ハイスクールD×D ~復活のG~ (さすらいの旅人)
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月光校庭のエクスカリバー
第一話


この度は「ハイスクールD×D ~復活のG~」を読んで頂き、ありがとうございます。

それではどうぞ!!


「ふわぁ………」

 

 何時も通りの時間帯に目覚めた俺は、これもまた何時も通りに洗面所で顔を洗っていた。

 

 俺――兵藤隆誠の朝はいつもこんな感じだ。

 

 そして俺が洗面所で一通りの作業を終えると――

 

「おはようございます、リューセーさん」

 

「おはよう」

 

 タイミングが良いようにアーシアがやってくる。

 

 顔を会わせる度に、いつも笑顔を見せるアーシア。そんな彼女に俺も思わず笑みを浮かべてしまう。こう言うのを癒しキャラって言うんだよな。

 

 無論そう思ってるのは俺だけじゃなく、イッセーや父さん母さん、ぶっちゃけ家族全員がアーシアの笑みに癒されている。今の兵藤家はもう彼女がいなくてはならない存在となっているし。アーシアを本当の娘のように接してる母さんが特に。

 

「アーシア、支度が終わったらイッセーを起こしてくれ」

 

「はい、分かりました」

 

 イッセーを起こしに行く事にアーシアは嫌な顔をしないどころか、寧ろ喜んでいた。大好きなイッセーを起こしに行くのが、嬉しい日常の一つでもあるからな。

 

「今日はちょっと違う早朝トレーニングをするから、寝顔を堪能したり、ドサクサに紛れて布団に潜り込んだりしないでくれよ?」

 

「っ! ど、どうしてそれを!?」

 

「ハッハッハ。俺が知らないとでも思ってたら大間違いだよ、アーシア。まぁ取り敢えず頼むわ」

 

「はう~……」

 

 俺の指摘にアーシアが顔を赤らめて可愛い反応をしたので、思わず意地の悪い笑みをしながらも洗面所を後にする俺。

 

 そして一通りの準備を終えた俺は玄関で十分程待っているんだが、イッセー達は一向に二階から降りてこなかった。

 

「………遅いな」

 

 いつもならもう来てる筈なんだが……。まさかアーシア、今日もイッセーの寝顔を堪能したり、布団に潜り込んでるのか?

 

 さっき注意したばっかりなのに何やってんだよ、あの子は。全くもう、しょうがないな。後でちょっとお説教しないと。お説教と言っても軽く済ませる程度だが。

 

 そう思った俺は再び二階に上がってイッセーの部屋に向かう事にした。そして部屋に着くと――

 

「部長さんずるいです! 私だってイッセーさんと一緒に寝たいのに!」

 

「アーシア、別にあなたまで裸になる必要は無いと思うわよ?」

 

「ちょ、ふ、二人とも落ち着いて!」

 

 何故か裸になってるアーシアとリアスがイッセーの奪い合いをしていた。

 

 そう言えばリアスは家に同居してから、ここ最近イッセーのベッドに潜り込んで一緒に寝ているな。

 

 でもまぁ取り敢えず――

 

「お前等ぁ! 朝っぱらから何やってんだ!?」

 

「「「っ!」」」

 

 朝からR指定な事をやろうとしてる三人に俺は一先ず渇を入れる事にした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 早朝トレーニングが終わった後、俺達は朝食を味わっていた。

 

「うむ、美味い。外国人なのに大したもんだねぇ」

 

「本当。こんなに美味しい味噌汁を作れるなんて」

 

「日本の生活が長いもので、一通りの調理は覚えましたわ」

 

 朝食を食べてる父さんと母さんがリアスが何品か作った料理を褒めていた。

 

 確かにリアスが作った料理は美味い。向かいの席に座ってるイッセーがさっきから美味そうにバクバクと食ってるからな。

 

 因みに向かいのイッセーの両脇にはリアスとアーシアが座っており、そして俺と母さんは真ん中にいる父さんの隣に座っている。

 

「ってか母さん。リアスが料理するのはOKで、どうして息子の俺は今もダメなんだ?」

 

「リアスさんは別よ別。それよりもリューセー。アンタこの前リアスさんの歓迎会の時に料理を振舞ってたけど、また腕を上げたわね」

 

「あ、分かった?」

 

 対抗心を燃やすかのように睨んでくる母さんに、俺は思わず苦笑いをしてしまう。

 

「いや~。この前知り合いから更に美味しくなるコツを教えてもらったから、つい試したくなったんだよ」

 

 知り合いと言うのはオカマのローズさんだ。筋骨隆々なあの人は見た目なんかと裏腹に、料理は繊細でかなりの腕前だ。オカマバーで出してる料理も凄く美味いからな。

 

 俺が時々コッソリとあの人の店に行っては料理のコツを教えてもらってる。それで俺の料理スキルが更に磨きがかかってるからな。

 

「全く。どうしてアンタは母親の私より美味しい料理を作れるのよ。母さんはこれでも地味にショックを受けたわ……はぁっ」

 

「まぁまぁ母さん、良いじゃないか。母さんだってリューセーの料理を美味しく食べてたじゃないか」

 

 嘆息する母さんに父さんがフォローする。父よ、そのフォローに大変感謝します。

 

「確かに兄貴が作る料理は殆ど絶品で――」

 

「イッセー、もうそれ以上言わないでくれ。リアスが段々恐くなってきた」

 

「あら、何の事かしら?」

 

 自分が作った料理より俺の料理を褒めてるイッセーに、リアスはどんどん恐ろしい笑みとなっていた。もうついでにアーシアも少しばかり涙目で俺をジッとみている。

 

「リューセー、この際だから言っておくわ。あなたに勝てない所は色々あるけれど、料理だけは絶対あなたに勝ってみせるわ」

 

「わ、私も負けません!」

 

 おうおう、随分と対抗意識を燃やしてるなぁ~。女としてのプライドってやつかねぇ~。

 

「ハッハッハ。君達の挑戦はいつでも受けて立つぞ~。何だったら今日から毎晩、料理勝負でもするか? 審査員は当然イッセーと父さんと母さんがやるって事で」

 

「え? マジ?」

 

「おお、それは面白そうだ。ここは父として厳正な審査をしなければいけないな」

 

「ダメよ。毎日そんな事されたら材料費がバカになんないわ。でも仮にやるとしたら、母さんはリアスさんとアーシアちゃんに有利な判定をすると思うわね」

 

 俺の提案にイッセーは戸惑い、父さんは乗り気だったが即座に反対する母さん。ってか、母さんさり気なくリアスとアーシア側に付いてるし。やっぱり娘が良いんだな。

 

 そんなこんなで楽しい会話をしつつも、リアスが急に何か思いついたような顔をする。

 

「あ、お母様。今日の放課後、部員達をこちらに呼んでもよろしいですか?」

 

「ええ、良いわよ」

 

 リアスのお願いに母さんはすぐに了承する。

 

「部長、どうして家で?」

 

「前に言ったでしょう? 今日は旧校舎が年に一度の大掃除で、オカルト研究部定例会議が出来ないのよ」

 

 ああ、そう言えばそうだった。俺もすっかり忘れてたよ。

 

 リアスが言う旧校舎の大掃除は使役してるリアスの使い魔達にやらせるものだが、俺とイッセーの両親の手前でそんなこと言えないからな。

 

「お家で部活なんて楽しそうです。部長さん。私、お茶用意しますね」

 

「ええ。お願いね、アーシア」

 

 となれば会議をするならイッセーの部屋にしておくか。俺の部屋は俺がいる事で光のオーラが充満してるから、悪魔のリアス達にはちょっとばかしきついだろう。

 

 まぁそれでも俺の部屋でやろうって言うなら、オーラを消す為に換気しといた方が良さそうだ。決して自分の部屋が臭うわけじゃないからな。……って、俺は一体誰に言ってるんだろうか。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 で、会議は結局イッセーの部屋でやる事になったんだが――

 

「これが小学生の時のイッセーよ」

 

「あらあら、全裸で。ちっちゃくて可愛いですわ♪」

 

「きゃっ!」

 

「……イッセー先輩の赤裸々な過去」

 

「イヤァァァアア!! 皆見ないでぇ! ってか母さん、んなもん見せんなよ!」

 

 それはもう完全にそっちのけだった。兵藤家で行うはずだった放課後のオカ研会議は、母さんが持ってきたアルバムで台無しになってしまったから。

 

 イッセーは恥ずかしい過去を見られてる為に、母さんを睨みながら悶えていた。ある意味、先日の『レーティングゲーム』の口説き文句よりきついかもしれない。

 

 そう言えば母さん、前に言ってたな。俺やイッセーが女の子の友達が沢山連れてきたら、俺とイッセーのアルバムを見せてみたいって。

 

 それが叶ってしまったから、母さんはあんなに嬉しそうな顔をしながらアルバムを見せてるって訳か。良かったな、母さん。俺たち兄弟にとっては嫌な夢だけど。

 

「……ああ、小さいイッセー」

 

 因みにイッセーに絶賛ゾッコン中のリアスは幼年期のイッセーの写真を見て、頬を赤らめながらまじまじと見つめている。

 

「……小さいイッセー小さいイッセー小さいイッセー」

 

 何かリアスがちょっと壊れた人形のように呟いているんだが、大丈夫か?

 

「部長さんの気持ち、私わかります!」

 

「アーシア、あなたも分かるのね? 嬉しいわ!」

 

 あらら、リアスだけじゃなくアーシアもか。好きな男の恥ずかしい写真を見ると暴走するんだろうか。

 

「そしてコレが小学生の時のリューセーよ」

 

 おいおい今度は俺かよ。勘弁してくれ、母さん。

 

 どうでも良いんだが祐斗。お前何で母さんが俺のアルバムを開いた瞬間、そんな興味深そうに見るのかな?

 

 そして母さんが俺の幼少時代の写真をリアス達に見せると――

 

「あら? イッセーと違って普通ね」

 

「普通ですわね」

 

「……今と変わりませんね」

 

「あ、小さいリューセーさんが小さいイッセーさんに怒ってる写真もあります」

 

「アハハ。何かリューセー先輩がイッセーくんの保護者みたいだね」

 

 リアスと朱乃と小猫は拍子抜けしたような反応で、アーシアと祐斗は笑みを浮かべながら見ていた。

 

 その反応に母さんは苦笑しながら説明しようとする。

 

「リューセーは小さい頃から凄く落ち着いてる子なのよ。でも不思議な事に、イッセーと一緒にアニメを見たりゲームしてる時は年相応にはしゃいでいたのよね」

 

 ほっといてくれ、母さん。その頃の聖書の神(わたし)は娯楽と言う素晴らしさを知り始めたばかりだったから、年甲斐もなく思わずはしゃいじゃったんだよ。まぁ見た目は子供だったから良いんだけど。

 

「へぇ。今のリューセーとは思えないほど、過去にそんなギャップがあったのね」

 

「意外ですわね」

 

 何だよリアスに朱乃。その如何にも俺の弱みを見つけたような意味深な笑みは。

 

 ひょっとしてこの二人、先日の修行の恨みを晴らそうと、ちょっとした仕返しをしてるんじゃないだろうか。

 

 だったら俺は――

 

「よし。今日は折角皆がいる事だし、久しぶりに俺がゴージャスな夕飯でも作ろうじゃないか。リアスと朱乃なんかより遥かに美味い料理を作ってやるよ」

 

 女としてのプライドを根こそぎ圧し折ってやろうと挑発する事にした。

 

 

 ピキッ!

 

 

 すると、俺の挑発にリアスと朱乃からは何かが割れたような音がする。二人は笑っているが、全身から怒気のようなオーラを発していた。

 

「ふ、ふふふふ……。リューセー、それは私たちに喧嘩を売ってると思って良いのかしら?」

 

「あらあら、うふふふふ。そこまで言われたら、私としても黙っていられませんわね」

 

 おお恐っ。短気なリアスはともかく、普段温厚そうな朱乃も聞き捨てならなかったようだ。

 

「朱乃、こうしてはいられないわ。今から私の部屋で作戦会議よ」

 

「分かりましたわ、部長」

 

「リューセー、あなたは私と朱乃を怒らせてしまったようね。あなたのその驕り、今日の料理勝負で消し飛ばしてあげるわ」

 

「上等だ。そっちこそ後悔すんなよ」

 

 完全に火が点いたリアスと朱乃は、一旦イッセーの部屋から出て行ってしまった。

 

 急な展開によりイッセー達は呆然とするも、その中で母さんがすぐにハッとする。

 

「ちょっとリューセー、アンタ何てこと言ってるの! あんな事言われたら誰だって怒るわよ!」

 

「良いじゃないか。今回は料理勝負するだけなんだからさ。それに母さんとしても、偶には大人数でわいわいと食事したいって言ってたろ?」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

「何れ義娘(むすめ)になるかもしれない彼女達の料理を、今の内に知っておいたほうが良いんじゃないかなぁ?」

 

「っ! ……………そ、そうね。母さんの口に合うかどうか確かめないといけないわね。じゃあ母さん、ちょっと買出しに行ってくるわ。それじゃ皆さん、ゆっくりしてってね」

 

 そう言って母さんは嬉しそうな表情でイッセーの部屋から去っていった。

 

 この一連の流れにより、未だに呆然としてるイッセー達は意識を取り戻す。

 

「はぁ~~。兄貴ってば相変わらず母さんを上手く誘導するなぁ」

 

「フフフ、娘を欲しがってる母さんの考えは手に取るように分かるんだ。ってな訳で祐斗に小猫。今日は家で夕飯をたくさん食べてってくれ」

 

「アハハ……。ではお言葉に甘えて」

 

「……夕飯が凄く待ち遠しいです」

 

 祐斗は苦笑し、小猫は嬉しそうにコクコクと頷いていた。特に小猫はいっぱい食べるだろうな。何せこの前の修行で、俺が作った料理を食べまくってたし。

 

「あうぅぅ、わ、私も部長さんたちと一緒に手伝ったほうが……」

 

 大丈夫だよアーシア。君には本日、料理の審査員と言う重要な役割があるから。

 

 そんな中、祐斗が再び俺達のアルバムを見ようとページを捲っていた。

 

 それに気付いた俺は、祐斗からアルバムを返してもらおうと思った。けれど、祐斗が急に何故か今のページをまじまじと見つめていた。その視線は、まるで何か予想外な物を見付けたかのように。

 

 何事かと思って俺も祐斗が食い入るように見てるページへ視線を落とす。これにはイッセーも気になって俺と同じことをする。その写真は小学生時代の俺と園児時代のイッセーの姿があった。

 

 その写真には俺やイッセーだけじゃなく、イッセーと同い年の園児とその父親が写りこんでいた。

 

 確かこの女の子(・・・・・)は嘗て近所に住んでいた子だ。よくイッセーとヒーローごっこして遊んでいたな。俺は二人がソレをやってるのを見物してたけど。

 

 イッセーが小学校に上がる前に、父親の転勤で外国に行ってそれっきりだった。

 

 けれど祐斗が見ているのは園児じゃなく、父親の方だった。いや、正確には父親が持っているもの――聖剣を指差す。

 

「お二人とも、この剣に見覚えは?」

 

 俺とイッセーに真剣に問う祐斗。さっきまでと雰囲気が変わったな。

 

 イッセーは祐斗の変わりように違和感を感じながらも答えようとする。

 

「いや、何しろガキの頃だから覚えてないな」

 

「……聖剣がどうかしたのか?」

 

「っ!」

 

 俺が聖剣と言った瞬間、祐斗は驚きながら即座に俺の方へと視線を移し――

 

「教えて下さい、リューセー先輩。この聖剣はいま何処にあるんですか?」

 

 今度は俺に詰問してきた。

 

 祐斗の目は果てしない憎悪に満ち溢れており、俺はどう答えようかと一瞬迷ってしまうほどに。




今回はダラダラ感を出さないように、なるべく短く済ませるようにやってみます。出来たらの話ですが……。


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第二話

 深夜。

 

 俺はイッセーの部屋でイッセーが契約者の家に行く準備を待っていた。

 

 イッセーが未だに契約件数が0件の為、今月は何としてでも契約を取りに行くようリアスから強く言われていたからな。

 

 因みにそのリアスだが、夕食で俺との第一回料理勝負で見事に完敗した為、ショックを受けて部屋に篭っている。朱乃も朱乃で料理勝負で負けたことによりフラフラな状態で帰ったが。

 

 あの二人がショックを受けるのは無理もないだろう。何せ俺、リアス、朱乃が作ったそれぞれの料理を審査員のイッセー達が食べた後、全員揃って俺の料理を選んだんだからな。

 

 リアス側に有利な判定を下すといっていた母さんですら、『料理に嘘は吐きたくない』と苦々しい顔で選んでたし。その瞬間、リアスと朱乃はあ○たの○ョーみたく、全身が燃え尽きたかのような灰色になってたし。

 

 自分から料理勝負を仕掛けた俺が言うのはなんだが、二人の姿に思わず罪悪感を抱いてしまったよ。まぁ勝った俺が二人を慰める訳にはいかないから、一先ずそっとしておく事にした。

 

 とまあ、それはさておいてだ。俺としては気掛かりな事があった。

 

「なぁ兄貴、今日の木場は変だったよな? 何かやたらと聖剣について兄貴に問い質してたけど」

 

 そう。イッセーの言うとおり、祐斗が見せたあの凄まじい変わりようは異常だった。

 

 あの時詰問してきた祐斗に、俺は『あの聖剣は持ち主と一緒に持ってったから、何処にあるのかは知らん』と答えた。

 

 勿論嘘じゃなく、実際本当に知らない。あの時の俺はまだ幼少期で、力の使い方も全然コントロール出来ない状態だったから、敢えて干渉しなかった。

 

 尤も、現在はある程度力を使えても、今更あの聖剣をどうこうしようだなんて微塵も思ってない。

 

 俺の返答に祐斗は――

 

『……そうですか。すみません、突然変なことを聞いてしまって』

 

 ――と言ったらすんなり引き下がった。けれど目は未だに聖剣に対しての憎悪は消えなかったが。

 

「……祐斗が聖剣に何かしらの憎悪を抱いているのは確かだが、今の状況では何とも言えんな」

 

「珍しいな。裏事情に色々と詳しい兄貴がそんな事を言うだなんて」 

 

「詳しいと言っても、相手のプライベートの事までは知らん。まぁ祐斗の過去を調べる方法はいくらでもあるが」

 

「………前から思ってたけどさぁ、兄貴って探偵とかに向いてるよな。今までも教会連中の一部が裏でやってた悪行を暴いたりしてたし。将来その職業に就いたほうがよくねぇか?」

 

 探偵、ねぇ。元とは言え神が人間の秘密を調査するって、色々とツッコミ所があり過ぎるな。

 

「案外それも良いかもしれんな。何ならお前が高校卒業したら、アーシアと一緒に俺の助手として雇ってやるぞ」

 

 あり得ないだろうが、もしミカエルや他の天使達が知ったら(こぞ)って聖書の神(わたし)の助手になりたがるだろう。

 

「う~ん……じゃあ俺が就活困難になった時に頼むわ」

 

「こんにゃろう。良い根性してるじゃないか。俺はいざと言うときの滑り止めか?」

 

 もしミカエル達が知ったら絶対怒りそうだ。聖書の神(わたし)の助手と言う地位を滑り止め扱いするとは何て罰当たりな、みたいな感じで。

 

 まぁ俺としては今そんな事どうでもいいだが。

 

「っと。お喋りは此処までだ、イッセー。今回は即行で契約者の下へ転移するぞ。今度はちゃんと契約取ってこいよ」

 

「分かってるって」

 

 そう言ってイッセーが俺が事前に出した転移術の陣の中心に立つ。それを確認した俺は、イッセーを前以て知った契約者がいる場所へと転移した。

 

 この時、俺はまだ知らなかった。イッセーが会った相手が、嘗て聖書の神(わたし)と決別した堕天使の総督である事を。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 あれから数日経って、今は学校の昼休み。

 

 オカルト研究部は今度やる球技大会の練習の日々を送っていた。勿論、夜の悪魔的な仕事もやっているが。

 

 そんな中、おかしな事が起きていた。それは木場祐斗。この数日、ずっと物思いにふけて心ここに在らずと言う有様だった。

 

 そうなったのは数日前に兵藤家でやったオカ研定例会議の翌日からだ。その時からずっと難しい表情で何かを考え込んでいて、定例のオカ研会議も全く話し合いに参加してないし、球技大会の練習も消極的だった。更には祐斗のクラスでも話題になっているようだ。

 

 アイツがああなったのは、聖剣が写った写真を見たからだと俺は確信してる。本当なら祐斗がどうして聖剣にあそこまでの憎悪を抱いてるのかを調べたいところだ。しかし、まだ何も起きてない状態で祐斗の過去を探るのは流石に気が引けたので、今は敢えて放置している。このまま何も起きず、いつもの祐斗に戻って欲しいと願いながら。

 

「ごちそうさまでした」

 

 母さんが作った昼食用の弁当を食べ終えた俺は、この場にいない母さんに対して言う。

 

 そして食べ終えた俺は弁当箱を鞄に仕舞い、部室へ行こうとする。今日は昼食を食べ終えたら部室に集まって、球技大会に対するミーティングをするらしい。

 

「おい兵藤ぉ、お前のエロ弟がぁ……!」

 

 教室を出ようとする俺に、クラスメイト達が俺を引きとめた。気のせいか、連中が何やら殺気立っているような感じだ。

 

「何だお前等? 俺これから部室に行かないといけないんだが」

 

 ここ最近、コイツ等はイッセーの事について俺に色々と尋ねてくる。それが続いてる所為で俺はウンザリ気味だ。もういい加減にして欲しいよ。

 

「その前に教えてくれぇ~……! お前のエロ弟からとんでもない噂が流れてるんだよぉ~……!」

 

 クラスメイトがそう言った瞬間、他の連中もウンウンと頷いて殺気立って行く。この様子だと、この前のリアス関係についての噂だと思うが。

 

「どんな噂だ?」

 

「何でもあのクソ野郎は美少女をとっかえひっかえしている野獣で、リアスさまと朱乃お姉さまの秘密を握って鬼畜三昧のエロプレイを強制してるらしいぞぉ!」

 

「………はぁ?」

 

 何だその噂は? アイツがリアス達にそんな事をしてる訳ないんだが。

 

 余りのおかしな噂に俺が首を傾げてると、他のクラスメイト達が続いて言おうとする。

 

「更にアイツは学園のマスコットアイドル塔城小猫ちゃんのロリボディにまで毒牙を向けて、未成熟な体を貪りつくしてるらしい!」

 

「そして、奴の貪欲なまでの性衝動は転校したてのアーシアちゃんにも襲い掛かってるじゃないかぁ!」

 

「あと他にも女の子だけじゃなく、同性の木場くんにも性欲を向けてるそうじゃない!」

 

「どっちなの兵藤君? あのエロ弟が攻めなの? 受けなの? 私としては木場くんが攻めなのを願ってるんだけど」

 

 最悪な噂だな、おい。リアス達だけじゃなく、男の祐斗もあるのかよ。

 

「……色々とツッコミ満載だが、先ず最初に教えてくれ。その噂の出所は?」

 

「聞いた話だと、エロ弟と一緒に居る変態三人組の二人が言ってたそうだ」

 

 ……噂を流したのは松田と元浜か。ったく、アイツ等は友人のイッセーを外道に陥れたいのか?

 

 恐らくアイツ等の事だから、オカ研には言ってリアス達と仲良くしてるイッセーに嫉妬して、仕返し気味にさっき聞いた噂を流したんだろう。本当にしょうがない奴等だ。

 

 そしてソレを聞いたイッセーも、恐らく松田と元浜を無言で殴っているだろう。これがもし付き合いが長くなければ、本気でボコボコにしてると思う。俺なら相手が付き合いの長い友人であろうとも、それなりの制裁を下しているがな。

 

 一先ずコイツ等の相手をするのは面倒だったので、「噂が本当だったら俺が直接お仕置きしておく」と言って部室へ向かう事にした。俺の返答にクラスメイト達は引き下がったが――

 

「是非とも木場くんが攻めである事を聞いといて!」

 

「木場くん×エロ兵藤のカップリングは絶対譲れないわ!」

 

 …………女子の戯言は敢えて何も聞かなかった事にしておこう。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「聞いたぞイッセー。お前、とんでもない噂が流れてるそうだな」

 

「おいおい、三年にまで流れてるのかよ……。松田と元浜め、何て奴等だ。こんな事ならあと二~三発殴っときゃ良かったな」

 

「い、イッセーさん、暴力はいけませんよ」

 

 旧校舎に着くと偶然二年のイッセーとアーシアと合流したので、一緒に部室へ行く事となった俺。

 

 その途中で噂の事を言った途端、イッセーが松田と元浜に対して恨めしげな台詞を言う。どうやら既に二人を殴っていたみたいだが。

 

 そして部室に入ると、既に俺達以外のオカ研メンバーがいた。ついでに、部員じゃない面々もいる。

 

「おお、ソーナじゃないか。久しぶりだな」

 

「ええ。この前以来ね、リューセーくん」

 

 ソファーに座っている駒王学園の生徒会長――支取蒼那ことソーナ・シトリーがいたので、俺はすぐに声をかけた。俺の挨拶にソーナは俺と同じく挨拶で返す。

 

 まさかオカ研の部室で駒王学園トップアイドル三人が集結するとは。凄い光景だよ。順位としては一番がリアスで二番が朱乃、三番がソーナだ。

 

 生徒会長のソーナが三番目である事に疑問を抱く者がいるだろうが、彼女は男子よりも女子の人気の方が圧倒的だ。ある意味でリアスや朱乃よりも人気がある。

 

 因みに俺がどうして名前で呼んでいるかについては、ミルたんの依頼報告後に生徒会へ顔を合わせた際、ソーナから名前で呼ぶよう言われたから。理由は『リアスに名前で呼ばれてるのに、私だけ名字で呼ばれるのは不公平なので』だそうだ。だから俺は支取からソーナと名前で呼び換えてるって訳だ。

 

 まぁ俺が彼女を名前で呼んでる事により、クラスの連中に色々と問い詰められたがな。特にソーナを慕っている女子達から。

 

 もうついでに――

 

「兵藤先輩。いくら会長に名前で呼んでも良いといわれたからって、ちょっと馴れ馴れしくないですか?」

 

「君も相変わらずだな」

 

 俺は目の前に居る生徒会唯一の男子――(さじ)(げん)()(ろう)から敵視されてるんだよな。

 

 コイツは最近生徒会の書記として追加メンバーで入った二年の男子生徒。当然コイツも悪魔だ。

 

「お止めなさい、サジ。先輩であるリューセーくんに対してその態度はなんですか? 失礼ですよ」

 

「す、すみません、会長」

 

「私にではなく、彼に謝ってください。ごめんなさい、リューセーくん。うちの眷族が失礼な態度を取ってしまって」

 

「……すみませんでした」

 

 ソーナに言われたとおり不満ながらも俺に謝ってくる匙。

 

「兄貴、何か恨まれるような事でもしたのか?」

 

「まぁちょっと、な」

 

 匙が俺にああ言う態度を取ってる理由は知ってるから、俺としてはあんまり気にしてない。

 

「それはそうと、何故ソーナたち――正確には上級悪魔シトリー家の次期当主であるソーナ・シトリーや、その眷属達が全員此処に来てるんだ? 確かソッチは『表』の生活以外で『裏』の仕事をしてるオカ研とは互いに干渉しない事になっているんじゃなかったか?」

 

「……やはりあなたは私たち生徒会だけでなく、コチラ側の事情も知っていたようですね」

 

「この学園に入学した以上色々と調べたからな。ついでに君があの魔法――」

 

「リューセーくん。いくら調べた情報とは言え、人前で公開するのはどうかと思いますよ?」

 

 ソーナの姉について触れようとするも、突然ソーナが割って入るように怖い笑みを浮かべながら言ってきた。

 

 ああ言ってくるって事は、やはりソーナは未だにあの魔王少女(・・・・)について触れて欲しくないようだ。

 

「それは失礼。じゃあ話を戻すけど、ソーナ達が此処に来た目的は?」

 

「今日はお互いに下僕が増えたので、その紹介と挨拶に来たのです。とは言え、リューセーくんは別として、そちらのお二人は眷族候補らしいですが」

 

「……こっちにも色々と事情があるのよ、ソーナ」

 

 ソーナが含んだ言い方をする事に、リアスが嘆息しながらもそう言い返す。自分とイッセーの実力差があり過ぎて今も眷族に出来ない、なんて言える訳が無いよなぁ。

 

 それでもリアスは何とか大好きなイッセーを自分の眷族にしようと頑張っているようだが。因みにアーシアはイッセーと一緒に正式な眷族悪魔にする予定だから、未だに人間のままだ。

 

「えっと、部長の眷族候補の兵藤一誠です」

 

「お、同じく部長さんの眷族候補、アーシア・アルジェントです」

 

 自分達の紹介と挨拶だと分かった二人は、すぐにソーナに名乗りながら挨拶をする。

 

「よろしく、兵藤一誠くん、アーシア・アルジェントさん。それにしても兵藤くん、あなたは兄のリューセーくんと同様に色々と驚かされましたよ。まさか学園の問題児の一人である君が、あれほどの実力者だったとは予想もしませんでした」

 

「は、はぁ、どうも。もしかして、部長から聞いたんですか?」

 

「いえ、この前の『レーティングゲーム』で知ったのです」

 

「………も、もしかして、か、会長も見てたんですか?」

 

 嫌な事を思い出すようにイッセーが汗ダラダラと流しながら尋ねると――

 

「ええ。勿論見ました。リアスがあなたに惚れるのは無理もないと良く分かりました」

 

「いぃぃやぁぁぁ~~!!」

 

「い、イッセーさん、落ち着いて下さい!」

 

 ニコリと答えるソーナにイッセーが頭を両手で押さえながら悶え始めた。イッセーの突然の行動に、この場に居る全員が驚愕する。

 

「ソーナ、悪いがその話題に触れないでくれ。今のコイツにとってはちょっとした禁句(タブー)になってるから」

 

「そ、そうだったの。ごめんなさい、兵藤くん。私としたことが……」

 

「………いえ、大丈夫です」

 

 悪い事をしたとすぐに謝るソーナに、イッセーはちょっと間がありながらも何とか元に戻った。

 

「兵藤先輩、この変態三人組の一人が本当に『レーティングゲーム』で活躍してたんすか? とてもそうは見えないんすけど」

 

「少なくとも、今の君ではイッセーの相手にすらならないよ」

 

「なっ! お、俺がこんな奴に!?」

 

 俺が事実を告げるも、匙は納得行かないような表情をしていた。

 

「ああ。それだけ君とイッセーとでは実力差があり過ぎるって事だ」

 

「………いくら自分の身内だからって贔屓し過ぎてませんか? 俺はこう見えて駒四つ消費の『兵士(ポーン)』です。最近悪魔になったばかりですが、それでもあの変態なんぞに負けないっすよ!」

 

「ほう? 言うじゃねぇか」

 

 挑戦的な物言いをする匙にイッセーがピクッと反応すると、ソーナが鋭く匙を睨む。

 

「サジ。お止めなさい」

 

「し、しかし、会長!」

 

「リューセーくんの言うとおり、いまのあなたでは弟の兵藤くんに勝てません。フェニックス家の三男を圧倒しただけでなく、その眷族たちの主力を彼一人で倒したのですから。人間でありながらも、赤龍帝の名は伊達ではないということです」

 

「赤龍帝!? ていうか、フェニックスや眷族たちをこいつが!? あのライザーを倒したのがリアス先輩だって聞いたから、俺はてっきりコイツは木場や塔城さんや姫島先輩の足を引っ張っていたものだと……」

 

「悪かったな!」

 

 匙が目元引き攣らせながら見ているのに対し、イッセーが心外だと言わんばかりに叫び返す。

 

 ってか匙君、君はイッセーを甘く見すぎてるよ。コイツが本気になれば、君程度を数秒で瞬殺出来るんだからさ。

 

 すると、ソーナが再びイッセーへ頭を下げる。

 

「度々ごめんなさい、兵藤くん、アルジェントさん。うちの眷族はまだ実績がないので、失礼な部分が多いのです。もしよろしければ同じ新人同士、仲良くしてあげてください」

 

 薄く微笑みながらソーナが二人にそう言った。相変わらず氷の微笑だねぇ。

 

「サジ」

 

「え、は、はい! ………よ、よろしく」

 

 渋々と言った感じで匙がイッセーに頭を下げた。それでもまだ不満のようだが。

 

「よろしくお願いします」

 

 アーシアが匙に屈託のない笑顔で挨拶を返す。

 

「ハッハッハ! アーシアさんが人間でも大歓迎だよ!」

 

 突然元気になったかのように匙がアーシアの手を取って、イッセーの時とは正反対の行動を取る。

 

 しかもアーシアの手を馴れ馴れしくセクハラするような触り方のように見えた。

 

「……なぁ兄貴、アイツをドラゴン波で殺しても良いよな?」

 

「おいおい、いきなり物騒な事を言うな。それにソーナが言ったろ? 今回は挨拶に来ただけってさ」

 

 

 パチンッ!

 

 

 俺が指を鳴らした瞬間、匙の周囲には十数本の光の剣と槍が囲んでいた。穂先は匙に狙いを定めたままで。

 

『…………………』

 

 この光景に匙だけでなく、この場に居る全員が頬を引き攣らせて固まっていた。

 

「匙君、俺も改めて挨拶しておこう。これからもよろしくな。無論俺だけじゃなく弟のイッセーの事もよろしく。ついでに俺の妹分であるアーシアに邪な理由で手を出すような事をしたら、その光の剣と槍が一斉に君を串刺しにするから覚悟しておくように♪」

 

「………………は、はい」

 

 俺からの挨拶に匙は恐怖に怯えて固まりながらも返事をする。

 

 その後からは大した問題も無く、リアスとソーナの話し合いは終わった。

 

 尤も、悪魔のソーナや眷属達は完全に俺が強めの光の剣と光の槍を出せる事に物凄く警戒されてしまったが。

 

 だから俺は――

 

「さっきは悪かったな。お詫びとして今度ソーナ達に俺の手作りスイーツを披露するよ。パティシエほどじゃないが、それなりのスイーツは作れるから」

 

「っ! ならば私もリューセーくんにお菓子を披露しましょう」

 

 詫びのスイーツを作る事にしたが、何故かソーナが俺に対抗するように自分もスイーツを作ろうとしていた。

 

「か、会長! ここは彼が作るお菓子の評価をしてみるのが宜しいかと!」

 

 しかし、副会長の真羅(しんら)椿姫(つばき)や他の生徒会メンバーが一斉に阻止していた。

 

 何だ? ソーナがスイーツを作るのは何か不味いんだろうか?



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第三話

今回はいつもより、ちょっと短いです。


「狙え! 兵藤兄弟を狙うんだ!」

 

「いや! 先ずはエロ弟の方を狙え!」

 

「おい兄貴、噂はデマだって流したはずじゃなかったのか? ってか何で兄貴まで狙ってるんだ?」

 

「アイツ等は噂云々とかより、俺達がオカ研に入部してること自体気に食わないんだ。俺も俺でリアス達と仲が良い事に嫉妬してる連中もいるし」

 

「「ってか何でさっきから当たんねぇんだよ!?」」

 

 球技大会当日。

 

 俺たちオカルト研究部は現在、部活対抗戦の初戦相手として野球部とドッジボールをやっている。

 

 文科系であるオカルト研究部が球技大会に出るのはおかしいと思われるだろうが、この駒王学園には文科系や運動系は一切関係無く、部があるところは必須で参加しなければならない。

 

 ついでにこの部活対抗戦の種目については当日発表によって決まったものだ。リアスが種目発表を確認してドッジボールをすると分かった瞬間、俺とイッセーは揃って嘆息してしまった。

 

 理由はさっきの俺とイッセーの会話で大体分かってるだろうが、目の前にいる野球部全員が俺達を狙っているからだ。しかも一方的な敵意と殺意も含まれている。

 

 野球部の連中が嫉妬目的で俺達を狙っているのには他にも訳がある。それは俺たち兄弟以外の部員以外に当てるわけにはいかないからだ。

 

 オカ研部長のリアスは駒王学園の二大お姉さまの一人で大人気の学園アイドルだから当てられない。

 

 オカ研副部長の朱乃もリアスと同じく二大お姉さまの一人で学園のアイドルだから当てられない。

 

 アーシアは二年生ナンバー1の癒し系天然金髪美少女だから当てられない。まぁアーシアに当てる奴がいたら、俺とイッセーが即行でソイツの顔と股間に豪速球で当ててやるがな。

 

 小猫は学園のマスコットキャラでロリ系美少女だから可愛そうなので当てられない。

 

 祐斗は学園一のイケメンで全男子の敵だが、当てたら全学年の女子達に恨まれるから当てられない。

 

 そして俺ことリューセーと弟のイッセーは何故コイツ等が美男美女揃いのオカ研にいるのかが分からないが、当てても問題ないだろう。寧ろ当てるべきだ。特に野獣のエロ弟の方は死ぬべきだ。

 

 と言うような心の声が、あの連中から聞こえるんだよな。まぁ、奴等の顔を見るだけでも充分に伝わっているが。

 

 ってな訳で、俺たち兄弟に対する悪意が集中してるんだ。それも全校生徒から。尤も、対象の殆どはイッセーだが。まぁ俺も俺でリアスたちオカ研だけじゃなく、生徒会長のソーナとも仲が良い事にソーナファンの女子達から睨まれてるけど。

 

「イッセーを殺せぇぇぇ!!」

 

「ついでにリアスさま達と仲が良い兄のリューセーもだぁぁぁあ!」

 

「何でお前等が揃いも揃ってオカルト研究部に入部してやがんだぁぁ! 羨ましいぞゴラァ!」

 

「お願い! 特にエロ弟の兵藤は絶対倒して! リアスお姉さまの為に! 朱乃お姉さまの為に!」

 

「そうだ! 何としてもアーシアさんを正常な世界へ取り戻すんだ!」

 

 ギャラリー共からの罵倒に俺は呆れて物が言えなかった。アイツ等はこう言うイベントに限って強気になるんだよなぁ。まぁそれだけイッセーに対する恨みが強いって証拠だが。

 

 けれど、俺とイッセーはそんなのをどうでも良いように聞き流していた。向かってくる豪速球をヒョイヒョイと避けながら。

 

「何なんだよあの兄弟は!?」

 

「左右や後ろから来るボールを一切見ないで避けてるぞ!」

 

「アイツら体全体に目でも付いてんのか!?」

 

 ハッハッハ。そんな殺気丸出しでボールを投げても当たらんよ。俺とイッセーは空気のちょっとした流れさえ読めば、ボールを見なくても躱せるんだ。

 

「さてイッセー。避けるのも飽きてきたから、リアス達に勝利を捧げる為にさっさと勝つとしよう」

 

「おう。俺もそろそろ反撃したかったところだ」

 

 そして俺とイッセーは避けるのを止めて、向かってくるボールを片手で簡単にキャッチするイッセー。

 

「ば、バカな! 俺の豪速球をあんな簡単に!?」

 

 投げたと思われる野球部の主将がアッサリ取られた事に少しショックを受けたような顔をする。

 

「殺意? ハハハハ、笑わせないで下さいよ。豪速球ってのは……こうするんですよ!」

 

 イッセーが片手に持ってるボールを投げると――

 

 

 ドンッ! ゴンッ! ドンッ!

 

 

「おぐっ!」

 

「ぐへっ!」

 

「あぶっ!」

 

 野球部主将の次に他の部員に当たるという一種のピンボール状態となった。それによりイッセーは一気に複数の部員達をアウトにする。

 

 この光景に殺気立っていた野球部員達やギャラリー達が一斉に静まる。イッセーが一度に複数の部員達を倒すなど考えもしなかっただろう。

 

「はい、次は俺だよ。あ~らよっと!」

 

 続いて俺が自分側のコートに戻ってきたボールを持ち、スピンをかけて投げると――

 

「いでっ!」

 

「あだっ!」

 

「げっ!」

 

 三日月を描くようなカーブボールとなり、イッセーと同じく複数の野球部員達をアウトにさせる。これで残りの野球部員は二名となった。

 

「おいおい何だよあの兄弟は!?」

 

「兄弟揃って連続当てって普通ありえねぇぞ!」

 

 ギャラリー達が息を吹き返したかのように驚愕しながら叫んでいる。

 

「ちょっとイッセーにリューセー! 貴方たちが殆ど斃しちゃうから、私たちの出番がないじゃない!」

 

 これには部長のリアスが抗議してきた。良いじゃんか、まだまだ初戦なんだから。まぁ取り敢えず二回戦以降はちゃんとリアス達に活躍させるとしよう。

 

 そう思いながら俺はイッセーと一緒に揃ってリアスに謝っていると、一人の豪胆な野球少年がボールの照準を祐斗に定め始めていた。

 

「クソォッ! もういっそ恨まれてもいい! くたばれイケメンめぇぇ!」

 

 俺たちとは違う憎悪で投げる野球少年に木場は全然気付いてないのか、未だ遠い目をして上の空状態だった。

 

 アイツ何やってんだよっ……! 少しは目の前の事に集中しろっての!

 

「おい木場! お前何ボーっとしてやがるんだ!」

 

 俺が駆けつけようとするも、何とイッセーが祐斗の元へ駆け寄っていた。珍しいな。あのイッセーが祐斗を庇うように前へ出るとは。

 

 そしてイッセーは向かってくるボールがフォークボールのように降下するも、自分の股間を守るように難なく片手でキャッチする。

 

「……あ、イッセーくん?」

 

「あ、イッセーくん? じゃねぇだろう! 何やってんだ、お前は!」

 

「へぶっ!」

 

 イッセーがそう言いながらボールと投げると、祐斗を狙っていた野球少年は受け止める事が出来ずアウトとなった。

 

 ナイスだイッセーと言おうとした俺は――

 

「ね、ねぇ。あのエロ兵藤が木場くんを守るなんて……」

 

「あの二人、やっぱりデキてる……?」

 

「だ、だとしたらやっぱり木場くん×エロ兵藤のカップリングが……!」

 

 ギャラリー側にいる女子達の会話に思わずイッセーに近づくのを躊躇ってしまった。

 

 ってか、何でイッセーが祐斗を助けただけであんな会話になるんだ? やっぱり今時の女子って、思考が変な方向に進んでるよな。コレも時代の流れってやつなのか? だとしたらすっごく嫌な流れなんですけど。

 

 そしてその後は、やっとリアスの出番が来たかのように残り一人の部員に当てた後――

 

『オカルト研究部の勝利です!』

 

 俺達の初戦突破が決まった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 球技大会が終わって少し時間が経った後、外はもう完全に雨模様となっていた。もし延長になってたら大変な事になっていたな。

 

 

 パンッ!

 

 

 すると突然、雨音に混じって乾いた音が響く。音の発生源は分かってる。それはリアスが祐斗の頬を叩いた音だ。

 

「どう? これで少しは目が覚めたかしら?」

 

 今のリアスは完全に怒ってる。それは当然だろう。

 

 今回の競技で祐斗は終始上の空状態でリアスが何度も怒っていたにも拘らず、どうでも良いようにずっと聞き流していた。

 

 これには流石に俺も何か言おうと思ったが、部長であるリアスが窘めているから敢えて口は出さなかった。

 

 もしリアスが怒っていなければイッセーが絶対にキレていただろう。アイツは祐斗の行動に何度も不満を漏らしていたからな。

 

 因みに競技は俺たちオカルト研究部が優勝した。俺やイッセーだけじゃなく、リアス達もかなり活躍していたし。

 

 と、それはさておき問題は祐斗だ。

 

 祐斗はリアスに頬を叩かれても無表情、そして無言だった。

 

 とても俺達が知ってる祐斗とは思えないほどの変貌ぶりだ。いつもは爽やかな笑顔を見せてる筈が、今は全くの別人と言っても過言じゃない。

 

 けれど、祐斗は唐突にいつもの笑顔となる。

 

「もういいですか? 球技大会も終わりましたし、夜の時間まで休ませて貰ってもいいですよね? すいません、先に帰らせて頂きます」

 

「おい待てよ、木場。おまえマジで最近変だぞ?」

 

「キミには関係ないよ」

 

 イッセーが問うも、祐斗は作り笑顔で冷たく返す。

 

「祐斗、イッセーが心配してるってのにその言い草は何だ?」

 

「心配? 誰が誰をですか? リューセー先輩も知ってる筈です。悪魔は基本、利己的に生きるものだと」

 

「だからと言って主のリアスに従わないのはどうかと思うが?」

 

「そうですね。確かに今回は僕が悪かったと思っています」

 

 指摘しても祐斗は全く反省してないような感じで謝ってくる。

 

「何かあるなら俺が相談に乗るぞ。一応俺はお前の先輩でもあり、協力関係と言えども今は仲間だからな」

 

 俺の言葉に祐斗は表情を翳らせる。

 

「仲間、ですか。悪魔と人間が仲間なんて、傍から聞いたらちょっとおかしいですね」

 

「それは今更だぞ」

 

「確かに。けれど僕も、ここのところ、基本的なことを思い出していたんですよ」

 

「…………それはつまり、聖剣に関する事か?」

 

『っ!?』

 

 俺の言葉に祐斗だけでなく、イッセーとアーシアを除くリアス達も驚愕する。

 

「ど、どうして、リューセー先輩がそれを……? 何処で知ったんですか!?」

 

「……あのさぁ。お前がこの前イッセーの部屋で、俺に聖剣について散々問い詰めてたじゃないか。あんだけしつこく訊かれたら、お前が聖剣に何かしらの恨みを抱いているだろうって容易に想像出来るよ」

 

 爆発するように叫ぶ祐斗に対し、俺は呆れ顔で理由を言う。

 

「祐斗、一体お前はどう言う理由で聖剣を恨んで――」

 

「人間のリューセー先輩には関係ありません!!!」

 

 尋ねようにも、祐斗は俺を突き飛ばすように吐き捨てた後、そのまま去って行った。

 

「あれま。ひょっとして俺、嫌われたか?」

 

「ってかすげぇ珍しいな。あの木場が兄貴に対してあんなこと言うなんて」

 

 確かにイッセーの言うとおり、祐斗が俺にあそこまで反抗的な態度を取るのは思ってもいなかっただろう。

 

 う~ん……。分かってはいたが、祐斗は『人間の俺に関係ない』と強く拒絶するほど聖剣に途轍もない憎悪を抱いてる、か。これはそろそろ祐斗の過去について調べたほうが良さそうだな。

 

 まだ何も事件は起きていないけど、何故か凄く嫌な予感がするし。

 

「…………なぁリアス、この際だから訊きたいんだが」

 

「……何をかしら?」

 

 俺からの問いにリアスは分かっているかのように問い返す。

 

「祐斗が聖剣を恨んでいるのは悪魔としての理由か? それともアイツが人間時代、聖剣に関わった不幸な出来事でも遭ったか?」

 

「……悪いけど、その質問には答えられないわ」

 

「じゃあ質問を変えよう。例えば教会が極秘にやってた悪行――『聖剣計画』に祐斗は関わっていたか?」

 

『っ!?』

 

 聖書の神(わたし)の名を利用した最悪とも言える行いの一つである聖剣計画について言った途端、リアス達は大きく目を見開いた。




なるべくダラダラ感を出さないようにしてるんですが……大丈夫かな?


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第四話

「全く。道理で祐斗が聖剣に対する憎悪が強い訳だ」

 

「にしても驚いたぜ。木場があの胸糞悪い計画の被害者だったなんてな……」

 

 イッセーの言葉に俺は頷く。

 

「ああ、俺も予想だにしなかったよ。まさかアイツがあの計画の生き残りだったなんてな」

 

 あのあと、リアスに一通りの質問を終えた俺はイッセーとアーシアと一緒に家に戻った。

 

 今は俺の部屋にイッセーとアーシアが入ってきて、改めて祐斗の事で話している。

 

 因みにリアスは朱乃と一緒に急遽入った依頼の為、今は契約者の下に行っているので此処にはいない。

 

「あの、リューセーさん。聖剣計画って一体どういうものなんですか? 教会にいた私は全く知らないんですが」

 

 イッセーと一緒にベッドの上に座ってるアーシアが、椅子に腰掛けてる俺に尋ねてくる。

 

「早い話、キリスト教内で聖剣エクスカリバーが扱える者を育てる計画だ。因みにコレは数年前までやってた」

 

「……初めて知りました」

 

 アーシアが知らないのは無理もない。何しろアレは教会の中でもトップシークレットにも入る計画だからな。

 

「教会出身のアーシアは当然知ってると思うけど、聖剣は対悪魔にとって最大の武器だ。リアスたち悪魔が聖剣に触れてしまえば(たちま)ち身を焦がす。斬られてしまえば成す術もなく消滅させられる。神を信仰し、悪魔を敵視する信徒にとっては一種の究極兵器だ」

 

「はい、私もそう教えられました」

 

 教会ならではの常識とも言える聖剣について、アーシアはコクンと頷く。元聖女であるアーシアが知らない訳がない。

 

「聖剣には様々な出自はあるが、その中で世界的に有名なのはエクスカリバーだ。だが聖剣は誰でも扱える物じゃなく、使い手を選ぶって言うかなりじゃじゃ馬な欠点がある」

 

「じゃじゃ馬、ですか……」

 

「おいおい兄貴、アーシアになんつー例えの仕方してんだよ」

 

「おっと、すまんすまん。でもまぁ、その例えは強ち間違っちゃいないんだ。もしその聖剣が自分に相応しい使い手じゃないと分かれば、例え相手が信仰が厚い教会の信徒であっても手に持った瞬間、火傷以上の怪我をさせるほど明確な拒否反応を示すんだ」

 

「教会の信徒でも、ですか?」

 

「ああ。それだけ聖剣は人を選ぶって事だよ」

 

 尤も聖書の神(わたし)の場合だったら、例え拒否されても強制的に従わせる術はあるけど。

 

「だからその聖剣――特にエクスカリバーを適応させる為の育成をしようと教会は極秘に計画した。さっきも言ったように、祐斗はその一人だ」

 

「では、木場さんはその育成によって聖剣を扱う事が出来るんですか?」

 

「いや、俺が調べた情報では聖剣の適応者は一人もいなかったらしい。祐斗も含めてな。そして誰も適応者がいなかった事に教会関係者は最悪な事を仕出かした」

 

「最悪なこと、ですか?」

 

 鸚鵡返しをしてくるアーシアに俺は頷く。

 

 本当ならあんまり教えたくはない。けれどアーシアはもう教会側の人間じゃないので、俺は敢えて教える事にする。アーシアにはこの先、教会の闇を知っておかないといけないからな。

 

「ああ。聖剣に適応出来なかったと知った教会関係者は、祐斗を含めた被験者達を勝手に『不良品』と決め付けて処分したそうだ」

 

「……しょ、処分って」

 

「………ちっ。何回聞いても嫌な言葉だ」

 

 予想通りの反応と言うべきか、アーシアは意味が分かったようにショックを受けたような顔をする。処分なんて言葉は、内容も容易に想像がつくからな。

 

 イッセーもイッセーで処分と聞いた直後、不快に顔を顰めている。

 

「処分した理由はたった一つ。『聖剣に適応出来なかった』からだ。これを知った俺は思わず教会へ殴りこみに行こうかと思ったくらいだよ」

 

「……そ、そんな。主に仕える者がそのような事をして良い筈がありません」

 

 アーシアはショックを受けて目元を潤ませている。

 

 自分の信じていた教会が裏切り行為をしてる事に、そりゃ泣きたくもなるだろう。

 

「無論、教会にはアーシアみたく善良な信徒もいるさ。だが中にはあくどい事をしてる信徒だっている。全ては神の為にやってる事だと、自分達の悪行を正当化する為にな」

 

 俺は過去に夏休み等の長期休暇でイッセーを連れて海外で修行の旅をしてた際、聖書の神(わたし)を利用して悪行をやってる事を知った信徒には文字通り神の天罰を下した。

 

 最初はマジで頭にきて、悪行をやってる信徒共のアジトをイッセーと一緒に壊滅させた後、二度と悪さが出来ないほど徹底的に叩きのめしたよ。因みに参加したイッセーも俺と同じ気持ちだったそうだ。

 

「教会の連中は悪魔を邪悪な存在だと言うが、俺から言わせれば、あくどい事をしてる人間の方が一番邪悪だと思うよ」

 

 嘗ての聖書の神(わたし)は自身の愛を与える事で信者達は幸せになってると思ってたが、今となってそれは大間違いだって思い知らされた。正直、愛する人間(こども)達に裏切られたようなショックを受けたよ。

 

 尤も、それは聖書の神(わたし)が勝手に思い込んでいただけに過ぎない。ちゃんと人間の本質を知ろうとしなかった聖書の神(わたし)も悪い。

 

「まぁそれはそれとしてだ。聖剣計画の被験者達は全員殺されたんだと思っていたが、まさか祐斗が生き残って悪魔に転生したとリアスから聞いた時は驚いたよ」

 

 今思えば祐斗が執拗に俺に剣の手合わせをして欲しいって頼んだり、矢鱈と魔剣に拘っていたのは、全て聖剣に復讐する為だったんだろうな。

 

 だが俺としては素晴らしい剣の才能を持ってる祐斗が、もう聖剣には拘らないで前向きに生きて欲しいと思う。恐らくリアスもそう思って祐斗を悪魔に転生させたんだろうし。

 

 リアスはそこら辺の悪魔と違って、眷族にする相手の事を考えて救おうとしているからな。リアスがそう言う悪魔だと知ってるからこそ、俺はイッセーやアーシアを眷族にする事を反対しない。

 

「で、兄貴はこの先どうするつもりなんだ? 木場の過去を知った以上、今度はマジで教会へ殴りこみにでも行く気か?」

 

「まさか。あの計画はもうとっくに無くなって、首謀者自体も既に教会から破門された。今更そんな事をしても何の意味もない」

 

 やるとしても聖剣計画の首謀者――バルパー・ガリレイが、もし未だに計画を継続させていたら徹底的に叩きのめす。ついでに奴が聖剣計画で考案した理論も根こそぎぶち壊してな。

 

「ともかく、今俺たちが祐斗に出来る事は暫く見守るだけだ。アイツはこの前の写真を見てぶり返しただけに過ぎない。時間さえ経てば、また普段の祐斗に戻る筈だ」

 

「写真って確か、アルバムを見せた時だったよな? そういや、あの写真に写ってた聖剣ってエクスカリバーだったのか?」

 

「いや、アレはエクスカリバーほど強力なものじゃない。まぁそれでも悪魔にとって厄介な聖剣であることに変わりは……って、もう聖剣の話題はここまでだ。いつまでもこんな話ばっかしてたらキリがなくなる」

 

 そう言って俺は聖剣の話をここいらで止める事にした。

 

「ほれ、もうこんな時間だ。今日は球技大会やって色々と疲れたから、さっさと寝るとしよう。あんまりアレコレ考えていても祐斗の機嫌が直るわけじゃない」

 

「そう言われても、俺まだ大して眠くは――」

 

「アーシア。リアスはまだ仕事から帰ってきてないから、この隙にイッセーと一緒に寝たらどうだ?」

 

「はうっ! い、イッセーさんと一緒にですか!?」

 

「………は?」

 

 俺の提案にアーシアが顔を赤らめると、イッセーは素っ頓狂な反応をする。

 

「ちょ、ちょっと待て兄貴。いきなり何言って……」

 

「アーシアは多分知らないと思うけど、リアスは家に住むようになって以降、裸のままでイッセーと何度か寝ているぞ」

 

「おい~~~~!! アーシアになんつーこと言ってんだバカ兄貴!!」

 

 戸惑うイッセーを余所に、俺がちょっとした情報を公開した途端に反応するアーシア。

 

「……な、何度も……? そ、そんな。イッセーさんと部長さんが何度も寝た……?」

 

 さっきとは別の意味でショックを受けてるアーシアは、プルプルと震えながら涙目になっている。

 

「ち、違うんだアーシア! 俺が寝てる間に部長が忍び込んでベッドに潜り込んでるだけで……!」

 

「こらこらイッセー。そんな慌てて弁明するような言い方すると、浮気を必死に誤魔化そうとしてる彼氏のようだぞ?」

 

「喧しい!! そうさせてんのはバカ兄貴の所為だろうが!!」

 

「さぁどうする、アーシア? 早くしないとリアスが帰って来ちゃうぞ~?」

 

「人の話を聞けよ!」

 

 俺がイッセーの叫びを無視しながらに問うと――

 

「うう~~……。部長さんばっかりずるいです! わ、私だってイッセーさんと一緒に寝たいです!」

 

「アーシア! そんなに俺と寝たかったの!?」

 

 アーシアは爆発するように叫ぶと、イッセーが予想外の反応を示す。

 

「決まりだな。それじゃアーシア、イッセーを部屋に連れて行ってくれ」

 

「はい!」

 

「ちょ、待ってくれアーシア! お、俺はまだアーシアと寝るって言った憶えは……!」

 

 見苦しい奴め。普段は美少女と一緒に寝たいと言ってたくせに、いざとなるとヘタレになるとは。

 

 するとアーシアは――

 

「イッセーさん、私と一緒に寝るのは嫌ですか?」

 

「うっ!」

 

 うるうると目を潤ませながら訴えた。しかも演技なしの本気だ。ってか、アーシアが計算高い演技をする訳が無い。

 

 アーシアの訴えにイッセーは罪悪感を抱くように一瞬固まるも――

 

「じゃ、じゃあ……今日は一緒に寝ようか」

 

「はいっ!」

 

 何かに負けたようにアーシアと一緒に寝る事となった。

 

 返答を聞いたアーシアは満面の笑みで、すぐにイッセーと腕を組みながら部屋から出ようとする。

 

「それではリューセーさん。お休みなさい」

 

「ああ、お休み。それとイッセー、もしやる時はなるべく静かにしてくれよ。じゃないと俺が安眠出来ないから」

 

「何の心配してんだよ!? いい加減マジで怒るぞ! ってかそのニヤニヤ顔止めろ!」

 

 イッセーが顔を赤らめながら俺に怒鳴ってくる。

 

 ハハハ~。今の俺は弟に罵倒されても痛くも痒くもないな~。

 

 そして二人が俺の部屋から出てドアを閉めたのを確認した後、俺はすぐに机の引き出しに仕舞ってる先日のアルバム写真を取り出す。ソレは祐斗が変貌する原因となった例の写真。

 

「………本当に何も起きなければ良いんだが」

 

 真面目な顔となってる俺は写真を見ながらそう呟くと――

 

 

 Piriririri! Piriririri!

 

 

 突然机の上に置いてる携帯が鳴り響いた。

 

「おいおい誰だよ、こんな時間に……え? ローズさん?」

 

 真夜中に電話だなんて非常識だと思いながら二つ折りの携帯を持ってディスプレイを見た途端、意外な人物からの電話に俺は少し驚いた。

 

 発信者がローズさんだと分かった俺は、不思議そうに思いながらも電話に出る。

 

「もしもし?」

 

『こんばんわ、リューセーちゃん。ゴメンなさい、こんな時間に電話しちゃって。もしかして寝てたかしらぁ?』

 

 久しぶりに聞いたローズさんからの声に、相変わらず声優の老本さんそっくりの声だなぁと思ったのは内緒だ。

 

「いえいえ、今はまだ起きてますよ。ところでどうしました? ローズさんがこんな時間に電話するなんて珍しいじゃないですか。いつもでしたらメールで知らせているのに」

 

『そうねぇ。でも今回ばかりは……至急リューセーちゃんの耳に入れておかければいけない、重要なお知らせがあって電話したのよ』

 

「っ!」

 

 いつものオネェ言葉でありながらもローズさんが凄く真面目な声を出してる事に、俺はただ事じゃないと認識する。この人が真面目になるって事は相当な事だ。

 

「そのお知らせとは?」

 

『今、この駒王町に複数の教会関係者が潜り込んでいるわ。しかも聖剣使いが』

 

「なっ!?」

 

 今一番当たって欲しくない予感が当たってしまった事に、俺は思わず驚きの声を出してしまう。

 

 祐斗が聖剣に対する恨みをぶり返してる時に、何でこんな状況で聖剣使いが来るんだよ! ちったぁ空気読めよ! ……って、向こうに取っては知った事じゃないか。

 

「………あの~、その聖剣使いが持ってるのって、まさかエクスカリバーだったりします?」

 

『あら、よく分かったわね』

 

 聖剣は聖剣でもエクスカリバーかよ……マジで最悪だ。

 

 まぁエクスカリバーとは言っても、今のアレは本来の聖剣エクスカリバーじゃない。

 

 あの聖剣は大昔の戦争で四散し、その折れた刃の破片を教会側が拾い集めて、錬金術を用いて新たに七本作ったレプリカに等しい物だ。とは言え、悪魔からしたら充分脅威な聖剣に変わりないが。

 

 だが所詮それ等はオリジナルのエクスカリバーに劣るから、今の俺や赤龍帝のイッセーでも充分に対処出来る。

 

『もしかしてエクスカリバーについて調べてる最中だった?』

 

「まぁ、当たらずとも遠からずってとこです。とにかく聖剣使いが来たことは分かりました。明日以降に俺とイッセーの方で対処しますよ」

 

 祐斗に知られる前に対処しておかないと、アイツの事だから絶対に聖剣を破壊しようと躍起になる筈だ。それだけは何としても阻止しないとな。

 

 俺がそう決意してる最中、ローズさんから予想外の返答が帰ってくる。

 

『いいえ、正直言ってその子達の事なんかどうでもいいわ。それにワタシが未熟な聖剣使い程度(・・・・・・・・・)のことで態々リューセーちゃんに電話なんてしないわよ。そんなのメールで済ませるし』

 

「? どう言う事です? ってか、その聖剣使いたちはどんな理由で駒王町(ここ)に来てるんですか?」

 

 確かに言われてみればそうだ。祐斗の事を除けば、聖剣使いが来たところで、慌てずに対処すればいい。加えてローズさんが駒王町に来る聖剣使い達を未熟だと言ってるんだし。

 

 となれば今回ローズさんが電話してきたのは、それ以上に面倒かつ厄介なものだと認識すべきだな。

 

 そう思いながら尋ねると――

 

『聖剣使いたちがこの町に来たのは、堕天使に奪われた3本のエクスカリバーを取り戻す為よ。しかもその堕天使は「神の子を見張る者(グリゴリ)」の幹部、コカビエルときたわ。ソイツはもうこの町に潜伏してるそうよ』

 

「っ! こ、コカビエルが!?」

 

 これまた予想だにしないローズさんの返答に再び俺は驚愕する。

 

 バカ娘の堕天使(レイナーレ)達に続いて、今度は戦争狂とも言えるバカ息子の堕天使(コカビエル)かよ!

 

 

 

 

 

 ~リューセーがローズと電話中の時~

 

 

「ちょっとアーシア。私がいない間にイッセーと寝るなんて卑怯よ。今夜は私に譲りなさい」

 

「い、嫌です。今夜は私がイッセーさんと一緒に寝るんです!」

 

「ちょ、ふ、二人とも、落ち着いて!」

 

「イッセー、私と一緒の方が良いわよね?」

 

「イッセーさん、私と寝てくれますよね?」

 

「え? あ、そ、その…………(ああ~~~~!! 俺は一体どっちを選択すれば良いんだ~~~~!!??)」

 

 私を選べと瞳で強く訴えてくるリアス、うるうると目を潤ませながら訴えるアーシア。

 

 二人の訴えにイッセーはどっちを選択すべきかと頭の中で必死に悩んでいたのであった。



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第五話

(やっぱり事が事だけにリアスに知らせるべきか……)

 

 電話でローズさんから重大な知らせを聞いた翌日。

 

 学校の昼休みで昼食を食べ終えた俺は今は誰もいない屋上にいて、リアスに教えるべきかどうか未だに悩んでいた。

 

 本当なら今朝に言うべきなのだが、今回はリアス達の手に負えない重大な案件だったから、すぐに教える事が出来なかった。聖剣使いはともかくとして、一番の問題は堕天使幹部のコカビエルだからな。

 

 コカビエルは堕天使の幹部であるだけじゃなく、嘗ての大戦で生き残った猛者(もさ)の一人でもある。超が付くほど実戦経験豊富なコカビエルに、未熟な上級悪魔のリアスと眷族達では天と地ほどの差があり過ぎて相手にならない。

 

 だったらここは俺が本気を出して、イッセーと一緒にコカビエルを倒そうって算段も考えた。が、それは最終手段にせざるを得なかったので今は諦める事にした。

 

 何しろ俺はリアスと協力関係にあるから、リアスに内緒で処理したら後々面倒な事になる。リアス個人の揉め事だけならまだ良いが、悪魔側からの揉め事は何としても避けたい。

 

 冥界の悪魔上層部――特に老獪な貴族悪魔共が下らない手を打ってくると思う。これ以上悪魔のメンツを潰さないよう、俺とイッセーを危険分子として内密に排除するとかな。自分達に不都合・不利益な存在と判断したらすぐにもみ消そうとするからな、あの連中は。

 

(………人間の俺達がコカビエルと戦う事にどの道変わりない、か。ならリアスに教える前にアイツ(・・・)に一報入れとくか)

 

 そう思った俺は懐から携帯電話を取り出し、登録してる一つの番号に電話する。

 

 待ち音が数回鳴った後――

 

「すいません、お忙しいところ突然電話して」

 

『今は休憩中だから構わないさ。寧ろキミからの電話は大歓迎だよ、隆誠くん』

 

 冥界にいる現四大魔王の一人、サーゼクス・ルシファーと繋がった。

 

 俺がサーゼクスと電話出来るのは、先日の『レーティングゲーム』が終わった後、サーゼクスが俺に携帯の番号をメルアドを教えたからである。

 

 何で人間界の携帯を持っているんだと俺は疑問に思っていたが、サーゼクス曰く「人間界にいるリアスとプライベートで話す時には必要だからね」だそうだ。本当に情報通りのシスコンだなぁって内心突っ込んだよ。

 

『ところで、今日はどんな用件かな? 私としては君に我が妹の素晴らしさについて語りたいところだが』

 

 サーゼクスは陽気に話しているが――

 

「残念ながら妹自慢をしてる場合じゃありませんよ、サーゼクス様。と言うか今、そのリアスや駒王町に危機が迫ろうとしているんですから」

 

『…………詳しく説明してくれるかい?』

 

 俺が言った途端に物凄く威厳のある声が返ってきた。恐らく今は深刻な表情になっている筈だ。

 

「勿論です。実は――」

 

 俺が昨日ローズさんから聞いた情報をそのまま伝えると――

 

『聖剣使いだけでなく、堕天使幹部のコカビエルもだと? その情報は確かなのかい?』

 

 サーゼクスは声を荒げずとも上擦っていた。予想外な人物が駒王町に来る事に驚いているんだろう。

 

「そうでなかったら今頃貴方に電話してませんよ」

 

『………一応訊くが、その事をリアス達には?』

 

 事は重大だと受け止めたサーゼクスがそう訊いてくる。

 

「まだ話してません。でも連中がこの町に来た以上、近いうち知る事になります」

 

『………確かにな。だが今回は相手が相手だ。正直リアス達では荷が重過ぎるどころか手に負えないだろう』

 

 流石のサーゼクスも相手が大戦を生き延びたコカビエルだったら、彼女達の実力では絶対に勝てないと分かっているようだ。

 

「そうですね。いかにリアス達が前の修行で腕を上げたといっても、あの程度じゃコカビエルに勝てませんし」

 

『だが君が協力してくれるなら話は別だ。君の弟くんも含めてね』

 

 どうやらサーゼクスは俺とイッセーがいれば、コカビエルに勝てると踏んでるようだ。

 

「無論俺やイッセーも協力します。ですが人間の俺等が協力するにしても、後になってから色々と面倒な事が起きると思いますので、ちょっとばかしサーゼクス様にやって貰いたい事があるんですが……」

 

 人間の俺が冥界の超大物である魔王サーゼクスに要求してるのを、貴族悪魔達が知ったら絶対に激怒するだろう。

 

『構わないよ。君や弟くんが協力してくれるなら、こちらとしては大助かりだ。それで、私は何をすれば良いんだい?』

 

 サーゼクスとしては本来であれば、リアスを守る為に人間界に行きたいだろう。

 

 だが魔王と言う立場であるから、サーゼクスは簡単に動く事が出来ない。いかにリアスが自分の妹でも、一介の悪魔相手に身贔屓出来ない事も理解してる。その心情は嘗ての聖書の神(わたし)も分かるからな。

 

「貴方にやって欲しい事は――」

 

 俺の要求にサーゼクスは若干苦笑しつつも、すぐに受け入れてくれた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 一日の学業と表の部活動を終えて、俺はイッセーとアーシアと一緒に帰路についていた。

 

 本当ならリアスも一緒なのだが、今日は珍しく一緒じゃなかった。

 

 帰る直前にソーナと森羅が部室に来て、緊急の話があるから屋敷に来て欲しいと言われたから、リアスと一緒に帰っていない。

 

 ソーナが急にリアスを呼び出したとなれば大体想像はつく。恐らく既に潜伏してる聖剣使いについて話すんだろう。

 

「出来れば俺から説明したかったんだが……まぁ良いか」

 

「何ぶつくさ言ってんだ?」

 

「どうかしましたか?」

 

 俺の独り言にイッセーとアーシアが反応し、揃って訊いてくる。

 

「いや、何でもないよ。それより二人とも、後で大事な話があるから俺の部屋で……ん?」

 

 家に着いて玄関の扉を開く前に、家の中から聖剣のオーラを感じた。他に人間と思われるオーラも二人。

 

「おい兄貴、これってまさか……!」

 

 当然イッセーも俺と同じく、家の中からの見知らぬオーラを察知している。

 

「分かってる。イッセー、俺が先に入るから後に続け。あと念の為にお前はアーシアの傍から離れるな」

 

「おう」

 

「え? え? お二人とも、一体どうしたんですか?」

 

 オーラを感じ取れないアーシアが俺とイッセーの行動に全くわからない様子で首を傾げている。確かに俺とイッセーが勝手に話を進めてたら、アーシアがこうなるのは無理もない。

 

 だが俺達は気にせず警戒しながら家に入るが、特に問題はなかった。あるとしたら、笑い声らしきものがリビングから聞こえてくる。

 

 俺とイッセーは目を合わせてコクンと頷くと、俺が先に進み、後からイッセーはアーシアと手を繋いだままリビングへ向かう。

 

 そこにはどこか見覚えのある女性一人に見知らぬ女性一人、そして二人と談笑してる母さんがいた。

 

「でね、これがプールでイッセーが海パン破けちゃったままで――」

 

「何をしているのかな、母さん?」

 

 俺に気付いた母さんがこっちへ顔を向ける。

 

「あらリューセー、お帰りなさい。どうしたの? そんな顔しちゃって」

 

 不思議そうに見てくる母さんに俺は気にせず、来客と思われる女性二人を見る。

 

 十字架を胸に下げた二人の若い女性は教会関係者だと一目で分かる。あと俺たちと同じ位の年齢だと言う事も。

 

 栗毛の女性と、緑色のメッシュを髪に入れてる少々目つきの悪い女性。どちらも教会が属する白いローブを着込んでいる。

 

「久しぶりね、リューセーくんにイッセーくん」

 

「……ああ。本当に久しぶりだね。君と会うのは何年振りかな?」

 

 挨拶をしてくる栗毛の女性――紫藤イリナに俺も懐かしい感じを見せながら挨拶で返す。

 

「あれ? 兄貴、会ったことあるのか?」

 

 するとイッセーがイリナの事を全く覚えて無いのか、俺にそう訊いてくる。

 

 イッセーの反応に彼女が少々眉を吊り上げた。

 

「あら? イッセーくんは覚えてない? 私だよ?」

 

「……へ?」

 

 自分を指差す指導イリナに、イッセーは未だに覚えがないような反応をする。

 

 そんなイッセーに母さんが一枚の写真を取り出す。例の聖剣が写し出されてる写真を。因みにそれは俺が昨日、既にアルバムに戻しておいた。

 

 その戻した写真に写ってる嘗ての友人だった子を母さんが指差す。

 

「ほらイッセー、この子よ。紫藤イリナちゃん。この頃は男の子みたいだったけど、今じゃこ~んな女の子らしくなっちゃって、お母さんビックリしたのよ」

 

「え……ええっ!? 俺、この子、本当に男の子かと……!」

 

「ちょっとイッセー、いくらなんでもソレは失礼よ!」

 

 余りにも失礼な発言に母さんが軽く叱咤する。

 

 って言うかイッセー。お前は彼女の事をずっと男だと思ってたのかよ。

 

 ………けれど確かに当時の彼女は男の子顔負けのヤンチャだったから、そう思うのは仕方ないか。

 

「まぁ仕方ないよね。あの頃はかなりヤンチャだったし。でも、お互い、しばらく会わない内にいろいろとあったみたいだね」

 

 随分と意味深な言葉だ。ひょっとしてこの子、俺とイッセーがあくどい事をしてた信徒共をぶちのめしていた事を知っているのかな?

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「リューセー、貴方はもう知ってるかしら? この町に聖剣を手にした教会の関係者が潜り込んできていることを」

 

「知ってるも何も、ついさっきまでソイツ等が家に来てたよ」

 

「っ! それはどういうこと!?」

 

 アッサリ答える俺に、リアスは予想外と言うような反応を示して声を荒げる。

 

 あの後、紫藤イリナともう一人の女性は三十分ほど談笑してから帰っていった。

 

 何でも久しぶりに日本に帰って来た上に、幼い頃住んでいた町にも再び来たから、あの頃を懐かしんで兵藤家へ寄ったらしい。

 

 取り敢えずアーシアは彼女達と関わらないようにする為に、俺が適当な理由を言って部屋に待機させた。

 

 今のあの子は教会から『魔女』の烙印を押されて追放された身だから、教会関係者と一緒にいさせるのは色々と不味い。

 

 それでも向こうがアーシアに何かしようとした場合は、強制的に実力行使で帰ってもらうとしたが何事もなく終わった。

 

 その後にリアスが帰ってきて、俺達に大事な話があるとイッセーの部屋に集まった。

 

 そしてリアスが本題に入ろうと俺に聞いた途端、さっきの反応をしてたって訳だ。

 

「その教会関係者の中に、何と俺とイッセーの幼馴染がいてなぁ。帰郷ついでに家へ来たんだと」

 

「だったらどうして私に連絡しなかったの!?」

 

「したらしたで、お前が血相変えて家に来るだろうが。悪魔のお前が教会関係者と会って、あの家でイザコザ起こして良かったのか?」

 

「………ゴメンなさい。確かにあなたの言うとおり、それは不味いわね」

 

 俺の言い分に納得したリアスは、すぐに落ち着いて謝ってくる。

 

 でもまぁ、いかに俺がいるとは言え、自分の眷族候補である愛しのイッセーとアーシアにもしもの事があったら、居ても立ってもいられないだろう。

 

「大丈夫ですよ、部長。もし何かあっても、俺が部長とアーシアを守りますから」

 

「イッセー……」

 

「イッセーさん……」

 

 お? イッセーの頼もしい言葉に、リアスとアーシアは胸がきゅんとしたような感じだ。

 

 ったく。こう言う台詞が自覚ありのままサラッと言えるなら、いつまでも『レーティングゲーム』の件を引き摺らないで欲しいんだがな。

 

 何かこのままだと甘ったるい空気になりそうな感じがしたので、一先ず俺がゴホンと軽く咳払いをする。

 

「まぁそれよりもリアス、お前がその教会関係者について訊いてきたって事は、ひょっとしてソーナから聞いたのか?」

 

「え、ええ、そうよ」

 

 話を切り替えると、リアスはイッセーから視線を外して真面目な顔をしながら話を進める。

 

「昼間に彼女たちと接触したソーナの話では、彼女たちは私――駒王町を縄張りにしてる悪魔リアス・グレモリーと交渉したいそうよ」

 

 わお。教会の者が悪魔と交渉だって? 中々面白そうな話じゃないか。

 

「あの二人がリアスに交渉、ねぇ。因みにどんな交渉だ?」

 

「さぁ? そこまでは知らないわ。どういうつもりかはわからないけれど、明日の放課後に彼女たちは旧校舎に訪問してくる予定よ。しかもこちら対して一切の攻撃を加えないと神に誓ったらしいわ」

 

 聖書の神(わたし)に誓った、か。それはつまり、誓いを破るような事をすれば聖書の神(わたし)が断罪しても良いって事かな?

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 次の日の放課後。

 

 予定通り、昨日会った二人の女性が部室にやってきた。

 

「会談を受けて頂き感謝する。私はゼノヴィア」

 

「紫藤イリナよ」

 

 ソファーに座っている二人がそう名乗る。一人は既に知っていたが、メッシュの入った女性信徒はゼノヴィアと言うのか。

 

「神の信徒が悪魔に会いたいだなんて、どう言うことかしら?」

 

 二人の女性の向かい側にあるソファーに座っているリアスが、少々挑発的に問い掛ける。

 

 リアスがああなるのは無理もない。何しろ教会側の二人が持っている聖剣に神経が高ぶってるからな。

 

 無論ソレはリアスに限った話じゃなく、リアスの隣に座っている朱乃や、片隅で見守っている小猫と祐斗も同様の反応をしている。

 

 特に一番危険な状態なのが祐斗だ。彼女たちを怨恨の眼差しでジッと睨んでいる。何かあれば即座に斬りかかりそうな雰囲気だ。

 

 まぁ、そうさせない為に俺とイッセーが万が一の事を考えて、祐斗を挟むようにして立っているからな。因みにイッセーの隣に立っているアーシアはハラハラしながらリアス達を見守っている。

 

 その空気の中、リアスの問いに答えようとしたのは紫藤イリナだった。

 

「元々行方不明だった一本を除く六本の聖剣エクスカリバーは、教会の三つの派閥が管理していましたが、そのうち三本が奪われました」

 

『っ!?』

 

 彼女からの説明に俺とイッセーを除くリアス達が驚愕する。因みにイッセーには前以て俺の方で教えといた。

 

 そして説明した紫藤イリナの次にゼノヴィアが答えようと、布に巻かれた聖剣を持とうとする。

 

「私が持っているのは残ったエクスカリバーの内、『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』。これはカトリックが管理している」

 

 破壊か。となればゼノヴィアと言う子は、パワータイプの戦士と見て良いだろう。

 

 次にイリナの方は腕に巻いている長い紐のようなものを俺達に見せる。

 

「私のほうは『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』。こんな風にカタチを自由自在に出来るから、持ち運びに凄く便利なの。こちらはプロテスタント側が管理してるわ」

 

 イリナは擬態の方か。じゃあ彼女はテクニックタイプだな。

 

「イリナ……何も悪魔に態々エクスカリバーの能力を喋る必要もないだろう?」

 

「あら、ゼノヴィア。いくら悪魔だからって信頼関係を築かなければ、この場ではしょうがないでしょう? それにこの剣の能力を知られたからって、この悪魔の皆さんやイッセーくんたちに遅れを取るなんてことないわ」

 

 ほほ~う? それは聖書の神(わたし)に喧嘩を売ってると思って良いのかな、イリナちゃん?

 

 俺の正体を知った途端にどんな反応するのか、ちょっと見てみたい気分だよ。

 

 っと、そんな事よりも祐斗をどうにかしないと。

 

 聖剣がエクスカリバーだと知った瞬間、鬼の形相で彼女達を睨んでいるからな。何しろ祐斗は聖剣計画の被験者で生き残りだ。憎しみの対象であるエクスカリバーが二つも目の前にあるから、叩き壊したい衝動に駆られているんだろう。

 

 一先ず俺が横に視線を向けると、目が合ったイッセーが分かったかのようにコクンと頷く。祐斗が動いた瞬間、即座に止めろとのアイコンタクトだ。

 

「……エクスカリバーを奪われたって言うけれど、そんな大事な物を誰が奪ったのかしら?」

 

 俺とイッセーのやり取りを余所に、リアスは相変わらずの態度で話を進める。あと何気にエクスカリバーを奪われた教会側の失態を責めてるような感じもしたのは、恐らく気のせいじゃないだろう。

 

「奪った主な連中は既に把握している。グリゴリの幹部、コカビエルだ」

 

「コカビエル……。古の戦いから生き残る堕天使の幹部が……」

 

 奪った相手がコカビエルだと分かったリアスは思わず苦笑していた。

 

 それもそうだろう。堕天使の幹部がエクスカリバーを盗んだなんて予想外もいいところだ。

 

 ってか昨日から思ってたんだが、何故コカビエルの奴は聖剣を盗んだんだ? 聖書の神(わたし)が死んだ後、聖剣に関わるような出来事に遭遇して興味を持ち始めたんだろうか。

 

「そんな大物相手に貴女たちだけで奪還出来るのかしら? 無謀もいいところよ」

 

「それはそちらが気にすることではない」

 

「………まぁいいわ。で? コカビエルに聖剣を奪われた貴方たち教会側は、私たちにどうしてほしいの?」

 

 俺が思わず深く考えて込んでいると、リアスと教会側の会話は気にせずに続けていた。

 

「今回の件は、我々と堕天使の問題だ。この町に巣食う悪魔に介入されると面倒なので、一切関わらないでもらいたい」

 

 おいおい。そっちが勝手にこの町に潜り込んどいて自分達のやる事に関わるなって、どんだけ上から目線な要求だよ。

 

 ゼノヴィアの物言いに、当然リアスの眉が吊り上る。

 

「随分な物言いね。私たちが堕天使と組んで、聖剣をどうにかするとでも?」

 

「悪魔にとって聖剣は忌むべきものだ。堕天使共と利害が一致するじゃないか」

 

 あ、リアスがキレかかってる。相変わらず短気な奴だと言いたい所だが、今回はゼノヴィアの余りの言い方にそうなるのは無理もない。

 

 と言うかそこの信徒。いくら相手が悪魔だからって、それが交渉する態度じゃないだろうが。

 

「もしそうなら、我々は貴女を完全に消滅させる。例え魔王の妹だろうとな」

 

「そこまで私を知っているのなら言わせて貰うわ。私が堕天使と手を組むことなんて無いわ。グレモリーの名にかけて。魔王の顔に泥を塗るような真似はしない!」

 

 売り言葉に買い言葉。これが本当に交渉なのかと疑いたくなる光景だ。

 

 拮抗状態とも言える中、突然ゼノヴィアがフッと笑った。

 

「それが聞けただけで充分だ。今のは本部の意向を伝えただけでな。魔王の妹でも、そこまでバカだとは思ってないさ」

 

 じゃあコカビエルをどうにかする聖書の神(わたし)はバカだと思って良いのかな? って突っ込んでみたいよ。

 

「なら私が神側――即ち、貴女方に協力しないことは承知しているわけね」

 

「無論。重ねて言うが、この町で起こる事に一切の不介入を約束してくれれば良い」

 

「……了解したわ」

 

 リアスの了承を聞いたイリナとゼノヴィアは、途端に立ち上がる。

 

「時間を取らせてすまなかった。イリナ、帰るぞ」

 

「あら、お茶は飲んでいかないの? お菓子ぐらい振舞わせてもらうわ」

 

「生憎だが、悪魔と馴れ合うわけにはいかないんでね」

 

「ゴメンなさいね。それでは」

 

 リアスの誘いをゼノヴィアとイリナはすぐに断った。

 

 そして二人は部室を出ようと足を運ぼうとする。だが、二人の視線が揃ってアーシアに向けていた。

 

「――その兄弟の家で出会ったとき、もしやと思ったが、アーシア・アルジェントか?」

 

「え? あ、はい」

 

 戸惑いながらもアーシアが答えると――

 

「やはりか。まさかこんな地で『魔女』に会おうとはな」

 

 ゼノヴィアは吐き捨てるようにアーシアの烙印名を口にした。

 

 烙印名を呼ばれたアーシアはビクッと体を震わせる。その言葉はアーシアにとって辛いものだ。

 

 イリナもそれに気づいたようで、アーシアをまじまじと見る。

 

「ああ~。貴女が魔女になったって言う元聖女さん? 堕天使や悪魔を癒す能力を持っていた為に追放されていたのは聞いていたけれど、悪魔に寝返ったなんて思わなかったわ」

 

「……あ、あの……私は……」

 

「未だに人間のようだが、聖女と呼ばれていた者が悪魔に寝返るとは堕ちたものだ。まだ我らの神を信じているか?」

 

 ………コイツ等は聖書の神(わたし)にマジで喧嘩売ってると思っていいかな?

 

 イッセーもイッセーでキレ気味になってるし。実は俺もちょっとキレかかってるんだよなぁ~、これが。

 

「ちょっとゼノヴィア。悪魔に寝返った彼女が信仰しているはずはないでしょう?」

 

「いや、背信行為をするやからでも罪の意識を感じながら、信仰心を忘れないものがいる。その子にはそういう匂いが感じられる」

 

「へぇ~そうなの? ねぇ、アーシアさんは今でも主を信じているの?」

 

 イリナの問い掛けにアーシアは悲しそうな表情で言う。

 

「……捨てきれないだけです。それに今も、主を信じていますから……」

 

 聖書の神(わたし)を今でも信じている、か。申し訳ない気持ちでいっぱいだよ、アーシア。

 

 するとアーシアの返答を聞いたゼノヴィアは、布に包まれている聖剣を突き出す。

 

「ならば、今すぐ私たちに斬られるといい。いまなら神の名の下に断罪しよう」

 

 …………おい、今何て言った? 聖書の神(わたし)の名を利用してアーシアを斬るだと?

 

「君が罪深くとも、我らの神ならば救いを差し伸べてくれるはずだ」

 

 その言葉を聞いた瞬間に――

 

「ゼノヴィア、と言ったか? ちょっと君に訊きたいんだが、君が崇める神は殺戮を好む邪神なのかな?」

 

「「なっ!?」」

 

 俺がすぐに口出しした途端、ゼノヴィアとイリナだけじゃなく、この場に居る全員が一斉にコッチを見る。

 

 その直後、ゼノヴィアは即座にアーシアから俺へと視線を向ける。かなりの殺気を向けながら。

 

「今何と言った? 我等の神を邪神だと?」

 

「現にそうだろう。君は神の名を利用して女の子を殺そうとしてるんだからさ。だからそちらが崇めてるのは邪神か何かと思ったんだよ」

 

「貴様っ!」

 

「ちょっとリューセーくん! その発言はいくら私でも聞き捨てならないわ!」

 

 ゼノヴィアだけでなくイリナも俺に明確な怒りを示している。

 

「リューセー! あなた何を言って――」

 

「悪いがリアス、君はちょっと黙っててくれ」

 

 俺がそう言ってリアスを見ると、彼女は途端に静かになった。多分、俺が発する怒気で少し引いているんだろう。

 

「最近の信徒は随分と勝手な解釈をするもんだ。神もさぞかし傍迷惑だろうな。自分の名前を使って何でも正当化するんだからさ」

 

「貴様、どこまで神を愚弄すれば……!」

 

「リューセーくん、今すぐ謝れば聞かなかった事にしてあげる。だけどこれ以上主を貶めたら許さないわ……!」

 

 聖書の神(わたし)の為に怒るか。知らないとは言え、目の前の聖書の神(わたし)に対して怒るってのは随分と矛盾してるなぁ。

 

「君達のやってることが神を愚弄したり貶めてるんじゃないのか? 神の為に頑張ろうとするその姿勢は認めるが、行き過ぎた行為までは許容出来ないよ。と、神はそう思ってる筈さ。無論、アーシアを殺そうとする事も含めてな」

 

「世迷言を。信徒でもない貴様が神を語るなどおこがましい!」

 

 おこがましいも何も、聖書の神(わたし)自身がそう言ってるんだが。

 

「ふっ。君こそ神に会ったことも無いのに、まるで神の事を分かってるような言い方をしてアーシアを殺そうとしてたじゃないか。君の方が神を侮辱してると俺は思うんだが?」

 

「………貴様、自分が何を言ってるのか分かっているのか? その発言は私だけでなく、我ら教会すべてを敵に回しているも同然だぞ」

 

「だったら俺は家族、仲間、友人、そして大事な妹分であるアーシアを守る為なら、君たち教会全てを敵に回してでも戦わせてもらうよ。無論ここにいる悪魔のリアス達も守る為に、な」

 

「……そうか。それが貴様の答えか」

 

 俺の返答を聞いたゼノヴィアは目を細め、布で巻かれている聖剣を俺の前に突き出す。

 

「最初はイリナの友人だから敢えて見逃そうと思っていたが、貴様のような『悪魔に魅入られた異端者』は最早生かしてはおけん。神の名の下、この場で断罪してくれる!」

 

 聖書の神(わたし)の名の下に聖書の神(わたし)を断罪する、か。これもまた随分と矛盾してるなぁ。

 

 俺が思わず苦笑してると、祐斗が突然介入する。

 

「リューセー先輩。この二人と相手をするんでしたら、僕も加勢します」

 

 祐斗は特大の殺気を身体から発しながら剣を携えていた。

 

「誰だ、キミは?」

 

 ゼノヴィアからの問い掛けに――

 

「キミ達の先輩だよ」

 

 祐斗はそう答えた。



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第六話

前話がいつもより長かったので、今回は短いです。

それではどうぞ!


 場所は変わり、俺達は球技大会の練習をしていた所にいる。

 

 俺の隣には祐斗。そして俺達と対峙するかのように紫藤イリナとゼノヴィアがいる。

 

「では始めようか」

 

「リューセーくん、覚悟はいいかしら?」

 

 イリナとゼノヴィアは白いローブを脱ぎ、黒い戦闘服姿となる。

 

 次にゼノヴィアは巻いていた布を取り払って、『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』を解放して持ち構える。

 

 続いて紫藤イリナは紐状にしていた『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』の形状を日本刀にしていた。

 

 何故このような状況になっているかについてだが、早い話、『悪魔に魅入られた異端者』である俺は二人と決闘する事となった。

 

 もうついでに祐斗も俺が彼女達と決闘する事となったのを絶好の機会と思って、俺に加勢するように割り込んできた。

 

 祐斗が参戦する事でリアスが止めに入ろうとするも、俺がリアスに『一先ず俺に任せてくれ』と言ったから、今は俺達から少し離れた所で見守っている。

 

「俺が戦うのは、この前の修行以来だな」

 

 そう言いながら俺は軽い準備体操をする。

 

 戦うとは言っても、この戦いはあくまで非公式による私的な決闘だ。当然非公式であるが故に、殺し合いに発展したらNGとなる。

 

 ゼノヴィアが俺を断罪すると言ってたが、流石に殺す事まで考えてなかったようだ。自身の愚かさを分からせる為に叩きのめす位の断罪なんだと。何ともお優しい事で。

 

「ありがとうございます、リューセー先輩。こうして戦える機会を用意してくれて、僕は嬉しいです」

 

「………………」

 

 俺に礼を言う祐斗だが、視線はエクスカリバーにずっと向けていたまま『魔剣創造(ソード・バース)』で造った魔剣を持ち構えている。

 

 エクスカリバーに対する憎しみは理解出来る。しかし今のコイツはそれに囚われすぎて、今持ってる魔剣の造りがいまいちとなっていた。

 

 まさか俺が修行で指摘した事を忘れている程まで酷いとは思わなかったよ。今の祐斗にイリナ達と戦わせてもアッサリと負けてしまうのが容易に想像出来る。

 

「祐斗、折角張り切っているところを悪いが、今回は俺一人で戦わせて貰うよ」

 

「なっ! それはどういう――」

 

 

 ドンッ!

 

 

「がっ!」

 

 俺の発言に祐斗がコッチを向いた瞬間、すぐに祐斗の首筋に手刀を当てて気絶させる。

 

 あっと言う間に気絶した祐斗がうつ伏せになって倒れる光景に、イッセーを除く全員が唖然としていた。

 

「せ、先輩、何の、真似ですか……!?」

 

「おや? 気絶させたつもりなんだが、まだ意識はあったか。どうやら俺の修行で相当打たれ強くなったようだな。まぁ良い。取り敢えず大人しく見てろ」

 

「ふ、ふざけないでくだ……っ! ど、どうして、身体が……」

 

 俺に文句を言いながら立ち上がろうとする祐斗だったが、自身の身体に力が入らない事に気付く。

 

「手刀で当てた瞬間、君の体内に光のオーラを送り込んでおいた。それによって今の君は途轍もない倦怠感に襲われていて、立つ事すら出来ない状態だ。悪魔にとって光は毒だからな」

 

「な、なぜ、こんな事を……」

 

 まるで俺に裏切られたかのような目で見てくる祐斗。

 

 そんな祐斗に俺は見下ろしながらこう言い放つ。

 

「生憎だが、今回は俺の戦いなんだ。それを君は自分の戦いのように勝手に出しゃばってきただけにすぎないよ。ついでに今の君が彼女達と戦ったところで負けるのが目に見えてる。修行ならまだしも、そんな分かりきった勝負をさせるほど、俺はお人好しじゃないんでね」

 

「そんなの、最後までやってみなければ……」

 

「はい、もうこれ以上の文句は受け付けませんのでっと」

 

 そう言いながら俺は祐斗が着てるYシャツの襟首を掴んで持ち上げる。

 

「りゅ、リューセー先輩、何を……!」

 

「言ったろ? 大人しく見てろって。イッセー、コイツを頼む!」

 

「ええ~~……。俺、男なんか持ちたくねぇんだけど……」

 

 リアス達と一緒に少し離れてるイッセーに声をかけるも、愚弟は凄く嫌そうな顔をしていた。

 

「ゴチャゴチャ言うな。ほら」

 

「うわっ!」

 

「あっ……ちっ。しょうがねぇ」

 

 放物線を描くように祐斗を片手で放り投げると、イッセーは少し迷った顔をするも仕方ない感じで飛翔する。そして自分目掛けてくる祐斗を、お姫様抱っこをするようにキャッチする。

 

「い、イッセーくん……?」

 

「だぁ~! 何で俺がお前をお姫様抱っこしなけりゃいけねぇんだよ!」

 

 呆ける祐斗を抱き止めたイッセーは一刻も早く離れようと、即行で地上に降りようとする。

 

 それを見た俺はイッセーが着地した瞬間――

 

 

 パシャッ!

 

 

「っ! おい兄貴! いま何を撮りやがった!?」

 

 すぐに懐にある携帯を出してすぐにカメラモードで撮影した。撮ったのは言うまでも無く、イッセーが祐斗をお姫様抱っこしてるシーンだ。

 

 写真を取られた事に気付いたイッセーは、すぐに祐斗を下ろした後、俺を見ながら怒鳴りつけてくる。

 

「いや~、お前と祐斗の仲睦まじいシーンを撮っただけだ」

 

「アレのどこが仲睦まじいんだバカ兄貴!! 消せ! 今すぐにその写真を消しやがれ! じゃないと学園の女子達に誤解されるだろうが!!」

 

「分かった分かった。後でちゃんと消すから」

 

 憤慨してるイッセーを宥めるように言ってる俺は、持ってる携帯を一先ず懐に仕舞って、身体を再びイリナとゼノヴィアの方へと向ける。

 

「待たせて悪かったな。さぁ、相手をしよう。二人同時で掛かってくると良い」

 

「……正気か貴様? 聖剣を持った私たちを一人で相手をするなど、とても正気の沙汰ではないな」

 

「リューセーくん。いくら悪魔だからって、仲間に対して平然とあんなことをするのはどうかと思うわよ?」

 

 俺の行動に疑問視するゼノヴィアとイリナ。

 

「生憎、俺は負ける戦いをさせるつもりはないんでね。今のアイツは聖剣を破壊する事しか頭に無いから、戦ってる最中にポカをやらかして負けるのが目に見えてる」

 

「ほう? 仲間の心情を察して敢えて強制的に退かせたのか。どうやらただのバカではないようだ」

 

 意外そうな顔をしながら感心するゼノヴィア。

 

 この聖書の神(わたし)をバカ呼ばわりするとは、この子本当に良い度胸してるよ。まぁ知らないから、ああ言ってるんだろうが。

 

「だったら別の仲間を呼んだらどうだ? 例えば貴様の弟である兵藤一誠を。いかに異端者とは言え、我らを相手に一人でやるのは無謀にも程があるぞ」

 

 …………はぁっ、やれやれ。聖書の神(わたし)も随分と見縊られたもんだ。

 

 たかが未熟な聖剣使い程度の相手にそこまで気遣われるとは……思わずちょっと頭に来たよ。

 

「そんなフェアプレー精神はいらんから、さっさとかかって来い。教えてやるよ、力の差ってやつをな」

 

「……よく言った、異端者よ。ならば望みどおり、こちらから行かせてもらうぞ!」

 

 そう言ってゼノヴィアはダッシュし、『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』を俺の頭上目掛けて振り下ろそうとする。

 

「はああああっ!」

 

「……遅っ」

 

 余りにも遅い大振りな斬撃だったので、俺は呆れながら躱そうとすると――

 

「アーメンッ!」

 

「お?」

 

 いつのまにか紫藤イリナが躱そうとする俺に日本刀の切っ先を突き出してきた。

 

 俺は慌てる事無く二つの攻撃を避けて、一旦二人から距離を取ろうと後方へ跳躍移動する。

 

「逃げ足だけは速いようだな」

 

「でも咄嗟に躱すあの身のこなし、とてもただ者じゃないわ。リューセーくん、あなた一体何者なの?」

 

「いくら幼馴染でも、その質問には答えられないな」

 

 俺は君達がいつも崇めてる聖書の神だよ、何て言ったらどんな反応をするかな?

 

「酷い! 昔は私が質問してきた時は先生みたく何でも答えてたのに! ああ、これは主の試練なんだわ! 久しぶりに帰って来た故郷の地で、懐かしのお友達が悪魔に魅入られた異端者となって変わり果ててしまった! 時間の流れは余りにも残酷だわ! ああ、主よ! どうかこの異端者に救いのお導きを!」

 

「………………」

 

 異端者である聖書の神(わたし)を裁く為に聖書の神(わたし)に導きを示せってか? 言ってることが余りにも矛盾しまくってるぞ。

 

 ってか、さっきからコイツ等の矛盾した発言を聞く度に思わず呆れるよ。君達が今相手してるのは聖書の神(わたし)なんだからさ。

 

「あ~、すまない。イリナは一度スイッチが入ってしまうと、このような状態になってしまうんだ」

 

「コッチもコッチで、イリナが昔とは全然違う事に驚いたよ」

 

 さり気なくイリナの行動に対して謝るゼノヴィアに、俺も同調するように言い返す。俺達、今戦闘中の筈だよな?

 

「全く。どいつもこいつも………最近の信徒は本当に相手を苛立たせるのが好きなんだな!」

 

 聖書の神(わたし)を甘く見てるゼノヴィア、戦闘中にも関わらず自分の信仰に陶酔してるイリナ。

 

 この二人の言動に思わず頭に来た俺はパチンと指を鳴らした瞬間――

 

 

 ドンドンドンドンッ!!

 

 

「「っ!?」」

 

 四本の光の槍がゼノヴィアとイリナに襲い掛かも、それ等を見た二人は驚愕しながらも咄嗟に躱した。

 

 そして躱されてしまった光の槍はそのまま地面へと刺さり、目的が無くなったかのように四散する。

 

「光の槍だと? バカな。アレは本来、天使と堕天使にしか使えない筈だ……!」

 

「どう言うことなの、リューセーくん? どうして光の槍を……? っ! まさかあなたは……!」

 

「残念ながら俺は天使でも堕天使でもない。見ての通り、只の人間だよ。まぁちょっと人間の枠から外れているがな」

 

 こう言ったのは部室でリアスと話した時以来だな。あの時は何故か天使の力を使えると誤魔化したが。

 

 さて、それよりも向こうは漸く真面目な雰囲気を醸し出してるようだ。さっきまでと違って、一切の油断が無くなってる。

 

「イリナ、ここからは本気でやるぞ」

 

「ええ、そうした方が良いみたいね」

 

 構える二人は俺に対し一人前のような殺気を放ってくる。俺からしたら涼風程度にしか感じないが。

 

「やっとその気になってくれたか。さて、俺相手に何分もつかな?」

 

 俺の言葉が合図となったのか、二人は一斉に俺に襲い掛かってきた。

 

 ではここから先は聖書の神(わたし)が見定めさせてもらおう。聖剣使いの君達が持ってる聖剣がレプリカに近いものとは言え、どれだけ使いこなしているのかをな。



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第七話

「行くぞ異端者!」

 

「今度は本気で行くからね、リューセーくん!」

 

「あっそ」

 

 さっきと違って本気でやるゼノヴィアとイリナに、兄貴は構えもせずに待ち構えてる。

 

 そして二人からの鋭い斬撃を全て紙一重で躱していた。

 

「兄貴のやつ、ありゃマジでウンザリ気味だな……」

 

 その三人の戦いを少し離れて見てる俺――兵藤一誠は兄貴の顔を見ながらそう呟く。

 

「ねぇイッセー、リューセーは大丈夫なのかしら?」

 

 すると、部長が突然俺に兄貴について訊いてくる。

 

「大丈夫ですよ、部長。兄貴はそう簡単に負けませんから」

 

 まだ見たばかりで実力は大して分からないが、それでも今の状況だとあの二人じゃ勝ち目はないだろう。

 

 言っちゃ悪いが、いくらイリナとゼノヴィアが聖剣使いでも兄貴の敵じゃない。もし兄貴がその気になればあっと言う間に終わらせられる。

 

「それは大して気にしてないわ。私が気になってるのはリューセーの様子よ。どうもあの聖剣使いの二人に、と言うより教会側に対して感情的と言うか、どうも嫌悪感を抱いてるような感じがするのだけど」

 

「あ、そっちでしたか」

 

 どうやら部長は兄貴の勝敗については分かりきっていたようだ。

 

 確かに部長の言うとおり、兄貴は複雑そうな雰囲気を醸し出しながら相手をしてる。

 

 普段から大して慌てる事無く相手をしてる兄貴が、今回みたく感情を露にする事に部長は珍しがっている事が疑問なんだな。

 

「俺もどうしてかは分からないんですが、兄貴は教会の連中を嫌ってるんですよ」

 

「……え? リューセーさんが……」

 

 俺が兄貴の教会嫌いを言った途端、アーシアが凄く悲しそうな顔をする。多分、教会出身である自分の事も嫌ってるんじゃないかと思ってるんだろう。

 

「ごめん、アーシア。言い方が悪かった。兄貴は教会が嫌いでも、神の名を利用して行き過ぎた行為をしてる信徒が嫌いだって言ったんだ」

 

「……そう言えばリューセーは聖剣計画の事を知ってたけど、もしかしてソレが理由かしら?」

 

 思い出したように部長が兄貴の教会嫌いの理由を尋ねてくる。

 

「まぁ、それもあります。けど兄貴はそれ以前に、聖剣計画みたく神を利用して何でも正当化するあくどい信徒がとにかく嫌いなんですよ。更にはその信徒達を徹底的に叩きのめしてますし。尤も、俺も俺で兄貴と一緒にやってましたけど」

 

「だとしても益々分かりませんわね。クリスチャンでもない彼がどうしてそんなに教会を嫌うのでしょうか?」

 

「……リューセー先輩は教会に何か恨みでもあるんですか?」

 

「さぁ、俺もそこまでは……」

 

 部長だけでなく朱乃さんや小猫ちゃんも尋ねてくるが、俺は分からないと首を横に振る。

 

 俺も時々『どうして教会を嫌ってるんだ?』って聞いているんだが、当の本人は『……まぁ、ちょっとな』と言ってはぐらかす。

 

 これは以前にも言ったが、俺が神器(セイクリッド・ギア)で人間を不幸にした神に対して毒を吐くと、兄貴は必死に耐えるように痛ましい顔をしてる。まるで自分がその罪を全て受け入れるような感じで。

 

「それはそうと木場、必死に立ち上がろうとしてるようだが止めとけ。兄貴の光をまともに受けた以上、悪魔のお前じゃそう簡単に立てねぇぞ」

 

「そうは、いかない……。僕は、どうしてもあの聖剣を破壊しないと……!」

 

 俺の近くでうつ伏せになってる木場は、兄貴によって動きを封じられてるにも拘らず立ち上がろうとしていた。

 

 倦怠感に襲われてても、聖剣に対する憎悪は未だに収まってないようだな。

 

「だから止めろっての。仮に立ち上がったとしても、俺が阻止するからな。兄貴にそう言われてるし」

 

「………キミやリューセー先輩は、どうして僕の邪魔をするんだ……!?」

 

 木場が途轍もない憎悪を込めた目で俺を睨んでくる。もし万全の状態だったら俺や兄貴に襲い掛かってくるだろうな。まぁそんな展開になっても迎撃するけど。

 

「んなもん俺じゃなくて兄貴に言ってくれ。まぁ多分兄貴の事だから、お前に聖剣を破壊させる大義名分を与えると思う。だからそれまで大人しくしてろ」

 

「………え?」

 

 俺の発言を聞いた木場が、さっきまでの憎悪が少し収まる。

 

 そんな中――

 

「どうした!? 避けてばかりだと私たちは倒せないぞ!」

 

「そんなに避けるなんて、リューセーくんのくせに生意気よ!」

 

「じゃあ反撃に移るとするか。ほれ」

 

 イリナとゼノヴィアの斬撃を避け続けていた兄貴が、少し距離を取った途端、すぐに指をパチンと鳴らして二本の光の槍を放った。

 

 二人目掛けて襲い掛かる光の槍に、ゼノヴィアは咄嗟にイリナを守るように立つ。

 

「甘い! 同じ手はもう食わん!」

 

 

 ギィィィィンッ!!

 

 

 ゼノヴィアの一振りが、兄貴が造った二本の光の槍を霧散させる。

 

「ほう? 聖剣で破壊したか。さっきのアレは並みの悪魔を簡単に滅ぼせる威力だったんだが」

 

 一撃で自分の光の槍を破壊された事に、兄貴は感心するように言う。

 

 聞いた話じゃ、あのエクスカリバーは七つに分かれてオリジナルに劣るそうだが、それでもかなりの威力を持ってる聖剣みたいだな。

 

「この剣に砕けぬものはない!」

 

 そう言ってゼノヴィアは長剣を器用にくるくる回して天に翳し、地面へ振り下ろした。

 

 

 ドォォォォォオオオオオンッ!!

 

 

 ゼノヴィアが剣を地面に当てた直後、足場が激しく揺れて地響きが発生した。

 

「きゃあっ!」

 

「おっと」

 

 体勢が崩れようとするアーシアに俺が片手で肩を抱いて支えようとする。

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい……。ありがとうございます」

 

 支えられてるアーシアは顔を赤らめながら俺に礼を言ってきた。

 

 あと何故か分かんないんだが、部長が怖い顔をしてコッチを睨んでいる。どうして? 俺は倒れようとするアーシアを支えただけなのに。

 

 余り気にしないように目の前の戦いを見ようとすると、ゼノヴィアが立っているところでは巨大なクレーターが生み出されていた。

 

 たったの一撃であれ程の威力とは、さすが聖剣ってところか。

 

 んで、兄貴の方は……クレーターからちょっと離れた位置にいて、分析するように見ていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「流石は『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』と言ったところか。破壊に特化してる聖剣だけあって、一振りでこの破壊力か」

 

 俺――兵藤隆誠は『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』の威力を見てそう言うと、ゼノヴィアは再び構えようとする。 

 

「これで分かっただろう? いかに貴様が光の槍を造れると言っても、これはあらゆる物を破壊する。破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)の名は伊達じゃない」

 

「ご説明どうも」

 

「ちょっと危ないじゃないゼノヴィア! おかげでもう土だらけだわ!」

 

 ゼノヴィアの近くにいたイリナは毒づきながら、服に付いた土を払っていた。

 

 未熟な聖剣使いとは言え、それなりに聖剣を使えてるようだ。

 

 まぁそれでも未熟である事に変わりなかった。

 

 戦って分かったんだが、コイツ等は聖剣を全く使いこなせてない。それどころか聖剣に振り回されてるにも等しい感じだ。

 

 ゼノヴィアは力任せに『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』を振るってるだけで、イリナは『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』の形状を未だに日本刀のままで攻撃している。

 

 『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』は文字通り、色々な姿に擬態出来る聖剣なんだから、他の形状に変えて振舞う事も可能な筈。にも拘らずそれをしないって事は、イリナもゼノヴィアと同様に『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』を全く使いこなせてない

 

 と言うかコイツ等、この程度の実力でコカビエルから聖剣を奪還するのか? はっきり言って無謀だぞ。ってか教会側は何考えてんだ? もうちょっとマシな人材を送れば良いのに。

 

「でも、ようやくリューセーくんのスピードに慣れてきたわ。そろそろ決めちゃいましょう、ゼノヴィア」

 

「そうだな」

 

 ………呆れた奴等だ。俺はまだ全然本気を出してないってのに、もう勝てるかのように言ってるし。

 

 ならばその思い上がり、すぐに打ち消してやるとしよう。

 

「いい気になるのも大概にしろ。そんな聖剣(もの)があっても俺に勝てない事を教えてやるよ」

 

「何だと?」

 

「……リューセーくん、この状況でまだそんな事を言える余裕があるのね」

 

「その減らず口を今すぐきけなくしてやる」

 

 そう言って俺は両手を開いたまま前に出し、掌を空に向けた状態にする。

 

「はぁぁぁ……!」

 

「! 何だ?」

 

「リューセーくんの両手から、光が集まってる……?」

 

 そう。イリナの言うとおり俺は開いた両手に光のオーラを集束させていた。

 

 そして両手に集束させている光のオーラは飛び出すように、サッカーボールサイズの光の玉となって浮かぶ。

 

「さてお前達、覚悟は良いか? 言っておくが絶対に気を抜いたりするなよ」

 

「? 何をする気だ?」

 

「……あれ? あの光の玉、どこかで見たような気が……」

 

 俺のやる事をゼノヴィアは全く分からないような表情をしてるが、イリナだけが何かを思い出すように目を細めていた。

 

 そんな二人に俺は気にせず――

 

「行くぞ! 繰光連弾(そうこうれんだん)!」

 

 技名を告げながら両手にある光の玉を二人に投げるように飛ばした。

 

 

 ギュインッ!!

 

 

「うわっ!」

 

「きゃあっ!」

 

 凄まじい勢いで来る二つの光の玉を見たゼノヴィアとイリナは驚愕するも、何とかギリギリで躱す。

 

「甘いよ。せいっ!」

 

「なっ! 戻ってくるだと!?」

 

「遠隔操作も出来るの!?」

 

 俺が両手の指を動かすと、二つの光の玉はUターンするように戻っていき、再び二人に当てようとする。

 

 繰光連弾。これは両手に光のオーラを集中させて繰り出した光弾を放つ、ドラグ・ソボールのヤマチャが使っていた技。ついでにこの光弾は指を動かすことで自由に遠隔操作できるという特徴を持つ。

 

 因みにこの技の本当の正式名称は繰光弾(そうこうだん)で、一つの光弾を操って対象者に当てる技だ。だが今回俺は二人と戦っているので、敢えて二つの光弾を出して使っている。

 

「そらそらそらぁっ!」

 

「ぐっ! こんなもの!」

 

「来なさい! この聖剣で!」

 

 自分に向かってくる繰光連弾をゼノヴィアとイリナは何度か避けた後、持ってる聖剣で斬ろうと振りかざそうとするも――

 

「あらよっと」

 

 

 グンッ!

 

 

「「なっ!?」」

 

 俺が指で即座に引き戻すよう動かすと、繰光連弾は意思を持つように急停止した後に後退した。

 

 聖剣を振り翳していたゼノヴィアとイリナは、予想外な動きをした繰光連弾を見て驚愕する。

 

「くっ! あの光の玉を自由自在に操作出来るとは……!」

 

「ちょっとリューセーくん! 反則にも程があるわよ!」

 

「んなもん知った事か」

 

 反則などと言われる筋合いは無い。第一、敵である俺が君達の戦いに合わせる気なんかないし。

 

「これで止めだ! とうっ!」

 

 繰光連弾を二人の頭上まで運んだ直後、指を一気に振り下ろすと、二人目掛けて凄まじい速度で落下していく。

 

「「くっ!」」

 

 ゼノヴィアとイリナは何とか躱そうとバックステップをした後――

 

 

 ドガァァァンッ!!

