ひぐらしのなく頃に 骨 (つぶあん仔)
しおりを挟む

序章
はじまり


ユグドラシルというゲームが有った。そのゲームは2126年に発売され、広大な世界に莫大なデータで構築されたゲームという言葉では手に余ると言っても過言ではないほど自由なゲームだった。まさに革新的であり当時の日本国内では多くの日本人が熱中していた。

しかしそれも昔のこと。

今はもうそのゲームをプレイしている人はほとんどいなかった。たとえどれほど熱中していたとしても多くの人はいつしかそのゲームをしなくなっていった。流行というものは一時的なものである。時代は流れ、人は新しい物に魅了される。その過程で古きものは捨てられるのだ。

 

 

ナザリック地下大墳墓第10階層の玉座の間、モモンガは玉座に腰掛けていた。

そこに掛けられている旗を見てかつての仲間のことに思い馳せる。

多くの仲間達がいた。多くの冒険をした。多くの戦いがあった。

しかしそれはもうできない。なぜならユグドラシルというゲームはもう終わりに近づいていたからだ。本日の0時00分を持ってサーバーがダウンする。

アルベド、セバス・チャン、ユリ・アルファ、ルプスレギナ・ベータ、ナーベラル・ガンマ、シズ・デルタ、ソリュシャン・イプシロン、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータがひれ伏しモモンガを見つめていた。

仲間たちが作った仲間〈NPC〉に看取られながらユグドラシルから落ちるのも悪くないなとモモンガは思う。

 

 

11:59:50

 

 

もうすぐユグドラシルが落ちる。

 

 

11:59:55

 

 

明日は4時起きだ。落ちたら寝なくては。

 

 

11:59:58

 

 

目を閉じる

 

 

00:00:00

 

 

 

 

───そしてモモンガは目を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昭和58年6月xx日、古手梨花は死んだ。

しかし彼女は絶望しなかった。

それもまた運命のループだからだ。

 

 

雛見沢村という村が日本にはある。山奥にあり、人口2000人ほどの小さな村である。被差別集落であったことや、ダム建設計画による雛見沢の危機を経て村人たちは強い連帯感を持っている。また古い風習が残っており、村の運営は御三家と呼ばれる古手家、公由家、園崎家の合議で決められている。

そしてそこにはオヤシロ様の祟りというものが5年前から毎年6月19日、綿流しのお祭りの夜に起きていた。

毎年一人が死に一人が行方不明になる、そんな奇妙な出来事が毎年起きていた… 

 

彼女はもう数えるのどが嫌になるほど死んでいた。彼女は昭和58年6月に殺害される運命にあり、その運命のループから抜け出すため何度も「世界」を繰り返して生きてきた。オヤシロ様の生まれ変わりである羽入とともに。

次の新しい雛見沢はどうなるのだろうか。

いや、あまり変わらないだろう。

たとえどこかが変わっていたとしても、運命のループから抜け出せることはなかった。

彼女はもう心の片隅で諦めていたのかもしれない。

しかし───

 

 

行こう、羽入。

彼女は得も知らぬ狭間でそう唱えた。

 

 

───そして彼女は目を開けた

 

 

 

 

 

 




初投稿です
ひぐらしはアニメだけしか見てませんので何か間違いがあったら言って欲しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

(アインズ以外)皆殺し編
異界との邂逅


強い衝撃音とともに梨花は目を覚ました。

「梨花ちゃんー!」

圭一の声が聞こえた。

「大丈夫-?」

これはレナの声か。

「梨花ー!」

これは沙都子の声。

どうやら低い崖から落ちたようだ。

確か神社の裏山で遊んでた時のことだったか…

虚ろな頭で梨花は思い出していた。

「今、そっちに行くよ!」

魅音が早口で言った。そう時間もかからずみんなが私のところに来るだろう。

その前に辺りを見回す。彼女は見つからない。

「羽入っ!」

彼女の名前を叫んだ。

「あぅ~」

どこからか現れた羽入がしょんぼりとした顔で言った。

そんな顔を見て若干腹を立てながら梨花は言う。

「今はいつ?昭和何年の何月何日!?」

困惑したようにあうあうと言う。

「しっかりしてよ!私より先にここに来ていたでしょ!!」

息を荒げながら梨花は羽入に捲し立てる。

「昭和58年、6月の上旬なのです。綿流しのお祭りは再来週の日曜日なのです。ですから日にちは…」

ええと…と言いながら羽入は指で日を数えていた。

綿流しの日まで2週間ほどしかない。段々と世界をループするたびに綿流しまでの日が少なくなっている。

そのことに梨花は驚いていた。あと数回ループすれば───

 

「梨花ちゃーん」

 

圭一の声が聞こえてきた。

その声を皮切りにみんなが自分に声を掛けてくる。さっきまで考えていたことを脳の片隅に追いやった。

「大丈夫なのです」

みんなの心配した声に梨花は答えた。

「どっか痛くしてない?」

「大丈夫ですよ」

魅音の質問を返す。

そのとき梨花は思い出した。前回の世界で圭一は他の世界の自分のことを思い出していたことを。

圭一に質問する。

「圭一は覚えていますか?その…綿流しのことを…」

もし知らなかったら疑問に覚えるだろう質問のため、語尾を濁してしまう。

「なにを言ってるんだよ。俺は去年には雛見沢にはいなかったんだ。綿流しを見るのは今年が初めてだよ」

「じゃあ…じゃあっ…!学校の屋根に登ったことは覚えていませんのですか!」

「何の話だ?」

圭一は訝しげな目でこちらを見てくる。やはりというか、覚えてはないようだ。

「梨花ちゃん…?」

「どうしちゃったんですの?」

「まさか頭を打っちゃったとか?」

みんながそれぞれ梨花に言った。梨花はここで話を終わらすことにした。

「心配かけてごめんなさいなのです!でも、ほんとうに大丈夫なのですよ」

にぱーと言いながら梨花はその場で誤魔化すのであった。

 

 

その夜、梨花は羽入に話しかけていた。

「期待した私が馬鹿だったわ。圭一が前の世界のことを覚えてくれていれば、力になってくれるんじゃないかって、そう思ったのだけれど…」

「覚えているわけないのですよ」

「それでも一度は、圭一はたしかに思い出したわ。そして、レナを救うことができたのよ」

「僕と梨花はこの世界を、自分たちの感覚では100年以上生きている。でも、誰かが他の世界のことを思い出したのは、この100年以上の中で前回だけなのですよ。あんなことがそう何度も起きるのなら苦労しないです。どうせまた僕たちは、何もできずに消えていく運命なのです」

「消えていくも何も、あんたは私以外に誰も見えないじゃない」

「そうなのですぅ…。梨花が生まれる前から雛見沢にいるし、生まれてからもずっと梨花のそばにいるのに…。誰にも気づいてもらえないのですぅ…」

「…」

 

日が経った風船のように羽入はしぼんでいる。

とりあえずキムチを取り出し、一気に食う。

「はうぁうぁあ!!辛いのです!辛いのですぅ!!ほんなに一度に食べないで欲しいのですぅ!」

「泣き言ばかり言う口はこうして塞いでやるわ」

ワインを取り出し、一気に飲む。

「はうぅ!はうぅぁ!!そんなに飲んだら気持ち悪くなってしまうのですぅ…」

「私の気に障ることを言うからよ」

青ざめた顔で羽入はぱたんと倒れた。

梨花と羽入は感覚がつながっており、梨花の飲み食いした感覚が羽入に来たための出来事だ。

「はうあぅあ~」

羽入の奇声を無視しながら梨花は考える。

この世界は誰がどんな行動を取るのだろうか。梨花は出来るなら被害を食い止めたかった。しかし2週間は悲劇を食い止めるためにはあまりにも短かった。しかし梨花はこのとき知らなかった。この運命のループから脱却する力を持った存在がこの地に来ることを…

そしてその日は驚くほど早く来た。

 

 

 

 

 

次の日の夕時。

学校が終わってから梨花は古手神社の賽銭箱の前で祈っていた。

羽入と一緒に。

二礼二拍手一礼をし、目を開けるとそこには───

 

 

───そこには死を体現したような、あるいは悪を司るような、そんなバケモノが立っていた。

「くっ…」

梨花はその悪しきオーラに押されるように後ろに下がった。

「あぅ…」

羽入は咄嗟に梨花に抱きつき、死の神に向かって手のひらを向けていた。

梨花と羽入は死を覚悟した。まさか綿流しの夜を越えずにこの世界が終わるとは思っていなかったが。

羽入の顔に汗がにじむ。いつもの気弱そうな雰囲気が消えており、その顔は真剣な面持ちであった。

二人して死の神を警戒していると、その骸骨の見た目からは想像できないような―最初は全く別の第三者が言ったのかと思った―若い声が耳に入ってきた。

 

「ん?」

 

このとき二人はこの世界とは全く別の、雛見沢という欠片とは全く異なる力と邂逅したのであった。




黒梨花は私、羽入は僕で合ってるかな?
普通の梨花も羽入と同じで僕なのかな?
話し方も合っているかな?
間違っていたら是非とも指摘して欲しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

困惑

 

00:00:09

 

 

「ん?」

 

モモンガは目を開けた。目の前にはモモンガがついさっきまで想像していた自室とは全く異なる光景がそこにはあった。目の前には賽銭箱があり、それの向こうに二人の少女がいた。

モモンガは困惑した。ここは自室ではなければナザリック地下大墳墓第10階層玉座の間ですらない。モモンガが困惑することも無理はないだろう。

「ここはどこだ……?」

モモンガは口にする。ここはもしかしたらゲームの中だろうか?ありえないとは思うが、ユグドラシル2が始まったのかもしれない……。

モモンガに怒りの炎が燻ぶる。気持よく、というより寂寥の中にユグドラシルを終えるつもりだったのにそれすらも許されないのかという運営への憤怒の気持ちだった。

しかし次の瞬間、その感情は霧のように消え失せる。いや、消え失せたのではなかった。怒りの感情はいまだにある。憤怒と呼ばれるような大きな感情が抑圧され、小さな怒りだけが波のように心に残っていた。

その現象に乗るようにモモンガは今の状況をを考える。

ユグドラシルのサーバーが延期されたのかもしれない。しかし延期されたならば告知があるはず。しかしいまだに告知はない。GMコールを使ってみたがとくになにも起きなかった。

モモンガはログアウトしようとコンソールを出そうとする。GMコールが反応しないようにコンソールも反応しなかった。

いろいろ試してみたがシステムは一切反応しなかった。

「どういうことだ!」

つい荒げた声で独り言を言ってしまう。

目の前の少女たちはその声に驚いたようにビクッと体を震わせた。

モモンガは二人の少女に違和感を覚えた。その違和感は何なのだろうかと考えるが焦燥と混乱で頭がざわめく。

しかしふとアインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明と呼ばれた男、ぷにっと萌えさんの言葉を思い出す。

 

 

───焦りは失敗の種であり、冷静な論理思考こそ常に必要なもの。心を鎮め、視野を広く、考えに囚われることなく、回転させるべきだよ、モモンガさん。

 

 

そのギルドメンバーの一人の言葉でモモンガはいくばくかの冷静さを取り戻す。

モモンガはとりあえず目の前の少女二人に声をかけることにした。

「ここはどこだ?君たちは誰だ?」

慎重になっているからか、低い声がその口から出た。

二人は怯えたように口を開いた。

「ここは雛見沢村の古手神社だわ」

「僕は羽入と申すのです。梨花は古手梨花というのです」

その村のことも二人の名前のことも聞き覚えがなかった。どうするかと考えようとしたところ羽入という少女がモモンガに話しかけた。

「僕達を殺したりするつもりなのですか?」

不安と困惑、その2つの感情を持ちながら羽入は質問した。

「なぜ私が君たちを殺さなくてはならないのだ?」

「殺すつもりがないのなら、そのオーラをやめて欲しいのです!」

どうやら絶望のオーラのことを言ってたらしい。切り忘れたようだ。消そうとコンソールを出そうとする前にそのオーラは掻き消えた。

モモンガは驚愕した。それはゲームの中ではありえないような、そんな出来事だ。モモンガはそこでふと閃いた。この現象と謎の──モモンガの住んでいた世界ではまずお目にかかれないような──村、雛見沢のことで。

