TASさんがキリトくんに憑依したようです。 (ラビ@その他大勢)
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SAO編:ドゥエるキリト

後悔はしている。反省はしていない。


「ドゥエドゥエドゥエドゥエ」

 

キリトは走る。

人間にギリギリ実現可能の範囲の動きで、システムを超越する。

 

「ドゥエドゥエドゥエドゥエ」

 

キリトは走る。

フレーム単位でジャンプ+ジャンプキックを使って人知を越えた速度を出す。

 

その動き、まさに地に落ちたセミ。

 

時には人間にとって最強の移動手段“ケツ”を駆使し、まるでワープをしているかのごとくスピードでダンジョンを駆け抜ける。

 

「ん?」

 

だが、キリトは不意に立ち止まった。目の前には大きな扉。その階層のボス部屋と言うことを示しているこの扉には、外見にも様々な工夫がなされている――

 

がキリトにそんなことは関係ない。乱数調整によりボスからランダムドロップさせた剣、エリュシデータを3本ほど背中から抜き放つ。これで戦闘準備は万端だ。

 

本来なら街に戻って然るべき用意とレイドを組むべき敵だが、キリトはこのまま一人で倒すつもり満々だった。

 

「ここが……100層。……待ってろよヒースクリフ。お前を倒して、俺たちはこの世界を出る!」

 

そしてそう呟いた。

 

 

 

 

場所は変わって紅玉宮。100層ボス部屋。一人の男性がやつれた顔をして一人の男を待っていた。

恐るべきスピードと変態的機動力、そしてシステムの限界を余裕で叩き出す実力を持つ彼なら、狭いこの100層を余裕で踏破し、1日と経たずにここへやって来る。その確信があった。

 

「ドゥエドゥエドゥエドゥエ」

 

ほら、扉の向こうから気色の悪いあの声が。

 

男性――ヒースクリフは、泣きそうに歪めた顔を引きつらせ、深く溜め息をついた。ステータスはボス補正よりKoBの団長だった頃の10倍以上は高くなっている。だが、それでも彼一人相手に勝てる気が微塵もしなかった。

 

「私は……こんな世界を作りたかったのではない」

 

その呟きと共に、ゆっくりとボス部屋の扉が開いていく。予想通りその向こうに居るのは――全身を黒装備で整えた彼……キリトだった。

 

――誰かコイツ止めろ。

 

その言葉だけが頭をぐるぐる回るものの、一応は彼もボスに挑戦してきたチャレンジャーだ。ラスボスはラスボスらしく、精々足掻くしかあるまい。

そう考え、ヒースクリフはゆっくりと剣を抜き放った。

 

 

 

 

 

これは、全世界を震撼させたデスゲーム開始宣言から半年後の、とある午後の話だ。

とんでもない攻略スピードでSAOの全プレイヤーと開発者を震撼させた変態が、遂に100層へと辿り着いた。

彼は『黒の剣士』『変態』『動きがTAS』『もうあいつ一人で良いんじゃないかな』という異名を持っていた一人の男性。アバターネームをキリト、リアルネームを桐ヶ谷和人と言った。

 

そしてその彼が、今から7000人以上ものプレイヤーを助けるために、このゲームのラスボスであるヒースクリフに挑むのである。

文字面だけで言えば、実に分かりやすい勇者VS魔王のような構図だが――戦闘が始まると。

 

 

……何と言うことでしょう。

 

「ドゥエドゥエドゥエドゥエ ムッムッホァィ」

「…………」

 

変態(勇者)が泣きそうな顔をしたオッサン(魔王)を苛める酷い絵面へと変わってしまったではありませんか。

 

 

 

そして、その30分後。アインクラッド内に1つのアナウンスが鳴り響いた。

 

『ゲームはクリアされました――ゲームはクリアされました――』

 

 

 

これが、SAO事件の顛末である。



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ALO編:([∩∩])<死にたいらしいな

何か感想が6件も来たのでせめてGGOかマザーズロザリオが終わるまでは連載しようかと。


キリトは登る。

世界樹の幹を。自分の愛する女性を助けるために。

 

「うおおお!」

 

キリトは跳ぶ。

ハイジャンプを異常な速度で繰り返し、変なポーズで世界樹を上へ上へと滑らかに進んでいく。

なお、ALOの醍醐味である筈の妖精の羽は使っていない。

 

 

その動きを見たリーファは後に彼のことをこう名付けたと言う。

 

“上に落ちる変態”と。

 

 

 

 

 

