奴隷少女との生活 (hiyamugi)
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奴隷との生活 1日目 朝 「奴隷少女との出会い」

この原作のゲームをやってからというもの、続きのストーリーを知りたいけど同人ゲームだから知ることができない。
なので自分で作ってみようとおもいました。
小説などいままで書いたことはないので違和感を感じるところもあると思いますがよろしくお願いします。

 ところどころオリジナルですのでご了承ください。


 薄暗い埃まみれの物置の一端、そこには一人の女の子が体を小さく丸めて座っていた。身にまとっているのは血痕のついた薄汚れている布切れ一枚、からだ中には見るに堪えない火傷の痕、乱れた白銀の髪の下に覗く瞳にもはや光はなかった。

 

 私は奴隷、私は感情を持たない人形、私はご主人様の玩具。

 

 誰も信用しちゃいけない。

 

 なにも感じちゃいけない。

 

 それが私にとって一番幸せな生き方。

 

 希望なんて持っちゃダメ。期待なんてしない。だって・・・

 

 私は奴隷。もう、裏切られて絶望を見るのは嫌だから。

 

 

 

 ある日の早朝、私は馬車の荷車の中で道を走る音だけを聞いて揺られている。

 これから新しいご主人様のもとへ行くらしい。以前お世話になっていたご主人様がお亡くなりになってから、遺産相続の一部として私はある商人の方のもとに預けられた。

 行き先はわからないけどどこに行っても私の扱いは変わらない。私の生きがいはご主人様のために悲鳴をあげること。悲鳴をあげてご主人様に喜んでもらえさえすればご飯はもらえる。

 

 そんなことを考えていると馬車が止まった。

 

 「おい、降りろ」

 

 商人の方の声が荷車の外から聞こえる。

 

 「はい」

 

 返事をし、奴隷の女の子は火傷の見える素足で荷車から地面へと降りる。久しぶりに浴びる太陽の光。今まで地下室で飼われていた彼女にはあまりにも眩しく、温かく思えた。

 

 (光を浴びるなんていついらいかな・・・次、太陽の下に出られるときは私・・・生きてるのかな・・ふふ)

 

 「お前はここで少し待ってろ」

 

 商人のおじさんは奴隷の彼女にそう言い残し、目の前の少し古びた大きめの建物の中へと入っていった。

 奴隷の少女は言われるがまま、建物の入り口手前でこれが最後と言わんばかりに太陽の光を一人堪能するのであった。

 

 

              ~数分前~

 

 「え~と・・あの書類どこしまったっけ?まずい・・・実にまずいぞ・・・これは」

 

 ある診療室で一人、医者である男は焦っていた。

 名はベルト、歳は28と医者としては若く、身長は175cmと通常男性の背丈ほど。目は垂れていて常に眠そうな雰囲気を醸し出していた。生まれてこの方、女性と付き合うどころかまともに接したこともない。

 

 「あ~ぁ・・・こんな町はずれの病院じゃ患者もそんなに集まらないし。親父の病院を継いだけど俺向いてないのかな」

 

 ベルトはこの病院を継いで約5年、一人で切り盛りしていた。ベルトの父は五年前に流行りの病にかかり死亡している。それまでベルトに病院を継ぐ意思なんてものはこれっぽっちもなかった。それでも、ベルトの父が息を引き取る直前に絞り出して言った言葉

 

 「俺の病院を・・頼むぞ」

 

 こんなことを言われてしまっては息子として無下にするわけにはいかない。

 それからというもの必死で医学を学び、毎晩父のレポートや書物を読み漁った。

 彼のいる街に病院自体は少なく、この病院も指折りの病院だ。だがそれ以上に立地が悪い。お年寄りの患者や子供には少々荷が重いのだ。

 

 「悪いな親父・・やっぱり俺だけじゃ荷が重いわ。少なくても血を分けた兄弟でもいてくれればなぁ」

 

 なんて意味のない愚痴をもらしながらベルトが書類探しを再開しようとしたその時、受付のほうから呼び鈴を鳴らす音が聞こえてきた。

 

 「ん?患者か?・・はーーい!少々お待ちください!!」

 

 ベルトは小走りで受付まで向かう。病院自体以外に広い構造であり、返事をしてから十秒ほど待たせてしまった。

 