 

 

 繰光連弾はそのまま地面に激突してしまった。

 

「ちっ。意外に素早いな」

 

 避けられた事に俺は舌打ちをしながらそう呟く。

 

「驚いたぞ。まさか貴様にあんな芸当が出来るなんてな」

 

「正直言ってかなり危なかったわよ、リューセーくん。でもそれと同時にショックだわ。あんな力を持っておきながら、私たち教会に牙を向くなんてね」

 

 もう同じ技は通用しないと言うように、二人は再び聖剣を持ち構えようとする。

 

 そんな二人に俺は嘆息した。

 

「やれやれ。絶対に気を抜くなって言った筈なのに、君達ときたら…………はぁっ」

 

 聖書の神(わたし)の忠告を無視するとはねぇ。

 

「? 何を言っている?」

 

「リューセーくん、この期に及んで負け惜しみかしら?」

 

「おバカな君達に呆れてるんだよ。そらっ!」

 

 俺が両手の指を上げた瞬間、地面から何か上がってくる音がした直後――

 

 

 ドガッ!!

 

 

「「がっ!!」」

 

 繰光連弾が二人の腹部に直撃した。



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第八話

「ぐっ……ば、バカな……!」

 

「ごほっ、ごほっ! どういう、ことなの……? あの光の玉はさっき、地面に激突して無くなった筈なのに……!」

 

 繰光連弾を直撃したゼノヴィアは片膝を地面に付けていた。加えて片手で持ってる聖剣を地面に突き刺し、もう片方の手は腹部に手を当てている。

 

 加えてイリナはダメージが大きかったのか、『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』を手放して、両膝を地面に付き、両手で腹部を手に当てていた。

 

 因みに繰光連弾は二人に命中した時点で消えている。アレはもう目的を果たしたから、俺の意思で消した。

 

「阿呆。それは君達が勝手にそう判断しただけだ。俺は消えただなんて一言も言ってない」

 

 繰光連弾が地面に激突して無くなったと大半は思うだろうが、アレはそのまま消えずに地面の中に待機していた。繰光連弾は遠隔操作出来る技だから、消さずに維持するのは造作もない。尤も、維持するだけで地味にオーラを消費してしまうが。

 

「そんな事より、どうやら思っていた以上にダメージが大きいようだな。ひょっとして当たり所が悪かったか?」

 

 例えて言うなら、サッカーボールサイズの鉄球が凄まじい速度で二人の腹部に当てたようなもんだ。俺が放った繰光連弾はそれなりの硬度もある。

 

「もし続けられないなら止めても良いが、どうする?」

 

「ふざ、けるな! 私たちは、この程度でまだ終わらん……!」

 

「たった一回当てただけで……ううっ!」

 

 ゼノヴィアはまだやれるようだが、イリナの方は思っていた以上に効いてるようだ。さっきからずっと脇腹を手に当てている。恐らく肋骨が何本か折れてるだろうな。

 

「イリナ、そんな状態で強がるのは止めておけ。こんな意味の無い決闘を続ける必要なんて無いんだからな」

 

「……意味は、あるわ。この戦いを乗り越える事で、私の主に対する信仰が更に高まるもの……!」

 

 いや、聖書の神(わたし)としては止めて欲しいんだが。怪我してまで戦っても、聖書の神(わたし)は君の評価を高めようだなんて思わないから。

 

「……あっそ。だったら」

 

「っ!」

 

 俺は超スピードであっと言う間にイリナの背後を取り――

 

 

 トンッ!

 

 

「あっ……」

 

 首筋に手刀で当てて気絶させた。

 

 先ずは一人。

 

「イリナッ! 貴様、よくもイリナを!!」

 

 イリナが気絶した事に聖剣を両手に持ち構えながら激昂するゼノヴィア。

 

「落ち着け。単に気絶させただけだ。さて、後は君だけだが、どうする? 俺としては降参して欲しいんだが」

 

「くっ、舐めるなっ!!」

 

 そう言ってゼノヴィアは『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』を振り翳しながら突進してくる。

 

「はあああっ!!」

 

「まだやるか。だったら――」

 

 自分の頭上から振り下ろす聖剣の刀身を――

 

 

 ガシイッ!!

 

 

「……な、なん、だと……?」

 

「ちっ。少しばかり手が痺れたか」

 

 俺が左手で受け止めてそのまま掴んだ事により、ゼノヴィアは信じられないように驚愕している。

 

 これにはゼノヴィアだけじゃなく、少し離れているイッセーを除くリアス達も驚いていた。

 

「き、貴様は、一体何者なんだ……?」

 

「呆然としてるところを悪いが、戦闘中だって事を忘れるなっと」

 

 そう言いながら俺は空いてる片手で呆然としてるゼノヴィアの額に――

 

 

 バチィィンッッ!

 

 

「~~~~~~!!」

 

 少し力を込めたデコピンを当てた。これにはかなり効いたのか、ゼノヴィアが持ってる聖剣を手放し、両手で顔を覆っている。 

 

 因みにゼノヴィアがデコピンを受けた瞬間、小猫が自分も受けたかのように片手を額に当てていた。多分、山での修行で俺にデコピンを当てられた痛みを思い出しているんだろう。

 

 そう思いながらも俺は左手で受け止めている聖剣の刀身を、すぐに柄の方へと持ちかえる。

 

「ん?」

 

 突然走った痛みに、俺は思わず手にしてる聖剣を見る。

 

 見ると、『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』は拒否反応を示すように、柄からバチバチッと電気みたいな光のオーラを放出する。

 

 全く。ちょっと見ない内に随分と偉くなったもんだ、この聖剣は。

 

 ――聖剣エクスカリバー、いや、破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)よ。聖書の神(わたし)に対して無礼ではないか?――

 

 俺がそう念じながらオーラを流し込むと、さっきまで拒否反応を示していた聖剣が急に大人しくなった。

 

『っ!?』

 

 この光景に気絶してるイリナと見物してるイッセーを除き、誰もが驚愕した。

 

 だが俺は気にせず左手に持ってる聖剣を高く持ち上げながら、くるっと持ち替えるように刀身を地面へと向ける。

 

「ゼノヴィア、コイツの本当の威力を見ておくんだな」

 

「っ! 何故貴様が聖剣を……!?」

 

 俺が平然と聖剣を手にしてる事に驚いてるゼノヴィアは問う。

 

「今の君にそれを知る必要は……ないっ!」

 

「お、おい待て兄貴! そんな事したら!」

 

 イッセーの言葉を無視するように俺は聖剣を地面に突き刺すと――

 

 

 ドォォォォォオオオオオオオオオンッッ!!!!

 

 

『きゃあっ!!』

 

 ゼノヴィアがやった時とは比べ物にならないほどの爆発と地響きが発生した。これにより女性陣からの悲鳴が上がる。

 

 そして爆発によって発生した煙が晴れると、俺の周囲は巨大なクレーターが出来ていた。

 

「………少しやり過ぎたか」

 

 よく見ると、さっきの爆発と爆風によって吹っとばされたゼノヴィアはうつ伏せになって気絶している。あとさっきから気絶してるイリナもゼノヴィアと同様に吹っ飛ばされて仰向けとなっていた。

 

「これのどこが少しだ!! こっちまで被害が来たぞバカ兄貴!!」

 

「え? …………あ」

 

 声がした方を見てみると、少し離れた上空には悪魔の翼を展開してるリアス、朱乃、小猫が浮遊していた。そして闘気(オーラ)を解放して浮遊しながらもアーシアと祐斗を抱えているイッセーもいる。

 

 アイツ等にまで被害が及んでしまった事に、俺はすぐに気まずそうに謝ろうとする。

 

「悪い悪い。ちょっと加減を誤った」

 

「ちょっとどころじゃねぇ! ってかどうすんだよそのクレーターは!? ちゃんと兄貴が直すんだろうな!?」

 

「勿論だ。自分で壊した物くらい自分で直すさ。と言う訳でリアス、聖剣使いのコイツ等は気絶してるから勝負は付いたってことで」

 

「………ええ、もう続ける意味は無いわ。私としては聖剣を使うあなたに問い質したい所だけど、取り敢えずちゃんと戻しておくように」

 

「了解、っと」

 

 複雑そうな顔をしながら指示してくるリアスに、俺は先ず気絶してるゼノヴィアとイリナを(+擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)も)背負って場所を変えようとした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「さてお二人さん。俺に負けた以上、約束通り俺の要求に従ってもらうよ」

 

「くっ……。好きにするが良い。それで、貴様の要求とやらは一体何だ?」

 

「ああ主よ、申し訳ありません」

 

 クレーターによって悲惨な場所となった練習場を元に戻し、気絶してるゼノヴィアとイリナに部室で治療と介抱をした後、俺は目覚めた二人にある要求をしようとする。

 

 因みに二人には治療と介抱をしたついで、俺の術で少々記憶を変えた。俺が聖剣を使った事をもし教会に知られたら後々面倒な事になるので、二人は純粋に俺との勝負に負けたと言う事にしている。当然、リアス達には決して二人に記憶を変えた事を言わないようにと釘を刺している。アーシアはちょっと複雑そうな顔をしていたけど。

 

 それと何で二人に要求するのかと言うと、決闘をする前に俺が『負けたら一つだけ何でも言う事を聞く』って言う一種の罰ゲームを提案したからだ。

 

 当然これは相手の了承も必要となるが、ゼノヴィアとイリナは願ってもない条件だとすぐに受け入れた。二人が俺に要求する事は『聖書の神(わたし)と教会を侮辱した事に対する謝罪』だそうだ。それを聞いた俺は一瞬、聖書の神(わたし)聖書の神(わたし)に謝るって何ともおかしな光景だって思ってしまったよ。

 

 まぁそれはそれとして、俺は俺で『俺が二人に勝ったら教える』と言った。それにより今その要求内容を二人に告げるって訳だ。言っておくが俺はイッセーと違って性的な要求とかはしないからな……って、俺は一体誰に言ってるんだろうか。

 

 そして背後に控えているリアス達はハラハラした感じで見守っている。因みに祐斗はもう動ける状態で、いつ俺やゼノヴィアたちに襲い掛かってもおかしくない状態だ。まぁ仮にそうなっても俺やイッセーが力付くで阻止するけど。

 

「俺からの要求は……俺がエクスカリバーを破壊しても一切干渉しない事だ」

 

「何だと?」

 

「りゅ、リューセーくん、それはどういうことなの?」

 

 俺の要求と聞いたゼノヴィアとイリナが不可解な顔をした。

 

 当然その反応は予想済みだから、俺はすぐに理由を話そうとする。

 

「簡単な事だ。もし俺達が偶然(・・)堕天使達と遭遇して襲われたら戦わざるを得ない。向こうが悪魔(こちら)側に一切手を出さないって保証なんか無いからな。だからせめてコチラが堕天使に対する防衛措置として、君達は一切口出しをしないこと。無論エクスカリバーを破壊する事も含めてな」

 

「………それはつまり、貴様らは我々の問題に介入すると言う事か」

 

「いいや、君達のやる事に口出しはしないよ。俺はあくまで偶然(・・)向こうが襲い掛かってきた場合に対する許可を貰おうとしてるだけに過ぎない。俺が弟のイッセーや後輩と一緒に深夜の散歩をしてる時、もしエクスカリバーを盗んだコカビエル達と遭遇したら堪ったもんじゃない」

 

「っ!」

 

 俺の説明に祐斗が食いつくようにジッとコッチを見る。どうやら俺の思惑に気付いたようだな。

 

「それに君達にとっては悪くない話だと思うぞ? 異端者の俺や仇敵の悪魔達が堕天使と勝手に潰し合いをするだけじゃなく、もしかしたらエクスカリバーも破壊してくれるかもしれない。その隙に君達がエクスカリバーを奪還する成功率も上がるかもしれない。どうだ? 俺の要求は君達に何の損をする事は無いし、却って得をする一方だ。敢えて損をすると言えば、エクスカリバーが破壊される事ぐらいだが」

 

「「…………………」」

 

 一通りの説明を聞いたゼノヴィアとイリナは納得しつつも訝っていた。

 

 確かに話の内容を聞く限り、教会側は得をしても悪魔側の俺達は殆ど損をする一方だ。悪魔の陣営がデメリットだらけなのに、自分達が得をする事に何か裏があるんじゃないかと二人は勘繰っているんだろう。

 

 対して祐斗は反対する様子を見せないどころか、エクスカリバーを破壊出来る機会を得た事に薄い笑みを浮かべていた。

 

 今回俺が出した要求は、祐斗が勝手な行動をさせない為の鎖でもある。今のコイツはエクスカリバーを破壊する事しか頭にないから、このまま放っておいたらリアスの命令を無視して独断行動を取り、最悪『はぐれ悪魔』になってしまう恐れがあった。

 

 そうさせない為、祐斗にエクスカリバーを破壊出来る機会をちらつかせて何とか踏み止まらせた。けど、だからと言ってまだ気は抜けれないが。

 

 ゼノヴィアとイリナはどうしようかと二人で話し合うも、結局のところ、俺に敗北した事もあって首を縦に振る事となった。そして二人が帰ると、すぐさまリアスが俺に問い詰めようとする。

 

「ちょっとリューセー! あなた何を勝手にあんなことを……!」

 

「安心しろ。何か遭ったとしてもお前に被害が及ぶような事にはさせないから。あと悪いが夜の散歩の時に祐斗を同行させてもらう」

 

「そういう問題じゃ……って、祐斗を同行させるですって?」

 

 祐斗を連れて行こうとする事に激昂気味だったリアスが急に落ち着いた。




何かまたダラダラ感が出てるような気が……。


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第八.五話

今回は幕間みたいなものなので、いつもより短いです。

それではどうぞ!


 リアスから祐斗を借りる許可を貰ったので、俺はイッセーと祐斗を連れて夜の散歩をしようと――

 

「良いのか? 木場に黙って俺達だけで動いて」

 

「アイツは俺の光を受けてまともに戦えない状態だ。今夜は大人しくしてもらう」

 

 ――せずに、今回はイッセーだけを連れて夜の散歩をしている。

 

 祐斗には『明日から行動を開始するから、今日はゆっくり休んでおくように』と言っておいた。まぁ祐斗の事だから俺の忠告を無視して独断でエクスカリバーを破壊しようと思うだろうが、今日はそれを行う事が出来ないと断言出来る。

 

 ゼノヴィアとイリナの決闘をやる際、祐斗を強制退場させる為に俺が体内に光のオーラを送り込んだから、アイツは今日一日まともに戦えない状態だ。一応動けるまでには回復してるが、それでも今は神器(セイクリッド・ギア)を展開させる事は出来ないからな。

 

 たとえ身体に鞭を打って動いたところで、エクスカリバーに対抗出来る手段が無ければ意味が無い。無手でエクスカリバーを破壊しようなんて愚行をやるほど、祐斗はそこまでバカじゃない筈だ。

 

「もし兄貴の忠告を無視して動いたらどうすんだ?」

 

「そうさせないよう、祐斗にコッソリと強制転移の札を仕込んでおいた。転移先はリアスの部屋だ。そしてそこに待機してるリアスには、勝手な行動をした祐斗にお仕置きするよう頼んである」

 

 リアスのお仕置き内容は『お尻叩き』だそうだ。多分リアスの事だから魔力を込めたお尻叩きをやりそうな気がする。

 

「……随分と用心深い事で。それだけ木場を死なせたくないって事なんだろうが」

 

「アイツが死んだら周囲の奴等が悲しむからな。お前だってそうだろ?」

 

「………まぁ、一応仲間だからな」

 

 素っ気無い返答をしながら答えるイッセーに、俺は笑みを浮かべる。

 

 何だかんだ言って、イッセーも祐斗の事を大事な仲間として見ているようで何よりだ。

 

「祐斗を仲間だと思ってるなら、いっそのことお前も“祐斗”って名前で呼んだらどうだ? 多分アイツの事だから喜ぶと思うぞ?」

 

「っ! じょ、冗談じゃねぇ! 女の子ならまだしも、何で男相手に名前で呼ばなきゃなんねぇんだよ! 気持ち悪いだろうが!」

 

 さっきまでとは一変して、鳥肌が立ったように拒否反応を示すイッセー。

 

「何もそこまで言わなくてもいいと思うんだが。もし祐斗が聞いたらショック受けると思うぞ」

 

「あのイケメンがそんなタマかよ! 大体、俺はただでさえ松田と元浜が流した噂の所為で、学校の女子達から『俺と木場がデキてる』って悍ましいホモ疑惑をかけられてんだぞ! そんな状況で俺が名前で呼んだら拍車に掛かるだろうが!」

 

 そう言われればそうだったな。

 

 ったくアイツ等め。余計な事をしなければイッセーが祐斗と仲の良い友人になれたのに。

 

 でもまぁ、噂を真に受ける女子達もどうかと思うがな。前から思ってるんだが、最近の女子達はどうして男の同性愛とかを好むんだろうか。

 

 普通に考えて同性愛は周囲から嫌悪されるものなんだが、何故それを容易に受け入れられるんだ? これは人間に転生した聖書の神(わたし)でも未だに分からないよ。

 

「とにかく俺は木場を名前で呼ぶなんて事は絶対にしないからな!」

 

「はいはい、分かった分かった。……じゃあ話を戻そう。取り敢えず今日は潜伏してる堕天使のアジトを調査して――」

 

「堕天使なんかより、私の事を調査して欲しいわね」

 

「「っ!」」

 

 俺とイッセーの会話に第三者と思わしき声が割って入ってきた。聞き覚えのある声だと思いながらイッセーと一緒に振り向く。

 

「はぁい、イッセーくんにダーリン。エリーで~す、歳は十七歳で~す♪」

 

 ……おいおい。

 

「テメェは……!」

 

「またお前か」

 

 やはりと言うべきか、そこには誰もが魅了するような容姿をした銀髪の美女――エリーがいた。ついでにさっきの戯言は聞かなかった事にする。

 

 以前に堕天使レイナーレを殺した後に俺達の前から姿を消したにも拘らず、再びまた(あい)(まみ)えるとはな。

 

 イッセーはイッセーでエリーを見た途端に憎しみを込めた目で睨んでいる。普段女好きのイッセーがこうするのは、レイナーレがアーシアの神器(セイクリッド・ギア)を奪う計画に加担したからだ。

 

 自分が大切にしてるアーシアを殺しかけた奴が美女でも話は別ってところか。尤も、それは俺にも言える事だが。

 

「あらあら、兄弟揃って怖い顔しちゃって。特にダーリンにそんな顔されたらショックね。ちょっと傷付くわ」

 

「お前がそんな繊細な訳がないだろう。で? 姿を現したって事は、またどこかの組織に加担して俺達にちょっかいを掛けに来たと思って良いのか?」

 

「ウフフ、流石はダーリン。私の事を分かっているようね♪」

 

「先日あったレイナーレの件でお前の性格を思い出したからな」

 

 やはりコイツは何か目的があって俺達の前に現れたようだ。それはまだ分からないが、取り敢えずエリーが現れた以上は警戒しておく必要があるな。

 

「まさかとは思うが、お前が此処に来たのは堕天使コカビエルと手を組んでるからじゃないだろうな?」

 

 念の為に当たって欲しくない事を問うと――

 

「いくらダーリンでもその質問は……正解~♪ レイナーレのおバカさんに続いて、今度は幹部のコカビエルに加担して、フリード君と一緒に神父狩りをしてま~す♪」

 

「答えんのかよ!」

 

 最初は答えないような言い方をするエリーだったが、途端にアッサリ白状した。それを聞いたイッセーが思わず突っ込んでる。

 

 ってか、今さっき聞き捨てならない事を言わなかったか? コイツがはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)のフリードと一緒に神父狩りだと? 一体コイツは本当に何の目的で動いているんだ?

 

「解せないな。悪魔であるお前が何故堕天使に手を貸しているんだ? それとも前みたく別の目的もあるとか?」

 

「う~ん……本当は答えてあげたいんだけど、流石にそこまでは無理ね。でも、愛するダーリンが私の夫になってくれるなら答えてあげても――」

 

「お断りだ」

 

 いくらエリーが求愛しても、俺には最初からその気はない。相手が悪魔とかサキュバスだからではなく、俺はこの女自体が嫌いだ。

 

 今は俺の妹分になってるアーシアをコイツが殺しかけた事を考えるだけで、『終末の光』を使ってでも滅したいほどに。

 

「んもう、相変わらずつれないわね~。まぁ、そんなダーリンも私は愛してるけど」

 

「答える気がないなら、力付くで聞かせてもらおうか。イッセー、二人掛りでコイツを即行かつ全力で斃すぞ」

 

「おう!」

 

 俺とイッセーは即座に身体中からそれぞれ金と赤のオーラを発させる。

 

「あらあら。イッセー君だけじゃなく、ダーリンもこの前戦った時よりまたオーラが上がってるわね。いくら私でもこれはちょっとやばそう」

 

 そう言ってるエリーだが、とても焦っている様子は見受けられなかった。寧ろ楽しそうな表情をしている。

 

 コイツは享楽主義者でもあるが、俺やイッセーと同じくバトルマニアでもある。恐らく俺とイッセーと戦う事を考えて、面白い戦いになりそうだと思ってるに違いない。

 

「本当ならこのままダーリン達と戦いたいところだけど、今日は挨拶に来ただけだから退かせてもらうわ」

 

「「逃がすかよ!!」」

 

 俺とイッセーが超スピードで接近してパンチで攻撃するも、反応したエリーは姿を消した。

 

「消えた!? あの女、何処行きやがった! 魔力も感じねぇぞ!」

 

「……ちっ。どうやら俺達が攻撃する事を見計らって、即行で転移出来るよう事前に施していたか」

 

 エリーの魔力が感じない理由は二つある。魔力が感知出来ない場所にいるか、もしくはエリー自身が魔力を消しているかのどっちかだ。因みにアイツは俺みたくオーラのコントロールが出来るから、自身の魔力をゼロにする事は造作もない。

 

 

 ――そんなに慌てないで、ダーリン。今度会った時にはちゃんと戦うから――

 

 

「「っ!」」

 

 何処からかエリーの声が聞こえたが、周囲を見渡しても肝心のアイツがいなかった。魔力を探っても感じられない始末だ。

 

 

 ――ああ、そうそう。帰る前に良い事を教えといてあげるわ。『白い龍(バニシング・ドラゴン)』は既に目覚めてるから、近い内会う事になるわよ。赤龍帝のイッセー君、今のままじゃ彼にまだ勝てないから気をつけてね――

 

 

「なっ!?」

 

「チッ。思っていた以上に早かったな」

 

 エリーからの情報にイッセーは驚くも、俺は舌打ちをした。

 

 俺達を惑わせる為の虚言かもしれないが、アイツが俺に対して嘘は言わないから恐らく本当だろう。

 

 まさかコカビエル以上に面倒な奴が近い内にイッセーと会う事になるとは……。どうやら修行の難易度を更に上げる必要がありそうだ。

 

 そして『白い龍(バニシング・ドラゴン)』の情報を最後に、もうエリーの声は聞こえなかった。




久しぶりのオリ主の宿敵、エリーの登場でした。


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第九話

今回はフライング気味で投稿します。


「で、結局イリナ達と共同戦線張るのか」

 

「仕方ないだろう。アイツがコカビエルと組んでる時点で、あの二人に勝てる可能性は万に一つどころか億に一つもない」

 

 エリーと出会った次の休日。俺はイッセーを連れて街を歩いている。

 

「つーか、部長や生徒会長に言わなくてもいいのか? あの女は冥界(むこう)じゃ指名手配犯だろ?」

 

「それはダメだ。もし教えた後にあの二人が警戒するような行動を取ったら、それに感付いたエリーは容赦なく殺すだろう。いかにリアスやソーナが魔王の妹だろうと、エリーにとっては目障りな弱小悪魔しか見てないからな」

 

 あの女は自分より弱い相手は基本的に放置するが、獲物(おれ)を狙う際に邪魔されたら誰であろうと容赦しない。アイツは享楽主義者な上に自己中心的だし。

 

 だからリアス達にはなるべくエリーの存在は伏せておきたい。尤も、エリーがコカビエルと手を組んでる以上、バレるのは時間の問題だが。

 

「その台詞、部長が聞いたら絶対キレるな」

 

「だが事実だ。言っちゃ悪いがリアスやソーナは上級悪魔でも、まだまだ『世間知らずなお嬢さま』レベルだし」

 

 この台詞にリアスとソーナが猛抗議しても、『じゃあお前等、コカビエルや指名手配犯のエリーと互角に戦えるのか?』と俺が訊いた途端に言い返せなくなるだろう。

 

 因みに二人に対する罵倒を某シスコン魔王二人が聞いたら、兄の方は納得しても、姉は間違いなく泣きながら強力な魔法を俺にぶっ放してくると思う。後者の魔王は超が付くほど(ソーナ)を溺愛してる超シスコン魔王だからな。

 

 それを考えた途端に俺は思わず身震いしてしまう。あの魔王少女とガチンコバトルやったら、身体がいくつあっても足りない。

 

「イッセー、言っとくがリアス達に余計な事は言うなよ? 悪口も含めて」

 

「分かってるって。さっきのは聞かなかった事に――」

 

「おいアンタ! どんだけ何様なんだ!? 会長が『世間知らずなお嬢さま』って発言を撤回しやがれ!」

 

「……リューセー先輩、いかにあなたでも部長に対してその発言はどうかと思います」

 

「「あ………」」

 

 俺の発言をイッセーだけじゃなく、偶然出くわしたソーナの『兵士(ポーン)』――匙元士郎と、リアスの『戦車(ルーク)』――塔城小猫にも聞かれてしまっていた。

 

 むぅ、まさか二人と遭遇する事になるとは……。すぐに謝罪しても、この二人の事だから根掘り葉掘り訊いてくると思うから……よし。折角だから、少しばかり協力してもらおうか。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「嫌だぁぁぁ! 帰らせてくれぇぇぇぇ!」

 

 悲鳴をあげて逃げようとする匙だが、俺が腕を掴んで離さないでいる。

 

 俺は二人に主の謝罪をした後、聖剣使いの紫藤イリナとゼノヴィアに共同戦線を提案しにいくから同行してくれと話すと、小猫は暫し考え込んで「では一緒にいきます」と言って同行する事になった。

 

 匙は聖剣使いと聞いた途端に顔を青褪めて逃げようとしたので、俺が即座に捕縛したって訳だ。悪魔にとって聖剣は天敵だから、匙の反応は至極当然だ。

 

「兵藤先輩! なんで俺を巻き込むんですか!? 俺はシトリー眷族の悪魔です! 人間のアンタたちとは関係ねぇ! 関係ねぇぇぇぇ!」

 

 匙は涙を流しながら訴える。

 

「君の事だ。俺に対する仕返しついでとして、俺達の行動をソーナに報告するつもりだろう? さっき俺が言った悪口も含めて、な。今そんな事をされると不味いから、この際君も俺達と一緒に行動してもらうよ」

 

「ふざけんなぁぁ! 俺がアンタたちと一緒に行動なんてするわけねぇぇぇぇだろぉぉぉ! そんなことしたら殺される! 俺は会長に殺されるぅぅ!」

 

 おやおや、匙から見たらソーナは余程怖いようだな。

 

「いくらソーナでもそこまではしないと思うが?」

 

「アンタは会長と同級生だからそんなこと言えるんだろうよ! 会長はな! 俺ら眷族に対しては厳しくて厳しいんだぞ!」

 

 まぁそうだな。姉がアレ(・・)だから、ソーナは真面目にならざるを得なかったし。

 

 取り敢えず俺はイッセーの他に、小猫、匙を連れて既にオーラを探知済みであるゼノヴィアと紫藤イリナの下へと向かっている。

 

「小猫ちゃん。一応訊いておきたいんだけど、木場が聖剣計画の犠牲者で、エクスカリバーに恨みを持ってるのは知ってるよね?」

 

 イッセーの問い掛けに小猫は頷くと、次に俺に質問をしてくる。

 

「……ですがお二人はどうして急にまた聖剣使いに会おうとするんですか? 昨日は独自に聖剣を破壊すると約束した筈では……?」

 

「そのつもりだったんだけど、予定変更にした。昨日散歩した時にコカビエルの手下と遭遇して、ソイツが予想外の実力者だったんだよ。あの聖剣使い二人でも太刀打ち出来ないほどにね」

 

「……そんなに強いんですか?」

 

「ああ。コカビエルに匹敵する強さだよ」

 

 敢えてエリーの名前は出さずにコカビエル並みの強敵とだけ言っておく。もしエリーが聞いたら端正な顔を顰めながら『あんな奴と一緒にしないで』と抗議すると思うが。

 

「そんな連中相手じゃイリナとゼノヴィアの死は確定だ。いくら俺が嫌いな教会連中、イリナは幼馴染でもあるから死なせたくはない」

 

 無論イリナだけでなく、教会の信徒であるゼノヴィアも死んで欲しくはない。妹分のアーシアを手に掛けようとしても、一応聖書の神(わたし)の信徒だ。

 

 聖書の神(わたし)がこの駒王町にいながら、信徒である彼女達を見殺しにする訳にはいかない。教会には彼女達の死で悲しむ者もいるからな。

 

「……この事を部長には?」

 

「絶対反対されるのが目に見えてるから、後で教えるつもりだ」

 

「……私が知った時点で――」

 

「隣町のスイーツ店にある限定スイーツ食べ放題券でどうかな?」

 

「………………」

 

 リアスに報告しようとする小猫だったが、俺が懐から券を出して見せびらかすと思いっきり凝視する。

 

 今の小猫は物凄く欲しい顔をしながら揺れている。俺が出したこの限定スイーツ券は激レアアイテムに等しく簡単に手に入らない物である上に、小猫と同様にスイーツ好きなリアスや朱乃も物凄く欲しがっている代物だ。

 

 何で俺がそんな物を持っているのかと言うと、オカマのローズさんから貰ったからだ。なんでも隣町のスイーツ店はローズさんの知り合いが経営してるらしく、その人がローズさんに定期的に渡してるそうだ。

 

 最初はどう言う知り合いなんだと聞いたが、ローズさん曰く『お菓子作りの基礎を教えた子』らしい。どんな経緯でそうなったのかは知らないけど。

 

 とまあ、ローズさんのお蔭で余った食べ放題券を今回は貰う事が出来たって訳だ。

 

「どうする小猫? コレが欲しくないかな?」

 

「……わ、私は部長の眷族で……」

 

 俺の誘惑を何とか耐えようとする小猫はー―

 

「じゃあ食べ放題券をもう一枚で手を打とうか。これで二回行けるぞ?」

 

「……交渉成立です」

 

 更なる誘惑でアッサリと敗北し、受け取ってしまった。

 

「ちょ、ちょっと塔城さん! 悪魔が人間に買収されてどうすんの!?」

 

「流石は兄貴だ。小猫ちゃんの弱点を知り尽くしてるぜ」

 

 突っ込む匙と感心するイッセー。

 

 知り尽くしてるも何も、小猫がスイーツ好きである事は前に知ったからな。

 

「じゃあ小猫。それを受け取ってしまった以上、暫くの間は黙ってような」

 

「……分かりました」

 

 了承する小猫を見た俺は次に匙の方を見る。

 

「そして匙、君も黙ってもらう代わりに――」

 

「お、俺は買収なんてされませんからね! 俺は誇り高いシトリー眷族で――」

 

「偶々入手したソーナの水着写真を後ほどあげるよ」

 

「兵藤先輩! 俺は会長に何も喋りません!」

 

 報酬が自分の想い人、じゃなくて想い悪魔の写真が手に入ると分かった瞬間、匙はあっさりと陥落した。

 

 因みにソーナの水着写真については、写真部の誰かが水泳授業をしてるソーナを隠し撮りした後、密かに駒王学園に売られていた物だ。尤も、その写真はソーナが即座に没収後に処分し、写真部の部員は停学処分をくらったが。

 

 写真騒動が収まった後、俺は先生の手伝いで視聴覚室に教材の持ち運びをした際、偶然にもソーナが回収した筈の水着写真が一枚見つけた。その時は後でソーナに渡しておこうと思っていたが、先生の手伝いや行事やイッセーの修行等で色々あり過ぎた為、完全に忘れてしまって今に至る。

 

 今更俺が返したところでソーナに何言われるか分からないし、この際だから何かあった時に使おうと思って保管していた。

 

 んで、匙がソーナに惚れてるのをこの前生徒会室へ伺った時に知ったから、どのタイミングでやろうかと考えていたので、この機会に報酬として渡す事にした訳だ。

 

「何だよ匙、小猫ちゃんの事をどうこう言える立場じゃねぇだろ」

 

「ほ、ほっとけ! 悪魔は欲望に忠実なんだよ!」

 

 匙の言い分に小猫がうんうんと頷いてる。

 

 確かに二人は悪魔だから、欲は人間以上に忠実だ。

 

 取り敢えず小猫と匙を自分の主に報告しない約束をさせたから、これで少しばかり時間を稼げる。

 

 そうこうしてる内に対象のオーラ二つが近くに止まっていたので、俺達は交差点を曲がると――

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

 

「天の父に代わって哀れな私たちにお慈悲をぉぉ~~」

 

 路頭で祈りを捧げて物乞い行為をしてると言う、何とも情けない姿を見せてるイリナとゼノヴィアがいたのであった。

 

 あの光景に通り過ぎる人々も奇異な視線を向けている始末だ。

 

「………なぁ兄貴。何か思ったより簡単に交渉出来そうじゃねぇか?」

 

「………みたいだな。ちょっと俺一人で行ってくるから、イッセー達はここで待っててくれ」

 

 呆れてるイッセーと呆然としてる小猫と匙に言った俺は、物乞いをしてる二人の前を通ろうとする。

 

「「っ!」」

 

 俺がチラッと見て目が会った瞬間、イリナとゼノヴィアは揃ってひもじそうな視線を送っていた。

 

 これが昨日俺と戦った二人とは思えないほどの変わりようだ。見てて段々哀れに思うよ。

 

「………はぁっ。ご飯を食べたかったら俺に付いてこい。俺の知り合いの店でも良いならな」

 

 そう言った直後、二人はあっさり了承し俺に付いてくるのであった。

 

 教会の上層部は完全に人選を誤ったな。聖書の神(わたし)はもう涙が出そうだよ。




知らないとは言え、イリナとゼノヴィアは再び畏れ多い事をやらかしちゃってます。


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第十話

今回は短いです。同時にまたいつものダラダラ感が出ています。

まぁそれでも更新しないだけマシなんですが……取り敢えずどうぞ!


「うまい! 日本の食事がここまでうまいとは思わなかったぞ!」

 

「最初は不気味なお店だと思ったけど、こんなに美味しい食事を食べれるなんて! これが故郷の味よ!」

 

 ガツガツと俺が連れてきた店で頼んだメニューを次々と腹に収めていくゼノヴィアとイリナ。

 

 随分と見事な食べっぷりな事で。本当にキリスト教本部からやってきた刺客とは思えないな。

 

 あとこの二人、俺が案内する店に到着するまで、「リューセーくんは異端者だけど、幼馴染だから大丈夫」、「相手が異端者とは言え、これも信仰を遂行する為だ」などと失礼な事をぶつぶつ言っていたが。

 

「……リューセー先輩、本当にお金は良いんですか?」

 

「大丈夫大丈夫。俺はここの店長と知り合いだから、それなりにまけて貰えるよ」

 

 ゼノヴィアとイリナが物凄い勢いでメニューを食べている事に、小猫は金額がバカにならないと思って自分もお金を出すと言ってるが無用な心配だ。無論小猫だけじゃなく、イッセーや匙からも金を出してもらう必要はない。

 

 因みに――

 

「ひょ、兵藤……。お、俺はすぐにでもココから出たい……!」

 

「耐えろ。耐えるんだ、匙! 俺だって辛いんだ……!」

 

 匙とイッセーは椅子に座りながらもすぐにでも動けるよう周囲を警戒していた。店に入ってる時から。

 

 まぁ、この二人の行動はある意味正しいかもしれないな。

 

「はぁい。追加のハンバーグとスパゲティナポリタンよ」

 

「ひっ!」

 

 何故なら此処はオカマのローズさんが経営してるオカマバーだから。因みに今のローズさんは化粧をしてても、服装はまともなものだ。

 

 俺がこの店に来たのは当然理由がある。流石に一般のファミレスで聖剣破壊や堕天使などの話をしたら不味いので、裏事情に精通してるローズさんの店に来た訳だ。此処なら一般客の耳に入る事は無い。

 

 もうついでに、このオカマバーはまだ営業時間外だが、俺がローズさんに事情を話して急遽特別営業をしてもらってる。今回のような裏関連の話ならOKだからな。

 

 そして料理を運びながら現れたローズさんの登場に、耐性が付いてない匙は恐ろしい者をみるような悲鳴をあげる。ゼノヴィアとイリナは全く気にせず料理を食べているが。

 

 ローズさんは料理を食べてるゼノヴィアとイリナの近くに料理を置いた後、すぐに匙の方を見た。

 

「ちょっとそこの坊やぁ。人の顔を見て悲鳴をあげるなんて失礼じゃなぁい?」

 

「え、えっと、そ、そんなつもりじゃ……」

 

 必死に誤魔化そうとする匙に、ローズさんはジッと観察し――

 

「う~ん、よく見るとあなた可愛いから、今夜ワタシのお相手をしてくれたら許してあげるわ♪」

 

「いやいやいやいや是非とも遠慮します! お、俺には好きな女性がいますから!」

 

「あらそうなのぉ? 残念ねぇ~」

 

 相手をするよう頼むも、匙は危険迫るようなマジ顔をしながら必死に断った。

 

「じゃあ代わりにイッセーちゃんを――」

 

「っ!」

 

「ローズさん。この後彼女達と大事な話をしますから、そう言った事はまた今度にして下さい」

 

 イッセーが本気で闘気(オーラ)を出そうとしていたので、俺が空かさず割って入るように言う。俺の発言にローズさんはすぐに引き下がろうとする。

 

「あらごめんなさぁい。ワタシのお店に可愛い子たちが来てるからつい。それじゃ、ごゆっくりぃ」

 

 そう言ってローズさんは奥へ引っ込むと、イッセーと匙は安堵するように思いっきり息を吐く。

 

「あ、危うく食われるかと思った……!」

 

「兵藤、お前さぁ……一体どう言う経緯であの巨漢なオカマと知り合ったんだ?」

 

「それは俺じゃなく兄貴に言ってくれ……。因みにあのオカマ店長は、悪魔のお前なんかとは比べ物にならねえ程に滅茶苦茶強ぇ。俺だってまだ勝てねぇんだから」

 

 そうだな。いくらイッセーが腕を上げたとは言え、まだまだローズさんの相手にはならない。

 

「ふぅー、落ち着いた。まさかキミたち異端者や悪魔に救われるとは、世も末だな」

 

「おいコラ。飯を提供してもらってそれかよ」

 

 ここまで失礼な態度を取られると、いくら聖書の神(わたし)でも流石にカチンとくる。

 

「はふぅー、ご馳走さまでした。ああ、主よ。心優しき異端者と悪魔たちにご慈――」

 

「おっとイリナ、それは止めてもらおうか」

 

 胸で十字を切ろうとするイリナに、俺が空かさず彼女の腕を掴む。

 

「ちょっ! どうして主にお祈りをしちゃダメなの!?」

 

「この場には悪魔がいるんだ。それをやったらこの二人がダメージを受けるだろうが」

 

「え? ………あー、ゴメンなさい。つい十字を切りそうになって」

 

 俺が言った理由にイリナは悪魔の小猫と匙を見て納得し、てへっとかわいらしく笑う。コイツもゼノヴィアと同様に悪びれた様子を全く見せないな。

 

 そして俺は腕を離すと二人は水を飲み、息をついたゼノヴィアは改めて俺に訊こうとする。

 

「それで、私たちに接触した理由は?」

 

 おお、早速切り出すか。まぁ俺としてもそうしてくれた方がありがたい。

 

「単刀直入に言う。君たち聖剣使い二人、今夜から俺達の散歩に同行してもらうよ」

 

「え?」

 

「何だと?」

 

 散歩に同行する、即ちエクスカリバーの破壊を合同でやると言う意味。

 

 当然この意味を理解してるイリナとゼノヴィアは目を丸くさせて驚いている様子だ。

 

「どう言うつもりだ? 貴様が私たちに干渉するなと要求しておきながら、それが今になって同行しろなどと……」

 

 ゼノヴィアは途端に睨むように言ってくる。

 

 確かにそうだ。昨日の今日でいきなり同行しろと言われたら、彼女の反応は至極当然。

 

「実はなぁ、昨日の夜に――」

 

 俺は昨日の散歩でエリーと遭遇した事を話す。当然エリーが悪魔である事は伏せて、な。

 

 コカビエルに匹敵する実力者だと言った後、二人は驚いてる様子を見せるも、すぐには信じてくれそうになかった。

 

「俄かに信じられないな。それが事実だとしても、何故そのような情報を我々に教えようとする?」

 

「君達の任務失敗率と死亡率が100%だから」

 

「「っ!」」

 

 俺の台詞に二人はカチンときたような顔をするも――

 

「二人掛りで俺に挑んでアッサリと負けた君達を考えれば尚更」

 

「「うぐっ!」」

 

 昨日やった勝負の結果を持ち出した途端、すぐに言い返せなくなってしまう。

 

「それに君達が異端者と相容れないからって、分かりきった結果を知りながらもコカビエル達に殺されるのを黙って見過ごす訳にはいかない。いくら教会から与えられた任務とは言え、君達だってまだ死にたくはないだろう? ってか、俺としては君達に死んで欲しくない。特にイリナ。もし君が死んでしまったら、君の父親――トウジおじさんが物凄く悲しむ事になるぞ」

 

「っ……」

 

 理由の他にイリナの父親について触れた途端、イリナは辛そうな顔をする。だがそれは一瞬で、すぐに気を引き締めようとする。

 

「そうね。リューセーくんの言うとおりかもしれない。でも、私たち信徒は覚悟を決めてこの国に来たの。全ては主の為に――」

 

「だったら神の為に生きて無事帰ろうとしないのか? それこそが本当の信仰だと俺は思うぞ。神の為に戦っている戦士の君なら尚更な。違うか?」

 

「!」

 

 俺の台詞にゼノヴィアは驚くような顔をしているが、取り敢えず今は気にしないでおく。

 

 聖書の神(わたし)を慕う信徒達には悪いが、自己犠牲になるのは正直言って止めてほしい。様々な理由があろうと、聖書の神(わたし)の為に死んだとしても、転生して人間となった兵藤隆誠(おれ)には何も出来ない。

 

「……確かに違わないわ。でもだからと言って――」

 

「良いだろう。貴様の提案を受け入れようじゃないか、異端者。いや、兵藤隆誠」

 

「ゼノヴィア!?」

 

 イリナが言ってる最中、ゼノヴィアが割って入って急遽俺の共同戦線を受け入れた。その事にイリナが異を唱えようとする。

 

「ちょ、ちょっとゼノヴィア。あなた、何をそんな勝手に」

 

「イリナ、正直言って私たちだけではエクスカリバーの回収とコカビエルとの戦闘は辛い。益してやコカビエルに匹敵する敵もいれば敗北は決定だ」

 

「それはわかるわ。けれどリューセーくんやイッセーくんがいるからといっても、二人は悪魔側よ!」

 

「今の私たちが生きて無事帰る為には、彼らの力が必要だ」

 

 イリナは未だに反対して説得しようとするも、ゼノヴィアは撤回しようとしない。

 

 まさかゼノヴィアが、こうもアッサリと俺の提案を受け入れるとは思わなかったな。

 

 てっきりイリナと同様、『異端者である貴様の手など借りたくない!』と反論して断ると予想したんだが。

 

「へぇ、意外だな。信仰が厚い君からそんな台詞が出るとは」

 

「私の信仰は柔軟でね。いつでもベストなカタチで動き出すのさ」

 

「それはそれは」

 

 何とも素晴らしい信仰だ。今の俺にはとても好都合だよ。

 

「ゼノヴィア。前から思っていたけれど、あなたの信仰心は微妙におかしいわ!」

 

「否定はしないよ。任務を遂行して無事帰ることこそが本当の信仰だと私は信じる。生きて、これからも主の為に戦うと」

 

「……リューセーくんと同じこと言ってるわね。でも」

 

「俺や赤龍帝のイッセーが信用出来ないか、イリナ?」

 

「……ちょっと待って、リューセーくん。いま何て言ったの? イッセーくんが赤龍帝って……」

 

「あれ、言ってなかったか? イッセーは神器(セイクリッド・ギア)――赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)を所持してる今代の赤龍帝だって事を」

 

「「っ!?」」

 

 あっけらかんと答える俺にイリナは滅茶苦茶驚き、ゼノヴィアは驚きながらも未だにローズさんに警戒中のイッセーを注視する。

 

 これを知ったゼノヴィアはドラゴンの力も借りれると分かり、イリナを説得するのであった。ゼノヴィアの説得により、イリナは渋々ながらも俺達と共同戦線をする事に承知してくれた。




次も早めに更新出来れば良いなぁと思ってます。


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第十一話

「……話は分かりました」

 

 イリナが共同戦線を承知した後、俺はケータイで祐斗に連絡を入れた。流石にオカマバーに来いと言うのは気が引けたので、場所を変えようと噴水公園に来るよう指示した。因みにオカマバーから出れる事をイッセーと匙は地獄から脱出したような安堵の顔をしていた。

 

 俺からの指示に祐斗は文句も言わずに俺が指定した場所へ顔を出すも、不満そうに俺をジッと睨んでくる。

 

「そんな怖い顔をするなって、祐斗。理由はさっき言ったろ?」

 

「そうですね。昨夜は僕に何も言わず、以前エリーと言う女性と会ったみたいですし」

 

「だから悪かったって」

 

 祐斗がこうも不満気に睨んでくるのは、俺とイッセーが昨夜に行動開始してたからだ。目だけで『どうして僕を呼ばなかったんですか?』と充分に伝わってくる。

 

 既に完全回復してるが、昨日の祐斗は俺が体内に送り込んだ光の所為でまともに戦う事が出来ない状態だったから敢えて呼ばなかった。一応それもサラリと言ったんだが、それでも未だに不満たらたらだった。

 

 後で祐斗の機嫌を直さないとなと内心思いながら、とにかく納得させようとする。

 

「言っておくが祐斗、エクスカリバーの破壊に関しては今まで通りだ。だから勝手な行動はしないでくれよ」

 

「分かっています。破壊出来るなら問題ありません。ですが正直言って、エクスカリバー使いと共同戦線を張るのは遺憾ですね。何もその二人と協力しなくても、破壊するだけなら僕たちだけで充分だと思いますが?」

 

「ずいぶんな物言いだな。そちらが『はぐれ』だったら、問答無用で斬り捨てているところだ」

 

 睨みあう祐斗とゼノヴィア。全く。これから共同作戦をするってのに、喧嘩は止めろっての。

 

「確かキミは『聖剣計画』の生き残りだったな。聖剣や教会を恨む気持ちは理解出来るつもりだ。何しろあの事件は、私たちの間でも最大級に嫌悪されていたものだ。だから計画の責任者は異端の烙印を押され、追放された。そしていまは堕天使側の住人だ」

 

 被験者を実験動物のように殺しておいて追放処分だけで済ませるとは、教会も随分と手緩い事をする。追放された後に再び何処かで聖剣計画を再開すると考えなかったんだろうか。

 

「堕天使側に? ………リューセー先輩、責任者の名は?」

 

 興味を惹かれた祐斗が突然俺に訊いてくる。

 

「何故そこで俺に振るんだ?」

 

「部長から先輩が聖剣計画の事を知っていると聞いたので、もしかしたら責任者の名も知っているかと」

 

 リアスの奴、余計な事を祐斗に喋りやがって。まぁ口外するなと言ってなかったから仕方ないか。

 

「……バルパー・ガリレイ。確か『皆殺しの大司教』と呼ばれてたそうだよ」

 

「「っ!」」

 

 俺が『聖剣計画』責任者の名を告げた途端、ゼノヴィアとイリナは驚愕する。

 

「何故貴様がその者の名を知っている?」

 

「リューセーくん、教会上層部しか知られてないトップシークレットをどうして知ってるの?」

 

「ノーコメント」

 

 と言って回答拒否する俺に二人は食い下がろうとするも――

 

「これ以上追求すると、聖剣使いの君達が俺と戦ってボロ負けした事を教会にバラすぞ」

 

「「………………」」

 

 昨日の戦いについて触れた途端、明後日の方向を見ながら黙ってしまった。

 

 流石に聖剣使っても無様に負けてしまいましたなんて教会に知られたら大目玉を食らう事になるからな。益してや異端者の俺に負かされた事で尚更不味い。

 

「……とにかく、堕天使を追えば、その者に辿り着くと思えば良いんですね?」

 

「かもしれないな」

 

 祐斗は何も聞かなかった事にするよう確認の問いをしたので、俺はそう答える。

 

「でしたら僕も先輩に情報を提供したほうがよさそうですね。本当でしたら今夜言うつもりだったんですが、先日、エクスカリバーを持った者に襲撃されました。その際、神父を一人殺害していましたよ。やられていたのは教会側の者でしょうね」

 

「ほう」

 

『!』

 

 祐斗からの情報に俺が目を細めながら聞いてると、イッセーを含めた全員が驚いていた。

 

「相手は先輩もよく知っているフリード・セルゼンです」

 

(おい兄貴、確かソイツって昨日エリーが――)

 

(今は黙ってろ)

 

 昨日エリーが少年神父と一緒に神父狩りをしてるって言ってたが……既に知ってたなんて言えないから黙っておくとしよう。

 

 そういえばこの前イッセーや小猫から聞いた話だと、奴は以前組んでたアーシアを陵辱しようとしてたみたいだな。

 

 前までの俺はアーシアを保護する少女としか見てなかったが、今思うと殺意が湧くよ。可愛い妹分のアーシアを犯そうとする奴は聖書の神(わたし)が直々に八つ裂きの刑にしたい程にな。

 

 祐斗の言葉にゼノヴィアとイリナが同時に目を細める。

 

「なるほど、奴か」

 

「君達が知ってるって事は、あの少年神父は教会じゃ有名なのかい?」

 

 俺の問いに二人は頷き、イリナが先に答えようとする。

 

「ええ。リューセーくんの言うとおり、フリード・セルゼンは元ヴァチカン法王庁直属のエクソシストよ。若干十三歳でエクソシストとなった天才。悪魔や魔獣を次々と滅していく功績は大きかったわ」

 

「だが奴は周囲から異常と言われるにやりすぎた。同胞すらも手にかけていたからな。フリードに信仰心など最初から無かった。あったのはバケモノへの敵対意識と殺意。更には異常なまでの戦闘執着。異端として追放されるのは時間の問題だった」

 

 だろうな。俺も初めて少年神父と話した時はキチガイだと思ったよ。当時の教会は、少年神父にさぞかし手を焼いていたんだろうな。

 

「あのクソ神父、性根から腐ってやがったのか……!」

 

 聞いていたイッセーも不快そうに呟く。コイツもコイツで少年神父の事が嫌いだからな。尤も、アイツを好む奴はいないと思うが。

 

「まさかフリードが奪った聖剣を使って私たちの同胞に手を掛けていたとはな。あのとき、処理班が始末できなかった付けを私たちが払う事になろうとは」

 

 忌々しそうに言うゼノヴィア。

 

「取り敢えず話はここまでにしよう。祐斗も承諾した事で、エクスカリバー破壊の共同戦線といこうじゃないか。それじゃあ今夜八時、教会に集合だ。君達もそれで良いだろう?」

 

「ああ、別に構わん。食事の礼、いつかするぞ。兵藤隆誠」

 

「食事ありがとうね、リューセーくん。それじゃ後でね!」

 

 二人は俺に礼を言うと、噴水公園から立ち去った。

 

「何か言いたげだな、祐斗」

 

「……何故、彼女たちと共同戦線を張るんですか? さっき言ったように、僕たちだけで破壊しても問題無い筈なのに」

 

 確かに悪魔の祐斗からすれば、俺が幼馴染のイリナを死なせたく無いから共同戦線を張ると言っても関係無い事だ。エクスカリバーを破壊しようとする祐斗にとって、俺達の事情なんか知った事じゃない。

 

「あの二人の実力じゃ任務は確実に失敗して死ぬどころか、持ってるエクスカリバーをコカビエルに奪われるのがオチだ。そうならないようゼノヴィアとイリナをコチラ側に引き入れて、コカビエル達と戦った方がまだ良い」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい、兵藤先輩。どうして俺たちがコカビエルと戦う事になるんすか?」

 

 俺が説明してると、聞いていた匙が突然質問してくる。

 

「あのコカビエルが駒王町(ここ)に来てること自体怪しいんだよ。聖剣を奪って逃走するにしても、どうして態々悪魔のリアスやソーナが根城にしてるこの町を選んだのかが」

 

「考えすぎじゃないっすか? 逃走先が偶々この町になっただけだと思うっすよ。それに今の三大勢力は三竦み状態だから、下手に戦争なんて起こしたら大問題ですよ。コカビエルは堕天使の幹部なんですから、そこまでバカじゃないでしょう」

 

 あの戦争狂のバカ息子にそこまでの分別があればの話だけどな。

 

「だとしても、コカビエルが悪魔側と戦わないって言う保証は無いからな。まぁ他にも――」

 

 そう言いながら俺は祐斗の方へと視線を向ける。

 

「祐斗がドサクサに紛れて、ゼノヴィアとイリナが持ってる聖剣を破壊しようと独断行動なんてされても困るし」

 

「………………」

 

 祐斗が何も言い返さないって事は、やはり二人が持つ聖剣を破壊しようと思っていたようだな。念の為の楔をもう一本打ち込んでおいて正解だったな。

 

「あのなぁ、祐斗。独断行動をするにしても、何でもかんでも一人で背負い込もうとするな。少しは眷族や仲間の俺達を頼れ」

 

「僕一人の行動で部長に迷惑がかかるから……ですか?」

 

「そうだ。だがそれ以上にリアスが悲しむ事になる。此処にいる小猫も――」

 

「……祐斗先輩。私は、先輩がいなくなるのは……寂しいです」 

 

 俺がチラリと小猫へ視線を向けると、彼女は少し寂しげな表情をしながら祐斗に向かって言う。普段無表情で小猫の変化に、俺を除く男子全員が衝撃を受けていた。

 

「……私もお手伝いします。……だから、いなくならないで」

 

(あ、兄貴。俺、小猫ちゃんの訴えにきゅんときちゃったよ……)

 

 取り敢えずイッセーの戯言は無視させてもらう。

 

 そして小猫の訴えに祐斗は困惑しながらも苦笑いする。

 

「ははは。まいったね。小猫ちゃんにそんなことを言われたら、無茶はできないね」

 

 どうやら祐斗はやる気になってくれたようだ。今回は小猫のファインプレーに感謝しないと。

 

「……あの、兵藤先輩。さっきから気になってんすけど、木場とエクスカリバーに何の因縁があるんすか?」

 

 そう言えば匙は祐斗とエクスカリバーの関係を知らなかったな。コイツは今回事情も知らないまま俺が強制的に同行させただけにすぎないから。

 

「あ~、それなんだが……」

 

「リューセー先輩、それは僕から話します」

 

 言い淀んでいる俺に祐斗は自分から己の過去を語ろうとする。

 

 祐斗が語る内容は俺が以前調べた内容と殆ど一緒だった。だが本人から聞くと、全く別の話のように感じると同時に憤りを覚える。教会側がやってきた行いに。

 

 当然俺だけじゃなくイッセーも同様の反応だ。無言で聞きながらも静かな怒りを感じる。 

 

 以降は俺の知らない内容で、祐斗が研究施設からなんとか逃げ出した後、死ぬ寸前でイタリア視察に来ていたリアスと出会い、そして今に至る。

 

「僕は彼らの分も生きて、エクスカリバーより強いと証明しなくてはいけないんだ。彼らの死を無駄にしない為に」

 

 その為にエクスカリバーを破壊する考えに至ったと言う訳か。

 

 復讐なんて無意味だから止めとけ、などと言う気はない。その台詞は奪われた者の憎しみや悲しみを否定する台詞だからな。

 

 俺……じゃなくて、もし聖書の神(わたし)も誰かに家族を殺されたら、憎しみと殺意を抱いて復讐すると思うし。

 

「うぅぅぅ……」

 

 そして祐斗が過去を語り終えると、ずっと聞いていた匙が突然すすり泣くを出す。ボロボロ涙を流して、鼻水までも垂れ流しながら号泣している。

 

「うぉぉぉおおお!! 木場! お前にそんな辛い過去があったなんて! こうなったら会長のお仕置きがなんだ! 俺も協力するぜ!」

 

 う~ん、どうやら匙もイッセーと同様に熱血漢のようだ。

 

 祐斗の過去に相当心を打たれたのか、匙は自分の目標を語りだそうとする。

 

 その目標はとやらは――ソーナとデキ婚する事のようだ。それを聞いたイッセーが感動したのか、突然大量の涙を流した。

 

「匙! この際だから俺のも聞け! 俺の目標は部長の乳を揉み――そして吸うことだ!」

 

「なっ!」

 

 アホな事を言うイッセーに匙は再び両目から大量の涙を流しだす。

 

「すまなかった兵藤ッッ! 俺は誤解してた! お前って奴は人間なのに……とんでもない目標を立ててるんだな!」

 

「匙、俺も誤解しててすまなかった! お前って奴は、俺以上に高い目標を立てていたなんて知らなかった! 感動した!!」

 

「同士よ!」

 

「戦友よ!」

 

 ガシッと手を組んで意気投合する匙とイッセー。

 

「何やってんだか……」

 

「……あはは」

 

「……やっぱり最低です」

 

 この光景に俺だけじゃなく祐斗や小猫も嘆息していた。

 

「因みにリューセー先輩の目標はなんですか?」

 

「おいおい祐斗。ここで俺に振るのか?」

 

「二人がああなっちゃってますから、一応先輩も訊いたほうがいいかなぁと……」

 

「…………俺の目標は」

 

 イッセーを匙を無視し、取り敢えず祐斗と小猫に目標を言う事にした。

 

「人並みの人生を送ること、だな」

 

 嘗ての聖書の神(わたし)であったら考えられない目標だが、人として過ごした今の俺は平和な人生を送りたい。ただそれだけだ。



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第十二話

今回はオリジナル話となっています。


 夜八時の教会。

 

 リアスとアーシアに知られないように来た俺とイッセーは、合流した祐斗達と共に変装をする。ついでに小猫はシスターに変装する為に別の部屋で着替えている。

 

「悪魔が神父の格好なんて……」

 

 神父服を着た匙が複雑そうな顔でそう言う。確かにそんな格好をしたら、どこの悪魔だって匙と同じ事を言うだろう。

 

「抵抗はあると思うけど」

 

「目的の為なら、何でもするさ」

 

 イリナの台詞に祐斗は全く気にしてないように神父服の上着を着る。

 

(イッセー、もしもの時は)

 

(わぁってるって。木場が暴走したら俺が止めりゃいいんだろ)

 

 神父服に着替えた俺は小声で言うと、イッセーは頷きながら返答する。

 

 そして男子の俺達が神父服に着替え終えると、別部屋でシスター服に着替えた小猫が聖堂にやってきた。

 

「全員着替え終えたな。尤も、流石にこんな大人数で動いてたら怪しまれるから、ここは分断して動くとしよう。君達もそれで良いよね?」

 

「ああ、私もそう考えていた」

 

「私もよ」

 

 俺の案にゼノヴィアとイリナは文句を言う事なく賛成して頷く。

 

「よし、じゃあ二手に分かれるとしよう。俺は君たち教会側と同行するから、イッセーは祐斗達と一緒に行ってくれ」

 

 俺がそう指示すると早速と言うべきか、ゼノヴィアが待ったをかけようとする。

 

「何故私たちと一緒なんだ? 貴様が悪魔(そちら)側なら、彼らと一緒に行った方が良いんじゃないか?」

 

「それじゃ俺たちと同行する意味が無いだろう」

 

 異端者の俺と同行したくないのは理解出来るが、それくらいは我慢して欲しい。

 

 あんまり言いたくないんだが、この二人だけでコカビエルやエリーと遭遇したらアッサリ負けるからな。

 

 いくらこの二人が聖剣使いでも、コカビエル達と互角に戦えるほどの実力はまだない。たとえ奥の手を使ったとしても。

 

 取り敢えず不満そうなゼノヴィアを無理矢理納得させ、俺と教会組は町の西側、イッセーと悪魔組は東側へ行く事となった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「で、トウジおじさんは元気なのか?」

 

「そりゃもう。て言うか、パパが元気じゃなかったらパパじゃないわよ」

 

「それもそうか」

 

 教会で分断した俺、イリナ、ゼノヴィアは駒王町西側を探索している。最初は警戒しながら歩いていたが、向こうが中々尻尾を見せてくれないので、久しぶりに会ったイリナと世間話をする事にした。ゼノヴィアは話に参加してないが。

 

 世間話をしながらも、俺は常に周囲を警戒してるからすぐに対応出来る。と言うか、世間話でもしないとゼノヴィアがギスギスした雰囲気をずっと醸し出すからな。それでもゼノヴィアは俺を警戒するようにジッと見ているけど。

 

「兵藤隆誠」

 

「なんだい?」

 

 ゼノヴィアが突然呼んでくるので、俺はすぐに彼女の方へと視線を向ける。

 

「何故貴様が悪魔に従っている?」

 

「いきなりな質問だな。どうしてそんな事を訊くんだい?」

 

「悪魔を滅する力を持っておきながら、何故リアス・グレモリーたち悪魔側に下っているのかが疑問でね」

 

「別に俺はリアスの配下じゃない。お互いに利害が一致した協力関係だよ」

 

 向こうが裏切るような事をしない限り、俺はリアスを裏切るような事はしない。尤も、リアスが弟のイッセーに夢中になってる時点で、向こうはそんな気なんか更々無いだろうが。

 

「悪魔と協力関係って……。私はてっきり、リューセーくんやイッセーくんが悪魔に魂を売って奴隷になったかと思ってたわ」

 

「失礼な。俺やイッセーはそこまで堕ちちゃいない」

 

 イリナの台詞をリアスが聞いてたら絶対にキレるだろうな。アイツは相手を奴隷にするような外道な事は嫌ってるし。

 

 そんなこんなで話していると、ふと妙な気配がした。ゼノヴィアとイリナは気付いてないが、俺が向けた視線の先には廃工場がある。

 

「? どうしたの、リューセーくん。あの工場をジッと見てるけど」

 

「何かあるのか?」

 

「………………」

 

「ちょ! リューセーくんってば!」

 

 二人の問いに俺は答えず、工場の方へと足を運んで中に入ろうとする。工場の中は埃塗れの素材や機材が散乱していた。

 

「もう、何でこんな所に入るの?」

 

「見た感じ、ここには何も無さそうだが?」

 

 辺りを見ながら言うゼノヴィアとイリナだが、俺は気にせずこう言う。

 

「………姿を現したらどうだ? 折角お前の誘いに乗ってやったんだからさ」

 

「フフフ。来てくれてありがとう、ダーリン♪」

 

「「っ!」」

 

 突然聞こえる女性の声に、ゼノヴィアとイリナは即座に警戒する。

 

 すると、奥から昨日会った銀髪の美女――エリーが現れた。

 

「リューセーくん、あの人は誰?」

 

「あの女、何故か分からんが危険なにおいがするな」

 

「気をつけろよ。アイツが食事の時に言ったエリーと言う女だ」

 

 両隣にいるゼノヴィアとイリナに言うと、途端にエリーが不機嫌そうな顔をする。

 

「何でダーリンが教会の小娘共と一緒にいるの? 私という女がいながら浮気するなんて……!」

 

「う、浮気!? ちょっとリューセーくん、それってどういうこと!?」

 

「あの女の戯言を真に受けるな、イリナ。あと俺はアイツと恋愛関係なんて一切無い」

 

 敵の言葉を簡単に信じるなっての。女と言うのは浮気と言う単語に敏感なんだろうか。

 

「んもう、ダーリンったら相変わらずつれないわね」

 

「お前の話に乗る気なんて元から無い。それで、何故お前が此処にいる? 確かお前はあのフリードとか言う少年神父と一緒に神父狩りをしてたんじゃないのか?」

 

 俺の問いにエリーは急に笑みを浮かべる。

 

「神父狩りはもう飽きたから、フリード君に任せてるわ。と言うか、教会って人手不足かおバカなの? ザコ数人程度を送り込んでコカビエルを倒そうだなんて、お目出度いにも程があるわよ」

 

「「何だと(ですって)!?」」

 

 エリーの台詞にゼノヴィアとイリナが激昂してキッと睨みながら聖剣を持ち構えた。その反応にエリーが面白そうに見る。

 

「あら怒ったかしら? ゴメンなさいね。あなたたちは真剣なんでしょうけど、私から見たら滑稽にしか思えなくて」

 

「「っ!」」

 

「止せ二人とも」

 

 クスクスと相手をバカにするエリーを攻撃しようとする二人に俺が即座に止めた。

 

「あんな見え見えな挑発に乗ろうとするな。もしあのまま突撃したら君達は死んでたぞ」

 

「何?」

 

「リューセーくん、それどういうこと?」

 

「こう言う事だ」

 

 俺がパチンと指を鳴らして二本の光の槍を創生し、前方数メートル先の地面に向けて飛ばして刺さった瞬間――

 

 

 ドガァァァアンッッッ!!

 

 

「「なっ!」」

 

 爆発したのを目の当たりにしたゼノヴィアとイリナは絶句した。

 

「あらら、バレちゃったわね」

 

「やはり起爆用の魔法陣を仕掛けていたか。お前が何もせず俺達を待ち構えてる訳がない」

 

「失礼ね。ダーリン一人だけで来てたら、こんな見え透いた罠なんか作らないわよ」

 

「どうだか」

 

 対象を動けなくする罠を発動させて、そのまま強制的に俺の精気を貪りつくすと思うがな。

 

 そんな中、イリナから携帯らしき着信音が聞こえる。

 

「え? あ、ご、ごめんリューセーくん! 私ったら……!」

 

「気にしてないから早くでてくれ」

 

 別行動をする前、イリナは自分の携帯連絡先をイッセー達に教えていた。恐らくイッセー達の誰かがイリナの携帯に連絡したんだろう。

 

 俺が早く応答するよう催促すると、イリナはすぐに携帯を取り出して電話にでた。

 

「もしもし? あ、塔城さん。ゴメンなさい。今私たち敵と遭遇して……ええ!? そっちはエクスカリバーを持ってるフリードと木場くんが交戦中!?」

 

「フリードだと!?」 

 

 突然驚くイリナにゼノヴィアは聖剣を持ち構えながらも、向こうの状況を聞いてすぐに驚く。

 

 向こうは向こうでフリードと遭遇したか。祐斗が少年神父と戦ってるみたいだが、聖剣を破壊する事に気を取られすぎて負けなければ良いんだけど。ま、そうならないようイッセーを祐斗の監視役にさせてるから大丈夫だろう。

 

「あらあら。フリード君はフリード君で頑張ってるみたいね」

 

 話を聞いていたエリーは仕掛ける様子を見せずに、イリナの話を聞きながらクスクスと笑っている。

 

 エリーからイッセー達がフリードと交戦してるのに焦る様子が一切見受けられないな。フリードに対して仲間意識が余りないのか、それとも……。

 

 どちらにせよ、この女は俺一人で対処する事にしよう。いくらこっちが三人とは言え、アイツの事だから俺との戦いを楽しむ前にイリナとゼノヴィアを先に始末すると思う。二人には悪いがイッセー達の方へと向かってもらうとするか。

 

「ゼノヴィア、イリナ。君達はイッセー達と合流しろ。この女は俺が相手をする」

 

「何?」

 

「ちょっとリューセーくん。いきなり何言ってるの? ここは三人で戦ったほうが……」

 

「いや、あの女との相手は俺一人でやった方が良い。君達の目的は聖剣の回収だろ? だったら聖剣を持ってる少年神父の方へ行け」

 

 それにエリーの奴、俺が二人と話してる事に不機嫌な顔をしてる。サキュバスのエリーから見たら俺が教会側の女と仲良くお喋りしてるように見えて、二人を殺したい衝動に駆られてる筈だ。アイツは自己中な上に、非常に不愉快だが俺に対する独占欲が激しいからな。

 

「ねぇダーリン、そんな小娘たちと仲良くお喋りするくらいなら……早く私の相手をしてくれないかしらぁ!」

 

『っ!』

 

 痺れを切らしたエリーが両手を開いたまま俺達に真っ直ぐ向けると、掌から無数の魔力弾を撃って来た。

 

 俺は二人を守ろうと前に出て即座に光の防御壁を展開する。その直後にエリーの魔力弾が当たるも、何事も無かったかのように霧散していく。

 

「な、何だあの魔力は? とても人間とは思えないものだったぞ……」

 

「魔術師とは比べ物にならない魔力だったわ。あの人、一体何者なの?」

 

「今は奴の事は気にしなくて良いから、君達は早くイッセー達の所へ行くんだ! 早く!」

 

 俺が少し語気を荒げて言うと、二人は気圧された様に廃工場から出ようとする。

 

「よ、よく分からんがここは任せたぞ、兵藤隆誠!」

 

「もうっ! リューセーくんってば意外と強引なんだから! フリードを倒したらすぐ加勢しに行くからね!」

 

 そう言って二人が廃工場から去ると、この場には俺とエリーの二人だけとなった。

 

「さて、勝手ながら二人を向こうに行かせたが」

 

「私は全然構わないわよ。ダーリンと二人きりになれるなら、いくらでも待ってあげるから」

 

「よく言う。俺が彼女達に指示しなかったら、二人を真っ先に殺すつもりだったんだろう? もう一つの(トラップ)を使ってな!」

 

 そう言った俺は再び光の槍を創生し、今度は斜め後方にある壁に刺した瞬間――

 

 

 パキィィンッッ!!

 

 

 魔法陣が浮かび、硝子が割れるように消えていった。

 

「あらら、暗殺式魔法陣の(トラップ)も見破ってたのね」

 

「当たり前だ。お前の考えてる事なんかお見通しだよ」

 

 一つ目の(トラップ)を看破し、もう(トラップ)は無いだろうと思い込ませる一種の搦め手だ。もしゼノヴィア達だけでエリーと対峙してたら、アイツが施した罠であっさりと殺されるところだった。

 

 エリーは戦闘(バトル)好きだが、搦め手を好んで使う策士でもある。特に自分の手を汚す必要が無いと判断する弱者相手には。

 

「念の為に言っておくが、俺相手に(トラップ)は通用しないぞ」

 

「フフフフ。(トラップ)はさっきダーリンが破壊したので最後よ。それにダーリン相手にそんな無粋な真似はしないわ。それじゃあ邪魔者がいなくなった事だし――」

 

 エリーは姿を人間から夢魔(サキュバス)へと変貌する。妖艶な姿となった事に美しさが一段と増し、そこら辺の男であれば一瞬で魅了されるほどだ。

 

「ここからは、ダーリンと楽しい時間を過ごさせてもらうわ。勿論ダーリンが良かったら夜伽の相手もOKだけど?」

 

「んなもんお断りだ」

 

 一般の男子だったら先ず間違いなく食いつく誘いを、俺は躊躇無く断る。

 

 夢魔(サキュバス)は男に激しい快楽を与える代償として精気を根こそぎ吸い尽くす存在。エリーのようなずば抜けた美しい夢魔(サキュバス)相手であれば、一瞬でミイラになって干乾びてしまう。

 

「んもう、本当につれないんだから。でもダーリンのそう言う所が好きなのよねぇ、私♪」

 

「お前に好かれても嬉しくねぇよ!」

 

 そう言って俺は一瞬でエリーの懐に入って拳で攻撃すると――

 

 

 ダァァンッ!!

 

 

「酷いじゃなぁい。躊躇いも無く私の顔に当てようとするなんて」

 

 エリーは難なく俺の拳を片手で受け止めた。

 

「今度は昨日みたく避けるつもりはないんだな」

 

 俺は拳を受け止められた事に驚く事なく話しかけると、エリーは深い笑みを浮かべる。

 

「フフフ。昨日は昨日よ。それにダーリンからの激しいアプローチはちゃんと受け止めないとね!」

 

「っ!」

 

 エリーは空いてる片手を使おうと、至近距離で俺の顔目掛けて魔力弾を当てようとする。咄嗟に顔を横にずらすと、エリーの手から放たれる魔力弾が通り抜けて壁に激突して爆発した。

 

「このっ!」

 

「おっと!」

 

 お返しと言わんばかりに、俺はもう片方の拳をエリーに攻撃するも即座に後方へ回避した。

 

「どうした? 俺からのアプローチは受け止めるんじゃないのか?」

 

「ウフフ。そう慌てないで。お楽しみはこ・れ・か・ら♪」

 

「………あっそ」

 

 にしてもコイツ、前に会った時より腕を上げたような気がする。俺もイッセーと同じく鍛錬して以前より少しは強くなったんだが……。

 

「私も私でダーリンと同じく鍛錬してるのよ。以前ダーリンに敗北したあの時、充分身に染みたからね」

 

 やっぱりそうだったか。ってか人の心を読まないで欲しいんだが。

 

「……まぁ良い。コカビエルを始末する前に、お前から滅させてもらうぞ。覚悟するんだな、エリー。ここからは本気でやらせてもらう」

 

「あらあら、私は堕天使(コカビエル)を倒す前の前座かしら? あんな後先考えないおバカさんなんか無視して、ずっと私の相手をしてもらいたいわね」

 

「んなもん知るか!」

 

 

 ドゥンッ!!

 

 

 俺はイッセーのように身体中から光のオーラを発すると、エリーは何やら悦楽にひたるような顔をする。

 

「ああ……相変わらず何て素敵なオーラなの。触れただけで消滅されそう……そう考えるだけで、ゾクゾクしちゃう……!」

 

「……………」

 

 顔を赤らめながら自分を抱きしめるように身体を震わすエリー。俺が本気を出すときには必ず変態的な行動をするんだよな。

 

「やっぱり私、ダーリンが欲しい。ダーリンの全てが欲しい……!」

 

「生憎だが、この身はお前になんかやらん。そして何より俺は……お前みたいな女は好かん!!」

 

「っ!」

 

 そう言って俺は片手から光弾を放つも、難なく躱すエリー。

 

「アハハハッ! 教会の時にも同じ事を言ったわねダーリン!」

 

「よく憶えてることで!」

 

 躱したエリーの次の行動は俺の真似のつもりか、一瞬で俺の懐に入って攻撃を仕掛けようとする。

 

 ここから俺とエリーの戦いが本格的に始まり、廃工場は徐々に無くなろうとしていく。




次回は一誠サイドの話となります。


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第十三話

久しぶりの更新です!

それではどうぞ!


 駒王町西側にある廃工場で隆誠がエリーと本格的な戦闘を開始してる中、一誠達がいる駒王町東側にある廃屋では別の戦闘が既に始まっていた。

 

「ひゃっはぁ~! これが『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』! 俺呼んで、『(ちょ)(ぱや)の剣』!」

 

「くっ!」

 

 廃屋の屋根の上では二人の少年が戦っていた。

 

 一人は悪魔の木場祐斗。もう一人は現在堕天使側に組している少年神父、フリード・セルゼン。両者共に途轍もないスピードでの攻防を繰り広げている。

 

 悪魔でスピードの特性を持っている『騎士(ナイト)』の祐斗に、フリードが祐斗と同じスピードで戦えているのには当然理由があった。

 

 それはフリードが使っている聖剣――『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』。それは使い手のスピードを底上げして高速の攻撃を繰り出せる聖剣である為、今のフリードは祐斗に匹敵するスピードで戦っている。

 

 対する祐斗は複数の魔剣を使って高速攻撃をするも、フリードの『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』によって悉く破壊されていた。だがそれでも負けじと、新たに魔剣を創造して攻撃を繰り返す。

 

「おいおい、なんつー戦い方してんだよアイツら……。速過ぎて全然見えねぇぞ……!」

 

「……ですが、スピードを封じられてる祐斗先輩がかなり不味いのが分かります」

 

 祐斗とフリードの戦いに目が追い付けない匙と小猫だったが、それでも不味い状況だと言うのは分かっていた。

 

 しかし――

 

「小猫ちゃんの言うとおりだ。今のところは互角だが、木場が段々焦り始めてるな」

 

「兵藤、お前アレ見えてんのか!?」

 

「まぁな」

 

 一誠は余裕な感じで二人の戦いを両目で捉えていた。

 

 普段から隆誠の修行で高速バトルを繰り広げているので、一誠にとって二人の戦いを見るのは大した苦ではない。

 

 祐斗が不利になり始めてる事に、一誠は『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』を展開する。

 

「おい木場! 俺も加勢――」

 

「イッセーくんは手を出さないでくれ! 僕一人でやれる!」

 

 一誠が加勢しようとするも、祐斗は即座に拒否した。

 

 

 

 

 

 

「ったく。兄貴がいないとコレかよ」

 

 俺――兵藤一誠が加勢しようと動こうとするも、木場は少年神父――フリードとの戦闘中でも察知するかのように拒否してきた。

 

 木場がエクスカリバーに恨みを抱いてるのは分からんでもない。けどだからって、何も言わずに勝手な事はしないで欲しい。

 

 ま、こうなる事を兄貴は予想してたみたいだがな。取り敢えずは木場の好きにやらせるとしよう。けど木場が死にそうな展開になる場合は有無を言わさず参加させてもらう。もし木場が文句言ってきた場合、力付くで黙らせろって兄貴に言われてるし。

 

 けどまぁ、好きにさせるつっても、今の状況は木場に不利だ。だったら木場を優勢にさせる為の支援(サポート)はさせてもらう。

 

 その為に今は赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)で力を溜めて、木場にドラゴンの力を与えようと俺は考えた。アイツの身体能力を考えて、二回分のチャージを与えれば充分な筈だ。下手に力を与えすぎたら木場の身体がオーバーヒートしちまう。

 

「木場! 譲渡するから一旦こっちに来い!」

 

「まだやれる!」

 

 また拒否か。支援(サポート)ぐらいは受け入れろよ。

 

「こうなったら、アイツの足を止めてでも――」

 

「なぁ兵藤。足を止めりゃ良いんだな?」

 

 俺の呟きに反応した匙が確認してくる。

 

「え? あ、ああ、そうだが……」

 

 思わず頷くと、匙は左手から何かを出そうとしていた。

 

「ラインよ!」

 

 匙がそう言った瞬間、匙の左手から神器(セイクリッド・ギア)らしき物が出てきた。手の甲には可愛らしくデフォルメ化されたトカゲの顔らしきものが装着されている。

 

「匙、それってまさか……!」

 

「行くぜ! 伸びろ、ライン!」

 

 左腕を伸ばして言った途端、トカゲの顔が口を開いてベロみたいな触手がフリード目掛けて伸びて行く。

 

 ………え? 何故にフリード? 俺は木場の足を止めて欲しかったんだけど。

 

「どわぁ! な、何だ!?」

 

「っ!」

 

 俺の考えを余所に、トカゲの舌はフリードの足にグルグルと巻きついた。それにより戦闘中のフリードは動きが止まる。

 

 突然の展開にフリードだけじゃなく、木場も呆然とするように立ち止まっている。

 

「見たかっ!? これが俺の神器(セイクリッド・ギア)! 『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』だ! こいつに繋がれたら、奴の力は俺の神器(セイクリッド・ギア)に吸収され続ける! ぶっ倒れるまでな!」

 

 おおっ。なんつー厄介な神器(セイクリッド・ギア)だ。力を溜める俺の『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』とは相性悪いな……。

 

「くそっ! くそくそっ! この神器(セイクリッド・ギア)もドラゴン系かよ!」

 

 悪態を吐きながらエクスカリバーで取り払おうとするフリードだが、匙の神器(セイクリッド・ギア)は無傷。つーかあのトカゲってドラゴンだったのか?

 

『あれは五大龍王の一角、「黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)」ヴリトラの力だ』

 

 解説あんがとよ、ドライグ。

 

 五大龍王か。そういや前に冥界で会ったタンニーンのおっさんも元龍王だったけど、今は悪魔になってるんだよなぁ。

 

 っと、今そんな事を思い出してる場合じゃない。

 

 本当だったらフリードじゃなくて木場の足を止めて欲しかったが、どっちにしろ俺にとっちゃ好都合だ!

 

 そう思った俺は一瞬で足を止めている木場の所へ向かう。

 

「え? あ、あれ? ひょ、兵藤が消えた?」

 

「……イッセー先輩はあそこです」

 

「え、あそこって……嘘だろおい!? さっきまで俺の隣にいたのに!」

 

 俺が超スピードを使って辿り着いた事に、匙が信じられないように叫んでいたが無視だ。

 

「っ! クソ人間、テメェいつの間に!?」

 

「ほいっとな」

 

「イッセーくん、何を……!?」

 

 驚いてるフリードも無視し、背後から木場の肩に手を置くと――

 

『Transfer!』

 

 俺の神器(セイクリッド・ギア)が音声が発せられ、チャージしていたドラゴンの力が木場の身体へ流れて行く。

 

「これはっ!」

 

「木場、手を出さない代わりに力は送らせてもらう。言っとくが文句は受け付けねぇぞ。もしお前がやられちまったら、兄貴や部長に怒られるのは俺なんだからな」

 

 兄貴に木場の監視役を任された以上、木場を失うわけにはいかない。イケメンのコイツを監視なんてしたくないが、仲間である以上そんなこと気にしてられない。

 

「……受け取ってしまった以上は仕方ない。ありがたく使わせてもらうよ!」

 

 多少の不満はあれど、俺が手を出さない事に納得する木場。その直後に木場の全身からオーラが迸った。

 

「『魔剣創造(ソード・バース)』ッッ!」

 

 木場が自分の神器(セイクリッド・ギア)名を叫びながら、魔剣を地面に突き刺す。

 

 そして周囲一帯に夥しい刃が咲き乱れた。地面のあらゆる所から様々な形をした魔剣が出現する。

 

「チィィ!」

 

 フリードが舌打ちしながら、自身に向かって伸びる魔剣を聖剣で横なぎに破壊する。

 

 あれだけの魔剣を聖剣一本で全部破壊するか。やっぱりエクスカリバーってのは、並の聖剣と一味違うみたいだな。

 

 それにしてもずっと気になってたんだが、此処には俺達やフリード以外の誰かがいるな。廃屋の中に見知らぬ気を持った誰かが。

 

「ほう、『魔剣創造(ソード・バース)』か。使い手の技量次第で無敵の力を発揮する神器(セイクリッド・ギア)

 

「っ! 誰だっ!?」

 

 その時、廃屋の中から第三者の声が届く。そこへ視線を送ると、神父の格好をした初老の男が現れた。

 

「おおっ!? バルパーのじいさん!」

 

 フリードの言葉に全員が度肝を抜かした。この男が兄貴が言ってたバルパーって奴か。「聖剣計画」で胸糞悪い事を仕出かした……。

 

「……バルパー・ガリレイッ!!」

 

「フフフ。いかにも」

 

 憎々しげに木場が名前を言うと、男――バルパーは堂々と肯定した。こいつが木場の敵で、兄貴が嫌う(神の名を利用した)クズ野郎の一人か。

 

「フリード、まだ聖剣の使い方が十分ではないな」

 

「そうは言うがね、じいさん。このクソトカゲのベロベロが邪魔で邪魔で!」

 

「体に流れる因子を刀身に込めろ。そうすれば自ずと斬れ味は増す」

 

「流れる因子を刀身に込めて、ね」

 

 その指摘にフリードは頷き、途端に持っている聖剣の刀身がオーラが集まりだして輝きを放ち始める。

 

「お、おおほぉお~~!」

 

 奇怪な叫び声をあげるフリードは、輝きを放つ聖剣で匙の神器(セイクリッド・ギア)を難なく切断する。

 

「なぁ~る。聖なる因子を有効活用すれば、更にパワーアップってか。それじゃあ……」

 

 あ、フリードが木場だけじゃなく俺にも狙いを定めてやがる。

 

「俺様の剣の餌食になってもらいやすかぁ! ついでにクソ人間、テメェもクソ悪魔と纏めてぶった斬ってやらぁ!」

 

 お~お~、聖剣を使えば俺に勝てると思ってるようだな。

 

 面白ぇ。そんな聖剣(もの)赤龍帝(おれ)に勝てると思ってるなら、相手してやろうじゃねぇか。

 

「お前の相手は僕だ!」

 

「だったら先にクソ悪魔から片付けてさせてもらいやすよぉ!」

 

 俺が参戦しようとするも、木場がさせないと言わんばかりに俺の前に立つ。

 

「死ねぇええ!」

 

 聖剣を振り翳すフリードに――

 

「やらせん!」

 

 木場とフリードの間に割って入るように――

 

 

 ギィィンッ!!

 

 

 ゼノヴィアが現れて、持っている聖剣でフリードの攻撃を止めた。

 

「やっほ。イッセーくん」

 

「イリナ!?」

 

 何とゼノヴィアだけじゃなくイリナも駆けつけていた。

 

「紫藤イリナさん? どうして」

 

「……敵と遭遇したら合流する手筈ですから、私が連絡しました」

 

 驚く匙に、小猫ちゃんが携帯を出しながら理由を言う。確か小猫ちゃんは木場とフリードが戦闘した直後に電話してたな。

 

「イリナ、兄貴はどうした!?」

 

「リューセーくんはエリーっていう綺麗な女性と戦ってるわ!」

 

 あ、そう言うこと。だから兄貴はゼノヴィアとイリナを俺達のところへ行くよう指示したってことね。

 

 あの女は兄貴に対して異常とも言えるほど執着してるからな。加えて兄貴と戦う際、もし誰かが加勢したら真っ先に邪魔なソイツを始末する。そうさせないよう、兄貴は二人をこっちに寄越したって訳か。

 

「反逆の徒、フリード・セルゼン、バルパー・ガリレイ。神の名のもと、断罪してくれる!」

 

「ハッ! 俺様の前で、その憎ったらしい名前を出すんじゃねぇ! このビッチが!」

 

「はぁぁ!!」

 

 斬戟を繰り広げるゼノヴィアとフリードに、木場が割り込んで剣を振り翳そうとする。

 

「おっとぉ!」

 

 ゼノヴィアと木場の攻撃を防げないと判断したのか、フリードはすぐに後退してバルパーの隣に立った。

 

「フリード。お前と一緒にいたエリーと言う女は何故いない?」

 

「は? あのお姉さんなら『雑魚の神父狩りに飽きた』とか言って別行動中だよ」

 

「……はぁっ。あの女には困ったものだ。ならば致し方あるまい。ここは撤退するぞ」

 

「合点承知の助!」

 

 フリードが懐から光の玉を出した。あれは確か教会で使ってた逃亡用のアイテムだ!

 

「あばよ、教会と悪魔の連合共が!」

 

 フリードが球体を地面に投げ放ち――

 

 

 カッ!

 

 

 眩しっ! 目を覆う眩い閃光が周囲を包み込んで、俺達の視力を奪う。 

 

 視力が戻ると、フリードもバルパーも消えていた。クソ! こんな事なら俺も参戦すりゃよかった!

 

「追うぞ、イリナ」

 

「うん!」

 

「おい! ちょっと待てお前等!」

 

 ゼノヴィアとイリナが頷きあって、その場を駆け出そうとしたので俺が待ったを掛けようとすると――

 

「僕も追わせてもらおう! 逃がすか、バルパー・ガリレイ!」

 

「って木場もかよ!?」

 

 木場も二人の後を追って、この場を駆け出そうとしていた。

 

 ヤバイ! ゼノヴィアやイリナだけじゃなく、木場までいなくなっちまったらマジでヤバイ!

 

「おい木場! 待ちやがれ!!」

 

 木場だけでも阻止しようと超スピードで追おうと――

 

「イッセー、これはどう言うことなのかしら?」

 

「説明してもらいますよ、サジ」

 

 したが、聞き覚えのある声がしたので俺は思わず足を止めて振り返った。

 

「げっ! 部長!?」

 

「か、会長!?」

 

 怖い笑みを浮かべてる部長と、険しい表情をしてる会長がいたのでした。この二人の登場に俺だけじゃなく匙も狼狽する事となる。

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ♪ フフフフ、フフフフフ………アハハハハハハハ! やっぱり最高よダーリン! 私とこんな楽しい戦いが出来るのはダーリンだけよ!」

 

「俺はちっとも楽しくないがな」

 

 俺――兵藤隆誠とエリーとの激しい戦闘により、廃工場の建物自体が完全に無くなり更地状態となった。

 

 これだけの戦闘で誰かが気付いてもおかしくないが、この更地周辺には誰にも気付かれないよう結界で覆われているので一般人の耳や目に入ることはない。

 

 因みに結界を張ったのはエリーだ。アイツとしては邪魔が入らないように、ゼノヴィアとイリナがいなくなった時点で結界を張った。アイツは第三者からの介入を嫌うからな。

 

 そして今の俺の服装はボロボロな上に傷も少々ある。と言っても殆ど大した傷じゃないが。対してエリーは俺と同じく服がボロボロになっており、片方の乳房を露にしていた。

 

 乳房が片方見えてるにも拘らず、エリーは大して気にしてない様子。それどころか寧ろ、俺に見せてるような感じだ。もし女の胸が大好きなイッセーだったらガン見してるだろうな。尤も、戦闘中でなければの話だが。

 

「ほんっとうに最高……! こんな素敵な夜で激しく攻められると私……このままダーリンとエッチしたくなっちゃう……!」

 

「悪いが他を当たってくれ。俺にそんな気はない」

 

 もし一般人男性がサキュバスのコイツと性行為をした瞬間、精気を根こそぎ吸い取られ、干乾びたミイラとなって死んでしまう。

 

 俺だったら絶対に嫌だが、そこら辺の男だったらどんな選択をするだろうか。絶世の美女と呼べるエリーを抱いて死ぬか、もしくは……いや、これ以上考えるのはもう止そう。

 

「フフフフ。そんなこと言わないでよぉ、ダーリン。貴方が望むなら、このまま裸になっても良いのよぉ?」

 

痴女(サキュバス)の相手なんか嫌だと言ってるだろ」

 

「本当にダーリンってツンデレねぇ。そういうところも好きよ♪」

 

「人の話を聞けよ!」

 

 ダメだコイツ。もう完全に変なスイッチ入ってる所為でまともな会話が出来てない。

 

 これ以上痴女(エリー)の相手をしてられっか。ここはいっその事、イッセーやドライグすら知らない俺の奥の手(・・・)を使って倒すとしよう。

 

 そう決心した俺は、全身に力を入れてオーラを放出しようと――

 

「中々楽しそうな戦いをしてるじゃないか」

 

「「っ!」」

 

 突然第三者からの声に俺だけでなくエリーも振り向く。

 

 振り向いた先には、十枚の漆黒の翼を生やした堕天使――コカビエルがいた。

 

「聖剣や神器(セイクリッド・ギア)を持ってない人間が悪魔と互角の戦いをするとは、これは中々楽しめそうだな」

 

「コカビエル、どうして貴方がここに来てるのかしら?」

 

 さっきまで変態的なスイッチが入っていたエリーが、コカビエルの登場によって気分を害したかのように顔を顰めながら尋ねる。今はもう普通の状態に戻ってる様子だ。

 

「そう恐い顔をするな、エリガン・アルスランド。サキュバスとは言え、同盟関係であるお前に加勢しに来たんだぞ?」

 

「そんな白々しい台詞を言わないで。あと私の前で本名を言わないでくれる?」

 

 物凄く不快な顔をしながら、いつのまにか服を元に戻しているエリー。

 

 ってか悪魔(エリー)堕天使(コカビエル)が同盟関係だと? コイツ等、一体何を考えてる?

 

「それは悪かったな。では本音を言うとしよう。退屈凌ぎに此処へ来て、お前が強い獲物と戦っていたから我慢出来なくなったんだよ。そう言う訳で、俺も参加させてもらうぞ。あんな強い獲物と戦うのは久しぶりだからな」

 

「ふざけるんじゃないわよ、コカビエル。私の一番楽しい時間を邪魔した挙句に参加する? 冗談じゃないわ。私は誰かに横から邪魔されるのが一番嫌いなの。それに彼は私の獲物。堕天使の貴方なんかに渡さないわ。殺すわよ?」

 

 おお、エリーが段々恐くなってきた。邪魔されたら凄く不機嫌になるからなぁ、アイツ。

 

 相手が同盟関係であるにも拘らず、凄まじい殺気と魔力をコカビエルに向けてるし。あれは相当イラついてる証拠だ。

 

「おいおい、それは戦争が始まってからにしてくれ。俺としてもお前との殺し合いは願ってもないが、今は戦争が始まるまではお互い手を出さない条件の筈だ」

 

 何? 戦争が始まってから? 始まるまではお互い手を出さない条件だと? 

 

 …………っ! まさかコイツ等!

 

「おいコカビエル! お前がこの駒王町にやってきたのは、堕天使と神、悪魔との戦争を再び勃発させるつもりか!?」

 

「ほう? あれだけの会話でよく分かったな、人間。どうやら貴様は随分とコチラ側に詳しいようだ」

 

 詳しいも何も聖書の神(わたし)は貴様の親なんだよ、戦争狂のバカ息子!

 

「ならば尚更、貴様は始末しておくとしよう」

 

「コカビエル! 本気で私に殺されたいの!?」

 

 今度はコカビエルも本格的に参戦か。

 

 二対一とは少しばかりキツいが、ここは正体がバレるのを覚悟で聖書の神(わたし)の力を使う……なんて事はしねぇよ! 一先ず撤退だ!

 

「太陽光!!」

 

 

 カァッッ!!

 

 

「何っ!? ぐぅっ!」

 

「きゃあっ!」

 

 独特のポーズで太陽光を放つと、コカビエルとエリーの目が眩んだ。その隙に俺は超スピードで結界で覆われている跡地を脱出し、直後に転移術を使って撤退した。



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第十三.五話

今回は幕間で短いです。


 コカビエルとエリーに太陽光を使って撤退に成功した俺は、廃工場から離れた住宅街にいる。

 

 まさかコカビエルとエリーが手を組んでたとはな……。しかも過去の戦争を起こす為に。

 

 最早コレは教会と堕天使側だけでなく、悪魔側にも関わる一大事だ。そうなれば一度リアスや冥界にいるサーゼクスに教える必要があるな。

 

 まぁ一先ずイッセー達と合流して……ん? イッセーの闘気(オーラ)に小猫と匙の他にリアスやソーナ達の魔力を感じる。リアスはともかくソーナもいると言う事は……これはバレたようだな。俺がエクスカリバー破壊に匙を勝手に連れ出してる事を。

 

 ………それにしても、向かわせた筈のゼノヴィアやイリナ、そして祐斗のオーラが何故イッセーの近くにいないんだ? 

 

 そう思いながらイッセーの闘気(オーラ)を辿って転移すると――

 

「おやおや。随分とご立腹のようだな、リアスにソーナ」

 

「「っ! リューセー(くん)!?」」

 

 正座をさせられてるイッセーに小猫、匙の三人を正座させてお説教中と思われるリアス(+朱乃)とソーナ(+真羅)を発見した。

 

「リューセー、話はイッセーから全て聞かせてもらったわよ。エクスカリバーを破壊する為に、教会側と共同戦線を張っていたようね」

 

「しかも私の眷族であるサジを無理矢理同行させたそうですね」

 

 おおう。お二人が随分とお冠のようだ。

 

 リアスはエクスカリバー破壊を黙認するも、悪魔側である俺が教会側と勝手に共同戦線した事に怒ってる。ソーナは俺が匙を無断で同行させた事に怒ってる。コイツ等が怒るのは無理ないな。

 

 因みにお説教されてる小猫や匙は俺に申し訳無さそうな顔をしてるが、別に気にしちゃいない。どうせ後になってからバレるのは目に見えてた事だし。だから口止め料はそのまま進呈するよ。おっと、匙には後ほど内密にソーナの水着写真をあげないとな。

 

「そう恐い顔をするなって、お二人さん。これには一応事情があって……」

 

「事情があるのなら、どうして私やソーナに事前に知らせなかったのかしら?」

 

 う~ん……今のリアスに誤魔化しは通用しないようだな。

 

 ………はぁっ。仕方ない。本当は教えたくなかったんだが、ここは素直に白状するとしよう。

 

「じゃあ結論から言わせてもらう。実は……冥界(そちら)で有名な夢魔(サキュバス)――エリガン・アルスランドがいるからだ」

 

「「っ!」」

 

 エリーこと、エリガンの名前を告げた途端にリアスとソーナは目を見開いて驚愕を露にした。

 

「え、エリガン・アルスランドって……番外の悪魔(エキストラ・デーモン)でありながらも、夢魔(サキュバス)の中で最上級悪魔クラスの力を持った元アルスランド家の次期当主じゃない!」

 

「冥界貴族の重鎮を殺した罪で指名手配犯となった為に今は断絶してますが、その彼女が何故この駒王町にいるのです?」

 

「コカビエルと手を組んでるからだよ」

 

「「なっ!」」

 

 ソーナの問いにアッサリ答える俺に、またしても驚愕する次期当主二人。

 

 そりゃそうだ。指名手配犯の悪魔とは言え、堕天使のコカビエルとまで手を組むなんて普通あり得ないからな。

 

 

 

 

 

 

「ちっ。この俺とした事が、あんな小手先の技で逃げられるとはな……」

 

「貴方さえ来なければ、こんな事にはならなかったのよ」

 

 隆誠に逃げられた二人は仕方ないと言う風に根城へと帰還していた。

 

 コカビエルが最高の獲物と戦え損なった事に落胆する様子を見せると、余計な邪魔をされた所為で未だに憤慨しているエリー。

 

 一触即発とも言える雰囲気を出してるエリーに、コカビエルは呆れた感じで苦笑する。

 

「随分あの人間にご執心のようだな。確か兵藤隆誠と言ったか? お前にとって人間はただの玩具じゃなかったのか?」

 

「ええ、今でもそう思ってるわよ。でも彼――兵藤隆誠(ダーリン)だけは別。私にとって特別な存在で、私に敗北を教えてくれた愛しい愛しい人よ」

 

「最上級悪魔のお前があの人間に敗北しただと? ……成程。その所為でお前は奴を憎んでいると言うわけか」

 

「憎む? 何で私がダーリンを憎まなければならないの? 私は本気で彼を愛してるのよ」

 

「………………は?」

 

 何の冗談を言っているんだと若干放心していたコカビエルに、エリーは気にせず言い続けようとする。

 

「私はこれまで色々な人間(おもちゃ)で遊んでいたけど、彼だけは別だった。私の誘惑(チャーム)を簡単に抵抗(レジスト)するどころか、物の見事に負かされた。私にとって初めての経験だった。その時こう思ったわ。彼の事を知りたい、彼とまた戦いたいってね」

 

「…………………」

 

「そして会って戦う度に段々胸が熱くなってくるの。今はもう彼に会うだけで身体が彼を欲しがるのよ」

 

「………元アルスランド家の次期当主とは思えん発言だ。そんなにあの人間が欲しければ自分の眷族にすればいいだろう。何故それをやろうとしない?」

 

 元とは言え次期当主のエリーは確か悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を持っていた筈だ、とコカビエルは呆れながら提案する。

 

「いくら貴方とは同盟関係でも、そこまで教えるほど親しくないわよ。だけどこれだけは言っておくわ。もし貴方が彼と戦うような事になったら――」

 

「おんやぁ? いつのまにか戻ってたんすか、お姉さん」

 

「あらあらフリード君じゃない。おかえりぃ~」

 

 コカビエルに忠告しようとするエリーだったが、フリードとバルパーが帰還した事で急に甘ったるくゆったりとした口調になる。

 

 突然口調が変わった事にコカビエルは呆れた様子を見せるも、咎めようとする様子は無かった。

 

「エリーよ、何故勝手な行動をしていた? お前にはフリードと行動せよと命じた筈だが?」

 

「そんな怖い顔をしないでよ~。別行動をしたのには訳ありだったんだからぁ~」

 

 バルパーが咎めるもエリーは悪びれもなく言う。そんな姿勢を見せるエリーにバルパーは更に不機嫌な顔となる。

 

「貴様、これ以上の勝手な行動は――」

 

「ところでお爺さ~ん、この根城にネズミが何匹か紛れてるけど、始末してもいいのよねぇ~?」

 

「何?」

 

 ネズミと聞いてバルパーは目を見開く。

 

「ねぇ、そこでコソコソしてないで、姿を現したらどうかしらぁ~!?」

 

 エリーは視線を向けてる先へ手を伸ばし、掌から無数の魔力弾を放とうとする。

 

『っ!?』

 

 魔力弾が木々に激突して爆発すると、何人かが姿を現す。

 

 爆発による煙が晴れると、そこには木場祐斗、ゼノヴィア、紫藤イリナがそれぞれ武器を持って構えていた。

 

「お前はあの時の……!」

 

「あらあら。誰かと思えば、この前の金髪くんじゃな~い。久しぶりねぇ~。ついでにダーリンと一緒にいた聖剣使いのお二人さんも」

 

 久しぶりに見た祐斗にエリーは笑みを浮かべるも、ゼノヴィア達を見た途端に不愉快そうな顔をする。

 

「ダーリンやイッセーくんが来るならまだしも、貴方たち程度じゃ満足出来ないわね~」

 

「「何だと(ですって)!?」」

 

 エリーの発言にゼノヴィアとイリナは激昂する。

 

 だが――

 

「フフフフ。まぁ折角根城に来たんだから、少しばかり遊んであげるわぁ~」

 

「おいエリー、今度は俺も遊ばせてもらうぞ」

 

「どうそお好きなようにぃ~。さぁ~て貴方たちぃ~、私たち相手に何分もつかしらぁ~?」

 

「「「っ!!」」」

 

 エリーから放つ無数の魔力弾、コカビエルが出す無数の光の槍が放たれた事に、根城に侵入した祐斗達は一時撤退するしかなかった。



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第十四話

「まさかあなたがエリガンと何度も戦っていたなんて……。彼女はサキュバスの中でも魅了(チャーム)や戦闘能力に優れてるサキュバスなのに、よく今まで無事でいられたわね」

 

「……まぁ、色々と対策はしてたからな」

 

 翌日の放課後。

 

 オカ研の部室で俺はリアスと昨日の夜に説明したエリーの件について話していた。

 

 昨日、教会側のゼノヴィアとイリナと同行した理由を全て話した後、リアスとソーナには『エリガンは俺が対処するから、二人は一切手出ししないでくれ』と宣告しておいた。

 

 それを聞いた駒王町の主二人は予想通りと言うべきか、すぐさま顔を顰めたよ。まぁ自分達の実力じゃエリーに勝てない事は流石に分かっていたようで、すぐに引き下がったけど。

 

 話を終えた後、俺達は一旦家に帰宅し解散した。その途中、イッセーが『木場達を追わなくても良いのか?』と言ってきたが――

 

『勝手な行動をしてるアイツ等の事なんかもう知らん』

 

 ――と、俺はしかめっ面で答えた。

 

 これは思いもよらぬ返答だったのか、イッセーとリアスは驚いていた。

 

 だってさ。俺がアイツ等に警告したにも拘らず、勝手に突っ走っていったんだぞ。

 

 人の警告を無下にするような奴は、一度痛い目に遭った方が良い。まぁだからって、流石に死んで反省しろなんて事は言わないが。

 

 あの三人には俺がコッソリと『守りの加護』を施しておいた。以前、松田と元浜に使ったのとはちょっと違う。それは肉体的な死に瀕する時に加護が発動し、俺がいる所へ強制転送される仕組みだ。

 

 で、祐斗達がまだ俺の所へ強制転送されてないとなると、三人ともまだ生きている証拠だ。だからそこまで慌てる必要はない。尤も、祐斗達に施した『守りの加護』はあくまで死に瀕する時に強制転送される。

 

 分かりやすく言えば、祐斗が重傷になろうが、ゼノヴィアやイリナが奴等に暴行されようが、肉体的な死が訪れるような事にならなければ発動しないって訳だ。まぁそんな状態で転送されたら、俺が責任持って治療するけど。

 

 だったら初めからすぐに強制転送させれば良いと思われるだろうが、そんな都合の良いことはしない。聖書の神(わたし)……じゃなくて兵藤隆誠(おれ)の警告を無視して独断行動をする奴は、それ相応の覚悟を負ってもらう。尤も、アイツ等は死を覚悟で向かったんだろうが。

 

 それ故に俺は祐斗達を連れ戻すような事はしない。祐斗達がどんな目に遭おうが、それはアイツ等の自己責任だ。そこまでの面倒は見切れない。

 

 一応、イッセーやリアスには祐斗やゼノヴィア達にもしもの事があったら、強制転送される事だけは教えておいた。それを聞いたイッセーは納得し、リアスは未だ不安ながらも渋々納得してくれた。

 

 しかし、俺としてはそれよりも大事件的な事象が発生して、思わず三人の事を忘れてしまったよ。

 

 理由は家に着いた途端、アーシアが裸エプロンで出迎えたからだ。アーシアがとんでもない格好をした事に思わず目が点になってしまった。当然俺だけじゃなくイッセーやリアスも驚いて理由を尋ねると、『クラスメイトのお友達が、疲れた殿方を癒すには裸エプロンが良い』だと。

 

 それを聞いた瞬間、俺は怒りを抑えながらアーシアのお友達とマンツーマンのOHANASHIをしたくなった。「人の大事な妹分に何て卑猥な事を教えてんだ!?」って怒鳴りたいほどに。俺の怒気を感じたのかイッセーが即座に押さえ込もうとしてると、リアスがアーシアに対抗するように裸エプロン姿になろうとしていた。

 

 リアスの行動のお蔭と言うべきか、沸きだっていた俺の怒りが一気に消沈したよ。同時に呆れたけど。

 

 あと更に驚くべき事に、アーシアの裸エプロン姿に母さんは大賛成だった。ついでに母さんも若い頃に裸エプロンをやっていたんだと。

 

 普通は娘の卑猥な行動に母親が止めるべきだろと内心突っ込むも、同時に親のそう言う話は聞きたくなかったと複雑な気持ちになった。息子の俺やイッセーからしたら親の黒歴史だ。少しばかりだが、黒歴史を作った某堕天使総督の気持ちが分かった気がする。

 

 とまあ、ちょっとばかし長い説明だったが、昨日はそんな事があったって訳だ。

 

 そして今は部室でエリーについて話しながらも、リアスと朱乃と小猫は使い魔を放って祐斗達を捜索している。

 

「あの、リューセーさん。そろそろ木場さん達を捜した方が……」

 

 俺がリアスと話していると、アーシアが恐る恐ると言った感じで俺にそう訊いてくる。

 

 アーシアには昨日の事を教えたから、祐斗がこの場にいない事を知っていた。

 

「悪いけどアーシア、俺がアイツ等を捜すなんて事はしないよ」

 

「ですが……」

 

「少なくとも今は無事である事は確かだよ。現に俺が三人に施した術式が発動せず、未だに一人も俺の所へ転送されてないって事は、まだ死んではいない証拠だ」

 

 尤も、『守りの加護』は死に瀕する事にならなければ発動しないが。

 

「そうであっても、もしかしたら捕まって――」

 

「仮に捕まってたとしても、人の警告を無視したアイツ等を助けようだなんて事はしないし、俺はそこまでお人好しじゃない。いくらアーシアでも、そこは譲れないよ」

 

「…………………」

 

「おい兄貴、そんな言い方ないだろ!」

 

 俺が絶対拒否の姿勢をしてる事にアーシアは悲しい表情をしながら俯くと、イッセーが抗議してくる。

 

 そんな中、リアスの使い魔から紫藤イリナを発見したとの知らせが届いた。しかも傷だらけで倒れているらしい。

 

(これが警告を無視した結果か。…………馬鹿者が!)

 

 イリナの容態を聞いた聖書の神(わたし)は内心憤った。

 

 

 

 

 

 

 リアスからイリナが倒れている場所を聞いた俺は、人間のイッセーとアーシアを連れて転移した。

 

「イリナ!」

 

 着くと眼前には、人間の姿になってるリアスの使い魔が傷だらけのイリナを介抱していた。しかも服はボロボロで両方の乳房が露になってる。もうついでに『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』を持ってないところを見ると、コカビエル達に奪われたようだな。

 

 俺がそう推測してると、痛ましい姿をしてるイリナを見たイッセーが驚愕しながらも近づこうとする。

 

「全く。無様にやられたもんだな」

 

「んなこと言ってる場合じゃないだろ! アーシア!」

 

 俺の台詞にイッセーが言い返しながらアーシアを呼ぶ。

 

「誰がこんな……!」

 

 イッセーの呼びかけにアーシアはすぐに反応し、イリナに近づいた途端に聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を展開して治療しようとする。

 

「うう……」

 

 アーシアに治療され始めた事で、気絶していたイリナが意識を取り戻した。

 

「おいイリナ、何があった!? 木場とゼノヴィアは!?」

 

「……ふ、二人は……逃げたわ…。私だけ、逃げ、遅れ、て……!」

 

 祐斗とゼノヴィアが逃げたと言う事は敗走したか。……ったく、どいつもこいつも……!

 

「喋ってはいけません!」

 

 アーシアが声を荒げるもイリナは言い続ける。

 

「リューセーくんの、言うとおり、だった……。あのエリーって女性(ひと)、半端じゃなかった……!」

 

 今更後悔したところで遅いよ。

 

 俺が内心呆れていると、イリナは俺を見て――

 

「ゴメン、なさい……リューセー、く、ん……」

 

「お、おい、イリナ!」

 

 ――すぐにまた気絶してしまった。

 

「……はぁっ、全く。今更謝っても遅い!」

 

 そう言って俺は開いた右手を――

 

 

 パァァァァッッ!!

 

 

「おわっ!」

 

「きゃあっ!」

 

 傷だらけのイリナに向けて光弾状の『治癒の光』を放った。それを受けたイリナの全身が光り輝くと、イッセーとアーシアが驚愕する。

 

 するとイリナの傷はどんどん無くなっていき、ボロボロになっていた服も再生されて元の状態へと戻って行く。さっきまで辛そうな表情をしていたイリナが、段々安らかに眠っているような表情になっていく。

 

「す、凄いです、リューセーさん。私の聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)でも簡単に治らない傷を一瞬で……」

 

「今のは尋常ではない治癒速度でしたわ……」

 

「リューセー、あなたは一体……」

 

 アーシアと朱乃とリアスが俺の治癒に驚いているが一先ず無視だ。

 

「あ、兄貴。あれってまさか前にアーシアに使ったやつじゃ」

 

「さあな」

 

 俺が言った途端、前方から魔法陣が浮かんで誰かが転移してきた。此処に来たのはソーナと椿姫と匙だ。

 

「ソーナ、来てくれたのね」

 

「連絡をもらって来ないわけにはいかないでしょう」

 

 リアスからイリナが負傷してる事を聞いたソーナは、すぐにイリナへ駆け寄る。が、容態が安定しているイリナを見て怪訝な表情を浮かべた。

 

「リアス。貴女の報告では負傷者がいるから来てほしいと言ってましたが、これはどういうことですか?」

 

「リューセーが治したのよ。しかも一瞬でね」

 

「リューセーくんが?」

 

 二言で答えたリアスに、ソーナが驚きながら俺を見てくる。

 

「そんな事はどうでも良いから、取り敢えずイリナをベッドに寝かせておいてくれ」

 

「……今はリューセーくんの言葉に従いましょう。何故か分かりませんが、今のあなたは機嫌が悪そうですし。椿姫、彼女を頼みます」

 

「はい」

 

 俺が不機嫌である事を察したのか、ソーナは自身の『女王(クイーン)』である森羅にイリナを連れて行くよう指示する。

 

 森羅がイリナを抱き上げて転移すると、人間の姿になってたリアスの使い魔は元のコウモリとなり、役目を終えたように消えていく。

 

「リューセー。イリナさんがああなった以上、祐斗とゼノヴィアを捜しに行くわよ」

 

「………今はそんな事をしてる場合じゃない」

 

「リューセー! あなた、この状況でまだそんな事を言うの!?」

 

 俺の台詞にリアスが憤慨する。

 

「違う。此処に敵が来てるから、捜してる暇なんか無いんだよ」

 

「え? 敵って……っ!?」

 

 悪魔のリアス達が突然悪寒が走ったように身震いしていたが、俺は気にせず後ろにある一つの木に向かって言おうとする。

 

「おい、隠れてないで出てきたらどうだ? フリード・セルゼン」

 

「やーやー。お久しぶりっすねぇ~、バケモノ兄さん」

 

『っ!』

 

 そこからいくつかの聖剣を持ったフリードの登場に、リアス達は即座に警戒し始める。

 

「エサに釣られて集まってきたようですねぇ~。ご機嫌麗しゅう、クソ人間とクソ悪魔ども」

 

 相手をバカにするような慇懃無礼な態度で、舌を出しながら見下す表情をするフリード。

 

 久しぶりに見たが、相変わらず不快な奴だ。見てるだけで苛々してくる。

 

「おんやぁ? そこにいるのは、悪魔側に寝返ったアーシアちゃんじゃありませんかぁ」

 

「っ!」

 

 フリードからの名指しと舐め回すような視線に、怯えた表情をするアーシア。

 

「未だに人間のようですけど、クソ悪魔ライフを楽しんでるようだねぇ~。そんな悪い子には俺がお仕置き――」

 

 

 パチンッ!

