やはり俺が界境防衛機関で働くのはまちがっていない。 (貴葱)
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A級5位【比企谷隊】設定

初投稿となります。
温かい目で見守っていただければ幸いです。


A級5位【比企谷隊】

 

比企谷八幡

元攻撃手3位(弧月6631/スコーピオン12809)

狙撃手4位(イーグレット8013/ライトニング10997)

 

PROFILE(プロフィール)

ポジション:スナイパー(元アタッカー)

年齢:16歳

誕生日:8月8日

身長:172cm

血液型:A型

星座:ぺんぎん座

職業:高校生

好きなもの:甘いもの全般、MAX COFFEE、ラーメン、妹

 

FAMILY(家族)

父(死別)、母(死別)、妹

 

SIDE EFFECT(サイドエフェクト)

ランクB:気配薄弱

自身の生物電気を体から微弱に発しており、有効範囲内(自身の周囲半径50m)の人間の視覚を僅かに狂わす特殊体質。結果として対象者に、こちらの気配を感じにくくさせたり、僅かに手元を狂わせたりする。常時発動型のサイドエフェクトのため、仲間にも同じ影響を与えてしまうというデメリットもある。ボーダーからは日常生活に支障が出ないようにと、サイドエフェクトが発動しなくなるネックレスが支給されている。ちなみに学校では影の薄さが消えるからと着けていない。

 

PARAMETER(パラメーター)

トリオン:7

攻撃:8

防御・援護:11

機動:10

技術:10

射程:9

指揮:6

特殊戦術:3

TOTAL64

 

TRIGGER SET(トリガーセット)

MAIN:ライトニング、シールド、イーグレット、グラスホッパー

SUB:バッグワーム、シールド、グラスホッパー、スコーピオン

※チームランク戦時以外はイーグレットをスコーピオンに変更。

 

FIGHTING STYLE(戦闘スタイル)

遠距離射撃も苦にはしないが、元々攻撃手だったこともあり機動力を生かした固有のスタイルである“突撃スナイパー”を得意としている。バッグワーム、グラスホッパーを使用して相手に上空から迫り、近中距離から弾速の速いライトニングを撃ち込む。また、緑川の乱反射に近い独自の空中歩法で、超近距離戦闘でも相手を翻弄する。相応の機動力+緻密な技術力が無いと成しえない芸当なので戦闘スタイルの継承者は今のところ見つかっていない。

 

PERSONALITY(性格)

捻くれており面倒くさがりだが根は真面目。初対面では人見知りするが、一度間口を開いた後は特にそんなことはない。お兄ちゃん気質なためか面倒見が良い。座右の銘は“やるべきことは迅速かつ丁寧に”。滅多に怒ることはないが、理不尽な扱いを受けたり、家族や仲間、パーソナルスペースなどを傷つけられると怒りが爆発するときがある。

 

HISTORY(来歴)

 小学6年生時の大規模侵攻により両親と死別。両親の遺産でしばらく暮らしていたが、いずれ立ち行かなくなることを悟っていた八幡は中学2年生の時にボーダーへ入隊(入隊時期はBBFより二宮らと同時期)。B級昇格後は迅を師事し、ソロ攻撃手としてほかの隊の防衛任務に同行しながら腕を磨く。元々は弧月使いだったが、スピードを生かした戦闘の方が向いていると気づき、スコーピオンに変更、マスターランクへ到達し攻撃手3位を獲得する。

 

 妹・小町のボーダー入隊を最初は反対していたが、自身と隊を組むことを条件に渋々納得。オペレーター・小町、万能手・一色いろはとともに【比企谷隊】を結成(ちなみに過去の防衛任務時に八幡は一色のことを助けている)。その際に自身のサイドエフェクトの特性上、攻撃手のままだとチーム戦に向かないため狙撃手に転向する。東を師事して狙撃手の基本を学びながら、自身の機動性を生かした独自の狙撃手スタイルを構築することでA級に昇格した。スタイルの関係から“突撃スナイパーバカ(略:突スナバカ)”と呼ばれている。

 

 学校では原作通りぼっちだが、ボーダーでは年上、同年代、年下問わず良好な関係を築いている。奈良坂とは同学年で同じスナイパーということもありウマが合うようで、時々食事に行くことがある。はたから見ると話が弾んでいるわけでもなく、黙々と食事をしたり本を読んだりしているので、仲が良さそうには見えないが本人たちはその空気を楽しんでいる。ちなみに初めて食事の場を見た出水、米屋は仲が悪いと勘違いしたことがある。学校にはボーダーであることを報告しておらず、放課後や休日に防衛任務を入れるようにしている。同じ隊である一色も同様。理由は面倒ごとを増やしたくないから。

 出水、米屋とは同じバカを冠するものとしてそこそこ仲がいい。たまに2人が八幡をおちょくりすぎて、ランク戦でボコボコにされているのはご愛敬。

 最近の悩みは比企谷隊に攻撃手が欲しいこと。緑川の入隊時に自分の隊へと打診しようとしていたが、草壁隊に先を越される形となりその時期は少々落ち込んでいた。

 同じ学校の通うボーダー隊員はBBF『通っている高校分布図』の進学校にカテゴライズされている人たち。

 

 

一色いろは

射手4位(アステロイド9866/バイパー9034)

 

PROFILE(プロフィール)

ポジション:シューター

年齢:16歳

誕生日:4月16日

身長:159cm

血液型:B型

星座:はやぶさ座

職業:高校生

好きなもの:お菓子、午後の紅茶レモンティー、比企谷隊

 

FAMILY(家族)

父、母

 

PARAMETER(パラメーター)

トリオン:11

攻撃:9

防御・援護:8

機動:5

技術:8

射程:5

指揮:4

特殊戦術:3

TOTAL53

 

TRIGGER SET(トリガーセット)

MAIN:アステロイド、エスクード、シールド、メテオラ

SUB:アステロイド、バイパー、バッグワーム、シールド

 

FIGHTING STYLE(戦闘スタイル)

戦闘スタイルは師事した出水と似通っている。元々の潜在能力の高さを出水がうまく伸ばした結果と言える。ただしいろはの場合はチーム戦で勝つことを目的としたスタイルなので、八幡と連携が組みやすいような戦法、トリガーのセットをしている。得意戦術はエスクードで遮蔽物を確保しながらのバイパーで敵を牽制し、八幡との連携からのトマホーク爆撃。

 

PERSONALITY(性格)

人への頼り方(主に男性)を熟知している小悪魔的性格をしている。八幡曰くあざとい。ただ注意されたことはしっかり反省したり、人の助言をしっかり聞き入れるなど、素直で真面目な面も見せる。また、負けず嫌いな一面もあり、その結果として射手4位まで上り詰められたといえる。ふんわり可愛らしい見た目とは裏腹に、計算づくで物事を推し進めることができる地頭の良さを持っており、戦術面でも八幡にしっかりついていく。八幡のことを好意的に思っているが、自分の気持ちが恋なのか憧れなのか、はたまた別のものなのかの結論を出せずにいる。懐いてくる小町のことを妹のように可愛がっている。

 

HISTORY(来歴)

 中学時代からほぼ完成していた小悪魔的翻弄術で男子を手玉に取っていたいろはだが、残念ながら女子受けは相当に悪く、中学1年生時の初冬に警戒区域付近でクラスの女子らと口論になる。その際運悪く、警戒区域ギリギリにゲートが発生しネイバーの襲撃に遭う。当時B級ソロとして別の隊に同行していた八幡に保護され、持ち前の篭絡術で八幡に礼を述べたが、「あざとい」と一蹴されている。その後本部で記憶消去を施されそうになるが、トリオン能力の高さを買われてボーダー入隊を進められる。この時八幡に言われた「入った時と入らなかった時のメリットとデメリットを考えて決めれば良いんじゃね?(八幡的には死ぬ可能性もあることを伝えたかった)」という発言を受け、ボーダーというステイタスの高さから入隊を決意。

 

 ボーダーに入隊後はとんとん拍子でB級には上がれたが、他隊員との戦いに向ける覚悟の違いからかしばらくは足踏みが続く。八幡には覚悟のなさを見抜かれ「アクセサリー感覚でボーダーにしがみつくなら辞めちまえばいい」と言われてしまう。自分がボーダーにいる意味を再度考え、“自分を磨いているうちに答えは出るはず”と見切り発車ながら前を向く決意を固める。その後八幡がチームを組むと知り、押しきる形ではあったが【比企谷隊】を結成する。

 隊結成後は八幡に二宮への師事を進められるが、怖いという理由で二宮ではなく出水を師事。結果としてスタイルがかち合ったのか実力をメキメキ伸ばす。チームの一員として八幡の捻くれながらの優しさや有能さに触れ、憧憬に近い恋心を抱く(本人は自覚無し)。また小町の天真爛漫さには振り回されることもあるが、今では自分の隊に深い愛着を持っている。

 

 学校での様子は基本的に原作準拠だが、休日に男子と遊びに行くなどの露骨に勘違いさせるような行動は慎んでいる。結局学校の女子には嫌われているが、ボーダー関係で良き関係を結んでいるのでそれほど気にしていない。基本的にボーダーでの人間関係は良好。加古隊や那須隊と仲が良く、隊室で小町も含めてプチ女子会を行っている(もちろん八幡は追い出される)。八幡に明言されているため自分がボーダー隊員だとは学校で明かしておらず、その様子を見るに昔のようにボーダーをアクセサリーやステイタスとしては見ていない様子。

 同じ学校の通うボーダー隊員はBBF『通っている高校分布図』の進学校にカテゴライズされている人たち。

 

 

比企谷小町

 

PROFILE(プロフィール)

ポジション:オペレーター

年齢:14歳

誕生日:3月3日

身長:154cm

血液型:O型

星座:みつばち座

職業:中学生

好きなもの:お菓子、ココア、兄

 

FAMILY(家族)

父(死別)、母(死別)、兄

 

PARAMETER(パラメーター)

トリオン:6

機器操作:7

情報分析:9

並列処理:6

戦術:6

指揮:6

TOTAL34

※TOTALはトリオンを抜いた数値

 