だが、上に落ちていくキリトの快進撃を止めたのは侵入不可区域という壁だった。ある程度まで登ったところで光の波紋が広がり、キリトの体を弾き飛ばしたのである。

 

「くそっ!」

 

キリトは思わず毒づいた。一応こんな彼でもプレイヤーだ。ゲーム上で不可能な事はすることが出来ない。今までの奇怪な行動や恐ろしい移動速度などもそのゲーム内で実現可能なものだけである。……ただ、そう簡単なものではない上、気持ち悪すぎて誰もそれをやろうとしないだけで。

 

「キ、キリトくん! 幾らキミでも無理だよ!」

 

リーファの制止の声が聞こえる。

 

――だが、キリトはまだ諦めようとしなかった。彼のアスナに対する愛は、リーファやシステム如きが遮れるものではないのである。

 

「ぬおおお!」

 

幹を強く蹴り、宙へと躍り出ると、ALOにログインしてから今まで一度も使っていなかった羽を初めて出し、強く震わせる。

 

そして――キリトはそびえ立つ世界樹の幹へと人智を越えた速度で突撃した。リーファは思わず目を瞑る。

幹に跳ね返されるかと思ったキリトの体は、しかし幹にめり込んだ。

 

そう、これこそキリトが得意とする1つの技……昔から長い間多種多様なゲームで親しまれているバグ技“壁抜け”別名“ワープマン”である。

 

システムの限界に近い高速で壁にめり込む事により、システムに位置情報を誤認させるという恐ろしい裏技。良い子は真似しちゃいけません。と言うか良い子には真似できません。バグ技はシステムを越える。これ常識。

 

「はぁ!?」

 

これには今までキリトとここまで旅をして来て、彼の奇行にも若干慣れ始めていたリーファも思わず驚きの声をあげる。

そのままキリトが壁を通り抜けて世界樹の中へと消えていくのを見て、リーファは口をあんぐりと開けたまま固まった。

 

その暫く後、漸く正気を取り戻したリーファの悲鳴がアルンの街に響き渡る。

 

「そういうゲームじゃないからこれぇ!」

 

 

 

 

 

 

世界樹の中に入ったキリトは「ドゥエドゥエドゥエドゥエ」と聞き慣れた奇声を上げながらケツワープをし、アスナの閉じ込められている鳥籠へと数秒で辿り着いた。

 

「キリトくん……!」

「アスナ……ッ!」

 

アスナと感動の再会をした後、いざログアウトするために鳥籠を出ようとすると不意に。体をぬめりとした液体が体を包み込むような嫌な感覚がキリトへと襲い掛かってきた。

 

だが、流石英雄キリトと言うべきか。いつもと変わらぬように平然と立っている。耐えかねて倒れかけたアスナの体を支え、一瞬顔をしかめると、不意にウインドウを高速で開閉し始める。

 

「これで良し」

 

その行為をやめ、キリトは軽く頷いた。それと同時に、オベイロンが現れ――

 

「やあ。どうかな、この魔法は? 次のアップデートで導入される予定なんだけどね、ちょっと効果が強すぎ――……何故立っているッ!?」

 

驚きに目を見開いた。……それもそのはず、GM権限で通常の最大威力の数倍もの重力魔法を部屋中に常時働かせているにも関わらず、キリトは顔色1つ変えずに屹立しているのだ。

だが、アスナが苦しそうに倒れているのを見ると、重力魔法が効いていないと言うわけでも無さそうだ。

オベイロンが驚きから思わずウインドウを開けてキリトの状態を確認しようとしたその時、キリトが動いた。満面の笑みを絶やさないまま、

 

「死にたいらしいな」

 

その言葉がオベイロンの耳に届いた数十秒後――

 

 

 

悠々と鳥籠を出ていく少年少女の姿と、鳥籠内にさめざめと泣きながら倒れ伏す一人の王者(笑)の姿があったのは、言うまでもないことだろう。




ヒースクリフ「世界の種子を君に託す」
エギル「アッハイ」

新生アインクラッドの元はキリトではなくエギルに託されたそうです。


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GGO編:エターナルフォース次元断 ※相手は死ぬ

これは、昨日のことだ。

 

「……この、名前。あの、“動き”。……お前、本物、だな」

 

ギリースーツを纏った死銃は、確信を持ってキリトへと話し掛けてきた。一体彼が誰かはキリトには想像もつかなかった。そんな喋り方をする人物に心当たりが一切無かったのだ。

 

 

そして、シノンとの決勝戦。

キリトと戦ったシノンは戦いの後に額に手を当ててこう呟いたらしい。

 