 「申し訳ございません!大変お待たせいたしました!本日はどうなさいましたか?」

 

 ベルトは自慢の営業スマイルをどこかで会ったことのあるような見覚えのある男性へと向けた。

 

 「どうも、先生。覚えておいでですか?」

 

 やはりどこかで会ったことがあるようだ。ベルトはここ最近の記憶から過去の記憶まで脳をフル回転で思い出そうとする。

 

 「昔先生に命を拾ってもらったものですよ」

 

 「あ、あのときの」

 

 そういわれるとたしかに見覚えのある顔だ。およそ一年前くらいに街中で倒れていた男性を治療したことがあった。あきらかに関わってはいけないトラブルだとは思ったが彼は医者だ。怪我人を前に見て見ぬふりなんてできない。

 

 「あの時はろくにお礼もできずに去ってしまって、申し訳ありませんでした。偶然近くの街に用事がありましたのでお礼に参ったのです」

 

 「いえいえ、元気そうでなによりです。もしよければお茶でも」

 

 少し怪しい臭いのする男だがわざわざお礼に来たのだから、悪い人ではないのだろう。

 

 「いえ、長居するつもりはありませんのでお構いなく。それよりこれを・・」

 

 男から渡されたのは厚めの封筒だ。中身を除くと明らかに治療費より多めに用意されている札束であった。

 

 「い、いや、こんなに・・受け取れませんよ」

 

 「支払いが遅れてしまったほんのお詫びです」

 

 「お、お詫びって・・」

 

 さすがのベルトも急な大金に免疫はなく情けない声を出してしまう。そんなベルトをよそに男は続ける。

 

 「あともう一つ、持ってきたものがあるのです。おい、入れ」

 

 男の声の後に視界へ入ってきたのは一人の女の子であった。彼女はベルトと目を合わせることもなくお辞儀をする。背丈も小さくおそらくまだ十代であろう。それらの情報より先に目に映ったのは痛々しいほどの火傷の痕。

 

 「まぁ詳しい話は後にしてどうですか、先生。余計なお世話でしょうが先生は今もおひとりで暮らしているご様子。ここは一人でも奴隷を引き取ってみてはいかがでしょう?」

 

 まさに開いた口が閉まらないとはこのことだ。

 

 (奴隷!?え!?この男は何を言ってるんだ・・こんな小さくてか弱そうな女の子が奴隷?じゃぁこの子の傷は意図的につけられたものなのか?)

 

 「も、もし俺が引き取らなかった場合この子は?・・・」

 

 聞きたいことがたくさんある中、一番この質問の答えがひっかかった。その質問に男は

 

 「そうですねぇ、残念ですが処分でしょうかね」

 

 体の底から湧き上がるような憎悪、怒り、さまざま感情があふれ出てきた。いつの間にか握りしめていた両手には滴るほどの手汗が握られていた。

 

 (なんでこんな簡単に処分なんて言葉が出てくるんだ!?処分ってあれだろ・・殺すってことだろ)

 

 「どうしますか?先生」

 

 男のその質問に対するベルトの答えはもう決まっていた。いや、人間であるならこの質問自体おかしい。

 

 「うちで・・・引き取りましょう」

 

 ベルトのその答えに男は怪しげな笑みを返し、彼女をおいて去っていくのであった。




最後までお疲れ様でした。


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奴隷との生活 1日目 昼 「奴隷少女の扱い方」

こんな小説でも少しでも原作に興味をもって頂けると幸いです。


( さてさて、これからどうしたものかな)

 

ベルトは部屋の片隅で小さくなって座っている少女を横目に頭を抱えていた。彼女はついさっき、昔に命を救った商人の男から譲り受けた子だ。

 

(後先考えずに返事してしまった。でも殺されるとわかっていてそのまま追い返すなんてできるわけがない)

 

彼女はというと、ずっと天井の一点を光のない瞳で見つめるだけ。生気なんて全くと言っていいほど感じられない。

 

(とりあえず話してみないことには始まらないよな。少しずつでもお互いを知ることができれば、、!)