PERSONALITY(性格)

兄と比べるとコミュニケーション能力は頭抜けて高く、誰とでもある程度は仲良くなれる。ただ1人の時間も好きで八幡曰く“次世代型ハイブリッドぼっち”。やや頭が残念で、八幡はオペレーターはできないと思っていたが、やってみたら意外とできちゃったという天才肌な部分も持ち合わせる。元々ブラコン気質なところはあったが、大規模侵攻で両親を亡くしてからはさらに拍車がかかっていたが、ボーダーに入隊してからは緩和され、兄のお嫁さん候補を探すというぶっ飛んだ方向のブラコンに進化を遂げた。とは言え未だに兄への依存度は高く、八幡単独での任務などには強い抵抗を覚える。八幡と同じく自身や親しくしている人が理不尽な扱いを受けそうになると怒りが爆発することがある。

 

HISTORY(来歴)

 小学4年生時初冬に起こった第一次近界民侵攻により両親とは死別。結果として兄の八幡には異常な依存を見せていた。そのため八幡のボーダー入隊には当時大きく反対したが、自身も中学に上がる際にボーダーに入隊することを条件として取り付け了承する。八幡と隊を組むことが決定していたので、しばらくは兄の手引きのもと玉狛支部で戦闘訓練をしていたことがある。その際の仮想ネイバー戦闘訓練時に親を殺されたという強いトラウマから動けなくなってしまうことが発覚。戦闘員としてではなくオペレーターとしてのボーダー入隊に至る。なお仮想ネイバー戦以外の訓練や対人戦に関しては高い技術で行うことができる。

 

 ボーダー入隊後は兄を支えるため太刀川隊の国近にオペレーターとしての技術を教わりながら様々な人と親交を深め、今ではボーダー本部全員の妹のような立ち位置として皆に可愛がられている。ちなみに一番可愛がっているのは鬼怒田で、その可愛がりようは八幡でも多少引くほど。小町自身が一番懐いているのは師事した国近で、今でもよく太刀川隊の隊室に訪れて掃除をしたり、一緒にゲームをしたりしている。いろはとは同じあざとい属性同士ウマが合うよう。

 同じ学校の通うボーダー隊員はBBF『通っている高校分布図』より、武富、緑川、黒江。



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プロローグ

「高校生活を振り返って」
2年F組 比企谷八幡

青春とは嘘であり、悪である。
青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺く。
自らを取り巻く環境のすべてを肯定的に捉える。
何か致命的な失敗をしたとしても、それすら青春の証とし、思い出の1ページに刻むのだ。
例を挙げよう。彼らは万引きや集団暴走という犯罪に手を染めようと「若気の至り」という青春の証へと昇華する。
試験で赤点を取れば、学校は勉強するためだけの場所ではないと言い出す。
界境防衛機関が定めた警戒区域に侵入して注意を受けては、やれ度胸試しや大きなお世話などと宣う。
彼らは青春の二文字の前ならばどんな一般的な解釈も社会通念も捻じ曲げて見せる。彼らにかかれば嘘も秘密、罪科や失敗、果ては今の近界民に襲われている現状さえも青春のスパイスでしかないのだ。
そして彼らはその悪に、その失敗に特別性を見出す。自分たちの失敗を青春という免罪符を笠に着て取り繕う。
しかし彼らは、マイノリティに位置する者たちの失敗はただの失敗にして敗北であると断じる。さらにはマイノリティであること自体を悪であるとさえ言ってのけるのだ。
要はすべてマジョリティのご都合主義でしかない。
なら、それは欺瞞だろう。嘘も欺瞞も秘密も詐術も糾弾されるべきものだ。
彼らは悪だ。
ということは、逆説的に彼らのような悪の集団には溶け込まないマイノリティこそが正しく真の正義である。
結論を言おう。


青春という言葉の意味を履き違えた愚か者共よ―――砕け散れ。


放課後の一幕。

職員室の一角で、国語教師の平塚静は深々と溜息をつきながら、俺の作文を突きつけた。

 

「なぁ、比企谷。この作文はいったい何なんだ?」

 

手は小刻みなビートを机に刻み、足の貧乏ゆすりは止まる気配を見せない。明らかに苛立ちを隠そうともしていない。その態度は教師としてどうなのだろう。

 

「なんだも何も……先生の科した『高校生活を振り返って』をテーマとした作文ですが、何か問題でもあったでしょうか?」

自分に文才があるとは思ってないが、別にそこまで支離滅裂な内容を書いた記憶はない。

 

「大アリだ! 何故このテーマでこんな学校の存在そのものを否定した、犯行声明のような文章が書けるのだ? キミはテロリストにでもなるつもりか!?」

 

「別にそんなつもりはないですよ。この1年の高校生活を送ってきた中で俺が感じたことを、主観に沿って書いただけです」

 

「主観に沿って書いた結果がこれだとするなら、君の性格は相当に捻くれてるな。そんな螺子くれた性格をしているから、死んだ魚のような濁った目になるんじゃないのかね?」

 

失礼なことを言ってくれる教師である。人の性格と容姿を勝手に関連付けて貶すとは、なかなかに嫌な人だな。別になりたくてこんな目をしているわけじゃない。小中と学校という場の下劣さを見てきた結果こんな目になってしまったのだ。ボーダーに入って少しはましになったと言われているが。

 

「そんなに賢そうに見えますか、俺の目は?」

若干頭に来たためつい皮肉で返してしまう。

 

「小僧、屁理屈を言うな」

 

「小僧って……確かに先生の年齢から考えると俺は小僧ですけど―――」

 

生徒に小僧は無いんじゃないんですか。と続けようとしたが、突然伸びてきた先生の拳に言葉を止める。軌道から言って当てるつもりはないようなので、反射的に叩き落とそうとした手を止める。

 

「次は当てるぞ」

 

どうやら俺がわざと反応しなかったのではなく、反応できなかったのだと勘違いしている様子。あの程度のパンチなら、避けるのも捌くのも特に問題ではないが、問答を続けるのも面倒なので話を打切りにかかる。

 

「すみませんでした。書き直すので新しい原稿用紙を貰ってもいいですか?」

 

ここで終われればよかったのだが、そうは問屋が卸さないらしい。

 

「私はな、別に怒っているわけではないんだ」

 

……あー、面倒くさいパターンの奴だこれ。“怒らないから言ってごらん?”と同じ匂いを感じる。俺はかつてこの言葉を言った人間で怒っていなかった人を見たことがない。別役のドジと呼ぶには恐ろしい行いを笑って許せる来馬先輩が言ったなら話は別だろうが。

 

平塚先生は軽く溜息をつきながら懐から煙草を取り出すと、フィルターを軽くたたき口に咥える。躊躇いもなしにライターで火をつけ煙を吐き出す姿を見ながら、そもそも端とはいえ職員室内でタバコを吸うのはオッケーなのだろうかと考える。人の嗜好をとやかく言うつもりはないが、生徒も出入りする場で煙草とは少々常識が欠如しているように思えた。

 

「君は部活をやっていなかったよな?」

 

「はい、放課後はバイトをしているので」

 

正確に言えばバイトなんて生易しいものではない。既に死別した両親に代わって、一家の大黒柱を務めているのだ。しかも、曲がりなりにもA級部隊の隊長を務めている分仕事もそこそこ多い。まさかこの齢で立派な社畜になり果てるとは思ってもみなかった。

 

「友達はいるのかね?」

 

「未だに友達の定義ってやつがよくわからないんですが、良好な関係を築いた人ならいますね」

 

隊を組む前はいろいろな隊に出入りしながら防衛任務をこなしていた関係上、良くしてもらっている人はそれなりにいる。師事した迅さんや東さんなんかは、今でも本当に良くしてくれている。……迅さんのセクハラのせいで、俺が熊谷に怒られて迷惑をかけられることもあるが。

 

「嘘をつくな嘘を。君が校内で誰かと親しくしているところなぞ、見たことがない」

 

確かに俺は学校内ではぼっちに徹している。総武校の俺以外のボーダー隊員は学校側に隊員であることを伝えているが、俺はボーダーであることを生徒はおろか教師にすら伝えていない。と言うか、伝える必要がないと思っている。きちんと両立しているし、何より自分から面倒ごとの種を植える必要がない。ほかの隊員たちにも俺がボーダーだとバラさないことと、極力学校では話さないことを約束してもらっている。同じ隊の一色にすらボーダーだとバラさないようにと頭を下げたほどだ。

 

しかし、この教師は自分が見えている世界だけが真実だとでも思っているのだろうか。だとしたら精神年齢が小学生で止まっているのではなかろうか?