 

 

「消えろ」

 

 

 ドドドドドッ!!!

 

 

「どわぁっ!!」

 

 俺が指を鳴らして口にした瞬間、数本の光の槍が一斉にフリードに襲い掛かる。

 

 その直後にさっきまで余裕綽々な顔をしていたフリードが焦りながらも何とか躱した。

 

「ちっ。外したか。そういえばお前は『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』を持っていたんだったな」

 

「あ、あっぶねぇ~! 天閃の聖剣(これ)がなかったら串刺しになってやしたぜ……! おいバケモノ兄さん! いきなり何しやがんだゴラァ!」

 

「悪いな。貴様が俺の妹分のアーシアに対して不快な言動をしてたから、つい殺したくなった」

 

『…………』

 

 俺が殺気を出しながら睨んでる事に、本気でフリードを殺そうとしてたのを分かったリアス達は少々恐ろしげに見ている様子だ。

 

 因みにもし俺の行動が遅ければ、いつの間にか『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』を展開してるイッセーがドラゴン波を出してフリードを消滅させようとしてた。

 

「今度は外さんぞ」

 

「ちょ、ちょい待ちちょい待ち! 今はアンタじゃなくて、そこの赤毛のお嬢さんに話があるんだよ!」

 

「何?」

 

「私に話ですって?」

 

 必死に待ったをするフリードに俺だけじゃなく、名指しされたと思われるリアスが反応する。

 

 俺が動きを止めたのを確認したフリードは笑みを浮かべ――

 

「ああ。ウチのボスがさ!」

 

 上を見ながら言った途端、周囲が結界で覆われた。

 

 俺達もフリードに倣って上を見ると、そこには昨日に会った堕天使幹部――コカビエルがいた。

 

「今度はお前か、コカビエル」

 

「よぉ、兵藤隆誠。昨日はよくも下らん事をしてくれたな」

 

『っ!』

 

 俺とコカビエルの会話に、イッセーを除くリアス達が驚愕していた。

 

「りゅ、リューセー。あなた、コカビエルに会ってたの!?」

 

「ああ。会ったと言っても、すぐに撤退したけど」

 

 コカビエルとエリー二人同時に相手にしてられなかったから、太陽光を使って撤退したよ。

 

「お前にはすぐにでも昨日の礼をしてやりたいところだが、そうするとエリーが黙っちゃいないからな。今は手を出さないでおく」

 

「おいおい、お前ほどの奴がエリーを恐れてるのか?」

 

「まさか。奴と本格的な殺し合いをするのは戦争が始まってからだ」

 

 そう言えばコカビエルとエリーは戦争が始まるまではお互いに手を出さない条件とか言ってたな。謂わば一種の契約をしてるから、それを遵守してるってところか。

 

「ちょっとリューセー、どう言う事? コカビエルが言った“戦争”ってまさか……!」

 

「おっといかん、危うく忘れるところだった」

 

 リアスの発言に思い出したように、コカビエルは俺からリアスへと視線を移した。

 

「はじめましてかな、グレモリー家の娘。もう知ってるだろうが、我が名はコカビエル」

 

「……ごきげんよう、堕ちた天使の幹部さん。私はリアス・グレモリー。どうぞお見知りおきを」

 

 リアスは負けじと言わんばかりに冷淡な表情を浮かべている。

 

 ま、グレモリー家の次期当主であれば、これくらいのやり取りをするのは当然か。

 

「紅髪が麗しいものだな。紅髪の魔王サーゼクスにそっくりで、忌々しくて反吐が出そうだよ」

 

 だがコカビエルはリアスの発言を大して気にしてない様子で、サーゼクスを思い出しながら嫌悪してる。

 

「それで? リューセーだけじゃなく、私との接触は何が目的なのかしら? 幹部さんが直々にお目見えするなんて。それにさっき戦争とか言っていたけど、どう言うことかしら?」

 

「なに、おまえの根城である駒王学園を中心に、この町で暴れさせようと思ってな。そうすれば嫌でもサーゼクスが出てこざるを得ない、だろう?」

 

 やっぱりコカビエルはそう言う理由で駒王町にやってきたんだな。

 

 理由を聞いたリアスは漸く合点がいったように気付く。

 

「まさかあなた、堕天使と神、悪魔との戦争を再び勃発させる為に!?」

 

「察しが良いな。エクスカリバーでも盗めばミカエルが戦争をしかけてくれると思ったのだが……寄越したのが雑魚のエクソシストどもと聖剣使い二匹だ。つまらん。余りにもつまらん!」

 

「……成程。初めから戦争を起こす為に行動してたという訳か」

 

 全くアザゼルの奴め。コイツが戦争狂だと言うのを知ってたなら、いくら仲間とは言え放置すんなよ。

 

「そうだ、兵藤隆誠。俺は三つ巴の戦争が終わってから退屈で退屈で仕方なかった! アザゼルもシェムハザも次の戦争に消極的でな。それどころかアザゼルは、神器(セイクリッド・ギア)とか言う訳の分からんもの集めだして研究に没頭し始める始末だ」

 

 少なくともコカビエルがやる戦争なんて言う無意味な事より、アザゼルのやる研究の方がよっぽど有意義だと聖書の神(わたし)は思うよ。

 

「……まあ、そこの兵藤隆誠と顔立ちが似てるガキが持つ『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』なら武器にもなろうが、生憎俺には興味がない。だが、アザゼルなら欲しがるかもしれんな。あいつのコレクター趣味は異常だからな」

 

「冗談じゃねぇ! コレクションにされてたまっかよ!」

 

 同感だ。仮にそんな展開になったら、俺は容赦なくアザゼルの黒歴史をばら撒いてやるよ。

 

 イッセーの発言にコカビエルは大して気にせずに話を続けようとする。

 

「堕天使、神、悪魔はギリギリの均衡を保っているだけだ。ならば、この手で戦争を引き起こしてやればいい!」

 

「……完全な戦争狂ね」

 

 後先を全く考えてないコカビエルに、リアスは異常者を見るような目をしていた。うん、その反応は至極当然だ。

 

 聖書の神(わたし)バカ息子(コカビエル)がどうして、ここまで変貌したのかと気になってるし。

 

 天使だった頃は聖書の神(わたし)の側近になろうと努力していた真面目な息子だったと言うのに。聖書の神(おとうさん)は悲しいよ。

 

「だから、今度は貴様ら悪魔に仕掛けさせてもらう。ルシファーの妹――リアス・グレモリー。レヴィアタンの妹――ソーナ・シトリー。そして、その二人以上の実力を持つ人間――兵藤隆誠。それ等が通う学び舎なら、さぞや魔力の波動が立ちこめて、混沌が楽しめるだろう! 戦場としては申し分あるまい!」

 

 無茶苦茶な奴だ。呆れて物が言えんな。

 

「ひゃははは! ウチのボス、このイカレ具合が素敵で最高でしょう~!? 俺もついつい張り切っちゃうわけさ。こ~んなご褒美まで、頂いてくれちゃうしさぁ!」

 

 フリードが笑いながら上着の中を俺達に見せようとする。

 

 右手には『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』、左腕の肘上に巻かれてる紐状の『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』、そして上着の中には『夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)』と『透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)』があった。

 

「お、おい兄貴! あいつが持ってるアレって全部……」

 

「ああ、全部エクスカリバーだ」

 

「マジかよ……」

 

 イッセーの問いに俺が答えると、匙が信じられないように呟く。

 

「無論勿論全部使えるハイパー状態なんざます! 俺って最強! あはははは! いくらバケモノ兄さんとクソ人間が強かろうが、この聖剣の前では無意味ざんすよ!」

 

「……やれやれ。俺達も随分と見縊られたもんだ」

 

「上等だ。んなもんあっても勝てねぇことを教えてやる」

 

 

 ドウンッ!

 

 

 俺が呆れてる中、イッセーは若干キレ気味になったのか、少し前に出て赤い闘気(オーラ)を放出する。

 

「うおっ! 何すかその尋常じゃねぇオーラは!?」

 

「ほう……」

 

 イッセーの闘気(オーラ)にフリードは驚愕するも、コカビエルは面白そうに見ていた。

 

「ハハハハハ! どうやら兵藤隆誠以外にも楽しめそうな人間がいるようだな。これは面白くなってきたぞ!」

 

 コカビエルは深い笑みを浮かべて、リアスに視線を移して宣戦布告をしようとする。

 

「さぁ、戦争をしようか、魔王サーゼクスの妹リアス・グレモリーよ!」

 

 そう言ってコカビエルはフリードを連れて転移していった。

 

 奴等がどこへ転移したかなんて調べなくても分かる。行き先は駒王学園だ!



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第十五話

「悪い、ソーナ。お前やお前の眷族達に嫌な役割を押し付けてしまって」

 

「気にしないで下さい。これも重要な役割ですから」

 

 学園前に着いた俺はリアスたちオカルト研究部と、合流したソーナたち生徒会メンバーでコカビエル達と戦う前の話し合いをした。その結果、生徒会メンバー全員は後方支援に徹してもらう事になった。

 

 ソーナ達には学園全体に結界を張ってもらい、余程の事がない限りは外の被害を食い止めてもらうのが今回の役割だ。最初は渋い顔をしていたソーナだったが、自分達ではコカビエルとまともに戦う事が出来ないと分かっていたようで、すぐに納得してくれた。

 

「助かるわ、ソーナ」

 

「ありがとな。今度俺が何かお礼するよ」

 

「楽しみにしてます」

 

 俺からお礼がもらえると聞いたソーナはにこやかな笑みを浮かべるが、すぐに厳しい顔へと変わる。

 

「リューセーくん、私たちが外の被害を食い止めるとは言え、現状が維持されていればの話ですが」

 

「分かってる。なるべく善処するよ」

 

 コカビエルやエリー相手にそんな事を気にしてる余裕なんてないが、一応頭の片隅にだけは置いておこう。

 

 そう思ってると、突如背後からイリナを連れて行った真羅が戻ってきた。

 

「真羅、一応訊くけどイリナは?」

 

「今は会長の屋敷にある寝室で眠っています」

 

 俺の問いに真羅が答えた後、すぐに結界を張ってるソーナ達に加わる。彼女にはソーナから結界を張る役割を伝えてあるからな。

 

「ところで兄貴、木場とゼノヴィアはどうすんだ?」

 

「………放っておけ。こっちから何もしなくても、アイツ等は間もなく此処へ来る」

 

 ゼノヴィアと祐斗のオーラは此処から少し離れているが駒王学園に近づいてきてる。あともう少しで着くと言ったところだ。

 

 だが今はアイツ等を待ってる時間は無い。何しろコカビエルが学園の校庭で力を解放してるからな。

 

 コカビエルが力を解放したとなると、学園だけじゃなく、この駒王町そのものが崩壊する。それ故に祐斗達を待っていられない。

 

「私たちは出来るだけ結界を維持します。ですが……学園が傷付くのは耐え難いものです。堪えなければならないでしょうが」

 

 ソーナは学園の方を憎々しげに見つめている。恐らく学園にいるコカビエルへ向けているんだろう。

 

「ソーナ。君が学園を大事にしてる気持ちは分かるけど、そこは辛抱してくれ。相手は堕天使幹部のコカビエルだけじゃなく、最上級悪魔のエリガンまでいるんだ。悪いけど学園の事を気にしながら戦うのは無理だよ」

 

「……ええ、分かっています」

 

 ところで、とソーナは言いながらリアスへ視線を移す。

 

「リアス、相手は桁違いのバケモノが二人います。いくらリューセーくんがいるとはいえ、勝てるとは言い切れません。いまからでもおそくない、あなたのお兄さまへ連絡を」

 

「あなただって、お姉さまを呼ばなかったじゃない」 

 

「私のところは……」

 

 サーゼクスはともかく、あの魔王少女に連絡したらとんでもない事になるから、ソーナは敢えて連絡しなかったんだろうな。うん、ソーナの判断は実に正しい。

 

 あのサーゼクス以上の超シスコン姉に来られたら面倒になること間違いなしだ。アイツお得意の氷魔法で駒王町が氷漬けにされるか、もしくは駒王町が消滅させられてしまう。そんな危険な奴を此処に呼ばれてたまるか。

 

「リアスのお兄さまはあなたを愛している。サーゼクスさまなら必ず動いてくれます。だから――」

 

「サーゼクスさまには、私のほうから打診しておきましたわ」

 

「朱乃!」

 

 突然割って入った朱乃の発言にリアスが避難の声をあげる。しかし朱乃は珍しく怒った表情を浮かべていた。

 

「リアス、あなたがサーゼクスさまにご迷惑をおかけしたくないのはわかるわ。けれど相手は堕天使の幹部と指名手配犯の最上級悪魔。あなた個人で解決するレベルを超えている。――魔王さまの力を借りましょう」

 

「っ………」

 

 朱乃の正論にリアスは即座に言い返すことが出来なかった。確かに上級悪魔のリアスが解決するなんて無理な話だ。

 

 何か言いたげなリアスだったが、すぐに大きな息を吐いて静かに頷いた。

 

「ご承諾ありがとうございます、部長。サーゼクスさまの軍勢は、凡そ一時間程度で到着する予定ですわ」

 

「一時間ね……了解したわ」

 

 それと、と朱乃が言いながら俺を見る。

 

「リューセーくんにサーゼクスさまからの伝言があります」

 

「俺に?」

 

『っ!?』

 

 サーゼクスからの伝言と聞いた途端、リアスだけじゃなくこの場にいる全員が驚いていた。

 

「『冥界(こちら)のことは気にせず、遠慮なくやっても構わない』、とのことですわ」

 

「へぇ……。了解した」

 

 どうやらサーゼクスは上手くいったようだな。

 

 今回の件で悪魔のリアスが対処出来ない事を人間の俺やイッセーが解決したら、冥界の貴族悪魔共が後々絶対嫌がらせや難癖をつけてくる。

 

 リアスがまだ未熟な上級悪魔とは言え、人間の俺達が悪魔側の面子を潰す行為をすれば、人間を軽視してる貴族悪魔共は黙っちゃいない。何しろ貴族悪魔は人間以上に面子を潰されるのを嫌うからな。

 

 だからそう言った面倒事を防ぐ為、この前の電話でサーゼクスにコカビエルの件を報告した後、貴族悪魔達が今回の件で一切口出しをしないよう依頼した。当然俺からの依頼なので、サーゼクスに報酬を支払わなければならないが、それは今どうでもいいので割愛させてもらう。

 

「どういうことなの、リューセー? お兄さまに一体何の話をしてたの? あとさっきの伝言はどういう意味かしら?」

 

 予想通りと言うべきか、リアスが食いついて俺に詰問してきた。

 

「……今はそんな事を気にしてる場合じゃないだろ。時間が無いんだ。イッセー、行くぞ!」

 

「お、おう!」

 

「ああっ! こらっ! 待ちなさいリューセー!」

 

 俺がイッセーを連れて学園に入ろうとすると、少々怒り気味のリアスや朱乃と小猫、そしてアーシアが慌てながら付いてきた。

 

 

 

 

 

 

「さて。学園内に入った以上、全員、決死の覚悟を持ってもらうぞ。いいな?」

 

 新校舎の中に入ってグラウンドへ向かってる途中、俺はリアス達に最後の確認をする。

 

「元よりそのつもりよ。でも、私は死ぬつもりなんてないわ。皆で生きて帰って、この学園に通うわよ」

 

 強気な発言をするリアス。

 

「私も部長と同じですわ。死ぬ覚悟はあっても、死ぬつもりはありませんもの」

 

 リアスと同様の発言をする朱乃。

 

「……勿論です」

 

 決心が固まったようにコクンと頷く小猫。

 

「は、はい! が、がんばります!」

 

 途轍もない緊張感に襲われながらも必死に答えるアーシア。

 

「こちとら、兄貴に何度も死ぬような目に遭わされてんだ。んなもん今更だろうが」

 

 少々意地の悪い返答をしながらも、やる気充分な姿勢を見せるイッセー。

 

「結構。さて、以前のライザー戦で俺は参加しなかったが、今回は出る。尤も、俺はエリガンの相手がメインになるがな」

 

「リューセーが共に戦ってくれるのは非常に頼もしいけれど、本当に一人で大丈夫なの?」

 

「心配無用。アイツは俺が戦おうとする意思を見せれば、すぐに食いついてくる。……放課後の時に言ったろ? アイツは俺に対して熱烈な恋愛感情を抱いてるって」

 

「……そ、そういえば、そういってたわね」

 

 うんざりするように溜息を吐きながらエリーの事を言うと、リアスは急に俺を気の毒そうな目で見る。

 

 放課後の部室でエリーの事を教えていた際、俺はリアスにこれまでエリーに狙われていた事も話した。エリーが俺をダーリンと呼んだり、婚約者(フィアンセ)や未来の夫と勝手に決めてる事を。

 

 それ等を聞いたリアスはライザーの件があって他人事とは思えなかったのか、『……あなたも苦労してるのね』と物凄く同情されたよ。近くで聞いていた朱乃や小猫やアーシアにも同情的な眼差しを送られたけど。

 

「まぁとにかく、エリーが動かない限りは俺も出来るだけ動く。まぁコカビエルの相手はイッセーがメインでやってもらうが」

 

「え? 俺がアイツと?」

 

 予想外の指名だったのか、イッセーはキョトンとした顔をしながら言う。

 

「当たり前だろうが。俺がエリガンと戦う以上、コカビエルとまともに戦えるのはお前しかいない。奴と本格的な戦闘になったら、リアス達は援護射撃側に移ってもらう」

 

「……確かに今の私たちじゃコカビエルと対等に戦える力はないわ。イッセーと一緒に戦えないのが悔しいけれど」

 

「部長……」

 

 自分とコカビエルの力の差を理解したのか、リアスは悔しい表情をしながらも反論はしなかった。そんなリアスにイッセーは安心させようと思ったのか、彼女の手を取る。

 

「何言ってるんですか。部長がいてくれるだけで充分力になってますよ。俺にとって部長は勝利の女神ですからね。絶対負けませんよ」

 

「なっ!」

 

 イッセーの口説き文句が聞いたのか、リアスの顔は紅髪と同じく真っ赤になった。

 

「あらあら、うふふ。リアスってばイッセーくんに愛されてますわね」

 

「……普段はスケベなのに、こう言う台詞はサラッと言えるんですね」

 

「うう~……!」

 

 顔真っ赤なリアスを見た朱乃は笑みを浮かべ、小猫は複雑な顔をしており、アーシアは頬を膨らませて焼きもちを焼いていた。

 

「こらこらイッセー、こんな時にリアスを口説くなよ」

 

「べ、別に俺は部長を口説いてなんか……!」

 

「あっ……」

 

 俺の指摘にイッセーは掴んでるリアスの手を離し、顔を赤らめながら反論しようとする。さっきまでイッセーに手を握られたリアスは残念そうな表情をしてるが。

 

「……まあいいや。取りあえずお前には最初から全力で戦ってもらうから、今着てる赤シャツの重さを解除する」

 

 そう言いながら俺は右の人差し指で、イッセーが着てる赤シャツにトンッと触れた途端――

 

「お、一気に軽くなった!」

 

 イッセーは兎のようにピョンピョンと軽く跳んだ。

 

「あとコカビエルと戦う時は迷うことなく龍帝拳を使え」

 

「わぁってる。コカビエル相手に出し惜しみなんてしねぇよ」

 

「なら良し」

 

 俺の念押しにイッセーは真剣な顔をして頷くと、グラウンドの出入り口が見えた。

 

 さて、ここから先は駒王町の命運をかけた戦場だ。

 

 今の聖書の神(わたし)ではイッセーやアーシアや悪魔のリアスたち、そして駒王町にいる住民全てを守れない。だが駒王町の崩壊だけは必ず阻止させてもらう。たとえこの命が失おうとしても。




すいません。今回は戦闘前のブリーフィング話になっちゃいました。

次回は必ず戦闘になりますので、どうかご容赦を。


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第十六話

 ~リューセー達が駒王学園に向かう前~

 

 

 

「コカビエル、ダーリンに手を出しては……いないようね」

 

「疑り深い奴だ。そんなに俺が信用出来ないか?」

 

「私が目を離した隙に戦ってるんじゃないかと気が気でいられなかったのよ。というか、何で私がバルパーの護衛なんかしなきゃいけないの?」

 

「お前がバルパーの指示を何度も無視したからだろうが。エリガン、お前も知ってる筈だ。奴が自らの手でエクスカリバーを統合させるのが念願だと」

 

「………エクスカリバーに囚われた妄想爺のやる事に付き合ってられないわよ」

 

「悪魔だとばれるのが面倒だから人間と偽って態と従ってるなら、護衛ぐらいは最後までやってやれ」

 

「辺りに誰もいないのに護衛なんかしてる意味なんてないじゃない。あの妄想爺の周囲にフリードくん以外誰もいないから大丈夫よ。それにしても、あの妄想爺にはつくづく呆れるわね。いい歳して未だエクスカリバーに憧れを抱き続けるなんて」

 

「それが人間の(さが)と言うものだ。お前とてバルパーの事をどうこう言える立場ではないだろう。サキュバスのお前が兵藤隆誠と言う人間に現を抜かしてる時点で――」

 

「ダーリンをあんな三下と一緒にしないでくれる? 殺すわよ?」

 

「………つくづく分からん奴だ。人間(おとこ)を食い物としか見てなかったサキュバスのお前が、たった一人の人間(おとこ)にそこまで入れ込むとは重傷ものだぞ」

 

「ほっといて。私にとってダーリンは人間の中で一番特別な存在なの」

 

「……まあいい。それはそうと、兵藤隆誠やリアス・グレモリー達がそろそろ此処に来る」

 

「あらそうなの? だったら私は即行でダーリンと――」

 

「いや、お前はまだ手を出すな」

 

「……ちょっとコカビエル。いくら同盟関係のあなたでも、そんなふざけた命令を私が聞くとでも思ってる?」

 

「まぁ聞け。リアス・グレモリーがサーゼクスやセラフォルーの誰を呼ぶかは知らんが、戦いの前の余興をしようと思う」

 

「………あのプライドが高くて世間知らずなお嬢さまが、身内とは言え誰かに助けを請うような真似はしないと思うけど?」

 

「この状況で魔王を呼ばないほど、奴とてそこまでバカじゃないだろう。だが魔王共が来るにしても多少の時間は掛かる筈だ。だからそれまでの時間潰しとしての余興だ」

 

「その余興の間に来れば良いんだけど。で? それが終わるまで、私は手を出すなってこと?」

 

「ああ。それまでの間に俺は兵藤隆誠(やつ)に手を出さん。尤も、奴から俺に挑んできたら話は別だが」

 

「そうなったら私が即座に割り込ませてもらうわよ。ダーリンの相手をするのは私なんだから。ああ、言っておくけどダーリン以外の誰かがあなたに挑んでも何もしないわよ」

 

「それは予想済みだ。まぁ兵藤隆誠以外に楽しめそうなのは、『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』を持った赤龍帝ぐらいだろうが」

 

「ああ、イッセーくんのこと? 彼はダーリンの弟だから、それなりに強いわよ」

 

「やはり奴の身内だったか。赤龍帝の実力はまだ分からんが、どれほどだ?」

 

「そうねぇ。まだまだダーリンには程遠いけど、少なくともリアス・グレモリーたち以上の実力はあるわよ。この前のレーティングゲームで、フェニックス家の三男坊を圧倒してたわ」

 

「ほう、あの不死身のフェニックスをか」

 

「でも今のイッセーくんじゃ、まだあなたを倒せるまでのレベルではない。だけど状況次第によっては……負けるかもしれないわね」

 

「俺があのガキに負けるだと?」

 

「状況次第によっては、って言っただけよ。それにあの子、妙な奥の手を持っているわ。もしかしたら自分の実力以上の力を引き出すものかもしれない。まぁ、あなたが油断さえしなければ負けはしないわよ」

 

「お前がそこまで言うほどの相手なら、それなりに楽しめそうだな。その戯言は頭の片隅にでも置いといておこう」

 

「どうぞお好きに。私は忠告したからね………(尤も、あなた程度じゃダーリンの相手にならないけど)」

 

 

 

 

 

 

 グラウンドへ辿り着くと、そこには異様な光景があった。四本の聖剣が神々しい光を発しながら、宙に浮いている。更にはそれを中心に魔法陣がグラウンド全体に描かれていた。

 

 そして魔法陣の中央にはバルパー・ガリレイの姿がいる。どうやらあの四本の聖剣を一つにするようだな。

 

「兄貴、あの爺がやってるのって……」

 

「四本のエクスカリバーを一つにする、ってところだろう」

 

「そのとおりだ」

 

『っ!』

 

 俺の発言に空中から頷いた声が聞こえた。俺やイッセーたち全員が空へ視線を向けると、そこには月光を浴びるコカビエルがいる。

 

 宙で椅子に座って、俺達を見下ろしていた。……随分と余裕だな、アイツ。

 

「コカビエル!」

 

 リアスが憎々しげに睨みながら叫ぶ。

 

 そりゃ当然だ。自分の学園を我が物顔で振舞ってるコカビエルの態度はリアスにとって非常に目に余る。

 

 だがコカビエルは全く気にせず、ゆっくりとリアスに視線を移す。

 

「サーゼクスは来るのか? それともセラフォルーか?」

 

「お兄さまとレヴィアタンさまの代わりに私たちが――」

 

 リアスが言ってる最中にコカビエルが突然指を鳴らして巨大な光の槍を出して、こっちに向けて発射してきた。

 

『っ!』

 

 リアス達が驚いてる中、こっちに向かってくる光の槍に俺は動こうとするが――

 

 

「オラァッ!!!!」

 

 

 ドゴンッ!! ドォォオオオオオオオンッ!!

 

 

 赤い闘気(オーラ)を纏ったイッセーが前に出て、俺達を守るように赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)を展開してる左腕で弾き飛ばした。

 

 弾き飛ばされた光の槍はそのまま体育館へと向かっていた直後、凄まじい爆音が辺り一帯に爆風と共に広がっていく。

 

 爆風が止むと、そこには体育館が影も形も無くなっていた。正確には消し飛んだと言うべきか。今は巨大な光の槍だけが斜めに突き刺さっている。

 

「い、イッセー……」

 

「あの光の槍を、弾き飛ばすなんて……」

 

「……凄い」

 

「す、凄いです、イッセーさん……」

 

 女性陣はイッセーの荒業を見て驚愕していた。

 

 まぁアレくらいは出来て当然なんだがな。

 

「おいテメエ! いきなり何しやがる!?」

 

「ほう」

 

 だがイッセーはリアス達の反応をを全く気にせずコカビエルに怒鳴り散らすが、当の本人は全く気にしてない様子だ。それどころか興味深そうに笑みを浮かべながらイッセーを見る。

 

「軽い挨拶とは言え、光の槍(アレ)を簡単に弾き飛ばすとは、正直言って驚いたぞ。流石は兵藤隆誠の弟と言ったところか、赤龍帝」

 

「テメエ……! 下らねぇ挨拶の為に部長たちを……!」

 

「悪かったな。エリガンからお前が相当の実力者だと聞いたから、つい試したくなった。これ位やってくれなきゃ、俺の相手は務まらんからな」

 

 あの野郎、イッセーを試す為に態と光の槍を撃ちやがったな。ってか、矢張りエリーはコカビエルにイッセーの事を教えてたか。

 

 ついでにコカビエルはリアス達を最初から相手にしてないようだ。本命はあくまで俺たち兄弟って事か。

 

「くっ……! 私たちは初めから眼中に無いなんて、頭に来るわね……!」

 

「落ち着け、リアス。今は言わせておけ」

 

 激昂寸前のリアスを抑える俺。朱乃や小猫も悔しそうな表情してるが、リアスと同様に今は耐えてくれ。

 

 精々油断してる事だな、コカビエル。リアス達だって、俺がそれなりに鍛えたんだからな。

 

 それにしても、何故エリーがいないんだ? アイツの性格を考えれば、もう出てもおかしくない筈なんだが。

 

「さて、余興を始めるとしよう。先ずは地獄から連れてきた俺のペットと遊んでもらおうか!」

 

 宙に浮いてる椅子の下部分の突起から魔力が放たれ、それは地面に向かっていった。それは地面を抉ると魔法陣が現れ、更には巨大な炎の柱が吹き荒れた。

 

 そして炎の柱と抉られた地面から黒い巨体が咆哮をあげながら何かが現れる。

 

 そこから出てきたのは一つの体に三つの首がある巨大な犬――地獄の番犬(ケルベロス)だった。しかも四匹いる。

 

 ってかコカビエルの奴、人間界(ここ)であんなの連れてくるんじゃねぇよ!

 

「ケルベロス! 何てものを喚びだしたの!?」

 

 俺と同様に思ったのか、リアスが忌々しそうに言う。

 

 ケルベロスは本来冥界へ続く門の周辺に生息する魔物だ。リアスが驚くのは無理もない。

 

 ったく。コカビエルの奴、初っ端から面倒なことをさせやがって!

 

「リアス、朱乃、小猫、お前たちは二匹やってくれ! 俺とイッセーで残りの二匹を片付ける!」

 

「分かったわ!」

 

「お二人とも、御武運を!」

 

「……こちらは任せてください」

 

 俺の指示に従うリアスは朱乃と共に背中から翼を出して空を舞い、小猫は二人に付いて行く。

 

 さて、こちらも始めるとしようか。

 

「こうしてお前と共に戦うのはいつ以来だ?」

 

「知るかよ。んな事より、さっさとあのワン公どもを片付けようぜ」

 

「それもそうか。アーシア、巻き添えを食らわないよう離れていろ」

 

「は、はい!」

 

 俺はイッセーと一緒に二匹のケルベロスの下へ向かいながら、アーシアを下がらせるよう指示する。

 

 すると、俺達に視線を固定してるケルベロス二匹は漏れてる炎を出そうとしてるのか、口を大きく開けようとしていた。その瞬間、六つの首から一斉に炎をこちらに向けて放つ。

 

「イッセーさん! リューセーさん!」

 

 炎をまともに受けた俺とイッセーにアーシアが大きく叫ぶが――

 

「生温い炎だ。前に戦ったライザーとは大違いだな」

 

「イッセー。あんな獣程度と比較されたら、流石にライザーが怒るぞ」

 

 全くの無傷だった。

 

 俺とイッセーは炎に当たる瞬間、全身にオーラを纏ったから炎を防げた。以前にライザーが部室で俺に放った炎を防いだ時と同じ事をしている。

 

 炎を防がれたケルベロスは予想外と言うように、それぞれの首から戸惑った表情をしていた。

 

 

 ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォンッッ!!

 

 

 すぐに俺達を威嚇するように辺り一帯を奮わせる咆哮を放ってくる。

 

「うるっせえワン公どもだな」

 

「近所迷惑だ」

 

 

 パチンッ! ドドドドドドドッ!!

 

 

 俺が指を鳴らした途端、十本の光の槍が現れ、そのまま一匹のケルベロスに向かって行く。

 

 反応し切れなかったのか、全ての光の槍はそのまま一匹のケルベロスに全て刺さった瞬間――

 

 

 ドオオオォォォンッ!!!

 

 

 そのまま爆散して消えていった。

 

 

 ガアアアァァァァァッッッ!!

 

 

 一匹のケルベロスがやられた事に、もう一匹のケルベロスは激昂して俺に襲い掛かってきた。

 

 だが――

 

「俺もいるって事を忘れてんじゃねぇよ、ワン公! オラァッ!」

 

 

 ドゴンッ!!

 

 

 イッセーが一瞬でケルベロスの背中を取って、そのまま両手を組みながらハンマーのように振り下ろした。

 

 凄まじい衝撃だったのか、ケルベロスは倒れた。必死に立とうとするも、イッセーの攻撃で背骨が完全にやられて、もがくようにのた打ち回っている。

 

 良い判断だ。ケルベロスは一つの首を潰しても他の首が襲い掛かるから、三つの首を支えている胴体を攻めればあっと言う間に終わる。益してや身体の中心である脊柱を潰されたら、あのケルベロスはもう立つ事は出来ない。

 

「テメエは、飼い主のところにでも戻ってやがれ!」

 

 イッセーは立つ事が出来ないケルベロスの尻尾を両手で掴み、そのまま宙に浮いてるコカビエルへ向けて放り投げた。

 

「ちっ」

 

 突然の行動にコカビエルは驚くも、向かってくるケルベロスを光の槍で消滅させた。

 

「俺にペットを始末させるとは良い度胸してるじゃないか、赤龍帝」

 

「うるせえ! さっきのお返しだ!」

 

 顔を顰めながら言うコカビエルに、イッセーはしてやったりと笑みを浮かべた。

 

 イッセーの奴、さっきコカビエルに光の槍で挨拶された事を相当根に持ってたようだな。まあ、リアスが喋ってる最中にいきなりぶっ放されちゃ怒る。

 

 加えてイッセー曰く、『大事な女』に攻撃したなら尚更。イッセーの言う『大事な女』とは一体誰を指しているのやら。

 

 さて、リアス達の方は――

 

「はああっ!」

 

 リアスの魔力が一体のケルベロスの炎と激突し――

 

「隙あり」

 

 

 ドゴンッ! ガスッ!

 

 

 横から両手に魔力を纏った小猫がリアスと戦ってるケルベロスの腹部に攻撃を当て――

 

「ケルベロスと言えども、躾が必要ですわね」

 

 

 バチバチィッ!!

 

 

 朱乃は指先をもう一体のケルベロスに向けて激しい電撃を浴びせていた。

 

 うむ、三人ともケルベロス相手に怯まず戦っているようだ。リアスと小猫はともかく、朱乃は調教してるような感じがするが。………まあ大丈夫だろう。

 

 ともかく、ここはさっさとケリを付ける為に、イッセーにリアス達を強化させておくとしよう。一応イッセーには戦いながら『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』のチャージをさせているし。

 

「おいイッセー、リアス達に――」

 

 俺が指示をしようとすると――

 

「きゃぁぁぁあああ!」

 

「「!」」

 

 突然アーシアが悲鳴を上げた。

 

 俺とイッセーが即座に振り返ると、アーシアの背後からいつの間にか他のケルベロスがいた。

 

 そしてケルベロスは立ち竦んでるアーシアを食べようとしてるのか、三つの首が揃って大きく口を開けて――

 

 

 ピピピピピピピッ!!

 

 

 ――いたが、俺が指先から光弾を機関銃(マシンガン)のように連続で放たれた事により、ケルベロスの身体が穴だらけになっていた。

 

 穴だらけになったケルベロスはそのまま倒れて絶命寸前だ。

 

「獣風情が俺の大事な妹分を食おうとは良い度胸してるじゃないか」

 

「このワン公! よくもアーシアに手を出しやがったな! 覚悟しやがれ!」

 

 少しキレ気味の俺が言ってると、いつのまにか移動したイッセーは倒れてるケルベロスの尻尾を持ち上げて、そのまま上空へ放り投げる。

 

 そして――

 

「くたばりやがれ!!」

 

 

 ドォォオオオオオンッッ!!

 

 

 イッセーのドラゴン波でケルベロスは消滅してしまった。

 

「い、イッセーさん……ありが――」

 

「俺の大事な(家族である)アーシアに手を出す奴は誰だろうと許さねぇぞ!」

 

「はうっ!!」

 

 ………おいおい弟よ。お前こんな時に何言ってんだ?

 

 多分お前は大事な家族だと言ったんだろうが、肝心な部分を抜かした所為で、アーシアの顔が熟れたトマトみたく真っ赤になってるぞ。

 

 まぁ、イッセーの台詞が現在ケルベロスと戦闘中のリアスに聞かれなくて良かったよ。もし聞いてたら絶対戦闘どころじゃなくなってると思う。

 

 あともうついでに――

 

「加勢に来たのだが、出るタイミングが遅かったようだな」

 

「イッセーくん、こんな時にアーシアさんを口説くのはどうかと思うよ?」

 

 ゼノヴィアと祐斗がグラウンドに来ていた。



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第十七話

「祐斗、勝手な行動したお前に言いたい事はあるが一先ず保留だ。後で覚悟しとけ」

 

「……はい」

 

「ゼノヴィアも同様だ。ついでにイリナは俺が治療しといたから大丈夫だ」

 

「……感謝する、兵藤隆誠」

 

 祐斗とゼノヴィアに言った俺は、アーシアの近くにいるイッセーに声を掛けようとする。

 

「イッセー! 力が溜まったんならリアスと朱乃に譲渡しろ! 二人同時にな!」

 

「お、おう!」

 

 俺の指示にイッセーは全身から赤い闘気(オーラ)を出すと、すぐにケルベロス二匹と戦ってるリアス達の方へと飛んでいく。

 

「部長! 朱乃さん! 俺の力を受け取ってください!」

 

「「っ!」」

 

 イッセーの台詞を聞いた途端、二人はすぐに駆けつけようとする。

 

 以前『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』の事を教えたから、リアスと朱乃はパワーアップ出来ると分かっていた。

 

「いくぜ! ブーステッド・ギア・ギフト!」

 

『Transfer!』

 

 イッセーが両手でリアスと朱乃に触れた途端、二人の体から凄まじい魔力が漂う。両者ともに溢れ出す力に驚いている様子。

 

「――これはいけるわ」

 

「ええ。いけますわ」

 

 だがそれは一瞬で、リアスと朱乃は不敵な笑みを浮かべている。

 

「小猫! そこから離れて! 二匹纏めて倒すわ!」

 

「……はい!」

 

 リアスが指示すると小猫は巻き添えを食らわないようすぐに交戦してるケルベロスから離れていく。

 

 小猫が後退したのを見たリアスは次に朱乃を見る。

 

「朱乃!」

 

「はい! 天雷よ! 鳴り響け!」

 

 朱乃が手を天に向けると、雷光を支配する。

 

 リアスは凝縮された魔力の塊である魔法陣を放ち、それを見た朱乃がそれ目掛けて雷光を放つ。

 

 朱乃の雷光がリアスの魔法陣を通ると、雷光はリアスの魔力と併せ持って凄まじい魔力となった。その魔力はすぐに二匹のケルベロスに降り注がれ、あっと言う間に消滅する。

 

 いくら多少の魔法耐性があるケルベロスでも、イッセーによって増強された二人の魔力を防ぐ事は出来ない。

 

「中々良い見世物だったぞ」

 

 ケルベロスが全て倒されたのを見たコカビエルは、まるでテレビ観戦したような感想を送ってくる。

 

「くらいなさい!」 

 

 コカビエルの発言に顔を顰めたリアスは、空かさず凝縮された巨大な魔力の塊を撃ちだす。

 

 以前ライザーに使った『滅びの爆裂弾(ルイン・ザ・バーストボム)』ほど凝縮されてはいないが、それでも相当な威力だ。

 

 リアスが撃ちだした魔力の一撃は凄まじい速度で、宙に座るコカビエルへ襲い掛かる。

 

「ほう」

 

 感心するように見ているコカビエルは、片手を前に突き出した。

 

 

 ゴオオオオォォォォオオンッッッ!!

 

 

 まるで水鉄砲を手で止めているかのような感じでリアスの魔力を防ぐコカビエル。

 

 その途中、グンッと手のひらを上へと向けた。途端にリアスが放った魔力の塊は軌道をずらされ、天高く空の彼方へ飛んで、そのまま消えてしまった。

 

「あの野郎、部長の一撃をああも簡単に……!」

 

「やはりあの程度の威力じゃ通じないか」

 

 驚くイッセーを余所に、俺は顔を顰めながら呟く。

 

 コカビエルがリアスの一撃で倒せるなんて微塵も思っちゃいない。益してや大戦を生き抜いたコカビエルがアレくらい出来なきゃ、堕天使の幹部なんか務まらない。

 

 手のひらから立上る煙を見たコカビエルは、楽しそうな笑みを浮かべてる。

 

「なるほど。兵藤兄弟ほどではないにしろ、赤龍帝の力があれば、ここまで力が引きあがるか。――おもしろい。これは酷く面白くなってきたぞ!」

 

 一人面白おかしそうに哄笑をあげてるコカビエル。

 

「――完成だ」

 

 突如、バルパーの声がした。その直後、グラウンドの真ん中にあった四本のエクスカリバーが一本になろうとしている。

 

 眩い光がグラウンド全域に広がっていき、四本のエクスカリバーが重なる。そして光が消えると、グラウンドの中央には青白いオーラを放つ一本のエクスカリバーだった。

 

「剣が統合される時に生じる膨大な力――コカビエル(おれ)がいる。バルパーとはそういう取引をしたんでな」

 

 その為に大地崩壊の術をかけたって言うのか? 

 

 ………ふざけた真似をしやがって!

 

「おいおい兄貴! あのオーラの量はハンパじゃねぇぞ! アレが爆発したらこの町が!」

 

「分かってる! アレを防ぐにはコカビエルを倒すしかない!」

 

「その通り。だがあと二十分もしないうちに崩壊するぞ。それまでにコカビエルを倒せるかな?」

 

「なん……だと?」

 

 衝撃的な事を口にしたバルパーに俺は絶句した。

 

 あと、二十分で駒王町が壊れるだと!?

 

 一時間で到着するサーゼクス達が来る頃には、駒王町が既に消し飛んでるぞ!

 

「さあどうする? 兵藤隆誠。そしてリアス・グレモリー!」

 

 五対の羽を出して宙に浮いてる椅子を消しながら挑発するコカビエル。

 

「知れたこと! ここであなたを倒すだけよ!」

 

「っ! 待てリアス!」

 

 俺が制止するも、挑発に乗ってしまったリアスは再び巨大な魔力を放った。

 

 コカビエルはさっきと同じ要領でリアスの魔力を片手で受け止めるが、さっきとは違って弾き飛ばさずに球体のように固める。

 

「これはどうですか!?」

 

「って朱乃もかよ!」

 

 それを見た朱乃がリアスに加勢するように片手から雷撃を放つ。だがそれもコカビエルが片手で受け止め、朱乃の雷撃を一つの球体として固めた。

 

 リアスの魔力と朱乃の雷撃。その二つを片手で持ってるコカビエルは頭上で一つに合わせ、巨大な魔力の塊とさせた。

 

「バカめ!」

 

 合わさった魔力の塊を返そうと、コカビエルはリアスに向けて放り投げた。

 

 リアスは防御の体制を取ろうと魔法壁を展開しようとしてる中、朱乃が割って入るように同じく魔法壁を出そうとする。

 

 ダメだ! あれほどの威力じゃ、リアスと朱乃じゃまだ相殺しきれない!

 

「ちぃっ! 滅貫光殺砲!」

 

 

 ズォビッ!!

 

 

 俺は即座に指先から螺旋を纏った強力な光線――滅貫光殺砲を放った。

 

 それはすぐにリアスと朱乃の魔力の塊に向かっていき、すぐに激突する。

 

 

 ドオオォォオオンッッ!

 

 

「「きゃああっ!!」」

 

 その直後、魔力の塊は貫かれて爆散する。リアスと朱乃は魔力の爆散による直撃は免れたが、爆風だけ防ぐ事は出来なかった。

 

「くっ! 朱乃!」

 

「ああ……」

 

 爆風で飛ばされたリアスが何とか体勢を整えて空中で留まるも、朱乃は爆風をモロに受けた所為で落下していく。

 

「朱乃さ~ん!」

 

 落下して地面に激突しようとする朱乃に、イッセーが空かさず助けに行こうとしている。そしてすぐに朱乃をお姫様抱っこして、地面の激突を回避した。

 

「うう……い、イッセーくん!?」

 

「大丈夫ですか、朱乃さん?」

 

 自分がお姫様抱っこされてることに気付いた朱乃はすぐに顔を赤らめた。

 

 どうでもいいがライザーとのレーティングゲームの時、朱乃はイッセーにお姫様抱っこされてたな。

 

「ご、御免なさい。折角イッセーくんから力を……」

 

「朱乃さんが無事なら、そんな事どうだっていいっすよ」

 

「あっ……」

 

 安心させるような笑みを浮かべるイッセーに、朱乃が何やらときめいた顔をしていた。

 

 だからイッセー。こんな時に女を口説いてんじゃねえ!

 

「おい兄貴! もっとマシな助け方はねぇのかよ!?」

 

 俺が内心そう突っ込んでると、朱乃から離れたイッセーはコッチを見て怒鳴ってきた。

 

「寧ろ感謝しろ! そうでなきゃ今頃リアスと朱乃の怪我はソレくらいじゃ済まなかったんだぞ!」

 

 リアスと朱乃の服装が破れて軽傷だが、もし俺が助けなきゃ重傷を負っていた。

 

「アーシア! 悪いがリアスと朱乃の治療を!」

 

「は、はい!」

 

 俺の指示にアーシアがビクッとしながらも、リアスと朱乃の所へ駆け寄って行く。

 

 そんな中、魔剣を持ってる祐斗がいつのまにかバルパーの下へと向かっている。

 

「って木場が!」

 

「アイツ、また勝手な事を!」

 

 全くどいつもこいつも独断専行が好きな奴等だ! 少しは周囲の事を考えてから行動してくれよ!

 

「バルパー・ガリレイ。僕は聖剣計画の生き残り、いや、正確にはあなたに殺されたんだ」

 

「ん?」

 

 祐斗の台詞にバルパーは怪訝そうな顔をしながら目を細める。

 

「悪魔に転生した事で、こうして生き長らえている。僕は死ぬわけにはいかなかったからね。死んでいった同志の仇を討つ為に!!」

 

 憎しみを込めた目をしながら祐斗は剣を翳し、バルパーに向かって突進していく。

 

 だが祐斗は目の前にいるバルパーしか考えてなかったのか、背後にいるコカビエルが光の槍を出してる事に全く気付いていない。

 

「避けろバカ! コカビエルがお前を後ろから狙ってるぞ!」

 

「っ!」

 

 俺の台詞に祐斗は気付くが遅かった。コカビエルが既に光の槍を投擲しようとしてる。

 

「不味い!」

 

「くっ!」

 

 イッセーが超スピードで駆けつけ、俺はコカビエルの光の槍を消そうと再び滅貫光殺砲を放とうとする。だが一足遅く、もう間に合わない。

 

 

 ドオオオォォォオオンッッ!!

 

 

 光の槍は地面に激突して凄まじい爆発と爆風が発生した。

 

 イッセーは即座に闘気(オーラ)を出して防ぐも、吹っ飛ばされた祐斗はうつ伏せで倒れていた。

 

 因みにバルパーはコカビエルの加護があったのか、奴の周囲には結界が展開されて無傷だ。

 

「ふんっ。直撃は避けたか。すばしっこいネズミだ」

 

 コカビエルの野郎、好き勝手ほざきやがって!

 

 祐斗は致命傷にならず何とか生きているが、もし直撃を受けて死んでたら、聖書の神(わたし)は怒ってコカビエルを殺していただろう。

 

 そんな俺の心情などを全く気にしてないコカビエルは誰かを呼ぼうとしていた。

 

「フリード!」

 

「はいな、ボス!」

 

 コカビエルの呼びかけに現れる白髪の少年神父。

 

「最後の余興だ。四本の力を得たエクスカリバーで、コイツらを纏めて始末してみせろ」

 

「ヘイヘイ。ボスは人使いが荒いなぁ。でもでも! チョー素敵仕様になったエクスなカリバーちゃん! 確かに拝領したでござマス!」

 

 イカレた笑みを見せながら、フリードはエクスカリバーを握る。

 

「さぁ~て、誰から殺っちゃいましょうかねぇ~?」

 

 選り好みするように俺達を見回すフリードだったが、イッセーを見た途端に視線を固定した。

 

「じゃあ先ずは~、この前の借りがあるクソ人間ことイッセーくん! 君に決めたぁ!」

 

「上等だ! 来やがれ!」

 

「ヒャッハ~! 今すぐにその減らず口を叩けなくしてやんよぉ~~!」

 

 

 

 

 

 

 向かってくるフリードに、俺――兵藤一誠は超スピードで懐に入る。

 

「およ!?」

 

 接近されたフリードは驚いてる顔をしてるが俺の知った事じゃない。

 

「オラァッ!」

 

「ざ~んねん!」

 

 

 フッ!

 

 

 俺の攻撃が当たろうとする瞬間、フリードは嫌な笑みを浮かべてすぐに消えた。

 

「イッセーくんもご存知、(ちょ)(ぱや)天閃(ラピッドリィ)ちゃんよ!」

 

「っ!」

 

 フリードはいつの間にか俺の背後を取って余裕そうに解説しやがった。

 

 そういや『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』か? それの能力で木場に匹敵するスピードを出せるんだった。

 

「出来たてホヤホヤの超すげーエクスカリバーちゃんは! 何でもありありぃ!」

 

 エクスカリバーを横薙ぎに振るうフリードに俺は――

 

 

 スカッ!

 

 

「あれ~? 斬った感触がない? でも目の前にイッセーくんが」

 

「それは俺の幻影だ!」

 

「ぶげぇ!!」

 

 高速で移動して相手に幻影を認識させて攻撃をかわす技――幻影拳を使ったついで、ムカつくフリードの顔に蹴りをくらわせた。

 

 幻影拳はドラグ・ソボールで空孫悟の他に多くの武道家が使っていた技だ。達人の域になれば何十個もの幻影を作り出すことが出来る。

 

 当然この技は俺だけじゃなく兄貴も使える。幻影拳は相手を翻弄するのには地味に便利なんだよな。

 

「かぁ~! このクソ人間! よくもよくもよくも今度は俺様の顔を足蹴にしやがったな! テメェはぜってぇぶっ殺す!!」

 

 反撃を食らったフリードはブチ切れたのか、憤怒の表情だ。お~こわ。

 

「ズタズタにしてやるぅ!」

 

 フリードがエクスカリバーを両手で持ち構えると、刀身が変化しだした。それどころか俺に向かって伸びてる!?

 

「よっと!」

 

 オーラを纏った聖剣は俺を貫こうと伸びてくるも、俺は慌てずに跳躍する。

 

「はっ! 擬態(ミミック)だけじゃねぇっての!」

 

 中段で構えてたフリードが上段で構えなおすと、エクスカリバーも反応するように上に向かっていく。

 

 だが切っ先だけは俺の方へと向けていて、急に五つの切っ先へと変わった途端、再び俺へと襲い掛かってくる!

 

「よっ! ほっ! ほいっと!」

 

 だがあくまで五つに増えただけに過ぎなく、向かってくるスピードは大したこと無いから簡単に躱せる。

 

 ダンスするかのように躱す俺を見たフリードは当たらない事に苛々してる様子だった。

 

「この、ちょこまかと! だったら夢幻(ナイトメア)だ!」

 

「げっ! 今度はフリードも増えた!?」

 

 何十にも増えたフリードを見て度肝を抜かれた。

 

 ……いや違うか。アレは俺が使った幻影拳と似てる。

 

「ギャハハハ! 驚いているでやんすね! これは『夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)』の力っす! ババンバンバン!」

 

 アレもエクスカリバーの力かよ!

 

 くそっ! 俺が必死で覚えた幻影拳が、聖剣の能力で簡単に使えるなんて反則だろうが! ちったぁ苦労しろ!

 

「んで『透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)』!」

 

「ったく、次から次へと!」

 

 今度はフリードの本体と幻影が持ってるエクスカリバーの刀身が消えた。

 

 ってかあの野郎、エクスカリバーの能力を同時に使う事が出来んのかよ!

 

「そいやぁ! そいやそいやそいやぁ!!」

 

 

 ギンッ! ギィンッ!

 

 

「くっ!」

 

 見えない刀身で斬撃をしてくるフリードに、俺は『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』を展開してる左腕で防御する。

 

 ってか幻影からも攻撃された感触したぞ! どんだけチートなんだよ、エクスカリバーは!

 

「ったくもう、チートにも程があるだろうが……!」

 

「……信じられません。あのイッセー先輩が押されてるなんて……」

 

 コッチに来ていた小猫ちゃんが信じられないように呟いていた。

 

「アハハハァ~! イッセーくん、泣いて謝っても遅いよ~! さぁ覚悟して頂戴ね!」

 

「はっ。その台詞、後悔しなきゃいいけどな」

 

「あぁ? この状況で何ほざいちゃってんのかな~? 絶体絶命のくせに偉そうな口叩いてんじゃねぇよクソ人間がぁ~!」

 

 俺の台詞にカチンときたのか、フリードがキレ気味で俺に襲い掛かってくる。

 

 こんな奴なんかにいつまでも遊んでられないな。さっさと全力(フルパワー)になって決めるとすっか!

 

 向かってくるフリードに俺が待ち構えてると――

 

「兵藤一誠! 加勢するぞ!」

 

「え?」

 

 

 ガギィンッ!

 

 

「うおっと! 誰かと思えば教会のビッチかよ!」

 

 突然ゼノヴィアが割って入るように、フリードの聖剣を『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』で受け止めた。

 

「ゼノヴィア、お前……!」

 

「いかに赤龍帝と言えども、聖剣相手では分が悪いだろう? 手を貸すぞ」

 

「いや、別にそんな事しなくても……」

 

「あ~あ~! いいところで邪魔しちゃってくれて! こうなったらビッチもまとめて斬り殺してやるよ!」

 

 俺の台詞を遮るようにキレてるフリードはゼノヴィアも斬ろうとしていた。

 

 別にゼノヴィアが加勢しなくても充分に勝てたんだが……まあ良いか。美少女が助太刀してくれるなら、それはそれでやる気も出る。



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第十八話

珍しく三日連続投稿です。


 ゼノヴィアがイッセーに加勢したか。別に彼女がいなくても、フリード程度はイッセーだけでも充分なんだが……まあいいか。

 

 取りあえずアッチは大丈夫として問題は勝手な行動をしたおバカな祐斗の方だ。

 

 祐斗を見てみると、ダメージを多いながらも何とか立ち上がろうとしていた。

 

「被験者が一人脱走したままだと聞いていたが……卑しくも悪魔に堕ちてるとは」

 

 そんな中、余裕綽々と祐斗に近づこうとするバルパーがいた。奴の台詞に祐斗がキッと憎しみを込めた目で睨む。

 

「だが君らには感謝している。お蔭で計画は完成したのだからな」

 

「完成……?」

 

 ………どう言う事だ?

 

 俺は今すぐ祐斗のもとへ駆けつけようと思ったが、バルパーから聞き捨てならない台詞をほざいていたので足を止めた。

 

「君たち適正者の持つ因子は聖剣を扱えるまでの数値を示さなかった。そこで一つの結論に至った。被験者から因子だけを抜き出せば良い、とな」

 

「なっ!」

 

 ……あの野郎、まさか。

 

「そして結晶化する事に成功した。これがあの時の因子を結晶化した物だ。最後の一つになってしまったがね!」

 

 俺が結論の先を考えてると、バルパーは懐から光り輝く球体を取り出した。

 

 すると、バルパーの話を聞いていたと思われるフリードが急に笑い出す。

 

「ヒャハハハハ! 俺以外の奴らは途中で因子に体がついていかなくて、死んじまったんだぜぇ! そう考えると、やっぱ俺ってつくづくスペシャル仕様ざんすねぇ!」

 

「テメエ!」

 

「くっ!」

 

 フリードの横薙ぎを避けて距離を取るイッセーとゼノヴィア。

 

「……成程、そう言う事だったのか」

 

 イッセー達の事を全く心配してない俺は、バルパーが持ってる結晶を見てある事が分かった。紫藤イリナが聖剣を使えた理由が。

 

 俺は兵藤家で彼女と再会した時、妙な違和感を感じた。彼女から発する混じり気のある違和感なオーラを。

 

 幼い頃のイリナは俺が見立てた際、聖剣を扱う事は出来ないと断定していた。だが彼女と再会した事で覆され、俺はすぐに何故だと疑問を抱いた。

 

 バルパーの結論で言うなら、彼女は聖剣を扱う為の因子が不足していた。本来であれば聖剣使いになれる筈がない。しかし彼女は現在、聖剣を扱える適性者となっている。

 

 未だ聖剣に振り回されてる未熟者とは言え、何故使えるのかが全然分からなかった。けれど、バルパーの研究内容を聞いて漸く理解した。あの結晶で身体に入れて、因子の不足分を補っていたのだと。

 

「偽善者どもが! 私を異端として排除しておきながら、厚かましくも、私の研究だけは利用しよって。どうせあのミカエルのことだ。被験者から因子を抜き出しても、殺していないだろうがな。その分だけは私よりも人道的と言えるな。くくくくく」

 

 ……ミカエル。もしお前と会う事があったら、その時は覚悟しとけよ。

 

 それにしても、聖剣使いを人工的に生み出す為には犠牲を払わなければならないとはな。

 

「……なら、僕らを殺す必要は、なかったはずだ……! どうして……!?」

 

 衝撃の事実を聞いた祐斗は必死に立とうとしながらも殺気が篭っていた。だがバルパーは大して気にせずに理由を話そうとする。

 

「お前らは極秘計画の実験材料にすぎん。用済みになれば廃棄するしかなかろう」

 

「そんな……! 僕たちは、主の為と信じて、ずっと耐えてきた……! それを、それを、実験材料……? 廃棄……?」

 

 聞くに堪えない理由に祐斗は拳を握りながら、両目から涙を流していた。

 

 調べたとは言え、いざ本人から聞くと沸々と殺意が湧いてくるな。つくづく許しがたい男だよ、あのバルパー(おろかもの)は。

 

 俺はどんなやり方で断罪してやろうか考えてると、バルパーは持ってる結晶を祐斗に向かって放り投げた。

 

「この結晶が欲しければくれてやる。もはや更に完成度を高めた結晶(もの)を量産出来る段階まできているのでな」

 

 ころころと転がった結晶が祐斗の足元に行き着く。

 

 祐斗は静かに屈みこみ、それを手に取ろうとする。

 

 結晶を見てる祐斗は何かを思い出すように、哀しそうに、愛しそうに、懐かしそうに結晶を両手で包み込む。

 

 

 ピシッ!

 

 

「ジジイ……! テメエ、許せねぇ!」

 

 フリードと同様話を聞いていたイッセーは全身から怒りの闘気(オーラ)が爆発寸前となっていた。加えてイッセーの周囲にある地面に罅が入っている。

 

 イッセーはイケメンの祐斗が嫌いでも大切な仲間だと思っている。だからこそ、廃棄された祐斗の心情を察するように怒りに燃えていた。

 

「バルパー・ガリレイ……! あなたは自分の研究、自分の欲望の為に、どれだけの命を弄んだ……」

 

 祐斗が立ち上がった途端に異変が起きた。祐斗が両手で持ってる結晶が淡い光りを発し始め、その周囲には人影と思われる蒼いものが形を成して行く。

 

 形を成して現れたのは、青白く淡い光りを放つ少年少女達の霊魂だった。

 

「恐らくこの戦場に漂う様々な力が、そして祐斗くんの心の震えが結晶から魂を解き放ったのですわ」

 

 と、答える朱乃。正にその通りだ。

 

 そしてあの少年少女達は言うまでもないが、祐斗と同じ聖剣計画に身を投じられた子達。――即ち、処分された子達だ。

 

「僕は……ずっと……ずっと思っていたんだ。僕が、僕だけが生きていて良いのかって……。僕よりも夢を持った子がいた。……僕よりも生きたかった子がいた。僕だけが、平和な暮らしを過ごして良いのかって……!」

 

 霊魂に向かって涙を流しながら語る祐斗。

 

 だが霊魂の少年の一人が微笑みながら、祐斗に何かを訴えていた。

 

「……『自分たちのことはもういい。キミだけでも生きてくれ』、か」

 

 読唇術を使った俺は思わず言葉に出した。

 

 それが伝わったのか、祐斗の相貌から涙が溢れ続ける。

 

『大丈夫――』

 

『みんな集まれば――』

 

『受け入れて。僕たちを――』

 

『怖くない――』

 

『たとえ神がいなくても――』

 

『神さまが見てなくても――』

 

『僕たちの心はいつだって――』

 

「――ひとつ」

 

 少年少女達の声が聞こえる。

 

 その声に頷いた木場がそう呟くと、彼等の魂が天にのぼる。一つの大きな光りなって祐斗のもとへ降り、そのまま包み込んだ。

 

「ああ……」

 

「ぐっ、くそっ……! 何だ? 涙が、止まらねぇ……!」

 

 暖かく柔らかな光りを感じたアーシアとイッセーは涙を流していた。

 

 アーシアはともかく、イッセーは随分と涙脆くなったな。まぁ、聖書の神(わたし)も同じ気持ちだよ。

 

「祐斗、お前はついに至ったんだな」

 

 そしてもう一つ分かった。

 

「――禁手(バランス・ブレイカー)に」

 

『っ!』

 

 俺の呟きに周囲にいる者たちが驚くも――

 

「ほう」

 

 宙に浮いてるコカビエルは興味深そうにずっと眺めていた。

 

 包まれた光が消えると、祐斗は何かを決心するようにバルパーを見る。

 

「同志たちは、僕に復讐を願ってなかった。願ってなかったんだ。でも僕は、目の前の邪悪を打ち倒さなければならない」

 

「っ!」

 

 近づいてくる祐斗にバルパーは怯えるように下がる。

 

「第二、第三の僕たちを生み出さない為に!」

 

「フリード!」

 

「はいな!」

 

 そう言いながら魔剣を造った祐斗を見たバルパーは危険が迫ると判断し、すぐにフリードを呼んだ。

 

 呼ばれたフリードはすぐに駆けつけ、二人の間に立った。

 

 フリードが来たことにバルパーは安心したのか、また余裕な表情をする。

 

「ふん。愚か者が。あのまま素直に廃棄されれば良かったものを。それに研究に犠牲はつきものだと昔から言うではないか」

 

「そうだな。何かを得る為に犠牲はつきものだ。そこは理解出来る」

 

『っ!』

 

 バルパーの言葉に頷いた俺が信じられなかったのか、全員俺の方を注視する。

 

「ほう? 確か兵藤隆誠と言ったか。君が私に賛同するとは意外だぞ」

 

「俺はあくまで犠牲についての賛同をしただけだ。お前のような三流以下の研究までは理解してないよ」

 

「何?」

 

 三流と呼ばれた事に顔を顰めるバルパー。だが俺は気にせず続ける。

 

「犠牲とは本来、目的の為に己の大切なものを(なげう)って尽くす事だ。だがお前は違う。犠牲と言っておいて何の対価も払わず、他人(よそ)の命を使って犠牲から逃げてる外道だ。お前みたいな外道が『犠牲』と言う言葉を軽々しく口にしないで欲しいな。加えて信者を騙る為に神を利用し、挙句の果てには廃棄と言う名目で殺した。お前の行いは到底許しがたい」

 

 聖書の神(わたし)を利用して私腹を肥やそうとする輩は相応の裁きを受けてもらう。

 

「本当なら俺の手で裁きたいところだが、俺以上にお前を許せない奴がいる」

 

 そう言って俺は祐斗に視線を向ける。

 

「祐斗! この場はお前に譲る! だからここで決着(けり)をつけろ!」

 

「――リューセー先輩」

 

 呆然とするように俺を見る祐斗だったが――

 

「木場ァァァァァッ! フリードの野郎とエクスカリバーをぶっ叩けェェェェ!」

 

 今度はイッセーが祐斗に向かって叫んでいた。

 

「あいつらの想いと魂を無駄にすんな! ここは決めやがれ木場! いや、祐斗!」

 

「……え? イッセーくん、今、僕のことを……?」

 

 何とイッセーが祐斗を名前で呼んだ。イッセーの呼び方に予想外だったのか、祐斗は驚愕するようにイッセーを見ていた。

 

「やりなさい、祐斗! リューセーの言うとおり、自分で決着をつけるの! あなたはこのリアス・グレモリーの眷族。私の『騎士(ナイト)』はエクスカリバー如きに負けはしないわ!」

 

「祐斗くん! 信じてますわよ!」

 

「……ファイトです!」

 

「木場さん!」

 

 リアス、朱乃、小猫、アーシアがそれぞれ祐斗にエールを送る。

 

「あ~あ~。なに感動シーン作ってんですか~? あ~もう聞くだけでお肌がガサついちゃってもうげんか~い! だからとっととテメェ等を切り刻んで、気分爽快になりましょうかねぇ~!」

 

 フリードからしたら聞くに堪えなかったのか、乙女みたいな顔をするも突如狂った笑みを見せる。アイツもアイツで実に不愉快だ。

 

 構えるフリードを見た祐斗は、急に魔剣を天に向かって翳そうとする。

 

「――僕は剣になる」

 

 そう言いながら瞑目し、何かを集中するように呟く。

 

「僕の魂と融合した同志たちよ、一緒に超えよう。あのとき果たせなかった想いを、願いを、今!」

 

 その直後、翳している魔剣から聖と魔の力が吹き荒れる。

 

「そして部長や仲間たちの剣となる! 魔剣創造(ソード・バース)ッッ!」

 

 神々しい輝きと禍々しいオーラが一つとなり、魔剣へと吸収されていく。

 

「――『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。聖と魔を有する剣の力、受け止めると良い!」

 

 ………おいおい祐斗の奴、とんでもない事を仕出かしたな。

 

 聖と魔の融合は本来ありえない事象だ。

 

「聖魔剣だと!? ありえない! 反発しあう二つの要素が交じり合うなど、そんなことある筈がないのだ!」

 

 外道と言えど、研究者のバルパーも俺と同じ反応だったのか、あり得ないと叫んでいる。あの反応は当然だ。

 

 まあアイツと違って融合出来た理由は分かる。聖書の神(わたし)が原因だからな。

 

 そんな中、バルパーとフリードに近づこうとしてる祐斗の隣にゼノヴィアがいつのまにか歩いていた。

 

「リアス・グレモリーの『騎士(ナイト)』よ。兵藤隆誠が提案した共同戦線はまだ生きているか?」

 

「だと思いたいね」

 

「ならば共に破壊しよう。あのエクスカリバーを」

 

「ッ! 良いのかい?」

 

 ゼノヴィアの台詞が予想外だったのか、祐斗は目を見開いて彼女を見る。

 

「もはやアレは聖剣であって聖剣ではない。異形の剣だ」

 

 ゼノヴィアの言うとおりだ。聖剣は本来フリードのような外道が使える物じゃない。

 

 俺が内心頷いてると、ゼノヴィアは持ってる『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』を地面に突き刺す。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」

 

 ゼノヴィアが右手を真っ直ぐ突き出しながら言霊を発すると、途端に空間が歪んだ。歪みの中心に手を入れて何かを探り、何かを掴むと一気に引き出そうとする。

 

 引き出したものは一本の聖なるオーラを放つ剣。

 

 ………おいおい、ゼノヴィアが持ってるあの剣はまさか。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する! 聖剣デュランダル!」

 

 やっぱりデュランダルだったか。あれはエクスカリバーに並ぶ、この世の全てを切り刻むと謂われてる有名な伝説の聖剣だ。

 

 まさかゼノヴィアがデュランダルを持っていたなんて予想外もいいところだ。

 

「バカな! 私の研究ではデュランダルを扱える領域まで達してないぞ!」

 

「貴様、エクスカリバーの使い手ではなかったのか!」

 

 これにはバルパーだけでなく、コカビエルも驚きを隠せない様子だ。俺はてっきり、あの爺さん(・・・・・)がまだ所持してると思ってたよ。

 

 それにしてもコカビエルがデュランダルを見た途端に驚愕するとは……。ひょっとしたら爺さんと何かあったかもしれないな。

 

「生憎私は、フリード(そいつ)やイリナと違って数少ない天然ものだ」

 

 うん。イリナと違って混じり気のないオーラだったから、俺はてっきり完全なエクスカリバーの使い手だと思い込んでたよ。

 

「完全な適正者!? 真の聖剣使いだと言うのか!」

 

 今までの人工的な聖剣使いとは違い、元から聖剣に選ばれた者であった事に驚くバルパー。

 

デュランダル(コイツ)は触れたものはなんでも斬り刻む暴君でね。私の言うこともろくに聞かない。それゆえ異空間へ閉じ込めておかないと危険極まりないんだ」

 

 あ、やっぱり未熟だったか。そりゃそうだ。

 

 いくらデュランダルの使い手と言っても、たった十代の彼女が完全に扱えるわけがない。

 

 加えてあの聖剣はエクスカリバー以上に凄く扱い辛い超じゃじゃ馬だ。どんなに資質があろうとも、デュランダルはそう簡単には扱えない。

 

「そんなのアリですかぁぁぁ!?」

 

 フリードが叫んで持ってるエクスカリバーを使う。恐らく枝分かれした透明の剣をゼノヴィアに放ったと思う。

 

 しかしゼノヴィアはたった一度の横薙ぎをしただけで、透明化していた聖剣エクスカリバーが砕いて姿を現させた。

 

「うそっ!? ここにきてのチョー展開!」

 

「所詮は折れた聖剣。このデュランダルの相手にはならない!」

 

 再度デュランダルを振るう為に翳し、フリードに斬撃をやろうとするゼノヴィア。

 

 だがフリードは即座に天閃(ラピッドリィ)の能力で回避し跳躍する。

 

「クソッタレが! そんな設定いらねぇんだよォォ!」

 

「そんな剣で!」

 

 跳躍してるフリードの背後から祐斗が現れた。

 

 空中で祐斗の聖魔剣とフリードの聖剣の斬り合いが始まる。両者共にかなりのスピードで斬り合っており――

 

「僕たちの想いは勝てない!」

 

 

 バキィィンッ!!

 

 

「折れたぁ!?」

 

 ついに聖剣エクスカリバーが聖魔剣によって折れてしまった。

 

「ぐっ、マジですか……! この俺様が、クソ悪魔如きに! ざけんがっ!」

 

「――見ていてくれたかい? 僕らの力は、エクスカリバーを超えたよ」

 

 祐斗は聖剣を砕いた勢いでフリードを斬り払った。見事だよ、祐斗。

 

 さて、お次は――

 

「何と言うことだ! 聖と魔の融合など理論上は!」

 

 あそこで尻餅をついて怯えてるバルパーの番だ。

 

 奴の処断は祐斗に任せるが、その前にある事をやっておくか。

 

 俺がゼノヴィアとイリナと戦った時、『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』を手懐けたやり方を。

 

 自分の研究でしか聖剣を扱う事が出来ないと思いあがってる愚か者(バルパー)には、他の方法があると言う事実を突きつけ、どん底に突き落としてやらねばな。

 

「バルパー・ガリレイ! 覚悟を――」

 

「待て祐斗」

 

「っ! リューセー先輩!?」

 

 バルパーに剣を向けてる祐斗に俺がすぐに割って入った。突然の俺の登場に祐斗が驚いている。

 

「勘違いするな。別にコイツを俺が処断する訳じゃない」

 

「では何故?」

 

「な~に、コイツにはちょっと――」

 

「そうか、分かったぞ!」

 

 俺がバルパーの方を見ると、奴は何か判明したような顔をして立ち上がった。

 

「聖と魔、それらを司る存在のバランスが大きく崩れているとするならば説明はつく! つまり、魔王だけではなく、神も――」

 

 不味い! アイツ、祐斗の聖魔剣を見てあの思考に至りやがった! 聖書の神(わたし)が死んだと言う事実を!

 

 リアス達に知られては不味いと思った俺は即座に奴の口を――

 

 

 ドスッ!

 

 

 塞ごうとしたが突如、バルパーの胸部から手が生えてきた。

 

「がっ!」

 

『っ!』

 

 思いもよらぬ展開にリアス達は驚愕して言葉を失っている。

 

 バルパーを突き刺してるあの手は――

 

「はいはいお爺さ~ん。それを口に出すのはご法度ですよ~」

 

 漸く姿を現したエリーだ。

 

 エリーに手を抜かれたバルパーは口から血の塊を吐きながらうつ伏せに倒れる。

 

「な、何の、真似だ、エリー……!?」

 

 殺されるのは予想外だったのか、バルパーは首を動かしてエリーを見ている。 

 

「ごめんなさ~い。お爺さんが余計な事を口走ろうとしたから、止めさせてもらいました~」

 

「き、貴様……!」

 

 ゆったりとした口調で喋るエリーにバルパーは憎らしげに睨むが――

 

「まあ気付いたご褒美として~……私の正体を教えてあげるわ、バルパー・ガリレイ」

 

「っ!」

 

 人間から悪魔の姿になったエリーこと、エリガン・アルスランドとなった姿を見た途端に目を見開いた。

 

「実は私、悪魔でサキュバスのエリガン・アルスランドだったの♪」

 

「あ、アルスランド、だと……!」

 

「ウフフフフ。その顔を見ると、私の事は知ってるようね。でも安心して。あなたみたいな人間(おとこ)の精気なんて興味無いわ。私はあそこにいる兵藤隆誠(ダーリン)の精気しか吸わないって決めてるから」

 

 そんな傍迷惑な制約を勝手に決めるな!

 

「でもあなたって本当に優秀だったのね。まぁ。そこに思考が至ったのも優れている証拠なんでしょうけど。でも口に出した以上消えてもらうわよ、バルパー・ガリレイ」

 

「ま、待て……! 私を殺せば、コカビエルが黙っては……!」

 

「残念♪ 今回の計画に元々あなたなんかいなくても良かったの。つまりあなたは初めから――」

 

「おいエリガン、お前も喋りすぎだ。さっさと始末しろ」

 

 エリーが喋ってる最中、宙に浮いてるコカビエルからの台詞にバルパーは驚愕する。

 

「こ、コカビエル、貴様……!」

 

「バルパー。短い間だったが、それなりに楽しかったぞ」

 

「っ!」

 

 コカビエルの発言にバルパーは完全に斬り捨てられたと絶望する。

 

「それじゃあ、さよなら。お爺さん♪」

 

「ま、待て――」

 

 意地汚く命乞いをするバルパーだったが――

 

 

 ドォン!!

 

 

 エリーの片手から発した魔力弾が当たって爆散し、影も形も残らず消えてしまった。



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第十九話

「アハハハハ! あの妄想爺さん、余計なことを言わなければ死なずに済んだのに……アハハハハ!」

 

「……エリガン・アルスランド、これは何の真似かしら?」

 

「あら?」

 

 死んだバルパーを嘲笑するエリーにリアスが問う。その問いにエリーは、まるで今さっき気付いたかのようにリアスを見る。

 

「あらあら、誰かと思えばグレモリー家の次期当主さんじゃない。と言うかさっき私が言ったのを聞いてなかったの? この計画に元々あの妄想爺さんなんかいなくても別にいいのよ」

 

「………リューセーから聞いたけど、あなたは本当にコカビエルと手を組んでるみたいね」

 

 バカにするような言い方をするエリーに対し、リアスは顔を顰めながら睨みながら言い返した。するとさっきまで嘲笑うような笑みを浮かべていたエリーが途端に不機嫌そうな顔をする。

 

「ちょっと貴女、なに馴れ馴れしく私のダーリンを気安く名前で呼んでるの? 実に不愉快ね」

 

「っ!」

 

 リアスがエリーの逆鱗に触れたかどうかは知らんが、奴は途端に重圧と殺気を醸し出す。エリーからの殺気と重圧に直接受けているリアスだけでなく、朱乃達も気圧されそうになっていた。

 

「あ、あ……」

 

 リアスは何とか抵抗するも、エリーに気を呑まれかけていた。

 

 最上級悪魔クラスの力を持つエリー相手にああなるのは無理もない。だがリアスはまだ良いほうだ。これがそこら辺の上級悪魔だったらエリーの重圧と殺気で気を失うか、恐慌状態に陥っている。

 

「私の前でダーリンを名前で呼んだ罪、万死に値するわ。その綺麗な顔と身体をバラバラに――」

 

「下らん理由でリアスを殺そうとするのは止めてもらおうか、エリー」

 

「あら?」

 

 俺がリアスの前に出ると、エリーはさっきまで出していた重圧と殺気を引っ込めた。今度は膨れっ面になろうとする。

 

「ダーリン、どうしてそんな弱者(おんな)を守ろうとするの? ダーリンがその気になれば一撃で殺せるのに」

 

「リアスとは協力関係なんでな。弱肉強食思考のお前には分からんよ。それにリアスは俺の友人で、将来の義妹候補だからな」

 

「はぁ? ダーリンの義妹? なに訳の分からない事を言ってるの?」

 

 理解出来ないと言うような顔をしてるエリーだったが―― 

 

「部長、大丈夫ですか!?」

 

「え、ええ。ありがとう、イッセー……」

 

「……ああ、そう言う事ね」

 

 イッセーが駆けつけてきた事で安堵するイッセーを見て理解した。

 

「なるほどなるほど。リアス・グレモリーは人間のイッセー君に惚れてるのね。私が人間のダーリンを愛してるように」

 

「お前と一緒にしないでくれ。生憎俺は貴様の愛などいらん」

 

「つれないわね。私は本気でダーリンの事を愛してるのに……」

 

 俺は何度も断ってるのにコイツは本当に懲りないな。どうやったら諦めてくれるんだ?

 

 エリーの発言に呆れてると、宙に浮いていたコカビエルが地に降り立つ。

 

「おいエリガン、今はそんな事などどうでもいいだろう」

 

「そんな事って何よ、コカビエル。重要な事よ!?」

 

「……俺はお前等の痴話喧嘩に付き合うつもりはない。さっさと真面目にやれ」

 

「………アンタ、戦争が始まったら絶対に殺してやるから覚悟しておきなさいよ」

 

「それは楽しみだ」

 

 ……コイツ等って仲が良いのか悪いのか全く分からんな。あくまで同盟関係で悪魔と堕天使だから、決して仲が良いとは思えんが。

 

 コカビエルとエリーが会話を終えると、次に俺たちへと視線を移す。

 

「さて、余興も飽きた。そろそろ本番といこうか」

 

 その台詞を言った途端、コカビエルが圧倒的な重圧を放つ。更には凄まじいまでの自信とオーラを纏い、俺達の前に立った。そして不敵な笑みを浮かべ、奴は言う。

 

「――全力を出せ、兵藤兄弟」

 

「何?」

 

「何だと?」

 

 コカビエルからの突然の指名に俺とイッセーは目を見開く。

 

「あの程度の余興で全力を出していないことはお見通しだ。おまえたちの全力を見てみたい」

 

 ……コイツ、俺たち兄弟と相手する事しか考えてないようだな。悪魔のリアス達は初めから眼中にないって事か。

 

 奴の台詞に当然リアスが激昂する。

 

「それはつまり、あなたは私たちと戦うに値しないというの!? ふざけないで!」

 

「ハハハ、ふざけているのは悪魔(おまえ)たちのほうだ。そこの人間二人に実力が劣ってる悪魔(おまえ)たちが俺を倒せると思っているのか?」

 

「少しは理解しなさいよ、リアス・グレモリー。あなた達がどんな手を使っても私達に勝てない事ぐらい分かっている筈よ」

 

『っ!』

 

 コカビエルとエリーからの眼光に、リアス達は再び気圧されそうになっている。

 

 流石にあの二人からのプレッシャーには敵わんか。当然といえば当然だが。

 

 だが確かに奴等の言うとおり、悪魔のリアス達や聖剣使いのゼノヴィアがどうやっても勝ち目はない。

 

 本来、悪魔と堕天使は相容れない存在だ。だがあの二人が同盟を結び協力関係になれば厄介極まりない。益してや戦争狂のコカビエルと戦闘狂のエリーだ。一筋縄で勝てる相手じゃない。

 

 この状況では流石に俺も全力を出さないと不味いか。下手に聖書の神(わたし)の力を使って正体がバレたら大変な事になるが、そうも言ってられない。

 

 今、この駒王町はコカビエルが施した大地崩壊の術が未だに作動中だ。下手に出し惜しみしてたら、気付いたら駒王町が崩壊してる。

 

 自分の正体を隠したい。大切な家族や友人を守りたい。その二つを比較するなら……聖書の神(わたし)は迷いなく後者を選ぶ。今の聖書の神(わたし)は駒王町にいる大事な家族や友人を守りたい。自分の正体など今は知った事か。

 

「……イッセー。全力(フルパワー)で奴らを倒すぞ」

 

 俺の言葉にイッセーは応じる。俺の隣で一緒に歩くイッセーは、コカビエルとエリーの前に立って対峙する。

 

(……リアス、朱乃、祐斗、小猫、ついでにゼノヴィア。俺がエリーと戦ってる時は絶対に手を出すな。代わりにイッセーが不利な状況になったら援護しろ。いいな?)

 

 俺が念話を送ると、悪魔のリアス達や聖剣使いのゼノヴィアは驚いたように俺を見ている。

 

「イッセー、コカビエルは任せたぞ。いいか? 絶対に油断なんかするなよ。そんな事をしたら命はないと思え」

 

 相手は堕天使の幹部コカビエル。イッセーがこれまで戦った堕天使レイナーレや上級悪魔ライザー・フェニックスとは桁外れだ。

 

「分かってる。あの野郎相手に、んなこと出来っかよ」

 

「結構だ」

 

 今のイッセーは一切の油断は無いようで安心した。これなら俺は心置きなく任せる事が出来る。

 

「エリー、場所を変えるぞ。コカビエルに邪魔されたくなかったら俺に付いて来い!」

 

「フフフ、ダーリンからのお誘いなら喜んで行くわよ。寧ろ私から誘うところだったのに」

 

「おいおい、そんなに俺が信用出来ないのか?」

 

 コカビエルの言葉を無視する俺とエリーは同時に宙に浮く。イッセー達から少し離れ、ある程度の高さまで浮いて止まると、エリーも俺と同じ位置で止まる。

 

「ダーリン、どこまで上がるつもりなの? あと少ししたら結界にぶつかっちゃうわよ」

 

「お前と戦う場所は空中(ここ)だ。空中戦は苦手かな?」

 

「……………」

 

 俺が戦おうとする場所が予想外だったのか、エリーは少しキョトンとした顔をする。

 

 地上(した)にいるイッセー達にもしもの事があったら、すぐさま駆けつけれるようにしないとな。

 

「………フフフフフフ」

 

 俺がチラリと地上を見てると、エリーが突然笑った。

 

「空中戦でやって大丈夫なの? 空中は私の十八番よ。ダーリンも知ってる筈なのに」

 

地上(した)でお前と戦えば、学園が無くなってしまうからな。生徒会長のソーナから『なるべく学園を壊さないように』って言われてるし」

 

「……ダーリン、折角二人っきりになってるのに、他の悪魔(おんな)の名前を出さないでくれる?」

 

 お? 何かエリーが珍しく俺に対して怒ってるな。

 

「リアス・グレモリーだけじゃなく、ソーナ・シトリーとまで名前で呼んでるなんて……。浮気をしてるダーリンには、少しばかりお仕置きが必要のようね」

 

「たかが名前で呼び合ってるだけで浮気かよ」

 

 ってか、それ以前に俺はお前と付き合ってなんかいないし。本当に自己中心的な女だな。

 

「ダーリン。あなたにはもう他の女の事なんか考えられないよう、後で私が閨でじっくりと気持ちいい事をしてあげるわ♪」

 

「んなもんお断りだ。お前の相手なんか死んでもゴメンだ。と言うか、もしそんな展開になったら俺は迷わず死を選ぶよ」

 

「ウフフフフ。私のココにダーリンの熱い子種を注ぎ込んで、私とダーリンの子供を作るのも良いかもね」

 

 自身の下腹部に手を当てながら恍惚とした顔をするエリー。

 

「だからお断りだって言ってんだろうが」

 

 ってか人の話を聞けよ。イッセーやコカビエル達には普通の対応をするのに、どうして俺相手だと人の話を全く聞かない超自己中になるんだよ。

 

 ………まあいいか。コイツのこう言うところは今に始まった事じゃない。それよりも戦いに集中しないとな。

 

 あの女はふざけた態度を取りながらも俺に隙を全く見せていない。俺がさり気なく距離を取る為に近づこうとするも、それに同調するように離れている。油断のない奴だ。

 

「お喋りはここまでだ。生憎時間が迫ってるんでな。お前とはそろそろ!」

 

 俺は以前のように超スピードでエリーの懐に入って、顔面目掛けて拳を――

 

 

 ガシィッ!

 

 

「んもうダーリンってば、昨日みたく同じことをしないでよ」

 

 ――当てようとしたが即座に反応したエリーがすぐに片手で受け止めた。

 

 

 ゴウッ!

 

 

「っ! この力は!?」

 

 エリーに攻撃を受け止められた俺は大して気にせず、次に全身から金色のオーラを出した。

 

 間近で感じたエリーは驚愕し、すぐに俺から離れて距離を取る。

 

「……なんてオーラなの。昨日戦った時以上の力じゃない。もしかして昨日のアレは本気じゃなかったの?」

 

「それはお前の想像に任せる」

 

 昨日の工場付近には住宅街があったから、エリーが言ったように本気は出さなかった。俺が周囲を考えずに全力を出したら工場や結界だけじゃなく、住宅街にも被害が及んでしまう。それだけは何としても避けたかったから、敢えて力をセーブして戦った。尤も、工場は完全に無くなってしまったが。

 

 けれど今の状況じゃ、もう周囲の事を考えてる余裕はない。コカビエルが施した大地崩壊の術によって、駒王町はもう少ししたら消えてしまう。

 

「エリー、お前とはここで決着(けり)をつけさせてもらうぞ。いい加減にウンザリしてるからな」

 

「そんな連れない事を言わないでよ。私とダーリンの関係はまだまだ続くんだから」

 

 その直後、俺とエリーは空中戦での大激突が始めた。拳の衝突による衝撃や、俺のオーラとエリーの魔力とのぶつかり合いで、駒王学園の空は凄まじい爆撃戦になっている。

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……兄貴の奴、マジでやってやがる」

 

 突然上空から凄まじい衝撃音と爆発音が聞こえて、俺――兵藤一誠は思わず上を見て目を見開いた。兄貴とエリーが空中で格闘やったり、光弾や魔力弾を撃ち合ったりと、無茶苦茶な戦いを繰り広げていた。

 

「な……なんて戦い方をしてるのよ、リューセーは……!」

 

「これが、リューセーくんの力ですの……」

 

「……凄い」

 

「流石はリューセー先輩。あのエリガン・アルスランドと、互角にやれるなんて……!」

 

 あの光景に俺だけじゃなく、部長や朱乃さん、小猫ちゃんに祐斗も驚いていた。部長達は兄貴が本気で戦ってる姿は見たことないから、あんな反応をするのは当然と言えば当然か。

 

「か、彼は本当に人間なのか……?」

 

「す、凄いです、リューセーさん……」

 

 ゼノヴィアとアーシアは驚きすぎてて目が点になっている。人間の兄貴が最上級悪魔クラスのエリーとガチンコバトルなんて、そりゃ信じられねぇよな。

 

「チッ。エリガンの奴、楽しそうな顔をしてるな」

 

 敵のコカビエルも上の音が気になったのか、俺たちと同じく上空で戦ってる兄貴とエリーの戦いを見ていた。何やら舌打ちをしてるが。

 

「本当なら俺も兵藤隆誠と戦ってみたかったが……まあいい」

 

「っ!」

 

 そう言ってコカビエルは次に俺の方へと視線を移す。その瞬間、俺は即座に構えた。

 

「一先ずお前で我慢してやるよ、小僧」

 

 チッ、舐められたもんだ。俺は前座かよ。

 

 だがまぁ、確かに今の俺じゃコカビエルに勝つ確率は低い。あの野郎が油断してても、すぐに攻撃出来ないし、即行で踏み込む事も出来なかった。

 

「さぁ、おまえの全力を見せてみろ」

 

 言われなくてもそのつもりだ。こっちは密かに『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』のチャージを済ませてるから全力(フルパワー)でいける!

 

「………ハアッ!!」

 

『explosion!』

 

 

 ドンッ!!

 

 

 チャージを解放すると、俺の闘気(オーラ)が最大限までに高まった。後ろにいる部長達が何か驚いてる声を出しているが、今は気にしてる暇はない。

 

「ほう……。人間にしては凄まじいオーラじゃないか」

 

 俺の全力(フルパワー)状態を見て、コカビエルは感心そうにみている。

 

「兵藤隆誠ほどではないにしろ、おまえもおまえで中々のものだ。流石は赤龍帝といったところか。さぁ小僧、この俺を楽しませろ」

 

「生憎俺は、テメェのような男相手を楽しませる趣味はねぇよ!」

 

 そう言って、俺は突進しながらコカビエルの顔面にパンチを当てようとする。だがそれはアイツが首を少し動かしただけで躱した直後、お返しと言わんばかりに俺の顔にパンチを当てようとしている。

 

 すぐに躱すが出来なかった俺はもう右手で受け止めながら、次に左肘打ちをかますも結局塞がれた。

 

「ぜりゃっ!」

 

「おっと」

 

 両手を塞がれた俺は次に回し蹴りをやったが、コカビエルは躱すと同時に後退する。

 

 それを見た俺は追撃しようと追いかけるも、後退してたコカビエルは即行で前進して俺の頬にパンチを繰り出す。

 

「ぶっ! ぐっ……!」

 

 コカビエルのパンチを頬にモロに喰らった俺は吹っ飛ぶも、何とか体勢を立て直そうとバク転して着地する。

 

「うそっ! イッセーが!」

 

「全力のイッセーくんが押されてる!?」

 

 部長と祐斗の台詞を気にしてられない俺は目の前の戦いに集中する。

 

 すぐさま前を見ようとすると、そこにはコカビエルの姿が見えなかった。辺りを見てもコカビエルは何処にもいない。

 

「どこを見ている!?」

 

「っ!」

 

 背後から現れたのを気付いた俺は、横に振ろうとするコカビエルの手刀を感知する。それに当たろうとする瞬間、俺は即座に躱し、コカビエルに反撃を繰り出す。

 

 けれど俺のパンチやキックをまるで予想してるように、コカビエルは両腕だけで全て防いだ。 

 

「どうした小僧!? そんな程度じゃないだろう!?」

 

「ぐっ!」

 

 コカビエルからの素早い連続パンチに俺は成す術も無く頬や胸部に当たられる。

 

「お前の実力はこんなものじゃない筈だ! さっさと奥の手を見せろ!」

 

「ぶっ!」

 

 またコカビエルのパンチが俺の頬に当たり、今度は少し勢いよく吹っ飛ばされた。

 

 吹っ飛ばされた俺は両足に地面を着けて、すぐさま体勢を整えるようにする。



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第二十話

「くそっ。やっぱり今の俺じゃそう簡単に勝てねぇか」

 

 全力(フルパワー)でやっても攻撃が全く通じねぇ。それどころかコカビエルは全然本気じゃないのに、パワーもスピードも俺より上だ。

 

「さっさと奥の手を使ったらどうだ? まさかさっきの余興で力を使い果たしたわけではあるまい」

 

 コカビエルは体勢を整えた俺を追撃しないどころか、さっきから奥の手を使え使えと催促してくる。

 

「……一応聞きたいんだが、お前は何で俺に奥の手があるのを知ってるように言ってくるんだ?」

 

「エリガンから聞いてるんでな。尤も、あの女はそれを見る前に撤退したそうだが」

 

 やっぱりエリーから聞いてやがったか。確か教会でエリーと戦う前、兄貴が『アレの二倍を使え』って言ってたから、多分それが俺の奥の手だと思ったんだろうな。まぁ正解だけど。

 

「……分かったよ! 見せてやるさ」

 

 と言うか、今の俺じゃ奥の手――龍帝拳を使わなきゃコカビエルには勝てない。

 

 俺の返答を聞いたコカビエルは笑みを浮かべ、腕を組みながらそのまま待っていた。どうやら攻撃する気は無いらしい。

 

 その油断が命取りにならなきゃいいな、コカビエル!

 

「はぁぁぁぁ……!」

 

 

 ブゥゥゥゥンッ!!

 

 

『っ!』

 

 力を溜める体勢を取った俺は龍帝拳を使おうとすると、俺の全身が赤く染まり始める。

 

 俺の変貌にコカビエルだけじゃなく、部長達も驚いていた。

 

龍帝拳(りゅうていけん)!」

 

Dragonicfighter(ドラゴニックファイター) mode(モード) explosion(エクスプロージョン)!』

 

 俺が奥の手を口にした途端、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の水晶が光を放ちながら発動する。

 

 龍帝拳は全力(フルパワー)となった俺の力を更に高める事が出来る俺の最大の奥の手。今の俺じゃ二倍までしか使えないが、それでも爆発的に上昇させる事が出来る。だが龍帝拳はコントロールが難しくて、下手に使い過ぎると自分の身体を壊してしまう恐れがある。

 

 これは本来、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』に付いてる能力ではなく、兄貴とドライグがカスタマイズして使えるようになった物だ。あと龍帝拳の他にも何か追加させてるみたいだが、それはまだ分からない。兄貴曰く、『いずれ分かるよ』だそうだが。

 

 そして龍帝拳を使って力が溜まった俺は跳躍し――

 

「はあっ!!」

 

「!!」

 

 

 バゴッ!!

 

 

 コカビエルに気合砲を当てようと左手を正面に向けて思いっきり伸ばす。だがコカビエルは即座に羽を展開して飛ぶと、気合砲はそのまま地面に激突した事によってクレーターが出来上がる。

 

 アレを簡単に避けられるのを予測済みの俺は、即座に猛スピードでコカビエルに接近する。

 

「っ! 速い!」

 

「おらぁっ!」

 

 

 バキィッ!

 

 

 俺のパンチがコカビエルの頬に当たり、すぐに次の攻撃として連続ジャブを浴びさせる。

 

「せいっ!」

 

 防御せずに攻撃を受けているだけのコカビエルに俺はキックで蹴りあげた。

 

 反撃をさせない為、更に追撃しようとする俺は闘気(オーラ)を纏った状態で飛んで猛スピードで接近――

 

 

 フッ!

 

 

「何っ!?」

 

 ――しようとしたが、突然コカビエルの姿が見失った。

 

「バカめっ!」

 

「ごっ!」

 

 すると横からコカビエルが現れ、そのまま俺に蹴りを喰らわせた。

 

「ぐっ!」

 

 蹴りを受けた俺は空中でバク転して、宙に浮いたまま体勢を立て直そうとする。

 

 そんな、俺の龍帝拳が……。コカビエルに全く通じてねぇ……!

 

「くっくっく。今のは本気で驚いたぞ、小僧。まさかお前にあんな奥の手があったとはな」

 

 驚いてる俺を余所にコカビエルは狂気の笑みを浮かべながら言ってくる。

 

 俺の攻撃を受けてもダメージを全然受けていないな。俺の取っておきだってのに……。

 

 流石は堕天使の幹部だ。俺が今まで戦った相手とは桁違いだ。ったく。この前戦ったライザーが可愛く見えるぜ。可愛いつっても別の意味でだけど。

 

 …………しかしまぁ、なんつーか……。いますげぇヤバイ状況だってのに、何でか分からねぇが凄くワクワクしてくる。強い奴と戦うのが大好きなドラグ・ソボールの空孫悟みたいに。

 

 何か俺、空孫悟の心情が分かってきたような気がする。これを兄貴に教えたら――

 

『ほう。だったら空孫悟をもっと理解する為に修行の難易度を更に上げる必要があるな』

 

 ってな事を言われそうだ。ただでさえ今も難易度が高い修行やらされてるってのに、これ以上やられたら身が持たねぇよ。尤も、それくらいやらねぇと、この先の強い相手と戦う事が出来ないのも事実だけど。

 

「何を笑っている? そんな顔をするというのは、諦めて開き直ったか? それとも更に力を上昇させる余裕でもあるのか?」

 

 どうやら俺は無意識に笑っていたようで、コカビエルは若干呆れたように言ってくる。

 

「………………」

 

「……ふっ。何も言い返さないのは前者のようだな。だが小僧、お前は凄いぞ。人間でありながらこの俺を本気で驚かせたんだ。その褒美として見せてやろう。俺の全力を」

 

 コカビエルの野郎、俺が龍帝拳を使ってもまだ本気じゃなかったのかよ。クソッたれが……!

 

「へっ、だったら見せてみろよ」

 

「くっくっく、その笑いもたちまち消えることになるぞ!」

 

 

 ドンッ!!

 

 

 コカビエルの全身から凄まじいオーラが溢れるように放出した。そのオーラの量は途轍もなく、嵐のように吹き荒れた。

 

 俺の全力(フルパワー)とは比べ物にならないほどの暴風が吹き荒れてやがる!

 

 だがそれはすぐに消えてなくなった。コカビエルからオーラが消えた途端、さっきまでの暴風が嘘のように静まり返っている。

 

 コカビエルが力の解放に不発したか思われるだろうが、それは全然違う。目の前にいるコカビエルからは発しているオーラが無くても、圧倒的な威圧感とオーラがバリバリと感じる。

 

 これは……マジでやべぇ!

 

「終わりだ……小僧!!」

 

 

 ギュンッ!!

 

 

「っ!!」

 

 さっきまでとは比べ物にならないほどのスピードで接近してくるコカビエルは、対応しきれない俺の顔面を殴ってきた。

 

「くっ……ごっ!」

 

 攻撃をされた俺は吹っ飛ばされ、何とか体勢を整えようとするが、また一瞬で接近されたコカビエルに腹部に肘打ちを喰らわされる。

 

 今度は地面に激突しそうになるも、間一髪で両足で着地した。すぐにコカビエルの姿を確認する為に上を――

 

「バカめ! 後ろだ!!」

 

「がっ!」

 

 見ようとしたが、コカビエルは既に俺の背後を取って蹴り飛ばしてきた。

 

 また吹っ飛ばされる俺は次に駒王学園新校舎の壁に激突しそうだったので、それを回避する為に跳躍して空中で急停止をする。

 

 今度は視界に頼らず相手のオーラで探そうとすると、コカビエルは既に俺の更に上空にいた。しかもいつの間にか光の槍を構えてる状態で。

 

「そらっ!」

 

「っ! やべぇ!」

 

 コカビエルは空かさず俺に向けて光の槍を投擲してきた。

 

「龍帝拳二倍!」

 

Dragonicfighter(ドラゴニックファイター) LevelⅡ(レベル2)! 』

 

 眼前に迫ってくる光の槍を龍帝拳で躱す為に上へ飛んで避難した。光の槍はそのまま地面に当たり爆発するが、コカビエルは躱した俺を見て笑みを浮かべていた。しかも更にもう一本の光の槍を俺に向かって投げている。

 

「ぐっ!!」

 

 第二撃の光の槍から回避するも、完全に躱せず胸の辺りに掠ってしまった。身体の直撃は何とか避けれたが、制服の上着とワイシャツが前半分無くなっている。

 

「ふっふっふ。よ~しいいぞ、よく避けた」

 

 俺が躱せると分かっていたのか、コカビエルはそんな事を言ってきた。

 

 あの野郎、完全に俺で遊んでやがる。避けれると分かっていながらも光の槍を投げやがったな。

 

「……くそっ!」

 

 舌打ちをしながら地上に降りると、コカビエルも同じ事をする。

 

 何て野郎だ。龍帝拳二倍が全く通じてない。堕天使幹部がここまですげぇなんて予想外だ。

 

「くっくっくっく……。今のは避けやすくしてやったんだ。折角俺が全力を出してやってるんだから楽に死なれては困る。もう少し楽しませてもらうぞ」

 

「……………」

 

 ………くそったれ。今のままじゃ打つ手がないな。

 

 

 

 

 

 

 一誠とコカビエルの凄まじい戦いを繰り広げている中、リアス達は見ている事しか出来なかった。

 

「そんな……イッセーでも歯が立たないなんて……!」

 

「これは、不味いですわ」

 

 リアスと朱乃は桁違いの戦いだと理解しつつ、一誠が余りにも不利だと言う状況だと認識している。

 

「このままだと、イッセーくんが……!」

 

「……確実に、殺されます」

 

「そんな……!」

 

 祐斗と小猫が未来を予測した台詞に、アーシアは目を見開きながら一誠を見る。

 

 一誠は未だに諦めた顔をしてない。だが、コカビエルの圧倒的な力の前に一誠が殺されてしまうのは誰もが分かっていた。

 

 そんな中――

 

「リアス・グレモリーと眷属たち、兵藤一誠を援護するぞ」

 

『っ!』

 

 デュランダルを持ち構えているゼノヴィアの台詞にリアス達は驚愕する。

 

「え、援護って……ゼノヴィア、あなた正気なの?」

 

「勿論だ。それに我々は兵藤隆誠に言われただろう。兵藤一誠が不利になったら援護しろと」

 

 隆誠から念話で伝えられた事を口にするゼノヴィア。それを聞いたリアス達は思い出すも、すぐに頷く事が出来ない様子。

 

 桁違いな戦いを繰り広げている一誠とコカビエルに、リアス達は下手に手を出す事が出来なかった。自分達が割って入っても足手纏いになってしまうと理解しているから。

 

「けれど、あの状況で私たちが援護したとしても……」

 

「死ぬだろうな」

 

「それが分かっていながら……!」

 

 無駄死になるのを分かってるのを悟ってるゼノヴィアに憤慨するリアスだったが――

 

「だが、何もしないまま死ぬより遥かにマシだ。せめてコカビエルに一矢を報いなければ、兵藤隆誠に申し訳がたたない」

 

「っ……」

 

 すぐにハッと思い出したような顔をした。

 

 確かにゼノヴィアの言うとおり、何もしないまま死ぬのは嫌だ。更にはコカビエルが一誠に殺されるのも嫌だ。

 

 人間の兵藤兄弟に頼り、悪魔の自分達が何もせず黙って見守ることは出来ない。何より愛しい一誠が必死で戦っているのに、自分だけ何もせずに見守っているリアスは己を恥じた。

 

「………朱乃、祐斗、小猫、ゼノヴィア、コカビエルが油断してるところを狙うわ。いつでも動けるようにして。アーシア、あなたは下がってて」

 

「「「はい、部長」」」

 

「了解だ」

 

「は、はい……」

 

 それぞれに指示を出すリアスに頷く朱乃達。

 

 リアスと朱乃は魔力を高め、祐斗とゼノヴィアは己の剣を持ち構え、小猫は即座にダッシュ出来る体勢を取る。アーシアはリアス達の邪魔にならないよう、その場から離れる。

 

 各々が準備を進めている中、空中にいた上着が半分無くなってる一誠、そしてコカビエルが揃って地上に降り立つ。

 

 

 

 

 

 

 くそっ。こうなったら龍帝拳の出力を上げるしかねぇな。ちと危険だが三倍でいくか。今の俺でも三倍は可能だ。コントロールさえ誤らなければ何とか使える筈。

 

「だが誇っていいぞ、小僧。全力となった俺相手にまだ生きて――」

 

 

「はぁぁぁぁぁ~~!!!」

 

 

「「っ!」」

 

 コカビエルが油断してるところを狙って龍帝拳を三倍にしようと思ったが、突然部長が叫ぶような声を上げていた。

 

 俺だけじゃなくコカビエルも視線を向けると、そこには『滅びの力』を凝縮している部長がいた。

 

「フハハハハハ! 何をするかと思って見れば、その力の波動は最上級悪魔の魔力に近いじゃないか! おまえも兄に負けず劣らずの才に恵まれているようだな、リアス・グレモリー!」

 

 最初は鬱陶しそうな感じのコカビエルだったが、部長の凄まじい魔力を見た途端に笑っていた。狂喜に彩られた表情だ。

 

 部長の両手から、凝縮した最大級の魔力の塊が今か今かと爆発しそうになってる。ライザーの時に使ったあの技か!

 

「消し飛びなさい、コカビエル! 『滅びの爆裂弾(ルイン・ザ・バーストボム)』!!」

 

「やべぇ!」

 

 あの技の危険性を知ってる俺は即座に離れようとする。

 

 

 ゴォォォォォオオオオオンッッ!!

 

 

 途轍もない振動が周囲に撒き散らし、強大な一撃がコカビエルに向かっていく。しかしコカビエルは逃げようとはせず、両手を前に突き出して迎え撃とうとしていた。

 

「おもしろい! これは予想外におもしろいぞ、魔王の妹! サーゼクスの妹!」

 

 コカビエルの両手にはオーラの源である光が集まっていく。いくらコカビエルでも全力を出した部長の『滅びの力』を素手だけで受け止められる訳がない。

 

 

 ドウゥウゥゥゥゥンッッ!

 

 

 部長が放った大技をコカビエルは真正面から受けている。その表情は余裕がありながらも、一切手を抜いていない。

 

「ぬぅぅぅぅううううううんッッ!!」

 

 凝縮された部長の魔力弾は爆発しないどころか、押さえ込まれていた。

 

 いや違うか。あれは相殺していると言った方が正しい。

 

 だが流石のコカビエルも無傷ではなかった。身に纏っている黒いローブが無くなっていき、魔力を受け止めているてからも血が噴出している。

 

 そして凝縮の魔力弾は形を失い、徐々に消えようとしていた。部長も全ての魔力を使い果たしたのか、肩で激しく息をしている。あの状態じゃもう二発目は無理だ。

 

「雷よ!」

 

 部長の魔力弾を受けていたコカビエルに、今度は朱乃さんが雷の魔力を放とうとしている。

 

「下らんっ!」

 

 けれど、朱乃さんの雷はコカビエルの十枚の翼で防がれる。

 

「俺の邪魔をするか、バラキエルの力を宿すものよ!」

 

「っ! 私を、あの者と一緒にするなッ!」

 

 コカビエルの台詞に朱乃さんは目を見開き激昂して、今度は両手から雷の鞭を繰り出すも、全てコカビエルの翼で薙ぎ払われた。

 

 やっぱり朱乃さんは堕天使の娘だったんだな。しかも堕天使幹部――バラキエルの。

 

 朱乃さんからは堕天使の力もある事は知っていたが、バラキエルの娘であることは分からなかった。多分兄貴の事だから気づいてるだろうが。

 

「悪魔に堕ちるとはな! ハハハ! 随分と愉快な眷族を持っているな、リアス・グレモリー! 聖剣計画の成れの果てにバラキエルの娘! おまえも兄に負けず劣らずのゲテモノ好きのようだ!」

 

「おいテメェ! 誰がゲテモノ好きだぁ! 部長達に対しての暴言は俺が許さねぇぞ!」

 

 コカビエルの発言に頭に来た俺が叫ぶと、コカビエルは俺を見て挑戦的な物言いをする。

 

「ならば俺を倒すことだなッ! 『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』! 赤龍帝! 兵藤一誠! 尤もおまえ程度じゃ俺に勝てないことは理解してるだろうが、それでも最後まで足掻いてみせろ!」

 

「上等だぁ!」

 

 挑発に乗った俺は龍帝拳を三倍まで上げようとすると――

 

「私も加勢するぞ、兵藤一誠!」

 

「イッセーくん、加勢するよ!」

 

「ぜ、ゼノヴィア!? 祐斗!?」

 

 突然ゼノヴィアと祐斗が割って入るように、コカビエルに向かって斬りかかろうとしていた。

 

「今度はおまえたちか」

 

「「はあぁぁぁっ!」」

 

 二人の乱入にコカビエルは大して慌てず、両手から光の剣を造りだして迎え撃つ。

 

「ほう? 聖剣と聖魔剣の同時攻撃か。だがっ!」

 

「がっ!」

 

 コカビエルは攻撃を防ぎながらも、聖剣使いのゼノヴィアの腹部に蹴りをいれて吹っ飛ばした。

 

「所詮は使い手次第だ、娘! おまえ程度じゃまだまだデュランダルは使いこなせん! 先代の使い手はおまえと違って常軌を逸していたぞ!」

 

「くっ! 何の!」

 

 ゼノヴィアは体勢と立て直し、再びコカビエルに斬りかかろうとするもまた防がれた。

 

「やはりつまらんな。おまえたちでは、あの小僧の代わりにもならん」

 

「ぐっ!」

 

「舐めるな!」

 

 鍔迫り合いをするも、祐斗とゼノヴィアはコカビエルに押されていた。

 

 そんな中、コカビエルの後方から拳に魔力を纏った小猫ちゃんが攻撃しようとするが――

 

「甘いわ!」

 

 黒い翼が鋭い刃物と化し、小猫ちゃんの体は容赦なく斬り刻まれる。祐斗とゼノヴィアは切り刻まれなかったが、小猫ちゃんと同じく吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

 アーシアを除く俺に加勢した部長たち全員はコカビエルの余りにも圧倒的な力の前になす術もなかった。

 

 ただ一人、余裕の顔をしているコカビエルは苦笑する。

 

「俺に挑んだ度胸だけは褒めてやろう。しかし、仕えるべき主を亡くしてまで、おまえたち神の信者と悪魔はよく戦う」

 

 コカビエルの言動に、部長達は怪訝そうな表情をする。

 

「……それはどういうこと?」

 

「コカビエル! 主を亡くしたとはどういう意味だ!?」

 

 部長が尋ねると、今度はゼノヴィアが激昂して問おうとする。

 

「おっと、口が滑った」

 

 その問いにコカビエルはうっかりしたかのように言葉を濁す。

 

「答えろ! コカビエル!!」

 

「……フフフフフ、フハハハハハハハ!!」

 

 だがゼノヴィアは再度声を荒げて問うと、コカビエルは途端に大笑いをした。

 

「ハハハハハハハハ! そうだな! そうだった! 戦争を起こそうというのに、今更隠す必要なんてなかったな!」

 

 何だ? 何故か分かんねぇが、コカビエルがとんでもない事を言おうとするこの不吉な予感は。特にアーシアやゼノヴィアに対して。

 

「先の三つ巴の戦争で、四大魔王と共に神も死んだのさ!」

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ……! ふ、ふ……ふふふふふ……。やっぱりダーリンは凄いわぁ」

 

「ったく、少し見ない間にしぶとくなりやがって……!」

 

 空中で戦っている俺――兵藤隆誠は、あともう少しで倒せると言った感じでエリーにダメージを与えていた。当然俺も俺で傷を負っているが。

 

 この女、本当に以前と違って強くなっている。あと数年鍛錬したら、そのうち魔王クラスに到達しそうだ。まぁ、それでもまだ魔王クラスのグレイフィアには及ばないが。

 

 エリーを倒したら、すぐにコカビエルと戦ってるイッセーの下へ駆けつけないと。何故なら俺は戦ってる最中に龍帝拳を使ってるイッセーがコカビエルに押されているのを見ていたんでな。

 

 今のイッセーが龍帝拳を使っても通じなければ、コカビエルに勝てる勝率は物凄く低い。龍帝拳の出力を上げれば勝てない事もないが、それはそれで危険だ。だから早く俺が加勢しないと。

 

「ちょっとダーリン、今は地上(した)より目の前の私に集中してよぉ。そんなにイッセーくんのことが気になるの?」

 

「当たり前だ」

 

 大事な家族であるイッセーを気にするのは当然だ。アイツを死なせる訳にはいかない。

 

「でも、そのイッセーくんも結構やるわね。あのコカビエルを本気にさせるなんて。龍帝拳って言ったかしら? アレが奥の手みたいね」

 

 どうやらコイツもコイツでコカビエルと戦ってるイッセーを見ていたか。

 

「だけどコカビエルを倒すにはまだまだ力不足のようね」

 

「くっ……」

 

 エリーと俺は揃って地上(した)にいるイッセー達とコカビエルに視線を移すと――

 

 

「先の三つ巴の戦争で四大魔王と共に神も死んだのさ!」

 

 

「…………は?」

 

 コカビエルがとんでもない発言をした為に俺は固まってしまった。

 

「あらあら、コカビエルったら余計な事を。これじゃあ私が妄想爺さんを口封じした意味が無いじゃない」

 

「……あ、あの野郎!!」

 

「ちょ、ちょっとダーリン!? まだ私との戦いは――」

 

 引き止めようとするエリーを無視する俺は戦いを中断し、即座に地上へと向かった。



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第二十一話

書いている内にまたダラダラ感が出てしまっています。

良くないのは分かってるんですが、どうも書いてしまうんですよね。


 おいおいマジかよ。あの戦争で魔王だけじゃなくて、神も死んでたって……おい兄貴! 俺はそんなの初めて聞いたぞ!

