Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉 (アマゾンズ)
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機体設定&人物設定

主人公と機体の設定です。

JとMDのネタがあるので注意です。

後々に増えていきます。


名前 赤野政征(あかのまさゆき)

 

フューリー名 マサ=ユキ・フォルティトゥードー

 

男性

 

身長179

 

年齢 早生まれの17歳

 

性格

 

長所・根が真面目で人当たりが良い

 

短所・感情的になりやすい

 

好きな事

ゲーム・読書・カラオケ・スパロボ・料理

 

好きな人物やものなど

 

鍛えてくれたアシュアリー・クロイツェル社の方々を始めとする人達。親友、仲間など。

 

好物な食べ物は肉厚なステーキ

 

嫌いなもの

女尊男卑などの極端な思想。善人ぶる人間。

 

苦手な食べ物はセロリ(食べられない訳じゃない)

 

 

 

元はスーパーロボット大戦J好きの一般的な青年。

 

特に同作品に登場する機体、騎士機ラフトクランズが好きすぎて作品を80週するくらいやり込んでいる。

 

自分の元居た世界ではスパロボをプレイする際、スーパー系の機体を使いすぎる傾向があり、スパロボJにおいてリアル系のクリアをしなかったという行動をした為にヴォルレントの存在を知らずにいた。

 

転生(というより次元越え)によって神様からフューリーとしての記憶とフューリーの扱う機体の操縦技術を与えられてIS〈インフィニット・ストラトス〉の世界へと跳んだ。

 

アシュアリー・クロイツェル社の会長、紫雲セルダの特訓によって騎士としての力を身につけた。

 

頭脳はさほどではなかったが、技術部のスタッフやセルダの協力と本人の努力によってIS及び学生としてはかなりの頭脳を持った(学生としては上位の中くらいの知力)

 

 

機体に乗ると性格が騎士としてのそれになるが、怒りなどで感情が制御出来ていないときは壊れたジュア=ムのように粗暴で口がものすごく悪くなってしまう。

 

 

シャナ=ミナには一目惚れしているようだが本人の自覚が「憧れ」か「恋」なのかわかってない為、一歩引いている。

 

 

機体 騎士機ラフトクランズ・リベラ

 

ISとして改修された赤野政征専用の機体。

 

元(の世界)は諜士であるソ=デスが使用していたラフトクランズ。

 

その機体をベースに頭部をアウルンと同じ物にし、カラーリングも紺瑠璃色(こんるりいろ)に変更されている。

 

その他にもモーションプログラム、反応速度、推進力、オルゴナイト・ミラージュ生成など、内部は原型を留めていない程にカスタマイズチューンされている。

 

三つのバスカー・モード(JでいうFモード)を扱えるため「リベラ」という名を付けられる。(ラテン語で自由の意味)

 

武装

 

オルゴンキャノン

 

マップ兵器のモーションで敵を撃つ武装。

 

リミッターによりチャージしなければならないがリミッター解除された場合、レーザーモードを撃てる(スパロボの通常攻撃)

 

オルゴンライフル

 

リミッターにより単発のエネルギー弾を撃ち、最後の一発をガンスピンさせ合計3発放つ。

 

解除後は高速移動による単機での挟み撃ちになる。

 

オルゴンクロー

 

リミッターにより振動による圧縮によって敵を攻撃する。

 

解除後は掴み、引きずり回した後に投げ上げて引き裂くモーションに変わる。

 

オルゴンソード

 

初めからリミッターは無し。

(JのモーションとMDのオルゴナイト・ミラージュを使用)

 

オルゴン・ソード・ライフル・クロー・バスカーモード(Fモード)

 

リミッターにより封印状態にあるが、一次移行(ファースト・シフト)によって解除される。

 

ソード発動時は機体色に灰色が混じる。

 

ライフル発動時は機体色に黄緑色が混じる。

 

クロー発動時は機体色に濃い紅色が混じる。

 

 

※イベント限定技

 

剛結晶・刹那の剣

 

示現流の極意と言われる雲耀の太刀をイメージして繰り出した一撃必殺の剣。

 

心・技・体が完全に一体になった時、到れる無我の境地でのみ繰り出すことができる。

 

通常で引き出す事は極めて難しい

 

―――――

 

 

騎士機ラフトクランズ・モエニア

 

政征の親友である雄輔の専用機である機体。

 

旧式の白色のラフトクランズを最新型へ改修、強化した機体。

 

旧式だったのは装甲や部品だった為にすぐに改修され、最新機体と遜色がない。

 

モエニアとはラテン語で城壁の事で、その名の通り装甲強度を若干上げているため、防御力においてはリベラ以上。

 

メインカラーがダークブルーとなっている。

 

ほとんどの改修がリベラと同じなため、兄弟機に近い。

 

一次移行は完了しており、リミッターの数も政征と変わらない。

 

 

バスカー・モード時にはツインアイがそれに応じた色で輝く。

 

バスカー・剣(機体色と同じ色)

 

バスカー・銃(ファウネアと同じ緑)

 

バスカー・爪(真紅)

 

※イベント限定技

 

光結晶・月薙の剣

 

政征とは違った力によって繰り出した広範囲撃滅の剣。

 

オルゴナイトをエネルギー状のまま剣にするという離れ業にて繰り出す技。

 

この技も心・技・体が一体になり、無我の境地へ至った時のみ繰り出すことができる。

 

技のモデルは星薙の太刀

 

―――――

 

ベルゼルート・リヴァイヴ

 

シャルロットの専用カスタム機であったラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡをアシュアリー・クロイツェル社において強化改修した機体。

 

改修にはカルヴィナ・クーランジュが立ち合い、その際に自分の愛機であるベルゼルートのデータを使うよう束に進言している。

 

シャルロット本人の技術「砂漠の逃げ水」を最大限に活かすために拡張領域と武装を更に増やされ、スラスターも強化されており稼働エネルギーがオルゴンとなっている。

 

最大の特徴は左右の武装の同時展開と新たに追加されたオルゴンライフルB。

 

これによって実弾と非実弾の撃ち分けが可能となり、装甲の厚い相手でもある程度戦える。

 

欠点としてシャルロット自身のサイトロンリンゲージが低く、長時間の戦闘を行うと動きが鈍くなってしまう事。

 

 

 

――――

 

爪龍(ジャオロン)

 

大破寸前になった甲龍をアシュアリー・クロイツェル社が回収した後、中国政府からの依頼で修理・強化改修された機体。

 

甲龍時にあった龍砲がオミットされ、代わりにブロークンシステムを搭載したショルダーパーツを装備。

 

完全格闘の機体のため接近戦が主となるがスピードと反応速度は甲龍の時以上となっている。

 

青龍刀である双天牙月は鈴の懇願によってオミットされていない。

 

ISの常識において足技を使ってくるという前代未聞の機体でもある。

 

欠点として格闘の経験が必要不可欠である事と加速の際の重力に耐えなけばならない。

 

 

 

―――

 

 

 

テッカマンレーゲン(全身装甲・強襲突撃凡庸型)

 

ラウラと共にある事を望み、ラウラ自身の力を求める想いによって二次移行を果たし、全身装甲タイプとなったシュヴァルツェア・レーゲンの姿。

 

テッカマンの姿を模したのは騎士という単語と宇宙という目的、更にはスペースナイツのメンバー、テッカマンブレードが使っていたテックランサーを視認した事に起因している。

 

シュヴァルツェア・レーゲンとしての特徴であるプラズマ手刀、ワイヤーブレードはそのままにAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)による停止結界を持つ。

 

更にはテッカマン達の共通武器であるテックランサーも装備されている。

 

ランサーの形状はブレードとエビルのランサーを組み合わせた物で、2本に分解できるようになっている。

 

全身装甲化に伴い大口径レールカノンがオミットされ、代わりに両肩にユニットを接続し、荷電粒子を加速させ強力な荷電粒子を発射するボルテッカを装備しているが、テッカマンが装備しているオリジナルのボルテッカとほぼ変わらず、弱点も変わらない。

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の発動によって形態が変化し、ブラスター化したテッカマンと同じ姿となる。

 

戦闘に特化した姿であり、クラッシュイントルードによる突撃、プラズマ手刀とテックランサーによる格闘戦、ワイヤーブレードによる全方位攻撃も可能になっているが、AICのエネルギーをも形態変化に使用するためAICは発動できない。

 

 

最大の武装は『AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)ボルテッカ』

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の発動したブラスター化状態のレーゲンを起点にしボルテッカの範囲内の敵の動きを停止させ、その上で高威力のボルテッカを放つというもの。範囲はラウラの意思で決められるため、一点集中すれば相手を停止させた状態にさせて放つため回避不可能の一撃となる。

 

発射口は両腕から四つ、両肩に五つずつの計18の砲門から発射する。

 

※モーションはスパロボJのブラスターボルテッカと同じもので効果音はスパロボW。この時に凪型に翼のような形を組み合わせたクリスタルが砕ける演出有り。

 

 

 

―――

 

 

 

ヴァイサーガ・楔渦

 

束が開発段階から暮桜に代わる千冬の専用機として開発した剣撃戦闘用の機体。

 

追従性と速度性を追及し、更にオルゴンのエネルギー結晶化の技術を応用したプログラムも入力されている。リミッターを解除し、フルドライブする事で並みの人間では耐える事が出来ない速度に達する。

 

(仮に千冬と束以外の人間が使用した場合、加速度と反応速度に振り回され戦闘どころか移動すら出来ない)

 

 

 

 

―――――破滅の軍勢側

 

アルブム・ウェリタス(白き真実)

 

破滅の因子によって雪羅が形状変化した姿。雪羅をベースにファービュラリスの背部ユニットを繋げ、右腕の盾の手刀モードが無くなっている。

 

雪や白といった名前が付けられていた影響か、通常の零落白夜、冷気を纏わせた冷落白夜という二種類の力を使い分ける。

 

破滅の力を受けた影響で空気中の水分を凍結させる事により、氷柱を相手の頭上から降らせる能力も会得した。

 

使用不可能となった月穿の代わりに射撃武器はファービュラリスが使用していたサギッタ・ルーメンを使用している。

 

ISコアの意識は破滅の意思に飲み込まれており、操縦者の意志に完全に従うために限界以上の力を引き出す。

 

 

 

武装

 

サギッタ・ルーメン

 

ファービュラリスのデータから作り出した謂わばデッドコピーの射撃武器。射撃武装が苦手な一夏専用であり、自動照準機能が搭載されている。

 

セルウィー・ウィンクルム

 

ラテン語で[奴隷の鎖]を意味する武装、零落白夜を斬撃として飛ばすエネルギー攻撃。横薙ぎに使うために範囲が広く、応用が多い。

 

アルゲオ・インサニア

 

ラテン語で[凍える狂気]を意味する武装、盾と剣を兼用している武器。薄い氷を纏う事で切れ味を上げている。

 

ファルサ・デア

 

ラテン語で[偽りの女神]を意味する武装。雪片が形状変化した武装で接近ブレードの日本刀から太刀に変わっており長さが雪片の倍以上になっている。

 

 

 

 

 

アーミッティウス・アモル(失われた愛)

 

破滅の因子によって雪羅同様に紅椿が形状変化した姿。紅椿をベースにインぺトゥスの肩部や背部ユニットを繋げ、炎で燃える華を模したような姿になっている。

 

武装には和風の名が名付けられていたが、全てがラテン語に変わっている。

 

 

絢爛舞踏がラテン語の名称に変わった物で、能力を強化されており、エネルギー回復機能失われておらず、負の感情をエネルギーに変換してしまう為に感情が高ぶりやすい箒との相性が格段に良くなっている。

 

射撃武装は装備されていなかったが、破滅の力で装着型のボウガン(Fateのロビンフットが使う弓)が装着されており、連射が可能になっている。

 

 

アルブム・ウェリタス同様、ISコアの意志は破滅の意思に飲まれており、限界以上の能力を引き出すことが可能。

 

武装

 

サギッタ・ルーメン

 

右腕に装備されているボウガン。エネルギーを矢代わりに撃つため、弾切れは起きない。

 

 

イドラ・コンウィンケレ

 

ラテン語で[偶像の証明]を意味する武装。元々は紅椿の空裂と雨月が変化したもの。

 

炎レベルの熱を纏った斬撃と同時のレーザー放出が可能となっており、すべての距離に対応できるようになっている。

 

斬撃は飛ばすことも可能で量産型のISでは融解させてしまうほどの熱量を纏わせ、飛ばすことが可能。

 

 

リガートゥル・オブリーウィオー

 

