白猫プロジェクト~賢者と黒竜を従えし者~ (片倉政実)
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番外編
番外第1回 キャラクター設定


政実「どうも、片倉政実です」
リオス「どうも、リオスです」
政実「ここではリオス達、オリジナルキャラクター達の設定の紹介をしていきます」
リオス「色々なオリジナル要素がこれからも出てくるから、必要ではあるかもな」
政実「まあね。さて、そろそろ始めていこうか」
リオス「だな」
政実・リオス「それではどうぞ」


主人公名:リオス

 

性別:男

 

年齢:?

 

使用職 :剣士

アーチャー

ドラゴンライダー

 

好きな物:飛行島の仲間達、仲間達との会話

 

嫌いな物:<闇>の勢力、悪人

 

趣味:読書、武器の手入れ、竜の横笛の演奏

 

容姿:黒髪の短髪で、目は青色。

 

叶えられた願い:知識(賢者のルーン:ワイズ)

武器(剣、弓、竜槍)

黒竜(ネロ、ルーンリンガル、竜の横笛)

 

 

アストラ島出身のごく普通の少年だったが、夢の中で出会った自称変わり者の老人やアストラ島に調査に来ていた冒険者のカイルとの出会いを経て、現在は幼なじみのナギア達と共に大いなるルーンを探す旅をしている。

 

普段から落ち着いた性格をしており、飛行島の中では主にツッコミを担当することが多いが、他にツッコミが出来るメンバーがいる時は、ツッコミを任せるときも。仲間達の事を大切に思っているため、仲間達を過剰に傷つける者には一切の容赦をしない。

 

普段から武器を全て持ち歩いており、戦いの時にはその状況に応じて武器を入れ替えながら戦う。

 

基本的に冒険中は徒歩で移動するが、必要に応じてネロに騎乗しての移動をすることもある。

 

一人称は俺で二人称は相手に応じて呼び捨てかさんを付けて呼ぶ。

 

 

 

 

武器の説明

 

【ソードオブマギア】

 

武器種別:剣

 

属性:無(技によって変化する)

 

リオスが使用する武器の1つ。刀身は綺麗な銀色で、鍔には天使の羽を模した装飾があり、刀身と鍔の間には炎・水・雷・?・?の魔力を司る透明なオーブが埋め込まれている。

 

普段は無属性の剣だが、オーブの力によって刀身に魔力を宿したり剣自体から炎や氷などを撃ち出すことが出来る。その際にはオーブの色がその属性に対応した色に変化する。

 

 

 

【フルブレイクスラッシュ】

 

渾身の力を込めながら剣で切り付ける攻撃。

攻撃を受けた相手に一定の確率で防御力低下を付与する。

 

【フリージングスラッシュ】

 

オーブの水の魔力を刀身に宿すことで、相手に氷の斬撃を飛ばしたりやそのまま相手に氷属性のダメージを与えることが出来る。一定の確率で凍結の状態異常を付与する事がある。

 

【フレイムスラッシュ】

 

オーブの炎の魔力を刀身に宿すことで、相手に炎の斬撃を飛ばしたりやそのまま相手に炎属性のダメージを与えることが出来る。一定の確率で燃焼の状態異常を付与する事がある。

 

 

【ライトニングボルト】

 

オーブの力によって稲妻を発生させ、相手に雷属性のダメージを与え、一定の確率で感電の状態異常を付与する。

 

【バーニングウォール】

 

オーブに宿る炎の魔力を多量に放出する事で、一定のダメージ量までの相手の攻撃を一度だけ受け止められる壁を作り出し、壁の発生中に触れた相手に一定の確率で燃焼の状態異常を付与する事がある。

 

【ブルーヒーリング】

 

オーブに宿る水の魔力を刀身に宿し、それを光の粉のように対象へと放つことで、対象の体力を中程度回復し、状態異常を治癒することが出来る。

 

【オーシャンヒーリング】

 

オーブに宿る水の魔力を多量に刀身に宿し、それを光のように対象へと放つことで、対象の体力を大程度回復し、状態異常を治癒することが出来る。

 

 

 

 

【バアル・ベルゼ】

 

武器種別:弓

 

属性:無

 

リオスが使用する武器の1つで、両端に悪魔の羽を模した装飾が施されており、装飾の中心には様々な異常を司るオーブが埋め込まれている黒い弓。

 

こちらも普段はただの弓だが、戦いなどの際には使用者の意思に応じてオーブに籠められた力を矢に宿らせ、射抜いた相手に様々な状態異常を引き起こす。

 

 

 

【ヴェノムスナイプ】

 

オーブに籠められた毒の力を宿らせた矢を放つことで、射抜いた相手にダメージを与えると同時に毒状態にする。

 

【ヴェノムブレイクシュート】

 

オーブに宿る毒と防御力低下の力を宿らせた矢を放つことで、射抜いた相手にダメージを与えると同時に毒状態と防御力低下を付与する。

 

【エレクトリックスナイプ】

 

オーブに籠められた感電の力を宿らせた矢を放つことで、射抜いた相手にダメージを与えると同時に感電状態にする。

 

 

【グラントスピア】

 

武器種別:竜槍

 

属性:無(技によって変化する)

 

リオスが使用する武器の1つで、銀色の穂に銀色の斧のような刃を付けた青色の槍。他の2つ同様こちらにもオーブが埋め込まれており、その性質は周りの味方に様々な影響をもたらすというものだが、【ソードオブマギア】同様それを攻撃に転用することも出来る。

 

 

 

【ブレイジングソウル】

 

自身と周囲の味方の武器に炎の魔力を宿らせると同時に、その持ち主の攻撃力を増加する。

 

【ボルティックソウル】

 

自身と周囲の味方の武器に雷の魔力を宿らせると同時に、その持ち主の素早さ(移動速度と攻撃速度)を増加する。

 

【ブレイヴソウル】

 

【グラントスピア】に宿る三種類の魔力を同時に解放する事で放つことが出来る強化技。自身と周囲の味方の攻撃力・防御力・攻撃速度・移動速度を上げると同時にその対象の職業に対応した追加効果を付与する。

 

例)剣士……一定時間のカウンタースラッシュの威力の強化

魔導師……精神統一の付与

アーチャー……一定時間のチャージ時間の短縮

ドラゴンライダー……一定時間のスーパーアーマー状態の付与

 

【ブレイジングソニック】

 

【グラントスピア】を振るうことで発生させた衝撃波にネロのブレスを加えて放つ攻撃。更に攻撃を受けた相手に一定の確率で燃焼の状態異常を発生させる。

 

【ライトニングブレイク】

 

オーブに宿る雷の魔力を解放し、相手に勢い良く【グラントスピア】を振るう攻撃。一定の確率で相手に防御力低下を付与する。

 

【バーニングストライク】

 

オーブに宿る炎の魔力を解放し、相手に勢い良く【グラントスピア】を振るう攻撃。自身に攻撃力アップを付与すると同時に一定の確率で相手に燃焼の状態異常を付与する。

 

【ツインエレメンタルストライク】

 

リオスに秘められた?と?の魔力を解放する事で放つことが出来る攻撃。相手に?属性と?属性のダメージを与えると同時に自身にいずれかのステータスアップ、相手にいずれかの状態異常を付与する。

 

賢者のルーンなどの説明

 

 

【賢者のルーン:ワイズ】

 

リオスが自称変わり者の老人に語った願いによってもたらされた白色のルーンで、世界の様々な事柄(国の歴史や様々な文化、果ては魔物の生態や弱点など)について教えてくれる。

しかし、以下の事柄については制約に引っ掛かるため、ワイズ自身も説明をすることが出来ない。

 

・『未来に起きるであろう事象』

・『この世界の事では無い物など』

→これに限りリオス達とワイズがその物が元々存在していた世界を訪れた時には答えることが出来る。

・『アストラ島や<闇>など情報の封印がされているもの』

→知るためにはそのものに触れたり、それに関連した物などに出会うことで徐々に封印を解いていくこととなる。

 

性格は非常に穏やかで、会話の際は常に敬語と相手に敬称を付けている。ルーンのため性別はないが、声自体は女性のもので、ワイズ自身にも感情のようなものがあるため、持ち主であるリオスや仲間達の事を心配するそぶりを見せたり、時にはくすくすと笑って見せたりと人間と遜色ないほどの感情表現を見せる。

 

当初はリオスの服のポケットに入っていたが、バルラ島編からは、リオス達の冒険中はヘレナが作ったバッグの中に【竜の横笛】と共に入っており、何かの気配などを感じた時にはバッグの中からリオス達に知らせている。

 

 

【竜の横笛】

 

リオスが自称変わり者の老人に語った願いによってもたらされた黒い横笛。この笛にはトランシーバーのような装置が埋め込まれており、笛を吹くことで【ルーンリンガル】にその情報が伝達される仕組みになっている。

音色には竜の気持ちを落ち着かせる効果があるが、人や他の生物が聴いても穏やかな気持ちにさせる事が出来る。

 

 

 

 

【ルーンリンガル】

 

リオスの相棒の竜である【ネロ】が首に掛けている装置。

翻訳のルーンの力でドラゴンなどの生き物の言葉を人間の言葉に翻訳してくれる装置で、他にも【竜の横笛】から発せられた笛の音からその人物の位置を特定し、その位置をルーンリンガルを手に持っている、または首に掛けている者に伝えたりや横笛の音色をスピーカーから流したりとその用途は様々。

 

 

 

 

【黒竜】

 

名前:ネロ

 

性別:♂

 

好きなもの:飛行島の仲間達、自由、空を飛ぶこと

 

嫌いなもの:<闇>の勢力、悪人、不自由

 

趣味:昼寝

 

リオスが自称変わり者の老人に語った願いによってもたらされた黒竜。元々は1体だけで過ごしていたが、老人からの提案を面白そうという理由で承諾し、老人から贈られた【ルーンリンガル】から発せられた笛の音と位置情報を基にリオス達を見つけ出した。最初はバロン達に警戒されたものの、リオス達のおかげで誤解が解かれたことで仲間入りを果たした。

 

性格はとても明るく、初対面の相手でも構わず進んで話し掛けていく程のコミュ力を持つ。

 

基本的にリオス達の冒険に同行しているが、ついて行けない場所などが目的地の時は飛行島に残ることも。

 

ネロ自体の戦闘能力はそれなりに高いため、リオスが剣または弓で戦う時やリオスが戦えない時にはネロだけで戦うこともある。

 

 

使用技

 

【ドラゴニックフレイム】

 

高温の炎を相手へと吐き出す多段攻撃。一定の確率で相手に燃焼の状態異常を付与する。




政実「以上がリオス達のキャラクター設定です」
リオス「確か本編で情報が出る度に更新していくんだっけ?」
政実「うん。後、一応リオス達のCVとかも決めてたりはするけど、これに関しては希望があればここに追加していくつもり」
リオス「了解した。さて、そろそろ締めてくか」
政実「だね」
政実・リオス「それではまた」


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番外第1章 Divine Dragon's Saga~絆の竜騎士達~
第1話 ドラグナー達との出会い


政実「どうも、片倉政実です」
リオス「どうも、リオスです」
政実「本編の途中ではありますが、今回から番外章の投稿もしていきます」
リオス「番外章は基本的にイベントでの話になるんだよな?」
政実「うん。今回のDivine Dragon′s Sagaとか茶熊学園とかを書いてくつもり」
リオス「なるほどな」
政実「そして今回の話の時系列は、本編の第2章終了後を想定しています」
リオス「実際はまだ書き終わってないけどな」
政実「うん……でも今の内に書きたいやつのめどが立ったら書いてくつもりだよ」
リオス「了解。
さて……それじゃあ、そろそろ始めてくか」
政実「うん」
政実・リオス「それでは、第1話をどうぞ」


大いなるルーンを探す冒険の途中、俺はアジトの近くで相棒の黒竜であるネロと賢者のルーンであるワイズに笛の演奏を聴かせていた。

 

「~♪

……っと、こんなもんかな。ネロ、ワイズ、どうだった?」

『はい。いつもの通り、とても綺麗な音色でした』

「(だな。

……ただ、この音聴いてるとたまに眠くなってくるんだけどな)」

「そうなのか?」

「(ああ。

……と言っても、演奏がつまらないとかじゃなく、何か気持ちが落ち着いて来る感じだな)」

「気持ちが落ち着いてくる感じか……」

『ふむ……恐らくこの【竜の横笛】にはそういった作用をもたらす音色を奏でるための工夫が成されているのかもしれませんね。もっとも必ずその効果が表れるわけでは無いようですが』

「ああ、そうだな」

 

俺は返事をしながら、手に持っている【竜の横笛】を日の光に翳した。

(ワイズも武器達も不思議だけど、この横笛にもまだまだ分からないことが多いなぁ……)

そんな事をボーッと考えていた時、

 

「……ねぇ、みんな。飛行島に何かが近付いてきているわ」

 

近くにいたアイリスが遠くを見ながら俺達に声を掛けてきた。俺達はアイリスの視線の先に目を向けた。するとそこには、まだ小さな点のようにしか見えないものの、ゆっくりとこちらへ近付いてくる2つの姿があった。

 

「あっ、ほんとだ」

「鳥……では無いよな?」

「この距離であの大きさだから、もっと大きな物かもな」

 

俺達がそう話している内に、その点達と俺達との距離が縮まっていき、徐々にその姿が明らかになっていった。

 

「あれは、竜……か?」

「そう……みたいだな」

 

ナギアからの問いかけに俺はそう返した。点のように見えていたのは背に人を乗せた1匹の火竜と白竜だった。そして白竜と火竜が俺達の近くに着陸すると、白竜の背中に乗っていた少女がその背中から降りながら嬉しそうに言った。

 

「ふぅ~、良かった~! こんなところに足場があるなんて」

 

そして傍らの白竜の方へ顔を向けると、その背中を撫でながら優しくこう言った。

 

「貴女もずっと飛び続けて疲れたでしょう。よく頑張ったわね、ラピュセル」

 

白竜はとても気持ち良さそうに眼を細めながら、小さく鳴き声を上げた。

(……どうやら敵とかではないみたいだな)

少女達を見ながら俺がそう思っていると、キャトラが不思議そうな顔で少女達に話し掛けた。

 

「えっと……アンタ達はいったい誰なのよ?」

 

すると、

 

「む、申し訳ない。自己紹介がまだだったな」

 

火竜に乗っていた赤い鎧を身に纏った男性がそう言いながら俺達の前に立った。

 

「自分はゲオルグと申す者。ここより遠方の<竜の国>よりゆえあって参上した」

 

ゲオルグさんはそう言うと今度は少女の方へ体を向けてこう言った。

 

「そして、こちらにおわす方は、エクセリア・クルス王女殿下にあらせられます」

「えっと、初めまして! エクセリアといいます。こっちはラピュセルです」

「……」

 

エクセリアさん達が自己紹介をした後、それに続けて俺達の自己紹介を始めた。

 

「俺の名前はリオス、冒険家をやっています」

「俺はナギア、リオスと一緒で冒険家です」

「私はアイリスといいます」

「そしてアタシはキャトラよ。よろしくね、エクセリア」

「もう、キャトラ……相手はお姫様なのよ……」

 

アイリスがそう言うと、エクセリアさんはくすくすと笑いながらこう言った。

 

「大丈夫ですよ、アイリスさん。私は皆さんと年齢が同じくらいだと思うので、むしろキャトラさんのように話して頂いた方が私としてはとても嬉しいです」

「エクセリアさん……分かりました」

 

アイリスが微笑みながらそう言うと、キャトラが興味深そうにこう言った。

 

「それにしても、<竜の国>ねぇ。そんな国があったなんて知らなかったわ」

 

すると、

 

「ふん、見聞の狭い狭い奴め。所詮は愛玩されるだけしか能の無い種族というわけか」

 

火竜が鼻を鳴らしながらキャトラに対して冷たくそう言った。

 

「……で、このシツレイでエラソウなドラゴン様はどちらさまなわけ」

 

キャトラがムッとした様子で所々の言葉を強調しながら言うと、ゲオルグさんが申し訳なさそうな顔でこう言った。

 

「む、失礼した。こやつはカグツチ。少しばかり口は悪いが、これでも立派な自分の相棒だ」

「竜さんが相棒……それならリオスもそうだよね」

 

アイリスがクスッと笑いながらそう言うと、エクセリア達の視線が俺達に注がれ、ゲオルグさんが俺に質問をしてきた。

 

「ほう、そうなのか?」

「あ、はい。と言っても、出会ってからまだそんなには経ってはいないですけど」

「なるほどな」

 

そう言うとゲオルグさんとエクセリアはネロへと近づき、じっくりとネロの様子を見始めた。

 

「……ふむ、筋肉などの付きも良い。これはたいしたものだな」

「ふふっ、そうですね。

……あの、この子のお名前は何と言うのですか?」

「コイツの名前はネロ、見た目はちょっと怖いかもしれないけど、とっても良いやつなんだ」

「そうなんですね。よろしくお願いしますね、ネロさん」

「(おう、こちらこそよろしくな!)」

 

ネロがそう言うと、ゲオルグさん達はすごく驚いた顔でネロの首に掛かっている<ルーンリンガル>を見始めた。

(そういえばこれについて説明するのを忘れてたな)

そう思った俺はゲオルグさん達に<ルーンリンガル>についての説明を始めた。

 

「これは<ルーンリンガル>という物で、この中にある<翻訳のルーン>の力でネロ達の言葉が俺達にも分かるようになっているんです」

「<翻訳のルーン>……そんな物があるのか……」

 

俺の説明を聞き、ゲオルグさん達が<ルーンリンガル>を珍しそうに見ていると、

 

「……おい、ゲオルグ。そろそろ話を本題やドラグナーの事へ移したらどうだ?」

 

カグツチが少しイラついた様子でゲオルグさんにそう言った。

 

「あの……ドラグナーって何ですか?」

 

アイリスがそう訊くと、エクセリアが笑顔でドラグナーについて説明をしてくれた。

 

「<ドラグナー>とは、竜と人の絆を結ぶ者。そして竜と共に生き、竜と共に戦う騎士の事です!」

「我らドラグナーは、長らく行方不明だった『白竜』を追ってこの地へと来たのだ」

「白竜……白い竜さんですか?」

「はい。輝く鱗に純白の翼……生ける至宝と謳われた、とても気高く美しい、古の竜です」

「ふーん……でもそんなすごいドラゴンがいるなんて話、聞いた事が無いわねぇ」

「そうですか……」

 

キャトラの言葉を聞くと、エクセリアは落胆した様子でそう言った。

すると、その様子を見たアイリスがゲオルグさんに対してこう提案した。

 

「あの、よかったら私達に、その白竜さんを探すお手伝いをさせてくれませんか?」

「本当か! 君達!」

「はい。ね、みんな」

「ああ、もちろんだぜ!」

「困ってる人を放ってはおけないからな」

 

俺達がそう言うと、ゲオルグさんはとても畏まった様子で俺達にこう言った。

 

「……感謝する。君達から受けた恩義、決して無駄にはしないぞ!」

「そ、そんなに畏まらなくても……」

 

アイリスがそう言うと、

 

「騙されるでない、ゲオルグ。行き過ぎた善意の裏には、悪意が隠れているのが常。人間とはそういうものだ」

 

カグツチが俺達の事を見ながら冷たく言い放った。

(……ここまで人間に対して強い警戒心を持ってるなんて、カグツチと人間の間に昔何かあったのかな?)

俺がそう思っていると、キャトラがアイリスの腕の中からカグツチへと顔を近付けながらこう言った。

 

「アンタはイヤミしか言えんのかっ!

というかアタシ、猫だし!」

「ふん……嫌味などではなく、紛れもない事実だ」

「アンタねぇ……!」

 

キャトラが更に何かを言おうと、顔を近付けようとしたその時、

 

「もう。キャトラ、落ち着いて……」

「カグツチ、お前もその辺にしておけ」

 

そう言ってアイリスとゲオルグさんがキャトラ達の事を諫めてくれた。キャトラはまだ何か言いたそうにしていたが、アイリスの顔を見た後に1度深くため息をつくと、

 

「……分かったわよ」

 

そう言って大人しくアイリスの腕の中へと納まった。

(ふぅ……アイリス達のおかげで何とかなったな)

そう思い俺が胸を撫で下ろしていると、エクセリアが笑顔で俺達にこう言った。

 

「皆さん、本当にありがとうございます。このご恩は決して忘れません」

「ははっ、別に良いよ。それよりも、絶対に白竜を見つけ出してやろうな!」

「はいっ!」

 

俺達がそう言いながら笑い合っていると、ゲオルグさんが俺達の事を見回しながらこう言った。

 

「では、皆。改めてよろしく頼むぞ!」

「「「はい!」」」 「オッケーよ!」 「(おうよ!)」

 

こうして俺達のエクセリア達と共に白竜を探す旅が始まった。




政実「第1話、いかがでしたでしょうか」
リオス「ぱっと見いつもよりは短い感じだな」
政実「今回はそうだね。ただ、2話からはもしかしたらいつも並みにはなるかもしれない」
リオス「ん、了解。因みに番外第1章は何話構成なんだ?」
政実「予定では3話か4話になるかな。まあ、どちらにしても早めに更新していくつもりだよ」
リオス「分かった。
さて……それじゃあ、そろそろ締めてくか」
政実「うん」
政実・リオス「それでは、また次回」


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第2話 人と竜との絆と暗躍する者

政実「どうも、片倉政実です」
リオス「どうも、リオスです。今回もいつもよりは短めな感じだな」
政実「うん。たぶん次回もこれくらいか、これよりちょっと長いくらいになるかも」
リオス「ん、了解。
さて……他の話は後書きでやるとして、そろそろ始めてくか」
政実「うん」
政実・リオス「それでは、第2話をどうぞ」


 

エクセリア達と出会ってから数日後、ギルドの仕事の最中に白竜らしき竜の行方に関する情報を得た俺達は、その竜の目撃情報があった島を訪れていた。

 

「ここに私達の探している白竜がいるかもしれないんですね……」

「はい、恐らくは……」

 

ゲオルグさん達がそう話している間、俺達はワイズから島についての情報を訊くためにバッグからワイズを取り出した。

 

「ワイズ、この島で何か気を付けなきゃ無いことはあるか?」

『いえ、特にはございません。ですが……』

「ん、どうかしたのか?」

『少し離れた所より、何やら不穏な気配を感じるような気がします』

「不穏な気配……それって……」

「ああ……一応用心はしておこう。ワイズ、ありがとうな」

『いえいえ。また何かありましたらお呼びください』

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

そう言ってワイズをバッグへと入れた後、俺はワイズから聞いたことをゲオルグさん達に伝えた。

 

「不穏な気配か……それが何かは分からないが、確かに用心をしておいた方が良いかもしれぬな……」

「ああ。その気配とやらが奴らである可能性もあるからな」

「その通りだ」

 

そう言うとゲオルグさんは俺達の事を見回しながらこう言った。

 

「皆、何かがあるか分からぬ分、気を引き締めて進むぞ」

「「「「はい!」」」」 「分かったわ!」 「(おうよ!)」 「うむ」

 

そして俺達は件の竜を探すべく、島の中へと入っていった。

 

 

 

 

「はぁっ……!」

「これでっ……!」

 

そう言って繰り出した俺達の攻撃によって、魔物達が跡形も無く消え去った。

 

「……よし、これで良いな。皆、先に進もう」

「「「「はい!」」」」 「うんっ!」 「(おう!)」 「ああ」

 

そう返事をして再び島の中を進み始めた時、キャトラが俺とネロの事を見ながらこう言った。

 

「それにしても……ドラゴンに乗って戦う人なんてリオス達以外で初めて見たわ」

「そういえば……そうだな」

 

キャトラの言葉にナギアがそう答えると、

 

「ドラグナーの起源は、我らの祖先が竜の一族と盟約を結んだ事から始まったとされている」

「ですから、他の国や土地でドラグナーを見たことが無いのは当然かもしれませんね」

 

ゲオルグさん達がそうドラグナーについての説明をしてくれた。

 

「なるほどねぇ。あ、そういえば……」

 

そう言うとキャトラは身を乗り出しながらエクセリアに対してこう訊いた。

 

「エクセリアは王女さまなんだよね。こんなところにいて大丈夫なの?」

「え、えっと~、それは……」

 

エクセリアが困った顔でそう言うと、ゲオルグさんがため息を付きながらキャトラの質問に答えた。

 

「もちろん大丈夫などではない。何度もお止めしたのだが、どうしても、と頑なに聞き入れてもらえず……」

「強引に我らに付いてきたのだ。この子娘、大人しく見えてその実、とんでもないじゃじゃ馬よ」

「うう……でも、今回ばかりは私も引くわけにはいきません!」

 

ゲオルグさん達に対してそう強い調子で返すエクセリアを見て、キャトラが不思議そうにこう訊いた。

 

「えらく強気ねぇ。何か理由でもあるの?」

「……実は、私達が探している白竜というのは、この子――ラピュセルの母竜なんです」

 

エクセリアはラピュセルの事を撫でながら静かにそう言った。

 

「えっ、そうなの?」

「それじゃあ、エクセリアさんはラピュセルさんをお母さんに会わせるために……?」

 

アイリスの言葉に力強く頷くと、とても真剣な顔で俺達にこう言った。

 

「私、ラピュセルの為にも、白竜を無事に<竜の国>へ連れて帰りたいんです!」

 

そのエクセリアの姿を見て、ゲオルグさんは1度ため息をついてからこう言った。

 

「……はぁ、分かりました、姫様。その代わり、くれぐれもご無理はなさらぬようお願いします」

「正気か、ゲオルグ……どうなっても我は知らんぞ」

 

カグツチはゲオルグさんに呆れ気味にそう言った。そしてアイリスはエクセリアを手を取ると、力強くこう言った。

 

「一緒にラピュセルさんのお母さんを探しましょう!」

「みんな……ありがとう!」

「お礼なんて良いよ。俺達がやりたくてやることだからさ」

「リオスの言う通りよ。エクセリアの……仲間の為だし、気にしないでよ」

「そうそう。だから俺達の事をどんどん頼ってくれ」

 

俺達が微笑みながら言うと、エクセリアは顔をぱあっと輝かせた。

 

「仲間……はい! そう言ってもらえて、私、とても嬉しいです!」

 

そう嬉しそうに言うエクセリアに対して、カグツチはそっぽを向きながら静かにこう言った。

 

「仲間……何とも安い言葉よ。我が嫌う人間の言葉の1つだ」

「カグツチ、余計な事を……

む、これはもしやちょうど良い機会なのでは……?」

 

ゲオルグさんの様子を見て、キャトラが不思議そうな顔をしながらこう訊いた。

 

「どうしたのよ? まだ何かあるわけ~?」

「いや、何も問題は無い。皆、良ければこれからも姫様と良い関係を築いて欲しい!」

「言われるまでもなくそうするけど……急にどうしたのよ?」

 

キャトラからそう訊かれると、ゲオルグさんは静かな声でこう言った。

 

「……こう言ってはなんだが、姫様は御友人と呼べる方が殆どいないのだ」

「あ~、なるほどね。王女様だから、身分の違いで~ってやつでしょ?」

 

しかし、ゲオルグさんはキャトラの言葉に首を横に振った。

 

「いや、そうではないのだ。姫様は、その……かなりの竜好きでな……友と呼べる者は竜ばかりなのだ」

「ドラゴンが友達ねぇ……それならリオスと話が合うんじゃない? 同じくドラゴンが相棒であり友達なんだし」

 

キャトラがそう言うと、ゲオルグさんの眼が俺の方へと向いた。

 

「む……確かにそうだな。リオス殿は姫様と年もそう変わらないしな……」

「それにアタシ達は、もうエクセリアの事を友達だと思ってるわよ?」

「はい、キャトラの言う通りです」

「リオスやエクセリア程、ドラゴンの話は出来ないかもしれませんけどね」

 

キャトラ達がそう言うと、静かな声でこう言った。

 

「皆……本当にありがとう。そしてこれからもよろしく頼む」

「「「はい!」」」 「うんっ!」 「(おうよ!)」

 

そして俺達は再び白竜を探し出すべく、島の中を進んでいった。

 

 

 

 

「ふぅ~、結構遠くまで来たわね。流石に疲れちゃったわ」

 

島の探索を始めてから数時間後、キャトラが後ろを振り返りながらそう言った。

(確かにそろそろ疲れてきたかもしれないな……)

ナギア達の様子を窺うと、そこまで表には出していないものの、少しだけ顔に疲れの色が見えていた。

 

「そうですね……ラピュセル、大丈夫?」

 

エクセリアがラピュセルの背中を撫でながらそう訊くと、ラピュセルは少しだけ気持ち良さそうな顔をしながら鳴き声を上げた。それを見ながら俺もネロに声を掛けた。

 

「ネロ、お前もそろそろ疲れてきてないか?」

「(ん? ああ、確かに疲れてきてはいるが、これくらいならまだまだ大丈夫だぜ?)」

「そっか。でも、あまり無理はするなよ?」

「(おう!)」

 

俺達がそう話していると、ゲオルグさんが俺達の方を振り返りこう言った。

 

「皆、疲れているところすまないが、事は一刻を争う。今はとにかく先を急がねば」

「……あの、もしかして白竜さんの身に何か……?」

 

アイリスが心配そうに訊くと、静かにこう言った。

 

「……白竜は、<竜狩り>に狙われているのだ」

「竜狩り?」

「文字通り、我ら竜族を狩ることを生業とする下賎な人間共の事だ」

「高等な竜族の角や甲殻などは、貴重な素材として高く取引される。特に白竜は希少で個体数も少ない竜族。その価値は国一つに匹敵する。以前はそれで大規模な『白竜狩り』が起こり、その眷属の殆どが死に絶え……」

 

ゲオルグさんがそう言った時、エクセリアがとても哀しい顔でラピュセルのことを見ていた。そしてそれに気付くと、ゲオルグさんはすぐエクセリアに謝まり始めた。

 

「っ! も、申し訳ありません姫様! 姫様の気持ちも考えず、自分は……!」

「良いのよ、ゲオルグ」

 

エクセリアはゲオルグさんに優しくそう言うと、真剣な顔で俺達にこう言った。

 

「竜狩りは、竜を倒すことにその人生を捧げた残忍な狩人です。そんな竜狩りの魔の手から竜達を守ることもドラグナーの大事な使命なんです」

「奴らはまさに、人間の卑しい欲望を体現した連中よ。全く反吐が出る」

 

カグツチがそう吐き捨てるように言うと、キャトラが呆れた様子でこう言った。

 

「アンタってほんと口が悪いわね……」

「事実を言ったまでだ。竜は誇り高き種族ゆえ、人間のように嘘偽りを述べたりしない」

「あーはいはい。ソーデスネー」

 

そんなキャトラ達の会話を聞いて、エクセリアが小さく笑いながらこう言った。

 

「ふふっ、カグツチったら、すっかりキャトラちゃんと仲良しね」

 

(うーん、仲良しとはちょっと違うような……)

エクセリアの言葉に対してそう思っていると、キャトラがとても驚いた様子でエクセリアにこう言った。

 

「はい!? コレとアタシのどこが仲良しだっていうの!?」

「コレ……だと?

……小さき猫よ、竜狩りよりも先にお前が消し炭になりたいと見える」

 

カグツチが静かに怒りながらそう言うと、その様子を見たゲオルグさんが難しい顔をしながら呟くように言った。

 

「……皆がキャトラ君のように竜に理解を示してくれればな……」

「ゲオルグさん……」

 

俺達の中の空気が少しだけ沈んでいると、キャトラが明るい声でこう言い始めた。

 

「はいはい、何でも悪い方向に考えるのはやめましょ。冒険は前向きが一番よ!」

「キャトラ……

そう……だよな。悪い方向に考えるよりも、前向きに考えた方が絶対に楽しいしな!」

「ああ、そうだな」

 

俺達はお互いに笑いながらそう言った。キャトラの言葉のおかげで、少しだけ俺達の中に明るい空気が戻ってきたような気がした。

(これは後でキャトラにお礼を言わないといけないな)

そう思っていた時、エクセリアが俺達にこう言った。

 

「そういえば、皆さんは冒険家なんですよね。良いですね、何だか憧れます」

「アンタならいつでも歓迎よ。ラピュセルも連れてさ、一緒に冒険しましょうよ!」

「はい、是非お願いします!」

 

キャトラの言葉にエクセリアがそう元気良く返事を返したが、ゲオルグさんは難色を示しめながらこう言った。

 

「むう……御言葉ですが、姫様には<竜の国>で王女としての公務が……」

「もう! エクセリアだって子供じゃないんだからさ! 少しは本人の意思を尊重しても良いんじゃないの?」

 

キャトラからそう言われると、ゲオルグさんはハッとした表情になり、そして顎に手を当てるとこう言った。

 

「そ、そうか……言われてみれば確かにそうだな……」

 

そんなゲオルグさんの様子を見て、カグツチが静かにこう言った。

 

「かような小さき猫に説き伏せられるとは……ドラグナーも落ちたものだな」

「はっ! いかん、つい頷いてしまった……

むう、自分もまだまだ修行が足りないという事か……」

 

ゲオルグさんが呟くように言う中、キャトラが元気良く皆へと声を掛けた。

 

「ほらほら、先を急ぐんでしょ! 早く白竜を見つけなきゃ!」

「そうですね、行きましょう」

 

そして俺達は更に島の奥へと進んでいった。

 

 

 

 

「焼き払うぞ、カグツチ!」

「ふん、言われるまでもない!」

「翔んで、ラピュセル!たぁぁぁぁーーっ!」

「ーー!」

 

島の探索途中に遭遇した魔物達の姿が、ゲオルグさん達の攻撃によって一瞬にして消え去った。

(これが、<竜の国>のドラグナー達の力か……)

 

「すごい……! あっと言う間にいなくなったわ……!」

 

その様子を見たアイリスが驚いていると、ゲオルグさんが大声で俺達に指示を出した。

 

「自分が道を切り開く! 皆はここで周囲の警戒を!」

「分かったわ。先鋒はお願いね、ゲオルグ」

 

エクセリアはそう答えると、傍らにいるラピュセルへと声を掛けた。

 

「ふぅ……ラピュセル、ケガは無い?」

 

ラピュセルは眼を細めながらエクセリアの事を見ながら鳴き声を上げた。すると、キャトラがゲオルグさん達の事を見ながらエクセリアに話し掛け始めた。

 

「ゲオルグって強いわねぇ~! まさに一騎当千ってやつ?」

「ゲオルグは<竜の国>が誇る竜騎士団の団長ですからね。ドラグナーの中でも最強と名高い英雄なんですよ」

「ひぇ~……そんなスゴい人だったのね。でも、エクセリアも結構やると思うわよ?」

 

キャトラの言葉にエクセリアが静かに首を振りながら静かに答えた。

 

「ううん、私なんてまだまだです……」

「そうなの?」

「ドラグナーは竜と人が真の絆で結ばれた時、その真価を発揮します。

竜と人が互いに理解し合う――これはドラグナーの試練でもあるんです」

「竜と人が……」

「(互いに理解し合う、か……)」

 

俺とネロが顔を見合わせながら呟くようにそう言う中、キャトラはエクセリアとの話を続けた。

 

「ゲオルグはその試練を乗り越えた?」

「その通りです。カグツチは竜でありながら人の言葉を話しますよね?」

「そうね」

「ドラグナーの竜が人の言葉を話せるようになるのは、乗り手と真の絆で結ばれた事の証です」

「そうなんですか……何だか素敵な話ですよね」

 

アイリスが微笑みながらそう言うと、エクセリアはコクンと頷いてから言葉を続けた。

 

「ゲオルグとカグツチは互いを深く信頼しています。だから彼らは『<最強>なんですよ』」

 

エクセリアがそう言うと、キャトラが不思議そうな顔になった。

 

「でもさ、エクセリアとラピュセルだってすっごく仲が良いんだから、ラピュセルも話せるはずじゃあ……」

 

すると、エクセリアは顔を曇らせながら小さな声でこう言った。

 

「えっと、その……私とラピュセルは、まだ……」

「……あ、ごめん。そんなつもりで言ったんじゃなくて……」

 

キャトラが慌ててそう言うと、エクセリアが少し哀しげに微笑んだ。

 

「……ううん、良いの。

そう……私とラピュセルの絆はまだ完全では無いんです。ラピュセルが言葉を話せないのはそういうことだから……」

 

エクセリアが寂しげにそう言うと、ラピュセルが小さく鳴き声を上げながら、自分の顔をエクセリアへと近付けた。

 

「あ、ごめんね! 不安にさせちゃったかな?」

 

そう言うとエクセリアはラピュセルの頭を撫で始めた。

 

「大丈夫よ、安心して、ラピュセル。私、もっと頑張るから……! 貴女のことは、私がちゃんと守ってあげるからね」

 

(竜と人の真の絆か……俺とネロもいつかはそこまで辿り着かないとな……)

そう思いながらエクセリア達の様子を静かに見ていると、

 

「姫様……」

 

ゲオルグさんがエクセリア達の事を見ながら呟くようにそう言った。そして同じくエクセリア達の事を見ていたカグツチが小さな声でゲオルグさんにこう訊いた。

 

「おい、ゲオルグ。まさかあのまま放っておくつもりか?」

「……自分は姫様を信じる。あの方は<竜の国>の未来を導くドラグナーとなる御方。必ずや御自分の力で乗り越えられるだろう」

「愚か者め。それはただの盲信というのだ。後悔する事になるぞ」

「忠告として受け取っておこう。だがこれは盲信ではない。忠義を尽くす、というのだ」

「ふん、減らず口を……」

 

そう言うとカグツチは口をつぐみ、道の先の方へと顔を向けた。それを見ると、ゲオルグさんは俺達に声を掛けた。

 

「よし。皆、そろそろ先へと進むとしよう」

「「「「はい」」」」 「分かったわ」 「おう」 「ああ」

 

そして俺達は再び白竜を探し出すべく、島の奥へと通じる道を歩いて行った。

 

 

 

 

魔物達を撃退しながら島の中を歩いていると、突然ゲオルグさんとカグツチが歩みを止めた。

 

「……ゲオルグ」

「つけられているな。この突き刺すような殺気……

間違いない……奴らだ」

「ゲオルグ?」

 

ゲオルグさん達の様子にエクセリアが不思議そうな声を上げたが、ゲオルグさんはそれには返事を返さず、周りを見回しながら強い口調でこう言った。

 

「隠れているのは分かっている! 大人しく姿を現せ、竜狩りよ!」

「いっそここらを焼き払って文字通り炙り出してやろうか」

 

すると、

 

「これはこれは。かの有名なドラグナーのお二人にこのような場所で相見えるとは」

 

静かにそう言いながら、黒い装備を身に纏った人物が姿を現し、俺達へと近付いてきた。

 

「コイツが竜狩り……!」

「そうです。私も実際に見たのは初めてなんですが……

くっ、なんておぞましい殺気なの」

 

エクセリアがそう言うと、竜狩りは冷たい視線を俺達へと向けながらこう言った。

 

「酷い言い様ですな、竜の姫君よ。私から見れば、獣とつるんでいるあなた方の方がおぞましく、野蛮に見えますがね」

「黙れ! 竜の血に塗れた族め。我らと事を構えようというなら容赦はせんぞ!」

 

ゲオルグさんがそう言った瞬間、俺達がいつでも戦えるような体勢をとった。

すると、竜狩りは静かな声でこう言った。

 

「真に残念ですが、我ら竜狩りは人と争うような真似はしない主義でして。ですが……」

 

竜狩りはネロ達へ視線を向けニヤリと笑うと、ゆっくりと歩きながら言葉を続けた。

 

「そこの三匹の竜……特に白い鱗の方とは、是非とも一戦交えたいものですなぁ……」

 

すると、エクセリアはラピュセルの前へと立ち、強い口調で竜狩りにこう言い放った。

 

「っ! 下がりなさい! ラピュセルには指一本触れさせません!」

 

エクセリアの言葉を聞くと、竜狩りはその場に立ち止まり、変わらず静かな声でこう言った。

 

「これは頼もしいナイトですね。ご安心ください、今は小物の相手をしている暇はないのです」

「……やはり狙いは白竜か」

 

ゲオルグさんが静かにそう訊くと、

 

「白竜?」

 

竜狩りは不思議そうにそう言った後、意味深な笑みを浮かべながら言葉を続けた。

 

「……ああ、なるほど。確かにそうとも言えますし、違うとも言えますね」

「……? ……いったいどういう意味なの?」

 

アイリスが竜狩りの言葉に疑問を覚えていると、

 

「竜狩りよ! 白竜は我らの祖国へと連れさる! 今すぐここから立ち去るが良い!」

 

ゲオルグさんが竜狩りへと強くそう言い放った。

すると、竜狩りはやれやれといった様子で静かにこう言った。

 

「まったく……これだからドラグナーの連中というのは……

貴方に言われるまでもなく、お先に行かせて頂きます」

 

そして竜狩りは俺達の横を通り、道の先へと歩を進めた。

 

「それでは……ご機嫌よう」

 

そう言うと竜狩りは俺達が見ている中、そのまま目にも止まらぬ速さで走り去って行った。

 

「なっ! もうあんなところに! なんて足の速さなのよ!」

 

キャトラが驚きながらそう言うと、ゲオルグさんが静かにこう言った。

 

「竜狩りは己の身一つで竜と対等に渡り合う、戦闘のエキスパート。身体能力は常人を遥かに凌ぐのだ」

「なるほどね……」

 

キャトラ達の話を聴き終わると、俺はネロへと声を掛けた。

 

「ネロ、大丈夫だったか?」

「(ああ、俺は問題ねぇよ。

……だが、あの竜狩りの野郎の言い様がどうにも気になるな……)」

「そうだな……」

 

(狙いは白竜であるとも言えるし、そうではないとも言える……

アイリスも言ってたけど、本当にどういう事なんだ……?)

竜狩りの言葉の意味を考えていると、エクセリアが真剣な顔で俺達にこう言った。

 

「……急ぎましょう。白竜を竜狩りから守らないと……」

 

俺達はその言葉に1度頷くと、竜狩りが進んでいった道を走って行った。

 

 

 

 

Other Side

 

リオス達が白竜の元へと急いで歩を進めていた頃、

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

そう謝りながら一人の人物が目の前のモノへ向かって攻撃を加えていた。

 

「痛いですよね……苦しいですよね……」

 

そう言いながらも尚、その人物は目の前のモノへとひたすらに攻撃を加え続けた。

 

「ググググ……」

「心と体がぐちゃぐちゃになって、自分が自分で無くなるようで……いっそ死んじゃいたいですよね……」

「ググ……ガ、ガ……」

「だけど死なせません……仕方が無いんです……しょうが無いんです……」

「グアガァァァーーーー!!」

 

それは苦しそうな、そして辛そうな声を上げるが、

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

その声も虚しく、目の前の人物によって攻撃は加え続けられた。

 

 

Other Side End

 

 

 




政実「第2話、いかがでしたしょうか」
リオス「この調子だと……後1話くらいで終わる感じなのか?」
政実「そうなるかもね。ただその後は今やってるイベントの話を書いてく形になるかな」
リオス「今やってるイベントっていうと……あぁ、クリスマスイベントか」
政実「そう」
リオス「今から書いてクリスマスまでに間に合うのか?」
政実「間に合うように精いっぱい頑張るつもりだよ」
リオス「分かった。
さて……それじゃあ、そろそろ締めてくか」
政実「うん」
政実・リオス「それでは、また次回」


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最終話 闇を照らす人と竜の真の絆

政実「どうも! 片倉政実です!」
リオス「どうも、リオスです。
……何でそんなにテンションが高いんだ?」
政実「それはね、無事に今回のイベントのエクセリアを引けたからだよ」
リオス「そういえば今、エクセリアが出てるイベント、アイドルωキャッツ!が開催されてるんだったな。それにこのDivine Dragon's Sagaも復刻されてるし」
政実「うん。エクセリアがヒロインで書いてるのに、エクセリアが引けなかったらちょっと心が折れそうだったから、本当に引けて良かったよ」
リオス「たしかにな。
さてと、前書きはここまでにして、そろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・リオス「それでは、最終話をどうぞ」


 

「はぁぁぁぁーーっ!」

「そこだぁぁーーっ!」

「くらえぇぇーーっ!」

 

先を行く竜狩りに追いつくべく、俺達はその後を急いで追っていた。しかし、その途中にある谷で俺達は多数のレッサードラゴン達に遭遇し、何故か襲い掛かってくるレッサードラゴン達を相手に戦闘を繰り広げていた。

 

「はぁ……はぁ……これだけの数のレッサードラゴン、いったいどこから……」

「それに何だか、凄く怒っているというか……激しい敵意を感じます」

「激しい敵意って……!別に俺達は何もしてないだろ……!?」

 

レッサードラゴン達の様子について話をしながら俺達は戦い続けたが、レッサードラゴン達のあまりの数に皆の顔に徐々に疲れの色が見え始めた。

(くそっ……このままじゃ埒があかない!

何か……何か良い方法はないのか……!?)