それは絶対ありえないような、しかし実際にそうなっていることを。

 

 

ユグドラシルのモモンガが現実になったこと、そして異世界に転移したことを。

 

 

到底受け入れられないその現実にモモンガは驚くがしかしそれ以外に納得の行く結論にならなかった。

モモンガは二人の少女──古手梨花と羽入──を少なくとも敵ではないと仮定して思い浮かんだ疑問を口にした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

会話

古手神社の境内の上で、モモンガは友好的であるだろう古手梨花と羽入に質問した。

 

 

「ここは……日本なのか?」

「そうだわ。××県にあるの」

「××県か」

 

 

さも知っているように言ったモモンガだが、その××県は名前だけ聞いたことがあり、地理的にどこにあるのかはさっぱりだった。

山の中だからたぶん東北のどこかだろう。

 

 

「では、何年の何月何日なんだ?」

「あれ、昨日も聞かれたような…」

「?」

 

 

羽入が何かぼそっと言った。聞き返す前に羽入はまた口を開いた。

 

 

「昭和58年の6月上旬なのです」

「しょうわ58年!?」

 

 

それっていつなんだ!確か昭和は第二次世界大戦があった元号だったよな……。だからこの日本は自分が住んでいた日本とは違って自然が豊かなんだな…。

モモンガは昔の日本に来たことに、そしてその昔の日本が自然豊かだったことに感動にも似た感情を抱いた。

しかし結局いつかわからないモモンガはまた質問した。

 

 

「西暦でいつなのだ?」

「西暦1983年よ」

 

 

今度は梨花が答えた

自分がいた日本は2138年だから155年も前の世界に来たということか。聞いたところでどうにもならないが、具体的な年がわかると自分が過去に来たことが実感できた。しかし少なくとも目の前にいる少女──羽入と名乗った少女──を見てここが単に自分たちのいた世界とは違うということがわかる。いや、絶対にいないとは言い切れなかった。モモンガが知らないだけでそのような存在はいたかもしれない。だがそこは考慮しなくても良いだろう。

モモンガは自分の手を見た。驚きはなかった。その手は白く細い、骨がむき出しの手だった。既に異常を超えた事態が起きている。モモンガの常識では到底考えられない事態だ。これまでの常識を頭から追い出す。そして羽入の頭についてるものを一瞥してから質問した。

 

 

「その頭についているもんはなんだ?角のように見えるが」

「こ、これは、その……」

「まず、なんで不可視化しているのだ……?ここは日本なんだろ?」

「あぅあぅ……」

「それは角だそうだわ。そもそもあなたはなんで羽入が見えているの?」

 

 

羽入の代わりに梨花が答えた。モモンガは梨花の質問に当然のように聞こえた。

 

 

「私は不可視化を看破できるスキルを持っているからだ。まあ、《パーフェクト・アンノウアブル/完全不可知化》のような上位の魔法は看破できないがな」

「梨花以外に見られたのは初めてです!」

「そうか」

 

 

ということはこの梨花という子も不可視看破の能力が……。いや、この世界独自の法則によるものかもしれない。

 

 

「そういえば、あなたは私たちの敵ではないのですか?」

 

 

ふと思いついたように梨花が質問した。

 

 

「もし君たちが私の敵になるならばそうなるだろうが、君たちが私に危害を加えないというのであれば私も危害を加えない」

「ならよかった……」

 

 

一安心したように梨花は言った。

少しづつではあるが3人は敵ではないとわかったため、警戒心は薄くなりつつあった。

 

 

 

 

 

言葉の節々から古手梨花はこの死神のような骸骨が自分たちの敵ではないということは真実なのだろうと思った。では、なぜここにいるのだろうか?その疑問を彼にぶつけた。

 

 

「そういえば、なんであなたはそこにいるの?」

「そうだな……。なんていうか……気付いたらここにいたんだ……」

「気付いたら?」

「そうだ。来たくて来たわけではない」

(ということは誰かが呼んだ……?)

 

 

しかし最初の反応から羽入は関係なさそうだが……。

 

 

「この後はどうするの?」

「ん?そうだな。自分の能力がこの世界でどれほど通用するかを調べようかと思っていたところだ。この辺に殺してもいい野生動物はいるか?熊とかか?」

「熊とかならいいと思うけど……。あなたはやっぱり死神なの?」

「死神?私は死霊系の<マジックキャスター/魔法詠唱者>だ」

「死霊系?マジックキャスター?」

「死霊系は相手を即死させる魔法やアンデッドの創造をする系統の魔法のことを言う。私はこの時代に似合わないが魔法使いだ。まあ、この世界で私は魔法が使えるのかどうかは分からないがな。<スキル/特殊技術>が使えることは分かったが」

「この世界の者ではないの……?」

「ああ、私もよくわからないがたぶん別の世界の者だと思っている」

「別の世界……?しかも魔法使い……?」

 

 

別の世界ということはファンタジーの世界……?もし彼を味方にしたらこの運命の袋小路とも言える世界から抜け出せるのかもしれない。次はいつこんなことが起きるのかわからない。

しかし梨花は彼を利用することは最終手段にしようと思った。彼は別の世界の者であり、雛見沢とは関係ないことからできるだけ巻き込みたくなかった。もし巻き込み彼の怒りを買ったとき、何が起こるのかわからないという理由もあった。

 

 

(でも、放置しておくのも不安だわ)

「あなた、私の家に来ない?」

「え?」

「え?」

 

 

自称魔法使いはその骸骨の顔に似合わない困惑な声を出した。続くように羽生も声を上げた。

 

 




割りと時間が掛かった…
お気に入りと感想くれた人ありがとうございます!
なんか有名な人からも来て驚いています笑

追記.少し読みやすくしてみました
どうかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

道程

「そういえば、あなたのお名前は?」

 

 

古手梨花が農道を歩きながらモモンガに訪ねてきた。

モモンガは梨花の家への道――モモンガのいたところではまず見かけないような地面がコンクリートではなく土が均されただけの旧い道――を歩いていた。横を見れば日本の歴史の一般教養である田んぼと呼ばれる――実物は初めて見た――穀物を栽培するときに使用される水を貯めた農地があった。

 

 

「名前……か……」

 

 

モモンガにとっての名前は2つあった。2138年で現実世界で使ってた名前――鈴木悟――。そしてDMMO-RPGであるユグドラシルで使っていた名前――モモンガ――。しかしモモンガはそのどちらも名乗る気はなかった。

まず、モモンガはこの世界に来ている人間が自分だけとは考えていなかった。サービスが終了する間近のユグドラシルでも接続している人間はモモンガを除いてもある一定の数の人間が接続していたからだ。他のサービス終了までログインしていた人間がこちらの世界に来ていてもおかしくはない。

 

では、その人間たちに会うにはどうするか?

 

 

モモンガがギルドマスターをしていたギルド、アインズ・ウール・ゴウンはユグドラシルをやっていれば一度は聞いたことがあるギルドだった。

 

 

では、名乗るべき名は?

 

 

アインズ・ウール・ゴウン、それは40人の仲間たちと築き上げた最高の、そして最強のギルド。本来ならその名は一人が独占するべきではない。でも、今だけは名乗らせて欲しいと思う。ナザリック地下大墳墓、そしてギルド、アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターとしてたった一人残った者として。

 

 

「そうだな……。」

 

 

呼吸器のない身体で息を吸い込む。そして名前とともに息を吐いた。

 

 

「私の名はアインズ、『アインズ・ウール・ゴウン』」

 

 

今このとき、モモンガはアインズ・ウール・ゴウンという名になった。そしてアインズはその名が轟き、ユグドラシルプレイヤー、そしてもしかしたら来ているかもしれないギルドの仲間たちがその名を耳にするのを願って。

 

 

 

 

 

 

 

 

古手梨花と羽生がその名を聞いたとき、鳥が囀り、木々がざわめいた気がした。もちろんそれは気のせいではあるが、それほどの迫力があったというわけだ。

 

 

「アインズ・ウール・ゴウン?聞いたことがないわ」

「ですです!」

 

 

羽生も同意したように声を上げた。それに対してアインズと名乗った骸骨はその返答を予測していたかのように「そうか……」とだけ言った。

では、なぜ、羽生すら知らないような存在がここに……。いや、オヤシロさまである羽生ですら綿流しの謎は解けてないのだから、知らなくても道理は通る。

考えてもしかたがないため、なぜ神のような力を持った骸骨がいるのか、ということについて考えるのは諦める。羽生のようなものと思えば心のなかにストンと落ちる……ような気がする。

 

 

そうこう歩いているうちにひとつの2階建ての家屋が見えてきた。

逆V字になったいわゆる切妻屋根と呼ばれるその屋根は、雨捌けがよく雪が積もりにくい。この地域は冬になったら多い時で降雪量は1mを超え、2階に達するときもあるほどだ。

玄関に当たる部分は簡素なドアだけがあり、その横には現在閉じたシャッターがある。左側面には木材や梯子があり、決して人が住んでいるとは思われない見た目だった。

その家屋、いや倉庫ともいうべきその小屋こそが現在古手梨花が住んでいる家だ。

 

 

(そういえば沙都子にこのことをどう話そう……)

 

 

あの小屋には古手梨花以外にもう一人住んでいる。梨花の親友である北条沙都子だ。ある事情により沙都子は梨花の家に泊まっているような状況になっている。

いたずらっこだが意外に弱い部分もある親友のことを考え、人外であるアインズと会うことになるであろう小屋に向かわせるのは止めることにする。

 

 

「アインズ?ゴウン?あの小屋に住んでいるけど別のとこを案内するわ」

「アインズでいい。小屋は何かあるのか?」

「今一緒に住んでいる子がいるの。その子は普通の子だからあまりあなたに会わせたくはないわ。代わりと言ってはなんだけど、以前使っていた方の家を案内するわ」

「以前……?他に家があるならそこに住めばよいのでは?あんな倉庫のような……失礼、小さな家にわざわざ住むこともないだろうに」

「大丈夫だわ。事実倉庫でしたし」

 

 

そう、そこは倉庫小屋だった。梨花は昔のことを思い出し少しだけ空を見上げる。

 

 

「倉庫に住んでいるのはいろいろ事情があるの。気になるなら後で話すわ。終わったことですし」

「いや、話したくなければそれでいいんだが……」

 

 

そういってアインズは話を濁した。何かを察したのだろう。そうしてくれるとこちらも有り難い。過ぎたことではあるが、あまりいい思い出ではないから。

そうしている内に梨花が前まで住んでいる家が見えてきた。さっきの小屋とは違い、少々古びた面影はあるがこちらは人が住むために作られた家屋だ。

 

 

「ここが私の家よ」

 

 

梨花はそう言ってアインズを案内した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夕暮れ

日が傾き、少しずつ空が少しずつ赤みが増してくる頃。

作業着を着た男たちはある少女が神社に行くのを見て後をつけてきた。薄い灰色、鼠色とも言うべき上下を着た彼らは「東京」に所属する特殊工作部隊、「山狗」の隊員である。

少女、古手梨花が古手神社に来ることは別に珍しくもおかしくもなかった。古手神社を所有する古手家の現当主が参拝することはおかしいが、彼女はまだ子供である。子供が神に祈ることは年齢を考えればそこまで違和感というものを感じない。

しかし、今日は違った。彼女がなにか祈ったあと、瞬きをする一瞬の間に「それ」はそこにいた。いた……という表現はおかしい。「それ」は何もない空間からいきなり現れたというべきだろう。