 

ベルトは使い古したイスから腰を上げ奴隷の彼女の前まで歩み寄る。それでも彼女と目を合わすことができない。というより合わせようとしてくれないのだ。

 

「初めまして。俺の名前はベルト、一応この病院のオーナーで医者なんだ。ていってもこの病院には俺しかいないんだけどね。君の名前は?」

 

ベルトが声をかけると相変わらず目を合わせてはくれないがその質問に血の気のない唇から淡々と言葉を紡いでくれた。

 

「初めまして。私の名前はシルヴィと申します。・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「え、えっと、失礼かもしれないけど歳は何歳かな?」

 

「いえ。たぶん18歳くらいかと思います」

 

「たぶん?」

 

「はい」

 

「・・・」

 

2人の間にはまたもや沈黙が流れる。病院のある一室には時計の振り子の音、窓の外から聞こえてくる風音、そしてベルトの息を呑む音だけが響き渡るのであった。

 

 

シルヴィが新しいお家に連れてこられてから小一時間、新しいご主人様はいくつか質問をしてからまたもといた席に座って何かを考え込んでいた。

 

(どうしたのかな、もしかしてこれからどうやって悲鳴を上げさせるか考えているのかな?)

 

今、シルヴィの脳内には以前飼われていたご主人様にされてきたことを再び思い出していた。

以前のご主人様はとにかく悲鳴が大好きで特にお気に入りなのが薬品を使っての遊びだった。その薬品を肌にかけられるとたちまちにその箇所が火で炙られているように熱くなり、皮膚はいとも簡単にその薬品と共に地へと流れ落ちた。

 

(ここは病院っていってたし、きっともっと痛くて、苦しいお薬がたくさんあるんだろうな)

 

シルヴィは窓際に置いてある棚の段を上からゆっくり眺めていた。今まで文字を習うことがなかったシルヴィには薬品のラベルの文字は読めない。

だが、どの薬品を見ても昔のご主人様の持っていたあの薬品を連想させる。

 

(ここが私の最後のお家になるのかな・・・)

 

シルヴィはただ理由もなく棚の薬品一つ一つの読めない文字を目で追っていた。

 

 

(困った。実に困ったな。質問してもその答えしか返してくれない)

 

ベルトはもといたイスに腰掛け頭を抱える。今まで女子という生き物と接する機会なんてほとんどなかった。ベルトの父親が生きていた頃は妹とも同居していたが父親が死去してからは父親の姉のもとに引き取られていた。

 

グゥゥゥ・・・

 

病院の一室の沈黙を破ったのはベルトの品のない腹の虫だった。それでもシルヴィはなにも反応を示さない。

 

(無い知恵を絞っても解決策なんてでてこないだろ。もう昼時だ。とりあえず飯だ)

 

「シルヴィちゃん、もうお昼の時間だからご飯にしよう。リビングはこっちにあるからついてきて」

 

「はい」

 

シルヴィはか細い腕を支点に立ち上がり、ベルトのもとに歩いてくる。側に寄ってみてわかる。

白銀の髪はまったく手入れなどされておらずまともにお風呂も入れてないのであろう。腕や足を見るに細すぎる。確実に栄養が足りていない。そしてシルヴィの瞳、孤独・絶望・諦め。とても冷たい瞳をしていた。

 

(きっとこの子はここに来るまでに俺なんかには想像もつかないような辛くて酷いことをされていたんだろうな。そんな日常が彼女には当たり前で、生きるために仕方のないことで・・・。簡単に心を開いてくれるなんて思えないけど少しずつでも彼女との距離を縮めたい。そのためにも・・・)

 

「じゃ、シルヴィちゃんはそこのイスに座って待ってて」

 

「いえ、私は床で大丈夫です。私のようなものが座ってはご主人様のイスが汚れてしまいます」

 

ベルトの心がズキっと痛む。

 

(いったいどれだけ酷い扱いをされていたんだ)

 

「そんなこと気にしなくて良いんだよ。もうシルヴィちゃんはこの家の同居人なんだから好きなようにくつろいで」

 

「ありがとうございます」

 

シルヴィは感謝の言葉を紡ぐのとは裏腹に部屋の端の床に座った。ベルトはそんなシルヴィの行動を見て心が締め付けられるような哀しさを感じた。

 

(きっとこの調子だとまともなご飯も食べさせてもらってないのだろう。こうなったら格別に美味いご飯を作って笑顔にさせてやる)

 

「よし!」

 

ベルトは両頬を叩いて気合いを入れ、キッチンへと向かった。

 

 

テーブルには色とりどりの料理が不規則かつ綺麗に並べられている。楽しみに取って置いてあった大きめのビーフステーキや、豆のサラダ、ミネストローネからデザートのフルーツ盛り合わせなどなど。

 

(よし。我ながら良い出来だ。毎日、毎週、毎月一人飯食ってる俺にはこれくらい朝飯前だ!シルヴィちゃんの反応はどうだ!?)

