(仮)三男の秘密 (柊とき)
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プロローグ

───昔々3人の兄弟がさびしい曲がりくねった道を夕暮れ時に旅していました。やがて兄弟は歩いては渡れないほど深く泳いで渡るには危険すぎる川に着きました。

 

でも3人は魔法を学んでいたので杖を一振りしただけでその危なげな川に橋を架けました。半分ほど渡ったところで3人はフードを被った何者かが行く手を塞いでいるのに気がつきました。

 

そして「死」が3人に語りかけました。

 

3人の新しい獲物にまんまとしてやられてしまったので「死」は怒っていました。というのも旅人はたいてい、その川で溺れ死んでいたからです。

 

でも「死」は狡猾でした。3人の兄弟が魔法を使ったことを褒めるふりをしました。そして「死」を免れるほど賢い3人に、それぞれ褒美をあげると言いました。

 

一番上の兄は戦闘好きでしたから存在するどの杖よりも強い杖をくださいと言いました。決闘すれば必ず持ち主が勝つという「死」を克服した魔法使いにふさわしい杖を要求したのです!

 

そこで「死」は川岸のニワトコの木まで歩いていき、下がっていた枝から一本の杖を作り、それを一番上の兄に与えました。

 

二番目の兄は傲慢な男でしたから「死」をもっと辱めてやりたいと思いました。そこで人々を「死」から呼び戻す力を要求しました。

 

すると「死」は川岸から一個の石を拾って二番目の兄に与えこう言いました。この石は死者を呼び戻す力を持つであろう。

 

次に「死」はいちばん下の弟に何がほしいかと尋ねました。三番目の弟は兄弟の中でいちばん謙虚で、しかもいちばん賢い人でした。そして「死」を信用していませんでした。

 

そこでその弟は「死」に跡を追けられずに、その場から先に進むことができるようなものがほしいと言いました。そこで「死」は渋々自分の持ち物の「透明マント」を与えました。

 

それから「死」は道を開けて3人の兄弟が旅を続けられるようにしました。3人はいましがたの冒険の不思議さを話し合い「死」の贈り物に感嘆しながら旅を続けました。

 

やがて3人は別れて、それぞれの目的地に向かいました。

 

一番上の兄は1週間ほど旅をして遠い村に着き争っていた魔法使いを探し出しました。「ニワトコの杖」が武器ですから当然その後に起こった決闘に勝たないわけはありません。

 

死んで床に倒れている敵を置き去りにして一番上の兄は旅籠に行き、そこで「死」そのものから奪った強力な杖について大声で話し自分は無敵になったと自慢しました。

 

その晩のことです。1人の魔法使いがワインに酔いつぶれて眠っている一番上の兄に忍び寄りました。その盗人は杖を奪い、ついでに一番上の兄の喉を掻き切りました。

 

そうして「死」は一番上の兄を自分のものにしました。

 

一方二番目の兄は一人暮らしをしていた自分の家に戻りました。そこですぐに死人を呼び戻す力のある石を取り出し手の中で3度回しました。

 

驚いたことに、そしてうれしいことに若くして死んだ、その昔結婚を夢見た女性の姿が現れました。

 

しかし彼女は悲しそうで冷たく二番目の兄とはベールで仕切られているかのようでした。この世に戻ってきたものの、その女性は完全にはこの世には馴染めずに苦しみました。

 

二番目の兄は望みのない思慕で気も狂わんばかりになり彼女と本当に一緒になるために、とうとう自らの命を絶ちました。

 

そうして「死」は二番目の兄を自分のものにしました。

 

しかし三番目の弟は「死」が何年探しても決して見つけることができませんでした。三番目の弟は、とても高齢になった時に、ついに「透明マント」を脱ぎ息子にそれを与えました。

 

そして三番目の弟は「死」を古い友人として迎え喜んで「死」とともに行き同じ仲間として一緒にこの世を去りましたとさ。───

 

 

 



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第1話 兄弟

発達水準の高い5歳児…三(((((´ω`;)スススー


「…むかしむかし3人の兄弟が─」

 

何度目かになる物語の朗読をしようとして、冒頭部分を声に出したが、開始早々あえなく中断することとなった。

 

「兄さん、ゴブストーン投げるのやめてよ」

 

数打ちゃ当たると考えているのか、さっきから無数のおはじきを僕の方に投げつけてくる二つ上の兄──シリウスに向かってそう言った。

 