「それ」は闇それ自体を纏うような漆黒のローブを被り、頭部の側面から巨大なルビーのような赤く球状の宝石を貫きながら飛び出ている巨大な角を生やし、7つの金色の蛇が各々の宝石を咥え絡み合った杖を持っている。そしてその杖を持つ手は学校の骨格標本のような骨であり、富豪が付けるような指輪を薬指を除くすべての指に着けている。そして「それ」の顔は髑髏――但し人の骨かどうかは定かではない――であり、その目のある窪みには意思を持つ地獄の業火のような真紅の光が仄かに灯っていた。

もし手に持つ7つの金色の蛇の杖が長鎌なら西洋のお伽話に出てくるような死神を連想しただろう。

しかしながら神道の神を祀る場である神社の、しかもお賽銭箱のその奥にいることに歪な、奇妙な感覚を感じた。

 

 

「あれは……なんだ……!」

 

 

一人の隊員が小声で、しかしながら語尾は上がった言葉を発した。

その言葉に返った言葉は無言であった。

あれが何なのかわかる隊員は一人もいなかった。

いや、それが何か分かる人間はいる訳がない。それはユグドラシルにおいてスケルトン・メイジの最高種族、<死の支配者/オーバーロード>であるからだ。

しかしそんなことは知らないある隊員は言った。

 

 

「こ、骨格標本を誰かが服を着せて置いたんじゃ……ないか……」

 

 

語尾が尻すぼみになるのも無理はない。あんな豪華なものを骨格標本に着せる奴はいないし、そもそもいきなり現れたからだ。そしてあんな大きな角と漫画のキャラクターのような尖った顎を持つ骨格の人型の生物なんてこの地球上には存在しない。

しかし理性がそう分析しても感情はそれを拒否してしまう。

ただ、理性が感情を上回った人物がここにはいた。

それはこの場で最も位の高い人物だった。

 

 

「みんな静かに。『あれ』にバレないように極力気配を消すんだ」

 

 

この集団におけるリーダー格の人物がそう発した。

リーダー格の人物がそう発したからか、他の隊員も幾ばくか冷静を取り戻し、気配をできるだけ「あれ」に気付かれないようにした。

古手梨花と何か話をしているためこちらに気が向くことはないと思うが……。

しかしこちらの気配に気付いたのか現れたときと同じようにいきなり「それ」は忽然と姿を消した。

そしてそれを見届けたからか古手梨花は神社の境内を降りてきた。

作業着を着た男たちは神社から離れるように退散した。

それはよくあることではあるが「それ」がもたらした恐怖からか多少もたついて退散した。

 

 

(しかし古手梨花と「それ」は繋がっているのか……?)

 

 

リーダー格の人物は「それ」と古手梨花との関係が気になっていた。梨花が「それ」を見たとき、怯えているように見えたがもしかしたらそれは自分達を欺く演技だったのかもしれない。

 

 

色々と思案したが、結局リーダー格の人物は納得の行く答えは出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木生い茂る道を通り、アインズは古手梨花が昔住んでいた家に着いた。その家は昔教科書で見た一般的な日本家屋そのものだった。屋根は瓦で扉は横開きの扉の木造建築物。ただ、そこまで手入れされていないためか所々古びていた。

梨花が戸を開け「どうぞ」と言ってきた。

「お邪魔します」と言いながらアインズは中に入る。少し埃が積もっているが住もうといえば普通に住める綺麗さだ。いや、アインズが現実世界で住んでいたところに比べれば確実にこちらの方がいい。

 

 

「ここで靴を脱ぐのよ」

 

 

梨花は玄関の段差になっている部分を手で指しながら丁寧に言ってきた。そのことについて何も言わずに靴を脱いぐ。外国の人(?)という設定だから知っていても変だろうと思って。

廊下を歩きながらアインズはさっきまで自分に掛けていた魔法を解除する。

 

 

《インヴィジビリティ/透明化》

 

 

この魔法は梨花以外の人間に見られると非常に目立つから使った魔法だ。アインズは骸骨の身体にこの時代では不似合いの装備を着ており、明らかに『怪しい』格好だ。一応装備としてスーツのようなものはあるがしかし骸骨の顔はどうやっても隠せない。

そして羽入も不可視の状態であり、その状態を見れる梨花がいるから自分が透明化を使っても見えると思ったからだ。

アインズの予想通り梨花は透明化したアインズのことが見えた。

《インヴィジビリティ/透明化》はアインズにとって低位の魔法。使用し続けても魔力はそこまで消費しない。

 

 

「どうしたの?」

 

 

思考に割り込むように梨花が問いかけてきた。

 

 

「いや、なんでもない。ただ、梨花が私の透明化の魔法が見えてたことに驚いただけだ」

 

 

そこまで驚いてないようにアインズは言う。

 

 

「まあいいわ。私は沙都子のことがあるし、一度住んでいるとこに戻るわ。代わりと言ってはなんだけど、羽入を置いてくわ」

 

 

梨花は羽入に怪しいことをしないように監視しろというような視線を送る。それを理解したかしてないのか、羽入はわかりました〜と言った。

 

 

その夜、アインズは羽入から雛見沢のこと――そしてオヤシロ様のことについて聞いた。その時のアインズは他者からの目線では真剣に聞いているように見えただろう。しかし彼の顔面は完全な骨である。表情筋によって形作られる表情が彼の顔に出ないのも至極当然だろう。内心ではアインズは嬉しそうに笑っていた。本当に嬉しそうに――。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

おもちゃ屋での一幕

生きています
夏は忙しかったんだ……
取り敢えず目標5万字がんばります
(それぐらいあれば終わると思うし……)
ちなみに梨花の話を詳しくやるとアインズ様が蚊帳の外になるのでちょくちょく飛ばす予定です
気になる人は原作やるなりアニメでも見てね!


梨花は町のおもちゃ屋に赴いていた。魅音がおもちゃ屋さんのおじさんと仲が良いため、度々魅音はこのおもちゃ屋でゲーム大会のイベントを開いているのだ。

 

 

 

 

「まさかこれって部活の会場なのか?」

 

 

 

 

圭一は驚いていた。それは勿論この大会のことを魅音が部活のメンバーに言ってなかったからだ。

しかし梨花は知っていた。幾度も繰り返していることだ。むしろ知らないというのもおかしいというもの。

この大会ではくじ引きを引き、そこから5つの卓に別れ、卓毎に決めたゲームで勝者を決定するというものだ。基本的に魅音は気まぐれで部活を決定する。これは「気まぐれ」というある種のゲームの乱数のようなものがあるからだと梨花は推測している。

だがこの大会は違う。どれだけループしてもこの大会のゲーム種目は決まっている。それは「強い意志」があるからだ。魅音がこの大会のことをじっくりと思案して開いているからだ。この「強い意志」が運命を作り出し、それはどれほど繰り返しても変わらないものだ。昭和58年6月に古手梨花が死ぬのもこの「強い意志」を何者かが持っているため梨花はこの何百年も繰り返される運命のループから逃れられないのだ。

しかし梨花は一人の男のことを考える。「死」を具現化したような存在に。

それは梨花が繰り返してきた世界にはいなかった存在。異分子。

もし彼ならばこの運命のループから解き放ってくれるのではないだろうか……。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

「……古い」

 

 

 

 

梨花から色々と期待されているアインズは町のおもちゃ屋を見てポツリとそう言い放った。

《パーフェクト・アンノウアブル/完全不可知化》によって完全に気配を消したアインズは着いてこないでと梨花から言われたにも関わらずこっそり着いてきていたのだった。勿論梨花は不可視看破の能力を持っているため普通に遠くから着いてきていたため後をつけるのにも一苦労だった。

 

 

 

 

「そんなに梨花の友達が気になるのですか?」

 

 

 

 

「いや、あんな性格だからただ単に心配しただけだ」

 

 

 

 

羽入に返答した言葉は本音だった。アインズもとい鈴木悟は小学校では梨花ほどまでには行かないが暗い子供だった。それで友だちがいなくて四苦八苦したものだ。

それも今やいい思い出───

いや、今でも全くいい思い出ではない。そもそも鈴木悟は給料の良いところに就職するために小学校に入れられたところだ。友だちができないのも仕方がないというもの。

そもそも喋る相手はいた。ただ遊ぶ相手がいなかっただけだ。別にいじめられてもいないしアインズにとっては少なくとも最悪な学校生活だったというわけではなかった。

 

 

 

 

「しかし男女で仲が良いな。まさに青春じゃないか……。ここから始まる恋というのもあるんだろうな…………」

 

 

 

 

アインズの精神が昂ぶり、そして抑制される。それが二桁を超えたところでアインズは彼らに嫉妬していることに気付く。

 

 

 

 

(いやいや、俺にはユグドラシルがあったではないか。あの頃の日々は本当に楽しかった。まさに俺にとっての青春ではないか)

 

 

 

 

ユグドラシルで友達というものを知ったアインズは彼らにも負けない大切なものを築いたはずだ。そうやって己の精神を宥めていると、羽入が話しかけてきた。

 

 

 

 

「入るんですか?」

 

 

 

 

「いや、入らん。友だちがいるのもわかったしな」

 

 

 

 

アインズはあの輝かしい頃を思い出している最中に話しかけられたため、少々ぶっきらぼうに言い放った。

少し大人気なかったかなとは思ったが、ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの仲間との栄光に冷水をぶっかけられた思いをしたのだから後悔はなかった。

 

 

 

 

「私は帰るが、羽入はどうするんだ?」

 

 

 

 

「梨花のことも心配なのですが、ボクも帰ります!監視もありますし!」

 

 

 

 

「監視……?」

 

 

 

 

「あわわわわ」

 

 

 

 

「監視?誰を?この私を?」

 

 

 

 

「違うのです!違うのです!梨花が少し怖がってるのであうあうあう……」

 

 

 

 

「怖がっている……か……」

 

 

 

 

アインズは細長い、明らかに人のそれではない顎を擦る。監視と言われて身構えたが、自分のスケルトンの顔を思い出すと年端も行かない少女が怖がるのも当たり前といえば当たり前だ。

ユグドラシルにおいてスケルトンの顔は別に珍しくもなかった。いや、オークやゴブリン、ブレインイーターみたいな醜悪な亜人種や異形種に比べるとむしろ格好良い方である程度の人気はあった。しかしスケルトンのような人骨が喋ったり動いたりするとたしかに不気味だ。

 

 

 

 

(まあ、おいおい考えるか)

 

 

 

 

心の片隅にメモをしてアインズと羽入はこの場から離れるのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

別の日、梨花は奇跡を目の当たりにする。

圭一とレナが別の運命のことを微かに、ほんの微かに思い出したのだ。

それはほんの些細なことかもしれない。しかしこの運命のループという縛られた世界ではほとんど起こらなかったことだ。

少しだけ思い出したからと言って梨花の運命が変わったということではない。だが、まさしく世界の歪(ひず)みとも言うべき奇跡は梨花に勇気を与えてくれた。

もしかしたら梨花は死の定めから抜け出せるかも、そんな勇気だ。

そして梨花は行動した。富竹ジロウと、そして鷹野三四に自分の運命を伝えた。

本来ならその二人も死ぬ運命だった。それを伝え、危機を煽ったのだ。

羽入はオヤシロ様を残虐な神などまさに邪神のように言う鷹野のことが嫌いだったが、しかし梨花は前に進んだ。

───運命を打破するために。

果たしてそれが吉と出るか凶と出るか……。

しかし梨花の幸運は長くは続かなかった。

梨花は忘れていた。

北条沙都子の父の弟、叔父に当たる人物である北条鉄平。

───彼が沙都子とそして梨花のこの後の人生に波乱をもたらすこととなる。




11巻楽しみです
アゼルシリア山脈最強vs世界最強!
もうだいたい結果はわかりますけどね
あ、沙都子叔父はアインズがなんとかすると思うからまあ大丈夫でしょう(たぶん)
皆殺し編は基本ほのぼのさせるつもりですしね
……たぶん

追記:文が抜けていたため追加しました
追記:誤字を直しました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

北条鉄平─1

木曜書きたかったけどやる気が出なかった……


「それではお買い物に行ってきますわ、梨花」

 

 

 

 

「行ってらっしゃいなのです」

 

 

 

 

梨花は親友の北条沙都子を笑顔で送り出す。

穏やかな日々は過ぎていく。綿流しの祭りの日まであと一週間と迫ってきていた。全ては順調に行っていると梨花は信じて疑わなかった。

しかし───

 

 

 

 

 

 

「まだかしら、沙都子」

遅いわね。そうぼんやりと梨花は沙都子を待っていた。

沙都子は半額セールを狙って帰りが遅くなることは珍しくもない。時計の長針が真上を向き、小針が真下に向いているこの黄昏───古く誰そ彼時と言われるこの時間に心配することもないかもしれないが、梨花は今日このときに限って異常なまでに気にかけていた。

 

 

 

 

 

(何か嫌な予感がする………)

 

 

 

 

 

その時、普通ではない寒気が彼女の体を駆け巡った。古手神社の巫女として何かを感じたのかもしれない。

 

 

 

 

「羽入いる!?沙都子を探して!!」

 

 

 

 

梨花以外いない室内で声はこだまのように反射し、そして静寂が戻ってくる。

反射的に声を荒げたが羽入は今はアインズのもとにいるはずである。

古手梨花の本家のほうに行こうと思ったが、しかし今日はアインズが自然を見たいと行って出かけているはずだ。

アインズがこの時間でもまだどこかに行っている可能性は大いにある、そしてまた本家の家はまだあまり近づきたくはなかった。

 

 

 

 

(商店街に行こう!きっと沙都子はそこにいる!)