――あの弾は確実に当たっていた。

 

――なのに外れた。そう、まるで“当たらないように調整されている”かのように。

 

その言葉を聞いた、BoB本戦に出場する予定のプレイヤー達の反応は様々であった。あるものは、そんなことがあるわけないと笑い飛ばし、またその決勝を見ていたものは、思わず頭を抱えてうずくまったのだった。そのプレイヤーが呟いて曰く、

 

『そんなの勝てるわけねーじゃん』と。

 

 

 

翌日――本戦が、始まった。

 

 

 

「ドゥエドゥエドゥエドゥエ」

「ぎゃぁぁぁああ!?」

 

一人。

 

「シャーロット!ジョナサン!シャーロット!ジョナサン!」

「ねぷぅ!?」

 

二人。

 

「ヤヤヤヤヤッフゥゥゥゥ!!!」

「にゅやーっ!?」

 

三人。

 

開始早々に近くにいた三人をいつものように変態的機動力で屠ったキリトが向かうのはシノンが知らないと言っていた三人のところ。ペイルライダー、スティーブン、銃士Xである。まず、最初に向かうのは一番近いペイルライダー。

でんぐり返りを目にも止まらぬ速度で繰り返し、例えるなら某ピンクの悪魔のホイールモードのごとき動きで森のなかを転がり抜ける。

 

「!?」

 

発見したペイルライダーを轢いてHPを削り取ったキリトは、一度動きを止めると、徐に懐から端末を取り出した。流石に死銃でなかったことは本人にとっても残念らしく、不満そうに唇を尖らせている。

高速のタップで一秒と経たずに全ての光点の名前を表示させたキリトは、思わず首を傾げた。

と言うのも、出場者の人数と光点の総数が合わないのだ。キリトが探しているうちの一人である、スティーブンが何処にも見当たらない。

キリトは眉を潜め、まさか見落としたのだろうかと舐めるように改めてもう一度端末を見回してみるが、やはり《スティーブン》の名前だけが無い。

 

――まあ他の奴を全員倒していけば何時かは出てくるだろう。

 

そう考えたキリトは、近くのプレイヤーへと突撃を敢行したのだった。

 

そしてまた、憐れな断末魔がフィールドに響き渡る。

 

 

 

何だかんだ一緒に行動することになったシノンと共に20人を余裕で越える人数を屠った辺りで、端末に映される光点の数は遂に3つにまで減っていた。

内訳としては闇風、キリト、シノンの三人である。未だスティーブンとは遭遇しておらず、端末上にすら一度も表示されていない辺り、もしかしたら参加していないのかもとすらキリトは考えてしまっていた。

 

「もう何か私がいる意味あるのかしら……」

 

隣のシノンが、深い溜め息をついた。

確かに、連携のために一緒に行動している筈であるのに、その連携の相手がシノンの援護が入る前に敵プレイヤーを倒してしまうキリトである以上、大して意味はないのかもしれない。シノンが変態機動が出来ない時点でキリトの移動に大幅なブレーキを掛けているため、寧ろ組まない方が早く終わるのでは、とすら考えてしまう。

 

いつの間にか闇風すら倒していたキリトは、キョロキョロと辺りを見回す。

 

――と、その時。一発の弾丸が、キリトの体を貫通した。

 

銃弾が飛んできた方向へ慌てて視線を向け、シノンは体を伏せた。キリトの事は微塵にも心配していない。これくらいで死ぬような奴ではないと身をもって知っているからだ。

……だって、ほら。

 

カサカサカサカサ、と。

 

聞くのもおぞましいような音を立てながら、驚くほどに洗練されたバックダッシュで撃たれた筈のキリトは狙撃手の元へと走り出した。

 

 

その姿を酒場で見ていた一人の観客が、何を思ったのか彼に1つの異名をつけた。台所などに出てくる黒いアレと、装備の殆どを黒で固めた彼のアバター名を合わせた異名は、“ゴキリト”。言い得て妙である。

 

 

そんな不本意な異名をつけられているとも知らず、キリトは伏射体勢から未だに立ち上がることの出来ていない死銃《ステルベン》の目の前に立つと、必殺の剣技を放つ。

 

「エターナルフォース次元断!」

 

結果、死銃は誰も殺すことが出来ないまま、BoBは幕を閉じた。優勝者が例の黒い奴だったことは――まぁ、言うほどのことでもないだろう。




なおリアルでアサダサンアサダサンにはならなかった模様。


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