向かってくるレッサードラゴン達の相手をしながら打開策を考えていたその時、キャトラが突然大きな声を上げた。

 

「このままじゃジリ貧だわ! コイツらの相手はそこそこにして、とっとと谷を抜けましょう!」

 

俺達はキャトラの言葉に頷いた後、レッサードラゴン達の相手を軽めにしながら、谷を抜けることに専念し始めた。しかしその中で、ゲオルグさんとカグツチだけは向かってくるレッサードラゴン達の様子をジッと見ていた。

 

「どうしたの、ゲオルグ? 難しい顔をして」

 

エクセリアが不思議そうに訊くと、ゲオルグさんは静かな声で答えた。

 

「いえ、何でもありません。

キャトラ君の言う通り、今はこの場を切り抜けることに徹しましょう」

「ええ、分かったわ」

 

エクセリアは頷きながら返事をした後、ラピュセルと共に谷の出口に向けて走り出した。俺はネロに乗った状態でレッサードラゴン達の様子に注意を向けながら、バッグの中のワイズに声を掛けた。

 

「ワイズ、今の状況について何か分かることはあるか?」

『そうですね……恐らくですが、レッサードラゴン達は何かに『引き寄せられている』のかもしれません』

「(『引き寄せられている』だと?)」

 

『はい……それも彼らよりも強い力を持った何者かによって……

そしてその何者かというのは、恐らく……』

「<闇>か……」

「(しかいねぇだろうな……)」

 

(けど、本当に<闇>の仕業だとしたら、アイツらはこの島で一体何をしようとしているんだ……?)

そんな事を考えていたその時、キャトラが前方を見ながら大声を上げた。

 

「……あ! みんな見て、建物よ! あれって街じゃない?」

 

キャトラの視線の先に目を向けてみると、キャトラの言う通り、そこには建物らしきものが見え始めていた。

 

「山間の城塞都市のようだな。

ちょうど良い、あそこを目印に行軍するとしよう」

「「「「はい!」」」」

「分かったわ!」

「(おう!)」

「うむ」

 

俺達は大きく返事をしながら、城塞都市に向けて走り続けた。

 

 

 

 

「な、何これ……」

「そんないったい何が……」

 

城塞都市に着いた時、キャトラとエクセリアが驚きの声を上げた。俺達の目の前にあったのは、活気溢れる城塞都市ではなく、崩れ落ちた建物や瓦礫などといった、破壊の痕が残る廃墟だった。

(これは酷いな……一体誰がこんなことを……)

廃墟の様子に言葉を失っていると、建物の影から静かな声が聞こえてきた。

 

「遅かったですね、ドラグナー御一行様方」

 

声の方に向いてみると、竜狩りは殺気を出しながら俺達に向かってゆっくりと歩いてきていた。

 

「出たわね、竜狩り! もう逃がさな……」

「待って! あれは……!」

 

キャトラの言葉を遮りつつ、アイリスがある一点を指差しながら声を上げた。俺達がそこに目を向けると、そこにいたのは……

 

「グガァァァーーー!!!」

 

宮殿の頂上にまたがり、空へ向かって咆哮を上げる巨大な竜の姿だった。

 

「な、なによ、あれ……あれもドラゴン……なの?」

「……あれは、破壊の衝動に目覚めた竜の成れの果て――<邪竜>だ」

「まさか……あの邪竜は……!」

 

エクセリアがハッとしながら声を上げると、竜狩りは邪竜を見ながら静かに頷きつつ答えた。

 

「お察しの通り、あの邪竜こそ、あなた方が探していた白竜――その今の姿です」

「え……え?

あれがラピュセルのお母さんって……嘘でしょ? 嘘よね!?」

 

竜狩りの言葉を聞き、キャトラが今にも泣きだしそうな表情を浮かべながら俺達に訊いてきた。そんな中、邪竜の様子をジッと見ていたアイリスが突然ハッとした表情を浮かべると、俺達の方へ視線を向けてきた。俺はそれに無言で頷いた後、邪竜に視線を戻した。

(アイツら……なんて事を……!)

 

「竜も所詮は獣に過ぎません。些細なきっかけで、こうも簡単に人間に牙をむくのです。

おわかり頂けましたか?」

「……っ! そんな事はありません! そもそも貴方達が白竜を……!」

 

竜狩りの言葉にエクセリアが声を上げたが、竜狩りはそれに反応をする事なく、静かな声で話を続けた。

 

「それよりも、皆さん。

よろしければ、あれの討伐に協力させてくれませんか?」

「は……? 何言ってんのよ! アタシ達はあのドラゴンを助けに来たのよ!」

「そうだ! それに誰がお前なんかと!」

 

俺達が竜狩りに対して強く言い放ったが、竜狩りは平然とした様子で答えた。

 

「おや、そうですか。ですが……」

 

竜狩りはチラッとエクセリア達の方に視線を向けた後、静かに言葉を続けた。

 

「どうやら、ドラグナーの皆さんはやる気のようですよ?」

「「え……?」」

 

ゲオルグさん達の方を見ると、ゲオルグさんとカグツチは覚悟を決めたような表情で邪竜を見つめ、そしてエクセリアはとても辛そうな表情を浮かべながら俯いていた。

(エクセリア……)

 

「ど、どうしたのよ、二人とも! 何で黙ってるのよ!」

 

ゲオルグさん達のその様子に、キャトラが驚きと怒りが入り混じったような表情を浮かべながら、大きな声を上げた。

すると、

 

「――! 静かにっ!」

 

竜狩りが突然鋭い声を上げ、邪竜の様子に注意を向け始めた。

邪竜はゆっくりと動き始めると、俺達に目を向けることなく、ポッカリと開いていた瓦礫の割れ目から宮殿の内部へと静かに入っていった。

 

「ちっ、逃がすか……!」

「……っ! 待ちなさい! 竜狩り!」

 

竜狩りはエクセリアの制止を聞くことなく、邪竜を追って宮殿の内部へと入っていった。それを見ると、エクセリアは悔しそうな表情を浮かべた。

 

「くっ……追いましょう、ゲオルグ!」

「……姫様、その前に彼らに伝えねばならないことがあります」

 

ゲオルグさんはエクセリアの事を止めた後、静かに俺達の方へ顔を向けた。

 

「皆、聞いてくれ!

これから我々は、あの白竜を……

いや……あの邪竜の『討伐』に向かう!」

「と、討伐って……」

 

信じられないといった表情でゲオルグさんを見るキャトラに、エクセリアが静かな声で言った。

 

「ドラグナーは、竜狩りから竜を守ることが務め。ですが、その逆もまたしかりなのです」

「……つまり、あのドラゴンを倒すって事ね……」

「はい……」

「でも、相手はラピュセルのお母さんなのに……」

 

キャトラが辛そうな表情を浮かべていると、ゲオルグさんが静かに話を始めた。

 

「……かつて、

<竜の国>領内の僻地で大規模な『白竜狩り』があった。あの白竜はそこから落ち延びた数少ない生き残り。以来、その行方はようとして知れず……

自分が辛うじて救えたのは、たった1匹の幼体だけだった……」

「その幼体って、もしかして……」

 

アイリスが言うと、俺達の視線が一斉にラピュセルへと注がれた。ゲオルグさんはそれに無言で頷いた。

 

「あの時ほど自分の無力を痛感した事は無かった。だが今度こそは……今度こそは救えるはずだと思っていた。

なのに、くっ……!!」

「ゲオルグ……」

 

ゲオルグさんがとても悔しそうに声を上げ、エクセリアがそれを見て悲痛な表情を浮かべている中、キャトラは邪竜が消えていった瓦礫の割れ目を見ながらポツリと呟いた。

 

「……どうして邪竜なんかに」

「眷属を狩られ、仔すらも失った白竜の憎しみは、我らの想像を絶するだろう。憎悪にかられ、外道に身を堕とすのは人も竜も同じ事よ。

……認めたくはないが、な」

 

真剣な表情でカグツチが静かにそう言った。

 

「……しかし、今回は些か妙でもある」

「妙って、何が?」

「自分は過去に、何度か邪竜と対峙した事がある。今回のような状況も初めてではない。

だが、竜が憎しみだけであれほど巨大な邪竜になった前例はない。何か他にも要因が……」

「それは……恐らく<闇>の仕業だと思います。

……そうよね、リオス、ワイズ」

「……ああ」

『はい』

 

アイリスの言葉に俺達が静かに答えると、エクセリアが不思議そうな顔でアイリスに訊いた。

 

「<闇>……ですか?」

「はい。私はあの時、確かに<闇>の気配を感じました。白竜さんの強い憎しみが<闇>を呼び寄せて、恐らく、それが邪竜に……」

「アイリスさん、その<闇>から白竜を救う方法は……!」

 

エクセリアが真剣な表情でアイリスに訊いたが、アイリスは哀しそうな顔で静かに首を振った。

 

「ごめんなさい……その方法は、私にも……」

「……そうですか」

 

とても小さな声で呟くように言うエクセリアに、ゲオルグさんが静かに話し掛けた。

 

「……姫様、我らは我らの務めを果たさなければなりません。邪竜は天災に匹敵する脅威。ここで討たなければ、更なる犠牲が出るでしょう。そうなる前に……」

「竜を守るとさんざん豪語しておいて、結局ラピュセルの母竜を討つか……」

「……道を外した者に、竜も人も関係ない。もし自分が道を外したら、遠慮無く自分を討つといい」

「ほう……その言葉、決して忘れるなよ?」

 

カグツチが面白そうに言う中、エクセリアは覚悟を決めたような表情でゲオルグさんに返事をした。

 

「……大丈夫よ、ゲオルグ。ドラグナーの使命に殉ずる事に、異論はないわ」

 

そしてエクセリアはラピュセルの方へと顔を向けた。ラピュセルは怯えた様子で邪竜達が入っていった瓦礫の分け目を見ていた。

すると、エクセリアはゆっくりとラピュセルの事を撫で始め、そして優しく話し掛けた。

 

「大丈夫よ、ラピュセル。貴女のことは私が守ってあげるからね」

 

エクセリアの言葉を聞いたことで、少しだけでも落ち着きを取り戻したらしく、ラピュセルは目を細めながら嬉しそうに鳴き声を上げた。そしてその様子をあの時と同じようにゲオルグさん達がジッと見つめていた。

そして数分後、ラピュセルが完全に落ち着いた事を確認すると、エクセリアは真剣な表情で俺達に言った。

 

「行きましょう、皆さん。あの邪竜を……ラピュセルの母竜を討伐するために」

 

俺達はそれに無言で頷いて答えた後、邪竜達と同様に瓦礫の分け目を通って宮殿の内部へと入っていった。

 

 

 

 

宮殿の内部に入った直後、キャトラが前方を見ながら声を上げた。

 

「見て、竜狩りが……!」

 

キャトラの視線の先を見ると、そこには邪竜との死闘を繰り広げている竜狩りの姿があった。

 

「破ァァァーー!!」

 

大きく声を上げながら、竜狩りが邪竜へと攻撃を加えると、

 

「グガァッ!?」

 

邪竜はその衝撃で地面へと叩きつけられた。そして邪竜がゆっくりと立ち上がろうとしている内に、

 

「獲ったッ!」

 

竜狩りは邪竜にとどめの一撃を加えるべく、武器を構えながら邪竜の元へと走りだした。

しかし、その時だった。

 

「ぐあっ!?」

 

暗がりから現れた謎の人物が突然竜狩りへ攻撃を加えた。そしてその攻撃の衝撃により、竜狩りは宮殿の壁へと強く叩きつけられた。

 

「な……に……だれ……だ……き、さま」

 

謎の人物へ向かって途切れ途切れに言うと、竜狩りはガクッと崩れ落ちた。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

謎の人物は竜狩りに向かって謝った後、今度は俺達の方へ体を向けこちらへゆっくりと歩いてきた。

 

「な、何なのよアイツ!? いきなり襲ってきたわ!」

 

キャトラが驚きの声を上げていると、

 

「うう、この気配……!間違いない、<闇>よ!」

 

アイリスが謎の人物を見ながら警戒した様子で言った。

 

「何! あの人物が<闇>だと!? ではまさか……奴が……」

「『<愉快な道化の影芝居>――<シャッテン・シュピール>のウィユ・ブロサール』……です」

 

桃色の髪の人物―ウィユは自己紹介を終えると、邪竜の事を見ながら俺達に小さな声で訊いてきた。

 

「この竜を……助けたいんですよね……?」

「っ! 当然です! 私達はその為にここへ来たんですから!」

「そうですよね……助けたいですよね……」

 

ウィユは呟くように言いながら、ゆっくりと邪竜へと近づいていった。

(……? アイツ、一体何を……?)

そして邪竜の足元へ着くと、ウィユは邪竜に静かに触れた。

 

「……分かりました、それじゃあ……」

 

その瞬間、邪竜に触れているウィユの手が妖しい紫色の光を帯びた。

 

「グォ……ガガガァ!」

 

すると、邪竜は苦しそうな様子で大きく声を上げ、徐々に邪竜からプレッシャーのような物を感じ始めた。

 

「もっと<闇>の力を……あたしにはこれしか出来ないから……」

 

そしてウィユの手が放つ光は更に強さを増し、それに比例して邪竜から感じるプレッシャーも徐々に強くなっていった。

 

「これは……! <闇>が限界まで高まって……

いけない、このままじゃ……!」

 

邪竜の様子を見たアイリスが大きな声で言ったその瞬間、

 

「グルアァァァー!」

 

邪竜は俺達へ向けて大きく咆哮を上げた。

 

「「きゃあああ!!」」

「ぐぅ……!!」

「うわあぁっ!!」

「(ぐはっ……!!)」

「きゃあっ!!」

「姫様ぁーー!」

 

邪竜が咆哮と共に放った禍々しい力の波動によって、ゲオルグさん達を覗いて俺達は大きく吹き飛ばされた。

 

「ラピュセル……! みんな……!」

 

エクセリアはゆっくりと起き上がろうとしたが、

 

「うっ、痛っ! あ、足が……!」

 

吹き飛ばされた事で負ったダメージの影響で、足を抑えながら苦しそうな声を上げた。

すると、

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……こんなこと、本当はしたくないんです……

でも貴方達がこの竜を助けたいだなんて言うから……仕方なかったんです……」

 

俺達の様子を見て、ウィユが謝りながら淡々とした様子で言う。

(竜を助けたいなんて言うから、仕方なかった、だと……?)

 

「ふざ……けん、なよっ……!!」

 

俺が痛みに耐えつつ、立ち上がりながら大きな声で言うと、エクセリアも同じく痛みに耐えつつ立ち上がり始めた。

 

「……狂ってるわ! 許せない……」

「お前だけは、絶対に……許さねぇっ!」

 

ウィユの言葉に俺達が怒りをあらわにしていると、

 

「……」

 

ラピュセルが哀しそうな目をしながら、ゆっくり邪竜へと近付いていく。

 

「ラピュセル! 近付いちゃダメ! その竜はもう貴女の母親じゃ……!」

 

エクセリアが不安と焦りの入り混じった様子で強く言ったものの、ラピュセルはその言葉を聞かずに、そのまま邪竜へと近付いていく。そして、ラピュセルと邪竜の距離が近くなったその時だった。

 

「グルアァ!」

 

邪竜は雄叫びを上げながら前足を振り上げると、そのままラピュセルへ向けて前足を振り下ろし、その鋭利な爪でラピュセルの体を切りつけた。

 

「自分の子供をあんなに痛め付けて、酷いよね……このままじゃ死んじゃうよね……」

 

同じくエクセリア達の様子を見ていたウィユが、まるで他人事のように呟いた。

(コイツ……!)

 

「ふざけるな! お前のせいでこんな事になってるんだろうが!」

「(てめぇ、いい加減にしろよ……!! )」

 

俺とネロが怒りのこもった声で言うが、

 

「……私はただ、役目を果たしただけだから」

 

ウィユはエクセリア達から目を離さずに、ただ淡々と俺達に答えるだけだった。そして、エクセリア達の方を指差しながら静かに言葉を続けた。

 

「私よりもあの子達の方を優先した方が良いよ。そうじゃないと、本当に死んじゃいそうだから」

 

「くっ……!!」

 

俺はウィユに対しての強い怒りを一度抑えた後、【グラントスピア】のオーブに籠められている雷の魔力を解放した。

 

「【ボルティックソウル】!!」

 

【グラントスピア】が雷の魔力が纏ったことを確認した後、俺達は邪竜に向けて走りだした。

 

「はぁぁぁっーー!!!」

「(食らいやがれぇぇぇっーー!!!)」

 

そして邪竜に近付きながら【グラントスピア】を大きく振りかぶった。

(あの邪竜に恨みは無い、けどラピュセルのためにも、俺達が……!)

覚悟を決めた後、俺は邪竜に【グラントスピア】を振り下ろした。

 

「「(【ライトニングブレイク】)」!!」

 

雷の魔力を纏った【グラントスピア】の一撃を邪竜の足に命中させると、邪竜は体勢が大きく崩しながら声を上げた。そしてその隙に、エクセリアがラピュセルへと駆け寄ってきた。

 

「ラピュセル! ああ、こんなに傷ついて……

ごめんなさい……本当にごめんなさい……」

「エクセリア……」

 

傷ついたラピュセルと涙を浮かべているエクセリアを見ながらポツリと呟いていると、ウィユがラピュセル達を見ながら淡々とした口調で言った。

 

「良かった、生きてて……

邪竜も、そこの三匹も……お願い、どうか死なないで……」

 

(コイツ……!!)

 

「死なないで、だと……!? そんな事、お前が言えた立場か!?」

「(てめぇだけは……絶対に許さねぇ……!)」

「……この外道がッ!

まずは貴様から……」

「討つ!」

「「(ぶっ倒す!)」」

 

俺達が強く怒りながら武器をウィユに向けたが、ウィユはそれに対して焦る様子も淡々と答えた。

 

「ごめんなさい……あなた達とは戦えない……

せっかく用意した舞台が台無しになっちゃう……

だから……ごめんなさい……」

 

そしてウィユの周りに闇が現れ、徐々にウィユの体を包み込み始めた。

(アイツ、逃げる気かっ……!!)

 

「おのれ<闇>め! 逃げるつもりか!」

「させるか!! やるぞ、ネロ!!」

「(おうよ!!)」

「「(【ブレイヴソウル】)」!!」

 

【グラントスピア】のオーブが虹色に輝き、俺達の中で先程とは比べものにならない程に力が高まったことを確認した後、俺達はウィユに向けて走りだした。

(逃がすわけにはいかない……! アイツだけは、あのウィユだけはっ……!!)

そして俺の中で怒りとは違う何か暗い物が渦巻くのを感じながらも、渾身の力で【グラントスピア】を闇の中のウィユへと振るった。しかし攻撃が当たる瞬間に闇はその場から消え去り、【グラントスピア】の攻撃は虚しく空を切った。

(くそっ……!! アイツだけは……逃がすわけにはいかなかったのにっ……!!)

俺が悔しさと怒りから【グラントスピア】の柄を折れそうな程の力で握り締めていると、体勢を立て直した邪竜が周囲の壁が震えるほどに大きく咆哮を上げた。するとキャトラが慌てた様子で話し掛けた。

 

「リオス! 悔しいのは分かるけど、まずは邪竜を何とかしないと……!」

「……ああ、分かってる。

よし……やるぞ、ネロ」

「(……ああ、あの邪竜を俺達やエクセリア達の手で<闇>から解放してやろうぜ……!)」

「ああ……!」

 

そして俺達と邪竜の激しくも哀しい戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

(よし……まずは)

俺は【グラントスピア】のオーブが虹色に染まった事を確認した後、籠められている魔力を解放した。

 

「【ブレイヴソウル】!」

 

その瞬間、再び体の底から力が高まってくるのを感じた。

 

「何だ……これは、体の底から力が沸き上がってくる……!」

「ふむ……それだけではなく、今ならばいつもよりも速く動ける気がするな」

 

ゲオルグさん達にも【ブレイヴソウル】の効果が表れた事を確認した後、俺はゲオルグさん達に大きな声で呼び掛けた。

 

「今、全員の力と耐久性、そして足の速さを高めました! この効果が表れている間なら、いつもよりも戦いやすいはずです!」

「なるほどな。感謝するぞ、リオス殿」

「ふん、人間の小僧にしては、気の利いたことをするものだ。

さて……行くぞ、ゲオルグ!」

「ああ!

皆も後に続いて攻撃をしてくれ!」

「「「はい!」」」

「(おうよ!)」

 

ナギア達と一緒に返事をした後、俺は【ソードオブマギア】を下ろしながらゆっくりとエクセリア達に近付いた。そして倒れ込んでいるラピュセルの目の前に来た時、俺はネロの背中から降り、エクセリアに声を掛けた。

 

「エクセリア、ラピュセルの傷の様子は……?」

「……大事には至らないと思います。ですが……」

 

エクセリアは痛みに耐えているラピュセルの事を撫でながら言葉を続けた。

 

「体の傷よりも母竜に攻撃をされたことによる、心の傷の方が心配なんです……」

「心の傷、か……」

 

(それは俺にはどうにも出来ない。でも……)

俺は【ソードオブマギア】のオーブに籠められている水の魔力を解放した。

 

「【オーシャンヒーリング】」

 

そして【ソードオブマギア】の切っ先から強く蒼い光が放たれ、ラピュセルの体を包み込んだ。すると、ラピュセルの体にあった傷がみるみるうちに治っていき、程なくしてラピュセルの体の傷は全て無くなった。

(よし、これでとりあえず体の傷はどうにかなったな)

ラピュセルの体の様子を見ていると、ラピュセルは少し嬉しそうに鳴き声を上げ、エクセリアの掌に自分の頭を擦りつけ始めた。

 

「ラピュセル……! もう、大丈夫なのね……!」

「♪」

「良かった……!」

 

エクセリアの安心した様子を見ていた時、エクセリアが俺達の方へと顔を向けた。

 

「リオスさん、本当にありがとうございます」

「どういたしまして。

とりあえずこれで体の傷はどうにかなったと思う。だけど……」

 

俺はナギア達と戦っている邪竜の方へ視線を向けてから言葉を続けた。

 

「ラピュセルの心の傷はまだまだあるはずだ」

「心の傷……」

「ああ、そうだ。

俺は皆の体の傷を癒やすことは出来る。でも、ラピュセルの心の傷を癒やせるのは……エクセリア、ラピュセルのパートナーであるお前だけだ」

「ラピュセルの心の傷を癒やせるのは……私だけ……」

「(リオスの言う通りだぜ、エクセリア。俺らがどんなにラピュセルの事を大事にしてやったりしたところで、心の傷までは治すことは出来ねぇと思ってる)」

「リオスさん……ネロさん……」

 

エクセリアの呟くような声を聞いた後、俺は邪竜から視線を逸らさずにエクセリアに話し掛けた。

 

「とりあえず、俺達も邪竜の相手をしてくるよ。このまま放っておくわけにはいかないし」

「(そうだな。

うっし……そんじゃあいっちょやってやろうぜ、リオス!)」

「ああ!」

 

そして俺達はゲオルグさん達の所へと走りだした。

 

 

 

 

俺はネロに乗って邪竜に近付きながら、【グラントスピア】のオーブに籠められている炎の魔力を解放した。そして邪竜が目の前に迫った時、俺は渾身の力で【グラントスピア】を振るった。

 

「【バーニングストライク】!!」

 

そして炎を纏った【グラントスピア】の一撃が邪竜に命中すると、邪竜は大きな声を上げながら、少しだけ体をよろめかせた。

(少しはダメージが入ったみたいだけど、さすがに倒すまではいかなかったか……)

邪竜の様子からそう感じ取った後、俺はナギア達に声を掛けた。

 

「皆、お待たせ。ケガとかはしてないか?」

「一応、邪竜の攻撃を避けながら戦ってるから大丈夫だけど……」

「皆、そろそろキツくなってきたかもしれないわ……」

「そっか……分かった」

 

ナギア達の言葉に頷いた後、俺は【バアル・ベルゼ】を背中から下ろしながらネロに声を掛けた。

 

「ネロ、俺が【バアル・ベルゼ】で攻撃するから、お前は……」

「(ああ、分かってる。俺が前に立って攻撃すりゃ良いんだろ?)」

「その通りだ。それじゃあ頼んだぞ、ネロ」

「(おうよ!)」

 

そしてネロの背中から降りた瞬間、ネロは邪竜に向かって走りだした。

(さて……ネロやゲオルグさん達に当たらないように俺は援護をしないとな)

俺が【バアル・ベルゼ】に矢をつがえたその時、邪竜は前足を振り上げると、そのままネロ達に向かって足を振り下ろした。

(生憎だが、そうはさせない……!)

俺は狙いを定めながら【バアル・ベルゼ】のオーブに籠められている感電の力を解放し、邪竜に向けて矢を放った。

 

「【エレクトリックスナイプ】!」

 

【バアル・ベルゼ】から放たれた雷を纏った矢はまっすぐ邪竜へ向けて飛び、振り上げていた邪竜の足へと命中した。すると邪竜は苦しそうな声を上げながら、大きな音を立ててその場に倒れ込んだ。

(これでとりあえず感電には出来たけど、いつまでもこれが続くわけじゃないし、早めにどうにかしないとな)

そして俺はゲオルグさん達に大きな声で呼び掛けた。

 

「今の攻撃で邪竜は感電しているはずです! 今の内に邪竜に攻撃を仕掛けて下さい!」

「ああ、了解した! 皆、行くぞ!」

「「はい!」」

「(おうよ!)」

「うむ!」

 

そしてゲオルグさん達は倒れ込んでいる邪竜に対して、渾身の力で攻撃を始めた。

 

「行くぞ、【竜王炎舞刹】!!」

「これで……! 【ダブルスラッシュ】!!」

「【バーンナップ】!!」

「(燃やし尽くすぜ! 【ドラゴニックブレイズ】!!)」

 

ゲオルグさんとナギアの武器での攻撃、そしてアイリスとネロの炎の攻撃が倒れ込んでいる邪竜に対して炸裂し、目の前に白い煙が立ち込めた。

(よし……ここまで攻撃すればさすがに……!)

しかし白い煙が消えた時、俺達の目の前にあったのは、体に多くの傷があるものの、未だに立ち上がる邪竜の姿だった。

 

「そんな……」

「ここまでダメージを与えてもダメなのか……!」

「(くそっ、コイツタフすぎるだろ……!)」

 

その姿を見て、アイリス達の顔に焦りの色が見えた時、邪竜は周囲の壁や天井が震えるほどに大きく咆哮を上げた。そしてその咆哮の衝撃にゲオルグさん達が地面を踏みしめて耐えていたその時、邪竜は先程よりも速い動きで尻尾をゲオルグさん達へと叩きつけた。

 

「がはっ!!」

「ぐあっ!!」

「きゃあっ!!」

「(ぐうっ!!)」

「皆!」

 

そして尻尾の攻撃を受けた衝撃で皆は後方へと吹き飛ばされた。

(尻尾を一振りしただけでこの威力か……とりあえず皆の回復を……!)

俺が皆の回復をするために【ソードオブマギア】を構えたその時、バッグの中からワイズが大きな声を上げた。

 

『リオス様! 後方に注意して下さい!』

「後方……!?」

 

俺がすぐに後ろを振り向くと、そこにはいつの間にか移動していた邪竜の姿があった。そして邪竜は表情を変えること無く、静かに前足を振り上げた。

 

「しまっ!?」

 

その事に驚き、俺は回避すら出来ずにその場に立ち尽くした。

しかしその時、

 

「(……んな事、させっかよぉっ-!!)」

 

ネロが大きな声を上げながら、俺の目の前に立ち塞がった。そして邪竜の前足はそのままネロに向けて振り下ろされた。

 

「(ぐはっ……!!)」

「ネロ!!」

 

ネロは邪竜の攻撃を受けると、勢い良く吹き飛ばされ、近くにあった壁に激突した。

(くっ……まずはネロの回復をしてやらないと……!)

俺は脇目も振らずにネロの元へと駆け寄り、ネロに向けて【ソードオブマギア】に籠められている水の魔力を解放した。

 

「【オーシャンヒーリング】……!!」

 

【ソードオブマギア】から放たれた強く青い光によって、ネロの体の傷は徐々に癒やされ、程なくしてネロの傷は全て無くなった。

(よし……とりあえずこれで良い……!)

 

「ネロ! 大丈夫か!?」

 

俺は大きな声でネロに呼び掛けた。すると、ネロはゆっくりと起き上がり、落ち着いた様子で鳴き声を上げた。

(ふぅ……どうやら何とかなっ……!?)

その瞬間、俺はネロの返事に違和感を覚え、ネロの首元に視線を向けた。するといつも首から掛けているはずのルーンリンガルが影も形も無くなっていた。

 

「ルーンリンガルが……!」

 

その事に俺が小さく声を上げると、ネロの視線も首元に注がれた。そしてルーンリンガルが無くなっている事に気付くと、ネロはとても驚いた様子で鳴き声を上げた。

(マズイ……ゲオルグさん達と違って、俺はルーンリンガルが無いと、ネロの言葉を聴くことが出来ない……!

くっ……一体どうしたら……!)

俺がどうしたら良いのか分からなくなっていたその時、邪竜がゆっくりと動き始める音が聞こえた。

(……こうなったら、ルーンリンガル無しでもネロと一緒にどうにかしてみせる。アレだけが俺達の絆の証というわけでもないからな……!)

俺は強く決心した後、ネロの眼を正面から見つめた。するとネロもそれに答えるように俺の事をまっすぐ見つめながら、静かにコクンと頷いた。そして俺達が再び邪竜の方へ視線を向けたその時、エクセリアがラピュセルの事を守るようにして立ちながら、武器を構えているのが目に入ってきた。

(エクセリア……まさか……!?)

俺はネロの背中に跳び乗り、【グラントスピア】のオーブに籠められている魔力を解放した。

 

「【ブレイヴソウル】!!」

 

そして三度、体の底から力が沸き上がってくるのを感じた後、俺達はエクセリア達のところへ向けて走りだした。しかし、

 

「うおおおお! カグツチィーー!」

 

それよりも先に赤いオーラのようなものを纏ったゲオルグさん達が邪竜目掛けて走り出し、そのまま邪竜の事を弾き飛ばした。

(凄い……これがドラグナーの本当の力か……!)

目の前の光景に俺は少しぼうっとしかけたが、すぐに頭を振って気持ちを切り替えた後、ネロと一緒にゲオルグさん達の所へ辿り着いた。

 

「ゲオルグ……」

 

エクセリアが呟くようにゲオルグさんの名前を呼ぶと、ゲオルグさんはゆっくりと振り返り静かに口を開いた。

 

「……姫様、これが自分とカグツチ、人と竜が真なる絆を交わしたドラグナーの力です」

「ゲオルグ……私は……」

 

エクセリアが再び呟くような声で言った次の瞬間、ゲオルグさんは怒りのこもった強い口調でエクセリアに対して声を上げた。

 

「この馬鹿者がッ!」

「―――っ!」

「己の竜を信じずしてなにがドラグナーか!

お前達の絆はその程度の物だったのか!」

「で、でも! 私は……

ラピュセルを傷付けたくなくて……

あの子を傷付けたくなくて……」

「大切に想うだけが絆ではない!

時には命を預け合うのも絆なのだ!

何故それが分からないのだ!!」

「それでも! ラピュセルに母親を討たせるなんて……

だから私が……!」

 

ドラグナーというもの、そして人と竜の真の絆について説くゲオルグさんに対して、エクセリアがラピュセルを想う自分の気持ちを正面からぶつけていると、カグツチが静かな声でエクセリアに問い掛けた。

 

「自己犠牲が美徳とでも思ったか?

それで絆が芽生えると? そんな物はお前の傲慢に過ぎん」

「カグツチ……」

 

カグツチの言葉を聞き、エクセリアが哀しそうな表情を浮かべていると、カグツチは静かに息を吐いた後、エクセリアの顔を真正面から見ながら声を掛けた。

 

「……だが、竜を心から思いやるお前の意思は……正直我は嫌いではない」

「……え?」

 

カグツチの言葉にエクセリアが不思議そうな表情を浮かべていると、ゲオルグさん達は俺達の方へと顔を向けた。

 

「さて……次はお前達だ。先ほどまでのお前達の動きは見ていたが……改めて聞かせてもらおう」

 

そして俺の顔を真正面から見据えながらカグツチは言葉を続けた。

 

「異国のドラゴンライダー、リオス。お前はその黒竜、ネロに己の命を預けられるか?」

「ネロに、自分の命を……」

 

俺はカグツチの言葉を繰り返しながら、ネロとのこれまでの事を思い出していた。

 

(ゲオルグさんやエクセリアと違って、俺達の場合はそんなに長い付き合いなんかじゃない。けど、今まで一緒に冒険したり、過ごしてきたりした事で、ネロ自身の強さ―肉体的な強さと心の強さ、そしてネロ自身の性格や考え方といった様々な事を俺は知っている。

長い付き合いなんかじゃなくても、俺達の中にはナギア達との絆とはまた違った絆があると俺は確信してる。

だから……!)

 

「俺は……コイツ―ネロに命を、そして背中を預けることが出来る」

「……ほう」

「俺とネロはそんなに長い付き合いなんかじゃないし、意思疎通の多くはルーンリンガルを通して行ってきた。

けど、今まで一緒に冒険したり、飛行島とかで過ごしてきたりした事で、俺はネロについての様々な事を知り、俺達なりに絆を―ナギア達との絆とはまた違った絆を深めてきた。

だからこそ俺はネロに命を……そして背中を預けて戦うことが出来る!

今までも! そして……これからもだ!」

 

(そうだ。俺達は最初こそ、自称変わり者の老人によって引き合わされただけの関係だった。

けど、今ではそれが『ネロ』だった事にとても感謝してる。『ネロ』が相棒だったからこそ、俺はここまでの戦いを乗り越えられたし、一緒にここまでやってこられたんだ)

すると、カグツチは静かに息を吐いた後、静かな声で話し掛けてきた。

 

「なるほど、それがお前の答えか、リオスよ」

「ああ」

「ふむ……異国のドラゴンライダー……いやドラグナーにしては良い回答だ。

ゲオルグ、お前はどうだ?」

「ああ。自分もリオス殿の答えは良いと思う。それにリオス殿とネロ、どちらも大した強さを持っているからな。正直、我々の騎士団に欲しい人材と言えるだろう」

「ふん、そうか。

さて……それはさておき、そろそろ本題といこうか」

 

カグツチは俺とネロ、そしてエクセリアとラピュセルの顔を見た後、静かな声で話し始めた。

 

「竜と盟約を結びし王家の末裔、そして飛行せし島の主たる異国のドラグナーよ。

人と竜の真なる絆を今こそ見せてみろ!」

「っ! 真の絆……

……私は……!」

 

エクセリアは弾かれたようにラピュセルの方へ顔を向けた。

 

「……ラピュセル!

ごめんなさい、せっかく母親に会えたのに。

みんなで<竜の国>に帰ろうって私、言ったのにね……」

「……」

「でも、それでも私……貴女のことが大好きなの。貴女のことを守りたい。だから……」

 

そしてエクセリアはラピュセルの事を真正面から見つめながら言葉を続けた。

 

「貴女の力を、私に貸して!

私と一緒に戦って欲しいの!」

 

すると、

 

「……ワ……」

 

ラピュセルの口から優しく静かな声が聞こえた。

 

「……え?」

「ワ……ワタシ、モ……

アナタ、ガ……好キ……」

「――っ! 貴女、言葉を……!」

「ワタシ……モ、戦ウ……

アナタノ……タメ、ニ……

戦イ……タイ……!」

 

ラピュセル自身の気持ちを聞き、エクセリアは少し涙ぐみそうになったが、すぐに涙を拭くと、先ほどまでとは違う嬉しさの混じった顔でラピュセルに言葉を返した。

 

「ああ、ラピュセル……ありがとう!

一緒に行きましょう!」

 

(……良かったな、エクセリア)

エクセリアの様子を見て、静かに考えた後、俺もネロの顔を真正面から見つめた。

 

「ネロ、さっきの俺の気持ちは嘘偽りなんて一つもない、本当の気持ちだ」

「……」

「何度も言うようだけど、俺達はドラゴンライダーになってまだまだ日は浅い。けど、今まで一緒に冒険したり、一緒に魔物と戦ったり、飛行島で一緒に過ごしたりして……お前との絆を深めて来れたと確信してる」

「……」

「だからこそ、改めて頼むよ。

ネロ、俺と一緒に戦ってくれ」

 

俺が右手を差し出しながら言うと、ネロはいつものように小さく笑うような顔をしながら、右前足を俺の手へと近づけると、ネロの口からいつもルーンリンガル越しで聞いてる声が聞こえた。

 

「……へ……ト……ゼン……ダ」

「ネロ……」

「リオ、ス……アリ、ガトウ……ナ。マア、チット……バカシ、コッパズ……カシイ、キハスル……ケドナ」

「ふっ……そうだな。けど……」

「アア。オレダッ、テオナジ……キモチダ。オマエ……トノキズナ、バッチリ……カンジテ、ルカラナ」

「ネロ、ありがとうな」

「ヘッ……レイナンザ、アトデイイ。ソレヨリモ……イマハ……」

「ああ。

共に邪竜を討ち果たそう、ネロ!」

「オウヨ!」

 

ネロとアイコンタクトを交わした後、俺達はゲオルグさん達、そしてエクセリア達と一緒に邪竜の事を見据えながら並び立った。

(さて……ここからが本番だ。

俺達とゲオルグさん達、そしてエクセリア達の力で皆を救ってみせる!)

 

 

 

 

「グルアァァァーーー!!!」

 

邪竜が大きな鳴き声を上げながら、エクセリア達に対して前足を振り上げた。

 

「エクセリアさん、危ない!」

 

それを見てアイリスが大きな声を上げたが、エクセリアは一切動じることなく、ラピュセルに声を掛けた。

 

「今なら……行けるわ!

翔んで、ラピュセル!」

 

そして金色のオーラのようなものを纏ったエクセリア達は、邪竜に向けてまっすぐに翔ぶと、さっきのゲオルグさん達のように邪竜の攻撃をはね返した。

(エクセリア達も頑張っているんだ……俺達だって!)

 

「さぁ、やるぞ。ネロ!」

「オウヨ!」

 

ネロは返事をした後、邪竜に向けて走りだした。

そして俺がネロの背に乗りながら、【グラントスピア】を構えていると、突然体の底から今まで感じたことのない力が沸き上がってくるのを感じた。ふと自分の体、そしてネロの体を見てみると、俺達の右半身は白いオーラのようなもの、そして左半身は黒いオーラのようなものを纏っており、更に【グラントスピア】に填まっているオーブも白と黒の二色に染まっていた。

(白と黒の魔力……? 初めて見るけど、これが新しい力だというなら、使わない手は無い!)

そしてネロが邪竜に向けて翔び上がり、邪竜との距離が縮まった瞬間、俺は【グラントスピア】を二度力一杯振るった。

 

「行くぞ!!

【ツインエレメンタルストライク】!! 」

 

白いオーラを纏った一撃、そして黒いオーラを纏った一撃を邪竜に見舞うと、邪竜はダメージを受けた事で大きな鳴き声を上げた。

そしてエクセリア達の所に着地すると、エクセリアはゲオルグさん達を見ながら声を指示を出した。

 

「私とラピュセルが出ます!

ゲオルグ、貴方も続いて波状攻撃を!」

「姫様……はっ!

行くぞ、カグツチ! 今こそ我らの力の真の力を見せるのだ!」

「ふん、分かっている!」

 

そして次にエクセリアは俺達に声を掛けてきた。

 

「リオスさん達も、ゲオルグ達の攻撃の後に続いて攻撃をお願いします!」

「ああ、了解した!

行くぞ、ネロ! 俺達の新しい力をもう一度見せてやるんだ!」

「ヘッ……モチロンダゼ!」

 

俺達の言葉を聞いた後、エクセリアは邪竜の事をもう一度まっすぐに見据えた。

 

「行きましょう、ラピュセル!」

「……ウン」

 

そしてエクセリアはラピュセルと共に邪竜に向けて勢い良く翔ぶと、

 

「行きましょう、ラピュセル! はぁぁぁぁーー!!!」

 

邪竜に対して渾身の一撃を振るった。そして、

 

「やるぞ、カグツチ! はぁぁぁぁーー!!」

「ふん、言われずとも!」

 

それに続いてゲオルグさんが邪竜に気合いを籠めた一撃を振るった。

(よし……俺達も!)

そしてネロが邪竜に向けて翔び、再び邪竜との距離が縮まった瞬間、俺は【グラントスピア】を構えながらネロに声を掛けた。

 

「これで決めるぞ! ネロ!」

「おう!」

「「【ツインエレメンタルストライク】」!!」

 

再び邪竜に向けて白と黒の渾身の一撃を振るうと、邪竜は大きな鳴き声を上げた後、ゆっくりとその場に倒れ込んだ。そして俺達が邪竜の足元に着地すると、エクセリア達、そしてナギア達はゆっくりと邪竜へと近づいた。

 

「グ……ガ……ガァ……」

「……ごめんなさい。もっと早く貴女のことを見つけていればこんな事には……」

 

エクセリアが哀しそうな表情を浮かべていると、ゲオルグさんは静かにエクセリアに声を掛けた。

 

「姫様、我らの務めはまだ終わってはいません」

「……そうでしたね。

ゲオルグ、お願いできますか?」

「……御意」

 

ゲオルグさんは静かに返事をすると、懐から不思議な紋章が描かれた石を取りだした。

 

「それは……ルーンですか?」

「これは<竜葬のルーン>。我ら<竜の国>に伝わる、特別なルーンだ」

 

そしてゲオルグさんは<竜葬のルーン>を掲げると、静かに呪文を唱え始めた。

 

「古の盟約の名の下に、終わり行く器より魂を解き放つ。

命は天に……骸は地に――」

 

すると、ルーンが淡い輝きを放つと同時に邪竜の亡骸も燐光を放ちだした。

(これが<竜の国>のドラグナーの務め、か……)

そしてルーンと邪竜の亡骸の光が消えると、ゲオルグさんは静かに説明をしてくれた。

 

「邪竜の亡骸は、その地に呪いをもたらす。竜狩りに暴かれる危険もある。

ゆえに我らドラグナーは、このルーンを使って、死した竜を地へと還すのだ」

「白竜……貴女の子には私がずっとついています。

どうか安心して眠りについて下さい……」

「……」

 

俺達が邪竜……いや、白竜を悼んでいると、

 

「やれやれ……

既に邪竜は処理済みでしたか。これは無駄足でしたね」

 

竜狩りが静かに話しながら俺達へと近付いてきた。

 

「ア、アンタ! 生きてたの!?」

「ええ。あなた達が力尽きた後で、獲物を頂くつもりでしたが……」

 

竜狩りはエクセリアと俺に視線を向けてから言葉を続けた。

 

「どうやら私の見込み違いでした。

まさか竜の姫君、そして若きドラグナーにあそこまでの力があったとは」

「いえ、私だけの力だけではありません」

「ああ。ネロ達、竜の助力があったからこその力だ」

 

俺達の言葉を聞くと、竜狩りは理解出来ないといった様子で笑い始めた。

 

「ふふ……あなた達ドラグナーはいつだってそうですね。

口を開けば、仲間だの絆だの……獣相手にそんな虫酸が走ることを平気で言う」

「あなた達竜狩りに、私達ドラグナーの信念は、決して理解出来ないでしょう」

「……これを見ても、まだそんな事が言えますか?」

 

竜狩りは兜の面を開け、兜の奥にある素顔を一瞬だけ晒した。すると竜狩りの顔には竜の炎によるものと思われる酷い火傷の後が残っていた。

 

「……っ!」

「……竜の炎にやられたか」

「私がまだ幼い頃に、ね。

友人や家族は一瞬で消し炭に。

私は『運悪く』生き残り、このザマですよ。

あなた方の隣にいる竜が竜の全てではないのです。

良く覚えておくことですね」

 

竜狩りが静かに、そして冷たく言い放ったが、エクセリアは決意を秘めた表情で言葉を返した。

 

「……それでも私は信じ続けます。

ラピュセルの事……

人と竜の絆のもたらす未来を」

 

エクセリアの言葉を聞くと、竜狩りは呆れた様子を見せた。

 

「頑固な姫君だ。もはや愚かですらありますね」

 

すると、カグツチが真剣な表情を浮かべながら竜狩りへ静かに言い放った。

 

「くだらん。そんな傷で語った気になるな」

「……でしたら、貴方の主にもつけて差し上げましょうか?」

 

竜狩りが冷たく鋭い殺気を放ち出すと、ゲオルグさんは静かな声で答えた。

 

「傷ならある」

「なら、私の気持ちも少しは分かって頂けるのではないですか?」

 

しかし、ゲオルグさんは静かに頭を振りながら答えた。

 

「見当もつかんな。自分は貴様とは違う道を歩んできた」

「……そうですか」

 

竜狩りは殺気を収めながら静かに答え、宮殿の割れ目の方へ体を向けた後、俺達に視線を向けることなく言葉を続けた。

 

「では、これで。

二度と会わないことを祈ってますよ」

「自分は構わない。

何度でも貴様の元へと赴き、何度でも貴様を止めてみせるぞ」

「ふん」

 

竜狩りは静かに鼻を鳴らすと、宮殿の割れ目に向けて歩いていった。その様子を見ていると、カグツチが冷たい口調で言い放った。

 

「時間を無駄にしたな。

所詮、人と竜とは相容れぬ生き物よ」

「……カグツチ。

ならば自分達は何だと言うんだ?」

 

ゲオルグさんの問い掛けに、カグツチは静かな声で答えた。

 

「……我らは、人と竜の間に立つ者、<ドラグナー>だ――」

 

(人と竜の間に立つ者、か……

いつか俺も、そういう存在にならないとな……)

俺がゲオルグさん達、そしてエクセリア達の事を見ていると、ネロが前足で俺の事を静かに叩きながら声を掛けてきた。

 

「リオス、ソロソロ……ルーンリンガルヲ、ミツケヨウゼ?」

「それもそうだな。それじゃあ……」

 

俺がバッグの中から【竜の横笛】を取り出すと、エクセリアが不思議そうな様子で話し掛けてきた。

 

「リオスさん、それは……?」

「これは【竜の横笛】っていうもので、必ずじゃないけど竜の気持ちを落ち着けたり出来る物なんだ。

さて、それじゃあ早速……」

 

俺は【竜の横笛】を構えた後、ゆっくりと【竜の横笛】を吹き始めた。

 

「~♪ ~♪」

 

【竜の横笛】は宮殿の壁に反響しながら、いつものように綺麗な旋律を奏でた。

 

「ふふっ……素敵な音色ね、ラピュセル」

「ウ……ン♪」

「ほう……このような物もあるのか……」

「……ふん」

 

エクセリア達の感想を聞きながら、白竜の弔いの意味も込めて【竜の横笛】を吹き続けていると、どこからかもう一つの音色が聞こえてきた。

(なるほど、そっちか)

俺がネロにアイコンタクトをすると、ネロは頷いてから音色の元へと歩いていった。そして段々音色が近づいてきたと思った瞬間、ネロが【ルーンリンガル】をくわえて戻ってきた。

(うん、やっぱりこの方法で良かったみたいだな)

俺はゆっくりと演奏を止め、口から【竜の横笛】を離した。そしてバッグの中にしまった後、ネロから【ルーンリンガル】を受け取り、静かにネロの首へ【ルーンリンガル】を掛けた。

 

「よし……ネロ、これで良いか?」

「あー……あー……

うっし……! これでオッケーだぜ、リオス!」

「ああ、そうみたいだな」

 

俺は返事をしながら、ネロと一緒に笑い合った。

(……これからも頑張っていこう。ナギアとはまた違う、たった一匹の相棒と一緒に)

ネロの笑顔を見ながら、俺は改めて強く決心した。

 

 

 

 

宮殿からの帰り道、皆で山道を歩いていると、キャトラがふと口を開いた。

 

「……今更だけど、アイツ―竜狩りにも色々事情があったのかもしれないわね」

「ええ……彼らのような犠牲者を出さないためにも、私達が人と竜との架け橋にならなければなりません」

「そうだな。俺も今回の件で、人と竜との絆について色々と思うことがあったし、それに俺も協力させてもらうよ、エクセリア」

「ふふっ……ありがとうございます、リオスさん」

「どういたしまして」

 

エクセリアと静かに笑い合った後、エクセリアはラピュセルの方へと顔を向け、ラピュセルに声を掛けた。

 

「共に頑張っていきましょうね、ラピュセル」

「……」

「……ラピュセル?」

 

ラピュセルの様子にエクセリアは不思議そうに首を傾げた。

(もしかして……)

 

「ラピュセル……言葉が話せなくなったのか?」

「え……そんな。

ラピュセル、どうして……!」

 

エクセリアが焦った様子を見せると、カグツチが鼻を鳴らしながら静かに言い放った。

 

「ふん、お前達のような未熟者が一日で我らのようになれるわけがないだろう。

リオス、ネロ。当然、お前達もだ」

「あ、やっぱりか……」

「(やれやれ……またしばらくはコイツ―【ルーンリンガル】の世話になるみてぇだな )」

「そうだな。でも、【ルーンリンガル】があると何だかんだで落ち着くよな」

「(へへっ、まあな)」

 

俺達が笑いながら話をしていると、ゲオルグさんが俺達とエクセリア達の事を見ながら静かな声で言った。

 

「ネロやラピュセルが人語を使いこなせるようになるには、今後の姫様達の成長次第ですな」

「俺達と……」

「私達の……」

「「成長次第……」」

 

俺達が声を揃えて言うと、キャトラ達が微笑みながら次々と声を掛けてきた。

「大丈夫。焦らなくても、アンタ達なら絶対に出来るわよ」

「うん、キャトラの言う通りよ。

もし私達にも何か協力できる事があったら、遠慮なく言ってね」

「リオス達はもちろん、エクセリア達も俺達の友達であり仲間だからさ」

「皆……ありがとうな」

「皆さん、本当にありがとうございます」

 

キャトラ達に対してお礼を言った後、俺はエクセリアに声を掛けた。

 

「エクセリア、同じ竜が相棒の者同士、これから一緒に頑張っていこうぜ」

「はい!

