上司が猫耳軍師な件について (はごろもんフース)
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一章:黄巾の乱
九十九、境遇を語る


息抜き作品 更新は亀の模様


あぁ、空が青い。

どうしてこんなにも空が青いのに俺は部屋の中で計算をしているのだろう。

 

「別にしなくてもいいけど……その場合はあんたの給料なしにするわよ」

 

世知辛い世の中ですね。

どうしてもっと人間はのんびりと暮らしていけないのだろうか。

 

「贅沢を知れば知るほど、人は更に贅沢を求めるものよ。そしてもっとも簡単なのが他の人から、弱い人から搾取すること」

 

戦がなくならない理由がそれなんですね。

なんとも浅はかな。

 

「それより計算は終わったのかしら?」

 

今時間稼ぎをしている間に終わりました、どうぞ。

 

「……あんたは休憩なしで仕事してなさい」

 

わーぉ、まさかの真っ黒な職場……転職してもいいですか?

 

「別に構わないけど……今の時期にのんびりしてる所なんて生き残れないわよ? というか計算以外に何が出来るの?」

 

飲食関係で売り子でもします。

 

「ふ~ん、あんたが何の仕事をしようと勝手だけど、飲食業とかもっと忙しくなると思うけどね」

 

そうでした。

いつも行くお店はいつも昼間も夜も忙しそうです、あんなに働いたら死んでしまう。

寝て食べてまた寝る仙人の様な仕事はないでしょうか。

 

「兵士に戻って敵地に突っ込めば寝れるわよ。永遠に」

 

冗談きついです。

 

「冗談じゃなく死になさい」

 

あぁ……不幸だ。

どうして俺はこんな所で働いているのだろうか、書庫でのんびりと名簿を管理して本を読んでいた生活が懐かしい。

 

「はいはい、さっさと仕事に戻りなさい。九十九」

 

承知しました。荀彧様。

 

 

 

 

 

初めまして、九十九(つくも)と申します。

今年で二十四歳となり、曹操軍軍師の荀文若様の下で文官をしております。

どうしてこうなったのかと言えば、住んでいた村が黄巾賊に襲われて壊滅し、生きる為に軍へと入りました。

最初は一般兵士として働いていたのですが、文字が読めるのと計算が出来る為、書庫へと飛ばされまして流れながら生きてます。

 

いやー、書庫は本当に天国でした。

本を借りていく人の名簿を付け、返された本を元に戻し名簿を付け直す。

大抵はその繰り返しでたまにこの本がどこにあるのかと聞かれる程度のもの。

一緒に仕事していた同僚は、早くこんな辛気臭い所から抜け出したいとボヤいてましたが、自分は逆です。

むしろ暇な時間も多く、本を読んでいられるので好きでした。

 

しかし、そんな天国な日々も今現在目の前で書類を人とは思えぬ速さで処理をしている荀彧様によって砕かれます。

あれは、何時ものように書庫内をのんびりと探索しているときの事……。

猫耳フードを被った女の子が一生懸命、一番上の段の本を取ろうとしてる場面に出くわしました。

その時の俺は何を思ったのか仕事をしたくて堪らず、代わりに本を取ってあげる事にしました。

今思えばちょっとした親切心と下心があったなとか覚えてます。

同僚が彼女が出来たと自慢していたので焦ってたんです。その頃の俺は若かったんです。

三ヶ月前の出来事ですけど。

 

お嬢さん、欲しい本はこれですか?

と自分でも人の良いと思う笑みを浮かべ、少女の後ろから本を取り渡しました。

あれは会心の笑顔でしたね。

返って来たのは、泣き声と大声の罵倒でしたが……。

 

『いやー、男! 犯される!』

 

いえ、お嬢さん。彼女が出来なくて焦ってますけどそこまではしませんよー。

と思いつつ呆然と彼女の泣き姿を見てました。

それはそれは盛大で今まで見た事ないような泣き方でした。

痴漢の冤罪で捕まる人ってこんな心境なのかなと思いつつも諦めていれば、曹操様がやってきて場を収めてくださいました。

あの時は驚きましたよ。生曹操様ですよ? あの三国志に出てくる魏の王、曹孟徳。

感激やら可愛らしい美少女やらで大興奮でした。

 

『ごめんなさいね、この子……男性が苦手なのよ』

 

にっこりと笑いかけて下さる曹操様に見惚れ、思わず気にしてませんのでと笑い返しました。

よく考えればその時の対応が間違ってたんですね。此方に非がないのだから少し顔を顰めておくべきでした。

まぁ、本音で言ってもどうにかなったし、男性が苦手ならしょうがないよねと言う心境だったのですが。

その泣いた少女を連れて去っていく際の曹操様の何かを見つけたような、獲物を狙うかのような視線を疑うべきでした。

疑っても察しても逃げ場なんてないんですけどね。

 

『九十九と申します』

『何であんたみたいな男を部下に持たないといけないのかしら、男なんて役立たずで下品で不毛で下劣な生き物で……』

 

それから数日後部署が移動となり、現在の位置に収まっています。

荀彧様、軍師として優秀で『王佐の才』と称されるほどのお人です。

しかしながら致命的な問題があった、それが『男嫌い』。

何でも荀彧様の男嫌いというのは限りないもので曹操様も頭を抱えていた問題らしいです。

 

軍を回すには多くの人が必要となります。

その中で女性だけで編成しようとするのは無謀なもの……というか無理です。

故に荀彧様にも男性の自分より優秀な方々が付いていたのですが、全員数日も経たない内に逃げてしまったそうな。

この時代、教養がある人は珍しくプライドが高い人が多いですからね。

普通の人と違い賢いのですから見下すのも分かるのですが、自分より優秀で女性のしかも年下の子の罵倒に耐えれなかったんですね。

南無。

 

それでも男嫌いをどうにか緩和しないことには困る事は必須。

しかし、慣らそうにも荀彧様の周りで耐えられる男性が居ない、どうしよう……。

と考えた時に見つけたのが俺ということらしいです。

 

書庫の件を見て試しにということでくっ付けて見れば、あら不思議耐えるじゃないですか。

ラッキーこいつでいいやと決まりました。

 

「まだ終わらないの? これだから男は使えないのよね」

 

まぁ、自分としましては見た目可愛らしい人ですし、自分より優秀な人であると分かってるので不満はないです。

男嫌いになったのには何か理由があるのでしょう。荀彧様の男嫌いが治る日まで、せめて軽減されるその日までお傍に居ようと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

……ところでお腹空いたので休憩したいです。

 

「そこの竹簡を全て終えたらいいわよ」

 

昨日一日で終えた仕事の量と同じですね!

どうやら今日はまともに食事が出来ないようだ……青い空を見てやめようかな、この仕事と思った。

 




……続くかな?


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九十九、飲みにいく

亀更新? きまぐれ更新でした。


 やぁやぁ、九十九(つくも)です。

今日も今日とて変わらず、計算の毎日です。

それでも今日は楽しみで仕方がありません。

 

「……気持ち悪い」

 

ふっふっふ、そんな事を言われても笑みは絶やしませんよ!

何を隠そう明日は一週間に一度のお休みの日。

今日は定時で上がらせてもらいます!

 

「はいはい、あんたの計算した奴が間違ってなかったらね」

 

あっはい。

 

「無駄口終わったら、さっさと寄越しなさい。本当に無能ね」

 

どうぞっす。

 

「……」

 

 出来上がったばかりの竹簡を渡せば、荀彧様が端から端まで目を通していく。

自分が行なった計算の確認をしているのだろう。

幾つもの数字が並ぶ中、それを全て暗算で計算をし直している。

こっちが何十分もかけ、そろばんを使ってまで計算をしたものをだ。

頭の構造が自分とは違い過ぎる。

 

「問題ないわね……ちっ、終われば?」

 

了解です。

お疲れ様でした。

 

 数分待てば、竹簡を仕舞い視線を此方に向けずにそう言ってくれた。

未だに荀彧様の隣には目を通さなければいけない書類が幾つも積み上がっていた。

毎回思うのだが、いつも何時に終わっているのだろうか。

少し不思議だ、今度最後まで残ってみようか……罵倒されまくる未来が見えるからやめとこ。

 

「それと……お酒。忘れないように」

 

……今日もっすか?

 

「悪い?」

 

何でもないです。

いつもの時間に行きます。

 

「……」

 

 それだけ告げて残る同僚達に挨拶して外へと出る。

そしてがっくりと肩を落とし、とぼとぼと街へと足を向けた。

 

 これから街に行ってお酒を買わなければいけないのだ。

先ほどの荀彧様の『お酒』という発言は、飲みに来ないか? というものだ。

二ヶ月前ぐらいからだろうか、いつも休みの前日の夜に飲みに誘われる。

 

 本来であれば、上司に飲みに誘われるのは嬉しいもの。

早く出世するには上司に気に入られるのが一番だから。

それはここでも変わらない、むしろ現代より重要かも知れない。

何より上司も仲良くなりたいから誘うのだ。

それを断るなんて勿体無い話だ……。

まぁ……相手が荀彧様以外だったらの話しですけど。

 

あっ……このお酒下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

へいへいへーい、九十九で御座います。

 

「……何その馬鹿みたいな挨拶」

 

適当に思い浮かんだ言葉を口にしてみました。

 

「頭空っぽて思ってたけど……本当に空っぽなのね」

 

哀れみの視線が心に刺さります。

すみません。こんばんは、荀彧様。お邪魔させていただきます。

 

 夕食も終えて、お湯を沸かし体と頭を洗って清潔にし荀彧様の部屋へとやってくる。

荀彧様と飲む際はいつも荀彧様のお部屋だ。

何でも外で飲むと、どうにも男が視線に入り不愉快に思うそうで。

俺の部屋だと『男の部屋で飲みたくない! 飲むぐらいなら死んでやる!』だそうな。

もはや病気の類ではと本気で心配になってくる。

 

「変なところ触ったら、ちょん切るから」

 

何をとは聞きませんよ。

というか変な笑いしないで下さい怖いです。

 

 荀彧様が黒い笑顔を見せて此方を見てくる。

それを見ないようにし、言われた通りに最低限の歩数で真ん中の机まで歩き、椅子に座る。

椅子に座りお酒を置けば、荀彧様がお酒を確かめ眉を潜めた。

 

「相変わらず、変に高いお酒買ってくるわよね」

 

給料使う暇ないですし、趣味もあまりないもので。

 

「つまんない奴ね」

 

 荀彧様の言葉に頭を掻いて答える。

現代に居た時は、ネットや娯楽も多くお金があってもあっても足りないぐらいだった。

しかし、此方の時代に迷い込んでからは娯楽も少なく使う機会に恵まれない。

本を読むのは好きなので其方にと思うも城の書庫で足りてしまう。

 

 なら同僚のように女性を買うかなと思うも今の上司が上司だ。

買ってるところを見られたり、噂が耳に入ればどうなるかぐらい簡単に想像が付く。

故に使うとなれば、こんな時の飲み代ぐらいになってしまうのだ。

 

「……んっ」

 

 そんなことを考えてれば、荀彧様が早速とばかりにお酒を飲んでいた。

特に乾杯の音頭とかはない。飲みたい時に飲んで食べる、それが荀彧様との飲み会だ。

 

「……ひっく」

 

相変わらず弱いですね。

ニ杯目でそれですか。

 

「うっさいわねー……あんたは黙ってればいいのよ」

 

はいはい、そうします。

 

「はいは一回! そんなことも覚えられないの? 単細胞!」

 

 お酒を飲み始めて数分後。

荀彧様は顔を真っ赤にさせて酔い始めた。

この人は、お酒を飲むものの極端に弱い。

最初の一杯で顔が真っ赤になり、二杯目でこれだ。

三杯目で呂律が回らなくなり、四杯目で目を回す。

五杯目にはいつも倒れて寝てしまう。それが荀彧様。

 

「あー……もう! あの馬鹿は何時も何時も! 邪魔をして!」

 

……。

 

 暫く、荀彧様の言葉に従い用意されていたツマミを食べていれば始まった。

荀彧様は酔いながら愚痴を零し怒り出す。

この人が男の俺をわざわざ自分の部屋に呼んでまで飲みに誘ったのはこのためだ。

何時も何時も堪ったストレスを発散する人形として自分を扱う。

前に男の俺ではなく他の女性の人を誘えばよくないですか? と聞いてみたのだが……。

 

『何言ってるのよ。あの子達にはしっかりと休んでもらって英気を養ってもらわないと……』

 

 そう言われた。

つまるところ、男の俺なら次の日どうなろうが知ったこっちゃないと言うことなのだろう。

泣けるぜ。

 

「こっちが策を立ててやってるのにっ! 脳筋はこれだからやなのよっ!」

 

……。

 

 暫くしても愚痴は止まらない、やめられない。

荀彧様は曹操様が好きで好きでたまらない人だ。

そんな一途な荀彧様だが、敵もまた多い。

曹操様の事を慕っているほかの人が居て、なかなかに独り占めは出来ない。

特に強敵なのが夏侯惇様、彼女は荀彧様よりも長い間曹操様の下に居た人で、曹操軍きっての猛将だ。

故に曹操様も頼りにしていてよく可愛がられている。

 

 そんな夏侯惇様と荀彧様は相性が悪い。

武将と軍師、しかも恋のライバル同士……油と水の関係であった。

 

「あんな奴より役に立ってるのに! ねぇ! 聞いてる!?」

 

聞いてますよ。

 

「ならよしっ!」

 

 適当に相槌を打てばそれで納得してくれる。

既に此方を向いている視線が怪しいほどに変な方向を向いていた。

そんな荀彧様を見て、静かにゆっくりとツマミを食べてお酒を飲む。

 

「そいでー……あのねー……?」

 

……。

 

 お酒を少し煽りながら頷いて話を聞いていく。

この際に同情したりしてはいけない。

前に境遇に同情したら……

 

『びえーーん!! 男に同情されたー!! 死ね! 死ね!』

 

 と錯乱状態で物を投げられまくった。

解せぬ。あと気をつけないといけないのは動きだ。

早く急に動いてはいけない、変な動きをすると本当に泣き叫ぶのだ……この人。

野生の人慣れてないような猫を相手にするように扱う、それがこの人と過ごす秘訣だ。

 

「それでー……それでー……」

 

眠りました?

 

 暫くすれば、荀彧様は可愛らしく寝息を立てて机に倒れこむ。

声を掛けて確認するも返事はなし。

そのことを確認し、立ち上がると荀彧様を寝台に運び布団をかける。

 

今日も徹夜だ嬉しいなー……はぁ。

 

 そして扉を開け、外に出ると少し横の壁に座り込み一夜を過ごす。

どうして、こんな事をするのかというと鍵が掛けられないのだ。

部屋の主である荀彧様は寝ている。そのため内側から鍵が掛けられない。

前にそのことに困り、しょうがなく荀彧様の部屋で一夜を過ごしたのだが、そのときは荀彧様に殺されるかと思った。

 

 ちなみにそのまま鍵を掛けずに部屋に戻り、荀彧様に何かあったら俺の首が飛びます。

故に廊下に出て荀彧様が起きて部屋の鍵をかけるまで時間を潰さないといけない。

まぁ……あの人、酔いつぶれたら朝まで起きないんですけどね。

 

「あら……こんな所で何をしてるのかしら?」

 

こんばんは、曹操様。

 

 のんびりと壁を背に一杯していれば、曹操様がやってきた。

曹操様は、此方を見ると何が可笑しいのかくすくすと笑う。

 

見ての通り、月をツマミに花を愛でてました。

 

「ここからじゃ月も花も見えないわよ?」

 

 そんな笑った顔が可愛らしい曹操様に手に持っていた杯を上げて挨拶をする。

 

いえいえ、先ほどまで見てましたよー?

綺麗に月の光を浴びて輝く花を。

 

「あぁ……寝てしまったのね」

 

残念ながら……。

 

 私も愛でたかったのにと呟き不満そうにする曹操様。

そんな彼女を見て自分の上司を思い出す。

 

『うぅ……なんで春蘭ばかり』

 

……。

曹操様ー。

 

「何かしら?」

 

今宵は少し寒いです。

 

「確かに……少し肌寒いかしら」

 

この部屋に丁度いい感じに暖まってる抱き枕さんが居るのですが、いかがですかー?

 

「! ……ふふ、なるほど。確かに丁度いいわね」

 

 此方の言いたい事が伝わったのだろう。

曹操様は微笑み、荀彧様の部屋へと入ってく。

少しお酒臭いけど、そんな些細な事を気にする人でもないだろう。

 

 扉が閉まり、鍵が掛かった音を聞いてから立ち上がり歩き出す。

今日はゆっくりと寝れるようだ……明日は久々に寝て過ごす必要も無い。

休みは何をしようかなと考えながら残ったお酒をぐいっと飲み干した。

 

 

 




そろばんのネタはそのうちに~


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九十九、料理をする

適当に調べた三国志知識、間違ってる部分もあると思われ


 おはこんばんちは! 九十九(つくも)です。

ただいま、料理の最中で御座います。

 

 いやー、久々の休みに何しようかなと思いまして料理をすることにしました。

まぁ、料理と言っても燻製肉なんですけど!

現代と違い食べ物関係ではやはりと言うべきか少し劣ってしまいます。

カレーやハンバーガーは勿論、炭酸飲料もジュースもないです。

最初の頃は本当にきつかったですね……。

満足に食べれず、食べ物も水も合わなくて無気力になりました。

 

 あの時は生きる為に村の人に受け入れられるのに必死で……。

華佗達がいなかったら生きていなかったでしょうね。

とまぁ……俺の昔話は置いといて燻製肉ですね。

 

 この時代のは燻製と言うか干し肉なんですけどね。

なんの味付けもない肉を干しただけなんで、現代人の自分には少々物足りません。

ビーフージャーキーとまでは言いませんが、それなりのを食いたいです。

荀彧様との飲み会の時のツマミは果物関係とかが多くて多くて……。

枝豆、刺身に馬肉が食べたいです。

まぁ……どれも無理なんですけどね。

故に燻製肉ぐらいはと思っていましてのこれです。

 

 燻製肉なんですけど……。

塩と肉だけで済むので安上がり! ……とはいかないんですよ。

この時代、塩は国が管理販売をしてまして価値が高いんです。

少量でもそれなりの値段でいやはや参りますね。

 

 本格的に作りたい所ですが、自分の記憶だと一週間ほど冷蔵庫で寝かせないといけなかったと思います。

勿論、この時代に冷蔵庫なんてあるわけもなく作り方なんて知りませんので簡単な物にします。

買って来た肉に小さな穴を幾つも開け、塩を塗りこみます。

塗り込んだら竹の葉などで包み密閉して少し置きます。

この際になるべく涼しい所に置かないと腐りますので注意。

暫く置いたら、水の張った鍋に突っ込み塩抜きをして風通しの良い所で乾燥。

 

いい感じになったら適当に作った燻製専用機に突っ込んで下にお手製のチップもどきを入れて発火。

後は適当に燻して出来上がりですねー。

実際は温度とかあるんでしょうけど、温度計とかありませんし、適当です。

まぁ、作ったのは初めてで記憶も薄れてるのですが、それなりにはなるでしょう。

冷蔵庫とか欲しいな。

 

 

 

 

 

 

 

げふん、げふっ……ちょっと手違いが合った模様。

煙が凄いっす!

げふげふ……でもいい感じに燻されて良さ気だと思うな!

「……な! じゃないわよ。大馬鹿者!」

……。

 

 煙がもくもくと上がる燻製肉作るぜ!君一号を眺めていたら、頭から水を掛けられた。

雨かと思ったが、まるでバケツを引っくり返したような雨量で驚きます。

 

「馬鹿なの死ぬの? いなくなる? 火事だと思ったじゃない!」

……こんばんは。荀彧様。

というか火事じゃないと分かった時点で俺に水を被せる理由は……。

「重かったし、有効に使わないと勿体無いでしょ」

俺に被せるのは勿体無くないんですね。

 

 何事かと後ろを見れば呆れた表情で桶を持っている荀彧様が居た。

桶を此方に被せ、怒りながら両手を腰に当て頬を膨らませている。

大変可愛らしいです。

 

「それであんたね……城の隅っこで何をしてるのよ!」

何って……料理してました。

「はぁ!? 料理って……アホなの? 一回死ね!」

死にません、肉を燻して燻製肉を作ってるんです。

というか、昨日隅っこ使わせてくれるように許可頂いたじゃないですか!

「したけど、火事にでもなったらどうするのよ! というか物を燃やすな!」

あぁ……やっぱり駄目でしたか。

 

 今現在お城の隅っこを使用してます。

家でこんな事を出来るわけもなく、調理場ですれば大惨事。

故に外でと思うのですが、いい場所が見つからず、こうして隅っこをお借りしてました。

ちなみに借りる際に何に使うのかを言ってないので言い返せません。

 

「取り合えず、やめなさい」

はーい。

「はいは、伸ばさない!」

 

 撤収を命じられ素直に応じる。

既に辺りは真っ暗、昼からずっと燻していたので既に出来上がっている。

というより夜になって煙が目立ちバレた模様。

 

おー出来た。

「……カッチカチじゃない」

これでいいんですよ、保存食ですし。

 

 燻製肉を取り出し、確認する。

お肉は水分が完璧になくなり、棍棒のようにカチカチだ。

それを少しナイフで削り食べてみる。

しっかりと塩味が効いていてただ干しただけの肉より美味しい。

 

うまうま。

「へー……塩を使ったのね」

 

 気付けば、荀彧様も『男の癖に生意気ね』と言いつつ、ナイフで削り勝手に食べている。

人の物を! と思うも美味しそうに食べてるのでよしとします。

というか、この人男性が作った物大丈夫なんですね。新たな発見。

 

 それはそれで、燻製肉の出来のよさに今日はこれをツマミに一杯やるもいいなと夢がひろがりんぐ!

何より塩を使い、水分を飛ばしてるので保存が長く利きます。

冷蔵庫がない時代では優秀な食べ物です。

 

さてと……食べますか。

「こっちを食べるんじゃないの?」

そっちの硬いのは、チビチビとやる用です。

今日はこっちの水分が抜けきってないほうを食べます。

 

 取り出したのはカチカチのにより時間を少なく燻した物。

簡単に言えば、ベーコンもどきである。

 

「むっ……」

匂いは普通にいいな。

 

 残った火で軽く炙ればいい匂いが辺りを包む。

油も滲み出し、肉汁がじゅわっとあふれ出す。

燻してあるので軽く炙り、一口口に入れる。

 

うへへ……美味い。

「……九十九」

何ですか?

「これ少し貰うわね」

へぁーー!?

 

 ベーコンもどきを食べていれば、何時の間にか荀彧様も食べていて、そんなことを言ってくる。

なんと言う横暴。

たえと上司と言えどもそれは、まかりとおりません!

断固として男らしく拒否させていただきましょう。

 

残念ながらそれは……。

「あんたね……調理場以外のところから煙が出てるのに騒ぎにならないと思ったの?」

……。

「あと華琳様に今日飲みに誘われてたのよ。丁度いいわね、これ」

……少しだけですよ?

「普通、華琳様のお口に男が作った物なんて入らないんだから光栄に思いなさい」

いや、あの人普通に食べますけどね、美味しければ。

「なんか言った?」

何も言ってません。

 

 どうやら迷惑をかけていた模様。

許可を得たとはいえ少しやり過ぎたかと反省し献上する。

流石に上司に更に曹操様に出すというなら断れないのもある。

 

ただ……曹操様って美食家ですよね?

「そうね、味に五月蝿いわね」

怒られません?

「怒られたら九十九が献上したというわ」

酷い!?

俺が居なくなったらこれはもう作られませんよ!?

「作り方だけ置いていなくなればいいじゃない」

 

 この人、最後の最後まで搾り取る気だ。

というか、レシピがあれば俺をいらないと言ってるのが本気過ぎる表情で怖い。

『こいつは何をいっているんだ?』とばかりに不思議そうに首を傾げてます。

しかも先ほどからずっと硬いほうの燻製肉を食べている姿が更に恐怖をまします。

というか、気に入ったんですか? それ。

 

「保存食と言ってたけど、どのぐらい持つのかしら?」

さぁ? 覚えている記憶で初めて作った物なのでわかりません。

「使えないわねー」

はっはっは。

「なら作り方とどれ位持つのか資料にまとめて寄越しなさい」

はい?

「使えるようなら、保存食として戦に持っていくわ。進言もしてあげる」

あっはい。

「それじゃね、後片付けしっかりとやりなさいよ」

……。

 

 仕事が増えたー!