赤、黄、緑とカラフルなおはじきが、僕の周りに散らばる。

 

これ、当たると地味に痛いんだよ。

それに、このゴブストーンは、ゲームで失点をすると嫌な臭いのする液体が顔にかかる仕組みになっている。

もし何かの手違いで、僕の愛読書(バイブル)にかかったりでもしたらどうしてくれるのさ。

 

僕は開いていた本を閉じ、ゴブストーンの襲撃から守るため、本を両手で抱え込んだ。

 

「お前がうるさいのが悪い」

 

悪びれた様子もなく、かつ、どこか愉しそうに、兄さんは僕にそう告げた。

 

確かに、自分でもうるさかったのは自覚している。

 

手元にあるのは、『吟遊詩人ビードルの物語』。

 

イギリス魔法界に古くから伝わる寓話・童話を集めた作品集で、先月の誕生日に叔父から贈ってもらった大切な本である。

 

最近はめっきりこの物語を読むのが習慣になっており、毎日1回は朗読せずにはいられない。

それほど面白く、味わい深い作品なのだ。

 

「兄さんのわからずや。どうしてこの本の価値がわからないのかな」

 

「分かってたまるか。」

 

「今読んだのは吟遊詩人ビードルの、『三人兄弟の物語』の章だよ」

 

『豊かな幸運の泉』や『魔法使いとポンポン跳ぶポット』の章もお気に入りだ。

マグルと魔法使いが普通に生活をしている、|今では(・・・)考えられない夢物語だ。

 

でもやっぱり、

僕は『三人兄弟の物語』が一番好きだな。

 

なんたって、僕等と同じだからね。

シリウス兄さんがニワトコの杖で、レジーが賢者の石、そして僕が透明マントだね。

 

そう呟くと、

後ろから「嫌だよ。それになぞらえると、アルしか幸せになれないからね」と声がした。

 

 

僕のもう一人の兄──レギュラスが、いつの間にか部屋に入ってきていたようで、僕のすぐ後ろに立っていた。

 

兄、と言ったが

実は生まれた年も日も全く同じで、先月5歳の誕生日を一緒に祝った。

 

つまるところ、双子の兄、なのだ。

容姿も性格も違う二卵性双生児であるため、年子の兄弟に見られることの方が多いのだけれど。

 

「バレた?」

 

「おい!アルティス、卑怯だぞ。」

 

「兄さんは良い方ですよ。僕なんか『傲慢』だし、『自らの命を絶』ってしまうし、兄弟の中で一番不幸です」

 

やっぱりレギュラス──レジーは内容を知っているため、すぐに分かってしまう。

 

そうなのか?と頭にクエスチョンマークを浮かべるシリウス兄さんに、軽く説明してあげることにした。

 

この機会に、この物語の素晴らしさを分かってもらおう。

というか、兄さん…本当に僕の朗読を毎回聞いてなかったんだね。

 

 

僕が話している間に、レジーが僕の周りに散らばったおはじきを片付けておいてくれたようで、床は綺麗になっていた。

 

 

ニワトコの杖が最強の杖だと分かった兄さんの機嫌が良くなった所で、空間がパチンと揺れて、文字通り何も無いところから屋敷しもべ妖精のクリーチャーが現れた。

 

「シリウス坊っちゃま、レギュラス坊っちゃま、アルティス坊っちゃま。奥様がお呼びでございます。」

 

「分かった。ありがとう、クリーチャー」

 

「おやめください、レギュラス坊っちゃま。私めに、そのようなお言葉、滅相もないことでございます。」

 

相変わらずなレジー達のやりとりに、少し可笑しくなる。

 

毎回毎回よくやるなあと思いながら、シリウス兄さんの方を眺め見た。

 

兄さんはというと、先程までの雰囲気と一変して、眉間に皺を寄せ難しそうな表情をしていた。

 

『奥様』という言葉に反応したのだろうか。

 

最近の兄さんと母さんの仲の悪さには、少々参っている。前から考えが合わない部分もあったようだが、最近はそれが顕著になってきているのだ。

 

僕だって、言ってしまえば、母さんと考え方に関しては合わない。

兄さんと一緒だ。

 

しかし、兄さんは僕と違って激情型なので、こうだと決めたらもう本当に譲らない。

 

そこが兄さんの良いところでもあり、悪いところでもあるのだけど。

 

 

