよΣ!」

 

ブルータス(殺せんせー)、お前もか」

 

「「零士君、戻って来てΣ!」」

 

渚と倉橋は零士に戻って来てもらうために必死でツッコむ

 

 

 

 

何とか正気に戻った零士はようやくまとめに入る

 

「えっと……要するに優希は殺し屋として俺とはタイプも全然違うハイレベルな奴だ。でも普段はそんなんじゃない。チャラくて、エロくて変態で。まるで陽斗と岡島を足して2で割ったような奴だ」

 

「「「「「あぁ、納得!」」」」」

 

「「オイ、どういう意味だΣ!」」

 

全員がツッコミ、前原と岡島が更にそれにツッコむ

 

ー零士sideoutー

 

ー渚sideー

 

「ねぇ、カルマ君。優希君、すごく仲良くなれそうだね」

 

僕はカルマ君の席の近くに行ってそう話しかける

 

「うん、そうだね。でもさぁ、俺ら、優希の事、何も知らないよね」

 

「え?」

 

「だってさ、アイツがこの教室に来てから、自分についてほとんど話してない。最初のネタから一気にペースを持ってかれて、もう馴染んでる。自分でも気づかないうちに受け入れてる」

 

それもその通りだ。優希君はずっと前からここにいたかの様にこのクラスに馴染んでいる

 

「警戒したくても出来ない。気付いたらそこにいる。優希ってふざけた奴かと思ったけど…すごい殺し屋なんだね」

 

「うん。零士君はオーラというか殺気というか、まぁそんな感じから怖いって感じられるけど……」

 

「優希は警戒出来ない。全然怖くない。だからこそ、アイツが別の意味での怖い」

 

こうして僕達E組に新たな仲間が加わった。名前は白河優希。コードネーム“ブレット”。零士君曰く、凄腕のスナイパーらしいけど、僕達はその実力を知らない。彼を新たに加えて、僕達は殺せんせーを殺すんだ

 





そんな感じで零士のパートナー“ブレット”が加入します。ヒロインも決めていますがおそらく分かるはずです。詳しい情報は近い内に更新しておきます

ていうかこの回、時間がほとんど進んでない!色んなネタを入れ過ぎだ!なぜにこのタイミングでギャグ回なんだ!作者でさえ優希にペースを掴まれている……

零士「んなわけあるか!」

すいません!

零士「上手くまとめられなかっただけだろ!」

はい、すいません!

零士「というわけでオリ回はあと1話ってトコらしい。それと質問とか感想とか待ってるぜ!では、また次回」


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力の時間


優希回2話目です。

零士とは正反対とも言えるキャラとスタイルの優希。

書き分けは簡単。でも色々と難い。そしてウザい

では本編スタート!



 

 

 

 

「「「「「はぁ、疲れたぁ~」」」」」

 

全員が一斉に溜息をつく

 

「おいおい、お前らー。何そんなに疲れてんだよ。まだ一時間目だぜ」

 

「「「「「お前の所為だよΣ!」」」」」

 

「ありゃ?マジか」

 

優希によってクラス中が盛大な溜息で包まれた

 

「君達はまだ疲れていると思うが、次は訓練だ。特に優希君、君の実力、見せてもらうぞ」

 

「おう、任せてくださいよ」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「では今日は1人ずつやってもらう!」

 

3分間の模擬戦が始まる

 

しかし誰1人当てる事が出来ず、俺の順番になる

 

「次は零士だ!」

「頑張れー!」

「頑張ってー!」

「いけー、零士くーん!」

 

「おう!」

 

零士はその声援に手を振って返す

 

「へぇ、人気だなぁ。じゃあお手並み拝見といきますか。本気、出せよ」

 

「おうよ。せっかくだし、“オーバーロード”も使うよ。飴、用意しといてくれよ」

 

零士はナイフを持って立ち上がる

 

「烏間先生。今日は相棒が見てるんで本気で行きますよ」

 

「ああ。君の本気を見せてくれ!」

 

「ふぅ、よし!“オーバーロード”!」

 

零士の2つの目が黒眼から赤眼に変わる

 

「!目の色が……」

 

クラス中からそんな声があがる

 

「零士君……君はもしかして…」

 

「烏間先生。人の過去、勝手に話さないでくださいよ。さぁ、始めましょう」

 

「…分かった。じゃあ来い!」

 

「行きます!」

 

零士はいきなり“縮地術”で後ろに回る。そして後ろからナイフを振る

 

「くっ…!早い。今までより格段に」

 

「まだまだ……行きますよ!はぁっ!」

 

零士は烏間先生の周りを縦横無尽に飛び回りながらナイフを振っていく

 

「……(まずいな…。零士君のスピードが早過ぎる。避けるだけで精一杯だ)」

 

烏間先生はそう言うがE組のみんなは目で追うのも精一杯である

 

「これで終わりだ!」

 

零士が烏間先生の懐から放った一発は綺麗にヒットした

 

「おっしゃ!当たったぁー」

 

「すげぇ!」

「かっけー!」

「何?今の!」

 

校庭は歓喜に包まれる

 

「驚いたな。君がこれをここまで使えるとは」

 

「まぁ、こんなの呪いですよ。これがあっていい事なんて1つもない。

優希!飴くれ!」

 

「はいよ。今日のは黒糖飴な。甘いぜ」

 

「…甘っΣ!ホントに甘いな……」

 

「でも、美味いだろ」

 

「ああ」

 

それにしても甘いな……。“オーバーロード”を使うと疲れんだよな。だから糖分が欲しくなる

 

これはあんまり使ってないといざという時反動がデカくて仕方ない。だから俺はあまり使わない

 

「零士君!すごかったよ!私、全然見えなかった!」

 

「おう、ありがとよ、陽菜乃。でも……こっちの方が多分驚く」

 

零士の目線の先にいたのは烏間先生と向き合う優希

 

「烏間先生、先生もナイフ使ってくれませんか?そっちの方が、俺の実力、分かると思いますよ」

 

烏間先生は優希の差し出したナイフを受け取り、少し笑う

 

「それは面白そうだ。優希君、君の実力を見せてくれ」

 

「当たり前ですよ。ここで俺が烏間先生に当てれば、女子からモテモテになれるかもしれませんし。じゃあ、殺りますよ!」

 

その言葉にクラス中の女子が引く

 

動機が不純過ぎる。アイツ、顔は悪くないのになぁ。まぁ、殺る気を出すならいいか。あいつの本気、烏間先生驚くぜ

 

「優希君も最初にナイフを回すんだね」

 

「ああ。俺もあいつも同じ師匠から習ったからな。ナイフは俺の方が上手いけどな」

 

「負けず嫌いだね……」

 

「事実だよ。あいつの得意分野は遠・中距離。ナイフは苦手。俺は逆。それでもあいつは対人戦に滅法強い」

 

零士の周りには優希の戦いを解説してもらおうとみんなが集まって来る

 

「はぁっ!」

 

勢いよく振るが、大振り過ぎて当たらない

 

「「「「「下手くそΣ!」」」」」

 

「だから言ったろ。得意分野じゃないって」

 

「そんなものか、優希君。次は俺から行くぞ!」

 

烏間先生が攻撃に入る。しかしその全てを捌き、避け続ける

 

「…スゴイ…。全部避けてる…」

 

「何で出来るんだよ……」

 

「あいつは空間認識能力が異常な程に高いんだ。それも認識というレベルをはるかに超えて、“把握”してるんだ。だから俺らはそれを“空間把握”って呼んでる」

 

優希は零士が説明してる間にも捌き続ける。そんな事が出来るのもその力のおかげだ

 

「じゃあ…“空間把握”の能力って無敵じゃねぇか!」

 

岡島が聞く

 

「そうでもないんだよ。空間認識能力とは違って完全に目を閉じた状態で前後左右上下全てを把握できるんだ。だから周りに物体が多ければ多いほど把握出来る範囲が少ない。例えば裏山だとほとんど把握出来ない。それにリアルタイムとは約1秒のタイムラグがある」

 

零士が“空間把握”の致命的な弱点を話す

 

「じゃあ何であんなに出来るんだよ。烏間先生の動きはとても1秒のタイムラグでは見切れねぇぞ」

 

前原が更に聞く

 

「そこで役立つのがあいつの()だ」

 

全員が頭の上に?を浮かべる

 

「あいつの耳はとにかく凄い。良すぎてヘッドホンをつけて周りの音を少しでも遮断しないといけないレベルだ。でもあいつの耳の本当の強みはその“聞き分け”能力にある。音を聞いて、物体の材質や音のした方向が分かる。攻撃を捌くのには最初のモーションと方向さえ分かれば出来る」

 

話を聞いてようやく納得したE組メンバー。優希はこの会話の間ずっと捌き続けている

 

「烏間先生?もしかして当てられないんですかぁw?」

 

ここで挑発を入れる優希。その様子は普段のカルマを思い出す。あの2人はややタイプが違うが同類である

 

烏間先生の顔には青筋が立っている

 

「これでどうだ!」

 

烏間先生はまた1つギアを上げて優希に攻撃する

 

しかしその前に烏間先生の体は制御を失った様に前に倒れる

 

「!(足元にワイヤー……)」

 

優希はあの攻防の間にワイヤーを足元に仕掛けていた

 

「へへっ、俺の勝ちですね、烏間先生」

 

「フッ、優希君、俺としてはルール違反だ、と言いたい所だ。だが確かに俺は“ナイフを当てる”としか言ってないからな。仕方ない、今回は君の勝ちだ」

 

優希は烏間先生からオマケの勝利を勝ち取った

 

「どうよ、凛香ちゃん!見てたか?」

 

「ええ、見てたわよ。ちょっと反則っぽかったけどね」

 

「凛香ちゃん、辛口だなぁ。俺、結構頑張ったんだぜ」

 

速水に絡み出す優希。優希はどうやら速水がお気に入りらしい。おそらく何を言ってもドライに返されて、少し意地になっているのかもしれない

 

「ちょっと!しつこい!離れて、白河!」

 

「またまた~、恥ずかしがっちゃって~。可愛いなぁ、凛香ちゃんは~」

 

ウザい、その一言に尽きる

 

「いい加減にしてよ…///!ねぇ、黒羽!コイツ、早く剥がしてよ!」

 

「はァ、分かったよ。おいコラ、離れろ優希。速水が嫌がってるだろうが!しつこい男は嫌われるぞ」

 

零士はその口調以上にイライラしながら剥がそうとする。でも優希は速水の側から離れようとせず、逃げ続ける

 

「何言ってんの、零士。お前はだから“冷たい奴”って言われんだよ。もっと女の子には紳士に行かないと。それに凛香ちゃんみたいな子はグイグイ押してかないと!ね!」

 

速水にそれを聞く優希。というかそもそもこんな行為をする奴のどこが紳士なのだろう

 

「ね!じゃないわよ!じゃあどうすれば離れてくれるのよ!」

 

「そうだなぁ、その白河って呼び方やめてよ。下の名前で頼むよ。優希って呼んでくれたら、考えなくもないぜ」

 

「ああもう!分かったわよ!……優希……///。これでいい?」

 

速水は頬を赤らめながら優希を下の名前で呼ぶ

 

「!…おう…///」

 

そんな様子を見て、反応しないわけがない。あの2人の悪魔がやって来た

 

「おやおや~、優希ぃ、どうしてそんなに顔が赤いのかなぁ?」

 

「はやみん、そんなにツンツンしなくてもいいじゃん。もっと素直にならないと~」

 

カルマと中村だ。その言葉を聞いて2人は更に顔を赤くする

 

「ねぇ、零士君。優希君って意外と純粋なんだね」

 

「まぁな。あいつ暗殺関係で恋人になる事はよくあるし、結構そういうの上手いから。惚れない女って少ないんだよね。でもこの教室はあいつが殺し屋だって事も知ってるし、速水みたいな奴も珍しいからな」

 

零士と倉橋が仲良く話している。優希はそれを発見する

 

「…な、なぁ、カルマ。零士と陽菜乃ちゃんって仲良さげじゃん。どこまで進んでんのさ」

 

「ん~?やっぱ優希も気になる?俺らも結構気にしてんだけどね~」

 

「陽菜乃は積極的にアピールしてるつもりだけど……。零士がねぇ」

 

「へぇ、そっか。なぁ、カルマ、莉桜ちゃん。俺の話はできる限りするからさ、零士の事、教えてくれよ。それにしても俺ら、仲良く出来そうじゃん」

 

「ん~、何か上手く丸め込まれた感じだなぁ」

 

「でも、悪くない話よね」

 

ここに最悪の3人組が結成された

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「次は射撃訓練だ。今日もいつも通りやってくれ。優希君、少しいいか?」

 

「あ、はい。何ですか?」

 

「どうだった、弾の方は?奴に命中はしていた様だが…」

 

どうやらライフルの弾の話らしい。実際みんなは優希の登場のインパクトが強過ぎて、殺せんせーの触手を破壊した事実を忘れている

 

「ああ、その事ですか。調子はいいですよ。まぁでも先端をコーティングしてるだけなんで少し軌道がブレましたね。それは今後修正していきます」

 

「そうか。ならいい。じゃあ今度はハンドガンでやって見せてくれ」

 

「うす」

 

優希が腰のホルスターからハンドガンを取り出す

 

「それは?」

 

「ん?ああ、コレですか?これは俺が普段使ってるのと同じモデルの銃をBB弾用にカスタマイズした奴です。ターゲットに合わせて銃は全部最初から自分でカスタマイズする、これが俺のこだわりなんですよ。よしっ、オッケー!」

 

優希は的の前に歩いていく

 

「よーし!お前ら、よーく見とけよ!殺し屋“ブレット”と呼ばれるこの天才ガンナーの射撃を見せてやるよ!」

 

自信家にも程がある

 

「本職の射撃か…。楽しみだな」

 

「何よ白河。随分と自信があるのね。どれ程の腕が見せてもらおうじゃない」

 

千葉と速水のスナイパーコンビが言う

 

「凛香ちゃん。白河じゃなくてゆ・う・き、だろ。頼むよ」

 

「もう呼ばないわよ…///!」

 

「え…マジ?俺、めっちゃテンション下がったぁ!

まぁいいや、俺の射撃で凛香ちゃんのハートを射抜けばいいんだもんな」

 

何とも言えないくさいセリフを言った優希はセーフティを外しながら右手に銃を持ち、前に出す

 

「零士君、優希君ってどれくらいの腕なの?」

 

「なぁ、渚。さっきのナイフ、見ててどう思った?」

 

「どうって……零士君とは違ってトリッキーだなぁ、と」

 

「そう。優希は近接暗殺が苦手だから他のスキルと組み合わせてフォローする。だけど得意分野の射撃だと……あいつは天才だ」

 

パンッ

 

発砲音が校庭に響く。同じ音がその後も何度も続く

 

「何よ、全然真ん中に当たってないじゃない。本職も所詮はこんなもんなのね」

 

「いや、速水、それは違うみたいだぞ。よく的を見てみろ」

 

それを聞いて速水も他のみんなも、もう一度的を見る

 

そこには……“ニコちゃんマーク”が描かれていた

 

「「「「「……………。遊ぶなΣ!」」」」」

 

「あいつ……天才なんだよなぁ。でも“バカと天才は紙一重”。まさにあいつの為にある言葉だ」

 

「なっ!すげぇだろ。烏間先生の前で言うべきじゃないけどさ、俺は真ん中に当てることが全てじゃないと思う。狙った所に当てる、それが大事だと思うんだ」

 

本人はいい事を言ったつもりだろう。実際にもいい事だ。だが……なぜかコイツが言うと胡散臭くなる

 

「優希、悪いけどさ、あんまりみんな、心に響いてねぇみてぇだぞ」

 

「ありゃ?マジかぁ。“殺せんせー”とか描くべきだったかな?」

 

そういう事じゃあないだろ!

 

「君の腕は中々ですねぇ、優希君。実際、先生の触手も破壊してるのですから。これは…これからの暗殺が楽しくなりそうです」

 

殺せんせーが優希の撃った的を見ながら言う。そもそもいつからいたのだろう

 

「屋根の上にいたと思ったらもうここかよ。すげぇ、スピードだな、殺せんせー」

 

「ヌルフフフフ。やはり君の目は誤魔化せませんね」

 

「まぁでも、楽しくはしてやるよ」

 

優希はもう一度銃を構える。そして木に向かって発砲する

 

「ほら、また外した。白河、あんた本当に凄い殺し屋なの?」

 

「まぁ、見てろって」

 

すると殺せんせーの真後ろからBB弾が飛んで来た。ギリギリ、殺せんせーは気づいたが、触手をまたしても1本失った

 

「にゅやッ!一体…どこから……」

 

「“弾丸反射(バレットリフレクション)”」

 

優希は木に向かって撃ち、それを何度も跳弾させ、殺せんせーの真後ろから攻撃したのだ

 

これにはクラス中が驚く。優希の本当の実力を皆が思い知る。殺し屋“ブレット”との自分たちの力の差を見せつけられた瞬間だった

 

「…流石ですねぇ、優希君」

 

「だろ。

待ってろよ、殺せんせー。俺は…いや俺たちでアンタのハート、射止めて殺るよ」

 

「ええ。待ってますよ」

 

その後も訓練は続いた

 

 

 

 

そして訓練終了後

 

「なぁ、優希」

 

「どうした、龍之介。もしかして俺に惚れちゃった?でも悪いなぁ、俺は女しか愛せないんだ。君の気持ちは受け取れない」

 

急にとんでもない事を言い出す

 

「何バカな事言ってんのよ。白河、お願いがあるの」

 

「ん?付き合ってくれって?仕方ないなぁ。モテる男は辛いねぇ」

 

とにかく優希はイカれている。これをここでもう一度確認しておこう

 

「ねぇ、千葉。やっぱコイツに頼むのやめない?私嫌なんだけど」

 

「まぁまぁ。優希は中身はともかく腕は確かなんだ。それも零士とは比べ物にならないくらい。

なぁ、優希。俺らに射撃の指導をしてくれないか?」

 

「龍之介、その言い方はないだろ。でもいいぜ。だけどさぁ、俺はスパルタだぜ」

 

「殺せんせーを殺すためなら」

 

千葉が言う

 

「アンタのスパルタなんてアンタと付き合うよりも何倍もマシよ」

 

速水も言う

 

「凛香ちゃん、そこまで言うかよ。まぁ、いいぜ。これから射撃の訓練の時間と放課後、ビシビシ鍛えるぜ」

 

「ああ」「ええ」

 

ここにスナイパートリオが誕生した

 





優希の回はやっぱり長くなる。文才が欲しいぃ!

速水…悲劇。優希のターゲットが殺せんせーと速水に増えた………。零士とは逆に恋に積極的過ぎる男、白河優希。さてどうなるのでしょうか?

ちなみに優希の特技?とも言える目と耳については後ほど設定にて説明します。また、空間認識能力についてはウィキなんとかにて調べると分かりやすいかと。耳の聞き分け能力はジャンプで連載中のワールドなんとかの菊地原のSEと同じと思ってください。

では…次回は触手を持つあいつが登場します。実はオリキャラがまた1人。何人オリキャラ出るんだよ……


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転校生の時間 三時間目

オリキャラも登場、イトナ回。零士と優希はイトナとどう絡むのか…

そして正直前半いらない…。あれを入れた意味は“モバイル律”の登場の為。でもほとんど出てないな…

そんなわけで楽しんでください

では本編スタート!



 

 

 

目覚ましが鳴り、俺は目を覚ます

 

「おはようございます、零士さん」

 

「ふあぁぁぁっ、もう朝か…。おはよう」

 

自慢じゃないが俺は朝が弱い。まぁ、陽菜乃には“朝だけじゃなくていつも眠そう”と言われるがそれは今は置いておこう。つまり何が言いたいのかというと…寝不足で幻聴が聞こえたのかという事だ

 

「?何だ、今の声Σ!」

 

「何って“モバイル律”だろ。なぁ、律」

 

「はい、優希さん。おかげで昨日、渚さんとカルマさんとハワイまでお出かけ出来ました!」

 

「そうか、それはよかった。舞姉と一緒に考えたかいがあったな」

 

俺のスマホには何故か律がいる。それが“モバイル律”という名前なのは分かった。だがもう1つ、気になる事がある

 

「何でテメェ(優希)がいるんだよ!」

 

「ん?何でって…俺らの家だろ、ここ。零士聞いてない?師匠から俺もここに住むって」

 

「……あの味音痴!絶対にシバいて殺る!」

 

元凶は龍さんだった。後で文句言ってやる

 

「はぁ、まぁそれは放課後やるとして、優希、早く着がえろよ」

 

「は?飯は?」

 

「面倒だし、俺はいつも行きにコンビニ寄って、朝と昼は済ませてんだよ」

 

それが零士にとって日常だった。今まではそれを気にする奴は誰もいなかった

 

「バーカ、昼はともかく朝食ぐらいはちゃんと取れよ」

 

「朝から飯なんか作ってらんねぇよ」

 

「だから、俺が作るよ。“Assassin’s cafe”の副コック長の腕をナメんなよ」

 

そういうと優希はキッチンに行く。そして冷蔵庫にあった僅かな食材で手早く炒飯を作る

 

「………すげぇな、お前。(つるぎ)さんと張りあえるぞ」

 

「そりゃ嬉しいな。でも…コック長にはまだ敵わねぇよ」

 

零士は優希のご飯を褒める。優希も口ではそう言うが満更でもないようだ

 

2人は朝食を終え、学校に向かう

 

歩きながら2人はこんな話をする

 

「なぁ、零士。陽菜乃ちゃんとはどうなんだ?」

 

すごくニヤニヤしている

 

「……あいつはただの女友達だ。それ以上でもそれ以下でもねぇよ」

 

「ならいいけど。まぁでも、お前1人ぐらいなら俺らで殺し屋、辞めさせてやるよ。例えば戸籍だけ殺して、もう一度改めて戸籍を作るとかな」

 

先ほどとは打って変わって真面目な雰囲気だ

 

「バーカ。俺はもう、一度戸籍がなくなってんだ。そんなの無理だ。それに………殺し屋こそが俺の生きる道」

 

「…そうか。ならいいんだ」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「おはよーございまーす!」

 

「はい、おはようございます」

 

外では雨が降っている。これから何が起こるのか、少し不安になる天気だ

 

「烏間先生が言っていた通り、今日は転校生が来ます」

 

「あーうん。まぁぶっちゃけ殺し屋だよな。なぁ、零士、優希、心当たりってあるか?」

 

前原は零士と優希に話を振る

 

「ないよ。この年で殺し屋なんてほとんどいねぇんだ。俺や優希はその中でも珍しく有名で実績もあんだよ」

 

「そうそう。そう考えると俺らってスゲェだろ!」

 

急に自慢を始める2人。でも本当の事らしいから誰もツッコむ事はしない

 

「零士君や優希君、そして律さんの時は油断して痛い目を見ましたからね。先生も今回は油断しませんよ」

 

3回の失敗でようやく学ぶのかよ。遅すぎだろ

 

「そーいや律は何か聞いてないの?優希君は急遽らしいから知らないけど。律とその転校生は最初から来る予定だったんでしょ」

 

原が律に聞く

 

「はい、少しだけ。初期命令では私と“彼”の同時投入の予定でした。私が遠距離射撃、彼が肉迫攻撃。連携して追い詰めると。ですが…2つの理由でその命令はキャンセルされました」

 

2人で遠距離と近距離からか…。俺と優希と同じスタイルか。2人ならこれが最強だと思うんだが……

 

「ひとつは彼の調整に時間がかかったから。もうひとつは、私が暗殺者として圧倒的に劣っていたから」

 

その言葉に俺たちはみな衝撃を受けた。殺せんせーの触手を破壊した律よりも遥かに優れた殺し屋。そんな奴がいるなんて…

 

そんな時、教室の扉が開いた。俺らは全員身構えた

 

そこから入って来たのは白と黒の装束姿の男女。明らかに転校生ではないだろう

 

すると白装束の男が右手を前に出す。そしてそこからハトを出す

 

「うわっ!」

 

ガタンッ ゴンッ

 

「零士がビックリして倒れた!」

「しかも壁に頭打ってるぞ!」

 

「ゴメンゴメン、驚かせたね。私は転校生じゃないよ。私は保護者。まぁ…白いし、シロとでも呼んでくれ。彼女の事も黒いし、クロと呼んでやってくれ」

 

「あなたはからかい過ぎよ。本当にゴメンなさい。特にそこの黒い子。それと皆さん、よろしくね」

 

黒装束が零士に謝り、挨拶をする

 

「まぁ、いいっスよ。そんでよろしくお願いします。あんなので驚かない奴なんて殺せんせーぐらいしか……」

 

零士達はそう言いながら殺せんせーを見る

 

「「ビビってんじゃねーよ、殺せんせーΣ!」」

 

零士と優希が同時にツッコむ

 

「「「「「奥の手の液状化まで使ってよΣ!」」」」」

 

そんなのあるのかよ………

 

「い、いや…律さんがおっかない話をするもので」

 

殺せんせーは液状化を止めて元に戻る

 

「初めまして、シロさん、クロさん。それで肝心の転校生は?」

 

「初めまして、殺せんせー。はい、贈り物の羊羹です」

 

なぜか羊羹を渡すシロさん。ていうか優希、そんな欲しそうな目で見るなよ……

 

「すいません、殺せんせー。あの子はちょっと…性格が特殊なの。私達保護者が直で紹介させてもらおうかと思って」

 

この2人…やっぱり何か怪しい。格好以上に掴み所がねぇな。それにしてもクロさんはシロさん以上に怪しいな…。修羅場を何度も潜り抜けて来た様な雰囲気だ

 

その時シロさんが渚達の方を見る。何かあったのかな?

 

「それにしても、みんないい子みたいねー!ね、シロ!」

 

子供っぽい様子で話すクロさん。しかもクロさんは俺の方を見て微笑んでくる。まぁ、本当に笑ってるかは分からないが

 

「そうだね、クロ。これならあの子も馴染めそうだ。席はあそこでいいのですよね」

 

「ええ、そうですが」

 

「では紹介しますね。イトナ、入って来て!」

 

全員がドアの方を注目する

 

そういう俺もかなり気になっている

 

「!零士、カルマ、竜馬…はいいや。今すぐ席から離れるぞ!」

 

寺坂は“おい”とか言っていたが関係ない。俺達4人は席を立つ。その次の瞬間

 

ゴッ

 

後ろの壁が消えた

 

「「「「「ドアから入れΣ!」」」」」

 

あ、危ねぇ…。優希が“空間把握”出来てよかったぁ

 

「俺は勝った。この教室の壁よりも強い事が証明された。それだけでいい…。それだけでいい…」

 

「「「「「(何かまた、面倒臭いの来やがった)」」」」」

 

そして全員、優希の方を見る

 

「「「「「(しかも、2人連続でΣ!)」」」」」

 

当の本人は分かっていないが

 

殺せんせーもリアクションに困ってるよ。ていうか何だあの顔。笑顔でも真顔でもなく、すげぇ中途半端な顔

 

「堀部イトナです。みなさん、イトナと呼んであげてください。ああ、それと私達、ちょっと過保護なんですよ。だから少々イトナの事、見守らせてください」

 

白黒ずくめの保護者によく分かんねぇ転校生。この先俺ら、大丈夫か?

 

「ねぇ、イトナ君。ちょっと気になったんだけど。今、外から入って来たのに手ぶらだよね。外、土砂降りなのに何で濡れてないの?」

 

イトナは答えない。そして周りを見渡し、俺と優希を見つけた後、もう一度カルマの方を見る

 

「…お前はこのクラスで3番目に強い。2番はあの茶髪の女顔で1番はあの黒いのだ。けど安心しろ。お前ら全員、俺より弱いから、俺はお前らを殺さない。俺が殺したいと思うのは俺より強いかもしれない奴だけだ。この教室では殺せんせー、あんただけだ」

 

俺も優希もカルマも黙ってイトナを見る。動けなかったわけじゃあない。ただ、転校生がどんな行動をするか見ているだけだ

 

まぁ、俺は優希を中心に男子5人に抑えられて動けなくなってはいるが

 

殺せんせーは羊羹もパッケージごと食べる。手間を惜しむなよ

 

「強い弱いとは喧嘩の事ですか?力比べでは先生と同じ次元には立てませんよ」

 

イトナは羊羹を前に出しながら言う

 

「立てるさ。だって俺達、血を分けた()()なんだから」

 

クラス中が驚きの表情で溢れる

 

「「「「「兄弟ィΣ!」」」」」

 

「負けた方が死亡な、兄さん」

 

イトナも羊羹をパッケージごと食べる。確かに似てるかも…

 

それにしてもあの黄色いタコとあの転校生が兄弟なんて…信じられねぇよ

 

「兄弟同士、小細工なしだ。兄さん、お前を殺して俺の強さを証明する。時は放課後、この教室で勝負だ。今日であんたの授業は最後だ。お別れでも言っておけ」

 

そして、自らが開けた穴から外に出た

 

「ちょっと、殺せんせー!兄弟ってどういう事Σ!」

「そもそも人とタコで全く違うじゃんΣ!」

 

矢田と三村が聞く

 

「全く心当たりがありません!先生、生まれも育ちも一人っ子ですから!両親に“弟が欲しい”ってねだったら…家庭内が気まずくなりました!」

 

そもそも親とかいるのかよ…

 

 

 

 

休み時間。俺らは未だに2人の兄弟説について気になっていた

 

そんな俺らの前には同じ種類のおやつを同じ数だけ並べてある兄弟(仮)

 

「凄い勢いで甘いモン食ってんな」

「甘党な所もそっくりだ」

「表情が読み辛い所もな」

 

俺と悠馬、陽斗は昼飯を食べながら話していた

 

「なぁ、イトナ。頼みがあるんだけど」

 

「…どうした?」

 

「それ、一個くれよ!俺、甘いモンには目がなくてさぁ!お願い!俺の飴、一個やるから!」

 

「仕方ない。1つだけだ」

 

「センキュー、イトナ!」

 

優希はイトナからおやつをもらっていた

 

「何やってんだ、あいつ」

「本当に殺し屋か?」

「ホントに面目ない…」

 

「兄弟疑惑で皆やたら私と彼を比較します。ムズムズしますねぇ。気分直しに今日買ったグラビアでも見ますか。これぞ大人のたしなみ」

 

するとイトナも全く同じのを開いていた

 

「「「「「(巨乳好きまで同じだ!)」」」」」

 

「…これは俄然信憑性が増してきたぞ」

 

「そ、そうかな岡島君」

 

おい、岡島。テメェ何するつもりだ

 

「そうさ!巨乳好きは皆兄弟だ!しかもこの娘は巨乳で美乳!非の打ち所がない!」

 

「「「「「3人兄弟Σ!」」」」」

 

すると後ろから優希がおやつを食べ終えやって来た。テメェ、まさか…

 

「分かってるじゃないか大河!そうさ美乳好きも皆兄弟だ!」

 

「「「「「4人兄弟Σ!」」」」」

 

ゴツン

 

「テメェ、面倒くなるから黙ってろΣ!」

 

零士が勢いよく優希の頭をぶん殴る

 

その後、不破によるキャラ設定の甘い、ストーリーが話されたが、雑過ぎて話にならなかった

 

兄弟について語るなら過去にも必ず触れる。殺せんせーの過去も分かるかもしれねぇ

 

だけど………

 

姉弟(きょうだい)…か。チッ、嫌な事、思い出したな………」

 

その零士の呟いた言葉が聞こえていた者は誰1人いなかった

 





オリキャラはクロさん。シロと共にイトナの保護者として登場。さて、彼女の存在はどう関係するのか?

そして最後に言った言葉は彼の抱える闇に関係しているのか?

次回も引き続きイトナ回。お楽しみに


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まさかの時間

キリが良かったので今回はここまで。本当は最後まで行きたかった。絶対次回が短くなる

今回は少しオリジナル要素を入れてみました。零士の新技登場です。ネーミングセンスはツッコミなしでお願いします

では本編スタート!



 

 

 

放課後

 

教室には机で作られたリングがあった

 

その中には殺せんせーと制服を脱ぎ捨てたイトナ

 

「まるで試合だな。あんなので殺せるのかよ」

 

「零士、意外と効くと思うぜ。この小さなフィールドでは殺せんせーはマッハまで加速できない。とはいえ速い事に変わりはないけど…」

 

シロさんがイトナの肩に手を置きながら提案をする

 

「ただの暗殺は飽きてるでしょ、殺せんせー。ここは1つ、ルールを決めないかい?」

 

「リングの外に足がついた人は死刑。どう、殺せんせー」

 

クロさんがシロさんの言葉を継いで話す

 

「何だそりゃ。負けたって誰が守るんだ、そんなの」

 

「…いや、皆の前で決めたルールは…破れば()()()()()の信用が落ちる。殺せんせーには意外と効くんだ、あの手の縛り」

 

杉野の疑問にカルマが答える

 

その後殺せんせーによって“観客に危害を加えた場合も負け”とするルールが加えられた

 

…さて、転校生はどんな暗殺をするんだ?試合形式って事は…よっぽど自信があるみたいだけど……

 

「では合図で始めるよ。

暗殺……開始!」

 

次の瞬間……俺達はただ一箇所に釘付けになった

 

 

斬り落とされた殺せんせーの腕………ではなく!

 

「……ははっ、確かに…。あれじゃあ律と一緒は無理だな」

 

「ああ。そして……試合形式は完全にホームグラウンドだ」

 

 

「「「「「触手Σ!」」」」」

 

そりゃそうだ。カルマの言ってた通り、あの雨の中なら普通は濡れる。そう、普通なら。イトナは触手持ちだ。雨も全部弾ける

 

「…………こだ」

 

リングの中央。つまり殺せんせーから、感じた事のないような殺気を感じた…

 

「!なぁ……零士…。この殺気……どこかで……」

 

あの優希が震えている。そう言う俺もだ。この殺気…どこかで感じた事がある。どこだ……どこで感じた?

 

結局…考えても思い出せなかった

 

でも…そんな事は今、どうだっていい

 

「どこでそれを手に入れたッ!その触手を!」

 

殺せんせーの真っ黒な顔。怒りそのものの顔。この教室で2回目、俺が見るのは初めて。でも分かる…これは……ヤバい…

 

「君に言う義理はないね。だがこれで納得しただろう。君とこの子が兄弟だという事を。しかし怖い顔をするねぇ。何か…嫌な事でも思い出したかい?」

 

殺せんせーは破壊された触手を再生させながらシロさん、いやシロの方を見る

 

「…どうやら、シロさん、クロさん、あなた達2人にも話を聞かなきゃいけないようだ」

 

「聞けないよ、死ぬからね」

 

次の瞬間、クロが殺せんせーに向けて何か光を発した

 

「くッ!…目が………」

 

「!大丈夫か、優希」

 

「ああ、悪い。少しだけだ。そんなに強い光じゃないから」

 

優希は目が良過ぎる故に強い光に弱い。それを見てしまうとしばらくの間、目がほとんど見えなくなる。今回は微弱な光だったおかげで命拾いした

 

「彼女が照射した圧力光線は至近距離で浴びると、君の細胞はダイラント挙動を起こし、一瞬全身が硬直する。全部知ってるんだよ、君の弱点は全部」

 

「死ね、兄さん」

 

イトナの触手が勢いよく、殺せんせーに襲いかかる

 

「うっ…うおぉっ…」

「殺ったか?」

 

「…いや、上だ」

 

「脱皮か…そういえばそんな手もあったっけか」

 

殺せんせーのエスケープの隠し技。使わせるのが早い!

 

「でもね、殺せんせー。その脱皮にも弱点があるのを知ってるよ」

 

更にイトナの触手が襲う

 

「にゅやッ!」

 

「その脱皮は見た目以上にエネルギーを消費する。だから直後はスピードも低下する。常人から見ればメチャ速い事に変わりはないが触手どうしではその影響はデカいよ」

 

「更に、イトナの最初の攻撃で腕を失い、再生した。それも結構体力を使うのよね。脱皮に再生、二重に落とした身体的なパフォーマンス。私の計算上、この時点で互角よ」

 

シロとクロによって殺せんせーがどんな状況か、解説が行われた

 

「また、触手の扱いは精神状態に大きく左右される」

 

その言葉に俺らは殺せんせーの弱点が思い浮かぶ

 

「予想外の触手によるダメージによる動揺。立て直そうにもこの狭いリングではそれも無理。今優勢なのはどちらか、生徒達でも分かるわよね」

 

クロの言う通りだ。殺せんせーが不利なのは一目瞭然。更に保護者によるサポート。次々と破壊される触手

 

殺せんせーは死に向かって徐々に近づいて行く。地球が…もう少しで救われる。なのに……俺はどうしてこんなに悔しがってんだ?弱点も俺達の手で明らかにしたかった

E組(俺達)が殺したかった!

 

「脚の再生も終わったようだね。さ…次のラッシュに耐えられるかな?」

 

パリンッ

 

「「ッ!」」

 

クロの腕についていた光線照射器が割れる。それを割ったのは…

 

「悪いな、クロ。俺らにとってはお前ら、商売敵なんだわ。てな訳で、邪魔させてもらうよ」

 

右手にハンドガンを構える“ブレット(優希)

 

「へぇ、これを割っただけで邪魔になると思ってるの?もう、ここまで追い詰めてあるの。今更何が出来ると?」

 

「そりゃあもちろん、…俺がイトナを倒せば(殺れば)いいんだよ」

 

そして対先生物質のダガーを構え、殺せんせーの前に立つ“ゼロ(零士)

 

「面白い事をいうじゃないか黒羽君。いや今は殺し屋“ゼロ”と言った方がいいかな?」

 

「どっちでもいいぜ。これは依頼じゃねぇから殺すつもりはねぇしな」

 

「零士君、君でも危な「うっせぇ!」…零士君」

 

殺せんせーの言葉を遮る

 

「テメェの命を頂くのはこの俺だ!こんな所で勝手に死なれちゃ困るんだよ!

さぁ、イトナ!俺が相手だ。殺れるもんなら殺ってみろ!」

 

シロはそれを聞いても余裕そうだ

 

「殺りなさい、イトナ。“ゼロ”の戦い方も教えたはずだ。彼が邪魔をするかもしれないと思ったからね」

 

「お前も俺より弱い。だが、俺の前に立つなら殺す」

 

イトナは触手を操り、零士に向かって攻撃を仕掛ける

 

「ぐあッ!」

 

「「「「「黒羽 / 零士!」」」」」

 

零士は両手を使い顔の前でガードをするが防ぎきれず、机の手前まで吹っ飛ばされる

 

「…ッ!ってぇ!危ねぇ……場外負け食らう所だった……。あんな事言ってそれはダサいからなぁ」

 

「“ゼロ”、君の戦い方はスピード重視。“近接戦闘が強い”というのもスピードや身軽さを生かした立体的な攻撃の連打。この狭いリングじゃそれは出来ない。更に、スピード重視にありがちな明らかなパワー不足。君にはイトナを超えるスピードもなければ、パワーもない。無駄死にだよ」

 

零士の致命的な欠点。それは“パワー不足”。一撃で相手を戦闘不能、または戦意喪失、そこまで持っていけるだけの技がない

 

「言ってくれんじゃねぇか。俺がパワー不足なのは認める。それもメグと只の腕相撲をしても勝ち越せないからな」

 

片岡が特に顔を赤くする。男子に勝てる女子。それは恥ずかしくなるだろう。渚相手なら零士は勝てるらしいが……

 

「でも、スピードで俺がイトナに劣るだと?ふざけんなよ。スピードというフィールドで俺が勝てねぇのは殺せんせーだけだ!卒業までには殺せんせーも越えてやる!だから…イトナには負けねぇよ」

 

「殺りなさい、イトナ。そんなのハッタリよ」

 

イトナもクロと同じくそう思っているようで触手による攻撃を仕掛ける

 

「だーかーらー、スピードで俺に勝てるわけねぇだろ。さぁて、ここからはトップギアで行くぜ!“オーバーロード”!」

 

黒かった目は赤く染まる。零士はイトナの攻撃を全て見切り、避け続ける。前後左右一歩も動かず、その場でかわす

 

「…ッ!何故避けられる!俺は…強いはずだ!お前より!」

 

「バーカ、年季が違ぇんだよ。俺は…9年も前からこのステージで殺り合ってんだよ!」

 

イトナの攻撃は最初の攻撃から一発も当たらない。全て見切り続ける零士。当たらない攻撃をし続けるイトナ。どちらが優勢か、一目瞭然だ

 

バンッ

 

「シロ。ウチの相棒がサシで殺るってんだから手出しすんじゃねぇよ」

 

「なッ!」

 

優希は触手が乱れるリングの反対側のシロが銃を出したのを見逃さなかった。触手による攻撃の間を縫って、自らの銃でシロの銃を弾いた

 

「ナイス“ブレット”」

 

「そろそろ、決めろよ“ゼロ”」

 

「りょーかい!」

 

再び攻撃を全て見切った零士はなぜかダガーをしまう。そしてイトナとシロの方を向く

 

「なぁ、そういや誰かが俺の事、“パワー不足”だとか言ってたよな」

 

「事実だろう。実際にさっきだってイトナの攻撃を受けて吹っ飛ばされてたじゃないか」

 

「否定はしない。でも、それっていつの情報だよ」

 

零士が言い放つ。もしや、その欠点も克服したというのか

 

「“パワー不足”はどうしようもねぇ。けど、瞬間火力ならまだどうにかなる。だから俺は考えた。俺の自慢のスピードをパワーに変換出来ねぇかってな」

 

「何ッ?」

 

「縮地術は頭の高さを固定して全身の筋肉を使って、体を前に押し出す技だ。その力を全て、パワーに変えたらどうなるか?」

 

縮地術の発展技。それが零士の言う“スピードをパワーに変換する”技だという

 

「まぁ、見てなって。スピードが売りの殺し屋“ゼロ”の一撃必殺の切り札を!」

 

イトナは零士のその挑発とも取れる態度に苛立ち、攻撃を仕掛けるために飛び上がりながら前に出る

 

「…いま即興で技名は考えたから……ネーミングセンスにはツッコむなよな」

 

イトナの攻撃が届く、その瞬間、零士は縮地術で懐に潜り込む。そして後ろ回し蹴りを繰り出す

 

「“衝撃(インパクト)”!」

 

「がッ!」

 

それをまともに食らったイトナは教室の壁を突き破り外へ飛ばされる

 

「もしこれが本当の暗殺だったら……イトナ、お前()()()()()

 

零士がここで例の言葉を言い放つ。しかし、カッコよかったのはここまで。零士は自分が開けた大きな穴に気づく

 

「げッ!やり過ぎたΣ!」

 





パワー不足。そんな欠点を縮地術の応用で補う。実はこのシーン、自分が書きたかった部分の1つなんです。

ネーミングセンスがイマイチ…。何度見てもそんな気がする。そのまんま…。普通応用技って元の技名の名残がある気が…

そして最後の台無し感。零士は絶対カッコいいままじゃ終わらない。そんな気がする

まぁ、とにかく次回で最初のイトナ回完結。次回は文字数次第では少し後半オリジナル入るかも


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絆の時間


オリジナル入れると言いましだが嘘です!それを入れると今までで一番長くなるのでやめました。球技大会前にオリジナルを1つ入れてから行きます

イトナ回ラスト、生徒と殺せんせーの絆を再確認の回

では本編スタート!