ラテン語で[美徳の忘却]を意味する武装。

 

絢爛舞踏の名称がラテン語に変わり別の名称になったもの。エネルギー回復の武装だが、使用者の感情によって回復数値が上昇していく仕様に変わっている。

 

また、己が味方だと認識している全てのもののエネルギーを回復させるため非常に厄介な武装となっている。

 

 

グラナトゥム・ジェミニ

 

ラテン語で[種子の双子]を意味する武装。

 

展開装甲のビット機能を利用し、遠距離操作の打突兵器となったもの。鋭利でギザ刃状になっているため、致命傷を狙うのに適している。

 

 

 

 

 

 

 

―――――元・亡国機業

 

 

タオフェ・アストラナガン

 

亡国機業が、偶然手に入れていた黒き堕天使の欠片と呼ばれるパーツを束が解析し、ゴールデン・ドーンをベースに改修したIS。

 

操縦者はスコール・ミューゼル

 

束自身でも解析が不可能なテクノロジーだった為、機体の姿を全身装甲で再現。装甲再生機能であるズフィールド・クリスタルは再現不可能であった。

 

動力は粒子波動エンジン及びティプラー・シリンダーの一部のコピーを使用して作られた対粒子エンジン。

 

(ティプラー・シリンダーを完全解析しようとした束は虚憶(あらゆる並行世界の自分と記憶)を見てしまっており、狂乱しそうになっている)

 

武装は再現が可能であった物を優先的に搭載し、ISとしてはブラッシュアップされているに等しい。

 

タオフェとは独語で「祈り」を意味し、パーツのコードネームと合わせて祈りの黒き堕天使とスコールからは呼ばれている。

 

武装

 

フォトン・マグナム

 

頭部に2門装備。マグナムとあるが牽制用で、威力はISのガトリングやマシンガンと同じ。

 

T-LINK・ウイング

 

ラフトクランズのバスカー・モードの戦闘データと銀の福音のレーザー武装を解析し、翼から羽根型のレーザーを放つ武装。貫通力が高く、並の装甲を簡単に貫く程の威力がある。

 

Z・O・レイピア

 

虚憶から精製方法を知った束が、特殊液体金属として作り上げたレイピア。スコールが念動力を持っていた為、刀身の変形が自在になっている。レイピアは名称で実際はかなりの切れ味を持つ。

 

レイン・ファミリア

 

アストラナガンのガン・ファミリアのデータを参考に、ビット兵器として開発したもの。射出の数は二つだが、実弾兵器であると同時に搭載されている弾数が尋常ではない。

 

アトラクター・フォルス

 

T-LINK・ウイングから放つレーザーを収束させ広域範囲に発射する武装。

 

インフィニティ・ヴァルツァー

 

因果律の番人によって解放されたタオフェ・アストラナガンの最強武装。ヴァルツァーは独語でワルツを意味し、相手が時間逆行というステップを踏みながら消滅してく様子をワルツに見立ている。

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

ジュデッカ・リート

 

タオフェ・アストラナガンと同じく黒き十字架の欠片と称されたパーツを解析、アラクネをベースに改修されたIS

 

操縦者はオータム

 

 

動力はタオフェ・アストラナガンと同じ対粒子エンジン。念動力の使用が前提である為、束が虚憶からの知識で開発したT-LINKシステムを試験的に搭載されている。

 

オータムも念動力所持者であった為、この機体を制御が可能となった。

 

変形機構は武装のみにされており、サソリの尾、サメの牙といった物に変化する機構が組み込まれている。

 

この機体にも並行世界へ飛べる機能があるが、まだ使用することができない。

 

リートは独語で「歌」を意味し、地獄の歌を歌う歌い手という皮肉めいたコードネームでとしてオータムは呼んでいる。

 

武装

 

第一地獄カイーナ

 

背面からサソリの尾にも似た刃を突き刺し、バグウイルスを流し込み崩壊させる。通常の剣撃も可能。

 

第二地獄アンティノラ

 

冷凍兵器を利用した範囲兵器。腕部から放出される液体窒素を念動力によって極寒の世界へと変え、範囲内の敵を一瞬で凍結させてしまう。

 

第三地獄トロメア

 

虫(主にオオスズメバチなど)を模した打突タイプのビット兵器を相手と放ち、破壊する武装

 

最終地獄ジュデッカ

 

アンティノラで使用される液体窒素によって相手を凍結させた後、念動力によって収束させたエネルギーを放出し崩壊させる武装。

 

これに直撃した瞬間、コキュートスを垣間見ると同時に時空の彼方へと飛ばされる事になる。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

ガリルナガン・ナーゲル

 

サイレント・ゼフィルスを束経由でイギリスへ返却の際、交換条件として手に入れたISコアを基に新しく作り上げられた専用機。

 

操縦者は織斑マドカ。

 

上記の二機と同じく、黒き銃神の欠片と呼ばれるパーツからそのまま開発される予定だったが、タオフェ・アストラナガンと名前が被り、機体形状も被ると言う事で一から開発された。

 

全身装甲なのは正体と機体の詳細を隠すためであり、マドカでしか展開不可能にするため生体ロック機能。また、外部からの悪質なデータ奪取を防ぐ為、基本スペックのみのダミーデータウイルスプロテクトも搭載されている。

 

彼女にも念動力の素質はあるが、目覚めてはいない。

 

動力には束ですら正気を失いそうになった銃神の心臓と称されるディス・レヴを搭載、タオフェ・アストラナガンと同等の出力を持つ。防御強化機能としてディフレクトフィールドも展開可能。

 

ディス・アストラナガンの宿命をも受け継いでしまっている為、並行世界への旅も可能になっている。

 

ナーゲルとは独語で「爪」を意味し、このISが複製の存在であると考え、己の出生と相手に爪を立てるという意味で気に入っている。

 

 

 

武装

 

トライ・スラッシャー

 

ガリルナガン・ナーゲルの開発時に真っ先に開発された武装。トライ・スラッシャーは三つ装備され、二つはスラスター部分に、もう一つは左腕に装備されている。

 

左腕部装備はファング・スラッシャーの用途で使用。

 

バスタックス・ガン

 

ガリルナガンを象徴する戦斧とライフルの用途を併せ持つ重金属粒子砲。現状で扱えるのは事実上マドカだけであり、最も使用頻度が高い。

 

ルガァ・スレイヴ

 

解析したパーツよりディス・アストラナガンのガン・スレイヴのデータとサイレント・ズフィルスのビットをモデルに作られた武装。

 

射出数は6機で非実態の弾を発射する。元々、ビット適性が高いマドカが操作するため非常に高い命中率を誇る。

 

Z・O・クラレント

 

タオフェ・アストラナガンのZ・O・レイピアと同じ製法で作られた剣。形状も自由自在で主に剣の形をしているのは扱いやすさからとっているだけに過ぎない。

 

アイン・ソフ・オウル

 

ディス・レヴをオーバードライブさせる事で発動可能となる必殺武装。魔術的な因子もある為、オカルトを信じない人間には非常にありえない武装として見える。

 

もう一人の因果律の番人によって目覚めさせられた物。全身装甲の胸部を展開し、相手を時間逆行させて消滅させる。タオフェ・アストラナガンのインフィニティ・ヴァルツァーとは違って魔術的な一面が強い。




設定も思いつきです。

モーションは一応ですのでお好きな方で。


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本章
DSでスパロボJをやってたら急に


こちらは思いついた時に書く為に更新が非常に遅いです

そのことを踏まえて上でお読みください。


よう、突然だが。みんなはスーパーロボット大戦というゲームを知ってるかい?

 

俺はその中でもスーパーロボット大戦Jという作品がお気に入りだ。

 

理由は色々あるけど・・・。

 

何よりも敵側で使われている機体、ラフトクランズが大好きなんだ!

 

あのフォルム、武装、エネルギーの使い方、必殺技。

 

その全てが大好きなんだ。

 

 

MD(ムーンデュエラーズ)も発売されたけど買えなかったんだよなぁ

 

PS3持ってないし、PV観たけどラフトクランズやっぱカッコイイ!

 

 

俺はそんな興奮と共に今日も今日とて旧式のD○を起動させてスパロボJを始める。

 

無論、ラフトクランズが来る場所のステージをセーブしといたので問題ない。

 

 

「あははははは、さらば、全ての愛すべき敵よ!」

 

 

フー姐さああああああああん!!!

 

 

敵だけど何度見てもフー姐さんに生きてて欲しかった・・・。ぐすっ

 

 

 

「こ、怖いよ…俺には、まだ…う、うわぁあああああぁあっ!」

 

 

ジュア=ム、同情は出来ない。準騎士だった時のほうが強かった。

 

 

はぁ、でもやっぱり三騎士の三人はいいなぁ。

 

 

「騎士の勤めを何だと心得る! その娘を…お前を慕う者を道連れにしてまで、一時の面目を通すのか!?他者を、弱き者を守ることが、剣を持つ者の使命だ! それを忘れ安易に死ぬるは、最も卑怯の振る舞いと知れ! 騎士道不覚悟!」

 

 

くぅ~!アル=ヴァンかっこよすぎるだろ!!!

 

 

俺もこんなセリフ言ってみたいな・・・。

 

さて、セーブデータをロードロードっと!

 

「…君を死なせないと、約束していたな。最後の約束も守れないような騎士では、死ぬ価値すらない。生きてつぐなおう。百万の贖罪が待っているとしても…耐えてみせるよ」

 

こっちのルートは好きな人の騎士かぁ・・・しみじみする。

 

グランティードばっかり使ってたけど、周回ボーナスで資金あるしリアル系もクリアするか。

 

※リアル系機体の攻略。

 

あれ?隠し?ヘアッ!?ヴォルレント使えるのかよおおお!?

 

※ヴォルレントからの乗り換えまで攻略。

 

え?ら・・・ラフトクランズ!?マジかよおおお!!

 

味方で使えるなんて感激だ!

 

あれ?画面が白く、うわああああああ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

う、ん。ここどこ?

 

 

「起きましたか?」

 

「うん、てかあんた誰!?」

 

「ああ、神様です」

 

ウインクして挨拶する神様、初めて見た。

 

「それで、俺どうなっちゃったのさ?スパロボJやりかけだったのに!」

 

「すみません、私の手違いで次元の境界を無くしちゃって。アナタをあの世界から次元を越えさせちゃったんです。ここはその境界です」

 

「えええええ!じゃあスパロボJのデータは?」

 

「消滅しちゃいました、残念ですが」

 

俺はまさしくorzの姿で膝をついた。

 

「飛び越えちゃったんですし、別の世界へ行きませんか?」

 

「ええ~、せっかくのスパロボライフが」

 

「手違いの責任を取って特典も付けますから!」

 

特典と聞いて俺はガバッと起きた。

 

「特典って、なんでも!?」

 

「はい」

 

しばらく考えた後に答えを出した。

 

「それなら、フューリーの機体の操縦が出来る事とフューリーの記憶を持たせて、ラフトクランズに乗れるようにして」

 

「それでいいんですか?もっといい物もあるのに」

 

「フューリーの記憶を持った地球人かつ、ラフトクランズ乗れるなんて最高だし!」

 

「どれだけラフトクランズが好きなんですか、アナタは!」

 

「スパロボJを80週するくらい?(ドヤッ)」

 

「やりこみすぎです!というより、特典がこのままだとスパロボJの男性主人公ですよ?」

 

神様は注意するように話を始めた。

 

「それなら初めからフューリーとしての自覚があるようにして、俺の記憶はこのままで」

 

「それなら大丈夫ですよ(少し細工しておきましょうかね)」

 

「で、どの世界へ行くの?俺」

 

「IS〈インフィニット・ストラトス〉の世界ですよ」

 

言われた世界に俺はまたもやorzの体勢になった。

 

「女性主義の世界じゃないですかヤダー!」

 

「次元は一つしか渡れないんです!おまけで容姿もフューリーにしておきますから」

 

「もう、ちゃんとアンタと会話出来るようにしといてよ?」

 

「それはもちろんです、では行ってらっしゃい」

 

そう言って神様は扉を指差し、俺はそれに向かっていった。

 

「私からのサプライズに驚くと思いますよ、フフッ」

 

そんなつぶやきは聞こえずに。




ラフトクランズ好きすぎるんで無双させますが。

最初からは流石になしです。



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アシュアリー・クロイツェル社って大企業すぎるだろ!!

閃いた!

物語が!

来た!