 

「・・・ご主人様。もしかしてお客様でも来られるのですが?でしたら私はどこかに隠れていた方が良いのでは?」

 

(そうきたかぁ・・・)

 

シルヴィはご飯にも目を向けず早く隠れようと床から立ち上がる。

 

「違う違う!これはシルヴィちゃんのご飯だよ!長旅でお腹も空いてるでしょ?」

 

「え?・・・」

 

シルヴィはここにきて初めて動揺を見せた。まさか自分のご飯だとは思ってもいなかったようだ。

 

「こ、このような豪華なもの私にはもったいないです。それにまだ・・・悲鳴を上げてないですよ?」

 

「悲鳴?」

 

シルヴィの言葉の中にある違和感のある単語を思わず聞き返してしまう。それもそうだ、普通の日常を送っている普通の人間にはそう聞き慣れている単語ではない。

 

「はい。以前のご主人様は私の悲鳴を聞くことで大変喜んでくださいましたし、ご飯も私が悲鳴を上げた日だけは少し豪華にしてくださいました」

 

シルヴィは辛かったであろう過去を話すと昔の火傷が痛むのか自分の両腕をさするように抱きしめた。そんな彼女を見たベルトはシルヴィの傍に寄って彼女の白銀の頭を優しく撫でつけた。

 

「そうだったんだ。・・・でもこれからはそんな辛い思いさせないから」

 

「?」

 

そのベルトの行動にシルヴィは困ったように首を傾げる。

 

(この子は俺が守ってあげたい。別にやましい気持ちからなんかじゃない、ただこの子、シルヴィを笑顔にさせたい。ただそれだけだ)

 

「よし!ご飯にしようか」

 

ベルトはそう言うとシルヴィを席につかせ初めての二人の食事を始めるのであった。

 

 

「ご馳走様でした」

 

「・・・ご馳走様、でした」

 

ベルトは満腹に満たされたお腹を上下に何度もさする。シルヴィはというと食事が終わると困惑した表情で視線を泳がせている。こんなに満足ゆくまで食事をしたことはなかったのであろう、初めて感じる満腹感。だがそれと相まって伺えるのが不安や疑心の色である。

 

「この後は・・・どうなさいますか?」

 

シルヴィは手にしていたフォークをテーブルに置き、ベルトに向かって尋ねた。その一瞬をベルトは見逃さなかった。シルヴィのフォークを持っていた細い手が僅かに震えていたことを。

 

「そうだなぁ、じゃぁこの家の中を案内しようか。どこにどの部屋があるか知っておいたほうが良いしね。これから住むんだから」

 

ベルトは笑いながらそう伝え、シルヴィになるべく恐怖心を抱かせないように手招きでついてくるように促す。

 

「はい、承知いたしました」

 

シルヴィは恐さを胸の内に押し殺しそう言うとベルトと一定の距離を保ちながらついてくる。その距離は目測2.5mほど、さすがに1日目の少し豪勢な食事だけではダメか・・・と、ベルトは頭を垂らした。

それからベルトはシルヴィに無駄に広い病院内を一部屋一部屋簡素な説明をしながら回った。診察室や物置、トイレそしてベルトの自室。そこで今までずっと頷くだけだったシルヴィが初めて質問を口にした。

 

「すみません、図々しいのですが私はどこで寝たら良いですか?場所が無ければ外でも私は平気ですので」

 

と、シルヴィは淡々と言うがベルトがそんなことさせるわけもない。それにここは病院だ、使ってない部屋にベッドなんていくつもあった。

 

「女の子にそんなこと言えないよ。じゃぁシルヴィちゃんはここの部屋を使って。一応、お客人が急遽泊まることになったときに使ってもらう部屋なんだけど、俺がオーナーになってから一回も使ったことなかったな」

