明久「僕が女の子に!?」 (白アリ1号)
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プロローグ&1学期編
プロローグ ある朝の出来事


どうもこんにちは作者です~(´・ω・`)/
初投稿で駄文かもしれませんが、見てくれると嬉しいです。
楽しんでいただけるようにがんばって投稿し続けるので
応援よろしくお願いします。


それではどうぞ。




もうすぐで初夏の訪れ、6月になる5月の下旬となったある日。

その朝僕、吉井明久は目を覚ました。

 

「うぅ……ん……もう朝か……」

 

眠い目を擦りながらそうつぶやくと、体を起こしてベットから立った。

 

グッと背伸びをして眠気を覚まそうとするが、やはり朝の眠気はこれくらいで覚める事はない。

 

なので眠気を手っ取り早く覚ますために顔を洗おうと洗面所へ向かう。

 

まだ眠たさで焦点の合わない目を擦りながら、洗面所に行く途中ある違和感を覚えた。

 

胸が重たい……なんだこれ?

 

やけに胸が重たいのだ。

おまけに、何かが胸の上で揺れているような気もする。

 

もしかしてまだ疲れているのかな?

でも昨日は夜更かしせず、普通に寝たはずなんだけど……。

 

ぼんやりと頭の中で考えていると、洗面所に到着。

 

ひとまず、目を覚まそう。

目を覚ませばきっと疲労も吹き飛ぶはず……。

 

水道の蛇口をひねって水を出して顔を洗う。

冷たいが、その冷たさが脳を刺激して意識がはっきりしてくる。

 

よしこれでOK。

完全に目は覚めたし、疲労感もさっきよりは大分マシになった。

 

スッキリと覚めた目で自分の顔を確認しようと鏡を見る。

 

腰まで伸びた長い髪。

 

かわいらしい目。

 

ぷるんとした唇。

 

きれいな曲線を描いた輪郭。

 

すごく大きくて豊満な胸。

 

そんな美少女が映っていましたとさ……。

 

 

……………。

 

…………ってうわぁぁぁ誰だ!?

 

映るはずがない物体……いや人物に驚きながら鏡から目を逸らす。

 

ど、どうなっているんだ……!?

僕は一人暮らしで同居人は誰もいないはず……。

 

まだ疲れが取れてないから、幻覚でも見えたのかな?

 

きっと気のせいだろうと思い、もう一度鏡に目をやる。

 

また先程の美少女が映っていた。

 

「な、ななななな……なんだよ……これ」

 

驚きのあまり、その場から動けなくなっていた。

鏡に映った美少女も驚いた表情をしていた。

 

これってまさか…………。

 

いや、そんなことはないだろう……と思い込みながら自分の身体を確認する。

 

まず見下ろすと、そこには胸に大きな膨らみが出来上がっていた。

世間ではこのような胸を巨乳と呼ぶだろう。

 

うおぉ……でかい。

 

って、感心している場合じゃなかったと、ここだけは冷静にツッコミを入れる。

 

も、もしかして……ここも?

 

僕は自分の股間に手を伸ばす。

 

 

……………………ない。

 

 

男性には必ずついているアレ。

そう、よく男子のみんなは息子などの愛称で言うアレ。

 

それが綺麗サッパリなくなっている。

 

この時……いや、薄々思ってはいたが、僕は確信した。

 

「……僕……女の子になってる!」

 

驚きのあまり叫んだのでたった今、気が付いたのだが声まで変わっていた。

それも、とても高い声に。

 

男性には到底出すことは不可能なソプラノ。

とてもかわいらしい声だった。

 

「な、なんで僕が、女の子に……」

 

いきなり昨日まで男だった僕が突然、女の子になってしまったのだ。

あまりの出来事に混乱する頭を押さえながら一旦、洗面所を出た。

 

そして、また部屋に戻ってきた僕はベットに腰を下ろす。

 

ええっと……落ち着いて今までの出来事を全て整理しよう。

 

まず僕は昨日いつも通りに寝て、今日の朝起きた。

だが眠いので、目を覚まそうとして洗面所で顔を洗った。

そして、鏡を見ると美少女が映っていたがそれは僕のことだった。

 

…………うん、整理したけど非現実的すぎて状況が呑み込めません。

 

とりあえず、自分が女の子になったことだけは頭に入れておこう。

 

Q.ところで、最初に思ったんだけど、なぜ僕は女の子になってしまったのだろう?

 

A.わからない。

 

Q.じゃあ、元の男に戻る方法は?

 

A.なぜ女の子になったのかも分からないのに、分かるとでも?

 

脳内でこんな下らない自問自答を繰り返しながらも時間は過ぎて行く。

 

……ダメだ、なんで僕がこんな身体になってしまったのかサッパリ分からない。

考えている内にまた疲れてきたよ……。

 

僕は仰向けにベットに倒れて、「はぁ……」と大きなため息を吐く。

 

これからどうしよう……。

戻る方法も分からないし、なんでこうなったのかすら分からない。

 

今まで男として生きてきたのに、いきなり女の子の身体になるなんて受け入れ難い出来事だ。

 

「学校だってあるのに……こんな姿で行きたくないな……」

 

男だった僕が女の子になって学校に登校など、たちまち大騒ぎになって大問題に発展しかねない。

 

そもそも周りになんて説明すればいいか分からないし。

 

「あ、そうだ……今日くらいは休んでもいいよね?」

 

僕は起き上がって、机の上に置いてある携帯電話を手に取る。

 

「なんて言えばいいかな……流石に女の子になったことは伝えない方がいいから、適当に仮病でも使って休めばいいか」

 

学校に電話を掛けて、今日は学校を休むという事を伝える。

 

途中、「声がやけに高いな」と言われたが、風邪で喉の調子がおかしいだけだと言い訳をして学校を休むことが認められた。

 

「さて、これでよしと……」

 

通話終了のボタンを押して一息つく。

 

いや、よくないよくない!

一番の問題である、女の子になってしまったことはまだ未解決だ。

 

仮病は使用限度もあるから、学校が休める今日の1日でなんとか解決しないと……。

うーん……どうすれば……。

 

その時僕は、ピンッと思いついた。

 

もしかして、これは夢ではないのだろうか……と。

 

現実逃避ですか? と聞かれたら、そうかもしれない。

 

でも、おかしいでしょ。

いきなり普通の生活を送ていただけなのに、朝起きたら女の子の身体になるなんて。

そんな漫画や小説みたいなことが起きるはずない。

 

「よし、そうと決まれば……」

 

これで元に戻れるんだ。

ほんの短い間だったが、こんな身体とはおさらばだ。

 

僕は再びベットに潜り込んで、夢から覚めるために眠る。

 

 

 

 

 

しかし、これは夢ではなく本当の現実であることを

 

明久は知るよしもなかった。




どうでしたか?
初投稿でドキがムネムネです。
誤字脱字のご指摘と感想お待ちしております。

次回は明久……じゃなくてアキちゃんのキャラ設定です。
読んでくれたら嬉しいです。


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キャラ設定

こんにちは~作者です(´・ω・`)/
今回は明ひs…じゃなくてアキちゃんの
キャラ設定です。
女の子らしさを追求しようといろいろと調べてきました。
ツッコミどころがたくさんありますが、ご了承ください。
一応ほかのキャラ設定もあります。

それではどうぞ。


吉井明久

 

ある朝目が覚めたら性別が男から女になった

文月学園に通っている男子高校生。

 

だが女になったので名前は

吉井アキになった。

 

バカの代名詞で「観察処分者」に認定されている。

だが女の体になったおかげか

Fクラスだった成績がAクラス並の成績に。

 

性格は変わらず単純で直感的だが

誰にでも優しく、他人のために熱くなるようで信頼している人が多くいる。

 

女の子になった今では、誰もが惚れてしまう程の美少女で

スタイルもよく髪は腰の辺りまであり、同性の女子もおとすほどの可愛さがある。

 

召喚獣

 

改造学ランに太刀

胸にはさらしを巻いてる

 

プロフィール

・名前 吉井アキ

・所属 文月学園高等部 (2年Fクラス)

・身長 158㎝

・誕生日 10月18日/天秤座

・血液型 A型

・年齢 16~17 (高校2年生)

・利き手 左利き

・1人称 僕 (場合によって「私」になる)

・出身学校 睦月小学校 長月中学校

・得意教科 日本史

・苦手教科 特になし

・チャームポイント 明るく元気な笑顔 グラマーなスタイル

・スリーサイズ B・・・95㎝

        W・・・54㎝

        H・・・82㎝

・得意料理 パエリア 好物でもある。

・好きな動物 うさぎ

・好きな人 男の時は姫路瑞希だったが

      女になった今ではいない

 

 

坂本雄二

2年Fクラスの代表。1年の時からアキ(明久)の悪友で、相棒的な存在。

女の子になってもアキとは仲が良い。

 

 

木下秀吉

2年Fクラスの男子生徒。演劇部に所属しており、1年の時からアキの友人。

木下優子の弟。女の子になったアキに演劇部の衣装などを着せたりしている。

 

 

姫路瑞希

2年Fクラスの女子生徒。アキの幼馴染でアキが男の時は好きだったが

今は女の子になっているので、アキにコスプレなどをさせたりして

楽しんでいる。

 

 

島田美波

2年Fクラスの女子生徒。1年の時からアキと親しい仲。

女の子になったアキのスタイルを僻んでいる。

 

 

土屋康太

2年Fクラスの男子生徒。1年の時からアキの友人。ムッツリ商会を営んでいる。

女の子になったアキの写真やグッズなどを売ったりしている。

 

 

霧島翔子

2年Aクラスの代表で、2年生の学年首席。雄二に一途な想いを寄せている。

女の子になったアキを少し羨むことがある。

 

 

工藤愛子

2年Aクラスの女子生徒。実技の保健体育が得意。

女の子になったアキにセクハラめいた言動でからかうことが

よくある。

 

 

久保利光

2年Aクラスの男子生徒。2年生の学年次席。紳士的な性格だが

アキが男の時から想いを寄せていた。そのため自分の性的思考に悩んでいた。

しかし明久が女の子になったので、原作より積極的にアキに近づこうとするが

結構距離がイイ感じに……?

 

 

木下優子

2年Aクラスの女子生徒。木下秀吉の姉。原作より秀吉とは仲が良い。

女の子になったアキを妹にしたいほど可愛く思っている。

 




どうでしたか?
あいかわらずの駄文で、ツッコミ所が多いですが
みなさんに楽しんでいただけるように、がんばって投稿続けますので
応援よろしくお願いします。
感想もお待ちしています。


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1話 学校での出来事

ど~もこんにちは作者です~(´・ω・`)/
今回は学校での出来事です。

お気に入り件数がなんと20件に!!
お気に入り登録や読んでくれた方、感想をいただいた方には
本当に感謝しています。

それではどうぞ






雄二side

 

 

~Fクラス~

 

「明久の奴……まだこねぇな……」

 

いつもの教室に馬鹿な連中が集まる変わらない風景。

 

しかし、そこには俺が嫌でも顔を合わせてきた悪友、明久がいなかった。

あの馬鹿はいつも俺よりは先に学校に来ているのだが、珍しく教室にはその姿が見えない。

 

「まさか遅刻か……? あいつのことだから、きっとそうだな」

 

机に肘をついてつぶやく。

 

するとドアが開いて1人の人物が入ってきた。

 

お、来たか?

 

恐らく明久だろうと思い、俺は奴に挨拶代わりの罵倒をする。

 

「おい、明ひs……」

 

しかし、その人物を見た瞬間に口を止める。

 

そこにいたのは明久ではなく、浅黒い肌をした短髪のいかにもスポーツマン然とした男が立っていた。

 

「あ、鉄人先生おはようございます」

 

そう言った拍子に俺の頭に重いげんこつが下る。

 

「……西村先生と呼べ、坂本」

 

「すみません、西村先生」

 

重いげんこつをくらった頭を下げながら謝罪する。

 

俺が鉄人と呼んだスポーツマン然とした男は生活指導の鬼西村教諭の西村宗一。

Fクラスの担任だ。

 

「まったくお前という奴はいつになったら普通に西村先生と呼ぶのだ…………とにかく席につけ、出席をとるぞ」

 

「あ、はい」

 

俺は西村先生に促され、自分の席に座る。

 

どうやら出席が始まった今で、明久の遅刻は確定してみたいだな。

ったく……遅刻するとは度胸のある奴だ。

 

後で今朝の分の罵倒を浴びせてやろう。

 

「ひとつ報告しておくが今日、吉井は欠席だ」

 

明久へのいい罵倒内容を考えていた時、西村先生の口から耳を疑う言葉が出てきた。

 

はぁ? 欠席なのかあいつ……。

 

それは信じ難い言葉だった。

あいつは1年の頃から欠席するような奴ではないに、なぜ欠席なのだ?

 

「質問だ、なぜ明久は欠席なんだ? あいつが欠席するってことは何かあったのか?」

 

誰よりも先に明久の欠席の理由を知りたい、そう思った俺は西村先生に質問を投げかける。

 

「慌てるな坂本、吉井はただ単に風邪をひいただけだそうだ」

 

「明久が風邪だと?」

 

「ああ……今朝、吉井自身からの連絡もあった」

 

「そうなのか……あいつが風邪をひくとは、珍しいこともあるんだな」

 

「そうだな……あいつはこんなことで休んだことは一度もなかったからな……」

 

西村教諭も明久の風邪の事については若干、半信半疑のようだった。

 

「もしかして仮病でも使って、ズル休みでもしたんじゃねーの?」

 

Fクラス生徒の1人が冗談交じりに言う。

 

だが、確かに仮病を使って休んだ可能性は否定できない。

 

「それはないな。あいつは馬鹿だがズル休みなどという行為は今までなかった。

それに、今朝の連絡で電話越しに吉井の声を聴いたのだが……やけに声が高くて、女みたいな声をしてた」

 

声が高い!?

おいおい、風邪は声が高くなるものではなく普通は声が枯れたように低くなるだろ?

どうなってるんだ。今朝話したというその相手は本当に明久なのか?

 

だが、あいつは馬鹿の中では一番の変わり者だから風邪も特殊なのだろう。

 

俺は勝手な自己解釈をして、そう納得する。

 

しかし、他のFクラスの連中どもは

 

「おい、吉井が欠席だとよ……明日は嵐にでもなるのか?」

 

「馬鹿は風邪をひかないと言われてるが……」

 

「そうでもないぜ。最近は風邪って馬鹿がひくと言われてるらしいぞ」

 

などと主に明久を馬鹿にする話が聞こえてきた。

 

まぁこれは無理はない。明久のことだからな。

 

明久が風邪をひく事=珍しいという考えを持っているのは、俺だけではなかったようだ。

 

「えー!? じゃあ今日はアキを殴れないの?」

 

Fクラスの数少ない貴重な女子生徒の1人である、島田はサラッと恐ろしいことを言った。

 

「今日くらい我慢しろ、明日には来るだろうからよ」

 

ストレス発散の相手がいないことを不服に思う島田をなだめる俺。

 

「そ、そうね……」

 

と島田は渋々うなずいた。

 

「吉井のことはさておいて、以上で朝のホームルームを終わる。1時間目の教科は数学だ。準備を忘れるな」

 

西村教諭はその一言で朝のホームルームを解散させたのであった。

 

 

 

 

朝のホームルームは明久の件で少し荒れた気もするがいつも通りに終わり、西村教諭が教室を出て行った後、1時間目の授業が始まる前。

 

俺は木下、ムッツリーニ、島田、姫路のメンバーを集めて明久のことについて話し合っていた。

 

これくらい明久が休むことは珍しいことなのだ。

 

「しかし、明久の奴が風邪をひくとはな……何かあったのか?」

 

「……明久らしくない」

 

「まったくじゃの……」

 

俺の言葉に、同調するムッツリーニと木下。

 

「吉井くん、大丈夫なんでしょうか?」

 

姫路は心配そうに呟いた。

 

姫路からすると明久は同じクラスメイトでもあり、その上、好意を抱いている存在なのだ。心配するのは無理もない。

 

「あいつのことだから心配はいらねぇよ」

 

俺は心配そうにする姫路に言う。

 

「そうですか……? でも……」

 

まったく、ただ明久が風邪をひいただけなのにどこまで心配してるんだよ……。

どこまで明久が好きなんだ、こいつは……。

 

「あいつは馬鹿だがこんなことでへこたれるわけないだろ。俺が保証するから安心しろ」

 

「……そうですね。坂本くんがそう言うなら大丈夫ですよね」

 

気を取り直したのか姫路はいつも通りの表情を取り戻した。

 

「それにしても、アキが休みになると殴ることができないのよね~……」

 

今朝から明久を殴れないことに不満を抱いている島田は不機嫌そうだ。

 

「明日来たのなら、今日の分までおもいっきりやってやるわ!」

 

グッと拳を握りしめる島田。

 

明久も災難だな~。まぁ助けることはないが。

 

そんな話をしている内に数学の教科の教師が教室に入って来て、

 

「授業を始めます、みなさん席についてください」

 

教師の一言で全員が席につく。

それから1時間目の授業が始まるのであった。

 

 

 

 

「………………………」

 

俺は真面目に授業に参加せず、1人頭の中で考えていた。

 

「……明久の奴どうしてるだろうな」

 

俺は朝から明久ことが気になって、ずっと考え込んでいる。

 

あいつのことだから心配ないだろうと姫路に言っておいた俺が、そんなことを考えるのは滑稽かもしれない。

 

だが、気になって仕方ない。

 

いつもいて当たり前の明久がいないFクラスはどうもしっくりこない。

授業中も休み時間も放課後までずっと明久のことで頭がいっぱいだった。

 

 

……見舞いにでも行ってやるか。

 

 

そう決めた俺は放課後、明久の住むマンションへと向かうことにした。




どうでしたか?
学校でいつも暇な時にネタを考えていたので
早めの投稿ができました。

あいかわらずの駄文ですが、
面白いと思っていただけたら幸いです。

感想と意見をお待ちしております。


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2話 雄二との対面

こんにちは~作者です。(´・ω・`)/
昨日の夜から執筆しているのですが
なかなか手が進まなくて苦戦していました。
小説書くのってこんなに大変だったのかと身を持って実感しました。
学校で暇な時にネタ考えているのですが、思考錯誤しまくりです。(笑)

それではどうぞ。





sideアキ

 

 

「やっぱり夢じゃなかったんだ……」

 

僕はベットから体を起こしてそうつぶいた。

夢だと思っていたことが現実であったのだ。

 

現在、僕の体は正真正銘、女の子になっている。

 

また同じ夢かと思ったが、同じ夢なんて簡単に見れるものではない。

 

それに時計を見ると確か朝は7時を指していたはずの時計の針が、午後の3時になっていた。

 

最終手段として頬をつねったが…………痛い。

もう現実としか言えない。

 

本当に僕は女の子になってしまったんだ……。

 

心の中ではまだ驚いているが、自分の今の姿は朝の時に一度見ているので、

今朝ほど驚いてはおらず冷静を保っている。

 

僕はベットに腰掛ると自分の身体を見た。

 

「いろいろと変わっているな……背は縮んだし、髪はとても長いし……」

 

僕の身体は昨日とはまったく別の身体になっていた。

 

身長も腕も腰も脚も男の時とは違い、細くて小さくなっていた。

おまけに、今着ている服はサイズが合わずガバガバだった。

 

だが、逆に大きくなって一番変わっている所もある。

 

最も変わった所は女性を象徴する部位でもある胸だ。

 

「で、でかい……こんな立派なものを自分自身が手に入れられるとは……」

 

女の子になった時から気になっていたのだが、僕の胸の膨らみはとても大きくて、綺麗な形をしている。

 

グラビアアイドルでもやっていてもおかしくないくらいだ。

 

「……触ってみようかな……僕の身体なんだし……」

 

って何を言ってるんだ僕は! 変態じゃあるまいし!

 

しかし、その物体の魔力には逆らえず、自然と手が伸びて……

 

ふにっ

 

「やわらかッ……!」

 

今まで一度も触ったことのない感触。

力を入れていないのに指が胸に埋もれていく。

 

「こんな感触だったのか……女の子はこれを自由に触れるのか……」

 

生まれて初めて味わう柔らかさに飽きることなく感触を楽しんでいると……

 

ガチャ

 

突然玄関のドアが開いてビクッ! とした僕は反射的に胸から手を放して、玄関に目を向ける。

 

ノックもせずに勝手に入ってくる人物といえば……

 

「おーい明久! 見舞いにきt……」

 

雄二がどすどすと部屋に入るが僕を見た瞬間に固まり、膠着状態(こうちゃくじょうたい)となる。

 

「……や、やぁ雄二」

 

僕は手を振りながら苦笑いをする。

 

「……すいません、部屋間違えました!!」

 

雄二がそう言って、慌てて部屋を出て行こうとする。

 

「あ、待って雄二!」

 

僕が女の子になった事はまだ知っているはずがないので、部屋を間違えて違う住人に出会ったと思い込んでるみたいだ。

 

僕は部屋を出て行こうとしている雄二を追いかけて、引き止めるように手を掴んだ。

 

「待ってよ、雄二……僕が明久なんだけど」

 

いきなり僕が言ったことに雄二が驚いて振り返る。

 

「……本当に明久なのか…………?」

 

「うん、そうだよ、僕が明久だよ」

 

「そうなのか…………ってことは……まさかお前!」

 

「ん? 何?」

 

「ついにそういった趣味に目覚めたのか!?」

 

「………………」

 

殴った。

 

 

 

 

それから僕は雄二に経緯を全て話した。

 

「――という事があって、今日は学校に来なかったんだよ……」

 

「そ、そんなことがあったのか!?」

 

事の成り行きを知った雄二は心底、驚いていた。

 

「確かにお前の言うことは本当だな。どことなく女装したお前に似ていたものだから、最初はそういう趣味に走ったのかと思ってたぜ……」

 

僕の身体をじっくりと見回すと雄二は納得してくれた。

こういったことには理解が早いので助かる。

 

「道理で今日、鉄人がお前の声がおかしかったと言ってた訳だ……まさか女になってるとはな」

 

「雄二も先生から聞いてたんだ」

 

「ああ、お前みたいな奴は風邪をひかないからな。おかしいと思って聞いたんだよ」

 

「むぅ……なんだよその言い方……」

 

見舞いに来たとか言ってたけど、さては見舞いと称して僕を馬鹿にしに来たな?

 

「ていうか、どうしてそうなったんだ? 男が女になる話なんて聞いたことないぞ。何かの病気の類か?」

 

「いや、それは僕も知りたいことだよ。なんでこうなったのかさっぱりで……」

 

「そうなのか? 何か心当たりは?」

 

雄二にそう言われて思い当たることを探したが、何も思い当たるものはない。

 

あったらとっくに気づいてるだろうし。

 

「いや、特に何も……逆に雄二は何かないの?」

 

どうせ聞いても無駄かもしれないけど。

 

僕が分からないなら、雄二に分かるはずがないと思いつつ、聞いてみる。

 

「俺か? そうだな…………」

 

雄二は腕を組んで考え込むと、

 

「あ、もしかすると……いや、どうだろうか……」

 

「え? 何? 何か思い当たることがあったの?」

 

「ああ、多分だが……」

 

「多分でもいいから教えて」

 

「……昨日の帰り道のことなんだが、覚えているか?」

 

え? 昨日の帰り道? 僕が女の子になったことと何の接点があるの?

 

「昨日の帰り道って、何かあったけ?」

 

「お前、覚えてないのか?」

 

「うん。そもそも、なんで昨日の帰り道の話になるの?」

 

「そうか、まぁいい。説明すると少し長くなるが」

 

雄二は僕に昨日の帰り道のことを説明した。

 

 

~昨日の帰り道~

 

「ねぇ雄二」

 

「なんだ明久?」

 

「思ったんだけど僕が女の子だったら今日の事、少しはマシだったかな?」

 

「今日の事って、姫路に女装させられたことか?」

 

「できれば言葉にしないで欲しかったけど、そうだよ」

 

「はは、どうだかなぁ」

 

「もしもそうだったら少しは平和で安心できるのにねぇ」

 

「おい、まさか本気で女になりたいと思っている訳じゃないだろうな?」

 

「いやそうじゃなくて、もしもそうなったらよかったのかもな~って」

 

「今のままで十分だろ、まったくお前って奴は……冗談はほどほどにしとけよ」

 

「うーん……そうだね。本当にそうなったら笑えないね」

 

 

 

 

「という訳だ……よかったな。望み通り女になれたじゃねーか」

 

説明を聞いて僕は絶句した。

 

そんな…………僕はずっと女の子のままなの?

 

どうやって戻ればいいの?

 

もう男には戻れないの?

 

「……うっ……ぐすっ……」

 

「おい明久! なんで泣いているんだ!?」

 

「だ……だって……ひぐっ……このまま……僕は……ずっと女の子に……うぅ……」

 

あまりにもショックで、僕はそのまま泣き崩れてしまった。

 

受け入れ難い事実だからか、または女の子だから涙脆くなってしまったのか……。

僕はただ、無気力に泣き続ける事しかできなかった。

 

「おい明久、落ち着け……泣かれたらその……いろいろと目のやり場に困る」

 

なんで雄二は顔を逸らすんだろう?

 

しばらくして、落ち着いてきたところで僕は涙を手で拭った。

 

「…………で、どうするんだよ。今のままじゃ男に戻る術はない。だとしたら、これから女のままで生活することになるぞ」

 

「うっ……それは……」

 

そういえばこの先のことを考えていなかった。

 

どうしよう……このまま女の子として生きる羽目になるのか……。

 

悩んでいる僕を見た雄二が携帯を取り出して誰かに電話を掛けた。

 

「雄二、いきなり誰に電話を掛けているの?」

 

「ん? ああ、翔子に掛けているんだが」

 

「え、なんでこのタイミングで霧島さんに?」

 

「お前は今、女なんだろ? まだどうしたらいいか分からないんだろ?

だからここは翔子に来て貰う。あいつに事情を話して協力して貰えばいいだろ」

 

あ、なるほど。

ここは女の子である霧島さんなら、きっと助けになってくれるはずだ。

 

頼りになる存在が来てくれると知って、ほんのちょっぴり安心する僕だった。




(´・ω・`)できた~♪


ご意見や感想お待ちしています。

あ、それとリクエストも待ってます。
活動報告にてリクエストを行っています。


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3話 女の子の苦労

どうもこんにちは作者です。(´・ω・`)/

相変わらずの駄文ですがお楽しみいただけると嬉しいです。

それではどうぞ。



sideアキ

 

 

霧島さんも僕が女の子になった事を知った時は、珍しくとても驚いていたが、すぐに理解して協力することを約束してくれた。

 

僕の周りには理解のある人間が多くて助かるよ、本当に……。

 

そんな事よりも現在、僕と霧島さんは脱衣所にいる。

 

ここで僕は女の子の大変さを身を持って知ったのだ。

 

「うぅぅ……女の子って大変なんだね……」

 

「……吉井、胸囲測るから両手を上げて」

 

「う、うん」

 

僕が両手を上げると霧島さんがメジャーを伸ばして僕の胸囲を測る。

 

「……サイズは95㎝、カップは……I」

 

そ、そんなにあるんだ……。

確かに大きいとは思ってたけど、まさかここまであるとは。

 

「……サイズが合わなくてきついかもしれない。でも今は私の下着で我慢して」

 

「……うん」

 

僕は霧島さんから白い下着(ブラジャー)を受け取って、霧島さんから下着の付け方を教えてもらった。

 

手順を教わりながら1人で付けられるか試したのだが、ホックを引っ掛けて留めるのが、これまた難しい。

背中に手を回して何度も挑戦するが、なかなか留められなかった。

 

何回か女装経験のある僕でも、下着を付けることには苦戦する。

 

まぁ女装と言っても、下着を付けるほど手の込んだものではないから当たり前だけど。

 

1人でやるのって大変だな。

なぜ女の子は苦もなくこなせているのだろうか……。

 

「な、なんとか1人でできた」

 

下着をつけるのに10分近くの時間を要した僕は、やっと1人で付けることができた。

 

これからもっと早く付けられるように練習しないと、女の子として生きていけないだろうな。

 

「それにしても、なんで女の子はみんなブラジャーを付けないといけないの?

そんなに大事なもの?」

 

「……付けておかないと胸の形が崩れてしまうから。特に吉井みたいな胸は」

 

なるほど……女の子胸の形はブラジャーのおかげで保っているんだ……。

 

初めて知った事実だ。

 

知ったからには、ちゃんとブラジャー着けておこう。

 

「……これからはちゃんと付けるように……分かった?」

 

「うん、ありがとう霧島さん。下着の付け方を教えてくれて」

 

ニコッと微笑みながらお礼をすると

 

「……どういたしまして///」

 

あれ? なんで顔を背けるんだろう。

 

「どうしたの霧島さん? 顔が赤いよ」

 

「……なんでもない」

 

霧島さんはそう言いながらも、顔を背ける。

 

本当になんでもないのかな?

 

「……そういえば吉井はお風呂にはもう入った?」

 

「え、いやまだだけど……」

 

「……なら入らないと……私が洗ってあげる」

 

え?

 

いきなりの予想外発言に僕は戸惑った。

 

何も風呂は一緒に入らなくてもいいでしょ!?

 

「いやいいよ、わざわざそんなことしなくても。霧島さんに悪いし……」

 

「……私は別に構わない、もしかして吉井は男の子と女の子の洗い方は同じだと思ってる?」

 

ギクリという音が心の中で鳴り響いた。

 

「え……あ、いや……その……」

 

「……図星」

 

「…………ごめなさい、仰る通りです」

 

正直、同じ洗い方でいいのかと思っていた。

 

どうやら女の子の身体の洗い方は、男とはまったく違うらしい。

 

「……とにかく早く脱ぐ。洗い方、教えてあげる」

 

「はい……」

 

そう言われて、僕は今着ている下着を脱ぐ。

なぜか霧島さんは、こちらをジーっと見つめている。

 

なんでそんなに興味津々な目で見るんだ……。

 

恥ずかしい気もするが僕は着ているものを全て脱いだ状態になった。

 

ところで、霧島さんはなんで顔を赤くして顔を背けているのかな?

さっきまであんなに見つめていたのに。

 

「えっと……脱いだんだけど、どうしたらいい?」

 

ハッとした霧島さんは、くしを持参した鞄の中から取り出して、僕の髪をとかし始めた。

 

「次は何をしているの?」

 

「……お風呂に入る前に髪が引っ掛からないようにしておく。髪が長い人はなおさらそうしないといけない」

 

髪の長い女の子って風呂に入る前はそうするのか。

霧島さんも含めて、髪の長い子は大変なんだろうな。

 

「……できた、次はお風呂に入る」

 

「う、うん」

 

少し緊張しながらも風呂場の引き戸を開けてそのまま僕は、風呂場にある椅子に腰掛けた。

 

後ろには霧島さんがいる。

 

すると霧島さんがシャワーからお湯を出して頭に掛ける。

なんだか気持ちがよくて、さっきの不安な気持ちまで流してくれそうだ。

 

「……髪は隅々までしっかりと濡らすの。濡らし残しがないように」

 

「はーい」

 

ちゃんと濡らしておくのか……覚えておこう。

これは男の洗い方と同じだけど、つくづく女の子って髪を洗うのが大変なんだな。

 

「……濡らした次はシャンプーをする。洗い方は髪を洗う事じゃなくて、地肌を洗うこと」

 

地肌をするのか。

 

ん? でも肝心な髪の方はどうするんだろう?

 

そう思いながらも霧島さんから、頭を洗ってもらう。

 

霧島さんは指の腹を使ってマッサージをするように洗う。

 

洗ってもらう時は凄く気持ちがよかった。

心地がよくて幸せになるような気分だ。

 

洗われていて思い出したが、女の子って頭を撫でられるのが好きだとよく耳にする。

 

あれはこういうことなのかな?

気持ちがよくて、癖になりそうだった。

 

しばらくして、僕の頭を洗い終わった霧島さんはシャワーを手に取って、

 

「……流すから目をつぶって」

 

「はーい」

 

そう言われると僕は目をつぶって髪についたシャンプーを汚れと共に洗い流して貰う。

 

「……次はトリートメントをする。これはシャンプーと違って髪に付けるもの」

 

「え? まだあるの?」

 

今ので終わりかと思いきや、霧島さんはトリートメントを手に取る。

 

「……当たり前。女の子は髪が命」

 

命って……そこまで髪は重い存在なのか……。

 

少し面倒なことかもしれないけど、長い髪を持つ者である霧島さんからそう言われると説得力があるので、やらない訳にはいかなかった。

 

霧島さんはトリートメントを僕の髪に馴染ませるように塗っていく。

 

「……付け終わったら少し待つ、いい?」

 

「うん……」

 

頭を洗うだけなのに、どこまで忙しいんだ……。

 

そして、2~3分経ったらトリートメントを洗い流した。

これでようやく髪は洗い終わったようだ。

 

髪を洗うのって本当に苦労するんだね。

女の子の風呂の時間が長い理由が分かった気がするよ。

 

僕はこの時、女の子の苦労が生まれて初めて実感できたと思う。

 

「……次は身体を洗う。女の子の肌は傷つきやすいから丁寧に」

 

「はーい」

 

こんなに白くて綺麗な肌なんだから、相当傷つきやすいだろう。

 

髪だけじゃなくて肌も大切にすることを心掛けないと……。

綺麗な状態を維持するのは難しいし大変だな……。

 

心の中で愚痴をつぶやくと霧島さんがボディーソープを手にとり、泡立てて僕の背中を撫でる。

 

「……ひゃん!」

 

背中を霧島さんのやわらかい手で洗われて、くすぐったさと気持ちよさで思わず、変な声を出してしまった。

 

「……可愛い///」

 

うぅ……変な声を出してしまって恥ずかしい……。

 

その後も霧島さんは僕の背中を撫でるように洗う。

 

「……んっ……ひゃ……」

 

背中を洗われるのがくすぐったくも気持ちよくて体がビクッと反応する。

それに伴い、変な声が口から自然に出てしまう。

 

「……後ろは終わった。次は前」

 

「あ、前は自分でするよ」

 

「……私がやってあげる。初めてだから遠慮しないで」

 

「え……あ、じゃあ頼むよ……」

 

初めてだからといって、そこまでしてくれるとは……これも霧島さんの心遣いなのだろう。

 

ここはご厚意に甘えて、前まで洗って貰うことにする。

 

霧島さんの手が後ろから出てきて僕の腹部を洗い始めた。

 

「く、くすぐったいよ霧島さん……」

 

腹部を洗われると、くすぐられているような気がした。

 

「……ちゃんと隅々まで丁寧に洗うことが大事」

 

「そ……それはそうかもしれないけど……んぅ……」

 

くすぐった過ぎて頭がどうにかなりそうだ。

しかし、霧島さんの手は僕の体をどこまでも這うように洗い続ける。

 

「……吉井の肌、とっても綺麗……そうなると、ここも?」

 

すると霧島さんが僕の大きな胸を掴んだ。

 

「うひゃあ!? 霧島さん何を!?」

 

「…………羨ましい」

 

そう言いながら僕の胸を揉むように洗う。

 

背中を洗われる時よりも、こっちの方が何倍もくすぐったい。

 

「ん……ひゃ……あっ……や、やめ……」

 

「……可愛い///羨ましい///」

 

霧島さんの手は止まることなく、むしろ激しくなってもみくちゃにされた。

 

その後ようやく風呂から上れたけど、疲れを癒すための風呂のはずが逆に疲労が溜まる結果に。

 

なんで僕がこんな目に……。

 

 

 

 

そして風呂から上がった僕は霧島さんから借りた服を着て

リビングに行くと雄二がくつろいでいた。

 

本当に雄二は他人の家でもお構いなしだ。

 

「お、明久、風呂はどうだったか? まさか翔子に襲いかかったりしてないだろうな?」

 

「……逆に襲われたんだけど」

 

「……吉井、可愛かった」

 

霧島さんは一仕事済ませたような表情で僕の頭を撫でる。

 

あ、やっぱり頭を撫でられるの気持ちいかも……。

 

「さて……明日も学校があるけど、今日みたいに休めないな……どうしたらいいかな」

 

「いや、普通に明日からちゃんと学校行けよな」

 

雄二が冷静にツッコんだ。

 

「そんなことできないよ……このまま学校に行ったら大騒ぎどころの話じゃなくなるよ」

 

「そうかもしれんが、どうせいつかは知られる事だろ? ずっとそのまま隠すのは正直、無理がある」

 

「それは……そうだけど……」

 

「それに教師や生徒に事情を話して、周りから協力して貰った方がいいんじゃないか?」

 

「でも……」

 

確かにそうだが、正直不安なのだ。

この姿をみんなに見られたくないって気もあるけど。

 

「俺がついていくから安心しろ」

 

雄二が胸を張ってかっこいい台詞を言ったが、雄二という固定概念のせいであまりかっこいいとは思えなかった。

 

「……私もついていく」

 

霧島さんまで……。

 

だが、少し心強いので聞き入れることにした。

 

「分かったよ……明日から学校に行ってみるよ」

 

「おう、じゃあ明日お前の家まで迎えに行ってやるから、寝坊すんなよ」

 

「うん分かったよ雄二」

 

「……私も迎えに行くから」

 

「霧島さんまで……ありがとう」

 

不思議と少しだけ不安が取り除かれた気がする。

 

やっぱり持つべきものは「友達」だということを実感した。

 

「とにかく今日はもう帰る、だから明日待ってろよ」

 

「うん、またね。そしてありがとう雄二、霧島さん」

 

「ああ、またな明久」

 

「……またね吉井」

 

 

 

 

それから2人が帰った後、僕はすぐにベットに入った。

 

「明日からまた学校か……大丈夫だよね……」

 

僕はそうつぶやいて、大きなあくびをした。

今日はいろいろあったせいか、ドッと疲れが出てきた。

 

目を閉じると、2桁の秒も経たずに僕は寝てしまった。

 

こうして僕が女の子になってしまった1日が終わるのであった。




できた。(´・ω・`)~♪

誤字脱字や感想など待っています!!

活動報告にてアンケートをとっています。
みなさまの清き1票お待ちしています!!


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4話 いざ学校へ

ど~もこんにちは作者です(´・ω・`)/

ななな、なんと!!
お気に入り件数が50件に!!

いや~本当に見た時は驚きましたよ。
こんな下手で駄文にお付き合いいただきありがとうございます。

お気に入りや感想をしてくれた方、見ていただいた方々には
もう本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

その感謝をここでさせていただきます。

バッ!ババッ!ヾ(・_・。)♪(*^・^)/シバッ!!

変な感謝の表現ですね(笑)
それではどうぞ


sideアキ

 

窓から朝の日差しが差し込んでくる午前7時。

僕は目が覚めて、起き上がると共に自分の身体を確認する。

 

「あー……やっぱり女の子のままだ……」

 

昨日の朝に起きると突然、男だった僕が女の子になっていたという、信じられない出来事から早くも2日目。

 

僕はまだ女の子のままだ。

 

ライトブラウンに近い色で、ロングストレートの髪。

 

動く度にブルンと揺れる大きな胸。

 

全体的に小さくなった身体。

 

誰がどう見ても女の子としか言いようがない姿だ。

 

2日しか経っていないので当然この身体には慣れているはずがない。

なので、昨日と同様にこの身体で不自由に近い生活をする事になる。

 

男に戻る方法を見つけるまでは、この身体で生活しなければならないので、

早く女の子の生活習慣を身に着ける必要がある。

 

…………慣れたくないのが本音なんだけどね。

 

考えていると頭が痛くなってきた。

 

「とにかく起きよう……今日から学校だ」

 

僕は寝ていたベットから立ち上がり、大きく背伸びする。

息を吸って、背を伸ばして…………息を吐きながら力を抜く。

プルンっと背伸びの動きに合わせて上下する僕の胸。

 

今日も見事に揺れているな……このデカ乳め。

 

自分の胸に感心しつつ、学校に行く準備を始める。

 

今日から学校へ行く事になった。

早い気もするが、女の子の身体になって初めての学校だ。

 

不安な気持ちや緊張感で胸がいっぱいになるが、いずれは知られること。

隠しておくよりも、まずは周りに知らせておいた方が後の幸いとなるだろう。

 

それに雄二と霧島さんが付いてくれるから……。

 

昨日、僕が女の子になった事について、理解してくれたし、協力してくれると約束してくれた。

それがとても心強かったりする。

 

現在、僕が女の子になっていることを知っているのは本人である僕と雄二と霧島さんの

3人だけだ。

 

だが、その3人の数も今日で一斉に多くの人に変わるだろう。

何せこんな姿で学校に行けば、瞬く間に話が広がり、多くの人が知るに決まっている。

 

その時はみんなは僕のことをどう思うのだろう……。

できれば、すぐに理解して以前のように振る舞ってくれるのが一番だ。

 

僕は心の中で思い通りに行くことを願うばかり。

 

ガチャ

 

すると、ノックもインターホンの音もなしに玄関のがドア開いたので、そちらの方へと目をやると、

 

「おーい明久、迎えに来たぞ」

 

「……おはよう、吉井」

 

そこにはいつもの制服姿の雄二と霧島さんの姿があった。

 

「おはよう雄二、霧島さん」

 

僕はニコッと笑い、朝の挨拶をした。

 

((か、可愛い……制服姿だから余計に眩しい……))

 

? どうして2人は目を逸らしたんだろうか?

 

「……結局、1日経ったところで元の姿に戻るって訳じゃないみたいだな」

 

僕の姿を見て、苦笑する雄二。

 

「言わないでよ……僕もそう信じてたんだから」

 

「それは残念だったな…………つーか、なんでお前はいつの間に女の制服を着ているんだ? どこでそんなものを手に入れた?」

 

「ああ、これ? これは以前、姫路さんから貰ったやつだよ。サイズがぴったりで、

すぐに着ることができたんだよ」

 

言い忘れていたが、僕は今、女子生徒専用の制服を着ている。

 

この制服はちょっと前に姫路さんにいきなり着させられて、

恥ずかしい思い出とトラウマを植え付けられた代物だ。

 

いつも使っている制服で行こうかと試みたが、この姿で男子生徒の制服で行くのは少し気が引けるので、これにした。

 

「そうなのか? まぁそれなら話が早い。さっさと学校に行くぞ」

 

「うん」

 

僕は学校の鞄を持って部屋から外に出る。

部屋から出るだけなのに、僕はかなり緊張してた。

 

 

 

 

「ねぇ……雄二……」

 

「どうした、明久」

 

「さっきから凄く視線を感じるんだけど……」

 

「気のせいだろ。変に緊張し過ぎてるんじゃないか?」

 

「本当だよ。何か身に危険を感じるような……」

 

現在、家を出てから数分ほど歩いた頃。

 

あちらこちらから、視線を感じている。

 

更に僕が歩く度に通り過ぎていく通行人が、ヒソヒソと話を始めだす。

 

「今の子、凄く可愛くなかったか?」

 

「あんなに可愛い子ここら辺に住んでいたっけ?」

 

「あの制服……もしかして文月学園の子じゃない?」

 

などと僕を噂するような内容を話している……そんな気がした。

 

「……吉井が可愛すぎて噂している。吉井本人は気付いてないみたい」

 

「ああ、見た感じそうだな……あいつは女になってもあいつのままだな」

 

おまけに霧島さんと雄二まで僕を見ながら2人で話しだす。

 

みんな、怖いよ……どうしちゃったの?

やっぱり学校行かない方がよかったかな?

さっそく、家に帰りたくなってきたよ……。

 

先が不安になってきて、早くも心が折れそうになる。

ここは大人しく、家で引きこもっておけばよかったかもしれない……と今になって思う。

 

「あ、坂本君、翔子ちゃんおはようございます」

 

後ろから声が聞こえてきたので、僕と雄二と霧島さんの3人は一斉に振り返る。

 

「ああ、姫路か」

 

「……おはよう、瑞希」

 

声の主は姫路さんだった。

朝から元気な挨拶と表情に、こちらも元気付けられそうだ。

 

「おはよう、姫路さん」

 

僕もすかさず朝の挨拶をすると、

 

「え? あのー……こちらの方はどなたなんですか?」

 

姫路さんは僕を見て思案顔になる。

 

それも無理はないだろう。

目の前にいるのは、いつもの僕ではないのだから。

 

「姫路さん……やっぱり、僕のこと分からない?」

 

「すみません、どこかでお会いした覚えがなくて……」

 

姫路さんは僕の顔を不思議そうな目で見つめるが、返ってくるのは彼女の疑問のまなざしだけだ。

 

この姿でも、ちょっとだけ僕の面影があるから気付くかもしれないと思ったが、

逆に姫路さんの疑問を煽ることとなってしまった。

 

「あのね、姫路さん。よーく聞いてね」

 

ここは事情を話す他ない。

 

「は、はい」

 

「こんな姿なんだけど、実は僕……吉井明久なんだ」

 

「は、はぁ……吉井くんですか……」

 

一瞬、ポカンっとしている姫路さん。

 

だが、一拍おいて

 

「えぇぇぇええええっ!? 吉井くん!?」

 

姫路さんの大きな声が周囲に響き渡る。

 

「えぇ……!? ど、どういうことですか? 本当に吉井くんなんですか……?」

 

「簡潔に説明すると昨日の朝起きたら突然、女の子になっていて……それで今に至る訳なんだよ……」

 

「信じられません!」

 

そりゃそうだよね。

でも、事実であることには変わりない。

 

「吉井くんは本当に女の子になってしまったんですね……?」

 

「うん、そうだよ。正真正銘、女の子の身体になってしまったんだ……」

 

姫路さんは動揺していたが、僕の顔をジっと見つめると、

 

「言われてみると確かに吉井くんですね、女装した時の吉井くんとそっくりです……」

 

「分かってくれた?」

 

「はい……まだ上手く状況が呑み込めませんが、貴方は吉井くんだということは分かりました」

 

取り敢えず、僕という事だけは認識してくれたみたいだ。

 

「それにしても、女装した時よりも一層、可愛いです……! お持ち帰りしたいです///」

 

僕を見ながら息を荒くする姫路さん。

 

急にどうしたのやら……姫路さんは。

 

「へぇ~……アキは女の子になったんだ……」

 

また背後から聞き覚えのある声がしたので振り向く。

 

「あ、美波おはよう……」

 

「……おはよう、アキ」

 

美波がいつの間にか背後に立っていた。

今日もチャームポイントであるポニーテールが綺麗にまとまっている。

 

「もしかして……今の話聞いてた?」

 

「ええ、もちろんよ」

 

だとしたら話が早い。

聞いていたとするなら、理解してくれたはず……だよね?

 

「どうしたの美波?」

 

美波が悲しさと羨ましさを含んだ目でこちらを睨むように見つめている。

 

「なんで……なんで男だったあんたがこんなに立派なものつけているのよー!!」

 

「うひゃあ!? ちょっと美波! 痛い! 痛いよ!?」

 

美波は僕の胸を強く掴んで来る。

 

なんで怒っているの!? それはただの八つ当たりだよね!?

 

というか、僕が女の子になったことよりもそっちの方に驚かれても困るんだけどぉ!?

 

「なんなの! この柔らかさと大きさは!? こんなものが存在するなんて、おかしいじゃない!」

 

「いや、現に存在してるんですけどぉぉぉ!?」

 

美波が僕の胸の感触を知った途端にまた力が加わり、僕の胸はグニャっと凹みを作る。

 

そんな状態が続いている中、横から声がかかってきた。

 

「またお主らは朝から何をやっておるのじゃ?」

 

「……騒がしい」

 

こちらのやり取りを呆れた様子で窺っていたのは秀吉とムッツリーニだ。

 

なんで今日に限って、朝早くからいつものメンバーと出会うのだろうか。

 

「あ、おはよう。秀吉、ムッツリーニ」

 

僕は美波に胸を掴まれていても、お構いなしに秀吉とムッツリーニ朝の挨拶をする。

 

「? お主は誰なのじゃ? 見慣れぬ顔なのじゃが……」

 

「……何者?」

 

しかし、2人からは見ず知らずの人に声を掛けられたような反応しか返ってこなかった。

まぁこれは予想通りといったところ。

 

なので、これまでの経緯を全部話した。

 

「なんじゃと!? それは真なのか!?」

 

「……なん……だと…!?」

 

2人はまた予想通りの反応を見せた。

 

「確かに雰囲気が明久と似ているような……しかし、顔と身体は依然とまったく別物じゃ」

 

「……前とは大違い」

 

2人は凝視しながら、僕の身体の至る所を観察する。

 

なぜか、ムッツリーニはカメラを取り出して僕の姿を撮影する。

 

「それにしても、とても美人なのじゃ……元が女子のような顔つきだったせいかのう」

 

僕の顔を眺めて感嘆する秀吉。

 

「そ、そうかな? でも、秀吉ほどでは……」

 

「木下の言う通りよ。顔も身体も完璧……そして憎いほどに羨ましい……!」

 

横から美波が言葉の通り、僕を憎んだような瞳で見つめる。

 

「とっても可愛いです……お持ち帰りしていいですか?」

 

「はははっ……冗談でもだめだよ、姫路さん」

 

姫路さんの言葉は冗談じゃなさそうで怖い。

 

「……新しい候補が現れた……これは朗報」

 

僕を撮影した写真を確認しているムッツリーニ。

 

もしかしてそれ、売る気じゃないよね……?

 

このようなやり取りを続けていると、気付かない間に学校の目の前までについていた。

 

ついに来ました、今回の重要目標である文月学園。

 

ここで女の子になった事をみんなに報告しなきゃ……ダメだよね?

 

学校まで、もう目の前までだというのに緊張と不安が足がすくんでしまい、なかなか一歩が踏み出せない。

 

「ほら、グズグズしてないでさっさと歩けよ」

 

雄二がそんな僕を見て、背中を押した。

 

はぁ……僕の気も知らないで……雄二の善意でやってるかもしれないけど……。

 

こうして、校門までやって来た。

 

するとそこにはいつも通り、鉄z……じゃなくて西村先生が立っていた。

 

「お、ソロモンの悪魔」

 

「貴様などに話す舌など持たん! 戦う意味さえ解せぬ男に!」

 

雄二が西村先生をジ●ンのエースパイロットの異名で呼んだ途端、

西村先生はどこかで聞いたことがあるようなセリフを。

 

「……って私はアナ●ル・●トーではない!」

 

ハッとした顔で西村先生は雄二に向かって、怒鳴る。

 

「いや、とても酷似ていますよ。ガ●ー少佐」

 

ニヤニヤしながら悪びれる様子もない雄二。

 

「なんという迫真の演技……ワシも見習わなければいけぬ……」

 

「……下手をすれば同一人物」

 

秀吉とムッツリーニの2人と同じくそう思う。

正直、すごく似ている。

 

「まったく……坂本、お前には特別な指導が必要みたいだな……ところでお前は何者だ?

見慣れない顔だが……ここの生徒なのか?」

 

僕の姿を見て、首をかしげる西村先生。

 

生活指導担当でもある西村先生はこの学園の全生徒の顔を把握しているのであろう。

 

僕みたいに昨日まで存在しなかった生徒がここの制服を着て、

この場にいたら西村先生が疑問に思うのは当然だ。

 

なので、今まで起きた事をすべて西村先生に報告した

 

これを話すのは何回目だろうか……。

 

「うむ……なるほどな、それで昨日はあんな声をしていた訳か……信じられんが、

辻褄は合う。お前は今後、吉井明久ということで覚えておく」

 

西村先生は腕を組んでしばらく考え込んだ後に納得してくれた。

 

「よかったな、明久信じてもらえたぞ」

 

雄二に横から肩をポンッと叩かれる。

 

「うん、そうだね……本当によかったよ」

 

西村先生にも分かってもらえたと感じた瞬間、身体に入っていた力が一気に抜ける。

 

「とにかく早く教室に行け。もうすぐで朝のホームルームだ。遅れるなよ」

 

「「「はーい」」」

 

西村先生の一声に一同揃って返事をすると、教室に向かう。

 

う~ん、西村先生までは思ったより順調に進んだものの、

Fクラスのみんなにはどう説明しようかな……。

 

果たして、みんなは納得して信じてくれるだろうか。




できた~(´・ω・`)♪

活動報告にてアンケートを取っております。
もうすぐで締め切りなので1人でも多くの投票をお願いします。


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5話 学校での騒動

ど~も学校は夏休みになりました、作者です。(´・ω・`)/

やはり今年も去年以上の猛暑が続く日々です。
ですが、その猛暑に負けずがんばって小説投稿したいと思います。(`・ω・´)キリッ

それではどうぞ





アキside

 

 

今、自分のクラスであるFクラスの教室前に来たところ。

 

そして、秀吉の後ろに回り込む。

 

「どうした明久? なぜ秀吉の後ろに隠れるんだ」

 

僕の行動を見て、雄二が首を傾げる。

 

「いやー、その……教室に入るのがちょっと……ね」

 

教室に入るのが怖い。

不安と恐怖と緊張が学校の校門を通過する時、以上に膨らんでいる。

 

「明久よ、だからと言ってワシに抱き着くのはどうかと思うのじゃ」

 

「ごめん秀吉、もう少しこのままでいさせて……」

 

ギュッと秀吉に後ろから抱き着く力を少し強める。

 

「や、やめるのじゃ! それはいろいろと、まずいのじゃ!(む、胸が当たって……///」

 

「えぇ……お願いだから、後1時間くらいこのままで……」

 

「そんなことしておったら、朝のホームルームはとっくに過ぎてしまうのじゃ!

いいから、離れるのじゃ」

 

「……うぅ……秀吉が冷たいよ……」

 

もしかして嫌われちゃったのかな? こんな姿(女の子)になってしまったせい?

 

「お主はそのような姿になったことを伝えるためにここに来たのじゃろ?

そんなことしておったら、いつまで経っても事は解決せぬぞい」

 

秀吉の言っていることはごもっともだが……

 

「う、うん……でも、やっぱり怖いよ……」

 

ガクガクブルブルと身体が震えて、教室に入る勇気なんて微塵もない。

 

「心配するな、何かあったら俺に任せろ。そのために俺がいるんだろうが」

 

「ワシも付いておる、安心せい」

 

「……俺も付いている」

 

「ウチも付いているわよ。何かあったらウチが助太刀するわよ」

 

「私もです。行きましょう、吉井くん」

 

雄二、秀吉、ムッツリーニ、美波、姫路さんの5人の言葉に背中を押される。

 

みんなの応援はとても心強かった。

こんなにありがたい応援は初めてかもしれない。

 

「みんな……ありがとう」

 

みんなの言葉に僕は救われた。

だから、お礼にニコッと感謝。

 

「……南無三ッ!」(ブシャーーー!!)←鼻血

 

「わー!! ムッツリーニが大変なことに!?」

 

ムッツリーニが勢いよく盛大に鼻血を出して倒れていた。

 

鼻血で噴水ができるとは……生まれて初めて知ったよ。

 

「こ、これは……破壊力抜群じゃな///」

 

秀吉もなんだか赤面になっているんだけど、

ムッツリーニに続いて、いったいどうしたのだろうか?

 

「やっぱり可愛いです!///……お持ち帰りしたいです!///」

 

「可愛過ぎよ///……アキのくせに……!///」

 

えっと……姫路さん? そして美波?

朝からそんなに顔を赤くしてどうしたのだ?

 

秀吉に姫路さんに美波まで赤面状態だけど、今日は何かの赤面祭り(?)でもあるのかな?

 

「はぁ……まったくお前らは……こんな茶番は後でするとして、早く教室に入ろうぜ」

 

僕たちのやり取りを見た雄二は頭を抱える。

 

雄二には何もないってことは、今日は何かの祭りの日ではなかったみたいだ。

 

「明久、準備はいいな?」

 

いろいろと気になることがあったが、

今は教室に入ってみんなに事情を説明するのが先だ。

 

「えっと、うん……もうバッチr(ガラッ)……」

 

「そんじゃあ、行くぞ」

 

開けるタイミングが早いよ! 雄二!

まぁ準備はバッチリなので別に構わないが、僕の付き添い役で来ていると言うならせめてタイミングを計ってからにしてよ……。

 

「お、坂本か。 おはよう」

 

「おーす、坂本。今日は遅かったな」

 

雄二にクラスのみんなの挨拶が来る。

 

うん、いつも通り(平和な時のみ)のFクラスの光景だ。

昨日は来てなかったけど、1日経ったくらいじゃ何も変わらないね。

 

さてさて、僕も行きますか。

今が絶好の機会だ。

 

「みんな、おはよう!」

 

先程までの緊張や不安はなかったものかのように挨拶をした。

 

よし、完璧なぶっつけ本番の登場だ。

人間の第一印象の半分以上は挨拶で決まるんだっけな?

取り敢えず、Fクラスのみんなにはいい印象は与えられただろう。

 

と心の中で勝手にそう思っている僕だが、

騒がしかったクラスが一瞬でシーン……という擬音が聴こえそうなほど静まり返る。

 

そして僕に視線が集まる。

 

あ、あれー……みんなどうしちゃったんだろう……?

もしかして逆効果だった……?

 

それならとても恥ずかしい話だ。

羞恥心なのか、それともみんなの反応が怖いのか、僕の背中から変な汗が流れだす。

 

「……あのーどちら様?」

 

「美少女がこんなクラスになんの用だ?」

 

「可愛いな、すごく好みなんだけど……」

 

あ、そっかぁ……。

そういえば自分の正体を言っていなかったか……やっぱりみんなも僕だって分からないのかぁ……。

 

でも、それは仕方ないね。

何せいつものメンバーも気付かなかったくらいだし……。

 

「あのね……実は僕は……吉井明久なんだよ」

 

「「「はぁ!? 吉井!?」」」

 

クラスの全員が声を揃えるようにして驚きだした。

 

みんな、顔が怖いよ……いつもの何の変哲もない男子高校生の顔はどこへ……?

 

「そ、その……僕が昨日の朝起きたら女の子になっていたんだ……」

 

さっきまでの勢いはいったいなんだったのだろうか、

僕はだんだんと小声になりながら、率直に事情を話す。

 

「おい、聞いたか? ついに吉井……じゃなくて、アキちゃんが正真正銘女の子に……」

 

「ああ、これは願ってもなかった朗報だぞ」

 

「お、俺……実は前からアキちゃんのこと狙ってたんだ」

 

「よし告るか」

 

「待て、俺が先だ」

 

すると、みんながあちらこちらでヒソヒソと話し始めた。

 

その間に立たされた僕は「もう帰りたい……」その一言だけが頭に浮かんだ。

 

「そ、そういうことで……これからもよろしく…………」

 

「「「よろしくな!!! アキちゃん!!!」」」

 

…………うん、よろしく。

 

 

 

 

~授業~

 

いろいろありまして、1時限目の授業に突入。

 

朝はホームルームが終わるまでかなり荒れたというのに、今では普段のFクラスに戻っている。

 

もう既にみんなは僕が女の子になった事態に慣れてしまったのだろうか?

 

それは理解が早くて助かるが、なんだかぎこちない気もする……。

 

「よーし、お前ら席に着け」

 

西村先生の一声で教室のみんなが席に座る。

この教室は完全に授業モードだ。

 

「今回は英語だ。期末テストに出る問題の予習だから、しっかり頭に入れておけ」

 

そう言われて、問題用紙を渡される。

 

英語ねぇ……異国の言葉は難しい過ぎるんだよね。

なぜ日本人なのに英語を覚える必要があるのだろうか。

 

英語が苦手な中学生1年のような思考になりつつ、

「期末テストだし仕方ないか」と思い、僕はペンを手に取って適当に問題を解いていった。

 

 

 

 

「できましたよ、西村先生」

 

「なんだと? もうできたのか吉井!?」

 

「はい、そうですけど?」

 

西村先生は解き終わった問題用紙を渡されて珍しく驚いた表情をしている。

 

「……その上に、全問正解とは……何があったんだ、吉井」

 

え、そうなの?

適当に解いたとはいえ、自信は少しくらいあったけど、まさか全問正解とは……。

 

「……もしかして、この身体になったせいじゃないですかね?」

 

問題を解いている時、スラスラと書けたしいつもより集中できていた。

これは女の子の利点なのだろう、それ以外に見当たる点がない。

 

「そうかもしれんな……理由はなんであれ、期末テストの点数は期待できそうだな。

まさか、お前に期待できる日が来るとはな……」

 

最後の一言は余計だと思うが、あえて何も言わない。

 

「流石アキちゃんだぜ」

 

「ああ、俺たちが見込んだだけある」

 

「可愛いだけじゃなく頭もいいとは、ますます惚れてしまうな」

 

男子達が後ろで今朝のように話し合っているけど、

この話もあえて何も言わないでおこう……。

そして、聞かなかったことにしよう……。

 

それにしても、女の子の身体になっただけで頭が良くなってしまうとは……。

これはなんとも魅力的な要素だ。

 

満点を貰った問題用紙を見ながら、「女の子になるのも悪くないな……」と考えてみた。

 

でも、やっぱり男のほうがまだマシだ。

女の子の利点が分かったとしても、決して女の子がいいですとは言えない。

 

はぁ……いつになったら元の身体に戻れるのだろうか……。

 

 

 

 

「ふー……やっと1日が終わった」

 

帰りのホームルームが終了した直後の放課後。

女の子になって初めての学校が終わったのである。

 

慣れない身体で過ごしたものだから、疲労がピークに達している。

今後の学園生活をこんな感じで過ごすのか、と考えると頭が痛くなる。

 

「さて、さっさと帰ろう」

 

家に帰って休みたい……その一心で僕は鞄に教科書などを急いで入れて教室を出た。

 

 

 

 

 

…………なんでみんな僕を見ているのだろうか。

 

廊下を歩いていると、廊下にいる生徒全員の視線が僕に集まる。

 

「今の誰? あんなに可愛い子、この学園にいたっけ?」

 

「さぁ? でも、とてもどストライクな子だ……早く知っておくべきだったなぁ……」

 

「もしかすると、転校生なのかもしれないな。次に見かけたら声掛けようぜ」

 

朝もこんなことがあったような……?

もう、今日は変な1日だなぁ。

 

周りの視線に耐えきれなくなったのか、僕の足は段々と速さを増していった。

 

「あれれ~? 吉井クンじゃない」

 

自分の名前を呼ばれて、足を止める。

 

顔を向けた先にはAクラスの工藤さんがいた。

 

「あ、なんだ工藤さんか…………って、あれ? なんで僕だって分かるの?」

 

この身体になっていることはまだ工藤さんには伝えていないはず……。

 

「代表から聞いたんだよ。とってもカワイイって聞いたから、いてもたってもいられなくてね☆」

 

なるほどね……工藤さんらしい。

 

「やっぱり代表から聞いた通り、カワイイなぁ……ちょっといいかな?」

 

「ん? どうしたn(ギュッ)……!?」

 

どうしたのかと聞こうとしたが、工藤さんはいきなり僕に抱きいてきた。

 

「ちょっと工藤さん……!? いきなりどうしたの!?」

 

「いやー、吉井クンがあまりにもカワイイから抱きついているんだー。もしかして嫌だった?」

 

「別に嫌ではないけど……」

 

ただ、廊下でこんなことをするのはどうかと思う。

 

「それなら問題ないね♪」

 

工藤さんはお構いなしに僕を抱きしめる。

 

「アハハッ、吉井クンって小さくなっちゃったんだねぇ」

 

「うぅ……それは言わないでよ……」

 

抱きしめられて思ったのだけど、僕の身体は工藤さんよりも少し小さくなっている。

身体が小さいのがこの身体の不便なところだ。

 

せめて、背だけは元のままにしてほしかった……。

 

「抱きしめやすいからボクはこのままでいいと思うけどねー……ここはボクよりも断然、大きいけど」

 

そう言って顔を僕の胸に埋める。

 

「って何しているのー!?」

 

「うわぁ、代表から聞いた通りすっごく大きいね! ねぇ、よかったら触っていい?」

 

「だ、ダメだよ!」

 

「えぇー、ケチ」

 

「ケチじゃない!」

 

僕はササッと胸を両手で隠しながら工藤さんから後ずさるように距離を置く。

 

すると後ろでドンッと誰かにぶつかった。

 

「あ、ごめんなさい……って、木下さん!?」

 

「あら? もしかして、吉井くん?」

 

僕がぶつかった相手は秀吉の姉である優等生、木下さんだった。

いつ見ても秀吉にそっくりだ。

 

「この子が代表の言っていた吉井くんなのかい?」

 

「……間違いない」

 

「久保くんに霧島さんまで……」

 

おまけに横には久保くんと霧島さんという学年主席と次席の最強コンビまで。

 

「話は聞かせて貰ったよ。まさか本当に女の子になっているとはね……」

 

様子を見る限り、久保くんも霧島さんに話を聞いたのだろう。

 

「久保くんも信じてくれた?」

 

改めて聞いてみる。

 

「ああ、もちろんだよ。最初は信じられなかったけど、吉井くんのその姿を見せられた以上、信じない訳にはいかないからね」

 

「そっか……よかった……」

 

すぐに理解してくれているところに優等生らしさを感じる。

 

事情を僕に代わって伝えてくれた霧島さんにもお礼が言いたいけど、

何よりすぐに信じてくれた工藤さんと木下さんと久保くんにもお礼が言いたい。

 

「勢いよく教室から出て行ったから追いかけたのだけど……愛子、吉井くんにセクハラなんてしてないでしょうね?」

 

木下さんが工藤さんを問い詰める。

 

「してないよ、そんなこと。そうだよねぇ、吉井クン?」

 

いや工藤さん、それは胸を触ろうとしていた相手に言うセリフじゃないと思う。

 

「……吉井、今日の洋服持ってきた」

 

そう言って洋服の入った袋を渡してくる。

 

きっと昨日渡した霧島さんの洋服だけでは足りないと思い、準備してくれたのだろう。

 

「ありがとう……昨日からずっと迷惑かけてごめんね……」

 

僕は申し訳なさそうにそれを受け取る。

 

「……迷惑なんかじゃない。困った時は私を頼って」

 

霧島さんは気にしていないと首を横に振る。

 

「うん、ありがとう」

 

僕の事を気遣ってくれているのだろう。

本当にありがたい。

 

「ボクにもちゃんと頼ってよ! 吉井クン」

 

「アタシも何か協力できることがあれば言いなさい。できる限りのことはするから」

 

「僕も、男ではあるけど、力になれるなら協力させて貰うよ」

 

工藤さんに木下さんに久保くんまで……。

 

4人の優しさがまぶしく感じられた。

 

そして、不覚にも涙が出てきてしまった。

 

「霧島さん、工藤さん、木下さん、久保くん……本当にありがとう」

 

涙が出ていても構わない、ニコッっと笑ってお礼をしたのだが……

 

「く、久保くん!? どうしたの!? なんで倒れるの!? そして3人も!!」

 

いきなり久保くんは倒れだした上に他の3人は顔を赤らめているけど……どうしたんだ?

 

「……可愛い///羨ましい///」

 

「よ、吉井クン……それはあざと過ぎないかな?///」

 

「泣きながら微笑むなんて///可愛い過ぎる!///」

 

…………4人はいったいどうしたんだろう?




全く文章力は成長しないな(´・ω・`)しょぼーん

活動報告にてアンケートを取っております。
意見が分かれて困っています。

投票お願いします!!ヾ(´ω`=´ω`)ノ お願いします


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6話 初日を終える

どうも~こんにちはいつもどうりの作者です~。(´・ω・`)/

今回は投稿が早いので、ちょっと短編です。
短い駄文かもしれませんが見ていただけると嬉しいです。

それではどうぞ


アキside

 

 

「はぁ~……今日は疲れたな……」

 

学校から家に帰宅する途中、僕は疲れを吐き出すようにため息をついた。

 

その疲れの要因はもちろん学校での騒動だ。

僕の学校で事件や騒動はよくあることだが、今日は一段と騒がしかった気がする。

 

Fクラスの男子からはいきなり告白される、女の子になった僕を一目見ようと休み時間などにFクラスに生徒が集まる……。

おまけに姫路さんからコスプレをさせられそうになったり……考えただけで頭が痛い。

 

今日の騒動がきっかけとなり、学校全体で僕が女の子になったことを知っていない人は恐らくいないだろう。

 

あの様子だと全員は信じているだろうけど、これからどう接していけばいいのだろう?

 

男だった僕の今の姿は正真正銘誰が見たって女の子だ。

この姿でみんなにどう接したらいいのか分からない。

 

「女の子らしく、したほうがいい……かな?」

 

って何を馬鹿なこと言っているんだ僕は!

 

確かに女の子らしくしたほうがいいのかもしれない。

今の姿で男らしい行動を取るのはどうかと思うが、

そんなことをしたら、僕が僕でいられなくなりそうで怖いのだ。

 

もう、なんで僕がこんなことで悩まなくちゃいけないんだ……。

 

そんな理不尽過ぎる現実に悩んでいるとすぐに家に着いていた。

 

「……とにかく、部屋でゆっくりと考えよう」

 

ポケットから鍵を取り出して玄関の鍵を開ける。

 

 

ドアノブに手を掛けてドアを開けると部屋に入り

荷物を置いてソファーに腰を掛けると、自然と力が抜けていった。

 

「はぁ……やっぱり何も考える気にならないな……」

 

力が抜けて、何も考える気になれない。

頭が真っ白になって何も頭に浮かばない。

 

出てくるのはただの溜息ばかり。

 

ぼーっとしながら、僕はしばらくそこにずっと座ったまま動かなかった。

 

 

 

 

「シャワーでも浴びようかな」

 

しばらくして、意識を取り戻した僕は身体の汗と疲れを流そうと風呂場へ。

 

洗い方は霧島さんに教えてもらっているからもう大丈夫だ。

 

洗面所について服を脱ぐ。

 

「うん、やっぱり変わらないな」

 

少し小柄な体。それに反比例する豊満な胸。

手足もほっそりとしている。

 

やばい自分の身体に興奮するところだった……。

 

自分の身体に興奮する奴がどこにいるんだ!?

 

っと思ったが、自分が女の子なのは確かだ。

僕は女の子になった自分自身の身体に、嫌でも興奮させられる。

だって、元男だもの。

 

……何を馬鹿なこと考えているんだ僕は……。

 

そんな考えを忘れさせようとさっさと髪をとかして風呂場に入る。

 

昨日は霧島さんがいてもみくちゃにされて、ひどい目にあった。

今では考えると少しゾッっとするくらいトラウマになっている。

 

だが今回は1人なので、ゆっくりと隅々まで身体を洗うことができた。

 

 

 

 

風呂場からあがって、洗面所で髪を乾かす。

 

腰の辺りまで伸びた髪を洗い、乾かす作業には苦労するが、女の子の髪は荒れやすいので嫌でもやらなければならない。

 

髪を乾かし終わり、洗面所から出る。

 

「……夕飯にしよう、お腹空いてきたし」

 

冷蔵庫から食材を取り出し、夕飯の支度をする。

 

「何気に僕って女子力高いな…………いや、男子でも普通に料理はするよね」

 

食材を慣れた手つきと包丁で刻みながらそんなことを考えているが、

男でも普通に自炊とか家事なんてやるもんだし、女子力は関係ないやと思った。

 

「いただきます」

 

よし、今日も上手くできた。

 

僕は皿に盛りつけた料理を食べ始める。

 

我ながら美味しいと心の中で微笑んだ。

 

……うぅ……もう既にお腹いっぱいだ……。

 

あと少しで食べ終わる――というのに箸が進まない。

 

おかしい、なぜか既に満腹状態だ。

こんなの普通に食べれる量だというのに……!

 

しばらくかけてやっと完食したが、僕の胃袋はもう限界だった。

今にも何かが(物理的に)こみ上げてきそうだ。

 

「女の子になったから、小食になっちゃったのかなぁ……どうでもいいところまで女の子になってるんだから……」

 

いったい、どこまで僕を女の子にすれば気が済むのやら……。

 

胃の調子が落ち着いてきたところで、食器を片付けて食器を洗う。

 

「さて、もう寝るか」

 

時刻は午後10時。

ちょっと早めの就寝だが、今日は昨日よりいろいろあったので疲れていたので、

これくらいが丁度いいだろう。

 

明日はいったい、どうなるんだろうか……。

 

そんなことをベットに入って、うっすらと頭に浮かべたが、すぐに寝てしまった。




ふぅ、やっと完成。

朝の5時からやっていたのでかなり眠いです。(-_-).。o○

そんなことより、アンケートは明日の9時00分までですよ!!
活動報告にてアンケートをやっております。

皆様の意見をお聞かせください。

意見がいろいろあって困っているのでお願いします。急いでヾ(´ω`=´ω`)ノ 急いで



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7話 告白

さぁ今回も同じく作者です(´・ω・`)/

最近、感想などに応援やアドバイスなどを貰って
小説投稿が楽しくなってきました。

アドバイスをくれたオファニム1925さんや実樹&亮乃さん、ザルバさんと
スーパーマリオさん。

応援してくれている木原@ウィングさんや三曲さん、海棠(マナイタ2)さん、とみこさん
などnaekisさん、神風提督さん。

応援やアドバイス本当にありがとうございます!!

この場を借りて全員に送る感謝を。


( ^o^)/シバババッ\(。・_・。 )♪(v^_^)vバッバッ!


それではどうぞ


アキside

 

 

窓からカーテン越しに暖かな日差しが差し込んでくる朝の7時。

僕は目を覚まして、ベットから起き上がり自分の身体を確認する。

 

「うん、今日も変わってないな……」

 

身体を見回したものの、特に変化なし。

 

360度のどこから見たって歴とした女の子です。はい。

 

さてと……今日も学校だ。

 

昨日、学校に行ったおかげもあって、この姿で学校に行くことに対する抵抗はまったくない。

 

なので、すぐに朝食の準備に取り掛かった。

 

1人暮らしを長くやっていた僕は炊事くらいする。

と言っても、趣味のために食費とかを削って生活してて節約するためにやっていたんだけどね……。

 

女の子になった今、そんなことすれば僕の身体が持たない。

 

だから、これからは規則正しい生活を心掛けないと、多分生きていけないかもね。

冗談抜きで。

 

「ふぅ……ごちそうさま」

 

この身体になった影響で小食になってしまったことを覚えていたので、

いつもより少なめに作ってみると、ちょうどよく腹の中に納まった。

 

そして僕は洗面所に向かい、髪の毛の寝癖を直して制服に着替える。

 

「よし、これで準備完了!」

 

…………あれ? もしかして、僕は女の子の習慣を苦もなくこなしているのでは……?

大丈夫かな? この身体だから、仕方なくやっているのだけれども……。

 

たった2日目にして、女の子の生活習慣が板についてきたのは内心複雑だった。

そんな複雑な気持ちを抱えながら、鞄を手に取り家を出る。

 

 

 

 

「お、吉井か。今日は随分、登校が速いな」

 

学園に着いて早速、出会う人物

西村先生が今日も校門の前に立っていた。

 

「おはようございます、西村先生」

 

「おお、やっと西村先生と呼んでくれたか」

 

この身体で鉄人だのソロモンの悪魔だの、不適切な名前で呼ぶのは流石にアレなので、本来の名前である西村先生と呼ぶ。

 

「一応、この姿なので……」

 

本音を言うとこの身体で西村先生の制裁(体罰)を喰らうといつ死んでもおかしくないので、絶対にこの人の前では行動を慎んでおこうと思っている。

 

西村先生の性格上、女の子に手を上げたりはしないはずだけど、念のために……ね。

 

「お前がやっと西村先生と呼んでくれて何よりだ」

 

普通に西村先生と呼んでくれるという、切実な願いが叶ったことに満足していた。

 

「やっと来たのかい。あんたが吉井……で、あってるのかね?」

 

「あ、学園長!」

 

少しかれた声の老婆の声が聞こえたので

そこに目をやると、いつも僕たちをいろんな事件に巻き込む妖怪老婆といっていい

ほどの人物、学園長が立っていた。

 

「話は聞いたさね。まさか本当に女子の身体になっているとはね……」

 

僕の身体をジロジロと見つめる学園長。

 

正直、この人に見られていると鳥肌が立ってきそうだ。

 

「こちらで学生の性別を男から女に変えておいたよ。ほれ、新しい学生手帳さね」

 

「あ、どうも……」

 

学生手帳なんて作ってあるんだ……。

 

学園長とだけはあって、仕事は早いんだなと思いながら新しく学生手帳を受け取る。

 

性別の項目が男性から女性になっている……。

 

そして名前が『吉井明久』から『吉井アキ』に変更されている。

 

名前は元のままでいい気がするのだが……この姿でいる間は女の子らしい名前にしろという訳か……。

 

自分に新しい名前が付いたのだが、いまいちピンッと来ない。

 

「そして召喚獣も性別を変えて少しだけ改良を施しておいたよ。気になるならここで召喚してもいい」

 

そんなことまでしてくれたのか。

普段の学園長とは思えない仕事ぶりだ。

 

そうだな……せっかくだし新しい召喚獣を確認してみよう。

 

「分かりました。確認しておきたいので、西村先生お願いします」

 

「よし分かった、承認する」

 

試獣召喚(サモン)

 

西村先生に許可を貰うと、新しくなった召喚獣を見たいという好奇心で、すぐに召喚した。

 

僕の目の前に新しくなった、僕自身の召喚獣が現れる。

 

前と同じ改造学ラン。

しかし、学ランの下は胸にサラシを巻いているだけだ。

武器は刀身が長い太刀だった。

 

女の子バージョンになった僕の召喚獣……と言った方がいいかな?

 

それにしても少しだけ改良したとはいえ、元よりも一段と強化されてない?

これで少しだけと言えるのだろうか……。

 

「前より武器もまともだし、違和感がないし……かっこよくていいかも」

 

新しく生まれ変わった自分の召喚獣に目を輝かせていた。

 

「補足説明をしておくけど、フィールドバックを軽減したよ。これでも女子の身体だからね。大事にするんだよ」

 

それはとてもありがたい話なのだが……。

 

「男の時とは対応が大違い……この差はなんなんですか?」

 

「つべこべ言うんじゃないよ。それじゃ、アタシも暇じゃないんで、これで失礼するよ」

 

まったくあの学園長は……。

こういう雑なところを直してくれれば文句なしなんだけれど……。

 

 

 

 

そのあと僕は昇降口に向かう。

靴箱を開けるとバサバサ落ちてくるものがあった。

 

「? なんだこれは」

 

落ちた物を拾い上げると、中身はどんな内容かは不明だが、包み紙の外見から見ると

ラブレターらしきものだった。

 

「まさかね……」

 

内心、ちょっとした焦りを覚えつつ、10枚程度の手紙を抱え込んで教室に向かう。

 

「よう明久……って、どうしたんだ明久? その手紙はなんだ?」

 

教室に入って、手紙を抱え込んだ僕を見て疑問のまなざしを向ける雄二。

 

「今日、こんなものが沢山靴箱の中に……」

 

手紙を雄二に見せてみる。

 

「ほう~、ラブレターとは……今時そんな奴がいるのか」

 

「それ以前にラブレターを渡すこと自体がビックリだよ」

 

ラブレターは架空の存在かと思ってたけど、まさかいきなりそれを目の当たりにするとは……。

 

「そんで、そのラブレターの内容は?」

 

雄二に言われて、中身の内容を読み上げる。

 

「ええっと、『あなたに一目惚れしました、放課後体育館裏に来て下さい』だって」

 

「呼び出して告白する典型的なタイプか……他のはどんな内容なんだ?」

 

「うん、読んでみたけど……書かれてあることが全部同じ内容で……」

 

10枚とも同じ呼び出しのメッセージで場所も同じだし時間も放課後だ。

 

ここまで見事に一致していると怖いんだけど……。

 

「おい、今の聞いたか?」

 

「ああ、アキちゃんが告白されたらしいぞ」

 

「マジか、ヤバイなどうする?」

 

「こうなったら告白して来たやつを殺るか。全員、放課後待機な」

 

「「「それだ」」」

 

Fクラスの全員がざわつき始めたのだけど、どうしたんだ?

今日は何か行事でもあったけ?

 

「……それで付き合うのか?」

 

「やだなぁ雄二、そんな訳ないじゃん」

 

こんな姿でも中身は男なのだ。

付き合うなんて想像しただけで気持ち悪いよ。

別に同性愛者を馬鹿にしている訳ではないが。

 

「そうか……なら行くのか? 放課後」

 

「まぁ……一応ね。無視したら面倒なことになりかねないし」

 

せっかく勇気を出して書いたラブレターなのだ。

呼び出しを無視する訳にもいかない。

もちろん告白は断るが呼び出しを無視するよりはマシだろう。

 

「そうか、せいぜい頑張りな」

 

「うん……頑張るよ」

 

雄二に後押しされた僕はラブレターを鞄にしまい、授業の準備に取り掛かる。




いいとこなんですが今回はここまでです。

なんだかタイトル詐欺になっている気がしますが
次回で告白は完結すると思います。

それではまた次回お会いしましょう。ヾ(・д・。)マタネー

あ、それとアンケートは締め切らせていただきました。
投票してくれた方々には感謝しています。( ^-^)/アリガトウ


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8話 告白2

こんにちは~いつもどうりの作者です(´・ω・`)/

なんとUAが8000を超えていました!!
それともう1つお気に入り件数が100を超えていました!!(*゚▽゚)ノ

初めて間もないのに、ここまで来るとは思っていませんでした……。

見てくれた方々や応援をしてくれた方々、そしてお気に入りにしてくれた方々には
感謝の気持ちでいっぱいです!!

やはり同士が多いんでしょうね。あ、自分TS系は大好きです。

とにかく見てくれたり、応援してくれたり、お気に入りにしてくれた方々に
今回もこの場を借りて感謝の表現を。


シバッ☆ヾ(・_・。)ミ★(*^-゚)vババババッ!!
v(^_^v)♪ありがと~♪(v^_^)v


感謝は伝わったかな……?(伝われば嬉しい)

それではどうぞ




アキside

 

 

今の時間は昼休み。

僕は雄二と秀吉とムッツリーニで今朝のラブレターの話をしていた。

 

「女になってから急にモテモテだなお前は」

 

雄二はニヤニヤしながら、いつものように僕をからかう。

 

「もう雄二ったら……これでも大変なんだからね……」

 

そのことで頭がいっぱいで、授業がまともに受けられなかったのだ。

 

たしか差出人はFクラスの人がいるのはもちろんだが、

中にはEクラスとかCクラスの人もいたな。

 

そして全員呼び出し付きのメッセージなのはもちろんだが

指定場所と指定時間と内容が全員一致するという、なんとも奇天烈(きてれつ)すぎてドッキリかと思ってしまうくらいのラブレターなのだ。

 

「まったく、お主も災難じゃな」

 

「……まったくだ」

 

秀吉とムッツリーニは僕の苦労する姿を見て、微笑を浮かべている。

 

「本当にそうだよ、なんで僕なんかにラブレターなんて渡すのかな?」

 

「ラブレターに書いてある通り、一目惚れしたからだろ?」

 

雄二は他人事のように適当に言葉を返す。

 

「問題はそこなんだよ、なんで一目惚れしたからといってなんで告白するんだろう?」

 

たしかに僕は可愛いかもしれない。自分で言うのもアレだけど。

でも、僕は相手の顔なんて知らない。

 

なんでまともに会ったり話したりしたこともない人に一目惚れした理由で告白するのだろう?

 

まともに顔を合わせたりしてもいないのに、なぜ付き合おうと思えるのだろう?

 

僕はそんな疑問を持っていた。

 

「よくは分からんが、そいつもそいつなりに考えがあるんじゃねぇか?

ま、俺もそんなことする奴の神経は理解し難いけどな」

 

「うん……だとするともっと分からないな……」

 

まともに話したこともない上にあったことすらないなら、ほぼ100%の確率で振られるのに……。考えれば普通に分かるだろ……?

 

なぜそんな無理、無茶、無謀の3セットが組み合わせたような行為をできるのだろうか。

 

「まぁ、そんなことは気にせず、勇気だして断れよ」

 

「ワシも応援しているのじゃ」

 

「……健闘を祈る」

 

雄二、秀吉、ムッツリーニの3人から応援の言葉を頂いた。

 

「うん……頑張る」

 

断ってしまうのは可哀相な気もするが、手紙を読んでしまった以上、放置するほうがもっと可哀相なので、気の毒だが告白は絶対に断る。

 

そう僕は決心した。

 

 

 

 

放課後になって僕は手紙に書いてあった通り、体育館裏に向かうのであった。

 

体育館裏に着くと、すでに10人ほどの男子生徒が並んでいた。

 

その男子生徒たちは僕を見かけた途端に顔がこわばって、その場に緊張した雰囲気が漂う。

 

僕自身も、もすごく緊張している。

 

「あー、君たちかな? 今朝僕に手紙をくれたのは?」

 

「「「はい、そうです!!」」」

 

10人が声を揃えて大きな声で返事をした。

 

……すごい団結力と統一感だな。

僕が来る前に台本でも読んで打ち合わせでもしたのだろうか……。

 

「そっか……それで手紙に書いてあった内容なんだけど……あれは本当なの?」

 

多分、ドッキリだろうと内心思っているのだが……。

 

「俺たちはアキちゃんに一目惚れしたんだよ」

 

「そうだ。まるで小動物みたいな愛らしさに魅かれたんだ」

 

「どうか、アキちゃん、付き合ってくれ!」

 

手紙に書いてあった内容そっくりのセリフを言った。

 

あれは噓じゃなかったんだな……。

 

表情と言葉から見て、これは本気だと確信した。

 

しかし、本気だったとしてもそうでなくても、中身が男なので期待には答えられないけど。

 

「あ、あのーごめんなさい。僕は誰とも付き合う気はないんだ」

 

僕は頭を深々と下げて、断りの返事をすると

 

「そ、そんな……僕じゃダメなのか……」

 

ダメです。

 

「結構、自信あったんだけどな……」

 

どこからそんな自信が来たんだ?

 

「……………………死のう」

 

……おい、死ぬのはまだ早い。

 

予想通り……いや予想以上に男子生徒全員は落ち込んでいた。

 

……うーん、告白を断る時の心境ってこんなもの?

別に僕自身、悪いことをしている訳ではないのに、なんかすごく悪いことをしてしまった気分なんだけど……。

 

「それなら、友達になってくれるのはどうかな!?」

 

「そうだ、まずはそれから始めた方がいいと思う!」

 

「付き合うことも……欲を言えば結婚も視野に入れて欲しい!」

 

男子生徒たちは食い下がる。

 

初対面に近い状態で友達もどうかと思うし、まず結婚を視野にとか……婚約者になってくださいと言っているようなものじゃないか……。

これじゃ告白内容がますます悪化しているだけだ。

 

「まだキミ達のことぜんぜん知らないからなぁ~……これもお断り?」

 

それを聞いた男子生徒たちは更に落ち込んだ。

 

うわー……また罪を重ねてしまった気分になったんだけど……。

 

僕には謎の罪悪感が募るばかりだ。

 

「な、なら次会った時は絶対に付き合えるように努力するから!」

 

「これで、終わりなんて認めないからな!」

 

「だから、待っててね。アキちゃん!!」

 

そう言い残して、男子生徒達は背を向けて集団行動並みの同じ速度と動きで走り去っていった。

 

よかった、意外と精神的にタフな人達だった。

おかげ様でさっきよりも謎の罪悪感が薄れた気がする。

 

相手が悪くなくてよかったと、僕は安心して肩の力を落とした。

 

ちゃんと素直に断ったし、これにて一件落着……でいいか。

 

 

 

 

 

…………しかし、あの男子生徒全員はまだ諦めていないようだ。

 

もし次に告白してきたら…………無視しよう。

2回も同じことなんてやってられるか




どうでしたか?

ちょっと微妙でしたが許してください!(o*。_。)oペコッ

次回も見て下さると嬉しいです。
感想や誤字脱字のご指摘待ってます。

まだまだ小説に関しては未熟ですが
これからも頑張っていきます!!
どうかよろしくお願いします!!(_ _ ノ)ヨロシクオネガイシマス


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9話 2人きりの放課後

更新遅れてすみません!!(≧≦) ゴメンヨー
これからはもっと早めに更新します。

遅れを取り戻すように頑張ります。







アキside

 

 

「まったく、なんで僕があんな目に……」

 

男子生徒約10名から奇妙な告白をされたその後、僕は帰宅しようと学校の門を出るところだった。

 

もともと男だった僕に男子生徒から告白されるのは精神的にきつい。

 

それに、告白されたことにより僕は大事な何かを失っている気がするのだ……。

 

そう考えるとなんだか泣きたくなる。

別に告白してきた男子生徒たちが悪い訳じゃないけど。

 

「おや、吉井くんじゃないか」

 

「あ、久保くん」

 

門を出たところで学年次席の成績を持つ優等生、久保くんが立っていた。

 

彼と僕は1年の時から面識があったものの、学歴の差という壁が立ちはだかり会う機会は少なかった。

 

会うとするなら、こういった放課後や昼休み会うくらい。

だから、こうして会えるのは久々な気もする。

 

「今、帰るところなのかい?」

 

「うん……久保くんも帰るところ?」

 

「そうさ、いつも大体この時間に僕は帰るよ」

 

久保くんは放課後、遅くまで残っていそうなイメージだが、学年次席というレッテルによる偏見だったようだ。

 

あ、そうだ。

せっかくだし、一緒に帰ろうかな。

 

女の子になっていろいろと悩みがあるし、久保くんに話したら少しは楽になるかもしれない。

 

「ねぇ久保くん、よかったら一緒に帰らない?」

 

「え? あ、うん……別に構わないが……」

 

ん? あまり快くなさそうだけど、嫌だったかな?

 

「あ、ごめん。もしかして急いでた……?」

 

「いや、問題ない。一緒に帰ろう(吉井くんと2人きりで帰れるとは、今日は運がいいな)」

 

「そっか。ありがとう」

 

久保くんは嬉しそうな表情をしているような気がするけど、どうしたのだろう?

 

そんな疑問を抱えながら僕と久保くんは学校を後にした。

 

 

 

 

「しかし、驚いたよ。男から女の身体になるなんて。まるで小説みたいな話が身近に起きるとは」

 

「だよね……おかげで慣れないことをするばかりで大変だよ……」

 

久保くんに悩みを相談したり、愚痴を言ったりしていた。

 

真面目に受け止めてくれる上に、親身になって相談に乗ってくれるので、どんなことでも相談してしまいそうだ。

 

「でも、悪いことばかりじゃないんだ。前より勉強とかが身に入るようになったし、分からなかった問題だってすぐに解けるようになったんだ」

 

「そうなのか……それはとてもいいことだと、僕は思うよ」

 

更に返答も優等生らしい……流石だ。

 

「これって、この身体になったおかげなのかな?」

 

脳内まで女の子になってたりするのかな?

 

「恐らく、そうだろう。女の子の利点が吉井くんの身体に現れたみたいだね」

 

「やっぱり、女の子になると頭が良くなるものなの?」

 

ずっと疑問に思っていたことを久保くんに投げかけてみる。

 

「男性と女性の脳の仕組みには違いがあるみたいで、勉強とかの記憶や集中力を必要とする作業においては女性の方が有利なんじゃないかな?」

 

脳の仕組みについて知っているのか。

久保くんは優等生どころか博学多才のレベルで尊敬すら覚えてしまいそうだ。

 

「へぇ~、そこまで僕は女の子の身体の影響が出ているのか……」

 

これは素直に喜びたいけど……元の姿に戻りたい願望が勝って喜べない……。

 

「はぁ……でも元の身体がいいかな……不便で面倒なことばかりだし……」

 

「例えば、それはどんなこと?」

 

今度は逆に久保くんが聞いてくる。

 

僕は今まであった女の子の苦労の数々を思い出す。

 

「そうだな……まず、お風呂かな」

 

「ふ、風呂……」

 

いつもクールな表情である久保くんが、赤面する。

 

「……あぁ! ごめん! これは話さない方が……いいよね?」

 

「…………そういった話題は、できれば控えてもらいたい」

 

しまった、相手は久保くんだからと、思わず危ない話題を切り出してしまった。

 

今度から男子と会話する時は気を付けよう……。

 

「……それで、他には?」

 

気を取り直したところで、久保くんが話を戻す。

 

「ええっと……身分証明書の変更とかかな?」

 

僕は自分の身分証明書や学生手帳を久保くんに見せる。

 

身分証明書や学生手帳は学校側が新しく作成して、性別と名前を変更している。

女の子の姿でいる間はこれを使わなければならない。

 

「身分証明書で性別なんて変更できるのか……初めて知ったよ」

 

変更されてあるらしいけど、詳細は僕もよく分からない。

 

「うん……性別どころか名前まで変わっちゃってるけど……」

 

以前から『明久』という本名から、性別に合わせて『アキ』という名前になってしまっている。

 

「ふーん……『アキ』……かぁ……いい名前じゃないか。これなら、いざという時にでも対応できそうだね」

 

身分証明書を見ながら感心している久保くん。

 

「使う機会があるかどうかは微妙なところだけどね」

 

念のために持っているだけであって、使用する機会がくるかどうかは不明。

 

その機会が訪れるまでに僕は元の姿に戻れているのだろうか……。

 

『♪~♪~♪』

 

久保君の制服のポケットから携帯電話の着信音が鳴る。

 

「あ、すまない。少し待っててくれ」

 

久保君はポケットに手を入れる。

出てきたのは数字キーのない画面だけの端末、スマートフォンだ。

 

「久保くんってスマホ持っていたんだ……」

 

そんなもの扱う久保くんが少し物珍しい気がする。

 

「高校生だし、普通に持ってるさ。必需品のようなものだね」

 

「へぇ~」

 

スマートフォンを手にしたことも使ったこともない僕は、好奇心なのか久保くんの手にするスマートフォンを見つめる。

 

「吉井くんは持ってないの?」

 

スマートフォンを見つめる僕を見て、久保くんは首を傾げる。

 

「うん、今の携帯で十分だと思うけど……持っておいた方がいいもの?」

 

「学校だとほとんどの人が持っていると思うよ。僕のクラスだと全員が持っていたね」

 

「そ、そんなにいるんだ……」

 

普及してきたものとは聞いたが、現在はそれが流行っている時代になっていると聞いた。

 

僕は流行りとかそういったものには興味ないタイプなので、流行りに乗れていない自分が少し恥ずかしい気もする。

 

「僕も買おうかな……スマートフォン」

 

「……どうしたんだい? 急に」

 

不思議そうな目をする久保くん。

 

「いや、久保くんの話を聞いてたら持っておいた方がいいのかと思って……」

 

「そんなに焦る必要はないと思うけど…………そんなに気になるなら、今から見に行ったらどうだい?」

 

「え、今から?」

 

「うん、買う時の参考になるし、見に行く方が話が早い気がする」

 

今から行くって……いわゆる寄り道というやつですか。

 

行ってみようかな、時間は全然余裕だし。

 

「じゃあ……久保くんもついてきてくれるかな? 僕1人じゃ心細いし」

 

「もちろん、分からないことがあれば遠慮なく聞いてほしい」

 

 

 

 

僕と久保くんは帰り道から最寄りの家電量販店にいる。

 

スマートフォンの売り場に行ってみると、棚にずらりと並んでいる。

 

さまざまな種類のスマートフォンがあるのだが、如何せん無知な僕は何がいいのかさっぱり分からない。

 

お、これいいかも。

 

目に入った中で、僕はよさげなスマートフォンを手にしたのだが、

 

な、なんだこれ……デカすぎる。

 

僕が手にしたものは、成人男性の手でも余りそうなくらいの大きさだった。

 

ダメだ……この大きさは扱いきれないし、手が元より小さくなってしまった僕には尚更無理だ。

 

「どうだった? いいものは見つかったかい?」

 

「いや、何を選べばいいかすら……久保くんのおすすめは?」

 

「僕のおすすめ? そうだな……」

 

久保くんは視線を棚に向ける。

 

「……無難にこれがいいんじゃないか?」

 

久保くんは棚に指をさす。

 

ピンクのボディで標準的なデザインのスマートフォンだった。

 

「う~ん、なんだか可愛すぎないかな……無難とは言い難いような……」

 

「そうかな? 今の吉井くんにぴったりだけどね。

それに、防水機能も付いているしスペックも高くて、値段もいいと思うんだけど」

 

これのスペックってそんなに高いのだろうか?

 

こんなデザインで高いスペックはあまり想像できないが、外見では判断できないので僕はそのスマートフォンを手に取ってみる。

 

「……これどうやってつけるの?」

 

使っている人の見まねで画面をスライドしてみるが、画面は真っ黒。

 

つけ方すら分からずの初めてなので、久保くんに聞いてみる。

 

「これは、ここの下のボタンを押せばつくはず」

 

僕は久保くんに言われた通り

画面の下についているボタンを押すと、綺麗で色鮮やかな画面が映る。

 

「おおー、すごい」

 

僕は自分で操作してついた画面に、感嘆の声を上げて見つめる。

 

「これにしようかな……」

 

まだ画面をつけただけ。

それだけなのに、初めてやったが故に湧いた愛着なのか、欲しいという切実な欲望が湧いた。

 

「やっぱり、それにする?」

 

「うん、久保くんにすすめられた通り、これにしようかと……」

 

「そっか、じゃあ次はこれを買うための契約を……」

 

「ちょっと待って、それは気が早くない?」

 

いくらなんでも、今からは早すぎるような……。

 

「それにするなら、今買った方がいいと思う。まだ迷っているなら、また別の機会にするけど」

 

「……じゃあ、そうする」

 

少し悩んだが、いつまでもこうして考えている間に売り切れてしまいそうなので、思い切って買うことにした。

 

「そしたら……保護者の同意と身分証明が必要になるけど、大丈夫?」

 

大事なことを思い出したように、久保くんは尋ねてくる。

 

保護者の同意は……1人暮らしだから、適当に貰っていると言っておけばいいや。

 

身分証明書は……うん、手元にあった。

まさか、早々に使う機会が訪れるとは……。

 

元の姿に戻るまで使うことはないと思っていたが、思ったそばから使ってしまった。

 

「……全然、大丈夫だったよ」

 

なんの問題もなく無事契約完了してしまった。

 

 

 

 

「ふっふ~ん♪」

 

「ははっ……とてもご機嫌だね」

 

「えへへ……衝動買いみたいになっちゃったけど、買ってよかったよ」

 

「それは何よりだよ」

 

新しいおもちゃを買ってもらった子供のような僕を久保くんは頷きながら見る。

 

恥ずかしい姿を見せてしまった気がして、少し気を落ち着つかせた。

 

「これって、いろんなアプリがあるけど、基本的に何をするの?」

 

スマートフォンを買った者が言うセリフではないが、久保くんに雑談程度のような要領で聞いてみる。

 

「使う人によるけど、人との連絡やネットサービスの利用とかじゃないかな?」

 

「なるほどね……あ、そうだ」

 

僕は鞄から買ったばかりのスマートフォンを取り出す。

 

「ねぇ久保くん、よかったらメアド交換しない?」

 

僕は自分のスマートフォンを指さしながら言う。

 

「え? 本当にいいの?」

 

「うん、これでいつでも連絡取れるでしょ。だから……ね?」

 

「そ、そうだね。交換しよう」

 

こうしてお互いにメールアドレスを交換。

これでいつでも連絡を取ることが可能だ。

 

(一緒に帰る上に、メアドまで交換……今日はとことんついてるな)

 

「どうしたの?」

 

僕は久保くんの顔を覗き込む。

 

「いや、なんでもないさ……」

 

首を横に振って、いつも通りの久保くんに戻る。

 

さっきと様子が一転していたような……本当になんでもなかったのだろうか?




なんとか、できました。(´ ▽`)フゥ~

アキちゃんのスマートフォンが今後の展開に繫げる予定です。
ネタバレになるのでここまでしか言いません。

次回も楽しみにしてくれると嬉しいです。

誤字脱字のご指摘や感想待ってます!!(_ _ ノ)ヨロシクオネガイシマス


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10話 身体測定

ちょっと今回は危険な描写があります。

まぁ、許容範囲でやっている(つもり)だから………
大丈夫かな……。(´•ω • `)ジシンナイ……





アキside

 

 

「はぁ……よりによって女の子になってすぐのタイミングで身体測定とは……」

 

ため息をついた後、机の上に頭を突っ伏す。

 

今日の午前中は身体測定となっている。

 

まさか、この身体で身体測定をすることになるなんて思ってもいなかった。

そもそも女の子になってしまうこと自体、思ってもいなかったから尚更だけどね。

 

面倒くさいとか、そういう問題ではないのだけれど……憂鬱というか気が進まないというか……とにかく僕はこの身体で身体測定をすることに抵抗を感じていた。

 

「今日の午前中は身体測定だ。保健委員が来るまで大人しくしていろよ」

 

「「「はーい」」」

 

西村先生の指示にFクラスの全員が声を揃えて答える。

 

「身体測定って体重測るのよねぇ……だから朝ごはん食べていないのよ……瑞希は?」

 

「はい、私も昨日の夜と今日の朝を合わせて、2食抜いてきました……」

 

姫路さんと美波が2人でため息を揃えている。

 

体重という女子特有の話題でメランコリックとなている2人を横目にしていると、

 

「アキはどうなの?」

 

美波が僕に質問してきた。

 

話の流れ的に考えて、体重の話だろう。

 

「アキちゃんも朝ごはん抜いてきましたか?」

 

姫路さんまで……。

 

っていうか、いつの間に僕のことをアキちゃんと呼んでいるんだ……。

別に嫌という訳ではないけど、呼び慣れない名前で言われると変な気分になる。

 

おっと、話が逸れてしまった。

話を戻すが、もちろん僕は朝食を食べてきている。

 

「いや、僕はちゃんと食べてきたけど……?」

 

今は女の子の身体だからね。

ちゃんと食べておかないと、いつかぶっ倒れてもおかしくないし。

 

「なんでよ!? 体重測定が終わってから食べないのよ!」

 

「そうです! 一食分体重が軽くなるというのに……!」

 

2人は僕に詰め寄る。

 

「そ、そんなこと言われても……別に僕はそんなこと気にしてないんだけど……」

 

2人の目が怖いよ。

どうしてそんなに体重というものにこだわるのだろうか。

 

「アキちゃんはズルイです!」

 

「そうよ仲間だと思っていたのに!」

 

「なんで!?」

 

体重を気にしていなくて何か問題でもあるのだろうか。

2人はなぜ怒っているのかさっぱり分からない。

 

「その身体を見る限り、アキちゃんは気に留める必要はなさそうじゃの」

 

僕たちのやり取りを見ていた秀吉が苦笑しながら話しかけてくる。

 

姫路さんに続いて秀吉にまで、アキちゃんと呼ばれてることが少し気になった。

 

「う~ん、どうだろう? 僕はあんまり分からないや」

 

「木下の言う通りよ! 可愛いし、その上にスタイルもいいじゃない!」

 

美波が恨めしそうに僕を睨む。

 

「可愛いことと、スタイルがいいのは今の話とはまた別な気がするけどね……」

 

下手に言てしまっては火に油を注ぐ状況になるかもしれないので、あえて小声で言う。

 

「そんなことよりお主ら、もうすぐで呼ばれるのじゃ」

 

「そうね、最初は確か女子だったかしらね。遅れる前に準備しなさい。アキ、木下」

 

え!? なんで僕まで!?