 

 

 

 

梨花は商店街に駆けて行く。

程よく走ったところで商店街に着く。

雛見沢の東部で畑を耕しているおばあさんんがいた。

雛見沢分校に通う男の子のお母さんと話しているところだ。

こちらに気付いたのか、あらぁと言って話しかけてくる。

 

 

 

 

「今、沙都子を見なかったのですか?」

 

 

 

 

おばあさんの話を遮って梨花は沙都子の居場所を聞く。走って来たからか、声は荒く心臓の鼓動は鳴り止まない。

 

 

 

 

 

「沙都子ちゃんは見てないねぇ」

 

 

 

 

 

おっとりとした声でおばあさんが言う。

 

 

 

 

 

「そういえば、角のお惣菜屋さんが夕方に売れ残りを安く売るからそこにいるかもねぇ………」

 

 

 

 

隣のお母さんのほうがそう教えてくれた。

梨花はそう聞くやいなや、全力でお惣菜屋さんの方に走った。しかしそこにも沙都子はいなかった。

 

 

 

 

(沙都子………!!)

 

 

 

 

(どこに行ったの………?)

 

 

 

 

そう思いながら村の商店街を駆け巡ると誰かに話しかけられた。

 

 

 

 

「あ、梨花ちゃん」

 

 

 

 

「レ、レナ!」

 

 

 

 

竜宮レナだ!もしかしたらレナなら沙都子の行方を知っているんじゃないか?

 

 

 

 

 

「沙都子を見なかったですか!?」

 

 

 

 

「沙都子ちゃん?」

 

 

 

 

こくこくと梨花は頭を上下に振る。もしかしたら知っているかもしれないという淡い希望を抱いたがその希望はたやすく打ち砕かれた。

 

 

 

 

「………ううーん、わからないなぁ。今日は山文の特売日だったから沙都子ちゃんが買い物するなら絶対にいるはず。でもレナも山文にいたけど見なかったよ」

 

 

 

 

今日は山文の特売日で、そうだったら沙都子は絶対に来る?それで、それで会わなかった………?

 

 

 

 

(まさか………!?)

 

 

 

 

梨花の中に嫌な予感が当たったのではないかと邪推してしまう。勿論まだ分からない。どこかに散歩しに行っただけということもないわけではない。しかし順調に日々が進んでいると楽観視していたちょっと前の自分が憎たらしい。

 

 

 

 

「何かあったの、梨花ちゃん?」

 

 

 

 

レナが訝しげに問いかけてくる。当たり前だ。今の自分は傍から見たら異常に違いない。

 

 

 

 

「レナ………、沙都子が帰って………」

 

 

 

そこまで口から出て言うのを止める。

沙都子が帰ってこない。

沙都子が急にいなくなるような気がする。

嫌な予感がする。

いや、全て梨花の勘がそう告げているだけであり、実際にそう起ったわけでもそうなるわけでもない。

ただ、そんな気がする。

それだけで。

妄想や妄言だけでは人は動かない。

レナに沙都子のことを告げようとしたのを止めたのもその理由があったからだ。

もう何百回もループしたからこそ他の人よりより分かる。

レナは心配したように何があったのか聞いてきた。

だけどこんな妄言は言えない。

 

 

 

 

だけど───

 

 

 

そう、だけど分かる。理解できる。梨花だけには分かる、いや、梨花だけにしか分からない。

沙都子が突然いなくなってしまう、そんな世界があることを───。

あの男、北条鉄平が帰ってくる世界があることを───。

 

 

 

 

「さようならっ!」

 

 

 

レナに別れを告げて沙都子の住む家に向かう。後ろから声が聞こえたがそれを無視して沙都子の家へと駆ける。

 

 

 

 

 

「そんなバカな!」

 

 

 

 

恨み言のような声が梨花の口から出る。

 

 

 

 

 

(何もかも上手くいっている世界だったじゃないか………!あの男が帰って来るなんて………。そんなハズはない!)

 

 

 

 

元々北条鉄平が帰って来る確率はとても低い。なぜこの世界に限って、この幸運に恵まれた世界で帰って来るのか。

実は幸運な世界でも何でもなかった世界なのではないんじゃないだろうか………。

 

 

 

 

(神様どうか、どうかお願いします。今まで私に恵んでくださった幸運をもう一度だけ恵んでください………!!)

 

 

 

 

梨花は祈る。その姿は古手家の巫女ではなく、ただ一人の年端も行かない少女だった。

 

 

 

 

(神様………!!)

 

 

 

 

 

どれくらい走っただろうか?

分からない。

商店街から沙都子の家までそこまで遠くはないが、梨花にとっては永遠に走っているような、そんな気がした。

沙都子の家に到着した梨花は沙都子を目にする。

しかし梨花が目にした沙都子はさっき、家から出るときに見た沙都子とは違っていた。

頬には殴られたような赤いあざがあり、虚ろな、生気を宿していないような瞳が虚空を見つめていた。

 

 

 

 

「沙都子………!」

 

 

 

 

大丈夫なの?そう声をかけようとしたが、横からの怒りが込められたようなドスの利いた声にかき消された。

 

 

 

 

「ゴラァ!沙都子ぉ!!何ぐずぐずしとるん!さっさと風呂の支度をせんかい!」

 

 

 

 

「も………申し訳ございませんですわ」

 

 

 

 

梨花の不安は的中した。北条鉄平が帰ってきたのだ。

北条鉄平───下品で粗暴な沙都子の叔父に当たる男。

3年前、両親を失った沙都子は兄である悟史と共に叔父の北条鉄平夫婦に引き取られた。

しかしながら叔父夫婦は人の愛情など持ち合わせていなかった。

人を育てたことすらない叔父夫婦は悟史と沙都子をいじめ抜いた。

沙都子にとっては身も心もボロボロにされる日々だったそうだ。

叔父夫婦による沙都子と悟史の虐待は昨年叔母が撲殺され悟史が失踪し、北条鉄平が興宮に引き上げるまで続いた。

───あいつといたらまた沙都子はボロボロにされてしまう。

梨花がその結論に至るのはごく自然なものだろう。

梨花のいるところに向かってきた沙都子に梨花は話しかける。

 

 

 

 

「沙都子」

 

 

 

 

「………!梨花………?」

 

 

 

 

「こんなところにいないでお家へ早く帰りましょうなのです!」

 

 

 

 

そう言って梨花は沙都子の手首をぎゅっと掴む。

一緒に帰ろう。そういう意味を込めて引っ張ったが沙都子は抵抗した。

 

 

 

 

 

「あの……梨花………。今日からこっちの家で暮らそうと思いますの。私(わたくし)の叔父さんが帰ってきて一緒に暮らそうって話に……なりまして………」

 

 

 

 

沙都子の声はだんだんと尻すぼみになる。

梨花は理解できなかった。あんな性格最悪な叔父と一緒に暮らそうとすることに。

いや、分かる。沙都子が叔父と暮らす理由は。しかし頭で理解できても感情はそれを理解しようとはしなかった。

気付いたら梨花は叫んでいた。

 

 

 

 

「ど………どうしてなのですか!意地悪な叔父さんなんかと一緒にいたって楽しくないですよ!!だって、そのほっぺは………」

 

 

 

 

梨花のその指摘に沙都子はばっと手を頬に当てた。

 

 

 

 

 

「ちょっとぶつけただけですのよ」

 

 

 

 

少し笑いながら沙都子は言う。その笑いは梨花を誤魔化すためか、もしくは自分を誤魔化す笑いか。

 

 

 

 

「………ですからお引き取り願いませ。梨花と一緒にいたら迷惑がかかってしまいますわ」

 

 

 

 

果たして彼女は本当に沙都子なのだろうか。明るくいたずらっ子だった彼女は影を潜め、人形のような少女がそこにいる。

しかし梨花はそんな沙都子を見たことがある。一年前、昭和57年の叔父夫婦による虐待で身も心もズタズタにされた沙都子そのものだった。

 

 

 

 

(なんてこと………。私が一年もの歳月をかけて癒やし、慈しみ、手当をして、ようやく取り戻した沙都子の笑顔なのに………)

 

 

 

 

一年は梨花にとって、いや小学生である少女にとってはあまりにも長い時間だ。

 

 

 

 

 

(それをこんなにもあっさりと───)

 

 

 

 

油を売っている沙都子を怒鳴りに来た北条鉄平を梨花は見る。

 

 

 

 

(こんな下品な男に打ち砕かれるなんて───)

 

 

 

 

北条鉄平は梨花を見て、それから沙都子に言う。

 

 

 

 

「んああ?なんじゃいおどれは」

 

 

 

 

「な………なんでもありませんのよ。私のお友達が来てて───」

 

 

 

 

「すったらどうでもええねん!それよか風呂桶磨かんかい!!わしゃあ風呂にはいりたいんじゃあボケぇ!!」

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

 

 

 

沙都子は涙目になりながら風呂場に向かって走った。

梨花は自分の無力さに口を強く噛みしめる。

北条鉄平はそんな梨花に話しかけてきた。

 

 

 

 

「遊びの約束だったかい?スマンのおぉ、ちょいっと沙都子は家の片付けで忙しいんよ」

 

 

 

 

にたりと北条鉄平は笑う。心底気持ち悪かった。

梨花が北条鉄平に抗議しても後で沙都子が余計に酷い目に遭うだけだ。

そう思った梨花は汚いものから逃れるように北条鉄平から逃げ出した。

後ろからあの男の笑い声が聞こえるが梨花はとにかくこの場から離れたかった。

 

 

 

 

(神様はなんて残酷なんだ。北条鉄平は愛人の間宮律子が殺された場合だけ沙都子のところにやってくる。それはとても低い確率だと言うのに………)

(私の努力の及ばない、この偶発的な運命がこんな世界に決まるなんてあんまりだ………!!)

(このままでは………。この世界は!沙都子はボロ雑巾のようにずたずたにされてしまう!)

(沙都子がいなきゃ………、私は幸せになれないのに………)

 

 

 

いつしか梨花の瞳には涙がたまり、そしてこぼれ落ちた。それは数百年も───繰り返した人生ではあるが長い時間を生きた魔女ではなく、一人の少女のようだった。

 

 

 

 

(………昨日まで、あんなに最高の世界だったのに………!!)

(もう終わりだ!もう終わり………)

 

 

 

 

………いや、まだやりようがある。古手梨花は無力だが、今までの世界とは違う、強運にも似たようなものがこの世界ではあった。

梨花はそれに賭けてみようと思うのであった。

 

 

 

 

(まだ終わりじゃない!何か手はあるはず!私はまだ諦めない!)