 

少しでも和んでもらおうと冗談交じりに笑みも混ぜベルトは言った。シルヴィは引け目を感じているのか何か伝えようとしたが、

 

「・・・それでは、ありがたく使わせていただきます。もしこの部屋が必要になったら教えてください」

 

「うん、そうするね。今日はいろいろあったから疲れたよね。夕食の時間になったら呼びに来るからそれまで休んでて」

 

そう言い残してベルトは部屋を後にしようとドアノブを掴んだそのとき、背中から今にも消えてしまいそうなほど弱弱しい声が聞こえた。

 

「あの、ご主人様。私は・・・これからどうなるんですか?」

 

シルヴィは初めてベルトと視線を合わせてそう問いを投げかけた。シルヴィは今までとの待遇の違いが激し過ぎて何か裏があるのではないかと不安を隠せないでいた。それからシルヴィはまた視線を足元へ落してしまう。

 

「私は悲鳴を上げることが得意です。それに力はありませんが雑用仕事もやります。御飯も少量で私は満足です。だから・・・どうか、お手柔らかにお願いします」

 

シルヴィはこちらの返事を聞く前に続けて言葉を紡ぎ、頭を深く下げた。まだシルヴィとの心の壁はとてつもなく大きいものなのだとベルトは改めて感じた。

 

 

ご主人様が部屋を出ていかれてから一時間ほど経った。

 

(ご主人様は私なんかの奴隷のためにわざわざご飯を作ってくださったり、貴重なお部屋を一室貸してくださったり・・・とても親切にしてくださってます。でも私はそんなご主人様が怖い。実はご主人様には裏の顔があって、時が来たら優しくしてくださった分痛くて苦しいことをなさるんじゃないかと)

 

「私は奴隷。どこに行っても扱いは昔と一緒。ご主人様の望むことだけを私はすれば良いの」

 

シルヴィは自分に奴隷であることを言い聞かせ続けた。




お疲れ様でした。


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奴隷との生活 1日目 夜 「奴隷少女の涙」

初日はこれで完結です。
お付き合いありがとうございます。


シルヴィがこの家に来てから長いようで短かった1日が終わろうとしていた。シルヴィは部屋に案内されてからずっと出てこない。ベルトが呼びに行く、と言ってあるのだから当たり前だ。

現時刻は7時。そろそろシルヴィもお腹を空かす頃合いだろう。

 

「ご飯にしたいが昼飯を豪勢にしすぎて材料がないな。書類まとめで買い出しにもいけなかったしな」

 

ベルトはというとキッチンの主である冷蔵庫様と睨めっこをしていた。ああでもない、こうでもないと1人で悪戦苦闘していると。

 

「あの、ご主人様」

 

「うわっ!!」

 

思いがけない奇襲を受けたベルトは情けない声を上げ、ビクッと身体を浮かせた。ベルトはそんな自分の女々しさに恥じらいながらもシルヴィの方へ振り向く。

 

「シルヴィちゃん、どうしたの?お腹空いた?」

 

ベルトは顔を林檎のように赤くして尋ねる。シルヴィもベルトを驚かせてしまったことを申し訳なさそうに顔を曇らせ

 

「も、申し訳ございません。驚かせてしまって」

 

「ううん、気にしないで。それで?」

 

ベルトは自分が怒ってないことを証明するように笑顔でシルヴィと同じ目線まで顔を持ってく。子供には同じ目線で話すことで警戒心を和らげてくれると聞いた。

シルヴィは気まずいのか視線を左右上下に泳がせ、下を向いて言葉を続けた。

 

「あの、私にできる仕事はないですか?難しいことはできませんが掃除とか洗濯、お皿洗いなどはできると思います」

 

今まで雑用の仕事をするのが日課だったシルヴィには休むとは何をすれば良いのか理解できない。逆に仕事を任されないことがシルヴィは怖かった。この家に奴隷なんて必要ない。そのうち捨てられるのではないかと。

ベルトも薄々とはそのことに気づいていた。

 

(今まで働くことが当たり前だったんだから、急に仕事がなくなったら不安にもなるよな。軽い仕事くらいなら任せてみようかな)

 