 

「う、嘘だ……!」

 

「神が、死んでいた……? バカなことを……! そんな話、聞いたこともないわ!?」

 

 神が死んだと言う発言にゼノヴィアが狼狽し、部長は俺と似たような反応で声を荒げながら怒鳴る。

 

「知らなくて当然だ。あの戦争で悪魔は魔王全員と上級悪魔の多くを失い、天使も堕天使も幹部以外の殆どを失った。もはや純粋な天使は増えることすら出来ず、悪魔とて純血種は希少な筈だ」

 

「そんな、そんなこと……!」

 

 コカビエルの話を聞いてるアーシアが見る見るうちに顔色が悪くなっていく。

 

「どの勢力も人間に頼らねば存続できないほどに落ちぶれた。天使も、堕天使も、悪魔も。三大勢力のトップどもは神を信じる人間を存続する為に――」

 

「それ以上喋るなコカビエルゥゥゥ!!!」

 

『っ!』

 

 

 ドドドドドドドドドドッ!!!!

 

 

 話を続けているコカビエルに突然、上空から兄貴の声が聞こえた。俺たち全員が上を向けると、兄貴以外に多くの光の剣と光の槍がコカビエル目掛けて狙っていた。

 

「げっ! マジかよ兄貴!?」

 

「ちっ!」

 

 流石のコカビエルも不味いと判断したのか、翼を使って防ごうとはせずに回避に専念した。その瞬間、光の剣と光の槍が地面に激突すると同時に爆発する。アイツから少し離れてる俺や部長達も少しばかり爆風を受けるも、大した被害は無かった。

 

 そんな中、地上へ接近してくる兄貴が部長たちの近くに着地して、回避してるコカビエルを睨んでいる。

 

「いきなり無粋な真似をするな、兵藤隆誠。真実を教えてる最中だというのに」

 

「喧しい! コカビエル! 貴様、よりにもよって三大勢力の禁忌(タブー)を!」

 

 普段見ることのない焦りと激昂を見せる兄貴に、部長達だけじゃなく弟の俺も驚いた。常に冷静沈着なあの兄貴が、あんなになるなんて初めてだ。

 

 兄貴の反応に顔を顰めていたコカビエルが急に笑みを浮かべていた。 

 

「ハハハハハッ! どうやらおまえも『神が死んでいた』ことを知っていたようだな、兵藤隆誠!」

 

「おい兄貴! コカビエルが言ってる事はマジなのか!?」

 

「っ……」

 

 俺の問いに兄貴は答え難いのか顔を顰めていた。兄貴があんな顔をするってことはやっぱり……。

 

「答えろ兄貴!」

 

「……………ああ、事実だ」

 

『っ!』

 

 兄貴は血が滲み出るほどに手を強く握り締め、歯を食い縛っていた数秒後には諦めたように答えた。その返答にコカビエルを除く俺達は更に驚愕する。

 

「……ウソだ。……ウソだ」

 

 兄貴の返答を聞いたゼノヴィアは力が抜けたようにデュランダルを手放し、そのまま項垂れる。今のアイツは見ていられないほどに狼狽していた。

 

 だがああなるのは無理もない。神に仕えることを使命としてる教会の信徒にとって、いきなり生き甲斐を失ったのも同然だ。

 

 そして――

 

「し、主が、主が……」

 

 元教会の信徒だったアーシアもゼノヴィアと同様に狼狽していた。

 

 すると、コカビエルの隣には兄貴が戦っていた傷だらけのエリーが降り立つ。

 

「どうした? 随分とボロボロじゃないか」

 

「ほっといてちょうだい。それよりもコカビエル、よくも余計な事を喋ってくれたわね。これじゃ私がバルパーを始末した意味が無いじゃない」

 

「悪いな、つい口が滑ってしまった。だが戦争を始めるというのに今更隠す必要などないだろう?」

 

「………まぁ、そう言われればそうね」

 

 あの口振りからして、エリーも兄貴と同様に神が死んでる事を知っていたようだ。

 

 となると、バルパーのジジイをエリーが殺したってことは……神が死んだのを言わせない為の口封じだったのかよ。

 

「私達は魔王と神の死で中断された戦争を再び起こすために組んだからね。そうすれば、あなたのところのアザゼルも動かざるを得ないんでしょう?」

 

 エリーの奴、そんな事のためにコカビエルと手を組んだのかよ! 本当に傍迷惑だな!

 

 …………だけど、エリーの発言に何か違和感があるんだよな。多分兄貴も気付いてる筈だ。

 

 違和感ありまくりな台詞を言ってるエリーに、コカビエルは何の疑問を持たずに答えようとしている。

 

「そうだ。俺達はその為に手を組んだ。争いの大元である神と魔王が死んだ以上、戦争継続は無意味だと判断した事に俺は納得いかなかった。アザゼルの野郎も戦争で部下を大半亡くしちまった所為で、『二度目の戦争はない』と宣言した! 耐え難い! 耐え難いんだよ! 一度振り上げた拳を収めるだと!? ふざけるな!」

 

 エリーに言ってるのか俺達に言ってるのか、コカビエルは思い出したように憤怒の形相となっていた。

 

 全てを聞いたアーシアは口元を手で押さえ、目を大きく見開き、全身を震わせていた。 

 

「……主はもういらっしゃらない? リューセーさん、私たちに与えられる主からの愛は……」

 

「それは……」

 

 アーシアの疑問に兄貴はすぐに答えれなかった。だけどコカビエルがおかしそうに答えようとする。

 

「ミカエルはよくやっているよ。神の代わりとして天使と人間をまとめているのだからな」

 

「大天使ミカエル様が神の代行を……? では、我らは……」

 

 ゼノヴィアが更なる衝撃の事実を知って何か言ってるが、コカビエルは気にせず続けようとする。

 

「『システム』さえ機能していれば、神への祈りも祝福も悪魔祓いもある程度動作はするだろうしな」

 

 神の愛が無いと分かったアーシアは途端にその場でくずおれた。

 

「すまない、アーシア……。あの事実を君に教えるわけにはいかなかった」

 

 兄貴がアーシアを大事そうに抱えながら、凄く申し訳無さそうに謝っていた。確かに言えねぇよ。アーシアの人生の大半が神に捧げてたなら尚更な。もし俺も知ってたら兄貴と同じく教える事なんて出来ねぇ。

 

「とは言え、神を信じる者は格段に減ったがな。聖と魔のバランスを司るものがいなくなったため、そこの聖魔剣の小僧が聖魔剣を創り出せた現象も起きる訳だ。本来、聖と魔が交じり合うなんてあり得ないからな。おまえたちの首を土産に、俺やエリガンだけでもあの時の続きをしてやる!」

 

「だからそのついでとして、この駒王町の崩壊を機に戦争を起こそうと考えたわけよ」

 

 …………コイツ等、そんな自分勝手な理由で……。

 

「ふざけんじゃねぇテメエ等!! そんな事の為に俺の町を、俺の仲間を、家族を、部長を、アーシアを消されてたまるかッッ! テメエ等なんか、俺がまとめてぶっとばしてやる!!」

 

 怒り全開になった俺は怒号を散らした。

 

「ほう? 随分と威勢がいいな。そうだ小僧、そして兵藤隆誠。良かったら俺たちの片腕にならないか? おまえらの強さはとても魅力的だ」

 

「そうねぇ。リアス・グレモリーのような弱者より、私たちと一緒に来たほうが有意義だと思うわよ? 特にイッセーくんは大の美女好きだから、私が行く先々で美女を見繕って好きなだけ抱かせてあげるわよ。勿論、ダーリンの相手は私だけど」

 

「ふざけんな! 誰がテメェ等の片腕なんかになるか!!」

 

「同感だ。お前等の片腕になるほど俺達は落ちぶれちゃ――」

 

 兄貴が何か言おうとしてたが――

 

「エリー! テメェが部長をどうこう言う資格なんかねぇ! 俺は強さなんか関係なく、部長のことが好きだから一緒にいるんだ!!」

 

「なっ!!」

 

 俺は気にせず怒鳴った。部長が何か急に顔を赤らめているが、今の俺は全く気にする余裕は無い。

 

 そしてすぐに半分破れている邪魔な上着を――

 

 

 バリィッ!

 

 

 破くように脱いで上半身を露にさせた。

 

「今更何のまねだ、小僧? おまえが何をしようが俺に勝てないことはもう分かっている筈だ」

 

 コカビエルが何か言ってるが俺は無視する。

 

 おいドライグ! 四倍で行くぞ!

 

『バカを言うな! 今の相棒ではまだそこまでのコントロールは出来ないぞ!』

 

 だったら使えるようにしろ!

 

『……いいのか? 今まで以上の力を使える方法は、相棒の身体の一部を対価にする事を知っている筈だ。兵藤隆誠の許可無しで――』

 

「うるせえ! それだけで俺の町や家族や仲間、大事な女を守れるくらいなら安いもんだ!」

 

『……いいだろう。だが後悔するなよ』

 

 ドライグが了承した途端、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を身に付けている俺の左腕が変化する。人間の腕から龍の腕に。

 

「っ! イッセー、ドライグに対価を要求したのか!? なに勝手な事をやってる!」

 

 俺の腕が変わった事に気付いた兄貴がそう言ってきた。だが無視だ。

 

 よし、これでいける!!

 

「俺の身体もってくれよ! 四倍龍帝拳だ!!」

 

 

 

 

 

 

 ~駒王学園前~

 

 

「お、俺、そろそろ限界……!」

 

「匙! 気を抜いてはなりません!」

 

「は、はい!」

 

 駒王学園全体に結界を張っているシトリー眷族の『兵士(ポーン)』――匙元士郎が弱音を吐いてると、同じ眷族の『女王(クイーン)』――真羅椿姫が叱咤する。

 

(私と椿姫はともかく、ほかの者たちの魔力が尽きかけている。このままでは……!)

 

 自身の眷族が結界を展開出来なくなってくる事に危惧するソーナ・シトリー。

 

 兵藤兄弟やリアスに早く決着をつけて欲しいと願うも、相手がコカビエルとエリガンだから無理なのは分かっていた。

 

 しかし、これ以上の結界維持も難しくなっているのも事実。ソーナは再度願っていると――

 

 

 バチバチッ!!!

 

 

「おわっ! な、何だ!?」

 

「結界が!」

 

 突如、結界の中から凄まじいオーラが発生した。それによって結界の周囲が電流が流れるような放電現象が起きている。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの愚弟(バカ)! 対価したのはそう言う事か!」

 

 イッセーがドライグに対価した理由が分かった俺――兵藤隆誠は驚愕する。

 

 確かに今のイッセーが四倍の龍帝拳を使うには対価が必要だ。けれど、それはあくまで使えるようにするだけ。

 

 三倍だったらギリギリで扱えるかもしれないが、それ以上の力を引き出そうとするとイッセーの身体が崩壊してしまう。そのリスクも承知でイッセーは使っているようだが。

 

「はああああああ………!」

 

 

 シュウウウウウウウウウ!!!

 

 

 イッセーが力を溜めると、全身が赤く染まりながら蒸気のようなものが吹き出る。

 

「な、こ、これがイッセーのオーラなの……!?」

 

「今までとは桁違いですわ!」

 

「い、イッセーくんにこれほどまでの力が……!」

 

「……ですがあの力、なにか嫌な予感が……」

 

 リアス達は爆発的に急上昇してるイッセーの闘気(オーラ)に驚愕する一報だ。中でも小猫はイッセーが危険な事をしている事に感づく。

 

「ぐっ! あまりのオーラに吹っ飛ばされそうだ……!」

 

 イッセーの吹き荒れる蒸気とオーラに飛ばされないよう踏ん張っているゼノヴィア。

 

「りゅ、リューセーさん、イッセーさんが……!」

 

「今は俺から離れるな!」

 

 本当なら俺もイッセーに加勢したいところだが今は出来ない。あのバカが無理な力を使おうとして周囲に(特にアーシアが)被害を与えようとしてるから。

 

「な、何だと!? あの小僧が何故……!?」

 

「……どうやら私達は、イッセーくんを見縊り過ぎていたようね……」

 

 どうやらリアス達だけじゃなく敵側のコカビエルやエリーも驚愕していたようだ。

 

 だがイッセーはそれらの反応を全く気にせず、闘気(オーラ)を最大限までに上げようとしている。

 

「行っくぜぇぇ!! 四倍龍帝拳だぁぁぁ~~!!!」

 

 

 ドンッ!!

 

 

 イッセーがそう言った瞬間、凄まじいスピードでコカビエルに接近した。

 

 エリーはすぐに避難するも、コカビエルはイッセーの急激な闘気(オーラ)の上昇で驚いていた為、すぐに動く事が出来なかった。

 

「だりゃぁっ!!」

 

「ごっ!!」

 

 コカビエルに接近したイッセーは即座に奴の頬にパンチを食らわす。かなり重い一撃だったのか、コカビエルはそのまま吹っ飛んで行く。

 

 そしてイッセーが追撃をしようと、一瞬でコカビエルの背後に回りこみ、両足を使って背中を思いっきり蹴り上げる。

 

「す、すごい……! あんな攻撃、僕にはとても……」

 

 見事な二連撃を繰り出すイッセーを見て、祐斗は驚愕するばかりだ。

 

「ぐっ……くっ!」

 

 イッセーの蹴りによって上へ向かって行くコカビエルは、すぐに体勢を整えた。

 

 再び攻撃をしようとイッセーは空を飛んで凄まじいスピードで突進するも、迎撃しようとするコカビエルを見た途端に回り込んだ。

 

「調子に乗るなぁ!」

 

 だがコカビエルはすぐに捉え、既に用意した光の槍でイッセーに向かって投擲する。

 

 

 フッ!

 

 

「な、何ぃっ!」

 

 投擲した光の槍をイッセーが一瞬で躱された事にコカビエルが驚いてると――

 

 

 ドガッ!!

 

 

「ごあっ!」

 

 いつのまにか接近したイッセーが顔面目掛けて蹴りを食らわす。

 

 吹っ飛ばされたコカビエルは体勢を整える事が出来ないのか、地上にあるグラウンドの倉庫へ凄まじい音と共に激突する。

 

 コカビエルが激突するも――

 

「があああああ~~~~~~!!!!」

 

 すぐに自身のオーラで倉庫を消し飛ばした。

 

「おのれ小僧~~~!!!」

 

 イッセーに圧倒されたコカビエルは、さっきまでの余裕が無くなって憤怒の表情をしていた。

 

 更なる攻撃を仕掛けようとするイッセーの接近に、コカビエルはお返しと言わんばかりにパンチを繰り出そうとする。しかしイッセーはその攻撃を避けようとジャンプして回り込み、再びコカビエルの背中を狙おうと膝蹴りをかます。

 

「ぐっ! くそっ!」

 

 膝蹴りを受けたコカビエルはまた吹っ飛ばされるも、今度はジャンプして体勢を立て直しながらイッセーと向かい合う。

 

 そして猛スピードで接近して、オーラを纏ったパンチで食らわそうとする。だがイッセーは身体を横に逸らしただけで簡単に躱し――

 

 

 ドゴッ!!

 

 

 カウンターとしてコカビエルの腹部に強烈なパンチを食らわした。

 

「あっ、ぐっ……」

 

「ぐぎぎぎぎ……!」

 

 攻撃が相当効いたのか、コカビエルは両手で自身の腹部を押さえながらゆっくりと後退する。口元からは唾液が混じった血が出ていた。

 

 イッセーが四倍龍帝拳を発動させて、一分にも満たない戦いで立場が一気に逆転した。

 

『…………………』

 

 この光景にリアス達だけでなく、エリーも開いた口が塞がらないようだ。

 

「はあっ……はあっ……!」

 

「こ、小僧……!」

 

 ダメージを受けているのがコカビエルの筈なのに、イッセーはかなり息が上がっていた。そんな状態であるイッセーにコカビエルは気にせず、すぐに距離を取ろうと離れた。

 

「バカな、ありえん……! あの小僧が、この俺の力を一瞬で超えただと……!?」

 

 まるで悪夢を見てるように呟くコカビエル。さっきまでとはえらい違いだ。



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第二十二話

久しぶりに長く書きました。

それではどうぞ!


 ちきしょう、まだ大して時間が経ってないってのに身体が……。これは早く決めねぇとやばそうだ!

 

「こ、こんな……こんなことがあってたまるか……! 俺はアザゼルやシェムハザのような腑抜けと違う堕天使だ! あんな人間の小僧にやられるわけがない!」

 

 俺の攻撃を受けて酷いショックを受けてるのか、コカビエルはワナワナと震えながら否定するように怒鳴り散らしている。

 

「俺が、俺こそが最強の堕天使なんだ!!!」

 

 

 ズキズキッ!

 

 

 ぐっ! か、身体中が痛ぇ!!

 

 ドライグのお蔭で使えるようになったとは言え、やっぱり今の俺じゃ四倍の龍帝拳は無理があるな。このままチンタラやってたら、俺が先に参っちまいそうだ……!

 

「お、おのれ小僧! おまえはっ……グフッ!」

 

 コカビエルが俺に何か言おうとしてたが、いきなり(むせ)て手を口元に当てる。多分、俺が受けた攻撃の所為で咽たんだろうな。

 

「ゴフッ! ゴホッ! ゴホッ! ……………………なんだと」

 

 咽るのが終わったのか、コカビエルは口元に当てていた手を放す。けれど自分の掌を見て数秒後には信じられないように驚いた顔をしていた。

 

「こ、この俺が……あんなガキを相手に、血を吐くだと……! ゆ、ゆるさん……! 絶対に……許さんぞぉぉぉ!!!」

 

 どうやらコカビエルの奴、キレちまったようだ。人間の俺相手に血を吐かれた事で堕天使のプライドが傷付けられたってか?

 

 だがこっちとしちゃ好都合かもな。アイツがキレたら――

 

 

 ドンッ!!

 

 

「もうお遊びはここまでだ!! この町もろとも木っ端微塵にしてやる!!」

 

「っ! 何だと!?」

 

 執拗に俺を狙おうとはせずに駒王町その物を消そうとしてやがった! あの野郎、俺にコテンパンにされたからってそこまでするか!? 完全に予想外だぞ、おい!

 

 コカビエルは全身からオーラを出して、翼を展開すると凄まじい勢いで上空へと向かう。そして一定の位置で止まると今度は……両手を空に向けて巨大な光の槍を出そうとしていた!

 

「避けれるものなら避けてみろ!! おまえは助かっても駒王町は粉々だーーーー!!」

 

「あの野郎! その為に上空に飛んだのかよ!」

 

 考えやがったな、畜生がぁ!!

 

「ちょっとコカビエル!! 何考えてるの! ここで勝手に段取りを変えないで!」

 

「喧しい! この町を崩壊させたらすぐにお前と戦ってやる! 今の内に覚悟しておけ、エリガン!」

 

 エリーが何か叫んでいるが、当のコカビエルは止める気配を見せようとしなかった。それどころか、巨大な光の槍を更に大きくさせようとしている。

 

「っ……。どうやら貴方との同盟は決裂のようね」

 

「待てエリー! 貴様どこへ……くそっ、逃げたか!」

 

 コカビエルの返答を聞いたエリーは転移魔術を使って姿を消そうとする。兄貴が叫ぶも、一足遅くエリーは完全に駒王町から逃げ去ってしまった。

 

「イッセー! お前は下がれ! 後は俺がやる!」

 

 そう言いながら兄貴は俺に接近してくるが――

 

「兄貴は部長やアーシア達を守っててくれ! コカビエルは俺がやる!!」

 

「なっ!?」

 

 すぐに待ったをかけて足を止めさせた。

 

「バカを言うな!! 今のお前じゃコカビエルを止められる訳ないだろうが! それにお前、四倍の龍帝拳まで使って――」

 

「ここで俺が止めなきゃ意味がねぇんだ!! 後で(・・)罰でも説教でも何でも受けてやるから、偶には弟の俺にカッコつけさせろ!!」

 

「っ! …………ああもう勝手にしろ! 負けたら承知しないからな!」

 

「サンキュー兄貴!!」

 

 俺の押しに負けたのか、兄貴はすぐに部長たちを一箇所に集めて防御結界を展開する。部長たちが兄貴に何か言ってるが、取りあえず部長たちは今のところ大丈夫だ。

 

 それさえ分かれば俺はコレに賭ける!!

 

「はあああああああ!! 四倍龍帝拳の~~! ドラゴン波だぁぁぁ~~~!!!」

 

 

 ゴウッ!!

 

 

 闘気(オーラ)を最大限に高めようとする俺は、同時にドラゴン波を撃つ構えを取る。

 

「ド…ラ…ゴ…ン……!」

 

「バカめ! 俺が放つ最大の光の槍は、おまえ如きじゃ絶対食い止められんぞ!!」

 

 

 グゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

 

 

 

 

 

「ぐっ! とんでもないオーラの量だな……!」

 

 リアス達を一箇所に集めた俺は防御結界を張った直後、イッセーから凄まじい闘気(オーラ)が放出されていた。

 

 コカビエルのオーラとイッセーの闘気(オーラ)が激突するように、学園全体が地響きのように揺れ、校舎も罅が入り始めている。加えて二人のオーラによって爆風も凄まじい。

 

「ちょっとリューセー! イッセーを援護しないと!」

 

 リアスが抗議してるが、俺は気にせず防御結界を張り続けている。

 

「今のイッセーに何を言っても無駄だ! それにアイツは大好きなお前と一緒にいたいが為に頑張ってるんだから、ここは大人しく見守ってろ!」

 

「っ! こ、こんな時に何を言ってるのよ!?」

 

 顔を真っ赤にして怒鳴るリアスに、俺は不謹慎ながらも完全にイッセーに惚れたなと思った。

 

 まあ確かにイッセーがコカビエルと戦ってる時に真顔で『部長のことが好き』だなんて言ったから、そうなるのは無理もなかった。多分イッセーの事だからLikeの方を言ったと思うが、リアスからしたらLoveに聞こえたんだと思う。

 

「それよりもリアスと朱乃! 魔力が尽きかけてるところを悪いが、お前達も防御結界を張ってくれ! 流石に俺一人じゃ全ては防ぎきれない!」

 

「「っ!」」

 

 俺の発言に二人はすぐに結界を張った。せめてあと数分は保っててくれ。それまでに二人の戦いは終わる筈だ。

 

「兵藤隆誠、本当に兵藤一誠に任せて大丈夫なのか!? コカビエルが放とうとしてるあの光の槍は尋常ではないぞ!?」

 

「今は黙ってみていろ、ゼノヴィア! アイツは俺の弟で赤龍帝だ! コカビエル如きに負けはしない!」

 

 イッセーは(いず)れコカビエル以上の強敵――白龍皇と戦うんだ。あの程度の堕天使に負けられない事をイッセーは分かっている。

 

 だからこそ俺はイッセーに託す事にした。それはかなりの大博打だが。

 

「小僧! これで終わりにしてやる! 駒王町もろとも木っ端微塵に消え去るがいい!!」

 

 

 ブオンッ!!

 

 

 その台詞とともに、コカビエルは最大限に溜めた超巨大な光の槍をイッセーがいる地上に向けて投擲した。

 

「………こんなことなら、隣町のスイーツ店でいっぱいスイーツを食べておくべきでした」

 

 小猫、こんな状況で弥白(やじろ)兵衛(べえ)みたいな台詞を言わないでくれよ。気持ちは分からなくもないが。

 

「波ぁぁぁぁぁーーーーーーッ!!!!」

 

 

 ドオオオォォォォォンッッッッッ!!

 

 

 するとイッセーも四倍龍帝拳での巨大ドラゴン波を撃った。

 

 イッセーのドラゴン波とコカビエルの巨大な光の槍。二つの力が激突した瞬間――

 

 

 カッ!! バチバチィッッッ!!!!

 

 

「ぐっ、これは……!!」

 

「きゃあ!」

 

 途轍もないオーラの余波と爆風が学園全体に吹き荒れた。俺とリアスと朱乃が防御結界で防ぐも、爆風だけは完全に防ぎきれずにアーシアが飛ばされそうになる。

 

「アーシアさん!」

 

「……私と祐斗先輩に捕まっててください」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 飛ばされそうになるアーシアを祐斗と小猫がフォローに回った。ナイスだ二人とも。

 

「な、なにぃっ!? お、俺の光の槍と互角だと!?」

 

「ぐぎぎぎぎぎっ!!!!」

 

 二人の力は全くの互角で、どっちが勝つかなんて俺には全く分からない状況だ。

 

「ぐぬぬぬぬっっ!!」

 

 コカビエルが投擲した光の槍にオーラを与えようとしてるのか、ドラゴン波を押し出しており――

 

「ぐっぐぐぐぐぐっ!」

 

 イッセーも負けじと言わんばかりに光の槍を押し出そうとしていた。

 

 二人の競り合いにより学園の校舎は崩壊寸前。だが今の俺達にはもうそんな事を気にしてる場合じゃない。今はもうイッセーが勝つ事を願う事だけだった。

 

「ぐおおおおおっ!! いい加減にくたばれ小僧~~!!!」

 

「ぎぎぎぎっ!! そういう訳には、いかないんだよ~~!!」

 

 そしてイッセーは何かを決意したのか、ある単語を言おうとする。

 

 

「りゅ、龍帝拳……五倍だぁぁ~~!!!」

 

Dragonicfighter(ドラゴニックファイター) LevelⅤ(レベル5)! 』

 

 

「っ! バカ!! それ以上出力をあげたら――」

 

 龍帝拳を四倍から五倍にまで引き上げたイッセーに俺が周囲を気にせず怒鳴るが――

 

 

 ドォォォオオオオオンッッッ!!

 

 

 イッセーの闘気(オーラ)が更に上がり、撃っているドラゴン波も更に巨大となった。

 

 闘気(オーラ)を更に上げた巨大ドラゴン波が、コカビエルの光の槍を飲み込むように押し出していく。

 

「っ! バカな!! お、押され……!」

 

 負けじとオーラを送るコカビエルだったが、一足遅く巨大な光の槍はドラゴン波によって完全に飲み込まれ――

 

「う、うあああああああ!!! バカなぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!!!!!!!!」

 

 今度はコカビエルも飲み込むように命中した。巨大ドラゴン波はそのまま上空へと向かい結界に激突するも、それはすぐに破れて突き進んでいった。

 

 

 

 

 

 

「……ふ、ふふふふふ。アレが俺の宿敵(ライバル)の力か。素晴らしい。実に素晴らしい力だ……!」

 

『しかし、あの力は少々気になる。奴が使っていたあの力を私は今まで見たことがない。禁手(バランスブレイク)や覇龍も使っていないというのに、何故あそこまでの力を上昇させることが出来る……?』

 

「今はそんな事どうでもいいじゃないか。コカビエル如きとはいえ、奴を圧倒した宿敵(ライバル)に賛辞を贈ろうじゃないか」

 

『……随分と嬉しそうだな』

 

「当然だ。今まで素性が不明だった俺の宿敵(ライバル)が、あれほどまでの実力者なんだ。これを喜ばずにはいられない」

 

『そう思うのはお前の自由だが、目的を見失うなよ? 俺達はアザゼルからの指示でコカビエルの回収に来たのだからな』

 

「分かっている、アルビオン。俺とて今の彼と戦う気はない」

 

 

 

 

 

 

「はあっ! はあっ! はあっ! あ……あぐぐ……」

 

 ドラゴン波を撃ち終えたイッセーは同時に龍帝拳を解除した途端、片膝を地に着けながら苦しそうな声を出していた。

 

「……ふうっ。一先ずはイッセーが競り勝ったようだな」

 

「イッセー!」

 

 俺が安堵するように防御結界を解いた途端、リアスだけじゃなく、朱乃達もすぐにイッセーに駆け寄ろうとしていた。

 

「へへ……部長。俺、何とか守りましたよ」

 

「っ! イッセー! あなた、その腕……!」

 

 痛みを堪えつつも笑顔を見せるイッセーに、リアスはイッセーの左腕が龍の腕になってる事に気付く。

 

「ああ、これですか? コカビエルをぶっ倒す為、ドライグに腕を差し出したんですよ。俺の腕一本だけで部長たちを守れるなら安いもんで――」

 

「バカ! 何考えてるのよ!?」

 

「ぶ、部長?」

 

 突然リアスからの罵倒にイッセーは戸惑う。だがリアスの両目から涙が流れてたから何も言い返せない様子だ。

 

「私たちの為に自分の腕を犠牲にするなんて……本当にバカよ、あなたは……!」

 

「イッセーさん、私、私……!」

 

「え!? 何で部長だけじゃなくアーシアまで泣いてんの!? 俺、なんか泣かせるようなことしましたか!?」

 

 全く。イッセーは自分が何をしたのか理解してないようだ。

 

 愛しい男が自分を守る為に腕を犠牲にしたなんて分かったら、そりゃ泣くさ。イッセーの事が大好きなリアスやアーシアなら尚更な。

 

「当たり前でしょ! あなたが無茶したんだから!」

 

「イッセーさぁん!」

 

「ちょ、ま、待って二人ぐあああっ!!」

 

「「っ!?」」

 

 リアスとアーシアが抱きついた直後、イッセーは痛ましい悲鳴をあげた。

 

 あまりの悲鳴に二人は離れ、朱乃達も何事かと思って凝視する。

 

「おいおい二人とも、抱擁したい気持ちは分からなくもないが、今は勘弁してやれ。イッセーの身体は重傷なんだからさ」

 

「そ、それはどう言うことですか?」

 

 俺の台詞に祐斗が訪ねてくる。

 

「イッセーが使った龍帝拳は通常の上昇(ブースト)と違って、自分の力を限界以上まで引き出す能力なんだ。その代償として身体の負担もかなり大きい。それを五倍まで引き上げたんだから、イッセーの身体は重傷だ。恐らく頭部以外の全身の骨も罅だらけだろうな」

 

『っ!!』

 

「さ、流石は兄貴、よくお分かりで。ってか骨以外も色々と不味い状態で……」

 

 驚くリアス達を余所にイッセーは骨以外の部分も重傷だと告げる。

 

「だろうな。ま、取りあえず今はアーシアに治療してもらえ。その間に俺はコカビエルを始末する」

 

「あ、ああ……。後は頼むぜ、兄貴」

 

「え? リューセーくん、それってつまり……」

 

 俺とイッセーの会話に朱乃が尋ねてきたので、すぐに答えようとする。

 

「コカビエルがアレぐらいの攻撃で死にはしない。その証拠に地面を見てみろ。まだ大地崩壊の魔法陣は生きている」

 

 言われたとおりに下を見るリアス達はすぐに驚愕する。多分、イッセーのドラゴン波によってコカビエルは倒され、魔法陣は解除されたと思っていたんだろう。

 

「ぐっ、お、おのれ……!」

 

『っ!』

 

 すると、上空から人影らしき物が降り立とうとしていた。俺達を上を見ると、それは言うまでもなく満身創痍のコカビエルだ。加えてご自慢の翼もボロボロだった。

 

 それを確認した俺はすぐに飛んで、コカビエルと同じ位置で止まる。

 

「俺の弟を甘く見すぎていたな、コカビエル。初めから油断しなければ負けなかったのに」

 

「ふ、ふざけるな! 俺はまだ負けてはいない!」

 

「いいや。お前の敗北は確定だ。手を組んでいたエリーと決裂した時点でな」

 

 そう言いながら俺は即座に自分とコカビエルを包み込む結界を作り出す。

 

 因みにコレは外にいるリアス達の視覚や声を遮断してるから、向こうからは一切何も見えないし聞こえない。

 

「なっ! こ、これは!?」

 

光牢(こうろう)結界(けっかい)だ。これに包まれたら、もうお前は逃げる事は出来ん」

 

「こんなもの!」

 

 俺の忠告を無視するコカビエルは即座に光の槍を出して光牢結界を貫こうとする。しかし、光の槍は結界に飲み込まれるように消えた。

 

「俺の光の槍が吸収されてるだと!?」

 

「無駄だ。これは天使や堕天使の力を吸収することが出来る特殊な結界。謂わばお前達の天敵だ」

 

「バカな! こんな力、人間が作り出せるものではない! 兵藤隆誠、おまえは一体何者だ!?」

 

「それをお前が知る必要など……無い!」

 

 

 パチンッ! ジャララララララッ!!

 

 

「っ! 何だ!?」

 

 俺が指を鳴らした直後、結界から光状の鎖が無数に現れた。それはすぐにコカビエルの両手足を拘束する。

 

「ぐああああ~~!! お、俺の力が、奪われていく!! 何なんだコレは!?」

 

「言っただろう? この結界は天使や堕天使(おまえたち)の力を吸収するって。その結界から作り出した光の鎖に巻き付かれたら最後、力を根こそぎ吸収される」

 

 吸収するのはあくまでオーラだけであって、ドラグ・ソボールの第一形態デルのように身体ごと吸収しない。と言うか、そんな悍ましい事は絶対にやりたくない。

 

 そしてコカビエルから全てのオーラを吸収し終えたのか、結界全体がバチバチと火花を散らしていた。

 

「あ、が……!」

 

「コカビエル、今回お前が仕出かした事は非常に目に余る。身勝手極まりない理由で戦争を起こそうと町を消滅させるなど、聖書の神(わたし)は決して許さない。たとえ聖書の神(わたし)の愛する息子と言えどもな」

 

「き、きさま、何を言って……?」

 

「ついでに嘗ての戦争でも言った筈だ。お前が堕天使になって決別しなければ、聖書の神(わたし)はお前を熾天使(セラフ)に任命していた、とな」

 

「何故おまえがそれを知って……っ! まさか、おまえは!」

 

 おっといかん。久しぶりに息子(コカビエル)と話してる所為で口が滑ってしまったな。

 

 すると、さっきまで死ぬ寸前の顔をしていたコカビエルが急に笑い始めた。

 

「は、ははは、ハハハハハハ! 確かに考えてみれば、こんな馬鹿げた力を使うことが出来るのは奴だけしかいない!」

 

 あ、やっぱり気付いたか。

 

「そうだろう、兵藤隆誠! いや、聖書の神!!」

 

「……今頃気付いたところでもう遅い。お前のこれまでの記憶は全て消させてもらうからな」

 

「ハハハハハ! 何てことだ! アザゼルにシェムハザ! 俺達は騙されていたぞ! いま俺の目の前に死んだ筈の聖書の神が生きて――」

 

「お喋りはもうここまでにしよう。そしてさらばだ、コカビエル。我が愛しき息子よ」

 

 これ以上は喋らせまいと、俺は即座に再度指を鳴らした。その瞬間、火花を散らしてる結界が大爆発を起こす。

 

 

 

 

 

 

「さて、漸く大地崩壊の魔法陣が無くなったな」

 

 光牢結界が爆発した事により、コカビエルの意識は完全に失い、そのまま地上へと落下して激突する。

 

 それを見た俺はすぐに地上に降り立つと、少し離れた位置にいるリアス達が驚愕したまま固まっていた。アイツ等には後で言い訳を考えておかないとな。

 

「お、おい兄貴、コカビエルは?」

 

「見ての通りだ」

 

 意識を失っているコカビエルを指すと、イッセー達はすぐに視線を移す。

 

「もうアイツに戦う力なんてない。俺達の勝ちだ」

 

 俺の発言によって安堵の息を漏らすが――

 

「だがまだ戦いは終わってない。予定外の客が此処に来ている」

 

 

「ほう。俺の存在に気付いていたのか」

 

 

『っ!』

 

 知らない男の声がした事により、イッセー達はすぐに声がした方へと視線を移した。

 

 そこには白き全身鎧(プレートアーマー)を纏っている何かがいた。しかも体の各所に宝玉らしきものが埋め込まれ、顔まで鎧に包まれていて、表情は窺えない。

 

 加えて背中から生える八枚の光の翼は神々しいまでの輝きを発している。

 

「あ、兄貴……まさかアイツは……!」

 

 イッセーが震えるように言ってくる。その反応は当然とも言えるだろう。

 

「ああ、お前の予想通りの奴だ。奴は赤龍帝(おまえ)の対となる白龍皇――『白い龍(バニシング・ドラゴン)』だ」

 

 俺の台詞にイッセーだけでなくリアス達も目を見開く。

 

 誰もが警戒している中、白龍皇はそのまま地上に降り立とうと、コカビエルの近くで着地する。

 

「ちきしょう……! こんな土壇場で出てくるなんてないだろうが……!」

 

「止せ。今のお前じゃアイツには勝てない」

 

 自分の宿敵が出現したと分かったイッセーが前に出ようとするも、俺がすぐに阻止する。重傷のイッセーが万全の白龍皇に勝つことなんか到底不可能だ。

 

「だけどよ。向こうが仕掛けでもしたら――」

 

「そう慌てるな。俺は負傷してる君と戦う気などないよ、宿敵くん」

 

 すると、白龍皇から突然の戦わないと言う宣言に誰もが驚く。

 

「一体何しに此処へきたんだ、白龍皇? まさか白龍皇のお前が、コカビエルを回収しに来ただけなんて言うんじゃないだろうな?」

 

「その通りだ。俺はアザゼルから、コカビエルを連れて帰るよう言われているんでね」

 

 大当たりかよ。

 

 ったく。どうしてどうでも良いことだけは見事に的中するんだか。

 

「そうかい。てっきり傷だらけの宿敵と戦う為に来たと思ったんだが……」

 

「そんな詰まらない真似なんかしない。俺は万全の状態で宿敵くんと戦いたいんでね」

 

 コイツ……理知的そうな声とは裏腹に、かなりの戦闘狂(バトルマニア)だな。エリーといい勝負だ。

 

「まぁ宿敵くんの他に、君とも戦ってみたいんだが……」

 

「ほう? じゃあやるか? こう見えて俺はまだまだ力を残しているぞ」

 

 あの鎧が禁手(バランスブレイク)の姿だったら充分に対処できる。尤も、対処するにしても俺自身かなりのオーラを使う事になるが。

 

「かなり魅力的な誘いだが、それは止めておこう。もしこのまま君と戦ってしまえば、俺は目的を忘れてしまうからな」

 

 忘れるほどに俺との戦いを興じるか。本当に戦闘狂(バトルマニア)のようだ。

 

「それとコカビエルの回収ついでに、あそこでボロ雑巾のようになってるフリードも回収させてもらう。聞き出さないといけないこともあるんでね」

 

「どうぞご自由に」

 

 そういやフリードの事なんかすっかり忘れてた。今の姿は白龍皇の言うとおり、ボロボロの姿となっている。イッセーとコカビエルの激突によってかなり巻き添えを喰らったんだろう。同情なんか一切しない。

 

 俺の返答を聞いた白龍皇はコカビエルを肩に担いだ後、すぐにフリードの下にも足を運んで腕に抱えた。

 

「それでは宿敵くん、いずれまた会おう」

 

 二人を回収した白龍皇はそう言って光の翼を展開し、空へ飛び立とうとした。

 

『俺を無視か、白いの』

 

 突然のドライグの声に、白龍皇は飛ぶのを止めた。

 

『やはり起きていたか、赤いの』

 

 ドライグの声に反応するように、白龍皇の鎧の宝玉――アルビオンがそう言った。

 

『せっかく出会ったのにこの状況ではな』

 

『いいさ、いずれ戦う運命だ。こういうこともある。それより赤いの、あの力は一体なんだ?』

 

『あの力とは?』

 

『惚けるな。龍帝拳などという能力は聞いたこともないぞ。アレはお前が使えるものじゃないはずだ』

 

『企業秘密とだけ言っておこう。第一、俺が宿敵のお前に答えると思っているのか?』

 

『……それもそうだな。ではまた会おう、ドライグ』

 

『ああ。じゃあな、アルビオン』

 

 久しぶりに聞いたな。二天龍の会話を。

 

 別れを告げる両者に今度はイッセーがまた前へ出ようとする。

 

「おい白龍皇! テメエに言っておく事がある!」

 

「何かな?」

 

「俺はテメエと戦うことになっても逃げも隠れもしねぇ。だが、もし下らない理由で部長たちや家族に手を掛けようとしたら……俺はお前をぶち殺す!」

 

「…………ふっ。肝に銘じておこう」

 

 イッセーの忠告を本気で受け取ったのかどうか分からないが、白龍皇は白き閃光と化して飛び立っていく。

 

 予想外な白龍皇の登場だが、取りあえずこれで本当に戦いは終わった。

 

 すると、イッセーが白龍皇がいなくなった途端にジッと俺を見る。

 

「兄貴、今の俺じゃまだ白龍皇には勝てねぇ。だから――」

 

「修行の難易度を今まで以上に上げてくれ、だろう? 元からそのつもりだ。まぁそれより、そろそろお前に本格的な治療をしないとな」

 

「え? 本格的な治療って……」

 

 

 ビキビキビキィッッッ!!!

 

 

「ぎぃやあぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 突如、イッセーの身体から何かが崩壊する音がした。イッセーは激痛が走ったのかどでかい悲鳴をあげながら倒れる。

 

「あ、がが………」

 

「イッセーさん!?」

 

「イッセー!? どうしたの!?」

 

「どうしたんですのイッセーくん!?」

 

「イッセーくん、大丈夫かい!?」

 

「……イッセー先輩、しっかりしてください!」

 

 アーシアやリアス達が揃って心配そうにイッセーに駆け寄る。そりゃ、あんな痛ましい悲鳴をあげたら誰だって心配する。

 

「ちょ、ちょっとリューセー! これはどういうことなの!?」

 

「龍帝拳の反動だ。イッセーの身体が限界を超えて崩壊したんだ」

 

「で、でもさっきまでイッセーさんは私の治癒で……」

 

「それでもまだ完全に治癒しきれてない証拠って事だよ、アーシア。言っとくけど別にアーシアが悪い訳じゃない。後先考えずに限界以上の力を使ったこの愚弟(バカ)が一番悪い」

 

「そ、そりゃないぜ、兄貴……あががが」

 

 必死に痛みを堪えながらも訴えてくるイッセー。まぁ何であれ、一先ず治療させないとな。

 

 そう思いながら俺は懐から携帯を取り出して、ある番号へと電話する。

 

「もしもしローズさん? 急で悪いんですが、またお店をお借りしていいですか? ……ええ、ちょっとウチの弟を治療するのに必要でして。それじゃあすぐに来ますので」

 

『?』

 

 俺がローズさんに電話してる事でリアス達は不可解な表情をしていた。多分イッセーの治療に何の関係があるのだと疑問を抱いているんだろう。

 

 そして電話を終えた俺は携帯を懐に仕舞って、リアス達にこう言う。

 

「お疲れのところを大変申し訳ないが、イッセーの治療を手伝ってくれないか? 無理なら断っても構わないけど」

 

「そんなの訊くまでもないわよ!」

 

「イッセーくんを治療するためなら何だってしますわ!」

 

「僕らはイッセーくんによって救われたんです! 何をすれば良いんですか!?」

 

「わ、私も手伝います!」

 

「……私に出来ることなら」

 

 ………これは訊くだけ野暮な質問だったな。

 

 リアス達の返事を聞いた俺は内心反省して、本題に入ろうとする。

 

「了解。それじゃあ今から俺と一緒にある店に行って、お前達がやる事は……料理をたくさん作る事だ」

 

『……………はい?』

 

「あ、兄貴……何故に部長たちが料理を、作るんだ……?」

 

 

 

 

 

 

「あの、リューセーさん。私は部長さんたちと一緒に料理を作らないといけないんじゃ……?」

 

「アーシアにはリアス達とは別にやってもらう事がある。イッセーの傷の治療をね」

 

 重傷のイッセーと一緒にリアス達もローズさんの店に連れてきた俺は、それぞれに指示を出した。

 

 リアス、朱乃、祐斗は厨房で料理を。小猫は大量に作られた料理の持ち運びを。そしてアーシアは俺と一緒に重傷のイッセーをベッドで寝かせている部屋にいる。

 

 因みに学園前にいたソーナ達は崩壊した学園の修理を任せている。特にソーナは崩壊状態の駒王学園を見た途端にショックで倒れそうになっていたが。まぁ被害は学園だけで済んだから、そこは勘弁してもらいたい。

 

「治療、ですか? でも、私の『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』ではイッセーさんの治療は……」

 

「そう落ち込むな。今のアーシアの力で完全に治癒出来なければ、俺が出来るように力を引き出せばいいだけの話だ」

 

「っ! ちょ、ちょっと待て兄貴! それってまさか……アーシアの神器(セイクリッド・ギア)の力を強制的に引き出す気か!?」

 

 俺がやろうとしてる事に気付いたイッセーは、ベッドで横たわりながらもコッチを見ながら言ってくる。

 

「んな事したらアーシアの身体が……!」

 

「それは充分承知している。だがお前を手っ取り早く治す方法はこれしかないんだ」

 

「兄貴が俺を治療すれば……」

 

「俺がやっても構わんが、龍帝拳の反動でボロボロになってるお前の身体を完全回復させるにはかなりの時間を要する。それを省く為にはアーシアの協力が必要なんだよ」

 

「でもだからってアーシアに危険な事は……!」

 

「勿論これは了承した前提の話だ。俺とてアーシアに強制はさせない」

 

 と言うか、俺の大事な妹分であるアーシアに無理矢理治療させようだなんて事は決してやらん。

 

 もしアーシアがNoだと言えば、俺はすぐに諦めてイッセーの治療に専念するつもりだ。アーシアを責めるつもりは一切ない。

 

「アーシア、俺が考えてる治療方法はハッキリ言って君の身体にかなりの負担を強いる事になる。決して絶対にやってくれとは言わない。敢えて嫌な言い方をするが、後は君の返答次第だ。どうする?」

 

「わ、私は……」

 

「アーシア! 無理にやらなくていい! 俺はアーシアを危険な目に遭わせてまで治そうとは思ってない! ここは断ってくれ!」

 

 止めようとするイッセーの言い分は正しいから、俺は敢えて何も言わない。結局の所、全てはアーシアが決める事になるからな。

 

 こればっかりは重大な事なので、アーシアには少し考える時間を与えようと――

 

「やります! イッセーさんの怪我を治せるのでしたら!」

 

 ――していたが即行で決断したのであった。

 

「おいアーシア! 本気か!?」

 

「はい! イッセーさんの為に、私やります!」

 

「………良いのか? 今ならまだ引き返せるよ?」

 

 念の為に再度問うと、アーシアは何かを決意するように言おうとする。

 

「私は、部長さんたちと違って何のお役にも立てませんでした。ですから、せめてこれくらいはやらせて下さい! 私だけ何もせずに見ているだけなんてもう嫌なんです! お願いします、リューセーさん! イッセーさんを治せるんでしたら私、何だってします!」

 

「「………………」」

 

 涙を流しながら言ってくるアーシアの切実な思いに、俺やイッセーは何も言い返すことが出来なかった。

 

 この子は自分が戦えず、イッセーの傍にいて何の役にも立てなかったことが相当辛かったんだろうな。恐らくソレは今回のコカビエル戦だけじゃなく、以前のライザー戦も含めて。

 

 人には得手不得手があると言いたいが、それは相手の傷口に塩を塗る行為だ。だから俺は敢えて何も言わない。

 

「……分かった。アーシアにそこまでの覚悟があるなら、やるとしよう」

 

「ちょ! 待てよ兄貴!」

 

「察しろ、イッセー。アーシアの覚悟を聞いておいて、今更止めろだなんてもう言えない。お前もいい加減に腹を括れ」

 

「ぐっ……!」

 

 俺の言い分にイッセーはもう言い返そうとしなかった。

 

 イッセーが腹を括ったと分かった俺は、アーシアに再度確認しようとする。

 

「アーシア。さっきも言ったが、今回の治療は君の身体にかなりの負担を強いる事になる。覚悟は良いな?」

 

「はい!」

 

「なら結構」

 

 力強く頷くアーシアを見た俺は治療の準備を始めようとする。

 

「ではアーシア。イッセーの治療をやる前にやって欲しい事がある」

 

「何をすれば良いんですか?」

 

 決意を固めてるアーシアに俺は――

 

「今すぐに服を脱いでくれ」

 

「はい! すぐに服を………へ?」

 

「…………は?」

 

 服を脱ぐ指示を出すと、アーシアだけでなくイッセーも急に固まってしまった。




 リューセーの最後の台詞で『コイツ何言ってるんだ!?』って吹いた人は手を挙げてください。


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第二十三話

前回が長かった分、今回は短いです。


「………おいこら待てクソ兄貴ぃ!! アーシアに服脱げって何抜かしてんだゴラァ!?」

 

 俺の台詞で固まっていたイッセーだが、数秒後に怒鳴り散らしてきた。アーシアは未だに状況が掴めず固まっているが。

 

「まさか治療とか言っといて、動けねぇ俺の目の前でアーシアにエロいことさせんじゃ――」

 

 

 パシンッ!

 

 

「#”=~$($’%(&)’%!!!」

 

(たわ)け。俺はドスケベなお前と違って真面目な理由で服を脱げって言ったんだ」

 

 下らん事を言ってるイッセーに思わず患部を軽く叩いた直後、痛ましい悲鳴があがった。患部と言ってもイッセーの身体全部だが。因みに叩いた患部は片腕だ。

 

 と言うか、俺がアーシアに如何わしい事をしようと思ってたなんて心外だ。いくら弟と言えど、少しばかり頭にきたよ。俺はそんなに信用ないのか?

 

「ほら。アーシアも固まってないで早くしてくれ」

 

「………あ、は、はい。でも……」

 

 正気に戻るアーシアだったが、それでも服を脱ごうとするのを躊躇う様子。更には顔を赤らめている。

 

 まぁ確かに、いきなり俺の目の前で服を脱げだなんて言われたら、アーシアの反応は至極当然だ。

 

「アーシア、恥ずかしい事をさせるようで悪いけど、君がこれからやる治療に必要な行為なんだ。そうしないとイッセーの傷が治らない」

 

「っ……」

 

 俺の言葉を聞いたアーシアはハッとするように目を見開いた。俺が真剣に言ってる事で分かってくれているんだろう。

 

「後で俺を好きなだけ罵倒しても殴ってもいいから、取りあえず今は俺の言うとおりにしてくれ。この通り」

 

「……わ、分かりました」

 

「おいおいアーシア! マジで脱ぐの!?」

 

 顔を赤らめながらも決心するアーシアは服に手を掛けようとする。それを見たイッセーが驚くも俺は一先ず無視。

 

「じゃあ俺は後ろを向いてるから」

 

「は、はい。えっと……リューセーさん、全部脱げば良いんですか?」

 

「いや、下着のブラまでで良いよ」

 

「おい兄貴! それって素っ裸一歩手前じゃねぇか! そこまで脱がせる必要あんのか!?」

 

 あるから言ってるんだろうが。それにイッセー、お前にはこれから天国とも思える治療をさせてやるんだから、少し黙っててくれ。尤も、それはある意味地獄とも言えるが。

 

 俺が後ろを向くと、アーシアはシュルシュルと服を脱ぎ始めた。

 

 そしてさっきまで怒鳴っていたイッセーが急に静かになったので思わず見てみると、俺の背後で服を脱いでいるアーシアをガン見していた。

 

 アーシアはイッセーに服を脱いでるところを見られても大して気にしてないようだ。その証拠に何の声もあげていない。好きな男には見られてもOKってところか。

 

「……お、終わりました、リューセーさん」

 

 終わったと言うアーシアに俺が身体ごと振り向くと、ショーツ以外を脱いだアーシアがいた。俺を見た途端、アーシアは凄く恥ずかしそうに顔を赤らめている。

 

 ゴメンな、アーシア。こんな恥ずかしい真似をさせちゃって。後でちゃんと詫びるから。

 

「……の、脳内保存……脳内保存……!」

 

 因みにイッセーは未だに全裸一歩手前のアーシアを見ながらブツブツと呟いていた。

 

 重傷だってのに、イッセーのスケベ根性は未だ健在のようだな。これが普通の人間だったらエロい事を考えてる暇なんか無くて、激しい痛みに悶え苦しんでいるんだが。

 

 まぁこのスケベ根性がある事によって、今までの修行を乗り越えられてきた。そして今回の治療でもかなり大助かりになる。

 

 さて、イッセーがアホな事をしてる間に早く始めるとするか。

 

「それじゃあアーシア、両手を前に出しながら『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を展開してくれ」

 

「は、はいぃ……」

 

 顔を赤らめながら俺の指示に従うアーシア。

 

 そこから一対のエンゲージリング状となってる神器(セイクリッド・ギア)――『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を展開したのを確認した俺は、そっと優しく彼女の手を握る。

 

「これから『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の力を強制的に引き出す。それは当然、君に掛かる身体の負担も大きい。念の為に再度確認するが、覚悟はいいな?」

 

「………はい、お願いします!」

 

 真剣な顔をする俺の問いに、アーシアはすぐに引き締まった表情をしながら力強く頷く。

 

「結構、じゃあいくぞ」

 

 俺が自身の両手から力を送り込むと――

 

 

 パァァアアッッ!!!

 

 

「きゃあっ!」

 

 突如『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』から淡い光を発した。その光はアーシアの手だけでなく、徐々にアーシアの全身から発していく。

 

「せ、制御が……!」

 

「お、おい兄貴、これってヤベェんじゃ!?」

 

 自身から発してる淡い光を抑えようとする試みるアーシアだったが、それでも光は収まる気配はない。

 

 危険な状態だと判断したイッセーが止めさせようと言ってくるも、俺は彼女にアドバイスを送る。

 

「アーシア、両手だけで制御しようとするな。身体全てを使え。そしてイメージしろ。自分自身が『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』だと」

 

「私自身が……ですか?」

 

「そうだ。目を閉じて集中するんだ」

 

「………はい」

 

 俺のアドバイスにアーシアが辛そうな顔をするも瞑目する。次に集中しようとするのか、祈る仕草のように手を合わせようとした。

 

 すると、さっきまで発していて淡い光が徐々に抑えられようとしていく。

 

 ………まさかアレだけのアドバイスだけで、こうも簡単に制御するとは。流石は俺の妹分だ。どこかの愚弟とは違って、のみ込みが早くて良い。

 

「上出来だ。抑えた光をそのまま維持しててくれ。お次は――」

 

「え? きゃあっ!」

 

 俺がアーシアに向かって手を伸ばすと、途端にアーシアが浮かび上がる。理由は言うまでもなく、俺が力を使ってアーシアを浮かせているからだ。

 

 いきなり浮かされた事にアーシアが軽く悲鳴をあげるも、俺は気にせずそのままベッドで横たわっているイッセーと向き合わせる。

 

「い、イッセーさんが目の前に!?」

 

「おいおい兄貴! 何でアーシアを俺の目の前で浮かせてんだ!? 何かあともう少しで触れそうになるんですけど!?」

 

「イッセー、ちょっと痛いだろうが我慢してくれ」

 

「へ? 痛いっておひょぉぉおおおおお!!!」

 

 イッセーの身体の上に浮かばせているアーシアをゆっくり下ろした。二人の肌がピッタリと密着した途端、イッセーがおかしな悲鳴をあげる。

 

「はう! ご、ゴメンなさいイッセーさん!」

 

「だ、だだ大丈夫だアーシア! つ、つーかクソ兄貴ぃ! なんで俺とアーシアを密着させてんだよぉ!?」

 

「文句言ってる割には随分と嬉しそうな顔をしてるな」

 

 アーシアの柔らかい肌に密着してる事で、今のイッセーは痛みなんかどうでもいいと思ってる筈だ。痛みよりアーシアの柔肌優先と言うスケベ根性が働いてる。

 

 因みに今のイッセーはトランクス一丁の全裸一歩手前状態で、今のアーシアの姿と何ら変わりない。早い話、二人は裸で密着してるようなもんだ。もしこの場面をリアスが見たら、『何で治療させる為にこんな事してるの!?』って言いながら間違いなく俺に食って掛かるだろうな。

 

「さてアーシア、抑えてた光を解放すると同時に、イッセーの身体に光を流し込むようなイメージをしろ。」

 

「で、でもリューセーさん、こんな状態では……!? 何かイッセーさんの体温がどんどん高くなってきて……」

 

「あががが……む、無心! 無想!!」

 

 大好きなイッセーと密着してる事でアーシアは物凄く困惑気味だった。

 

 因みにイッセーはアーシアとの密着により、股間のある物を必死に抑えこもうとしてるのか瞑想していた。尤も、既にイッセーのトランクスが立派なテントとなっている。本人は気付いてるかどうか知らんが。

 

「イッセーの事は気にするな。今は傷の治療に集中しろ。ほれ、以前リアスの別荘で修行した時にやった、バラバラになった水晶玉を完全修復するようなイメージでやってみろ。早くしないとイッセーが死んでしまうぞ」

 

「っ! は、はい!」

 

 俺の更なるアドバイスにアーシアは再度瞑目する。

 

 すると抑えられていた光が解放した途端、それはイッセーの身体に流れるように進んでいく。

 

「お、お、おおおっ! な、何だぁぁあ!? 痛みがどんどん引いてる……!?」

 

「はあっ! はあっ! はあっ!」

 

 治癒の光により、イッセーの身体が回復していくも、アーシアの息が段々上がり始めてきた。

 

 今のアーシアは治癒の光を全てイッセーに注ぎ込んでいるから、かなりの負担が掛かっている。今まで両手だけで治癒していたが、今度は体全体を使っての治癒だから負担もかなり大きい。

 

「はあっ! はあっ! イッセーさん、私はどうなってもいいですから、どうか、治ってください……!」

 

「あ、アーシア!? そ、そんな顔をされると、俺、もう……!」

 

 顔が赤くなってる上に息も荒くなってきているアーシア。それを至近距離で見てるイッセーは何かが弾けそうな様子。

 

 それが十秒ほど経つと――

 

「い、イッセーさぁぁああんッ!!」

 

「あ、アーシアもうらめぇぇええええッッ!」

 

 

 パァァアアッッッ!

 

 

 アーシアが全ての光を解放したのか、途端に部屋全体を覆う輝きを発した。凄くどうでもいいが、イッセーはイッセーで気持ち悪い声を出していた。

 

「ぜえっ! ぜえっ! ぜえっ!」

 

「はぁっ……はぁっ……イッセーさぁん……。……すぅ……すぅ」

 

 光が消えると、イッセーとアーシアはさっきまでと同じく密着したままだ。

 

 本来は傷の治療の筈なんだが、イッセーとアーシアがまるで情事を終えたかのようにグッタリとしていた。

 

 そしてアーシアは力を全て使い果たしたのか、イッセーの顔を見た途端に眠ってしまう。安堵したかのように優しい笑みを浮かべながら。

 

「ふむ……どうやら成功のようだ。よくやったな、アーシア」

 

 イッセーの状態を確認する為に肩に触れて内部を探ると、さっきまでズタズタ状態だった身体の組織や、皹と骨折だらけの骨が元の状態に戻っていた。

 

 俺が力を使い果たして眠っているアーシアに賛辞を贈ると、イッセーはすぐに動き出した。

 

 密着してるアーシアから離れようと、起こさないよう優しく自身の隣に運ぶ。ムクッと起き上がると、アーシアの身体を冷やさせない為か、すぐに布団を被せた。

 

 そしてイッセーは次に俺を見た途端――

 

 

 ガッ!

 

 

「おいこらクソ兄貴ぃぃっっ!! アーシアになんつーことさせてやがんだぁぁ!!??」

 

 一瞬で俺に近づいて胸倉を掴まれた。

 

「ほう。動けるまで回復したか。流石はアーシアだ」

 

「人の話を聞きやがれ!」

 

「五月蝿い奴だ。さっきまでアーシアと密着して凄く喜んでたじゃないか」

 

 あと苦しいから放してくれ。

 

「う、うっせぇ! それとこれとは別なんだ! つーかアーシアに服を脱がしてあんなエロいことさせんじゃねぇよ! これじゃアーシアが部長みたくエッチな子になるじゃないか!」

 

 その台詞、厨房で料理中のリアスが聞いたら絶対に怒るだろうな。

 

「服を脱がせたのは治療の一環で必要だったんだよ。肌と肌で密着させる事で、『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の流れを良くする為にやったんだ」

 

「だからって――」

 

 理解はしつつも文句を言うイッセーだったが――

 

 

 グギュルルルルルルルッッッ!!

 

 

「がっ、ごっ………!」

 

 突如何かが鳴るような音がした。その直後にはイッセーは両手で腹を抑えながら両膝を床に付ける。

 

「おっ、次の反動が来たか」 

 

 イッセーの異変に俺は大して慌てることなく、次の行動に移った。




あと数話で三巻の内容が終わる予定です。

ついでに自分もアーシアのような美少女と肌を密着して治療されたいって人がいましたら手を挙げ………なくて結構です。


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第二十四話

「よしよし、たくさんあるある」

 

「お、おお……」

 

 新たなる反動に襲われてるイッセーに俺は能力を使って服を着させてすぐ、料理がたくさん並べられている一階のオカマバーへと転移する。

 

 一緒に転移させたイッセーは料理の匂いを感じた途端、反動を忘れてるかのようにジッと料理を見始めている。

 

「リューセー!? あなたいつからここに……ってイッセー!?」

 

 厨房から料理を運んできているリアスが俺達に気付くと、すぐに駆け寄ってくる。勿論倒れてるイッセーの方へ。

 

「おおリアス、ちゃんと作っていたようだな。助かるよ」

 

「そんな事より、これはどういうこと!? イッセーの怪我を治したんじゃなかったの!?」

 

 倒れてるイッセーを見たリアスが俺に抗議してくる。確かにこんな状況だと、俺がまだイッセーの治療をやってないと疑われるのは当然だろう。

 

「もう済んだよ。いまコイツは別の反動に襲われてるんだ」

 

「別の反動? それって――」

 

「め、め……」

 

「え? イッセー、大丈夫なの?」

 

 ふらりと立ち上がるイッセーに心配そうに尋ねるリアスだったが――

 

(めし)ぃぃいいいいい~~~~~!!!!!!!」

 

 

 ガツガツガツガツガツガツガツガツッッッッ!!!!

 

 

 当の本人はリアスを気にせず料理が並べられているテーブル席に即行で座り、凄まじい勢いで料理を食べ始めた。

 

 最初に食べ始めた一品目の大盛りのスパゲティなんか、たったの数十秒で完食したよ。その後すぐに別の料理を食べては、また数十秒で完食して別の料理を……という事を繰り返しやっている。

 

「はぐはぐはぐはぐはぐっ!!」

 

「………ね、ねぇリューセー。イッセーはどうしちゃったの?」

 

 猛スピードで料理を食べているイッセーを見たリアスは呆然となりながらも質問してくる。

 

「後で説明してやるから、取りあえず今は料理を作ることに集中しろ。ここからは俺も手伝うから」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 説明を要求してくるリアスに背中を押す俺は一緒に厨房へ向かった。その後は言うまでもなく、イッセーが食べるペースが落ち着くまで料理を作り続けていた。

 

 因みに――

 

「……あ、あらあら、うふふ。凄い食べっぷりですわね……」

 

「い、イッセーくんに一体何が……!?」

 

「……まるで飢えた猛獣のように凄い勢いで食べていますね」

 

 料理を運んできていた朱乃、祐斗、小猫もリアスと似たような反応をしていた。

 

「ちょっとイッセーちゃん、ちゃんと噛んでから飲み込みなさいよ」

 

「っ!」

 

 聞く耳持たず状態でずっと料理を食べていたイッセーだったが、ローズさんからの指摘で少しペースが遅くなった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~~。食った食ったぁ~~」

 

 イッセーが料理を食べて三十分後。

 

 やっと満腹になったのか、イッセーは持っていた箸をテーブルの上に置き、安堵するような息を吐いていた。

 

「あ、あんなにたくさんあった私たちの料理が……」

 

「ぜ、全部完食しましたわね……」

 

「一人で四十人分以上の料理を完食なんて……」

 

「……祐斗先輩、イッセー先輩は五十人分以上食べてました」

 

 イッセーの食べっぷりにリアス達は只管驚くばかりで、何を言えば良いのか分からない状態だった。

 

「ったく、随分と食ったもんだ。まぁそれ程の反動だった証拠なんだが」

 

「凄かったわねぇ~。お店の材料が全部無くなっちゃったわよ」

 

 後ろにいたローズさんが感心するように言い、俺はすぐに振り向いて謝ろうとする。

 

「……すいません、ローズさん。勝手なお願いにも拘らずに引き受けてくれて。費用は俺の口座から引き出して下さい」

 

「だったら材料費だけ引いておくわ。本当なら町を救ってくれたお礼として無料(タダ)にしたいけど、ワタシも商売してる身だから、こればっかりはちょっとねぇ」

 

「気にしないで下さい。こっちも色々とあなたに助けられてますし」

 

 これは両親に内緒にしているが、俺は密かに銀行口座を作っていた。

 

 春・夏・冬休みでの長期休業を利用して各地を転々と旅する際、どうしても金が必要だった。いくら聖書の神(わたし)でも無一文で旅なんかはしない。何をやるにしても金が必要だ。

 

 その為、俺は各地(主に海外)で稼いだ金を協力者のローズさん経由で換金。更には彼の名義で作った銀行口座に預金もしてもらった。

 

 未成年である人間の俺がどんなに上手くやっても、万が一にもバレたら家族に迷惑を掛けてしまう恐れがあるので、お金に関する事は全てローズさんに任せるしかない。彼は一切嫌な顔をせずに引き受けてくれるから、非常に大助かりだ。

 

 因みに金を稼いだ方法は色々やった。例えば人跡未踏の秘境にある鉱山から宝石を少し採掘し、能力によってある程度加工した宝石を宝石店で売り捌いた。その時は日本円にして一千万以上で売れて驚いたよ。聖書の神(わたし)が加工した宝石を教会が知ったら、それ以上の額を出すと思うが。まぁ当然売った金は即行でローズさんに預けたけど。

 

 とまあ、ローズさん名義で作った俺の口座にはそれなりの額がある。だから今回イッセーが食べた料理の代金を、俺の口座から引かれても大したことは無い。

 

「それじゃあワタシは片づけをしておくから、悪魔ちゃん達の相手はリューセーちゃんに任せるわ。それと後で領収書を渡すから」

 

「分かりました」

 

 俺が頷くと、ローズさんは即行で料理が無くなった皿を全て厨房へと運んでいった。余りの素早い行動にリアス達が唖然としていたが。

 

「ね、ねぇリューセー。あの人って一体何者なの? 外見とは裏腹に、普通の人間とは思えない何かを感じるのだけど」

 

「そこは俺の知り合いだからって事で納得してくれ」

 

「……まぁ、そういうことにしておくわ」

 

 暗に詮索はするなと言ってる俺の言葉にリアスはすぐに引き下がった。いくら協力者だからって、流石に全てを教えるほど俺はそこまでお人好しじゃない。 

 

「それはそうとイッセー、調子はどうだ?」

 

「おう、すこぶる良いぜ。出来ればあとデザートを二皿頼みたいんだけど」

 

『ええっ!?』

 

 あれだけ食ったにも拘らず、イッセーはまだ食べたい発言をする事で驚くリアス達だったが――

 

「お前まだ食えるのかよ……。残念だが、もう材料は無いから作れないぞ」

 

「あ、そうなの? う~ん……ま、いっか。腹八分目っていうし」

 

『あれで腹八分目!?』

 

「……私だってあれくらい……」

 

 最早人間ではないじゃないかと思うイッセーの発言に若干引いていた。小猫は少しばかり対抗心を燃やしていたが。

 

 その数秒後、リアスは何も聞かなかった事にしようと話題を変えようとする。

 

「リューセー、そろそろ教えてくれない? どうしてイッセーは傷が治った後に、あんな凄い勢いで料理を食べたの?」

 

「あれも龍帝拳の反動だ。傷が治ったと身体が判断したら、次はエネルギーを欲する為に極限なまでの空腹状態となる。あの技は能力上昇と引き換えにかなりの体力を奪われるから、無理して使い続ければ今回のイッセーみたく超空腹状態になる」

 

「……それであの時、私たちに料理を作れって言ったのね。イッセーにエネルギー補給をさせるために」

 

「そういうことだ」

 

 もしすぐに料理を用意してなければ、イッセーは下手したら餓死していた。それだけイッセーはかなりの無茶をしていた証拠でもある。

 

「……悪い兄貴。俺、無我夢中で……」

 

 リアス達に料理を作らせた理由が分かったイッセーは俺に謝ろうとしてくる。

 

「ま、ああでもしなければコカビエルに深手を負わせることが出来なかったからな。ってか俺に謝る前に、リアスやソーナに謝ったほうが良いと思うぞ。学園の新校舎殆どが崩壊してたし」

 

「うっ!」

 

 俺が指摘した途端、イッセーは罰が悪そうな顔をした。そして恐る恐ると言った感じでリアスを見ようとする。

 

「え、えっと……すみません、部長。部長や会長の学園をわぷっ!」

 

「バカね。そんなこと気にしなくていいのよ」

 

 謝ろうとしてるイッセーに突然リアスが抱擁した。リアスはイッセーの顔を自分の大きな胸に押し当てている。

 

「ぶ、部長!? あ、当たってますよ……!」

 

「寧ろ私が謝りたいのよ、イッセー。私たちを守る為に大事な腕を犠牲にしたのに、私はただ見ていただけなんだから。眷族候補のあなたに全部任せていた自分が恥ずかしいわ。だから、そのお詫びをさせて」

 

「い、いや、部長もちゃんと戦ってましたよ?」

 

「あなたがそう言っても、私の気が済まないのよ。だから今夜は――」

 

「はいはいリアス。そういうR指定な話は二人っきりの時にしてくれ。お前にはイッセーにお詫びをする前に、他にもやる事があるだろ? そこにいる祐斗の事とか」

 

「っ!」

 

 リアスがこの場でイッセーとイチャ付こうとするのを阻止する俺は話題を変えた。すると俺に名指しをされた祐斗は急に罰の悪そうな顔をする。

 

 するとイッセーも思い出したように、リアスから離れてすぐに祐斗に近づこうとする。

 

「良かったじゃねぇか、色男! あん時に見た聖魔剣、凄かったな。白いのと黒いのが入り混じっててキレイだったよ。出来たらもう一回見せてくれねぇか?」

 

 祐斗がフリードの戦いの時に見せた聖魔剣に興味を抱いたのか、イッセーは出すように催促してくる。

 

「イッセーくん、僕は君に迷惑を――」

 

「別にもう気にしてない。細かいの言いっこなしだ。それに、いったん終了ってことでいいだろう、祐斗? 聖剣もさ、おまえの仲間の事もさ」

 

「うん、そうだね。ありがとう、イッセーくん」

 

 イッセーにまた名前で呼ばれた事に嬉しく思ってるのか、凄く良い笑顔を見せる祐斗。同い年で同性のイッセーに名前で呼ばれて、さぞかし嬉しいんだろう。

 

「ってかイッセー、気付いてないようだから言っとくけど、お前いつのまにか呼び方が『木場』から『祐斗』になってるぞ?」

 

「え? …………~~~~!! な、何で俺は何の違和感も無く木場を名前で呼んでんだよ!?」

 

 やっと気付いたのか、イッセーは急に鳥肌が立ったように身体を振るわせるだけじゃなく顔も真っ青になっていた。

 

「イッセーくん、僕としては名前で呼んでくれたほうが嬉しいな」

 

「却下! お前の呼び方は木場だ! 木場で良いんだ!」

 

 こらこらイッセー、そこまで嫌そうな顔をしながら言うなよ。祐斗が地味にショックを受けてるじゃないか。

 

「良いじゃないか、イッセー。別に祐斗を名前で呼ぶくらい」

 

「んな事したら学園の女子達に変な噂を立てられるから嫌なんだよ!」

 

 ………ああ、そう言われれば。確かにウチの学園の女子達の一部には、おかしな思考してるのがいるんだったな。

 

 ってか寧ろ、名前で呼び合うだけで変な方向に考える女子達の方がおかしいんだけど。

 

 取りあえずイッセーには今後、祐斗を名前で呼ばせるよう説得させるとしよう。俺からも祐斗に言いたい事もある。

 

「祐斗、俺はイッセーと違ってお前に言いたい事がある」

 

「………はい」

 

 今度は俺が言おうとすると、祐斗はイッセーと違って覚悟を見せた顔をする。俺の指示を無視して独断行動をした事で、処罰を受けられると思ってるんだろうな。

 

「もう憎しみに囚われるなよ? お前はリアスの『騎士(ナイト)』なんだ。主を悲しませるようなことはするな。お前以外にリアスの『騎士(ナイト)』を務まる奴がいないんだからな。他にも言いたい事はあるが、後はリアスに任せる」

 

 最後の締めとしてリアスに振ると、俺に対して呆れ顔をしつつも祐斗の方を見る。

 

「祐斗、よく帰ってきてくれたわ。それに禁手(バランス・ブレイカー)だなんて、主として誇れるわ」

 

「……部長、僕は……部員の皆やリューセー先輩に……。何よりも、一度命を救ってくれたあなたを裏切ってしまいました……。お詫びする言葉が見付かりません……!」

 

「でも、あなたは帰ってきてくれた。それだけで十分。みんなの思いを無駄にしてはダメよ」

 

「部長……。僕はここに改めて誓います。僕、木場祐斗はリアス・グレモリーの眷族――『騎士(ナイト)』として、あなたと仲間たちを終生お守りします」

 

「ありがとう、祐斗」

 

 決意を聞いたリアスは、すぐに祐斗の頬を撫で、そのまま自身の胸へ抱き寄せた。

 

 そして――

 

「さてリアス。決意も聞けたから、これから罰をやらないといけないな」

 

「そうね」

 

「………え?」

 

「おいおい、何そんな意外そうな顔をしてるんだ? 勝手な事をしておいて何の咎がないと思ったら大間違いだぞ」

 

「リューセーの言うとおりよ。祐斗、勝手な事をした罰として、お尻叩き千回ね」

 

「ええ!?」

 

 祐斗に罰を与えようと、リアスの手が紅い魔力に包まれた。これからやろうとするリアスはやる気満々で、ニッコリと微笑んでいる。

 

「タハハ! こりゃいいや! 頑張って、耐えろ、よ………」

 

 

 バタンッ!

 

 

『イッセー(くん・先輩)!?』

 

 愉快そうに言ってるイッセーが、突然倒れた事に誰もが驚いた。

 

「安心しろ。急な眠気に襲われて眠り始めただけだ。イッセーが使った龍帝拳には色々な反動があって、エネルギー補給を終えた次は、自身の身体を休ませる為の休眠状態に移ったんだ。ってな訳で、俺はこれからイッセーを部屋に運ぶから」

 

 理由を説明した事によって、リアス達は安堵した。

 

 俺がイッセーをベッドに寝かせるよう部屋に運んでると、何かを叩く音と祐斗の悲鳴が聞こえた。




次でやっと三巻のエピローグです。


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第二十五話

今回でやっとエピローグです。長かった。


「で? 君は結局コチラ側に来たって訳か」

 

「ああ。けれど今でも、この道を選んで良かったのかと悩んでいるがな」

 

「まだ悩んでるのかよ……」

 

 コカビエル襲撃から数日後。

 

 俺達は何事も無かったかのように、いつも通りの平穏な時間を過ごしていた。

 

 放課後の部室に来た俺は、緑のメッシュを入れた女子――ゼノヴィアと話している。駒王学園の制服を身に纏っている彼女の話を聞いて俺は少し呆れていたが。

 

 すると、部室の扉が開いてイッセーとアーシアが入ってくる。それを見たゼノヴィアはすぐにイッセーに話しかけようとする。

 

「やあ、赤龍帝」

 

「……どこかで感じたオーラかと思ったらやっぱりお前だったか、ゼノヴィア」

 

 ゼノヴィアからの挨拶にイッセーとアーシアが驚いていた。イッセーはゼノヴィアが部室にいたのをオーラで感じていたのか、アーシアほど驚いてはいないが。

 

「ってか、何でおまえがここにいるんだ? それにお前のオーラが悪魔みたいな……」

 

「みたいではなく、本当の悪魔に転生したんだ」

 

「………は?」

 

 背中から悪魔の翼を出すゼノヴィアにイッセーは言葉を失う。

 

 そりゃそうだ。教会出身のゼノヴィアが悪魔になったなんて誰も思わないだろう。

 

 イッセーの反応にゼノヴィアはふんと鼻息をつきながら理由を言う。

 

「さっきまで兵藤隆誠と話していたんだが、神がいないと知って、破れかぶれで悪魔に転生したんだ。リアス・グレモリーから『騎士(ナイト)』の駒を頂いた」

 

 もし此処で『実は俺は人間に転生した聖書の神でした』、なんて言ったらゼノヴィアはどんな反応するかな? 言うつもりは無いけど。

 

「因みにデュランダルが凄いだけでゼノヴィア自身は大したこと無かったから、駒一つの消費で済んだようだぞ。ま、デュランダルを使いこなせてないから当然と言えば当然だけど」

 

「……兵藤隆誠、それは私に対する嫌味か?」

 

「じゃあ否定出来るのかな?」

 

「……………と言うわけで、この学園にも編入させてもらった」

 

 おい、否定出来ないからって俺の問いを聞かなかったように話を戻すなよ。まぁ別にいいけどさ。

 

「今日から高校二年の同級生でオカルト研究部所属だそうだ。よろしくね、イッセーくん♪」

 

「……真顔で可愛い声を出すな」

 

「イリナの真似をしたのだが、中々うまくいかないものだな」

 

「……あれってイリナの真似なのか?」

 

 ゼノヴィアの言動に若干困惑しているイッセー。

 

 何かゼノヴィアって日常生活だと非常識な振舞いをしてるんじゃないかと思う。教会はこの子にどんな教育をさせたんだろうか。

 

「リアス、今更だがこの子を眷族にして良いのか?」

 

「デュランダル使いが眷族にいるのは頼もしいわ。これで祐斗とともに剣士の二翼が誕生したわ」

 

 どうやらリアスはゼノヴィアを眷族にする事に大して気にしてないようだ。細かい事にこだわらないのがリアスらしい。

 

 俺としてはゼノヴィアを眷族にしたら教会側が黙ってないと思うんだが。未熟とは言え、デュランダル使いであるゼノヴィアは教会からしたら貴重な戦力だ。

 

 ゼノヴィアを悪魔に転生させたのを口実に、何かしてこなければいいんだが。

 

 尤も、下らない事を仕出かすなら、聖書の神(わたし)は教会側が今まで密かに揉み消した悪徳信徒共の不祥事を公表するつもりだ。当然それは現教会上層部の一部も含まれている。

 

「にしてもゼノヴィア、本当に悪魔になってよかったのか?」

 

「神がいない以上、もはや私の人生は破綻したに等しいからな。だが、敵だった悪魔に下るというのはどうなんだろうか……。いくら魔王の妹とはいえ……私の判断に間違いはなかったんだろうか……。お教え下さい、主よ! あうっ!」

 

 イッセーの質問に答えた後、急にぶつぶつと呟き始めたかと思いきや、今度は祈ってダメージを受けてる。

 

 悪魔になったんだから祈っちゃダメだろうが。世話の掛かりそうな子だな。イッセーも俺と同じく完全に呆れ顔になってるし。

 

 ま、聖書の神(わたし)は君が悪魔になっても見捨てたりはしないよ。

 

「そういやイリナは?」

 

 再度質問するイッセーに痛がっていたゼノヴィアが急に真面目な顔になった。

 

「………エクスカリバーを合わせた五本を持って本部に帰ったよ」

 

 するとゼノヴィアは彼女と空港で別れた経緯を話し出す。それを聞いた俺達は何とも言えなく複雑な気分だった。

 

 フリードとの戦いで統合したエクスカリバーは祐斗とゼノヴィアによって破壊されたが、アレは芯があれば錬金術で再び聖剣に出来る。だから破壊されても然程問題はないから、聖剣奪還の任務は成功だ。悪魔に転生したゼノヴィアを除いて。

 

「イリナは私より信仰が深い。神の不在を伝えたら、心の均衡はどうなるか……。要するに私は、最も知ってはいけない真実を知ってしまった厄介者――異端の徒になってしまったのさ」

 

「……成程な。それで悪魔に転生したと言う訳か」

 

 ったく。真実を隠したいとは言え、都合の悪い事を知った信徒は異端として排除かよ。

 

 不謹慎だが、彼女がコッチに来て正解だったかもしれない。(わたし)と死を知って排除されたなら、聖書の神(わたし)がこの子を守らないとな。

 

 俺がそう決意してると、ゼノヴィアは途端にアーシアへ視線を移す。

 

「君に謝らないといけないな、アーシア・アルジェント」

 

「え?」

 

「主がいないのならば、救いも愛もなかったわけだからな。すまなかった、キミの気が済むのなら、私を殴ってくれて構わない」

 

「そ、そんな!」

 

 頭を下げるゼノヴィアに戸惑うアーシア。

 

 アーシアもアーシアで、聖書の神(わたし)の死を知った後、一時的に精神の均衡が危なかったよ。まぁその時は彼女を優しく抱きしめた際、心を穏やかにさせる『安らぎの加護』を施したから元に戻ってくれた。

 

「尊敬されるべき聖剣使いから、禁忌を犯した異端の徒。私を見る目を豹変した彼等の態度を忘れられないよ。きっとキミも同じ思いを……」

 

 ………これはちょっとばかり熾天使(セラフ)のミカエルに言っておかないといけないな。

 

 俺が内心顰めてると、アーシアは優しそうな顔でゼノヴィアに話しかけようとする。

 

「ゼノヴィアさん、私はこの生活に満足しています。大切な人に――大切な方々に出会えたのですから。本当に幸せなんです」

 

 聖母のような微笑でアーシアはゼノヴィアを許した。

 

 やれやれ、アーシアには敵わないな。…………流石は俺の妹分だ。

 

「そうか。……それと、キミに頼みがあるんだが」

 

「私に?」

 

「ああ。今度、私に学園を案内してくれるかい?」

 

「はい!」

 

 笑顔で問うゼノヴィアに笑顔で答えるアーシア。和解して仲良くなるのは凄く良いことだ。

 

「我が聖剣デュランダルにかけて――。そちらの聖魔剣使いとも手合わせ願いたいものだね」

 

「望むところだよ」

 

 祐斗も笑顔で返すと、ゼノヴィアは次に俺を見る。

 

「兵藤隆誠――ああ、すまない。この学園に入学した以上、先輩と呼ぶべきだな」

 

「好きに呼んでくれ。兵藤でも隆誠でも、君に合った呼び方で構わん」

 

「では隆誠先輩と呼ばせてもらう。早速頼みがあるんだが……私を先輩の弟子にしてほしい」

 

「…………はい?」

 

 突然の発言に俺だけじゃなく、イッセー達も唖然とする。

 

 弟子にして欲しいって……何言ってんの、この子は?

 

「えっと……弟子になろうとする理由を言ってくれるかな?」

 

「簡単なことだ。以前に隆誠先輩との戦いで負けて、力の差を思い知らされたと痛感してね。それに私やイリナが勝てなかったエリガン・アルスランドやコカビエルと戦えるあなたの実力を見て、私が弟子になれば強くなれると思ったんだ。聞いた話だと、あなたは兵藤一誠を鍛えてるらしいな。だから私も兵藤一誠と同じ修行をさせてほしい」

 

 …………う~ん。この子を守るとは決めたけど、弟子にする気は無いんだよなぁ。ってか、今の俺はイッセーを鍛えるだけで手一杯だし。ついでに今のゼノヴィアにはイッセーの修行についていけないと思う。

 

「おいゼノヴィア、悪い事は言わない。兄貴の弟子になるのは止めとけ」

 

「そうだよ、ゼノヴィア。僕だってリューセー先輩の弟子になりたいのを我慢してるんだから」

 

 ……祐斗も祐斗でまだ俺の弟子になりたがってるのか。勘弁してくれよ。

 

 ゼノヴィアがイッセーと祐斗の発言に顔を顰めると、リアスがポンッと手を鳴らす。

 

「その話は一先ず置いておきなさい。さ、新入部員も入ったことだし、オカルト研究部も活動再開よ!」

 

『はい!』

 

 全員が元気よく返事をする。その直後、ゼノヴィアが再び俺に弟子入りをしてきて断るのが少し大変だった。

 

 

 

 

 

 

「……一人で過ごすのは久しぶりだな」

 

 休日。俺は自分の部屋でまったりと過ごしていた。

 

 いつもだったらイッセーの修行相手をしているが、当の本人は本日約束がある為に出掛けている。

 

 その約束は前々から計画していたもので、半日遊び倒すプランらしい。イッセーの他にアーシア、祐斗、松田、元浜も参加している。他にもアーシアに余計な事を教えている桐生と言う女子もいるみたいだが。

 

 イッセーが出掛ける前に『兄貴も参加しないか?』と声をかけていたが、俺は『今日は久しぶりに家でゆっくりしたい』と言って断った。アーシアは俺が参加しない事に残念そうな顔をしていたが。

 

 因みにリアスはイッセーと同じく出かけてて、朱乃と一緒にショッピングを楽しんでいるらしい。何を買いにいってるかは知らないが、恐らくイッセーが喜びそうなもの――水着を買いに行ってるんじゃないかと思う。この前にリアスの話で、休日を利用してプールを好き放題に使えるとか言ってたし。

 

 すると、俺の腹から虫が鳴り響く音が聞こえる。要するに腹が減った。その直後に時計を見ると時間は十二時前。昼食を食べるに丁度良い時間だ。

 

 今日はイッセー達だけでなく、父さんや母さんも出かけているから家には俺一人だけ。だから昼食は自分で用意しないといけない。

 

「……何か適当に作るか」

 

 そう思った俺は一階にある台所へ行こうと部屋から出ようとする。

 

 今まで誰かに料理を披露していたが、いざ自分だけが食べる料理となると、簡単なもので済ませてしまおうという安易な考えになってしまう。

 

「今日の昼飯はチャーハンでも……っ!」

 

 部屋のドアに手を掛けようとすると、突然背後から妙な気配がした。 

 

 存在感が薄くても強い力を持った独特な気配、この気配に俺は覚えがある。

 

 こんな気配を持っているのは――

 

「聖書の神、また来た」

 

 ――やっぱりアイツしかいないよなぁ。

 

 俺がそう思いながら振り向くと、ベッドの上にチョコンと座っている長い黒髪の小柄な少女――オーフィスがいた。その正体は最強と謳われる存在である『無限の竜神(ウロボロス・ドラゴン)』。

 

「今日は何の用だ、オーフィス?」

 

 安らかな休日から物騒な休日にならなければ良いなと思いながら、俺は彼女が来た理由を尋ねようとした。




次回からは四巻の話となります。


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番外編

今回は3巻の終わり部分で、オーフィスが来た話の番外編になります。


「我、勧誘に来た。禍の団(カオス・ブリゲード)に来て欲しい」

 

「もうお決まりの台詞になってるな」

 

 オーフィスが来た理由を聞いて、俺――兵藤隆誠は呆れるように嘆息する。何度も断ってるのに相も変わらず懲りない竜神様だ。

 

「あのさぁ、オーフィス。俺はそんな組織に入らないって、何度も言ってる筈だぞ。勿論理由も含めて、だ」

 

「………………」

 

 断固拒否の姿勢を見せるが、それでもオーフィスは諦めようとする感じがしなかった。

 

「と言うか、何故そこまで聖書の神(わたし)に固執する? 今の聖書の神(わたし)はお前から見れば取るに足らない存在だと言うのに」

 

「……我にはどうしても、聖書の神が必要。次元の狭間に静寂を得たい」

 

「答えになってないんだが……」

 

 藁にも縋る感じで弱い聖書の神(わたし)に協力を求めてるってか? それはそれで余計に嫌なんだが。

 

 ま、それをコイツにそう言ったところで諦めようとしないんだよな。それだけコイツはグレートレッドを倒し、次元の狭間に戻って静寂を得たいと純粋に願ってるからな。

 

 けれど、前にも言ったように、今のコイツに次元の狭間を任せてしまったら大変な事になるだろう。

 

 俗世に長く居続けてる今のオーフィスは、何事にも無関心だった嘗てのオーフィスとは違う。下手したら次元の狭間のバランスを崩してしまう恐れがある。

 

「……まあいいか。取り敢えず再度言うが、聖書の神(わたし)禍の団(カオス・ブリゲード)に絶対入らないよ。興味無いからな」

 

「………なら、どうすれば来てくれる? 望むものあれば、我、最大限に叶える」

 

「だからぁ……」

 

 そろそろいい加減にして欲しい。オーフィスは一体、何度同じ事をすれば気が済むんだろうか。いくら純粋な願いだからって、聖書の神(わたし)でも流石に嫌になる。

 

 もうこれ以上の勧誘は嫌だから、いつものように帰ってもら………あ、そうだ。

 

「なぁ、オーフィス。これからご飯作るが、良かったら一緒に食べないか?」

 

「……何故?」

 

「折角家に来たんだ。この際だから、お前に食事の楽しみってやつを教えてやるよ」

 

 オーフィスは俗世に居続けても、次元の狭間で生まれ育ったから、食事を取る必要はない。益してや無限を司る神だから、腹が減るなんて事も断じて無い。

 

「我、人間になった聖書の神と違って食事など不要。我が必要なのは――」

 

「そう言うなって。食事ってのは存外バカに出来ないぞ。『無限の竜神(ウロボロス)』のお前でも絶対に嵌るからさ。さ、行こう」

 

「――だから、我には」

 

 断るオーフィスだが、俺は気にせず彼女の手を掴んでリビングへと連れていく。俺に手を繋がれて案内されるオーフィスは抵抗をせず、小動物のようにトコトコと歩いている。

 

 そしてリビングに着いた俺はオーフィスを椅子に座らせ、すぐに台所へ移動して料理を作ろうとする。

 

 台所にある材料を取り出したのは、パスタ、ピーマン、玉葱、ウインナー、ケチャップ、その他の調味料等々。これらの材料で作る料理はスパゲティナポリタンだ。

 

 コレを作るのに少しばかり時間を要するが、無理矢理連れてきたオーフィスを待たせる訳にはいかないので、今回は能力を使って仕込みの時間を省く事にした。乾麺状態のパスタを一瞬で茹で、ピーマンと玉葱とウインナーを切った状態にさせようと、パチンと指を鳴らしただけで一瞬で終わる。次に用意したフライパンを使って材料を炒め、ケチャップや調味料をかけて、あっと言う間に完成させた。

 

「さぁオーフィス、召し上がれ。そのフォークを使って食べるんだ。こんな風にな」

 

「………………」

 

 皿に乗ってるスパゲティナポリタンを運んで、オーフィスの眼前にあるテーブルの上に置いてすぐ食べるよう促す。向かいに座ってる俺は食べ方を教えようと、自分用に用意したスパゲティナポリタンをフォークで食べる。

 

 いきなり出された料理にオーフィスは無言になりながらも、俺に言われたままフォークを持って真似するように食べようとする。

 

「(モグモグモグ)……やはり我に食事など不要。食べても意味がない」

 

「そう言ってる割にはフォークを口に運ぶペースが早くなってるじゃないか」

 

 オーフィスは無表情でありながらも、スパゲティナポリタンを食べ続けている。しかも気に入ったのか、ずっとソレを注視しながら食べていた。

 

 そして更にある料理がなくなると、途端に寂しそうな顔をした。まだ食べたりないんだろうか、今度は俺が食べてるスパゲティナポリタンをジッと見始める。

 

「……………………」

 

「コラコラ、人の皿にフォークを突っ込もうとするな。おかわりならあるよ。ってか、ちょっとは口を拭けって」

 

「ん……」

 

 おかわりを用意する為に空となった皿を運ぼうとする前に、オーフィスの口の周りがケチャップによって赤かった。その為、俺はティッシュで彼女の口を拭く。

 

 気のせいか? 何か今の俺、子供の世話をしてるような感じなんだが。

 

 

 

 

 

 

 昼食が終わり、用件が済んだオーフィスは帰ろうとしていた。

 

「我、帰る」

 

「そうか。で、食事の感想は?」

 

「…………興味深い。我、食事覚えた。聖書の神、我、いずれまた食事に来る」

 

「それは構わないけど、出来れば居候の悪魔(リアス)がいない時に来てくれ」

 

 家にオーフィスが来たなんてリアスが知ったら、真っ先に俺に抗議するだけじゃなく、冥界にいるサーゼクスにも報告して大騒ぎになるだろう。そんな面倒な事は出来るだけ避けたい。

 

「………………」

 

「どうした?」

 

 俺の発言に何か思い当たるところがあったのか、オーフィスはまたもや無言でジッと俺を見る。

 

「……我、不可解。聖書の神、何ゆえに滅さず、悪魔と共棲してる? 我が知る限り、悪魔と敵対していたはず」

 

「今の聖書の神(わたし)はもう悪魔と敵対する気なんてないよ。尤も、向こうが敵対するなら話は別だが」

 

「……やはり不可解。聖書の神、以前、神の力が制限されてると言ってた。それ故に悪魔と共棲? 制限されてるなら、我が力を与える」

 

 そう言いながら足元の影から蛇を出そうとするオーフィスに、俺はすぐ待ったをかけようとする。

 

「いやいや、そんな理由じゃないよ。だから蛇は戻せ」

 

 オーフィスが出した蛇は足に絡み付こうとするも、俺は直ぐに離れようとする。

 

「何故逃げる?」

 

「前も言ったが、俺はそんなのいらないよ。制限されてると言っても、俺は今のままで充分満足してる。それに人間の身である今の俺に、それを取り込める程の余裕な容量(キャパシティ)はない。もし取り込んだら最後、聖書の神(わたし)能力(ちから)が暴走する恐れがある」

 

「……暴走?」

 

「ああ。お前も知っての通り、聖書の神(わたし)能力(ちから)は人間がそう易々と使える物ではない。今は能力(ちから)の大半を抑えたまま、必要最低限までしか使えない状態だ。まぁ、鍛錬をする事によって使う範囲が少しずつ広がってきてるけどな」

 

「………成程」

 

 理由を言う俺にオーフィスはコクコクと納得するように頷いている。

 

 やっと分かってくれたかと俺が安堵してると――

 

 

 ギュウッ!

 

 

「……オーフィス、何のつもりだ?」

 

 何を考えたのか、オーフィスがいきなり宙に浮いてそのまま正面から俺に抱きついてくる。突然の事に俺は思わず固まってしまうも、すぐに問い質そうとした。

 

能力(ちから)が使い切れないなら、我が補う。聖書の神、食事の礼をする」

 

「いや、そんな礼はいらな――がっ!」

 

 

 ドクンドクンドクンッ!

 

 

 すると、抱きついてるオーフィスが俺の身体にオーラを流し込んできた。それは通常の物とは違い、神の力そのものだった。

 

 対象者の力を上昇させるオーフィスの蛇とは違い、これは『無限の竜神(ウロボロス・ドラゴン)』としての本来の力。その力を送り込んでる事によって、俺の身体――特に心臓が激しく鼓動していた。

 

「た、頼むオーフィス……! これ以上は……!」

 

 オーフィスを引き剥がそうとするが、力を送り込まれてる事によって俺は思うように動く事が出来ない。

 

 それどころか聖書の神(わたし)能力(ちから)が暴走するように活発化してきた為、今は抑えるのに必死だった。

 

「もう少し我慢。そうすれば、本来の力と姿を取り戻せる」

 

「止めてくれ……! 俺は……聖書の神(わたし)は……もうあの姿には……!」

 

 嘗て天界を君臨していた聖書の神(わたし)の姿に戻ったら――

 

 

「がああぁぁぁあああああ~~~~~~!!!」

 

 

 オーフィスの力を限界以上に流れ込まれた俺は、もう耐え切れなくなったかのように家の中で大きく叫んでしまった。その直後、リビングは俺から発した眩い光で埋め尽くされていく。

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

「どうかしましたか、イッセーさん?」

 

「あ、いや……急に兄貴がバカでかいオーラを出した気がしてな」

 

「リューセーさんが、ですか?」

 

「ま、兄貴のことだから、一人で何かしらの実験する為に力を放出してるんだろうよ。それより次はアーシアの番だぞ。あのワンピン落とせばスペアだ」

 

「は、はい! 頑張りますぅ……」

 

「…………(にしてもさっき感じた兄貴のオーラ、今までとは全く別物だったな。何か遭ったのか?)」

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

 オーフィスが離れ、俺――兵藤隆誠は両膝と片手を床に付き、もう片方の手は心臓がある左胸を押さえていた。激しく鼓動していた心臓は落ち着いても、俺は未だに息が上がったままだ。

 

「聖書の神、本来の姿に戻った」

 

「……お、オーフィス、お前なぁ……っ!」

 

 オーフィスの台詞に俺は思わず怒鳴ろうとするが、近くにあった鏡を見た途端に驚愕した。

 

 鏡に映ってる俺の顔は人間の兵藤隆誠じゃない。嘗て天界を君臨していた聖書の神(わたし)の顔だった。しかも格好もさっきまで着ていた普段着じゃなく、純白のローブを身に纏い、頭には王冠を被っている。

 

「はぁっ、はぁっ……。まさか、聖書の神(じぶん)の姿を再び見る事になるとはな……」

 

 聖書の神(わたし)の姿だと認識した事により、段々冷静になっていく。そして呼吸も漸く落ち着き、俺はすくっと立ち上がりながらオーフィスを睨む。

 

「どうしてくれる、オーフィス? 食事の礼とは言え、これはいくらなんでもやり過ぎだ」

 

「だけど、これで聖書の神の能力(ちから)は制御できる。もう暴走の心配はない」

 

「そりゃそうだが……」

 

 確かに元の姿に戻った途端、完全とは言えないが能力(ちから)の大半を抑える必要がなくなった。もう暴走する恐れはない。今はこの姿で『終末の光』などの聖書の神(わたし)本来の能力(ちから)を何度も連射する事が出来る状態だ。

 

「聖書の神、食事の礼をした。我、また来る」

 

「おい! この状況で……ってもう帰ったし!」

 

 用件が済んだオーフィスは俺に背を向け、そのまま転移術を使って姿を消した。

 

 オーフィスとしては純粋に礼のつもりでやったんだろうが、こっちとしちゃ有り難迷惑だぞ! こんな姿を家族に見られたら大問題だよ!

 

 ったく。こんな事になるなら食事をさせるんじゃなかった! …………けどまぁ、オーフィスのやってくれた事は正直言って助かった。

 

 ここ最近、聖書の神(わたし)能力(ちから)は抑えるのに限界を感じてた。先日本気で戦ったエリーや、コカビエルを仕留める際に使った『光牢結界』を使った事が原因で、兵藤隆誠(おれ)の身体の崩壊が始まってきた。尤も、それは微々たる過ぎないが。

 

 今後もアイツ等のような強敵と戦い、聖書の神(わたし)能力(ちから)を使い続ければ、兵藤隆誠(おれ)は間違いなく死んでいただろう。だったら初めから使わなければ良いと思われるだろうが、聖書の神(わたし)赤龍帝(おとうと)アーシア(いもうと)、そして両親を守る為には必要な事だ。能力(ちから)があって何もしないなんて事をしたら、聖書の神(わたし)は自分自身を許せなくなる。

 

 けれど、その心配はもう無くなった。オーフィスによって神の力を与えられ、聖書の神(わたし)本来の姿に戻れば、自身の能力(ちから)の暴走による身体の崩壊は無い。

 

「……その前に、元の兵藤隆誠(おれ)に戻らないとな」

 

 いつまでもこんな姿でいる訳にはいかない。もし天使達が聖書の神(わたし)の存在を感知したら非常に不味いし。

 

 試しに能力(ちから)を抑えながら頭の中で念じると………簡単に人間の姿へ戻る事が出来た。思わず拍子抜けしたよ。

 

 てっきり難しい方法じゃなければ戻らないと思っていたが、実はそうでもないようだ。恐らくオーフィスは俺が今後の日常生活に支障をきたさないよう、神の力だけでなく人間の姿に戻れる手順も組み込んでおいたんだろう。

 

 取り敢えず、聖書の神(わたし)能力(ちから)を改めて確認する必要がありそうだ。今日はイッセー達や両親がいなくて本当に良かったよ。

 

 っと、確認する前に先ずは食器を片付けるか。ついでにオーフィスと食事をしてた痕跡も消さないと。




かなり無理矢理な展開だと思われるでしょうが、どうかご容赦下さい。


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停止教室のヴァンパイア
第二十六話


漸く四巻です。

今回はプロローグ的な話ですので短いです。

それではどうぞ!


「だぁっ! また負けたぁ!」

 

「君と対戦するために随分やりこんだからなぁ。ここのところ、ずっとご無沙汰だっただろ?」

 

「あ~、すみません。色々あったもんで」

 

 こんばんは、兵藤一誠です。

 

 今日は休日で悪友の松田や元浜と計画した半日遊び倒すプラン中、急に悪魔のお仕事が入ってしまいました。

 

 急と言ってもプラン終わり間近に電話が来たから、そこまで慌てることは無かったが。その後は俺と同じオカ研のアーシアと祐斗と小猫ちゃんには事情を話した後に抜け出し、即行で依頼者の元へ急いだ。

 

 因みに依頼者とは既に何度も会ってるから場所は既に分かっていた。だからすぐに前以て兄貴から貰った転移用の札を使って突然依頼者の家に入っても、向こうはもう分かってるように歓迎してくれる。

 

 名前はまだ知らないが、依頼者は黒髪のワルそうな風貌の男。しかも相当なイケメンだ。ワル系のイケメンが好きな女子だったら一発で落ちると思う。

 

 で、現在俺はその人と格ゲーをやっている。今回依頼者からの依頼は『ゲームの相手をして欲しい』からだ。

 

 悪魔代理の人間(おれ)とは言え、悪魔を呼ぶのにそんな理由で召喚するのはおかしいだろうと思われるだろう。だけどこの人の依頼は日常的なものばっかりだ。

 

 『酒の相手をして欲しい』とか、『夜釣りに行こう』とか、『ゲーセンに連れてって欲しい』等々あった。これって悪魔とか関係無くねって何度も思った。

 

 まぁ、未だ契約件数がワーストワンの俺が文句を言う訳にはいかない。部長の為にも、これは仕事だと思ってやんないとな。

 

 しかし、この人って毎回俺を指名するんだよな。堕天使コカビエルの件が起きる前に初めて会ったんだが、何故か俺を気に入ったらしい。どこを気に入ったかなんて未だに分からねぇけど。

 

「にしても、随分と大人買いしましたねぇ」

 

「君にゲーセンに連れて行ってもらってから、すっかり嵌っちまってな」

 

 床に置かれている大量のゲームソフトを見た俺がそう言うと、依頼主はアッサリと理由を話す。

 

 それを聞いた俺は次に棚へ視線を移すと、そこには大量のゲーム機が並べられている。

 

「あ、すっげ。ハードも新しいのから古い物まである。よほどのマニアでも、ここまでは揃ってませんよ」

 

「集め始めると止まらない性分でね。周りからは俺のコレクター趣味は異常だとか、よく言われるよ」

 

 ………ん? その台詞、確か前にコカビエルが言ってたような気が……。

 

 俺が依頼主の台詞にふと疑問を抱くと、ゲームは俺の負けとなってしまった。

 

「さあもうひと勝負しようか、悪魔代理くん――いや、赤龍帝の兵藤一誠」

 

 その直後、いつの間にか立って俺を見下ろすように見ている依頼主の背中から十二枚もの漆黒の翼が展開した。

 

「俺はアザゼル。堕天使どもの(かしら)をやってる」

 

 ………おいおいマジかよ。堕天使なのは分かってたけど、まさかその総督が俺の依頼主だったなんて。

 

 最初は堕天使が何のつもりでこの町に来たんだと警戒してたんだが、この人はいつもフランクに接してくるから、いつの間にか警戒感が薄れたんだよな。

 

「……その堕天使総督が正体を現したって事は、コカビエルの仇討ちする為に俺を呼んだのか?」

 

「まさか。俺はそのコカビエルの企みを察知して駒王町(ここ)に潜入したんだ。そのついでに、キミの『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』にも興味があったしねぇ」

 

 そういや、アザゼルは神器(セイクリッド・ギア)を集めて研究に没頭してるってコカビエルが言ってたな。って事は俺が何度も指名されたのは、俺の『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』目当てだったのか。それなら納得だ。

 

 何度も指名された理由を納得してると、アザゼルは気にせず話を続ける。

 

「俺が直接コカビエルに手を下すと色々不味いんで、アルビオンに事の収拾を頼んだ。尤も、お前たち兄弟がこの町にいる時点でコカビエルは倒されるだろうと予想してたが」

 

「………俺だけじゃなく、兄貴の事も知ってるのか?」

 

「ああ。と言うより、お前たち兄弟は今ちょっとした有名人だぞ。今までどの勢力にも所属せず、素性も一切不明で強大な力を持った人間の兄弟ってな。今は悪魔側についてるみたいだが、俺としては堕天使(こっち)側に来て欲しかったよ」

 

 堕天使側に来なかった事を残念そうに言うアザゼル。コイツ、俺や兄貴を勧誘するつもりでいたみたいだな。

 

「ところで赤龍帝。近い内にやる予定の首脳会談でも言うつもりなんだが、今からでも兄と一緒に堕天使(うち)に来ねぇか?」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「冗談じゃないわ!」

 

 リアスはチラシに書かれているアンケートを読み上げた後に声を荒げた。しかも眉を吊り上げて、怒りを露にした様子。

 

 それを見た俺――兵藤隆誠は苦笑していた。まぁ、リアスがああなるのは無理もないか。何せ今までイッセーを指名していた依頼者が堕天使総督のアザゼルだからな。昨日イッセーが帰った後に聞いた時は俺も思わず驚いたよ。

 

 リアスが見てるチラシは悪魔稼業をしたイッセーに対するアンケート結果を読んでいるんだが、どうやら余りよろしくない内容みたいだ。

 

「何そんなに怒ってるんだよ、リアス。変な事でも書かれていたのか?」

 

「……」

 

 何も言わずにリアスは俺にチラシを渡してくる。それを受け取った俺は内容を読んでみた。

 

『よぉ、リアス・グレモリー。俺は堕天使の頭をやってるアザゼルだ。聞いたぜ。赤龍帝を人間のまま眷族候補にしてるんだってな。俺の予想では、お前さんと赤龍帝では力の差があり過ぎて眷族にする事が出来なかったんじゃないかと思ってる。お前さんの事だからどうせ持て余してるだろ? 過ぎた力は身を滅ぼすって言うぜ。ならいっその事、赤龍帝と兵藤隆誠を堕天使側にくれないか? な、いいだろ?』

 

 ……成程。これは確かに怒るわけだ。

 

 アザゼルの奴、リアスが密かに気にしてる事をズケズケと書くとは。

 

 リアスは未だイッセーを自身の眷族に出来ない事でコンプレックスを抱いてるからな。それをあのバカ息子のアザゼルときたら……!

 

 知らないとは言え、リアスのコンプレックスを刺激するような文面を書くなよ。今度会ったらアイツの黒歴史でも公開してやろうか。

 

「あ~、リアス……。あんまり気にするのは――」

 

 

 ゴウッ!

 

 

「堕天使の総督が私の縄張りに侵入し、営業妨害をしていただなんて……! しかも私のかわいいイッセーにまで手を出そうだなんて、万死に値するわ! もし私の目の前で勧誘したら、滅びの爆裂玉(ルイン・ザ・バーストボム)で消し飛ばすわ!」

 

 うわぁ……。リアスは相当苛立っているな。激しい怒りによって全身から魔力を出してるよ。

 

「おいリアス、気持ちは分からんでもないが取りあえず魔力を抑えろ。部員達が恐がってるぞ」

 

「え? ……あ、ごめんなさい」

 

 俺の指摘を受けたリアスはすぐに魔力を抑えて元の状態に戻る。それを見たイッセー達は安堵の息を漏らす。

 

「あの、部長。俺はわぷっ!」

 

「イッセー、私の力はまだまだあなたに及ばないけれど、私がイッセーを絶対に守るから」

 

「そ、それはありがとうございます……」

 

 絶対手放さないような感じでイッセーを抱擁するリアス。その抱擁によって顔がリアスの胸に当たってるイッセーは少しだらしない顔をしていた。

 

 どうでも良いんだが、イッセーはダメで俺は堕天使側に行っても問題無いのか? これで『あなたは別に問題無いわ』とか言ったら、俺ちょっといじけるからな。

 

「リアス、一応訊いておきたいんだが俺は?」

 

「あなたが私を裏切るような真似をするとは微塵も思ってないわ」

 

 つまり俺を信用してるって事か。それなら別にいいけど。

 

 俺が納得してると、リアスの抱擁から解放されたイッセーが訊いてくる。

 

「なぁ兄貴、アザゼルってやっぱ俺の神器(セイクリッド・ギア)を狙っているのか?」

 

「それは本人に訊かないと分からんな」

 

 仮にそんな事をやろうとしたら、俺はアイツのライフポイントがゼロなるまで精神的ダメージを与え続けてやる。例えばアザゼルが天使時代に考案した、『ぼくが考えた最強の神器(セイクリッド・ギア)資料集』の内容を三大勢力に公表するとか。

 

 息子(アザゼル)の恥を公表する聖書の神(ちちおや)。そんな光景を傍から見ればどう思われるだろうか。すると、同じ男子部員の祐斗が口を開く。

 

「だいじょうぶですよ、リューセー先輩。もしアザゼルがイッセーくんを捕まえようとしても、僕がイッセーくんを守りますから」

 

 ……祐斗、お前の言い方には妙な違和感があるんだが。

 

「……なぁ祐斗、それはうれしいけどさ……。なんていうか、真顔でそんな事を男に言われると反応に困るんだが……」

 

「真顔で言うに決まってるじゃないか、イッセーくん。キミは僕を助けてくれた。そして大事な仲間だ。仲間の危機を救わないでグレモリー眷族の『騎士(ナイト)』は名乗れないよ」

 

 何か突っ込みどころ満載な台詞だな。その台詞はイッセーの言うとおり男に言うべきじゃなくて、普通はヒロインの女子に向けるものなんじゃないかと思う。

 

「そ、それは分かるけどさ、気持ちだけは受け取っておくよ。言っちゃ悪いが、いくらお前がいてもアザゼル相手じゃ……」

 

「問題ないよ。『禁手(バランス・ブレイカー)』となった僕の『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』とイッセーくんの『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』が合わさればどんな危機でも乗り越えられるような気がするんだ。……ふふ、少し前までこんな事を口にしなかったんだけどね。イッセーくんと付き合ってると心構えも変わってしまうよ。でも、それが嫌じゃないんだよ……。それにキミに『祐斗』って呼ばれると胸の辺りが熱いんだ」

 

 何だこの台詞は? 一部の女子が聞いたら絶対に誤解すること間違いないぞ。

 

「……おまえ、マジでキモいぞ……。ち、近寄るな! ふ、触れるな! やっぱお前の呼び方を『木場』に戻す!」

 

「そ、そんな、イッセーくん……」

 

 顔を青褪めながら離れるイッセーに気落ちする祐斗。

 

 …………取りあえず放っておくとしよう。決して関わりたくないとかじゃないからな。

 

「ところでリアス。イッセーの話でアザゼルが首脳(トップ)会談をやるとか言ってたが」

 

「ええ。さっき私のところにも連絡があったわ。一度トップ同士が集まり、今後の関係について話し合うことになったの」

 

「それはつまり、コカビエルとの戦いで三竦みの関係に影響を及ぼしてしまった、ってか?」

 

「そういうことよ。その事件に関わってしまった私たちも首脳会談に出席するよう招待されてるわ。そこで今回の報告をしなくてはいけないの」

 

 リアスの言葉に俺を除くイッセー達が驚いていた。まぁそうなるのは無理もない。トップ同士の会合に居合わせろと言われれば誰だって驚く。

 

「当然人間のあなたやイッセーたちも出席するのよ。リューセーは人間側のトップとしてね」

 

「ちょっと待て。首脳会談に出席するならまだしも、何で俺が人間代表で出なきゃなんないんだよ」

 

「トップからの強い要望だそうよ。特に天使側と堕天使側のトップが、リューセーに色々と訊きたいことがあると言ってたわ」

 

 天使(ミカエル)堕天使(アザゼル)が?