 

「学校内でいないからと言って、学校外でもいないとは限らないでしょう?」

 

「常識的に考えて、君のような目の腐った男を相手にする物好きがいるわけないだろう」

 

それはあんたが勝手に定めた常識だろう、と心の中で毒づく。

 

「それで、彼女とかいるのか?」

 

「いませんが……というか話の先が見えないんすけど、結局作文はどうなるんですか?」

 

うんざりした顔を隠すつもりもなく先を促す。防衛任務まではまだ時間はあるが、この教師と話しているくらいなら隊室で書類仕事していた方がましだ。

 

先生は俺の態度に若干顔を顰めながら、煙草を灰皿に押し付ける。

 

「ふむ、そうだな……とりあえず作文は書き直せ」

 

やっと終わると安堵しながら耳を傾ける。

 

「しかし君の心無い言葉や態度は私の心を深く傷つけた。よって君には奉仕活動を命じる。異論反論は一切受け付けない」

 

いやいや、言葉や態度でいえばあんたの方がよほど生徒に向けるべきものではないし、そもそも全くと言って傷ついていないでしょう、という言葉を飲み込む。

 

「内容にもよります。この後バイトがあるので、あまり時間を取られるようなことならお受けできませんが」

 

「バイトを盾にして逃げるつもりだろうがそうはいかん。着いてきたまえ」

 

言うが早いか先生は立ち上がる。この教師は自分の物差しでしか物事をはかれないのだろうか。人の都合を全くと言って考えていない様子を見て、何故彼女程度の人間に教えを請わなくてはならないのかとさらに学校が嫌になった。

 

「早くしないか」

 

その高圧的な態度にさらにうんざりしながら、俺はノロノロと先生の後を追った。




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とにかく比企谷八幡は理詰めで攻め立てる。

平塚先生、雪ノ下へのアンチを含みます。

許容できる方は本編をお楽しみください。


「着いたぞ」

 

先生に連れてこられたのは、本校舎と渡り廊下を通じて繋がっている特別棟の一室。何の教室かを示すプレートには空白が刻まれている。

 

俺が訝しげにプレートを眺めていると、先生はその用途不明の教室の扉をカラリと開けた。

 

乱雑に積み上げられた机と椅子が目に付く教室後方。人が常駐することを拒むようなその教室の中で、1人少女が陽光を背に受けながら本を読んでいた。その空間を切り取って競に出せばいくらか価値が付くのではないかと思えるぐらい、その光景は絵画染みていた。

 

少女は静かに本を閉じて顔をこちらに向ける。

 

「平塚先生。入室の際はノックを、と何度もお願いしていたはずですが?」

整った顔立ちに綺麗な黒髪。間違いなく美少女と言っていい風貌だろう。昔の俺なら見た瞬間キョドっていたことだろう。

 

「ノックをしても君は返事をした試しがないじゃないか」

 

「それは先生が返事を待たずに入ってくるからですよ」

 

俺は後ろから先生に冷ややかな視線を送る。やはりこの教師に社会常識は備わっていないようだ。今時小学生ですらノックくらいできる。

 

「それで、そのぬぼーっとした人はどちら様ですか?」

 

「新入部員だ。比企谷、自己紹介しろ」

 

「2年F組の比企谷八幡です。……てか、は? 入部ってなんすか? 俺は奉仕活動って聞いてついてきたんですけど」

 

「異論反論は受け付けないといっただろう。君にはふざけた作文を書いたペナルティとしてここでの部活動を命じる。君の腐った根性と孤独体質を改善したまえ」

 

「大きなお世話です。それに放課後はバイトしてるって言いましたよね? 部活をやってる時間なんてないですよ。職員室での会話をもう忘れているのであれば、若年性健忘症の恐れがありますよ?」

 

俺の皮肉に先生は青筋を立てている。おー、怖い怖い。

 

「……彼はこのようにひん曲がった根性をしている。彼の捻くれた孤独体質の更正が私の依頼だ。雪ノ下、請けてくれるか?」

 

あー、こいつが雪ノ下か。奈良坂と学年主席争いをしていたから名前だけは知っていたが。

 

「お断りします。その男の下卑た視線に晒されていると身の危険を感じます」

 

およそ初対面の人間に向ける言葉じゃないだろうそれは。こいつ菊地原並みに口が悪いな。

 

「俺がいつそういった類の視線を向けた? 自意識過剰なんじゃねーの、お前」

 

俺の発言にムッとしたのか、目を細めながら雪ノ下はこちらを睨む。

 

ゆきのした の にらみつける!

はちまん は ぼうぎょりょく が さがった!

 

いや下がんねーよ。二宮さんや三輪に睨みつけられたわけじゃあるまいし。

 

「あら、違ったかしら。あなたの腐った目は直視が難しいから、感情を読み違えてしまったようね」

 

酷い言い草である。先生は俺に構うより自分やこいつの性格の改善に努めた方がいいんじゃなかろうか?

 

「はいはい、そーですかー」

面倒になった俺は適当に返事をする。

 

いつまでもこんな問答を繰り返すつもりは無いため、早いところ抜け出すために口を開こうとしてふと思い出す。

 

「そういえば先生。まだここが何部なのか伺ってなかったですけど、この部の部員はこの雪ノ下だけですか?」

 

「そうだが。それがどうかしたか?」

 

「生徒手帳に記載されている部活動の要項に“生徒3名以上の在籍が認められない場合活動を禁ずる”ってあったと思うんですけど、この部は本当に部として承認を受けているんですか?」

 

学校で読む本がなくなって、暇つぶしに読んでいた生徒手帳にそんなことが書いてあった。部員3名以上で同好会、5名以上で部としての活動が許されるともあったから、ここは同好会ですらないはずだ。

 

「何故君が生徒手帳のそんな細かいところを読んでいるのかは知らんが、その辺は顧問の私が生徒会に了承を取っている」

 

「そうですか。……先生、ちょっと電話をかけてもいいですか?」

この時間なら生徒会室に綾辻がいるはずだ。いいかげんこのふざけた茶番劇を終わらせるために手を打とう。

 

「別に構わんが、誰に電話をかけるつもりかね」

怪訝な顔で先生と雪ノ下が俺を見る。

 

「いえ、ちょっと先生の発言の確認を取ろうと思いまして」

 

言うが早いか俺はスマホを取り出し綾辻にかける。スマホをスピーカーモードにして準備完了。そういえば俺から綾辻に電話するのはこれが初めてだな。

 

コール音が2、3教室に響いて電話が繋がる。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『もしもし』

 

『すまん綾辻。今大丈夫か?』

 

『うん、大丈夫だよ。比企谷くんからかけてくるなんて珍しいね、何か急用?』

 

『ちょっと部活動のことで聞きたいことがあるんだ。平塚先生が顧問をしているやつなんだが、分かるか?』

 

『……ひょっとして奉仕部のこと?』

 

『そんな名前だったのか。まぁ、その奉仕部とやらがなんで部員1人なのに承認されているのかが聞きたいんだ』

 

『うーんと、私はその場にいなかったから伝え聞きなんだけど、最初は活動内容は不明瞭だし、部員も1人しかいないからって断ってたみたいだよ。だけど平塚先生に押し切られる形で承認しちゃったって城廻先輩が言ってた』

 

『分かった。それともう一つ。教師の裁量で生徒を強制的に部活動に入れることってできるか?』

 

『それは無理かな。各部活の顧問の先生は入退部届を受理する権利は持っているけど、届けを出すかは生徒の自由だからね。生徒会も入部届が出されていない生徒の部活動への参加は原則認めていないから』

 

『そうか、ありがとう。時間取らせて悪かったな』

 

『ううん、なんで比企谷くんがこんなこと聞いたのかは聞かないけど、お役に立てたならよかったよ』

 

『悪いな、今度経緯を説明する』

 

『うん、分かった。それじゃあね』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

電話を切り、一色に対して素早く『奉仕部』とだけメールを打っておく。こうしておけば、しばらくしてここに一色がやってくるだろう。

 

先生が信じられないものを見るような目で俺のことを見ていた。いや、ちゃんと知り合いいるっていったよね?

 

「君は綾辻と知り合いなのかね?」

 

「それなりに仲の良い知り合いですね」

さすがに先生が吹聴して回ったりはしないだろうと思い、素直に答えておく。いや、この教師ならやりかねないか?

 

「嘘は止めなさい。あなたどんな手を使って綾辻さんを脅しているのかはわからないけど、今すぐ止めないと通報するわ」

 

どうやら雪ノ下も綾辻のことを知っているらしい。まぁ綾辻はボーダーの広報や生徒会をしているし、有名人だわな。

 

「どうぞご自由に。さっきの電話の様子を聞いて俺が脅してると感じたなら、お前は今すぐ耳鼻科か精神科を受診することをお勧めするぞ」

 

俺が苛立ち交じりに告げると、雪ノ下は唇を噛み締め睨みつけてくる。こいつの技構成はちょうはつとにらみつけるしかないようだ。

 

「まぁ、先生もさっきの綾辻の話、聞きましたよね? 先生には俺を強制入部させる権限はないそうですよ。そもそも先生が立ち上げたこの奉仕部と言う部活も、先生が強引に作らせたようなものじゃないですか。そんな小学生が秘密基地を作るような感覚で創設された部なんて、俺は入りませんよ」

 

「しかし、これは君へのペナルティとして―――」

 

「作文を書き直すといっている時点でペナルティもくそもないでしょうに。それに何度も言っているように、俺はバイトをしてるんで部活やってる暇はないんですよ」

 

「所詮遊ぶ金欲しさのバイトだろう? そもそも君のような人間が本当にバイトをしているかなぞ、疑わしいものだがな」

 

今の発言にはさすがにカチンと来た。理詰めで諦めさせようかと思っていたが、作戦変更して強硬策を取ろうとしたその時、開いたままの教室の扉から1人の少女が入ってきて言い放った。

 

「いいかげんにしてください」

 

意外と早いご到着ですね、一色さん。




今回の部分はプロットの段階でものすごい量の地の文が入っていたので、削るのが大変でした。

次回は一色いろは大暴れ(仮)

それでは、次話でまた。


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難なく、一色いろはは非常識人を叩き潰す。

奉仕部強制入部騒動のその2です。

前回に引き続き、平塚先生、雪ノ下へのアンチを含みます。

許容できる方は本編をお楽しみください。


突然の乱入者に、思考が追い付いていないのか固まる先生と雪ノ下。まぁ、いきなり全然関係ない(実際は俺がここに呼び寄せたのだが)生徒が現れたら処理しきれなくもなるか。

 

その一方で俺は、熱くなりかけた頭が急速に冷やされていく。というか、隣で2人を睨む一色から放たれる冷気のせいですけどね。火照った身体を冷ましてくれるなんて、さすがいろはす! ……いや、冗談言ってる場合じゃねぇや。

 

「よぉ、一色。意外と早く見つけてくれたな」

本当速すぎだろう。メールしてまだ5分そこらしか経ってない気がする。

 

俺が普段の調子で声をかけると、一色は2人を睨むのを止めこちらに顔を向ける。剣呑な空気は鳴りを潜め、大きく頬を膨らませている。お前はフグか。

 

「よぉ、じゃないですよ先輩! いきなり“奉仕部”なんて訳分かんない単語をメールで送らないで下さいよ! 何のことか分かんなくてワチャワチャしちゃいましたよー、ワチャワチャ」

 

顔の前で奇妙なジェスチャーをしながら提議の言葉を口にする一色。

 

「あざとい」

バッサリ切り捨てる。いつものことである。

 

「あざとくないです! まったく、メールしても全然返事ないですし、友達も奉仕部なんて知らないっていうしー。最終的に綾辻先輩に電話して、急いできたんですからね?」

 

携帯を確認してみると、確かにメールが3件来ていた。というか一色さんや。1件目のメール、本文に『は?』としか入ってないんですが。普段のあざとさ抜群のメールはどうしたの?