リオスさん、ネロさん、これからもよろしくお願いします!」

「(おう!

それと……俺の事は、ゲオルグ達を呼ぶみてぇに呼び捨てで良いぜ?

さん付けで呼ばれると、何かむず痒くてしょうがねぇからな)」

「ふふ……分かりました。

それじゃあ改めて……これからもよろしくお願いしますね、リオスさん、ネロ」

「ああ、よろしくな。エクセリア、ラピュセル」

「(よろしくな! エクセリア! ラピュセル!)」

 

そして俺達が笑い合っていると、キャトラがふと何かを思い出したような顔をしながらゲオルグさんに話し掛けた。

 

「ねぇ、ゲオルグ」

「む? 何かな、キャトラ君」

「さっき、ゲオルグ達が邪竜と戦ってた時なんだけど、ゲオルグ達とエクセリア達に見えたオーラみたいなのの色は一色だったけど、リオス達のは二色だったのって、何か理由でもあるのかな?」

「うむ……それは自分達にも分からんな……」

「あれ、そうなの?

それじゃあ……リオス、ネロ。アンタ達はあの時、どんな感じだったの?」

「どんな感じ、か……」

 

俺はあの時―俺達の体が白と黒のオーラのようなものを纏い、【グラントスピア】のオーブが白と黒に染まっていた時の事を思いだした。

 

「なんというか……今までとは違う力が沸き上がってきた感じだったな」

「(だな。あの時、今ならどんな奴にだって勝てるんじゃねぇか……って思えたくれぇだしな)」

「後、【グラントスピア】のオーブが白と黒に染まっていたんだよな。今まであんな色見たことなかったのに……」

 

(もし、あれが人と竜との真の絆による物じゃなかったとしたら、一体何なんだろうな……?)

 

「うーん……ますます謎は深まるばかりね。でもあんなに強いんだから、これからの<闇>との戦いでも使えたら本当に助かるわね」

「まあ、そうだな」

 

俺達がその事について結論付けていると、ゲオルグさんが真剣な表情でエクセリアに話し掛けた。

 

「姫様、此度の白竜と<闇>の一件、これで終わりとは思えません。自分はこの地に留まり、あの<闇>の者を追います」

「……いえ、ゲオルグ。私も行きます。ドラグナーとして、竜と人のためにここで成すべき事を果たします」

「姫様……かしこまりました」

「まったく、懲りない小娘だ……

もう良い、勝手にしろ。

だが次は見捨てるぞ、良いな?」

「ええ、大丈夫よ、カグツチ」

 

カグツチの言葉にエクセリアが微笑みながら返事をしていると、キャトラが良いことを思い付いた様子でエクセリア達に声を掛けた。

 

「あっ、それなら、飛行島を拠点にしたらどうかしら?」

「飛行島を……ですか?」

「ええ。飛行島には宿屋もあるし、ネロのために建ててもらった竜舎もあるわよ」

「それは助かるのですが……本当によろしいのですか?」

「うん。その分、公務が無い時とかにギルドの依頼とかアタシ達の目的にも付き合ってもらうことにはなるけどね」

「目的……たしか<大いなるルーン>を探しているんですよね……」

「そうよ。それに……」

 

キャトラは俺とエクセリアの事を交互に見ながら言葉を続けた。

 

「ちょっと面白そうな事にもなりそうだしね……♪」

「(ああー……なるほど、たしかにそうだな……♪)」

「でしょ♪」

 

ネロがその言葉に同調すると、キャトラは更に楽しそうな様子を見せたため、俺は少々疑問を覚えながらキャトラ達にそれについて訊いてみた。

 

「キャトラ、ネロ……いったい何を考えてるんだ……?」

「んーん、別に何でもないわよ♪

それよりも……リオス達はアタシの案に賛成なの?」

「俺は……まあ、賛成だけどさ。同じ竜が相棒の者として、色々と学びたいことがあるからな。

それにせっかく仲良くなれた事だし、もっと色々な事を一緒にしてみたいからさ」

「もちろん、俺も賛成だぜ!」

「私も賛成。エクセリアさん達と一緒だと、凄く賑やかになりそうだしね」

「うんうん、たしかにそうよね」

 

キャトラは俺達の意見を聞いた後、エクセリア達の方へと顔を向けた。

 

「それで、エクセリア達はどうする?」

「私は……」

 

エクセリアは少しだけ考え込んだ後、ニコッと笑いながらキャトラに返事をした。

 

「私も皆さんと一緒にいたいです。皆さんと一緒なら、絶対に楽しいですから。

ね、ラピュセル♪」

「♪」

「うんうん。ゲオルグとカグツチはどう?」

「そうだな……うむ、自分も賛成だ。もちろん姫様のこともあるが、<闇>を追うならば、やはり拠点となる場所が必要になるからな」

「ふん、そういう事だ。しばらく厄介になるぞ、お前達」

「オッケー♪」

 

キャトラが声を弾ませながら言うと、エクセリアは嬉しそうな様子でゲオルグにお礼を言った。

 

「ゲオルグ、ありがとうございます」

「いえ。ですが……」

「分かっているわ、ゲオルグ。お父様にはしっかりとお話をするし、公務もしっかりとやるし、リオスさん達のお手伝いだってするもの」

「かしこまりました」

 

ゲオルグさんが恭しく返事をした後、ゲオルグさん達とエクセリア達は俺達の方へ体を向けた。

 

「皆、しばらくの間、姫様共々よろしく頼む」

「しばらくの間、厄介になる」

「皆さん、これからもよろしくお願いします♪」

「♪」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく」

「これからよろしくお願いします」

「よろしくね、みんな♪」

「(よろしくな!)」

『よろしくお願い致します』

 

そして俺達はガッチリと握手を交わした。

(まだまだ謎なこととかは多いけど、新しい仲間達がいれば大丈夫な気がする)

エクセリア達と握手を交わしながら、俺は心の中でそう確信した。




政実「最終話、いかがでしたでしょうか」
リオス「なんというか……ようやく完成させた感じだな」
政実「あはは……まあ、そうだね。
そしてこれから本編ストーリーの方、具体的にはピレント島編から基本的にはエクセリアも一緒に島を巡ることになります」
リオス「それとピレント以前のHardとか書く予定のあるエクセリアが出てこないイベントの話にも参加するんだっけ?」
政実「そう。そして現在開催中のアイドルωキャッツ!イベントもこの番外章の方で書いていく予定になっています」
リオス「それはいつになることやら……
さて……作中で謎の白と黒の魔力みたいなのが出てきたけど、アレの正体はストーリーの方で明らかになるんだよな?」
政実「うん、そう。ただ、もっと先の話にはなるけどね」
リオス「了解。
そして最後に、この作品への感想や意見もお待ちしております」
政実「それじゃあ、そろそろ締めていこうか」
リオス「だな」
政実・リオス「それでは、また本編で」


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番外第2章 Holy Night Story~あるある王子とまんぞく姫~
第1話 パーティーへの誘いと魔法の本


政実「どうも、片倉政実です」
リオス「どうも、リオスです」
政実「今回の番外第2章は、クリスマスイベントの1つである
『Holy Night Story~あるある王子とまんぞく姫』
のストーリーを元にして書いていきます」
リオス「クリスマスはとっくに過ぎてるけど、何で今更クリスマスイベントの奴なんだ?」
政実「えっとね……本当なら今年のクリスマスに他のクリスマスイベントのストーリーと同時進行で書こうとしてたんだけど、それだと3つ同時になる事に気付いてね……」
リオス「なるほど。つまり、3つ同時はさすがにきついから、今までの奴をクリスマスまでに書いてしまおうとしてるわけか」
政実「そんなところだね。因みに去年の正月と今年の正月のイベントもそうやって書いていくつもりだよ」
リオス「ん、了解。
さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・リオス「それでは、第1話をどうぞ」


クリスマスが近付いてきたある日のこと、エクセリア達と一緒に飛行島でのんびりしていると、

 

「みんな-! お手紙が来てるわよ-!」

 

アジトの方からヘレナさんの声が聞こえてきた。

 

「手紙……どなたからでしょうか?」

「さぁ……」

 

俺とエクセリアが不思議そうに顔を見合わせながら話していると、キャトラが顔を輝かせながら俺達にこう言った。

 

「クリスマスも近いし、誰かからのパーティーのお誘いとかだったりして!」

「もう、キャトラったら……」

 

キャトラの言葉を聞き、アイリスが呆れ気味にそう言うと、ナギアが小さく笑いながらこう言った。

 

「あはは。まあ、とりあえず行ってみようぜ?

もしかしたらキャトラの言う通り、誰かからのパーティーへの招待かもしれないしさ」

「たしかに無くはないか。

……よし、それじゃあ、行くか」

「おう!」

「うん!」

「ええ!」

「はい!」

「(おうよ!)」

 

俺達は手紙の内容を確認するべく、アジトの方へと歩いて行った。

 

 

 

 

「……はい、これがそのお手紙よ」

「ありがとうございます、ヘレナさん」

 

アジトへ着くとすぐに、俺達はヘレナさんから件の手紙を受け取り、差出人の名前を確認した。

 

「差出人は……ディオニスさんか」

「ディオニスって事は、いよいよパーティーへのお誘いの線が強くなってきたわね!」

「さぁ、どうだろうな。リオス、早く読んでみようぜ」

「ああ」

 

ナギアに返事をした後、俺は服のポケットからペーパーナイフを取り出し、ゆっくりと封を切った。そして中から便箋を取り出した後、ゆっくりとその内容を読み始めた。

 

「えーと……

『飛行島の皆へ

 

この度、私の屋敷でクリスマスパーティーを行うことにした。そしてそのパーティーに、是非君達を招待したい。もちろん、友人などと一緒に来てくれても構わない。

もし、参加出来るようならその返事を当日前までに頂きたい。皆の参加を心よりお待ちしている。

それでは……

ディオニス・ヴァランガ』

 

……だってさ」

 

俺が手紙から顔を上げると、キャトラがとても嬉しそうな顔でこう言った。

 

「ふっふっふ……アタシの読み通り、やっぱりパーティーのお誘いだったわね。おまけにアタシ達は、クリスマスの日には何の予定もない!これは参加するっきゃないわ!

そして後は……」

 

キャトラはエクセリアの方へ顔を向けるとこう訊いた。

 

「エクセリア、アンタはクリスマスの日に何か予定とかはある?」

「えっと……たしか何も無かったはずです」

「それならアンタ達も一緒にクリスマスパーティーに参加しない? 手紙には友達と一緒に来ても良いって書いてるし」

 

キャトラの提案を聞くと、エクセリアはとても嬉しそうな顔で答えた。

 

「クリスマスパーティー……! はい、私も皆さんと一緒に行ってみたいです!」

「そうこなくっちゃ♪」

 

キャトラとエクセリアが楽しそうに話している中、アイリスが少し心配そうな顔でこう言った。

 

「あ、でも……一応ゲオルグさんにも確認してみた方が良いんじゃないかな……」

「あ……それもそうね。

えっと……確かゲオルグは、バロンの工房にいるはずよね?」

「ああ、そのはずだ」

「それじゃ、工房へ向けて出発しましょ!」

 

俺達はキャトラの言葉に頷いた後、バロンさんの工房へ向けて歩き始めた。

 

 

 

「おーい、ゲオルグ-! いるー?」

 

工房のドアを開けると同時に、キャトラが大きな声で奥の方へ呼びかけた。

すると、

 

「む、皆……? それにエクセリア様まで……」

 

工房の奥から、ゲオルグさんが不思議そうな顔で歩いてきた。

 

「あっ、いたいた。ねぇ、ゲオルグ。ちょっと訊きたいことがあるんだけど?」

「訊きたいこと?」

「うん。エクセリアってクリスマスの日に公務とかはあったりするの?」

「いや、特には無いが……それがどうかしたのか?」

「えっとね、実はアタシ達がクリスマスパーティーに招待されてるんだけど、それにエクセリア達も連れて行きたいなと思っててね」

「クリスマスパーティーか……招待主の名は?」

「鎧の国のディオニスよ」

「ほう、ディオニス様の招待か……」

 

ゲオルグさんが小さな声で興味深そうに呟いていると、エクセリアが不安げな顔をしながら前へ進み出てこう言った。

 

「ゲオルグ……私、皆と一緒にクリスマスパーティーに行きたい。せっかく皆とお友達になれたからこそ、皆と一緒に色々な事をやってみたいの。だから、お願い……! 皆と一緒にクリスマスパーティーに行かせて……!」

 

エクセリアが頭を下げながらそう言うと、ゲオルグさんは優しく微笑みながら返事をした。

 

「……エクセリア様、顔をお上げください。私はエクセリア様がリオス殿達と共に、そのクリスマスパーティーに参加される事を悪い事だとは思ってはおりませんよ」

「それじゃあ……!」

「ええ。これもエクセリア様にとっては良い機会ですから。是非リオス殿達と共に、クリスマスパーティーに行ってきてください」

「ゲオルグ、ありがとう……!」

「いえ、礼には及びません。その代わり、当日はしっかりと楽しんできてください、姫様」

「ええ、もちろん!」

 

ゲオルグさんはエクセリアの言葉に小さく頷いた後、俺達の方へと顔を向けた。

 

「皆、当日はエクセリア様の事をよろしく頼む」

「「「はい!」」」

「もちろん!」

 

ゲオルグさんに返事をした後、キャトラが俺達の事を見回してから元気良くこう言った。

 

「よーし、当日は目いっぱい楽しむわよ-!」

「ああ」 「おう!」 「ええ」 「はい!」

 

俺達はキャトラの言葉に声を揃えて返事をした。

 

 

 

 

そしてクリスマスパーティー当日、雪が静かに降り続く中、俺達はディオニスさんとの待ち合わせ場所で、話をしたりしながらディオニスさんのことを待っていた。

(さてさて……今夜のパーティーには他にどんな人が招待されてるのかな?)

そんな事をぼうっと考えていると、俺達に向かって冷たい風が吹いてきた。

(うーん……今日は思ったより冷えるみたいだな……)

そう思った後、俺は皆の様子を横目で確認してみた。

(俺とナギアはいつも通りの服装だからまだ良いけど……アイリスにキャトラ、そしてエクセリアはパーティードレス姿だから寒いかもしれないな……よし、一応皆に訊いてみるか)

そう考えた後、俺は皆に声を掛けた。

 

「今夜は思ったより冷えるみたいだけど、皆は大丈夫か?」

 

すると、皆は微笑みながら返事をした。

 

「ああ、俺は大丈夫だぜ!」

「私も大丈夫だよ、リオス」

「もちろん、アタシも大丈夫よ♪」

「(俺もこのくらいなら余裕だぜ!)」

「私達も大丈夫です。ねっ、ラピュセル♪」

「♪」

「分かった。ただ、もし寒くなってきたら言ってくれよ? 一応皆分の羽織れそうな物とかを持ってきてたからさ」

「「(おう!)」」

「「うん!」」

「はい!」

「♪」

 

皆の返事に頷いた後、俺は静かに降ってくる雪に視線を向けた。

(クリスマスの日に雪か……そういえばこういう日の事をホワイトクリスマスって呼ぶんだっけ……)

雪を眺めながらそう思っていると、エクセリアが静かな声で俺達に話し掛けてきた。

 

「雪……綺麗ですね」

「……ああ、そうだな」

「(……へへっ、だな)」

「♪」

 

俺達が静かに雪を眺めていると、キャトラがウキウキした様子でこう言った。

 

「う~ん♪ それにしてもパーティーでどんな料理が出て来るか今から楽しみだわ~♪」

「もう……キャトラったら、流石に気が早いよ?」

「あははっ、でもキャトラらしいと言えば、キャトラらしいよな?」

「……ふふ、そうかもね」

 

ナギアの言葉にアイリスが小さく笑いながら返事をしているのを聞いた後、俺も小さく笑いながらエクセリア達に話し掛けた。

 

「どうやらキャトラの場合は花より団子ならぬ、雪よりも料理みたいだな」

「ふふっ、そうですね」

「(へへっ、みてぇだな)」

「♪」

 

俺達が小さく笑い合っていると、前方に雪の中を俺達に向かって雪道を歩いてくる影が見えた。影は俺達の存在に気が付くと、歩く速さを上げた。そしてそれから程なくして、その影の主が俺達の目の前に現れた。

 

「皆、待たせて済まなかったな」

 

影の主―ディオニスさんが少し申し訳なさそうな顔で俺達に話し掛けてくると、キャトラがいつも通りの調子で返事をした。

 

「やっほー、ディオニス。アタシ達はそんなに待ってないから、謝らなくても大丈夫よ」

「ふっ……そうか、ありがとう。

さて……話は歩きながらすることにして、そろそろパーティーの会場である私の屋敷へ行くとしようか」

「「「「はい!」」」」

「オッケー! 」

「(おう!)」

 

こうして俺達はディオニスさんと共に、パーティーの会場であるディオニスさんの屋敷へ向けて歩き始めた。

 

 

 

 

歩き始めてから数十分後、屋敷へ向けて歩いている途中で出会った他の参加者達と共に俺達はディオニスさんの屋敷に到着した。

 

「わぁ~! スッゴくおっきなお屋敷だね~!」

「えしえしの言う通りなのだ、スッゴくおっきいのだ!」

 

扉のルーンの力で世界を旅している少女、エシリアと新世代の悪魔と呼ばれる少女、ルーシーが屋敷を見上げながら楽しそうに声を上げた。

 

「はっはっは、喜んでもらえたようで良かったよ。それでは、中に入るとしよう」

 

ディオニスさんの言葉に頷くと、俺達はディオニスさんの後に続いて屋敷の中へと入っていった。

 

 

 

 

屋敷の中へ入った俺達は、廊下に飾られている調度品などに目を向けながら、ディオニスさんの後に続いて歩いて行った。そして大部屋らしき場所の前に着くと、ディオニスさんはゆっくりとドアを開け、そして俺達の方へと振り返りこう言った。

 

「みんな、ここがパーティーを行う大ホールだ。さぁ、入ってくれ」

 

ディオニスさんの言葉に小さく頷き、俺達は大ホールへと入っていった。

すると、

 

「わぁー! スッゴく広いし、料理もたっくさんあるわ!」

 

大ホールの様子を見て、キャトラが大きな声でそう言った。大ホールの壁には絵画などの美術品が飾られおり、そしてホールに置かれた幾つかの丸テーブルに近付いてみると様々な料理が並べられていた。

(これは本当に凄いな……何か壁際にお手伝いさんみたいな人達も並んで立ってるし……)

そう思っていると、ディオニスさんが笑いながらこう言った。

 

「はっはっは、今夜のパーティーのために、様々な種類の料理を用意させたからな。参加者の誰もが満足してくれる物になっていると、私は確信しているよ」

 

すると、ディオニスさんの言葉を聞いたキャトラがニヤリと笑った。

 

「ほうほう……言っちゃったわね、ディオニス。言っとくけど、アタシはちょっとやそっとの事じゃ満足しないわよ?」

「ふっふっふ、そのくらいは分かっているさ。もちろんキャトラにも満足してくれる内容になっているとも」

「へぇ……自信満々じゃない。そういうことならアタシも全力で臨ませてもらうわ!」

 

(全力で臨ませてもらうって、絶対にこれからパーティーをするとは思えない言葉だよな……)

キャトラの言葉に苦笑いを浮かべていると、ディオニスさんが小さく笑いながらこう言った。

 

「ああ、全力で楽しんでいってくれたまえ。

さて……そろそろ始めるとしようか」

 

ディオニスさんが指をパチンと鳴らすと、ホールの壁際に立っていた人達が一斉に動き出し、俺達に飲み物がグラスを配り始めた。俺達全員にグラスが行き渡ったことを確認すると、ディオニスさんは静かな声でこう言った。

 

「……うむ、それではそろそろ乾杯といこうか」

 

そしてグラスを持った手を高く上げると、ディオニスさんは大きな声で言葉を続けた。

 

「みんな! よく来てくれた! 今夜は思う存分、このパーティーを楽しんでいってくれ!

乾杯!」

『乾杯!』

 

こうして俺達のクリスマスパーティーが幕を開けた。

 

 

 

 

クリスマスパーティーが始まってから少し時間が経った頃、俺とエクセリア、そしてナギアとアイリスが話をしていると、

 

「ううううう……!」

 

キャトラが声を上げながら何かをしているのを見つけた。

 

「キャトラ、どうかしたのか?」

 

俺達が近付いてみると、キャトラは力を込めて本のページを捲ろうとしているところだった。

 

「タイトルは……『あるあるおうじとまんぞくひめ』、どうやら絵本みたいだな。キャトラ、その本どうしたんだ?」

 

俺がそう訊くと、キャトラはページを捲ろうとするのを1度止め、俺達の方へ顔を向けると、本を見つけた経緯を話してくれた。

 

「えっとね……さっき、そこに本棚があるのを見つけて、何か面白そうな本が無いか色々と見てたのよ。そしたらこの本がゴトッと出てきてね、タイトルが面白そうだったから、ペラペラと捲りながら読んでたのよ。でも……」

 

キャトラは再び本へ視線を戻すと、さっきから捲ろうとしていたページを前足で指し示しながら言葉を続けた。

 

「何かおかしいの。この最後の方のページが、くっついてるみたいに捲れないのよ」

「え?」

「糊付けされてるわけでも無いみたいだし、何か気になるのよね……」

「確かに気になりますね……」

 

キャトラの言葉にエクセリアが不思議そうに返事をしているのを聞きながら、俺は件の本について考えを巡らせていた。

(糊付けされてるわけでも無いのに捲れないページか……ワイズなら何か分かるかもしれないな)

そう思い俺がバッグからワイズを取り出そうとしたその時、

 

「みんな、どうしたのだ?」

 

ルーシーが不思議そうな顔をしながら俺達にそう訊いてきた。そして絵本の存在に気付くと、顔をパアッと輝かせた。

 

「あ! ごほんなのだ! ルーシーも読みたいのだ!」

「それがねルーシー、これ、最後の方が捲れなくて……」

「貸してみるのだ! ふんっ! ぬぬぬぬ……」

 

ルーシーが力を込めてページを捲ろうとするが、

 

「……ダメなのだ~!」

 

ページは一向に捲れる様子が無かった。

 

「ルーシーちゃんの力でもピクリともしない……何かの魔法なのかしら……?」

「その可能性はあるかもな……」

 

アイリスとナギアが真剣な顔で考え始める中、俺は今度こそワイズを取り出した。

 

「ワイズ、この絵本について何か分かることはあるか?」

『そうですね……私にも全部が分かるわけではありませんが、アイリス様のお考えの通り、どうやらこの絵本には特殊な魔法のような物が掛けられているようです』

「特殊な魔法か……」

『はい。ですが……その魔法の発動条件などを調べるためには少々時間を掛けなればならないようです……』

「分かった。時間は掛かっても良いから調べてみてもらえるか?」

『かしこまりました』

 

俺達がそう話していると、

 

「ふぇ~? ぼんたち、どうしたんじゃ? ほれ、この飴をお食べ~」

「(ん? お前達、どうかしたのか?)」

 

今度はキョンシーのおばあさんであるシャオフーさんとネロ達が俺達に近付きながらそう訊いてきた。

 

「えっと、実は……」

 

俺がシャオフーさんやネロ達に説明をしようとしていると、

 

「皆さん揃って何をやってるでござるか~? 洋ナシをキャドゥーでござる」

 

次に花の都の島出身のフルーツ忍者であるフランが俺達に洋ナシを渡し始めた。

 

「フランさん、いつも洋ナシありがとうございます。あのね……」

 

洋ナシを受け取りながらアイリスがフランに説明をし始めると、

 

「チェシャ~♪ あっちにおっきな七面鳥があったよ~♪」

 

エシリアが離れたところにあるテーブルを指差しながらキャトラのところへ急ぎ足で向かってきた。

 

「それはターキーっていってね……」

 

キャトラがエシリアにターキーについて説明し始めると、

 

「おい、アイリス! 我のパートナーに命じてやる! 一緒に踊れ!」

 

【夜の王】と呼ばれる吸血鬼の末裔であるメルクリオがアイリスをダンスに誘い始めた。

 

「今ちょっとね……」

 

そしてアイリスがメルクリオに返事をしていると、

 

「は~♪ よいこらさっさ、よいさっさ~♪」

 

レンファさんが華麗な舞を披露し始めた。

(今度はレンファさんか……)

俺がレンファさんに今の状況について説明を始めようとしてると、

 

「うひょひょひょ~♪ あらしも混ぜてぇ~♪」

 

鬼退治の一族の女性、シズクさんがおぼつかない足取りで俺達へと近付いてきた。

(はぁ……何でこんな時に、【酩酊素面反転の呪い】が発動するんだよ……)

俺がため息をつきながらそう思っていると、キャトラがぷるぷると体を震わせ始めた。

 

「シズクまで! 何なのよ! ちょっと皆、静かにして!」

 

キャトラが溜めかねた様子で本を前足で叩きながら皆にそう言ったその時、突然キャトラが持っている本が光り輝き始めた。

(本が……もしかして、魔法の発動条件を満たしたって事なのか?)

俺がさっきのワイズの言葉を思い出していると、キャトラが驚いた様子で声を上げた。

 

「えっ!? 何これ!?」

 

キャトラがどうしたら良いのか分からない様子で、本と俺達を交互に見ていると、

 

「なんて事だ!」

 

突然、ディオニスさんが深刻そうな表情を浮かべながら声を上げた。

 

「ディオニスさん!?」

 

アイリスが驚いた様子で声を上げたが、ディオニスさんはそれには答えず、深刻そうな表情を崩すこと無く言葉を続けた。

 

「でろでろのおかしに洋ナシ、七面鳥、ダンスへの誘い、祝福の舞、へべれけの女性、それと悪魔と高貴なる鎧!

全てが揃ってしまったぁっ!!」

 

(おいおい……その状況、どう考えてもピンポイント過ぎるだろ……)

ディオニスさんの様子を見ながら、俺が心の中でツッコミを入れていると、ディオニスさんが低い声でこう言った。

 

「解けるぞっ……! 封印がっ……!」

 

その瞬間、本から放たれている光が強くなり、俺達の視界がその光に包まれた。

 

「な―!? 何なのよぉ―!?」

 

キャトラのそんな声が聞こえたかと思った瞬間、自分の意識が遠のいていくのを感じた。




政実「第1話、いかがでしたでしょうか」
リオス「この調子だと……番外第2章は3話構成で行く感じか?」
政実「一応そのつもりだよ。ただ、途中で話数を変えることもあり得るけどね」
リオス「ん、了解。
さてと……次回の更新予定はいつ頃になりそうなんだ?」
政実「出来る限り、1週間くらいから2週間で更新するつもりだよ」
リオス「分かった。
さて……それじゃあそろそろ締めていくか」
政実「うん」
政実・リオス「それでは、また次回」


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第2話 呪われた王子と働き者の娘

政実「どうも、片倉政実です」
リオス「どうも、リオスです。
今回は途中で俺視点とナギア視点の話に分かれるみたいだな」
政実「うん。一応、次回の第3話もそうなる予定だけどね」
リオス「ん、了解。
さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「だね」
政実・リオス「それでは、第2話をどうぞ」


 

「……ん」

 

明るい陽の光を感じ、俺はゆっくりと目を開けた。すると、目に飛び込んできたのは、のどかな村の風景や季節を無視した色とりどりの花々、そして俺達とはどことなく雰囲気の違う衣服を身に纏った通行人達、更に遙か遠くにあるとても大きなモミの木だった。

(……あれ、何で俺達、こんなところにいるんだ……?)

そんな事を思っていると、ナギアがわけが分からないといった様子で話し掛けてきた。

 

「……俺達、さっきまでディオニスさんの屋敷で皆とクリスマスパーティーをしてたよな……?」

「ああ、でもここは……」

 

明らかにさっきまでいた場所とは違う場所の様子に俺達が戸惑っていると、突然ディオニスさんが驚愕の表情を浮かべながら大きな声を上げた。

 

「なっ……! なんて事だ……! ここは……!」

「明らかに本の中ね……!」

 

ディオニスさんの言葉にキャトラが少し緊張した様子で答えたその時、ルーシーとエシリアがとても嬉しそうな様子で声を上げた。

 

「えっ!? ここ、ご本の中なのだ!?

わ~いなのだ~!」

「ここ、本の中か~♪ へへへ~♪ おっもしろ~い♪」

 

ルーシー達が楽しそうにはしゃぎ出すと、シャオフーさんが静かな声でルーシー達に話し掛けた。

 

「これこれ、あんまりはしゃぐと転ぶでのぅ」

「うーん……たしかにこの衣装だと、ちょっと走り辛いでござる~」

「フラン、子供に張り合っても敵わないんだから、止めておきなさい」

 

レンファさんがフランに対して静かに言っていると、この皆の様子を見たメルクリオが片手で頭を抑えながら理解出来ないといった様子で独りごちた。

 

「なんだこの者達……! この不可解な現象に、一切疑問が湧かないのか!?」

 

(まぁ……その気持ちは分かるけどな)

メルクリオの様子を見ながら苦笑いを浮かべていると、

 

「――はっ!?」

 

突然シズクさんが大きな声を上げた。そしてすぐに隣に立っていたシズクさんの竜―シュゴウの方へ視線を向けた。

 

「……どうやら、私はまたふにゃふにゃとしていたようですね。

シュゴウ、ありがとうございます」

 

シュゴウに対してニコッと笑いながらお礼を言った後、シズクさんは周りをキョロキョロと見回しながら不思議そうに声を上げた。

 

「ところで……ここはどこですか?」

「絵本の中の世界でござる」

「なるほど。把握しました」

 

シズクさんがすぐにその事を理解すると、メルクリオが大きな声を上げた。

 

「おいっ!? そんな簡単に納得するのか!?」

 

(……メルクリオがツッコミをしてくれる分、凄く楽になるな……)

そんな事を考えていると、難しい顔をしていたディオニスさんが静かに口を開いた。

 

「言い伝えの通りだ……

こうなってしまっては、俺達がここから出るには――」

「出るには……?」

「この物語を、終わらせなくてはならない!」

「この……」

「物語を……」

「終わらせる……?」

 

俺達が不思議そうにしていると、ディオニスさんが静かな声で語り始めた。

ディオニスさんの話によると、この本は、結末を封じられた呪われた本であり、誰もこの本の終わりを知らない。

そして本に誘われてしまった者は、この物語をハッピーエンドに導くまで外に出ることが出来ないとの事だった。

(結末を封じられた呪われた本……それなのに、ハッピーエンドに導かないといけないって……)

 

「<祝福されし最後のページ>……それを作り上げるしか、ここから出る方法は無いのだ……」

 

ディオニスさんが暗い顔で語り終えると、メルクリオがマントを広げながら自信満々な様子で言い放った。

 

「ふん。簡単なことだ。ここは本の中なのだろう? それならば元々のストーリー通りのシーンを作れば良いだけじゃないか」

「メルクリオ、この本の終わりを誰も知らないって、ディオニスさんが言ってただろ?」

「何だと!? それじゃあ、分からないではないか!」

「だから、みんな困ってるんだよ……」

 

俺がため息をつきながら言っていると、ルーシーとエシリアが楽しげに笑いながらはしゃぎ始めた。

 

「わーい! 祝福されるのだー!」

「へっへへ~♪ エシリア、そ~ゆ~の得意だもんね~♪

行こっ、ルールー♪」

「うんっ! なのだ~!」

 

そしてエシリアとルーシーは手を繋ぎながら村の奥の方へと走り出してしまった。

(はぁ……こういう時の個人行動はマズいだろうに……)

俺は心の中でため息をついていると、

 

「これこれ、勝手に行ったら、迷子になってしまうぞぇ~」

「あっ! こらっ! 僕を置いてくな!」

 

シャオフーさんがエシリア達を追うために歩き出し、それを追う形でメルクリオまでもが歩いて行ってしまった。

(ふぅ……しょうがないか)

心の中で静かに呟いた後、俺はナギア達の方を向いた。

 

「皆、とりあえずここは二手に分かれよう。走って行ったエシリア達の事を放っておけないし、皆で一緒に動くよりは分かれて情報収集をした方が良いからな」

「たしかにそうだけど……組み分けはどうするんだ?」

「俺はエクセリアとネロとラピュセルと一緒にエシリア達を追う。だからナギア達はディオニスさん達と一緒に情報収集を頼む」

「分かった。それじゃあ、集合場所は……」

 

ナギアは遠くに見えるモミの木を指さしながら言葉を続けた。

 

「あのモミの木のところにしようぜ」

「分かった」

 

相談を終え、俺はエクセリア達の事を見ながら声を掛けた。

 

「よし……それじゃあ、行こう!」

「はい!」

「(おうよ!)」

「♪」

 

そして俺達は、ルーシー達の後を追うべく、ネロ達の背に乗って走り始めた。

 

 

 

 

リオス達が走って行った後、俺は皆とこれからのことについて話すため、皆の事を見回した。

 

「さてと、先に情報収集をしててくれって言われたけど……どうやって情報を集めたら良いのかな……」

「うーん……終わりを誰も知らないわけだから、この世界の人に訊いたところで、知ってる人がいるわけは無いわよね?」

「うん……」

「そうですね……」

「その通りでござる……」

 

(うーん……本当にどうしたら良いのかな……)

俺達が少し途方に暮れかけていた時、ディオニスさんが顎に手を当てながら静かに呟いた。

 

「いや……まったく手がかりが無いわけではないぞ?」

「ディオニス、何か考えでもあるの?」

 

キャトラが不思議そうに訊くと、ディオニスさんは静かに頷きながら答えてくれた。

 

「ああ、まあな。

皆はこの本のタイトルがどんなものだったか覚えているか?」

「たしか……『あるあるおうじとまんぞくひめ』ですよね?」

「ああ、そうだ。本のタイトルにもなっているという事は、この二人はこの本の世界において重要な人物、つまり……」

「なるほど、そのあるある王子またはまんぞく姫のどちらかに該当する人物を捜し出せば……!」

「<祝福されし最後のページ>に少しでも近づけるかもしれないでござる!」

「その通りだ」

 

シズクさん達の言葉を聞き、ディオニスさんが深く頷いた。

(たしかにそうだ。タイトルにもなってるくらいだし、あるある王子とまんぞく姫の二人はこの世界の中ではとても重要な人物のはず。だからそのどちらかに会うことさえ出来れば、<祝福されし最後のページ>に少しでも近づけるかもしれない……!)