 

 何かすっごく嫌な予感がするんですけど。



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第二十七話

 リアスから首脳会談をやると聞いて数日。三大勢力は色々と準備があるのか、この数日何の音沙汰も無い為に平穏な日常を過ごしていた。

 

 今日は土曜日で休みだが、やる事がある為にオカ研部員の俺とイッセーとアーシア、そして部長のリアスと一緒に登校している。途中でゼノヴィアとも合流し、五人で仲良く登校していた。

 

 因みに悪魔となったゼノヴィアは兵藤家の近くにあるマンションで一人暮らしをしている。最初は俺の家に住まわせて欲しいと言って少し焦ったよ。今はもうリアスとアーシアが兵藤家にホームステイしているからな。

 

 これ以上の入居者は流石に無理なので、ゼノヴィアはリアス経由で悪魔の息がかかったマンションに住む事となった訳だ。俺が無理と言った時、ゼノヴィアは残念そうな顔をしていたけど。

 

 さて、オカ研の俺達が何故学校にいるのかと言うと――

 

「うわ、すっげぇ(こけ)だらけ……」

 

「うふふ、去年使ったきりですもの」

 

「ほったらかし状態にも程があるだろ……」

 

 プール開きを行う前の掃除をする為だった。

 

 最初は何故俺達がやるんだとリアスに尋ねると、コカビエルの一件もあって今回はオカ研が担当する事になったそうだ。

 

 それを聞いた俺とイッセーは生徒会に対して凄く申し訳ない気持ちになった。学園を崩壊させた原因は俺たち兄弟なので、その後は一切文句を言わずに納得したよ。

 

 けど納得したとは言え、この惨状は余りにも酷すぎだ。プールの水はほったらかしによって腐敗し、壁部分には大量の苔がへばり付いている。掃除するにも一苦労だ。

 

「リューセー、文句は受け付けないわよ。昨日も言ったけど、ここを掃除したらオカルト研究部が先にプール開きしていいって言われてるんだから」

 

「へいへい、分かってるって」

 

 リアスがプールで自慢の水着をイッセーに披露したいのもよく分かってるよ。などと言ったらどんな反応をするだろうか。

 

「よっしゃ! プール掃除頑張るぜ! ぐふふ……」

 

 イッセーはイッセーで何やら卑猥な事を考えてるのか、顔がにやけていた。多分リアスや朱乃の水着姿を考えてるんだろう。

 

「……イッセーさん、エッチなことを考えてますね?」

 

 アーシアが涙目でイッセーの頬を引っ張った。それでもイッセーはにやけ顔を止めてはいないが。

 

「あ、あーひあ、俺は別に……ぐっ!!」

 

『っ!』

 

 頬を引っ張られてたイッセーが突然苦しむような声を出した。突然の事に俺達はすぐにイッセーを見る。

 

「す、すみませんイッセーさん!」

 

 イッセーの異変に頬を引っ張ってたアーシアがすぐに止めて謝ろうとする。

 

「違う、違うんだアーシア……。原因はこれだ」

 

 アーシアの所為じゃないと言いながら、イッセーは自身の左腕を見せる。その腕は中途半端とも言えるドラゴンの腕だった。

 

「あらら、またか」

 

 原因が分かった俺はすぐにイッセーの左腕に触れて、光のオーラを送り込もうとする。ドラゴンとなりかけているイッセーの左腕は徐々に元の人間のものへと戻っていく。それを見たイッセーやリアス達も安堵の息を吐いた。

 

「悪い兄貴、また迷惑かけちまって」

 

「これぐらい気にすんな」

 

 イッセーはコカビエルと戦ってた時、四倍龍帝拳を使おうと対価としてドライグに腕を差し出した。その為、イッセーの左腕は人間からドラゴンの物へと変貌している。

 

 その腕では日常生活に支障をきたすので、ドラゴンの力を散らそうと俺が能力を使って人間の腕に戻していた。けれど、あくまで一時的に散らしているだけに過ぎないので、俺はある方法を考えた。

 

 それは定期的に直接イッセーの体から吸い取るやり方。流石に兄の俺がやると色々問題だらけの為、リアスと朱乃にやってもらうよう頼んだ。当然二人は即行でOKしてくれた。と言うよりリアスと朱乃は自分から志願してたけど。

 

 上級悪魔のリアスと、リアスの眷族である『女王(クイーン)』の朱乃なら問題無く吸い取る事が出来る。因みに吸い取る方法は、ドラゴンの腕となってるイッセーの指から気を吸いだすこと。傍から見たら卑猥な光景だったが。

 

 ともあれ、その行為のお蔭でイッセーの腕は常に人間の腕に戻っている訳だ。俺としては非常に大助かりだよ。

 

 だがここ最近、イッセーの腕は突然ドラゴンの腕に変貌する回数が増えていた。原因は分かる。恐らく堕天使総督のアザゼルと会ったからだと思う。と言うか、イッセーがアザゼルに会った以降からイッセーの腕が変貌する回数が増えてる。

 

 最強クラスの力を持ったアザゼルと会ってしまえば、ドラゴンと化したイッセーの腕が反応するのは当然とも言えるだろう。ドラゴンは力を呼ぶ存在だからな。

 

 しかし流石に今のままでプール掃除をさせると、またイッセーの腕がドラゴンになってしまう恐れがある。そうならないよう、今回はいつもより早めに手を打っておくとしよう。

 

 確か今度の担当は朱乃だったな。

 

「朱乃、悪いが掃除する前にイッセーのドラゴンの気を吸い出してくれないか?」

 

「うふふ、イッセーくんの為でしたら、喜んでやらせて頂きますわ♪」

 

 俺が頼むと朱乃は嬉しそうな顔をしながら受け入れてくれた。

 

「……朱乃、随分と嬉しそうね」

 

「あらあら、別にそんなつもりはございませんわ。これは人命救助ですもの」

 

「……とてもそうには見えないわよ」

 

『…………………』

 

 何やらリアスと朱乃から不穏な空気を醸し出していたので、俺達は声を掛けずに準備をしようと一旦更衣室へと向かった。

 

 ……はぁ、女と言うのは本当に恐いな。特に男絡みの事となると。

 

 

 

 

 

 

 さて、イッセーの処置とプール掃除がやっと終わって何よりだ。

 

 しかしプール掃除はともかく、問題はイッセーの処置だったな。

 

 掃除中にリアスがイッセーと朱乃がいる更衣室をチラチラと見てて、結局心配になって見に行った後は凄く不機嫌な顔してたよ。朱乃は一体何やらかしたんだか。

 

 それはそうと、オカ研の俺達は掃除が終わった後に水着に着替え、プールで泳ごうとしている。

 

 因みに女性陣の水着はリアスと朱乃がビキニ、アーシアと小猫はスク水だ。ゼノヴィアはまだ着替えてるのか、まだ此処へ来てないからどんな水着かは分からない。

 

 リアス達の水着姿にイッセーは言うまでもなく大興奮していた。特にリアスと朱乃の姿を見て。アーシアと小猫に対しては優しい兄のような感じで見ていたが。

 

 そして今――

 

「はい小猫。いち、に、いち、に」

 

 俺は小猫の手を持って、彼女のバタ足練習に付き合っている。

 

 何でも小猫は泳げないらしく、リアスから俺に泳ぎの練習相手になって欲しいと頼まれた。

 

 当の本人は「ぷはー」と時折息継ぎをしては、一生懸命にバタバタと足を動かしている。頑張っているな。

 

 あと他に――

 

「いち、に、いち、に。よし、その調子だぞアーシア」

 

「はい!」

 

 イッセーはアーシアの泳ぎ練習に付き合っている。

 

 理由はアーシアも小猫と同様に泳げなく、イッセーがレクチャーしていた。

 

 兄弟揃って女の子に泳ぎの練習相手をしてるとはな。これでもし小猫やアーシア狙いの男子が見たら、嫉妬に狂って殺されること間違いないだろう。例えそうなっても返り討ちにしてやるけど。

 

「ぷはー。……リューセー先輩、付き合わせてしまってゴメンなさい」

 

「気にしない気にしない。後輩の泳ぎの練習に付き合うのは先輩の務めだからね」

 

 イッセーの指導に比べれば全然大した事はない。寧ろこっちの方が楽しい。

 

 もし練習相手が向こうで悠々と泳いでいる祐斗だったら………一部の女子達は変な方向で誤解するだろうな。

 

「っと、端についたぞ」

 

 二十五メートルをバタ足で泳ぎきった小猫は勢い余って、俺にぶつかってしまった。それにより、小猫が俺に抱きついているような体勢になってしまったが。

 

「ほら小猫、ちゃんと前を見ないとダメだぞ。けどまぁ、ちゃんと泳ぎきったから良しとしよう」

 

「……リューセー先輩って、本当にイッセー先輩のお兄さんなんですか? 同じ兄弟なのに、全然違います」

 

「ははは。それはよく言われてるよ」

 

 クラスの連中からも『あれが本当に兵藤の弟なのか?』って何度も疑われたよ。イッセーは俺と違って真逆の行動をしていたからな。

 

 学園で俺は『模範生の兄』で、イッセーは『問題児の弟』と言う呼称だし。

 

「でも残念ながら俺とイッセーは正真正銘の兄弟だ。兄の俺は毎回愚弟の行動に頭を悩ましてるが、それでも大事な家族である事に変わりはないよ」

 

 そう言いながら俺は小猫の頭を撫でる。っと、いかんいかん。これはセクハラになるかな?

 

「すまなかったな、小猫。いきなり頭を撫でちゃって」

 

「……いえ、気にしてませんから」

 

 小猫は怒らないどころか、少し気持ち良さそうな表情をしていた。

 

 う~む、やはり小猫ってアーシアとは違う可愛さがあるな。何と言うか、娘にしたい感じだ。

 

「そっか。じゃあ気を取り直して、今度は補助無しで二十五メートル泳いでみな。慌てずゆっくりと泳ぐんだよ。もし泳ぎきったらご褒美として、アップルパイを作ってあげるよ」

 

「……頑張ります」

 

 コクンと頷く小猫は凄いやる気な感じだ。自分が大好きなデザートが賞品となれば、今まで以上にやる気が出るのは分かっていたからな。

 

「っとと! 大丈夫かアーシア!?」

 

「は、はいぃ、大丈夫です……イッセーさんに抱き付いちゃいました……」

 

 あっちはあっちで桃色空間丸出しだし。

 

 あれは泳ぎの練習と言うより、カップルがイチャ付いてるような光景にしか見えないんだが。

 

 もしあの光景を松田と元浜が見たら羅刹のように怒り狂って、何が何でもイッセーを殺しにいくだろうな。

 

 

 

 

 

 

「チキショ~~~!! また負けたぁ~~!!」

 

「はははははっ! 俺に勝とうだなんて百年早いぞイッセー!」

 

 小猫とアーシアの泳ぎ練習を終えた俺とイッセーは競泳をしていた。結果は言うまでもなく俺の勝ち。弟と言えど、勝負をする以上は負けられん。

 

 因みに小猫とアーシアは練習でコースを何週もしてしまった為に疲れて、今は二人揃ってプールサイドで休憩中だ。

 

 プールでの運動は陸上以上に体力を使う。運動があまり得意じゃないアーシアだけじゃなく、泳ぎに慣れてない小猫が休憩するのは無理もない。

 

 ついでに俺とイッセーが競泳をする理由は、ただ単にそれをやりたかっただけ。折角プールに来たんだから思いっきり泳がないとな。

 

 まぁ俺とイッセーが途轍もない速度で泳いでいた事に、リアス達は唖然としていたけど。

 

「おい兄貴、もう一回だ!」

 

「おう良いぞ。俺はいつでも受けて……ん?」

 

「これって部長の使い魔か?」

 

 再勝負を受けようとする俺だったが、突然赤いコウモリがイッセーの元へ飛来していた。それはイッセーの言うとおり、リアスの使い魔だった。

 

 イッセーもリアスの使い魔に気付き、視線を感じたのかリアスの方へと顔を向けていた。俺も見てみると、そこには手に小瓶を持っているリアスがいた。イッセーに向かって微笑みながら手招きしている。あと口元が静かに動いていた。『いらっしゃい』と。

 

「……悪い兄貴! 部長が呼んでるから勝負は預けるぜ!」

 

「はいはい」

 

 誘惑に負けたイッセーは即行でリアスのもとへ駆け寄った。あんだけ素早く動けるんなら、さっきの競泳でも出せば良かったと思うんだが……まあ良いか。

 

 丁度良い。ここいらで俺も休憩するとしよう。ついでにトイレにも行きたいし。

 

 そう思った俺はプールから上がり、そのままトイレへと向かって用を足そうとする。

 

 数分後、再びプールへ戻ろうとすると――

 

 

 バゴッ! バチバチッ!

 

 

「だいたい、朱乃は男が嫌いだったはずでしょう! どうしてよりによって私のイッセーに興味を注ぐのよ!」

 

「そういうリアスも前まで男なんて興味ない、全部一緒に見えるって言ってたわ!」

 

「イッセーは特別なの! 私だけのイッセーなの!」

 

「私だってイッセーくんは特別な男の子よ! やっとそう思える男の子に出会えたのだから、ちょっとぐらい良いじゃない!」

 

 …………何だこの光景は? 俺が少し目を離してる間に何があった?

 

 胸丸出しのリアスと朱乃が、全身に魔力を展開させながら睨みあってる。加えて共に魔力弾を放ってプールが戦場化してるし。

 

 因みにイッセーはいない。闘気(オーラ)を辿ってみると、イッセーはプールの用具室にいた。

 

 何でリアスと朱乃が喧嘩をしているのかをイッセーに聞く為、俺は気付かれないように用具室へと向かう。決して二人の喧嘩に巻き込まれたくないからじゃない。

 

 そして用具室に入って奥へ向かうと――

 

「イッセー、私を抱いてくれ。子作りの過程をちゃんとしてくれれば好きにしてくれてかまわない」

 

「ちょっ! ま、待ってくれゼノヴィア! いくら俺でもそんな事言われたら……!」

 

 ………こっちもこっちで妙な展開になってるし。

 

 胸丸出しにしてるゼノヴィアがイッセーを押し倒して子作りしようと迫ってるし。

 

 リアスと朱乃だけじゃなく、コイツ等も問題行動を起こしてるのかよ……。

 

「……おいお前等、こんな所で何やってんだよ」

 

「げっ! あ、兄貴!?」

 

「あ、隆誠先輩」

 

 俺の存在に気付いたイッセーとゼノヴィアは対照的な反応をする。

 

「ち、違うんだ兄貴! これはゼノヴィアが勝手に……!」

 

 おいコラ。言ってる事は本当だろうが、その台詞は浮気がばれた彼女に見苦しい言い訳をしてるようにしか聞こえないぞ。

 

 俺がイッセーの台詞に呆れてると、ゼノヴィアは俺を見ながらとんでもない発言をしようとする。

 

「丁度良かった。隆誠先輩、よかったら三人で子作りをしないか? イッセーの他に、隆誠先輩の子供も欲しいと思ってたところだ」

 

「…………は?」

 

 この子は一体何言ってんの? 子作りってのは普通男女が二人きりでするものであって、決して三人でやる行為じゃないぞ。

 

「おいおいゼノヴィアさん! 兄貴の子供も欲しいって本気で言ってるの!?」

 

「無論だ。ドラゴンの気を宿したイッセーの子供と、天使の力を持った隆誠先輩の子供。二人の力を受け継いだ子供を私は育てたいと思っている」

 

 …………俺もう頭痛くなってきた。やっぱりゼノヴィアを教会へ送り返した方が良いんじゃないかと思い始めてきたよ。

 

 ってか悪魔がイッセーの子供だけじゃなく、聖書の神(わたし)の子供を欲しがるって……もし教会連中が知ったらどんな反応をするんだろうか。特にゼノヴィアの家族とか。

 

「とにかくだゼノヴィア。子作り云々はどうでも良いから早く胸を隠せ。こんな所をリアス達に見られたら――」

 

「イッセーとリューセー? これはどういうことかしら?」

 

 いつのまにか用具室にいたリアスが笑みを引き攣らせたまま立ち尽くしていた。しかも全身が赤い魔力で覆われてるし。

 

「あらあら。ズルいわ、ゼノヴィアちゃんったら。リューセーくんはともかく、イッセーくんの貞操は私がもらう予定ですのに」

 

 おい朱乃。笑ってるけど、何か恐いオーラが漂ってるぞ?

 

「イッセーさん、酷いです! 私だって言ってくれたら……! それにリューセーさんも酷いです!」

 

 ガ~ン! 妹分のアーシアにまで誤解された上に罵倒された! 地味にショックだ!

 

「……油断も隙もない。それとリューセー先輩、見損ないました」

 

 ちょっと小猫さん! 俺は何もしてませんよ!?

 

「どうした二人とも? さあ、早く子供を作ろう」

 

「っ! ば、バカ、ゼノヴィア! この状況を分かってんのか!?」

 

「ゼノヴィアぁぁ~! お前、少しは空気を読めぇ!」

 

『子供!?』

 

 ゼノヴィアのトンデモ発言にイッセーと俺が慌ててる中、女性陣の顔色が変わった。

 

 俺は一瞬、ゼノヴィアを教会に返そうかと本気で思ったよ。

 

 誰だか知らんがゼノヴィアの家族! 一体コイツにどう言う教育させてんだよ!? いくら聖書の神(わたし)でもこればっかりは文句言いたいぞ!




またまた恐ろしい事をしてしまったゼノヴィアでした。


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第二十八話

あけましておめでとうございます。


 プールを過ごした夕方。

 

 オカ研の部室で俺とイッセーは正座をさせられ、リアスに叱られていた。何で俺まで……。

 

「まったく。エッチなイッセーはともかく、リューセーまであんな事をするなんて」

 

「だから違うって言ってんだろうが……!」

 

 プールの用具室でゼノヴィアがトンデモ発言した所為で、女性陣と男の祐斗が俺達を囲んでいるように立っている。ってかゼノヴィア、元凶のお前が正座しろよな。

 

「いや違うんだ。イッセーと隆誠先輩は私と子作りをしようと――」

 

「「いいからお前は黙っとれ!」」

 

 また余計な事を言おうとするゼノヴィアに俺とイッセーは揃って同じ台詞で怒鳴る。

 

 これ以上拗らせるような発言すんな。と言うか、聖書の神(わたし)もう怒っていいよね?

 

 いっその事、ゼノヴィアに俺の正体を教えてやろうかと本気で思い始めてると、突然外部からの魔力を感じた。

 

「随分と賑やかだね。何かのイベントかい?」

 

『っ!』

 

 すると、この場の誰でもない声が聞こえる。全員が声のした方向へ視線を移すと、そこには転移魔法陣を使って現れた魔王サーゼクス・ルシファー、その背後にメイド姿のグレイフィア・ルキフグスがいる。

 

「お、お兄さま!?」

 

 リアスが驚愕の声を出しながら、座っていたソファーから立ち上がる。

 

 そう、魔王サーゼクスはリアスの兄である。まさかこんな所で再会するとは。

 

 サーゼクスの登場にリアスの眷属たちである祐斗、小猫、朱乃はすぐに礼をするように跪く。俺とイッセーとアーシア、そしてゼノヴィアはやらずに立ち尽くしている。俺はする気が無いだけだが。

 

 俺はともかくイッセーとアーシアとゼノヴィアはサーゼクスに会ってないから、こうなるのは無理もない。

 

「兄貴、あの人が部長の……?」

 

 イッセーが確認するように俺に訊いてくる。

 

「ああ、そうだ。冥界の現魔王サーゼクス・ルシファー様だ」

 

「いいっ! お、俺も跪いたほうが……!」

 

「いや、その必要は無いだろう。あの格好から見て、魔王として来たわけじゃなさそうだし」

 

「ちょ、ちょっとリューセー!」

 

 俺の発言にリアスが俺を窘めようとするが、サーゼクスが待ったをかけようとする。

 

「隆誠くんの言うとおりだよ、リアス。今日はプライベートで来ている」

 

 かしこまらなくていいと促すサーゼクス。それを見た祐斗達は従うように立ち上がった。

 

 次にサーゼクスは俺に視線を移して話しかけようとする。

 

「やあ隆誠くん、久しぶりだね。こうして面と向かい合って話すのはレーティングゲーム以来かな?」

 

「どうも。この前はありがとうございました。貴方のお蔭で面倒な事にならずに助かりましたよ」

 

「気にしないでくれ。寧ろ私の方からお礼を言いたい位だ。君や弟くんがいなかったら、この町は無くなっていたかもしれないからね」

 

 コカビエルと戦う前、俺は魔王サーゼクスに冥界の貴族悪魔達が後々出しゃばらない為に圧力を掛けるよう依頼した経緯がある。サーゼクスとの繋がりが無かったら、俺やイッセーは貴族悪魔共に狙われ続けていたからな。非常に助かったよ。

 

「兵藤一誠くんにアーシア・アルジェント、君たちと話すのは初めてだったね。リアスが世話になっている。リアスの眷族候補とは言え、優秀な『兵士(ポーン)』と『僧侶(ビショップ)』がいてくれて嬉しく思うよ」

 

「いや、ゆ、優秀だなんて……」

 

「そ、そんな!」

 

 サーゼクスからの高評価に戸惑うイッセーとアーシア。レーティングゲームでイッセーはライザー達を圧倒し、アーシアはサポートとしてリアスに迫ろうとするライザーの動きを封じたからな。サーゼクスにとっては素晴らしいものだと思っているんだろう。

 

「あなたが魔王か。はじめまして、ゼノヴィアと言う者だ」

 

 二人の戸惑いを余所に、さっきまで立ち尽くしていたゼノヴィアが話しかける。リアスの眷族であるにも拘らず、魔王に対して敬語を使ってない。けれど当のサーゼクスは全く気にせずフランクに接しようとする。

 

「ごきげんよう、ゼノヴィア。デュランダルの使い手が、我が妹の眷族になるとは……最初に聞いたときは耳を疑ったよ」

 

「私も悪魔になるとは我ながら大胆な事をしたと思う。今でもたまに後悔している。……うん、そうだ。どうして私は悪魔になったんだろうか? やけくそ? いや、だが、あのときは、アレ? ええと……」

 

 おいおいゼノヴィア、言ってる最中に頭を抱えて考え込むなよ。全くこの子と来たら……はぁっ。

 

 俺が呆れていると、サーゼクスは愉快そうに笑っている。

 

「ハハハ、妹の眷族は楽しい者が多くていい。ゼノヴィア、どうかリアスの眷族としてグレモリーを支えて欲しい」

 

「伝説の魔王ルシファーにそこまで言われては私も後には引けないな。やれるところまでやらせてもらう」

 

「ありがとう」

 

 ゼノヴィアの言葉を聞いたサーゼクスは優しく微笑ながら礼を言う。その微笑みは妹のリアスとそっくりだ。流石はご兄妹。

 

「ところでお兄さま、どうしてここへ?」

 

 本題に入るようにリアスが怪訝そうに訊く。確かにプライベートとは言え、魔王が人間界の学び舎の部室に来るのは些か疑問だ。けれど俺はサーゼクスがココに来た理由は分かっていた。

 

「隆誠くんから聞いたよ、リアス。授業参観が近いのだろう? 私も参加しようと思っていてね。是非とも妹が勉学に励む姿を間近で見たいものだ」

 

 やはり授業参観目的で来たようだ。流石はシスコン魔王。

 

 そういえばウチのところも父さんが滅多に使わない有給を取ってまで授業参観に参加すると張り切っていたな。あと母さんも。

 

 理由は分かる。娘同然となってるアーシアの授業風景を見たい為だ。ウチの両親はアーシア関連の事となるとお祭り騒ぎだからな。ま、それは俺にも言える事だけど。

 

「リューセー! あなた、お兄さまになんて事を教えたのよ!?」

 

 授業参観を教えた元凶が俺である事を知ったリアスは凄い剣幕で俺に問い詰めようとする。

 

「すまんすまん。この学園の理事長がサーゼクス様だったから、俺はもうてっきり知ってるかと思って」

 

「それはあくまで肩書きだけで、お兄さまは学園自体に関わってないのよ!」

 

 あら、そうだったの。そりゃあ(リアスに)悪い事をしてしまったな。

 

「こらこらリアス、隆誠くんを責め立てるのはお門違いだよ。それに彼が教えなくても、どの道グレイフィアが私に報告することになっているからね」

 

 サーゼクスが俺をフォローするように言うと、リアスは諦めたように嘆息する。

 

 この反応からして、どうやらリアスは授業参観に乗り気じゃ無さそうだな。

 

「それに私は魔王職が激務であろうと、休暇を入れてでも妹の授業参観に参加したかったのだよ。安心しなさい。父上もちゃんと来る」

 

 おいおい、グレモリー卿も来るのか。あの当主はこの前のレーティングゲーム後に、フェニックス卿と張り合うようにイッセーを娘婿とする為の争奪戦をしてたからな。イッセーに会って早々縁談話を持ち込まなければ良いんだが。

 

「だ、だからと言って、お兄さまは魔王なのですよ? 仕事を放り出してくるなんて……」

 

 まぁ確かにリアスの言うとおりだ。いくら身内とは言え、魔王がいち悪魔のリアスを特別視する訳にはいかないよな。

 

 けれど、サーゼクスは首を横に振る。

 

「いやいや、これは仕事でもあるんだよ。三大勢力のトップ会談を、この学園で執り行おうと思っていてね」

 

 おいおいマジかよ。これは俺も冗談抜きで驚いた。と言うか俺だけじゃなく、リアス達も驚愕してるし。

 

「こ、この駒王学園で!? 本当に?」

 

「勿論だとも。この学園には様々な縁があるからね。特に強大な力を持っている兵藤隆誠くん――赤龍帝の兄が常に中心となっている」

 

 さっきまでとは打って変わるように真剣な目で俺を見てくるサーゼクス。そんなに見つめられてもねぇ。

 

「ちょっとちょっとサーゼクス様、それは買いかぶり過ぎですよ。俺はそこまで大した人間では――」

 

「キミは自分を過小評価し過ぎではないかね? 相手が弟とは言っても伝説の赤龍帝を従わせ、悪魔のリアス達を強くさせる為の修行もさせ、更には指名手配中の夢魔(サキュバス)エリガン・アルスランドや堕天使コカビエルを倒せる実力まで持っている。そんな凄い経歴を持った人間を、長い年月をもって生きてきた私ですら今まで見たことも聞いたこともない」

 

 サーゼクスの言い分にリアス達だけでなく、弟のイッセーすらもウンウンと頷いていた。お前等なぁ……。

 

「リアスから聞いているだろうが、会談の際に隆誠くんは人間代表として我々三大勢力のトップと同じテーブルに座ってもらいたい。そして人間の一誠君とアーシアには隆誠くんの側近と言う立場上で参加してもらうよ」

 

「イッセーとアーシアが俺の側近って……。俺はまだしも、その二人はリアスの眷族候補ですよ?」

 

「確かにそうだが、それでも二人は未だ人間のままだ。完全な悪魔になっているならまだしも、転生すらしてない二人は正式なリアスの眷族とは言えないよ。それはリアスも充分に分かっている筈だ」

 

 お~お~、大事な妹の目の前でバッサリと言っちゃってまぁ。それを聞いたリアスは悔しそうな顔をしているよ。

 

 けれどサーゼクスの発言は強ち間違っちゃいないな。悪魔と言うのはルールや仕来たりを絶対遵守する生き物だから、例外的なことを認めるのは滅多に無い。

 

 眷族候補と言う中途半端な状態で、いかにリアスが自身の眷族だと声高に叫んでも、周囲の悪魔は絶対に認めないだろう。益してや悪魔業界トップの魔王サーゼクスですら、いくら身内と言えども立場上認める訳にはいかない。特に(まつりごと)に関しては。

 

 ライザーとのレーティングゲームで眷族候補のイッセーとアーシアが例外として参加出来たのは、『(キング)』であるリアスとライザーの両者が承諾したからこそだ。加えてアレは非公式なレーティングゲームな上に、(まつりごと)とは大して関わりの無い一族同士の縁談だった。それ故に二人は参加出来た。

 

 だが今回のトップ会談はソレと全く別物。思いっきり(まつりごと)に関わってるだけじゃなく、天使や堕天使との正式な外交でもある。故にイッセーとアーシアは悪魔側として参加する事が出来ない。

 

 だから二人を人間代表である俺の側近としてトップ会談に参加させようって事か。恐らく天使や堕天使側もそう望んでいるんだろうな。どの勢力にも所属していない俺やイッセー達を引き抜く為に。

 

「隆誠くん、キミや一誠くんはコカビエルの一件で我々悪魔だけでなく、天使や堕天使からも無視出来ない存在となってしまっている。我々としては是非とも出席してもらいたい。今回のトップ会談でキミ達の命運を左右すると言っても過言じゃない」

 

 俺の返答次第では下手したら三大勢力と戦う事になるってか?

 

 ………ったく。聖書の神(わたし)はもう(まつりごと)に関わりたくなかったんだが……イッセー達や家族の命が掛かっているから、そうも言ってられないな。

 

「……分かりました。俺が人間代表で出るとしましょう。そちらの言うとおり、イッセーとアーシアは俺の側近と言う事で」

 

「ありがとう」

 

 俺の返答を聞いたサーゼクスは安堵するように礼を言ってくる。

 

「さて、これ以上の話をここでしても仕方がない。隆誠くん、突然で申し訳ないんだが、例の報酬を今頼んでも良いかな?」

 

『?』

 

 サーゼクスが言う報酬に、リアス達は揃って首を傾げていた。

 

 ソレを聞いた俺は思わず苦笑するも、すぐに返答する。

 

「ええ、勿論構いませんよ」



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第二十九話

連続投稿のせいか、今回はいつもより短いです。


「いや~、まさかリューセーとご友人だったとは驚きましたよ! 念の為に父親として伺いたいのですが、息子に何か失礼な事はされませんでしたか?」

 

「ちょっと父さん、それはどう言う意味かな?」

 

「とんでもない。隆誠くんには色々と助けられてることもありますし、彼と友人である事を嬉しく思っていますよ。私から言わせれば、妹が皆さまにご迷惑をおかけしていないかと心配していました」

 

「そんなお兄さん! リアスさんはとてもいい子ですわよ」

 

「ええ、リアスさんは息子たちにはもったいないぐらい素敵なお嬢さんです」

 

 兵藤家のリビングで、サーゼクスは俺と一緒にいる両親と談笑していた。サーゼクスの隣にはリアス。その後方にはグレイフィアが待機している。

 

 部室でサーゼクスが言った報酬については、コカビエルの一件による俺が支払う依頼料の事を指している。その報酬は――『サーゼクスが兵藤家で宿泊する権利』のことだ。

 

 電話の時に報酬の内容を聞いたサーゼクスは最初素っ頓狂な声を出していたが、リアスが俺とイッセーの家に住んでいる事を思い出して、「それは願ってもない。ぜひとも下宿先のご夫婦にあいさつをしたいと思っていたところだ」と、すぐに快諾した。

 

 報酬の事が全く分からなかったオカ研の部員達に俺が説明した直後、リアスは再度俺に詰め寄って「ダメよリューセー! 今すぐに報酬の内容を変えなさい!」と可愛く抵抗していたよ。だが今更報酬の内容を変える事は出来ないので、リアスの抵抗も虚しく、こうして兵藤家に着いてしまった。

 

 因みにイッセーとアーシアは俺達から少し離れた所から様子を伺っている。イッセーなんかずっとリアスを観察するように見ているし。

 

 んで、そのリアスだが顔を真っ赤にしていた。兄であるサーゼクスが何を言い出すのか怖くて仕方ないんだろう。部室では勘違いして理不尽に俺を叱っていた時とは大違いだよ。ちょっとした仕返しが出来たので、叱った件はもう許す事にした。

 

 それにしても、サーゼクスは随分と楽しげだな。冥界では魔王として振舞っていたが、今はそんな素振りを微塵も見せずにリアスの兄として両親と接している。嘗て捨てたサーゼクス・グレモリーと言う名前を再び使え、一個人として楽しんでいるんだろう。その気持ちは聖書の神(わたし)もよく分かる。

 

「ところでグレイフィアさん、座らないんですか?」

 

「お気遣いありがとうございます。ですが私はグレモリー家のメイドですので、お気になさらず」

 

 俺が座るよう言っても、グレイフィアは首を横に振って断る。

 

「いやいや、今はプライベートなんですから、サーゼクス……さんの“奥さん”として振舞ったらどうですか?」

 

 危うく“様”付けするところだったが、何とか“さん”付けで言え――

 

『えええええええええええええええええええええええっっ!?』

 

 突然リアスとサーゼクスとグレイフィアを除く全員が驚きの声を出した。グレイフィアだけは目を見開いているが。

 

 そう言えば両親はともかく、イッセーとアーシアには教えてなかったな。驚くのは当然か。

 

「……その情報は何処で知り得たのですか?」

 

「知り得たも何も前の電話の時に、サーゼクスさんが『是非とも妻のグレイフィアと一緒にお邪魔させてもらうよ』って言ってましたけど……」

 

 俺が理由を言った直後、グレイフィアは無表情のまま、サーゼクスの頬を抓った。

 

「隆誠さま、我が主がつまらない冗談を口にして申し訳ございません。私はグレモリー家のメイドにすぎませんので」

 

「い、いたひ、いたひいひょ、ぐれいふぃあ」

 

 無表情ながらも静かに怒っているグレイフィアと、涙目でありながらも朗らかに笑っているサーゼクス。隣でリアスが恥ずかしそうに両手で顔を覆っていた。

 

 おいおいグレイフィアさん。サーゼクスが俺に個人情報を公開したからと言って、それはないでしょうが。別に怒る事じゃないだろうに。

 

 ミリキャス君が知ったら悲しむよ? などと言ったら、グレイフィアは次に俺を問い質すだろうな。更にはサーゼクスやリアスも含めて。

 

「それでは、グレモリーさんも授業参観に?」

 

 母さんが若干頬を赤く染めながらサーゼクスに話しかける。サーゼクスの端整な顔立ちに魅了されたかな? リアスの男性バージョンでイケメンだから、魅了されるのは当然かもしれない。その当人は抓られた頬を擦る姿を見せて少し情けないが。

 

「ええ、仕事が一段落して、隆誠くんからのお誘いを機会に一度妹の学び舎を見つつ、授業の風景を拝見できたらと思いましてね。その当日には父も顔を出す予定です」

 

「まあ、リアスさんのお父さんも」

 

「私同様、良い機会だからと顔を出すようです。本当はリアスの顔を見たいだけだと思いますが。まぁ他にも会いたい人がいるようで」

 

 サーゼクスが途中からイッセーの方を見ながら言う。つまりグレモリー卿が会いたい人はイッセーか。会ったついでに縁談話を持ち込まなければ良いんだけど。

 

「グレモリーさん! 日本酒は飲めますか? 折角いらしたんですから、美味しいお酒を味わってみませんか?」

 

 父さんがキッチンから秘蔵の酒を取り出してきた。

 

 確かあの酒は以前俺が商店街の福引きで当てた十万円相当の高級日本酒だったな。未成年の俺は飲めないから父さんにあげたけど、まだ飲んでなかったのか。

 

 日本酒と聞いたサーゼクスは笑みを浮かべる。 

 

「それは素晴らしいですね! 是非ともいただきます! こう見えて日本酒はいける口なので!」

 

 日本の文化を好むサーゼクスにとっては大変嬉しいお誘いのようだった。

 

 

 

 

 

 

 リビングで談笑を終えた後、サーゼクスから大事な話があると言ったので、俺は自分の部屋へ案内して招きいれた。

 

 その話とは――

 

「これが三歳の頃のリーアたんだよ。可愛いだろう?」

 

「ほほ~う。これは中々……。今とは大違いですなぁ」

 

 可愛い妹自慢をする為だった。今はサーゼクスが密かに持ってきたアルバムの写真を見ている。それにはぬいぐるみと戯れているミニリアスが写っていた。

 

 小さい頃のリアスは随分と可愛いじゃないか。今とは全然大違いだ。

 

 どうしてサーゼクスが俺に(リアス)自慢をしてるのかと言うと、原因は以前のレーティングゲームの時まで遡る。

 

 イッセーがライザーの眷属達相手に全力(フルパワー)を出す前、観戦していた俺が妹分アーシアの方がそちらのリアスより可愛いと言った為に、サーゼクスのシスコン魂に火を点けてしまったからだ。

 

 それによってサーゼクスは今回兵藤家に泊まるのを絶好の機会として、今もこうして俺に長々と(リアス)自慢をしてるって訳だ。まぁ、俺もそれなりに楽しんでる。

 

 この前、母さんの所為でリアス達に俺とイッセーのアルバムを見せて恥ずかしい目に遭ったからな。リアスの過去を見る事が出来るなら、俺としては実に好都合だ。

 

「こっちのリアスは何で泣いてるんですか?」

 

「これかい? リアスが五歳の頃に、私に紅茶を運ぼうとしてたんだけど、途中で転んでしまってね。その時は『おにいさま、カップを割ってごめんなさい』と泣きながら何度も謝ってね」

 

「ああ、それで割れたカップがあるんですね」

 

 リアスは昔のガブリエルと似たような事をしてたのか。

 

 確かあの時のガブリエルを見て、聖書の神(わたし)は思わず『可愛いなぁ』って許したんだった。

 

「あなたの事ですから、泣きながら謝るリアスを見て『可愛いなぁ』って思ったでしょう?」

 

「よく分かったね。その通りだ」

 

 やっぱりな。何かサーゼクスってリアスの兄と言うより父親の方がしっくりとくるんだが。もしグレモリー卿が聞いたら抗議するかな?

 

「さて、次にリーアたんが――」

 

「ちょっと待ってください、サーゼクス様。小さい頃のリアスも良いですが、今のリアスの写真とか見たくないですか?」

 

「何だと!? キミはリアスの写真を持っているのかい!?」

 

 物凄い勢いで食いつくサーゼクス。俺が持ってることに予想外なのか、それとも今のリアスの写真を見たいのか……多分両方だろう。

 

「ええ、まあ。ウチの可愛い妹分のアーシアを撮ったついでですが……これがその写真です」

 

 俺が机の引き出しから写真をサーゼクスに見せようとする。

 

 アーシアと一緒に調理しているリアス、読書をしているリアス、イッセーに勉強を教えているリアス……等々の写真を並べた。

 

 因みにこれ等の写真は向こうの了承を貰って撮ったやつだ。決して盗撮なんかじゃない。

 

「ほう、今のリアスはこう言うことをしていたのか。何とも素晴らしい写真ではないか。隆誠くん、もし良かったら――」

 

「その写真は差し上げますよ」

 

「ではありがたく」

 

 

 シュバッ!

 

 

 俺の返答を聞いた瞬間、サーゼクスはすぐに広げた写真を回収して懐に入れた。しかも物凄い速さで。

 

 そんなに欲しかったんかいって思わず突っ込みそうになったよ。

 

 さて、俺としてはいつまでもサーゼクスのターンをさせる気はない。そろそろこちらも反撃と行こうか。

 

「サーゼクス様、リアスを語るのは結構ですが、ウチのアーシアも負けてませんよ。この写真をご覧下さい」

 

「どれどれ……おお! キミも中々やるじゃないか!」

 

 今度は俺が妹分のアーシア自慢をさせる為、サーゼクスに別の写真を見せる。

 

 そしてグレイフィアが就寝時間の知らせが来るまで、妹自慢の熱い語り合いは何時間も続く事となった。

 

 この語り合いによって、俺とサーゼクスは同志となった。人間や悪魔とか一切関係の無い、妹を大切にしている同志としてだ。




妹を愛する同志となった元神と魔王(バカふたり)でした。


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第三十話

今回は白龍皇との出会いです。

今日もまた短いですが、それではどうぞ!


「兄貴、俺はサーゼクスさまを心から尊敬してる……。部長のおっぱいにブーステッド・ギア・ギフトを使った効果を未だ妄想できねぇ……!」

 

「………あっそ」

 

 同志となったサーゼクス来訪から数日。

 

 サーゼクスとグレイフィアは泊まった翌日の日曜日に兵藤家を出立していた。

 

 因みに土曜日の夜には同志の語り合いを終えた後、サーゼクスはイッセーにも話したい事があるから、弟の部屋で床に就きたいと言ってた。それを聞いたリアスとアーシアの反応が不謹慎ながらもちょっと面白かったよ。だってあの二人、イッセーと寝れないと知った途端、ショックを受けたような顔してたんだ。

 

 リアスは“イッセーと寝ないと死んじゃう病”みたいで、グレイフィアに連れてかれた時は子供と離ればなれになるしかない親子のシーンを見せてた。アーシアは悲しみに耐えるように涙を流しながら自分の部屋に戻ってたし。

 

 俺は内心『たかが一日寝れないだけで大袈裟過ぎだろ』って内心呆れながらツッコミまくったよ。まぁ、二人はそれだけイッセーの事が好きだと言う証拠でもあるんだけど。

 

 就寝した翌日には念の為イッセーから聞いたが、どうやらサーゼクスはウチの弟をグレモリー卿と同様に相当気に入ってるようだ。もしアザゼルに勧誘されても、出来る限り最大限にフォローする。更には呼び方をイッセーにしたり、自分の事を『サーゼクス』または『お兄さん(じゃなくてお義兄さん)』と呼んで欲しいとも言われたそうだ。そのついでに、さっきイッセーが言ってた『リアスの胸に力を譲渡(ギフト)したらどうなるか』とも呟いていたみたいだが。

 

 にしてもグレモリー家の現当主と冥界の魔王に気に入られるとなると、イッセーが悪魔になるのは時間の問題だろうな。前にも言ったが、アイツが望んで悪魔になるなら口出ししない。今の聖書の神(わたし)に止める権利なんて無いからな。尤も、向こうが強制的にイッセーを悪魔にさせるつもりだったら話は別だが。まぁ、その可能性は全くと言っても無いだろう。おっと、少し話が逸れてしまったな。

 

 そして翌日の日曜日に駒王町の下見もあったようで、サーゼクスから俺たち兄弟に案内役をして欲しいよう頼まれた。けれどそれは下見と言うより観光も同然だったが。

 

 何しろ俺たち兄弟とゲーセンで競い合ったり、ハンバーガーショップで全種注文制覇したり、神社に行ったりしていた。サーゼクスが凄く楽しんでる顔をしてる時点で、これはもう完全に外遊だなぁと思ったよ。それを分かっていながらも俺は楽しんでいたが。

 

 けれど、サーゼクスがああなるのは無理もない。冥界は人間界と違って娯楽が余りないからな。嘗て聖書の神(わたし)がいた天界にも言える事だが。

 

 そんな娯楽施設がいっぱいある人間界で遊んだら、魔王とか関係無くハイテンションになる。魔王だって息抜きしたいからな。あの時のサーゼクスの気持ちは聖書の神(わたし)もよく分かるよ。

 

「やっぱりサーゼクスさまは凄い。俺の思考レベルを遥か上に行くなんて……!」

 

「……はぁっ」

 

 下らん考え事をしてるイッセーに対して溜息を吐く俺。

 

 我が同志サーゼクス、余計な事をイッセーに吹き込まないでくれよ。この愚弟(バカ)は変な妄想に囚われてるんだからさ。リアスやアーシアには見せられないだらしない顔してるし。

 

 因みにリアスとアーシアは一緒に登校してない。リアスは同志サーゼクスから電話がある為に遅れており、アーシアはマンションから出てこないゼノヴィアを迎えにいっている。だから今は弟のイッセーだけと一緒に登校している。

 

 なんかイッセーと一緒に登校するのは久しぶりだよ。昨日まではリアスやアーシア、ゼノヴィア達と仲良く登校してたからな。俺たち兄弟がオカルト研究部に入部してから、随分と変わったもんだ。

 

 今までの出来事を振り返りながら登校してると駒王学園が見えた。その校舎に入ろうと――

 

「止まれ、イッセー。お客さんだ」

 

「え? お客さん? ……って、アイツは!」

 

 ――したが即座に足を止めた。イッセーは俺の指示に従いながら不可思議に問おうとするも、校門前で佇んでいる少年を見た。

 

 その少年は端整な顔立ちをした銀髪の美少年。歳は俺かイッセーぐらいだろう。もしあの美少年がただの一般人なら問題無く素通りするんだが、そういう訳にはいかない。

 

 俺とイッセーはあの美少年に対して警戒している。彼から感じるオーラは、先日コカビエルを倒した時に現れた鎧姿のアイツと同じだから。

 

 足を止めた俺とイッセーを見た美少年は笑みを浮かべながら近づいてくる。

 

「ここで会うのは二度目だな。『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』――赤龍帝の兵藤一誠。そして赤龍帝の兄――兵藤隆誠」

 

 俺達が立っている橋の上まで移動して足を止め、すぐに話しかけてくる美少年。

 

「俺はヴァーリ。白龍皇――『白い龍(バニシング・ドラゴン)』だ」

 

「お前が……!」

 

 自己紹介をする美少年――ヴァーリにイッセーが強く睨む。いきなり自分の宿敵が現れたら睨むのは当然だろうな。

 

 だが俺は制するようにイッセーの前に立ち、呆れた表情をしながら問おうとする。

 

「白龍皇が一体何をしに来たんだ? まさかここで赤龍帝(イッセー)と闘いにきた、なんて冗談を言いに来たんじゃないだろうな?」

 

「ふっ。そちらがそうお望みなら、俺は一向に構わない――」

 

 

 ザッ!

 

 

 言ってる最中、突然二本の剣がヴァーリの首元に刃を突きつけていた。

 

 現れたのは祐斗とゼノヴィアだ。聖魔剣と聖剣デュランダルをヴァーリに向けている。加えて二人の目付きも鋭い。

 

 駆けつけていたのは分かっていたが、まさか来て早々割って入るとは。

 

「冗談が過ぎるんじゃないかな?」

 

「ここで赤龍帝との対決を始めさせるわけにはいかないな、白龍皇」

 

 祐斗もゼノヴィアもドスの聞いた声音を発している。

 

 だが――

 

「祐斗にゼノヴィア、二人とも下がれ」

 

 俺はすぐに下がるよう指示した。

 

「しかしリューセー先輩!」

 

「お前達じゃ白龍皇の相手にならない。早くしろ。同じ事を言わせるな」

 

「その通りだ」

 

 俺の指示を賛同するようにヴァーリが二人に向かって言う。

 

「コカビエル如きに勝てなかったキミたちでは、俺に勝てないよ。兵藤隆誠の言うとおり、下がった方がキミたちの身のためだ」

 

 コカビエル如き、ねぇ。

 

 確かに今の白龍皇はコカビエルとは比べ物にならないほどの力を感じる。リアスたちグレモリー眷族が一丸になっても勝てなかった相手が、白龍皇に勝つ事など絶対無理だ。

 

 まぁ、それは祐斗とゼノヴィアも分かっているようだ。その証拠に二人の手元が震えている。力の差を理解してる証拠だ。

 

 加えて今のイッセーでも白龍皇には勝てない。龍帝拳を五倍にまで引き上げてコカビエルをやっとの思いで押したからな。

 

 現状、この場で白龍皇とまともに戦えるのは俺しかいない。オカマのローズさんやミルたんがいてくれたら凄く心強いんだが。

 

 ヴァーリからの指摘に祐斗とゼノヴィアはそれぞれの獲物を仕舞い、すぐに俺の後ろまで移動する。それを確認したヴァーリは次にイッセーの方へと視線を移した。

 

「兵藤一誠、キミはこの世界で何番目に強いと思う?」

 

「何……?」

 

 突然の問い掛けに少し戸惑うイッセー。

 

「バランスブレイカーすら至ってないにも拘らず、コカビエルを圧倒したあの強さは賞賛に値する。だがそれでも三桁――百から五百の間ぐらいだ。スペック的には普通の人間の筈なのに、そこまでの力を付けるとは……兄による指導の賜物と言ったところか」

 

 言ってる途中でイッセーから俺に視線を移すヴァーリ。何かさっきから好戦的な目で俺を見ているんだが、何のつもりだ?

 

「そして赤龍帝の力を軽く上回っている兵藤隆誠。あなたは何の神器(セイクリッド・ギア)も使わずに強者の位置に部類している。正直言って、今の俺は兵藤一誠よりあなたと闘いたい気分だよ」

 

 今度は俺かよ。そう言うのは俺じゃなくてイッセーに言ってくれ。

 

 ってかコイツ、この前は俺に対して『キミ』って言ってたのに、いつのまにか『あなた』になってるし。どう言う心境の変化だ?

 

「止めておくんだな、白龍皇。俺と戦ったら君もタダでは済まなくなる」

 

 神器(セイクリッド・ギア)をメインで使って闘おうとするなら尚更、な。

 

「それでも今この場で戦うと言うなら、君は俺とイッセーを同時に相手せざるを得なくなるぞ。忠告しておくが、俺たち兄弟が二人で戦えば個人の戦闘力以上の力を発揮するよ」

 

 俺とイッセーが連携して戦えば魔王クラス以上の力を出せる。如何に白龍皇でも分が悪いだろう。

 

「その力を是非とも見てみたいが、それは次の機会にとっておくとしよう。安心してくれ、今日は別に戦いに来たわけではない。単に挨拶をしに来ただけだ。それと――赤龍帝の兵藤一誠は貴重な存在だ。大切にするといい、リアス・グレモリー」

 

 ヴァーリは俺達の後方に視線を向ける。その後ろにはリアスがいた。

 

 かなり不機嫌な表情だ。リアスの周囲にはアーシア、朱乃、小猫もいる。アーシアはすぐにイッセーの近くへ寄り、朱乃と小猫は臨戦態勢を取っている。

 

「白龍皇、一体何のつもりかしら? あなたが堕天使と繋がりを持っているのなら、必要以上の接触は――」

 

「ふっ。『二天龍』と称された『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』と『白い龍(バニシング・ドラゴン)』。過去、関わった者は碌な生き方をしていない。――あなたはどうなるんだろうな?」

 

「っ」

 

 意味深な事を言うヴァーリにリアスは言葉を詰まらせていた。

 

 だが――

 

「そんな心配は不要だ、白龍皇。俺は部長を不幸にさせることはしねぇよ。ってか用が済んだなら、いい加減に帰ったらどうだ?」

 

 イッセーからの言葉が予想外だったのか、ヴァーリは意外そうに目を見開いていた。

 

「ではキミの言うとおり帰るとしよう。俺もやる事が多いのでね」

 

 だがそれは一瞬で、すぐに笑みを浮かべながら言い残して去っていった。

 

 奴が去ってもイッセー達は緊張の糸は取れていない。未だ警戒するようにヴァーリが去った方角を見ている。

 

 すると、イッセーは真剣な顔をしながら俺に話しかけてくる。

 

「兄貴――」

 

「修行の難易度を上げてくれ、だろう? お前の言いたい事くらい分かってる」

 

「……悪い。急に勝手なお願いしちまって」

 

「気にすんな。今のままでヴァーリに勝てないのを分かって尚且つ、俺にこうして頼むのは寧ろ嬉しく思う。会談が始まるまではミッチリ扱いてやるから覚悟しとけよ?」

 

「おう!」

 

 イッセーの返事を聞いた俺はすぐに笑みを浮かべた。

 

「はぁっ……。僕も修行したいのに、イッセーくんが本当に羨ましいよ」

 

「私も隆誠先輩の厳しい特訓を受けたいんだが……」

 

 祐斗とゼノヴィアがイッセーに対して嫉妬するように見ていたが、俺は気にしないでおくことにした。

 

 二人には悪いが、今はイッセーを最優先させてもらう。近い内にイッセーがヴァーリと戦うかもしれないからさ。



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第三十一話

これで六日目の連日投稿です。

内容が短いながらもよく続いてます。

それではどうぞ!


 ヴァーリが去った後。予定通り授業参観、と言うより「公開授業」が始まった。

 

 父さんや母さんは今頃張り切ってるだろうな。父さんは父さんで有給休暇を取っただけじゃなく、最新のビデオカメラも用意してたからな。

 

 理由は言うまでもなく授業で頑張ってるアーシアの姿を撮る為だ。その気持ちは俺もよく分かるよ。と言うか、俺も父さん達と一緒に参加したい。そしてアーシアを撮りたい。俺の可愛い妹分が頑張ってる姿を撮らないわけがない。

 

 だが残念な事に俺は三年生の為、二年生の教室に行くことは出来ない。だから普通に授業を受けざるを得なかった。こう言う時だけ参加出来ないのが口惜しいよ、ホント。

 

 本当だったら両親にバレないよう『分身拳』を使い、変装しに行こうかと思ってたが――

 

『兄貴、もし分身拳使って教室に来たらすぐにバラすからな』

 

 と、イッセーに前以て釘を刺されてしまった。

 

 あの愚弟め。何でこう言う時に限って鋭いんだよ。よくも替え玉として利用出来る頼みの『分身拳』を……!

 

 弟よ、そんなに兄が来るのが嫌なのか? 俺は別にお前を気にせずアーシアを撮るだけなんだぞ。全くもって失礼な奴だ。

 

 あ、そう言えばリアスの方はどうしてるかな? アッチもアッチで我が同志サーゼクスやグレモリー卿が教室に来て凄く目立ってると思うから、さぞかしリアスは恥ずかしくて居た堪れない気持ちだろう。端整な顔立ちをした紅髪親子が目立たないと言う事は断じてないし。

 

 それに対して俺の両親はイッセーの教室にいてアーシアにエールを送ってるから、俺自身何の心配も無い。リアスには悪いが、普通に過ごさせてもらうよ。

 

 さて、今日俺のクラスでやる授業は社会。いつもより気合の入った男性教諭が大きめのプリントと鉛筆を生徒に配っていく。

 

 ………え? 何だこれ? これはプリントじゃなくて美術で使う画用紙なんだが。あと何故にデッサン用の鉛筆を?

 

「今日の社会の時間は歴史上の人物を描く事です。日本や海外、どの国の人物でも構いません。自分が尊敬出来る偉人を思い浮かべて描く事により、その人物についてより詳しく知ることが出来ます。歴史の勉強には必要不可欠です」

 

 どこが必要不可欠だよ! 意味分かんないよ、先生! ここは普通に社会の授業しましょうよ! これじゃ普通に美術でしょうが!

 

「それでは皆さん、始めてください。制限時間はチャイムが鳴るまでです」

 

 始めんなよ! どこの世界に歴史上の人物を描いて授業する社会があるんだよ!

 

 俺が内心最大限のツッコミを入れるも、周囲は何の疑問を抱かずに始めていた。

 

 ………あれ? 何でクラスメートたちは先生に一切抗議しないで始めてるの? 普通は何か言う筈なんだが……ひょっとして俺が変なのか?

 

 ………う~む……。この状況で俺だけ何か言ったらクラスメートだけじゃなく、親御さん達からおかしな生徒と認識されるかもしれないな。仕方ない。ここは敢えて描くとしよう。だけど本当にそれでいいのか、クラスメート達よ!

 

 一先ず俺は渋々と言う感じで鉛筆を手に持ち、何を描こうかと考え始める。ってか歴史上の人物を描くと言っても、色々と多すぎて全然思い浮かばないんだが。

 

 自分が尊敬出来る偉人ねぇ……。俺が最初に思い浮かぶ人と言ったら……。

 

『リューセーさん、私は主が死んでも祈りを捧げます』

 

 シスター服で聖書の神(わたし)にお祈りしてるアーシアだった。

 

 あの子は聖書の神(わたし)が死んだと知った後でも、毎日欠かさず祈っているんだよな。『俺は転生した聖書の神だ』って教えたい衝動に何度も駆られたよ。

 

 普通の信徒であれば真実を知った途端、教会不審になってもおかしくない。けれどアーシアは今でも聖書の神(わたし)を敬い、敬虔なシスターのままだ。真実を教える事が出来ない聖書の神(わたし)にとっては凄く申し訳ない気分だよ。

 

 だから俺は決心した。死んだ聖書の神(わたし)に対して今でも祈りを捧げるアーシアを守り続けると。これが俺、もしくは聖書の神(わたし)なりのケジメだからな。

 

 あと、アーシアが教会で祈りを捧げてるシーンは鮮明に思い浮かべられるよ。聖女の祈り、と言う感じで。

 

「ちょ、ちょっと兵藤くん……」

 

「はい?」

 

 先生が俺に声をかけたので思わず返事をした。何やら凄く驚いてる表情をしているな。

 

 何かと思えば、どうやら俺の画用紙を見て驚いているらしい。俺も画用紙を見ると――そこには優しい笑みで祈りを捧げてるシスター服のアーシアが描かれていた。

 

『おおっ!』

 

 クラスから歓声が沸く。と言うか、俺自身も思わず感嘆の息を漏らしたよ。どうやら頭の中で思い浮かべてた内容をそのまま描いてしまったようだな。

 

 流れるようなストレートヘアーに、誰もが魅了されるように優しく穢れのない笑顔、清楚と美しさを更に強調されるようなシスター服。何もかも俺が思い描いた完璧な姿だ。

 

 鉛筆で描いたにも拘らず、まるでモノクロ写真のように出来上がってる。我ながら凄い事をやってしまったな。

 

「こ、この画用紙に描かれている人物は転校してきた二年のアーシア・アルジェントさんですね。まるで聖女のように美しいです。まさか過去の偉人ではなく、将来偉人となるであろう彼女を描くとは……。う、うう……やはりこの授業をやって正解でした。こんな素晴らしい絵を描いた兵藤くんを、私は誇りに思います……」

 

 感動するように涙を流しながら言う先生。

 

 ってか俺、アーシアが将来偉人になると言う感じで描いたんじゃないんだが……。

 

「おいおい兵藤、何だよこの凄い絵は!」

 

「お前、芸術家に向いてんじゃねぇか!?」

 

 クラスメートからも驚いてるように賞賛された。

 

「なぁ兵藤、よかったら俺の絵と交換しないか?」

 

「そんな紙屑なんかより俺は五千円出す!」

 

「いえ! 私は七千円出すわ! こんな素晴らしい絵を見てるだけで癒されるわ!」

 

「兵藤! よかったら八千円出すぞ! 是非とも俺に癒しを!」

 

 人物画を描こうとした社会の授業は一転し、俺が描いたアーシアの肖像画をめぐるオークション会場となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 昼休み。

 

「おいおい、これ本当に兄貴が描いたのかよ……モノクロ写真みたいだな」

 

「な、何か恥ずかしいです……」

 

 と、イッセーは俺が授業で描いた(額縁付きの)肖像画を持ちながら見て驚いていた。アーシアは自分がモデルにされていた事によって恥ずかしそうに頬を赤らめているが。

 

 言うまでもなく、肖像画はクラスメートに売らなかった。と言うか売る訳が無い。俺の大事な可愛い妹分のアーシアだからな。因みに額縁については、『素晴らしい芸術作品を見せてくれたお礼だ!』と先生が言って無償でくれた。

 

 一度アーシアに見せようと二年の教室へ向かってた際、自販機の前でイッセーやアーシアだけでなく、リアスと朱乃とも遭遇した。

 

 俺がここに来る前、イッセーはリアス達に作品を見せていたようだ。英語の授業で作った紙粘土の裸体リアス像を。………こっちも余り人のことを言えないが、どうして英語なのに美術をやってるのかが全く理解出来なかった。この学園の教師は大丈夫かって心配するほどに。

 

 まぁそれはそれとして、イッセーが作ったリアス像は随分と上手く出来ていたよ。リアス本人も褒めていたようだし。

 

 イッセーは家でリアスの裸を毎日見てるから、脳が鮮明に焼き付いてたんだろうな。それを思い浮かべながらリアス像を作ったと言ってたし。

 

 まさか俺と同じ事をやってたとは予想外だった。こう言う所で俺たち兄弟はやる事が似てるなぁって思ったよ。

 

「よく描けてるわね。あなた、画家になったほうがいいと思うわよ?」

 

「あらあら、こんなリアルにアーシアちゃんの絵を上手く描くなんて。凄いとだけしか言いようがありませんわ」

 

 そして俺の肖像画を見てるリアスと朱乃は驚きながらも魅入っていた。

 

「リューセー、よかったらグレモリー家の専属画家にならない? こんなに素晴らしい絵を描けるなら、お兄さまたちも喜ぶと思うわ」

 

「じゃあ今度お前の絵を描いてやるよ。リアスが幼少時の姿を想像しながら魔女の服を着た『魔女っ子リーアたん』でも――」

 

「ごめんなさい、今の話はなかったことにして」

 

 サーゼクスが絶対喜ぶであろう絵を描こうと思ったが、リアスはすぐに提案を撤回してしまった。残念。

 

「何だよリアス。人が折角描いてやろうと思ったのに」

 

「そんな恥ずかしい絵を描かないで! もしお兄さまが見たら絶対に……ん?」

 

 顔を赤らめながら怒鳴るリアスだったが、急に何か思い出したかのような顔をする。すると今度は引き攣った笑みを浮かべ、両手を俺の両肩の上に置く。

 

「ちょっと待ってリューセー、どうしてあなたが家族の間でしか知らない私の愛称(あいしょう)を知ってるのかしら?」

 

「え? それは……あ」

 

「どうやら心当たりがあるみたいね」

 

 しまった。一昨日にサーゼクスがリアスを愛称で呼んでたから、つい俺も言ってしまった。

 

 やばいと気付くも既に手遅れだった。リアスは怒気のオーラを放ちながらも怖い笑みを浮かべている。

 

「ぶ、部長が恐ぇ……!」

 

「部長さんが、凄く怒ってますぅ……」

 

「あらあら、うふふ」

 

 イッセーとアーシアはリアスの怒気を感じたのか、表情を引き攣らせながら冷や汗を流して後ずさりしている。更に朱乃は余裕そうな笑みを浮かべるも、助ける様子は一切見せなかった。

 

「そういえば一昨日の夜、お兄さまが大事な話があるといってリューセーの部屋に行ったわよね? そこで一体何を話してたの?」

 

「そ、それは、その……」

 

 リアスの幼少時代のエピソード傍聴とアルバム観察+妹談議を熱く語ってました。なんて事を今のリアスには口が裂けても言えない!

 

 タジタジになりながらもどうやって誤魔化そうかと必死に考えているが、リアスは俺に再度尋ねようとする。

 

「ねぇ、リューセー。怒らないから教えてくれる? 私とあなたの仲じゃないの」

 

 …………ダメだ。今のリアスにどう誤魔化してもすぐに嘘だとバレる。と言うか、下手な嘘を吐いたら後々面倒な事になってしまう。

 

「……ほ、本当に怒らないか? 手をあげる行為も一切無しだぞ?」

 

「ええ、約束するわ」

 

「えっと、実は――」

 

 俺が理由を説明しようとすると――

 

 

「魔女っ子の撮影会だとぉ~~~!?」

 

「これは元写真部として、レンズを通し余すことなく記録せねばぁ!」

 

 

 突如、元浜と松田が叫びながら体育館へと向かっていた。他の男子達も一緒に。

 

 それを聞いた俺はすぐに振り向いてこう言った。

 

「え? 魔女っ子? リアスはまだ魔女っ子の服を着てない筈だが」

 

「いつから私はそんな服を着ることになったの!? 勝手に魔女っ子扱いしないで!」

 

 俺のボケにツッコミを入れるリアス。そのお蔭で俺の両肩を掴んでいた手を放してくれた。

 

「ではちょっと確認しに行こうか。誰が魔女っ子の姿をしているのかを!」

 

「あ、こら! 待ちなさいリューセー! 話はまだ終わってないわよ!?」

 

 逃げるように体育館へ向かう俺にリアスが追走するのであった。

 

「おい兄貴! 忘れもんだぞ!」

 

「りゅ、リューセーさん! 絵を置き忘れてますよ~!?」

 

「あらあら、うふふ。リアスってばリューセーくんに振り回されてますわね」




元とはいえ、聖書の神が描いた絵を教会もしくは天使が知ったらどうなる事やら……。


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第三十二話

「もう一枚お願いしますー!」

 

「こ、こちらに目線くださ~い!」

 

 リアスに追走されながらも体育館に入ると、カメラを持った男子達が、壇上に立っている誰かを撮影していた。まるで記者会見しているんじゃないかと思われるフラッシュのたかりだ。

 

「………やっぱり彼女だったか。まぁ、魔法少女って単語を聞いた時点で想像はしてたが」

 

 壇上で撮られている誰かを見てみると、そこにはアニメキャラの格好をした少女がいた。あの格好は確か『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』だったな。俺を神様と崇めている『ミルたん』が着ている服と同じ物だ。

 

 そういや以前、ミルたんから『このアニメを是非とも神様に見て欲しいにょ』と言われてアニメ鑑賞したな。まぁ、内容的には意外と面白かったよ。

 

 それを見たアニメキャラのミルキーと壇上にいる少女はよく似てる。仕草とかスティックの回し方とか完璧に真似てるし。あれは相当練習したようだな。

 

「やっと追いついたわよリューセー! 早く質問に……なっ!」

 

 体育館に入ったリアスは足を止めている俺を捕まえようとするが、壇上にいるコスプレ少女が視界に入った途端、慌てふためいた。その数秒後にはイッセー達も来てキョトンとしながら壇上を見ている。

 

 おお、珍しいな。リアスがこんな風に驚くとは。ま、相手が相手だから無理もないけど。

 

「コラァ! 学校で何やってんだお前等!」

 

 そんな事を言いながら、生徒会の匙元四郎が壇上に立ち、撮影してる男子達に向かって怒鳴る。

 

「ほらほら、解散解散!」

 

「横暴だぞ生徒会!」

 

「撮影会くらい良いだろうが!」

 

『そうだそうだ!』

 

 匙が解散するよう促すも、撮影をしてる男子達が猛抗議する。抗議してる中には当然、松田と元浜も含まれていた。

 

「公開授業の日に要らん騒ぎを作るな! はやく解散しろ!」

 

 ハハハ、匙はちゃんと仕事しているな。しっかりとソーナの役に立ってるよ。この前コッソリと渡したソーナの水着写真のお蔭かな? 匙がアレを見た瞬間、猛烈に感動して両目から涙を滝のように流してたし。

 

「ちぇっ!」

 

「またね~、ミルキーちゃん」

 

 そして撮影していたカメラ男子達は匙の剣幕に負けて渋々と去っていった。

 

 去った男子たちを見た匙は次に問題のコスプレ少女に問いかけようとする。

 

「あのう、ご家族の方でしょうか?」

 

「うん☆」

 

「でしたら、そんな格好で来られると困るんですが」

 

「えー、だって、これが私の正装だもん☆」

 

 匙が注意を促すも、コスプレ少女は可愛らしくポージングして聞く耳を持たずだった。

 

「だから真面目に……!」

 

 あ、匙が頬を引き攣ってる。ちょっとフォローしに行くか。

 

「こらこら、そこの魔法少女さん。ソーナが泣いても知りませんよ」

 

「む? ソーナちゃんが泣くってどういうことなのかな?」

 

 俺が壇上の手前まで近づきながら言うと、聞いたコスプレ少女は少し顔を顰めながら俺に問う。

 

「あ、兵藤先輩」

 

「やあ、匙。お仕事ご苦労さん。あの写真は大事にしてるかな?」

 

「っ! こ、こんな時に何言ってんですか!?」

 

「ねぇねぇ、ソーナちゃんが泣くってどういう意味~?」

 

 少しからかうと匙は慌てるように言い返すし、いつの間にか壇上に下りてきたコスプレ少女が俺に詰め寄ってくる。

 

「それはですね、セラ―」

 

 

 ガラッ!

 

 

 俺が彼女の名前を言ってる途中、体育館の扉が開く音で遮られてしまった。そこから駒王学園の生徒会長――ソーナ・シトリーが現れる。

 

「体育館で騒ぎが起きていると聞きましたが、何事ですか? あら、リューセーくん」

 

「あ、ソーナ。今の内に退散した方が――」

 

「ソーナちゃん! 見ぃつけた☆」

 

「………え?」

 

 退散するように促す俺だったが、コスプレ少女がソーナを見た途端に嬉しそうに笑顔となって声をかける。すると呼ばれたソーナは彼女を見た途端、頬を赤らめながら固まった。

 

 ソーナの様子がおかしい事に匙は何事かと思って尋ねようとする。

 

「あの、会長……もしかしてこの方は、会長のお知り合いですか?」

 

「ソーナちゃん、どうしたの? お顔が真っ赤ですよ?」

 

 匙の問いを無視するかのようにコスプレ少女はソーナに駆け寄って話しかけている。ソーナはさっきと変わらず固まったままだが、それでも彼女は気にせず続けている。

 

「折角お姉さまとの再会なのだから、もぉ~っと喜んでくれていいと思うの! お姉さま! ソーたん! って! 抱き合いながら、百合百合な展開になってもいいと思うのよ~。お姉ちゃんは!」

 

 問題だらけでツッコミ満載な台詞だな、おい。噂には聞いてたが、本当に超が付くほど妹大好きなシスコン姉だな。我が同志サーゼクスと良い勝負だ。

 

「お、おい兄貴、会長に駆け寄ってるあの人ってまさか……会長のお姉さん?」

 

 駆け寄りながら訪ねてくるイッセーに俺はすぐに答える。

 

「ああ。ソーナ・シトリーの姉で冥界の現四大魔王の一人――セラフォルー・レヴィアタンだ。俺も初めて見たが、噂通りのドシスコンで驚いたよ」

 

「………マジかよ」

 

 イッセーは頬を引き攣らせながらコスプレ少女――セラフォルーを見ている。多分コイツの事だから、想像してたセラフォルーの人物像が一気に崩れてるだろうな。

 

 俺が前にセラフォルー・レヴィアタンの事を調べてた際、イッセーはホルモン漂う魅惑のお姉さま系と想像していたし。それが実はコスプレ衣装を着た可愛らしい少女だったとは思いもしなかっただろう。

 

「……ま、まぁ美人であることに変わりねぇな。うん」

 

 おお、前向きに考えてるようだ。それはそれで結構だが――

 

「むぅ~……」

 

「あ、あーひあ、いたひよ」

 

 ほれ、アーシアが剥れちゃってるじゃないか。それはそれで可愛いけど。

 

 何かアーシアがイッセーの頬を抓ってるシーンを見てると、一昨日にグレイフィアがサーゼクスにやったのとそっくりだな。

 

 そんなやり取りを見てなかったのか、リアスはすぐにセラフォルーに挨拶しようとする。

 

「セラフォルーさま、お久しぶりです」

 

「あ、リアスちゃん☆ おひさ~☆ 元気してましたか~?」

 

 何て軽過ぎる口調だよ。仮にも魔王なんだから、少しは威厳のある口調をした方がいいと思うぞ。

 

「はい、おかげさまで。ところで今日はソーナの公開授業でいらしたのですか?」

 

「うん☆ ソーナちゃんったら酷いのよ。今日のこと黙ってたんだから! 情報入手したサーゼクスちゃんが教えてくれなかったら、もうお姉ちゃんショックで……天界に攻め込もうとしちゃったんだから☆」

 

 そんな下らない理由で聖書の神(わたし)の故郷を攻めようとすんな! マジでサーゼクスに教えといて良かった! でなきゃ聖書の神(わたし)天使(むすこ)達を守る為に決死の覚悟でセラフォルーと一戦交えてたよ!

 

「ところでリアスちゃん、あの子たちが噂の兄弟くん?」

 

「はい。イッセーにリューセー、ごあいさつを」

 

 一先ずリアスの言うとおり、俺とイッセーは挨拶をする事にした。

 

「は、はじめまして、兵藤一誠です。リアス・グレモリーさまの眷族候補です!」

 

「先程は失礼しました。コイツの兄、兵藤隆誠です」

 

「はじめまして☆ 魔王のセラフォルー・レヴィアタンです☆ 『レヴィアたん』って呼んでね☆」

 

 ピースサインを横向きでチェキをする現魔王レヴィアタン。これを未だに下らん事を考えてる時代遅れな旧魔王派の連中が見たら怒り狂うだろうな。

 

「は、はぁ……」

 

 イッセーは余りにも軽すぎる展開に困惑気味の様子だった。

 

「ではそう呼ばせて頂きます、レヴィアたん。あと俺の事はリューセーで良いですよ」

 

「ありがと、リューセーくん☆」

 

「って兄貴! 何か今日はいつもよりノリが良くねぇ!?」

 

「リューセー! いくらなんでも馴れ馴れしすぎるわよ!」

 

 俺がセラフォルーが望んだ呼び方をすると、イッセーとリアスからツッコミが入った。

 

「良いじゃないか。本人がそう呼べって言ってるんだからさ」

 

「そうそう☆ 私は全然OKだよ☆」

 

「リューセーくん、あまりお姉さまを調子付かせるような事は止めてください。私が困ります」

 

 おやおや、今度は妹のソーナから厳しい指摘をされてしまった。

 

「それはすまなかった。けどさぁソーナ、そう言ってる割には内心、久しぶりのお姉さんに会えて嬉しく思ってるんだろう?」

 

「な、な、な、何を言ってるんですか!?」

 

「え!? それホントなの、ソーナちゃん!?」

 

 ちょびっとだけ仕返しを込めた発言をしたらソーナが慌て、それを見たセラフォルーは嬉しそうな顔をする。

 

 だがソーナは即座に話題を変えようとセラフォルーに何か言おうとする。

 

「そ、それよりお姉さま。私は駒王学園(ここ)の生徒会長を任されているのです。いくら身内だとしても、そのような行動や格好はあまりに……容認できません!」

 

「そんなソーナちゃん! ソーナちゃんにそんなこと言われたら、お姉ちゃん悲しい! お姉ちゃんが、魔法少女に憧れているって知ってるでしょう!?」

 

 さっきまで嬉しい表情とは打って変わり、ショックを受けたように悲しそうな顔をするセラフォルー。

 

 ってか、セラフォルーの台詞は何処かで聞いたことあるな。……ああ、ミルたんが言ってたんだった。もしかしたらミルたんはセラフォルーと仲良くなれそうな気がする。

 

「煌くスティックで天使、堕天使をまとめて抹殺なんだから☆」

 

「お姉さま、ご自重下さい。お姉さまが煌かれたら小国が数分で滅びます」

 

 うん、それは確かに勘弁してほしい。大事な天使(むすこ)達を抹殺されたら聖書の神(わたし)も黙ってはいない。

 

 にしても、流石噂通りの魔法少女、じゃなくて魔王少女だな。シスコン振りも半端ないよ。

 

「なあ、兄貴。先日コカビエルが襲ってきた時、会長がお姉さんを呼ばなかった理由って………後々メンドくさい事になるからってか?」

 

「そうだな。あの溺愛振りから見て、もしソーナがコカビエルに汚されでもしたら、即戦争になってたかもしれない。下手したら彼女が駒王町を氷漬け、もしくは消滅させるか、どちらにしろ碌な事が起きないのは確かだ」

 

「……あー、なるほど」

 

 セラフォルーの行動を見て、イッセーは俺が言ってる事が本当だと分かったようで頷いていた。

 

「リューセー、もしかしてセラフォルーさまのことも調べてたの?」

 

 リアスが確認するように俺に問うてくる。

 

「一応な。まぁ、あそこまでソーナを溺愛するほどの超シスコンだとは思わなかったが」

 

「………シスコンに関しちゃ兄貴も人のこと言えねぇだろ」

 

 うっさい。ほっとけ。俺はあそこまで酷くない。

 

「もう! 耐えられません!」

 

 セラフォルーに絡まれ続けていたソーナは我慢の限界が超えたのか、目元を潤ませて体育館から走り去って行く。冷静沈着なソーナでは考えられない行動だ。

 

「あ、待ってソーナちゃん!」

 

「こないでください!」

 

 逃げ去ろうとするソーナを追いかけるセラフォルー。

 

 う~む、魔王姉妹の追いかけっこか。何かの拍子でこの学園を消すような事にならなければ良いんだが。

 

「そ、それじゃ俺、会長のフォローをしなきゃだから」

 

「おう、頑張れよ匙」

 

「気をつけろよ、匙。もし君が持ってるアレ(・・)をお姉さんに見せたらとんでもない事になるからな」

 

「絶対しませんから! 俺だって命が惜しいですよ!」

 

 言うまでもなくアレとはソーナの水着写真の事だ。偶々手に入ったとは言え、あの盗撮写真をセラフォルーが見たら、盗撮者や写真を持ってる者たち全員消すかもしれない。下手したら学校ごと消されるかも。

 

 そして匙は去って行った魔王姉妹の後を追走しようと、すぐに体育館から去った。

 

「匙さんも大変ですね」

 

 アーシアは去って行く匙を見て思ったことを言う。

 

「サーゼクス様やセラフォルー様を見て分かったが、噂通り現四大魔王はプライベート時が物凄く軽いみたいだな。そうだろ、リアス?」

 

「………あまり言いたくないのだけど、その通りよ」

 

 嘆息しながら俺の問いに答えるリアス。

 

「あの様子じゃソーナは姉に対して相当苦労してるみたいだな。今度スイーツでも作ってやるか」

 

「あなた、この前もそうしてたけど随分とソーナには優しいのね」

 

 俺の発言にリアスは少し気に食わなさそうに軽く睨んでくる。

 

「お? もしかして嫉妬か?」

 

「怒るわよ」

 

「冗談だって」

 

 友人の軽いジョークにちょっとは乗ってくれたっていいじゃないか。

 

「さて、もう体育館に用はないから俺達もそろそろ退散すっか」

 

「それもそうね……ってちょっと待ちなさいリューセー! 私の愛称を知った理由はまだ聞いてないわよ!?」

 

「げっ!」

 

 くそっ、まだ憶えてたか!

 

 セラフォルーと言うインパクトが強いキャラの登場によって忘れてたと思ってたが、そうもいかなかったようだ。

 

 ここは何としても逃げ切ってやる!

 

「ではさらばだ!」

 

「ああっ! 誰もいないからって転移を使うなんて卑怯よ!」

 

 一先ずリアスから逃れる為に転移術で一先ず切り抜ける事に成功した。

 

 あ、いけね。後で肖像画を回収しておかないと。

 

 因みにリアスは俺が愛称を知った理由を、後でサーゼクスから聞いたらしい。幼少時のエピソードも含めて。

 

 理由を知ったリアスは放課後、顔が茹蛸のように真っ赤になったまま俺に詰め寄り――

 

「リューセー! もし誰かに喋ったらどうなるか分かってるわよね!?」

 

「別に口外しないっての。ってか、お前だって俺たち兄弟のアルバム見たんだからお互い様だ」

 

「私の恥ずかしい過去を聞かれた時点でもうお互い様じゃないわよ! 女の過去は男より重いのよ!」

 

「んなもん知るか! 恥ずかしい過去なんて悪魔だろうが人間だろうが男女関係無く平等だ!」

 

「何ですって!?」

 

 ちょっとした低レベルな言い争いとなってしまった。

 

 滅多にない光景を見ていたイッセー達はひたすら唖然としていたが、すぐに収まる事となった。

 

 あとこれは部活の時に知ったが、サーゼクスやグレモリー卿が兵藤家に伺って公開授業鑑賞会をやるそうだ。是非とも参加しなければ。

 

 

 

 

 

 

 兵藤家の夕食後、リビングで公開授業鑑賞会をしていた。参加者は言うまでもなく俺と両親とアーシア、そしてグレモリー卿とサーゼクスだ。

 

 因みにこの場にはイッセーとリアスはいない。サーゼクスがハイテンションで妹の晴れ姿を解説し出した為に、耐え切れなくなったリアスがリビングから出てイッセーが追っているからだ。

 

 そんな中、父さんが『そう言えばリューセーは何の授業をやっていたんだ?』と訊かれたので、俺はすぐにアレを取り出した。

 

「これが今日の授業で書いた絵です」

 

「おお! 凄い出来栄えじゃないかリューセー! アーシアちゃんにそっくりだ!」

 

「まるで写真みたいじゃない! とても絵とは思えないわ!」

 

「うぅ……恥ずかしいですぅ……」

 

 アーシアの肖像画を見せた途端、父さんと母さんから賞賛の言葉を贈られる。モデルとなったアーシアは昼休みと同様に頬を赤らめているが。

 

「これは見事な肖像画ではないか」

 

「恐れ入ったよ、リューセーくん。まさか妹の絵を描くなんてね」

 

 一緒に見ていたグレモリー卿やサーゼクスからも同様に賞賛される。イッセー達だけでなく、両親達も同様の反応だ。

 

「本当は尊敬する過去の偉人を描く予定だったんですが、思わず頭の中で妹分のアーシアを思い浮かべましてね」

 

「なるほど、自分の想像通りに描いたと言う事か。大して絵心の無い私から見たら、凄く羨ましいスキルだよ」

 

 本心なのか嫉妬なのかは分からんが、サーゼクスは真剣な顔をしてそう言ってきた。(リアス)を大事にする(サーゼクス)として悔しいんだろうか。

 

 っと、妹で思い出したがリアスは………あ、今は弟の部屋でイッセーと二人っきりになってる。二人のオーラが凄く密着してるから、これはもしや……。

 

(おいアーシア、リアスがイッセーと二人っきりになって部屋でイチャ付いてるぞ?)

 

「っ! お、お父さま、お母さま、すいませんが失礼します!」

 

 俺が小声で呟くと、ビクッと反応したアーシアはすぐにリビングから去っていった。

 

「? どうしたんだアーシアちゃんは? 急に慌てて」

 

「リューセー、アーシアちゃんに一体何を言ったの?」

 

「まぁ、ちょっとした応援ってところ」

 

「「?」」

 

 俺の言ってる意味が分からない父さんと母さんは揃って首を傾げる。

 

 すると、サーゼクスは去って行ったアーシアを見て何かを思い出したように俺に話しかけた。

 

「リューセーくん、キミやリアスたちに話したいことがあるから付いて来てくれないか?」

 

「? ええ、良いですよ」

 

 突然のサーゼクスからの誘いに俺は不可解に思いながらも同行する。

 

「部長さんばかりずるいです!」

 

「先手必勝。朱乃との争いで学んだことよ」

 

「だったら私は後手必勝です!」

 

「何よそれ?」

 

 サーゼクスと一緒に二階へ上がってイッセーの部屋に着くと、そこからリアスとアーシアの言い争いが聞こえた。

 

「おやおや、ケンカはよくないぞ」

 

「二人とも、イッセーの前でそれはダメだろう」

 

 サーゼクスと俺はそう言いながら部屋に入ると、イッセー達は驚いたような顔をする。

 

「兄貴にサーゼクスさま、鑑賞会は終わりですか?」

 

「サーゼクス様から話したい事があるって言うから付いてきたんだ。で、一体どんな話ですか?」

 

 俺が問うとサーゼクスはすぐに答えようとする。

 

「リアスに提案をしようと思ってね。封印してる『僧侶(ビショップ)』を解放しようと」

 

「っ!」

 

 おお、ついにあの引き篭もりハーフヴァンパイア君を解放するのか。

 

 …………あ、やば。俺、リアスにあの子と既に会った事をまだ教えてなかった。それとオカ研に入部して以降、あの子とは全然会ってない。会った途端に一悶着起きなければ良いんだが。



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第三十三話

 翌日の放課後。

 

 俺たちオカ研一同は旧校舎一階にある「開かずの教室」とされていた部屋の前に立っていた。

 

 警察が現場でよく使う『KEEP OUT』の黄色いテープが幾重にも張られているが、それには呪術的な刻印も刻まれている。もし誰かが入ろうとしたら呪術が発動し、強制的に侵入者を帰らす為の暗示が掛けられる。ついでに侵入した時の記憶も消されるオマケ付きで。尤も、侵入してた俺はソレを無視して何度もあの子と会ってたけど。

 

「部長、昨日サーゼクスさまが言ってた『僧侶(ビショップ)』がここにいるんですか? 何か出るのが無理そうな結界が施されてるんですけど」

 

 イッセーの問いにリアスは感心しながらも答えようとする。

 

「ええ、ここにいるの。一応深夜には結界が解けて旧校舎内だけなら部屋に出れるのだけど、中にいる子自身がそれを拒否しているの」

 

 うんうん。俺も会ってた時にはさり気なく外に出てみないかって誘ってみたんだが、即座に拒否されてしまったんだよな。あの性格をどうにかしないといけないなと考えてた時、リアスやソーナ達に旧校舎侵入の容疑者として疑われてたので中断せざるを得なくなった。

 

 あの子が此処で封印されているのは、神器(セイクリッド・ギア)の能力が危険視されていて、主であるリアスの能力では扱いきれないと言う理由だった。その為、冥界の上層部からあの子を封印するよう言われたらしい。

 

 だが昨夜、イッセーの部屋でサーゼクスが説明したが、フェニックスやコカビエルとの一戦により高評価を得たそうだ。それ等の一戦は俺とイッセーがいたからこその勝利なので、普通に考えれば評価されないと思う。だがリアスや眷属たちの実力自体がかなり上がっていたので、封印していた『僧侶(ビショップ)』を今なら扱えるだろうとサーゼクスや上層部は判断し、そして解放するよう指示した。

 

「要するに、引き篭もりなんですか?」

 

「でもこの子が眷族の中でも一番の稼ぎ頭なんですのよ」

 

「マジですか!?」

 

 呆れたように再度尋ねるイッセーだったが、朱乃からの発言を聞いた途端に驚いた。

 

「パソコンを介して、特殊な契約を人間と執り行ってるんだ」

 

「契約したいと言っても、直接悪魔と会いたくない人間もいるからな。俺も初めに知った時は驚いたけど」

 

 祐斗の台詞を続けるように俺が言うと、リアスが少し目を見開きながら俺を見る。

 

「もしやとは思ってたけど、やっぱりリューセーはソレも知ってたのね」

 

「まあな。しかしまぁ、悪魔がパソコン使って契約だなんて随分と時代を見据えてることで」

 

「そうでもしないと契約が取れないのよ。ずっと古いやり方に拘ってたら、今の人間界の時代に取り残されてしまうわ」

 

 ご尤も。人間界は冥界と違って常に最新の道具や機械や技術や娯楽、そして政策を求めているからな。

 

 冥界もその気になれば人間が想像した百年以上先のハイテク時代を築く事が出来る。だが残念な事に、冥界に住む悪魔は新しい物を求めようとしても、すぐ実行に移そうとはしない。しかし、悪魔の一大事に関わる事となれば、人間界の時代に合わせるよう『パソコンを介しての契約』と言う対策をすぐに立てようとする。

 

 悪魔と言う生き物は人間と違って永遠に近い寿命を持っている為、余程の事がない限りは大抵後回しにしてしまう。すぐに自分のやりたい事を全てやってしまえば、そこから先の事は全くやろうとしない一種の燃え尽きた状態となり、無為な長い余生を過ごす事となる。それは最早生き地獄も同然。だから冥界の悪魔が、躍起になって新しい何かを作ろうと言う姿勢を見せはしない。尤も、それは天使や堕天使にも同じく言える事だが。

 

「さて、扉を開けるわ」

 

 扉に刻まれていた呪術刻印も消え去り、普通の扉となった。そしてリアスが扉を開いた途端――

 

「イヤァァァァァァァアアアアッッ!!」

 

「な、何だぁ!?」

 

 ――とんでもない声量の絶叫が中から発せられてきた。突然の絶叫にイッセーが戸惑っている。

 

 懐かしいなぁ。俺も初めて会った時、あの子が急に絶叫してたよ。まぁその時は防音対策も含めた結界によって、部室にいたリアス達に感づかれる事は無かったけど。

 

「ごきげんよう、元気そうで良かったわ」

 

 懐かしげに思い出しながら部屋に入ると、リアスは目の前にある棺に挨拶する。

 

「な、何事なんですかぁぁぁ?」

 

 その中からは中世的な声がする。相変わらず暗い棺の中に篭るのが好きなんだな。まぁ、ハーフとは言えヴァンパイアだから当然といえば当然だが。

 

「封印が解けたのですよ? さあ、私たちと一緒に出ましょう?」

 

「やですぅぅぅぅぅ! ここがいいですぅぅぅぅ! 外こわいぃぃぃ!!」

 

 朱乃が優しいそうに言いながら棺を開けると、駒王学園の女子制服を着た子が泣きそうな顔で嫌だと拒否する。

 

「おおっ! 女の子! しかもアーシアに続く金髪美少女!」

 

 イッセーがあの子姿を見た途端、嬉しそうに叫ぶ。

 

 …………まぁ確かに見た目はアーシアと似たような可愛い女の子だ。

 

 だが――

 

「イッセー、この子は男の子よ」

 

「……………………………え?」

 

 実は男なんだよねぇ。

 

 リアスが事実を言うと、イッセーは信じられないように固まってしまった。

 

「………ぶ、部長、もう一回言ってくれません? 今、何と?」

 

 理解出来ない言語だと思ったのか、イッセーは確認するようリアスに問う。

 

「見た目は女の子だけれど、この子は紛れもなく男の子よ」

 

「うふふ、女装趣味があるのですよ」

 

「バカなぁぁぁぁああああああああああああああっ!」

 

 あっさりと答えるリアスと朱乃に、イッセーは余りの衝撃だったのか大声を張り上げていた。五月蝿い奴だ。

 

 弟の反応を予想していたのか、リアスは気にせず涙目となってるあの子を優しく抱きしめようとする。

 

「この子はギャスパー・ヴラディ。私の眷族で『僧侶(ビショップ)』。一応駒王学園の一年生で、転生前は人間とヴァンパイアのハーフなの」

 

「ヴァ、ヴァンパイア……?」

 

「こ、コイツがヴァンパイアって……」

 

 リアスがハーフヴァンパイア君――ギャスパーを紹介すると、アーシアとイッセーが意外そうな顔をする。一応あの子にもヴァンパイアの象徴とされる牙はあるぞ。

 

「ちくしょぉぉおおおおおおおっ! 理不尽だ! こんな残酷な話があっていいものかぁ!? 完全に美少女な姿なのにぃ!」

 

 だがイッセーはギャスパーがヴァンパイアより姿が気に入らなかったようだ。

 

「でもよく似合ってますよ?」

 

「だからその分ショックがデカいんだよ、アーシア!」

 

 アーシアのフォローも虚しく悲壮な叫びをあげるイッセー。本当にさっきから五月蝿いな。

 

「て言うかお前! 引き篭もってるくせにそんな女装姿を誰に見せるんだよ!?」

 

「だ、だ、だ、だって、この格好のほうがかわいいもん。あれ? あの人に似てるような気が……」

 

「んなもんどうでもいいわ! もん、とか言うなぁぁ! あああ………一瞬だが俺は、アーシアとお前のダブル金髪美少女を夢見たんだぞ!」

 

「……人の夢と書いて、儚い」

 

「または一炊の夢だな」

 

「小猫ちゃんに兄貴ぃぃぃい! それシャレにならんから止めてくれ!」

 

 小猫と俺による言葉のパンチが聞いたのか、イッセーはもうKO寸前だ。

 

「…………え?」

 

 するとギャスパーは俺の声が聞こえたのか、コッチへと視線を向けてくる。

 

「あ、あ、あ………あなたは……」

 

「よう、ギャスパー君。久しぶりだな」

 

 やっと気付いたか。俺も一緒に入ったのに全然気付いてなかったから、忘れられてるかと思ったよ。

 

 そして――

 

「リューセー先輩ぃぃいいいいっ! 何で急に来なくなったんですか~~~!?」

 

 すぐさま立ち上がって俺に向かって突進し、そのまま詰め寄ってくる。

 

「悪い悪い。色々とあって来れなくなってな。そう言えば、いくつか貸したゲームはクリアしたか?」

 

「もうとっくにクリアしましたよぉ~! 先輩と来るのを楽しみに待ってたんですからぁ~!」

 

「そうか。それは悪か――」

 

「ちょっと待ちなさい、リューセー。どうしてあなたがギャスパーと面識があるのかしら?」

 

 泣き付いてくるギャスパーに謝ってると、リアスが割って入るように言ってくる。しかも頬を引き攣らせながら。朱乃たちも驚愕しながら揃って俺を見ている。

 

 これは流石に教えないと不味いな。っと、その前にギャスパーを少し離さないと。

 

「いや、実は――」

 

 そして俺は諦めるようにギャスパーと知り合った経緯を説明を始める。リアス達に内緒でこの部屋に忍び込んでいた事を含めて。

 

 それが終わると――

 

「やっぱりあの噂は本当だったのね。よくも私の前であんな嘘を……!」

 

 予想通りと言うべきか、リアスは怒気のオーラを放ちながら詰め寄ってくる。

 

「それは悪かったと思ってる。でも、しょうがないだろ。あの時はまだお前と協力関係じゃなかったんだからさ」

 

「だからって、アザゼルみたいに無断で私の可愛い眷族に手を出さないで欲しいのだけど?」

 

「本当に悪かったよ」

 

 不機嫌なリアスをどうにか宥めようと俺は必死に謝り続けた。

 

 でもまぁ、ギャスパーをほったらかし状態にしてたリアスにも問題があるんだよな。俺たち兄弟と会う前まで、ギャスパーを制御する為に主である己自身を鍛えるとか、それ以外の対策を施すみたいな行動を一切してなかったし。

 

 だから俺がリアス達に疑われる覚悟でギャスパーに接触せざるを得なかった。コイツが持つあの神器をどうにかする為に。

 

 まぁ、コッチも人の事は言えない。オカ研に入部以降、ずっとほったらかしにしてた俺も問題だった。余り強く出れないから、何とも言えん。

 

 一先ず謝罪を終えると、何か気になってる様子を見せるギャスパーがリアスに質問しようとする。

 

「あ、あの、部長? リューセー先輩と一緒にいるのってもしかして……」

 

「ええ、まだあなたに教えてなかったのだけど、リューセーは既に私たちオカルト研究部の部員よ」

 

「悪魔に転生してないが、俺とリアスとは協力関係になってるって訳だ」

 

「そ、そうだったんですか~。リューセー先輩、以後よろしくお願いします」

 

 俺がオカ研の部員だと分かった途端、ギャスパーは嬉しそうな顔をしながらお辞儀をする。リアスが少し面白く無さそうな顔をしているが、一先ず見無かった事にしよう。

 

「ああ、よろしく。じゃあ再開した記念として、このまま外に出ようか」

 

「それは嫌ですぅぅぅぅ! お外怖いぃぃ!」

 

 くそっ。さり気なく外に出そうと思ってたが、やっぱりダメだったか。

 

 嫌だと言って来るギャスパーにイッセーが腹が立つように近づき、腕を引こうとする。

 

「おい、ギャスパーって言ったか? 理由は知らねぇが、ちったぁ外に出るのも――」

 

「ヒィィィ!」

 

 ギャスパーの絶叫と共にアレ(・・)が発動した。その直後にイッセーやリアス達がまるで石像みたく、動きが止まっていると言う異質な空間となった。

 

 そんな中、イッセーに腕を掴まれていたギャスパーはすぐに離れて部屋の隅っこに移動するが――

 

「ったく。この力も相変わらず暴走気味か」

 

「イヤァァァ! 毎回思ってることですが何でリューセー先輩だけは動けるんですかぁぁぁ!?」

 

 俺がすぐに襟首を掴んで阻止させた。次の瞬間、イッセー達が元に戻ったように動き出す。

 

「…………あれ? さっき腕を掴んでたのに……何で兄貴がソイツの襟首掴んでんだ?」

 

「おかしいです。いま一瞬」

 

「……何かされたのは確かだね」

 

 状況が掴めていないイッセーとアーシアとゼノヴィアが驚いていたが、他のメンバーはギャスパーを捕まえた俺を注視していた。

 

「ちょ、ちょっとリューセー、あなたまさか……時間停止の力が効いてないの!?」

 

「ああ。俺にギャスパーの神器(セイクリッド・ギア)――『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』の力は通用しないよ」

 

「……リューセー先輩、あなたは一体どこまで規格外なんですか?」

 

 おいおい祐斗、規格外とは失礼だな。

 

 神器(セイクリッド・ギア)を作った聖書の神(わたし)が通用したら色々と問題だぞ。




取り敢えず連日投稿は今日で終わりです。


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第三十四話

久しぶりの更新で短い~。でも更新しないよりはマシですね。

それではどうぞ!


 場所は変わり、部屋に閉じこもろうとしていたギャスパーを何とか部室まで連れてこさせた。

 

「その『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』ってやつで、さっき兄貴を除く俺達の動きを止めていたのか?」

 

「正確に言えば、この子が見た対象者の時間を止めると言った方が正しいな」

 

 ギャスパーの神器(セイクリッド・ギア)は、視界に映した全ての物体の時間を一定の間停止する事が出来る。しかも興奮するとソレが発動するので、全く制御が出来ない状態だ。それ故ギャスパーはあの部屋に封じられている。

 

 俺がこの情報を調べた時は少しばかり驚いたよ。リアスが反則並みに近い神器(セイクリッド・ギア)を持ったギャスパーを自身の眷族にしていたとは、ってな。まぁその後、(リアス)の力不足で扱いきれずに封じられていると聞いて少し呆れたが。

 

「何かそれ、反則に近い力じゃねぇか?」

 

「安心しろ。お前の『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』も充分反則級だ」

 

 自身の力を何段階も倍加させるなんて力を持つのは『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』ぐらいしかない。尤も、それもそれで使い方を誤れば身を滅ぼす事になる。ま、聖書の神(わたし)がいた為、大事とならずに済んだけどな。

 

「私から言わせれば、反則の力を持ってるギャスパーとイッセーを簡単に抑えることが出来るリューセーは、それ以上の反則級な人間だと思うのだけど?」

 

 リアスのツッコミに、アーシアを除く全員がウンウンと頷いていた。お前等なぁ……。

 

 何かこのやり取り前にもやったような気が……まぁどうでも良いか。

 

「で、リアス達に内緒でギャスパーに会っていた理由だが、この子の暴走気味な神器(セイクリッド・ギア)を俺がどうにかしようと思ってな。ついでにこの引き篭もりな性格も改善させようとしたが」

 

「意外だな。前まで部長たちに関わるのをずっと避けていたのに」

 

 そう。イッセーの言うとおり、当時の俺は悪魔のリアス達と極力関わらない方針をとっていた。それは当然、弟のイッセーにも言いつけてあった。だが、それを変えざるを得ない理由があったんだよな。

 

「俺も最初そのつもりでいたんだが、ギャスパーが無意識の内に神器(セイクリッド・ギア)の力が高まっていくのが分かってな。このままだと何れ『禁手(バランス・ブレイカー)』に至る可能性がある」

 

「おいおいマジかよ!?」

 

 バランスブレイカーと聞いた途端、イッセーが驚いた顔をしていた。当然の反応だ。ただでさえギャスパーは制御不能なのに、そんな状態で至ってしまったら恐ろしい事になる。

 

「このまま放置したら危険だと分かった俺は、リアス達に疑われるのを覚悟でギャスパーと接触し続けたんだ」

 

 正直言ってこれはイッセーの修行以上に厄介だった。リアスたち悪魔にバレず、ギャスパーの神器(セイクリッド・ギア)を上手く制御させると同時に引き篭もり脱出させるなんて、普通に考えれば超高難易度のミッションだ。達成率なんか一桁以下だ。いくら聖書の神(わたし)でも簡単に出来ない。

 

「ま、結局リアスやソーナに目を付けられてしまったから、中断する事になったんだが」

 

「………理由が分かったとは言え、まだ釈然としないわね」

 

 不満たらたらな視線を送ってくるリアスに俺は苦笑するしかなかった。

 

 本当に悪かったって。自分の可愛い眷族が知らない間に俺が接触してたからって、そんなに剥れるなよ。

 

「でもまぁリアス、お前よくギャスパーを眷族にすることが出来たな。この子の才能は『僧侶(ビショップ)』の駒一つで済むとは到底思えない。となれば、あの駒(・・・)を使ったとしか考えられないんだが」

 

「………もしやとは思ってたけれど、やっぱりリューセーは知っていたようね。『変異の駒(ミューテーション・ピース)』のことを」

 

「一応な」

 

「……ミューテーション・ピース? 確か複数使うはずの駒を一つで済ませてしまうアレの事か?」

 

 俺とリアスの会話にイッセーが首を傾げながら問うと、祐斗が苦笑しながら答えようとする。

 

「その通りだよ。リューセー先輩の言うとおり、部長はギャスパーくんにその駒を使ったんだ」

 

「へぇ……って、ギャスパーはどこいった?」

 

 祐斗がイッセーに教えていると、いつのまにかギャスパーがいなくなっていた。

 

 その代わり、部室の隅っこには大きな段ボールが置かれている。

 

「……うぅ、僕の話なんかして欲しくないのに……目立ちたくないです~!」

 

 段ボールからギャスパーの声が聞こえた。

 

 あの行動を見るのも久しぶりだな。俺と会った途端に悲鳴をあげただけでなく、一瞬で棺の中に隠れていたし。

 

「いつの間にかこんな所に隠れやがって……」

 

 イッセーが呆れるように段ボールへ近づき、すぐソレを蹴る。

 

「ひぃぃぃぃっ! 僕はこの箱の中で充分です! 箱入り息子ってことで許してください!」

 

「なんだそりゃ……」

 

 訳の分からん事を言って許しを請おうとするギャスパーにイッセーは呆れるしかない様子だった。

 

 全く。俺がちょっと会わなくなっただけで振り出し状態に戻ったようだ。俺が正式なオカ研の部員になった以上、本格的にギャスパーをどうにかしないといけないな。

 

「部長、そろそろ打ち合わせのお時間ですわ」

 

「そうね」

 

 ギャスパーを矯正させる為のプランを考えてると、朱乃の台詞にリアスが思い出したように頷いた後、俺達に向かって言う。

 

「私と朱乃はこれからトップ会談の打ち合わせにいかなくてはならないの。祐斗、お兄さまがあなたの禁手(バランス・ブレイカー)について詳しく知りたいらしいから、ついてきてちょうだい」

 

「はい、部長」

 

 祐斗はサーゼクスから聖魔剣についての呼び出しか。

 

 アレは本来あり得ない現象で出現した禁手(バランス・ブレイカー)だから、サーゼクスが知りたがらない訳がない。尤も、それはサーゼクスの他にも知りたい者もいる。例えばどこぞの神器(セイクリッド・ギア)マニアな堕天使総督とか。

 

 因みに聖書の神(わたし)はもう既に祐斗に頼んで聖魔剣について調べさせてもらった。勿論、俺が祐斗に数日修行の相手をする条件付きで。それを聞いた祐斗はすぐに了承してくれたよ。ついでに俺が祐斗に修行相手をしてると知ったゼノヴィアが、自分もやって欲しいって強く懇願されたけど。あの時はちょっと疲れたよ。

 

 まぁ、それはそれとしてだ。聖魔剣の構造を理解した聖書の神(わたし)はとうとうあの剣(・・・)を――

 

「リューセー、あなたも来るのよ」

 

「……え? 何故に俺まで?」

 

 突然リアスが俺も来いと言ってくるので、すぐに理由を尋ねる。

 

「あなたは人間代表としてトップ会談に参加するのだから、打ち合わせに参加しないでどうするの」

 

 呆れたように言ってくるリアスに、俺は少しばかり不満気に反論する。

 

「だったら俺は打ち合わせに出ないほうが良いんじゃないのか? 俺が悪魔側の打ち合わせに参加したら、天使や堕天使から不公平だと言われるぞ?」

 

「それは大丈夫よ。あなたとの打ち合わせは、私たち悪魔側と協力関係になった経緯を説明することについてだけよ。お兄さまがそう言ってたわ」

 

「……ならいいけど」

 

 俺はてっきり、打ち合わせと言う名の勧誘をするんじゃないかと思ったよ。ま、打ち合わせする相手は魔王サーゼクスだから、そんな事はしないと思うが。

 

 仕方ない。人間代表で参加する以上、打ち合わせも参加するしかないか。それまでの間、ギャスパーの相手はイッセー達に任せるとしよう。

 

 

 

 

 

 

「イヤァァァァッ!!」

 

「ほら走れ! モタモタしてると、このデュランダルの餌食になるぞ!?」

 

 夕方に差し掛かった時間帯、旧校舎近くでギャスパーは鬼ごっこをしていた。鬼役である聖剣デュランダルを持ったゼノヴィアに追いかけられて。

 

 それを見ている俺――兵藤一誠は吸血鬼狩りにしか思えない光景にどうツッコめばいいのい分からない状態だ。

 

 部長や兄貴からギャスパーを俺達に任せると言われたんだが、いまゼノヴィアのやってる事はどうかと思う。強引にギャスパーを外に出したのはいいんだが、アレはちょっと……。

 

 そう思ってると、ギャスパーがへたばるように座り込んだ。ってか、男のくせに乙女みたいな座り方と仕草すんなよ。

 

「うぅぅ……。どうしてこんなことをするんですか?」

 

「健全な精神は健全な肉体に宿る。先ずは体力から鍛えるのが一番だ」

 

 楽しそうに笑みを浮かべるゼノヴィア。

 

「ゼノヴィアの奴、随分と楽しそうだな」

 

「え、ええ。ああいうノリがお好きなようですねぇ……」

 

 俺の呟きに隣のアーシアが苦笑しながら頷いていた。小猫ちゃんは相変わらず無表情で見ているけど。

 

「もうダメですぅ! 一歩も動けませぇん!」

 

「ギャーくん。これを食べればすぐに元気になる」

 

 完全にギブアップ状態となってるギャスパーに、小猫ちゃんが近づいていた。片手に持ってるニンニクを見せながら。

 

「イヤァァァァッ! ニンニク嫌いぃぃぃ!」

 

「好き嫌いはだめだよ、ギャーくん」

 

 ニンニクを見た途端にギャスパーは復活して逃げ始めると、小猫ちゃんは未だにニンニクを見せながら早歩きでギャスパーを追いかけていた。

 

 これは一年生同士の仲が良いやりとりなのだろうか……? どう見ても小猫ちゃんがギャスパーを弄ってるようにしか思えない。

 

「こ、小猫ちゃんも楽しそうですね」

 

 意外な行動をしてる小猫ちゃんにアーシアも少し戸惑い気味だった。

 

 さっきから思ってるんだが、これって根本的な解決にならねぇよな?

 

「おー、やってるなオカ研」

 

 すると、生徒会メンバーの匙が現れる。

 

「おっ、匙か」

 

「よー、兵藤。解禁された引き篭もり眷族がいると聞いて、ちょっと見に来たぜ。おおっ! 金髪美少女かよ!」

 

 匙は逃げるギャスパーを見ると嬉しそうな顔をしていたが――

 

「女装野郎だけどな」

 

「………マジか。こんな残酷な話があっていいものか?」

 

 男だと分かった途端に両手と両膝を地面に付けてショックを受けていた。

 

 分かる。気持ちは分かるぞ、匙よ。俺もギャスパーが女装野郎と知ってすぐにショックを受けたからな。

 

「ところで、何で堕天使の総督がココに来てるんだ?」

 

「ほう、俺に気付いていたのか」

 

『………えっ!?』

 

 俺の台詞に堕天使総督アザゼルが感心するように現れると、和やかな場となっていた空気がすぐに一変した。



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第三十五話

今回はちょっと文章がグダグダになってるかもしれません。


「よー、赤龍帝。あの夜以来だな。これでも気配を完全に消してたつもりだったんだがなぁ」

 

「気配は消しても、その無意識に垂れ流してるオーラも消さなきゃ意味ねぇよ」

 

 俺の指摘に浴衣を着てるアザゼルが苦笑しながら近づいてくる。

 

「それにしても、また少し腕を上げたみたいだな。前に会った時から、まだそんなに時間が経ってねぇ筈なのに、お前さんの兄貴は一体どんな修行させてんだ?」

 

「その質問をアンタに答える義理はねぇよ、アザゼル」

 

「こりゃ手厳しいな」

 

 さり気なく探ろうとしてくるアザゼルに俺はすぐに突っぱねるように言い返すも、当の本人は苦笑するだけだった。

 

 アザゼルと話してる中、ゼノヴィアと小猫ちゃんと匙は構え、アーシアも空気を察して俺の後ろに隠れる。

 

「ひょ、兵藤、なにそんな悠長に話しかけてんだよ!? そいつは堕天使総督のアザゼルなんだろ!?」

 

「慌てんな、匙。大丈夫だ。向こうは殺気どころか、戦闘する気配すら出してない。ってか、もしやる気だったら俺達はもうとっくに死んでる。だから構えを解け。ゼノヴィアに小猫ちゃんも」

 

「赤龍帝の言うとおりだぞ、下級悪魔くんたち。お前らが束になったところで勝負にすらならねぇよ。下級悪魔だってそれくらい分かってる筈だ」

 

 俺が解けと言っても匙達は全然構えを解くことは無かった。それだけ堕天使の言う事は信用出来ない証拠なんだろう。

 

 ま、俺も俺で堕天使にいい思い出は無いけどな。夕麻ちゃんこと堕天使レイナーレの件で。

 

「で? 一体何しに来たんだ? アンタは堕天使の頭なんだろ? トップ会談が近いってのに、こんな所でうろついてて良いのか?」

 

「ちょっと散歩がてら見学に来てな。お前の兄と聖魔剣使いはいるか?」

 

「どっちもサーゼクスさまに呼ばれていねぇよ」

 

「おいおい。聖魔剣使いはともかく、お前の兄もサーゼクスに呼ばれてんのかよ。それはちょっとルール違反じゃねぇか?」

 

 顔を顰めながら不満気に言ってくるアザゼル。

 

 どうやらアザゼルは祐斗より兄貴の方が重要のようだ。もしかしたらサーゼクスさまが兄貴を密かに勧誘してるんじゃないかと疑問を抱いてるんだろうな。

 

「安心しろ。今度やるトップ会談の打ち合わせで呼ばれただけだ。仮に勧誘なんてされても兄貴はすぐに断る。例えどんな高待遇な持て成しをされてもな」

 

「へぇ。随分と兄を信用してるんだな。家族の絆ってやつか?」

 

「兄貴は問題児の俺と違って優等生だからな。そこは弟の俺が保証する。信じる信じないはアンタの自由だ」

 

「……赤龍帝がそこまで断言するなら、勧誘の心配はなさそうだな」

 

 アザゼルの兄貴に対する疑念が消えたかどうかは分からないが、一先ずは俺の言葉に偽りはないと思って安堵した顔をする。

 

「前から思ってたんだが、堕天使総督のアンタは随分と兄貴を警戒してるんだな。そんなに気になるのか?」

 

「当然だろ。神器(セイクリッド・ギア)も使わないで天使の力を使う人間なんて俺は聞いたこともない。コカビエルが手負いだったとは言え、幹部クラスのアイツをあっと言う間に斃した奴だぞ? 更に不可解な事に、連行してきたアイツを見た際、堕天使としての力を失ってたどころか、当時の記憶すら無くなってる始末だ。これで気にならない訳がない」

 

 アザゼルの説明に俺を除くアーシアたちが凄く驚いていた。堕天使総督にここまで言わせるとは、流石と言うか何と言うか。

 

 そう言えば数日前に兄貴が、「もうコカビエルは堕天使としての力を振るうことは出来ない」って意味不明な事を言ってたんだが漸く理解した。アレはそういう意味だったんだと。

 

 あの戦いで、兄貴が俺のドラゴン波で傷を負ってたコカビエルを光の結界で包み込んでたな。その後には大爆発が起きて、全身ズタボロ状態のコカビエルと全く被害が及んでいない兄貴が出てきた。部長達が驚いてる中、俺は俺で大して疑問は抱いてなかった。いつもの事だと思ってたし。

 

「なぁ赤龍帝、お前の兄――兵藤隆誠は一体何者なんだ?」

 

「そんなの俺が知りたいぐらいだ。そう言う事は本人に訊いてくれ。ってか、用が済んだならもう帰ってくれないか? アンタがいつまでもここにいると、ゼノヴィア達の気が休まらないからさ」

 

「…………はぁっ。分かったよ。帰れば良いんだろ、帰れば」

 

 ずっと構えているゼノヴィア達を見たのか、アザゼルは苦笑しながらやれやれと言うように嘆息する。

 

「おっと、危うく忘れるとこだった。そこで隠れてるヴァンパイア」

 

 兄貴の話題を変えるアザゼルは、木陰に隠れてるギャスパーに声をかける。

 

 いきなりギャスパーに話しかけて何をするのかと流石に俺も警戒した。けれど、俺の杞憂だった。

 

 それどころかアザゼルはギャスパーの神器(セイクリッド・ギア)の危険性を教えるどころか、対策も教えてくれた。匙が使う神器(セイクリッド・ギア)――『黒い龍脈(アプソープション・ライン)』でギャスパーのパワーを吸い取れば暴走も少なく済むと。

 

 更には匙の『黒い龍脈(アプソープション・ライン)』の性能についての説明も丁寧にしてくれた。聞いてた匙はそれの性能を全く知らなかったようで、アザゼルは呆れていたが。どうやら匙の神器(セイクリッド・ギア)は五大龍王の一匹、『黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)』ヴリトラの力を宿してるようだ。匙も匙で結構凄い神器(セイクリッド・ギア)を持ってたんだな。多分兄貴は知ってるんだろうけど。

 

 あと、ギャスパーの暴走を抑える手っ取り早い方法として、赤龍帝(おれ)の血を飲ませれば良いらしい。ヴァンパイアであるギャスパーならではの方法だが、当の本人は血を飲む事に抵抗があるみたいけど。

 

「さて、俺の用件はもう済んだ。あとは自分たちで頑張ってくれ」

 

「ちょっと待てよ、アザゼル。二つ訊きたいんだが、何でそこまで俺達に助言をするんだ? 敵対してるはずの悪魔にそんな事するなんて普通おかしいだろ」

 

 去ろうとするアザゼルに俺が理由を尋ねると――

 

「それはな、俺の趣味だ」

 

 と、アッサリ答えた。

 

 趣味、ねぇ。趣味の為に態々悪魔に接近したってか? 何とも掴めない奴だ。

 

「で? もう一つは何だ?」

 

「聞いた話なんだが、アンタは堕天使総督の肩書きの他に変わった異名があるみたいだな」

 

「はぁ? 俺に異名なんか無いぞ」

 

「そうなのか? 俺はてっきりブレイザー・シャイニング――」

 

「おい待て赤龍帝! ちょっと向こうで話そうかぁ~!?」

 

 俺が中途半端な異名を言ってる最中、急に慌て始めたアザゼルは有無を言わさず強制的に森の中へと連れて行かれてしまった。

 

 因みにゼノヴィア達は突然過ぎる展開に、俺が連れて行かれることに呆然として動く事が出来ないようだった。

 

 

 

 

 

 

「でさ、ずっと余裕綽々と話していたアザゼルが急にすげぇ怖い顔して『それを一体誰に聞いた!?』って詰問されてな。あれはマジで死ぬかと思ったぜ」

 

「そ、それは災難だったな……。……く、くく……。で、その後は?」

 

「言い出したのが兄貴だと分かったら、こう伝えてくれってよ。『トップ会談が終わった後、個人的に訊きたい事があるから絶対逃げるなよ!?』だとさ」

 

「そ、そうか……」

 

 アザゼルが来た事をイッセーから聞いた俺――兵藤隆誠は笑いを堪えるのに必死だった。

 

 あ~、やばい。アザゼルが赤面しながらイッセーに問い詰めてる顔が容易に想像出来て、笑いが……!