 

「悪かったよ。ちょっと身動き取れない状態だったんでな」

 

「はぁ、別にいいですけどねー。……どうやら原因はそこのお二人のようですし」

 

「まあな、元の火種を作っちまったのは俺だけど、勝手に人のことを入部させようとしてきやがって……まったくもって面倒だ」

 

一色は俺の発言に「はー、そんなことになってたんですかー」と興味なさげに答えながらも、剣呑な雰囲気を纏いながら先生と雪ノ下を見やる。

 

その視線にに晒されてか、はたまた時間の経過によるものかは定かではないが、ようやく2人は再起動したようだ。

 

「君は―――1年C組の一色だったか? 君とその男の関係は知らないが、今この場で君は部外者だ。出て行ってくれるか」

 

目を見つめながら、先生は一色に対して言外に『出ていけ』と告げる。それを受けた一色は、冷ややかな視線を送りながら静かに言い放つ。

 

「……確か『君のような人間が本当にバイトをしているかなぞ、疑わしいものだがな』でしたっけ?」

 

「は?」

 

「先ほど、愚かな教師が私の慕う先輩に向けた言葉です。私はこの発言に対して、先輩の正当性を主張する証人としてここにいます。立派な関係者ですよ」

 

何が琴線に触れたのかは分からないが、どうやら一色は結構ご立腹のようだ。と言うか一色は俺のことを慕っているなら普段の行いをもっと改めろ。

 

「……どういう意味だ?」

先生は顔に青筋を浮かべ、声には怒気をはらませている。

 

「私は、先生曰く『しているかも疑わしい先輩のバイト』先の後輩です。これは先輩がバイトをしている証明になりますよね?」

 

ぶっちゃけ完全な証明にはなってないだろうが、そもそも先生の主張が破綻しているのだ。一色の援護に乗っかって、さっさとこんなところからおさらばしよう。そう考えていると、今まで黙っていた雪ノ下が何故か俺を睨みながら口を開く。

 

「先ほども言ったけれど、女子生徒を脅して自分の都合のいいよに現実を捻じ曲げるのは止めなさい。あなたのそれは人道を大きく踏み外しているわ」

 

「的外れな正義感を振りかざして自分に酔ってんじゃねぇよ。他人を見た目だけで判断して罵倒してるお前が人道を語んな」

 

俺が雪ノ下の罵倒に応戦している横で、一色は顔を伏せて「あなたもそっち側ですかー」と呟いている。どうやら一色は雪ノ下が部外者なのか敵なのか測りかねていたらしい。顔を挙げた一色はこちらを見ながらにっこり微笑む。

 

「せんぱい、せんぱい。私、まさか噂に聞く雪ノ下先輩が、こんな目の前の事実も受け止められない、自分の価値基準でしかものを見ることができない残念な人だとは思いませんでしたよー」

 

「喧嘩を売っているのかしら、一色さん」

 

「だってそうじゃないですかー。さっきのやり取りが先輩に脅されてたように見えたなら、雪ノ下先輩は今すぐ耳鼻科か精神科を受診した方がいいじゃないんですかー?」

 

小馬鹿にしたような一色のセリフは、奇しくも俺が先ほど雪ノ下に言い放った発言と似通っていた。うーむ、一色の煽りスキルが俺と似てきているな。比企谷菌に感染しちまったか……なんか言ってて悲しくなってきた。

 

というか、一色が来てから小競り合いが酷くなってる気がする。呼んだのは間違いだったか? そろそろ本当に防衛任務に遅れそうなのだが。そう思いながら一色にアイコンタクトを取りながら先生に告げる。

 

「本当にバイトに遅刻しそうなんすけど、いい加減帰ってもいいですか?」

 

「あっ、本当ですね。さすがにそろそろ向かわないと」

 

「待て! これはペナルティだと―――」

 

「先生に俺を強制入部させる権限はない。この奉仕部とやらは先生の道楽みたいなもの。俺はバイトをしていて放課後に時間はない。証人として一色もいる。おまけに先生は俺のことを孤独体質だの勘違いしていましたが、さっきの電話の綾辻やこの一色など、普通に仲が良い知り合いもいる。どこにも貴重な時間を割いて部活に入るメリットが無いです」

 

そうキッパリ言って先生と雪ノ下に背を向け歩き出す。

後ろでまだごちゃごちゃとうるさい2人を無視しながら扉を出て振り返ると、まだ一色に2人が突っかかっている。面倒くさい奴らだと心の中で毒づいていると、一色の一言で場が静まり返る。

 

「先輩はバイトで必要な人ですし、私個人の意見を言うと、お二人のような性格破綻者のいる部活に先輩を入れたくありません」

 

言い放った一色は呆然としている2人に背を向けて教室の外に出る。2人は口をパクパクさせながら虚空を見つめている。

 

「行きましょう、先輩」

 

「あぁ、行くか」

俺は後頭部をガリガリ掻きながら、静かになった特別棟の一室を後にする。

 

「あー、ありがとな、一色」

この“ありがとう”は何に対してなのだろう? 俺が言いたかったことを言ってくれたことに対してか。それとも俺を必要だと言ってくれたことに対してか。

 

「えー、なにがですかー?」

そう言った一色の顔は、いつものあざとい笑顔だった。

 

 

これで一色まであの教師に目をつけられるんじゃないかという危惧はある。そうなった場合、俺は全力で一色を守ることを心に誓った。




いろはは前話の先生のセリフ「しかし、これは君へのペナルティとして―――」のあたりで奉仕部前に到着しています。そのため雪ノ下の罵倒を聞いておらず、本話の雪ノ下の言葉を聞くまで敵か味方かの判断をしあぐねていました。

次話でいったん防衛任務の様子、隊室での様子を描いた後、奉仕部強制入部騒動の続きに繋がる予定です。

それでは、次話でまた。


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比企谷八幡は嵐の間に束の間の安息を得る。

遅くなってしまい大変申し訳ありません。

今回漸くワートリ側にも触れることができました。
楽しんでいただけると幸いです。


『ほぇー、なんか来るのが遅いと思ったらそんなことになってたんだー』

 

話を聞かない似非熱血教師と、毒舌と睨むしか能のない厄介な女。そんな2人から解放された俺と一色は、現在警戒区域南西で防衛任務に当たっていた。小町と通信しながら、俺は廃屋の上で寝そべり、傍らで一色も座り込んでいる。今はトリオン兵が出てくるまでの小休止といったところか。

 

「まぁな。ったく、面倒くさいったらありゃしない」

 

「ホントですよー。先輩は助けてあげた私にもっと感謝してくださいね?」

 

「いや、お前もなんだかんだ火に油を注いでたじゃねぇか……」

一色が止めを刺してくれたおかげで抜け出せたのは事実だが。

 

『というか、お兄ちゃんはなんでそんなとこに連れてかれることになっちゃったのさ? さすがに何もしてないのに連れてかれたわけじゃないんでしょ?』

 

「うーむ、俺の書いた作文が火種ではあるんだろうが、正直難癖付けてた感じがするな。そもそも騙されて連れていかれたようなもんだったし」

俺の言葉や態度が先生を傷つけたってことへのペナルティとか言われた気がするが、よっぽどあの教師の言動の方が人を傷つけ得るものだった。

 

『えー……なんでそんなのが教師してるの?』

 

「さぁな。まぁ何のドラマや映画に感化されたかは知らんけど熱血教師を気取った残念な先生だったな」

 

熱血教師っていうのはフィクションだから許されるのであって、現実にいても唯々ウザいだけだ。生徒の為とかほざきながら、そっちの都合を押し付けてくるのは害悪以外の何物でもないし、そういうことをほざいてる教師に限って、自分に酔っている場合が多い。

 

「あー、教室での言い草も酷いものでしたしねー。在りもしない権力振りかざしたり、こっちの都合を考えない言動とったり。少なくとも尊敬できる人格では微塵もなかったですね」

 

「概ねその通りだな」

 

『……ホントなんでそんなのが教師してるのさ?』

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

その後も俺と一色が平塚女史をボロクソに酷評していると、小町からストップが入る。

 

『はーい、2人ともストップ! 誤差3.37で門が開くよー。イライラはトリオン兵にぶつけちゃってね♪』

 

「はいよ。種類と数は?」

 

『バムスターが6体、モールモッドが3体だね』

 

ここからじゃ図体のデカいバムスターは丸見えだが、モールモッドの姿が確認できない。ちょっくら確認してくるか。

 

「了解―――」

言うが早いか、俺はグラスホッパーで飛び上がり、モールモッドの位置を確認して元の場所に着地する。向かいの廃屋の裏手にいたため、俺じゃ射線が通りにくいな。

 

「数に問題なし。一色は向かいの廃屋の裏手にトマホーク投げ込んどけ。それでモールモッドは片付く。バムスターは俺がやっとく。ここからでも当たるし」

 

俺はのそのそとコチラに向かってくるバムスターたちに向けて計6発のライトニングを放つ。弾は問題なく弱点である口の中に吸い込まれていった。……やはり極力動きたくない俺からすればスナイパーは天職だな。楽できることは良いことだ。

 

「片付けたぞ」

 

「こっちもすぐ終わらせます」

 

そう言う一色の手には、すでにトマホークが出来上がっていた。こいつも段々合成するのが早くなってきたな。最初やった時なんて30秒以上かかってたのに、今ではほんの数秒ほどになっている。なんだかんだ出水を師事させたのは大正解だったな。

 

一色が放ったトマホークは、台形を描くような軌道で俺が指示した廃屋の裏手に着弾した。振り返った一色はこちらにあざとさ満開の笑顔を向けながら「お仕事しゅーりょー!」とか宣っている。いやまぁ時間的にも終わりだろうが、気を抜き過ぎではあられませんこと? ……なんか脳内の口調が訳分からんことになってた気がする。単純にきめぇ。