休日にツマミを作ってたのに仕事が増えた。

何でだ、意味がわからない。

ついでに少しと言ったのに半分持ってかれてる。

 

とほほ……。

 

 その後、片づけを行い。

部屋に戻り残った半分でちびちびとお酒を飲みました。

大変美味かったです。

 

 

 

 

 

 

「それで……今日は何をしてるのかしら」

一晩寝たら中華鍋を使って行なえる燻製を思い出しまして、作ってます。

「ふ~ん……ちなみに隠して作らないと私に取られるって分かってる?」

荀彧様の顔を見て今思い出しました!

食べないで!?

 

 その後、無事に作れたベーコンチックな食べ物をおかずに二人でご飯を食べました。

現代のベーコンとは違いますけど、それなりに美味しかったです。

荀彧様の好み的に今度はドライフルーツに挑戦してみようと思います丸

 




ベーコン食べたい


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九十九、占いをする

あとがきのほうが最初に書いたものです。
デレすぎっ!と思ったためにボツに!
お好きなほうをお選び下さい。


どもども! 九十九(つくも)です。

今日は、荀彧様と街に来ています!

分かってると思いますが、デートとか甘い感じのものではありません。

むしろ近づくなと追い払われました。

 

「まったく……なんで私があんたと回らなくちゃいけないのよ」

そういわれましても、むしろ何で俺が呼ばれたのか分かってないぐらいなんですけど……。

 

 前を歩く荀彧様に付いて歩けば、そのような事を言われた。

ことの始まりは、仕事部屋でのんびりと計算をしている時です。

 

『桂花……と九十九。あなたも来なさい』

はい?

 

 突如やってきた曹操様に呼ばれ付いていけば、街の視察をすると言われた。

一つ目の道を夏侯淵様。

中央の道は曹操様と夏侯惇様。

最後の一つが荀彧様と自分だ。

三通りをそれぞれが通り、視察し入り口の合流地点で落ち合う話となっている。

 

「うー……私も華琳様と回りたかった」

大ハズレ引きましたね。

「ハズレもハズレね……はぁ」

……あからさまにため息付かれるのは少し堪えます。

「知らないわよっ! 何で私がアンタに気を使わないといけないのよ!」

 

 よほど曹操様と歩けなかったことにお冠らしい。

いつも以上にツンケンしてます。

それでも怒りながら、辺りをしっかりと見渡し視察を終えてる所は流石です。

 

「ちっ」

それにしても何で俺なんかも視察に?

 

 呼ばれる理由が分からず聞いて見ると、少し気だるげに睨まれ首を横に振られる。

そんな対応をされるも後ろを黙って着いていけば、荀彧様は口を開いてくれた。

質問をすれば色々と罵倒されたりしますが、なんだかんだ最後には教えてくれます。

男性に厳しい方ですが、優しい所もある人です。

 

「あんた……って、時折変な物を思いつくじゃない」

変なの……。

「この前の燻製肉もそうだけど……その前にもそろばんとか作ってたわよね」

あー……ありましたね。そろばん。

 

 荀彧様の言葉に頷き、手を叩く。

計算の仕事が大変過ぎて、そろばんを依頼して作ってもらった事があった。

この時代は紙が貴重で高く、計算用紙になんか使えません。

竹簡などはかさ張り邪魔ですし、結局は全ての計算を暗算で行ないます。

そのお仕事が大変だったので、何か計算を残しておける物は無いかと考えて思いついたのがそろばん。

 

『なにそれ』

そろばんですよー!

この動く所を一桁二桁と桁分けて数字を記録し、計算も楽にしてくれる物です!

『へー……便利ね』

そうでしょう!

『でも……これがあったらアンタ要らなくなるわね』

……へ?

『計算も楽になるし、文官の質も上がるから計算しか出来ないアンタは要らなくなるでしょ?』

……。

 

 まぁ、思いついて見せたらそういうことを言われて、嫌な思い出しかないんですけど。

封印しようとしたら荀彧様に取られ、そのまま曹操様に見せられ量産されました。

今ではいつ取って代わられるか怖い毎日です。

 

「その時折思いつく変な思いつきでもって視察しなさいという事でしょ」

なるほど!

「……はぁ、本当に馬鹿ね」

 

 荀彧様の言葉でようやく納得できた。

他の人とは異なる視点を持つ自分に何かを期待していると言う事なのでしょう。

特に平凡に生き、政治に興味がなかった自分に何処まで出来るか分かりませんが、頑張ってみます。

 

ふむふむ……なるほど。

「……」

ほうほう……ふむ……。

「……」

 

 辺りを見渡して、頷きながら歩きます。

こうしてみれば色々と見えてくるものもありますね。

 

「……さっきから五月蝿いんだけど、息の根を止めたら?」

すみません!

「……それで何か分かったのかしら?」

えぇ!

俺は経済関連のお仕事は出来ないなと分かりました!

「……ねぇ、切り捨てていいかしら?」

あっ痛い、痛い!

蹴らないで殴らないで!?

 

 さっぱり何も見えてこないことを伝えれば、蹴りや拳が飛んでくる。

本気で殴っているのか真面目に痛く、その場で頭を抱えて丸まる。

 

「っ~~~~!! このスカタン!」

いや、無理ですって!

俺が風が吹けば桶屋が儲かる的な事を考えられるわけないです!

「……桶?」

はいっす。

経済ってのは、一つの政策を行い、その結果がどういった利益に結びつくか考える事ですよね?

「……大雑把に言えば、そうね」

風が吹けば、土埃が立つ。

土埃が目に入れば、盲人が増える。

盲人は盲人が付ける職に付く為に三味線を買う。

「……三味線?」

楽器ですね。

それで……その楽器の材料が猫皮なので猫が殺される。

「……」

猫が減ればネズミが増える。

ネズミが増えれば桶をかじる

桶が壊れれば需要が増え、桶屋が儲かる。

つまりは、最終的にどこが立ち、何処がへっこむのかを考える事が経済。

残念ながら、俺にそんな未来を見通す頭はないです。

 

 そんなことを言えば、手足の暴力が止んだ。

不思議に思い顔を上げれば、何やら難しい顔で考え込んでいる荀彧様が見える。

 

「今日からあんたに経済の本を渡すから読みなさい」

はい?

……まじですか。

 

 荀彧様はそれだけを言うとさっさと先に歩いて行ってしまう。

それを少し唖然としながらも見送りながら首を傾げた。

一体何の何処に見出したのだろうか、無駄になる確率の方が高いのになと思い後を走って追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃ~い」

ほほぅ……。

「何よ……頭から被る籠でも欲しいわけ?」

いや……被る趣味ないですからね?

「この間は被ってたじゃない」

……それは荀彧様が被せた奴ですよね。

 

 そんな感じでぶらぶらと歩いていれば、籠売りを見つけた。

籠は他にも売ってる場所があったが、そこは一層に人目に付く所だったのでついつい寄ってしまう。

 

これなんです?

「よくぞ聞いてくれました! これは全自動籠作り機や!」

「全自動?」

 

 先ほどからすっごい肌を露出した胸の大きな女の子がハンドルを回して籠を作っていました。

女の子の持っている木で出来たカラクリを弄れば、籠が編み出されます。

手動で行なってる部分もあるので半自動なのですが、この時代でこんな物を作る人がいるとは驚きです。

 

「何処が自動なのよ」

「いやー……その、は、半自動やな!」

無粋ですよ、こういうのは黙って頷いて聞いてあげるものです。

「兄さん……ええ奴やな。気に入った! 一つ安くしたる!」

わーぉ、なら買います。丁度欲しかったので。

荀彧様はいかがですか?

「何で私が……」

 

 お得な気分にさせられ籠を一つ買うことに決めました。

ついでに荀彧様もどうかと聞いてみれば、途中で言葉を区切り腕組をして何かを考え始めます。

そんな荀彧様を見て籠売りの子と顔を見合わせて、少し近づいてみれば何かが聴こえてくる。

 

「……籠、籠……そういえば落とし穴とかで使えるかしら」

……落とし穴?

「桃を置いておけば九十九が……」

……。

 

 何か凄い事を考えてます。この人。

桃は大好物ですが、さすがの俺もそこまで馬鹿じゃないです。

荀彧様の中での俺は何処まで馬鹿な存在なのでしょうか……。

というか落とし穴に嵌める理由はなに?

嵌めて俺をどうする気なの?

この人、頭はいいのに時折変な行動するんですよね。

 

「一つ買うわ」

「毎度!」

あっ……買うんだ。

 

 何やら黒い笑顔でニヤニヤと笑う荀彧様に冷や汗が溢れ出す。

これって罠にわざと嵌らないといけないのだろうか。

接待しなきゃいけないのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこの若いの」

へいへいー、俺ですか?

「……そうじゃ」

 

 ふらふらと籠を持って歩いていれば、何やら変な人に話し掛けられた。

 

「ぷぷっ……あんたも怪しいし、引き寄せられたのね」

……。

 

 声の主は、目が見えないぐらいに深く布を被った人であった。

声は低くしわがれたもので、お婆さんにも若い男が無理に声を作ってるようにも聞こえる。

そんな怪しい人に声を掛けられた俺が面白かったのだろう。

荀彧様は口元を隠し笑った。

 

はいはい、俺に何か御用ですか?

「いや、何……お前さんの行く末が少し気になっての」

行く末?

「なによ……アンタ占い師だったの」

 

 特に何か商品を広げているわけでもなく、不思議に思って見ていれば荀彧様が相手の職業を言い当てつまらなそうな表情をした。

老人と思わしき相手はそれに頷き、此方を指差してきた。

荀彧様は相手が占い師と知り、興味をなくしたのか先に行ってしまう。

 

「御主……死相が出ておる」

歯槽膿漏?

「死相じゃ死相……近いうちに死ぬってことじゃ」

え? 俺死ぬの?

「死ぬな、確実に」

 

 なんか行き成りお前は既に死んでいる、並なことを言われました。

何か近いうちに死ぬらしいです。

凄いショックです。

そうかー死ぬのかー。

それなら……。

 

お婆さんや。

「なんじゃ?」

俺が死ぬ未来が視えたとして……そのときの俺は――

 

 

 

 

「どんな表情をしてる?」

 

 

 

 

 一番気になる事を聞いて見れば、占い師の婆さんは押し黙った。

無言の空気の中、笑顔で次の言葉を待ち続ける。

 

「ひっひっひ、面白い奴じゃ。そうじゃの……笑っているかの」

そうですか……ならいいです。

これ御代です。

「毎度」

 

 聞きたいことが聞けて満足し、少し多めに御代を渡す。

そうすると老人は、素早い動きで御代を取り人ごみへと消えていった。

それを見送り満足すると先に行ってしまっている荀彧様に追いつくために走りだした。

 

「あんたね……何してたのよ」

少々占いを聞いてました。

「あんなの嘘に決まってるでしょ……馬鹿ね」

あはははは。

 

 死ぬと言われて怖いとは思った。

やりたい事は多い、可愛い奥さんも欲しいし、美味しい物も食べたい。

いい思いもしたい、未来も視たい、現代に戻れるならば戻りたいと思う。

何より荀彧様が結婚できるのかが非常に気になる。

しかし、現実は近いうちに死ぬようだ。

そしてその時に自分は笑っているという。

つまりそれは、満足して自分は悔いなく逝くのだろう。

それだけ分かれば十分……十分なのだ。

 

荀彧様。

「なによ……」

命亡くなる時までお仕えします。

 

 そう口に出してみれば、荀彧様は非常に気持ち悪そうなものを見る目で此方を見てくる。

 

「気持ち悪い」

 

 というより口に出して言って来た。

 

「近寄るな、気持ち悪い!」

そんなこと言わずに!

荷物持ちしますよ!

 

 その後、罵倒されたり怒られたりしながら曹操様達と合流を果たした。

 

 

……籠好きなんですか?

「いや……何か買ってたのよね」

「私は籠に穴が空いてたからな」

「落とし穴作る」

「華琳様へのお土産をいっぱい買ったからな!」

 

 その際に全員が何故か籠を持っており、皆して不思議そうに首を傾げた。

若干一名ほど買った理由が酷い人が居たが、そこは気にしないで置こう。

 




《デレ多め》

「そこの若いの」
へいへいー、俺ですか?
「……そうじゃ」

 ふらふらと籠を持って歩いていれば、何やら変な人に話し掛けられた。

「ぷぷっ……あんたも怪しいし、引き寄せられたのね」
……。

 声の主は、目が見えないぐらいに深く布を被った人であった。
声は低くしわがれたもので、お婆さんにも若い男が無理に声を作ってるようにも聞こえる。
そんな怪しい人に声を掛けられた俺が面白かったのだろう。
荀彧様は口元を隠し笑った。

はいはい、俺に何か御用ですか?
「いや、何……お前さんの行く末が少し気になっての」
行く末?
「なによ……アンタ占い師だったの」

 特に何か商品を広げているわけでもなく、不思議に見ていれば荀彧様が相手の職業を言い当てつまらなそうな表情をした。
老人と思わしき相手はそれに頷き、此方を指差してきた。

「御主……死相が出ておる」
歯槽膿漏?
「死相じゃ死相……近いうちに死ぬってことじゃ」
「なにそれ、大雑把過ぎて訳分かんないわね」
「ワシは未来を視ておる、確実に死は来るぞ」

 なんか行き成りお前は既に死んでいる、並なことを言われました。
何か近いうちに死ぬらしいです。

「はぁ……戦も良く起きるし。人が死ぬのは当たり前じゃない。行くわよ」
……お婆さんや。
「九十九?」

 腕を引っ張られるもそれを押し留め、お婆さんに話しかける。
少し気になることがあり、聞いて見たいのだ。

「なんじゃ?」
俺が死ぬ未来が視えたとして……そのときの俺は――




「どんな表情をしてる?」




 一番気になる事を聞いて見れば、荀彧様も占い師の婆さんも押し黙った。
無言の空気の中、笑顔で次の言葉を待ち続ける。

「ひっひっひ、面白い奴じゃ。そうじゃの……笑っているかの」
そうですか……ならいいです。
これ御代です。
「ちょっ、こんな奴にお金を渡さないの!」
「毎度」

 聞きたいことが聞けて満足し、少し多めに御代を渡す。
その際に荀彧様が慌てて止めさせようとするも相手の方が早かった。
老人は素早く御代を受取るとそのまま人ごみの中に紛れ消えていく。

「あんたね……何渡してるのよ!」
満足できたので!
「普通近いうちに死ぬぞ。って言われて御代出す馬鹿が何処にいるのよ!」
ここに!
「っ~~~~!!!!」

 死ぬと言われて怖いとは思った。
やりたい事は多い、可愛い奥さんも欲しいし、美味しい物も食べたい。
いい思いもしたい、未来も視たい、現代に戻れれば戻りたいと思う。
何より荀彧様が結婚できるのかが非常に気になる。
しかし、現実は近いうちに死ぬようだ。
そしてその時に自分は笑っているという。
つまりそれは、満足して自分は悔いなく逝くのだろう。
それだけ分かれば十分……十分なのだ。

……なんで蹴るの!?
「馬鹿! アホ! 華琳様から頂いたお給金を変な事に使うんじゃない!」
あっはっはっは!
俺が貰ったものです!
好きなことに使います!
「死ね、今すぐ死ね!」

 その後、自分の意見が通らなかったことに不機嫌になった荀彧様に追い掛け回されながら、曹操様達と合流した。

……籠好きなんです?
「いや……何か買ってたのよね」
「私は籠に穴が空いてたからな」
「落とし穴作る」
「華琳様へのお土産をいっぱい買ったからな!」

 その際に全員が何故か籠を持っており、皆して不思議そうに首を傾げた。
若干一名ほど買った理由が酷い人が居たが、そこは気にしないで置こう。



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桂花は、はなさない

何かお気に入り件数が凄いことになってる……。
桂花が好きな人が多くて嬉しいわ。
あっ……最初の半分は春蘭サイドです。


 

「……」

「……何してるんだ?」

 

 目の前の桂花を見てそんな感想しか出てこなかった。

桂花は、草むらに隠れじっと道端を見続けている。

道端に何かいるのかと思い同じように覗いてみるも、そこには何もない。

いや……正確には桃と籠が置いてあった。

 

籠は木の棒で不自然に浮き上がり、籠の下に桃が置いてあるのだ。

何処からどう見ても罠だ。

馬鹿馬鹿と言われる私でも分かる。

 

「なぁなぁ」

「うっさい、なんだっていいじゃない!」

「いや、だってお前凄い怪しいぞ?」

「むむむっ……はぁ……」

「……?」

「……最近」

 

 きゃっかんてきに言ってみれば、桂花もようやく喋りだす。

その時の顔が酷く悔しそうにしていたが、何なのだろうか。

そんなに私に話すのがいやか。

 

「九十九の奴が私に馴れ馴れしいのよね」

「はぁ?」

「私の方が上だって忘れてるんじゃないかしら?」

 

 意味が分からない。

先ほどの罠と今回の話がどう繋がるのだろうか。

 

「それで?」

「一回懲らしめて私のほうが上って事を知らしめてやらないと」

 

 胸を張って答える桂花に私より馬鹿なんじゃないだろうかと思った。

九十九の奴を見ていれば分かるが、奴は桂花を凄く好いている。

桂花の無茶に答え、罵倒にも耐え、桂花の悪口も言わないし馬鹿にもしない。

明らかに他の男と違い、桂花を敬っている。

 

 しかし、この目の前の同僚はそれが分かってないらしい。

私より賢いくせに変なところで抜けている奴だ。

そもそもこんな罠に掛かるわけないだろうに……。

 

「きた!」

「……」

 

 そんな事を考えていれば、九十九の奴が歩いてきたらしい。

桂花がうきうきしながら手に持った紐をぎゅっと握り締める。

そんな桂花を呆れた視線で見るが、桂花は気づかなかった。

 

「……なぁ」

「なによ……てかまだ居たの?」

「あいつ、本当に九十九か?」

「はぁ……? 頭だけでなくて目も悪いわけ?」

 

 色々と酷い事を言われるが目は物凄くいい。

いいからこそ、本当に前から歩いてくる男が九十九なのかと不思議に思った。

 

「……いやだって、あの男笑ってないぞ?」

「何言ってるのよ?」

 

 気になっていた点を言って見れば、小馬鹿にしたような視線を此方に送ってきた。

そんな視線を受け、怒鳴ろうと思ったが大人な私はぐっと堪えた。

流石私だ。

 

「九十九って何時見てもふにゃ~と笑ってるだろ」

「……あぁ、そういうこと」

 

 ようやく私が言いたい事が伝わったらしい。

まったくここまで言わないと分からないとは、駄目な奴だ。

 

 私が知る九十九は何時もふにゃっと笑っていてお調子者で少々馬鹿っぽい奴だ。

しかし、前から来る男は顔こそ九十九だが笑っていない。

しかもキリっとした表情で真面目に竹簡を持ち歩いていた。

あいつが九十九だと言うなら、嬉しそうに笑いながら軽く跳ねながら歩く筈だ。

 

「仕事をしてる時とか一人の時は大概あんな顔で真面目よ」

「そう……なのか?」

「そうよ。むしろ一人で笑ってたりしたほうが怖いじゃない」

「……そうだな」

 

 そう言って桂花は少し眉を潜め言ってきた。

それもそうか、確かに秋蘭とかが部屋で一人で笑っていたと考えると怖いものがある。

それにしても普段が普段だから余計に今の九十九に違和感を感じる。

 

「引っかからないわね」

「引っかかるわけないだろ」

 

 暫し待っていれば九十九は不思議そうに桃を取ると首を傾げていた。

勿論、籠の下から手を伸ばすなんてことはせず、籠を取り外してからだ。

暫しその桃を眺めるも少し口元を緩め、そのまま持っていってしまった。

 

「……アイツっ!!」

 

 桂花が怒るも今回ばかりは九十九に同情した。

あいつもこんな上司相手に何時も大変だろうに……。

 

「そうだ」

「何よ」

 

 そこまで考えて天啓が私に舞い降りてきた。

 

「九十九の奴を私の部隊にくれ!」

「へ?」

 

 いい事を考え付いた物だ。

あいつは他の男と違い、私を馬鹿にしない。

計算を間違えても優しく教えてくれるのだ。

何より自分の部隊に専属の文官の一人や二人ほど欲しいと思っていた。

流石だ、私。天才だな!

 

「というわけでくれ」

「……」

「男が嫌いなんだし、いいだろ」

 

 

 そう言ってみれば桂花は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば……俺って転属あるんですか?

「何よ、いきなり」

 

 ふと休憩中に気になり聞いてみる。

元々は曹操様が荀彧様の男嫌いを克服する為に寄越したのだ。

荀彧様の男嫌いが緩和するか、治すのを諦めた時、俺は用無しとなる。

その場合、また書庫に戻されるのか、はたまた何処かに転属になるのか気になった。

 

「書庫に戻りたいなら、華琳様に打診するわよ」

いや、気になっただけです。

「そうねー……私の男嫌いが治ったらじゃないかしら」

……それって何時になるんですかね。

「言っておくけど治す気ないわよ」

そうですよね。

 

 そう言って荀彧様は試しに作って持ってきたドライフルーツに手を付けて食べる。

どうやら俺の転属はないようだ。

幸せそうに頬を緩め、ドライフルーツを食べる荀彧様を見てこのままでもいいかなと思った。




《桂花は、はなさない》
春蘭に話さないのか
九十九を放さないのか

どっちなんだろうか?
ちなみにどっちにしろ、まだ恋愛感情はないけどね

《拾った桃》
無事にドライフルーツになり、持ち主の中へと戻りました。


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九十九、金庫を破る

今回は桂花はお休みです。
桂花メインだけど他の魏の子も書きたいので!
あと微R-15


こんばんは、九十九です。

今回は荀彧様はお休みです。

というか、殆どの人が外に出てて留守番してます。

 

「うー……」

……。

 

 そんなお留守番してる間、何処にお邪魔をしてるのか言うと曹操軍の『金庫番』の曹子廉(そうしれん)――曹洪(そうこう)様のところです。

曹操軍の会計を全て引き受ける責任者さん。

数字を扱う関係で、この人のお仕事を手伝う事もあるので付き合いがあったりします。

荀彧様が物凄く怒るので荀彧様が居ない時しか手伝えないのですが……相性最悪なんですよ、うちの上司と。

この人が頷かないと予算が下りません。

そのせいで毎回毎回、荀彧様とバトルを繰り広げてたりするので敵対してます。

 

 ちなみに容姿は、とても綺麗で可愛らしい人です。

曹操様と同じ金色の髪の毛をツーサイドアップでまとめ、先っぽをくるくる巻きにしてます。

……曹操様といい子考(しこう)といい、何で皆ドリル的な髪の毛なんでしょう? 遺伝?

あとは……とても胸が大きくて、いつも縫ぐるみを持っています。

曹操様はぺったんこなのにこの人だけ大きいです。フシギダナー。

 

 とまぁ、そんな子廉様のところに予算を下ろして頂く為に参りました。

本来であれば、自分は計算だけでこう言ったのは荀彧様がするのですが、居ないので代理です。

あ……ちなみに子廉様には(あざな)で呼ぶことを許してもらえてます。

この城だと、仲康と子考ぐらいからしか許されてないので珍しい人です。

ちなみに真名で呼べる人は未だに一人しか居ません。

 

「……はぁ」

……ずず。

ため息付くと幸せが逃げるらしいですよ。

「誰のせいでため息を付いてると思ってますの?」

最近活発になった奴等のせいですかね。

「……むむむ」

 

 水を飲んで眺めているだけでは暇なので声を掛けてみました。

何やら不機嫌そうに睨まれたので正論を言えば、唸り始める。

流石に自分のせいにされたら堪ったもんじゃないです。

 

「はぁ……」

ほら、また。

「う゛ー……いつもの猫耳は何をしてますの?!」

活発に動く奴等の討伐に出てます。

「……あーお姉様、昇進しましたものね」

ですです。

曹操様が州牧へと昇進して、治める地域が広がりましたからね。

守る所が増えてみんな大忙しです。

「九十九は一緒に出ませんでしたの?」

俺?

 

 のんびりとそんな事を言っているとそんな事を言われます。

計算しか出来ない俺が戦に出て何をするのでしょうか?

放った矢の数でも数えてればいいんですかね……なにそれ拷問?

 

俺なんかが付いて行っても何にも出来ませんよ?

「んー見てる限りだと指揮もそれなりに出来そうだと思いますわ」

あー……無理ですね。

「言い切りますのね」

 

 無理だと言い切れば、少し不愉快そうに目を細められました。

何だかんだ言って真面目なお人ですからね、不真面目に見えて怒ったのでしょう。

 

や、駄目なんですよ。

「やる前から諦めるのは関心しませんわね」

……賊徒相手だけは駄目なんですよ。

「賊徒だけ……?」

 

 繰り返し聞かれた言葉に軽く微笑み答えます。

あまり口に出したくない言葉なのでそれだけで済ます。

すましたいなー、無理かな?