 

「え!? ちょっと待って! 秀吉は分かるけど、なんで僕まで!?」

 

「な、何を言っておるのじゃ!? アキちゃんは女子じゃろ!? そしてワシは男じゃ!」

 

こんなことを話あっている内に教室のドアが開いて、

 

「失礼しまーす」

 

入ってきたのは違うクラスの女子生徒だった。

腕には保健委員と書かれた腕章がついてるので、保健委員の招集係だろう。

 

「Fクラスの女子生徒の方々は身体測定があるので、保健室まで来てください」

 

「行くわよ、2人とも逃げないように」

 

ガシッと美波に手を強く握られてしまい、最終手段の「逃げる」が使えなくなってしまった。

 

しょうがない……ここまで強引にされたら、大人しくするしかない。

 

「ほら、秀吉行くよ」

 

「だから、ワシは男なのじゃ」

 

すると、またもう1人の保健委員がやって来て

 

「Fクラスの『秀吉』の方は身体測定があるので来てください」

 

「ほら、秀吉呼ばれてるよ」

 

「……分かっているのじゃ」

 

秀吉はとぼとぼと保健委員に連れられて行ってしまった。

 

「モタモタしてないで、さっさといきましょ」

 

美波に握られた手を引っ張られる。

 

「ああぁ!! ずるいです! 私もアキちゃんと手を繫ぎます!」」

 

もう片方の手を姫路さんが握ってくる。

 

「2人とも……恥ずかしいからあまりそういったことは……」

 

「ダメよ、迷子になったら大変じゃない」

 

「そうです。はぐれないように手を離さないでください」

 

「待って、そんな理由で手を繋いでるの!?」

 

……ここ学校だよ?

こんなところで迷子になる高校生は極度の方向音痴じゃないか。

 

2人は僕をなんだと思っているんだ……。

女の子になってから扱いがよく分からなくなってきた。

 

結局、美波と姫路さんの双方と手を繋いだまま、身体測定を行うために保健室へ向かうことになった。

 

 

 

 

保健室に着くとそこには他のクラスの女子が体操服へと着替えていた。

 

Fクラスの女子は僅かな数しか存在しないので、他のクラスと一緒に着替えるのであろう。

 

身体測定では体操服に着替えることが必須なので、ここで着替えてから身体測定へ移る形となっている。

 

さて、ここに長く居座るつもりはないので、早めに着替えるとしよう。

 

早く身体測定を終らせたい一心で制服を脱ぎ始めていた時、事件は起きた。

 

「あぁ! アキちゃん!」

 

この声を聞いた途端、僕の背筋がビクッとなる。

 

「た、玉野さん! なんでここに……!」

 

どうしよう、こんな日に限って1番会いたくない人に会ってしまった。

玉野さんとは女の子になってまだ顔すら合わせてないから、何をされるか分からない。

 

「正真正銘の女の子になれたね、アキちゃん!」

 

あっという間に玉野さんは僕の至近距離まで来てしまっていた。

 

「うん……なれたというより、なってしまっただけど……」

 

興味津々な目で僕の身体を見渡す玉野さん。

 

「うわぁ……やっぱり女装した時よりとっても可愛い! よかったね、アキちゃん!」

 

「よくないよ……この身体でどれだけの苦労を強いられてきたことか……」

 

「これで何も気にせず坂本君と付き合えるね!」

 

「ちょっと待って! なんで僕と雄二が付き合うことになってるの!?」

 

雄二には霧島さんという婚約者がいるのだ。

婚約者を奪うなんて不道徳的な行為は僕の良心が許さない。

 

そもそも、あんなやつと付き合うとか……想像したくもない!

 

「そこ、何やっているの? 早く着替えなさい。後がつっかえるじゃない」

 

ん? この声は……

 

「あ、木下さん」

 

「あら? 吉井くんじゃない」

 

そこには秀吉と瓜二つの姉、木下さんがいた。

 

「ボクもいるよ♪」

 

「……私も」

 

ひょこっと横から出てきたのは、工藤さんと霧島さんだった。

 

「霧島さんに工藤さんまで……」

 

どうやらAクラスの生徒もここにいるそうだ。

ここまでくると、もはや全部のクラスの女子がいるのではないかと錯覚してしまう。

 

「早く着替えましょ。そんなやり取りしてたら測定に遅れるわよ」

 

「う、うん」

 

木下さんに急かされて、改めて制服を脱ぎ始めようとする。

 

周りの女子生徒全員の視線が僕に向いているのは気のせいだろうか……。

 

「遅いよアキちゃん! 脱がないなら脱がしちゃお!」

 

周りの視線を気にして、手が止まっている僕を見た玉野さんは手慣れた手つきで、僕のスカートを両手で掴み、ずり下げる。

 

そして、下半身は赤いチェック柄の下着が姿を現した。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! 自分で脱ぐから」

 

僕は玉野さんの手をけん制して、もう片方の手で下着を隠す。

 

「遠慮しなくていいんだよ、アキちゃん!」

 

「遠慮なんてしてないよ! 1人でやるから!」

 

なんとか玉野さんの魔の手から逃れたところで、僕はブラウスに手をかける。

 

周りの女子生徒全員の目がさっきよりも輝いている気がする。

 

僕はブラウスのボタンを1つ1つ丁寧にはずして袖から腕を抜くと、僕の上半身の肌が露わになる。

 

下とお揃いの赤いチェック柄のブラが僕の大きな胸を持ち上げている。

 

「なんて綺麗な……」

 

「同じ人類とは思えない!」

 

「こんな姿を拝めるなんて……女子に生まれて本当によかった」

 

女子生徒全員の視線が更に集まる。

 

「アキのくせにどうしてそんな……」

 

「お、落ち着いてよ美波……」

 

どこはとは言わないが、ある部分を睨みつける美波。

 

そんなに落ち込まれると、悪いことをした気分になってしまう。

 

「いや~下着姿になると本当にイイ身体してるね~。吉井クン」

 

僕の身体をあらゆる角度からニヤニヤと見つめる工藤さん。

 

「は、恥ずかしから……あんまり見ないで……」

 

羞恥交じりの声で言いながら、腕で胸を隠す。

 

「うひゃー///恥ずかしがっている吉井クン可愛い///いじめたくなっちゃうよ♪」

 

その言葉を聞いて身の危険を感じた僕は、工藤さんから距離をとろうと後ずさる。

 

「アキちゃんー!」

 

「うわぁっ、玉野さん!?」

 

すると後ろから、がばっと玉野さんに抱きつかれた僕は

身動きができない状態になった。

 

「アキちゃんの肌、すべすべでやわらかいです!」

 

「ひゃあ、だ、だめだよ!」

 

玉野さんが僕の脇やお腹を撫で回す。

 

「アハハッ、ボクも触る~♪」

 

「しまった、工藤さんのことを忘れてた!」

 

手をワキワキと動かしながら、工藤さんは僕の胸に手を伸ばす。

 

「く、工藤さん! そこは……あっ……や、やめて……んんッ」

 

「わぁ! すっごくやわらかい! これはもっと調べねば……!」

 

「やぁん……はぁ……ひゃうん……やめてよぅ……」

 

「あぁ~///もう、そんな顔されたらもっとしたくなっちゃうな///」

 

こちらが嫌がっても工藤さんの手は止まらず、むしろ悪化していくだけだ。

 

周りの女子生徒に助けを求めようとするが、周りは僕の姿を見て顔を赤くして目を背けるだけで、こちらを助ける気などないだろう。

 

「うぅっ……もう、やめて……」

 

僕は工藤さんに胸を揉まれて、羞恥心なのかくすぐったいのか分からないが、

涙目になりながら小さな声で懇願した。

 

「やめてあげなさいよ!」

 

木下さんが2人を僕から引き離す。

 

あぁ……ここに頼りになる優等生&常識人が……。

 

「もう2人とも、やりすぎじゃない。吉井くんが可哀相よ」

 

「「……ごめんなさい」」

 

なんだろう……2人に説教をする木下さんは僕にとってかっこよくて尊敬に値するくらいだ。

 

「まったく、アタシが目を離した隙に……大丈夫? 吉井くん」

 

その場にへたり込んだ僕を木下さんはしゃがんで、僕の様子をうかがった。

 

「だ、大丈夫……ぐすっ……ありがとう木下さん」

 

安心しきった僕は木下さんに思わず抱きついた。

 

「ーーーーッ♥!?」

 

「……んぅ? って、わー! 木下さん! どうしたの!?」

 

僕が抱きついた瞬間、木下さんは倒れこんでしまった。

 

……おまけに、鼻血まで出ている。

 

「あらあら、身体測定だというのに困ったわね」

 

幸いここは保健室なので、すぐに保健の先生と保健委員の生徒が木下さんを運んで行くのであった。

 

いったいどうしたんだろう、木下さんは……。

 

「流石の優子も吉井クンに下着姿で、泣きながら抱きつかれたらそうなるよねぇ……」

 

「? どういうこと? 工藤さん」

 

「ん~? なんでもないよ~」

 

本当に何があったんだろうか……。

 

こんなに先が不安になる身体測定は初めてだった。




できた。(´・ω・`)

まったくこのポンコツPCのせいでミスがおおいです。□_ヾ(×× )

とにかく次回は身体測定パート2のお話ですよ。
誤字脱字報告や感想など待っています。

ってゆうか感想ほしい( ゚д゚)ホスィ
我が儘言ってすみません。
ですがこれも自分のモチベーションにつながるので
どうかよろしくお願いします!!


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11話 身体測定2

夏の暑さでへたれ込んでいる作者です。(´・ω・`)

暑くて悩まされる毎日です。
熱中症になったらナースのアキちゃんに看病していただきたい……。( >д<)

それではどうぞ


アキside

 

 

着替えを終えた僕たちは、まず初めに身長を測ることとなっている。

 

「はぁ……こんな身長で身体測定なんて……余計に鬱になるなぁ……」

 

身長の低い人が身体測定をする時というのは、こんな気分なのだろうか。

 

自分の頭に手を置いて、ため息をつく。

 

女の子になってから、かなり背が縮んだというのは自分自身が一番理解している。

だが、正確な身長というものは、はっきり分かっている訳ではない。

 

自分のこの身体について知るつもりはないし、知りたくもないけどね……。

 

少なくとも女子の平均くらいはある……と思いたいが、周りの女子に比べると僕の身長が低いというのは一目瞭然なので、身長なんて測りたくない、というくらいに自信がなくなりかけていた。

 

本当に嫌だなぁ、もう……。

 

「はい、次。吉井さん」

 

「は、はーい」

 

担当の先生に呼ばれて、僕は身長計に背をつけて立つ。

 

さて、いったいいくつなんだ!?

 

興味はないと思ってはいたが、いざ測ってみると気になるものだ。

 

「はい、吉井アキさんは158㎝です」

 

……う~ん、微妙。

 

せめて160㎝はいって欲しかったものだ。

 

「はぁ……身長だけは本当に元のままがよかった……」

 

また、ため息が漏れる。

 

「おお! 去年より伸びてる!」

 

「道理で最近、あんたの背が伸びたと思ったわ……はぁ……私も伸びないかなぁ……」

 

「いや、あんたの身長それ以上いったら男子より高くなるわよ?」

 

むぅ……周りの女子を見るとやっぱり僕が低すぎるんじゃないかと思わざるを得ない……。

 

もしかするとこの女子の中で身長が低いのは僕だけなんじゃ……。

 

…………べ、別に悔しくないんだからね!

 

……………………。

 

いや、嘘です。ごめんなさい。

めちゃくちゃ悔しいです。嫉妬すら覚えてしまうくらいに悔しいです。

生まれた中で悔しかったことランキングの上位に入りそうなくらい悔しいです。

 

次は体重測定である。

 

それぞれ、体重計に乗った後は記録用紙を貰うのだが、僕の記録用紙を見て美波と姫路さんはorzの状態に……。

 

「ここもアキに負けるなんて……!」

 

「アキちゃんはずるいです……!」

 

今朝と同様に睨まれてるよ……。

 

2人の体重は2人の身体相応の体重……いや、むしろそれより軽いんじゃないかってくらいなんだけれど……。

 

なぜそこまでこだわるのだろうか……訳が分からないよ……。

 

その次は座高測定だ。

 

まぁお察しの方もいるとは思うが、僕のこの身長では座高の結果などとっくに見えているだろう。

 

期待してもいないし、あきらめている。

人間、あきらめが肝心だ。

 

…………べ、別に開き直っている訳じゃないんだからね!

 

……………………。

 

いや、嘘です。ごめんなさい。

めちゃくちゃ開き直っt――以下同文。

 

 

 

 

「あら? アキって身長の割には座高低いのね」

 

僕の座高の測定結果の記録を見た美波が意外そうな顔をしている。

 

「身長が低くて分からなかったわ……足は身長の割にはそこそこ長いようね……」

 

身長の割には、ね…………。

 

少し意外な結果だった。

素直に喜ぶべき(?)ことなのかもしれないが、身長が低いことには変わりないから……。

 

「それに比べて瑞希は……」

 

姫路さんの記録を見て、本人をジトッと見つめる。

 

「ア、アキちゃんの足が長すぎるだけです!!」

 

美波から言われたことに対して、必死に弁明している。

 

姫路さんはそのままでいいと思うんだけどね。

今の方がベストというか、姫路さんらしいから今のままがいいなと僕は思った。

 

フォローしようかと思ったが、あの様子じゃ何を言っても慰めにはならないだろうな……。

 

 

 

 

次で今回の身体測定は終了だ。

 

最後の測定は

 

「最後は胸囲を測ります、胸囲を測るため準備をしてください」

 

胸囲か……。

 

これは以前、霧島さんに測って貰ったから僕はする必要はないと思うけど、身体測定だから大人しく測られる他ない。

 

「美波ちゃん、どうかしたのですか?」

 

美波が胸を押さえながら、ぶつぶつと呟いている。

おまけに視線は僕と姫路さんの胸に向いている。

 

「ここにいる女子で比較対象がいないし……その上にどっちも大きすぎるのよ……」

 

今の言葉は聞かなかったことにしよう。

 

「さぁ、お姉さま、美春がお姉さまの『胸板』を測って差し上げますわ!」

 

「み、美春!? どうしてここに!?」

 

突然Dクラスの清水さんが現れた。

 

Dクラスの女子は別の場所で胸囲を測っているようだが、なぜここに?

 

「お姉さまの『胸板』を測るのは美春の役目です!! お姉さま、服をお脱ぎになって!!」

 

「あんたは保健委員じゃないでしょ!! そして『胸板』の部分を強調して言わないで!!」

 

清水さんは美波に抱きついて離れようとしない。

 

まったく、あの2人はいつでもどこでも楽しそうにしているんだから。

 

「それと、吉井アキさんの胸囲も測ってあげますわ」

 

「えぇ!? 僕の!?」

 

あの清水さんが僕の胸囲を測ろうとするのだろう?

美波の胸板を測るだけで十分ではないのだろうか。

 

「って、あれれ? 豚野郎扱いは?」

 

今まで散々な扱いをしてきたというのに、いつの間にか打ち解けているような……。

 

清水さんは一瞬、きょとんとなった。

 

「何を言っているのですか? 吉井アキさんは女性ではありませんか。女性になったのなら話は別です」

 

え? 今までのあの態度と扱いは男だったからなの!?

男子と女子の扱いの差が激しすぎない?

 

目の前で本当の女尊男卑主義者の鏡を見を見せられた気がした。

 

「アキちゃんの胸囲を測るのは私だよ!」

 

「玉野さん! いつの間に!?」

 

玉野さんがずいっと横から出てきた。

 

「って玉野さんも保健委員じゃないでしょ!!」

 

「大丈夫だよ、私に任せて!」

 

「うん、任せられない!」

 

絶対に任せてはいけない!

と僕の本能がそう告げている…………というか、さっきの着替えの時に酷い目に遭わされた人物に胸囲を測らせようとする人はいないと思う。

 

「はいはい、そこまでです、吉井さんの胸囲を測るのはこの保健委員の私ですよ」

 

玉野さんの肩を押さえる、腕に保健委員の腕章をつけている茶髪のショートカットの女子生徒がいた。

 

その女子生徒は玉野さんを軽くあしらった後、僕と2人で簡易的な個室で胸囲を測ることとなった。

 

「それでは吉井さんの胸囲を測ります。上半身の体操服と下着を脱いでください」

 

「えぇ? 下着まで脱ぐのですか……」

 

「服や下着等があっては正確に測ることがでないので」

 

「そうですか……」

 

下着を脱ぐ……ということはこの女子生徒に自分の胸を晒すという訳であって……。

別に同性だから何も問題はないだろうけど、同性とはいえ自分の胸を無防備に晒すのは少し抵抗を感じた。

 

でも、しょうがないか……。

 

見ず知らずの女子生徒だからこそ晒しても問題ないだろう。

友人とか顔見知りだったりすると、それだからこそ恥ずかしくてかえってやりにくいしね。

 

「……分かりました」

 

そう一言言って、僕は体操服を脱ぐ。

 

(うわわっ///体操服越しでもすごかったけど、下着姿になると更にすごい……!///)

 

保健委員の女子生徒がこちらをキラキラと光る眼で見つめてくる。

 

あまり見られると脱ぎにくいのだが……。

 

視線を感じながらも、ブラジャーのホックに手を伸ばす。

 

「……!!///」

 

「はい、脱ぎましたよ……って!? どうしたんですか!?」

 

僕は保健委員の女子生徒を見て、咄嗟に声を出してしまった。

 

なぜって?

理由は簡単、彼女は鼻血を出して、その場にうずくまっていたからだ。

 

「だ……大丈夫です……こ、これくらい……なんでも……ありませんから……」

 

身体を震わせながら立ち上がる。

 

この状態でなんでもないは流石に無理があるだろう。

 

さっきの木下さんも似たようなことになってたけど、どうしたのだろうか?

 

「そ、それでは気を取り直して……吉井さんの胸囲を測りますね……」

 

「はーい」

 

僕は測りやすいように胸を前に突き出す。

 

(生で見るとすごい破壊力!///直視できない!///)

 

……手が全然進んでいないのだけれど、大丈夫なのか。

 

若干、たどたどしいような手つきで僕の胸にメジャーを巻きつける。

 

「んんっ……」

 

メジャーの感触だからか、それとも女子生徒の手が当たっているからなのか、それが少しくすぐったくて声が出てしまう。

 

「……はい、測り終わりました(ふぅ……とっても柔らかかった……)」

 

そう言ってメジャーを巻き取り、終了。

 

これですべての測定が終わったと……僕は一息ついた。

 

「ちなみに聞いておきますけど、僕の胸の大きさはいくつなのでしょうか?」

 

個室から出た後、前と変わっていないか心配なので、聞いてみた。

 

「えーと、95㎝のIカップです……女子の中では最も大きいと思われます」

 

うんよかった。前と変わっていないな。

最近、膨らんできた気がするのだけど、それは気のせいだったのかもしれない。

 

「今の聞いた?」

 

「うん、まさかあんなに大きいとは……」

 

「アキちゃんの胸囲恐るべし!」

 

僕の胸囲を聞いた周りの女子生徒ひそひそと話している。

 

あまり自分の胸囲は知られたくなかったのに……ここで聞くんじゃなかった。

 

「アキ……あんたはどこまでウチを凹ませれば気が済むのかしら……」

 

僕の肩を力を込めた手で掴んで、美波が恨めしそうな目と声で話しかけてきた。

 

「え? いや……その…………ゴメン」

 

「謝らないで! 余計に悲しくなるのよ!」

 

美波はそう叫んで保健室を出て行った。

 

「…………悲しいのはこっちなんだけど」

 

少しだけ、この身体を美波に譲渡してもいいかもしれないと思ってしまった。




相変わらずグダグダですね……。

誤字脱字や感想お待ちしております!!(´・ω・`)オネガイシマス


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12話 1学期終了

どうも~作者です。(´・ω・`)/

作者の都合で山口県に行っていたので少し更新遅れました!
すみません!!(_ _(--;(_ _(--; ペコペコ

そんなことより
ついに1学期も終了ですよ~。
いろいろ飛ばしすぎだろとツッコみたいとこなのですが
文章と企画を立てることが下手な作者をお許しください!!(*_ _)ゴメンナサイ




アキside

 

 

梅雨も明けた7月期末試験も無事に終了した。

 

期末試験の結果はというと、今まで赤点だらけだった僕にはありえないくらいの好成績だった。

 

これは女の子になったおかげ……というのは言うまでもないか。

 

とにかく、この成績だと親に胸を張って見せられる。

こんなにも成績を親に見せるのが楽しみなのは初めてだ。

 

…………その前にこの姿を見せなくてはいけなくなるけどね。

 

僕が女の子になったことについては、お察しの通り親には報告していない。

 

親にはまだ見せないとはどういうことだ? と思うかもしれないけど、1人暮らしで会う機会も少ないし、まだ見せられてないのだ。

 

いつかは見せるつもりだが……あまり見られたくないのが本音。

 

さてさて、今日で1学期はもう終わり。

学校では終業式が行われ、学園長の長くて聞くだけであくびが出るほど退屈な話があり、今となっては生徒のほとんどは体力や忍耐力が尽きた頃だろう。

 

それはどうでもいいとして、1番重要なのは1学期が終ればついに誰もが待ちに待った

夏休みが始まる。

 

終業式が終わった後は長期間の休みに入る前に必ず起きる現象である、全員そわそわとした雰囲気の教室となっていた。

 

「いいか? 明日から夏休みという長い休みの期間になるが、日々の学んできた学習を疎かにしないように自主的に学習をすることを忘れるな。

特にお前達みたいな奴にはとても重要なことであり課題でもある。いいな?」

 

「「「はーい」」」

 

そんな教室の雰囲気を引き締めにかかるかのように、西村先生の講話が始まった。

 

普段は鬼のような厳しい無茶な指導をしているが、こういう時にはまともな教師らしいことを言っている。

 

「そして、俺が何より心配なことは過ごし方だ。

これは他のクラスにも言えることなんだが、お前達は立派な学生だ。

しかし、長い休みに入って心が浮いてしまうかもしれない。

お前達は学生という立場を理解して考えて行動し、節度を持って長い休みを過ごすんだ、いいな?」

 

「「「はーい」」」

 

「……これで以上だ」

 

そう言って西村先生は事を済ました顔で教室を出て行く。

 

これで西村先生の講話も終わり。

 

後は帰りのホームルームだけだ。

 

 

 

 

「しっかし、ついに1学期も終わりだな。明久」

 

「うん、そうだね」

 

帰りのホームルームが終ろうとしている中、雄二が後ろから声をかけてきた。

 

今までを振り返ると1学期はいろいろと大変だった。

 

僕が女の子になって慣れたくもないことに慣れたり、男子生徒から告白されたり……。

 

とにかく大変な思いしか頭に浮かばない。

 

「……ところで、お前は今年の夏休みはどうするんだ?」

 

「う、う~ん……去年と同じく、ほとんど家で過ごすかな?」

 

去年の夏休みは家で過ごすか、雄二やいつものメンバーで、バカやって騒いだりするくらいだった。

 

女の子である今、今年の夏休みはどうしようかと悩むしかなかった。

 

「そうか……まだ何をするか決めてないみたいだな」

 

「そんなこと言ってる雄二は何するつもりで?」

 

「俺か? まぁ俺もお前と同じってとこだな」

 

「なんだ、雄二も決めていないじゃん」

 

思わず雄二の返答にガクッとなった。

 

「とにかく、何かあったら連絡してくれ。こっちはするつもりだから、しっかり見とけよ」

 

「うん、そうするよ」

 

僕と雄二はスマートフォンのアプリLI●Eで連絡を取り合っている。

 

雄二も親にスマートフォンを買って貰ったそうで、今ではお互いにL●NEでやり取りすることが多い。

 

L●NEは関わりのある者同士が簡単にメッセージを送ることの出来る通信アプリだ。

毎回この便利なアプリには、大変お世話になっている。

 

「あぁ……でも、今年は不安しかないや……こんな身体で夏休みに突入するなんて……」

 

「そんなことで心配するなよ。もっと楽しいこと考えろよな」

 

まったくとばかりに雄二は僕をなだめる。

 

「あのさぁ……そんなことでって軽々しく言ってるけど、僕にとっては由々しき事態なんだよ!? 素直に楽しんでいられる場合じゃ――」

 

「そんなこと知るかよ。夏休みなんだから、嫌なこと忘れて気楽に楽しもうぜ」

 

「うぐっ!?」

 

雄二が僕の首に腕を回す。

 

ごつい腕で首を絞められて、少し苦しかった。

 

「いつまでも女になったこと引きずってないで、もっと楽しめること考えろよ、な?」

 

悩んでいる暇があるなら楽しむことを考えろ。

雄二はそう言いたかったのだろう。

 

「…………うん、ありがと」

 

雄二なりの心遣いに小声で少し感謝。

 

ほんのたまにだけど、雄二っていいとこだけはあるんだよな。

他がすべてよければいいのに……。

 

「そんじゃ、何かあったら連絡しろよな」

 

雄二は僕の首に回していた腕を緩めると、自分の席に戻った。

 

…………今年の夏休みこそはと思ってたけど、大丈夫かな。

 

肘を付いて、僕は窓から見える夏の空を見上げた。

 

女の子になったまま迎えることになった夏休み。

果たして、今年はどうなるんだろう。




次回から夏休み編に入ります!!

お伝えしていませんでしたが
活動報告にて皆様の意見を待っています。
1人でも多くの意見をお聞かせください!


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夏休み編
13話 夏休み始まる


さぁ夏休み編に突入しましたよ!!
意見も沢山貰って何とか頑張れそうです!
意見をいただいた方には感謝しています!<(_ _*)> アリガトォ

今回は駄文にならないよね……?(´・ω・`)












アキside

 

 

暑い日差しが差し込んでくる夏。

外では長年の時を地中の中で暮らして、やっとの思いでそこから出てきた蝉がいい迷惑なほどうるさく鳴いている。

 

「……あ、被弾した……今日は不調だな……」

 

一方、僕はクーラーの効いた部屋でゲームをするという、夏休みの初日から自堕落な生活を送っていた。

 

ゲームのコントローラーを操作しながら、画面に現れてくる敵を一掃していく。

 

「よし、これでミッションクr――――」

 

『大群が来たぞー!!』

 

画面の中のNPC隊員が叫んだ。

 

「んんっ!?」

 

その後、敵の大群が画面に現れる。

 

「あぁ! 忘れてた! ここのステージは最後に大群がくるんだった……」

 

思わず「しまった」と声が出てしまった。

 

「えぇっと……回復アイテムは……もう、なんでこんな時に限って武器とアーマーばっかりなんだ!」

 

ここぞという時に限って都合が悪い。

だが、それがゲームの醍醐味みたいなものだろう。

 

「とにかく回復を!」

 

僕はコントローラーをガチャガチャと操作しながら必死に操作キャラを回復アイテムのある場所へ導いていく。

 

「……あぁ……死んじゃった……」

 

しかし、惜しくも回復アイテム寸前で操作キャラのアーマーが0になり、MISSION FAILEDと画面に表示される。

 

「うーん……武器を変更して再挑戦するか……」

 

そう試みたが、

 

「やっぱり、ちょっと疲れたから休憩……」

 

長時間テレビの画面を見続けたせいなのか、またはずっと同じ体勢だったせいか、

身体に疲れを感じたので、休憩することにした。

 

疲れた身体を和らげるように背伸びをする。

 

「んんっー! はぁ……夏休み早々、暇だなぁ……」

 

夏休みの初日から僕は暇人になっていた。

 

何もすることがないし、特にやりたいこともない。

 

ん? 夏休みの宿題? 何それ? 食べられるの?

 

「夏休みの宿題と課題は置いといて…………なんか、面白いこと起きないかな……」

 

だらしない独り言をつぶやきながら、僕は無意識にスマートフォンの電源を入れて、ネットのニュースを見ていた。

 

ゲームの疲れを休憩する時間なのに、スマートフォンを扱うのは逆効果かもしれないが……それは一応、休憩という名目ということで気にしないでおこう。

 

画面をスライドして、記事を眺めていっては、気になる情報を調べ上げていく。

 

インターネットのニュースはテレビのニュースや新聞とは違い、ジャンルが豊富で最新の情報が取り入れられる。

 

「ん? なんだこれ?」

 

適当に話題のニュースの中に気になる記事が目に止まった。

 

「『文月学園で謎の美少女現る』……なんだこれ?」

 

この記事はなんだ?

 

「文月学園」という自分の通っている学校のキーワードだけでも気になるところだが、

「美少女現る」という題名が一番気になった。

 

美少女って……どんな人なのだろうか……。

確かに自分の学校では美男美女はそろってはいるが、そうだとしてもニュースに取り上げられるほどのことなのだろうか……?

 

美少女という理由だけでニュース記事に取り上げられるのは、信じ難かったが、

とにかく気になったので、その記事の内容を見ることにした。

 

「お、写真がある」

 

ほとんどのニュースには写真や挿絵が掲載されている。

写真を見ればすぐに誰だか分かってしまう。

 

果たして、どんな子が写っているのだろうか。

 

内心、ドキドキしながら記事に載っている写真を見る。

 

低身長で少し小さめの身体。

制服の上からでも分かるほど自己主張の激しい胸。

髪は腰の辺りまで伸びており、顔はまるで僕の面影があるような――――。

 

「ってこれ僕じゃないかー!」

 

一瞬、目を疑ったのだが、どこからどう見ても写真に写っているのは、現在女の子になっている僕の姿じゃないか!

 

なぜ僕が写っているんだ?

え? もしかして美少女って僕のこと?

 

そんな馬鹿な……と思いつつ、下に画面をスライドしていくと、コメントが沢山書き込まれていた。

 

「自分のことを書き込まれているんだよね……? 大丈夫かな……」

 

恐る恐る指を震わせながら、コメントを見てみた。

 

「こ、これは人類の奇跡だ!」

 

「あぁ~たまらねぇぜ」

 

「何この娘!? お人形さんみたい!」

 

「やりますねぇ!」

 

「どうしよう……私、女の子に恋しちゃったかも……」

 

「この娘の名前は? 誰か教えてクレメンス」

 

「特定あくしろよ」

 

おい最後の人、それは問題発言だよ。

 

見た感じ、コメント欄はすごく荒れている様子だ。

 

なんで僕なんかの話題でここまで荒れているんだ……最近の世間は狭くなってしまったのかな……。

 

にしても、誰がこの写真を載せたんだ?

この記事を書いた人もそうだが、いったい誰が何の目的で流したのだろう?

そして、この写真は誰が撮ったんだ?

 

思ったんだけど、僕の許可もなしに載せるって、犯罪なんじゃ……?

 

僕は夏休み早々、かなり重要(?)な疑問を抱えていた。

 

だめだ……分からん。

もう、この記事は見なかったことにしよう……。

 

これ以上見てしまったらきっと後悔する…………僕はそっと、そのサイトを閉じた。

と同時に、スマートフォンから着信音がなり、ブーッブーッと振動する。

 

「なんだよ、このタイミングで……」

 

相手は……雄二だ。

 

僕は電話に出るアイコンをタッチしてスライドさせて電話にでた。

 

「はい、はーい雄二。夏休みの初日から何か用?」

 

「よう明久。今、何やってるんだ?」

 

「今? 家にいるけど」

 

「そうか……ってことは暇なんだな?」

 

なんで「暇」を強調して言うのだろうか。

 

「家にいるからって暇という訳では…………まぁ暇だけど」

 

「そうか、なら今からすぐに俺の家に来てくれ」

 

「雄二の家に? なんでいきなり?」

 

「ああ、それは後で話す。だから、さっさと来いよ」 

 

何か言おうとしたが、言葉が口から出るよりも先に雄二に電話を切られてしまった。

 

まったく相手の言い分も最後まで聞いてあげてなよ……。

 

半ば無理やりな雄二の命令にため息をつく。

 

こんな暑い外を歩いていくのか……。

暑いしなにより面倒だ……嘘でも暇じゃないと言っておけばよかったかもしれない。

 

でも、結局行くことにした。




結局駄文になってしまったよ。(´・ω・`)

夏休み編の最初だと言うのに
夏休み感がゼロです……。

と、とにかく次回はもうちょっとマシな文を書くので
次回も楽しみにしてくれると嬉しいです!!

まだ皆様の意見は受け付けているので
意見をお聞かせください。((ノ(_ _ ノ)ヨロシクオネガイシマス



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14話 夏休み計画

早めの投稿できました!
これも皆様のネタ提供のおかげです!!
いつもいつも本当にお世話になっています!(´▽`*)/♪アリガトウ

それではどうぞ~。


アキside

 

 

雄二から呼ばれて今は雄二の家の前にいる。

 

「えっと……入っていいよ……ね」

 

ここに来ることは初めてではないのだが、ちょっと変な緊張感があって入りにくい。

 

男の家に入るのがこんなにも緊張するものだっただろうか。

 

「おじゃまします……」

 

ドアを開けてゆっくり玄関に入る。

雄二の家は依然と変わらず、自分の家とは全く違う雰囲気が漂っている。

 

「お、来たか明久。とりあえず、上がってくれ」

 

二階の階段から雄二が降りて来た。

 

「ん、じゃあ、改めておじゃまするよ」

 

靴を脱いで、雄二の家に足を踏み入れる。

 

「ところで、どうして急に呼び出したの? 前もって連絡すればいいのに……」

 

あまりに急だったもので、少し急ぎ足で来てしまった。

 

おかげ様で、僕の身体は汗でべったりとしてしまっている。

 

「それはすまん。とにかく二階に来てくれ。ついでにこれを使え」

 

雄二からハンドタオルを受け取る。

 

「うん、ありがと」

 

雄二の後をついていくように、受け取ったハンドタオルで汗を拭いつつ、玄関のすぐそばにある階段を上がって行く。

二階に着いて奥へと進む。

 

「俺の部屋だ入ってくれ」

 

部屋の扉を開ける雄二。

 

「遅かったじゃないアキ」

 

「ようやく来たのじゃ」

 

「……来たか」

 

「こんにちは、アキちゃん」

 

「あれ? みんなも来ていたんだ」

 

そこには美波、秀吉、ムッツリーニ、姫路さんがいた。

 

みんなも僕と同じく雄二に呼ばれたのだろうか?

 

「ああ、いつもの面子も呼んでいた。全員揃わないと話にならないからな」

 

みんながここにいるということは、雄二は僕にだけ前もって連絡を入れていないのか……? と言いたくなるが、今は言わないでおこう。

 

もし、そうだったとしても、さっきここに来る途中の暑さで怒る気力がないし。

 

「話にならないって、それ以前になんで僕たちをここに呼んだのさ」

 

夏休みの初日にいつもの全員を呼んで、雄二はいったい何を始める気なんだ?

 

「今からこのメンバーで夏休み計画を立てたいと思う」

 

「つまり、夏休みどこに遊びに行くかとかを考えろってこと?」

 

「そうだ、せっかくの長い休みなんだ。楽しまなきゃ損だろ?」

 

雄二の言葉に一同はうなずいた。

 

長い休みを有意義な時間にしたいというのは学生である僕たちにとって、切実な思いだ。

 

「それはそうと、いったい何をするのじゃ?」

 

首をかしげる秀吉。

 

「だからそれを今から考えて計画を立てるんだ。誰か夏休みにやりたいことはないか?」

 

雄二の唐突に出されたお題に、僕らは頭を抱える。

 

いきなり集められた挙句、唐突に夏休みに何がしたいかと聞かれてすぐに答えるなんて

難しいことを強要してくるなぁ雄二は……。

 

「私は海がいいですね」

 

「ウチは夏祭りかしら」

 

姫路さんは海で、美波は夏祭り。

 

夏の王道イベントなので、出ることは大体予想できていた。

 

「海に夏祭りか……なるほど。確かにこれは外せないよな……」

 

雄二がペンと手帳らしきものでメモを取っている。

 

こういった計画的な雄二の光景は珍しかったりする。

 

「よし、他にはないか?」

 

また雄二が全員に聞いてくる。

 

「……昆虫採集」

 

昆虫採集?

ムッツリーニにしてはまともな意見……いや、海に行って水着の女性の撮影とか、

夏祭りで浴衣の女性を盗撮etc……を姫路さんと美波より先に言おうとしていたのか、

下心もなく純粋にやりたがっているのか……。

 

「昆虫採集って虫捕りのことか? なぜいい歳こいてなんでそんなものを……」

 

雄二は抵抗を感じている様子。

 

それは僕も少し同意かな。

今時の高校生がそんなことするのは気が引けるような気もする。

 

「……何を言っている……! 自然と触れ合う機会も必要不可欠……!」

 

「お前、なんか必死だな……どうしたんだ? らしくないぞ」

 

いつもとは違う雰囲気のムッツリーニに困惑している雄二。

 

そこまで昆虫採集に対してムッツリーニには思い入れがあるのだろうか?

 

理由はよく分からないが、さっきまで海で水着の女性を撮影だの夏祭りで浴衣の女性を盗撮などと疑っていた自分を恥じた。

 

いつものこととはいえ、ごめんよ、ムッツリーニ。

 

「まぁよいのではないか。これも夏にしかできぬことじゃし、わしは悪くないと思うのじゃ」

 

秀吉は賛成のようだ。

 

「別に構わないけど……ウチ、虫は苦手なのよね……」

 

「私も苦手です……でも、みなさんと行くなら、どこでもいいですよ」

 

美波と姫路さんも渋々、賛成。

 

「僕はいいかなと思う」

 

気が引けるとか思っていたものの、ムッツリーニがあれだけ純粋にやりたそうにしている姿を見せられたら反対という訳にもいかないので、賛成。

 

「そんじゃ、昆虫採集……っと」

 

また手帳らしきものにペンを進めながら書き加えていく雄二。

 

「ところで、雄二。海とか夏祭りとか昆虫採集はいつ行くつもり?」

 

大体、候補が挙げられたところで次はいつそれを実行するかが問題だ。

 

「んー……一番先にできそうなことは、海へ行くことになるな」

 

「そっかぁ。海ね、海……」

 

真夏の空に青い海の景色を思い浮かべる。

 

海に行って、水着を着て泳いで……ん? 水着?

 

「あ、そういえば僕、水着持ってなかったよ……」

 

重要なことを忘れていた。

僕は女子の水着を持っていないのだ。

 

そりゃそうだ、今まで男だったのだから、女子の水着を持っていたらただの変態じゃないか。

 

悩んでいる僕を見た姫路さんが目を輝かせた。

 

「それなら買いに行きましょうアキちゃん!」

 

「え、なんで?」

 

「アキちゃんの水着姿が見たいからです!」

 

「で、でもいきなり買いに行くのはちょっと……」

 

水着を買うとなるといろいろ手間が掛かりそうだし。

それに今更だけど、この身体で水着を着るのはちょっと恥ずかしい気もする。

 

「いいじゃねぇか。買いに行かねぇと話が始まらん」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

「そうよ、なんならウチも買いに行くのに付いて行ってあげる」

 

美波まで……。

 

「……俺も行くぞ……!」

 

「あ、ムッツリーニは来なくて結構」

 

「……馬鹿な……!?」

 

馬鹿な、じゃないよ!

まったく、便乗して行けるとでも思ったのか……。

 

「という訳で、お前は明日、姫路と島田で水着を買って来い。じゃないと海に行こうにも行けないからな」

 

「わ、分かったよ……」

 

分かりましたもう買いに行きます。

ちゃんとした格好で行きますよ。

 

僕は肩を落として投げやりな思考に陥っていた。

 

「そうと決まれば、明日水着を買いに行きましょう♪」

 

急に姫路さんはとてもご機嫌になる。

 

「アキちゃんに似合う水着は……ワンピース……それともビキニですかね……」

 

ボソボソと考え始めたのだが、姫路さんは海が楽しみなのだろうか。

意外とアウトドア気質なのかな?

 

それにしても、僕は女子の水着を着ることになるのか……。

ああ……こんなにも元の姿に戻りたいと思った出来事を夏休み早々味わうことに……。

 

僕は夏休みの初日にガクリと、うなだれてしまった。

幸先が不安でしかない。




できた~。(´・ω・`)~♪

次回はアキちゃんの水着選びですよ!
アキちゃんはいったいどんな水着を選ぶのでしょうか!?

想像しただけで……あれ? ケチャップでてきちゃったよ?


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15話 ショッピングモールにて

お気に入り件数200件突破!!

( ゚д゚)…………エ!?

(ノ゚ロ゚)エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!??

いつの間に!?

いや~まだ16回目の投稿なのに
お気に入り件数が200件になるとは思っていませんでした……。

半分は嬉しさでもう半分は驚きの作者です(´・ω・`)/
読者や感想を送ってくれた方、アドバイスや指摘をしてくださった方々には
言葉にできないほど感謝しています!

さぁ今回もこの場を借りて

シバッ☆ヾ(・_・。)ミ★(*^-゚)vババババッ!!
v(^_^v)♪ありがと~♪(v^_^)v

今回も感謝は伝わっているかな……?

それではどうぞ


アキside

 

 

よく晴れた翌朝のこと。

 

僕たちは夏の思い出作りをしようと、最初は海に行くことになったのだが、

僕一人が海に行く際には一番の必需品である女の子の水着を持っていなかった。

 

という訳で、現在はとある大型ショッピングモールに来ている。

 

ここへ来る時間と待ち合わせ場所を決めていたんだけど、

姫路さんと美波はなんと、1時間も前から来ていた。

 

「お待たせ……ずいぶんと早いんだね……」

 

時間に厳しそうな2人だが、1時間も前は流石に早すぎると思った。

 

「はい! アキちゃんが水着を選ぶから、いてもたってもいられなかったので」

 

「いや、そんなに重要なイベントではないと思うんだけど……」

 

1時間も待たせたのは悪いとは思うが、約束の時間より何時間も前に来る必要はないだろう。

 

「いいえ、水着選びは女子にとって重要なイベントよ。私と瑞希がたっぷりと時間をかけて選んであげるわ」

 

「覚悟してくださいね! アキちゃん!」

 

2人の表情を見る限り、僕の水着選びに相当力を入れるつもりなようだ。

 

「う、うん……よろしく。美波、姫路さん」

 

それはとても心強いし、何よりありがたいのだが、逆にそれが不安な気もする。

 

女の子の服装にはもう慣れたとこなんだけど、女の子の水着はさすがに着たことがない。

 

水着を選ぶ、ただそれだけのことなのに、水着売り場に行く最中は不安と緊張しかなかった。

 

 

 

 

お店に着くと、そこには沢山の水着が並んでいる。

 

女性用の水着コーナーには、男が絶対に着ることのない形をした数々の水着。

 

この中から選ぶということを考えると、ますます緊張するし、恥ずかしい。

 

さて、改めてこの中から姫路さんと美波が選ぶのだが、

 

「あのさ……2人とも、カゴに入れすぎだよ……」

 

あぁ……もう、そんなに着る気はないし、着る機会がないから。

1着か2着あれば十分だから。

 

「アキちゃんこれはどうですか?」

 

水着がかけてあるハンガーを持ちながら僕にそれを見せる。

 

「そ、それはやめて! そんなの紐じゃん!」

 

多分、恥ずかしくて僕は顔が真っ赤になっているかもしれない。

 

姫路さんがすすめたのは、明らかに面積が紐に等しいほどの水着だった。

 

これを着るのは露出狂も顔負けするくらいの変態でしかない。

 

「じゃあ、これは?」

 

続けて、美波もすすめてくる。

 

「なんでスク水なの!? どうして、ここにそんなものがあるの!?」

 

美波が出したのは紺色のスクール水着だった。

 

ここは水着売り場だからというものの、なんでそんなものがここにあるんだ……。

 

「アキちゃん、次はこれなんてどうですか?」

 

またまた姫路さんは水着を手にして僕に見せる。

 

「……ねぇ、さっき言ったこと覚えてる?」

 

姫路さんの手にあったのはV字紐の水着。

 

先程の言葉は姫路さんには届かなかった……というより、なぜ姫路さんはさっきから危ない路線の水着をすすめてくるのだろうか。

 

「そこまで言うなら、これでどうなの?」

 

また美波が僕に水着を見せる……じゃなくて次は押し付けてきた。

 

押し付けてきたということは、そんなに着て欲しいものだろうか?

 

「今度こそはまともな水………………」

 

着という言葉がでる寸前で僕は固まった。

 

美波がすすめてきた水着:ボクサーパンツの水着(もちろん男性用)

 

「…………真面目に選ぶ気……ある?」

 

美波はもう選ぶのがめんどくさくなってしまったのだろうか……。

2人の選ぶ水着は予想の斜め上を行きすぎて追いつけない。

 

選んでもらっている立場で言うのもあれだけど……お願いだからまともな水着選んで。

 

「それなら、アキちゃんは何がいいんですか?」

 

「僕が?」

 

僕が選んでしまっては、2人に手伝ってもらう意味がなくなりそうだけど……。

まぁいいか。僕が選んで、その水着を2人に確認してもらおう。

 

沢山並んでいる水着を商品棚の端から端へと目をやる。

 

一通り確認してみたが、何にすればいいか分からず、迷うばかり。

 

価格や性能などを見ればいいのか?

 

それともここは無難に自分に似合うものを……といっても、自分に何が似合うかすらわからないから選びようがない。

 

ん~……とりあえず、これにしようかな。

 

白のワンピースタイプの水着を手に取った。

 

露出度も少なく、清楚感溢れる誰にでも似合いそうなデザインがいいと思ったからだ。

 

「これがいいんだけど……どうかな?」

 

美波と姫路さんに選んだ水着を見せる。

 

「……ダメね、こんなのじゃ」

 

「そうですよねぇ……これは露出度が低すぎます」

 

いい評価をもらえると思った矢先、2人のダメ出しをくらう。

 

「えぇ……? なんで?」

 

「考えてみたんだけど……アキには露出度の低いワンピースの水着とか似合わないのよね……そんなんじゃ男に見られて恥ずかしいわよ?」

 

「いや、美波。僕は男に見せるために選んだ訳でもないし、まず見せる相手もいないから」

 

美波の評価基準がズレているのではないかと疑った。

 

しかし、美波だけでなく姫路さんも

 

「私も最初はいいと思ったんですけど、やっぱりアキちゃんにはビキニが似合うんじゃないかなって、思うんです」

 

「うえぇ……ビキニとか恥ずかしいんだけど……」

 

なぜかここでも露出の高い水着をすすめられる。

 

なので、違う水着を選ぶことにした。

 

あの水着にすると自分の意見を押し通したかったが、2人にダメ出しをくらったようじゃ、買う気になれなかった。

 

大人しくすすめられた通り、ビキニタイプの水着の中から自分に合いそうなものを探す。

 

当たり前のことだが、どれも露出度が高いというかエロいというか……。

着て恥ずかしいものばかりだった。

 

やっぱり、消去法でいくと……これかな?

 

僕が選んだ水着は黒のホルターネックのビキニ。

上は三角ビキニ、そして下は紐パン。

 

少し派手な気もするけど、これが中でも一番マシだったんだよ?

これにするしかなかったんだよ?

 

「こ、これで……どうでしょうか……」

 

これでダメ出しをもらえば、もう後がない。

 

おずおずと選んだ水着を2人に見てもらう。

 

「うーん、アキにしてはなかなかいいもの選んだんじゃない?」

 

「私はこれがいいと思います!」

 

なんと、2人には好評だった。

 

「よかった……」と僕はホッと胸を撫で下ろす。

 

「それなら後はサイズが合うかどうか試着ね。ほら試着室に入って」

 

美波に背中を押されるように試着室へと入る。

 

えっと……どうやって着ればいいのかな……。

 

試着室に入って早々、水着の着方がまったく分からず、頭を抱えていた。

 

服を脱いで、僕は下着を着る時のように水着を着てみるが、構造が下着と水着では違うので、手間取りっぱなしだ。

 

「アキ、遅いわよ」

 

「まだですか? アキちゃん」

 

試着室の外から、2人の急かす声が聞こえてきた。

 

ええい、こっちの事情も察して欲しいものだ。

 

そして、やっとの思いで、着替えることが完了したのだが、

 

この格好で出るんだよね……? うぅ……恥ずかしい……。

 

着てみて思ったことは……エロい。

僕の大きな胸を支えている水着は、支えることで精一杯なご様子。

下手に動くとポロリ……なんてことも考えられなくはない。

 

背中も足も丸出しで、着心地が悪いということではないが、

なんか、こう…………変な心地だった。

 

外では美波と姫路さん以外にも客や定員までもがいるので、この姿を晒す行為ができず、その場に踏みとどまった。

 

「ねぇ……この姿で出るの恥ずかしいんだけど……」

 

試着室のカーテンを少し開けて、その隙間から顔をひょこっと出す。

 

「もう、何寝ぼけたこと言ってるのよ。海に行ったら嫌でも見られるじゃない」

 

「恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ」

 

「で、でも……」

 

「あぁ~もう! さっさと出てきなさいよ!」

 

美波はガシッと試着室のカーテンを掴んで、強引に開ける。

 

「あっ……」

 

開けた瞬間、水着姿の僕が周囲の視界に晒される。

 

すると、2人と周りが突然どよめき始めた。

 

「アキのくせに……で、でも、予想以上にかわいい!///」

 

「アキちゃん、そ、それは反則です……///」

 

2人はいったい、どうしたのだろうか……。

 

「何あの娘……!?」

 

「胸……凄くない!?」

 

「もしかして、モデルさん?」

 

「やべぇ……鼻血出そう」

 

「え、エロい……」

 

周りの人からの視線がものすごく痛いというか、恥ずかしかった。

 

思わず僕は胸を腕で隠そうとしたが、僕の大きな胸は隠すことは不可能だった。

 

(恥ずかしがる姿が更にいいわね……)

 

(顔を真っ赤にさせてて、微笑ましい光景ですね)

 

「ううぅ……どこか、おかしいところでもあるのかなぁ……?」

 

こちらを見つめる2人にを見て不安になった。

 

「悔しいけど……似合っているわ。それで決まりよ」

 

「すっごく似合っています! 絶対にそれがいいです!」

 

「そう……? なら、これにしようかな」

 

2人に後押しされて、買うこと決意した。

僕は試着室のカーテンを閉めて、元の服に着替える。

 

「そ、それじゃ買ってくるね」

 

着替え終わった僕はすぐに着替えてレジに向かった。

 

うわぁ……水着って結構高いんだ……。

 

下着とあまり変わらない気がするんだけど……。

 

夏休み早々、痛い出費をくらうことになる僕だった。




キリが悪いのでここまでです!
ちょっと今まで書いた文を見返したのですが
やっぱり下手でしたね…。かなり恥ずかしいです。(´・ω・`)しょぼーん

お気に入りにしてくれた方や、見てくれた方々、
こんなに下手な文章に付き合っていただきありがとうございます!!

下手ながらもがんばって投稿続けますので
どうか、ご指摘や感想、アドバイスなどよろしくお願いします!!ノ(_ _ ノ)ヨロシクオネガイシマス




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16話 海へ行く1

今回は危険描写があるので
苦手な方は見てください。←(´・ω・ `)は?

それではどうぞ


sideアキ

 

 

水着を買った翌日の今日。

 

僕と雄二、秀吉、ムッツリーニ、美波、姫路さん、霧島さん、工藤さん、木下さん、久保くん、清水さんの11人というなんとも大人数のメンバーで海に行くことになった。

 

いつもの6人メンバーで行くつもりだったけど、霧島さんも加わって、そこから思い切ってAクラスのメンバーも誘うことにした。

 

なぜ清水さんもいるかって?

清水さんは…………察してください。

 

僕たちは海水浴場行きのバスの中。

こんなにも大人数なので、バスの席半分は僕たちで埋まっている。

 

となりに座っている姫路さんは、まるで子供のようにはしゃいで嬉しそうな様子。

 

「ご機嫌だね、姫路さん」

 

「はい、アキちゃんの水着姿、楽しみです!」

 

姫路さんにしては珍しいけど、そんなに海へ行くのが楽しみだったのだろうか。

 

僕はどこかぎこちない表情で、姫路さんと談笑していた。

 

正直なところ、僕はすごく緊張していた。

もちろん楽しみでもあるけれど、女の子になった今、水着を着るのが恥ずかしかったりする。

 

今朝からずっと、あんな露出の高い姿を人前で晒すことに頭を悩まされていた。

 

ショッピングモールでは少しばかり人に見られてはいたが、海となれば大勢の人に見られるだろう。

 

あぁ……男の時は見られても全然平気だったのに……女の子が見られるのを嫌がっている気持ちがなんとなく分かった気がする……。

 

今になって、もっと露出度の低いものにしておけばよかったと後悔している。

 

自分の意見を押し通すことも大事なんだと気づかされた。

水着選びなんかでね……。

 

 

 

 

さて、いざ海へ。

 

バスから降りると改めて海に来たという実感が持てた。

 

眩しい太陽、快晴の空、日光を反射してギラギラ光る海。

 

ここで今日僕たちは夏休みのイベントを満喫するのだ。

 

浜辺を見ると海水浴客もいたのだが、まだ7月の後半なので思ったほど多くはなかった。

 

それを見て、あまり自分の水着姿を見られることはないだろうと、内心ホッとした。

 

「そんじゃ、まずは男女別れて水着に着替えてこい」

 

雄二の一言で、男女別れて海水浴場に設置されてある更衣室に行く。

 

あ、もちろん僕は女子更衣室です。

 

 

 

 

~更衣室~

 

更衣室に入ったものの、僕はなかなか着替えられずにいた。

 

「どうしたの吉井くん? 着替えないの?」

 

横で服を脱ぎながら、木下さんに言われる。

 

「いや……ちょっと……ね」

 

「脱がないなら脱がしちゃえ♪」

 

工藤さんが「ほれほれほれ~」と言いながら、服の裾を掴んで奪い取り、僕の上半身が露になる。

 

「ちょ、ちょっとちょっと!?」

 

「うーん、今日は白の下着かぁ~」

 

僕の下着を観察するかのように見つめる工藤さん。

思わず、サッと腕を胸に回す。

 

「いつまで恥ずかしがってるのよ……そんな調子じゃ、みんな行ってしまうわよ」

 

「う、うん」

 

「早くしなさいよ」と言わんばかりの表情の木下さんに急かされるように、水着へと着替え始める。

 

ちょっとみんな、僕をそんな興味津々な目でみないでよ……。

 

やり難いなと思いつつ、せっせと着替える。

 

これで二度目なので、昨日のように着替えはそこまで手間取らずに済んだ。

 

「着替えたんだけど……どうかな……?」

 

着替え終わりおかしくないかみんなに確認してみた。

 

「グッジョブだよ吉井クン!」

 

「似合っているじゃない(可愛い、抱きつきたい///)」

 

「……すごく綺麗」

 

「いいと思いますよ、お姉さまの次に」

 

みんなは僕の水着姿を見て、次々と称賛の言葉をいただいた。

 

お世辞だとしても、初めての水着披露で不安な状態である僕にとってはそれが救いの言葉だった。

 

「よかった……ありがとう」

 

僕はニコッと微笑むと、みんなは顔を赤くしながら俯く。

 

いったい、みんなはどうしたのだろうか?

 

「それじゃあ、着替えたなら日焼け止め塗るわよ」

 

木下さんがバックから日焼け止めを取り出した。

 

「美春はお姉さまに日焼け止めを塗るのですー!」

 

「コラ、美春! そんなの自分で塗るか…………もう、どさくさに紛れて何すんよ!?」

 

清水さんと美波は海に入る前から楽しそうだ。うん。

 

「吉井クン、ボクが塗ってあげようか?」

 

工藤さんが手をワキワキさせながら近づいてくる。

 

「ちょっと、愛子。吉井くんにちょっかい出さないの」

 

「えぇ~……でも、こういうのはボクが適任だと思うんだけどなぁ」

 

「あんたには一番任せられないわよ……」

 

暴走寸前だった工藤さんを木下さんが止める。

流石の木下さんもやれやれと困っていた。

 

「日焼け止めって塗る必要あるのかなぁ……」

 

「吉井くんみたいな肌だと塗っておかないと、日焼けで荒れるわよ?」

 

なにそれ怖い。

 

木下さんから言われた言葉にゾッとした。

 

真夏の日差しはいろんな意味で侮れなさそうだ。

 

にしても、日焼け止めを塗るか……。

工藤さんや霧島さんに頼むと厄介になりそうだし……美波と清水さんは今は無理そうだし……こうなると、姫路さんと木下さんが残る。

 

この場合、女子のメンバーの中で最も常識人である木下さんにお願いした方がいいね。

 

「あの木下さん……」

 

「どうしたのかしら、吉井くん?」

 

「日焼け止めを僕に塗っt「日焼け止めね、任せなさい」……って反応早くない!?」

 

「ほら、細かいことは気にしないで、後ろ向いて」

 

「う、うん……」

 

最後まで言っていないというのに、なんで察したのだろうか……。

 

いろいろと気になったが、背中を木下さんに向けて塗ってもらう体勢を整える。

 

 

 

side優子

 

 

「じゃあ、塗っていくわよ」

 

「う、うん」

 

アタシは日焼け止めクリームを手に取り、吉井くんの綺麗な背中にすりこむように撫でる。

 

「ひゃ……く、くすぐったい……っ……」

 

背中にアタシの手が触れた瞬間、吉井くんが声を漏らす。

 

ああ、もう……どこまでこの子は可愛いのかしら……。

 

思わず頭がクラッとくる。

平常心と理性を保つのがやっとのことだった。

 

それにしても吉井くんの背中、やわらかいし触ってるだけで気持ちがいいわ……。

 

ただ綺麗なだけではなく、スベスベとした滑らかな手触りに、やわらかい感触。

 

あまりに気持ちのいい感触で、無意識に背中を撫でまわす。

 

「はぁ……あぅ……」

 

あぁ……ただでさえ撫でるだけでも理性が吹き飛びそうなのに、そんなに可愛い声だされたら、頭がおかしくなる。

 

「それじゃあ、次は前ね……」

 

背中の感触を堪能したところで、次は前を塗ろうと試みる。

 

「え……前も? 別にそこまでしなくても……」

 

「いいから、こういう時は遠慮しないで」

 

「う、うん……」

 

本当は前の感触を確かめたくて、やってあげているのは内緒。

 

アタシは後ろから手を伸ばし脇腹などを撫でる。

 

「んっ……はぁ……あ……やぁ…………」

 

撫でる度に、吉井くんの口から甘い声が聞こえて、それがアタシの理性を着々と削っていく。

 

吉井くんの身体やわらかい……。

なんでこんなにやわらかくて気持ちいの……。

 

アタシの理性のライフゲージは既に半分を切っていた。

 

あぁ……さっきから吉井君が可愛い過ぎて、頭が回らない!

 

アタシは頭を振って気を落ち着かせる。

 

はぁ……これくらいでいいかしら。

そして、次は……どこをすれば……?

 

まだ吉井くんに日焼け止めを塗っていない所を探す。

 

……あった……でも……。

 

まだやっていなかったところは吉井くんの自己主張の激しい胸。

後ろから見てもその大きな存在は、はっきりと分かる。

 

ごくり、と喉を鳴らして、日焼け止めクリームのついた手を吉井くんの胸へ動かした。

 

ふにっ

 

や、やわらかい! 何これ!?

 

生まれて初めて味わった感触。

触れている手が気持ちよくなるほどのやわらかさと弾力。

 

もっと確かめたいとばかりに、アタシは吉井くんの胸を撫でる……というか、最早これは撫でるというより、揉んでいた。

 

「ちょっと……木下さん、あぁぅ……んぅ……」

 

だんだんと、吉井くんの胸を揉む手の力が強くなり、乱暴になる。

 

「ひゃ……やぁん……き、木下さん……」

 

「………………」

 

「木下さん……?」

 

ぎゅむ

 

「き、木下さん……!?」

 

アタシは理性を完全に失って、吉井くんを強く抱きしめた。

 

「えっ……あ……あの……」

 

状況がサッパリ分からないとばかりに、吉井くんは固まりながら、アタシに抱かれ続けた。

 

しばらくして、抱きしめている手を緩めた。

 

「あの……どうしたの、木下さん?」

 

「……なんでもないわ」

 

そう言って、アタシは逃げるようにその場去って行った。

 

「なんだったんだ……いったい……」




今回はここまで!
後半ぐだぐだだったなぁ……。

海に入ってないじゃん!

って思うかもしれませんが
それは次回にご期待ください。
あぁ、またタイトル詐欺を繰り返すのか……。



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17話 海へ行く2

今回こそ海に……!!

それではどうぞ


sideアキ

 

着替えも終わった、日焼け止めも塗った。

 

僕たち女子一同は先に着替え終わっているであろう、男性陣の元へと向かう。

途中、太陽光で熱された砂浜で足の裏が焼けそうになる。

 

あっつい! 砂浜ではなく、別の所で合流するべきだったかも……。

 

「おーい、雄二!」

 

「お、明久やっと来たk(ズブっ)ギャー! 目がああぁぁぁ!!」

 

「……雄二は見ちゃ駄目」

 

いつの間にか、僕の後ろにいたはずである霧島さんが、振り向こうとした雄二の目を潰していた。

 

「何しやがる、翔子!?」

 

「…………吉井の姿は雄二に見せられない」

 

「明久ぁ! お前のせいだからなぁぁ!?」

 

えぇ……なんて理不尽な……。

僕はただの傍観者だぞ……。

 

「…………そ、それは犯罪級」(ダバダバダバ)

 

「うわぁ!? 雄二に続いてムッツリーニまで凄いことに!?」

 

ムッツリーニも目どころか、いろんな意味でやられていた。

 

下手したら軽く致死量行きそう……。

丁重に扱わなきゃ生死に関わる問題だよ、これ。

 

「あ、吉井く……ん……」

 

「ん? 久保くん……どうしたの?」

 

今、僕を見た瞬間、目を逸らしたような……。

 

気分でも悪くなったのか……いや、僕の格好がおかしかったり……?

 

「あ、あのー、この水着、変だった……?」

 

「な、何が変だというのかな?」

 

「こういう水着着るの初めてだから、おかしいんじゃないかなって……」

 

「え? いや、よく似合っているよ? 女の子らしくて、可愛いと思う……」

 

「えっ…………あ、ありがとう……///」

 

不覚にも久保くんから言われた言葉にドキッとしてしまった。

 

僕は赤くなった顔を隠すようにそっぽを向いた。

 

なんで可愛いって言われたくらいで、こんなにドキドキしてるんだろう……。

調子狂うな……。

 

「アキちゃんよ、とっても似合っているぞい」

 

秀吉みたいに、女子から言われてもなんともないのはなんでだろうか……。

 

「ありがとう。秀吉も似合っているよ、その水着」

 

「……女性用の水着を着ているワシにその言葉はいらぬぞ」

 

何を言うか、女の子は女性用の水着を着るからこそ似合うんだろうに。

 

「あははっ、吉井クンはモテモテだね」

 

「またまた工藤さん、そんな冗談はいいよ……」

 

「いや吉井くん、愛子の言っていることは本当よ」

 

「えぇ? 木下さんまで……?」

 

なぜ木下さんまでそんなことを?

2人は僕をからかっているんだよね……?

 

「アキ……あんたは神々しく輝いているわ……」

 

方にポンッと手を置かれる。

 

「美波まで……いったい、どうしたの?」

 

「……何でもない」

 

そう言って、美波はその辺に座り込んだ。

どこか、遠くを見るような目で……。

 

ところで、美波は何が言いたかったのだろうか……。

 

「……吉井」

 

「ん? どうしたの霧島さん?」

 

「……少しだけ失礼」

 

ふにゅ

 

「うひゃあ!? ちょっと、霧島さん!?」

 

「……すごい」

 

いきなり、僕の前に立った霧島さんは僕の胸を鷲摑みする。

 

「あ、アキちゃん、私も!」

 

今度は後ろから姫路さんが、僕の腰に手を回す。

 

「ひゃん、姫路さんまで!? さっきから、なんなの?」

 

「……いえ、なんでも……ないです……」

 

姫路さんは暗い声で答えると、美波が座っている場所の隣に座り込んだ。

 

「あ、瑞希……いらしゃい……」

 

「美波ちゃん……海って残酷ですね……」

 

「違うのよ瑞希、残酷なのはきっと神様なのよ……」

 

2人は鬱な表情でどこか遠くを眺めている。

 

さっきまで、上機嫌だった2人はどこへやら……。

 

「元気を出すのじゃ、せっかくの海であろう?」

 

「しっかりしてください! お姉さま!」

 

清水さんは美波の肩を揺さぶって、秀吉が姫路さんの横で、フォローする。

こういう役がいてくれて、助かった。

 

「全員揃ったようだな……うぅ……やっと視力が回復して――」

 

「……雄二は見ちゃ駄目」(ブスッ)

 

「ぐああぁっ! またか!? またなのか!?」

 

あ、またもや雄二が霧島さんに……。

 

雄二も海を楽しめるのだろうか……。

今のところムッツリーニの次に危ない気がする。

 

「くっ……これじゃ俺が損しているだけじゃねぇか……‼ だったら……!」

 

雄二が海に飛び込んで、みんなに向かって水をかける。

 

「うわっ! 何するの雄二!?」

 

「ふん、どうした明久? やっぱ、女になったお前は俺の敵ではないな」

 

「なんだと! 面白い……受けて立つ!」

 

売り言葉に買い言葉。

 

いくら女の子になったからといって、舐めてもらっては困る。

 

僕も海に飛び込んで雄二に水を思いっきりかける。

 

その度に僕の大きな胸がぶるんぶるん揺れる。

 

「……ぐはッ!?」(ブシャーーー!!)

 

どこかで誰かが逝ってしまったような声が聞こえたが、気にしない。

 

「くっ……やるな明久!」

 

「ふふん、僕を誰だと思って……ひゃあ!?」

 

横から工藤さんや霧島さん、木下さんまでもが、僕と雄二めがけて水を浴びせかけてくる。

 

「2人だけじゃつまんないし、ボクも混ぜてよ♪」

 

「……私も」

 

「アタシも参加するわ……ここでも手加減はしないわよ」

 

Aクラスの女子も参戦か……これは乱戦になりそうだ。

 

「私も参加させていただきます」

 

「ウチもやるわ、覚悟してなさい!」

 

「美春もやりますわ! 援護はお任せください!」

 

姫路さんと美波と清水さんのコンビまでも参戦。

 

「よーし、それなら、はぁ!」

 

僕は両手で水をかいて、激しく水をかける。

 

「やれやれ……男は坂本くんだけじゃ荷が重そうだし、僕たちも行くとしようじゃないか」

 

「そうじゃの、ワシらも行くぞい」

 

ここで久保くんと秀吉が乱入。

 

僕たちの水かけ合いのバトルはさらにヒートアップ。

 

どこからともなく水しぶきが飛び交い、容赦なく水が体中にかかる。

でも、真夏の炎天下の中ではとても気持ちがいい。

 

「うわっ!?」

 

僕あまりに夢中だったのか、海中の砂に足を取られてしまい、倒れそうになる。

 

「吉井くん!」

 

横にいた久保くんがとっさに僕へと手を伸ばす。

なんとか間に合ったが、僕は久保くんと抱き合うような格好になっていた。

 

「よ、吉井くん、大丈夫……?」

 

「え……あっ……うん///」

 

顔が至近距離というくらいに近づいており、お互いを見つめ合うその状態が少しの間続いた。

 

「おらおら、さっきまでの勢いはどうしたぁ!?」

 

雄二に横から容赦なく水をかけられて、我に返った僕と久保くんはまた、水のかけ合いを再開。

 

女の子になったことを忘れて思いっきり楽しむことができたんだけど、不思議なことに僕はモヤモヤした気持ちでいっぱいだった。




できた……。(´・ω・ `)


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18話 ミスコンに出場する!?

更新少し遅くなりました
すみません! (≧≦) ゴメンヨー

いやー結構忙しかったんですよ。(言い訳タイム)
夏休みが終わってドタバタしてて……。

う~ん定期的に更新できたらいいんですけど……。
まぁ学校とかで忙しくなる時があるので
更新は不定期です。すみません……。


sideアキ

 

「なんでこんなことに……」

 

今となっては現在のことだが、とあるミスコン会場にいました。

 

ど う し て こ う な っ た ?

 

僕は心の中で叫んだ。

 

それは1時間ほど遡る。

 

 

 

 

ひときしり楽しんだ後、僕たちは浜辺に上がって一休みしていた。

 

「疲れたー……でも、楽しかった」

 

「そうだな……なんだかんだで、お前が一番はしゃいでたな」

 

タオルで身体を拭いている雄二、は僕を見て苦笑していた。

 

「ははっ……遊びも全力でやるのが僕の主義だからね! にしても、ここに来てよかったな~」

 

「当たり前だ。何せ、俺が考えた計画だからな」

 

「まぁ、確かにそうかも」

 

水のかけ合いは計画には載っていなかったけど、楽しかったからよしとしよう。

 

「……ん?」

 

「どうしたの雄二?」

 

何かに気づいたように雄二が反応している。

 

「これ見てみろよ」

 

雄二が近くの海の家に貼ってあるポスターを見せる。

 

「えーと、『第12回ミスコンテスト! 真夏の美人見つけ出せ!』……何かのイベント

みたいだね」

 

「しかも、開催日が今日みたいだ……面白そうだな」

 

ミスコンテストってよく聞くけど、生では見たことないな……。

ちょっと興味あるかも。

 

ポスターを見ながら関心している僕と雄二。

 

「へぇ~、面白そうだね。ボク、ミスコン見たことないな~」

 

工藤さんまで食い付いてきた。

ミスコンテストを見た経験がないというのは少し意外だった。

 

「しかも、出場は全員水着なのね」

 

「……撮影チャンス」

 

木下さんがポスターの内容を読み上げると、ムッツリーニが持参したカメラを取り出した。

 

一眼レフに……ビデオカメラまで……どこまで撮影する気なのやら……。

 

「しかも、エントリーは当日で……いまから参加できるみたいだな……誰か出たらどうだ?」

 

雄二が女子全員に冗談めかすように笑う。

 

「これはお姉さまが出場したら間違いなく1位ですよ! お姉さま、エントリーするにはまだ遅くないですわ!」

 

清水さんが美波の手を掴んで、連れて行こうとしていた。

 

「ウチは出ないわよ! 代わりにアキが出るのよ」

 

「美波……そういうことはあんまり言わない方が……」

 

冗談でもなさそうなので、美波を止める僕。

 

「そうです! アキちゃんが出るんです!」

 

姫路さんも、便乗しないの。

 

「そうね、吉井くんが出た方がいいわね」

 

ん……んんっ? 木下さん……?

 

「姉上の言う通りじゃな」

 

姉に続いて、弟である秀吉まで……。

 

「ボクもそう思うよ~♪」

 

「僕も吉井くんが適任だと思うよ」

 

「……私も」

 

工藤さん、久保くん、霧島さんまでも……ちょっと、みんな……どうしちゃったの?

 

「ちょっと待って! これじゃ、僕が出る流れになっていない?」

 

「「「え?」」」

 

「…………え!?」

 

なに? もしかして、今のやり取りで既に僕が出ることは決まっているの!?

無理だよ!? いくらなんでもそれは無理だからね!

 

「あのさ……念のために言っておくけど……僕は出ないからね?」

 

「「「それはダメ」」」

 

断りの言葉を入れると、みんなからそのまま断りの言葉が返ってきた。

 

ううぅ、みんな怖いよ……。

 

「アキちゃん、私とみんなは期待しているのですよ! その期待をないがしろにするんですか?」

 

姫路さんが顔を近づけてくr……近いよ! 姫路さん。

 

「いや、変な期待されても困るからね!?」

 

みんなはいったい、僕にどんな期待をしているというのだろうか。

 

まずい予感がしたので、みんなから後ずさる。

 

「逃げてはダメよ吉井くん」

 

木下さんが後ろから腕を掴んできた。

 

「え!? ちょっと木下さん!? いつもは止めてくれる立場なのに!?」

 

「ごめんね吉井くん……でも、アタシはどうしても吉井くんに出場してもらいたいの」

 

「待って待って! ちょっ、いやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

そのまま僕はミスコン会場まで連行され、今に至る。

 

「あぁ……こうなるんだったら、露出の低い水着にしておけばよかった……」

 

水着で出場することが出場条件なので手っ取り早く、今着ている水着で出場することになったのだが……。

 

よく考えると、今僕が着ている水着は女の子っぽいし……。

ビキニだから当たり前だけど。

 

露出が高い気がする……。

ビキニだから当たり前だけど。

 

こんな水着を買ってしまったことをまたも後悔していた。

 

ああ、僕は大勢の人の前で露出の高い水着姿を晒すことに……。

 

思わず、泣きそうになりながら辺りを見回す。

 

当然のように、今回出場する女性が勢ぞろい……。

 

はぁ……僕なんてレベルが違い過ぎて、即落とされそうなのに……。

なんで、こんな勝負事に挑まなければいけないんだ……。

 

更に自信もなくなり、今からでもエントリーを取り消せるのではないかと、考えていた矢先、

 

「それでは今から予選が始まります。出場者の方々はステージの裏まで、お集まりください」

 

係員の人の呼びかけが掛かる。

 

なんてタイミングの悪さだこと……。

 

緊張しながらも、出場する女性の方々と並んで歩いて、会場の裏まで向かう。

 

ここから僕の公開処刑の幕開けだった。

 

 

 

 

「それでは、『第12回ミスコンテスト! 真夏の美人を見つけ出せ!』を開催致します!!」

 

会場と近くの浜辺にノリノリのアナウンスが響き渡る。

それに釣られるかのように、会場にいる観客も盛り上がる。

 

さっきまで海水浴客はあまりいなかったのに、大勢の客で賑わっているのは何でだろう?

 

 

「このコンテストは審査員の厳しい審査で予選を勝ち進み、最後は審査員の方と観客の皆様の投票によって、今年1番の真夏の美女を決めようというものです!」

 

へー、第12回ってことはそんなコンテストが12年も続いているんだ……。

 

「それでは今年のミスコンテストの参加者は……なんと52名!

この中から決勝に進むことができるのは5名となります!」

 

5名……まぁ勝ち進めるわけもないし、これ以上出場する機会を作りたくない僕にとっては関係ないけどね……。

 

「それでは1番の方から、お名前をお願いします!」

 

「はい、沖縄から来ました有野真矢です。よろしくお願いします」

 

「わざわざ沖縄からお越しになられたのですか?」

 

「はい、旅行で来ました」

 

「旅行ですか~、羨ましいですね~、それでは自己紹介やアピールを」

 

「はい、私は――――」

 

最初の人にマイクが渡され、ついに予選が始まった。

始まったと同時に僕の緊張もさっきより増してきた気がする。

 

落ち着くんだ僕。

えーと、まず自然に振舞ってさっさと終わらせることだ。

可愛すぎるのもダメだし、男らしくしていてもダメだ。

 

変な話題を振ったりするのもダメだ。

下手するといろいろと大変だ。

 

「ありがとうございました! では次の5番の方、お名前を」

 

って考え込んでいる内に僕の番が来てしまった!

5番って……なんでよりによって初手に近い数字になってしまったんだろうか……。

 

とにかく、答えるだけ答えてさっさと終わらせよう。

 

「は、はい、吉井アキです。よろしくお願いしましゅ……あ!」

 

冷静にやろうと考えこみすぎたのが仇となり、噛んでしまった。

 

「「「おおおおおおおおおお!!」」」

 

「がんばれー!」

 

「かわいいよー!!」

 

会場からは笑い声交じりの声援が送られる……。

 

いきなり噛んでしまった……。

ああ、恥ずかしい、死にたい……。

 

「おやおや、緊張しているようですな~」

 

アナウンサーもこれには笑いを隠せない。

 

「それでは改めまして、自己紹介やアピールすることはなんでしょうか?」

 

自己紹介とアピール……。

う~ん、どんなことを言ったらいいんだ……。

 

「ごめんなさい……何を言ったらいいか分かりません…………」

 

ここは正直になろう。

下手に嘘はつけないし。

 

「おや? 思いつきませんか? それなら審査員のお方、何か質問はありますか?」

 

続いて、審査員にからの質問攻めが始まった。

 

「それでは、特技などはおありですか?」

 

特技……特技?

 

「えっと、強いて言えば料理が得意です……」

 

「お料理ですか~、家庭的で素晴らしいですね! ご家庭ではどのくらいの頻度でやっているのでしょうか?」

 

「ほぼ毎日……です」

 

「毎日ですか! 若いお嬢さんなのに、とてもしかっりしていますね!

きっといいお嫁さんになるでしょうな、それでは審査員の方、他に質問はありませんか?」

 

また審査員からの質問が来る……!

 

さっさと質問して、終わってくれ……。

 

「彼氏はいるのですか?」

 

彼氏!? そんな人はいない!

むしろいてたまるか!

 

「いません! 今まで一度も……」

 

否定するかのような、受け答え。

 

「そうなんですか! 好きな人もいないのですか?」

 

好きな人は……特にいないです。

仮にいても、教えてなんになるんだと逆に問いたい。

 

「い、いません……」

 

「「「おおおおおおおお!!」」」

 

「おおーっ! 男性陣だけでなく女性陣の方からも歓声が止まりません!

これは男性陣にも女性陣にも朗報ですね! とにかく吉井アキさん、素晴らしい回答ありがとうございます! それでは6番の方、お名前を!」

 

これで僕の番は終わりだ。

 

僕の番は終わったというのに、僕をチラチラと見ている観客がいる気もするが……気にしないでおこう……。




誤字脱字、批判や感想よろしくお願いします。


なぜミスコンを第12回にしたのかというと
自分の誕生日が12月だからです。
後で聞かれるかもしれないので
一応言っておきます。 (:´・ω・`)一応ね?








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19話 予選終了

相変わらず文章下手で申し訳ない……。(´・ω・`)




sideアキ

 

52名のミスコンテスト参加者の審査が終わり、いよいよ結果発表だ。

これで決勝に進めるか予選敗退かが決まる。

 

まぁどうせ僕は予選敗退だけどね。

 

「さて、予選も無事終了し、栄えある本選出場者を発表いたします!」

 

誰が本選出場するんだろうか。

これはちょっとだけ興味がある。

 

「本選に進むのはこちらの5名です!!」

 

司会者のアナウンスと同時に

会場の後ろに設置されてある電光掲示板に本選出場者の名前が表示される。

 

 

川島歩

 

小泉友香

 

宮野小咲

 

谷山凜

 

吉井アキ

 

 

………………………………ファッ!?

 

えええぇぇぇ~~~~~~~~~!!

僕が生き残った!?

 

いやいやそんな訳ないでしょ……?

でも、いくら確認しても僕の名前だ……。

 

「本選に見事選ばれた5名の方、おめでとうございます!!

この5名の方は本選に進むことができます。

本選では違う水着での参加することが可能です。

是非素晴らしい水着姿での出場を期待しています! それでは準備のため一時休憩にしたいと思います。皆様しばしご歓談を」

 

納得のいかない結果で、予選は終了となった。

 

 

 

 

予選終了後、結果報告をしようと僕はみんなの所へ向かった。

 

「やるな明久。見事本選に勝ち進んだな」

 

雄二が腹を抱えながら笑っている。

 

この野郎……人の不幸を嘲笑うのは得意なんだから……。

 

「……うん、勝ち進む気はなかったけどね」

 

「おめでとうございます! アキちゃん」

 

「めでたくないよ姫路さん……」

 

決勝に進むということは、また恥ずかしい思いをする羽目になる……。

 

できるなら棄権して、誰かに権限を譲っておきたいところだ……。

 

「ここまでは予想通りね、後は本選で優勝できるかどうかね……」

 

「ボクは優勝間違い無しだと思うよ~」

 

「そうね、吉井君なら優勝確定ね」

 

「そんな訳ないじゃん……そろそろ冗談はやめてよ……」

 

工藤さんと木下さんの冗談もだんだん笑えるレベルではなくなってきた。

 

どうせ勝ち進めたのは何かしらの不運があったからだしね。

優勝までは無理だろう。

 

「あはは、吉井クンは気づいていないな~」

 

「そうね……身の程をわきまえていないくらいがちょうどいいのよ」

 

「? どうしたの?」

 

「ん~? 何でもないよ~」

 

「別に何もないわ、気にしないで」

 

「?」

 

工藤さんと木下さんの2人の様子がずっとおかしいと思ているのは僕だけだろうか?

 

「そんなことより、決勝では違う水着で出場できるんでしょ?」

 

「え? うん、そうだけど?」

 

「それなら姫路さん、吉井くんに新しい水着を渡してあげて」

 

「はい! 分かりました!」

 

……え?

 

「ちょと待って木下さん、なんでなんで違う水着を着せようとするの?」

 

「なんでって、せかっく違う水着で出場可能なら、違う水着にした方が優勝する確率が

上がるかもしれないでしょ?」

 

「いやだから、別に僕は優勝する気はないけど……」

 

「私たちは優勝して欲しいのよ」

 

「……はい」

 

押しの強い木下さんに何一つ言えず、結局違う水着で出場することに……。

 

「分かったよ……じゃあ違う水着で出ることにするよ……」

 

「それでいいのよ」

 

今日はずっと木下さんの言いなりになっている気がすんだけど……。

 

「じゃあ、ありがたく使わせてもらうよ姫路さん……」

 

「はいどうぞ! どんな水着かは本選が始まってからのお楽しみです♪」

 

姫路さんは僕に水着が入った紙袋を渡す。

どんな水着かはまだ分からないけど、紙袋からは異様な雰囲気を出しており、なぜか嫌な予感がする。

 

「それじゃ、予選がもうすぐで始まるから……僕はもう行くよ」

 

「いってらしゃい、アキちゃん! 頑張ってくださいね!」

 

「うん、それじゃ」

 

そう言って僕は決勝に向けて再びミスコン会へ向かう。




できた。(´▽`)ふぅ~

急遽、活動報告でアンケートを取ります。
内容が気になる方は活動報告へGO!(/・ω・) レッツゴー♪


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20話 ミスコン決勝戦

投稿かなり遅れて申し訳ない……。(´・ω・ `)ごめんよ……
文章も下手で申し訳ない……。 

(´・ω・ `)本当にごめんなさい……(大事なことなので2回言いました。)


sideアキ

 

 

姫路さんから本選用の水着を貰い、今僕はミスコン会場の裏の個室で待機している。

 

僕は予選前と同じ……いや、それ以上に緊張していた。

 

予選での盛り上がりが尋常ではなかったため、

決勝となると、それはもう言葉では言い表せないくらいなりそうだ。

 

また恥ずかしい思いをすることになるかもしれないけど……まぁいけるとこまで行こうかな……。

 

「……って、やば、もうすぐで本選が始まるじゃん!?」

 

気が付くと本選開始まであと10分に迫っていた。

 

「姫路さんから貰った水着は……」

 

予選で使用した水着から着替えて、今は今日ここに来る前の私服でいた。

水着はこれを着用しなければ、出場することができない。

 

姫路さんからもらった紙袋の中から水着を取り出した。

 

「……え、えぇ……何コレ!?」

 

会場の裏で僕の叫び声がこだました。

 

 

 

 

「さぁ、いよいよ決勝が始まりました! 

それでは優勝を争う美少女に登場していただきましょう、まずは――――」

 

ついに本選が始まり、再び会場が観客で賑わっている。

ちょっと会場の裏から覗いてみると予選よりもかなり大勢の観客がいる。

 

僕はあんなに大勢の観客の前でこんな姿を……。

 

自分の水着をこれでもかというくらいに、整える。

 

「ありがとうございます! さて次は吉井アキさんです! ご入場ください!」

 

ついに僕の番が来たよ……。

 

決勝では、5名ということで1名ずつ入場していく形となっている。

嫌でも観客全員の視線の的となる。

 

「はい…………」

 

ええい、ままよ。

 

 

「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」

 

「おやぁ!? れはなんとゆうことでしょう!」

 

うぅ、歓声とアナウンスで恥ずかしさ倍増……。

 

晒しの処刑を受けている被害者だった。

 

それも無理はない。

なぜなら、僕は今露出が高い白のビキニを着ている。

 

えーと、これって確かマイクロビキニだよね……?

 

そんなことはどうでもいい。

とにかく、これはあまりにも耐え難い苦痛と羞恥だった。

 

上は僕の量感のある重そうな胸を少ない布地で持ち上げて支えている。

もうちょっとズレたら、大事な部分がはみ出てしまいそうだった。

 

下も上に負けてないくらいで、ほとんどお尻が丸出しだ。

なんというか、もうギリギリだ。

ギリギリ過ぎてヤバイ。

 

「これはなんとも素敵な水着姿! ところでこちらの素敵なお召し物は吉井さんのご趣味で?」

 

即座に否定した。

 

「ち、違います! これは友達に着せられて……」

 

「そうですか! これはそのご友人様に感謝しないといけませんね!

ご友人様! よくやった!」

 

感謝しなくていいよ……。

逆にこっちはありがた迷惑なんだから。

 

会場という場でありながらも、僕は腕で胸を隠していた。

こうしてないと、気が気でならないのだ。

 

「さて、ここからはアピールタイムとして、観客から寄せられた質問に答えていただきます!」

 

今度は審査員からじゃなくて、観客から。

こういうのは審査員より際どい質問がきてそうだ。

 

「まず1問目! 好みの男性はどんなタイプですか? また女性はどんなタイプですか?」

 

ちょっと待って、なんで女性まで!?

でも確かに女の子は好きなのは好きだけど……。

 

言葉を選ぶのに時間を要したいが、すぐに答えるしかなかった。

 

「えっと、私は優しい男性が好みです……女性も同じです……」

 

「「「お~~~~~!!」」」

 

「おお! なんと女性でもイケるとは……これは女性陣にはかなりの朗報です!」

 

別に僕はレズでもないし、ホモでもないんだけれど……。

 

「お次の質問です! 恋愛するなら年上ですか? それとも年下ですか?」

 

「年上でも年下でもどちらでも構いません……」

 

「なるほど! 会場にいる皆さんにまだ希望はありますねぇ。では、次の質問です。

家族構成を教えてください。次にもし付き合ったら、その人と何をしたいですか?

スリーサイズはいくつですか―――――」

 

ええ~!? まだあるの!?

 

その後も沢山の質問攻めをくらい、多くの恥を晒してしまいましたとさ……。

 

終わった頃にはどうにでもなれと、胸を隠す気力すらなかった。

 

 

 

 

「それでは、これですべての審査は終了しました。

決勝では審査員だけでなく、観客の皆様も投票することができます。

皆様、投票用紙に投票した理由やメッセージなどを記入した後、会場のスタッフに投票用紙をお渡しください! 集計結果までしばらくお待ちください」

 

はぁ……もう優勝とかどうでもいいから……早く帰りたい……。

 

引きこもれる部屋があるなら引きこもりたい。

そんな気分のまま、集計結果を待つのみだった。




次回で海の回は完結になります。
アンケートにご協力いただいた方や
感想を送ってくれた方には本当に感謝しています。

それと、大変申し上げにくいのですが……
来週からテスト期間なので更新が約2週間ほど遅れると思います。
本当にすみません!!(≧≦) ゴメンヨー

終わったらすぐに投稿するのでしばしお待ちください。
本当に申し訳ない……。



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21話 結果発表と忘れられない思い出

お待たせしました!!
投稿遅れて申し訳ない……。(´・ω・`)ゴメンよ

いやー、テスト期間でなかなか投稿できませんでした。(笑)
約2週間分の遅れを取り戻すためこれからはちょっと早めに投稿することを心がけます。

それではどうぞ。


sideアキ

 

 

ようやく集計結果が出たようだ。

会場は観客でどよどよしており今か今かと結果発表を待ちわびている。

 

優勝はいったい誰になるんだろうか。

 

僕はもしかすると優勝するかも……と少しだけ淡い期待をしていたかもしれない。

 

「お待たせしました! では、集計結果を発表致します!!」

 

「「「……ごくり」」」

 

アナウンスの一言であれだけ騒がしかった会場が一瞬で静まり返る。

 

「おお!! なんとこれは大差だ!! 大差です!!」

 

「「「!!!」」」

 

大差ってことは圧勝ということだ。

 

これはいったい誰なんだ!?

ちょっと気になるぞ。

 

「第12回ミスコンテスト! 真夏の美人を見つけ出せ! ミスの栄冠に輝いたのは……!!」

 

誰だ、誰なんだ……?

 

「エントリーナンバー5番、吉井アキさんです! おめでとうございます!!」

 

「「「わああああああああああああああああああ!!!」」」

 

僕の名前が出た瞬間、会場は今日一番の大盛り上がり。

 

予想だにしない出来事に思考が追いつかなくなり、少しの間僕の顔はポカーンとなってしまった。

 

「……う、嘘……僕が……優勝!?」

 

「なお投票用紙の感想には

 

『俺と付き合ってくれ! それがダメならお友達からでも!』

 

『私は女性で生まれて初めて女の子が好きになりました! よければ私と付き合ってもらえますか?』

 

『今まで女の子に興味などなかった僕は、今日生まれて初めて興味を持ちました』

 

『いい身体してんねぇ!!』

 

『アキちゃん最高!! 愛してるうぅぅぅぅぅ』

 

などと、数多くのメッセージが寄せられております!

いやぁ~素晴らしいミスコンになりましたね~。

ちなみに、今回優勝に輝いた吉井さんには記念のトロフィーが贈られます!」

 

いまだににポカーンとしている僕は係員からトロフィーを渡される。

 

トロフィーには第12回ミスコンテスト優勝と書かれており、

クロームメッキの色で結構凝った造りになっている。

 

「優勝おめでとうございます吉井さん! 優勝してどう思いますか!?」

 

「え?……あ、その……今でも優勝したことが信じられません。

その……私は女の子らしくないので……」

 

優勝する自信も希望も微塵もなかった。

女の子らしさがない僕が優勝するなんて信じられないことだ。

 

「何をおっしゃいますか! 吉井さんは十分魅力的な女性ですよ!

皆さんもそう思いますよね!?」

 

「そーだ、そーだ」

 

「可愛いぞアキちゃん!」

 

「愛してるぞぉ!アキちゃん!」

 

「はい、最後のお方、この場でのラブコールはお控えください。

そんなことより吉井さん、会場の皆さんはあそこまで言われたらもう謙遜することはないですよ!」

 

「そ、そうですか?」

 

「そうですよ! では、最後に会場の皆さんに向けてとびっきりの笑顔を!!」

 

司会からの無茶ぶりに動揺する。

 

「「「おおおおお!!」」」

 

観客もやれと言わんばかりの盛り上がりを見せる。

 

いきなり笑顔してくれと言われても…………しょうがない。

 

僕は作った笑顔でもいいやと、ぎこちない笑みを見せた。

 

ニコッ♡

 

「「「……!!(ズキューン)」」」

 

次の瞬間、男性の観客が鼻血を吹き出して倒れていった。

さらに女性の観客は顔を赤らめて、ぷるぷる震えている。

 

「おい! 大変だ! 松本が息していないぞ! 誰かー!!」

 

「こっちもだ! 藤井と山田も息してねぇ! それに鼻血の出血量が尋常じゃない!」

 

「衛生兵はどこだ!? 衛生兵!!」

 

な、何が起きたんだ……?

 

目の前に広がる阿鼻叫喚と化した会場を、呆然と見つめていた。

 

「お、落ち着きください会場の皆さん! 落ち着きください!!

……と、とにかくこれにて、第12回ミスコンテスト! 真夏の美人見つけ出せ!を

強制終了とさせていただきます!」

 

その後、真夏の海のミスコン会場に救急車が約数十台ほど来る騒動にまで発展した。

 

なぜここまでの騒動に発展したかは謎だった。

 

最初から最後まで、どうしてこうなった……。

 

 

 

夕日が沈み、ここら一帯が夜の海へと姿を変えようとしていた。

 

「お前いったい何やったんだ? 会場がやばいことになってるようだが……」

 

雄二が会場での騒動を見つめている。

 

「知らないよ、こっちが知りたいことだよ!」

 

会場を後にして、みんながいる所へ戻ってきた僕は予選終了後同様、結果報告に。

 

「優勝おめでとうございます! アキちゃん!」

 

「はは……ありがとう姫路さん」

 

僕が優勝したことがそんなにも嬉しいのか……。

まぁ友人の優勝を自分のことのように喜べるのはいいことだけれど。

 

「優勝おめでとう吉井くん」

 

「さっすがだね~。ボクたちの予想通り!」

 

「おめでとう、吉井くん。いい思い出ができたね」

 

「……おめでとう」

 

木下さんに工藤さんに久保くんに霧島さんまで、そんなに僕が優勝したことが嬉しいのだろうか。

 

「ありがとう……」

 

照れつつも、お祝いの言葉はありがたくいただいておく。

 

「やるじゃない、アンタならやれると思ったわ」

 

背中をバシバシと美波に叩かれる。

 

「お姉さまが見込んだだけのことはありますね」

 

清水さんまでも、珍しく素直に褒めてくれた。

 

「……おかげで写真が撮れた」

 

ムッツリーニも大収穫で何より……。

 

「って、それはもしかして……僕を撮ったの?」

 

「…………」

 

これは……売られるな。

 

黙り込んだムッツリーニを見た僕は心の中で確信する。

 

「え!? 買います買います! いくらですか!?」

 

「ウチも買うわ! いくらなの!?」

 

はい、さっそく買おうとしている人がいますよ……。

 

「……販売はまだだ」

 

「そうなのね……でも予約はできるのかしら?」

 

木下さんがムッツリーニに詰め寄る。

 

「……今からなら可能」

 

「じゃあ、予約させていただくわ。この写真の――――をもらいたいんだけど……」

 

「……まいど」

 

ムッツリ商会では予約制度まで出たのか……。

時代とともに進んでるな~。

 

「にしても優勝したってことは、今年の夏早々、すげぇことになったな……」

 

「うん。でもね、雄二……優勝できたのはいいんだけどね……」

 

「ん? どうした明久? 死んだ魚の目をしやがって」

 

実は優勝してからというものの、

 

「優勝してから……いやそれ以前から気付いたんだけど……僕はとっても大事なものを失った気がするんだ……」

 

「いや、今更かよ……」

 

「これじゃもう……お婿に行けないじゃないか……」

 

「今のお前は婿より嫁の方だと思うのだが……?」

 

「どっちでもいいよ! うわあぁぁん! もうお嫁にもお婿にも行けない!」

 

「お、おい!? ガチで泣くことないだろ!?」

 

「うぅ……ひぐっ……だってぇ……お婿にもお嫁にもいけないんだよ……」

 

「そんなことはないと思うが?」

 

あんな恥ずかしい姿を見られた僕をもらってくれる人なんている訳ない!

 

「うわあああああぁぁぁん! 今日は踏んだり蹴ったりだよ!」

 

今までのことを振り返ると、死にたくても死にきれないほど恥ずかしい。

 

それを思い出して、僕は一層大泣き。

 

「泣いてる姿のアキちゃん可愛いです///」

 

「それは反則だよ吉井クン///」

 

「……破壊力抜群///」

 

「もうどんな表情でも可愛い///」

 

「私はお姉さま一筋と決めたはずなのに///」

 

「姉上しっかりするのじゃ!! あ、それと利光も目を覚ますのじゃ!!」

 

「あ~……この始末はどうするんだ?」

 

「……俺に聞くな……そんなことより、アキちゃんの泣き顔を撮るのが先」

 

僕の泣き顔を容赦なくカメラに収め続けるムッツリーニ。

 

「はぁ……もうどうにでもなりやがれ……」

 

カオスな状況と化した光景を見ながら雄二は呆れるように頭を抱えていた。

 

「うわあああぁぁぁん! やっぱりこんな身体嫌だよぉぉぉ!」

 

真夏の夜空の下で僕の泣き声が響いた。

 

今日の出来事はいろんな意味で一生忘れたくても、忘れられない夏になってしまった。




できた~……。
急いで書いたので、いつも通りのグダグダな文章です。

批判や感想お待ちしております。


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22話 花火大会にて

今回から花火大会の話です。
皆さんは花火大会に行きましたか?

作者はもちろん行きましたよ!

友人とね……。(´・ω・`)
花火を見ている最中アキちゃんが彼女だったらいいなとずっと考えていました。

妄想してニヤニヤして、友人に肩を叩かれ現実に戻される夏はいいよねぇ。(白目)


sideアキ

 

 

いよいよ本格的に夏の季節となってきた8月の初日のこと。

 

「うぅ……クロスボーンガンダムX1強すぎる……セブンソードでも勝てない……」

 

テレビ画面に映る敗北。

 

本気を出しても勝てないのかとガクリと肩を落とす。

 

という風に僕は今日も暇人の鏡のような生活を送っていた。

 

傍から見れば時間を有意義に過ごせてない惨めな姿に見えるが、今夜は違う!

今夜は年に一度の重大イベント、花火大会があるのだ!

 

去年は訳あって見ることができなかったから、今年こそは見ておきたいところだ。

 

浴衣を着た美少女をナンパするのもいいかもね!

今年中に彼女を作る絶好の機会かもしれないし。

 

……………………。

 

「あ、そういえば僕、女の子だった」

 

危ない、いろんな意味で我を忘れていた。

 

この身体で女性にナンパを仕掛けたら、間違われて同性愛者のレッテルを貼られる未来が目に見える。

 

いや、僕はもともと男だったし身体は変わっても、心は女の子になる訳ではないような……。

 

そう考えたいところだが、現に女の子の生活に慣れて心情も少しずつ変化しているような気がするのでなんとも言えなかった。

 

あああもう、いいですよーだ。

どうせ友達と行くから寂しくないですよ。

 

赤信号みんなで渡れば怖くない。

彼氏彼女、みんないなけりゃ安心だ。

 

などと開き直った考えをしていた僕の横に置いてあるスマートフォンが着信音を鳴らした。

 

相手は……雄二だ。

 

そういえば、こいつ霧島さんという婚約者がいるから実質彼女持ちじゃんか。

この裏切り者め。

 

心の中で軽く舌打ちして、画面をスライド。

 

「もしもし、どうしたの?」

 

「よう、明久。花火大会の準備はできたか?」

 

「準備って……花火大会の時間はまだまだ先なんだけど?」

 

夕方にすらなってないのに、こんな早くから行くつもりなのか?

 

「ってことは、まだ姫路と島田は来ていないのか?」

 

「姫路さんと美波? いろいろと話が飛んでる気がするけど、なんで2人が来ることになっているの?」

 

2人が迎えにでも来るのだろうか。

迎えとはいえ時間的に早すぎる気がするのだけれど。

 

「それは来たら分かる、それじゃまたな」

 

「え、あ、ちょっと! あぁ……切られちゃったよ」

 

雄二の奴め……いつものことだが、いきなり切るのはないでしょ……。

 

そんなことよりなんで2人がくることになってるんだ……?

2人が来るなんて聞いてないんだけど……。

 

迎えにくるのか知らないが、別にくることは問題ないのだけれど、

なんと言うか……正直あの2人が来ると嫌な予感がするのは気のせいだろうか?