 

「小町、レーダーにトリオン兵の反応はあるか?」

自分の脳内のキモさに辟易しながら小町に尋ねる。撃ち漏らしはないと思うが、新たに出現することもあるので一応。

 

『んーん、問題なし! きれいサッパリ片付いてるよ! さっすがお兄ちゃんといろはさんは良いコンビだね♪ あ、今の小町的にポイント高い!』

 

「はっ! 今小町ちゃんに良いコンビだって言われてカップルの方がいいとか思っちゃいましたかごめんなさい一瞬私も考えましたが冷静になるとやっぱりまだ無理です」

 

「……はいはいそーですか」

 

何故告白してないのに俺は振られているのだろうと、若干げんなりしながら返事をすると、小町と一色はブーブー文句を言ってきた。が華麗にスルー。千葉のお兄ちゃんなれど、俺は妹や後輩の尻には敷かれんぞっ! 高坂さんとことは違うのだ、フハハハハッ! ……やっぱ俺の脳内がおかしい気がする。学校での一件で変にストレスでも溜まってるんだろうか。

 

俺がしょうもないことに思考を割いていると小町と一色のお小言がやっと終わったようだ。

 

『――お兄ちゃんったらまったく……まぁいいや。それよりそろそろ交代の時間だよー。引き継ぎ先はえっと……那須隊だね』

 

那須隊か。別に苦手ではないがあの隊服は曲者だ。一回直視してしまうとなかなか目が離せなくなって、最終的には小町や一色にものすごく蔑んだ目で見られる羽目になっちまう。男の性だから許してほしいところではあるが……。そんなことを考えていると下から声をかけられる。

 

「比企谷くん、いろはちゃん。お疲れさま」

 

「うっす」

 

「お疲れ様です、玲さん!」

 

道路に目を向けると那須と熊谷が立っていた。熊谷が那須の後ろで右手を挙げて挨拶しているので、俺も手を挙げて簡単に挨拶として返す。後ろから物音がしたので振り向くと、日浦が俺たちがいる廃屋に上ってきたところだった。

 

「お疲れ様です! 比企谷先輩、いろはさん」

 

「おー、お疲れ」

 

「茜ちゃん、お疲れさま!」

 

那須と熊谷が俺と、日浦が小町と同級生と言うこともあってか、うちの隊と那須隊はそこそこ仲が良い。それこそ、うちの隊室でしょっちゅう女子会を開いている程に。……俺? 俺は毎回追い出されている。うちの隊員はもっと隊長を敬った方がいいと思います。……今更だな。

 

一色は日浦と何やら話しているので、俺は廃屋をを降りて那須と熊谷のもとに向かう。熊谷に言っとかなきゃいけないこともあるし。

 

「引き継ぎご苦労さん」

 

「ううん、比企谷くんこそご苦労様。目がいつもより大変なことになってるよ?」

 

「目は元からだっての。今日はほとんどトリオン兵出てこなかったからそんな疲れてないはずだしな」

 

まぁ目が普段より酷いのは間違いなく学校の一件のせいだろう。やっぱ結構ストレスになってたんだな。

 

「それならいいけど……」

 

「心配してくれてありがとよ。っと、そういえば熊谷はこの前誕生日だったよな。おめっとさん」

 

「えっ、あ、ありがとう」

 

「比企谷くん、くまちゃんの誕生日知ってたんだね」

 

「まぁな」

というか、小町と一色が熊谷の誕生日会に行くって話をしていたのを偶然聞いたから知ったわけだが……もちろん俺は呼ばれなかった。

 

「プレゼントも用意してあるから、手が空いてるときにでも連絡してくれたら渡しに行くぞ。小町や一色が世話になってるし、迅さんが迷惑かけたりもしてるから、まぁその礼ってことで」

 

用意したプレゼントはランニングシューズ。身体を動かすのが好きって言う発言からのチョイスだが、正直この選択が正解なのかは俺自身分からん。ちなみにサイズは小町情報。熊谷の誕生日プレゼントを買うって言ったら喜んで教えてくれた。

 

「先輩、くまちゃん先輩にもプレゼント用意してたんですねー」

後ろでいつの間にか一色が冷めた目を俺に向けている。いつ来たんだよ。っていうかお前にもちゃんと誕生日プレゼント渡しただろうが。

 

「んだよ。お前にもちゃんとやったろ?」

 

「そーですけどー! そーなんですけどー!」

何やら文句言いたげな感じでブーブー言っている。

 

そんな中、熊谷がおずおずと訊いてきた。

 

「そ、それじゃあ明日でもいい? 私が隊室まで取りに行くから」

 

「じゃあ明日持ってくるわ。明日は防衛任務もないから隊室でボーっとしてると思うし」

 

「わ、わかった」

 

「あ、それと俺、熊谷の誕生日しか知らないんだが、良かったら那須と日浦のも教えてもらっていいか? 那須や日浦にも世話になっているし」

 

俺がそういうと熊谷は大きく溜息を吐き、小さい声で「分かってたけど……分かってたけど!」と言っている。後ろでは一色が「先輩はそんな感じですよねー」と溢している。……俺なんか変なこと言ったか?

 

「私は6月16日だけど……」

 

「私は7月7日、七夕です!」

気が付くと日浦も廃屋から降りてきていた。

 

「ん、了解。なんか用意しておく。それじゃあ、俺たちはそろそろ戻るわ。すまんな、長々と話しちまって」

 

「ううん、私たちは大丈夫。それじゃあね」

 

「あぁ。一色、帰るぞ」

 

「はーい、せんぱーい♪ それじゃあ失礼しますね、玲さん、くまちゃん先輩、茜ちゃん」

 

俺たちは、漸く本部へ足を向けた。

 

 

隊室に帰り着いた後はおおよそ普段通りに過ごした。マッ缶を飲んで、報告書をこさえ、ストレス発散で米屋をランク戦で細切れにし、マッ缶を飲んで、サイゼで飯を食べて帰宅し、マッ缶を飲んだ。え? マッ缶飲み過ぎ? ……知らんな。強いていつもと違うところを挙げれば、小町が終始ニヤニヤしてたり、一色が若干不機嫌だったことくらいか。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

翌日。相も変わらず学校という名の牢屋に投獄された俺は、粛々と勉学に励む。何のトラブルもなく午前の授業を終え、誰とも言葉を交わさない超健全ぼっちライフの末に辿り着いた学校のオアシスことベストプレイスでパンをもっさもっさしていると、響いている校内放送が耳に入った。

 

『―――繰り返す。2年F組 比企谷八幡。1年C組 一色いろは。至急生徒指導室にまで来るように』

 

午後の授業を前にして、トラブルは口を開けてこちらを待ち受けていた。……いや、“TOLOVEる”なら大歓迎なんですけどね。

 




八幡が熊谷の誕生日会に呼ばれなかったのは、男一人だと肩身が狭いんじゃないかという、那須隊側の配慮から来ています。

次話では再び奉仕部強制入部騒動となる予定です。一応この騒動は一旦落ち着きを見せることとなります。

それでは、次話でまた。


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つまり平塚静は滑稽な道化師である。上

大変お待たせして申し訳ありません。

アニメが始まるダンロンの復習をしていたら、思った以上に熱中してしまいました……。

前回、次話で奉仕部入部騒動が落ち着きを見せる、と言ったのですが、内容を大きく変更したため上下または上中下とさせていただきます。

それでは、どうかお楽しみください。


俺こと比企谷八幡、そして後輩であり部下でもある一色いろはは現在、生徒指導室で先生たちと顔を合わせて座っている。

 

……そう、“先生たち”とだ。

 

俺と右隣の一色に相対するように向かいの席に腰を下ろしているのは、俺たちを呼び出した張本人である平塚女史、そしてその左隣、つまり俺の正面には紳士然とした髭を蓄えた初老の男性、この総武高校の学校長その人が座している。

 

昼休みに訪れた突然の呼び出し。要件も告げられていない一方的な要求。当然無視することも考えたが、あの教師は今回無視してもあの手この手で絡んでくるのは目に見えている。だったらここで鼻っ柱をへし折っとこう、と意気込んで乗り込んだ生徒指導室には、厄介な似非熱血教師にプラスして校長まで登場していた。どうやら平塚先生が話を有利に進めるために招き入れたようだが……これ完全に悪手だろう。

 

「―――。そして彼らは昨日、教師である私や2学年主席の雪ノ下雪乃に対して暴言を浴びせました。これは由々しき問題です!」

 

先ほどから平塚先生は、俺や一色が如何に問題のある生徒なのかを校長に向かって力説している。その内容は、確かに昨日の俺や一色の行動だ。だが、そこに至るまでのプロセスを完全無視して、自身の都合のいいように話をつなぎ合わせている。全容を知っている者からすると、親に問い詰められて嘘を塗り固める小学生の薄っぺらい言い訳にしか聞こえない。

 

昨日の出来事で平塚女史に目を付けられるのは、ある程度予想ができた。というか、昨日の口ぶりからしてそのうち絡んでくるのは明白だった。だったらその時に二度と絡みたくなくなるよう叩き潰せばいいと踏んでいた。

 

しかしこの状況は完全に予想外、というか、するわけがないと考えていた。万が一この校長も人の話を聞かずに人を貶すような輩だった場合は、自主退学も視野に入れなければならない。だが、巻き込んでしまったのが俺である以上、一色に被害が行くのはなんとしても回避せねばなるまい……まぁ、さすがに学校を任されている身である校長がそんな人だとは思っていない。この教師は、自分で自分の首を絞めていることに全く気が付いていないのだ。ここまでくると怒りを通り越して哀れみすら覚える。

 

「しかも彼らは、私の指導から狂言を使って逃げ出し、さらには私や雪ノ下雪乃に対して“性格破綻者”とまで言ってのけました。このまま彼らを放置するのは、我が総武高校の品位を下げる要因となりえます!」

 