 

「そういえば、九十九の住んでいた村は……ごめんなさい」

いえいえ、とまぁ……相手にすると多分冷静でいられないと思います。

指揮官が冷静でないと従う兵士達が可哀想ですからね。

自分が今回の戦で活躍する事はないでしょう。

「なら……一緒にお留守番ですわね」

はい。

 

 にっこりと笑いかけてくれる曹洪様に此方も笑い返す。

あぁ、平和です。

何だろうか、この癒し空間は……。

自分に非があった事を察し、空気を変えてくれる機転の良さ。

流石は、上に立つだけのことはあります。

 

それで下りませんか?

「う~ん……この数は」

商人さんと連携を取ってましてその値段で抑えてます。

矢や武具はどうしてもこの先必要な物ですし、兵士の……民の命を守ってくれる物です。

「……」

皆の安全性を保つ為の必要な出費……そう取ってくれませんか?

「……はぁ」

 

 必要性を説き、頭を下げ頼めば子廉様は大きくため息を付きながらも判子を押してくれた。

これで武具や矢の補充が出来、これから先の戦で存分に戦えるでしょう。

自分の知識だとこの先、黄巾党が更に活発に動くので今回の事は必要な事です。

 

ありがとうございます。 子廉様。

「はぁ……他の方も九十九みたいでしたら」

 

 そんな事を言ってくる子廉様。

俺が大量発生したらやばいことになると思うな。

あちら此方で煙が上がり、カオスが出来上がりそう。

 

褒められて嬉しいですけど……そんなにですかね?

「九十九は予算を取るときに最低限で通してくれますもの」

まぁ、言わば血税ですからね。 無駄にはできんとです。

 

 自分には日本で培った価値観がある。

税金も色んな所で引かれ、色んな用途で使われることを知っている。

無駄に使う政治家をテレビなどで見るのが日常だったので、民を思いしっかりと管理してくださる子廉様に感謝しかない。

そう思うため最低限の礼儀として商人などの交渉を頼んだり、最低価格を調べてから通すようにしてます。

 

「それが分かってない輩が多くて、多くて……!!」

「曹子廉様、今月の予算のほうを……」

……ずず。

 

 そんな事を話していれば、扉から一人の文官の人が入ってくる。

文官の人が予算を貰う為に子廉様に竹簡を渡し、それを子廉様がしっかりと見始めた。

それを見ながら、来るかなと構える。

 

「予算のほうを――「何言ってますの?」……へ?」

 

 あぁ、やっぱりか。

俺にとっては付き合いやすい方なのだが、この時代の価値観だと子廉様は少々相性が悪い。

賄賂で上に上がり、私腹を肥やす輩が多い時代だ。

例によって文官の中にはお金の価値が少し狂っている人もいる。

そんな輩とお金の価値をしっかりと分かっている子廉様が会うと……

 

「この物品の使い道は?」

「えっと……それは」

「この品の最低の金額は幾らで?」

「え?」

「……この値段で書かれてますけど、前の時はもっともっと安かった筈では?」

「あー……」

 

 こうなるのだ。

次々に質問される内容に相手は顔を赤くしたり青くしたり、忙しく表情を変える。

そして――

 

「よ、予算を……」

「その股間にぶら下がってる焦げて腐った果実、ブチもぎますわよ!」

「ひ、ひぃ~~~!!!」

 

 わーぉ。凄い迫力。

流石は男子文官ランキングで上司にしたくない人NO.1。

この人も荀彧様同様『男嫌い』なんですよ。

しかも、趣味が可愛らしい少女という……。

荀彧様は曹操様専用のレズ。

曹操様は老若男女構わず美しい人を。

……なんでこの軍こんな人ばかりなん?

 

 それにしても曹操様に似てる容姿と迫力が重なって、プレッシャーが半端ないです!

正直、見ているこっちの物もきゅんと縮こまります。

哀れ文官君は泣きながら、回れ右して去って行っちゃいました。

曹操様以上の毒舌家ですからね、南無南無。

 

「ふぅ……」

お疲れ様です。

これ置いとくので食べてくださいな。

「あっ……」

 

 久々に見た子廉様の罵倒を懐かしみながら立ち上がる。

流石に忙しいでしょうし、あまりお暇してると後が怖いですからね。

懐からドライフルーツが入った小瓶を渡して外へと出ます。

 

「ま、また来てくれます?」

取り合えず、荀彧様居ないですし暇があれば来ます。

 

 普段?

会うと荀彧様に敵扱いされるので会わないです。

裏切り者扱いされるんですよね。

あとは……『綺麗な花にトゲがないとは限らないわよ』とかよく言ってます。

トゲって男嫌いな事ですかね? 正直荀彧様の方が……げふんげふん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 バタンと音がして閉じた扉を暫しの間見つめる。

少しの期待を込めるも結局、彼は戻ってこなかった。

 

「……休憩しましょうか」

 

 そのことに少しガッカリし、閂で扉を閉めると辺りを見渡す。

部屋の中には、誰も居らず、私しかいない。

それを確認すると、先ほどまで九十九が座っていた長い椅子へと倒れこむ。

 

「ん~……はふ」

 

 思いっきり匂いを吸い込み満足した。

実際、匂いがするわけでもないのだが、それだけで満足だ。

 

「……んっ、あっ」

 

 暫くそのまま堪能すれば、手が少しずつ下へと下がり下着を触る。

そして……暫くの間、欲望に身を任せた。

その際に脳内で思い出すのは先ほどの男性。

 

 本来美しい少女が大好きな自分の中にスルリと入って来た男性。

お金の価値観が合い、他の男みたいに派手な遊びもしない。

たまに馬鹿っぽい行動をとるもそれもまた可愛らしくて好みだった。

そんな彼を愛しく想い、今日もまた耽る。

 

 

 

「……ふぅ、んっ」

 

 行為が終わり、満たされた心。

暫く気だるげにしていれば、机の上の小瓶を見つけた。

 

『食べてくださいな』

「……んっ、甘い」

 

 彼がそう言って置いていった果物の干し物。

最初はわざわざ保存食にして勿体無いと思っていたが、食べてみて感想が変わった。

普通の干し物より甘く、美味しい。

しかも聞けば、しっかりと保存すれば三ヶ月から半年もの間保管できるという。

好きな時に食べれて、手軽で美味しいと来た。

そんな物を作り出す彼を――

 

「やっぱり欲しい……でも猫耳が邪魔ですわね」

 

 最後に指を舐めそんな事を思った。




~なぜなに三国志 間違ってるときもあるよ!~
《名前》
姓 名 字 の三つで構成されてます。
桂花でいくと
姓:荀 名:彧 字:文若 真名:桂花ですね。
本来、名を呼ぶことは親、兄弟、主君しか呼べません。
気軽に呼べるものではなかったりします。
荀彧様と言ってる九十九君は実はアウトです。

上司の呼び方は、姓に官職をつけて呼ぶのが正しいみたいです。
字は、名の変わりに呼ぶもので大人になったら付ける物です。
親しい人には字を許すのが一般的みたいですね。
正し、恋姫には名の上位版の真名が存在します。
なので文章としても読みにくいのでこの小説では名を軽めにしております。
桂花>文若>荀彧>姓+官職 の順で親しい間柄となってるとお考え下さい。

九十九「荀尚書令様?」
荀彧「文章で読むと混乱するわね」


《ドライフルーツ》
三国時代にも干し物はあります。
しかし、砂糖がなかったりします。
サトウキビはありましたが、お酒の口直して齧ってたようです。

ちなみにドライフルーツは砂糖と一緒に鍋に入れて煮込み、水分を飛ばし
天日干しにすれば水分の多い桃でも簡単に作れます。
しかも物によっては三ヶ月~一年ほど保存が続くという。
更には、普通に食べるより栄養素も高いそうな。

《お酒》
桂花が飲んで酔ったお酒。
実は……庶民で飲んでるお酒はほぼ度数がなかったりします。
なので演義などで樽ごと飲んで凄い!とかありますけど実は……

ちなみにちゃんと度数が高い物もあったらしいです。


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九十九、過去を語る

あれやね、荀彧をデレさせすぎた。
あと、主人公を少し活躍させすぎたね。
そこに違和感を感じてたので書き直ししました。
ちなみに、次回オリキャラ出ます。
この人が三国志で荀彧と共に好きなんです。


天気いいですね。

「喋らないでくれる? 妊娠するじゃない」

……。

「息しないでくれる? 孕むじゃない」

死ねと申しますか!?

というかなに、その神秘的な体。

「あと私から離れてくれないかしら」

スルーされた……ちなみに、どのぐらいですか?

「そうね……アンタの身長と同じ位の距離でいいわ」

ここ馬の上なんですけど、落ちますけど!?

 

 ハロー、九十九です。

現在、荀彧様と馬に相乗り中です。

お蔭で先ほどから荀彧様が不機嫌を通り越して危険な域に入っております。

 

「何で私がアンタなんかと馬に乗ってるのよ」

別に俺じゃなくていいですけど、その代わり夏侯惇様か他の兵士になりますよ?

「……………………………なら、いいわ」

そこまで悩みますか。

 

 馬の手綱を握ってる関係上、荀彧様は自分の腕の中で考え込んでいます。

どうしてこの様な状況になってるかと言いますと、戦場に借り出されました。

何でも、計算以外でも才能があるかも知れないので様子を見るとからしいです。

 

 それで何で荀彧様と相乗りなのかと言えば、この人馬苦手なんですよ。

乗れないわけではないのですが、力もなく身長もなく、馬を乗りこなせません。

乗っても振り回されるのが落ちと言う状況です。

 

 それに加え、現在黄巾党討伐の遠征中で急遽走ることも多々あります。

その際に荀彧様が付いて来れなくなるので補助として乗ってるという訳です。

オマケに体力もないですからね、この人。

 

「……それにしても馬に乗れるのね」

村に居た時は村から村へと荷物を運んでいました。

「それで乗れるわけ?」

はい、それなりに。

 

 何処までも続く荒野を眺めながら進軍を続ける。

敵が居れば忙しくなるが、居ない時はとにかく暇でしょうがない。

 

「ふ~ん……そう言えば住んでいた村が壊滅したって言ってたけど生き残りは居なかったのかしら?」

聞きにくい部分を聞いて来ますね。

「別に話さなくても良いわよ」

……何人かは居ますね。

「そう……全滅はしてないのね」

はい、何とか免れました。

 

 荀彧様の言葉に怒りはしない。

彼女の言葉の節々から村人を心配するものを感じるからだ。

この遠征で幾つか襲われて無くなった村を見た。

そういった事もあり、気になったのだろう。

 

残った人は、遠い親戚の下へと避難したり、隣の村に移ったりですね。

「アンタはしなかったわけ?」

……そうですね。

頼れる人も居ないですし、少々人を探してたもので。

「ふ~ん……人ね?」

あっ、ちなみに恋人ではありませんよ?

「誰も聞いてないわよっ!」

ぐふっ……!?

 

 位置が丁度良く、肘がお腹へと打ち込まれた。

意外にいい部分に入ったため、かなり痛むも何とか我慢し耐える。

 

ち、ちなみに……居候させてもらっていた所の娘さんです。

「居候?」

自分は、流れ者なので。

「変な姓だと思ってたけどここの生まれじゃなかったのね……いろいろと納得したわ」

 

 いつもがいつも変な事ばっかりしてる上に現代の言葉を使っている為か同僚から変人と思われている。

それは荀彧様も変わらないのだろう。

納得し頷いている上司を見て苦笑した。

 

流れ流れて、三ヶ月位経った時ですかね。

村に滞在して腰を下ろしたのは……。

「何……アンタ自分の国で何かしたわけ?」

……したわけではないです。

むしろ巻き込まれたというべきですかね。

「ふ~ん……そう」

本当に興味ないんですね。

「何で男のアンタの生い立ちを私が知らないといけないわけ?」

いや、上司ですし……部下の事は知りませんと。

というか、聞いたのはそっちじゃないですか

「部下とは冷めた関係を目指してるのよ。あと詳しく話せとは言ってないもの」

常に心の中、冬ですね。男性限定で。

あと屁理屈屋め!

 

 腰に手をあて胸を張る荀彧様。

慣れたと思ったけど、まだまだのようだ。

いつか心を開いてくれる時がくるのだろうか?

それにしても……心を開いてくれた荀彧様か。

 

『九十九……疲れてない? 休憩取って良いわよ』

……きもい。

「なに想像してるのよっ!」

がふっ!?

 

 少し想像してると声に出していたようで、綺麗なアッパーカットが放たれた。

小柄な体からは想像出来ない力に抗えず、顔が空を向く。

というかこの人、力あるじゃないか。

 

イタタタタ……。

「それで……なんでその人を探してるのよ」

あぁ……約束を破ってしまいまして。

「約束?」

えぇ……。

 

 荀彧様の言葉で思い出す。

あの子が私塾へと旅立つ時に交わした約束。

 

『お母さんの事よろしく頼んだ。九十九』

『任された……しっかりな、()()』 

 

 真名を託してくれて、信頼してくれたのに約束も守れなかった。

時々届く文を見て楽しみ、彼女の卒業が近づいた時だ。

村が賊に襲われて壊滅した。

 

 たまたま隣の村に荷物を届けて帰る時、遠くの自分の村に上がっていた黒煙を鮮明に覚えている。

馬を駆けさせ、村に戻るも家は焼き払われ、人は殺され血と焼ける臭いが充満していた。

まだ賊が居るかもしれないのに走り、家に戻り崩れ落ちる。

三年近くお世話になっていた家は崩れ、その中に彼女の母親が居た。

周りが焼け、熱いのに彼女の母親の手は冷たかった。

 

「……アンタも仕事してたんだし、しょうがないんじゃない?」

……。

その後の事はあまり覚えてません。

気付けば、仲良くしてくれていた商人の人の所で寝てました。

「寝てた?」

定期的に来てくれていた商人の人が俺を見つけてくれたらしくて。

そのとき、自分はひたすら死体を担ぎ、地面を掘り埋めていたらしいです。

 

 最初の荀彧様の言葉に答えず、そこで一息ついて心を静める。

思い出すだけで気分が悪い。

何よりこの先の事を考えると怖くてしょうがなかった。

 

「……続きは?」

彼女に謝らないと……知らせないとと私塾へ文を飛ばしました。

しかし、彼女は私塾を出た後でした。

彼女が私塾を出て、村に向かうまでの時間と自分が寝ていた時間を比べると、どうも入れ違いになったみたいです。

それからも私塾に連絡があれば、俺の居場所を知らせて欲しいと言っているのですが……。

「連絡無しと」

 

 荀彧様の言葉に静かに頷く。

話をよく聞けば、彼女は村がなくなったことを知った後、後輩に付き添い旅に出てしまったらしい。

その話が、俺の文が届いてからなのか……届く前の話かは分からない。

俺の文が届いてからで連絡がないと言うなら……そういうことなのだろう。

 

「言っておくけど……同情しないわよ」

はい。

「今の時代、アンタみたいな人で溢れてるんだから……」

分かってます。

「ところで……アンタが何時も笑ってるのって」

あははは、こうでもしないと落ち込むんです。

無理に調子を上げて笑ってないと下を向いてしまいます。

「……」

 

 今の世界、理不尽で死んでいく人が多いのだ。

俺だけが不幸なのではない、むしろ俺以上の人も多いだろう。

理不尽はなくならない、けど……減らす事は出来る。

 

期待してます。荀彧様。

「ふん、人任せにしないでアンタもしっかりと働きなさい」

はい。

「伝令!! この先で戦が起きています!」

「戦ってる相手の旗は!」

 

 そんなことを話していれば、兵士の一人が此方に走ってきてそう伝えてくる。

荀彧様は真剣な表情で伝令にそう聞いた。

 

「旗は十文字です!」

「十文字……間違いないのね?」

「はっ! 最近この辺りで活躍している義勇軍だと思われます!」

「……華琳様は何て?」

「荀彧様にお任せするとのことです」

「九十九!」

はい!

 

 荀彧様の鋭い声に、馬を駆けさせ前へと出る。

 

「遅い!」

「落ち着きなさい、春蘭」

「……肩!」

はい。

 

 前に出れば今すぐでも駆け出しそうな夏侯惇様を曹操様が抑えていた。

そんな夏侯惇様に荀彧様はチラリと横目で軽く視線を送るだけで済ませ、此方を向く。

その声に従い、少し頭を下げれば荀彧様は肩に登り、肩車の姿勢で体を安定させる。

安定させた事を確かめたら背筋を伸ばし、荀彧様が高い位置から見下ろせるようにした。

 

「下ろしなさい、駆け足」

はい。

 

 暫く高い位置から戦場を見ると頭を軽く叩かれそう言ってきた。

その言葉に首を下げ、荀彧様を馬に戻すとそのまま少し戻り曹操様の下へと寄せる。

 

「優秀な将が居るようで辛うじて賊と戦えているようです」

「なるほどね、それで私達はどうすべきかしら?」

「はっ、幾ら将が優秀とはいえ、兵士はそうでもありません。ここは相手が義勇軍に気を取られているうちに横から攻撃を仕掛けるのがよいかと」

「助けるのね?」

「義勇軍も民です」

 

 暫く曹操様は荀彧様をじっと見つめ頷くと夏侯惇様のほうへと向いて指示を出した。

 

「春蘭、聞いたわね?」

「はい! 蹴散らしてやります!」

「待ちなさい……良い? 横から付いてそのまま抜けるのよ?」

「そのまま戦わないのか?」

 

 駆けようとする際に荀彧様がそう言えば、夏侯惇様は不思議そうに首を傾げた。

 

「二つの勢力が戦ってるのよ? その場で留まれば場が混乱するでしょう! そのまま突き抜けて大きく回り込み、相手の後ろから攻めなさい!」

「おぉ! なるほど、そういうことか! 季衣、行くぞ!」

「はい!」

 

 荀彧様が呆れた様子で答えれば、夏侯惇様は納得し嬉しそうに武器を振り回し馬を駆けさせる。

それに付いて行くのは、曹操様の親衛隊隊長の許緒(きょちょ)様……仲康(ちゅうこう)だ。

二人が駆け出すとその後ろを心得ているように彼女達の部隊の人が一斉に駆け出す。

急な指示だというのに即座に動けるのは、夏侯惇様の事をよく理解しているからなのだろう。

 

……自分達は何を?

「九十九はそのまま桂花に付いて、指示の出し方などを学びなさい」

御意。

「桂花は続けて指示を……義勇軍の詳細や私達が味方であると知らせを余裕があれば、後ろから援護して頂戴」

「はい、お気をつけ下さいませ。華琳様」

 

 そう言うと、そのまま曹操様も夏侯淵様などを引き連れて自ら戦場へと駆け出す。

それを深く深く息を付いて見送った。

 

「しっかりと働きなさいよ。九十九」

分かっています。

「働かなかったら蹴り落すから」

 

 最後にそう言って締める荀彧様に苦笑が漏れる。

こんな所でも実に彼女らしい。

 

……ところで十文字の義勇軍って有名なんですか?

「そうね……最近活躍をしてる所ね」

 

 何やら先ほどの行為で相手を知ってる風だったので聞いてみた。

相手の事を知らなければ対応できる範囲も狭まる。

 

劉備玄徳(りゅうびげんとく)……何でも天の御遣いと組んでる義勇軍として有名ね」

劉備……天の御遣い。

 

 その言葉を聞いて気持ちが深く落ち込んだ。

落ち込んだ理由が二つ。

一つ目は、天の御遣いの部分だ。

自分がこの世界に紛れ込む原因となった北郷一刀(ほんごうかずと)

その人が天の御遣いだと貂蝉(ちょうせん)から聞いていた。

自分の苦労の元となった人物でもあり、少々思うところがある。

 

 二つ目は、劉備という名前にある。

劉備には特に思う事はない。

それでも落ち込むのは、彼女の経歴に関わる事だ。

曹操様の元に身を寄せていたのは、このため……劉備の軍と近づく為である。

なにせ……自分が探している少女は、彼に一度仕える子なのだ。

真名を預かりながらも約束を破ってしまった相手。

劉備軍最初の軍師にして、親思いの人――『徐庶(じょしょ)』。

彼女もやはりあの中に居るのだろうかと、この後の事を考えて胸が痛んだ。




~なぜなに三国志 トキドキ間違いもあるよ!~
《徐庶元直》
今回はちょろっと出てきた子について
撃剣の使い手で、義侠心に厚く友人の敵討ちを引き受けるが役人に捕らわれる。
その後は、友人に助けられるも、思うところがあり、剣を捨て学問に励む。
いわば、戦える軍師さんである。ロマンやね。

母親思いの人で劉備の軍師をしてるさいに曹操に母親を人質に取れられ魏へと下った人。
その際に劉備に諸葛亮を推薦していた。
劉備が諸葛亮を呼べと言った時に『会い行かなければ連れて来れないと』と進言した。
これが有名な『三顧の礼』へと繋がる。
特にこれと言って目立った事をした人ではない。
それでも優秀で人材豊富であった魏軍でもしっかりと出世していた。

演戯での活躍
魏軍の5000に対して2000で打ち破り。
25000の軍勢に対しても見事に叩きのめしている。
程昱(風)の策による徐庶の母親の筆跡を真似た手紙を受け取り、泣く泣く魏軍へと行く。
しかし、この事を知った母親は自殺し、徐庶はそのことで曹操のために献策をしないと誓う。
赤壁で龐統が仕掛けた連環の計の真意に気づきながらもこれを見逃し、龐統の助言により、赤壁を離れ、被害を免れた。

恋姫での徐庶
名前だけは出ている。
何故か朱里や雛里からは元直ちゃんと字よびである。
あとはお菓子が得意らしい。

《実は……》
実は……恋姫で活躍する春蘭こと夏侯惇。
実際は戦下手でした。
史実では後ろで後方支援をしていたらしいです。
むしろ弟の夏侯淵のほうが戦が得意でした。
恋姫のように猛将ではなかったりします。不思議だね。




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一刀は、降り立った

一刀! 一刀!
リア充滅びろ!



「なんでこんなものが……?」

 

 休息を取る為にとある街に滞在をしている。

その時に、見つけた物に目を奪われてしまった。

たまたま散歩に出ていると見慣れた物が置いてあったのだ。

 

「ペロペロキャンディー?」

 

 店主に声を掛けて許しを貰うと一つ手にとって眺める。

じっと見つめて首を傾げる。

少しばかり三国志を読んだ事があり、この時代の事を少しだけ知っている。

自分の知る限りでは砂糖は無かった筈だ。

まぁ……何と言うか、この時代は自分の知る三国志の時代とかけ離れているので知識が宛てにならないのだが。

 

「兄ちゃん、買うのかい? 買わないのかい?」

「……一つ買います」

「毎度!」

 

 検証を兼ねて一つ買うと舐めてみる。

 

「甘い、やっぱり砂糖が使われてる?」

 

 口の中に広がる甘さに眉を顰めた。

自分の記憶の中にある甘さと同じ物で更に首を傾げる羽目となった。

暫く、歩きながら舐め、誰かに聞いてみるかなと思い至る。

よく考えれば、自分を慕ってくれる桃香達だっておかしいのだ。

この時代……三国志の時代の劉備は男性であった筈なのに……。

 

「ごしゅじんさまー!」

「ははっ、こっちだよ」

 

 自分の事を呼んでいる声に手を振り上げて答える。

するとそれに気付いたのだろう。

一人の女性が嬉しそうに笑い此方を見つめた。

 

 その子は、桃色の長い髪を風に流し走る。

その際に一部の部分が大きく揺れ動き、ついつい目が奪われてしまった。

慌てて目を離し顔を見る、大きなパッチリとした目に整った鼻と口元。

相手を威嚇するような綺麗さではない、むしろ相手を癒す可愛さと言える少女だ。

彼女の名前は、『劉備玄徳』 真名は『桃香(とうか)』。

三国志に出てくる蜀を収める人で主人公として扱われる事が多い子だ。

自分こと北郷一刀がこの世界に迷い込んだ時に助けてくれた子で、何故か此処では女の子であった。

 

「もぅ、街に出るなら私も一緒に回りたかったのに」

「ごめん、ごめん」

 

 近くに寄ってきて、一人で街に出たことを咎められた。

咎めるといっても頬を可愛く膨らませての怒り方で微笑ましい。

 

「あっ、笑った!」

「ふふ……桃香の怒り方が可愛いからね」

「っ……!」

 

 笑った事で更に頬を膨らましてしまう。

そんな桃香に苦笑しつつ素直に思っていたことを言えば顔を真っ赤にさせ俯いてしまった。

自分で言ったのもなんだが、少し臭かっただろうか?