 

 

 

 

ピンポ~ン

 

しばらくして、玄関のインターホンが鳴る。

 

雄二の言った通り、姫路さんと美波が来たのだろうか。

 

迎えに来たのか、それとも別の理由か……。

 

なぜ2人がここへ来たのかは本人である2人に聞くことにしようと、玄関を開ける。

 

「こんにちは、アキちゃん」

 

「お邪魔するわよ、アキ」

 

「いらっしゃい2人とも」

 

とりあえず、2人を僕の部屋へと入れる。

 

「いきなり2人揃って来たけど、どうしたの? 花火大会はまだ先だけど」

 

「知ってるわよ」

 

当然じゃないと言わんばかりな表情で言う美波。

 

「じゃあ、なんでここに来たの?」

 

「それは今から分かることよ。瑞希アレを出して」

 

「はい!」

 

美波に指示されて鞄から何かを取り出す姫路さん。

 

そして、美波の言った『アレ』と思われるものを広げて見せた。

 

「…………浴衣?」

 

姫路さんの広げたものは1着の浴衣だった。

 

「そうよ、花火大会に行くのだからアキに似合うものを用意したわ」

 

「アキちゃんのために私と美波ちゃんの2人で選びました」

 

姫路さんが持っている浴衣は蜜柑色の生地に、ハルシャギクが描かれており、

鮮やかな色合いが見る者を明るい気分にさせるようなデザインだった。

 

2人はこれを着せようがために、ここへ来たのか……。

 

浴衣というものは日本古来の文化でもあり、とても素晴らしいものだが、

自分で着るとなるとちょっと恥ずかしい気もする。

 

「う~ん、着るのはちょっと恥ずかしい気が……」

 

「大丈夫よ、私達も浴衣は着るわ」

 

「恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ」

 

むぅ……ここまで言われたら着ない訳にもいかないな。

それに浴衣ってかなり値段が張るものだし、2人は相当手に入れるのに苦労したのかもしれない。

 

この時点で2人には悪いことをさせてしまってる気がするし、着ないのは更に悪いし失礼だろう。

 

しょうがない、ここは恥を忍んで着るとしよう。

 

僕の人生初の浴衣を体験することとなった。

 

「分かったよ、ちゃんと着るから……えーと、これどうやって着るの?」

 

姫路さんから浴衣を受け取って、首を傾げる。

 

「それなら私たちに任せておきなさい」

 

「着付けなら任せてください」

 

そのまま2人に着付けをしてもらったのだが、これが結構大変なのである。

 

「……いつ見ても立派よねぇ」

 

浴衣に着替えるべく、下着姿になった僕を見て、はぁ……と深いため息をついた美波。

 

美波に着付けは任せなかった方がよかったんじゃないかと、今更ながら思った。

 

「それじゃあ、次はこの下着をつけなさい」

 

気を取り直して、美波はスポーツブラのようなものを用意した。

 

「下着まで着替えるの?」

 

「そうねぇ……絶対に必要なことではないわ。でも、瑞樹やアキみたいな胸は浴衣に似合わないから、胸が出すぎないような下着にするのよ」

 

ふーん……美波には必要ない工程だね。

 

「……変なこと考えてたら胸潰すわよ」

 

なんも考えてませんよ。

 

「と言っても、今から胸を潰すようなものだけれど」

 

ん? それはどういうことだ。

 

「それじゃ、ブラ外すわよ」

 

後ろに回って、美波はブラジャーを取る。

そして、用意しておいたスポーツブラのようなものを僕に着せる。

 

「うぅ……このブラジャーきつい……」

 

美波はそれでもお構いなしに、ギュっと僕の胸をブラジャーで絞める。

 

「はい、これでいいわよ」

 

「ありがと……美波」

 

なかなか、きついなこれ。

 

僕の胸は見事に潰れず、逆にブラジャーを押し返すような形になっており、通常のよりも少し小さくなったくらいだ。

 

大きいのはここでも不便だな……できればほどほどの大きさでよかったのに……。

 

「次は、浴衣を着ますよ!」

 

姫路さんがノリノリの口調で、下着を着替えた僕に浴衣を着せていく。

 

「ここに腕を通してくださいね~」

 

「はーい」

 

「もっと背筋を伸ばしてください」

 

「はーい」

 

かなりの時間を要して、やっと浴衣に着替えることができた。

 

浴衣って1人で着るのは難しい……というかできないな……。

1人でできる人っているのかな? いたら教わりたいものだ。

 

浴衣を着るのは一筋縄では行かないと僕は身を持って実感した。




できた……。

浴衣のデザイン案はオファニム1925さんから意見を貰いました。
オファニム1925さんいつも本当にありがとうございます!<(_ _*)> アリガトォ

感想やご指摘よろしくお願いします!
次回も見ていただけると嬉しいです。


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23話 花火大会にて2

どうも作者です。(´・ω・`)/

なんとUAが30000とお気に入り件数が250達成しました!
この作品をどんな目で見られているかは、分かりませんが
やはり沢山の方に見ていただけてとても作者は嬉しいです!

さて今回もこの場をお借りして

シバッ☆ヾ(・_・。)ミ★(*^-゚)vババババッ!!
v(^_^v)♪ありがと~♪(v^_^)v

感謝は伝わりましたか?

それではどうぞ


sideアキ

 

 

「アキちゃん、すっごく可愛いですぅぅ!!」

 

「悔しいけど、とっても似合ってるわね」

 

「そ、そうかな?」

 

着替え終わった後、僕の姿を見た姫路さんと美波は満足した様子。

 

「髪型が普段と違うから、ちょっと大人っぽい雰囲気かもしれないわね」

 

「アキちゃんの第2形態ですね!」

 

髪を頭の左後ろでサイドテールみたいにまとめている。

僕の長い髪をまとめるのは苦労したものだ。

 

「あはは、ありがとう」

 

お世辞だろうが、褒められるのは素直にうれしい。

自然と顔がにやけてしまう。

 

「でも、姫路さんと美波の浴衣も似合ってるよ」

 

姫路さんはピンク色の生地に朝顔の柄の浴衣を着ている。

とても可愛い色で姫路さんにベストな浴衣に見える。

 

一方、美波は薄い水色に風鈴の柄の浴衣を着ている。

無難で特に強い印象はないけど美波が着るとなんだか色っぽく見える。

 

「えへへ、アキちゃんに褒められました」

 

「ウチはアキほどでもないけど……まぁ褒め言葉は受け取っておくわ」

 

という風に僕たち3人で褒め合い合戦が続いていた頃のこと。

 

ピンポ~ン

 

玄関のインターホンが鳴る。

 

「ん、雄二が来たのかな?」

 

玄関まで向かうのだが、浴衣のせいでなかなか歩きにくい。

 

「お~い、明久いねぇのか?」

 

「ちょっと待って雄二! 今行くから!」

 

焦るようにして、玄関のドアを開ける。

 

「雄二、お待たせ」

 

僕を見て雄二と横に立っていた霧島さんが固まる。

 

あれれ……? もしかして、この浴衣はおかしかったかな?

でも2人が着付けをしてくれたから、問題ないと思うけど……。

 

「どうしたの? 雄二、霧島さん?」

 

「ああ……いや、よく似合っている……正直似合い過ぎて驚いたぞ……」

 

「……私も…………すごく綺麗」

 

「そ、そうかな?」

 

雄二と霧島さんはどこかぎこちない感じが出ていた。

 

「霧島さんの浴衣も凄く似合ってるよ」

 

「……ありがとう///」

 

霧島さんが着ている浴衣は紫色で蝶が描かれた浴衣を着ている。

綺麗な嬢様のような霧島さんが着ると凄く大人っぽい美しさが出ていた。

 

「俺にはコメントなしか?」

 

「……その服でどうコメントしろと?」

 

雄二が着ているのはTシャツにハーフパンツ、サンダルの3点が揃った、凄くラフな格好。

 

いつもの雄二らしいです。はい。

 

「……まぁそんなことはどうでもいい。とにかく早く行こうぜ。

秀吉やAクラスのメンバーとも待ち合わせしているからな」

 

「そっか、それなら早く行こうか」

 

僕は下駄を履いて、姫路さんから持つように言われた巾着を持って家を出る。

 

 

 

 

「どうした明久? なぜ姫路にくっついている」

 

「いや……実はさっきから視線が気になって……」

 

花火大会の開催場所に向かっている途中、さっきからずっといろんな人からの視線を感じる。

 

「うぅ……やっぱり僕には浴衣なんて似合わなかったんじゃ……」

 

後ろへ隠れるように、姫路さんの肩を掴んだ。

 

「アキちゃんが可愛いからですよ! みんなアキちゃんの浴衣姿に目が釘付けです!」

 

「そうね、こんなに綺麗なんだから見られて当然よ」

 

「……吉井、とっても似合ってる」

 

「え、そうなのかな?」

 

どうせ冗談でのフォローかもしれないが、少し照れてしまう。

 

 

 

 

「うわぁ……人多すぎない」

 

会場の入り口付近から既に大勢の人々で埋め尽くされていた。

あんな人だかりに入ってしまえば、人混みの波に流されてしまいそうだ。

 

「まぁ去年もこんな感じだったしなぁ」

 

雄二は去年行った経験があるのでなんともない様子。

 

「そんなことより、秀吉とムッツリーニたちを探さないとね」

 

一旦、花火大会の開催場所から少し離れて秀吉とムッツリーニたちを探す。

 

「あ、いたいた、おーい吉井ク~ン!」

 

僕を呼ぶ声がしたので、キョロキョロと周りに目をやると、

工藤さんと木下さんがいた。

後ろには秀吉と久保くんとムッツリーニもついている。

 

こんな人混みの中でも、早く合流できて安心した。

 

「こんなに人がいるのに、よく見つけられたね……」

 

「ふふ~ん、だって吉井クンがすっごく綺麗だからすぐに分かったよ」

 

「そうね、本当に綺麗よ……吉井くん(とっても可愛い///)」

 

「今日は格段と綺麗なのじゃ。」

 

「凄く綺麗で可憐だね」

 

「……可愛くありつつも美を兼ねている……髪型も浴衣と統一感があっていい……!」

 

「えへへ、ありがとう///」

 

浴衣って、案外悪くないかも……。

 

みんなに褒められて、少し浮かれた気分。

 

「ってことで、全員揃ったようだな」

 

全員のメンバーの顔を見渡す雄二。

 

「でも、花火が始まるまで時間は結構あるけど?」

 

「そうだな……それなら、始まるまで自由時間にするか」

 

自由時間か……。

 

ここは出店とかで賑わっているし、遊ぶにはもってこいの場所だ。

 

辺りを見回して、お祭り気分が高まってきた。

 

今日はとことん楽しんでやろうではないか。

 

「そっか、それなら早速――」

 

いきなり木下さんにガシッと右手を掴まれる。

 

「ど、どうしたの? 木下さん……?」

 

「こんな人混みの中に入ったら吉井くんは迷子になるじゃない。

だから私が手を繫いであげるから、はぐれないようにね?」

 

「う、うん……」

 

僕は木下さんに言われるまま、手を繋ぐことに。

 

確かにあの人ごみの中に入ったら迷子になるどころか、この身体じゃ押し潰されてしまう。

 

一応、スマートフォンを持ってきてるんだけど、こんな中だと電波が混雑して使えないかもしれない。

 

「あぁ! ズルいよ! ボクも手を繫ぐよ!」

 

木下さんに続いて、工藤さんが僕の左手を繋ぐ。

 

「……女の子同士の手繫ぎ……!」(パシャパシャ)

 

ムッツリーニは今日も立派な一眼レフを手に持ち、撮影態勢は整っている。

 

撮影だけでもムッツリーニは十分、暇を潰せるどころか時間が足りないくらいになりそうだ。

 

「行きましょ、吉井くん」

 

「楽しみだね~吉井クン」

 

「うん」

 

木下さんと工藤さんの2人に手を引かれ、いざ開催場所へ。




できた~。

ご指摘や感想お待ちしております。


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24話 花火大会にて3

(´・ω・`)  作「本当にこれでいいかな?」

( ´ºωº`)   友「いいんじゃない(棒)」

(´・ω・`)  作「本当に?」

( ´ºωº` )  友「うん、本当にこんな感じでいいと思うよ」

(´・ω・`)  作(…………)

以下、上記のループ。

まぁ、これがいつもの小説執筆です。
友人に見てもらっているのですが
いつも「いいんじゃない」がお決まりのセリフです。

適当に言っているんじゃないかと心配な作者。


sideアキ

 

 

会場は大勢の人で賑わっていた。

 

移動するのだけでも大変になりそうだな、これは。

 

「それじゃあ、まずどこに行く~?」

 

工藤さんは周りを見渡して、迷った表情を見せた。

 

「う~ん……お腹空いちゃたから、何か食べない?」

 

昼から何も食べていないので結構、お腹が空いていた。

 

「そうだね~……じゃあ、そこのたこ焼きでも食べない?」

 

「うん、じゃあ僕が買って来るよ」

 

僕は財布が入った巾着を手にし、出店に並ぶ。

 

「いらしゃい、お嬢ちゃん」

 

出店の中から白い半袖シャツと短パンに、タオルをバンダナにした、

30代後半から40代前半くらいのおじさんが出てきた。

 

見た目からして、たこ焼きの出店を長年やっているベテラン感のオーラが出ていた。

 

「えっと……1箱ください」

 

1箱でも結構な量が詰まっているようなので、それにした。

 

僕はお値段丁度のお金をおじさんに渡す。

 

「はいよ」

 

そう言って手慣れた手つきで焼きたてのたこ焼きを箱に詰めていく。

 

「はいどうぞ、お嬢ちゃん! もう1箱おまけしておいたよ」

 

「えぇ!? あの……いいんですか?」

 

「いいんだよいいんだよ、貰ってくれ」

 

おじさんは笑顔で僕にたこ焼きを2箱くれた。

 

「まったくアンタは可愛い子には優しいんだから……」

 

いい人だな……と思ってたこ焼きの箱を受け取った後、隣から呆れたような声がした。

 

隣にはおじさんと同世代くらいのおばさんが立っていた。

 

恐らくおじさんとおばさんの2人でこの出店をやっている……というかもしかして、夫婦だったりして?

 

「いいじゃないの別に、たまには格好つけさせてくれよ~」

 

「まったくアンタって人は……ごめんねお嬢ちゃん。昔からこの人はこんな感じなのよ……」

 

おばさんは苦笑しながら謝ってきた。

 

「いえいえ、とんでもないです、おまけまで貰えましたし……」

 

おまけを貰ったんだから別に謝ることはないと思う。

むしろ感謝するべきだ。

 

僕は「ありがとうございます」とおまけのお礼を言いながら深々と頭を下げた。

 

「フフッ、育ちのいい子なのね~」

 

頭を下げる僕を見て思わず微笑むおばさん。

 

「そりゃそうだろ~、特に浴衣越しからでも分かるむn――」

 

「あなたぁ? 今なんて言おうとしたのかしらねぇ~?」

 

「ハハーナンデモナイデスヨー」

 

何かを言おうとしたおじさんに、おばさんが殺気のようなまなざしをおじさんに送る。

 

おじさんはいったいなにが言いたかったんだろう?

 

「そう、なんでもないのね……とにかくありがとね、お嬢ちゃん」

 

「こちらこそ、ありがとうございました」

 

またお礼を言って、みんなの元へと戻る。

 

「お帰り~吉井クン」

 

工藤さんはベンチで座って、待っていた。

 

横には木下さんや霧島さん、姫路さんと美波まで、それぞれ違う食べ物を手に持っていた。

 

「ただいま、じゃあみんなで食べようか」

 

僕はたこ焼きの入った箱を開けてみんなに楊枝を配る。

 

「じゃあ、食べましょうか」

 

「うん」

 

楊枝にたこ焼きを刺して持ち上げて、口に頬張る。

 

「(パクッ)……美味しい」

 

お腹が空いていたので、より一層美味しく感じて思わずニコっとなってしまう。

 

「やっぱり可愛いよ///」

 

「浴衣姿だからさらに可愛い///」

 

2人はどうしたんだろう?

 

僕の横にいる工藤さんと木下さんの様子がどうもおかしい。

 

「アキちゃん、アキちゃん」

 

姫路さんに肩をトントンと叩かれたので振り向いてみる。

 

「アキちゃん、これ美味しいので食べてください」

 

姫路さんがお好み焼きを差し出している。

 

コレって、あーんだよね?

 

「あ、あーん(パクッ)……美味しい」

 

生地に入っている野菜とソースが効いてて、美味しい。

 

「可愛いです///」

 

姫路さんまで……どうしたんだろう?

 

「アキ、コレも食べて」

 

美波もかき氷を差し出してきた。

 

コレも、あーんだよね。

 

「あーん(パクッ)……冷たい! けど美味しい」

 

ふわふわの氷にイチゴ味のシロップ……冷たくて涼しくなる。

 

「……可愛い///」

 

美波まで……。

 

「……吉井、これ食べて」

 

霧島さんはわたあめを差し出してきた。

 

「あーん(パクッ)……んんッ、甘い」

 

わたあめの気持ちい舌触りと甘い味に思わずほっぺたを押さえた。

 

「……可愛い///」

 

霧島さんまでも……みんなここに来てからおかしくない? 気のせい?

 

しばらくの間、食べさせ合いっこ状態になり、それぞれの食べ物をすべて食べ終わった時のことだった。

 

「ねぇねぇ、君、暇?」

 

「ほぇ……?」

 

顔を上げると、そこには金髪に黒のタンクトップに、ハーフパンツを着た高身長のお兄さんがいた。

 

後ろには取り巻きと思われる男が2人いた。

 

「うわっ、チョー可愛いじゃん! これは大物だな」

 

「へへ、だから言ったろ? やっぱ目の付け所あるんだよなー俺」

 

さっきから何を言ってるんだ、この人たちは……?

 

「ねぇ、よかったら、オレらと一緒に遊ばない?」

 

あ~……これはいわゆる……ナンパだ。

どうしよう……こんなことされたの初めてだから、どう対応すればいいかさっぱりだ。

 

今ここには男子がいない。

 

久保くんと雄二は花火を見るための場所を探しているのでいないし、

ムッツリーニはさっき、綺麗な浴衣姿の女性でも見つけて撮影しに行ったのか知らないが、いつの間にか不在だ。

 

どうすればいいんだ……。

 

「どうしよう……木下さん」

 

「断りなさい。あんな人たちについて行くなんてアタシが許さないわ」

 

「そうだよ吉井クン。変な人には絶対について行っちゃダメだよ」

 

木下さんと工藤さんの2人に強い口調で言われた。

 

「そうだよね……」

 

まぁ2人に言われなくとも、このナンパ男たちにはついて行く気など更々なかった。

 

なので、一刻も早く去って欲しい。

 

「ごめんなさい。他の人と来ているので……」

 

丁重にお断りしておこう。

 

「いやいや、いーじゃん、そんな奴らほっといて俺らと遊ぼうよ」

 

「折角の花火大会なんだから俺らと楽しもうぜ」

 

「そうそう、そんな退屈な連中より俺らの方が楽しいよ」

 

し、しつこい…………。

 

断ってもまだ絡んでくる。

 

しつこい男は嫌われる理由が分かった気がする。

 

「あー……こうなったらもう連れてっちまおうぜ」

 

「そうだな、その方が手っ取り早い」

 

え? 今この人たち連れて行くって……。

 

男は僕の腕を掴む。

 

「ひゃっ……!?」

 

あまりの出来事に僕は抵抗することができなかった。

 

抵抗したとしても、僕の手を掴む男の力が強すぎて、振りほどくことができない。

 

ちょっと、やめて痛いよ! 誰か助けて!!

 

「や、やめて……誰か助けて……!!」

 

「よ、吉井くん!? もう……こうなったら……」

 

横で見ていた木下さんが何かひらめいたようだ。

 

というか、そんなことより見てないで助けてよ……。

 

「キャー、この人痴漢です!!」

 

いきなり木下さんは悲鳴を上げて、ナンパ男たち3人に指さす。

 

「え?」

 

「はぁ? お前いきなり何言っt『絶対に許さん!!』……グホッ!?」

 

木下さんの突然の行動に僕とナンパ男たちが首を傾げていると、

いつの間にか久保くんが駆けつけてきて、いつの間にか久保くんが僕の腕を掴んでいる男の顔面に正拳突きを入れていた。

 

「お、おい!? お前! 菅原に何やってんd(ドゴッ)ぶっ」

 

もう1人の男が久保くんに掴みかかろうとしたが、久保くんは掴まれる前にその男の顎を蹴り上げる。

 

「おい待て! 俺たちはまだ何もやってn『問答無用!!』ギャー!」

 

もう1人いた男がひるんでいる所を久保くんは容赦なく突きや蹴りを入れる。

 

久保くんってあんなに強かったんだ……。

 

普段とは違う久保くんを見て僕たちは呆気に取られていた。

 

「吉井くん、大丈夫かい!?」

 

ナンパ男3人を片付けた久保くんが、僕の肩を掴んで焦った表情で僕の顔を覗き込む。

 

「え? あ、だ、大丈夫だよ……」

 

大丈夫ですよ? そもそも痴漢なんてされてませんよ?

 

あのまま行けば、されそうにはなったかもしれないが……。

 

「ゴメンね久保くん。今の痴漢の話は助けを呼ぶための嘘よ」

 

木下さんがフフッと笑いながら久保くんに事実を伝える。

 

「そ、そうなんだ……よかった……」

 

久保くんは安心したように胸をなで下ろす。

心配してくれていたのは嬉しいけど、そこまで心配することなのかな?

 

「それにしても……なんでナンパされたがアキだけなのよ……」

 

美波が不服そうな表情をしている。

逆になんでそっちはナンパされなかったか知りたいんだけど。

 

「そこは察したら分かりますよ、美波ちゃん」

 

姫路さんはうんうんと頷いている。

 

「でも、またこうなったら怖いわね……久保くん、一緒について来てくれる?」

 

木下さんが久保くんに同行するように頼んだ。

 

「うん、まぁ……別に構わないけれど」

 

「それなら話が早いわ。何かあったら、よろしく頼むわ」

 

こうして久保くんも交えて行動することになった。

先程のこともあり、ボディーガード的な存在がいると安心できる。

 

……にしても助けてくれた時の久保くん、ちょっとかっこよかったな。




感想ほしいです。( ゚д゚)ホスィ


あ、活動報告にてアンケートを取っています。
1人でも多くの意見を待っています。


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25話 花火大会にて4

そういえばこのサイト、挿絵を載せることができるんですね~。
今日、初めて知りました。(゚-゚;)シラナカッタ……

文章だけでなく絵も上手く書けることができたらよかったな~……。
そしたら文章だけでなく、絵でもアキちゃんが伝わるのに……。

※作者の絵心と文章力は皆無に等しいのです。(笑)


アキside

 

 

あれから久保くんを交えて、様々な場所へを回り続けた。

 

また何度かナンパされそうになったんだけど、その度に久保くんが助けてくれた。

 

おかげで助かったと、なんとお礼をしたらいいのか……。

 

こんな役を引き受けてもらったことがありがたい反面、申し訳ない気持ちになる。

 

「もうこんな時間ね。あと少ししたら花火が始まるから、早く戻りましょ」

 

「ん、そうだね」

 

木下さんに繋いで手を引っ張られるように急かされて、雄二と待ち合わせている場所に戻る。

 

それにしても、本当に浴衣って慣れないな……。

てっきり、着たら慣れると思ってたけど大間違いだったよ。

 

浴衣なので移動が困難なために、間に合うか心配だった。

 

 

 

 

雄二たちと合流した時、花火の1発目が空へと打ちあがった。

 

よかった、なんとか間に合った……。

 

内心ホッとして、空を見上げた。

 

大きな音を立てて、夜空に咲く大きな花。

暗闇の夜空を華やかに染めて、誰もが見惚れてしまうほどの美しさだった。

 

「すっごいねー! 綺麗だね吉井クン!」

 

横で工藤さんがはしゃいでいた。

 

反応からして、あまり見たことがないのか、もしくは生まれて初めて見たのかもしれない。

 

「うん、綺麗だね」

 

僕も頷き、同調する。

 

「でも、やっぱり一番綺麗なのは吉井クンかな~」

 

「ははっ、冗談はやめてよ~」

 

まったく、ここでも工藤さんは相変わらずだ……。

 

「いや、愛子の言う通りね」

 

「私もそう思います!」

 

「ウチも同感だわ」

 

「異議なしじゃな」

 

「……まったくだ、花火と一緒で映える」

 

「あはは……冗談だよね……?」

 

最近みんなの冗談が本気に聞こえるのは気のせいかな?

 

(こいつら、花より団子ならぬ花火より明久だな……)

 

僕たちのやりとりを見て、やれやれといった表情で呆れている雄二。

 

その後も連続で打ち上げられていく花火。

夜なのに空は明るく輝いている。

いつ見ても綺麗だ。

 

そんな中、チラっと横を見ると久保くんが僕を見つめていた。

 

「久保くん……? どうしたの?」

 

「あ、いや……何でもないよ……」

 

若干、慌てた様子で僕からの視線を逸らすように空へと向ける。

 

何があったんだろうと僕は頭に疑問符を浮かべる。

 

「流石の久保も見惚れるものを間違っているな」

 

雄二が呆れた表情から一転して、苦笑い。

 

「……雄二も私に見惚れるべき」

 

霧島さんは雄二の肩に寄り掛かるようにして、自分の肩を当てた。

 

「おい、今はそれどころじゃないだろ」

 

クソッ……このリア充め。

雄二だけ末永く爆発しててほしい。

 

その後もずっと夜空に上がる花火を見ていた。

 

 

 

 

花火大会終了の花火が上がる。

華やかだった夜空も煙だけが残っている状態で、再び元の夜空に戻る。

 

花火を見に来た人達も徐々に会場から出ようと、歩き始める。

 

「綺麗だったね! 吉井クン」

 

「そうだね」

 

工藤さんは今もなお、僕の手を握りながらはしゃいでいた。

 

でも、工藤さんだけに限らず、みんなほとんど僕の方を見てたんだけどね……。

まともに花火を見ることはできたのだろうか?

 

「さて、花火も終わったことだ。そろそろ帰るか」

 

どこか満悦な様子で雄二は歩き出した。

 

「うん……帰ろうか」

 

会場にいる人の数が少なくなり、落ち着いてきたところなので、僕たちも雄二に続くように帰ることにした。

 

 

 

 

「そういえば、吉井くん。帰り道は1人で大丈夫なの?」

 

木下さんが心配そうに尋ねてくる。

 

きっと、今日遭遇してしまったナンパの件を気にしているのだろう。

 

「大丈夫だよ、次は気を付けるから」

 

「いや心配よ。いくら気を付けても、どうにもならないことだってあるのよ?」

 

「本当に大丈夫だって……」

 

「吉井くんは大丈夫でも、私は大丈夫じゃないのよ」

 

ギュっと僕の手を握る。

 

木下さんはどうも心配で、気が気でない様子。

 

木下さんの性格上、仕方ないかもしれないが、そこまで心配されると1人で帰り辛くなる。

 

「それなら、僕が一緒に行こうか?」

 

心配そうな木下さんを見た久保くんが

 

「え、久保くんが?」

 

「うん、帰り道は同じだし。それに、僕も気になるしね」

 

ボディーガードを務めた以上、久保くんも気になるようだ。

 

「そうね……久保くんになら任せてもよさそうね。それじゃ久保くん、吉井くんを頼んだわよ」

 

久保くんの提案に納得した木下さんは真剣なまなざしで久保くんを見る。

 

「……善処するよ。それじゃ吉井くん、帰ろうか」

 

「うん」

 

こうして雄二たちと別れて久保くんと2人で帰ることになった。

 

 

 

 

帰り道、僕と久保くんは2人で歩きながら談笑していた。

 

「花火大会、楽しかったね」

 

「うん、すごく楽しかったよ。でも、ナンパされちゃたんだけどね……あの時は怖かったよ……」

 

はぁ……と嫌なことを思い出してため息をつく。

 

「それは僕も本当に驚いたよ……でも、吉井くんが無事で何よりだったよ。」

 

「うん、助けてくれてありがとう。それと、ごめん……いきなりあんなこと任せちゃって……」

 

ボディーガードを急遽任せてしまい時間を取らせてしまったことが申し訳なかったので、この場で謝った。

 

「別に謝ることもないし、大したことではないよ。いつでも助けてあげるから……ね」

 

「えへへ、ありがとう///」

 

僕は少し照れた表情で久保くんに助けてもらったお礼を言う。

 

「うわぁ……あそこにめっちゃ可愛い子いるじゃん、綺麗だわ」

 

「すげぇ、あんな絵に描いた美人初めて見た……横にいるの彼氏か? 羨ましすぎる」

 

横から、恐らく僕と久保くんを見ているのであろう、男2人がこちらに聞こえるくらいの音量で話していた。

 

「うぅ……恥ずかしい……」

 

傍から見たら彼氏彼女が並んで歩いていると思われいるのかな……?

 

そう考えると顔が熱くなり、それに追い打ちをかけるかのような真夏の少し暑い夜の気温で熱が出そうだった。

 

「ご、ごめん、吉井くん……僕が横にいるとまずいよね……」

 

久保くんも若干、困った顔をしていた。

 

「ううん、気にしないで! 僕は気にしてない……よ?」

 

と口では言いつつも、焦っている口調になってしまっては説得力がない。

恥ずかしくて、ちょっとモヤモヤした気持ちで、僕の顔は赤面状態だったかもしれない。

 

そんな調子で気まずくなって、久保くんとの口数が少なくなってきた時、僕の住むマンションに着いていた。

 

「今日はありがとう久保くん。わざわざ送り届けてくれて」

 

「別にいいさ、どうせ帰り道は同じなんだから、ついでみたいなものだよ」

 

「それでもありがとう、楽しかったよ」

 

「僕も楽しかったよ……じゃあ、またね吉井くん」

 

「うん、またね久保くん」

 

そう言って、久保くんは背を向けて帰って行った。

 

……なんだか寂しいな。

 

帰って行く久保くんの姿を見て、切ない気持ちになる。

 

なぜ寂しいと感じてしまうのだろうか。

 

今まで体験したことのない感情に、僕はずっと分からないまま、8月の初日を終えた。




できた~。

活動報告を投稿しました。
これはアンケートとかではなく、みなさんの意見を聞くだけです。
もし興味があったら見てくださいね~。


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26話 山に行く

(´・ω・`)もう秋が終わる頃なのにまだ夏休み編とは……。
やっぱ、もうちょっと早く夏休み編投稿しておけばよかったと思う作者です。

まぁそれはどうでもいいとして、今回からアキちゃんが山に行く話です。
駄文になるかもしれませんが、楽しんでいただけたら幸いです。

それではどうぞ~


アキside

 

 

「なんとか、着いたみたいだな……」

 

重い荷物を抱えて、息切れを起こしている荷物担当の雄二。

 

「そうだね、雄二」

 

ご苦労様です、という意味を込めた視線を向ける。

 

今日、僕たちは山に来ている。

1泊2日山のコテージに宿泊することになったのだ。

 

キャンプと言いたいとこだけど、自分たちでテントを組み立てて、

寝泊りするような本格的なものではないので、キャンプかどうかは微妙なところ。

 

「にしても、立派なコテージだな」

 

「中はどんな感じだろうね」

 

 

 

 

「おおー、なかなか広いじゃねーか」

 

雄二が一足先に入って、声を上げた。

 

「それに綺麗でいい部屋だね」

 

「快適そうじゃの~」

 

僕と秀吉は中を見回して頷く。

 

外観も立派だったコテージの中は広々空間で、1階には大きな部屋と、少し小さめの部屋があり、シャワールームとトイレがあり、2階へと続く階段までもある。

 

寝泊りするには申し分のない、場所であった。

 

「よし、じゃあ部屋に荷物を置いて外に集合だ。1階は男子で2階は女子だ、いいな?」

 

「……雄二は私と同じ部屋で」

 

「おい、翔子! お前は女だから2階だ!」

 

小さい部屋があるから、そこで2人きりで寝泊りすればいいのにね。

 

「まったく、あの2人は……それじゃ行こう秀吉」

 

やれやれと雄二たちを置いておき、秀吉の手を引く。

 

「なぜそうなるのじゃ!? いつも言っておるが、ワシは男じゃ!!」

 

「吉井くん、秀吉は正真正銘の男よ。安易に女子の部屋に連れ込んではダメよ」

 

木下さんに秀吉との手を引き離される。

 

「行きましょ、吉井くん」

 

次は逆に木下さんが僕の手を引く。

 

僕と女子陣のみんなは2階へと上がる。

 

 

 

 

「2階も結構、広いですね」

 

部屋を見回す姫路さん。

 

2階は大きな一部屋だけというシンプルな構成になっている。

 

女子全員が余裕で入るスペースはあるので、僕を含めた女子一同は満足していた。

 

「ここで寝泊りするんだ~、楽しみだね吉井クン」

 

「うん、楽しみだね。工藤さん」

 

海でも山でも楽しそうにしているのが工藤さんらしい。

 

「私も楽しみよ、夜が待ち遠しいわ」

 

「そこまで楽しみなんだ、木下さんは」

 

なぜ夜が待ち遠しいかは知らないが、木下さんも楽しそうにしているので何よりだ。

 

「それより、下で雄二たちが待っているよ。早く行こう」

 

僕がそう言って、女子一同は下に降りて外へ出た。

 

 

 

 

「よし、集まったな」

 

雄二がいつも通り場を仕切るように言う。

 

「ところで何をするの?」

 

「それは、これから決めるとこだ」

 

まだ決めていなかったんかい!

と突っ込みたくなるけど、いつもの雄二らしいので、ここはあえて突っ込まない

 

「う~ん、それじゃあどうする?」

 

「ココを降りたところに川があるみたいだけど、そこに行ってみない?」

 

工藤さんが「楽しそうだよ」と言いながら川に行くことを提案した。

 

「おお、それはいいな、行ってみるか」

 

そういうことで川に降りることになった。

 

 

 

 

川に降りみたが、人が誰もいない。

僕たち以外の人もここで泊まってるって聞くけど、ここには来ていないみたいだ。

 

でも、誰もいないおかげで、特別な解放感があった。

 

「綺麗な川だな~……ってここで何すればいいんだ?」

 

川の流れる音と、自然の生み出した風景に見惚れていて気付いた。

 

川に来たとはいえ、することがない。

 

う~ん、どうする? 

……そう言えば他のみんなは何やってるんだ?

そう思い、横を見る。

 

「水が超冷たいぞ!」

 

「うわ! ちょっと坂本くん!」

 

「何をするのじゃ、坂本よ!」

 

「……カメラが濡れる……!」

 

雄二は川に入って、久保くんとムッツリーニと秀吉に水をかけて、海の時と同様、はしゃいでる様子だ。

 

あーあ、服とズボンが濡れちゃってるよ……。

 

着替えがあるから、気にしないんだろうけど、何やっているんだ……と言いたくなるばかり。

 

雄二たちを尻目にしつつ、川の風景を眺めていた。

 

「アレ~? 吉井クンは入らないの?」

 

横から工藤さんが尋ねてくる。

 

「僕はいいよ、あんまり濡れたくないし……」

 

濡れると色々と透けちゃうし……ね。

 

「それなら姫路さんに水着借りたら? また吉井クンの水着姿見てみたいな~」

 

「こんな所で水着なんて着れないし……っていうか何で姫路さんが水着を持ってるの?」

 

川で水着って……小さい子供とかなら分かるけど、僕たちが着るのはなんか恥ずかしい。

 

「おーい明久、お前も入らないか? 冷たくて気持ちいぞ」

 

雄二が川の中から手を振っている。

 

「しょうがないなあ……」

 

そう言って立ち上がり、履いているズボンを捲くし上げて川に入る。

 

「うわぁ……冷たいな」

 

足を付けた瞬間、あまりの冷たさに声が出た。

 

川の水はかなり冷たく、まるで凍る寸前の冷たさだった。

 

「そこ滑りやすいから、気を付けなさいよ」

 

「分かってるよ、」

 

美波も川の中で遊んでるようだ。

 

僕はゆっくりと川の中を進んで、美波と雄二たちのところへ向かう。

 

「まったく、こんな所で何やって……わっ冷た! ちょっと何するの!?」

 

「せっかくなんだから、楽しみなさいよ。少しは頭冷やしなさい」

 

美波が水鉄砲を構えて小悪魔的な笑みを浮かべる。

 

「うぅぅ、冷たい……なんでそんな物持ってるの?」

 

ブルッと身体を振るわせならが、美波の持つ水鉄砲を見た。

 

「こんなこともあろうかと、準備してたのよ」

 

水鉄砲を用意するなんて……美波も子供っぽいところがあるんだな。

 

僕はクスリと笑う。

 

「ふふ、それじゃあ行くわよアキ」

 

「うん」

 

この後、海の時とちょっと違った、控えめの水の掛け合いを楽しんだ。

 

 

 

 

「そろそろ上がるか、日が暮れてきてるぞ」

 

夕日の沈みかけている空を見た雄二が川に入っていた、全員に言う。

 

「それじゃあ上がろうか、もうすぐで夕飯の時間だし」

 

僕は川岸に上がろうと、川の中を歩く。

 

にしても、この川冷たい…………早く上がって、この冷たさから解放されたい。

 

「おい明久! そこは――」

 

「え?」

 

突然、雄二が何か叫んだが、もうそれは遅かった。

僕は急に深くなった場所に足を踏み入れてしまい、つんのめる。

 

「あ……」

 

僕はそのまま水面にダイブする。

幸い、溺れるほどの深さでもないし、水に打ち付けられただけだ。

 

「吉井くん! 大丈夫!?」

 

川岸で見ていた木下さんが、急いで川へと入り、僕の所へ慌てて駆け寄ってくる。

 

「あはは……濡れちゃった……」

 

僕は木下さんに大丈夫だよという意思を伝えるかのように、笑ってごまかす。

 

「そう……それならよかったわ……って、吉井くん!? 透けてる!」

 

「ふぇ……?」

 

木下さんに言われて、僕は自分の服を見る。

 

Tシャツの前面はぴっちり肌に張り付いてしまってい、肌と下着が透けてるというか、

ほとんど見えている。

 

「わ、わあぁぁ!!」

 

僕は慌てて、腕で胸部を隠す。

 

「ちょっと、吉井クン!? 吉井クンのせいでムッツリーニクンの鼻血が止まらないんだけど!?」

 

ムッツリーニの方をみると、鼻血を噴出して、川で溺れかけていた。

 

周りの川の水が赤く染まっていて、酷い…………川が汚れてしまうではないか。

 

「久保くん! 久保くんまで、なんで倒れてるの!?」

 

よく見ると隣に久保くんも倒れて、溺れかけていた。

 

「……雄二は見ちゃ駄目」

 

「待て待て! 俺は何も見てn(ブスッ)ぎゃああ!!」

 

なんでこんなことに……。

ああ、もう……白いTシャツなんて着るんじゃなかった……。




できた~。

また新たに活動報告にてアンケート取ってます。
よかったら見てください。

とゆうか見てください!(切実)



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27話 山に行く2

最近更新ペースが遅くなってきてますね……。(´・ω・`)
この作品の更新は不定期です。
作者のノリと勢いで書いた作品ですからね……。

週に2~3話くらいは更新できたらいいと思っています。
ただテスト期間とかで遅くなる場合もあります。

凍結だけは絶対に避けたいところ……! :(;゙゚'ω゚'):




アキside

 

 

夕食が終わりみんなコテージの中へ戻る。

 

今日の夕食はみんなでカレーを作って食べたんだけど、普段自分で作るより美味しかった。

 

途中、姫路さんが食材を担当しようとしていて、焦る場面も出てきたが、美味しくも楽しい時間となった。

 

さて、夜になったのだが、夜は何をすればいいか悩む。

 

部屋で暇な時間を過ごす訳にもいかないとばかりに、ボーッと何をするか考えていた矢先、雄二が2階へと上がってきた。

 

「なぁ明久、肝試しに行かないか?」

 

「肝試し?」

 

「ああ、やっぱり夜の山といったら肝試しだろ!」

 

「いい提案だけど……でも、どこでやるの?」

 

キャンプ場だから、あまり肝試しに向いてるような場所はないと思うんだけど?

 

「コテージの裏に山道があるらしい。そこは外灯や人通りもないようで、肝試しには絶好のポイントらしいぞ」

 

「そうなんだ、じゃあ行こうかな」

 

僕たちは外へ出て、夜の暗い山道へと向かう。

 

 

 

 

「ここが雄二の言っていたとこか…………暗いな」

 

コテージの裏の山道へ来たところ。

 

雄二が言っていた通り、暗くて灯りがあまりないので、なかなか奥が見えない。

 

こんな中を歩くのはまた別の意味で怖い気もする。

 

「よし、じゃあ今からこのくじを引いて同じ色を引いた奴とペアになる」

 

と、雄二は沢山の棒を握りながらみんなに差し出す。

この棒は割りばしで多分、今作ったのであろう。

 

それぞれ、雄二の持つくじに手をかけて引く体勢に入る。

 

「「「せーのーでっ!!!」」」

 

みんなで声を揃えて、くじを一斉に引き抜く。

 

僕の引いた棒の先端の色は…………赤だった。

 

 

 

 

秀吉side

 

 

現在、ワシとアキちゃんは2人で夜の山道を歩いている……のではなく、肝試しをしている。

 

自分の引いたくじと同じ色を持っていたのは、アキちゃんだったのだ。

 

アキちゃんと違う色を引いた、島田や姫路などの女子の面々はがっかりしていた。

 

少し悪い気もするが、決まったものはしょうがない。

 

「うぅ……暗くてよく見えない……秀吉はこういうの平気だよね」

 

「もちろんなのじゃ。こんなの慣れるどころか、朝飯前じゃ」

 

ポーカーフェイスや忍耐力などの演劇部に必要な能力をを鍛えてきた自分にとって

こんな暗い夜道を歩くだけなど、たやすいことだ。

 

「アキちゃんは怖くはないのじゃな?」

 

「う~ん、怖いと言うよりドキドキしてるかな……? 秀吉と2人っきりでの肝試しだからね」

 

「そうなんじゃな……」

 

よく考えると、アキちゃんが元の姿の時もそうだが、2人になることはあまりなかった。

少しだけアキちゃんの言ってることが分かる気もする。

 

「僕ってそんなに怖がりに見えるのかな?」

 

アキちゃんは自分の姿を見ながら思案顔になる。

 

「そうじゃな……ワシの意見じゃが、そう見えるのじゃ」

 

「うぇぇ~、そんなに怖がりに見える?」

 

「か弱い女な感じが出ている感じじゃな。ワシは可愛くていいと思うのじゃ」

 

雰囲気的にもそうだが、背は小さいし、顔的にも怖がりな感じがする。

 

「褒めてくれてるのは分かるけど……全然嬉しくないよ……」

 

肩を落として、ため息を吐くアキちゃん。

 

「褒めた訳ではない、本当のことを言ったまでじゃ」

 

「うぅぅ、それはもっとひどいよ……」

 

肝試しをしていることはほとんど忘れて、会話をしながらどんどん先に進む。

進むたびに連れて、ワシとアキちゃんの会話が山の中に小さく響き渡る。

 

「あ、ここ段差あるから気を付けないとね」

 

アキちゃんは足元を見て、段差があることに気付いたようだ。

 

「そうじゃな……しかし、足元がなかなか見えないのじゃ」

 

目線を下にしても、ただ地面がある……くらいの認識しかできず、何があるかよく見えない。

 

用心して歩かなければ転びそうだ。

 

「大丈夫だよ、足元が見えなくても……うわっ!」

 

と自分で言ったそばからアキちゃんが足を滑らせて、尻餅をつく。

 

「大丈夫かの?」

 

ワシはそう言って、アキちゃんに手を差し伸べる。

 

「えへへ……大丈夫だよ」

 

ごまかすように笑いながら、アキちゃんはワシの手を握る。

 

「まったくお主も他人に呼びかける前に自分も注意を払うの――じゃ!?」

 

「えっ……?」

 

アキちゃんの手を引こうとすると、地面が湿っていたせいで滑ってしまった。

 

ワシはアキちゃんの方向に倒れて、暗くて分からないが、押し倒すような形になった。

 

「……いたた……秀吉、大丈夫?」

 

「大丈夫じゃ」と言おうとしたが、

顔が柔らかい物体に埋もれて、口を開くことができなかった。

 

な、なんじゃ? この柔らい物体は? とにかく息ができぬ。

 

暗くてよく見えなかったからか、足元に変なものでも落ちていたのかとその物体に手を伸ばす。

 

ふにゅっ

 

「あんっ……ひ、秀吉……どこ触って……んぅ」

 

触れた瞬間、アキちゃんの声がした。

そして、手のひらにとても気持ちがいい感触がした。

 

まさか、これは…………。

 

「秀吉、それ僕の胸だよ……」

 

「!!!」

 

それを聞いたワシはすぐにその場から飛び退く。

 

「す、すまぬのじゃ! アキちゃん! 不可抗力とはいえ、悪かったのじゃ!」

 

土下座をしながら、必死で謝った。

 

「ううん……別に秀吉ならいいよ」

 

「……なぜワシならいいのじゃ?」

 

「え? だって、僕たちは女の子同士だし、これくらいどうってことないけど?」

 

けろっとしながら言われた。

 

「そうじゃったか……いや、そうではなくて、ワシは男じゃ!」

 

アキちゃんが何も怒ったりしない理由はよりによってこれだった。

あまりにも当然のように言われたので、逆に自分が怒りたくなる。

 

まったく、いつになったらワシを男と見てくれるのじゃ……。

 

いい加減、こんなコントは続けたくないし、自分の性別を間違われているのがどうしても納得いかない。

 

「じゃあ、行こうか。あまりここに長くいるのもあれだし」

 

「……そうじゃな」

 

そう言ってわしとアキちゃんは、また山道を進んで行く。

 

肝試しというよりかは、後半から完全に夜の散歩になってしまったが、これはこれで楽しかった。

 

それにしても……アキちゃんの胸、柔らかかったのじゃ……。

 

なにより、顔と手のひらに感じたアキちゃんのあの感触は忘れられなかった。




今朝、番外編を更新したのですが。
時間が結構余っていたので、1日に2話の投稿ができました!
やっぱ、時間を有効活用するのって大事ね。(´・ω・`)ヾ

それと肝試しの相手は秀吉に決まりました!
アンケートにお答えいただきありがとうございました。(_ _*) アリガトォ

活動報告を見ればわかりますが、アンケートの意見が、なんと綺麗に3つの案に分かれて判断に苦しみまた。(笑)


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28話 山に行く3

ちょっと投稿遅くなりました、すみません。
やはりこの季節に体調管理は必須ですね……。(唐突)

実はここ最近、謎の腹痛に襲われて苦しんでいました。
腹痛といってもただの腹痛ではないですよ。

……多分。

それが何日も続いてよやく復活しました。
皆様には本当にご迷惑をお掛けしました。
本当に申し訳ないです……。ペコッ(_ _*)m(_ _)m(*_ _)ペコッ

それではどうぞ~


アキside

 

 

あれから秀吉と肝試し、というより夜の散歩(?)を終え、みんなとコテージの中へ戻った。

 

「そんじゃ、明日は朝早くから昆虫採集を行う。早く寝ろよ」

 

「うん、おやすみ雄二」

 

そう言って、僕と女子陣のみんなは2階の部屋へ行く。

 

部屋に入ると、僕たちは布団を引いて並んで寝ることに。

 

1番左が霧島さんでその横が木下さん。

木下さんの横が僕で、その隣が工藤さん。

工藤さんの横が美波で、その横が1番右の姫路さんだ。

 

※文じゃ分かりにくいと思うので、伝わらなければ説明します。

分かりやすいように説明すると

 

霧 優 吉 工 美 姫

 

こんな感じです。

 

 

「ムフフッ、ボクは吉井クンの隣なのでーす」

 

布団に入って、僕を抱きしめる工藤さん。

 

「寝ている間、吉井くんに変なことしないのよ?」

 

と布団を引きながら、木下さん。

 

寝てる時にそんなことはしないと思うけど……。

まぁそんなことはどうでもいい……とにかく今は寝たい。

いろいろあって、疲れたからね。

 

「それじゃあ、おやすみ~吉井クン」

 

「おやすみ、吉井くん」

 

横の2人から声がかかるが、眠すぎて耳に入らなかった。

 

 

 

 

優子side

 

 

「吉井クンもう寝ちゃったね……」

 

「そうね、アタシたちも寝ましょう」

 

吉井くんが寝たところで、アタシたちも寝ようと布団の中へ。

 

……………………。

 

……吉井くん、どうしているのかしら?

 

なんとなく気になったので、チラッと吉井くんの方を見る。

 

「……すぅ……すぅ……」

 

か、可愛い……!///

寝てるだけでも絵になるわ……。

 

まるで、隣に妖精が寝ているように思えた。

 

「あ、吉井君の布団がかかってないわ」

 

吉井くんの寝顔を眺めてるとふと気がついた。

 

寝返りを打ったからなのか、吉井くんの身体が布団からはみ出ていた。

 

このままでは風邪をひいてしまいかねないので、そっと、布団をかける。

 

「……う、ん……」

 

「吉井くん? どうしたの?」

 

もしかして、起こしてしまった……?

 

恐る恐る、確認する。

 

「……ん」

 

すると、吉井くんは寝返りを打つようにアタシに抱きついてきた。

 

「ーーーッ♥!?」

 

いきなり、抱きつかれて、私は思わず声を上げそうになった。

 

落ち着いて、落ち着くのよ……。

前も吉井くんに抱きつかれたことはこれが初めてじゃないわ。

いつまでも、このくらいで驚いてはダメよ。

 

アタシは落ち着くため深呼吸をする。

 

「うぅ……ん……」

 

ギュウウ……っと吉井くんが抱きつく力を強くしてきた。

 

「よ、吉井くん…………ああ、もう///」

 

我慢できなくなった私は吉井くんの腰に腕を回して抱き返した。

 

吉井くんの身体、柔らかいわ……それにいい匂い。

 

全身に感じる癒しの感触と落ち着くような香り。

 

これは抱き枕……いや、それ以上ね。

 

あまりにも気持ちがいい抱き心地で私はすぐに眠りについてしまった。

 

 

 

 

「……ん……あ、起きないと」

 

朝の午前5時半、すぐにアタシは目を覚ました。

 

昨日からの抱きついた状態がまだ続いてた。

よほど気持ちがよすぎて離れられなかったのだろう。

 

「吉井くん、起きて」

 

吉井くんの身体を揺さぶる。

 

もうちょっと抱きついていたい……という気持ちもあるが、そこは我慢して吉井くんを起こす。

 

「うぅ~ん……」

 

吉井くんは眠そうに目を擦りながら身体を起こす。

 

「……おはよう……木下さん」

 

「おはよう、吉井くん」

 

「今日は……えっと……あぁ昆虫採集だっけ?」

 

吉井くんは寝ぼけた顔をしたまま立ち上がって、ゆっくりとしたペースで支度を始める。

 

朝から微笑ましい光景を見ることができて、少し目が覚めた。

 

「さて……他の子も起こしましょう」

 

まだ起きてない人を起こしながら、いつもとは早めの朝が始まった。




う~ん、やっぱ微妙かな?
短い文章ですが、ネタが思いつかない作者をお許しください!

誤字脱字報告や感想お待ちしております。


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29話 山に行く4

前回、誤字脱字報告がありました。
ミスをしてしまい申し訳ないです。(*_ _)スミマセン

それではどうぞ


アキside

 

 

ただいまの時刻は6時。

早朝の層雲で森に霧が漂っている。

 

そんなことより、今回は予定にあったとおりの昆虫採集をする。

 

僕も小学生の頃はよくやってたけど、この年になるとやる気力もないし興味もなくなる。

 

なぜ行うのか?

ムッツリーニいわく、返る(?)ことと、自然と触れ合うという目的らしい。

 

うん、意味が分からない。

なぜこんな、いい年した高校生が網とかごを持って山に来て昆虫を採り、

童心に返ろうとするんだ……。

 

まぁ自然と触れ合うのはいいことだし、家で暇している人よりはマシだけど。

 

「集まったなお前ら。今から昆虫採集を始める、準備はいいな?」

 

ここでも雄二はリーダシップを見せる。

 

もちろん全員虫かごと網を手にもって、準備は完了済み。

 

「よし、ただ採るだけじゃ面白くねぇから、全員で勝負しようぜ。

ルールは単純で多く昆虫を捕まえる。一番多く捕まえた奴には豪華な景品を用意してあるぞ」

 

「豪華な景品?」

 

この日のために雄二は何か用意していたのだろうか?

 

「ああ、そうだ。ムッツリーニ、説明を」

 

「……豪華な景品は、昨日の川でのアキちゃん透けブラ写真と夏休み中のアキちゃんの写真をプレゼント……」

 

…………うわー……いらね。

 

というか、勝手に僕の写真を景品にしないでよ!

まったく、こんなもののために勝負を仕掛ける人なんているのだろうか。

 

「頑張ります! アキちゃんの写真は私がもらいます!」

 

姫路さんはやる気満々のようだ。

 

まさか、こんな勝負を本気でやる人がいるとは思わなかったよ。

 

「そんじゃ、昆虫採集スタートだ」

 

雄二の掛け声とともに昆虫採集が始まる。

果たして誰が1番昆虫を捕まえられるのか。

 

 

 

 

「オラァ!」

 

ドス!

 

ポトポト

 

「よしゃ! ゲットだぜ!」

 

雄二が木をおもいっきり蹴って、昆虫を木から落としている。

 

ああやって虫を捕まえることもできるのか……。

よし、それなら僕もやってみよう。

 

僕も雄二と同じ作戦でいこうと、周りの木を見渡す。

 

ん~…………あの木がいいかも。

 

近くに立派な木が立っていたので、そこまで踏み寄る。

 

大きくて、葉っぱが茂っていて、昆虫が多く集まりそうな木だ。

 

「よーし……てい!」

 

木を蹴るのは自然破壊……のような気もするが、それは気にせず狙いをつけて、まずは渾身の蹴りを一発。

 

ポカ

 

しかし、木は微動だにせず。

 

「あ、あれ……? もう1度!」

 

狙いどころが悪かったのかと思い再び狙いを定める。

 

ポス

 

案の定、木は微動だにせず。

 

「あ、あれれ……? おかしいな?……もう1度!」

 

三度目の正直とばかりに、また蹴りを入れる。

 

ポム

 

二度あることは三度ある、木は微動だにせず。

 

「ダメだ、力が入らない…………もう、なんで上手く行かないの!」

 

なんか悔しかったので、サンドバックのように木を何度も何度もポカポカ蹴る。

 

「えい! やぁ! はぁ!」

 

傍から見れば、蹴る姿と迫力はあると思うが、威力は心もとない。

 

うぅ……悔しい……やっぱりこの身体不便だよ!

 

「あはは、やっぱり吉井クンは何やっても可愛いな~」

 

「健気な姿がとてもいいわ……妹にしたい……」

 

工藤さんと木下さんが木に隠れて、ジーッとこっちを見ている。

 

見ないで……恥ずかしいよ、こんな姿……。

 

「もう、なんで落ちないんだ!」

 

ポト

 

なげやりに蹴ってみると、頭に何か小さな虫らしきものが落ちてきた。

 

「おお……やった~!」

 

どんなものかワクワクしながら頭に手をやる。

 

大きさ的にクワガタのメス……いや小さなカブトムシだろうか。

 

手に持った生き物を確認する。

 

8本の足。

 

頭と胴体がくっ付いているようなデザイン。

 

なんて立派な蜘蛛なのだろうか。

 

……………………。

 

「いやあああぁぁぁぁぁ!?」

 

あまりの気持ち悪さに思わず、手に持った蜘蛛を投げ捨てた。

 

あまりの不快感と恐怖でその場から走って逃げる。

 

「うわあぁぁぁん! 木下さぁぁん!」

 

逃げた道中で出会った木下さんに思わず抱き着いた。

 

「きゃっ……よ、吉井くん……どうしたの?///」

 

「うぅ……蜘蛛がね……落ちてきて、僕に引っ付いてきたの……」

 

「あぁ……そういうことね……アタシも虫は苦手だからよく分かるわ……よしよし」

 

頭を撫でてくる木下さん。

 

やっぱり、頭撫でられるの気持ちいかも……。

 

気持ちがよくて、ちょっと落ち着いた。

 

「吉井くん、むやみに大きな木を蹴ってはダメよ。自分の出せる力で揺らせる木を見つけるのよ」

 

「うん……そうする……」

 

やはり、あの大きさは無謀だったか……。

もう少し小さな木で挑戦しよう……。

 

 

 

 

「この木なら大丈夫かも」

 

細くて、なおかつ小さな広葉樹を見つけた。

 

いる確率はわからないが、手当たり次第に探すしかない。

 

木の一点に集中して狙いを定める。

 

「今度こそは……!」

 

先程と同等の力で蹴りを入れると、大きく木が揺れた。

 

ポト

 

すると、僕の目の前に小さなカブトムシが。

 

「よし! やっと捕まえられた」

 

サイズは小さいものの、やっとの思いで手に入れたのだから嬉しいものだ。

 

この調子でもっと捕まえようと他の木を探し、見つけては蹴って捕まえる。

 

この作業を楽しみながら繰り返してると、虫かごの中が大体8匹くらいの昆虫が詰まっていた。

 

「よし、もう日も昇ってきたことだ。集まって集計結果を確認するぞ」

 

雄二の掛け声でみんなは元の場所に集まる。

 

集計結果は以下の通り。

 

僕:8匹

 

雄二:14匹

 

ムッツリーニ:5匹

 

秀吉:6匹

 

美波:12匹

 

霧島:5匹

 

工藤:10匹

 

久保:15匹

 

優子:3匹

 

姫路:20匹

 

1番多く捕まえたのは姫路さん。

数は圧倒的だ。

 

「姫路さん、よくそんなに捕まえられたね……」

 

「アキちゃんの写真のためです!」

 

それだけのためによく捕まえたな……。

 

姫路さんはどこまでも凄い。

僕たちができないことを平然とやってのける。

 

「そんじゃ、捕まえた昆虫は逃がすとするか」

 

虫かごの蓋を開ける雄二。

 

「そうだね、このままはかわいそうだし」

 

「キャッチ&リリース精神が大事じゃな」

 

僕と秀吉に続いて、みんなもそれぞれ捕まえた昆虫を逃がそうとする。

 

「じゃあ、またなお前ら。元気でいろよ」

 

雄二はそう言って、昆虫を逃がしていく。

 

僕たちに少しの間、捕まっていた昆虫達は森どこかへ飛んでいってしまった。

 

「ちゃんと逃がしたんだから、いつかは、あいつらが恩返しにしに来るかもな」

 

「そうだね」

 

雄二の言葉に少し微笑んだ。

 

こうして自然と触れ合う2日間が終わった。

また楽しい思い出ができたんだと実感した。

 

……………………。

 

…………ん? ちょっと待って。

確かに、逃がしてあげたのはいいことしたように聞こえるけど、

よく考えたら、僕たちがやったのはただ単に、一方的に昆虫を捕まえて

逃がしただけじゃないか!

 

恩返しはもちろん来ることはなかった。




まさか20匹も捕まえるとは……。
恐るべき姫路さんのアキちゃんへの愛。( ゚д゚)
さすがに作者も姫路さんには頭が下がります。(笑)

今回で山の話は終わりです。
次でやっと夏休み後半です。 
なんかいろいろと長かったような…………。

あと3話くらいで終わらせたいと思う作者。(◎-ω-)。o○(想像中)


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30話 お泊り会

さぁ夏休み編は後半に突入!
なかなか、完結のさせ方が思いつかなかった作者。(´・ω・`)
完結のしかたは我ながら結構ビミョーです。




アキside

 

 

「夏休みもあと少しだな」

 

8月のカレンダーを見ながら腕を組む雄二。

 

「いろいろとあったからね。すぐに過ぎるよ」

 

今は雄二の家で残りの夏休みの計画を立てていた。

夏はいよいよ8月の下旬に突入している。

 

「ん~、何かやり残したこととかないか?」

 

考えるのが面倒になってきたのか、言い出しっぺの雄二は無責任ながら、

誰かに話題を振る。

 

「やり残したことね~……う~ん、僕は特にないけど」

 

「ワシも十分満足しておるぞい。あっという間じゃったな」

 

「……いいものが沢山撮れた……夏休み明けの経営はバッチリ」

 

「ウチもいっぱい楽しめたし、何も文句ないわ」

 

「アキちゃんのあんな姿やこんな姿が見れただけでもよかったです」

 

と一同は特に何も食い付かない。

 

今年の夏休みは普通に充実していただろう

 

現にみんなはやりたいことがなくなるくらい遊び尽くしていると思うし、

僕もやり残したことがあるなんて思いもしない。

 

だからこそ残りの休み期間をどう過ごすかが悩ましいところ。

 

「そうか…………おかしいな、何かを忘れてる気がするんだが……」

 

雄二はまだやりたいことでもあるのだろうか?

いったい何を忘れてるというのだ?

 

僕を含めた全員が雄二の姿を見て、疑問のまなざしを向けていた時のこと。

 

「ああぁぁ!! 思い出したぞ! まだ夏休みの宿題ぜんぜんやってねー!」

 

「「「あ」」」

 

雄二の叫びを聞いた僕と秀吉とムッツリーニは重要なことを忘れていた事実に気づかされ、顔が真っ青になる。

 

そうだ……そういえば僕たちは夏休みに入ってから遊んでばかりで、

宿題の存在に気づいてなかったんだ……。

 

「ど、どどどどどうする? 一旦お落ち着いて考えろ。もう夏休みは10日もないぞ」

 

「考える前にまずは雄二が落ち着いてよ……って、もうそんなに夏休み過ぎてたの!?

どうしよう……何も課題に手をつけてないよ……」

 

「言い難い話なのじゃが……ワシも正直、そこまで終わっていないのじゃ」

 

「……俺もだ……」

 

夏休みの宿題の存在を綺麗サッパリ忘れてしまっていた。

 

誰だ? さっきまで、やりたいことはもうないとかほざいてた奴は。

 

もしも宿題が終わらなかったら2学期早々、西村先生から過酷と言っていいほどの補習と罰を受ける。

 

なんとしても宿題を片付けなければ、夏休み明けの地獄を見ることになる。

 

「美波は終わったの?」

 

雄二の一言を聞いてたから、ほぼノーリアクションの美波に尋ねる。

 

「昨日、やっと終わったところよ」

 

美波はちゃんとやっているんだね……。

こういう時は真面目なんだから。

 

「じゃあ、姫路さんは?」

 

「7月中に終わらせましたけど……?」

 

「はやっ!?」

 

あれだけの量を難なく終わらせるとは、流石姫路さん。

Aクラス並みの成績は伊達じゃない。

 

うぅ……こうなったら、奥の手を使うしか……。

 

「姫路さん、ちょっといいかな?」

 

ガシっと姫路さんの肩を掴んだ。

 

「は、はい……なんでしょうか……?」

 

 

 

 

という訳で……僕の家で夏休みの宿題をすることを兼ねたお泊り会をすることになった。

 

「そんじゃ、じゃまするぞ明久」

 

雄二に続いて、他のメンバーもぞろぞろと入ってくる。

 

「うん、とりあえず上がって、その辺で適当に座ってて」

 

今から雄二、ムッツリーニ、秀吉、美波、姫路さん、木下さん、

工藤さん、霧島さん、このメンバーで今から夏休みの宿題をすることとなった。

 

泊まるメンバーは、秀吉を除いた女子の全員。

 

雄二とムッツリーニと秀吉は、男が女の家に泊まるってのはないだろ。

というような内容を言われたので、夏休みの宿題をやってそのまま帰ることになる。

 

「じゃあ、愛子は土屋くんの宿題を見てあげて。姫路さんと島田さんとアタシは

吉井くんと秀吉の宿題を見るから」

 

「まっかせて~、ほらやるよ」

 

「……お手柔らかに……」

 

「……私は雄二担当」

 

「すまん翔子、世話になる」

 

木下さんに指示されて、宿題が終わっている組が終わってない組を支援する形に。

 

このメンバーの中で夏休みの宿題が終わっているのは美波、姫路さん、木下さん、工藤さん、霧島さんだ。

 

女の子の中で終わってないのは、僕と秀吉のようだ。

 

「それなら、吉井くんと秀吉は分からないところを見せて頂戴」

 

「ええっと、この問題だよ」

 

「ワシはここなのじゃ」

 

それぞれ木下さんに理解できない問題を見せる。

 

「ん……あ~ここはxにyを足したら5になるから――」

 

ジッと問題を見つめた後、木下さんはすぐに解説を始めた。

 

見ただけですぐに教えられるあたり、教える側の役割に手慣れているみたいだ。

 

「それで、ここに2を移行して――そのまま9になるから――」

 

小1時間くらい経った頃には、ほとんど教えられずに解けるようになってきた。

 

というより、教えられればすぐに解ける状態になってて案外、簡単だった。

 

「アキちゃん、問題を解くペースが早いのじゃ……ワシには追いつけぬ」

 

「そ、そうかな? 意外と解けるものだけどね……」

 

「ワシも女子だったら、早く解けるかもしれないのじゃ……アキちゃんが羨ましいぞい」

 

「もう……秀吉も、女の子でしょ」

 

「いや、男じゃぞ!?」

 

秀吉に言葉を返しながら、ペンを動かしていく。

 

「かなり早いわね…………しかも、全問正解よ」

 

これには木下さんも驚いていた。

 

う~ん、ただ普通に解いてるだけなのに……そこまで早いのかな?

 

「この調子なら今日中に終わりそうね……もうひと踏ん張りよ」

 

「頑張りなさいよ、アキ」

 

「終れば楽しいお泊り会ですからね」

 

教える組に言われるがまま、僕はひたすらペンを動かして、問題を解いていった。

 

 

 

 

あれから5時間後、夏休みの宿題はすべて片付いた。

これだけ早く終わったのは、みんなから教えてもらったおかげであろう。

 

「ふぅ……やっと終わった~」

 

大きく息を吐いて、頭を使った疲れがドッときてぐったりする。

 

「頑張ったわね、吉井くん」

 

木下さんはにこやかな表情で僕の頭を撫でる。

 

ん……頭撫でられるのって、やっぱり気持ちいいかも。

 

「えへへ、ありがとう。木下さん、美波、姫路さん」

 

「「「どういたしまして」」」

 

あれだけ山積みだった宿題を終わらせることができたのは木下さん、美波、姫路さんのおかげだ。

 

3人には大いに感謝している。

 

ちなみに雄二の方は……

 

「助かった翔子……全部終わった訳ではないが、なんとか終わらせそうだ……」

 

机に突っ伏して、気が抜けたような声を出していた。

 

やっぱり雄二には、何時間も連続でするのはきつかったかもしれない。

 

「ほらほら、ガンバって。この問題を解いたらおしまいだよ」

 

「……もう限界だ……」

 

ガクッと頭が下がる。

ムッツリーニもついに限界がきたようだ。

 

「とりあえず、今回はこれまでにしようぜ……俺たちはもう帰る」

 

「ワシもここまでにするのじゃ」

 

「……俺も……」

 

雄二と秀吉とムッツリーニは勉強道具を片付け始める。

 

「そっか、じゃあまたね」

 

「おう、またな。お泊り会、楽しめよ」

 

「失礼するぞい」

 

「……おじゃました……」

 

ここで3人は帰って行った。

 

始業式までに無事に宿題を終らせているといいけどね。

 

そして一方、秀吉を除く女子のみんなはこのまま家に残る。

今からお泊り会が始まるのだ。

 

「さて、今からどおする?」

 

「そろそろご飯の時間だから、夕飯にしましょう」

 

自分のカバンに勉強道具を詰めながら木下さんは言う。

 

「じゃあ、出前か何かを頼もうか。ここは台所が狭いからね……」

 

みんなで何か作ろうと思ったけどキッチンが狭いし、そもそも全員分の食材もない。

 

なので結局、出前を頼むことにした。

 

 

 

さっさと食事を済ませて、午後の9時になったところだった。

 

「お風呂に入ろうか。僕の家の風呂は2人ずつしか入れないけど?」

 

そこまで広くはないので、スペース的に2人が限界かも。

 

「それなら、誰かと一緒に入るんだねぇ~……誰と一緒に入る?」

 

工藤さんの一言で僕以外のみんなは考え込む。

 

すると、何かヒソヒソと話し合いを始めた。

 

僕を置いて何を話し合っているんだろう?

 

「いいわね? 負けても文句なしよ」

 

「いつでもいいよ☆」

 

「絶対に勝ってみせます!」

 

「これは、負けられないわ」

 

「……私が勝つ」

 

「それなら、行くわよ!」

 

「「「じゃーんけん……ポン!!!」」」

 

木下さんの掛け声と共に、じゃんけんバトルが勃発。

 

あのー…………何で僕はじゃんけんに参加しないの?

 

いきなり僕以外の女子全員が繰り広げる勝負に、ただただ置いて行かれる僕だった。




お泊り会って、前回の山の話と同じ感じですが
極力、ネタがかぶらないようにしたいと思います。

えっと、活動報告にてアンケート開始しました。
皆さまの意見をお待ちしております。


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31話 お泊り会2

(´・ω・`)今回ちょっとエロい描写がありま~す。

運営から注意されないか心配だ……。ォロォロヾ(・ω・`ヾ 三 ノ ´・ω・)ォロォロ



アキside

 

 

「さぁ、お待ちかねのお風呂だよ~♪」

 

工藤さんが着替えとバスタオルを持って

目を輝かせながらウキウキしている。

 

「お待ちかねというほどはないと思うけどな……」

 

どうやら、さっきのじゃんけんは誰が僕と一緒に入るかを決める勝負だったようだ。

 

それで結果は勝ち抜けで工藤さんになったそうだ。

他のみんなはかなり悔しそうだったけど。

 

やけに熱くなっていたけど、風呂の相手を決めるのがそんなに大事なものなのだろうか。

 

「吉井クン、早くぅ~」

 

「あ、うん……」

 

あの工藤さんと一緒にお風呂に入るのはいろいろと心配だけど、

まぁ今回だけは特別に許そう。

わざわざ決めて一緒になったことだし。

 

 

 

 

「吉井クン! 身体、洗ってあげるよ☆」

 

「いいけど……変なことしないでよ?」

 

「大丈夫だよ! ボクがそんなことすると思う?」

 

するとしか思えないよ!

今までどれだけしてやられたのか……我が身を振り返って欲しいものだ。

 

「ほら、お背中流してあげるから、後ろ向いて」

 

そう言って工藤さんはタオルとボディーソープを使って、僕の背中を洗い始める。

 

「気持ちいいかな? 吉井クン?」

 

「う、うん、少しくすぐったいけど」

 

工藤さんにしては丁寧かつ気持ちのいい力加減だった。

 

「フーン……あ、手が滑った☆」

 

突然、工藤さんは僕の身体をまさぐりだす。

 

「ひゃあ!? ちょっと工藤さん!?」

 

「ん~ここは相変わらず大きいしやわらかいな~……なんか悔しいから、もっと揉んじゃおう♪」

 

「んっ……や、やめ、ダメだって!」

 

「まだまだー!」

 

「いやぁぁぁ!?」

 

工藤さんの胸への攻撃は止まらない。

 

「はぅ……あぅ……やぁっ……もうやめてよう……」

 

「あ……ご、ゴメンねー、吉井クン」

 

僕が涙目になりながら懇願すると工藤さんはまずいと思ったらしく、ようやく止めてくれた。

 

「もう……工藤さんったら……」

 

胸を押さえて、身を引く。

 

「いやー、ゴメンゴメン。可愛い反応されるならまたやっちゃってもいいかなって……」

 

「絶対にダメだよ!」

 

 

 

 

身体を洗い終えた後、湯船に浸かる。

 

湯船の温かさと落ち着く感覚に気が抜けそうだったのだが、

 

「工藤さん、なんでそんなにくっつくのかな?」

 

ただでさえ狭いスペースで、肌がこれでもというくらいに密着されたら落ち着かない。

 

「いいのいいの。吉井クンと2人でお風呂なんて初めてだから」

 

スリスリと身体を寄せてくる……というより、後ろから抱きしめられている気もするが……。

 

まぁいいか、さっきみたいなことしない限りは。

 

「それにしても、なんで吉井クンはこんなにカワイイ女の子になったんだろうね~」

 

工藤さんが僕の身体を撫でながら、唐突に言い出す。

 

「知らないよ……こっちが知りたいことなのに……」

 

「へぇそっか~……あ、もしかして吉井クンは女の子になりたかったんじゃないかな?」

 

「そ、そんなことないけど……」

 

工藤さんの鋭い勘に、少しギクッとした。

 

確かに事の発端はあの時の帰り道かもしれないけど、あれは単なる言葉のあやみたいなものだし……。

本気でなりたいとは思っていなかったし……。

 

「えぇ~……でも、なりたいと思わない限りはそうならないと思うけどな~」

 

「僕は元の姿に戻りたいよ……それになりたくてなれたら、男が女になることに苦労しないだろうし」

 

そんなことで性別転換できるなら、男が女になりたくて、女が男にないたいという性の問題は解決できてしまう。

 

それに、そんな非現実的なこと起こる訳がない。

だとしたら怖いよ。

 

「元に戻りたいだなんて、もったいないよ。こんなにスタイルもよくて可愛いのに……」

 

「ん~……そう?」

 

「そうだよ、ボクも吉井クンみたいになれたらいいのにな~」

 

そこまで羨ましがるほどなのだろうか。

僕にはさっぱり分からない。

 

「工藤さんは今のままがいい気がするよ。十分可愛いし」

 

「そ、そうかな? 吉井クンに言われると不思議と自信が持てるなぁ」

 

若干、照れたような口調で言う工藤さん。

 

それはどんな自信なのだろうか。

 

「でも、吉井クンみたいになりたいかな~、そしたらボクも彼氏がもうできてるかもしれないし」

 

「はは、どうだろうね」

 

工藤さんも彼氏というものが欲しいのか……意外と乙女なところがるんだね。

 

「そういえば吉井クンは彼氏とか作らないの~?」

 

「え?」

 

突然の言われたので言葉に詰まる。

 

誰かと付き合うなんて考えてもないし、好きな人もいないし……。

 

僕は何も言えずに、顔を赤くしながら無言になる。

 

それを見た工藤さんは何か思いついたらしく、

 

「あ! 吉井クンが女の子になった理由が分かったよ!」

 

「え、何?」

 

「もしかして男友達の中に好きな人がいるからじゃない!?」

 

「…………は、はぁ?」

 

え、全く話の内容が意味不明なんだけど……。

 

思わず顔も脳内もポカンっとする。

 

「いや~、もしかすると身近な男友達の中に好きな人がいて、吉井クンの想いが積もりに積もってこうなった……みたいな?」

 

「そんなこと絶対にないよ」

 

「え~、なんか怪しい~?」

 

「あ、怪しくないよ! そんなの屁理屈だよ……」

 

僕は必死に反論する。

 

「う~ん、そっかー……つまりまだ好きな人はいない白紙状態なんだね~。

これは面白くなりそう♪」

 

何が面白いんだ……。

 

ダメだ……さっきからずっと工藤さんの考えが読み取れない。

 

「ねぇ……もしも元に戻れないとしたら、吉井クンは誰かと付き合ったりする?」

 

「う~ん……どうだろうね」

 

工藤さんの何気ない一言に考えさせられた。

 

もし一生、元の姿に戻れないとなったらどうすればのだろう。

 

これからどう生きて行けばいいのだろう。

 

僕は悩みに悩んだが、答えが見つからない。

 

「まぁそこまで悩むことはないと思うよ。今から女の子らしく生きても間に合うから」

 

「そうかな……」

 

「もし悩みがあったりするなら、力になるよ……だから、いつでも相談してね☆」

 

「うん……ありがと……」

 

女の子として生きていくのは嫌な気もするけど、最近この生活に慣れてしまい、最初の頃より元に戻りたいと強く思わなくなってきているような……。

 

ああもう……何を考えているんだ僕は……。

 

「僕はそろそろ上がるよ」

 

これ以上考えるのはやめにしようと、立ち上がろうとする。

 

「ダメだよ、まだちゃんと浸からないと」

 

工藤さんが手首を掴んで離そうとしない。

僕はしぶしぶ湯船に浸かる。

 

だから工藤さん、そんなにくっつかないでよ……。

 

工藤さんが更に僕との密着を強めた。




この作品は1歩間違えたらエロTS小説になってしまうな……。
ここはもう開き直ってR-18にしよう!

と思ったが作者は18歳ではないので無理です。(´・ω・`)トホホ


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32話 お泊り会3

ついにこれで夏休み編はこの話が最後です。
長い戦いだったぜ……。 ヾ(´ε`;)ゝ ふぅ。。。

なんとかここまで来ることができました。
読者の皆さまと応援やご指摘の感想を送ってくれた方々には
本当に感謝しています。
感想書いてくれたりお気に入りにしてもらえると作者の励みになります。

そしてなんとUA40000件になりました!
沢山の方々に見てもらえて、作者は嬉しく思います。

さて今回もこの場をお借りして
読者の皆さまに送る「感謝の舞」を!

シバッ☆ヾ(・_・。)ミ★(*^-゚)vババババッ!!
(* ゚ー)O(*゚▽゚*)ノ~☆^ヽ(*^-゚)vThank you♪v(゚∇^*)/^☆ィエイ v゚ロ゚)☆
v(^_^v)♪ありがと~♪(v^_^)v

はい。感謝が伝わっていることを作者は願います。



sideアキ

 

 

あれからしばらく経ち、だんだんのぼせてきたので上がることにした。

身体を拭いて髪を乾かして、リビングに戻る。

 

「あ、吉井くん…………愛子に何かされなかった?」

 

「ムー、そんなことする訳ないじゃん! ねぇ吉井クン」

 

いや、おもいっきりされたんですけど。

工藤さんがヘルプの視線を送ってくるけどフォローする気はない。

 

「ふ~ん……吉井くんを見る限りなんか怪しいけど……まぁいいわ」

 

疑いのまなざしを向けてきたが、たいしたことはないだろうと、ため息をついた。

 

「さて、夏休みも最後だから、ここで最後の思い出を作ろう!」

 

夜はまだこれからだと目を輝かせる工藤さん。

 

「そう言われても、ここで何するの?」

 

僕の家でできることといえば……ゲームとかくらいしかないけど……、

 

「トランプでもしよう!」

 

トランプ? 夏休み最後の思い出がそれなの?

 

「トランプといってもただのトランプじゃつまらないから、負けた人は罰ゲームで」

 

工藤さんはいつも常備しているのだろうか、ポケットからトランプを取り出す。

 

「いったい、どんな罰ゲームをするの?」

 

僕がそう言うと、腕を組んで罰ゲームの内容を考える工藤さん。

 

絶対に今、罰ゲームをすると取ってつけたな。

 

「そうだね……1番になった人が負けた人に命令をすることができる……というのはどうかな?」

 

単純なルールかもしれないけど、逆にそれが面白そうだった。

 

「よし、それならやるよ」

 

「うん、じゃあやろうか、ただ罰ゲームは法に引っかかるようなことはダメだからね?

 

「愛子じゃあるまいし、そんなことしないわよ」

 

「みんなでトランプ、楽しそうです」

 

「罰ゲームは何にしようかしら……」

 

「……シャッフルは任せて」

 

みんなもやる気満々のようだ。

 

「それじゃ、ゲームスタート~!」

 

工藤さんの掛け声とともに、混ぜられたカードを配っていく霧島さん。

 

 

 

 

まず順番を説明すると、

 

工藤さん→美波→木下さん→僕→霧島さん→姫路さん

 

この順番でカードを引いていく。

 

「はい、次は私の番ね」

 

木下さんが僕のカードに手を伸ばす。

 

あ、そこは……。

 

「……?」

 

木下さんは不思議な表情で違うカードに手を伸ばす。

 

お、そこはジョーカー

それだ! それを取ってください!

 

心の中で切に願ったが、

 

「……顔に出てるのよ……可愛い///」

 

木下さんは顔を赤くしながら端っこのカードを取る。

 

あ、取られちゃった……思うようにはいかないな。

 

中盤になってから、僕の番になった時のこと。

 

霧島さんは無表情でカードを構えている。

 

……う~ん、霧島さんの表情を読み取るのは無理だ。

 

僕は勘だけの当てずっぽうで真ん中のカードを引く。

 

…………えぇ。

 

結果はジョーカーだった。

 

まぁいい、まだ勝負はこれからだ!

 

「……表情で丸分かり」

 

霧島さんはフフッと笑い、姫路さんからカードを引いた。

 

 

 

 

その後もなんだかんだで勝負は進み……

 

「……負けた」

 

「ということで、罰ゲームを受けてもらうのは吉井クンに決定!」

 

うぅ、なんで負けたんだ?

こういった勝負は得意中の得意なのに……!!

 

「じゃあ、1番の姫路さん。吉井クンに命令を」

 

工藤さんが面白そうな表情で姫路さんに指示する。

 

姫路さんか……嫌な予感しかしないな。

こういう時に限って、これなんだから……。

 

「それなら……アキちゃん、これをパジャマ代わりに着てください!」

 

姫路さんがパジャマ(?)とやらを渡してきた。

 

「う~ん、まぁこれくらいの罰ゲームなら……」

 

僕は嫌々ながらも、姫路さんから渡されたパジャマ(?)に着替える。

 

 

 

 

「それじゃあ吉井クン、出てきて」

 

「はーい…………うぅ……恥ずかしい」

 

僕が着ているのは、裸Yシャツに黒のオーバーニーソックス。

もちろん下着なんて履いてもないし着けてません。(姫路さんにそう言われたから)

 

スースーする……。

 

「とってもいいです! 持ってきておいてよかったです!」

 

姫路さんはとってもご満悦のようだ。

 

「下着を着けずにYシャツ、しかもニーソ履いたままとか……最強の組み合わせだわ」

 

はぁはぁと吐息を漏らしながら、ジーッと僕を見つめる。

 

木下さん……発言がムッツリーニみたいですよ。

 

「ここで罰ゲーム付きトランプは終了だよ、吉井クンはそのままで寝てね」

 

ニコッと笑いながら、言われた。

 

工藤さんのいじわる……。

 

「うぅ、この格好で寝るのか……」

 

この格好で寝るのは精神的に辛い……。

何よりスースーする……。

 

「まぁ罰ゲームなんだし仕方ないじゃない」

 

美波がきっぱりと言った。

 

確かにそうだけどね……。

面白そうだと思ってやってしまったのが悪い。

 

「それじゃ……寝ようか」

 

後、1時間もしない内に日付が変わる頃だ。

 

こうして布団を敷いて寝ることに。

 

「みんなは今回楽しめた?」

 

「アキちゃんのパジャマ姿が見れただけで十分楽しかったです!」

 

「ボクもとっても楽しかったよ☆」

 

「そうね、アタシも(吉井くんの裸Yシャツを見れたから)楽しかったわよ」

 

「ウチもなんだかんだ言って、いい思い出になったわね」

 

「……私も楽しかった」

 

寝る前の布団の中でも楽しい会話が弾む。

 

「そっかー、それならよかったよ。じゃあおやすみ」

 

こうして長かった夏休みもついに終了。

次は2学期。果たしてこれからどうなるのかな?




(´・ω・`)できた~♪

夏休み編、長くなりましたが、ついに完結しました。
終わらせ方がなんかイマイチだけど……。

そこはネタが尽きた作者をお許しください!(>ω<。人)

応援やご指摘の感想待ってます。


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番外編
番外編 ハロウィン


今回はふと思いついたことを番外編として執筆しました。
コスプレのアキちゃんが沢山登場しますよ!

アキちゃんを可愛く表現できていればいいのですが……。

それではどうぞ!


アキside

 

 

10月31日。

放課後に突入し、帰宅途中のことだった。

 

「アキちゃん! アキちゃん!」

 

「な、何かな……? 玉野さん……」

 

僕の目の前に玉野さんが現れた。

 

どうしよう、嫌な予感がする……。

 

嫌な予感がするのはいつものことだけど、今回は特にまずいことになりそうだ。

 

「あのね! アキちゃん! 今日はアキちゃんに着てもらいたい服を持って来たの!」

 

玉野さんはそう言って、鞄から何かを取り出す。

 

この間に逃げ出そうと思ったが、ちょっと気になって足を止めた。

 

そして、僕によく見えるようにあるものを広げて見せた。

 

「これは……ハロウィンの女性用コスプレ?」

 

「そうだよ! アキちゃんに着てもらいたくて作って来ました!」

 

「確かに今日はハロウィンの日だけど……ちょっと玉野さん! ここで脱がすのはやめて!」

 

玉野さんが僕のスカートを掴んで、脱がそうとする。

 

女の子の力を手にしている僕にとっては力が強く、気を抜いたらすぐに下着まで脱がされてしまいそうだ。

 

「こらこら、美紀ちゃん。ここで脱がすのはNGよ、別の所でやりなさい」

 

横から3人の女子生徒が声をかけてきた。

玉野さんと面識があるように見えるが、恐らくDクラスの生徒であろう。

 

「女子更衣室はあっちだから、連れて行きましょ」

 

3人は僕の腕を掴んで更衣室に連れて行こうとする。

 

「ちょっと待って、何で僕を更衣室に連れて行こうとするの?」

 

「決まってるじゃない、アキちゃんのコスプレが見たいからよ」

 

1人の女子生徒が平然と言った。

 

そんな当たり前のように言われても……。

 

「みんなアキちゃんのコスプレが見たいんですよ!」

 

「……うぅぅ、結局、着るしかないのか……」

 

そのまま、玉野さんと女子生徒3人に更衣室へと強制連行される。

 

 

 

 

「アキちゃん! 着替え終わりましたか~?」

 

「ま、まだだよ!」

 

更衣室に入ってからというもの、玉野さんが外で見張っている。

 

しかも、さっきから外が騒がしいと思えば、Dクラス全員の女子生徒を呼び集めたみたいだ。

 

こんなことしてくれなくてもいいのに……!

 

にしても、ハロウィン用のコスプレって結構着るのが難しい。

これは、脱ぐのも大変だろうな……。

 

「……アキちゃん、まだか……?」

 

この声は……ムッツリーニまで連れて来てたのか……。

誰だ? 余計なカメラマンを連れてきたのは?

 

内心、複雑になりながらも着替え終わり、更衣室を出る。

 

「わぁーやっぱりアキちゃん可愛いです!!///」

 

「キャー見て! すっごい可愛い!」

 

「あぁ、こんな妹が欲しかったわ……」

 

僕の着ている衣装は小悪魔のコスプレだ。

頭にツノとリボンのカチューシャに黒のワンピース。

下は網タイツとハイヒールを履いている。

 

「……胸部はレースアップで胸が露出しているのがなんとも言えない……!

さらに、太ももまで露出している足には網タイツという、なんともセクシーな組み合わせ……」 ガクッ

 

ああ、ムッツリーニが……。

やっぱり呼ばなくてよかったんじゃない……?

 

「それでは、次です!」

 

玉野さんに急かされて、次の衣装に着替える。

この衣装も着るのが大変だな……。

 

「それではアキちゃん、出てきてくださ~い♪」

 

「こんなの恥ずかしすぎる……」

 

次の衣装は狼男ならぬ狼女(?)のコスプレだ。

ケモミミのかぶりものに、ふわふわな毛で覆われたワンピース。

腕にウルフグローブをつけている。

 

「……ケモミミがアキちゃんの可愛さを引き立てている……何よりお腹を露出させているのが1番の目の付け所……!」 ダラダラ

 

さっきよりも鼻血の量が増しているよ……。

出血多量で死ぬのも時間の問題だろう。

 

「さてさて、アキちゃん。ここでお決まりのポーズです!」

 

「お決まりのポーズ? ポーズってどんな?」

 

「例えば、『がぉー!』とか『わぉーん』とか、狼になりきって可愛くアピールするんですよ!」

 

ポーズってどんなことしたらいいんだ?

 

……って他の女子生徒まで期待のまなざしで見られているよ……。

あぁ、こんな雰囲気になってしまった以上、やるしかないじゃないか……恥ずかしい。

 

「……が、がぉ~……///」

 

言われたとおり、狼の真似……いや、これ本当にすごく恥ずかしい……。

 

(((……………)))ズキューン

 

「あー! いいよ、いいよこれ!///」

 

「アキちゃん最高! 私の妹になってー!』

 

「ん~エロい! 携帯の待ち受けに一枚撮らせてもらうわ」

 

女子生徒のみんなは大盛り上がり。

 

「こ、これは予想以上の破壊力でした!///」

 

「……その格好で、恥じらいながら猫の手ポーズからの『がぉー』は卑怯……ゴハァッ」

 

玉野さんとムッツリーニまで……ってムッツリーニはいつも通りか。

 

「それでは、次が最後です! アキちゃんお願いします!」

 

僕は玉野さんに最後の衣装を渡される。

 

「これで最後か……やっと開放されるよ……」

 

僕はさっさと終わらせたいので、玉野さんから衣装を受け取り、更衣室に入る。

 

えっと、次の衣装は…………なんだこれ?

 

「ちょっと玉野さん、この衣装は何?」

 

「アキちゃんに着て欲しくて買って来ました!」

 

「そうじゃなくて、この衣装はさすがにないよ……」

 

「アキちゃんならできます!」

 

僕ならできるって、玉野さんは僕をなんだと思っているのだろうか……。

 

そして、みんなも目を輝かせないでよ。

 

他の女子生徒は何かに期待するような目でこちらを見ている。

また雰囲気的にならなければいけない流れになって、なんとも言えなくなった。

 

あ~もう、分かったよ着ますよ。

どうせ夏休みであった、ミスコンよりはぜんぜんマシだから。

 

もうこの際プライドとか恥じらいとかどうでもよくなってきた。

 

「分かったよ、着るから……」

 

「それでは、アキちゃん、お願いします!」

 

結局、着る羽目になってしまった……。

まぁ別に、コスプレはよく着るから慣れてるからいいか……。

けど、いくらなんでもこの衣装はないと思うんだけど……。

 

「それではアキちゃん、出てきてくださ~い♪」

 

「こんなの裸とほぼ変わらないじゃん……」

 

胸と股間の部分を手で隠しながら

 

包帯で胸と尻だけの部分を隠したミイラの衣装だった。

ミイラとは呼びがたいけど……。

 

「……全体の肌が丸見え、胸と尻は隠れているが動いたりしたら、

今でも見えそうなギリギリ感……恥じらって隠すことで更に……!!」

 

ついにムッツリーニは出血多量で倒れてしまった。

お得意の評価も最後まで言えない事態に。

 

「すっごく可愛いです! これが1番です!」

 

「もうこれは可愛いわ……何よりエロい」

 

「……パーフェクト……」

 

感想はいいです。

聞いてるこっちが恥ずかしいです。

 

玉野さんを始めとする、女子生徒の全員の声が耳に入って、より一層羞恥心を煽られる。

 

これで満足してくれたのか、僕はやっと開放された。

 

僕はハロウィンという一年間の中でも、その行事が嫌いになったかもしれない。

と、精神がぼろぼろになりながら心の中で泣いた。

 

 

 

 

後日、ムッツリ商会では『アキちゃんの写真集~ハロウィンversion~』が売り出されたそうだ。

 

これは学園中の生徒が買ったのはもちろんだが、他校の生徒も買いに来るほどの売り上げを誇る結果となった。

 

もちろんアキちゃんはそのことを知る由もない。




橘潤さんやマナさんにいつもお世話になっている
オファニム1952さんと社畜マンさん、アンケートにお答えいただきありがとうございます!
そして素敵な案をありがとうございます!!


また思いついたら番外編やると思います。
その時は見て、楽しんでいただければ嬉しいです。


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2学期編
33話 2学期始まる


長かった夏休み編も無事完結(?)し、やっと2学期編です!
2学期編も張り切っていきましょー!!⁽⁽٩(๑˃̶͈̀ ᗨ ˂̶͈́)۶⁾⁾






sideアキ

 

 

「ふあぁぁ……もう朝か……」

 

僕は身体を起こして周りを見ると、自分以外のメンバーは全員起きていた。

 

「おはよう、吉井くん。早く準備しないと遅れるわよ」

 

「うん、今日は学校だからね……」

 

木下さんに急かされるなり、僕は布団から立ち上がる。

 

まだスースーする。

このパジャマあまり着ない方がいいかも……。

 

罰ゲームで着せられたとはいえ、これはやり過ぎじゃないかと、今更ながらに思っていた。

 

今日は2学期が始まる9月1日。

 

長かった休みも、いざ終わると長かったようで短かったような気がする。

 

まぁおおむね満足しているから、いつ始まってもよかった気はするけどね。

 

「吉井くん、髪がぼさぼさよ」

 

そう言って木下さんはくしを手に取り髪をとかし始める。

 

「いくら元が男子だったとはいえ、今は女の子なんだから身だしなみには気を付けなさい」

 

「う、うん、ありがとう」

 

(それにしても、吉井くんの髪綺麗だわ……こんなにぼさぼさなのに)

 

木下さんにされるがまま、髪をとかし終え、制服に着替える。

 

久しぶりに制服を着ると身が引き締まる気がする。

 

「アキの制服姿を見るのは久しぶりね」

 

「やっぱりアキちゃんは制服が一番可愛いです!」

 

美波と姫路さんとはクラスが一緒なので、1ヶ月以上も制服姿を見てなかったら久々に見た感覚になるだろう。

 

僕も2人の制服を着る姿を見るのは久しぶりのような気がする。

 

「それじゃ、準備も済んだことだし、行こうか」

 

こうして、僕達は学校に向かうのであった。

 

 

 

 

「お、吉井か、夏休みが明けてからも相変わらず女のままだな」

 

「西村先生、おはようございます」

 

学校の校門には夏休み明け初日からいつも通り、西村先生が立っていた。

 

夏休み明けだというのに気が抜けてないな、この人は。

 

「今日から2学期が始まることだ、しっかりと学問に励むようにな」

 

「はい、もっと精進します……それでは」

 

自然な会話で終わったが、西村先生は僕が女の子になった環境に慣れてしまったのだろうか……。

 

ありがたい気もするが、少し複雑な気分だった。

 

 

 

この後、霧島さんと木下さんと工藤さんと別れると昇降口に向かう。

 

下駄箱を開けると、ラブレターがバサバサ落ちてくる。

 

「……ああ、2学期早々、これか……」

 

「女子になってからというもの、アキはモテモテねぇ……」

 

「アキちゃんは人気者です。嫌いな人は誰一人いませんよ」

 

美並と姫路さんに見つめられて、恥ずかしくなりながらもラブレターを拾い上げて、教室に向かう。

 

その途中、ラブレターの中身を確認する。

 

内容はいつもと変わらないか…………次はなんて返事したらいいかな……。

 

毎度のこと、断る理由をいつも考えている。

 

名前も顔も知らない人から告白されるのだから、そりゃ断るさ。

 

さて、夏休みの間に改装工事でも行われているのかと少しは期待していたが、そんなことは一切なく、むしろ廃墟感が増したFクラスの教室へとたどり着いた。

 

「おはよ~、みんな」

 

ガラッと教室のドアを開ける。

 

「おお、我らの女神アキちゃんが来たぞ!」

 

「よかったまだ男に戻ってないようだな!」

 

「アキちゃん久しぶり! 会えなくて寂しかったよ……」

 

教室のドアの方へと一斉にクラスのみんなが詰め寄る。

 

やっぱり夏休みが明けても、このクラスは変わらないな……。

 

「おー明久、夏休み明けだというのに早いな」

 

「ふふん、夏休みが明けたからと言って僕の気は全く抜けてないよ」

 

そう言いながら席に座り、改めてラブレターの中身読む。

今回は約30枚ほどで、さっきここへ来る時読んだものはまだ一部に過ぎない。

 

いつも貰う度に思うんだけど、だんだん貰う数が増えていると思うのは気のせいだろうか……。

 

「ん? 中には女子生徒からのも……」

 

半分近くほど女子生徒からのラブレターがあった。

 

これはちょっと気になるな。

 

女子生徒から送られてきたものだからか、丁寧に手紙を包んでいる紙を開けて、中身の文章を読んでいく。

 

『アキちゃんが好きです! 同性でも私はアキちゃんが好きです!

私と付き合ってください!』

 

『アキちゃんの無垢で可愛い姿に心を奪われました。

もし不満がなければどうか私と付き合ってください』

 

『アキちゃんが好きです、好きで仕方がありません

どうか結婚を前提としたお付き合いを……!』

 

う~ん……どうしたらいいのだろうこの場合。

 

女子が女子に送るラブレターと言う時点でそうだが、内容が特殊すぎる。

思わず、僕は2学期の初日から頭を抱えた。

 

仕方ない、数が多すぎるし返事はまたいつかにしよう。

どう断ればいいか分かないし……。

 

「よし、お前ら席につけ。夏休みはもう終わりだぞ」

 

ちょうどラブレターをすべて読み終わった時、

西村先生が教室に入ってきた。

 

「今日から2学期だ。

いつもでも夏休み気分でいられないよう、初日からみっちりと指導してやるからな」

 

西村先生の指導だと、3日もせず夏休み気分なんて消え去るだろう。

 

「では、後は始業式で終わりだ。終わるまで気を抜くなよ」

 

そう言って、西村先生は教室を出て行く。

 

よし後は、始業式と帰りのホームルームくらいだ。

 

この様子だと今日は午前中に終わりそうだな。

 

「おい、お前ら。ちょっと聞いてくれ」

 

いきなり雄二が教卓の上に立ち、全員をまとめる。

 

「急な話になるが明日、Dクラスに宣戦布告をする」

 

「「「なんだと!?」」」

 

雄二は何を考えているんだ?

2学期早々Dクラスに宣戦布告をするんだ?

 

「お前らは今の設備に不満はないか?」

 

「……いや、確かに設備はひどいが、アキちゃんさえいれば俺は何もいらないのだが?」

 

「それな~、俺もアキちゃんがいれば問題ない」

 

ちょっと待て、誰だ今そんなこと言った奴は?

 

「そう言うと思ったぜ……なら1つ条件を加える」

 

雄二がニヤリとする。

 

それを見て悪寒が走る。

 

なんか……嫌な予感が……。

 

「もしDクラス戦に勝つことができたなら、報酬を与える」

 

報酬? 何を用意してるんだろう?

やる気を出させるほどの報酬とはどんなものだろうか。

 

「報酬の内容をムッツリーニ、頼む」

 

「……任せろ」

 

ムッツリーニが1冊の厚い週刊誌のようなものを取り出す。

 

「……報酬はこの夏休み、アキちゃんのすべてを収録した

『アキちゃん真夏のParadise』だ……!」

 

「「「何ぃぃぃぃ!!??」」」

 

えぇぇ!? 

 

ちょっと待て、この夏休み僕のすべてをって、それは僕の水着姿や浴衣姿も載せられてるってこと!?

 

なんてものを餌にしてるんだ、雄二!!

 

「どうだ? やるか?」

 

「ああ! もちろんやる!」

 

「当たり前だよなぁ!?」

 

「Dクラスに勝って、アキちゃんの豪華写真集が手に入る……こんなに美味しい話はないぞ!」

 

しかも、さっきまでやる気の欠片もなかったみんなはまるで別人のように真逆のことを言い出した。

 

「よし、それなら明日に備えてちゃんと勉強して来いよ!」

 

「「「おー!!!」」」

 

え、ちょっと待って……。

 

そう言いたかったが、こんな状況下で僕は蚊帳の外。

 

くそぅ……2学期早々、雄二にとんでもない仕打ちを貰ったな……。

 

 

 

 

「もーなんてことするんだよ、雄二!」

 

「まぁそう怒るな、Fクラスの全員はやる気になってくれたぞ」

 

「それでも納得できないよ!」

 

始業式が終わってからというものの、雄二たちと言い争いながら帰路に着いている。

 

「でも、なんでいきなりDクラスに宣戦布告するの?」

 

「それはワシも気になるのじゃ」

 

「……俺も」

 

その話は置いておいてと、僕と秀吉、ムッツリーニで雄二に事の経緯を聞きだした。

 

「俺の目的はAクラスに勝つことだからな。まずはDクラスからだ」

 

「Aクラスって……前にAクラスへ宣戦布告して大敗したのに……」

 

「だから今回こそは勝ってみせる、次のAクラス戦で1学期の汚名返上だ」

 

「要はリベンジするってことね。まぁ上手く行くといいけど」

 

どうせまた1学期みたいに酷い戦果になるだろうけど……。

 

「とにかく、女の身体になったお前は十分な戦力になる。絶対に勝つぞ」

 

ポンっと僕の肩を叩く雄二。

 

「はいはい、最善を尽くします」

 

気だるい雰囲気を醸し出しながら言った。

 

「ワシも、できるとこまではするのじゃ」

 

「……俺も本気を出す」

 

雄二がそこまで言うなら、止める訳にはいかない秀吉とムッツリーニは気合が入っていた。

 

「よし、それなら宣戦布告は明久と秀吉が行って来い」

 

「ええぇ!? 僕が!?」

 

「そうだ、安心しろ、女であるお前には誰も手出しはしないだろう」

 

そうじゃなくてDクラスには玉野さんがいるんだよ!

僕が行ったらすぐにリ●ちゃん人形の如く、コスプレに着替えさせられちゃうよ!

 

「頑張れ、お前ならやれる」

 

雄二の言葉は応援にはなっているものの、僕にとってはまったく無責任な言葉だった。

 

「うぅ酷いよ……」

 

「アキちゃんよ……ワシも付き合うからそう落ち込むでない」

 

慰めるように、秀吉から頭を撫でられる。

 

僕の気持ちを分かってくれるのは秀吉しかいないよ……。

それにしても、今日は雄二から2回もしてやられたな……もう、雄二の馬鹿!