 

 

 

 

「勝負ありですね、イトナ君。零士君と戦うというイレギュラーが発生しましたが、彼もそのルールの中で戦っていた。そして君の足はリングの外に着いている。君の負けですねぇ。ルールに照らせば君は死刑。もう二度と、先生を殺れませんねぇ」

 

完全にナメた表情の殺せんせー。普段なら“俺のおかげだろ”とツッコむはずの零士も壁を壊した事によりそれどころではない

 

「生き返りたいのならこのクラスで皆と一緒に学びなさい。性能計算では測れないもの。それは経験の差です。零士君は君よりもそういう経験がある。自らの欠点も熟知している。だから工夫も出来る。先生が先生になったのはね、そういう工夫の手助けをして、見守る為です。この教室で皆の経験や工夫、先生のやり方を盗まないと君は私には勝てませんよ」

 

それを聞き、イトナの様子が見て分かるぐらいおかしくなる

 

イトナは黒い触手を出し、暴れ出す

 

「俺は、強い。この触手で、誰よりも強くなった」

 

「……」

 

「ガアッ!」

 

イトナは殺せんせーに襲いかかる

 

「イトナッ!」

 

クロがイトナに向かって叫ぶ。するとクロからは凄まじい殺気が放たれ、イトナは気絶する

 

「!(何て殺気だ……。それだけでイトナを気絶させるだけじゃない。イトナ以外、誰1人気絶させる事なく…。クロって女…底が知れない……)」

 

「すいませんね、殺せんせー。どうもこの子は…まだ登校出来る精神状態じゃなかったようだ。転校初日で何ですが…しばらく休学させてもらいます」

 

シロは気絶したイトナを背負ってドアへ歩いて行く。そしてシロに何事もなかったかのように着いて行くクロ

 

「待ちなさい!担任としてその生徒は放っておけません。一度E組に入ったからには卒業するまで面倒を見ます。それにシロさん、クロさん。あなた方にも聞きたい事が山ほどある」

 

「嫌ですよ。私達はこれで帰ります。どうします?力ずくで止めてみますか?」

 

その言葉の後すぐ、殺せんせーの触手はシロとクロに向かって動く

 

しかし……触手は溶けてしまう

 

「対先生繊維。君は私達に触手一本触れられない。心配せずともまた直ぐに復学させるよ。3月まで時間はないからね」

 

「安心してください。私達が責任もって家庭教師を務めます」

 

シロとクロはドアから外に出る。しかしドアの奥には立ちはだかる者が1人

 

「待てよ、クロ。俺はアンタに話しがある」

 

「私はないわ、黒羽君」

 

「アンタ、何者だよ。その殺気、隙も全くない。それに雰囲気も数々の修羅場を潜り抜けて来たかのようなものだ。ホントに何者だ?」

 

クロは自然な体運びで零士の横に移動すると頭に手を乗せる

 

!気づかなかった……。これが…本当の暗殺だったら俺は…死んでるッ!

 

「…また、会えるといいわね、零士」

 

!何で…急に呼び方を変えたんだ?でも…んな事関係ねぇ。油断してたわけじゃない。なのに警戒出来ないまま頭に手を乗せられた…。一歩も…動けなかった……

 

そしてシロとクロは去って行った

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「恥ずかしい…恥ずかしい…」

 

その後、なぜか殺せんせーは恥ずかしがっていた

 

「何してんの、殺せんせー」

 

「さぁ、さっきからああだけど」

 

片岡と岡野が机を元に戻しながら話す

 

「シリアスな展開に加担したのが恥ずかしいのです。先生はどちらかというとギャグキャラなのに」

 

「「「「「自覚あるんだΣ!」」」」」

 

教室の後ろには似たような奴がもう1人

 

「ヤバい…ヤバい…」

 

「渚、黒羽君どうしちゃったの?」

 

「さぁ?さっきはあんなにカッコよく決めてたのに……」

 

渚と茅野が零士を見ながら話す

 

「零士君、どうしたの?そんなに怯えて」

 

「陽菜乃、俺どうしよう!教室の壁思いっきりブチ抜いちゃったんだけど!」

 

怯えてたのはそういうわけだった。一時はクロと話をするため、立ち直ったが再びナーバスになっていた

 

「そういえばさぁ、零士。こんな事言ってたよね」

 

カルマはボイスレコーダーを取り出し聞かせる

 

“スピードが売りの殺し屋“ゼロ”の一撃必殺の切り札を!”

 

「確かに、教室の壁を破壊するほどの素晴らしい一撃必殺だったねぇ」

 

「やめろΣ!それを早く消せ!」

 

「えー、どうしよっかなぁ」

 

零士とカルマの追いかけっこが始まった

 

「そういえば殺せんせー、カッコよく怒ってたね。“どこで手に入れたッ!”“その触手を!”」

 

狭間が追い打ちをかける

 

「いやあぁ、言わないで狭間さん!改めて自分で聞くと逃げ出したい!

先生、つかみ所のない天然キャラで売ってたのに、ああも真面目な顔を見せてはキャラが崩れる」

 

「……自分のキャラを計算してんのかよ。腹立つな」

 

木村が言う。ごもっともである

 

「…でも驚いたわ。あのイトナって子。まさか触手を出すなんてね」

 

ビッチ先生が真面目な顔で言う。そういえばこの人もシリアスなキャラ似合わない

 

「…ねぇ、殺せんせー。説明してよ」

「あの3人との関係を」

「先生の正体、いつも適当にはぐらかされてきたけど…」

「あんなの見たら聞かずにいられないぜ」

 

次々と言うE組の生徒達

 

「そうだよ、私達生徒だよ」

「先生の事、よく知る権利あるはずでしょ」

 

「…仕方ない。真実を話さなければいけませんねぇ。先生実は…」

 

全員が次の言葉を待つ

 

「実は先生…人口的に造り出された生物なんです!」

 

「だよな、で?その後だろ」

 

カルマから取り返すのを諦めた零士のドライな反応に殺せんせーは驚く

 

「にゅやッ!反応薄っ!これ結構衝撃告白じゃないですか?」

 

「…つってもなぁ。自然界にマッハ20のタコなんていないだろ」

「宇宙人でもないならそん位しか考えられない」

「で、あのイトナ君は弟だと言っていたから…」

「まぁ、先生の後に作られたんだろうな」

 

「(察しが良すぎる!恐ろしい子達です!)」

 

そこへ渚が前に出る

 

「零士君の言う通り、知りたいのはその先だよ、殺せんせー。どうしてさっき怒ったの?イトナ君の触手を見て。先生はどういう理由で生まれて来て、何を思ってここに来たの?」

 

その言葉を聞いてクラス中が沈黙する

 

「残念ですが今それを話した所で無意味です。先生が地球を爆破すれば皆さんが何を知ろうが全て塵になりますからねぇ」

 

!偶に忘れる時があった。俺達と殺せんせーは殺し屋と標的。殺らなきゃ殺られる

 

「逆に、もし君達が地球を救えば、君達はいくらでも真実を知る事が出来る。もう、分かるでしょう。知りたいなら行動は1つ」

 

「殺す、先生を」

 

零士が答える

 

「はい。暗殺者と暗殺対象。それが先生と君達を結びつけた絆のはずです。大事な答えを探すなら、君達は暗殺で聞くしかないのです」

 

そうして殺せんせーは質問がないのを確認しに、教室のドアから去って行った。…恥ずかしがりながら……

 

「おい、零士。どこ行くんだ」

 

「俺はまだ弱い。殺せんせーの命までは程遠い。だったらやる事は1つだろ」

 

その言葉にクラスみんなの心は1つになった

 

 

 

 

「烏間先生!」

 

「…君達か、どうした大人数で」

 

「俺らにもっと教えてください。暗殺の技術を」

 

「…?今以上にか?」

 

「今までさ、“結局、誰かが殺るんだろ”ってどっか他人事だったけど」

 

「ああ。今回のイトナを見てて思ったんだ。誰でもない()()()()()()()()()って」

 

磯貝、矢田、前原の順で話す

 

「もしも今後、他の殺し屋に先越されたら、俺ら、何の為に頑張ってきたのか分からなくなる」

 

「だから、限られた時間、殺れる限り殺りたいんです。私達の担任を」

 

三村、片岡の順で訴える

 

「殺して、自分達の手で答えを見つけたい」

 

そして再び、磯貝が話す

 

「(…意識が1つ変わったな。良い目だ)…分かった。では、希望者は放課後に追加で訓練を行う。より厳しくなるぞ」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

全員が声を揃えて返事をする

 

「では、零士君、優希君、少し手伝ってくれ」

 

「えっ…」「いいですけど…」

 

「では早速新設した垂直ロープ20m昇降。その後俺と零士君、優希君との連続組手、これらを1人3セット!始めッ!」

 

「「「「「死ぬわΣ!」」」」」

 

 

椚ヶ丘中学校3-Eは暗殺教室。雨も止み、校庭には生徒の元気な声(悲鳴)が響き渡る。そして…始業のベルは明日も鳴る

 





最後はどうしてもこんな終わらせ方…。E組のみなさんご愁傷様です

次回はオリジナル。苦手と言いつつ入れまくる。そんな作者をお許しください

感想やお気に入りなどお待ちしています。それこそ作者の原動力

ではまた次回


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球技大会の時間


またしても嘘つきました!

途中までオリジナルを書いたのですが駄文過ぎて人前に出せるものではなかったのでやめました。お詫びになるか分かりませんが今日3本目の投稿です

球技大会編が始動です。少しだけ原作と変わりますが基本は同じような感じかなぁ

では本編スタート!



 

 

 

 

ー優希sideー

 

「やっと梅雨明けだ~」

 

「アウトドアの季節ですな。どっか野外で遊ばねー?」

 

「うん、何しよっか」

 

優希に杉野、渚が話す

 

「じゃ、釣りとかどう?」

 

「いいね、今だと何が釣れるの?」

 

「ていうカルマって釣りするんだな」

 

そんな風に考えていた俺らはバカだった

 

「夏場はヤンキーとナンパが旬なんだ。渚君と女装した優希をエサにカツアゲとナンパを釣って逆にお金を巻き上げよう」

 

「…ヤンキーとナンパに旬とかあるんだ」

 

「あってるたまるか」

 

ズバ-ン スバ-ン

 

横を見ると本校舎の野球部が練習していた

 

「ナイスボールキャプテン!」

 

外からはファンの女子の声が聞こえる

 

するとそのキャプテンと呼ばれていたピッチャーがこちらをを見て話しかけてくる

 

「ん?何だ杉野じゃないか。久々だな」

 

「…おう」

 

「おお杉野~」

「何だよ、偶には顔だせよ~」

「はは、ちょっとバツ悪りーよ」

 

「来週の球技大会、投げるんだろ」

 

「お?そーいや決まってないけど投げたいな」

 

「楽しみにしてるぜ」

 

ここまではすごくいい雰囲気だ。アットホームな感じで。杉野は少し控えめだが

 

「…しかしいいよな、杉野は」

「E組だから毎日遊んでられるだろ?」

「俺ら勉強も部活もやんなきゃだからヘトヘトでさ」

 

「よせ、傷つくだろ。進学校での文武両道。選ばれた人間じゃないならしなくていいことなんだ」

 

何かすげぇムカつく

 

「へーえ、すごいね。まるで自分らが選ばれた人間みたいじゃん」

 

「うんッ、そうだよ」

 

!やっぱムカつく。これが…この学校のシステムか。聞いてはいたけどムカつくな

 

「気に入らないか?なら来週の球技大会で教えてやるよ。選ばれた人間とそうでない人間。この歳で開いてしまった大きな差をな」

 

「あっそ。じゃあお前ら負けたら全員謝罪な」

 

優希が我慢出来ずに言う

 

「お、おい!優希!」

 

「黙ってろ、友人。俺が話してんだ」

 

「何で俺らが謝罪なんだ?そういえば見ない顔だな、お前。転校生か?」

 

「ああ。俺は白河優希、以後お見知り置きを。そんで俺は無駄に偉そうな奴が大ッ嫌いでね。お前らと俺らの間の差?んなモンあるわけねぇだろ」

 

「あるよ。実際君達はE組だ。これだけで立派な差だ」

 

ホントッコイツ嫌いだ

 

「絶対に、テメェらを負かしてやるよ」

 

「やってみろ」

 

ー優希sideoutー

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

ー零士sideー

 

翌日

 

「クラス対抗球技大会…ですか。健康な心身をスポーツで養う。大いに結構!…ただ、トーナメント表にE組がないのはどうしてです?」

 

「E組は本戦には出れねぇんだよ。1チーム余るっていうとっても素敵な理由でな」

 

零士が肘をつきながら答える

 

「その代わり…大会のシメ、エキシビションに出ないといけない」

 

「エキシビション?」

 

「要するに見せ物さ。全校生徒が見てる前で男子は野球部、女子はバスケ部と戦らされんだ」

 

「なるほど、()()()()やつですか」

 

「そ。

でも心配しないで殺せんせー。暗殺で基礎体力ついてるし。良い試合して、全校生徒を盛り下げるよ。ねーみんな!」

 

「「「「「おーう!」」」」」

 

女子も張り切ってる

 

「お任せを片岡さん。ゴール率100%のボール射出器を作りました」

 

「律、お前は少し四角い……」

 

律も張り切っていたがそれは仕方ない。そんな事をしてる間に寺坂達はどこかへ行ってしまう

 

「野球となりゃ頼れんのは杉野だけど、何か勝つ秘策ねーの?」

 

「……。無理だよ。最低でも3年間野球してきたあいつらと…ほとんど未経験の俺ら。勝つどころか勝負にならねー。だけどさ…殺せんせー、()()()勝ちたいんだ!善戦じゃなくて勝ちたい!好きな野球で負けたくない。野球部追い出されてここに来て、余計にその思いが強くなった。…こいつらとチーム組んで勝ちたい!

…まぁでも無理かな殺せんせー」

 

杉野が殺せんせーを見るとやたらと“わくわく”している奴がいた

 

「おっ……おう。殺せんせーも野球したいのは分かった」

 

「ヌルフフフフ。先生、一度スポ根モノの熱血コーチをやりたかったんです。殴ったりは出来ないのでちゃぶ台返しで代用します」

 

「「「「「用意良すぎるだろΣ!」」」」」

 

「最近の君達は目的意識をはっきりと口にするようになりました。“殺りたい”、“勝ちたい”。どんな困難な目標に対しても揺るがずに。その心意気に応えて、殺監督が勝てる作戦とトレーニングを授けましょう!それに……先生以上に…張り切っている人もいるみたいですから…」

 

殺せんせーの目線の先には…メラメラと燃え上がる炎が見えるほど、やる気を出しているバカ(優希)

 

何であんなに殺る気出してんだよ……

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

球技大会当日

 

「零士君!頑張ってくるね!」

 

「おう、頑張れよ」

 

零士と倉橋、最近はより仲良くなったように見える。倉橋の想いが大きくなればなるほど、零士がいかに鈍感が際立っている

 

「ねぇ、はやみん。優希のところに行ってきたら?せっかく髪型も変えたんだし」

 

「うるさい、中村!別にイメチェンとかそんなんじゃない。ビッチ先生と被るのが嫌だっただけ。ていうかなんで白河なのよ!」

 

顔を真っ赤にしながら否定する速水とそれを弄り倒す中村。優希が来てから速水は全体的に不運が続いている

 

「ん?どうした、凛香ちゃん」

 

「ッ!し、白河…///!な、何よ」

 

「何よって言われても…お前が呼んだんじゃ……」

 

ここで優希が何かに気づく

 

「なぁ、凛香ちゃん。髪型変えた?」

 

「……///」

 

速水は無言で頷く

 

「やっぱそうだよな!俺、前の髪型も好きだったけど、今の髪型の方が好みかも。似合ってるぜ!」

 

それを聞いて速水はうつむいて、顔を更に赤くする

 

「……別に…似合ってるなんて言われても嬉しくないし…。でも…ありがと」

 

「素直じゃねぇなー。凛香ちゃん。まぁいいや。頑張ろうぜ、お互い」

 

「…うん…///」

 

優希は速水から離れて行く。優希は男子に速水は中村に弄られるがこれはまた別の話

 

{それでは最後に…E組対野球部選抜のエキシビションマッチを行います}

 

「へぇ、やたらと気合い入ってんな。いつもこんなんだっけ、杉野」

 

「野球部としちゃ、全校生徒に良いところ見せる機会だしな。それに俺ら相手じゃコールド勝ちで当たり前。最低でも圧勝が義務だから情け容赦なく本気で来るぜ。零士はあんまりバッティングの練習してなかったろ。大丈夫か?」

 

「ははは、さぁね。でも…」

 

零士は優希の方を見る

 

「あれがいるから大丈夫だ」

 

そして俺たちは整列をする

 

「学力と体力を備えたエリートだけが…人の上に立てる。それが文武両道だ、杉野。お前にはどちらもなかった選ばれざる者だ。そんな奴が表舞台に残っているのは許されない。二度と表を歩けない試合にきてやるよ」

 

進藤は次の優希の方を見る

 

「それと白河とか言ったか?この間の行為、後悔させてやるよ」

 

「やれるもんならやってみろ」

 

 

 

 

「そーいや、殺監督どこだ?指揮すんじゃねーのかよ」

 

「あそこだよ。烏間先生に目立つなって言われてるから。遠近法でボールに紛れてる。顔色とかでサイン出すんだって」

 

「…すげえな」

 

何やら殺せんせー、じゃなくて殺監督がサインを出した

 

「何だって?」

 

「えーと、①青緑→②紫→③黄土色だから…“殺す気で勝て”ってさ」

 

それを聞いて俺たちは表情が変わった。殺る気ならどこにだって負ける気はしねぇ!

 

「よっしゃ、殺るか!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 





またしても短い。それは勘弁

優希は負けず嫌いでそして仲間をバカにされたりするのが嫌いです。こうなった時はいつものギャグキャラなんてどっかに行ってしまい、ただの暑苦しい奴になります

後は少し、ほんの少しだけイチャイチャさせて、という感じです

では次回は球技大会にちゃんと突入です


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球技大会の時間 二時間目

遅くなって申し訳ありません。一応言い訳だけさせてください。…SAOの最新刊を読んでました

零士「言い訳になってねぇよ!あんた、バカか?バカなのか?」

すいません。それと…一度下書きが消えてしまって…

零士「それを先に言え!」

優希「他の作者様。くれぐれもこのバカと同じ様にはならないようにしてください。
では本編スタート!」



 

 

 

E組のスターティングメンバー

 

1番 サード 木村

2番 キャッチャー 渚

3番 ショート 磯貝

4番 ピッチャー 杉野

5番 センター 優希

6番 ライト 岡島

7番 セカンド 前原

8番 ファースト 菅谷

9番 レフト カルマ

 

 

{E組の攻撃。一番サード木村君}

 

「やだやだ。どアウェイで学校のスター相手に先頭打者かよ」

 

準備体操をしていた木村が次の打者の渚にぼやく

 

「おーい、正義!頑張れよ!」

 

1人、やたらと張り切っている優希が叫ぶ

 

「ま、アイツに言われちゃ、やるっきゃないでしょ」

 

 

「ヌルフフフ。さあ、味わせてやりましょう。殺意と触手に彩られた野球地獄を」

 

 

1球目、木村は見逃す。実況や観客もこれを見て、調子に乗る

 

ここで殺せんせーはサインを出す。それを見た木村は自分のやるべき行動を理解する

 

そして進藤が2球目を投げた

 

それを軽々バントする木村。彼の速ささえあれば余裕だろう

 

{セーフ!これは意外。E組がノーアウト一塁だ!}

 

その後も渚、磯貝と連続バントでノーアウト満塁

 

相手もその理由が見つからず困惑する

 

「優希、あいつら」

 

「ああ、目に見えて動揺してるな」

 

「まぁ、俺らは()()相手に練習してんだぜ」

 

 

俺たちはあの辛い記憶を思い出した

 

「殺投手は300kmの球を投げ!」

 

「打てねぇよ!」

 

零士はバットを振ろうが何しようが打てない

 

「殺内野手の分身は鉄壁の守備を敷き!」

 

木村がバントをして走るが殺内野手は余裕だ。打球処理の譲り合いをするほどに…

 

「殺捕手はささやき戦術で集中を乱す!」

 

何を言われたのか、三村は顔を赤くする

 

そして今打席にいるのは優希

 

「優希君、そういえば君、つい先日、速水さんにビンタされてましたね。何をしたんでしょうかw?」

 

カキ-ン

 

ささやき戦術は効かず、優希はかっ飛ばす

 

だがもっと気になることがある。それは…

 

「「「「「ビンタってお前は何をしたΣ!」」」」」

 

「まぁ、何でもいいじゃん」

 

よくねぇよ

 

「にゅやッ!ど、どうして…」

 

打たれて動揺する殺投手

 

「俺にはこの程度、普段から見てんだよ」

 

「ヌルフフフ、面白いですねぇ」

 

 

「先生のマッハ野球にも慣れた所で…次は対戦相手の研究です。この3日間、竹林君に偵察してきてもらいました」

 

「……面倒でした。

進藤の球速はMAX140.5km。持ち球はストレートとカーブのみ。練習試合もほぼストレートでした」

 

そりゃすげぇや。まだ中学生でその速さは

 

「あの豪速球なら…中学レベルじゃストレートだけで抑えられるのよ」

 

「そう。逆に言えば、ストレートさえ攻略できればこっちのもんです。

というわけでここからは先生が進藤君と同じフォームと球種で()()()()()()()()()()()()()投げます。さっきまでの球を見た後では彼の球など止まって見える。従って、バントだけなら充分なレベルで習得が可能です」

 

 

そして試合はノーアウト満塁。打席には我がチームのエースで4番、杉野

 

杉野は殺監督のサインを見た後、前の3人と同じようにバントの構えをする

 

「(な…何なんだコイツら?!こんな(チーム)と対戦した事ないぞ。まるで獲物を狙うような躊躇ない目。俺が今やってるのは…野球なのか?)」

 

進藤は杉野をビビらせるため、インハイめがけてボールを投げる

 

…いけ、杉野!俺たちが弱者だとしても、狙い澄ました一刺しで巨大な武力を仕留められる。それを証明してやれ!

 

杉野はバントの構えから打撃の構えに変える

 

カキ-ン

 

{打ったァーー!深々と外野を抜ける!

走者一掃のスリーベース!(な、何だよコレ。予定外だ)E組3点先制ー!}

 

このとき、このグラウンドで俺たちE組以外、今起きていることが信じられなかった

 

「(バカな…。何で俺の球がことごとく見切られてんだ。全校生徒に俺の力を見せつける場のはずだろ。選ばれた俺が何でこんな屈辱を…!?)」

 

「よぉ、スーパースター」

 

「!」

 

次の打者は……優希。E組の中で杉野と同じ、またはそれ以上に燃えている男。そいつがバットを持って打席に入る

 

「随分と調子、悪そうじゃねぇか。椚ヶ丘が誇るスーパースター。なぁ、神童(進藤)様。ご気分いかが?さぁ、殺り合おうぜ!」

 

優希の殺気のこもった挑発に進藤はやや怯えながらも乗る。“こいつだけはねじ伏せる”、そう心に誓いながら第1球を投げる。その球は真っ直ぐキャッチャーのミットに収まる

 

「(あれ?コイツ…バントもしてこないし、打ってもこない…。あの安い挑発もハッタリ?そうだ、そうに違いない)」

 

そう確信した進藤は2球目もミットに収める

 

 

 

 

「やー惜しかった!はやみんも何かすごく張り切ってたしねー」

 

「うっさい、中村!」

 

「何度か勝てるチャンスあったよね。次リベンジ!」

 

E組の女子が女子バスケ部との試合を終え、グラウンドの方へ向かう

 

「ゴメンなさい。私が足引っ張っちゃった」

 

「そんなことないって、茅野さん」

 

「女子バスのキャプテンのあの大きく揺れる胸元を見たら…怒りと殺意で目の前が真っ赤に染まって…」

 

「茅野っちのその巨乳に対する憎悪は何なのΣ!」

 

謎の証言をする茅野にツッコむ岡野。なぜ、茅野はこういうときだけ荒れるのだろう…

 

「黒羽、今どうなってる?」

 

「ん?おお、速水。ほらっ、見てみろよ」

 

「わぁ!3点勝ってる!すごい!」

 

倉橋がとても興奮した様子で話す

 

「次のバッターは優希だ。さて、どうするんだ?」

 

ベンチの零士も女子たちも優希の打席に集中する

 

しかし、僅か2球で追い込まれてしまう

 

「黒羽!白河の奴、大丈夫なの?」

 

「安心しろよ、速水。あいつが生きて来た世界はこんなもんじゃない。優希はスナイパーとして瞬きひとつ命取りな状況で生きてんだ。この程度、朝飯前だよ」

 

零士がそう言うのとほぼ同時、優希は進藤の球をカットする

 

 

「おーい、進藤。この程度か?もっと速く投げれんだろ。来いよ」

 

その後何球も投げ続けるが全てカットする優希。終いには、実況席ばかりを狙い、黙らせている

 

 

「すごい…何であんな簡単に…」

 

「あいつの経験。進藤じゃ、あいつは抑えられない。せめて300kmで際どい所つかねぇと」

 

 

「…いつまで粘るつもりだ?」

 

「さぁ、いつまでだろうね。でも俺はいつまでも出来るぜ」

 

「くッ!…くそォ!」

 

進藤の苛立ちがこもったボールはキャッチャーの構えた所ではなく、ストライクゾーンのど真ん中

 

「ばーか。ホームランボールだ、ぜッ!」

 

カキ-ンッ

 

先ほど以上の快音を響かせ、打球は綺麗な放物線を描きながらポールに当たった。わざとホームランだと分からせるかのように

 

{は、入ってしまったぁ!進藤君、どこか調子でも悪いのでしょうか?!}

 

優希は進藤に見せつけるかのようにゆっくりと塁を踏んでいき、ホームベースを踏んだと後、杉野とハイタッチをした

 

全く、このホームランまで10球ファールかよ…。性格悪いなぁ。普段はあんなにチャラいのに、マジになるとこんな事するんだよなぁ

 

「優希、ナイスバッティング」

 

「おう、ナイスベンチ」

 

…はァ?

 

「んだと、コラ!これは作戦だっつぅの!作戦さえなけりゃ俺はスタメンだ!」

 

「うっせぇぞ、ベ・ン・チ」

 

「テンメェ!」

 

「ちょっと!零士君!今は抑えて!」

「零士君、落ち着いて!」

 

渚と倉橋が宥めようとしたり、優希が余計に煽ったりなど、一時ベンチは大荒れになった

 

だが、それを止めたのは他ならぬ理事長の登場だった

 

()()()()()()()()()()()()()

 

!おぉ、何か俺もやる気になって来た…。一回の表からラスボス降臨。装備は全くの初期装備って感じかな?さて、どうやって勝とうか…

 

{…!今入った情報によりますと、野球部顧問の寺井先生は試合前から重病で…部員たちも心配で野球どころではなかったと…。それを見かねた理事長先生が急遽指揮を執られるそうです!}

 

観客が大歓声をあげる。理事長効果ハンパねぇ…。ていうかそんな見え見えの嘘になんで騙されんだよ

 

次のバッターは岡島。しかし…野球部は守備を全員内野に集めた前進守備

 

「(冗談じゃねぇ!こんな内野、バントじゃ抜けねーよ!どーすんだよ殺監督、サインくれ!)}

 

岡島のヘルプを感じとった殺監督はサインを出そうとする

 

①普通②少し冷や汗③……

 

ついに手で顔を覆ってしまった

 

「(打つ手なしかよΣ!)」

 

岡島も含め前原、菅谷と三者凡退。E組一回の攻撃は5得点で幕を閉じた

 

一回の裏。E組のマウンドには杉野が上がる。彼の投げた球は野球部ビックリの曲がり方で二者連続三振

 

「零士君、このまま行けば勝てそうだよ!」

 

「陽菜乃、世の中そう上手くはいかねぇよ。相手のベンチ見てみ」

 

「えっ……」

 

倉橋は零士に促され、野球部のベンチを見る。そこには進藤とその隣に座って何かを話す理事長

 

「あれはもはや洗脳だよ。マインドコントロール。あの人、ホント何でも出来るな」

 

3人目の打者は杉野の投げたストレートを真芯で捉えた

 

「やばっ!」

 

しかし…

 

「残念、アウトだな」

 

優希がフェンスをよじ登りキャッチ。あいつの勝利への執念ハンパねぇ

 

「ナイス、優希!」

「さすが!」

「助かったぜ!」

 

2回の表、E組の攻撃

 

先頭バッターはカルマ

 

「どうした?早く打席に入りなさい」

 

なぜか打席に入るのを渋るカルマ。あいつ…何するつもりだよ…

 

「ねーえ、これズルくない、理事長センセー?こんだけ邪魔な位置で守ってんのにさ、誰も注意しないの。一般生徒(おまえら)もおかしいと思わないの?あーそっかぁ。お前らバカだから、守備位置とか知らないんだね」

 

「小さい事でガタガタ言うな!」

「たかがエキシビションだろ!」

「文句あるならバットで結果出してみろよ!」

 

結局、この回俺らE組の攻撃は三者凡退

 

そして、2回の裏

 

マウンドに上がるのは……

 

{おっとぉ!E組のマウンドに上がったのはぁ、“落ちたエリート”黒羽零士だぁ!杉野はビビってライトに下がる。サッカー部では活躍していた黒羽。せめてストライクゾーンには投げてくれよ!}

 

「大丈夫なの、零士君。無理なら今からでも杉野に…」

 

「任せろよ、渚。あいつに言っちまったんだ」

 

 

練習中

 

『なぁ、零士」

 

『どうした、杉野。元気ねぇじゃん』

 

『俺ら、ホントに勝てんのかな?』

 

『大丈夫だろ。このバント作戦なら。それに優希はホームラン狙えるし』

 

『そうじゃなくてさ。俺が抑えられるかなって事。はじめは通用しても最後までは…』

 

『じゃあ…俺が一回投げてやるよ。そうすりゃ、見極められねぇだろ』

 

『は?お前投げられんの?』

 

『無理。だけど練習する。だから少し教えてくれ。困った時は気軽に相談しろよ。そのために、俺らがいるんだ』

 

 

そんなことを言って堂々と出て来た俺には秘策があった。イトナ相手にやった縮地術の応用“衝撃(インパクト)”。これを更に応用してボールを投げる。多分、何とかなる

 

次のバッターは進藤

 

「(やってやる。抑えて杉野を楽にしてやるんだ)」

 

俺はそう意気込んでボールを投げる

 

「…ストライク!」

 

観客がザワザワと騒ぎ出す

 

「す、すごい!零士君!」

「そうね。黒羽って何でも出来るのね」

「がんばれー、零士ー!」

「ファイトー、黒羽君!」

「頑張って、零士君!」

 

上から倉橋、速水、岡野、茅野、片岡の順に声援が聞こえる

 

「確かにすごいな、黒羽は。145km出てるよ」

 

「そうなの?!竹ちゃん!」

 

進藤を上回る豪速球。E組のみんなは“これはいける”。そう確信していた

 

そして零士はそれをあっさりと……裏切る

 

「ボール。フォアボール」

 

最初の一球以外、全くストライクが入らない。これで連続フォアボール。押し出しで今6点目。つまり、ノーヒットで逆転。未だ満塁。絶望的だ。当然、観客も荒れる

 

「勝負しろー!」

「このノーコン!」

 

観客がこう騒げば

 

「零士君のバカー!」

「ノーコン!」

「不器用!」

 

E組の女子はこう騒ぐ

 

タイムをとったE組はマウンドに集まる

 

「零士君、大丈夫?」

 

「はははっ、やっぱ制御難いなぁ」

 

俺は少し無理して笑う

 

「零士。俺のためなのは分かるけど…このままじゃ」

 

杉野が申し訳なさそうに言う

 

「だ、大丈夫だ!次、出したら変わるから!」

 

そう言うとみんなは守備位置に戻った。ようやく再開だ

 

ふぅ、やっぱきついな…。こうなったら…“オーバーロード”だ。コントロールは気にせずに渚の構えたところに真っ直ぐ投げる。これしかない!

 

「“オーバーロード”」

 

零士がボソッと呟く。目は両方赤くなった

 

「んじゃ、行くぜ!」

 

零士の球は全て渚の構えた所に行く。速さは145km前後を保ち続け、どれもミットに収まった

 

そして…

 

{な、なんと…黒羽が三者連続三振!}

 

俺はその後のバッターを連続三振。さっきまでのフォアボールが嘘のようだ

 

「ふぅ。これが俺の実力だぜ。これ、プロ狙えんじゃね?」

 

「「「「「無理だよΣ!」」」」」

 

当然全員にツッコまれた

 

「最終回か…。1点負けてる。杉野と優希だけが頼みだ。殺るぞ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

三回の表。E組の攻撃

 

理事長の洗脳を受けた進藤は圧倒的な力で磯貝、杉野をアウトにとる

 

次は頼みの優希。しかし…

 

「チッ。あの理事長。徹底してやがるな…」

 

まさかの敬遠。E組の多くは心が折れた

 

「(敬遠は彼らにとっては辛い選択かもしれない。でも時にはこういうやり方も必要だ。悪く思わないでくれ、白河君)」

 

理事長は不敵に笑う

 

「次は俺か……。ナメやがって!」

 

俺はバットを持って打席に行く。しかし2球投げられて、1球もバットに当たらない

 

やべぇ。ピッチングだけしか練習してねぇ!

 

「潰してやる!」

 

進藤の殺気は凄まじい。俺に…打てるのか…

 

「零士君!打って!」

 

陽菜乃?

 

陽菜乃の方を見ると腕をグッとやっていた。ありゃ、打たねぇわけにはいかねぇな。元は俺が取られた点。俺が取らなきゃ誰が取る!

 

「さぁ、来い!」

 

相手は殺気(ボール)放って(投げて)来る。殺ら(打た)なきゃ殺られる!

 

「潰してやる!」

 

進藤の殺気のこもったボール。俺はその殺気(ボール)に向かってナイフ(バット)を振る

 

カキ-ン

 

零士の打った打球は鮮やかな放物線を描き、越えていく

 

{は、入ってしまったー!E組の黒羽、ホームランだ!}

 

「…おっしゃっ!」

 

E組ベンチも大盛り上がり。ツーランホームランで逆転。後は最終回を抑えるだけ。俺はライト、杉野がマウンドに向かい、三回の裏

 

{あーっとバント!今度はE組が地獄を見る番だ!

野球部、バント地獄のお返しだ!同じ小技なら遥かに上!そしてE組、守備の方はザル以下!楽々セーフ!E組よ、バントとはこうやるんだ!}

 

「おーい、優希。これまずくね?」

 

「だな。相手には“手本を見せる”っていう大義名分がある。こりゃ、やべぇよ」

 

俺と優希の身体能力がどんなに高くても飛んでこないんじゃ何も出来ない。それに内野に行ったら今度は長打。絶望的だ

 

{あっという間にノーアウト満塁だー!一回の表のE組と全く同じ!最大の違いは!ここで迎えるバッターは…我が校が誇るスーパースター、進藤君だ!}

 

ヤベェ、こりゃホントにヤベエぞ、杉野!俺らの考えた作戦もほとんど通じねぇ。どうすりゃ…

 

そのとき、カルマが近づいてきた

 

「零士、監督から指令~~」

 

零士はカルマからその指令を聞く

 

ははっ、やっぱ頭オカシイよウチの先生

 

「…面白そうじゃん」

 

そういう俺も楽しんでるけどな

 

「優希、悪いけどそこで外野全部カバーして。これも指令ね」

 

「嘘だろ…。マジかよ…」

 

{こ、この前進守備は!}

 

「明らかに集中乱してるけどさ、そっちがやった時、何も言わなかったし、文句ないよね」

 

「ご自由に。選ばれた者は守備位置で心を乱さない」

 

理事長、アンタ甘いよ

 

「へー、言ったな。俺らは勝つためにどんな手段でもやるよ」

 

{ちっ、近い!前進どころかゼロ距離守備!}

 

残念だけど、ゼロ距離は俺の得意分野。この距離で負ける気はしねぇよ

 

「(はは。悪いな進藤。こんな守備じゃどんな集中でも冷めちゃうよな)」

 

やはりスポーツマン。杉野は進藤に同情する

 

「気にせず打てよ、スーパースター。ピッチャーの球は邪魔しないから」

 

「なんなら俺らの骨、砕いても構わねぇよ。やれるもんならやってみろ、だけどな」

 

杉野の1球目、進藤は俺らをビビらせるため、大きくバットを振る。しかし、ほとんど動かずかわす

 

「(マッハ20の私への暗殺で鍛えられた動体視力!零士君はその距離こそが本来のステージ。カルマ君も彼に次ぐ程。バットをかわすだけなら練習なしで出来ます)」

 

殺せんせーがねりねりしながら考える。なんかすげぇムカつくけど

 

「おっそ。遅すぎるぜ、そのスイング。そんなんじゃ…俺らのこと、()()()()()

 

この時点で、進藤は理事長の戦略についていけなくなった。試合を見ている全員が野球の形をした異常な光景に呑まれていた

 

「う、うわあぁっ…」

 

{腰が引けたスイングだぁ!}

 

よし、いける!

 

「任せろ、カルマ!」

 

「オーケイ」

 

俺は空中でボールを掴み、渚に向かって投げる

 

「渚!」

 

「う、うん!」

 

「サードランナーアウトだよ。渚君、次は三塁!」

 

カルマが指示を出し、渚はそれに従う。ランナーは油断して、走れてない。反らさなきゃ余裕だ

 

「セカンドランナーアウト!木村、次は一塁。焦るな!進藤は走ってないからな」

 

杉野がよく通る声で指示を出し、木村はそれを一塁に投げる。何度もバウンドしたが菅谷はしっかりキャッチ

 

「バッターランナーアウト…。…ト、トリプルプレー…」

 

トリプルプレーに驚く観客と審判

 

{ゲ…ゲームセット…!…なんと…なんと…E組が野球部に勝手しまった!]

 

 

「キャー、やった!」

「男子すげぇ!」

「やったね、零士君!」

 

「おう、ありがとよ陽菜乃」

 

負けたことへのショックか、それとも極度の集中状態からの解放によるものか倒れこむ

 

「進藤。ゴメンな、はちゃめちゃな野球やっちまって。でも分かってるよ。野球じゃ俺はお前に劣ってる。これで勝ったとは思ってねーよ」

 

「…だったら……何でここまでして勝ちに来た?俺よりも強いと言いたかったんじゃないのか?」

 

それを聞いて杉野は頭をかいて、少し考える

 

「渚は俺の変化球練習にいつも付き合ってくれたし。零士とカルマの反射神経とか凄いだろ。それに零士のピッチング荒れてたけど最後とかさ」

 

「…ああ。あれはすごかった。あいつ、サッカー以外も出来たんだな」

 

「俺もあいつの才能には驚いたよ。それにみんなのバントとか、すごかったろ」

 

杉野は一度ここで言葉を切る

 

「でも結果出さなきゃそれは伝わらない。…まぁ要はさ、自慢したかったんだ。今の仲間をお前らに。それに、優希。俺のために怒ってくれたアイツの気持ちにも応えたかった」

 

「確かに、アイツもすごかった」

 

そこへ噂のあいつがやって来る

 

「よっ、進藤」

 

「えっと…白河優希だったか?」

 

「そう、合ってるよ。悪かったな、色々と」

 

「それ、杉野にも言われたよ。

そういえばお前、野球出来んじゃねぇか。やったことあったのか?」

 

「ねぇよ。だけど今日やって、悪くねぇと思った。だからさ、今度教えてくれよ、野球。またやろうぜ」

 

「おう」

 

進藤は優希との話を止めて、杉野の方を向く

 

「覚えとけ、次やるときは負けねぇ。そして高校でもやりあおうぜ」

 

「おうよ!」

 

 

「地球があればだけどな」

「だな」

 

進藤から離れた2人はそう話していた

 

その後、明日、打ち上げをやることが決定した。これが優希に悲劇をもたらすことをまだ、誰も知らない

 




これ打順大丈夫か?と思うと思いますが、お許しください。E組の打順は考えたのですが、野球部の方は考えてなかったのです

そして今回7671文字。長くなり過ぎました!2つに分ければよかった。本当に申し訳ありません!