互いに顔を赤く染め、恥ずかしげに視線を逸らす。

 

「……君達は何をしてるんだい?」

 

 そんな事をしていれば声が掛かった。

その声は、少女とも少年とも取れる中間の声で透き通った声であった。

桃香の声が癒す声だとしたら、この声は安心できる声といえる。

但し、今現在の声は何処か呆れたような響きがあった。

 

「っ! げ、元直!?」

「やぁ……お邪魔だったかい?」

 

 何時の間にか傍に一人の人が立っていた。

その子は銀色に輝いた髪の毛をしており、その髪の毛をやや前下がりのショートヘアで纏めていた。

そのせいもあり美少年に見えるも髪の毛の一部を三つ編みにしており、辛うじて美少女と判断できる。

一言で言えば、喋り方を含め王子様と言う言葉がしっくりと合う子――軍師補佐をしてもらっている『徐庶元直』だった。

 

「二人の時間を邪魔して悪いね」

「そ、そんなんじゃ!」

「だ、だな!」

「そうかい?」

 

 桃香と二人して慌てて否定をする。

本当は桃華ほど可愛い子であれば歓迎なのだが、気恥ずかしさが勝ってしまった。

故に首を傾げる元直に大きく頷いた。

それに対して、彼女は最初から分かっていたのだろう。

くすくすと口元に手を当て上品に笑った。

 

「なら良かった。二人共、関羽が君達を呼んでいる」

「愛紗が?」

 

 元直の声が急に素っ気無くなる。

そのことに気付いたのか、桃香と共に顔を見合わせ苦笑した。

彼女が言った関羽とは、三国志に出てくる関羽雲長(かんううんちょう)だ。

俺が言った愛紗(あいしゃ)と言うのは、この時代にある真名と言う風習だ。

 

 この“真名”は、本人が心を許した証として呼ぶことを許した名前であり、本人の許可無く“真名”で呼びかけることは、問答無用で斬られても文句は言えないほどの失礼に当たる。

信頼の証であり、この人になら裏切られても悔いはないというほどに大事な物だ。

それを皆に許されてるのは、少々荷が重い。

それでも頼られている、信頼してくれていると感じ、頑張ろうと思った。

 

 今現在で真名を許されてるのは、劉備の桃香、関羽の愛紗、張飛(ちょうひ)鈴々(りんりん)趙雲(ちょううん)(せい)諸葛亮(しょかつりょう)朱里(しゅり)、ホウ統の雛里(ひなり)

皆大事な仲間で桃香の夢を叶える為に力を貸してくれる子達だ。

そんな中……朱里と雛里に付いて来た元直だけは他の子と少し違う。

 

『あぁ……僕は、そのうち抜けるから。やらないといけないことがあるんだ』

 

 朱里と雛里に付いて来た彼女は開口一番にそう告げてきたのだ。

元々二人に着いてくるつもりはなかったらしい。

しかし、二人が旅立つ頃、黄巾党が活発になり二人の身が危ないという事で腕の立つ元直が護衛を勤めていたそうだ。

義勇軍に留まってるのも不慣れな二人をサポートする為だと言っていた。

 

 そんな彼女と義に厚く桃香と自分を心酔している愛紗では相性が悪かった。

愛紗曰く、何故桃香様の夢が分からないのかと言った所だろう。

 

 桃香の夢『皆が笑って暮らせる世の中』。

その夢に希望を持ち、そんな世の中を夢見て付いてきてくれる人達。

そんな中で彼女の夢を理解しない元直は愛紗にとって許せない存在なのだろう。

 

「ねぇ……元直ちゃん」

「ん? なんだい?」

 

 しっかりとした足取りで前を歩く元直に桃香が声を掛けた。

それに対して、彼女は此方を振り返る。

 

「やっぱり……私達に付いて来ない?」

「悪いね。 僕は君や朱里達ほど大きな器がないのさ」

「器……?」

 

 何度目かになる勧誘。

最初こそ悪い印象であった元直だが、暫し付き合えば悪い子でないと分かる。

むしろ面倒見がよく、付きやすい存在だった。

しかし、やはりと言うべきか桃香の言葉は軽く跳ね除けられた。

 

「僕は……君みたいに世の中の為! とか思ってないんだ」

「それじゃ……?」

「僕の心にあるのは――『家族の幸せ』、それだけさ」

 

 元直は寂しそうに笑いそう言った。

その言葉に桃香は困ったのか視線を彷徨わせる。

視線が此方と合うも、これ以上は突っ込まない方がいいと首を横に振る。

 

『元直ちゃんは母親を亡くしています』

 

 思い出すのは、朱里の言葉。

自分の記憶では徐庶元直は、母親思いな人物だ。

魏の曹操に目を付けられ母親を人質にされて泣く泣く魏に下っている。

そんな人物がこの時代では、既に母親を亡くしていた。

 

 朱里から聞くと元直が使うのは撃剣。

飛刀・投剣を基本とした、短剣を用いて戦う護身術の使い手だそうだ。

私塾にいる時は動作を確認するぐらいで済ませていたのに村が壊滅し戻ってくると、より一層撃剣の鍛練に励むようになったという。

毎日毎日、時間を作っては真剣な表情で訓練を繰り返す。

飄々としている彼女だが、心の中は荒れに荒れているだろう。

 

「あぁ、関羽との会話は任せるよ。どうも苦手だ」

「はははは……」

 

 そんな事を考えていれば、何時の間にか拠点に戻ってきていた。

元直は少しだけ眉を顰め、軽く手を振って離れていってしまった。

去っていく姿を見て思う。

家族を失っている彼女の言う、『家族の幸せ』とは一体何を示しているのだろうかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵軍! 向かってきます!」

「あわわ!」

「はわわ!」

「やれやれ」

 

 あれから、愛紗の元へ赴き話を聞くと街の近くに賊が居るという情報を掴んだとのことだった。

その話を聞いて、休息もそこそこに軍を動かし、討伐へと乗り出す。

今現在の義勇軍には足りない物が多い。

人もお金も名声も……人々を笑顔にする世の中にする為には何かもが不足していた。

 

 そのため、敵を選んで戦っていたのだが……今回ばかりは運が悪かった。

情報の通り賊が居たのだが、他の部隊と合流したのだろう。

話より大きくなっており、義勇軍だけでは押し切れないほどになっていた。

本来であれば、ここは引くべきだ。

 

「えっと! えっと!」

「落ち着いて……どうせ逃げるのも無理。見渡す限りの荒野……ぶつかるしかないさ」

 

 しかし、元直の言うとおり、それが出来ない。

ここから少し離れた所には、先ほど駐留していた街がある。

あの街に被害を出さないようにする為にもここで抑えるしかない。

 

「元直の言うとおりだ。このまま引けば街が危ない、行こう!」

「ご主人様……」

「ふっ、我が主はこういう時は肝が据わっておりますな。女性関係でもそうだと嬉しいのですが」

「星!」

 

 皆の話を聞き、決断する。

桃香は嬉しそうに頬を染め、星はニヤニヤと笑い此方をからかって来る。

それを愛紗が咎めるのが何時もの光景だ。

 

「な、なるべく援護しましゅ!」

「しましゅ!」

「あぁ……策があれば、すぐに言ってくれ」

 

 そんな光景に苦笑していれば、服を引っ張られる。

其方の方を向けば、軍師を勤めてくれている朱里と雛里が噛み噛みながら必死に訴えて来る。

それに対して二人の緊張を解す為に微笑み、頭を軽く撫でた。

 

「はわわ……」

「あわわ……」

「あーっ! 鈴々もー!」

「いや……敵が向かってきてるんだ。号令を頼む」

 

 そこに鈴々も加われば、空気が緩んだ。

そんな空気も元直が呆れた声で正し、終わるのも日常だ。

 

「それじゃ、お願いしましゅ!」

「任された」

「あわわ……」

 

 そう言うと号令を出し、皆が構える。

既に相手は此方に向かっており、走ってきていた。

 

「ゆ、弓兵構え!」

「構え!」

 

 そんな相手に対して、弓を構える。

相手がわざわざ近づいてきてくれてるのだ。

その時間を利用して矢を放つ。

 

「はなっ……い、痛い」

「放て!!」

 

 頃合を計り、朱里が指示を出す。

しかし、緊張のせいか朱里が舌を噛んでしまう。

その時にワンテンポほど遅れるも直ぐに元直が指示を飛ばしフォローを入れた。

 

「ご、ごめんなさい」

「いいよ。ゆっくりと成長していこう」

「は、はい!」

 

 元直が謝る朱里の頭を優しく撫で微笑む。

この三人は同じ私塾の先輩後輩の関係であり、よく噛み合っている。

史実でも元直が朱里を桃香に紹介すると言うエピソードもある為、仲は悪くないのだろう。

 

「抜刀!!」

 

 矢を受け、此方に走ってきていた賊の前線が崩れた。

勢いに乗っていた為、止まれず矢を受けた者が倒れこむ。

その倒れこんだ人に引っかかり、賊の殆どが足を止め折角の勢いを殺した。

 

 そんな様子を見て、すかさず愛紗が指示を繰り出す。

それに従い、他の兵士も武器を取り出し戦が始まった。

 

「一番乗りは私が……」

「こらっ! 乱すな星!」

「にゃー! 鈴々もー!」

「っ~~!! 鈴々!」

 

 最初に駆け出したのは星だ。

それに続き負けじと鈴々が突っ込み、その二人の暴走を抑えるように愛紗が駆ける。

恐れを知らず、圧倒的な武力を振り回し、三人が賊を蹴散らし始めた。

それに少し遅れて兵士の皆も続き、それを見守る。

 

「……」

「辛いね、ご主人様」

「そうだな」

 

 目の前で繰り広げられる光景を見て桃香の言葉に頷く。

誰もが笑顔で手を取り合って生きる世界。

目の前の光景はそんな夢から凄く遠い物であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずいね」

「ぎゃっ!」

 

 近くに居た元直が、腰に付けていた剣を飛ばし向かってきた賊を貫く。

一人貫くと剣に付けていた紐を器用に操り、横の二人の体に鞭のように打ちつけ倒す。

そのことを元直は確認すると、思いっきり剣を引っ張り賊の体から引き抜いた。

 

「段々押されてる」

「ひぅ」

「数が多いか」

 

 戻って来た剣の柄頭を蹴り、更に近寄ってきていた賊へと剣を当てる。

そんな曲芸じみた戦い方で俺達を守ってくれている元直の言葉に焦りが募る。

最初こそ押していた戦線だが、次第に数に押され此方に流れてきていた。

 

「ジリ貧だね。体力の限界もある……逃げる算段もしといてくれ」

「そんな!」

 

 元直の言葉に桃香が悲痛そうな声をあげる。

ここで自分達が逃げたら、街はどうなるのかと思っているのだろう。

 

「……逃げるとして、どうしたらいい?」

「ご主人様……」

「……殿を務める部隊を作ります」

 

 それでも決断しなくてはいけない。

このまま行けば、皆殺されて、街も襲われてと最悪な結果で終わってしまう。

それだけは避けなければいけない。

何より、相手もだいぶ数を減らしている。

街も襲うにも時間が掛かるだろう。

なるべくそう思うようにして、朱里に意見を求めた。

 

「ここは一度引いて他の軍に助けを求めよう」

「御意」

「なら……」

 

 決断し次の指示を出そうとした時だ。

 

『突っ込めーーー!!!!』

「!?」

 

 大きな声が戦場へと響き渡った。

その声に驚きながらも見れば、一人の長い黒髪の女性が馬に乗り賊へと突っ込んでいくのが見えた。

その女性が賊へと突っ込めば、少し遅れて騎馬隊が相手へとぶつかる。

 

「な、なにが?」

「援軍だと思う。この辺で一番可能性が高いのは最近州牧に就任した曹操……曹孟徳殿かな」

「……曹操」

 

 その名前を知っている。

三国志に置いて劉備が居ないと始まらないと言うならば、彼が居ないと終わらなかっただろう。

この国は結果的に三つの国に別れる。

一つは劉備……桃香が治める(しょく)

二つ目は孫権が治める()

最後が……曹操が治める()だ。

 

 ある意味で彼もまた三国志における主人公なのだ。

その人物が今ここに現れた。

 

「って! 行っちゃうのかよ!」

「いいえ、あれで問題ないです。あのまま場に留まられると場が混乱します。何より騎馬隊ですから、そのまま突き抜けて相手を分断、混乱させた後に後ろから攻め立てる。堅実な戦術です」

「そ、そうなのか」

「はい」

 

 援軍に来た一団は、綺麗に相手を二つに分けるとそのまま通り過ぎる。

その事を声に出すと雛里が細かく相手の考えている事を教えてくれた。

小さいなりで何時もは緊張している雛里だが、やはり名を残す名軍師なのだと再認識させられる。

 

「こっちはどうすればいい?」

「多分、すぐにでも伝令が来ます。それに合わせて動けばよろしいかと」

「そうか、ありがとう。雛里」

「あわわ……光栄でしゅ」

「むむむ、雛里ちゃんばっかり」

 

 頭を撫で、説明してくれた事と助言に感謝する。

その際に朱里が頬を膨らませてしまったので苦笑した。

後でフォローをしないとなと思う。

 

「此方が義勇軍の本隊でよろしいでしょうかっ!」

「は、はい」

 

 そうこうしていれば、雛里の言うとおりに伝令が走ってきた。

相手の伝令の問いに桃香が緊張気味に答える。

口を出そうと思ったが、これも経験かと思い口を閉ざし静かに見守った。

 

「代表者は……」

「わ、私です」

「そうですか、曹孟徳様の軍師であらせられる荀文若様より言伝を預かっております」

「荀……?」

「『こちらは、このまま敵を分断し大きく回り後ろから攻撃を仕掛けます。その後、曹孟徳様が横から迫撃を仕掛けるのでこのまま前線を維持して欲しい』のことです」

「えっと……そうすると一方が開いちゃうような?」

「『わざと開けて、相手を追い込まない様に』とも承っています」

「そ、そうですか」

 

 伝令の言葉にガチガチになりながらも桃香が答えうけた。

そして、どうすればいいのかと朱里達を見つめる。

それに対して朱里達も頷き返す。

 

「わ、分かりました。そのとおりに動きます」

「はっ!」

 

 そう言って、伝令が礼をし去っていく。

その背中を見ながら桃香はため息を付いた。

 

「お疲れ、桃香」

「うぅ……緊張した」

 

 緊張のせいで胸を押さえ深呼吸をしている桃香の肩を抱き落ち着かせる。

そうしていれば、桃香の震えも止まり緊張も解けたのか、へにゃりと笑った。

もう大丈夫そうだと思い手を離せば、何やら視線を感じる。

 

「……じー」

「……じー」

「あのね……乳くり合うなら、後でしてくれ」

「ご、ごほん」

 

 朱里と雛里に恨めしそうな視線を送られ、元直には呆れられた。

それを誤魔化すように咳をすると互いに顔を赤くして離れる。

 

「そ、そういえば……何で一部開けとくんだ?」

「誤魔化した」

「誤魔化しました」

「……はぁ、簡単に言うと追い詰め過ぎると敵が最後の抵抗を試みるからだ」

「窮鼠猫を噛む?」

 

 思いついた言葉を言ってみると頷いて肯定された。

色んなことを考えて本当に行動してるんだなと思う。

 

『全軍!! 突撃っ!!』

『オォォォォォォォォォォォォォ!!!!!』

 

「っ!」

「ひぃっ!?」

「なるほどね」

「あわわ」

「はわわ」

 

 そうしてると戦場に声が響いた。

その声は、体全体がビリビリとし身を震わせるほどの迫力があった。

りんっとした鈴のような声でありながら、覇気が篭っている。

その声の効果は凄く、戦場に居た全ての人が一瞬動きを止めて彼女を見た。

そして、次に来るのは彼女の軍勢。

迫り来る軍勢に相手は粟立ち、先ほどの威勢が嘘のように武器を捨てて逃げていく。

 

「あれが……?」

「たぶんそうだね……あれが曹孟徳殿だ」

 

 桃香の問いに元直が静かに頷く。

桃香の視線にあわせれば、其処には馬に乗っている一人の女子が居た。

青い服装と鎧に身を包み、大きな鎌を黄巾党へと向けている。

遠めであまり見えないが、威風堂々な姿に感嘆しか出てこない。

 

「……あれが曹操」

「いやはや……凄いね」

「あの人、味方なんだよね?」

「は、はい」

「そうかー……凄い頼りになるね」

「……」

 

 頼りになる援軍に湧き上がる桃香達であったが、自分は違う。

未来を知っているから、この先を知っているからこそ。

あの曹操を見て不安が募る。

この先、桃香は幾度なくあの英傑と戦わなければいけないのだ。

 

「……はぁ、助かった」

「そうだね! これで街の人も夜眠れるね」

「あぁ……そうだな」

 

 次々に相手は敗走し脱兎の如く逃げていく。

その様子を見て喜ぶ桃香に頷き、皆が助かったことに一息ついた。

 

 

 

 

 

 

「へえ……あなたが天の御遣い?」

「……そうだ」

 

 戦も終わり、曹操と顔を合わせる。

曹操は、意外にも小さかった。

確か史実でも身長が低かったので合ってると言えば合っている。

……性別は逆であったが。

 

「っ! 貴様、失礼ではないか!」

「……」

「愛紗……落ち着いて」

 

 先ほどから曹操がこっちをじろじろと遠慮なく見てくる。

それに対して愛紗が怒るもそれを苦笑し抑えた。

此方は義勇軍、あちらはこの辺りを治める州牧だ。

身分が違う、ここで不敬と言われないようにと他の人にも目を配らせた。

 

「……九十九?」

「へ?」

「……んー、雰囲気が似てるわね」

 

 じっと待っていれば、曹操は誰かの名前を言ってから視線を後ろへと飛ばす。

先ほどの言葉が気になり、同じように視線を向ければ一人の男性が居た。

その男性は自分と同じ黒髪でなんとなく浮いた雰囲気を感じる。

一言で言えば、染まってない。合ってないと思った。

 

「……」

「九十九!」

 

 その九十九と呼ばれている男性が、近くに居た猫耳フードを被った女性に服を引っ張られる。

先ほどから曹操の視線を受けているに、その男性は一点を見つめて銅像のように動かない。

それを不思議に思い、九十九と呼ばれている男性の視線に合わせて見ていけば――

 

「元直?」

「……」

 

 彼は元直を見つめていた。

そして元直もまた、目を細めじっと見つめている。

 

「そこに居たんだね。九十九」

「……久しぶり、千里」

 

 暫く見つめあっていたが、元直が一息ついて名前を呼んだ。

それに対して男性は、暫しの間目を瞑り考え込むも元直の真名と思わしき名前で呼ぶ。

この時点で二人が知り合いだという事が分かった。

 

「――」

「……」

 

 二人が特に会話もしないので、知り合いなのかと聞こうとした時だ。

元直が動いた。

その動きは自然な動きであり、散歩にでも出るように見えた。

しかし、それは剣の柄頭に手を置いてなければの話だ。

元直は、一歩一歩近づき手が届く距離になると剣を抜いた。

 

 




~なぜなに三国志! トキドキ間違いもあるよ!~
《そろばん》
九十九が作ったそろばんについて話します。
実は、この時ですがそろばんに変わる物がありました。
それは算籌(さんちゅう)と呼ばれる道具です。
長さ三センチ~十五センチの棒を使います。
その棒を使い、一から九までの数字を表現していました。
赤と黒で分け、赤はプラス。黒はマイナスと使い分けていたそうです。

中国にそろばんが伝わったのは十三世紀とも関羽が作ったとも言われています。
関羽が作った物と考えると少しフライングしてるだけな上、棒を珠に変えただけだったり。
故に使いやすくなったな、ぐらいな感想であります。
ちなみに、そろばんを作ったという逸話と義に厚いということから関羽は『商売の神様』として祭られています。

《北郷一刀》
主人公。種馬と呼ばれるお人。
フランチェスカ高校二年の高校生。
人柄よし、性格良し、優しい、たまに鋭い策を編み出す。
と言った凄い人。流石主人公……。
戦闘面では、超人的な武将に及ばずながら春蘭に殴られても直ぐに立ち上がり、痛がる様子すらないという頑丈さを持つ。

精神面では、異世界に飛ばされても直ぐに受け入れ順応し、九十九同様桂花の罵倒も耐えるほど。
……この世界の日本人はドMなのだろうか?
ちなみに出番はここだけ、ほぼないと思われる。
性格などは原作基準で特にゲスいとかクズいとかはない。


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九十九、大声で泣く

明日は投稿ないです。
錬金のほうをやるんで。


「……」

 

 義勇軍を助け、曹操様に付いて行き対面する。

数に押されて結構苦戦してるものの良く保ってるなと思っていたら、結構な数の武将がいたようだ。

武将の数だけであれば、曹操軍と並ぶ物がある。

そんな彼女達に囲まれる彼は、やはりこの世界では特別なのだと認識させられた。

 

「へえ……あなたが天の御遣い?」

「……そうだ」

 

 会ってすぐに曹操様が無遠慮に相手を観察していく。

それを苦笑してみてるも、すぐにとある人物に気付く。

 

 その人は銀色の髪をショートカットにしていて、一目見れば美少年とも美少女とも取れる女の子。

更には、この世界には不釣合いな袴の着物を着ている。

そんな彼女を見て、大きく驚き……同時にこの時が来たのかと軽く息を付いた。

 

「そこに居たんだ。九十九」

 

 彼女――自分がお世話になっていた家の子の千里に言われて目を瞑った。

目を瞑り、千里の事を何と呼べばいいかを考える。

自分は真名を預かりながらも彼女の母親を救えなかった。

そんな自分が彼女の真名を呼んでもいいのだろうかと思う。

 

「……久しぶり、千里」

 

 少しばかり考えるも結局は真名で呼んだ。

呼んだ理由は様々だ。

千里が自分に対してどんな気持ちを抱いてるのか分からない。

しょうがないと思っているのか、許せないと思っているのか……。

そんな幾つもの可能性の中で最悪の結果で終わる場合の考慮。

俺が討たれる場合だ。

 

 基本敵討ちは許されていない。

しかも、自分は仮にも曹操様……州牧の部下だ。

そんな自分を切れば、千里の立場が悪くなってしまう。

それを防ぐ為に真名で呼ぶ。

真名を預けられたにも関わらず、あっさりと裏切り許されないような事をした男。

そんな最低な男が懲りずに真名で呼ぶ、敵討ちされても仕方がない。

正直、真名を預ける際に裏切られてもいいと思い預ける為少々理由としては弱い。

それでも荀彧様に千里の事を話しているので悪い事にはならないだろう。

 

 頭の中でそんな理屈を考えるも結局は――

 

「……」

「……」

 

最後ぐらい真名で呼びたかった……それに尽きた。

手の届く距離になれば、千里が剣を抜刀するのが見える。

それを一挙手一投足見逃さないように目を開き見る。

正直な話、怖い。これから死ぬのかと思うと怖くて目を閉じたくなる。

それでも泣きそうになるのを押さえ、その時を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ」

「……良かった。生きていて本当に良かった」

 

 一緒に暮らしていたといっても恋仲でもない、血も繋がっていない他人だ。

だからこそ、恨まれていると思っていた。

そう思っていたのに……彼女から受けた行為は剣でなく、抱擁であった。

 

 千里は、剣を抜刀し直ぐに地面に突き刺す。

そしてその剣を足がかりにして此方に飛びつくと首に両手を回しぶら下がってきた。

 

「……恨んでると思ってた」

「そんなわけないだろう。君も僕の大事な家族だ」

 

 ポツリと呟けば、それを殆ど間もなく千里が耳元で呟き返す。

その言葉に嬉しく思うも、彼女の優しさに甘えていられない。

自分は千里との約束を守っていないのだ。

その罰を受けなければ気が済まない。

 

「っ……おれ……は、約束を、まもれてない」

「ふふ……僕が私塾に行く際に言った約束かい?」

「……」

 

 その言葉に無言で頷く。

段々声が震えてきて、目もぼやけて来た。

 

「君がまともに剣を振れないことを知ってるんだ。誰が武勇で君に守れって言うものか……あれは生活面でって意味さ」

「……ははっ、酷い……な。俺だって剣ぐらい……ふれるさ」

 

 曹操様の下で二ヶ月だけ兵士として訓練を重ねた。

流石に二~三十回ほどなら剣を振れる。

そんなことを思い横を向こうとするも既に目の前は見えない。

彼女の顔を見たいのに見れない。

 

「お母さんからの文を何度も受取った。その時に『良くしてもらっている。本当の息子のようだ』ってよく書いてあった」

「うぁ……っ」

 