ディオニスさん達と話し、これからの事について、少しだけでも前進したような気がしたその時、近くから誰かの声が聞こえた。

 

「――もし?」

 

声がした方に向いてみると、そこには左右に分かれた茶色の三つ編みの優しそうな笑みを浮かべた女の人が立っていた。女の人は俺達の姿をジッと見つめながら少し首を傾げて言葉を続けた。

 

「あなた方は……旅人様でございますか?」

「旅人……まぁ、そうね。そういう風に言えなくも無いわね」

 

キャトラが答えると、女の人はニコッと笑いながら優しい声で言った。

 

「それでは、見知らぬ土地で何かと不便もあるでしょう。

わたしはナンシー。よろしければ、皆様のご案内をさせては頂けませんか?」

「そんな。初対面の方に、迷惑を掛けるわけには……」

 

シズクさんが申し訳なさそうに断ろうとすると、女の人―ナンシーさんは笑顔を崩すことなく答えた。

 

「面倒などではありません。

私は――満足しておりますから」

 

(満足……それって……)

ナンシーさんの口から溢れたその言葉が少し気になっていると、ディオニスさんが静かな声でナンシーさんに返事をした。

 

「分かった。では、案内をお願いしよう、ナンシー殿」

「はい。それでは、どうぞこちらへ」

「ああ」

 

ナンシーさんの後に続いて歩き始めた後、キャトラが小さな声でディオニスさんに話し掛けた。

 

「ねぇ、ディオニス。ナンシー本人がああ言ってたとはいえ、案内をお願いしたのは、流石に悪かったんじゃないの?」

「たしかにそうだと思う。だが、さっき彼女の口から溢れた、『満足』という言葉を聞いた瞬間、彼女と共に行動をした方が良いと感じたのだ」

「『満足』……それは、もしや……」

「ああ。もしかしたら勘違いなのかもしれないが、少なくとも可能性があるのなら、それに乗ってしまうべきだからな」

「なるほど……」

 

俺は呟くように言いながら、俺達の前を歩くナンシーさんに視線を向けた。

(ナンシーさんが俺達の探しているまんぞく姫かは分からないけど、とりあえずここはディオニスさんの言う通り、付いて行ってみるのが一番みたいだな)

そんな事を考えながら、俺は皆と一緒にナンシーさんの後を付いて行った。

 

 

 

 

ナンシーさんに案内をしてもらいながら村の中を歩いていると、村人の一人がナンシーさんの顔を見て不思議そうに話し掛けてきた。

 

「あら、ナンシー? そちらはお客様?」

「はい、ご案内しているところなんです」

「そう。ところで、後でどぶさらいをお願いできる?」

「はい、分かりました」

 

ナンシーさんが微笑みながら返事をすると、それに気付いた別の村人がナンシーさんに近付いてきた。

 

「おお、ナンシー。後でウチの子のお守りをお願いできるかな?」

「ええ、任せて下さい」

 

すると、それを見た他の村人達までもが次々とナンシーさんに頼み事を始めたが、ナンシーさん本人はニコニコとしながらその頼みを次々と聞き入れていった。

(なんだろう……何でかは分からないけど、ナンシーさんの様子に妙な違和感を覚えるな……)

俺が小さく首を傾げていると、村人達との話を終えたナンシーさんにキャトラが少し驚きながら話し掛けた。

 

「ちょっとちょっと、ナンシー? 流石にヒトが良すぎない?」

「何がでしょう?」

「何がって……あんなに村人達からの頼みを安請け合いしちゃってる事よ!」

「……ああ、その事ですか」

「その事ですかって……」

 

ナンシーさんの言葉にキャトラが唖然としていると、アイリスが申し訳なさそうな顔でナンシーさんに声を掛けた。

 

「あの……お忙しいようでしたら、私たちの案内は……」

「いいえ、私は大丈夫ですので、お構いなく」

「そうは言われても……何だか悪いわ」

 

レンファさんが申し訳なさそうな様子を見せたけれど、ナンシーさんは笑顔のままで返事をした。

 

「何も悪いことはありませんよ。私は満足していますから」

「うーん……それなら……良いでござるが……」

「ああ……そう、だな……」

 

フランとディオニスさんの言葉を聞くと、ナンシーさんはニコニコとしたまま俺達の案内を続けた。

 

「さあ皆様、こちらです」

 

そしてナンシーさんは村の色々なところを指さしながら言葉を続けた。

 

「空気も自然も人も素晴らしい、私の自慢の村なんです。

皆様、どうぞごゆっくりしていって下さいね」

 

ナンシーさんの様子に、何か引っ掛かるものを感じながらも、俺達はそれについては何も言わずにナンシーさんの案内を受けながら村の中を歩いて行った。

 

 

 

 

ルーシー達を追うためにナギア達と別れ、ネロ達に乗って走り出した後、俺達は村の様子を眺めながら先に行ってしまった皆のことを探していた。

 

「さて……早く皆を見つけないと……」

「そうですね……あまり遠くに行っていないと良いんですけど……」

「(ルーシー達はともかく、シャオフーとメルクリオならそろそろ見つかるんじゃないのか?)」

「だと良いけどな……」

 

エクセリア達と話をしつつ、村の様子を眺めながら歩いていたその時、道の先の方に見覚えのある姿が見えてきた。

 

「あれはもしかして……」

「(ああ、メルクリオとシャオフーみたいだが……)」

「どう見ても……メルクリオがシャオフーさんを負ぶってるような……?」

(何があったのかちょっと気になるし……メルクリオ達を拾うついでに何があったのか訊いてみるか)

俺達は顔を見合わせながらコクンと頷いた後、ゆっくりとメルクリオ達に近付き声を掛けた。

 

「メルクリオ、ちょっと待ってもらっても良いか?」

「ん……いったい誰だ……って、何だ、ようやく来たのかお前達」

「ようやくって……お前なぁ」

 

メルクリオの言葉に俺が苦笑いを浮かべていると、負ぶさっていたシャオフーさんが俺達の方へゆっくりと振り返った。

 

「おやおや、誰かと思うたらぼん達じゃったのか」

「(そうだぜ、シャオばあちゃん。ばあちゃん達がルーシー達を追ってった後、俺達はナギア達とこれからのことについて急いで話してから、ばあちゃん達の事を追ってきたんだ)」

「そうじゃったのか……それは他の皆にも申し訳ないことをしてしまったのう……」

「あ、いえ……シャオフーさん達がルーシーさん達を心配して追って行ってしまった事を、皆さんはしっかりと分かっていらっしゃいますから、大丈夫ですよ」

「エクセリアの言う通りですよ、シャオフーさん。だからこの事についてあまり気にしないで下さい」

 

俺とエクセリアの言葉を聞くと、シャオフーさんは目を細めながらそれに答えた。

 

「ありがとうね、ぼん達。ぼん達は本当に優しいのう」

「いえいえ。

ところで……シャオフーさんはどうしてメルクリオに負ぶさっているんですか?」

「それがのう……あの子らを追っていったまでは良かったんじゃが、途中でちょっと動けなくなってきてしまったんじゃ。じゃがその時に、この子が自分から負ぶってくれると言ってくれてのう」

「……動けないまま放っておくわけにいかなかったからな。だからこんな形で追うことにしたわけだ」

「なるほどな」

 

シャオフーさん達の説明に俺が納得していると、ネロがメルクリオのことを見ながらニヤッと笑った。

 

「(へぇ~……)」

「な、何だ……」

「(いや~? メルクリオにも良いとこがあんだなぁ~……と、思ってな?)」

「お、お前はぁ……!」

 

ネロの言葉を聞き、メルクリオはシャオフーさんを落とさないように気を付けながらネロに対して静かに怒りだした。

(まぁ、メルクリオの気持ちは分かるけど……今はルーシー達を探さないといけないし、とりあえず止めないとな)

俺はネロの背中から降りた後、ネロ達の間に立ってからメルクリオに頼み込んだ。

 

「メルクリオ、頼む。ネロには後でちゃんと言っておくから、ここは矛を収めてくれないか」

「お前……」

「(リオス……)」

 

メルクリオはネロと同時に呟いた後、一度深く息を吐いてから、俺の後ろにいるネロに声を掛けた。

 

「おい、黒竜――いや、ネロ」

「(……ああ)」

 

ネロが静かに返事をした後、俺の陰からゆっくりと顔を出した。そしてメルクリオとネロは同時に息をつくと、同時に口を開いた。

 

「ネロ、ムキになってすまなかった」

「(メルクリオ、からかいすぎてすまん)」

 

メルクリオ達は同時に言い終えると、揃って俺の方へと顔を向けた。

 

「リオス、恩に着るぞ」

「(リオスがああ言ってくれたおかげで、俺は……いや、俺達はこうやってお互いに謝れたからな)」

「……どういたしまして」

 

メルクリオ達の言葉を聞き、俺は小さく笑いながら返事をした。

(本当はそういうつもりで言ったわけじゃないんだけど……まあ、良いか)

俺は心の中で結論づけた後、俺は皆に話し掛けた。

 

「それじゃあ、ルーシー達探しを再開しようと思うんだが、その前に……」

「何だ、何か気になることでもあるのか?」

「せっかく皆で行動するわけだから、メルクリオ達もネロ達に乗ってもらおうと思ってな。それにメルクリオもシャオフーさんを負ぶって疲れてるだろうし」

「なるほどな……まあ、僕はまだまだ体力に余裕はあるが、そういう事なら乗ってやる事にしよう」

「わしもそれで大丈夫じゃ」

「分かりました。エクセリア達も大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。ね、ラピュセル?」

「♪」

「(もちろん、俺も大丈夫だぜ?)」

「分かった。それじゃあ……メルクリオは俺と一緒にネロに乗ってくれ。そしてシャオフーさんはエクセリアと一緒にラピュセルの方へお願いします」

「ああ、分かった」

「ふぇっふぇっふぇっ、了解じゃ」

 

そして俺はメルクリオと協力してシャオフーさんをラピュセルに乗せた後、メルクリオと共にネロに乗り、再びルーシー達を追うために村の中を進み始めた。

 

 

 

 

ルーシー達の捜索を再開してから数分後、俺達は村の外れ辺りにまで来ていた。

 

「ルーシーさん達、一体どこまで行ってしまったのでしょうか……」

「そうじゃのう……ケガとかをしてないと良いんじゃが……」

「ふん、アイツらならその心配は無いだろう。

それよりもリオス、今度はあのモミの木の辺りに行ってみてはどうだ?」

「モミの木か……たしかによく目立つから、興味を持って走って行ったかもしれないしな。

よし……それじゃあ、次は……」

 

俺が進路をモミの木へと変えようとしたその時、ネロが何かを見つけたように声を上げた。

 

「(……おい、お前ら。あそこにいるのってアイツらじゃねぇか?)」

「え?」

 

ネロの視線の先に俺達が顔を向けると、そこには仲良く手を繋ぎながら走っているルーシー達の姿があった。

 

「あ、本当ですね」

「どうやらそのようだな。

……まったく、世話の掛かる連中だ」

「ふぇっふぇっふぇっ、でもケガとかがなさそうで良かったわい」

「そうですね。

よし……それじゃあ、早速……」

 

俺達がルーシー達の方へ走り出そうとしたその時、ルーシー達の前方にある建物の陰から誰かがゆっくりと姿を現し、そのままルーシー達とぶつかった。

 

その様子を見て、ネロが小さくため息をついた。

 

「(……まったく、前も見ずに走るからそうなんだろうがよ……)」

「まあまあ。その事は後にして、まずはルーシー達のところへ行こうぜ」

「(まあ……そうだな)」

「よし……それじゃあ、改めて行こう」

 

皆が頷いたことを確認した後、俺は皆と一緒にルーシー達のところへと走って行った。

 

「(おーい! ルーシー! エシリア-!)」

 

走りながらネロが声を掛けると、ルーシー達はクルッと俺達の方を振り向いた。

 

「あーっ! リオス達なのだ-!!」

「あ、本当だ~♪」

 

ルーシー達が大きな声を上げている内に、俺達はルーシー達の所へと辿り着いた。そしてネロ達から降りた後、俺は少し呆れ気味に声を掛けた。

 

「あ、本当だ~、じゃなくてさ。

ダメだろ、勝手に走ってったら……」

「ごめんね、みんな~……」

「みんな、ゴメンなのだ……」

「(まったく……まあ、ケガとかはねぇみてぇだから良いけどな)」

「そうだな。

さて……」

 

俺は次にルーシー達がぶつかった獣人らしき男性の方へ顔を向けた。

 

「すいませんでした、俺達の仲間がご迷惑をかけてしまったようで……」

「ふん! 仲間だというのならば、しっかりと見ておくことだな!」

「はい、本当にすいませんでした……」

 

俺が謝りながらその男性に頭を下げると、メルクリオが不審そうな声で男性に話し掛けた。

 

「……ところで、お前は何者だ? 服装から察するに……その辺の村人とかでは無さそうだが」

「……俺か、俺はアルカ。王子のアルカだ」

「ふん……王子か」

 

メルクリオは男性が王子だと知っても、平然とした様子で返事をしたその時、突然アルカ王子がメルクリオのことを見ながら大きな声を上げた。

 

「む、貴様!」

「何だ、やる気か!?」

「『普通にしているのに、偉そうにしていると言われる!』

こういう事って、あるよなぁ!?」

「……何の事だ?」

 

突然の問い掛けにメルクリオが少し戸惑いの表情を浮かべたが、それも構わずアルカ王子はまた大きな声を上げた。

 

「良いから答えろ!」

「……まあ、たまにな」

「そうだよなぁ!?」

 

メルクリオの返事を聞き、アルカ王子は少しだけ喜びが混じったような大声を上げたが、すぐにまた不機嫌そうな表情を浮かべた。

 

「……フン!」

 

アルカ王子は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、別の方向に向かって歩き去って行った。

(……今の王子の言葉を考えるに、たぶんあの王子がそうなんだろうな……)

 

「あれ~? あの怪獣さん、何か様子が変だね~?」

「どうしたのかのぅ?」

「変なのだー」

 

アルカ王子が歩いていった方を見ながら、エシリア達が不思議そうに話していると、メルクリオが鼻を鳴らしながら話し始めた。

 

「ふん、察しの悪い奴らめ。我には先が読めたぞ」

「さき~?」

「ああ。リオス、エクセリア、ネロ。お前達もわかっているだろ」

 

メルクリオの言葉に俺達は静かに頷きながら答えた。

 

「ああ、アルカ王子はメルクリオに『あるある』って共感をして欲しかったんだと思う。つまり……」

「奴はこの本の主要人物、『あるある王子』である可能性が高い」

「そして俺達は、『あるある王子』と『まんぞく姫』を捜し出す必要がある」

「つまり、奴を導くことが、『祝福されし最後のページ』への手掛かりというわけだ」

「おお-!!」

「おお~!!」

 

俺達の予想を聞き、ルーシー達が顔をぱあっと輝かせた。

(まあ、あくまでも予想に過ぎないけど、可能性は高いはずだ)

ルーシー達の顔を見ながらそう考えていると、シャオフーさんが感心したように声を上げた。

 

「ふぇっふぇっふぇっ、ぼん達は賢いのぅ」

「いえ、そんな事は……」

「ふん、当然だ」

 

俺達の対称的な答えを聞いて、ネロがジトッとした目をしながらメルクリオに話し掛けた。

 

「(メルクリオ……少しは謙遜したらどうなんだ?)」

「ふん、当然の事を当然と言って何が悪い」

 

メルクリオの反応を見て、ネロが諦めたように呟いた。

 

「(まあ……良いか。

さてと……とりあえずあの王子を追うとするか)」

「そうだな。

よし……それじゃあ行くぞ、皆!」

 

皆が頷いたのを確認した後、俺は皆と一緒にアルカ王子の後を追い始めた。

 

 

 

 

アルカ王子を追って皆と一緒に走っていたその時、少し先の方で村人に向かってどすどすと歩いていくアルカ王子の姿が見えた。

(あの様子だと、あの村人にメルクリオにしたのと同じような質問をしようとしてるみたいだな)

アルカ王子の様子を見ながら静かに考えていると、アルカ王子が大きな声で村人に話し掛け始めた。

 

「おい! そこのお前!」

「は、はい、何でしょう……」

「『せっかく並んでたのに、自分の目の前で売り切れてしまう!』

こういう事って、あるよなぁ!?」

 

アルカ王子が強い口調で訊くと、村人は震えながら小さな声で答えた。

 

「は、はは……そうですね、ありますね……」

「そうだよなぁ!?」

 

アルカ王子は強い口調で言った後、静かに自分の手などを見ていたが、すぐに不機嫌そうな顔になると、村人を睨みつけながら大きな声を上げた。

 

「……行け!」

「は、はい!」

 

村人は震えながら返事をすると、逃げるようにして走り去っていった。

(さて……そろそろ話し掛けてみるか)

俺はアルカ王子との距離を縮めながら声を掛けた。

 

「さっきぶりですね、アルカ王子」

「さっきの連中か……俺に何の用だ?」

「はい。王子がこのメルクリオやさっきの村人に質問をしている理由を教えてもらいたいんです」

「その事か……お前達に話したところで意味は無いと思うが……まあ、良い。話してやる」

 

アルカ王子は少し声を低めながら言葉を続けた。

 

「……俺は、誰もが『あるある』と共感する話を探している」

「誰もが『あるある』と共感する話……」

「だが、何のためにそんな事を?」

 

メルクリオが不思議そうに訊くと、アルカ王子は自分自身を指差しながらそれに答えた。

 

「見ろ! 俺のこの姿を!

皆が恐れ、忌み嫌う、醜い怪物のこの姿!

これは呪いなのだ!」

「ふぇー? 呪い、とな?」

「そうだ! 魔女に掛けられた呪いだ!

これを解くためには、誰かと心から共感する事が必要なのだ!」

「だから、メルクリオさんや村人の方に質問をして、共感をしてもらおうとしていたのですね……」

「ああ!

……これで良いだろう、俺は忙しいんだ、さっさと去れ!」

 

アルカ王子はイライラした様子で言い放つと、他の村人の所へと歩き去って行った。

(心からの共感、か……)

アルカ王子の言葉を心の中で繰り返していると、メルクリオが静かな声で呟いた。

 

「……下らん悩みだな」

「そうとも言えないのだ」

「ルーちゃん?」

 

シャオフーさんが首を傾げていると、ルーシーがポツリポツリと話し始めた。

 

「誰かに分かって欲しいって、気持ちって、きっと持っているのだ。ルーシーは、シスターにわかって欲しいし、シスターのことをわかりたいのだ」

「ルーシーさん……」

「それと同じなのだ。悪魔も同じなのだ。きゅうけつきにはないのだ?」

「……無いな」

 

メルクリオがそっぽを向きながら答えると、エシリアが小さく笑いながら声を掛けた。

 

「えっへへ~強がってるね~?」

「そんな事ないっ!!」

「(へへっ、どうだかな?)」

「そんな事無いって言っている!!」

 

エシリア達の言葉にメルクリオが怒りながら答える中、エクセリアとシャオフーさんがアルカ王子を見ながら心配そうな様子で話し始めた。

 

「あの王子様、大丈夫でしょうか……」

「そうじゃのぅ……あのぼんは、ちょっと乱暴のようじゃからのぅ。

見てみぃ、話しかけられた村人が、怯えておるわぃ」

 

俺達がアルカ王子の方へ視線を向けると、シャオフーさんの言う通り、話しかけられている村人達の顔には、恐怖の色が浮かんでいた。

(……あれじゃあ、いつまで経っても心からの共感なんて得られそうもないな)

俺は一度フーッと息を吐いた後、皆に声を掛けた。

 

「皆、ナギア達との集合場所に行く前に、アルカ王子の事を何とかしてみよう」

「はい、このまま放ってはおけないですから!」

「(アイツをどうにかしねぇと俺達も帰れねぇからな!)」

「うんなのだ! ルーシー達で助け船を出してやるのだ!」

「ちっ……仕方ない。ここを出るまで、辛抱してやるか」

「ふぇっふぇっふぇっ、わしらで精いっぱいあのぼんを支えてやるかのぅ」

「はい。

よし……行こう」

 

皆が頷いたのを確認した後、俺は皆と一緒にアルカ王子の所へと歩いて行った。




政実「第2話、いかがでしたでしょうか」
リオス「この調子だと……4話くらいで終わる感じなのか?」
政実「恐らくそうなるかな。もっともまだ断言は出来ないんだけどね」
リオス「分かった。
さて……次回の投稿はいつくらいになりそうなんだ?」
政実「まだ未定だけど、出来る限り早めに投稿する予定だよ」
リオス「了解。
そして最後に、この作品への感想や意見もお待ちしています」
政実「よし……それじゃあそろそろ締めよっか」
リオス「ああ」
政実・リオス「それでは、また次回」


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番外第3章 大願成就! お正月を取り戻せ! inワイハの島
第1話 南国の島と正月魔神


政実「どうも、片倉政実です」
リオス「どうも、リオスです」
政実「今回は番外第3章として、正月イベントの1つ、『大願成就! お正月を取り戻せ! inワイハの島』
のストーリーを元にして書いていきます」
リオス「このイベントって、たしかHardのシナリオもあったけど、そっちの方も書いてくのか?」
政実「うん。一応Normalシナリオを3話までにして、4話目からおまけみたいな形でHardシナリオを書いていくつもりだよ」
リオス「分かった。
さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・リオス「それでは、第1話をどうぞ」


 

「ふぅ……やっぱりお正月はゆっくり出来て良いわねぇ……」

 

元旦、俺達が飛行島にあるアジトでゆっくりしていると、キャトラが炬燵に体を半分埋めた状態でのんびりとした口調でそう言う。

(何だろう……このキャトラの姿、何かに似てる気がするな……)

キャトラの様子を見ながらそれについて思い出そうとしていると、炬燵の上に置いていたワイズが静かな声でこう言った。

 

『キャトラ様のそのお姿……いわゆる【こたつむり】といったところですね』

 

(あ、そうだそうだ。何に似てるかと思ったら、かたつむりだ。それにしても【こたつむり】って……何か凄くしっくりくる呼び方だな……)

キャトラの様子を指したワイズの言葉に感心していると、同じく炬燵に入っていたナギアが静かな声でこう言った。

 

「そういえば……今、エクセリア達は南国の島にいるんだっけ?」

「うん。確か【ワイハの島】っていう島に行くって言ってたよね」

「【ワイハの島】か……今の季節に行ったら凄く快適かもしれないな」

「ふふ、そうかもね」

 

ナギアとアイリスが【ワイハの島】について話をしていると、

 

「みんな、ちょっと良いかしら?」

 

手に1通の手紙を持ったヘレナさんが俺達にそう訊いてきた。

 

「はい、大丈夫ですけど……」

「どうかしたんですか?」

 

俺とナギアが不思議そうに訊くと、ヘレナさんは返事をしながら、手に持っていた手紙を俺達に渡してくれた。

 

「お正月早々悪いんだけど、皆に依頼が来てるわよ」

「え~……お正月に依頼って、一体何なのよ~……」

 

ヘレナさんの言葉を聞いて、キャトラが凄く嫌そうな声を上げた。

(まあ、気持ちは分からなくは無いけど……とりあえずその依頼内容を見てみるか)

俺はペーパーナイフを使って、手紙の封を切った後、中に入っていた便箋を取り出し、その内容を読み始めた。

 

「えっと、何々……

 

現在、【ワイハの島】にて正月魔神が出没しております。この正月魔神はとても厄介な存在ですので、是非冒険家の皆様のお力をお借りしたいです。正月魔神の詳細については、手配書を同付致しましたので、そちらでご確認ください。報酬などについては後程、ご連絡を差し上げます。どうぞ、よろしくお願い致します。

それでは……

 

……か」

「【ワイハの島】って……今、エクセリア達がいる所よね……」

「うん……」

「これは、ちょっと心配だな……」

「ああ……」

 

(エクセリア達は強いから、本当なら心配は無いけど、その正月魔神とやらがどんな奴なのか明確には分からない……ここは依頼もかねて、念の為様子を見に行かないとな)

そう考えた後、俺は皆の顔を見回した。すると、皆はやる気に満ちた目で一斉に頷いた。それを見て俺はニッと笑った後、立ち上がりながら皆に声を掛けた。

 

「よし……皆、行こう! 【ワイハの島】へ!」

「おう!」

「ええ!」

「うん!」

『はい』

 

こうして俺達は、エクセリア達の安否の確認と正月魔神の退治のために【ワイハの島】へと向かった。

 

 

 

 

飛行島の進路を【ワイハの島】に向けてから数十分後、俺達は【ワイハの島】にある浜辺に上陸した。

(ここが【ワイハの島】か。南国の島だけあって、気候がすごく暖かいな……)

俺が上に体を伸ばしながらそう思っていると、キャトラが周りの様子を見ながら明るい調子でこう言った。

 

「いやー、中々トロピカルで良い感じの島ねぇ」

「(ははっ、だなぁ。まあ……これが依頼とかじゃなきゃ、もっと良かったんだけどなぁ)」

「ほんとよね……」

 

キャトラと俺の相棒である黒竜のネロが話をしていると、アイリスが静かに笑いながらキャトラ達にこう言った。

 

「ふふっ、それならお仕事の後はエクセリアさん達と一緒にバカンスでもしましょうか」

「バカンス……! 良いわねっ!」

「(へへっ、だな!)」

 

キャトラとネロはアイリスの言葉を聞いた途端、顔をパアッと輝かせた。

(まったくコイツらは……まあ、あの調子のままよりはこの方がずっと良いか)

キャトラ達の事を見ながらそう思っていると、ナギアが明るい調子で声を掛けてきた。

 

「そういえば……退治しなきゃないのはどんな奴なんだっけ?」

「えーと……コイツだな」

 

俺は手配書を取り出した後、ナギア達に広げて見せた。手配書にはレイを首に掛けた、獅子のような被り物をした男らしき物の写真が載っていた。

(名前は、正月魔神ガショウか……一体どんな奴なんだ……?)

 

「この変な奴を倒せば良いの? どこにいるのかしら?」

「さぁ……でもこんな派手な格好をしてるんだし、すぐに見つかるんじゃ……」

 

件の正月魔神について話をしながら、俺達が手配書から顔を上げたその時、俺達の目の前にレイを首に掛けた獅子のような何かがいた。

(……あれ、さっきまでこんなのあったっけ?)

俺がそう考えていると、アイリスがそれと手配書を交互に見比べ、少し驚いた様子で俺達にこう言った。

 

「手配書にソックリね……」

「ああ……でも、見間違えって事も……」

 

アイリスとナギアが話をしながら、何度もそれと手配書とを見比べていたその時。

 

「ガショーン!!」

 

突然、その謎の物が大きな声を上げた。

(今、コイツ……ガショーンって言ったよな……まさか本当にコイツが、正月魔神ガショウなのか……?)

俺達が後退りをしながら、その正月魔神らしき物に対して警戒をつよめていると、それは再び大きな声で喋り始めた。

 

「皆サンオメデトウゴザイマス! 当方正月魔神ガショウ! ガショウデゴザイマス!

ネンガネンガ! オメデトウゴザイマス! オメデトウゴザイマス!!」

 

(う、うるさい……年明けて、おめでたいのは確かだけど、そんな大声で言う必要も無いだろ……!)

ガショウを見ながら俺がそう思っていると、ガショウに対して警戒をしながらキャトラがこう言った。

 

「……しっ、静かにしなさい!」

「……」

 

ガショウは騒ぐのを止めると、俺達の事をジッと見始めた。

(……コイツは今まであった奴の中でも、ヤバい方の奴かもしれない……)

ガショウの事を見ながらそう考えていると、キャトラが真剣な顔で俺達に声を掛けてきた。

 

「皆! さっさとエクセリアを探して帰りましょう! 完全にヤバい奴よ! 1秒でも関わっちゃダメ!」

「あ、ああ……そうだな」

「(こうなりゃさっさとエクセリア達を探しちまねぇとな……!)」

 

俺達がガショウの様子に注意を払いながら、エクセリア達を探すために周りを見回していると、遠くの浜辺を見ていたネロが大きな声を上げた。

 

「(おい、皆! いたぞ!)」

「え? 本当か!?」

 

ネロの視線の先では、水着姿のエクセリアが、白竜のラピュセルとフィーユと一緒に楽しそうにバカンスを楽しんでいた。

(くっ……思ったより距離が離れてる……! それなら……!)

そう思った後、俺は急いでネロに声を掛けた。

 

「ネロ! 急ぐぞ!」

「(おう!)」

 

ネロの返事を聞いた後、俺は急いでネロの背中に乗った。

(よし……後は走りながらあの技を使えば……!)

俺が【グラントスピア】を構えながら走り始めようとしていたその時、ガショウがエクセリア達の方へ視線を移し、そのままエクセリア達へ向けて走りだした。

 

「なっ!? 行くぞ、ネロ!」

「(おう! しっかり捕まってろよ!)」

 

ネロは背中に乗っている俺に声を掛けると、いつもよりも速く走り始めた。しかし、スタートが遅れた事で、俺達とガショウの間の距離は多少離れてしまっていた。その様子を見て、キャトラがエクセリア達に向けて大声で呼び掛けた。

 

「エクセリア! ラピュセル! フィーユ! 逃げて!」

「え……?」

 

キャトラの声を聞くと、エクセリアは不思議そうな顔で俺達の方へと顔を向けた。そして自分達に迫ってきているガショウの姿を見た瞬間、

 

「い、いやぁーー!」

 

エクセリアは大きな悲鳴を上げた。そしてその悲鳴を聞いた時、俺の中で何かが切れた音がした。

 

「『ブレイブソウル』……!!」

 

【グラントスピア】を折れそうな程の力で握りながら籠められている魔力を開放すると、【グラントスピア】に埋め込まれているオーブが虹色に変わり、穂先から虹色の光が俺達へと放たれた。それと同時に俺の力が高まり、ネロの走る速さが上がった。そして俺達は、進路をエクセリア達からガショウへと変えた後、更に走る速さを上げた。

 

「それ以上……!」

「(エクセリア達に……!)」

「「(近付くんじゃねぇ!!)」」

 

そう言った後、俺は【グラントスピア】を更に強く握りながらオーブに宿る炎の魔力を高め、ネロは口にブレスを溜め始めた。そしてガショウとの距離がほぼ無くなった時、

 

「「(『クロスブレイズ!!』)」」

 

炎の魔力を纏った【グラントスピア】の一撃と、溜めに溜めたネロのブレスによる同時攻撃をガショウへとぶつけた。

 

「ガショーーン!!」

 

俺達の攻撃を受けると、ガショウはそんな声を上げながら別の方向へと吹き飛び、その先にあったヤシの木へと激突した。

(よし……この隙に……!)

その隙に俺達はエクセリア達の元に急いで駆け寄った。

 

「エクセリア! ラピュセル! フィーユ!」

「(全員大丈夫か!?)」

「は……はい、あの方がこちらに走ってくるのを見て、ちょっとビックリしただけですので、私達にケガなどは一切ありませんよ。ね、ラピュセル、フィーユ」

 

エクセリアが微笑みながら声を掛けると、ラピュセルとフィーユは頷きながら小さく鳴き声を上げた。その様子を見て、俺達はホッと胸を撫で下ろした。

 

「そっか……それなら良かったよ。な、ネロ」

「(ああ、お前らに何かあったらいけねぇからなぁ……)」

「ふふっ、ありがとうございます。リオスさん、ネロさん」

 

エクセリアがニコッと笑いながらそう言うのを聴いた瞬間、俺達の中にあった怒りの感情などが静まっていくのを感じた。

(うん、やっぱりエクセリア達は笑ってる方が良いな)

エクセリア達の事を見ながらそう思っていると、

 

「おーい、皆-!」

 

そう大きな声で言いながら、キャトラ達が俺達のところへと走ってきた。そしてエクセリア達の様子を見ると、キャトラ達もホッとした様子を見せた。

 

「良かったぁ……エクセリア達はどうやら無事みたいね……」

「ああ、何とかな。ただ……もう少し遅かったら、どうなってたかは分からないけどな」

 

俺がガショウへと視線を移しながらそう言うと、他の皆もガショウへと視線を移した。

 

「確かにそうかもしれないわね。それにしても……さっき凄い勢いでヤシの木にぶつかってたけど、大丈夫なのかしら?」

「まあ、大丈夫だろ。それに俺達はアイツの退治を請け負ってここに来たわけだから、一切問題は無いだろうしな」

「それはそうなんだけど……さっきから全然動いてないわよ、アイツ」

 

キャトラの言う通り、ガショウは俺達が話している間も、ヤシの木の根元に座り込んだ形で俯いたまま、微動だにしていなかった。

(何か不気味だな……ここは1回様子を見にいってみた方が良いか)

そう思い俺が武器を構えながらガショウへと近付こうとしたその時だった。

 

「……ガッショーーン!!」

 

突然ガショウが大きな声を上げながら勢い良く立ち上がった。そして良く見てみると、ガショウの体には傷1つついていなかった。

(おいおい、嘘だろ……)

 

「(『ブレイブソウル』で威力が上がってる状態での『クロスブレイズ』を受けて無傷って……一体何がどうなってんだよ……)」

 

ネロが驚きながらそう言うと、アイリスがハッとした様子で手配書に目を通し始めた。

 

「……あった! 正月魔神は<おめでたい正月の行事>以外の攻撃を無効にするらしいわ!」

「なるほど……だから俺達の攻撃を受けても無傷だったわけか……」

「でも、<おめでたい正月の行事>って一体どうしたら……」

 

俺達は<おめでたい正月の行事>を探すため周りを見回した。

(正月の行事……正月の行事……この近くに何かないのか……!?)

少しだけ焦りを感じながら周りを見回していると、 エクセリアが突然大きな声を上げた。

 

「あっ、皆さん! そこに臼と杵ともち米があります!」

「えっ、本当に?」

 

エクセリアの視線の先に目をやると、そこにはエクセリアの言う通り、臼と杵ともち米がポツンと置かれていた。

 

「ここ、お餅つき大会の会場だったのね」

「あいつが来たせいで、みんな逃げちゃったんだわ」

 

アイリスとキャトラがそれらを見ながら話をしていると、エクセリアが呟くような声でこう言った。

 

「餅つき……確かお正月の大切な行事だと聞いたことがあります!」

「え、そうなの?」

 

キャトラが疑問の声を上げると、鞄の中からワイズが静かな声でキャトラの疑問に答え始めた。

 

『はい、詳細な説明はここでは省かせて頂きますが、エクセリア様の言う通り餅つきはおめでたい正月の行事の1つです』

「じゃ、じゃあお餅をつきましょ! 急いでお餅をつくのよ!」

「ああ!」

「おう!」

「ええ!」

「はい!」

 

俺達が餅つきの準備を始めようとしていると、突然ガショウが大声を上げた。

 

「餅などつかせはしないでガショウ!! 出でよ、魔物っぽい奴ら!」

 

すると、ガショウの周りに様々な種類の魔物達が姿を現し始めた。

(やっぱり邪魔してくるか……それなら……!)

俺は背中に差していた【ソードオブマギア】を手に取りながらナギア達にこう言った。

 

「ガショウと魔物達は俺とネロが引き受ける。だから皆は、餅つきの方に専念してくれ」

「リオス……でも、本当に大丈夫なのか?」

「ああ、問題無いぜ。な、ネロ」

「(おうよ! 俺だってドラゴンだ、魔物なんかにそう簡単に負けたりしねぇよ!)」

「……分かった。それじゃあ……」

 

ナギアがそう言おうとしたその時、エクセリアが1歩前に進み出てこう言った。

 

「リオスさん、ネロさん。私達も一緒に戦います」

「エクセリア…… 」

「(そりゃあ助かるけど……本当に良いのか?) 」

「はい、私も竜の国の王女でありドラグナーの1人ですから。それに……」

 

そう言いながらエクセリアは一本の杖を取り出し、ニコッと笑ってから言葉を続けた。

 

「助けて頂くばかりではなく、皆さんの力になりたいですから」

「エクセリア……」

 

俺は呟くような声でそう言った後、コクンと頷いてから言葉を続けた。

 

「分かった。だけど、無理だけはしないでくれよ?」

「はい、もちろんです!」

 

エクセリアの言葉に頷いた後、俺はナギア達の方へ顔を向けた。

 

「それじゃあそっちの方は任せたぞ、2人とも!」

「おう!」

「うん!」

「リオス達も無茶はしないでよ?」

「ああ」

「はい!」

「(おうよ!)」

 

ナギア達に言葉に返事をした後、俺は再びガショウ達の方へと顔を向け、一度深呼吸をしてからエクセリア達に声を掛けた。

 

「よし……行くぞ、皆!」

「はい!」

「(承知したぜ!)」

 

こうして俺達とガショウ達のバトル、そしてナギア達による餅つきが幕を開けた。

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

ガショウ達とのバトルを始めてから十数分後、俺達の攻撃によってガショウが出現させた魔物達は既に姿を消していた。

(ふぅ……さて、ナギア達の方はどうかな?)

そう思いながら振り返ると、満足そうな表情でつき上がった餅を持ち上げているナギア達の姿が見えた。

(よし……これなら……!)

そしてガショウの方へ視線を戻すと、

 

「ぐ、グエエエ! お前達許すまじでガショウ!」

 

ガショウは蹲りながら苦しそうな声を上げていた。そしてその様子を見て、キャトラが真剣な表情でこう言った。

 

「どうやらダメージは与えたみたいね……!

リオス! エクセリア! 今の内に応援を呼んできてちょうだい!」

「分かった!

よし……行くぞ、エクセリア! ネロ! ラピュセル! フィーユ!」

「はい!」

「(おう!)」

 

エクセリア達の返事を聞いた後、俺とエクセリアは急いで自分の竜の背に乗った。

(……っと、出発する前にやる事があったな)

俺は鞄の中からワイズを取り出した後、ナギアに声を掛けた。

 

「ナギア! しっかり受け取れよ!」

「え? しっかり受け取れって……?」

 

ナギアの疑問には返事をせずに、俺はナギア達の方へワイズを投げ上げた。

 

「はっ……!?」

 

俺のその行動にナギアは驚きの声を上げたが、自分の元にワイズが近付いてくるのを見ると、すぐにワイズを両手で受け止める準備を始めた。そして落ちてきたワイズの事をしっかりキャッチすると、手の中のワイズを見ながらホッとした表情を浮かべた。

(よし……無事にワイズがナギア達に渡ったな)

俺はその様子を見て、少しホッとした後、ナギア達に声を掛けた。

 

「<めでたい正月の行事>を探すなら、ワイズの知識がきっと役に立つはずだ! だからガショウをどうにか出来るまでは、お前達がワイズを持っていてくれ!」

「分かった! ありがとうな、リオス!」

「ああ、どういたしまして!」

 

ナギアの言葉に返事をした後、俺はナギアの手の中にあるワイズに声を掛けた。

 

「ワイズ! ナギア達のサポートは頼んだぞ!」

『はい、お任せ下さい、リオス様』

 

ワイズの返事に頷いた後、俺はエクセリア達の方に顔を戻し、一度深呼吸をしてから声を掛けた。

 

「よし……行こう、皆!」

「はい!」

「(おうよ!)」

 

そして俺達は応援を呼びにいくため、ナギア達のいる浜辺を出発した。

 

 

 

 

「さてと、アタシ達は……どうしよう?」

 

リオス達が飛んでいくのをぼうっと見ていると、キャトラが呟くような声で俺達に話し掛けてきた。

(そうだな……せっかくリオスから預かったわけだから、ここはワイズに訊いてみようかな?)

そう考えていたその時。

 

「ざっざーん! どうすれば良いのか、湖の精霊ディーネがお答えしますわ!」

 

海の中からディーネさんが勢い良く飛びだしてきた。

(いや……ここは海なんだけど……?)

 

「海からじゃん! 青い海からじゃん!」

 

どうやら俺と同じ事を考えていたらしく、キャトラがディーネさんにツッコミを入れたが、ディーネさんはそれには返事をせずに、俺達の目の前にある餅を見ながら言葉を続けた。

 

「皆さんの前にある、つきたてのお餅……」

「お餅? お餅がどうしたのよ?」

「そのお餅を食べるのです!」

 

ディーネさんが明るくそう言った瞬間、

 

「ギクーン!」

 

ガショウがとても分かりやすい反応を見せた。

(え……餅を食べることが、<めでたい正月の行事>……なのか?)

俺がその事を疑問に思っていると、アイリスが驚きながらディーネさんにこう訊いた。

 

「お餅をですか!?」

「はい! お餅を食べる事も、大切なお正月の行事の一つですから!」

「そうなの!? それで良いの、ワイズ!?」

 

キャトラが信じられないといった様子でワイズに訊くと、ワイズは静かな声でキャトラの疑問に答えてくれた。

 

『はい。お正月にお餅を食べる事で、神様からパワーを頂くなどの意味があるため、お餅を食べる事は<おめでたい正月の行事>の一つと言えます』

「へー、そうだったのね。

……てことは、このお餅を全部食べちゃえば、アイツにかなりダメージを与えられるって事よね?」

『はい、その通りです』

 

ワイズの返事を聞いた後、俺達がガショウに視線を移すと、ガショウはびくっとしながらも俺達にこう言った。

 

「も、餅を食べたくらいデ、このガショウが……」

 

その時、ディーネさんが臼の中に手を伸ばし、中にある餅を少し千切ると、

 

「はむっはむっ……つきたてのお餅、美味ですわ!」

 

とても美味しそうに食べ始めた。すると、

 

「グギャー!? ダメージッ!」

 

ガショウが身を捩らせながら大声で叫び始めた。

(本当にこんなのだけでダメージを与えられるんだな……)

その様子を見て、俺は少し茫然としてしまっていたが、すぐに頭を振って気持ちを切り替えた後、アイリス達に声を掛けた。

 

「よし……俺達も食べようぜ、2人とも!」

「そ、そうね……何だかまだよく分からないけど、いけそうなわけだしね!」

「ええ、そうね……!」

「それじゃあ……」

「「「頂きます!」」」

 

こうして俺達は自分達がついた餅を食べ始めた。

 

「むぐむぐ」

「はむはむ」

「はふはふ」

 

俺達は用意されていた餡子などを使って、自分達がついた餅をひたすら食べ進めた。

(うん……! さっきまで頑張ってた分、スゴく美味い……!)

 

「グエエエ!! 正月の餅! メデタイィ!!」

 

俺達が餅を食べ続けていると、ガショウが更に苦しみ始めた。

(よし、この調子ならいけるはずだ……!)

俺が心の中でガッツポーズをしていると、ディーネさんが少し先の方を指差しながら俺達に話し掛けてきた。

 

「皆さん、向こうに餅つき大会でついたお餅があるはずですわ!」

「向こうの方ね……!

2人とも!このお餅を食べながら、そっちの方に向かうわよ!」

「おう!」

「うん!」

 

こうして俺達は手に持った餅を食べながら、更なる餅を目指して歩き始めた。




政実「第1話、いかがでしたでしょうか」
リオス「番外第3章も交互で視点変更をしていく感じなんだな」
政実「うん、その方が面白そうかなと思ってね」
リオス「なるほどな。
さてと……次回の更新予定はいつ頃になりそうなんだ?」
政実「1週間くらいから2週間くらいで更新するつもりだよ。ただ、変わることも大いにあり得るけどね」
リオス「分かった」
政実「この作品の感想や意見などもお待ちしています」
リオス「よし……それじゃあそろそろ締めていくか」
政実「うん」
政実・リオス「それでは、また次回」


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第2話 ステルス福男とキラキラにょろにょろな流鏑馬

政実「どうも、片倉政実です」
リオス「どうも、リオスです」
政実「今回はワイハの島イベントのNormalの中盤までの回となってます」
リオス「この調子だと、予定通りに3話くらいでNormalは終わりそうだけど、Hardの方はやるのか?」
政実「一応やる予定にはしてるよ」
リオス「分かった。
さてと、そろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・リオス「それでは、第2話をどうぞ」


 

ナギア達と別れた後、俺達は正月魔神を倒すための助っ人を探すために、ワイハの島上空を飛び続けていた。

(それにしても……)

 

「エクセリア、本当にゴメンな」

「え……いきなりどうしたんですか? リオスさん」

「いや……せっかくラピュセル達と一緒にバカンスに来てたのに、こんな事に巻き込んじゃったからさ」

「あ、その事ですね」

 

エクセリアは納得したように言った後、ニコニコと笑いながら言葉を続けた。

 

「たしかに皆さんとの予定の兼ね合いもあって、ワイハの島に私達だけでバカンスに来ていましたが、私は少し寂しさみたいなものも感じていたんです」

「寂しさ……?」

「はい。ラピュセルとフィーユと一緒にいるのは楽しく幸せだったんですが……それでもリオスさん達、飛行島の皆さんが一緒にいたらなぁって、ちょっと思ってたりしたんです」

「(へぇ……そうだったんだな)」

「はい。ですから、さっきリオスさん達に助けて頂いた時は、本当に驚きましたけど、それと同じくらい嬉しかったんです」

「エクセリア……」

「だから、もう謝らないで下さい、リオスさん。私は皆さんと一緒に何か出来る事がとても幸せで楽しいですから」

 

エクセリアはニコッと俺に笑いかけてきた。

(俺達と一緒に何か出来る事がとても幸せで楽しい、か……そう思ってくれてるのは、何だかんだで凄く嬉しいな)

俺は静かにフッと笑ってから、エクセリアに言葉を返した。

 

「ありがとうな、エクセリア。俺も……いや、俺達も同じ気持ちだよ。それに俺達がここに来たのは、正月魔神の退治の依頼があったらっていうのもあるけど、エクセリアの事が心配だったからでもあるしな」

「リオスさん……ふふ、ありがとうございます」

「どういたしまして」

 

俺は静かに微笑みながら返事をした。

(この島には正月魔神以外の脅威みたいなのはたぶんいないとは思うけど、ナギア達と合流するまでの間、俺とネロでしっかりとエクセリア達を守らないとな)

エクセリアの顔を見ながら強く決心していると、エクセリアが少しだけ頬を染めながら話し掛けてきた。

 

「あ、あの……一つ、訊いても良いですか?」

「ん? 何だ?」

「リオスさん達は……正月魔神を退治した後、予定などはありますか……?」

「いや、正月魔神を退治した後は、たしか皆でバカンスをするーとか言ってたぜ?

まあ、もちろん……」

 

俺はニッと笑ってから言葉を続けた。

 

「エクセリア達も一緒に、だけどな」

「リオスさん……!」

 

エクセリアの嬉しそうな顔に笑顔で頷いて答えた後、俺は皆に大きな声で呼びかけた。

 

「さぁ……皆でバカンスをするために、助っ人探しを頑張るぞ!!」

「はい!」

「(おうよ!)」

「♪」

「♪」

 

(ナギア達の頑張りに答えるためにも、そして皆でバカンスを楽しむためにも、早く助っ人を探してしまおう……!)

助っ人になってくれそうな人を探すために、上空から辺りを見回していたその時、ネロが何かを見つけた様子で大きな声を上げた。

 

「(……おっ! お前ら、良さそうな奴を見つけたぜ!!)」

「良さそうな奴?」

「(ああ、えっとな……ほら、あそこだよ)」

 

俺達はネロの視線の先に目を向けた。するとそこには、人目を避けるようにして浜辺を歩いている、感情を持ったアンドロイド―ユイ壱式の姿があった。

(あれは……ユイか。それにしても……相変わらず恥ずかしがり屋なんだな……)

ユイの様子に苦笑いを浮かべた後、俺は皆に声を掛けた。

 

「よし……それじゃあ早速ユイの所に行くぞ!」

 

皆が頷いたのを確認した後、俺達は高度を落としながらユイの所へと飛んでいった。

 

 

 

 

「おーい! ユイ-!」

 

俺が大きな声で呼びかけると、ユイは俺達の方にチラッと視線を向けた。

(良かった……聞こえてたみたいだな)

俺がそれにちょっとホッとしている内に、ネロがラピュセルと一緒にユイの所に着陸した。そして背中からゆっくり降りた後、俺達はユイに声を掛けた。

 

「よっ、ユイ」

「(よぉ、ユイ)」

「こんにちは、ユイさん♪」

「♪」

「♪」

「こ、こんにちは、皆さん……こんな所でお会いするなんて、思ってもいなかったので、ちょっと……ビックリです……」

「まあ、たしかにそうだな」

「(だな。

ところで……ユイは何でここにいんだ?)」

 

ネロが不思議そうに訊くと、ユイは小さな声で答えてくれた。

 

「え、えっと……最近アクアリウムを始めた影響で、海のお魚さんにも興味が湧いて……それで実際に見てみようと思って、ここに……

皆さんはどうしてこの島に……?」

「それはな……」

 

俺は正月魔神の事、そしてナギア達がソイツを相手に頑張っていることをユイに説明した。

 

「……な、なるほど……その正月魔神さんを退治しないといけないんですね……?」

「ああ。それで、ユイさえ良ければナギア達の助っ人に行ってもらいたくてな」

「私が……助っ人に……ですか?」

「はい。ユイさん、お願いしてもよろしいですか?」

 

エクセリアが少し不安そうな顔で訊くと、ユイは少し迷った様子を見せたが、すぐに決心した様子になると、小さな声で答えた。

 

「わ、分かりました……本当に、私で良いのなら……」

「ああ、もちろんだ。ありがとうな、ユイ」

「い、いえ……それでは、早速行ってきますね……?」

「ああ、頼む。えっと、場所は……」

 

俺が大体の場所について説明しようとした時、ユイは小さな声で話し掛けてきた。

 

「あ……だ、大丈夫です。皆さんが飛んできていた方向とお話の内容で大体の位置は分かると思いますから」

「そっか、分かった。それじゃあお願いな、ユイ」

「(終わったら皆でバカンスしようぜ、ユイ!)」

「は、はい……それでは……」

 

ユイはペコッと頭を下げた後、自分に搭載されている機能で透明になりながら俺達が飛んできた方向に向かって走って行った。

(とりあえず、一人は確保したけど……)

 

「たぶん、まだまだ助っ人は足りないよな」

「そうですね……あの正月魔神がどのくらいで退治出来るのかが分からないですし……」

「(そうなると、もう少し助っ人探しを続けた方が良さそうだな)」

「そうだな。

よし……それじゃあ早速助っ人探しを再開するぞ!」

「はい!」

「(おう!)」

「♪」

「♪」

 

そして俺達は、次の助っ人を探すために再びネロ達の背に乗り、上空へと飛び上がった。

 

 

 

 

自分達で搗いた餅を食べながら餅つき大会の会場に着いた俺達は、そのまま餅つき大会で搗かれた餅も協力して食べ進めた。

(よし……これで最後だ……!)