次は打ち上げ。早めに更新出来るよう頑張ります


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打ち上げの時間

前半は打ち上げ、後半はシリアスでいきます。ここから鷹岡まで暗めの話が続きますが、どうかお付き合いください

では本編スタート!



 

「おーい、優希。準備はまだか?」

 

「いやーどの飴を持ってくか迷っちゃって…。それ以外は大丈夫なんだけど……」

 

終わってんじゃん、それ。ていうか飴とかどうでもいいだろ。と言いたいけど言えない。アイツは銃の手入れと飴選びに相当なこだわりを持っている。それを邪魔しようものなら容赦しないだろう

 

というわけで零士は優希が飴を選ぶのにかかった30分間、待ち続けた

 

その結果……

 

「遅いよ、零士君、優希君!みんな待ちくたびれてるよ!」

 

片岡を中心とした女子に怒られた。俺の味方をしてくれる事の多い陽菜乃も今回ばかりはそうはいかない。同情の余地がないほど、俺らは盛大に遅れていたからだ

 

「まぁまぁ、メグちゃん。そんなに怒るなよ。可愛い顔が台無しだぜ」

 

しかも元凶の優希が油を注ぎ続けているため、一向に怒りが治ることはない。そしてその怒りは全て俺に向かって来る

 

「零士君!優希君のことちゃんと見てないとダメじゃない!」

「そうだよ!アイツがマイペースなのは分かってるでしょ!」

 

「…はい。すいません」

 

殺し屋がクラスメイトに言い訳も許されず、怒られるという状況。俺は時々、自分がプロであることを忘れる

 

「メグちゃん、ひなたちゃん。そろそろ行こうよ。それに予約の時間まで過ぎたわけじゃないんだから」

 

ここでようやく倉橋から助け舟が出される。零士は内心“少し遅い!”と思ったが、ここは抑える

 

「よしっ、じゃあ行こっか!」

 

そうしてやって来たのは大型のカラオケ店。俺は優希の顔が少し青白くなっているのを無視しながら店に入る

 

どうやら女子たちが大人数でも入れるパーティールームを予約していたらしく、そこに全員入る

 

ちなみに今回のメンバーは寺坂組を除いた総勢26人(律は携帯越しの参加)。みんな仲の良い奴と固まって座っていた。

 

俺の場合は右隣に優希、左隣が陽斗だ。優希の横にはカルマ、陽斗の横は悠馬となっていてみな仲が良い

 

「食べ物、飲み物、先頼もうぜ。その方がいいだろ」

 

零士がそう言うと、みんながそれぞれ好きな物を言い始める

 

「ストップ!いっぺんに言われても分かるかΣ!」

 

「じゃあさー、飲み物は最初、零士のチョイスでいいんじゃない?みんなが出来るだけ好きなやつを何種類かって感じでさ」

 

意外にもカルマが提案する

 

「まぁ、どうせ零士にはタバスコとか色々入れるから関係ないけどね」

 

「ふざけんなΣ!」

 

ブレないカルマ。飲み物はずっと自分で持ってねぇと

 

「じゃあ食べ物も量のあるやつを何個かって感じでいいか?ピザとかポテトとかさ」

 

「いいよ」

「じゃあ頼む」

「零士のチョイス、期待してるよ」

 

みんな好き勝手言う。何で注文でセンスを問われるんだよ…

 

零士が注文し終えた所で中村が立ち上がって話す。司会的な役割なのだろう

 

「えっと、まずはみんな球技大会お疲れさまー!じゃあ男女それぞれよく頑張った!って事で今日は盛り上がっていこー!」

 

この司会中村の挨拶により球技大会の打ち上げがスタートした

 

最初に歌ったのは陽菜乃と桃花。女性2人組ユニットの曲だ。これは確か、この前見た音楽番組でも歌ってたな

 

次は悠馬。歌ってるアーティストもイケメンな曲だけどコイツもそれに負けず劣らずイケメンだ

 

そして悠馬が歌い終わったタイミングで飲み物が来る

 

「へぇ、零士意外といいチョイスじゃん」

「零士にしてはまあまあだな」

「黒羽君、そっちの飲み物とって」

「俺はそのコーラ」

「私はカルピス!」

「俺はそういう係じゃねぇΣ!」

 

なんて事もあったが無事に行き渡った

 

聞いていた感じ、渚やカルマ、茅野が上手い。それに続いて悠馬に陽斗って感じかな?

 

「よしっ、次は俺だな!」

 

「零士君頑張れ~」

「待ってました!」

 

「あっ、俺ちょっとトイレ行ってくる」

 

このタイミングで優希がトイレのために退席する

 

零士がチョイスしたのはこれもかなり有名な曲。前奏が始まり、零士への期待が高まる

 

だが、それを簡単に裏切ってくるのが零士である

 

次の瞬間、パーティールームで謎の怪奇現象(騒音)が起こった

 

「ふぅ、歌ったぁ~。俺もトイレ行ってくるわ」

 

そして、ことの張本人はトイレのため退室する。それと入れ替わる様に優希が戻ってくる

 

「ただいまーってやっぱりか。この死体…どうするか…」

 

優希の目の前には耳を抑えながら倒れている死体(クラスメイト)の姿が

 

「「「「「殺すなΣ!」」」」」

 

「優希…テメェ……逃げやがったな!」

 

「ゔゔっ……耳が………」

 

「あんなの聞いたら俺死ぬよ。耳いいんだから。それに絶対音感を持つ者としてあれは聞きたくない」

 

優希はこうなることを予想していて退室していた

 

「いいか?もうあいつに歌わせんなよ。死人が出るぞ」

 

優希は普段からは考えられないぐらい真面目な顔で言う

 

「ただいまー。おっ、誰も歌わねぇのか?じゃあ俺もう一回歌うな」

 

そこへ零士が戻って来る

 

「「「「「!(し、死ぬ!)」」」」」

 

優希は再び席を立つ

 

「お、俺ー、もう一回トイレに行ってくるー」

 

しかし、それは叶わない。なぜなら優希の肩を零士が掴んだからだ

 

「一回ぐらい、俺の歌、聞いてけよ、な!」

 

それを見たみんなは静かに部屋を出て、トイレに向かった。そしてみながドアの前で合掌をしたという

 

E組は思った。零士にマイクを持たせてはいけないと

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「よしっ!最後はじゃあ優希、締めてよ!」

 

何だかんだ言って上手かった優希が最後に歌った。あまり元気がなかったが

 

歌い終わったところで丁度時間になり俺たちは店を後にする

 

「みんな、また明後日ね!」

「おう!じゃあな!」

「明日、ちょっと訓練しない?」

「ん?いいぜ。じゃあ10時な」

 

そんな感じで最後は解散。優希は“Assassin’s cafe”に行くらしく、俺は1人で家に帰る

 

「ん?手紙?珍しいな」

 

ポストには黒い手紙が入っていた。俺はそれを持って部屋に入る

 

「黒い手紙ねぇ。あんまり気分はよくねぇな」

 

俺は少し君悪がりながらも開けてみる

 

そこには外側だけでなく中身の紙さえも黒で文字は白で書かれていた

 

【黒羽零士君へ

ずっと、好きでした。初めて会った時からずっと好きでした。私があなたのことを忘れたことは1日たりともありません】

 

んだよコレ?ラブレターか?そらにしては文章が少し変な気がする

 

零士は自慢じゃないがA組時代からモテていて、この手の類は何度ももらったことがあるのだ

 

【あなたの全てが愛しい。私はこんなに愛しているのに…どうしてあなたは私を愛してくれないの?】

 

何かヤベェぞコイツ…

 

【あなたに…誰かを愛する資格なんてあるはずないのに。誰かに愛される資格もあるわけがないのに】

 

このセリフ…どこかで聞いたことがある。思い出したくない…俺の負の記憶…。それの奥底から聞こえてくる

 

零士の脈が段々と早くなる

 

【あなたは陽の当たる場所にいていい存在じゃないの。陽の当たらない真っ暗なところで血の海に浸かりながらたった1人で生きるべき存在なの】

 

やめろ…やめろ!

 

零士の左眼が赤みを帯びてくる。しかし、零士は“オーバーロード”を使っていない

 

【その手は誰かの手を握るためのものじゃない。血塗れのその手は、全てを突き放し、拒絶し、触れた者の命を奪う。あなたが触れた者の中に幸せになれた者なんて1人もいない】

 

零士の頭にはかって愛して守り抜くと決めたにも関わらず、逆に命を助けられた最愛の恋人の顔が浮かぶ

 

【“オーバーロード”、あなたはその力をどうして使わないの?弱者であるあなたが強者を殺すために必要でしょ。あなたも分かっているはず。“オーバーロード”の真の力はこんなものじゃない。力に身を任せない。そうすれば…あなたはもっと強くなれる。仲間なんて元からいないんだから…いいじゃない。力に溺れなさい。あなたはそうやって生きて来たのだから】

 

うるさい!うるさい!うるさい!黙れ!黙れ!黙れ!

 

【早く、私のことを殺してよ。8年前、その手で両親を葬ったときのように。もう一度、私を殺してよ、零士。あなたはそのために生まれたのだから】

 

「ーーーーーーーーーーッ!」

 

零士は声にならないような声で叫んだ。左眼は既に染まり切っており、右眼も普段の鮮やかな赤とは違う深紅色になっていた。

 

「なんナンだよ!どうシてテメェが…」

 

言葉にも殺気が混ざっており、時々カタコトになる

 

「あンタは…オレがコロシタはずダロ!ナノにどうシテ!シンデもオレをシバリつづけンだ!」

 

そのとき、扉が開く音がした。優希が帰って来たのだ。零士が部屋の中で暴れ回っているので当然気づく

 

「おい零士!どうした……ってその目!えっと.まずはほらっ、飴舐めろ!」

 

優希は自分の持っていた飴を零士に食べさせる

 

「ッ!はぁはぁッ!サンキュー、優希…。助かった……」

 

「何があったんだ?」

 

「…何でもねぇよ。お前には関係「何でだよ!俺はお前の相棒だろ!なのに…お前のこと、俺何にも知らねぇんだよ!」」

 

優希は訴え続ける

 

「俺も人のこと言えねぇけどさ、それでも少しは話したろ。俺は…お前とメアリちゃんのことぐらいしかお前の過去を知らねぇんだよ!前にも一回なってたけど…そん時は師匠が何とかしてて。もう少し俺を信用しろよ!」

 

もうすっかり眼の色は戻っていたがその眼から殺気が消える様子はない

 

「信用はしてるさ。俺が背中を預けられんのはお前ぐらいだ。いくらE組のみんなでもそれはだけは無理だ。でも、ゴメン。過去だけはまだ…」

 

「…分かったよ。でもそん時はお互い、全部吐き出すぞ」

 

「ああ、わかったよ」

 




零士の元に届いた謎の手紙。これが意味することとは一体。この文面を見る限り、彼にはまだ多くの闇を抱えているようです

そんな彼の次の相手はあの防衛省から来た新任教師。彼とはどんな関わりを見せるのか


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訓練の時間


鷹岡登場!あの人嫌い…。嫌い、嫌い、大嫌い。だからこそ、ここでもうんと嫌われ役になってもらいます

原作とは違い、彼には1日長くいてもらいます。今日は1日目

では本編スタート!



 

 

 

 

『この()()()が!』

 

『別にいいよ、それでも。だってそれ、強いんでしょ』

 

少年はカッターナイフを男性の首に当て勢いよく横に移動させる

 

『うわあぁァァァァっ!』

 

少年の手には血塗れのカッターナイフ。足元には首を切られた男性

 

 

『こ、この()()()!』

 

『だから…それ、最高の褒め言葉だよ』

 

包丁を持つ右手を大きく後ろに引き、女性に向かって突き出した

 

『い、いやあぁァァァァっ!』

 

少年の目の前には胸に包丁の刺さった女性

 

 

目の前には燃え盛る家。それは少年の家だ。彼はそれを見て笑っていた

 

『ハハハハハハハハハッ!最っ高の気分だ!』

 

少年は狂ったかのように笑い続ける

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「ッ!はぁはぁっ。んだよこの夢…」

 

零士はいきなりベットから飛び起きる

 

「…どうした、零士。また何か夢でも見たのか?」

 

「ああ。また…人を殺した夢だよ。これ禁断症状でも出てんのかね?」

 

零士があまりジョークにならないことを言う

 

「んまぁ、お前は今まで結構なペースで殺ってたからな。最近は殺せんせーだけだもんな」

 

「人を殺さな過ぎて魘されるって…普通じゃありえないな…」

 

2人はそこから準備を始め、学校へ向かう

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

ー烏間先生sideー

 

「視線を切らすな! 次にターゲットがどう動くか予測しろ! 全員が予測すればそれだけ成功の確率が上がる!」

 

〈暗殺訓練の中間報告〉

 

ー4ヶ月目に入るにあたり…“可能性”がある生徒が増えてきた

磯貝悠馬と前原陽斗。運動神経が良く、仲も良い2人のコンビネーション。それに零士君から直接ナイフ術を教わっている生徒だ。おかげで飛躍的に実力をつけている

 

そして、2人が烏間先生にナイフを当てた

 

「良! 2人それぞれ加点1点!次ッ!」

 

ー赤羽カルマ。一見のらりくらりとしているが…その目には強い悪戯心が宿っている

 

ー女子は体操部出身で意表のついた動きが出来る岡野ひなたと男子並みの体格と運動量を持つ片岡メグ。最初は2人と比べて劣っていた倉橋陽菜乃は最近では戦い方が零士君そっくりになってきた。3人とも零士君の指導を受けている

 

ーそして…

 

「さぁ、烏間先生。やりましょうか」

 

「ああ。かかって来い!」

 

ー黒羽零士。最初の頃は中々クセの強い生徒だとは思ったが殺し屋としての腕は一流だ

 

「 ここだ!“衝撃(インパクト)”!」

 

俺はそれを当ててこないと分かっていながら大きく避けてしまう

 

「…ッ! しまった!」

 

零士君は俺にナイフを当てる

 

「へへっ、今日は俺の勝ちですね」

 

ー今までの経験の中で身に付けて来たスキルを駆使して殺って来る。単独での暗殺で最も奴を追い詰めたこともあり期待できる

 

「んじゃ、俺ですね次は!」

 

ー白河優希。普段は俺でさえ少しふざけた奴だと思うときさえある。だが一度スイッチが入るとその変わり様は凄まじい。零士君が一点特化型なら彼は万能型。それも器用貧乏にならずどれも一流。しかし…

 

「とりゃっ! せいっ!」

 

ー近接暗殺だけはどうも苦手そうだ。スナイパーとしての援護射撃に期待したい

 

「そして殺せんせー。彼こそ正に、俺の理想の教師像だ。あんな人格者を殺すなんてとんでもない!」

 

「人の思考を捏造するな。失せろ標的(ターゲット)

 

ー寺坂竜馬、吉田大成、村松拓哉の悪ガキ3人組。こちらは未だに訓練に対して積極性を欠く。体格だけは良いだけに…彼らが本気を出せば大きな戦力になるだろう

 

烏間先生は前の人との組手を終え、次の相手とのを始める

 

ー一部生徒は零士君や優希君との訓練の甲斐もあり己の個性をより伸ばした戦術も生まれてきている。全体を見れば生徒達の暗殺能力は格段に向上している。この他に目立った生徒はいないものの…

 

その時、烏間先生は何かぬるりとしたような、蛇のようなもの狙われているかのような錯覚に陥った。そして思わずその生徒を強く防ぎ過ぎてしまう

 

「…! すまん。強く防ぎ過ぎた。立てるか?」

 

「あ、へ、へーきです」

 

ー…潮田渚。小柄上に多少はすばしっこいがそれ以外に特筆すべき身体能力は無い温和な生徒。零士君達の訓練を受けているものの彼らからこれといった報告も受けていない。…気のせいか?今感じた得体の知れない気配は。その内2人にも聞いておこう

 

ー烏間先生sideoutー

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

ー零士sideー

 

「それまで! 今日の体育は終了!」

 

「「「「「ありがとーございましたー!」」」」」

 

訓練が終わった。みんなはグラウンドに残り零士や優希と共に反省会

 

「いやーしかし当たらん!」

 

「スキなさ過ぎだぜ、烏間先生!」

 

「そうか?正義も岡島もその気になればやれると思うぜ。俺だって当てられるんだし」

 

「「お前と一緒にするなΣ!」」

 

木村と岡島が一斉にツッコむ。零士はその理由にイマイチ気づいていない

 

「せんせー! 放課後、街でみんなでお茶してこーよ!」

 

倉橋が明るい声で烏間先生を誘う

 

「…ああ。誘いは嬉しいが、この後防衛省からの連絡待ちでな」

 

そんな倉橋の誘いも烏間先生は真面目に断る

 

「…私生活でもスキがねーな」

 

「…っていうより…私たちとの間に壁っていうか、一定の距離を保っているような」

 

「厳しいけど優しくて、私たちのこと大切にしてくれてるけど。てそれってやっぱり…ただ任務だからなのかな?」

 

矢田と倉橋が少し残念そうに続ける

 

「そんな事ありません。確かに彼は先生の暗殺のために送り込まれた工作員ですが、彼にも素晴らしい教師の血が流れていますよ」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「悪い、ちょっと俺ら烏間先生んとこ行ってくるよ。これからのプランを相談して来る」

 

零士と優希が職員室に向かう

 

「なぁ、零士。渚のことどう思う?」

 

「…すごいよあいつは。多分…磨けば俺もお前も敵わない。何で…俺らじゃなくてあいつなんだ、って思ったよ」

 

「嫉妬か?」

 

「……まぁそうかな?」

 

職員室の扉の前に2人は来た

 

入ろうとしたそのとき、扉が開き、小太りの男が出てきた

 

「やっ、俺の名前は鷹岡明。明日からここで働くことになった。よろしく、“ゼロ”、“ブレット”」

 

…コイツ、俺らのことを知ってる?

 

「どうした?俺の顔に何かついてるか?」

 

優希が黙ってこの男を見ている。ってことは観察してるんだよな。じゃあ、俺のやることは決まってる

 

「いえ、何も。ここで働くってことは…防衛省の方ですか?」

 

その質問に答えたのは鷹岡先生ではなく、烏間先生だった

 

「ああ。彼は俺の同期でな。教官としては俺よりも優秀だ。明日からの訓練は彼に一任することになった」

 

「どうした?不満そうな顔だな。安心しろ、“ゼロ”。邪魔さえしなかったらお前の居場所は取らないさ。それに……お前が本当はさつじ「やめろ!」…」

 

零士が急に大声を出す

 

「鷹岡先生、アンタどこまで知ってやがる!」

 

「どこまでって…全部さ。お前の最初の殺しから最後まで。生い立ちも学校での様子も。もちろん、“ブレット”、お前もな。おっと、勘違いすんなよ。俺はお前のことを評価してるんだ。きっと暗殺もお前なら成功できると思ってるさ」

 

そう言うと鷹岡先生は職員室から出た

 

「烏間先生。いいんですか?俺らの訓練、あれに取られて」

 

優希が烏間先生の目を見て聞く

 

「あいつの方が教官としては上だ。それに上からの指示だ。仕方ない」

 

「そうですか。では俺らはここら辺で」

 

結局2人は本来の目的を果たすことなく家に帰った

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「なぁ、優希。鷹岡って男、どう感じた?」

 

「…あの男、上っ面だけだ。見てていい気分はしない。ああいう奴は危険だ。それに俺らの過去を知ってるみたいだしな」

 

「だな。舞に頼んでみるか」

 

零士は携帯で舞にかけるが出ない。仕方なく龍牙にかける

 

{よう、どうしたレイ}

 

「龍さん、舞に頼みたいことがあるんだけど…」

 

{悪いな。アイツ、明日の朝まで他のバイトなんだ。戻って来たらですぐやらせるから。何だ、伝えるぜ}

 

「防衛省の鷹岡明、コイツを調べてくれ」

 

{…分かった。言っておくよ。じゃあ「待ってくれ」 どうした?}

 

「俺さ、ココにいていいのかな?アイツらに俺は何も話してない。それに…俺、殺し屋だしさ」

 

零士は少し弱気な声で言う

 

{いいんじゃねーか?お前は昔から…同い年の奴らと何かするなんてなかっただろ。中学最後の一年位、楽しめよ}

 

「そっか、ありがとな。じゃあ、鷹岡の件、頼むよ」

 

零士はそこで電話を切った

 

「どーだった?」

 

「ん?舞のやつ、今いないんだってよ。まぁ明日朝一番でやってくれるってよ」

 

「そっか。それにしても何か、清々しい顔してるな」

 

「そうか?まぁ少しはそうかな?」

 

「明日、何かあったら俺らで何とかしようぜ」

 

「おう」

 

 

別にいいよな。みんなに俺の過去を話してなくても。俺がどんな過去を抱えてようとみんなは受け入れてくれるよな。 俺が“黒羽零士”として生きる最後の一年、3月まで、楽しみたい。このクラスでたくさんの思い出を作りたいな

 

卒業したら“ゼロ”として生きて、自分の生きたいように生きる。そうやって、死んだら…メアリ、お前にもう一度会いたいな

 





零士のささやかな願いは叶うのか?

次回、鷹岡回2日目、では、また次回


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無力の時間


今回は少し短め。零士と優希は鷹岡の策略に嵌る?そんな話です

ヤバイ…前書きに書くことなくなってきた…

では本編スタート!



 

 

 

 

今日は、鷹岡先生が授業をやる初日

 

零士と優希は遅刻して来た

 

「あれ?まだ訓練の時間じゃねぇよな」

 

目の前にはスクワットをし続けるE組のみんなの姿があった

 

「ああ。この時間は違うはずだぜ」

 

するとそこへ鷹岡先生がやって来る

 

「遅かったじゃないか、“ゼロ”、“ブレット”、父ちゃん心配したぞ」

 

!父ちゃん?

 

「コードネームで呼ぶんじゃねぇよ。それと何でテメェが父親なんだよ」

 

「そりゃそうだろ。同じ教室にいるんだ、家族みたいなもんだろ、俺たち」

 

「ははは、ふざけんなよ。テメェのどこが父親なんだよ、この“異常者”」

 

「へぇ。“殺人鬼”のお前が言うのか」

 

すると優希が愛用の銃を向ける

 

「アンタ、言っていいことと悪いことがあるんじゃねぇか?」

 

「まあいい。ほらっ、お前らも訓練に早く合流しろ」

 

一応、コイツも俺らの雇い主だ。仕方ないな…

 

「りょーかい。荷物置いて着替えて来る」

 

零士と優希は教室に向かう

 

「おい、優希。お前、どうする?」

 

「さぁね。俺もお前もあの程度の訓練なら出来るけど…」

 

窓の外にはもう既にボロボロのみんながいた。途中で諦めようとした生徒でさえ鷹岡に睨まれ、それも出来ない

 

「あれじゃあ…みんな壊れちまうよ」

 

「……先行っててくれ。烏間先生んとこ行って来る」

 

零士は一言そう言って職員室に向かう

 

「烏間さん! どういうことだよ。何なんだアイツは!」

 

零士が烏間先生を“烏間さん”と呼ぶとき。それは殺し屋“ゼロ”として話すときだ

 

「どうした零士君。鷹岡の奴が君と優希君が遅刻していると言っていたぞ」

 

とはいえ、烏間先生は区別はつけていないが

 

「んなことどーだっていいだろ。舞に今朝調べてもらって分かった。このままじゃみんなが壊れる! 今すぐやめさせろ!」

 

「上の決めたことだ。俺にはどうすることも出来ない」

 

「それでも教師かよ。俺が最初に暗殺しようとした時は、力尽くで止めて、教師の鏡だと思ったんだけどな。見損なったよ」

 

「見損なってもらって構わない。これが俺の仕事だ」

 

「ッ!んな事聞いてねぇよ! アンタはどうなんだよ! 烏間惟臣はどう考えてんだよ!」

 

その時、外から零士を呼ぶ声が聞こえた

 

「チッ…。もういいわ。俺行ってきます」

 

「遅かったじゃないか。ほらっ、このメニューだ」

 

!何だよこのメニュー。ただ厳しいだけかと思ってた。だけど…こんなの他の奴らがやったらホントにぶっ壊れるぞ

 

「どうした、やらないのか?」

 

「チッ…やるよ」

 

俺は優希の隣に並び、メニューを始める

 

俺が来てからも他のみんなは次々の音を上げた。しかし鷹岡はその生徒の前で脅し、それをさせない

 

「おい、優希。どうするんだよ。俺らでやめさせんだろ」

 

「分かってる。だけどここまでとは思ってなかった」

 

その時、倉橋がついにやめてしまう

 

「もうダメ…。やめたいよ…辛いよ…」

 

ッ! 陽菜乃…

 

「おい、どうした?もう終わったのか?それとも終わってないのにやめようとしてるのか?」

 

「…ッ! えっ…えっと……」

 

「ちゃんと教えてやらないとダメみたいだな」

 

鷹岡が倉橋に向かって拳を振るう。だが、その拳が当たることはなかった

 

「いい加減にしろよ。睨みつけんのは訓練の範囲内に収まるけど暴力は別だ。それはもう教育の域を越えてる」

 

零士は縮地術で近づき、倉橋に当たるはずの拳を受け止める

 

「当たり前だ、これは地球を救うためなんだ。お前だって、そのためにこの女を人質に取ったじゃないか。分かったら訓練に戻れ」

 

普段はそれを指摘されて凹む零士も今はそんなことはない。キレた零士は鷹岡を静かに激しい殺気と怒りを込めて睨みつける

 

「もう一度言うぞ。訓練に戻れ」

 

「嫌です。俺も零士と同じだ。こんなの間違ってる」

 

優希が零士の隣に来る

 

「そうか、お前らは俺の訓練は受けられないと言いたいのか?」

 

「そうだ。誰がテメェの訓練なんて受けるかよ」

 

すると鷹岡が笑い出す

 

「クククッ、ハハハッ。俺たち、中々気が合いそうじゃないか」

「はァ?テメェ何言ってやがる」

 

「お前らにこれをやるよ」

 

そう言って鷹岡が鞄から取り出し、2人に渡したのは紙

 

「! んだよコレは!ふざけてんのか! “A組へ復帰”だと」

 

それは零士と優希のA組への移動の通知するものだった

 

「つまり、お前らはクビだ。今後、お前らはこの教室から奴を狙えない。よかったじゃないか。お前らは俺の訓練を受けなくて済むな」

 

…やられた。理事長に交渉でもしやがったのか! あの理事長ならやりかねない…。自分たちから“訓練を受けたくない”と言った以上、取消せるわけがない。鷹岡の奴、それも計算の内かよ!

 

E組のみんなもそれを見て、言葉を失った。彼らが依頼でこのクラスに来た以上、依頼主は絶対だ。それは誰もが分かっている

 

「ッ! ふざけんなよ、鷹岡! 俺らが黙って“はいそうですか”って言って出て行くと思って「やめろ!」…零士」

 

「やめとけ。こんな奴でも防衛省の奴だ。まだコイツは俺らに何かをしたわけじゃない。ここで俺らが何かすれば…それこそ暗殺どころじゃなくなる。しかもそれを分かってやってんだよ、コイツは」

 

優希はそれを聞いて、悔しそうな表情をする。もう、2人に為す術はない

 

「でもお前らにも気持ちの整理の時間が欲しいだろ。今週いっぱいはここにいてもいい」

 

もう、俺たちはそんなこと聞いちゃいなかった。急に来たクソ野郎に居場所も何もかも奪われた。ただそれがショックで何も出来ない自分に腹が立っていた。みんなが潰れてしまいそうなのに、どうすることもできない無力な自分に…失望していた

 

俺らはE組のみんなが心配そうな目で見てる中、黙ってさっさと家に帰った

 





E組から出て行かなくてはいけなくなった2人。「暗殺教室 with 黒羽零士」強制終了の危機!

次回、vs鷹岡


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暴走の時間


久しぶりの3日連続投稿。個人的には零士達にとっても重要な回のつもりなんですが、自分の乏しい文才のせいでイマイチな仕上がりに。そして、鷹岡回がどんどん長引く…

と、とにかく、鷹岡回3話目どうぞ!



 

 

 

 

「おい、零士。起きろ、零士」

 

「…ふあぁぁぁぁっ。ん?何だよ、優希」

 

「学校はどうすんだよ」

 

「どうせクビだろ。行かなくていいじゃんか」

 

零士にはベットから出る気はなさそうだ

 

「あいつらが心配じゃないのかよ」

 

「心配さ。でも、俺は殺し屋の仕事まで出来なくなるのは御免だね」

 

「ふざけんなよ! あいつらはこんな俺らでも受け入れてくれたんだぞ!」

 

「熱くなるなよ。安心しろ。今は無理だけど、今日中に舞から連絡がある。それを待とう」

 

零士はそう言って優希を宥める。そして再び寝始めた。もちろん、優希は起こした

 

そして、1時間後、舞から電話が来た

 

「遅かったな、舞」

 

{零士、そんなこと言うならこの件、なかったことにしてもいいけど。むしろこの短時間で終わらせた私の技術を褒めて欲しいんだけど…}

 

「ははは、悪かったって。で、どうだった?」

 

{大丈夫。あの男なら問題ない。あいつの言葉は政府の言葉と思っても間違いじゃないけどさ、2人を勝手にクビにする権限もない。理事長にも事情さえ説明すれば何とかなるよ}

 

零士はそれを聞いてニヤリと笑う

 

「オーケー。ありがとよ舞。今度何か奢るよ」

 

{…じゃあ、駅前に出来た高級なプリン専門店でお願い}

 

「…………了解」

 

そう言って電話を切る

 

「よしっ、優希! 行くぞ!」

 

「りょーかい!」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

ー倉橋sideー

 

昨日、零士君たちが鷹岡先生によってクビにされた。殺せんせーも烏間先生も一度は止めてくれたけど、鷹岡先生の正論を聞いて何もできなかった

 

「じょっ、冗談じゃねぇ…」

 

「まだ2日目だぞ…。これを毎日かよ…死んじまうよ…」

 

菅谷と岡島がスクワットをしながら言う

 

「…烏間先生~……零士君…助けて…」

 

私は鷹岡先生が目の前にいるのに言ってしまった。昨日は同じようなことを言った前原君と神崎さんが叩かれてた。私は昨日似たようなことを言ってしまったが、そのときは零士君が助けてくれた。でも、もういない

 

「おい。烏間も“ゼロ”も俺達家族の一員じゃないぞ。昨日も言ったじゃないか。お仕置きだなぁ…父ちゃんだけを頼ろうとしない子は」

 

鷹岡先生の拳が私を襲う。今度こそダメだ、そう思っていた

 

「はぁ、何でお前は二度も殴られかけるんだよ」

 

中々来ない衝撃に戸惑い、目を開けるとそこには…

 

「…零士…くん?」

 

「「「「「零士(君)! / 黒羽(君)!」」」」」

 

 

「随分と荒々しい教育だな、鷹岡」

 

「何なんだ?お前はもう関係ないだろ」

 

「それがそうでもないんだよなぁ」

 

そう言うと零士は一枚の紙を取り出す

 

「残念。防衛省と理事長の所に行って取り消してもらった。防衛省の方はちょっと強引だったけどな」

 

「ッ! ふざけやがって!」

 

「それはこっちのセリフだ! クラスメイトをこれだけ痛みつけられてんだ。何されても文句ねぇよな!」

 

ヤバイ…カッコよすぎるよ、零士君。私のピンチに必ず助けてくれるヒーロー。また惚れちゃうじゃん

 

「陽菜乃、大丈夫か?悪いな、遅くなって」

 

「ううん。…また、助けてもらっちゃったね」

 

「待ってろ。すぐ終わらせる」

 

ー倉橋sideoutー

 

ー零士sideー

 

零士は腰についている左右のホルスターには二丁のハンドガン、太ももの辺りにダガーおナイフをつけている。パーカーも普段のとは違い、特殊な繊維を使ったものだ

 

「フードを被ってるってことは本気ってことか?」

 

「ああ。殺られる準備は出来たか?」

 

「そんなのあるわけないだろ!」

 

鷹岡の拳が零士に襲いかかる。それは零士は後退しながら受け流す

 

「どうした、“ゼロ”! 避けるだけか?」

 

「まさか?お前、何か1つ忘れてんだろ」

 

「あァ?」

 

「俺、1人じゃないんだけど」

 

その瞬間、零士が首を右に傾ける。すると、そこを通って一発の弾丸が飛んで来る。それを鷹岡は間一髪のところで避ける

 

{おいコラ、“ゼロ”。ネタバレさせんなよ}

 

「悪い悪い、怒るなよ“ブレット”。お前がいるってだけで充分な牽制なんだからよ」

 

零士と優希はインカムで話している

 

「そろそろ、本気で行くぜ。“オーバーロード”!」

 

縮地術で素早く後ろに回ると、すかさずダガーを振る

 

「チッ! デカイ図体して、意外と速いのな。でも速さじゃ負ける気がしねぇよ」

 

零士が間髪入れず攻撃し続ける。鷹岡も無傷じゃ済まなくなって来た

 

ー零士sideoutー

 

ー優希sideー

 

零士とよくやる戦法は躱された。でも構わない。それで決めるのが目的ではないからだ。俺がここにいる、それを知らせるのが目的だ。それだけで相手の動きを制限出来るし、チャンスがあれば撃つ

 

零士が鷹岡を追い詰めた。これで俺たちの勝ちだ

 

「…の……じ…きが」

 

鷹岡が零士にだけ聞こえるような声で呟く。それを聞いて、零士は動きを止める

 

「はははっ。やっぱりそうか。それがお前の弱点か」

 

「はァ?意味わかんねぇし。俺に弱点なんてねぇよ」

 

ダガーをしまい、“衝撃(インパクト)”の構えをとる零士

 

「そうか。じゃあ殺れよ、()()()

 

それを聞いて、零士の動きが再び止まる。E組のみんなも、もちろん俺もその言葉に驚く。零士は殺し屋だ。もちろん人殺しと言われることはある。だが鷹岡が言ったのはそれとはまるで重みの違う言葉

 

「零士! 隙を見せんな! 早く攻撃しろ!」

 

「ッ!“衝撃(インパクト)!」

 

動揺でもしているのか、零士はそれを外してしまう

 

「父親、母親、姉。苦しむ家族を皆殺しにした時、どんな気持ちだったよ、殺人鬼」

 

「ッ! うるせぇ!」

 

零士はむやみやたらに連発する。しかし、どれも当たらない

 

俺はそんな状況を見かねて出て行く

 

「おい!バカ何やってんだ!」

 

「うるせえ優希、黙ってろ。

おい、鷹岡。テメェ、何でそれを知ってる?」

 

「当たり前じゃないか。お前ら2人のことは調べたと言ったろ。他にも色々知ってるぜ。“ゼロ”、お前がとある実験施設で快楽の為に同じ境遇のガキを殺しまくったこともな」

 

それを聞いて俺たちは驚く。その言葉は嘘を言っているようには聞こえなかったからだ。その後付け足すように説明も生々しいものだった

 

「…それを言うんじゃねぇ!」

 

「やめると思うか?お前らも知りたいだろ、コイツの過去。何も聞かされていないだろ」

 

間違いではない。俺でさえ、零士の過去はほとんど知らない。ましてや他のみんなはメアリという死んだ恋人がいたことぐらいしか知らないのだ

 

「コイツは“殺し屋”というには人を殺し過ぎなんだよ。その殺し方はとても殺しとは言えない。一撃で仕留めると言えば聞こえはいいが、その手口で3年で100を遥かに越える数の奴を殺している」

 

「やめろ! それ以上言うんじゃねぇ!」

 

「何言ってんだ。俺の家族が知りたがってんだ。だから話してやってるんだ。なぁ?」

 

誰も、何も答えない。“そんなことはない”そう言いたいが、零士の過去も知りたい、その2つの中で揺れている

 

「誰かを愛するのも愛されるのも、真っ当な人生の奴だけなんだよ! そんなんだから、恋人1人守れねぇんだ! そんなお前にこのクラスで楽しく過ごす資格なんてないんだよ!」

 

「ッ! ウルセェよ! その汚い口を閉じろ! テメェの事はオレが殺す!」

 

零士の目はあの時見た目と同じようになっていた。左眼は深紅色に染まり、右眼も同じ深紅色になっていた

 

「ーーーーーーッ!」

 

声にならないような声を上げ、鷹岡に襲いかかる零士

 

「暴走…してんのか?」

 

そんな声もクラスから聞こえる。それもそのはず、今の零士は普段とは似ても似つかない表情と雰囲気だ。殺気も隠せていない。殺し屋よりも殺人鬼がぴったりな感じにすらなってしまっている

 

「“オーバーロード”、しかも負の方じゃねぇか。クックックッ、それを使ったな。お前らも見たか?あれこそがあいつの本性。欲望の赴くままに人を殺し続ける、“殺人鬼ゼロ”だ。あいつはこのクラスで演じていた善人である“黒羽零士”を否定しようとしてるんだ」

 

鷹岡は何か知っているらしい。そして、あの力は普段とは比べものにならないものだということも。ではここで俺がやることは何か?あいつを止めるんだ!

 

バンッ

 

俺は持っていたライフルの引き金を引いた。狙うは零士。足を打って、動きを止める。そして狙い通り当たる

 

「ガッ!」

 

痛みからなのか眼の色が元に戻る。そして、痛みと疲れでその場に倒れる

 

「「「「「零士(君)! /黒羽(君)!」」」」」

 

「“ブレット”、お前よくも邪魔してくれたな!」

 

しまった…。鷹岡がこんなに近くに!

 

鷹岡は優希に向かって拳を振るう。しかし、それが当たることはなかった

 

「それ以上…生徒達に手荒くするな。暴れたいなら俺が相手を務めてやる」

 

「「「「「烏間先生!」」」」」

 

烏間先生が俺に近づいてくる

 

「大丈夫だったか、優希君」

 

「遅いっスよ、烏間先生。それと…零士のこと…」

 

「ああ。敷地内での発砲、しかもそれを生徒に当てた。処分は奴が言う。まぁどうせ、宿題2倍とかだろうがな」

 

そう言って烏間先生は零士に近く

 

「大丈夫か、零士君」

 

「………」

 

零士はそれには答えず足を抑えながら鷹岡を睨み続ける

 

「烏間、これは暴力じゃない。教育なんだ。お前とやりあう気はない。“ゼロ”と“ブレット”も向こうから仕掛けて来たんだ。対決(やる)ならあくまで教師としてだ」

 

そう言うと、鷹岡は自分の鞄に手を突っ込む

 

「お前らもまだ俺を認めてないだろう。父ちゃんもこのままじゃ不本意だ。そこでこうしよう! こいつで決めるんだ!」

 

「…ナイフ?」

 

対先生ナイフをしならせながら話す鷹岡

 

「烏間。お前が育てた生徒からイチオシを選べ。そいつと俺で戦い、一度でもナイフを当てられれば、認めよう。そうすれば出て行ってやる」

 

それを聞き、みんなの顔が明るくなる

 

「ただしもちろん、俺が勝てば口出しはさせない。そして、使うナイフはこれじゃない」

 

そう言うと、対先生ナイフを捨てた

 

「殺す相手が俺なんだ。使う刃物も本物じゃなくちゃなァ!」

 

「よせ!彼らは人間を殺す訓練も用意もしていない!」

 

「何を言ってんだ。そこにいるじゃないか、普段から本物を使ってるのが。まぁ、1人は足をやられて、もう1人は苦手だろうけどな。でも安心しな。寸止めでもオーケーだ。俺は素手だし、1ラウンドやりあった後だ。これ以上ないハンデだろ」

 

何言ってんだ…。そんなのハンデでも何でもない!訓練を積んだ奴にとっては、殺せない奴の持つナイフなんて玩具にすらならないに決まってる

 

「さぁ烏間!ひとり選べよ!嫌なら無条件で俺に服従だ!生徒を見捨てるか、生贄として差し出すか!どっちみち、ひどい教師だな、お前は!はっははーーー!」

 

「「「「「………ッ!」」」」」

 

みんなビビってる。当たり前だ。さっきの戦いで俺や零士でも勝てるか分からないということを思い知ってしまった。俺らのせいだ…。最初からこの条件を出されていれば勝てる奴がいたのに!