 その言葉に我慢していた涙が溢れる。

思い出すのは、仕事が終わり帰ればいつも出迎えてくれた姿。

厳しくもあったが、流れ者で変わり者の俺を受け入れてくれた人。

その人の笑顔と最後を思い出す。

 

「よしよし、ごめんね。傍に居られなくて」

「っ―――」

 

 此方に抱きつき、身長差のせいでぶら下がっている千里。

そんな彼女を地面へと下ろすようにしゃがめば、幼子をあやす様に頭を撫でられた。

他の人も居る、許された、笑わなければいけない。

しかし、出るのは涙ばかりで一向に笑えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すみません」

「別にいいわ。いろいろとあるようだし」

 

 あの後、みっともなく泣き喚き気付けば場は微妙な雰囲気になっていた。

そのことに気付き、顔を真っ赤にさせ謝る。

曹操様は、ため息を付くも何処か柔らかい雰囲気を醸し出していた。

他の人もそうだ、両軍の人が生暖かい目で此方を見ている。

 

「……」

「あははは……ごめんなさい」

 

 ちなみに若干一名、無言で不機嫌そうに睨む人も居る。

荀彧様の無言の圧力に屈し謝罪した。

何で怒ってるのかと言えば、知らず知らずの内に荀彧様の手を握りこんでいたらしい。

千里が剣を抜く中、服を掴んで引っ張っていた彼女の手を握っていたのだ。

流石の荀彧様も事が終わるまで何も言えなかったらしく、お蔭で物凄く不機嫌だ……視線で人を殺せそうなぐらいに。

 

「それにしても……天の御遣いね? 正直胡散臭いわね」

「う、胡散臭い……」

 

 千里が自分を後ろから抱き込むように守り、荀彧様には前から睨まれる。

そんな変な状況に追い込まれ正座していれば、何やら北郷君が苦笑をしていた。

 

 そういえば、北郷君は天の御遣いを名乗っている。

この世界では天の御遣いとはどのような立ち位置になっているのだろう。

 

「はぁ……色々と話すことはあるけど、この場では不適切かしら」

 

 そう言って此方を見てくる曹操様。

確かに場の空気が微妙に湿っている。

桃色髪の子は此方を見て泣いており、隣の黒い長髪の人も良かったなと頷いていた。

 

「取り合えず、御遣いの件と情報交換も含め少し話し合いましょうか。秋蘭」

「はっ……既に用意してあります」

何時の間に……流石ですね。

 

 曹操様の言葉に夏侯淵様が礼をし、一方を示す。

其方を見れば、何時の間にか軍が簡単な拠点を作り駐留の準備をしている。

曹操様の意図を読んで先に行動していたのだろう。

そういうところを見習わないとなと思う。

 

「……いつもの調子に戻ったのね、九十九」

はいっす、これが俺なんで。

 

 調子を上げて笑う。

何時もの自分に戻れば、曹操様が微笑み出来上がった拠点の一つに入っていく。

この後、話し合いがあるのだろう。

ぞくぞくと入って行くのを地面に座り見守る。

 

「ふん、アンタも参加だからね」

はい、すぐ行きます。

 

 荀彧様もようやく睨むのを止めて、鼻を鳴らし去っていく。

他の面々も次々に入り、残っているのは自分と千里だけとなった。

 

「……千里」

「んっ……なんだい」

 

 未だに後ろから抱え守るように抱きついている千里。

そんな彼女を見上げて顔を合わせる。

 

「また会えて嬉しいよ」

 

今度の笑みは作った物でもなく自然に笑えた。




~なぜなに三国志! トキドキ間違いもあるよ!~

《諸葛孔明の発明品》
軍師として有名な彼ですが、発明家としても有名です。

木牛と流馬
行軍の際に物資の運搬に用いられた道具
様々な諸説があり、一輪車や二輪車と実像ははっきりとしていない。

饅頭(まんとう)
実はこれも孔明が作ったという逸話があります。
南蛮との戦いの時に発明されたとされてます。

(カブ)
こっちは発明ではなく発見。
孔明はカブの一種とされる野菜を見出し、広めたともされています。
孔明が広めたカブで『諸葛菜(しょかつさい)』と呼ばれています。

紙芝居
教育を受けていない人達を教育するために作ったとされるのが『紙芝居』
字が読めない人には言葉と絵を使い教えていたそうな。

天灯(てんとう)
竹の骨組みに紙を張って中に火を灯し、空に飛ばすもの。
現代では儀式に使われるものですが、元は軍事用の通信手段でした。
これも孔明が作ったされています。

ちなみに軍師としての諸葛亮。
実は政治面では素晴らしい人物でありましたが、軍事面では微妙な人でした。
中々に厳しい評価を受けています。
まぁ……北伐でも五度に渡って失敗してますからね。

恋姫でも政治は朱里、軍事は雛里と分けていたりします。
この小説ではそんな二人を補佐する場所に千里が居ます。


《九十九と千里の関係》
九十九「妹(年齢的にこっちが上)」
千里「弟(行動や精神面的に)」

九十九「……」
千里「……」

九十九「俺が兄貴じゃない?」
千里「僕が姉だね」

九十九「……」
千里「……」

ちなみに
九十九は身長170後半
千里は、150ぐらいと考え中
……朱里とかって140ぐらいしかないよね? たぶん



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九十九、会議に出る

天の御遣い云々でご指摘があったので修正しました。
原作同様スルーする方向でいきます。
突っ込むと駄目やね!


「そういえば、千里」

「ん、なんだい?」

 

 流石に話し合いに参加しなければと立ち上がる。

千里と共に幕舎の一つへと向かった。

その際に少し気になる点があり、疑問を投げかける。

 

「何で名前で呼ばないの?」

「あぁ……それか」

 

 気になったのは、千里の俺に対する呼び方だ。

真名を預かった際に自分の名前を真名代わりに千里に告げている。

なのに先ほどから名前で呼ばれていない。

ずっと九十九呼びである。

お蔭で先ほどの時も怒ってるのかと勘違いし、覚悟を決めた。

 

「呼ぶのは二人きりの時だけがいいかなって……重成、ごめんね?」

「いや、別に構わないけど……」

 

 改めて名前で呼ばれると少し気恥ずかしい。

彼女なりに名前を大事にしてくれてるのだろう。

そう思うと嬉しくはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて名乗りましょう。姓は曹、名は操、字は孟徳。官軍に請われ、黄巾党を征伐する為に軍を率いてるわ」

あー……始まってた。

「少し、のんびりしすぎたか」

 

 幕舎に入れば、既に話し合いは始まっていたらしい。

曹操様が真ん中の椅子に座り、左に荀彧様達、右に北郷君達が座っている。

千里は、するりと後ろから抜け、自分の定位置へと座った。

そんな彼女を見送り、どうしようかと悩む。

実は、このような会議に参加するのは初めてで自分の位置を把握していない。

自分の立場的に言えば、荀彧様の後ろ辺りなのだが……。

 

「……」

 

 そんな事を考えていれば、見かねたのか荀彧様が自分の後ろを手で軽く叩いた。

視線を此方に向けておらず、すまし顔だがそれが余計に荀彧様らしい。

 

遅れました。

「……っ」

 

 少し微笑み、そのまま荀彧様が教えてくれた場所へと座り、小さく謝罪する。

そうすれば荀彧様はぶるりと体を震わす。

……男性に後ろから声を掛けられてってことですね、分かります。

 

「わ、私は姓は劉、名は備、字は玄徳です……ご主人様と一緒に愛紗ちゃん達を率いてます」

「良い名ね……それにしてもご主人様?」

「は、はい」

 

 女性からご主人様呼びって……え、北郷君の趣味なの? いい趣味してますね。

ちなみに曹操様は、最初こそにこやかだったがご主人様呼びで少し眉を潜めている。

『可愛い女性は自分の物』的な曹操様のことだ。

ご主人様呼びが気に入らないのだろう。

 

「それで?」

「俺がそれかな……。北郷一刀って言う名だ」

「北郷一……」

 

 あっ、やばい。

自己紹介をのんびりと見ていて気付く、これってこの後の事を考えると非常にやばいのではないかと思いつく。

思いつけば即行動、このまま行けば場が荒れて話し合いが終了してしまう。

 

すみません!

「九十九?」

「えっと……?」

 

 怒られる覚悟で手を上げた。

主君の話を遮ったのだ、全員の視線が痛いほど此方に突き刺さる。

それでもあげなければいけない、聞かなければいけない。

これを聞けるのは自分と千里のみなのだ。

 

「ちょっと、アンタね!」

「桂花、待ちなさい」

 

 思いっきり手を上げていれば、荀彧様が呆れた表情で手を下ろそうとしてくる。

それを曹操様が抑えてくれて助かった。

 

「九十九……何かしら?」

いえ……北郷君に質問なんですが。

「俺?」

姓が北、名が郷、字が一刀でいいんですかね?

「いや、姓が北郷で名前が一刀かな」

なるほど……やはり天の御遣いとなれば名前も違うのですね。

「あっ!」

 

 そう聞くと何やらあちら側で声が上がる。

見れば小さな金髪の子が声を上げて顔を少し青くしていた。

どうやらあちらも気付いたらしい。

 

ところで……真名はあるんでしょうか?

「真名は……強いて言えば名前の部分になるのかな?」

なるほど……知らないとは言え、真名を呼んでましたか。申し訳御座いません。

「なっ!」

「はぁ!?」

 

 自分が焦ったのは名前の部分だ。

この世界には真名と言う風習が存在している。

自分もその風習に習い、名前部分を真名にしてることを思い出したのだ。

このまま行けば、曹操様は北郷君の真名を知らず知らずの内に呼んでしまうことになる。

 

 そして相手から真名を預かるというのは非常に重いこと。

相手から信頼を得るのだ、此方も信頼で返さなければいけない。

簡単に言えば、北郷君に曹操様も真名を渡さなければならなくなる。

別に理由を告げて拒否してもいいのだが、誇り高い曹操様のこと真名を渡すだろう。

そうなれば黙っていないのが曹操様思いのお方達。

正直血を見そうで怖い。

 

「貴様っ!!」

「あっ……!」

 

 北郷君も気付いたのだろう。

口を押さえるも夏侯惇様が飛び出し北郷君の首元を掴む。

完璧にお怒りである、やばい、怖い。

 

「春蘭、抑えなさい」

「華琳様~!」

「ごめん! 俺の国にそういう風習がなくて!」

「春蘭!」

「っ!」

 

 慌てて北郷君が謝り、曹操様が夏侯惇様を下がらせた。

まさに危機一髪、正直帰りたくなった。

 

「……はぁ、呼んでないし今回は見逃す。次はない」

「っ……すまない」

 

 曹操様の冷たい視線に向けられてないのに体が震える。

北郷君よ、ここから巻き返しは非常に大変だぞ。

 

「それで……天の御遣いってことだけど?」

「一応かな」

 

 ……凄いっすね、北郷君。

あれだけの事があっても普通に話せるのか、正直自分だと震えて縮こまる。

 

「一応?」

「証明する手立てがないからな。何が必要なのか分からない以上は、自称」

「そうね、正直私も与太話と思ってるわ」

「そうだよな。でもそれでいいと思ってる」

「へぇ……」

「信じてくれる人だけでいい、本物だとは言い張るつもりはないさ」

 

 その北郷君の言葉に感心したように頷く。

ここで信じてくれないことに対して自棄にならず、怒らないのは大人だ。

というより、この世界だと天の御遣いって与太話とかの扱いなのか。

 

「なるほど……一つの軍を率いるだけはあるか」

「俺の力じゃないさ、桃香達のお蔭だ」

「そういうことにしておくわ」

 

 先ほどの険悪なムードは何処へやら。

曹操様は機嫌を治し、会議は進んでいく。

 

「それで今後だけど、あなた達はどうする気なのかしら?」

「……早くこの乱を終わらせようと思います」

「奇遇ね、私も同じ考えよ」

 

 曹操様の問いに劉備さんが答える。

そこには先ほどの弱々しい人でなく、強い意思を持った瞳をした人が居た。

ここに来てようやく彼女が劉備であるのだと実感が沸く。

 

「それで……曹操さん。私達と協力しませんか?」

「……ふむ」

「私の願いはこの大陸を、誰しもが笑顔で過ごせる平和な国にすること」

「……」

「そのために、この乱を早く終わらせたいんです!」

 

 そう言って、彼女は頭を下げる。

それを曹操様は静かに見下ろし、少しばかり沈黙を保つ。

 

「そうね……あなた達と協力するに当たって私に利点はあるのかしら?」

 

 曹操様がそう言って笑う。

素人の俺が見ても義勇軍にしては異常な戦力があると思っている。

それでも利点を差し出せと言ってるのは見極める為なのだろう。

この劉備という存在を、天の御遣いの北郷君を……。

 

「……これとかどうだ?」

 

 そんな曹操様を前に北郷君が何やら動き出す。

何か思いついたらしい。

 

「何を?」

 

 北郷君は懐から手帳らしき物を取り出し、ボールペンを使い何かを書き込む。

懐かしい物を持ってるなと思いつつも見ていれば、すぐに書き終えたのか手帳を曹操様に見せた。

 

「……」

「……」

 

 それを見た曹操様は少し眉を顰めるも、じっとその手帳を見つめる。

全員が沈黙して見守っていれば、曹操様が一息ついた。

 

「なるほど……ね」

「……君ならたぶん、この意味が分かると思う」

「えぇ……ただし、私限定ね。それ」

「この通り俺は少しばかり知識がある。とっておきの……知識を」

「それを私に寄越すと?」

「この乱限定で」

 

 そう言って、曹操様は首を横に振りつつも笑う。

どうやら認められたようだ、協力する価値があると……。

それにしても一体何を書いたのだろうか、それが気になった。

手の動きや時間から少なくとも絵でなく、文字を書いた物と思われる。

平仮名などが通じる訳も無く、書いたのは漢字だろう。

しかも時間的に一文字か二文字程度の……。

 

 かなりある漢字の中で曹操様が納得し協力をするほどのもの。

そんな漢字はあっただろうか?

 

「それじゃ!?」

「えぇ、協力しましょう」

「そうですか!」

 

 不思議に思い首を傾げていれば協力する運びとなった。

そういえば、千里はこのまま北郷君に付いて行くのだろうか。

正直やっと会えた家族なので一緒に居たいのだが……難しいだろうか。

 

「なら一度休憩をいれましょう。共同作戦については後で軍師同士で話し合わせる」

 

 それだけ言うと北郷君達に退出を促す。

その際に北郷君が大きくため息を付いて汗を拭いて出て行く。

 

「俺のせいでごめんな」

「ううん、ご主人様はまだこの国に降り立って短いもの。これから学べばいいと思うな」

 

 いや、正直君は凄いよ。あの場から曹操様を納得させる所まで持っていったのだから……。

劉備さんと北郷君の言葉を聞きつつそう思い彼等を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……」

 

 北郷君が隊退出した後、曹操様が一言呟く。

それを大人しく見守りつつも会議とはこういったものなのかと雰囲気を味わう。

 

「九十九」

はい?

 

 先ほどと比べ剣呑な雰囲気でもないのでのんびりとしていれば呼ばれた。

不思議に思い首を傾しげれば、曹操様が手でこっちに来いと呼んでいる。

先ほどの件で何かしらあるのだろうか?

一応防いだとはいえ、割り込んだのも確かだ、少しお小言を喰らうのかも知れない。

そう思い、腰を上げ移動し曹操様の前に正座で座り込む。

 

「九十九」

はいっす、何でしょうか?

 

 目の前で曹操様がにっこりと笑う。

それに対して此方もにっこりと微笑んだ。

もしかしてお小言でなく褒められるのだろうか?

そうであれば、今まで褒められた事があまりないので少々嬉しい。

 

「これ分かるかしら」

むっ。

 

 そう思っていれば、曹操様が手帳の一部を見せてきた。

先ほどの時に北郷君が書いた物を貰っていたのだろう。

そして、そこに書かれている文字を見て納得も出来た。

曹操様を納得させた文字は――

 

 

『魏』

 

 

の一文字であった。

後に曹操様が旗揚げをする場合、魏を名乗り建国する。

今現在、曹操様の中でそこまで考えているかは不明であったが、これで納得した事を考えると既に思いついていたらしい。

自分の中で考えていた名を天の御遣いを名乗る人物が当てた。

つまりは先ほどの特別な知識とは『未来』を知っているということを伝えていたのだろう。

現在の黄巾の乱で分かってるのは、張角と言う人が起したという事……。

それ以外は本拠地なども分かっていない。

そこに曹操様は価値を見出したのだと納得した。

 

「分かるのね」

あれれ?

「他の者はこれが何か分かるかしら?」

 

 そう言って、自分の反応を見て曹操様は先ほどの手帳の一部を他の人に見せた。

返って来た反応は、首を傾げる者、考え込む者、スパっと分からないと言い切る者と様々だ。

勿論、その中に自分みたいに納得した者はいない。

 

「先ほどの名前の件といい……これを見て納得したことといい」

あはは……。

「更には、アナタも姓と名だけだったわよね?」

 

 いい笑みでそう言ってくる曹操様。

どうやら察したらしい。

自分と北郷君の出身が同じであることを……。

 

「九十九……アナタは……」

はいっす。北郷君と同じ国の出身です。

 

 曹操様の悩ましいといわんばかりの表情に笑顔で頷いた。

 




~なぜなに三国志! トキドキ間違いもあるよ!~

【姓:荀 名:彧 字:文若 真名:桂花】
《人物紹介》
魏の軍師で華琳を敬愛しており、その敬愛の高さにより華琳専用でドM。 
優秀さからか教養のない者を見下している為、春蘭の様な者を目の敵にしている。
極度の男性嫌いで男性を完全に見下し、仕事以外だと罵倒罵倒の嵐。
九十九が部下になる前は、華琳も少し緩和しようと男性の文官を部下につけていた。
(女性だけで軍を保てるわけもなく、致命的な男性嫌いは将来的に困る為)
しかし、文官になる男性は桂花同様プライドが高く、桂花の罵倒に耐えれず去っていった。
そのことに困ってる時に見つけたのが九十九である。

《九十九》
九十九の第一印象は『とにかく気味が悪い』。
罵倒されてもニコニコと笑顔で受け入れる。
そんなほかの男性と違う態度が非常に気持ち悪かった。
しかもお調子者であるのが更に拍車を掛け、追い出そうとしていた。
(現在は諦め中、罵倒しようが何しようが堪えない為)
最近では、ある程度使えるので視界に入らなければいいやの精神。
お調子者も作っているという性格と知ってる為慣れた。

《天敵》
九十九は天敵である。
何しろ美味しい物を作って来るのだ。
最近体重が気になりつつも今日もドライフルーツを頬張る。

《春蘭と栄華》
とにかく九十九を攫っていこうとする輩。
一応アレでも華琳がわざわざ付けた部下な為、渡す気はない。

《真名》
渡すわけがない、字ですら渡さない。

《千里》
何か沸いて出た。


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九十九は、未来の人

原作を改めてプレイ中。
一刀ぇ……原作通りに書くと駄目や、この子。
こんな子だっけか……?



「……」

……。

「意外にあっさり答えるのね」

 

 どうやら、曹操様は自分が素直に白状しないものと思っていたようだ。

微妙に心外である。

 

「華琳様」

「何かしら桂花」

「すいません。どうしてもお聞きしたい事が……」

「言ってみなさい」

 

 そんな話をしていれば、荀彧様がおずおずと手を上げ質問をしてきた。

先ほどからずっと考え込んでいたことだろうか?

 

「どうして魏という文字で納得されたり、九十九があの怪しい輩と一緒だと?」

「魏は私が考えていた国の名前なのよ」

「……っ!」

 

 なんと言うか、見事に言い切りますね。

他の勢力の人が居たら反逆罪として捕まるだろうに……。

あと、魏=曹操様につながりませんよね。

普通は、昔あった魏という国を連想させますし。

 

「私の心内で考えていた国の名。それを見せて納得したのは一人だけ……」

「それが九十九ですか」

「そうよ、まさかと思ったけど……あっさりと答えるなんてね」

曹操様達のことは信用も信頼もしております。

故に聞かれたら答えようと思っていました。

「あら、そうだったの」

まぁ……聞かれなくても機会を見て話すつもりでもいましたが。

「というと?」

 

 曹操様の問いにどうしようかと悩む。

少々言うのが照れ臭いことなのでいいよどむ。

しかし、話さなければいけない。

この先に関わることなのだから……。

 

まずは前提条件として俺と北郷君の正体から話します。

自分と北郷君は、未来人ですね。

「未来……人?」

えぇ、何千年と先の未来に生きてた人です。

 

 自分の正体を言えば、場がざわめく。

いきなり未来からやってきましたと言ってもピンと来ないのだろう。

というより、怪しい人である。

 

「……未来?」

あー……夏侯惇様が楽毅(がっき)太公望(たいこうぼう)に会いに行くみたいな感じです。

「……会えるのか?」

今の自分がそうです。

「なんと!?」

 

 分かってなさそうな夏侯惇様に説明を重ねる。

正直分からないですよね。

胡蝶の夢(こちょうのゆめ)と例えればよかったかな?

 

「……胡蝶の夢?」

みたいなものかと。

 

 そんなことを思っていれば荀彧様が眉を顰めながら言ってきた。

やはり、一番分かりやすいのはその辺りか。

 

自分の時代では、曹操様達は英傑として数えられ、曹操様達の軌跡を描いた物語があります。

「ふふん、当たり前だ!」

「春蘭……少し黙ってなさい」

「あれ?」

 

 得意げな夏侯惇様に睨んで止める荀彧様。

相変わらず相性悪いなと思い苦笑した。

夏侯惇様の反応は可愛いのだが、反応をされ続けると話が進まない。

二人が睨み合う姿を見つつも話を続ける。

 

その題名は三国志。

結構有名で史実を少し脚色した演戯と呼ばれる方がよく読まれてます。

「それは九十九も読んだことが?」

あります。

といっても読んだのは、学生の時ですから……六年前になりますかね。

「……だいぶ読み込んだのかしら?」

 

 昔の自分を思い出しつつ、曹操様の言葉に首を横に振る。

中学、高校と中国の歴史物は一通り読んでいた。

太公望、楽毅、晏子、三国志、水滸伝……そういえば、項羽と劉邦は結局読まずに来てしまった。

演戯のような物は無理でも史実のほうなら読めるだろうか?

そんな事を思いつつ、思い出そうとするも大雑把な歴史しか思い出せない。

読んだと言っても長いシリーズだったので大抵が流し読みであった。

 

覚えてるのは大きな戦と……ここに居る人達の最後ぐらいですかね。

三羽烏の三人は少し怪しいです。

後は、細かい部分も覚えてません。

 

 あの三人の最後はあまり覚えてない。

于禁は辛うじて覚えているぐらいだ。

他の二人はどうやって亡くなったのだろうかと考えるも出てこなかった。

 

「そう……北郷は何処まで覚えてると思うかしら?」

なんとも……少なくとも自分よりは覚えてそうですね。

 

 北郷君の事を思い出す。

魏を知っていた所を見ると読んでいたと考えていいだろう。

何処まで読み込んだかまでは知らないが、高校二年生と聞いてる。

高校なら図書室にあるだろうし、丁度歴史物を読んでいてもおかしくない年齢だ。

むしろ読んだ直後に来ているという可能性も捨てきれない。

更には三国志はゲームでも出ている。

高校生ぐらいならまだゲームをやるぐらいの年、やり込んでいる可能性もあった。

 

「……まずは其処を探るところからかしらね」

それが良いかと。

「それで、未来から来たと分かったけど……最初の機会を見て話すというのは?」

あー……曹操様達の誰かが死地へと向かう場合は、正体を言って止める気でした。

「ふふ……そういうことね」

……はい。

 

 素直に言えば、曹操様が口元に手を置いて笑う。

それに照れ、少し頬を掻く。

元々は千里がここに来ると分かっていたので入っていた。

しかし、時が経てば情も出てくる。

ここに居る人は、是非とも最後まで生き抜いて欲しいと思う。

……例え自分が夢半ばで朽ち果てようとも。

 

「大体の事情は理解出来たわ」

そうですか。

それで今後、自分はどのようにすれば?

「そうね……まずは歴史を私に話さないように」

……ふむ。

 

 曹操様の言葉に少し考え込む。

正直、この人からこの言葉が返って来るのは分かっていた。

 

私の歩む道は自分で切り開く……ですか?

「分かってるじゃない。例えそれがどれだけ苦痛で困難であろうと、私は他人の作った道を歩む気はない」

……。

「九十九が知る物語の曹操と私は別人よ。例え似ていてもね?」

御意。

「でも……」

うん?