 

僕の2学期は最悪なスタートを切ってしまった。




2学期早々、試召戦争をすることになりました。
さて、次回は初めての試召戦争ですよ!
いったいどうなるのでしょうね~。

活動報告にてアンケート取ってます。
興味がある方は活動報告へ。ヘ(*--)ノ


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34話 Dクラス戦1

(´・ω・`)いやー、今回から試召戦争の話です。

初めて書くから、緊張しております。


sideアキ

 

 

2学期が始まってから早くも、その翌日。

 

雄二に無理矢理任せれらることとなった宣戦布告のため、僕と秀吉はDクラス教室前にいる。

 

「いよいよだね、秀吉」

 

「そうじゃの……では開けるぞい」

 

ガラッ

 

「失礼します」

 

「失礼するのじゃ」

 

僕と秀吉はDクラスの教室に入る。

 

自分のクラス以外の教室に足を踏み入れるのは、少し緊張感が膨れ上がる。

 

「なんだなんだ? 2学期早々、美少女がこのクラスになんの用だ?」

 

まずは教室の入り口付近にいた男子生徒が、僕たちの存在に気が付いたようだ。

 

それにしても、このセリフ、どこかで聞いたことあるような……。

 

「突然ですが……僕たち、FクラスはDクラスに試召戦争を申し込みます」

 

なんとか噛まずに言えた……よし。

 

「おいマジかよ……2学期早々、宣戦布告かよ」

 

「しかも使者にアキちゃんと木下を使うとは……」

 

「んで、どうするよ?」

 

いきなり宣戦布告されたものだから、この反応は当然か……。

 

さて、困った。

こうなると、宣戦布告は失敗に終わる確率が高い。

 

このタイミングで来ること自体間違っていたかもね。

雄二ももう少し、残念な脳をフル活用して、作戦を立てればいいのに。

 

「落ち着いてください。相手はFクラスとはいえ宣戦布告をするために派遣された使者です。丁重に扱うべきですわ」

 

ざわめくDクラス生徒一同に、清水さんが呼びかける。

 

女の子にだけは優しいな、清水さんは……。

 

元の姿で来るのならば……いや、今はよそう……。

 

「あぁ! アキちゃん!」

 

あ、もしかしてこの声は……。

 

「あ、お、おはよう……玉野さん……」

 

「アキちゃん、アキちゃん! またアキちゃんに着せるための服を持ってきたの!」

 

出会ってから早くも、僕に服を着せるつもりですか、そうですか……。

 

「確かに玉野さんのお願いは聞いてあげたいけd……だから玉野さん、ここで服を脱がそうとしないでと、何回言ったら分かるんだ」

 

服を脱がしにかかる玉野さん。

それをけん制する僕。

 

ここで脱がすのは流石にないと思う。

周りには男子がいるんだから、少しはTPOをわきまえて欲しいものだ。

 

いや、TPO以前の問題かもしれないけど。

 

「もう、美紀ちゃん。ここで脱がすのはダメって何回も言ってるでしょ」

 

「着替えるなら女子更衣室に、ね?」

 

Dクラスの女子生徒たちが僕を更衣室に連れて行こうとする。

 

「なんでみんなは僕を更衣室に連れて行こうとするの?」

 

「そりゃ、アキちゃんのコスプレが見たいからよ?」

 

当然のように言われて、引っ張られていく。

 

「なぜワシも連れて行かれるのじゃ……?」

 

ついでに、秀吉も連行されました。

 

 

 

 

あの後、宣戦布告は失敗に終わるかと思われたが、なぜか相手は承諾してくれた。

 

どういう理由でなのか知らないが、無事に済んだことなので、Fクラスの教室に戻る。

 

「おお、戻ってきたか……お前ら、どうしたんだその格好?」

 

 

「それは聞かなくても分かるでしょ……雄二」

 

僕と秀吉は玉野さんとDクラスの女子生徒から着せられたコスプレを着たまま、

教室に戻ってきた。

 

僕と秀吉が着せられたコスプレは紺色のセーラー服。

 

中学生の頃を思い出す、懐かしい衣装……な訳あるか。

僕が中学生の頃はちゃんと学ランでした。

 

「セーラー服のアキちゃん……可愛いです!」

 

僕を見た途端、姫路さんが僕に抱きついてくる。

 

姫路さん、僕が女の子になった時から、雰囲気とかいろいろ変わったな。

 

「……写真を撮らなければ……」ドバドバ

 

「ムッツリーニが凄いことになってる!」

 

カメラを手に持ちながら、鼻血を大量に流してるムッツリー二がいた。

 

セーラー服なのにそこまで興奮することなのだろうか……?

 

ムッツリーニの想像力が豊かすぎるのか、女の子に耐性がないのか……。

どちらにしろ、ムッツリーニの思考は特殊過ぎて、追いつけない……。

 

「ところで、宣戦布告は上手く行ったのか?」

 

「うん、なんとかね」

 

「そうか……よし、じゃあ試召戦争に備えて、今から補充テストをする」

 

雄二の声とともに、Fクラス全員が点数補充のためテストを始めた。

 

「よしゃ、やるぞ!」

 

「こんな簡単な問題、さっさと解いてやるぜ!」

 

「アキちゃんの写真集は俺のものだ!」

 

みんな、2学期始まってすぐなのに、なんでこんな力が出せるのだろうか……。

 

理由は分かってはいるけど……。

なぜこれを普段はやらないのだろうか。

 

半分は驚きで、もう半分は呆れだった。

 

そんなことより、僕も頑張らないと。

どんな理由であれ、Fクラスのみんなの努力を棒に振るような真似はしたくない。

 

僕もみんなに続いて問題を解いて行く。

 

 

 

 

「お前ら、夏休み中に何があったんだ……? 全員Dクラス並の点数だぞ?」

 

補充テスト終了後、Fクラス全員のテスト結果を見て、西村先生は珍しく驚愕の表情を浮かべていた。

 

Dクラス並の成績……とりあえず、相手と対等な実力差に追いついただけでも大きい。

よくやった、Fクラスのみんな。

 

ちなみに僕は全教科A、Bクラス並みの点数だった。

夏休みの最後で木下さんに、分からないところを教えてもらったのが吉と出たのかもね。

 

そういう訳で、僕は3つの腕輪を手に入れることができた。

どんな腕輪かは試していないので、効果などは分からないが、3つも獲得できたのはラッキーだ。

 

「明久、新しく腕輪を貰ったらしいが、どんな腕輪を貰ったんだ?」

 

「えーと……まず1つ目は……『ドレスチェンジ』だって……」

 

「それはどんな腕輪なんだ?」

 

『ドレスチェンジ』

 

召喚獣の武装と衣装がランダムに変わる腕輪。

ただ衣装が変わる訳ではなく、召喚獣の能力なども衣装によって、違ってくる。

召喚フィールド外に出るなどすると、元の姿に戻る。

武装と衣装は選べるわけではなく、ランダムなので消費点数は10点。

 

「アキちゃんにピッタリの腕輪ですね」

 

腕輪の説明を聞きながら、目を光らせる。

 

「なるほど……もう一つの方はどうなんだ?」

 

「2つ目は……『Lovemanipulate』だよ……」

 

「これはまた、面白そうな腕輪だな」

 

『Lovemanipulate』

 

相手召喚獣を操ることができる腕輪。

召喚者に好意などを寄せている者にのみ発動できる。

ただし限度があり、操ることができる召喚獣は2体まで。

消費点数は30点。

 

「お前が使うからにはかなりの能力を発揮しそうだな……じゃあ3つ目は?」

 

「3つ目は……『Flameblade』」

 

「最後の最後でかっこいいものが来たな……どんなものなんだ、それは」

 

『Flameblade』

 

アキちゃんの武装である太刀の刀身が燃える効果がある。

この状態で、相手に攻撃を当てると通常の1.5倍のダメージと追加効果を与える。

追加効果は召喚獣が少しの間、1秒毎に5ダメージを受ける。

召喚フィールド外に出るなどすると効果は消える。

召喚フィールド内にいれば効果が続くので消費点数は80。

 

「すごく強そうな腕輪なのじゃ、ワシもそんな腕輪が欲しいのう」

 

「ウチも頑張ればアキみたいな腕輪が手に入るのかしらねぇ」

 

羨ましそうにしている秀吉と美波。

 

「使えるかどうかは、実践してみなきゃ分からないよ」

 

と言いつつも、かなりの強みになると確信していた。

 

「なるほど……この戦いの切り札は明久と姫路になるな……」

 

雄二が、腕を組んでブツブツとつぶやきだした。

 

「よし、それじゃ作戦を説明する。まず前衛の部隊長は明久、お前だ」

 

「え? そんな役割を僕がやるの?」

 

雄二のことだから、かなり重要な役割に任命されそうだとは思っていたけど……。

 

でも、切り札が前衛の部隊長をしてもいいのかな?

切り札って、普通は後に取っておく存在だと思うけど。

 

「安心しろ、Fクラスのメンバーはお前を死ぬ気で防衛するだろう」

 

死ぬ気でって……いくら召喚戦争とはいえ、そんなことに命を懸けるようなことをする訳……

 

「大丈夫だアキちゃん! 何がなんでも君を守ってみせる!」

 

「アキちゃんのためなら死んだっていい!」

 

あった……。

 

「前線を押してその次に中堅部隊が援護する、姫路と明久は温存しておくんだ」

 

ということはDクラス代表や後続部隊を倒すのは姫路さんと僕なのか。

 

「そういえば、どうして僕を前衛部隊長にしたの? 僕と姫路さんは温存しておくのに」

 

「お前がいたら前衛の士気が上がるからな、それにお前が出る幕はないだろうし」

 

どうして僕がいるだけで士気が上がるんだろうか……それくらいで士気が上がるほどFクラスは単純じゃない気がするけど。

 

「この作戦で問題はないか?」

 

「うん、他のみんなが特に異議なしなら大丈夫」

 

「そんじゃ、もうすぐでDクラス戦だ。いつでも出られるようにしておけよ」

 

「そっちこそね……」

 

女の子になってから初めての試召戦争。

どうなるか少し楽しみな気もする。




この前のアンケートにご協力いただきありがとうございます。
素晴らしい意見をいただいたので、試召戦争が楽しくなりそうです。

ありがとうございましたm(*-ω-)m


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35話 Dクラス戦2

お気に入り登録がなんと300件になっていました!

(´・ω・`)…………。





アヒャヒャヒャヒャ ヘ(゚∀゚ヘ)(ノ゚∀゚)ノ ヒャヒャヒャヒャ
(゚∀゚∀゚∀゚∀゚∀゚∀゚∀゚∀゚∀゚∀゚∀゚∀゚∀゚)

※作者発狂中

はい、なんとお気に入り件数が300件達成しました。
お恥ずかしいのですが、見たとき、作者はあまりの感激と驚きで発狂に近いことやってました。(笑)

ここまで来れたのは、読者の皆さんや
いつもアドバイスをくれる方々のおかげですよ!

もう本当にありがとうございます!!
こんなことしか言えませんけど、本当にありがとうございます!!(*゚▽゚)ノ

さて今回も、くどいかもしれませんが
恒例の「感謝の舞」を!!

シバッ☆ヾ(・_・。)ミ★(*^-゚)vババババッ!! 
v(^_^v)♪ありがと~♪(v^_^)v

はい、前書き長くなってすみません。ヾ(^-^;)

それではどうぞ


sideアキ

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

試召戦争開始代わりのチャイムが鳴る。

 

「さて、みんな行くよ!」

 

「「「おー!!!」」」

 

Fクラスの前衛部隊のみんなが僕の掛け声に答える。

 

なにしろ部隊長という責任重大な役割を引き受けているので、少しは場を盛り上げようとやってみたが、なかなか悪くない。

 

対Aクラスへ向けた第一歩であるこの勝負、当然負ける訳にはいかない。

 

 

 

 

「いくぜー!」

 

「命に代えてもアキちゃんを守るんだー!」

 

「アキちゃん万歳!!」

 

さっそく前衛部隊は交戦状態だ。

Fクラスは補充テストで見せた謎の力でDクラスと対等に渡り合っている。

 

「な、なんだこいつら? Fクラスってこんな強かったっけ……?」

 

「くそっ……Fクラスも本気のようだな」

 

「そっちがその気なら、こっちも本気で行くぞ!」

 

Dクラスも怯まずに向かってくる。

 

「うわぁ! やられた!」

 

「戦死者は補習だあああぁぁぁ!」

 

西村先生が点数が0になった生徒を補習室に連行する。

 

やっぱり、試召戦争はこれがあるから怖いなぁ……。

 

「見つけました! お姉さま!」

 

「美春ッ!」

 

清水さんがいつの間にか現れて美波に襲い掛かる。

 

きっと、美波を狙って来たのだろう。

 

こなるなら前衛に美波を置かない方がよかったかも……。

 

「「試獣召喚(サモン)」」

 

2人はお互いに召喚獣を呼び出す。

 

 

 

化学

 

2-F 島田美波 65点

 

VS

 

2-D 清水美春 104点

 

 

 

うーん……美波でも60点台が限界か……。

 

「スキありです!」

 

「きゃああッ!」

 

まぁ最初から勝負の行方はお察しかもしれないが、やはり美波では勝てないか。

 

「アキィィ! 突っ立って見てないでアンタも戦いなさい! 補習室は嫌ぁー……」

 

「補習室がお嫌でしたら、保健室のベッドが空いていますよ?」

 

「いい加減にフォローしなさいよ!!」

 

清水さんの言葉を聞いた瞬間、美波の助けを求める声が叫び声に変わり果ててきた。

 

ここは助けるべきかな……。

 

とりあえず、試獣召喚でもしておこうk――

 

「フフフッ、それならアキちゃんも交えて保健室に――」

 

「――ごめん美波、君のことは忘れない」

 

「アキィィィ!! 後で覚えておきなさいよ!!」

 

2人の邪魔をする訳にはいかないので、ここは大人しく下がっておこう。うん。

 

 

 

 

「アキちゃんすまない、これ以上の戦闘は無理だ」

 

「だいぶ押されてるみたいだね……」

 

いくら同等の戦力とはいっても、これ以上は無理だね。

よし、そろそろ引き上げよう。

 

「待ってください! アキちゃん!」

 

「こ、この声は……!?」

 

一旦下がって、中堅部隊に任せようと試みた瞬間、突然玉野さんが現れた。

 

いつもタイミングが悪いなぁ……なんでこうい時に限って出てくるんだ……。

 

「アキちゃん、まだそのセーラー服着ててくれたんですね!」

 

「着替える時間がなかったからね」

 

時間がなかったから僕と秀吉はまだセーラー服を着ている。

 

それ以前に、「それも全体の士気が上がる効力がありそうだから着ておけ」と雄二に命令されたので、着ていたりもする。

よく分からないけど。

 

「とにかく、アキちゃん! 覚悟してください!」

 

「……やるしかないのか」

 

もう前衛部隊で残ってるのは僕かFクラスの数人くらいだ。

 

ほとんどみんなに任せっきりだし、部隊長である自分がいかなければ、無責任極まりないので、玉野さんとの勝負を受け入れることにした。

 

「「試獣召喚(サモン)」」

 

僕と玉野さんはお互いに召喚獣を呼び出す。

召喚フィールドは化学だ。

 

 

 

化学

 

2-F 吉井アキ 233点

 

VS

 

2-D 玉野美紀 124点

 

 

 

大きな差があるけど、相手はあの玉野さん。

油断していたら、服を脱がされるようにコロッとやられる可能性も考えられる。

 

「行きます! アキちゃん!」

 

攻撃態勢をとり、玉野さんが向かってくる。

 

「はぁ!」

 

僕の召喚獣の武装は太刀だ。

太刀特有の長いリーチを生かして、大きく振りかぶる。

 

「うっ……!」

 

かなり重い一撃だったため、玉野さんは少し怯んでいる。

 

「まだです! まだ行きます!」

 

それでも玉野さんは素早く態勢を立て直して向かってくる。

 

「てえぇぇい!」

 

僕も態勢を立て直し、太刀を振る。

 

流石は玉野さんと言うべきだろうか、僕の攻撃を上手く避けていく。

 

このままだと長期戦になって、こっちが不利になるかもしれないなぁ……。

 

あ、そうだ。

 

僕は唐突にあることを思い出した。

 

「よし、玉野さんには悪いけど、ここで決める!」

 

ちょっと卑怯な戦法かもしれないけど、どんなものか試してみたかったし、玉野さんで実践してみよう。

 

「行くよ! 『lovemanipulate』」

 

僕は今回貰った腕輪、『lovemanipulate』を発動する。

 

玉野さんの召喚獣がピンク色の光に囲まれる。

 

「な、なんですかこれは!?」

 

召喚獣が操作できなくなり戸惑う玉野さん。

 

「ごめんよ玉野さん、僕たちはどうしても負けられないんだ……」

 

「えっと……これはどうすれば……って!? あ、ちょっと待ってください!」

 

僕は玉野さんの召喚獣をとりあえずどこかにやって、その後を玉野さんは追いかける。

 

そして、僕たちはその間に逃げる。

 

この腕輪、結構使えるな……。

 

頭の中で相手の召喚獣にああしろ、こうしろと唱える感覚でやってみると、ご覧の通り、あっさりとできてしまった。

 

これはもう僕たちの作戦勝ちでいいよね?




いつも応援やアドバイスをありがとうございます。
いつも皆さまの応援は作者の心の励みになっております。
次回も楽しみにしていただけたら嬉しいです。

もしかするとルビ振り間違えてるかもしれないので
もしあったら、すぐに修正します。

初めてルビ振りやったので間違えてるかもしれません。


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36話 Dクラス戦3

(´・ω・`)おはようございます!


sideアキ

 

 

僕と前衛部隊のみんなは点数補充のため、教室へ戻ってきた。

 

今は中堅部隊にバトンタッチして、前線は中堅部隊とDクラスが交戦中だ。

 

「お、戻ってきたか明久。戦果はどうだったか?」

 

「まぁ苦戦もしてたけど、なんとか順調かな」

 

「そうか、それは何よりだ。後半戦になることだ、いつでも出られるようにしとけよ」

 

「はいはい、雄二も頑張ってよ」

 

「ああ、もちろんだ」

 

雄二はそう言って中堅部隊の加勢に行った。

 

さて、後半戦に備えて僕も補充を済ませて――

 

「アキィィィッ! さっきはよくもウチを見捨てたわね!」

 

なっ!? 美波! なぜここにいるのだ!?

清水さんとの保健室というアバンチュールはどうしたのだ?

 

「あ、み、美波!? 美波はさっき清水さんと保健室で大人の階段を上ったはずじゃ……」

 

「そんな階段、誰が上るのよ! やられる寸前で須川が助けてくれたからなんとか助かったのよ!」

 

「あ、そうなんだ……それはよかったね……なによりだよ、うん」

 

「見捨てておいて、何がよかったなのよ! そんな薄情者は……おっぱいを揉まざるを得ないわね!!」

 

「痛い痛い痛い! ちょっと美波! 本当に揉まないでよ!」

 

僕の胸を潰すような勢いで美波は胸を揉み続ける。

 

「何よ! このバカでかい胸は! 爆乳並の大きさに柔らかいとか、ふざけるんじゃないわよ!」

 

「ふざけてないんですけどぉぉぉ!? そして、イタィィィィ!」

 

僕の何がふざけているの!?

それはただの嫉妬ですよね!?

 

「こんな時にまで喧嘩するとは……2人は本当に仲がいいのぅ」

 

「悪いのよ!」

 

秀吉……眺めてないで助けてよ……。

 

「もういいわ、十分なストレス発散になったからね」

 

そんなことでストレス発散しないで、もっとマシな方法を探しなよ……。

まったく、胸が潰れるとこだったよ。

 

「こんなことしてないで早く点数補充しようよ……」

 

なんだかんだとあったが、僕たちはすぐに補充テストに取り組む。

 

中堅部隊も上手く行っているといいけど、後半戦はどうなるのだろう。

 

 

 

 

「明久、中堅部隊もそろそろ限界だ! 前衛に回ってくれ!」

 

雄二が珍しく慌てた様子で戻ってきた。

 

「う、うん、じゃあ行こうか」

 

いよいよDクラスとの戦いも終盤に差し掛かるとこだ。

 

前半でみんなに任せっきりだったから、後半で大きく貢献できるといいな。

 

そんな闘志を燃やしながら、いざ戦場へ。

 

「うおお! Fクラスだからって舐めんな!」

 

「Fクラスの馬鹿力見せてやるよ!」

 

おお……中堅部隊も前衛部隊と変わらず、Dクラスとやりあってるね。

僕も加勢するか。

 

「ああ! アキちゃんじゃないか!」

 

「え?」

 

突如、目の前に現れた男子生徒に声をかけられる。

 

…………誰だ? この人は?

 

見たところ、僕のクラスの生徒じゃなくて、Dクラスの生徒だろうな。

 

「もしかして、アキちゃん、俺のこと忘れたのか……?」

 

「え? あ~、う~ん……会った記憶があるようないような……」

 

「ガッツリ忘れてるじゃねーかぁぁぁぁ!!」

 

男子生徒は悲鳴にも似た叫び声でガクリっと、うな垂れる。

 

誰だか知らないが、僕なんかに忘れられたのがよほどショックなのか。

なぜ、そんなに落ち込むのか、僕はサッパリ理解できない。

 

「本当に俺のことを忘れたのか? アキちゃん」

 

「いや、そんなこと言われても……ん? 待てよ、なんで君が僕のことアキちゃんと呼んでるの?」

 

少なくとも僕をアキちゃんと呼ぶのはFクラスのほぼ全員が呼んでる名前だ。(別に嫌ではないので、普通に呼ばせている)

 

他は、玉野さんとか他のクラスの女子生徒くらい……。

Fクラス以外の男子生徒で僕をアキちゃんと呼ぶのは…………。

 

「ああ!! 思い出した!! 君はこの前、僕を放課後、体育館裏に呼び出して告白した男子生徒の1人じゃないか!」

 

「おお! 思い出してくれたか! そうだ、俺が1学期、アキちゃんに一目惚れしたメンバーの1人だ」

 

ようやく思い出してくれたことに歓喜する男子生徒。

 

どこかで見たことある顔だなと思えば、そうだったのか。

あれは鮮明に覚えてる出来事だから、男子生徒の顔までうっすらと覚えてるんだよね……。

 

「アキちゃん、いきなりこんなところで言うのはあれかもしれない。

だが、俺はこんな状況でも君に愛のメッセージを送り続ける!」

 

……………………それは、はっきり言って迷惑だよ。

 

「アキちゃん! 俺と付きあt「ごめんなさい!」ちくしょおおおお!!」

 

男子生徒はまたガクリとうな垂れる。

 

うっ……この光景を見ると、またこの前と同じ罪悪感が……。

 

「くそぅぅ……なんでアキちゃんは俺の告白を拒むのだ……」

 

「だから言ったじゃん……僕は誰とも付き合う気はないって……」

 

「ってことは、アキちゃんは男子に興味がないと……?」

 

「この身体で言うのもあれだけど……興味はないよ」

 

元は男だったのに、これで好きだったら同性愛者と変わらない気がする……。

別に同性愛者を悪く言うつもりではないけど。

 

「!? とゆうことは、アキちゃんは女子に興味が!?」

 

前の身体では女の子が好きだったし……。

今でも興味がないと言ったら嘘になるかな……。

 

いや、この身体で言ったら言ったで同性愛者になるんじゃ……。

別に同性愛者を悪く言うつもりではないけど。

 

大事なことなので2回言いました。

 

「まぁ元は男だったからね……興味がないとは言い切れない……かな?」

 

「そ、そうなのか…………ならこうしよう! 今から召喚戦争で対決しようではないか!

科目は数学で! 俺が勝ったら俺と付き合ってくれ!」

 

「うえぇぇ!? そんな無茶な」

 

そんなこと言われても無理だよ……。

 

もう、どんだけ僕に一目惚れしてるんだよ! ありがた迷惑だよ!

 

「行くぜ試獣召喚(サモン)!」

 

聞く耳持たずか……。

 

「こうなったらやるしかないな試獣召喚(サモン)

 

仕方ないやと、続いて僕も召喚獣を呼び出す。

 

 

 

数学

 

2-F 吉井アキ 280点

 

VS

 

2-D 鈴木 一郎 164点

 

 

 

「点数では負けてるけど……愛があれば勝てる!」

 

そう叫んでこちらに突っ込んでくる。

 

「悪いけど、こっちも負けたくないからね 行くよ! 『lovemanipulate』」

 

僕は『lovemanipulate』を発動する。

本日これで2回目だ。

 

「ぬおッ!? う、動けない……! なんだこれは!?」

 

男子生徒はピンクの光に包まれて身動きが取れなくなる。

 

一目惚れの話は嘘じゃなかったんだね……。

 

「ごめんね、僕は君を好きになれないんだ」

 

身動きが取れなくなった相手に太刀を振る。

 

「くそおおお!! 負けた!!」

 

僕の一振りの攻撃で、相手召喚獣は点数がゼロになってしまった。

 

「戦死者は補習だあああ!!」

 

「あ、アキちゃん! いつか俺の思いを届けてみせるからねぇぇぇぇぇ!!」

 

そう叫びながら西村先生に補習室に連行される。

 

まったく、相変わらずタフな人だな……。

ああいうところは褒めるというか、むしろ尊敬するべき……?




男子生徒、残念だったな……。(´▽`)

次回でDクラス戦は完結する予定です。
次回も楽しみにしていただけたら嬉しいです。


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37話 Dクラス戦4

こんにちは、いつも通りの作者です。(´・ω・`)/




sideアキ

 

 

Dクラス男子生徒の2度目の告白を断った後、前線に戻る。

 

敵の数も味方の数も残り後わずかの状態。

今はFクラスとDクラスの後方部隊がお互いに奮闘しているところだ。

 

「アキちゃん、行きますよ」

 

「うん、行こう姫路さん」

 

FクラスもDクラスとほぼ同じ状態だ。

後は切り札である僕と姫路さんで後方部隊を蹴散らして代表を討つだけだ。

 

Dクラスの後方部隊は僕らを見つけると、迎撃態勢を整える。

 

「気を付けろ! 姫路さんとアキちゃんはFクラスの最強メンバーだ!」

 

「気を抜いたら、俺らだけでもすぐにやられちまう……可愛い顔して侮れないな……」

 

「いや、むしろ可愛いから倒したくないのだが……」

 

倒さないとダメでしょ。

 

まぁ女の子である僕たちに手加減をしてあげたくなる気持ちは分からなくはないけど、

これは男女関係なしの戦いだ。

 

「と、とにかく行くぞ! 2人を倒せば俺らは勝ったも同然だ!」

 

「「「おー!!!」」」

 

随分と必死な様子だけど、アニメとかゲームの強敵キャラの視点から見たらこんな感じなのかなぁ……。

 

「「「試獣召喚(サモン)!!!」」」

 

「「試獣召喚(サモン)!!」」

 

お互いに召喚獣を呼び出す。

科目は数学だ。

 

 

 

数学

 

2-F 吉井アキ 228点

 

2-F 姫路瑞希 245点

 

VS

 

2-D Dクラス生徒15名 150点

 

 

 

人数には大きな差があるけど、点数では十分勝っている。

 

これは行けるな。

 

僕はそう確信した。

 

「点数がダメなら数で押し切れ!」

 

「「「おー!!!」」」

 

一方、相手は僕たちとは真逆で数で勝負をするつもりのようだ。

 

質が勝つか数が勝つかの、真剣勝負。

 

「じゃあ、こっちも行くよ! 『Flameblade』」

 

僕は今回手に入れた、とっておきの腕輪『Flameblade』を発動する。

 

すると、僕の召喚獣が持っている太刀の刃が赤く光って、真っ赤な炎が燃え盛る。

 

「な、なんだあれは!?」

 

「アキちゃんの刀が燃えている!? マンガの武器かよ!?」

 

「る●うに剣心の志●雄みたいだな……」

 

あ~、確かにる●うに剣心の志●雄みたいだけど……。

 

僕の召喚獣は体温が上がり過ぎて、燃え尽きて最期を迎えるということに……。

 

……いや、そんなのはどうでもいい!

一気に片付けるよ!

 

「はぁッ!!」

 

時計回りに大きく振りかぶる。

同時に刃の炎が広い範囲に撒き散る。

 

「うわッ!? やべぇ、1発でも当たったら致命傷だぞ!」

 

「しかも召喚獣が燃えてやがる! くそ、燃えてる間にダメージが……」

 

「迂闊に近づけねぇ……どうしたらいいんだ!?」

 

Dクラスは怯んでいる。

その間に僕と姫路さんはDクラスの召喚獣に襲い掛かる。

 

「どりゃあッ!」

 

僕は大雑把に太刀を振り、2人を巻き込んで戦死させる。

 

「はぁッ!」

 

姫路さんは大剣で1人を一刀両断にして戦死させる。

 

「こ、これじゃ歯が立たない……」

 

「まだまだ!」

 

逃げ腰になっていた1人の生徒めがけて、突進しながら右から左へ薙ぎ払う。

 

「くそぉ! やられた!」

 

「む、無念……!」

 

「ここまでか……」

 

武装のリーチの長さと腕輪の効果で数名を戦死させることができた。

 

それにしてもこれ、扱いやすいな……下手したらチート腕輪かも……いつしか下降修正が入りそう。

 

「これで終わりだ!」

 

「終わりです!」

 

僕と姫路さんが持っている太刀と大剣でトドメを刺す。

 

「全滅している……だと!?」

 

Dクラスの後方部隊も全滅のようだ。

 

「やりましたね! アキちゃん!」

 

「うん、そうだね」

 

僕と姫路さんで後方部隊に勝ったことを祝ってハイタッチをする。

 

「あ、後方部隊がいなくなったおかげでDクラス代表が出てきたよ!」

 

喜ぶのはまだ早かった。

後方部隊がいた後ろから、Dクラス代表が出てくる。

 

「君が、元は男だったコスプレが趣味の同性愛者か……」

 

ボソッとDクラス代表の一言に僕は叫んだ。

 

「なんで出会い頭にコスプレ趣味&同性愛者って呼ばれるの!?

僕はコスプレなんて好きでやっている訳じゃないし、同性愛者じゃないよ!

秀吉と美波と姫路さんのような女の子が好きなんだよ!」

 

※アキちゃんは今もセーラー服を着ています。

 

「その姿で言われてもな……」

 

「あ、アキちゃん……それを言われたらどういう反応をすればいいのでしょうか……」

 

「違うからね!? 今も確かにそうかもだけど、元の男だった時のことだよ!?」

 

姫路さんが顔を赤くしながら俯いている。

 

いや、確かに今も好きかと言ったら好きだけど……友達的な意味でね。

 

「まぁこれはあくまでも噂だし、さっき補習室へ連れていかれていたクラスメイトがそのようなことを言っていたからね……」

 

その言葉を聞いて、ピンッと来た。

 

クラスメイトとやらはさっきの告白してきたDクラス男子生徒だな……。

もう……余計なこと言わなければよかった……。

 

「噂はともかく、早く始めてくれないかな? 科目はそちらが決めても構わない」

 

「あ、そうだね……あの、姫路さん。この勝負、僕だけでやってもいい?」

 

「どうしてですか?」

 

「代表1人対強い2人じゃアレだし……ちょっと試したいことがあるんだ」

 

「分かりました……試したいことって、いったいなんですか?」

 

「それは見てれば分かるよ」

 

僕はそう言ってDクラス代表に勝負を申し込む。

 

「Dクラス代表、平賀くんに現代国語を申し込みます!」

 

「よーし、掛かって来い!」

 

「「試獣召喚(サモン)」」

 

 

 

現代国語

 

2-F 吉井アキ 288点

 

VS

 

2-D 平賀源二 206点

 

 

 

「ははっ、どうやら君の噂や偏見を鵜呑みにして、甘く見ていたようだな……」

 

「そんな風に見てたんですか……」

 

ちょっと今の発言はショックな内容だった。

 

「……点数に差はあるが、俺は代表である以上、負けられない」

 

Dクラス代表こと平賀くんはこちらに向かってくる。

 

「僕もFクラスのためにも負けられないよ『ドレスチェンジ』」

 

僕は『ドレスチェンジ』を発動する。

 

すると僕の召喚獣の身体が光ってシルエット状態になる。

そしてシルエットの光が一気に消えてなくなり、僕の召喚獣の衣装と武装が大きく変わっていた。

 

衣装は黒のワンピースに白のフリルが付いたエプロンを組み合わせたメイド服。

太ももが少し見えるくらいのミニスカートタイプなので結構動きやすい格好だ。

そして武装は両手にダガーナイフを持っている。

接近戦にはかなり有効的な装備だった。

 

「ははっ……本当に僕にピッタリかもしれn――」

 

「たぁぁぁッ!!」

 

気が付くと相手が剣を振り上げていた。

 

「ッ!」

 

僕は素早く回避して、相手の懐に飛び込む。

 

「はぁッ!!」

 

「くッ……!」

 

懐に飛び込んだ後、相手を切りつける。

 

かなり動きが素早いのは、この衣装と武装の能力のおかげかもしれない。

 

腕輪の効果を発動して正解だったかも。

 

「なかなかやるな……ならこちらも!」

 

相手はさっきより勢いを増して、剣を振りかぶる。

 

「てぇぇぇいッ!」

 

一度切り付けてから、また切り付けてくる。

雑に剣を振り回しているように見えたが、隙がなく、おまけに早い。

 

「ぐぅッ……!」

 

相手の攻撃を受け止めていくが、どうしても怯んでしまう。

 

もしかすると、この衣装と武装の欠点は防御力が低いってことかな。

 

メリットもあればデメリットも付き物だ。

 

「たぁッ!」

 

怯んだ後、素早く態勢を立て直し蹴りを入れて、相手が少し後ずさったところへ前進しながら、両手でX字に斬り下ろす。

 

「うわッ!? やるな…………だが、まだ終わってない!」

 

まだ相手は諦めず、こちらに向かってくる。

 

「これで決める!」

 

ここは一かバチかでこちらも相手に突っ込む。

 

「うおぉぉぉぉぉッ!!!」

 

相手は突進しながら大きく剣を振り下ろしてくる。

 

「そこだ!」

 

僕は態勢を低くしながら突進していたので、攻撃を上手くかわし、同時に僕の右手に持っていたダガーナイフが見事に相手召喚獣の心臓部分へと突き刺さっていた。

 

「くそぉ……ここまでか……」

 

 

 

現代国語

 

2-F 吉井アキ 198点

 

VS

 

2-D 平賀源二 DEAD

 

 

 

この時、Fクラスの勝利が確定した。




はい、無事FクラスはDクラスに勝てましたね!
今回活躍した腕輪は『ドレスチェンジ』と『Flameblade』です。

『ドレスチェンジ』はやっぱ、アキちゃんにぴっったりの腕輪だし
変化する衣装と武装を考えるのが楽しかったですね~。

『Flameblade』はバトル系の要素がたっぷり詰まってて、とてもよかったです!

前回登場した『lovemanipulate』はアキちゃんだからこそ使える腕輪!
って感じで面白かったです!

はい、以上作者からの腕輪の感想でした。


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38話 戦後対談

今日、公園で2人で1つのマフラーを巻いて
イチャついているカップルを見かけました。 (´◦ω◦`)いいなぁー……

作者もアキちゃんと2人で1つのマフラーを巻いて温まりたいです。(切実)


sideアキ

 

 

試召戦争終了後、DクラスとFクラスで戦後対談をすることになった。

 

「ははっ、まさか俺達が負けるとはね……」

 

「あの……本当にごめんね」

 

勝負事とはいえ、流石に申し訳ないというかなんというか……。

 

「いや、謝らなくていいさ。Fクラスをバカと同性愛者でコスプレ趣味の集団と侮っていたのが悪いんだ」

 

ちょっと待って、バカと同性愛者とコスプレ趣味の全部は僕に当てはまることだよね……?

 

う~ん……まぁいいか。

どうせ勝ったことだし。

 

「よくやったな明久。最後の勝負は見事なものだったぞ」

 

「ありがとう。ちょっと苦戦していたけどね」

 

「それでも勝てたからな。おかげでDクラスの協力を得られたからな」

 

今回の目的はDクラスの協力を貰うことだったからね。

これでAクラス戦に向けてのスタート地点にようやく立てたところだ。

 

「ところで坂本、例のものはどうするんだ?」

 

ここで須川くんが雄二に耳打ちをし始めた。

 

なにを企んでいるつもりなのだろうか?

 

「ああ、そうだったな、おいムッツリーニ、例のものを渡すんだ」

 

「……了解」

 

例のもの……?

もしかして僕の写真集のことなんじゃ……。

あれは冗談じゃなかったんだね……。

 

ん? 別に泣いてないよ、ただ目から涙という液体が流れているだけだよ……。

 

いや、それを人間は泣くと呼んでいるのか。

 

「……Fクラスの勝利に貢献した勇姿を讃え、これを賞す」

 

ノリツッコミを脳内で繰り広げている間に、ムッツリーニは『アキちゃん真夏のParadise』をFクラス男子生徒の1人ひとりに渡していく。

 

あ、ご丁寧にパッケージにも僕が載ってるんだね。

 

「よっしゃあああああ! ついに手に入れたぞ!」

 

「俺らの努力が実った証だ! これは我が家の家宝にしよう!」

 

「フッ、Fクラスはあと10年は戦える……!」

 

Fクラスメンバーは大満足……いや、大の上は超だっけ……?

それくらい満足している。

 

あの喜びようだと、欲しかったのか……はぁ……流石はFクラス。

 

僕の写真集ごときで、そんなに喜びを感じれるものなのだろうか……。

 

「私もこれが欲しかったんです!」

 

姫路さんも写真集を抱えたまま、小さな子供のように大喜び……うん、姫路さんらしいよ。

 

「べ、別にこんなもの貰っても嬉しくなんか……ないわよ……」

 

美波、嬉しくないのならなぜそんなに大事そうに抱えているのかな?

 

「くそー、羨ましいぜ、Fクラス!」

 

「タダで貰うなんてズルいぞ!」

 

「ああ、嫉妬で人が殺せたなら……」

 

Dクラスは嫉妬の篭った目線でこちらを睨み付ける。

 

「……そんなに欲しいなら売ってあげてもいい……これは元から売るつもり」

 

「お! ま、マジか!? 買う買う! 5千円でどうだ!?」

 

「バカヤロー、そんなら俺は8千円で買うぞ!」

 

「わ、私は1万円!」

 

おいおい、諭吉さんが出てきたぞ!?

僕の写真集って、どれだけの価値があるの!?

 

「……値段は未定だが、特別価格で5千円にする」

 

「よし! それなら1つ貰えないか!?」

 

「俺も買う! まだ売り切れてないよな?」

 

「私も!」

 

「……まいど」

 

ああ、次々と『アキちゃん真夏のParadise』が売れていくよ……。

僕はもうお婿……じゃなくてお嫁に行けないよ……。

 

 

 

 

「やっぱりあれはダメだったよ! 勝てたのはいいけど、あれを餌にするのはよくないよ!」

 

「何を今になって言いやがる……別にいいじゃねーか。勝てたならそれでいい」

 

呆れた表情で僕を横目で見る雄二。

 

「僕は納得いかないんだよ!」

 

「安心しろ。お前以外は全員納得している」

 

ぬぅ……あの写真集は貰った全員が納得するような仕組みだったのか……。

雄二って、こういう悪知恵だけは働くんだよな……。

 

「あぁ~もう分かったよ……でも、次は絶対にこんな真似しないでよ!」

 

「ははっ、どうだかな」

 

ニヤリと笑う雄二。

 

絶対にやるつもりでしょ……次はこうならないように気をつけないと……。

 

「話は変わるが……次の宣戦布告はお前が仮装して行って来い」

 

「ええッ!? なんで!?」

 

次も僕が!?

しかも、なぜコスプレしなければいけないのだ!?

 

「お前が行けば相手は油断するだろう。お前の特技である仮装姿を見せれば、相手を完全に油断させることができる。お前にとっての強力な武器だ」

 

「その考えはどうかと思うよ……」

 

「まぁそんなことは置いておいてだ…………次の宣戦布告はお前が仮装して行くんだ」

 

「えぇ……で、でも……」

 

「……衣装ならここにある」

 

ムッツリーニはスッっとコスプレを取り出す。

 

「私も賛成です! 早速、着替えましょう。アキちゃん!」

 

「観念することね、アキ」

 

姫路さんと美波まで…………。

 

そんな、酷いよ……みんなはついに僕にコスプレを強要するように……。

 

「アキちゃんよ……わしも一緒に付いて行くから、そんなに落ち込むでない……」

 

秀吉はポンっと肩を叩いてそう言った。

 

はぁ……2学期早々、3回も雄二にしてやられたよ……。

 

夏休み明けとは別で、かなり憂鬱な2学期の始まりだった。




誤字脱字報告と感想お待ちしております。


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39話 Bクラスへの交渉&おまけ付き

いやーもうすぐで12月23日、作者の誕生日です!
12月23日と言ったら、バイオハ●ードⅥの公開日ですよね!

まさか誕生日が僕の好きだった映画の最終回の公開日と同じとは!
いや本当に嬉しいです! ただ単に公開日と誕生日が被っただけですが
それでも嬉しいのですよ!

チケットの予約しないとね!ヽ(´Д`ヽ ミ ノ´Д`)ノ


あ、どうでもいい話してしまいましたね。(笑)

とにかく今回はタイトルの通り、Bクラスへの交渉と
おまけの話があります。

おまけが面白く描けていたらいいけどな……。(:´・ω・`)大丈夫……?


sideアキ

 

 

「よし明久、Bクラスに協力を貰うために交渉しに行くぞ」

 

「交渉? 宣戦布告じゃなくて?」

 

交渉というのは試獣戦争で勝った後にするのが定番だと思うのだが……。

 

「ああ、試獣戦争といきたいところだが、少し面倒だからな」

 

「確かにDクラス戦の後だからね。すぐに試獣戦争は無理があるからね……」

 

Dクラス戦の後でするとなると勝率が低い状態だからね。

 

ここは応じてもらえるかは分からないが、安全を第一に交渉するのが手っ取り早い気もする。

 

「でも、Bクラスとなると交渉は難しいよ。何しろ代表はあの根本くんだからね」

 

「そこは問題ない。俺にも策があるからな」

 

「策って……それはどんなもので?」

 

「それは後で分かる」

 

う~ん、なんか怪しい……。

また嫌な予感が……。

 

「とにかくお前も付いて来てくれ。お前がいないと交渉できない」

 

僕が? いや、別に代表である雄二だけでも十分だと思うけど……。

 

とは思ったが、これも雄二の策かもしれないので、一緒に付いて行くことにした。

 

「分かったよ……まぁ僕が行ってもあまり意味ないと思うけど」

 

「よし、それならすぐに行くぞ。ムッツリーニ、衣装を用意しろ」

 

「……了解」

 

ムッツリーニは雄二に言われてから、秒速のスピードで衣装を取り出す。

 

「待って、交渉の時もコスプレをするの?」

 

「当たり前だ。これがないと始まらない」

 

着たところで何が始まるのかは分からないけど……。

 

「まったく、しょうがないな……」

 

あまり納得いかなかったが、雄二の考えだろうと思い、渋々コスプレに着替える。

 

 

 

 

「はい、準備できたよ」

 

少々手間が掛かったが、コスプレに着替えられた。

 

「おお! これは男子の憧れのメイド服ではないか!」

 

「すげー! これは本物のメイドだろ!?」

 

「ご奉仕されて~!」

 

Fクラスの全員は僕のメイド服姿に騒いでいる。

 

僕の着ているメイド服は白と黒がメインのロングスカートタイプだ。

 

露出度も少なく、シンプルで上品で色気はないものの、スカートについているリボンやフリルと大き目のリボンタイがとても可愛らしい。

 

「アキちゃん、とっても似合っています!」

 

姫路さんが目を輝かせながら僕を見つめている。

 

「そ、そうかな?」

 

姫路さんがここまで言うなら嘘ではないね。

でも、メイド服が似合うって、ちょっとアレだな……。

 

「よし、準備は整ったな、それじゃ交渉に行くぞ」

 

「うん、上手く行くといいけどね」

 

雄二の付き添い役としてBクラスへ向かう。

 

 

 

 

 

~おまけ~ とある男子生徒3人のお話

 

※今から登場する人物は男子生徒AとBとCです。

この3人が『アキちゃん真夏のParadise』を鑑賞するお話です。

 

 

 

とあるマンションの部屋で、文月学園に通う、3人の男子生徒が集まっていた。

 

A「よし、ついに手に入れたな! 『アキちゃん真夏のParadise』を!」

 

B「おう、俺たちがいつも楽しみにしている眼福タイムだぜ!」

 

C「では、早速鑑賞しようではないか」

 

A「よーし、まずは1ページ目」

 

3人は最初のページを開く。

 

最初のページはアキちゃんの水着姿と海が写った写真だった。

 

A「うおお! これはアキちゃんの水着姿!」

 

B「すげー! この胸はエロい! エロ過ぎる!」

 

C「大きな胸にくびれた腰! 完璧美少女だ!」

 

3人は興奮しながら率直な感想を述べる。

とても興奮していたので、3人の口からは「エロい」と「可愛い」という言葉ばかりだ。

 

A「いや~、本当にエロいし可愛いな~」

 

B「そうだよな~、胸でかいしスタイルいいし顔も可愛いし。

それに水着も似合ってるよな、白い肌に黒い水着って何かいいよな~」

 

C「いや、可愛いというレベルではないだろ。

上品な美しさとこの豊満さ。これは大和撫子の鏡とでも言うべきだろう」

 

A「なるほど、確かにそうだな」

 

B「これは座布団1枚だな」

 

男子生徒AとBは男子生徒Cの意見に同調する。

 

B「にしても、本当すごいよな。こんなに可愛かったらナンパされまくりじゃん」

 

A「あ~確かに。俺もこんな子いたら絶対に声掛けるわ」

 

B「アキちゃん大丈夫だったかな?」

 

C「心配ないだろ、ボディーガード役くらい連れて行くだろ」

 

B「お、そうだな……できれば俺たちがボディーガード役をさせてもらいたかったけどな」

 

A「ん~、じゃあ、アキちゃんの水着姿も十分見たことだし、次のページへ」

 

3人はまた次のページを開く。

 

次は夜空に上がる花火と浴衣姿のアキちゃんが写った写真だった。

 

A「ふつくしい……とっても綺麗じゃねーかよ……」

 

B「誰もが見惚れるような浴衣姿だ……背景の花火もいい味出てる……」

 

C「これは花火よりアキちゃんに目が行くだろう」

 

3人は浴衣姿のアキちゃんに見惚れていた。

 

A「この浴衣の色と柄が似合ってるよな」

 

C「アキちゃんらしいイメージが出ていて、とても印象に残るな……」

 

B「それに浴衣越しでもスタイルが分かってしまうな」

 

A「お前、どんだけアキちゃんの身体見回しているんだよ」

 

B「お前こそ見回してるじゃないか」

 

A「まぁな……浴衣越しだからこそスタイルが強調されるのがいいんだよ」

 

C「それは言えてるな」

 

B「露出度が低くくても、なんかエロいよな~」

 

男子生徒Aの変態じみた言葉に2人は変態じみた同意をする。

 

A「ほいほい、じゃあ次だ!」

 

3人はまたページを開く。

 

A「こ、これは……ぐほぁッ」 ドサッ

 

男子生徒Aが鼻血を噴きながらその場に倒れた。

 

B「おい! どうしtゴハァッ!?」 グシャァ

 

続いて男子生徒Bも倒れこんでしまった。

 

C「な、なんなんだ!? 2人はいったい何を見たのだ……? どれどれ……ぐはぁッ!?」

 

男子生徒Cも倒れてしまった。

 

3人は見てしまった……。

 

川の水で透けブラをしているアキちゃんを……。




今日の11時に新しくタグ追加しました。

次回もおまけやります。
次は女子生徒3人のお話です。

誤字脱字、感想お願いします。(。_。*)))(((*。_。)
最近、感想が来なくて心配なんですよ……。

※作者は極度の心配性です


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40話 Bクラスへの交渉&おまけ付き2

あけましておめでとうございます! 作者です。(´・ω・`)/

お待たせしました……。
年末年始は色々とありましてなかなか投稿できませんでした。
詳細は活動報告を見れば分かります。

やっと暇な時間ができたので描きました。
新年明けても相変わらずな駄文ですが、お許しください……。

それではどうぞ


sideアキ

 

 

雄二に連れられてBクラスの教室前にいる。

 

「よし、明久。開けるぞ?」

 

「どうぞ、どうぞ……恥ずかしいけど」

 

どうせ、嫌だと言っても雄二のことだし、開けるだろうけどね。

 

「失礼する」

 

雄二はガラッとBクラスの教室の扉を開ける。

 

「ん? 何だ坂本とそこの女子生徒は……吉井か。Bクラスに何の用だ?」

 

教室の奥で僕と雄二を見たBクラス代表の根元くんがこちらに目を向けてくる。

 

「ああ、少し話があってだな……聞いてもらえないか?」

 

「いいだろう、お前の話とやらを聞いてやろうではないか。なるべく手短に頼むよ」

 

立場が立場なので大きな態度だが、根元くんの了承を得て雄二は根元くんに交渉内容を伝える。

 

それで…………僕はどうすればいいのだ?

やっぱり雄二だけでよかったんじゃないの……?

 

ポツンっと蚊帳の外に立たされた僕は、ただジッと待ち続けるだけだった。

 

「……っという訳だ……どうだ、受け入れてくれるか?」

 

根本くんは雄二の要件を聞くなり、眉をひそめた。

 

「…………受け入れるのは少し難しいな。みんなはどう思う?」

 

「俺は反対だな。Fクラスとはあまりかかわりたくない」

 

「自分も反対に同意だ。Fクラスとかかわると面倒なことしかない」

 

根本君に引き続き、Bクラスの全員は反対の意見が出てくるばかりだ。

 

ほら、やっぱり無理だよ。

Fクラスの交渉を鵜呑みにするほど都合よくはいかない。

 

「なんとか頼む! 厄介ごとはできる限り起こさないように努力する! 明久も何か言ってやれ」

 

「えぇ、僕が?」

 

頭を下げた雄二がこちらに助けを求める。

 

僕が頼んだところで何の意味もないかもしれないけど……。

 

「えーと……僕たちにどうか協力してくれないかな……?」

 

ダメ元で僕はBクラスの全員に協力をお願いした。

 

すると、根本くんはクラッと頭に来た様子で、

 

「……ぬぅ、坂本も卑怯な手を使うではないか……これは受け入れるしかないのか……」

 

あれ!? 根本くんがあっさり受け入れてくれた……?

どうしたんだ根本君!? 変なものでも食べたのか!?

 

流石に失礼な気もしたが、いつもの根本くんの豹変ぶりに驚いて思考が追い付かない。

 

「ぐうぅ、そんなメイド服姿&上目遣いでお願いされたら断れないじゃないか……」

 

「これは、はいかYESで答えないといけないパターンだよな?」

 

「これは受け入れるしかない! 断ったら罪悪感で押しつぶされそうだ……」

 

ん? Bクラスの流れが変わったぞ?

いったいどうしたんだ、Bクラス?

 

「よし、Fクラスの交渉を受け入れようではないか」

 

「「「YES!!!」」」

 

Bクラスの全員が一心同体となって交渉内容を受け入れてくれた。

 

……なんで雄二の時は受け入れなかったのだ?

 

僕がお願いすると受け入れてくれたということは……そうか。

雄二は人望がないという訳か……本当に気の毒な奴だ……。

 

「本当に……雄二はかわいそうだね……」

 

「あぁ? なんだよいきなり、そんな人を哀れむような顔しやがって……」

 

「いや、なんでもないよ……うん、本当に」

 

「なんか、ムカつくからその顔やめろ、明久」

 

まぁ雄二は日々問題行動を起こしているから、因果応報だけどね。

 

「……だが、無条件で受け入れるのはやや抵抗があるな」

 

受け入れのはいいものの、根元くんは納得がいかないようだ。

 

「だと思ったぜ、安心しろ。こっちも用意してある」

 

こちらからは何をするつもりだ?

 

んんッ? なんか悪寒がするのは気のせいかな……?

 

「よし、ムッツリーニ。出て来い」

 

「……呼んだか?」

 

「うわッ、ムッツリーニ!? いつの間に!?」

 

いつの間にか僕と雄二の後ろにムッツリーニが立っていた。

 

ん? それと何か見覚えのある段ボール箱が後ろに……。

 

「もし交渉を受け入れるなら明久の写真集を渡す、これで問題ないか?」

 

やっぱりそうだよ!

何か見覚えがあるな~と思ったら僕の写真集じゃないか!

 

Fクラスに引き続き、Bクラスにまで無償で渡すとは……。

もしかして雄二の策ってこれのことじゃ……?

 

「まじか!? ここまでされたら絶対に受け入れるしかないよな?」

 

「受け入れる以外の選択肢があるのかと聞きたいな」

 

「私、今月おこづかい少なくてアキちゃんの写真買えなかったからありがたいわね」

 

「俺もだ。タダで手に入るならラッキーだよ」

 

お、おおぉ……Bクラスの全員が次々と賛成していくよ……。

Bクラスのみんなの考えが読めないよ。

そんなに欲しいものなのかな……?

 

「フム……悪くないな、よし受け入れようではないか」

 

「根元にしては随分と飲み込みが早いな、いったいどうしたんだ?」

 

雄二が根本くんが素直に受け入れたことに、意外そうな顔をしている。

 

「いや、別に深い意味はないさ。よく考えたらFクラスに協力するのは別にメリットも

デメリットもないからな……それに断ったらBクラスの全員から睨まれる結果となる」

 

なるほどね。

でも、断ったからと言ってBクラスの全員からなぜ睨まれることになるのだろう?

 

「あぁ……確かにそうだな。断ったら、お前の評価はガタ落ちだろうな……」

 

雄二は僕の写真集を手に入れて歓喜する、Bクラスの生徒たちを見ながら苦笑い。

 

なんで雄二は分かるんだ?

うーん、2人にしか分からないことなのだろうか……。

 

結局Bクラスは協力をしてくれたようだが、僕は色々と複雑な気持ちでいっぱいだった。

 

 

 

 

 

~おまけ~ とある女子生徒3人のお話

 

※今から登場する人物は女子生徒AとBとCです。

前回と同様、この3人の女子生徒がアキちゃん真夏のParadise』を鑑賞するお話です。

 

 

 

とある一軒家の2階の部屋で文月学園に通う3人の女子生徒が集まっていた。

 

A「やっとアキちゃんの写真集を手に入れたわね!」

 

B「発売されたことを知ったらすぐに買ったからね~これは楽しみだね」

 

C「アキちゃんのあ~んな姿やこ~んな姿が見れる! それじゃ早速見てみよー!」

 

A「じゃあまず1ページ目! ああ1ページ目からドキドキが止まらない……」

 

3人は買ったばかりの商品を開封するように、最初のページを開く。

 

最初のページはアキちゃんの水着姿と海が写った写真だった。

 

A「うはぁ~、これは破壊力抜群!」

 

B「これは可愛いし超キレイ! アキちゃんにしてはなかなか大胆な水着」

 

C「とても大きな胸にくびれた腰! スラリと伸びるキレイな足! 最高だよ!」

 

3人はきゃーきゃーと興奮しながら騒ぎだす。

 

B「いやーこの胸はでかい……柔らかそう……」

 

A「こんなの見たら私たちの胸が腐ったメロンパン……いや、何十年も放置された肉まんよ」

 

C「ムムッ! あんまりな例えだけど、反論できない……!」

 

B「そーだね……」

 

女子生徒B、Cはガクリと落ち込んでしまった。

 

A「まぁまぁ、次のページを見て嫌なことは忘れよう」

 

B「う、うん、そうしよう」

 

C「次のページへ……」

 

3人は次のページを開く。

 

次は夜空に上がる花火と浴衣姿のアキちゃんが写った写真だった。

 

A「うわぁ、キレイ……すっごくキレイ」

 

B「とっても絵になるね~。真夏の美少女とはまさにこのことだよ」

 

C「花火以上にキレイだね~、浴衣似合ってるし、髪型も可愛い」

 

3人は浴衣姿のアキちゃんの美貌に目が全く離せなかった。

 

A「着物越しでもくっきりとしたスタイル……さすがはアキちゃん」

 

C「メリハリのあるスタイルが映えるね~……」

 

B「着物ってスタイルとか分かり難いからね」

 

A「うん、もうアキちゃんモデル目指したらいいんじゃないかな?」

 

B「それ、とってもいい! アキちゃんなら世界中の人類を堕とせるだろうね!」

 

C「モデルというか、アイドルが1番いいんじゃないかな?」

 

A「あー……それもありね……ん~どっちでもいいかな? とりあえず、次のページを」

 

3人はまたページを開く。

 

A「う、うわぁ……エロい」

 

B「これはとんでもないお宝画像ね……」

 

C「水着よりはるかにエロい……すごく癒されたんだけど……」

 

3人が見たのは川の水で透けブラをしているアキちゃんだ。

目を輝かせながらその写真から目を反らさずに見ている。

 

A「ピンクの下着なんだ……可愛い下着付けているのね」

 

B「アキちゃんだってれっきとした女の子だよ! 下着もおしゃれしたいんだよ!」

 

C「ピンク色とはエロい……さらに水で濡れて透けてる具合が最高」

 

A「可愛いよね~、もう妹にしたい!」

 

B「いやーここは嫁でしょ!」

 

C「……アンタ達ってもしかしてレズなの?」

 

女子生徒Cは2人に疑問に思った視線で聞く。

 

A「いや、これはアキちゃんだからこそであってね……」

 

B「そうだよ、アキちゃんのスタイルと可愛さに惚れただけで……」

 

C「……完全にレズじゃないの、まぁ私もそうだけど……これでいいのかしら?」

 

3人は迷った。

アキちゃんを恋愛的に好きになるのはアリなのかナシなのかを……。

この時3人の心に大きな迷いができた。

 

同性愛者はこうして生まれるのかもしれない。




感想と誤字脱字報告よろしくお願いします!
2017年も頑張っていきますよー!(ง •̀ω•́)ง


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41話 対Aクラス戦

(´・ω・`)そろそろ学校が3学期になるな~……。
新学期を迎えるのに、なぜか心の中に謎の余裕があるんですよね。
分かりますか? 学生の皆さん? (*・ω・)? 


sideアキ

 

 

Bクラスとの交渉もうまく成立し、後はAクラスに宣戦布告をするだけとなった。

 

「よし、今からAクラスに宣戦布告をするぞ、形式は一騎打ちだ

明久行ってこい」

 

一騎打ちか……確かにAクラス全体が圧倒的に有利だ。

いくら試召戦争を経験したFクラスでもさすがにAクラスに勝つことはまず無い。

だから勝率が比較的に高い一騎打ちこそがAクラスに対抗できる手段だ。

 

「ん? ちょっと待って、もしかしてこのままの格好でいくつもり?」

 

「それ以外に何があるんだ?」

 

まさか、疑問形で返されるとは思ってもなかったよ。

メイド服姿で当たり前のように宣戦布告をさせるとは……。

雄二の頭の中で僕は仮装するマスコット的な存在なのかな?

 

「とにかく、事は早めに済ませたい。早く行くんだ」

 

雄二が強引にグイグイと背中を押してくる。

 

「分かったよ…………うぅ……恥ずかしい……」

 

「安心しろ、お前が仮装してるのは今や日常風景だ」

 

それでも恥ずかしいという気持ちは否めないんだよ……。

まったく……雄二は女の子でも人使いが荒いんだから。

 

恥ずかしい気持ちを抑えながら僕はメイド服姿でAクラスに向かう。

 

 

 

 

廊下を通る生徒の視線を浴びて、それに逃げるような速度で歩く。

そして、いつの間にかAクラスの教室の前にいた。

 

ふぅー……落ち着け……これはただの仮装。仮装なんだ。

ただの場違いな服装なんだ……いや、そこが恥ずかしいんだけどね……。

 

もういいや。

ここまで来たら後に引けないし。

 

よーし……行くぞ!

 

ガラッ

 

「失礼します、Fクラスの吉井アキです」

 

僕がAクラスの扉を開けると、ザワザワしていたAクラスの空気が、まるで映像を停止するかのようにピタッと止んで、視線が一斉に僕の方に向く。

 

うぅ……視線が痛い……晒し者になりに来た気分……。

 

「お、おい、俺は夢でも見ているのか? 本物のメイドがここに……」

 

「ああ、俺もだ……すげー綺麗だな……」

 

「か、可愛い……もう私、レズでいいや……」

 

な、なんだよ! そんなにおかしかったのか?

悪かったな、メイド服が似合わなくて。

 

うーん、でもそれを考えるとちょっとショックだ……。

似合っていても複雑だし……でも、だからと言って、似合わないのもな……。

 

「あれれ~? カワイイ女の子が来たかと思えば吉井クンじゃない」

 

「あ、こんにちは……工藤さん……」

 

目の前に工藤さんがやって来た。

 

「どうしたの、その恰好? あ! もしかしてボクのこと、誘ってる?」

 

ニヤニヤしながら、僕の身体を見回してくる。

 

「え、何が?」

 

いったい何を誘ってると言うのだ?

 

「ははっ、相変わらず天然でカワイイな~。吉井クンは」

 

そう言いながら、工藤さんは僕にギュッと抱きしめてきた。

 

「く、工藤さん……いきなりどうしたの?」

 

「あまりにもカワイイから居ても立ってもいられなくて。

あぁ~、やっぱり吉井クンを抱きしめている時が一番の幸せだよ……」

 

抱きしめているだけなのに、そこまで幸せなのか。

工藤さんは女の子を抱きしめる趣味にでも目覚めたのだろうか。

 

「愛子、そんなにくっついたら吉井くんが苦しいわよ。離してあげなさい」

 

次は横から木下さんが出てきた。

 

「ム~、吉井クンは嫌がってないよ。嫌じゃないよね、吉井クン?」

 

嫌という訳ではないけど、流石にここまでベタベタされるのは、ちょっと気恥ずかしいからそろそろ離してほしい。

 

「とにかく同意を得てようが得てなかろうが、離しなさい。吉井くんはこんなことをしにここへ来た訳じゃないんだから」

 

「はーい、……あ~あ、もうちょっと、くっついていたかったのに……」

 

工藤さんはふてくされた顔をしながら、抱きしめていた手を離す。

 

「ところで吉井くん、その服装は?」

 

「これ? それは雄二に着て行けって言われたから着てきただけだよ……おかげで恥ずかしい目に遭っているけど」

 

「そうなのね…………(坂本君、いい仕事してくれるじゃない)」

 

木下さんまで、工藤さんと同じような目つきで僕の身体を見つめる。

 

やっぱり、この衣装、着てこなければよかったかも……。

 

「誰かと思えば吉井くんか。ここに来るなんて珍しいじゃないか」

 

「……吉井、らしくない」

 

「あ、久保くん、それに霧島さんまで……」

 

横から学年次席と主席の優秀コンビの久保くんと霧島さんがいた。

 

「もしかして、観察処分者としての仕事でここに来たのかしら?」

 

あ、いけない、ついうっかりここに来た目的を忘れてたよ。

 

「そういうことで来た訳じゃないよ、木下さん。実はね――――」

 

雄二に言われた通り、僕は宣戦布告内容を告げる。

 

「という訳で、僕たちFクラスはAクラスに一騎打ちを申し込むよ……。

ルールはお互い代表を5人ずつ出して、先に3勝した方の勝ちってことでいいかな?」

 

「なるほど、それなら科目選択はどうするんだい?」

 

と久保くん。

 

「えーと5人だから3と2に分かれるね……どうしたらいいかな?」

 

このことは雄二からは聞いていない。

あらかじめ、細かいところまで内容を決めておけばよかった。

 

「別にそっちが3でこっちが2で構わないわ。Aクラス対Fクラスなのだから、多少のハンデは必要よ」

 

と木下さん。

 

「ありがとう……じゃあ、内容はこれでいいかな?」

 

「……ちょっと待って」

 

と霧島さん。

 

「……私から1つだけ提案がある」

 

「提案? 提案っていったい何?」

 

Aクラス代表でもある霧島さんから提案があるとは、いったいどんな提案なのだろう。

 

「……もし負けたらなんでも言うことを3つ聞くこと……これを追加して」

 

なるほど、これは勝負でよくあるパータンのやつだ。

 

「3つね……勝った数だけ言うことを聞く訳か……全然問題ないよ」

 

これくらいの提案なら雄二は受け入れてくれるだろう。

 

「それじゃあ、色々とよろしくね」

 

と工藤さん。

 

「うーん、それは僕が言うべき言葉だけど……まぁこちらもよろしく」

 

こうしてAクラスへの宣戦布告が完了した。




感想と誤字脱字報告よろしくお願いします。



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42話 Aクラス戦開幕

明日、ほとんどの学校が3学期になりますね。
3学期だからと言って最後まで気を抜いたらいけませんね。
ここでも作者はよく気を抜いて誤字脱字することが多いですね。
執筆中に気を抜くとこうなるんですよ。(:´ω`)



sideアキ

 

 

Aクラスに宣戦布告した翌日、ついにAクラス戦開幕。

対立する、優等生クラスと落ちこぼれクラスのお互いに、いがみ合いが勃発。

 

「それでは今からAクラス対Fクラスの5対5の団体戦を始めます」

 

審判はAクラスの担任である高橋先生がすることとなっていた。

 

「……雄二、覚悟しておいて」

 

「そっちこそな、Fクラスの底力を見せてやる」

 

霧島さんと雄二が、見つめ合う。

 

婚約者同士が戦うなんて悲しいけど、これ、一騎打ちなんだよね。

 

「それでは、両クラスの1回戦の代表は出てきてください」

 

「初回はアタシが行くわ」

 

高橋先生の一言で、Aクラス側は木下さんを出してきた。

 

対するこちら側は、

 

「ワシが行くのじゃ」

 

こちら側は秀吉を初戦の代表にした。

 

1回戦は木下さんと秀吉の姉弟対決となる。

秀吉が上手くやってくれれば、姉である木下さんの動揺を誘って有利に戦えるはずだ。

 

「秀吉、のこのこと出てきたけれど、覚悟はできているのかしら?」

 

「当たり前なのじゃ、姉上も覚悟するのじゃ」

 

「言ってくれるじゃない……試獣召喚(サモン)

 

(よーし、作戦通り姉上を動揺させて集中力を乱すのじゃ!)

 

「姉上は実は腐j……」

 

「秀吉、ちょっとこっちに来なさい」

 

秀吉が何か言おうとした瞬間、木下さんが秀吉の口を押えて、廊下に連れていく。

 

「あんたもなかなか卑怯な手を使ってくるのねぇ!?」

 

「ワシはただ単に事実を言っただけで――あ、姉上っ! ちがっ……っ! その関節はそっちには曲がらなっ……っ!」

 

しばらくしてから、木下さんだけが戻ってきた。

 

「秀吉は急用が出来たから帰るってさ、代わりの人を出してくれる?」

 

いったいどんな用事なんだ。

 

……いや、それよりも代わりの人なんているの?

 

「……島田、行くか?」

 

「ウチは出る予定なんてなかったから、遠慮するわ」

 

「じゃあ、須川、お前が行け」

 

「俺が!?」

 

雄二が須川くんを指名した。

 

相手は木下さんだよ……? 須川くんを出すなんて無茶だよ。

例えるなら、初期装備のレベル1の勇者がラスボスに挑むくらい無謀なことだけど……。

 

「たぁ!!」

 

「うわあああ! やられたー!」

 

そんなことを思っている内に、須川くんは手も足も出せず戦死してしまった。

 

5秒もせずやられるとは……Aクラスも本気なのか。

それとも、須川くんの相手が悪かっただけか……。

 

「すまん、やっぱ無理だったよ……」

 

「気にするな。1回戦目で負けることは想定内だったからな」

 

秀吉だったとしても、負けると分かっていたのか。

 

僕はもう須川くんが出た時点で、負けると確信していたけどね。

 

「それでは2回戦の代表は出てきてください」

 

「それじゃボクが出るよ! ムッツリーニくん、1学期のようにはいかないからね!」

 

ムッツリーニに指をビシッと向ける工藤さん。

 

「……望むところだ」

 

2回戦はムッツリーニと工藤さんか……。

ムッツリーニの保健体育の実力は教師ですら上回る成績だから、これはいけそうだ。

 

「それじゃ行くよ、試獣召喚(サモン)

 

「……試獣召喚(サモン)

 

そして2人の召喚獣が現れる。

 

ムッツリーニの召喚獣は忍者装束に小太刀二刀流。

工藤さんの召喚獣はセーラー服に大斧。

 

 

 

保健体育

 

2ーA 工藤愛子 518点

 

 

 

「ムッツリーニくん、実践派と理論派どっちが強いか見せてあげるよ!」

 

工藤さんは腕輪を発動させ、武器に電気をまとわせる。

そしてムッツリーニ目掛けて斧を振り下ろす。

 

「……工藤愛子……お前は俺を侮り過ぎた……加速」

 

ムッツリーニが何か呟いた直後、ムッツリーニの召喚獣の腕輪が輝き、彼の召喚獣がブレる。

 

「え?」

 

「……加速終了」

 

またムッツリーニが何か呟いた。

 

そして一拍おいて工藤さんの召喚獣が倒れた。

 

 

 

保健体育

 

 

 

2ーA 工藤愛子 DEAD

 

VS

 

2ーF 土屋康太 624点

 

 

 

流石ムッツリーニ、腕は落ちていないようだ。

 

「そ、そんな……またボクが負けるなんて……」

 

工藤さんはその場で膝をつく。

1学期も負けた上に今回もこの有様……とても悔しいのだろな。

 

「よくやったムッツリーニ。見事だったな」

 

「……当然の結果だ」

 

保健体育でムッツリーニの右に出る者は、この学園にそうそういないだろう。

 

とりあえず、ムッツリーニの活躍により、同点の状態に戻すことができた。

次の戦いはどうなることやら。

 

「よし、次は明久。お前に任せる」

 

「え? 僕が出ていいの?」

 

いきなり指名されたものなので、驚いた。

まさか僕が代表戦になるとは思ってもいなかったからだ。

 

「大丈夫だ。俺はお前を信じている」

 

ん? それに、なんか雄二が雄二らしくないけど……どういう風邪の吹き回しなのやら……。

 

「はぁ……やれやれ、僕に本気を出せってこと?」

 

「ああ、本気でぶつかってこい。対戦相手にお前の実力を思い知らせてやれ」

 

「あ、そういえば僕の対戦相手は誰なの?」

 

相手はAクラスだから、誰が来ても強敵になるだろう。

 

誰が対戦相手なのか……。

 

「吉井くんの相手はこの僕だ!」

 

対戦相手を確認しようとしたら久保君が名乗り出てきた。

 

「え……久保くんと……?」

 

思わず、冷や汗が流れた。

 

「おい、確か久保って学年次席だったよな……?」

 

「いくらアキちゃんでも、これは敵わないだろう……」

 

なんで、よりによって久保くんなんだ……。

いや確かに女の子になった恩恵でAクラス並の実力はありますけども……。

 

だからと言って、学年次席に敵う訳ではない。

 

なんでそんな分が悪い相手に僕を選んだのだろうか……。

 

思わず、次の対戦を任せてきた本人である雄二を睨む。

 

「安心しろ明久、お前がFクラスの捨て駒となってくれることを……信じている」

 

「そっちを信じてないで、勝つことを信じてよ!」

 

やっぱり雄二らしくない言葉だと思ったんだよ……。

 

まったく、最初っから僕のことに期待なんかしていかなかったじゃんか!

少しでも期待に応えようとしてた僕が馬鹿だったよ!

 

もういいよ、ダメ元でやってみるしかないや……。




さぁ次回はアキちゃんVS久保くんですよ。
結末はいかに……!?(」゚ロ゚)」


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43話 アキちゃんVS久保利光

結末はいかに……? (゚д゚;)


sideアキ

 

 

「それでは3回戦目を始めます。代表の方、どうぞ」

 

と高橋先生の掛け声と共に前へ出る。

 

3回戦目は雄二の悪知恵のおかげで、僕と久保くんの真剣勝負となった。

科目はAクラスが決めて総合科目になった。

 

総合科目となると……うん大体予想はつく。

もう、玉砕覚悟のダメ元で行くしかない。

 

「アキちゃん頑張れー!」

 

「久保なんかに負けるな!」

 

「アキちゃん愛してる!」

 

Fクラスのみんなからは必死の声援が送られてくる。

 

いや待て、最後のやつは応援なのだろうか……?

 

まぁいい、応援ありがとう。

 

と心の中でお礼を言っておく。

 

「あの……そろそろ始めてもよろしいでしょうか?」

 

戦う前だというのに、緊張感のないやり取りを見せてしまった。

 

すみません、高橋先生。

 

「はい、では行きます。試獣召喚(サモン)

 

「行くよ、吉井くん。試獣召喚(サモン)

 

僕と久保くんはお互い、試召喚獣をする。

 

 

 

総合科目

 

 

 

2ーA 久保利光 4250点

 

VS

 

2-F 吉井アキ 3682点

 

 

 

おおぉ……流石、学年次席の久保くん。

学年次席という名の実力は伊達じゃないな。

 

格の違いを見せつけられて、思わず怖気づいてしまう。

 

僕の召喚獣はいつもお馴染みの胸にさらしを巻いている改造学ランに太刀。

 

対して久保くんは袴と……大鎌?

いかにも死神などが持っていそうな大鎌だ。

 

もしかすると一瞬で首を持っていかれちゃったりして……?

死神を相手にするのって、こんなにも怖いのかな……。

 

「かなりの努力を積んできたようだね。吉井くん」

 

強者の余裕なのか、僕の点数を感心しながら見ている久保くん。

 

「うん……でも、久保くんには及ばないよ」

 

一騎打ちの代表に選ばれるなんてこと、期待はしてはいなかった。

けれど、念のためと思って、苦手教科を予習したんだけどね。

 

「点数が負けてもその努力があれば勝機は十分あると思うよ? 僕は吉井くんのその努力に負けないよう、本気で行かせてもらうよ」

 

「ぼ、僕だって本気で行くよ……! 『Flameblade』」

 

負ける気しかしないけど、攻めて一矢報いなければ……。

最初から本気でかからなければ、即敗北してもおかしくない相手だ。

 

なので、自分専用の腕輪『Flameblade』を発動する。

僕の召喚獣が持っている太刀の刃が赤く光って真っ赤な炎が燃え盛る。

 

「せぇいッ!」

 

その状態から、久保くんに太刀を大雑把に振る。

 

「ッ!? これはなかなか面白い腕輪じゃないか」

 

久保くんは咄嗟に防御態勢をとって、あっさりと攻撃を受け止めるが、追加効果がプラスされていたので、完全には防げた訳ではないようだ。

 

「はぁッ!!」

 

僕は久保くんを追撃するように反時計回りに薙ぎ払う。

 

「同じ手は通用しないよ!」

 

久保君は僕の動きを予測していたのだろう、素早く後退して僕の攻撃をかわす。

 

「次はこっちの番だ!」

 

いつまでもやらせる訳にはいかない久保くんは、反撃を仕掛けてくる。

 

大鎌を右から左に回転しながら振り回す。

 

次に横なぎ払い、そこから踏み込んで、真上から振り下ろす。

 

「うぅ……速過ぎてよく見えない……」

 

防御がワンテンポ遅れて、何度かダメージを受けてしまった。

かすった程度だが、かすり傷では済んでいない。

 

これは攻撃を受けないようにと細心の注意をしなければ……。

まともに食らったら、もうそこで終わる。

 

「まだまだ行くよ!」

 

久保くんは容赦なく突っ込んでくる。

 

僕も負けじと腕輪の効果を上手く使い、久保くんに僅かながらもダメージを与えていく。

 

「おおー! いいぞ、アキちゃん! そのまま、そのまま!」

 

「頑張れ! そこからカウンター!」

 

戦いがヒートアップしていく度に応援の声が激しくなってくる。

 

当事者である僕と久保くんはそれどころではなく、耳には届きそうにないけれど。

 

ふぅ……なかなか差が縮まらないなぁ。

これ以上やられると確実に相手が優勢になって、先に倒れるのは僕だ。

 

何かいい方法は……あ、そうだ。

 

「もうこうなったら、奥の手!『ドレスチェンジ』」

 

少しでも形勢が傾くようにと、『ドレスチェンジ』を発動する。

 

すると僕の召喚獣の身体が光ってシルエット状態になる。

そしてシルエットの光が一気に消えてなくなり、僕の召喚獣が衣装と武装が変化していた。

 

衣装は黒色のシスター服(修道服)で胸には十字架のペンダントがつけてある。

結構動きにくそうな気がするけどまぁよしとしよう。

そして武装は……聖剣(?)らしきものを持っている。

 

これは多分……RPGを長年やってきた僕からみたら聖剣『デュランダル』だろう。

紫色のラインが入っており、まるでファンタジーな世界を連想させるような、美しい形をしている。

 

「吉井くんもまた、面白い腕輪を出してきたな……それじゃあ、こちらも『hellmode』」

 

こちらに対抗するよう、久保くんも腕輪を発動してきた。

 

すると久保くんの召喚獣が持つ大鎌が青黒く染まり

まるで本当の死神を思わせるようなオーラを放っている。

 

「ここで決めるよ……覚悟しておいてよ、吉井くん」

 

久保くんは小さく何かをつぶやいて、大鎌を大きく振りかぶる。

すると大鎌の刃の形をした青黒い炎が飛んでくる。

 

ズバッ!

 

「うわッ! 久保くんの腕輪もチート並にすごい!?」

 

僕の召喚獣の頬あたりに、わずかながら当たった。

 

そんなことを思っている間にも、容赦なく青黒い炎は飛んでくる。

 

わわッ! これは危ない……! というか、死ぬッ!?

 

僕は咄嗟に当たりそうになった、青黒い炎を聖剣で防御する。

すると、聖剣に当たった青黒い炎は一瞬で消えてなくなり、黒い煙だけが残る。

 

ん? 今のはいったい?

 

「えっと……? これは……」

 

まさか……いや、いくらなんでも……。

 

僕は半信半疑になりながら、飛んでくる炎を召喚獣の持つ、聖剣で受け止める。

 

ボシュッ

 

抜けるような音を立てて、炎が即座に消える。

 

えぇ……こういうことだったの……。

 

まだよくは分からないものの、どうやら、この召喚獣の装備は聖剣の加護(?)を得られるようだ。

 

「なるほど……いろいろツッコみたいけど、一応それに感謝して……このままいくよ!」

 

僕は弓矢のごとく、飛んでくる青黒い炎を聖剣で受け止めながら、敵との距離を縮めていく。

 

「……どうやら、これは通用しないようだね」

 

そんな状況を見た久保くんは、意味がないと分かった途端、攻撃を一旦ストップして態勢を変える。

 

「そこだぁ!!」

 

僕はその隙を逃さず、久保くんの召喚獣を斬り付ける。

 

「これでラストだ!」

 

久保くんも大鎌を振り上げて、僕の召喚獣に斬りかかる。

 

ズサッ!

 

タイミングはほぼ同時だった。

だが、久保くんの召喚獣の攻撃が一枚上手だった。

 

僕の召喚獣の腹心部に、大鎌の先端が深く突き刺さっている。

 

 

 

総合科目

 

 

 

2ーA 久保利光 1078点

 

VS

 

2ーF 吉井アキ DEAD

 

 

 

「勝者、Aクラス」

 

その言葉と共に、僕は力が抜けて、その場にへたり込む。

 

どんなにやっても、久保くんには敵わないか……悔しいけど……僕の負けだ。




(´;ω;`) アキちゃん残念!



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44話 Aクラス最終決戦

(´・ω・`)こんばんわ


sideアキ

 

 

「うぅ……みんなごめん、やっぱり無理だったよ……」

 

まぁ負けるのは最初っから分かっていたけど……。

でも、負けた以上、申し訳ないというか……罪悪感が……。

 

「あんだけやれば十分過ぎるだろ。何せ相手は学年次席の久保だぞ?

姫路でも負ける可能性がある相手をお前が抑えたんだぞ?」

 

僕を捨て駒扱いしてきた雄二も、これは意外だったらしい。

 

雄二の言っていることはよく分からないけど、要するに姫路さん並みのことを成し遂げたってことかな?

 

「なるほど、僕の犠牲は無駄じゃなかったんだね!」

 

「いや、それは負けたからなんとも言えん」

 

……………………。

 

まぁ確かにそうだけどさ……もっと別の言葉があったんじゃない……?

 

「それで……今のところ2対1だから……次に1戦でも負けたら、僕たちの負けだよ」

 

「もう負けることは許されないのじゃ」

 

なぜか急用でいなくなったはずの秀吉が、ここにいた。

 

さっきのはいったい、なんだったのやら……。

 

「それは問題ない、次は姫路が代表で出ることになっている」

 

ああ、そうか姫路さんならやってくれるだろう。

 

「それでは4回戦目を始めます、代表の方、どうぞ」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします」

 

相手はAクラスの……佐藤さん? だったけ? 

 

けど、誰であろうが姫路さんが簡単に負けるような相手ではないはずだ。

絶対に姫路さんは勝たないとね。

 

「姫路さん! 頑張っ――」

 

ズガンッ

 

「か、勝ちました……」

 

「はやンッ!?」

 

まさかの秒殺とは、すごいよ姫路さん。

見せるまでもなく……いや見えるまでもなく決着がついた。

 

「姫路さんが勝ったよ! これで同点だよ! 次で勝てれば……」

 

「なんとか俺と翔子との一騎打ちに持ち込むことができたな……」

 

次が最終決戦、次で勝てばFクラスの勝利だ。

逆に負ければ敗北だけど。

 

「……でも雄二、霧島さんに勝つ方法なんてあるの? もう1学期の手は通用しないよ」

 

1学期は雄二が提案した点数に上限アリの小学生レベルの日本史での一騎打ちだった。

 

あれは上手くやっていれば、雄二の作戦勝ちになったかもしれない。

だけど、今回は通用する訳ないし、これはもう詰んだかな?

 

「心配するな、今回は前回と同じだが中学生レベルの日本史問題だ」

 

「今回は中学生レベルね…………ん? ということはまさか…………」

 

「ああ、まだ俺が翔子に嘘を教えてしまった問題があるんだ」

 

「ゆ、雄二…………君ってやつは…………」

 

「見損なったぞい……」

 

「……信じられない」

 

僕と秀吉とムッツリーニはとても呆れてしまった。

 

なんてことしてるんだ、この馬鹿雄二は……

純粋な霧島さんに、なんという知ったかぶりを教えているんだよ……。

 

一同は、霧島さんに同情した。心の底から。

 

「……で、肝心なその問題はいったいどんな内容なの?」

 

「その問題は……後醍醐天皇が鎌倉幕府を滅ぼした年号だ」

 

「後醍醐天皇が鎌倉幕府を滅ぼした年号? ええっと……1333年だったよね……その問題を霧島さんが間違えるの?」

 

後醍醐天皇が鎌倉幕府を滅ぼした年号は、この僕でも知っているくらい覚えやすい数字だから、霧島さんが間違えることはないと思うけど……?

 

「それが間違えてしまうんだよな……前にも言ったが、翔子は一度覚えたことは絶対に忘れない。

だからそれを上手く利用して俺は翔子に勝つ!」

 

かっこいいセリフかもしれないけど、要は相手を騙して勝利を掴むようなものだから、馬鹿っぽく聞こえてしまう。

 

「はぁ……まぁいいか……それじゃあ雄二、頼んだよ」

 

「ああ、任された……お前達はよくやってくれた、だから俺がFクラスの勝利を勝ち取ってくる」

 

そう言い残して雄二は霧島さんと共に教室を出ていく。

 

 

 

 

「では、始めてください」

 

その掛け声と共に、2人は裏返しにされていた問題用紙を表にした。

壁のディスプレイに視聴覚室の様子が映し出されているので、僕たちはディスプレイ越しで見守るだけだ。

 

例の問題が出ていれば雄二の勝ち、出ていなければ霧島さんの勝ち。

例の問題が出ていないか、ディスプレイに映し出されている問題に目を配っていく。

 

 

後醍醐天皇が鎌倉幕府を滅ぼしたのは何年か。(   )年

 

 

あ、あった!

よーし、これでもし霧島さんが雄二の嘘を覚えていれば雄二の勝ちだ。

後は雄二の学力次第だ。

 

雄二が満点を採ればいいだけなんだ。

 

徐々にFクラスの期待が高まっていく中、テストが終了した。

 

さて、勝敗を分ける最後の勝負。

 

結果は――

 

 

日本史勝負 限定テスト 100点満点

 

2-A 霧島翔子 97点

 

VS

 

2‐F 坂本雄二 53点

 

 

「「「えっ?」」」

 

この時、Fクラスの敗北が決定した。




オリジナルで雄二が嘘を教えた問題を出してみました。

後醍醐天皇が鎌倉幕府を滅ぼした年号は1333年ですよ。
小学生の上級生や中学生はしっかり覚えておきましょう。

意外と作者の中学校時代に答えられた人が少なかったんですよ……。(;´Д`)


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45話 どうしてこうなった!? Aクラス戦後対談

(´・ω・`)どうも作者です。
期末テストが近づいてあたふた状態です。ヽ(´Д`ヽ ミ ノ´Д`)
テスト期間はちょっと先なんですけど
作者の学力は勉強時間が1ヶ月あっても人並みになるくらいなんです……。
学校で勉強しまくって、家に帰っては復讐をして……そんな生活が続いています。
なので空いた時間を使ってコツコツと執筆していました。(笑)
だからクオリティは結構低いですね……。いつものことだけど。






sideアキ

 

 

「「「雄二ぃぃぃっ!!」」」

 

視聴覚室に僕とFクラスの皆が、怒り狂った状態でなだれ込んできた。

 

雄二め! 泣いて土下座したって許さないぞ!

 

膝をつく雄二に霧島さんが踏み寄っている。

 

「……雄二、私の勝ち」

 

「……殺せ」

 

「いい覚悟だ、望み通り殺してやる! 歯を食い縛れ!」

 

「ごはぁッ!?」

 

僕は膝をついている雄二の頬に膝蹴りを入れる。

 

頬がいい位置にあって入れやすいよ。

まだまだこれからだ! こんなんで許す訳ない。

 

「ちょ、ちょっと待った! いくら女になったとはいえ、そんなに本気でされたら――」

 

「知るかぁぁぁ! さっさと死んで詫びろぉ!」

 

「ぐほぉぁッ!?」

 

若干、怯んでいる雄二を追撃するように殴りや蹴りを入れる。

 

傍から見れば、僕が雄二をポカポカ殴っているように見えるが、雄二を痛めつけるくらいの威力はあるだろう。多分。

 

「アキちゃん、落ち着いてください!」

 

これからが本番という時に姫路さんから腕を掴まれ、静止される。

 

「だいたい53点ってなんだよ! 何が『お前達はよくやってくれた、だから俺がFクラスの勝利を勝ち取ってくる』だぁ!? あの一言を少しでも信じた僕がバカみたいじゃないか!」

 

「アキ、落ち着きなさい! アンタだったら30点も採れないでしょうが!」

 

「1学期の頃だったら否定してないけど、今は採れるよ!」

 

「今は採れるの!?」

 

今の体と脳だったら100点なんて余裕過ぎるくらいだよ。

 

ん? ということは最後の勝負は僕が引き受けていれば勝ててたじゃないか!

 

あああぁぁ!! そう考えると余計に腹が立ってきた! この怒りも雄二で発散させてやる!

 

「と、とにかく止めるのじゃ、これではアキちゃんの威厳が……!」

 

秀吉も後ろから抱き着いて、止めに掛かる。

 

「離して、秀吉! あ、あんっ……やぁ……ひ、秀吉! どこ掴んでるの!?」

 

「あ、す、すまぬのじゃ! 大きくて掴みやすかったから……じゃなくて、とにかく止めるのじゃ!」

 

どさくさに紛れてどこ掴んでるの!

まぁ女の子同士だから問題ないけど……。

 

結局、姫路さんと美波と秀吉の3人に抑え込まれて雄二の処刑は中断することに。

 

そんな中、霧島さんは例の『負けた方は何でも3つ言うことを聞く』という約束を切り出す。

 

嫌な予感しかしないけど、負けたから仕方ないか……。

……少し前まで戻れるなら雄二を捨て駒代わりにしたい。

 

そして、1つ目の指示を霧島さんは呟くように言い放った。

 

「……雄二、私と付き合って」

 

「拒否権は?」

 

「……ない、だから今からデートに行く」

 

「ぐぁッ! 放せ! やっぱこの件はなかったことに――」

 

やれやれ、雄二は正直じゃないんだから……。

 

「ほら雄二、負けたんだから素直に言うことを聞かないと」

 

「明久! テメェ!」

 

約束はちゃんと守らないと、常識でしょ?

それに雄二のせいで負けたんだから、僕を恨んでも逆恨みですよ~。

 

霧島さんは雄二の首根っこを掴み、引きずりながら教室を出ていった。

 

いい気味だ。

僕が最初から手を下さなくてもよかったかも。

 

次に木下さんが場を仕切るように、2つ目の指示へと移った。

 

「2つ目と3つ目も、もう既に決まってるわ。もしこれを聞いてくれたら、Fクラス設備のランクダウンは白紙の状態にするけど」

 

木下さんが言った言葉にFクラスの全員は少しばかり歓喜の状態に。

 

「おぉ本当か!?」

 

「よっしゃ……ところで、2つ目3つ目はどんな要望で……?」

 

「今から言うわよ。2つ目と3つ目を出すわよ」

 

一番の痛手となる設備のランクダウンが避けられるなら、嬉々として受け入れよう。

 

Fクラスの誰もが、そう思っている中、木下さんは言った。

 

「2つ目の指示はAクラスに5日の間、吉井くんを貸すこと。

3つ目はオプション追加で、吉井くんを仮装姿でAクラスに貸すことね」

 

え?

 

ちょっと待って、内容がよく分からない。

 

「ちょっと、どういうこと?」

 

なぜ僕が? そして仮装って何? 僕はどんな状況下にいるというのだ?

 

「要するにAクラスに吉井くんを5日間所属させるの。仮装させた状態でね。

アタシたち、Aクラスのみんなが決めたことよ」

 

ニコッと僕に笑いかける木下さん。

 

えええッ!

 

ちょっと待った、そんなことが倫理的に社会的に許されるのか!?

 

「こんなことしていいの!? 絶対にダメだよねぇ!?」

 

そう叫ぶと、横から高橋先生が「いいえ」と答えて、

 

「吉井アキさんには観察処分者として、Aクラスで特別学習を受けてもらいます。

それと仮装は授業などに支障がでないものですので、可とします」

 

と説得力のある言葉で説明された。

 

「ちょっと待ってくれ! 俺たちのアキちゃんを仮装させて借りるなんてズルいぞ!」

 

「そうだそうだ! 羨ましいぞ、こら!」

 

「そんなこと許していいのか!? いや、断じて許しいてはいけない!」

 

あのさ……みんな……僕を庇おうとするのは嬉しいけど、動機が不純すぎるよ……。

 

「アキちゃんがFクラスからいなくなってしまうなんて……酷すぎますぅ……」

 

「アキちゃんよ、姫路が来週、お主に着せるための衣装をせっかく用意したというのに、それができなくなってしまって泣いておるぞい……」

 

姫路さんまで……って、姫路さんも動機がアレだし……。

 

「むぅ……アキのあの憎たらしい胸が揉めないじゃない! アキがいない間のストレス発散はどうしてくれるのよ!?」

 

美波は論外だ。

 

「それじゃ、来週からよろしくね。吉井くん」

 

木下さんはどこか嬉しそうな表情で、僕の手を握る。

僕はそれに応えるよう、握り返すだけで精一杯。

 

来週からAクラスに5日間所属……しかもコスプレで……。

 

僕のお顔は真っ青状態。

 

何でかって? そりゃ恥ずかしいからだよ……。

5日間も慣れないAクラスで5日間もコスプレ姿で滞在となると……考えただけで恥ずかしい!

 

これが僕にとって、地獄の5日間の始まりだった。




次回は結構な重大イベントだから気合入れないとね!(`・ω・´)フンス

突然ですがお知らせがあります。
前書きにも書いた通り、あと少し経つとテスト期間突入なので
2月下旬頃までは執筆できません。(´;ω;`)ウゥゥ
ご迷惑をおかけしますが、そこはご理解いただけると幸いです。

それと、活動報告でアンケートを取ってます。
作者が執筆できない間、そこで意見を送ってくれると嬉しいです。
1人でも多くの意見をお待ちしております。ノ(_ _ ノ)ヨロシクオネガイシマス


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46話 アキちゃんのAクラス体験

(´・ω・`)/どうも、期末テストが終わって嬉しい作者です。
いやー、やっと終わりましたよ期末テスト。
結構しんどかった……。(;´Д`)

たまに情報確認しかできなかったので、どうなってるか不安だったものの、
何事もありませんでした。よかったです。

それと、アンケートご回答ありがとうございました!
これで少しは面白くできる……はず!!




sideアキ

 

 

とある、よく晴れた月曜日のこと。

 

ほとんどの国民が楽しく過ごした土曜日と日曜日も過ぎ去り、待っているのは仕事や学校で憂鬱になる日でもあるかもしれない。

 

そんな中、僕は別の意味で憂鬱になりながら、トボトボとAクラスに直行している。

 

え? 何でかって?

そりゃ、Aクラスに負けた挙句、設備ランクダウン免除のために観察処分者として、5日間Aクラス所属体験をさせられることになったからだよ。

しかも、仮装でね……。

 

うぅ……最悪だ。

よりによって、一週間をこんな形でスタートすることになるとは……。

 

最悪というより、こんなことになるなんて思いもしなかったので、どちらかといえば、驚きの方が大きかった。

 

う~ん、それにしても、Aクラスのみんなはこの僕をAクラスに所属させようとするんだろうか?

 

ましてや、仮装で授業を受けるんだよ?

 

それ以前にこれは学校の教育として、よろしいことなのだろうか?

 

だめだ、考えれば考えるほどAクラスのやりたことが読めない……。

その上に、これを許可する教師側の人間の考えも理解に苦しむ。

 

僕は悩みに悩んだ末、いつの間にかAクラスの教室が目の前に。

 

「……うひゃ~……やっぱりAクラスの教室はすごいな……」

 

僕は唖然としていた。

 

この光景を見たのは初めてではないが、何度見ても驚くばかりの豪華さ。

ここって学校? と誰もが思ってしまいそうなくらいにすごい。

 

僕はこんなところに5日間も所属するのか……。

どうしよう……どう考えたって嫌な予感満載だ。

 

そりゃあ、贅沢な環境で過ごせるのは嬉しいことだし、Aクラスの世界も気になってはいたけど、いつも僕の仮装絡みのことになると問題ばかりなんだよね……。

 

ちょっとした夢が叶ったような、そうでもないような……。

 

…………と、とりあえず、中に入ろう。

 

恐る恐る、教室の入り口とは思えないドアをガラリと開けて教室に入る。

 

「し、失礼しまーす」

 

「あ、吉井くん。いらっしゃい」7

 

教室に入ると木下さんが僕の存在にすぐ気づいて、僕の元にやってくる。

 

「みんな待ってたわよ、席を用意するから、少しの間待っててね」

 

と言って、木下さんは僕の席を用意するためにどこかへ行った。

 

みんな待ってたって……僕がここに来ることがそんなに重要なことなのかな?

 

転校生の心境ってこうなのか……と思いつつ、僕はAクラスの教室の中を見回した。

 

うわ~、入り口があんなに豪華だと、教室の中もすごいな~。

 

天井にシャンデリアがついており、席はリクライニングシートやシステムデスク、

おまけにデスクトップパソコンまである。

 

ただ授業を受けるために、ここまでの設備を揃えるのはすごい。

でも、正直これは資金や資材のかけすぎなんじゃ……?

それに、ここは学校という気がしなくて、逆に落ち着かないなぁ……。

 

普段のFクラスに対を成すよう、圧倒的で贅沢な設備と環境に呆然としながら見ていると、

 

「おっはよー☆ 吉井クン!」

 

「あ、工藤さん……おはよう」

 

横から工藤さんが抱き着いてきた。

 

出会ってから抱き着くのは、日本では一般的に考えて少し非常識な行為かもしれないが、工藤さんの行動はこれが普通なのだ。

 

まぁそれにされるがままの僕もそれが普通だけど。

 

「いやー、今日はすっごく楽しみだよ! 吉井クンのコスプレが見れるからね!」

 

「そんなに楽しむほどでもないと思うけど……?」

 

僕に仮装させて何が楽しいかいまいち分からない。

最近、流行のコスプレイヤーが好きな人間が多いのだろうか。

 

「そんなことないよ! 絶対に楽しいから! カワイイ吉井クンのコスプレ姿を見て損するなんて、ありえないよ!」

 

「か、かわいいって……///」

 

工藤さんから言われた言葉に、ちょっと恥ずかしくなってしまった。

 

「あ、吉井クン照れてる~♪」

 

「べ、別に照れてないよ!」

 

「ウソだね。顔真っ赤だよ? 顔真っ赤な吉井クン、カワイイ~♪」

 

「も、もう、やめてよ!///」

 

「やだ~、やめない~♪」

 

工藤さんはいつまでも僕をからかってくる。

 

本当に照れてないんだよぉ……。

 

Aクラス男女全員

(((うわ~、なんか……この会話を見て聞くだけで和むわ~)))

 

「お待たせ、吉井くん。席の準備ができたから、案内するわね」

 

「あ、うん、案内よろしく」

 

工藤さんにからかわれている内に、僕の席が準備が完了したそうなので、

木下さんに案内されて、自分の席にの元に行く。

 

にしてもこの教室、本当に広いな~。

Fクラスの1.5倍……いや余裕で2倍はありそうだ。

 

「はい、ここが吉井君の席よ」

 

「おお、ここか~」

 

僕の席は教室の真ん中に近い位置にあった。

他のAクラス生徒と大して変わらない、豪華で贅沢な設備だった。

 

「それじゃあ、何か分からないこととか困ったことがあれば遠慮せずに私に聞いてね」

 

「うん、分かったよ、ありがとう」

 

僕は木下さんにお礼を言う。

 

「んん? 吉井くん、僕と隣の席だったんだね」

 

「あ、久保くん。隣の席だったのか~、よろしくね」

 

「こちらこそよろしく。慣れない環境かもしれないけど、困ったことがあったら気兼ねなく頼って欲しい」

 

隣が久保くんと知って、少し安心した。

知らない人が横だったら、と思うと心配だったけど、面識のある久保くんだったら気が楽だ。

 

「……私もここにいる」

 

「霧島さんも隣だったのか~、よろしく」

 

「……よろしく」

 

霧島さんまで隣だったのか。

 

いいポジションの席でよかったと、ひとまず安心。

 

さて、ほとんどやることはもう済んだはずだ。

 

後、残っているものは……。

 

「そういえば吉井クン、肝心なコスプレはまだなの?」

 

工藤さんが僕の姿を見回して、首を傾げる。

 

一瞬、忘れてたけど、この5日間仮装して授業を受けるんだった。

だけど、衣装とかなんて持参してきてないからな……。

 

持ってこないのが普通だけど。

体操服やジャージじゃあるまいし。

 

「仮装するための衣装がないからなー……どうしたらいい?」

 

「それに関しては心配ご無用ね。こっちで用意してあるわ」

 

と木下さんが答えて、「はい、初日はこれを着て過ごしてね」と僕に衣装を渡す。

 

なんだ、用意してあるのか。

 

ただ、どんな衣装を着せられるか予想が付かない。

木下さんから渡されたものだし、マシな衣装であってほしいけど……。

 

「それじゃあ、早速、後ろの更衣室で着替えてもらえる?」

 

「更衣室まであるんだ……このクラス……」

 

なんて準備が良すぎるのだろう。

教室に更衣室があるなんて予想外過ぎるんだけど。

 

Aクラス以外の教室にも設置すればいいのに……これなら移動とかしなくて便利なんだけどな。

 

僕は衣装を手にして、更衣室に入る。

 

果たして、どんな衣装なんだろか。

少し楽しみな気がしなくもない。




きりがなかったんで今回はここまで!
アキちゃんのコスプレは今回で書こうとしたのですが……。
申し訳ないです!(´;ω;`)

次回で絶対にコスプレ姿のアキちゃんを登場させるので
次回まで待っていただけたら幸いです!


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47話 Aクラス体験1

祝 投稿話数50話達成!

ヽ(゚・^*)^☆.。.:*・゚☆祝☆゚・*:.。.☆^(*^・゚)ノ

どうも、作者です! (´・ω・`)/

投稿し続けて、約7ヵ月。
ついに50話達成! やったー!ゝ(▽`*ゝ)(ノ*´▽)ノ

いつも読んでくれている、読者の皆様!
そして、アドバイスなどご指摘などをしてくれる先輩方!
本当にありがとうございます!
こんなことしか言えないけど、本当にありがとうございます!

50話達成となると、さらに面白いネタを考えて、さらに精進せねば……。(●`・Д・)ゝ


sideアキ

 

 

「Aクラスが用意した衣装か……どんなものを用意したのだろう……」

 

更衣室に入った後、僕は木下さんから渡された衣装を確認する。

 

…………うぇぇぇッ!?

こ、こんなのを着るというの……?

まずいでしょ、こんなもの着てたら授業に支障ありまくりでしょ!?

 

と思いつつ、衣装に着替え終わっている僕。

 

…………はッ!? なぜいつの間にか着ているんだ!?

 

本当は死ぬほど恥ずかしいはずなのに……。

どうして僕は反射的に着てしまったのかな?

 

…………まぁいい。

深く追求したらいけない気がするから、ひとまず、ここを出よう。

 

恥ずかしいのはもちろんだが、どうせ僕がコスプレをする未来は変えられないのだから……この際ヤケだ。

 

「あのー、着替え終わったんだけど、出ていいかな……?」

 

と僕は更衣室の扉から少し顔を出して、外にいるみんなに確認を取る。

 

「「「いつでも、どうぞ!!!」」」

 

と声を揃えた即答が来た。

 

よ、よし、Fクラス吉井アキ、行きまーす!

 

そう決心して、僕は胸の部分を押さえながら、更衣室を出る。

 

「ど、どうでしょうか……?」

 

あまりに緊張して敬語になってしまったが、気にしない。

 

「うおおおお! すげぇいいじゃん!」

 

「やべぇ、これは反則だろ……!?」

 

「キャー見て! すっごくかわいい!!」

 

「あぁ……もう私、幸せ……こんな姿のアキちゃんが見れるなんて……」

 

 

うぅ……これだけ騒がれるとやっぱり恥ずかしい……。

ただでさえ見られるだけで恥ずかしいのに……。

 

僕の着ている衣装は堕天使メイド。

 

……これってどこかで見た気がするのは気のせいだろうか?