無言で扉から出ていく兄さんの背中を見て、今日は何も起こりませんように、と心の中で祈った。

 

 

「それでは、私めは戻ります。シリウス坊っちゃまにお続きください。」

 

そう言い残し、クリーチャーは現れた時と同じようにいなくなった。

 

 

静まり返った広い部屋。

 

レジーが僕の手を握り、僕達も急ごうと言った。

 

向かう先は、客間である。

 

我が家の広さは尋常じゃなく、正直、自分の家ながら部屋数もはっきりとはわからない。

昔はよく迷子になって、クリーチャーに助けられたこともある。

 

子供部屋から客間までは、かなり遠かったはずだ。

こういう時、クリーチャーの移動魔法が使えれば良いのにと思ってしまう。

 

 

歩きながら僕の左脇に抱えられている一冊の本を見たのか、

レジーが僕の顔を見て言った。

「それ、本当に好きだね」

 

「うん、レジーになら貸してあげるよ」

 

「ありがとう。でも遠慮しとく。だってそれ僕は|読めない(・・・・)からね」

 

「ははっ。叔父さんも、手違いで原書を注文してしまうなんて、おっちょこちょいだなあ」

 

「アルファード叔父さんだからね。でもね、本当のところを言うと…僕はそっちよりも、どうしてアルが|読める(・・・)のかという方が興味深いよ」

 

レギュラスの何か探究するような鋭い目が僕を射抜いた。

 

レジーのこういうところ、苦手だな、僕。

 

そう…─

 

僕は、『読める』のだ。

 

 

15世紀の魔法使い、吟遊詩人ビードルによる、『ルーン文字』で書かれた原書をね。

 

 

「叔父さんと会うときに教えて貰ってるからね。」

 

そう言って苦笑する。苦笑するしかない。

 

レジーは僕の顔をじっと見つめていたが、すぐにふっと笑って

「そっか。別にアルを責めているわけじゃないんだよ、ごめんね」と言って前を向いた。

 

僕の握る手が少し汗ばんでいることに、レジーは気づいているだろうか。

 

 

僕には、誰にも言えない秘密がある。

 

 

僕の半身であるレギュラスであっても、絶対に言うことはできない。

 

 

 

どうしてルーン文字が読めるのか。

 

それは、本能的に理解しているからだ。

 

生物が生まれてすぐ呼吸をするのと同じように、

ミツバチが教えられずにダンスをするのと同じように、

 

元から知っているのだ。

 

 

なんたって、

僕──ブラック家の三男、アルティス・ブラックには

 

前世の記憶があるのだから。

 

 

ただ、どうして僕だけなのか。

 

どうして僕には『記憶』があるのか。

 

 

それだけは、分からないんだ。

 

 

 

 

 

純血主義であるブラック家に生まれた男が、

 

まさか

 

グリフィンドールの生まれ変わりであるなんて──

 

 

口が裂けても言えないんだ。

 



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第2話 僕

主人公が説明マシーンと化している…


僕、アルことアルティス・ブラックは、

 

父オリオン・ブラックと母ヴァルブルガ・ブラックとの間に生まれた、3番目の子供である。

 

ブラック家とは、聖28一族のひとつに数えられる由緒正しき、純血一族だ。

母さんはもちろん、父さんも『ブラック家』に誇りをもっており、「ブラック家の名に恥じないようになさい」や「純血を守り続けた私達こそが魔法界の最上位に位置するのだ」と、僕達に言う。

 

僕だって、ブラック家として生きて数年だが、誇りは持っている。

 

でも、純血主義がそこまで良いものであるとは思わないのだ。

 

実際、マグルにだって混血にだって、有能な人はいる。

 

ゲラート・グリンデルバルトのように、

魔法使いであっても、悪いやつは存在する。

 

だから、

有能である純血が良い!

魔法を学ぶ人間も使う人間も厳選すべきだ!