扉をくぐった後、俺はあるマンションの一室で寝ていた。

 

眠気もあったので洗面台くらいあるだろうと洗面台で顔を洗った。

 

何気なく鏡を覗き込んで・・・。

 

「なんじゃこりゃああああああああ!」

 

自分の顔を見て思わず声を上げてしまっていた。

 

だってそうだろ!自分の左頬にフューリー特有の模様あるし、髪が少し赤いし伸びてるし!

 

「ちょっとぉ!神様聞こえてんでしょ!どういうことぉ!?」

 

「(なんですか?ああ、あえてフューリーの容姿にしたんですよ。いいでしょ?)」

 

「やりすぎだよぉ!まぁいいけど・・・」

 

タオルで顔を拭きつつ、神様と会話を続ける事にした。

 

「それで、俺のISとかは?それにこのマンションは?」

 

「(質問が多いですね、まずISですがアナタが動かせるとこの世界で判明したら手に入ります)」

 

「ふむふむ」

 

「(それからこのマンションは仮住まいみたいなものですから、日が経てば引き払われます)」

 

「なんか、もったいないなぁ・・・」

 

「(仕方無いことですから納得して下さい)」

 

「あ、そうだ!俺の戸籍ってどうなってるのさ!?」

 

俺は一番懸念していた事を神様に聞いた。

 

「(ご心配なく、名前を赤野政征(あかのまさゆき)という人物として記録されてます)」

 

「赤野政征・・・それが新しい俺の名前かぁ」

 

自分の名前をしっかり覚えておこうと復唱する。

 

「(フューリー名はマサ=ユキ・フォルティトゥードーですけどね、クスクス)」

 

「笑うなよ!って・・・ああ、そっかフューリーとしてここにいるんだった」

 

「(記憶を自覚しましたね?そろそろですよ)」

 

そう言われて、着替えを済ませると扉に鍵をかけ外へ出た。

 

「どこもかしこも男性操縦者の発見で盛り上がってるなぁ」

 

都内っぽい街並みを歩いているとビルにある巨大モニターからニュースが流れている。

 

「世界で初の男性操縦者である織斑一夏君は・・・」

 

ニュースを聞き流しつつ、歩いていると男性が長蛇の列を作っているのが見えた。

 

「なんですか?この列」

 

「男性のIS起動試験だよ。初めて男性操縦者が見つかったから他にもいるんじゃないかって」

 

「へえ」

 

案内の人の話を聞いて自分もやってみようと列に並んだ。

 

「はい、次は君ね。ただ触るだけでいいから」

 

「わっかりました」

 

かなりの時間がたった後、案内の人に促され待機状態のISに俺が触れると起動してしまった。

 

「嘘!?き、起動した!?」

 

「あらま、起動しちゃったよ!?それじゃ!」

 

俺は起動させた事に驚いてる女性を放って退散しようとした。

 

「君」

 

「はい?」

 

それと同時に赤紫色をした髪を持つ男性に話しかけられていた。

 

「ISを起動させたようだね?それにその顔の模様、同郷の出身かな?」

 

「え、じゃあ・・・あなたは」

 

「そう、君と同族だよ。ああ、名前を言ってなかったね、私は紫雲セルダという」

 

「ブゥーーーー!(紫雲ってスパロボJの統夜の親父さんかよおお!)」

 

おもわず俺はオーバーリアクションしてしまい、動揺もしていた。

 

「どうしたのかな?すごく驚いてるようだが?」

 

「い、いえ。俺は赤野政征といいます」

 

「政征君か、良い名だな。いきなりなんだがアシュアリー・クロイツェルに来ないかね?」

 

「はえ?」

 

「いきなり言われても混乱するだろう。君は今、男性の身でISを動かしてしまった」

 

紫雲さんは真剣な目で俺を見て話を始めた。

 

「君を実験体として狙う輩もきっといるだろう。それを防ぐ意味でもうちの会社に来ないかね?」

 

「簡単に言えば、今の俺は狙われてるってことですよね?」

 

「そうなるね」

 

「なら、一日だけ考えさせてください。言われた通り混乱してるので」

 

「それがいいかもしれない、なら私の名刺を渡しておこう。電話番号もあるからね」

 

そういって紫雲さんは会社の名刺を渡してくれた。

 

「それじゃ、今日は早めに帰る事をオススメするよ?」

 

紫雲さんはそういって手を振りながら去っていった。

 

「神様さ、どういうこと!?なんでスパロボJとムーンデュエラーのフューリーの人物がいるのさ!?」

 

「(私からのサプライズです)」

 

そういってウインクしてくる神様だった。

 

「とりあえず、マンションに帰ろう。まだ大丈夫だよね?」

 

「(はい、明日を含めて三日間はいられますから)」

 

「三日以内に答えを出さないといけないのか」

 

俺はブツブツ言いながらもマンションに戻って、身体を横にすべく寝床に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、俺はアシュアリー・クロイツェル社に連絡していた。

 

「はい、アシュアリー・クロイツェル社です」

 

「えっと、赤野政征と言います。紫雲セルダさんはいらっしゃいますか?」

 

「少々お待ちください」

 

受付の女性が電話を保留にした状態にすると、ドギマギしながら俺は待っていた。

 

「もしもし、政征君かい?」

 

「は、はい」

 

 

電話の相手が紫雲さんに変わると、俺は緊張していた。

 

「はは、緊張しなくても大丈夫だよ。それで要件は何かな?」

 

「えっと、昨日のお話の件です」

 

「ああ、それで?」

 

紫雲さんが急に真剣な口調で言葉を返してきたのを聞いて俺も真剣になった。

 

「お話をお受けします、流石に自分一人では対処出来ませんので」

 

「そうか、なら今日の午後にアシュアリー・クロイツェル社に来るといい。そこで話し合おう」

 

「はい」

 

「では、失礼するよ」

 

そういって紫雲さんは電話を切った。

 

「はぁ・・・緊張した。紫雲さんと話すなんてあり得なかったし」

 

そう言いながら俺は電話の通話を改めて切った。

 

「午後からか、少し時間あるな」

 

身の上ぐらいは整えようと美容室に行き、髪型を整えた。

 

そうしてる間に午後になり、俺はアシュアリー・クロイツェル社に向かった。

 

「デカッ!!」

 

それ以外に出てくる言葉がなかった。

 

高層ビルの他にほとんどの土地所有とか大企業ってレベルじゃないでしょ!

 

そう思いながら、中に入ると受付に通された。

 

「え・・っと、今朝電話した赤野という者ですが」

 

「はい、お受けしてます。ご案内しますね」

 

そう言われて、受付の人に案内された先は応接室だった。

 

「会長が来るまでお待ちください」

 

「はい、って会長!?」

 

驚いた後、20分後に紫雲さんが応接室にやって来た。

 

「すまない、待たせてしまったね」

 

「いえ」

 

「社長が会いたいそうでね、来てくれるかい?」

 

「い、いきなり社長ですか!?紫雲さんがこの会社の会長だってだけでも驚きなのに!」

 

「その事には私もびっくりしていてね、おそらくは」

 

「同族…だからですか?」

 

「言いにくいがそうなるね」

 

応接室から出て、エレベーターに乗り、紫雲さんと共に社長室へ向かった。

 

「入りたまえ」

 

ノックを二回すると厳格のある声が中から聞こえた。

 

「失礼します」

 

「し、失礼します」

 

そこには年齢は50代後半のような初老の男性が座っていた。

 

「楽にしてくれていい、君かね?同族でありISを動かした男性というのは」

 

「は、はい」

 

「ふむ、ならば君に一つ頼みたいことがある」

 

「なんでしょうか?」

 

初老の男性の威厳に当てられたのか俺は無意識に敬語になっていた。

 

「これは紫雲君のみに話していたが、我がフューリーの皇女がIS適応がある事が発覚してしまったのだ」

 

「はああああああ!?(皇女ってシャナ=ミアだよな?どーなってんの?神様」

 

「(サプライズのつもりがフューリーの方々とこの世界の物語が融合してるみたいですね)」

 

どう考えてもおもしろがってるだろ、この神様。

 

「発覚してしまった以上、我が社で匿い続ける事も難しくなって来ていてな?会社の所属とするから君に皇女の護衛を頼みたいのだよ」

 

「え、でも。俺はフューリーとしての自覚が有るだけで、剣を扱える技術は未熟もいいところで」

 

「心配には及ばない。セルダ君が特訓に付き合ってくれるそうだ」

 

「本当ですか?」

 

「ああ、君の中に眠っている力を引き出してやろう」

 

「お、お願いします」

 

特訓するからにはしっかり頑張らないと。

 

「それに、皇女とも面識があった方が良いだろう。少し待っていたまえ」

 

そういって社長さんはどこかへ連絡を始めていた。

 

それからしばらくして扉をノックする音が再び響いた。

 

「開いている、遠慮せず入りたまえ」

 

「失礼します」

 

そこには、あのシャナ=ミア・エテルナ・フューラが目の前にいた。

 

「っ・・・・・・」

 

スパロボJやMDを見ていた俺にとってシャナ=ミアはかなり好きなキャラクターだった。

 

それが今や目の前に実在の人物としている。

 

流れるように長くサラサラとした水色の髪、穏やかながら気品溢れる紫色の瞳。

 

立ち振る舞いは皇族だけあって凛としていてとても美しかった。

 

「どうしたのかね?皇女に見惚れていたのかね?」

 

「え?ああ・・・その・・・」

 

「変なことは言わないでください。ええと・・」

 

「赤野政征です。フューリーの名はマサ=ユキ・フォルティトゥードーと言います」

 

自己紹介をするとシャナ=ミアはふわりと微笑んだ。

 

「シャナ=ミア・エテルナ・フューラです。よろしくお願いしますね、マサ=ユキ」

 

俺は無意識に忠義の礼節をしていた。

 

操られたとか、暗示とか、記憶のせいではなく自然にそうしたくなったからだ。

 

皇女への忠誠と更には一目惚れなのか憧れなのか、それが表に出た行動なのかもしれない。

 

「そ、そのような忠義の礼をせずとも大丈夫です!同い年なのですから」

 

「いえ、これが自分の行動の表れです。お気になさらず」

 

そう言って俺は礼節を解くと向き直った。

 

「見事な騎士の礼節だった」

 

「君になら任せられるな」

 

紫雲さんと社長さんは真剣な顔をして俺を見ていた。

 

「え?」

 

「特訓と同時に君には機体を与える。無論、社内の訓練機だがね」

 

「は、はい」

 

短い会話を紫雲さんと済ませると紫雲さんは俺にだけ聞こえるよう小さい声で。

 

「皇女と添い遂げるのは並大抵の事ではないぞ?」

 

「なっ!?/////」

 

ハハハッと笑いながら紫雲さんは俺の肩をポンと叩いた。

 

シャナ=ミアはどうしたのかといった様子だ。

 

「何かありましたか?」

 

「い、いえ!何でもありませんよ!!/////」

 

俺は必死に誤魔化すが顔の熱さは益々強くなっていた。

 

「?」

 

「うう・・・/////」

 

紫雲さんが変なこと言うから意識しまくりだろ、俺!