満腹によって押し寄せてくる眠気などを耐えながら、俺は最後の一個を口に入れ、しっかりと噛んでからゴクリと飲み込んだ。

(これで……餅は全部食べきったな。けど……さすがにこれは食べ過ぎたかな……)

食べ過ぎによる気持ちの悪さに耐えていると、正月魔神ガショウが苦しそうに声を上げた。

 

「グエエエ……!! メ、メデタイィ……!!」

 

(……何とかダメージは与えてるみたいだけど、まだ倒すまでには至ってないみたいだな……)

チラリとアイリス達の方に視線を向けてみると、アイリスとディーネさんはもちろんのこと、キャトラですら満腹な様子で苦しそうにしていた。

(餅はもう無いし、皆も食べ過ぎで苦しそうだな……

さて、ここからどうしたら良いか、一度ワイズに相談を……)

俺が服のポケットからワイズを取り出そうとしたその時、

 

「うぷっ……食べ過ぎましたわ。ちょっと腹ごなしに参りますわ」

 

少し苦しそうに言いながら、ディーネさんが海の方に向けて歩いていった。そしてそのまま海に入った後、ポチャンという音を立てて、海の中へと潜っていった。

(……マズいな、ディーネさんが脱落してしまったわけだし、早くワイズと次の手について相談しないと……!)

現在の状況に少し焦りを感じながら、俺はポケットからワイズを取り出した。そしてワイズに声を掛けようとしたその時、苦しそうにもがいていたガショウが声を低くしながら話し始めた。

 

「こうなったら、この辺りのオメデタサを……!

食ってやるでガショウ!!」

「おめでたさを……」

「食べる……?」

 

(いやいや……おめでたさなんて食べられるものなんか無いだ……っ!?)

その瞬間、さっきまで満ち溢れていたやる気が一瞬で無くなると同時に体の力が徐々に抜け始めた。

(な……何なんだ、これ……!!)

 

「足に力が入らない……!!」

「立っているのも辛いわ……」

「アタシ丸くなる!」

 

俺達の様子に手の中のワイズが大きな声を上げた。

 

『皆さん! 大丈夫ですか!?』

「大丈夫って言いたいけど…! 体に力が入らないんだ……!」

『くっ……私はルーンなので影響はありませんが、私では皆さんをどうにかすることが出来ません……』

 

ワイズが悔しそうな声を上げると、俺達の様子を見たガショウが勝ち誇ったように高笑いを始めた。

 

「ガーッガッガッガッ!!

このガショウ、今貴様らが味わっているように、オメデタイ気分を喰らいツクシ、メデタクない気分にさせることが出来るノダ!」

「メデタクない……気分……!」

「お、オソロシイヤツッ!」

 

(完全にマズい……! このままじゃリオス達が助っ人を連れて来てくれるまで保たせるなんてムリだ……!)

 

この状況に俺が心の底から諦めようとしたその時だった。

 

「み、皆さんっ! だ、大丈夫ですかっ!」

 

近くにあった物陰からユイが心配そうな表情を浮かべながら顔を出した。しかし、俺達の目の前にいるガショウに目を向けると、顔を赤らめ声を震わせ始めた。

 

「あああぁぁぁ……! 助っ人に来たのに、恥ずかしさでフリーズしちゃうぅ!」

「助っ人……! って事は、もしかして……!?」

「は、はいぃ……リオスさん達から助っ人を頼まれまして、それでここまで来たんですうぅ……」

「やっぱり……そうだったんだな……!」

 

その瞬間、少しだけやる気が戻り、体に徐々に力が入ってきた。

(そうだ……リオス達だって頑張ってるんだ……! 俺達だって頑張らないとな……!)

力を振り絞りながら立ち上がった後、俺はユイに声を掛けた。

 

「ユイ……! リオスから話は聞いてるんだよな……!」

「は、はい……たしか、お正月の行事をすれば良いんですよね……?」

「ああ……! だから、何か今出来そうな行事を調べて欲しいんだ……!」

「今出来そうな行事……

うぅ……恥ずかしいですけどぉ、皆さんに今までお世話になっていますし……頑張ってみますぅ……!」

 

ユイは少し顔を赤らめながらも、必死になって出来そうな行事を調べ始めてくれた。

 

「データベース検証ぅぅぅ……

い、今この場で出来る行事はぁ……」

 

ユイは声を震わせながらこの場で出来る行事を調べていたが、突然何かを見つけたように大きな声を上げた。

 

「皆さん……! 今出来そうな行事は、福男選びですぅ!」

「福男、選び……?」

「何それっ……

ああ……メデタクない気分」

「え、えっと……要するに……だ、誰よりも早く、おめでたい場所に、辿り着けば良いんですぅっ!」

「おめでたい場所……!」

「ワイズ……! この近くにあるおめでたい場所はどこだ……!?」

『はい……! この浜辺に、おめでたい岩があるようです……!』

 

(おめでたい岩……!)

 

「みんな、その岩まで何とかして走るぞ……!」

「うん……! まだ辛いけど……頑張ってみる……!」

「ええ……最後の力を振り絞ってみせるわ!」

「い、行きましょうっ! 皆さんっ!」

 

そして俺達が走り出そうとしたその時、ガショウが大きな声を上げた。

「そんな事はさせないでガショウ!

再び出でよ! 魔物っぽい奴ら!」

 

ガショウの声と同時にまた魔物が周囲に現れた。

(また魔物か……! こうなったら……!)

魔物を倒すため、俺とアイリスが武器を構えたその時、ユイが俺達に声を掛けてきた。

 

「み、皆さんは……あの岩まで走って下さいぃ……! 魔物は私が、なんとかしますからっ……!」

「で、でもアンタ……恥ずかしいんじゃあ……!」

「たしかには、恥ずかしいですけどぉ……私は助っ人として来ました……!

ですから、恥ずかしいのをガマンして頑張って見せますうぅ……!!」

「ユイ……」

 

俺は一度深く頷いた後、皆に声を掛けた。

 

「皆、ここはユイに任せて行こう……!」

「う、うん……!」

「ええ……!」

 

そして俺達は、魔物達と戦うユイに守られながら、おめでたい岩に向けて走りだした。

 

 

 

 

ユイと別れた後、俺達は次の助っ人を探すために、再びワイハの島の上空を飛んでいた。

 

「(しかし……ユイ、大丈夫なのかねぇ……)」

「大丈夫……だと思うぜ?

たしかにユイは恥ずかしがり屋だけど、やる事はしっかりとこなす方だとは思うし」

「そうですね。ユイさんなら絶対大丈夫だと思います」

「(……ま、そうだな)」

 

そんな会話をしながら飛んでいたその時、並んで浜辺を歩いている二人組が目に入ってきた。

(ん……? あれはもしかして、イシュプールさんとキララかな……?)

目をこらしながら確認してみると、そこにいたのは<洛陽を呑む忘我の毒蛇>を探して旅をしている男性、イシュプール・ヴヴェックさんとホームランバッターを目指している少女、キララ・ホーマーの二人だった。

(この二人の組み合わせって中々珍しいよな……)

二人の事を見ながらそんな事を考えていると、エクセリアとネロが不思議そうな様子で声を掛けてきた。

 

「どうしたんですか、リオスさん……?」

「(もしかして……誰かみっけたのか?)」

「ああ、あそこにイシュプールさんとキララがいたからさ」

「イシュプールさんとキララさんですか?」

「(ほーう、中々珍しい組み合わせじゃねぇか。どれどれ……?)」

 

俺が指さす方向にいるイシュプールさん達の姿を見ると、エクセリア達は少し驚いた様子で声を上げた。

 

「あ、本当ですね」

「(だな。

にしても……あの二人が並んでっと、何かイシュプールの怪しさが際立つ感じがするな……)」

「こらこら、そういう事言うなって。

とりあえずあの二人にも助っ人を頼んでみよう。イシュプールは正月の行事とかにも詳しそうな気がするしさ」

「(んだな。

うっし……それじゃあアイツらのとこまで行くぞ!)」

「ああ」

「はい!」

「♪」

「♪」

 

そして俺達は、イシュプールさん達の所へ向けて高度を下げながら飛んでいった。

 

「(おーい! イシュプール-! キララ-!)」

 

イシュプールさん達へ向かって飛びながらネロが大きな声で呼びかけると、キララが声の出所を探してキョロキョロする中、イシュプールさんはフッと笑ってから、俺達の方へゆっくりと顔を向けると、静かに手を振ってきた。

(何というか……イシュプールさんらしい反応だな)

そんな事を感じつつ、俺は皆と一緒にイシュプールさん達の所へ着陸し、ネロの背中からゆっくりと降りた。

 

「こんにちは、イシュプールさん、キララ」

「こんにちは、イシュプールさん、キララさん」

「(よっ、二人とも)」

「♪」

「♪」

「うん、こんにちは、皆」

「こ、こんにちは、皆さん」

 

イシュプールさん達との挨拶を終えた後、俺は気になっていた事を訊いてみた。

 

「イシュプールさん、どうしてキララと一緒に歩いていたんですか?」

「うん、それについて訊かれることは分かっていたよ。そしてネロ君がそれを見て、僕の怪しさが際立つ感じがするって言ってたであろう事も分かっているよ」

「(……すまなかったな、イシュプール)」

「ううん、別に良いさ。自分でも少し……いやかなり怪しいって事は自覚してるからね。

因みにこの子と一緒にいた理由は、さっき偶然出会って一緒に話をしていたからだよ」

「なるほど……因みにイシュプールさんがここにいる理由は、例の<洛陽を呑む忘我の毒蛇>を探すためですか?」

「うん、それもあるけど、ちょっとここでやりたいことがあるんだよね~」

「やりたいこと、ですか?」

 

エクセリアが首を傾げながら訊くと、イシュプールさんはうんうんと頷きながら答えてくれた。

 

「うん、この背負っている弓矢を使って、流鏑馬っぽい事でも~と思ってね」

「流鏑馬……って、たしか馬に乗って行う神事であり競技としての側面もあるものですよね?」

「うん、よく知ってるね、リオス君」

「俺も弓矢を使うので、前にワイズに弓矢に関することを教えてもらった時があって、その時に知ったんです」

「なるほどね」

 

俺とエクセリアがイシュプールさんと話をしていると、ネロが少し不思議そうにキララに話し掛けた。

 

「(そういえば、キララは何でここにいんだ?)」

「私は……ホームランバッターを目指すために、ここで合宿でもしようかなと思って……」

「(へぇ、合宿かぁ……! 楽しそうじゃねぇか!)」

「は、はい。

ところで……皆さんはどうしてここに……?」

「ああ。それは……」

 

俺はイシュプールさん達に正月魔神の事、そしてソイツ相手にナギア達が頑張っていること等を説明した。

 

「なるほど、妙な気配がすると思ったら、その正月魔神からだったんだね~」

「えっと、それで……その正月魔神さんを退治するには、お正月の行事をしないといけないんですよね?」

「ああ。そこで、二人にもナギア達の助っ人を頼みたくて……」

「うん、良いよ。私がやろうとしてる事が、その正月魔神退治にちょうど良さそうだったしね」

「わ、私もお手伝いしますね。その正月魔神さんをどうにかしないと、落ち着いて合宿が出来なそうですし、皆さんにいつもお世話になってますから……」

「ありがとう、二人とも。それで場所が……」

 

俺が大体の場所について説明をしようとしたが、イシュプールさんが優しく微笑みながらそれを遮るように話し掛けてきた。

 

「大丈夫、この気配を辿っていけば、彼らの元には着けるはずだから」

「分かりました。それでは、お願いします」

「うん、任せておいて。それじゃあ行こうか、キララ君」

「は、はい……それでは皆さん、行ってきます」

「ああ、頼んだぜ、キララ」

「皆さん、お願いします」

「(終わったら、皆でバカンスしようぜ!)」

「♪」

「♪」

「は、はい。それでは……行きましょう、イシュプールさん」

「うん、そうだね」

 

そしてイシュプールさんは正月魔神の気配を辿りながら、キララと一緒に歩いていった。

(これで三人、けど……もう少しいた方が良いのかな)

 

「エクセリア、ネロ。助っ人はもう少しいた方が良いと思うか?」

「そうですね……私はもう少しだけ、助っ人になってくれる方を探した方が良いと思います」

「(俺もだ。それにあの正月魔神の奴が中々倒れねぇ場合もあるしな)」

「分かった。それじゃあ早速、次の助っ人を探すために出発しよう」

「はい!」

「(おう!)」

「♪」

「♪」

 

皆の返事を聞いた後、俺達は再びネロ達の背中に乗り、次の助っ人を探すために、上空へと舞い上がった。

 

 

 

 

ユイに守られながらおめでたい岩を目指して走り出してから数分後、件の岩が徐々に近付き、後数歩というところにまで迫った。

 

「よし、これでっ……!」

 

そして俺がその岩に触れたその瞬間、失っていたやる気が戻り、だんだんと体にも力が入り始めた。

 

「よしっ! これで大丈夫だ!」

「うんっ! 何だか! 何だかおめでたい気分が蘇ってきたわ!」

「うん! これもユイさんのおかげです! ユイさん、ありがとうございます!」

 

アイリスが元気良くお礼を言うと、ユイは徐々に顔を赤らめながら小さな声で返事をした。

 

「は、はい……どういたしまし……ぅぅぅ、やっぱり恥ずかしいっ!!

申し訳ありませんが、隠れさせてもらいますぅ~~~!!」

「え、ちょっ! ユイ、待ってよ~!」

 

キャトラが驚きながら声を掛けたが、ユイは恥ずかしがったまま、徐々に透明になっていった。

(まあ、ここまで頑張ってもらったわけだし、しょうがないよな)

俺がその事に対して、少しだけ苦笑いを浮かべていると、ガショウが苦しみながら大きな声を上げた。

 

「グボハア!! ふ、福男のありがたさがァ!! ありがたさがメデタイィ!!」

「やったわ! 効いてる効いてる!」

「でも早く次の行事をしないと……!」

「そうだな……!」

 

そして俺達が次の行事を探そうとしたその時、かすかに何かが風を切るような音が聞こえた。

(気のせい……かな?)

気のせいかと思ったその時、さっきよりも大きく何かが風を切るような音が聞こえた。

(気のせいじゃなかったか……でも、一体どこから……)

音の出所について探るため、周りを見回していると、キャトラが何かを見つけたように大きな声を上げた。

 

「あっ! あそこで何かやってるみたいよ!」

「本当ね。でもあれは……一体?」

「分からない。でも何か正月の行事をやってるかもしれないし、とりあえず行ってみよう!」

「うん!」

「オッケーよ!」

 

俺達は何をやっているのかを知るために、その場所へ向けて走りだした。

 

 

 

 

風を切る音を聞きながら走り続けていると、徐々に幾つかの的のようなもの、そしてそれに狙いを定めている人達の姿が目に入ってきた。

 

「あれって、イシュプールさんとキララだよな?」

「そうみたいだけど……一体何をしてるのかしら?」

 

俺とアイリスが走りながら話をしていると、キララが手に持っていたボールを軽く上に投げ上げ、バットをしっかりと構えた。

 

「打ちます! ド根性……!!」

 

そしてバットを勢い良く振ると、バットはしっかりとボールを捉え、ボールは凄い勢いで宙を飛び、的の真ん中へと命中した。

 

「ははっ、気合いが入ってるねぇ。それなら私も……」

 

イシュプールさんは弓に矢をつがえ、狙いを定めながら弓を静かに引き絞った。そしてそのまま矢を放つと、矢はまっすぐ飛んでいき、的の真ん中に命中した。すると、突然ガショウが苦しみながら大きな声を上げた。

 

「グエエエ!!的を射抜くなァ!!」

「ガショウが苦しんでる!? って事は、これもお正月の行事なの!?」

 

キャトラが驚きの声を上げていると、イシュプールさんがガショウの様子を見てうんうんと頷いた。

 

「うんうん。やっぱりね。そうなると思っていたよ」

「やっぱりって事は、もしかしてアンタ達……」

「うん。リオス君達から話は聞いているよ。そこでちょうどやろうと思っていた流鏑馬を利用してみたってわけだね」

「なるほどね。でもその流鏑馬ってのは、本当にこんな感じなの?」

 

キャトラが疑問の声を上げると、ワイズが静かに説明をしてくれた。

 

『本来であれば、馬に乗って走りながら、次々と的を射抜いていくものではありますが……ガショウが苦しんでいるところを見る限り、これも流鏑馬と判定しても良いと思われます』

「そっか……そういう事なら!」

「ええ、私達も!」

「流鏑馬開始よ!」

 

しかし俺達が流鏑馬をしようとしたその時、ガショウが苦しみながらも静かに声を上げた。

 

「グググ……流鏑馬なんてさせないでガショウ……! 三度出でよ! 魔物っぽい奴らァ!!」

 

ガショウの声と同時に周囲に魔物が姿を現した。

(また出てきたか……)

 

「仕方ない……こうなったら流鏑馬しながら、魔物も倒していくぞ!」

「うん!」

「オッケーよ!」

「うん、分かったよ」

「はい……!」

 

こうして俺達の魔物を倒しながらの流鏑馬が幕を開けた。




政実「第2話、いかがでしたでしょうか」
リオス「何だか久しぶりに俺が弓矢を使ってる設定が出てきた気がするな」
政実「たしかにストーリーの方だと、編成の関係で剣士とかドラゴンライダーの方でやってもらう事が多いからね」
リオス「そうだな。まあ、今はアーチャーとしての活躍が出来る時を待つとするか。
さて……次回の更新予定はいつになりそうなんだ?」
政実「未定だけど、出来る限り早めかな」
リオス「分かった。
そしてこの作品に関しての感想や意見もお待ちしております」
政実「それじゃあそろそろ締めていこうか」
リオス「ああ」
政実・リオス「それでは、また次回」


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第1章 アストラ島 Nomarl編
第1話 不思議な夢と賢者との出会い


政実「どうも、片倉政実と申します。この作品以外にも3作品を連載させてもらっています。まだまだ文章などが拙く、読みづらい箇所などがあるかと思いますが、楽しんで頂けたら幸いです。どうぞ、よろしくお願いいたします」
???「……なあ、1つ良いか?」
政実「別に良いけど、何?」
???「俺の名前が???なのは何でなんだ?」
政実「まだ名前が出てきて無いからね。後書きではしっかりと名前が表示されるから安心して」
???「了解した。それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「そうだね」
政実・???「それでは第1話をどうぞ」


……あれは誰だろう?

 

俺は目の前の光景を見ながらそう思った。

今目の前には2人の人物が向かい合っている。1人は黒い髪の少年、もう1人は灰色のような色の長い髪の少女だ。ただ……

 

黒い髪の方はどこかで見たことあるような気がするな……?

 

俺がそう思っていると、少年と少女が話を始めた。だが、彼らの声は全く俺の耳には聴こえてこない。向こうは真剣に話しているようだが、聴こえないこっちとしては何が何だか全く分からない。

 

近付けば少しくらいは聴こえるかな?

 

そう思い動こうとしたが、俺は全くその場から動くことが出来なかった。そして俺が動こうと悪戦苦闘していた時、突然映像が途切れた。

 

……? 一体何が起こったんだ……?

 

俺がそう思った時、頭の中に声が聴こえてきた。

 

『この声が聴こえるか、少年よ』

 

聴こえるけど……一体誰だ?

 

『ワシは……そうじゃな、まあ変わり者の老人とでも考えとくれ』

 

自分で変わり者の老人って……というか俺、今の声に出してたっけ?

 

『変わり者じゃからな。お前さんが考えてることを読み取っておるんじゃよ』

 

変わり者ってそういうことじゃないと思うけど……

まあ良いか、それで俺に何の用が?

『それなんじゃがな、お前さんが今欲しいものを教えて欲しくての』

 

今欲しいものか……因みに何個まで挙げて良い?

 

『まあ3つくらいじゃな』

 

3つか……それなら、知識と武器と黒龍かな。

 

『なるほどのう……理由を訊いても良いか?』

 

そうだな……まず知識なんだが、これは俺のため、というよりは親友のためなんだ。

 

『ほう、親友とな』

 

そいつは昔から冒険家を目指してるんだけど、俺も含めて島から出ることが無くて、あまり他の場所の事を知らないんだ。

 

『なるほどのう。その親友のサポートのためというわけじゃな?』

 

そんなとこかな。

昔あいつが、自分が冒険家になる時には俺と一緒に冒険したいって言ってたから、その時のサポートくらいにはなるかなと思ってさ。

 

『そうかそうか、すると武器も同様の理由じゃな?』

 

そうなるかな。流石に手持ちのウッドソードとかじゃあ、冒険の時に心もと無いし。

 

『まあそうじゃな』

 

そして黒竜なんだけど、これはただ単に俺が乗ってみたいからかな。

 

『ほう? 白竜などもおるが、それらではダメなのか?』

 

白竜も悪くは無いけど、確か白竜は数が少ないって言われてるから、変なやつらに目を付けられかねないと思って。

 

『なるほどのう……』

 

でも……何でこんなことを訊いてきたんだ?

 

『ん? まあそれに関しては直に分かることじゃ』

 

……? まあそれならそれで良いけど。

 

『さて、そろそろお主も目覚めんとな』

 

目覚める……ってことは、これもさっきのも夢なのか?

 

『……まあそんなところじゃな』

 

何かはっきりしない言い方だな。

 

『まあ今はそう思っておいてくれ』

 

……じゃあ今はそう思っとくよ。

 

『すまんの。さあそろそろ目覚めるがいい、少年よ。また機会があったら会おう』

 

その声を最後に自称変わり者の老人の声は聴こえなくなり、俺の意識も戻った。

 

 

 

 

「……ん、ここは……」

 

俺は体を起こしながら周りを見回した。俺の近くには大きな木があり、俺はその下で寝ていたみたいだ。

そもそも何でこんなとこに?

そう思った瞬間に、その理由を思い出した。

 

「……そうだった。散歩してたらちょうど良さげな木陰を見つけたから、昼寝してたんだっけ」

 

俺は呟くようにそう一人ごちた。そして手元に置いておいたウッドソードに手を伸ばした時、何か固いものに手が触れた。

 

「ん? 何だろう?」

 

その辺りを見ると、ウッドソードの他に白い色をした模様の付いた丸いものと、横笛のような物があった。

 

「こんなの俺は持ってないんだけど、誰かの落とし物かな?」

 

俺がそう言った時だった。

 

『……私と、この笛は落とし物では無いですよ?』

 

突然そんな声が聴こえた。俺は周りを見回したが、俺の他には誰もいない。

 

「誰もいない……じゃあ今の声は誰なんだ?」

 

俺がそう不思議そうに呟くと、

 

『今のは私ですよ』

 

また誰かの声が聴こえた。もう1回周りを見るが、やっぱり誰もいない。

 

「まだ明るいのに幽霊とか? でもそんな話は聞いたこと無いし……」

 

俺が色々な可能性を考えようとした時だった。

 

『こっちですよ、こっち』

 

そう言われたので、俺は声の方を見てみた。そこにあったのは、

 

「もしかしてこの白い物が喋ったのか? さっき、私と笛は落とし物では無いですよって言ってたし」

 

俺がそう呟くと、

 

『その通りです。ようやく気付いてくれましたね』

 

白い物から声が聴こえた。どうやら本当にこれだったみたいだ。

 

「お前は何なんだ? 見た感じは石みたいだけど……?」

 

俺が白い物にそう訊くと、白い物がこう答えた。

 

『私は【賢者のルーン】といいます』

「【賢者のルーン】?」

 

ルーンって確か……世界の色んなところにある様々な力を持った石みたいなやつだよな。でも【賢者のルーン】なんて聞いたこと無いけどな……?

そう思った俺は【賢者のルーン】自身に訊いてみることにした

 

「【賢者のルーン】って何なんだ?」

『私の力は、 この世界の様々な事を持ち主またはその周りの人物に伝えることです』

「この世界の様々な事?」

『はい、例えばどこか知らない島に来た時に、私に訊いていただければその島の名前やその島にあるもの等をお教え出来ます』

「なるほどな……」

 

それはかなり便利だな、初めての場所とかなら『知識』はとても大事だからな。

……ん?『知識』?

 

「……ちょっと訊いて良いか?」

『はい?』

 

「お前は要するに色んな知識を教えてくれるんだよな?」

『その通りです』

 

……やっぱりか。もしかしてさっきのって夢じゃないのか?

そう思った俺はあることを訊いてみた。

 

「お前は何でここにいたんだ?」

 

すると、返ってきた答えは予想してなかったものだった。

 

『それについてはお答えできません』

「……何でだ?」

『お答え出来ないからです』

 

この世界の事を教えてくれる筈の【賢者のルーン】が答えられないこと……ってことはたぶん。

 

「『この世界の事では無いから』か?」

『……いえ、それとはまた別の理由があるためお答えできません』

「別の理由……」

 

別の理由か……それが何なのかは分からないけど、少なからずこのルーンもあの老人も不思議な存在って事になるな。本当に何者なんだ、あの老人……?

俺がそんな事を考えていると、【賢者のルーン】が話し掛けてきた。

 

『考え事の最中すみませんが、よろしいですか?』

「……ん? 何だ?」

『良い機会ですので、私についての情報をもう少しお伝えしようと思いまして』

「お前の情報を?」

『はい。その方が貴方も困らないと思いまして』

「なるほどな。というかお前から話し掛けて来るパターンもあるんだな」

『あくまでもこの世界の事をお教えすることが私の力ですので』

「そっか。それでその情報って?」

『先程私はこの世界の事をお教えする事が出来ると言いましたよね?』

「言ってたな」

『実はこの世界の事でもお教え出来ない事がいくつかあります』

「そうなのか?」

『はい。まず1つ目はこの世界の未来についてです。私が記憶していることはこの世界に既に起きていることだけです。ですのでこれからの事についてはお教え出来ません』

「なるほどな……」

『2つ目はこの世界にありながらもこの世界の物では無い物についてです。因みにこれに関しては、私と共にその物があった世界へ行けば、お教えする事が出来ます』

「例えば、お前みたいに他の世界のルーンとかがあったとしても、そのルーンが元々あった世界に俺とお前が行けば解決するってことか」

『その通りです。そして3つ目ですが……これに関してはその時にお教えします』

「どういう事だ?」

『今はその時では無いからです』

今はその時じゃない……か。

 

「分かった、今は訊かないでおくよ」

『恐れ入ります』

 

【賢者のルーン】は恭しくそう言った。

まだ色々気になることがあるけど、今はそれも訊かないでおこう。たぶん答えてくれないだろうし。

 

「因みに他にはあるのか?」

『そうですね……今のところはこのくらいですね』

「分かった。

……さて、そろそろ村に戻るかな」

 

俺はそう言いながら、もう片方の手でウッドソードと笛を拾い上げた。

 

「……因みにこの笛についても教えてはくれないんだよな?」

『そうですね』

「……分かった。まあそれに関してもいつか分かるだろうし」

 

俺は笛を懐に仕舞いながら、そう言った。

 

それにこれに関しては大体の予想はつけてるしな。

俺はウッドソードを腰に差し、【賢者のルーン】も懐にしまおうとした時にあることを思い付いた。

 

「そういえばお前の事をいちいち【賢者のルーン】って呼ぶのも面倒だな」

『それもそうですね』

「だからお前の呼び名をつけようとおもうんだけど、何が良いかな?」

『そうですね……別の国の言葉ですが、【ワイズ】というのはどうでしょう?』

「意味は?」

『自分で言うのもあれですが、【賢い】という意味です』

「良いんじゃないか? お前は知識を教えてくれるんだし、ピッタリだよ」

『畏まりました。それではこれから自己紹介の際にはワイズと名乗ることに致します』

「分かった。それじゃあこれからよろしくな、ワイズ」

『はい、よろしくお願いいたします、ご主人様』

「ご主人様って呼ばれるのは何かくすぐったく感じるな……」

『そうですか……それではどうお呼びしたら良いですか?』

「普通に名前で構わないぞ?」

『畏まりました。それでは改めまして……これからよろしくお願いいたします、リオス様』

「おう、こちらこそよろしくな、ワイズ」

 

正直なところ様も要らないんだけどな。

そう思いながら俺はワイズを懐にしまい、村に向けて歩き始めた。




政実「第1話、いかがでしたでしょうか」
リオス「うーん…… 」
政実「あれ? どうかした?」
リオス「何だか話の切れかたが悪いような気がしてな」
政実「あー……なるほどね。えっと、それなんだけどさ。実はこの第1話の下書きの方だと、もっと先の方まで書いているんだけど」
リオス「ふむふむ」
政実「書いてる内にどんどん長くなっていって、かつ区切れそうな部分も今回のタイミングしか無くなってたから、1度ここで区切ってしまおうと思って、この切れかたになった感じかな」
リオス「了解した。てことは次回はわりと早めに投稿出来そうな感じか?」
政実「たぶんね。他の作品との兼ね合いもあるから、確かなことは言えないけど」
リオス「ん、了解。さて、それじゃあそろそろ締めてくか」
政実「うん」
政実・リオス「それではまた次回」


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第2話 様々なもの達との出会い

政実「どうも、片倉政実です」
リオス「どうも、リオスです」
政実「今回は白猫プロジェクトのメインキャラ達が続々登場します」
リオス「白猫プロジェクトの元々の主人公とかアイリスとかだな」
政実「うん。そして謎の老人との会話に出てきた武器達も出てきます」
リオス「その言い方だと……黒竜はまだ出てこない感じか?」
政実「それに関しては後書きで言おうかなと」
リオス「了解した。さて、そろそろ始めていくか」
政実「だね」
政実・リオス「それでは第2話をどうぞ」


 

村に向けて歩いている最中に、俺は遠くから歩いてくる人影を見つけた。

あれは……

 

「ナギアと……もう1人は誰だ?」

 

近付いて来たのは、幼馴染みであり親友のナギアと知らない男性だった。その男性は大きめの槍を背負っており、ナギアと仲良く話しながら歩いている。

 

「見覚えが無いから、島の外の人かな? 」

 

俺がそう考えていると、ナギアが俺に気づいたらしく、手を振りながら俺の事を呼び始めた。

 

「おーい、リオスー! こっち来いよー!」

 

全く……そんな大声じゃなくても良いだろうに……

俺はそう思いながら、ナギア達の方へと歩いていった。

 

「そんな大声出さなくても聞こえてるよ、ナギア」

「ごめんごめん。ちょっと良いことがあったからさ」

「良いこと……? それはこの人に関係してることか?」

 

俺はナギアの隣にいる男性を見ながら、ナギアにそう訊いた。

 

「ああ。この人は冒険家らしくてさ、この島には調べたいことがあって来たんだってさ」

 

ナギアはとても明るい顔でそう言った。

冒険家か……道理でナギアのテンションも少し高いわけだ。昔から冒険家になりたがってたし。

 

「ところで調べたいことって何なんだ?」

「それは……」

「それについては俺自身が訊くよ」

 

俺とナギアの会話に男性が割って入ってきた。

 

「俺の名前はカイル・ハイトランド、冒険家だ」

「カイルさんですね。俺はリオス、ナギアの幼馴染みです」

「そうか。よろしくな、リオス」

「こちらこそよろしくお願いします、カイルさん」

 

俺とカイルさんは自己紹介をしながら、握手をした。

 

「それで調べたいことっていうのは?」

「それなんだけどな……リオスは飛行島について何か知っているか?」

「飛行島……ですか?」

「ああ。どうやらこのアストラ島に手がかりがあるらしいんだが、ナギアは聞いたこと無いらしくてな」

「それで1度村に行ってみて、他のみんなに訊いてみようとしてたんだ」

「なるほどな……」

 

飛行島……ねぇ。生まれてこの方聞いたこと無いけどなぁ。

 

「俺も聞いたことが無いですね……」

「そうか……となるとやっぱりそのウェルバ村で訊いてみるしか無いみたいだな」

 

カイルさんは少し残念そうな声でそう言った。

……待てよ、もしかしたら。

 

「カイルさん、少しだけ待ってもらっても良いですか?」

 

俺はそう言いながら、ワイズを懐から取り出した。すると、俺が取り出したワイズを見て、ナギアが質問をしてきた。

 

「リオス、それは何だ?」

「ちょっとな……ワイズ、訊きたいことがあるんだけど良いか?」

『話は聞こえていましたよ、飛行島についてですよね?』

「そう。お前は何か知ってるか?」

『お答えしたいのはやまやまなのですが……』

 

ワイズが少し申し訳無そうな声になる。

 

「答えられないことの1つなのか?」

『そうなります。といっても先程説明した2つとは異なることではありますが……』

「さっきの2つとは違うって……それじゃあ何でなんだ?」

『そうですね……簡単に言うならば、私の中でその情報が封印されているからです』

「封印……?」

『はい、私の中には確かに飛行島についての情報は存在しています、ですがその情報を私は参照することが出来ないのです』

「どうやってもか?」

『はい、色々試してはいるのですが……』

「そっか……分かった、ありがとな」

『お力になれず申し訳ありません……』

「良いよ、そういうことなら仕方無いからさ」

『ありがとうございます、リオス様』

「どういたしまして」

 

俺がそう言ってワイズをしまおうとした時だった。

 

「なあ……今それ喋ったよな?」

 

その声の方を見ると、カイルさんとナギアが驚いた顔で俺とワイズの事を見ていた。

 

「喋りましたけど、それがどうかしましたか?」

「それがどうかしたのかって……何でルーンが喋ってるのに、不思議そうじゃないんだ?」

「それがこのルーンの力ですから」

 

俺がそう言うと、カイルさん達は興味深そうな顔でワイズを見始めた。

……ちょうど良いからワイズについて説明しとくか。

そう思った俺はカイルさん達にワイズの紹介を始めた。

 

 

 

 

「……以上がこのルーン、【賢者のルーン】の力です」

「幾つか制約はあるものの、この世界について様々な事を教えてくれるルーンか……」

 

俺の説明を聞いて、カイルさんは興味深そうにそう呟いた。

まあこんな力を持ったルーンなんてそうそう無いしな。

 

「それでそのルーンはどこで手に入れたんだ?」

 

ナギアがワイズの事を見ながら、そう訊いてくる。

 

「何というか……昼寝から眼を覚ましたら、そこにあったというか……」

「要するに……リオス自身もよくわからないと」

「まあそういうことだな」

 

正直に話しても良いんだけど、自分でもまだ確証を得ていないことを言っても、逆に混乱するだろうから今は言わないでおこう。

 

「それでそのルーンでも飛行島については分からないんだよな?」

 

カイルさんがワイズを指差しながらそう訊いてくる。

 

「結果的にはそうなりますね」

『申し訳ありません、カイル様……』

「いや、別に良いさ。リオスも言っていたが、そういうことならしょうがないからな」

 

カイルさんはワイズにそう言うと、今度は俺達の方を向きこう言った。

 

「さて、それじゃあそろそろ村に行くか」

「そうですね。ナギアの言う通り、もしかしたら村の誰かが知っているかもしれないですし」

「それに村にそういうことが書いてる本とかもあるかもしれないですしね」

「そうだな。よし、ナギアにリオス。ウェルバ村への案内は頼んだぞ?」

「「はい」!」

 

こうして俺はナギア達と共に村に戻ることになった。

 

 

 

 

村の入り口に着くと、そこにはヘレナさんがいた。俺達が近付いていくと、ヘレナさんが俺達に気付き、明るい口調で話し掛けてきた。

 

「ナギアにリオス、早かったのね。もう少しでハチミツのパイが……

あら、そちらの方は?」

「俺はカイル・ハイトランド、冒険家だ」

「私はヘレナ。すぐそこの酒場で働いています」

「酒場……それなら話が早い!」

 

カイルさんとヘレナさんが話しているのを聞いていると、ナギアが話し掛けてきた。

 

「なあ、リオス」

「ん? どうした?」

「そのルーン……ワイズはこの世界の事を教えてくれるルーンなんだよな?」

「まあそうだな。さっきも言った通り幾つか制約はあるけど、それにさえ引っ掛からなければ大体のことは教えてくれるはずだ」

「それならさ、このアストラ島の事を訊いてみたらどうだ?」

「アストラ島の事を?」

「そう。飛行島については分からなくても、島自体の事を訊けば何か手がかりが見つかるんじゃないか?」

「なるほどな……ワイズ、このアストラ島について教えてくれるか?」

 

ナギアの提案通り、ワイズにこのアストラ島について訊いてみた。すると、

 

『申し訳ありません……それについても封印されているようです……』

 

ワイズは本当に申し訳無さそうにそう言った。

 

「アストラ島についてもなのか?」

『はい……正しく言うならば、こういった島であるという概要はお教え出来るのですが、この島の深い部分には封印がされているという形ですね』

「そっか……」

 

この島にはいったい何があるんだ……?

俺がそう考えていると、

 

「考え事してるところ悪いが、そろそろ出発するぞ」

 

カイルさんが俺の顔を覗きこみながらそう言った。

 

「出発するって、どこへですか?」

「村の北の工房にいるというバロンさんのところだ」

 

バロンさんか……確かにあの人なら色々知ってそうかも。

 

「分かりました」

「よし。それじゃあ行こうか、二人とも」

 

こうして俺達はバロンさんのいる工房へと向かった。

 

 

 

 

「ここがその工房みたいだな……」

 

村から歩くこと数刻、俺達はバロンさんのいる工房へとたどり着いた。わりと歩いた気がするが、その道中に古代種の植物を見つけたり、カイルさんからルーンやソウルについて教えてもらっていたので、思いの外早く着いたような気がする。

 

「さて、それじゃあ中に……」

 

カイルさんがそう言った時だった。

 

「む、ナギアにリオスではないか」

 

ちょうどバロンさんが工房の中から出てきた。

 

「「こんにちは、バロンさん」」

「うむ、礼儀正しいのは良いことだ。そちらは……」

「俺はカイル、冒険家だ。貴方がこの島一番の物知りと聞いてきた」

「ほう……そうだったか。だがまずは中へと入るが良い。外よりも中の方が落ち着いて話せるだろう」

 

俺達はバロンさんの言葉に従い、工房の中へと入った。

 

「何か久しぶりに入った気がするな……」

「だな。あまり俺達はここに用事とかも無いからな」

 

工房の中は意外と広く、テーブルの上にはバロンさんの仕事道具などが広がっていた。

俺達が興味深そうに工房の中を見回していると、バロンさんが俺達にこう言った。

 

「気になるのなら色々と見てみると良い。ただし危険な真似はするなよ?」

「「はーい」」

 

俺達は声を合わせて返事をし、工房の中を色々見てみることにした。

 

「……ん? この武器は何だ?」

 

工房の中を見ている最中に、ナギアがテーブルの上に置いてある武器を見つけた。

 

「剣と弓矢と槍か……バロンさんのじゃないのか?」

「かもしれないな。一応後でバロンさんに訊いてみるか」

「だな」

 

俺達がそう話していた時だった。

 

「む、それらの事を忘れていたな」

 

カイルさんとバロンさんが俺達のほうに歩いてきていた。どうやら話は終わったらしい。

 

「この武器はバロンさんのですか?」

「いや、これはどうやらリオス用らしいのだ」

「「リオス用?」」

 

カイルさんとナギアの声がハモる。

 

「うむ、お前達がここに来る前に、ローブを着たご老人が来てな。この武器達をリオスに渡して欲しいと言って、置いていったのだ」

「なるほど……」

 

たぶんその老人は俺のところにワイズを置いていったであろう自称変わり者の老人と同一人物だろうな。本当に何者なんだ、あの人は……?

 

「でもバロンさん、どうしてその老人はリオスにこの武器達を渡して欲しかったんでしょうね?」

 

ナギアがバロンさんにそう訊く。

 

「さあな。だがこの武器達がリオス用であるのなら、私はそれを渡すだけだからな。

リオス、受けとるが良い」

「はい」

 

俺はテーブルに近付き、剣と弓矢と槍を順番に撫でた。

 

「剣と弓矢は使えるけど、槍は使ったことないな……カイルさんが持っている槍とも違いますよね?」

「そうだな。俺が使っているのは両手で持つ槍で、それは片手で振るう槍だからな」

「となると独学でどうにかするしかないか」

 

俺はテーブルの上の武器達を眺めながらそう言った。そしてその中から何となく弓矢を手に取った。

弓矢自体はそれほど重くないが、それでもしっかりとした作りにはなっているようだった。弓の色は黒く、悪魔の羽根を象ったような装飾が付いている。

俺が弓矢を眺めていると、ワイズが興味深そうな声を上げた。

 

『ふむ……なるほど』

「どうした?」

『この弓矢の名前はバアル・ベルゼ、その能力は使用者の意思に応じて、射ぬいた相手へ様々な異常をもたらす事のようです』

「てことは常に相手に異常が発生するわけでもないのか」

『その通りです。あくまでも使用者の意思に応じてですので、その使用者がそれを望まなければ、その効果は現れないようです』

「なるほどな」

 

この弓矢にそんな力があるなんてな……

俺がそう考えていると、

 

「ほう。中々面白そうな物を持っているな、リオス」

 

バロンさんがワイズを指差しながらそう言った。

そういえばワイズの事をバロンさんとヘレナさんに紹介してなかったな。ヘレナさんには……後で紹介しておくか。

そう決めた後に俺はバロンさんにワイズの事と手に入れた経緯などを紹介した。

 

「ふむ……中々興味深いルーンだな」

 

俺の説明を聞き終わると、バロンさんが呟くようにそう言った。そして真剣な顔で俺にこう言った。

 

「リオスよ、このルーンは本当に貴重な物だ。けっして無くすなよ?」

「はい、もちろんです」

 

俺はバロンさんにそう言いつつ、手の中のワイズを眺めた。

バロンさんの言う通り、ワイズみたいなルーンはとても貴重だ。ということは誰かが悪事に使うことも考えられるんだよな……

バロンさんに言われたからじゃないけど、絶対に無くしたりしないようにしないといけないな……

俺がワイズを握りしめながらそう考えていると、

 

「さて、そろそろ行かないとな」

 

俺達の話が終わるのを待っていたカイルさんが自分の槍を背負い直しつつそう言った。

 

「行くって……今度はどこへですか?」

「島の北端にある旧王朝時代の遺跡だよ。そこになら何か手がかりがありそうだしな」

「なるほど」

 

それなら早く行かないと日が暮れるかもな。

そう思い俺とナギアが足早にカイルさんに付いていこうとすると、

 

「待て、ナギアにリオス。お前達も一緒に行くつもりか?」

「あ、えーと……途中まで見送ろうかなーと ……」

 

バロンさんの問いかけにナギアが答えているが、どう考えても嘘なのがみえみえだ。バロンさんもそう思ったのか、ため息をついてからこう言った。

 

「全く……嘘が下手な奴だ。ナギア、ついてこい。気は乗らんが、剣を打ち直してやろう」

「良いんですか!?」

「お前にもしもの事があっては、ヘレナが可哀想だからな」

「あはは……やっぱりそういうことですか……」

 

バロンさんの言葉にナギアが苦笑いを浮かべる。

 

「お前達はまだまだ半人前だからな。……さて、ここで長話をしていても仕方がない。早々に終わらせるぞ、ナギアよ」

「はい! よろしくお願いします!」

 

こうしてバロンさんとナギアは工房の奥へと入っていった。

 

 

 

 

「剣打ち直してもらえて良かったな、ナギア」

「ああ。これで魔物達との戦いも楽になるよ」

 

打ち直してもらった剣を陽の光にかざしながら、ナギアは笑顔でそう言った。

バロンさんの工房を出た俺達は、出てくる魔物達を倒しつつ、遺跡に向かう途中にある森の中を進んでいた。

 

「おかしいな……そろそろ抜けても良い頃だが……?」

 

先頭を歩いていたカイルさんが突然不思議そうにそう言った。そしてそれを聞き、ナギアの顔に不安の色が浮かんだ。

 

「そんな心配そうな顔をするな。大丈夫、方角はあって……」

 

カイルさんがそう言った時、俺達の目の前に何かが現れた。

 

「猫……?」

 

それは首に青いリボンを着けた1匹の白猫だった。

 

そしてその白猫は俺達の方を一度見ると、まるで付いてこいとでも言っているかのように歩き始めた。

 

「誘っているのか?」

「恐らくはそうだと……」

 

俺達が話している間にも、白猫は道を歩き続けている。

 

「なんだ……気になるな。追ってみようか」

「そうですね、何だか放っておけないですし……」

 

こうして俺達は謎の白猫の後を追うことにした。

 

それからどれくらいか歩いた時、突然白猫の動きが止まった。

 

「今度は逃げないんだな。ここなのか? 俺達を案内したかったのは……?」

 

カイルさんがそう言って、前の方を見た時だった。

 

「っ! 人が倒れてる!」

 

ナギアの言葉通り、そこには白猫とお揃いの青いリボンを付けた長い髪の少女が倒れていた。

 

「おいおい、何でこんな所で……ってそれどころじゃないか。2人とも急いであの子の所に行くぞ! この状況で魔物でも出たら目も当てられないからな!」

「「はい!」」

 

俺達は急いで少女の元へと駆け寄った。

 

「おい……大丈夫か!?」

 

カイルさんが少女にそう呼び掛けるが、少女は全く目覚める様子が無い。

すると、

 

「……ちょっとアンタ達。早く何とかしてよ!」

 

突然そんな声が聞こえた。その声のした方を見ると、そこには俺達をここまで連れてきた白猫がいた。

 

「お前……しゃべれるのか!?」

 

カイルさんが白猫にそう訊くが、白猫はそれには答えず、先程と同じ語調で俺達にこう言った。

 

「そんなのどうでも良いから、アイリスを、早く!」

 

白猫にそう言われ、俺達は少女の様子を見てみる事にした。

 

「脈は……問題無さそうだな。眠っているだけのようだが……」

「でも俺達が話していても、全く目覚めないですよね?」

「ああ。もしかしたら眠っているだけではないのか……?」

 

少女の事でカイルさんとナギアが話しているようだったが、俺は全く別の事を考えていた。

……何でだろう? 俺はこの子の事をどこかで見たことがあるような気がする…… でも一体どこで?