 

俺が後悔していると烏間先生が近づいて来た

 

「優希君。君の目で見た感じだと、誰を選ぶ?」

 

いきなり聞かれて驚いた。でも…直ぐに冷静になれた。だって、烏間先生の顔がすごく真剣だったからだ

 

「普通なら、みんなの安全も考えて、零士を選びます。だけど…コイツは足をケガしてます。してなかったとしても今のコイツじゃ無理です」

 

俺は一度そこで言葉を切った。烏間先生は俺の言葉を待ってくれている

 

「…そして俺が選ぶとしたら……烏間先生が考えている奴と同じ奴を選びます」

 

多分…考えは同じだ。この人の見る目は本物だ。一部、能力に頼っている俺とは違って、真正面からみんなを見てるから

 

「そうか。君が言うならそうなんだろうな」

 

烏間先生はそう言ってその生徒の前に行く

 

「渚君、やる気はあるか?」

 

「「「「「(なっ…何で…渚を?!)」」」」」

 

俺以外のみんながそう考えた

 

「選ばなくてはならないなら、おそらく君だが、返事の前に俺の考え方を聞いて欲しい。地球を救うに暗殺任務を依頼した側として…俺は君達とはプロ同士だと思っている。プロとして、君達に払うべき最低限の報酬は当たり前の中学生活を保証する事だと思っている」

 

烏間先生はここで言葉を切った。俺が前に出て、次の言葉を遮ったからだ。俺にも、頼む側として言わせて欲しかった

 

「渚、悪いな。俺がナイフ苦手なばっかりにさ。嫌なら、受け取んなくていい。そしたら俺がやるし、烏間先生に何とかしてもらう。そして、俺もお前を選ぶ。だけど、俺はお前にナイフを受け取って欲しくない」

 

言いたいことは言えた。後は渚次第だ

 

「やります」

 

渚はたった四文字の言葉でナイフを受け取った。その四文字からは強い決意が感じられた

 

そして、渚は鷹岡と対峙する

 





零士の使った深紅色の“オーバーロード”。作中では言えませんでしたが“負のオーバーロード”と呼ぶことにします

零士の過去も断片的に明かされる中、始まる渚vs鷹岡。結末はどうなるのか!そして、何とか「暗殺教室 with 黒羽零士」強制終了は阻止出来た!

これからもよろしくお願いします。感想やお気に入り、投票などお待ちしています。もちろん、意見や質問なども大歓迎です!


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才能の時間


夏休みの宿題を頑張ってました! 遅くなってすいませんでした

今回で鷹岡回ラスト。長かった…。にも関わらず、まさかの急展開。大丈夫かな…



 

 

 

 

ー渚sideー

 

今、僕の目の前にはナイフ。烏間先生や優希君は僕にその思いを伝えてくる

 

僕は2人の目が好きだ。烏間先生は僕の目を真っ直ぐ見て話してくれる。そんな人は家族にもいない。優希君は優しい目だ。彼と目が合うとなぜか安心してしまう。立場上、2人とも隠し事は沢山あるだろう。どうして僕なのか、2人がなぜ僕を選んだのか分からない。けど、2人の言葉、渡す刃なら信頼できる

 

「やります」

 

僕はその四文字に強い決意を込めて言った

 

「おやおや。

お前の目も曇ったなァ、烏間。よりによってそんなチビを選ぶとは。それに“ブレット”の言葉なんて信用出来るのか? コイツも過去、ほとんど話してないんだぜ」

 

鷹岡先生が何か言ってる。でも僕はその言葉に耳は傾けない。聞くのは烏間先生、そして優希君の声

 

「渚君。鷹岡は素手対ナイフの戦い方も熟知している。全力で振らないとかすりもしないぞ」

 

「…はい」

 

「鷹岡にとってこの勝負は“戦闘”だ。目的な見せしめを二度と逆らえなくする為には…攻防ともに自分の強さを見せつける必要がある。対して君は暗殺だ。ただ一回当てればいい。それを忘れるな」

 

「なぁ渚、いいか? ナイフを当てるか寸止めか、それがお前の勝利条件だ。鷹岡はお前を素手で制圧。そうすれば勝ち。あいつはそうルールを定めた。いいか、()()()()()()。だからリラックスな。いつも通り殺れ」

 

僕は本物のナイフを手にしていた。零士君や優希君はいつもこんな物を持っていたのか…。すごい。2人みたいなことが僕には出来ないから、何をすればいいのかだんだん分からなくなってきた。でも僕は、烏間先生と優希君とアドバイスを思い出した

 

そうだ。闘って勝たなくてもいい

 

()()()()()()()()

 

だから僕は笑ってわ普通に歩いて近づいた。通学路を歩くみたいに普通に、リラックスして

 

渚の体が鷹岡先生の左手に当たる。そこで渚は右手に持ったナイフを全力で振った

 

ここで初めて鷹岡先生は気づいたみたいだ。自分が殺されかけていることに

 

鷹岡先生はギョッとして体勢を崩した。誰だって殺されかけたらギョッとする。殺せんせーですらそうなんだから。重心が後ろに偏ってたから服を引っ張ったら転んだので仕留めに行く。正面からだと防がれるので、背後に回って確実に

 

「捕まえた」

 

ー渚sideoutー

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

ー優希sideー

 

「捕まえた」

 

渚がナイフを当てた。それは文字で書いても伝わらない。渚は流れるようにナイフを振り、そして当てた

 

「……………すげぇ」

 

思わず、そう声が漏れた。言わずにはいられない。あんなの、滅多に見れない。確かに俺や烏間先生は渚を選んだ。でも、予想を遥かに越えてきた

 

“殺気を隠して近く近づく”才能

“殺気で相手を怯ませる”才能

“本場に物怖じしない”才能

 

“戦闘”でも“暴力”でもない、“暗殺”の才能

 

 

「そこまで!」

 

! 俺が渚の動きに見惚れていた時、そんな声が聞こえてようやく正気に戻った

 

「勝負ありですよね、烏間先生。まったく…本物のナイフを持たせるなど正気の沙汰ではありません。優希君も変なこと言わないでください」

 

「ごめんごめん」

 

ここでようやく他のみんなもこの事態を理解し、渚に駆け寄る

 

しかし、世の中そう上手くはいかない

 

「このガキ…父親も同然の俺に刃向かって、まぐれの勝ちがそんなに嬉しいか? もう一回だ! 心も体も全部残らずへし折ってやる」

 

渚が前に出る

 

「…確かに、次やったら僕が負けます。…でも、はっきりしたのは鷹岡先生。僕等の“担任”は殺せんせーで僕等の“教官”は烏間先生です。これは絶対に譲れません。父親を押し付ける鷹岡先生より、プロに徹する烏間先生の方が、僕はあったかく感じます。本気で僕等を強くしてくれようとしてくれてたのは感謝してます。でもごめんなさい。出て行って下さい」

 

…やっぱすげぇよ、渚。俺には真似できない

 

「黙っ…て聞いてりゃ、ガキの分際で…大人になんて口を…」

 

鷹岡の怒りが頂点に達した。渚に殴りかかる鷹岡

 

しかし、縮地術並の速さでこっち来た烏間先生の肘打ちで倒れる鷹岡

 

「俺の身内が…迷惑かけてすまなかった。後のことは心配するな。俺1人で君達の教官を務められるよう上と交渉するをいざとなれば…零士君と優希君にも力を貸してもらってな」

 

もちろん、協力しますよ。それにしても、何か頼ってくれて嬉しいな…

 

「「「「「烏間先生!」」」」」

 

「くっ…そんな事やらせるか。俺が先にかけあって…」

 

するとE組の校舎から誰か出てきた

 

「交渉の必要はありません」

 

浅野理事長だ…

 

「経営者として様子を見に来ました。新任教師の手腕に興味があったので」

 

「でもね、鷹岡先生、あなたの授業はつまらなかった。教育に恐怖は必要です。一流の教育者は恐怖を巧みに使いこなす。が、暴力でしか恐怖を与える事が出来ないなら…その教師は三流以下だ。自ぶんより強い暴力に負けた時点で()()は説得力を失う。それに、自分以上の暴力を従えるのではなく、排除しようとした。私はそのやり方は好きになれません」

 

そしてその場で書いた解雇通知を鷹岡の口にいれ去って行った

 

そして、鷹岡は出て行った

 

「「「「「よっしゃあ!」」」」」

 

いやぁ、それにしても、理事長の方が怖ぇ

 

「ところでさ、烏間先生。生徒のおかげで体育教師に返り咲けたしわなんか臨時報酬あってもいいんじゃない?」

 

「そーそー。鷹岡先生、そーいうのだけは充実してたよねー」

 

「…フン。甘いものなど俺は知らん。財布は出すから街で言え」

 

そして、ここで烏間先生からの臨時報酬が決まった

 

渚が零士の方に行く

 

「零士君、立てる? 手、貸そうか?」

 

パンッ

 

渚の出した手は零士によって払われた

 

「…何でテメェなんだよ。何でお前で俺にはないんだよ!」

 

! まずい…“負のオーバーロード”の副作用だ。しばらくの間、負の感情が増幅する。今の零士はその状態だ

 

「僕にそんなのないよ。零士君の方がよっぽど…」

 

「ふざけんなよ。今のが物語ってんだろ」

 

「零士君、そういう態度はよくないと思うよ。渚君は零士君の仇を取ってくれたんだよ」

 

倉橋が零士に言う

 

「頼んでねぇよ、んなこと」

 

そう言って零士は烏間先生の方へ行く

 

「すいません、烏間先生。俺…この依頼から降りていいですか?」

 

「! どうしてだ? この教室にも復帰できたはずだが…」

 

「………こいつらに俺の過去を断片的でも知られた。俺はそれだけは嫌だったんです。だから…俺はもうここにいられません」

 

零士はそのまま立ち去ろうとする

 

「待ってよ! 零士君、どうして行っちゃうの? 殺せんせーをみんなで一緒に殺すんでしょ!」

 

「…俺の力で殺せる確率は低かった。殺せても殺せなくても、俺とお前らの関係は終わる。その時期が早まっただけだ。来年の三月、この地球がなくならない事を祈ってるよ」

 

零士はそう言って倉橋の制しも聞かず、いつもの通学路を普通に下りて行った

 

「みんな、明日、絶対に話すよ。俺の過去も零士の過去も。俺が必ず説得してくる。だから…明日まで待ってほしい」

 

俺は言った。多分…俺も出て行かなくちゃいけなくなるかもしれない。でも、みんなには俺たちの過去を知る権利があると思う

 

「分かりました。ですが優希君、説得は先生がします。今日、家に行ってもいいですか?」

 

「いいですよ。ついでに、晩御飯でもご馳走します」

 

そうして、俺は殺せんせーと共に家に向かった。もちろん、ナイフや銃を構えながら。結果は失敗。凹みながら家に帰った

 





次回は過去編。零士の過去に迫る!と言いつつまずは優希から。彼の過去は一体…

こんな駄文を読んでくれたことに加えて何かコメントをしてくれることは何よりの原動力になります。感想や評価、お気に入りなど待ってます


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過去の時間 優希ver


今回は優希の過去。前半は優希の1人語り風になってます。後半は優希と速水の一騎打ち?です

優希には零士と比べて過去を匂わせる描写はほとんど入れませんでした。そんな彼の過去が今分かります

では本編スタート!



 

 

 

 

昨日、俺と零士はみんなに自分の過去を話すと約束した(零士は俺がその場で言っただけだが)

 

だから今日は授業の前にその時間を殺せんせーが作ってくれた

 

優希が教室に入ると普段は遅刻する奴もみんな席についていた

 

「おはようございます、優希君。おや? 零士君の姿がないようですが…」

 

「大丈夫ですよ。ちゃんと後で来るので」

 

「そうですか。では、話してくれますね」

 

優希はそれに無言で頷く

 

「えっと…まずは何から話していいのかな? 過去と言っても俺は割と単純。親に捨てられた。俺がまだ、小学校1年生の頃だ」

 

そう言うと優希はその時の出来事を話し始めた。始めはとても仲の良い家族だったこと。両親は様々な商品試験を一挙に引き受ける会社をやっていたこと。丁寧に試験をやっていて、その結果はとても信用出来ると評判だったこと

 

「まぁ、今思うとさ、俺の目とか耳とかの能力の原点はここなんだよな。親父の会社で色んな物を見て、触って、色んな音を聞いて。そうしてく内に身についた能力だと思う。

でも、そんな幸せも、長くは続かなかった」

 

優希は続けて話す。ある日突然、父親が株やギャンブルにハマったこと。始めは上手くいってたものの、それも長くは持たなかったこと

 

「そして、金はほとんどなくなり、会社も潰れた。両親は俺を残して雲隠れ。俺は児童施設に行かざるを得なくなった。まぁこれで第1章終了ってとこかな」

 

みんなは何も言えなかった。目の前にいる“白河優希”という男はとてもそんな過去を持っているとは思えなかったからだ。普段からおちゃらけてばかりいて、彼のそんな姿にみんなは迷惑しながらも楽しんでいた。みんなもそれほど大した過去ではないとさえ思っていた

 

そんな暗い過去を話したにも関わらず、優希はヘラヘラしている。むしろ今まで以上にだ。“どうした? もしかして俺、今すげぇかわいそうな奴になってる”なんて言い出す始末だ

 

「おぉ、何の応答もなし…か。じゃあ2章行くぞ。児童施設で過ごしつつ、俺は小学校に行ってた。でもさ、ガキってさ、イレギュラーな奴をすぐ叩くじゃん。だから俺も叩かれた」

 

優希は言う。毎日のようにイジメられる日々の辛さを。自分には何もない、生きる価値さえないのではないかとさえ思ったこと

 

「そんな時だ、俺が師匠に会ったのは。最近出来た喫茶店があるって聞いたからそこに寄ったんだ。俺、昔からコーヒーが好きでね。そこで会ったのが今の俺の師匠、“神田龍牙”こと“殺し屋ファング”だ。そこで、師匠は俺の悩みとかを全部見抜いてみせたんだよ。それから、俺は毎日通い続けた。そして、ある日、いつ死んでもおかしくない様な俺に生きる道を示してくれた」

 

龍牙はその道に行くメリットだけでなく、デメリットも教えてくれたそうだ。簡単に表舞台に戻ることは出来ない。好きな人と自由に恋愛も出来ない。ある日突然、死ぬかもしれない。他にも色んなことを教えてくれた

 

「俺の答えは決まってた。どうせ、このまま生きても、自殺しただろうからな。それからは…辛い修行とかもあったさ。まぁ、内容はご想像にお任せするけど。ああ、そういや、俺に女装のスキルを仕込みやがったのも師匠だわ。マジふざけんな。思い出しただけで腹が立ってきた!

少し脱線したけどさ、これで終わりかな、俺の過去は」

 

誰1人、話が終わっても何も言おうとしない。いや、言えなかった。優希曰く、自分の過去は殺し屋の中では軽い方だそうだ。誰かの死を間近で感じたわけじゃない。自分の手で家族を殺したわけじゃない。でも、ただの中学生が受け止めるには少々重過ぎたのだ

 

「あれ? ちょっと待てよ。頼むから何か言ってくれよ。なーんか、俺がスベったみたいで嫌なんだけど」

 

こんな時でもヘラヘラしてる優希。そんな様子を見て、ただ1人、席を立った者がいた

 

「…ねぇ、白河。何であんた、そんなにヘラヘラしてんの?」

 

「ん? そりゃするだろ。だってさ、凛香ちゃん、親が株やギャンブル失敗して息子を残して雲隠れした話だぜ。笑えるだろ。それに、息子はグレて殺し屋の道へ進んだ。これとかもう傑作だろ。お前らもそんな顔せずにもっと笑っていいんだぜ。ハハハハハ!」

 

それを聞いて、笑った者はいなかった。そして、優希の言葉がジョークであろうとなかろうと速水を怒らせるには充分だった

 

「そんなの笑えないわよ! 何でそんなに笑えるの? 何でそんなにヘラヘラしてんのよ!」

 

「…うるせぇよ、速水。ヘラヘラして何が悪い。何も分かってねぇくせに、分かったようなこと言ってんじゃねぇよ!」

 

普段は優希は速水のことを“凛香ちゃん”と呼ぶ。でも今は名字で呼び捨て。今日初めて、優希が感情的になった瞬間だった

 

「私だって少しは分かるわよ! 私もあんまり自分の意見とか言えないし、相談も出来ないから。だけど、私はこのクラスで少しは変われた。それに、少しは白河にも感謝してるし。今度は私が手助けしたい。私が変われたんだから、白河だって変われるわよ」

 

優希はそれに対し、何も答えない

 

「あんたがヘラヘラしてるときって、自分の本当の気持ちを隠してるときでしょ。辛いこと、苦しいこと、悲しいこと、何でも。私だけじゃ頼りないかもしれないけど…ここには色んな悩み持ってる奴、沢山いるんだから、頼りになる奴の1人や2人いるはずよ。それに…私ももっと強くなるから」

 

優希の中で何かが変わったかどうかはわからない。でも、1つだけ言えることは、今の優希の目からはどんなことがあっても流れなかった筈の涙が流れてるということだ

 

「はやみん言うねぇ。私もそれには同じ意見だよ。優希、私ら友達でしょ。もっと相談しなよ」

 

「優希、俺たちだけ、お世話になってばかりじゃだめだからさ、お前も俺らのこと頼れよ。困ったときはお互い様だと俺は思う」

 

中村と千葉も続けて言う

 

「…あ、あれ? 何で俺泣いてんだ? もう…泣かないって…決めたじゃねぇか……。弱気になったら………」

 

「優希君。君はもう1人じゃありません。決して同じ悩みを持っている人はいませんが、このクラスにいる仲間はみな、辛いことや苦しいことなどを経験しています。もっと、気軽に相談してみてはどうですか? それでダメなら、先生や烏間先生、イリーナ先生に相談しなさい。必ず、力になります」

 

殺せんせーが最後に一押し。優希の目からは今まで溜め込んできた、堪えてきた涙が一気に溢れ出した。そして、彼の仲間たちが近づき背中をさすったり、肩を抱いたり、からかったり…した

 

「…みんな、その…ありがとな。これからはもっと頼らせてもらうよ。それと凛香ちゃん、ホントにありがと。埋め合わせ、今度絶対にするから」

 

「期待してる。

ねぇ、白河。今度から…優希って呼んでもいい…///?」

 

「…大歓迎。なんなら“ダーリン”って呼んでも構わねぇよ」

 

いつものペースに戻って来た優希。速水の苦労はこれから更に増えそうだ

 

「調子に乗るな!」

 

速水が優希の背中を思いっきり叩く。そして、それを見て皆が笑顔になる

 

「…みんな、そろそろ席に座ろうぜ。()()()()()が来るぜ」

 

それを聞いて、みんなは席に座る。そして

 

ガララ

 

ドアが開いた

 

「おはようございます、零士君」

 

「おはよう、殺せんせー」

 

未だに過去が謎に包まれたままの黒羽零士だ。そして、その過去をこれから話す男

 

「…準備出来てるみてぇだし、早速話すよ。覚悟のねぇ奴は早めの退室をお勧めする」

 





無事、クラスに過去を話し、受け入れてもらえた優希。優希と速水、互いの中でそれぞれの存在は大きくなっていく。くっつくのも時間の問題かな? と言いつつ人によっては時間がかかってると思う所でくっつくかも

次回からはついに零士。度々あった彼の過去描写。それがようやく繋がります。おそらく1話を長くして2部構成。少し短く切って3部構成になりそう

次回は彼の“殺し”の原点。一体彼に何があったのか


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過去の時間 零士ver 〜始まり〜

零士の過去編第一弾。どうしても描写がアレになってしまう。個人的には読んで欲しいのですが、気分が悪くなっても欲しくないので、微妙なところ。読みたい方だけどうぞ

でも、こういう話を書くの、嫌いじゃないかも…

黒羽零士はなぜ殺し屋になったのか、その原点が分かります



 

 

 

零士がドアを開け、教室に入る

 

「おはようございます、零士君」

 

「おはよう、殺せんせー」

 

教室には俺以外の人が全員集まっていた。優希が前にいるから、あいつの昔話をしたということは分かる

 

「…準備出来てるみてぇだし、早速話すよ。覚悟のねぇ奴は早めの退室をお勧めする」

 

零士はそう言うが、教室から出た者は1人もいなかった。零士はそれを確認するとスマホを取り出した。そして律にあるデータを送信する

 

「今、律に送ったのは8年前に起きた事件について書かれたものだ。律、少し読んでくれ」

 

「分かりました。

9月3日、東京のとある住宅で火災が発生した。この家の長男は軽い火傷で済んだものの、焼け跡から40代の男女の遺体が発見された。そして、どちらの遺体にも首に刃物で切られた跡があり、死因はそれと思われる。この家にはもう1人長女がいたがその遺体は見つかっていない。しかし、この規模の火災のため、亡くなって、遺体は燃え尽きたものと思われる「そこまで」…零士さん、これって…もしかして」

 

零士が律が読み上げるのを止めた。みんなは薄々分かっていた。この事件の生き残った長男こそ、目の前にいる“黒羽零士”なのだと

 

「お察しの通り、これは俺の家族だ。そして、男女の遺体は俺の両親だ。当時は泥棒か何かが家に入り、鉢合わせして、殺して火をつけたと思われてるけど。犯人は全部俺だ」

 

鷹岡の言っていた“零士が家族を皆殺しにした”。これこそがそれが意味することなのだ

 

「じゃあ…話すよ。“殺し屋ゼロ”いや“殺人鬼ゼロ”の原点を」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

8年前

 

「ガッ! ゲホッゲホッ!」

 

「あなたー。あんまりやり過ぎないでよ。学校とかにバレるからさ」

 

「分かってる。まぁ今日はこれくらいにしといてやる」

 

当時の零士は親から酷い虐待を受けていた。ある日仕事で失敗してからは何かがあればすぐ、零士を攻撃した

 

「大丈夫、零士」

 

彼女は姉の美波。美波は零士の頭がよく、運動も出来る、才色兼備な5歳年上の自慢の姉だった

 

「…大丈夫だよ、お姉ちゃん。僕が弱いのが悪いんだから」

 

父親はすぐに暴力。母親は傍観。零士にとって美波は唯一の味方だった

 

「そんなことないわ。ほら、見てみなよ」

 

そう言って指差したのは力尽きて倒れているカマキリとその周りを跳んでいるバッタだった

 

「本来カマキリはバッタを食べるの。でも、油断しているとああやって、一向に捕まえられない。そして、力尽きた。どんな強者でも、時には弱者に負ける時がある。だから零士、その内絶対、勝てる時が来るよ」

 

「うん!」

 

美波は周りの同い年の女子と比べると異質だった。妙に達観していて、よくおかしなことを言う。そんな美波のことをどこかで避けながらも、零士は美波のことが好きだった

 

そんなある日、その事件は起きた

 

いつも通り、苛立つ父親が零士を殴る。零士はそれを黙って受け入れる

 

「ふぅ、今日はこれぐらいにしてやる」

 

「…ねぇ、お父さん。1つ、聞きたいことがあるんだけど…」

 

「チッ。何だ、言ってみろ」

 

「何で僕はお父さんに殴られるの? お母さんもお姉ちゃんも殴られないのに、何で僕だけ?」

 

「教えてほしいか? それはな、お前が弱いからだ。この家で、誰よりも弱い。そして、俺はこの家で誰よりも強い。だから俺はお前を殴る。強者は弱者に何をしても許されるんだ」

 

それを聞いた時、零士の中で何かが変わった

 

そっか、僕が弱いから、強いお父さんに殴られるんだ

 

“知ってる、零士。人は必ず死ぬの。人間にとっての絶対的な強者は死。つまり、それを与えられる人間は強者なの”

 

そういえば…お姉ちゃんがそんなこと言ってたなぁ。じゃあ…()()()()()()()()()

 

零士は僅か6歳という年齢で“人が必ず死ぬ”ということを知った。“殺せば死ぬ”ことも知った。しかし、同時に“殺した者こそ強者”という間違った解釈をしてしまった

 

「じゃあ…お父さんを殺せば…()()()()()()()()

 

ゾクッ

 

辺りが凍てつく氷のような冷たさで包まれる。それは全て、零士から発せられた殺気だ

 

「な、何を言ってるんだ! 俺を殺すなんて、で、出来るわけないだろ!」

 

零士は近くに落ちて中身の飛び出たランドセルから素早く筆箱を見つけた。中からカッターナイフを取り出し、刃を長めに出す

 

「じゃあ…殺ってやるよ」

 

ザシュッ

 

「うわあぁぁぁッ! おい、テメェ何しやがる!」

 

父親の手首は零士によって切られ、そこから血が吹き出ている

 

「このクソガキ!」

 

父親は零士に殴りかかる。しかし、零士はそれを軽々躱す

 

「遅い。遅過ぎるよ」

 

零士の眼は赤く染まり、口元には薄っすらと笑みを浮かべている。その笑みが余計に恐怖を掻き立てる

 

「この()()()が!」

 

父親はおそらく、零士を怯ませるために言ったのだろう。だが今の零士には関係ない

 

「別にいいよ、それでも。だってそれ、強いんでしょ」

 

零士はカッターナイフを父親の首に当て勢いよく横に移動させる

 

零士は今、初めて人を殺した。だが、そのことに恐怖も罪の意識も何もない。あったのは自分こそ強者だという実感と、殺しの快感だけだった

 

「…れ、零士…。な、何をしたの?」

 

「何って…殺したんだ。すっごく、気持ちイイんだ」

 

「だ、ダメよそんなの…。零士はいい子なんだから。その血塗れのカッターは捨てなさい」

 

母親は次に殺られるのを防ぐため、必死に説得しようとする

 

「うん、イイよ。これは捨てるよ」

 

零士はいとも簡単にカッターナイフを捨てた。それを見て、母親は安堵する

 

「れ、零士。どこ行ったの?」

 

零士はすぐに戻って来た。新たな武器(包丁)を持って

 

「な、何するの? やめなさい!」

 

「ねぇ、お母さん。オレって強者? お母さんよりも強い?」

 

「あ、当たり前じゃない。零士は強者よ。私よりもね」

 

零士は再び口元に笑みを浮かべ言い放つ

 

「じゃあ、殺してもいいんだよね」

 

母親のもとに、赤眼の殺人鬼が近づいて行く

 

「こ、この()()()!」

 

「だから…それ、最高の褒め言葉だよ」

 

包丁を持つ手を後ろに引いて、母親に向かって突き出す

 

零士の2回目の殺しが終わった。やはり、彼には己が強者であるという実感と快感しかなかった

 

そこへ、姉の美波がやって来た

 

「何してるの零士。ッ! それ…アンタが殺ったの?」

 

「うんそうだよ。オレが殺った」

 

赤眼の殺人鬼は新たなターゲットに狙いを定めた

 

「そっか…。ハハハッ! 最高よ、零士。やっぱりあなたは落ちこぼれじゃなかった! 私が見込んだ通り! どうせ私も殺すんでしょ! だったら…早く、私も殺してよ!」

 

両親が殺された現場を見て狂う美波。普通の精神状態の人間ならそんなことを言われても何もしない。だが、目の前にいるのは2人の人間を殺した正真正銘の殺人鬼。やることは決まっていた

 

肉塊から包丁を乱暴に引き抜き、零士は美波に向かってそれを振る。肉を切った感触がして、美波はその場に倒れる

 

零士はその場を一度離れ、庭から容器を持って来た。中にはストーブに入れる灯油が入っている。それを家中に撒き、火をつけた。火はあっという間に炎となり、家を包み込む

 

「ハハハハハハハハハッ! 最っ高の気分だ!」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「と、まぁこれが鷹岡の言っていた俺が家族を皆殺しにしたっていうことだ。納得した?」

 

誰も答えない。予想を遥かに上回ることを話され、まだ受け止めきれていない

 

「その後、俺の罪がバレることはなかった。俺は親戚の家にお世話になることになった。でも、どこで知ったのか、俺が殺したことを嗅ぎつけた。そして、俺は売られた」

 

僅か6歳で家族を殺した。それだけでも信じられないことだ。しかし、零士の話はそれで終わりではなかった。更に、売られたというのだ

 

「俺が売られたのは外国にある研究施設。研究施設とは名ばかりで、実際は“殺し屋養成所”だ」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

親戚によって売られた零士は目隠しをされたまま、トラックに乗せられた。連れて来られたのはどこかの工場の跡地

 

周りにいたのは零士とあまり歳の離れていない男女20人。見た目は皆日本人。おそらく零士と同じように売られたのだろう

 

「さぁ、ガキども。今お前らに配られた袋を開けてみろ」

 

俺は正直にその袋を開ける。そこに入っていたのは…

 

「どうだ? ナイフと拳銃だ。今からお前らには自由を賭けて殺し合いをしてもらう。生き残った1人だけが、そのチャンスを得る」

 

「殺し合いなんて嫌だよ!」

「怖いよ、ママ、助けて!」

 

パンッ

 

男が真上に空砲を撃つ

 

「いいか、ガキども。お前らはその、親や親戚に売られてここにいるんだ。そして売られたときに、お前らの戸籍は完全に消えた。別に逃げても構わない。だが、居場所はないんだがな。誰からも愛されなかった故にお前らはここにいる。それを理解しろ!」

 

今の言葉を聞いて、20人のうちの大半はこの状況を理解した。ここにいる20人、全員が敵。生きるか死ぬか、まさに2択。素早く行動出来た者が生き残るのは確実だ。しかし、多少複雑な事情があるとはいえ、全員まだ子供だ。ナイフや拳銃を持った瞬間、その意味を理解し、体が動かなくなる

 

「おい、どうした? もう始まってるぞ」

 

そして、ただ1人、この状況を瞬時に飲み込み、動き出した人物がいた

 

次々と人を斬っていく赤い眼をした少年、“黒羽零士”。数分後には、彼以外の子供は誰1人立っていなかった

 

「! なんと…もう既に“オーバーロード”を発現させているのか…」

 

「これは逸材だ」

 

男たちが何かを話している

 

「おめでとう、黒羽零士君。君は自由になるチャンスを得た。だが、最後に1つ質問だ。君は人であることをやめられるか? いずれは“殺し屋”となり、誰からも恐れられる存在となる。誰からも愛されず、誰も愛さない。それでも君は出来るかい?」

 

要するに、ここで死ぬか、人であることを諦めて生きるか、選べってことだよな

 

「そんなの決まってる。なってやるよ、殺し屋。やめてやるよ、人間。それで、オレの望みが叶うなら」

 

「ほぅ。望みとは何だ?」

 

「強者になること。どんな奴であろつと殺せる、強者になることだ」

 

零士の赤く染まった眼が目の前の男を見つめる。あまりの殺気に男は少し怯んでしまう

 

「いいだろう。合格だ。後、数回、今日と同じことを繰り返す。いいな」

 

「むしろ、大歓迎。何人でも殺してやるよ」

 

零士はその後も沢山の子供と殺し合いをし続けた。全て一瞬で殺していた

 

 

そして、その頃には零士は自身に宿らせていた才能を目覚めさせていた

 

 

本来なら、決して目覚めることのないはずの才能

 

 

目覚めてはいけない才能

 

 

この世から、1つの尊い命を壊す才能

 

 

零士は僅か7歳という若さ“殺人”の才能を開花させた

 




まずは、お気分を悪くされた方いませんか?

そう思うなら最初から書くなという感じですが、零士というキャラを作る上でこの話は最初から決めていました。殺し屋とはいえ、同級生を躊躇いなく人質にとる。プライドが高く、どこか不器用で人間として何か欠けている。最初の頃の零士はこんな感じでしたよね。流石にそんなに人の道を外れさせるにはこれぐらいの過去が必要だと思ったんです。そう考えると、そんな零士を変えたE組はすごい、この一言に尽きます

ダラダラと語ってしまい申し訳ありません。一度、ここで整理しようと思ったので…

次回は今も心に残り続けている彼女が登場します。早く更新出来るよう頑張ります。感想やアドバイスなど、送ってくださるととても参考になります。もし、よろしければお願いします

それと、アンケートを活動報告の方に載せました。是非参加してください


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過去の時間 零士ver 〜出会い〜


ややグダグダなのが気になる。戦闘描写は難しい。せっかくの過去編も文才のなさで台無し…

まぁそんな感じの低クオリティでいきます

では本編スタート!



 

 

 

 

“殺人”の才能を開花させた俺はその後の試験も瞬殺で終わらせた。その頃の俺はナイフを自分の体の一部の様に使えるようになっていた。殺しに対する罪悪感はとうの昔に消え、快感にすらなっていた。返り血を浴び、その香りさえ、好きになっていた

 

何度の試験を潜り抜けたか忘れてきた頃、俺は飛行機に乗せられ、とある研究施設に連れて行かれた

 

ここでは“オーバーロード”を完全に我がものとし、自由に使いこなせる奴を育てる施設だった。そして、後から知ったことだが、殺し屋を育て、ある組織の駒にするという目的もあったらしい

 

「レイジ クロバ、レオナルド、お前らの番だ」

 

もちろん、外国だから英語でみな話している。俺もいつの間にか話せるようになっていた

 

俺の横にはレオナルドという年上の少年。目の前にはビクビクしてる少年とスタイル抜群の少女

 

「始めッ!」

 

そして、一瞬で勝者は決まった。立っていたのは赤い眼をした少年、零士だ

 

この研究施設でもルールは変わらない。生き残った者が勝つ。1つ違うのは2vs2で殺し合い、生き残るのは2人だということ。しかし、この部屋で立っていたのは零士ただ1人。3人共殺してしまった

 

「またか。何度言ったら味方を攻撃しなくなるんだ!」

 

「あァ? 俺より弱い奴に生きる価値なんかねぇだろ。俺より強い奴なら殺さねぇよ」

 

ちなみに、この頃から零士は性格が悪かった

 

その後も零士はパートナーも殺す事をやめなかった。しかし、研究員達も彼の強さを知っていた為、殺処分も出来なかった

 

そして、数日後。この日も2vs2の日だった。そして、零士の運命を変える人との出会いの日でもあった

 

「レイジ クロバ、スティーブン、お前らの番だ」

 

どうせ、コイツも弱いんだろうな。相手も1人はやたらと体格のいい奴と今にも逃げ出しそうな少女。一瞬で殺してやる

 

「始めッ!」

 

俺はいつも通り、殺そうとした。そう思うだけで、眼は赤く染まり、すぐに終わる。しかし、今回はそう上手くはいかなかった

 

「そこまで!レイジ クロバ、メアリ・リュミエール、お前らが生き残った。次からはペアになってもらう」

 

メアリと呼ばれた少女は俺のナイフをいとも簡単に避けた。初めて殺しをした時から、肉を切った感触以外感じたことのなかったナイフが、何も切らなかった

 

「おい、テメェ何で俺のナイフを避けれた! つぅか、今までどうやって生き残ってきた! 教えろ!」

 

俺のメアリはペアとなり、同じ部屋に入れられた。男女2人が同じ部屋だからとはいえ、若い衝動が暴走することはない。いや、することはあるのだが、襲うことは出来ない。そんなことをすれば首につけられた首輪から電流が流れるからだ

 

「ひぃっ! ご、ゴメンなさい! 許してください!殺さないで!」

 

…………は? えっ…何でこんなにビビってんの?

 

「い、いや…そういう訳じゃないんだけど…」

 

「こ、来ないで! 私、太ってないよ! 食べても美味しくなんか…」

 

「食べる気なんてねぇよ! ああ、もう! 調子狂うなぁ!」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

殺人鬼に成り下がった零士も本来なら小学校に通ってるはずの子供。同い年の女子の泣きそうな顔を見せられて動揺しないわけがない

 

「い、いや、そういうつもりはねぇよ。別に取って食おうってわけじゃねぇから」

 

俺が無意識に頭を撫でようと触れた

 

ビクッ

 

急に飛び上がり、部屋の隅っこに逃げられた

 

「ゔゔっ…怖いよ…パパ…ママ……助けて…」

 

「わ、悪かったって。だから泣くなよ…」

 

「う、嘘だよ! だってあなた…この施設で相手も味方も皆殺しにした子でしょ! あなたと会ったら必ず死ぬ。周りの子はみんな言ってるもん!」

 

…俺…そんなに悪名高いの?

 

「はぁ、もういいわ。勝手にしろ」

 

別に俺だって…殺したくて殺してるわけじゃない(とは言い切れない)。自分のナイフを躱した奴なら、俺と同じ感情を共有出来ると思ってた。少しぐらい、話し相手も欲しかった

 

実際、この施設では人体実験や殺し合いを毎日のようにやっている。いきなりその副作用が出て、殺処分される奴もいる。零士が使える力の片鱗が暴走し、自滅する奴もいた。零士も副作用や能力の片鱗に悩まされることも多かった

 

結局、メアリと一度もまともな会話をすることなく、零士は眠りについた

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「これが、俺とメアリとの出会いだ。最悪だったよ。

つぅか、聞く気がないなら俺、話さないけど」

 

零士の目の前には顔色が最初に比べて明らかに悪くなっているクラスメイト

 

「だ、大丈夫だよ! みんなが聞かなくても…私は聞く!」

 

「……あっそ。じゃあご自由に」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

それから、俺とメアリはコンビを組んで殺し合いを続けた。その中で俺は何度もメアリにナイフを当てようとするが当たらない。そんなことを繰り返している内に2年が経った。そして、この日は“殺し屋ゼロ”誕生の日だった

 

「チッ…。何で当たんねぇんだよ!」

 

「す、すいません」

 

「ホントに何で当たんねぇんだよ!」

 

「…レイ君さ、ホントに当てようとしてるの?」

 

メアリが急にそんなことを言ってきた

 

「んだよ、俺が本気で殺ろうとしてねぇって言うのかよ!」

 

「そ、そんなことは言ってないけど…」

 

「じゃあ何だって言うんだよ!」

 

「レイ君、最近遅いもん。最初の頃は速すぎて見えなかったのに…」

 

嘘つけ。その頃から避けてただろうが

 

「何で避けられんだ? それだけ教えてくれよ」

 

「分からないの? 私もレイ君と同じ力持ってるんだよ、“オーバーロード”。多分、反射神経とか動体視力とか瞬発力とかが高まってるんだ」

 

「俺はそんなに高まってるって感じじゃないけどな。スピードしか上がってる感じしないんだけど」

 

「まだレイ君は完全ものに出来てないんだよ」

 

「あァ? 俺がお前に劣ってるって言うのかよ!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

そんなやり取りが日常になってきた最近。最初に比べてば距離が近くなった。でも…

 

「謝ってほしいわけじゃねぇんだよ! 分かってんのか!」

 

「ひぃっ…ご、ごめんなさい!ごめんなさい!食べないで!」

 

「食べねぇよΣ!」

 

まだ距離は遠いようです

 

ドカァァァン!

 

いきなり爆発音が聞こえた

 

「な、何?…って、レイ君! どこ行くの!」

 

「俺の勝手だろ!」

 

俺はメアリを置いて部屋からの脱出を図る。案の定、いつもいたはずの見張りはいなかった。代わりにいたのは銃やナイフを持った別の大人が5人

 

「へぇ、このガキがボスのターゲットか…。さっさと連れて行こうぜ」

 

狙いは俺か…。何か嬉しいなんて思ってる自分がいる…。けど、んなこと言ってる場合じゃねぇな

 

「俺が狙いなんだ。じゃあ……捕まえてみろよ」

 

零士の眼が赤くなる

 

「殺し屋をナメんなよ」

 

「殺し屋なんだ、お前ら。じゃあ、死ねッ!」

 

「ギャアッ!」

「うわっ!」

「このガキ!」

「ちょこまかと!」

「ここまでとは聞いてねぇぞ!」

 

いつもよりは時間がかかったものの大人って言ってもこんなもんか。チョロいね

 

零士は目の前の5人をわざとらしく、踏みながら施設の外を目指した

 

その後も多くの殺し屋と会ったが、全て退けた。このゲートを抜ければ俺は外に出られる。正直言って、こんなところに何年もいられるかよ

 

「おい、クソガキ。どこ行くんだ?お前にも俺らに着いて来てもらう予定なんだが…」

 

「あァ? 何で俺が着いて行かなくちゃいけないわけ? メリットとかあるの?」

 

「ああ、もちろんさ。お前が着いてくれば、ボスがお前の力を更に高めてくれるさ。殺しの依頼も沢山くれる。どうだ、魅力的だろ」

 

「そいつはいいや。確かに魅力的だ。でも、誰かに指図されんのは大っ嫌いなんだよね」

 

零士は“オーバーロード”を発動させ、距離を詰める

 

「死ねッ!」

 

「待て! こいつがどうなってもいいのか?」

 

そう言って男が俺に見せたのはボコボコになって捕まっているメアリ

 

「ッ! メアリ…お前…。どうしてそいつにも手を出した!」

 

「自惚れんなよ、クソガキ! お前も標的ではあるが、メインじゃない。メインはこの女だ。お前よりも高いレベルで“オーバーロード”が使える。そして、あの“リュミエール家”のお嬢様だからな。それに女なら他にも利用価値は多い。お前はついでだ。別にお前なんかいなくてもいいのさ。この女と共に組織の犬になるか。ここで死ぬか、どっちがいい?」

 

……俺は弱い…。所詮は俺なんかついでか…。強さだけを求めたのに。今、本気で斬りかかれば逃げれるんじゃねぇか?でもメアリがどうなるか分かんない

 

「レイ君! 逃げて! 私はいいから! レイ君の強さは私が一番よく知ってる! だから…自由になって!」

 

何だよそれ。お前を犠牲にして逃げろって言うのかよ。そんなの…

 

「出来るわけねぇだろ!」

 

俺はメアリと出会ってから、ずっとお前を目標にやって来た。ずっとお前を越えようとして来た。お前に心の底から認めて欲しかった。勝ちたかった。なのに、いつの間にか、そんなのどうでもよくなってた。多分、メアリと一緒にいることが心地よくなってた。あいつだけは殺す気にならなかった。あいつに惚れてた。好きな女に本気で刃は振れない

 

「今助ける。だから待ってろ、メアリ!」

 

「……うんッ!」

 

「ナメんなよ、クソガキ!」

 

男はメアリを仲間に預けて俺に向かって来る

 

「“オーバーロード”!」

 

右手にナイフを持ち、男をジッと見つめる

 

男が振ったナイフを上半身を反らして躱し、ナイフを振りかえす

 

「チッ…少しはやるみてぇだな!」

 

上手くいったのはここまでだった。そこからは大人と子供、プロと候補の違いを見せつけられた

 

「ガッ! ゲホッゲホッ!」

 

「おい、クソガキ。さっきの威勢はどうした?」

 

「うっせぇよ。ーーッ!」

 

さっき銃で撃たれたところを踏まれ、痛がる。それを心配そうに見つめるメアリ

 

「レイ君!」

 

「め…あり」

 

ヤベェ…意識が朦朧としてきた。出血の量が多過ぎる…

 

「そうだ。いい事教えてやるよ。そこの女、メアリ・リュミエールの事。あいつはお前と違って親が探し続けてる。あいつは売られたわけじゃない。誘拐されてここまで連れてこられた。つまり、誰も愛してくれない、誰も求めてくれないお前と違って、あの女にはそういう存在がいるんだよ。お前の過去を聞きながら、可哀想だと憐れんでたんだよ!」

 

…………そっか。メアリは1人じゃねぇのか。孤独だったのは俺だけなのか

 

「そこでいい話をしてやろう。今、謝ればお前も仲間にしてやる。殺し屋はいいぜ。人を殺すだけで金が入るし、偶に女も手に入る。金も女も好きなだけ使える。もしかしたら、メアリともヤレるかもしれねぇぞ。欲しいもんは全部手に入る。それが殺し屋だ」

 

……俺はずっと強さを求めてきた。強くなるためにナイフを振り続けた。もし、こいつらに着いて行って、それが手に入るなら、そんなにいい話はねぇんじゃねぇか?