「他の子が死にそうな時は限りではないわ」

 

 死んで欲しくないのでしょう? とくすくす笑い聞いて来る。

答えは分かりきってるくせに相変わらずドSだ。

そう思いつつも大きくため息を付いて、素直に頷いた。

 

「あとは……天の知識で使える物があったら伝えるように」

それはいいんですね。

「私の道に関わる事でなければ構わないわ。むしろ言いなさい」

承知しました。

「思いついたものがあれば、書いて桂花に渡しなさい。それから吟味して真桜(まおう)に作らせるわ」

……。

「言っとくけど掛かるお金は、私の私財から出すわよ?」

なら冷蔵庫! 是非とも冷蔵庫を!!

 

 民の税金でないなら遠慮はない。

現代で使っていた道具を片っ端から作ってもらおう。

そう思い手を上げて訴えれば、呆れた表情をされた。

何故だ。

 

「……その冷蔵庫ってのは?」

食べ物を常に冷やし長期保存しておける物です。

「……作り方知ってるのかしら?」

……。

 

 何とか原理を思い出そうとするも思い出せない。

気化がどうだらこうだらと読んだ記憶はあるのだが、微妙だ。

それでもドリルを持ってる李典(りてん)なら作れる!

却下されても駄目元で直接言ってみよう。

 

「保留ね。それにしても九十九は、食べ物関連ばっかりね」

あー……自分がこの世界に来た時に一週間ほど彷徨いまして。

「餓死しかけたと?」

はいっす。

野生動物が怖くて森にも入れず、木の下でぐったりとしてました。

その後いろいろとあって助けられまして……そんな経緯があるので食べ物関連が。

 

 よく考えれば、女性と遊ばなかったりするのはそういった危機的状況を味わって、性欲が食欲に回ってるせいなのかも知れない。

この時代に来て作った物が殆ど食べ物関連なので、あながち冗談で済まされない。

あと、自分の給料は上がるのだろうか?

最近市場の食べ物関連の質が上がっていて少々お金が足りない。

 

「九十九」

はい。

 

 そんな事を考えていれば呼ばれた。

いけない、いけない。

前のことに集中しなければ……。

 

「今後のあなたの扱いだけど変える気はないわ」

それは、天の御遣いとしてでなく。

ただの部下の一人として扱うということですね。

「えぇ……下手に動くべきではないし。いざって時の対策になるわ」

それは自分も賛成です。

 

 北郷君が未来知識で攻撃してきた時に不意を打って反撃できる。

それを考えれば、自分を隠していた方がいいだろう。

しかし……給料は上がらなそうだ、残念。

 

「ちなみに今の騒ぎはどれ位、関知してるのかしら?」

敵の頭領の名前と大まかな流れ程度ですね。

「微妙ね」

微妙です。

 

 演戯の殆どが劉備を主軸に話が進む。

その為もあり、曹操様がどのように動いていたのかは細かく覚えていない。

というより、街の名前すら怪しい。

 

「ないよりはましか、むしろ日常的に使える知識の方が私にはありがたいわね」

そう言って貰えると助かります。

 

 役に立たないとか言われたら流石にへこむ。

怒られるより、あきられるほうが辛いのだ。

 

「それと、今後は私を真名で呼ぶことを許可するわ」

はえ?

「華琳様!?」

 

 曹操様の言葉が理解出来ず、少しばかり呆ける。

隣で上司が思いっきり悲鳴をあげてるのは辛うじて理解出来た。

 

えっと?

「華琳様! 駄目です! 男に華琳様の真名を呼ばせるなんて!」

「……桂花」

あー……。

 

 自分の代わりに騒ぐ人が居るからか、冷静になれた。

冷静になって考えれば、当たり前かと思う。

自分は天の知識を持った貴重な人間。

それこそ大きな戦しか覚えていなくても貴重な情報だ。

そんな自分を逃がさない為に真名を楔として打ち込んだのだろう。

 

「ちなみにこの遠征が終わったら渡す気でいたわよ?」

……軽く人の心を読みますね。

「今回の遠征で桂花から進言があったものを試していたのよ」

……道理で食べた事がある物が出てくると。

「う゛ーっ」

 

 そんな事を考えていれば、考えを見透かされ言われた。

天の御遣いとしてでなく、ただの九十九として渡そうとしていた。

それがたまらなく嬉しい。

 

「それで……どうするのかしら?」

「自分の国に真名という風習はありません」

「……」

「故に今まで自分の名前を真名として扱っていました。……俺の真名は『重成(しげなり)』です。華琳様」

 

 恭しく頭を下げ、自分の真名を告げる。

答えなど最初から決まっていた。

彼女が歴史に名を残す人だからとか、そう言うのは関係ない。

男嫌いな上司と共に敬愛している一人なのだ。

 

「よろしくね、重成」

「はい」

 

 さてと真名を預かってしまったのだ。

頑張らなければいけない。

まずは――北郷一刀、彼を見極める。

 

「春蘭! いいの? あれ!」

「ん? 九十九なら別にいいと思うのだが……」

……はぁ。

 

 と思ったが、真名を授かって初めての仕事は上司をなだめる事になりそうだ。

 

 

 




~なぜなに三国志! トキドキ間違いもあるよ!~
《人物紹介》
【姓:九十九(つくも) 名(真名):重成(しげなり)
《人物紹介》
日本人の二十四歳。人が居ればにこやかに笑ってる青年。
実際は笑いたくて笑っているのでなく、理不尽な世の中に負けないようにと笑っている。
仕事中や空気を読む場合、一人でいる時のみ真面目な表情を作る。
笑っている時の九十九は無理矢理テンションを作ってるため、お調子者。
調子者の故によく荀彧からあきれられている。

《生い立ち》
二十歳の時、一刀が三国志の世界に行く際に巻き込まれ三国志の世界に迷い込んだ。
巻き込まれたせいか、一刀とは違う年代……四年前に迷い込む。
その際、一週間ほど彷徨い倒れている所を華佗達に助けられた。
その時に 貂蝉にこの世界の事を聞いており、一刀の事も知る。
貂蝉からは『これも外史の一つの形』と言われて自由に生きるように告げられた。
ニ~三ヶ月ほど華佗達と共に旅を続けるも、とある村で徐庶の家に厄介になることになる。
理由としては、水や食事に環境が合わず弱り、旅を続けられなくなった為。

《砂糖を作る》
村に住んでる時に砂糖を作っている。
その砂糖を村の名産にしようと思うも、色々と面倒な事になりそうだと思い商人に作り方を売って面倒事を回避した。
ちなみにその際のお金は千里の塾代と贈り物で消えた。
その後、砂糖がどうなったか知らなかったのだが、街に行った際にペロペロキャンディーを売ってるのを見てこの世界の応用力の高さに戦慄した。

《モデル》
モデルは木村重成。
「智・仁・勇の三徳を兼ね備えている」と評価されてる豊臣の家臣。
色白の美丈夫で、立ち振る舞いや言動は涼やかで、礼儀作法を身につけ、粗暴なところが無いという人。
ちなみに初陣をしてなかった為、家臣団の中でも軽んじられ、時に馬鹿にされていた。
重成はそういった侮辱に対して特に気を止めずスルーしている。
しかし、それがいけなかったのか茶坊主にまで馬鹿にされるようになり、果てには言葉では表せないほどの侮辱を言われる。
これには周囲も刀を抜くだろうと思われていたが、重成は違った。

『本来ならばお前を打ち捨てにするべきなのだろう。
だがそうすると私も責任をとって腹を切らなければならない。
しかし、今は秀頼様のためにこそ死ぬべき時であり、
お前ごときのために私は死ぬわけにはいかないのだ。』

と言って豊臣秀頼への忠義の為にどんな侮辱にも耐える覚悟を見せる。
ちなみに二十三歳に時に戦で亡くなっている。

白髪は『九十九髪』と言われているので、色白=九十九 名前を貰い 九十九重成 となった。

《泣き虫弱虫諸葛孔明》
泣き虫弱虫諸葛孔明が書物でオススメ。
ヘンな服を着て宇宙哲学を説き、稀代の醜女を娶り(大女で、発明の才あり)、あの手この手で臥竜伝説を作ろうと腐心するセコイ男、諸葛亮と。
敗れては魔性の勘で生き延びる放浪雑軍の軍将・劉備玄徳。
な蜀を描いたへんてこ三国志。
徐庶が母親とプロレスしたり、龐統の諸葛亮の印象が変人だったり、呉がヤクザになってたり、と面白いです。


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楊修、準備を進める

鶏肋! 鶏肋じゃないか!
自分は某101匹動画で知りました。


 劉備軍と曹操軍が共闘して数日が経った。

あれから劉備軍の人を募ったり、此方の物資などを渡し補充を済ませた後、冀州へと向かう。

何でも冀州に黄巾党の本隊が居るらしい。

正直、州をまたぐ大きな遠征になるとは思わなかったので疲れます。

……お城に戻って何か料理作りたい。

 

……今回は面倒ですね。

「そうですね……時間との勝負ですしね」

やっぱり奇襲ですかね。

「はい、それがいいと思います」

 

 自分が口を出せば、それに金髪の子――諸葛孔明が頷いてくれる。

最初こそ、はわわ、はわわ、だった子だが、千里の家族と分かってからは少し態度が柔らかくなった。

それにしても千里の文に諸葛亮の事が書かれてなかったら驚いて声を出していただろう。

それほどまでに自分の持つ諸葛亮のイメージとかけ離れた姿をしていた。

 

「囮は私達の方が?」

いえ、囮……正面からぶつかるのは私達がやります。

「ふむ……」

曹操軍は派手に動いてますからね。

下手に軍の数を減らすと奇襲を怪しまれますので。

「奇襲を匂わせないようにですか……」

はい、場所としてはこの辺りを想定しています。

 

 今回の戦は、本隊と戦うといっても激しい物ではない。

黄巾党の主力部隊が現在離れており、手薄になっている。

幾ら此方の兵士の方が錬度が高いとはいえ、多勢に無勢。

相手の主力が離れている間に蓄積されている兵糧を狙い打ち、相手の食料を絶つ。

それが今回の趣旨だ。

 

 地図で戦いになると思われる場所を示し、更に近くの山を示す。

それを編成が済んだのか戻って来た龐統と共に難しい顔で見ていく。

こんななりだが、やはり軍師。

二人は、あーでもない、こーでもないと二人で言葉を交わし今回の策を絞っていった。

 

……。

「何よ、鶏肋(けいろく)

何でもないです。

 

 そんな二人を見つつ、後ろに居る自分の上司を見る。

見れば、すぐさま不機嫌そうな言葉が飛んできた。

華琳様の真名を預かってからずっと機嫌が下がっている。

あれやこれやと傍にいて治そうとしてるのだが、どうも上手くいかない。

今も此方をジト目で見てきては頬を軽く膨らませ、むすっとしている。

 

楊修(ようしゅう)さん、兵糧を焼く部隊についてなのですが……」

そちらは自分達のほうで特殊部隊を編成してます。

「なら前と横に気を取らせてですか……」

義勇軍の皆さんは此方の山で待機してください。

本隊が此方に気付いた直後に号令をかけます。

号令をかけましたら、此方が弓を放つのでその後に横から突っ込んで下さい。

「……あわわ、それでは私達が先陣になってしまいます」

少しの間でいいのです。

援護もしますし、此方も直ぐに駆けつけますので……。

「でも……」

何より、義勇軍を思っての事でもあります。

「え?」

これから先、あなた達が羽ばたくには名声が必要な筈です。

敵本隊に先陣を切り、今回の作戦を成功させた第一人者……大きな手柄になると思いません?

 

 二人にそう言えば、腕を組み考え込む。

正直悪い話ではないはずだ。

此方は兵力を無駄にせずにある程度の名声を得られ、黄巾党に大打撃を与えられる。

義勇軍は、少し耐え抜けば大きな名声と手柄を得るのだ。

 

「……どれほど耐え抜けば?」

そうですね……これぐらいが目安と思っていただければ。

「……援護はしてくれるんですね?」

はい、確実に。

「分かり……ました。受けます」

ありがとうございます。

「はわわ!?」

「あわわ!?」

 

 必要な時間を計算し見せれば頷いてくれた。

これで頷かれなかったら、また策の練り直しなので正直助かった。

その事に感謝し礼を尽くせばなにやら驚かれる。

……そこまで礼儀のない人に見えていたのだろうか?

驚く二人に首を傾げつつ、ある程度作戦を纏め互いの陣地へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ふぅ、あんな感じでよかったですか?

「……まぁまぁね」

 

 戻りがてら先ほどの策や進め方を聞いてみると、そんな返事が返って来た。

今回の共闘は、自分が軍師として事を進めるように華琳様から言われている。

進めるといっても荀彧様も後ろで控えており、駄目な時は口出しするといった感じだ。

北郷君を探るといった意味合いも含め、やっているのだが……中々に大変だ。

 

「それで……あの精液男はどうなのよ」

……精液男って。

 

 なんと言うか、荀彧様の北郷君の評価が酷い。

時折、会うことがあるのだがその時も一言も喋らないのだ。

喋ってもこれなので喧嘩になるよりはましなのだが。

 

少なくとも自分よりは覚えてますね。

「……面倒ね」

 

 あっ……現在に偽名を名乗っています。

楊徳祖……『鶏肋』こと楊修(ようしゅう)さんです。

流石に九十九のままでは、北郷君に気付かれると判断し偽名にしました。

お陰で九十九を真名だといい具合に勘違いしてくれています。

本来の真名を聞かれたら怪しまれますからね。

 

 あと、この名前を出した際に、名前の由来を聞かれたので曹操の部分だけをはぐらかし伝えてるのですが……華琳様は微妙な顔をしてました。

鶏肋と言う呟きから軍の撤退を結び付けて勝手に勘違いして自滅した人ですからね、微妙な顔になりますよね。

ちなみに由来を話したせいで機嫌悪い荀彧様からは鶏肋と呼ばれるように……鶏肋、今度作ろうかな。

 

『太平要術の書』の件を覚えてるから、彼が読んだのは演義ですね。

「……ふむ」

あと元譲(げんじょう)様達を紹介した時にシミュレーションゲームなら……とか呟いていたのでゲームもしてますね。

「げえむ……ってあんたが言ってた様々な物事を体験できる道具のこと?」

はい、この世界の一人となって人生を擬似的に体験出来る物もあります。

「なら、軍師とかもいけると?」

それは……分かりかねます。

体験できるといっても簡易なもの……実際やってみろと言われてもできないでしょう。

「……それって役に立つのかしら?」

娯楽でしたから……なんとも。

兎に角、北郷君は油断できないかと。

 

 荀彧様の微妙な表情に苦笑で返す。

自分もやったことはあるが、あれで実際に出来るかといわれたら出来ないだろう。

ただ、軽くなら軍も動かせるので策を考えるにあたっては有用かも知れない。

 

現状彼等は、全てが足りないみたいですし……大きく動くのはまだまだ先ですけどね。

「……ここで潰した方が楽なんだけど」

華琳様がお許しにならないかと。

「そうよねー……はぁ」

 

 ここで適当な理由をつけて潰した方が後々楽である。

しかし、それを華琳様が許してくれない。

あの人は、どこか好敵手を求めている傾向がある。

華琳様は昔から才能溢れた有能な人物だと聞く。

そんな彼女だからこそ、競える相手が居らず寂しいのだろう。

 

 自分と同じような王を、英雄を……。

故に危険と分かっていても成長させ、相対してみたいと願っているのだと感じる。

 

「取り合えず、この作戦を成功させないと」

全力で挑みます。

「……少し余裕を持ちなさい。いざって時、焦って何も出来なくなるわよ」

はい。

「あと、これ……それじゃね」

おやすみなさいませ。

 

 荀彧様の寝泊りしている幕舎の前まで来たのでそこで別れる。

その際に何か竹簡を渡された。

なんだろ……これ、駄目だしとかそういうのだろうか?

 

 何かと見てみれば、其処には先ほどの作戦の説明が簡略に分かりやすく書かれていた。

もう一つの竹簡には部隊編成についても載っており、準備が整っている。

この後やろうとしたことが全て終わっており、今日はゆっくりと休めそうだ。

荀彧様に感謝しつつ幕舎へと意気揚々と戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

……。

「お帰り」

……ただいま?

というか何で居るの。

 

 休めそうと思ってたのだが、前言撤回。

幕舎に戻れば、何やら人の寝床に寝転ぶ人を発見した。

袴の着物に靴はブーツ、銀色の髪が綺麗な人物……千里だ。

 

「華琳様との話し合いが済んでね。この戦が終われば晴れて僕も曹操軍さ」

……まじか。

「本当だ」

 

 あまりにあまりな言葉に呆けてしまう。

というか、もう真名を交換したんだ……早いね。

 

劉備さんの所はいいの?

「元々直ぐに抜けると言ってたしね。朱里や雛里が気になるけど、何時までもお世話してるわけにもいかないだろう?」

そうだけど……千里が抜けてあの軍は大丈夫なのかね?

「や……僕が抜けたぐらいで揺らぐなら、この先なんてやっていけないよ」

確かに。

 

 千里の言葉に納得し、竹簡などを机に置き自分もまた寝床に寝転ぶ。

色々とあって本当に疲れた。

明日は初めて指揮をする、その緊張もあり精神的に辛い。

 

「よいしょと」

あー……癒される。

「ふふっ……存分に癒されるといいよ」

でも異性の幕舎に居るってどうなのよ?

「別に家族だし変じゃないだろう?」

そっか。

 

 そんな事を思っていれば、何時の間にか千里に膝枕をされる。

体を鍛えているであろうに千里の太股は柔らかく寝心地が良い。

そんな膝枕に初めての軍師体験に疲れた精神と体が癒されていく。

何だかんだ気遣ってくれた荀彧様と千里に感謝しつつ目を瞑ればすぐに眠気がやってきた。

今日はよく眠れそうだ。

落ちる意識と共にそう思い微笑んだ。

 




~なぜなに三国志! トキドキ間違いもあるよ!~
【姓:徐 名:庶 字:元直 真名:千里】
《人物紹介》
十八歳の少女。
性格は、竹を割ったような性格。
裏表なくズバっと言い切るため清々しい人物とも言える。
『家族の幸せ』を心情として動いてる為、桃香の夢などには興味を惹かれていない。
家族が幸せになれれば、誰が国を治めようと構わないのだ。
曹操軍では、影として動いている。
草を育て、情報収集に力をつぎ込む。

《抱擁》
ちなみに好きなことは『抱擁』。
朝の挨拶に抱きつき、昼の挨拶に抱きつき、夜のおやすみに抱きつく。
※気に入った人のみ
現在は、朱里、雛里、九十九の三名のみ。

《戦い方》
撃剣の使い手で暗殺向けである。
力はそれほどなく、技術で戦い抜くスタイル。

《生い立ち》
十四歳の時に母親が連れて来た九十九と一緒に住む事となった。
九十九の第一印象は『迷子になった子鹿』。
村に受けいられようとビクビクしながらも作り笑いをして、一生懸命働く九十九を見てそう思った。
父親を早くに亡くしており、ここまで苦労しながらも育ててくれた母親には感謝しかない。
そんな母親を幸せにする為に武の腕前でなく知恵を磨き文官を目指す。
元々頭がよかった為、十五の時に水鏡の私塾へと入る事となった。
その際の去り際に九十九に母親と真名を託す。
九十九と一緒に居た期間は案外短く、時折帰郷してた期間を含めても二年程度。
それでも九十九を気に入り、本当の家族(弟)として扱っている。

《姿》
身長は百五十程度。
髪は銀髪で少し長めのショートカット、片方の横髪に小さな三つ編みをしている。
服装は、袴の着物+ブーツ+水鏡私塾のベスト(朱里達が羽織ってる物)+セーラー帽子。
着物とブーツは九十九が砂糖を売った時に余ったお金で贈った物。

《趣味》
趣味はお菓子作り。
九十九が砂糖を作ったり色々としていたので作れるようになる。
腕前は華琳も気に入るほどの物。

《真名》
九十九に真名を渡した際に九十九からも受取っている。
但し、人前では九十九呼びで二人の時のみ『重成』呼び。

《桂花》
重成が幸せなら別に構わない



【姓:楊  名:修 字:徳祖】
《人物紹介》
《史実》
中国後漢末期の政治家。
名門の子弟として生まれ、曹操に仕えその才能を愛されたが、曹氏の後継者争いで曹植に味方したため、
その才能を警戒され殺害されたお人。

《鶏肋-演義-》
曹操が漢中に遠征するも劉備との戦いは持久戦にもつれ込む。
この時に曹操が『鶏肋』と呟いた言葉を、
『鶏肋(鶏のあばら骨)は捨てるには惜しいが、食べても腹の足しになるほど肉がついてない』
即ち、
『漢中は惜しいが今が撤退の潮時』
という意味で読み解き、撤退の準備をしてしまう。
勝手に軍を動かし撤退した楊修に曹操は怒り殺してしまう。
優秀な事が裏目に出てしまった人である。

ちなみに披露気味の兵で劉備に適う筈もなく惨敗している。
曹操自身も矢で前歯を折られ命からがら逃げ返る。
この時に『楊 修の言うとおりに軍を引いていれば』と嘆き悲しんだ。
そのため、曹操は楊修の遺体を手厚く葬るように指示している。

《九十九》
何故この名前にしたかというと食べ物に関した人であるため。
後は優秀だった人なのであやかりたいという気持ちもあった。

《楊 修の時の真名》
既に九十九という名を聞かれている為、改めて一刀達に紹介する時に、
『姓は楊 、名は修、字は徳祖です』と名乗っている。
故に一刀たちに「九十九」を真名だと思わせている。

《笑顔動画での101匹阿○ちゃん》
上の動画で初めて知った人。
いろいろと不遇ながらも最後まで阿斗を支えていた。
名立たる人達相手に策略を披露した所は名シーンである。


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九十九、初陣を飾る

史実だと 曹子『孝』
恋姫のキャラ紹介では 曹子『考』
このSSでは史実のほうの字で書いて行きます。


「あの人達、大丈夫なんすかね?」

問題ないだろうな。

「そうなんすか?」

 

 戦の準備をしていると子孝が義勇軍が隠れている山を見て首を傾げていた。

きょとんと不思議そうにしている子孝に苦笑しつつも仕事を進め、どうやって伝えようか言葉を選ぶ。

 

彼等は強い。

「確かに……あの人達、春姉ぐらい強そうっすね」

強いだろうな……。

「ならもっともっと活躍出来るんじゃないっすか」

あくまで個人の話だからね。

「うん?」

 

 義勇軍の面々は本当に強い。

劉備、関羽、張飛、趙雲、諸葛亮、龐統……名立たる英傑が既に揃っている。

これだけ揃っているなら確かに活躍出来るだろう。

しかし……。

 

相手が黄巾党でなければの話だな。

「そうなんすか?」

あぁ、幾ら個人で強くても活躍出来る範囲は決まっている。

体力の限界もある……彼女達も子孝も超人ではあるけど人は人だ。

「ふむふむ」

 

 どれだけ強くても有能でも人の域を出ていない。

体力が無限な訳も無く、策を練るにも限界があるのだ。

数は力、その力を正当に振るう相手には少数はまず勝てない。

いや、時には数を覆すことも稀にある……しかし、本当に稀なのだ。

演戯などで千里が子孝が率いる二万五千もの大軍を少数の兵士で圧倒した。

しかしそれは、地形、相手の性格、策、天候……様々な環境が揃って成り立ったものだ。

それをしっかりと分かっているのだろう。

劉備軍はこれまで相手を選んで戦っている。

 

この先……この黄巾党相手にそんな場面はやってこない。

「未来知識って奴っすか?」

いや、未来は関係ないかな……考えれば分かる。

今回の作戦が成功すれば、黄巾党は食べ物を失う。

「食えないのはいやっすね」

うん、非常にやだ。

兵糧攻めなんかされたら泣く、てか相手滅ぼす。

「う、うん」

 

 食事は大事です。

食べるのは三大欲求の一つであり生きていく上にあたって大事なもの。

歴史を紐解いても強敵と戦う際に多く行なわれるのが兵糧攻めだ。

そういえば、お米も最近食べてないな。

黄巾党の溜めた兵糧の中にお米ないだろうか?