なおも平塚先生による俺たちへのネガティブキャンペーンは続いている。ヒステリックに騒ぎ立てている様子は、とても教師とは思えない滑稽な姿だ。隣の一色も最初は先生を睨みつけていたが、呆れたように溜息を吐いている。

 

「よって私は、今回のペナルティとして彼らを私の管理する部活動に参加させ、指導を行っていきたいと考えています!」

 

漸く、熱血(笑)による一方的な扱き下ろしが終わった。正直欠伸が出そうなほど退屈な話だったな。

 

さて、ここからどう校長が動くか、それによって俺や一色のとる行動も変わってくる。もし仮に、万が一、億が一校長が平塚先生側の場合俺はどう動くか、と思考を回転させていると、腕を組み目を瞑って平塚先生の話を聞いていた校長が、静かに目を開きゆっくり平塚先生に問うた。

 

「ふむ……平塚先生。さっきおっしゃっていた比企谷くん、一色くんの狂言とはどういったものですか?」

 

それは当然の疑問だと思う。なぜなら先生はバイト云々の話を一切出していない。平塚先生は自分に都合のいいように、そしてなるべく俺たちに悪印象を与えられるように昨日の出来事の至る所を端折っている。要するに『俺たちがバイトをしている』と言うのを嘘として簡略化し、俺たちの“問題になりそうな発言”のみを抽出して話しているのだ。しかも狂言と言うのは完全に先生の決めつけで、実際に俺と一色はボーダーで働いている。

 

問われた先生は若干苦々しい顔を覗かせながら答える。

「それは……バイトをしているというものです。さらに一色はその嘘を真実にするかのように幇助しました」

 

その発言を聞いて一色が体を乗り出しかけるのを手で制する。

 

「……それを狂言だと決めつける根拠は何です? 理由もなしの決めつけではありませんのでしょう?」

 

先生はさらに苦々しく顔を歪めながら告げる。

「彼のような性根の腐った者を雇うことなどあり得ません。それに彼らはバイト先についてまったく口に出しておらず、この2点が2人の話に信用性がないことを示しています」

 

2点目については確かにそう思わなくもない俺だが、1点目は完全にあんたの主観だろう。頭の螺子がぶっ飛んでんじゃなかろうか、このクソ教師は。

 

「ふむ、そうですか……」

 

それきり校長はしばらくの間口を噤んだ。顎に手を当てたり、斜め上の虚空を見つめたりと、何かを考えている様子に、俺を含めた3人は口を開かない。生徒指導室には一時の静寂が訪れる。

 

漸く校長が口を開いたとき、掛けられている壁掛け時計は昼休憩終了5分前を示していた。

 

「平塚先生、昨日の出来事の当事者が1人足りないようです。雪ノ下くんのことも呼んできていただけますか?」

 

「……承知いたしました」

平塚先生は少々の困惑を顔に張り付けながら答えた。

 

「それとここにいる両名、そして雪ノ下くんの次の授業担当者に欠席するとも伝えてもらえますか?」

 

「……分かりました」

 

そう言って平塚先生は教室を出て行った。

 

「ふむ……どうも平塚先生は君たちを悪者にしたいように感じられますね」

 

平塚先生が出て行ってすぐのその発言に俺と一色は息を呑む。

 

「先ほどの平塚先生の話には、至る所に穴が開いているように感じました。はっきり言って説明になっていません。まるで小学生の言い訳です。ですので、君たちの口から昨日の出来事を話してもらえますか? 僅かな時間ですが人払いもできましたしね」

 

校長は、紳士然とした見た目とは裏腹の茶目っ気を感じさせる雰囲気でこちらに問いかけてくる。

 

“まるで小学生の言い訳です”

その一言は、俺が即座に校長を信用するにたりえる言葉だった。この人は決め付けや感情で判断する人ではない。聡明だ。そしてどこか俺と似たような思考をしている。一色も似たような感情を覚えたのか、平塚先生に向けていた呆れ顔から一変して真剣な眼差しを校長先生に向けている。

 

「あぁ、授業については安心してください。こちらの都合で出席できなくなってしまうので公欠扱いにしますし、必要なら補講も行いますよ。君たちなら公欠にするのもさほど難しくありませんし」

 

最後の発言には少々引っかかるところはあったが、それでもありがたい申し出である。特に気にせず話をさせてもらおう。

 

「ありがとうございます。それじゃあ校長先生、おr……私から話させてもらいます」

 

「俺、で構いませんよ、ボーダー本部A級5位 比企谷隊 隊長の比企谷八幡くん」

 

「……はぇ?」




元々の予定では、最初から雪ノ下も同席している予定だったのですが、そうなると話し合いにならなかったので、雪ノ下は非参加という形を取らせていただきました。

それでは、次話でまた。


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つまり平塚静は滑稽な道化師である。中

お待たせしました。
奉仕部入部騒動完結編 中となります。

それではお楽しみください。



校長の一言で、口からは驚きの声が漏れた。唐突に事実を突きつけらたことで一瞬言葉に詰まったのだ。とは言えそれは一瞬のことで、ちょうどいいタイミングで鳴った午後の授業開始のベルが気持ちを落ち着かせてくれた。

 

俺の先の反応に校長先生は口元に苦笑を浮かべている。チラと目を向けた一色に至っては顔を伏せて身体を震わせて笑いをこらえている。……俺の間抜けな反応を差し引いても一色は笑い過ぎだな。後で天誅を下そう。

 

そんな一色への罰は後で考えるとして、なおも苦笑を浮かべている校長先生に視線を戻して切り出す。

 

「……何で知ってんすか?」

 

俺の言葉に一瞬目を細めながら校長は反応を示す。

「ふむ……もう少し狼狽えるかと思いましたが、存外立ち直りが早いところを見ると予想は付いているんじゃないですか?」

 

図星をつかれて若干顔を顰めると、校長は苦笑ではない笑いを覗かせる。微笑を漏らしてこちらに問いかけてきた校長の姿は、悪い人ではないのだろうが意地が悪いというか。老成した容姿や言動の裏側には、何か思惑が見え隠れしているように感じる。

 

俺が先の言葉への返答として「なんとなくは」と返すと、校長はさらに口元は笑みを深め、目は続きを催促しているような雰囲気に満たされる。

 

「……いくら俺個人が隠そうとしても隠し通せることじゃ無いのは感じていました。総武高校はボーダーと提携してますし、ボーダーから学校に情報が入ってくるのは自明の理です。ましてや学校のトップである校長先生のもとには一般教師より多くの情報が入ってくると考えれば、俺のことを知っていてもおかしくはないはずです」

 

想像も大いに含んだ発言だが、てんで的外れと言うことはないだろう。総武校とボーダーが協力しているのは間違いのない事実だ。どのような協力関係に両者があるのかは俺の知らないところだが、総武校の身体測定にトリオン能力測定も含まれているのは、明らかにボーダー側のメリットの一部だろう。そういったことを考えると、両者間で情報の共有が行われていても何ら不思議はない。

 

俺が示した答えに校長は首を縦に振って頷く様子を見せた。

 

「概ね比企谷くんの言う通りですね。ボーダーとの情報窓口は教頭先生に一任してますが、共有は教師間で行われてます。私の方でも本校生徒内のボーダー隊員の情報には目を通していますので、もちろん一色くんが比企谷くんの部下と言うのも把握していますよ」

 

そういうと校長は一色の方に目を向ける。向けられた本人は「先輩のことがバレてた時点で、そりゃあ私のこともバレてますよねー」とケロッとした態度。

 

校長は俺に視線を戻すと、人差し指を一本立てて俺の頭頂部を指さしながら話を続ける。

 

「もっとも比企谷くんに関しては、総武高校が提携を結ぶ際に視察で訪れたボーダー本部で見かけたことがありますので、君が総武校に入学する前から知っています。君の特徴的な髪の一部はずいぶんと印象的でしたので」

 

どうやら俺のアホ毛はずいぶんと記憶に残りやすいようだ。自己主張の激しいアホ毛に対して軽く溜息が出る。

 

「……校長先生の話を踏まえると、教職員は俺たちがボーダー隊員であるという情報を共有してるはずです。だとしたら平塚先生の態度はおかしくないですか?」

 

平塚先生の態度が俺たちをボーダーだと把握した上のものなら、正直頭がおかしいとしか言いようがなくなる。

 

「ふむ……彼女は知らないはずです。教師間で情報の共有がされているとは言いましたが、正しくは“一部の”教師間で、となります。信用に足らないと私が判断した者には、ボーダーから受け取った情報の一切を渡していません」

 

そう断言した校長はなおも言葉を続ける。

 

「一部生徒からは平塚先生へのクレームが上がっています。それに加えて普段の態度や注意の無視などで教師たちからの評価も相当に低い。残念ながら信用できる部分がありませんのでね」

 

校長の言葉にげんなりする。おそらく昨日俺にやったような行いを他でもやっているのだろう。クレームも来て然り、信用などされるはずもない。ここまで言われるということはよっぽどなのだろう。

 

校長は心中を吐露し終わると左手の腕時計をチラと見やり、手を大きく打ち鳴らすことで仕切り直しをはかる。予想以上の大きな音に俺と一色が揃ってビクッと反応すると、苦笑しながら「すみません」と謝を示し、口火を切る。

 

「話しが大分脱線してしまいました。本題に戻しましょうか。比企谷くん、一色くん。昨日の出来事をお聞かせくださいますか?」

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「ふむ……」

 

昨日の職員室と連れていかれた教室での出来事を粗方話し終えると、校長は澁顔をさらした後、考えるように目を伏せた。

 

別段それほど長い話でもなかったので、途中に一色の補足が入ったことを入れても、ほんの数分程のことだったとろうと思う。その数分の話だけで、一色は平塚女史への憤慨を再発させ、俺は俺で嫌悪感をを露わにし、校長も思うところがあったのだろう。

 

「申し訳ありません。比企谷くんの皮肉や一色くんの暴言など、本来であれば問題にしなくてはいけない部分はありましたが、今回の件に関しては先に火種を作ったのは平塚先生と雪ノ下くんです。2人の気持ちなど微塵も理解できかねますが、学校の代表者として謝罪させてください」