 

「ダメ、レイ君! そんなの…レイ君が求めた強さじゃない! ホントの強さは大切なものを守るときに使うもの! 奪うためのものじゃない! 私なんかどうだっていい! 早く逃げて!」

 

!メアリ…

 

メアリに向かって歩み寄った男は、その小さな体に向かって蹴りを入れる。そのとき、俺の中で何かがきれた

 

今の俺は殺意で満たされていた。純度100%の殺意。あいつを殺す、ただそれだけを考えた。いや、それしか考えられなかった

 

「なぁ、どうよ?いい話だと思わないか?」

 

「…興味ねぇよ。とりあえず、死ね」

 

さっきは敵わなかった男を零士が圧倒する。零士の眼は深い赤色に染まり、今までとは桁違いの速さになっていた

 

そして、男1人を残して、敵は皆死んだ

 

「ひいっ! や、やめろ! その女のことなんかほっとけよ! 俺らと来い! その才能は」

 

「今更命乞いか? ダサいね、お前」

 

そう言うと、零士は足元にあったガラスの破片を手に取り、男の目に向かって刺す

 

「うわぁぁぁぁぁっ! め、目がぁぁぁ!」

 

そしてもう片方にも刺す。零士の残虐性は更に高まる

 

「さぁ?どうする?dead or dead。どっちか選べ」

 

男の死はすぐそこまで近づいている

 

「じゃあ、死ね!」

 

「やめて! もういいよ、レイ君。そんなのレイ君じゃない。元のレイ君に戻ってよ」

 

後ろから抱きつくメアリ。その目からは涙が流れている。そして、零士の眼の色は徐々に戻っていく

 

「離してくれ。もう殺さないから」

 

それでようやく手を離す

 

「メアリ、よかったな。これで自由だ。親にも会えるぜ。元の生活にはすぐには無理かもしんねぇけど、大丈夫さ、お前なら」

 

零士は一度もメアリを見ないで瓦礫の山と化した研究施設を後にする

 

「待って!私も連れてって!」

 

「来るなよ。俺は表舞台では生きられない。裏社会で殺し屋として、生きる。お前は俺ほど汚れてない。必ず幸せに…………」

 

メアリはもう一度、後ろから抱きつく

 

「離れろ」

 

「コッチ見てくれたらいいよ」

 

零士は諦めて後ろを向くことにした。すると…

 

チュッ

 

後ろを向いた零士の唇に背伸びしてメアリは自分の唇を触れさせた。ただ触れるだけ。キスと呼ぶには短過ぎるキス

 

「…お前……///」

 

「……///」

 

2人とも顔を真っ赤にしている

 

「ッ!れ、レイ君。私…レイ君にキスしちゃったじゃん。レイ君曰く、レイ君は汚れてるんでしょ。そのレイ君にキスしちゃった私も汚れちゃったよ。だから…責任とって」

 

何か…すげぇ理不尽

 

「バカじゃねぇの?」

 

「いいの!家のことなんてどうでもいい。レイ君と一緒にいたい。ただそれだけ」

 

瓦礫の上で告白をする。普通ならありえない。でも、2人には一番お似合いな場所かもしれない。表舞台で生きることを禁じられた2人が、初めて会った場所なのだから

 

この日、“殺し屋ゼロ”が世に解き放たれた

 

 

それと同時に、この世界のどこかで、ある一組のカップルが誕生した

 





最後は少しハッピーエンド。でも、零士の過去はハッピーエンドでは終わりません

次回で過去編ラスト。そして、暗殺教室に残るか残らないか、零士の決断は?零士を受け入れるか受け入れないか、3-Eの決断は?

アンケートはまだ募集しています。是非、ご協力ください


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過去の時間 零士ver 〜別れ〜


超シリアス。過去編としては終了。後は零士がE組に受け入れられるかどうかだけ

では、本編スタート



 

 

 

 

「行くぞ、ライト!」

 

「了解、ゼロ君!」

 

俺とメアリはそれぞれ、ゼロ、ライトというコードネームを使い、殺し屋として生きていた

 

「よしっ、依頼終了っと。そっちはどうだ?」

 

「バッチリだよ。ていうか、私がゼロ君に劣るところなんて、数えるぐらいしかないんだけど」

 

「あァ?血を見て未だに顔を青白くしてる奴が何言ってんだ」

 

「う、うるさい!まだ慣れないんだもん」

 

一応自覚はあるのか、指摘され、落ち込んでみせるメアリ。ちょっとカワイイと思ってる自分がいる…

 

それからもひたすらナイフを振り、引き金を引き続けた。自分の中でも、それが日常になっていた。快感すらも覚えなくなり、殺すのが当たり前。いよいよ、戻れないところまで来てしまったのだと実感する

 

そんなある日。依頼を完了してすぐのことだった

 

「依頼完了っと。さぁ、戻るぞ、ライト」

 

「りょーかい。…ッ!レイ君!」

 

メアリがとっさに俺の本名を呼ぶ。すぐさま“オーバーロード”を発動し、何かに備える

 

「そこだ!」

 

俺の振ったナイフはもう一本のナイフに当たる。それが俺を狙ったものだということは一目瞭然だ

 

「誰だ、お前。同業者か?」

 

「ああ、そうだ。悪いが、殺らせてもらう!」

 

白い髪のそいつはナイフを持って俺に突っ込んで来る。だが、“オーバーロード”を発動中の俺には関係ない。そいつの動きなんて、止まって見える。俺はその攻撃を一歩も動かずに躱す

 

「残念。俺の勝ちだな」

 

足払いをして隙を作りナイフを首元に突きつけた

 

「…なっ…………」

 

「流石、ゼロ君!カッコいい!」

 

「別に…」

 

俺も強くなれた。そう実感できる。元々の身体能力は俺の方が上だ。だから能力の制御が多少出来るようになってからはメアリと互角かそれ以上になっていた

 

「行くぞ、ライト」

 

「ちょっと、待て!なぜ俺を殺さない!」

 

白髪の奴が俺らを呼び止める

 

「そんなの知るか。ライトに聞け。俺は殺すつもりだった」

 

「ダメだよ、ゼロ君。仕事以外で殺しはしない!分かった?」

 

プライベートでは彼女であるメアリに完全に主導権を握られている。正直俺はどうでもいいが、すぐ調子に乗るから面倒だ

 

「私はメアリ・リュミエール、コードネームはライト。こっちの目つきが悪いのは黒羽零士、ゼロだよ。あなたは?」

 

勝手に本名教えんなよ…

 

「…ハクアだ。コードネームはヴァイス」

 

「ハクア君かぁ。いい名前だね。じゃあ、行こっか!」

 

……………

 

「「は?」」

 

俺とハクアは誰が聞いてもマヌケそうな声を出す

 

そんなのはお構いなしにメアリは零士とハクアの手を取り、今日の寝床に行く。寝床と言っても、金はないので近くにある激安の宿だが

 

「何で俺まで…」

 

「諦めろ、ハクア。こいつはそういう人間だ」

 

鼻歌を歌いながらテキパキと料理を作るメアリ。そんな姿は少なくとも、殺し屋には見えず、母親の手伝いをする娘のようだ(母親や妻にはどう頑張っても見えない)

 

「はい、2人とも、どうぞ」

 

出てきたのはそこら辺で買ったパンと今作ったスープ。味はそんなに悪くない。しかし、金がないとはいえ、毎日これだと飽きる

 

「…いただきます」

「いただきます……」

「いただきまーす!」

 

食べる前から元気のない俺。食べるけど、ご馳走してもらうのが悪いと思うハクア。ご機嫌なメアリ。三者三様にも程がある

 

いつの間にか、俺たちと打ち解けたハクアは共に行動するようになった。“殺し屋ゼロ”、“殺し屋ライト”、“殺し屋ヴァイス”は裏社会で有名な殺し屋三人組になっていった

 

「なぁ、ハクア。ちょっと調べてほしいことがあるんだけど」

 

「ん?別にいいぜ、レイジ。何だ?」

 

「“リュミエール家”の場所を調べてくれ」

 

「いいけど…何か意味でもあるのか?」

 

「メアリの家だ。俺と違ってあいつは、売られたわけじゃない。だからあいつを、家族の元に帰してやりたいんだ」

 

「りょーかい。レイジの頼みでメアリの為ならやってやるよ。少し時間をくれ」

 

「もちろん」

 

ハクアの仕事はとにかく早かった。僅か1ヶ月で“リュミエール家”について調べ上げてしまった

 

俺はその情報を元に、メアリとロンドンに行くことにした。ハクアには悪いが、待っててもらう。その理由も説明したら納得してくれた

 

「レイ君。どこ行くの?」

 

「お前の行きたがってた場所さ」

 

ロンドンに着いても、メアリはあまり覚えていない様だ。仕方ない気もする。もう、6年近く離れていたのだから。俺も日本の事はほとんど覚えちゃいない

 

「着いたぜ、メアリ」

 

「!…ここは……。私の…家……」

 

「ああ。ハクアに調べてもらった。施設にいた頃から、帰りたいって言ってたろ」

 

「うん!でも……」

 

しかし、メアリは浮かない顔をしている

 

「どうした?」

 

「どうして、連れてきてくれたの?レイ君だって、自分のいた場所に戻りたいとは思わなかったの?別に私なんか後回しでも…」

 

「俺に帰る場所はないからさ。せめて、お前のだけは、帰してやろうと思ってな」

 

「ご、ごめん。嫌なこと思い出させちゃって…」

 

「いいさ。その場所を壊したのは俺だから」

 

そう言ってメアリを納得させる。俺とメアリは門の前に立ち、呼び鈴を鳴らす。すると、中から使用人が出てきて、メアリの顔を見て、泣き出す

 

「メアリお嬢様!みなさん、メアリお嬢様が!」

 

その声を聞いた途端、家からは何十人もの人が出てきて、メアリを見て涙を流す。メアリもその輪の中に加わり、一緒に再開を喜び合う

 

俺はただそれを見ているだけだった。とても、俺には入れない。俺はメアリの側にいるべきじゃない

 

「メアリ、彼は誰だい?」

 

「パパ!あの人はね、私の「護衛です。お嬢様を保護した後、6年間、必死でこの場所を探していました。ようやく、俺も肩の荷がおりました」…」

 

メアリは“何を言い出すの”という顔をする。でも、メアリは俺がそうした理由も理解出来ていないわけではない。結局、父親に本当のことは言わなかった

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

家に入れてもらった後、俺は家の人たちから感謝をされ続けた。やっぱり、メアリの居場所はここだと、強く思わされた。俺なんかがそれを邪魔してはいけない

 

食事の後、俺はすぐに用意された部屋に行った。メアリは何か言いたそうだったが、家族との再開を楽しめと一言言っておいた

 

しかも、明日の夕方、日本にいる年子の姉が帰国するらしい。8年ぶりに家族全員が揃うらしい

 

「ッ!なんか……羨ましいな。無事でいたことにこれだけ嬉しがってもらえて。俺も、こんな家族…いや、もう考えるのはよそう。自分が嫌いになりそうだ」

 

その日、どんなに寝ようとしても寝れなかった。初めての殺しの夢を見たからだ

 

結局、寝るのは諦めて、出発の予定を早め、屋敷を抜け出した。外に出ると空の月が綺麗だった

 

「レイジ君、どこに行くんだい」

 

後ろを振り向くと、メアリの父親がいた

 

「どこって、帰るんですよ。自分のいるべき場所へ」

 

「メアリを置いてかい?」

 

「何言ってるんですか?ここは彼女の家ですよ」

 

「でも、メアリは君と共に行くと言っていた。一体娘に何をしたんだい、“殺し屋ゼロ”」

 

何でそれを知ってるんだ?いや、メアリが話したのかもしれない。あのバカ。何言ってんだよ

 

「だったら何だって言うんですか?安心してくださいよ。娘さんには傷1つ、つけてませんよ」

 

「ああ。6年も帰ってこなかった。何かあってもおかしくないと思っていた。それには礼を言う。でも、どうして娘を置いて行くんだい?」

 

意味がわかんねぇ。コイツは何がしたい

 

「当たり前じゃないですか。俺は殺し屋、娘さんはお嬢様。生きる世界が違うんです」

 

「そうかい。じゃあ、メアリが殺し屋だというのはメアリの嘘かい?メアリが“殺し屋ライト”だというのも」

 

「当たり前じゃないですか。あんな臆病者に、殺し屋は務まりません。もし彼女がターゲットなら、俺は殺してますよ」

 

一語言うたびに胸のあたりがズキズキと痛む。その痛みを堪えて話し続ける。すると、次々とメアリとの楽しい思い出が蘇ってくる

 

「そうか。じゃあ、娘が嘘をついているのか」

 

「そうですよ。あいつ、意外と嘘つきですから」

 

「だそうだよ、メアリ。もう出てきていいよ」

 

メアリが出てきた。気づかれないようにしたつもりだったのに…

 

「ねぇ、どうして!レイ君!何で勝手に…」

 

「俺には…ちょっと眩し過ぎた。俺には……お前の隣は相応しくない。この手は汚れてる。血に塗れて、もう二度とこっちには戻れない」

 

「それは私も!」

 

「それは違う。お前はまだ綺麗だ。殺しの時も、最低限の傷で済まそうとしてる。それは素晴らしいことだ。でも、殺し屋には向いてない。お前はココ。俺はあっち。分かったな」

 

「分かんないよ!私はあなたが好き!あなたと知り合ってしまった以上、あなた以上の男性になんか出会えない!だから……一緒にいてよ!ここでもいい。殺し屋の世界でもいい。どこか、誰にも知られない場所でもいい。だから!」

 

ふざけんなよ。せっかくの決意が…鈍っちまったじゃねぇか!

 

「俺も……一緒にいたいよ。メアリ…」

 

結局、俺はこの日、メアリの部屋で寝ることにした。大人の階段を登るなんてことはしなかったけど、いつもより深いキスをし、抱き合って寝た。いつもよりもグッスリ眠れた

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

数日後、俺とメアリは近くを散歩しに家を出た。これからのことも話しながら歩き、結論が出ないまま、帰って来た

 

「ただいまー!」

 

返事はない。何か嫌な予感がする

 

「キャアァァァァァァッ!」

 

その時、メアリの母親の叫び声がした

 

「ッ!メアリ、今の声!」

 

「うん!ママの声だ!」

 

俺とメアリは“オーバーロード”を発動し、急いで屋敷の中に入る。すると、そこには今朝まで元気だった人たちが血を流して倒れていた

 

「…急所を疲れている。即死だ」

 

「…ッ!そんな…………。早く、ママとパパの所に!」

 

「おい、メアリ!」

 

メアリは俺の制止も聞かず、奥に走って行ってしまった

 

「クソッ!」

 

俺も遅れて追いかける

 

しかし、間に合わなかった。母親は既に生き絶え、父親もまさに銃で撃たれた瞬間だった

 

「ママ!パパ!」

 

「おい、お前が殺ったのか?何でこんなことをしたんだ」

 

銃を持っていたのは白い髪の少年

 

「ん~?そりゃぁもちろん、お前の為さ。お前のその絶望している顔が見たかったからさ」

 

「命を助けてやった恩を仇で返しやがって。それを分かってやったんだよな、ハクア、いやヴァイス!」

 

共に仕事をして、今は隠れ家にいるはずのヴァイスだった

 

「もちろんさ。俺はずっと狙ってた、お前のことを。ボスの命令でな」

 

“ボス”、その言葉を聞くのは久々だ。もう、二度と聞くことはないと思ってた

 

「テメェが俺に勝てると思ってんのかよ!」

 

「当たり前だ。お前程度なら、何人いても殺せる」

 

俺は負の感情に任せてナイフを振った。しかし、簡単に避けられ、逆に切られた。敵わない。実力が違いすぎる

 

「クッ…!」

 

「どうした、ゼロ。俺なんか簡単に倒せるんじゃなかったのか?」

 

悔しいけど、俺じゃ敵わねぇ。メアリも一緒に戦ってくれてはいるけど、勝てる見込みは少ない…。だったら……

 

「メアリ、逃げるぞ」ヒソヒソ

 

「えっ……でも」ヒソヒソ

 

「逃げなきゃ殺られる。こんな所で殺されていいのか」ヒソヒソ

 

「うん。分かった」ヒソヒソ

 

俺はウエストポーチに手を伸ばし、そこから閃光玉を取り出す

 

「これでもくらえ!」

 

俺は閃光玉を投げると、メアリの手を引いてすぐに屋敷から飛び出した。その後、俺たちは蘇りつつあるメアリの土地勘頼りに逃げる。俺はもうここがどこだかわからない

 

「はぁはぁはぁ。何とか撒いたか?」

 

「はぁはぁはぁはぁ。うん、そうみたいだね」

 

少し落ち着いたからか、メアリの目からは涙が溢れる

 

「…ッ!どうして……。パパと…ママが……、他のみんなが!」

 

俺は何も言えなかった。メアリに幸せを見せておいて、それは絶望に変わってしまった。俺のせいだ。だったら、俺が、ヴァイスを倒すしかない

 

「ひとまずは安心だ。落ち着くまでは待つから」

 

しかし、世の中そう甘くはなかった

 

「ああ、安心しろ。すぐに殺ってやるからよ」

 

零士はメアリの方をチラリと見る。ガタガタと体を震わせ、怯えている。まともに戦えるとは思えない

 

「ヴァイス……。もう来やがった……」

 

零士はナイフと銃をそれぞれ持ち、再び始まる戦闘に備えた

 

「死ね!」

 

ヴァイスは真っ直ぐ突っ込んで来た。しかし、スピードが速すぎる

 

「ッ!負けるかッ!」

 

零士も負けずに応戦するが、パワーで劣る零士にヴァイスの突進は止められない。一方的に痛みつけられ、その体には痛々しい生傷が刻まれていく

 

「オイオイ、どうした?もう終わりか?」

 

“オーバーロード”はすでに使っている。使っても、ヴァイスには敵わない。零士の全力はいとも簡単に敗れた。零士の感情は久々に死の恐怖を覚えた。それだけ零士は絶望していた。自分とヴァイスのどう足掻いても埋められない差に

 

「その顔だよ、その顔!その絶望に満ちたその顔!俺はそれが見たかった。さぁ、もっと絶望しろ!そしてその顔を俺に見せてくれ!」

 

ヴァイスの持つ銃から、数回の発砲音が発せられた。放たれた弾丸は遮られる事なく、真っ直ぐ零士の体に向かって行き、貫いた

 

「ーーーーーーッ!」

 

声にならない叫びが響く。一発も急所に当たっていない。故にその苦しみはループし続ける

 

ッ!ヤベェ。体がちっとも動かねぇ。こりゃ死ぬな。せめて……メアリだけでも逃してやらねぇと

 

零士はその一心だけで立ち上がる。しかし、もうすでにその体にはナイフを振る力さえ残っていなかった

 

「ハハハッ!いいねぇ!そうでなくっちゃな!ゼロ、やっぱお前最っ高だわ!安心しろ。ライトにも、必ずお前の後を追わせる」

 

そしてついに、その銃に残された最後の弾丸が放たれた。今度こそ、それは零士の心臓を目掛けて飛んで行く。しかし、その弾は1人の少女によって阻まれた

 

「ッ!メアリ!」

 

メアリは零士の言葉に右手を力なく上げて答えると、最後の力を振り絞って、倒れるのを防ぐ

 

「“オーバーロード”!」

 

メアリの眼は緑色に光る。普段からメアリの“オーバーロード”の色は緑だ。でも、今日だけはいつも以上に明るく、鮮やかな緑だった。そして、それは強烈な光を放ちながら徐々にその輝きを失っていく

 

「まだ動けんのか。流石だな。でも…………」

 

「うるさい!黙れ!」

 

メアリの手には零士が普段から使っているナイフ。それを勢いよく振り下ろした

 

「うわァァァァァッ!お、俺の右腕がァァァ!」

 

ヴァイスの右腕だったものが宙を舞う

 

「ハァァァ、ハッ!」

 

更に、腕を引き、力強く突き出されたナイフはヴァイスの体に突き刺さる。そして、その瞬間にメアリは力尽きたのか、その場に倒れる

 

「こ、この女ァ!死に損ないが!」

 

ヴァイスは刺さったナイフを力任せに抜き、その場に捨てる。これだけのダメージを負って、ヤバいと思ったのか、この場を逃げる

 

零士は急いで、メアリの元に駆け寄る

 

「…メアリ……、おい、メアリ!何で俺を庇ったんだよ!」

 

「…レイ君に…生きて……欲しかったから…」

 

もうすでに、メアリの眼からは輝きは失われている

 

「何言ってんだよ!ずっと一緒だって言ったじゃないか!死ぬな、メアリ!」

 

「…ゴメンね……レイ君…。でも…私……幸せだよ。大好きな人を……守って……、大好きな人の…腕の中で死ねるんだから………」

 

徐々に声も小さくなる。最後にこれだけの言葉を話せるのも奇跡だ

 

零士はそれに答えない。いや、答えられない。口を開いても嗚咽する声が漏れるだけだった

 

「…そんなに……泣かないでよ…。死ぬのは…レイ君じゃなくて……私だよ……」

 

「…何で…何でお前が死ななくちゃいけないんだよ!…もう少しでお前は…家族全員と会えたのに……。お前は…幸せになる権利があるのに!何で!」

 

「そんなの……どうだって…いいよ。私は……レイ君と…一緒にいれた…それだけで…幸せだから…。だから…生きて……私の分まで………。私の分まで……幸せに……レイ君」

 

その言葉を最後にメアリは動かなくなった

 

ポツポツと雨が降り始めた。その音で、零士の叫び声は掻き消される

 

しばらくして、零士は屋敷に戻る。荷物をまとめてどこかへ行くためだ。部屋に着くと、机の上に箱があった

 

「これは……」

 

中にはペンダントと手紙。差出人はメアリだ

 

【やっほー、レイ君。何か、いつも会ってるのに手紙って恥ずかしいね。

レイ君、どう?そのペンダント。レイ君の為に使用人のみんなを一緒に走らせて見つけたんだよ。レイ君に似合うのはないかなぁ、とか、レイ君はどんなのを喜ぶかなぁ、とか考えながら選んだんだ。

このペンダントには魔除けの効果があるんだって。自分の身に降りかかる悪いことを代わりに受けてくれるんだって。私はレイ君みたいに強くないから、せめてこれが守ってくれるようにって。

そういえば知ってる?今日って私とレイ君が出会って丁度6年目なんだよ。6年って長いね。でも、あっという間だったね。これからもそういう時間を一緒に過ごしていこうね。2人がヨボヨボのおじいさんとおばあさんになるまで。レイ君、愛してます。今までも、これからも、ずっと。2人で、もっと沢山の思い出を作ろうね。大好きだよ。】

 

零士の目からは再び涙が零れ落ちる。一度枯れたはずだが、そんなことはなかったかのように泣き続ける

 

「…ッ!メアリ…!ホントにゴメン!」

 

俺はバカだ。あの日、6年前をきっかけに俺は強くなったつもりだった。守りたいものは何でも守れると思ってた。でも、違った。俺は何も守れなかった。守られてたのは俺の方だった

失ってからそれの大きさに初めて気づくって言うけど、まさにその通りだ。メアリが俺にとってどれだけの存在か、分かってたつもりだった。でも、俺の心の穴は恐ろしいぐらい大きく、二度と塞がることがないほどに深かった

 

「何で!」

 

自分を殺したい。メアリを守れなかった俺を殺したい。“黒羽零士”を殺したい

 

「何でなんだよ!」

 

俺がいけなかったんだ。愛する資格も愛される資格も、そしてそれを受け入れる資格も最初から俺にはなかった。俺が関わったから、俺が触れたから、俺が存在したから、幸せだったはずのメアリの人生は崩壊した。俺が壊した。俺が殺した。メアリが死んだのは俺のせいだ

 

「何で…俺じゃなくてメアリなんだ!」

 

俺は弱い。どんなに人を殺せても、どんなに強い力が使えても、今の俺はまだ弱い

 

じゃあ、どうすればいいと言うのだ?なればいいじゃないか、強者に。俺が知っている、俺が身につけられる唯一の強さを手に入れればいいじゃないか。誰も失わないために、強くなればいい。誰かを壊さないために、受け入れなければいい。感情なんて無くしてしまえ。飢えた獣の様に、本能の赴くままに生きればいい。その過程で“黒羽零士”が死に、“殺し屋ゼロ”が生まれた時、俺は強くなれる

 

零士はまたしても、道を間違えた。後少しで、辿り着けた強さを捨て、またしても、破壊の強さを選んでしまった

 

彼は孤独だった。両親から与えられるはずの愛を受け取れなかった。狂った姉によって自分の存在価値を間違った方向に捻じ曲げられた。殺すことこそが強さだと勘違いし、殺戮を繰り返した。そんな彼に光を灯した少女でさえ、彼を変えることは出来なかった

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「これが俺、“黒羽零士”、いや、“殺し屋ゼロ”の過去だ」

 

そして再び、彼はようやく巡り会えたはず仲間を、自分を受け入れてくれる仲間を拒絶しようとしていた

 





長い。そして暗い。これにて過去編終了

いかがでしたか?零士が隠したがっていた過去。鷹岡が原因で開いてしまった零士の過去の蓋。そこから出てきたのは彼の闇そのもの。その禁断の過去に触れてしまったE組の決断は?

そして1つ補足。零士はこの1年後に優希や龍牙と出会います。上手く話に組み込めなかったのでここで言っておきます

感想などお待ちしています

では、また次回


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涙の時間


遅くなって申し訳ありません。活動報告でも言った通り、SAOの小説も始めました。今後は暗殺教室とSAO、2作同時にやって行きます。これからもよろしくお願いします



 

 

 

 

「これが俺、“黒羽零士”、いや、“殺し屋ゼロ”の過去だ」

 

そう言い切った零士。それは、自分の中で“黒羽零士”はもう死んだということを表しているのだろうか

 

「じゃあ、俺帰るわ。殺せんせー、時間作ってくれてありがとな」

 

零士は早々に立ち去ろうとする。しかし、それを止めるため、零士の方には黄色い触手

 

「ダメですよ、零士君。まだ君は皆からの言葉を聞いていません。話を聞かせたからには、感想をもらわなければ。君は自分についての理解は深いものの、他人になると全然ダメですね。他人の感情や考えを自分で勝手に決めてしまう、君の悪い癖です」

 

殺せんせーに諭され、すぐに帰るのはやめた。しかし、皆の顔は暗いままだ

 

「ほら見ろ。誰も感想なんかねぇじゃねぇか。だったら俺は「じゃあ俺からいい?」……カルマ」

 

手を挙げたのはカルマだ。そういえば、このクラスに来た初日の時もコイツから質問されたっけ?

 

「正直言ってさ、ナメてた。お前がこんな過去を持ってたなんて考えもしなかったよ。確かに、メアリちゃんの死は辛かっただろうね。だけど、零士間違ってるよ。メアリちゃんの死はお前にそんな風になってもらうためのものじゃない。大事なことは、メアリちゃんの意志を継ぐことじゃないの?」

 

俺は……コイツが嫌いだ。いつものらりくらりとしてんのに、いざという時には核心をついてくる

 

「なぁ、零士。もう、自分を許してもいいんじゃないか?メアリちゃんはお前に“幸せ”になってほしいんだろ。だったら、1人になろうとするなよ」

 

ずっと優希には本心を隠してきた。本当はそんなはずはないけど、あいつに見られると全部見透かされてる気がしてならない

 

「零士君は……弱くなんかないよ」

 

そして、倉橋陽菜乃。頭がお花畑なコイツは……どこかメアリに似ていた。なぜか安心出来たのも多分メアリに似てるから。なぜかイライラするのもあの日、救えなかった自分を思い出すから

 

「零士君が“破壊の力”って言ったその強さ。だけど、私はそれに助けられたよ。私だけじゃない、みんなそう。初めて会った時、私を助けてくれた。修学旅行の時だって助けてくれた。律も零士君のおかげで変われた。イトナ君の時もみんなの気持ちを代弁してくれた。球技大会も勝てた。鷹岡先生の時だって!」

 

発せられた言葉が胸にスッと入ってくる感じ。これもそっくりだ。ホントに……イライラする!

 

「……うるせぇよ。んなもん、偶々だ。お前らのためじゃない。俺のためにやったことが回りに巡ってお前らが得をしただけだ」

 

「それでも、零士君に救われてる人はいるんだよ!それは破壊だけじゃない!救えるの!零士君はもう、誰かを救えるんだよ!」

 

「じゃあどうして!メアリは死んだんだ!それは俺には誰も救えない、それを現してるんじゃないのか!」

 

「破壊と救いは紙一重。壊せるなら救えるし、救えるなら壊せる。力ってそういうものじゃないのかな?」

 

……何だよそれ…………。要するに、俺が求めていたはずの強さはすぐそこにあったっていうのかよ

 

「んな事あってたまるかよ!じゃあどうして!俺は今まで悩んできたんだよ!“もうその力は持っていました。俺が気づいていなかっただけです。”そんなの納得出来るかよ!」

 

特徴的な音を出しながら、殺せんせーは近づいて来る

 

「その通りですよ、零士君。まさに、倉橋さんの言う通りです。君はもう、その強さを手にしていました。後は使い方だけです」

 

「自分が一番自分の事を分かってる!そんなはずはねぇ!」

 

「いいえ。人間、自分の事は一番分かっていません。不器用なくせに、プライドは高い。ある意味、魅力でもありますが大きな欠点でもあります。まずはその余計なプライドを一度捨てて、自分自身を見直してみてください。きっと、メアリさんの死も違った見方が出来ますよ」

 

……何も言えない。反論したいのに……何も言えない。もし、ホントにそうなら……

 

零士は言われた通りにしてみる。すると、今まで凝り固まっていた思考が動き出した。過去の出来事が鮮明に思い出されては消えていく。そして、メアリの死、メアリからの手紙の記憶が蘇る

 

あいつはホントは何を願っていたのか……。俺を庇ったのは何か別の意味があったのか……

 

気づくと、零士の目からは涙が溢れていた。彼女が死んでから3年。決して流れる事のなかった涙。枯れていたはずのそれが、気づかないうちに我慢していたそれが一斉に溢れ出す

 

「……メアリが望んでたのは……“殺し屋のいない世界”。もう、“俺たちのような子供が生まれない世界”。俺は……一体何をしてたんだよ…………」

 

俺は父親からの虐待を受けているうちにいつしか、考える事をしなくなっていた。だから….分かるわけなかったんだ。ヴァイスの巧妙に隠された真意が。メアリの意志が。俺が本当にやるべき事が

 

「ねー、零士。もう1つだけいい?」

 

「いいぜ、カルマ。いくらでも言え」

 

「俺たち、零士が何人、人を殺してようと関係ないよ。だって、俺たち()()()()()()()()()()()()()()だよ。それに比べたら、大抵の事は大したことないだろ。本当に零士がやるべき事、わかるだろ」

 

センキュー、カルマ。おかげで決心ついたわ

 

「ああ、もちろん。殺せんせー、あんたの事、必ず殺すよ。卒業までなんて言わずに今すぐ。これからは容赦しない。トップギアで殺るからさ、先生の命は……()()()()ぜ」

 

「ヌルフフフフ。素晴らしい殺意です。やれるものならやってみなさい」

 

俺はナイフを取り出して斬りかかる。もちろん、眼は赤くなっているし、優希からの援護射撃もある。そして、共に殺す、仲間もいる

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

翌日

 

「それにしてもはやみん。昨日は良いこといったね~」

 

「うっさい、中村!別に……優希のためじゃないし。あいつがいなくなったら……暗殺の成功確率が下がるから言っただけ」

 

「ツンデレ、ごちそうさまです」

 

「だからうるさい!」

 

今日も中村は絶好調。速水のツンデレも朝から調子がいい

 

「ねぇ、凛香ちゃん。私も優希君の事、応援するね」

 

「そうそう。ねぇ、みんなでグループ作ろうよ」

 

倉橋に矢田も言う。そう言うと早くもグループが出来、クラス中の女子が入る

 

「って、その名前何?」

 

LI○Eのグループ名は“陽菜乃と凛香を応援し隊”

 

「もちろん、陽菜ちゃんもおうえんするよ。だって零士君も中々のくせ者だもん。ねーみんな!」

 

矢田の問いに女子たちは一斉に頷く

 

「お互い、大変そうね」

 

「だね。そうだ!凛香ちゃん、私の事、陽菜乃って呼んでよ。いいでしょー」

 

「わ、分かったわよ。分かったから抱きつかないで!」

 

急に抱きついてきた倉橋を剥がそうとしている速水。最近ホントに苦労が絶えない

 

「えーじゃあ私も莉桜って呼んでよ。はやみん」

 

「中村はいいじゃない。それに、私も下の名前で呼ばれてるわけじゃないし」

 

「じゃあ、はやみんはやめる。お願い、凛香!」

 

「……分かったわよ。莉桜」

 

すると“私も下の名前で”なんていう人が続出し、クラスの女子のほとんどを速水は下の名前で呼ぶことになった

 

そこへ、噂の彼たちが登校して来る

 

「おっす。みんなおはよー!」

 

「朝からうるせぇよ、優希。……おはよう、みんな」

 

相変わらずのノリの優希にどこか冷めた零士。以前の変わらない様に見えて、その表情は立派に中学生だ

 

「お、おはよう、優希。遅かったじゃない。そのせいで射撃の訓練、出来なかったじゃない」

 

「はははっ、悪い悪い。零士を起こすのに手間取っちゃってさ」

 

倉橋と話していた零士が不満そうに優希を見る

 

「まぁまぁ、いいじゃんいいじゃん。じゃあさ、今度どっか出掛けようぜ。それでいいか、凛香」

 

「……///。べ、別に行きたいわけじゃないけどいいわよ。あんたが行きたいんだったら……///」

 

「りょーかい。じゃあ、俺が行きたいから、行こうぜ」

 

こちらは順調なご様子だ。クラスのみんかはうんうんと頷く。そして、次の注目はもう一組へ

 

「おは~、零士君。体大丈夫?」

 

「ん?ああ、大丈夫。ていうか、一番重症なのは優希に撃たれた足だけどな」

 

そう言って笑ってみせる

 

「あれ?その胸にあるの……」

 

「あ、コレか?ちゃんと烏間先生にも許可もらったぜ。メアリからもらったペンダント、没収は避けたいからな」

 

零士は倉橋に言われて、見せた後、直ぐにワイシャツの下に戻した

 

「似合ってるよ。だけど、零士君私服とは合わなそうだね。零士君、基本パーカーだけで機能性重視って感じだし」

 

倉橋がからかうように言う。零士もそれには苦笑い

 

「仕方ねえだろ。そういうのよくわかんねえんだから。それに……職業柄、色々と道具が仕込める方がいいからさ」

 

「じゃあさ、今度一緒に買いに行く?機能性とオシャレを両立出来るの探そうよ」

 

「お前が一緒ならな。1人だったら別に行かなくてもいいし」

 

「よしっ!じゃあ決まりね!今週末開けといてね~」

 

「早Σ!」

 

でも、なんだかんだ言って満更でもない零士。彼も徐々に人の心を取り戻してきているのだろう

 

まぁ、いっか。コイツといるのも最近悪くないと思ってるし。むしろ心地いい。この気持ち……初めてじゃねぇな。なんか……すげえ懐かしいな

 

そして、零士は久しぶりにその感情を感じた。それがこの先、吉と出るのか。それとも凶と出るのか。それはまだ、誰も知らない

 





無事和解&零士が気持ちに気づいた?回でした

次はプール!とい行きたいところですが、その前に鷹岡編の後処理をやります。零士と優希の殺し屋タッグがあの時の疑問を解消するために動きます。そしてそこで、再登場が予想されていたあの人が登場です。誰かって?ヒントはロンドンです

ではまた次回


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警告の時間

遅くなってすいません。SAOと同時連載なので、なんていう言い訳はないですね。すいません。
今回は前半おふざけ、後半真面目に行きます。戦闘描写に自信はありませんが、楽しんでくれたら幸いです


 

 

 

 

「へぇ、鷹岡明がお前らの過去を知っていたと」

 

「そうなんですよ。俺の過去だけでなく、零士の過去まで知ってて……」

 

俺は今、“Assassin’s cafe”にいる。師匠に過去を話したという報告と、鷹岡が俺たちの過去を知っていた事について話していた

 

「確かにそりゃ妙だな。防衛省でも零士やお前の過去は知らないはずだ。特に零士の場合、一度戸籍が消え、それを復元させたからバレたら面倒なんだよな」

 

防衛省は知らない……。じゃあどうして鷹岡は……

 

「アンタ達がなんかしたんじゃないの?零士だけじゃなく、優希も充分プライドあるからさ」

 

「ルリ姉、俺をあれと比較するな。俺がプライドが高いとしても、あいつとは雲泥の差はある」

 

「ははっ、それもそうね。」

 

バンッ

 

「痛っ!何すんのよ!」

 

「喋るな、動け、働け。ルリ、お前は1つの事しか一度に出来ないんだ。やるべき事だけやれ」

 

「うっさいわね。アンタ、烏間さん並の堅物じゃないの?ねぇ、ツルギ」

 

彼は桐島剣。このカフェのコック長であり、殺し屋。コードネームは“ヤイバ”。こうして考えると、このカフェの殺し屋のコードネームは安直なのが多い

 

「堅物で結構。お前みたいな自由人よりマシだ」

 

「はァ?私のどこが自由人なのよ!」

 

また始まった……。ルリ姉とツルギさんの痴話喧嘩。別にカップルでも夫婦でもないが、お互い惹かれあっているのは目に見てわかる

 

「まぁまぁツルギ。そこまでにしとけ。ルリが仕事しねぇのはいつもの事だろ。ところでさ、お前、いつになったら殺し屋辞めるんだ?」

 

「やめないよΣ!僕の本職はコックじゃない!」

 

「ツルギさん、いつになったらウチの専属コックになるの?」

 

「舞ちゃんまで何言うのΣ!」

 

俺からも言っておこう。ツルギさんはとにかく料理が上手い。冷蔵庫の余り物のスーパーの特売品で色々なコース料理が作れる程だ。正直、料理人としてはチートだと思う

 

バンッ

 

「おいコラ、テメェら何やってんだ?」

 

力強く開けられたドアの所にいたのは、午前中に陽菜乃ちゃんと買い物に行き、午後から合流予定だった零士

 

「何言ってんだよレイ。いつもの事だろ」

 

「へぇ、要するに龍さん。あんたはこの店を潰したいと……」

 

「は?何言ってやがる」

 

「それはこっちのセリフだバカ野郎。今は何時だ?12:45だ。つまり、ランチタイムだよ、とっくに!客を待たせるな!バイトじゃ捌ききれないんだよ!」

 

こういう時の零士は頼もしいが怖い。何だかんだ言って、零士は根は真面目だからだ

 

「ツルギさんは厨房!注文の大体はパスタだから!優希はツルギさんのアシスト!何をやるべきかは分かってるな!」

 

俺とツルギさんは一斉に動き出す。零士は指揮能力はないが、それ故に要求がシンプルで分かりやすい。少人数なら零士の指示は的確だ

 