 

 そう言えば以前、俺がアザゼルの恥ずかしい異名を口にしてる最中に言い直したんだった。

 

 …………でも考えてみれば、ちょっと不味いかもしれない。アザゼルの恥ずかしい異名は遥か昔の戦役時に付いたもの。それをアイツが聖書の神(わたし)の正体に感づかなければいいんだが。

 

 これは最悪の事態になるのを想定した方が良いかもしれないな。今回のトップ会談で俺が聖書の神である事がバレてしまうと言う最悪な想定を。

 

「………トップ会談が始まるまでに考えとかないとな」

 

「なに急にぶつくさ言ってんだ?」

 

「いや、何でもない。それより問題はギャスパーだな」

 

「……悪い。色々と試してみたんだが」

 

 話題を変えるように俺とイッセーは――

 

『ふぇええええぇぇぇぇえええんっっ!』

 

「「……はぁっ」」

 

 ギャスパーの部屋の扉前を見て嘆息した。

 

 どうやらイッセーはアザゼルの助言を受け、それを聞いてた匙も協力していたようだ。

 

 匙の神器(セイクリッド・ギア)でギャスパーの力を吸って制御させるも、当の本人が上手くコントロール出来ずに失敗。その結果、ギャスパーはめげてしまって再び自室に閉じこもってしまった。

 

「兄貴もギャスパーと接してた時もこうなったのか?」

 

「あの時は部屋の中だったから、それなりに良かったんだが……外に出そうとすると断固拒否されてな。アイツの性格と辛い境遇があった為に、あんまり強く出れなくてな」

 

 あそこまで臆病かつ引き篭もりになっているのには当然理由がある。それは本人から聞いた。

 

 ギャスパーは名門の吸血鬼を父に持つが、母が人間で妾だった為、ハーフヴァンパイアとして生まれた。

 

 吸血鬼は悪魔以上に血統を重んじる種族だから、ギャスパーは親兄弟から差別的な扱いを受けて育った過去がある。人間界ではバケモノ扱いされ、更に時間を止める能力を持った為に、ギャスパーの居場所は無かった。

 

 その辛い境遇は嘗て聖女から魔女へと烙印を押されたアーシアと似たものだ。それ故に俺はギャスパーをどうにかしようとしても、強制的にやらせようとはしなかった。少しずつ時間をかけて治そうと。

 

 ギャスパーに神器(セイクリッド・ギア)を与えるきっかけを作った聖書の神(わたし)が悪いのか、血統ばかり重んじる愚かな事をした吸血鬼達が悪いのか……どっちもどっちだな。

 

「なぁ、もし俺がギャスパーみたいな性格だったら絶対に容赦しねぇだろ?」

 

「なに当たり前な事を言ってるんだよ」

 

「あ、やっぱり」

 

 赤龍帝である(イッセー)が軟弱な性格だったら、聖書の神(わたし)の名にかけて一から徹底的に矯正してる。

 

「まぁそれはいいとして、だ。急にギャスパーの教育係を頼んで悪かったな、イッセー。今日はもう帰って良いぞ。後は俺が何とかする」

 

「………………」

 

 俺の台詞にイッセーは何か考えてるような顔をしていたが、一先ず気にしない事にした。

 

 元々俺がギャスパーを何とかしようと思って行動したんだから、その責任は取らないとな。これ以上イッセー達に負担を掛けさせるわけにはいかない。

 

 よし。そうと決まれば行動しますか。

 

「………兄貴、ギャスパーはもう暫く俺に任せてくれ。何とかしてみる」

 

「え?」

 

 ドアを開けようとする俺だったが、突然イッセーがそう言ってきた。

 

「何故だ? これは別にお前が責任を感じる必要はないぞ。元々は俺がやってることだし」

 

「兄貴や部長に任されても失敗しました、なんてみっともない事はしたくないんだよ。ここは弟の俺に免じて、もう少し時間をくれ。折角出来た男子の後輩だから、俺が何とかするよ。部長にもそう伝えといてくれないか? 頼む。この通り」

 

「…………」

 

 両手を合わせて俺に懇願するイッセーに、俺は思わず唖然としてしまう。

 

 ……………あのイッセーがこんな事を言うなんて珍しいな。明日は光の槍でも降るか?

 

 とまぁ、そんな冗談は置いといてだ。イッセーは何だかんだ言っても面倒見がいいからな。もしかしたら本当にギャスパーを何とかするかもしれない。

 

「………分かった。リアスには俺から伝えておく。任せたぞ」

 

「おう!」

 

 一先ずギャスパーについての報告をしようと、俺は転移を使ってリアスがいる場所へと向かった。

 

 その後、イッセーがどんな方法で説得したのかは知らないが、ギャスパーはイッセーを尊敬する先輩と認識するようになったようだ。

 

 全く。俺が少しずつ時間をかけてギャスパーを何とかしようとしてたのに、それを弟のイッセーがたった数日でどうにかするとは……。どうやら聖書の神(わたし)もまだまだのようだ。

 

 だけど一つ解せない事がある。何故ギャスパーは外に出ようとする度に穴が空いた紙袋を頭に被せているのかを。

 

 外に出ようとするのはいい心がけだ。けれど、あんな紙袋を被ったままでいると変質者として通報されそうなんだが……。………まぁ、ギャスパー本人が望んでやってるなら文句は言わないようにしておこう。

 

 ついでにもう一つイッセーから聞いたんだが、祐斗も意外とスケベらしい。まぁそれは男として普通だ。これでもし祐斗が女に一切興味無いとか言ったら、俺は今後祐斗との付き合い方を考えなければいけないし。特に男同士の同性愛を好んでいる一部の女子達とか。




次回はミカエルとの出会いです。


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第三十六話

 翌日の放課後、俺とイッセーは朱乃に呼び出されて、朱乃の自宅を兼ねた神社の本殿内にいる。

 

 理由はある人物が俺たち兄弟に渡したい物があるそうだ。その人物とは――

 

「初めまして、兵藤隆誠くん。そして赤龍帝、兵藤一誠くん」

 

 背中に金色の十二枚の翼を持つ端整な顔立ちをした天使の長――ミカエルだった。

 

 久しぶりに見た天使(むすこ)の顔を見て、聖書の神(わたし)は思わず元気そうで何よりだと内心安堵した。けどまぁ、まさかこんな形でミカエルと会う事になるとは思わなかったよ。

 

 っと、いかんいかん。正体ばれないように初対面として接しないと。

 

「お初にお目にかかります、ミカエル様。兵藤隆誠です」

 

「は、初めまして、ミカエル様。お、俺は弟の兵藤一誠です」

 

 俺に倣うように緊張しながらも挨拶をするイッセー。思わず苦笑してしまう。

 

 そして俺たち兄弟の挨拶にミカエルは柔らかい笑みを浮かべている。

 

「早速ですがミカエル様、話は姫島から聞きました。何でも我々兄弟に渡したい物があると仰っていたようですが」

 

 緊張してるイッセーを余所に俺はすぐに本題に入る。いきなり聞き出そうとしてる俺に、仲介役となっている朱乃やイッセーが少し驚いたような顔をしていた。

 

「はい。実は、あなたがたにこれを授けようと思いましてね」

 

 だがミカエルは大して気にしてないのか、すぐに答えてくれた。

 

 

 パアァァァァッ!

 

 

 すると、俺たち兄弟とミカエルの間から突然眩い光が発した。光は徐々に弱まり、そして消えていく。けれど代わりに一本の剣が宙に浮いていた。

 

 ………これは聖剣だな。しかも赤龍帝(イッセー)にとって最悪な聖剣ときた。

 

「ほう。ゲオルギウスが所有してた龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の聖剣『アスカロン』ですか」

 

「一目見ただけで分かりましたか。流石ですね」

 

「これでも聖剣については精通してましてね。それはそうと、何故その聖剣を我々に渡すんですか? 貴方ほどの方がこれを渡すと言う事は、もしや……」

 

 イッセーは話に付いていけないのか、何も言わずに黙って聞いている姿勢だった。普段から難しい話は殆ど俺が対応してるからな。

 

 俺がミカエルの行動に疑問を抱いてると、奴はすぐに首を横に振ろうとする。

 

「いいえ、これは決して私たち天使側からの勧誘ではありません。この聖剣は本来、悪魔サイドへのプレゼントだったのですが、魔王サーゼクス殿から『聖剣アスカロンは現在悪魔側に協力している兵藤兄弟に渡してほしい』との事です。無論、それは我々天使や堕天使側も承諾しています。こちらとしても、コカビエルを撃退してくれたあなたたちご兄弟には非常に感謝していますので。謂わばこれは、我々三大勢力からの御礼となります」

 

 ……成程。天使・堕天使・悪魔の三大勢力トップが了承した上での贈り物か。それだけコカビエルの件は大ごとだったと言う証拠なんだろうな。

 

 そう言えばサーゼクスが家へ泊まりに来た時、『隆誠くんたちには近々お礼をするつもりだ』って言ってたな。それがまさか、こういう事だったとは。

 

 しかしまぁ、贈り物とは言えミカエルは随分と思い切った事をしたもんだ。大事な聖剣を渡す事にあっさり了承するとは。

 

「良いんですか? そちらの大事な聖剣を貰っちゃっても」

 

「勿論です。悪魔側からは噂の聖魔剣を数本頂きましたので」

 

「そうですか……」

 

 どうやら天使側はちゃんと貰う物は貰っているようだ。確かに祐斗の聖魔剣はそこら辺の聖剣より価値がある。だから聖剣アスカロンを渡しても大丈夫だと踏んだんだろうな。

 

 ま、ミカエルがどう思ってるかは知らんが、こっちとしても聖剣を貰えるなら貰っておくとしよう。手札が多くなるなら心強い。

 

 そう思いながら俺が柄を握ると、聖剣特有の拒否反応が出なかった。

 

「へぇ。この聖剣は誰でも使えるように術式を施してるみたいですね」

 

「ええ。三大勢力によって特殊儀礼を施しているので、人間だけでなく、悪魔でも扱える筈です」

 

 三大勢力の手に掛かれば聖剣が誰でも使えるようになるとは。聖剣を使える為に必死で研究していたバルパーが聞いたら絶対慟哭してるだろう。尤も、アイツはエリーに殺されたが。

 

 まぁそんな事より、元から聖剣を扱う事が出来る俺はともかく、今後悪魔になる予定のイッセーには丁度良いな。万が一の事を考えて、ヴァーリと戦う時の手札にもなるし。

 

「よしイッセー。この聖剣はお前にやる」

 

「え? 俺に? こう言うのは普通、兄貴が持ってた方が良いんじゃないのか?」

 

 どうやらイッセーは聖剣アスカロンを俺が使うものだと思っていたようだ。

 

「俺はいい。武器は他にも持ってるし」

 

 自分で作った『暗黒剣(ダークネス・ブレード)』や『閃光剣(シャイニング・ブレード)』、あと『聖槍(ホーリーランス)』や他の武器も持ってる。だから俺がこれ以上持っても宝の持ち腐れだ。尤も、大抵は自身の能力や格闘戦でやってるから、武器を使う事は殆どないが。

 

「ってか俺の武器は拳メインだぞ? そんなのあったって――」

 

「『白い龍(バニシング・ドラゴン)』対策の補助武器として持っておけ。どうやっても奴に勝てないと思った時に使えばいい」

 

「………まぁ、兄貴がそういうなら」

 

 自分ではまだヴァーリに勝てない事を理解してるイッセーは、渋々と言った感じで受け取ろうとする。多分コイツの事だから、アスカロン無しで勝ちたいと思ってるんだろう。けれどそれはもっと強くなってからの話だ。

 

 今後の事を考えて、イッセーには剣術も学ばせた方がいいだろうな。もし祐斗が知ったら面倒な事になると思うが、それは後で考えるとしよう。

 

「けど俺が使うにしても、どう所持しとけば良いんだ? 俺は兄貴みたく、異空間に保管する能力はねぇぞ?」

 

「『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』に同化させれば、常に出し入れ出来る筈だ。ドライグ、それは可能だろ?」

 

『ああ。相棒がそれを望めば出来るだろう。神器(セイクリッド・ギア)は宿主の想いに応えるからな』

 

 俺の問いにドライグはすぐに返答する。あとはイッセー次第ってとこか。

 

 念の為、ミカエルにも確認しておくとしよう。

 

「と言うわけでミカエル様。アスカロンはウチの弟が使いますが、良いですよね?」

 

「勿論です。寧ろ、その剣は赤龍帝が持っておいたほうが良いでしょう。あなたのいうように、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』に狙われるかもしれませんし」

 

 ミカエルも賛成のようだ。と言うか、この剣はイッセーにやるつもりだったんだろうな。それなら話が早くて助かる。

 

「本当でしたら、あなたにも他の聖剣を授けようと思っていたのですが……」

 

「気にしないで下さい。さっきイッセーにも言いましたが、俺は他の武器を持ってますから。例えばコレとか」

 

 そう言いながら俺は以前作った『聖槍(ホーリーランス)』を出現させる。

 

 本当ならコレをミカエルに見せる気は無かった。下手したら俺の正体がバレてしまう可能性がある。

 

 何をやってるんだと思われるだろうが、息子(ミカエル)が父である聖書の神(わたし)に気付くかどうか少し試してみたかった。それが大変に危険な行動だと分かっていながらも。

 

「っ……!」

 

 ミカエルが『聖槍(ホーリーランス)』を目にした途端、戸惑いも含まれた驚きの表情をする。

 

 この槍が神々しい光を出してる所為か、ずっと見守っていた朱乃も驚いていた。悪魔にとっては当然の反応だろう。

 

「あれ? その槍って確か――」

 

 イッセーが何か言おうとしてたが、俺は即座に見て目で訴える。『余計な事は喋るな』、と。

 

「……………」

 

 俺の訴えを理解したのか、イッセーはすぐに押し黙った。流石は俺の弟、理解が早くて助かる。

 

「……兵藤隆誠くん、その槍は一体……?」

 

 すると、驚いていたミカエルは気になるのか『聖槍(ホーリーランス)』を見ながら俺に訊く。

 

 熾天使(セラフ)となったミカエルでも、この槍に魅入られるか。力の大半が制限されてるとは言え、人間として転生した聖書の神(わたし)もまだまだ捨てたものではないようだ。

 

 さて、これ以上見せると本当に不味い事になるから、そろそろ仕舞うとしよう。

 

「今はこの槍の事なんてどうでもいいでしょう。イッセー、アスカロンを『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』に同化させるぞ」

 

「お、おう。分かった」

 

「あっ……」

 

 俺が『聖槍(ホーリーランス)』をしまうと、ミカエルが今度は残念そうな顔となった。

 

 

 

 

 

 

「成程。だから朱乃は天使ミカエルと此処でアスカロンの仕様変更術式をやってたのか」

 

「はい、リューセーくんの仰るとおりですわ」

 

 聖剣アスカロンを『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』に同化させ、それを確認したミカエルは帰った。俺とイッセーは朱乃が生活してる境内にお邪魔し、和室で茶道のもてなしを受けている。

 

 イッセーは茶を飲むのに四苦八苦しており、それを見た朱乃がクスクスと小さく笑っている。

 

 すると、何かを決心したような顔をしたイッセーが朱乃に尋ねようとする。

 

「あの、朱乃さん。ひとつ、訊いてもいいですか?」

 

「ええ、もちろんですわ」

 

 イッセーからの質問に朱乃は笑みを浮かべていたが――

 

「コカビエルとの戦いのとき、アイツが言ってましたよね? 朱乃さんは堕天使の幹部の……」

 

 ――すぐに曇ってしまった。

 

 おいおい、ここで朱乃にそれを訊くのかよ。まぁ、俺も少しばかり朱乃の事は気になってた。

 

 何故堕天使バラキエルの娘である朱乃が、リアス・グレモリーの眷族になっているのか。そして何で堕天使の力を一切使おうとしないのかを。

 

「……そうよ。私は堕天使バラキエルと人間との間に生まれた者です」

 

 表情を曇らせている朱乃は、間がありながらもイッセーの問いに答える。

 

 そこから先は自分の両親について話した後、自身に宿しているそれぞれの翼――悪魔の翼と堕天使の黒い翼を見せた。

 

 話を聞いた俺は、朱乃が堕天使を相当憎んでいるのだと分かった。自分の黒い翼を憎々しげに見れば一目瞭然だ。

 

 恐らく父親である堕天使バラキエルと何か遭ったんだろう。親子の絆に亀裂が入った決定的な理由が。

 

 そんな中、朱乃は自虐するように自分を最低な女だと罵っていたが――

 

「そんなの関係ないっスよ。朱乃さんは堕天使とか関係なく優しい先輩です。俺は人間ですけど、朱乃さんのことを嫌いだと思ったことはありません。いまでも変わらず好きです。俺にとって、朱乃さんも部長やアーシアたちと同じく大切な女性(ひと)ですし」

 

「っ!」

 

 ストレートな告白紛いの発言を聞いて急に泣いてしまった。それを見たイッセーが急に慌てふためく。

 

 こらこらイッセー、リアスやアーシアがいるのに他の女を口説くなよ。コイツ自身はそれに全く気付いていないだろうが。

 

「……リアスやアーシアちゃんがいるのに、そんな殺し文句を言われたら……本気になっちゃうじゃない…………」

 

 あ、朱乃がイッセーの殺し文句で落ちた。今までlikeだったが、今度はloveになったぞ。

 

 全くこの愚弟ときたら。普段から女にモテない事ばっかしてるのに、どうしてこう言う展開では女を惚れさせる台詞が言えるんだよ。

 

 朱乃はこれまでレーティングゲームやコカビエル戦で少し揺らいでいたが、さっきの告白でもう完全にイッセーに惚れてしまったみたいだ。

 

 これがもし学園の全校生徒が知ったら大騒ぎになること間違いないな。特に男子共が嫉妬に狂って悪鬼羅刹となり、何が何でもイッセーを殺しにいくと思う。

 

 まぁそれはそうと、将来の義妹候補がもう一人増えたと思っていいだろう。これは大変な事になりそうだ。

 

「リューセーくん、ちょっといいですか?」

 

「何だ?」

 

 後々の展開を考えてると、朱乃は何かを決心したかのように俺に話しかけようとする。イッセーには聞こえないよう顔を近づけて。

 

「すみませんが、少しの間だけイッセーくんと二人っきりにさせてもらえませんか?」

 

「………どうぞお好きに。ってか俺はもう帰るから、後はリアスにバレないよう好きなだけイチャついてくれ」

 

「うふふ、ありがとうございます。お義兄(にい)様」

 

 おい、もう俺を義兄扱いかよ。アーシアはともかくとして、何か朱乃に呼ばれるのはちょっとなぁ。

 

 少しばかり複雑な気持ちになりながらも、俺は朱乃の要望通りに適当な理由を言って一人で帰る事にした。

 

 そして俺が帰った後、遅れて来たリアスが二人っきりとなってたイッセーと朱乃を見て、今日はずっと不機嫌だった。

 

 更には――

 

「ねぇリューセー、イッセーは私を『部長』としか思ってないのかしら? 朱乃は副部長なのに『朱乃』と呼んでいるし……」

 

「………そう言うのは一人で悩まないほうがいい。相談なら俺の部屋でいくらでも聞いてやるよ」

 

 いつもの優雅なリアスでなく、どこにでもいる女の子となってるリアスの恋愛相談を受ける事となった。

 

 しかし、まさか(わたし)悪魔(リアス)の相談に乗るとは。ミカエルたち天使が聞いたら卒倒するかもな。ま、恋愛に関しては種族なんか関係無いけど。



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第三十七話

「アザゼル、明日の会談に兵藤隆誠は必ず出席するのか?」

 

「当然だ、ヴァーリ。ちゃんと人間代表として出ると確認済みだ。しかしまぁ、白龍皇のおまえが赤龍帝より気になってるとはな」

 

「それはアンタだってそうだろう?」

 

「………まあ、個人的に色々と訊きたいことがあるのは否定しない」

 

「……なあ、アザゼル。もし仮に神が生きていたらアンタはどうする? 戦争を再開するか?」

 

「おまえらしくない問いだな。神が死んでることはおまえも既に知ってるだろう」

 

「仮に、と言ったはずだ。それくらいは答えてくれても良いだろう?」

 

「………そうだな。仮に生きてたとしても、俺はもう戦争は起こさねぇよ。興味もねぇしな」

 

「……そうか」

 

 

 

 

 

 

 ギィンッ! ガギィンッ!

 

「ほら、剣に纏わせてる闘気(オーラ)の質が落ちてきてるぞ。ちゃんと維持しろ」

 

「無茶言うなよ! ただでさえ俺はまだ初心者だぞ! いくらなんでも無理な注文すんな!」

 

「ゴチャゴチャ言うな。それにそんなもん敵に言ったとしても、お前に合わせてくれるわけ無いだろうが」

 

 早朝。俺は早速イッセーに剣術の修行をさせていた。場所は旧校舎周囲にある森の中だ。

 

 イッセーは『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』と同化させた聖剣アスカロン、対して俺は木刀で相手をしている。

 

 普通に考えて聖剣アスカロンに木刀でやるのは馬鹿げてるだろう。だが俺は木刀にオーラを纏わせてるから、そう簡単に折れることはない。

 

 加えてイッセーは剣を使い始めたばかりの初心者だ。いくら聖剣とは言え、完全に使いこなせてない今のイッセーではオーラを纏った俺の木刀を斬る事は出来ない。

 

 本当だったら時間をかけて剣の使い方を一から教えたいところだった。けれど白龍皇ヴァーリと出会ってしまった以上、今はその時間すらも惜しいから実戦形式で教えるしかない。

 

「イッセー、剣を自分の身体の一部だと思え。武器を使っていた少年時代の空孫悟のように」

 

「少年時代の空孫悟?」

 

 俺がちょっとした例えを言うと、急に何かを考え始めるイッセー。

 

 その数秒後、何か閃いたのかイッセーは笑みを浮かべて俺に向かって言う。

 

「兄貴、ちょっと試したい事がある。避けるか防御するかは兄貴に任せる」

 

「は?」

 

 俺が不可解に思ってると、イッセーは俺から距離を取ろうと後方へ跳躍した。そしてすぐに何かを放つような構えをする。

 

 アイツ、一体何をする気だ? 距離を取るにしても離れすぎだろうが。

 

 そして――

 

「伸びろアスカロン!!」

 

『Blade!』

 

 

 ギュオンッ!!

 

 

「っ!」

 

 イッセーが左腕を俺に向かって伸ばしながら叫んだ直後、ドライグの声と一緒にアスカロンの刀身も伸びた。それも速めな速度で。

 

 それを見た俺は虚を突かれる様に驚いたが、こっちに向かってくるアスカロンの切っ先から防ごうと木刀を盾代わりにした。

 

 

 ギィンッ!!

 

 

「ぐっ!」

 

 アスカロンの切っ先と木刀が激突し、その衝撃によって俺は吹っ飛ばされそうになるも何とか踏ん張った。

 

 伸びてくるアスカロンは両足を地に付いてる俺をジリジリと後退させる。だが俺は押し止めようと、木刀に纏わせてるオーラの質を上げた。

 

「あ、やっぱ防がれたか。いけると思ったんだがなぁ」

 

「………驚いたよ。まさかそんな使い方をするとは」

 

「さっき兄貴が言ったろ? 少年時代の空孫悟みたいに武器を使ってみろって」

 

「……ああ、確かに言ったな」

 

 イッセーのやり方は、少年空孫悟が伸縮棒を使っていた時の戦法だ。それをまさかアスカロンで実現させるとは思いもしなかったよ。

 

「だがなイッセー、その戦法には弱点があってな」

 

 

 フッ!

 

 

 俺が即座に超スピードでイッセーの懐に入り――

 

「戻さないまま懐に入られたらアウトだぞ」

 

「あ、やっぱり?」

 

 指摘をするもイッセーは諦めたかのような顔になって――

 

 

 ドスッ!

 

 

「ごふっ!」

 

 木刀の突きを腹部に直撃して吹っ飛ばされる事となった。 

 

 アイツは咄嗟に腹部を闘気(オーラ)で纏って防御したから、大したダメージはない。ま、これはこれで勉強になっただろう。

 

 因みに俺は向こうにいる――

 

 

 

「ほらギャスパー。俺には時間停止が効かないんだから、俺の事は気にせずボールだけを止める事に集中しろ」

 

「ぐふぅぅぅぅ……。リュ、リューセー先輩……ぼ、僕もう疲れましたよぉぉぉぉ」

 

「ほら、君が頑張らなければ克服出来ないんだ。いつも以上に頑張れ」

 

「は、はいぃぃ……。そ、それはそうとリューセー先輩……何であそこにもう一人のリューセー先輩がいるんですかぁ?」

 

「それは気にしなくていいから、自分のことに集中しろ」

 

 

 

 ――ギャスパーの修行にも付き合っていた。

 

 あそこにいる俺は分身拳を使った俺だ。

 

 流石に俺一人でイッセーとギャスパーの修行を同時にやるには無理だったので、修行をやる前に分身拳を使って二人となった。

 

 俺が二人いる事にギャスパーはずっと疑問視してたが、修行優先させる為に一先ず気にさせないようにした。

 

 で、修行方法は俺がギャスパー目掛けて投げるボールを宙で止める、と言うやり方だ。

 

 因みにコレは俺じゃなくイッセーが提案した修行方法だ。念の為に理由をイッセーに訊くと、動いてる対象物を即座に時間停止させる為だと。

 

 一応、理には適った理由なので取りあえず了承した俺は実行する事にした。加えてイッセーから早く時間停止を自在に使えるようにして欲しいという要望もあった。しかも凄くスケベな顔をしながら言ってたし。

 

 それを見た俺はある事に気付いた。ギャスパーが時間停止を自在に出来るようになったら、イッセーは絶対良からぬ事に利用する事に。アイツの事だから、女子の動きを止めてセクハラするんじゃないかと思う。

 

 俺がいる以上そんなバカな事はさせないが、もしやったらイッセーには“アルバイト”を強制的にやらせる。アルバイトといってもとある店で一週間働いてもらうだけだ。ローズさんがいるオカマバーのバイトを、な。

 

 あそこにはローズさんの他に、オカマ化した堕天使ドーナシークやオカマの従業員がいる。そんな場所に女の子が大好きなイッセーをオカマバーに放り込んだらどうなるか、もう容易に想像出来るだろう。

 

「そこのもう一人の兄貴! 何か途轍もなく恐ろしい事を考えてねぇか!?」

 

 俺によって吹っ飛ばされたイッセーは悪寒が走ったのか、すぐに目覚めて向こうにいる分身の俺に向かって怒鳴ってくる。

 

 こう言う時に限っては勘の鋭い奴だ。ま、お前がギャスパーを良からぬ事をしたらの話だから今はまだ安心しておけ。

 

 そんなこんなで、俺は引き続きイッセーとギャスパーの修行相手をするのであった。

 

 そのついでに――

 

「ずるいぞイッセー! 隆誠先輩に剣術の特訓まで受けてるなんて!」

 

「リューセー先輩! 剣術の修行をするんでしたら僕も誘ってください!」

 

 俺がイッセーに剣術を教えてるところを目撃したゼノヴィアと祐斗が揃って抗議してきた。

 

 全く。本当に俺は毎回の如く、向上心のある後輩達に修行をせがまれるな。

 

 

 

 

 

 

 修行を行った数日後の深夜。ついに三大勢力のトップ会談の日が訪れた。

 

 兵藤兄弟――もとい家族の今後の人生が掛かっている会談でもある為、俺は人間代表として参加する事となっている。

 

 人間代表の俺はイッセーやリアス達より一足先に会場にいて、既に三大勢力のトップと顔を合わせていた。因みに会場とは駒王学園の新校舎にある職員会議室だ。

 

「よく来てくれたね、隆誠くん」

 

「リューセーくん、今日はよろしくね☆」

 

「兵藤隆誠さま、ようこそおいでなさいました」

 

「この前の公開授業以来ですね、皆さん」

 

 悪魔側の魔王サーゼクスと魔王セラフォルーは笑顔で挨拶し、給仕係のグレイフィアは一礼する。

 

「よう、おまえさんが兵藤隆誠か。赤龍帝から色々と聞かせてもらったぜ」

 

「…………」

 

「………どうも。俺の弟が世話になったようで」

 

 堕天使側の総督アザゼルが意味深な挨拶をし、アザゼルの背後に控えてる白龍皇ヴァーリは相変わらず俺に好戦的な笑みを浮かべていた。

 

「先日はお付き合い頂きまして感謝します、兵藤隆誠くん」

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

 天使側のミカエルは前と変わらず柔らかな笑みを浮かべながら挨拶をする。

 

 この場にいる全員が俺を注視しているから、少し居心地が悪い。久々の(まつりごと)だから、少し緊張するよ。

 

 最大勢力のトップは全員装飾が施された衣装に身を包んでいるが、俺だけは駒王学園の制服のままだ。場違いだと思われるだろうが、今の聖書の神(わたし)は学生だから、この制服が正装だから仕方ない。

 

 因みに今の制服は夏仕様だが、今日はトップ会談をやる為に敢えて冬服にしている。こう言った会談くらいはブレザーとネクタイをしないとダメだからな。

 

「では隆誠くん、そこの席に座りたまえ」

 

 そう言ってサーゼクスは豪華絢爛なテーブルの近くにある椅子を指す。その椅子以外にはサーゼクス、セラフォルー、ミカエル、アザゼルが囲むように座っていた。

 

 本当に俺を人間代表としての扱いをしているな。てっきり発言をするまで控えさせるかと思ってたが、そうでもないらしい。

 

「では」

 

 サーゼクスの言うとおりに俺が椅子に座る。何の気兼ねもなく座る俺を見たアザゼルが、愉快そうな感じで話しかけようとする。

 

「ほう。俺たちを前にしても大して緊張はしてないようだな」

 

「こう見えても緊張はしてますよ」

 

 俺の正体が聖書の神(わたし)である事がバレないように、な。

 

 返答を聞いたアザゼルは面白そうな感じで更に話しかけてくる。

 

「なあ、兵藤隆誠。既に赤龍帝から聞いてると思うが、よかったら俺のところに――」

 

 すぐさま俺を勧誘してくるアザゼルだったが――

 

「アザゼル、会談が始まってもいないのに彼を勧誘するのは止めてもらおうか」

 

「それはルール違反よ☆」

 

「全くその通りです、アザゼル」

 

 サーゼクスとセラフォルー、ミカエルが揃って駄目出しをされてしまう。

 

 三人からの駄目出しにアザゼルは面白くなさそうな顔をする。

 

「何だよお前ら、揃いも揃って。そういうお前らだって、コイツを自分側に引き入れたいんだろ?」

 

「否定はしない。だが、私の前で友人である隆誠くんを勧誘するのは少々頂けなくてね」

 

 それってつまり、妹を愛する同志としての意味かな?

 

「友人、ねぇ。自分の仲間だという意思表示のつもりか?」

 

「それは違う。あくまでプライベートでの友人だ。彼とは色々と馬が合うところがあるから、友人として接している」

 

「お前さんがそこまで言うとは……そっちの上層部が知ったら卒倒ものだな」

 

「それはそちらが気にすることではないよ、アザゼル」

 

 ………同志サーゼクスよ、さり気なく俺とアンタが友人関係である事をバラすなよ。

 

 そりゃ確かに、妹談議で馬が合うのは認めるよ。でもだからってアザゼルと張り合うのはちょっと……。

 

「兵藤隆誠くん、先日に授けたアスカロンは問題ありませんか?」

 

 今度はミカエルが俺に問い掛けてきた。

 

「ええ、問題なく使えてますよ」

 

「それは何よりです。そういえば、この前に見せて頂いたあの槍ですが」

 

 あ、やっぱりミカエルは『聖槍(ホーリーランス)』が未だ気になってるみたいだ。

 

 試したとは言え、ちょっと失敗したか?

 

「槍だと? 何だよミカエル。セラフであるお前がソイツの武器に興味あるなんて珍しいな」

 

「あなたには関係のない話です、アザゼル」

 

 さり気なくアザゼルに毒を吐くミカエルに俺は内心苦笑する。

 

 どうやらミカエルは相も変わらずアザゼルに対していい感情を抱いてないようだ。この二人は幼少時代の頃からよく喧嘩してたからなぁ。

 

 そんな中、突然ドアからコンコンとノックする音が聞こえた。

 

「失礼します」

 

 扉が開くとリアスとリアスの眷属たち、ソーナと真羅、そして人間のイッセーとアーシアが会議室に入ってきた。見ると小猫とギャスパーがいない。

 

 理由は知ってる。未だに神器(セイクリッド・ギア)を使いこなせないギャスパーが、何らかのショックで会談中に迷惑を掛けたら大変な事になるからだ。その為にギャスパーは留守番で、小猫はギャスパーの付き添いにより欠席だ。

 

 彼女達が入室した事に、さっきまで話していた雰囲気が無くなって静寂に包まれ、全員真剣な面持ちとなった。

 

「紹介する。私の妹のリアスと、その眷族だ」

 

「あと私の妹のソーナちゃんと、その眷族の椿姫ちゃんよ☆」

 

「そして俺の弟である赤龍帝のイッセーと、妹分のアーシア・アルジェントです」

 

 俺たちの紹介に、リアス達はそれぞれ会釈する。

 

 リアスやソーナたち悪魔側はサーゼクスとセラフォルーの背後に移動し、人間のイッセーとアーシアは俺の後ろへと移動する。

 

「これで参加者は全員揃った。それでは会議を始めよう」

 

 全員が入室したのを確認したのか、サーゼクスの発言によって会談が始まった。




やっとトップ会談まで進みました。


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第三十八話

 学園の外で三大勢力のトップ達が護衛として連れて来てる天使、堕天使、悪魔の兵達がそれぞれ睨みあってる中、会議室で行ってるトップ会談は何の問題もなく順調に進んでいた。

 

「――以上が、私、リアス・グレモリーと眷族、そして人間の兵藤隆誠たちと関与した事件の顛末です」

 

「私、ソーナ・シトリーも、彼女の報告に偽りがないことを証言いたします」

 

 俺たち兄弟との出会いからコカビエル襲撃事件までの経緯を全て言い終えたリアスと、証言をするソーナにサーゼクスが「ご苦労、下がってくれ」と言う。お疲れさん、リアス。

 

 因みに俺に関する報告を聞いてたミカエルやアザゼルは何らかの疑問を抱いていたのか、時々チラリと視線を向けていた。後で色々と訊くんだろうと思うが、内心言いたい事があるなら言えよと何度も突っ込んだよ。

 

「ありがとう、リアスちゃん、ソーナちゃん☆」  

 

 セラフォルーが二人にウインクを送ると、妹であるソーナが少し照れくさそうな表情をしながらリアスと一緒に下がっていた。何だかんだ言いながらも、ソーナは姉に褒められて嬉しいようだ。

 

「さて、本当ならこの場にいる誰もが、彼――兵藤隆誠くんについて質問したいことがあるだろう。だが、まずは先日の事件から優先させていただく。さて、アザゼル。リアスの報告を受けて、堕天使総督の意見を伺いたい」

 

 漸く俺の話になるかと思いきや、サーゼクスはコカビエルの件を先に片付けたいのか、アザゼルに問い質そうとする。

 

 アザゼルは真っ先に俺に質問しようと思ってたのか、サーゼクスの発言で肩透かしをくらったような顔をしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。

 

「意見も何も、コカビエルが単独で起こしたことだからな」

 

「与り知らぬことだと、そう言いたいのですか?」

 

 ミカエルが少し声を低くしながら問うも、アザゼルは大して気にしてない様子で話を続ける。

 

「目的が分かるまで泳がせておいたのさ。まさか俺自身が町に潜入してたとは、コカビエルの奴も思わなかったようだが。ここは中々住み心地がいい町だぞ」

 

 そう言えばイッセーが話してたな。アザゼルは悪魔家業をしてるイッセーを何度も指名しては、日常的な依頼ばかりしてたと。

 

 アザゼルもサーゼクスと同様に、駒王町に潜入してるとは裏腹に随分と楽しんでいたようだな。娯楽好きなアザゼルが人間界の遊びを楽しまない訳がない。

 

「話を逸らさないでもらたいな」

 

 話題が変わったように言ってくるアザゼルに、サーゼクスは顔を顰めて咎めた。

 

 彼の台詞に苦笑しながらもアザゼルは淡々と答えようとする。

 

「本当なら白龍皇に頼んで処理させるつもりだったんだが、兵藤兄弟がコカビエルを倒したから、ただ連行するだけになったがな。その後は『地獄の最下層(コキュートス)』で永久冷凍の刑にした。兄の兵藤隆誠によってコカビエルは力を失ったから、もう何も出来やしない。一生出てこられねぇよ」

 

『っ!』

 

 アザゼルの奴、さり気なく俺がコカビエルの力を失わせた事を言ってるし。その所為でサーゼクス達がずっと黙っていた俺を注視してるよ。

 

「コカビエルが力を失ったとは、どう言うことですか?」

 

「そのままの意味だ。奴はこの先、もう堕天使としての力を振るうことは出来ねぇよ。どうやったかなんて、寧ろこっちが知りたい位だ。なぁ、兵藤隆誠?」

 

 ミカエルの質問に答えるアザゼルは、またもや話題を変えるように俺に振ってくる。

 

「………俺の事については後でお答えしますよ。それよりも今はコカビエルが先日の事件を起こした件についてです。コカビエルは堕天使総督の貴方に相当不満を抱いていたようですね。戦ってる途中、奴が貴方に対して罵詈雑言を浴びせてましたよ」

 

「だろうな。戦争が中途半端に終わっちまったことが、相当不満だったんだろう。俺は戦争なんぞ、今更興味もねぇしな」 

 

「それを分かっていながらコカビエルを放置していた貴方にも問題があるかと思いますが? 貴方が不満分子と言えるコカビエルを監視しておけば、あんな事にはならなかったんですから」

 

 俺の抗議にリアス達どころか、トップの魔王サーゼクス達やミカエルも少し驚いたような顔をしていた。

 

 人間である俺が堕天使総督に抗議してるのを他の堕天使達が見たら、間違いなく『人間風情がアザゼル様に対して無礼な!』と言ってるだろう。だが当の本人は怒らないどころか、痛いところを突かれた様に嘆息する。

 

「おまえさんに言われたら耳が痛いな。だが不満分子に関しては堕天使(うち)に限った話じゃない。天使や悪魔(むこうがわ)にも言えることだぞ? 聞けばおまえさんは三大勢力について色々と知ってるようだから――」

 

「アザゼル、今回の件とは関係のない話を隆誠くんに持ち込まないでくれ」

 

「そのような発言は、却って身を滅ぼすことになりますよ?」

 

 会談に関係のない事を言い始める事にサーゼクスとミカエルが待ったをかけるように割って入った。俺を勧誘するのに、これ以上自分達に対しての印象を悪くしない為と言ったところかな?

 

「今回の会談の目的は――」

 

「もうこれ以上めんどくせぇ話はいい。とっとと和平を結んじまおうぜ。もともとそういう腹だったんだろう? 天使も悪魔もよ?」

 

 アザゼルの発言によって各陣営は驚きに包まれた。

 

 思わず悪魔側を見てみると、リアスやソーナが驚愕の顔をなっている。アザゼルの発言は相当驚いたものだったんだろう。まさか、奴から和平の提示をするとは――みたいな感じで。

 

 ま、アザゼルが和平を結ぼうとするのに聖書の神(わたし)は大体想像していた。自身の趣味とも言える神器(セイクリッド・ギア)研究が大っぴらに出来るなら、和平を結ぶに越した事はない。そうすれば他の勢力が所持してる神器(セイクリッド・ギア)も調べる事が出来るからな。

 

「それはつまり、貴方は初めから和平を結ぶつもりでいたと言う事ですか?」

 

「まぁな。今の三竦みの関係は、この世界の害になるだけだ。それは兵藤隆誠もよく分かってる筈だ。人間側のおまえさんから見ても決して悪くない話だろ?」

 

「………そうですね。確かに俺たち人間側は、三大勢力の厄介事に色々と巻き込まれてる身です。しかしそちらが今後の事を考えて和平を結ぶのでしたら、こちらとしては一切反対しません」

 

「だそうだ。兵藤隆誠は和平に反対しないと言ってるが、そっちはどうなんだ?」

 

 俺の発言を聞いたアザゼルはすぐサーゼクスとミカエルに問い掛ける。

 

「それはこちらとしても願ってもない話だ」

 

「ええ。私も悪魔側とグリゴリに和平を持ちかける予定でしたので、反対する理由などありません。それに戦争の大本である神と魔王は消滅したのですから」

 

 ………驚いた。まさかあのミカエルがそんな発言をするとは。

 

 これにはアザゼルも虚を突かれたのか、ミカエルの言葉に噴出して笑う。

 

「ハッ! あの堅物なミカエルさまが言うようになったな。あれほど神至上主義だったミカエルさまが」

 

「……失ったものは大きい。ですが、いないものをいつまでも求めても仕方がありません。人間たちを導くのが――」

 

 ミカエルがまだ言ってるが、俺は途中から聞かず感動していた。今まで聖書の神(わたし)の為にと付き従っていたあのミカエルが、聖書の神(わたし)の死を乗り越え、そして天界の長として使命を全うしている事に。

 

 聖書の神(わたし)がいなくても、ミカエルはこの先ずっと頑張っていけるようだ。けれど俺の正体がバレたら面倒な事になるのは確実だが。っと、これ以上感動してるのは不味いな。話はちゃんと聞かないと。

 

 話を聞く為に意識してると、突然アザゼルは腕を広げながらこう言った。

 

「――神がいなくても世界は回るのさ」

 

 アザゼルの発言に俺はさっきまで何の話をしていたのか分からずとも、同感だと内心頷く。

 

 戦争で死んだ聖書の神(わたし)は人間に転生して世界を見て回ったが、人間達が住む世界にこれと言った変化が無かった。それを知った聖書の神(わたし)はとんでもない思いあがりをしていたと凄く恥じたよ。

 

 何しろ今まで自分が世界の中心として動いていたと自負してたからな。あの時は本当に人生の勉強になった。天界を君臨していた聖書の神(わたし)がだ。

 

 その後、会談は今後の戦力に戦力についての話に移り、そこからは俺が殆ど発言する事は無かった。

 

 和平を結ぶと分かったのか、緊張感が弱まった感じだ。どの勢力も戦争再開を望んでいない事を分かったからだろう。尤も、それは勢力の中にいる不満分子は別だが。

 

「――こんなところだろうか?」

 

 重要な話に漸く一段落付いたようにサーゼクスが問うと、ミカエルとアザゼルは大きく息を吐いていた。

 

「さてと、必要事項は話し終えたからもう一つの本題に移らせてもらうぞ。次は人間側の兵藤隆誠たちについてだ」

 

 待ってたと言わんばかりにアザゼルが話題を変えると、また緊張感が戻った感じとなった。人間側を除く全員が真剣な顔をしてコッチを見ている。

 

 後ろに控えてるイッセーとアーシアはいきなり注視されて緊張してるのか、少しばかりオーラに乱れが生じていた。

 

「それはつまり、俺達の今後についてですか?」

 

「ああ、そうだ。おまえさんや弟の赤龍帝、そしてアーシア・アルジェントは人間側として参加しているが、どうしても確認しておかなきゃならねぇことがある。今のところ訳あって悪魔側に協力してるみたいだが、和平を結ぶ以上は何処に属するのかを正式に決めてもらう。おまえさん達の力はそれだけ無視出来ない存在になっちまってるからな。もし堕天使側(おれ)のところに来るなら、兵藤隆誠には堕天使総督側近としての地位を約束する。謂わば副総督のシェムハザに匹敵する立場だ。当然、後ろの二人にもそれなりの地位や生活を保障する」

 

 アザゼルの側近ねぇ。堕天使の誰もが憧れる地位だよ。しかもシェムハザと同じ地位とは随分と思いきったな。

 

 もし死んだレイナーレが知ったら、怨嗟と嫉妬に狂う余り俺を殺しに来るだろうな。アイツはアザゼルとシェムハザを神聖視していたし。

 

「こちらからは兵藤隆誠くんたちを私直属の部下と言う立場をご用意します。更にアーシア・アルジェントも教会に戻るのでしたら、天使の長である私より異端認定を取り消しすることを宣言します」

 

 俺とイッセーとアーシアをミカエル直属の部下か。しかもアーシアを嘗ての聖女に戻そうとするとは。

 

 アーシアに魔女の烙印を押した教会連中が、どんな顔をするか見てみたいよ。

 

「隆誠くんたちが今後も我々悪魔側に協力してくれるなら、君達や家族の安全は保障する。元七十二柱のグレモリー家当主からも生活の支援を約束するとの事だ。こちらの事情によって隆誠くんには地位は与えられないが、魔王である私が後ろ盾となろう。それとイッセーくんとアーシアは現在リアスの眷族候補となってるが、もしも我々魔王の眷族になりたいのであれば駒を用意する。当然セラフォルーや、他の魔王たちも了承済みだ」

 

「イッセーくんやアーシアちゃんなら私は大歓迎だよ☆」

 

 兵藤家の安全や支援を約束するだけじゃなく、魔王サーゼクスが俺の後ろ盾で、イッセーとアーシアは魔王の眷族になれるか。

 

 魔王と契約しようと躍起になってる魔法使いや、魔王の眷族になるのを憧れてる人間や悪魔が知ったら卒倒確実だな。

 

 どの勢力も俺達に対してかなりの高待遇だ。そこまでして俺達を勧誘したいと言う証拠なんだろうが。

 

「どれも魅力的な立場を用意してくれますね。普通に考えて、人間である俺達にそこまでしたら何か裏があるんじゃないかって思いますよ?」

 

「そうするのは、おまえさん達がそれほど重要な存在という意味でもある。最高の待遇で持て成すのは当然だ。特に兵藤隆誠、おまえさんに関してはな」

 

 だろうな。トップたち全員が揃って自分の勢力に来て欲しいって顔に書いてるよ。

 

 さて、ここからは俺の一存じゃなく、念の為にイッセーとアーシアにも確認を取らないと。

 

「イッセー、アーシア、お前たちはどこの勢力に付きたい?」

 

「そういう話は兄貴に任せる。俺は兄貴を信じてるからな」

 

「わ、私もイッセーさんと同じです」

 

「………そうか」

 

 二人は俺がやろうとしてる事に何の反対は無いようだ。それならば俺は思ったままの返答をさせてもらおう。



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第三十九話

 活動報告では行き詰って他の作品を書くと言いましたが、中途半端な状態で放置するのはどうかと思って何とか書きました。


「ではお答えします。こちらの返答は………どこの勢力にも属しません。謂わば中立と言ったところでしょうか」

 

 俺の返答を聞いたアザゼルは顔を顰め、ミカエルは悲しそうな顔をしている。協力関係である悪魔側のサーゼクスとセラフォルーも残念そうに嘆息し、二人の背後に控えてるリアスが凄く哀しそうな表情をしていた。

 

「おいおい、中立なんて一体どういうつもりだ? 俺らが提示した待遇に何か不満でもあったか?」

 

「待遇に関して一切不満はありませんよ、アザゼル様。ただ単に、どの勢力にも属さない理由がいくつかありましてね」

 

「その理由とは?」

 

 俺の発言を聞いたミカエルがすぐに尋ねる。

 

「先ず天使側ですが、嘗て聖女と呼ばれたアーシア・アルジェントを、魔女と異端認定させた挙句に追放した前歴があります。そちらに色々な事情があったとは言え、我々を引き入れる為にそれを無かった事にするなんて身勝手も甚だしいです。他にも『聖剣計画』の首謀者であるバルパー・ガリレイを罰しておきながらも、奴の研究を利用してたミカエル様たち天使にも若干不信感があります」

 

「それは……確かにあなたの仰るとおりですね」

 

 過去に天使達がやってきた事を理由として言うと、流石のミカエルも言い返すことが出来ずに少々落ち込んでいる様子だ。

 

 アーシアを追放した理由は大体分かる。聖書の神(わたし)が作った『システム』に悪影響を及ぼさない為にアーシアを遠ざけたんだと思う。『悪魔と堕天使を回復できる神器(セイクリッド・ギア)――聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』は危険、と言う感じで。そうでなければ敬虔なシスターであるアーシアを追放しない訳がない。

 

 これでもし見苦しい言い訳なんぞしたら、聖書の神(わたし)はミカエルを見限らせてもらう。いかに天界や教会の為に行ったとは言え、非人道的な事をしておいて見過ごすなど聖書の神(わたし)は決して許さない。

 

「次に堕天使側はハッキリ言ってあまり信用出来ません。コカビエルの件以外で、以前レイナーレと言う女堕天使が駒王町にやって来ては、こちらに迷惑を掛けられた経緯がありましてね。その女堕天使はあろうことか、俺たちの知り合いと言う理由で一般人を人質にしたんですよ。教会によって追放したアーシアの神器(セイクリッド・ギア)を手に入れようとする為に、ね。アザゼル様には申し訳ありませんが、ご自分の部下達の暴走を抑える事が出来てない時点で除外せざるを得ないんですよ」

 

「………はぁっ。部下の独断とは言え、否定できねぇな。まぁ確かに、おまえさんが堕天使(おれ)たちを信用しないのは無理もねぇな」

 

 諦めざるを得ないと言うように嘆息するアザゼル。

 

 因みにレイナーレは夢魔(サキュバス)のエリーによって殺されている。アイツがどう言う理由でレイナーレに近づいた真の理由は未だに分からない。碌でもない事なのは確かだと思うが。

 

 あと理由は他にもある。アザゼルの背後に控えてる白龍皇のヴァーリだ。あの男はさっきからずっと俺を見ながら好戦的な笑みを浮かべている。状況次第ではすぐにでも俺と戦いそうな雰囲気だ。何のつもりでああなってるのかは知らんが。

 

「最後に悪魔側ですが、ただでさえ協力関係になって世話にもなってると言うのに、人間の俺達がこれ以上の厚待遇を受けると後々面倒な事になります。魔王様やリアス達のような友好的に人間と接する悪魔はまだ良いとしても、人間を下等な存在と見下してる貴族悪魔達から何言われるか分かったもんじゃありません。現に俺は貴族悪魔達を見て、全く信用出来ない連中であったと酷く痛感しましたから。もしコカビエルと戦う前にサーゼクス様の助力がなかったら、危うく面倒な事になりそうでしたし」

 

「……何とも耳が痛い理由だ。確かに隆誠くんの言うとおり、彼らの事を考えれば仕方ないな」

 

「残念だけど、諦めるしかないね」

 

 悪魔側に所属出来ない理由が貴族悪魔である事に頭を悩ませるサーゼクスとセラフォルー。まさかここで、あの連中に足を引っ張られる事になるとは思いも寄らなかったんだろう。

 

 三大勢力に所属しない理由は大体言ったが、ぶっちゃけ今の俺、もとい聖書の神(わたし)は初めからどこにも所属する気なんてない。まだ正体はバレてないが、もし俺が聖書の神(わたし)だったと正体が発覚して何処かの勢力に入ってしまえば、色々と面倒な事が起きてしまう。

 

 天使側へ行ったら、ミカエル達が聖書の神(わたし)を再び天界の長にさせるかもしれないからだ。そして悪魔と堕天使を滅ぼそうと天使や信徒が躍起になって戦争を再開させる恐れがある。だからダメ。

 

 堕天使側だったら、天使達が聖書の神(わたし)を取り戻そうとあの手この手を使って堕天使との戦争になってしまう。それもダメ。

 

 最後に悪魔側となれば、殆どさっきと同じ理由で天使と悪魔の戦争になるのがオチだ。これもダメ。

 

 以上の事から、聖書の神(わたし)がどの道、どこの勢力に所属しようが確実に争いが起きる訳である。元とは言え、天界のトップだった聖書の神(わたし)はそれだけ影響力の強い存在だ。言っておくが、決して自惚れてる訳ではない。

 

「どこにも所属しないってんなら、おまえさんはこの先一体どうするつもりだ? まさか人間を中心とした新たなる勢力でも作る気じゃねぇだろうな?」

 

「そんな気はありませんよ、アザゼル様。強いて言うなら………そうですね。こちらが提示する条件を皆様が守って頂けるなら、我々人間側は和平を結ぶ三大勢力の協力者になりましょう。謂わば助っ人と言うやつです」

 

「助っ人だぁ? 俺らからの勧誘を蹴っといて、条件を出すとは随分と大きく出るじゃねぇか」

 

 厚かましいと思っているのか、アザゼルは顔を顰めながらそう言ってくる。

 

 確かに三大勢力のトップが提示した厚待遇な条件を断っておいて、こちらから条件を出されるのは余り気分の良いものではないだろう。

 

「条件と言ってもそんな大したものじゃありませんよ。三大勢力は『俺の家族や関係者達、そして無関係な一般人達には一切手を出さない』、と言うのが条件です。それさえ守ってくれればいくらでも協力しますよ。まぁ、状況によっては協力に見合う報酬を要求するかもしれませんが」

 

「………おい、そんな条件だけで良いのかよ。おまえさん、人間にしては欲が無さすぎにも程があるぞ。いくら学生だからって、俺らが提示した地位や援助をアッサリと断るなんざ普通に考えてありえねぇだろ」

 

 呆れるように言うアザゼルだけでなく、ミカエルやサーゼクス、そしてリアス達も唖然とした様子だった。ヴァーリは何を考えてるのかは分からないが、少し目を見開いていた。

 

「それはアザゼル様達にも言えることですよ。いくら勧誘の為とは言え、学生である俺達に対して余りにも破格な好条件を出してますし。『旨い事は二度考えよ』、という人間界の諺がありますからね」

 

 聖書の神(わたし)は別にアザゼル達を信用してない訳ではない。だがもし俺達がトップの側近になってしまったら、アザゼルやミカエルの配下から要らん敵を作る事になってしまう。

 

 俺達が力を持ってるとは言え、あそこまでの厚待遇な扱いをされたら必ず配下たちから妬まれたり、敵意を抱かれることになってしまう。俺はまだ大丈夫としても、イッセーやアーシアにはそんな目に遭って欲しくはない。

 

「……はぁっ、言われてみりゃ確かにそうだな。俺やミカエルに不信感を抱いてる今のおまえさんが、そう簡単に乗るわけねぇな。で、俺たちに対する不信感を解消する為には、おまえさんが言った条件を守ればいいって事か?」

 

「ええ、それを徹底して下されば何の文句はありません。好条件を出してくれた皆様には大変申し訳ありませんが、俺としては今のままで充分に満足していますので」

 

 (イッセー)の修行や妹分(アーシア)守護(ガード)、そして平穏な生活こそが今の聖書の神(わたし)にとっての幸せな時間だ。それを壊すような事はしたくない。

 

「だそうだ、ミカエルにサーゼクス。兵藤隆誠がこう言ってる以上、どうする? 先に言っておくが、俺はこいつの条件を守るぞ」

 

「勿論私もその条件を守らせていただきます。信用を得る為には行動で示さなければいけませんから」

 

「私もミカエル殿と同じだ、アザゼル」

 

 三大勢力トップの決定により、俺たち人間側は中立的な立場となった。尤も、それはあくまで俺と(コチラ側の事情を知ってる)俺の関係者だけに過ぎないが。

 

「さて、そろそろ他の奴らにも訊こうか。三竦みの外側にいながら世界を動かす力を持っている二人――赤龍帝に白龍皇、お前らの意見も訊きたい」

 

 けれどアザゼルはまだ話があるらしく、次にイッセーとヴァーリに問いかけようとする。

 

 その問い掛けにヴァーリは笑みを浮かべながら、訊くまでもないと言うような感じで答えようとする。

 

「俺は強い奴と戦えればいいさ」

 

「ふっ。戦争しなくたって強い奴はごまんと居るさ」

 

「だろうな」

 

 そう言ったヴァーリは再び俺に視線を向けてくる。

 

 ヴァーリの奴、さっきから俺ばっかり見ているが一体どう言うつもりだ?

 

 ああしてくるって事は、俺と戦いたいと言う意思表示か? だとしても俺にそんな気は無いんだが。

 

「じゃあ、赤龍帝、おまえはどうだ?」

 

 突然呼ばれたことにイッセーは頬を掻きながら答えようとする。

 

「えっと……俺は別に世界をどうこうしようなんて気はないですし、兄貴と同じく今の生活を続けられるなら平和が一番かと……」

 

「そう言っておきながらも、また少し腕を上げたようだな。世界を動かすだけの力を秘めた者の一人であるおまえが言っても、とても説得力がないぞ」

 

「それは単に俺が兄貴に頼んで厳しい修行をしてもらってるからですよ。そこにいる白龍皇と戦えるように」

 

「ほう」

 

 台詞に惹かれたのか、ヴァーリは笑みを浮かべたままイッセーに視線を向ける。

 

「お望みなら俺は今すぐにでも戦ってもいいぞ。どんな修行をしたのかは知らないが、学園で会った時よりまた一段と腕を上げたキミと戦うのも――」

 

「自重しろ、ヴァーリ。折角和平が成立したってのに、おまえの行動で無駄にさせるな」

 

 ヴァーリが言ってる最中にアザゼルが少し声を低くして窘めようとする。

 

「向こうはいつでも俺と戦えるように修行しているんだ。別に構わないだろう?」

 

「止めてもらおうか、白龍皇。そうしたら君はイッセーだけじゃなく俺と戦うことになる。先に言っておくが、今の君では絶対に俺を倒すことは出来ない。俺は君を確実に倒せる対処法を持ってるからな」

 

「なに?」

 

 対処法があると聞いたヴァーリが信じられないように俺を見てくる。サーゼクス達や背後に控えてるリアス達も同様に。

 

 その対処法とはヴァーリが禁手(バランス・ブレイカー)を使ったら、聖書の神(わたし)の力を使って神器(セイクリッド・ギア)を即座に無効化(キャンセル)させることだ。聖書の神(わたし)だったら問題ないが、人間となった兵藤隆誠(おれ)だとオーラをかなり消費する事になるが。

 

「随分と大きく出たな。おまえさん、一体どんな対処法でヴァーリを倒すつもりだ?」

 

「それを易々と教えるほど、俺はそこまでお人好しではありませんので」

 

「何だよ。折角同盟を結んだんだから、ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃねぇか」

 

「いくら同盟関係だからって、そう簡単に手の内は晒せませんよ」

 

 本当ならこの場で『閃光(ブレイザー・)と暗(シャイニング・)黒の龍(オア・ダークネス)絶剣(・ブレード)』総督と言うアザゼルの黒歴史をぶちまけたい。けれどミカエル達がいる手前で言うのは流石に酷だから止めておく。

 

 アザゼルはこれ以上俺に訊いても教えてくれないと判断したのか、すぐにまたイッセーに再度問おうとする。

 

「まあいい。赤龍帝、再度確認するが、おまえは今後世界をどうこうする気は無いんだな?」

 

「無いですよ。平和が一番です」

 

「平和じゃないとイッセー曰く、『大事な女』と一緒にいられないからな」

 

「そうそう……って何言わせるんだバカ兄貴!!」

 

 俺が少し茶化すように言うと、イッセーが頷いてる途中で顔を赤らめながら怒鳴ってきた。それを聞いたリアスが顔を真っ赤に上気している。恐らく後ろにいるアーシアもリアスと同じく真っ赤だろう。

 

 因みにサーゼクスは小さく笑っていた。将来の義弟(おとうと)になるであろうイッセーに対して。

 

「なるほど、そっちが目的だったか。確かに女と一緒にいたいよなぁ。いかに赤龍帝でもそっちの方が良いよなぁ。特に種の存続と繁栄の為の子作りとか、な」

 

「ほ、ほっとけ! アンタには関係ねぇだろうが!」

 

 リアスとアーシアの反応を見たアザゼルがニヤニヤしながら意味深な台詞を言う。イッセーがアザゼルに口汚く言っても、当の本人は気を悪くしないどころか愉快そうな笑みをうかべていた。

 

「それでアザゼル様、赤龍帝(おとうと)が和平に賛成してる事は理解出来ましたか?」

 

「まぁな。だがもう一つ確認しておきたいことがある」

 

 まだあるのかよ。和平が決まったんならそろそろお開きにして欲しいんだが。

 

 アザゼルが今度何を確認するのかと内心顰めていると――

 

「兵藤隆誠、おまえさんは一体何者なんだ?」

 

 いきなり真剣な表情で俺を名指しして質問された。急に場の空気が変わった事に俺は少し面食らってしまう。

 

「………いきなりですね。何者と言われても俺はただの人間で――」

 

「そういう冗談は無しにしてくれ。ただの人間が神器(セイクリッド・ギア)も使わずに天使の力を使えるなんざありえねぇよ。確かリアス・グレモリーの報告で、おまえさんは何故かその力を使えるとか言ってたな。悪いが俺はそれだけじゃとても信じられねぇ」

 

 やはりアザゼルは初めから俺にかなり疑問を抱いていたようだ。俺が使う聖書の神(わたし)の力に対して。

 

「理解して使えるとは入っても、天使や堕天使(おれたち)能力(ちから)は人間がそう簡単に扱えるものじゃない。人間にとってその力は諸刃の剣だ。使い過ぎると下手したら廃人、もしくは死んでしまう恐れがある。だが何の問題も無く能力(ちから)を使い続けてるおまえさんは、“人間”と言うカテゴリから外れる。如何に優れた人間でも、二十歳(はたち)にも満たしてない学生が易々と使える物じゃない。これはあくまで俺の推測で何の確証もないが、おまえさんは何らかの方法で人間に憑依した上位の天使、もしくは幹部級の堕天使なんじゃないかと俺は思ってる。理由としては、人間が絶対に知り得ない筈である俺の過去の一部を知ってたからな。そう考えなきゃ、どうあっても辻褄が合わないんだよ」

 

「…………………」

 

 黙って聞いてる俺に、アザゼルの推測を聞いた全員が様々な表情をしながら注視していた。背後にいるイッセーやアーシアからの視線も痛く感じる。

 

 ………間違いはあるが、我が息子ながら中々鋭い読みだ。中途半端とは言え、やはりイッセーにアザゼルの黒歴史の一部を言うんじゃなかったな。

 

 恐らくアザゼルはそれが決定的な証拠となっているんだろう。アイツの言うとおり、アザゼルの黒歴史は人間が絶対に知りえないものだ。

 

 全く。正体を知られたくないのに、バレてしまう要素をペラペラと喋ってしまう自分の迂闊さに腹が立つよ。

 

 今のアザゼルに惚け続けて何とか凌ぐ、なんて事は出来ないだろう。もし凌いだとしても、アザゼルの事だから今後俺の事を徹底的に調べると思うし。

 

 そう考えると、もう下手な嘘で誤魔化す事は出来ないな。こうなったら……。

 

「…………………」

 

「何だ? 黙り込んでるってことは、もしかして俺の推測は当たってたのか?」

 

「………アザゼル様。その推測を訂正するのでしたら、二点ほどあります」

 

「?」

 

 ダンマリとなってた俺が言うと、アザゼルは訝るように目を細める。

 

「先ず一つ目。確かに俺は貴方様の仰るとおり普通の人間ではありませんが、憑依した天使でもなければ堕天使でもありません。ごく普通の一般家庭で生まれた人間です」

 

「ほう。じゃあ二つ目は?」

 

能力(ちから)と記憶に関してです。俺がアザゼル様が仰ったリスクもなく使えたり、アザゼル様の過去の一部を知っているのは、あるお方(・・・・)からの力と記憶を受け継いだのです」

 

「あるお方だと?」

 

「ええ。皆様もよく知っているお方です。アザゼル様やミカエル様が特に馴染み深いお方から」

 

「そのお方とは、一体どなたの事を言ってるのですか?」

 

 ずっと黙っていたミカエルも気になったのか、俺に早く答えて欲しい様子で答えを催促してくる。

 

 そして――

 

「『聖書の神』です」

 

『なっ!?』

 

 聖書の神(わたし)の名を告げた途端、全員が揃って驚愕の声を出した。




 次の更新は別作品にしますので、こっちの更新はいつも以上に延びますので悪しからず。


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第四十話

今回はちょっとグダグダかもしれません。


 ガタッ!

 

 

「あ、あなたが……神の力と、記憶を……!? ならばあの時の槍は……!」

 

 俺が発言した事によって誰もが驚いている中、ミカエルが慌てるように突然立ち上がる。普段から冷静沈着であるミカエルは無作法な行為は一切しないが、聖書の神(わたし)の名が出たらああなるのは無理もない。

 

 そんなミカエルの心情を察していたのかは知らないが、アザゼルはすぐに窘めようとする。

 

「落ち着け、ミカエル。神の名前が出た途端に取り乱すな。天使のトップがそんな事したら部下に示しがつかねぇだろ?」

 

「………失礼しました」

 

 アザゼルの台詞で一先ず落ち着いたミカエルは一同に謝りながら、再び席に着こうとする。さっきの行為を反省しているのか、何か言いたげな顔をしながらも黙していた。

 

 因みに悪魔側にいるゼノヴィアは何を考えてるのか、徐々に顔を青褪めていた。まぁ、大体の想像は付くが今は放置するとしよう。他にも後ろに控えてるアーシアからも何やらオーラに乱れが生じてるようだが、こっちも放置させてもらう。

 

「まさかここで神の名を出すとはな。どう言うことだ、兵藤隆誠? 何故ここで死んだ筈の神の名が出てくる?」

 

「隆誠くん、出来れば詳しく説明してもらいたいんだが」

 

 アザゼルだけでなくサーゼクスも問い質そうとしている。二人の行動は当然と言ってもいい。今回のトップ会談は『神の不在』を前提として進めているのに、それがいきなり聖書の神(わたし)の名が出たので、問い詰められずにはいられない。

 

 無論、こうなる事を予め想定していた。だからトップ会談が始まる前に嘘を混ぜた真実(つくりばなし)を考えておいたので、俺はそれを言おうとする。

 

「勿論ですよ。実は――ん?」

 

 俺が説明しようとする中、周囲の時間が突然止まった。いや、周囲と言うより学園全体と言った方が正しいか。

 

「あ、兄貴! これってギャスパーの時間停止じゃ……!」

 

「そのようだ」

 

 学園全体の時間が停止してる中、俺以外にも動ける者が何人かいた。

 

 ドラゴンの力で相殺したイッセーとヴァーリ。上位の力を持ったサーゼクス、セラフォルー、グレイフィア、ミカエルにアザゼル。そしてリアスと祐斗とゼノヴィアだ。

 

 祐斗とゼノヴィアは咄嗟に、それぞれの武器を出して時間停止の力を防いでいた。聖魔剣と聖剣の力によって相殺するために。因みにリアスは祐斗が時間停止から守ろうと手を掴んだ為に回避出来ていた。ナイスな判断だぞ、祐斗。

 

 かなりの人数が動けているが、動けない者も当然いる。アーシアと朱乃、ソーナと真羅だ。

 

「ほう。おまえさんが時間停止を受けても全く問題無いとはな……。どうやら神の力を受け継いだってのは強ち嘘じゃなさそうだ」

 

 感心するように言ってくるアザゼルに、俺は顔を顰める。

 

「そんな事を言ってる場合じゃないですよ、アザゼル様。今は――」

 

 

 ドォォォンッッ!

 

 

 外から突然の爆発音がした。更には新校舎も微妙に揺れている。

 

 俺達はすぐにガラス窓へ近づいてみると、駒王学園の上空に魔法陣が展開されていた。しかもそこからローブを着込んだ複数の魔術師が次々に現れてくる。人数はざっと百人以上いるだろう。

 

 そして魔術師達は学園に向かって魔力弾を放ってくる。それらによって学園のあらゆる所が爆発し、更には壊されていく。ソーナが見たら激昂しそうだ。

 

「魔術師共め、テロ行為とはやってくれる」

 

「全くよ。魔女っ子の私を差し置いて失礼な!」

 

 俺の台詞に同調するようにセラフォルーが魔術師を見ながら憤慨していた。

 

 どうでもいいことだがセラフォルー、お前のやってることが魔術師に対して失礼な事をしてるんだからな。多分言ったところで無駄だろうが。

 

「しかし、この力は……?」

 

 俺と同じく窓を見ていたミカエルが不可解そうに言う。

 

「恐らくですが、ギャスパーを強制的に禁手(バランス・ブレイカー)状態にしたんでしょうね。更に魔術師達が時間停止状態の空間でああも自由に動いているって事は、ギャスパーは奴等に捕まっていると思います」

 

「だろうな。ま、奴らのことだ。本当なら俺たちトップ陣も停めるつもりだったんだろうが、ハーフヴァンパイアの出力不足ってところか」

 

 いくらギャスパーの潜在能力が高くても、それに見合う力をギャスパー自身が出さなければ意味がない。魔術師達はそれを全く考慮してないのが証拠だ。

 

 ギャスパーが敵に利用されてると分かったリアスは、全身から紅いオーラを迸らせていた。

 

「私の可愛い眷族がテロリストに利用されるなんて……ッ! これほどの侮辱はないわっ!」

 

 リアス、取りあえず落ち着こうな。気持ちは分かるが、怒ったって事態は何も変わらないぞ。

 

 そんな中、外でトップ陣が警護で連れてきた天使、堕天使、悪魔達は時間停止したまま、魔術師達の魔術によって強制転移されている。

 

「この結界で転移魔術を使えるって事は、誰かがゲートを繋げていますね。逆にこっちの転移は封じられて使えませんし」

 

 動けないアーシア達を安全な場所へ移動させる為に転移術を使おうとしても、それが一切反応しない。

 

 アザゼルは俺の分析を感心そうに見ながらも同調するように嘆息する。

 

「ったく。こりゃ、やられたな」

 

「ええ。会談中に襲撃するタイミングといい、リアス・グレモリーの眷族を逆利用する戦術といい――」

 

「向こうがコッチの内情に詳しいって事は……案外、ここに裏切り者がいたりして」

 

 ミカエルの台詞を続けるように俺が言うと、『裏切り者』と言う単語を聞いた一同の顔が揃って強張った。

 

「隆誠くんの言うことに一理あるかもしれないが、とにかくこのままじっとしている訳にもいくまい。ギャスパーくんの力がこれ以上増大すれば、我らとて停められてしまうだろう」

 

 だろうな。元々神器(セイクリッド・ギア)の耐性が付いてる聖書の神(わたし)ならまだしも、いくら上位の力を持ってるトップ陣でもずっと防げられるものではない。

 

「取り敢えず魔術師達を倒す前に、先ずは旧校舎に捕まってるギャスパー、そして小猫の救出を最優先しましょう。それをどうにかしない限り、奴等の猛攻は止まりませんし」

 

「同感だ。ハーフヴァンパイアの小僧を何とかしねぇと、危なっかしくて反撃も出来やしねぇ」

 

 俺の提案にアザゼルが賛同し、サーゼクス達も同感だと言う様に頷いていた。

 

 しかし、此処から旧校舎へ向かうにしても、転移を封じられている状態じゃ少々時間を要する。向こうの事だからこっちがギャスパー達を救出しに行くことを見越して、迎撃措置を施していると思う。

 

 そう考えてると――

 

「お兄さま、私が行きます。旧校舎に未使用の『戦車(ルーク)』の駒を保管してありますので、それを使えば」

 

「『戦車(ルーク)』? なるほど、『キャスリング』か」

 

 ――ああ、その手があったか。

 

 キャスリングとは、『(キング)』と『戦車(ルーク)』の位置を入れ替えるチェスの特殊なルールだ。レーティングゲームに置き換えると、謂わば入れ替え転移だ。

 

 ゲートを通じなければ転移は使えないが、駒同士の入れ替え転移なら問題無く使える。リアスの提案は見事と言ってもいい。

 

 サーゼクスはリアスの名案を受け入れるが、少しばかり不安な表情をする。

 

「だが、リアス一人を送り込むのは……」

 

「ギャスパーは私の眷族です。私が責任を持って奪い返します」

 

 意思を曲げる事無く行こうとするリアスだが、それでもサーゼクスは首を縦に振ろうとしない。

 

「サーゼクスさまの魔力をお借りできれば、もう一方なら転移は可能かと」

 

「リアスと誰かか……」

 

 グレイフィアからの助言に、サーゼクスは誰と行かせようかと考えていたが――

 

「でしたらサーゼクスさま、俺も行きます!」

 

 突然イッセーが手をあげて進言した。

 

 まさか俺が言う前に先に言うとはな。イッセーにしてはやるじゃないか。

 

「俺が責任を持って部長をお守りしますので、どうか!」

 

「……君に任せよう。良いかな、隆誠くん?」

 

「全然構いません。寧ろ俺から頼むところでした」

 

 熱意が届いたのか、サーゼクスはイッセーをリアスの護衛として行かせることにした。

 

「そんなことをしなくても、テロリストごとハーフヴァンパイアを吹き飛ばせば簡単じゃないか? なんなら、俺がやってもいいぞ?」

 

「っ! テメェ!」

 

 場の空気をぶち壊すような発言をしたヴァーリにイッセーが激昂する。

 

 この発言に俺も少しばかり頭に来たので――

 

「白龍皇。そんなバカな事を仕出かしたら、俺は君を敵として処理させてもらうぞ」

 

「ふっ。それはそれで案外面白い――」

 

「おいおい、ちったぁ空気読めよヴァーリ。和平を結ぼうって時にコイツ等を敵に回すような発言はするな」

 

 俺と戦えるのを嬉しく思っていたヴァーリだったが、アザゼルが阻止するように割って入った。

 

「生憎、じっとしているのは性に合わないんでね」

 

「だったら外にいる敵を撹乱してくれ。白龍皇が出れば、奴らも少しは乱れるはずだ」

 

「……了解」

 

 アザゼルの指示にヴァーリは少し物足りなさそうな顔をしながらも、背中から蒼い光の両翼を展開する。

 

「――禁手化(バランス・ブレイク)

 

Vanishing(バニシング) Dragon(ドラゴン) Barance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!』

 

 機械的な音声の後、ヴァーリの体を真っ白なオーラが覆われる。その光が止んで、奴の体は白い輝きを放つ全身鎧(プレート・アーマー)に包まれていた。

 

 あの姿を見るのは二度目だな。あんな簡単に禁手化(バランス・ブレイク)出来るとは、奴の力はそれだけ脅威と言う証拠だ。

 

 ヴァーリは俺とイッセーを一瞥した後、会議室の窓を開き、すぐに空へ飛び出していった。

 

 その刹那、外で猛烈な爆発と爆風が起きた。それは言うまでもなく、魔術師の群れが禁手(バランス・ブレイカー)となってるヴァーリに蹂躙されているからだ。

 

 正に一騎当千と言うべきか。尤も、あの程度の魔術師共なら今のイッセーでも充分に倒せるが。

 

「強ぇ……! あの野郎、ああも簡単に禁手(バランス・ブレイカー)になれるのかよ……!」

 

 ヴァーリの実力に只管驚愕するイッセーに、俺は少しフォローする事にした。

 

「うん、確かに強いな。だがイッセー、決してお前の勝てない相手じゃない。後数年修行すれば、あそこまでの領域にいける。勿論、修行の難易度を更に上げなければならないがな。大丈夫、お前ならやれるさ。俺の弟だからな」

 

「何の根拠でそんなこと言うんだよ……」

 

 俺のフォローが大して効いてないのか、イッセーに呆れたような感じで嘆息された。

 

「おいおい、兄の言葉が信じられないのか? まぁそんな事よりも、早くギャスパーの救出に行ってくれ」

 

「お、おう……」

 

「ああ、ちょっと待ちな」

 

 ギャスパーの救出に行こうとするイッセーだったが、突然アザゼルが引き止めてアイテムを渡していた。

 

 そしてイッセーはリアスと一緒に、サーゼクスからの魔力を借りて『キャスリング』を行おうとする。

 

「イッセーくん、リアスを頼んだぞ」

 

「はい!」

 

 サーゼクスからの激励に、イッセーが力強い返事をする。

 

 その直後、魔法陣の上に立っているリアスとイッセーは転移して姿を消すと、代わりに『戦車(ルーク)』の駒が現れた。それはつまり『キャスリング』は成功したと言う意味だ。



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第四十一話

「アザゼル様。先程の制御の腕輪をギャスパーだけじゃなく、イッセーに差し上げた理由をお聞きしても良いですか?」

 

 イッセーとリアスが転移した後、俺はアザゼルの真意を尋ねる。

 

 さっきアザゼルがイッセーに渡した腕輪は力を制御するだけじゃなく、対価の代わりになってくれる代物。そんな便利なアイテムをイッセーに渡すには、何か裏があるんじゃないかと俺は勘繰っていた。

 

「大した理由はねぇよ。万が一に為に渡しただけだ。安心しな、アレぐらいで貸しを作るなんてことはしねぇからよ」

 

 アザゼルは苦笑しながらも裏は無いと言ってくる。

 

 嘘を吐いてないのは分かるが、それでもつい疑ってしまう。聖書の神(わたし)の息子の中で、アザゼルはかなりの曲者だし。

 

 けれど、あの腕輪は正直ありがたい。イッセーが使う龍帝拳は、出力を上げれば上げるほど身体に掛かる負担が大きくなる。

 

 俺としては腕輪無しでこなしてもらいたいが、今の状況ではそうも言ってられない。アザゼルの言うとおり、万が一の事が起きたら後々後悔する事になってしまう。

 

「……一先ずは感謝します」

 

「なに、気にすんな。まぁその代わりといっちゃなんだが、この騒動が終わった後、後でゆっくり話を聞かせてくれ。ついでにおまえさんとは個人的に色々と聞きたい事があるからな」

 

 ……ったく、食えない奴だ。イッセーの事を考えただけじゃなく、俺と話をする為の確約も含まれていたか。

 

 ま、仕方ないか。イッセーが腕輪を受け取ってしまった以上、こっちとしてもそれなりの態度を示さないと。

 

「分かりました。では後で必ず」

 

「おう、出来ればお前さんとは個人的な会談を――」

 

「アザゼル、この状況でそう言うことをするのは止めてもらえませんか?」

 

「全く。貴殿は本当に油断も隙もないな」

 

 アザゼルが確認を取ろうとしてると、少し怖い笑みを浮かべてるミカエルが割って入った。更にはサーゼクスも若干顔を顰めながらアザゼルを睨んでいる。

 

「まぁまぁお二人とも、そう目くじらを立てないで下さい。アザゼル様がこう言うのはちょっとした理由が――」

 

 

 カッ!

 

 

 ミカエルとサーゼクスを宥めようとする俺だったが、突如魔法陣が現れた。

 

 あの魔法陣は確かレヴィアタンの筈だ。現魔王のレヴィアタンであるセラフォルーはこの場にいる。そう考えると、アレは旧魔王のレヴィアタンの魔法陣か。

 

 魔法陣から現れたのは、一人の女性。胸元が大きく開いており、深いスリットの入ったドレスに身を包んでいる。更には女性の従者なのか、全身を外套で覆った悪魔と思わしき者もいる。

 

「ごきげんよう、現魔王サーゼクス殿、セラフォルー殿」

 

 不敵な物言いで、女性はサーゼクスとセラフォルーに挨拶をする。

 

「あ、貴女がどうして此処に!?」

 

「先代レヴィアタンの血を引く者、カテレア・レヴィアタン……!」

 

 女性の登場にセラフォルーが驚き、サーゼクスが彼女の名を言う。

 

 やはりあの女は旧魔王のカテレア・レヴィアタンだったか。まさか此処で現れるとは。

 

 確か先の戦争で聖書の神(わたし)と同じく旧四大魔王が滅び、悪魔側は新しい魔王を立てようとした時に、旧魔王の連中が徹底抗戦をと最後まで唱えていたな。ソレを唱えていたのがあの女を含めた旧魔王の血を引く連中だ。

 

 当然、戦力が疲弊していた戦後の悪魔達は、旧魔王の連中を冥界の隅に追いやったそうだ。まぁぶっちゃけ、旧魔王の血を引く者達は後先考えない傍迷惑な連中と言える。種の存続が危ういのに何考えてるんだと、悪魔側の状況を調べた聖書の神(わたし)は物凄く呆れたよ。

 

 そこから先、種の存続を旨に新政権が樹立して、今の現四大魔王がいる。俺としては今の魔王達の方が好感持てるよ。特に我が同志であるサーゼクスとか。

 

 カテレアはサーゼクスとセラフォルーに挨拶をした後、手に持ってる杖を掲げようとする。

 

「世界の破壊と混沌を」

 

『っ!』

 

 そう言った直後、カテレアが掲げてる杖の先から魔力が玉の形となる。会議室を覆うほどの凄まじい爆発を起こして。

 

 

 

 

 

「三大勢力のトップが共同で防御結界……ふふっ。なんと見苦しい!」

 

 奴が起こした爆発を回避する為に、サーゼクスたち三大勢力のトップは合同で俺達を守る為に強固な結界を張っていた。

 

 俺は俺で爆発の瞬間、グレイフィアとセラフォルーと一緒に時間停止となっているアーシア達を即座に回収していた。間一髪だったよ。

 

 それを見ていたカテレアは優越感に浸るような嘲笑をしている。背後に控えてる悪魔の男は未だに黙っているままだが。

 

「どう言うつもりだ、カテレア?」

 

「そちらが行ってる会談の、正に逆の考えに至っただけです。神と魔王がいないのならば、この世界を変革すべきだと」

 

 その変革の為に俺達を始末するか。傍迷惑極まりないぞ。

 

「カテレアちゃん、止めて! どうしてこんなことを……!?」

 

 セラフォルーが説得しようとするが、カテレアは彼女を見た途端に憎々しげな睨みを見せる。

 

「セラフォルー、私から『レヴィアタン』の座を奪っておいて、よくもぬけぬけと!」

 

「っ! わ、私は……」

 

 気圧されたのか、セラフォルーが少々気弱な表情をするも、カテレアは気にせずに続けようとする。

 

 サーゼクス達は球状となってる結界を維持したまま、俺達を運ぶようにグラウンドへ移動させていた。カテレアと従者もそのまま追うようにグラウンドへ着地する。

 

「安心なさい。今日、この場で貴女を殺して、私が魔王レヴィアタンを名乗ります」

 

 旧魔王とは言え、サーゼクス達を前にしてよくもまぁ、あそこまで強気な台詞を言えるもんだ。セラフォルーを殺せる秘策でもあるんだろうか。

 

 俺がカテレアの台詞に内心呆れてると、アザゼルが呆れるように嘆息していた。

 

「やれやれ。悪魔共のとんだクーデターに巻き込まれたかと思ってたが」

 

「貴女の狙いは、この世界その物というわけですね?」

 

 ミカエルの問いにカテレアはすぐに頷いた。

 

「ええ、ミカエル。神と魔王の死を取り繕うだけの世界など必要ありません。この腐敗した世界を私たちの手で再構築し、変革するのです」

 

「――アホらし」

 

 旧魔王共の目的を聞いた俺は思わず呟いてしまった。

 

 それを聞き逃さなかったのか、カテレアは不快そうな表情で俺を睨んでくる。

 

「そこの人間、今何と言いました?」

 

「おや、聞こえてしまいましたか。これは失礼。貴女が余りにも下らない事を言ってたもんで、つい本音を漏らしてしまいました」

 

「下らない、ですって?」

 

「ええ、下らないです。それも余りに陳腐で酷すぎます。そんなんだから、貴女たち旧魔王は同じ悪魔達から冥界の隅に追いやられるんですよ。もうついでに言わせて頂きますが、貴女の台詞、一番最初に死ぬ敵役ですよ?」

 

「下等生物の分際で私たちを愚弄するか!?」

 

「ぷっ! ハハハハハハッ! 言うじゃねぇか、兵藤隆誠!」

 

 俺の台詞にカテレアが激昂してる中、突然アザゼルが腹を抱えながら大笑いする。それを見たカテレアは更に激怒する。

 

「アザゼル! あなたまで!」

 

「いやぁ、悪い悪い。だけどコイツの言うとおりだぜ、カテレア。おまえらのやる事は傍迷惑だ。レヴィアタンの末裔が聞いて呆れる」

 

「……いいでしょう! その下等生物と一緒にまとめて殺してあげましょう!」

 

 我慢の限界を超えたカテレアは、全身から魔力のオーラを迸らせる。

 

 だが――

 

「レヴィアタン様、あの人間は私にお任せ下さい。私が此処へ来たのは、レヴィアタン様も御存知の筈です」

 

「っ!」

 

 カテレアの背後でずっと黙っていた従者が割って入るように進言した。声からして男だ。

 

 突然の進言にカテレアは睨むも、従者を見て何か思い出したのか、諦めるように嘆息する。

 

「…………良いでしょう。ですが、決して殺さないように。あの下等生物は私自らの手で止めを刺しますので」

 

「畏まりました」

 

 従者が頷くと、すぐに俺を見てきた。まるで俺を目の仇のように。

 

「やっとお会いできましたね、兵藤隆誠。この時を待ち望んでいましたよ」

 

「は?」

 

 突然俺に話しかけてくる従者に、俺は思わず首を傾げた。

 

 ………と言うか、アイツ誰? 俺、あの悪魔とは全くの初対面なんですけど。

 

「何だ、兵藤隆誠の知り合いか?」

 

「いえ、全く」

 

 アザゼルの問いに知らないと首を横に振った。それを見た従者は苦笑する。

 

「でしょうね。ですが、私はあなたのことを知っています。殺したいほどに」

 

「俺はアンタの事なんか全く知りませんけどね」

 

 さっきから必死に思い出そうとしてるんだけど、あの男と会ったエピソードが全く無い。本当に誰なの?

 

「何か訳ありみたいだな。まあいい。カテレアは俺がやるから、おまえさんはアッチを頼んだぞ」

 

「えっ? ちょっと、それは――」

 

 俺が待ったを掛けようとするが、アザゼルは気にせず薄暗いオーラを放ちながらサーゼクスとミカエルに確認しようとする。

 

「サーゼクス、ミカエル、カテレアは俺がやる。手を出すんじゃねぇぞ?」

 

「…………カテレア、降るつもりはないのだな?」

 

 サーゼクスが最後通告をするも、カテレアは首を横に振った。

 

「ええ、サーゼクス。あなたは良き魔王でしたが、残念ながら最高の魔王ではない」

 

「そうか。残念だ」

 

 サーゼクスの言葉が引き金になったように、アザゼルとカテレアは即座に上空へと飛んだ。

 

「旧魔王レヴィアタンの末裔。『終末の怪物』の一匹。相手としては悪くない。ハルマゲドンとしゃれこもうか?」

 

「堕天使の総督如きが!」

 

 上空で二人から凄まじいまでのオーラが吹き荒れ、アザゼルとカテレアによる光の魔の攻防戦を繰り広げ始めた。

 

 祐斗達が驚いている中、俺は上空の戦いは気にせずに目の前の従者を見る。

 

「で? アンタは一体何者なんだ? 俺と戦うんだったら、先ずはその外套(マント)を取ってくれないか?」

 

「無論、そのつもりです。あなたを殺すために此処へ来たのですから」

 

 そう言って従者は羽織っている外套を勢いよく取り払う。そして外套が無くなると、従者は法衣らしき物を身に纏った男性悪魔だった。しかもかなり端整な顔立ちをした銀髪の悪魔。

 

 ………あれ? 何かあの悪魔、全くの初対面だけど何処かで見た事あるような気が。

 

「っ! 君はまさか!」

 

 従者を見たサーゼクスが驚いたように声を発する。

 

「サーゼクス様、あの悪魔を知ってるんですか?」

 

「……知ってるも何も、彼は――」

 

「自己紹介をしましょう。私はラディガン・アルスランド。我が最愛の妹――エリガン・アルスランドの兄です」

 

 ………おいおい、よりにもよってエリーのお兄さんかよ。ってか、アイツに兄がいたなんて初めて知ったぞ!

 

 あ~~、この先の事を考えると何か面倒な展開になりそうな気がする。



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第四十二話

久々に書いた為に、いつもより短いです。

あと今回もフライング投稿させてもらいます。


「この時を待ち望んでいましたよ、兵藤隆誠。私の愛するエリーを奪ったあなたを漸く殺せるのですから」

 

「………俺は別に奪っちゃいないんだがな」

 

 何となく予想はしてたが、エリーの兄――ラディガンと言う男はシスコンのようだ。

 

 最愛の妹とか愛するエリーとか言ってるから、コイツがどれだけエリーを愛しているのかがよく分かるよ。

 

「いいえ、奪いました。あなたがエリーに会わなければ、私はあんな悍ましい台詞を聞くことがなかったのですから」

 

「悍ましい?」

 

 エリーの奴、コイツに一体何を言った? 悍ましいって言うからには――

 

「エリーが『人間のあなたを一人の男として愛しているから結婚する』と言われて、私の中で何かが壊れましたよ」

 

 ――兄に俺との結婚宣言してたのかよ。勝手に決めないで欲しいよ、全く。

 

 エリーの勝手な発言に呆れてる俺だったが、ラディガンの話はまだ続いていた。

 

「当然、私は反対しました。ですがエリーは一切聞き入れず、有ろうことか兄の私とはもう二度と閨で愛し合わないと言われる始末。私だけの愛しい顔と可愛い声、美しい身体が初めて私を拒んだ! そして、ずっと私を愛していると言っていたエリーが、あんな、あんな信じられない事を言った為に私は発狂しそうになった……! これで分かりましたか、兵藤隆誠!? 私は、私はたった一人の大事な妹であるエリーをあなたに奪われたんですよ!? この苦しみ、あなたに分かりますか!?」

 

『…………………』

 

 奴の発言に俺だけじゃなく、この場にいる全員が言葉を失っていた。

 

 ………おいおい、エリーは俺に会う前までは兄と近親相姦してたのかよ。いくら悪魔だからって実の兄妹でソレはアウトだろ。普通の恋愛をしろよ。因みにグレイフィアは何故か俺に同情するような視線を送っていた。

 

 ってかコイツ、サーゼクスとは全く別の意味でのシスコンだ。その当人は頬が引き攣っているし。いくら妹のリアスを愛してるサーゼクスでも、流石に恋愛感情までは持ってないからな。

 

 にしてもエリーの奴、何から何まで傍迷惑な事ばっかりしてるな。第一俺は了承なんてしてないのに、勝手に結婚宣言なんかするなよ。その所為で俺は兄に逆恨みを受ける事になってるし。

 

「……取り敢えず、アンタが俺を恨んでる理由は分かった。けどなぁお兄さん、俺はアイツと結婚なんて――」

 

「これから私に殺されるというのに、気安く義兄(あに)と呼ばないで下さい。私はあなたを義弟(おとうと)などと断じて認めませんから」

 

「んなこと言ってないっての。そもそも俺はお宅の妹と会ったのは――」

 

「兄の私に対する当てつけですか? エリーとの馴れ初めなら結構です」

 

「人の話を聞けよ!」

 

 俺が怒鳴るもラディガンは無視するように聞き流していた。

 

 ダメだコイツ。妹のエリーと同じく自己中心的で俺の話を全く聞こうとしない。アルスランド家の悪魔は人の話を聞かない一族なんだろうか。

 

「ったく、エリーだけじゃなくコイツもかよ……」

 

 ラディガンに説得が通じないと分かった俺は諦めるように嘆息し、奴と戦う事にした。正直言って気は進まないけど、奴の狙いは俺だから相手せざるを得ない。

 

 益してや奴はそこら辺の悪魔と違ってかなりの力を感じる。もしかしたら最上級悪魔クラスのエリー以上かもしれない。

 

「サーゼクス様、奴は俺が相手をします」

 

「……ラディガンくん、カテレアと同様に降るつもりはないんだな?」

 

「勿論です。ですが、貴方様の手で兵藤隆誠をこの場で消して頂けるのなら考え直します。如何でしょうか、現魔王サーゼクス・ルシファー様?」

 

 俺が魔王サーゼクスに殺されれば投降するか。アイツ、随分と上から目線な要求をするんだな。

 

 ラディガンの要求に魔王サーゼクスの返答は――

 

「悪いが隆誠くんは私の大切な友人だ。それは受け入れられないよ、ラディガンくん」

 

 明確な拒否だった。

 

 しかしラディガンは予想していたのか、魔王であるサーゼクスに対して残念そうに嘆息する。

 

「それは非常に残念です。サーゼクス様はご自身の妹を愛してると聞きましたので、同志である私の気持ちを理解してくれると(いち)()の望みをかけたのですが」

 

「……出来れば君と一緒にしないで欲しいね」

 

 ラディガンの台詞にサーゼクスが眉を顰める。実の妹に手を出してる変態悪魔と同志なんて思いたくないんだろう。尤も、それは俺も同じだ。

 

「勝手にサーゼクス様を同志扱いするな、変態悪魔。それはそうと、お前は俺の相手をするんだろ? さっさと始めるぞ」

 

「………良いでしょう」

 

 俺の台詞を聞いてラディガンは本来の目的を思い出したかのようで俺に狙いを定める。

 

「よろしければ僕も加勢します」

 

「悪魔相手ならこのデュランダルで対抗できるぞ、隆誠先輩」

 

 俺が前に出ると、祐斗とゼノヴィアも獲物を持ち構えながら後に続く。

 

 すると、二人を見たラディガンが詰まらなそうな表情をする。

 

「確か報告であった聖魔剣使いと聖剣使いですか。生憎ですが、私はあなた達のようなザコに用はありません。お引取り願います」

 

「「っ!」」

 

 ザコと呼ばれてカチンと来た祐斗とゼノヴィアだったが――

 

 

 ゴウッ!

 

 

「兵藤隆誠の足手纏いになる事が理解出来ないのなら、死と言う名の授業料を払ってもらいますよ?」

 

 ラディガンの全身から凄まじい魔力と殺気があふれ出した事により、二人は萎縮してしまう。実力差があるとは分かってはいても、奴があそこまでの強さがあったとは思いもしなかったんだろう。

 

「二人とも下がれ。奴の魔力を感じるだけで恐らくエリー以上だ」

 

 ラディガン相手に今の二人では分が悪すぎる。多分その気になれば、祐斗とゼノヴィアが攻撃する前に瞬殺出来るだろう。

 

「加勢してくれるのは嬉しいが、気持ちだけ受け取っておくよ。二人はサーゼクス様達の護衛を頼む」

 

「「……………」」

 

 役に立てない事に二人は落ち込んだ様子を見せながら下がっているので――

 

「この件が済んだら、数日限定だが君達の修行に付き合うのを約束するよ」

 

「「っ! はい!」」

 

 俺が修行相手をすると聞いた瞬間、凄く嬉しそうな顔で返事をした。現金なことで。ま、修行でやる気出してくれるならそれはそれで良いけどな。

 

 さて、奴と戦うなら少し場所を変えたほうがいいな。サーゼクスとミカエルが結界で覆ってるとは言え、ここで闘ったら時間停止してるアーシア達に被害が及ぶ可能性は充分にある。それだけは避けないとな。

 

「場所を変えるぞ。お前もエリーと同様、誰かに横槍は入れられたくないだろう?」

 

「どうぞお好きなように。こちらとしても好都合です」

 

「お待ち下さい」

 

 向こうの返答を聞いた俺はすぐに浮遊しようとすると、突然ミカエルが割って入ってきた事にラディガンが眉を顰める。

 

 無論、ラディガンだけでなくサーゼクス達もミカエルの行動に驚くように目を見開いていた。

 

「一体何の真似ですか? 天使のトップである貴方が我々の戦いに介入するとは、随分らしくない行動ですね」

 

「それは充分に自覚しています。ですが、こちらとしては兵藤隆誠くんの身にもしもの事が遭ったら困りますので、誠に勝手ながら私も参戦させていただきます」

 

 神の記憶と力を受け継いだ俺が死んだら困るってか?

 

 俺の作り話とは言え、相変わらず聖書の神(わたし)関連の事となると目の色が変わるな。

 

 確かにこの場でミカエルが加わるなら勝率はグンと上がる。だけどミカエルには悪いが下がってもらう。コイツと共闘したら後々面倒な事になってしまうからな。

 

「ミカエル様、奴は俺に任せて下さい。天使長が参戦したら部下達や教会に示しがつきませんよ」

 

「ですが……」

 

 心配性なところも変わってないな、コイツは。

 

「ご心配なく。俺はそう簡単にやられはしませんので。貴方のその心配性は、小さい頃から全く変わってないみたいですね」

 

「………え?」

 

 ミカエルがポカンとするように呆けるのを気にせず、俺は場所を変えるために飛翔した。俺が飛んだのを見たラディガンも後を追うように付いていく。

 

 新校舎のグラウンドから体育館の上空まで進んだのを確認した俺はすぐに止まると、ラディガンも同様に止まる。

 

「じゃあ始めようか、ラディガン・アルスランド。エリーには悪いが――」

 

「先ほどから黙って聞いてれば……」

 

「ん?」

 

「人間風情が私の前で妹のエリーを気安く愛称で呼ぶなぁぁ~!!」

 

 何の前触れもなく一瞬で俺に接近してきたラディガンが、魔力を纏った拳で俺の顔面に攻撃をしてきた。

 

「ちょっ!?」

 

 

 ガシィッ!

 

 

 当然、俺はすぐに奴の手首を掴んで攻撃を阻止する。

 

「おいおい、いきなり攻撃するのかよ。エリーと違って戦いの礼儀がなってないな、アンタ」

 

「黙れ! 私の愛しい愛しいエリーを奪った貴様に、そんな事を言われる筋合いはない!」

 

 急に性格が変わったな。どうやらコイツは冷静沈着な反面、エリーの事となるとかなりの激情家のようだ。

 

「殺してやる! 貴様だけは絶対にこの手で殺してやる!」

 

 

 ゴウッ!

 

 

 全身から凄まじい魔力を解放するラディガン。予想通りと言うべきか、コイツの魔力は最上級悪魔クラスの実力者……いや、もしくは魔王級に匹敵するかもしれない。

 

「……ったく、お前ら兄妹は揃いも揃って……自分勝手な兄妹だな!」

 

 

 ドンッ!

 

 

「何っ!?」

 

 俺も負けじと即座にオーラを開放した事により、ラディガンは予想外と言うように驚愕していた。

 

「バカなっ! 人間風情が何故そこまでの力を持っている!?」

 

「お前等は人間を嘗め過ぎだよ。人間だってその気になれば、悪魔を滅ぼす力を得ることだって出来るんだよ!」

 

 

 

 グゴゴゴゴゴッ!!!

 

 

 

 俺のオーラとラディガンの魔力が激突して、嵐のような烈風が吹き荒れる。

 

『うわぁぁあああ~~!!』

 

『きゃぁぁあああ~~!!』

 

 激突する力と力で、近くにいた魔術師達が巻き添えを食らい、そのまま吹っ飛ばされていく。

 

 だが俺達は魔術師達の事など気にせず、お互い対峙してる目の前の敵に集中している。

 

「見せてやるよ、ラディガン・アルスランド! 人間の底力ってやつをな!」

 

「ほざけ! 貴様は楽に殺さんぞ、兵藤隆誠! エリーの目を覚まさせる為に、貴様が如何に弱者であるかをじっくりとなぶり殺しにしてやる!」

 

「エリーに嫌われてもいいならやってみろ! 尤も、既に愛想をつかされてるアンタにエリーが振り向くとは思えないがな!」

 

「黙れ! 私のエリーを知った風な口を叩くな!」



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第四十三話

「そおらっ!」

 

「ぐっ!」

 

 

 ブンッ!

 

 

 ラディガンの手首を掴んでる俺は上空目掛けて思いっきり放り投げた。俺に投げられた事でラディガンはそのまま上空にある結界にぶつかると思ったが、急ブレーキを掛けるように止まって体勢を立て直す。

 

 そうする事は既に予測済みなので、すぐに追撃しようと超スピードで接近する。

 

「っ! ちぃっ!」

 

 俺の追撃を回避しようと思ったのか、ラディガンは舌打ちをしながら転移して消えた。

 

 転移は本来遠い場所へ瞬時に移動したり、撤退する為に使う為の術。けれど接近された相手から距離を取ろうとする時にも使える。

 

 俺を殺そうとするラディガンが転移を使ったのは、当然距離を取る為だ。その証拠に奴は俺の前方から約五十メートル先に現れてる。

 

 ラディガンはすぐに右手を前に突き出し、左手で突き出したほうの右手を支えると――

 

 

 ズオッ!

 

 

 強力な魔力波が放たれた。

 

 並みの上級悪魔なら一瞬で消し飛ばせる威力を持つ魔力波が凄い速さで向かってくる。

 

 普通なら躱すのが懸命だが、俺はそうせずに動かない。と言うか、こんな物は躱すまでもない。

 

「はあああっ!!」

 

 

 バチッ!

 

 

 前にイッセーがレーティングゲームでライザーの極大な炎の玉を弾き飛ばしたように、オーラを纏った左手で思いっきり振った。

 

 俺の左手が魔力波にぶつかると、それは突然進行が止まるも、すぐに別の方向へと飛んでいった。

 

「ば、バカなッ!」

 

 俺が魔力波を弾き飛ばした事が信じられなかったのか、ラディガンは驚愕を露にしている。

 

 そして魔力波は体育館に激突した瞬間、凄まじい爆発音と爆風が吹き荒れた。

 

 俺は後ろから来る爆風を大して気にせずラディガンに向かって、してやったりとほくそ笑む。

 

「っ! ………ちぃっ……! まさか、弾き飛ばすとは……!」

 

 

 

 

 

 

 ギャスパーを取り戻そうと俺――兵藤一誠と部長はサーゼクス様の転移によって旧校舎へ駆けつけるも、女魔術師達の一人がギャスパーを楯代わりにしてることで動くに動けなかった。

 

 自分達が有利だと思ってる女魔術師達は冷笑を浮かべながら、動けない俺と部長に魔力弾を放っている。けど俺がさせまいと今は部長の楯となって一人で魔力弾を受け続けている。

 

「ぐぅっ!」

 

「イッセー、もうあなたが受け続ける必要は……!」

 

「フフフ、無様ね。それにしても貴方、私たちと同じ人間なのにそこの悪魔なんかを守るなんて、随分と落ちぶれてるわね」

 

「俺は部長の眷族だ! 魔術師のテメエ等に言われる筋合いなんかねぇよ!」

 

 当たった魔力弾は大して効かないが、女魔術師の油断を誘う為に俺は態と効いてる演技をしていた。ソレによって向こうは俺がダメージを受けてると思っている。

 

「ぐっ、くそっ……!」

 

「イッセー先輩!」

 

 因みに人質となってるギャスパーは、ついさっき部長が感動的な台詞を言われて嬉し涙を流していたが、俺がダメージを受けてると勘違いしていた。

 

 すると――

 

 

 グゴゴゴゴゴゴッ!!

 

 

「うおっ!」

 

「な、なに!?」

 

「な、なんですかこの地震はぁ!?」

 

 突然大きな地震が俺達に襲い掛かってきた。ついでに外から凄まじい魔力も感じる。

 

「何なのよこれは!?」

 

 この状況は予想外だったのか、部長やギャスパーだけじゃなく、女魔術師達の体勢が崩れた。

 

「今だ!」

 

 これをチャンスと見た俺は超スピードで接近し――

 

「だぁっ!」

 

 

 ドンッ!

 

 

『きゃあっ!』

 

 両手を使った気合砲で女魔術師たちを吹っ飛ばして壁に激突させた。

 

「ギャスパー! あんな奴等にいつまでも言われ続けるな! 俺の血を飲んで男を見せてみろッ!」

 

「は、はいっ!」

 

 女魔術師達を気にせずに俺はギャスパーに血を飲ませようと、アスカロンで自分の掌を斬る。

 

 そこから先は俺も予想外で、血を飲んだギャスパーが覚醒したように吸血鬼の能力が発動して、女魔術師達を翻弄させていた。

 

 

 

 

 

 魔力波を弾き飛ばされた事が完全に予想外だったのか、ラディガンが未だに放心したままとなっていた。その隙に俺――兵藤隆誠は再び超スピードで接近して攻撃する。

 

「せいっ!」

 

「ごっ! こ、このっ……!」

 

 俺の拳が奴の頬に見事に当たる。攻撃された事にラディガンはキッと睨みながら、反撃しようと俺に素早い連続蹴りを繰り出そうとする。

 

「どうしたどうした!? こんなもん俺には止まってるようにしか見えないぞ!」

 

 だが俺にとってこの程度の蹴りは遅く見えるから、身体をずらすだけで充分に躱せる。いかにラディガンが凄まじい魔力を持とうとも、格闘戦となれば話は別だ。

 

 コイツはエリーと違って格闘の切れがない。恐らくコイツは魔力戦メインで戦うタイプなんだろう。

 

「躱してるだけでいい気になるな!」

 

 今度は魔力が篭った蹴りを食らわそうとするラディガンだが、俺はすぐに躱して身体を縦回転しながらラディガンの頭に蹴りを当てる。

 

「うがああっ……!」

 

 攻撃を受けて落下していくラディガンに俺はすぐに追撃しようとする。

 

 地面に激突する直前に、ラディガンはすぐに両手両足の着地で事なきを得て、すぐに俺を迎撃しようと上を見る。

 

 だが――

 

「何処見てる!?」

 

「っ!」

 

 

 ドゴッ!

 

 

 俺はすぐに背後を取っていたので、すぐに回し蹴りを食らわす。

 

「うおあああっ!」

 

 回し蹴りを背中に直撃したラディガンは吹っ飛び、そのまま倒れて地面に激突する。

 

「その程度の格闘戦で挑むなんて、俺も随分と舐められたもんだ」

 

「ぐっ………お、おのれ……!」

 

 俺の台詞にラディガンが歯噛みして悔しがるような声を出していた。奴としてはここまで梃子摺るだなんて思いもしなかったんだろう。後姿で奴の悔しい顔が見えなくても充分に想像できる。

 

「はぁっ……はぁっ…………く、くふふふふふ」

 

「?」

 

 突然笑い声を出すラディガンに俺は訝って眉を顰める。

 

「フフフフフフフフ………ハハハハハハハ」

 

「何がおかしい? 気でも触れたか?」

 

「いやいや、そうではありません。驚いたんですよ。まさか私が人間相手にここまで梃子摺るとは思ってなくて。ですが、そのせいで……貴方は私が長年眠らせていた真の力を目覚めさせてしまいました」

 

 そう言いながらラディガンは立ち上がりながら俺の方を見る。しかも顔付きがガラリと変わったように、残忍な笑みを浮かべていた。

 

 真の力、ねぇ。まさかコイツ、俺を殺すと言っておきながら、今まで本気を出してなかったのか?

 

 どうでもいいが、ラディガンの台詞がドラグ・ソボールにいるキャラクターでフリーズの側近――ザボンと何となく似ている気がするんだが。

 

「アンタの長年眠らせていた真の力を俺が目覚めさせただと?」

 

「ええ、その通りです」

 

 頬に流れる血を手で拭いながら頷くラディガン。

 

 ………あそこまでハッキリと答えるって事は冗談じゃなさそうだな。

 

「じゃあ何故俺と戦う前に真の力を見せなかったんだ? まさかソレをやるには変身するとかじゃないだろうな?」

 

「よく分かりましたね。そうです。真の力を見せるには変身――つまり真の姿にならなければいけないんですよ」

 

 大当たりかよ! ってことは何か? コイツもしかしてザボンみたく醜い姿に変身するってか!?

 

「何故そうしなかったのか、貴方が死ぬ前に教えてあげましょう。私は真の姿になると無意識に魔力を垂れ流してしまう為、それを受けた弱い悪魔や人間がすぐに死んでしまいます。ですから魔力を完全に抑える対策として、私はこうして人間形態となっているんですよ。尤も、他の連中がどうなろうと私は気にしないんですが、あの姿になるとエリーが嫌がるので制御する事にしました」

 

「……あっそう」

 

 魔力を抑えるため云々と長々説明しておきながら、結局はエリー絡みかよ。聞いて損した。エリーの言葉で動くって、コイツはどこまで変態シスコンなんだよ。

 

「んで、真の姿になったら今まで抑えていた魔力が圧倒的に上がるとか?」

 

「上がるのはそれだけではありません。(パワー)速力(スピード)も圧倒的に、ですよ」

 

「そうかい。じゃあ見せてみろよ」

 

「言われなくても、今お見せしますよ」

 

 そう言ったラディガンは全身に力を入れるように手を強く握り締める。

 

「ハッ!!」

 

 

 ゴウッ!!