俺がそう考えていたその時だった。

 

「……キャ……トラ……」

 

突然少女が目を覚まし、白猫の方を見ながらそう言った。そして俺達の方を1度見ると、白猫-キャトラに話し掛けた。

 

「この……方々は……?」

「アイリスは目を覚まさないし、どうしたら良いか分からなくて。そしたらたまたま森でみかけて、ここまで連れてきたの」

 

少女―アイリスにそう答えたキャトラにカイルさんが少しムッとした口調でこう言う。

 

「オイ、お前は俺達を何だと思ってるんだ?」

「この子、悪い子ではないのだけれど、少しこういうところがあって」

 

アイリスは少し微笑みながらキャトラについてフォローをした後に、俺達の方に向き直り、自己紹介を始めた。

 

「私はアイリス。助けてくれてありがとう」

 

アイリスがそう言った後に、カイルさんが自分と俺達の紹介を始めた。

 

「俺はカイル、こっちはナギアとリオスだ」

 

自己紹介くらい自分達で出来るんだけどな……

俺がそう思っていると、ナギアもそう思ったのか苦笑を浮かべていた。

俺達がそう思っているとは露知らず、カイルさんがアイリスにこう訊いた。

 

「君は……ここで一体何を?」

「私は……ええと……」

 

アイリスがカイルさんの質問に答えようとしたが、少し困った顔になりつつ、言い淀み始めてしまった。

 

「ん?」

 

その様子にカイルさんが不思議そうな顔をする。そしてアイリスは申し訳無さそうな顔で再び話し始めた。

 

「……ごめんなさい、上手く思い出せなくて。……そう……そうでした。この森の先にある遺跡へ向かうところでした。でも、大きな地震があって、途中で、気を失ってしまって」

 

アイリスの言葉に、俺達は顔を見合わせた。

 

「……地震……あったか?」

「俺は覚えが無いですけど……リオスはどうだ?」

「俺も全くだな……」

 

そもそも地震があったら、忘れるわけが無いしな。

そんな俺達の様子を見て、キャトラが少し怒ったような声でこう言った。

 

「何よ、信じられないっていうの?」

「そういう訳じゃないさ。気を悪くしたのなら謝ろう」

 

カイルさんは落ち着いた声でキャトラにそう言うと、アイリスの方に顔を向け、こう言った。

 

「俺達もその遺跡へ向かっている所なんだ。良ければ一緒に行かないか?」

「よろしいのですか?」

「君を放ってはおけないし、目的地が同じなら、好都合さ」

 

カイルさんの言葉にアイリスの顔が明るくなる。

 

「私、こう見えても魔法には自信があるんです。お役に立てるように精一杯頑張りますっ!」

 

アイリスは俺達に向けて元気にそう言った後、キャトラにこう言った。

 

「キャトラ、森の先まで案内してくれる?」

 

アイリスの言葉にキャトラは1度頷き、俺達の方に顔を向けて、

 

「アンタ達、はぐれないようについて来なさいよ」

 

そう言うと、キャトラは森の中を進み始めた。

 

「やれやれ、可愛いげの無い猫だ。少しはゆっくり歩いてくれよな」

 

カイルさんは少し呆れたようにそう言うと、キャトラの進んで行った方向へ歩き始めた。

……さて、俺達も行かないとな。

そう思い進もうとした時、アイリスがジッとナギアの事を見つめていた。

 

「ん? どうかしたか?」

 

それに気づいたナギアがアイリスにそう訊くと、

 

「……いえ……ごめんなさい。私ったら、そんなはず、無いのに」

 

「さぁ、私達も行きましょう」

 

少し疑問は残ったが、遅れるわけにもいかないため、俺達はキャトラとカイルさんの後を追うために森の中を歩き始めた。




政実「第2話、いかがでしたでしょうか」
リオス「遺跡に向かうところで終了ってことは、次回でアストラ島編が終わる感じか?」
政実「Normalシナリオの方はそうだね。他のとの兼ね合いもあるけど、余裕が出来たらHardシナリオも書こうかなとは思ってるよ」
リオス「出来るのか?」
政実「正直今のところは何とも言えないかな……最近リアルの方も忙しいからね」
リオス「了解。後は……今回紹介してない武器とかは次回紹介するのか?」
政実「一応はそうだけど、今回みたいに簡単な説明程度になるかな。それに第3話を書き終わったら、リオスのキャラ紹介を書こうと思ってるから、詳しい紹介はそっちで書く予定だよ」
リオス「了解した。さて、そろそろ締めてくか」
政実「そうだね」
政実・リオス「それではまた次回」


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第3話 カイルとの別れと冒険の始まり

政実「皆さん、お久しぶりです、片倉政実です」
リオス「どうも、リオスです。
ようやく今回でアストラ島のNomarl編が終わるんだな」
政実「うん、ちょっと色々あって投稿するのが遅くなっちゃったからね……」
リオス「確かリアルの方が色々忙しかったんだっけ?」
政実「そんな感じだね。まぁ……今はそれなりに落ち着いたけどね」
リオス「ん、了解。
あ、そういえば今回の話では黒竜と前回名前だけ出てきた武器達が出てくるんだよな?」
政実「そうだね。名前とか考えるのはちょっと大変だったけど、それなりの物にはなってると思うよ」
リオス「了解した。
さて、そろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・リオス「それでは、第3話をどうぞ」


遺跡に向かう途中で出会ったアイリスとキャトラを仲間にし、俺達はキャトラの先導で森の中を歩き続けた。そして歩き続けてから数刻、俺達は目的地である旧古代王朝の遺跡に辿り着いた。

 

「どうやらここがその遺跡みたいだな……」

 

遺跡を見上げながらカイルさんが呟くようにそう言う。そして俺達の方を振り向くと真剣な顔でこう言った。

 

「中にはどんな罠があるかは分からない。皆、気をつけて進むぞ」

「「「はい」」」 「分かったわ」

「うん、良い返事だ。よし、行くぞ」

 

カイルさんの言葉に1度頷き、俺達はカイルさんを先頭に遺跡の中へと入っていった。

 

 

 

 

「この遺跡……まだ殆ど人の手が入っていないみたいだな。探索しがいがありそうだ」

 

遺跡の中を見回しながらカイルさんが笑顔でそう言う。カイルさんの言葉を聞き、俺とナギアも周りを見回した。

 

「確かに壁とかも綺麗な感じがするな」

「崩れてる様子もあまり無いし、誰かがここを訪れたような感じもしないしな」

 

そう周りを見回しながらナギアと話していた時、

 

「(アイリス……気づいてる……?)」

「(……うん。何かしら、この感じ……)」

 

アイリスとキャトラが小さな声で話しているのが耳に入ってきた。

この感じ……か。俺は何も感じないけど、ワイズなら何か分かるかな?

そう思い俺はワイズを取り出し、小さな声で質問をした。

 

「ワイズ、この遺跡について何か分かるか?」

『(申し訳ありません、リオス様……島の事と同様に深い部分については封印がされているようです。ですが……)』

「(どうかしたのか?)」

『(先程から遺跡の奥より何やら不穏な気配を感じます)』

「(不穏な気配……か)」

『(はい。ですので、気をつけて探索をして下さい)』

「(分かった、ありがとな)」

『(いえいえ)』

 

俺とワイズが話し終えた時、カイルさんが俺達に向かってこう言った。

 

「どんな罠があってもおかしくない。皆、焦らず進んでいこう」

「「「はい」」」 「了解したわ」

 

カイルさんの言葉にそう返事を返し、俺達は遺跡の奥へ向けて歩を進めた。

 

 

 

 

「……はぁっ!」

「せいっ!」

「えいっ!」

「そこだっ!」

 

そんな声を上げつつ、俺達は道中の魔物達を手持ちの武器や技で退け、行く手を阻む罠を突破しながら遺跡の中を進んでいた。そしてその内に少しだけ広い場所に辿り着いていた。

 

「ここは広間か……」

 

カイルさんが呟くようにそう言う。そして俺達の方を振り向くとこう言った。

 

「皆、少しここで休憩しよう。まだ先はあるみたいだからな」

「「はい」」

「分かりました」 「分かったわ」

 

そう言いながら俺達は手持ちの武器をしまい、休憩を始めた。

ふぅ……ちょっと疲れたな……

そう思い少しだけ壁により掛かると、背中に背負っていた武器達の固い感触が背中全体に伝わってきた。

む、ちょっと邪魔だな……今だけ壁に立て掛けとくか。

俺はそう思い、バロンさんの工房で受け取った武器達をすぐ近くの壁に立て掛けた。するとそれを見ていたキャトラが突然こんな事を言い出した。

 

「ねぇ、何となく思ったんだけどさ、リオスの武器ってかなり強くない?」

 

その言葉を聞き、俺とワイズを除いた全員が俺の武器に視線を向けた。

 

「確かにそうだな……【バアル・ベルゼ】は遠くから相手を撃ち抜きつつ、様々な状態異常を引き起こしている……正直なところ、そのおかげでかなり戦いが楽になってるしな」

「そうなると……他の武器もかなりの力を持っているのかもしれませんね……」

 

カイルさんはここまでの戦闘を振り返りながらそう考察し、アイリスは他の剣と槍を見ながらそう推察する。

ふむ……そう言われると俺もちょっと気になるな。

そう思った俺はワイズを取り出し、武器についての質問を始めた。

 

「ワイズ、【バアル・ベルゼ】以外の武器について教えてくれるか?」

『かしこまりました。それでは……まずはその剣からにいたしますね』

「これだな?」

 

俺はそう言いながら傍らに立て掛けた剣を手に持った。剣の刀身は綺麗な銀色をしていて、鍔の片側には天使の羽を思わせる装飾があり、鍔と柄の間には透明な球体が収まっている。

 

『はい。その剣の名は【ソードオブマギア】と言いまして、埋め込まれているオーブの力により、炎と水と雷の魔力を放つことが出来るようです』

「放つ、ってことは剣をかざせば炎とかが出てくるのか?」

『はい。更にはその魔力を刀身に宿す事も出来るようです』

「そしてその状態で相手を切りつけると、同時に炎とか雷のダメージを与えることも出来るって事か」

『その通りです。

さて……次はそちらの槍ですね』

「これだな」

 

俺は剣を再び立て掛け、その隣の槍を手に取った。槍は綺麗な青色をしていて、銀色の穂には同じように銀色の斧のような刃が付いていた。そして穂の根元には【ソードオブマギア】同様に透明な球体が収まっていた。

 

『そちらの槍の名は【グラントスピア】と言いまして、先程の【ソードオブマギア】と同様に埋め込まれているオーブの力により、周りの味方に様々な影響をもたらす性質を持っているようです』

「様々な影響?」

『はい。例えば……周りの味方の武器に炎の魔力を宿らせ、その味方自身の力も高めたりと言ったところでしょうか』

「つまりは味方の武器での攻撃力の上昇と武器への魔力の付与を同時に行えるって事か」

『その通りです。そしてこの槍は形状上、何かに騎乗した状態で振るうのが望ましいと思われます』

「何かに騎乗した状態……」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺の脳裏に竜の姿が浮かんだ。

もしかしてこの槍ってそのためにあるのか……?

そう考えていた時、

『リオス様……? どうかされましたか?』

 

突然ワイズの心配そうな声が聞こえ、俺の意識が引き戻された。

もしかしたら俺が黙り込んだ事で、俺に何かが起きたと思ってくれたのかもしれないな……

そう思った俺は落ち着いた声でワイズにこう返した。

 

「大丈夫だよ、ワイズ。ちょっと考え事をしてただけだからさ。それよりも武器について教えてくれてありがとな」

『いえ、それが私の役目ですので。もしまた何かありましたら、遠慮無く訊いて下さい』

「分かった、その時はよろしくな」

『かしこまりました』

 

ワイズとの会話を終え、俺はワイズを懐にしまうと同時に、カイルさんは立ち上がり俺達を見回しながらこう言った。

 

「よし……皆、そろそろ探索を再開するぞ。準備は良いか?」

「はい」

「もちろんです!」

「私も大丈夫です」 「アタシもオッケーよ!」

「分かった。それじゃあ出発しよう」

 

こうして俺達は再び遺跡の探索を始めた。

 

 

 

 

俺達が再び魔物達を退けつつ、罠を突破しながら遺跡の奥へ進んでいると、突然目の前に大きな壁画が現れた。

 

「こ、これは……!」

 

そう言いながらカイルさんが壁画の近くまで寄り、壁画を調べ始めた。それを見て俺達もすぐに壁画まで近づいた。するとそこにはよく分からない文字と2匹の猫と島のような物の絵が刻まれていた。

この島みたいなのが飛行島……なのか?

俺がそう考えながら眺めていると、

 

「解読するのに、何十年かかるか……それに、この壁画……間違いない。飛行島だ!」

 

壁画を調べていたカイルさんが大きな声でそう言った。

そっか、やっぱりこれが飛行島か。でもこの2匹の猫はいったい何を表しているんだ?

俺がそう考えていると、アイリスが壁画を見ながら呟くようにこう言った。

 

「―敬愛する君へ。これを読んでいるとき、きっと―」

 

その様子を見てカイルさんが驚きの声を上げた。

 

「読めるのか!? はるか昔に失われた言葉だぞ?」

「……わかるんです。なんとなく。……続き……読みますね」

 

そう言うとアイリスは壁画に刻まれた文章の続きを読み始めた。

 

「―罰を受けよう。禁忌を犯した報いとして―

―闇を抱え永遠へさまようことが償い―

―悠久の果て、もし君がこの地を訪れたなら―

―それはさらなる罪の始まり―

―その日がこないことを願い―

―ここに、光の翼を封印する―」

 

文章はそこで終わりなのか、アイリスは静かに口を閉じた。

 

「光の……翼?」

 

カイルさんがそう呟くような声で言うと、

 

「ここ……」

 

アイリスが壁画のある部分を指差しながら俺達にそう言った。そしてアイリスが指を差した部分には飛行島の絵があった。

 

「飛行島……この遺跡に封じられてるっていうのか!?」

 

カイルさんが再び驚きの声を上げている中、アイリスはジッと壁画を見つめていた。

 

「……アイリス?」

 

その様子を見てキャトラが不思議そうにアイリスの名前を呼んだ。しかしアイリスはそれには答えず、壁画を見つめたまま言った。。

 

「こう……でいいのかな……

×△※×□○♯%!”」

 

すると突然地震が起こり、それと同時に壁画が音を立てながら崩れ始めた。そして完全に崩れた時には俺達の目の前に広間の奥へと続く道が現れた。それに驚く俺達をよそにアイリスは小さな声で呟いた。

 

「―君が、光の翼を望むなら―

―その名を祭壇に刻め―」

 

そう言い終わるとアイリスは俺達の方を振り返りこう言った。

 

「……行きましょう。この奥に、光の翼が―飛行島が、あるはずです」

 

アイリスはそう言うが、正直なところ俺達はここまでの展開に未だ驚いたままだった。しかしカイルさんだけはすぐに落ち着いた様子に戻り、アイリスに返事を返した。

 

「あぁ、そうだな。せっかくアイリスが先へと進む道を見つけてくれたんだ、ここで進まない手は無いな」

 

そして俺とナギアの方を向くとこう言った。

 

「行こうぜ、2人とも。この先にある飛行島を見つけるためにさ」

 

カイルさんの言葉に俺とナギアは1度顔を見合わせた。そしてどちらとも無く微笑むとカイルさんにこう言った。

 

「「はい、もちろんです!」」

 

俺達の返事にカイルさんは微笑みながら1度頷くと、現れた道の方へ再び顔を向けた。

 

「よし。皆、行くぞ」

「「「はい!」」」 「了解よ!」

 

カイルさんの言葉に大きく返事をし、俺達は遺跡の奥へと進んでいった。

 

 

 

 

ゴゴゴゴ……

新たに現れた道を進む俺達の耳にそんな音が聞こえてくる。

さっきの地震がまだ続いてるのか……

 

「地震……やまないね。大丈夫かな。いきなりグシャッと潰れたりしないよね?」

 

キャトラもそう思ったらしく、不安そうな声でそう言う。

 

「耐えてもらわなくては困る。まだまだ調査したいところが山ほどあるからな」

 

キャトラの言葉にカイルさんがそう返す。そしてそのまま進んでいくと、俺達の目の前に大きな扉が現れた。

 

「あのトビラ……どうやらあそこが最終地点みたいだな。飛行島―いよいよか」

 

カイルさんが扉を見ながら真剣な声でそう言う。

いよいよ飛行島とのご対面か……カイルさんじゃなくても緊張するな……

ふと隣を見ると、ナギアとアイリスも緊張した面持ちで扉を見つめていた。

 

「よし、開けるぞ」

 

カイルさんの言葉に俺達は何も言わずに頷く。カイルさんはそれを確認すると静かに目の前の扉を開き、俺達は扉の向こうに足を踏み入れた。しかし扉の向こうにあったものは……

 

「ドラ……ゴン? 冗談だろ、なんでこんなところに!」

 

俺達の目の前に現れたのは、目的の飛行島では無く、禍々しい気配を放つ紫色のドラゴンだった。

ワイズの言ってた不穏な気配ってコイツのことだったのか……!

 

「光の翼の……守護者?」

「ど、どど、どうしよう。逃げた方がいいよね、きっと!」

 

アイリスが目の前のドラゴンを見ながら呟き、キャトラが慌てながら俺達にそう訊く。

しかし……

 

「グオオオオオッ!!」

 

ドラゴンは敵意を隠すこと無く俺達に向かって咆哮する。

 

「逃がしてくれるつもりは無さそうだな」

 

その様子を見たカイルさんが武器を構えながらそう言う。それを見て俺は【バアル・ベルゼ】を、ナギアも手持ちの武器を構える。

 

「ごめん……なさい。まさか、ドラゴンが眠っていただなんて」

 

アイリスが申し訳なさそうにそう言うが、カイルさんはニッと笑いながらこう返した。

 

「オレはオレの意思でここに来た。別にアイリスのせいじゃないさ」

 

そして俺達の方を向くと真剣な顔になりこう言った。

 

「リオス、ナギア、いくぞっ!」

「「はい!」」

 

こうして俺達とドラゴンの戦いの幕が切って落とされた。

 

 

 

 

「くらえ、『トルネードスピア!』」

「そこだ! 『ダブルスラッシュ!』」

 

ドラゴンに近い場所でカイルさんが槍で突き刺し、ナギアが剣を振るう。だが……

 

「グゥ、グオオオオオッ!!」

 

ドラゴンは先程と変わらぬ様子でその場に立ち、再び俺達に向けて咆哮する。

 

「くっ! 俺達の攻撃が効いてないとでも言うのかっ!?」

「ダメージは確実に入ってる筈なのに……!」

 

カイルさんとナギアがドラゴンの様子を見てそう言う。

普通の攻撃があまり効いてない……それなら別の手段で!

 

「ならこれはどうだ!『ヴェノムスナイプ!』」

 

俺は【バアル・ベルゼ】から毒の力を宿した矢を数発ドラゴンに向けて放った。放った矢は全てドラゴンに当たり、瞬時にその効力が表れた。

 

「グ……グウゥ……!」

 

ドラゴンは苦しそうな呻き声を上げ始めた。

よしっ、これなら行ける!

そう思った俺はカイルさん達に呼びかけた。

 

「カイルさん! ナギア! 今の内にアイツを!」

「ああ……恩に着るぜ、リオス!」

「今の内に倒してやるぜ!」

 

俺の呼びかけに応えながら、カイルさんとナギアが再びドラゴンに向けて攻撃を仕掛けた。

だがその時だった。

 

「グ……グオオオオオッ……!」

 

ドラゴンは雄叫びを上げながら、カイルさん達を視界に捕らえると、カイルさん達に向けて炎を吐き出した。

 

「なっ!?」

 

カイルさんは瞬時にそれに気づくとすぐさまナギアの前に立ち、防御の姿勢を取った。

 

「カイルさんっ!」

「だい……じょうぶだ……! これしき……耐え……てみせるさ……!」

 

カイルさんはそう言うものの、声が徐々に苦しそうな物へと変わっていく。

これ以上はまずい……!

俺はそう感じ、武器を【バアル・ベルゼ】から【ソードオブマギア】へと持ち替え、ドラゴンに向けて剣をかざした。

 

「これ以上はやらせない! 『ライトニングボルト!』」

 

かざした剣の先から稲妻がほとばしり、ドラゴンの頭部に命中した。

 

「グオォォッ……!」

 

ドラゴンは稲妻が当たった衝撃で少し怯んだ様子を見せた。

この隙に……!

そう思った俺は大声でカイルさん達に呼びかけた。

 

「カイルさん! ナギア! 1度下がってください!」

「ああ、分かった……!」

「くっ、仕方ないか……!」

 

そう言いながらカイルさん達が後ろの方へと下がってくる。カイルさん達に目立った怪我は無いものの、さっきの炎によるダメージでカイルさんの体力はかなり消費しているようだった。

 

「カイルさん、大丈夫ですか!?」

「何とかな……だがあの炎でそれなりに体力を使っちまったみたいだ……」

 

カイルさんの声にさっきまでの元気が無い。

これはかなりまずいな……

俺がそう思っていると、 アイリスがカイルさんの目の前まで進み出てこう言った。

 

「皆さん、少しだけジッとしていて下さい。……『イノセントヒール』」

 

アイリスが杖を構えながら詠唱をした。すると俺達の足元に緑色の魔法陣が現れ、その魔法陣から光が立ち上る。

 

「……ん、さっきより体が楽になったな」

「俺もさっきより体が軽いです!」

 

そう言うカイルさん達の声に元気が戻っている気がする。

これでとりあえず一安心かな。

 

「ありがとう、アイリス」

「いえ、私に出来るのはこのくらいですから」

 

カイルさんからのお礼の言葉にそう返すと、アイリスは真剣な顔になりながら俺達にこう言った。

 

「ここからは私も戦います。いつまでもクヨクヨしてるわけにはいきませんから」

「アイリス……ああ、分かった。一緒に戦おう」

 

アイリスにそう言うと、カイルさんは再びドラゴンの方へと顔を向けながらこう言った。

 

「よし……皆、行くぞ!」

「「「はい!」」」

 

再び俺達とドラゴンの戦いが始まった。

 

 

 

 

「ハアッ、ハアッ……これで……終わりだっ!」

 

そう言いながらカイルさんがドラゴンの体に槍を突き刺す。すると、

 

「グ……グオオォ……」

 

ドラゴンはそんな声を上げ、横向きに倒れ込むと、そのまま動かなくなった。

 

「ハアッ、ハアッ、ハアッ……やった……みたいだな……!」

 

カイルさんが息を切らしながら俺達にそう言う。

 

「か……勝ったの……?」

 

倒れ込んだドラゴンの姿を見ながらキャトラがそう訊いてくる。

 

「ああ、そうだ。

リオス、ナギア、アイリス。良く戦ったな。オレ達、もしかしたらいいチームになれるかも―」

 

カイルさんが微笑みながらそう言った時だった。

 

「カイルさん―離れて!」

 

アイリスがカイルさんに声を掛けた瞬間、

 

「グオオオオオッ!!」

 

ドラゴンがいきなり声を上げたかと思うと、突然ドラゴンの体が溶け出していた。

 

「な……なんだコイツ。体が溶けかけて……!」

 

そして溶けていくドラゴンの体から闇のような物が現れ始め、徐々にカイルさんの体を包み込んでいく。

 

「カイルさん!!」

 

アイリスがカイルさんの名前を呼ぶが、

 

「ッ……ぐ……せッ……ッ……!」

 

カイルさんはそんな声を上げながら闇の中へと姿を消した。そしてカイルさんを取り込んだ闇は瞬く間に大きくなり、俺達の姿も飲み込み始めた。

 

「わわわわわ!? か、からだが……うごか……」

「…………っ!」

「いったい何がどうなって……!」

「くっ……!」

 

そう声を上げながら俺達は闇に呑み込まれ、やがて俺達の視界は完全な黒一色に染まった。

……? 俺達、いったいどうなったんだ?

そう思いながら周りの状況を確認しようとした時だった。

 

「リオス……! ナギア……!」

 

声の方に顔を向けると、おぼろげにカイルさんとナギアの顔が目に入ってきた。

よかった……無事だったんだな

 

「……まったく大変なことになっちまったな。どこまで続くんだ、この闇は」

「そう、ですね……」

「……ま、仕方ないか。冒険にアクシデントは付きものだ。……なんてな。悪かったな、巻き込んでしまって」

「そんな……別に良いですよ。な、ナギア」

「リオスの言う通りですよ。カイルさんの言う通り、冒険にアクシデントは付きものですから」

「リオス……ナギア……ありがとな」

 

俺達が闇の中でそう話していると、

 

「カイルさん、リオスさん、ナギアさん! 私の声、聞こえますか!?」

 

俺達の耳にアイリスの心配そうな声が聞こえてきた。

どうやら全員無事みたいだな……

 

「この声……アイリス。君こそ大丈夫か!」

「はい! 少しだけ、待っててくださいね。今、光を……

*×○■!&%$…………」

 

静かにアイリスの詠唱を聴いていると、

 

「不思議な子だ。詠唱の声を聞いているだけなのにどこか安心するような……何者なんだろうな、アイリスは」

 

カイルさんが呟くようにそう言う。

確かにさっきの件といい、今の件といい、アイリスはいったい何者なんだろうな……?

そう思っていると、徐々に視界から闇が消えていき、先程の遺跡の様子が再び目に入ってきた。そして、

 

「おかえりなさい、みなさん」

 

安心したような顔のアイリスとキャトラの姿が見えた。

 

「ありがとう、アイリス。君がいなかったらどうなっていたか」

 

カイルさんがアイリスにお礼を言っていると、

 

「ねぇ、こっちこっち! 外につながってるみたいだよ!」

 

キャトラが来た方とは逆側を指差しながら俺達にそう言う。そしてアイリスも微笑みながら俺達にこう声を掛けてきた。

 

「行きましょう。みんなで、一緒に!」

「ああ……もちろんだ!」

 

俺がそう返事を返すと、アイリス達は1度頷いてから、キャトラの指差した方へと歩いて行った。

 

「よし、俺達も行くか」

「そうだな」

 

俺達もそちらの方に行こうとした時、カイルさんだけは一切動く様子が見られなかった。

 

「カイルさん……?」

 

ナギアが不思議そうな声で訊くと、カイルさんの口から信じられない言葉が出てきた。

 

「悪いな、ナギア、リオス。ここで、お別れだ」

 

カイルさんは目を伏せながら俺達にそう言った。

 

「えっ……?」

「それはいったいどういう……?」

 

俺達がカイルさんにそう訊くと、カイルさんは自分の腕を見せながらこう言った。

 

「これ……見てみろよ」

 

すると、カイルさんの腕からさっき俺達を包み込んでいた闇が姿を現し、カイルさんの半身を包み込んだ。

これはいったい……!

俺がそう思っていると、カイルさんが俺達に説明をしてくれた。

 

「あのドラゴンは、仮の宿に過ぎず、闇こそが……本体だったのさ。そして今度は、オレが宿主ってわけだ」

「そんな……」

「……そうだ、今すぐアイリス達を呼び戻せば……!」

 

俺は急いでアイリス達の元へ走ろうとしたが、

 

「よせ、あの子を呼び戻してももう……遅い」

 

カイルさんが静かな声で俺にそう言った。

 

「でも……」

「それに、闇が……訴えかけてくるんだ。アイリスを殺せってな」

「アイリスを……?」

「ああ。どうやらあの子は、コイツにとって重要なカギを握っているらしい。もう一度あの子を見たら―オレはきっと、オレではなくなる」

「カイルさん……」

 

ナギアが悲しそうな顔でそう呟くと、カイルさんが優しい口調でこう言った。

 

「そんな顔をするなって。念願だった飛行島まで、もう1歩までたどり着けたんだ。冒険家としてはそれで充分だ。本当は最果ての地まで行ってみたかったけどな」

 

そこまで言った時、カイルさんが何かを思いついたような顔になった。

 

「……そうだ、お前達にこれを渡しておこう」

 

そう言いながらカイルさんが四角い物をナギアに手渡した。

 

「カイルさん……」

 

ナギアが呟くようにそう言うと、カイルさんが微笑みながらこう言った。

 

「だからそんな顔をするなって。死ぬって決まったわけじゃない。この闇を押さえ込んだら―オレも後からお前達を追うさ」

 

そして1度言葉を切ると、真剣な顔になりこう続けた。

 

「……振り返るなよ、リオス、ナギア。オレをお前達の足かせにしないでくれ」

「カイル……さん……」

「―さぁ、行け。早く! 早く……しないと……」

 

そこまで言った瞬間、カイルさんの言葉が途切れた。そして、

 

「きさ……ま……ノ……カラ……ダモ」

 

カイルさんの口からカイルさんでは無い誰かの言葉が聞こえてきた。

……くっ、こうなったら行くしかないか!

 

「……ナギア、行くぞ」

「……ああ!」

 

そう言い俺達はカイルさんの方を振り向くこと無く、アイリス達が歩いて行った方へと走り出した。

 

「―さよならだ。リオス、ナギア」

 

走って行く俺達の耳にそんな言葉が聞こえたのを最後に、カイルさんの声は聞こえなくなった。

 

 

 

 

「リオス、ナギア。こっちよ!」

「ほら、早く。ぐずぐずしてたら埋もれちゃうよ!」

「ああ、分かってるさ!」

 

途中で合流したアイリス達と共に遺跡からの道をひた走る。皆、さっきの戦いで傷ついているものの、そんな体を鼓舞し、1歩1歩、振り返る事無く俺達は走り続けた。

すると突然大きな揺れが俺達を襲った。

くっ……! ここまでなのか……!

そう思った瞬間、俺達の視界が光で溢れ、俺は目を閉じた。

 

……? あれ、俺達……生きてるのか?

そう思いながら目を開けると、そこには海や森、そしてどこまでも続く大地があった。

よかった……外に出られたんだな。でも変だな……この光景、まるで上から見下ろしてるような……

隣を見てみると、ナギアも目を丸くしながらその光景を眺めていた。

もしかして今俺達がいるのって……

そう思った時、

 

「びっくりした? 私たち、今……」

「雲の上にいるんだよ!」

 

アイリスとキャトラが俺達のところまで歩きながら話し掛けてきた。

雲の上……てことはやっぱりここが、飛行島なのか……

 

「ねぇ、向こうに見えてるあの島って……」

 

アイリスが1つの島を指差しながらそう言うと、

 

「アストラ……私たちの島よ」

「もしや、とは思ったが……まさか本当に飛行島を起動するとはな」

 

ヘレナさんとバロンさんがそう言いながら俺達のところまで歩いてきた。

って、何でヘレナさんとバロンさんがここに?

 

「どうしてヘレナさんとバロンさんがここにいるんですか?」

 

俺が代表してそう訊くと、バロンさんが落ち着いた声で答えてくれた。

 

「お前たちの帰りがあまりにも遅いのでな。ヘレナと共に後を追ったのだが―よもやこんなことになろうとはな」

 

バロンさんがそう言うと、アイリスが不思議そうな顔でバロンさん達にこう訊いた。

 

「あの……皆さんは……いったい?」

「私はバロン。いにしえの時代の命により飛行島の行く末を見守る者。お目にかかるのは初めてでしたな。白の巫女―アイリス殿」

「白の……巫女?」

 

アイリスが不思議そうにそう言うと、バロンさんは驚いた様子でこう言った。

 

「なんと―自らの過去をお忘れですか? ……ふむ、それでしたらいずれ、私の知る限りをお話しさせて頂きましょう」

「はい、お願いします」

 

アイリスとバロンさんがそう話していると、ヘレナさんが周りを見回しながらこう訊いてきた。

 

「……カイルさんは? 一緒じゃなかったの?」

「っ……!」

 

その言葉を聞き、ナギアが辛そうな顔になる。

……仕方ない、俺が話すか。

そう思い、俺は遺跡に取り残してきたカイルさんの事を話した。

 

「そんな―すぐに助けに戻りましょう!」

 

アイリスはそう言うが、俺とナギアは静かに首を横に振った。

「振り返るな」、そうカイルさんは言っていた。それならば……前に進もう、カイルさんが追い掛けてくるのを待ちながら。

俺がそう決意した時、バロンさんがナギアが手に持っている物を見て、驚いた様子でこう訊いてきた。

 

「これは……ルーンドライバーか? お前達、どこでこれを」

「カイルさんが別れ際に渡してくれたんです。まるで俺達にバトンを渡すかのように……だから俺は、いや俺達は前に進もうと思います。いつかカイルさんが追い掛けてくる日を待ちながら。な、リオス」

「そうだな。前に進まなきゃこれを渡してくれたカイルさんに申し訳ないし、カイルさんの事を裏切ることにもなる。それならカイルさんの言葉を信じて前に進むべきだと思ってる」

 

俺達がそう言うと、バロンさんは1度考え込むような仕草を見せてからこう言った。

 

「決意は固いようだな。よし、今日からお前たちがこの飛行島の所有者―」

 

その時だった。

 

「きゃああああ!!?」

 

突然ヘレナさんの叫び声が聞こえてきた。

 

「どうしたのだ、ヘレナ!」

「ほ、星たぬきたちが……」

 

ヘレナさんが指差す方を見ると、そこには2匹の青い星たぬき達がいた。

青い星たぬきなんて珍しいな……

俺がそう思っていると、

 

「いつの間に忍び込んだ―!? リオス、ナギア、叩き出すぞ!」

「は、はい!」

 

バロンさんとナギアが武器を構えながら星たぬき達へ近づくと、星たぬき達はビクッと体を震わせ、2匹とも体を寄せ合いつつキューキューと鳴きながらブルブルと震え始めた。

……もしかして俺達を襲う気なんて無いのか?

そう考えていると、キャトラが慌てたようにこう言った。

 

「ちょ、ちょっと、2人とも! このタヌキたち……戦うつもりは無いみたいよ?」

「キャトラ―彼らの喋っている事がわかるの?」

 

アイリスの問いかけにキャトラは1度頷くと、星たぬき達の通訳を始めた。

 

「『ボクらはずっと空に憧れていて、島が浮かび上がるのを見て―いてもたってもいられずに飛び乗っちゃったんだ……何でもするから、連れてって!』

―ですって。どうする……?」

「ほう―何でもすると言ったが、お前たち、なにができる?」

「『巣作りで鍛えた力仕事ならまかせて!』って言ってるわよっ~?」

「ふむ―星たぬきたちはみな、人も立ち寄らぬ高所に、丈夫な巣を作る習性を持つと聞いている」

 

バロンさんはそう言うと、俺達にこう提案してきた。

 

「どうだ、リオス、ナギア。彼らに、島の施設建築を任せてみては?」

「俺はもちろん賛成です! リオスはどうだ?」

「俺も賛成かな」

「そうか。ならば、タヌキたち―ちょっと待っていろ」

 

そう言うと、バロンさんは近くの建物の中へと入っていった。数分後、戻ってきたバロンさんの手にはハンマーの付いたヘルメットが2つ握られていた。

 

「お前たちに、これを贈らせてもらおう」

 

そう言いながらバロンさんは星たぬき達にハンマー付ヘルメットを被せていった。

すると星たぬき達は嬉しそうにキューキューと鳴き声を上げながら、ぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。そしてそれを満足そうに眺めながら、バロンさんが星たぬき達にこう言った。

 

「これからよろしく頼むぞ。今日からここが、私たちのアジトなのだから」

 

バロンさんがそう言い終わると、星たぬき達は俺達の顔を見ながら、再びキューキューと鳴き声を上げた。

 

「キャトラ、星たぬき達は何て言ってるんだ?」

「えっと……『これのお礼に、飛行島に眠る黄金を掘り出すための施設を造るね!』……ですって!?」

「飛行島に眠る黄金か……確かに何かのために金は必要かもな。

……分かった、それじゃあよろしく頼むぞ、星たぬき改めて大工星たぬき達」

 

俺がそう言うと大工星たぬき達は金鉱の建築に取り掛かるべく、島の向こう側へと走って行った。それを眺めていると、ナギアが俺の肩を叩きながらこう訊いてきた。

 

「なあ、大工星たぬき達がどんな風に建築をするのか見に行ってみようぜ!」

「大工たぬき達の建築の仕方か……確かに気になるな」

「へへっ、そう言ってくれると思ってたぜ! それじゃあ早速……」

「ああ、行ってみるか」

 

そう言いながら大工星たぬき達の建築現場に向かおうとした時、突然懐から何かが落ちた。拾ってみるとそれはワイズと一緒に落ちていた横笛だった。

そういえばこれの事をすっかり忘れてたな……

横笛を眺めながらそう思っていると、

 

「リオス、その横笛は何だ?」

 

バロンさんが物珍しそうな目で横笛を見ながらそう訊いてきた。

ふむ……ちょうど良いからこれについて説明しとくか。

そう思い俺はその場にいた全員に横笛を手に入れた経緯について説明を始めた。

 

「なるほど……ワイズと同じ場所にあったものか」

「はい。と言っても吹く機会も特に無かったので、さっきまですっかり忘れてたんですけどね」

 

そう言いながら俺は再び横笛を眺め始めた。

ワイズのそばにあったってことは、これが多分黒竜に関するアイテムなんだろうな……

 

「ねぇ、リオス。せっかくだからここで吹いてみたら? どんな音がするかすごく気になるし」

 

キャトラが興味津々といった様子でそう提案してくる。

まあ……吹いてみるくらいは良いか。

そう思い俺は横笛を吹き始めた。

 

「~♪

……ふぅ、こんなもんかな?」

 

一通り吹き終え、俺は横笛を懐にしまった。

横笛を吹くのは初めてだったけど、意外と吹けるもんだな。

 

「すごく綺麗な音だったわね」

「ふふ、そうね」

「うむ、やはり楽器の演奏というのは良いものだな」

 

皆が次々と横笛の感想を述べていく。

これを機に本当に横笛を始めてみるのも良いかもな。

そんな事を考えていた時だった。

 

「……あれ?」

 

突然ナギアが不思議そうな声を上げた。

 

「どうかしたのか?」

「何か向こうに黒い点みたいなのが見えるんだけど、あれって何だ?」

「黒い点……あぁ、あれか」

 

ナギアが指差す方を見ると、そこには確かに黒い点のようなものがあった。

……って、何か段々大きくなってきてないか?

 

「ねぇ……アタシの見間違いかもしれないけど、あれって……ドラゴンじゃないの!?」

 

キャトラが黒い点らしき物を見ながらそう言い始める。

 

「ドラゴン!? でもどうして……?」

「アタシにも分かんないわよ! けどドラゴンだとしたら一大事よ!」

「む、そうだな。ヘレナよ、お前は建物の中に隠れていろ。リオス、ナギアは迎撃の準備を。そしてアイリス殿には大工星たぬき達に避難するように言って来てくだされ」

『分かりました!』

 

バロンさんの指示に従い、ナギア達が自分達の持ち場へと急ぎ始めた。そんな中、1人だけ動かずにいる俺にナギアが話し掛けてきた。

 

「どうした、リオス。早く迎撃の準備に……」

「皆、ちょっとだけ待ってもらっても良いかな?」

 

俺はバロンさんの言葉に被せるようにそう言った。

 

「……何故だ?」

「少しだけ試してみたいことがあるので」

「……分かった。だがそれが駄目だったらすぐに然るべき手段に出るからな」

「ありがとうございます」

 

俺はバロンさんにお礼を言うと、その場に立ち止まりドラゴンの到着を待った。そしてそれから程なくしてドラゴンが俺達の目の前まで姿を現し、俺達の姿を認めると、俺達のすぐ近くに降り立った。俺は意を決してドラゴンへと近づいた。

 

「なぁ、そこのドラゴン……」

 

俺がそう話し掛けた時、

 

「(……ん? おっ、もしかしてお前が例の笛の持ち主か?)」

 

ドラゴンは突然俺の方を向くとそう訊いてきた。

 

「え? 笛って……これの事か?」

俺は驚きながらも懐から横笛を取り出し、ドラゴンに確認した。

 

「(んー、多分そうだな。すまねぇが、ちょっと吹いてみてもらっても良いか?)」

「……あぁ、分かった」

 

俺はそう返事を返してから横笛を吹き始めた。するとどこからか笛の音色がもう1つ聴こえ始めた。

でもいったいどこから……?

そう思い笛を吹きながら音の出所を探ると、それはドラゴンが首から提げている箱からすることが分かった。

 

「~♪

……っと、こんな感じで良いのか?」

「(おう、バッチリだ!

……てことは、やっぱりお前で間違い無かったみたいだな)」

「間違い無い……って、いったい何の話を……」

 

そこまで言った時、俺はあることに気づいた。

あれ? 何で俺はコイツと会話が出来てるんだ?

気になった俺はそれについてドラゴンに確かめることにした。

 

「なぁ、何でさっきから俺とお前の間で会話が成立してるんだ?」

「(ん? あぁ、その事か。それはコイツのおかげだな)」

 

ドラゴンがそう言いながら首に提げている箱の方に目を向けた。

 

「この箱のおかげ?」

「(ああ。コイツは<ルーンリンガル>って名前らしくてな、何でもこの中にある<翻訳のルーン>の力で俺達ドラゴンとかの言葉をお前ら人間の言葉に直してくれる代物なんだとさ」

「ルーンリンガル……そんな物が……」

「(それにコイツにはもう1つ役目があるみたいでな、誰かがさっきの笛を吹くと、ここの網状になってるところから笛の音が聞こえる上に、首に掛けてるやつの頭に笛を吹いているやつがどこにいるかっていうのが自動的に送られるらしいぜ?)」

「なるほどな……因みにお前はそれを誰から聞いたんだ?」

「(ちょっと前に自称変わり者の老人ってやつが来てな、いきなり「冒険者と一緒に旅をしてないか?」って言ってきたんだ。まぁ俺的には面白そうだと思って即決したら、ルーンリンガルをくれた上に説明をして行ってくれたんだよ)」

「そうだったのか」

 

自称変わり者の老人……アンタ、本当に何者なんだよ……

 

「ね、ねぇ……てことはアンタは敵では無いのよね……?」

 

キャトラがアイリスの陰に隠れながらおそるおそるドラゴンに質問をする。

 

「(んー、まぁそうなるな。それにこんなところで争ったって何の得もねぇ事くらい分かるしな。それに……)」

 

ドラゴンは1度言葉を切ると、飛行島全体を見回しながらこう続けた。

 

「(こんな住み心地良さそうな場所を壊すなんて出来るわけねぇだろ?)」

「アンタ……」

 

そう言うとキャトラはアイリスの陰から離れ、ドラゴンへと近寄った。

 

「見た目はちょっと怖いけど、アンタって実は良いやつなのね」

「(まあドラゴンにも色々いるってこった)」

「そうね。疑っちゃったりしてゴメンね」

「(へっ、別に気にしちゃいねぇよ、にゃん公)」

「にゃん公じゃなくて、アタシはキャトラよ!」

「キャトラな。しっかりと覚えたぜ!」

「分かってくれれば良いのよ!」

 

さっきまでの様子とは打って変わって、キャトラとドラゴンはすっかり仲良くなったみたいだった。

一時はどうなることかと思ったけど、これで一安心だな。

 

「そういえばアンタの名前は?」

「(名前か……そういえば無かったな)」

「あれ? そうだったんだ」

「(今まで俺だけで暮らしてきたからな)」

「そうだったのね……あ、それならリオスに決めてもらったら?」

「(おっ、それもそうだな。形式的にはリオスが俺の主人になるわけだしな)」

「そうゆうこと! さっ、リオス。ちゃちゃっと名前を付けたげて!」

 

ちゃちゃっとって……

俺はキャトラの言葉に苦笑しながら、懐からワイズを取り出した。

 

 

「(リオス、ソイツは何だ?)」

「俺の仲間のワイズだよ。

ワイズ、何か良い案はあるか?」

『そうですね……彼の色である黒色から採るのはいかがでしょう?』

「色からか……確かにその方が良いかもしれないな」

『それでしたら……別の国の言葉ですが黒色という意味を持つ【シュヴァルツ】や【ネーロ】などはいかがですか?』

「【ネーロ】か……それを縮めて【ネロ】とかはどうだ?」

「【ネロ】か。へへっ、何か良い感じだな!」

「そう言ってくれて嬉しいよ。それじゃあ……」

 

俺はネロに手を差し出しながらこう続けた。

 

「これからよろしくな、ネロ」

『よろしくお願い致します、ネロ様』

「よろしくね、ネロ!」

「おう! これからよろしくな!」

 

ネロは俺と握手を交わしつつ、俺達を見回しながら明るく答えた。

何だかこれからの冒険が楽しみになってきたな。

俺がそう思っていると、

 

「ふむ、ルーンドライバーだけでも驚きだが、まさか黒竜まで仲間にしてしまうとはな」

 

バロンさんが俺とナギアとネロを見ながら落ち着いた声でそう言う。

 

「ルーンドライバーだけでもって、これはそんなに貴重な物なんですか?」

「その通りだ。これは世界でも数えるほどしか見つかっていないレアな道具。よほどカイルはお前たちを気に入っていたと見える」

「そうなんですね……」

 

俺はいつの間にか光を放っていたルーンドライバーを見ながら、カイルさんの事を思い出した。

カイルさん……大丈夫なのかな……

ふと隣を見るとナギアも心配そうな顔をしていた。

さっきはああ言ったけど、やっぱり心配だもんな……

 

「この光……いったいどこに向かっているのかしら?」

 

アイリスがルーンドライバーから放たれている光を見ながらそう言う。

 

「飛行島が復活した今―

我々は世界に散らばる七つの大いなるルーンを探し出さねばなりません」

「大いなる……ルーン?」

 

バロンさんの言葉にアイリスが不思議そうな声を上げる。

 

「あらゆるルーンの源となる、強大なルーン。その全てを集めた者のみが世界の果てに浮かぶ約束の地へと足を踏み入れる事が出来るのです。そのルーンドライバーは、大いなるルーンへの道を指し示す道具なのです」

 

これってそんなに大事な物だったのか……

ルーンドライバーを見ながらそう思っていると、アイリスがジッとルーンドライバーを見つめていた。

 

「…………」

「アイリス、どうしたの?」

 

キャトラが不思議そうにアイリスにそう訊く。

 

「ううん……何かしら……この気持ち。私、きっと―」

 

アイリスが何かを言おうとした時、ヘレナさんが明るい口調で皆に呼びかけた。

 

「ねぇ、みんな! 向こうに大きな島が見えてきたわよ!」

「えっ? 本当ですか!?」

 

ナギアはそう言うとヘレナさんが指差す方向へと走り出した。

ナギア……せっかくアイリスが何かを言おうとしてたのに……

そう思いながら呆れ気味にため息をついていると、アイリスが俺の肩を叩きながらこう言った。

 

「さぁ、私達も行きましょう?」

「……だな」

 

アイリス本人がそう言うんだし、さっきの事については次に本人が話そうとした時でも良いか。

そう思い俺もナギアが走って行った方へと走って行った。

 

 

 

 

「おぉー! でっかい島だな-!」

 

ナギアが見ている方を見てみると、そこには1つの島を幾つかの島が囲んでいる光景が広がっており、そしてナギアが手に持っているルーンドライバーの光もその島に向かって伸びていた。

てことはあの島に大いなるルーンがあるのか……

そう思いながら島を見ていると、バロンさんが歩きながら皆に向かって大きな声でこう呼びかけた。

 

「皆、そろそろ到着のようだ。揺れには十分気をつけるのだぞ。

さぁ、着陸だ!」

 

バロンさんの言葉通り、飛行島が目的の島の傍への降下を始めた。

これからこの島で俺達の冒険が幕を開けるんだな……!