「そうだね、働かざる者食うべからずとも言うし。じゃあ今から夜ご飯を作るから手伝ってもらってもいいかな?」

 

シルヴィは初めて仕事を任されたことに安堵しているのか素直に頷いた。それからベルトとシルヴィは一緒にキッチンへと向かい、料理を開始する。

 

 

「シルヴィちゃんは俺が切っていくレタスを水で洗ってもらっていいかな?ときどき虫が挨拶しに出てくるから気をつけてね」

 

「は、はい。でも良いのですか?ご主人様のお召し上がるものに私なんかが触れてしまって」

 

ベルトはシルヴィがときどき発する彼女自身を卑下する言葉には深く聞き返さないことにした。ベルトも聞きたくないことであり、シルヴィ自身も言っていて嬉しい内容ではないだろう。

 

「大丈夫、大丈夫!ほらほら、早く洗わないとどんどん切っちゃうよ〜!」

 

ベルトは慣れた手つきでどんどんレタスを切っていく。シルヴィが昔のことを思い出してしまう前に今の作業に集中していてほしいからだ。

 

「え、あ、はい」

 

シルヴィはわたわたと不慣れな手つきでレタスを洗っていく。その必死にレタスを洗っている姿が今日一番、女の子らしい姿を見れたとベルトは嬉しく感じた。

それから簡素なサラダは間も無く完成した。次に作るはハンバーグ。

 

「はい、これを持って」

 

ベルトが渡したのはハンバーグのもととなるひき肉。それをシルヴィは不思議そうにまじまじと見つめている。

 

「・・・これをどうすればよろしいですか?」

 

「うん、こうやって両手でペチペチして形を整えるんだ。星型でもハート型でも好きな形にして良いよ」

 

シルヴィはその言葉に頷きながらも戸惑うように控えめなペチペチをしている。型は普通に丸で作っているようだ。

 

 

完成!とはいっても昼のご飯と比べるとシンプルなメニューだ。シルヴィが洗ってくれたレタスを基盤に作ったサラダ、2人でペチペチして作ったハンバーグ、それと昼に余っていたミネストローネ。

ベルトが両手を合わせるとそれを見たシルヴィもおずおずと両手を合わせた。

 

「いただきます」

 

「・・いただきます」

 

こうしてシルヴィとの二度目の晩餐は始まるのであった。するとシルヴィはどこか困惑した顔でベルトに尋ねる。

 

「あ、あの・・・このハンバーグ・・・」

 

シルヴィが持っている器のハンバーグは彼女が整えたひき肉の形とは全く違っていた。それもそうだ、そのハンバーグはベルトがシルヴィを喜ばせるために作ったハンバーグなのだから。

 

「あぁ、可愛いでしょ!クマさんの顔を意識して作ってみたんだけどどうかな?」

 

その形は一つの大きいハンバーグに二つの小さいハンバーグ、耳を意識してくっつけたものだ。顔はケチャップで描いている。こんなことしたことないベルトのクマさんの顔は少し歪んでいた。

 

「わ、私が食べてしまってよろしいのですか?」

 

「もちろんだよ、シルヴィのために作ったんだから。たくさん食べて」

 

シルヴィは反論のため口を開こうとした瞬間、ベルトはシルヴィの柔らかい髪を撫でつけそれを遮る。

シルヴィは納得のいっていない様子ではあったが結果、

 

「・・・ありがたく頂戴いたします」

 

その返事にベルトはテーブルの下で小さいガッツポーズをしたのであった。

 

 

私は今、ご夕食を頂いてから自分の部屋にいます。ご主人様と一緒に食器を片付けた後にまた休憩時間というのをいただきました。

 

「・・・お腹いっぱい。こんなの初めて」

 

私は少し膨れた自分のお腹を一撫でしてベッドに腰掛ける。ベッドは優しくシルヴィを受け入れる。

 

「お布団もフカフカで・・・くんくん、良い匂いがする」

 

つい最近まで薄汚い倉庫のようなところで寝起きしていた。奴隷なんだからそれが当たり前。でも今のご主人様は?こんなに優しく、人として扱われたのなんて久しぶりだった。

 

「なんでご主人様は私みたいな奴隷に優しくしてくれるんだろう」

 