 

 

 ラディガンが声を発した途端、奴の全身が黒い魔力で覆われる。

 

 すると、ラディガンの纏っているローブだけでなく、衣類全てが徐々に黒ずんで消えていく。

 

「ガアアアアアッ!」

 

 そんな中、ラディガンが獣のように叫びながら身体も変化していた。背中から漆黒とも呼べる一対の悪魔の翼、後腰部には黒い尻尾、頭には長い二本の白い角、四肢には鋭い爪、更には両腕と下半身には黒い体毛がそれぞれ生えてきた。

 

 見るからに理想的な悪魔その物の姿だ。これが奴の真の姿か。

 

「はぁっ……はぁっ……フフフフフフ、お待たせしました」

 

 久しぶりの変身だったのか、ラディガンは少し息が上がるも元に戻る。

 

「何て奴だ……まさかここまでとは……!」

 

 単に悪魔の姿に戻っただけかと思われるだろうが、今までとは断然違う。さっきまで感じていた奴の魔力が桁違いに上がっている!

 

「クククククク、今更後悔しても遅いですよ。この姿を見た以上、貴方には……死んで頂きます!!」

 

「ぐっ!」

 

 ラディガンが一瞬で近づき、そのまま俺の腹部に膝蹴りをしてくる。

 

 あまりの早さに俺は反応出来ずモロに喰らって吹っ飛ばされるも、ラディガンは一瞬で背後に回りこみ――

 

「さっきのお返しですっ!」

 

 

 ドゴッ!

 

 

「がぁっ!」

 

 俺の背中に回し蹴りをしてきた。だが俺は地面に激突せず、すぐに上空へと飛んでラディガンから距離を取った。

 

「っ~~……今のはマジで効いた……!」

 

 人間形態だったラディガンの蹴りが全然威力が違う。しかもかなりキレのある攻撃だ。

 

 アイツ、真の姿になると格闘戦も半端ないようだ。くそっ! さっきまで格闘戦は大したこと無いと思ってた自分に腹が立つ!

 

 ラディガンは俺の表情を見て、余裕そうな笑みを浮かべていた。

 

「あの野郎……!」

 

 少しばかりカチンと来た俺は全身にオーラを纏わせながら、ラディガン目掛けて急降下していく。

 

「フッ」

 

 対してラディガンは俺の突進に慌てることなく、魔力を纏わせながらすぐに飛んで迎撃しようとする。

 

「「はぁぁ~~~~!!!」」

 

 

 ゴウッ!

 

 

 俺とラディガンの拳がぶつかると、その周囲から爆風のような衝撃が生まれる。

 

 だが俺達は気にせず、拳だけでなく脚も使った攻撃をしていた。それにより新たな衝撃が発生し、周囲にいる魔術師達は被害を受けていた。

 

 

 ガガガガガガガガッ!!

 

 

 互いに負けじと攻防を続けて数十秒後、俺達は一旦離れて距離を取った。

 

「はぁっ……はぁっ……ぐっ!」

 

 まさか、ラディガンがここまでの実力者だったとは……!

 

 奴の攻撃一発はかなり重く、さっきまでの攻防の時に受けた箇所の痛みが酷い。

 

「兵藤隆誠。恐らく貴方は私相手なら問題なく勝てると踏んでいたようですが、とんだ誤算でしたね。私の真の力がここまでとは思いもしなかったでしょう?」

 

「………そうだな。アンタの実力はエリー以上の強さだと改めて認識したよ」

 

「ふふふ、そうですか。では死に土産に良いことを教えておいてあげましょう」

 

 良いことだと? 何を言うつもりだ?

 

「貴方はこれまで私の妹と何度も戦ってるみたいですが、真の姿を見た事がありますか?」

 

「アイツの真の姿だと?」

 

 エリーが人間から夢魔(サキュバス)の姿になってるのを何度も見たから、アレが真の姿だと思っていた。けれどラディガンの台詞からして、エリーには本当の姿があるようだ。

 

「エリーの夢魔(サキュバス)形態が真の姿だと思ってるようですが、それは大間違いです。あの子は兄の私よりもう一段階変身出来るんですよ。けれどまだ未熟な為に暴走してしまうのですが……それでも私以上の実力を持っていますよ」

 

「なっ!!」

 

 エリーの真の姿がラディガン以上だと!?

 

「くくく、その顔を見ると知らないようですね」

 

 愉快と言わんばかりに笑みを浮かべるラディガンだが、今の俺はそんな事を気にしていられなかった。

 

 おいおい、エリーの奴め。本当の力を持っていながらも、実力の全てを見せていなかったな。

 

 ………いや、それは違うな。エリーの事だ。恐らく真の姿になって暴走したところを俺に見せたくなかったんだろう。

 

 加えてアイツは俺に熱烈な恋愛感情を抱いてるから、暴走によって俺を殺してしまうのも避ける為でもあると予想出来る。

 

 全く。エリーの本当の力に全然気付けなかったとは……どうやら俺は奴の事を未だに分かってなかったようだ。本当は分かりたくないけど。

 

「残念でしたね、兵藤隆誠。私に勝てない貴方が、真の力を発揮したエリーにかなうわけがないんですよーーーーっ!!」

 

「!!」

 

 ラディガンの片手から放たれた強力な魔力波を、俺はすぐに上空へと躱す。

 

 だが俺が躱したと同時にラディガンも動いて、またもや俺の背後を取って羽交い絞めする。

 

「ぐっ! き、貴様!」

 

「ふふふふふ、貴方を楽には死なせませんよ!」

 

 

 ギュンッ!

 

 

 俺を羽交い絞めしてるラディガンは身体を半回転させて、そのまま地面へ猛スピードで急降下していく。

 

 何とか逃れようとする俺だったが、ラディガンの力は凄まじく離れる事が出来なかった。

 

「ふはははは! このまま死ぬがいい~~~!!」

 

「あああああ~~~~!!!」

 

 ラディガンは羽交い絞めしてる両腕を放すが、俺は抵抗出来ないまま――

 

 

 ドズンッ!!!!!

 

 

 そのまま地面へと激突してしまった。



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第四十四話

またいつものダラダラ感丸出しの話となってしまった。


 女魔術師共に囚われてたギャスパーと小猫ちゃんを救出した後、サーゼクス様達がいる新校舎へ向かってる途中、俺達は信じられないものを見て立ち止まっていた。

 

「リューセーが……嘘、でしょ?」

 

「そんな、リューセー先輩が!」

 

「……リューセー先輩……!」

 

 部長やギャスパーに小猫ちゃんが呆気にとられて二の句が継げない状態だ。

 

「………………」

 

 部長達と違って俺は完全に言葉が出なかった。

 

 相手が見知らぬイケメン悪魔とは言え、兄貴があそこまでボコボコにされた挙句、何の抵抗もなく地面に激突させられるなんて俺にはとても信じられなかった。

 

 いつもどんな強敵も余裕で勝ってた兄貴がだ。マジで信じられねぇ。

 

 激突した地面は巨大なクレーターとなって、その中心にはうつ伏せで倒れてる兄貴がいた。制服の上半分はボロボロだが、オーラが全く減ってないから死んではいない。

 

「う、うう……ててて……あ~~、今のは凄く効いたぁ~……。ったく、大事な制服がボロボロじゃないか」

 

『ええっ! 嘘っ!?』

 

 すると、身体をピクリと動かした後、兄貴はすぐに起き上がった。立って早々に埃塗れとなってるボロボロの制服を手で払ってる。

 

 地面に激突しといてもピンピンしてるとは流石だな。部長達がまた別の意味で信じられないように驚いてる。

 

 ……まぁ、弟の俺は大体想像はしてた。あの兄貴があの程度の攻撃で死ぬ訳が無いのは分かってたし。

 

「おやおや、まだ生きていましたか。意外と頑丈なんですね、貴方は」

 

 いつの間にか地面に着地したイケメン悪魔が呆れた感じで兄貴に向かって言ってた。

 

「ふんっ。この程度で死ぬほど俺の身体は柔じゃないんでな」

 

 心外と言わんばかりに言い返す兄貴。

 

 ………だよなぁ~。大岩を簡単に砕く俺の全力攻撃を受けても平然としてる兄貴が、アレ位で死にはしない。

 

「しかしラディガン、アンタ凄いな。たった一回の変身で、魔王クラスに匹敵する実力を持つとは恐れ入ったよ」

 

 変身!? あの悪魔野郎、変身してあの姿なのか!?

 

 そう言われりゃ、確かにあの悪魔野郎の姿は俺が想像してる理想的な悪魔の姿になってるな。悪魔である部長は俺や兄貴と全く変わりない人間の姿をしてるから、それが当たり前だと思ってた。

 

「ラディガンって……っ! まさかラディガン・アルスランドなの!?」

 

「え? 部長、アルスランドって確かエリーの……」

 

「ええ。イッセーの言うとおり、彼はエリガン・アルスランドの実の兄よ」

 

「………マジっすか?」

 

 嘘ぉぉおおおおお~~~~!!! あのイケメン悪魔がエリーの兄だとぉぉぉ~~~~!!!!????

 

 俺が内心メチャクチャ驚いてると、兄貴とイケメン悪魔――ラディガンが気付いたようにコッチを見てくる。

 

「誰かと思えば、赤龍帝にリアス・グレモリーと眷族たちですか。しかも……捕らえたはずの吸血鬼を取り戻しましたか」

 

「ひっ!」

 

 ラディガンが事情を察したかのように見てると、目が合ったギャスパーは小さい悲鳴をあげながら俺の後ろに隠れようとする。

 

 ってかギャスパー、いくら怖いからって俺の背中に隠れんな。男ならもっとシャキっとしろよ。……まぁ、あんなバカでかい魔力を持った悪魔と目が合ったら怖がるのは無理もねぇけど。

 

「ま、私にはどうでもいいことです」

 

 そう言ってラディガンはすぐに視線を兄貴へと移す。俺たちがギャスパーを取り戻した事を本当にどうでもいい感じで言ってた。普通なら顔を顰めるはずなんだが。

 

「イッセー達がギャスパーを助けたと言うのに随分と冷静だな」

 

「私は憎い貴方を殺す為に来ただけにすぎません。魔術師共がどうなろうが、私の知った事ではありません」

 

 おいおい、アイツは兄貴を殺す為に来たのかよ。それと憎いってどう言う事だ? 兄貴はアイツに何か恨まれるような事でもしたのか?

 

「それはそうと、貴方は自分の身を心配したらどうですか? もう少ししたら死ぬのですから」

 

「……………」

 

 ラディガンは話題を変えると兄貴に向かって嘲笑を浮かべる。

 

 確かにさっきまでの戦いを見て、兄貴はラディガンにかなり押されてた。兄貴のオーラとラディガンの魔力を比べても、圧倒的にラディガンが上だ。

 

 状況から考えて、ここは俺も加勢した方が――

 

「イッセー、手を出そうとするな。コイツは俺がやる」

 

 ――と思いきや、兄貴がそう言ってきた。

 

「おや? 赤龍帝と一緒に私と戦わないのですか?」

 

「アンタ相手に二人掛りでやる気はない。と言うか、こんな無様な姿を(イッセー)やリアス達に見られているのに出来る訳ないだろ」

 

「下らない。そんな詰まらない意地の為に――」

 

「じゃあアンタが俺の立場だったら妹のエリーに助けを乞うか? ま、アイツは強い男が好きで今も俺にゾッコンだから、そんな気なんか無いだろうけど」

 

「っ……! どうやら相当死にたいようですね」

 

 

 ゴウッ!

 

 

 げっ! 兄貴の台詞がトリガーになったのか、ラディガンの全身から濃密な殺気と凄まじい魔力が溢れ出してる!

 

 ラディガンが殺気と魔力を解放した所為で、対象が自分でないにも拘らず部長達は気を呑まれていた。

 

 エリーの兄だけあって、とんでもない野郎だ。俺も一瞬呑まれかけたのに、アレを真正面から受けてる兄貴は涼しい顔をしてるし。

 

「私の前で悍ましい事を口にしたその罪、万死に値する! 今すぐに私の全力を持って殺してやる!」

 

「例え話をしただけで、そこまで怒るのかよ……」

 

 呆れたように言う兄貴は、制服の上着を脱いですぐに片手で放り投げた。

 

 その上着はそのまま地面に向かって落ちて――

 

 

 ドスンッ!!

 

 

『……………………』

 

 凄まじい激突音を発生させた事で周りがシーンとなった。

 

 ………あれ? 何かどこまで見た事があるやり取りのような気がするな。

 

「?」

 

 言葉を失う部長たちの他に、ラディガンはすぐに兄貴の上着を見ようとする。

 

 上着を放り投げた当の本人である兄貴は気にしてないのか、Yシャツの袖部分を捲って両手首に巻いてるバンドを外す。更に今度はズボンの裾を捲って、両足首にも巻いてるバンドも外した。

 

 それ等を全て外した兄貴はまた放り投げると――

 

 

 ズンッ!

 

 

 またもや凄く重い音がした。

 

「じゃあ俺も本気でやるとしよう」

 

「な……」

 

 軽い準備運動をしながら言う兄貴にラディガンは信じられないような顔をする。

 

「今まで本気ではなかったと? 呆れましたね。ホラを吹くのも大概にしたらどうですか?」

 

「すぐに分かるさ」

 

 呆れるように言い放つラディガンに兄貴はすぐに言い返す。

 

「ったく。兄貴の野郎、こんなヤベェ時にカッコつけやがって」

 

「ま、まさかリューセーはラディガン相手に……!」

 

「……あんな重い上着とバンドのままで戦っていたんですか……」

 

「え? え? 何の話ですか?」

 

 部長と小猫ちゃんは気付いてすぐに驚きと同時に呆れ、ギャスパーは話が見えないのか戸惑っていた。

 

 にしても兄貴がバンドを外したのは初めて見たな。この前の戦いの時にもバンドは外してなかったと言うのに。

 

 あ、そう言えば前に――

 

『このバンドは修行用じゃなくて、自分の力を抑える為に付けてるだけだ。こうでもしないと力の調節が難しくなるからな』

 

 って言ってたな。

 

 つまりアレを外すって事は、力の調節なんか気にしてられないほどヤバい相手って事になるのか。だとしたら、これは不味い事になるぞ。

 

「部長、俺たち今すぐ下がった方がいいかもしれません」

 

「え? それってまさか……」

 

 部長が言ってる途中――

 

 

「はぁぁぁああああ~~~~~~!!!!」

 

 

 兄貴が両手を力強く握り締めながら叫ぶと、全身から凄まじいオーラが溢れんばかりに放出していく。

 

 おいおい、バンドを外しただけであそこまでオーラが上がんのか!? 一体兄貴はどんだけ力を抑えていたんだよ!?

 

「……成程。どうやらホラではないようですね。重い装備を外して身軽になったと言う事は、スピードが更に磨きが掛かるんですか?」

 

 凄まじいオーラを放出してる兄貴に対して、ラディガンは慌てた様子は無くて笑みを浮かべながら問う。

 

「それはどうかな?」

 

 兄貴はそのまま宙に浮き、ラディガンと同じ位置で止まる。

 

 構える兄貴にラディガンはジッと見るも、一切油断はしてない様子だ。

 

 そして――

 

「だぁっ!」

 

 

 バキッ!

 

 

「ごっ!」

 

 兄貴が一瞬でラディガンに接近して顔面にパンチを当てた。

 

 ………嘘だろ? 速過ぎて全然見えなかったぞ。

 

「ちぃっ!」

 

 攻撃を当てられたラディガンは一旦距離を取ろうとしたのか、すぐに上空へと飛んでいく。

 

 兄貴もすぐに追いかけるよう飛んでいくと、凄いスピードであっと言う間にラディガンに追いついて回り込んだ。

 

「てぇい!」

 

「くっ! …………? 奴はどこへ……?」

 

 急降下の蹴りにラディガンは躱して下を見るも、兄貴の姿がなくて周囲を見回していた。

 

 俺達も後を追うように飛んで周囲を見回すが、何処にいるのかが全然分からない。

 

「ここだ!」

 

「なっ!?」

 

 すると、ラディガンの背後から突然兄貴が現れた。ラディガンは振り向くも――

 

 

 ドゥンッ!

 

 

「うがあっ!!」

 

 兄貴が繰り出した衝撃波をモロに喰らって落下していく。

 

「くっ! お、おのれ!」

 

 ラディガンは体勢を立て直そうとするも、追撃する兄貴はそれを許さなかった。追いついてすぐに真正面から両腕を使って抱きしめるように拘束する。

 

「き、貴様何の真似だ!? 放せ! 私にそんな趣味はないぞ!」

 

「俺だってねぇよ! さっきのお返しをするだけだ!」

 

 ラディガンを拘束する兄貴はそのまま地上に向かって急降下していく。

 

 地上まであと十メートル近くで兄貴が急上昇すると、拘束されてたラディガンはそのまま地面に激突する。

 

 

 ドズンッ!!!!!

 

 

 激突音がして、アイツの周囲から土煙が舞ってるために姿が見えなかった。

 

 けれど兄貴はいるのが分かってるのか、宙に浮いたまま視線を外していない。

 

「これで止めだ」

 

 兄貴の台詞と共に、背後から夥しい光の剣と光の槍が現れた。それの所為か、この場にいる全員が一斉に兄貴を注視してる。

 

 おいおい、あんなに出すって事はまさか……。 

 

「………イッセー、念の為に訊くのだけれど、アレを出したリューセーはどうするつもりなのかしら?」

 

「……凄く嫌な予感がします」

 

「ぼ、僕、リューセー先輩が凄く怖く見えますぅ……」

 

 部長だけでなく、小猫ちゃんとギャスパーも顔を青褪めながら兄貴を見ている。

 

 そんなの訊かなくたって分かるでしょう、部長。アレは兄貴が本気を出した時の……対悪魔用の最大攻撃ですよ!

 

「くたばれラディガン!」

 

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!!!!!!

 

 

 兄貴が両腕を振るうと、待機していた全ての光の剣と光の槍が地面目掛けて突撃していく。

 

 さっきまで舞っていた土煙が更に舞い上がると、巨大な光の爆発が起きただけじゃなく、その周囲から凄まじい爆風も学園全体を襲った。

 

 

 

 

 

 

「……まさかこれほどとは」

 

 少し離れた場所から隆誠とラディガンの戦闘を白龍皇――ヴァーリは興味深そうに見ていた。

 

「オーフィスから聞いた時は何の冗談かと思ったが……行ってみるか」

 

『ヴァーリ、何を考えている?』

 

「そんなの訊くまでもないだろう、アルビオン。確かめにいくのさ。彼は俺が倒したかった存在――聖書の神であるかを!」

 

 もう我慢が出来ないと言わんばかりに、ヴァーリは隆誠がいる方へと飛んで行こうとする。




そろそろ神バレの展開にしないと……。


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第四十五話

「ったく、本当にとんでもねぇ奴だな。もしカテレアが見てたらどうなってたか」

 

 隆誠がラディガンに無数の光の槍と光の剣で追撃し、巨大な爆発を発生させたのを見ていたアザゼルはそう呟く。

 

 アザゼルが呟いたカテレアはもう既にいない。彼女は人口神器(セイクリッド・ギア)禁手化(バランス・ブレイク)したアザゼルによって既に倒され消滅されていたから。

 

 倒した代償と言うべきか、アザゼルの左腕が無くなっている。理由はカテレアが死ぬ寸前にアザゼルを道連れにしようと、触手と化した腕をアザゼルの左腕に巻きつき、自爆式の術式を施そうとしていた。それを防ぐ為にアザゼルは何の迷いもなく左腕を切り落とした後、カテレアを光の槍で貫いて塵と化し消滅。

 

 片腕を失った事に何の未練もないアザゼルは、禁手化(バランス・ブレイク)が解除されて宝玉に戻った事に舌打ちをしていた。アザゼルにとっては自分の腕より、人口神器(セイクリッド・ギア)の方が大事だったんだろう。もう少し改良しようと思った矢先、隆誠の追撃を見た瞬間、人口神器(セイクリッド・ギア)の事はもう後回しとなっていた。

 

 因みに隆誠の追撃に驚いていたのはアザゼルだけでなく、地上にいるサーゼクス達も言葉を失っていた。特にミカエルは隆誠が放った光の槍と光の剣を見て何を思ったのか、ずっと隆誠を注視している。

 

「ん? ヴァーリ……?」

 

 魔術師の相手をしてるヴァーリが、そのまま隆誠がいる方へと向かっていくのを視界に入ったアザゼル。

 

「まさかアイツ……!」

 

 隆誠へ接近する事に嫌な予感がしたアザゼルはすぐに駆けつけようとした。

 

 

 

 

 

 

「兵藤隆誠、よくも……!」

 

「大分効いたらしいな。随分と体力が落ちてるじゃないか」

 

 爆発による大量の粉塵と煙の中からボロボロ状態となってるラディガンが浮遊しながら現れた。俺の追撃がかなり効いたのか、身体の殆どは傷だらけで、黒い翼も本当に飛べるのかと疑問を抱くほどのボロボロだ。

 

 予想外の攻撃を受けた所為か、ラディガンは端整な顔を歪ませ歯軋りしていた。

 

「どうやらアンタの敗北が近いようだな」

 

「敗北、だと? ふざけるな! 私の力は人間風情の貴様などに負けはしない!」

 

「その驕りがアンタの敗因なんだよ。ラディガン、アンタはエリーから俺の力の事を訊かなかったのか? 俺が撃つ光の攻撃には気をつけろって」

 

「……何を言うかと思えば、貴様の光など所詮は天使や堕天使の真似事――」

 

「だったら、そのボロボロになった羽を魔力で治してみろよ。出来るものなら、な」

 

 真似事と言ってくるラディガンに、俺は自慢の羽を治すよう促した。

 

「ふざけた事を……この程度の傷など……っ!」

 

 奴は俺の言葉を挑発と思ったのか、自身の魔力を使って傷を治療しようとする。だが奴の羽は一向に治る気配がなかった。

 

「ば、バカな! 何故元に戻らない……!?」

 

「悪魔にとって光は猛毒だが、俺のはちょっと特別性でな。一度喰らったら治療出来ないどころか、徐々に悪魔(おまえ)達の体を蝕んでいくんだよ。まぁ時間を掛ければ治す事は出来るが」

 

 聖書の神(わたし)の光は他の天使や堕天使と違い、悪魔を滅する事に特化している。例えば並みの下級悪魔が聖書の神(わたし)の光を受ければ、凄まじい激痛と同時に徐々に全身を蝕まれながら死に至る。

 

 因みにエリーは俺と戦う際、俺が放つ光の攻撃は必ずと言っていいほど回避に専念しようとする。それでも受ける時は防御結界で必要最低限のダメージで済ませていたが。

 

「これはまだエリーに教えてないが……俺は人間でありながら聖書の神の力と記憶を受け継いでいるから、この力を使う事が出来るんだ!」

 

「っ!?」

 

 聖書の神(わたし)の名を告げた途端、ラディガンは驚愕を露にする。そりゃそうだ。いきなり聖書の神(わたし)が出るなんて予想もしないだろう。

 

「せ、聖書の神だと? 何をふざけた事を……。例えそれが本当であったとしても、脆弱な人間である貴様が扱えるわけがなかろう! そして変身し、真の力を発揮できる私に敵う訳がない!」

 

 口ではそう言っても、ラディガンからは少しばかり焦りが出始めていた。俺の台詞が冗談だとしても、悪魔にとって聖書の神(わたし)は最悪な単語だからな。

 

「貴様のような下等生物(にんげん)に、これ以上私のエリーを近づかせてなるものかぁぁーーー!!!」

 

 全身から魔力を発しながら猛スピードで俺に接近してくる。

 

「人間は無限の可能性を持つ種族だ! 舐めるなぁぁーー!!」

 

 

 ドガガガガガガガガガッ!!

 

 

 接近してきたラディガンに対抗するように咆哮しながら、腕と脚を使った攻防を凄まじい速度で繰り広げる。

 

 

 ドンッ! バキッ! ドガッ! ガスッ!

 

 

「ぐっ!」

 

「ゴッ!」

 

 互いに一歩も譲らず、自分の身体を気にしないように攻撃を繰り広げる俺とラディガン。

 

 この攻防で周囲に凄まじい衝撃や突風が吹き荒れるも、俺達は気にしない。今はただ目の前のコイツを倒すだけしか考えていないから。

 

 加えて今の俺の両拳には聖書の神(わたし)の光を纏わせてる。純血種の悪魔であるコイツにとっては最悪な攻撃だ。

 

「っ!」

 

 すると、光を纏った俺の拳がラディガンの右肩に攻撃すると、奴は動きが一瞬止まって顔を歪ませた。

 

「おらおらおらおらぁぁーーー!!」

 

「ごあっ!」

 

 その隙を突くように俺は空かさず拳の連続攻撃をラディガンの当て続け――

 

「はぁぁぁあああっ!!」

 

 

 ズムッ!!

 

 

「あ…………あぐ………」

 

 渾身の力を込めた右拳をラディガンの腹部を貫いた。それによりラディガンは血を吐きながらも抵抗するように、腹部に突き刺さってる俺の腕を抜こうと掴んでいた。

 

 だが奴はさっきの追撃を受けただけでなく、俺の光の拳を何度も喰らい続けた事によってかなり弱っているので無駄な抵抗だった。

 

「これで――」

 

「ま、待つのです、兵藤隆誠……。わ、私はカテレアに命令されただけで……ど、どうかここはお見逃しを……!」

 

 死にかけとなってるラディガンが命乞いをしてきた事に、俺はとても不愉快な気分になった。同時にコイツに対する評価もガタ落ちだ。

 

「呆れた奴だ。さっきまで俺を殺そうとしておいて、勝手な事を抜かすな!」

 

「がっ……! で、ですが、愛しい妹のエリーが……! わ、私が死ねば、あの子は……」

 

 ここでエリーの名前を出したところで俺は見逃す気はない。いくら大事な家族がいるとは言え、勝手な言いがかりをつけた挙句、何の話し合いもせずに殺そうとした悪魔(てき)聖書の神(わたし)は許す事など出来ない。

 

「そ、そうだ……。確か貴方は、私と同じく妹を愛する同志でしたね……。妹の愛し方を私がお教え――」

 

「“終末の光”よ」

 

 

 カッ!

 

 

「が、ぐ、ぐ、ご……がぁぁぁぁ~~~~!!!!」

 

 ラディガンの口から非常に不愉快な台詞を聞いた瞬間、俺は奴の体内に終末の光を大量に注ぎ込んだ。

 

 その結果、奴の身体は崩壊して聞くに堪えない悲鳴をあげながら消滅していった。

 

「生憎だが、外道なアンタと違って大事な妹分(アーシア)を穢す気はない。聖書の神(わたし)はあの子を守ると誓ったんでね。アンタの歪んだ愛なんか真っ平御免だ」

 

 そう吐き捨てた俺はラディガンの血で汚れた片手を、ズボンのポケットに入ってるハンカチで拭き取る。

 

 そんな中、ラディガンが死んだのを確認したイッセー達がコッチへ向かってきた。

 

 俺はすぐにイッセー達の方へ視線を向けると――

 

「兄貴、後ろだ!!」

 

「っ!」

 

 

 ガッ!

 

 

 イッセーが発言した直後、すぐに気付いた俺は背後から仕掛けてきた攻撃を振り向かないまま片腕で防いだ。

 

 防いだ俺はすぐに後ろを振り向くと、そこには白龍皇のヴァーリがいる。言うまでもなく、コイツが俺に攻撃をした張本人だ。

 

「………どういうつもりだ、白龍皇?」

 

 俺が睨むように目を細め、更に声を低くして問う。だがヴァーリは大して気にしてないのか笑みを浮かべている。

 

「まさかとは思うが、今すぐこの場で俺と戦いたいとか抜かすんじゃないだろうな?」

 

「そうだ、と言ったらあなたはどうする?」

 

 ……コイツ、本気のようだな。

 

「ヴァーリ! テメェ、兄貴に何してやがる!?」

 

 すると、闘気(オーラ)を纏ったイッセーが加勢するように猛スピードで駆けつけながら、そのままヴァーリへ攻撃しようとする。

 

 だがヴァーリはすぐに俺から離れ、イッセーの攻撃を簡単に躱して距離を取った。

 

「念の為に訊くけど、大丈夫か?」

 

「当たり前だ。俺があの程度の攻撃で参るわけないだろうが」

 

「まぁ、そりゃそうだな」

 

 問題ないと言い返す俺に、イッセーは苦笑しながらもすぐにヴァーリの方へと視線を移す。

 

「で? 何で兄貴はヴァーリに狙われたんだ?」

 

「知るか。寧ろコッチが知りたい位だ。けれど、奴がこのタイミングで仕掛けてきたと言う事は――」

 

「おいおい、この状況下で反旗か、ヴァーリ」

 

 俺が言ってる最中に、片腕を失ったアザゼルがコッチに駆けつけながらヴァーリに話しかけた。さっきまで感じていたカテレアの魔力が突如消えたのは、コイツが倒したんだろうな。

 

 因みにアザゼルの他にリアス達、魔術師達を粗方倒した祐斗とゼノヴィア、そして戦いを見守っていたサーゼクス達も駆けつけていた。

 

 アザゼル達が来たにも拘らず、ヴァーリは不利な様子を見せないどころか大して気にしてない感じだ。どこにあんな余裕があるのやら。

 

「悪いな、アザゼル。コッチの方が面白そうなんでね」

 

 ヴァーリの台詞から察するに、どうやら奴が裏切り者のようだ。

 

「そうかよ。なぁヴァーリ、二つほど訊きたいんだが」

 

 アザゼルはヴァーリの裏切りを予想していたのか、再度尋ねようとする。

 

「ウチの副総督のシェムハザが、三大勢力の危険分子を集めている集団の存在を察知していた。禍の団(カオス・ブリゲード)、と言ったか?」

 

 禍の団(カオス・ブリゲード)だと? って事はヴァーリの奴、あの組織に入ったのか?

 

「で、その纏め役が『無限の竜神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス。まさか『白い龍(バニシング・ドラゴン)』がオーフィスに降るとはな」

 

「それは違う。確かに俺はオーフィスと組んだ。だが俺もアイツも覇権だの世界だのに興味はない。俺は兵藤隆誠を含めた強い奴と戦うため。そしてオーフィスはある目的の為、そこにいる兵藤隆誠の力を借りようと勧誘しているだけだ」

 

「オーフィスが兵藤隆誠を?」

 

 ………あ、やばい。何か段々嫌な予感がしてきた。

 

 ヴァーリの台詞の中に聞き捨てならないのがあったのか、アザゼルは再度尋ねようとする。

 

「どう言う事だ? 何故お前達が揃ってコイツを気に掛けている? お前は別として、オーフィスから見たらコイツは取るに足らない存在の筈だ」

 

 アザゼルの言うとおり、俺の力ではオーフィスの相手にならない。それだけ力の差は歴然としている証拠だ。当然、俺はそれを理解してるから何も言い返さない。

 

「兵藤隆誠。あなたは会談の時に、『自分は聖書の神の力と記憶を受け継いだ』と言っていたな」

 

「……何が言いたい?」

 

 ヴァーリがあんな事を訊いてくるって事は――

 

「作り話なんかせず、そろそろ正体を明かしたらどうだ?」

 

 ………マジでやばいぞ。コイツ、俺の事を知ってやがる! オーフィスの奴、ヴァーリに聖書の神(わたし)の事を話したな!

 

「何を訳の分からない事を……」

 

「オーフィスから聞いているぞ、兵藤隆誠……いや、人間へと転生した『聖書の神』と呼ぶべきか?」

 

「っ!?」

 

 ヴァーリが聖書の神(わたし)の名を口にした途端――

 

『…………………は?』

 

 この場にいる一同が言葉を失うように俺を見ていた。




やっと神バレ展開に持っていくことが出来ました。

と言っても、かなり無理矢理感がある神バレですが。


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第四十六話

お久しぶりです。

活動報告で書いたアンケートで、この作品の更新希望が多かったので更新しました。

久々に書いたので、皆さんが期待した内容であるかは分かりませんが、どうぞ!!


 オーフィスの奴、本当にヴァーリに話してたのかよ! 不味い! ヴァーリの発言でイッセーやアザゼルたち全員が俺を注視してるし!

 

 俺にとって途轍もなく不味い状況に陥ってる中、ヴァーリは気にせずに話を続けようとしてる。

 

「最初は何の冗談かと思ったが、あなたとラディガンの戦闘を見て認識を改めたよ。まさか本当に、俺が倒したかった聖書の神がこうして目の前にいたとはな。これほど嬉しい日はないぞ」

 

「……何かの聞き間違いじゃないのか? 俺はオーフィスと会っては――」

 

「オーフィスが先日、あなたに会って食事を教えられたと聞いている」

 

 おいオーフィス! 何喋っちゃってくれてんの!? まぁ確かに誰にも言うなって言わなかった俺も悪いけど、お前がそんな簡単にポロッと喋るような奴じゃないって信じてたのに!

 

 ………あ、でもよく考えてみれば――

 

 

『オーフィス、今まで何処へ行っていた?』

 

『……我、聖書の神に会いに行ってた。そして食事を覚えた』

 

『……………は?』

 

 

 ――ってな感じでヴァーリに教えたんじゃないかと思う! アイツは純粋だから、誰かに質問されたら素直に答える事をすっかり忘れてたよ!

 

 やばい! これはマジでやばい! 聖書の神(わたし)の正体が知られたら確実に面倒な事になる! 特にミカエルが!

 

 …………とは言え、この状況で上手く誤魔化しきった所で、この騒動が終わった後に俺は必ず尋問される事になる。そうなったら今度はイッセーや父さん母さん、更に俺と関わった関係者全員が要らぬ疑いを掛けられてしまう。

 

 俺だけに被害が被るならまだしも、何も知らないイッセー達にそんな事は絶対させたくない。もしそうなったら、聖書の神(わたし)は自分自身を許せなくなる……!

 

「おい兄貴、どう言う事だ!? ヴァーリの言ってる事は本当なのか!?」

 

「っ……」

 

 詰め寄ってくるイッセーに俺はすぐに答えることが出来ずに目を逸らしてしまう。家族とは言え、ずっと隠していた秘密を暴露される事になるからな。いくら聖書の神(わたし)でも後ろめたくなる。

 

「答えろ兄貴!!」

 

「………イッセー、これだけは言わせてくれ。俺は――」

 

 

 ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!

 

 

「ぐぅっ!」

 

 正体を教える前に大事な事を言おうとする俺だったが、突然俺の心臓が強く脈打つように激しく鼓動した。俺はすぐに片手で左胸を抑えようとする。

 

 何だこれは? 抑えてた聖書の神(わたし)の力が急に暴走して……ま、まさかこれは!

 

「あっ、ぐっ……!」

 

「お、おい、いきなりどうしたんだよ兄貴!?」

 

 俺が片手で胸を抑えながら苦しい表情をしてる事に、イッセーはさっきまで問い詰めようとしてた様子から一変して心配そうな顔をする。

 

 けれど俺は気にせず力を抑えようとするが、鼓動してる心臓は全然収まろうとしない。 

 

 どう言う事だ? 先日にオーフィスから神の力を与えられて、聖書の神(わたし)の力はもう完全に制御出来る筈なのに……それが何故!? だ、ダメだ。もうこれ以上……力を抑えきれない!!

 

「い、イッセー……今すぐ俺から……離れるんだ……!」

 

「何言ってんだよ! そんな苦しそうな兄貴を放ってなんかおけねぇだろうが!」

 

「た、頼む! でないと――」

 

 何とかイッセーから引き離そうとするが、当の本人は俺の身を案じるように離れようとしなかった。

 

 その結果――

 

「ぐ、ぐぐ……がああぁぁぁあああああ~~~~~~!!」

 

「おわぁっ!」

 

 

 パァァァァァアアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!

 

 

 抑えていた聖書の神(わたし)の力である光が解き放たれたかのように、俺の身体から周囲を埋め尽くすような眩い光を発した。

 

 

 

 

 

 

 兄貴の身体から周囲を覆いつくすような大量の光を発したのを見た俺――兵藤一誠は両目を瞑りながら咄嗟に腕を盾代わりにした。

 

「~~~っ……。おい兄貴! 何いきなり力を暴走さ、せてん……だよ……」

 

 光が無くなったのを確認した俺は、すぐに片腕を下ろして目を開けながら文句を言うも途中で言葉を失う。

 

 さっきまで目の前にいた筈の兄貴がいなく、代わりに見知らぬ男がいた。白いローブを身に纏い、頭には王冠を被った金髪のイケメンが。何だかミカエルさんと似たような感じがする。

 

 だが俺にとって顔なんか如何でもよく、問題は目の前にいる男のオーラと圧倒的な存在感だ。性質は兄貴と似ているが、その量は全く桁違いだった。俺の闘気(オーラ)なんかと比べたら天地の差があり過ぎる。

 

「全く、まさかこんな結果になるとは……!」

 

 男が歯軋りするように言うと、俺は何故か萎縮してしまった。男から発した苛立ちのオーラを感じた事によって。

 

 ………何だよこの馬鹿げたオーラを持った存在は。目の前にいるコイツは一体何なんだよ……!?

 

「ハハハハハ! 何て凄まじいオーラだ! それがあなたの本当の姿か、聖書の神よ!?」

 

 ヴァーリの野郎が歓喜するように叫んでいる。

 

 ってかコイツが聖書の神って……マジかよ!?

 

「おいおい、マジでアイツが聖書の神だったのかよ……コレは完全に予想外だぞ」

 

 近くに飛んでいたアザゼルが信じられないように男――聖書の神を見ていた。さっきまでずっと余裕タップリな笑みを浮かべていたが、今は完全に困惑顔だ。

 

 更に――

 

「あ、ああ……! あのお姿は間違いなく、神……聖書の神(ちちうえ)……!」

 

「落ち着くんだ、ミカエル殿!」

 

 ミカエルさんが聖書の神を見た途端、涙を流していた。近くにいるサーゼクスさま達が落ち着かせようとするも、ミカエルさんは人目も憚らず泣き続けている。

 

 まだ会って間もないけど、天界トップのミカエルさんまでもああなるって事は目の前にいる男はマジで聖書の神……なんだろうな。

 

 部長達も余りのぶっ飛び展開になってる所為で、もう言葉すら出ない状態で放心している。その中でゼノヴィアだけは全く別で、何を考えてるかは知らんが顔が真っ青になっていたが。

 

「……はぁっ。この姿になったらもう誤魔化しが一切出来ない、な。こうなったら腹を括るか」

 

「っ!」

 

 聖書の神は諦めたように言った後、突然俺の方へと視線を向けてくる。

 

「言いたい事は色々あると思うが一先ずは……何だ、その顔は?」

 

「あ、あ……」

 

 聖書の神は何か言いながら近づいてくるが、俺は言葉を出す事が出来なかった。頭の中がゴチャゴチャで、もう何をどう言えばいいのか分からない。

 

 ずっと家族と思っていた兄貴――兵藤隆誠が人間に転生していた聖書の神だったんだ。弟だったとは言え緊張する。

 

「あ、アンタ、本当に………死んだと言われてた聖書の神、だったんだな?」

 

「ああ、そうだ」

 

 やっとの思いで何とか質問した俺に聖書の神は答えた。

 

「……じゃあ、アンタは俺の知ってる兄貴じゃなくて、兵藤隆誠はもう――」

 

 聖書の神が元の姿に戻ったから、人間だった兵藤隆誠の存在はもう無くなって――

 

「戯け。んな訳あるか」

 

 

 バチンッ!

 

 

「いっでぇぇぇぇぇええええええ!!!!!」

 

 突如、俺の額に強烈な痛みが走った! これは兄貴が時々、俺に罰を与える為にやってるデコピンじゃねぇか!

 

 俺の叫びを聞いた一同は目が点になってるが、聖書の神は全く気にしてない様子だ。

 

「~~~~! い、いきなり何しやがるバカ兄貴!?」

 

「お前が他人行儀な話し方をするだけじゃなく、勝手に兵藤隆誠(おれ)を殺そうとしたんだ。正当な体罰だ」

 

「だからってデコピンすんじゃねぇよ!! メチャクチャ痛かったぞ!!」

 

「体罰なんだから痛いのは当然だろうが」

 

 サラッと答える聖書の神――じゃなくてバカ兄貴は正論染みた事をいいやがる。

 

「ってかバカ兄貴! さっきまでシリアスだった俺の心を返しやがれ!」

 

「そんなもん知るか。お前が勝手にそうなっただけだろうが」

 

「んだとゴラァ!」

 

 どうやら姿が変わったところで兄貴――兵藤隆誠である事に変わりなかった。このシレッとした顔で言ってくるのは、やっぱり俺の知ってる兄貴その者だ。

 

 ったく。真剣に考えてた自分が思いっきしバカみてぇじゃねぇかよ、クソッタレが!

 

「取り敢えず元のお前に戻ってくれて良かったよ。弟のお前に他人行儀な話し方をされると俺も調子が狂う」

 

 俺が元の態度に戻ったのを見た兄貴は、調子を取り戻したかのような笑みを浮かべていた。

 

「俺も俺でアンタが兵藤隆誠(あにき)だって事がよっっく分かったよ。だから教えてもらうぞ。訊きたい事が山ほどあるんだからな」

 

「確かにソレは弟であるお前にとって当然の権利だな。けどその前に、あそこにいる白龍皇をどうにかしないといけない」

 

「………そういやそうだった」

 

 兄貴が聖書の神である事が一番のビッグイベントだったから、白龍皇(ヴァーリ)の事をすっかり忘れてた。

 

 一先ず兄貴の事は後回しにしようと、すぐにヴァーリの方へと視線を向ける事にする。こっちの様子を見ていたヴァーリも、さっきまで放心していた様子から一変して完全に警戒していた。

 

「どうする? ここは手っ取り早く俺と一緒に奴と戦うか? そうすればすぐに決着(ケリ)がつくぞ」

 

「……ク、クククク。聖書の神と赤龍帝が同時に相手か。それはそれで実に面白い……!」

 

 状況からしてヴァーリが圧倒的に不利の筈だが、当の本人は負けると分かっていながらも戦う気満々だった。

 

 けど俺は――

 

「いや、兄貴は手を出さないでくれ。白龍皇(アイツ)は俺一人でやる」

 

 兄貴の提案を断って一人で戦う事にした。

 

「何故だ? ここは普通に俺も一緒に戦った方が良いと思うが?」

 

「それじゃ俺が厳しい修行をした意味がねぇじゃねぇか。いくら兄貴が聖書の神でも、こればっかりは譲れねぇよ」

 

「………成程、確かにそうだ。いかに聖書の神(わたし)と言えど、赤龍帝と白龍皇の戦いに口を出すわけにはいかないな」

 

「だろう?」

 

「分かった。ここはイッセーに任せよう。だが手助けを拒んだ以上、俺はお前が死ぬような状況になっても一切手は出さないからな。自分から言い出した以上、キッチリ責任は取ってもらうぞ」

 

「おう! あんがとな兄貴!」

 

 俺の我侭を聞いて了承した兄貴はそのままゆっくりと地上へ降下して着地しようとする。すると、兄貴が降下したのを見たアザゼルも倣うように降りようとしていた。

 

 今この場で浮遊している赤龍帝(おれ)白龍皇(ヴァーリ)のみだ。俺はすぐに構えるが、ヴァーリはそれすらせず少し呆れた様子を見せている。

 

「良いのか、兵藤一誠? あのまま聖書の神と共闘すれば俺に勝てていただろうに。それを自ら不意にするとは自殺行為にも等しいぞ。未だ禁手(バランス・ブレイカー)に至ってない今のキミでは、俺に勝つのは不可能だ」

 

「確かにそうだろうな。じゃあ逆に訊くけどよヴァーリ、お前が俺の立場だったら兄貴の提案を受け入れるのか?」

 

「………前言撤回だ。さっきの台詞は聞かなかった事にしてくれ」

 

 アイツがああ言うって事は、俺と同じく共闘を断っていたんだろうな。

 

「まぁコカビエル如きとは言え、奴を圧倒した今のキミと戦うのも悪くない」

 

 あの野郎、完全に上から目線だな。舐めやがって。

 

 確かに奴の実力は俺より上だから、正直言って勝率はゼロに近い。

 

 けどだからって絶対に勝てない訳じゃねぇ!

 

「はぁぁあああああ~~~!!!!!」

 

 

 ドンッ!!!

 

 

「凄いな。コカビエルと戦った時より、また一段とオーラが上がっているとは……これは少し楽しめそうだな!」

 

 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を使いながら、全ての闘気(オーラ)を解放した俺を見たヴァーリは嬉しそうに歓喜の声をあげる。

 

「いくぜヴァーリ! 赤龍帝(おれ)を舐めたら火傷どころじゃすまねぇぞ!」

 

「さて、それはどうかな?」

 

 俺が猛スピードで突進するも、ヴァーリは未だに余裕そうに待ち構えていた。




 色々な神バレ内容を考えた結果、一先ず大事な家族であるイッセーといつも通りの仲の良い(?)兄弟関係に戻す事を優先させました。


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第四十七話

今回はフライング投稿にする事にしました。


「オラァッ!」

 

「ふっ」

 

 

 ドォンッ!!

 

 

 俺の拳をヴァーリが鎧を纏った片腕で防ぐと、激突音と同時に衝撃波が唸る。だが俺は気にせず今度は脚で攻撃するも、それを受けたくなかったのかヴァーリは白いオーラを纏いながら高速で回避する。

 

 ヴァーリが回避しても俺はすぐに追跡しようと赤い闘気(オーラ)を纏って高速飛行を行う。追いついたと同時に攻撃を繰り出し、ヴァーリも反撃をする。

 

「凄いな。禁手(バランス・ブレイカー)でもないのに、これ程の力とは」

 

神器(セイクリッド・ギア)の力だけでなく、兵藤一誠自身の力もかなり秘めている。どうやら聖書の神に相当鍛えられたようだな』

 

「なるほど。そう考えると思わず嫉妬してしまうよ。常日頃から聖書の神と毎回戦っているとは、兵藤一誠は果報者すぎる」

 

「なにゴチャゴチャ喋ってやがるんだ!?」

 

 真剣に戦ってるってのにコイツ等は! 人を舐めんのも大概にしろよ!

 

 ヴァーリと、ヴァーリの中にいる存在――白龍皇(アルビオン)の会話を聞いて頭に来た俺は、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)と同化させているアスカロンを出した。

 

「っ!」

 

 アスカロンを見たヴァーリが急に警戒するように構えるも、俺は気にせず兄貴から教わった剣術をイメージしながら斬撃を繰り出す。

 

 俺の斬撃にヴァーリは当たりたくなかったのか、受け流そうとせず回避に専念している。龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の力を帯びてるアスカロンには、流石の白龍皇でも受けたくないようだ。

 

 思い出せ、俺! この前の修行で聖書の神こと兄貴から教わった剣術の戦い方を! 空孫悟みたく、武器(アスカロン)を自分の一部だと思って戦えと!

 

「せぇい!」

 

「くっ!」

 

 繰り出す連続斬撃にヴァーリは距離を取ろうと一旦後退した。

 

「驚いたな。まさか剣術までも使えるとは」

 

『まだまだ未熟だが、それでも武器を己の一部のように使いこなそうとしている。しかも龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の力を帯びたアスカロンときた。気をつけろよ、ヴァーリ。アレを一太刀浴びれば大きなダメージへ否めなく、忽ちこちらが不利になる』

 

「分かっているさ、アルビオン。だが、当たらなければ意味はないさ!」

 

 くそっ! 兄貴から剣術の修行をやってまだ数回しかやってない所為で、ヴァーリに掠りすらしねぇ! 今度の修行では本格的に習わないとな!

 

 にしてもアイツ、禁手(バランス・ブレイカー)になってそれなりに時間が経ってるってのに、未だに余裕なんだな。禁手(バランス・ブレイカー)は維持するだけでも体力やオーラとか魔力を消費するって兄貴から聞いたんだが。

 

『それはつまり、ヴァーリの力が凄まじいと言う事だ。対の存在である白龍皇もまた能力を使うたびに力を削るが、所有者のスタミナが強大ならば使用できる時間も膨大だろうな』

 

 俺が抱いていた疑問は、俺の中にいるドライグが答えた。

 

 チッ……! って事はなにか? 俺とヴァーリの力量差は決定的なのか!? 嫌な現実だな! 兄貴から厳しい修行を受けてるってのに、それでもまだまだ届かないのかよ! いや、違うな。それ以前に俺と奴とじゃ――基本スペックが違いすぎるかもしれない。

 

 ヴァーリの力を感じて何となく分かったんだが、アイツは人間と悪魔が混ざり合ったような極めて特殊なオーラだ。こんな奴は初めて見たぞ。

 

「おいヴァーリ! おまえ一体何もんだ!?」

 

「ん?」

 

 俺の質問に素っ頓狂な声を出すヴァーリだったが――

 

「初めて会った時からずっと気になってたが、おまえから人間が持ってない筈の妙なオーラを感じるんだよ! 悪魔の魔力と入り混じった妙なオーラがな! おまえ、俺と違って純粋な人間じゃないだろ!? まさかとは思うが、もしかしておまえ人間と悪魔のハーフとかじゃねぇだろうな!?」

 

「ほう」

 

 今度は感心そうな声を出した。すると、今度は笑い始める。

 

「よく分かったな。その通りだ」

 

 マジかよ!? ってか、何で当たってほしくない事が当たるんだよ!

 

 俺が内心憤ってると、アイツは構えを解いて自分の事を話そうとする。

 

「俺の事を教える前に、先ずは本名から名乗っておこう。俺の名は――ヴァーリ・ルシファーだ」

 

 ………は? ルシファーって確か、サーゼクスさまの……?

 

「俺は死んだ先代の魔王の血を引くものでね。前魔王の孫である父と人間の母との間に生まれた混血児(ハーフ)なんだ」

 

「なん、だと……?」

 

 

 

 

 

 

「成程、そう言う事だったのか」

 

 地上に降りた俺――聖書の神こと兵藤隆誠はヴァーリの素性を聞いて漸く合点した。

 

 俺もイッセーと同じく初めてヴァーリに会った時からずっと気になっていた。何故、人間と悪魔のオーラが入り混じり、更には魔王の力の一端も感じ取れるのかと。

 

 そしてやっと解消と同時に納得した。ヴァーリが先代魔王ルシファーの血縁でありながら、半分人間である事に。道理で魔王の力を感じ取れる訳だ。

 

 本来、神器(セイクリッド・ギア)は人間だけにしか宿らない者だが、半分人間の血を引いてるヴァーリには宿す事が出来る。しかしそれは偶然にも、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』の神器(セイクリッド・ギア)と来た。恐ろしいほどの偶然、いや奇跡と言うべきか。

 

「奇跡と言うものがあるのなら、俺のことかもしれないな。聖書の神よ。これはあなたでも予想外だっただろう? 俺のような存在がいたことに」

 

「………」

 

 ヴァーリが突然、地上にいる俺に声を掛けてきたがすぐに答えれなかった。アイツの言うとおり、ヴァーリのような存在は完全に予想外だ。

 

「そうだな。私は君の事を余り知らないが、恐らく未来永劫においても最強の白龍皇かもしれないな。その強大な魔力に飛び抜けた才能、赤龍帝(イッセー)とは大違いだ」

 

『っ!』

 

 俺の言葉に、この場にいる誰もが驚愕する。上空にいるイッセーも含めて。

 

「イッセーは君と違って、特別な力は持ってない極普通の一般人と変わらん。聖書の神(わたし)が彼の家族として人間に転生し、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が宿っていなければな」

 

「そう。もし、聖書の神(あなた)との関わりや赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)がなければ、兵藤一誠は今ごろ極普通の男子高校生として過ごしていた。何とも残酷な運命だ」

 

「それはどう言う意味だ?」

 

 ヴァーリは哀れむような感じで言ってくる。

 

「彼が俺のように特別な存在であったら、この場で俺を倒せていたかもしれない。いかに聖書の神(あなた)に鍛えられ強くなったとはいえ、こうも才能(スペック)に差があり過ぎては勝敗が目に見えてる」

 

 暗にイッセーは自分に勝てないと言ってるな。

 

「テメエ!」

 

 ヴァーリの台詞に頭に来たのか、イッセーは突撃してアスカロンを振り翳そうとする。

 

 だが――

 

「遅い」

 

「がっ!」

 

 イッセーの斬撃を簡単に避けたヴァーリは、すぐに反撃に転じてイッセーの腹部に拳を当てた。そしてすぐに両手を組んだまま翳し、イッセーの頭部目掛けて振り下ろす。

 

「ごあっ!」

 

 

 ダァンッ!!

 

 

 ヴァーリの攻撃をモロに喰らったイッセーは落下し、受身も取れないまま地面に激突してうつ伏せに倒れる。

 

 奴め、イッセーの力を図ろうとする為に防御と回避に専念してたな。さっきのやり取りでイッセーの実力をある程度分かって、反撃に徹したと言ったところか。

 

「イッセー!」

 

「待つんだ、リアス!」

 

 いつの間にか地上に降りていたリアスは倒れてるイッセーに駆け寄ろうとするが、近くにいたサーゼクスに止められる。

 

「これで分かって頂けたか、聖書の神? どんなに彼を強くさせたところで所詮は普通の人間。例え禁手(バランス・ブレイカー)に至ったところで、俺と彼では圧倒的な差がありすぎる」

 

 地味に嫌なところを突いてくるなぁ。

 

 もしイッセーがヴァーリみたく特別な存在だったら、()っくに禁手(バランス・ブレイカー)に至って、今頃はヴァーリを倒せていただろう。

 

 だが特別な存在でもない一般人として生まれた為に、イッセーは禁手(バランス・ブレイカー)に至る領域に達してないばかりか、ヴァーリとの実力差が未だに大き過ぎて倒す事が出来ない。

 

 ドラグ・ソボール風に言うなら、ヴァーリが超エリート戦士のベジターで、イッセーが下級戦士のカロカット――空孫悟、と言うヤサイ人の戦闘シーンだ。

 

「ヴァーリ、さっきから好き勝手言いやがって……!」

 

 すると、地面に激突して倒れていたイッセーが立ち上がって憤怒の表情となっていた。

 

「こっちも言わせて貰うがよぉ! 俺みたいな一般人(おちこぼれ)だって必死に努力すりゃ、そのうちテメエみたいな特別な存在(エリート)を超えるかもしれねぇぞ!?」

 

「面白い冗談だ。努力だけでは超えられない事を先程の反撃で教えたつもりなんだが?」

 

「生憎、俺はバカだからな。たかが1~2発程度当てられただけじゃ分かんねぇんだよ!」

 

 ……全く、実にイッセーらしい台詞だ。

 

 でも確かにイッセーの言うとおりでもある。どんなに才能が無かろうと、必死に努力すれば報われるのを俺は知っているからな。

 

 とは言え、今の状況では確かにヴァーリに勝つのはかなり難しいが、決してゼロではない。

 

「ドライグ! 俺はあの野郎のすまし顔を絶対一発ブン殴るって決めたぞ!」

 

『ああ、俺も丁度頭にきていたところだ。血筋だけで決め付けようとする白龍皇に、相棒の力を見せてやれ!』

 

 イッセーに協調するようにドライグが頷く。どうやらドライグもヴァーリの発言に相当キレかけていたようだな。

 

 ドライグは当初イッセーを全く才能のない宿主と見ていたが、聖書の神(わたし)が課した修行を必死に頑張り続けるイッセーを見て、今までの宿主達とは違う絆が生まれていた。勿論、良い意味の方で。

 

「はぁぁぁぁあああああ~~~~~!!!!」

 

 

 ドンッ!!

 

 

 イッセーの全身から再び赤い闘気(オーラ)が吹き荒れる。ついさっきまで解放していた闘気(オーラ)とは桁違いだ。ヴァーリが上から目線で血筋を持ちかけられた上に『自分には勝てない』と言われて、相当頭に来たんだろうな。

 

「――っ。見ろ、アルビオン。兵藤一誠の力がまた一段と上がったぞ。怒りと言う単純明快な引き金だが、これは……少しばかり甘く見すぎていたようだな」

 

神器(セイクリッド・ギア)は単純で強い想いほど力の糧とする。兵藤一誠の怒りは純粋なほど、おまえに向けられているのさ。やつみたく真っ直ぐな者ほど、ドラゴンの力を引き出せる心理の一つだ』

 

「なるほど。そういう意味では俺よりも彼の方がドラゴンと相性が良いわけだ。コカビエルが負けるのも当然か」

 

 余裕そうにイッセーを分析しているヴァーリだが――

 

「テメエ、なに余裕こいてんだよ」

 

「っ!?」

 

 超スピードで接近したイッセーに気付かず――

 

 

 ドゴッ!! バキィッ!! 

 

 

「がぁっ!」

 

 腹部にイッセーの膝蹴り+顔面にストレートパンチを貰ってしまった。それらを喰らったヴァーリはイッセーから距離を取ろうとすぐに後退する。

 

 不意打ちとは言え、あの白龍皇に攻撃を当てた事にリアス達は驚愕を露にしている。

 

「くっ……! 闘気(オーラ)だけじゃなく、スピードとパワーも上がっていたのか……!」

 

「ヴァーリ、俺から一つ忠告しといておくぜ。テメエはよ……自分の強さに自信があり過ぎるんだ。その所為で隙だらけなんだよ」

 

「………それはどうも」

 

 否定する事が出来なかったのか、ヴァーリはイッセーの忠告を素直に受け入れていた。

 

 そして二人は構えてオーラを放出し――

 

 

 ドゥンッ! ドガガガガガガガッ!!

 

 

「ハァァアアアアア~~!!」

 

「ウオォォォォオオ~~!!」

 

 拳と脚を使った攻防が始まった途端、その周囲から凄まじい衝撃波と突風が吹き荒れた。

 

 今代の赤龍帝VS白龍皇の戦いが、この駒王学園で本格的に始まろうとしている。




あと数話で完結することが出来れば良いんですが……。


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第四十八話

久しぶりの投稿です。


「でぇい!」

 

「はああっ!」

 

 

 ドンッ! ドガッ! バキィッ! バァァンッ!

 

 

 赤龍帝(イッセー)白龍皇(ヴァーリ)の本格的な戦いが始まって、15分以上経とうとしていた。

 

 両者は自身のパワーとスピード、そしてオーラを最大限に引き出している。その為、周囲にいる魔術師達は二人の戦いの余波で完全にとばっちりを受けて壊滅、と言うより全滅していた。原因を作ってる二人はソイツ等の事など微塵も気にしていないがな。嘗て世界に多大な迷惑を掛けた二天龍にそっくりだ。

 

「アイツ等を見てると昔を思い出すな。そう思わないか、アザゼル?」

 

「……まぁ、そうだな」

 

 近くにいたアザゼルに話しかけると、向こうは俺を警戒してるようで若干の間がありながらも返答する。

 

「それにしても驚いたぜ、聖書の神。まさかアンタが――」

 

「悪いが、その話はアイツ等の戦いが終わってからにしてくれ。私の正体がバレた以上、もう誤魔化したりしない。後でちゃんと全て話す。勿論、そちらにいる方々にもな」

 

 問い詰めようとするアザゼルに俺は待ったを掛けながら、こっちへ近づいて来てるサーゼクス達にも言う。

 

 けれど、俺の台詞を無視するように更に近づいてくる天使――ミカエルがいた。

 

「神よ……無礼は承知の上ですが、これだけはお教え下さい。生きていらっしゃったのでしたら――」

 

「どうしてお前達にも黙っていたんだ、だろう?」

 

「……はい」

 

 俺が繋げて言うと正解だったのか、ミカエルは俯きながら足を止めて頷く。

 

「理由は色々あるが、敢えて言うなら……聖書の神(わたし)の死で中断した嘗ての戦争を、三大勢力(おまえたち)が抱えてる不満分子達によって再開させたくなかったからだ」

 

 心当たりがあると言う顔をしている三大勢力のトップ達は何も言い返そうとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

(ヴァーリの奴、一体どう言うつもりだ?)

 

 本格的なガチバトルをやって二十分以上経つも、俺――兵藤一誠とヴァーリはずっと攻防を繰り広げている。お互いにパワーとスピードは衰える事もなくな。

 

 だが俺は徐々に疑問を抱き始めていた。理由はヴァーリの戦い方だ。アイツはさっきから神器(セイクリッド・ギア)の能力を使う様子を全く見せてない。まるで俺の戦い方を合わせてる感じだ。

 

 俺が拳と脚だけでなく闘気(オーラ)弾を撃つと、向こうもソレに合わせるよう撃って反撃してくる。パワーにはパワー、スピードにはスピード、と対抗するように。

 

「ククク……。禁手(バランス・ブレイカー)に至ってないキミがここまで強いとは思わなかったよ。正に驚異的と言ってもいいほどだ」

 

「そいつはどうも」

 

 俺の疑問を他所にヴァーリは本心でそう言ってきた。

 

「正直言ってこの楽しい闘いをまだ続けたいが、そうも言ってられない。俺としては不本意だが、ここは早々に決着をつけさせてもらう」

 

「何だと?」

 

 俺と戦う以外にもやる事があるってか? マジでふざけた奴だな。

 

 内心顰めてると、ヴァーリは俺を受け入れるように手を伸ばしてくる。

 

「一応訊いておこう。どうかな兵藤一誠、良かったら俺と一緒に禍の団(カオス・ブリゲード)へ来ないか? キミの力ならオーフィスも歓迎してくれる。益してや赤龍帝であるキミなら尚更だ」

 

「ジョーダンじゃねぇ。俺がそんな申し出を本気で受けると思ってんのか?」

 

 禍の団(カオス・ブリゲード)に入る気なんか微塵も無いが、もし俺が入ったら兄貴に一から徹底矯正されるのが目に見えてる。それに大事な家族やアーシア、部長達を見捨てる事なんか絶対出来ねぇ。

 

「だろうな。そう言うと思っていたよ。もしキミが俺と一緒に行くと言った瞬間に失望していたところだ」

 

「分かってんなら、んなこと訊くな」

 

 俺の返答を予測していたのかヴァーリはガッカリした様子を見せないどころか、逆に嬉しそうだった。俺の宿敵(ライバル)であるなら断って当然みたいな感じだ。

 

「さて、キミの返答を聞けたところで戦いを続けるとしよう。と言っても、今回の勝負は俺の勝ちで終わるが」

 

「どうかな? 俺はそう簡単に負けはしねぇ。あと勝負ってのは最後までやってみなけりゃ分かんねぇぞ」

 

「大した自信だな。だが俺はもう気付いているぞ。キミは全力で戦う素振(そぶ)りを見せておきながら、まだ奥の手を出していないだろう? コカビエルに使った『龍帝拳』という奥の手を」

 

「……バレてたか」

 

 ヴァーリの言うとおり、俺はまだ龍帝拳を使ってない。アイツがどこかで油断した隙を突いて使おうと思っていたが、中々見せないから攻めあぐねていた。

 

 龍帝拳は身体に負担が掛かる技だから、なるべくここぞと言う時に使うものだ。だけど今のヴァーリは戦いを楽しんでいながらも、俺の行動をかなり警戒してるから使うに使えない。

 

「その奥の手を考えに入れても俺の計算では……『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』を使わずとも、今の俺の全力だけでキミを簡単に倒せる」

 

『何だと!?』

 

 ヴァーリの発言に俺の中にいるドライグが驚愕していた。

 

 おいドライグ、確かジャガーノートドライブって兄貴から聞いたアレの事か?

 

『……ああ。相棒も知ってのとおり、「覇龍(ジャガーノート・ドライブ)」は赤龍帝(おれ)白龍皇(しろいの)の力を完全に解放した状態。だがソレを使えば生命力を著しく削り、最悪死ぬ恐れがある。死と隣り合わせの諸刃の剣と言っても過言じゃない』

 

 だが、とドライグは更に続けようとする。

 

『ヴァーリ・ルシファーが使えるならば即ち、奴にはソレを制御出来る程の力があると言う事だ』

 

 マジかよ。それってつまりかなりヤバイんじゃねぇ?

 

 ……だけど、あくまで『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』を使ったらの話なんだろ? それを使う前に阻止すれば勝機はあるんじゃねぇか?

 

『だといいがな』

 

 ハッキリと答えようとしないドライグに俺は少しばかり不安感を抱きつつも、すぐに頭を切り替えてヴァーリの方へ意識を向ける。

 

「テメェの今の全力だけでも俺を簡単に倒せる、か。いくらなんでもハッタリをかませ過ぎだろ」

 

「それはどうかな?」

 

 ゆっくりと構えるヴァーリに対して、俺はいつでも動けるように即行で構える。

 

 構えてから数十秒以上経っても俺は動かなかった。いや、動けないといった方が正しいか。

 

 さっきからヴァーリに仕掛けるタイミングを探っているんだが、思うように行けない為に動けない。

 

 ………………………コイツ、マジでハッタリじゃねぇ……!!

 

 そう思った直後――

 

 

 ドンッ!

 

 

 一瞬で接近したヴァーリが俺の顔面に肘打ちをかましてきた。

 

「くっ!」

 

 それを受けた俺は軽く吹っ飛びながらも体勢を立て直そうとする。攻撃を受けたせいで鼻血が出てしまうも、俺は大して気にせず手で拭う。

 

 ってか、何てスピードだよ。今のは全く何も見えなかったぞ……!

 

「……ふっ」

 

 俺が戸惑ってる様子にヴァーリは気にせず――

 

 

 フッ!

 

 

 超スピードで俺の背後を取っていた。

 

 今度は分かっていたから俺は迎撃しようと即座に振り向く。

 

Divide(ディバイド)!』

 

 白龍皇の宝玉から音声が聞こえた瞬間、俺の力が消失してしまった為に攻撃する事が出来ず――

 

 

 ズンッ!

 

 

「ぐふっ!」

 

 そのまま俺の腹部にヴァーリのパンチをモロに喰らってしまった。

 

 アレは確か、相手の力を半減させる神器(セイクリッド・ギア)だ。この場面で使うのは分かってたのに!

 

『Boost!』

 

 けれど、俺の神器(セイクリッド・ギア)も発動した為に力は元に戻った。すぐに反撃するもヴァーリはアッサリと躱して距離を取る。

 

「あ……あぐぐ……!」

 

「だから言っただろう? 今の俺の全力でもキミを簡単に倒せると」

 

 攻撃を受けた腹部を片手で押さえながら悶える俺に、ヴァーリは淡々と事実を告げる。

 

 生憎、俺は諦めが悪いんだ。事実を告げたところで簡単に参ったりしねぇんだよ!

 

「だあっ!!」

 

「フッ」

 

 俺が接近して回し蹴りをやるも、ヴァーリはすぐに上昇しながらお返しと言わんばかりに蹴りを喰らわせた。

 

 その蹴りはかなり勢いがあった為、それを受けた俺はそのまま地面に激突しながら倒れてしまう。

 

「ぐ………ちぃっ!」

 

 倒れてた俺は勢いを利用して即行で立ち上がるも、ヴァーリはゆっくりと降下して地面に着地する。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

「息が切れはじめたようだな。だが、それでもまだ立ち上がるとは驚いたよ。さっきまでの攻撃は上級悪魔を一撃で倒せる威力だったんだが」

 

 

 

 

 

 

 不味いな。隠していた実力にここまで差があり過ぎたとは……。

 

「やはり今のイッセーではヴァーリに勝つのは無理、か」

 

『!』

 

 俺の発言を聞いたリアス達がすぐに反応した。

 

「え、えっと……」

 

 すると、リアスが俺に何か言おうとするが何かを躊躇った様子を見せる。話しかけても大丈夫なのかと恐れている感じで。

 

「リアス、普通に“リューセー”って呼んで構わないぞ。ついでに敬語も不要だ。今までどおりの喋り方で話してくれ」

 

「……ほ、本当に良いの?」

 

「ああ。と言うか、寧ろそうしてくれ。あと祐斗達も同様にな。ってな訳でミカエル、余計な口出しはしないでくれよ?」

 

「は、はぁ……分かりました」

 

 ミカエルに念を押したのを見たリアスは勇気を振り絞るように話しかけようと決意する。

 

 因みにゼノヴィアは話しかけようとしないどころか、真っ青な顔をしたまま俺から距離を取っている。何を考えてるのかは大体想像は付くが、取り敢えず後回しにしよう。

 

「それでリアス、何が訊きたいんだ?」

 

「その……イッセーの赤シャツに重さを施しているんじゃないかと思って」

 

「ああ、ソレか。もうとっくに解除してるよ。いまイッセーが来てる赤シャツはただ丈夫なだけで重くはない」

 

「そ、そう……」

 

 会談で何かしらのトラブルが発生したら即座に全力で動けるように、俺が学園に来る前に解除しておいた。それ故にイッセーは何の枷もない。

 

 俺の返答を聞いたリアスは不安そうにヴァーリと戦ってるイッセーを見ようとする。

 

「大丈夫です、部長。イッセーくんがヴァーリに勝てる方法はあります」

 

「え?」

 

「例の龍帝拳の事を忘れていませんか? 今のイッセーくんでしたら、リューセー先輩との修行で3倍以上は出せるかと」

 

「っ! 確かにそれなら……!」

 

 失念していたと急に喜ぶリアスだったが――

 

「残念だったな、祐斗。いまイッセーが使っているのがその龍帝拳だ。もうついでに5倍まで引き出している」

 

「「なっ!」」

 

 俺が事実を言った途端、リアスだけじゃなく祐斗や小猫も驚愕していた。




あと数話で完結出来れば良いんですが……はたしていつ出来るのやら……、


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第四十九話

 ドガッ!

 

 

 また一瞬で接近したヴァーリから頬にパンチを受けてしまった俺は軽く吹っ飛んでしまった。

 

「ぐっ……!」

 

 俺は追撃をしようとするヴァーリから距離を取ろうと、すぐに飛んで新校舎の天辺(てっぺん)まで移動して着地する。すぐに迎撃しようと構えるも、接近してるヴァーリは急停止してそのまま浮遊する。

 

 急に動きを止めて何をするのかと疑問を抱いていると――

 

Half(ハーフ) Dimension(ディメンション)!』

 

 宝石の音声と共に眩いオーラに包まれたヴァーリが新校舎へ手を向ける。

 

 

 グバンッ!

 

 

 すると、新校舎の右半分が圧縮されていく。それは段々小さくなって、さっきあった大きさの半分となった。

 

「……な、なんて技だ……」

 

 でかい新校舎を半分にさせるって……これも白龍皇の能力なのか?

 

『そうだ。白龍皇は相手の力を半減させるだけでなく、周りにある全ても半分にする事が出来る。奴がその気になれば、校舎全体も半分に出来る筈だが……』

 

 その気になれば新校舎全体も半分? ……って事はあの野郎、力を見せ付ける為に敢えて俺を狙わなかったのか!?

 

「どうかな、兵藤一誠。白龍皇のもう一つの力の感想は? もし俺が本気でやるとするなら、キミのすべてとキミの周りにあるすべても半分にする事も出来る」

 

 あの野郎、本当に俺に見せ付ける為に態と狙わなかったな……! ふざけやがって!

 

 ………………………………だけど。

 

「まいったな。こりゃマジで………勝てねぇ」

 

 ちくしょう。まさかここまで力の差があり過ぎたなんて……。

 

 ヴァーリの実力がとんでもなかった事に内心参ってると、アイツはゆっくりと半分となった新校舎の天辺に着地して俺と対峙する。

 

「心配しなくていい。さっきの力でキミを半分にする気はない。宿敵であるキミを殺してしまったら、俺の楽しみがなくなってしまう」

 

 

 

 

 

 

「そんな! で、ではイッセーくんは既に5倍の龍帝拳を使っていながらやられているんですか!?」

 

「ああ。しかもヴァーリは白龍皇最大の切り札――『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』も使うことなく、あの状態のままでイッセーを圧倒してるよ。ま、普通に考えてノーマル状態のイッセーと禁手(バランス・ブレイカー)状態のヴァーリとじゃ、力の差は歴然としてるがな」

 

 事実を淡々と告げる俺に祐斗は徐々に顔を青褪めていた。龍帝拳を使ってコカビエルを圧倒していたイッセーがやられている事が相当信じられなかったんだろう。

 

「全く。自分で言っておいてなんだが本当にとんでもないな、今代の白龍皇――ヴァーリ・ルシファーは。これは完全にイッセーの負けだな」

 

「だったら! どうして助けにいかないの、リューセー!?」

 

 俺が嘆息しながら言ってると、激昂したリアスが俺に詰め寄ってきた。

 

「イッセーが殺されるかもしれないのに!」

 

「確かにリアスの言うとおり、このまま聖書の神(わたし)がイッセーに加勢すればヴァーリを倒せるだろう。だがこれは赤龍帝(イッセー)白龍皇(ヴァーリ)の戦いだ。聖書の神(わたし)が横から口出しする権利なんてない。それにもう聖書の神(わたし)はイッセーに、死ぬような状況になっても一切手は出さないと言ってしまったからな」

 

 自分が言い出しておいたのを反故して加勢なんてすれば、イッセーは俺を許さなくなるだろう。

 

 それに加えて三大勢力から後ろ指をさされる事になる。聖書の神(わたし)がいなければ何も出来ない無能な赤龍帝、と言う感じで。

 

 助けにいきたいのは山々だが神として、イッセーの兄として見守らなければならない義務がある。

 

「でもこのままだとイッセーが!」

 

「落ち着け、リアス・グレモリー。ヴァーリは兵藤一誠を殺しはしねぇよ」

 

 更に激昂するリアスにアザゼルが横から割って入るように言ってくる。

 

「その証拠にアイツはさっき周囲のもの全てを半分にする力を使っても、兵藤一誠は敢えて狙わなかった。それはつまり、アイツは今後の楽しみとして兵藤一誠を生かしておくつもりだろう。そうじゃなかったら、もうとっくに消されてる筈だ」

 

「そんな理由で!?」

 

「今後の楽しみとして生かしておく、か。随分上から目線な理由だな」

 

 アザゼルから理由を聞いた事に、リアスだけでなく俺も少しばかりカチンときた。

 

 もしそうであれば、ヴァーリは後悔する事になるだろうな。もしイッセーに殺さなかった理由を言ったら――

 

 

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~!!!!!」」

 

 

 

 ドンッッッッ!!! ズゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!

 

 

 

『っ!!』

 

 すると、急にイッセーの大声が聞こえただけでなく学園全体――と言うより駒王町が大きく揺れ始めた。

 

「おいおい、何だこりゃぁ!?」

 

「この力は……もしやイッセーくんか!?」

 

「ですが、この急激な上昇は尋常ではありません!」

 

 この現象に流石のアザゼルやサーゼクス、そしてミカエルも驚愕している。リアス達も突然の事に倒れそうになっているが、何とか持ち堪えようとしていた。

 

「やれやれ、どうやら予想は大当たりのようだ」 

 

 俺は慌てることなく新校舎へ視線を移すと、そこは完全に崩壊していた。その上には凄まじい闘気(オーラ)を放出させてるイッセーと、戸惑っているヴァーリがいる。

 

 ついでに防御結界を張った方がいいかもな。もしかすると……イッセーが学園全体を崩壊する程の強力なドラゴン波を撃つかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 あの野郎の楽しみの為に俺を殺さなかった、だと? となるとアレか? 俺はヴァーリを満足させる為の玩具(オモチャ)にすぎないのか?

 

 ハハハ、何だそれ……。白龍皇と戦う為、俺は兄貴に厳しい修行をするよう頼んで必死にやったってのに……。こんな、こんな事って……!

 

「そう落ち込むことはないぞ、兵藤一誠。寧ろ誇るべきだ。この俺とここまで戦える相手は早々いないからな」

 

 俺が構えを解いて戦意喪失したと思ったのか、ヴァーリは慰めの言葉をかけてくる。

 

「キミがこの先修行すれば、何れは俺と互角にやり合えるほどに」

 

「………ざ…るな」

 

「ん? 何か言ったか?」

 

 ヴァーリが俺の言葉が聞き取れなかったのか再度訊いてくる。

 

 けれどその問いは勘に触った為――

 

 

 ブチィッ!

 

 

 俺の頭の中にある何かをキレさせてしまった。

 

「………ざけんな。ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~!!!!!」

 

 

 

 ドンッッッッ!!! ズゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!

 

 

 

「なっ!?」

 

 俺が身体全体から闘気(オーラ)を放出してる事にヴァーリは驚く。

 

「さっきから黙って聞いてりゃなめくさった事ばっか言いやがって!! 俺はテメェをぶっ倒す為に戦いに来たんだ! テメェを満足させる為の玩具(オモチャ)じゃねぇんだよッッッ!!!!」

 

Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)!!!!』

 

 籠手にある宝玉から音声が鳴り響く。

 

「もう完全に頭にきたぞゴラァァァァ!!!!! 俺を殺さなかった事を後悔させるまでぶちのめしてやるっっ!!!! ヴァーリィィィィィィィィッッ!!!」

 

Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)!!!!!!!!!』

 

 俺が放出してる闘気(オーラ)で周囲が弾け飛び、半分となった新校舎は完全に崩壊した。

 

 それ以外にも地面が罅が入り、学園全体が崩壊するほどの地震と突風を引き起こしている。

 

「今日は驚くことばかりだ。まさか、怒りだけで更に力が爆発するとは。だがそれでも、俺には届かないな」

 

 確かにあの野郎の言うとおり。俺の力が上がったと言っても、ヴァーリにとっちゃ許容範囲内だ。

 

 だが、まだ手はある!

 

 おいドライグ! 20倍龍帝拳で決着(ケリ)をつけるぞ!!

 

『バカをいうな! そこまで出力を上げれば相棒の身体がすぐに崩壊するぞ! 俺の補助や身に付けてる腕輪があっても精々10秒が限界だぞ!?』

 

 そんだけあれば充分! あのなめくさったヴァーリを叩きのめすにはもうそれしか手はないんだ!

 

 それともドライグ! 最強のドラゴンと呼ばれたお前が宿敵の白龍皇にあんだけ言いたい放題言われて事実を受け入れるほど丸くなったのかよ!?

 

『ッ!! …………フフフフフ、ハハハハハ!!! そうだったな! 俺ともあろう者が肝心な事を忘れてた! このまま白いのにいい顔をされたら俺の面目が立たないな!!』

 

 だろう!? そうでなきゃ最強のドラゴンが廃るってもんだ! 頼んだぜドライグ!

 

『おう! 任せておけ!』

 

「行くぜぇ! 20倍龍帝拳だぁぁッッッッ!!!!」

 

 

 ドドンッッッッッッ!!

 

 

「な、なん、だと……!?」

 

『バカなっ!? 禁手(バランス・ブレイカー)でもないのに、ヴァーリの力を上回るなどあり得ん!』

 

 20倍龍帝拳を使った事にヴァーリだけでなく、アルビオンも驚愕の声音を出していた。

 

 けど俺は気にせず――

 

「だっ!!!!!!」

 

 

 ギャオッッッ!! バキィィッッッ!!

 

 

「ごっ!!」

 

 一瞬でヴァーリに接近して顔面にパンチを当てた。

 

 俺の攻撃がかなり強力だったのか、パンチを受けたヴァーリは勢いよく吹っ飛んでいく。

 

「ド…ラ…ゴ…ン…!」

 

 それを見た俺は空かさず追いながら攻撃するも、ヴァーリはすぐ躱す為に急上昇する。

 

 躱す事は予測済みだった。だから俺は気にせず構えて――

 

「波ーーーーーーっ!!!!!」

 

 

 ドォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッッッッッ!!!

 

 

 ヴァーリに向かって最大技であるドラゴン波を放った。

 

「っ!!!!」

 

『避けろヴァーリ!! アレはお前でも防ぎきれん!!』

 

 アルビオンが避けろと言ってるが、ヴァーリは急停止して動こうとしなかった。

 

「ふざけるな、アルビオン! あれだけ大口を叩いた俺が……そんなこと出来るかぁぁ~~~ッ!!」

 

 ヴァーリは避けようとしないどころか、俺のドラゴン波を受け止めようと両手を前に出していた。

 

 

 ズオッ!!

 

 

 俺のドラゴン波を両手で受け止めるヴァーリ。

 

Divide(ディバイド)Divide(ディバイド)!!』

 

 更にはその力を半減させようとしていた。もうついでに、その半減した力を自分の物にしようとしている。

 

 そして――

 

「ぐぅっ! な、何だコレは!?」

 

『これは! 吸収した力の中に、龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の力が帯びている!? 一体どう言う事だ!?』

 

 ヴァーリからダメージを負ってるような声が聞こえ、アルビオンも信じられないように驚愕していた。

 

「失敗したなヴァーリ!! テメェが見栄張ってドラゴン波を受け止める事も、力を半減させて吸収する事も分かっていた! このドラゴン波の中には聖剣――アスカロンの力も含まれてんだよ!!」

 

「な、何、だと……!?」

 

 ドラゴン波の中にアスカロンの力を送り込む。一か八かの賭けだったが成功して何よりだ!

 

「いくらテメェでも、龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の力までも完全に吸収出来ねぇだろ!? ここからは根競べだヴァーリッ!! 俺とテメェのどっちが先にくたばるかをな!!!」

 

「ぐぅぅぅぅ~~~~~!!!」

 

Divide(ディバイド)Divide(ディバイド)Divide(ディバイド)Divide(ディバイド)Divide(ディバイド)Divide(ディバイド)!!!!』

 

「ごふっ!」

 

『もう止すんだ、ヴァーリ! これ以上吸収し続けたら、お前の身体がもたない!! 一旦体勢を立て直す為に退くんだ!!』

 

「黙れアルビオン!! こんな醜態を晒しておいて今更……退く事など出来るかぁぁぁぁ~~~~ッッッ!!」

 

 ヴァーリは退かないどころか、俺のドラゴン波を受け止めながらもずっと耐え続けていた。

 

Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)!!!!』

 

 

 ビキィッッ!!

 

 

「ぐぅっ! くそっ、身体が……!」

 

 俺の身体から嫌な音がした直後、とんでもない激痛が走り始めた。

 

『相棒! これ以上撃ち続けると本気で身体が崩壊するぞ!』

 

「んなもん知るかぁぁぁ~~~!! あの野郎を倒せるならこの身体全部対価してやらぁぁぁぁ~~~~!!!」

 

 自分の限界を超えるようにドラゴン波を撃ち続ける俺。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!」

 

「う……ぎぎ……! ぐぐぐぐぐ……!!!」

 

 俺とヴァーリの根競べは数秒続くも――

 

「がぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっっっっっっ!!!!!」

 

 

 カッッッッッッッ!!!

 

 

 ヴァーリが何かしたのか、ドラゴン波が急に崩壊するように大爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 

「全く。あの愚弟(バカ)は相変わらずとんでもない無茶ばっかりしやがって……!」

 

 大爆発が収まったのを確認した聖書の神(わたし)は、全員を守る為に張った強固な防御結界を解いた。

 

「おいおい、赤龍帝はとんでもねぇヤツだな。学園どころか、三大勢力(おれたち)が張った結界すら吹き飛ばしやがるとは」

 

「本当にイッセーくんは、つくづく私達を驚かすのが得意のようだ」

 

「まさか、赤龍帝が神に鍛えられていたとは言え、これほどまでの力を持っていたとは……!」

 

 イッセーの行動にアザゼル達はひたすら驚愕するばかりだった。

 

「リアス達は大丈夫か?」

 

「え、ええ、何とか……」

 

 リアス達の安否を確認するも無事のようだ。未だ時間停止してるアーシア達も同様に。尤も、アーシア達はグレイフィアやセラフォルーがずっと守っていたから大丈夫だったがな。

 

「それよりイッセーと白龍皇は……?」

 

「あそこだ」

 

 リアスの問いに答えるように聖書の神(わたし)が指すと、二人は少し離れた所で浮遊してるままだった。

 

 しかしその瞬間、揃って地面へ着地する。

 

 そして――

 

「……悪い兄貴、負けちまった」

 

 

 バタンッ!

 

 

『っ!』

 

 イッセーは聖書の神(わたし)に敗北宣言をして倒れてしまった。

 

「……………………」

 

 倒れたイッセーにヴァーリはゆっくりと歩いて近づこうとする。

 

「っ! イッセー!」

 

「待て、リアス」

 

 ヴァーリの行動を見たリアスがすぐに駆けつけようとするが、聖書の神(わたし)はすぐに彼女の腕を掴んで阻止する。

 

「放してリューセー! このままだとイッセーが!」

 

「大丈夫だ。アイツにはもうイッセーを殺す力は持ってない。見てみろ」

 

「え?」

 

 

 ピキッッ! ガラガラッ!

 

 

 ヴァーリから何かが壊れた音がすると、アイツが纏っていた鎧が崩壊した。更にはヴァーリ自身の身体も血だらけだ。

 

「ど、どういうこと? どうして白龍皇があんな傷だらけなの?」

 

「イッセーが撃ったドラゴン波の中に龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)――アスカロンの力が含まれていた。それを白龍皇の力で半減と同時に吸収したヴァーリも大ダメージを受けていたんだ。その結果、ヴァーリはあの通り重傷って訳だ」

 

 それを考えるとドラゴンの力を宿してるイッセー自身もただでは済まないんだが……一か八かの賭けで上手くいったようだな。一度も練習せず、ぶっつけ本番で成功するとは大した奴だ。尤も、20倍龍帝拳を使って身体の崩壊は免れないがな。

 

「ごふっ!」

 

 ヴァーリがイッセーの近くで立ち止まると血を吐いていた。あれは相当無理をしてるな。

 

「……ふっ。何故、『悪い兄貴、負けちまった』と言うんだ?」

 

 すると急に笑い出して――

 

「キミの勝ちに決まっているだろう、兵藤一誠……!」

 

 

 バタンッ!

 

 

 イッセーに続いてヴァーリも敗北宣言をした直後、意識を失うようにそのまま倒れてしまった。

 

 今回の赤龍帝VS白龍皇の勝負は互いに敗北宣言するも、傍から見れば相打ちと言う結果だ。

 

 どうでもいいんだが、ヴァーリの最後の台詞はどこかで聞いたような気がするな。

 

『……何故か分からんが、ヴァーリ・ルシファーの最後の台詞が聞き捨てならないような気がした。何故だ?』

 

 ドライグも何か気になっていたようだが、そこは本当にどうでもいいから無視させてもらうとしよう。




 ヴァーリの最後の台詞はドラゴンボール以外の作品ネタとして使いました。気付いた方はいらっしゃいますかな?


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第五十話

今回はフライング投稿させて頂きます。


「今回は引き分けか。ま、イッセーにしてはよくやったな」

 

「ってリューセー! 待ちなさい!」

 

 イッセーとヴァーリが相打ちとなった事に俺はそう呟きながら、掴んでいたリアスの腕を放して直ぐに二人の所へ転移する。

 

「さて、先ずはヴァーリを――」

 

 

 ビュンッ!

 

 

 ヴァーリを拘束しようと思ったが、一つの人影が神速で入り込んでくる。その一瞬の間にヴァーリの姿が消え、少し離れた前方から人影の姿を現した。中華風の鎧を身に纏った男がヴァーリの腕を担ぎながら。

 

「やはりそう来たか」

 

「悪いが、ヴァーリは渡さないぜぃ」

 

「……美猴か。何をしに来た?」

 

 意識が戻ったヴァーリは美猴と言う男を見ながら問う。

 

「それは酷いんだぜぃ? 相方がピンチな上に捕まりそうだったから駆けつけたのによぅ? にしてもまさか、おまえともあろう者が赤龍帝と相打ちとはねぇ」

 

「違う、相打ちなんかじゃない。今回は俺の負けだ。その結果がこのザマだ」

 

 傍から見れば相打ちだったんだが、どうやらヴァーリにとっては敗北らしいな。

 

「そうかい。ま、俺っちはどっちでもいいけどねぃ。それはそうと、他の奴等が本部で騒いでいるぜぃ? 北の田舎(アース)神族と一戦交えるから戻って来いって言われたけど……先ずは治療優先だな。俺っちと一緒に帰ろうや」

 

「……そうか、すっかり忘れてたよ」

 

 そう言えばヴァーリが早々にイッセーとの決着を付けようとしてたみたいだな。しかもその理由がアース神族との一戦、か。急にスケベ爺のオーディンの顔を思い出したよ。

 

「話してるところ悪いが、そろそろコッチを見てくれないかな? 闘戦勝仏の末裔――孫悟空」

 

「お? 聖書の神が俺っちの事を知ってるとは光栄だぜぃ」

 

「知ってるのは初代孫悟空の方だがな。君から孫悟空の力を感じたから、そう呼んだだけだよ」

 

「ありゃりゃ、そっちだったか。それは残念」

 

 相手が聖書の神(わたし)と知っているにも拘らずケタケタと笑う。

 

「ま、俺っちは仏の初代と違うんだぜぃ。自由気ままに生きるのさ。改めて俺っちは美猴。よろしくな、聖書の神。あとそこで倒れてる赤龍帝にも伝えといてくれぃ」

 

 聖書の神(わたし)に気軽な挨拶をしてくるとは、随分と肝が据わってるなコイツ。天界にいた頃の自分だったら嫌悪感を示すところだが、今は面白い奴だと好感が持てるよ。

 

「と言う訳で逃げさせてもらうぜぃ」

 

「おいおい、折角来たんだ。良かったら聖書の神(わたし)が君の相手をしてあげるが?」

 

「勘弁してくれぃ。いくら戦いが好きな俺っちでも、アンタ相手にただじゃ済まない事ぐらい分かってる。だからここは逃走に専念させてもらうぜぃ」

 

 そう言いながら美猴は、棍を手元に出現させるとくるくると器用に回し、地面に突き立てた。

 

 刹那、地面に黒い闇が広がり、それは美猴とヴァーリを捉えてずぶずぶと沈ませていく。

 

 本当だったらこのまま捕まえたいところだが、こっちはこっちでイッセーの治療を専念しないといけないからな。

 

 すると、ヴァーリがコッチをみてこう言ってくる。

 

「聖書の神、兵藤一誠に伝えてくれ。『キミを侮辱した事は謝罪する。次に戦う時には一切慢心せずに全力で戦って俺が勝つ』とな。そして、あなたもいずれ俺が――」

 

 それだけ言いかけて、白龍皇は美猴と共に闇の中へと消えていった。

 

「逃がしちまって良いのか、聖書の神? アンタがその気になれば、あの二人を簡単に捕まえる事が出来たんじゃねぇのか?」

 

 二人がいなくなったのを確認したアザゼルが近づきながら問う。

 

「今はアイツ等よりも……こっちが最優先だから、な!」

 

 

 パァァァァァァッ!!

 

 

 イッセーに向かって手を向け、大きめな光弾状の『治癒の光』を放った。それを受けたイッセーの全身から眩い光が発する。

 

 そして光は段々弱まって消えていった数秒後――

 

「…………う、うう…………あれ? 俺は確か……」

 

 気絶していたイッセーが目覚めようとしていた。

 

「流石は聖書の神。重傷だった兵藤一誠を一瞬で治すとは」

 

「まだ完全に治ってはいないがな。何だったら、お前の腕も治療してやろうか? 決別したとは言え、お前は聖書の神(わたし)の息子だ。流石に再生させる事は出来ないがな」

 

「遠慮しとく。これ位は自分でやるさ。ってか、いつまでもガキ扱いすんなよ、聖書の神(おやじ)

 

 治療を拒否するアザゼルが懐かしい呼び方をする事に苦笑しながら、俺はイッセーに近づこうとする。

 

「あ、兄貴……」

 

「随分と派手にやらかしたな、イッセー。また学園が崩壊したぞ」

 

「悪い。俺、無我夢中で……って! ヴァーリの野郎はどうした!?」

 

 俺に謝るイッセーだったが、大事な事を思い出したようにすぐ立ち上がった。

 

「ああ、アイツなら――」

 

「イッセー!」

 

「え? ぶ、ぶちょわぷっ!」

 

 俺が答えようとしてる最中、リアスが走りながらコッチへ向かってきた。そしてすぐさまイッセーを自分の胸に押し付けるように抱き付こうとする。

 

 急にリアスがイッセーとイチャ付き始めたので、理由は後で話そうと決めた俺は一先ず退散しようと――

 

「おいコラ待てよ聖書の神(おやじ)、一体どこへ行くつもりだ?」

 

「アザゼル、聖書の神(ちちうえ)に馴れ馴れしく触れないで下さい」

 

「隆誠くん、いや聖書の神よ。そろそろ教えてくれないか? 死んだ筈の貴殿が何故生きていたのかを」

 

 したがアザゼルが逃がさんと言わんばかりに俺の肩に手を置くと、いつの間にか来ていたミカエルが空かさずアザゼルの手を払う。更にはサーゼクスまでもいる始末。

 

 別に説明するのが面倒で逃げるつもりじゃなかったんだが……しょうがない。コイツ等には一から説明するとしますか。でもその前に戦闘の後始末をするよう言っておかないとな。

 

 

 

 

 

 

 聖書の神(わたし)についての説明をする前、ギャスパーを通じて未だ時間停止状態となってるアーシア達を元に戻し、更には三大勢力の軍勢に戦闘後の処理をするよう言っておいた。

 

 その途中、天使達が聖書の神(わたし)の姿を見た途端――

 

『オオオォォォォォ!!』

 

『神が、神がぁぁ~~~!!!』

 

『父上ぇぇ~~~!!!』

 

『お父さまぁぁぁぁ~~~!!!』

 

 男女問わず人目も憚らず一斉に感動の大号泣をしていた。聖書の神(わたし)の事を未だに慕っている気持ちは嬉しいんだが、取り敢えず仕事はしてくれ。

 

 更には――

 

「あ、あの、その! ぞ、存じなかったとは言え、主に対する数々の暴言とご無礼、まことに申し訳ありませんでしたぁ!!」

 

「りゅ、リューセーさん、ではなくて主よ! わ、私も知らずに今まで大変失礼な事ばかりしてすみませんでした!!」

 

 ゼノヴィアと事情を簡単に説明したアーシアが即行で跪いて頭を下げていたよ。特にゼノヴィアは聖書の神(わたし)と目があった瞬間に色々な事を思い出したのか、深い絶望に襲われてると思う位に顔色が自分の髪の色以上に真っ青だったし。どこで知ったのかは知らないが、地面に思いっきり頭をぶつけながら土下座していた。

 

 挙句の果てには『死して償いをする』と言った直後にデュランダルを使って自害までしようとする始末。こればっかりは流石に聖書の神(わたし)だけじゃなく、イッセーやリアス達も必死に阻止と同時に説得して止めたがな。悪魔になったとは言え、元教会の信徒が自害なんか以ての外だ。

 

 説明する前にちょっとしたプチ騒動はあったが、ヴァーリを除いた会談に参加していた一同に聖書の神(わたし)が死んだ後の事を全て話した。

 

 端的に説明すると――

 

 ①先の大戦で聖書の神(わたし)が死ぬ前にシステムに転生するよう措置。

 

 ②宗教とは一切関係無い極普通の一般家庭の長男として転生。

 

 ③本当なら三大勢力に一切関わる事無く一般人として過ごそうと思ったが、弟のイッセーが赤龍帝である為に師となって鍛えさせる事を決意。

 

 ④聖書の神(わたし)に関わった者たちに迷惑を掛けない為、自身の存在を秘匿。但しドライグのみには聖書の神(わたし)の正体を公開済。

 

 ⑤赤龍帝(イッセー)の修行も兼ねて、学生の長期休みを利用して旅をしながら三大勢力の現状を確認。

 

 ⑥修行と日常生活を送ってる中、聖書の神(わたし)の正体を知っていたオーフィスから禍の団(カオス・ブリゲード)への何度も勧誘されたが全て拒否。

 

 ⑦オーフィスから食事を教えてもらった礼として、神の力を与えられた為に不本意だが本来の姿へ戻る事が出来たと同時に、聖書の神(わたし)能力(ちから)が制御可能。

 

 ――こんな感じだ。

 

 ①~⑦の説明を聞いた一同は様々な反応を示していた。その中でかなり驚いてたのが③と⑥だ。⑥では話題となってたテロリストのリーダーが、どうして兵藤隆誠(おれ)聖書の神(わたし)である事に気付いたのかと。

 

 オーフィスが正体を知ったのは偶然だった。聖書の神(わたし)が一人で少し暴走気味だった光の力を抑えてる最中、駒王町へ偶々やってきたオーフィスが聖書の神(わたし)の力を感じ取ったから。あの時は平静を装いながらも誤魔化そうとしたが――

 

「我、間違えてない。聖書の神の力を知ってる我は決して間違えたりしない。お前、何者?」

 

 ――と、普段から感情を表に出さないあのオーフィスが珍しく詰問してきたから止むなく教える事にした。

 

 んで、聖書の神(わたし)の正体を知った途端にオーフィスは禍の団(カオス・ブリゲード)に来て欲しいと勧誘され続けたって訳だ。

 

 勧誘と聞いた瞬間にサーゼクス達が警戒するような目となったが、⑥の理由を聞いたのを思い出して安堵の表情となる。

 

「とまあ、以上が聖書の神(わたし)のこれまでの経緯だ。何か質問はあるかな? と言っても、この状況では数回までと限らせてもらうが」

 

『…………………………』

 

 話を聞き終えた一同はすぐに言葉を出そうとしない。聖書の神(わたし)が余りにも予想外な行動をしていたから、誰もが信じられないと言うような顔をしている。

 

 まぁそれは当然だな。オーフィスの件を除いて、システムを使って転生しただけでなく、嘗て戦争で殺しあった赤龍帝を強くさせる為に聖書の神(わたし)が師となってる事は余りにも信じられないだろうし。

 

「あ~、質問したいのは山ほどあるんだが……」

 

 片手で後頭部をポリポリと掻きながら言うアザゼル。もし『何でも質問してくれ』と言ったら、戦闘後の処理とか関係無くずっと問い詰めるだろうな。

 

聖書の神(おやじ)が復活した経緯は分かった。だがそこまでやろうした理由は一体何なんだ? システム使ってまで転生するなんざ、俺達が知ってる嘗ての聖書の神(おやじ)じゃ考えられねぇ行動だ」

 

「……確かにアザゼルの言うとおりだ。嘗ての聖書の神(わたし)を知ってる者たちから見れば尚更な。ミカエルも似たような事を考えてるんだろう?」

 

「い、いえ……決してそのような事は……」

 

 苦笑しながら言うと、ミカエルは図星を突かれたかのように慌てて取り繕うとする。

 

「まぁ理由としては、そうだな……聖書の神(わたし)自身の行動に疑問を抱いたんだ」

 

「行動だと?」

 

「知ってのとおり、嘗ての聖書の神(わたし)は数多くの人間達に愛を与え続けていた。だがそれで人間達は本当に幸せになっているのか、とな。そこでだ――」

 

 アザゼルの質問を聖書の神(わたし)は説明する。

 

 いずれ地上に降りて自分の愛で幸せになっているかを確認する前に死んでしまっては元も子もないので、万が一の対策として『システム』に細工を施した。聖書の神(わたし)が死んだ時に発動する『人間への転生』と。だがソレには色々と条件があった。転生した際に起こる、システムから下された不都合な条件が。

 

 一つ、転生したら今までの能力(ちから)の大半が制限されて使えなくなる。二つ、人間の姿で能力(ちから)を使えば使うほど死が早まる。三つ、システムの使用方法に関する記憶を失う。四つ、今後システムを扱う事が出来なくなり、触れる事すら出来なくなる。

 

 それらの条件を聞いていたアザゼルが理解してる中、ミカエルは悲痛な顔をしていた。天使達からすれば聖書の神(わたし)にとって残酷とも言える条件だからな。

 

「――で、システムの条件を受け入れた聖書の神(わたし)が兵藤家の人間へ転生して本当の愛と言うものを知った。尤も、未だに全て理解した訳ではないがな」

 

 愛には様々なものがあるが、その中で最も知る事が出来たのは“家族愛”。兵藤家は特別な力を持った一族でも有名な家柄でもない極普通の一般家庭だ。加えて教会関係者でもない。

 

 最初は聖書の神(わたし)の愛を知らない不憫な者達と思ったが、それは大間違いであった。自分がどれだけ思い上がっていた存在だったのかと心底恥じた。聖書の神(わたし)の愛や加護を与えずとも、幸せになっているではないかと。

 

 そして両親以外の家族――兵藤一誠(おとうと)も幸せな時間を過ごしているとも理解する。一誠の兄となった聖書の神(わたし)自身も兵藤家で過ごしている内に今まで愛に対しての価値観を大きく変わってしまった。勿論、聖書の神(わたし)にとっては良い意味で。

 

「一方的な愛を押し付けた嘗ての自分がどれだけ傲慢な存在だったのかと思い知ったよ。今思えば、アザゼルや他の堕天使達が聖書の神(わたし)と決別するのは当然だな」

 

「……別にそれだけじゃねぇよ。あのまま聖書の神(おやじ)の所にいても、俺のやりたい事が出来ないと思ったから決別したんだ」

 

「だろうな。お前は嘗ての天使たちの中でもかなり自由奔放な息子だった」

 

 アザゼルが決別した理由を粗方分かっていた聖書の神(わたし)は、大して気にする事無く笑みを浮かべた。その反応が予想外だったのかアザゼルは呆気に取られている。

 

「つーか、マジで変わったんだな。以前の聖書の神(おやじ)だったら、俺を問答無用で処罰してもおかしくねぇんだが」

 

「今更そんな理由で処罰などしないさ。それより、他に質問する方はいるかな? そろそろイッセーに本格的な治療をしないといけないから、出来ればあと一回にして欲しいが」

 

 アザゼルの質問を全て答えた後、他に質問がないかと一同に尋ねる。すると、今度はサーゼクスが前に出ようとする。

 

「では私が問わせて頂こう。隆誠くん――聖書の神よ。貴殿はこの先どうするつもりだ? 再び天界へ戻られるのか?」

 

「まさか。正体がバレた以上は天界へ戻ろう、なんて気はないよ」

 

「そんな……!」

 

 サーゼクスの問いに答える聖書の神(わたし)にミカエルが目を見開きながらショックを受けるような声を出す。同時に聞き耳を立てていたであろう他の天使たちも含めて。

 

「神よ、どうかお考え直しを。神が天界へお戻りになるのでしたら、私はすぐにでも自身の地位を神に返上する所存です」

 

『お願いします、神よ! どうか再び我らを導いて下さい!』

 

 両膝を地に付けて深々と頭を下げるミカエルを筆頭に、天使達も倣って頭を下げて懇願する。

 

 ………はぁっ。ミカエル達がこうする事は予想してたよ。

 

「悪いが天使(むすこ)達よ、私は考えを改める気はない。それにさっき説明したとおり、聖書の神(わたし)が天界に戻ったところで嘗ての能力(ちから)を振るう事は出来ない。更にはシステムの使用法に関する記憶を失ってるどころか、触る事すら出来ない始末だ。ハッキリ言って今の聖書の神(わたし)は天界の足手纏いにしかならないよ」

 

「そんな事はありません! 聖書の神(ちちうえ)がお戻りになるだけでも、我々は心の支えとなるのです! どうか今一度お考え直しを!」

 

 普段する事のないミカエルが声を荒げてる事に悪魔側のサーゼクス達が驚くように見ている。アザゼルは口に出さずともミカエルの心情を理解してるようだ。

 

 う~む……。分かってはいたが、やはりそう簡単に引き下がってはくれそうにないな。仕方ない。ここは敢えて心を鬼にしよう。

 

「……ミカエル、お前の考えは分かった。頭を上げろ」

 

『っ!』

 

 自分の考えが分かってくれたのかと思ったのか、ミカエルは頭を上げて歓喜の顔をするも――

 

「甘ったれんな♪」

 

 

 バチィンッ!

 

 

「がっ!」

 

『え? ………ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええ!!!!????』

 

 私が額にデコピンをすると、それを見ていた天使達が一瞬呆然とするが、すぐに信じられないような絶叫をする。これにはアザゼルやサーゼクス達も予想外だったのかポカンとしながら口を開けている。




あと一~二話で完結予定となります。番外編はどうしようかと未だに考え中ですが。


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第五十一話

聖書の神(わたし)は今後も人間の兵藤隆誠として駒王町にいる。分かったな?」

 

「は……はい。それが神のお望みとあらば……」

 

 天使(こども)達にちょっと長~い説教を終えると、ミカエル達は漸く引き下がってくれた。

 

 前も言ったように、聖書の神(わたし)はもう天界のトップに戻るつもりは毛頭無い。もし戻ってしまえば最後、天使たち全ては以前のように何でも聖書の神(わたし)に縋ってしまう。聖書の神(わたし)の死を乗り越えて天使達が今の今まで頑張ってきた努力が無駄になるからな。

 

 ミカエル達には悪いが、ここは敢えて心を鬼にして突き放す事にした。聖書の神(わたし)が本気で怒ってる事を理解したのか、ミカエル達はすっかり(しょ)()ている。

 

 流石に少しばかり言い過ぎたと思った聖書の神(わたし)は――

 

「まぁ、天界には絶対戻らないって訳じゃない。時々戻って、お前達の相談ぐらいは乗る。その時には何でも打ち明けてくれ。但し、相談内容によっては却下するからな」

 

『っ! はい!』

 

 限定的に天界へ戻る事を告げると、さっきまで(しょ)()ていたミカエル達は元気を取り戻したかのように返事した。ま、人間で言えば実家へ帰省みたいなもんだ。親と子が逆転してるけどな。

 

「ああ、それとミカエル。ちょっと立て」

 

「は、はい……」

 

 ミカエルは恐る恐ると言った感じで立ち上がる。

 

 突然の名指しに少し緊張してるが、聖書の神(わたし)は気にせず優しく抱きしめる。

 

「か、神よ、いきなり何を……!?」

 

 聖書の神(ちちおや)の抱擁に戸惑うミカエル。

 

「さっきは痛い思いをさせてしまって悪かったな。それと……色々問題はあれど、聖書の神(わたし)がいなくなった後もお前が天使(こども)達を纏めて上げてるのを見て、父親として鼻が高いよ」

 

「っ! 聖書の神(ちちうえ)……私にそのような勿体無いお言葉など……!」

 

 感動と言わんばかりに再び涙を流し始めるミカエルは人目を気にせず聖書の神(わたし)を抱きしめ返す。この光景を見てる一同は様々な反応をしている。悪魔側は呆然、天使側(+アーシアとゼノヴィア)は感動、堕天使側は苦笑していた。

 

 

 

 

 

「と言う訳でアザゼル、聖書の神(わたし)の立場は兵藤隆誠(おれ)の時に会談で話したとおり『三大勢力の協力者』である事に変わりはない。何か異論はあるか?」

 

「いいや、ねぇよ。寧ろそうしてくれた方がありがてぇ。何かあったら遠慮なく頼らせてもらうぜ、聖書の神(おやじ)

 

 アザゼルは聖書の神(わたし)の立場に反対しないどころか大賛成のようだ。しかもなんか良い事を思いついたような悪い笑みを浮かべている。こう言うところは幼少の頃から変わってないな。

 

 因みに聖書の神(わたし)はもう人間の兵藤隆誠に戻っている。自分の力がある程度落ち着いたので、今は完全に制御出来るようになって人間へと戻る事が出来たからだ。聖書の神(わたし)から兵藤隆誠(おれ)になった時、ミカエルや天使達が寂しそうな表情をしていたが。

 

「アザゼル、神を利用しようなどと思ったその時は私や他の天使たちが黙っていませんからね? 覚悟しておいて下さい」

 

「チッ。わーったよ。ったく、聖書の神(おやじ)が戻った途端にコレかよ」

 

「あなたは以前から聖書の神(ちちうえ)を困らせていました前科がありますから。私が見張るのは当然です」

 

 良からぬ事を察知したミカエルがすぐに釘を刺そうとする事に、アザゼルが鬱陶しそうな顔をする。

 

「ってか、聖書の神(おやじ)に説教された上に、いい歳して泣いていたのはどこの天使長様だったかな?」

 

「それを言うなら、会談の時に聖書の神(ちちうえ)から痛い所を突かれて反論出来なかったのはどこの堕天使総督でしたか?」

 

 穏やかそうに言ってるが、二人からは視線だけでバチバチと火花を散らしていた。

 

 どうやらこの二人は今でも仲が悪いようだ。と言うより、こんな所でみっともない喧嘩はしないでくれ。

 

 取りあえずコイツ等のやり取りは見なかった事にしようと思った俺は、次にサーゼクスとセラフォルーへと視線を向ける。

 

「サーゼクスとセラフォルー、お二人から異論はあるかな?」

 

「私もアザゼルやミカエル殿と同じだ。何の異論もない」

 

「私もよ。今後もよろしくね、聖書の神くん☆」

 

 魔王達も賛成のようで何よりだ。

 

「感謝する。あと俺の呼び方は前と同じでいい。寧ろ人間の呼び名の方が良いからな」

 

「ではそうさせてもらおう、隆誠くん」

 

「改めて宜しくね、リューセーくん☆」

 

 二人は揃って俺を名前で呼んでくれる。やっぱガチガチ思考の旧魔王共なんかより現魔王達の方が好きだ。このノリが実に良い。

 

「感謝する。ところで同志サーゼクスよ、今度また語り合いませんか? ……妹談議を」

 

「っ! 是非ともそうしようじゃないか。今度はリーアたんの可愛いところを余すところ無く語らせてもらうよ」

 

「ちょっと何それ!? そんな重要なイベントは私も混ざりたい! 可愛いソーたんの魅力を伝えるのがお姉さまである私の役目なんだから!」

 

 ガシッと力強く握手する俺とサーゼクスを見たセラフォルーも妹談議に参加する気満々のようだ。

 

 だが――

 

「お兄さま! リューセーに何をやろうとしてるんですか!?」

 

「お姉さま! どさくさに紛れて何をなさるおつもりですか!?」

 

「サーゼクスさまにセラフォルーさま、三大勢力の前でのお戯れは大概になさって下さい」

 

 真っ赤な顔をしてコッチに来るリアスとソーナ、そしてグレイフィアによって阻止される事となってしまった。あらら、これは残念。

 

 グレイフィアと言う抑止力がある為か、魔王二人は彼女の凄みに気圧されて怒られている。更には妹談議は絶対するなとリアスとソーナも釘を刺す。あの二人は一回言われたからって諦めたりはしないがな。

 

 元凶ともいえる俺はそっと抜け出すように、今度はイッセー達の方へと近寄る。

 

「イッセー、怪我の方は?」

 

「大丈夫だけど……ってか兄貴、アレ放置して良いのか? 下手したら和平が無かった事になるんじゃねえ?」

 

 三大勢力のトップ達がそれぞれ言い争いをしてるのを指すイッセー。

 

「あんな事で和平が取り消しになんかならないさ。そうじゃなかったら此処は今頃また戦場になってるよ」

 

「元はと言えば兄貴が元凶だろうが」

 

 呆れながら呟くイッセーだが、すると何かを思い出したかのように尋ねようとする。

 

「それはそうと兄貴、ヴァーリの奴はどうなったんだ?」

 

「ああ、アイツからお前に伝言があってな」

 

 ヴァーリからの伝言をそのまま伝えると――

 

「……あの野郎、ふざけやがって……! 俺が負けたってのに、勝手に自分の負けにしてんじゃねぇよ……! 次に会ったら絶対にブチのめしてやる!」

 

「怒るところはそこかよ」

 

 イッセーは自分が勝利したと思ってないようだ。確かに気絶してる最中にヴァーリが自分から負けだと決め付けたら納得しないだろう。イッセーは勝負に関して厳しいからな。

 

「確認するけど兄貴。天界には戻らないのは聞いてたけど、俺の修行は今まで通りって事で良いのか?」

 

「当たり前だ。と言うか、今度からの修行は更に難易度を上げるからな。今までの修行内容だと、ヴァーリに勝てないって事は充分理解しただろ?」

 

「……まぁな」

 

「出来れば禁手(バランス・ブレイカー)に至って欲しいが、残念だが今のイッセーじゃまだ無理だ。取り敢えず20倍龍帝拳まで制御出来る事を目標とする。そうすれば禁手(バランス・ブレイカー)となったヴァーリにも対抗する事が出来るからな」

 

「ちぇっ。どうにかして禁手(バランス・ブレイカー)を使えるようにしたいんだがなぁ……まぁ良いか」

 

 少し不満気な表情をするイッセーだったが、一先ず納得してくれた。

 

 すると、イッセーが付けていたアザゼル作成のリングが崩れ去る。

 

「あ、リングが……」

 

「力を使い過ぎて崩壊したようだな。後でアザゼルに礼を言っておけよ、イッセー。もしリングが無かったらヴァーリに対抗出来なかったんだからな」

 

「おう、後で言っとく。にしてもあのリング、まだないのかな? もしもの時にまた使いたいんだが」

 

「止めとけ。あのリングは俺が見た限り、精製するにはかなりの時間が掛かると思うし、簡単に量産は出来ない筈だ。仮に量産出来ても俺が使用する事は認めん。アレは使い続けたらお前が禁手(バランス・ブレイカー)になれなくなる恐れがある。リングがなくても禁手(バランス・ブレイカー)に至るまでの手は尽くすから安心しろ」

 

「あ、やっぱり」

 

 俺がリングの使用を認めないと聞いたイッセーは残念そうに嘆息する。

 

 尤も、禁手(バランス・ブレイカー)に至るには劇的な変化が必要だ。いくら聖書の神(わたし)でも禁手(バランス・ブレイカー)にさせるなんて無理だが心配はない。イッセーなら何れ至るだろうと確信はしてるからな。

 

「それと、今後も父さんと母さんには黙ってるのか?」

 

「そうするつもりだ。実は俺が人間に転生した神様でした、なんて言ってすぐに信じられると思うか?」

 

「だよなぁ。俺も兄貴の正体を知った時は信じられなかったし」

 

「それに加えて、俺は父さん達を巻き込ませたくない。父さんと母さんは俺たち兄弟を育ててくれた大切な家族だ。お前もそう思ってるだろ?」

 

「まぁな。んじゃ、今まで通り黙ってますか。松田や元浜達も同様に」

 

「あ、あの、主よ……」

 

 イッセーと話してる中、アーシアが恐る恐ると声をかけてきた。

 

「えっと、私は主に――」

 

「ストップだアーシア。俺の正体が分かったからと言って態度を改めないでくれ。今まで通り『リューセーさん』で良いから」

 

「で、ですが……主に対してそんな恐れ多いことを私は――」

 

「アーシア、君が聖書の神(わたし)を敬い、祈りを捧げているのは痛いほど分かっている。だが今の俺は兵藤隆誠でもあるんだ。だからせめて俺がこの姿になってる時は普通にリューセーとして接して欲しい。俺としても君を大事な妹として見てるからね」

 

「わ、私が主の妹? ……はうぅ」

 

「っておいアーシア!? しっかりしろ!」

 

 聖書の神(わたし)の妹と聞いた瞬間にアーシアは処理が追いつけなくなってしまったのか、数秒後に気絶してしまった。アーシアが倒れた直後にイッセーがすぐにキャッチする。ナイスだ。

 

 まぁ確かに、今まで祈りを捧げていた相手から家族になったと聞いて倒れるのは無理ないかもしれない。

 

「はぁっ。ま、アーシアには後ほど俺に対しての認識を戻させるとしよう。もうついでに……ゼノヴィア、君はいつまでそうしてる気だ? 俺はもう気にしてないと言った筈だぞ」

 

「主よ、私は、私は……!」

 

 今度は未だに跪き、頭を垂れてるゼノヴィアをどうにかしようと思った俺は近づこうとした。

 

 あ、そうだ。悪魔になったゼノヴィアが祈りを捧げても、ダメージ無しに出来るようミカエルに頼んでおかないとな。聖書の神(わたし)に祈りを捧げてダメージを受けてるのを何度も見たから、これは如何にかしないと思ってたところだし。

 

 三大勢力のそれぞれが口論するも、取り敢えず和平は結ばれる事となる。

 

 

 

 天界代表天使長ミカエル、堕天使中枢組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』総督アザゼル、冥界代表魔王サーゼクス・ルシファー、そして人間代表の兵藤隆誠(聖書の神)、三大勢力と人間の各代表のもと、和平協定が調印された。

 

 以降、三大勢力の争いは禁止事項とされ、協調体制へ――。更には人間代表の俺(+イッセーとアーシアとその他)は三大勢力の協力者になる。いざと言う時の助っ人として。

 

 因みに、この和平協定は駒王学園から名を採って「駒王協定」と称される事になった。 




次回で最終話になる予定です。


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第五十二話

やっと最終話です、


 駒王協定が結ばれ、再び日常生活を送ることになった俺達だったが――

 

「てな訳で、今日からこの俺がオカルト研究部の顧問になることになった。アザゼル先生と呼べ」

 

 着崩したスーツ姿のアザゼルがオカルト研究部の部室にいた。

 

「……リューセー、これはどういうことなの?」

 

 事情を知っていると思ったのかリアスが睨みながら尋ねてくる。

 

「何で俺に訊くんだよ。言っとくが俺も初めて聞いたからな。ってかアザゼル、顧問になれたのはサーゼクスに頼んだからか?」

 

「そのサーゼクスからセラフォルーの妹に頼めって言われたんだ」

 

 あ、今の返答で何となく分かった。

 

 恐らくアザゼルはソーナに『自分を顧問にさせなかったら代わりにセラフォルーが学園に来る』と脅したんだと思う。でなければ、あのソーナがそう簡単にアザゼルを顧問にする事を了承しない筈だ。

 

 ま、ソーナとしても悩みの種の一つであるセラフォルーが学園に来て欲しくないから、自分の安全を守る為にオカ研を売ったんだろうけど。

 

「ところで、その腕は? 俺の記憶が正しければ、確か片腕失ってましたよね?」

 

 アザゼルを見て気になっていたイッセーが腕を指しながら問う。確かにイッセーの言うとおりアザゼルは片腕を失っていた筈だ。けれど今は何故かあるから、イッセーが気にならない訳がない。

 

「ああ、これか。神器(セイクリッド・ギア)研究のついでに作った万能アームだ。一度、こう言うのを装備したかったんだ」

 

 

 バシュッ!