 

「皇女のIS学園入学まで半年ある、その間に特訓と考えているのだが・・・」

 

「それで大丈夫です」

 

社長さんの提案に俺は二つ返事ですぐにOKをだした。

 

「騎士としての力を引き出すのは容易ではない、それゆえ厳しくいくぞ?」

 

「望む所です!今は鞘に収めた剣ですが、必ず輝きを帯びてみせます!」

 

「その粋だ。今日から始められるが、どうする?」

 

少し迷ったが、今日から特訓を受ける事にした。

 

本心を言えば早く、フューリーの機体を使ってみたかったからだ。

 

「今日からお願いします、あ・・・」

 

「どうしたのかね?」

 

社長さんが不思議そうに聞いてきた。

 

「いや、その・・・マンション引き払っちゃったから住むところが・・・」

 

申し訳なさそうに俺は社長さんと紫雲さんに言った。

 

「ならば我が社の社員寮を使うといい。紫雲君の隣の部屋の空きがあるからIS学園の入学までは許可しよう」

 

それはねがってもみない答えだった。

 

「いいんですか?」

 

「構わないよ、特訓があるのだから社員寮の方が通いやすいだろう?」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

俺は深々と頭を下げてお礼を言った。

 

「(このタイミングで渡すイベントですか)」

 

こらそこ、スパロボのようなメタ発言はやめなさい。

 

 

「さ、参るぞ?時間はまってくれぬからな」

 

「はい!」

 

 

それから紫雲さんの特訓が始まった。

 

特訓を開始する前にリュンピーという機体を貸し出された。

 

これって従士の機体じゃん!と思いながらも使わせて貰うことにした。

 

「これから指示をする。訓練は甘くしないからな?」

 

「はい」

 

この世界でのフューリーの機体はほとんどがISとなってるらしく、リュンピーは訓練機だそうだ。

 

フューリーの階級。禁士・騎士・準騎士・謀士・従士といったものはまだ現役だ。

 

俺は騎士の訓練を受ける駆け出しということで準騎士の称号を受けた。

 

「左にズレているぞ!レンジを修正しろ」

 

「はっ!」

 

紫雲さんは禁士。つまりは騎士を束ねる人だそうで、ISは動かせずともその実力は高いそうだ。

 

動かすためだけの訓練という事でリュンピーを使っていたが。

 

準騎士ということでヴォルレントという騎士専用の訓練機の使用が許可された。

 

同時に訓練用ターゲットを倒し続け、ISの訓練が終了し勉学にも取り組む。

 

紫雲さん曰く「騎士たる者、剣を振るうだけではなく学もあって成り立つものだよ」だそうだ。

 

「(いきなりラフトクランズかと思ったら訓練なんですね)」

 

クスクスと笑いながら神様は俺に話しかけてきていた。

 

「仕方ないじゃん、記憶と機体を動かせるだけじゃ難しいもん」

 

俺はカリカリとノートにペンを走らせていた。

 

社長さんに取り寄せてもらったIS学園の参考書を手に勉強をしているのだ。

 

少しだけ背伸びをして目を軽くマッサージもした。

 

勉強を続け、特訓を続けることを忘れず日時は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三ヶ月後、紫雲さんから騎士の称号を受けるように言われた。

 

これには特訓に付き合ってくれていた社員の皆さんもかなり驚いていた。

 

社員さんの話によれば騎士の称号はフューリーの憧れの称号らしい。

 

サイトロンの適合率が高いせいもあるが、俺には元々操縦センスがあったらしく社員の皆さんに激励された。

 

「(私のおかげですけどね~)」

 

「それに関してはなんにも言えない」

 

IS特訓後に格納庫で待っているようにと紫雲さんの伝言を受けたスタッフさんに言われ待機していた。

 

「すまないな。疲れているところを待たせて」

 

「いえ、平気です」

 

「そうか、なら着いて来てくれ」

 

「?」

 

紫雲さんの後に着いて行くと一番奥の格納庫に案内された。

 

「ここだ」

 

扉が開くとそこには見間違えるはずのない「あの機体」が6機並んでいた。

 

相反の意思、相克の感情を体現したかのような灰色の騎士。

 

親愛の意思、戦う事で愛を見せようとする緑色の騎士。

 

狂気の意思、血のような赤に染まった深紅の騎士。

 

殺意の意思、暗殺のみを旨とする黒色の騎士。

 

虚偽の意思、己の弱さを隠そうともがく紫色の騎士。

 

絆の意思、互いの強さで互いを高め合い続ける青色の騎士。

 

そう騎士の剣(ラフトクランズ)だ。

 

「ラフト・・・・クランズ」

 

「そうだ、だが現存するのはこの六機のみだ」

 

「え?」

 

「この機体(ラフトクランズ)はISとなっているが、本来はISではない。わかるな?」

 

「フューリーの独自開発の機体・・・」

 

重い口調で俺は言葉を出した。

 

「その通り、この中の一体を君の専用機のISに改修せよと命令が出てね。君自身が選ぶんだ」

 

「俺専用のラフトクランズ・・・」

 

俺は内心飛び跳ねたいほど喜びたかったが、紫雲さんとの特訓で剣を持つ重さを知ってしまった。

 

それだけに浮かれ気分で喜ぶことは出来なかった。

 

「サイトロンの導きに従いましょう」

 

そういって俺はラフトクランズに近づいていく。

 

「!この機体を改修してください。色も変えて」

 

俺は紫色のラフトクランズの前でそういった。

 

この機体を使っていたのはソ=デスというキャラだ。

 

諜士が騎士の機体を使っているなんてと思ったが、いくつか提供されていた記憶が出てくる。

 

「その機体を改修して欲しいと?どのように?」

 

「はい、まずはヘッドをアウルン仕様に。カラーリングは紺瑠璃色(こんるりいろ)にして下さい」

 

「なるほどな、具体的で助かるよ」

 

それから細かい部分の改修及び日数などを細かく決めた。

 

「この機体はバスカー・モードが無い。改修と同時に追加しておこう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「しかも君は三つのバスカー・モードに対応できるようになっているようだ」

 

三つのバスカー・モードって剣、銃、爪の事だよな?三つに対応って、主人公レベルじゃん!

 

この世界に来る前の記憶を思い返していたが、上隣を見ると神様が口笛を吹いていた。

 

やっぱりあんたの仕業かよおおおお!!?

 

「マサ=ユキ・フォルティトゥードー!!」

 

「は、はいっ!!」

 

フューリーとしての名前を突然呼ばれて俺は姿勢をおもわず正した。

 

「この機体を駆るという事は騎士の証であり、守るべきものを守る覚悟を持つという事だ」

 

紫雲さんのいつになく厳しい目に俺も気を引き締めた。

 

「そなたにそれが果たせるか?伴侶が現れた時、誓いを守れるか?」

 

この言葉は俺の覚悟を試しているのだろう。紫雲さんは真剣なまま俺を見ている。

 

今の紫雲さんは禁士として、騎士となった俺に向けて言葉を向けている。

 

「マサ=ユキ・フォルティトゥードー、騎士として伴侶と弱き者の為に剣を振るいます!」

 

「良い覚悟だ。その誓いを忘れるな」

 

そう言って紫雲さんは俺が選んだ紫色のラフトクランズの前に俺を連れてきた。

 

「さぁ、この機体(ラフトクランズ)に触れるんだ。そうすることで剣を引き抜く事と同じことになる」

 

俺は促されるままに紫色の騎士の剣(ラフトクランズ)に触れた。

 

触れると同時に紫色のラフトクランズは起動し、俺を搭乗者と認めてくれたのだ。

 

「これからその機体を君の専用ISとして改修する。しばらく預かるよ」

 

紫色のラフトクランズは格納庫から開発部へ運ばれ、改修が始まった。

 

「改修が終わるまで時間はあるからIS学園への入学手続きを済ませてしまおう」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数ヶ月後、皇女の身分を隠して入学手続きを同時に済ませた後にIS学園の前にいる。

 

「護衛をよろしくお願いしますね?政征」

 

「はい」

 

シャナ=ミアは俺に護衛をしっかり頼んできた。

 

フューリーの自覚を持って俺自身がシャナ=ミアを護衛する、それが今出来ることだ。

 

「(皇女様が入学なんて大変な事態ですね)」

 

「楽しんでる癖に何を言ってんだよ!?」

 

「(サプライズがこんな形になるなんて思ってもみなかったんですよ~)」

 

神様はニコニコしており、心底楽しんでる様子だ。

 

「まさか・・・他のフューリーの人まで」

 

「(別の形でありえますね)」

 

ニコニコしていた神様が表情を引き締めていた。

 

「それでも俺は・・・!」

 

「行きましょう、政征」

 

「ええ、行きましょう。シャナ=ミナ様」

 

「様は要りません、気軽にシャナと呼んでください。敬語も要りません」

 

「え・・・。わかった、シャナ。これでいいのか?」

 

「はい」

 

シャナは満面の笑みで返事をしてくれた。

 

今はシャナへの想いが愛なのか憧れなのかは分からない。

 

それでもシャナは必ず守る。それが俺の騎士としての誓いだ!




次からは入学編ですが原作通りにならないかも・・・


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一人の一般人から騎士への道(政征の特訓時の過去)

訓練時代の政征の過去。


以上


アシュアリー・クロイツェル社の社宅に引越しさせてもらってから、一日が経過し、俺は訓練場所兼ラボである一室にいる。

 

本当にISが起動できたのか?纏う事が出来るかなどを確認するためだ。

 

その為に研究用に使っているラファールを俺は今、纏わせてもらっている。

 

「これがISか、想像するしかなかったけど実際に纏ってみるとギプスされてるみたいな感覚だ」

 

自分の利き手を閉じたり開いたり、屈伸してみたりその場出来る簡単な動きをやってみる。

 

やっぱり、ギプスをされているみたく上手くいかない。今日初めて纏っているのだから当然といえば当然だろう。

 

「それじゃ政征君、訓練を開始するよ?先ずは歩行だ」

 

セルダさんの指示に従い、研究用のラファールを纏った状態で俺は一歩踏み出した。

 

「ふげっ!」

 

踏む出すと同時に前へ転んでしまい、咄嗟に手を床に着いたため大事には至らなかった。

 

「大丈夫かい!?慌てずゆっくりと慣れるまで続けてくれ!」

 

「いててて、歩くだけでも難しいんだな。ぶへっ!おごっ!」

 

一歩、歩く度に俺は転び続けて1時間以上かけてようやくまともな歩行が出来るようになった。

 

「おお、歩けるだけでも楽しいな!」

 

歩く事だけがメインなので周りを歩き続ける。そこから走り出したり急停止したりとの指示があり、それに従った。

 

「次は飛行の訓練だ。危ないかも知れないからナビゲーターを着けるよ」

 

「はい」

 

入口から入ってきたのはヴォルレントを纏っている女性だ。恐らく準騎士クラスの実力を持っている人だろう。

 

「では、飛行訓練を始める。その準騎士の子の指示に従ってくれ」

 

「指示します。飛ぶイメージを持ってゆっくり浮かぶようにして下さい」

 

女性の準騎士さんの指示を聞いて、俺はよくアニメなどで観ていた天使や悪魔など翼があるキャラクターが、翼を羽ばたかせるイメージを持つ。

 

「そうそう、ゆっくりと浮いて下さい」

 

少しずつ足が地面から離れていく感じがしてくる。イメージを高める為に目を閉じていたので、目を開けた瞬間に俺は驚愕した。

 

「うおおおお!飛んでる!!飛んでるよ!俺!!」

 

「落ち着いて下さい、先ずは飛行に慣れる事からです。ゆっくり降りて下さい。慣れてきたら速くしましょう」

 

女準騎士さんは隣で飛行して、俺が天井にぶつからない様にしてくれていたようだ。

 

歩行以上に時間がかかってしまい、2時間半をかけてようやく飛行に慣れ、簡単な旋回くらいは出来るようになっていた。

 

「はい、実践訓練はここまでだ。次は講義だよ」

 

「分かりました」

 

ラファールを解除し、教室となる隣部屋へ移動する。隣には従士の準騎士、騎士候補生らしき男女が5・6人が机に座っていた。

 

俺が入ってきた時に一斉に視線が向けられたが、気にすることなく部屋へ入り席に着く。

 

「皆さん、揃っていますね。それでは講義を始めます」

 

「(うー・・・正直、自分の世界にいた時より勉強が難しい)」

 

講義の教師をしている騎士さんに質問したり、同じく講義を受けている従士さん達に教えてもらいながらなんとかついていけた。

 

「(こんな事なら真面目に勉強しておけばよかった)」

 

正直、俺は自分の世界に居た時も勉強はあまりする方じゃなかった。それでも中辺りの成績を取っていた事もあって、難しいまでも理解は出来ていた。

 

訓練と講義が終わり、社宅に帰っても勉強をした。神様の「寝てはいけないでありんす」という目覚めボイスで目を覚ましつつ、休憩を挟みながら必死になって勉強を続けた。

 

こんなに勉強するのは生まれて初めてだが、本当にキチンと学習するクセを付けておけばよかったと後悔していた。

 

その事は自業自得だし、一から積み上げなきゃならないのはキツいけどやるしかない。

 

「いきなりこの世界に来た時はフューリーになれて浮かれてたけど、考えてみれば誰も知ってる人がいないんだよな」

 

次元を越える前の世界では父親は死に、母親と二人暮らしであった。

 

厳しくも優しく、優しくても厳しかった。父親との反発で勉強しないことが反抗する手段だった。

 

結局は今になって自分に帰ってきたのは知識不足という現実だ。

 

「積み木は崩さなきゃ積み上げられないとはよく言われるけど、本当だな。おっとそろそろ眠らなきゃ」

 

復習を終えるとすぐにベッドへ入り、眠った。

 

 

 

 

翌日、再び実践訓練から始まる。今回はラファールではなく、従士用のリュンピーをISにした物を纏っている。

 

「今日は戦闘訓練だ」

 

女準騎士の方がヴォルレントと纏った姿で闘技場に現れた。その手には既にオルゴンガンが握られている。

 