 

 

 

 

梨花は考える。梨花一人ではこのことは解決しないが、他の人ならば何か打開案が見つかるかもしれない。

警視庁の警察官である赤坂。

鷹野三四の部隊、山狗。

そして謎多き者、アインズ。

彼らならどうにか出来るかもしれない。

彼女は駆けるのだった。親友の沙都子のために。





アインズ様まさかの空気!
原作があまりに良すぎてアインズ様入れる余地がなかったです。。。
次回冒頭アインズ様ですので許してください。。。
久しぶりにひぐらしみると話の構成があまりに神がかっていることに気付く
長いのも原作が良すぎたせいだから!自分は悪くない!
次回もこれぐらいの量書いて投稿したいなぁ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

北条鉄平-2

アインズ様出ます


「《クリエイト・グレーター・アイテム/上位道具創造》」

 

 

 

 

アインズは魔法によって足置きのある高価そうな椅子を創造した。

この椅子はアインズが鈴木悟だった頃、自室でユグドラシルをプレイする際に使用した椅子だ。鈴木悟が持つ物の中で上位に位置するほど高価だったかもしれない。

これでほとんどの魔法は問題なく使用できることが確認できた。いや、攻撃魔法の人間に対する殺傷能力や超位魔法は流石に試してはいない。しかし他の魔法がユグドラシルと同様の効果だったことを考えるとそれらのことも変わってはいないだろうと結論を下す。

〈スキル/特殊技術〉も同様に実験したかったが、アンデッド創造や相手に恐怖から即死まで様々な効果を与える絶望のオーラ、そして一度使うと100時間も使用不可になるアインズの大技、〈The goal of all life is death/あらゆる生あるものの目指すところは死である〉など使っただけで多くの被害が出そうなものを使うのは流石に躊躇われた。

勿論、羽入に全ての手の内を明かすことを嫌ったのもある。

アインズは羽入のことがいまいち信じられなかった。

神だと言うが別にアインズをここに呼んだわけでもないらしい。この過去世界、しかもアインズが知らないものもあるこの世界に異世界転移とも言うべきか、それが出来るのは神以外にはいないだろうと思っていた。が、そうではないならばなぜアインズはここにいるのか。そしてなぜユグドラシルの法則も適用されているのか。そういうことも相まって羽入のことがイマイチ信用ができないのだ。

それともうひとつ───

 

 

 

 

「すごいです!魔法ってなんでも出来るのですね!ボクの分も作ってくださいなのです!」

 

 

 

 

「う、うむ。わ、わかった。《クリエイト・グレーター・アイテム/上位道具創造》」

 

 

 

 

これがいまいち信用できない理由のひとつである。なんというか、いまいち掴み所がないというか、本当にこの子神?みたいなことをアインズは思う。

今も「この椅子はいいですね~。梨花に自慢ができます!」みたいなことを言ってはしゃいでおり、神などではなくただの小学生の少女にしか見えない。

しかしじっくりみると明らかに人とは違う部分、頭部に付いている下を向いた角を見るとやはり人ではないことは確かだろう。

 

 

 

 

(しかしあの角はなんだ?悪魔ではないだろうし………。鬼?鬼なのか?左角が少し欠けているのも気になるが………)

 

 

 

 

まあユグドラシルではないのだからその考察は邪推というものか。

 

 

 

 

(そういえば………)

 

 

 

 

ふとアインズは思い出す。そういえばここに来てから一度も風呂を入ってないような………。

自分の手を見てみるがそこには肉も骨もない………もとい肉も皮もない白い骨が見えるだけだった。汚れはついているようには見えないし、新陳代謝もないため垢などが溜まるわけではない。しかし一度気になり始めると付いてないかもしれないが風呂に入って洗いたくなるというもの。

 

 

 

 

「そういえばこの家も風呂がある………よな………?」

 

 

 

 

「ありますよ~。あっちにあります!」

 

 

 

 

そういって指を壁に向かって指す。

いや、それだと分からない。

その方向に進んでいけば風呂があるかもしれないが、古手家の家は非常に広い。それはアインズが鈴木悟だった頃に住んでいた自室が小さかったことを考えないとしても広い方だ。アインズは気付いたら道に迷う自信がある。

道を案内する魔法があるが、それは専らダンジョンのボス部屋誘導などであり風呂場に案内してくれるかは自信がない。

しかし羽入に頼むというのも気が引けるため、仕方なしにアインズは魔法を発動する。

 

 

 

 

「《ブレス・オブ・ティターニア/妖精女王の祝福》」

 

 

 

 

この魔法は目的地に最短で案内してくれる魔法だ。しかしながら罠などは考慮されないため、罠などを避けて道案内してくれる魔法、《リード・オブ・ヤタガラス/三足烏の先導》と併用されることが多い。また発動時間が決して長くないため、魔法系統の〈スキル/特殊技術〉の一つ《エクステンドマジック/魔法持続時間延長化》によって効果時間の増加させることが多いが流石に今回は不要だろう。

魔法によって現れた王冠を被った小指サイズの妖精は、小さな蝶々の羽をパタパタと羽ばたかせると、光を纏いながらアインズの前に出た。

 

 

 

 

「それはなんですか?」

 

 

 

 

「道案内の魔法だ。カーナビみたいなものだ」

 

 

 

 

「かーなび………?」

 

 

 

 

「いや、なんでもない。こちらの話だ」

 

 

 

 

そういえばこの時代はカーナビはなかったか。いや、もしかしたら都市から隔絶していて、ただ単に知らないだけかもしれない。

 

 

 

 

「道案内ならボクがしますよ」

 

 

 

 

そういう展開になるなら別に使う必要はなかった。女に子に風呂場を聞くということは失礼だと思ったから使ったまでだ。本人が案内するならそれに従うとしよう。

ま、まあ実験も兼ねて使用しただけだから道案内の魔法も無駄ではない。

 

 

 

 

「な、ならお願いする」

 

 

 

 

少し声が上擦る。鈴木悟は童貞だったから女性に対する免疫が少ないから仕方がないよね!

羽入は「すごいです~」と言いながら妖精にちょっかいを出して妖精はそれを躱している。

「あうあうぅ………」としょんぼりする羽入を見てやっぱ女性というより子供だよなあとアインズは思う。

羽入と当たり前ではあるが同じ方向に向かう妖精の案内で程なくして着いた風呂場は檜風呂と言うのだろうか、木製の浴室に和の雰囲気がてんこ盛りの風呂場だった。地方の高級旅館を夢想するその風呂場は古手家が雛三沢の御三家だということを嫌でも思い起こすだろう。

アインズはそういえばナザリック地下大墳墓の大浴場”スパリゾートナザリック”に檜風呂のような浴場があったかなどとどうでも良いことを思う。

今はもうナザリック地下大墳墓はないのだ。考えても仕方がないというもの。

 

 

 

 

「案内ありがとう。そういえば風呂を沸かすのは………」

 

 

 

 

「あ、ボクがするので待っててください」

 

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

幾ばくかの時間を経て風呂が沸く。風呂の準備をした羽入は既にここにはいない。

アインズは〈ゴッズアイテム/神器級アイテム〉であるグレート・モモンガ・ローブなどを脱ぎながら自分の身体を見つめる。

胸骨があり、助骨の隙間からは背骨が見える。前から背骨を触ってみると酷い違和感に襲われる。

本来、鈴木悟だった頃は人間であるから無論肉も皮もある。前から背骨を触ることはできない。

しかしながらこの身体ではそれを可能にしている。人とスケルトン、その差こそがアインズが抱く違和感の正体だ。

胸骨と骨盤の間には赤黒く脈動する球体が浮遊している。その球体はアインズが動いた時、身体と同じように移動する。物理的に非常にありえない。しかしユグドラシルのように装備判定があるからそうなるのだろう。

アインズはその〈ワールドアイテム/世界級アイテム〉を仕舞おうと手を伸ばしたところで止める。

〈ワールドアイテム/世界級アイテム〉はアインズにとっての切り札のひとつ。アイテムボックスに入れたところでバフである”ワールド”が無くなることはないが、やはり持っておくべきだろう。

念には念をというやつだ。

浴場に入ってみると自然の、それも木の匂いが鼻孔をくすぐる。勿論鼻はないはずだが。

熱湯から湧き出る煙によって視界は不明瞭だ。しかしそれが逆に心地よくもある。

これほど本格的な風呂に入るのはいつぶりだろうか。鈴木悟だった頃はシャワーがほとんどだったし、その上風呂場はここほど広くもない。

湯船に浸かりたい気持ちを抑えながら、アインズは身体を洗い始める。

いざ身体を洗い始めるとその骨の多さで普通に洗うよりも数倍の時間を要してしまった。

 

 

 

 

 

(………ようやく湯船に浸かれる)

 

 

 

 

身体からボディソープの泡を流していざ湯船に浸からんとしようとしたところでいきなり浴室の扉が豪快に開けられた。

 

 

 

 

「ボクもお風呂にはいるのですー」

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

入ってきたのは一糸まとわぬ姿をした羽入だった。

白磁のように白い肌、小ぶりながら可愛らしい胸、あまりくびれがない腰回り。未発達ながら非常に艶やかな身体であった。

アインズの欲望に少し炎が宿るが、すぐに鎮火する。女性に対する免疫のないアインズではあるが、女性というより少女の、それも父性を感じさせるようなその身体に興奮するほどの異常性癖はなかった。

もしギルドのメンバーのひとりであるペロロンチーノがいたならばいろんな意味で危なかっただろう。

いなくてよかったと思う反面、寂寥感がアインズの体を駆け巡る。

そんなこともつゆほども知らない羽入は話しかける。

 

 

 

 

「ボクもあまり入ってないのですから久々に入りたいのです!」

 

 

 

なぜアインズが入っているときに入ろうと思ったのか。

疑問ではあったが骨の身体であるから何も思わないだけかもしれない。

 

 

 

 

「そ、そうか。わかった。しかし………」

 

 

 

 

しかしこれは大丈夫な状態なのか?犯罪じゃないか?

アインズはたっち・みーに御用される所か浮かんで少しくすっとした。

まあいいか。

アインズには子供はいなかったがさっきから父性本能な刺激される。

 

 

 

「背中を洗おうか?」

 

 

 

 

よくドラマや映画で父親が娘に対してよく言う………気がする。

いや漫画かもしれない。

どうでもいい気がする。

羽入が少しボォを赤らめたような気がしたがここは温度が高いからそう見えただけかもしれない。

小さな口が動く。

 

 

 

 

「い、いいですよ」

 

 

 

 

そのコトバが肯定なのか否定なのか分からなかったが父性本能が刺激されたアインズは肯定だと捉え、風呂場の黄色い桶に座らせた。

アカスリにたっぷりボディソープを付けてきめ細やかな白い背中を擦る。

垢が出るのか、そもそも新陳代謝などはするのか分からないが、汚いのはやはり女の子は嫌だろう。

 

 

 

 

「あうあうあうぅ」

 

 

 

 

羽入の背中を擦るアインズは父親になった気分だった。

ギルドメンバーに娘がいる人が幾人がいたが、彼らが娘を溺愛する気持ちが少しばかりアインズにも理解できた。

羽入の艷やかな背をあらかた洗い終わったアインズは流石に前を洗うのは危ないと思い羽入にアカスリを手渡す。

 

 

 

 

「では私は先に浴槽に入る」

 

 

 

「わかりました〜」

 

 

 

 

梨花の返答を聞きアインズはヒノキで出来た浴槽に入る。

淡緑色の湯が身体の隅々まで浸透するような感覚が訪れる。

その感覚は人であったときには得られなかった、身体が骨であるからそう感じたのであろう。

身体の全面を洗い終わった羽入が浴槽に入ってきた。

女の子と一緒に風呂に入るというのにドギマギする。

 

 

 

 

「膝の上に………座るか?」

 

 

 

 

あ、俺、変なこと言った。

肉体を持つ羽入が骨の膝に座ったところで痛そうだ。

しかし羽入はそのことに気にも止めないのか、こう返答する。

 