「龍さん、コーヒーは全席で注文入ってる!注文は厨房の所に貼ってある!それ見て頼む!」

 

そして零士はルリ姉の服の襟を掴んで引きずる。舞姉の方を見て更に指示を出す

 

「舞!バイトだけじゃ接客がキツイ時間帯だ!接客頼む!ルリも手伝え!俺もやるから!」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

ー零士sideー

 

「「「「「お、終わったー」」」」」

 

ようやく、ランチタイムが終わり、店は1時間の休憩時間に入る。だから皆、とてもダラダラしている。因みに1時間後また、店を開けるはずなのだが

 

「よし、優希、行くぞ」

 

「分かったよ!舞姉、地図頼む」

 

「りょーかい。いまスマホの方に転送する」

 

スマホに地図が届いたのを確認し、俺と優希は店を出る。もちろん俺は黒のパーカーを着て、仕事スタイル。優希もヘッドホンをインカム付きのに変えている

 

「じゃあ行ってくる!」

 

 

俺たちはとあるアパートに来ていた。ここが鷹岡明が住んでいる。だが、椚ヶ丘を辞めさせられてから、一度も帰っていない事を優希が調査済みだ

 

「さて、やるか」

 

「おう。でもさゼロ?」

 

「ん?どうした?」

 

「鍵とか持ってないの?」

 

「お前、ピッキング出来んだろ。不法侵入だよ不法侵入。さっさと入って目当てのモン見つけたらさっさと逃げようぜ」

 

「……それ、なんか空き巣みたいだな……」

 

まさにそうである

 

ガチャッ

 

「流石ブレット。仕事が早い」

 

「褒めても何も出ないぞ。ほら、さっさと仕事する。何か俺らの過去を知る手がかりになったものを探すぞ」

 

俺と優希は鷹岡の部屋を空き巣並に探しまくる。岡島や殺せんせー、プライベート優希なら飛びつきそうな本やDVDもあったがそれはスルーする。一番驚いたのは部屋が異常なほどに綺麗な事。とはいえ、生活の跡はあるので、意外と綺麗好きだという事が分かる。ギャップ萌え?とか言うのかこれ。いや、そんな事はありえない

 

「どうだー、ゼロ。なんかあったか?」

 

「特に変わったモンはねぇな。でも、バッジみたいなのなら見つけたぜ。ほら」

 

俺は優希に金色で縁取られた黒いバッジを投げて渡す。持って見た感じ、そこまで重くもなく、大した物ではないと思ってた

 

「!……おい……コレ……《ナイトメア》のじゃんか……」

 

「んだよそれ。俺にも分かるように説明しろ」

 

しかし、俺の問いが最後まで優希には聞こえなかった。なぜなら、いきなり部屋が爆発したからだ

 

ドカアァァァァン

 

「「うわあァァァッ!」」

 

俺と優希は間一髪のところで爆発した物体に気づき、受け身を取る

 

「いきなり何だよ……」

 

「手榴弾か……。俺のサーチにも引っかかってねぇぞ」

 

さっきまでいた鷹岡の部屋は吹っ飛び、アパートは炎に包まれていた。偶然というか、あえてアパートに誰もいない時間を狙ったので建物への被害以外は特にない

 

「!ゼロ、後ろに跳べ!」

 

「ッ!」

 

俺がいた場所には弾丸が飛んで来た。その方向を見るとサイレンサーのついたライフルを持ったスナイパー

 

「なぁ、ブレット、あいつは……」

 

「ああ。ロンドンで襲って来た奴だ。あの位置だと、確かに俺のサーチギリギリだな」

 

なんて話をしているうちにまた、弾丸が放たれる

 

「チッ!あの距離じゃ俺には出来る事ねぇぞ!どうすんだ!」

 

「落ち着け。俺が仕留める。だから、お前は囮だ」

 

「撃たれろって言いてぇのか?」

 

「バーカ。お前なら出来るさ。斬るんだよ、弾を」

 

「対物ライフルから撃ち出される弾丸を斬るなんてどんだけチートなんだよ!ンなもん出来るか!せめて、どっかのビ○ターさんが使ってるライ○セーバー持って来い!」

 

あまりの状況に零士のキャラが崩壊する

 

「メタいわΣ!いくら作者がその作品を始めたからってステマ目的でンなこと言うな!」

 

「お前もメタいわ!」

 

もうグダグダ。こんなやり取りの間でも、スナイパーは2人を狙う。言い争いをしている時、動きながらしていたことが不幸中の幸いだ

 

「ああもう!分かったよ!やりゃあいいんだろ!」

 

「最初っからそう言ってんだろ。それとコレ、ツルギさんから。試作品だってよ」

 

優希がそう言って渡したのはスモールソードと呼んでもいいぐらいの長さの短剣。短剣よりは長く、剣より短い。中途半端だが、そのサイズの武器は面白いぐらい零士に馴染む

 

「へぇ。で、なぜコレを今渡す?他にあったろ、タイミング」

 

「実践にいきなり投入の方が燃えるだろ」

 

「言えてるな。じゃあ、リセットして、殺りますか!」

 

「りょーかい!全感覚、切断……そして再接続」

 

優希の唱えた言葉。文字通り自分の感覚を一度遮断し、再び戻す。これにより、優希の感覚はさらに鋭敏になる。零士も顔の前で手を叩いて音を出し、スイッチを入れる。優希はライフル、零士は右手にダガー、左手に短剣を構える

 

「お前の合図でいいぜ」

 

「りょーかい。3・2・1・GO!」

 

零士は一気に飛び出す。縮地術やフリーランニングのスキルを駆使して、すごいスピードでスナイパーに迫る。だが、スナイパーも何もしないはずがない。零士に向かって引き金を引く。しかし、弾は零士の目の前で弾かれる

 

「残念。ゼロの進路は誰にも邪魔させないよ」

 

優希がライフルで弾を狙撃したのだ。零士はそれが分かっていたかのように進み続ける。何度狙撃されても、全て優希が弾いてくれる。おそらく、そういう安心感があるのだろう。そして、遂に目の前まで来た

 

「これで……決める!」

 

ダガーを背中まで持って行き、スナイパーからは見えなくなる。どのタイミングで攻撃が来るか分からない

 

「チッ!」

 

スナイパーは舌打ちをするとライフルをしまい、二丁のハンドガンに持ち替える。先ほどとは違う、数での攻撃だ。これでは優希でも撃ち落せない

 

「……やばっ!」

 

どうする……ガードするって言っても無理だぜ……。こうなったら……やるしかない!

 

「はあぁぁぁぁっ!」

 

零士は空中で左手の短剣を振り続ける。しかし、ただ振っているわけではない。元からの動体視力に“オーバーロード”による補正がかかり、零士には弾の軌道が全て見えていた。それに合わせて短剣で弾いていた。そして……

 

「ここだッ!」

 

零士が最後に振った短剣が弾丸を斬った。まさに、銃の世界に剣で挑んだ剣士のように、弾丸に剣で対応してしまった

 

「これで、終わりだ!」

 

背中の方にあったダガーをスナイパーに向かって振る。誰もが、零士の勝利を確信していた。しかし……

 

「なッ……エストック…………」

 

スナイパーは更に、エストックに武器を持ち替える。そして、それを零士に向かって突き出す

 

どうする……。短剣じゃ軌道を変えるだけだ。ダメージは避けられない。だったら……

 

零士は左手の短剣を横にして、広い面で受け止める。その結果、零士は勢いを殺しきれず、後方に向かって落ちる。それと同時に、短剣にもヒビが入る

 

「痛ってぇ……。つぅか、短剣もう壊れてんじゃん!ツルギさん、試作品だからって手抜いたな」

 

「バカ言うな。その金属も最高品質とは言わないが充分いいものだ。扱いが雑なだけだ」

 

その時、空砲が鳴った。スナイパーだ

 

「“殺し屋ゼロ”、“殺し屋ブレット”。我をここまで追い詰めたこと、誇りに思うがいい。エストックを抜かせたのはお前たちで3人目だ」

 

変声機で変えたような無機質な声。声から正体は分からない

 

「ただ、ここで1つ警告だ!《ナイトメア》に関わらない方がいい。さもなくば、お前たち自身や仲間、大切な者にまで、組織の手が及ぶだろう」

 

やはり、優希の言う通り、鷹岡は《ナイトメア》と繋がりがあった

 

「だが、“ゼロ”、いや“黒羽零士”!お前だけは別だ。我らがボス、“シュヴァルツ”が組織の力を総動員し、お前に手を下すだろう。抵抗さえしなければ、周りへの被害を加えるつもりはない!そのことを覚えておくといい!」

 

そう言うと、スナイパーは足元に煙玉を投げつけ、煙が晴れた頃には、人影はなかった

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「なぁ、優希。《ナイトメア》って何だよ」

 

「《ナイトメア》は表向きには海外を中心に活動している殺し屋派遣会社だ。海外では殺し屋が職業として認知されている場合もある。だが、本当はそんな甘いものじゃない。依頼があろうがなかろうが殺したいときに殺す。ターゲットが組織の中で決まって、依頼と同時進行で進める。大統領や財閥の当主とか多くのVIPの暗殺は彼らによって行われてきた」

 

優希の長い説明。だが、ここには《ナイトメア》という組織がどんな組織かというのをよく表していた

 

「そんな奴に……俺、狙われてんだな。何かしたかな、俺」

 

「諦めろ。お前の人生は昔から色々あった。戸籍も一度消えてるんだ。殺し屋だ。“オーバーロード”が使える。狙われてもおかしくない要素は揃ってる」

 

「……だな」

 

「でも、俺も力を貸す。師匠たちも、話せば力になってくれるさ。だから今は、殺せんせーと向き合おうぜ」

 

「ああ」

 

零士と優希は家に帰った。しかし、零士は夕食にもほとんど手をつけず、ベットにダイブする

 

俺が……命を狙われる……か。今まで、狙う側だったんだけどな。最近、色々起きすぎて分かんなねぇや。だけど……

 

「E組の奴らを……優希を……陽菜乃を……巻き込むわけにはいかねぇな」

 

俺を変えてくれたあいつらの、幸せだけは……必ず……。俺は……そのためなら……全てを犠牲にしてやる。大事なものは全部守る!《ナイトメア》、“シュヴァルツ”……来るなら来い。返り討ちにしてやるよ。“殺し屋ゼロ”にケンカを売ったこと、後悔させてやる

 




次回、ようやく原作ルートに戻ります。まずはプール、片岡の話もやり、寺坂に行く前に少し、オリジナルを入れたいなぁと思っております。もうしばらく、こんな感じなのですが、お付き合いください

オリキャラが出まくってますが、安心してください。これからも出番のある方たちです。少しネタバレをすると、彼らは2学期に大暴れをする予定です。では、そこら辺もお楽しみにしてください


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夏の時間

今週末、文化祭があるので少し更新が遅くなるかも。多分SAOが増えるかも。あっちは少しオリジナル入るので。
今回は完璧超人とも言える優希の弱点も発覚!矢田による爆弾投下!と、ネタを詰め込んでおります


 

 

 

 

「暑ッぢ~……」

 

「地獄だぜ……。クーラーのない教室とか……」

 

「全くだぜ。A組の頃はクーラー完備で最高だったんだけどな~。ホント、寝るのには最適な場所でよ」

 

零士がボソッと言った言葉がクラス中の反感を呼ぶ

 

「ふざけんな!」

「クーラーなくて悪かったな!」

「勝手に寝てろ!」

 

ついでに、ありとあらゆる物が投げられる。中にはワサビのチューブもあった。何でンなもん投げんだよ、カルマ

 

「みなさん、だらしないですよ。夏、暑いのは当然です。この日本という国で暮らすのだから、諦めなさい。ちなみに先生、放課後は南極に行く予定です。1人でかき氷を堪能します」

 

「「「「「ずりぃ!」」」」」

 

そんな中、倉橋はその空気を変えようと、水着の入ったカバンを取り出して言う

 

「でも今日、プール開きだよねっ。体育の時間が待ち遠しい~」

 

「いや……そのプールがE組にとっちゃ地獄なんだよ。なんせプールは本校舎にしかないからな。炎天下の山道を1km往復して入りに行く必要がある。人呼んで《E組 死のプール行軍》」

 

E組にとってはプールさえも地獄。どれだけの差別を受けているかが伝わってくる

 

「そういや、今日は優希が大人しいな。“プール”の辺りで“水着姿が見れる”とか言って騒ぐと思ってたんだけど……」

 

前原がちょっとした疑問を口にする。確かにそうだ。優希が騒がないのは珍しい。あの岡島もカメラをカバンから取り出しているというのに

 

「ああ、優希ならHRの途中から机の上でダウンしてる。あいつ、暑いの寒いのどっちも苦手なんだよ」

 

「なんか、変な所でスペック低いな。普段は零士なんか足元にも及ばないほどのハイスペックなのに」

 

「あァ?俺があいつより劣ってるって言うのか?」

 

「ああ!もう!暑いんだから騒がないで!」

 

零士よりも2つ前の席の速水が大声で言う。彼女もまた、暑さでイライラしていた。普段のクールビューティーが崩れている

 

「こ、殺せんせー。もう何でもいいから……す、涼しくしてくれ。俺、おかしくなりそうだ。それか、凛香ちゃんがハグでもしてくれたら元気に「うっさい!」グハッ!」

 

突然の優希のセクハラ発言に、速水はエアガンを発砲。見事に眉間にヒットした

 

「んもーしょーがないなぁ……と言いたい所ですが、先生のスピードを当てにするんじゃありません!いくらマッハ20でも出来ない事はあるんです!」

 

自称“ネコ型”の青いタヌキのような顔で対応した後、バツの顔で言った

 

「……この無能。速いだけのタコなんて存在価値ねー」

 

「そ、そんな事言わないでくださいΣ!」

 

優希の容赦ない呟きに殺せんせーは焦って反応する。少し言い過ぎな気もしなくもないが、言いたい気持ちも分かる

 

「……仕方ないですねぇ。全員水着に着替えて着いて来なさい」

 

「「水着Σ!」」

 

ゴツンッ

 

「岡島、優希、少しは自粛しろ」

 

零士が取り敢えず一発殴り、黙らせる。一応、優希は少しずつ元気を取り戻しているようで、安心できた

 

「そばの裏山に小さな沢があったはずです。そこに行きましょう」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「裏山に沢なんてあったんだ」

 

「……一応な。つっても足首まであるかないかの深さだぜ」

 

「それで充分。むしろ俺はそれがいい」

 

ポケットに手を突っ込んだままの優希がダルそうに言う

 

「ねぇ、零士君」

 

「ん?どうした、陽菜乃」

 

「最近は大丈夫?」

 

「ああ。ちょっと、頭痛がするぐらいかな?まぁコレは“オーバーロード”の使い過ぎ出し……大丈夫だろ」

 

俺が狙われてる、なんて事が言えるわけはない。ま、別に大丈夫だろ。俺がこの教室にいる限りは頼りになる人たちもいるしな

 

零士は殺せんせーの方を見ながらそう思った

 

「さて皆さん!さっき先生は言いました。マッハ20でも出来ない事があると。その1つがプールに連れて行く事。残念ながらそれには1日かかります」

 

「1日……って大袈裟な。本校舎のは歩いて20分……」

 

悠馬の言う通りだ。それに訓練をして来た俺たちなら、もう少し早く行ける気もする

 

「おや?誰が本校舎まで行くと?」

 

殺せんせーがそう言うと、向こう側から水の音が微かに聞こえて来た。俺たちはその音の方は走った

 

「なにせ、小さな沢を塞き止めたので……。水が溜まるまで20時間!バッチリ25mのコースも確保。シーズンオフには水を抜いて元通り。水位を調整すれば魚だって飼えます。制作に1日。移動に1分。後は1秒あれば飛び込めますよ」

 

「「「「「い……いやっほぉう!」」」」」

 

ほぼ全員が一斉に飛び込んだ

 

「楽しいけどちょっと憂鬱。泳ぎは苦手だし……水着は体のラインがはっきり出るし」

 

「大丈夫さ、茅野。その体もいつかどこかで需要あるさ」

 

「そうだぜ、カエデちゃん。カエデちゃん、美乳だし、カワイイし、スタイルも悪くないさ。安心しろって」

 

カメラを構える岡島。プールサイドの日陰でライフルの手入れをしていた優希。2人がフォローと言えないフォローをする

 

「……後撮ってないのは矢田に片岡、岡野か……。おっと、倉橋と速水も忘れてた」

 

…………何だって?

 

「オイコラ、岡島。今のは聞き捨てならねぇな。いつまでカメラ撮ってんだ!」

「悪いな大河。俺はお前を殺さなくちゃいけないらしい。許してくれ、ブラザー」

 

その後、岡島の事を見た者はいるとかいないとか……

 

「勝手に殺すなΣ!」

 

「おーかーじーまー!まだ終わってねぇぞ!」

 

零士は一通り、岡島の粛清を終えると戻って来た。しかし、零士自身、なぜ岡島を殴ったのか理解していなかった

 

「零士君」

 

「ん?どうした、桃花」

 

「体、結構鍛えてるんだね。服のの上からじゃ分かんないけど。ねぇ、陽菜ちゃん!陽菜ちゃんもそう思うよね!」

 

「ふぇっ?」

 

まさか自分に振られると思ってなかった(どうやって零士に振り向いてもらおうか考えていた)倉橋は変な返事をしてしまう

 

「だから、零士君っていい体してるよね」

 

「う、うん。私もそう思うよ」

 

「別に。傷だらけなだけだよ。むしろ、気持ち悪いんじゃないの?こんなボロボロの体」

 

最近、自分のこれまでの生き方に疑問を感じている零士はこの手の話題は自虐的になりやすい

 

「私は……す、好きだよ…///。傷だらけだけど……カッコイイし。ちゃんと鍛えてるなぁって感じで…///」

 

そう言うと倉橋はプールの中に顔を半分沈める。零士は嬉しかったのか、少し顔を赤くする。それを見て、矢田は満足気だ。彼女は2人をくっつけるため、こんな事を言ったのだ

 

「じゃあさ、零士君。陽菜ちゃんの水着姿、どう?」

 

「「えっ…///」」

 

零士は顔を更に赤くし、倉橋は赤くなりながらも零士の答えが気になっていた

 

「え……ええと……」

 

「はっきりしてよ、零士君。じゃあこうしよう!私と陽菜ちゃん、どっちの方が見ててドキドキする?」

 

「「ッ…///!」」

 

流石にこれは耐えられない。倉橋は頭のてっぺんまで水に入り、零士は何事もなかったかのように水に入り、泳ぎ始めた

 

「桃花ちゃん!いきなり何言ってんの!恥ずかしいじゃん…///!」

 

「えー、だってさー、陽菜ちゃん、恥ずかしがって何もしないじゃん。見てるコッチがモヤモヤしちゃってね。安心してよ、これからも色々助けてあげるから」

 

「ううっ……。お願いだからもうやめてよー。恥ずかしいから」

 

ー優希sideー

 

「何してんのよ、優希」

 

「うわっ!」

 

優希のライフルのスコープに速水がアップで映る。思わずビックリして、ひっくり返る

 

「バカじゃないの?何でそんなに驚くのよ」

 

凛花ちゃんが手を差し出して来た。俺はそれに引っ張られて起き上がる。でも……なんか水着の凛香ちゃん……すごく魅力的なんだけど……

 

「……ど、どこ見てんのよ!」

 

速水が片手で胸の辺りを抱え、優希をビンタする

 

「そんなに殴る事ねぇだろ」

 

「あんたが悪いのよ」

 

速水は少し顔を赤らめ、優希は頬に赤い紅葉を作っていた

 

「ところで、どうしてプール、入んないのよ。ジャージも脱いでないし」

 

ギクッ

 

「べ、別にいいだろ。い、今はさ、この間使ったライフルの手入れをな」

 

「ふーん。そっか」

 

その時、優希の背後に1人の女子が近づく。そして、優希を後ろから押した

 

「うわっ!」

 

バシャ-ンッ

 

「ほら、凛香も行って来なよ」

 

「……あ、ありがと」

 

速水もプールに入ろうとするが、ここで1つ気になる事があった。それは……

 

「ねぇ、莉桜。優希、遅くない?全然上がって来ないんだけど……」

 

「まさか……」

 

「おい!速水、中村!優希を早く引き上げろ!あいつカナヅチなんだ!泳げないんだよ!早くしねぇと溺れる!ていうかもう溺れてる!」

 

「優希って……」

 

「うん。暗殺者としてはハイスペックだけど……。中学生だと……ヘッポコだな」

 

そんな声が男子たちから聞こえる。女子も声に出さないだけで思ってはいた

 

速水と中村は急いで優希を引き上げた

 

「大丈夫?優希」

 

「んっ……。りんかちゃんか……。ゲホッゲホッ!大丈夫だよ。水がダメなだけだから」

 

その時、優希がふらつき、後ろに倒れる。そして、掴んでいた速水が優希を押し倒す形で倒れる

 

「「……///!」」

 

ピピピピッ

 

「速水さん、優希君!君たちにはその展開は早過ぎます!ちゃんと手順を踏んで「「違う(わよ)Σ!」」……」

 

俺と凛香ちゃんは揃ってツッコむ

 

「木村君!プールサイドは走ってはいけません!」

 

「あ、す、すんません」

 

「狭間さんも本ばっかり読んでないで泳ぎなさい!

菅谷君!ボディーアートは普通なら禁止です!

矢田さん!倉橋さんは純粋な子なんです!言葉責めでその心を弄ばないでください!」

 

その後も笛を鳴らし続ける殺せんせー。ありがたみがなくなり、とにかく小うるさい

 

「かてぇ事言うなよ、殺せんせー。今日ぐらいは先生も遊ぼうぜ!」

 

零士が殺せんせーに水をかける

 

「きゃんっ!」

 

……………………

 

「「「「「えっ……何、今の悲鳴」」」」」

 

カルマがすかさず殺せんせーの側に行き、イスを揺らす

 

「きゃあッ!揺らさないで!水に落ちる!」

 

殺せんせー……もしかして……

 

「……いや別に泳ぐ気分じゃないしだけだし。水中だと触手がふやけて動けなくなるとかそんなんないし」

 

「手にビート板持ってんじゃん。泳ぐ気があるのかと……」

 

「これ、ビート板じゃないですよ。ふ菓子です」

 

「「「「「おやつかよΣ!」」」」」

 

殺せんせーは……()()()()

 

「!あ、やば!バランスが!うわっぷ!」

 

「かっ、茅野さん!このふ菓子に捕まって!」

 

「んなモンで出来るかΣ!」

 

カエデちゃんが浮き輪から落ちた。泳げない俺が助けには行げなかった。零士はすぐにカエデちゃんの方は行くが、それ以上のスピードで1人の女子が助ける

 

「はい、大丈夫だよ茅野さん。すぐ浅いとこ行くからね」

 

「助かった……。ありがとう、片岡さん」

 

「サンキュー、メグ。悪いな、俺の方が近かったのに」

 

「いいよ、こういうのは私に任せて。……ふふ。水の中なら私の出番かもね」

 




優希と速水にやや軽めのラブハプニングが……。矢田の投下した爆弾により真っ赤になった零士と倉橋。今までと比べると圧倒的に平和になりました。ここから距離が縮めばいいな。
どうでもいい情報ですが、泳ぎを始めとする夏が苦手な優希は冬も苦手です。当然、スキーやスノボは出来ません。そこらへんのスペック低い……。
次回は片岡個人回。泳げない優希を出すか出さないか迷うな……。


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水泳の時間

遅くなってしまいすいません。SAOの方の調子が良くてそっちを書いてました。近々定期テストなので更新速度が落ちるかな? というか感じです。
今日から今までの話を少し修正します。内容は変えず、文頭に空白を入れたりして、見やすくなればと思ってます。


「律、タイムは?」

 

「26秒08。片岡さんの自己ベストには0.7秒届いていません」

 

「ブランクあるなぁ。任せてと言った以上は万全に仕上げないとね」

 

 そう言って、片岡さんはまた泳ぎ始めた。

 

「……うーむ、かっこいい」

 

「責任感の塊だね」

 

 そこへ、一組の男女がやって来た。

 

「へぇ、やってるねぇ」

 

「零士君、茶化さないの」

 

「へいへい」

 

 零士君と倉橋さんだ。彼がクラスに自分の過去を明かしてから、2人の距離はグッと縮まった。僕らは皆、彼女の気持ちを知っているので応援しているのだが……、

 

「つぅーかさ、お前まで着いて来る事なかったろ」

 

「べ、別にいいじゃん! 私だってメグちゃんの泳ぐ姿みたいもん」

 

「……あっそ」

 

 今までとあまり変わってない。零士君が少し鈍感過ぎるのかな? 本人も少なからず意識してるっぽいんだけどな……。

 

「おーい、メグ。俺も混ざっていいか? 泳ぎには割と自信があるんだ」

 

「私に挑戦? いいよ、かかって来て」

 

 零士君がパーカーを脱いで、水着姿になる。倉橋さんがそれを見て、頬を少し赤らめているのは別の話だ。

 

「ではお二人とも、準備はいいですか?」

 

 律の声に2人は無言で頷く

 

「よーい、スタート!」

 

 勢いよくスタートした2人。最初から飛ばす零士君と自分のリズムで泳ぐ片岡さん。勝負は後半戦だ。

 

「頑張れー、零士君! 頑張れー、メグちゃん!」

 

「2人とも頑張って!」

 

 倉橋さんと茅野の応援にも熱が入る。そう言う僕も、内心、どっちが勝つか興味津々だ。

 

 そして、2人はほぼ同時にゴールした。僕たちは皆、律の声を待った。

 

「零士さん、25秒97。片岡さん、26秒00です。残念ながら、零士さんの勝ちですね」

 

「あちゃー、負けちゃったか」

 

「何言ってんだ、ブランクありで自己ベスト更新。ブランクさえなけりゃ、俺の負けだ。流石だな、メグ」

 

「ありがと」

 

 そこへ、僕らのターゲットがやって来た。まずい……今、作戦がバレてはいけない。

 

「何を任されたんでしょうねぇ。やけに気合が入ってます」

 

「殺せんせーさぁ……、巨乳女優ね田出はるこにファンレター送ったでしょ」

 

「にゅやッ! なぜそれを!」

 

「机の中見ちゃったんだ。随分書き直したんだね。確か……“あなたを見ると私の触手が元気になるのです”だっけ? 普通にセクハラだよ。先生って教師だよね」

 

「先生、私……信じてたのに……」

 

 僕に続いて倉橋さんも追い打ちをかける。

 

「渚も倉橋さんも、もうやめたげて。殺せんせー、すでに瀕死」

 

「まだあるよ。この間、うちのクラスの2人を尾行してたよね。この写真、先生だよね、撮ったの」

 

 そこには目つきの悪い黒猫と天真爛漫な女の子が2人で買い物をしている様子が写っていた。

 

「あ! そ、それ……///。私が零士君と出かけた時の写真じゃん! せ、先生……殺してやる……///!」

 

 倉橋さんは殺意と恥ずかしさで顔が赤くなっている。

 

「ひぃぃッ! く、倉橋さん。お、落ち着いて。今すぐ全部破ります! 破りますから!」

 

「ダメ! わ、私が処分するから……ぜ、全部ちょうだい……//////」

 

 恋する乙女は殺意を捨て、欲を取った。言い方はあれだが、倉橋さんの零士君への想いが伝わって来た。後、なんか悪い事したな~。

 

 そんな時、プールの方から音がした。多分、携帯の音だ。

 

「片岡さん。田川心菜さんからメールです」

 

「あーうん。分かった。零士君、携帯取ってくんない?」

 

「はいよ」

 

「ありがと」

 

 片岡さんはそのメールを確認し、プールから出る。

 

「ごめん、零士君。せっかく練習に付き合ってくれたのに。用事出来ちゃったから先帰るね」

 

「あ、ああ。それは別に構わねぇよ」

 

 

 ー零士sideー

 

「メグの奴……何つぅ顔してんだよ」

 

「うん。友達と会う割には……すごく暗い顔してた」

 

 零士の言葉に同意する様に、倉橋が答える。

 

「見に行きましょう。しっかり者の彼女の事です。何かあるかもしれません」

 

 殺せんせーの言葉を聞いて、俺と陽菜乃、渚と茅野は動き出す。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 零士たちは片岡が入ったファミレスに向かう。隠れながら片岡の様子を探っている。

 

「ホラ、そこの文法が違うんだってば。正しくは…………」

 

「あーそっかぁ。繋がったぁ!」  期末テスト近いからさぁ!  めぐめぐ、E組だけど、私の苦手な所、出来るもんね」

 

「……ま ね」

 

 片岡は少し声のトーンを変えて話す。

 

「……あのさ、心菜。私今、やりたい事があってさ。もうクラスも違うんだし、こうしょっちゅう呼び出されると……ね」

 

「……何それ。どーゆー事? もう呼ぶなって事?」

 

「……いや、そうは…………」

 

「……ひどい。私の事、殺しかけたくせに」

 

 たがわ……ここな……どこかで……。

 

「あなたのせいで死にかけてから、怖くて水に入らないんだよ。支えてくれるよね? 一生」

 

 思い出した、あいつだ!

 

 零士は1人、片岡の方へ向かった。

 

「あ、もぉこんな時間じゃん。友達と遊ぶ約束に遅れちゃう」

 

「よぉ、メグ、田川」

 

「零士君?」「れ、零士君!」

 

 前者が片岡、後者が田川だ。

 

「何やってんの、お前ら」

 

「れ、零士君、ち、違うのこれは……ただ、めぐめぐに勉強を教えてもらってただけなの! ね、そうだよね!」

 

「う、うん」

 

 俺はメグの事を少し見てから、田川と話す。

 

「そっか。よかった。俺には何か行き過ぎてた気がしてたから。これからも、ちゃんと対等な関係でいろよ」

 

「う、うん、もちろんだよ。零士君、次のテストで絶対戻って来てよ。本校舎の女子たちが待ってるよ。もちろん私もね。じゃあね」

 

 そう言って、田川は帰った。他の濡れたメグを残して。

 

「ありがと、零士君。それと……隠れてる4人も出て来ようか」

 

 

 ◆◆◆

 

 

「去年の夏にね、あの娘から泳ぎを教えてくれって頼まれたの。好きな男子含むグループで海に行く事になったらしくて。まぁ、その好きな男子っていうのが……」

 

 メグは俺の方を見る。

 

「俺だったらしいな。やたらと絡んで来たから覚えてる。あの頃の俺は演じてたから、周りの女子には興味なかったけど」

 

 陽菜乃が俺の方を睨んでる気がするが、今は無視だ。理由も分からんし。

 

「1回目でプールで泳げるまで上達した。だけど、その後も何回も教える予定だったのに、来なくてね。案の定、海で溺れて救助された」

「いやぁ、あれはダサかった」

 

「零士君……その言い方は……」

 

 渚に言われる。だってそう思ったんだから仕方ねぇだろ。

 

「それ以来あんな感じ。テストの度に教えて、自分の苦手科目をこじらせてE組行き」

 

「そんな……ちょっと片岡さんに甘え過ぎじゃ……?」

 

「いいよ。こういうのは慣れっこだから」

 

 俺はその言葉が気になった。だからそれは違うと言おうとした。

 

「メグ、それはよ ピッ! ぞ。

 殺せんせー! 被せんな!」

 

「す、すいません! でも、今は先生に任せてください」

 

 仕方ねぇ。任せてやるよ。

 

 俺は少し不貞腐れながら黙る。それと、田川の事をダサいと言った辺りから、陽菜乃の機嫌がいい。もう、訳分からん。

 

「いけません、片岡さん。しがみつかれる事に慣れてしまうと……いつか一緒に溺れてしまいますよ。例えばこんな風に」

 

 そう言って、殺せんせーが出したのは【主婦の憂鬱】というか紙芝居とは思えない題名の紙芝居。

 

 とにかく中身があれだった。何と言うか……リアリティがある。

 

「いわゆる共依存というやつです。あなた自身も依存される事に依存してしまうのです。片岡さん。あなたの面倒見や責任感は本当に素晴らしい。ですが、時には相手の自立心を育てる事も必要です」

 

「どうすればいいのかな……」

 

 ここだけは俺が言いたい。殺せんせーには邪魔されない。

 

「決まっています。「田川を泳げるようにすればいい」いい。にゅやッ! 零士君、被せないで!」

 

「お返しだ。

 メグ、お前のそういう所、マジで尊敬してる。だからこそ、お前の才能をダメにしたくない。俺たちが力を貸すぜ。大丈夫だ。俺たちにはゴシップ好きのエロダコがついてる。何とかなる」

 

「「「(全然頼りにならなそう)」」」

 

 全員が同じ事を心の中でツッコんだ所で、作戦は開始された。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 田川は目を覚ます。起き上がるとそこは見慣れた自室ではなかった。幻想的な泉に寝てるわけないし、人外がいる所にいる意味も分からない。

 

「目覚めたみたいだね。えーと、こ、ここは魚の国! さぁ、私達と一緒に泳ごうよ!」

 

「……あんた、めぐめぐに似てない?」

 

 本人です。

 

「……違うし。めぐめぐとか知らないし。……魚魚(うおうお)だし」

 

「何その居酒屋みたいな名前Σ!」

 

 ですよねぇ。

 

 そこですかさず、殺せんせーがフォローに入る。その間は俺たちが埋める。

 

「僕の名前は魚太(うおた)

 

 魚太()が自己紹介をする。

 

「私の名前は魚子(うおこ)だよ」

 

 浮き輪をつけた魚子(茅野)も自己紹介。

 

「魚子は魚なのに浮き輪なのΣ!」

 

 ですよねぇ。

 

「俺は魚士(うおじ)。みんなからは魚氏(うおし)と呼ばれてる。サッカーが好きな河童だ」

 

 魚士改め、魚氏()はリフティングしながら自己紹介。

 

「魚氏はツッコミ所が多いなΣ!」

 

 ですよねぇ。

 

「私は魚乃(うおの)だよ~。突然だけどね、魚って生で食べる? それとも調理する?」

 

 魚乃(陽菜乃)は魚にとっての爆弾を投下しながら自己紹介する。

 

「魚乃は物騒Σ!」

 

 ですよねぇ。

 

「そして私が魚キング。川を海を自在ち跳ねる水世界最強のタコです」

 

「「タコかよΣ!」」

 

 思わず、俺もツッコんでしまった……。つぅかタコかよ……。

 

「素晴らしい連続ツッコミ。良い準備運動になってますね。入念なストラッチ。早着替え。そして入水!」

 

「ぎゃあ!」

 

 田川が練習している間、俺と陽菜乃は少し離れた所でリフティングしながら観察していた。

 

「なんか久々に見たなー。そのリフティング姿」

 

「だな。何か最近忙しかったからな。まぁ、今はそんな事どうでもいい。今重要なのは……殺せんせーが泳げるかどうかだ」

 

 その後も観察を続ける。しかし、泳げるという証拠は一個も出て来ない。むしろ、泳げない証拠はどんどん出て来る。

 

「こりゃ、確定だな」

 

「だね~。メグちゃんの方はどうかな~」

 

 見てみると、どんどん上達している田川の姿があった。

 

「大丈夫そうだな」

 

「だね。今度、優希君にもやってみる?」

 

「はははっ、そりゃいいな。別にそれで泳げなくても面白そうだな」

 

 

 ◆◆◆

 

 

「これで彼女に責任は感じませんね」

 

 メグはあの後、田川の様子を確認しに、本校舎に行った。無事に泳げていた田川を見てしっかりと荷物を下ろせた。

 

「これからは手を取って泳がせるだけではなく、あえて手を離す時も覚えといてください」

 

「はい。殺せんせーも突き放すとにあるもんね」

 

「ああ、それと。察しの通り先生は泳げません。水を含むとほとんど動けなくなります。ですから、皆の自力も信じて、皆で泳ぎを鍛えてください。そのためにこのプールを作ったんです」

 

「でもさ、殺せんせー。あれはどうかと思うんだけど」

 

 渚が俺の方を見る。え? 何をやってるかって? それは……、

 

「ほらほら優希、まだ10mだぜ。後990mだ。頑張れ」

 

「て、テメェ! 上がらせろ!」

 

「ダメだよ~。優希はちゃんと泳げるようにならなくちゃぁ」

 

「零士、カルマ。テメェら、覚えてろ! ゲホッ、ヤベッ、溺れる! 助けてくれ!」

 

「優希。ちゃんと手、動かして」

「優希君、頑張れ~!」

 

「片岡さん。あの2人では死人が出かなません。お願いしてもいいですか?」

 

「はい! 零士君、カルマ君! 私も手伝うよ!」




優希、マジドンマイ。因みに、優希はその後、泳げるようになりました! なぁんて事はありません。カナヅチのままです。
次回は予告通り優希と速水、番外編で零士と倉橋です。
お楽しみに。


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誕生日の時間 速水凛香

今回は速水の誕生日回。もう直ぐ3ヶ月経ってしまいますが。
とにかく、今回は入れたいネタが多かった。この2人のカップル?の方が、書きやすいのはなぜだろう。
優希と速水、零士と倉橋。どちらが先にくっつくのでしょうか?お楽しみに。、


 今日は休みの日だが、訓練がある。黒羽による近接暗殺の訓練と優希による遠距離暗殺の訓練だ。

 

「おはー、凛香ちゃん。誕生日おめでとう!」

 

「おはよう、凛香ちゃん! 誕生日おめでとう! はい、これプレゼント」

 

「おはよう、陽菜乃、桃花。ありがと」

 

 今日は私、速水凛香の誕生日だ。朝からクラスのみんなに祝ってもらっている。プレゼントももらったので今は教室に置いてある。

 

「凛香、おめでとー! また1つ歳を取ったね!」

 

「ちよっ……莉桜! 間違ってないけど、言い方!」

 

「ごめんねー」

 

「もう!」

 

 こんなやり取りは去年まではなかった。嫌な事もなくはないけど、このクラスに来て、良い事ばかりだ。

 

「あれ~、凛香。後は何を期待してるのかな? もしかして、凛香のハートを射止めたスナイパーからのお祝いの言葉?」

 

「~~ッ////! 莉桜! そんなんじゃないッ////!」

 

 もう、莉桜は……。でも……期待してないわけではない。むしろ、言って欲しい。見たら、握手したりしただけで部活や趣味、す……スリーサイズまで当てる奴だし。誕生日ぐらい祝って欲しい。

 

 速水は実は、優希に最近さりげなく誕生日をアピールしていた。本人は慣れない事で少し疲れていたが、“祝って欲しい”、その一心で頑張っていた。クラス中(零士と優希を除く)がそれに気づき、速水を応援していた。

 

「おっす! おはよう、みんな!」

 

 来たッ! 優希は……私の誕生日、覚えててくれてたかな?

 

「おはよう、凛香ちゃん。今日も、カワイイね」

 

 そう言うと、優希は私の頭をポンポンと撫でただけだった。言葉も毎日違うものの、求めていた言葉ではなかった。なんか、1人浮かれれてバカみたい……。どうせ、優希は女の子なら誰でもいいんだ。

 

 速水は不貞腐れながら、低いテンションで訓練に臨んだ。

 

 

「「「「「ありがとうございましたー!」」」」」

 

 今日は、黒羽が風邪をひいたらしく、優希の訓練だけで終わりだった。陽菜乃が黒羽の様子を聞いていたけど、私には関係ない。さっさと帰ろう。

 

「おーい、凛香ちゃん!」

 

 そんな私に声をかけた奴、優希はいつもの屈折のない笑みで私を見る。機嫌の良くない私は、いつも以上に素っ気ない態度を取る。

 

「何よ。もう訓練は終わりでしょ。射撃の訓練も今日はいいわ。今はそんな気分じゃないから」

 

「……そっか。じゃあさ、息抜きでもしない? 俺、ガンショップとか行くつもりなんだけど、来ない?」

 

 誕生日に好きな人とガンショップ。嫌だな、そんなの。でも、贅沢も言ってられないわよね。優希ってチャラい所が多いくせに、真面目だから、あんまりそういう所が行かないから。

 

「いいわよ。付き合ってあげる。その代わり、息抜きにならなかったら承知しないから」

 

「分かったよ。じゃあ、家帰って着替えたら駅な。飯はどっかで食べようぜ」

 

「分かったわ。じゃあ、後でね」

 

 

 家に帰っても親はいない。それは私の誕生日であろうと関係ない。小さな頃は寂しいと思っていたが、もう慣れた。

 

「服は……別に普通でいいわよね」

 

 と、言いつつ、速水はお気に入りの服を選んだ。この事を後で本人は「偶々、取ったやつがこれだっただけ。アピールのためじゃない」と言っている。

 

 

「ゴメン優希、待った?」

 

 私が駅に着くと、優希は既に待っていた。服も中々カッコよく、優希の雰囲気にもあっている。意外でもないが、優希はファッションセンスも悪くない。だけど、何かこういうシチュレーションに慣れている感じでいい気分ではない。今まで何人もの女の人とこういう事をしていたと思うと嫉妬する。

 

「ん? 待ってないよ。俺も今来た所さ」

 

 うん。割と有名な返しだ。でも陽菜乃は黒羽はやらないと言っていた。その手の惚気話はよく聞く。それでも黒羽は一途っぽいし、その点は陽菜乃が羨ましい。

 

「どうした? 何かあったか? そういうのあったらすぐ言えよ。お前が楽しくないのは、今回来た意味ないからな」

 

 相変わらずの、作っているのか、いないのか、分かりにくい笑み。誰にでも向けてると思うとイライラする。こういうのは独占欲が強いって言うのだろうか?