「回避訓練から始めるぞ?当たらないようにしろ」

 

「え?えええっ!?」

 

ブザーが鳴り、訓練が開始されると同時にオルゴンガンから放たれた一撃に当たってしまった。

 

「うあああああ!?」

 

「訓練中に余計な事を考えているからだ、愚か者!死にたいのか!?」

 

「そ、そう言われても!」

 

立ち上がるが膝が笑ってしまい、全身が震えてくる。これは訓練だが殺し合う場面だったりしたら恐ろしい。

 

「怖い、怖いよ!助けて!!」

 

「セルダ様」

 

「うむ、これも仕方のない事だが彼が自分で克服しなければなるまい」

 

「出してくれよ!助けて!!」

 

女準騎士は容赦なくオルゴンガンを放ってくる。しかし、全て政征の周りを囲むように撃っていた。

 

「うわあああああああああ!!っ!?」

 

その時、特典として眠っていたフューリーの記憶がフラッシュバックする。機体の知識。忠誠、信念、その全てが。

 

「そうか、そうだ。俺は・・・いや、私はマサ=ユキ!マサ=ユキ・フォルティトゥードー!」

 

「どうやら一部が覚醒したようだな」

 

「っ、知識はあっても実戦の感覚が無い・・・これでは」

 

「ようやく一部が目覚めましたね、オルゴンソードを出して下さい」

 

「えっと、こうか?うお!?出た!」

 

フューリーとしての自分と次元を越える前の自分の記憶が混濁しており、驚きと冷静さが同時に出てきている。オルゴンソードを出すと同時に驚きを隠せない。

 

「剣の訓練から始めましょう。行きますよ!」

 

ヴォルレントのオルゴンソードとリュンピーのオルゴンソード

が鍔迫り合いを起こし、火花が散る。

 

無論、加減されてはいるが押されているのは政征の方だ。時間をかけて一部が覚醒した政征と長年戦闘を続けてきた女準騎士とでは、経験が違いすぎるのだ。

 

「ぐううう!」

 

「いやああああ!」

 

「うおおお!?」

 

押し返されて政征のリュンピーは吹き飛び、壁に激突する寸前で踏みとどまった。

 

「く・・・う!?」

 

「そこまでです」

 

切っ先を向けられ、降参を促される。政征はオルゴンソードを収めて両手を上げた。

 

「参った」

 

「剣はここまでとしましょう。次は射撃です」

 

「承知しました」

 

「では、擬似ターゲットを配置する!指示は彼女から受けるように」

 

天井、壁際、あらゆる位置にターゲットが配置され、訓練の準備が整う。

 

「オルゴンガンを領域から出して下さい」

 

「はい」

 

リュンピーが装備しているオルゴンガンを手にすると、女準騎士はオルゴンクラウドでラインを引くようセルダに頼み込む。

 

「このラインからはみ出さずにターゲットを撃って下さい」

 

俺は頷くとオルゴンガンをターゲットに向かって放った。

 

「うわっ!?」

 

射撃の反動で腕が上へ跳ね上がるような感覚に驚く、銃などを撃った事のない人間が起こりうるものだ。

 

「落ち着いて、支えるような感じで重心を取ってください」

 

指示通りに重心を取って再び構え直すと同時に狙いを着けてオルゴンガンを撃つ。

 

反動は来ているが、跳ね上がるのを筋力で堪える。耐えられているが、実際は吹っ飛びそうになっているのだ。

 

「今は反動に慣れる事を優先して下さい」

 

「御意」

 

何度も何度もオルゴンガンを放ち、身体に反動を慣れさせる。痺れのような感覚に根を上げそうになるが、それを耐えて訓練を続ける。

 

「実践はここまでです。講義の方に移ってください」

 

「はい」

 

リュンピーを解除し、講義の部屋へと移る。フューリーとしての記憶が定着したせいか、以前よりは講義を理解出来る。

 

「(それでも出遅れてる事は変わらないから、頑張らないと)」

 

 

 

 

 

そんな生活を3週間続けてきた結果。準騎士の称号を受け、セルダとの特訓権を手にした。

 

「セルダさん、そんな小刀で俺の剣の相手をすると!?」

 

セルダが手にしているのはナイフよりも小さな小刀だ。キーホルダーと言われても遜色がなく、とても剣を受けきれるようなサイズではない。

 

「私は全てにおいて本気は見せるが全力は控えめにしていてね、あいにくこれ以下の刃物は無いのだよ」

 

「ぐっ!禁士長でも加減はしない!」

 

「井の中の蛙、大海を知らずという事を知るが良い」

 

政征は得意とする唐竹のような振り下ろしをセルダへ繰り出すが、セルダは政征の太刀筋を見切り、それを棒の先端同士で押し合いしても動く事がない状態のように、小さな刃の切っ先で止めていた。

 

「う、動かない!?嘘、だろう?幾ら禁士長だからって、こんなにも差が!?」

 

「・・・良い太刀筋だ、それ故に真っ直ぐすぎる」

 

「ぐ!くそおおお!こんなキーホルダーみたいな剣に!」

 

闇雲に近い状態でセルダに刃を繰り出し続けるが避けられたり、受け流され一向に一撃を入れる事が出来ない。

 

「ふん!」

 

「ぐはっ!?」

 

受け流された拍子に延髄に手刀を入れられ、政征は地に叩きつけられる。なんとか立ち上がるが、目の前の景色が歪んで見えてしまっている。

 

「ほう?立ち上がるか?」

 

「負けて・・・たまるか!相手が禁士長でも!でやあああ!」

 

横薙ぎを軽々と避けられ、セルダが政征の右胸に容赦なく刃を突き刺さした。

 

「う・・・・ぐ・・・」

 

「まだ、肺にまでは到達していない。このまま貫かれ死にたいか?」

 

「負けたく・・・ない」

 

刃を引き抜くとセルダはそれを収め、壁にかけてある鞘に収められた剣を引き抜いた。

 

「その信念に騎士の礼儀をもって最高の一撃で応えよう!」

 

「!行きます!」

 

セルダと政征が構えをとり、二人同時に剣技を繰り出し二人の間に僅かな風の乱れが起こると政征が倒れた。

 

「負け・・・た」

 

「今回はここまでだ、キチンと手当しておくように」

 

そう言ってセルダは訓練場を後にし、政征だけが残された。

 

「く・・ううううう!」

 

仰向けになる為に転がると目から涙が溢れ出してきていた。胸の傷が痛むが、それ以上に悔し涙が出てくるのを止められない。

 

「もう、負けは嫌だ!もう二度と負けたくない!うわああああああああああ!!」

 

誰もいない訓練場で政征は大声を上げて泣いた。泣き続けた、今日の敗北を噛み締めるかのように。

 

 

 

その後、政征は人が変わったかのように訓練と勉学に励んだ。女準騎士もその変わりように驚きを隠せなかった。

 

リュンピーでは彼の反応速度に追いつかず、ヴォルレントを使用する事になったがそれでも訓練を怠る事はせずにいた。

 

 

これは彼が入学前に乗り越えた試練の一部である。その彼が一人の騎士として自覚し、伴侶となる者と出会う事になる。




政征はセルダと一度だけ戦って完全敗北をしています。

もちろん手も足も出ずに。

ISが纏えないのなら剣での戦いをしていたというのが真実です。

この戦いがあったからこそオルゴンソードが扱いやすい武器となっています。


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IS学園って女子ばかりで怖い

思いついた!

これもスパロボのおかげ!



受付を済ませた俺とシャナは転入手続きの為に職員室を訪れていた。

 

「シャナ=ミナ・フューラさんと赤野政征くんですね。お話は受けていますよ」

 

「ありがとうございます」

 

「書類に間違いはありませんでしたか?」

 

俺は確認の為に手続きを担当している先生に訪ねた。

 

シャナの名前を全て出すと皇女である事が明るみになる為、一部を隠したそうだ。

 

俺個人としてはバレバレな気もするけど。

 

「大丈夫ですよ、それではお二人のクラスは一組となりますので」

 

そう言って先生は教室まで案内してくれた。

 

どうやら中では教員の一人の織斑先生に向けられている様子だ。

 

廊下からでも充分聞こえてきている。

 

「それではSHRを終わりとする!と言いたいがここで諸君に発表がある。本日、転入生が二人このクラスに来る」

 

その言葉と同時に教室中が騒然となった。

 

「静かにしろ、馬鹿者共!今は廊下で待機させている。入ってこい」

 

どうやら呼ばれたらしく、俺とシャナは教室へと入った。

 

シャナは相変わらず佇まいを崩さず、俺はそれに着いていった。

 

「二人共、自己紹介を」

 

「はい。シャナ=ミナ・フューラです、皆さんと共にこの学園で学ぶ事になりました。よろしくお願いします」

 

自己紹介するとシャナはゆっくりお辞儀した。

 

教室中での様子は。

 

「綺麗・・水色のロングヘアなんて初めて見た」

 

「雰囲気がなんだかお姫様っぽい」

 

「本当だよ」

 

など、シャナを見た印象を話していた。

 

「次だ、早めにな?」

 

「はい」

 

催促された俺は自己紹介を始めた。

 

「赤野政征です。同じくIS学園で学ぶ事になりました。よろしくお願いします」

 

「お、男か!?」

 

そういって聞いてくるのはこの学園の唯一の男性だった人物、織斑一夏だった。

 

「ああ、そうだよ。俺は男さ、何故かISを動かせてしまったんだ」

 

「よかったぁ、俺以外にも操縦者がいて」

 

一夏は自分以外の男子が来た事に安堵している様子だったが、なぜか俺は危険を感じて急いでシャナに耳栓をつけさせた。

 

「「「「キャアアアアアアアア!」」」

 

「うわあああああ!?」

 

シャナに耳栓をさせるのに夢中で、自分の耳を塞ぐのが遅れて俺はモロにその叫び声を受けてしまった。

 

「男子!二人目の男子よ!」

 

「髪が赤いね、染めてるのかな?」

 

「普通にしてるだけなのに雰囲気が凛々しく感じる!」

 

「今年は織斑君と赤野君のこの二人のカップリングで決まりね!」

 

最後の方!俺はノーマルだ!ソッチの気はないからね!?

 

「ちょうど二人の席が空いてるな、すぐに席に着け」

 

「は、はい」

 

俺は少しだけ目が回るのを堪えて、シャナの耳栓を取って席に誘導した。

 

「それともう一つ、三時間目あたりから教育実習生がこの学園に来る。無論女性だが失礼の無いようにな?これにてSHRを終わる!」

 

SHRが終わり、授業も終了して休み時間を過ごしていたら声をかけられた。

 

「よう、俺は」

 

「織斑一夏君だろ?テレビでかなりニュースになってたから知ってるよ」

 

「そっちで知られてるとちょっとだけ複雑だな」

 

何気ない会話をしているがやはり女生徒からの視線がすごい。

 

「なんだか動物園の檻の中にいる動物の気分だ」

 

「それ、すごくわかるぜ。ずーっと見られてるもんな」

 

そう、二人しかいない男性操縦者という事でかなりの注目を受けているのだ。

 

シャナは少し戸惑っていたがクラスメートと打ち解け始めて、会話を楽しんでいる。

 

「一夏」

 

そう呼ぶ声が聞こえた。

 

そこには同い年くらいの女の子が腕組みしながら、こちらを見ていた。

 

黒髪をリボンでポニーテールに結っており、その目に宿る力強さは凛々しさと危うさを併せ持っている様にも見える。

 

「一夏と話がしたいんだが、良いか?ええっと・・」

 

「政征、赤野政征だよ。呼びやすい呼び方で構わない。君は?」

 

「私は篠ノ之箒だ、よろしく頼む。改めて政征と呼ばせてもらうぞ?一夏を借りて構わないか?」

 

「構わないよ、ただ雑談してただけだから」

 

「すまないな」

 

そういって箒と名乗った少女は一夏を連れて廊下へ出ていった。

 

「政征」

 

「はい?」

 

俺をこのように呼ぶのは先ほどの箒という子ともう一人しかいない、シャナだ。

 

「この学園は女性が多いですね、先程も」

 

「勘違いしないでくれ、お互いに名前も知らないんじゃ不便だろう?」

 

「確かにその通りですが・・・」

 

シャナは納得していないようだ、なんで俺のことで。

 

「私は席に戻ります、誓いを忘れないでくださいね?」

 

誓いの所から先は俺だけに聞こえるよう囁かれた。

 

「も、もちろん!」

 

シャナは微笑すると自分の席へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、二時間目の授業も終了し、シャナを交えて一夏と話していた。