俺は自分の心がワクワクしているのを感じながら、心の中でこう叫んだ。

 

『さあ、冒険の始まりだ!』




政実「第3話、いかがでしたでしょうか」
リオス「今回はかなり長い感じだな」
政実「うん……遺跡のところからアストラ島のストーリーの最後までの中にネロの事とかを入れ込んだら、いつの間にか長くなってて……」
リオス「なるほどな。さて、今回でアストラ島のNomarl編が終わったから、今度はイスタルカ島のNomarl編だな?」
政実「そうだね。更新は出来る限り早めにやる予定だよ」
リオス「了解した。
さてと、それじゃあそろそろ締めてくか」
政実「うん」
政実・リオス「それではまた次回」


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第2章 イスタルカ島Normal編
第4話 エルフの住む村と冒険家ギルド


政実「どうも、片倉政実です」
リオス「どうも、リオスです」
政実「今回からイスタルカ島Normal編が始まります」
リオス「イスタルカ島Normal編って事はいずれはHardもやるのか?」
政実「うん、そのつもり。といってもまだまだ先の話ではあるけどね」
リオス「ん、了解。さて、そろそろ始めてくか」
政実「うん」
政実・リオス「それでは第4話をどうぞ」


 

降下を始めてから数分後、飛行島は無事に目的の島のすぐ傍へと着陸した。

 

「ここに、大いなるルーンが……?」

 

島の様子を見ながらキャトラが不思議そうに呟いたかと思うと、今度はナギアの方へと体を向けてこう言った。

 

「ねぇねぇ、ルーンドライバーを見せてよ!」

「ん? あぁ、良いぜ」

 

そう言ってナギアがルーンドライバーを見せようとしたその時、俺達はルーンドライバーの変化に気付いた。

 

「―光が、消えてる?」

「なんと―これは、どうしたことだ?」

 

さっきまで光を放っていたルーンドライバーから光が消えていた。

これはもしかして……

俺はルーンドライバーを見ながらバロンさんにこう言った。

 

「もしかしたらルーンドライバーが示してくれるのは、大いなるルーンがある島の場所だけなのかもしれませんね」

「ふむ……そうかもしれんな。……いたし方ない。ここから先は、己の力で探し出すしかあるまい」

 

バロンさんがそう言うと、それを聞いていた大工星たぬき達が少しだけ体を震わせて鳴き声を上げた。

 

「ああ、わかっているとも」

 

大工星たぬき達に優しくそう言うと、バロンさんは俺達の方を向きこう言った。

 

「リオス、ナギア。我々は、この飛行島の留守を預かろう。白の巫女殿のこと、頼むぞ」

「はい」

「はい!」

 

俺達が返事を返すと、バロンさんは満足そうに頷き、そのままアジトの中へと入っていった。

 

「よし、それじゃあそろそろ探索開始と行くか。ネロ、お前も一緒に来てくれるか?」

「(おう! もちろんだぜ!)」

「ん、ありがとうな。ナギア達も準備は良いか?」

「おう、バッチリだぜ!」

「私も大丈夫よ」

「アタシも問題無いわ!」

「分かった。それじゃあ、ヘレナさん、行ってきます」

「はいはい。皆、気をつけて行ってらっしゃい」

「「「はい!」」」 「はーい!」 「(あいよ!)」

 

ヘレナさんにそう返事をし、俺達は目的の島への上陸を始めた。

 

 

 

 

「<大いなるルーン>かぁ……! 考えるだけでもワクワクするぜ!」

「そうだな」

 

無事上陸を果たした俺達は、目の前に広がっていた草原を話をしたりしながら進んでいた。

……っと、そうだ。この島についてワイズに訊いておくか。

そう思った俺はワイズを取り出し、質問を始めた。

 

「ワイズ、この島について教えてくれるか?」

『かしこまりました。この島の名前は【イスタルカ島】と言いまして、この島にはエルフ達が暮らす村やアストラ島のようにあったような遺跡などもあるようです』

「エルフ達の村に遺跡か……」

「えっと……大いなるルーンがある場所とかは分かるのか?」

『……申し訳ありません、ナギア様。大いなるルーンのありかについては封印がなされているようです』

「大いなるルーンについてもか……でもそういうことなら仕方ないよな」

「そうだな。こうなったらバロンさんが言ってたように自分達の力で探し出すしか無いな。ワイズ、ありがとうな」

『いえいえ、また何かありましたら遠慮無くお呼びください』

「ん、了解」

 

そう言って俺はワイズを懐にしまった。

……そろそろワイズと横笛を入れるバッグみたいなのが欲しいかな。

俺がそう思っていると、

 

「にゃにゃっ!?」

 

突然キャトラが大きな声を上げた。そして何かの匂いを嗅ぐように鼻を動かすとこう続けた。

 

「ねぇねぇ、この香り……」

「どうしたの?」

 

アイリスがキャトラにそう訊いたが、キャトラはそれに答えずそのまま目の前の道を駆け出した。

 

「こっちよ! 早く、早くぅ~!」

 

その様子を見てアイリスが慌てたようにキャトラに声を掛けた。

 

「キャ、キャトラ! どこに行くの!?」

「あっちから良い香りがしてるの! 人が住んでるんじゃない!?」

 

そう答えるとキャトラはそのまま走って行ってしまった。

 

「もう、キャトラったら……」

 

アイリスは呆れたような声でそう言ったが、すぐに微笑むと俺達にこう言った。

 

「私達も行ってみましょう。もしかしたらルーンのお話が聞けるかもしれません」

「そうだな。このまま当てもなく探すよりもその方が良い気がする」

「リオスの言う通りだな。それに早く行かないとキャトラを見失うかもしれないしな」

「ふふっ、そうですね。さぁ、行きましょう」

「ああ」 「おう!」「(あいよ!)」

 

アイリスにそう返事を返し、俺達はキャトラの後を追うために草原を走り出した。

 

「あっ、来たきた! おーい、こっちよこっち!」

 

走り始めてから数分後、座りながら俺達を呼んでいるキャトラの姿が見えた。そしてその後ろには村のような物が見えていた。

 

「はぁっ、はぁっ……やっと見つけた……」

 

そう言いながらアイリスはキャトラに近づき、キャトラの事を抱き抱えるとこう言った。

 

「もう、キャトラ? いきなり走り出したらダメでしょ?」

「えへへ、ゴメンゴメン。次からは気を付けるわ」

 

そう話しているアイリス達の横を通り、俺達は前方の村について話を始めた。

 

「あれがワイズの言ってたエルフ達の村なのかな?」

「んー、どうだろうな。とりあえず行って確かめてみるか」

「そうだな……って、そういえばネロはどうするんだ?」

「へ? あ、そうか……」

「(そういえばそうだな……)」

 

ナギアの言葉を聞き、俺とネロは顔を見合わせながらそう言った。

しまった、その事をすっかり忘れてたな……ネロはドラゴンなわけだから、このまま村に入ろうとすると、いきなり取り囲まれる可能性があるな。さて、どうしたもんかな……

そう考えていると、

 

「あれ? どうかしたの?」

「何か悩んでるみたいだけど……?」

 

アイリスとキャトラが歩きながら俺にそう訊いてきた。

 

「ああ、実は……」

 

そう言って俺はアイリス達にナギアからの質問の内容を伝えた。

 

「むむむ、確かにそうね……」

「私達はネロが危ないドラゴンじゃないって知っているけれど、他の人から見たらドラゴンが襲ってきたように見えてしまうかも……」

 

ネロを見ながらキャトラとアイリスが心配そうな声でそう言う。それを見て俺達も心配そうな顔を見合わせる。

さて、本当にどうしようかな……

そうしてしばらく悩んでいると、

 

「うー……こうやって悩んでてもしょうが無いわよね……」

 

突然キャトラがそう言い始めたかと思うと、俺達の事を見回してこう続けた。

 

「もうこうなったら当たって砕けるしか無いわ! このまま村に行きましょう!」

「でもキャトラ……」

「ネロの事は、私達がしっかり説明すればきっと分かってくれるわ!」

「キャトラ……」

 

……そうだ、ネロは俺達の仲間なんだ。同じ仲間である俺達がコイツの事をしっかりと守ってやらないとな。

そう思いながら周りを見ると、ナギア達も決心をしたような顔で頷いた。それを確認し、俺は前を向きこう言った。

 

「よし。行こう、皆!」

「おう!」 「うん!」 「ええ!」 「(おうよ!)」

 

そして俺達は草原を再び歩き出した。

 

 

 

 

歩き出してから数分後、俺達は村の入り口にたどり着いた。そしてそのまま村の中へと足を踏み入れると、俺達の目の前に長い耳を持った1人の男性が通りがかった。

長い耳……てことは、この人はエルフか。

 

「……おや?」

 

エルフの男性は俺達に気付くと、俺達の方へと近付いてきた。

 

「わわっ、もしかして……エルフ!?」

 

キャトラが驚いたような声を上げると、エルフの男性は少しだけ笑いながらこう言った。

 

「エルフがそんなに珍しいのかい? 私に言わせれば、人の言葉を操る君の方が珍しく見えるけれど。そして……」

 

エルフの男性は俺の後ろにいるネロの事を興味深そうに見ると、俺達にこう訊いた。

 

「君の後ろにいるのは、もしかしてドラゴン……かな?」

 

その言葉を聞いた瞬間に、俺達の間に緊張が走った。そしてそれに対して俺が答えようと口を開いたその時、エルフの男性がネロに近づき、じっくりとネロの事を見始めた。

 

「(な、何だよ……!)」

 

ネロが少し後ずさりをしながらそう言うと、エルフの男性は笑いながらこう言った。

 

「あははっ、ごめんごめん。君がどういうドラゴンかを知りたいと思ってね。でもその様子だと、君は村を襲ったりするようなドラゴンでは無いようだね」

「(ああ、もちろんだ。村とかを襲ったところでお互いに損をするだけだしな)」

「ははっ、そうだね。疑って悪かったよ、ドラゴン君。君達もそんな心配そうな顔をしなくても大丈夫だよ。私はもう彼を疑ってはいないからね」

 

その言葉を聞き、俺達は肩の力を抜いた。そしてそれを確認すると、エルフの男性は微笑みながら自己紹介を始めた。

 

「私の名はエレサール。君たちは―」

 

エレサールさんがそう言った時、

 

「あら、珍しいわね。ウチのギルド支部へ冒険家さんだなんて」

 

そう言いながらエルフの女性が俺達の所へと歩いてきた。

ギルド支部……って何だ?

 

「あの……ギルド支部って何ですか?」

 

そう訊くと、エルフの女性はとても驚いたような顔になった。

 

「へ……ギルド支部って何か、って? まさか、野良の冒険家……じゃないわよね。あなたたち、どうしてこんな田舎の島に?」

「それは……」

 

俺は大いなるルーンを求めてこの島にたどり着いた事を説明した。すると、

 

「ははっ、また大きな獲物を狙ったね。冒険家ギルドの存在も知らずに大いなるルーンとは」

 

エレサールさんが笑いながら俺達にそう言った。

エレサールさんの言い様から察するに、冒険家ギルドっていうのは冒険家にとって初歩中の初歩って事になるみたいだな……

俺がそう考えていると、キャトラがアイリスの腕の中でジタバタしながらエレサールさんに怒り出した。

 

「ちょっと、なによ~っ! こうみえてもアイリスたちは―」

 

キャトラがそう言った時、エルフの女性がエレサールさんの事をたしなめた。

 

「こーら、言い過ぎよエレサール。あなたたち、ごめんなさいね。私の名前はラーレッタ。冒険家ギルドっていうのは、その名の通り冒険家を支援するために作られた協会なの。よほど小さな島でない限り、世界各地に支部があって―正式なライセンスを持つ冒険家ならいつでもサポートを受けられるのよ」

「なるほど……」

 

冒険家ギルドか……大いなるルーンを探すにあたって、これから力を借りないといけない時が来るかもしれないな……

そう考えていると、ラーレッタさんが微笑みながら俺達にこう訊いた。

 

「それでどうかしら。あなたたち、正式にギルドへ登録してみる?」

 

ラーレッタさんの言葉を聞き、俺達は1度顔を見合わせたそして同時に頷づくと、俺が代表してラーレッタさんにこう言った。

 

「はい、お願いします」

「OK、わかったわ」

「それじゃあ……!」

「でも……エレサールの言う通り、今のままじゃ、ちょっと心もとないわね」

 

そう言うとラーレッタさんは考え事を始めた。そして何かを思いついたような顔になると俺達にこう言った。

 

「いくつか試験をさせてくれない? クリアできたらライセンスを発行してあげる。それで良いかしら?」

「「「はい!」」」

 

俺達が声を合わせてそう言うと、ラーレッタさんは微笑みながらこう言った。

 

「無理はしちゃダメよ? それじゃあ、行ってらっしゃい!」

「よし。皆、やるぞ!」

「おう!」 「ええ!」 「もちろんよ」 「(おう!)」

 

こうして俺達はライセンスを発行して貰うために試験の場へと向かった。

 

 

 

 

「これで……最後だ!」

 

俺はネロに乗りながら、手に持っている【グラントスピア】をグンタイバチへと振るった。攻撃を受けたグンタイバチは地面へと落下するとそのまま跡形も無く消滅した。

……よし、これで試験は全部終わったな。

肩で息をしながらそう思っていると、

 

「リオス、お疲れ!」

「お疲れさま、リオス」

「お疲れさま!」

 

そう言いながらナギア達がネロの周囲に集まってきた。

 

「ああ、お疲れさま。ネロもお疲れさまだな」

「(おう、サンキューな。んで、試験は今ので全部だったよな?)」

「ああ、そうだ。後はラーレッタさんに報告しに行くだけだな」

「(そうか。そんなら全員俺に乗ってくか? 空から行った方が早く着くと思うぜ?)」

「いや、気持ちだけ受け取っておくよ。ネロだって疲れてるだろ?」

「(んー……別にこんなのは疲れた内に入らねぇけどな)」

「そうかもしれないけど、無理をするのは良いとは言えないからさ」

「(まあ……確かにそうかもしんねぇな)」

「わかってくれたようで何よりだよ。よし、それじゃあ、ベルン村に帰るぞ」

「おう!」 「うん!」 「了解!」 「(あいよ!)」

 

俺達は試験を行った果樹園を後にし、ベルン村へと戻った。

 

 

 

 

ベルン村に戻ってくると、ラーレッタさんが笑顔で俺達にこう言った。

 

「おめでとう! 見事クリア出来たみたいね」

「ありがとうございます、ラーレッタさん」

 

俺がそう返事を返すと、キャトラがラーレッタさんに向かって得意気にこう言った。

 

「これで私たちの力を認めてくれたでしょ?」

 

すると、

 

「ああ、そうだな―君たちは思っていたよりずっと優秀な冒険家だったようだ。非礼をお詫びするよ」

 

エレサールさんがそう言いながら俺達に頭を下げた。

 

「私もよ。だから、ちょっと早いけれどライセンスを発行するわね」

 

そう言ってラーレッタさんは銀色をした腕輪のような物を俺達に渡してくれた。

これで大いなるルーン探しの旅もだいぶ楽になるな。

ライセンスを見ながらそう思っていると、

 

「えへへ……やったね! リオス、ナギア!」

 

アイリスの腕の中からキャトラが笑いながら俺達に明るくそう言った。俺がそれに返事を返そうとした時、

 

「それじゃ、お支払いをお願いできる?」

 

ラーレッタさんの口から耳を疑うような言葉が聞こえた。俺達が驚いたような顔をしていると、ラーレッタさんは微笑みながらこう言った。

 

「あら、この世に、タダなんてものはないのよ。ライセンスの発行費用、事務手数料、それと試験費用で―」

 

そう言いながらラーレッタさんは幾つかの数字を紙に書き出していく。

えっと……今書いてある数字だけでも俺達には払えない金額なんですが……

そう思いながら紙を見ていると、ラーレッタさんが俺達に合計の金額を見せてくれた。

うん、一生かかっても払いきれない金額になってるな、これ。

 

「すいません……払えません……」

 

俺はとても小さな声でそう言った。

 

「払えないようなら……仕方ないわね」

 

そう言うと、ラーレッタさんは北の方角を指差しながら俺達にこう言った。

 

「かわりに、村の北の<聖なる森>にすむフォレストクイーンを討伐してもらおうかしら」

「フォレストクイーン……ですか?」

「ええ。フォレストクイーンの果実は万病に効く薬になるのだけれど、ちょうど、切らしてしまったのよ」

 

ラーレッタさんはちょうどの部分を強調するようにそう言う。

この言い方だと絶対にちょうどでは無い気がするな……

 

「な~んか、いいように使われてる気がするんだけど……」

 

似たような事を思ったのか、キャトラがラーレッタさんにそう言うが、

 

「気のせいよ。き・の・せ・い」

 

当のラーレッタさんはキャトラの言葉を明るく否定した。

何か納得できないけど、これでライセンスの発行費用がチャラになるなら、やるしか無いよな。

そう思った俺はナギア達を見回しながらこう言った。

 

「皆、ライセンスの発行費用のために頑張るぞ!」

「「おー!」」 「ええ!」 「(おうよ!)」

 

こうして俺達はフォレストクイーン討伐のために、<聖なる森>へと向かった。

 

 

 

 

「……っと、どうやらここが件の<聖なる森>みたいだな」

 

ベルン村を出発し、魔物達を退けながら道中にある洞窟を抜けて、俺達は無事<聖なる森>へと辿り着いた。

 

「ここにいるっていうフォレストクイーンを討伐すれば良いんだよな?」

「ああ、そうだ」

 

そんな事を話しながら森の中を進んでいると、

 

「少しはたくましくなったようだな、リオス、ナギア」

 

そう言いながらエレサールさんが俺達の前に姿を現した。

 

「エ、エレサール!?」

「どうしてここに……?」

 

アイリス達が驚きながらそう訊くと、俺達の方へと歩きながらエレサールさんがわけを話してくれた。

 

「ここから先はエリアC―危険度は低いとはいえれっきとした立ち入り制限区域だ。念のため、私も同行しようと思ってね」

「心配……してくれてるんですか?」

「まあ……そんなところだ。それに少し、気になることもある」

「気になる……こと?」

 

キャトラがそう訊くと、エレサールさんは頷いてこう言った。

 

「このところ、島の魔獣たちが凶暴化しているような感じがあってね。この森がエリアCに指定されたのもそのためだ。今回はその調査も兼ねて、といったところさ」

「ふ~ん。アンタも結構、忙しいのね」

「ははっ、まあね」

「わかったわ。それじゃ、一緒に行きましょ!」

「ああ。皆、よろしく頼む」

「こちらこそよろしくお願いします、エレサールさん」

 

そう言いながら俺とエレサールさんは握手を交わすと、フォレストクイーンのいる場所による向かって再び歩き出した。

 

 

 

 

「ほぅ……そんなルーンもあるんだね」

「はい」

 

エレサールさんにワイズの事を話しつつ、俺達はフォレストクイーンのいる場所へと向かっていた。すると、

 

「あっ、そういえば……」

 

ナギアが何かを思い出したような顔でそう声を上げた。

 

「どうかしたのか?」

「俺達ってさ、フォレストクイーンがどんなのか知らないまま来てたと思ってさ」

「そういえば……そうだったな」

 

そう言って俺は手の中にあるワイズに声を掛けた。

 

「ワイズ、フォレストクイーンってどんな奴なんだ?」

『そうですね……簡単に説明しますと、赤い頭をした植物ですね』

「赤い頭をした植物か……」

 

そう言いながら森の中を歩いていたその時、俺達の目の前に突然赤い頭の巨大な植物が姿を現した。

……え? まさかこれがフォレストクイーンなのか?

 

「にゃにゃっ!? で、ででで、でっかい花が暴れてる!?」

「バカな!? フォレストクイーンがあそこまで巨大なはずが―それに、このまがまがしい闇の気配は―!?」

 

エレサールさんがそう言った時、フォレストクイーンが俺達に向かって咆哮する。

こうなったら……やるしかないな。

 

「皆、行くぞ!」

「おう!」 「ええ!」「ああ!」 「(あいよ!)」

 

俺の呼びかけに答えつつ、ナギア達が手持ちの武器を構える。そして俺もネロに乗り、背中に差していた【グラントスピア】を構える。

さぁ……勝負だ!

心の中でそう声を上げ、俺はネロと共にフォレストクイーンに突進した。

 

 

 

 

「食らえ、【バスターブレード】!」

「行くぞ、ネロ!」 「(あいよぉ!)」

 

ナギアの雷を纏った一撃と俺の槍とネロのブレスの同時攻撃がフォレストクイーンにヒットする。だがフォレストクイーンは1度怯んだものの、すぐに体勢を直し、両方の蔓を鞭のようにして俺達に振るう。

 

「ぐっ……!」

「ぐあっ……!」 「(ちいっ……!)」

 

その攻撃をもろに受け、俺達は後方へと吹き飛ばされる。

 

「2人とも大丈夫!?」

「くっ……! これでどうだ!」

 

エレサールさんが数発の矢を放って、フォレストクイーンを牽制している間に、アイリスが俺達のそばまで走り、瞬時に治癒魔法を詠唱してくれた。

ふぅ……これで少しは楽になったな。

 

「ありがとうな、アイリス」

「アイリス、ありがとう」

「ううん、気にしないで、2人とも。それよりも……」

 

そう言いながらアイリスはエレサールさんの方を見る。エレサールさんはフォレストクイーンの蔓や浴びせてくる毒を躱しつつ、ひたすら矢を放ち続けていた。

さて……どうやって闘えば良いんだ……? 近くにいると毒を浴びせてきたり、捕食しようと噛み付いてくる。逆に遠くにいるとあの蔓を鞭のようにしならせてきたり、地中を伝って蔓で突き上げてくる。そうなると今エレサールさんがやってるみたいに、攻撃を食らわないようにしつつ攻撃するのが良いかもしれないな。

俺は再びネロの背中に乗ると、【グラントスピア】の魔力を解き放った。

 

「まずは……『ボルティックソウル』!」

 

【グラントスピア】に埋め込まれているオーブが黄色く染まると同時に、穂の先から黄色い光が放たれ、俺達の体と武器を包み込む。

 

「おぉ……? 何だかさっきよりも体が軽い……?」

 

エレサールさんがさっきよりも早くフォレストクイーンの攻撃を躱しつつ矢を放っていく。

よし、今度は……!

 

「次はこれだ! 『ブレイジングソウル』!」

 

オーブが今度は赤く染まると同時に穂の先から赤い光が放たれ、再び俺達と武器を包み込む。

これで皆の武器は炎の魔力を纏った上に、皆の攻撃力と速さが高まったはずだ。

そう思いながら横を見ると、『ブレイジングソウル』の効力で赤いオーラを纏ったナギアが剣を握りしめて立っていた。そして俺達はアイコンタクトを交わすと、再びフォレストクイーンに向かって走りだした。

さぁ……こっから巻き返していくぞ!

 

 

 

 

「今度こそ終わりだ! 『ダブルスラッシュ』!」

「ネロ! 合わせていくぞ!」「(おうよ!)」

「「ブレイジングソニック!」(ブレイジングソニック!)」

 

ナギアの渾身の斬撃とネロのブレスを載せた【グラントスピア】から放つ衝撃波がフォレストクイーンを襲う。

 

「グオォォ……」

 

フォレストクイーンは呻き声を上げながら徐々に萎んでいき、やがて消滅した。

 

「はあっ、はあっ……勝った、のね……」

「な、なんなのよもう~。こんな植物がいるなんて聞いてないし!」

 

息を切らしているアイリスの横で、涙目のキャトラがフォレストクイーンがいたところを見ながらそう言う。

 

「本来、フォレストクイーンはもっと手軽に討伐できる種のはずなんだが―」

 

エレサールさんはフォレストクイーンのいたところを見ながらそう言うと、俺達の方を振り返りこう続けた。

 

「私はこのまま残って調査を続ける。君たちは村に戻って、ラーレッタたちにこの事を伝えてくれないか? 何か嫌な予感がする」

「分かりました」

「エレサールさん、どうか、お気を付けて―」

そう言って俺達はベルン村に向かって来た道を戻っていった。

 

 

 

 

ベルン村に戻り村の中に入ると、村の入り口近くにいたラーレッタさんが俺達に声を掛けてきた。

 

「あら、お帰りなさい。フォレストクイーンは……って、その顔は……向こうで何かあったみたいね」

「はい。実は……」

 

俺はさっきあったことをラーレッタさんに話した。

 

「森の中で、そんな事が―!?」

 

俺の話を聞き、ラーレッタさんは1度驚いたものの、すぐに真剣な顔に戻りこう言った。

 

「ありがとう。村のみんなにも、森の中に入るときは気をつけるように伝えておくわね。あなたたちは、これからどうするの?」

「俺達は改めてこの島にある大いなるルーンを探したいと思います。元々そのためにこの島に来たわけですから」

「<大いなるルーン>……本気なのね」

 

ラーレッタさんがそう言うと、キャトラが強めの口調でこう言った。

 

「ウソなんてついたってしょうがないじゃない!」

「そうね、悪かったわ。それじゃあ、私の知っていることを全て教えてあげる」

 

そう言うと、ラーレッタさんは大いなるルーンとおぼしき物のありかについて話してくれた。

 

「この島には昔から、エルフの秘宝が眠っている、という伝説があるの。そんなに広くもない島だから、秘宝が眠っているだろう場所もわかっているわ。島の北端の遺跡よ。この島に、あなたたちのいう<大いなるルーン>が眠っているとすればそこ以外には考えられないわ」

「ふーん……なんだか簡単に手に入っちゃいそうじゃない?」

 

キャトラがそう言うと、ラーレッタさんは少しだけ笑いながらこう続けた。

 

「その分、既に発掘も進んでいるわ。最近ではわざわざ寄り付く人もいないし―もしかしたら骨折り損になるかもね」

「それでも構いません。色々と教えてくれてありがとうございます」

アイリスの言葉を聞き、ラーレッタさんは微笑みながら俺達にこう言った。

 

「どういたしまして。気をつけていってらっしゃい」

「「「はい!」」」 「わかったわ!」 「(了解!)」

 

声を揃えてそう返事を返した後、俺はナギア達を見回しこう言った。

 

「よし。皆、絶対に<大いなるルーン>を見つけるぞ!」

「「「おー!」」」 「(おうよ!)」

 

そして俺達はエルフの秘宝が眠っているという島の北端の遺跡を目指して出発した。




政実「第4話いかがでしたでしょうか」
リオス「この感じだと……イスタルカ島編は俺はドラライでの戦闘がメインになるのか?」
政実「一応そのつもりではあるけど、もしかしたら変えてくかもしれない」
リオス「なるほどな。さて、次回はいつ頃投稿出来そうなんだ?」
政実「正直なところまだ未定。近い内に投稿したいとは思ってるけどね」
リオス「了解した。さて、そろそろ締めてくか」
政実「だね」
政実・リオス「それではまた次回」


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第5話 闇に囚われた森の狩人

政実「どうも、片倉政実です」
リオス「どうも、リオスです」
政実「今回の話はイスタルカ島Normalシナリオの中盤辺りである、エレサール戦のところです」
リオス「今回で中盤辺りって事は、次でイスタルカ島Normalシナリオは終わりになるのか?」
政実「そうなるかな」
リオス「分かった。
さて……それじゃあ、そろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・リオス「それでは、第5話をどうぞ」


北端にある遺跡を目指して、ベルン村を出発した俺達は、その途中にある樹海へと足を踏み入れていた。

 

「ここは樹海か……

皆、足元もちょっと悪いみたいだし、ここを抜けるまでは慎重に進むことにしよう」

「おう!」

「うん!」

「オッケーよ!」

「(了解だ!)」

 

そして足下に気を付けながら、ゆっくりと樹海の中を進んでいると、先の方に見覚えのある姿が見え始めた。

 

「……あれ? あそこにいるのって、エレサールじゃない?」

「あ、本当だ。

せっかくだし、何か分かったことがあるか訊いてみようぜ!」

「そうね。

お~い、エレサール~!」

 

キャトラがエレサールさんに大きな声で呼びかけると、エレサールさんはゆっくりと俺達の方へと体を向けたが、そのまま微動だにする事なく、俺達の事をジッと見始めた。

(……なんだ、この違和感……?)

俺がその違和感について考え始めたその時、突然ワイズが大きな声を上げた。

 

『……っ! みなさん、気をつけてください! エレサール様から不穏な気配を感じます!』

「不穏な……気配……?」

「それって……?」

 

ワイズの言葉にナギアとキャトラが疑問の声を上げたその時、エレサールさんが背負っていた弓を降ろし、そのまま矢をつがえると、俺達に向かって構えた。

 

「え、エレサール……?」

 

キャトラが不安そうな様子で言ったその瞬間、エレサールさんはアイリスに向けて矢を放った。

 

「え……!?」

 

咄嗟のことだったためアイリスはもちろんのこと、俺達もすぐに反応する事が出来ず、信じられないといった表情を浮かべ、そのまま立ちすくんでしまった。

しかし……

 

「はあぁーーっ!!!」

 

アイリスの隣に立っていたナギアだけが反応し、瞬時にアイリスの目の前に立つと、剣を勢い良く振り抜き矢を遠くへと弾き飛ばした。そしてナギアはアイリスの方へ振り向くと、真剣な表情を浮かべながら優しく声を掛けた。

 

「アイリス、大丈夫か?」

「う、うん……」

 

アイリスはまだ少しだけ状況を受け入れられていない様子で返事をしたが、一度深呼吸をして心を落ち着けると、ニコッと微笑みながらナギアにお礼を言った。

 

「ありがとう、ナギア」

「どういたしまして」

 

ナギアはアイリスの言葉を聞き、小さく笑いながら返事をした後、アイリスを庇うように反対側の腕を広げながらエレサールさんがいる方へ向き直った。それを見ながら俺はナギアに声を掛けた。

 

「ナギア、お前もケガとかは無いよな?」

「ああ、もちろんだ。でも……!」

 

ナギアがとても警戒した様子で言うのに頷いて反応を返した後、俺は背中に差していた【ソードオブマギア】を構えつつ、声を荒げないように気を付けながら、エレサールさんに声を掛けた。

 

「……エレサールさん、何でこんな事をしたのか、説明をして貰えませんか?」

「そうよ! 何でいきなり私達に攻撃を仕掛けてきたのよ!」

 

しかしエレサールさんは俺達の声に答えることなく、再び矢を弓につがえそのままゆっくりと引き絞ると、今度はナギアを狙って矢を放った。

(さっきは突然だったけど、今度は問題ない!)

俺は瞬時に【ソードオブマギア】に填められているオーブに水の魔力を強く籠め、向かってくる矢を見ながら剣を構えた。

 

「させるか!【フリージングスラッシュ】!!」

 

俺が勢い良く【ソードオブマギア】を横に振り抜くと、冷気を纏った水色の斬撃が矢に向かって飛んだ。そして矢を切り裂きながら凍てつかせると、そのままエレサールさんに向けて飛んでいった。しかしエレサールさんはそれを軽々と跳ぶことで避け、そのまま近くにあった木の枝に着地すると、凄い速さで辺りの木の上を跳び回った。

(マズいな……早くエレサールさんの位置を特定しないと……!)

エレサールさんが移動しながら出しているガサガサッという音、そして風が木の葉を揺らすことで起きるサァーッという音を聞きながら、エレサールさんの位置を探っていたその時、再びワイズが大きな声を上げた。

 

『皆さん! 真上に注意して下さい!』

「真上……!」

 

俺達が真上に注意を向けた瞬間、エレサールさんが片手に小型のナイフを振り上げながら勢い良く降りてきた。

(弓だけじゃなく、ナイフまで持ってたのか……!)

 

「皆! 離れてくれ!」

 

俺は皆に大きな声で呼び掛けると、ナギア達はコクンと頷いた後、瞬時に俺から離れた。それを見てから俺は【ソードオブマギア】の刃でエレサールさんの持つナイフを受け止めた。そして刃同士がぶつかった瞬間、キンッという甲高い音と共に小さな火花が散った。

 

「く……はあぁっ!!」

 

俺は地面を強く踏みしめながら、【ソードオブマギア】に更に力を籠め、勢い良く振り抜くと同時にエレサールさんが持つナイフを弾き飛ばした。弾き飛ばされたナイフは近くの木に突き刺さったが、エレサールさんはそれを見るや否やすぐにナイフに近付いた。そして木からナイフを引き抜き、ナイフの切っ先を俺達に向けると、静かに俺達の様子を窺い始めた。

 

「エレサールさん、一旦落ち着いて下さい!」

「アイリスの言う通りです! 何があったんですか!?」

 

アイリス達が警戒と不安、そして心配が入り混じった表情を浮かべながら訊いたが、エレサールさんはそれに答えることなく、向けていたナイフを下ろし、そのままそれを懐にしまうと、ゆっくりと樹海の奥の方へと消えていった。

(エレサールさん……いったい何があったっていうんだ……?)

 

「どどどど、どういう事なの!? 何でエレサールはアタシ達を襲ってきたのよ!?」

「分からない……でも」

 

アイリスはエレサールさんが消えていった方を見ながら、静かな声で言葉を続けた。

 

「エレサールさんから感じた恐ろしくて、ゾッとするようなあの感じ――

カイルさんと一緒に戦った、あのドラゴンのようだった……」

「それって……や、【闇】って事……?」

『はい、断言は出来ませんが……

私もエレサール様からあのドラゴンとから感じたモノと同様のモノを感じました……』

「やっぱり……そうなのね……」

 

アイリスは呟くように言った後、俺とナギアの事を交互に見ながら言葉を続けた。

 

「ナギア、リオス、この島、何か変よ――ここからは一層慎重に進みましょう」

「ああ」

「分かった」

 

そして俺達は、周りの様子に注意を払いながら、再び樹海の中を進み始めた。

 

 

 

 

エレサールさんとの戦闘の後、俺達は途中で休憩を挟んだり、現れた魔物達との戦闘を繰り広げたりしながら樹海の中にある獣道を進んでいた。そしてしばらくの間歩き続けていたその時、俺達の目の前にゴツゴツした岩などが転がっている山道が見えてきた。

(獣道の次は山道か……道の様子を見るに、必ずしも進みやすいわけじゃないみたいだし、さっきのエレサールさんのこともある。まだまだ気をつけて進まないとな)

俺は道を進みながら皆の方へ顔を向けた。

 

「皆、もうわかりきってることだけど、足元や魔物に注意しながら進もう」

「ああ」

「うん」

「分かったわ」

「(おう)」

 

皆の返事を聞いた後、俺は顔を前へと戻し、皆と一緒に樹海を抜け、山道へと入っていった。そして周りの様子に注意を払いながら山道を進み続けていると、徐々に広場のようなものが見えてきた。

(広場……あそこなら休憩を挟んでも問題は無いかもしれないな)

進みながら考え事をしていると、ナギアが少し明るい調子で声を上げた。

 

「あっ、あそこにあるのって……広場だよな?」

「あら、そうみたいね。

ここまでそれなりに歩き続けてきた事だし、あそこで少し休憩を挟みましょうか」

「そうだな」

「うん」

「(俺も賛成だぜ)」

「よし……それじゃあ、早く広場に……」

 

その時、突然ワイズが大きな声を上げた。

 

『皆さん! 背後から不穏な気配を感じます!』

「背後……!?」

 

俺が振り向いた瞬間、顔の横を一本の矢が通りすぎっていった。

(矢……って事は、まさか……!)

俺達はすぐに矢が飛んできた方へ顔を向けた。すると大きな岩の影からエレサールさんが殺気を放ちながら姿を現した。

(やっぱりか……!)

その姿を見て俺達が戦闘をする体勢を取ろうとしたその時、突然エレサールさんが片手で頭を抑えながら苦しそうに呻き声を上げ始めた。

 

「ううぅッ……!! ぐうううッ!!」

「え、エレサール……」

 

エレサールさんの様子を見てキャトラが心配そうな声を上げたが、エレサールさんは苦しそうに呻き声を上げ続けるだけだった。そしてその内に、エレサールさんの体から暗い紫色の【闇】が現れ、エレサールさんの体に纏わり付き始めた。

(アレがエレサールさんに取り憑いてる【闇】か……!)

 

「エレサールさん! 負けないで下さい!」

「エレサールさんは【闇】なんかに負けない人だって信じてます!」

「エレサールさん! 自分を取り戻して!」

「エレサール! 頑張って!」

「(エレサール! 【闇】なんてお前の力で追い出しちまえ!)」

 

俺達が必死にエレサールさんへ声を掛けると、エレサールさんに纏わり付いていた【闇】が更にその濃さを増した。するとエレサールさんの目が赤く輝き、俺達の事を見ながら途切れ途切れに言葉を発し始めた。

 

「シロノ……ミコ!…………キエ……ロ……!」

「エレサールさん……」

 

ナギアが呟くような声で言うのを聞きながら、俺は背中から【ソードオブマギア】を下ろした。

(こうなったら一度エレサールさんを落ち着かせて、その後にアイリスに【闇】を払ってもらうしかない……!)

 

「ナギア、ネロ……アイリス達を守りながら急いで広場に向かってくれ」

「向かってくれって……」

「(お前、まさか……!)」

「大丈夫だよ。あくまでもお前達が広場に着くまでの足止めをするだけだからな」

「リオス……」

「(リオス……)」

 

ナギアとネロは呟くような声で言った後、静かにコクンと頷いた。

 

「よし……行こう、皆! ネロ、アイリス達を背中に乗せてやってくれ!」

「(おうよ!)」

 

ネロは大きな声で返事をすると、アイリス達が乗りやすいようにゆっくりとしゃがみ込んだ。

 

「(ほら、アイリス、キャトラ、早く乗れ)」

「ネロ……でも……」

「足止めだけと言っても、やっぱりリオスを置いていくのは……」

 

アイリス達が俺の事を見ながら躊躇をしていたその時、エレサールさんが弓に矢をつがえ始めた。

(マズい……!)

俺はすぐに【ソードオブマギア】に炎の魔力を籠め、オーブが赤色に染まったことを確認した後、剣を構えた。

 

「【フレイムスラッシュ】!」

 

そして剣を勢い良く振り抜き、エレサールさんに向けて炎の魔力を纏った斬撃を飛ばした。エレサールさんは自分に向かって真っ直ぐ飛んでくる斬撃を見ると、急いで矢をつがえるのを中断し、横っ跳びで斬撃を躱した。

(よし……今の内に皆を向こうに行かせないと……!)

俺は後ろを振り向くと、大きな声でアイリス達に呼び掛けた。

 

「アイリス! キャトラ! 俺の事は心配しなくて良い! だから、早くナギア達と一緒に広場に向かってくれ!」

「「リオス……」」

 

アイリス達は呟くように声を揃えて言った後、覚悟を決めたような表情を浮かべ、そのままネロの背中に乗った。ネロはそれを確認すると、ナギアと一緒に広場の方へと走っていった。

(よし……後は足止めをしながら、エレサールさんから目を離さないようにしつつ、徐々に後退していけば……)

俺がエレサールさんの様子を窺いながら、【ソードオブマギア】を握り直していると、ワイズが静かな声で話し掛けてきた。

 

『リオス様……周囲から幾つもの気配を感じます』

「幾つもの気配……それって……」

『いえ、エレサール様から感じる物とは別ではありますが……徐々にその気配の数が増えている気が致します……』

「【闇】じゃない気配……か」

 

(何だか嫌な予感がする……早くエレサールさんを広場に誘導して、アイリスに【闇】を払ってもらった方が良いかもしれないな)

俺は【ソードオブマギア】に雷の魔力を籠め、オーブが黄色に染まったことを確認した後、切っ先を天へ向けた。

 

「【ライトニングボルト】!」

 

切っ先から放たれた雷はエレサールさんに向かって飛んでいったが、エレサールさんはそれを軽々と前に跳んで避けると、滞空をしながら矢筒から矢を数本取り、瞬時に矢をつがえると俺に向かって矢を放ってきた。

(そう来るか……それなら!)

俺は炎の魔力を高め、オーブの色を確認した後、迫る矢へと切っ先を向けた。

 

「【バーニングウォール】!」

 

その瞬間、俺の目の前に大きく燃え盛る炎の壁が出現した。壁は飛んできていた矢を受け止めると、一瞬のうちに焼き尽くし、そのまま細かい灰に変えると、跡形も無く姿を消した。そしてそれを見た瞬間、俺は軽い脱力感に襲われた。

(はぁっ、はぁっ……魔力を考えてたよりも使いすぎたかな……でも、そろそろナギア達も広場に着いたはずだし、エレサールさんを誘導しつつ、俺も早く行かないと……)

 

少しだけ息を切らせながら、エレサールさんの姿を探すために周りを見回していると、突如背後から鋭い殺気を感じた。弾かれたように後ろを振り向くと、そこには無表情でナイフを振り上げているエレサールさんの姿があった。

(しまっ……!?)

そしてナイフが俺に振り下ろされようとしたその時、エレサールさんの体が突然黒い何かによって横の方へと吹き飛ばされ、近くにあった岩に激突した。

(……え?)