 

そんなことはいい。

これはとにかく、恥ずかしいデザインなのだ。

 

メイド服と言ったらメイド服だ。

だが、普通のメイド服とは少し違う。

 

まず、この衣装は全体的な露出度の高さ。

胸が大きく露出していることと、スカートが短い。

 

胸開きタイプのメイド服はよくあるものだが、これは胸のほとんどが露出しており、

今にも全部見えてもおかしくない状態だ。

 

それに脇まで見えてるし……。

下は歩いただけで、下着が見えそうなほど短いスカート……大丈夫か? これ。

 

こんなものを着て、恥ずかしいと思っている僕は忍耐力に欠けているのだろうか?

 

「とっても似合っているよ! 吉井クン!」

 

工藤さんは僕に抱き着いてくる。

なんだか工藤さんとは抱き合うことがもう、当たり前と化している。

 

「あ、ちょっと愛子、何抜け駆けしてるのよ!」

 

と次は木下さんまで、後ろから抱き着いてきた。

 

……ってんんんッ!? 木下さんまで、どうした!?

 

「ムフフ、早い者勝ちだよ~☆」

 

「ぬぅ、先を越されたわね……」

 

いったい何を競っているというんだ……?

 

「……私も」

 

と次は霧島さんまで抱き着いてくる。

流石に3人も抱き着かれたら苦しいんだけど?

 

「ああ! 代表までズルい!」

 

「私たちもアキちゃんとハグしたい!」

 

「この流れに乗じて、自分も行きましょう!」

 

と次々とAクラスの女子生徒が抱き着いてくる。

 

あーあー、ちょっとそんなに相手できないから、せめて順番くらい決めてー!

 

「クソぉ……アキちゃんに抱き着けるとは羨ましいぜ……」

 

「俺たちも女だったら、アキちゃんに構わず抱き着けるんだけどな」

 

「ああ、そうだな、だが男の俺たちが抱き着くと極刑は免れない……。

ここは見物するだけにしようぜ」

 

Aクラス男子生徒はほのぼのとした目線をこちらに向けている。

 

男子もあんまり見ないでよ……。

衣装の面でもそうだけど、今のこの状況も見られて恥ずかしいから……。

 

「あなたたちは何をしているのですか? 教室に入ってからやけに騒がしいのですが」

 

Aクラスの担任である高橋先生がいつの間にか教室にいた。

 

「あー、高橋先生……これは歴としたアキちゃんとの触れ合いであってですね……」

 

僕との触れ合いって何!? 僕は小動物か!

 

「そうですか……ですが、あまり騒がしくしないように節度を持った行動をお願いします」

 

おーい、そしてなぜ高橋先生まで納得しちゃってるの?

僕はみんなから、どういう存在と認識されているのだろうか……?

 

「はい、吉井さんとの触れ合いというものは、そこまでにして、席に着いてください」

 

と高橋先生の一声で、Aクラス全員が席に着く。

 

「本日より5日間、Fクラスの吉井アキさんが、Aクラスでの特別学習を受けることになりました。

5日間の短い期間ですが、吉井さんにとって、この5日間が良い経験となるように、皆さんの協力をお願いします」

 

いや、もうこの教室にいること自体が貴重すぎる経験なんですけどね……。

なんというか、ここにいるだけで優等生になった気分。

 

「それじゃあ、改めてよろしく。久保くん、それと霧島さん」

 

「……よろしく、吉井」

 

「うん、よろしく吉井くん」

 

隣で授業を受ける者同士がんばらなければ……って、一番がんばるのは僕なんだけどね……身の程を知るべきだった。

 

「それでは、1時間目の授業を始めます」

 

Aクラスの授業となると、ついて行けるか心配だなぁ……。

ここは気合で乗り切るしかないや。

 

そう張り切りながら、僕はこの堕天使メイド服と共にAクラスの授業を受けた。




よし書けたゾ。(●´・ω・`)ゞフゥ~

今回のコスプレは龍夜さんが提案してくれた、堕天使メイド服です!
堕天使メイドはいいよなぁ!?
元々、エロい衣装なのに、アキちゃんが着ると、エロさ倍増です!

どんな衣装か気になる方は「堕天使エロメイド」でGGってください。(・ω・)ゞ

でも、まさか他のアニメの衣装が来るとは……。
ある意味これってクロスオーバーなんじゃ……?


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48話 Aクラス体験2

時間が空いたのでやっと投稿できました。
遅れて申し訳ないです……。(m´・ω・`)m


sideアキ

 

 

~昼休み~

 

午前の授業が終わり、心にちょっとした解放感が生まれる昼休みとなった。

 

Aクラスの授業は難しかったのはもちろんのことだが、Fクラスに慣れている僕には

ガラッと変わってしまった環境に、いまいち慣れなかった。

 

しいて言うなら、中学生が高校生の授業を受けるようなものかな?

 

だが、その分、僕にとって学力向上に大きく繋がることとなったかもしれない。

 

残りのAクラス所属期間も有効的にこの場を活用していきたいところ。

 

……そんなことはさて置き、今僕はAクラスの女子生徒に質問攻めを喰らっている。

昼休みになった途端、速攻で僕のところまで来たのだ。

 

いったい何を聞こうというのだろう。

僕の何が気になることやら……。

 

答えてあげない訳にもいかないので、手短な回答だけで済ませている。

 

「なんでそんなにスタイルいいの!? 部活入ってるの!?」

 

「いや、部活は入ってないし、そもそも入る気がないから……」

 

第1の質問者は佐山五月さん。

運動神経抜群で陸上部に所属しているらしい。

 

「へぇー、なんか秘訣でもあるの?」

 

「う~ん、特にこれといったことはないね」

 

ただ僕は、普通で一般的な生活している。

特に変わったことはしてないね。

 

「じゃあ、彼氏とかいるの? アキちゃんだったらいてもおかしくないけど……」

 

「い、いないよ、好きな人がいないし、作る気もないし……」

 

「ふ~ん、まだ好きな人もいないって訳ね……」

 

なるほど、と言ったような表情で納得する、第2の質問者である櫻井菜乃葉さん。

ちなみに櫻井さんは書道部に所属。

 

女子ってすぐこういうこと聞いてくるな?

気にはなるかもしれないけど、そんなこと知って、何が面白いのやら……。

 

「ってことは、男子に告白されたって聞いたけど、断ったの?」

 

「あ、うん、よく知ってるね……」

 

今まで、男子生徒に何度も告白されたことか……。

週に何回もラブレターとかが靴箱とか机の引き出し……じゃなくて、卓袱台の上に置いてあったりするんだよね……。

 

このことは、Fクラス以外の人には話した覚えはないけど、噂になってたりするのかな?

 

「へぇー、女子からの告白も断ってるの?」

 

「……なんでそんなことまで知っているの?」

 

結構、前からごく稀に、女子からのラブレターが届くようになってきたのだ。

最初は間違いか何かかと思ったのだが、ご丁寧に僕の名前を載せているから、僕宛ての手紙だということは間違いなかった。

 

それにしても、なぜ送ってくるかは未だに詳細不明だ。

 

ところで、この話は誰にも話してはないのだが、なぜ知っているのだろう?

変な噂を流すタチの悪い連中でもいるのか? この学校には。

 

「ああ、それはいろいろとあってねー……それより、Aクラスに入ってどう思った?」

 

ごまかしを入れつつ、話題をパッとすり替える、第3の質問者の浜崎朱莉さん。

浜崎さんはAクラスの中で最も英語が得意らしい。

 

「慣れないけど、いいところだと思うよ。設備は快適だし……お菓子もあるし」

 

Aクラスにはお菓子が無料で支給されるらしい。

羨ましいな……休み時間が一層、楽しくなりそうだな。

 

と思いながら、ポッキーを食べる僕。

 

「うひゃぁ~、お菓子食べているアキちゃん可愛い///」

 

「やはり小動物と言った方がいいでしょうねぇ」

 

Aクラスの女子生徒は何を考えているのやら……。

 

ポッキーを食べていく僕。

 

うん、美味しい。

 

「そういえば、私たちの考えたコスプレはどう!? 結構、自身あるんだ~」

 

目を光らせながら聞いてくる、佐山さん。

 

この3人がこの衣装の考案者であり、元凶か……。

 

「……正直に言わせてもらうけど、恥ずかしいよ」

 

朝からずっとこの堕天使メイド服で授業を受けていた。

授業中に僕だけコスプレっていうのは結構シュールな光景かもしれないけど。

 

「恥ずかしがることないよ! そんなのアキちゃんの私服みたいなものだから!」

 

「ちょっと待った、桜井さん! 私服ってどういうこと!? 僕はコスプレを私服とするまでの変態になっているの!?」

 

今のは聞き捨てならない言葉だった。

 

「えー、だってFクラスでしてるんでしょー? 羨ましいな~Fクラス」

 

後ろから、僕を抱きしめる浜崎さん

 

「うぅ……言い返せないけど、僕の意思でやっている訳ではないよ…………」

 

どっちかと言えばAクラスの方が個人的に羨ましい気がする。

コスプレしろ、と言ってくる人がいなさそうだし。

 

「ふ~ん、でも、着てくれるんでしょう? あーあ、私たちのクラスに来て欲しいな~」

 

「……結局は着ることになるのか…………」

 

どの道、AクラスだろうがFクラスだろうが、コスプレをする運命は覆せそうにないな。

 

 

 

 

~放課後~

 

 

昼休みも終わり、その後の午後の授業の時間もあっという間に過ぎて行き放課後へ突入。

 

さて、ようやくAクラス体験の1日目が終わったな……。

後は着替えて帰るだけだ。

 

そう思い、更衣室に行こうとした時だった。

 

ガシッ

 

「着替えるのはまだ早いと思うな~!」

 

「……な、何かな、佐山さん……? 僕にまだ用があるの……?」

 

手首を掴みながら、ニコニコ微笑んでいる佐山さんと、その後ろに櫻井さんと浜崎さん。

 

「せっかくだから、一緒に帰ろ? アキちゃんのこと、もっと知りたいから」

 

「う、うん、分かったから。手を離してもらえないかな?」

 

「それは無理な話だね」

 

なんでだ!?

 

「せっかくだからその姿で帰ろうよ! うん、そうするべき!」

 

目を輝かせながら櫻井さんは言う。

 

「ちょっと待って、ちょっと待って! こんな姿で街中歩いたら本当に変態じゃないか!

お願いだから本当にやめて!」

 

「いいんじゃない、アキちゃんが着ててもおかしくないし」

 

浜崎さんは何をそんなにためらっているの? といった顔をしている。

 

いや、誰かが着てるからとかそういう訳じゃなくて、着ること自体が問題なんです!

誰が着たって同じなんです!

 

「ほら、恥ずかしがらないで、行くよー!」

 

「ちょっとまって、ちょ……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

女の子になった僕の力では、陸上部所属の佐山さんの力に勝てるはずもなく、そのまま

コスプレ姿で帰宅するハメに。

 

そのおかげで、文月学園だけでなく、ここの地域一帯で有名になってしまったのは言うまでもない。




新しいコスプレが出てねぇぇぇ!!
やばい、これはかなり長引く可能性がありそうです。(;゚Д゚)

次回は必ず出しますからね!
絶対にだよ!
絶対に!

……いや嘘じゃないですよ?(;´・ω・)


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49話 Aクラス体験3

お待たせしました!
今回も新しいコスプレ姿のアキちゃん登場です! (●´・ω・`)ゞ
それではどうぞ~


sideアキ

 

 

Aクラスに所属するのが2日目となった、翌日の朝。

 

今日も衣装に着替えるため、Aクラスの教室の後ろにある更衣室に入って、渡された衣装を確認する。

 

さーて、今回の衣装は…………っと……。

 

…………?

 

これはなんだ?

 

ブラウン色の……制服?

軍服に見えるような気もするけど……?

 

見た限り、エロい衣装ではないことは確かだね。

その辺は少し安心したよ。

 

と胸を撫でおろす僕。

 

どうやって着るかは、いまいち分からなかったが、制服を着る感覚でやってみると、上手く着ることができた。

というか、この着方が正解かもしれないね。

 

よし、これで準備完了。

後はここから出るのみ。

 

流石に昨日よりはマシだから、今の僕にためらいなんてない。

 

「お待たせ……ど、どうでしょうか……?」

 

慣れてるとはいえ、緊張感はまだ少し抜けてないみたいだ。

 

「おおおお!! これは艦これの重巡洋艦である熊野の衣装ではないか!」

 

「本当だ! しかもめっちゃ似合ってる!」

 

「これは、本人より可愛いんじゃない?」

 

艦これ?

どっかで聞いたことあるような、ないような……?

 

だが、僕にとっては、いまいち理解に苦しんだ。

 

「ん~……でも、なんか物足りないのよね~……」

 

1人の女子生徒はぎこちなさそうに不満をつぶやく。

 

え、まさか、まだ僕に何かする気なの?

もう、コスプレしてあげたんだから、それだけでも満足してください……。

 

「あ! いっけな~い、大事なことを忘れてた!」

 

すると、不満そうにしていた女子生徒が僕の後ろに回り込んで、髪を束ねる。

 

何をする気だ? と気になりつつ、女子生徒はゴムを取り出して、

先程、束ねた髪に結びつける。

 

「よーし、これで完成よ!」

 

女子生徒は物事を成し遂げたような顔でいる。

 

いったい何をしたのだ?

 

「うおおお!! さらに可愛いくなったじゃないか!!」

 

「すげぇ、髪型変えただけで、こんなに印象って変わるものなのか……」

 

「うひゃー可愛い! コスプレと髪型を2度も楽しめちゃったよ~!」

 

周りのみんなはとても、どよめいている。

 

僕の髪に何をしたらこうなるんだ?

 

「ほら、吉井くん、鏡を見てみなさい」

 

「ん? どれどれ……」

 

木下さんに手鏡を渡されたので、鏡の中を覗き込む。

 

するとそこには、ポニーテールの僕がいました……。

 

お、おお~……これは自分で言うのもあれだけど、なかなか可愛い気がする……。

髪型変えると、印象が変わるものなんだね。

 

いつもは結ったりするなどの手間を加えず、そのまま下ろした状態だが、これは髪がまとまって、清楚感溢れる髪型に。

 

…………今度から髪型、変えてみようかな?

 

 

 

 

「それにしても本当にカワイイね~、吉井クンって結構似合うんじゃない? ポニーテール」

 

「はは、どうだかなぁ~……」

 

「ボクも長い髪の毛にしてみたいけど、運動の邪魔になるから、この髪型なんだよね……」

 

「工藤さんはそれくらいが丁度いいし、似合っていると思うよ?」

 

僕がコスプレしてから数時間経った、お昼休み。

 

今、僕と工藤さんと木下さんと霧島さんと久保くんのメンバーで各自、持参した弁当を広げて、昼食タイム。

 

何気にいつもと違うメンバーで、お昼を一緒にするのはこれが初めて。

ちょっと雰囲気には慣れないが、稀の一興かもしれない。

 

「イメージチェンジもいいかもしれないわね。今度アタシがやってあげようかしら?」

 

「う~ん、そうだね……その気になったらやってみようかな」

 

おしゃれとか、可愛くなりたいとか、そういうことではないけど、やってみて損はないし、機会があったら挑戦してみようかと思う。

 

「思ったんだけど、吉井クンって髪サラサラで綺麗だね~」

 

ジッと僕の揺れるポニーテールを見つめる工藤さん。

 

「ん? そうかな?」

 

「そうよ、どんなに手入れをしても。吉井くんみたいには行かないものよ」

 

「……髪の状態維持は難しい」

 

と木下さんと霧島さんは同調する。

 

「うんうん、そうだよね~。久保クンもそう思わない?」

 

と話を久保くんに振る工藤さん。

 

「男の僕にはよく分からない話だけど、ファッション雑誌や広告に掲載してあるモデルの人より綺麗だと思うよ」

 

久保くんまでも……。

 

特に髪の手入れをしたりしている訳ではないんだけどね。

だからといって、自然にそうなっている訳でもないけど。

 

「ねぇ、よかったら触ってもいいかな?」

 

見るだけじゃ、つまらないと工藤さん。

 

「別に髪なら構わないけど……」

 

「そっか、それじゃあ遠慮なく触らせてもらうよ♪」

 

嬉しそうに言って、僕の髪に優しく触れる。

 

いつも僕の身体を触る時は遠慮ない工藤さん。

 

「うひゃぁ~、これはなんとも言えない肌触り……!」

 

と興奮気味に工藤さんは言う。

 

「アタシも触って、いいかしら?」

 

「……私も」

 

工藤さんに引き続き、木下さんと霧島さんまで。

 

まぁいいか、別に嫌じゃないし。

 

「別にいいけど?」

 

そう言って、頭を触れやすいようにつき出すと、木下さんと霧島さんは僕の髪に手を伸ばす。

 

「す、すごい、滑らかさ……そして癖になりそうな感触……」

 

「……羨ましい」

 

2人はそう言って、念入りに僕の髪を調べていく。

 

「本当にサラサラだよ……あ、そうだ」

 

工藤さんは僕の髪に顔を近づける。

 

「スゥ~…………はぁ~……」

 

「ってちょっと! いきなり何嗅いでるの!?」

 

「うわぁ……すごくいい匂い、これがお日様の匂いかな?」

 

どんな匂いだよ……。

 

「んん、これはいつまでも触っていたいな……そうだ、久保クンも触ってみない?」

 

「え? 僕が?」

 

久保くんは少し驚いたように困惑する。

 

う~ん、せっかくだし、触らせてあげた方がいいかな?

さっきから久保くん女子の会話に付いていけてないし、1人だけ触れないのはアレだし。

 

「触ってもいいよ? 久保くん」

 

「…………本当にいいんだね?」

 

久保くんは恐る恐る、ゆっくりと手を伸ばして、僕の頭を撫でた。

 

「ど、どうかな……」

 

「なんだか不思議な感触だよ……すごく気持ちいい……」

 

と興味を持ったような手つきで、僕の髪を撫でていく。

 

あ……なんだか、こっちも気持ちよくなってきた……。

 

「んっ……」

 

髪に触れられる気持ちよさに吐息を漏らしてしまった。

 

ブワッ

 

「って久保くん!? 鼻血出てるよ!?」

 

気が付くと、久保くんが鼻血を出していた。

 

僕の頭を撫でている間にいったい何が!?

 

「あ、あぁ、すまない……血圧が高くなるものを食べ過ぎてしまったようだ……」

 

と鼻を押さえながら言う久保くん。

 

「もう、何やってんのよ……」

 

ポケットティッシュを久保くんに差し出す木下さん。

 

「あぁ……ありがとう」

 

と言って、久保くんはティッシュで鼻を押さえた。

 

なんだ、そういうことなんだ……。

いきなりでビックリした。

 

でも、ちょっと久保くんの様子がおかしいと感じたのは気のせいだろうか?

 

「うーん、久保クンには少し刺激が強すぎたかな~?」

 

クスクスと工藤さんは終始、笑っていた。




ついに、艦これの衣装まで出ちゃったよ! (`・ω・´)
これってもうクロスオーバーですかね?

今回採用した衣装はアキ改二さんが提案してくれた
艦これの熊野ちゃんの衣装ですー!
また、どんな衣装か気になる方は「艦これ 熊野」でGGってください。(・ω・)ゞ
作者の友人が好きだったので選びました。

ちなみに作者は艦これの中では大和ちゃんが好きです!(⋈◍>◡<◍)。✧♡


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50話 Aクラス体験4

やっと今回でアキちゃんのAクラス体験は中間の3日目になりますね。
残りも惜しむことなく書けるようにしないとね! (`・ω・´)

※訂正入れておきました。

この話中では、東方projectはアニメと言っていましたが、東方の原作はゲームでした。
作者は東方についての知識や認識が浅いにもかかわらず、誤解を招く描写にして申し訳ないです。


sideアキ

 

 

「それじゃあ、吉井くん。これが今回の衣装よ」

 

「はは……さて、今回の衣装はどんなものかな……?」

 

Aクラスに所属する期間のちょうど真ん中の3日目。

 

今日もお決まりのように朝から木下さんから衣装を渡され、更衣室に入り、衣装を確認する。

 

3日目となると嫌でも慣れてしまう。

この学園生活を拒んだりしていた最初の自分はどこへ行ったのやら……。

 

そんなことはさておき、今日の衣装は……。

 

ん? これは……華人服?

 

中国の女性がよく着てそうな淡い緑色が主体となっている華人服。

 

腕と腰の白い部分にフリルがついており、可愛さを重視したものだろうか。

これは見る人によって印象が異なるだろう。

 

う~ん、でもどうしよう、華人服って着たことないからなぁ……。

いくらコスプレに慣れてるとはいえ、着方が分からなければ意味がないです。

しょうがない、ここは誰かに手伝ってもらおう。

 

「あのー、着方が分からないから誰か手伝ってくれないかな?」

 

「着方が分からない? う~ん……ボクにも分からないな、優子は?」

 

「アタシに言われても……どうしたらいいのかいしら?」

 

2人は困った表情を見せた。

 

うん、そりゃそうだろうね。

そもそも、華人服は他国の衣装であって、日本人の僕達に縁もゆかりもないものだ。

2人が困るのも無理もない。

 

「あ、あのー、私がしてあげましょうか……?」

 

困り果てる寸前に、横から誰かが声をかけてきた。

 

「君は確か、佐藤さんだっけ?」

 

「はい、覚えててくれたんですね」

 

うん、もちろん忘れるはずがない。

この前のAクラス一騎打ちで姫路さんの相手を務めた生徒だからね。

Aクラスの中では、ほんのうろ覚えだけど、知っている人物。

 

「それにしても、教えるって言ってたけど、大丈夫なの?」

 

「はい、この衣装は私が選んだものなんです。当然教えられますよ」

 

胸を張って言われた。

 

へぇー佐藤さんが選んだんだ……。

 

真面目そうな雰囲気の佐藤さんが選ぶのは意外だった。

Aクラスって、やっぱり真面目な人だけがいるクラスじゃないんだね。

 

親しみやすくて、いいと思うけど。

 

「それじゃあ、お願いするね。よろしく」

 

「こちらこそです」

 

 

 

 

~更衣室~

 

 

2人で更衣室に入り、早速着替えるため、服を脱ぐ。

 

横に佐藤さんがいるので恥ずかしい気がするのだが、衣装を着るためだし、

これはしょうがない。

 

そうして僕はスカートのファスナーを下ろして、下に脱ぐ。

次にブレザーを脱いで、ブラウスに手をかけてボタンを1つ1つ外す。

 

「……///」

 

あのね……佐藤さん……そんなにジロジロ見つめないでよ……。

恥ずかしくて脱ぎ辛い。

 

佐藤さんの視線を感じながらも、制服を脱ぎ終わり、下着だけのデフォルト(?)状態

になる。

 

「//////」

 

一方、佐藤さんはなぜか赤面状態になりながら、突っ立ってる。

 

「佐藤さん? もう脱ぎ終わったんだけど……?」

 

「あ……はい、では、始めますね」

 

佐藤さんは一瞬ハッとした表情を見せた後、衣装を手に持って、僕に着方を教える。

 

「はい、ここに腕を通してくださいね」

 

「はーい」

 

僕は佐藤さんに言われた通りに衣装を着る。

 

「それにしても、佐藤さんがこの衣装を選んだんだよね? なんでこの衣装にしたの?

もしかして佐藤さんってコスプレ趣味?」

 

「いいえ、違います。これは私が好きなゲームのキャラクター衣装だったので、

これにしました。吉井君が着てくれたら似合うかなーと思いましたので」

 

「え? これゲームキャラの衣装だったの?」

 

「そうですよ、東方Projectの紅美鈴というキャラクターの衣装ですよ。

安売りされてたので買った甲斐がありました」

 

「へぇー、そうなんだ……」

 

アニメに引き続き、ゲームキャラの衣装が登場ね……。

 

確かに言われてみればゲームキャラが着てそうな独特なデザインだな。

 

思ったんだけど佐藤さんって意外とアニメとかゲームが好きだったりするのかな?

もしそうなら、面白い。

 

いつもは勉強詰めの優等生って感じだけど、そういった趣味があるのは意外性があっていい気もする。

 

「やっぱり、私って……おかしいですよね……」

 

「え? 何が?」

 

「私って、普段こんな姿を見せることがないので、もしかすると変な印象を受けたのかと思いまして……」

 

少し照れた表情で、言われた。

 

別に趣味は人それぞれだから、意外な趣味があってもおかしくはないけどね。

 

それに、自分の周りにいる人はみんな変わり過ぎな趣味を持っているから、こんなの普通の趣味だよ。

 

Fクラスのメンバーが異常すぎるせいか、これは本来でもそうだが、極普通でまともだとしか言いようがない。

 

「いや、全然……むしろいい趣味だと思うよ?」

 

「そうですか……? それならよかった……です」

 

「佐藤さんは外見も中身も可愛いし、こういうのは表に出してもいいんだけどね」

 

「か、可愛い……そ、そうですか?///」

 

「うん、絶対にいいから」

 

「…………ありがとう///」

 

小さな声でポツリと呟く佐藤さん。

 

「どうしたの、佐藤さん?」

 

「いえ……なんでもないです」

 

首を振ってなんでもないと言って、いつも通りの佐藤さんに戻る。

 

「と、とにかく、続きです、次はここをこうやって――――」

 

と、こんな感じで衣装に着替えていき、

 

「はい、できました!」

 

「できた…………って、これスリットが深すぎてパンツが見えそうじゃない!」

 

着てから分かったことだが、これはスリットが深くて、歩いただけで下着が見えそうな

くらい深かった。

 

しかも歩きにくい……。

 

「あ、それと仕上げを忘れていました」

 

さらに佐藤さんは側頭部の髪を編んで、黒いリボンで止める。

 

「これでバッチリです!」

 

「おお~……これも髪型を変えるのか」

 

変えると言っても、すこし弄ったくらいだけど、違いは感じられる。

 

「わぁ、改めて見ると、とっても似合っていますね~。本当に可愛いです!」

 

「それはよかったよ、それとありがとう、着付けを手伝ってくれて」

 

「いいですよ、別に私と吉井くんは友達じゃないですか」

 

と、友達って…………。

 

着方を教えてもらっている内に、いつの間にか佐藤さんと友達になっている雰囲気に……。

 

いや、もう佐藤さんのことを知ることができたから、堂々と友達って呼んでもおかしくないか。

 

「そ、そうだよね、僕たちは友達だよね……?」

 

「それなら、次から名前を呼ぶときは『アキちゃん』って呼んでいいですか?」

 

え? 佐藤さんまで僕をアキちゃんって呼ぶことになるの?

 

う~ん、ま、いっか。

今更呼び方なんて、どうでもいいと思っているし。

 

「うん、もちろんだよ」

 

「それならこれかもよろしくお願いします、アキちゃん」

 

「こちらこそよろしく、じゃあここから出ようか」

 

ちょっと時間をかけすぎたなぁ。

速くここから出ないとね。みんな待っているだろうし。

 

そして、僕と佐藤さんは更衣室から出る。

 

「おお! 今回は東方の紅美鈴か! 今日も似合ってるな!」

 

「相変わらず、すげーな。本当に……安定の可愛さだな」

 

「もうアキちゃんに似合わないコスプレなんてないんじゃない!?」

 

最後の人、それはまた僕がコスプレしないといけないフラグ!

 

「フフ、よかったですね。アキちゃん」

 

「佐藤さんまで……」

 

佐藤さんまで僕をからかってくる。

 

でも、佐藤さんはとても楽しそうで幸せそうな顔をしていた。

それは、彼女が普段見せることのない表情だったかもしれない。




コスプレっていいですねぇ……。
友情を築き上げることができますから。

実際、作者もコスプレをしたことがあって、仲良くなった人がいたりするんですよ。

そんなことより、今回はまさかの東方projectが出ちゃったよ! (; ・`ω・´)
他のアニメの衣装提案多いなぁ~。(笑)

今回採用した衣装は刃月さんが提案してくれた
東方projectの紅美鈴の衣装です!
どんな衣装か気になる方は「紅美鈴」でGGってください。(・ω・)ゞ

紅美鈴か茨木華扇の衣装にしてほしいと提案されたので、どっちにするか迷いましたが
ここは友達の( ´ºωº`)に力を借りて、じゃんけんで決めました。

作者が勝てば茨木華扇の衣装
友達が勝てば紅美鈴の衣装にする単純なルールでした。

結果は、作者がグーで友達はパーで作者の負けになり、紅美鈴の衣装に……。

別に勝ち負けどっちでもよかったけど、なんか悔しい……。(´・ω・`)


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51話 Aクラス体験5

後これと次でアキちゃんのAクラス体験は終わりですね。
惜しむ事無く書いたけど、どうだろうか……。(´・ω・`)


sideアキ

 

 

1週間の後半開始の木曜日。

 

Aクラス体験は残すところも後わずかになってきた頃。

 

今回もどんなコスプレをすることになるのだろうか……。

 

頑張れ僕。後少しの辛抱だ。

こんなとこで気を抜いたらダメなんだからね。

本当は抜きたいところだけど……。

 

とりあえず衣装に着替えて、みんなにお披露目して、Aクラスでの学校生活を満喫する他ない。

 

こんな状況を素直に楽しめる人間になりたいと、僕は強く思った。

 

「木下さん、今回の衣装はどんなものなの?」

 

「今回はとっておきの衣装よ、吉井くんだからこそ着せたい衣装ね」

 

吉井くんだからこそ着せたい服……。

 

このフレーズを聞くと胸騒ぎがしてきたぞ。

 

僕が着る服=それはやばい衣装

 

脳内で起きている自己解釈。

 

それを考えてるせいで、いつもいつも悪寒がこれでもかってくらいに……。

 

だが、コスプレ慣れした僕はガラスの忍耐力から金属程度まで昇格した忍耐力は負けてはいない…………多分。

 

「じゃあ……着替えてくるね……」

 

「楽しみにしているわね」

 

木下さんも、僕が女の子になってから、姫路さんみたいに変わった気がするけど、元からこんな感じだったっけな……?

 

最初の頃の木下さんが思い出せない……。

 

いつも通りに更衣室へ入る。

 

さて、今回はどんな衣装なのかな……?

 

そして、いつものように衣装を確認する。

 

「あれ? 今回は意外とまともな衣装……?」

 

確認してみると、白いセーターが出てきた。

下に履くものは……白いニーソだけ……?

 

ズボンやらスカート等の下に履くものがないということは、セーターワンピースかな?

 

…………おかしいなぁ。

これまで着せられてきた衣装を振り返ってみると、これは違和感がしてならない。

 

これまで着せられた衣装はエロいメイド衣装や、どこかのアニメの軍服(?)みたいなやつとか、ゲームキャラ専用に改良された華人服とかだったのに……。

 

その次にセーターワンピースってどういうことだよ!?

何この微妙なチョイスは。

 

って、本来こういう衣装だったら安心しているのに、我を忘れてツッコんでしまった。

だけれど、ツッコまざるを得ないんだよ……。

 

いや、別にエロい服とかコスプレをしたい訳じゃないからね?

本当だからね?

 

…………うん、こんなことしてないで着替えるか。

 

さっさと制服を脱いで、衣装を手に取る。

 

「ん? なんだろう……これ」

 

衣装を手に取った瞬間、メモ紙のようなものがヒラリと落ちる。

 

あらかじめ、畳まれた衣装の隙間に挟んでおいたのだろうか?

 

僕はそれを拾い上げて、文字が書かれた面に目を向ける。

 

『今回の衣装を着る際は上の下着をつけないように。 by木下優子』

 

上の下着をつけない!?

 

それって……まさか、アレですよね?

男性がつけることのない、女性のために存在するアレをつけない……。

 

いわゆる、ノーブラ……。

 

なんでセーターを着るくらいでノーブラにならないといけないのだ?

ますます怪しくなってきたぞ、このセーター。

 

しかも、このメモを書いた本人は木下さんだよ?

なぜに木下さんなんだ? 木下さんはもっとこう……常識が身についているんじゃないのか?

 

最初の頃の木下さんが思い出せないと同時に、イメージが壊れつつあるような……。

…………いや、気にせず今はやるしかない。

 

考えたら、だんだん怖くなってきたので、中断させるかのように頭をブンブンと横に振る。

 

僕はブラホックに手を伸ばし、ブラジャーを外す。

 

うん……相変わらず大きいですね…………って何言ってるんだ。

 

「ノーブラで衣装を着るって、なんだか慣れないなぁ……」

 

ブラジャーを着けるのは面倒だと思っていた時期が僕にもありました。

だが、どうしてもこれを着けてないと胸が変な感覚になるというか…………重い。

 

女性物の下着に慣れてしまったことに対し、複雑な気分になりながら、セーターワンピースを身にまとう。

 

ん……んんんッ!?

こ、これって……。

 

着てみると僕は言葉を失った。

 

一見、普通の若い女性が着るようなセーターワンピース。

しかしながら、ある部分が大きく違う。

 

「……なんで……なんでこんなに胸の部分が空いているの……?」

 

胸の真ん中が大きく露出して、谷間が見える状態であり、他は露出度がとても低い。

全体的に見れば、肌があまり見えない状態。

けれど、大事な胸の部分が露出してしまっている。

 

それが逆にエロいとうかなんというか……。

 

もしかして、ノーブラになったのはこのため?

確かにこれだとブラが見えちゃうかもしれないけど、だからと言ってこれは……。

これはこれで僕の大事な部分が見えちゃうんじゃないかな?

どの道、苦痛な思いをするのか……。

 

もういいや、これまでにいくつもの過激な衣装を着たのだから。

 

今まで着てきた衣装を振り返って、これはアレよりマシだと自分に言い聞かせる。

 

自信がついたところで、僕は更衣室を出る。

 

「お待たせ……ど、どうかな?」

 

この部分を晒したくはないと、胸の部分を右腕で隠している。

 

「おお! これは文句なしにアリだな!」

 

「ああ、本当にこんな妹が欲しかったわ……」

 

「いやー、エロい! これは我にとっての眼福ですな……やべ、鼻血出てきた」

 

おい、最後の人、僕の体を見て興奮した訳じゃないよね……?

そうじゃないことを願いたい。

 

「1日目のコスプレもよかったけど、これもまたいいよね~」

 

横から工藤さんがジマジマと僕を見つめながら言う。

 

「うぅ……そんなに見つめないでよ……ただでさえ見られるだけで恥ずかしいんだから」

 

「恥ずかしがっている吉井クン、カワイイ/// こうなったら……」

 

工藤さんが小悪魔的な笑みを浮かべながらこちらへ寄ってくる。

 

ちょ、目が……目が怖いよ……!

 

僕は逃げようと考え、後ずさろうとする。

 

「そうはさせないぞー☆」

 

「うひゃあ!? ちょっと……工藤さん!?」

 

野生の動物が獲物に食らいつくようなスピードで工藤さんは僕の胸を掴む。

 

「おぉ! もしかしてこれは、ノーブラ! これは念入りにチェックしないとね……!」

 

「ひゃあ……ちょっとやめて……やぁん……」

 

時と場所と場合を考えてください!

いやどんな場所と場合であってもされたくはないけれど。

 

「愛子! アンタだけズルいわよ! 私だって……!」

 

「わあぁ! 何で木下さんまで……!?」

 

普段は止める役の木下さんだが、なぜか今回は加勢する役に。

 

しかも、目が怖い! 鼻息が荒い!

この木下さんはいつもの木下さんなの!?

 

「あー、私もする!」

 

「この流れに乗らなきゃね!」

 

いやぁぁ!? 他の女子生徒まで!?

 

「や、やめて! 本当にダメなんだって!」

 

抗っても、押さえられて身動きが取れない状態になってしまう。

 

あー、もう、こうなったら男子生徒に助けてもらおう。

男子生徒だったら…………。

 

チラッと男子生徒に目をやる。

 

しかし、目をやったその先には鼻血で出血多量になりかけている男子生徒たちの姿が広がっており、まさに阿鼻叫喚の光景が……。

 

って、おおぉぉぉい!!

 

何やってるんだ、男子!

女子の戯れを見て、興奮しないでよ!

 

もうAクラスの男子は普通に男子なのか……。

本当は真面目な人達かと思ったのに……。

 

結局、高橋先生が来るまで滅茶苦茶にされてしまった。




今回のコスプレはshou11さんが提案してくれた例のセーター(胸あきセーター)です!

いやー、本当にエロくて素晴らしい!
アキちゃんにぴったりですね!

そういえば、これ結構前に、アニメキャラに着せるブームがあったような、なかったような……。

どんな衣装か気になる方は「例のセーター」でGGってください。(・ω・)ゞ

次回でアキちゃんのAクラス体験も最終回!
楽しみにしていただけたら、嬉しいです。


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52話 Aクラス体験6

ちょっと久しぶりに買い換える前のPCで投稿しました。
※一応、まだ使えるので、作業用としてたまに使っています。

使ってみると、数ヶ月前がとても懐かしく思えます。(´-`).。oO

そんな中、今回でアキちゃんのAクラス体験は最終回となりました!
皆さまの衣装提案と応援などのおかげでここまでくることができました。
誠にありがとうございます!<(_ _*)> アリガトォ
振り返ると、結構長かったようで、短かったような気がします。

最終回も惜しむことなく執筆しました。
楽しんでいただけたら幸いです。




sideアキ

 

 

翌日の金曜日。

 

今日は僕の長かったようで、短かったAクラス体験も最終日を迎える。

 

思い出せば、いろいろと恥ずかしい思いをしてきたなぁ……。

実を言うと結構トラウマになってたりするんだよねぇ……。

 

でも、なんだかんだ言って、Aクラス体験は楽しかった。

Aクラスでの習慣や学習について知ることができたし、新しい出会いや経験も沢山ある。

 

いつものFクラスより快適で楽しい時間だったけど、今回で終わってしまうのが、なんだか惜しい気がする。

 

最初はあんなに嫌だったっていうのに、どうして今はこんな心境なんだろうなと、最初の自分が不思議に思えてくる。

 

そんな中、僕はいつも通りAクラスの更衣室にいる訳だが、今回は衣装の着付けが、やけに大掛かりだった。

 

今回はなんと女子生徒が5人、僕の衣装の着付けを手伝うことになっている。

 

Aクラスのみんなは「最終日だから盛大に!」と張り切っている。

最終日だからといって、僕の衣装まで盛大にしなくていいんだけどな。

気持ちはわからなくもないけれど。

 

「さぁ、アキちゃん。早速服を脱いで頂戴」

 

「あ、うん」

 

僕は言われた通り制服を脱いでいく。

女子が5人いる中で、服を脱ぐのは流石に恥ずかしくて仕方ないけど……。

 

女同士だから気にしない精神で、制服を脱ぎ、無防備な下着姿になる。

 

「うひゃ~、下着姿のアキちゃんが見れるとは……眼福に感謝!」

 

「着付け担当で本当によかった! なれなかった人はかわいそうだけど」

 

「もうこのままでいいんじゃない? この姿で全然いいんだけど!」

 

いや、よくないからね!?

そんなことしたら、学校問題どころの騒ぎじゃ済まないからね!?

 

冗談だとしてもなかなか笑えない。

 

「それじゃあ、衣装を着せるわね。みんなで最高の最終日するのよ!」

 

「「「おー!!!」」」

 

1人の掛け声とともに、着付け担当の女子生徒はテキパキと僕に衣装の着付けをしていく。

 

着せている衣装はいったいなんだろうな?

最終日だし、みんな張り切っているから、すごいものが来る予感。

 

「はい、ここに腕を通して」

 

「はいはい」

 

「次、バンザイしてー」

 

「はいはい」

 

「じゃあ、少しお腹引っ込めて」

 

「は、はい……」

 

手間の掛かる衣装だなぁ……。

 

見た感じ、派手で豪華な舞台衣装だった。

赤をメインとしたドレスで、上品であり、可愛らしさも多少感じられる。

 

少し気になったのは、前の足から股間の部分までが透けている布地でできており、パンツが見えてしまいそうな構造だったこと。

 

歩く時に用心しないと……。

そこを除けば、本当にすごい衣装なんだけど……しかし、よく用意できたな、こんなの。

 

「よし、後は胸を留めるだけね。もう1回バンザイして」

 

「はいはい」

 

僕は言われた通り、両腕をまっすぐ上に伸ばす。

 

「よーし、それじゃあ…………あれ……?」

 

少し間が抜けた声を上げて、女子生徒の手が止まった。

 

「急にどうしたの?」

 

「い、いや、なんでもないわ」

 

また手を動かして、作業を再開する。

 

チラッと見下ろすと、胸のボタンを留めるのに苦戦している様子。

 

大丈夫かな……?

 

「よし、なんとかできた!」

 

やっとボタンを留めることができたようだ。

 

それはいいんだけど、胸元が苦しい……。

 

これはまさか、サイズを間違えたのかな?

採寸とか行ってなかったし……。

 

それよりも、これきつい!

胸が潰れそう……!

 

とても胸が苦しい。

かなり締め付けられて、胸が圧迫されている。

 

プツン

 

すると、衣装のボタンの耐久が限界を突破して、勢いよくボタンが外れて飛んでいく。

それと同時に、圧迫から開放されて踊り出る僕の胸。

 

「…………」

 

「「「…………」」」

 

しばらく更衣室の中に沈黙の状態が続いた。

 

「……こうなったら、やるしかないわね」

 

すると1人の女子生徒が声を上げる。

 

「こうなったら、おっぱい増量よ! 衣装の胸部をアキちゃんのカップに合わせるのよ!」

 

「「「おー!!!」」」

 

「ちょっとぉ!? そんな恥ずかしいこと大声で言わないでよ!?」

 

今の声は外にいる人達に聞こえてないといいけど……。

 

 

 

 

あれから数分後、やっと衣装の調整も終わり、今度こそできた。

 

これが最後のお披露目だ。

やっと…………やっと開放される……。

 

「行くわよ、アキちゃん。これは大好評間違いなしね!」

 

1人の女子生徒はやけに興奮気味だ。

 

「はは、それはどうだかなぁ」

 

「絶対にそうだよ! 私が保証するから!」

 

もう1人の女子生徒も言う。

 

なぜ、着付けをした人には自信があるんだろうな。

 

「とにかく、見てもらわないと結果は分からないわよ! Let's go!」

 

女子生徒に背中を押されるように更衣室を出る。

 

「はい、みんなー! 注目! アキちゃんの最後の衣装よ!」

 

出た途端、注目を寄せ集めるように呼びかける女子生徒。

 

「おお! ネロちゃんの衣装じゃん! クオリティがすごい……!」

 

「最終日に相応しい衣装ですなぁ……いや~、本当に可愛いし美しい……まるでどっかの国のお姫様のようだな」

 

「何言ってるんだよ。アキちゃんは元からお姫様だろぉ!?」

 

「お、そうだな」

 

お姫様って……。

綺麗なドレスを着ればみんなお姫様になれるのかな……?

 

こんな体験、僕がしてしまっていいのだろうか……、

 

「うわぁ、とっても似合ってるよ! 吉井クン!」

 

と工藤さん。

 

「はは、工藤さんはいつも。そういうコメントばっかりだなぁ」

 

「だって、本当のことなんだもん。じゃあ、いつも通りのハグ」

 

そう言って、何の違和感もなく抱きつく工藤さん。

 

何で「じゃあ」になるのか意味がわからないけど。

 

「本当にアンタは吉井くんにベタベタなんだから……吉井くんのことも少しは考えなさいよね」

 

呆れたように、木下さん。

 

「大丈夫だよ木下さん。こういうのは慣れたから」

 

この1週間でいろんな女子から抱きつかれることになったことだから、嫌でも自然と耐性が着くようになったんだよね。

 

思い返すと、まるでテディベアみたいな扱い……。

 

「そう……ならいいわ、後でアタシにもしてね」

 

「うん、いいよ……って、なんで木下さんまで……?」

 

1週間前の木下さんはこんなこと言わなかったのに。

僕だけに限らず、木下さんまで変わっているような……。

 

「それにしても、今回はゲームキャラなんだね。髪型も変わっててすごくいいと思う」

 

抱きつきながら言う工藤さん。

 

「うん、『どうせなら髪型も!』って言われたものだからね」

 

ちなみに自分の髪はシニヨンという結い方をしている。

 

髪が長かったからできたんだよな~、この髪型。

 

「アタシと愛子の髪の長さじゃ、到底できないわねぇ」

 

自身の髪を触りながら、苦笑する木下さん。

 

「髪なんて、自分がいいと思った長さがベストなんだけどね」

 

僕は今の長さでいいと思っている。

不便なところも多々あるけど、これが落ち着くというか……下手にいじりたくない。

 

「おーい、アキちゃん! ちょっとこっちに来てくれない?」

 

どこからか僕を呼ぶ声がした。

 

 

 

僕は呼ばれるがまま、自分を呼んだ声が聞こえた、Aクラスの教室の後ろに向かう。

 

「急にどうしたの? 櫻井さん」

 

呼び主は櫻井さんでした。

 

「アキちゃん。実はね、今回でアキちゃんがAクラスにいるのが最後でしょ?」

 

「うんうん」

 

「だからね、最後にみんなで記念撮影しようと思うんだ」

 

「うん……?」

 

記念撮影か……。

 

今回で僕はAクラスからFクラスに戻るから、最後にサプライズ的なことをするつもりなのかもしれない。

 

僕1人のためにしてくれるのが申し訳ない気がする。

 

「いいんじゃないかな? なんの記念になるかはわからないけど……」

 

「そうだよね! それじゃあみんなを集めるからちょっと待っててね!」

 

櫻井さんはみんなを集めに、どこかへ行った。

 

 

 

 

しばらくして、教室の後ろにAクラス在籍生徒が一同集まり、縦3列に並んで、集合写真を撮るような形になる。

 

僕はなぜか主役として、1番目立つ1列目の真ん中。

しかも、全員制服の中なので、衣装がなおさら目立つ。

 

場違い感が目に見える光景な気がするけど、いいのか? これで。

 

「アキちゃんのお隣、いただいちゃいました」

 

横でクスクス笑っている佐藤さん。

 

「美穂、アンタって昨日から吉井くんと仲いいわね……しかもアキちゃんなんて呼び名になっているし……何かあったのかしら?」

 

「いいえ、別にどうということはありません。アキちゃんとはそういった関係、ただそれだけです。そうですよね、アキちゃん」

 

「うん、そういう関係」

 

木下さんは意外に思ったらしく、少し驚いた表情を見せた。

 

「ふ~ん、そうなのね……道理で美穂と休み時間に一緒にいた訳だわ」

 

「あはは、よく見てたんだね、木下さんは」

 

「よーし、みんな集まった? 用意はいいかな?」

 

そんなやり取りをしていると、櫻井さんからの声がかかった。

 

「とっくにできてるよ~……並ぶだけのことだからな」

 

僕の真後ろにいる男子生徒がそう答えた。

 

「うん、それなら、写真部の田中くん! 撮影よろしく!」

 

「ほいほい、いい記念写真が撮れるよう頑張りますよ」

 

撮影は写真部がするのか。

部活動意外でも、こんな場面で活躍するんだな。

 

しかも性能がよさそうな一眼レフを使っている。

カメラのことについてはよく知らないけど、見た目からしてそう見える。

 

もしかして、ムッツリーニの影響かなぁ……?

 

「んー、じゃあ撮るぞ、いいか?」

 

田中くんは一眼レフを構える。

 

「いいよ、準備完了」

 

「そんなら行くぜ…………1+1は?」

 

櫻井さんが合図を送ると、田中くんは集合写真ではお決まりのセリフを一言。

 

「「「にぃー」」」

 

みんな揃って笑みを見せた瞬間、パシャっとシャッターを切る。

 

「よっしゃ、我ながら上出来。現像が終わり次第配るから、楽しみにしとけよ~」

 

 

 

 

写真撮影も終わり、授業も終わり、放課後となった今。

ついにAクラス体験が終了した。

 

もう次から僕はAクラスの生徒ではなく、元のクラスだった生徒に戻る。

 

「吉井クン、またAクラスに来てね! いつでも歓迎するから」

 

「ありがとう工藤さん、またいつか、ここに来るから」

 

「絶対にだよ! 約束だからね!」

 

「うん、約束する」

 

僕と工藤さんはお互いに約束と抱擁を交わす。

 

「私からもお願いします。また来てくださいね、クラスは違っても気軽に立ち寄ってください」

 

「うん、また来るからね、佐藤さん」

 

絶対に来るよ、必ずね。

 

「はい、吉井くん。今朝撮った記念写真よ」

 

木下さんは現像された写真を僕に渡す。

 

「ありがとう、木下さん」

 

「どういたしまして、その写真は大事にしなさいよ? いい?」

 

もちろんだ、大事にする……いや大事にしないといけない。

 

「吉井くんがいて、にぎやかな1週間だったよ。ありがとう、吉井くん」

 

「お礼を言うのはこっちだよ。久保くん」

 

隣の席にいる時、ずっと楽しかったよ。

授業についていけない僕をフォローしてくれてありがとう。

 

「……また来てね……Fクラスに戻ったら雄二のこと、よろしく」

 

「うん、また来るよ、雄二が浮気しないよう。しっかり見張るから」

 

雄二のことはは心配しないで、僕に任せてよ。霧島さん。

 

「みんな、ありがとう。また来るからね、絶対に!」

 

僕はそう言って、記念写真を大事にしまって、コスプレ姿のまま、帰路に着いた。

 

この行為は冷静になって考え直すと、すごく愚行だった。

けど、まぁいいか。




最終日はなんとザルバさんが提案してくれたFate/EXTRAの赤セイバーの衣装でした!

Fateの衣装っていいよね!?
作者自身は個人的に大好きです!
あのファンタスティックで、男心をくすぐられるデザイン!

どんな衣装か気になる方は「赤セイバー」でGGってください。(・ω・)ゞ

やっと完結しました。(*´-ω-`)……フゥ

面白いと思っていただけたらいいなと思っています。



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53話 Fクラス復帰

やっと終わった、アキちゃんのAクラス体験!
久々にFクラスの日常が書けた~。(´・ω・`)b

……それと、投稿遅くなって申し訳ないです!
今年からは遅くなることが多々あります。
ご了承ください。<(_ _)>


sideアキ

 

 

「ふあぁぁ~……もう朝か……」

 

翌週の朝。

窓から差し込む朝日に照らされて目を覚ました。

 

僅かに意識が朦朧とする中、眠い目を擦りながら、僕はベットから起き上がり、机に目をやる。

 

そこにはAクラスのみんなとコスプレをした僕が写っている、記念写真があった。

 

楽しかったなぁ……Aクラス。

 

写真を見て、Aクラス体験の出来事を思い出して、僕はクスッと笑う。

 

楽しくて嬉しかったものだから、ご丁寧にフォトフレームに入れて、飾っている。

あんなに恥ずかしかった思い出も喉元過ぎればなんとやら。

 

さて、そういえば今日からまたFクラスでの学校生活がスタートする。

 

先週ずっとFクラスに顔すら出してないからなぁ……。

みんな、僕がいない間何をしてたんだろう。

 

何事も起きてないといいけど。

 

学校に行く準備を整えて、制服に着替えながら、ボケーッと考えていた。

 

「これでいいよ……ね?」

 

鏡を見ながら自分の姿を眺める。

 

最近、着替えたりする度に身だしなみとかに気を遣うようなってきた。

前まではこんなとこで気を遣うことはなかったんだけどね。

 

女の子になてから随分と変わったものだよ。

姿や形が違うだけで、ここまで変わるとは思ってもいなかった。

 

慣れって怖いなぁ……本当に。

 

……って、こんな下らないこと考えてないで行こう。

Fクラスがどうなっているか気になるし

 

こうして僕は家を出て、学校に向かった。

 

 

 

 

「んッ……にしても今日からFクラスかぁ」

 

流石にちょっといなくなっただけで、久しぶりな気もする。

 

Aクラスの生活に慣れてしまったものだから、またFクラスの生活に慣れないとね。

 

ちょっとした状況変化に慣れないとこの学園で生きていけない気がする。

 

……いや、今回は特殊な経緯で起きたことだから、二度とこんなことになるはずはないから、慣れる必要性はなかったじゃん……。

 

「あ! おはようございます、アキちゃん」

 

次は絶対にこんなことが起きませんよーにと願っていると、僕を呼ぶ声がしたので、僕は振り返る。

 

「ん? あ、佐藤さん。おはよう」

 

振り向くと、そこにはAクラス在籍の佐藤さんがいた。

 

「登校、ご一緒にさせてもらってもいいですか?」

 

「うん、もちろんだよ」

 

佐藤さんと友達になったあの日以来、2人で学校へ行ったり、帰ったりするようになった。

 

意外と家が近かったものだから、行きと帰りの暇潰しには丁度よかった。

 

……それに、佐藤さんともっと仲良くなりたいというつもりでもあるから……ね。

 

「そういえば、アキちゃんは今日からFクラスに戻るんですよね」

 

「うんそうだよ。今日からまた、Fクラスで活動再開だよ」

 

「ですよね。1週間もアキちゃんがいなかったから、Fクラスの皆さんは寂しい思いをしたんじゃないでしょうか?」

 

「あはは……そうかもね」

 

女の子が希少なFクラスのことだからね。

 

Fクラスの男子生徒共は僕がいないだけでも、かなり辛いだろう。

 

自分もあんな男だらけの場所にいるのは耐え難いだろうな。

 

どうか、秀吉と美並と姫路さんがFクラスの女子生徒として、役割を果たせているといいけど……。

 

「それなら、再会を祝って、コスプレ姿をお披露目したらいいんじゃないですか?」

 

「えぇ!? な、なんで……?」

 

佐藤さんの口から、唐突にありえない言葉が出たものだから、声が裏返ってしまう。

 

「だって、アキちゃんの姿がしばらくの間見れなかったなんて、Fクラスの皆さんもさぞかし、辛い思いをしたんじゃないですか?」

 

Fクラスのことだからあり得るかもしれないけど……。

 

「そうかもしれないけど、だからってコスプレするのは、話が別かと……」

 

「いいえ、関係あります! アキちゃんが見れなくて寂しい思いをしている人に、アキちゃんがコスプレを見せてあげるべきでしょう?」

 

「何、その無茶苦茶な理屈!?」

 

と言っても強い口調で言われたものだから反論できない……。

 

というか佐藤さんって、こんなキャラだったけ……?

友達になってから、かなり劇的な変化を遂げている気がするのは気のせい?

僕が佐藤さんのキャラに気付いてないだけ?

 

「という訳で、早速コスプレに着替えましょう。行きますよ」

 

僕の腕を掴んでどこかへ行こうとする佐藤さん。

 

「ちょ、ちょと! 僕はいったい、どこに行くの!?」

 

 

 

 

佐藤さんに手を引かれて、僕は学校の更衣室に連れて来させられた。

 

「あの……佐藤さん? なぜ僕をこんなところに連れてきたの?」

 

「それはもちろん、アキちゃんにコスプレをさせるためですよ!」

 

そう答えながら、自分のカバンを漁っている佐藤さん。

 

「え……もしかして、さっきの話を本気にしてるの!?」

 

「元から本気でした。冗談なんて言ったつもりはありません。これが衣装です!」

 

佐藤さんはカバンの中から衣装を取り出して、僕に手渡す。

 

「まさか、これを着ろと…………?」

 

「そうです、早く着替えてください、早くしないと遅刻してしまいます!」

 

ほらほら、と言わんばかりに押し付けられた。

 

「うぅ……分かったよ、着るから……」

 

どうしてこうなった……とばかりに、僕は佐藤さんが用意した衣装を着ることとなった。

 

そういえば、なんで佐藤さんはこんな衣装を持っているのかな?

もしかして、最初から着せるつもりだった…………とか?

 

Aクラス体験で散々、コスプレをさせられたというのに、次の週のしょっぱなから、コスプレさせられるとは……。

 

僕はコスプレの呪いにでも憑りつかれたのかな……?

 

 

 

 

「それで……言われた通り着てみたけど……」

 

「わぁ~……やっぱりアキちゃんにピッタリです! 買った甲斐がありました!」

 

「ところで、この衣装は何? また変わった衣装を用意してくれているけど」

 

「これは『リンナ警部は呼吸ができない』のリンナ・ミルフォードというキャラの

衣装ですよ」

 

「これも、マンガとアニメキャラの衣装なのか……」

 

またしても、マンガ、アニメキャラ衣装……。

 

この衣装はマンガや刑事ドラマでもお馴染みの警部が着る衣装であり、制服(?)みたいなものを下に着て、グレーのコートを羽織っている。

 

「こんな格好をさせるのはいいけどさぁ……なんで僕に着せるの?」

 

「もちろん、先程も言った通り、Fクラスの皆さんのためです、寂しい思いをさせたからには、その寂しい心を癒してあげるべきなのです」

 

と胸を張って言う佐藤さん。

 

そんな自信満々に言われても……。

 

言いたいことは山々あったが、着てしまったものは仕方ないし、また着替えるのが面倒なので、このままいくことにしよう。

 

佐藤さんがFクラスのことを気遣ってしてくれたことだし……ご厚意に甘えるか。

 

(まぁ、本音を言えば、アキちゃんのコスプレ姿を見たいからですけどね)

 

「ん? どうかした?」

 

「いいえ、何でもないです」

 

と首を振ってニコニコしている佐藤さん。

若干にやけ混じりな笑顔が少し怪しい気もした。

 

「それじゃあ、僕はもう行くよ……このコスプレは着ていくからさ……」

 

「はい、頑張ってくださいね。アキちゃん!」

 

「うん……頑張るよ」

 

何を頑張るのかは分からないが、とにかくFクラスに行かないと、遅れてしまう。

 

僕は更衣室を飛び出して、Fクラスへと向かった。

 

 

 

 

「ははっ……やっぱりここは相変わらずだな」

 

いつ誰が見ても、廃墟みたいにみすぼらしい雰囲気や外観。

Aクラスの時とは大違いだ。

 

Aクラスに居慣れたせいだろうか……。

以前よりもみすぼらしさが増している気がする。

 

変わってないのは分かってるけど、そんな気がするのだ。

 

さて、外観を拝んだところで、教室に入ろう。

みんな、どうしていたのか気になるし。

 

ここに来るのは久しぶりだったので、少しぎこちない手つきで、教室のドアを開ける。

 

「あ、アキちゃん! よくぞご無事で!」

 

「おお、戻ってきたか! Aクラスに行くと聞いたから心配したぜ」

 

「大丈夫!? Aクラスの奴らに何かされなかった!?」

 

「ずっと寂しかったぞ、アキちゃん! って、まさかのコスプレ姿で参上とは!?

1週間の初めからありがたいものを見させていただきました」

 

大勢のFクラス男子生徒が僕に詰め寄る。

 

「お、おはよう……みんな、久しぶり…………」

 

「本当に久しぶりだぜ、アキちゃん! さぁ、席にご案内するぞ」

 

と1人のFクラス男子生徒が僕の席へと誘導する。

 

なんだこの、どこぞのお嬢様のような待遇は……。

 

ええっと、そしてこの男子生徒の名前は……確か福村くんだったけな?

まずい、ここに来てなかったせいか、顔と名前を忘れかけている。

 

「はい、ここがアキちゃんの席だ。みんなで掃除と机の補修しておいたから」

 

少し顔を合わせてないからといって、そんなことしなくていいんだけど……。

 

「えぇ……わざわざ、ありがとう……」

 

「いやいや、礼はいらねぇよ。頼んでくれたらいつでもしてやるよ!」

 

そう言って、自分の席へと戻っていった。

 

席を見ると、補修されて新品同様の光沢を放つ卓袱台と、干したての洗濯物のような座布団があった。

 

なにはともあれ、ここまでしてくれたみんなには感謝しよう。

 

それにしても、懐かしい卓袱台と座布団だ……。

最初は居心地が悪かったけど、慣れると落ち着くんだよな。

 

腰を下ろして、席に座る。

 

ふぅ~……この座り心地、なんだか落ち着く…………やっぱり元のクラスが1番……かな?

 

「アキちゃああああああああん!!」

 

僕が自分の席でリラックスしかけていたところ、聞き覚えのある声と共に誰かが勢いよく抱き着いてきた。

 

「うわぁ……!? びっくりした、姫路さんか…………久しぶり」

 

突然のことに戸惑いながら言葉を返す僕。

 

「アキちゃん…………ずっと会えなくて寂しかったですよ……」

 

「ごめん、ごめん。僕だってこうなるとは思いもしなかったから……だから泣かないで、僕はもうどこにも行かないから」

 

姫路さんは泣きじゃくりながら、僕にずっと抱き着いたままだ。

 

たった1週間会えなかったからといって、本気で泣くことはない気がするけど。

よっぽど、男だらけの空間が辛かったのだろうか。

 

「あぁ……この抱き心地、この匂い…………もう離れたくないです」

 

く、苦しい……ちょっと姫路さん、そんな強く抱き締められると苦しいよ!

 

「あの、姫路さん……苦しいから、もう放してくれない?」

 

「嫌です! 後、1時間あっても足りません!」

 

いや、本当に苦しいんだよ! 思ったんだけど、姫路さんって結構、力が強いよ!?

うわぁぁぁ、本当に放してぇぇぇ! 息ができないぃ!

 

「おい、いい加減、放してやれ。明久が死んじまう」

 

横から声が掛かったので、首を横に向けると、赤髪のゴリr……雄二がいた。

 

雄二、遅いよ! もっと速く助けてよね!

 

「わかりました……アキちゃん。またしてくださいね?」

 

少し不服そうな顔をして、姫路さんは自分の席に着く。

 

「はぁ……やっと解放された……朝からいろいろと大変だよ……」

 

「それはこっちのセリフだ、お前がいない間苦労したんだぞ。

翔子に強制的にデートさせられたり、FFF団に追い掛け回されたり……。

Aクラスでいい思いをしている、誰かさんとは大違いだ」

 

「むっ……なんだよその言い方。元はといえば雄二が全部悪いじゃないか」

 

あたかも、こちらに非があるような雄二の発言に腹が立った。

 

今回の件は雄二がどう見ても悪い。

 

だからFクラスのみんなは怒っているんでしょうが!

僕も雄二の馬鹿馬鹿しい計画に振り回された被害者だから、Fクラスのみんなが怒るのは痛いほど分かるよ。

 

というか、1番ひどい目にあったのは僕だからね。

まぁ、Aクラスは楽しかったと言ったら、楽しかったけど。

 

このことについては、まだ話が終わってなかったな。

ここで雄二と話をつけないとね。

 

なんなら処刑も再開したいところ。

 

「よく言うぜ、どうせAクラスで仮装して、楽しく快適な生活を送ってたんだろ」

 

こいつ、あくまでも僕に罪があるようにする気だな?

 

「仮装するのがどんだけ恥ずかしいか分からないくせに、わかりきった風に言わないでよ!」

 

「そんならなぜ、今そんな格好しているんだ? その恰好で言われたって説得力は皆無

だぞ」

 

「こ、これは好きでやってる訳じゃないよ! 佐藤さんが着ろって言ったから着てるの!

別に僕の本心でやってる訳じゃないの!」

 

「そんな理由だけで着るなら、もう好きでやってるのと同じだろ?」

 

ぬぅ……そうかもしれないけど、決して好きでやってる訳じゃないんだ。

本当だから……。

 

「ちゃんとした理由になってるよ! というか、話の論点がずれてるよ!

あの時、雄二が負けたせいでこうなったんでしょうが!」

 

「ああ、確かに負けたな! だがな、よく考えてみればお前が久保を倒せばよかった話じゃねーか!」

 

開き直っちゃったよ、この人!?

人を捨て駒扱いしたのはどこのどいつだ!

 

「雄二だって久保くんに勝てないでしょ! どうせ、手も足もでないくせに!

なんなら雄二が捨て駒になっておけばよかったじゃないか、この馬鹿クラス代表!」

 

「なんだと!!」

 

「何!? やる気!?」

 

僕と雄二はお互いに立ち上がり、掴みかかろうとする。

 

「貴様らは朝から随分と仲がいいな」

 

「「どこがd……あ…………」」

 

殴り合いになる寸前で、横から西村先生が入ってきた。

 

「「西村(鉄人)先生、おはようございます」」

 

「何が『おはようございます』だ! 悠長に挨拶せず、早く席に着かんか!

そして坂本! 西村先生と呼べと、毎回言ってるだろうが!」

 

ドゴッ←雄二が頭にげんこつを喰らう

 

「ぐおぉッ!?」

 

ビスッ←僕がデコピンを喰らう

 

「ギャッ!?」

 

うぅ……デコピンとはいえ、西村先生のごつい指でされると、たまったもんじゃない。

額に穴が開きそうな感覚……。

もう、こうなったのは雄二のせいなんだから! 後で覚えておいてよ!

 

「うぅぅ……なぜ俺はげんこつで、明久はデコピンなんだ……」

 

「俺も、なぐる相手を選ぶ時は選ぶ。男女の見境がないと思うなよ?」

 

そうだよね……今の僕の身体で殴られたりしたら、病院送りにされてもおかしくない。

当たりどころが悪ければ、死ぬ可能性だって大いにある。

 

何が何でも今後は殴られないように気をつけよう……。

 

「そんなことより、1週間ぶりに戻ってきたというのに、今日も仮装か?

その恰好はなんだ? あ●ない刑事ごっこでもしているのか?」

 

「そんな遊びを、今どきの高校生がやるとは思えませんけどね……」

 

1986年に放送された、ドラマの遊びをする高校生がどこにいるというんだ。

というか、そんな遊びをしている子供が当時いるとは思えないけれど。

 

「まぁいい……。別にやるなとは言わんが……せめて、学習に臨める恰好でいろ」

 

呆れたような口調で言い、西村先生は出席をとるために教卓に上がる。

 

久しぶりのFクラスだけど、あまり変わってない様子で、少し安心した。

 

こうしてまた、Fクラスでの学校生活が始まった。




Aクラス体験が終わって、早々、コスプレネタを出しました!(笑)
実は今回のコスプレは活動報告でアキちゃんに着せたい仮装を募集したのですが
結構多く来たため、採用できなかった人もいました。

ですが、何かもったいなくない!?
と思い、粉雪吹雪さんの意見をこの場で採用させていただきました!
本当はAクラス体験で出したかったのに、こんな場所で出してしまい申し訳ないです!

ですが粉雪吹雪さん、あなたの意見は無駄になりませんでしたよ……!

ありがとうございました! そしてこんな形で申し訳ないです!!<(_ _)>


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54話 学園祭に向けて

(´・ω・`)/どうも、お久しぶりです。

新学年の最初だったので、家でも学校でもドタバタしていましたが、
やっと落ち付いて、最近は時間が空くことが多くなりました。
その時間を使って、ついに書くことができました!

お待たせして申し訳ないです!

今回から学園祭の話になります。
原作では1学期に行っていますが、作者の都合により、2学期にすることに決めました。
はい、原作より大幅にズレていますね。(;´・ω・)

この作品の設定などはほとんど、オリジナルなのですが、できるだけ原作に従いたいものです……。

読みにくい部分が多々あると思います。
その時はご指摘などをしていただければ幸いです。

それでは、どうぞ!


sideアキ

 

 

「よし、お前ら揃ったな、今日は学校生活の中の大イベントである、学園祭での出し物を決める」

 

教卓の上に立ちながら指示する雄二。

 

僕がFクラスに復帰してから、早くも3日を過ぎた頃。

丁度この時期に学園祭が行われるため、今はこの学園の全クラスが学園祭の出し物を決めている。

 

「そんじゃあ、まず実行委員を任命する、後はそいつに任せるから、好きにしてくれ」

 

やる気のない声で言う雄二。

 

雄二は今回の学園祭ではあんまり、乗り気じゃないみたい。

代表としての仕事をすれば、それでいいと思っているんだろうな。

 

さて、実行委員は誰がするんだ?

 

雄二に任せようとしていたが、本人は関心も意欲のかけらもないのいで、無理な話だ。

こういう時に限って、雄二は頼りないんだよな。

 

誰かやってくれないかと、横目で他のみんなの様子を見る。

 

「おい、誰がやるんだ? 俺は須川がやった方がいいと思う」

 

「俺じゃなくて、ここは横溝がやるべきでは?」

 

「いや、やっぱり坂本がやるべきじゃね?」

 

ダメだ。仕事がめんどくさいとばかりに、担当の押し付け合い合戦が始まっている。

みんなも乗り気ではないみたいだ。

 

自分もこんな面倒な仕事は引き受け難いけど、なかなか話が進まないと、イライラしてくる。

 

「んじゃ、島田がやったらどうだ?」

 

教卓の上で、なかなか話が進まないこちらを眺めながら、雄二は提案する。

 

「え? ウチがやるの? う~ん……ウチは召喚大会に出るから、ちょっと困るかな」

 

「雄二……実行委員なら美波より姫路さんの方が適任なんじゃない?」

 

本人は結構、楽しみにしていたし。

 

「瑞希とウチはタッグを組んで、召喚大会にでるから……それも困る」

 

「へーそうなの? 姫路さんと美波で出るの?」

 

「そうよ、まぁ、ウチは誘われたからやるんだけど、瑞希ってばお父さんを見返したいって、言って聞かないんだから」

 

「お父さんを見返す?」

 

どういうことだ?

 

「そうです、皆さんのことを馬鹿にするんです!」

 

横から話を聞いていたのか、姫路さんが入ってくる。

 

「Fクラスって理由だけで、皆さんのことを馬鹿にするんですよ、許せません!」

 

「いや、その時点で既に馬鹿だと判断できるけどね……」

 

ひどい話とは思うが、馬鹿と決め付けられたって文句は言えないだろう。

 

「それだけじゃないですよ! 昨日、アキちゃんの写真集を見ていたら、

『Fクラスのせいでお前も毒されたんだな……』ってお父さんに言われたんですよ!」

 

「…………」

 

ごめん……姫路さん……それは否定できない。

むしろ、お父さんの方が正しい気がする。

 

「なぁ、島田。話を戻すが、実行委員になる気はないのか?」

 

「だから、召喚大会に出るって言っているでしょ……」

 

「雄二、美波がここまで言うなら、違う人がやるべきじゃないかな?」

 

美波に押し付けようとしたって、いつまでも話が進まないから、違う人を選んだ方がいいと思うけど。

 

「なら、こうしよう。サポート役として副実行委員を任命する、これでどうだ?」

 

雄二がまた、提案する。

 

サポートが付いたら負担は軽減されると思うけど、それで美波は納得するのかな?

それに、また1人増やすとなると、ますます決まるのに時間がかかるのでは……?

 

「そうね……副実行委員次第ではやってもいいけど……」

 

「そんなら、次は副実行委員は誰がやるか決めようぜ、誰かしても構わない奴はいるか?」

 

雄二はみんなに尋ねる。

 

「ワシはアキちゃんが適任だと思うぞい」

 

秀吉が僕を推薦する。

 

「いやー、僕はこんな面倒な仕事は引き受けたくないかな……」

 

「それならアキに決定ね」

 

「ヴェェ!? 何で僕が!?」

 

今の流れで僕になるのはおかしくない?

 

「別にいいだろ明久、島田が決めたことだ、やってやれ」

 

「うぅ……分かったよ…………」

 

僕は渋々と席を立って、前に出る。

 

はぁ……めんどくさいな……。

 

「ウチは議事進行をやるから、アキは板書をお願いね」

 

「ん、了解」

 

僕はチョークを手に取る。

 

「それじゃあ、意見がある人は挙手してね」

 

美波がそう言うと、数名が手を挙げる。

 

「はい、土屋」

 

「…………」 スクッ

 

名前を呼ばれて、ムッツリーニが立ち上がる。

ムッツリーニの意見はちょっと気になるな。

 

「……アキちゃんの写真を集めた写真館」

 

「なるほどね…………悪くないわね」

 

「ちょっと待って美波。なんでまともな意見を貰ったように納得しているのかな?」

 

ムッツリーニが提案する写真館って危ないイメージしか湧かないな。

そして僕の写真を集めたという点が最も気になる。

 

「これでも一応、1つの意見だから。黒板に書いてもらえる?」

 

「うーん……なんか、凄く納得できない……」

 

そう思いながらムッツリーニの意見を書く。

 

 

候補1:アキちゃんの写真館

 

 

「じゃあ、次は……はい、須川」

 

「アキちゃんがチャイナドレスを着て接客する中華喫茶」

 

そこは普通に中華喫茶ってことでよくない?

僕の名前いらないよね?

 

「はい、言われた通りに書いてね、アキ」

 

「わかったよ……」

 

 

候補2:アキちゃんがチャイナドレスを着て接客する中華喫茶

 

 

「書いたよ……」

 

自分の名前を書くのは、いささか恥ずかしいというかなんというか……。

複雑すぎる心境だった。

 

「それじゃあ、次……はい、横溝」

 

「アキちゃんにご奉仕されるメイド喫茶を提案する」

 

「おお、それいいな!」

 

「文句なしだな」

 

「はい、アキ。意見を黒板に書いて」

 

なんだこの自然過ぎる流れは。

 

また、ツッコみたくなったが、僕は黒板に提案を書く。

 

 

候補3:メイドアキちゃんにご奉仕されるメイド喫茶

 

 

「まだ他に意見は……はい、福村」

 

「アキちゃんが風俗嬢をする、というのはどうだろうか?」

 

ん? ちょっと待って、これって学園の出し物を決めるんだよね?

学園でそんなことやったら、学園祭どころじゃなくなるよ。

 

さっきから思っていたけど、みんなはなんで、出し物の中に僕を混ぜるのかな?

 

「ちょっとアウトな気がするけど……これも意見だし、よしとしましょう」

 

「ねぇ美波。仮にこれが採用されたら、Fクラスが大惨事になるよ」

 

下手すれば大惨事だけで済む話ではなくなりそうだけど……。

でも、どうせ選ばれないと思うし、書いておこう。

 

 

候補4:アキちゃんが風俗嬢をする風俗喫茶

 

 

「さて、他に意見は……はい、田中」

 

「アキちゃんと結婚できる、ウェディング喫茶がいいと思う」

 

「「「それだ!!!」」」

 

Fクラス男子生徒が一斉に声を揃えて言う。

 

「ちょっとみんな、出し物を提案するはずなのに、さっきからずっと僕の名前が入っているの!? 僕は関係ないよね!?」

 

「ほらアキ、落ち着いて。騒いでたら、一生決まらないわよ」

 

「僕は落ち着いている場合じゃないよ! というか、どうしてこうなったの!?」

 

「もう、しょうがないわね」

 

美波は黒板の前に立ち、チョークを手に取って、4つ目の提案を書く。

 

 

候補5:アキちゃんと結婚できるウェディング喫茶

 

 

「これで以上のようね、この5つから決めるわね」

 

出た案は5つ、まとめてみるとこうなる。

 

候補1:アキちゃんの写真館

 

候補2:アキちゃんがチャイナドレスを着て接客する中華喫茶

 

候補3:メイドアキちゃんにご奉仕されるメイド喫茶

 

候補4:アキちゃんが風俗嬢をやる風俗喫茶

 

候補5:アキちゃんと結婚できるウェディング喫茶

 

…………なんで全部の案に、僕の名前が入っているのかな?

しかも、後半につれて危ない方向に進んでいる。

 

ここまで来たら、もうなんの話をしているのか、わからなくなってくなってきた。

 

「そしたら……今からこの中から出し物を決めるわよ。みんなで話し合って決めましょう」

 

「そして美波、全部の候補が違和感だらけなのに、なぜ平然と話を進めているのかな?」

 

「全部普通の意見じゃない? どこか、おかしな点でもあるの?」

 

大アリだよ。

むしろおかしな点しかない。

 

「まず何で出し物の中に僕の名前があるの!? そして後半につれて学園祭から、かけ離れているじゃん! そして、誰も指摘しないってどういうこと!?

ねぇ……みんな、頼むからふざけてないで真面目に意見を提案してくれないかな!!」

 

僕は我慢の限界を突破したのか、さっきからずっと言いたかったことをみんなに叫ぶ。

 

しかし、みんなから返ってきた言葉は

 

「俺は普通におふざけ抜きの提案をしたまでだが……?」

 

「そうだ。俺はアキちゃんにやってもらいたいと思ったから提案したんだ」

 

「だよな、ごもっともな意見だ」

 

と全然、意見がどれだけ学園祭の内容にそぐあわないか、理解してくれていない。

 

「……あのさ……とりあえず、僕が何かをするという考えから一旦離れようか?」

 

「「「それは無理」」」

 

「えぇ!? なんで!? なんでわかてくれないの!?」

 

なぜそこまで、僕にこだわるのだ。

 

「俺たちはアキちゃんがコスプレする姿が見たいんだよ! アキちゃんがそうしてくれないと、アキちゃんがFクラスにいる意味がないだろぉ!?」

 

僕の存在意義って、なんだよ……。

別に僕がいようがいなかろうが、FクラスはFクラスで成り立ってると思うけどね……。

 

「アキちゃん、絶対にやってくださいね! こういう仕事はアキちゃんがするべき……とういうか、しないといけないんです!」

 

「姫路さんまで、僕にコスプレを強制させるように!?」

 

あ、待て、姫路さんは元からこんな感じだった……よね。

 

「諦めろ、明久。どう足搔いたって無駄だ」

 

「ゆ、雄二まで…………そこは助けるべきでしょ!?」

 

「もう、仮装がお前の役割と言っても過言ではない。いい加減、自重したらどうだ?」

 

「役割って……なんだよ……僕は着せ替え人形か…………」

 

ダメだ……味方は誰1人いない……。

みんなは僕にどうしても、コスプレをさせたいみたいだ。

 

僕のコスプレ姿なんて誰得だよ……。

 

なんとなくAクラスの時から疑問に思っていた。

 

「はぁ……もういいよ、そこまで言うなら、やってあげるよ…………」

 

「「「YES」」」

 

みんなのしつこい要求に負けてしまい、結局、承諾してしまった。

 

あぁ、僕は大勢の生徒や一般人の方々に自分のコスプレ姿を晒すことに……。

 

学園で幾度なく、コスプレ姿を晒してきたというのに、今度は一般公開というのは泣けてくる話だった。

 

「……でも、意見を改めて見ると……まるで僕だけがホール役をやるみたいじゃん……

1人は流石に無理だからね?」

 

「ん~……そんなら他の女子メンバーにやらせたらどうだ? 例えば姫路とか……」

 

雄二が素っ気無い言葉で言う。

 

だが、いい提案なのは確かだ。

 

「坂本くん、私は厨房班で料理をするつもりだったのですが……」

 

「ダメだよ姫路さん! 姫路さんは絶対にホール班じゃないとッ!」

 

姫路さんに厨房班を任せると、食中毒者多数で学園祭が悲惨な目になりかねない。

1人でも被害者が出る前に食い止めねば!

 

「え、でも、これはアキちゃんが主役ですし……私の出る幕はないと思います」

 

「そんなことないよ! えーと……ほら、姫路さんは可愛いから、僕だけより、姫路さんがいる方が絶対にいいと思う!」

 

「そうだな、姫路がいるといないじゃ大違いだ」

 

「……サブ役は必須」

 

雄二とムッツリーニからも援護をもらう。

 

過去に被害を受けた2人は唯一、わかってくれる奴だ。

 

「それなら、ウチもホール役にしようかな~?」

 

「どうぞ、ご自由に」

 

「なんでウチと瑞樹の態度が違うのよ……」

 

美波までやってくれると、負担が軽減されて助かるよ。

 

そして、後は……

 

「秀吉! 秀吉がいてくれれば完璧だよ!」

 

「なぜ、ワシを混ぜるのじゃ……サブ役は姫路と島田で間に合っているのじゃ。

そもそも、ワシは男なのじゃ、仮にホール役をやるとなると、男の格好じゃぞ?」

 

「女装でいいじゃん! お祭り騒ぎなんだし!」

 

「お主はどこまで都合のいい頭をしているのじゃ……」

 

秀吉なしじゃ、始まる訳がないよね。

 

「よし、じゃあ、ホール役は僕と姫路さんと美波と秀吉で決定だね、後は……うん。

この5つの案の中から、出し物を決めようか」

 

この、どう見てもおふざけ要素を詰め込んだ、5つの選択肢から選ばなければ。

 

「じゃあ、どうする? 俺は候補3がいいかな?」

 

「俺は5だな、アキちゃんと結婚したいし」

 

「衣装はどうするんだよ? ウェディングドレスなんて1着手に入れるだけでも、結構苦労するぞ? 俺は候補2が理想だな」

 

「候補1がいいかな、僕は」

 

「アキちゃんの写真集なんて、俺達はよく見てるじゃねーか。悪くはないと思うが、学園祭だし、もっと派手にやろうぜ。

ってことで俺は4を選ぶ」

 

意見は綺麗に分かれている。

最初は乗り気じゃなかったのに、今では意見を出し合い真面目に話し合っているから、実を言うと、本当はみんな楽しみなのかな……?

 

「はいはい、みんな、意見はまとまった? 今から、この5つの案の中から選んで手を挙げること。異論は認めないわ」

 

美波は候補に挙がった5つの案を決めるために、多数決で決めるようだ。

 

なかなか決まりそうになかった雰囲気だったけど、果たして結果はどうなるのやら。

 

「はい、Fクラスの出し物は須川考案の中華喫茶にします。全員、協力するように」

 

接戦状態だったが、僅差で中華喫茶が選ばれた。

 

まぁこれは、1番まともで健全だし、他の候補に挙がった案と比べれば全然だ。

僕もそれがいいと思ったしね。

 

こうして、学園祭の出し物は決まった訳だが、果たして、無事成功に終わるのだろうか。




感想や誤字脱字報告よろしくお願いします。


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55話 学園祭開催前の出来事

はい、今週はゴールデンウィークですね~。
学校が長く休めて嬉しい限りです! (*´ω`*)

この連休中の今日、書くことができました。(短文ですけど)
今年は忙しくて、なかなか投稿ができないので、
連休は作者にとって、すごくありがたいです。( ∩´・ω・`∩) ンフ~~


sideアキ

 

 

文月学園清涼祭当日の朝、Fクラス全員で出し物の準備をしていた。

 

と言っても、もう大体の準備は完了している。

みんなが熱心に取り組んでくれているおかげで、予定より早く終わりそうだった。

 

そんな中、僕は準備の役目を終え、一息つこうとしていた時だったのだが、

 

「……衣装の準備ができた」

 

とムッツリーニが僕と姫路さんと美波と秀吉に衣装を手渡す。

 

「はぁ……まさか、学園祭で着ることになるとは…………」

 

「ほらほら、アキ。主役はアンタなんだから、もっとやる気を見せなさい」

 

と美波に肩を叩かれる。

 

「いや、別にやる気がない訳じゃないけど……緊張して気が進まないんだ……」

 

「私も緊張してますけど、頑張りますよ! だから、アキちゃんも頑張ってください!」

 

「そうなのじゃ……ワシもまさか、本当に用意されるとは思ってもいなかったからのぅ」

 

姫路さんと秀吉にも言われ、僕は口籠ってしまう。

 

 

みんながやる気の中、僕だけこんなのじゃダメだね……よし、ここは恥を忍んでがんばろう……!

これはFクラスの施設向上にも関わることだし……。

 

「わかったよ、それなら早く着替えないと……できるだけ準備は迅速にね!」

 

「まったく……あれほどイヤイヤだったのに、急にやる気になっちゃってねぇ」

 

「それでこそアキちゃんですよ」

 

「アキちゃんらしくていいと思うのじゃ」

 

3人はうんうんと頷く。

 

そして、僕達はムッツリーニから渡された衣装(チャイナドレス)に着替えることとなった。

 

 

 

 

「お待たせ……ちょっと着替えるのに手間取っちゃった」

 

僕たちはチャイナドレスを着て、更衣室からFクラスに戻ってきた。

 

「見事な着こなし、グジョブ……!」

 

「いいねぇ! 絶対に客が沢山くるだろうな!」

 

「そうだな、これは期待大だな。どうなるか楽しみだ」

 

とFクラスのみんなは大盛り上がり。

 

僕は赤いチャイナドレスを着ており、なぜか他の3人より、スリットが深い。

 

スリットの深さは大体、腰くらい?

なぜ僕にこんなものを着せるのかは意味が分からないけど。

 

髪はサイドテール(?)のような髪型にして、大きな花のヘアクリップを付けている。

 

う~ん、にしてもチャイナドレスは慣れないなぁ。

普段着る服とは大きく異なっているからね。

スリットが深くて、動きにくいし、恥ずかしいし……。

下着が見えないよう、考慮しながら歩かなければ……。

 

「アキちゃん、とっても似合ってますよ、大盛況間違いなしですよ!」

 

チャイナドレスをまとった姫路さんが興奮気味になっている。

 

「はは、どうだろうなぁ……」

 

僕がこんな衣装で、接客したくらいで大盛況するなら苦労しないけどね……。

 

あ、そういえば、いつの間にか学園祭開始時間が迫っているではないか。

いよいよ僕の姿を一般公開……うぅ……今になって緊張が……。

 

「よし、そろそろ開店時間だ。お前らしっかりやれよ!?」

 

「「「おう!!!」」」

 

雄二の掛け声と同時にFクラスのみんなもそれぞれ、自分の持ち場に着く。

 

さて、始まった学園祭だけど、どうなることだろうね……。

 

と深いスリットを確認しながら、僕は身だしなみを整えていた。




一つ言っておきますけど、召喚大会にアキちゃんは出ません。


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56話 学園祭開催

ゴールデンウィークが終わりましたね。
あっという間だった気がします……。

ですが、作者なりには楽しめましたし、2話分の更新もできたので、
おおむね満足でした。(*´ω`*)


sideアキ

 

 

「いらしゃいませ、何名様ですか?」

 

「2名です」

 

「かしこまりました、こちらへどうぞ」

 

学園祭開始早々お客さんが、ここFクラス経営の中華喫茶『ヨーロピアン』に来店してきた。

 

僕は対応に当たり、人数確認と席への誘導など、基本的な接客仕事を務める。

 

それにしても、このチャイナドレスは動きにくいな…………。

動きやすいデザインにするように頼んでおけばよかったよ。

 

それか、スッパツでも履いておけばよかったと思いながら、店のあちらこちらを回る。

 

「あの子、めちゃくちゃ可愛くね? すごい好みなんだけど」

 

「だな……しかも、衣装も似合ってるし……エロスを感じる」

 

「スリットの深さがいいね~、あの綺麗な足がたまんね~」

 

うぅ……客からの視線が痛い…………。

僕ばかり見てないで、他の女子を見たらいいのに。

 

恥ずかしさと緊張で、僕の精神的な体力も大量に消費している。

これはかなり根気がいる仕事だ。

 

「アキぃ! 2番と6番のテーブルに注文の品を運んでちょうだい」

 

「了解、美波」

 

厨房班から胡麻団子やウーロン茶などが乗ったトレイを受け取る。

 

えーと、2番がこれで、6番がこれか。

 

各テーブルに分けて注文の品を配る。

 

よーし、2番も6番も完了。

 

配り終えて次の仕事に向かおうとした時、

 

「あのー、ちょっといですか?」

 

「はい?」

 

後ろから声が掛かったので振り向くと、6番のテーブルに座っている女子生徒が声を掛けていた。

 

「どうかされましたか?」

 

もしかして、配った料理に問題でもあったのかな?

 

内心不安になりながら要件を聞いてみる。

 

「ご一緒に、写真を撮らせてもらってよろしいですか?」

 

「写真……ですか?」

 

どうやら要件は、一緒に写真を撮って欲しいそうだ。

 

撮影は禁止されている訳じゃないから……撮っても問題ないよね?

 

「いいですよ」

 

「ありがとうございます」

 

女子生徒は嬉しそうにポケットからカメラを取り出す。

 

カメラを常備しているとは、よほど写真好きなのかな?

 

「それじゃあ、西野さん。お願い」

 

「あ、了解」

 

女子生徒は隣に座っている西野さんという人にカメラの撮影を任せる。

 

「よし、撮るよー」

 

西野さんの声と共に女子生徒は僕の横に並ぶ。

 

ん? なんか、やけにべったりとくっついている気がするんだけど?

一緒に撮るとはいえ、ここまで密着する必要があるのだろうか。

 

「はい、ポーズ」

 

撮影人の西野さんはシャッターを切る。

 

「ん~……上出来」

 

1枚目にして、撮影成功のようだ。

 

「ありがとうございます、お時間取らせて申し訳ないです」

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

僕はそう言い残し、次の仕事へ。

 

なんでいきなり写真撮影なんか頼んできたんだろうな……まぁでも、あの女子生徒、すごく嬉しそうにしてくれて、よかったな……。

 

「さて~、次の仕事は……」

 

「お前ら、しっかりやってるかー?」

 

「あ、西村先生!」

 

西村先生がFクラスに来店してきた。

視察かただ単に担任として、自分のクラスの出し物を見に来ただけなのだろうか?

 

「お、吉井か。学園祭でも相変わらずの格好だな」

 

「ははッ……いつも通りですよね」

 

いつも授業中だろうが、こんな格好をしているのだ。

西村先生がこんなことを言うのは当然だよね。

 

「お前の仮装姿には年季が入っている、いい働きができると思うぞ」

 

「年季って……これは僕の仕事なんですかね?」

 

西村先生は僕のやっていることにどんな認識を持っているのだろうか。

 

「施設向上のために頑張ることだな。俺もこの薄汚い教室で指導するのは気が進まんので、頼んだぞ」

 

西村先生は事を済ませたような表情で、Fクラスから出て行く。

 

この学園祭では施設向上のための予算が掛かっている。

 

僕たちもそうだけど、西村先生も同じ気持ちなのか……。

 

「ほらアキ、ボーッとしてないで、仕事しなさい」

 

「ん……? ああ、ごめんごめん、すぐに取り掛かるよ」

 

この後も、いろいろと忙しく、自分でも数えきれないほどの接客をした。

 

そういえば、姫路さんは「大盛況間違いなしですね」と言ってたけど、予想は見事に当たっていたな。

 

 

 

 

「だいぶお客さんが集まってきましたね」

 

「そうだね、姫路さん」

 

あれからしばらく経った頃、Fクラスは多くのお客さんで賑わっていた。

 

賑わってくるにつれて、接客の仕事にも慣れてきた。

後は終わるまで、作業継続で行けば問題ない。

 

と思っていたのだが、

 

「おいおい、こんなきったねぇ机で食べ物扱っていいのかよ! どうなってんだぁ!? この店は!」

 

突然、罵声が耳に入ってきた。

 

一瞬、耳を疑ったのだが、あまりにもはっきり聞こえたため、声のした方へ目を向けると、クロスで覆い隠したみかん箱が気に入らなかったようで、クロスを剥がして文句を言っているチンピラ2人組みがいた。

 

モヒカンと丸坊主とは……。

いかにもチンピラらしいコンビ。

 

「うわ……これは酷いな…………マジで」

 

「クロスで誤魔化していたのか……」

 

「これじゃあ、いくら接客の子がかわいくても、流石に食う気がしねぇな」

 

その様子を見たお客さんが口々に呟く。

 

「どうする? これって結構まずいんじゃない?」

 

「そうじゃな……言ってることは間違っていない気がするのじゃが……」

 

「……営業妨害、迷惑極まりない」

 

僕と秀吉とムッツリーニでプチ作戦会議。

どんな状況でも冷静に対処せねば。

 

「おい、ムッツリーニ、頼みがある」

 

横から口を挟む雄二。

 

「……何だ……?」

 

「実はだな…………」

 

雄二がムッツリーニに耳打ちをする。

 

「……了解」

 

ムッツリーニは雄二の頼みを了承する。

 

こんな時にムッツリーニを使うとは、どういうことだろう?

 

「ねぇ、雄二もどうするの? ここはFクラス代表である雄二が行くべきでしょ」

 

「そう思ってたところだ……よし、始末してくる」

 

雄二が指をポキポキと鳴らしながら、チンピラクレーマーコンビの元へ。

 

「まったく、責任者はいないのか! このクラス代表――ゴペッ!?」

 

「私が代表の坂本雄二です、何かご不満な点でもありましたか?」

 

丸坊主のチンピラを殴り倒し、責任者らしい口調で尋ねる。

 

あれは雄二の『パンチから始まる交渉術』だ。

常識的にあり得ない交渉術だが、こういった場合には最適な対応だ。

 

これで問題解決……だよね?

 

そして、1分も経たない内に……

 

「お、覚えてろよー!?」

 

倒れた相棒を抱えて、走り去って行く、モヒカンのチンピラ。

 

最後までチンピラらしかったです……めでたしめでた――。

 

「なぁ店、変えようぜ」

 

「そうだな、どんなに可愛い子が接客してくれても、これじゃあな」

 

「いい店だと思ったのに……残念だ」

 

し、と言いたかったが、全然めでたくなかった。

 

次々とお客さんが席を立って、店を出て行こうとする。

 

どうしよう、これじゃあ、悪評が広まって営業どころじゃなくなる。

 

「失礼しました。こちらの手違いでテーブルの到着が遅れてしまったので、暫定的に

このような物を使ってしまいました。ですが、たった今本物のテーブルが届きましたので、ご安心ください」

 

教室にいたFクラスの誰もが冷や汗を流していたところ、出て行こうとする、お客さんに深々と頭を下げながら謝罪をする雄二。

 

その後ろにはムッツリーニやFクラスの男子生徒の一部の人が立派なテーブルを運んでいる姿が見受けられた。

 

どこで手に入れたんだ? あんなに立派なテーブル。

 

いろいろと気になるが、問題は多分解決したことだし、あまり深く考える気にはならなかった。

 

「雄二、そのテーブルはどこで調達してきたの? あんな短時間でよく用意できたね」

 

「まぁな、ムッツリーニのおかげだ」

 

「え? ムッツリーニが?」

 

そういえば、さっき、雄二がムッツリーニに頼み事をしていたな。

 

「他のクラスから借りてきたんだよ、なぁムッツリーニ」

 

「……アキちゃんの写真と交換で、あっさりと……」

 

…………僕の写真との交換条件で……?

 

その……言いたいことは沢山あるけど……万事解決ということで、見逃しておこう。

なんだか、僕の写真が初めてまともなことに使われた気がするよ…………。




次回はあの人物が登場しますよ!


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57話 午後の学園祭にて

お久しぶりです! 作者です!(´・ω・`)/
宣言通り遅くなってしまいました、申し訳ないです……。

そういえば、いつの間にかお気に入り件数400人突破&UA70000突破していました!
ありがとうございます!
これからも、読者の方々を楽しませて、ニヤニヤさせることをモットーとして頑張ります!

それではどうぞ!!


sideアキ

 

 

学園祭開始からしばらく経って、今は午後の部に突入。

 

ちなみに店の状況はというと

 

「お客さん、来ないね……」

 

「そうじゃの……」

 

不況でした。

 

僕と秀吉は同時にため息が出てしまう。

 

この時間帯だから客が減るとは思うけど、店はかなり空席が目立っている。

最初は大盛況だったけど、徐々にお客さんの数が減ってきて今に至った訳だ。

 

言わなくても察しはつくと思うけど、原因はあのチンピラクレーマーコンビのせいだろう。

あれ以来から、こうなったのが確信できる証拠だ。

 

一応、改善はしたんだけど、一度失った信頼を取り戻すのは難しいからね。

どうにもできない状況。

 

「お兄さん、すいませんです」

 

「いや気にするなチビッ子」

 

「チビッ子じゃなくて、葉月ですっ」

 

廊下から雄二と小さな女の子の声が聞こえてきた。

 

「雄二が戻って来たようじゃな」

 

「そうみたいだね」

 

ん? 葉月……?

どこかで聞いたことがあるような……。

 

「んで、探しているのはどんな奴だ?」

 

雄二が教室の扉を開けて入ってくる。

もう1人の女の子は……雄二の陰になってよく見えない。

 

「お、坂本、妹か?」

 

「可愛い子だな~、ねぇ、5年後にお兄さんと付き合わない?」

 

「俺はむしろ、今だからこそ付き合いたいなぁ」

 

雄二ともう1人の女の子はFクラスのみんなに囲まれてしまった。

お客さんが少なくて暇なんだろう、きっと。

 

「あの、葉月はお兄ちゃんを探しているんです」

 

「お兄ちゃん? 名前は?」

 

女の子に尋ねる雄二。

 

「……分からないです」

 

「家族の兄じゃないのか? それなら特徴は?」

 

「えっと……バカなお兄ちゃんでした!」

 

なんとも凄い特徴だ。

 

「そうか」

 

雄二は辺りを見回して、特徴と一致する人物を探す。

 

「……沢山いるんだが?」

 

否定できない。

 

「あ、あの……そうじゃなくて……すっごくバカなお兄ちゃんでした!」

 

これもまた凄い特徴……。

 

「ん? それってもしかすると須川のことじゃないか?」

 

「お、俺な訳ないだろ!? 横溝とかはどうだよ!?」

 

「お前よりはマシだよ! そもそも俺に小学生の女の子の知り合いなんていないぞ!?」

 

とバカとバカがバカの擦り付け合いになって話にならない。

ここの連中はFクラスという教室にいてもバカとは認めたくないようだ。

 

「あー……どうするんだ……誰も該当する人物がいな…………ん?」

 

雄二が頭を抱えていると、僕のことをジッと見つめた。

 

いきなりどうした?

 

「もしかすると…………アイツのことじゃないか?」

 

雄二が女の子に聞いて、僕に指を刺す。

 

え、バカって僕のこと? 失礼な!

 

「あ! バカなお兄ちゃん!」

 

女の子は僕を見つけた途端、駆けてきて、いきなり抱きつかれた。

 

んんん!? ちょっと待って、お兄ちゃんということは、僕が女の子だったことを知っているのか?

なんでこの子は僕が元々男だってことが分かったの!?

 

「やっと会えました、バカなお兄ちゃ……ん?」

 

女の子は男子にはない胸部の柔らかさに違和感を感じたのか、離れて僕を確認する。

 

「バカなお兄ぃ…………お姉ちゃん?」

 

女の子は思考顔になり首を傾げた。

 

「なんだ、明久が男だったことを知っているということは、こいつは明久のことを知っているんじゃないのか?」

 

「そうかもね……」

 

もしかすると、面影が残ってたりして僕だということが分かったのかな?

う~ん、葉月という名前で僕が女の子になる前に出会っているはずだから……

 

「ああッ!! 思い出した、あの時のぬいぐるみの子か!」

 

「ぬいぐるみの子じゃないです! 葉月です!」

 

思い出した! この子はお姉ちゃんにプレゼントをしたいけれど、お金がたりない。

だからそれを僕が助けたんだっけ?

結構前の出来事だし、観察処分者に認定されたりで、すっかり忘れてた……。

それにしても、僕のことがよく分かったね。

最近の小学生の記憶力と勘の鋭さはすごいものだよ。

 

「そっか、葉月ちゃんか……久しぶりだね。元気にしてた?」

 

「はいですっ! そういえば、なんでバカなお兄ちゃんは女の子になっているんですか?」

 

「あ、これはね……えーっと…………」

 

どうしよう、どう説明したらいいか分からない。

しばらく会ってない間に女の子になってました、なんて話が小学生相手に通用するはずがないよ。

 

う~ん、だけど、ここは正直に話したほうがいいかな?

誤魔化したって無駄だと思うし。

 

「実はね、葉月ちゃん……僕はとある理由で女の子になっているんだ」

 

「え……?」

 

目が点になる葉月ちゃん。

 

「そ、そんな……バカなお兄ぃ……お姉ちゃんと結婚する約束もしたのに……」

 

…………え?

 

「「「れ……れ、レズ!?」」」

 

ガタッという擬音を鳴らしだした、Fクラス男子生徒全員。

 

「あ、アキ! 今のはどういうことなの!?」

 

「アキちゃん! 詳しく教えてください!!」

 

「うわっ! 美波に姫路さん!?」

 

2人がちょうど召喚大会から戻ってきたらしく、横から割って入る。

 

「ちょ、ちょっと待って! それはこっちが聞きたいんだけど!?」

 

話がだんだんややこしくなっているよ!

どう説明すればいいんだ……!?

 

「あ、お姉ちゃん! 遊びに来たよ」

 

葉月ちゃんは美波を見つけて駆け寄る。

 

「あら、葉月じゃない。よくここまで来たわね」

 

ん? 美波と葉月ちゃんは知り合いなのかな?

 

「もしかして美波と葉月ちゃんは面識があったりするの?」

 

「え? だってウチの妹だもの」

 

「へ?」

 

意外な返答だ。

 

僕は葉月ちゃんの顔をマジマジと見つめる。

 

言われてみれば……確かに似ている。

雰囲気もにているし、まるで幼い頃の美波みたいだ。

 

「あ、あの時の綺麗なお姉ちゃん! ぬいぐるみありがとうでしたっ!」

 

姫路さんをみた葉月ちゃんは深くお辞儀をする。

 

「こんにちは、葉月ちゃん。あの子、可愛がってくれてる?」

 

「はいですっ! 毎日一緒に寝てます!」

 

「良かった~、気に入ってくれたんだ」

 

ぬいぐるみ? 姫路さんも葉月ちゃんに何かあげたのかな?

2人の話を聞く限り、接点はあるそうで、意外と葉月ちゃんのことを知っているのかな?

姫路さんは。

 

「ところで明久。この客の少なさはどういうことだ?」

 

あ、いけない、葉月ちゃんのことですっかり忘れてた。

雄二に報告して対策方法を考えるつもりだったのに。

 

「そういえば葉月、ここに来る途中でいろいろな話を聞いたよ?」

 

「ん? それはどんな話だ?」

 

雄二が葉月ちゃんに聞く。

 

「えっとね、『中華喫茶は汚いから行かない方がいい』って」

 

葉月ちゃんの言葉に自分も含め、誰もが驚いた。

 

確かにちょっと前まで、クロスの下が汚かったけど、

それはもう解決したことだ。

なぜ未だにそんな悪評が流れてるんだ?