 

 

 

「いいのですか………?」

 

 

 

こうして二人は仲良く湯船に浸かるのだった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

梨花は赤坂衞に電話を掛けた。彼は本来なら過去に梨花と出会って以降出会うことはなかった人物である。

しかしながらこの世界では違った。

本来なら来ないはずの人物であるから、そして彼は警察官であるから梨花は助けを求めようと思ったのだが………。

電話を掛けて出たのは地元の警察官、大石蔵人だった。

彼曰く赤坂は石川の能登半島の温泉に行っているらしい。

帰ってくるのは綿流しの日。

それでは遅すぎる。

次に梨花は入江京介と鷹野三四に助けを求めた。

彼らの組織に山狗という特殊部隊がある。もし山狗なら問題を解決───北条鉄平を殺せるかもしれない。

しかしその願いは叶わなかった。

北条鉄平は警察にマークされていた。

彼の愛人───間宮律子が殺害されたため、北条鉄平は重要参考人として警察官にマークされているのだ。

山狗は鷹野三四の組織によって秘匿された部隊であり、警察にもその存在は知られてはいけない。

鷹野三四曰く、

 

 

 

 

「今の警察の監視下では気づかれずに北条鉄平を消すことは不可能」

 

 

 

 

だそうだ。

そしてこうも言った。

 

 

 

 

「ここは正攻法で解決するのが筋だと思うわ」

 

 

 

 

しかし梨花は過去を思い出す。

正攻法ではどうにもならなかった。沙都子が良くなったのは北条鉄平がいなくなったからだ。

故に古手梨花は最後の手段に出る。

アインズ・ウール・ゴウン、「死」を具現化したかの存在に。

北条鉄平を殺してもらおうと。

沙都子のためなら命を賭けても構わない。

梨花はアインズが今住んでいる古手家の本家に向かう。

既に日は落ち、月が空を照らしていた。




割りと忙しくてなかなか書けなかった・・・
次回アインズvs鉄平!(たぶん)
追記:誤字直しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

北条鉄平-3

11巻記念日で前日にあげようと思いましたけどオーバーしてしまいました。
まあまだ夜開けなくてよかったぁ


梨花は古手家の本家に着いた。

過去の出来事のせいであまり近づきたくはないこの家屋は、いつもならトラウマが蘇るところだが今回は違った。

異様な雰囲気だった。なぜかよく漫画などである魔王の居城を思い出させる、そんな佇まいだった。

引き戸に手を掛け、開ける。凄まじい瘴気が中から外へ溢れ出てきた………気がした。

中から声が聞こえてくる。

少女のような幼い声と、大人びた落ち着いた声。

何か話しているのだろう。

どうやら居間ではないようだ。

長い長い廊下を歩くとその声は風呂場から漏れ出ているようだ。

もしや………と思いながら風呂場の扉に手を掛ける。

そこには一糸纏わぬ羽入と本当に骨でできた身体を持ったアインズが会話をしているところだった。

 

 

 

 

「な、ななななな、何してるのーーーーー!!!」

 

 

 

 

顔を赤らめた梨花の絶叫が古手家の本家に響き渡った。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

「い、いや。他意はないんだ」

 

 

 

 

「そんな問題じゃないでしょ!そもそも羽入!なんで一緒に入ったの!?」

 

 

 

 

「あうあうぅ。おふろに入りたかったのですぅ」

 

 

 

 

「あとから入るとかあったでしょ!?」

 

 

 

 

羽入はいちおう女性なのだ。はるか昔、羽入が人だった時代があった。現在の外見からは想像できないが彼女は成人しており、また子供もいたのだ。

そんな彼女が男性───声からの判断だが───と伴侶でもないのに一緒にお風呂に入ることは決して良いことだとはいえない。

しかし羽入は梨花以外の人間からは見えない。もしかしたら寂しかったのかもしれないからキムチやアルコールなどの飲食の罰は止めることにする。

───問題が解決するまで、だが。

梨花は今抱えている問題をアインズに言うことにした。ある種弱みにも近いものを得たのだ。もしかしたら………という思いが芽生える。

 

 

 

 

「まあ、このことは不問にするわ。アインズ」

 

 

 

 

「そうか………。ありがとう」

 

 

 

 

「ただ、お願い事があるの」

 

 

 

 

ボ、ボクは………、とこちらを見つめてくる羽入は取り敢えずスルーした。

 

 

 

 

「お願いというのは、………あなたに殺して欲しい人がいるの」

 

 

 

 

「殺して欲しい人………?」

 

 

 

 

殺して欲しい。そんな物騒な言葉を気にも掛けないように言うアインズ。やはり死神か何かなのかと梨花は思う。

これは非人道的だ。非倫理的だ。梨花は分かっている。でも、沙都子を救うためだ。親友の沙都子を。

なりふり構ってはいられない。死神に命や、そして魂も懸けても厭わない。

 

 

 

 

「北条鉄平………。私の親友である沙都子の叔父を殺して欲しいの!」

 

 

 

 

「「………え?」」

 

 

 

 

アインズと羽入が息を呑むように驚く。

梨花の願いは続く。

 

 

 

 

「お願い!沙都子をこれ以上苦しませたくないの!沙都子のためだったら、命や魂でもなんでもあなたにあげてもかなわない!!」

 

 

 

 

「ふむ………。私にあまりメリットがあるようには見えないが?」

 

 

 

 

やはり赤坂衛や鷹野三四たちのように断るのか。沙都子が苦しみ、そして救われない世界なのか。

そう絶望しかけた梨花だったがしかしアインズの続く言葉は意外にも乗り気のようだった。

 

 

 

 

「───しかし、親友の沙都子………だったか。親友か。そして親友のためだったら命を懸けると言ったな?」

 

 

 

 

「………ええ」

 

 

 

 

梨花は唾を飲み込む。やはりアインズは命を、魂を欲する死神なのか。

しかし続く言葉は梨花の想像とは違っていた。

 

 

 

 

「たしかこうだったな。『人、その友のため命を捨てること、これより大いなる愛はない』───マルコの福音書の言葉だったかな」

 

 

 

 

アインズの言葉は続く。それは梨花の知らないアインズ自身のことだった。

 

 

 

 

「私が住んでいたギルドホーム───居城には、いくつものギミックが仕掛けられていた。そのうちのひとつにパスワードとしてこの言葉が当てられていた。私だって友の、仲間のためなら命を捨ててもかまわない。もしかしたらこの世界に来ている可能性もあるが、認めたくはないが現状その可能性は低いだろう」

 

 

 

 

アインズの言葉の節々に寂寥感があった。それはアインズの真に抱く気持ちというものだろう。

 

 

 

 

「話してくれないか?その親友の沙都子のことを。もしかしたら力になれるかもしれない」

 

 

 

 

梨花は希望の光を見えた気がした。もしかしたら沙都子を救えるかもしれないという希望の光が。

たとえ沙都子が救われても、昭和57年の綿流しの日に梨花は殺されるだろう。

そして次の世界でもまた叔父によって沙都子は苦しむかもしれない。

しかし梨花は親友の沙都子が泣き、苦しむところを見たくなかった。

梨花は沙都子の辛い過去のこと、傍若無人な北条鉄平のことを話すのだった。

アインズは話をずっと聞いていた。何も言わなかったのが少しだけ不安だったが───

 

 

 

 

「いいだろう。もし、私の友人が虐められ、そして虐げられたなら、私も同じことを考えるだろう。もしかしたらか殺すということも考えるかもしれない」

 

 

 

 

勿論アインズは人だった時代に流石にそのような犯罪的思考を考えることはなかった。例えば、ウルベルト・アレイン・オードルというギルド”アインズ・ウール・ゴウン”におけるアインズと同じ負け組───ふたりとも小学校は卒業していたので半負け組と言うべきか───がいた。ウルベルトは過去に親を亡くしており、その理由は過酷な労働状況による事故死だった。そして彼の家にはほんの少しの見舞金が支払われただけだったという。しかし鈴木悟の世界では珍しくない話だ。かく言うアインズも過労によって母を亡くし、そして父も亡くしたのだ。

虐待なんて言うものも珍しくなかったが、しかし多くの場合は泣き寝入りせざるを得なかった。

警察なんて言うものはまともに動かなかった。内部から腐っていた警察はただただ無関心を貫いた。

しかし鈴木悟の頃では考えられない人を殺すという思考。一体どこから来ているのか?

アインズ・ウール・ゴウンは生あるものを憎むアンデッド。既に「人間という種族は仲間だ」という認識はほぼなかった。

アインズにとって人は虫といえるだろう。殺さなければ殺すし、殺す必要がなければ殺さない。もしかしたら殺すつもりはなかったが、間違って殺しても何も思わない。

だからこそ、現在の鈴木悟───アインズ・ウール・ゴウンは殺すという言葉も簡単に言える。

もし、今のアインズの仲間───ギルドメンバーを虐げるものがいたら何も考えずに殺すだろう。

いや、殺すと言うものは軽すぎる。場合によっては死ぬよりも苦痛なこと───生き地獄を相手に与えるだろう。

そして人間を殺すことに実はと言うとアインズにとってあるメリットがあった。しかしそれは言わなかった。

それを言ったら警戒されるだろう。だからこそ言わなかった。

 

 

 

 

「分かった。その親友を守るという愛を尊び、北条鉄平を殺してやろう」

 

 

 

 

「あ、ありがとう!」

 

 

 

 

これで沙都子が苦しむ姿を見ない!梨花は歓喜した。沙都子は救われるのだ。彼女はもしかしたらこの世界では昭和57年の綿流しの日に殺されるという呪いも打ち破れるかもしれない。

 

 

 

 

「しかし、こ───」

 

 

 

 

「いいのですか、梨花!」

 

 

 

 

アインズの言葉がこれまで黙って聞いていた羽入の叫び声で掻き消される。

 

 

 

 

「そんなことしたら梨花は罪悪感で苦しむだけですよ!」

 

 

 

 

「構わないわ。それを覚悟してのこと。例え私がそのことで苦しみに苛まれても、沙都子の笑顔できっと私も救われるわ」

 

 

 

 

「梨花がそう言うなら………ボクは何も言わないです」

 

 

 

 

「あの、続きを話していいか………?」

 

 

 

 

アインズが話に入ってきた。そういえば何か言いかけていた。

 

 

 

 

「コホン。ただしこちらも条件がある。殺す際は私一人で殺させてくれないか?私はあまり攻撃───人を殺す魔法はあまり他人には見られたくないのだ。その憎悪だと死ぬ瞬間が見たいかもしれないが流石にそれは困る。死んだとしたら家に帰ってこないからそれで分かるだろうし」

 

 

 

 

「ええ、いいわ。あいつが死んで沙都子が苦しまないのならばそれで満足よ。それで、私は何をあげればいいの?」

 

 

 

 

「いや、見返りはいらない」

 

 

 

 

 

「本当にそれでいいの………?」

 

 

 

 

「ああ、構わない。友のため、だからな」

 

 

 

 

アインズはそう言って不敵に笑った。

 

 

 

 

「それで、いつ、あいつを殺してくれるの?」

 

 

 

 

「そうだな………」

 

 

 

 

 

梨花はアインズの北条鉄平殺害計画を聞いた。

梨花はようやく安心できそうだ。憎き敵がいなくなるのだ。これは安心せずにはいられないだろう。

沙都子の笑顔を思い出す。

やっとあの子が救われる。例えこの世界だけだとしても、いやこの世界で梨花は殺されなければ綿流しの後の世界を生きれるだろう。梨花はこれまで以上に希望を抱いた。

梨花はそのときの顔は心から喜んでいる人だけが出来るであろう、そんな笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「ありがとう、アインズ。私のわがままを聞いてくれて」

 

 

 

 

「良いとも」

 

 

 

 

「それでは私は帰るね。もう疲れて眠たいわ………」

 

 

 

 

「ああ、おやすみ。良い眠りを」

 

 

 

 