という主張は、なんとも納得しがたい。

 

しかし、そんな言葉で片付けられないほど、『純血主義』の闇は深いことを|知っている(・・・・・)。

 

 

そもそも純血主義というのは、

はじめから存在したのではなく、十世紀以前──ホグワーツ創設期以前に盛んに行われた魔女狩りが起源なのだ。

 

魔法に恐れをなしたマグル達が、魔女や魔法使いたちを火炙りにしたというあまりにも酷い記憶──…

 

それまではマグルも魔法使いも互いに協調しあって暮らしていたのだ。

 

しかし、次第に魔法が疫病や災害の原因であるという噂がマグルの間で広まり、敬意を払う対象であった魔法使いが、一変して排除すべき恐怖の対象になってしまった。

 

友好であると示そうと試みた魔法使いもいたが、効果はなかった。

 

魔女狩りが盛んになると、隣の家の病気になった山羊を気の毒に思って魔法で治してやることすら出来なくなった。

 

つまり、この時にマグルと魔法使いとの間に高く暗い壁が生まれてしまったのだ。

 

もちろん、立派な大人の魔法使いは、火炙りもギロチンも簡単な呪文でかわすことが出来たが、それでも、杖を取り上げられ無抵抗の魔法使いが拷問の後殺されることも多く、全ての魔法使いが難を逃れたわけではなかった。

 

そして一番被害に遭ったのは子供だった。

 

杖を持つ前の子供は魔法力を制御出来ないため、魔法を使っているところをマグルに目撃される機会は多く、魔女狩りの手に掛かりやすかったのだ。

 

自分の大切な家族を、それも罪のない命を失った家族が増えた為、魔法界は「国際魔法機密保持法」を制定した。

 

そして、魔法使いたちは永遠にマグルから身を隠すことになった。

 

それ以降はもちろん、自分の大切な家族を殺したマグルと親しくする魔法使いがあれば白い目で見られるようになった。

 

マグル贔屓の魔法使いの魔法力が劣っているという「偏見」は、この時代に生まれたのだ。

 

マグルに恨みなど持っていない者のなかにも、風潮に流されて、アンチマグルを唱えた者もいる。

 

魔法使いたちがマグルから離れて生活するようになり、魔法使い同士の結束は強まりやすい状況になったため、反マグル風潮がなおさら強くなった。

 

僕の愛読書(バイブル)『吟遊詩人ビードルの物語』にも、こういったマグルと仲良くする魔法使いを差別する言葉が登場する。

 

「マグル社会に愛着を示す魔法使いは、知性が低く、魔法力が哀れなほど弱いがために、マグルの豚どもに囲まれている時しか優越感を感じる事が出来ないのだ」とね。

 

 

こうして反マグルの姿勢は純血主義へと変わり、今日に至っている。

 

だから、一概に

「みんな平等に魔法を学ぶ、使う権利があるんだよ」とか

「同じ人間なんだから差別は良くないよ」とか言っても、駄目なんだ。

 

だから、「純血主義」は難しい。

 

知っているからこそ、

 

変えられなかった記憶があるからこそ、苦しい。

 

 

僕は、父さんと母さんの考え方には合わない、と言ったが

 

合わないからと言って何もしない訳ではない。

 

この前は本で読んだマグルの世界の面白い製品を紹介してみた。

少しずつマグルに興味を持ってもらおうという作戦だ。

 

でもそのせいでシリウス兄さんにも飛び火がかかっちゃったんだけどね。

 

「やめなさいアルティス!どうしたのかしら。そんなこと言い出して…まさかシリウスあなたね?私の可愛いアルティスにおかしな知識を与えたのは!」

 

と、大喧嘩。

 

僕もまさか兄さんにいくとは思わなくて、必死で止めた。兄さんにもその後謝罪した。母さんへの憤りが大き過ぎて、あんまり聞いてくれてなかったけど。

 

 

 

僕の中にあるグリフィンドールの記憶。

 

最初は誰でも知っているものだと思ってレジーに話したのだが、

キョトンとした顔で、「ロウェナ?ヘルガ?なにそれ?」と言われた。

 

それきり確認したことはないが、おそらく前世の記憶があるのは僕だけなんだろうと思っている。

 

 

自分の中に、何か見知らぬものがある。

 

昔はそれが怖くてよく泣いていたらしい。

 

 

今でも正直、強い不安に駆られることもある。

 

グリフィンドールの記憶を全て知っている訳では無いのだ。どこで生まれてどうやって死んだのかも分からない。断片的な薄い記憶。

 

本当に生まれ変わりであるかすらも、はっきりいって怪しい。

 

でも、僕が持つこの記憶に名前をつけるなら

 

やっぱり前世とするしかない。

 

 

自分が勝手に創り出した幻覚や妄想で、僕は本当は頭がおかしいやつだなんて、

誰しも思いたくはないのだから。

 

 



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