 

「あの連中の妨害が続いているんだろうな、見つけてシバき倒すか」

 

いち早く事を察した雄二はそう言った。

 

「あの連中? それってさっきのクレーマー? そうかもしれないけど、あれだけ雄二から酷い仕打ちを受けたんだから、これ以上することはないと思うけど?」

 

「だからこそだよ。さっきの仕返しとしてやってる可能性が高い。ひとまず様子を見に行く必要がありそうだな」

 

「そうだね、どこまで噂が広まっているのかを見に行かないとね」

 

葉月ちゃんが聞いたくらいだから、実はかなり広まってたりするのかもしれない。

 

「バカなお姉ちゃん! 葉月と一緒に遊びにいこっ」

 

様子を見に行こうとすると、葉月ちゃんに手を握られる。

 

困ったな。

これは遊びではなく仕事だからな……。

 

「それなら、そのチビッ子も一緒に連れて行ったらどうだ? 他のクラスを偵察する必要があるからな」

 

悩んでいる僕を見て雄二のフォローが入る。

 

「それじゃ……一緒にお昼ご飯でも食べに行く?」

 

「うんっ!」

 

葉月ちゃんは満面の笑みで頷く。

 

「じゃあ葉月、お姉ちゃんも一緒にいくね」

 

美波、妹に対しては口調が変わるんだね。

いいお姉さんなんだな。

 

普段とはまったく違う姿の美並が別人のように思えた。

 

「それなら姫路と雄二も一緒に行くとよいじゃろ。どうせしばらくは手が空いているじゃろうし、店の留守はワシが引き受けるのじゃ」

 

「そうか、気を遣わせて悪いな秀吉」

 

「ありがとうございます、木下くん」

 

これで雄二と姫路さんが加わることになった。

 

「それでチビッ子、さっきの話はどこで聞いたのか教えてくれないか?」

 

「えっとですね……綺麗なメイドさんがいっぱいいるお店です」

 

なるほど、メイドさんが一杯ってことはメイドカフェってことかな?

メイドカフェをやっているクラスといったら……

 

「Aクラスのことだね。よし、悪評が拡大していく前に一刻も早く……って雄二、どこに行くのかな?」

 

逃げ出そうとする雄二の制服の襟元を掴む。

 

「は、放せ、明久! お前らだけでも楽しんで来い!」

 

「何を言ってるの? 代表である雄二も見に行くべきでしょ?

それに秀吉がせっかく留守役をしてくれているんだから、それを無碍にする訳にはいかないよ、ね?」

 

「頼む! Aクラスだけは勘弁してくれ!」

 

まったく、なんで雄二はこんなに嫌がるんだろうか……。

 

「ひとまず、Aクラスに行くよ。ほら雄二、大人しくするんだ」

 

逃げようとする雄二を引きずりながら、僕たちはAクラスへと向かった。




久しぶりに投稿したので、文章力が落ちていないか心配。(;´・ω・`)


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58話 元凶退治

こんにちは、そしてお久しぶりです。

前書き、何を書こうか思いつかなくても頑張る!(`・ω・´)


sideアキ

 

 

雄二を引きずり、姫路さんと美波と葉月ちゃんを連れて、目的のAクラスの教室にやって来た。

 

「ふぅー……やっと着いたか……」

 

僕は一息ついて小声でつぶやいた。

 

今の自分の身体で雄二を引きずってきたものだから、体力を少しばかり消費してしまった。

前までは楽と言っても過言ではなかったんだけどね……。

 

こういうところで女の子の身体の不便さを感じる。

 

ここに来る途中、この格好(チャイナドレス)だったせいか、多くの通行人にジロジロ見られていた気がする……。

これも女の子の身体ならではの不便さというべきか……。

 

学園祭では仕事の時も休みの時も恥ずかしい思いをしていた。

 

「そんなことより雄二、いつまでも抵抗してないで、行くよ」

 

「……ああ、分かったから放してくれ」

 

「逃げたりしたらだめだからね?」

 

「ここまで来たらもう逃げる気なんざねーよ……さっさと放せ」

 

雄二はげんなりした表情で、掴まれている僕の手を振り払って開放される。

 

なぜこんなに嫌そうにしているのか……。

 

「そっか、ここって坂本の大好きな霧島さんのいるクラスだもんね」

 

美波が雄二の様子を見て理解した模様。

 

「あー、なるほど。彼女のメイド服姿を見るのが恥ずかしいんだね、きっと」

 

「誰が彼女だ!?」

 

まったく雄二は本当に恥ずかしがり屋なんだから。

彼女のメイド服姿を見るという彼氏の役目を果たしてあげないと、霧島さんがかわいそうだよ。

 

面倒な婚約者を持ってしまった霧島さんに同情すら覚えてしまう。

 

「雄二、霧島さんのメイド服姿を見るのも大事だけど、1番の目的は――」

 

「…………!!」(パシャパシャパシャパシャ)

 

見てみると、シャッター音がうるさく響くほどシャッターを切る人物が。

 

「……何やってるの、ムッツリーニ?」

 

「……人違い」

 

その人物はカメラを片手に否定のポーズをとる。

 

「どう見たってムッツリーニじゃないか……こんなところで何やっているの?」

 

「……敵情視察」

 

店を出る前からいないなと思っていたら、こんなところでAクラス女子の撮影をやっていたのか。

 

「もうムッツリーニ、そんなことしている場合じゃないんだから、もうちょっと節度を持った行動を心がけてよね」

 

「……それは失敬、そろそろ店に戻る」

 

ムッツリーニはカメラを大事そうに抱えながら、持ち場に戻る。

 

これからはムッツリーニを見張っておかないとね……ただでさえサボられたら店の状況が悪化するし。

 

「それじゃあ、入るわよ」

 

美波が1番先に入り口をくぐる。

 

「……おかえりなさいませ、お嬢様」

 

出迎えたのは霧島さんだった。

 

「わぁ、綺麗……」

 

「同じく……すごいな……」

 

姫路さんと僕は霧島さんの姿を見て感嘆の声を洩らす。

 

長い黒髪にエプロンドレスの白がよく映えて、黒のストッキングが彼女の美脚を更に際立たせている。

 

なんと言うか……素直に羨ましいです……。

 

何を僕は女の子っぽいこと考えているんだ!

いや、でも本当に羨ましいというか、ズルいというか……。

 

「僕たちも入ろうか」

 

「はい、失礼しまーす」

 

「お姉さん、きれ~!」

 

美波に続いて僕と姫路さんと葉月ちゃんも入店する。

 

「……おかえりなさいませ、お嬢様」

 

と美波の時と同じように出迎えてくれた。

 

……あ、そういえば、ご主人様じゃなくて僕は今、お嬢様だった。

 

霧島さんのセリフに『ご主人様』という言葉が出てこなかったことに、疑問を抱いたのが間違いだった。

 

「ほら雄二。おっかない顔してないで、早く来なよ」

 

「……ったく、しょうがねぇな」

 

雄二は僕達に続いて、渋々入店して来る。

 

もちろん霧島さんは

 

「……おかえりなさいませ。今夜は帰らせません、ダーリン」

 

……少しアレンジが加わっていた。

 

そりゃ、彼氏が相手なんだから普通にこう言いうよね、うん。

 

「霧島さん、大胆です……!」

 

「ウチも見習わないとね……」

 

「あのお姉ちゃん、寝ないで一緒に遊ぶのかな?」

 

僕を含めて1人1人のリアクションに違いが出ている3人。

 

「……お席にご案内いたします」

 

霧島さんが席へと案内しだしたので、僕たちは後についていった。

 

「お姉ちゃん、すごいお客さんの数だね」

 

「そうだね、葉月ちゃん」

 

葉月ちゃんの言った通り、Aクラスにはお客さんが数え切れないほど沢山いた。

人材と設備の整ったAクラスだから、当然かもしれないけど……なんだろう…………このFクラスとの天地の差は……。

 

「……では、メニューをどうぞ」

 

霧島さんは全員にメニューを配る。

メニューは手の込んだ作りになっており、まるで高級レストランにありそうなメニューだった。

 

こんな細かいところまで配慮してあるなんて……Aクラスには絶対勝てないな……。

 

「よし、何を頼もうかな――」

 

「にしても、さっきの2-Fの中華喫茶は酷かったな~」

 

「そうだな、テーブルは腐った箱、店の対応も最悪だったしな」

 

何を頼もうか、考えようとした時、聞き覚えのあるゲス声が耳に入ってきた。

 

「あ、お姉ちゃん。あの人達だよ。『中華喫茶は汚いから行かない方がいい』って言ってたのは」

 

葉月ちゃんが指を刺した方へ目をやると、数時間前に営業妨害を仕掛けてきた、常夏コンビが中央の席で騒いでいた。

 

「なるほど、あえて人が集まるところで悪評を流していた……ということか」

 

「雄二、関心している場合じゃないよ。早くあの2人をどうにかしないと、悪評は流れ続ける一方だよ」

 

ひとまず、元凶であるあいつらを黙らせないと、問題は解決しない。

 

「まぁ待て。ここで殴りに行っても、かえって事態を悪化させるだけだ。

もう少し作戦を練って行こう、それからでも遅くはない」

 

「そうだけど、いったいどうするのさ……」

 

「俺に任せろ、おい翔子。ちょっといいか?」

 

「……何?」

 

雄二は隣にいた霧島さんに話しかけた。

 

霧島さんに協力でもしてもらうのかな?

 

「……と言う訳だ……頼めるか?」

 

「……わかった」

 

どうやら霧島さんの了承を得たようだ。

 

「そしたら、明久。今からお前に頼みがある」

 

お、遂に僕の出番が来た!

 

果たしてどんな頼みごとなのだろうか。

あの2人をどうこらしめるか、ちょっと……じゃなくて、とても楽しみだ。

 

「お前は今から、ここのメイド服を借りて痴漢騒ぎを起こして来い」

 

……………………は?

 

「えぇ!? 何で僕が!?」

 

「仮装に向いているのはお前しかいない。それに殴り倒すことができない今の状況ではこの作戦が手っ取り早い」

 

「でも……だからって僕に……」

 

「頼む、この通りだ!」

 

雄二は深く頭を下げる。

 

「あのさ……雄二……絶対に頭下げれば僕がやってくれるとでも思っているでしょ?」

 

「そうじゃないと言ったら嘘になるが、頼む!」

 

おいおい、なんでこの際、本音を言うのかな……?

 

いつまでも僕はそう、易々と引き受けるような人間じゃ――。

 

「アキちゃん、私達からもお願いします!」

 

「そうよ、アンタしかいないんだから」

 

美波と姫路さんからも頼み込まれてしまった。

 

いや、僕に頼むくらいなら2人がやった方がいいと思うけど……?

 

「とりあえず、来い。準備はもうできている」

 

「え、ちょ、ちょっと雄二! 待って! ちょっと……!?」

 

雄二は僕の手を掴んでどこかへ向かおうとする。

 

今度、連れて行かれたのは僕の方だった……。

 

 

 

 

「ほらここだ、明久」

 

雄二は僕をAクラスのウエイトレス役が待機する場所に連れて来られた。

 

「無理矢理なんて……酷いよ雄二……」

 

いつも人使いが荒いんだから……本当に……。

 

「そんじゃ、俺は席で見張っておくから、しっかりやれよ」

 

「あ、ちょっと! 何を勝手に話を進めて――」

 

雄二を止めようとしたが、雄二は逃げるようにさっさと行ってしまった。

 

なんで僕がこんな目に……あの2人……絶対に許さないんだから。

 

「この際、恥じらいなんか捨てて、粛清してやる! 見てろよ、雄二!」

 

雄二を恨むのか、常夏コンビを恨むのか……どちらにもぶつけたいのかわからない怒りで、自暴自棄になりかけていた。

 

「…………とは言ったものの……どうしたらいいんだ?」

 

確か、メイド服を借りてとか言ってた気がするけど……どうすれば?

 

ガシッ

 

「ひゃあ……!?」

 

後ろから、何者かによって胸を掴まれた。

 

「だ、誰!? 誰なの!?」

 

胸を掴まれ……揉まれたまま、後ろを向く。

 

「ボクだよ~♪ 吉井クン」

 

振り向くと、そこにはメイド服を着ていた工藤さんがいた。

 

「びっくりした……脅かさないでよ……」

 

「あはは、いやー……ごめん、ごめん。そんな姿でいる吉井クンを見たら、ついうっかり☆」

 

「うっかりじゃないよ! もう……」

 

例え、この格好(チャイナドレス)であろうが、なかろうが工藤さんなら、どの道すると思うけどね……。

 

学園祭でも工藤さんはいつも通り……。

 

「ちょっと、愛子。サボってないでこっちを手伝って……って吉井くん?」

 

「あ、木下さん」

 

工藤さんを呼びに来たのであろう、木下さんが待機場所の入り口に立っていた。

もちろん、彼女もメイド服姿だった。

 

「どういうこと? なんでそんな格好で吉井くんがここにいるの?」

 

「いやぁ~、実はいろいろあってね……」

 

僕は2人にこれまでの経緯を話した。

 

「なるほどね……ここに来るなんて思いもしなかったわ」

 

「ボクも吉井クンがここに来るなんて、思ってもいなかったよ」

 

2人に限らず、Aクラスのメンバーは理解が早くて助かる。

 

「……吉井」

 

2人に事情を話し終えたところで、霧島さんがやって来た。

 

片手には……メイド服を持っていた。

 

「……はい、これ、使って」

 

霧島さんは持っていたメイド服を僕に渡す。

 

「えっと……霧島さんはいいの? これは僕たちの問題なんだけど……?」

 

僕たちの抱えている問題に霧島さんたちを巻き込むのは少し気が引ける。

 

しかし、霧島さんは首を横に振って、

 

「……あれだけ騒がれると流石に迷惑、それに雄二の悪口を聞くのも許せないから」

 

「そっか……」

 

どうやら僕たちだけの問題ではなさそうだね……。

 

まったく、あの連中はつくづく迷惑な奴らだ。

 

「冤罪を吹っ掛けるのはどうかと思うけど……こっちもいい迷惑だし」

 

「お願い吉井クン。そっちも迷惑だけどこっちも同じだから……ね?」

 

木下さんと工藤さんも霧島さんの言った言葉に賛成した。

 

うーん、確かに、やらなかったらやらなかったで、悪評は流れる一方だし、Aクラスにも迷惑が掛かり続けることだろうからね。

 

ここはお互いの首を絞める選択はなしにして、やるしかないね。

 

「わかった、ここは僕に任せて」

 

そう言うと、3人はうんうんと頷いた。

 

「それじゃあ吉井くん、迷惑なお客さんの始末をよろしくね(メイド服姿を見せて頂戴)

 

「ちょと、優子!? 本音と建前が混ざってるんだけど!?」

 

どうしたんだ、木下さんと工藤さんは……?

 

「……それじゃあ、吉井、よろしく」

 

霧島さんからメイド服を手渡される。

 

「……着替えはあっちで」

 

霧島さんは指を刺して着替える場所を案内する。

案内された場所は以前のAクラス体験でお世話になった更衣室ではないか。

ちょっと懐かしい気分。

 

あそこで着替えて、あの迷惑な常夏コンビの悪行を阻止しないとね。

絶対に上手くやってやる。

 

そう決意して僕はメイド服を持って更衣室に向かった。




感想、誤字脱字報告お願いします!

ネタは大体決まっているから、次回は多分、早めに投稿ができる……かも。


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59話 学園祭での騒動

なんとか、早めに更新できた!(`・ω・´)ゞ
ネタを決めておいてよかった……。




sideアキ

 

 

「これでよし……かな?」

 

メイド服に着替え終わり、更衣室に設置されてある鏡で自分の姿を確認した。

 

白と黒のミニスカートタイプで若干、白が目立っているデザインだ。

白がメインの色って結構マニアックな感じがするけど、これはAクラスのこだわりかな?

メイド服についてはまったく知らないけど。

 

僕はそう考えながら自分の身体全体を念入りに確かめる。

 

大勢の人の前に立つから、いつもより細かいところまでチェックしなければ。

あの常夏コンビに怪しまれないようにもしないと。

 

僕は着替えることより、確認する方に時間をかけた。

 

はぁ……やってて思うんだけど、女の子の身体って本当に不便……。

 

「よし、行くぞー……」

 

僕は更衣室の扉の前に立った。

 

そして、更衣室の扉を開けてAクラスの教室に入る僕。

 

入った途端、店内がザワッとしたけど……大丈夫かな?

 

不安になりつつ、常夏コンビの座る席へ向かう。

 

中央の席だからかなり目立って、周囲の視線が突き刺さる。

 

うぅ……恥ずかしいなぁ……Fクラスの時はお客さんの数が少なくてあまり気にはならなかったけど、今回は訳が違う。

 

「とにかく酷かったよな、本当に」

 

「店内も酷けりゃ、店の対応も悪いってことだな」

 

まだそんな会話を続けているのか。

あれでも一応、クラスのみんなが考えた出し物なのに、聞いてて腹が立ってくるよ。

絶対に許さない。

 

「お客様」

 

距離を縮めながら、怒りを隠すように、精一杯の作り笑顔で、このクラスのウェイトレスであるかのように声をかける。

 

「なんだ? おお……こんな子もいたんだな……」

 

「めちゃくちゃ可愛いじゃねーか……」

 

舐めるような視線が僕にまとわり付く。

 

物凄く気持ち悪い!

うわぁ、鳥肌が立ってきた……いや、なんだか鳥肌以上のものが立ちそうだよ。

 

「お客様、足元を掃除しますので、少々よろしいでしょうか?」

 

「掃除? さっさと済ませてくれよ?」

 

2人は席から立ち上がる。

 

今がチャンスだ!

 

僕はポケットからアロ●アルファ(瞬間接着剤)を取り出して、用意したブラジャーも取り出し、ア●ンアルファをブラジャーに塗りたくる。

 

「ありがとうございます、それでは――」

 

僕は坊主先輩の頭にブラジャーを取り付けた。

 

「? 何だこれ?」

 

「キャァァァ!! この人痴漢です!」

 

応援を呼ぶために、悲鳴を上げる。

 

被害者の女性から叫ばれ、頭にはブラジャーがついた状態。

いい訳できないね。

 

「は!? お前何言ってんd「絶対に許さん!!」……グホァッ!?」

 

坊主先輩の後ろから執事姿の久保くんが、背骨を折るくらいの勢いで、ドロップキックを坊主先輩の背中に入れる。

 

あ、そういえばAクラスだから、久保くんもいるんだったね。

 

「何やってんだよ!? 被害者はこっちd(ドスッ)……グアッ!?」

 

倒れている坊主先輩の代わりに、説明しようとしていたモヒカン先輩に聞く耳を持たずか、即座に膝蹴りをモヒカン先輩の腹に入れる。

 

「お前、ちゃんと見てたのか!? 明らかにこれは冤罪だろ!!」

 

坊主先輩が背中を押さえて、倒れながら反論する。

 

「黙れ! 出鱈目(でたらめ)を言うな!」

 

すると、横から、遅れて雄二が登場。

 

もう久保くんがほぼほぼ、雄二の役割を果たしてくれたようだけど……。

 

「お前は確かにウェイトレスの胸を揉みしだいていただろうが! 俺の目は節穴ではないぞ!」

 

いや、節穴としか思えない。

 

「なん……だと!? 今の聞いたか!?」

 

「ああ、俺達のアキちゃんにそんなことするなんて、死んでも許さん!」

 

「私のアキちゃんが汚された……ぶっ殺してやる!」

 

騒ぎを聞いたお客さんでもある文月学園の生徒が席から立ち上がり、常夏コンビに殴りかかる。

 

「ちょ、ちょっと待てぇ! 俺たちはそんなことしてな――」

 

「「「死んで詫びろ!!! この変態!!!」」」

 

生徒全員で一斉に常夏コンビに殴る蹴るなど行為を行った。

言うなれば集団暴行……リンチ的なやつだ。

 

「おい、明久……流石にこれはやり過ぎたか……?」

 

事の重大さに気づいた雄二が焦った声で尋ねてくる。

 

「さ、さぁ? これくらいが妥当なんじゃない……?」

 

意外な展開に呆気にとられていたが、考えてみるとかなりまずい状況?

 

でも、今更止めに行っても時既に遅しだし、

どうせ酷い目に遭うのは常夏コンビだし、

これで万事解決(?)だし……う~ん、まぁ、いっか!

 

Aクラスの教室ではしばらくの間、ちょっとした暴動が起きることとなった。

 

 

 

 

「吉井くん、大丈夫だった!?」

 

「え、大丈夫……だけど?」

 

暴動により常夏コンビは去って行き、騒ぎが落ち着いた頃、いち早く久保くんは僕の元に駆けつけた。

 

「本当に大丈夫?」

 

「うん、本当に大丈夫……」

 

僕は久保くんの気にかけてくれている言葉に、ただただ頷く。

 

「久保くん……今のはただの演技だから、心配することはないわ」

 

木下さんが心配する久保君に誤解を解くように説明をした。

 

もちろん暴動を起こした生徒たちにもちゃんと、事情を兼ねて説明した。

 

「なんだ……そういうことだったのか……心配したぜ」

 

「いや~……本当に誤解でよかった」

 

「アキちゃんの身体に純潔があってよかったわ」

 

みんな安心して、また元の席に着いた。

 

みんな呑み込みが早くない?

なんだこの暴動前との激しい温度差は。

 

「ごめんね、久保くん。別に悪気があった訳じゃないんだ」

 

「いや、謝ることはないさ……嘘でよかったよ」

 

まるで自分のように、安心しているけど……久保くんはお人好しなんだね。

そういうところが久保くんのいいところなんだと思うけど。

 

「それにしても……似合っているねそのメイド服」

 

「え……? そ、そうかな?///」

 

「うん、とっても可愛いというか……Aクラスのホール役になってもらいたいくらいだ」

 

「あ、ありがとう……///」

 

久保くんに褒められると照れるなぁ……。

いつもは慣れているのに……。

なんでドキッとしているんだろう……。

 

「く、久保くんも似合ってるよ! その執事服……とってもかっこいいよ……」

 

「あはは、僕にはもったいない言葉だね……」

 

苦笑しながら照れたように頭をかく久保くん。

 

いや、本当に似合っているよ?

真面目でクールな久保くんの執事姿は新鮮で見栄えがいいし……。

本当にかっこいいよ……?

 

「よし、明久。クレーマーの処理は片付いたことだし、さっさと教室に戻るぞ」

 

僕と久保くんの間に入るように雄二が横から口を挟む。

 

「あ、うん……それじゃ……またね久保くん」

 

「ああ、そっちの仕事が上手く行くことを願うよ、頑張ってね」

 

「うん、ありがとう」

 

僕は久保くんや霧島さんたちにお礼を言って、雄二たちとまたFクラスに戻る。

 

 

 

 

「お姉ちゃん、なんでメイド服になってたんですか?」

 

Fクラスに戻っている途中、葉月ちゃんが袖を引っ張って聞いてくる。

 

「……なんと言うか……これが僕の仕事なんだ……」

 

「へぇ~」

 

だんだん僕のコスプレも風化されつつある。

そんな状況がどうしても解せなかった。

 

「1日に2回もアキちゃんのコスプレが見れるなんて、感激です」

 

姫路さんは満足した表情で、喜んでいた。。

学園祭を満喫できているようで何よりだった。

 

「にしても、クレーマーが片付いたのはいいが、あの調子じゃ店は不況が続く一方だろうな……何か対策を考えねば……」

 

雄二が愚痴を洩らす。

 

「そうだね……すぐに店の状況が変わるとは限らないし……」

 

「ま、今から考えても遅くはない。明日までには考えておく」

 

「頼んだよ、雄二」

 

あんまり期待はしていないが、応援の言葉くらいは送っておく。

 

「おう、絶対に成功させてやるよ」

 

自信満々だね。

でも、ネガティブになるよりは全然マシだ。

 

「よーし、僕も頑張るぞ」

 

意気込むように拳を握り締める僕。

 

「お前も俺と同じでかなりやる気だな、明久」

 

「はは、そうかもね、雄二」

 

この時の僕は1番やる気に満ちていたかもしれない。




誤字脱字報告、感想よろしくお願いします。


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60話 予想外過ぎる不況対策

(´・ω・`)もう夏休みの季節になりましたね~。
もちろん作者の学校は1学期を終え、夏休みとなりました。
この季節になるとやりたいこととか、やらないといけないことで頭が一杯です。

そんな中でも、できるだけ沢山投稿しないとね!(`・ω・´)
基本遊びのことしか考えてないけど、今年はあんまり投稿できないので、この夏休みを使って頑張ります!




sideアキ

 

 

~学園祭2日目~

 

学園祭最終日の2日目。

今回も初日ほど大掛かりではないが、朝からFクラス全体で出し物である中華喫茶『ヨーロピアン』の準備に取り組んでいた。

 

昨日の常夏コンビの始末をした後、店の不況は少し回復したものの、結果的には成功とはいえないし失敗ともいえない、中途半端な形で1日目は終了してしまった。

なので、今日で昨日の分を取り返そうと、Fクラスのみんなは必死になっている。

 

「おい、明久とムッツリーニはいるか?」

 

その中で、雄二は僕とムッツリーニを呼び止めた。

 

「いるよ、どうしたの雄二?」

 

「……どうかしたか?」

 

「実はお前らに、不況対策として頼みたいことがある」

 

頼みたいこと?

あ、そういえば雄二は店の不況を補うために対策を考えるとか言ってたような……。

 

もしかするといい考えが出たのかもしれない。

雄二の対策とやらに、少しだけ期待。

 

「頼みたいことって、どんなこと?」

 

「……右に同意」

 

なぜ不況対策のために僕とムッツリーニを呼んだのかが1番気になるところだ。

 

「それはだな……おい、島田と姫路。例の物を頼む」

 

「了解」

 

「了解です!」

 

ここで雄二に呼ばれた美波と姫路さんが登場。

手には見慣れない袋を持っている。

 

ん? なんか、嫌な予感が……。

 

「これを見てください! アキちゃん!」

 

姫路さんは袋から衣装らしきものを取り出し、僕に手渡した。

 

「な、何これ……雄二?」

 

それを見た瞬間、雄二に恐る恐る問いただす。

 

「店の不況対策のためだ、これを着て接客をするんだ……考えたのは俺じゃなくて姫路なんだがな」

 

いやそう誰が考えたとかじゃなくて、この衣装は何!?

 

渡された衣はパッと見た感じはチャイナ服かと思うけど、これ、よく見たら水着だ!

 

赤いチャイナ風のビキニに、下はスカートタイプのビキニショーツという、とても接客業にふさわしい衣装ではない。

 

雄二の不況対策に少しでも期待してしまった僕が馬鹿だったよ!

 

「……アキちゃんはよしとして、俺は何をしろと……?」

 

「ムッツリーニ! そこはよしと言っちゃだめだよ!」

 

でも、ムッツリーニとっては美味しい話だから、よし以外の言葉を言うはずがないか……。

 

あ、そういえばムッツリーニにも頼みごとがあることを忘れてた。

ムッツリーニに何をしろと言うのだろう?

 

「これは俺と姫路で考えたことなんだが……ホール役の人数を補うために、ムッツリーニ。お前は女装して接客しろ」

 

「「……は?」」

 

僕とムッツリーニは目を白黒させた。

 

え、待って、人数が少ないからってムッツリーニまでやらせるの?

それに女装ってことは……。

 

「土屋くん、頑張ってくださいね!」

 

姫路さんは袋から紺色のチャイナドレスと取り出して、ムッツリーニに押し付けるように手渡した。

 

「……な、なぜ俺が……!?」

 

予想にもしなかったことに、ムッツリーニ本人が誰よりも驚いている。

 

「こうするしかないんだ、悪いが引き受けてくれないか?」

 

いや雄二、今回も絶対に頼めばいいと思っているでしょ?

無理だからね、今回ばかりは。

 

「い、嫌だよ! こんな衣装を着て接客なんて出来ないよ!」

 

「……まったくだ……!」

 

横でムッツリーニもコクコクと頷いている。

その気持ちは痛いほど分かるよ、ムッツリーニ。

 

「アキ、土屋、ちょっとこっちに来なさい!」

 

「え、何? ど、どうしたの、美波?」

 

美波は僕とムッツリーニの手を引いて廊下まで連れて行く。

 

どうしたんだ、美波まで……今日はみんな、なんだかおかしいよ。

 

「2人とも、今からよく聞きなさい」

 

「う、うん」

 

「……」(コクコク)

 

美波は真剣な表情になったので、これはよく聞いておかないといけない。

 

と僕とムッツリーニは思った。

 

「本人は誰にも言わないで欲しいって言ってたから、誰にも言うつもりはなかったんだけど……2人にだけは話すからね……」

 

美波がそう言った瞬間、僕とムッツリーニの額に不思議と冷や汗が流れた。

 

「実は瑞希なんだけど……」

 

「姫路さん? 姫路さんがどうかしたの?」

 

「……何か問題でも?」

 

「あの子、転校するかもしれないの」

 

「「……!?」」

 

姫路さんが転校……?

 

「どういうことさ! さんが転校だなんて!」

 

「……詳しく!」

 

衝撃の事実に、僕とムッツリーニは慌てて美波に理由を問う。

 

「今言った通りよ……瑞希は転校しちゃうかもしれないの」

 

「それはわかったから……どういった理由で転校することになったの?」

 

「説明すると長くなるけど……簡潔に言えば、Fクラスの環境ね……」

 

「Fクラスの環境……?」

 

「……どういうことだ?」

 

美波の言葉に僕と、ムッツリーニは首を傾げた。

 

「もしかして、Fクラスの設備の問題とか……?」

 

「そう、Fクラスの設備の問題ってことになるわね」

 

「なるほど……やっと分かったよ」

 

「……納得した」

 

美波に言われて、やっと理解ができた。

 

姫路さんにとってFクラスの設備は相応しくない。

設備は普通の教室とも思えないような設備に、周りの人間は馬鹿ばかり。

 

学習能力の高い彼女に、Fクラスの最悪な環境では対価に合わない。

こんな理不尽なことをされては親も黙ってはいられないであろう。

 

「それにね、瑞希は体が弱いし……」

 

「そうだよね、それが1番問題だね……」

 

外見も中身も最悪なFクラスは病弱な身体を持つ姫路さんの健康に害を及ぼす可能性がある。

 

あんな教室にいたら姫路さんは体調を崩して、下手をすればただ事じゃ済まない問題になってくるかもしれない。

 

それこそ親が口を出してくる訳だ。

 

「だから、アンタたちには協力してもらいたいの。Fクラスの設備向上と瑞希がこの学園に存続できるように……そのために、何としてでも成功させたいから」

 

「「……………」」

 

僕とムッツリーニは2人で沈黙して、この状態が数分の間続いた。

 

もし、学園祭が失敗に終わり、姫路さんが転校してしまったら、

それは僕たちのせいになるだろう。

 

僕たちのせいで姫路さんが転校するのは嫌だ。

 

隣にいるムッツリーニだってそうだろう。

心境は読み取れないけど、ムッツリーニの顔からは罪悪感で押しつぶされそうな、暗い表情があるからだ。

 

(ムッツリーニ……姫路さんのとめにもここは恥を忍んでやろう)

 

(…………ッ了解)

 

同じ考えを持つ、僕とムッツリーニでアイコンタクトを取り、雄二(考えたのは姫路さん)の不況対策を了承することにした。

 

「ごめん美波……僕たち、やるよ」

 

「……やるしかない」

 

「アンタたちならそう言うと思ったわ」

 

安堵の表情を浮かべる美波。

 

男だらけのクラスに、唯一いる姫路さんがいなくなったら、女友達がいなくなってしまうからね……。

 

1人の友達をなくすだけでも辛いのに、そんなことになったら、たまったものじゃない。

これは美並のためでもある。

 

「よーし、ムッツリーニ行くよ……」

 

「……わかった」

 

姫路さんのためにも、ここは恥ずかしさを我慢してでもやるしかない。

クラスメイトを1人助けることに繋がるなら、こんなことはお安い御用だ。

 

 

 

 

「アキちゃん、土屋くん。そろそろいいですかー?」

 

「できたよ……うぅ……こんな姿で接客するのか……」

 

「……屈辱的」

 

着替え終わった僕とムッツリーニは姫路さんに呼ばれて、Fクラスに戻るところである。

 

僕はただ単に着替えただけだが、秀吉がムッツリーニに着付けとメイクを施してくれた。もう今のムッツリーニは男とは思えないほどの姿になっている。

 

小柄な体型に、弱々しそうな子顔。

まるで子猫のような、愛らしさ思わせる可愛さを持っていた。

 

まさかこんな逸材が眠っていたとは……。

 

「2人ともとっても可愛いです!!/// これなら繁盛間違いなしです!!」

 

「かなり似合っておるぞ、これは期待大じゃな」

 

姫路さんと秀吉は僕たちの姿を見ながら褒め上げる。

 

「どうだかなぁ……」

 

「…………」

 

そもそも僕が水着姿で接客したところで繁盛したら苦労はしないと思うけど……。

ま、多少は増えるかも……ね。

 

「……ムッツリーニ、その……とっても似合ってるよ」

 

ムッツリーニは意外とチャイナドレスが似合っている。

元々、体型は女の子っぽい気もするし、顔も少し手を加えれば女の子に見えるくらいだったし。手を加えた姿は今、初めて見たんだけど。

 

「……褒め言葉になっていない」

 

そうだよね、女装を褒められて嬉しがる男子なんて稀な存在だからね……。

 

「……アキちゃんこそ似合ってる」

 

「はは、ありがとう……というか、大丈夫なの? 僕がこんな格好してて?」

 

今日はなぜかムッツリーニは鼻血を出さない。

 

海に行った時なんかは、大出血どころの話じゃなかったのに……。

 

こんなに露出の高い衣装でムッツリーニがここまで平然としていられるのは不自然な光景だ。

 

「……今はそれどころじゃない」

 

あ~、なるほど。

よっぽど女装をして、接客することに対する抵抗感が勝っているのか。

 

道理でムッツリーニらしくないと思ったよ。

 

そうこうしている内にFクラスに到着。

 

いざ、僕とムッツリーニのお披露目タイムとなる。

 

「お、戻って来た…………か……」

 

雄二とFクラスの男子生徒全員は僕とムッツリーニの姿を見た瞬間、驚いて言葉を失ったかのように突っ立っていた。

 

(ねぇムッツリーニ……これ、大丈夫かな?)

 

(……俺に聞くな…………)

 

ですよね~……。

 

なんで、みんなは黙ったままなの?

せめて何か言ってくれないと、羞恥と屈辱で死んでしまう!

 

「やべぇ……まさかアキちゃんの水着姿を生で見れるとはな……」

 

「ああ、まったくだ……感激過ぎて死にそう」

 

「ムッツリーニも見てみろよ、あれってマジでムッツリーニなのか?」

 

「面影が残っているからそうだろうけど、あれは反則だろ……」

 

僕とムッツリーニに男子生徒の視線が突き刺さる。

 

耐えろ、僕とムッツリーニ!

後でこれより恥ずかしい接客仕事が待っているのに、ここで怖気づくのはまだ早い!

 

でも恥ずかしいのは変わりないんだよなぁ……。

 

「その、なんだ……お前ら、似合ってるぞ」

 

若干、照れ気味に雄二が率直な感想をくれた。

 

「ありがとう……正直、嬉しくないけど」

 

言われて悪い気はしないけどね……。

 

「よし、これで完璧だ、初日の遅れを取り戻すように上手くやれよ。お前ら」

 

雄二はこれで準備万端と見なしたのだろう。

 

僕たちに代表としての一言を放った。

 

「りょ、了解……」

 

「……承知した」

 

(頑張ろうね、ムッツリーニ)

 

(……そっちもな)

 

こうして学園祭2日目開始。

 

姫路さんの存続を賭けた僕たちの戦いが始まった。




ムッツリーニの女装が見たい!
という読者が数名程いたので、この機会に無理矢理ながらもやってみました。
慣れないネタだから心配しかない……(;´・ω・`)

だが、慣れてようが慣れてなかろうが、
次回は(o´艸`)ムフフな展開にできるようにしたい……!


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61話 学園祭2日目 

夏休み前に宿題を半分以上終わらせておいたから、時間に余裕ができました。
やっておいて本当によかった!( ∩´・ω・`∩) ンフ~~

今回は(o´艸`)ムフフな展開にできるように書けた……と思いたい。


sideアキ

 

 

「ねぇ、ムッツリーニ、これはどういうことだろう?」

 

「…………さっぱりだ」

 

2日目の学園祭開始から数分経過した頃、中華喫茶『ヨーロピアン』の店内はお客さんで埋め尽くされており、外では現在の待ち時間が約20~30分になるほどの列ができていた。

 

客が増えることは大体予想がつくけど、予想外過ぎてホール役の僕達や厨房役もあたふたしている。

 

開始早々だというのに、最低限の対応を取ることで手一杯だった。

 

姫路さんと美波は召喚大会の決勝でいないため、僕とムッツリーニと秀吉の3人という、

少ないメンバーなのでそれはもう、あまりに過酷だった。

 

~男子目線~

 

「すげぇ、なんだあのエロ可愛い子は……マジやばくね?」

 

「ああ……ここに来るのは2回目だが、昨日より過激な衣装だな」

 

「スタイルいいなぁ、胸もでかいし可愛いし……あれぞ完璧JK」

 

「この学園にいる生徒が羨ましいな、あ~俺もこの学園に通っときゃよかったなぁ~」

 

~女子目線~

 

「ねぇ、あの子、すっごく可愛いんだけど!? どう思う!?」

 

「おお、私、あの子となら付き合っていい……いやむしろ付き合いたい」

 

「胸凄くない!? 何を食べてああなったのかな?」

 

「他の店にも子も可愛い子がいたけど、あの子はずば抜けてレベルが高いねぇ」

 

初日とは比にならないほど、客からの視線が痛い。

 

想定内だけど、いざとなると……ね。

 

「あの子も可愛くね? 昨日ここの店にいたっけ?」

 

「俺達が気づかなかっただけだろう、あんなに小さいロリ体型だったら」

 

「だよなぁ、ロリっ子は別に興味ないが、あれはあれで萌えるな」

 

ちょっと耳を傾けると、こんな話まで聞こえてきた。

 

ロリっ子ってことは……ムッツリーニのことであろう。

 

やっぱり、ムッツリーニのことを知らなかったり、初見の人とかには気づかないんだろうね。

 

僕も最初、見た時は女の子にしか見えなかったし。

 

僕だけに限らず、ムッツリーニも相当恥ずかしいだろうなぁ。

頑張れムッツリーニ。

 

「騒がしいので、何があったと来てみれば……何をしているんだ。吉井、土屋」

 

「あ、西村先生。今日も来てくれたんですね」

 

「……いらっしゃいませ、鉄人様」

 

Fクラスがあまりにも盛況なので、気になって来たのであろう。

 

それか暇だったりして……?

 

「まったく、その格好はどうしたんだ、吉井。昨日より過激な方向に走っていないか?

それと土屋、なぜそんな衣装を着ている?」

 

と半分呆れ顔で聞く西村先生。

 

「これは僕たちが故意にやってる訳じゃなく、不況対策ということで……」

 

「……深い事情」

 

「はぁ……このクラスはいったいどうなっているというのだ…………吉井が女になって以来、から思っていたのだが……」

 

頭を抱え込む西村先生。

 

それは僕も痛いほど共感します。

 

「とにかく……学園祭だからといって羽目を外し過ぎるなよ。これだけは言っておく」

 

そう言い残して、西村先生はどこかへ行ってしまった。

 

おかしいなぁ。

こんな格好をしてて、なぜ注意をしないのだろうか?

 

う~ん、もしかしていつも学園の中で、僕が仮装とかをしているからかな……?

だとしたら、先生の指導感覚が麻痺しているってことか。

先生もFクラスの習慣に毒されているんだな。

 

「……アキちゃん、手が止まっている」

 

「ああ、ごめん。少し考え事を……」

 

ムッツリーニに声を掛けられ我に返り、すぐに仕事を再開。

 

この後もお客さんの数は減ることがなく、むしろ増える一方だった。

自分の格好の恥ずかしさなんて、いつの間にか忘れるくらいに忙しかった。

 

 

 

 

午後に突入して、大分落ち着いてきたが、まだ客もかなりいる。

空席が見当たらないくらいに。

 

「お主ら、そろそろ休んだらどうじゃ? ここはワシに任せてもいいのじゃぞ?」

 

「いや、大丈夫だよ、秀吉の方こそ休んだら? 秀吉もかなり忙しかったみたいだし」

 

「心配しなくてもいいのじゃ。ワシはまだまだやれるのじゃ」

 

「そっか……じゃあ、お言葉に甘えて休もうか――」

 

「遊びに来たよ! アキちゃん!」

 

少し休息を取ろうとしていた時に、それを妨害する人物が。

 

「た、玉野さん……? なんでここに!?」

 

「水着姿のアキちゃんが見れると聞いて、いてもたってもいられなくて、クラスから抜け出しちゃった☆」

 

おいおい、大丈夫か?

自分の店よりこっちを優先しちゃってもいいのか?

 

「あぁ可愛い/// 生で水着姿のアキちゃんが見られるなんて感動!」

 

玉野さんは構わず、僕に抱きつく。

こういうことをするのは目に見えているので、何も言わない。

そもそも抵抗しても無意味な気がするし。

 

「あの子、誰? 友達?」

 

「そうなんじゃない? Dクラスのお店の制服着てるし」

 

「うわぁ、羨ましい……私もしたいのに……」

 

周りの視線が僕と玉野さんに集まる。

恥ずかしいからそろそろやめて欲しいな……。

 

「もう、美紀。勝手にサボって、何してるの?」

 

「まったく、羨ましいことしてるんだから」

 

と丁度いいタイミングでDクラスの女子生徒2人が玉野さんを連れ戻しに来た。

 

「あっちゃ~、見つかっちゃった、ありがとねアキちゃん、また来るから」

 

いや、もう来なくて結構です。

今ので十分満足したでしょ? ね?

 

「ちょっと待って。美紀がしたんだから私たちもいいわよね?」

 

玉野さんを連れて行こうとした、女子生徒が足を止める。

 

「え? 何が――」

 

聞き返そうとするも、その前に玉野さんを連れていこうとした女子生徒2人は僕をギュっと抱きついた。

 

 

「んんっ……この抱き心地……クセになる……」

 

「幸せな感触……いつまでも抱きしめた~い」

 

いきなりされたもので、僕は「え? え?」という言葉を発したまま、抱きしめられっぱなし。

 

「ありがとう、アキちゃん。じゃあ行くわよ」

 

「ありがとね~、バイバ~イ」

 

ご満悦な表情で玉野さんを連れてFクラスを出て行った。

 

いったい、なんだったんだ……あの女子生徒は。

 

「吉井ク~ン」

 

「うわぁ、工藤さん!? ビックリした……」

 

後ろから、今度は工藤さんから抱きつかれた。

 

いつの間に来ててんだ?

 

「いやぁ、何やら面白そうだったから来てみたんだけど……すっごくHな格好だね、吉井クン」

 

「うぅ……あんまり見ないでよ……」

 

恥ずかしくなって、僕は胸に腕を回した。

 

「恥ずかしがる吉井クン、カワイイ/// いつもその格好でいたらいいのに~」

 

「だ、ダメだよ! 常識的に考えて無理だよ!」

 

僕は痴女か!

好きでやってる訳じゃないのに……。

 

「ねぇ……ちょっと、いい?」

 

「な、何?」

 

僕が工藤さんに聞き返した時、工藤さんはいきなり僕の胸を指で突いた。

 

「ひゃんっ……! ちょと、工藤さん! あっ、あんっ、や、やめてよ」

 

ああ、周りにいるお客さんが鼻血を出して倒れちゃったよ!?

あ、しかも女性のお客さんまで!?

 

「この気持ちがいい弾力と柔らかさ…………もっと触っていい?」

 

「ダメだよ! ひゃあぁ、ダメって言ってるのにぃ……」

 

拒絶しているのに、工藤さんはやめず、僕の胸を指で突く。

 

あまりのくすぐったさに声が漏れてしまう。

背中にゾクッとしたものがこみ上げてくる。

 

「もう、愛子。やめてあげなさい」

 

横から木下さんが止めに掛かってくれた。

 

あぁ、救世主がここに……。

 

「ごめんね、吉井くん。もっとアタシが愛子を監視するべきだったわ……」

 

「いや、大丈夫だよ、ありがとう」

 

僕は木下さんに助けてくれたお礼を言う。

 

「ッ!///」

 

? 何で木下さんは顔を逸らすんだ?

 

(ダメよ私……いくら吉井君があんな格好で、可愛いからって……襲うのはダメよ)

 

「優子~? どうしたの~?」

 

「な、何でもないわよ」

 

「ホントに~?」

 

ニヤニヤと木下さんを見つめる工藤さん。

 

本当になんでもないのかな、木下さん……。

 

「あれれ? もしかして、この女の子は……」

 

「…………人違いだ」

 

工藤さんはムッツリーニ(女装中)を見つけると、興味津々な目つきで、

 

「やっぱり! ムッツリーニクンだ。どうしたの? なんでそんな姿に?」

 

「……人違いだ……!」

 

ブンブンと首を振るムッツリーニ。

 

「もしかして、吉井クンと同じく女の子になっちゃたのかな~?」

 

いたずらをしそうな目つきで、ムッツリーニの身体を見回す。

 

「今はとある事情があって、僕とムッツリーニはこんな姿になっているんだ……」

 

とりあえず、軽く説明はしておく。

 

「そうなのね……いい考えじゃない、考案者もいい趣味しているわね」

 

なんで木下さんは関心しているんだ……。

 

「カワイイ~! これから女装していけば? 写真を撮るより、撮られる側になっちゃえば……」

 

「……そんなのは御免だ……!」

 

工藤さんとムッツリーニは……うん、楽しそう。

 

「もうちょっといたいけど、休み時間はもうないし、そろそろアタシたちはAクラスに戻るわ。行くわよ、愛子」

 

「あぁ、そうだねぇ~……じゃあ、吉井クン、まったね~」

 

ちょっと残念そうな顔をして工藤さんと木下さんは自分のクラスに戻って行った。

 

僕と同じで休み時間だから、ここに来ていたのか。

 

「……アキちゃん、そろそろ行くぞ」

 

「ん? ああ、もうこんな時間か」

 

ムッツリーニから言われて気がついた時にはかなり時間が経過していた。

 

玉野さんと工藤さんの相手をしてて、あんまり休めた感じはしないけど……あんなに忙しい中、少しでも休息が取れただけよしとしよう。

 

引き続き、僕は大変忙しい接客仕事を再開。

 

この後もお客さんは絶え間なく来店して、形勢がひっくり返るのはまさにこのこと。

初日が嘘だったかのような2日目となった。




そういえば、玉野さんが登場したのって久しぶりだなぁ。(´・ω・`)


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62話 学園祭終了

やっと学園祭も完結間近です!

ここまで読んでくれた読者の方々には感謝の気持ちでいっぱいです!
最後までお楽しみいただけるよう、頑張りますよぉ!(`・ω・´)フンス!


sideアキ

 

 

『ただいまの時刻をもって、清涼祭の一般公開を終了しました、各生徒は速やかに撤収作業を行ってください』

 

「や、やっと終わった……」

 

「学園祭とはいえ、流石に疲れたのう……」

 

「……まったく同意…………」

 

放送を聞いて、僕達3人は過度な疲労により、その場で同時にへたり込んだ。

 

案内や接客などの一見、簡単そうに見えるホール役の仕事だが、次から次へと来店して来るお客さんの接客相手をするのはあまりに過酷だった。

 

それに、こんな露出度の高い衣装だし……。

あんなに大勢の前でこんな姿を晒していたのか……恥ずかしかった。

 

今更ながら、この衣装はやりすぎたと思っていた。

 

「お前らよくやったぞ。おかげ様で大盛況になった。ご苦労だ」

 

「雄二こそ、お疲れ」

 

「お疲れ様なのじゃ」

 

「……ご苦労様」

 

僕たち3人は代表として(一応)頑張ってくれた雄二にお疲れ様と返す。

 

「おつかれさま、アキ」

 

「お疲れ様です! アキちゃん」

 

丁度、姫路さんと美波が決勝から戻って来たようだ。

 

「あ、姫路さんに美波、どうだった、優勝できた?」

 

見に行けなかったので、勝敗の行方は分からぬまま。

 

「残念ながら……負けてしまいました」

 

残念そうな表情や悔しい表情ではなく、笑って誤魔化すように返す姫路さん。

 

「惜しかったねぇ……」

 

「でも、いいんです……お父さんは説得できましたし!」

 

「そうね、ウチもそれで十分ね」

 

おお! お父さんの説得に成功したのか~。

よかった、これで姫路さんはこの学園に残ることができたんだ。

本当によかった……。

 

自然と僕は心配していた悩み事が消えて、安堵のため息をつく。

 

ムッツリーニもそれを聞いて、普段は見せることのない安心した表情でいた。

 

「そんじゃ、この後教室で打ち上げを行う。お前らとっとと着替えておけよ」

 

「ん、了解。雄二」

 

僕たち3人は一刻も早く着替えたい。

ただ純粋にそう思い、更衣室に向かおうとしたが、

 

「待ってください! アキちゃんはこのままで! できれば土屋くんも……!」

 

と行こうとしたところを姫路さんに止められた。

 

「えぇ!? 何で僕が!?」

 

「……なぜ俺まで……!?」

 

「せっかくですから、最後までその姿でいましょう! お願いします!」

 

姫路さんのお願いは聞いてあげたいけど……こればかりは無理です。

 

「悪いけど、僕は着替えるからね……ムッツリーニだけで十分だよ」

 

「……アキちゃんまで……!?」

 

困惑するムッツリーニをよそに僕は制服を手に取り、更衣室まで向かおうとした時だった。

 

♪~♪~♪~

 

制服のポケットに入っているスマートフォンから、着信音が鳴った。

 

誰だろう、こんな時に……?

 

スマートフォンを取り出し、ホーム画面を開くと、L●NEに一件のメッセージが来ていた。

 

差出人は久保くんだった。

 

久保くん……?

どうしてこんな時に……。

 

久保くんとはほぼ毎日、連絡を取り合っているのだが、

何でこんな時に送ってくるのだろう? 何かあったのかな?

 

気になりながらも、メッセージを確認。

 

『学園祭お疲れ様。Fクラスは凄いことになっていたね、何かあったの?』

 

ああ、なんだ……Fクラスの盛況が気になっただけか……。

 

確かに気になるよね、初日があんな状態だったのだから。

 

『久保くんこそお疲れ様。実は言い難いことだけど……水着で接客させられちゃって……。(/ω\)

そしてなぜか、お客さんが増えたんだよね……』

 

取り敢えず返信。

 

あんまり知られたくないことなんだけどね……。

 

♪~♪~♪~

 

返信してすぐに久保くんからの返信が来た。

 

確認っと。

 

『そうだったんだ……僕もFクラスに行ってみたけど、多すぎて並ぶ暇がなくてね。

ちょっと残念だな、僕も見たかったよ』

 

…………?

 

僕は久保くんの返信を見て、首を傾げた。

 

残念ってどういうことだ……?

僕の水着姿が見たかった、ということかな?

でも、それなら何で見たがるんだろうな?

 

久保君らしくない返信に悩んだが、考えても答えは見つからず、理解に苦しむ。

 

『僕の水着姿が見たかったの……?』

 

本人に聞いてみようと、返信。

悩んだ時は本人に聞いてみるのが1番だ。

 

♪~♪~♪~

 

また、すぐに返信が来た。

 

確認。

 

『うん、見たかったよ、ただ何となく見てみたくてね……(;^_^A』

 

何となく……か……。

 

ただの好奇心的な意味だったようだ。

そんなに見たいのかな……?

 

『そしたら、この後Fクラスで打ち上げをするから、その時に来てくれない?

そうすれば見せられるけど……?』

 

恥ずかしいけど、久保くんだからいいか……。

いつも助けてもらってるから、お礼として……お礼になる訳ないけど。

 

♪~♪~♪~

 

確認。

 

『え、大丈夫なの? わざわざ僕のために……』

 

久保くんが驚きの表情が想像できる内容だ。

 

『うん、今着替える前だったし、別にいいよ』

 

すぐに返信。

だんだん操作に慣れてきた。

 

♪~♪~♪~

 

確認。

 

『ありがとう、そしたら後でFクラスに寄ってみるよ』

 

と嬉しそうな返事が返って来た。

 

こうして、僕と久保くんの約束事ができた。

 

久保くんのために、もうしばらくこの格好でいないと……。

でも恥ずかしいから、制服を羽織っておく。

 

僕は制服を羽織って、そのまま打ち上げに参加することにした。

 

なんで僕はすぐに責任を持てない約束事をすぐ交わすんだろうな……。

 

「アキちゃん、結局着替えなかったんですか?」

 

姫路さんは僕の姿を見て不思議そうな顔で尋ねる。

 

「まぁ……一応ね……」

 

「考えを改めてくれてよかったです~♪」

 

別に改めたって訳じゃないけど……。

 

「……俺まで結局着替え損ねた……」

 

ムッツリーニが絶望的な表情を浮かべている。

 

着替えたら着替えたで、大変なことになりそうだ。

 

その格好じゃないと、僕の姿を見た瞬間、昇天してしまうよ……。

 

ムッツリーニにとっての生命線はチャイナドレスにかかっていた。

 

にしても、ムッツリーニの新しいところを見つけたな。

まさか女装すると若干だけど、興奮が収まるんだね。

 

これを機に、本人も学習しているといいけど……。

 

「男子生徒に止められて、ワシも着替えておらぬのじゃが……」

 

秀吉は着替えなくて結構。

むしろそのままでいなさい。

 

「おーい坂本、買出し行ってきたぞー」

 

「おう、須川。ご苦労……そしたら、もう始めるか」

 

買出しに行ってくれたFクラス男子達が戻ってきたところで

中華喫茶『ヨーロピアン』の成功を祝して、打ち上げ開始。




感想と誤字脱字報告よろしくお願いします。


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63話 ほろ酔い大接近

今回で学園祭完結です。
学園祭の話は原作沿いにしたかったけど、できないんだよなーこれが……。(´・ω・`)
読み難くて申し訳ないです。m(;ω;`m)三(m´;ω;)m

それと、もう1つは今回ちょっとエロい要素があります。
途中まで深夜のおかしなテンションで書いたので、おかしいところがあると思います。


sideアキ

 

 

「そういえば美波、売り上げはどうだったの?」

 

打ち上げ開始直後、僕は美波に売り上げ結果を聞いてみる。

副実行委員とはいえ、僕はまだ知らされていない。

 

「そうね、アキ達の活躍のおかげでかなりの額になってるわね。期待通りって感じ」

 

美波が収支が記入されてあるノートを見せる。

 

確かに凄い額だな。

1日目はイマイチだが、2日目の今日の売り上げは予想を上回る結果で、今日の盛況の割りに合うような額であった。

 

「俺にも見せてくれ」

 

と後ろからノートを覗き込む雄二。

 

「なかなかの額だな……この額だと教室の全体的な修繕ができそうだな」

 

「へぇ、そうなんだ……それなら、1日目も今日みたいに上手く行けばよかったのにね……」

 

もしあの常夏コンビの妨害がなければ設備のグレードアップを狙えたであろう。

 

「ま、これくらいが妥当だろ。俺も正直ここまで行くとは思いもしなかったからな……

だから、そう悲観的になるな」

 

「うん、そうだね」

 

雄二がそう言うなら別にいいけど。

 

また、しばらく卓袱台と座布団にお世話になりそうです。

 

いい加減、まともな設備で教育を受けたいんだけどね。

それは叶わぬ夢かもしれない。

 

「アキちゃんよ、お疲れ様なのじゃ。飲み物を持ってきたぞい」

 

秀吉が清涼飲料水が入った缶を僕に手渡す。

 

「あ、ありがとう秀吉」

 

僕はそれをありがたく受け取る。

 

秀吉はこういう時に気が利くから助かる。

そう思いながら、僕は缶のタブを開けて、口をつける。

 

うっ……この飲み物、炭酸きついなぁ……。

よく見たら強炭酸って書いてあるし……。

 

「……あの、秀吉」

 

「どうしたのじゃ?」

 

「秀吉が持ってる飲み物って何?」

 

「これはオレンジジュースなのじゃ」

 

「そしたら、これと交換してもらえないかな? 今は炭酸を飲む気分じゃないんだ」

 

「いいぞい、それなら交換なのじゃ」

 

僕と秀吉はお互いの飲み物を交換。

 

すると秀吉が受け取った缶を見て、一瞬、困惑した表情になる。

 

「? どうしたの秀吉?」

 

「いや、これはアキちゃんが口をつけたのじゃな……?」

 

恐る恐る聞く秀吉。

 

「そうだけど……もしかして嫌だった?」

 

「そ、そんなことないのじゃ! ありがたくいただくのじゃ!」

 

焦って返した秀吉は、缶に口をつけて一気飲み。

 

秀吉、炭酸をそんな勢いで飲んだら、喉を壊すよ……? 大丈夫?

 

よっぽど喉が渇いていたのかな、秀吉は?

 

 

 

 

side久保

 

 

クラスの打ち上げを抜け出して、今はFクラスに向かう途中。

心境は少し緊張している、といったところだ。

アキちゃんからの返信を貰ってから、今までずっとこうだ。

 

今でもちょっと信じ難いとは思っているけど、

スマートフォンを見ても、やっぱり返信の文字は変わることはない。

 

うーん……こんな僕のためにしてくれなくてもよかったのだが……。

まぁいい……今はアキちゃんの水着姿を見れることに感謝しよう。

 

僕は悶々とした疑問を抱きながら、いつの間にかFクラス前に着いていた。

中からはFクラスも打ち上げをやっているのであろう、騒がしい声が聞こえてくる。

 

うん、いつ見ても自分のクラスとは全然違う。

よくこういった環境で勉強ができるな……と関心しつつ、扉を開ける。

 

開けた瞬間、騒がしい声が一層ボリュームを増して聞こえてくる。

誰も僕には振り向いてくれない。

 

きっと騒がしいのと仲間同士の会話で、気になりもしないんだろう。

 

別にそれはいい。

なんと言っても、僕の目的は――。

 

「あ、久保くん」

 

可愛らしい声と共に、こちらに踏み寄ってくる人物がいる。

 

「吉井くん、学園祭お疲れ様」

 

「そちらこそ、お疲れ様」

 

この学園の彼女にしたいランキングで不動の1位を誇る、アキちゃんだった。

 

制服を羽織って、足元は無防備に露出しており、少し目のやり場に困った。

 

いつ見ても可愛いな……。

 

会話をしている今、更に緊張感が高まる。

 

「ごめん、こんな騒がしい中来ちゃって……迷惑じゃない?」

 

「いやいや、全然いいよ、むしろ来て欲しかったし」

 

にこやかな表情で返してくれるアキちゃん。

 

ん? 今、来て欲しかったって?

 

どういう意味だろう……。

 

「と、とりあえず、着いて来て」

 

アキちゃんは僕の手を引いて、Fクラスの教室の端まで連れて行く。

 

僕とアキちゃんは教室の端っこに2人で座った。

 

「よかったら、飲み物あるけど、飲む?」

 

「あ、ああ、ありがたく頂くよ」

 

「わかった。秀吉、久保くんに飲み物出してあげてくれる?」

 

「久保まで来ておったのか? ほれ、飲み物じゃ」

 

「ありがとう、頂くよ」

 

アキちゃんの隣に座っていた木下くんから飲み物を受け取る。

 

口をつけてみると、中身はオレンジジュースだった。

 

……なんだこれ? これは本当にオレンジジュースなのか……?

 

口をつけた瞬間、オレンジジュース……かと思いきや、変な苦味と酸味が僕の舌を刺激する。

 

もしかして安物? でもいいか、せっかく出してくれたものだし、飲まないという訳にはいかない。

 

「今日のFクラスは大盛況だったね……ところで、どんな衣装だったの?」

 

「そ、それは……こんな衣装だけど……」

 

アキちゃんは羽織っていた制服を脱いだ。

 

少し脱ぎ方がエロくて、ドキッとする。

 

すると、水着姿のアキちゃんが姿を現した。

 

僕を思わず息を呑んだ。

 

アキちゃんの肌を全体的に露出しており、綺麗な身体が目に入ってくる。

海に行った時に見た水着も凄かったが、これはこれで引けを取らないくらいに凄い。

 

わざわざ僕のために見せてくれるとは……アキちゃんと眼福に感謝。

 

「あ、あの……久保くん……そんなに見られたら、恥ずかしいんだけど……///」

 

「ご、ごめん! あまりにも綺麗だったから……」

 

口ではそう言ったものの、目が離せない。

 

むっちりとしたアキちゃんの太もも。

無駄のない脂肪がついた、綺麗な腹部。

腹部に反比例するように、柔らかそうで豊満な胸。

 

これから目を離すことができるのだろうか。

 

「あはは……別に見ていいんだよ、久保くんなら……」

 

アキちゃんは羞恥に身体を捩じらせて顔を赤くしている、その動作はしなを作るようで、色っぽく感じた。

 

いや待て、久保くんなら……? どういうことだ?

 

「ど、どうして僕なら構わないの……?」

 

「その……いつも助けてもらっているから、お礼にと思って……」

 

「お礼? 僕はお礼をしてもらうようなことをした覚えはないけど?」

 

「この前、男の人に絡まれたりした時に助けてくれたから……」

 

この前? ああ、夏休みの時か。

結構前の出来事なのに、よく覚えてるな。

覚えてておかくてもいいというのに。

 

「お礼をするほどのことでもないよ。あんなことお礼をするに値しないから」

 

「そ、そんなことないよ! でも、久保くんは優しいから、あれが当然なのかもしれないね」

 

「そ、そうかな? でも僕はそんな大したこと……ないよ」

 

明るく微笑み掛けてくれたアキちゃんに照れる僕。

 

「それに、昨日も……」

 

昨日? 誤解ではなかったのか……?

 

「昨日のあれは間違いだったんじゃ……?」

 

「それはそうだけど……あれも僕のために怒ってくれてたんだよね……」

 

顔を赤くしながら少し俯いて、口篭ったように見える。

 

どうしたんだろう?

 

「あの時の久保くん……とってもかっこよかった」

 

「え、いや、あれは別に……!」

 

いきなり言われた言葉にドキっとして、自分でもわかるくらい、顔が熱くなる。

 

な、何を動揺しているんだ、僕は!

 

というか、どうしたんだアキちゃんは?

 

なんだか息が荒いし、顔がとっても赤い。

 

「だからね……僕は……久保くんに――」

 

「ッ! 吉井くん!?」

 

アキちゃんが倒れかけたので、素早くアキちゃんの身体を抱き止める。

 

「吉井くん、大丈夫!?」

 

「うー……ん」

 

どうしたんだいきなり? 貧血か?

 

「大丈夫れす……」

 

「あ、吉井君、大丈夫だった……?」

 

ん? 大丈夫れす……?

 

ギュ

 

「――ッ!? よ、吉井くん!? いきなり何を……!」

 

いきなり腕を僕の背中に回して抱きつくアキちゃん。

 

本当にどうしたんだ!?

 

思わず、思考停止。

 

「久保くんはいい匂い~……私はこの匂いがと~っても大好きなんだよ~」

 

僕の頬に自分の頬をすりすりと密着させるアキちゃん。

 

う、うおぉぉぉぉぉ!?

 

思わず、思考再開。

 

「ちょ……! ちょっと、吉井くん!? 本当にどうしたの!?」

 

アキちゃんに抱きつかれて、僕は急激に上がる心拍数を抑える。

理性がいつ吹っ飛んでもおかしくない状況だった。

 

それにしても、アキちゃんはいったいどうしたんだ?

 

一人称が僕から私になっているし、顔が赤くなって、目がトロンとして酔っ払っているような…………。

 

…………酔っ払い?

 

まさかと思った僕は、アキちゃんが飲んでいた飲み物の缶を確認してみる。

 

缶のラベルには『オトナのオレンジジュース』と表示されていた。

しかも、アルコール4%と記載されている。

 

「もしかして、さっきのオレンジジュース……変な味の原因はこれか……」

 

まったく、誰だ? 間違えてお酒を買った人は。

不可抗力とはいえ、未成年飲酒させるとはいい度胸だ。

 

「久保く~ん♡」

 

ってそんなこと考えてる場合じゃなかった。

 

「あの……吉井くん……?」

 

「久保くん……」

 

アキちゃんは顔を僕の頬に近づけて……。

 

ペロッ

 

僕の頬を舐め上げた。

 

うわあああああああああああああああ!?

 

「吉井くん! いいから離れて!」

 

アキちゃんの肩を掴んで、距離を離そうとする。

 

したよね……!?

今完全にしたよね!?

 

完全にキs……いや、舐められただけだし、頬だからセーフ……かな?

 

「……久保くん…………もしかして、私のこと嫌いなの……?」

 

目を潤ませて、泣きそうな顔で僕を見上げる。

 

ぐぅ……可愛い……。

 

こんな状況でさえも、興奮してしまう。

 

「そ、そんなことない! 僕が吉井くんを嫌うはずないじゃないか!」

 

「本当に?///」

 

「嘘じゃない、本当」

 

もちろんこれはその場しのぎの嘘ではなく、本心だ。

 

「なら、よかった」

 

安心した表情で、再びアキちゃんは僕に抱きつく。

 

って、おおおい!?

 

「よ、吉井くん……?」

 

「久保く~ん♡」(スリスリ)

 

「…………はぁ……仕方ない」

 

すぐに酔いは覚めると思うし、それまでこうしておこう。

 

ギュ、ギュ♡

 

うわぁあ!?

 

まずい、これは本当にまずい!

この感触は危険だ!

 

ただでさえ、抱きつかれるだけでもまずい状況なのに、水着という裸に近い格好で抱きつかれたら、たまったものじゃない。

 

吉井くんの身体、柔らかい……。

 

ふにふにと大きな胸を押し付けられる。

 

制服越しでも分かる柔らかさ。

その柔らかさは、学園祭で溜まった疲労を癒してくれるくらいの柔らかさで、下を見ると僕の身体に密着して、それに合わせるようにグニャリと形を変えている。

 

こんな状況下で理性を保っている自分がすごいと思う。

 

「なかなか覚める気配がないな……下手したら2日酔いだってありえるし……」

 

「久保くん……こんな所にいたのね」

 

後ろから聞きなれた声がしたので振り返ると、

 

「き、木下さん? どうしてここに?」

 

クラスメイトの木下さんが立っていた。

 

どうしてここにいるんだ?

 

「打ち上げに参加してないから心配になって探したのよ……まさか、ここにいるなんて思わなかったわ」

 

「ああ、それはすまない。心配を掛けてしまって……」

 

「それは別にいいわよ。ところで何やってるの? 吉井くんとイチャイチャして……」

 

木下さんが恨みがましそうな声と表情で聞いてくる。

 

「あ、その……これは話すと長くなるんだけど……」

 

僕は木下さんにこれまでの経緯を説明した。

 

 

 

 

「……という訳なんだ」

 

「お酒とジュースを間違えるなんて……このクラスはお酒とジュースの区別がつかないほど、馬鹿なの……?」

 

「どうだろう? 沢山あったし、ラベルもジュースっぽかったし、何かの拍子に紛れたんじゃないのかな?」

 

「それもそうね……それで、吉井くんは大丈夫なの?」

 

心配そうに木下さんは尋ねる。

 

「大丈夫だと思うよ……? どれだけ飲んだかはわからないけど」

 

「吉井くん、大丈夫?」

 

木下さんは吉井くんに顔を近づけて、様子を見た。

 

「ん……んぅ」

 

アキちゃんは木下さんの言葉に反応した。

そこまで重症ではなく、大丈夫みたいだ。

 

「ん……お姉ちゃん(・・・・・)?」

 

「「え……?」」

 

突然、アキちゃんから出た言葉に、僕と木下さんは目が点になった。

 

「今、なんて言ったの……?」

 

やや、歓喜のような表情で尋ねる木下さん。

 

「お姉ちゃん……」

 

そう言って、次は木下さんにギュっと抱きついた。

 

「!!///」

 

木下さんは顔をプルプルさせて、

 

「そうよ! 私がお姉ちゃんよ!」

 

抱き返した。

 

「って、木下さん!? 何を言ってるんだ君は!?」

 

言動がいつもの木下さんじゃなくなっている。

それに顔も正気じゃない。

 

何があったというんだ!? 木下さん!

 

「アタシはこんな妹が欲しかったの! もうこの子はお持ち帰りするしかないわ!」

 

「お、落ち着いて木下さん! ここは冷静になって……!」

 

急に変貌した木下さんを止めるのに、5分ほどの時間を要した。

 

「……はッ! つい、我を忘れていたわ……ごめんね、久保くん」

 

「正気を取り戻してくれて何よりだよ……」

 

やっといつもの木下さんに戻ってくれた。

 

さっきのはいったい、なんだったんだ……。

 

「本当に酔っているのね……いきなりアタシをお姉ちゃん呼ばわりするなんてね」

 

「かなり酔ってるみたいだね。一見、そこまでないように見えるけど」

 

頭の中は混乱してるみたいだ……。

一人称どころか、二人称まで崩壊してる。

 

こんなとこに置いてはおけないし、早く連れて帰らないと。

 

「木下さん、ここは僕に任せて。吉井くんは僕が連れて帰るよ」

 

「あら、いいの? ここはアタシがやってあげるけど……?」

 

「まだ打ち上げがあるだろう? 僕は不参加でいいから、任せて」

 

「そう……なら任せるけど……」

 

木下さんは顔をズイっと近づけて来た。

 

「な、なんだい?」

 

「いい? アタシにとって久保くんはとても紳士で信頼できる人だとは思っているわ」

 

「そ、それは……あ、ありがとう。褒め言葉として受け取っておく……」

 

「でもね、これだけは言わせてちょうだい。アキちゃんはとっても可愛いの。

このアタシの妹にしたいくらい……」

 

そ、そんな風に思ってたんだ……アキちゃんのこと。

 

さっきの原因はこれだったのか。

 

「でもね、何があっても、オオカミ(・・・・)になってはダメよ」

 

「…………胆に銘じておきます」

 

「よろしい」

 

木下さんは忠告した後、Aクラスに戻っていった。

 

「……さて、帰るか……吉井くん、立てるかい?」

 

「すぅ……すぅ……」

 

「吉井くん……」

 

どうやら寝てしまったみたいだ。

 

とことんお酒に弱いんだな……。

 

困ったな……どうしようか……。

どうしてこんなことに……。

 

衣装を見せてくれると聞いて、やって来ればこの有様……。

誰も予想ができないシチュエーション……。

 

……そうだ、僕の家に連れて帰るか。

 

親からどう言われるかは分からないけど、事情を説明したらきっと分かってくれるだろう。

 

誤解されないか心配だけど……。

 

えーと、アキちゃんの鞄は……これか。

ちょうど近くにあってよかった。

 

僕はアキちゃんを抱きかかえて、アキちゃんの鞄を肩に下げる。

 

自分の鞄は……置いて帰っていいか。

どうせ明日は学園祭後の行事等で授業があまりない日だ。

 

僕はアキちゃんを抱きかかえながら、こっそりとFクラスを出た。




初めて久保君side書いたから心配しかない……。
ただでさえ文章のクオリティ低いのに、慣れない事をすると
更に駄文化が進みそうで怖い……。

感想と誤字脱字報告よろしくお願いします。

この後の話は番外編か本編にするかで迷っている……(´・ω・ `)


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64話 学園祭後の帰り道

これは番外編で書こうと思ったんですけど、やっぱり本編にしました。
今回も駄文にならないか心配……。(´・ω・`)


side久保

 

 

学校の校門を出て帰路に就いた頃だった。

 

いつもとは違う帰り道。

学園祭後だから多少は帰り道に変化はあるかもしれないが、今回は訳が違う。

 

なぜなら僕は今、アキちゃんを背負っている。

しかも水着姿の。

 

校門を出た今でも酔った状態が続いて寝てしまっている。

しばらくしない限り、起きることはないであろう。

 

ふにゅ♡

 

ぐッ……相変わらず背中に柔らかい感触が…………。

 

いかんいかん、我を忘れては。

 

背負った時からの話だが、アキちゃんの胸が背中に当たって理性が保てそうにない。

アキちゃんが酔った当時に柔らかさを知ったのだが、この柔らかさは本当に反則だ。

 

公衆の面前でアキちゃんの水着姿を晒す訳にはいかないので、制服を羽織わせている。

しかし、どうしても前はカバーできないので、水着越しのアキちゃんの胸の感触をどうしても背中に感じてしまう。

 

更には寝顔が可愛くて理性が今にも崩壊しそうだが、守るべき存在であるアキちゃんを襲うなどという、蛮行を行うのは自分の本心が許さないので、ここはなんとか堪えなければならない。

 

という風にかなりハードな帰り道です……。

 

吉井くんの家まで送ろうと考えてはいるが、いかんせん眠っているものなので、僕の家に連れて行こうとしている。

 

…………にしても通行人が多いな。

この時間帯はあんまりいないはずなんだけど……。

 

周りを見回してみれば、いつもより通行人が多かった。

 

学園祭に来ていた一般人の方々だろう。

ここら辺をうろつく人もいる人もいるんだろうな。

 

「なぁ、あの子、学園祭でFクラスで接客やってた子じゃね?」

 

「うおっ、マジだ……寝顔可愛い」

 

「誰だ、あのメガネかけた奴? 彼氏か?」

 

「彼氏かな? だとしたら羨ましいわ~殺したいほどに」

 

「彼氏持ちかよ……マジで●●して、●んでほしい……!」

 

周囲の視線が痛い……。

 

僕の周りにいる通行人の目線が集まる。

自分とアキちゃんの周りがざわつく。

 

特に男性からの目線が…………いや、よく見たら女性も結構いる。

 

だが、それはそうであろう。

 

そこら辺を歩くだけで、注目の的になるほどの可愛さを持つアキちゃん。

そんな子を僕みたいなのが背負っていれば尚更だ。

 

注目されるのは予想通りだけど……視線が痛くてたまったものじゃない。

 

「ねぇ、あの子の姿よく見たら水着じゃない?」

 

「あーほんとだー、学園祭で仕事してた時と同じやつだー」

 

…………え? 何で分かったの……!?

 

近くを通りかかった女性2人組みから耳を疑う声が。

 

焦って後ろを振り向くと、アキちゃんが羽織っていた制服が片方の肩から外れていた。

そこまでしか目視できないが、きっと後ろは半分くらいは見えているだろう。

 

ということはアキちゃんの着ているものが水着とばれる上に、アキちゃんの水着姿を公衆の面前で晒していることに……!!

 

道理でさっきから周りがざわついていた訳だ。

 

ま、まずい! 悠長なこと考えてないで、一刻も早くここから出ないと!

 

そう思った瞬間、僕は歩くペースを速めて、逃げるようにその場を去っていく。

 

 

 

 

「ふぅー……ここまでくればもう大丈夫……」

 

無意識に早歩きしていたら、いつの間にか自分の家の前まで来ていた。

帰り道だというのに、我ながら長い道のりだったと思う。

 

そんなことはよしとして、今から家に入るのだが、こんな姿を見て親は何と言うだろうな……。

 

少しの間、自分の家にアキちゃんを置いておきたいところだが、親がね……。

 

水着姿の美少女を背負って帰ってくる息子を見た時の反応なんて予想できるか?

いや、普通に考えてできない。

 

確か今は弟の良光と母さんがいるはずだから……。

事情を話せばわかってくれるよね……?

 

家の玄関のドアを開ける。

 

これだけの行為に、胸が緊張で締め付けられる

 

「た、ただいま」

 

「あ、兄さん、お帰……り……?」

 

玄関に入ると、僕の弟である良光がいた。

 

良光は僕の姿を見て、表情からは驚きを隠せていない。

当然のことだが。

 

「に、兄さん……その子、誰?」

 

「実は話すと長くなるんだけど……」

 

まずは事情を話さなければ誤解されかねない。

良光から先に事情を話しておこうとしたのだが、

 

「おかえりなさい、利光…………だ、誰なの、その子……?」

 

ああ、タイミング悪く母さんに見つかってしまった……。

 

「あ~もう……仕方ない……」

 

僕は良光と母さんにこれまでの経緯と事情を話した。

 

 

 

 

「……という訳で、今に至っているんだ」

 

「なんだ、そういうことか……」

 

納得の表情を浮かべる良光。

 

「よかった、てっきり誘拐してきたのかと……」

 

母さん、それは息子を信用してなさすぎ。

 

「それで母さん、少しの間置いておけないかな?」

 

「そうね……まぁ別に困ることじゃないし、いいわよ」

 

よかった、お人よしな母さんに感謝。

 

「にしても、こんなに可愛い子が利光と関わりがあるなんてね……」

 

母さん……それはどういう意味で言っているんだ?

まぁ確かに否定はできないが……。

 

「いつも兄さん、この子のこと話すからね……確かに言われた以上に可愛い」

 

アキちゃんを眺めながら良光。

 

家族には前からアキちゃんのことを無意識に話していた。

 

元男だったことはまだ教えてないけど。

 

「思ったんだけど、この子とはどういう関係なの?」

 

母さんが唐突に変な質問を僕に投げかける。

 

「どういうって……気軽に話せる仲というか、友達かな……?」

 

「なんで疑問系になるのよ……」

 

いきなりそんなこと言われても……返答に困るよ。

 

「も、もしかして兄さんの彼女?」

 

良光が突然、興味津々な表情と共に予想外の質問を聞いてきた。

 

「そ、そんな訳ない! ぼ、僕が吉井くんなんかと……」

 

そんな夢のような関係は存在しません。

自分で言ってて悲しくなるけど。

 

「でもいいんじゃない~? 頑張って付き合いなさいよ。

ガリ勉のアンタにはいい相手になるんじゃない?」

 

「母さんまで……」

 

別に僕は勉強だけしてきた訳じゃないけど……。

 

というか、何でいきなりこんな話になったんだ?

 

「ぅん……あれ……久保くん……」

 

「あ、吉井くん!? 目が覚めた?」

 

母さんと良光に質問攻めを喰らっていたら、アキちゃんが目覚めた。

 

酔いが回ってないといいけど……。

 

「ここは……どこ?」

 

「僕の家だよ。吉井くんが酔って眠ってしまったから、ここまで運んできたんだよ」

 

「え!? そ、そうなの? ご、ごめん……迷惑掛けちゃって」

 

もしかして覚えてないのかな……?

 

「いや、別に気にしなくていいよ。仕方ないことだし……」

 

元凶はお酒を買ったFクラスの誰かだ。

アキちゃんは悪くない。

 

「あら、起きたの? よかったわね」

 

「よかったね、兄さん」

 

「?」

 

アキちゃんは僕の母さんと弟の吉光を見て思考顔になる。

 

そういえば、アキちゃんはこの2人とは初対面だったことを忘れてた。

 

「吉井くん、この2人は僕の母さんと弟だよ」

 

「初めまして、利光のお母さんの久保利美よ」

 

「同じく弟の良光です」

 

2人はアキちゃんに軽い自己紹介をする。

 

「あ、こちらこそ、吉井アキです……ご迷惑を掛けてすみません」

 

「いいのよ、こんな可愛い子が我が家に来てくれるなんて大歓迎よ」

 

「わわッ!?」

 

母さんはそう言って、アキちゃんに抱きついた。

 

もしかして家に上げた理由はこれなんじゃ……?

 

「ねぇ、吉井さん、あなたと利光はどういう関係なの?」

 

「え、久保くんと……?」

 

「か、母さん! なんてこと聞いているんだ!?」

 

まったく、たまにデリカシーがなくなるんだよな、母さんは……。

そこが難点というか、面倒なところ。

 

「ええっと……私と久保くんの関係は……」

 

「吉井くん! 別に無理して考えなくていいから!」

 

顔が赤くなりながら、必死に答えようとしている吉井くんを落ち着かせる。

 

落ち着いてないのは僕の方だけれど……。

 

「兄さん、母さん、そろそろ帰らせたほうがいいんじゃない?

外は暗くなってきたし……」

 

「あ、いつの間に……」

 

良光に言われて、窓に目を向けると、既に薄暗くなっていた。

 

「大丈夫なんですか? こんなに暗くなって帰るのは危ないと思いますけど……?」

 

良光が心配そうにアキちゃんに尋ねる。

 

「だ、大丈夫です! 心配しなくても」

 

本人は気にしてないみたいだが、

 

「そんなこと言われても……吉井さんみたいな子は夜道を歩いてると、いろいろ危険よ?」

 

「そうですよ、少し警戒した方がいいですよ」

 

母さんと良光は心配なご様子。

 

「そしたら、僕が送るよ。ここに運んできたのは僕だし」

 

自分も心配なので、アキちゃんを送り届けようと思う。

 

「え……別に心配しなくていよ! これ以上迷惑掛けたくないし……」

 

「迷惑なんかじゃない。僕は吉井くんが心配なんだ、だから遠慮しないで」

 

「それじゃあ……お言葉に甘えて……ごめんね、今日はいろいろと……」

 

アキちゃんは申し訳なさそうにしている。

 

とりあえず、完全に暗くなる前に送り届けなければ。

 

「それじゃ、母さん。ちょっと吉井君を送り届けてくるよ」

 

「気をつけてね、いってらっしゃい」

 

母さんから送り届けると言い、僕は送りにいこうとした。

 

「ちょ、ちょっと久保くん……着替えは?」

 

しまった、水着姿でいたことを忘れてた。

 

「そうだった。はい、これ」

 

僕はアキちゃんの着替えを渡す。

 

「あ、僕の荷物持って帰ってきてくれたんだね。ありがとう」

 

アキちゃんは急いでいるのか水着を着たまま、上に制服を着る。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

玄関のドアに手を掛ける。

 

「おじゃましました、そしてお世話になりました」

 

ペコリと頭を下げるアキちゃん。

 

僕とアキちゃんは久保家を後にした。

 

 

 

 

~帰り道~

 

「ごめんね……今日はいろいろ世話焼かせちゃって……」

 

「謝らなくていいよ、そういえば、Fクラスの打ち上げの時、覚えてる?」

 

記憶がないと言っていたが、どこまで覚えているのか気になる。

 

「う~ん……覚えてない……何かあったの?」

 

「え……いや、特に何も……」

 

言わぬが仏。

 

あんなことされたとは言い難い。

アキちゃんは何も覚えてない状態だし、言っても信じないだろうし……。

 

「そっかー……(本当はちょっとだけ覚えてるんだけど……)」

 

「どうかしたのかい?」

 

「ううん、何でもない」

 

首を横に振って、ふふっと笑うアキちゃん。

 

いちいち反応が可愛いなぁ、もう。

 

「そういえば、ちょっと久しぶりかも」

 

「ん? 何がだい?」

 

「久保君と一緒にいること、最近全然会ってなかったよね……」

 

「ああ、確かに……少なくとも数週間くらいは会ってなかっね」

 

考えてみれば、今日会うまで、アキちゃんと全然会っていなかった。

学園祭準備とかで忙しかったから仕方ないけど……。

 

期間はそこまで長い訳ではないが、ここまで会わなかったのは今回が初めてだ。

メールとかで連絡を取り合ったりはしてたけど、それでは会っていないことに変わりはない。

 

「だから、今日久保くんに会えて、ちょっと嬉しいんだ」

 

「え? どうして?」

 

「ずっと前から、たまに思うことがあるんだ……」

 

「……うん」

 

何か悩みでもあるのだろうか?

 

アキちゃんの表情を見る限り、深刻そうな気がする。

 

「何の用もないし、会う必要もないのに……『会いたい』って思うことがあるんだ……」

 

「…………うん」

 

「これって、おかしいことかな……?」

 

不安そうな表情で、僕に答えを求めるアキちゃん。

 

正直、返答に困った。

 

なんと答えてあげるべきか、どういう返し方をすればいいか……。

しばらく悩んだ……。

 

「……友達としての『会いたい』じゃないかな?」

 

「……え?」

 

「僕もたまにだけど、友達に会いたいって思うことがあるんだ……。

友達って、いつでも会いたいと思う存在でもあるでしょ?

よく分からないけど、そういうことじゃないかな?」

 

まともな返し方ができない自分が情けなく感じるけど、僕に言えるのはこれくらいだ。

 

「……そうかもね、うん」

 

僕の返答を聞いて、少し納得したアキちゃん。

 

「ごめん。僕はこれくらいのことしか言えない。参考にならなければ、忘れて欲しい」

 

「いや、久保くんが言っていることは多分、合っている思うよ。ごめんね、急にこんなこと聞いちゃって」

 

気を取り直したのか、さっきの表情とは一転して、いつもの明るい表情に戻るアキちゃん。

 

「そうかい、役に立てて何よりだよ」

 

「ありがとう久保くん……あ、もう僕の家の前だ」

 

ちょうど話が終わるタイミングで、アキちゃんの住むマンションに着いていた。

 

「今日はいろいろとありがとう。そして、いろいろと……ごめんね」

 

「いや、いいんだ別に……僕も吉井くんと2人になれて嬉しかったよ」

 

「……ありがとう///」

 

ん? どうした?

2度もお礼は言わなくてもいいけど?

 

「それじゃあ、またね、吉井くん」

 

「うん、またね……」

 

別れの言葉を交わし、背を向けて帰宅しようとした時、

 

「ちょっと待って……!」

 

背後から、僕を呼び止めるアキちゃんの声が。

 

「どうしたの?」

 

アキちゃんの声が耳に入った瞬間、立ち止まる。

 

「あのね……」

 

アキちゃんは俯いて僕に踏み寄って来る。

 

どうしたんだろう? まだ、用があるのかな?

 

「どうしたの――」

 

僕はアキちゃんにどうしたのか聞きたかったが、できなかった。

 

アキちゃんが僕に抱きついてきたからだ。

 

「……!? よ、吉井くん……?」

 

どうしたんだ……!?

もう酔いはとっくに覚めたはずなのに!?

 

「……少し、このままでいてくれないかな…………」

 

小さくて、震えた声で言うアキちゃん。

 

「……うん」

 

僕は反射的に答えた。

 

今、ここで断ったらいけない……そんな気がしたからだ。

 

しばらくこんな状態が続き、

 

「もう大丈夫だよ……」

 

そう言ってアキちゃんは抱きついていた腕を緩めて、放す。

 

「あの……吉井くん……?」

 

僕はどうしたのか聞こうとしたが、

 

「それじゃ、今日はありがとうね」

 

アキちゃんは明るく微笑んだ後、すぐにその場を去った。

 

「…………」

 

あれはいったい、どういうことだったんだろう……。

 

僕は頭が混乱して、しばらくその場に佇んでいた。

 

 

 

 

sideアキ

 

 

逃げるようにその場を去って、全力で自分の部屋まで駆けた。

 

部屋に着いた時、僕は学園祭での疲労と、走って疲れたせいなのか、着替えるのも煩わしく、制服のままベットに横たわる。

 

「…………寂しかっただなんて言えないよ」

 

僕はポツリとつぶやいて、悶々としながら眠りについた。




久保くんの家族って原作じゃ全然登場しませんよね~。
あ、久保君の親はオリキャラということで認識しておいてください。

感想と誤字脱字報告よろしくお願いします。


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65話 翌朝の出来事

夏休み気分も吹っ切れた今がチャンス!(`・ω・´)
と思い、勢いで書いてしまった……。



sideアキ

 

 

「おはようございます、アキちゃん」

 

「佐藤さん、おはよう」

 

翌朝、いつも通り佐藤さんと登校途中で出会った。

 

「学園祭どうでしたか? Fクラスはとても繁盛したと聞いたのですが」

 

「うん、とっても忙しかったよ。おかげでクタクタだったけどね……ホール役をやらされて、1日目はチャイナ服着させられて、2日目は水着で接客させられたりで、もう大変だったよ……」

 

疲れたり、恥ずかしいやらで、昨日と一昨日はあんまり思い出したくない学園祭であった。

 

もちろん楽しかった時もあったけどね。

 

「チャイナ服と水着で接客したんですか!? 行けばよかったのに……」

 

「そういえば学園祭で佐藤さんと1度も会ってないね。忙しかったの?」

 

「はい、厨房係だったので……そこまで休んだ覚えはないですね」

 

「そうなんだ……」

 

視察に行った時、あれだけ常に多くの客がいたから、忙しいに決まってるか……。

 

「チャイナ服と水着姿のアキちゃん……見れなかったのが残念です……」

 

肩を落として、しょぼーんと落ち込む佐藤さん。

 

なぜこんなにも残念そうにしているのだろうか。

 

「朝から落ち込まないでよ。そんなに見たいなら、今度見せてあげるから」

 

「本当ですか!?」

 

僕がフォローを入れると、落ち込んでいたはずの佐藤さんは一瞬でパァっと明るくなった。

 

「う、うん、あんまり過激なものとかは控えて欲しいけど……」

 

「わかりました、約束ですよ? アキちゃん」

 

こうして僕と佐藤さんの約束事ができた。

考えてみるとコスプレする機会が日に日に増えている気がする。

 

そんな状況が僕にとっては複雑な気分だった……。

 

「……雄二」

 

「何だ?」

 

「……この前の話、覚えてる?」(※原作小説2巻の5~6ページを参照)

 

「この前? もしかして『如月ハイランド』のことか?」

 

「……そう」

 

「それがどうかしたのか? まさかプレオープンチケットが手に入ったとか……」

 

「……正解、約束通り私と今度行く」

 

「な、どうやって手に入れたんだ!?」

 

「……召喚大会で優勝して手に入れた、優勝景品がこれ」

 

「召喚大会の優勝者ってお前だったんだな……道理で姫路と島田が負ける訳だ」

 

「……そんなことより、今度私と行ってくれる?」

 

「あ~……あの話は気の迷いでなかったことに……」

 

「……最近、格闘技を覚えた」

 

「ぐおぉぉぉっ! 絞め技はやめろぉ……!」

 

「……行ってくれる?」

 

「うぅ……俺はお前とダラダラ遊ぶほど暇じゃないんだよ」

 

「……それなら、約束を破った罰として、この婚姻届に判を押す?」

 

「そ、それは……!」

 

「……行ってくれる?」

 

「…………はい」

 

どこからか、仲のよさそうなカップルみたいな会話が聞こえると思えば、霧島さんと雄二じゃないか。

 

朝から仲がよいことで……。

 

雄二と霧島さんのやり取りに耳を傾けながら、佐藤さんと登校する。

 

 

 

 

~学校~

 

「それじゃあ、またね、佐藤さん」

 

「はい。約束、ちゃんと覚えててくださいよ?」

 

「……覚えておくよ、じゃあね」

 

昇降口付近で、僕と佐藤さんはそれぞれのクラスへ向かう。

 

「さてと……今日は学園祭後でいろいろあるから、頑張らないと」

 

教室へと歩き出したその時、

 

「あの……吉井くん」

 

聞き慣れた声がしたので、声のした方向に目を向ける。

 

「あ、久保くん……おはよう」

 

「おはよう、吉井くん」

 

久保くんがそこにいた。

 

朝から会うことはあまりないので珍しい。

 

「昨日は大丈夫だった? いろいろあったけど……よく眠れた?」

 

「え? あ、うん、おかげさまで……昨日はありがとう」

 

あまり記憶にはないが、迷惑ばかりかけていたのは覚えている。

 

「いや、お礼は昨日貰ったから、もういいさ……それより、聞きたいことがあるんだ」

 

「聞きたいこと?」

 

「吉井くんを家まで送り届けた後なんだけど……あれは、どういうつもりだったのかな……?」

 

「え…………?」

 

久保くんから聞かれた質問に言葉が詰まってしまった。

 

そうだった、どうしよう……。

あれって、つまり……昨日の僕があまりにも寂しかったから、思わず久保くんに抱きついちゃって……うぅ……思い出したら恥ずかしい……。

 

思い出すと、こうして自然とあいさつを交わすことさえおかしい状況だ。

いつも通りに接してしまったことを軽く後悔。

 

…………正直に寂しかったって話したほうがいいかな?

でも、話してしまったら…………。

 

「あの吉井くん? 大丈夫?」

 

こちらの顔を覗き込んでくる久保くん。

 

きっと表情に出てしまっていたかもしれない。

 

「だ、大丈夫だから! うん、大丈夫」

 

「…………?」

 

焦って、変な言葉を返してしまい、久保くんは何か気になった様子でこちらを見つめてくる。

 

「そ、そうかい……あ、話を戻すけど昨日の――」

 

「貴様ら何をしている。遅刻する前にさっさと教室に向かえ」

 

横から、久保くんの言葉を遮るように、西村先生が怒鳴った。

 

もうそんな時間になっていたの?

今日は時間が経つのが早いな。

 

「は、はい。直ちに」

 

久保くんは小走りでその場を去った。

 

「吉井もさっさと行かんか。朝から補習室送りにされたいか?」

 

「い、いえ、それでは!」

 

僕もその場を去り、教室に向かった。

 

…………結局、何も言えなかった。

 

西村先生があの場に来なかったら、僕はなんて答えただろう。

そして久保くんはなんて言うのだろう。

 

複雑な気持ちと感情で、胸が締め付けられるような感覚に陥りながら、学園祭翌日の朝を迎えた。




感想と誤字脱字報告よろしくお願いします。


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66話 週明けの出来事

久々に2日連続投稿できた!(*^ω^*)

今回も短いですが、少しでもお楽しみいただければ幸いです。


sideアキ

 

 

週明けの学校にて。

 

「おはよう、雄二」

 

「おう……明久……か」

 

「……どうしたの? 何かあったの?」

 

教室に入って目にしたのはぐったりと卓袱台に突っ伏している雄二だった。

 

週明けだというのに、いったい何があったのやら……。

 

「いや、特に何もない…………」

 

うん、絶対何かあったよ、これは。

 

「顔色でバレバレだよ……朝から何があったの?」

 

「……週末、翔子に振り回されたんだよ……おかげで身も心もズタズタだ……」

 

「あ~……それは、なんと言うか……ご愁傷様です」

 

多分、この前の朝の会話のことだろう。

 

雄二もさぞかし彼女をエスコートするのに苦労しているのであろう。

 

「で、でも、僕の方も大変だったよ、佐藤さんのためにコスプレしたりで……」

 

こんなことをしても意味はないと思うが、軽いフォローを入れておく。

 

「そんなことかよ…………それはたいしたことじゃねーだろ」

 

「むぅ……なんだよその言い方……僕は僕で苦労してるんだからね」

 

人の苦労を貶すとは……普段僕がどれだけ恥を忍んでやっているのか、わかっているのか?

 

「コスプレなんて、お前の日課だろ? そんなことに苦労もクソもないだろ」

 

「し、失礼な! 僕も好き好んでやってる訳じゃないのに……!」

 

僕は雄二の放った一言に顔を真っ赤にさせて、反論する。

 

日課って、雄二は僕が意図的にコスプレをやっているとでも言いたいのか?

 

「とにかく、俺はお前より毎日が多忙であることは頭に入れておけ」

 

「お互い様で苦労してるってことじゃない?」

 

「俺が翔子に振り回されることと、お前の仮装事情を一緒にするなよ……ところで、お前に渡しておきたい物があるんだが……」

 

「ん? 渡したい物?」

 

ポケットを漁りだしたけど、いきなり僕に何を渡すつもりだろう?

 

「今話題の恋愛映画のペアチケットだ。気になる相手がいれば一緒に行くといい」

 

雄二は僕にペアチケットを強引に押し付ける。

 

「ペアチケット? そんなものを貰っても、一緒に行く相手なんて……」

 

「ま、少しでも気になっている相手がいるなら一緒に行くことをおすすめするぜ。

いらなかったのなら換金するなり、好きにしろ」

 

「う、うん……」

 

僕は強引に押し付けられたので拒否できず、結局イヤイヤながら受け取って、自分の席に着いた。

 

雄二め……こういうのは霧島さんを誘うために自分が使うべきではないか?

 

「アキちゃん、おはようございます」

 

「おはよう、姫路さん」

 

席に着くと、横から姫路さんが声を掛けて来た。

 

「そういえば、どうするんですか? そのペアチケット?」

 

唐突に聞いてくる姫路さん。

 

僕と雄二の話を聞いていたのかな?

 

「え~と……行く相手はいないし……このまま換金しようかと」

 

「でも、そのチケット、換金できませんよ?」

 

「え? なんで?」

 

「チケットの詳細に換金できないって書いてあるじゃないですか」

 

チケットの詳細を読むと、『換金及び返品はできません』と記載されていた。

 

「本当だ……困ったな~……これ使わないと貰った意味ないじゃないか」

 

いらなかったとはいえ、使わなければ、もったいない気がする。

 

ただ、問題は相手がいないことだ。

相手がいない限り、このペアチケットの消費方法がないので、困る結果に。

 

「アキちゃんは気になる相手とかいないんですか?」

 

「今のところは特に……」

 

気になる相手は……って、僕が女の子ってことは気になる相手は男ってことになるな。

そういったことに関しては、あんまり意識したことないからな……。

 

適当に相手を見つけようかと思うが、あんまり親しくない人と2人で恋愛映画を見に行くのもどうかと思うし……。

 

こうなったら……男子じゃない人を誘うしか……!

 

「それなら、姫路さん! よかったら一緒に……!」

 

「ごめんなさい。お誘いは嬉しいのですが、その映画、もう見ちゃったんです……」

 

ええ!? 姫路さんもう見ちゃってたの!?

なんてこった、これじゃ八方塞がりじゃないか……。

 

「ああ、どうしたらいいんだ……使おうにも使えない……」

 

「時間はまだありますし、少しの間考えてみてはどうでしょうか?」

 

チケットを持ちながら慌てている僕を姫路さんが落ち着かせるように宥める。

 

「うん……そうするよ……」

 

僕はため息をついて、しばらく一緒に行く相手を考えることにした。

 

「気になる相手ねぇ……」

 

ペアチケットを見つめながら、僕は独り言をつぶやいていた。




ちょっとデートネタでも考えてみました。

ちょっとといいつつ、結構でかいイベントなんですけど


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67話 デートに行く!?

お久しぶりです!
投稿遅くなり申し訳ないです!

今回からはアキちゃんがデートする話になります。
重大イベントなので、駄文にならぬよう頑張ります!
お楽しみいただければこれ以上にないほどの幸いです。


sideアキ

 

 

帰りのホームルームが終わり、放課後に突入した時のこと。

 

「あ、あの……久保くん」

 

Aクラスの教室前で、久保くんを見つけたので声を掛けた。

 

「ん? ああ、吉井くんじゃないか。どうしたんだい?」

 

僕の声が耳に入った久保くんはこちらに振り返る。

 

「あのね……ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

「もちろん、僕にできることがあるなら引き受けるけど……どうしたの?」

 

「ええっと……ここじゃ頼み辛いから、場所を移してからでいいかな?」

 

「ああ、わかった。それなら場所を変えよう」

 

どうしても人目に付くAクラスの教室前では言えないので、

僕と久保君は体育館裏に場所を移した。

 

 

 

 

~体育館裏~

 

 

「それで、こんな所まで来て、僕に何を頼みたいのかな?」

 

不思議そうな顔で聞いてくる久保くん。

 

「あの……今度の週末とか空いている?」

 

「週末?」

 

いきなりどうしたんだ? と今にも言い出しそうな表情の久保くん。

 

「うん、何か用事とか予定とかない?」

 

「いや……特に用事がある訳じゃないし、何をしようかも考えてないよ」

 

「そ、そうなんだ」

 

何も用事や予定がないと聞いてホッとする。

 

「ところで、僕の週末なんか聞いてどうするつもりなのかな?」

 

「実はね……」

 

恥ずかしいけど、こんなこと頼めるのは久保くんしかいないから……。

 

「よかったら、今度の週末……2人で映画見に行かない?」

 

「…………今、何て言ったの?」

 

一瞬、驚いた表情を浮かべた久保くんだが、すぐに冷静になり、聞き返す。

 

「今度の週末、僕と2人で映画見に行かない? ペアチケットを雄二から貰ったんだけど、

一緒に行く相手がいないから、久保くんにお願いしようと……」

 

僕は制服のポケットからチケットを取り出して、久保くんに渡す。

 

チケットを手にした久保くんは、また驚いた表情。

 

「……本当に? 僕なんかと?」

 

「う、うん…………ダメだった?」

 

久保くんの返答を聞いて不安になる。

 

「も、もちろんいいさ! まさか、こんなこと頼まれるとは思わなかったから」

 

「ほ、本当に……? よかった……」

 

久保くんが喜んで承諾してくれたことに、安心する。

 

「それじゃあ、もし何かあったら連絡するから。よろしくね」

 

「ああ、そうするよ……わざわざお誘いありがとう」

 

久保くんはお礼を言って、猛ダッシュで帰って行った。

 

嬉しそうにしてたけど、よっぽど見たかった映画なのかな?

 

とりあえず、久保くんも快く受け入れてくれたし、チケットも無駄にならずに済むから、一件落着ということにしよう。

 

 

 

 

「…………あ、そういえば服どうしよう」

 

帰宅してハッとした。

 

今更気付いたのだが、僕には服がなかった。

もちろん今持っている私服で行ってもいいのだが、久保くんと2人で行くのに、今持っている私服で行くのは少し気が引けるというか……あまり相応しい服装ではなさそうだ。

 

どうしよう……何着ていけばいいかわからないし……。

 

十分の持っている服を片っ端から確認するも、どれも微妙だ。

 

「……こうなったら、プロに頼もう」

 

僕はスマートフォンを取り出して、電話を掛けた。

相手は姫路さんだ。

 

 

 

 

side久保

 

 

家に着いて、自分の部屋の椅子に座って一息つく。

 

「……まさか、こんなことになるとは…………」

 

アキちゃんから貰ったペアチケットを見つめながら呟いた。

 

いきなり頼まれて、すぐに了承したが、よく考えてみればすごいことだ。

 

なにせ、文月学園で一番の美少女&みんなの憧れ的存在であるアキちゃんと……で、デート……。

 

いや、これはデートかな?