 

「ええ、分かったわ。じゃあ早く行きましょ。それと、あんたが誘ったんだから、エスコートぐらいしなさいよね」

 

「分かりました、お姫様。ってな。任せとけって。まずは飯からでいいよな。俺が勝手に選んでいいか?」

 

「いいわよ。あんたが選ぶ店が不味いとは思えないし」

 

「OK。じゃあ行こうか」

 

 

 電車に乗って2駅の所にその店はあった。優希曰く、パスタが美味しいお店らしく、2人ともそれを頼んだ。

 

「なぁ、凛香ちゃん。そのカルボナーラ、一口くれよ」

 

「自分のがあるでしょ。別にいいじゃない」

 

「人が食べてる物、特に凛香ちゃんのは、より美味そうに見えんだよ。って事でもーらい」

 

 優希は私の隙を突いて、フォークで私のパスタを掻っ攫っていく。しかも、ベーコンも1つ持って行った。

 

「ちょっ……、はぁ、もういいわよ。じゃあ、私も一口もらうわね」

 

「いいぜ。ほらよ、いくらでも食え」

 

 ……じゃあ、遠慮なく食べる。優希のパスタは、私に渡した時より、かなり減った状態で帰って来た。別に、私が食いしん坊ってわけではない。もう一度言う。私が食いしん坊ってわけではない。

 

 互いのパスタを取り合い揉める。そんな子供染みたやり取りもあったが、なんとか収めて店を出る。味は期待を遥かに超えて来たので、満足していた。

 

「さて、じゃあ……行きますか。ガンショップはここ渡って真っ直ぐ行った所だからさ」

 

「分かった」

 

 最初は無言だった。でも、せっかくだから話したい。私は思い切って話しかけた。

 

「ねぇ、優希。優希はさ、殺し屋辞める気ないの? 普通生活に憧れたりしない?」

 

 何とか捻り出した問いがこれだ。趣味らしい趣味もない私にはこれが精一杯だ。でも、言ってから後悔した。優希には不謹慎な質問だったかもしれない。

 

「えっと……」

 

「ご、ごめん、やっぱなし! じゃあ…………」

 

「いいよ、気ぃ使わなくて。殺し屋を辞めないのか、普通に戻りたくないのか、だっけ。……分かんないかな」

 

「分かんない?」

 

「うん、分かんない。普通の生活、つまり家族と平和に暮らす事。そりゃ戻りたいさ。でも、俺にはもう出来ない。殺し屋は、その暮らしがなくなってから、俺に生きる理由をくれた。普通になりたいけど、殺し屋でもいたい。矛盾してるけどな」

 

 優希はまた笑ってみせる。その笑顔は、私には作り物に見えた。やっぱり、変な質問しちゃったな。

 

「だからこそ、殺せんせーには感謝してる。普通に学校に行きながら、暗殺者として引き金を引き続けられる。これ以上の幸せはないよ。この日々が、永遠に続いて欲しいとさえ、思うよ」

 

 これは本音。私もそう思う。あのクラスと優希とまだ一緒にいたい。あの日々をもっと過ごしたい。でも、それは矛盾してる。殺すべきターゲットがいる教室。殺さないといけない。

 

「この話は終わり! 着いたよ、ガンショップ」

 

 いつの間にか、着いていた。こういう所に来るのは初めてだが大丈夫だろうか? 危ない人も多く出入りしているのではないか? 私は今、とても危険な場所にいるのではないか?

 

「何、1人で考え込んでんだ? 大丈夫だよ。ここの店主、一緒に飲む仲だからさ」

 

「そっか……」

 

 何とも言えない。要するに、ここの店主と優希は共に酒を飲む仲。殺せんせーにいうべきかな?

 

「いらっしゃい! っておお、お前か! 久々だな」

 

「おう、久しぶり。金田のおっさん、元気にしてたか?」

 

「当たり前だ。

 お前こそ、元気か、変態スナイパー」

 

 思わず、吹き出しそうになってしまった。“変態スナイパー”。優希をこれほど的確に表現する言葉が他にあっただろうか。

 

「おっさん。それだと俺が変態みてぇじゃねぇか」

 

 嘘じゃないでしょ。このド変態。

 

「安心しろ。この“変態”はお前の撃つ弾が気持ち悪いって事さ」

 

「そんな誤解を招くようなあだ名つけんな」

 

 その時、金田のおっさんと呼ばれた人が私を見つけた。

 

「何だよ、ブレット。お前……女が出来たのか? 俺はてっきり……お前がお嫁に行くのかとばかり思ってたぜ」

 

「ふざけんな、誰が行くか。俺は男だ。俺だって、好きな女とあんな事やこんな事をしてみてぇとか思ってんだよ、って何言わせてやがる!」

 

 少し引いた。でも、そんな男に惚れてしまったのはどこのどいつだろう。椚ヶ丘の3-Eの速水凛香、私である。

 

「紹介するよ、凛香ちゃん。コイツは金田。下の名前は忘れた。仕入れた銃の性能の悪さには定評がある。でもその分、地下の射撃場を完備してるし、銃のメンテやカスタマイズなんかは超一流だ」

 

 大分悪意のある紹介をされた金田さん。彼は私の方を見ると少し笑って“どうも”と言った。それに合わせて私も会釈する。

 

「そんで、こいつが速水凛香。彼女じゃなくてクラスメート。中々手先が器用でな、ハンドガンなんか持たせて、森の中走らせたら、俺ら殺し屋もひとたまりもねぇよ」

 

「へぇ、その歳で殺し屋かぁ。物好きもいるもんだな。また龍牙の奴が拾って来たのか?」

 

「クラスメートだって言ってんだろ。一緒にいる理由は察しろ。でも、デートじゃねぇぞ。デートでこんな店に来るわけねぇからな」

 

 そんな感じで2人は互いの悪口を言い合っていた。

 

「ねぇ、優希。結局この店には何で来たの?」

 

「そうそう、忘れてた。悪いけど、地下の射撃場借りるぜ。新しくカスタムしたやつ試したいんだ」

 

「他人のカスタムした銃の練習をされるのは不本意だが、まぁ仕方ない。好きに使え」

 

「サンキュー。ほらっ、行くぞ、凛香ちゃん」

 

 

 連れて来られたのはE組の射撃場より整った場所。設備も最新と思える物が多い。

 

「これ、使ってみろよ。お前用にカスタマイズしてみた」

 

「これ?」

 

 見た感じ、今までの銃と変わらない。中身が弄られているのだろう。

 

「連射性能を中心に上げてみた。お前ならそれを最大限まで活かせるはずだ。今回の結果を元に、お前用に別の銃をカスタマイズし直す。だけど、ついでに弾速も上げた。そのせいでかなり扱いが難しいけど、それは使用者の腕次第。出来るか?」

 

 優希からの挑戦状だ。優希のカスタマイズした銃が使いづらい事なんて一度もない。でもそれは、私のレベルに合わせてたから。今回は違う。私が持てる力の全てを使ってやらないと上手くいかない。やってやる。優希を支えられるぐらい、強くならなきゃ。

 

「やってやるわ。見てなさい」

 

 解除した後、いつも通り構え、前方の的に狙いを定める。そして、引き金を引く。すると、真っ直ぐ飛び出した弾は的に向かって進む。しかし、いつもより重い引き金で感覚が乱れ、中心の少し左に逸れた。

 

「……ッ! ダメか……」

 

「嘘だろ……。あんなに上手くいくのかよ」

 

 優希はなぜか驚いていた。

 

「あれ、お前じゃ使いこなせないカスタムにしたのに。絶対お前が外すと思ってたのに……。そんで、一通りバカにした後、本当の方を渡すつもりだったのに……」

 

 つまり、私は騙されていた。騙された怒りと優希の予想を上回った喜びが心の中で渦巻く。でも、この一瞬だけは、怒りが勝った。

 

「ふざけんな!」

 

 一発殴った後、結局その銃で練習した。優希はそれを元に、私専用の銃にカスタマイズしてくれるらしい。

 

 

「で、今度はどこに連れてくの?」

 

 あの後、店を出た私は優希に先導されて、歩いていた。

 

「ショッピングセンターかな。何か適当に買い物して帰ろうぜ」

 

 何か……デートっぽくなっちゃったな……。嬉しいけど……。

 

「何ニヤニヤしてんだよ。気持ち悪い……」

 

 とりあえず、もう一発殴っておいた。

 

 

「さて、どこから行こうか。ここ、色々あるみたいだからさ」

 

「小物とか、みてみたいかな。雑貨屋とかあるかしら?」

 

「雑貨屋なら……あっちだな。行こうぜ」

 

 そんな感じで色々見て行った。そうしている内に軽く1時間半が過ぎていた。

 

「凛香ちゃん、俺、ちょっとトイレ行ってくるわ」

 

 そう言って、優希はトイレに向かう。でも、おかしい。なぜなら、今私の後方にはトイレがあるからだ。

 

「意味分かんない。何なのよ、あいつ」

 

 確かに、色々買ってくれたし、もっと買ってもいいとは言ってくれた。でも、明らかに優希は楽しそうにしていない。無理に私に合わしてくれてるんだろうか。

 

「あのバカ。私は……ただ普通に話してるだけで楽しいのに。自分が楽しめない事してどうするのよ」

 

 思い立ったらすぐ行動。陽菜乃や桃花、莉桜に毎回言われている。そうよね、行動しないと。今すぐ優希の所に行って、今の気持ちを話して、ただ普通に会話して帰る事にしよう。そっちの方が楽しいし、絶対いい。

 

「って……あいつ、どこのトイレ向かったのよ!」

 

 

 結局、見つからないまま、あちこち歩き回った。もう足が痛い。ここのショッピングセンターは大きいし、店の種類も豊富だけど、ホントに広すぎ。

 

「優希……どこなのよ…………」

 

 一瞬、帰ってしまったのかとさえ思った。でも、すぐにそんな考えは捨てた。優希はそんな事はしない。

 

 そんな時、私の肩が何者かによって叩かれた。私はすぐに振り向き、冷たく突き放そうと思った。

 

「何なんですか!「うわっ……。な、何だよ……凛香ちゃん」……優希?」

 

 優希だった。紛らわしい。

 

「どこ行ってたのよ! トイレに行くなんて嘘だし! 帰っちゃったと思ったじゃない!」

 

「悪い悪い。ちょっと行かなくちゃいけない所があってさ。俺も探し回ったよ。さっきの場所にいねぇんだもん。それと、お前、誘ってんの? お前がその気なら、遠慮なく襲うけど」

 

 は? 意味分かんない。何で私が優希の事を誘ってんの?

 

 すると、優希が私の後ろを指差す。そこには、

 

「~~ッ////! ば、バカ////!」

 

 女性用の下着が売ってる店の前だった。

 

 ていうか、今日で何回、優希の事殴ったんだろ?

 

「それにしても痛ぇ。でもまぁ、いいや。

 凛香ちゃん、今日、誕生日だろ。これ、プレゼント。きっと、お前に似合うと思う」

 

 そう言って渡して来たのは1つの箱。そして優希は、これがプレゼントだと言った。

 

「誕生日、知ってたの?」

 

「当たり前じゃん。クラスの女子の誕生日、俺が覚えないわけないじゃん。他のみんなにもプレゼントは渡してるし、お前にやらないわけねぇだろ」

 

 少し落ち込む。でも、もらえるだけで嬉しいし、今はそれで満足かな。

 

「開けてみてよ」

 

「うん」

 

 中には、赤とピンクのブレスレットが入っていた。

 

「綺麗……」

 

 私はその輝きに見惚れてしまった。おそらく、かなり高価な者なのだろう。

 

「ピンクのはクンツァイトって言うパワーストーンだ。意味は……まぁ自分で調べてくれ。そんで、赤いのがルビー。流石に知ってんだろ、それは」

 

 ルビーは私の誕生石だ。でも、赤とピンクかぁ。随分目立つ色だけど……。

 

「素敵だけど、ちょっと目立つ色ね。私に合うかしら?」

 

「最初に言ったろ。お前に似合うと思うって。つけてみてくれよ。じゃねぇとあげた意味ないじゃん」

 

 私はそれをそっとつけてみる。それは思った以上に私の手に馴染んだ。

 

「これを私に渡すためにここに?」

 

「まぁな。最初はお前に渡すだけのつもりだったんだけど、訓練がなくなったからさ。それまでの時間を色々行って潰してたんだ」

 

「高かったでしょ、これ。いくらしたの?」

 

 これだけは聞かないと、お返しが出来ない。優希は確か来月だったし。

 

「ええと……今年の依頼の報酬全額かな。いくらだ?」

 

「やっぱ、言わなくていい! ていうか、返す、これ。私にはとても……」

 

「返すなよ。お前には感謝してんだ。そのお礼だよ。受け取ってくれよ」

 

 私は黙って頷いた。お金よりも、優希が私のために選んでくれたのが嬉しい。今までで最高の誕生日だ。

 

「じゃあ、帰るか。零士の事、陽菜乃ちゃんに任せちゃったし」

 

「黒羽、風邪ひいたのよね。大丈夫なの?」

 

「毎年の事さ。まぁ、陽菜乃ちゃんには迷惑かけたけど、悪くないだろ」

 

「そうね。ねぇ、優希」

 

「ん?」

 

「私、あなたが……」

 

 って、何言おうとしてんのよ、バカ! いきなり告白なんて……。

 

「ん? どうした? 俺が何かしたか?」

 

「あなたが……クラスメートでよかったなぁって、思っただけ///。勘違いしないでよね。それ以上の意味なんかないんだからね!」

 

「……ツンデレ、ご馳走様です」

 

「うるさい///! 黙れ、忘れろ、死ね///!」

 

 結局、また優希を殴った。全く、何やってんだろ。

 

 

 優希は家の前まで送ってくれた。変態だし、チャラいけど、そういう所は紳士だと思う。そんな彼に、いつか気持ちを伝えられたらいいな。

 

 そんな事もあり、私の誕生日は、今までで最高のものになった。殺せんせーを殺して、こんな風に誕生日をまた、祝って欲しい。

 

 

 

 ルビーは勝利や情熱を象徴する石。深い愛情を呼び起こし、愛を引き寄せると言われている。

 

 

 クンツァイトは愛を与える喜びを実感させる石。寛容さを育み思いやりの心を養ってくれる。

 

 この2つの組み合わせには「運命の人と出会わせる」効果がある。

 

 

 

 

 白河優希と速水凛香。2人が出会ったのは偶然なのか。それとも必然、運命だったのか。それは、いつか必ず、分かるはずだろう。




プレゼントは値段より気持ちと言いますが、まさにその通りな気がします。優希の場合は、お金もかけて、気持ちもこもったプレゼントではありましたが。因みに、優希は速水以外の女子の誕生日にもちゃんとプレゼントを渡しています。でも、勘違いしないでくださいね。こんなにお金もかけて、お出かけまでしたのは速水相手だけですよ。

それと、ご報告です。その他オリキャラの紹介は消させて頂きました。最初の予定より、登場回数が減り、人物紹介をする意味がなさそうなので。容姿などは、文中でご確認ください。質問があれば答えます。

零士とは女性に対する接し方の違う優希。優希のライフルは速水のハートを後何回、撃ち抜けばいいのでしょうか。これからも、速水とお幸せに、優希。


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番外編 風邪の時間

よつやく書けた番外編。一応これ、UA10000突破記念なんですよ。いつだろうなぁ、それ。と、いうわけで大分遅れた記念の番外編。クロスはその内、自分が書いているSAOとやってみようかと思います。今回は主人公とそのヒロインにイチャイチャしてもらいましょう!


 今、私はとある家の前に来ています。そして、この家の前で顔を赤くしながらウロウロする事、およそ30分。鍵は持ってるから、入れないわけじゃない。ただ……、

 

「恥ずかしい……////」

 

 それもそのはず。この家は倉橋が現在進行形で恋をしている人の家。その彼が風邪をひき、その看病を引き受けたのだ。

 

「頑張れ陽菜乃。もっと深い仲になれば、家に行くなんて……ふ、普通なんだから……////」

 

 自分を鼓舞するはずが、更に緊張させてしまう倉橋。意識しないようにしようとすればするほど、余計に意識してしまう。そんな事をしていたせいで、30分も経ってしまっていたのだ。

 

 ガタンッゴンッガタガタドン

 

 家の中から謎の音が聞こえて来た。少なくとも、病人が寝ているはずの家からは聞こえて来ない音だ。

 

 倉橋は急いでドアに鍵を入れ、開ける。ドアが壊れてもおかしくないぐらいの勢いで開け、中に飛び込む。

 

「零士君!」

 

 心配そうな声で叫ぶ倉橋。しかし、そこで倉橋が目にしたものは……、

 

「な、何やってるの……零士君」

 

 右手に愛用しているダガー、左手に初めてみる短剣を持ち、階段の下で尻餅をついている零士だった。

 

「えっと……よ、よぉ、陽菜乃。ど、どうかした?」

 

 心配して損した。おそらく、私が今見ているのは、上の階で訓練をしていて、何かが起き、転げ落ちて来た零士君。

 

「零士君の……バカアァァァッ!」

 

 私は普段は出さないような大声で零士君を怒った後、リビングにあったダイニングテーブルに向かい合わせに座った。もちろん、何をしていたのか問い詰めるためだ。

 

「零士君、熱出したんだよね。何で訓練してたの?」

 

「ね、熱が下がったんだよ。つぅか、元気じゃねぇと、武器なんか振れないだろ。元気に決まってんだろ。気にすんなよ」

 

 ピピッ

 

 体温計特有の電子音が鳴る。私は零士君の脇から体温計を取る。そして、その値を見せつける。

 

「41.4。優希君から、朝は39.6だって聞いたんだけどなぁ」

 

「……分かったよ。大人しく寝るよ」

 

「よしっ、じゃあ行こうか」

 

 私は零士君を支えながら2階の部屋まで連れて行く。ベッドに寝かせて、布団をかける。そして、私は椅子に座る。

 

「……なぁ、陽菜乃。何でここにいるの?」

 

「何でって……零士君の看病をするためだよ」

 

「じゃあ、大丈夫だ。もう帰っていい」

 

「ダ~メ。見てないと零士君、すぐ武器持つから」

 

 零士は図星だったようで“ゔっ”と言い、顔を背けた。

 

「それならここじゃなくてもいいだろ。優希に頼まれただけだろ。そこまでしなくていい」

 

 その後も零士君は私を追い出そうとする。その度に反論するが、遂に負けてしまった。私は仕方なく、下へ降りる。

 

 

「やっぱり私、邪魔なのかな……」

 

 倉橋の不安はどんどん高まっていく。零士は“邪魔”や“迷惑”なんていう言葉は使わなかった。それでも、頑なにあの部屋に残る事を阻止しようとした。

 

「一方通行って辛いな…………」

 

 自分がどんなに想っていても、それは相手に伝わらない。せめて、気づいてくれてフラれた方がずっと楽かもしれない。

 

「もっと大胆にせめたほう攻めた方が……。でも、あんまりやるとあざとくなっちゃうんじゃ……」

 

 ドンドンッ

 

 再び物音がする。もちろん上から聞こえて来た。

 

「またやってるの? しょうがないなぁ」

 

 私は零士君を注意するため、2階に上がる。そして、部屋に入って声を出そうとした。ベッドにはちゃんといたが布団を頭から被っていた。

 

「……はぁはぁ。……ッ! ……はぁはぁ」

 

 そこには、予想に反して、かなり苦しそうな零士君。怒ろうとしていた頭を切り替えて、側に座る。

 

「大丈夫、零士君!」

 

「……はぁはぁ。……ッ! ひ…な……の? はぁはぁ……」

 

「ちょっと待ってて! 今冷えピタとか、氷枕持って来るから!」

 

 私は急いで下に戻り、鞄を取ってくる。そこには、目当ての物も入っており、慌てながらも用意する。

 

「はい、冷えピタだよ。多分……少しは楽になるよ」

 

「……ありがと。……はぁはぁ」

 

 冷えピタを貼り、その後、氷枕まで準備したが、あまり効果があるようには見えない。

 

「……零士君…………」

 

 どうすればいいの? どうすれば、零士君は楽になってくれるの?

 

 そう思いながら考えていると、1つの考えが浮かんだ。少し恥ずかしいけど、これしかない。

 

「ッ! お、おい、陽菜乃? 何やってんだ? 流石に恥ずいんだけど」

 

「こうすれば、少しは落ち着くでしょ」

 

 零士君の頭を撫でていた。耳の辺りが熱くなってる感じがするが、今は気にしない。やっていると、零士君も少し落ち着いてきた。

 

「……なぁ、陽菜乃。落ち着いたからさ、あの……そろそろやめてくれない?」

 

「ダメ。零士君に拒否権はないよ。私がやりたいからやるの」

 

「撫でるのはやめてくれよ。俺は……手とか……握ってくれた方が落ち着く……かな////?」

 

 それを聞くと、一気に顔が赤くなった気がした。……手を握る…………。は、恥ずかしい////。

 

「う、うん。じゃあ……それでもいいよ////」

 

 2人共、しばらく無言だった。お互いに恥ずかしさで何も話せていなかった。まぁ、倉橋はその原因を分かっていても、零士はなぜかよく分かっていなかった。

 

「陽菜乃」

 

「ど、どうしたの、零士君」

 

「やっぱ、手を離してくんない? だってさ、俺の手、冷たいだろ。それに、この手は多くの命を奪った手だし……」

 

 少し、暗い顔になる。最近、零士君は殺し屋としての自分を汚れた存在みたいに扱う。私たちに過去を話した事によって、罪悪感みたいなのが出て来たのかな。でも……、

 

「離さないよ。零士君の手なら、別に握ってもいい」

 

 励ますために言ったため、その意味を考えてなかった。言ったらすぐ、顔が赤くなった。

 

「そ、それって……どういう……」

 

「べ、別に大した意味はないよ! ただ、“手が冷たい人は心が暖かい”ってよく言うから。やっぱり、零士君は優しいんだよ」

 

 それを聞いた零士君は私の方と反対の方を向いてしまった。零士君も、私の事を意識してくれてるといいんだけど……。照れてるだけだと信じたいけど……、嫌われたりしてない、よね。

 

 

 それから零士君は大分落ち着き、今はスヤスヤと寝ている。私は、その姿を見ながら、終始、顔がニヤけっぱなしだ。

 

「どうして、こんなにカワイイんだろ」

 

 零士君の寝ている姿はホントにカワイイ。今も“すぅ……すぅ……”と寝息を立てて、気持ち良さそうに寝ている。普段はクールで偶にキザで、トゲトゲしてるのに、目の前の零士君にその面影はない。

 

「猫みたいだね、ホントに。こんな顔も出来るんだ。やっぱ、零士君も同じ中学3年生なんだね」

 

 いつもは、殺し屋として経験を積んで来た彼に隙は少ない。ターゲットを前にすれば、ライオンや虎みたいに、いつ襲いかかってもおかしくない雰囲気を纏う。だけど、寝ている零士君は、年相応の表情だ。寧ろ、年より少し幼くも見える。

 

「……んっ…………。どうした、陽菜乃」

 

「ご、ゴメン。起こしちゃった?」

 

「別に。あ、それとさ、手、ありがとな。おかげで安心出来た。もういいよ、離しても」

 

 私は首を横に振る。零士君は少しだけ、びっくりしたような表情になる。

 

「私が、やりたくてしてた事だから。それに、私にはこれぐらいしか、出来ないから」

 

 私は、零士君の悩みを一緒に背負えるほど、強くない。零士君の強さには、程遠い。だから、こうやって、暖かくしてあげる事しか出来ない。

 

「じゃあ、もう少しお願いしようかな。でも、ホントにありがとう。久々に他人の温もりを感じたよ。誰かと触れ合って寝たのは、いつ以来だったかな」

 

「メアリちゃんとじゃないの? イチャイチャしてたんでしょ、毎晩」

 

 少し拗ねてみせる。本心ではあるし、羨ましい。そんな様子が少しでも伝わって欲しい。

 

「嫌、もっと前だな。メアリとは、キスはしても、一緒には寝てない。こうやって寝たのは、親に虐待される前か……。10年は軽く超えてるよ」

 

 じゃあ、私が初めてなんだ。少し、嬉しいな。

 

「もう少し寝る?」

 

「熱測って、それ次第にするよ。下がってたら、起きてもいいだろ」

 

「うん」

 

 体温計を手探りで探し、渡す。零士君は黙って受け取り、脇の下に挟む。そしてこの間、私と零士君は手を繋いだままだ。

 

 ピピッ

 

「何℃?」

 

「37.6。まだ少しあるけど、いいよな」

 

「武器を持たないならね」

 

「持たねぇよ。もう怒られるのは御免だ」

 

 私は、零士君の体を支えながら階段を降りる。零士君は“1人で降りれる”って言ったけど、心配だから支えている。リビングに着くと、零士君をダイニングテーブルの椅子に座らせる。時計を見ると、もう6時。来たのが2時だから、もう4時間も経っている。

 

「零士君、お腹空かない? 何か作ってあげようか?」

 

「……じゃあ、お願いするよ」

 

「何がいい?」

 

「それじゃあ、消化に良い物でも作ってくれない? 朝、いつも通り食べたら流石に吐いたからさ」

 

 私はとりあえず冷蔵庫の中を見る。真面目な優希君はちゃんと色々入っている。無駄がなく、必要な物は充分揃っている。

 

「じゃあ……うどんとかでいい? 冷蔵庫の物、勝手に使って大丈夫?」

 

「ああ、いいよ。また、陽菜乃が作ったやつが食べれんのか。楽しみだな。動物園の時の話美味かったからなぁ。楽しみにしてるぜ」

 

 私にプレッシャーがかかる。大丈夫。あの時はお母さんに手伝ってもらったけど、大体は自分で出来たもん。今回もきっと大丈夫。

 

 

「はい、零士君。見た目は……うん。微妙だけど、味は……大丈夫…………のはず」

 

 出来上がったのは、美味しそうに見ようと思えば見える物。味見もしたし、大丈夫。

 

「いただきます」

 

 零士君はそう言うと、箸を持ち、麺を掴み、口の側に持っていく。

 

「ふぅ……ふぅ……ふぅ……ふぅ」

 

 出来たてのためうどんは熱いはずだ。少し冷ましてから食べている。

 

「ふぅ……ふぅ……ふぅ……ふぅ」

 

 私はそんな零士君をニコニコしながら見ている。

 

「ふぅ……ふぅ……ふぅ……ふぅ」

 

 まだやってる。いつまでやるんだろう?

 

「……零士君…………もしかして……」

 

「ま、まさか。こんなの楽勝だよ。いただきます! 熱っ!」

 

「はい、水だよ。もう、零士君は……」

 

 零士君は猫舌らしい。ホントにカワイイ。

 

「何だよ。悪いかよ、猫舌で」

 

「ううん。カワイイなぁ、って。そういえば、寝顔も可愛かったよ」

 

「うっせぇ、忘れろ!」

 

「忘れないよ~」

 

 顔が真っ赤な零士君。カワイイなぁ~。もうちょっと弄ってみようかな。

 

「そう考えると、やっぱり零士君って、黒猫みたいだね~」

 

「またそれかよ。つぅか、黒猫って何か不吉な感じだろ。まぁ、殺し屋の俺が言えた事じゃねぇけど」

 

「違う違う。黒猫は不吉なんかじゃないよ。小説とかだと、そういうイメージ強いけど、ホントは逆なんだよ」

 

「そうなのか?」

 

「うん。黒猫はホントは甘えん坊さんで、人懐っこいんだよ。猫は孤独が好きな子が多いけど、黒猫はそうでもないんだ。ね、零士君にそっくりでしょ」

 

「……別に。俺はそんなんでもねぇだろ」

 

「まぁまぁ。そうだ、うどん、私が食べさせてあげるよ!」

 

 ここは大胆に行こう。ビッチ先生も言ってたもん。『奥手な人にはコッチから攻めないと』って。

 

「いや、いいって! それぐらい自分で……」

 

「はい。あ~ん」

 

 箸でうどんの端を持って、零士君の前まで持っていく。今は、恥ずかしいなんて言ってられない。ここは攻める所。

 

「自分で食える。だから箸返せ」

 

「ダーメ。私が食べさせるの。はい、あ~ん」

 

 零士君に徐々に箸を近づける。そこまでやると、流石に零士君も観念したようで、

 

「あ、あーん」

 

「美味しい?」

 

「あ、ああ、美味しい」

 

「よかった!」

 

 零士君のその素っ気なく、だがらこそストレートな言葉に思わず笑みが溢れる。せっかくだからもう一度。

 

「もうやらせねぇよ。何度もやらせてたまるか」

 

「もー、いいじゃん!」

 

「じゃあ、俺が食べさせてやるよ。何か、やられっぱなしは気に食わねぇからな」

 

 ……どういう事?

 

「ほら。あーん」

 

「~~ッ////! れ、零士君! いきなり……////」

 

「人にやらせといて、自分はやらないのな」

 

「わ、分かったよ。や、やる///」

 

「はいよ。あーん」

 

「あ……あーん////」

 

 食べた後、私は俯いて顔を上げられなくなってしまった。恥ずかしい要素が多過ぎるのだ。“あーん”してもらい、間接キスで、零士君が私の反応を楽しむ様にコッチを見てる。顔はしばらく上げられそうにない。

 

「いつまで下見てんだよ。食器、片付けとくぞ」

 

「えっ……う、うん。分かった」

 

 食べるの早いなぁ。

 

 

 その後、私が零士君に宿題を教えてもらったり、2人共苦手な数学を一緒にやったりした。ってあれ? 私……教えてもらってばっかり。

 

 そして、時間も19:30。そろそろ帰らないと。

 

「ゴメンね、零士君。私、そろそろ帰らないと……」

 

「いや。むしろ悪かったな、こんな遅くまで」

 

「ううん。私も楽しかったよ」

 

「送るよ。もう暗いしさ」

 

「大丈夫。零士君、風邪ひいてたんだから」

 

「そうか。じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 そこで、私は1つ疑問が残っていた。ここで帰ると聞く機会はないし、聞こう。

 

「そういえば零士君。優希君がこの時期に風邪を引くのはいつもの事だ、って言ってたけど、どう言う意味?」

 

「ん? 大した事じゃねぇよ。ただ、副作用だよ、実験の。薬とか色々やられたからな。後は、“オーバーロード”の使い過ぎもだけどな」

 

「そっか。なんかごめんね」

 

「いいって。知っててくれる人がいるのは、結構気が楽になるから」

 

 そして、今度こそ家を出た。私は、玄関で見送る零士君にもう一度手を振って、帰路に着いた。明日から、また忙しくなるな~。でも、すごく楽しみ。




この2人、くっつきそうでくっつかない。初々しいけど、イライラする。そう思って頂けると幸いです。
今週いっぱいまで、テストがあり、少し更新が遅れています。元の頻度までは辛いですが週2回ぐらいはやりたいな。


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寺坂の時間

お久しぶりです。最近、英検、定期テストと続き、来月中旬には日商簿記の試験がありましてバタバタしております。そんな中でも、見てくださる読者さんがいる限り頑張ります。


「おい皆、来てくれ! プールが大変だぞ!」

 

 岡島が大声で言う。そして、俺たちは岡島に連れられてプールに向かった。

 

「……ッ! めちゃくちゃじゃねーか……」

 

「ビッチ先生がセクシー水着を披露する機会を逃した!」

 

「それは別にどうでもいい」

「需要ねぇから」

 

「零士! 優希! どういう意味よΣ!」

 

 俺と優希の指摘に、ビッチ先生の素早いツッコミ。可哀想ではあるけど、正直どうでもいい。

 

「ゴミまで捨てて……ひどい……。誰がこんな事……」

 

 少し離れた所にニヤニヤしている寺坂組(狭間を除く)がいる。あいつらか。

 

「あーあ……こりゃ大変だ」

 

「ま、いーんじゃね? プールとか面倒いし」

 

 渚がそんな彼らを見る。当然、寺坂が黙っているはずかない。

 

「ンだよ渚。何見てんだよ。まさか……俺らが犯人とか疑ってんのか? くだらねーぞその考え」

 

「はァ? お前らしかいねぇだろ。殺せんせーの弱点は水だ。そのためにもプールは必要なんだよ。それをこんな風にするのは、お前らぐらいなんだよ」

 

 すると、寺坂を俺の胸ぐらを掴み、俺を見る。

 

「おい、黒羽、随分お利口さんになったのな。テメェ、手段を選ばない殺し屋じゃなかったか、ゼロ。俺らを殺してでも、あのタコ殺すんじゃなかったのかよ。それとも、所詮はその程度って事かよ」

 

 挑発のつもりか。間違ってはいない。でも……、

 

「うるせぇよ。“手段を選ばない”じゃねぇ。依頼達成のために、最前の手段を選んでるだけだ。焦っても結果は出ない。今はただ、自分の武器を磨いてるだけだ。そんなのも分かんないのかよ単細胞」

 

「ンだと! テメェ!」

 

 一触即発という雰囲気だ。それを察したみんなが俺らを止めに来る。

 

「零士、やめろ。そんなの相手にするな」

 

「やめとけよ。そんなのくだらないぜ」

 

 悠馬と優希は俺を。吉田と村松が寺坂を抑えていた。

 

「全くです。零士君も寺坂君もプールの犯人如きで喧嘩しないでください。すぐに元通りですから」

 

 流石マッハ20の怪物。プールは一瞬で綺麗になった。

 

「はい、これで元通り。いつも通り遊んでください」

 

 それを見て、寺坂や寺坂を抑えていた吉田と村松は何とも言えない表情をする。

 

 俺たちは気にせず、遊ぶ事にした。

 

 

 バキィッ

 

 職員室で烏間先生と少し話していた。それが終わって教室に戻る途中、そんな音が聞こえた。

 

 カァン

 

 バシュシュシュシュシュ

 

 続いて、そんな音も聞こえた。そんな音、普通聞こえるはずがない。俺は急いで教室に戻った。

 

「放せ! くだらねー!」

 

 俺がドアを開けようとすると、寺坂がイライラしながら出て行った。

 

「おい! 寺坂!」

 

 とりあえず、教室の中に入る。

 

「何があった、お前ら」

 

「ん?寺坂がヤンチャしただけだよ。でも、こりゃ換気した方がいいね」

 

「りょーかい。メグちゃん、寿美鈴ちゃん、窓開けて」

 

 一通り換気をした後、さっきの話を聞いた。要するに、寺坂は今のE組が嫌いという事だ。

 

「全く、何なんだアイツ」

 

「一緒に平和にやれないもんかな……」

 

 陽斗と悠馬が遠くで話している。俺の近くにはカルマと陽菜乃。

 

「何か、昔の零士みたいだね。1()()()()()()()()()()()()さ」

 

「カルマ君の言う通りだね~。ホントに零士君みたい」

 

「うっせぇ」

 

 だけど、ああいうのは厄介だぜ。俺は修学旅行のおかげで何とかなったけど……。あいつ、体格いいのになぁ。

 

 ホント、嫌な予感がする。

 

 

 ー寺坂sideー

 

 地球の危機とか、暗殺のための自分磨きとか、落ちこぼれからの脱出とか、正直どーでもいい。その日その日を楽して適当に生きたいだけだ。

 

 だから俺は……、

 

「ご苦労様。プールの破壊、薬剤散布、薬剤混入。君のおかげで効率良く準備が出来た。はい、報酬の10万円。また次も頼むよ」

 

 シロから金をもらう。こっち方が……居心地が良いな。

 

「なにせあのタコは鼻が利く。外部の者ではすぐにバレてしまう。だから寺坂君、君のような内部の人間に頼んだのさ。イトナの性能をフルに活かす舞台作りを」

 

 俺の目の前には、クロに鍛えられているイトナ。初めて会った時よりスピードもパワーも桁違いだ。

 

「クロ、どうだい? イトナの調整は」

 

「順調よ。おそらく、ゼロからの妨害、いえ、ゼロとブレット2人が相手でも、負ける事はないわ」

 

「何か変わったな。目と髪型が?」

 

「その通りさ寺坂君。意外と繊細な所に目が行くね。髪型が変わった。それはつまり、触手が変わったって事さ。前回の反省を活かし、より綿密に計画を立て、クロとの組手で更に触手に慣れさせてるんだ」

 

 イトナのスピードやパワーは、もしかしたら黒羽に優ってるかもしれない。この短時間でここまで出来るのか。

 

「寺坂竜馬。私には君の気持ちが良く分かるよ。あのタコにイラつき、孤立している。だから私たちは君に協力を頼んだ」

 

 クロが更に言葉を継ぐ。

 

「安心して。私たちの計画なら、99.9%の確率で成功出来る。後はあなたがその計画通りに動くだけで、数字は100%に近づくの。任せて」

 

 しかもお小遣いまでもらえる。悪い事はひとつもない。

 

 すると、イトナが近づいて来た。

 

「な、何だよ」

 

「お前は……、あのクラスの赤髪や茶髪の女顔、黒いのより弱い。馬力も体格もずっと上だ。なぜか分かるか? お前の目にはビジョンがない。勝利への意志も手段も情熱もない。ビジョン……それだけでいい……。そして、黒羽零士、兄さん、お前らは俺が殺す!」

 

 そう言うと離れて行った。

 

「何なんだあの野郎、相変わらず! 脳みそまで触手なんじゃねーのか!」

 

「寺坂君。そんなに怒んないでよ。私が訓練ばかりに時間を取ってたせいだから。仲良くしましょ、私たちなら、あなたの力を最大限に活かし、最高の利益を得る事が出来る。決着は、放課後。手筈通り頼むわよ」

 

 ー寺坂side outー

 

 

 ー零士sideー

 

「殺せんせー、何で泣いてんの?」

 

「そうよ、さっきから意味もなく」

 

「いいえ。()()()()()()()()()()()()です。目はこっち」

 

「「「「「紛らわしいΣ!」」」」」

 

 何だよ、鼻水かよ。なんて納得出来るかΣ!

 

「どうも昨日から体の調子が少し変です。夏風邪ですかねぇ……」

 

 その時、今日一日来ていなかった寺坂が来た。

 

「おお、寺坂君! 今日は登校しないのかと心配でした! 昨日君がキレた事なら心配なく! もう皆気にしてませんよね? ね?」

 

「……う、うん……。汁まみれになっていく寺坂の顔の方が気になる」

 

 確かに。そして汚い。

 

「おいタコ。そろそろ本気でブッ殺してやンよ。放課後プールに来い。弱点なんだってな水が。

 てめーらも全員手伝え! 俺がこいつを水ン中に叩き落としてやッからよ!」

 

 誰もやるとは言わない。当たり前だ。今までの態度じゃあ仕方ない。

 

「黒羽! お前はやるだろ。タコを殺せる最高のチャンスなんだ。手伝うなら賞金は分けてやるよ」

 

「……やだね。誰がテメェなんかの作戦に乗るかよ。殺し屋が金だけで動くと思ったら大間違いだ」

 

「ケッ。じゃあいいぜ、来なくても。そん時ゃ俺が独り占めだ」

 

 寺坂はそう言うと、すぐの教室を出て行った。

 

「……何なんだよあいつ……」

 

「もう正直ついていけねーわ」

 

「私行かない」

 

「同じく」

 

「俺も今回はパスかな」

 

 しかし、俺たちの足元は想像を絶する状態になっていた。

 

「皆行きましょうよぉ」

 

 殺せんせーの粘液で身動きが取れない。

 

「うわっ! 粘液だ!」

 

「逃げらんねー!」

 

「せっかく寺坂君がやる気になったんです。皆で一緒に暗殺して、気持ちよく仲直りです」

 

「「「「「鏡見ろΣ!」」」」」

 

 顔中ドロドロだ。あれは……キモい。

 

 ー零士side outー

 

 

 ー優希sideー

 

 結局、零士とカルマはサボり、他の皆で行く事になった。

 

「よーしそうだ! そんな感じでプール全体に散らばっとけ!