 

しばらく沈黙を貫いていた校長先生が沈痛な面持ちの頭を下げ発した言葉に、俺と一色は揃ってゆっくりと頭を振る。

 

「校長先生が謝罪することはありません。学校とかボーダーとか以前に、問題があったのは2人の人間性なんで」

 

「先輩の言う通りです。これはあの2人に謝ってもらわないといけないことですよ。……謝ってもらったところで許すかどうかは別問題ですけどー」

 

俺と一色の弁に校長は「早まったことをしました」と、意はない様子を示した。

 

「しかし平塚先生はともかく、雪ノ下くんまでそんなことを言っていたんですか……。これは教師間にある“雪ノ下雪乃は品行方正な生徒である”という考えも見直さなければならないですね……」

 

校長先生は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐きながら気持ちを落ち着けているように見えた。

 

「……話は概ね理解しました。2人はもう退室してもらって構いません。後のことは私に任せてもらえますか?」

 

「分かりました。……ただ一つだけ。俺たちはあの2人とはもう関わり合いになりたくありません。その辺のことを取り計らってもらえますか?」

 

俺の言葉に横の一色もブンブン首を縦に振っている。赤べこかよ。

 

「……了解しました、私の口から伝えておきます」

 

了承を取った俺は「ありがとうございます」と校長に頭を下げ、教室の出口に向かう。一色も続くように立ち上がっている。

 

扉を開け一色と外に出てから中を振り返り「失礼しました」というと校長は「時間とご迷惑を取らせてしまい申し訳ありませんでした」と再度頭を下げて謝罪を告げる。軽く首を振ってから、生徒指導室に校長を残して扉を閉める。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「校長先生は話の分かる人でよかったですねー」

 

一色が呑気な声で告げてくる。

 

「平塚先生みたいなタイプの方が少数派だろ。現に教師間でも嫌われてるって話だし」

 

軽い雑談を交えながら教室へ戻るための階段の方へ足を向けると、タイミング悪く平塚先生と雪ノ下が階段を下りてきている。後ろの一色がすぐに殺気立ったのが分かった。

 

「貴様ら、どこへ行く?」

 

開口一番生徒に向かって貴様と言い放つ教師とか、そりゃあ嫌われて当然だな。

 

「俺たちの話し合いは終わりました。生徒指導室で校長先生が待ってますよ」

 

そういって俺と一色はやーやーやかましい平塚先生と、こちらを睨みつけている雪ノ下を無視して階段を上って行った。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

2人と離れても殺気をまき散らす一色を何とかなだめてから別れ、2年F組の近くまで来てふと気づく。今入ったら無駄に注目集めんじゃん。

 

「はぁ、サボるか」

 

教室を前にしてUターンを決めて、俺はのっそりと誰もいないだろうベストプレイスへ向かって歩き始めた。

 




最初は校長先生の頼みということで八幡が平塚先生、雪ノ下の監視役として奉仕部に入部するパターンも考えていたのですが、せっかくなら思い切り原作と乖離させてみようと思い今の形として落ち着きました。

それでは、また次回。


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つまり平塚静は滑稽な道化師である。下

お待たせしました。
奉仕部入部騒動完結編 下となります。

今回も例に漏れず強烈な平塚先生へのアンチを含みますので、お嫌いな方はプラウザバック推奨です。

大丈夫と言う方は、お楽しみください。


「貴様、校長に何を吹き込んだ?」

 

4限目を丸々ベストプレイスでサボった後、5,6限は普通に受けて迎えた放課後。熊谷へのプレゼントを家へ取りに戻ろうと教室を後にすると、廊下では般若のような形相を浮かべた平塚先生が待ち構えていた。

 

放課後を迎えたばかりの現在、廊下は部活へ向かう者や帰途に着く者などで溢れ返っている。昇降口への道を塞ぐように立つ平塚先生を迷惑そうに避ける生徒がいる一方、好奇心を揺らされたのかこちらを注視している生徒もいる。……このクソ教師、目立ちたくないってのに無駄に注目集めるようなことしやがって。

 

「別に……先生が自分に都合の良いように改変した昨日の出来事を正しく話して、ちょっとしたお願いを校長先生にしただけです」

 

「お願いだと?」

 

顰めっ面を隠すことなく告げる俺に、先生は怒気を孕んだ声で問いを返してくる。

 

「ええ、昨日からことあるごとに絡んでくる厄介な教師をどうにかしてほしかったもんで」

 

あっけらかんと言い放つと平塚先生の顔はさらに憤怒に染まり、般若を超えて鬼神のようの表情となる。そのまま何やらぶつぶつ呟いている先生を見ながら、いっそ興奮のし過ぎで気絶したりしてくれないかと考えてみたりする。駄目? そっすか。

 

「用がそれだけなら俺にもやることがあるんで帰りたいんですが」

 

なおもぶつぶつ呟く先生を無視してド直球に要求を伝える。まぁこんなんで簡単に解放してくれるとは昨日の件を踏まえて微塵も思っていないが。

 

俺の発言を受けて平塚先生は鬼神の形相の中に嘲りを含めるといった器用な表情を浮かべながら俺のことを鼻で笑った。

 

「はっ、お前のそういった狂言は飽き飽きだ。貴様のような信用のない社会不適合者が戯言をぬかすな!」

 

今の先生の言で『残念ながら信用できる部分がありませんのでね』と言う校長の言葉が頭を過った。信用のない社会不適合者はどっちなんだか。

 

「ぷっ、信用ねぇ……」

堪えきれずに漏れ出した侮蔑の笑いに平塚先生は剣呑な雰囲気を強めながら訝し気な視線をよこす。それに対し「何でもありません」と答えておく。どうやら先生は校長を含めた教師陣から信用を得られていないということに気が付いていないようだ。だとしても今の言葉はあまりにも滑稽が過ぎる。

 

「で、本当に要件は何なんですか? 最初の質問の答えはお答えしたとおりですが」

 

逸れそうになる話を本題に戻す。不毛な口論を続けててもしょうがないし、未だにこちらを注視している生徒がいる。話を進めてとっとと帰るに限る。

 

「……貴様、そして一色には私と雪ノ下への謝罪、そして罰則として奉仕部への入部を命じる」

 

「嫌です」

ノータイムで拒絶の言葉が吐き出される。

 

この先生は馬鹿なんじゃないだろうか。俺にしろ一色にしろ、多少言い過ぎた部分があったのは校長にも言われていたことだ。だがまず謝るべきなのは先生側である。しかもまた罰則入部などとほざいているが、これじゃあ言ってることが昨日と同じ。堂々巡りで話にならない。

 

「というか、校長先生の人柄から考えて俺のお願いは聞いてもらえたと思うんで、先生は俺への接触に制限が掛けられていると思うんすけど……」

 

俺の言葉に先生はピクリと反応を示した。どうやら図星のようだ。どうしようもないな、この教師。

 

呆れを多分に含んだ視線を向けながら口を開く。

 

「周りの言葉を無視して勝手な自己判断で動く。自分の価値基準でしか物事を測れない。癪に障ることを言われれば生徒に向かって手を挙げる……先生の正確な年齢は知らないですけど、何年も教師をやっていて自分のやっていることの愚かさに気付かないんすか?」

 

最大級の軽蔑を込めて先生に言い放つ。

 

煽るように。見くびるように。嘲るように。蔑むように。侮るように。そして、憐れむように。

 

先生は唇を戦慄かせ、拳を握りこんで小刻みに震わせている。あと少しでも刺激が加われば爆発してしまいかねない様子だ。

 

それでも俺の口は止まらない。溜まりに溜まった鬱憤を晴らすように言葉を紡ぐ。

 

「人のことを信用が無いだの社会不適合者だの宣う前に、自分自身の行いを振り返ってみたらどうですか? 滑稽な道化の平塚先生」

 

言い終えて、いくらかスッキリした面持ちで先生を見やる。刹那―――。

 

「―――比企谷あぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

獣の咆哮のような怒号を響かせながら、平塚先生は5歩分ほど開けていた俺との距離に踏み込む。射貫くようにこちらを睨みながら、右腕は後ろに引き絞られ、今にでもぶん殴るといった体勢だ。俺の視界に収まっている野次馬連中は、息を呑む者、小さく悲鳴を上げる者など、様々な反応を示している。そんな野次馬の中でこちらに心配げな視線を送る綾辻と三上を発見しながら、俺は身体を操る。

 

距離を詰めてくる先生に向かってこちらも踏みこんで、引き絞っている右腕を難なく掴み捕った。驚き目を剥いている先生を無視して、そのまま腕を捻じって関節を極める。

 

あっけなく制圧された平塚先生は「離せっ!」だの「教師にこんなことしていいと思っているのかっ!」などとやーやー煩い。いやいや、先に殴り掛かってきたのあんただからな。

 

溜息を溢しながら口を開こうとした、その時。

 

「ふむ……これは一体どういうことですか? 平塚先生」

 

声のした方を振り返ると、鋭い視線を平塚先生に向ける一色と、蓄えた口髭を弄りながらこちらを見やる校長が立っていた。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「さて、仕切り直しです。平塚先生、先ほどの一件はどういうことですか?」

 

場所は変わって校長室。俺の拘束から強引に逃れた平塚先生が口を開こうとする中、「まずは場所を移しましょう。ここは人目に付き過ぎる」という校長の一言により、ここまでやってきた次第である。

 

上座には校長先生となぜか俺が座っており、下座には平塚先生が1人で座っている。一色は、心配そうに俺を見ていた綾辻と三上への説明役として離席してもらった。

 

「……校長も先の一件で私が比企谷に拘束されていたのを見たと思います。比企谷は教師に暴力を振るうような人間なのです。やはりきっちりと更生しないと我が校の―――」

 

「平塚先生」

 

平塚先生が捲し立てようと口を回すのを、校長は名前を呼ぶことで止める。先生に向ける目からは冷酷な意思が感じられる。

 

「私は昼の話し合いの際に、“平塚・雪ノ下両名は、比企谷・一色両名に対して授業外での接触を禁じる”と明言したはずです。それを踏まえた上でもう一度問います……平塚先生、先ほどの一件はどういうことですか?」