シルヴィは両足を抱き込み足の火傷を撫でる。こんな醜い姿の私なのに嫌な顔なんて一度もしてなかった。ついさっきまで気づかなかったけどご主人様、私の作ったハンバーグはご主人様が食べてたんだよね。普通の人間の方なら絶対気持ち悪がられてること。

 

「私・・・私分からない。もしご主人様のことを信じてしまって裏切られたら・・・」

 

そんな重い部屋の空気を破ったのはドアのノックの音だ。その主が誰なのかは聞かなくてもシルヴィには分かる。

シルヴィはベッドから降り、ドアを開ける。

 

「はい、どうなさいましたかご主人様」

 

思っていた通りそこに立っていたのは主人であるベルト様であった。

 

「いや、お風呂が沸けたから知らせに来たんだ。もしかして寝るところだったかな」

 

「いえ、そんなことはありません。何から何までありがとうございます」

 

お風呂まで支度してくださったのですか。命令してくだされば私が沸かしましたのに。

 

どうしてそこまで親切にしてくださるのですか?

ご主人様は奴隷のことを醜く思わないのですか?

なぜ殴らないのですか?

なにか目的でもあるのですか?

 

私の頭の中には様々な疑問が吹き返す。それを胸の内に留めておくことができず私は勝手に喋り出していた。

 

「ご主人様はどうして私なんかに優しくしてくださるのですか!?私の身体の傷を見て気持ち悪いって思わないのですか!?・・・もし私の悲鳴を聞くことを我慢しているようならそんなことしなくて大丈夫ですから!・・・これ以上優しく・・しないで・・・ください」

 

私は自分の言っていることが自分でも理解できなかった。それでもご主人様は理解しているのかのように私の言葉を正面から受け止めてくれていた。

私の片目から何かが流れ落ちてくるのを感じた。今までどんなに痛くて苦しいことをされてもこんな辛い感情を抱くことはなかった。

 

「殴りたいなら殴ってくださって構いません・・・他のことをお望みならなんでも言ってください!どんなことでも耐えてみせますから!だからっ・・・っ!!」

 

私の身体が急に暖かく、優しく包まれた。

 

「ご、ご主人様・・・?」

 

その正体はご主人様だった。ご主人様は私をその大きくて硬くて、でも優しい腕が包んだ。なんだろう、この気持ち。

 

「俺は絶対君を奴隷としてなんか見ない!!別に君を陥れるためにご飯やお風呂を沸かしたわけじゃないよ。たしかに君は今まで奴隷だったのかもしれない。たくさん辛くて酷いことをされてきたかもしれない・・・でももうそんな思いしなくて良いんだ。君のことは俺が絶対守るから、だから此処にいて良いんだよ」

 

私は泣いていた。悲鳴を上げたときに出した涙とは明らかに違う。なんだろう、これ、でも・・・嫌な気持ちじゃない。

私はなにかが切れてしまったかのようにご主人様の腕で赤ちゃんのように泣き喚いたのであった。

 

 

数十分後、シルヴィは寝てしまった。ベルトは彼女をベッドに寝かせ布団をかけてあげる。

 

「張り詰めてた緊張や恐怖の糸が一気に切れたんだろうな。あんなに悩んでたなんて」

 

ベルトはシルヴィの頭を二度、三度と撫で下ろす。シルヴィは涙のせいか、目の周りが少し赤くなっていた。

 

「君のためなら何でもしてあげたいって、そう思えたよ。今日が初対面なのにね」

 

ベルトはゆっくり立ち上がると出口へと向かう。

 

「お休み。また明日」

 

ベルトは音を立てないようにゆっくりとドアを閉めた。




お疲れ様でした。


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奴隷との生活 2日目 朝 「奴隷少女の笑み」

三か月間が空いてしまいました。
投稿は気分なのでご了承ください。


チュン、チュンチュン

 

どこからか鳥の囀りが聞こえてくる。窓からは爽やかな風が優しくベルトの頬を撫で、朝が来たことを知らせる。だが、ベルトはその知らせを受ける前にすでに起き1人悩んでいた。

 

「どうしよう・・・いきなり会った初日に抱きしめてしまうなんて。こんなの男として最低じゃないか?まあ最低だな」

 