そして梨花は住む家に帰る。

梨花が後ろに向いたとき、アインズは一言、誰にも聞かせるつもりがないような声でこう言った。

 

 

 

 

「………やっと人を殺せる。これで私の力が人間にどれくらいの効果があるのかやっと調べられる」

 

 

 

 

楽しみだ。続くアインズの言葉は梨花の歩く足音に掻き消され、そして無音が訪れた。




梨花ちゃんダークサイドに落ちたなーって思ったけど割と原作通りな気がしないでもない
一度pc落ちてデータ吹っ飛んだ。。。
でも自動保存があったからなんとかなりました
よかったぁ。。。
1ヶ月間家空けて帰ってきたらよく落ちるようになりましたけど何が原因なんだろう。。。
家空ける前は落ちることほぼなかったけど。。。
同じ症状担った人やpc詳しい人情報くれたらうれしいです


追記:誤字直しました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

北条鉄平-4

アインズはスクロールを取り出し魔法を発動する。

現れたのは顔に3つの窪みがある───目のある部分に2つ、口のある部分に1つ───いわゆるグレイ型の宇宙人のようなモンスターだ。このモンスターの名は〈ドッペルゲンガー/二重の影〉。

その数は4体。

変身能力を持つモンスターを召喚したのは、梨花からの話から北条鉄平が警察からマークされているからである。

また、北条鉄平を誘き寄せる餌という役目もある。

さて、計画を始めよう。

アインズは邪悪に笑った。勿論その骨で出来た顔は特に何も変わらなかったが。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「クソっ!酒が切れた」

 

 

 

 

北条鉄平は沙都子を呼ぼうとしたが沙都子はいない。

今日は平日。沙都子は学校に行っている。

流石に鉄平も学校に行かせないようにするのは難しい。そんなことをしたならせっかくの沙都子も児童相談所に引き取られるだろう。

仕方がなしに鉄平は酒を買いに行く。

酒屋に行く途中に沙都子がいた。より正確に言えば沙都子を見かけたという方が適切か。

その時むしゃくしゃしていた鉄平は沙都子を叱り───正確には八つ当たりである───に沙都子の方へ向かう。

もしこの時、沙都子の状態が異常なことに気づくか、もしくは沙都子のいた場所が森の中だということに異変を感じたか、そのどちらかでも気づいたなら未来は変わっていたただろ。

しかしそれに気づかなかった鉄平は沙都子を追って森の中に入るのだった。

森の中をかき分ける鉄平は逃げる沙都子に苛立つ。

 

 

 

 

(とっ捕まえたらボコボコに殴ってやるわぃ)

 

 

 

 

そう思う内に沙都子を見失う。光を遮る木々は鉄平を嘲笑うかのように乱立している。

 

 

 

 

 

「クソっ!どこに言ったんだあいつわぁ」

 

 

 

 

周りを見渡すとどこから現れたのか、漆黒のローブを纏ったいかにもな怪しい人がいた。

この怪しい男に沙都子の行方を聞こうと発破をかけながら話しかける。

 

 

 

 

 

「おいそこのオメェ!!金髪のちびを見なかったかァ?」

 

 

 

 

「いや、見てないですね」

 

 

 

 

そこで鉄平は異常に気づく。なぜ話しかけるまで気づかなかったのだろうか。

彼の顔には皮膚がなく、ローブの隙間から髑髏が覗かせていた───

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

北条鉄平から話しかけられたアインズの第一印象はうわなにこの人怖いだった。

服装を見ると謎のアロハシャツを着ている。

 

 

 

 

(なんでこういう人はアロハシャツなんて着ているんだ?ビーチでもないのに)

 

 

 

 

アインズの疑問が解消されることもなく、北条鉄平は話しかける。

 

 

 

 

「お前のその顔はなんじゃい!?仮面でも被ってんのかワレぇ!!」

 

 

 

 

 

「ふむ」

 

 

 

 

アインズは自分の顔を手で撫で回す。アインズはあまりおかしいとは思わないが、やはりこの世界の人間はおかしいと思うらしい。

 

 

 

 

「そうだな。別に仮面など被っていない。この顔は私の素顔だよ。それより、沙都子という少女を虐めているらしいな」

 

 

 

 

「なんじゃいそりゃ!そんな話誰が信じるんじゃい」

 

 

 

 

やはりというか、どうやら北条鉄平は信じなかった。

 

 

 

 

「沙都子の話を出すということはお前は児童相談所のものか!沙都子の親権はワシにあるんじゃ!余所のモンは口出すんじゃないわい!」

 

 

 

 

「いや、私は児童相談所のものじゃない。ある人物からの依頼で貴様に死を告げに来たのだ」

 

 

 

 

「なによう分からんこと言ってんじゃボケェ!ぶち殺すぞ!!」

 

 

 

 

北条鉄平はそう言って拳を握りしめ、アインズの腹に向かって殴りつける。

しかしアインズは躱さなかった。勿論、アインズはその攻撃があまりに早すぎて動けなかったわけではない。

むしろ遅く感じられた。

ただアインズは確かめたいことがあっただけだ。だから動かない。

 

 

 

 

「うぎぃ!?」

 

 

 

 

そう声を上げたのは殴られたアインズではない。むしろ殴りつけた鉄平のほうが声を上げたのだ。

鉄平の拳から血が滲み出る。なにか硬い───鉄のような鉱物か何か───を殴った感触が鉄平には感じられた。

少なくとも人の、肉を殴った感触ではなかった。

 

 

 

 

「やはり上位物理無効化Ⅲは機能しているか。いや、本来の物理耐性か?」

 

 

 

 

しかしアインズはスケルトンの弱点である殴打武器脆弱があるのだからやはり上位物理無効化Ⅲが発動したのだろう。

 

 

 

 

「鉄板かなんかでもその服の下に仕込んでるのかァ!?クソッ!!」

 

 

 

 

鉄平の負傷していない方の拳をアインズの頭に殴ろうとする。

しかしその拳はアインズに掴まれる。

 

 

 

 

「うぐゥ!!」

 

 

 

 

鉄平はすぐさま手を引き離す。何か強烈な痛みを感じたからだ。

 

 

 

 

「な、何をしたんじゃ!!」

 

 

 

 

「ああ、ただ単に〈ネガティブ・タッチ/負の接触〉を使用して負のエネルギーを流し込んだだけなんだが………。そんなに痛かったか?」

 

 

 

 

「な、何なんじゃオメェ………」

 

 

 

 

「そういえば名を名乗っていなかったな。私の名はアインズ・ウール・ゴウン。まあ、もうすぐ死ぬお前には名乗ることもないんだがな」

 

 

 

 

風が漆黒のローブをなびき、顔の全容が露わになる。すべてを飲み込むような漆黒の眼窩からは赤い炎のような光が灯っていた。

その外見は異形。ただそれだけだった。

 

 

 

 

「ば、化け物ッ!!!」

 

 

 

 

「最初に言ったときに言ったよな?この顔は仮面でも何でもない、と」

 

 

 

 

「クッ!やってられるかッ!!」

 

 

 

 

鉄平はアインズから逃げるように駆け出す。

 

 

 

 

「逃さんよ」

 

 

 

 

後ろからそんな声が聞こえる。そう思ったと同時に鉄平は何か壁にぶつかる。

 

 

 

 

「いてェ!クソッ!!何だいったい!!」

 

 

 

 

「私だよ」

 

 

 

 

アインズから逃げたはずがその逃げた張本人に当っていた。何がなんだか分からない。鉄平は混乱する。その謎の化け物の動かないはずの骨の顎が開く。

 

 

 

 

「やはり《タイム・ストップ/時間停止》は使用できたか」

 

 

 

 

鉄平には理解できない単語がアインズからの口が出てくる。

わけがわからなかった。手の痛みはまだ引いていない。

 

 

 

 

「クッソォ!!なんじゃアイツはッ!!」

 

 

 

 

もう一度鉄平はアインズから逃げる。今度はどうやら追ってこないようだ。しかしまた後ろからの声が鉄平の耳に届く。

 

 

 

 

「《マジック・アロー/魔法の矢》」

 

 

 

 

その声とともに、鉄平の背に衝撃が走る。

───その衝撃の数は、十

骨が砕かれるような音ともに鉄平の意識はなくなった───

 

 

 

 

「弱い。………やはり第一位階の魔法程度で死ぬか」

 

 

 

 

第一位階魔法«マジック・アロー/魔法の矢》。無属性であり、追尾機能を持つ魔法。汎用性が高く、高レベル帯でも位階を十位階まで上げて使われることも多い。

アインズは虚空から〈ワンド/短杖〉を取り出す。

殺すまでは想定以内だ。しかしここからが問題だ。

アインズが取り出したアイテムは<蘇生の短杖/ワンド・オブ・リザレクション>。

効果は相手の蘇生。

果たしで蘇生はこの世界でも使えるのだろうか?

アインズはそれを実験してみたかった。

アインズは《リザレクション/蘇生》を唱える。

それによって北条鉄平は───

 

 

 

 

───灰になった。

 

 

 

 

灰が風によってまばらに飛んでいく。

 

 

 

 

「まさか失敗するとは………。いや、しかし───」

 

 

 

 

アインズはその時復活系の魔法のことを考える。

復活系の魔法はレベル減少とともに復活する。より高位になれば、もしくはアインズの付ける課金の指輪のならばレベルはほとんど喪失しない。

もしかしたら北条鉄平はレベルの喪失が実際のレベルを上回ったたのかもしれない。

もし北条鉄平以上の存在───例えば羽入とか───がいたならば復活できるのだろうか?

しかしその考えは破棄する。

これ以上の実験は不可能。

結果は手に入ったとアインズは前向きに考える。

 

 

 

 

「これ以上ここにいても何も得ないだろう。………帰るか。《ゲート/転移門》」

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

梨花はアインズから北条鉄平が死んだことを聞かされた。

あの憎き、沙都子の害にしかならない男の死を知って梨花は何も思わなかった。いあ、むしろ歓喜の念しかわかなかった。

本当にこのまま昭和57年の綿流しの日の後の世界が見れるのかもしれない。

この世界は幸運だ。ダイスの目が良い数字に当たるようだ。

梨花は笑う。その自分の幸運に対して───

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「北条鉄平は重要参考人だ。早く探し出すぞ」

 

 

 

 

室内に声が響き渡る。警察官である彼は焦っている。

間宮律子の殺害事件の重要参考人である北条鉄平が消えたのだ。

彼は今日のことを思い出す。何か見落としがあるかもしれないからだ。

北条鉄平が出かけたとき、いつものように酒に出かけたと思っていたのだが………。

北条鉄平が酒屋に向かっているときに後をつけていた彼は途中でお婆さんに話しかけられた。

村に見知らぬ人がいたからだろうか。自分のことを尋ねて来た。

ほんのちょっとの会話だった。しかしその間に北条鉄平を見失ったのだ。

その後見つけたのは商店街だ。何も手に持たずに歩いていた彼は、角に曲がったかと思ったら忽然と姿を消していた。

商店街と言ってもここ雛見沢は田舎だ。小さな商店街だ。見失うというのもおかしな話だ。

家にも帰ってはいないそうだ。

彼は最悪な考えが浮かぶ。

 

 

 

 

「既に感づかれていたか」

 

 

 

 

北条鉄平は我々、警察に尾行されていることに気付き、どこか遠く、知り合いの家にでも行ったのだろう。

探さなくてはならない。北条鉄平はクロだ。

彼に関係のある者たちを虱潰しにしなくてはならない。これから大変になるだろう。

 

 

 

 

しかし、警察の必死の捜査にも関わらず、結局北条鉄平は見つかることはなかった。




次回、多分綿流しです!
きっと!
最近忙しかったというかオバロの発売であまり友達と遊ばなかったからそれを取り返すようにしていました
オバロは魅力的だからね!仕方がないね!