……うん、はっきり言えばデートだな。

 

あのアキちゃんとデートすることになったのだ。

 

しかも、見る映画はなんと恋愛映画だ。

 

すごくないか……?

 

でも、どうしてアキちゃんは僕なんかを誘ったのだろう?

他にも誘う相手がいるのではないか?

 

アキちゃんが所属しているのはFクラスで、男も沢山いるから、僕以外の人を誘ってもおかしくない気がする。

 

もしかして、僕はアキちゃんにこんなことを頼まれるほど信頼されているのだろうか?

 

確かに僕は普通の文月学園の男子生徒よりは一緒にいることも、会話することも多いし、一緒に帰ったり、夏休みを共に過ごしたこともあるし、メールアドレスだって交換している。

 

だから誘われる可能性は低くない……?

けど、アキちゃんが僕をそこまで信頼してるはずはないし……。

う~ん、いまいちわからないな……アキちゃんはどう思っているんだろうか。

 

素直に喜びたいところだが、喜びより、驚きと複雑な心境の方が勝って、喜ぶことができない残念な状況。

 

「こんなこと考えても仕方ないし、デートでどうするか考えよう……」

 

悩んでも答えが見えないので、違うことを考えることに。

 

「そういえば、どんな服着て行けばいいんだ?」

 

気付くと、アキちゃんに誘われた理由の悩みの次は服の悩みが現れた。

 

恥ずかしい話だが、自分はデートなど1度もしたことがないので、どういう服装で行けばいいか悩んだ。

 

本当に何を着て行けばいいんだ?

どうしよう、さっきの悩みより深刻な問題だぞ、これ。

 

今度の週末までに決めないといけないのか……。

間に合うか? そしてアキちゃんとのデートは上手く行くのか?

 

うわぁぁぁ、どうしよう。

 

今までに経験したことがないほど、僕は悩んで焦った。




さぁ、いよいよ久保君とアキちゃんのデートですよ!
次回の執筆により一層、気合が入る作者です。(`・ω・´)

そして、活動報告にて、アンケート更新しました。
気になる方は是非ご確認ください。


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68話 初デート

今回はついに待ちに待ったという人もいるであろう、
久保くんとアキちゃんがデートする話に突入です。

と、その前に重大なお知らせがあります。
※長いので面倒だと思ったら、飛ばしてください

なんと、この作品のお気に入り件数が500件突破しました!

作者の学校にて

作者「さーて、今はどんな感じになっているのかな~?」

お気に入り件数508人(作者が確認した時はこの数字でした)

作者「…………」

作者「うおおおおお!!! やべえええぇぇぇ!!! ついにキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」

友人&クラスメイト「「「朝から何やってんだアイツ……」」」

と、まぁこんな感じで、学校で喜びと驚きの心境が声に出ていたのは覚えています。

初投稿なのに、まさかここまで来るとは思いもしませんでした。
小説書いてて本当によかったと改めて実感できました!

いつも応援していただいている方々や、
アドバイスやご指摘をしてくださる先輩の方々。
本当にありがとうございます!
こんなことしか言えないんですけど、本当にありがとうございます!

さて、今回は超重要イベントですよ!
久保君とアキちゃんのデートの様子をどうか、保護者目線で見守りください。

前書き長くなってすみません、それではどうぞ。


sideアキ

 

 

週末の土曜日の朝。

お出かけ日和の快晴の空の下で、待ち合わせの場所である駅前に来ていた。

 

「ちょっと早く着き過ぎてしまったかな……?」

 

メールで連絡を取り合って、10時に待ち合わせの予定なのだが、現在の時刻は9時半。

待ち合わせ時間の30分前である。

 

時間に余裕を持って来るのがいいと思い、早く出たんだけど、

これは流石に早すぎたと、ここに着いてから気付いた。

 

「よく考えてみたら、僕は久保くんとデートするのかぁ……」

 

そう考えると、恥ずかしくなり、不思議な緊張感が湧いてきた。

 

自分は今まで、このような経験はない。

何より、男だった僕が女の子の身体で異性とデートすること自体が凄い。

こんな経験をしたのは今まで誰1人いないであろう。

 

男だった時も、女の子になった今でもデート経験なし。

そう思うと、ますます緊張と不安が僕にまとわりついてくる。

 

でも、きっと大丈夫、姫路さんにいろいろと教えて、予行演習だってしたし、衣装も選んでくれた。

 

服は白い猫耳フードのパーカー。

白の清楚感や可愛い猫耳のついたフードで、おまけに後ろには長いしっぽがついている。

 

下はベージュのショートパンツ。

腰と太ももを少し隠すだけの短さで、足の大部分は露出している。

 

自分には可愛すぎて逆に似合わないと思うが、姫路さんが選んだ衣装の中で最もマシだったのはこれなので、これにするしかなかった。

 

一番マシなのがこれって、姫路さんのファッションセンスが気になるところだが……。

 

「うおっ……あの子、可愛くね?」

 

「うっは! 超タイプなんですけど!?」

 

「なぁ声掛けないか?」

 

「無理だろ、あれはハードルが高すぎる」

 

さっきからずっと視線を感じると思えば、周囲の男性が通り過ぎる度に僕の姿を見ていた。

 

中には足を止める者もいた。

 

「あの子、すっごく可愛いくない!?」

 

「ヤバッ、萌え死にしそう……」

 

「スタイルいいわね、モデルでもやってるのかしら?」

 

「可愛すぎる……お持ち帰りしたいな~」

 

と男性だけでなく、女性までも僕の姿を見ている。

 

中にはスマートフォンやカメラを取り出して、撮影する人まで……。

 

やっぱりこの服装は場違いだっただろうか……。

仮にそうだったら嫌だな……こんな人通りの多い中でそんな姿を見られたら……。

 

段々と緊張と不安が募り、気が重くなって来た。

 

「あ……吉井くん? 早かったね」

 

聞き慣れた声にが耳に入り、ドキッという音が心臓から鳴った気がした。

 

振り向くと、私服姿の久保くんがいた。

 

「久保くん! お、おはよう……」

 

「おはよう、吉井くん……」

 

僕が声を掛けると、顔を僕とは違う方向に向ける。

 

「どうかしたの?」

 

「い、いや、何でもない……ちょっと待ってくれ」

 

「う、うん」

 

僕と会って早々、いったいどうしたのだろう?

 

(ちょっと待て……アキちゃんの衣装が……あれは反則だ、すぐには直視できない)

 

久保くんは後ろを向いて、頭を手で押さえていた。

 

「もしかして……僕の服装、変だった?」

 

さっきの周囲の反応と久保くんの反応に共通があるのではないかと疑った。

 

「そ、そんなことはない! とっても似合ってるよ! うん」

 

振り返って、焦りながら返す久保くん。

 

「ほ、本当に? 嘘じゃない?」

 

「も、もちろんだ……お世辞抜きで、本当に似合っているし可愛いよ」

 

「そ、そうかな?」

 

急に可愛いと言われて恥ずかしくなった。

でも、逆に安心もした。

 

「うん、なんというか……大胆な感じがするけど、とても可愛くて女の子らしいよ。

明るくて活発な吉井くんにはピッタリって感じがするし……上手く言えないけど……

要は凄く似合ってるよ」

 

「//////!!」

 

久保くんの言葉に、僕はとても恥ずかしくなって俯いた。

顔が熱くなっているのが自分でもわかる。

 

それなのに、内心とっても嬉しい気持ちでいっぱいだった。

 

「あ、ありがとう……久保くんもとっても似合ってるよ」

 

久保くんは黒いTシャツに紺色のジャケットを着ていた。

下はデニムのジーンズを履いていた。

 

シンプルだが、真面目でクールな久保くんにはそれがとても似合っていた。

 

「ははッ……それはよかったよ……家族に相談した甲斐があった」

 

照れたように頬を掻く久保くん。

 

「そういえば、吉井くんが先に来ていたようだけど、待たせてしまったかな?

もしそうなら謝るけど……」

 

「ううん、大丈夫! 僕もさっき来たばかりだし……そもそも待ち合わせの時間まで、まだ結構時間があるけど……?」

 

「どうやら、お互いに早く来てしまったみたいだね」

 

そう言いながら、苦笑いの久保くん。

 

久保くんも楽しみにしててくれたのかな?

だとしたら、誘っておいてよかったと改めて思う。

 

「それじゃあ、そろそろ行こうか」

 

「うん」

 

僕たちは目的地まで歩き出す。

 

あ、そういえば……。

 

『いいですか、アキちゃん、歩くときは必ず手を繋ぐのが、デート中の基本ですよ!』

 

姫路さんから教わったアドバイスを思い出した。

 

恥ずかしいけど……久保くんなら大丈夫、だよね?

 

僕は恐る恐る久保くんの手を取る。

 

「!? よ、吉井くん……? いきなり何を?」

 

「何って……手を繋ごうかと思ったんだけど……ダメかな?」

 

姫路さんから、歩く時は手を繋ぐって言われたので、実践してみたが、失敗しちゃったかな?

 

「ああ……別に構わないけど……いきなりで驚いてしまったよ」

 

再び僕と久保くんは手を繋いだ。

 

勢い任せでやってみたのだが……恥ずかしい。

 

でも、久保くんの手は大きくて、暖かくて、繋いでいても、全然嫌な気がしなかった。

 

(吉井君はいきなりどうしたんだ? 急に手を繋ぐとは…………。

あ、そうか。きっと迷子にならないようにするためか、男に絡まれないようにするために手を繋いだのか。なるほどな)

 

横で納得している久保くんを見る。

 

その表情は何か誤解しているような気がした。

 

 

 

 

 

~おまけ~ デート衣装選び

 

金曜日の放課後、アキちゃんの住むマンションに姫路さんが来ていた。

 

ア「わざわざ来てくれてありがとう姫路さん」

 

姫「どういたしまして、アキちゃん。ところで明日は誰とデートするつもりなんですか?」

 

ア「久保くんとだよ。こういうことに誘えるのは久保くんしかいないから……」

 

姫「ああ、久保くんですか……アキちゃんと仲がいいんですか?」

 

ア「一応、男子の中では関わりがある方かな……?」

 

姫「そうなんですか。そしたら、明日のデート、上手く行くといいですね!」

 

ア「う、うん……ありがとう」

 

姫「それでは、荷物が沢山あるので、ちょっと待っててくださいね」(ゴソゴソ)

 

ア「そんなにあるのか……なんか、変に気を遣わせちゃってごめんね」

 

姫「いえいえ、お気になさらず。アキちゃんの衣装選びは私の仕事ですから」

 

ア「それって仕事なのかな……?」

 

姫「もちろん、立派なお仕事ですよ! だから、沢山の衣装を持ってきました!」

 

ア「わわッ! すごい量だね……こんなに持ってこなくても大丈夫なのに……」

 

姫「ほんの少しだけですが。アキちゃんのために買った衣装を持ってきました!」

 

ア「少しって…………いったい、どれだけ持ってるの?」

 

姫「細かいことは気にせず、デートまで時間もないことですし、じっくりと選んで、

明日のデートに備えましょう!」

 

ア「そ、そうだね」

 

姫「ではこれが最初の衣装です!」

 

 

アキちゃんの衣装:猫耳フードのパーカ(今回の衣装)

 

 

姫「わぁ~……元々可愛い衣装ですけど、アキちゃんが着ると可愛さ倍増です!」

 

ア「可愛くていいと思うけど、これはちょっと可愛すぎないかな……?」

 

姫「そうですか? それくらいの可愛さの方が、アキちゃんには丁度いいんですけどね」

 

ア「う~ん、これはちょっとね……他には何かない?」

 

姫「じゃあ、これはどうでしょうか?」

 

 

アキちゃんの衣装:白いワンピース

 

 

姫「シンプルですけど、そこがまたいいですね!」

 

ア「そうだね……でも、これは季節外れな気がする」

 

姫「ああ、確かにこの時期は寒いでしょうね……失敗しました」

 

ア「これは暑い時期用ってことだね」

 

姫「夏の時に着るのが一番かもしれませんね」

 

ア「うん……じゃあ、他は?」

 

姫「次の衣装はこれです!」

 

 

アキちゃんの衣装:ミニスカートナース服

 

 

ア「あの……これはデート服なの?」

 

姫「いいと思いますよ! コスプレデート!」

 

ア「そんな変わったデートは望んでないから……初めてのデートでそれはハードルが高いよ……」

 

姫「アキちゃんだから、いいと思うんですけどね。コスプレデート」

 

ア「別のやつにしてくれないかな……?」

 

姫「そうですか……なら、これはどうですか!?」

 

 

アキちゃんの衣装:青と白の縞模様の水着(ビキニ)

 

 

ア「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

姫「とっても似合ってますよ! どうですか!?」

 

ア「街中でこんな姿だったら、誰がどう見たって変態だよ!

もう……やっぱり最初のやつにしてくれないかな……?」

 

姫「わかればいいんですよ。そしたらこの衣装に決定ですね!」

 

ア(もしや最初からこれを着せるつもりだったんじゃ……)

 

なんだかんだで、アキちゃんの衣装は決まりましたとさ。




誤字脱字報告と感想お待ちしております。


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69話 初デート2

お久しぶりです!
投稿遅れて申し訳ありません!
大変お待たせしました!

作者にもいろいろ事情がありまして、去年から今日まで
なかなか投稿できなかったんですよ……。(恒例の言い訳タイム)

とにかく、今日からまた以前のように不定期ながらも投稿再開します。
基本ノリと勢いでの更新なので、まぁ……週に2~3回投稿できればいいかと考えています。

それはさておき、今回は前回の初デートの引き続きです。
今回はメインじゃないのですが、超重要イベントの一つなので、
一層力を入れました!(投稿久しぶりで文章力落ちている可能性大ですが)

お楽しみいただければ作者にとって一番の幸いです。

今回は久保君視点を少しだけ入れてみました。


side久保

 

 

駅前から少し離れ、映画館に向かっている時のこと。

 

あぁ……アキちゃんの手凄く柔らかい……。

 

ただいま現在、僕はアキちゃんと手を繋いでいます。

とても小さくて暖かくて柔らかいです、はい。

 

まさかデートできるだけでもすごく夢みたいな話なのに手まで繋げるなんて、

夢のまた夢の話かと思ってたけど……今しているのです。

 

最初は緊張してかなり抵抗があったものの、繋いでみるとアキちゃんのぬくもりのおかげか、すぐに緊張がほぐれて、今じゃまるで、当たり前のように繋いで歩いている。

 

どうせ人通りが多いから迷子にならないようにするためか、男が寄らないようにするためのガードマン的な役割のためにしているのだろうけど、少しでも役に立てていればいいと思っている。

 

「言い忘れていたけど、今日はありがとう。わざわざ僕のために付き合ってくれて」

 

アキちゃんが横からお礼を言う。

 

少し笑っているように見えるけど、申し訳なさそうにも見えた。

 

「いや、お礼を言うのはこちらの方だよ。お誘いありがとう」

 

これは誘われた側が感謝するべきだろう。

 

正直、デートできるだけでもすごくありがた過ぎます。

私服姿の可愛いアキちゃんとできるから尚更だ。

 

「ところで、吉井くんはなんで僕を誘ったのかな?」

 

「え? どういうこと?」

 

唐突な僕の問いに思案顔を浮かべるアキちゃん。

 

今思い出したのだが、僕にはずっと気になっていたことがあった。

 

「いや、吉井くんは僕以外にも誘う相手は沢山いるだろう?

なのになぜ、僕を誘ったのか気になるんだ」

 

素朴な疑問だが、僕の中ではかなり気になっている。

 

「僕ってそんなに誘えるような相手いないよ……?

こんなことに誘えるのは久保くんくらいしかいないし……」

 

僕しかいない……?

 

意外過ぎる返答だった。

 

「そうなのか……。吉井くんって、Fクラスの男子にそういう相手はいないのかな?」

 

こんなに可愛い同級生が同じクラスに居たら普通に声掛けするはずなのに。

 

「Fクラスの男子? う~ん、Fクラスの男子とはそんなに関わってないなぁ……。

関わっているのはせいぜい、雄二とかムッツリーニとかくらい?」

 

Fクラス代表の坂本くんといつも(いろんな意味で)お世話になっている土屋くんだけ?

 

でも、確かにこんなに可愛かったら逆に声掛けし難いかもしれない。

 

唯一、元から仲が良かった2人なら気軽にできそうだから納得がいく。

 

「じゃあ、その2人は誘わなかったの?」

 

あんなに仲が良いのだから気軽に誘えるはずだ。

 

「え? いやいや、絶対に誘わないよ……。

そもそもペアチケットは雄二から貰ったものだし、仮に雄二から貰ってなくても、雄二と行くのはなにがなんでも嫌だし……何より婚約者である霧島さんに悪いからね。

ムッツリーニは女の子に耐性がないから、デートどころじゃなくなるよ」

 

言われてみれば確かにそうだった……。

 

「それなら、女子の友達とかはどうなんだい?

そっちの方が気軽に誘えるんじゃないのかな?」

 

ペアチケットとはいえ、男性同士だろうが女性同士だろうが一応、

使えるはずなんだが……。

 

「女子だったら姫路さんを誘おうとしたけど生憎、今日見る映画をもう見ちゃってたみたいで、流石に同じ映画を2回も見させるのは可愛そうだと思うからやめたんだ。

秀吉も誘ってみたけど、部活があるから無理だったんだよ。

美波も誘おうとしたけど、美波って恋愛映画に興味無さそうだから……。

見る映画が酔●とかロ●キーだったら間違いなく誘ってたかな?」

 

なるほど。

 

姫路さんの場合、女子の中の女子だから恋愛系の映画には興味があると言っても過言ではないから、既に見ててもおかしくはないか。

 

木下くんは演劇部で忙しいと姉である木下さんがそんなことを言っていたような……。

ん? っていうか、なぜ女子の中にしれっと木下くんが紛れてるんだ?

 

島田さんは……よほどのアクション映画が趣味なのか? それとも格闘マニア?

どちらにせよ、女子高生が●拳や●ッキーを見たがるってなかなか珍しいな。

 

「つまり、僕しか相手はいない……と」

 

「う、うん。さっきも言った通り、久保くんしかいないよ」

 

「そうなんだ……」

 

これってもしかするとチャンスなんじゃ……?

 

告白したらOK貰えてしまったりして……。

 

って何を馬鹿なことを考えてるんだ、僕は。

 

まぁ正直アキちゃんは可愛いし優しいし彼女にしたいよ?

しかし、僕みたいな勉強一筋でやってきた男が相手なんて相応しくないだろ?

 

だから僕はアキちゃんを守る存在としている訳であって、もし仮にアキちゃんに彼氏ができたとしても僕はそれを応援する。ただそれだけだ。

アキちゃんが幸せになればそれでいいんだ。

 

仮にできてしまったら生きる気力を失うだろうなぁ……。

本当はできて欲しくないのが何よりの願い。

 

「久保くん……どうしたの? 具合でも悪いの?」

 

アキちゃんが心配そうにこちらの顔を見ている。

 

表情に出てしまっていたか……。

今考えていたことは口が裂けても言えないな。

 

「なんでもないよ……ちょっと映画が楽しみだと思って」

 

一瞬、きょとんとした表情をアキちゃんは浮かべた。

 

「そうなんだ…………僕も楽しみだよ」

 

ニコッっと笑いながら繋いでいる手をギュっと握ってきた。

 

や、柔らかい……手汗が出てきているかもしれないけど、アキちゃんは気持ち悪くないかな……?

 

 

 

 

sideアキ

 

 

映画館の受付にて。

受付は混雑するほどではないが、多くの人で列を作っていた。

 

今日は土曜日で仕事や学校などが休みなのであろう。

学生のカップルや、熟年夫婦、高齢者夫婦などの沢山の人々がいた。

 

きっと、今日僕たちが見ようとしている映画を見に来たに違いない。

あれは恋人同士で見るにはうってつけの内容だったからだ。

 

休日に恋人と2人で一緒に恋愛映画を見る人たちが、少しだけ羨ましく思えた。

 

周りの人を羨んでいる間に、自分達の座席指定をする番が来た。

お互いにチケットを出し合って、座席指定を行う。

 

空いている席が多いはずなのに、指定できる座席がかなり限られていた。

どうやらペアチケット専用の座席のようだ。

 

よく分からないが、僕と久保くんは適当によさげな席を2人で決めて指定した。

 

「それでは、上映の時間になりましたら上映するスクリーンまでお越しください」

 

受付のスタッフにそう言われて、受付を離れる。

 

「上映は12時30分からの予定らしいけど……時間が結構余ってしまったみたいだね」

 

久保くんが自分の腕時計を見ながら言う。

腕時計を覗き込むと、時計の針が10時30分を指していた。

 

「あ、本当だ。前もって調べておくべきだったね」

 

待ち合わせの時間は2人で適当に決めたし、上映時間も調べていない、ほぼ無計画のようなものだ。

 

事前に調べておけばこうなることは避けられたはずだった。

 

「そしたら、どうしようか……2時間もの間ひたすら待つなんてことは流石に無理があるから……その間、違う場所に行かないか?」

 

「そうだね、ここの近くはいろいろありそうだし」

 

限られた時間を有効に活用しないとね。

2時間も待つなんて、僕たちにそこまでの忍耐力はありません。

 

なので、別のところで時間を潰すことにした。

 

ここから本格的に僕と久保くんのデートが始まったのであった。




誤字脱字報告と感想お待ちしております。

次回からデートらしくなってきます。


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70話 初デート3

投稿再開したとはいえ、いろいろ手間取ってしまって遅くなってしまった……。
またまたお待たせしてしまって申し訳ないです……。

と、とにかく今回は超重要イベントですよ!
上手くできてるといいけどなぁ……。(;゚Д゚)


sideアキ

 

 

僕と久保くんは先程の映画館の近くにあるショッピングモールに来ていた。

ここは誰もが暇を潰すのにうってつけの場所だ。

 

「さて……ここに来たのはいいけど、どこに行く?」

 

多くの店舗が展開しているため、どこに行こうか迷う。

なので、久保くんにどこに行くか聞いてみる。

 

「吉井くんが行きたいところで構わないよ。僕はこういった所は普段、来ることは無いから」

 

久保くんはここについて知らないようだ。

自分もそうであるけど。

 

「う~ん……正直、僕もここについてまったく知らないんだ……どうしようか」

 

僕と久保君はお互い、頭を悩ませた。

 

「それなら、1つずつの場所を見て回って、気になるところを探してみたらどうだい?

知らない場所を適当に回っても意味がないと思うし」

 

久保くんが的確な提案を出してきた。

 

「そうだね。それが一番、手っ取り早いね」

 

こうして、1つずつの場所を見て回ることにした。

 

まずは1階のフロアからだ。

 

 

 

 

僕達が最初に訪れた場所はとても癒される空間だった。

 

なぜなら、

 

「ワンワン!」

 

「ニャー」

 

ガラスケース越しに、犬や猫が吠えたり鳴いたりしている姿や活発に動いている姿、

寝ている姿を見ることができる。

 

そしてその犬と猫は買うことだってできてしまう。

 

そう、僕達が今いる場所はペットショップ。

1階フロアの端辺りで見つけた場所だ。

 

ここは大型のショッピングモールなので、こういった店舗も存在しているのだろう。

 

始めはここにいる動物達に癒されようと訪れてみたのだが、

 

「久保くん、この猫可愛いね。なんていう種類なんだろう」

 

薄いグレーの色をした短毛。

身体は全体的に丸みを帯びており、短い足としっぽを持っている。

 

「この猫はエキゾチックショートヘアだね。1960年代にアメリカで生まれた猫だよ」

 

「へぇ~……よく知ってるね」

 

動物に関しての知識もある久保くん。

どんなことにでも詳しいから大袈裟かもしれないけど、久保くんに知らない分野は何も無いのではないかと思えてくる。

 

「ニャ~♪」

 

ジッと見つめていると、エキゾチックショートヘア(?) という猫がこちらに気付いて向かってきた。

猫はそのまま、こちらに懐くようにガラスケースに顔をスリスリと擦りつける。

 

か……可愛いっ!

 

ガラスケース越しなので撫でることはできないが、僕は猫を撫でるかのように手でガラスケースをなぞる。

 

「ニャ~ン♪」

 

すると、猫もまるで撫でられているように嬉しそうな表情をしている。

 

「うわぁ……可愛い。可愛いよね、久保くん」

 

「そうだね。とっても人懐っこくて可愛い猫だね」

 

久保くんの表情もどこか和んでいる雰囲気だった。

 

やっぱり、こういうのって誰でも癒されるよね……。

 

「この子がここまで懐くなんて、珍しいこともあるんですねぇ」

 

さっきからこちらを見ていたのか、横から女性に声を掛けられた。

 

その女性はここの店員なのであろう、ここのお店の制服のようなエプロンを身に着けており、年齢は20代前半くらいで、長い髪を一つ結びにしていてメガネをかけている。

にこやかな表情で、ほのぼのとした雰囲気。

 

「珍しい……? いったい何が珍しいというんですか?」

 

久保くんが店員の言葉に疑問を持った。

もちろん僕もだけど。

 

「この子、すごく人見知りするんですよ。こんなに初対面の人に懐くことって、普段は絶対に無いんです」

 

あぁ~、だから女性の店員は珍しいと言ったのか。

でも、こんなにも人懐こい猫なのだから、その言葉はあまり信じられなかった。

 

「お客様が相当な猫好きだから、懐いたんでしょうね。お客様の格好から分かりますよ」

 

ふふっと女性の店員が笑う。

 

あ、そういえば今の格好忘れてた。

こんな猫耳フードのパーカ着てたら、正真正銘の猫好きと思われちゃうよね。

ちょっと恥ずかしいな……まぁ猫は可愛いし普通に好きだけど。

 

「もし、よければ抱っこしてみますか?」

 

「え? いいんですか?」

 

「もちろんです。この子もきっと喜びますよ」

 

「なら、お願いします」

 

そう言うと女性の店員は店のスタッフルームに入って、しばらくすると猫を抱えて連れて来た。

 

「それでは、どうぞ」

 

「ニャ~♪」

 

そして、そのまま僕に猫を抱っこさせる。

 

「ニャ~♥」

 

僕に抱っこされた猫はとてもご機嫌になり、僕の身体にスリスリと自分の身体を当てる。

 

あぁ~……癒される……。

 

猫の嬉しそうな仕草と表情に思わず、溜息と笑みを漏らす。

 

「ニャ~ン♥」

 

猫はまだまだ満足していないのか、僕の胸を小さな前足でフニフニと踏みつける。

そして、頭もグリグリと押し付ける。

 

おい、猫……僕の胸は遊ぶものじゃないんだぞ…………可愛いから許すけどさ。

 

「それにしても、本当に凄いですね。この子が初対面の人に懐くところは初めて見ました」

 

横で様子を見ていた女性の店員が改めて驚いた表情で言う。

 

「そんなに懐かないのですか? 見た限りではそんな風に見えませんけど」

 

久保くんが僕と猫を見ながら言う。

 

「いいえ、さっきも言った通り、この子は初対面の人やあまり触れ合ったことのないに人に懐くことなんてありません。

私がここに初めて来た時は全然懐いてくれなくて……懐くどころか、この子に触れるようになるまで1ヶ月以上は掛かりましたね……」

 

そんなに人見知りする猫なのに、なぜ僕に懐くのだろうか……。

 

猫って不思議だな……こういう時、猫の気持ちが知りたいものだ。

 

店員が言っている言葉に、僕は半信半疑だった。

 

「なるほど……(アキちゃんは人間だけでなく動物にまで……すごいな)」

 

横で久保くんは僕を見ながら納得している。

なぜ納得しているのかは、知る由もない。

 

 

 

 

いろんな犬や猫に癒されてきたその後、他のフロアを回っていた。

 

「とっても可愛いかったね。あの猫を抱っこした時から、ペットが欲しくなってきちゃったよ」

 

「吉井くんは猫が好きなんだね、猫でも飼っているのかい?」

 

「いや、僕の住んでいるマンションはペット禁止だから……飼いたくても飼えないんだよ。

久保くんはペットとか飼ってないの?」

 

「僕も同じみたいなものかな。僕の家族はペットを飼うこに反対するからね……それに、生き物を飼うことは飼い主としての責任と義務があるから、それを守る覚悟がないと飼えないよ。

だから、僕も飼おうと思っても飼えないんだ」

 

「あぁ、そうだね……どの道、ペットを飼うことって難しいんだね」

 

こんな会話を続けながら周りを見渡す。

 

ここのフロアはゲームセンターなどのアミューズメント施設が並んでいており、

ゲーム機器の音が通路にまで響き渡って耳に入る。

 

楽しそうで行ってみたい気もするけど、熱中して本来の目的を忘れそうなのでやめておこうと思った。

 

久保くんと会話をしながら、そのままこのフロアを通り過ぎようと思っていた時

 

「そこの可愛いカップルさん、少しよろしいでしょうか」

 

後ろから声を掛けられたので、僕と久保くんは振り返る。

 

声を掛けてきたのは、ゲームセンターのロゴが入った制服を着た女性の店員だった。

 

「あの……カップルって……僕たちのことですか?」

 

久保くんが声を掛けてきた店員に聞く。

 

「そうですよ。私はお2人様のような美男美女のカップルを探していたんです!」

 

「そうなんですか……ところで、どんな御用があって声を掛けたのですか?」

 

僕たちがカップルであるかどうかのところは、あえて何も言わずに、店員に聞く久保くん。

 

「ただいま、ここのプリクラコーナーではカップル限定のイベントを開催しています。

もしよければ、この機会に是非ご利用してもらえないかと思いまして」

 

プリクラ……? なんだそれは?

 

「久保くん、その……プリクラって何? どんなものなの?」

 

店員に聞こうと思ったが、身近な存在である久保くんに聞いてみた。

 

「写真を撮る機械で写真を撮って、それを加工したり編集をする……確かそんなものだった気がする」

 

いわゆる、ゲームセンターでの記念撮影のようなものなのだろうか……。

 

「どうですか、お客様。もし分からないことがあれば、スタッフが手順をお教えするので気軽にできますよ」

 

僕たちがプリクラについて知らなそうにしているところを見て察したのか、店員が更に勧める。

 

「そ、それなら……やってみようかな? 久保くんはやってみたい?」

 

やってみたことが無いので、逆にちょっと興味があったりもする。

久保くんはやってみたかったりするのかな?

 

「せっかくだし、やってみようか。僕たちがカップルかどうかは置いておいて」

 

そのまま賛同してくれた。

 

久保くんも僕と同じく興味があるのか、僕がやりたそうにしている様子を見て賛同してくれたのかな?

 

どちらにせよ、久保くんもやりたそうな気はあるみたいだ。

 

「そしたら、やります。その……プリクラでしたっけ?」

 

「わかりました。それではこちらへどうぞ」

 

やることを伝えると、店員は僕と久保くんをプリクラコーナーに連れて行く。

 

 

 

 

「み、見たことがない機械だね」

 

僕は撮影ブースに入って、思わずそう言った。

 

「まず、ここを押すのかな? そして次はここをこうして――」

 

久保くんは店員に教えてもらった通りに画面で難無く操作する。

 

「ちゃんと手順を覚えている……すごいね」

 

手順を教えてもらっただけで、すぐに対応できるのが凄いなと思った。

 

見たことがない機種だから、僕は手順を教えられてもできそうにない。

 

「あ、撮影が始まったよ」

 

「えぇ!? ちょっと待って、まだ準備ができていないよ!」

 

撮影のカウントダウンと共に機械音声が流れる。

 

『ポーズをとってね! カップルらしくいちゃいちゃしよう☆』

 

カップル向けのプリクラなので、機械音声が中にいるカップルの行為を促すように言葉を発した。

 

「ほ、ほら、ポーズをとるよ。吉井くん」

 

「うん、ええっと……はい!」

 

僕は機械音声に釣られてしまったのか、反射的に久保くんの腕に抱きついた。

 

「よ、吉井くん!? どうしたの!?」

 

「わわッ! ごめん! でも、時間がないから……このまま……撮ろう?」

 

「え……あぁ、もう……仕方ない」

 

画面に映る撮影まであと5秒をのカウントダウンを見て久保くんは諦めて、そのまま僕に腕を抱き着かれる体勢を維持した。

 

この時、プリクラはカップルでもない男女2人がするものではないと、僕と久保くんは身を持って実感した。

 

 

 

 

「先程の撮影した写真は、こちらの編集係のスタッフが編集した後に現像してお渡しいたします」

 

店員は「それまで、少々お待ちください」と言い残して、スタッフルームへと姿を消した。

 

「はぁ……ごめんね、久保くん。プリクラが初めてだったとはいえ、あんなことしちゃって……」

 

「気にすることは無いよ。僕はあれでよかったと思うよ」

 

「そうかな? それならいいけど……」

 

あれじゃまるで本当のカップルみたいじゃないか……。

 

別に僕は気にしていないし、どう思われても構わないけど、久保くんはもしかすると嫌かもしれなさそうだから……。

 

「お待たせしました。こちらが今回の撮影した写真です」

 

店員は僕達に写真を手渡す。

これは無編集バージョンのようだ。

 

おぉ、綺麗に撮れてる。

でも、やっぱりこのポーズは恥ずかしいなぁ……。

 

写真には久保くんと、久保くんの腕に抱きつく僕の姿が写っていた。

誰がどう見ても今時の高校生カップルにしか見えない。

 

(アキちゃんの不可抗力だったとはいえ、いい写真だな。これは大事にしよう)

 

一方、久保くんは横で写真を真剣な表情で眺めている。

それを見て、本当は迷惑だったんじゃないかと気が気でなかった。

 

「次に、こちらが編集バージョンになります」

 

また、同じように写真を渡される。

 

「どんな写真になっているのだろうか……」

 

受け取ってすぐに久保くんは写真を確認した。

 

「…………え?」

 

渡された写真を見た瞬間、久保くんは固まった。

 

「どうしたの? 久保くん」

 

気になりながら、続いて僕も写真を確認。

 

「…………えぇ!?///」

 

僕は写真を見た瞬間、驚愕して顔から火が出るほどの羞恥心を感じた。

 

先程と同じく、久保くんと久保くんの腕に抱きつく僕の姿が写っており、

ハートやLOVEというアルファベット文字などが囲んでいた。

 

おまけに、『私たち結婚します』という大きな文字が目立つような位置に。

 

「どうでしたか? スタッフ一同が手掛けた傑作ですよ!」

 

店員は自信満々の笑みで言う。

 

確かに編集力と加工の技術は凄い。

けど、問題はその内容である。

 

こんなの恥ずかしすぎる。

こんなの貰ってもいいのかな……?

 

「く、久保くん……これ、どうしようか……」

 

「……その……いいんじゃないかな。せっかく編集を施してもらったのだから、貰った方がいいと思うよ……?」

 

これには対応に困ったのか、久保くんは焦り気味になりながら言葉を返す。

 

「そ、そうだねー。もったいないし、貰っておかないとね……」

 

僕と久保くんはお互いに、丁寧に編集された写真をバックにしまう。

 

(この2人、面白い。誰がどう見ても絶対にカップルでしょ)

 

店員の女性がこちらを見ながらクスクスと笑っている。

 

その笑った表情からは何か誤解されているような気がした。

 

 

 

 

目的の映画の上映時間まで残すところ後わずかとなった。

 

「もう少し時間が余っているみたいだけど、行きたいところはまだあるのかい?」

 

腕時計を見て、時間を確認しながら聞いてくる久保くん。

 

十分に時間を潰せたし僕なりに結構満足しているから、もういいや……と思っていたのだが。

 

「う~ん……もう十分だし、これでいいかな…………ん?」

 

何やら甘いくていい匂いがしてきた。

 

匂いが漂う方向に目を向けると、クレープ屋の店舗があった。

 

よく見てみるとそこはフードコートであり、

100席以上もありそうな規模の座席スペースにさまざまな飲食店が隣接している。

 

「最後に、あれ食べていかない?」

 

「ん? あぁ、クレープか。クレープ好きなの?」

 

「好きというか、美味しそうだから食べたくなってきちゃって」

 

「なるほど。そしたら何が食べたいの? 種類はいろいろあるみたいだけど」

 

「えーと……何にしようかな……」

 

正直、クレープはあまり食べたことがないのでどれが美味しいのかサッパリ分からない。

 

考えていると、クレープ屋の横にある広告のポスターが目に入った。

 

ポスターには『大好評! イチゴクレープ』という広告が載っていた。

 

大好評って事は凄く美味しいってことだよね?

あれだけ好評なら美味しいはずだし、イチゴは好きだから、あれにしようかな。

 

「僕はイチゴクレープにするよ。久保くんは?」

 

「ん、じゃあ僕は…………あっ、そうだ、少しの間ここで待っててくれるかな?」

 

「え? う、うん、いいけど……」

 

唐突に何かを思い出した久保くんはそのまま、クレープ屋の前まで早歩きで行く。

 

3分後。

 

「お待たせ。クレープ買って来たよ。イチゴクレープで合ってるかな?」

 

両手に2つのクレープを持って、久保くんが戻ってきた。

 

「あ、ありがとう! ん? これって、久保くんが買って来たんだよね?」

 

「そうだよ? 僕の奢りだから、遠慮なく食べなよ」

 

「えぇ!? 悪いよ、そんなの。自分で買うから!」

 

わざわざ僕の分まで買って来た上に、僕の分までのお金を払わせるのはいくらなんでも悪いだろう。

 

「いや、いいんだ。僕からのお礼みたいなものだから」

 

「お、お礼……?」

 

「うん。今日の映画に誘ってくれたお礼にと思って…………こんなことしかできないけど、少しでもお礼ができたらなと思ってさ」

 

「そうなの……なら、お言葉に甘えて……」

 

久保くんはこういう時でも律儀なんだね……。

 

本当にしっかりしてるよ。

 

そして、僕と久保くんはフードコートの座席に座り、そこでクレープを食べることにした。

 

「それじゃ、いただきます」

 

僕はイチゴクレープをぱくっと一口。

 

イチゴの酸味と生クリームの甘さが口の中に広がる。

 

「美味しい! とっても美味しいね、久保くん」

 

あまりの美味しさに、僕は思わず笑みの表情を浮かべる。

 

「う、うん、そうだね(可愛い……)」

 

久保くんもクレープを食べながら同調してくれる。

 

「ところで久保くんは何を頼んだの?」

 

「僕はチョコレートを頼んだよ。甘いものは普段、食べないんだけどね」

 

「へぇ~、チョコレートかぁ……」

 

久保くんのクレープも美味しそうだった。

 

「……一口食べる?」

 

こちらを見て、久保くんは自分のクレープを僕に差し出す。

 

「いいの? じゃあ……はむっ」

 

差し出された久保くんのクレープを一口。

 

チョコレートの甘くて少しビターな味がとても美味しい。

 

「ん……美味しい」

 

ニコッっと僕は笑って、美味しいよと久保くんに表情で伝える。

 

「そ、そうか。それはよかった……(この笑顔は反則です……)」

 

「久保くんも、僕のクレープ食べる? 美味しいよ」

 

僕はお返しにと、久保くんに自分のクレープを差し出す。

 

「それじゃあ……一口いただくよ」

 

そう言って、僕のクレープを一口食べる久保くん。

 

「これは……いい味だね。とっても美味しいよ」

 

「でしょ? イチゴって美味しいよね」

 

そんな会話を続けながら食べていると、いつの間にか綺麗に食べ終わっていた。

 

とても美味しかった。

また、こういったところに来たら絶対に食べよう。

 

「じゃあ、行こっか」

 

僕は久保くんと手を握って、再び映画館へ向かう。

 

(いつの間にか、アキちゃんと手を繋ぐことに完全に慣れてしまった……慣れって怖いなぁ)




誤字脱字と感想お待ちしております。

最初のペットショップの猫を抱っこするネタ。
実は最近、作者はペットショップに行って猫に癒されるのが日課になっています。
なので、ちょっと思いついたので書いてみました。
作者はいつか猫カフェにも行ってみたいと思う今日この頃。(´・ω・ `)

次のプリクラネタ。
友人と最近ゲームセンターに行った時、カップル限定みたいなことが実際に行われていたので、使えるんじゃないかと思い書いてみました。
作者はプリクラなんて、ちょっと前にリア友の何人かで撮ったことがあるくらいです。
プリクラについて、まったくわからん。(´・д・`)

最後のクレープ屋のネタ。
これはデートとかじゃ定番みたいなものでしょう、と思って書いてみました。
ちなみに、作者が好きなクレープの味はチョコレートとか好きですね。(極度の甘党)

とりま、こんな感じでネタが仕上がりました。

そして、前回の投稿によりUA100000達成しました。
多くの方々に見ていただいてもらい、とても嬉しい限りです。
見た方々を楽しませる、ニヤニヤさせる目標を忘れず、これからも頑張ります。

いつも自分の作品をご愛読されている方、そして見ていただいている方
本当にありがとうございます。


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71話 初デート4

またまた遅れて申し訳ないです……。

気付いたら投稿再開したと言って1ヶ月以上経っていた……。(;´Д`)


sideアキ

 

 

映画上映前に僕と久保くんは指定させたスクリーンに入る。

 

「僕たとの席は限定されてたけど、どうしてだろうね?」

 

スクリーンに入った途端、僕は言った。

 

周囲を見て空席が目立っていたことを目にした僕は、受付で座席指定をする時のことを思い出したからだ。

 

「確かに。ペアチケット専用らしいけど、ここまで席が空いているなら制限する必要はないかもね」

 

久保くんも周りを見渡しながら言う。

 

「そんなことより、僕たちが座る座席は……上の辺りみたいだね」

 

指定座席が記された表を確認した久保くんは、僕の手を引いて座席の場所まで向かう。

 

「「…………え?」」

 

指定された座席の場所に着いたその瞬間、僕と久保くんは驚きのあまり硬直した。

 

その座席は2人がけのソファに近く、カップルがいちゃつくために作られたような空間。

 

いわゆる、カップルシートだった。

 

えぇ!? もしかしてここに久保くんと2人で座るの!?

 

そんなの聞いてないよ…………別に久保くんとだったら構わないけど……心の準備が……。

 

「やっぱり、ここで間違いないみたいだ……どうやらペアチケット専用というのはこういう事だったみたいだね」

 

横で僕と同じく、どこか気まずそうにしている久保くん。

 

つまり、指定できる座席が限定されていたのはカップルシート専用のチケットだったから……ってことで間違いない。

 

恋愛映画なのだからカップルで見に来る観客も多くいるはずだ。

だから、その観客のためにあらかじめ作られたのだろう。

 

「と、とにかく座ろう? もうすぐで始まっちゃうし、僕は気にしてないから」

 

と言う僕だが、本当はものすごく気になっていた。

 

「う、うん……座ろうか」

 

僕と久保くんはカップルシートに腰を下ろす。

 

…………。

 

……………………気まずい。

 

ただでさえ座る前から気まずさ全開の雰囲気だったのに、座ると気まずい空気が一層に増した。

 

更には、この席を選んだカップルへの配慮なのか、座ったカップルシートは2人の肩が当たるくらいのスペースだったので、どうしても僕と久保くんはお互いの肩が当たってしまう。

 

「久保くん大丈夫? ここ、狭くない?」

 

「うん、問題ないよ。気にしないで」

 

少しぎこちなさそうな笑みを浮かべてはいるが、そこまで久保くんは気にしていないようだ。

 

もしかして、単に僕が気にしすぎてしまっているだけ……?

でも、こんなに近くで一緒にいるといくらなんでも恥ずかしいよ……。

 

こんなに近距離で一緒に見ることとなると、映画を見るどころではなくなりそうだ。

 

……いやいや、こんなこと気にしたら負けだ。

気にしても仕方ないし、少しの間このことを忘れて、映画で気を紛らわそう。

 

僕がそう考えていた時に、照明が消えて巨大なスクリーンに恋愛映画が映し出される。

 

映画の内容はごく普通の男子高生の主人公と、

ある日、突然主人公の前に姿を現した美少女転校生のヒロインの学園生活を描いたラブストーリーだった。

 

最初に出会った時はただの男女2人の友達のような関係であったが、徐々に物語が進んでいく内に2人は惹かれ合い、やがて好意を寄せ合う関係にまで発展した。

 

しかし、その2人の関係を邪魔するかのように様々な障害や災難が降りかかり、2人の関係が壊れそうになる展開までもが出てくる。

 

あらすじや展開は恋愛映画などでの定番みたいなものなのだが、不思議と引き込まれる内容であった。

 

終盤の場面では映画の主人公とヒロインのキスシーンが出てくる。

 

2人は抱き合いながら、お互いの気持ちとお互いの愛を伝え合う。

 

「……綺麗、だね」

 

すると、横から映画が始まってから一切口を開いていない久保くんがつぶやいた。

 

「……うん、そうだね」

 

僕もそう思っていた。

 

主人公とヒロインの背景には空に広がる夕闇と明かりの灯った街が映っていた。

その背景は精彩を放って、とても幻想的な景色となっている。

 

「……吉井くん?」

 

「ん?」

 

久保くんが映画に見入っていた僕を見つめている。

 

急にどうしたのかな?

 

そう思っていると、ハンカチを取り出して僕の頬を拭う。

なぜ、久保くんがそのような行動を取ったのかはすぐに理解できた。

 

いつの間にか泣いていたからだ。

 

あれ……? おかしいな…………僕ってこんなに、涙脆かったのかな……?

 

「……ありがとう」

 

自分が泣いている事を不思議に思いながら、僕は久保くんからハンカチを受け取り、顔を隠すように涙を拭いた。

 

ここまで泣けるのは女の子の身体だから? それとも今まで感動できるようなものを見たことがなかったから?

 

どちらにせよ、ここまで感動したのは初めての経験かもしれない。

 

雄二にタダで貰っちゃったけど、本当によかったのかな? 恋人である霧島さんと一緒に見ればよかったのに……。

 

霧島さんと見ることができなくて雄二はもったいないことしちゃったな。

こんなに感動もできて恋人と見るのに適した映画なんだから。

 

感動の余韻に浸りながらもそんなことを考えていると、主人公とヒロインのキスシーンの場面になっていた。

 

2人の甘いキスは物語を最初から見ている者にとっては、とても微笑ましい光景だった。

 

そこまではよかったのだ。

 

ん? 2人はいったい、何をしているんだろう?

 

スクリーンの中で主人公がヒロインの制服を脱がして、服をはだけさせて裸になる。

 

…………!!??

 

それを目にした僕は、先程までの感動の涙が一瞬にして引っ込んで、その場が凍り付いた。

 

なんとこれ、普通の恋愛映画と思いきや、内容はとても過激なものだった。

 

露骨な描写や陰部はカメラの位置と編集などで隠されて、ギリギリ年齢制限に引っかからないようになっていた。

 

しかし、いくらカメラワークで避けようが、編集で隠そうが、主人公とヒロインのベットインは誰もが理解できる。

 

えぇ!? この映画ってこんなシーンがあったの!?///

映画の流れからして、あり得ないでしょ!

 

こんなシーンを見せられて、僕は恥ずかしさと気まずさで思考回路が停止しそうになった。

 

横には久保くんまでいるのに!

さっきまで、気まずい雰囲気が少しは改善されたと思っていたのに、最後の最後で形勢逆転しちゃったよ!

 

見なかったことにしようと、スクリーンから目を離そうと試みたが、久保くんが横にいる中でそんなことしたら気まずさは更に増す一方だ。

 

というか、久保くんはこんな映画を見て大丈夫なのかな……?

 

チラッとすぐ横に座っている久保くんの顔をうかがった。

 

久保くんはいつも通りの表情を崩さずに、映画に見入っている。

 

なんでこんな時まで久保くんは冷静に見続けてられるの!?

どこまで優等生スキル発揮してるつもり!?

 

ここまで平常心を保っていられるなんて……羨ましい。

見てるとなんだか、気にしている僕が馬鹿馬鹿しくなってきたよ……。

 

ええい、こうなったら最後まで見てやる。

これはただの恋愛映画なんだから。

 

なので平常心を保って、最後まで見ることにした。

 

映画の主人公がヒロインの豊かな胸を揉んだ。

すると、ヒロインの喘ぎ声と生々しい音が会場に響く。

 

そして、主人公がヒロインを押し倒して行為に発展して、2人のこれ以上に無い愛を見せられた。

 

2人のベットの上で愛し合うシーンはとてもじゃないが、見れたものではなかった。

 

どうやら、このシーンが映画のラストシーンだったらしく、主人公とヒロインの行為が終わったと共に映画も終了した。

 

その時、僕は「やっと終わった……」と心の中でつぶやきながら、平常心を保つ力を抜いた。

 

この映画は付き合ってもない男女2人が見るような映画ではないと、脳内で映画の評価をした。




誤字脱字と感想お待ちしております。

そして活動報告にて、重要なお知らせがあります。
絶対に見てくださいとは言いませんが、確認した方がいい内容ではあります。
念のためにご確認ください。(*・ω・)*_ _)ペコリ


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72話 初デート5

長らくお待たせして申し訳ありません!

大幅な修正と編集の末、半年ぶりの投稿となってしまいました……。

今回からまた投稿再開するので、よろしくお願いします。


side久保

 

 

はぁ……まさかあんな内容の映画をアキちゃんと2人で観賞することになるとは……。

 

スクリーンから出てから、僕は顔には出さないようにしているが、先程の映画のラストシーンで生まれた気まずい雰囲気をどうにかしようと平然を装うのに必死だったため、精神的に参っている。

 

「…………///」

 

横ではアキちゃんもどこか気まずそうに俯いている。

 

あまりさっきの話題を振らない方がいいな……。

 

「……目的の映画は見終わったけれど……この後はどうする?」

 

下手に口走っては不穏な空気が悪化するので、映画の内容については触れないでおく。

 

アキちゃんは僕の声を聞いて、ビクッと反応してから、

 

「まだ……お昼ごはん食べてないよね……?」

 

「もちろん食べてないよ……そういえば、互い食べ損ねてしまったね」

 

現在の時刻は2時。

映画の上映時間が昼だったとはいえ、昼食をとることを忘れていた。

 

「だよね……じゃあ今からお昼にしない?」

 

「ああ、そうだね……なら、どこで食べようか……」

 

周りを見回す。

 

ここの辺りにいい店でもあるといいが……前もってこの周辺の情報を調べておくべきだった。

 

「ついて来て。いい場所があるから」

 

いきなり僕の手を引いて、どこかへ行こうとするアキちゃん。

 

「吉井くん? いきなりどこへ――」

 

手を引かれるまま、進んでいった。

 

この時、我ながら女性にリードされるのが情けなくも思っていた。

 

もしこういった状況になったら、自分がリードできるようにしよう……と反省。

 

にしても、アキちゃんはどこへ行く気なんだろうか?

 

 

 

 

 

手を引かれてしばらくした頃、とある公園のベンチに2人で座った。

 

「えっと……ここでいったい何を……?」

 

公園ということは……売店などで買って食べるとでもいうのだろうか。

 

しかし、食べ物を売っているような場所はなさそうだし、ここへ来る途中、何も買っていないのだが……。

 

「あのね……実は……」

 

ごそごそと自分のバッグから、何かを取り出す。

 

すると、巾着に包まれた箱のようなものが……これはなんだ?

 

「お弁当作ってきたの。よかったら食べない?」

 

「えっ……?」

 

アキちゃんが弁当箱を開ける。

 

とても美味しそうな手料理の数々が弁当箱の中を彩っていた。

見てるだけで空腹を刺激される。

 

「作ってきたって……吉井くんが作ったの?」

 

「うん! 料理には少しだけ自信があるから、もしものために作ってきたんだ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

まさかのアキちゃんが作ったお弁当を食べられるとは……明日は台風が日本列島を直撃するのだろうか……。

 

いや、そんなことを考えてないで、早く食べるとしよう。

腹は減ったし、何よりアキちゃんがわざわざ作ってくれたものだし。

 

これはちゃんと味わって食べなければ。

 

「なら、ありがたくいただくよ」

 

「そしたら…………はい、あ~んっ」

 

すると、アキちゃんは卵焼きを掴んだ箸を、こちらに差し出してきた。

 

「……え?」

 

突然の行動に僕は固まる。

 

「ほ、ほら……久保くん、あ~ん!」

 

困惑している僕の口元まで近づけてくる。

 

「い、いきなり、どうしたんだ?」

 

「そ、その……間違えてお箸を1本だけ持ってきちゃって……だから」

 

「いやいや、そんなことしなくても……吉井くんが先に食べてていいから、その後に僕が使えば……」

 

「久保くんに食べてもらうために作ってきたから、まずは久保くんから食べてよ!」

 

グイッと箸を近づけてくる。

 

僕のために作ってくれたのはとても嬉しい話だが、流石にこれは……。

 

「わっ、あの子たち、あ~んしてる~!」

 

「本当だわ。2人とも可愛いカップルね。微笑ましいわ」

 

「ふふ、若いって羨ましいわねぇ……」

 

すると、少し離れたベンチからこちらをニヤニヤと見つめる女性3人組。

 

「……く、久保くん……恥ずかしいから、早く食べて///」

 

見られていることに気づいたのか、顔が赤くなりながら、小刻みに震えているアキちゃん。

 

「いや……でも……」

 

……待て、ここを拒んではアキちゃんだけが恥ずかしい思いをしてしまう。

この際、恥じらいなんて気にしてはならない。

 

ええい、ままよ!

 

僕は思いきって、アキちゃんが差し出している卵焼きを口に含む。

 

モグモグ……………………。

 

…………うまい。

 

いざ食べてみると、あまりの美味さに言葉を失う。

 

ちょうどいい甘さと、ふわふわとした食感。

卵1つで出せるような味ではない。

 

こんなに美味しい卵焼きは生まれて初めて食べたかもしれない……。

 

「美味しいよ……うん、すごく美味しい」

 

「そ、そう? よかった……じゃあ……次はこれ」

 

続いて、これまた美味しそうな唐揚げを差し出してきた。

 

恥ずかしい気はするが、これで2度目なのであまり気にならず、あ~んと口を空けて食べる。

 

…………これもうまい。

 

時間もしばらく経っているだろうというのに、出来たての美味しさと食感。

 

飽きずに何個でもいけそうなくらいだった。

 

「うん、とても美味しい……本当に料理上手なんだね」

 

「えへへ……ありがとう」

 

こうしてしばらくの間、幸せなお昼を過ごすこととなった。




かなりの重大イベントだったので、うまくまとめようとしたのに長くなってしまった……。
次回で完全にデートの回は終わらせます。

感想と誤字脱字報告、よろしくお願いします。


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73話 デートを終えて

なんとか近い内に投稿できた……。


sideアキ

 

 

「ごちそうさま、吉井くん。とても美味しかった」

 

「ありがとう。作ってきてよかったよ」

 

お弁当を食べてから満足した表情の久保くんを見て安心した。

 

このお弁当とさっきの久保くんに「あ~ん」しながら食べさせてあげたのは、姫路さんから伝授したものだ。

 

『デートでお昼にするらな自分の手作り弁当がいいんです!』とか『あ~ん、してあげれば絶対に喜びますよ!』と念を押すように姫路さんは言ってたような……。

 

こんなので久保くんは喜んでくれるだろうかと心配ではあったが、見事に姫路さんの言う通りとなる結果になってよかった。

 

でも、「あ~ん」はやりすぎな気もするけど……。

他の人に見られてた時、とっても恥ずかしかったなぁ……。

 

あれをして正解だったのかと思いながら、弁当箱を巾着にしまう。

 

「それにしても、吉井くんのお弁当は本当に美味しかったよ。また食べてみたいな」

 

「そ、そんなに……?」

 

腕には自信があるとはいえ、そこまで美味しかったのだろうか……?

 

「それなら、また……作ってあげようか?」

 

ポツリとつぶやくように言った。

 

「え? いいのかい?」

 

「うん。そこまで気に入ってくれたら、また作ってあげようかなと思って……」

 

「そうか……ありがとう。楽しみにしているよ」

 

久保くんは微笑んだ表情でいて、とても嬉しそうな様子が伝わってくる。

 

僕のお弁当だけでそこまで喜んでくれると、こっちまで嬉しくなる。

 

次、作る時は頑張ろう……。

 

僕は手に持っている弁当箱を入れた巾着をギュっと握りしめた。

 

 

 

 

その後、本来の目的である映画は見終えているので、特にすることもなくなり、そのまま2人で帰り道を歩いた。

 

今は夕方とはいえ、僕1人じゃ心配だから送って行こうと久保くんに言われて、自分の住むマンションまで送ってもらった。

 

「今日はありがとう。いきなり誘っちゃってごめんね」

 

「謝ることはないよ。言うのはお礼だけでいいさ」

 

謝る僕に苦笑する久保くん。

 

「うん……そういえば今日、楽しかった……?」

 

「もちろんさ。充実して1日を過ごせたよ。お誘いしてくれたことに感謝している」

 

「そっか……よかった」

 

貴重な休日を潰してしまったのではないかと思っていたが、そうでなくて安心した。

 

「それじゃあ、またね。また学校で」

 

そう言って久保くんはその場を去るように歩き出した。

 

「うん……またね」

 

………………。

 

…………………………。

 

…………なんで、別れた後ってこんなに寂しいんだろうな。

 

帰っていく久保くんの背中を見つめながら、モヤモヤした感情でいっぱいの胸を両手で押さえた。

 

 

 

 

「ふぁぁ……今日は楽しかったけど、疲れたなぁ……」

 

部屋に戻ってからのこと。

 

猫耳パーカーを脱いで、ベットに横たわる。

大きな脱力感が襲ってきた。

 

「はぁ……僕ってどうしちゃったんだろう……」

 

久保くんと別れてからというもの。

寂しいような、悲しいような……切ない感情がこみ上げてくる。

 

なんとなく友人と離れたりすると寂しくなることはあるが、これは違う気がした。

 

今まで味わったこともない、胸に募る心苦しさ。

思わず胸を押さえてしまう感覚。

 

「いつから……こうなっちゃったのかな……」

 

この正体不明の感情に陥るのはこれが初めてではない。

 

以前の文化祭の帰りだったり、後は花火大会の帰りも……。

だいぶ前から既に存在していた。

 

文化祭の時も……久保くんに抱き着いちゃったんだっけ……。

 

今思うと、恥ずかしくなって枕に顔をうずめた。

しかし、肝心なのはなぜあの行動をとったのか自分自身、わからないのだ。

 

ただ寂しかったから思わず……それだけでは明確な動機になていない。

 

僕と久保くんはお互いに傍から見ても普通の友達同士の関係なのに。

それなのに……なんで僕は……。

 

「もう……さっきからなんで久保くんのことばかり考えてるんだ……」

 

寝返りをうって仰向けになる。

 

考えれば考えるほど悶々とするし、切なさで胸がいっぱいになる。

この胸の内にあるモヤモヤは、正体に気づくまで一切消えることはなかった。




最後にしては短いですが、これでアキちゃんと久保くんのデートイベントは完了です。
沢山の応援と感想ありがとうございました。

次回から文月学園での日常を少しだけ挟んで、強化合宿編にする予定です。

原作から大きく外れているので、心配しかない……。(´・ω・ `)

感想と誤字脱字報告よろしくお願いします。


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74話 月曜日の騒動

これを合わせて2~3話くらい日常書いてから強化合宿編にするつもりです。


sideアキ

 

 

「おはようございます! アキちゃん」

 

「おはよう、佐藤さん」

 

いつもと変わらない週末明けの月曜日。

いつもと変わらず佐藤さんも横にいる。

 

何も起きないごく普通の朝を迎えていた時のこと。

 

「アキちゃん! おはようございます!」

 

横から姫路さんの登場。

 

今日も明るい表情。

週末明けで元気そうなのはいいことだ。

 

「おはよう、姫路さん」

 

「お、おはようございます……姫路さん……」

 

僕は普通に返事を返すが、佐藤さんは少し怯えた様子で他人行儀だ。

 

人見知りな性格がある佐藤さんではあるが、この2人、2学期の一騎打ちで対立した者同士だ。

 

その勝負にあっけなく敗北してしまったのが佐藤さんなので、少し気まずい関係なのだろう。

 

「こんな時間から姫路さんと会えるなんて珍しいね……あ、そういえばこの前はありがとう」

 

ふと思い出したので、すかさずデートの時に衣装を用意してくれたお礼を言っておく。

メールで既に済んではいるけど、直接会ってお礼するのも礼儀だ。

 

「いえいえ、お力になれたなら幸いです。それで……どうでしたか?」

 

「うん、おかげさまで……上手くいったと思うよ?」

 

「それはよかったですね! 選んでおいた甲斐がありました!」

 

姫路さんと僕の2人で繰り広げていく会話は途切れることがない。

 

「んぅぅ……(話に入り辛いです……)」

 

一方、佐藤さんはそれに置いてけぼり。

 

それを見た僕は、しまったとばかりに、

 

「そ、それでね、佐藤さん。姫路さんから猫耳パーカーを着せられちゃったんだ……」

 

唐突に、けれど自然に話題を振る。

 

これで少しは話に参加できるといいんだけど……。

 

すると、ピクッと反応した佐藤さんは

 

「ね、猫耳パーカー!? 姫路さんが着せたんですか!?」

 

クワッと目を見開いて、食い付いてきた。

 

「そうですよ。なんといっても、私はアキちゃんの衣装選び担当ですから」

 

胸を張って、自信満々な姫路さん。

 

変な担当ができている上に、なぜそこまでそれに誇りを持っているのだろう……。

 

「そ、そうだったんですか……私と同じような存在がいたなんて……」

 

「同じ存在……? まさか……あなたもアキちゃんの衣装選び担当なんですか!?」

 

「も、もちろんですよ! ふつつかな者ですが、以前にアキちゃんがAクラスからFクラスに戻る時に衣装を選んで差し上げましたよ」

 

「あの衣装はあなたが選んだんですか!? いいセンスでしたよ!」

 

「ありがとうございます! 姫路さんとは同士になれそうです!」

 

「こちらこそ! 佐藤さん……でしたっけ? よろしくお願いします!」

 

お互いにガシッと手を取り合う。

 

佐藤さんが話題に食い付いてからというもの、姫路さんと佐藤さんの2人は僕の衣装についての話で会話がヒートアップ。

 

あれれ……? 次は僕が話についていけなくなっている……?

 

2人の話の内容は次元が違いすぎて、どうしても僕が入れる内容ではないので、佐藤さんに話題を振ってあげた側だったのに、次は僕が置いてけぼりにされた。

 

まぁでも、佐藤さんと姫路さんが仲良くしてるならいいかな……。

 

内容はどんなものであれ、気の合う友達ができるのは内気で友達があまりいない佐藤さんにとってはいいことだと思う。

 

それに、佐藤さん……いつもよりイキイキしてて、笑ってる。

 

新しい仲間を見つけ、惹かれ合っていく2人の姿はとても微笑ましい光景だった。

 

それを見つめていながら、思わず笑みを漏らす僕だったけど、

この日を境に2人が僕に着せてくる衣装やコスプレの内容が悪化していったのはまた別の話。

 

 

 

 

「それでは、これで失礼します。アキちゃん、瑞樹ちゃん」

 

「うん、またね」

 

「またお話ししましょうね、美穂ちゃん」

 

学校に着いてから、佐藤さんとはここでお別れ。

 

「ふぅ……いい友達ができました!」

 

「よかったね、佐藤さんとは仲良くしてあげてね」

 

にしても、さっきの間でもう下の名前で呼び合っている……。

僕と佐藤さんが出会った時よりもすぐに打ち解け合っているような……。

 

やはり気が合う者同士はほぼ初対面の人と速攻で仲良くなれるのだろうか。

 

その後、昇降口まで向かっていると、何やらこの学園の生徒が集まって人だかりができていた。

 

「どうしたんですかね? 今日は行事でもあるのでしょうか?」

 

「朝から問題騒ぎでもあったのかな?」

 

何があったのかと、その様子を凝視する僕と姫路さん。

 

「こんな週明けの朝からなんの騒ぎなんだ……?」

 

「ん……? あ、久保くん。おはよう」

 

「おはよう、吉井くん。そして隣にいるのは……姫路さん」

 

「あぁ! おはようございます! アキちゃんとのデートはどうでしたか?」

 

「ちょ、ちょっと姫路さん!?」

 

こんなタイミングでいきなり何を言い出すんだ!?

 

「え……もしかして、姫路さんはそのことを知ってるの?」

 

「当たり前です。デートの衣装は私が選んだんですから」

 

またまた胸を張る姫路さん。

 

「そ、そうだったんだ……とても可愛いかったよ」

 

「あうぅぅ……久保くんまで何言ってるの……///」

 

「ご、ごめん……? つい本音が……」

 

朝から久保くんに恥ずかしいことを言われて、顔が熱くなった。

 

別に嫌じゃないけど……。

 

「それにしても、この騒ぎはいったいなんなんだ……?」

 

改めて、昇降口前でできる人だかりを目にして久保くんはつぶやく。

 

すると、

 

「おい、来たぞ! 本人のお出ましだ!」

 

「ついに現れたな……横にはアキちゃんまでいやがるぞ!」

 

「あの野郎……やっぱりアキちゃんと……!」

 

こちらを見た瞬間、そこに集まっていた生徒たちが口々にそのような言葉を発し始めた。

主に男子から。

 

「? どうしたんだい?」

 

久保くんは何がなんなのかサッパリわからず、首を傾げるばかり。

 

ちなみに僕も何がなんだかわかるはずない。

 

「久保くん……本当に何かあったのかな?」

 

「わからない……ただ僕たちが関連していることは確かだろうね」

 

2人でヒソヒソと話している時のことだった。

 

「「「久保を殺せえええええぇぇぇっ!!!」」」

 

集まっていた生徒たち(全員男子)がそう叫んだ。

手にはカッターナイフやバットなどの簡易的な凶器が握られている。

 

「「……はぁ?」」

 

僕と久保くんは目が点になる。

 

「ど、どどどうしたんですか!? 2人に何かあったんですか!?」

 

横にいる姫路さんも状況が理解できず、オロオロし始めた。

 

「どうしたんだい、みんな? こんな朝早くから鼻息荒くして……」

 

「とぼけんじゃねぇ! 久保!」

 

「お前らに何があったか、証拠はきっちり収めてあるからなぁ!?」

 

証拠……? 本当になんの話をしているんだろうか?

 

「これを見やがれえぇ!」

 

1人の男子生徒が昇降口の横に指をさす。

 

横には掲示板があり、そこにいくつかの写真やポスターが貼られている。

 

それがどうしたというのかな……?

 

僕は掲示板に貼られている内容を見た。

 

「えぇ!? え、なんで!? なんでこんなのが!?///」

 

それを見た瞬間、顔から火が出るほどの羞恥心を覚えた。

 

「ん……どれどれ…………え?」

 

続いて内容を見た久保くんは固まった。

 

こんな反応をするのは無理もないと思う。

いや、普通に考えて無理もない。

 

そこにはなんと…………デート時の僕と久保くんの写真が盗撮アングルで映っていた。

 

タイトルは『アキちゃんと久保に熱愛疑惑!?』と大きく書かれていた。

 

「な、ななな……なんでこんなのが……!?」

 

いつの間に撮られてたんだ、この写真!?

 

僕はいきなりのことに戸惑っていた。

 

そこに、須川くんが現れて、

 

「おととい、たまたま俺と横溝が出かけた時に見てしまったんだよ……バッチリ写真にも納めておいたぜ……」

 

笑っているが、どこか怒り狂った表情で説明する。

 

「アキちゃん……なんでこんな勉強にだけしか能がなさそうな男と付き合っているんだよ……」

 

横溝くんは本気で号泣しながら、憎たらしい目つきで睨む。

 

別に付き合っている訳じゃないのに……。

っていうか、勉強にだけしか能がないって、それは誉め言葉なのでは……?

 

「アキちゃんって久保くんと付き合ってたの?」

 

「えぇぇッ!? 意外! 彼氏いる予感はしてたけど、久保くんとなんて……」

 

「あの女っ気のない久保に彼女……しかも相手はアキちゃん……」

 

男子とは別に、集まっていた女子生徒にも誤解の火種が飛んでいた。

 

「朝っぱらからなんの騒ぎだ……また明久がやらかしたのか?」

 

「あ、雄二! ちょうどいいところに!」

 

「なんだ、どうした。俺はそんなに暇じゃn……なんだこれ? ふむふむ……『アキちゃんと久保に熱愛疑惑!?』か……お前ら俺らが知らない内にいつの間にそんな関係に……」

 

「ちがぁぁう! 誤解だよ! 雄二まで信じないで!」

 

必死に雄二を説得した。

 

その間に、

 

「とにかくだ……我らの聖母ともいえる存在、アキちゃんに手を出す反乱分子の代償は大きい……ここで消えてもらおうか」

 

須川くんの後ろには沢山のどこかで見たことがあるような、ないような黒い布を羽織った集団が……。

 

「ま、待ってくれ! それは誤解なんだ! 僕と吉井くんにそんな……」

 

「黙れぇい! この期に及んで言い訳とは見苦しいぞ! 潔く罪を認めるがよい!」

 

必死に弁解する久保くんだが、まったく信じてもらうどころか、逆に黒い布を羽織った集団の不機嫌さが増していくばかり。

 

「あぁ……! どうしよう……このままじゃ久保くんが……」

 

「お前が説得しに行けばいい話だろうが」

 

「そうだった! ありがと、雄二!」

 

雄二に言われて、久保くんにじりじりと踏み寄る集団の前に立った。

 

「アキちゃん、そこをどいてくれ……久保の返り血でアキちゃんが汚れてしまう」

 

「ま、まって! これは本当に誤解なの! 僕と久保くんはそんな関係じゃないから!」

 

「おいおい、アキちゃん……そんなに久保の肩を持つ必要はねぇんだぜ?

あぁ……そうか、彼氏だもんな……そりゃあ味方するはずだわな……」

 

「ほ、本当だから! た、確かに2人で、デートみたいなことはしたけど……でも、違うから!」

 

「おい、やっぱりデートだとよ! それなら、なおさら殺せぇ!」

 

ど、どうしよう……僕が説明していく内に事態は逆に悪化していく……。

 

「はぁ……吉井くん、ここは僕が説明するよ」

 

僕の肩にポンッと手を置いてから、やれやれといった様子で前に立つ久保くん。

 

「一方的に僕たちのことをまくし立てて言っているけど……僕と吉井くんは君たちが思うような関係ではないよ」

 

キッパリと久保くんは言った。

 

「嘘を言うな! その場しのぎの冗談は通用しねぇぞ」

 

「本当さ。確かに2人きりだったのは認めるけど、それは吉井くんの頼まれ事だ」

 

その言葉にうんうん、と横でうなずく僕。

 

「じゃあ、なんでお前なんだよ?」

 

ジロッと久保くんを睨んだ。

 

「いろんな事情があって相手が僕しかいなかったんだよ。だからあくまでも仕方なくという形でそうなった訳だよ」

 

…………うん、そうだね。

 

「なら……本当に何もないんだな?」

 

念を押すように男子生徒は険しい顔をする。

 

「そんなの根も葉もない話はしないでほしい。根拠にもなく君たちの想像と考えを押し付けるのはよくないよ」

 

………………。

 

久保くんのその言葉に悪意がなかったのはわかる。

しかし、それに僕は苛立ちを覚えた。

 

そこまで否定しなくていいのに…………。

久保くんは僕とそんな関係で見られるのがそんなに嫌なの?

 

「……くそ、まだ納得がいかんが……もうすぐで朝のホームルームだ。今日のとこは不問にしといてやるよ」

 

須川くんの声で、男子生徒全員は去っていく。

 

「ケガ一つ負わずに済んだだけありがたいと思えよ……覚えていがれってんだ」

 

去っていく者に憎まれ愚痴を叩かれながら、久保くんは呆れてため息をついた。

 

「まったく……いろいろ考えたら人騒がせな連中だったね」

 

「……そうだね」

 

「何はともあれ、すまない。こんなことに巻き込んでしまって……」

 

「……別にいいよ……こうなったのは僕が原因だし」

 

「吉井くん? なんで怒っているの?」

 

「……怒ってないよ」

 

「いや、でも……」

 

「早く行った方がいいよ? 遅れても知らないよ」

 

僕は素っ気ない言葉を言い残して、その場を離れた。

 

…………なんで僕はこんなにイライラしてるんだろう。




感想と誤字脱字報告お待ちしております。


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75話 鈍感な優等生:前編

(´・ω・ `)こんばんは、今回は久保くんsideのお話です。


side久保

 

 

今朝の修羅場と言っても過言ではない状況からしばらく時間が経った昼休みの頃であった。

 

「あの野郎、俺たちのアキちゃんと……!」

 

「殺す……マジで久保殺す」

 

「フ●ック……!」

 

自分の周りには敵ばかり…………主に男子。

 

こういう状況は……ええっと……そうだ、四面楚歌だ。

 

僕とアキちゃんが休日に2人で、で……デートというものをしていた話はまたたく間に広がって、今に至る訳だ。

 

朝からずっと授業中も昼休みである今もなお睨まれ続けている始末……。

 

「はぁ……なんでこんなことに……」

 

あまりの理不尽すぎる週明けの月曜日は憂鬱が頂点まで達して、頭が狂いそうだ。

 

「それに……吉井くんも怒ってたし……なぜ怒ってたんだ? 何かまずいことを言ってしまったのか……」

 

今朝のアキちゃんはやけに怒っていたというか、とても不機嫌な様子だった。

 

もしかすると僕とのデートが公に晒されたのが、よほど不快な気分にさせてしまったのかもしれない。

現に僕もこの状況が十分なストレスになっている。

 

しかし、僕があのFクラスの変な集団に事情を話してから素っ気なくなってしまったような……いや、僕は間違ったことは言ってないな。

どう考えても事実を述べただけで、誤解を受けないように話しただけ……だよね。

 

それならなんでアキちゃんが怒っていたのか、ますますわからなくなってくるな……。

 

月曜日だというのに、今日は嫌なこと続きで疲れた。

 

今日は家に帰って授業の復習はしないでおこう……。

 

「完全に男子全員を敵に回してしまったね。久保くん」

 

「おかげでみんなから目の敵だよ……佐山さん」

 

横の席からクラスメイトである、佐山さんが苦笑しながら話しかけてきた。

 

「みんなの憧れであるアキちゃんと隠れてあんなことしてたんだから、仕方のないことよ」

 

また真後ろの席から櫻井さん。

 

「隠れてって……別に隠れてた訳じゃ……」

 

「いいな~アキちゃんとデート……なんで私のこと誘ってくれないんだろ~」

 

「こっちもなぜ吉井くんが僕を誘ったのか知りたいよ……浜崎さん」

 

またまた横からひょっこり現れた浜崎さん。

 

※佐山さん・櫻井さん・浜崎さんの3人については本編の48話を参照

 

「それにしても、久保くんとアキちゃんって付き合ってるの? ぶっちゃけ、どんな感じ?」

 

「それはボクも気になるな~!」

 

「アタシもすっごく気になるわね……詳しく説明してくれるかしら?」

 

「私も気になります!」

 

佐山さんの質問を聞いた、工藤さんと木下さんと佐藤さんも話に加わってきた。

 

すると当然、周りにいる男子たちは

 

「おいおい、次は女子囲んでやがるぞ」

 

「あの女たらしめ……! ますます許せねぇ……!」

 

「Kubo ought to die……No,we should kill it」

 

うわぁ…………事態は深刻化する一方だ……。

 

もう精神的に追いやられているのに、女子6人を相手するのは過酷すぎる……。

さっさと話して、誤解を解かなければ。

 

「前にも言った気がするけど……僕と吉井くんは付き合ってもない、お互いにただの友達のような存在だよ」

 

簡潔に説明するが、それだけでは納得がいかないようで、

 

「そう言われてもね……じゃあ、聞くけど、なんで2人きりでデートなんてしてたの? 普通の男女の友達がそんなことする?」

 

佐山さんはさらに問い詰める。

 

「……吉井くんが恋愛映画のペアチケットを手に入れたそうだけど、誘う相手がいなかったらしくて、結局僕を選んだらしい。もちろんこれは本人曰くだ」

 

これで納得してくれるといいが……。

 

「ちょっと待って、なんでアタシが誘われないのよ……アタシでもよかったじゃない」

 

しかし、木下さんはそれを聞いて急に怪訝そうな顔をする。

 

「ボクも誘ってくれれば喜んで行ってたんだけどな~」

 

「私も……アキちゃんの猫耳パーカー姿見たかったです……」

 

工藤さんと佐藤さんも木下さんと似たり寄ったりの反応。

 

「はっ! もしかして……最近、妙に2人の距離が近いと思っていたけど、この前の学園祭の帰りに吉井くんを襲って、既成事実を作ったんじゃ……!」

 

ふと思い出した木下さんは、僕を睨みつける。

 

「そ、そんなことは決してない! 神に誓ってない!」

 

「本当に……? 怪しいわね……」

 

誤解を解くはずが、いらない誤解を生んでしまった……。

一歩間違えれば女子からの信用まで失われかねない。

 

そうなったらもう……この学園にはいられないな。

 

「そう……なら、それはいいとして、久保くんはどう思っているのよ?」

 

「な、何がだい?」

 

「吉井くんのことよ。いくら久保くんでも、あの可愛さと魅力にはなんとも思わない……ってことはないでしょ?」

 

「まぁ……木下さんの言う通り、吉井くんはとても可愛いくて、それでいて性格も完璧な女の子だとは感じているけど……」

 

「やっぱり久保くんもアキちゃんのこと好きなんだね~」

 

「アキちゃん、恐るべし……!」

 

佐山さんと浜崎さんがやけに食い付いてくる。

 

「いや別に好きとは言ってないけれど……」

 

「でも、好きなんでしょ? 顔にそう書いてあるよ」

 

佐山さんの一言でドキッとした。

 

顔に出てしまっていたか……。

 

「……なんというか……その……佐山さんの言う通り、僕はアキちゃんのことは……す……す、好きだよ……」

 

下手に隠してもどうせバレるだろうと、ここで告白。

 

「やっぱりー! 久保くんもそうだよねー!」

 

と興奮気味な佐山さん。

 

「これは意外ね……あの久保くんが……」

 

櫻井さんにとっては予想にもしなかったそうだ。

 

「だんだん、おもしろくなってきたじゃない!」

 

何がおもしろそうなんだろう……浜崎さんは。

 

「久保クンも男の子なんだね~」

 

ニヤニヤとこちらを見つめる工藤さん。

 

「ふ~ん……やっぱりそうだったのね……」

 

目を細める木下さん……って、顔が怖い!

 

「詳しく聞きたいです……!」

 

メガネを輝かせながら詰め寄る佐藤さん。

 

「ちょっと、みんな落ち着いてくれ……」

 

赤裸々な事情を告白した瞬間、あまりの反応に対応できなかった。

 

しばらくして、

 

「ここからが本題なのですが、2人きりでデートしたということはそれなりの関係になっているということでしょうか?」

 

と佐藤さんが若干ストレートな内容をぶつけてきた。

 

というか、本題って……さっきのは本題ではなかったのか……?

 

「し、知らないよ……何度も言うけど、僕自身はあくまでもいい友達だとは思っているよ」

 

誰しも相手が自分をどんな存在で見ているかわかるかといったら、それは無理なことで、不可能に近い話だろう。

 

そんなのわかってしまえば、苦労はしない。

 

「それなら、今までアキちゃんとどんなことをしてきましたか?」

 

「どういうことなんだ、それは?」

 

「久保くんの性格から考えて、相手を外見で好きになるほど単純な性格ではありません。

それなら、2人の間に何かあったはずです。それを聞きたいのです」

 

佐藤さんが真剣なまなざしで見つめる。

なぜここまで真剣な顔つきなのかはよくわからない。

 

アキちゃんに惚れた理由はあの誰でも魅了するほどの可愛さ、でもあるけど……確かに性格などの内面がよくなければ好きにはなってないだろうな……。

 

「答えないならこっちから質問しちゃおう! 2人が一緒にいる頻度ってどのくらい?」

 

まず先に手を上げた佐山さん。

 

「ええっと…………休み時間や学校の行きがけと帰りにいるくらい……?」

 

「たまに一緒にいますよね。もちろん私もいますけど」

 

アキちゃんと行きがけと帰りを共に行動する佐藤さんは頷く。

 

「それなら、連絡先などは交換しているの? 例えばL●NEとか」

 

と次は櫻井さん。

 

「交換してはいるよ。むしろ、吉井にとって初めて交換した相手が僕だったりするけど……」

 

「ほほぅ……これはポイントが高いですね……」

 

とメモを取り始めた佐藤さん。

 

いったい何を書いているのだろうか……。

 

「じゃあ、次はボクが質問する番だよ! ボクもそうだけど、吉井クンと一緒に過ごしてきた中で、とても急接近できたイベントは!? ラッキースケベとかもアリだよ!」

 

工藤さんらしい質問だね……。

 

「うーん、特にはないけど……」

 

「嘘つかないでちょうだい。夏休みにガラの悪い連中から吉井くんを守ったり、夏祭りの後、2人で帰ったりしたじゃない」

 

木下さんの指摘にギクッとなる。

 

「つまり、ナンパからアキちゃんを助けたってこと……? これ、なかなかアキちゃんにとっては好印象なんじゃない?」

 

と櫻井さん。

 

「そうかもしれませんね。アニメの王道シチュエーションって感じがしていいですね!」

 

佐藤さんはペンを動かしながら、メモを書き進める。

 

……これは他人に話していいことなのだろうか?

 

「あの……木下さんここではあまり話さないほうが……」

 

「他にも学園祭の時、打ち上げを抜け出して吉井くんと2人でいたじゃない。

あれもすごく気になっていたのだけれど、何よりその後、寝ている吉井くんを連れて帰ったじゃない! あれから絶対に何かあったでしょう!?」

 

うわあああ……どんどん人に言えない事情が暴露されていく……。

 

「ええ!? そんなことがあったんですか!?」

 

これには佐藤さんを始めとする、女子一同は驚きを隠せない。

 

「打ち上げ抜け出していないと思ったら、アキちゃんと2人でいたの?」

 

「えぇ!? なんで!? 気になる~!」

 

あの時、僕がいなかった理由を聞いて佐山さんと浜崎さんは気になる様子。

 

「優子に聞いたけど、なんで吉井クンと2人でいたの? もしかして、こっそり抜け出して――」

 

「ああもう! わかったから工藤さん、何も言わないで!」

 

また誤解を生みそうなので、大声で工藤さんの口を封じる。

 

「アタシもなんでFクラスに……しかも吉井くんと2人でいたのか気になるわ」

 

と暴露した側の木下さんも知らない様子。

 

「今から話すよ…………他言はしないでくれ、絶対に」

 

もう嘘をついたりごまかす気力もないので、すべてを洗いざらい話した。




思ったより、長くなりそうなので前編と後編に分けて作ろうと思います。

それと今回は48話で登場した3人のAクラス女子生徒が目立ちましたね。
オリキャラを作る予定などなかったのですが、作者の都合でオリキャラ(?)っぽいものを作ってみました。

登場回数はモブ並み程度ですが、少しだけキャラ設定を紹介します。

佐山五月(さやま さつき)


黒髪のショートカットで、女子の中では高身長。
中学の時から陸上部を続けており、運動神経抜群で力も並みの男子より上。
誰とでも親しみやすく、クラスのムードメーカー。
保健体育や国語、古典が得意な反面、理数系科目が大の苦手。


櫻井菜乃葉 (さくらい なのは)

黒髪のロングでメガネをかけている。
書道部に所属しており、文芸学に精通している、絵に描いたような文学系少女。
内気な性格ではあるが、別に人と接することが苦手ではない。


浜崎朱莉 (はまさき あかり)

茶髪のストレート。
特に部活などはしていない。
海外留学を目指しているので英語の成績は学年で1位レベル。
デリカシーのない発言などが多いものの、真面目な時は真面目なので信頼はされている。


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76話 鈍感な優等生:後編

side久保

 

 

「…………ということがあって、あの時は打ち上げに参加しなかったんだ」

 

学園祭であった、あの出来事を話し終わった後、女子一同は絶句状態だった。

 

「も、もう一度だけ聞くけれど……それって、本当なの……?」

 

驚きのあまり、身体を震わせている木下さんが恐る恐る尋ねてくる。

 

「嘘なんかついてどうするというのさ……話せることはすべて話したつもりだけど」

 

「そうなのね……まさか吉井くんが……」

 

木下さんがここまで驚いているのは無理もないだろう。

 

次に横で佐山さんが口を開いて、

 

「久保くん……多分それアキちゃんと脈アリだと思うよ」

 

「は、はぁ……? なんで急にそんな話になるんだい?」

 

「いや……だって……ねぇ?」

 

佐山さんがそう言うと、女子のみんなはウンウンと頷く。

 

「わざわざ水着姿を見せてあげるなんて……それって、吉井くんがかなり久保くんのことを信用している証拠よ」

 

と櫻井さん。

 

「そうだよ! いくら友達だからって、人前で恥ずかしい格好を2人きりの状況で見せるのは久保くんに気があるんだよ!」

 

と続いて浜崎さんまで。

 

「いや、それはないと思う。アキちゃんは日頃のお礼にと言っていたから……好意があってやったのはありえないと思うけど……」

 

僕がそう言った瞬間、みんなが僕を非難のまなざしで見つめてきた。

 

ど、どうしたというのだ? 僕が何かおかしいことを言ったのだろうか?

 

「久保クン……流石にその考えはないと思うなー……」

 

「アキちゃん……かわいそうです……」

 

工藤さんと佐藤さんがそう言ったものの、僕にはどういう意味なのかサッパリだ。

 

「な、何がおかしいんだ? 間違ったことは言ってないはずだけど……」

 

すると、みんなは呆れた表情をする。

 

「いろいろ言いたいことがあるのだけれど……もういいわ……次の質問をするわね」

 

なんで今日の木下さんは僕に対してこんな態度をするんだろうか……。

 

「それで……その後が気になるわね。吉井くんを連れて帰っていたそうだけど、何もなかったんでしょうね?」

 

「いや何度も言ってる通り、特には……」

 

「じゃあ、明確に正確に適確に説明してもらおうかしら。できるわよね? 嘘じゃないんでしょう?」

 

なぜそこまで念を押すように言うんだ……木下さんはどうしてアキちゃんのことになるとこんなに変貌するんだろう……。

 

「わ、わかったよ……説明するから落ち着いて」

 

そうして、女子一同が僕の話に興味津々な様子で耳を傾けた。

 

「あの後は吉井くんを背負ってそのまま酔いが覚めるまで、自分の家にいさせたんだよ……あ、もちろん親はいたから僕の家でやましいことは一切行っていないし行うこともできない」

 

「ふ~ん……それで、酔いが覚めてどうなったの?」

 

「今から説明するよ木下さん……それから、女の子に夜道を1人で歩かせる訳にはいかないと、吉井くんを家まで送ってあげた……これだけだよ」

 

簡潔に説明して、誰もが理解してくれただろうと思っていたのだが……

 

「納得いかないわ……本当にそれだけなの?」

 

木下さんは話に噛み付いてくるばかりだ。

 

「うーん……これだけだとやっぱり脈ナシっぽい?」

 

「変に期待しすぎちゃったのがいけないかもしれないわね」

 

「えぇ~……つまんな~い」

 

佐山さんと櫻井さんに浜崎さんはなぜかガッカリしていた。

 

「でも、吉井くんの家まで送り届けてから……あ、今のは聞かなかったことにしてくれ!」

 

しまった、これは誤解されるから話さないと決めていたのに、3人の反応を見てつい口走ってしまった。

 

しかしながら、それを聞いた木下さん。

怖い笑みを漏らし、容赦なく問い詰めてくる。

 

「まだ何かあるつもりね。言いなさい。そして、正直に全部ぶちまけるのよ」

 

「ちょっと待って! これは本当に……!」

 

「この際、隠し事は無しですよ! 安心してください、他言はしませんから」

 

佐藤さんにも言われ、そしてみんなも僕の返答を待ち望んでいる……そんな気がした。

 

「わかったよ……じ、実は送ってあげた後のことなんだけど……」

 

もしかしたら吉井くんのあの行為にはどんな意味があったのか、彼女たちならわかる気がすると、赤裸々に告白することにした。

 

 

 

 

「「「えええええぇぇぇ!!!???」」」

 

教室に彼女たちの驚きの声が響く。

 

周りにいた生徒は、何があったのかとその様子を不思議な目で見ている。

 

「く、久保くん! よかったじゃん! それ絶対に相思相愛(?)ってやつだよ!」

 

「まさか2人の関係がここまで進んでいるなんて……」

 

「アキちゃんにも久保くんにもついに春が来たのかな!?」

 

「おめでとう、久保クン! ちょっと悔しいけどね……」

 

「う、嘘……久保くんと……そんなっ……!」

 

「アキちゃんの運命の相手は久保くん……だった訳ですか……」

 

と1人1人変な解釈をされてしまった……。

どんな受け取り方をしたのだろうか?

 

「ええっと……つまり吉井くんから抱きついてきたってこと?」

 

「うん、あれは今でも忘れられない……」

 

木下さんの問いに答える。

 

「そりゃそうよね……アキちゃんからそんなことされたら、むしろ覚えていたい……」

 

どこか羨ましそうにしている佐山さん。

 

「でも、ずっと気になることがあって……なんで吉井くんはあんなことしたか……誰かわからないかな? 教えて欲しい」

 

「……えぇ? な、なんで私たちに聞くの? わかっていることだろうに……」

 

「ごめん、佐山さん……でも本当なんだ……」

 

すると、みんなは先程よりも増した呆れ顔。

 

「久保くん……あなたの脳内はどうなっているのかしら?」

 

「久保くんって、学年次席なんだよね……? なんで気づかないのかな?」

 

櫻井さんと浜崎さんからそう言われたけど、逆になぜ2人はそんな反応をとるのだ……?

 

「これが学年次席かぁ~……いろんな意味で残念だよぉ……」

 

ため息をつく佐山さん。

 

とても失礼なことを言われている気がするが、聞かなかったことにしよう。

 

「難儀なものだねぇ、久保クンは」

 

「ますますアキちゃんに同情しちゃいます……」

 

工藤さんと佐藤さんまで僕を……。

 

なんでみんなはわかるんだ? 僕がおかしいのか?

 

「なんか、聞いててだんだん腹が立ってきたわね……久保くん、ちょっと一発殴られたら自分の状況に気づくのかしら?」

 

「木下さん、その振り上げている手を下ろすんだ」

 

攻撃態勢をとるなんて、僕は彼女を不愉快にさせてしまったのだろうか?

僕の発言は彼女たちにどう映っているのか気になるところだが。

 

「はぁ……吉井くんからそういう風に見られてるだけでも腹立たしいけど、女の子の好意に気づけないっていうのが実に殴りたくなる要因ね。そんな人は馬に蹴られて死ねばいいのに……」

 

「木下さん……さっきから酷い言葉が混じっている気がするんだけど……」

 

「アンタのその鈍感さに比べたらまだ優しいくらいだわ」

 

辛辣すぎる……。

 

「鈍感って……じゃあ、なんで吉井くんが僕にあんなことをしたのか説明して欲しいものだよ。わかるのだったら是非とも願いたい」

 

これで悩みの種が消え去るだろうと思いきや、

 

「つくづくアンタってバカねぇ……言える訳ないじゃない……」

 

まさか木下さんからの罵倒が返ってくるとは思わなかった。

そして、佐山さんがそれをなだめるように、

 

「久保くん、女の子には言えない事情があるんだよ。察してあげるのもかっこいい男に近づく一歩かもしれないよ?」

 

「むっ……そうか……そんなに言えない理由があるのなら、追求しないでおこう」

 

性別の違いから生じる価値観や考えなので、知りすぎるのもよくないと諦めることにした。

女子だからこそ、アキちゃんのことについて彼女らは理解できたのかもしれない。

 

にしても、どんなことを考えているのか……女子の脳内を覗いてみたいものだ。

 

「それじゃあ、昼休みも終わることだし、アタシたちはこれで失礼するわ」

 

と木下さんが言った頃には、昼休みが終わる手前まで来ていた。

 

「まだ聞きたいことは沢山ありますけど、それはまた別の機会にしましょう」

 

とメモのような手帳をどこかにしまいこむ佐藤さん。

結局そのメモには何が書いてあるのか、僕は知る由もなかった。

 

女子一同は僕の席から離れて、それぞれ自分の席に着く。

 

「言い忘れていたけど、一つ忠告しておくことがあるわ」

 

「な、なんだい……木下さん」

 

「正直、久保くんは悪くないと思うわ……ええ、そうよ。学力は誰よりも優れている上に人望もあって、紳士的な性格……申し分ないと言えるわね」

 

さっきまで僕のことを散々言ってくれたのに、急に褒めだした。

 

素直に嬉しいが、いきなりどうしたんだろうか。

 

「久保くん、あなたは吉井くんと恋仲の関係になる気はあるのかしら? もちろんあるわよね?」

 

「なんでそれを前提に……まぁ確かに、叶わぬ恋かもしれないが、もしそうなれるならなりたいけれど……」

 

「なら今以上に精進なさい。吉井くんにとって相応しい相手になれるようになりなさい。

そうすれば、アンタと吉井くんが付き合うことを許すわ」

 

なぜ木下さんとの許諾が必要なのか……そしてなぜ僕とアキちゃんが付き合うことになっているのだろう。

 

「まぁせいぜい頑張りなさい。その鈍感さをさっさと直してアプローチしないと、アタシの義妹として迎え入れるわよ?」

 

ニヤリと笑って、自分の席へと戻っていった。

 

……木下さんはどういうつもりだったんだろうか。

ダメだ……今日はいろいろと悩むことが多すぎて、授業が身に入りそうにない。




感想と誤字脱字報告、お待ちしております。

さて、もうすぐで強化合宿編ですよ~


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77話 システムアップデート?

今回から強化合宿編に入る……前に、作者が考えた設定を追加しようと思っています。


sideアキ

 

 

「失礼します」

 

とある授業の最中に、学園長室に呼び出されていた。

 

「よく来たね、吉井。相変わらずその姿は元に戻らないのかい?」

 

学園長がいつも通り、自分の椅子に座って待っていた。

 

「戻れるなら既にそうしてますよ……」

 

「ふん、まぁ前のいけ好かない顔よりは遥かによくなったし、そのままで構わないんだけどね」

 

なんか元の姿を否定されている気がする……。

 

「それにしても、授業中だというのに、なんですか? いきなりこんなところに呼び出して……」

 

「今回アンタを呼び出したのは他でもないよ。観察処分者としての仕事を与えようと思ってね」

 

なぜ授業を放り投げてまで面倒な仕事を押し付けられなきゃいけないのだ……。

 

「観察処分者としての初仕事さね。上手くいくといいんだがね」

 

「初仕事って……今まで散々振り回してきたというのに……」

 

「いや、あれは雑用としての仕事で、観察処分者としての仕事とは言い難いね」

 

観察処分者の仕事は雑用係と言われて当然なのに、よく言うよ。

 

女の子になって少しは内容がマシになると思いきや、重い荷物を運ばされる、教員に資料を渡しに行く等……どう見ても女1人にやらせるような仕事ではなかった。

 

「そんな非難めいた目で見るんじゃないよ。とにかく今回は重労働を強いるつもりはないから安心しな」

 

「その観察処分者としての仕事とは、どのような内容なのでしょうか?」

 

「召喚獣の試運転をしてもらいたいのさね」

 

召喚獣の試運転……?

 

「すみません、何を言っているのか理解に苦しみます」

 

「今から説明するよ。ちょいと試験召喚のシステムを弄って、アップデートを図った訳なんだけどね。それのテストを行うために協力してほしいのさね」

 

「つまり、試験召喚のシステムアップデートを手伝えと……?」

 

「ご名答。アンタにしては理解が早いじゃないか。やっぱりその姿のままが丁度いいんじゃないかい?」

 

「姿と理解力の因果関係はないですよ……それで、アップデートとか言ってますけど、試験召喚の状況はどうなっているんですか?」

 

学園長は先程、弄ったとか言ってたけど、システムが変わったということだろうか?

ちょっと気になってきたぞ。

 

「今までの召喚獣は召喚者自身に似せたものを自動的に創り上げる設定になっていたんだけれど、あれは召喚獣が召喚者の情報を完全に読み取れていなかったのさね」

 

難しい話を始めたけど、まぁなんとなく話の内容は把握できた。

 

「だから、それを改善しようと思ってね。召喚獣と召喚者の双方をより一体化させるために召喚獣に徹底的な改修を行ったんだよ」

 

「召喚獣とその召喚者を近い状態にさせる……ということですか?」

 

「大雑把に言うとそうなるね。アンタみたいにフィールドバック等の痛覚共有とかはまた別の話なんだけどね」

 

う~ん……最初はなんとなくだったけど、後半の話がまったくわからない。

召喚獣と召喚者の状態を近づけるということは、何か上方修正でも加えたのだろうか?

 

「そんなに難しい顔しなくてもいいよ。言われた通りのことをすればいいだけの話さね」

 

学園長が僕の意を察したのか、心配するなと言われ、実際に試験運転とやらを始めることとなった。

 

 

 

 

「それじゃあ、実践といこうかい」

 

学園長から、観察処分者の仕事という名目で試獣召喚の許可をもらった。

 

「いきますよ……試獣召喚(サモン)

 

あまり気は進まないが、重要な任務を引き受けられる生徒は自分しかいないようなので、自分の召喚獣を召喚。

 

快く思ってはいないが、自分の召喚獣がどのような状態になっているのか一番気になる。

 

すると、僕の召喚獣が姿を現した。

 

新しくなった僕の召喚獣はなんと…………自分の等身大サイズになっていた。

 

「……って、ええぇッ!! な、なんですか!? これは!?」

 

「ほぉ……上手くいったようだね」

 

と僕の驚きを華麗にスルー。

 

この人はまったく、いつもいつも……。

 

「うわぁ……これが僕の新しい召喚獣……」

 

「驚いたかい? 召喚者本人と姿や形をそのままにした召喚獣を召喚できるようになったのさ」

 

得意気になりながら、説明する学園長。

 

「すごい……僕とまったく一緒だ」

 

自分の顔と身体がコピーされたかのようにそっくり。

 

装備は元の召喚獣と変わらず、改造学ランに胸にサラシを巻いている。

武器は刀身の長い太刀を一振り持っていた。

 

とりあえず、武器と装備を引き継いだ等身大サイズの召喚獣という訳だ。

 

「ふむ……特に動作や召喚の問題点は無しといったところだね……」

 

僕の召喚獣を隅から隅まで見回す学園長。

 

「学園長……あまりそんな目で見られるのは少し恥ずかしいのですが……」

 

新しくなった召喚獣はあまりにも僕と同じで、自分の姿を見つめられている感覚に陥る。

 

「何を言っているんだい。れっきとした動作確認さね。しかも女同士で恥じらうなんて、もう少し耐性をつけたらどうだい?」

 

いや、いくら女同士とはいえ、学園長はちょっと……ね。

 

「とにかく、今のところ大して不具合は見当たらいね。これなら今日中にこのシステムを導入できそうだね」

 

「もうそこまで行ってるんですか!? 早くないですか……?」

 

「元から導入するのを前提でシステムを弄った訳だから、今回の試験運転で動作に問題がなかったらそうするつもりだったよ」

 

うぅ……つまり召喚戦争が起これば、この召喚獣を多くの生徒に見られるということか……。

前の召喚獣ではそんなに気にならなかったが、よく考えるとすごい装備だなこれ。

 

ただでさえ恥ずかしい装備なのに、等身大となった今は恥じらいを覚えずにはいられない。

 

「それとまだ確認しておきたいことが残っているんだがね」

 

「なんでしょうか」

 

今ので十分な気もするけど、まだ付き合う必要があるのだろうか。

 

「アンタの持っている腕輪が発動するかどうか確認しておきたい。今から少し発動させてみな」

 

「わ、わかりました……」

 

僕の持っている腕輪は『ドレスチェンジ』と『Lovemanipulate』に『Flameblade』の3つだから……。

 

今ここで確認できそうなのは『ドレスチェンジ』と『Flameblade』の2つだね。

『Lovemanipulate』は相手がいないと確認しようがないし。

 

「それでは……『Flameblade』発動」

 

発動した瞬間、僕の召喚獣が持っている太刀が赤く光って、刀身が炎を纏う。

 

「うわぁ……スケールが違うと迫力がこんなにも……って、あっつ!?」

 

灼熱の熱気が僕を襲った。

 

「何やってるんだい……ものに触れられる能力があるなら、腕輪の効果だって反映されるに決まっているじゃないかい」

 

「そうでしたか……」

 

「くれぐれも扱いには気を付けてくれよ。下手したら校舎が燃えてしまう」

 

それを聞いて、ゾッとしたので、腕輪の効果を取り消す。

 

ただ召喚獣のシステムが少し変更されて、扱いにプレッシャーがかかるとは思わなかった。

 

「腕輪の方も特に問題はなかったようだね。そんじゃ、念のために後1つくらい腕輪を発動して終わりにしようか」

 

「わかりました……えっと、後はこれくらい?」

 

『ドレスチェンジ』発動。

 

僕の新しくなった召喚獣が前と同様に光に包まれて、一瞬でそれが消えてなくなり、装備と武器が変わっていた。

 

「って、これはDクラス戦の時の衣装だ……」

 

黒のワンピースに白のフリルが付いたエプロンを組み合わせた、ミニスカートメイド服に武器は両手にダガーナイフ。

 

前にDクラス戦で活躍したこの装備。

 

等身大で、しかも間近で見るとこれもなかなかの衣装……。

 

メイド服にナイフを持ているのは怖い印象を与えるかもしれないが、いかんせん、僕の姿なので威圧感などはまったくない。

 

「問題ないね……にしても、システムを変えた途端に、これまたおもしろいものに変貌を遂げたね」

 

感心しながら装備が変更された僕の召喚獣を見回す学園長。

 

「よし、これまでの動作すべてに異常無し。ご協力感謝するよ」

 

学園長はそう言って、自分の椅子に座る。

 

まさかお礼を言われるとは……それほど重要なことだったのか。

 

 

 

 

「――ということがあったんだよ」

 

「俺たちが知らない間におもしろいことになっていたんだな」

 

と試験運転の話を終始聞いていた雄二は腕を組む。

 

「等身大サイズの召喚獣とはなかなか興味深いのう。早く自分のも見てみたいのじゃ」

 

「そう思える秀吉が羨ましいよ……」

 

あの姿は見てるだけで恥ずかしいし、他人に見られるのはこれ以上にない苦痛だろう。

 

「アキちゃんの召喚獣、見てみたいですね。しかも腕輪の効果もあって衣装がいろいろ見れるなんて……召喚戦争が楽しみですね~」

 

「姫路さん、争いごとはできるだけ避けよう」

 

うっとりとした顔で、えげつないことを言う姫路さん。

 

あの腕輪で出せる衣装と装備はランダムで、どんなバリエーションがあるか不明。

もしかするととんでもなく恥ずかしい衣装があってもおかしくないので、便利な腕輪だけれど、今の状況ではあまり使いたくない。

 

できるだけ召喚戦争などは起こさず、平和的な解決をしてほしいと心の底から思った。

 

「あ~あ……なんでこんなことになったんだ……」

 

「そんな憂鬱な顔するなよ。強化合宿も迫ってきてることだしよ」

 

「雄二にはわからないよ……女の子の僕の気持ちなんて……」

 

学園長が唐突に創り上げた新しい試験召喚システム。

これが強化合宿中に大波乱を起こす火種となるのを僕は知る由もない。




さて、次回から強化合宿編に突入ですよ!
作者が考えたオリジナル設定で面白くできるようにできるといいんですがね。(´・ω・ `)

もし設定に疑問がある場合は、感想で質問などを送っていただけると、お答えしますので、気軽にどうぞ。


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78話 強化合宿の始めはいつも通り?