 おい白河! テメェもさっさとジャージ脱いで入れる!」

 

「バーカ。俺はスナイパーだ。そして泳げねぇ。だから、この木の上から狙わせてもらう」

 

「…………勝手にしろ」

 

 さて、どうするか。念のため、インカムを使い、いつでも零士と連絡が取れる様にはしている。

 

 手際は悪くない。プールへの散らばり方も、個人の泳ぎの技量で判断されてるから、一見穴はない。だけど……、

 

「それで君はどうやって先生を落とすんです? ピストル一丁では先生を一歩も動かせませんよ」

 

 あの銃は少しこのクラスで使っている銃とはモデルが違う。でも、あの程度じゃ落とせない。一丁で落としたかったら対物ライフルで見えない所から狙撃ぐらいじゃないと無理だ。

 

「……覚悟は出来たかモンスター」

 

「もちろん出来てます。鼻水も止まったし」

 

「ずっとテメェが嫌いだったよ。消えて欲しくてしょうがなかった」

 

「ええ、知ってます。暗殺の後、ゆっくり話しましょう」

 

 俺はスコープから2人の様子を見る。いよいよ実行の時。竜馬が銃の引き金を引く。しかし、弾は出ない。

 

 何も起こらない。いや、待てよ。何か音が……。

 

 カチッピッ

 

「みんな、逃げろ! 爆発するぞ!」

 

 ドグアッ

 

 俺の声は轟音と重なり、聞こえない。しかも爆発によってプールから放流。

 

「皆さん!」

 

 殺せんせーが助けに向かう。

 

「くそッ! 竜馬! テメェ何しやがった!」

 

「……嘘だろ? これ……こんな事するスイッチだなんて聞いてねーよ」

 

 竜馬は手に持っている銃を見ながら何か呟く。ダメだ、使い物にならねぇ。

 

「聞こえるか、零士。急いでこっち来てくれ」

 

{何だよ今の音! あのバカ何しやがった!}

 

「来れば分かる! カルマも連れて来い! 早く!」

 

 俺は取り敢えず、手持ちのロープでメグちゃんと悠馬を助ける。

 

「メグちゃん、悠馬! 少し休んだらそのロープで助けろ! 俺はもう少し奥に行く!」

 

 ワイヤーハンドガンを持ち、木と木の間をターザンの様に移動する。

 

「優月ちゃん、カエデちゃん! 捕まれ! 龍之介、創介! その岩、ちゃんと掴んどけ! すぐ助ける!」

 

 くそっ! 間に合わねぇ。殺せんせー、まず大丈夫かよ。

 

「頼む。零士、早く来てくれ」

 

 俺は小さな声で、相棒の到着を願った。

 

 ー優希side outー

 

 ー零士sideー

 

「……何コレ? 爆音して、優希から連絡あって来てみたら、プール消えてんだけど」

 

「優希の奴、何が起こったかは分かるけど、背景が何も分かんねえぞ」

 

 その時、怯えきった声が聞こえた。

 

「話が違えよ。イトナを呼んで突き落とす話じゃなかったのかよ」

 

 そういう事かよ。

 

「なるほどねぇ。あの3人に操られてた……ってわけ」

 

 カルマが容赦なく、寺坂に言い放つ。

 

「言っとくが、俺のせいじゃねぇぞ、カルマァ! 黒羽ァ!

 こんな計画やらす方が悪いんだ。皆が流されたのも……全部」

 

 カルマが寺坂の顔面を全力で殴る。

 

「標的がマッハ20でよかったね。それに、優希がすぐに状況を判断した事にも感謝した方がいい。でなきゃお前、大量殺人の実行犯になって、犯罪者の仲間入りをする所だったよ。流されたのは皆じゃなくてお前じゃん」

 

 カルマ……。俺がサボってなきゃ……。

 

「零士もそんな顔してないで、こっち来て。何が出来るか、俺らで考えよう」

 

「ああ」

 

 とりあえず、皆が集まっている方に行く。

 

「悠馬、どうなってる」

 

「零士! カルマ! 実は……プールが爆発して……」

 

「OK。後は分かった。優希は?」

 

「あっちの岩の方。速水と倉橋を助けに行って身動きが取れなくなってる」

 

「了解。カルマ、ここは任せた。俺は優希たちと殺せんせーを助けに行く!」

 

 俺は皆の制止を振り切り、走り出した。“オーバーロード”も使い、自分の出せる全速力で3人がいる方に向かう。

 

「優希! 速水! 大丈夫か? それと、陽菜乃は?」

 

 水に半分使っている優希を見つけた。

 

「悪い。陽菜乃ちゃんはもっと奥だ。俺がいながら…………」

 

「泳げねえのによくやったよ。速水も大丈夫か?」

 

「……ええ。水をかなり飲んじゃったけど……」

 

「悠馬、メグ! こっちだ、頼む!」

 

 俺はすぐに陽菜乃を探し始める。確かこの先は急な崖のはずだ。そこに水が流れてるなら、滝みたいになってしまう。そこから落ちるなんて事はあってはいけない。

 

「陽菜乃、どこだ!」

 

「零士君! 倉橋さんはあっちです! ですから先せ「あなたはこっちよ、殺せんせー」ッ!」

 

 そこには上から殺せんせーを叩き落としたクロの姿。

 

「殺せんせー!」

 

 くそっ。でも、あっちだったよな。

 

「いた!」

 

 まずい……。水を飲んで気絶してる……。

 

 俺は近くの岩を右手で掴み、陽菜乃の腕を掴む。

 

「……ッ! 陽菜乃、大丈夫か?」

 

 返事はない。だが、脈はある。このまま誰がが来てくれれば……。

 

「ッ! やべぇ、岩で手切った……。血で滑る……」

 

 誰でもいい。来てくれ……。でねぇと、陽菜乃が……。

 

「黒羽! そのまま待ってろ! 俺が行く!」

 

 そこにいたのは……、

 

「寺坂……」

 

 ロープを体に巻きつけ、急流に入って来た寺坂。その後ろでは皆がそのロープを支えている。

 

「倉橋をこっちに渡せ。そうすりゃ自分で来れんだろうが」

 

「悪ぃ、恩に着る」

 

 俺は陽菜乃を寺坂に預けた。左手で岩を掴み直し、勢いをつけて、水から出た。

 

 ……はずだった。

 

「なっ……!」

 

「黒羽!」

 

 寺坂が俺に手を伸ばしたが、空を切り、俺は崖の下に引っ張られる。俺の腰には触手。イトナだ。

 

 バシャァァンッ

 

「やぁ、黒羽君。久々だね」

 

「ゲホッゲホッ! テメェは……シロとイトナ……。殺せんせーは!」

 

 シロは俺の問いに対し、後ろを指差した。そこにはクロに押されている殺せんせーの姿。

 

「クロはね、殺し屋なんだ。殺せんせーが吸った水は触手の動きを弱める薬剤を入れた。寺坂君が撒いてくれたおかげで奴の粘液は出切っている。奴の助けは望まない方がいい」

 

 イトナが前に出る。そして触手を操りながらゆっくりと俺の前まで来る。

 

「黒いの、もう一度勝負だ。お前に勝って、俺の強さを証明し、そして兄さんを殺す」




大分オリジナル展開にしています。

イトナvs殺せんせーの前にイトナvs零士をやります。その間は、殺せんせーの相手をクロにやってもらいます。

バトル要素が少し強そうですが、楽しんでくれたら幸いです。次回も楽しみにしていてください。


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現場の時間

楽しみにしてくださっていた読者の皆さん(いるかどうかは定かではないですが)お久しぶりです!大変長らくお待たせしました!

SAOは更新していたのに、どうして暗殺教室は更新しなかったのかって?簡単に言い訳をしてみると、10月末にSAOHRが発売して、そっちに熱が入っていたからです。それと、テストなど色々あったのです。

もちろん、途中で投げ出すつもりはありません。必ず、完結までやり遂げます!気軽に感想など待っています。批判上等!何でも来い!全部正面から受け止めます!……まぁ、時には受け流しますが……。


「……ッ! くそッ……ッ!」

 

 俺はイトナの触手を喰らい続けている。しかも、右手を岩で切り、そこに水が染みて痛い。それに加えて病み上がりという事もあり、俺はまともに戦えてない。

 

「どうした? お前はこんなものなのか?」

 

「……うっせぇよ。……死んでも知らねぇぞ!」

 

 縮地術で後ろに回り、靴に仕込んだ対せんせーナイフで斬りかかる。しかし、足元が悪いため本来のスピードが出せない。

 

「遅い。こんなものか……。クロに比べたら余裕だ」

 

 自慢の速さも、地上戦でなければ100%の力は出せない。触手相手では、尚更だ。

 

「零士君! にゅやッ!」

 

「殺せんせー、余所見はしない方がいいですよ」

 

 殺せんせーはさっき見た時よりも、触手が膨れ上がっていた。これでは、クロを退けてから助けに来てくれる事は望めそうにない。

 

「言ったはずだよ、黒羽君。君はパワー不足だと。自慢のスピードやナイフ捌きもこのフィールドと想定外のアクシデントのおかげで落ちている。君も、終わりだ」

 

 イトナの攻撃が加速する。俺はもう、まともに反応する事すら出来なかった。俺はこの瞬間、殺し屋からサンドバックへと成り下がった。

 

「ガハッ! ゲホッゲホッ!」

 

 口から血を吐き、俺は前に倒れこんだ。

 

「まだだ、黒羽。お前に味あわされた屈辱はこんなものじゃない。さあ立て」

 

 俺は胸倉を捕まれ、無理やり立たされる。そして、触手による攻撃。俺の意識は何度も飛びそうになり、その度に引き戻される。

 

「ガ八ッ!」

 

 最後の一発が顔面に当たり、俺は離れた所に跳んだ。

 

「これで終わりだ」

 

 殺せんせーの声が聞こえる。だが、指一本動かす余力も残っていない。

 

 俺は、やって来るであろう衝撃に身を任せた。

 

 しかしその前に、一発の弾丸が俺とイトナの間に放たれた。

 

「おい、黒羽! てめぇ、しっかりしやがれ! 倉橋が泣きそうな顔してるぞ!」

 

 寺坂だ。おそらく、撃ったのは優希だろう。

 

「……ゎりぃな……てらさか……」

 

「バーカ。喋るな。後は俺がやる」

 

 寺坂はそう言って、イトナと向き合う。

 

「イトナ! てめぇ、俺とタイマン張れや!」

 

 

 ー優希sideー

 

「マジかよ……あの爆破はあの2人が仕組んでいたとは」

 

「でも、殺せんせーも零士も押され過ぎな気がする」

 

「力を発揮出来ねえのは、お前らを助けたからよ」

 

 陽菜乃ちゃんを抱えた竜馬たちが戻って来た。

 

「零士の奴も、あのフィールドで病み上がりは辛いだろうな。あれじゃ、イトナのスピードに対抗出来ないな」

 

 状況は悪化する一方だ。どうにかしないと。

 

「目標もビジョンもねぇ奴は、頭の良い奴に操られる運命なんだよ。だがよ、バカにだってプライドはある。操られる相手ぐらいは、選びでぇ」

 

 竜馬……お前……。

 

「奴等はこりごりだ。賞金持ってかれんのも気に入らねぇ。だからカルマ! テメエが俺を操ってみろや」

 

「良いけど……実行出来んの、俺の作戦? 死ぬかもよ」

 

「俺も手を貸すよ、竜馬。さぁ、いっちょやるか」

 

 俺が銃を持ち、竜馬は目が覚めた陽菜乃ちゃんを預け、出撃準備をする。

 

「やってやんよ。こちとら、実績持ってる実行犯だぜ」

 

「え、まだ作戦考えてないけどもう行くの? 寺坂はバカだから仕方ないけど、意外と優希も脳筋なんだね」

 

「ッ! テメェ、カルマ。覚えてろよ」

 

 

 その結果、俺が銃で零士とイトナを止める。そこへ竜馬が助けに入った。殺せんせーの方は、一瞬でも隙が出来れば大丈夫だ。

 

「やめなさい、寺坂君! 先生がやります。だから下がって!」

 

「せんせ……てらさかにまかせろって……。あいつのめ……まじだから……」

 

「零士君……」

 

 零士を抱えた殺せんせーは竜馬を心配そうに見る。

 

「竜馬ァ、死んでも骨は拾ってやるよ。だから、頑張れよー」

 

「おい優希! テメェ最初の意気込みはどうした!」

 

 竜馬はシャツを脱ぎ、両手で持って体の前へ。

 

「クス。布切れ一枚でイトナの触手を防ごうとは、健気だねぇ。黙らせろ、イトナ。殺せんせーとブレットに気をつけながらね」

 

 俺の横ではカルマに渚が何か言っていた。でも、気にする必要はないだろう。それに、竜馬は根性だけはある。だから、最高の実行部隊だ。

 

 竜馬に向かって触手が襲いかかる。そして、それを死に物狂いで受け止めた。

 

「ヒュウ、やるねぇ」

 

 思わず口から感嘆がもれる。

 

「よく耐えたねぇ。ではイトナもう一発あげなさい」

 

「くしゅんっ!」

 

 様子がおかしい。イトナは急にクシャミをし始めた。

 

「どうよ、シロ、クロ。あのシャツってさ、昨日と同じなんだよね。て事は、あんたらが使わせたスプレーと同じってわけ。結果は見ての通りだ」

 

 俺に続いてカルマが言う。これで最後だ!

 

「で、一瞬でも隙を作れば、足手纏いの零士がいても余裕で助けられる。これでフィールドは整った」

 

 そして、最後に竜馬。

 

「吉田、村松! お前らは飛び降りれんだろ!」

 

「「はァ!」」

 

「水だよ水! デケェの頼むぜ!」

 

「「しょーがねーなぁ」」

 

 2人が先陣を切って飛び降りる。

 

「殺せんせーと弱点一緒なんだよね。じゃあ、同じ事やり返せばいいわけだ」

 

 残りの皆が一斉に飛び降りる。イトナの触手が水を吸って膨らむ。

 

「大分水吸っちゃったね。殺せんせーと同じ水を。あんたらのハンデが少なくなった。

 で、どーすんの? 俺ら、賞金持ってかれんの嫌だし、そもそも皆、あんたらの作戦で死にかけてるし、ウチらのエースなんかボロボロ。後ついでに寺坂。まだ続けるなら、容赦しないよ」

 

 俺もライフルで常にヘッドショットを狙っている。怪しい動きを見せれば撃つ。外す気がしない。

 

「……してやられたわね、シロ」

 

「そうだね。丁寧に積み上げて来たが、生徒たちによって崩されてしまった。ここは引こう。触手の制御細胞は感情に大きく左右される危険なシロモノ。この子等を皆殺しにでもしようものなら……反物質臓がどう暴走するか分からん」

 

 反物質臓? 何だそれ。

 

「帰りましょ、イトナ」

 

 一瞬だけ、イトナの殺意が強まった。俺は引き金を引く。

 

「ブレット。クラスメートを撃つなんて酷いのね」

 

「あんたらだけには言われたくないよ」

 

 クロによって弾は真っ二つ。チート過ぎるだろ。

 

「どうです、皆で楽しそうな学級でしょうら。そろそろ、ちゃんとクラスに来ませんか?」

 

「……フン」

 

 そして、3人は帰って行った。

 

「ふぃーっ。何とか追っ払えたな」

 

「良かったねー殺せんせー。私達のお陰で命拾いして」

 

「ヌルフフフ。もちろん感謝しています。まだまだ奥の手はありましたがねぇ」

 

 そして、何か後ろが騒がしい。

 

 竜馬が寿美鈴ちゃんに何か言われて、カルマに弄られて、そのカルマを水に落とした。

 

「はぁァ! 何すんだよ、上司に向かって」

 

「誰が上司だ! 触手を生身で受けさせるイカれた上司がどこにいる!」

 

 そこから、カルマへの水かけ合戦が始まった。面白そうなので、俺も行こうとしたが、

 

「ねぇ、優希」

 

 俺のジャージを引っ張る女子、凛香ちゃんだ。

 

「ん? どうした?」

 

「あの……その、ありがと、助けてくれて……。あんた、泳げないのに、水の中……」

 

「なぁに、いいってことよ。ツンツンもデレデレもしてない、ぐったりした凛香ちゃんも見れたからな」

 

 最後だけふざけてみた。

 

「なッ……///。ば、バカじゃないの、あんた! ツンツンもデレデレもしてない!」

 

「怒った顔も可愛いぜ、凛香ちゃん」

 

 そう言ったら、今度こそ、一発殴られた。

 

 

 ー第三者sideー

 

「零士君!」

 

「……よぉ、陽菜乃。もう、大丈夫か?」

 

「う、うん。助けてくれてありがとね。後……零士君……」

 

 零士の近くに来た倉橋。特徴である明るさは今の彼女からは感じられない。

 

「大丈夫さ。派手に殴られたけど、斬られるよりはマシだから。お前のせいじゃないから、気にすんな」

 

「うん……」

 

 目から涙をこぼし、しゃがみこむ倉橋。

 

「零士君が……零士君が……死んじゃうかと思った……」

 

「バーカ、死なねぇよ。俺は殺し屋だ。受けた依頼を完遂せずに死ねるかよ」

 

 なかなか泣き止まない倉橋。零士はどうしていいか分からない。

 

「……陽菜乃」

 

 零士はおもむろに立ち上がり、倉橋を軽く抱きしめる。

 

「ほら、ちゃんと生きてんだろ。だから泣くなよ」

 

「……ッ! う、うん。ありがと」

 

「ああ、どういたしまして」

 

 この後、倉橋の願いで、もうしばらくこのままだった。しかし、それを見ていた他の奴等に弄られたのは言うまでもない。もちろん、零士自ら制裁を下した。




やっぱり、久しぶりだと変な感じですね。キャラとかの話し方も微妙な気もします。

前書きでも言った通り、批判でも何でも来いです。むしろ、何も言われないのが一番辛いです。特に、低評価が一番困ります。どうすればいいのかもさっぱりなので。評価してくれる方も付ける際は必ず一言お願いします。以前してくれた方も、もしよければ何か一言付け加えてくれるとありがたいです。

では次回もお楽しみに!


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期末の時間

何とか間に合いました。期末テスト編です。念のため、零士の中間の成績を載せておきます。

英語100点
国語100点
社会100点
理科80点
数学80点
総合460点 学年15位

中間テストの時、零士はA組だったので変更されたテスト範囲を浅野理事長から教わりました。その結果がよく現れている結果です。

さて、今回のテストはどうなるのか?そして、初めてのテストとなる優希はどうなるのか?


「ヌルフフフ。皆さん、1学期の間に基礎がガッチリ出来てきました。この分なら期末の成績はジャンプアップが期待出来ます」

 

 殺せんせーはまた、自慢の分身でマンツーマン以上で教えている。

 

「殺せんせー。また今回も全員50位以内を目標にするの?」

 

「おい、渚。お前ら中間そんな事してたのかよ……。道理で急にテスト範囲が変わったわけだ。理事長の奴が張り切ってたからなぁ」

 

「で、その理事長に教わってた零士は俺よりも点数が低かったわけだ」

 

「うるせぇカルマ。テメェと違ってこっちはガチで殺し屋兼中学生やってたんだよ。それに、お前や浅野とは違って数学モンスターじゃねぇんだよ」

 

「へぇ。流石中間15位。言い訳もトップクラスだねぇ」

 

 とりあえず、イラついたから殺せんせーにナイフを刺す。まぁ当たる事はなく、そのナイフは取り上げられ、数学の参考書に差し替えられる。

 

「零士君。確かにこの間は先生、失敗しましたが、いい経験が出来ました。そこで今回は……この暗殺教室にピッタリな目標を設定しました!」

 

 俺や他のみんなが一斉に殺せんせーの方を見る。

 

「だ、大丈夫! 寺坂君にもチャンスがある目標ですから!」

 

 殺せんせーの分身総勢3人による慰めと言うなの傷への塩塗り。竜馬が可哀想た。そして、この間の事件の後、俺らは下の名前で呼び合う事になった。しかも、あいつは俺に個人レッスンまで頼んで来た。これは楽しみだ。

 

「さて、前にシロさん達が言った通り、先生は触手を失うと動きが落ちます」

 

 そう言うと、BB弾入りの銃で自分の足を破壊した。

 

「一本減っても影響は出ます。御覧なさい。全ての分身が維持しきれず、子供の分身が混ざってしまった」

 

「「「「「(分身ってそういう減り方するモンだっけΣ!)」」」」」

 

 俺達の心が一致した瞬間だった。

 

「さらにもう1本減らすと……。

 御覧なさい。子供分身がさらに増え……親分身が家計のやりくりに苦しんでいます」

 

「何か、切ない話になってきたな……」

 

「もう一本減らすと、父親分身が蒸発しました。母親分身は女手ひとつで子を養わなくてはいけません」

 

「「「「「重いわΣ!」」」」」

 

 ホントこの先生、こういうドラマになりそうな話、好きだよな。

 

「さらにもう一本」

 

 いつの間にか、クラス中がどうなるのか注目している。そういう俺もその1人だ。この先生は、ホント見てて飽きない。

 

「子供の一人がグレます。目つきが悪くなり、言葉遣いは荒くなり、喧嘩っ早くなって、黒猫みたいになります」

 

「へぇ…………ってそれは俺じゃねぇかΣ!」

 

「「「「「自覚あんのかよΣ!」」」」」

 

 思わずツッコんでしまった。あのタコ、ニヤニヤしてコッチを見てやがる……。絶対殺す。

 

「と、冗談はさておき。色々と試してみた結果、触手1本につき、先生は20%運動能力を失います。……そこで、テストについて本題です。前回は総合点で評価しましたが……今回は皆さんの最も得意な教科も評価に入れます」

 

 殺せんせーはそこで言葉を切った。

 

「教科ごとに学年1位を取った者には、()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 クラス中に戦慄が走る。つまり、総合と5教科トップを全部取れれば最大6本。

 

 今回のテストは、いつも以上に気合入れねぇとな。

 

 

「なぁ優希。お前はどうよテスト。いけそうか?」

 

「さあね。一応殺せんせーの授業は普通に出来るし、それ以上の知識もある。だけど……ここの理事長は曲者だからな。多分、あの人を殺す依頼をされたら、苦労するだろうな」

 

 優希らしい答えに苦笑いする。

 

 すると、友人に電話がかかってきたらしく、皆に目配せをした。スピーカー状態にして皆に聞かせる。

 

{俺達3年生のクラスの序列は最下層にお前らE組。横並びのB、C、D組。そして頂点に特進クラスのA組だ。そのA組が全員集結して自主勉強会を開いてるんだ。こんなの初めて見る}

 

 おいおい、ンな事やってのかよ。指導者はあの天才だな。俺の時はそんなのなかったぞ……。

 

{音頭を取る中心メンバーは、“五英傑”と言われる椚ヶ丘(うち)が誇る天才達だ}

 

 進藤は一度言葉を切った後、もう一度話し始めた。

 

{中間テスト総合2位! 他を圧倒するマスコミ志望の社会知識! 放送部部長、荒木鉄平!}

 

 ああ、あの嫌味ったらしぃクソ眼鏡か。でも……、

 

{中間テスト総合3位! 人文系コンクールを総ナメにした鋭利な詩人! 生徒会書記、榊原蓮!}

 

 ああ、あの毎回テストの度に国語の点数で勝負をしてきたチャラい奴な。でも、それよりも……、

 

{中間テスト総合5位! 4位を奪った赤羽への雪辱に燃える暗記の鬼。生物部部長、小山夏彦!}

 

 ああ、あの暗記暗記言ってるクソアゴ眼鏡の事か。だけど、それ以上に……、

 

{中間テスト総合6位! 性格はともかく語学力は本物だ! 生徒会議長、瀬尾智也!}

 

 ああ、こいつは記憶に新しいな。だけど、だけど……もう我慢できねぇ。

 

「そのノリなんだよ進藤Σ!」

 

 我慢できずツッコんでしまった。俺以外の奴等も腹を抱えて笑いを堪えていた。まぁ優希はもう大爆笑だが。

 

{その声は黒羽か。一回やってみたかったんだ、こういうの}

 

 こいつ、大物になるな。

 

{そして……俺達の学年で生徒の頂点に君臨するのが……。中間テスト1位。全国模試1位。支配者の遺伝子、生徒会長、浅野学秀。あの理事長の1人息子だ}

 

 あの化け物か……。全く、才能ってのはホント怖い。質の高い才能ってのは、息子にまで遺伝するほど強いのかよ。

 

{彼は人望厚く成績はトップ。プライドの高いA組の猛者達を纏め上げるカリスマ性。彼自身の指導力に加えて……、全教科パーフェクトな浅野各教科のスペシャリスト達。5人合わせて“五英傑”。5人合わせりゃ下手な教師より腕は上だ。ただでさえ優秀なA組が更に伸びる。このままだとトップ50はほぼA組が独占だ。杉野、奴等はお前らを本校舎に復帰させないつもりだ}

 

 進藤は球技大会で俺達が過去のE組とは違うと分かっているようだ。それゆえ、俺達を心配してくれている。

 

「ありがとな進藤。口は悪いが心配してくれてんだろ。でも大丈夫。今の俺らは……E組脱出が目標じゃないんだ。けど、目標のためにはA組には負けられない。見ててくれ、頑張るから」

 

{勝手にしろ、E組の頑張りなんて知った事か}

 

 すると、ここで優希が友人の近くに行って、進藤に向かって言った。

 

「それにしても、流石は椚ヶ丘が誇るスーパーエリート様だな。俺達に勝てるとでも思ってんのかよ。油断してると、お前も俺らの仲間入りだぜ」

 

{それは勘弁だな。白河、それだけの口がきけるんだ。点、取れるんだろうな}

 

「あたり前田のクラッカー」

 

{そうか、頑張れよ}

 

 優希、お前それどこで知ったんだよ。そんな疑問は誰の口からも出なかった。

 

 

 放課後、陽菜乃達と勉強会をする事になった。メンバーは男子が俺と優希、龍之介。女子は陽菜乃と速水に桃花だ。場所は“Assassin’s cafe”の奥の部屋。

 

「なぁ優希、こっちの計算どうやるんだ?」

 

「優希君、私にも教えて~」

 

「千葉君、平方完成ってどうやるんだっけ?」

 

「千葉、あんたここの問題分かる?」

 

 今は数学の勉強真っ最中。だが、数学が壊滅的な人か1人、苦手な人が3人、得意な人が2人と良くも悪くもバランスが良い。

 

「なぁ優希。何で数学がダメな奴ばかりなんだ?」

 

「ん? さあな。でも、零士が一番壊滅的だ。この間は、テスト中に数学だけ“オーバーロード”を使ったらしい」

 

「カンニングじゃないか」

 

 とにかく壊滅的な事になっている。

 

「零士、あんたに客。浅野君?って言うんだけど……」

 

 ルリが俺の事を呼びに来た。

 

 浅野だと……。

 

「どこにいるんだ?」

 

「店の一番奥の席」

 

「りょーかい。すぐ行く。悪い、俺ちょっと行ってくる」

 

 一時勉強をやめ、浅野の元へ向かう。

 

「やぁ黒羽。久しぶりだな」

 

「ホントだな。僕も君に会えて嬉しいよ」

 

 とりあえず、あの頃の作ったキャラでいく。

 

「猫を被るのはやめろ。僕は本音の君と話がしたい」

 

「……へぇそうか。つぅか、どうやってこの店を?」

 

「偶々さ。君が友人達と店に入るのが見えてね」

 

 俺はA組にいた頃から浅野を警戒していた。いつか自分の本性を暴かれると思っていたからだ。

 

「で、俺に何か用か?」

 

「黒羽。君はE組にいるべきじゃない。今回のテストで君は、A組に戻るべきだ。何を隠しているのかは知らないが、今ならまだ間に合う」

 

「……嫌だね。俺の居場所はコッチだ」

 

「君には才能がある。それ輝ける場所も指導者もA組には揃っている。あんな場所では君は輝かない」

 

 こんな短いセリフに、どうやったらここまで俺を苛立たせる言葉を詰め込めるのだろう。

 

「うるせぇ。俺は輝ける場所なんてどうだっていい。俺が輝く場所はE組だ。俺を導く指導者も揃ってる」

 

「君もバカじゃないだろう。この先、僕らと君達ではどれだけの差が生まれるのか分かるはずだ」

 

「分かんねぇなァ。俺は、敷かれたレールの上をただ進むのが大っ嫌いなんだよ」

 

 俺と浅野の間に火花が散る。互いに自分の主張を曲げない。

 

「ではこうしよう。君と僕、どちらが次のテストで順位が上なのかを競おうじゃないか。勝った方は負けた方に何でも1つ命令を下せる。実にシンプルでいいと思わないか?」

 

 こういう時の顔は、ホント理事長そっくりだ。俺は浅野の目を真っ直ぐ見て答えた。

 

 

 翌日、教室ではより面倒な事になつまていた。

 

「渚、お前がいながら何でそんな厄介事に発展すんだよ」

 

「ご、ごめん。みんなも結構ノリノリで……」

 

「まぁ過ぎた事は気にしねぇけどよ」

 

「でも、お前も浅野に賭けを申し込まれたんだろ」

 

「バーカ。ンなモン一蹴してやったよ」

 

『悪いけど、受けられないな』

 

『何?』

 

『何で俺がお前の土俵で戦わないといけないんだ。負け戦はしない主義なんだ』

 

『逃げるのか?』

 

『違うね。戦略的撤退だ。そして、次こそ勝つための布石さ』

 

『そんな負け犬の遠吠えのような事を君が言うとはね。失望したよ、黒羽』

 

『……でもよ。あんまり余裕ぶっこいてると、殺られるぜ。俺達E組は殺る気が違うからな』

 

 俺は昨日、こんな会話をした事を思い出していた。

 

「こらカルマ君! 真面目に勉強しなさい! 君なら十分総合トップ狙えるでしょう!」

 

 カルマは参考書を顔の上に乗せて背もたれに寄りかかる。

 

「言われなくてもちゃんと取れるよ。あんたの教え方がいいせいでね。けどさぁ、殺せんせー。あんた最近“トップを取れ”ばっかりで安っぽくてつまらないね」

 

 殺せんせーは何も言わない。

 

「それよりどーすんの? そのA組が出した条件って……なーんか裏で企んでる気がするよ」

 

 確かに、間違ってはいない。A組にはあの浅野がいる。あいつにかかれば、子供同士の口約束が立派な奴隷制度に早変わりする。

 

「心配ねーよカルマ。このE組がこれ以上失うモンなんてありゃしない」

 

 岡島がそう言い、陽菜乃も言う。

 

「勝ったら何でもひとつかぁ。学食の使用権とか欲しいな~。ねー、零士君は何かある?」

 

「少なくとも学食はいらねぇな。昼飯の度に本校舎に行かなきゃなんねぇし。そうだなぁ、毎日浅野ん家の車で送迎してほしいねぇ」

 

「ははっ、零士それ最高」

 

「何か零士君、夢ないな~」

 

 皆は俺の性格の悪い回答に苦笑いしたり、悪ノリしたりしている。

 

「ヌルフフフ。それについては先生、考えがあります。さっきこの学校のパンフを見てましたが、とっても欲しい物を見つけました」

 

 殺せんせーはうちの学校の説明会で配っていたパンフレットのとあるページを開き、その自慢の触手で指差す。

 

()()をよこせと命令するのはどうでしょう?」

 

 クラス全員そんな事、考えもしなかった。やっぱうちの先生、最高。

 

「君達は一度、どん底を経験しました。だからこそ次は、バチバチのトップ争いも経験して欲しいのです。先生の触手、そして()()。ご褒美は充分に揃いました。暗殺者なら、狙ってトップを()るのです!」

 

 

 E組はいつも以上に勉強した。そういう俺も、今までとは比較にならないほど勉強した。殺し屋としてじゃなく、3-Eの1人のアサシンとして、俺は担任(ターゲット)を殺す!

 

「あれ? 渚に莉桜ちゃん、何してんの?」

 

 本校舎のテスト会場を目指し、俺と優希は歩いていた。すると、その部屋の前で立っている渚と中村に遭遇した。何で入んねぇんだ?

 

「あ、零士君、優希君。あれ……」

 

 それは、教室の奥の席にいた。

 

「「……誰Σ!」」

 

「うん、だよね……」

 

 すると、そこへ烏間先生がやって来た。

 

()()だ。流石に人口知能の参加は許されなくてな。彼女の授業を受けた替え玉を使う事にした。交渉の時の理事長に『大変だなコイツも』……という哀れみの目を向けられた俺の気持ちが君達にわかるか?」

 

「「「「いやほんと頭が下がりますΣ!」」」」

 

「律と合わせて俺からも伝えておこう。頑張れよ」

 

「「「「はいッ!」」」」

 

 

 いよいよ始まる。本来1人で受けるはずのテストだが、今日は違う。同じクラスの仲間が、かって同じクラスだったライバルが、同じ舞台に集まる。このテストという名の闘技場で互いの武器とプライドをぶつけ合う。

 

 ー英語ー

 

「いやぁ、速いなぁ。中間とは比べ物になんねぇなァ」

 

 俺は周りを見渡す。A組では浅野と瀬尾、E組では中村と優希を中心に次々と問スターを撃破して行く。俺と渚もそれに続く。

 

「渚! 後ろ来てるぞ!」

 

「うん! それッ!」

 

 いち早く最終問題なら辿り着いた瀬尾。しかし……

 

「……倒れない? ウソだろ。満点解答の見本だぞ!」

 

 その横を中村が通り過ぎる。

 

「お堅いねぇ。力抜こうぜ優等生!」

 

 中村の一撃は問スターの急所を捉え、満点解答を叩き出す。

 

「多分読んでないっしょ。サリンジャーの“ライ麦畑でつかまえて”」

 

 次は俺らの番だ!

 

「行くぞ、渚ッ!」

 

「うん!」

 

 俺と渚も満点解答。問スターの急所を貫いた。

 

「よォ瀬尾。LAいただけじゃダメだって知ってるか?」

 

「外国で良い友達いなかったっしょ瀬尾クン。やたら熱心に本を勧めるタコとかさ」

 

「中村さん……流石にタコはいないと思う……」

 

 

 ー理科ー

 

 こちらは理科の試合会場。全員が杖を持ち、得意な魔法を駆使して問スターを撃破していく。

 

「本当の理科は暗記だけでは楽しくないです。“君が君である理由を理解(わか)ってるよ”ってちゃんと言葉にしてあげたら、この理科、すっごく喜ぶんです」

 

 奥田が乗っている理科が鎧を脱ぎ出し、楽しそうにスキップして行く。

 

「なぁ小山。俺もあれは無理だわ……」

 

「……黒羽」

 

 

 ー社会ー

 

「しくじったァ……!」

 

 ここ、社会には砲台のついた問スターがうじゃうじゃいる。確実に弱点を突いて、一撃で仕留めないと、こっちが殺られる。まさに荒木はそうだ。爪が甘く、奴の砲撃で撃たれた。

 

「何余裕ぶってんだ、黒羽Σ! お前も間違えているだろΣ!」

 

「……」

 

 うるせぇよ。

 

 

 ー国語ー

 

 この教科は俺の得意分野だ。ここで出来る限り点を取って、数学の分のカバーをしたい。

 

「春過ぎて 夏きるたらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山」

 

 神崎と榊原の薙刀が鎧武者型の問スターを撃破して行く。

 

「しゃがめ神崎ッ!」

 

 俺は神崎の背後にいた問スターに狙いを定めた。俺は慣れない薙刀を振りかぶり攻撃する。

 

「めぐり逢いて 見しやそれとも わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かな」

 

「ありがと、黒羽君」

 

「おう。後少し。頑張ろうぜ」

 

 

 ー数学ー

 

「龍之介、油断すんなよ」

 

「優希の方こそ」

 

 この2人を中心に問スターは倒されて行く。ん? 俺はどうしたのかって?

 

「大丈夫、零士君Σ!」

 

「お、おう……。何とか大丈夫だ、陽菜乃」

 

「う、うん。ならいいけど……。無理だけはしないでね」

 

「もちろんだ」

 

 

 2日間の攻防の末、全ての戦い(テスト)が幕を下ろした。暗殺、賭け(ギャンブル)。全ての結果は○の数で決まる。

 

 そして3日後。答案返却の日がやって来た。

 

「さて皆さん。全教科の採点が届きました。では発表します。まずは英語から……」

 

 このクラスでは中村を筆頭に俺や優希、渚と得意な奴が多い。

 

「E組の1位……そして学年でも1位! 中村莉桜!」

 

「「「「「おおっ!」」」」」

 

 下敷きを団扇のようにしている中村。表情は誰よりも嬉しそうだ。

 

「完璧です。君のやる気はムラっ気があるので心配でしたが」

 

「なんせ賞金100億かかってっから。触手1本、忘れないでよ」

 

「渚君、零士君、共に大健闘ですが、渚君は肝心な所でのスペルミス、零士君はリスニングですね」

 

 中村 莉桜 100点 学年1位

 浅野 学秀 99点 学年2位

 黒羽 零士 98点 学年4位

 瀬尾 智也 95点 学年5位

 潮田 渚 91点 学年8位

 

 ベスト3入んなかったか……。点は悪くねぇんだけどな。

 

「さてしかし、1教科トップを取った所で潰せるのは1本のみ。それに、A組との教科対決もありますから。喜ぶ事が出来るのは、全教科返した後ですよ」

 

 そうだった。それを忘れてはいけない。

 

「続いては国語。E組1位は2人! 1人は神崎有希子!」

 

「「「「「おおお~」」」」」

 

「そして……黒羽零士!」

 

「おっしゃぁッ!」

 

「「「「「おおっ!」」」」」

 

「がしかし、学年1位は浅野学秀! 神崎さんは大躍進ですよ。零士君は前回満点だっただけに残念ですねぇ」

 

 くそっ、ダメか……。

 

 浅野 学秀 100点 学年1位

 神崎 有希子 97点 学年2位

 黒羽 零士 97点 学年2位

 榊原 蓮 94点 学年5位

 

「では、続けて返します。社会! E組1位は磯貝悠馬97点! そして学年では……。

 おめでとう! 学年でも1位!」

 

「よっし!」

 

 クラス中で大歓声が沸き起こる。A組との賭けも2勝1敗と王手だ。

 

 磯貝 悠馬 97点 学年1位

 浅野 学秀 95点 学年3位

 黒羽 零士 93点 学年4位

 荒木 鉄平 93点 学年4位

 

 俺も結構惜しいとこまで行ったんだけどなぁ。

 

「理科のE組1位は奥田愛美! そして……学年1位は……素晴らしい! 学年1位も奥田愛美!」

 

「3勝1敗! 数学の結果を待たずしてE組がA組に勝ち越し決定!」

 

「やった!」

 

「仕事したな奥田! 触手1本お前のモンだ!」

 

 奥田 愛美 98点 学年1位

 浅野 学秀 97点 学年2位

 小山 夏彦 95点 学年4位

 黒羽 零士 85点 学年15位

 

 まぁ理科は得意じゃねぇし仕方ない。……次は……うん、ダメだ。

 

 

「流石にA組は強い。5教科総合は7位まで独占。E組の総合は彼を除けば竹林君、片岡さんの同点8位が最高でした」

 

 木に寄りかかり、グチャグチャにしたテストを持つカルマ。

 

「当然の結果です。A組の皆も負けず劣らず勉強した。テストの難易度も上がっていた。怠け者がついていけるわけがない」

 

「……何が言いたいの?」

 

 そこから離れるカルマ。殺せんせーはその後ろ姿に追い打ちをかける。

 

「恥ずかしいですねぇ~。“余裕で勝つ俺カッコイイ”とか思ってたでしょ」

 

 カルマは顔を真っ赤にする。

 

「分かりましたか? 殺るべき時に殺るべき事を殺れない者は暗殺教室(この教室)では存在感をなくしていく。刃を研ぐのを怠った君は暗殺者じゃない。錆びた刃を自慢気に掲げたただのガキです」

 

「……チッ」

 

 殺せんせーはその反応が見れた満足したのか、その場から離れる。

 

「……零士。いるんだろ。出て来いよ」

 

「気づいてたのか」

 

「何? お前も俺をからかいに来たの?」

 

「まさか? こんな成績、誇れねぇよ」

 

 赤羽 業

 数学85点 学年11位

 総合469点 学年13位

 

 黒羽 零士

 数学69点 学年75位

 総合443点 学年19位

 

「俺達は今回、何の戦力にもならなかったんだ」

 

「どんなに訓練で好成績出しても、現役の殺し屋でも、今回はダメだった」

 

「カルマ。今度はさ、絶対に見返してやろうぜ」

 

「……分かってるよ」

 

 

「個人総合1位、いや、個人総合1位タイおめでとう、浅野君。でも、E組と何やら賭けをしていたそうじゃないか。そして、それに負けたと聞いたんだが」

 

「くっ……」

 

 理事長室で会話をする親子。だがそこに仲の良さなど感じられない。

 

「私の事を“首輪つけて飼ってやる”とか言ってたね。ありもしない私の秘密を暴こうとしたり、よくも言えたものだね。同い年との賭けにも勝てない未熟者が」

 

 浅野は歯を食いしばり、悔しさや惨めさに耐える。

 

「そういえば、君と同じ順位の彼、E組への転校生だそうじゃないか。ずっとこの学校で学んで来た君は、一体何をやっていたんだろうね」

 

「……くっ……。覚えていろ、白河優希!」

 

 英語99点 学年2位

 国語100点 学年1位

 社会95点 学年3位

 理科97点 学年2位

 数学100点 学年1位

 

 総合491点 学年1位タイ

 

 

「ハックション! 風邪かな?」

 

「噂でもされてるんじゃないの?」

 

「凛香ちゃんは……してくれてなさそうだね」

 

「そうね。でも、優希、あんたそんなに頭良かったのね」

 

 速水の腕には5枚のテスト。それは全て彼女の物ではない。そこに書いてある名前は白河優希。

 

 英語99点 学年2位

 国語95点 学年4位

 社会96点 学年2位

 理科96点 学年3位

 数学100点 学年1位

 

 総合491点 学年1位タイ




零士は数学でかなり足を引っ張りました。文系は強くても理系が弱い。彼はメアリといた頃は英語で会話していたので出来ます。日本語を一時期話せなかったので、国語は必死で勉強したので出来ます。社会は、色んな国を回ったのでいつの間にか理解出来ています。しかし、基本力技の零士に数学と理科はいらないので出来ません。
優希は逆に潜入暗殺から力技まで何でもやるので、全て完璧です。

次回は終業式。賭けの清算と実は新しいオリキャラも登場します。

お楽しみに!


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