 

少しだけ仲良さげにシャナと一夏が話すのを見ていたが、気に食わなかった。

 

嫉妬していたのだろうか?シャナに対して俺はどうしても踏み出せない。

 

「少し宜しくて?」

 

「はい?」

 

「え?」

 

俺とシャナは同時に振り返った。

 

僅かにロールがかった金髪に青い瞳、どうやら貴族のようで立ち振る舞いはシャナに及ばないものの、しっかりしていた。

 

「聞いています?貴方ですわ。お返事は?」

 

「聴いてるけど、要件は何かな?」

 

「まぁ!何ですの!?そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 

話しかけられて光栄ならシャナの方がよっぽど光栄だよ。そう言い返そうとした、その時。

 

「一方的に話しかけて光栄と言う事はありません。それに名も知らない貴女様に対してどの様な態度がふさわしいのでしょうか?」

 

シャナが気品溢れる毅然とした態度で金髪の彼女に意見したのだ。

 

「なっ!?貴女、女性でありながら男の味方をするというんですの!?」

 

「敵味方ではありません、話す前に名を名乗るのが礼儀と言うものでしょう?」

 

シャナは毅然とした態度を崩さずに丁寧な言葉で意見しているが、かえってそれが怖い。

 

「くっ、わたくしはセシリア・オルコット。イギリス代表候補生にして入試主席のエリートですわ!」

 

「それでそのエリートさんが俺たちに何か用か?」

 

一夏が思っていた事を口にしたので俺は頷くだけにした。

 

「あなた方を見に来たのです。世界で二人だけの男性操縦者ということで興味が沸いたので」

 

「それで?」

 

「やはり男ということで変わりませんわね、ISも初心者ということで」

 

セシリアは小馬鹿にしたように話していたが、未熟なのは自覚してるし別に怒る必要も無かった。

 

「貴女、ええっと・・シャナ=ミアさんとおっしゃいましたか?」

 

「はい」

 

「男と一緒にいると弱くなりますわよ?」

 

「良いのです、男性も女性も強さは変わりません」

 

シャナ=ミアの言葉にセシリアは驚いたがチャイムが鳴った為に席に戻っていった。

 

 

教員は山田先生ではなく織斑先生が来ており、教鞭をとっていた。

 

「それでは、今の時間より教育実習生が来る。粗相のないように」

 

教室の扉が開くと入ってきた人物に俺は心底驚愕した。

 

「フー=ルー・ムールーと申します。本日より教育実習生としてこのIS学園に来ました。よろしくお願いします」

 

隣の席にいるシャナを見たがシャナも驚いているようだ。

 

「フー=ルー教諭は教員として採用も決まっている。教師経験が皆無なため、教育実習期間を経て一週間後にこの学園で正式な教師となる」

 

 

「(フー=ルーが教師って・・・意外に似合ってるからなんにも言えない)」

 

 

俺はあまりに似合いすぎてるスーツ姿のフー=ルーさんを見ながらそう思った。

 

 

「特別事例ということだそうだ、このような事は初めてだが教師として接するように」

 

「そこまで固くする必要はありませんわ、織斑先生。今のわたくしは教育実習で来ているのですから」

 

「それでも、だ」

 

「堅物ですのね」

 

フー=ルーさんの登場にクラスはガヤガヤと騒ぎになっている。

 

「千冬お姉様とは違った気品あるお姉様だわ」

 

「まるで女傑、女性が騎士になった姿のような」

 

「綺麗だけど凛々しさの中にある輝きが眩しい」

 

などなどフー=ルーさんにもファンがついた様子だ。

 

「(フー=ルーさんは本当の騎士だけどね)」

 

そう考えながら教卓に目をやるとフー=ルーさんと目があった。

 

「(禁士殿から話は聞いてますわ、皇女を頼みます)」

 

そう書かれた簡単な手紙をいつの間にか机に置かれていた。

 

俺は頷くとその手紙をすぐに懐にしまった。

 

でも、どうやって?いつの間に俺の机の上に手紙を・・・?

 

「さて、授業を始めたいところだが。その前に再来週行われるクラス対抗戦の代表者を決めないといけないな」

 

「クラス代表か・・・」

 

学級委員長みたいなものだろうか?俺としてはあまりやりたくはないな。

 

面倒くさいし、そこまできっちりやれるタイプじゃないしな。

 

「はい!織斑君を推薦します!」

 

「私もそれがいいと思います!」

 

「え?お、俺が?」

 

おおう、一夏がいきなり推薦されてる。ご愁傷様だな…。

 

「私は赤野君を推薦します!」

 

「わ、私もです」

 

「え?ちょっ!」

 

俺もかよぉ!?話題作りで利用するのやめて!

 

「お、俺はそんなのやらな」

 

「推薦された者に拒否権はないぞ?他にいないか?」

 

ああ、こりゃあ完全に嵌められたパターンだわ。

 

仕方ない、腹くくるか。

 

そう思っていた矢先、バンッ!と机を叩く音が響いた。

 

「待ってください、納得がいきませんわ!」

 

この声はセシリアとか言ったかな?彼女が異議を申し立てたようだ。

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表など、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

怒涛のごとく言葉を荒げて講義していたがそこへある人が言葉を発した。

 

「織斑先生。少し、発言してもよろしいですか?」

 

「?フー=ルー先生?どうぞ」

 

意外な相手の行動に織斑先生も少し驚いていたが発言を許可した。

 

「実力あるセシリアさんが納得いかないというのも確かにその通りでしょう」

 

「そうですわ!ですから」

 

フー=ルーさんの援護を受けたと考えたセシリアは発言を続けようとしたが。

 

「そこで、推薦された男性お二人とセシリアさんの三人がISにて決闘するというのはどうでしょうか?」

 

「何故そのような事を?わたくしが全て勝つに決まっていますわ!」

 

「ふふ、それはわかりませんわよ?戦う前から結果が決まっているのならば、なぜ勝敗が分かれてしまう結果が生まれるのです?戦って確かめるべきでは無くて?」

 

「う・・それは」

 

セシリアの言葉はフー=ルーの正論に止められた。

 

フー=ルーの目は騎士のそれになっており男性二人にも目を向けた。

 

「織斑君と赤野君は異存ありませんか?」

 

「俺はそっちがいいです、四の五の言うよりわかりやすいですから」

 

一夏は納得した様子で頷いていた。

 

「分かりました、自分もそれで構いません」

 

俺自身も返事を返すとフー=ルーさんは織斑先生の近くへ向かった。

 

「この提案はいかがでしょうか?」

 

「一番わかりやすく実力が分かるやり方だな、採用しよう。それでは勝負は一週間後だ」

 

 

フー=ルー姐さんって美人だけど戦闘狂でもあったんだっけ、忘れてた。

 

「(この世界では両方が足されてるみたいだけどね~!)」

 

この神様、だんだん何処ぞの緑色の戦闘アンドロイドみたくなってきてないか?というツッコミがしたくなった。

 

「(・・・貴方の剣の実力、見せてもらいますわよ)」

 

フー=ルーは内心、政征の実力を知りたかったようで僅かに笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからあっという間に日にちが経っていき、試合の当日となった。

 

 

試合前のピットでは一夏が箒に何やら言っている様子だ。

 

恐らくは一週間、何かを集中的に一つしか鍛えられなかったのだろう。

 

あ、箒が目を逸らした。

 

そんな二人の様子を見ていたらシャナが隣に立っていた。

 

二人の様子が面白くてシャナが近くに来ていたのを気づかないなんて、何をやってるんだ俺は。

 

 

「いよいよですね」

 

「ああ、鞘に納めておいた剣を抜く時が来たよ」

 

シャナは不安と期待を秘めた目で俺を見ていた。

 

皇女として己の剣を見ておきたいということなのかもしれない。

 

「無茶はしないで下さい、政征。貴方は私の剣であるのですから」

 

「無論、無茶はしない。俺は君を護る剣でもあるのだから」

 

「・・・はい。(それだけではないのですが)」

 

「シャナ?」

 

「なんでもありません」

 

シャナが俯いていたので声をかけたが、有耶無耶にされてしまった。

 

そんな会話をしていたら向かい側から足音が聞こえてきた。

 

一人は走ってきた山田先生。もう一人は織斑先生、そしてフー=ルー先生だ。

 

「来ましたっ!織斑君専用のISが!!」

 

息を切らしていた山田先生が息を整えて目的を伝える。

 

一夏の背中を押しながら格納庫らしき場所へ向かっていった。

 

「赤野、お前は機体がないみたいだが訓練機で構わんか?」

 

俺に声をかけてきた織斑先生は訓練機を貸出する事を伝えてきた。

 

それに対して答えようとしたがフー=ルー先生が先に答えた。

 

「ご心配には及びません、織斑先生。彼は私と同じ会社に所属しており、専用機もありますわ」

 

「何!?初耳だぞ?」

 

「申し訳ありません。会社側から個人には公にしない様、厳重に注意されていたのです。学園側には書類で提出されている筈ですわ」

 

「確認する」

 

織斑先生は連絡用の装置を使って学園に確認を取り始めた。

 

「確認した。まさか、あの大企業アシュアリー・クロイツェル社の所属だったとは」

 

「ええ、彼の機体は私が預かっています。手配しましたので、すぐ来るはずですわ」

 

そう言ってフー=ルー先生は俺の近くへ来た。

 

「マサ=ユキ・フォルティトゥードー、貴方に騎士の剣を渡します。騎士としての本懐、果たしてみせなさい」

 

フューリーとしての名を言われ、フー=ルー先生が騎士としての言葉を言っているのだと理解した俺はしっかりと頷いた。

 

「はい、身命を賭して騎士の誓いを果たしてみせます」

 

「楽しみにしているわ」

 

言葉を交わし終えたと同時にアシュアリー・クロイツェル社からコンテナが届いた。

 

「来ました。これが貴方の機体であり剣でもあるIS、ラフトクランズ・リベラ」

 

「これが、俺の剣…」

 

紺瑠璃色(こんるりいろ)にカラーリングされたそれは美しくも重みのある姿だ。

 

「一夏君とセシリアさんの試合の間に最適化を済ませましょう」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが、ISだと?」

 

千冬は自分の弟の機体も気になっていたが、それ以上に政征の機体に興味がわいていた。

 

ラフトクランズ・リベラと呼ばれた機体はISの特徴を持ってはいるが、データを見る限り普通のISよりも強力なのは間違いない。

 

「一体・・何世代の機体なのだ?あのラフトクランズ・リベラと呼ばれる機体は」

 

最適化を行っているフー=ルーと政征を後ろで見ながら千冬は思考を巡らした。

 

 

そうしている間に自分の弟と教え子である二人の試合が始まっていた。

 

セシリアが押し気味に戦っていたが、弟のISである白式が一次移行(ファースト・シフト)を果たし試合が変わると思っていた。

 

ところがエネルギー切れという情けない結果に終わってしまった。

 

おもわず苦言を弟にしてしまったが機体特性を理解出来ていなかった事も踏まえ、アドバイスを送っておいた。

 

「いよいよか」

 

セシリアと政征の試合が30分後に始まる。

 

「政征君、どうです?機体に違和感はありまして?」

 

「ありません、むしろ馴染みすぎているくらいです」

 

フー=ルーと共に政征は(ラフトクランズ)の最適化を行い、問題なく稼働している事を伝えた。

 

「武装と機体状態を確認なさい」

 

「はい」

 

言われた通りに確認すると機体はまだ初期状態であった。

 

それ以上に武装を確認すると、ほとんどの武装にリミッターがかけられていた。

 

「?リミッターがかけられてるみたいですが・・・これは一体」

 

「それはまだまだ貴方自身が未熟なゆえ、かけられている枷ですわ」

 

「なるほど・・・」

 

それなら仕方ないと渋々自分を納得させた。

 

「(神様、これもあんたのしわざか!?)」

 

「(試練がある方が面白いでしょ?)」

 

「(なんで格好がアシェンになってるんだよ!?)」

 

「(コスプレだけどこの格好、動きやすいからでやんす)」

 

「(心を読まれた!?言語回路異常まで再現しなくていいから!)」

 

そんな心中会話をしていたが、すぐに現実に戻った。

 

「強くなりなさい。リミッターが全て解除された時、貴方は騎士として上位の者となる」

 

「はい、必ず」

 

そして30分が過ぎ、試合開始時刻となった。

 

「政征、ご武運を」

 

「行ってまいります、シャナ=ミア様」

 

そう言って会話を切り、政征はアリーナへ飛び出した。

 