 

威圧感が込められた校長の問いに、平塚先生は答えを窮してだんまりを決め込む。軽い放心状態と言っていいだろう。

 

要するに校長は“比企谷が平塚に暴力を振るった”ことではなく、“自身の明言を無視して平塚が比企谷に接触した”ことについてが訊きたいのであろう。……まぁ俺の暴力っていうのも、飛び掛かられたから取り押さえただけなのだが。

 

校長はしばらく平塚先生に視線を向けていたが、返答を示さない平塚先生に呆れたのか、首をゆっくりと振り、こちらに視線をよこす。

 

「申し訳ない、比企谷くん。……私もまさかここまで平塚先生が愚かだとは思っていなかった。全容を知っているわけではないが、平塚先生がどんなことをしたのかは、大よそ見当がつく。また、迷惑をかけてしまった」

 

「いえ、校長先生が悪いわけじゃないです。注意されてからほんの4,5時間で注意を破るなんて誰も想像できませんから」

 

単純に平塚先生が誰の想像をも超えるほどに自分勝手だっただけだ。正直誰の手にも終えなかったと思う。

 

校長は「そうですか……」と申し訳なさをにじませながらもそれ以上の言及はしてこない。しばらく顔を伏せながら何事かを考えるようなしぐさを見せると、校長室には静寂が訪れた。外から聞こえる部活に励む生徒たちの声とは裏腹に、痛いほどの沈黙の時間が続く校長室。

 

それを破って、校長が再び平塚先生を呼んだ。

 

「ふむ……平塚先生」

 

「……はい」

力のない返事を先生は返した。

 

「今回の一件、あなたは比企谷くんの学校生活だけを切り取って勝手に彼の人間性を決めつけて貶し、自分の描く絵空事のために利用しようとしました。私たち教師は生徒を導く立場であって操る立場ではないというのに」

 

「……はい」

なおも先生の返事に力はない

 

「そして今回の件だけではなく、他の件でも私のもとにクレームが来ています。さらに、私も含めた教師間の評価は低い。それらすべてを踏まえて、平塚先生には減給6ヵ月の懲戒処分を下します」

 

「…………」

先生の返事はない。

 

「もちろん昼に言った通り、比企谷くん、一色くんへの授業関係以外での接触は禁止します」

 

俺は平塚先生をに目を向ける。虚ろな瞳を校長に向ける先生の姿は、先ほど鬼神のような形相を浮かべていた先生とは似ても似つかないほどに生気が感じられない。

 

「最後に、処分期間中に問題を起こしたり、処分期間を終えても行いに改善が見られなかった場合―――」

 

そこで言葉を区切った校長は、少しの間をおいて平塚先生を断罪した。

 

「平塚先生を不適格教員として教育委員会に訴え出ます」

 

校長の言葉を耳にした平塚先生の表情は俯いてしまって伺うことができない。

 

響きからして大分大ごとな気はするが、残念ながら俺の辞書は不適格教員の意味を示さない。なんか重い処罰だと思っておこう。……若干平塚先生が不憫に思えてきた……まぁ、自業自得か。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

その後すぐ、俺は校長から退室の許可をもらって一色と合流した。綾辻と三上は仕事があり、ちょっと前に別れたとのこと。ずっと俺の心配をしていたみたいで、一色が簡単に事情を説明すると、珍しく憤慨する様子を見せたらしい。後で謝っておこう。

 

一色にも心配かけて悪かったと謝ったところ「はっ! 素直なところを見せて普段とのギャップ萌えを狙っちゃった感じですかごめんなさい一瞬トキメキかけましたが冷静になるとやっぱり気持ち悪いです」と罵られた……解せぬ。

 




ここで平塚先生に退場されてしまうと、今後の話展開の都合上困るので、今回こういった落としどころとさせてもらいました。

実際に不適格教員(指導力不足教員ともいうらしい)と言うものは存在しているらしいのですが、細かなことに関しては私の知識不足のためわからない部分が多いです。簡単に説明すると、生徒に対しての指導力、また保護者への対応力などに難のある教師だそうで、認定を受けてしまった教師は再教育施設に送られるそうです。そこで指導力向上を図り、期間を終えても改善されないようであれば免職処分となることもあるらしいです。

※あくまでネットの情報を軽く調べた程度なので鵜呑みにはしないでください。

次話では熊谷に誕生日プレゼントを渡す下りとなる予定です。


最後に謝辞を。
Schwarz Eisen様、毎話の誤字指摘ありがとうございます。
私のチェックの甘さゆえの誤字に時間を割いてしまい申し訳ありません。

読んでくださっている皆様。
いつの間にやらUAが35,000を超えており、書くためのモチベーションとさせていただいております。またお気に入り登録も700を超えており、ありがたい気持ちでいっぱいです。これからも皆様に楽しんでいただけるよう頑張っていきますので、お読みいただければ幸いです。

それでは、また次回。


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やはり給仕は隊長の仕事ではない。

お久しぶりです。
いろいろとごたごたが発生していたのですが、漸く片が付きそうなので投稿を再開します。楽しみにしてくださっていた皆さま、遅くなってしまい大変申し訳ありません。

今回は短いですが、ワートリサイドのまったり話となっております。

それではお楽しみください。


 

「……何してんだ、熊谷」

 

熊谷への誕生日プレゼントをぶら下げながらやってきた俺を、我が隊室の前で右往左往する熊谷が出迎えた。

 

「へぁっ!? ひ、比企谷!? なんでここにいるの!?」

 

恥ずかしいところを見られたからか、熊谷が顔を真っ赤に染めながら凄んでくる。といっても元がいいせいか、どんな顔してても絵になっているんだが……イケメン、美人ってやっぱ得だな。つーか何をそんなに驚いてんだろう。

 

「なんでって……そこ俺の隊室だし、居てもおかしくないだろ。そもそもお前との約束もあるしな」

 

言いながら右手に握る袋を持ち上げる。熊谷は一瞬袋に視線をやりながらもごもごしている。

 

「それはそうなんだけど……隊室から灯りが漏れてるから、てっきり中にいるもんだと思って……」

 

目を向けると、確かに我が隊室の扉の下から細く光が漏れている。一色は今日は帰るとのことで駅まで送っていったため、大方小町が暇をつぶしているのだろう。

 

「大方小町が暇をつぶしてんじゃねぇか? つーか悪いな。俺が呼んだのに待たせちまったみたいで」

 

「それは良いんだけど……」

 

言いながら熊谷は軽く深呼吸をして平静を取り戻そうとしている。とりあえず俺はボーっとしながらその様子を見守った。

 

「すぅ……はぁ~。……よし、落ち着いた」

 

「さいですか……」

 

落ち着いたようなので軽く返事をしながら隊室の扉に手をかける。

 

「まぁ立ち話もなんだし入れよ。プレゼント渡してはいさようならってのもなんだし、茶くらい出すぞ」

 

「そう? じゃあ遠慮なくお邪魔させてもらうわ」

 

特に意義もなそうなので2人で扉を潜る。そんな俺らを迎えたのは、

 

「んにゃぁぁぁぁぁ!! また負けた! 柚宇さん少しは手加減してよっ!」

 

「そうっすよ。ちょっとは手加減してくれないと勝負になんないじゃないっすか」

 

「ふっふっふ~、強者はどんな時でも手を抜かないものなのだよ~。……おっ、比企谷くんと友子ちゃんだ~。お邪魔してるよ~」

 

ゲームに興じながら喧しい絶叫を上げている小町と、それに同調する出水、そしてこちらに気付いて手をフリフリする国近先輩だった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

ゲーム組がソファを占領しているので、一先ず熊谷には一色の机に座ってもらう。俺は絶賛飲み物準備中である。

 

「なんかすまんな、俺が呼びこんだのに喧しくて」

 

軽く詫びを入れると熊谷は「別に気にしてないよ。うるさいのも嫌いじゃないし」と応じてくれた。うるさいとは思ってんだな……。

 

「熊谷はコーヒーでよかったよな?」

 

言いながらカップを4つ用意して、ポットでお湯を注いで捨てながらカップを温める。……なんか最近うちの隊室が喫茶店染みてきてんだよな。大抵の飲み物、お茶菓子は常備してあるし、太刀川隊、加古隊、三輪隊、那須隊の連中なんかしょっちゅう来てるから好みもわかってきた。この前なんか鬼怒田さんが小町と戯れついでにコーヒー飲みに来たし……。そんなことを考えながら熊谷と出水のコーヒー、小町のココア、国近さんのミルクティーを入れ終わる。

 

「ん? コーヒーじゃなかったか?」

 

コーヒーは入ったが熊谷から返事がないのでもう一度確認を取る。

 

「あっ、うん。コーヒーで……」

 

「はいよ」

 

熊谷の前にカップを置く。

 

「ありがとう」

 

「……どういたしまして」

 

……うん、なんか恥ずかしくなって熊谷から顔を背ける。素直に礼を言われると恥ずかしくなる時ってあるよね……あるよな?

 

「……そっちの3人も、お茶用意したから」

 

ソファの前のローテーブルに静かに並べる。

 

「おー、お兄ちゃんありがとう!」

 

「サンキュー比企谷」

 

「比企谷くん、ありがと~」

 

とりあえず一仕事終えて自分の机にどっかり腰を下ろす。

 

「今更なんだけどさ」

 

そんな俺に向かって熊谷が口を開く。

 

「ん?」

 

「お茶入れるのって隊長の仕事なの?」

 

「……それを言ってくれたのはお前が初めてだよ」

 

やっぱこれ隊長の仕事じゃないよね!? いや、うすうす感じてはいたけども、いたんだけれどもね!?

 

「……慣れって怖いよな、熊谷」

 





次回もう一話まったり話を挟んで、俺ガイルサイドの話に戻ります。
いまいちワートリサイドの人間関係が把握しきれていないのが痛いところで、誰をどう絡ませるかに苦心しておりますが、早ければ明日にでも続きを上げられると思います。

それでは、また次回。


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