強化合宿編突入!\(^_^)/




sideアキ

 

 

「遅くなってすまないな。強化合宿のしおりのおかげで手間取ってしまった。

HRを始めるから席についてくれ」

 

担任こと西村先生は手に大きな箱を抱えて教室に入る。

あの箱には先程にも言った通り、強化合宿のしおりが入っているのだろう。

 

「さて、明日から始まる強化合宿だが、大体のことは今配っている強化合宿のしおりに書いてあるので確認しておくように。

まぁ旅行に行く訳ではないので、勉強道具と着替えさえ用意してあれば特に問題ないはずだが」

 

前の席から順番に冊子が回されてきたので、その中から1冊取って後ろに回す。

 

「集合の時間と集合場所はくれぐれも間違えないように」

 

念を押すように西村先生の声が響く。

 

「肝心な集合場所なんだが、我々Fクラスは――――――現地集合だ」

 

「「「案内すらないのかよ!!!???」」」

 

あまりの扱いのひどさにFクラス全員は叫んだ。

 

 

 

 

「あと2時間くらいはこのままですね」

 

スマートフォンの画面を見ながら姫路さんはそう言った。

 

「2時間か……眠くもないし、何をしていようかな~」

 

車窓を流れる緑の風景を眺めながらため息をつく。

 

今回僕らが向かうのは卯月高原という少し洒落た避暑地で、そこに現在電車で向かっているところ。

 

「アキちゃん、ここに新しく着てもらいたい衣装があるのですが――」

 

「それは却下で、姫路さん」

 

「はぅぅ……せめてこれだけでも着てください……!」

 

どこからか、またもう1つの衣装を取り出して、なかなか食い下がる気を見せない姫路さん。

 

「いや、そういう問題じゃなくて…………そもそもどこで着替えるの? こんなところじゃ着替えられないんじゃ……」

 

「トイレで着替えてこればいいだろ。鏡もあるし、着替えにはもってこいだぞ」

 

と横から雄二が口を挟む。

 

「ん、そうなんだ……なら着替えてくる」

 

姫路さんから衣装を受け取って、車両の後ろに設置されてあったトイレで着替えてきた。

 

「ふぅー……ただいま」

 

「おかえりなさい、アキちゃん!」

 

戻ってきた僕に姫路さんは歓喜の視線を浴びせる。

 

「今回も似合ってます! この日のために用意した甲斐がありました!」

 

「それは何より……って言った方がいいのかな?」

 

「巫女服姿も様になっておるな~。お主なら何を着ても似合うかもしれぬぞい」

 

衣装に着替えた僕を見た秀吉もそう言った。

 

「これはただの巫女服じゃありませんよ! 博麗霊夢の衣装ですから!」

 

「何それ? 神社か寺の名前?」

 

「違います。博麗神社というものは存在しますけど、これはキャラクターの衣装です!」

 

「へぇー……これもキャラクター衣装なのか……」

 

ただの巫女服ではないみたいだ。

確かにすごく飾りっ気のある巫女服だなぁとは思っていたけど。

 

こんなリボンやフリルの多い巫女服を着ている巫女さんがいる神社は、どんな秘境にあるんだろうか。

 

「はぁ……着替えたのはいいものの、また暇になっちゃったなぁ」

 

「その衣装であることにはなんとも思わぬのか?」

 

横に座っている秀吉が不思議そうな顔をする。

 

「別に? こんなのいつも通りだし、気にするほどでもないけど」

 

「女になってお前の感性はどうなったんだ?」

 

こちらの話を聞いていたのか、別の席から雄二が言う。

 

「何言ってるのさ、雄二。こんなのいつも通りだよ」

 

もちろん衣装が過激ではない限りの話だが。

 

「ムッツリーニは……寝っちゃってるのか」

 

「昨日、強化合宿だからといろいろと準備しておったからのう……」

 

雄二の横で寝ているムッツリーニを見る僕と秀吉。

 

何か物足りない気がしたと思っていたら、こういうことだったのか。

 

「美波、さっきから何を読んでいるの?」

 

僕の斜め手前に座っている美波は単行本らしきものを読んでいた。

 

「ん、これ? これは心理テストの本。100円均一で売ってたから買ってみたんだけど、意外と面白いの」

 

心理テストか~……これはちょうどいい暇潰しになるかもしれない。

 

「面白そうだね。美波、僕にその本の問題を出してみてよ」

 

「いいわよ」

 

そう答えて、適当にページをめくりだす美波。

 

「それじゃあいくわよ。『あなたの目の前に花が咲いています。何本咲いていますか?』」

 

目の前に花が咲いている……か。

 

なんとなく想像してみる。

 

「1本だね。大きな花が1本咲いている感じ」

 

「あら、アキにしては意外な回答ね」

 

「意外って……その問題の解説はどうなっているの?」

 

「これは『あなたが人生で付き合う人の数』よ。つまり、アキが人生で付き合う人の数は1人ってことね」

 

人生で1人か…………少なすぎる気がするけど、何回も別れて付き合うを繰り返すよりかは全然いいよね。

 

「アンタのことだから、イケメンをとっかえひっかえしてるかと思ったけど、一途なところもあるわね」

 

「美波……君は僕をなんだと思っているんだ?」

 

失礼なことを言われた気がしてならなかった。

 

運命の相手は1人か……どんな相手なんだろう?

この姿だから、男ってことになるのかな?

 

でも、元の姿に戻った時のことを考えて女……?

いや、このまま戻れないことも考えるから男……?

 

う~ん、僕は男と女のどっちと付き合うんだ!?

 

と普通の人間ならば考えもしないはずであろうことを脳内で繰り広げている内に、次の問題へ。

 

「次は『あなたの好きな色を挙げてください』だって」

 

「ん~……僕はオレンジかな」

 

と僕。

 

「ワシは青なのじゃ」

 

と秀吉。

 

「私は白ですね」

 

と姫路さん。

 

「俺は赤だな」

 

と雄二。

 

今度はみんなで回答した。

みんなでやる方が楽しいに決まっているからね。

 

「えっと、『あなたの好きな色はあなたの性格を表しています』だって。それぞれ――」

 

美波が順番に指をさしながら、

 

「陽気で友好的。諦めが早い」←僕

 

「冷静で自制心が強い。どちらかというと内気」←秀吉

 

「純粋で素直。嘘がつけない」←姫路さん

 

「プライドが高い。行動的でリーダーシップが取れる」←雄二

 

と告げた。

 

「うーん、諦めが早いのか……」

 

「冷静で自制心が強い……悪くないのじゃ」

 

「私に当てはまっているかもしれませんね」

 

「まぁ俺らしいと言えば俺らしいな」

 

と口々に楽しそうに盛り上がっていた。

 

こんな感じでその後も美波の心理テストを受けているまま、時間は過ぎていく。

 

「……目が覚めた」

 

「あ、ムッツリーニ。おはよう」

 

「目が覚めたようじゃな」

 

「…………空腹で起きた」

 

「あれ? もうそんな時間?」

 

スマートフォンを取り出して現在時刻を確認すると、とっくに真昼の時間帯になっていた。

 

「確かにいい頃合いじゃの。そろそろ昼にせんか?」

 

「そうだね。お昼にしようか」

 

「あ、お昼ですね。それなら――」

 

と秀吉と僕が話している横で、姫路さんがカバンを手繰り寄せて、中から何かを取り出し始める。

 

嫌な予感が全身を駆け巡る。

 

「実は、お弁当を作ってきたんです。よかったら……」

 

予感的中。

 

姫路さんが取り出した大きな弁当箱からは命を脅かすオーラを放っており、彼女のうれしい好意が台無しだ。

 

「姫路。悪いが俺は自分で作ってきたんだ」

 

「すまぬ。ワシも自分で用意してしまっての」

 

「…………調達済み」

 

即座に自分の弁当を見せる雄二、秀吉、ムッツリーニ。

自衛策は万全のようだ。

 

「ごめん。僕も自分で作ってきたんだ……」

 

と作った料理を詰めた弁当箱を姫路さんに見せる。

 

この身体で姫路さんのお弁当を食べてしまったら、生か死を選ぶこととなる。

彼女の好意を無碍にするのは気が引けるが命がかかっている以上、選択の余地はない。

 

「そうですか……残念です……」

 

せっかく作ってきた弁当を言葉では言っていないが、いらないと言われたように凹む姫路さん。

 

「……………………」

 

姫路さんは弁当箱を開けて、女の子1人では食べきれそうにないくらいの量を食べ始めようとしていた。

 

「……ごめん、姫路さん。やっぱりそのお弁当、食べさせてくれないかな?」

 

「本当ですか……?」

 

僕の言葉を聞いて、パアッと明るくなる姫路さん。

 

「お、おい!? 正気か!? 明久!」

 

「何をやっておるのじゃ! お主は!?」

 

「…………気は確かか……!?」

 

姫路さんから弁当箱を受け取った僕を見て、驚きのあまり声を上げる雄二、秀吉、ムッツリーニ。

 

「だって……せっかく作ってきたお弁当を食べてもらえないなんてかわいそうだよ……」

 

「死ぬ危険性のあるものに情けをかけるなよ!?」

 

「だ、大丈夫……これくらい、どうってことないよ」

 

「お主はどこまで優しいのじゃ……」

 

「じゃあ、いくよ……」

 

「…………お人好しは馬鹿を見るとはこのこと……」

 

箸で目に入った食材を持ち上げる。

 

うぅっ……目の前で見るとすごい危険な匂いが……。

 

「そ、それ……じゃあ……い、いただき……ます」

 

我が人生に一片の悔いなし……!

 

うぅ……女の子のまま死ぬことになるなんて思いもしなかったよ……。

あまりの恐怖と緊張に涙が出てきたけど、後悔はしない。

 

「……っだああッ!! それを寄越せ明久! 俺の弁当だけじゃ足りん。姫路、これは俺がありがたくいただく」

 

「わ、ワシもいただくのじゃ! よく見たら美味しそうなのじゃ!」

 

「…………前言撤回……!」

 

口に運ぼうとした瞬間、雄二がそれを弁当箱ごとひったくって秀吉とムッツリーニと共に姫路さんのお弁当に食らいつく。

 

ゆ、雄二たち……もしかして僕のために……?

 

突然の行動に驚いたが3人の本意に気づき、その勇気ある行動に僕は心の底から感謝した。

 

あっという間に全部食べきれるかどうかの量だった姫路さんのお弁当を完食していた頃には、既に雄二と秀吉とムッツリーニは意識を失っていた。




感想と誤字脱字報告お待ちしております。


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79話 相部屋のメンバーは……?

今回から本格的に強化合宿が始まります。(もう前回から始まっているけど)

ちなみに前回のアキちゃんの衣装(博麗霊夢の服装)はリクエストによるものです。
リクエストありがとうございます。

衣装やコスプレリクエスト、お待ちしております!


sideアキ

 

 

「雄二! 起きて! 目を覚まして!」

 

「うっ……ん……? 俺は……何を…………?」

 

「あぁ……よかった……危うく雄二だけ生還できなくなるところだった……」

 

「やっと坂本も意識を取り戻したのじゃな」

 

「……無事で何より」

 

先に目覚めた秀吉とムッツリーニも雄二が目覚めてから安心した表情。

 

「うおぉッ!? なんでこんな所に巫女が!? 俺は姫路の料理で極楽浄土に……って明久か。驚かせるなよ」

 

「悪かったね……この衣装を着てて」

 

まだ姫路さんから貸してもらった……というより貸された巫女服は脱いでいない。

まさか強化合宿初日からこんな姿になるとは思いもしなかった。

 

「それで、ここはどこなんだ? もう合宿所なのか?」

 

姫路さん特性のお弁当の効果がまだ続いているのか、腹をさすりながら起き上がる雄二。

 

「うん。どうやらこの旅館は文月学園が買い取って、合宿所に造り替えたらしいよ」

 

「買い取った上に造り替えるなんてな……ったく、贅沢な学校だな」

 

「召喚獣を呼び出せるように改装したんだろうね。そんなことするくらいならFクラスの教室をどうにかしてほしいんだけど……」

 

「そうだな。ところで、部屋のメンバーはどうなってんだ? 秀吉とムッツリーニならわかるが、お前と同じ部屋で寝泊りする……なんてことはないよな?」

 

「大丈夫だよ。僕はここの部屋じゃないから」

 

と僕が言うと「そうか……ならいいが」と雄二はホッとしていた。

 

「お前との相部屋は俺だぞ。坂本」

 

「なんだ須川もいたのか……よろしく頼む」

 

僕が男であったのならばこの部屋で過ごすこととなっただろうが、代わりに須川くんが加わって雄二、秀吉、ムッツリーニ、須川くんの4人構成となっている。

 

「それじゃあ、僕は別の部屋だから。また後で」

 

雄二と秀吉とムッツリーニをここに来るまで介護していたので、自分が寝泊りをする部屋にはまだ訪れていない。

 

僕と同室の生徒は誰なのだろう?

 

自分の部屋へと向かいながら強化合宿のしおりを確認するが、肝心な部屋のメンバーが記載されていない。

あるのは自分の部屋の場所とその部屋のメンバーの人数だけが書かれているだけだった。

 

人数は7名か……恐らく姫路さんと美波と僕で3人埋まるはずだから残りは4人……。

Fクラスの女子の数では定員を埋められそうにないので、他のクラスの生徒がくるのだろう。

 

残りの4人はどのクラスの誰がくるのやら……。

 

「行ってみないとわからないか……いいメンバーだといいけど……」

 

 

 

 

自分の部屋は…………ここだ。

 

この強化合宿期間を誰と同じ部屋で過ごすのか、ちょっとだけドキドキしてきた。

 

「お、おじゃまします」

 

他人行儀な挨拶で部屋に入る。

 

「おぉ! アキちゃん、いらっしゃい!」

 

「アキちゃんと同じ部屋……! これ以上に無い幸運ね!」

 

「よろしくね! アキちゃん!」

 

なんとそこにはAクラスに在籍している、仲良し3人組の佐山さんと櫻井さんと浜崎さんがいた。

 

「アキちゃん、アキちゃん! 私と同じ部屋になれるなんてとっても感激です!」

 

「佐藤さんまで……!? よ、よろしく」

 

続いて佐藤さんまで。

 

なんと残りの4人は佐山さんと櫻井さんと浜崎さんだった。

 

「アキちゃん、ここでもよろしくお願いしますね」

 

「うん、よろしく。姫路さん」

 

「やっと来たわね。坂本たちは大丈夫だったの? 気分が悪そうだったけど……」

 

「あ、美波。うん、もう目を覚まして特に問題なかったから」

 

予想通り姫路さんと美波もいる。

 

「にしても、ビックリだよ……他のクラスの人も混ざることは薄々気付いていたけど」

 

「ふっふーん、私たちがアキちゃんと一緒の部屋がいいって先生に頼んだら、すんなりOKもらっちゃってね」

 

胸を張りながら佐山さんは自慢げに言う。

 

先生に頼んで部屋の人選ができるなんて、どんだけこの学校は自由なんだ……。

それともAクラスの生徒の特権として、自由に選ぶことができる権限でも与えられているのだろうか?

どちらにしろ、いろんな意味ですごいよ……。

 

「Fクラスの生徒だから、私たちが一緒の部屋になったらちょうどいいからって先生が言ってたの」

 

櫻井さんが経緯を簡潔に説明してくれる。

 

「なるほど……僕に対してAクラスの優等生を入れてバランスをとった訳だね」

 

まぁ別にこのメンバーに不満はないし、むしろ知り合い同士だからありがたかった。

他のクラスの人が来ると聞いて、見知らぬ人とだったら気まずくなりそうだと思って不安だったし。

 

「今日から強化合宿期間なのにアキちゃんはいつもと変わってないね~」

 

「まさかここでもその衣装なんて……尊敬すら覚えてしまいそうだわ」

 

案の定、佐山さんと櫻井さんに衣装のことについて言われた。

 

「ただの巫女服じゃないですね。これは霊夢が着ていた衣装ですね。瑞希ちゃんが着せたんですか?」

 

と僕を関心しながら見回す佐藤さんは姫路さんに聞く。

 

「もちろんですよ。身だしなみには気を遣うべきですから」

 

「姫路さん。身だしなみって言っているけど、これは強化合宿に着てくるようなものじゃないし、普段着るようなものでもないよ……?」

 

もはや僕のコスプレは制服と変わらないレベルまで来てしまっているのだろうか?

 

「よくわかんないけど、可愛いからいいじゃない~!」

 

浜崎さんから抱きつかれる。

 

「あぁ~ズルい! 私も!」

 

と佐山さんからも抱きつかれた。

 

どうでもいいが、この2人に抱きしめられるのは久しぶりな気もする。

 

ガラッ

 

「失礼するわ」

 

2人からの暑苦しい抱擁を受けていると、木下さんが部屋に入ってきた。

 

「そろそろアタシたちのクラスは入浴時間だけれど…………って、何をしているの?」

 

部屋に入って早々、僕に佐山さんと浜崎さんが抱き着いている光景を想像できるだろうか?

いいや、できるはずがない。だから木下さんはしかめっ面になっている。

 

「やっほー優子。アキちゃんと一緒の部屋になる権限はもらったよ」

 

出会い頭に佐山さんが勝ち誇った笑みを浮かべて、僕に抱き着く力を強めた。

 

「そうね。でもアタシはそれ以上のことを経験済みだから正直、悔しくもなんともないわ」

 

「えぇー! 何それ!? どんなこと!?」

 

浜崎さんまでもが抱き着く力を強める。

そして、暑苦しさ倍増。

 

「それは内緒よ。まぁ教育者もいるこんなところで、吉井くんとのイベントを期待しない方がいいわね」

 

イベント?

さっきから3人は何について話しているんだろう?

 

「ぐぬぬっ……アキちゃんと一緒にいる時間がちょっと違うだけで、こんなに差ができるなんて……!」

 

「アキちゃん、アキちゃん! 今日は一緒に寝よう! 私の抱き枕になっ……じゃなくて、私と添い寝しよう!」

 

「2人とも落ち着いて……! 苦しいよ……!」

 

なんの対抗意識を燃やしたのか、抱き着く力を更に強める。

 

「もう、そこまでにしなさいよ。吉井くんが苦しがっているわよ」

 

「ほらほら、朱莉。そんなに焦ってはダメよ。そしてアキちゃんを抱き枕にするのはわたs……じゃなくて、添い寝するのは私だから」

 

呆れた顔をした木下さんと櫻井さんによって、2人の抱擁という名の戒めから解かれた。

 

それにしても、浜崎さんも言ってたけど櫻井さんの言う『抱き枕』とはどういう意味なんだろう?

 

「こうなったら皆さんで一緒にアキちゃんと寝ましょう! ここは平等に分けるべきです!」

 

と佐藤さんは結論じみた提案する。

 

「いや、この人数でどうやって寝るのよ」

 

美波がそれに対してツッコむ。

 

それには僕も同意だ。

 

「それに関してはそちらでどうにかして頂戴。もうすぐで入浴時間だし、行きましょ」

 

すると、木下さんのその言葉に目を輝かせる者が。

 

「お、お風呂!! アキちゃん、一緒に入ろう!」

 

「ああ! なんで忘れてたの! こんな重大イベントを!」

 

「アキちゃんと裸のお付き合い……! 強化合宿万歳!」

 

佐山さんと桜井さんに浜崎さんの3人組は大興奮。

 

「アキちゃん、お背中お流ししますよ?」

 

ニコニコしながら佐藤さんは言う。

 

「ウチはアンタの身体の隅から隅までたっぷりと洗ってあげるわよ」

 

拳をグッと握る美波。

 

「洗いっこしましょう! アキちゃん!」

 

入浴後の着替えとタオルを持って、準備完了済みの姫路さん。

 

お風呂ね……。

 

…………どうしよう……とっても不安でしかない。

 

目の前にいる女子全員を見て、危ない気がしてならない。

裸という無防備な状態で何をされるか……想像したらゾッとした。

 

女の子と一緒に風呂に入るのはこれが初めてではないが、今までいい思い出……というよりトラウマになるようなことしか記憶になかった。

 

「あ、あのさ……僕、ちょっとした用事があるから、その間に行っててくれる? すぐに行くから……」

 

僕がそう言うと、みんなはすんなりと了承してくれた。

 

僕は何がしたいのかって?

 

考える時間がほしいんだよ。

 

時間稼ぎをしてもどうせ無駄だということは、わかりきっている。

だがしかし、最小限に被害を留めることはできるかもしれない。

 

最善の道を見つけるべく、部屋から出て頭は思考モードへと移り変わっていた。

 

 

 

 

「1人になれたのはいいものの……どうすればいいんだろうな……」

 

入浴時間。

それは強化合宿では避けられない行事。

 

大人しく女子のみんなと仲良く入って洗いっこするしか……いいや、そんなことしたら僕は一方的に洗われるに決まっている。主に、同じ部屋のみんなから。

 

なんで僕はこんなに他の子と入るのを拒んでいるんだろうか……やっぱり、女の子と一緒にお風呂に入って酷い目に遭わされてきたからかな……?

 

それとも裸を見られるのが嫌だから……?

多くの人数でお風呂に入ったことないからなぁ……。

 

大勢の前で裸を晒すのは気恥ずかしさというか、いろいろあって不安だ。

 

まぁそこまで見られることはないだろうけど……ね。

 

「……あ、そういえば、雄二たちにお礼を言いそびれたな」

 

考えながら、ただフラフラと歩いていたら、ふと思い出す。

 

今日の昼に起きた姫路さんのお弁当事件。

考えてみると善意で殺人料理を口にしようとしたのは、我ながら愚行だった。

 

それを身体を張って助けてくれたのが雄二と秀吉とムッツリーニ。

 

気を失ってから看病はしたものの、肝心なお礼を言っていなかった。

 

「せっかくだし、雄二たちのとこにでも行こうかな……」

 

僕は雄二たちの元へと足を進めた。

 

 

 

 

「雄二たちの部屋は……あそこだ」

 

通路の奥にある、雄二たちが強化合宿で過ごすこととなっている部屋を見つけた。

そこからやけに騒がしい物音がするけど、どうせバカ騒ぎでもやっているのだろう。

 

「よーし、おじゃましまーす」

 

部屋の扉を開けて中に一歩踏み入れた時のことだった。

 

「え!? な、何があったの!?」

 

女子生徒がぞろぞろと部屋の中にいた。

 

あれれ? 部屋を間違えちゃったのかなぁ……!?

 

「…………浮気は許さない」

 

「翔子待て! 落ち着ぎゃああああああああああッ!!」

 

あ、雄二がいる。部屋は間違ってなかった……んんッ!?

雄二の上に霧島さんが乗っかって……って、雄二が言葉じゃ表せないけどすごいことに!?

 

「…………ッ!!」

 

「待て! 俺は無実だ! 無実なんd――うぎゃあああああああ!?」

 

そして、複数の女子生徒がムッツリーニと須川くんを囲んで……なんだあれ?

なんで2人は重石を膝に乗せられているんだろう?

 

「ワシは何もされんのか……?」

 

秀吉は……いつも通り。

 

というか、僕がここへ来る間に何があったんだ!?

 

ただ僕は呆然とその光景を見つめながら、立ち尽くしていた。




最後に何があったか理解できない方がいるかもしれませんが、次回で話の流れがわかると思います。

作者の原作に従いつつのオリジナル展開をお楽しみください。

感想や誤字脱字報告お待ちしております。


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80話 覗き作戦

早めに更新できてよかった……。
いつも不定期で申し訳ないです……。( TДT)

ついにこの作品も80話となりました。
ここまで応援してくれた読者の皆様に感謝!<(_ _)>


sideアキ

 

 

「俺らが何したっていうんだよ……なんでこんな目に……」

 

「……見つかるようなヘマはしないのに」

 

30分後に複数の女子生徒から解放された須川くんにムッツリーニ。

 

「酷い濡れ衣じゃったのぅ……ワシは被害者扱いだったのも解せぬが……」

 

「何があったの……? いろいろと状況が掴めないんだけど」

 

女子生徒は入浴時間だというのに、なぜここにいるのかも謎だが、一番はどうして雄二たちが拷問らしき行為を受けていたのだろうか。

 

「……CCDカメラと小型集音マイク」

 

「え? なんて? ムッツリーニ。カメラがどうかしたの?」

 

「……これが女子風呂の脱衣所に設置されてあったらしい」

 

「えぇ!? それって盗撮じゃないか! ムッツリーニ! いくらなんでもそれはないよ!」

 

ムッツリーニの肩を掴んで、気は確かなのかと揺さぶる。

 

「……お、俺はやっていない……!」

 

「アキちゃんよ。それは誤解なのじゃ」

 

「秀吉まで……じゃあ誰がやったっていうのさ?」

 

「よくわからんが、女子風呂の脱衣所に小型のカメラとマイクが設置されてあったみたいで、それから犯人を俺たちと疑った女子たちが俺らの元にやってきて、ご覧の有様だ」

 

須川くんがやれやれといった表情で説明してくれた。

 

「証拠不十分でしばらく尋問……というより拷問を受け続けていたのじゃ。ワシは受けてはおらぬが……」

 

「そうだったのか……それは災難だこと」

 

それにしても盗撮とは怖いな……。

もうすぐで入浴時間だというのに。

 

入る直前に見つかったのは不幸中の幸いかもしれないが、盗撮が見つかった以上はあまり落ち着いて入浴時間を過ごせそうにないな……。

 

「雄二、大丈夫? さっきから黙っているけど」

 

ずっと返事がなく、心配になってきたので話しかけてみる。

 

すると、雄二は何かを決意したかのようにその場から立ち上がった。

 

「……上等じゃねぇか」

 

少し怒りを孕んだ低い声が部屋に響く。

 

「え? どうしたの? 雄二」

 

「どうせここまでされたんだ。本当にやってやろうじゃねぇか」

 

「まさか、本当にって……」

 

「ああ。そのまさかだ。あっちがそう来るのなら、本当に覗いてやろうじゃねぇか!」

 

よりによって何を言い出したのだろうか……。

 

「雄二。そんなに霧島さんの裸が見たいなら、個人的にお願いしたらいいんじゃないかな?」

 

「バ、バカを言うな! 翔子の裸なんかに興味があるか!」

 

「じゃあ、なんでそんなことを……」

 

「犯人扱いされた以上、そのままって訳にはいかねぇだろうがよ! それなら思う存分覗いてやろうじゃねぇか!」

 

雄二の声が荒さを増していくばかり。

 

「そうだな! そんな不名誉を押されたまま食い下がるなんてバカな真似はしたくない!」

 

と須川くんまで同意している。

 

犯人扱いされたからって、開き直って覗くほどバカな真似はないと思う。

 

って、横でもムッツリーニは覗くために機材の用意を始めてる!?

ムッツリーニもやっぱり賛成派なのか!

 

「明久。お前も協力しろ」

 

「えぇ!? 雄二、いきなり何を言い出すのさ! 正気なの!?」

 

「俺はいつでも本気だ! 女の姿であるお前がいれば百人力だ」

 

「無理だよ! いくら僕でもそんなことには参加したくないよ!」

 

「なぜだ? まさか女子に情でも湧いたのか?」

 

違う。

そんな単純な理由なんかじゃない。

 

女の子の姿になった僕ならわかる。

男子に裸を見られるのがどれだけ屈辱的で恥ずかしいことなのかを。

 

年頃の女の子にとっての一大事に関わることだ。

ここはなんとしてでも雄二たちの蛮行を阻止せねば。

 

「絶対にダメだよ! いくら人としてのマナーに欠ける雄二でも、こればかりは度が過ぎているよ!」

 

「知るか! 俺らは絶対に覗くからな! 覚悟しておけよ!」

 

「いや待てよ。アキちゃんが味方じゃなくなったら、アキちゃんの裸を覗けるということに……!」

 

「…………これで準備万全」

 

「わ、ワシはどうすればいいのじゃ……?」

 

もう! 普通に誤解を解いて謝罪してもらえれば名誉挽回なんてできるのに!

これじゃあ、本末転倒だよ!

 

「くっ……そんなに言うなら……今から女子のみんなに知らせなくちゃ……!」

 

僕は雄二たちの部屋から急いで出て行った。

 

 

 

 

走りながら、女子風呂へと向かう途中のこと。

 

「廊下を走ってはいけませんよ! 止まりなさい!」

 

前方から鋭い声が響いてきた。

 

「布施先生……すみません。急いでて」

 

声の主は化学の教師、布施先生だった。

 

「どうしたのですか? 入浴時間はもう始まってはいますが……そんなに慌てる必要があるのでしょうか?」

 

「それはですね……ええっと……」

 

雄二たちが覗こうとしているのを知らせるためなんて言える訳が……。

 

……いや、待てよ……女子のみんなよりも、先生に知らせた方が効果的じゃないか!

ここは先生に力を借りよう!

 

「実は雄二たちが覗きを企んでいるんです! それを知らせようとしてて……!」

 

「そういうことでしたか。更衣室にカメラが設置されいたと聞いて警戒してみたら……まさか坂本くんたちの仕業でしたか……」

 

と納得する布施先生。

 

カメラの件は雄二たちのことではないけど……まぁいいか。

どうせこれから覗くことだし。

 

「とりあえず、ここは教師が対応するので任せてください。吉井さん、あなたは早く入浴を済ませてきなさい」

 

「はい、わかりました……」

 

なんだ、教師が既に動いているなら心配ないか……。

とにかく、これで安心して入浴できそうだ。

 

僕はホッとして、女子風呂へと向かった。

 

……………………。

 

………………………………。

 

「…………それにしても、吉井さんのあの格好はいったいなんだったんでしょうか?

この旅館に巫女服なんてありましたかね……?」




次回は重大イベントの入浴!
ニヤニヤするようなムフフ展開をお届けできればいいなと思っています!

感想と誤字脱字報告お待ちしております。


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81話 入浴タイム!

さーて、ついに女の子だらけの入浴タイム開幕です。


sideアキ

 

 

結局、何も考えずに来ちゃったけど……大丈夫かな?

 

不安で仕方ないまま、僕は女子風呂の脱衣所へ入る。

 

「おぉ~! おかえりー! アキちゃん!!」

 

「待ってたよ! 早く入ろう!」

 

佐山さんと浜崎さんが、はしゃぎながらお出迎え。

 

入浴時間が始まってから少し経っているが、脱衣所には同じ部屋のメンバーと他に木下さんと工藤さんと霧島さんが着替えているだけ。

 

他は……雄二たちの制裁をしていたから、少しばかり遅れているのだろうか?

 

「アキちゃん、早く早く!」

 

急かしてくる佐山さん。

もう既に衣服を脱いでタオルを手に下げており、入浴の準備は完了済みのようだ。

 

「あのー……すぐに着替えるから、先に行っててもらえるかな?」

 

どうせ後で裸になるというのに、なぜここで着替えられないのかは自分でもわからないが、着替えているところを見られることに抵抗を感じていた。

 

「ボサッとしてないで、早く着替えなさいよ。入浴時間も限られているんだし」

 

「早く脱いじゃおうよ~! ほらほら」

 

そう言いながら、木下さんと工藤さんは僕の着ている衣装を脱がしていく。

 

「え……いや……ちょっと……!?」

 

2人の連携プレイにより、一瞬にして下着姿にされる。

 

「あ、この衣装は私が預かっておきますね」

 

脱がされた巫女服を受け取って、大事にしまい込む姫路さん。

 

「待って……! 自分で脱ぐから!」

 

下着姿にされた僕は距離を取ってから、下着を自分で脱ぎ始める。

 

「おぉ……! これは生のお宝映像!」

 

「脱いでいる姿ってロマンを感じるわぁ……」

 

「これは感動もの……!」

 

初めて僕の裸を見る佐山さんと櫻井さん、浜崎さんの3人は好奇心が宿った目で見つめる。

 

「……うぅ……そんなに見ないでよ……」

 

胸と股間を手で隠すが、胸の方は大事な部分しか隠せていない。

 

「アキ……そのポーズはウチに対する嫌味かしらぁ……?」

 

「ち、違うよ! 違うからね!? 美波!」

 

確かに第三者視点から見たら胸を強調するような感じはするだろうけど、決してそういうことではない!

 

とりあえず、タオルを巻いて隠しておこう。

 

「あれれ~? タオルは湯舟に付けたらいけないんだよ~?」

 

「湯舟に付けるまでは着てていいでしょ!」

 

さっそくタオルを脱がしにかかって来た工藤さんをけん制する。

 

これでは先が思いやられる一方だ……。

ゆっくりお風呂に入るなんてことは無理な話かもしれない。

 

 

 

 

おお……ここが僕たちが利用する入浴施設か……。

 

湯気が立ち上る豪華な露天風呂。

旅館なだけあって、思ったよりスケールが大きくて少し驚いた。

 

「どうやらボクたちが一番乗りだったみたいだねぇ」

 

僕ら以外に誰もいないことを確認した工藤さんはそう言った。

 

「まずは身体を洗いましょう。身体を洗ってから入るのが基本なんでしょう?」

 

「日本ではそれがマナーですからね」

 

帰国子女である美波は公共の浴場に慣れていないのか、姫路さんと僕にいちいち聞いてくる。

もしかすると、これが初めてだったりするかもしれない。

 

「確かにいい所だけど、柵の向こう側は男子風呂なんでしょう? 覗いてないか心配ね」

 

「……雄二が覗いていないか心配」

 

警戒しながら洗い場に腰掛ける木下さんと霧島さん。

 

「大丈夫だよ。さっき雄二たちが覗くのを阻止しようと先生が見回っているらしいから」

 

「……吉井……その話、詳しく聞かせて」

 

あっ……言ってしまった。

これは雄二が後で大変なことになるだろうな。

何があっても、自業自得だから僕にとってはどうでもいいけど。

 

と僕も続いて洗い場に腰掛けた時のこと。

 

「アキちゃん、お背中流しますね」

 

「佐藤さん……まぁ佐藤さんならいいかな――」

 

「ああ! 美穂が抜け駆けしてる!」

 

「ズルいよ! フライング禁止! レッドカード!」

 

佐山さんと浜崎さんからのブーングが飛んできた。

 

「風呂に入っている時くらい落ち着きなさいよ…………代わりに私が――」

 

「菜乃葉! 何をしれっと横取りしようとしてるの!」

 

「はい、こっちも反則!」

 

話に割って入る櫻井さんもギャーギャーと非難の嵐。

 

「やっぱり一緒に入った経験のあるボクがいくしかないね」

 

「……私も……身体の洗い方をまた教えてあげる」

 

「それならアタシに譲りなさいよ。吉井くん、さっさとタオルなんか外してこっちに来なさい」

 

いつの間にか僕の身体の取り合い(?)が始まっているけど……。

 

みんなから溢れている危ないオーラに後ずさりしていると、ガラッと脱衣所へ繋がっている扉が開いて……

 

「うわー! すごーい! 露天風呂だ……って、アキちゃんもいる!」

 

「おお! アキちゃんと一緒に裸のお付き合いできるなんて最高!」

 

「わ~……アキちゃんの身体、色っぽ~い」

 

ここで僕たち以外の女子生徒がわんさか入ってきた。

 

「むっ……お邪魔虫が入ってきた……こうなったら強行手段!」

 

「ひゃあっ! ちょっと佐山さん、やめて!」

 

佐山さんからタオルを引っ張られる。

 

まずい、これがなくなったら僕は隠すものがない!

絶対に阻止しなければ!

 

と必死になったものの、佐山さんの力は今の僕よりも圧倒的だった。

 

「ほらほらほら! みんな裸になるんだから気にしないで!」

 

「い、いや……! やめて! いやああああああぁぁぁ……あ、あんっ」

 

「「「あ……」」」

 

あっけなくタオルを奪われ、一糸纏わぬ姿がみんなの視界に晒される。

 

「み、見ちゃった……! アキちゃんの裸を見ちゃった……!///」

 

「今まで見てきた写真集なんかと比べものにならないわ///」

 

「なんて美しいの……私はこれを見るために生まれてきたのね……!」

 

見られた……見られてしまった……。

 

「あうぅぅ……///」

 

僕は胸を腕で隠しながら、その場に座り込んでしまう。

 

「恥ずかしがってないで、早くこっちで洗うよ」

 

「みんなで仲良くアキちゃんを洗いっこしよう! そしたら公平でしょ?」

 

「ま、待ってよ! わかったけど、まだ心の準備が……!」

 

佐山さんと浜崎さんに両方の腕を引っ張られ、再び洗い場まで連れていかれる。

 

それにしても、みんなで仲良く洗いっこするのではなく、僕を洗いっこするってどういうことだ……?

 

「そしたら、アキちゃんを洗っていくよー!」

 

「レッツ、ショータイム!!」

 

「こらこら、私たちも忘れないで頂戴」

 

「アキちゃん、さっきも言った通り背中は任せてください」

 

「ボクも洗う~!」

 

「……私にも任せて」

 

「アタシも隅から隅まで洗ってあげるわよ」

 

「アキ、覚悟はできているわね?」

 

「アキちゃん! ジッとしててくださいね?」

 

逃げたいけど、佐山さんから逃げられないように後ろから抱き着かれて身動きが取れない。

手にボディーソープを付けて、待ち構えているみんなの姿は僕から見たら恐怖の対象でしかなかった。

 

「ひぃっ……! や、優しくしてね……?」

 

「「「!!!///(((ズキューン)))」」」

 

そして、身体のあらゆる場所を撫でられていく。

 

「うわあああ! すごい! すごいよ! すごくスベスベ!」

 

「まるで赤ちゃんみたい! プニプニしてる!」

 

「綺麗な髪ね……洗わなくても綺麗なんじゃない?」

 

「はわわ……アキちゃんの身体を洗えるなんて光栄です……!」

 

「アハハ、吉井クン気持ちよくなってる?」

 

「……痛かったら、ちゃんと言って」

 

「痒いところはないかしら?」

 

「むぅ……この柔らかさ、やっぱりいつ触っても憎めない……!!」

 

「このくびれた腰……羨ましいですぅ……」

 

「ひゃああ!? もっと丁寧に――きゃあああああ!! アハハハハハハハハハ!!///」

 

合計9人から身体をまさぐられる奇妙な事態に発展し、今まで体験したことのないくすぐったさに、笑い声が少々混じった悲鳴を上げる。

 

「ちょ……アハハハハハハハ!/// ひゃあああああああん!/// みんな、やめて――」

 

「そこの女子全員、風呂場で騒がないでください!」

 

身体にタオルを巻いている高橋先生が声を上げた。

 

普段、教師として働いている高橋先生の裸に近い格好はなかなか珍しい光景だ。

 

「あっちゃ~……ここで先生の登場」

 

「もっと優しく洗ってあげればよかったわね……」

 

工藤さんと木下さんに続いて、僕を洗っていた他のメンバーも手を止めていく。

 

「いくら学園が買い取った旅館とはいえ、節度のある行動を心掛けてください」

 

「「「はーい」」」

 

ふぅ……助かった……先生が来てくれなかったら9人からの拷問に近い行為がエスカレートして行って、笑い死ぬところだった。

 

 

 

 

「はふぅ……気持ちい~……」

 

身体を洗い終えた後、湯舟に浸かって温泉のお湯を堪能していた。

風情があって、極楽とはまさにこのこと。

 

「気持ちいよね~。アキちゃんと一緒だから特にね」

 

「アキちゃんと一緒のお湯に浸かれるって、なんかいやらしいね~」

 

「うぅ……佐山さん、浜崎さん暑苦しいからここでは控えてよ……」

 

「裸同士で密着するのも悪くないと思うよ~」

 

「工藤さんまで……まぁいいか……」

 

ようやく落ち着いて入れると思ったのに……ここでも同じか。

 

「ところで……アキちゃんって、ぶっちゃけどこまで行ってるの?」

 

「ほぇ? 何が?」

 

いきなり佐山さんは何を言い出すんだろう?

 

「も~! わかっていることでしょうに~!」

 

「ごめん、本当に何を言っているのかわからないよ……」

 

「久保くんとのことだよ!」

 

「え? うーん……えっ!?」

 

ドキッと胸の内が跳ね上がる。

 

「前々から気になってたんだけど、2人って仲良いよね~!」

 

「そうそう! この前は休日にデートなんかしてんだよね!」

 

佐山さんと浜崎さんがギュッと僕の身体に絡みつく。

 

「もしかして付き合ってるんじゃないかな~と思っててね」

 

「そ、そんなことないよ! 別に久保くんとはただの友達で……」

 

咄嗟のことだが、2人に強く否定する。

 

「久保くんも同じようなこと言ってたねぇ」

 

「それに必死なのが逆に怪しい~!」

 

「ほ、本当だよ! もうこの話はなしで!」

 

話を断ち切って逃げようとするが、2人の体格差と力にはもちろん勝てず、逃げるのは不可能だ。

 

「嫌だよ~。大人しく白状しないとおっぱい揉むよ?」

 

「あんっ……も、もう既に揉んでるじゃん! ひゃあ!?」

 

「ホレホレここが気持ちいのかなぁ?」

 

佐山さんは僕の胸を揉んで、浜崎さんはお尻を撫でる。

 

「わ、わかったから、もうやめてよ……!」

 

「やっとその気になったのね。さぁお姉ちゃんに話してみなさい」

 

「私にも教えて欲しい! 詳しく!」

 

なんで2人はそんなに目を輝かせてるんだ……。

 

「私にも聞かせなさいよ。気になっているのは2人だけじゃないんだから」

 

と続いて櫻井さんまで。

 

「ボクも気になるなぁ。お風呂で恋バナっていいよね!」

 

「アタシも気になるわね。この前の件もあるから」

 

「とっても気になります! アキちゃんからも聞きたいです!」

 

「……吉井と久保に恋愛疑惑…………?」

 

話を聞いてた工藤さんと木下さんと佐藤さん。

そして、珍しく興味を示している霧島さんまで。

 

「吉井くんと久保くんって前から仲良かったですよね」

 

「へぇ~……アキにも好きな人ができたんだ」

 

姫路さんと美波にまで広がっていた。

 

これじゃあ後に引けないぞ……せっかくのリラックスタイムが……。

 

「それでそれで、2人はどこまで行っているのかな?」

 

「あのね佐山さん……さっきも言ったけど、別にそんなんじゃないから……」

 

「む~口が堅いね~……それならアキちゃんはどう思っているの?」

 

「どう思っているって……?」

 

「久保くんと一緒にいる機会も多いし、それで何も思わないってことは流石にないでしょう? ねぇ?」

 

佐山さんの言葉に他のみんなはウンウンと同調する。

 

「久保くんのことは…………ええっと……」

 

考えている内にこれまでの久保くんとのことがいくつか脳裏をよぎる。

 

「その……久保くんは優しくて頭もいいし、頼れる存在だし、とても信頼してるよ……?///」

 

ちょっと照れを隠すように微笑を浮かべながら、本心を明かした。

 

「ふ~ん……まぁ予想通りの回答ね」

 

「好感度高めだねぇ~」

 

木下さんと工藤さんは納得。

 

「へぇ~……それって、もしかすると久保くんのことが好きって気がついてないんじゃない?」

 

櫻井さんが唐突に変なことを言い始めた。

 

「えぇ!? そ、それはないと思うよ……確かに良い人だし憧れてはいるけど……」

 

今まで助けてもらったし、あの英国紳士にも負けないくらいの紳士的な振る舞いには尊敬している。

それに付き合いも男子のなかでは長い方だし、一緒にいて楽しいと思ったりもする。

 

「そう……アキちゃんが言うならそれでいいかもしれないけど……このままだと久保くんは他の子と付き合っちゃうかもしれないのよ? それでもいいのね?」

 

「え……?」

 

その一言で思わず固まった。

 

「えぇ~なんで? 久保くんって仲のいい女の子なんていたっけ?」

 

これには同じクラスであるが故か佐山さんも驚いていた。

 

「実は久保くんって……この学園の女子に人気あるのよ?」

 

「へ、へぇ……そうなんだ……」

 

久保くんってモテるんだね……。

だけど、あの性格で優等生なんだから、好意を寄せる者がいても不思議なことじゃないか……。

 

久保くんのことが好きな子…………。

 

「どうしたんですか? アキちゃん」

 

横から顔を覗き込んでくる佐藤さん。

 

「ふぇ……!? な、なんでもない……よ」

 

すると、何かを察した浜崎さんはニヤニヤしながら、

 

「アレレ~? もしかして焦っちゃってる? 『このままだと私の久保くんが取られちゃう!』って」

 

「ち、違うよ! ちょっと気になってるだけで……!」

 

必死に否定するけれど、逆にそれが怪しいと言われて何も言えなくなる。

 

「顔が赤いよ~? やっぱり吉井クンって久保クンのことが好きだったりして……」

 

「はぁ……吉井くん……なんで久保くんを選ぶのかしら……」

 

「工藤さん、木下さんも違うからね!?」

 

本当に違うんだ!

誰か僕に弁解の余地をください!

 

「とりあえず、みんなはアキちゃんの恋路を応援しているから、がんばってね!」

 

親指を立てるポーズを取って、佐山さんはもう片方の手で僕の肩をポンッと叩いた。

 

「ねぇ! ちゃんと僕の言い分も聞いてよ! 本当に違うから!///」

 

本当に違うんだってば!

 

顔を真っ赤にしながら反論したものの、みんなからはハイハイと流され続けて、墓穴を掘る形になってしまった。




相変わらず投稿不定期で申し訳ないです……。

感想と誤字脱字報告お待ちしております。


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82話 強化合宿1日目終了!

新年早々、いつものことながら不定期で本当に申し訳ございません……。(´・ω・ `)


sideアキ

 

 

入浴を済ませた後、僕たちは部屋に戻って就寝の準備を始めていた。

 

「さて……アキちゃん、一緒に寝よ?」

 

布団を敷き終えた佐山さんはグイグイと僕の手を引っ張る。

 

「アキちゃん、アキちゃん! 私におっぱい枕やってー!」

 

「え? なにそれ……って、ひゃああ!?」

 

突如、浜崎さんは僕に抱き着いたかと思いきや、胸に顔をうずめてくる。

 

「うぇへへ……風呂上がりのアキちゃんのおっぱい最&高」

 

「あぁー! 何してんの朱莉! そして最高をH●GH&LOWみたいに言うなー!」

 

すぐに止めに来てくれた佐山さん……かと思いきや、

 

「それ次に私にもやらせて~!」

 

「いいよ~。私が満足するまでちょっと待ってて~」

 

「なんで浜崎さんが決めてるの!?」

 

浜崎さんにされるがまま、佐山さんにもやりたい放題。

 

寝る前もなかなかしんどい……。

 

「ふんっ……どうせウチには枕にできるような胸なんてないわよ……」

 

なんでそんなに美波は不機嫌なんだ……疲れているのかな?

 

「2人とも落ち着いて。こんな遅い時間に騒いでたら先生が来るわよ」

 

佐山さんと浜崎さんを怒り口調で止めてくれた櫻井さん。

 

この中で唯一まともなのは櫻井さんだな……。

 

「それじゃあ、明日も早いことだし……今から誰がアキちゃんと一緒に寝るか決めましょう」

 

え? 櫻井さんもそれ考えてたの?

 

「決めるって、どう決めるのよ?」

 

美波は首を傾げる。

 

「ここは平等にくじ引きで決めませんか? それなら全員納得できるのでは……」

 

まず先に横から提案したのは佐藤さんだった。

 

「ん~……それでいいんじゃないかなぁ?」

 

「まぁそれでいいけど」

 

佐山さんと浜崎さんは何一つ文句を言わずに賛成。

 

「それで決まりね。勝っても負けても恨みっこなしよ」

 

櫻井さんもウンウンと頷いている。

 

「それじゃあ、ウチらも参加しましょう」

 

「アキちゃんと一緒に寝られるなら、参加せずにはいられませんね」

 

美波と姫路さんも参戦。

 

残ることとなった僕はというと……

 

「えっと……僕も参加していいのかな……?」

 

「あ、アキちゃんは優勝景品だから待っててね」

 

いつの間にか、佐山さんから景品扱いされていた……。

 

「では、今から私が持ってきたこのトランプをくじとして代用します。人数分のカードの中から、スペードの1を引いた人がアキちゃんと一緒に寝る権利を獲得できます……ルールはこれでよろしいですか?」

 

「わかった。スペードの1ね……この勝負、貰った!」

 

「緊張してきた……絶対に勝ってやるんだから!」

 

「私もいる限り、勝てるとは限らないわよ……?」

 

「ウチも勝負事には負けたくないから……負ける訳にはいかないわ」

 

「アキちゃんと一緒に寝る権利は私が貰います!」

 

それぞれトランプに手をかける。

 

「行きますよ? 一斉に引きますよ。せーの……!

 

「「「せーの!!!」」」

 

佐藤さんの合図とともにカードが一斉に引かれた。

 

 

 

 

「ふっふ~ん……計算通り! やったぜ☆」

 

見事に僕と一緒に寝る権利を獲得した佐山さんはスペードの1を掲げながらピースサイン。

 

「うぐぐぐっ……五月に権利を剥奪されたぁ……!!」

 

「朱莉、それは剥奪の意味を間違えているわよ……」

 

心底、悔しそうにしている浜崎さんと櫻井さん。

 

「平等に決めたので、仕方のないことですよ」

 

と言う佐藤さんも少し残念そうな表情。

 

「はぁ……アキと一緒に寝る権利は安くないようね……」

 

「明日があります! 明日もまたやりましょう!」

 

やれやれとハズレくじを引いた美波と、明日の勝負に懸ける姫路さん。

 

こんなことを明日もやる気なのか……?

 

「よーし、アキちゃん。一緒に寝よう!」

 

「う、うん……」

 

同じ布団に入ると、佐山さんはベタベタとくっ付いてくる。

 

「ね、寝難いからそんなに引っ付いてこないでよ……」

 

「ヤダよー。体操服姿のアキちゃんと寝られるのってこれ以上にない至福……!」

 

寝る際には全員、体操服を着用することとなっている。

 

そのせいか、佐山さんはいつもより臆面なく迫ってくる。

 

「すぅ~……ハァハァ……アキちゃんの身体って本当にいい匂い……♡」

 

「ひゃ……もう、嗅がないでよ……」

 

鼻息が当たってものすごく、くすぐったい。

 

「ダ―メ♡ もっとアキちゃんの匂いを嗅がせて?」

 

佐山さんの力には毎度のこと勝てることができず、されるがまま。

 

すると、

 

「うがぁぁぁ!! 気になって全っ然眠れない! ちょっと静かにしてよね!」

 

浜崎さんが僕と佐山さんの寝ている布団を勢いよくめくる。

 

「もう……これからがいいところだったのに……」

 

「このままじゃ眠れないから、眠れるまで恋バナでもするよ!」

 

「なんで、そんな夜の合宿でのベタなことをするのよ……」

 

布団から頭を出しながら櫻井さんは言う。

 

「だって眠れないしさ……それに、お風呂の時にアキちゃんから久保くんのことを詳しく聞いてないし」

 

「ちょっと、それはもういいでしょ!///」

 

風呂で散々、やったというのにまだ懲りてないのか。

 

「アキって、久保のこと好きなの? 女になると男を好きになるものなのかしら?」

 

「違うからね! 美波!」

 

美波まで完全に誤解を信じ切っている。

 

「そういえば、久保くんのことで思い出したんだけど……」

 

ニヤリと笑った櫻井さんは唐突に言う。

 

「久保くんってこの前、他のクラスの子に告白されてたのよねぇ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「へぇ……久保くんがモテてた話って本当だったんだ~」

 

「まぁ私もそんな気はしてたよ。学年次席で人柄もいいし」

 

風呂場での話を聞いていた僕と佐山さんと浜崎さんは普通に納得していた。

 

「確かBクラスの子に告白されてたんですよね?」

 

「そうそう。美穂、よく知ってるわね」

 

どうやら、櫻井さんだけでなく、佐藤さんまでその情報を知っていたそうだ。

 

「それで……久保くんはその告白してきた子と付き合ったの?」

 

「いや、付き合ってはいないわよ。というか、もしそうだったら私たちは既に知っているじゃない」

 

「あ、そっかぁ……よかったねぇ、アキちゃん。まだ久保くんは取られてなくて」

 

「だから、なんで僕にそういう話題を繋げようとしてくるの!」

 

佐山さんは風呂場の話から、ずっと僕と久保くんをくっつけようとしてくる。

こんなことしてまで僕をからかってくるなんて、工藤さんよりも悪質かもしれない。

 

「ん~……でも、私も久保くんのこと好きかな~。実際、1年の頃に告白しようと思ってた時期もあったし」

 

「「「え?」」」

 

浜崎さんの唐突な告白に、その場のみんなはギョッとした。

 

「どうしたの? みんな、そんなに驚いた顔して……」

 

「い、いや……それ初耳なんだけど……?」

 

「なんで、そんなこと隠してたのよ……全然、気付かなかったわ……」

 

「別に隠してたつもりはないんだけどなぁ~……」

 

このメンバーの中で付き合いが最も長いだろう、佐山さんと櫻井さんは驚きを隠せない。

 

「へぇ~……アキが好きな人って本当にモテるのね」

 

「身近にそれを実感させてくれる人物がいましたね……」

 

美波と姫路さんも横で興味本位ながら、話を聞きいていた。

 

「これは俗に言う……ドロッドロの恋愛関係……というものですか」

 

ワナワナと震えながら、外していたメガネをかけ直す佐藤さん。

 

「大変だよ、アキちゃん! 今度は朱莉に久保くんを取られちゃうかもしれないよ!」

 

「今度はじゃなくて、別にそんな気はないから! いつまでもゴリ押ししないでよ!」

 

「あのさぁ……みんな、勘違いしてない?」

 

佐山さんと僕のやり取りを見て、呆れた顔をした浜崎さんは続けて言う。

 

「久保くんのことはもちろん好きだったけど、それは私が1年の頃の話であって……今は付き合いたいとかそんな願望はないから」

 

「あ、そうだったの…………なんだぁ……ビックリした……」

 

「とんだ、早とちりだったわね」

 

「それを聞いて、安心しました……」

 

「ふ~ん……まぁこれでよかったんじゃない?」

 

「アキちゃんの恋路は邪魔されずに済みましたね」

 

説明を受けて、それぞれ安堵の表情を浮かべる。

 

なぜ、みんなは安心しているのかはよくわからないけど。

 

「だから、アキちゃん……私は邪魔はしないよ。むしろ応援しているから、頑張ってね!」

 

「浜崎さんまで!? もう、何度言ったらわかるの!」

 

こんなやり取りが1時間ほど続き、ようやくみんなは寝落ちして、強化合宿1日目は終了。




今年もよろしくお願いします!(`・ω・´)

書いてて気づいたのですが、佐山さんと櫻井さんと浜崎さんの3人がモブキャラじゃなくて、主要キャラになりかけているような……。(;゚Д゚)

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83話 強化合宿2日目もいつもと変わらない?

不定期でも、ちょこまかと投稿できたらいいんだけなぁ(´・ω・ `)

そう考えると、定期的に投稿できる人って本当にすごいですよね。
テレビ番組のように、その日までプロットを書いて、時間ピッタシに投稿するって……。
作者には到底真似できそうにない……。(-_-;)


sideアキ

 

 

「明久。お前に頼みたいことがある」

 

「何? こんな朝からなんなのさ」

 

強化合宿2日目の朝。

合宿所の食堂で朝食を食べ始めようとしてた頃に雄二に話しかけられる。

 

雄二は改まった様子でいるが、どうしたのだろうか。

昨日の覗き作戦には懲りて、僕に謝りにでも来てくれたのかな。

 

「お前に覗きを手伝ってほしい」

 

全然、反省しておらず、むしろ悪化していた。

 

「はぁ……雄二……もう朝なんだからいい加減、寝言はそこまでにしなよ」

 

「頼む! この通りだ!」

 

「そんな深々と頭を下げられましても……」

 

聞いた話によると、雄二たちは見回りの先生に捕まり、西村先生の指導で夜を過ごしたらしい。

 

それで懲りたかと思いきや、僕に協力を求めてくるとは……。

 

昨日も覗きを手伝えと言われた気もする。

あれは雄二たちも心底、憤っていたので、勢いでやらかしたのだろうと信じていたが、今日もこの有様だと何を言っても無駄だな。

 

「あのね、雄二。僕はそんなことに参加する気はないって昨日も言ったよね?

そんな悪だくみにメンバーを加えるなら、他をあたった方がいいと思うけど?」

 

「クソッ……もういい。女子風呂で首を洗って待ってろよ」

 

そう言い残して、自分の席へと戻っていく雄二。

 

「まったく……女の子が裸を見られることがどれだけのことか、わかってほしいものだよ……」

 

元男だった僕が言うと説得力に欠けるかもしれないが、女の子になると裸を見られるのが恥ずかしい。

 

まだ男性に見られたことはもちろんないが、水着を着せられたリ、露出度の高い衣装なんか着せられた時なんかは、見られるだけで死にそうだった。

もし裸を見られたりしたら……いや、気持ち悪くなってきたので、考えないでおこう。

 

「いつの間にか女子の味方になってるなぁ……いつもは男子の味方だったかもしれないのに」

 

覗きの被害を受けるのは僕に限らず、他の女子全員も被害者となる。

僕だけじゃなく、女子のみんなも同じ思いをしてほしくない願望からか、今の僕は完全に女子の味方だ。

 

本当に変わっちゃったな……僕。

 

男の僕は死んじゃったのか……。

 

…………いや、まだ男に戻れる術は必ずある……はず!

 

「はぁ……僕も朝から何を考えているんだ……」

 

朝はどうしても頭が回らないタイプの僕だった。

 

 

 

 

今日の合宿内容はAクラスとの合同学習。

学習内容は基本的に自由。要するに自習だ。

 

AクラスとFクラスという、学力に格差のあるクラスと合同で学習なんてできるのか、疑問に思うところだが、それ以上に気になることはそれが自習であること。

 

「なんで授業はやらないんだろう?」

 

「授業? そんなもんやる訳ないだろ」

 

学習を行う場所へと来てから、つぶやくと雄二がそれに答えた。

 

「……この合宿にはモチベーションの向上が趣旨だから」

 

雄二の隣にいた霧島さんが話に入る。

 

「つまり、Aクラスの連中は俺らFクラスを見て、ああはなりたくないと思う訳だ」

 

「……逆にFクラスは私たちAクラスを見て、ああなりたいって思わせたい」

 

霧島さんと雄二の連携プレイでわかりやすく解説してもらえた。

 

「なるほど~……わかりやすい説明ありがとう。流石、夫婦なだけあって、上手な解説だったね」

 

「……夫婦だから息はピッタリ」

 

「おい、俺にピッタリくっ付いてくるな! そして明久も変なことを翔子に言うんじゃねぇ!」

 

どっからどう見ても事実じゃないか……。

 

「ん~……とりあえず、自習ってことは誰かと一緒にやればいいのかな……?」

 

せっかくの合同学習なのに、1人でやるのはもったいないだろう。

なので、一緒に勉強する相手を探すことにした。

 

Aクラスの生徒もいることだし、そこのクラスの誰かに教えてもらおうかな……。

 

キョロキョロとAクラスの生徒の中から、教えてもらえそうな人を探してみる。

 

まず、目に入ったのは佐藤さん。

佐藤さんならAクラスとFクラスの一騎打ちの代表になっていたから、Aクラスの中では上位の実力があるはずだ。

 

よし、佐藤さんに決めた……って、んん? 佐藤さんの横に姫路さんと美波までいる。

 

佐藤さんの隣には姫路さんと美波がいて、その周りを複数のAクラスの女子が囲んでいた。

何があるかは知らないが、あそこに僕が行くと人数が多くなりすぎるからやめておこう。

 

「ん~……そしたら誰にしようかな――」

 

「アキちゃん! 私と一緒に勉強しよー!」

 

「わわッ!? 佐山さん!」

 

後ろからギュッと抱きしめられ、声と抱きしめられた感触で佐山さんだと気づいた。

いつもいろんな女子から抱かれるせいか、抱きしめられた感触で判断できるようになってしまっている。

 

「部屋も一緒な上に勉強までできるなんて思ってもなかったよ。ほら、こっちに来て」

 

手を繋がれて、それを引っ張られながら席へと移動する。

 

「アキちゃん連れてきたよ~」

 

「おぉ! 待ってました!」

 

「部屋でも今回もよろしくね。アキちゃん」

 

同じ部屋のメンバーである浜崎さんと櫻井さんが席に座りながら待っていた。

 

「ボクも混ぜてくれないかな?」

 

「アタシがいる方が効率的だと思うわよ」

 

そこへ工藤さんと木下さんまで加わってきた。

 

「よーし、ここのみんなで勉強会開始!」

 

佐山さんの一言で僕たちの合同学習が始まった。

 

「わからないところがあったら遠慮なく聞いて頂戴」

 

「ありがとう、木下さん。それなら、ここの問題を教えてほしいな」

 

Aクラスの優等生から気軽に教えてもらえるのが合同学習のいい所。

僕にとっては実になる時間だろう。

 

「私もアキちゃんの勉強手伝いたいな~」

 

「いいけど、吉井くんが今やっている教科は数学……それでもいいの?」

 

「ごめん、それなら遠慮しとく」

 

「私は教えられそうにないわね」

 

「得意科目だったらなぁ……」

 

佐山さんと櫻井さんと浜崎さんの3人の中に数学ができる者はいない。

 

「保険体育の実技だったらあれこれ教えられるんだけどな~」

 

「あ、私もそれ教えられる」

 

工藤さんも保健体育の実技だけが取り柄であり、佐山さんも恐らくその次だろう。

 

「そんなこと言ってたら吉井くんに追い抜かされちゃうわよ。現にAクラスの問題も解けるようになってるわよ」

 

「ええぇ!? アキちゃんに抜かされちゃったらお姉ちゃんの立ち位置がなくなっちゃうじゃん!」

 

「そんなことしている場合じゃないね!」

 

木下さんの言葉に焦った佐山さんと浜崎さんの2人は急いでペンを進め、問題を解いて行く。

 

「まぁ私も危機感は持っておいた方がいいかもしれないわね……」

 

問題を必死に解く2人を目にした櫻井さんはため息をついて、それに続く。

 

「……それじゃあ、次はどこを知りたいのかしら?」

 

「数学はもうやったから……英語のここを教えてもらおうかな?」

 

「どれどれ…………ん? これは……」

 

問題を見せると、木下さんは珍しくしかめっ面になる。

 

「どうしたの? 木下さん?」

 

「な、なんでもないわ……ちょっと待っててね……」

 

手を顎に当てて、真剣に考えだす木下さん。

 

「くっ……アタシとしたことが…………こんな問題を吉井くんに教えてあげられないなんて……!」

 

「えっと……木下さん?」

 

「これには優子もお手上げみたいだね。他の人に教えてもらえれば?」

 

工藤さんによると、木下さんはこの問題が理解できないみたいだ。

まぁ木下さんも完璧にどんな問題でも解ける人間ではないから……解けない問題の1つや2つはあるはずだ。

 

「うーん……誰に教えてもらおうかな?」

 

そういえば、浜崎さんは英語の実力が学年1位だったとか言ってたような……。

 

横で問題が解けずに悔しがる木下さんをよそに、浜崎さんの方へ目をやる。

 

いや、今は必死に解いているみたいだからやめておこう。

集中している場面を邪魔する訳にはいかないし。

 

「でも、そうなったら問題は解けないし……どうしよう……」

 

「吉井クン、こうなったらボクが適役を呼んでくるよ!」

 

と言って、工藤さんはどこかへ行ってしまった。

 

適役とはだれを呼んできたのだろう?

 

「吉井クン! 呼んできたよ!」

 

しばらくして、戻ってきた工藤さん。

横にいた人物はというと……。

 

「あはは……よ、よろしく」

 

「久保くん! 工藤さんが呼んできたのって久保くんだったの?」

 

「そうだよ~。久保クンは学年で2番目に頭がいいし!」

 

確かに適役ではあるけれど……。

 

「あの、久保くん」

 

「な、何かな……!?」

 

ん? 久保くん、なんだか様子がおかしいけど……。

 

「……どうしたの? 今日の久保くん、なんか変だよ?」

 

「そ、そうかな? それはそれでいいとして……わからない問題があるというなら僕を頼ってほしい。合同学習なんだから、遠慮する必要はない」

 

「うん、ありがとう」

 

強化合宿期間で何かあったのだろうか。

だが、特にそこまで気にすることではないので追及はしない。

 

「なら、吉井くんのわからない場所を見せてもらえるかな?」

 

「ここの問題なんだけど……」

 

問題を見せようと、久保くんの横までくると、

 

「うわぁ!? よ、吉井くん!」

 

「わぁっ!? な、何!? 久保くん!?」

 

身体をビクッとさせて、僕との距離を離す。

 

「どうしたの……? 何かあったの?」

 

「いや、すまない……少し驚いただけだ……」

 

「……?」

 

久保くんの説明を聞いても僕は何がなんだかサッパリわからない。

 

「……じゃあ、改めてここを解説するね」

 

「うん……」

 

「まず、吉井くんはここがなぜ未来形の文なのに動詞が現在形なのかを知りたい……で合っているかな?」

 

「そうそう。この文は本当にこれで正解なの?」

 

「未来の時制は現在形の動詞で代用できるんだ。これは確定的な予定である場合だから、それが使えるんだ」

 

「へぇ~……そうだったんだ」

 

更に久保くんは解説を続ける。

 

「そして、時を表す副詞節。before、after、untillという接続詞が来たら副詞節になる。

whenとifは副詞節以外に名詞節の場合もあるから、どちらかを区別して現在形にするか未来形にするかを決めるんだ」

 

「なるほど……ありがとう。理解できたよ」

 

「参考になったのなら何よりだよ」

 

そっぽを向いて返事を返す久保くん。

 

やっぱり、今日の久保くんはなんか変だよ…………他人行儀というか、いつもと接し方が違う気がする。

 

「流石ね……悔しいけど久保くんには敵わないわ……」

 

「本当にすごいよね~久保クンは」

 

「いや、そんなことはない。僕は授業の内容をそのまま覚えて、教えたまでだ」

 

「それがすごいのよ……沢山の情報を覚えるなんて、アタシには真似できそうにないわ」

 

「英語ってそこが難しいよね~。ごちゃごちゃしてて、よく混同しちゃうから……」

 

「大事な要点を暗記しておけばいい。英語は教科書や参考書に無駄なものが載りやすい教科であるから、必要最低限のことを覚えれば既に完璧にできるはずさ」

 

あ、あれれ……?

なんで木下さんと工藤さんとは普通に会話できているの?

僕の時とは態度が大違い……。

 

「久保くん、いい所に! ちょっと、こっち手伝って!」

 

「ん、どうしたんだい?」

 

「ここの問題教えて!」

 

「ああ、もちろん。ここの問題は――」

 

…………佐山さんの時も普通に接してる……。

 

なんで僕だけ……?

僕、久保くんに何かしたっけ……?

 

その後もずっとこのことが気になってて、あまり学習が捗らなかった。




感想、誤字脱字報告お待ちしております。


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84話 入浴中にあった出来事

今回は入浴時間にはこんな戦いが繰り広げられているんですよ。と、お伝え出来たらいいなと思っています。


sideアキ

 

 

Aクラスとの合同学習が終えた次には入浴時間が待っている。

今は部屋に戻って、着替えを取りに戻っていた。

 

「そういえば、姫路さんと美波と佐藤さんって学習時間に何してたの?」

 

多くのAクラス女子生徒と一緒に勉強していたと思っているが、合同学習とはいえ、あそこまで集めてするのだろうか? とずっと疑問に思っていた。

 

「最初は美波ちゃんと美穂ちゃんと一緒に勉強していたんです」

 

「ふむふむ」

 

「ですが、途中で息抜き程度にアキちゃんの写真集を見せ合いっこしてたら、そこへAクラスの人たちも集まってきたんですよ……」

 

「……ごめん、姫路さん。なんで僕の写真集を学習時間に見ているの?」

 

あの原因の発端は僕みたいなものだった。

 

しかも、あの大勢に見られてるってことは…………うぅ……考えないようにしておこう。

 

「みなさんから大好評でしたよ! アキちゃん」

 

「欲しい人が続出して、ムッツリ商会で買えばいいことも教えてあげたわよねぇ」

 

「佐藤さん、美波……学習時間にそんなもの読まないでよー!」

 

考えないようにしてた矢先に余計なことを教えられた。

 

なんで僕の写真集なんて欲しがる人が多いんだろうか……今月のムッツリ商会は黒字確定だな……。

 

 

 

 

side雄二

 

 

「坂本、俺たちに話ってなんだ?」

 

Fクラスの連中を全員、俺らの過ごす部屋へと集めた。

 

「よく来てくれた。実はみんなに提案がある」

 

「提案?」

 

「今度はなんだよ……正直、疲れて何もやりたくないんだけど」

 

「早く部屋に戻ってダラダラしてぇな~」

 

Aクラスの合同学習で疲れたFクラスの全員は口々にダルそうな発言や態度をとる。

 

俺は静かになるまで待ち、こう告げる。

 

「――みんな、女子風呂の覗きに興味ないか?」

 

「「「詳しく聞かせろ!!!」」」

 

よし、いい返事だ。

 

「昨夜俺たちは女子風呂の覗きに向かったんだが、そこで卑劣にも待ち伏せをしていた教師陣の妨害を受けたんだ」

 

「「「ふむ、それで?」」」

 

「そこで、風呂の時間になったら女子風呂警備部隊の排除に協力してもらいたい。

報酬はその後に得られる理想郷の光景だ。どうだ?」

 

「「「乗った!!!」」」

 

よし、これで仲間が増えた。

 

待ってろよ、明久。

身体を入念に洗って、風呂場で待ってろよ。

 

 

 

 

「西村先生。流石に彼らも現れないのでは? 昨日、あれほど指導をしたことですし」

 

「布施先生。彼らを侮ってはいけません。彼らは生粋のバカです。あの程度で懲りるようであれば、今頃は模範的な生徒になっているはずですから」

 

「そうでしょうか? いくらなんでも、そこまでバカでは――あ、アレは!?」

 

――――ドドドドドドド!

 

「待ってろよー! Aクラスの可愛い子ちゃん!」

 

「姫路さん、結婚しましょうぅぅぅ!」

 

「島田のペッタンコ!」

 

「そして、一番の目玉は――」

 

「「「アキちゃんのパーフェクトボディー!!!」」」

 

俺らFクラス男子全員で風呂場に突撃。

 

作戦はいたってシンプル。

理想郷への到達。目的地まで突き進むだけだ。

 

「に、西村先生! 大変です! あの数はまずいですよ!?」

 

「まさか、懲りるどころか数を増やしてくるとは……布施先生、私たちだけでもあの連中を食い止めますよ。1人でも逃がさないように!」

 

「りょ、了解しました……! 試獣召喚(サモン)!」

 

西村先生は身を構えて、布施先生は召喚獣を出現させる。

 

「な、なんだ……アレは……!?」

 

「布施先生が2人になった!?」

 

布施先生をコピーしたような召喚獣がいることに誰もが驚き、足を止めた。

 

そういえば、前に明久が試験召喚のアップデートがどうのこうの言ってたな。

もう既に実装済みって訳か。

 

「教師2人相手なら辛うじていけるだろうと思っていたが、あれだと実質3人を相手にするようなもんだぞ……。

どうする……坂本?」

 

「ここは突破するしかない! 理想郷へたどり着くことだけに専念しろ!」

 

「「「おう!!!」」」

 

俺の掛け声で、一斉に召喚獣を召喚していく。

もちろんこちらも、アップデートの影響を受けて、自分と同一人物の召喚獣となっている。

 

「これが俺たちの新しい召喚獣……」

 

「この数でならいけそうだな!」

 

そのまま勢いに任せて、布施先生の召喚獣を各自の召喚獣で襲い、それに続くように再び走り出す。

 

「「「うおおおおおぉぉぉ!!!」」」

 

これは行ける!

 

誰もがそう思っていた時のことだった。

 

「……まったく、君たちには呆れたよ」

 

突如、目の前に謎の人物が現れて――。

 

ヒュン

 

何かを振りかぶったような音と共に、俺たち全員の召喚獣の約3、4割程度がやられていた。

 

「は、はぁ!? 何が起きたんだよ!?」

 

「一瞬でどうなったというんだ……!?」

 

「布施先生の仕業……じゃないよな?」

 

西村先生でもなければ、布施先生がやった訳でもない。

目の前に現れた人物に目をやる。

 

すると、そこには――。

 

「く、久保くん? なんで君がこんなところに!?」

 

「なぜ貴様がこんなところにいるんだ……?」

 

「「「はぁ!!!???」」」

 

なんと、謎の人物の正体は久保だった。

布施先生も西村先生も動揺しているのが気になるところだが……。

 

久保も召喚獣を出現させており、もちろん久保と等身大サイズとなっている。

 

「すみません、先生。勝手に指導に首を突っ込むような真似をして。しかし、これは同級生である僕としては見過ごせない事態です」

 

「何があってここにいるかはよくわからんが、まぁいい。お前は学年次席という立場にいる。

それに免じて、協力することを許可する。あいつらのお手本となってやれ」

 

「正直、私と西村先生だけでは心細かったところです。協力感謝します」

 

「ありがとうございます」

 

西村先生と布施先生に対して、頭を下げると、こちらへ向きを変える。

 

「おい、久保! なんでお前がここにいるんだよ!? まさか、俺たちの計画を知っているのか!?」

 

「計画……? なんだ、それは? 僕はただ、着替えを取りに部屋へ戻っている最中、君たちを見つけたんだよ。

この時間は確か、Fクラスは人数上の問題で、女子の入浴時間だったよね。それなのに、こんな大勢揃って入浴場に行くのは不自然だと思って、後をつけたらこの有様だった……という訳だよ」

 

クソッ……読まれていたか……勘の鋭い奴め。

 

「久保! テメェはこの前のアキちゃんとのデートの件といい、今回も俺たちを邪魔するのか!?」

 

「いくら学年次席だからって、俺たちの前で調子のいいことぬかしてんじゃねぇぞ!」

 

「ぶっ殺す! やるぞ、お前ら!」

 

「はぁ……もうちょっと賢いと思ったんだけどね……残念だよ」

 

久保はそうつぶやくと、彼の召喚獣は大鎌を振り上げて、目にも止まらぬ速さで俺らを襲ってきた。

 

 

 

 

sideアキ

 

 

一方、その頃の女子風呂では――。

 

「アキちゃんと風呂に入るのって落ち着くなぁ……」

 

「やわらかいし、気持ちいいから最高だよ」

 

案の定、佐山さんと浜崎さんに湯船に浸かりながら密着されていた。

 

「同じお湯の中にいるって、なんかエッチだね!」

 

今回は工藤さんもいるからいつもより暑苦しい……。

下手したらサウナよりも暑いかも……。

 

「いつ見ても綺麗な肌よね……どんな体質なのかしら」

 

じっくりと僕の身体を観察していく櫻井さん。

 

「やっぱり、大きいと浮くのね……瑞樹もそうだけど」

 

「あっても困るだけですよ……」

 

どこがとは言わないが、湯船に浮く僕と姫路さんの物体を睨む美波。

 

「アキちゃん、部屋に戻ったらトランプやりませんか? 昨日、持ってきてたのを使いましょう!」

 

「うん、いいよ。やろうやろう」

 

佐藤さんがトランプを持ってきていたが、昨日は時間がなかったのですることができなかった。

 

「アタシも行っていいかしら? 部屋にいても退屈だし」

 

「ボクも行きたい!」

 

「……私も参加する」

 

「もちろん。多い方が楽しいし」

 

木下さんと工藤さんに霧島さんもトランプをするメンバーに混ざることとなった。

 

2日目の入浴時間も平和で終わって何よりだ。




感想と誤字脱字報告お待ちしております。


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85話 入浴後にあった出来事

sideアキ

 

 

入浴時間終了に近づいてきたので、僕らは大浴場を出て、指定された体操服へと着替えていた。

 

後は部屋に戻って、約束通りにみんなでトランプをして、寝て終了……というのが僕の脳内での予定。

 

「アキちゃん、早くいこうよ!」

 

「夜はまだまだこれからなんだから」

 

「もう、そんなに急がなくても大丈夫だよ……」

 

佐山さんと浜崎さんに手を引っ張られ、急かされていた。

 

「2人はやけに子供っぽいところがあるのよね。大目に見てあげて」

 

「いつものことだから大丈夫だよ……櫻井さん」

 

そのまま、脱衣所を出た。

 

すると、そこには……

 

「……何これ? 何があったの?」

 

「知らない。てか、なんで男子がここにいるの?」

 

佐山さんと浜崎さんは、脱衣所を出た途端に広がる光景にポカーンとしていた。

 

「ゆ、雄二たち……ここで何しているの?」

 

雄二にムッツリーニ、そして秀吉……それから、複数の男子生徒。

それらの人物が西村先生と布施先生の前で正座させられていた。

 

「……言わなくてもわかってるだろ……俺らの作戦は失敗に終わった」

 

「もしかして、今日も覗きしに来てたの!? しかもこんな人数を集めて!?」

 

よく見たら、(秀吉を除く)全員Fクラスの男子生徒だった。

 

僕らが入浴してる最中になんてことしてるんだ……いや、そうしないと覗きじゃなくなるか。

 

「はぁ……今日も気持ちよかったわ……って、何があったの!?」

 

「んんッ? これは……修羅場ってやつかな?」

 

「……何事?」

 

「いったい何があったのですか!?」

 

遅れて出てきたのは、木下さんに工藤さんに霧島さんに佐藤さんのAクラスの主要メンバー。

 

「みなさん、なぜこちらにいるのでしょうか?」

 

「またバカなことやってるんじゃないでしょうね……?」

 

次に姫路さんと美波まで。

同じFクラスの2人はこの時点で何があったか、大体察しているかもしれない。

 

「貴方たちが入浴している際に、こんな大人数で覗きをするつもりだったそうです」

 

「幸い、誰も通すことはなかったがな」

 

布施先生と西村先生は事情をすべて話した。

 

「ひ、秀吉……アンタ、なんてバカなことに加担しているのよ!?」

 

「姉上、これも友人のためなのじゃ……」

 

「……雄二、詳しく話を聞かせて」

 

「クソ……指導が終わってからにしてくれ」

 

あらら……これは収集がつかない事態になりそうだ……。

 

「とにかく、ありがとうございます。布施先生、西村先生。アタシの愚弟をしっかりと指導してあげてください」

 

「ああ、指導はもちろんだが……お礼は久保に言ってくれないか?」

 

「久保くんに……?」

 

西村先生の言葉に僕ら女子全員は首を傾げた。

 

「先生、あまり口外しないでいただけませんか……」

 

「あら? 久保くんもここにいたのね。どうしてここに……?」

 

横から出てきた久保くんに、誰もが「なぜ、ここにいるんだ?」という表情。

 

「着替えを部屋に取りに行ってたら、坂本くんが他の男子を連れて、浴場に行くのを見つけたんだ。

この時間はFクラス男子はまだ、入浴時間じゃなかったら、おかしいと思って後をつけたら、こうなった……簡潔に言うとこういうことだよ」

 

「久保くんのおかげで、Fクラスの男子たちを止められましたからね」

 

と久保くんが説明して、横から布施先生は言う。

 

「ふーん、そうなのね……よくやったわね。久保くん」

 

「いいや、大したことないよ。木下さん」

 

当然だとばかりな久保くん。

 

「いい仕事してくれたわね……久保くんって、異常に紳士よね」

 

「久保くんって、ブレない男だからね……やっぱり、紳士を貫いているんだよ」

 

櫻井さんと佐山さんはヒソヒソと話している。

 

「久保クン、お疲れ様~……お礼に風呂であった話、聞かせてあげよっか?」

 

「それとも、誰かの下着の色を教えてあげようか?」

 

「け、結構だよ。工藤さん、浜崎さん……」

 

「別に久保くんに教えても、誰も気にしないと思うけどね~」

 

相変わらず、こんな状況でも工藤さんと浜崎さんはいつも通り。

 

「一応、ウチと瑞樹からもお礼しておくわ」

 

「ありがとうございます、久保くん」

 

「ううん……別にいいんだ、これくらい……」

 

美波と姫路さんからもお礼を言われている。

 

久保くんの行動は女子全員から称賛されるに値するだろうね。

僕もちゃんとお礼を言っておかないと。

 

「あの、久保くん」

 

「ん? あ、ああ……吉井くんか……」

 

「ありがとう。雄二たちを止めてくれて。あのままだったら、みんな嫌な思いをしてたから……」

 

「当然のことをしたまでだよ……僕も女子が嫌がる行為はしたくないし、そんなことを他の誰かにさせたくもない」

 

「いつも久保くんは優しいね……それでも、本当にありがとう」

 

「……どういたしまして」

 

そう言って、久保くんはクルッと背を向けて、

 

「先生、僕はこれで失礼します。後はそちらに任せます」

 

と言って、その場を去った。

 

……やっぱり、今日の久保くんはなんか変だよ。

僕にはなんで、あそこまでよそよそしい態度をとるんだろう……。

 

合同学習の時からずっとあの様子だ。

僕はそれが気になって仕方がなかった。

 

「ほら、アキちゃん! 早く行こうよ!」

 

「早くしないと、夜が終わっちゃうよ?」

 

「う、うん……」

 

悩んでいる間にも、佐山さんと浜崎さんに手を引っ張られて、僕たちは部屋へと戻った。

 

 

 

 

「それじゃあ、強化合宿夜のトランプ大会の始まりー!」

 

「「「イエーイ!!!」」」

 

佐山さんの掛け声と共に、ノリノリの歓声(あまり大きな声は出せないけど)を上げる、トランプの参加者。

 

「……っと言っても、ただのトランプというだけではおもしろくないから、美穂と一緒にルールを設けてみました」

 

「特別ルールとして、1番になった人が負けた人に命令をすることができる権限を獲得できます!」

 

佐藤さんのその言葉には既に聞いたことがあるような気がした。

 

「ん? それって、ウチたちがアキの家でお泊り会をした時にした覚えがあるんだけど……」

 

「聞き覚えのあるフレーズだと思ったら、アキちゃん家のお泊り会でやりましたね」

 

美波と姫路さんがそう言って思い出した。

 

お泊り会で夏休み最後の思い出として、トランプをすることになったんだけど、確か佐藤さんが考えたのと同じルールによって、僕は姫路さんから着せられた恥ずかしいパジャマで、夏の最後を飾ったんだ。

 

「あぁ……吉井くんの家でのお泊り会の時とそのままのルールね……まさか美穂も愛子と同じ考えをするなんて……」

 

「ムー、優子。なんかボクに失礼なこと考えてなかった?」

 

「……私も参加したから覚えている」

 

お泊り会に参加したメンバーも完全に記憶している。

 

それを聞いて、佐山さんと浜崎さんは羨ましそうにして、

 

「アキちゃん家でお泊り会してたの? いいなぁ~……」

 

「今度、私たちもアキちゃんの家に行っていい?」

 

「うん、別にいいけど」

 

僕の家に来たいと言っているけど、僕の家に来て何が楽しいのだろうか。

 

「細かいことは置いておいて……ゲーム開始です!」

 

あらかじめ、シャッフルを済ませておいたトランプを全員に配っていく佐藤さん。

 

前は恥ずかしい思いをしたからなぁ……今回は最下位にならないことだけを考えよう。

 

 

 

 

じゃんけんで順番を決めた結果、こうなった。

 

木下さん→美波→工藤さん→僕→佐山さん→佐藤さん→姫路さん→櫻井さん→霧島さん→浜崎さん

 

「まずは私からね」

 

木下さんから始まり、それに続いて美波も引いていく。

 

「ふっふーん、どれにしようかな~♪」

 

僕の手札のカードに手を伸ばす工藤さん。

ババを持っていないので、何を引かれても困らないが。

 

「よーし、これだ! お、初手から揃っちゃた☆」

 

僕の手札から引いたカードにより、工藤さんは1枚消化することに成功。

 

……まだ焦る必要はない。

 

「それじゃあ、次は僕か……」

 

「かかってこーい! アキちゃん!」

 

手札を広げて、当てれるものなら当ててみろという表情の佐山さんが待ち構えていた。

 

もしかして、ババを持っている可能性も考えられる……慎重に……。

 

僕は数秒考えてから、思い切って真ん中を選ぶ。

 

あ、ババじゃない! よかった……じゃなかった……ババじゃなくても、数字が手札と揃わない……。

これだと実質、ババを引いたようなものだ……だが、まだまだこれから。

 

10人という大人数でやっていたので、早くも3ターン目で上がる者が出てきた。

もちろん僕はその中に含まれていないが、まだ大丈夫。

 

「次は僕の番だね」

 

僕の番が回ってきた。

 

相手は……うわぁ……ここで強敵。

 

「……いつでも来て」

 

無表情で構えているのは、ポーカーフェイスが大得意の霧島さん。

 

お泊り会の時に脅威となったけど、2度も同じ目には遭わないぞ。

 

「うーん……こっち? うーん……これかな?」

 

右の端っこを引いてみる。

 

うげぇ……ここに来てババだ……霧島さんには勝てそうにないよ……。

 

「……成長してない」

 

少し得意気な表情を見せた後、霧島さんは櫻井さんの手札からカードを引いて、上りとなった。

 

そして、

 

「はい、上り……アキちゃん、最下位」

 

「……な、なんで……なんで勝てないの……」

 

結局、最後まで残って、とどめを櫻井さんに刺された。

 

「それでは、罰ゲームを受けるのはアキちゃんに決定しました。1番の方は……あっ、私でしたね。

なので、私がアキちゃんに罰ゲームを行います」

 

よりによって佐藤さんか……姫路さんと同様に嫌な予感しかしない……。

 

「アキちゃんへ罰ゲームです。私が用意したこの衣装を着てくださいね」

 

「罰ゲーム内容も前と一緒だ……」

 

果たして、今度はどんな衣装を着せられるのか……。




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86話 強化合宿2日目終了!

今年になってから投稿遅れることが多くて本当に申し訳ないです!

体調不良とインフルで寝込みっぱなしで……。
皆様もお気をつけて!


sideアキ

 

 

「アキちゃん、準備はいいですか?」

 

「はーい……もう好きにしてよ……」

 

別の部屋で佐藤さんに着替えさせられることとなり、現在は部屋に戻るところ。

 

今回、佐藤さんが用意した衣装は赤を基調とした半袖の服にミニスカート、そして頭にはナイトキャップみたいなものを被っている。

髪型はサイドテールに縛っている。

 

「フランちゃんコス、似合ってますよ! みなさんも気に入ってくれるに違いありません!」

 

「これ、またキャラの衣装なんだね……」

 

佐藤さんが着せてくる衣装は今後もキャラ衣装に偏るだろうな。

 

「それではお披露目タイムですよ!」

 

佐藤さんが勢いよく部屋のドアを開けて、みんなの視線の標的となる僕。

 

「おぉ! 待ってました! 2日目も初日の衣装より可愛いぃ!」

 

「美穂、グッジョブ!」

 

佐山さんと浜崎さんは大歓喜。

 

「トランプやった甲斐があったわね。提案してくれた美穂に感謝しなきゃ」

 

「目の保養になる吉井クンにも感謝しないとね~」

 

「……吉井……子供みたいで可愛い」

 

木下さんに工藤さんと霧島さんからも大好評。

 

こんなに大人数から見られると恥じらいを感じてしまう。

 

「アキちゃんってロリファッション似合うよね~……昨日の衣装よりこっちがいい」

 

ボソッと浜崎さんがつぶやいた途端、

 

「ちょっと待った! 確かにこっちもロリ体型のアキちゃんに似合うけど、昨日の方がよかったでしょ!?」

 

と佐山さんは浜崎さんのつぶやきに異を唱える。

 

「そうね……私もどっちかというと、巫女服の方が好みかもしれないわ」

 

櫻井さんも同調する。

 

「ボクはこっちの衣装がいいかな~。お嬢様って感じでいいと思う!」

 

「……私は昨日の巫女服。伝統的で綺麗だった」

 

「待ちなさい、ここは冷静に考えて。

まず、昨日の巫女服は清楚感を出しながらトラディショナルに決まってて、なおかつ吉井くんの綺麗な顔と茶髪がとても映えるものだったわ……それに対して今回のロリータなこのファッションは、吉井くんの小柄で幼女っぽさのある体型だからこそ、得られる何かがあるのよ……!!

つまり、アタシの総合的な観点から見ると、今回の衣装が勝っていると言えるわね……!」

 

工藤さんと霧島さんの2人の意見は割れていた。

そして木下さんは早口な口調で論文の一部を抜き取って、それを読んでいるかのように力説していた。

 

木下さんって妙なところで奇怪な行動を起こすから、不思議な人だと度々僕は思っている。

 

「ウチはどっちもカワイイと思ってるから、どっちでもいいわ……」

 

美波は目の前で繰り広げられている不毛な議論(?)を呆れながら眺めていた。

 

「美穂ちゃんの衣装、とっても素敵だと思いますけどね」

 

「瑞樹ちゃんの霊夢の巫女服も素敵でしたよ!」

 

衣装を選んだ当の本人である姫路さんと佐藤さんはどちらも尊重し合って、優劣を決める気は更々ないようだ。

 

その後も、このくだらない議論は長く続いた。

 

 

 

 

結局のところ、僕の衣装についての議論は意見が上がり過ぎてきりがなく、別の日に持ち越されることとなった。

 

たかが僕にどちらの似合うかの議題でここまで続くって、ある意味すごいなと感心しながら聞いていたが、

よく考えると、バカバカしいなとも思った。

 

「とりあえず、この議題については意見が分かれすぎているので、また別の機会に……ということで」

 

「そうだね……もう疲れちゃったよ~……」

 

木下さんの司会者のようなセリフに工藤さんはヘトヘトになりながら同調した。

 

2日目もいろいろあったなぁ……みんなでトランプをして、罰ゲームにキャラクターの衣装を着せられてからみんなのくだらない議論を聞いたり、昼の合同学習でみんなと勉強したり……。

 

…………そういえば、合同学習で思い出したけど、今日の久保くんは変だったな。

僕にだけ態度が違って、避けられているような気がする。

僕って久保くんに何かしたっけな……?

ああぁ! もう! なんでこんな楽しくやってたのに、嫌なこと思い出すんだ……!

 

「アキちゃん? どうしたの? さっきから元気がないけど……」

 

すると、僕の顔色が優れていないように見えたのか、佐山さんが心配そうに話しかけてきた。

 

「ううん、なんでもないよ……佐山さん」

 

「具合でも悪くなったのかしら? 一応、保健委員だから何かあったらすぐに言いなさい」

 

「大丈夫だよ櫻井さん。ちょっと考え事をしてただけだから……」

 

「考え事? 何を考えていたのよ?」

 

「え、ええっと……それは……」

 

どうしよう……こんな時に久保くんを考えてましたなんて言ったら、誤解されるに違いない。

現に昨日の久保くんに対する追求がすごかったから、今回もさらに追及されるだろう。

 

「あ! もしかして、久保くんのこと考えてた、とか?」

 

浜崎さんの言葉に思わず、ギクッという反応をしてしまい、

 

「え、ええっと……あぅぅ……」

 

「あれ? 図星だった?」

 

浜崎さんは冗談で言ったつもりが、まさか当たっているとは思ってもいなかったようで、逆に驚いていた。

 

「こんな時に久保くんのことを考えるなんて、いったい何があったのよ?」

 

そう尋ねてくる木下さんは眉を八の字にしている。

 

「ええっと……その、本当に大したことないことだよ! だから、気にしないで……」

 

なんとか軽くあしらって、済む……と思っていたが、

 

「んんッ!? なんか怪しいし、逆に気になる……! ほら、昨日みたいにお姉ちゃんに話してみて!」

 

逆に興味を煽ることとなってしまい、佐山さんはズイッと顔を近づけてくる。

 

「大したことないなら、話しても構わないわよね? アタシにも話してほしいわ」

 

木下さんも気になって仕方がなない様子……というか、顔が怖い!

 

「アキちゃん、悩みがあるなら遠慮しなくていいんですよ。ここにいるみなさんは笑ったりしませんから、話してみてはいかがでしょうか? あまり1人で抱え込むのはよくないですよ」

 

諭すように言うが、佐藤さんも恐らく気になるのであろう……。

 

「わ、わかったよ……話すから、茶化したりしないでね……?」

 

ウンウンとその場にいる僕以外のみんなはうなずいて、興味津々な目で僕を見つめる。

 

どうせ、嘘をついてもバレるし、逃げられそうにないから、もう僕は諦めている。

恥ずかしさをさらけ出す覚悟をして、僕は口を開いた。

 

「今日の合同学習であったことなんだけど……その時から久保くんのことが気になってて……」

 

「おぉ! ついにアキちゃんも自分の本心に気が付いたの……!?」

 

「そういう意味じゃないよ!」

 

「えぇ……じゃあ、どういう意味で気になってるの……?」

 

困惑気味な佐山さんの質問に答えるように、そのまま続ける。

 

「ええっと……なんというか……久保くんが変なの。いつもの久保くんじゃないというか……」

 

その僕の言葉にみんなは疑問符を頭に浮かべる。

 

「どういうことよ? 今日の久保くんは別に何もなかったじゃない」

 

「ボクも久保クンと話したけど、いつも通りだったよね?」

 

「……久保に異常はなかった……気がする」

 

木下さんと工藤さんと霧島さんから見ればそうだろう。

だって、久保くんがおかしく見えるのは僕だけしかいないだろうから。

 

「私たちはその場にいなかったので、なんとも言えませんね……」

 

佐藤さんの言葉に、美波と姫路さんは同調する。

この3人は久保くんに会ってないので、当然だが。

 

「ん~……私たちも特に変わった様子はなかったと思うけど……」

 

「久保くんのことはよく見てなかったから、なんとも言えない立場ね」

 

「いつも通り、難しいところを教えてもらったよね」

 

佐山さんと櫻井さんと浜崎さんまで。

 

いつも通りの流れで久保くんから勉強を教わっていたのだろうから、当然の反応かもしれない。

 

「その……みんなの前ではそうかもしれないよ……でも、僕の前では久保くんが久保くんらしくないというか……」

 

「それは、どんな感じで久保くんらしくないのかしら?」

 

「僕以外のみんなの前では普通に接しているのに、僕にだけ態度が冷たいというか……他人行儀だし、目も合わせて話してくれようとしないし、僕を避けるようなことまでするし……」

 

「久保くんが? まさか、冗談じゃないわよね……?」

 

「冗談でそんなこと言わないよ……木下さん」

 

「それもそうね……疑って悪かったわ……」

 

木下さんは軽く謝罪した後、みんなとヒソヒソと話し出した。

 

「ちょっと、どうなってるのよ……あの久保くんが吉井くんを避けてるって……」(木下)

 

「ボクもビックリだよ……久保クンはあんな人じゃないのに」(工藤)

 

「……久保にいったい、何が……?」(霧島)

 

「久保くんって、アキちゃんのこと好きだったんだよね……?」(佐山)

 

「そうね……思いを寄せる人への特別な態度ともいえるけれど、アキちゃんの話を聞くからに、あれは思いを寄せる人への態度ではないわ……」(櫻井)

 

「久保くん、どうしちゃったんだろう? もしかして、愛想が尽きてしまったとか……!?」(浜崎)

 

「話がよくわからないのですが……」(姫路)

 

「ウチも何が何だか……」(島田)

 

「瑞樹ちゃんと島田さんには後で説明しますよ!」(佐藤)

 

僕が話をした後にみんなは話し合ってるけど、そこまでして僕のことを考えてくれているのかな……?

失礼ながら、あまり期待はしてなかったんだよねぇ……。

だけど、あれだけ真剣に考えてくれると、期待しなかったのと見くびってしまった罪悪感が……。

 

「考えても仕方ないことね……そろそろ就寝時間が迫っていることだし、アタシたちは部屋に戻るわ」

 

部屋に設置してある時計を見た木下さんは就寝時間が近いことに気づき、立ち上がる。

 

「ん~? もうそんな時間なんだ……いいところだったのに!」

 

「……結局、わからず終い」

 

続いて、工藤さんと霧島さんは立ち上がる。

 

「ごめんね、吉井くん。久保くんに何があったかわからないけど、今度会った時にはアタシから徹底的に聞いておくわ」

 

「ボクも協力するよ! 久保クンと吉井クンはこんな関係じゃダメなんだしね!」

 

「……私も……本人から事情聴取が必要」

 

「ありがとう……それじゃあ、おやすみ」

 

3人は揃って、「おやすみ」と言った後、部屋を出て行った。

 

……………………。

 

「……3人も帰ったことだし、私たちも寝ましょう」

 

「そうだね……あ、今日は誰が一緒にアキちゃんと寝るの? まだ決めてなかったよね」

 

「佐山さん、なんでこの空気の中でそれを言うのかな……?」

 

「えぇ? だって、夜の楽しみだって必要じゃん? 昨日は私が一緒に寝たから、私以外が寝ることになるよね。だから、そっちで好きに決めてて」

 

と佐山さんは布団をさっさと敷いて、寝る準備をしだした。

 

「アキちゃんが誰と寝るかについては、もう既に決めているので…………アキちゃん、今日は私ですよ」

 

「今日は佐藤さんか……えっと、よろしく……?」

 

罰ゲームの命令係に続いて、一緒に寝ることになるとは……今日は佐藤さん絡みのことが多いな。

 

その後、全員分の布団を敷き終わり、佐藤さんと同じ布団の中で寝ることとなる。

 

「……はぁ……今日もいろいろあって疲れたな……」

 

思わずポツリとつぶやいた。

 

……結局、久保くんのことについてはわからなかったな。

 

なんで久保くん1人のことに対してここまで悩むのか意味がわからず、馬鹿馬鹿しくなってきた。

でも、気になって仕方がない。

 

沈んだままの気持ちで眠りにつこうとしていると、

 

「アキちゃん……!」

 

「ん、どうしたの? 佐藤さん」

 

小声でこちらを読んでくる佐藤さん。

 

「私たちはアキちゃんと久保くんに何があったか知りません……ですが、困ったときはもっと私たちを頼ってくれてもいいんですよ?」

 

そう言って、僕の頭を優しくなでながら続ける。

 

「2人の関係に割って入るのは気が引けますけど、アキちゃんが困っているのは私も皆さんも見過ごせないんです。

力になれることがあれば、遠慮なく頼ってください……ね?」

 

「……うん、ありがとう」

 

あまりにもしつこく聞いてくるから仕方なくの理由で悩みを少しだけ吐いただけなのに、ここまで心配されるとは思ってなかった。

 

でも、ここまで心配してくれると申し訳ないというか、ちょっとありがたいというか……。

 

とにかく、一刻も早く久保くんとのことを解決しないと、また心配させてしまう。

 

できればこの強化合宿期間中に解決できればいいんだけど……。

 

「それじゃあ、改めて寝ましょう。アキちゃん」

 

「うん……って、そんなにひっつかないでよ……」

 

「いいじゃないですか! こんな機会、滅多にないんですから!」

 

まぁ心配かけた迷惑代として、抱きしめる程度までは許してあげよう……。

 

そのまま僕と佐藤さんは一緒に眠りについた。




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次回からはできるだけ早く投稿できるように心がけます。


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