「なんだか政征の奴、口調が変わってないか?」

 

「気のせいだろう」

 

一夏は違和感を感じていたが箒は気にもとめなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、逃げずに来ましたのね?」

 

セシリアは嘲笑を浮かべながらISを纏って立っていた。

 

「騎士たるもの、敵前逃亡などあってはならぬことだ」

 

「(口調が変わっていますわね?)ふん、わたくしの前で騎士などと口にしていい言葉ではありませんわ。ですから最後のチャンスを与えましょう」

 

「チャンスだと?」

 

「わたくしが勝つのは自明の理、今ここで騎士と名乗ったことを撤回し謝れば許してあげないこともなくってよ?」

 

 

セシリアの騎士の忠義を侮辱する言葉に政征は怒りが沸いてきたが、心を沈めようと一瞬だけ目を閉じる。

 

 

「戦う相手を侮辱し、許して欲しいと相手に懇願させる。もはや言葉は不要だ、いざ!参る!!」

 

「そう、残念ですわ!」

 

試合開始と同時にセシリアはスターライトmk-Ⅱによるレーザー攻撃を仕掛けてきた。

 

「ぬう!?レーザーか!」

 

「ご名答、わたくしの距離であるこの間合いで遅れはとりませんわ!」

 

「駆けよ!ラフトクランズ・リベラ!」

 

オルゴンライフルを手にし、単発のエネルギー弾をセシリアへ向かって放った。

 

「くっ!なんて大きさのエネルギー弾!」

 

これには回避に専念するしかないとセシリアは判断した。

 

「そこだ!」

 

回避した方向にはオルゴンライフルをガンスピンさせているラフトクランズが、三発目のエネルギー弾を放って来た。

 

「きゃあああああ!」

 

直撃とまではいかないがある程度のダメージを受けてしまい、セシリアはエネルギーをチェックした。

 

「え、エネルギーを三割も削られた!?」

 

「チャージ完了、オルゴンキャノン展開!」

 

セシリアが状態を確認している最中、政征は追撃を開始していた。

 

「ヴォーダの深淵を垣間見よ!」

 

「当たる訳には!」

 

オルゴンキャノンから放たれた極大の砲撃をギリギリのところで回避する。

 

「時間が来たか」

 

フィッティングが完了しました、確認を承認して下さい。

 

 

確認ボタンをタッチするとラフトクランズの枷がある程度外れていくような感覚があった。

 

 

 

オルゴンクロー、リミッター解除完了しました。

 

オルゴンキャノン、リミッター解除完了しました。

 

全バスカー・モード開放。

 

オルゴン・クラウド部分限定発動からオルゴン・クラウドSへと更新、常時発動へ。

 

ラースエイレム限定解除・使用許可承認後に発動可能状態へ。

 

 

 

「これがラフトクランズの解放された力の一部か」

 

 

 

 

{BGM・Moon Knights[MDアレンジ]}

 

 

 

「ま、まさか・・・一次移行(ファースト・シフト)?初期状態であれほどの威力を持っていたというの!?」

 

「行くぞ!セシリア・オルコット!!」

 

一次移行(ファースト・シフト)を終えたと同時にラフトクランズを駆る政征は一気に接近した。

 

「させませんわ!このセシリア・オルコットとブルーティアーズが奏でる円舞曲で踊りなさい!」

 

ビットによる多重射撃とライフルによるレーザー射撃、それがブルーティアーズの攻撃方法なのだろう。

 

「くっ!それならば!我が剣技を見せよう!」

 

ビットによる射撃を回避しきれず当たってしまうが、体勢を整えるとライフルにも使用した武装を剣のように構えた。

 

「オルゴン・マテリアライゼーション…!!」

 

武装の先端の左右が結晶で覆われ、刀身が形成される。

 

「行くぞ!」

 

その瞬間にラフトクランズはオルゴン・クラウドによる転送で一瞬にして接近戦の間合いに迫っていた。

 

「え?いつの間に!?」

 

「はぁあああ!!」

 

回転による剣撃を三回撃ち込み、吹き飛ばした。

 

「きゃあああああ!」

 

「行け!オルゴナイト・ミラージュ!」

 

突撃と同時に動きによる残像と共に形成した結晶体による分身がセシリアへ攻撃し、拘束した。

 

「なっ!う、動くことが!?」

 

「断ち切る!」

 

結晶ごと破壊する一閃を拘束したセシリアへ撃ち込んだ。

 

「あああああっ!」

 

攻撃の回数が多いせいかエネルギーはさほど削れてはいない様子だ。

 

「ただではやられません、わ!」

 

「!ミサイルか!」

 

気づいた時には既にミサイルを撃たれ、ラフトクランズに当たって爆発した。

 

「これで、わたくしの勝ちですわ」

 

勝ちを確信していたセシリアだったが爆煙の中からシールドを構えたラフトクランズが立っていた。

 

それでもエネルギーは削られたらしく、警戒を解いてはいない。

 

「そ、そんな!」

 

「この間合いならば!オルゴン・クロー展開!」

 

セシリアがショックを受けている隙を逃さず、シールドを展開し爪を形成すると突撃した。

 

「捉えたぞ!」

 

爪でセシリアを掴むと地に背中を叩きつけ、引きずった。

 

「あああああっ!」

 

引きずった後に掴んだまま回転し投げ飛ばすと、背後へ転移し爪で引き裂くように再び地へと落とした。

 

「あぐっ・・・!つ・・強い」

 

「バスカー・モード、起動!」

 

全力の力を出すという宣言と同時に紺瑠璃色(こんるりいろ)の機体色に黄緑に近い色が現れ、混じりあった。

 

「オルゴナイト・ミラージュ!」

 

連続転移による射撃によって上へ上げられ、チャージされたエネルギーを下から撃ち込みセシリアとブルーティアーズが結晶の中に閉じ込められる。

 

「な、何ですの!?これは!閉じ込められ・・・!」

 

「この力はある方の技だ!」

 

ライフルを上へと投げると変形していき、一つの砲台のような形になった。

 

「さぁ、垣間見るといい!ヴォーダの闇を!!」

 

胸部の砲とドッキングし、最大の砲撃を結晶に閉じ込められたセシリアへ放った。

 

「きゃああああああ!」

 

直撃と同時にブルーティアーズのエネルギーがゼロとなり試合終了のアナウンスが流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(私の技を使うとは・・・なかなかやりますわね)」

 

フー=ルーは自分のバスカー・モードを使った政征に対し笑みを浮かべていた。

 

「あ、あんなのやりすぎだろ!」

 

その横で一夏は政征の戦い方を責めていた。

 

「坊や、戦い方にも色々ありますのよ?それを責めたところで意味はないわ」

 

「だけど!女の子にあんな攻撃を仕掛けるなんて!」

 

「お黙りなさい。いくら学園の中の闘技場とはいえ戦場に変わりはありませんのよ?本当の戦場では効率のいい攻撃方法が求められるのです。それに対し男女なんて関係ありません」

 

「う・・・」

 

一夏はフー=ルーの威圧と言葉に押し黙ってしまった。

 

自分を坊や扱いしてくる事が気に食わなかったが、この人は戦場のなんたるかを知っているようだ。

 

そんな人がなぜ教師なんて?という疑問も浮かんだがすぐに霧散してしまった。

 

「自分の生徒を坊や呼ばわりとな?フー=ルー先生」

 

「あら、申し訳ありません。戦いにおいて男女の事を持ち出してくる青い発言につい口が滑りましたわ」

 

「確かにな」

 

フー=ルーの発言に千冬は少しだけ苛立ちを覚えたが、戦いにおいての心得を言われると冷静になった。

 

織斑千冬とフー=ルー・ムールー、戦う事の意味を理解している二人の女傑はどこか譲れないものがある様子で笑みを浮かべながらにらみ合っていた。

 

 

「俺は・・・負けない」

 

一夏は政征の戦い方にに対して、納得がいかない様子だったがそれを戦いで示そうと決心を固めた。

 




早く戦わせたくて書きすぎてしまいました。

無双というより一方的な蹂躙になってしまった・・。

一夏のバトルではバスカー・モードのソードを出そうかな。

フー=ルーが先生というのは前から考えていました。

黒スーツを着たフー=ルーってよくありませんか?


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意地があんだよ!男の子にはなァ!!

ちょっと無理やりかな?ご理解願います。


セシリアの試合後、一夏との試合を控えた政征は向かい側のピットで待機していた。

 

 

ピットにはフー=ルー先生と俺がお願いし、ピットへの入室許可をもらったシャナがいる。

 

「私のバスカー・モードを使うとは、なかなかですわね?」

 

「いえ、あれはただの物真似です。物にするにはまだまだですよ」

 

「ふふ、過度な謙虚さは無意味ですわよ?私のバスカー・モードを物真似できたという事は観察眼が優れているという事、自信を持ちなさい」

 

「ありがとうございます」

 

礼を言うと今度はシャナが近づいてきて、俺の目を見てきた。

 

「政征、剣としての力を見させてもらいました」

 

「はい」

 

「次の相手は貴方に対し、怒りを持っていますお気をつけて」

 

「一夏が、俺に・・・?」

 

なぜ、俺に怒りを?これもサイトロンの導きなのだろうか。

 

考え込む時間はないらしく、闘技場へ行く時間になっていた。

 

IS(ラフトクランズ)を身に纏い、アリーナへ向かおうとした時だった。

 

「お待ちなさい」

 

「?フー=ルー様?」

 

ISにデイバイスを接続され、キーを叩くとほんの数秒でそれは終わった。

 

「オルゴンライフルの項目をご覧なさい」

 

「?」

 

言われたとおりライフルの項目を確認すると「一時リミッター解除」という文字が表示されていた。

 

「フー=ルー様、これは一体?」

 

「本来ならば私自身がやらねばならないのですが、今回限りあの坊やに戦略というものを貴方が戦いで指導してあげなさい。その為にライフルのリミッターを一時的に解除しました」

 

「なぜ・・・?」

 

「私は今、教員の身。むやみに生徒と戦闘すれば教育実習生とはいえ教員の地位を利用したと思われますわ。それを避けるために貴方に託します」

 

「分かりました、騎士の戦いを一夏に指導してみせます」

 

「政征、ご武運を」

 

シャナの見送りと共に騎士は闘技場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たな、赤野!」

 

「一夏、何故怒りを私に向けている?」

 

「お前、セシリアに対してどんな事したのか忘れたのかよ!」

 

一夏は感情に身を任せたまま荒々しい声で叫んでいる。

 

「俺が勝ったらセシリアに謝ってもらうからな!」

 

そう言って一夏は雪片を構えた。

 

その目には怒りしか宿っておらず、冷静さの欠片もなかった。

 

「言葉は無用ということか、よかろう!戦いの中、剣で語り合おう!!」

 

その言葉と同時に試合が開始された。

 

「オルゴン・マテリアライゼーション・・・!」

 

「行くぞおおおおお!!」

 

オルゴンソードを展開し、シールドを構えて一夏の突撃に備えた。

 

「うおおおおおお!」

 

「はぁっ!」

 

剣撃がぶつかり合い、攻めと守りの舞いが開始される。

 

「女の子に乱暴な攻撃をして、男として恥ずかしくないのかよ!?」

 

「戦場ではいかに相手を倒すかが求められる!理想だけでは勝てぬのだ!」

 

「それでも、俺はお前のしたことは許せねぇんだよ!」

 

雪片の一撃をシールドで受け止め、互いに引かない状態が続く。

 

「ならば戦場での攻撃を見せてやろう!」

 

政征は距離を取るとソードライフルを構え直し、体勢を整えた。

 

「!!うおおおおおおおおお!!」

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い、一夏は一気に間合いを詰めてくる。

 

「それを待っていたぞ!織斑一夏!!」

 

政征はソードからライフルにモードを変え、単発のエネルギー弾ではなくビームのような一撃を放った。

 

「なっ!?」

 

速度は速いはずだが、一夏の目にはスローモーションのように遅く見えていた。

 

横へ避けようとするが、瞬時加速の影響で横へは回避できない。

 

「まだだ!」

 

オルゴン・クラウドにより背後へ転移し、ソードライフルをガンスピンさせ、再びビームの一撃を放つ。

 

「!???」

 

目の前と背後からの二重の攻撃に一夏は混乱していた。

 

一人で挟み撃ちをやってのける機体などあるはずがない、しかし現実に政征のラフトクランズ・リベラはそれを可能にしている。

 

「うああああああ!!」

 

前後から放たれたビームが一夏に直撃する。

 

 

「う・・・く・・・」

 