 

 

 アザゼルの左手が飛び出した。部室の中を好き勝手に飛び回ってるのを見た俺は、まるで一種のロケットパンチだなと思った。

 

「まあ但し、俺がこの学園に滞在するのにサーゼクスから条件を課せられた。その条件はお前たちの未成熟な神器(セイクリッド・ギア)を正しく成長させることだ。『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』に『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』。俺の研究成果を叩き込んで独自の進化を模索している」

 

「あれ? 俺とアーシアの神器(セイクリッド・ギア)は?」

 

「本当だったら俺がまとめてやりたいところだったが、そっちは聖書の神(おやじ)――リューセーがやる事になってる」

 

「当然だ。いくらアザゼルでもそこだけは絶対譲らん」

 

 (イッセー)(アーシア)神器(セイクリッド・ギア)聖書の神(わたし)が見るって決めてるからな。

 

 因みにアザゼルは俺の事をリューセーと呼ぶように言ってる。人間の兵藤隆誠のままでも聖書の神(おやじ)と呼ばれるわけにはいかないからな。

 

「あ、やっぱりそうなるんだ」

 

「ううう……私がこれからも主に……リューセーさんに見てもらうだなんて。なんか恐れ多いですぅ……」

 

 分かりきったように苦笑するイッセー、今後のことを考えて震えているアーシア。

 

「アーシア、私はキミを心底羨ましく思うよ」

 

「僕としてはイッセーくんが羨ましいよ。聖書の神とか関係なく、これからもリューセーさんに鍛えられるからね」

 

 イッセーとアーシアを複雑な気持ちで見るゼノヴィアと祐斗。

 

 すると、アザゼルが少しばかり呆れるような感じで苦笑している。

 

「ったく。聖書の神ともあろうお方が、そんな依怙(えこ)贔屓(ひいき)していいのか? 教会連中や天使達が聞いたら絶対黙ってねぇぞ」

 

「今の俺は兵藤隆誠でもあるからな。なにぶん人間に転生した為か、つい家族を優先してしまうんだよ」

 

「……リューセー、間違ってもアイツ等の前で言うんじゃねぇぞ。もう天界のトップじゃないとはいえ、聖書の神(おやじ)は今でも世界を動かせる存在の一人なんだからな」

 

「分かってるよ。いくら聖書の神(わたし)が今は人間だからって、それ位の分別はつけてる」

 

 だからそんな真剣な顔をして忠告しなくても良いっての。

 

「そう言えば、アザゼルが来たって事は天使側からも誰かが来るのか?」

 

「いいや。あっちは色々と忙しいみたいだ。っていうか聖書の神(おやじ)がミカエルに説教してた時に言ってたじゃねぇか。『自分に会う為に適当な理由で駒王町には来るな』って」

 

 そう言われりゃそうだった。ああでもしないとミカエルや他の天使達は大勢で駒王町に来そうだと思い、敢えてキツく言ったんだった。

 

「ま、いずれ厳選した教会側のスタッフの一人をコッチへ派遣させるそうだ。ミカエルは俺の事を未だに信用してねぇみたいだし」

 

「だろうな」

 

 スタッフが来る、ねぇ。俺としては是非とも幼馴染である紫藤イリナを指名したいが……聖書の神(わたし)が言えばミカエル達は通してくれるかな?

 

 と言うか是非ともイリナが来て欲しい。もし俺の正体を知ってゼノヴィアと同じ事をされたら堪ったもんじゃないし。

 

「とまあ、これからよろしくな、リアス・グレモリー」

 

「ちょっ、よろしくって……! 私はまだ納得してないわよ!」

 

 用件を全て言ってアザゼルは部室を出ながらリアスにそう言うも、彼女は未だに納得しない様子で憤慨する。

 

 すると、アザゼルが何かを思い出したのか足を止めて振り返る。

 

「おっと忘れてた。サーゼクスから伝言を頼まれてたんだった」

 

「お兄さまから?」

 

 サーゼクスの名前が出た途端、さっきまで憤慨していたリアスが急に落ち着いた顔になる。

 

「サーゼクスが以前兵藤兄弟の家に泊まった時、眷族のスキンシップの重要性を知ったそうだ。特に赤龍帝、おまえの力にとって必要不可欠のようだからな」

 

「え、えっと、全然言ってる意味が分かんないんですけど……」

 

 うん。聖書の神(わたし)も全然分からん。サーゼクスは一体何が言いたいんだ?

 

 イッセーや俺が不可解な顔をしても、アザゼルは気にせず続ける。

 

「魔王サーゼクス・ルシファーの名において命ずる。オカルト研究部女子部員は全員、兵藤兄弟――特に弟の兵藤一誠と生活を共にすること、だとさ」

 

 あ、そう言う事ね。サーゼクスの意図が何となく分かったよ。

 

 

 

 

 

 

「お邪魔するわ、ヴァーリくん。まだ怪我が治ってないみたいね」

 

「………エリガン・アルスランドか。何の用だ?」

 

「そう身構えなくてもいいわよ。別に君と戦いにきたわけじゃないんだから」

 

「意外だな。兄のラディガン・アルスランドを見殺しにした俺を恨んでいると思っていたんだが……」

 

「まさか。恨むどころか清々してるわ。寧ろ感謝したいぐらいよ」

 

「……とても身内に対しての発言とは思えないな。確か聞いた話では、あなたとラディガンは兄妹でありながらも愛し合っていたそうだが」

 

「そんなのはもう昔の話よ。今の私はダーリン――兵藤隆誠にしか興味ないの」

 

「その兵藤隆誠の正体が、人間に転生した『聖書の神』だと知ってもか?」

 

「関係無いわ。私は兵藤隆誠(ダーリン)の強さと人柄に惚れてるの。死んだラディガン(にい)さまなんかとは比べ物にならないほどに、ね」

 

「…………………」

 

「だけどそのダーリンが本来の力を取り戻した所為で、今の私では実力差があり過ぎて勝つ事が出来ない。そこで君にお願いが――」

 

「断る。俺はあなたの願いに付き合うほど暇ではない」

 

「そう邪険にしないで話は最後まで聞いて。君にとっても悪くないものよ。私のお願いは――ヴァーリくんに私の修行相手になってほしいの」

 

「……俺があなたの修行相手、だと? 一体何を企んでいる?」

 

「企んでなんかいないわ。これは表も裏も無い純粋なお願いよ。一人で修行するより、誰かと組んだ方が効率よく強くなると思ったからね」

 

「俺よりシャルバ・ベルゼブブやクルゼレイ・アスモデウスにでも頼んだらどうだ? 彼等ならあなたの頼みを聞いてくれると思うが」

 

「無理よ。あの二人は修行を低俗なモノとしか見てないから。それにオーフィスの蛇を得て強くなったと自惚れてる旧魔王(おバカさん)達と違って、自力で強くなろうとする旧魔王の孫であるヴァーリ・ルシファーの方が良いのよ」

 

「そんな上辺の言葉だけでは信じられないな」

 

「でしょうね。言っておくけど、私は別に君と仲良くする為に修行しようだなんて思ってないわ。そうね、言い方を変えるなら……私は自分が強くなる為に君を踏み台として利用するの。君も君で自分が強くなる為に私を踏み台として利用すれば良いわ」

 

「……一つ訊きたい。そうまでして強くなろうとするのは聖書の神――兵藤隆誠を我が物にする為か?」

 

「それもあるけど、私としては……一度負かされた兵藤隆誠(ダーリン)に何が何でも勝ちたいのよ。失ったプライドを取り戻す為に、ね」

 

「…………………」

 

夢魔(サキュバス)の私がこんな事を言うのはさぞかし滑稽だと思ってるんでしょうけど、全て本心よ。笑いたければ笑っていいわ」

 

「……笑いはしない。寧ろ、あなたにそんな一面があった事に驚いたよ」

 

「そう。まぁどっちでもいいわ。取り敢えず言いたい事は言ったから、私は帰るわね。君がすぐに返事をくれるとは思ってないから、それまでは一人で修行しながら気長に待ってるわ」

 

「いいや、待つ必要などない。俺の傷が癒えたら修行相手となろう。時間は限られるがな」

 

「あら意外。私の本心を聞いて信用しちゃったの?」

 

「まさか。俺はあなたをまだ信用すらしてない。俺も俺で兵藤一誠に敗れた身だから、今よりもっと強くなる為には、あなたを利用するしかないという考えに至っただけだ」

 

「ふぅん……こんなに早く返事がくるなんて思ってなかったけど、取り敢えず傷が癒えたら宜しくね♪」

 

「だが監視は付けさせてもらうぞ。あなたが妙な行動をしたその時は即刻打ち切るからな」

 

「分かってるわ……(待っててねダーリン。私の本当の姿で戦える日を。そして勝ったその後は誰にも邪魔されないよう閨でジックリと愛し合って……フフフフ♪)」

 

 

 

 

 

 

「――以上が、ミカエル殿からの報告です、オーディンさま」

 

「やれやれ。漸くあの聖書の神(こぞう)が表舞台に立ちおったか。これは面白いことになりそうじゃのう」

 

「いかが致しましょう? 『聖書』に記されし神が万が一にも再び天界の長に戻ったら――」

 

「いや、それはないじゃろう。ほんの数年前に聖書の神(こぞう)が赤龍帝――イッセーを連れてヴァルハラ(ここ)へ来おった時、『万が一に正体がバレても長に戻る気はない』と自分で言っておったからのう」

 

「ですが、状況によっては変わると思いますが?」

 

「かもしれんのう。じゃが今の聖書の神(こぞう)は人間――兵藤隆誠になった事で考え方が大きく変わっとる。今のあやつは身内を守る為なら……神の道に背く行為を平然とやるであろうな。尤も、若造ミカエル、ルシファーの偽者、悪戯小僧のアザゼルの小童どもが聖書の神(こぞう)を敵に回した場合の話じゃがな」

 

「しかし――」

 

「フレイ、お主は未だに聖書の神(こぞう)が憎いのか? 最愛の妹フレイヤの心を奪われたあやつを」

 

「っ! ………ええ、今でも憎いですよ。つい先程、私と一緒に聞いていたフレイヤが嬉しそうに、いつ彼に会いに行こうかと呟いていたんですから!」

 

「やれやれ。お主のフレイヤに対する溺愛振りがここまで深いものだとは思わんかったわい……。さて、今度あ奴らに会いにいく時は、イッセーから新しい本を頼んでおくかのう」

 

「オーディンさま、兵藤一誠から如何わしい本を頼もうとするのは止めてください」

 

「何を言うか。ワシは単に極東の島国におる女子(おなご)の美しい裸体を拝むエロ本、もとい参考書を頼むだけじゃわい」

 

「それが如何わしい本だと言ってるんですよ! 全くもう、あの兄弟がヴァルハラに来た所為で……!」

 

「ほっほっほ。ワシは別に何も変わっておらんぞ。イッセーから本の素晴らしさを教えてもらっただけじゃわい」

 

 

 

 

 

 

 夏休み前日。終業式が終わった後にサーゼクスの命が実行されようとしていた。

 

 オカ研の女子部員達が兵藤家へ住む準備をしてる最中――

 

「用件は何ですか、アザゼル先生? 俺は彼女達を出迎える準備をしないといけないんですが」

 

「リューセー、と言うか聖書の神(おやじ)として訊きたい事があってな」

 

 俺はアザゼルに呼び出されてリアス達がいない部室にいた。

 

 何か随分と真剣な顔をしてるな。ひょっとして禍の団(カオス・ブリゲード)の件についての事なんだろうか?

 

「今更何が訊きたいんだ? この前の会談の時に全部話した筈だが」

 

「そっちじゃねぇ。俺が訊きたいのは……聖書の神(おやじ)が何で俺の黒歴史を知ってるかについてだ」

 

「お前の黒歴史って……ああ、アレか。お前が天使時代に考案したブレイザー・シャイニング――」

 

「言わんでいい!」

 

 俺が『閃光(ブレイザー・)と暗(シャイニング・)黒の龍(オア・ダークネス)絶剣(・ブレード)』と言おうとしてる途中で遮るアザゼル。

 

「ってか聖書の神(おやじ)がどうやって知ったんだよ? アレは天使と堕天使の間でしか知らねぇ筈なのに」

 

「どうやって知ったも何も、ミカエルが――」

 

 俺が当時の事をアザゼルに話す。

 

 その内容を台詞だけで言うなら――

 

『神よ、アザゼルが大変素晴らしい物を考案したので、この資料を是非ともご覧になって下さい』

 

 と、ミカエルが爽やかな笑顔で聖書の神(わたし)に献上したんだよな。

 

 あの時の聖書の神(わたし)は堅物でも息子が考案した物だから、ついつい感心してしまったよ。今となっては爆笑ネタとしか思えないが。

 

「やっぱり聖書の神(おやじ)にも教えてやがったのか、あの野郎!」

 

「そう怒るなって。俺は今でも素晴らしい神器(セイクリッド・ギア)だと思ってるよ……今は完全な爆笑ネタだが」

 

「喧しい! ってかイッセーに余計な事を教えてんじゃねぇよ! アイツがアレを言おうとした瞬間にメチャクチャ焦ったぞ!!」

 

 羞恥心によって少し顔が赤くなって怒鳴り散らすアザゼル。確かに封印した筈の黒歴史を公開されたら凄く焦る気持ちは分かる。

 

「悪かった悪かった。じゃあ今度そのお詫びとして俺が記憶を頼りにして作ったコレを見せてやろう」

 

「マジで作ったのかよ!? 性格が変わりすぎにも程があるだろう!」

 

 俺が収納用異空間から『閃光(ブレイザー・)と暗(シャイニング・)黒の龍(オア・ダークネス)絶剣(・ブレード)』を取り出すと、アザゼルは驚きと呆れが混じった顔をする。

 

「流石にお前が望んだ機能まで付ける事は出来なかったが、それでもスペック的には祐斗の聖魔剣に匹敵するぞ。良かったら貸してやろうか?」

 

「いらねぇよ! ……と言いたいところだが、取り敢えず借りとく」

 

 借りれる物は借りておく、か。恐らくアザゼルの事だから今も作ってるんだろうな。『閃光(ブレイザー・)と暗(シャイニング・)黒の龍(オア・ダークネス)絶剣(・ブレード)』を。

 

「そうかい。だが間違ってもソレをミカエルに見せびらかそうとするなよ」

 

 俺の忠告にアザゼルは聞き入れるも、ちゃんと約束するかは分からなかった。恐らく状況次第によってやるかもしれない。

 

 だったら最初から渡さなければ良いじゃないかと周囲に思われるだろう。けれどイッセーに少し暴露してしまった聖書の神(わたし)としてはアザゼルに何かしらの償いをしなければいけないので、聖書の神(わたし)は敢えて見逃す事にした。




取り敢えず本編はこれで終了です。

後は番外編を更新したら「ハイスクールD×D ~復活のG~」は完全に終了となります。


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番外編Ⅱ 前編

久々の更新です。

以前から言ったとおり、今回は番外編です。

あと今回はフライング投稿です。


 駒王協定が結ばれて数日後。

 

 俺――兵藤隆誠が嘗て天界の長として君臨していた聖書の神である事が判明した現在、(イッセーとリアスを除く)オカ研の一同から複雑そうに接されながらも日常的な生活を送っていた。

 

 因みに今は部室でイッセーとチェスをやっている。リアスが生徒会室へ行ってる為、戻ってくるまではチェスで時間を潰しているからだ。

 

「はい、チェックメイト。俺の勝ち、っと」

 

「だぁ~! また負けたぁ~!」

 

 俺のクイーンでチェックメイトとなった瞬間、イッセーは頭を手で掻きながら悔しそうな声を上げる。

 

「前から言ってるだろう、イッセー。目先の駒を取るだけじゃなく、常に二手三手を考えながら相手を誘導させろって」

 

「やっても兄貴が嘲笑うように俺の駒を取るからどうしようもねぇじゃねぇか!」

 

 指摘をしても反論するように言い返してくるイッセー。

 

「流石は聖書の神……ではなくて、リューセー先輩ですね」

 

「……これでイッセー先輩の三連敗です」

 

 俺とイッセーの勝負を見守っているのは祐斗と小猫。特に祐斗は俺の打ち方を観察するようにずっと注視していた。

 

 ってか祐斗、いつまで俺を聖書の神って呼んでるんだよ。俺としては早く今までどおりの先輩として見て欲しいんだが。

 

「ゼノヴィア、今度は君がやってみるか?」

 

「い、いえいえ! 私なんかでは主の相手は務まりませんので!」

 

 さり気なくゼノヴィアを誘ってみるも、俺の正体を知って以降からずっとこんな感じだ。ゼノヴィアは悪魔になっても信仰心は今も健在だからな。

 

「だったら、アーシアはどうだ?」

 

「えっと……私はやったことありませんので」

 

 アーシアはゼノヴィアと違って俺をリューセーとして見るも、聖書の神(わたし)に対して失礼な態度を取らないようにしてる感じだった。

 

「リューセーくん、イッセーくん、お茶のお代わりはいかがですか?」

 

 新しいお茶を入れてくれる朱乃はイッセーに対して普通だが、俺の時は少し緊張した感じで淹れていた。

 

「ギャスパー、いつまでも段ボール箱に入ってないで出てきたらどうだ? お前も久しぶりにチェスでも――」

 

「ぼ、僕も遠慮しておきますぅぅ!」

 

 部屋の片隅にある置かれてる大き目の段ボール箱にはいってるギャスパーに声を掛けるも、すぐに断られてしまった。

 

 聖書の神(わたし)の正体がバレてからと言うものの、皆は未だに俺に対してぎこちない様子だ。こうなるのを分かっていたから敢えて正体を隠していたんだが……今更どうこう言っても遅いか。どの道、聖書の神(わたし)の正体がバレるのは時間の問題だったし。

 

 ま、時間が経てば今まで通り接してくれると思うから、それまでの間は我慢するしかない。兄として接してくれるイッセー、対等に話してくれるリアスの二人が何よりの救いだし。

 

「ただいま。いま帰ったわ」

 

 リアスが入室してきた事により部員が勢揃いしたので、恒例のオカ研会議が漸く始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

「悪魔の活動報告書を提出、ねぇ。提出期限を失念してたなんて、お前らしくないミスだな」

 

「仕方ないじゃない。最近色々と事件が起きていたのだから」

 

「確かに」

 

「……他人事のように言ってるけれど、リューセーも事件の一人に含まれてるのよ」

 

 生徒会長のソーナに部の活動報告書を提出しに行ったリアスだったが、肝心な事を忘れていたようだ。

 

 ソーナに提出したのは表向きの活動報告書で、もう一つの悪魔としての活動報告書がメイン。特に後者の方はリアスにとっては死活問題。

 

 以前冥界について調べて知ったんだが、純血種のリアスは冥界にある上級悪魔が通う学校に行かなければならないようだ。向こうで取得しなければいけない悪魔学校の単位をリアスは駒王学園で取っている。その取得方法が悪魔の活動報告書による提出で、それを怠ってしまえば冥界に強制帰国させられてしまう。

 

「因みに活動報告書の内容は?」

 

「人間界の日本における魔物、妖怪の類を研究する事よ」

 

 あ、なるほど。だからリアスはオカルト研究部を立ち上げたって訳か。

 

「そう言う訳で、今から冥界に提出する活動報告書を作成するわ。今回はこの町に住む魔物と妖怪の近況を知りたいから、いつも通り、先ずは町外れの沼に棲む物知り河童に話を訊きに行きましょうか」

 

 河童? ……ああ、そう言えばいたな。変なラッパーの河童が。

 

 俺が河童のことを思い出してると、祐斗が挙手してリアスに告げた。

 

「部長、あの河童は故郷に戻りましたよ。実家のキュウリ栽培を継ぐと言ってました」

 

「……そう、実家に戻ったのね。確かにここでラッパーを目指すより堅実だわ」

 

「な、なぁ、そのラッパーな河童って何なんだ? 俺、初めて聞くんだけど」

 

 うんうんと頷いてるリアスに、イッセーが祐斗に尋ねようとする。

 

「キュウリ農家を継ぐのが嫌で家を飛び出した河童が、この町に住み着いていたんだよ。ラップを嗜んでいたんだ。『尻子玉ラプソディー』が有名だよ」

 

 その曲は確か俺が河童を偶然見つけた時に――

 

「……皿が乾くような都会の光、伝えきれない俺の怒り、お前の尻子玉抜いてみたり」

 

 そうそう、小猫が言ってる内容のラップを……っておい。小猫が急に歌いだしてるし。

 

「小猫ちゃんは彼のファンだったんだ」

 

「「………………………」」

 

 祐斗の台詞に、イッセーと俺は小猫がラップ好きだった事に驚いた。意外過ぎて言葉が出ない。

 

「河童が無理なら、四丁目の古ぼけたお屋敷に住み着いていた噂好きのデュラハンね」

 

 デュラハン? ……ああ、いましたね。頚椎ヘルニアになってると言う摩訶不思議なデュラハンが。

 

「残念ですがあのデュラハンは先日、重度の頚椎ヘルニアになって、専門の病院に入院してますわ」

 

「そう、デュラハンも大変ね。首は大事にしなければいけないわ」

 

 朱乃の報告に息をつくリアス。

 

 不思議だな~。首無しの筈なのに頚椎ヘルニアになるデュラハンって普通は考えられないんだが。

 

(なぁ兄貴。神様として訊きたいんだが、デュラハンって首無しの筈なのに何で頚椎ヘルニアになるんだ?)

 

(いくら元神の俺でも知らん。ソッチ関連は専門外だ)

 

 目で語るように見てくるイッセーに俺は首を横に振る。俺たち兄弟は言葉に出さなくても目だけで通じる事が出来るからな。

 

「ねぇリューセー、貴方に知り合いの妖怪や魔物とかいないかしら?」

 

「何故俺に訊く?」

 

「貴方がこの前、人間に転生してイッセーを連れて修行の旅をしてたと言ってたから、もしかしたら知り合いがいるんじゃないかと思ったのよ」

 

「成程。まぁ確かにいるにはいるが……生憎、この町にいる妖怪達の事は知ってても交流は無いよ」

 

 交流があったのは、去年の修学旅行で京都へ行った時に出会った妖怪達ぐらいだ。

 

 そう言えば向こうで会った九尾の()(さか)さんと()(のう)ちゃんは元気にしてるかなぁ。ま、会ったら会ったで面倒な事になるのは確実だが。

 

「けど、ソッチ関連に精通してる人間の知り合いならいるぞ。多分リアスも知ってると思う」

 

「……まさかこの学園にいる彼女の事かしら?」

 

「ああ。俺のクラスメートの阿倍(あべ)(きよ)()だ」

 

 

 

 

 

 

「まさか貴方が彼女と接点があったなんて。まぁ、同じ教室にいるのだから知ってるのは当然ね」

 

「普段はあまり喋る事はないが、アイツとは三年連続同じクラスだから、それなりの付き合いはあるぞ」

 

 テニスコートから聞こえてくるボールをラケットで返す音がする中、俺はリアスと一緒にテニス場へ向かっていた。

 

 フェンスの向こうではテニスウェアを着て練習している女子達がいた。もしイッセーがいたら確実に興奮してガン見してるだろうな。

 

「あっ! 兵藤先輩がリアス先輩と一緒に歩いてる!」

 

「羨ましい~!」

 

「野獣の兵藤弟より断然良いけど、それでもリアス様の隣で歩くなんて妬ましいわ!」

 

 向こうの女子達がコッチを見て騒がしくなってるが、取り敢えず無視するとしよう。

 

「それでリアス、阿倍はお前の事を悪魔だと知ってるのか?」

 

「一応ね。この学校は悪魔と親交のある特殊な環境の人間も受け入れているの。その際、この学校を根城にしている悪魔について一通り話しているのよ。尤も、極普通の一般人と偽って入学してる生徒もいたけれど」

 

「……そう言えばいましたねぇ」

 

 リアスの最後の台詞に耳が痛い俺は明後日の方向を見ながら呟いた。

 

 しょうがないだろ。俺とイッセーが家の近くで通える学園が此処しかなかったんだからさ。

 

「でもまぁ、そんな生徒の一人に完全ベタ惚れしたどこかの悪魔さんも、咎めないどころか逆にアッサリと受け入れてるじゃないか」

 

「……そんな悪魔がいたわね」

 

 俺のささやかな反撃の台詞にリアスは言い返さずにそっぽを向いて呟いた。多分頬を赤らめてると思う。

 

 因みに俺とリアスは現在、テニス場の近くにあるベンチに腰を下ろして話している。

 

「ってかリアス、いつまでも遠回しなアプローチばかりしてないで、そろそろイッセーに本気の告白をしたらどうなんだ?」

 

「ほ、ほっといて頂戴! 色々と準備って言うものがあるのよ!」

 

「……あ、そう」

 

 その準備に手間取ってアーシアだけじゃなく、朱乃に先を越されたら元も子もないけどな。何てツッコミたいが、止めておくとしよう。

 

 恋愛はあくまで当人達がやるものだから、俺がああだこうだと口出しする事じゃないし。

 

「ね、ねぇ、リアス先輩の顔が赤いんだけど……」

 

「…まさかあの二人、じ、実は付き合ってたりとか……?」

 

 コラコラ、こっちの一部会話を盗み聞いてるテニス部の女子達。俺とリアスは付き合ってないぞ。

 

 リアスは俺じゃなくて弟のイッセーに絶賛ベタ惚れなんだぞ。と言った瞬間、女子達からは信じられないような絶叫と同時に慟哭するのは確実だろうな。

 

 すると、コートからパカラパカラと馬の蹄の音が耳に入り込んでくる。

 

「オッホッホッホッホ! ごきげんよう、リアスさんに兵藤君! あなた達がここへ来るなんて珍しいわね! 歓迎するわよ!」

 

 巨躯の馬に騎乗した女性が高笑いしながら現れたのは、栗毛を上品そうなロールにしてる三年のテニス部部長――阿倍清芽だ。

 

 けれど俺としては阿倍よりも、その後方にいるデュラハンと騎乗してる馬が一番気になるんだが。

 

 

 ドゥヒヒヒヒヒィィィン!

 

 

 おおう、馬のけたたましい(いなな)きだ。よく見ると黒い肌の馬で、目がギラギラとしていて鋭い眼光を放ってるし、鼻息も荒い。まるで世紀末覇者が乗りそうな馬だぞ。

 

 阿倍は馬から降りると、「どーどー」と馬を宥める。同時にデュラハンも降りてきた。

 

「ウフフ、良い馬でしょ? 先日、この町に住むデュラハンのスミス氏のお首が入院したので、その間預かる事になりましたの」

 

 首が入院? そのデュラハンはもしかして、さっき部室で朱乃が言ってた重度の頚椎ヘルニアになったデュラハンの事か?

 

「こちらはスミス氏の胴体君ですわ」

 

 首のないデュラハンが頭を下げるように挨拶をしてくる。見てるだけでツッコミ所が満載なデュラハンだな。

 

 と言うか、腕にスイカを抱えてるのは何故? 何か抱えてないと落ち着かないのか?

 

「あら、魔物を学校に連れ込むのは校則違反よ」

 

 と、リアスが阿倍に言う。いやいや、校則違反以前の問題だと思うんだが……。

 

「お首が入院中、胴体君は単独行動出来ないでしょう? だから、私のところで馬と共に預かっているの。けれど、タダ飯はいけないと思いましたもので、お仕事を与えたの」

 

 阿倍が言う仕事とは、テニス部のマスコットキャラクターとして働かせてるようだ。しかも名前は『ノーヘッド本田』だと。

 

「あのさぁ阿倍、事情は分かったが魔物をマスコットにするのはどうかと……」

 

 俺がツッコムも、リアスは納得したように頷いている。

 

「マスコットキャラなら仕方ないわ」

 

「ちょっと待てリアス!? それで良いのか!? 首がないんだぞ!?」

 

「首は問題じゃないわ」

 

 いやいや、如何考えても問題だろ! 首無しのデュラハンをマスコットキャラにしてる時点で大問題だっての!

 

「会長も同じ事を仰って、応じてくださいましたわ」

 

 おいソーナ! お前も何考えてんだよ!? デュラハンを学校に置いといたら生徒が騒ぎ出して――

 

「キャー! 本田くーん! 西洋的な甲冑が今日も光ってるぅぅ!」

 

「首がないなんて斬新なマスコットだよね! かわいいー!」

 

 ……フェンス向こうのテニス女子部員が騒いではいるが、恐怖的な騒ぎじゃないようだ。ってか凄い人気あるんだな、このデュラハン。女子達の声に応じるように手をあげてるし。

 

 何と言うか……悪魔のリアスやソーナ達だけじゃなく、今時の女子高生の思考が全く分からん。何かツッコんでる俺がバカみたいに見えるんだが。

 

「えっと……デュラハン、じゃなくて本田。マスコットの扱いに不満はないのか? お前は本来、人間の恐怖を糧にする筈の存在なんだが……」

 

 俺の質問に本田はパネルらしきものを取り出し、そこへマジックペンを走らせる。

 

『拙者は女の子からの黄色い声援が一番の糧となってるので問題なし! 寧ろコッチが一番良い!』

 

「………あ、そう」

 

 書かれたパネルを読んだ後の俺は、もう言い返す気力が無くなってしまった。

 

 どうやら一部の魔物に対する認識を改める必要がありそうだ。聖書の神(わたし)もまだまだ勉強不足、なのだろうか?

 

 色々な意味で疲れてる俺を他所に、阿倍は改めてリアスに問う。

 

「それでリアスさん。兵藤君を連れて何のご用かしら?」

 

「テニス部部長の阿倍清芽さん、悪いのだけれど、魔物使いとしてインタビューしても良いかしら? 出来れば使役している魔物と妖怪についていくつか教えてくれると嬉しいわ。リュ……兵藤君とは部活仲間で、私が悪魔だと言う事も知ってるから安心して。貴女と同じクラスにいる彼なら円滑に話を進めると思って連れてきたの」

 

 リアスがそう頼み込むが――

 

「嫌ですわよ」

 

 阿倍は即行で断りを入れてくる。

 

「どうしてわたくしの事を悪魔である貴女に話さなければいけないのかしら? 特殊な環境で育ったわたくしをこの学校に入れてくれたのは感謝しているけれど、それとこれは別でしょ? リアスさんは色んな業界にパイプを持っていそうだし、わたくしに拘る必要も無いのではなくて? それに兵藤君が同じクラスにいるからって、わたくしはそう簡単に承諾しないので」

 

 恩はあっても義理はないってところか。だがリアスは至って冷静に交渉を続ける。

 

「私とパイプを持つ、という選択肢はダメなのかしら?」

 

 阿倍は口元に手をやりながら高笑いをする。

 

「オホホホホホ! 随分と自意識過剰ね! 貴女と関係を持ったら、後が怖そうなんだもの! 同様に悪魔の会長さんとも一定の距離を取って付き合いたいわ。悪魔との取引なんて、慎重にやらないと人間の兵藤君みたいに魂を抜かれた下僕になってしまうもの!」

 

「「………………」」

 

 阿倍の反応にリアスだけじゃなく俺も呆れ顔で嘆息する。

 

 まぁ確かに考えてみれば、これが悪魔関連に関わってない者の認識とも言えるだろう。

 

 悪魔以外の者にとってみれば、悪魔は魔の象徴だ。悪魔との契約は即ち、相応の代価を支払う事になる。

 

「あのなぁ、阿倍。言っておくが俺はリアスの下僕になんかなってないぞ」

 

「では何故悪魔のリアスさんと一緒にいるの?」

 

「今はちょっとした協力関係になってるんだ。どっちが上とか下とか全くない対等な関係だよ。それとお前は悪魔について少し誤認識してるようだから教えておくが、今時の悪魔がインタビュー程度の取引なんかで魂を抜いたりしないぞ」

 

「兵藤君の言うとおりよ。普通にお茶のお誘いやお食事でお礼をするわ。それでもダメかしら?」

 

 俺が悪魔についてのフォローをすると、リアスはそれに乗るように言ってくる。すると、阿倍は何かを思いついたのか、いやらしい笑みを浮かべていた。

 

「いいことを思いつきましたわ。タダでやっても面白くなくてよ。こう言うのはどうかしら? わたくしと使役してる魔物、それにリアスさんと兵藤君を含めたオカ研のメンバーでテニス勝負をするの。勝った方が言う事をタダで何でも聞くというのは?」

 

 いきなりテニス勝負か。しかも自分の得意なスポーツでやろうとするとは随分と意地の悪い。

 

「あら、それは面白そうね。私もテニスなら出来るわ。私たちが勝ったら、活動報告書作成の為、貴女にはインタビューに協力してもらう事でいいかしら? それで清芽さんが勝ったら何を望むの?」

 

 リアスはアッサリと承諾する。相変わらず勝負事が好きだな。

 

 阿倍の視線がふいに俺の方へと向き、何か思い出したかのように尋ねようとする。

 

「……そういえば兵藤君の弟って、確かいま業界で噂の『赤い龍の帝王(ウェルシュ・ドラゴン)』こと赤龍帝だったわよね?」

 

「そうだが? ってか、お前の耳にも入っていたのか」

 

「当然よ。因みに彼はリアスさんの眷族なの?」

 

「いいや。事情があって今はまだ人間のままだが?」

 

 俺の返答を聞いた阿倍は何かを考える仕草をしてると、閃いたように俺に言おうとする。

 

「決めましたわ。兵藤君、わたくしが勝ったら、兵藤君の弟を貸してくださる? レアなドラゴンなんて最高ですわ! 悪魔の眷族でないなら、彼を私の――」

 

「ダメよ」

 

 リアスが笑顔で即行で拒否する。その笑顔はニッコリしていながらも怖い雰囲気を醸し出していた。

 

 イッセーにベタ惚れであるリアスが、阿倍の条件を受け入れるなんて事は絶対しないのは予想済みだ。

 

「悪いけど、イッセーは私の大事な眷族候補なの。そういう願いならば、触れる事も許さないわ」

 

「あら? 自分の眷属でもないと言うのに、人間の彼を束縛するのは如何なものかと思うわよ?」

 

「とにかくダメなものはダメよ」

 

 もしここにイッセーがいたら、間違いなく自分のだとアピールするように引き寄せて抱き付くんだろうな。

 

 コイツは自分の眷族悪魔と眷族候補(イッセーとアーシア)(+俺)に対しては温厚だが、その手の話には厳しい。益してや、自分の愛しい男を盗られたくないから尚更だ。

 

 リアスの反応を見て、阿倍は諦めるように嘆息する。

 

「なら、このお話は無かった事に――」

 

「いいだろう。了解した」

 

 俺がすぐに了解の返事をした事にリアスが驚いた顔をする。

 

「俺達が勝ったら、阿倍には報告作成書を手伝って貰って、阿倍が勝てばイッセーを一時貸し出そう。それでいいんだな?」

 

「ちょっとリュ……じゃなくて兵藤君! イッセーがいないのに、何勝手な事を言ってるのよ!?」

 

 リアスが俺に異を唱えようとする。

 

「大丈夫だって。勝てば問題無いんだから。それともリアスはテニスだと阿倍に勝てないのか?」

 

「っ……。わかったわ、やればいいんでしょう」

 

 勝てないと言われてカチンとくるリアスだったが、渋々頷いて承認を得たのを見た阿倍が高笑いする。

 

「オホホホホホホ! 商談成立ですわね! 正直言って、テニス部の主将たるわたくしと対決するなんて無謀ですわ! 精々練習をなさい! わたくしの使役する可愛い魔物達はテニスも完璧にこなしますわよ!」

 

「上級悪魔のテニスをお見せするわ。貴女なんかに私のかわいいイッセーを絶対に渡すものですか!」

 

「それは楽しみですわ! ウフフ、そうね、兵藤君の弟くんを手に入れたら、貴女とは違う方法で可愛がって差し上げますわ」

 

 顔を近づけ、互いに笑うリアスと阿倍。顔は笑ってるが、両者共に凄い殺意を感じるよ。どっちも本気だ。弟よ、賭けの対象にさせてすまない。いずれ何か詫びるから。

 

「リューセー。もし負けたらどうなるか分かってるわよね?」

 

「勿論だ。言い出したのは俺だから、ちゃんと責任は取るよ」

 

 話を終えてテニス場から出る途中、怖い笑みで脅してくるリアスに俺は涼しい顔で答えた。

 

 そして部室に戻った俺達はオカ研一同に説明すると――

 

「おい待て兄貴! 勝手に俺を賭けの対象にしてんじゃねぇよ!」

 

「お前を所望する相手は、三年のテニス部部長の阿倍清芽だが?」

 

「……え? あの美少女先輩が俺を……。いや、まぁ、その、なんだ……。そういう理由なら仕方ないな」

 

 すぐにイッセーが抗議するも、阿倍の事を教えた途端にコロッと態度が変わった。

 

「「イッセー(さん)!」」

 

「いででででっ! ふ、二人とも痛いです!」

 

 美少女の阿倍に対して鼻の下を伸ばし始めたイッセーに、リアスとアーシアが同時にそれぞれイッセーの片耳を強く引っ張り始めた。

 

 全く。リアスとアーシアのダブル美少女に好かれてるってのに、当の本人が未だに全然気付いていないとは。以前『ハーレム王になりたい!』とか言ってたけど、それ以前に先ずは女心を理解して欲しいもんだ。




次回は皆さんもご存知だと思いますが、イッセーの幻想を壊すアレが登場します。


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番外編Ⅱ 後編

今回は連続フライング投稿です!


 決戦の当日。

 

「ウフフ。逃げずに来た事だけは褒めてさしあげてよ」

 

 先にコートで待っていた阿倍が不敵な笑みで俺たちオカ研一同を迎え入れてくれていた。フェンスの向こうには様々な魔物達が睨んでいる。かなりの数だな。あの魔物達の中から俺達とテニス勝負をするのか。

 

 あの中にはマスコットキャラのデュラハン胴体――本田がこちらに手を振ってくれていた。敵側だと言うのに、お気遣いありがとな。

 

「おい兄貴、あのスイカを持ったデュラハンは何なんだ?」

 

「あれはな――」

 

 テニス部のマスコットキャラで女子達に人気がある事を教えると――

 

「何だそりゃ!? 首ないくせになんで女子にモテるんだよ!? 首が無い方がテニス部にウケるのか!? じゃあ俺も俺の首をカッティングしたら……」

 

「落ち着けイッセー。そんな事したら死ぬぞ」

 

 イッセーは本田に嫉妬の炎をメラメラと燃やしていた。だからって女子にモテたいが為に断頭するのは止めてくれよ。

 

「兵藤君、彼が噂の赤龍帝でよろしくて?」

 

「ああ、そうだ」

 

「ど、どうも、初めまして。弟の兵藤一誠です」

 

 挨拶をするイッセーを見た阿倍はいやらしい笑みを浮かべる。

 

「ウフフ。リアスさん、今の内に彼とお別れの時間を作ってもよくてよ?」

 

「そんな必要はないわ。私たちが勝つもの」

 

 

 バチバチッ!

 

 

 おお、阿倍とリアスが火花を散らしてるよ。両者共にやる気全開だ。

 

「……部長と阿倍先輩との間に何があったんだ?」

 

「まぁ、ちょっとな」

 

 二人のやり取りにイッセーは少し引くも、俺は言葉を濁すだけで留まらせた。 

 

「試合形式はシングル二戦、ダブルス一戦の三試合。二戦勝った方の勝ちですわ。わたくしとリアスさんは選手として確定。残る選手はお互いくじ引きで決めましょう」

 

 くじは阿倍が既に用意していた。随分と用意がいい事で。えっと、くじの先端の色が青でシングル、赤がダブルスか。

 

「シングルね」

 

「シングルだ」

 

 リアスとゼノヴィアがシングルか。

 

「あ、ダブルスだ」

 

 まさか俺がダブルスの一人になるとはな。

 

 さて、残る一人の相棒は――

 

「俺のパートナーはイッセーか。ま、取り敢えず兄弟で頑張ろうか」

 

「何でよりにもよって俺なんだよ。いくら兄貴でも、男同士のペアなんか面白くもねぇよ」

 

 苦笑する俺と嫌そうな顔をするイッセー。俺としても誰でも良かったんだが、弟のイッセーがパートナーなら好都合だ。

 

 そんな訳で一戦目はリアスの試合。相手は――。

 

「よろしくお願いしま~す♪」

 

 両腕が翼となってる女性型の魔物――ハーピーだった。

 

「うおおおっ! あんな可愛いハーピーちゃんがいるのかよ!」

 

 美少女ハーピーを見たイッセーが興奮するように凝視している。特に胸の辺りを。

 

 ハーピーは主に女性が多い有翼(ゆうよく)の魔物。以前俺がイッセーと旅をしてた時に彼女とは別のハーピーに襲われた事がある。その時ははぐれ悪魔のバイサーみたいに容姿が醜く、人を襲っては食してる有害な魔物だった。言うまでもなく俺とイッセーで倒したけど。

 

 俺が過去の出来事を思い出してる中、試合はいつの間にか始まっていた。ハーピーは器用に羽の手でラケットを持ち、上手くテニスボールを打っている。

 

「部長がんばって!」

 

 イッセーが声の限り声援を送っていた。けどコイツの事だから、心の中ではハーピーも応援してるだろうな。時折、彼女にさり気なく熱い視線を送ってるし。浮気性な弟だな。リアスに知られたら怒られるぞ?

 

「隙だらけよ、ハーピーさん」

 

「いや~ん、この悪魔のお姉さん、すごくつよ~い」

 

 第一試合の結果は言うまでもなくリアスの圧倒的勝利(ワンサイドゲーム)で終わり、俺たちオカ研は一勝を得た。これで次のゼノヴィアが勝てば俺たちの勝利で終わる。

 

「さて、私の番だね」

 

「頑張れよ、ゼノヴィア」

 

「は、はい! 頑張ります!」

 

 ラケットをクルクルと回していたゼノヴィアだったが、俺に声をかけられた事により落としてしまった。励ましのつもりが、逆に緊張を与えてしまったな。

 

「試合に勝てたら、今度の休日には俺が君の剣術の特訓相手になる事を約束するよ」

 

「しゅ、主が私の特訓相手に!? ……絶対に勝ってきます!!」

 

「ゼノヴィア、君の心意気は大変結構だが、その呼び方は止めてくれ」

 

 剣術の特訓相手になるだけで、まさかあそこまで興奮するとは。却って失敗したかも。

 

「リューセー先輩、ゼノヴィアにだけそんな羨ましいご褒美を与えるなんて……」

 

「機会があったら、祐斗にもいずれ修行をつけるよ」

 

 近くにいる祐斗が拗ねたように言ってくるので、確約ではないが修行の約束を与えた。

 

 ってか、俺の修行相手=ご褒美なのかよ。ま、俺の修行に飢えてるゼノヴィアや祐斗からすれば、そんな公式となるんだろうが。

 

「お相手お願いします」

 

 そのゼノヴィアが対戦する相手は下半身が蛇の女性――ラミアだった。アレも女性が多い種族の魔物だ。

 

「おおおっ! ラミアちゃんも良いっ!」

 

 またしても興奮するイッセー。お前は魔物が美少女なら何でもOKなんだな。

 

 それはそうと、試合の方は――

 

「むっ! やる!」

 

 予想外にもゼノヴィアが苦戦していた。

 

「そこ!」

 

 打ち返すラミア。しかも意外に強い。それもその筈。下半身が蛇の為、余り動く事無く身体を伸ばすだけでコート内を占有してるからな。しかも蛇だけに粘り強く、攻撃を堪えてしのぎ、逆転を待つタイプだ。

 

「主よ、申し訳ありません! 私の力量不足でした!」

 

「分かったから、そんな絶望したように言わないでくれ。あとさっきも言ったけど、いい加減に呼び方を直せ」

 

 俺に頭を下げて謝ってくるゼノヴィア。長期戦の末、ゼノヴィアが負けてしまったから。

 

 どうやら最終戦は俺とイッセーのダブルス戦のようだ。

 

「リューセー。分かってると思うけど、負けたら承知しないわよ」

 

「はいはい、ちゃんと勝ってくるって」

 

 念押しをしてくるリアスに答える俺は、ダブルスパートナーのイッセーを連れてコート内に入る。

 

「なぁ、何で部長はあんな真剣な顔で言ってきたんだ? いくら報告書作成つっても、この試合はそんなに大事な事なのか?」

 

「……強いて言うなら、これは女の戦いでもあるって事だ」

 

「はぁ?」

 

 訳が分からないと言う顔をするイッセー。

 

 リアスがあそこまで真剣になってるのは、大好きなイッセーを阿倍に盗られたくないからな。と言えば、イッセーはどんな反応をするのやら。

 

「あらあら、テニス経験のない貴方たちとは。わたくしの勝ちは決まったも同然ですわね。因みにわたくしも最後のダブルスに当たりましたわ。パートナーは――雪女ですわね。おいでなさい、わたくしの可愛い雪女ちゃん!」

 

「何ぃ! 雪女だとぉ!?」

 

 阿倍が妖怪の群れに向かって叫んだ途端、食いついたイッセーが即行で阿倍と同じ方を見る。

 

 ハーピー、ラミアと来て今度は雪女か。その雪女もさぞかしイッセー好みの美少女なんだろうな。

 

「ホキョォォォォォオオオオオオオオオオオッッ!」

 

「「…………………は?」」

 

 俺とイッセーの眼前に現れたのは巨躯の白いゴリラで咆哮をあげていた。

 

 ………………え? アレが雪女なのか?

 

 

 ドンドンドンドンドンドンッ!

 

 

 俺とイッセーが相手の予想外な姿に呆然としてる中、目の前のゴリラは太い両腕で分厚い胸板を叩き、ドラミングをし出した。俺たち兄弟の反応を他所に阿倍がゴリラを紹介しようとする。

 

「紹介しますわ。雪女こと――イエティ(メス)のクリスティよ」

 

「クリスティィイィィィイイイイッ!?」

 

「おいおい、マジかよ……」

 

 予想を通り越した名前と報告にイッセーはギャグ漫画みたいに目玉が飛び出るほどに驚いていた。俺も驚いているがイッセーほどじゃない。

 

 今回ばかりは俺もイッセーと同じ気持ちだよ。聖書の神(わたし)は日本の妖怪について余り詳しくないが、目の前のアレはどう見ても雪女と呼ぶのには無理がある。以前に使い魔の森で見た、筋骨隆々のウンディーネより性質が悪いぞ。

 

 しかもアレの頭部にはプリティなリボンを付けているし。自分がメスである為のアピールなんだろうか。

 

「ふざけんなぁ! 雪女さまがこんな毛むくじゃらでドラミングなんてする訳ねぇだろぉぉっ! どっから見てもゴリラじゃねぇか! これ、ゴリラだよ!」

 

(確かに……)

 

 血涙を流して訴えるイッセーに俺が内心頷いてると、阿倍は怒りを露にする。

 

「ふざけないで! クリスティは立派な雪女ですわよ! この娘のお母さんは立派な雪女でお山を守る為、登山家チームを何度も追い払ったのよ!」

 

「そりゃ逃げるわ! こんなの来たら誰だって逃げるわ! アンタも山で白くてでっかいゴリラに会ってみろ! 逃げる以外の選択肢があるってーのかよ!? もし俺だったら全力のドラゴン波で消し飛ばしてるわ!」

 

 確かにイッセーだったら登山中に目の前のゴリラが雪女と知った瞬間、記憶を削除する為にドラゴン波で消そうとするだろう。

 

「ウホウホ」

 

 ウホウホって……鳴き声からしても完璧にゴリラだな。それでも雪女なんだろうが。

 

「リューセー! イッセー! 雪女の冷凍ブレスは強烈よ! 喰らえば忽ち氷の像だわ!」

 

「ちょっと待って下さい部長!? これ、マジで雪女なんですか!?」

 

 控えにいるリアスが助言をしてきた。リアスがコレを本当に雪女と認識してるって事は、どうやら本物のようだな。

 

「みたいだな、イッセー。雪女の攻撃には気をつけようか」

 

「兄貴までコレを雪女と認めんの!?」

 

「事実は小説よりも奇なりって言うだろ? お前もいい加減に受け入れろ」

 

「嫌だぁぁぁぁぁぁっ! こんな奇なりはいらないよぉぉぉっ! 夢でもいい! 俺はエッチな雪女が好きなんだぁぁぁぁ! ゴリラが冷凍ブレス吐くなんて怪獣だろ! 冷凍ゴリラ怪獣ゴリスティだよぉぉ! 帰れよお前! 山に帰れよぉぉぉっ! そして神様ぁぁぁ! 俺に本当の雪女を見せてくれぇぇぇ!」

 

 知るかよ。ってか俺を見ながら言うなっての。いくら聖書の神(わたし)でも、お前の下らん願望を叶える訳が無いだろうが!

 

「クリスティ。彼は雪女に興味津々の様子ですわよ? 美しさは罪ですわね」

 

「やめてくれ! 俺はゴリラになんぞ興味ないから!」

 

 でかい声を出して否定するイッセーに、ゴリラこと雪女はイッセーをジッと見つめた後――

 

「ウホホ(笑)」

 

 嘲笑するかのような笑みを浮かべて一瞥していた。

 

 

 ブチンッ! ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!

 

 

 雪女の嘲笑にイッセーはブチ切れて、全身から怒りの赤い闘気(オーラ)を放出していた。

 

「兄貴ぃいいぃぃぃっっ!! このクリスティ! いや、ゴリスティを何が何でもぶっ倒すぞぉぉおおおぉぉぉ!!」

 

「分かった。分かったから、さっさとその物騒な闘気(もの)を抑えろ。お前はテニスコートを壊す気か?」

 

 イッセーの行動が予想外だったのか、阿倍と雪女が驚愕してるし。

 

「な、なんてオーラなの!? これが赤龍帝の力!? クリスティ、決して油断しないように!」

 

「ウホッ!」

 

 阿倍と雪女はイッセーの力を感じ取って気を引き締めたようだ。ま、そうしてくれた方がコッチとしては面白くないし。

 

「イッセー、阿倍と雪女は本気で――」

 

「兄貴! 頼むからゴリスティを雪女と呼ばないでくれ!」

 

「……突っ込む所はソコかよ」

 

 この愚弟(バカ)はアレを雪女と絶対に認めたくないようだな。いい加減に受け入れろよ、全く。

 

「イッセーさん、応援します! クリスティちゃんに負けないで!」

 

「頑張ってね、イッセーくん。カッコイイところを期待してますわ」

 

 アーシアと朱乃の応援でイッセーは更にやる気を見せている。

 

「兄貴、絶対に勝つぞ!!」

 

「当然。勝負をするからには勝たないとな」

 

 でないと俺はリアスからお仕置きされてしまうし。

 

 すると、気合の入った俺とイッセーの視界にあり得ない物体が飛び込んでくる。

 

 

 ブゥゥゥゥン!

 

 

 空気を震わす鈍い音がした。その発生源は雪女が素振りをしてる音だ。

 

「おいなんだよ、そのどデカいラケットは!?」

 

「ソレは明らかにルール違反じゃないのか?」

 

 雪女が持ってる巨大ラケットにイッセーと俺は突っ込むが、阿倍は平然と答える。

 

「特製ラケットですわ」

 

「どう見ても鈍器じゃねぇか! つーか武器だよ、あれ! 巨大なモンスターでも殴り倒せる勢いの大きさじゃないですか!」

 

 イッセーが再度突っ込むも安部は何も聞いてない様に試合を始めようとした。良い根性してるよ、アイツ。

 

 コイントスで勝った俺はサーブの権利を選び、阿倍はコートの権利を得た。

 

(テニスをやるなんて中学の体育以来だなぁ)

 

 持ってるボールを何度かコートに弾ませながら中学時代を思い出す俺。

 

 試合形式でやった時、俺は某テニス漫画の主人公が使ってたサーブを真似したな。

 

「確かこんな感じだった、な!」

 

 ボールを天高く放り投げて一気に打ち出す。それは相手コートにバウンドした瞬間――

 

 

 ギュンッ!

 

 

「なっ!?」

 

 阿倍の顔面を狙うように弾むと、阿倍は打ち返さずにボールを躱した。それにより先ずはコチラがポイント先取。

 

 阿倍や雪女だけじゃなく、控えにいるリアス達も驚くように静まりかえっている。

 

「よしっ、成功!」

 

「おいおい、ありゃツイストサーブじゃねぇか。いつの間にそんなもん出来たんだよ」

 

 先制点が取れた事に俺が拳を握り締めてガッツポーズをしてると、イッセーは呆れ顔で言ってきた。

 

「中学の頃に読んでた週間のテニス漫画を参考にしたら出来るようになったんだ」

 

「ああ、アレか。確か『テニスのキング様』の越後リューイチってキャラが使ってた……」

 

 イッセーもその漫画を読んでた記憶があったのか、現在月刊で連載中の漫画を思い出していた。

 

 あの漫画の初期は普通のテニスをやっていたんだが、連載が進むにつれて段々非常識極まりないテニスになってるから読む気が失せたんだよな。

 

 因みにあのサーブは中学の授業でやった時、同じクラスにいたテニス部員から猛烈なスカウトをされていた。当然断ったけどな。

 

「やってくれたわね、兵藤くん。このわたくしにツイストサーブを打つだなんて、いい度胸してるわ……!」

 

「ハハハ。テニス部部長ともあろうお方が俺程度のツイストサーブにビビるとは、まだまだだな」

 

「っ! ……上等ですわ!」

 

 思わず越後リューイチの口癖を言ってみると、阿倍はカチンときたのか顔が引き攣っていた。あの様子を見る限り、完全に本気となったようだな。

 

 もう一度ツイストサーブで点を取ろうとするが、ボールがバウンドした瞬間に腰を落とした阿倍は即座に打ち返す。ここからはラリーが始まろうとする。

 

 暫くは阿倍とのラリーが続いたので、埒があかないと思った俺は咄嗟に雪女の方へ向かって打つ。

 

「クリスティ! そちらに行きましたわ! 蹴散らしなさい!」

 

「イッセー、構えろ! 来るぞ!」

 

 阿倍と俺が叫ぶ。さっきまで突っ立っていたイッセーが構えると、雪女は眼光鋭く身構える。

 

 どうでもいいんだがアレ、やっぱり雪女には見えないんだけど。

 

「ウホッ!」

 

 

 ドゴンッ!

 

 

 ボールを打ち返すラケットとは思えない爆音がコート中に鳴り響いた。

 

 刹那、イッセーの真横を超スピードのボールが通り過ぎて――

 

 

 ドッガァァァァァアアアアンッ!

 

 

 凄まじい炸裂音が後方から聞こえてきた。

 

「「……………………」」

 

 言葉を失った俺とイッセーは恐る恐る後ろへ振り向くと、そこには巨大なクレーターが生み出されていた。

 

「おおおおおーいッ! コートが破壊されてる上に、ボールが弾け飛んだじゃないか!? これじゃ打てねぇだろ!」

 

 イッセーの言うとおり、さっき雪女が打った一撃でボールが弾け飛んでいた。あの雪女は加減して打つ事は出来ないのか?

 

 一先ず新しいボールで試合を再開させると、雪女も流石に今度は普通に打ち返してきた。

 

「ジャングルに帰れ! このゴリラめ!」

 

 本格的なダブルスのラリーが続く。イッセーは打ち返しながらも雪女を罵倒しているが。

 

「違うわ! クリスティの故郷は日本アルプスですわよ!」

 

「日本産でクリスティ!? 日本アルプスは外国とでも言うのかよ!?」

 

 阿倍とイッセーの会話を無視してラリーを続ける。コチラは漸くテニスに慣れ始めたので、ここからは兄弟のコンビプレーを見せる為のアイコンタクトを送ると、気付いたイッセーはコクリと頷いた。

 

 いざ兵藤兄弟のコンビプレーを見せようとしていたら、雪女が突然口を大きく開けて――

 

 

 ブフゥゥゥゥゥッッ!!

 

 

「うわっ!」

 

「イッセー!?」

 

 雪女の口から吹雪が吹き出てきた。成程、コレが例の冷凍ブレスか。ってか、試合中にそんなの使うのは、普通に考えて反則なんだが。

 

 俺が常識的に考えてると、イッセーのラケットを持つ手が凍りづけとなっていた。

 

 動きの悪くなったイッセーに、阿倍はその隙を突くように点数を取り続ける。

 

「オホホホホ! 兵藤くん、これはわたくし達の勝ちですわね!」

 

 口元に手を当てて高笑いする阿倍。

 

「おいイッセー、もう向こうは勝った気でいるぞ?」

 

「舐めんじゃねぇぇええええぇぇぇぇッ!!」

 

 

 ゴォォオオオオォォォォッ!!!

 

 

 イッセーが全身からオーラを放出すると、イッセーの手を覆ってる氷があっと言う間に融けていく。

 

「ウホッ!?」

 

「そんな!? クリスティの冷凍ブレスは極地の氷河に匹敵する氷点下の筈なのに!」

 

 これには雪女と阿倍も完全に予想外のようで再び驚愕していた。

 

「今の俺の怒りはマグマみたく煮え滾ってんだ!! そんな氷河程度の冷凍ブレスなんざ一瞬で融かしてやらぁぁぁッ!」

 

 うん。確かにイッセーから放出してるオーラが熱いよ。イッセーのオーラと夏場によって、イッセーの周囲が灼熱地獄みたいに物凄く暑くて敵わん。

 

 本当なら闘気(オーラ)を消せと言いたいところだが、雪女の冷凍ブレスを封じるにはコレが最適なので、俺は敢えて我慢する事にした。

 

「そんじゃイッセー、ここからは俺たち兄弟のコンビプレーで決めるぞ」

 

「おう!」

 

 俺とイッセーは息を吹き返したように、次々と決めて阿倍と雪女を翻弄させた。

 

 

 

 

 

 

「わたくし達の負けですわ。仕方ないですわね、約束通りインタビューにお答えします」

 

 と、阿倍はつまらなそうに呟いた。

 

 阿倍の言うとおり、俺たちオカ研の勝利。イッセーの怒りの闘気(オーラ)によって雪女の冷凍ブレスを封じる事が出来たお蔭だ。

 

 リアスも俺達が勝利したのが分かった途端、安堵の息を漏らしていた。俺がいるから勝てるとは分かってても、かなり緊張していたようだ。

 

「よくやったわ、イッセー。今日のあなたは凄くカッコよかったわよ」

 

「イッセーさん、カッコよかったです!」

 

「今日はイッセーくんに何かご褒美をあげないといけませんね」

 

「わぷっ! ちょ、部長、アーシア、朱乃さんってば……!」

 

 イッセーは美少女三人からの抱擁にデレデレ状態だった。ま、今回のMVPはアイツだからな。

 

 あの光景を若しも駒王学園の一般生徒達に見せたら、嫉妬と殺意による負のオーラが学園全体に充満するだろうな。

 

 すると、デュラハンの本田が俺に近づいて、前と同じく文字が書かれたパネルを俺に見せる。

 

『おめでとう。君達が勝ってくれて拙者も嬉しい!』

 

「いや、お前は向こう側なのに何で嬉しいんだ?」

 

『雪女がイエティのメスで拙者も君の弟くんと同じく憤慨してたから!』

 

「……あ、そう」

 

 コイツもイッセーと同じくアレを雪女と認めたくなかったんだな。本田はイッセーと気が合う友人になれそうだよ。

 

 俺と本田のやり取りを見ている阿倍はコチラへ近づいて来た。

 

「流石はあなたの弟くん――赤龍帝ですわね。まさかあんな方法でクリスティの冷凍ブレスを封じるなんて予想もしなかったわ」

 

「アイツは兄の俺でも予想外な行動を取るからな。ま、今回は雪女がいれば余裕で勝てると高を括ってたお前の慢心が敗因でもあったけど」

 

「……そうね。否定しないわ」

 

 さっきまで高飛車だった様子とは打って変わるように、素直に事実を受け入れる阿倍。

 

「ウホ……」

 

「っ!!!」

 

 近くにいた雪女がイッセーに熱い視線を送っていた。それに気付いたイッセーはビクッと身体を震わせながら雪女を見る。

 

「どうしたんだ、この雪女は?」

 

「クリスティったら、先程の試合で熱いオーラを放っていた兵藤君の弟にときめいてしまったのよ」

 

「あれま」

 

 どうやらイッセーは雪女の冷凍ブレスだけじゃなく、雪女の冷たい心まで融かしてしまったようだ。罪な男だな。

 

「ちょ、ちょっと待て! 俺はゴリラに興味ねぇっての! ってかコッチ来んな!」

 

 話を聞いていたイッセーはリアス達から離れて、雪女から距離を取ろうとする。

 

「ウホホ!」

 

「げっ!」

 

 雪女が瞳をハートにさせて近づいた瞬間、イッセーは身の危険を感じたのか超スピードで逃げ出した。

 

 だが、雪女も負けじとナックルウォーキングで驚異的なスピードを出してイッセーを追いかけていく。

 

 

「イヤだぁぁぁぁああああああああっ! 怪獣ゴリラに惚れられるなんてイヤだよぉぉぉぉぉっ!」

 

 

 遠く離れているにも拘らず、イッセーの絶叫が聞こえた。

 

 悪魔だけじゃなく、今度は雪女を惚れさせるとは……本当にイッセーは人外の種族から好かれるな。

 

 雪女の行動を大して気にしないのか、阿倍は再度俺に話しかけようとする。

 

「それで兵藤君。インタビューするのでしたら、紅茶やお菓子を希望したいわ……だけど」

 

「だけど、何だ?」

 

「……出来れば、兵藤くんが作るお菓子が良いわ。久しぶりに食べたいと思って」

 

 そう言えば去年、クラスメート達(主に女子)に手作りスイーツを披露した事があったな。その時に食べた女子達は残さず全部食べてくれて嬉しかったよ。

 

 でも残り一個が欲しければジャンケンで決めろと聞いた瞬間、女子達は目の色を変えて真剣な顔でやってたな。当然、阿倍もその一人に入っていたのは言うまでもない。

 

「じゃあ去年作ったシュークリームとチョコチップマフィンでいいか?」

 

「ええ。楽しみにしてるわ」

 

「ちょっとリューセー、あなたがお菓子を作るなら私達にも用意して欲しいわ」

 

 さっきまでイッセーが逃走した事に呆然としていたリアスだったが、こっちの会話を聞いていたのかそう言って来る。

 

 やれやれ。女はお菓子の話題となると耳聡いねぇ。まぁ良いだろう。もし阿倍だけにお菓子を作ったら、リアス達に何か言われるのは分かってた事だしな。

 

 さてと、試合も終わったことだし、これからお菓子の材料でも買いに行くか。あと料理が得意な祐斗を助手として連れて行こう。




次回はもう一つの番外編を更新します。


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番外編Ⅲ 前編

今回の話ではリューセーがキャラ崩壊しています。


 夏休み。いつもだったらイッセーを連れて旅をしているが、オカ研に入部してる他に聖書の神(わたし)の正体がバレてしまった今は殆ど出来ないに等しい。

 

 聖書の神(わたし)にとって楽しい日課の一つだが、コレは諦めざるを得ない状況でもある。もし正体がバレてる身で聖書の神(わたし)がイッセーを連れて旅などしてしまえば、リアス達だけならまだしも、ミカエルを筆頭に天界にいる天使達が総動員して兵藤兄弟(おれたち)を捜索するからな。そう考えると、やはり正体はバレずに今まで通りの生活を送りたいと思ってしまうのは聖書の神(わたし)の我侭、なのかねぇ。

 

 ……まぁソレはどうでも良いとしてだ。現在、兵藤家でちょっとした緊急事態が発生してる。それは――

 

「ぅぅ……」

 

「いっちぇーのお膝ー」

 

 何故か幼女化しているアーシアとリアスがいるからだ。今はオカ研全員がリビングに集まって、面妖な様子で幼女二人を見つめている。

 

 因みにアーシアはイッセーの後ろに隠れ、リアスはイッセーの膝の上に乗っている。見るだけで二人はイッセーだけにしか気を許してないようにしか見えないほど懐いている。

 

「しかし、部長とアーシアに似ているな」

 

 ゼノヴィアが首を捻りながら二人を見てそう言う。

 

「兄貴、この二人のオーラってどう考えても部長とアーシアにしか思えないんだけど」

 

「考えるも何も、間違いなく幼児化したリアスとアーシアだ」

 

「あ、やっぱり」

 

 訊くまでもないだろうと答える俺に苦笑するイッセー。どうやら俺に質問する前から分かってはいたようだ。

 

「確か悪魔って、ある程度歳を重ねると自分の好きな見た目に変えられる術があるって聞いたけど……部長はともかく、何で人間のアーシアまで変わってるんだ? 悪魔が使う術は人間にも有効なのか?」

 

「俺は悪魔が使う術に関して専門外だから何とも言えないな」

 

 いくら聖書の神(わたし)が悪魔の情勢を知ってても、術に関しては必要最低限程度の事しか調べなかったし。

 

「悪魔関連について朱乃はどう思う? 例えば自分の容姿を変えたいって願う人間とかいたか?」

 

「いると思います。ですが部長や眷族である私たちには対応出来ませんので、そういう願いがありましたら専門の悪魔に頼んでいます」

 

 お茶を淹れながら答える朱乃の返答を聞いた俺は成程と頷く。つまり、リアスは容姿を変化させる術は未だ使う事が出来ないって事か。そうなれば大体の予想が付いてきた。

 

「ですが、容姿を変える術を使っても記憶は失わないのですが……」

 

 朱乃はリアスとアーシアがどうして記憶が失っているのかは流石に分からないようだ。

 

「おいアザゼル、まさかこれって……」

 

「ああ。聖書の神(おやじ)が考えてるとおり、こりゃ完全に術のリバウンドだ」

 

「……やっぱりそうか」

 

 確認を込めて問うと、お茶を啜っているアザゼルがそうだと頷いた事に俺は嘆息した。

 

「どう言う事だ兄貴? 術のリバウンドって?」

 

「早い話、使った術がそのまま自分に返ってくるって言うミスの事だ。前に旅した際に見た事あるだろ? 強力な術を使おうと失敗して自滅した魔女とか」

 

「………ああ、いたいた」

 

 旅をしていた頃に遭遇した魔女の事を思い出したイッセーは理解した。術のリバウンドがどうなったのかを。

 

 因みに、その魔女は下級悪魔と契約した事で少し強力な魔術が使えるようになり、見知らぬ一般人を苦しめていた外道だった。言うまでもなく俺とイッセーで成敗したが。

 

 だが俺とイッセーに倒される寸前、追い詰められた魔女は最後の切り札として強力な炎の術を使おうとするも、術式の展開中に俺達を殺そうと強くイメージしすぎた為に失敗した。その結果、術の反動で自ら火達磨となって辛うじて生きていたが、魔力や記憶も完全に失ってしまう結果となった。更にソイツは魔力を失った事によって一般人同然となった為、現在刑務所で服役中で終身刑となっているので一生出てこられない。

 

「そう言えば、イッセーくんはリューセー先輩と修行の旅をしていたんだったね」

 

「ああ。兄貴との二人旅は必ずといっていいほどにスリルがあるから、時々参っちまうよ」

 

「だとしても、主と旅をするなんて教会にいた私からすれば羨まし過ぎるよ」

 

 祐斗とイッセーの会話にゼノヴィアが心底羨ましそうに言う。

 

 確かに考えてみれば、元とは言え聖書の神(わたし)が人間と一緒に旅をするなんて、教会関係者からすれば最高の栄誉に等しいかもしれないな。俺からすれば、如何でもいいことだけど。

 

「まぁそれはいいとしてだ。術の反動で、二人が幼児化した際に記憶も一時的に封じられたと見ていいだろう。人間である筈のアーシアは恐らくリアスが使った術に関わったか、もしくは巻き込まれたんだと思う。だがリアスほどの悪魔が失敗するなんて、らしくないと言うか……」

 

「何か他の事を考えて失敗しちまったんじゃないか? まぁ何はともあれ、元に戻すには一定の時間が経つのを待つか、アンチスペルの能力者でもいないと無理だな」

 

 俺の台詞にアザゼルが続けるように言う。確かに今のリアス達を元に戻すのにはアザゼルが言った二つの方法しかない。

 

 一通り聞いたイッセーがミニリアスへ視線を送ってると、怪訝そうに首を傾げるだけだった。

 

「いっちぇー、変な顔ー」

 

 サーゼクスから聞いたり写真を見せてもらったが、実物を見ると可愛いねぇ。サーゼクスが溺愛したくなる気持ちが分かるよ。

 

「うぅ、あーしあもお座りしたい……」

 

 だが俺としてはミニアーシアの方が可愛い! いじらしいというか、保護欲が凄まじいほどに沸き立ってくるよ!

 

「良かったら俺の膝の上に座るかい、アーシア?」

 

「……うぅ」 

 

 イッセーの隣にいる俺が怖がらせないように優しく声をかけるも、アーシアはイッセーの背中から離れようとしなかった。

 

 ……………………乗ってくれないか。どうやらミニアーシアは思っていた以上に人見知りが激しいようだ。………………べ、別にショックなんて受けてないからな。…………ず、ずっと背中に引っ付いてるイッセーに嫉妬なんてしてないからな。

 

「アーシア、この人は俺のお兄ちゃんだよ。全然怖くないからさ」

 

「……あぅ」

 

 俺の心情を察したかのようにイッセーが言うと、ミニアーシアはトテトテとゆったりした歩行をして――

 

 

 ポスッ

 

 

「……おにーちゃ?」

 

 ゴフッ! こ、これは……何て素晴らしい響きだ!!!! 今なら妹を溺愛していたサーゼクスの気持ちが痛いほど分かる!!!

 

 純真無垢な瞳で首を傾げながら言ってくるミニアーシアに、俺は思わず吐血しそうだった。今なら死んでも後悔が無いほどに。

 

「……イッセー先輩、リューセー先輩が固まってるように見えるんですが」

 

「多分だけど、ミニアーシアに『お兄ちゃん』って呼ばれて感動してんじゃねぇのか?」

 

 イッセーの予想は大当たりだ! 今の聖書の神(わたし)は、じゃなくて兵藤隆誠(おれ)は物凄く感動している! 妹分のアーシアにお兄ちゃんって呼ばれたのは初めてだからな!

 

「ぶ、部長とアーシア先輩……とても可愛らしいです……」

 

 さっきまで隅っこにいたギャスパーが恐る恐ると近寄りながら言ってきた。

 

「おう、ギャスパー。二人を笑わしてみなさい」

 

「泣かせたら承知しないからな」

 

 先輩風を吹かして言うイッセーに警告する俺。ギャスパーは驚きながらも渋々と頷く。

 

 持っているバッグをゴソゴソと探って取り出したのは……紙袋だった。

 

(おい兄貴、何か嫌な予感しないか?)

 

(奇遇だな。俺もそう思っていたところだ)

 

 イッセーと俺が目で会話してると、ギャスパーはズンッと人差し指と中指で紙袋に穴を空けた直後――

 

 

 ズボッ!

 

 

 勢いよくソレを頭にズッポリと被ったよ!

 

「ほーら、部長、アーシア先輩。紙袋ですよー。これを被れば勇気百倍です」

 

 紙袋の穴の空いた部分から赤くギラギラした眼光が二人の幼女に向けられる。

 

「……ふぇ」

 

「……ぃや」

 

 ミニリアスはイッセー、ミニアーシアは俺にしがみ付いてブルブルと震えていた!

 

 その瞬間――

 

「おおおおーい! コラ! ギャスパァァァァァァァッ!」

 

「何やってんだお前はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 俺たち兄弟は紙袋の変質者を(加減した)気合砲でふっ飛ばした。

 

「な、ななな、何をするんですか……!?」

 

 遺憾そうに意義を唱えるギャスパーだが、そんなのは俺達の知った事じゃない。

 

「何をするんですか、じゃねぇだろう!」

 

「何が勇気百倍だ!? 紙袋を被ってリアスとアーシアに近寄るな! 完全に変質者だろうが!」

 

「そ、そんな……。ただ僕は紙袋を被る事で勇気が溢れて――」

 

「溢れるわけねぇよ! 兄貴の言うとおり、傍から見たら幼女に詰め寄る変質者じゃねぇか! ちくしょう! お前に頼んだ俺達がバカだったよ!」

 

「全くだ!」

 

「……うぅ、怖かったよぉ」

 

「怖くないもの! りあすは泣かないもの!」

 

 ブルブルと震えているミニアーシアはギュッと俺にしがみ付き、強がりを口にしながらもイッセーにしっかり掴まっているミニリアス。可愛いね可愛いね!

 

「おー、よしよし。大丈夫」

 

「お兄ちゃんとイッセーがギャスパーを退治したからねー」

 

 イッセーはよしよしと頭を撫で、俺は優しく抱きしめる。

 

「うぅ、イッセー先輩だけじゃなくリューセー先輩も酷い。引き篭もってやるぅぅ!」

 

 どこから取り出したのかは知らないが、ギャスパーは大き目の段ボール箱に入って引き篭もってしまった。

 

 引き篭もるのはダメなんだが、今回は幼女二人を泣かせたからスルーさせてもらう。特に妹分のアーシアを泣かせた罪は重い!

 

「しかし、部長とアーシアちゃん可愛いですわね。このまま私とイッセーくんで二人を育てるのも――」

 

「リアスは構わんがアーシアは俺が育てるぞ、朱乃」

 

「おい聖書の神(おやじ)、目が本気だぞ」

 

 俺の発言にアザゼルがドン引きするように頬を引き攣らせていた。

 

「一応お訊きしますが、お父さんとしてですか?」

 

「父親はもう経験したから、どうせなら兄として育ててみたい」

 

 息子と娘はいても、妹を育てた事はないからな。弟はイッセーでもう経験済みだし。

 

「……リューセー先輩、以前からアーシア先輩を大切にしてるのは知ってましたが、小さくなった事で完全なシスコンになってしまったようですね」

 

「ハハハハ、リューセー先輩の意外な一面を見た気がするよ」

 

「今更だが、部室で初めて会った頃の私がもしアーシアを断罪してたら、主に殺されていたかもしれないな」

 

「確かに兄貴ならやりかねないな。現にアーシアに対して不快な言動をしたフリードを何の躊躇もなく殺そうとしてたし」

 

 と、小猫と祐斗とゼノヴィアとイッセーが話している。

 

 すると、さっきまで座っていたアザゼルが立ち上がって言う。

 

「ま、解除する方法を調べておいてやるよ。聖書の神(おやじ)やお前等も探ってみろ。流石にこのままじゃ困る事も多いだろう? 何か分かったら、相互連絡って事で一時解散だ」

 

 アザゼルの一声に俺を除く部員全員が合意した。俺も一応合意するが……どうせならこのままアーシアを育てたいと言う邪な欲求が出てるんだよなぁ。

 

 そんな中、朱乃はリアスの魔力の痕跡を調べようと、術が発動したイッセーの部屋へ行く。祐斗と小猫は別方面から調べようとリビングを出る。続いて魔力について専門外のゼノヴィアは、ギャスパーを鍛える為に段ボールを担いでリビングを出ていく。最後にアザゼルは俺達にミニリアスとミニアーシアを任せると言い、転移で姿を消した。

 

 そしてリビングには幼女二人と共に残されている俺とイッセー。

 

「……………兄貴、俺達は子守りか?」

 

「……………ま、修行だと思ってやってみろ。こう言うのは人生の修行とも言えるからな」

 

「いっちぇー、遊んで」

 

「おにーちゃ、だっこぉ」

 

 戸惑うイッセーに、俺はアーシアを抱っこして相手する事にした。

 

 そうだ。この機会に二人の姿を写真に収めておくとしよう。サーゼクスやセラフォルーには今後やる予定の妹談議にも使えると思うし。




 ミニアーシアの可愛さに完全シスコン化したリューセーでした!

 リューセーに対するイメージが変わってしまったと思う読者の方々、誠にもうしわけありませんでした!


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番外編Ⅲ 中編

今回はまとまらなかったので中編にしました。


「兄貴、子守って結構大変なんだな。神さまやってた時もこんな感じだったのか?」

 

「そうだなぁ。あの時は初めてやる子守に四苦八苦してたよ」

 

 俺たち兄弟はミニリアスとミニアーシアを子守していると、二人が『お外に行きたい!』とせがまれて現在外出中だ。

 

 俺がミニアーシア、イッセーがミニリアスの手を繋ぎながら歩いている。小さい子供と逸れないように手を繋ぐのは当然の事だ。

 

 今回の外出の目的は近所のコンビニ。アイスでも買って与えれば満足するような気がするとイッセーがいったので、俺は反対する事無く了承した。

 

「しかしまぁ、高貴でお姉さまな部長も小さくなると、普通の幼女そのものだな。兄貴もそう思わねぇか?」

 

「確かに。だが俺はお淑やかなアーシアも小さいと甘えん坊で少々わがままなのはちょっと驚いたよ。ま、可愛いからOKだけど」

 

「あ、やっぱり?」

 

 思った事を口にするイッセーと俺。だってしょうがないだろ。この小さい二人は凄く可愛いんだからさ。

 

 特にミニアーシアなんて、弱々しい握力でも絶対に離さないように俺の手をギュッと握りながら、時々不安そうに上目遣いで見てくる。この子は絶対に守るぞって保護欲が更に沸き立つんだ。

 

 因みにこの光景を俺は密かにカメラで撮っている。こんな可愛いアーシアを撮らない訳にはいかないからな。ついでにサーゼクス用としてミニリアスも撮っているが。

 

「あっ! イッセーとリューセー先輩だ!」

 

 すると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。振り返ると、そこにはイッセーの悪友二人、松田と元浜の姿がいる。

 

 あの二人を見るのはちょっと久しぶりだな。ミルたんとローズさんについて文句を言われた時以来だ。イッセーは同じクラスメイトだからいつも会ってるが。

 

「二人して何をしている――って、子供!?」

 

「おいおい、その幼女はなんだ!?」

 

 二人はリアスとアーシアを見て驚いていた。まあ、それは当然だろうな。

 

「ま、まさか、イッセーとリューセー先輩の子供か!?」

 

「髪の色からして、イッセーがリアス先輩で、リューセー先輩はアーシアちゃんとの……!?」

 

 何かおかしな推測をしだしてきたな。俺とイッセーの子供かよ。

 

「俺が子持ちなわけねぇだろ!」

 

「失礼な奴等だな。せめて俺の妹って言ってくれよ」

 

「いやいや兄貴! いくらなんでもそれは無理があるから!」

 

 松田と元浜に突っ込みを入れるイッセーだったが、俺にも突っ込みを入れられた。お前はどっちの味方なんだ?

 

 取り敢えずは適当に誤魔化すも、アイツ等は聞く耳持たずに邪推を続ける。

 

「見た目から三、四歳だ……。いまイッセーは十七で、リューセー先輩は十八だろ? ……リューセー先輩はともかく、イッセーは……ギ、ギリギリいけるのか?」

 

「マジかよ!? リューセー先輩は別として、イッセーの野郎は経験ないように見せかけておいて、陰で俺達を笑っていたというのか……?」

 

 例えようのない険しい表情をしながら、イッセーを見つめる松田と元浜。

 

 と言うか、どうして俺はスルーなんだ? イッセーはダメで、俺は問題ないのか?

 

「ちょ、ちょっと待てお前ら! 何の計算をしている!? 何を想像している!? ってか何で兄貴はOKなんだよ!?」

 

「緊急招集だ! 俺だ! 『ケースD』発生! 『ケースD』だよ!」

 

 イッセーの突っ込みを無視する松田はケータイ電話を取り出してどこかに連絡している。どこに連絡してるんだ? あと『ケースD』ってなんだ?

 

 

 カシャッ!

 

 

 ミニリアスとミニアーシアをスラフォで写真を撮る元浜。おい、何撮ってんだよ。

 

「松田! 証拠は押さえた! いざ、『イッセー撲滅委員会』の会議場へ!」

 

「よっしゃ! イッセー! 会議が終わったら覚悟しろよ! 俺達は常にお前の不幸を願っているんだからな!」

 

 早足にこの場を後にするイッセーの悪友二人。

 

「おい! 撲滅委員会とか不幸を願うとかなだってんだ! 待て! おまえら、親友を置いてどこに行く!」

 

『死ね!』

 

 遠くから聞こえてきたのは無情な一声。

 

「全く、アイツ等ときたら」

 

「どうする兄貴!? このままだと俺、わけも分からないまま殺されるんだけど!?」

 

「お前がアイツ等程度に殺されるわけないだろ」

 

「社会的な意味でだよ! このままだと兄貴にも要らんとばっちりを受けるんだぞ!?」

 

「それは流石に面倒で嫌だな。ってことで、アイツ等には悪いが――」

 

 俺が軽くパチンと指を鳴らすと――

 

 

『なぁぁぁぁぁぁっっっっ!? お、俺のスラフォがぁぁぁぁ~~~!!!』

 

『俺のケータイも壊れたぁぁぁ~~~~!!!』

 

 

 遠くから絶望のような悲鳴が二つ聞こえた。

 

「兄貴、今のってもしかして……」

 

「アイツ等のスラフォとケータイは壊しておいた。同時にミニリアスとミニアーシアの証拠写真も消えたから、これであの二人が撲滅委員会とかに何を言っても戯言にしかならない。それに……」

 

「それに?」

 

「可愛いミニアーシアの写真を撮っていいのは俺だけだ」

 

「…………最後の台詞がなけりゃ頼もしい兄貴だと思ってたんだけどな」

 

 

 

 

 

 

 コンビニから帰ってきた俺たち兄弟はリビングにあるソファーに座っていた。

 

「つめたいね」

 

「おいちい」

 

 ミニリアスとミニアーシアはアイスを美味しそうに食べていた。言うまでもないが、この二人の可愛いところもカメラに記録している。写真にするのが楽しみだ。

 

「ってか兄貴。いくら証拠写真を消せたつっても、どのみち俺がクラスで変な噂が立つ事になるんじゃねぇか?」

 

「ま、そこは俺が上手くフォローしておくよ」

 

 今後の事を話していると、突如アザゼルが現れた。

 

「よう。解除方法が分かったぜ」

 

 探検隊が着るような服装をしているアザゼル。西洋剣と鉄の盾をイッセーに渡している。

 

「魔の力を秘めた材料を集めるぞ。それらに術的な調合をする事で幼女化を解除する薬が出来上がる。二人とも、行くぞ!」

 

 アザゼルは楽しげにあらぬ方向へ指をさす。

 

「へ? 行く? どこにですか?」

 

「その前に説明しろ。どう言う経緯でそうなったんだ?」

 

 疑問の尽きないイッセーと説明を求める俺に、同じく帰ってきていた祐斗が説明をする。

 

 簡単に言うと、イッセーの部屋にあった魔力の痕跡から術式が分かり、それを逆算して解除術式を解読中。それさえ分かれば時間の問題らしい。更にアザゼルからの補足で、解除薬も同時に作る為に材料集めをしようとなったみたいだ。

 

「成程。その材料集めの為にイッセーを連れていくって事か」

 

「そういうこった。ってな訳で聖書の神(おやじ)、少しばかりイッセーを借りるぜ。それにコイツにはちょっとした修行にもなるからな」

 

 最後の台詞でアザゼルの狙いが読めた。恐らく材料集めと言う名目で、材料元となってる魔獣をイッセーに戦わせるつもりなんだろう。

 

 どんな魔獣と戦わせるのかは知らないが、以前に諸国を旅してた時に色々な戦闘経験をさせたイッセーなら問題ない。

 

 因みに今回の材料集めに朱乃もいくようだ。アザゼルに呼ばれて不機嫌そうに眉を吊り上げていたが、リアス達の為ならとイッセーの腕に絡んで行く事となった。イッセーはイッセーで朱乃の胸が肘に当たってる事で少しだらしない顔になってるが。

 

「先生、私は?」

 

 いつの間にか戻ってきたゼノヴィアがギャスパーを引き摺りながら訊いてくる。随分とやられたようだな、ギャスパー。

 

「お前は引き続きギャスパーを鍛えてろ」

 

「何だったら聖剣デュランダルの波動を避ける練習をさせておけ」

 

 アザゼルに続いて俺が言うと、ゼノヴィアは急に気合いが入った顔をする。

 

「了解しました! さあ行くぞ、ギャスパー! 次は主から……ではなく、隆誠先輩から命じられた練習をするぞ!」

 

「ヒィィィィィッ! 今度こそヴァンパイアハントされちゃうぅぅぅ! リューセー先輩、もう許してくださいぃぃぃっ!!」

 

 顔面蒼白のギャスパーを引き摺りながら、ゼノヴィアはリビングを後にした。あとギャスパー、それが済んだらアーシアを泣かせた罪はチャラにしてやるから甘んじて受けるんだな。

 

「いっちぇー、どこにいくのー?」

 

「……おいてかないでぇ」

 

 ミニリアスとミニアーシアがイッセーのズボンの裾を引っ張る。

 

「君達はお兄ちゃんと一緒にお留守番だよ」

 

「いやー。いっちぇーといっしょがいいー」

 

「……うぅ」

 

 ミニアーシアはある程度俺に気を許した事もあってイッセーから離れるも、ミニリアスだけが離れなかった。大好きなイッセーと一緒にいたい気持ちは分かるが、同行させるのはちょっとなぁ。

 

「リアスは連れてくから、アーシアは聖書の神(おやじ)に任せる。まぁ俺もいるから、危険な目に遭わせねぇよ」

 

「………分かった。だがもし掠り傷でもつけたら、即行でサーゼクスに報告するからな」

 

「……肝に銘じておこう」

 

 サーゼクスがシスコンだと知ってるのか、アザゼルは少し冷や汗を流しながら頷いた。

 

 アイツのシスコン振りは妹談議の時によく分かったから、もしミニリアスに傷を負わせる原因がアザゼルだと知った途端、怖い笑みを浮かべたまま容赦なく全力で『滅びの魔力』をぶっ放すだろう。これは確信持って言えるぞ。

 

 

 

 

 

 

「Amazing grace how sweet the sound.That saved a――おや? 眠ってしまったか」

 

「すぅ……すぅ……」

 

 ミニアーシアの遊び相手をしていた俺だったが、彼女はイッセーが未だに帰ってこない事で段々不安顔となっていた。更には泣きそうな感じだったので、俺はミニアーシアを落ち着かせようと子守唄をやる事にした。

 

 教会出身のアーシアには聞きなれてる聖歌が良いだろうと思った俺は、聖書の神(わたし)の姿になって幾つか披露している。その歌を聴き始めたミニアーシアは落ち着きを取り戻したどころか、喜んだ顔をしながら聞き入っていた。

 

 聖歌から賛美歌に切り替えて、賛美歌の代表の一つ――アメイジング・グレイスを歌っていると、ミニアーシアは聴いてる最中に眠ってしまった。泣くよりは断然良い。

 

 俺は元の姿に戻らないまま、眠ってるミニアーシアの頭を優しく撫でた。

 

「う~ん……いっちぇーさぁん……」

 

「やれやれ。やっぱり聖書の神(わたし)よりもイッセーが良い、か」

 

 どんな夢を見ているのかは知らないが、随分と幸せそうな寝顔だ。

 

 一先ずは部屋のベッドで寝かせようと思った俺は、起こさないようにそっとミニアーシアを抱かかえてリビングを出ようとする。

 

「隆誠先輩、ギャスパーの鍛錬は……って!」

 

「おっと」

 

 戻ってきたゼノヴィアが神の姿となってる俺を見た途端に大声を出そうとしたので、即座に彼女の口を片手で塞ぐように覆う。

 

「この子がついさっき眠ったところだから、大きな声は出さないでくれ。いいな?」

 

「……………(コクコク!)」

 

 小さく言う俺に無言で頷くゼノヴィア。彼女が静かになった事を確認した俺はすぐにアーシアの部屋へ移動する。

 

 そっとベッドに寝かせ、ミニアーシアが起きた時に反応する術式を施した後、再びリビングへと戻る。

 

「悪かったな、ゼノヴィア。いきなり口を塞ぐ事をしてしまって」

 

「い、いえ、私こそ申し訳ありませんでした……」

 

 俺を見た途端にゼノヴィアはかなり緊張した様子だった。何でそんなにガチガチになってるのかと疑問に思ったが、それはすぐに解消した。今の俺は神の姿になってるからだと。

 

 すぐに人間の姿に戻すと、ある程度の緊張が解かれたように安堵の息を漏らすゼノヴィア。

 

 因みにギャスパーはリビングの隅っこで倒れていた。完全なKO状態で。取り敢えずお疲れさん。

 

「そんなに聖書の神(わたし)が恐いか、ゼノヴィア?」

 

「そ、そのような事は……!」

 

「だったら、何故さり気なく聖書の神(わたし)から距離を取ろうとしてるんだ?」

 

 俺がある程度の距離まで近づいた途端、ゼノヴィアはすぐに一歩下がる。こうなってるのは俺の正体を知った以降からだ。

 

 理由は分かってる。彼女は正体がバレる前まで、聖書の神(わたし)に対する数々の暴言や無礼を行った事に未だ果てしなく後悔しているから。

 

 俺は全然気にしていないと何度も言ってるんだが、ゼノヴィアはそれでも自分が許せないようだ。日々祈り続けていた聖書の神(わたし)が目の前にいた事に気付く事すら出来なかった自分を。

 

 ゼノヴィアが極端な性格なのは知ってる。だが、いつまでもギクシャクしたままでは俺自身よくない。と言うより、さっさといつもの先輩後輩の関係に戻りたいのが本音だ。

 

 だからその為には――

 

「ゼノヴィア、体力はまだ有り余ってるか?」

 

「は、はい。それが何か?」

 

「少し身体を動かしたいから、剣術の相手をしてくれ。祐斗には内緒で、な」

 

「っ! 分かりました!」

 

 剣術の特訓で距離を縮める事にした。

 

 自分で言い出したのもなんだが、物凄い食いつきだったな。まぁ、これで仲が良い先輩後輩の関係に一歩近づけるなら良しとしよう。

 

 そして――

 

「も、もう一度……お願いします!」

 

「結構。だがそんな使い方じゃダメだ。もっとデュランダルに注ぐオーラを研ぎすませろ」

 

「はい!」

 

 剣術の特訓ついでとして、デュランダルの指導も行った。俺の指導にゼノヴィアはめげる事無く素直に聞き入れている。

 

 更に俺がゼノヴィアに修行相手をしてる最中――

 

「僕が解読中に抜け駆けしてリューセー先輩と修行するなんて、ねぇ?」

 

「それは誤解だぞ、木場。私は隆誠先輩から剣術の相手をして欲しいと誘われたんだ」

 

「……はぁっ。祐斗、解読が終わったなら相手をするよ」

 

 どこからか嗅ぎ付けた祐斗にバレてしまった。

 

 このまま祐斗を除け者にすれば拗ねるだろうと思った俺は、二人纏めて相手をしようと決めた。未だに寝ているミニアーシアが起きたら即行で中断するけど。

 

 それはそうと、イッセーの奴は上手くやってるかな? アザゼルに振り回されてなければいいけど。




次回の更新で完結する予定です。


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番外編Ⅲ 後編

これで最後の更新です。


 どうも、兵藤一誠です。

 

 先生にミニ部長とミニアーシアを元に戻す為の材料集めをしようと、朱乃さんと一緒に同行する事になりました。

 

 堕天使特性の超長距離移動式魔法陣にて、材料集めを開始したんだが――

 

「ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 初っ端から咆哮をあげてる巨大な怪物と戦う事になった。

 

 その怪物はミノタウロスって言う牛の頭をした人型の魔物。背丈は4、5メートル位で、ぶっとい両腕と分厚い胸板。更には頭部が草食系の牛とは思えないほどの牙がある。

 

 もし俺が初見だったら間違いなく驚いて逃げてるだろう。けれどミノタウロスとは兄貴と旅をしてた時に遭遇して戦った事がある。

 

 

 ぶぅぅぅぅんっ!

 

 

 ミノタウロスが持ってる大きいバトルアックスを振り回してる事によって空気を震わす鈍い音を出す。あんなのに斬られたら一発で上半身と下半身がオサラバだ。

 

 因みに最初の材料はミノタウロスの肝らしい。肝と聞いて思わず俺は嫌な顔をしたが、二人を戻す為なら仕方ないと意を決した。

 

 向こうが俺を威嚇してる最中――

 

「隙だらけなんだよ!!」

 

 

 バキィッ!!

 

 

 超スピードで接近+右腕に闘気(オーラ)を纏った全力パンチをミノタウロスの顔面に当てると、クリーンヒットしたソイツは吹っ飛んで倒れた。かなり効いたのか、ミノタウロスはピクピクと身体を動くだけの虫の息状態だった。

 

 あ、やべ。この前のヴァーリでの戦いで得た経験なのか、兄貴の治療によるものかは分からないが、力が上がってたんだった。初めてミノタウロスと戦ったのは中学の頃でかなり梃子摺っていたんだけど、それが今や一撃でアレか。今更だけど、俺もちゃんと成長してるんだなぁって実感したよ。いつも兄貴との実戦修行で負け続けてるから、『本当に強くなったのか?』って疑問に思ってたし。

 

 因みに剣と盾は使う気なんかなかったから、先生に返してる。兄貴との修行で使うならまだしも、ミニ部長とミニアーシアを戻す為に必要な材料採取だから、そこまで時間を掛けるつもりはない。

 

「へぇ、こりゃあ驚いたな。まさかミノタウロスを一撃とはなぁ」

 

 後方から感心するように言う堕天使総督さまは鍋の準備をしている。

 

「ってか先生、何やってんですか?」

 

「見て分からないか? 鍋の準備をしてるんだ」

 

「いや、それは分かりますよ。何でそんな事するのかを訊いてるんです」

 

 鍋の出汁をチェックする先生に再度尋ねる。

 

「肝をゲットするついでに、残りの部分を食おうと思ってな」

 

「食うって…………あのミノタウロスって食えるんですか?」

 

 ミノタウロスは顔面や角を除く全身が硬いから、とても食えるとは思えないんだが。

 

「この地方のミノタウロスは絶品だぜ。食えば病み付きになる。俺は天然の松阪牛と思ってるぐらいだ」

 

「マジっすか!?」

 

 天然の松阪牛なんて超高級肉じゃねぇか! 初めて知ったよ!

 

 俺が驚いてると、先生はミニ部長に皿を用意していた。すると、具材らしき物を持ってる朱乃さんが戻ってくる。

 

「先生、具材を切ってきましたけれど」

 

「おお、朱乃、ご苦労。さて、さっさと肝を取り出して、残った肉で鍋パーティーと洒落込もうか」

 

 先生がいつの間にか用意した大きな瓶と出刃包丁を持って、現在虫の息となって倒れてるミノタウロスへと近づいていく。

 

 すると、遥か向こうから地響きが聞こえてきた。

 

 視線を向ければ――ミノタウロスの群れらしきものが一挙に押し寄せてきた。

 

 うわぁ、天然の松阪牛が取り放題だ。多分だけど俺が戦ってたミノタウロスの戦いに気付いて助けに来たんだろうな。

 

 あんだけの群れとなれば、いくら俺でも赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を使わなきゃ無理だ。

 

「あらあら、群れで来ましたわよ」

 

 焦った様子を見せない困り顔の朱乃さんに、群れのミノタウロスを見て面倒くさそうな表情を浮かべている先生。

 

「チッ、一匹だけで充分なんだよ」

 

 先生が指を群れへ向けると――

 

 

 ピッ!

 

 

 兄貴と似たような光線が指から出て――

 

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオオォォォオォォオオオオオオンッッ!

 

 

 超巨大な爆発を起こして、ミノタウロスの群れと周囲の風景が消し飛んでしまった。

 

「うわぁ、兄貴と似た事してるし……」

 

 余りの攻撃力に俺はある事を思い出した。

 

 以前に旅をしながら俺の修行と称した魔物討伐中に、同族の危機を察知した仲間の大群が押し寄せて襲われた事がある。けれど兄貴が『今はお前等に用はない』と言った直後、指から放った光線による大爆発であっと言う間に終わらせた。ついさっきやったアザゼル先生みたいに。

 

「さて、邪魔者がいなくなったな。仕事を再開、っと」

 

 何事も無かったかのように先生は、せっせとミノタウロスの解体を始めようとする。

 

「先生、ここのミノタウロスって天然の松阪牛なのに絶滅させていいんですか?」

 

「大丈夫だ。あの群れ以外にも、まだたくさんいるからな」

 

 まだたくさんいるって……。天然の松阪牛なのに、希少価値があるのか無いのか分かんなくなってきたんだけど……。

 

 その後、解体した肉を鍋で煮て食べると病み付きになるほどにマジで美味かった。先生の言うとおりだったよ。

 

 あの肉で鍋以外の料理でも食ってみたいと思った俺は、偶然襲い掛かってきたもう一匹のミノタウロスを倒し、また先生に捌いてもらった。兄貴への贈り物として。

 

 

 

 

 

 

 次の材料をゲットする為に、俺は違う国に来ていた。

 

 二つ目の材料はユニコーンの角。それを聞いた俺は無理なんじゃないかと思った。

 

 ユニコーンって生き物は清楚で穢れの無い少女、または処女じゃなければ現れないと聞いた事がある。

 

 最初は俺じゃ無理だと先生に言ったが――

 

「だから朱乃を連れてきたんだよ」

 

 と、先生の台詞で納得した。確かにユニコーンの角を得るには朱乃さんが適任だと。

 

 だけど悪魔の女性でも大丈夫なのかと訊くも、先生は悪魔の魔力を抑える為の薄い布の服を用意したようだ。

 

 その服を着てる朱乃さんは凄くエロかった! 魅惑のボディが俺の色々なところを刺激してる! おっぱいは大きい! スリットから覗かせる白い太もも! そして脚線美も素晴らしい!

 

 俺が朱乃さんの姿を脳内保存する為に凝視してる中、ミニ部長がぷんぷんと怒りながら俺のほっぺを引っ張ったけど。

 

 そしてミニ部長に怒られてる最中、朱乃さんは近づいてくるユニコーンを手刀で気絶させた。首元に一撃貰ったユニコーンは一瞬虚をつかれたような顔をしていたけど。ありゃ完全に油断してたようだ。

 

 もし俺がユニコーンだったら……多分だらしない顔をしながら朱乃さんに近づくだろうな。あのユニコーンと同じく手刀で気絶されるのも含めて。

 

 ともあれ、物陰から事の成り行きを見守っていた俺達は角を採取する事に成功した。因みに角はまた生えるように、角の生え際に特製の薬を塗ると先生が言ってたので大丈夫だ。

 

 にしても、牛の次が馬とはな。ここまできたら、次の獲物はもしかしたら豚のオークだったりして。

 

 そう考えていた俺だったが――とんだ思い違いをしていた。

 

 

 

 

 

 

 最後の材料は……凄く面倒だった!

 

 

 ゴバァアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!

 

 

 俺の眼前で全長15メートル以上の怪獣が咆哮をあげる。両翼を大きく開いた赤い鱗のドラゴンが!

 

「先生、確かコレって俺の記憶が正しければ朱炎龍(フレイム・ドラゴン)じゃないですか?」

 

「そうだ。こいつの背中にだけ生える特殊な鱗が最後の材料だぜ」

 

「……マジかよ」

 

 冷静に説明をくれる先生に俺は凄く嫌そうな顔をする。

 

 最後がよりにもよってドラゴンかよ。精神世界で戦ったドライグほどじゃないけど、他のドラゴンの成龍もデカいな。アーシアが使い魔にしてるクソ生意気なミニドラゴンがすっげぇ可愛く見えるよ。

 

「………まさかと思いますが先生、また俺一人でやれと?」

 

 念の為に確認する俺に先生はハッキリと言う。

 

「大丈夫だ。こいつはおまえに宿ってるドラゴンなんかより遥かに弱い。修行だと思って戦ってみろ」

 

「いや、もう似たような経験をしてますから」

 

 精神世界で巨龍となったドライグと戦ったり、冥界で元龍王タンニーンのおっさんとガチンコバトルやった事あるし。

 

『言っておくが相棒、あんな野良(のら)ドラゴンに負けたら俺が許さんからな』

 

 はいはい分かってるよ、ドライグ。

 

 どうせお前の事だから、もし万が一アイツに負けたら精神世界で俺を鍛え直そうって考えてんだろ?

 

『よく分かってるじゃないか。相棒がアレに負けたら赤龍帝(おれ)の沽券に関わる』

 

 ったく。普段は俺が話しかけなきゃ我関せずとしてるくせに、こう言う時にはでしゃばるんだな。

 

 

 ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

 

「あ」

 

 すると、ドラゴンが大きな口からだい質量の火炎を吐き出してきた。

 

 虚を突かれた俺はモロに喰らってしまうも――

 

「なんだよ、このケルベロスみたいな温い炎は?」

 

 咄嗟に全身を闘気(オーラ)で纏わせたから問題なかった。

 

 

 ギャオオオオオオオオオオオオッッッッ!!

 

 

 俺がノーダメージであった事に、ドラゴンはプライドが傷付けられたのか激昂して雄叫びをあげる。

 

「ったく五月蝿ぇな。あのワン公みたく――」

 

 俺はそう言いながら超スピードでドラゴンの頭上まで飛んで――

 

「ギャアギャア喚いてんじゃねぇよ!」

 

 

 ドスッ!!!

 

 

「~~~~~~~~~~!!!!」

 

 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)に収めてる聖剣――アスカロンで頭をぶっ刺した。

 

 刺されたドラゴンは激痛による悲鳴をあげる。けれど数秒後には悲鳴が収まり、そのまま息絶えるように倒れてしまった。

 

「あれ? 野良ドラゴンってこんなに弱かったか?」

 

 余りにも呆気なさ過ぎる展開に、俺はドラゴンの頭に刺さってるアスカロンを抜きながら戸惑っていた。

 

『相棒、その聖剣が龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の力も帯びてる事を忘れたのか?』

 

「あ……そういやそうだった」

 

 ドライグに言われるまですっかり忘れてた。このアスカロンが対ドラゴン用の聖剣だった事を。

 

 けど、それを抜きにしても一撃で終わるって、このドラゴン弱すぎじゃねぇか?

 

『並みの聖剣使いなら多少は梃子摺ってるだろうな。相棒が聖剣に纏わせた闘気(オーラ)でドラゴンに対する攻撃力が更に増してるから、野良ドラゴンには耐え切れなかったんだ。当然と言えば当然だ』

 

 それってつまり、これを装備してる俺はもしかしたらタンニーンのおっさんも殺す事が出来るのか?

 

『死にはしないが、それでも大ダメージは確実だ。尤も、あのタンニーンが野良ドラゴンと違って易々と相棒の攻撃を受けるとは思えんがな』

 

 ですよね~。俺もイメージしてみたけど、タンニーンのおっさんが牽制する為に強力なブレスを放ってくるのが容易に想像出来るよ。

 

 敗北する未来を考えてると、ミニ部長と朱乃さんがコッチに近づいて来た。

 

「凄いですわイッセーくん、あのドラゴンを一撃で倒すなんて」

 

「いっちぇー、かっこよかったー」

 

「え? そ、そうですか?」

 

 二人に褒められてると、アザゼル先生は複雑そうな顔をしている。

 

「おいおい、アスカロンなんか使ったら修行になんねぇだろうが」

 

「あ、すいません。コレが龍殺しだったのをすっかり忘れてて」

 

「………まぁ良いか」

 

 本来は材料集めが目的だった事に先生は頭を切り替えて、倒れてるドラゴンの鱗を採取しようとする。

 

「ちっ。本当だったらマオウガーでぶっ倒す予定だったんだが……」

 

 先生が採取中に妙な事を呟いていたが、俺達は気にする事無く終わるのを見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 眠っていたミニアーシアが目覚めて再度遊び相手をしてると、材料集めを終えたイッセー達が家に戻ってきた。

 

 すぐに薬を作り始めたアザゼルがあっと言う間に完成し、ソレをミニリアスとミニアーシアに飲ませて解除に成功する。戻った事に俺は少し名残惜しかったが。

 

 元に戻った二人に術を使った理由を尋ねると、どうやらイッセーを子供の姿にさせようと術を使ったらしい。その結果、術のリバウンドによって失敗した為に自分達が幼児化したんだと。これには俺とアザゼルが少しばかり呆れたが。

 

 けれど残念な事に、二人は小さくなっていた間の記憶があるようだ。それにより――

 

「わ、私ってば、リューセーさんにまた大変失礼な事をしてしまいました! も、申し訳ありません!」

 

「イッセー、私達の為に魔物と戦ってたあなたは素敵だったわよ」

 

 ずっと遊び相手になってたアーシアがずっと俺に謝り続け、リアスはイッセーが魔物と戦う勇姿を見ていたであろう内容を褒めていた。

 

「アーシア、俺は全然気にしてないから。俺としても小さいアーシアと一緒に遊ぶのは楽しかったし」

 

「お、俺は部長の眷族ですからこれ位……」

 

 アーシアを宥める俺と照れてるイッセー。兄弟揃って違った行動をしていた。

 

 夏休みが始まった直後に起きた幼児化事件は無事に解決し、明日から本格的な夏休みに入る俺達であったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 

「なるほど、なるほど……。こういう理論になってるのか、ふむふむ……」

 

 皆が寝静まってる中、俺は部屋で悪魔の術について学んでいた。その術は言うまでもなく『姿を変える術』についてだ。

 

 理論は完全に熟知したから、リアスのように失敗はしない自信はある。ただ、やるにしても万が一のリスクも考えなければならない。

 

 もし仮にアーシアにやろうとしたら、ミニアーシアを見たいと言う強い気持ちが出てリバウンドしてしまう恐れがある。だから失敗しない為にも一度は試さないとダメだ。

 

 ……………よし。明日はリアスと学校でソーナに会いにいく予定だから、その時には極秘で……フフフフフ。『魔女っ娘リーアたん』と『魔女っ娘ソーたん』……なんて作ったらあのシスコン二人はどうなるかな?




最後は隆誠が少々良からぬ事をやろうとしていますが、「ハイスクールD×D ~復活のG~」の連載は終了です。

今まで読んで頂き、誠にありがとうございました。


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