ベルトは昨日の夜を思い出す。自分の存在を卑下し素直な気持ちをさらけ出して号泣するシルヴィをベルトはつい抱きしめてしまった。

 

「まずは謝ることが先決だよな。女の子に許可なく抱きついたんだから謝るのが常識だ・・・嫌われてたらどうしよう」

 

ベルトが1人ベッドの上でもがいていると

 

コンコン

 

誰かがドアをノックした。そのノック音を追いかけるように控えめな声も聞こえてくる。

「あ、あの、ご主人様。おはようございます。起きてらっしゃいますか?」

 

ドアの向こう側からベルトが起きているのか確かめる女の子が1人、シルヴィだ。昨日のことを訴えにきたのかとベルトの焦りはますます悪化する。

 

「う、うん!おはよ。今開けるね」

 

ベルトは両手で頬を叩いて一喝。謝ることを決意し、ベッドから五歩程のドアの前に立つ。ドアノブに手をかけ手前へとドアを引くと、なぜか怖がっているのか、少し震えるシルヴィがいた。

 

「わざわざ起こしに来てくれた、のかな?ありがとね」

 

目を合わせずシルヴィは華奢な首を横に振った。

「いえ、ご主人様に感謝されることでは・・・」

 

シルヴィはベルトに一度頭を下げ言葉を続ける。

 

「昨日は取り乱してしまって申し訳ございませんでした。それにご主人様に多大なご迷惑をおかけてしまいました。申し訳ございません」

 

「そんな!シルヴィが誤ることじゃないよ!・・・俺こそごめん。急に、その・・・抱きしめたりなんかして」

 

 申し訳なさそうに俯いているシルヴィに、ベルトは深々と誠心誠意込めて頭を垂れる。

 

 「もし俺のことを恨んでいるならこの頬に思いきっりビンタくらいかましてくれ!!・・・」

 

 「え・・・あの・・・」

 

 顔を上げたベルトの両目と口は堅く結ばれていた。ベルトとシルヴィの二人の間には静かな沈黙だけが流れた。

 

 「ご主人様?あの・・・わ、私は別に、そういったことをしに来たわけではなくて、いえ、私なんかがご主人様に手を上げるなんてことできるはずもなく・・・えっと・・・」

 

 「・・・」

 

 「私はただ昨日のお礼とご迷惑をおかけしたお詫びをしたくて・・・」

 

 言葉に詰まってしまい反応のないベルトに困惑するシルヴィの様子が、目の見えていないベルトにも容易に想像できてしまいベルトの口元は微かに微笑みだす。

 

 「・・・ップ、ハハ、あははは。シルヴィちゃん慌てすぎ」

 

 遂に我慢しきれず、ベルトは声を上げて笑い出した。いきなり声を出して笑い始めたベルトに驚きつつも、その純粋な笑顔に釣られてシルヴィの口元も穏やかに微笑んだ。

 

 「あ!シルヴィちゃん笑った!!」

 

 「え?・・・」

 

 シルヴィはすぐさまベルトに顔が見られないよう背を向けた。シルヴィはベルトに指差しで指摘されてから自分が笑っていることに気がついたのだ。

 今まで愛想笑いとして笑みを作ることはあった彼女だが、自分から無意識に笑みを作るなんてことなかった。

 

 「今笑ってたよね!?」

 

 「笑ってません・・・」

 

 「じゃあなんでこっち向いてくれないの?」

 

 「そ、それは・・・こんな火傷で醜い顔をご主人様に見せたくないからです」

 

 「またまた~。笑った顔も可愛いよ?」

 

 「え?かわっ・・・そ、そんなことないです!もう私はこれで!」

 

 廊下をスタタと小走りで駆けていくシルヴィをベルトは心から安堵した様子で眺めていた。昨日この家に来てから自分との会話の中で笑顔を見せてくれることなんてなかった。正直、一か月、もしくは一年、このまま心を開いてくれないものかと思っていた。

 

 「さすがに最後のは・・・うかつだったかな」

 

 と、一人呟いていると・・・

 

 

 ガタ、ガタガタガタガタ、ドス!!

 

 

 そのものすごい音は何かが階段を転がり落ちていくような打音。その発信源は・・・

 

 「シルヴィ!!??」

 

 ベルトは音の発信元へと全速力で駆けて行った。




お疲れ様でした。


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