俺が正面に向き直ると、そこにいたのは、相棒の黒竜であるネロの姿だった。

 

「ネロ……? お前、どうしてここに……?」

「(どうしてって……そりゃあ、アイツらが無事に広場に着いたってのに、お前が中々来ねぇからだろ?)」

 

ネロがやれやれといった様子で言うのを聞きながら、俺は胸を撫で下ろしていた。

 

「そっか……無事に着いてたのか」

「(あぁ。

さて……あそこで寝てるエレサールを拾って、俺達もそろそろ行こうぜ?)」

「寝てるって……まあ、そうだな。早くアイリスに【闇】を払ってもらうためにもさっさと行くか」

「(おうよ!)」

 

俺はネロに手伝ってもらいながらネロの背中にエレサールさんを乗せた後、俺自身もネロの背中に乗った。

(ふぅ……さて、これでなんとか……)

その時、近くからエレサールさんから感じる物とは別の【闇】の気配を感じた。

 

「……ネロ」

「(……ああ、急ぐぞ!)」

 

そして俺達は、ナギア達が待つ広場へ向かって走りだした。

 

 

 

 

走り出してから数分後、俺達が広場の入り口に近付くと、音を聞きつけたナギア達が駆けつけてきた。

 

「リオス! ネロ! ワイズ! 無事だったんだな!」

「ああ、ネロのおかげでな」

「(それに、ちっと手荒なやり方になっちまったが、エレサールもしっかりと連れて来たぜ)」

「良かった……」

「これでとりあえずは一安心ね」

「そうだな。

さて……」

 

俺はネロの背中からエレサールさんをゆっくりと降ろした後、アイリスに話し掛けた。

 

「アイリス、頼んで良いか?」

「うん、任せて」

 

アイリスはコクンと頷きながら答えると、あの遺跡でも聴いた呪文を静かに唱え始めた。

 

「*×○■!&%$…………」

 

その瞬間、エレサールさんの体に纏わり付いていた【闇】が徐々に消えていき、程なくして【闇】は全てその姿を消した。

(良かった……これでとりあえず大丈夫だな)

その様子を見ながらホッとしていると、

 

「う……ん……」

 

エレサールさんが声を上げながら、ゆっくりと目を開けた。そして体を起こしながら周りを見回そうとしたその時、エレサールさんの顔が小さく歪んだ。

 

「い……痛たっ!! くっ……体のいたる所に、強烈な痛みがぁっ……!!」

「あ、すいません! 今、治しますね!」

 

俺はすぐさま【ソードオブマギア】に水の魔力を籠め、切っ先をエレサールさんに向けた。

 

「【ブルーヒーリング】!」

 

すると、【ソードオブマギア】からエレサールさんに向けて青い光が放たれ、徐々にエレサールさんの傷を癒やしていくと同時にエレサールさんの顔が安らぎの色が浮かび始めた。

 

「これは……治癒魔法か……

リオス、君は治癒魔法も使えたんだね」

「あ、はい、一応は」

 

そしてエレサールさんの傷が完全に癒えた事を確認した後、俺は【ソードオブマギア】を下ろし、ネロと一緒にエレサールさんに頭を下げた。

 

「エレサールさん……すいませんでした!」

「(お前を止めるためとはいえ、尾で岩に叩きつけたのは流石にやりすぎた……本当にすまなかった!)」

「岩……に、か。どうりで体全体に痛みがあると思ったよ……」

 

エレサールさんは苦笑いを浮かべながら立ち上がった後、ニッと笑いながら俺達に手を差し伸べた。

 

「リオス、ネロ。私の事を止めてくれてありがとう」

「エレサールさん……」

「(エレサール……)」

「はい!」

「(おう!)」

 

俺達が返事をしながら手を取り、エレサールさんと握手を交わした後、エレサールさんは次にアイリスへ視線を移した。

 

「そしてアイリス……私をあの【闇】から救い出してくれたのは、君なんだね?」

「は、はい」

「君のおかげで、私はまた君達とこうして話をすることが出来る。本当にありがとう」

「はい、どういたしまして」

 

エレサールさんの言葉を聞き、アイリスは小さく微笑みながら返事をした。すると、キャトラが首を傾げながらエレサールさんに話し掛けた。

 

「でも……何で、【闇】なんかに取り憑かれてたのよ?」

「それは……」

 

エレサールさんが答えようとしたその時、周囲から魔物達の唸り声や鳴き声が聞こえてきた。

 

(魔物……! そういえば、ワイズが【闇】とは別の気配がするって……!)

 

「どどどど、どうしよう、みんな! すっかり魔物に囲まれてるみたいだよ……!」

「……リオスはさっきの戦いでかなり消耗してるし、エレサールさんも回復したとはいえ、まだ本調子じゃないはず……」

「ここはひとまず、安全な場所まで行きましょう……!」

「ああ!」

 

ナギアは返事をした後、ネロの方へ視線を向けた。

 

「ネロ! リオスとエレサールさんを頼む!」

「(おう! 任せとけ!)」

 

ネロは大きく返事をした後、俺達が乗りやすいようにゆっくりとしゃがみ込んだ。

 

「(ほら、早く乗れ!)」

「ああ、ありがとうな、ネロ」

「ネロ、感謝するよ」

「(礼なんざ良いって! それよりも早く!)」

「ああ!」

「分かった!」

 

そして俺達が背中に乗ったことを確認し、ナギア達はコクンと頷いた後、先の方へ向かって一目散に走りだした。

 

 

 

 

走り出してから十数分後、俺達は魔物達から逃げ切り、さっきと似たような広場に辿り着いた。

 

「はぁっ、はぁっ……ここまで来れば……大丈夫かも、しれないな……」

「はぁっ、はぁっ……そうね……」

「はぁっ、はぁっ……つ、疲れたぁ……」

 

ナギア達が息を切らしながら座り込む中、ネロは俺達が降りやすいようにゆっくりとしゃがみ込んだ。

 

「(ほれ、気を付けて降りろよ?)」

「ああ、ありがとうな、ネロ」

「ネロ、本当にありがとう」

「(へへっ、どういたしましてってな!)」

 

そして俺達がネロから降りると、キャトラが息を整えながらエレサールさんに話し掛けた。

 

「はぁっ、はぁっ……それでさっきの話の続きだけど、何で【闇】なんかに取り憑かれてたのよ?」

「それが……まったく分からないんだ……

君達と別れた後、森の奥で奇妙な格好をした男と出会ったのだが――

……次の瞬間、私の意識は深い闇の底にいた」

「闇を操る者が、この島に……?」

「まっ暗に染まった意識の中で――何度も何度も叫び声を聴いていた。

白の巫女に、死を。白の巫女にルーンを渡してはならない、とね」

 

そしてエレサールさんはアイリスに視線を移した後、静かに言葉を続けた。

 

「白の巫女とは――アイリス、君の事で間違いないね?」

「はい……おそらくは」

「な、なんなのよ、それ……!」

 

キャトラが泣き出しそうな顔で言う中、エレサールさんは俺達の事を見回しながら話し掛けてきた。

 

「……北の遺跡の事は、ラーレッタから聞いているか?」

「はい」

「あの遺跡に眠るエルフの秘宝が、君達の探す〈大いなるルーン〉だとするなら――

きっと、私を闇の中へと陥れたあの男も、再び姿を見せることだろう」

「そうですね」

 

(さっき感じたもう一つの【闇】の気配……たぶん、アレがその男の気配だったんだろうしな……)

俺がさっき感じた気配について考えていると、ナギアが不思議そうな様子で話し掛けてきた。

 

「リオス……? どうかしたのか……?」

「ん……いや、何でもない」

 

ナギアに返事をした後、俺は皆の事を見回しながら、静かに話し掛けた。

 

「とりあえず、今は北の遺跡に向かおう。エルフの秘宝が本当に〈大いなるルーン〉なのかどうか、確認しないといけないからな」

「ああ。それにエレサールさんの言う奇妙な格好の男もエルフの秘宝を狙ってるかもしれないしな」

「その通りだ」

 

俺達が頷き合っていると、その様子を見ていたエレサールさんが静かな声で話し掛けてきた。

 

「皆、私も君達に同行させてもらうよ。私もやられてばかりではいられないからね」

「ありがとうございます、エレサールさん」

「エレサールが来てくれるなら、とっても心強いわ!」

「ふふ、ありがとう。君達の期待に応えられるよう、わたしもせいいっぱい頑張らせてもらうよ」

 

エレサールさんがニッと笑いながら言った後、俺は皆の事を見回しながら大きな声で言った。

 

「よし……それじゃあ、行こう、皆!」

「おう!」

「ええ!」

「うんっ!」

「ああ!」

「(おうよ!)」

 

そして俺達は、北の遺跡に向けて再び歩き始めた。




政実「第5話、いかがでしたでしょうか」
リオス「今回は剣士としての戦いがメインになる話だったな」
政実「うん。リオスの戦い方は、その時のパーティ内容次第で変える予定だから、イスタルカ島編の間は剣士とドラゴンライダーがメインになるかな」
リオス「分かった。
さてと、次回の投稿はいつ頃になるんだ?」
政実「それはまだ未定かな。出来る限り近い内に投稿したいとは思ってるけどね」
リオス「了解した。
そして最後に、この作品に対して感想や意見もお待ちしています」
政実「さてと……それじゃあ、そろそろ締めようか」
リオス「ああ」
政実・リオス「それでは、また次回」


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第6話 闇の道化師と大いなるルーン

政実「どうも、今回のガチャのために島堀計画を進め中の片倉政実です」
リオス「どうも、リオスです。
そういえば、今回のガチャは光属性と闇属性のキャラってだけじゃなく、新職業もあるんだっけな」
政実「うん。
新職業ももちろん気になるけど、今回のキャラはやっぱり引いておきたいキャラだから、10連ガチャを複数回引けるように頑張るつもり」
リオス「ん、了解。
さて……そろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・リオス「それでは、第6話をどうぞ」


 

エレサールさんと合流した後、俺達は道中で襲い掛かってくる魔物達を退けつつ、<大いなるルーン>があると思われる北の遺跡に向けて進み続けていた。

(エレサールさんを襲った<闇>を操る謎の男の件もあるし、慎重に且つ迅速に進まないとな)

そして進み続ける事数刻、俺達はとても大きな遺跡に辿り着いた。

 

「ここが<大いなるルーン>があるかもしれない北の遺跡……」

「ああ。

……だが、私を襲った男もおそらくこの中にいるはずだ。

皆、注意しながら中を進もう」

 

エレサールさんの言葉に揃って頷いた後、俺達は遺跡の中へと入っていった。

 

 

 

 

遺跡の中に入ってみると、そこには古びた壁や床、そして壁には色々な文字などが書かれていた。

(何だか……カイルさんと一緒に調べたあの遺跡みたいだな)

遺跡の雰囲気からあの遺跡と似たような物を感じていると、キャトラが周りをきょろきょろと見回しながら独りごちるような声で話し掛けてきた。

 

「この雰囲気……

何だか、アストラ島の遺跡に似てる気がするわね」

「うん。あの時と、同じ感じがする。

懐かしいような、それでいて少し悲しいような……」

「そうだな」

 

そして遺跡の中を調べながら歩いていた時、複数の大きな石像が目に入ってきた。

 

「大きな石像……」

「これは島ではよく見られる形の像だが、これほど大きい物はここにしかない。

それくらい、この遺跡は古代の人々にとっては神聖な場所だったのだろうな」

「なるほど……」

 

エレサールさんの言葉に返事をしながら周りを見回していたその時、ポケットの中からワイズが緊張した様子で声を掛けてきた。

 

『……皆さん、遺跡の奥から様々な魔物達の気配、そして不穏な気配を感じます。

気をつけて進んで下さい』

「分かった、ありがとうな」

『いえいえ』

 

ワイズにお礼を言っていると、エレサールさんが俺達の事を見回しながら声を掛けてきた。

 

「私も実際に内部へ入るのは初めてで、何が出てくるかも分からない。

ここはワイズの言う通り、慎重に進むことにしよう」

「「「はい」」」

「分かったわ」

「(了解だ)」

 

そして俺達は、周りの様子に注意を払いながら遺跡の奥へ向けて歩を進めた。

 

 

 

 

「はああぁーー!!」

「これで、どうだあぁーー!!」

 

遺跡の探索中、襲い掛かってきた魔物達に対して、俺とナギアは剣の連携攻撃を加えた。

すると、魔物達は見る見るうちにその姿を消し、辺りは再び静まり返った。

(ふぅ……これで何とかなったな)

額の汗を拭ってから【ソードオブマギア】を背中に差している鞘に戻していると、キャトラが何かを思いだした様子で俺に話し掛けてきた。

 

「……そうだ、ねぇ、リオス」

「ん、何だ?」

「アンタの武器って、たしかアストラ島でバロンから初めて受け取ったのよね?」

「そうだけど、それがどうかしたのか?」

「うん。

でもそれにしては、武器を使いこなしてるなぁって思ったのよ」

 

すると、キャトラの言葉を聞き、ナギアも不思議そうな様子を見せた。

 

「あ、そういえばそうだよな。

島で剣と弓矢の特訓はしてたけど、魔力の特訓とかは特にしてなかったし、ましてや【グラントスピア】みたいな槍なんて手に入れるまで一切使ってなかったし……」

「やっぱりそうよね。

ねぇ、リオス。何か理由とかはあるの?」

「理由、か……」

 

正直なところ、俺もその理由について確信を持って言える物は思い付かなかったが、自分の中でこれかなと言える物はあったので、皆に話してみることにした。

 

「【ソードオブマギア】とかを握って敵の前に立った時に、自分でこうしたいって考えてると、何というかこう……こうすればこういう事が出来るみたいなのが、頭の中にスーッと浮かんでくるんだ」

「つまり、魔力の使い方や技の使い方などは頭の中に浮かんだ方法を使っているという事か?」

「初めてのやつはそうですね。

ただ、魔力の使い方とか一回使った技とかはその瞬間に覚えちゃうので、次に使う時にはそういう事にはならないですけど……」

「頭の中に浮かんでくる、か……

やっぱりリオスの武器達には、何か秘密があるのかもしれないな」

「そうだな。

それに……あの時、初めて受け取ったはずなのに、何故だか懐かしい気がしたんだ。

まるで、昔から使ってたみたいに……」

 

俺はナギアに返事をしながら背中に差している武器達に視線を移した。

(この武器達の秘密が分かる時が来るとしたら……

その時はたぶん、ワイズ達の謎も分かる時なのかもしれないな……)

遺跡の壁に付けられている松明の光を反射し、キラリと輝く武器達を見ていた時、エレサールさんが俺達に声を掛けてきた。

 

「さて……そろそろまた進もう。

先はまだまだ長いだろうからね」

 

エレサールさんの言葉に静かに頷いた後、俺達は再び遺跡の奥へ向けて歩き始めた。

 

 

 

 

魔物達を退けつつ、仕掛けられている罠をかいくぐりつつ進んでいたその時、俺達はとても大きな広間のような場所へと辿り着いた。

周りを見回してみると、壁にはビッシリと様々な文字が記されおり、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。

 

「どうやら、ここが……最深部のようだな」

「はい……」

「ねぇ、この壁一面に書かれているヘンな文字って、もしかして……」

「うん……これも……古代文字……」

 

そしてアイリスは古代文字に近付くと、静かな声でそれらを読み上げ始めた。

 

「<――禁じられし運命に手を染めた私の――>

<――声無き贖罪(しょくざい)の叫びを永遠に刻むため――>

<――ここに、大地のルーンを封ずる――>

<※×○■!&%$>」

 

アイリスが呪文を唱えた瞬間、地響きのように揺れると同時にゴゴゴという音が鳴り出し、突如足元の石畳がせり上がり始めた。

 

「わわわっ……! こ、これって……!」

「こんな事が……!」

 

キャトラ達が驚きの声を上げている内に、俺達の目の前では石畳がせり上がり続けた。

そして揺れが収まった時には石畳が段上になっており、その頂上には穏やかな光を放っている宝箱が置かれていた。

 

「これは……祭壇……

そしてあの宝箱の中身、まさかあれは……」

「大地の……ルーン?」

「そう、みたいだな……」

 

あまりにも突然な大地のルーンの登場に俺達が呆然としていたその時、

 

「ギャハハハハッ!!」

 

突如背後から何者かの笑い声が聞こえ、俺達は瞬時に声の方へと体を向けた。

するとそこにいたのは、不気味な雰囲気を纏った奇妙な道化師の格好の男だった。

(な、何だコイツ……!)

俺達の間に緊張が走る中、道化師のような男は不気味な笑顔を浮かべながら静かに俺達に向かって歩いてきた。

 

「ようやく追いついた……

久しぶりですねェ、白の巫女」

「な……何なのよ、アンタ!」

 

キャトラが警戒で毛を逆立てながら話し掛けると、道化師のような男はニヤリと笑いながらそれに答えた。

 

「私はエピタフ。

闇纏う影の一族、あるいは――道化」

 

その時、俺達の後方にいるエレサールさんが道化師のような男―エピタフに向けて、不意に矢を放った。

しかしエピタフはゆらりとした動きで平然とそれを躱すと、ニヤニヤとしながら俺達に話し掛けてきた。

 

「おっとォ、これは手荒いご挨拶ですねェ……」

「やはり姿を現したな、闇の者よ!」

 

再びエレサールさんが弓に矢をつがえながらエピタフに声を掛けると、エピタフはニヤニヤとしながらエレサールさんの事をジッと見始めた。

 

「んゥ~?

誰かと思えば、あの時のマヌケなエルフじゃないですかァ。

助かりましたよォ、アナタのおかげでこうして白の巫女を見つけることが出来たのですからァ」

「ふざけた事を……!」

 

エレサールさんの声と同時に俺達が戦闘の体勢を取ると、エピタフは戯けた様子で俺達に話し掛けてきた。

 

「まあまあ……怒るな、猛るな、所詮は遊びだ。

来たるべき日まではまだ時間はたっぷりある」

 

そして口元を三日月のような形にしながらニヤリと笑うと言葉を続けた。

 

「なァ、お前達。

私と、ゲームをしようじゃないか」

「ゲ、ゲーム……!?」

「アンタ、一体何を言ってんのよ……!?」

 

俺とキャトラが驚きの声を上げたが、それには答えずにエピタフはどこからか黒いサイコロを取りだした。

 

「このォ、サイコロを……こうしてェ……」

 

エピタフの声と同時に手からサイコロが落ち、サイコロはコロコロと床を転がりながら、俺達の運命を変えるかもしれないその目を変えていった。

そしてサイコロが止まると、エピタフはゆっくりと拾い上げ、出た目を見て不気味な笑みを浮かべた。

 

「2、か。クククッ!

良かったなァ、白の巫女」

「よ、良かったって……一体何がよ!」

「さぁてね……クククッ!」

 

エピタフは楽しそうに笑いながら答えた後、俺達の事を見回しながら言葉を続けた。

 

「それではゲームを始めよう。ルールは至って簡単だ。

私の操る魔獣から大地のルーンを守り抜いてみたまえ。

もしお前達が負ければ――クククッ!」

 

エピタフはとても楽しそうに笑いながら言葉を続けた。

 

「大地のルーンは永遠に闇に染まることだろう!

クククッ……さぁ、ゲームの始まりだ!」

 

その言葉と同時に周囲に次々と魔物達がその姿を現した。

(くっ……こうなったらやるしかない……!)

その魔物達の姿に覚悟を決めた後、俺は皆に声を掛けた。

 

「皆! 協力して大地のルーンを守ろう!」

「ああ!」

「ええ!」

「了解よ!」

「もちろんだ!」

「(おうよ!)」

 

皆の返事を聞いた後、俺はネロの背中に乗り、背中に差している【グラントスピア】を下ろした。

そして迫ってくる魔物達を見ながら【グラントスピア】に収められたオーブの雷の魔力を解放した。

 

「『ボルティックソウル』!」

 

その瞬間、オーブが黄色に染まると同時に全員の武器に雷の魔力が宿り、そして体が全体的に軽くなった気がした。

(これで全員の動きが速くなったはずだ。

さて……ささっと魔物達を倒してしまわないとな……!)

隣に立っているナギアとアイコンタクトを交わした後、ナギアが魔物達へ向けて走り出すと同時に俺もネロと一緒に魔物達の群れへ向けて走り出した。

 

「はああぁーー!!」

 

魔物―ソウル・リーパー達が放ってきた矢を【グラントスピア】を振るって撃ち落としながらそのままの勢いでソウル・リーパー達へと攻撃を加えた。

ソウル・リーパー達は雷の魔力を纏った攻撃を受けると、カタカタカタッという音を立てながら崩れ落ち、そのままその姿を消していった。

(よし……このまま一気に行くぞ!)

その様子に更に士気を増した後、俺は【グラントスピア】を更にギュッと握りながら、ナギアと一緒に魔物達の群れへと突進していった。

 

 

 

 

「これで……終わりだっ!!」

 

ナギアと一緒に魔物達に接近して攻撃を加え、俺達が討ち漏らした分をアイリスとエレサールさんに倒してもらいながら戦闘を続けていたが、それも遂に残り一匹となり、俺はソイツに対して気合いを籠めた一撃を見舞った。

攻撃を受けた魔物は何も言わずにそのまま倒れ込むと、静かにその姿を消していった。

(はぁっ、はぁっ……これで全部倒したみたいだな)

肩で息をしながら周りを見回し、残っている魔物がいない事を確認していると、楽しげに笑うエピタフの声が耳に入ってきた。

 

「クックック……中々頑張るじゃないかァ?

これはご褒美を用意しないといけないなァ……」

「お前からの褒美なんていらない……!」

「次はお前の番だ、エピタフ!」

 

俺とナギアが武器をエピタフに向けると、エピタフはそれに動じること無く笑いながら俺達の言葉に答えた。

 

「クックック……

いやいや、まだこのエピタフの演目の時間では無いのでね。

その代わりと言ってはなんだが、とっておきのショウを用意して待っているとしよう。

では……」

 

すると、エピタフの周りに突如暗い闇が出現し、エピタフの体を瞬時に包み込んだ。

そして闇が消え去った時には、そこにいたはずのエピタフの姿も消えており、それを見たエレサールさんが悔しそうな声を上げた。

 

「くっ、逃げられたか……!」

「はい。

でもそれよりも気になるのは……」

「アイツの言ってた

『とっておきのショウを用意して待っている』っていう言葉よね……」

「(つまり……俺達が大地のルーンを持ってここを出ようとする前に、アイツが何かを仕掛けてくるって事だよな……)」

「たぶん、そうだろうな……」

 

『とっておきのショウ』

エピタフの口から出たその言葉に、俺達が嫌な予感を覚えていると、エレサールさんが周りを見回しながら静かな声で言った。

 

「……まだあの男の気配が残っている。

ここに長居は無用だ、この後に何が待っているかはわからないが、まずは大地のルーンを手に入れてしまおう」

 

その言葉に静かに頷いた後、俺達は祭壇を頂点まで登り、宝箱の中の大地のルーンを手に取った。

(これが大地のルーンか……)

実際に目にした大地のルーンは、ゴツゴツとした岩に覆われた琥珀色の輝きを放つ六角形のルーンであり、手の中にあるそれを見ているだけで何故か心が落ち着くような気がした。

 

「これが……<大いなるルーン>の一つ、大地のルーン……」

「何だろうな……これを見てるだけで、胸の奥がうずくというか……こう、温かくなる気がするな……」

 

アイリスとナギアが大地のルーンをジッと見つめていると、その様子を見てエレサールさんが真剣な表情を浮かべた。

 

「駆け出しの冒険者が見つけた世紀の大発見、

と言いたいところだが―今はそんな事を言ってる場合でも無いな。

皆、早々にここから脱出しよう。

そして大地のルーンはリオスが持っていてくれ」

「はい」

 

俺は返事をしながら大地のルーンを懐へとしまった。

(この大地のルーン……絶対にアイツなんかに渡さない……!)

そう強く決心した後、俺は皆と一緒に遺跡の入口へ向けて走り出した。

 

 

 

 

俺達は先の戦闘で少し体力を減らしていたものの、再び道中で襲ってくる魔物達を退けながら遺跡の入口へ向けて走り続け、少し大きな部屋へと辿り着いていた。

 

「(……変だな、アイツがまったく襲ってこねぇぞ?)」

「そうだな。でもまだ油断は……」

 

周囲に注意を払いながら、俺がネロと話をしていたその時、ポケットの中からワイズが大きな声を上げた。

 

『……っ!

皆さん、気をつけて下さい! エピタフの気配がします!』

「え!? ど、どこ!?」

 

キャトラが急いで周りを見回していると、どこからかエピタフの笑い声が聞こえてきた。

 

「ギャハハハッ!!」

 

そして黒い闇が出現すると、その中からニヤニヤと笑いながらエピタフがゆっくりと歩いてきた。

 

「で、出たわねっ!」

「エピタフ! 今度は何をする気だ!」

 

エピタフの突然の出現に、俺達が警戒をしていると、エピタフは俺達に向かってまるでこれから演技でも披露するかのようなお辞儀をした。

 

「何って……それは当然、約束通りアナタ方にご褒美を上げに来たのですよォ」

「(褒美、ねぇ……どうせロクなもんじゃねぇんだろ?)」

「クククッ、さぁてねェ……

それでは、これより開始しましょうか……とても愉快な愉快な惨劇のショウをねェ!」

 

すると、エピタフの背後に巨大な闇が出現し、その闇が徐々に消えていくと同時に中にいるモノの姿が明らかになっていった。

 

「そ、そんな……!」

「何だよ、アレ……!」

「そんな……馬鹿な!」

 

闇の中から現れたモノ、それは見上げるほど大きな岩で出来た巨人のような魔物だった。

 

「(おいおい……こんなのを倒せってのかよ……!)」

「どうやら、そういうことらしいな……!」

 

(ネロの言う通り、ロクなものじゃないと思っていたけど、まさかこんなのが来るなんて……!)

俺達がその魔物の姿に驚きを隠せずにいると、エピタフは楽しげに笑い始めた。

 

「ギャハハハッ!!

良いですねェ……驚きと恐怖に満ちたその顔!

それでは、この魔物との一時をごゆるりとお楽しみ下さい」

 

エピタフは綺麗なお辞儀をしながら、再び闇の中へと消えていった。

そしてその場に残されたのは俺達と俺達に向けて敵意と殺意を放っている魔物だけだった。

俺達は覚悟を決め、魔物に向かって武器を構えた。

「やるしか、ないな……!」

「ああ……!」

「そうね……!」

「このデッカいのを倒してさっさと出ちゃいましょう……!」

「もちろんだ……!」

「(こんなやつ……さっさと焼き払ってやるぜ……!)」

 

俺達の間に緊張が高まる中、俺はもう片方の手でポケットからワイズを取りだした。

 

「……ワイズ、あの魔物についての情報をくれるか」

『……はい。

あの魔物の名前は石巌の悪鬼、弱点は特には無く、炎・水・雷属性の攻撃に耐性を持っています』

「属性に耐性がある……か」

「(ちっ、思ったよりも厄介だな……)」

「そうだな……リオス、どうする……?」

 

魔物―石巌の悪鬼から目を離さずにしてくるナギアの質問に、俺は少しだけ考えてから皆に聞こえるように答えた。

 

「ここはアイリスとエレサールさんが遠距離から援護、そしてナギアとネロが接近戦を仕掛け、俺は状況に応じて近距離と遠距離を切り替える事にしようと思う。

……皆はそれで良いか?」

「ああ!」

「ええ!」

「オッケーよ!」

「もちろんだ!」

「(それで問題ねぇぜ!)」

「分かった。

よし……行くぞ、皆!」

 

そして俺達は、それぞれの配置についた後、石巌の悪鬼への攻撃を始めた。

 

「行くぞ!! 『ダブルスラッシュ』!」

「くらいやがれ! 『ブレイクウィップ』!」

 

ナギアの剣による二連撃とネロの渾身の力を籠めた尻尾の一撃が石巌の悪鬼に命中した後、ナギア達はすぐに距離を取った。

しかし、石巌の悪鬼は少し顔をしかめただけで、攻撃が命中した部分には小さな傷くらいしかついていなかった。

 

「くそっ、コイツかなり硬いぞ……!」

「(ああ……!

まずはコイツの防御を崩さねぇといけねぇみてぇだな……!

リオス、何か良い手は無いか!?)」

「良い手……それならこれで……!」

 

俺は背中から【バアル・ベルゼ】を下ろし、矢筒から矢を取った後、いつもよりも強く弓を引き絞りながら、オーブに宿る毒の力と防御力低下の力を解放した。

 

「くらえ! 『ヴェノムブレイクシュート』!!」

 

【バアル・ベルゼ】から放たれた矢は、石巌の悪鬼へ向けて勢い良く真っ直ぐに飛ぶと、石巌の悪鬼の体へと浅く突き刺さった。

すると、命中した箇所からいくつかの岩が崩れ落ち、石巌の悪鬼は唸り声のようなものを上げながら、苦しそうな表情を浮かべた。

(よし……これで多少は良くなったはず……!)

 

「皆! 今、コイツは毒を受けた上、防御力が低下してる箇所がある!

だから攻撃をするならば、そこを攻撃するようにしてくれ!」

「分かった!」

「うん!」

「了解した!」

「(おう!)」

 

皆の返事を聞き、俺は【バアル・ベルゼ】を背中に戻し、代わりに【ソードオブマギア】を手にした後、【ソードオブマギア】をギュッと握りながら石巌の悪鬼へ向けて走り出した。

そして石巌の悪鬼との距離が縮まった瞬間、俺はさっき防御力を低下させた箇所に向けて、渾身の力で【ソードオブマギア】を振るった。

 

「これで!『フルブレイクスラッシュ』!」

 

【ソードオブマギア】による渾身の斬撃は石巌の悪鬼を切り裂くまではいかなかったものの、防御力を低下させた箇所を強く切り付けたことで石巌の悪鬼を多少よろめかせる事には成功した。

(よし、この調子で行けば勝てる……!)

石巌の悪鬼の様子からそう判断したその時、石巌の悪鬼の目がギラリと光り、両手を組みながら上へと振り上げたかと思うと、それをそのまま地面へと叩きつけた。

すると、叩きつけた箇所から俺やナギア達の方へ向かって次々と鋭利な岩が突き出してきた。

 

「なっ!?」

「何っ!?」

「(マジかよ!?)」

 

俺達は瞬時に反応し、それを横っ跳びで回避したが、再び石巌の悪鬼の目がギラリと光ると、石巌の悪鬼は体に力を込めるような様子を見せた。その瞬間、体が徐々に石巌の悪鬼へ引き寄せられているのを感じた。

 

「くっ……何だこれ……!」

「体が徐々に……アイツの方に……!」

「(ぐ……マズいぞ……これ……!)」

 

どうにか石巌の悪鬼に攻撃を加える事で、それを阻止しようと考えたが、引き寄せられているのを少しでも遅くする事にばかり意識が行ってしまい、中々それを実行できずにいた。

(マズい……このままじゃ……!)

そして俺達の体が石巌の悪鬼の目の前に近付いたその時、突然防御力が低下してる箇所に魔法弾が、そして石巌の悪鬼の目の辺りに数本の矢が命中した。

その瞬間、石巌の悪鬼は大きな呻き声を上げ、それと同時に体が引っ張られる感覚も瞬時に消え去った。

 

「よし……今の内に距離を取るぞ!」

「あ、ああ!」

「(おう!)」

 

俺達は急いで石巌の悪鬼との距離を離し、エレサールさんやアイリスがいるところまで戻ってきた。

すると、アイリスとキャトラが心配そうな様子で俺達に声を掛けてきた。

 

「みんな、大丈夫!?」

「怪我とかはしてない!?」

「ああ、幸い怪我とかは無いぜ。

アイツの行動を止めてくれてありがとう、アイリス、エレサールさん」

「ううん、皆の援護が私達の仕事だから。

そうですよね、エレサールさん?」

「ああ。

だが……あの攻撃は中々厄介だな」

「はい。

近付く度にアレをされるとなると、迂闊には近付けませんし……」

 

(あの攻撃をどうにかしないと、遠距離からチマチマと攻撃を加えないといけない分、時間が掛かってその間にアイツの攻撃で遺跡が崩れる恐れもある。

さて……どうしたもんかな)

石巌の悪鬼の様子に注意を払いながら、俺達が対策を練り始めたその時、キャトラが何かを思いついた様子で俺達に声を掛けてきた。

 

「ねぇ、いっその事、アイツに引き寄せられるのを利用するのはどうかしら?」

「引き寄せられるのを利用する?」

「うん。

たぶん、アイツはアタシ達を引き寄せた後に、あのおっきな両手で握り潰そうとしてくる気がするのよ。

それだったら、アイツに引き寄せられている間に力を溜めて、掴んでくる瞬間に一気に攻撃をしちゃった方が良い気がするわ」

「なるほどな……

今のところ、それ以外の案も思い付かないし、それで行ってみた方が良いかもしれないな」

「そうだな。

よし……それじゃあ、またエレサールさん達は遠距離からの攻撃、そして俺達は近距離からの攻撃で行こう!」

「ああ!」

「ええ!」

「承知した!」

「(了解だ!)」

 

皆が返事をした後、俺は【ソードオブマギア】を背中に戻し、代わりに【グラントスピア】を背中から下ろした。

そしてネロの背中に乗った後、俺は【グラントスピア】のオーブに宿る魔力を解放した。

 

「『ブレイヴソウル』!!」

 

オーブが虹色に染まると同時に俺達の体に力が満ち、そして体が軽くなった感じがした。

(これで皆の攻撃力、防御力、移動速度などが上がったはず。

この作戦で一気に勝負を決めてやる……!)

俺はナギアとアイコンタクトを交わした後、同時に石巌の悪鬼へ向けて走り出した。

すると、石巌の悪鬼の目がギラリと光り、再び体が引き寄せられている感覚を覚えた。

(やっぱり使ってきたか……けど、もうそれに抗ったりはしない!)

俺達は武器を強く握りながらそのまま石巌の悪鬼へ向けて走った。そして石巌の悪鬼の目の前に近付いた時、石巌の悪鬼はキャトラが予測した通り、俺達の事を掴もうと両手を勢い良く伸ばしてきた。

(よし……!)

 

「今だ! ナギア!」

「ああ!」

 

俺達は渾身の力を込めて石巌の悪鬼の手を弾き返した。

そしてその衝撃で石巌の悪鬼が少しよろめいたその隙に、そのままの勢いで防御力を低下させた箇所に同時に攻撃を加えた。

 

「はああぁーー!!『ライトニングストライク』!!」

「てやあぁーー!! 『バスターブレード』!!」

 

俺達の渾身の攻撃を受け、石巌の悪鬼は大きくよろめいた。そしてその隙に後方からエレサールさんとアイリスの矢と魔法による追撃が石巌の悪鬼へと命中した。

追撃を受けると、石巌の悪鬼はその場に倒れ込み、その場に強い衝撃と砂埃が立った。そして砂埃が消え去った時、倒れ込んだ石巌の悪鬼の姿も徐々に消えていった。

(か、勝った……のか)

石巌の悪鬼に勝利した事による安心で体の力が一気に抜けていった。

すると、ナギアがとても疲れた様子で俺に話し掛けてきた。

 

「リオス……俺達、勝ったんだよな……?」

「……ああ。完全勝利、とまではいかないけど、文句なしの大勝利だよ」

「ははっ……そっか」

 

そしてナギアはネロの体に自分の体を預けながらその場に座り込んだ。

(……まあ、魔物の群れの後にこんな大戦闘だったわけだし、仕方ないよな。

正直なところ、俺もだいぶ疲れたし……)

ナギアの様子を見ながら、心地よい疲労感を感じていると、アイリス達が俺達に向かって走ってきているのが目に入ってきた。

そして俺達のところで立ち止まると、アイリス達はとても嬉しそうな様子で話し掛けてきた。

 

「やったね、ナギア、リオス、ネロ」

「お疲れさま、三人とも!」

「ああ、ありがとうな、アイリス、キャトラ」

「エレサールさんもありがとうございました」

「ふふ、どういたしまして」

 

(戦いは大変だったけど、勝つ事が出来て本当に良かった……)

本当に嬉しそうな笑顔を浮かべている皆の様子を見て、俺が心の底から思っていたその時、再び黒い闇が出現し、中から楽しげなエピタフの声が聞こえてきた。

 

「ほほゥ、こやつを倒してしまうとは……アナタ方はやはり強いようだァ。

これならば<彼>もきっと、お喜びになられるでしょうねェ。

それでは、白の巫女。また近い内、遊びに参りますよォ……」

 

エピタフが言い終わると同時に黒い闇が徐々に小さくなり、跡形も無く消え去ると、エレサールさんは静かに目を閉じた。

そしてゆっくり目を開けると、静かに口を開いた。

 

「闇の気配が……消えた……

今度こそ、消え去ったようだな」

「じゃあ今度こそ安心ね」

「でも……さっきのエピタフの話に出て来た<彼>っていうのが、ちょっと気になるな……」

「ああ……いずれはその<彼>って奴とも、戦わないといけないんだろうな……」

 

(<彼>か……一体何者なんだ……?)

その人物について色々と考えを巡らせようとしていた時、エレサールさんが俺達の事を見回しながら静かに声を掛けてきた。

 

「とりあえず、村に戻ろう。

村の様子も少々心配だからね」

 

(<彼>っていうのが、ちょっと気になるけど、エレサールさんの言う通り、今は村に戻る方が先だな)

俺は皆と一緒にエレサールさんの言葉に頷いた後、疲れで動けなくなっているナギアを支えつつ、皆と一緒に遺跡の外へと出た。

 

 

 

 

村に戻った後、俺達は村の入り口で心配そうに待っていたラーレッタさんを見つけた。そしてラーレッタさんも俺達の存在に気付くと、とても安心した様子で話し掛けてきた。

その後、俺達は村を出てから今に至るまでの話をラーレッタさんにした。ラーレッタさんはエレサールさんが操られた事や<闇>についてとても驚いていたが、話自体はとても真剣に聞いてくれた。

そして大地のルーンの件などは後日話す事になり、俺達はエレサールさん達と別れた後、一度飛行島へと戻った。

飛行島に戻って来た後、俺達がアジトに向かって歩いていると、アジトの横に見慣れない小屋のような物が二つあることに気付いた。

 

「あれって……何だろう……?」

「小屋……にも見えるけど……」

「それにしては、片方はちょっと大きいわよね……?」

「(そうだな……?)」

 

その小屋のような物が気になり、俺達はゆっくりとそれらに近づいた。

近づいて見てみると、それは小さい方は倉庫のような物で、大きい方は見た目の通り小屋のようなものだった。

 

「倉庫に小屋……何でこんな物が……?」

 

その建物達の前で首を傾げていたその時、小屋の方のドアが開き、中から大工星たぬき達とバロンさんが出て来た。

 

「あ、大工星たぬき、それにバロンも」

「む、お前達か。

イスタルカ島での冒険はどうだった?」

「とても楽しかったですけど、ちょっと気になることもあって……」

「ふむ、ならば続きは夕飯の時に聞くとしよう」

 

バロンさんの言葉を聞いた後、俺は気になっていた事を訊いてみた。

 

「それでバロンさん、この建物は一体?」

「うむ、これはだな。

少し大きい方はネロが住まうための竜舎、そしてもう片方はネロの食料をしまうための倉庫だ」

「(竜舎に倉庫……?

そいつは助かるけどよぉ、何でいきなりそんなもんを建てたんだ?)」

「それはだな、お前達が冒険に出た後、大工星たぬき達がジェスチャーで私に提案をしてきたからだ。

ネロを外で寝かせたりするのは可哀相だから、竜舎と食料庫を作る手伝いをしてくれないかとな」

「(おまえら……)」

 

ネロが静かな声で言うと、大工星たぬき達はキューキューと鳴きながらその場でぴょんぴょんと跳びはねた。

そしてそれと同時にその大工星たぬき達の言葉をキャトラが通訳してくれた。

 

「『ネロさんも僕達の仲間だから、このくらいは当然です』

「『住んでみて、何か不備があったら遠慮無く言って下さいね』

ですって」

「(……へへっ、ありがとうな。でもせっかくお前らが建ててくれたんだ、不備なんてねぇと思うぜ?

まあ、もし何かあった時は頼むとは思うから、その時は頼むぜ、大工星たぬき達)」

 

ネロの言葉に大工星たぬき達はキューキューと鳴きながら答えた後、俺達にペコリと頭を下げてからひょこひょこと動きながら歩いていった。

その様子を見た後、俺はネロに声を掛けた。

 

「良かったな、ネロ」

「(おう!

まあ、何か機会があったら、アイツらの手伝いくらいはしてやらないといけねぇな)」

「そうだな」

 

俺達が微笑みながら話していると、バロンさんが俺達の事を見回しながら静かに声を掛けてきた。

 

「さて……そろそろ夕飯にしよう。

ではリオス、また後でな」

「はい。

それじゃあ、とりあえず竜舎の中に行くか、ネロ」

「(おう!)」

 

そして俺達はドアを開けて、竜舎の中に入っていった。

 

 

 

 

竜舎に入ると、まず目に入ってきたのは少し大きめな幾つかの部屋のような物だった。

 

「これは……部屋か?」

「(みてぇだな。

見たところ、それなりに広さもあるみてぇだし、これならのんびりと寝られそうだな)」

『そうですね。

それに、ネロ用と思われる水桶や寝床と思われる干し草もしっかりとありますし、これなら快適に過ごせるかと』

「だな。

そしてこっちが……」

 

次に俺達は左の方にある部屋に目を向けた。そこには幾つかの椅子と机、そして本棚と思われる物が置かれていた。

 

「こっちは……待機部屋みたいな物かな?」

「(んー……かもな。

けど、何かあった時には便利な感じだな)」

『はい。

そして本棚には様々な資料なども置けそうですので、この部屋にはよくお世話になりそうです』

「そうだな」

 

(大工星たぬき達やバロンさんが建ててくれたこの竜舎と隣の食料庫、どっちも大切に使わないとな)

その時、ネロの腹から大きな音が鳴り出した。

 

「(あはは、すまんすまん。さすがに腹が減っちまってな)」

「まあ、しょうがないさ。

……それじゃあ早速、ネロも夕飯にするか」

「(おう!)」

 

そしてネロの夕飯を用意した後、俺はナギア達のところへと戻り、夕飯を食べながら、バロンさん達にイスタルカ島での冒険の話をしたり、寝る前に武器の手入れをしたりしながらその日を終えた。

 

 

 

 

イスタルカ島での冒険から数日後、俺達は大地のルーンを見せながら、改めてラーレッタさんにあの日の事を話した。

 

「へぇー……これがエルフの秘宝って奴なのね。

確かにただならぬ気配を感じるわ」

 

そしてラーレッタさんはうんと頷いた後、言葉を続けた。

 

「これは貴方達が持っていって良いわ」

「でも本当に良いのですか?」

「うん、気にすることは無いわ。

冒険家ギルドへの報告さえ済ませてくれれば、未開拓エリアのアイテムは発見者の物よ」

「ラーレッタさん……ありがとうございます」

「ふふ、どういたしまして」

 

そして俺達が大地のルーンに目を向けていたその時、ナギアが持っていたルーンドライバーが突如光を放ち始めた。

(ルーンドライバーが光を……って事は)

 

「次の行き先、決まったみたいだね!」

「ああ!

次はどんな冒険が待ってるのか……今から楽しみだぜ!」

「ふふ、そうね」

 

キャトラ達が楽しそうに話をしていた時、俺達に向かってエレサールさんが歩いてくるのが目に入ってきた。

そしてエレサールさんはルーンドライバーと俺達の様子を見ると、微笑みながら話し掛けてきた。

 

「――ついに、出発か」

「はい」

「エレサールさん、色々とお世話になりました」

「貴方がいてくれなかったら、今頃どうなってたか――」

「まあ、アタシ達が助けてあげたりもしたけどね」

「ふふ、違いないな」

 

エレサールさんは微笑みながら言った後、真剣な表情を浮かべながら言葉を続けた。

 

「頼みがある。

私も、君たちの旅に連れて行ってくれないか」

「ええっ!?」

「でも……どうして?」

 

キャトラ達の問いにエレサールさんは真剣な表情のまま答えた。

 

「島を襲った<闇>の原因を……

あのエピタフという男を追いたいんだ。

この島の異変は、おそらく序の口に過ぎない。

このまま見て見ぬふりをしていたところで、いつか災いが訪れるだろう」

 

そしてエレサールさんはアイリスの方へと視線を向けた。

 

「アイリス、君はきっと、何か特別な宿命を背負っているのだろう?」

「は、はい」

「……アイリス、いや白の巫女―

微力かもしれないが、私の力を君に預けたい」

「エレサールさん……はい、大歓迎です。

ね、みんな?」

「ああ。

エレサールさんが来てくれるなら、スゴく心強いからな」

「へへっ、そうだな」

「アタシも問題なーし!」

「(もちろん、俺もだ!)」

「ありがとう、これからよろしく頼む」

 

そしてエレサールさんは、ラーレッタさんの方へと体を向けた。

 

「……と、いうことだ。

ラーレッタ、後の事は頼むよ」

「はいはい、分かったわよ。

留守は私に任せて、気をつけて行ってきなさい、エレサールさん」

「ああ、もちろんだ」

 

エレサールさんの返事に微笑みながら頷いた後、ラーレッタさんは俺達の方へと視線を向けた。

 

「あなた達も、気をつけてね。

旅の無事を祈ってるわ」

「「「はい!」」」

 

ラーレッタさんの言葉に、俺達が声を揃えて返事をした後、アイリスが静かに微笑みながら俺達に声を掛けてきた。

 

「さぁ――それじゃあ、飛行島に戻りましょう!」

 

俺達はその言葉に頷いた後、エレサールさんと一緒にラーレッタさんに別れを告げ、飛行島に向けて歩き始めた。




政実「第6話、いかがでしたでしょうか」
リオス「今回でイスタルカ島Normalが終わったから、次回からはバルラ島Normal編だな」
政実「うん。後はイスタルカ島Hardも書けそうな時に書いていくつもりだよ」
リオス「了解。
さてと、次回の投稿予定はいつ頃になりそうなんだ?」
政実「まだ未定だけど、出来る限り早めに投稿出来るようにするつもり」
リオス「分かった。
そして最後に、この作品についての感想や意見、評価もお待ちしています」
政実「よし、それじゃあそろそろ締めていこうか」
リオス「ああ」
政実・リオス「それでは、また次回」


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