次日曜ぐらいに更新したいなー(願望)

追記:そういえばランキングに載っていました!ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

運命の袋小路─前編

来週日曜日更新(数ヶ月後)
なんでこうなったんだろう……(社畜の目)
申し訳ないです


綿流しの祭りの日、古手神社の境内は喧騒で包まれていた。

それは人の声であり、また和楽器の音でもあった。

雛見沢という村最大のお祭りであり、村の住民の殆どが来ている。

梨花は同じ学校の、沙都子たちと祭りに来ていた。

正確に言えばこの神社は梨花の所有物であり、『来ていた』という表現は端的に言って不適切ではある。しかし梨花にとってお祭りの日はいつもの古手神社とは違った一面があるのだからそのような表現もしたくなるというものだ。

そして梨花にとってこの日は特別な日。

そう、まさしく今日こそがこのあとの梨花の運命が定まる大事な日なのだ───。

しかし楽しんではいけないと誰が決めたのだろうか?

いや、誰も決めてなどいない。

従って、論理的帰結によって、梨花は祭りを楽しむのだ。

 

 

 

 

「今年も行くよー!綿流し六凶爆闘ー!!」

 

 

 

 

「負けませんですわよ」

 

 

 

「俺だって!」

 

 

 

 

魅音が声を張り上げる。それを聞き沙都子と圭一は力をみなぎらせていた。

沙都子の笑顔は、明るく見る人を楽しませてくれた。

彼女を救ってくれたアインズ・ウール・ゴウンには感謝してもしきれなかった。

だからこそ、梨花は彼の手は借りない。

大きな借りを作ったのだ。今度は自分の力で運命を変えなくてはならない。

まあ、それは置いといて、熱々のたこ焼きを食べるみんなを横目に梨花は楽しむことにする。

祭りの屋台を回り、様々なゲームをしたり食べ物を食べたりした。

射的、くじ引き、金魚すくい、様々なゲームが出ていた。

焼きそば、たこ焼き、箸巻き、カステラ、様々な屋台があった。

雛見沢は小さな村だが、屋台は他の街に引けを取らないほど多くあると梨花は思う。

祭りの終わりが近づくと、古手神社の神主である梨花は奉納演舞という舞を披露する。

その美しい舞が祭りの締めとなり、楽しい楽しい祭りの日は終わるだろう。

しかし、梨花にとってはこれからだ。ラストスパートだ。

ここから、梨花の最後の戦いが始まる。

梨花の耳に、横笛の音色が流れていった。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

喧騒の音が鳴り止まぬ屋台の列、そこから外れたとこでアインズは梨花たちを見ていた。

正直なところ、アインズも祭りに行きたかった。屋台で並んで楽しみたかった。

しかし現状のオーバーロードの外見ではただただ怪しいだけだ。奇異の目で見られるぐらいなら遠目で見守る。その梨花たちに向ける目は傍目ではストーカーにしか見えないのはここだけの秘密としよう。

アインズのいた世界での祭りはこんなものではなかった。規模は確かにアインズの世界のほうが大きかった。しかし有害スモッグによって汚染された空気は祭りというものを変えた。外ですることは事実上の不可能になり、もっぱら屋内で祭りが開かれた。

形式も略式化され、日本の伝統は見るも無惨なものになっていた。

ただ、綿流しの祭みたいなものは都市部から遠く離れた地方部にはまだあるらしいが………。

 

 

 

 

「念のために、不可知化の魔法を唱えとくか」

 

 

 

 

《パーフェクト・アンノウアブル/完全不可知化》の魔法が発動する。

それとほぼ同時に怪しい人影をアインズは目撃する。

作業服を来たただの作業員だろう。

しかしアインズのいる所は人気のない所であり、ストーカーまがいの行いをしているアインズと同等ぐらいに怪しかった。

後をつけるかどうか迷うが、ここに作業員がいようが自分に害が出なければ特に問題はない。 

アインズは完全不可知化を唱えてて良かったと呑気なことを思いながら作業員から目を離す。

梨花たちを探したがどうやら見失ったらしい。

まあいいかとアインズは思い、小一時間ほど祭りの様子を眺めるのだった………。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

梨花は決意した。

運命を変えるために。

まずは二人の、鷹野三四と富竹ジロウの二人の死の定めを変える。

もう二度と、梨花は運命に屈しないと誓う───。

 

 

 

 

「こんばんは」

 

 

 

 

鷹野三四と富竹ジロウが梨花たちに挨拶をしてきた。

これで探す手間が省けた。

あまり他の人に知られたくないため、人気のないところに場所を移した。

梨花は二人が死ぬことを話すが───

 

 

 

「でも、どうして僕たちが殺されなきゃならないんだい?」

 

 

 

 

「……それはわかりません。でも、富竹は喉をかきむしって、高野はどこか遠くの山奥で焼かれて死にますです」

 

 

 

 

「喉を掻き毟るって……、それはL5/レベルファイブのことかい?」

 

 

 

 

「……たぶんそうです」

 

 

 

 

「大丈夫だよ。僕は予防薬を受けてるし、それにこう見えても体を鍛えてるんだ」

 

 

 

 

「そうよぉ。危なくなったらジロウさんが守ってくれるわよ」

 

 

 

 

「……ボクはオヤシロさまの巫女だからわかりますのです。今夜二人きりのときに襲われるはずです……。だから今夜は二人っきりになってはダメなのですよ!!」

 

 

 

 

梨花の嘆願の声は最後には怒鳴り声のようになっていた。

これで二人が二人っきりにならなければ──

 

 

 

 

「梨花ちゃん……」

 

 

 

 

鷹野三四は分かってくれたのか。

しかし、そうではなかったようだ。

 

 

 

 

「もしかして私たちに妬いているの?おませさんねぇ」

 

 

 

 

くすくすと笑う三四の返答は、梨花が欲しい応えではなかった。

 

 

 

 

「まあせいぜい気をつけるわ。じゃあね」

 

 

 

そう言って三四たちは去って行った。

梨花の心の中に残ったのは二人を変えられなかったという事実に対する悔しさだけだった。

 

 

 

 

(……ダメだ。この二人にこれ以上言っても信じてもらえない。なら他の人にも警告しよう、少しでも運命を狂わせるために!)

 

 

 

 

だけど、他に誰に警告するべきか。

入江の顔が浮かぶが、彼は一介の研究者だ。鷹野三四と富竹ジロウの死を防ぐのは難しい。

ならば、誰に伝えれば祟りを止めれるだろう?

そのとき梨花の背後に電撃が走る。

この祟りを止められるであろう人物が一人いた。

梨花はその人物を探しに行く。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

「それをどこで聞いたのですか!どの辺りで!!」

 

 

 

 

 

木陰の喫煙所に探していた人物が見つかった。

割と早く見つけれたのは幸運だろう。

梨花は探していた人物──大石蔵人に説明する。

 

 

 

 

 

「人混みで偶然耳にしただけなのでわからないです」

 

 

 

 

流石に自分の現状を言う訳にはいかないからこの場だけの嘘は見逃してもらいたい。

 

 

 

 

「……そうですか……。しかし富竹さんは余所者だし鷹野さんと合わせれば二人……。たしかに5年目の祟りにあってもおかしくない……」

 

 

 

 

思考の中に入り込もうとする大石だがもうあまり時間はない。

二人の死はもうすぐそばまで迫ってきている。

だから自分が運命の袋小路を歩んで、そして知っている限りの情報を渡す。

 

 

 

 

 

「大石、襲うなら雛見沢と興宮の間の道だと言っていたと思います。昨日沙都子の家に警察を待機させてたのと同じことができませんか?」

 

 

 

 

「分かりました。ダメで元々です。お二人をマークしてそこへ車を一台張り付かせましょう」

 

 

 

 

即答だった。昔の梨花では想像もできなかっただろう。大石が協力してくれるなんて。

 

 

 

 

「ありがとうなのです。誰も信じてくれなくて困っていたのです」

 

 

 

 

「それを信じるのが警察です。せっかくの情報を見過ごして事件を防げなかったら、これほど悔しいものはないですからね」

 

 

 

 

ニコッと笑いながら手を上げて大石は立ち去った。

あとは誰に相談出来るだろう……?

梨花がそう考えてると自分を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 

 

 

「梨花ちゃーん!」

 

 

 

 

圭一と、そして皆が呼んでいた。

どうやら梨花のことを探していたらしい。

皆にも話してみよう。

だって彼らは仲間なのだから。

 

 

 

 

「……富竹さんと鷹野さんが殺される……!?」

 

 

 

 

皆はそのことを聞いて非常に驚いた面持ちだった。

いきなり人が、それも知り合いが殺されると聞いて驚かないほうがおかしいが。

しかしすぐさま冷静になる。巫女である梨花が言ったから、何か霊的なものがあるのかもしれないと思ったのかもしれない。

各々が対抗策を考える。

 

 

 

 

「確かに用心したほうが良いですね。……今夜だけは」

 

 

 

 

「雛見沢連続怪死事件。通称オヤシロさまの祟り」

 

 

 

 

「はっきり言って何年も続かれちゃ困るんだよね。村のイメージダウンにしかならいし」

 

 

 

 

「怪しい人がいたらすぐわかると思うけど……。私たちはどうしたら良いかな」

 

 

 

 

「ならせめて祭りが終わるまで二人の護衛をしようぜ」

 

 

 

 

「人が近くにいれば、手が出しにくいですものね」

 

 

 

 

「みんな……」

 

 

 

 

仲間が応えてくれる。それは梨花にとって感慨深いような、失くした物を見つけたような気がした。

 

 

 

 

「……梨花」

 

 

 

 

羽入の声が梨花を呼ぶ。梨花は横槍が入ったような気分になる。

 

 

 

 

「梨花は富竹たちの死を防げると思っていますのですか?」

 

 

 

 

「……わからない。」

 

 

 

 

 

そんなことは梨花は分かるわけがなかった。何回も繰り返した運命では二人が死ななかったことがないのだ。

前例がないことなんて誰が分かるというのか。

 

 

 

 

「けど、ダメだったとしても山狗の警備もあるし、それにアインズがいる。これ以上借りは作りたくはないけれど。二人が殺されても私は無防備ではないはず」

 

 

 

 

そう、山狗の警備がある。アインズに頼らないとしても、彼らは梨花をきっと守るだろう。

それに──

 

 

 

「──今回は最後の最後まで諦めないと決めたもの。出来得る限り足掻くわ」

 

 

 

 

「……梨花の好きなようにするといいのです」

 

 

 

 

羽入は冷たく言い放った。いや、本当に冷たいのかはわからなかった。羽入がこんなことを言うことは今までになかったはず。

そのことに多少梨花はいらつく。

 

 

「ねえ、どうして期待しないの?沙都子が救われるなんて今までになかった。運命は変えられるって証明されたのに……。どうして!?」

 

 

 

 

「……梨花。あるがままが運命ですから、僕は期待なんてできないのです。何があってもどうか気を落とさないで」

 

 

 

 

これまで以上に悲しい顔をされ、さすがの梨花も羽入に対して怒りが沸き立つ。

それは大声となり羽入に矛先が向かう。

 

 

 

 

「あんた今回もだって言ってるの!?」

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

「……。もういいわ」

 

 

 

 

梨花は羽入に背を向け沙都子たちのいるところへ向かう。

梨花は運命が打ち破れると思っている。絶対に出口があるのだと信じている。

──でも実は羽入は知っているんじゃないのだろうか?

梨花たちは、例えば金魚のようにそもそも出口のない金魚鉢の中を泳ぎ回っているだけではないのだろうか。

だから羽入は期待しないのだろう。

でも、例え出口がないとしても、梨花は自分の考えを貫くつもりだ。

 

 

 

 

──信じる強さが運命という盾を貫く一つの槍となるのだから。

 

 

 

 

そして私たちは祭りが終わるまで鷹野と富竹の側にいた。それが綿流しの夜に出来た梨花たちの精一杯の努力だった。




オリジナルで小説書くのって難しいですね
まず設定とか考えないといけないところが特に
モンスターとかならポンポン思いつきますけど女の子は大して思いつかない……

アインズが怪異の王たちとてんやわんやするクロスオーバー考えたけど誰か書かないかな……


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。