いや……取ったら華琳様が怒りそうだ、諦めよう。

 

「兄ぃ?」

ごほん、ごめん……思考が逸れた。

今まで自由にあちら此方で動いていた黄巾党。

しかし、ここに来て溜めていた兵糧を燃やされて焦りだす。

「そうっすね」

そうなれば、黄巾党の本隊は此方に対抗すべく大陸に散らばった黄巾党を集めだす。

つまり今後は今までのように敵を選んで戦うということが困難になるんだ。

「あー……」

 

 そこまで行けば最終決戦。

国も総力を挙げて黄巾党を相手にするだろう。

その際に曹操様も勿論招集される筈だ。

義勇軍もそこに加わる事は出来るだろうが、本隊を倒す大事な役目を任せられるはずもない。

加わったとしても手ごろな盾感覚で扱われるだろう。

大きな役目は得られない、故に手柄も立てられない。

場が混沌とすれば……あるいはいけるかも知れない、しかしそれは本当に賭けになる。

 

彼女達にとって今回の作戦は本当に助かる提案だ。

何せ、今まで纏まりがなく散らばっていた黄巾党を一纏めにする役割に関わったのだから。

ある意味でこの乱を終わらせる役目をしたと言ってもいい、十分な仕事だ。

華琳様もしっかりと国に伝える筈だし、彼女等はこの乱が終われば街の一つを任せられるだろうさ。

「だから、頑張ると?」

そそ、彼女達の夢を考えれば手を抜く事はない。

それこそ死ぬ気でやってくれるだろう。

「おぉー頼もしいっすね」

うん。

ところで……なんで脱ぐのさ。

「頭使って熱いっす!」

脱ぐなし、服に手を掛けるな。

 

 目の前で服に手を掛ける子孝、そんな彼女を見てため息が出てくる。

初の戦の相棒が彼女で大丈夫なのだろうか?

先ほどまで黄巾党にあった怒りが吹っ飛び、不安しか残らない。

もしかしてこうなる事を見越して華琳様は俺を子孝にくっ付けたのだろうか。

 

「また何か考えてるっすか?」

どうやったら子孝の脱ぐ癖を止めさせれるか。

「無理じゃないすか?」

本人が諦めないでくれる!?

 

 子孝の言葉にがっくりと肩を落す。

先ほどから話してるこの子は、子孝……姓は曹、名は仁、字は子孝、三国志でも有名な曹子孝である。

華琳様と同じく金色の髪でサイドテールに纏めている。

ちなみにサイドテールがグルングルンだったりします……曹家って一体。

姿もまさに美少女といった子なのだが、実際はがさつで言動など含めて残念系の子。

それでも根は優しい子なので皆に好かれている。

……いい子ではあるのだが、思いついたことを直ぐに行動に移す行動派で九割五分の確率で問題を起す。

元譲様と二人してのトラブルメイカー……そしてすぐに服を脱ぐ脱ぎ魔だ。

 

 何故子孝と共に居るのかと言うと華琳様から命令が下った。

今回の戦は軍師として子孝と共に動けとのことだ。

本隊は荀彧様が、自分は補佐として子孝に付いている。

 

「動いたっすね!」

……だな。

子孝……号令が掛かった後、弓が放たれる。

放たれた後に鐘が鳴り、山から横に当たる形で義勇軍が飛び出す。

「はいっす!」

子孝の隊は守り、義勇軍を抜けて本隊に向かって来る黄巾党を迎え撃つ部隊だ。

一度受けきった後、後退し相手を釣り油断させる。

そして油断した相手に部隊の真ん中を広げ元譲様を突っ込ませる。

それに合わせて、元譲様が囲まれないように此方も前線を持ち上げて援護をする。

「……」

……。

直前になったら、また指示を出すから……子孝はそれに合わせて号令を掛けてくれ。

「了解っす!」

 

 敵が動いた事を確認し、改めて作戦を確認すると子孝の笑みが固まる。

敵を前に固まったとかではない。

詰め込みすぎて訳が分からなくなったのだろう。

結局、直前に指示を出して補佐するしかないかと思い直す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「受けるっすよ!!」

『応!!!』

……っ!

 

 戦が始まり、相手の黄巾党が此方へと突っ込んで来た。

弓を放って受けた味方が倒れこんでも、それを踏み越え彼等は剣を振りかざす。

そんな異常な光景に足が震え、逃げ出しそうになる。

しかし、その光景を見ても逃げ出さない……逃げ出せない。

焼けた村と村人の死体、何より母を殺した奴等が憎い。

あのことを思い出せば、足が自然と前に出る。

 

「っ!! 通らせない!」

 

 上手い。

子孝は相手の攻撃を左手に持った盾で防ぎ軽く流すと、そのままの勢いで片手剣で首を飛ばす。

ただ防ぐだけでなく、相手の力を使い軽やかに攻撃へと変換したのだ。

他の兵士達も一人でなく二人で盾を支え、相手を見事に受け止めた。

 

……。

 

 子孝の動きに目を奪われ我に返り、一息ついて心を落ち着かせる。

落ち着かせるといっても完璧に落ち着いたわけではない。

やはり、何処か浮つき何とも言えない感情が溢れ出す。

 

子孝様!! 軍を後退させましょう!

「了解……全軍戻るっすよ!」

 

 感情を押し殺すように声を張り上げ伝えれば、子孝が軍全体を後ろへと下がらせる。

後ろを見た際に元譲様が此方に走ってるのが見えたので丁度いいだろう。

 

「春姉来たっすね! 開けるっすよー!」

『応っ!!』

……。

 

 隣を風が吹き抜ける。

馬でなく足で駆け抜けているのに元譲様の一団は風のようだ。

ただ立ってるだけで怖い自分。

そんな自分と違い、恐れを知らず……否それを感じつつも力に変えているのだろう。

 

「……ふっ」

……!

 

 横を駆け抜ける際に元譲様が此方見て軽く笑う。

それを見て少しばかりきょとんとした。

自分の姿を見て確かに笑った。

やはり何処か震えてるのかそれとも情けない表情をしているのだろうか……そう思い苦笑した。

 

『弱き民を喰らう輩めっ!! そんなに喰らいたければ我が剣を腹いっぱい喰わせてやる!!!』

……。

 

 子孝の部隊が開けた穴を通り、元譲様が相手を喰い破っていく。

一度此方が引き油断していたのだろう。

敵は呆気なく首を裂かれ、押しつぶされ、中央まで接近を許した。

 

「流石っすねー! 兄ぃ! あたい達も!」

応……囲まれないように軍を詰めて、元譲様の援護だ。

 

 その光景を呆気に取られて見るも子孝に声を掛けられ我に返る。

子孝と握り拳を作り互いに軽く合わせ、頷く。

何だろうか……先ほどまで残っていた感情が綺麗さっぱりなくなった。

震えもなく、怒りも、ただあるのは冷静さ……それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……問題なさそうね」

「そうですね」

 

 曹操は本陣で戦況を見守りながら、己の腹心である王佐の才……荀彧へと声を掛ける。

荀彧は真剣な表情で問いに答え、次から次へと来る伝令を適切に捌いていく。

それを曹操はにこやかに見守り、視線を戦場へと向き直した。

 

 戦場では、中央まで突き進んだ夏侯惇を囲んで倒そうと黄巾党が動いていた。

しかし、それは無駄な行為で終わる。

曹仁の部隊が空いた中央に即座に詰め込み中央から相手を押し返す。

相手も奮闘するも既に横から義勇軍の猛撃を受けているせいか、これを押し返すほどの力が残っていない。

 

「華琳様……空を」

「成功したようね」

 

 静かに眺めていれば、荀彧が空を示す。

それに合わせて視線を向ければ、見えた……黒煙だ。

黒煙は相手の後ろから盛大に上がっており、よく見えた。

特殊部隊が兵糧を焼くことに成功したのだろう。

 

「桂花、すぐに鐘と声を」

「御意」

 

 指示を新たに下せば、荀彧が下がり伝令を各地に送り出す。

暫くすれば、鐘が盛大に鳴り響き、声が上がる。

その声は黒煙を示している声であり、次第にその声は戦場へと伝わっていく。

 

「へー……やるじゃない」

「華琳様?」

「義勇軍よ……黒煙が上がると同時に前線を押し上げたわ」

「……それぐらいやって貰わねば困ります」

「ふふ……確かに……。此方も出るわよ、秋蘭にも伝えなさい」

「はい」

 

 援護に徹していた夏侯淵に伝令を送り、曹操は笑う。

劉備軍にも伝令を送ろうと思ったが、その必要性はないようだ。

特に合わせろと言った訳でもなしに、動いている。

 

「楽しみですか?」

「そうね、巨竜が死に体の今、新しき龍が目覚める。この動乱の先が楽しみになったわね」

「……」

「困難無き覇道に意味はなし。難敵待ち受ける茨の道……それでこそ、覇道に臨む張り合いが出るというものよ」

「……流石です、華琳様。そのお志の高さ、この荀文若、感服致しました」

「ふふっ……感服でなく感じなさい。……桂花」

 

 曹操はうっとりする荀彧の顎の下に手を置き上げさせ視線を合わせる。

そうすれば、荀彧は頬を染め上げ嬉しげに微笑んだ。

 

「それにしても……」

「はい?」

「まさか重成を華侖(かろん)に付けるなんてね?」

「……」

 

 曹操は、先ほど義勇軍に向けた笑みではなく。

優しげに思いやる笑みで笑い、九十九と曹仁の真名を呼ぶ。

二人の事を話せば、荀彧の先ほどのご機嫌は嘘のように急降下した。

その荀彧の様子が可笑しかったのだろう。

曹操は更にくすくすと上品に笑い続ける。

 

「初の戦、仇敵の相手……重成がまともに指揮できるのかと不安に思ってたけど」

「……」

「『九十九は子孝様にお付けした方が良いかと』……ね。確かにあの子の性格なら緊張もほどよく解けるか」

「……」

 

 荀彧は曹操に褒められているのにも関わらず、むすっとした表情で答える。

その事に曹操は口元を歪め、ニヤニヤと笑う。

 

「九十九を相手に出した時の桂花は良いものね」

「……そんなことありません」

「今度一緒に閨に呼ぼうかしら?」

「華琳様っ!?」

 

 そう言ってみれば、荀彧は悲鳴のような声を上げて曹操の服を掴み、いやいやと首を振る。

そんな荀彧を暫しの間堪能し、曹操は終わりを迎えつつある戦場を眺めた。

そこでは既に黄巾党が崩壊しており、逃げ出す者、自棄になり襲ってくる者、呆然と立ち尽くす者と別れている。

 

「……これもあなた達の天命。今まで弱き者を食い物にした分、苦しみなさい」

 

 曹操がイラだたしげに呟けば、大きな歓声が上がった。

どうやら勝負が決まったようだ。

曹操はその事に満足気に頷き、荀彧を連れて前線へと歩を進めた。

 

「策もよし、準備を済ましている。重成が目に見える形でしっかりとした手柄を立てたのは初めてね。……何をあげようかしら」

「……何でもいいのでは?」

「ふむ……なら桂花でもあげましょうか」

「……へ?」

「いい加減、字ぐらい渡してあげなさい。泣いて喜ぶわよ? あの子」

「……」

 

 荀彧は曹操の後ろに付きながらも頬を膨らませ、黙って不服そうに渋々と――。

そんな荀彧を見て曹操は何度かめの高ぶりを感じた。

 




~なぜなに三国志! トキドキ間違いもあるよ~

華北(かほく)華南(かなん)
中国の領地は広大です。
故に華北と華南では気候が違い、育ててる食物も違いました。
華北は、乾燥していて、水田に不向きです。
故に粟とか(きび)、麦が栽培されてました。
特に粟は、火力が足りなかった三国志の時代でも直ぐに火が通ったので、日常食として身分関係なく親しまれています。

逆に華南は高温多湿で、長江などの水に恵まれていたので稲が栽培されています。
簡単に言うと曹操は華北で粟などを、孫権は米を食べてました。


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黄天の果てに……

一刀「衣!」
九十九「食!」
?「住!」

一刀&九十九「「だれ?」」

?「ふっふっふ」


……。

「褒美はこれよ」

……はぁ。

「か、数え役満☆姉妹です。あ、あははは……」

 

 どうも九十九です。

宴の最中に何か褒美貰いました。

お酒を飲みすぎて酔ってしまったのかと頬を抓るも目の前の光景は変わらない。

目の前には三人の娘さんが居り、こちらに引き攣った笑みを向けている。

それを見て、どうしてこうなったと頭を抱えた。

……うん、混乱しててもしょうがない。

今までの出来事を順序良く思い返そう……最初は確か……。

 

 黄巾党で初陣を飾った後、北郷君達と少しの間共闘し半年もの間、黄巾の乱を駆けた。

兵糧を燃やしたので各地の黄巾党勢力が弱まり、見守っていた諸侯が腰を上げ各地の黄巾党は駆逐されていく。

そんな状況に張角達が危ぶみ、各地の勢力を一箇所に集めだす。

曲陽に集まった黄巾党の数は十万を越え、その事にようやく国が動き出し各地の諸侯に指示をだした。

『協力して黄巾党を打ち破るべし』簡単に言えばそんな感じだろう。

その指示に劉備軍は含まれておらず、話し合いの結果、そこで別れることとなった。

俺達は本隊の集まる曲陽へ、劉備軍は残党を退治して回るそうだ。

 

 曲陽に集結したのは数々の諸侯。

その集まった諸侯が協力して? 我先にと黄巾党の本陣を……張角の首を狙った。

結果を言ってしまえば、張角を破ったのは華琳様だ。

自分は完全に裏方に徹しており、よく分かってなかったのだが、どうやら三羽烏がやったらしい。

そんな訳で無事に黄巾の乱も終結し、城に帰還して宴に参加していた。

 

 宴もそこそこになってきた時、華琳様が今回の乱で功績を挙げた者を呼び、一人一人褒美を渡していく。

それを酔えないお酒を飲みながら見守っていたのだが……。

 

「重成」

……自分ですか?

 

 自分もまた呼ばれた。

確かに自分は食料関係で手柄を挙げている。

しかし、その時の褒美として華琳様の真名を授かっていた。

故に自分には褒美がないものだと思っていたのだが……はて?

 

 よく分からずも呼ばれたからには行くしかない。

しっかりとした足取りで前へと進み出ると頭を垂れる。

 

「今回の戦大儀であった」

はっ。

「冀州での戦、その他にも裏方での対応。それに対して褒美を与えるわ」

……ありがたくお受け取りします。

 

 言われた言葉に頷く。

初陣を済ませ一息付いてすっかり忘れていた、そういえば自分主体でやったんだっけ。

正直、初陣が終わって安堵感が強く、褒美とかは考えてもいなかった。

 

 それにしてもご褒美だ、何だろうか。

褒美は何かと考えていると声が聴こえ頭を上げるように言われる。

言われた通りに顔を上げれば、目の前には三人の女性が立っていた。

うん……思い返しても意味分かんない。誰これ。

 

数え役満……麻雀でもするの?

「か、数え役満☆し、姉妹」

……旅芸人?

 

 今までの出来事を思い返すも分からない。

そんなことを考えていれば、三人の内一番年上と思われる桃色髪の女性が怯えながら、引き攣った笑みを浮かべる。

何か凄い怯えてる……そんなに自分は怖いだろうか……。

というか自分にどうしろと言うのだろう。

頭を悩ますも答えは出ず、助けを求めて華琳様へと視線を送る。

 

「この子達を好きにしていいわよ」

「ちょっ!」

「うえ!?」

「……」

……。

 

 視線を送れば華琳様からはそんな許可が出た。

そして、目の前の三人はまたもや変な反応をする。

華琳様の言葉に聞いてないと言った表情で驚きを隠せていない。

一人だけ眼鏡を掛けた子は、何かを察したのか青い顔をして俯いてはいた。

 

意味が分かりません。

「そ、そうよ! 協力すれば助けてくれるって言ったじゃない!」

……協力? 助けてくれる?

 

 悩ましげに聞き返せば、それに便乗し水色髪の子が叫んだ。

その言葉に少し引っかかりを覚え、眉を顰める。

もしかして、この子達は黄巾党に協力していた将で捕虜となった身なのだろうか。

その子達を今回の件で褒美として部下に付ける……それなら納得できる。

 

部下としてですか?

「違うわ」

 

 違った。

頭を捻って考えたのに即座に切り捨てられた。

なら、一体なんだというのだ。

 

「はぁ……自分達で自己紹介しなさい」

「……」

「早く!」

「っ! ……角です」

……はい?

「……張角です」

 

 華琳様に急かされ、桃色髪の子の名前を告げる。

張角、張角……なるほど、目の前に居るのが張角らしい。

その名前は良く知っている、忘れる事など出来なかった名なのだ。

それにしても、ようやく『好きにしていい』の意味を理解出来た。

……好きにやらせてもらおう。

 

「なるほど」

「えっと……その、お、落ち着いてね?」

「自分は落ち着いてます。むしろ、これほどまでに冷静になったことはありません」

「なら……なんで」

 

 相手の言葉に自分が驚くほど、すらすらと言葉が出た。

頭が冴え渡り、心も冷たく落ちるところまで落ちた。

ゆっくりと相手を見据え、立ち上がりじっと見下ろす。

 

「これを使いなさい」

「ありがとうございます。華琳様」

 

 そうしていれば、華琳様が一本の剣を渡してくれた。

それに頭を下げ、両手で受取ると引き抜く。

自分は剣に詳しい訳ではない、それでも受取った剣が業物である事が分かった。

 

「千里は……」

 

 剣をそのまま張角に突き付け、ふと気付く。

自分だけが決めていいのだろうかと……。

その事に気付いて千里へと視線を向ける。

 

「九十九に任せるよ。ただ……九十九が斬れば、僕も斬る」

「そうか」

 

千里はそれだけ答えるとお酒に口をつけた。

その様子を見て頷き、改めて相手を見下ろす。

張角三姉妹は既に涙を流し、力なく座り込んでいる。

 

「なんで……なんで……」

「俺が聞きたい。何で俺の村が襲われた? 何で母が亡くならなければいけない?」

「っ……!!」

 

 あの人は、そこに住んでいた人達は、ただただ生きていただけだ。

母は千里の成長を喜び、歴史に名を残すだろうと自慢気に笑っていた。

実際の所、名を残さなくても成長する娘を見て嬉しかっただろう。

厳しい人ながらも千里の事を話すあの人は本当に幸せそうだった。

そして……もう会えない、話せない、笑っている顔も見れない。

全てはこの目の前の元凶のせいでだ。

 

「ご……ごめんなさい」

「……」

 

 ゆっくりと剣を持ち上げる。

今更謝って何になるのだろうか。

既に過ぎた事、むしろ謝るより正々堂々と何も言わずに罰を受けて欲しい。

 

「うっ……ぐすっ、どうか妹達……は」

「……」

 

 目の前で張角が泣きながら土下座をしてくる。

それを見て思い出す。

誰かが言った『土下座は暴力』だと……それが今になって実感できる。

確かにこれは暴力だ。

決して許しを請うものではない。

 

「っ!!!」

「……ぁ」

 

 身勝手な言い分に更に怒りが増す。

誰が許すかと、お前等は許されるために何かしたのかと……剣を力いっぱい振り下ろす。

振り下ろされた剣が呆気なく切り裂き、剣の刃が地面に突き刺さり、地面の破片が辺りに飛び散る。

その際に切れた桃色の髪と赤い血が辺りに散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……天、あっ……ぇ」

「……っぁ」

 

 振り下ろしたあと剣を突きたて、それに縋る。

本当にいやだ、この時ばかりは本当に……()()()()()()()()が嫌になった。

 

どうして華琳様は危険を冒してまで張角達をここに連れて来た?

 

自分と千里に敵を討たせる為?

 

張角を討ったと報告したのに彼女達は生きている、それを知られれば首が飛ぶのに?

 

違う、違う、違う、違う……全てが違う。

 

 

「……華琳様は……必要……なんですか?」

 

 突き刺した剣の腹におでこを押し付け、力強く剣を握り締める。

何とか声に出し、己の主君へと問いただす。

出来れば間違っていて欲しいと……。

 

「必要ね」

「そう……ですか」

 

 しかし、その願いはむなしく終わる、終わった。

その声に力なく答えて、ゆっくりと立ち上がる。

剣を引き抜き、引きずり、そのまま外へと歩を進めていく。

 

「いいのかしら?」

「……必要なんですよね。ならいいです」

「そう……千里は?」

「……僕もだ」

 

 皆がざわめき出す、声を掛けられたような気がする。

それでも足が止まらない、止められない。

ただ剣を引きずり、外へと歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 バチバチと鳴る火を眺める。

時折、棒で突っつき火力を調整をしていく。

もういい位だろうか、いや……まだ足りないか。

 

「……」

「……」

 

 何だろう……前もこんな事があった気がする。

火を突っついていれば頭から水を思いっきり被された。

雨もびっくりとする量で髪の毛が顔に張り付く。

 

「あんた馬鹿なの? アホなの? 鶏頭ね。鶏肋」

「だって……楊修ですし、今は」

 

 水を被った髪の毛を上げて水を絞り、後ろを振り向く。

振り向けば、そこには桶を持った上司様が居た。

燻していたので煙が良く見える。

この煙を前と同じく火事だと思ったのだろう……そう言えば今回は許可を取っていない。

 

「宴はいいんですか? まだ終わってないでしょうに」

「……あんたを探してたのよ」

 

 その言葉に一体何のためにと考える。

もしかして……俺を慰めに……。

 

「あんたが持っていった剣の回収よ」

「ですよねー」

 

 そういえば、持って来てしまっていた。

華琳様から預かった業物……その回収に来ただけか。

相変わらずな上司の態度に安堵した、これで慰めに来てたら偽者かと思っていた。

 

「……ねぇ、何で切らなかったのよ」

「……」

 

 その言葉に先ほどの光景が思い浮かんだ。

振り下ろす直前まで本当に頭を割るつもりだった。

しかし、あの子達を生かした理由を察して剣を逸らしてしまった。

逸らし横を切り裂いた時に少しの髪の毛を切り、地面を撃った破片が彼女を襲う。

近くで破片が散り、張角の体に無数の傷を作っていたが、殺されるよりはましだろう。

 

「これから先……北郷君と戦うにあたっての切り札なんですよね」

「……分かってたのね」

「勿論……北郷君は協力してる時に大まかだけど黄巾の乱の経緯を話している。その中に張角が討ち取られて終わるとありました」

「……」

「しかし、現に彼女達はそうならず生きている。いざって時、北郷君の裏を掛けるわけだ」

「えぇ……そうね。それと……これから先、戦乱の世になると華琳様は考えているわ」

「今回の事で漢王朝の力が明るみに出ましたからね」

 

 黄巾の乱を治める力が既に漢王朝にない。

そのことを諸侯だけでなく、民まで知ってしまった。

この先の世は、群雄割拠。

己の全てを曝け出しての天下取りとなる。

 

「戦が続く日々となる。そうなれば人を集めるのも、それを慰安するのも大事になってくる」

「そこで彼女達ですよね。元々人を惹き付けるものを持っているわけですからね。そうだ……彼女達は本当に旅芸人なんですか?」

「そうよ。何でも舞台を開いている時に『大陸、取るわよ!』と発言して民衆が勘違いしたらしいのよね」

「……勘違いでこの乱が起きたと?」

「ええ」

「慰安でも使えるわけか……。それにしても勘違い……しょうもねー」

 

 そこまで話し、燻製肉作るぜ!君二号の蓋を開けて中身を確認する。

今回の宴の為に準備していた食材だ、確実に美味しいだろう。

そろそろいい塩梅なので食べようと取り出す。

 

「……お酒持って来るんだったな」

「……はぁ」

「おや、いいところに……ありがとうございます」

 

 取り出すも折角だしお酒が欲しいなと呟く。

すると何やら後ろからお酒が出てくる。

何と……家の上司は猫型ロボットだったか。

 

「明日は休みだけど……その次の日からは仕事あるんだから、ほどほどにしておきなさいよ」

「はーい」

「はいは、伸ばさない!」

「はい」

 

 早速とばかりにお酒を一服飲み干す。

その際に荀彧様は行ってしまった。

少しばかり付き合ってくれてもと思うも、そこは彼女らしい。

声を掛けようかと思うも、自分の気持ちに決着を付けなければと思い直し、酒を煽る。

 

「……このお酒って」

 

 一杯目は分からなかったが、二杯目を飲んで驚いた。

いつも飲んでいる物より美味しく、アルコール度数が高い。

九醞春酒法(きゅうおんしゅんしゅほう)』、お酒を九回に渡り付けたし作る貴重なお酒だ。

そういえば、華琳様は自分専用の酒蔵を持っており、その管理を荀彧様が行なっていた。

いや……違うか、今回の宴で幾らかこれが出回っていた。

それを持って来てくれたのだろう。

 

「うん……美味い。それに……これなら酔える」

 

 一口、二口と飲むと冷えた体が温まる。

暫く中々飲めないお酒を楽しみ、ある程度酔いが回った後で燻製物を頂く。

やはり、こういったお酒に良く合う。

程よい塩辛さが素材の味を引き出しており、大変美味しい。

 

「食べさせたかったなー……」

 

 一口一口食べて酒を飲んで流す。

美味しい物は好きだ。

食べれば幸せになり、明日を生きる活力となる。

村ではお金も無く、あまり美味しい物を食べさせてあげれなかった。

よく考えて砂糖の運用をしっかりとしていれば……あるいは。

 

「でも……しょっぱい、失敗したかな」

 

 鼻を啜り、口いっぱいに頬張る。

今回のは少し失敗らしい、いつもよりしょっぱい。

それでも突き刺した剣の傍らで一人、明日を生きる為に食べ続けた。




「剣の回収はしないのかい?」
「っ……アンタね」

 道を戻っていれば、声を掛けられた。
荀彧が嫌そうな表情で其方を見ればだ、徐庶が壁を背に立っている。

「……思い出したけど、あれは九十九への褒美なのよ」
「そう……てっきり、もう一つの文が褒美かと思った」
「……」

 徐庶の言葉に荀彧は視線を外す。
その言葉を最後に互いの間に沈黙が下りた。
暫く……そんな時間が続くも先に口を開いたのは荀彧だった。

「……慰めに行かなくてもいいの?」
「行かない。僕も九十九も想う人は同じだ……今慰めに行っても傷の舐め合いにしかならない」
「……そう」
「今必要なのは、今回の件に一人で決着を付けること」
「その様子だとアンタは決着付いてるのね」
「うん……僕には九十九が居るから」

 その言葉に荀彧は眉を顰めた。
それに対して徐庶は苦笑するのみ、何となく言いたい事が分かってるのだろう。

「それじゃ……怒られに行くわ」
「うん、またね」

 何度か口を開きかける荀彧だが、結局は何も言わずそのまま去っていく。
その背を見送り、見えなくなると徐庶はそのまま壁を背に下がり、体育座りで天井を眺める。

「……はぁ」

 暫く天井を眺めた後、深い息を付いて顔を膝に埋める。
その後は、静かに静かに……。
これでいいのだと、終わったのだと……一人泣いた。


こうして長い間、様々な人を苦しめた黄巾の乱が終わりを迎えた。




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九十九、お茶会する

餡を包んで蒸す。

「うん」

 

 おはこんばんちは、九十九です。

あれから数日が過ぎて束の間の平和が戻ってきました。

まぁ……仕事の量は倍増したのですが、様々な物が足りず補充の為の計算、計算。

数日ほど文若様と一緒に仕事部屋に引き篭もり徹夜で仕事をしてましたよ。

あ……ちなみに文若様より字をお許し頂きました。

何か文が置いてあってそう書いてありました。

あと次の日、正式に褒美としてあの剣を頂きました。

文官の自分には過ぎたる物だと思うのですが、身を守る物も必要かと思い頂いてます。

 

「これ美味い」

うん……餡だけでも美味いわ。

 

 そんな仕事ばっかりの毎日でしたが、今日はお休みを貰っています。

何でも朝廷からお偉いさんが来て黄巾党の首領張角を討った褒美を伝えに来るのだとか。

その準備に忙しいらしく、全ての仕事を一旦停止させてのお出迎えと言う訳らしい。

 

……。

「……」

 

 準備を手伝おうと思ったのだが、華琳様と文若様から『お前は休んでろ』と言われてしまった。

正確には、此方を気遣って休みを出したという所だろう。

千里も一緒にお休みを貰ってるので間違いは無い。

 

……。

「……出来た?」

……。

 

 後ろから聞こえる声を無視して蒸篭(せいろ)の蓋を開ける。

この時代なのでキッチンタイマーもなく感覚だ。

暫く見つめ、竹串を刺して確かめる。

いろいろと考えている内に出来上がったらしい。

手を火傷しないように気をつけて取り出し、皿に乗せる。

初めて作ったが、案外どうにでもなるようだ。

 

「食べていい?」

いいですよ……美味いか知りませんけど。

 

 席に座り、廊下を慌しく動く文官を見ながらあんまんもどきに齧り付く。

生地作りを少し失敗したのか、モチっとした食感は無い。

むしろ少しボソボソしており生地は微妙だ。

しかし、中身の餡が美味しく生地と相殺し合ってそれなりに美味しかった。

 

「美味しい」

そりゃ良かった。

 

 目の前の人はぴこぴこと赤い触角を動かし喜んで食べている。

それを見つつも何度か口にして考え込む。

初めてでこれなら十分だが、華琳様の口に入れることを考えると足りない。

あの人、美食家だしこれじゃ満足しないだろうなと思いつつ、二つ目を頬張る。

 

「じー」

……。

 

 二つ目を口にしたのだが、物凄く見られてる。

お皿にあった八つのあんまんもどきは無くなり、此方の咥えている物を彼女が見つめる。

てか、この人食うの早いな。

 

半分どうぞ。

「ありがと」

 

 流石に見られ続ける中、一人で食べるわけにいかない。

結局咥えていた物を半分に割り、片方を渡す。

かなり小さくなってしまい、一口しか残らなかったがこれでいいだろう。

美味しい物を食べるのは好きです。

それと同時に自分が作った物を美味しそうに食べてくれる人も好きです。

最後の一切れだからか、大事そうに食べる彼女を見て微笑み、お茶を啜った。

 

「ご馳走様でした」

おそまつさまでした。

 

 お茶を啜っていれば食べ終え此方に礼をしてくる。

それを受けて此方を礼儀で返した。

それにしても……この子は誰?

餡を作ってたら何時の間にか後ろに居たんだけど……お城では見たことが無い子だ。

 

「恋殿ーーー!!!」

「呼ばれた」

そうですか、なら行ってあげるといいですよ。

 

 廊下から大きな声が聴こえて来た。

その声に目の前の少女は反応し一言呟く。

手で廊下を促し、微笑んで彼女を促す。

 

「何かお礼」

別に構いません。

さぁ……お連れさんがお困りです、早めに行ってあげて下さい。

 

 見た事のない少女に聞き覚えの無い声。

予測が付いた、たぶんこの子が朝廷からの使者なのだろう。

だとすると早めに行かせないとやばい。

既に華琳様は朝から準備をして待っているのだ。

……ちなみに今現在は昼頃です。

華琳様の機嫌が手に取るように分かる、故に早く行ってください。

 

「なら……姓は呂、名は布、字は奉先。真名は――」

色々とありまして真名は受取らないようにしてます。

「……」

なので字だけ……。

「……?」

 

 字だけを受け取ろうとして、気付き言葉につまった。

自分は未来人とバレないように楊修を名乗っている。

故に返す字は偽名のものとなってしまう。

しかし、真名を授けようとしてくれた相手にそこまでするのは如何なものだろうか?

そう考えてしまい、言葉がでない。

思考がぐるぐると回る。

 

「わかった」

え?

 

 どうしようかと考え込んでいれば呂布殿が口を開いた。

手をこっちに向けて人差し指だけを伸ばし、こちらの鼻に指をくっつける。

そして……

 

「貸し一、いずれお礼する」

!!

「だからーー」

 

 そこで彼女は言葉を区切った。

続きはない、しかし彼女の綺麗な瞳を見て『教えて』と言ったように感じた。

 

「姓は楊、名は修、字は徳祖と申します」

 

 彼女の瞳を見て決断し深々と頭を下げてそう名乗った。

もしも、彼女の道と自分の道が重なったときは精一杯謝罪しよう。

そして本当の名を語ろうと決意した。

 

「んっ、美味しかった。ありがとう」

 

 名乗れば彼女は廊下に出て去っていく。

そんな彼女に対して頭を下げ続けて見送った。

 

「あれが天下無双の呂布か……」

 

 暫くして頭を上げると、一言呟き彼女が出て行った廊下を見る。

まさかこんな所で呂布に会うとは思わなかった。

なんと言うか、本当にこの世界は不思議だ。

裏切りの代名詞があんなに可愛らしい子だとは思わなかった。

何より人としての魅力がある。

 

『美味しかった、ありがとう』

……。

 

 改めてお茶をすすり、先ほどの一連を思い出す。

その時に思い出すのは彼女の微笑み。

それを思い返し、彼女の道が裏切りと血で溢れてないことを祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

機嫌悪いですね。

「っ!!」

 

 あんまんもどきを目の前に置いてお茶を運ぶ。

すると華琳様はイラついたようにあんまんもどきへと齧り付いた。

あれから数刻程経ち、使者は帰っていった。

その際に何かあったらしく、華琳様は不機嫌そのものだ。

 

「……美味しいけど、生地が餡に負けてるわね」

……そうですよね。

自分の作り方が悪いと思うのですが、対応出来る料理人居ないかな。

 

 自分も席に座り、もう一度作ったあんまんもどきを食べる。

やっぱり生地が負けていた。

千里にお願いしてみようかな?

 

「私が作ってもいいのだけど……」

時間が足りませんよね。

「そうなのよね」

 

 そう言って華琳様は机の上に頬を乗せぐったりと倒れこむ。

どうやら本当にお疲れのようだ。

……というより、先ほどから少し体調が悪く見える。

 

体調悪いんですか?

「昔から頭痛持ちなのよ」

頭痛かー……。

 

 その言葉に考え込む。

頭痛……歴史上の人物でも頭痛持ちの人は多い。

現代でもはっきりとした原因も分からない事が殆どらしい。

大概はストレスが関わってくるそうだが、華琳様の場合は凄い溜まるだろうなー。

 

……んー、華佗にでも連絡してみましょうか?

「華佗……?」

はい、五斗米道に所属している旅医師です。

「聞いたことがあるわね……名医とか」

病を見る事が出来てそれと戦うことによって治す人です。

「……それって」

嘘の様な本当の話です。

現に治る人は多く、噂を聞いても悪い話はありません。

 

 少しばかり友人を紹介してみる。

自分を助けてくれた華佗なら華琳様の病も治せるのではないだろうか?

少々誤解を受ける奴なので華琳様のお墨付きでも貰えば、これから医療もしやすくなるだろう。

そう考えて提案をしてみる。

 

「……そうね。物は試し、呼んでみなさい」

御意。

……あと、お供の二人が強烈なお人なので斬らない様にして下さい。

「……見ただけで民を斬るわけないでしょう?」

いえ、絶対斬るかと。

「……どんな化け物よ。それ」

 

 その言葉に貂蝉と卑弥呼を思い出す。

食事中に思い出すものではないな。

 

半裸の際どい下着みたいな物を履いた筋肉凄いおっさん。

「捕まえるわ」

断言しないで下さい。

見た目はあれですが、とてもいい人達なんですよ。

「なんで半裸なのよ」

知らんです。

 

 お茶を啜り、ぐったりとしている華琳様を見る。

本当に具合が悪そうだ、つっこみも切れがない。

 

「……」

……。

 

 そういえば、お茶って高いし一種類しかないんですよね。

茶葉自体はあるし、少々手を加えて他のお茶を作りましょうかね……。

そんな事を考えてると華琳様が体を起した。

 

「恨んでる?」

「いえ、特には」

「そう……」

 

 華琳様の言葉にお茶を揺らしながら答える。

今言った言葉は本当のことだ。

これから先の事を考えれば彼女たちは優良、使える。

何より、なぁなぁにされて隠されたほうが辛い。

それに……自分と千里は()()だった。

 

 この時代、黄巾党に便乗した賊に家族を殺された人は数多い。

その中で自分と千里は切っ掛けとなった張角の処罰を選べた。

そう……俺と千里は選べたのだ。

 

「華琳様はどっちでも良かったんですよね」

「……あなたに聞かれた時に必要だと答えて、取り上げたわよ?」

「本当に必要なら、剣を振り落ろす前に止めますよ。それに勝手に放棄したのは俺です」

「重成が察してくれると分かっていたからかも知れない」

「人の心に絶対はありません。察しても感情を優先にした可能性もあります」

「……」

「なのに……華琳様は俺が剣を振り下ろし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 お腹一杯食べて、飲んで、泣いて、眠った。

そして起きてすっきりした頭で改めて考えて分かった。

華琳様はどちらでも良かったのだ……張角が死んでも、生きてもだ。

 

「生きていれば使える。死ねば自分達の感情の落とし所になるし、そのまま朝廷に首級として差し出せばいい。必要と答えたのは、聞かれたから答えただけ……彼女達の利用価値を考えれば、必要か不要かの二択なら必要と答えますよね」

「……はぁ」

「そんな所ですかね」

「……まだ間に合うわよ?」

「いいえ、あの時の答えは変わりません。彼女達には生きててもらいましょう」

「……いいのね?」

「えぇ、これから乱世になります。俺達と同じ思いをする人も出てくるでしょう。そんな人達を少なくする為にも生きて働いてもらいます」

 

 よく考えて思い直した。

殺して……それでどうするのだろうと。

死んだら終わりだ、全てが終わる。

 

 何より、彼女達はしっかりと罰を受けている。

名の剥奪。姓、名、字……張角とバレないようにという意味合いもあるが全てを取られた。

全てを取られた彼女達に名乗るのが許されるのは真名のみ。

これから彼女達は見知らぬ人達に真名で呼ばれながら生きていかなければいけない。

千里はその罰を聞いた時、真っ青な顔をしていた。

きっと自分がその罰を受けた時を考えたのだろう。

張角相手に千里が同情した……それほどの罰なのだ。

 

「それと……思い違いしてました」

「思い違い?」

「はい、仇の相手です」

 

 お茶を飲み、ずっと考えていた事を告げる。

自分は少し間違っていた。

張角に怒りをぶつけて、仇を討てなくて泣いて気付いたのだ。

本当に討たなければいけない相手を。

 

「張角は確かに切欠を作った元凶です」

「そうね、そこから始まったわけだし」

「でも直接は関わってません。黄巾党の勢力を見て便乗した賊が村を襲ったのですから」

「なら、その賊を探し出して仇を討つと?」

 

 その言葉に静かに首を横に振る。

それは無理な話だ。

情報も殆ど無く、この広大な大地から特に特徴の無い賊を探し出し仇を討つ……不可能だ。

何より既に誰かに討たれ亡くなってるかも知れない。

 

「それじゃ……どうするのかしら?」

「俺が真に討つべき相手は――この()()だと理解しました」

「へえー……時代ね?」

 

 少し楽しげな華琳様の声に静かに頷く。

そもそも、張宝の言葉で簡単に国に反旗を翻したのはこの国に不満があった為だ。

賊が居たのもそうだ、賊に身を落とさなければ生きていけない者も中には居ただろう。

中には楽しんで略奪をしてる輩も居たかも知れない、しかしそれを放置したのは国だ。

黄巾党が出来た時に国が腰を上げていれば、こうはならなかった。

 

「今現在の国……この時代こそが俺の仇です。賊がいない時代を築き上げます」

「……ふふっ」

 

 これが結論。

俺が考えた結論だ、根本的な部分を改善しなければ意味がない。

そのことを告げると華琳様は、手を口元に持っていき笑った。

 

「広がったかしら?」

「えぇ、思いっきり」

 

 その言葉に頷く。

華琳様は何処まで考えていたのだろうか。

此方を見て楽しげに笑う彼女を見て、自分がこの考えに辿り着くまで想像していたのではと思う。

 

「っ……」

 

 しかし、笑っていたのはそこまでだ。

華琳様は顔を顰め額を押さえた、頭痛が酷くなったのだろう。

 

「お休みになられては?」

「そうね……そうするわ。……ありがとう、重成」

 

 提案すれば立ち上がる。

付き添っていこうかと思ったが、少し遠くの木の陰に元譲様や文若様が見えたので任せることにする。

それにしても……仇は時代か、自分ながら思い切ったものだ。

それでも張角を相手にした時より清々しく、やってやると活力が湧いて来る。

 

「成長出来たかな……」

 

 お茶を全て飲み干し、空を見上げ軽く微笑んだ。




~なぜなに三国志! トキドキ間違いもあるよ!~
【茶】
紅茶、緑茶……と様々なお茶がありますが、実は元となる茶の木は一種類しかありません。
植物分類学的にみて二つの分類に分かれる程度です。

茶葉を発酵させるか、させないか。
茶葉をもむか、もまないか。
そういった違いだけで様々な茶を作ってます。
故に紅茶も緑茶も同じ茶葉だったりします。

ちなみに三国志の時代では一種類しかありませんでした。
しかも飲む習慣もなかった為、高価なものです。


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二章:反董卓連合
九十九、董卓を疑う


二人は家族です。
あと次回から桂花との日常に戻ります。


「お帰り」

「ただいま」

 

 仕事も終わり、夕食を食べてから寝泊りしている宿舎の一室に戻る。

扉を開ければ千里がおり、そのまま抱きついてきた。

それを軽く抱き返せば、千里は頭をぐりぐりと此方にこすり付けて来る。

暫し、それを苦笑しつつ見守っていれば千里は満足気に離れた。

 

「何でここにいるの?」

「明日ここを出るから目一杯堪能しようと」

 

 人の寝床に座り、此方を見てくる千里に首を傾げ聞く。

聞けばそのような答えが帰って来て納得した。

どうやら自分の訴えを華琳様が聞いてくれたようだ。

 

「んっ……」

「お酒とかはいいのか?」

「今日はいいや」

 

 寝床に座り、その隣を軽く叩いて千里は誘う。

そんな千里に棚に置いてあるお酒を示すも首を横に振られた。

今日は飲む気分ではないようだ。

 

「今日は逆なのか」

「たまには甘えてもいいだろう?」

「別にいいけど」

 

 横に座れば、千里が勝手に太股に頭を置いてきた。

いつもと逆な対応に少し面を喰らうも納得し、頭を軽く撫でる。

千里の髪は、柔らかく触り心地が良い。

しっかりと手入れされている。

 

「それでどのぐらいの期間?」

「んーっ、曹操軍と合流するまで」

「……長くないか?」

「長いね……ここ二、三ヶ月の話じゃないと思う」

 

 千里が行なうであろう任務の期間を尋ね、少し後悔した。

運が悪ければ、半年以上の間、千里と会えなくなってしまう。

それは少々悲しいものがあった。

 

「それでもやらないといけない」

「そうだね……董卓がどのような人物か探らないと」

「頼む」

「任された」

 

 千里の任務は、情報収集。

この先に起こるであろう反董卓連合の為の情報だ。

ことの始まりは、張角に会い黄巾の乱の裏側を知ったことから始まる。

張角の性格も性別も違うのにも関わらず、黄巾の乱は起こった。

世界の修正と言えばいいのだろうか?

どれだけ、かけ離れていても史実の様な事が起きる時は起きるらしい。

今のところを見るに大きな出来事の時にそれが大きく働くのだろう。

 

「君の話だと董卓は暴虐の限りを尽くした極悪人。その為、連合が組まれただっけ?」

「あぁ……しかし、この時代の董卓がどのような人物か知らない。故に情報が欲しい」

 

 もしもだ。

この世界の董卓が史実と逆の様な性格であったならばだ。

その時はどのような形で反董卓連合が組まれるのだろうか?

董卓への恨み、渇望、嫉妬。

もしくは、董卓の部下の裏切りによる圧政。

何より、董卓の居るのは中央、魔窟だ。

彼女、彼に関係なく始まるかもしれない。

その時に、正しい行動が取れるように正しい情報が欲しかった。

 

「嫉妬で反董卓連合が開かれたら最悪だね」

「それが一番怖い。反逆を討つと言う名目で来たのに、董卓は善政をしていたとなれば……」

「名声も落ちるか」

「参加したら自分達が悪人でした! とか最悪だ」

 

 董卓が史実の様な人物であれば問題はないと其処まで考えて体を倒す。

倒して天井を見ていれば、千里はお腹の上に乗っかってきた。

今日はとことんくっ付いているつもりらしい。

 

「……それで他にして欲しい事はあるかい?」

「……んー」

 

 千里の言葉に考え込む。

他に何か……何か……。

 

「……呂布かな」

「見つかったら僕、殺されるんじゃないかな?」

 

 考えて思いついたことを口にする。

千里から渇いた笑いが漏れた。

流石の千里も呂布を相手にしたくないらしい。

 

「必要?」

 

 千里は人のお腹の上でごろごろと転がり近づくと、人の顔を上から覗き込み視線を合わせて告げた。

 

「欲しい……かな」

 

 目をじっと見つめ、その言葉に素直に答える。

この先の事を考えれば、彼女が欲しい。

天下無双の武力が、彼女の騎馬隊が……。

 

「彼女は裏切りの代名詞なんだよね?」

「裏切らない……彼女に会ってそう思った」

「……なるほど」

「故に反董卓連合が出来、董卓が崩壊したら……」

「引き込むと」

 

 千里の言葉に黙って頷く。

彼女を引き込むとしたら、そこしかないだろう。

倒して捕まえるのは無理、説得も董卓が居る間は不可能だと思う。

ならば……董卓軍の崩壊後に切っ掛けを作り引き込むしかない。

 

「頑張ってみるよ」

「お願い……ただ千里の命優先でな」

「流石に会えなくなるのは嫌だからね」

 

 ここで家族を失えば、多分自分を保てなくなる。

今でも精神の限界ぎりぎりなのだ、これ以上は崩壊してしまう。

 

「お姉ちゃんに任せておきなさい」

「……いや、妹じゃ」

「いやいや、精神的にも僕が上さ」

「……普通、年齢で決まるものじゃない?」

「……」

「……」

 

 無言で取っ組み合う。

寝台をごろごろと互いに上に下になり、転がり続けた。

結果?

勿論負けました。

 

「なんで男の俺より……力が強いのさ」

「ふふっ……力でなくて技術だよ」

 

 馬乗りにされ、見下ろされると悔しい気持ちが沸きあがる。

人の腹の上に座り込み、勝ち誇った千里を見て余計にだ。

そんなことを思い、軽く唸って入れば千里は体を倒し人の上に寝転んだ。

 

「千里?」

「今日はこのまま寝る」

「寝るって……」

「寝る」

 

 流石に家族でもと思うも断固として退かないようにする千里。

そんな彼女に少しばかり言いよどむも……諦めた。

これから半年以上は会えないかも知れないのだ。

このぐらいの触れ合いはあってもいいだろう。

そう思い、近くの掛け布団を取り上から掛けるとその日はそのまま就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 ある程度月が落ちた頃、ゆっくりと瞼を開け目を覚ます。

目を覚ませば、規則正しく動く鼓動と振動で体が揺れた。

暫し、その鼓動を聞くように胸に耳を押し付け聞いていく。

ドクン、ドクンと生命の息吹が聞こえ安心した。

 

 彼は生きている。

そのことが僕をほっとさせた。

 

「……」

 

 名残惜しいがそろそろ時間だ。

朝日が登る、発つ準備をしなくてはいけない。

体を起し、彼の体温から離れると少しばかりの寂しさと冷たさが身を包む。

もう少しいいだろうか……いや、駄目か。

 

 窓から朝日を浴びため息を付いて離れる。

離れると、準備していた服に着替え、度の入ってない眼鏡を着用した。

そして何時もは片方だけ編んでる髪を後ろで小さく結ぶ。

後は、小さな剣を腰に差して準備完了だ。

 

「……行ってきます」

「……」

 

 最後に振り返り、言葉を告げる。

勿論起きている筈も無く無言だ。

それでも良かった。

 

 日々逞しく、脆く成長していく重成。

そんな彼の役にようやく立てる時が来た。

欲を言えば、華琳様の部下でなく重成の部下として働きたかったがしょうがない。

この先の重成の昇進に期待しよう。

昇進すれば、僕が彼の下に就く事もあるかも知れない。

 

「ふふっ」

 

 そんな考えをすると自然と笑いが漏れた。

 

「楽しそうね」

「華琳様……早いね」

「少し眠れなくて……」

 

 歩き歩き、門をから出ようとすると声を掛けられた。

その声に振り向けば、少し顔を顰めている主君が立っていた。

彼女の口と態度から推測するに頭痛であまり寝れなかったのだろう。

 

「あまり無理しないように」

「華佗に期待かしら」

 

 まったく休む気がない彼女に苦笑する。

なんと言うか、本当に自分に厳しい人だ。

 

「情報は定期的に」

「御意」

「危なくなったら逃げなさい」

「はい。それじゃ行って来ます」

「えぇ、行ってらっしゃい」

 

 主君である彼女ともう少し会話を楽しみたかったが、時間も時間だ。

一緒に行く商人と合流しないと行けないのでそこそこで別れる。

別れて門を潜れば、朝日が体を照らす。

その眩い光に目を細め、一息ついた。

ここから一歩進めば、僕は一時的だが、徐庶でなくなる。

そのことを何度も復唱して心に刻み込むと最後の確認として呟く。

 

これから先――私は『単福』だ。

 

 重成のように笑みを貼り付け、そう口にして歩き出した。



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