絶対防御のおかげか、一夏自身は無傷だったが白式のエネルギーは大幅に削られていた。

 

「これが戦場で求められる攻撃だ」

 

「く・・・負けられるかよ!」

 

一夏は雪片を構え直すと向き直った。

 

「ライフルの攻撃を受けても立ち上がるか、オルゴン・マテリアライゼーション・・・!」

 

ソードライフルのモードを再びソードに切り替え、左右に再び刀身が形成される。

 

「行くぞぉ!」

 

「来いッ!」

 

剣戟の音のみが響き渡り、アリーナでは皆が皆その攻防に見入っていた。

 

「これで!」

 

「まだだ!」

 

互いの一撃を刃で受けると引き下がり、間合いを取った。

 

「次で決める!」

 

「それはこちらも同じ事!バスカー・モード起動!」

 

「何!?」

 

バスカーモードという言葉に一夏は反応し、警戒を強めた。

 

「あの砲撃が来るのか?」

 

一夏の警戒とは裏腹に、ラフトクランズ・リベラの機体色である明色に灰色の暗色が混じり合った。

 

「行くぞ!」

 

「機体が・・・黒っぽくなった?」

 

「はあああああっ!!」

 

政征の怒涛の剣撃が一夏に襲いかかった。

 

「くっ!こんだけ荒々しい攻撃なのに正確さは失ってないのかよ!?」

 

雪片でなんとか攻撃を捌き、受けきっていたが反撃が可能な隙がない。

 

「そこだ!!」

 

政征はクローシールドで打撃を与えるとそれを投げ捨てた。

 

「ぐっ!!今だ!!」

 

シールドを捨てたのが隙だと思った一夏は雪片で斬撃を繰り出した。

 

「甘い!」

 

斬撃をオルゴンソードで受け流し、一夏の腹へ蹴りを放った。

 

「ぐあっ!」

 

「この剣にはもう一つの姿がある!今ここで見せよう!」

 

ソードモードでの刀身が消え、ソードライフルの左右が展開する。

 

「武装が変形した!?」

 

「伸びろ!オルゴナイトの刃よ!エクストラクター、マキシマム!!」

 

展開したソードライフルからエネルギーが放出され結晶化し、巨大な刀身が形成された。

 

「な、なんだよ!?あの巨大な剣は!?」

 

「この剣こそがオルゴンソードのもう一つの姿!行くぞ!!」

 

「何!?」

 

政征は巨大な剣を構えると一気にブーストをかけ、間合いを詰めてくる。

 

「くっ!ならば零落白夜で迎え撃ってやるよ!」

 

「この大剣!捌く事など出来ぬ!」

 

一夏も迎え撃つために瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い、政征に迫る。

 

「(威力なら零落白夜の方が上、だけどあの大剣を捌く事なんて)」

 

「覚悟せよ!」

 

間近に迫りつつある政征に対し、一夏は真っ向勝負をかけようと構えた。

 

「真っ向勝負か!」

 

「いや、お前に戦場の攻撃を教えてやろう!!」

 

刃がぶつかる寸前でオルゴン・クラウドによる転移を使い、一夏の刃を躱した。

 

「何!?消えた!?」

 

「せええええええいっ!!」

 

背後に転移し、そこから横薙ぎの一撃を白式に撃ち込んだ。

 

「うあああああ!?」

 

その一撃から薄い結晶の円陣が形成され砕け散った。

 

「な、何だあれは!?」

 

「夜空?」

 

千冬と真耶はラフトクランズの一撃から発生した光に目を奪われた。

 

それは夜空に輝く星が瞬いているように見えたためだ。

 

「ヴォーダの深淵へ落ちよォォォ!!」

 

「オルゴナイト!!バスカー!!ソォォォォォォド!!」

 

振るわれた大剣の最大の一撃が一夏を襲った。

 

「ぐああああああああ!!」

 

バスカーモードによって形成された大剣は白式のシールドエネルギーの全てを奪った。

 

「光の後に・・・闇が来る」

 

地に着地した後、刀身を形作っていた結晶体が砕け散っていき、武装を下げると剣の鍔部分となっていたパーツがカシュンと閉じた。

 

『白式、エネルギー消失。試合終了!勝者、赤野政征』

 

「くっそぉ!」

 

「私も実戦の戦場を経験した訳ではない。だが、戦うからには全てが戦場なのだと認識を改めよ。織斑一夏」

 

「く・・・赤野・・・」

 

悔しがる一夏をその場に置いたまま、そう言い残して政征は自分の待機場所であるピットへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様ですわ」

 

「お疲れ様です、政征」

 

フー=ルーとシャナが政征の帰還と同時に労いの言葉をかけた。

 

「まさか、バスカーモードのソードまで起動させるとは、ますます剣を交えたくなりますわね」

 

「機会があれば是非とも」

 

「ふふ・・。そうだ、本題を忘れていましたわ。シャナ=ミア様の専用機がそろそろ届きますわ」

 

「え?」

 

シャナはかなり驚いた様子でフー=ルー先生を見ている。

 

「名はグランティード、ですがあまりの出力に皇女には扱えきれないとの事でリミッターと補助機を開発しました」

 

「(グランティードにシャナが乗るのかよ!?)補助機?」

 

疑問を持った俺はおもわず聞き返していた。

 

「名はバシレウス、合体機能もありますが今はリミッターにより射撃ユニットとしての機能だけにされてますわ」

 

「じゃあ・・・開発した意味が何も」

 

「いえ、射撃ユニットとして使えるのですから意味はあります。問題は」

 

「シャナ=ミア様の特訓・・・ですね?」

 

そう、シャナは皇女として生きていていた為に自ら戦うという事を知らないのだ。

 

「私も自ら剣を持つ身になるのですね・・・?」

 

「そうだ、けどシャナの剣は自分で自分を守る為の剣だ」

 

「自分で自分を守る?」

 

シャナは政征の言葉に驚いた様子だ。

 

「政征の言う通りですわね。自衛の為の剣、シャナ=ミア様にはそれがよろしいかと」

 

「俺としてはシャナに戦場には立って欲しくない」

 

「ふふ・・・、貴方もまだまだ甘いですわね」

 

政征の気持ちを知って知らずかフー=ルーは笑っていた。

 

「ありがとう政征。でも、私は自らを守れる様にはなりたいのです。指導してくれますね?」

 

「わ、わかりました」

 

シャナの頼みとあっては断れないゆえに承諾してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちくしょう・・・!!」

 

向かい側のピットでは一夏が悔しさを爆発させていた。

 

「一夏、悔しがるのは構わん。なぜ負けたかわかるか?」

 

 

「え・・・それは」

 

 

その様子を見ていた千冬が口を開き、その言葉に耳を傾けると一夏は顔を上げた。

 

「お前と赤野に差はほとんどない、あるとすれば一つだけだ」

 

「なんだよ、一体?」

 

「戦いへの向き合い方だ」

 

「?どういう意味だよ、千冬姉!」

 

「織斑先生、だ。赤野はどんな形であれ、戦う場を戦場として考えている」

 

「だけど!ISは競技用だろ!?」

 

一夏は感情に任せて反論しようとした。

 

「そこだ。確かに今はISは競技用になっている。しかし兵器として使われている事が事実だ」

 

「認識の違いが赤野とのたった一つの差だ」

 

千冬の言葉に一夏は押し黙ってしまった。

 

「認識の差・・・・」

 

一夏は姉に言われたことを考えながらピットから出て行った。

 

「戦場って・・・赤野は一体どんな訓練を受けてきたんだよ」

 

対戦相手との差を改めて思い知らされた一夏は待機状態の白式を見つめ続けていた。




やっぱりオルゴン・クラウドの転移はチートだ(お前が言うな)

バスカーモード時のみに描写していますがなるべく転移は使わない方向です。


赤野政征

格闘180
射撃160
技量120
防御140
命中130
回避110

精神コマンド

不屈
加速
必中
努力
勇気


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同じ機体が並ぶとロマンを感じるよね

戦闘ありません


試合後、セシリアは浴室で湯に己の身をさらしていた。

 

セシリアは初めて出会った二人の男性との戦いを思い返していた。

 

織斑一夏との戦いは判定勝ちとなったが後一歩というところまで追い込まれた。

 

自分がずっと見てきた父親とは違い、諦めるという事はしない強さを持った男。

 

 

そしてもう一人、自らを騎士と名乗り機体を剣とする男、赤野政征。

 

試合を戦場と認識させられ、自らの中に根付いていた女尊男卑の考えを打ち壊された。

 

一切の手加減がなく全力で戦う姿、気高さを持ちながらも倒す事に戸惑いのない姿勢。

 

織斑一夏とは違った強さを持った男。

 

 

知りたい、その気持ちだけがセシリアの中で強くなっていた。

 

 

 

 

 

 

その後、教室でのHRで一夏がクラス代表になった事が発表された。

 

「はい、クラス代表は織斑君に決定しました。一繋がりでいい感じですね」

 

「あの、山田先生?なんで試合で全部負けた俺が代表になったんですか?」

 

「それはわたくしと」

 

「俺が辞退したからだよ」

 

セシリアと政征はほぼ同時に発言した。

 

 

「ふ、二人共なんでだ?」

 

「わたくしは発言を反省しまして」

 

「俺はシャナの特訓を頼まれたからどうしても無理になって、織斑先生に辞退する事を伝えたんだ」

 

二人の理由に周囲は納得しているようであった。

 

「皆さん、あの時は大変失礼な発言をしてしまい申し訳ありませんでした」

 

非礼を謝罪する言葉共にセシリアは深々と頭を下げた。

 

「さて、クラス代表も決まり、セシリアの謝罪も終わった。ここから私から話がある」

 

千冬は教卓の前に立つと手を添えて話を始めた。

 

「フー=ルー先生がISによる戦闘特訓に参加することになった」

 

「「ええええええーーー!!」」

 

「フー=ルー先生は教育実習生ですよね!?」

 

教室中の生徒達は驚きのあまり騒ぎ始めた。

 

「静かにしろ!フー=ルー先生がどのくらい強いのか見ておきたいだろう?」

 

「それは・・・」

 

「確かにそうですけど」

 

教育実習生とはいえISに乗れる身であるフー=ルーの実力というのは生徒達にとって知りたい事だ。

 

「皆さんとの戦闘訓練、楽しみですわ」

 

フー=ルーは教師としての一面が成りを潜めると騎士としての一面が出ていた。

 

「フ、フー=ルー先生、なんだか怖い」

 

「あら、失礼しました。戦いとなるとつい高揚してしまって」

 

騎士としての一面を目撃され、フー=ルーは微笑みながらいつもの感じに戻った。

 

「政征?どうしたのです、顔が笑っていますよ?」

 

「え?」

 

シャナに指定されるまで気付かなかったが俺は笑っていたらしい。

 

「今の俺はやっぱり騎士なんだな…戦ってみたいと思うと笑うなんて」

 

「(フューリーの特徴なんですかね?鈍感騎士)」

 

「(いきなり現れるね、本当に。鈍感騎士って)」

 

「(いい加減に皇女様の気持ちに気付いてあげなさいまし)」

 

「(シャナの気持ち・・か)」

 

神様の言葉に俺は改めてシャナの事を考えた。

 

穏やかな笑顔、凛々しくある覚悟の顔、涙を見せる顔。

 

シャナを思うと心臓が高鳴る、あの笑顔を護りたい。

 

でも、恋人にしたいと思うと相手は皇女、自分の身分を考えてしまう。

 

「シャナ・・・俺はシャナの剣」

 

スパーン!

 

「痛ったぁ!!」

 

「HR中に考え事か?赤野」

 

「お、織斑先生」

 

「多少の事は構わんがちゃんと集中しろ」

 

「は、はい」

 

出席簿で叩かれた頭を摩りながら姿勢を直した。

 

「政征君、後でお話があります。それとシャナ=ミナさんも」

 

「はい」

 

「分かりました」

 

 

HRが終わると通常の授業が開始された。

 

 

 

 

 

HRと授業が終わった放課後にフー=ルーに呼ばれた二人は応接室にいた。

 

 

「来ましたね?」

 

「はい」

 

「お話とはなんですか?フー=ルー先生」

 

フー=ルーも真剣な顔で政征とシャナ=ミアに話しかけた。

 

「先生は要りません、今ここではフューリーとしてお話しましょう」

 

フューリーとしてと聞いて気を引き締めた。

 

「シャナ=ミア皇女を鍛えるにあたって私と政征が担当する事になりましたわ」

 

「え?」

 

「本当ですか?」

 

「はい、ですが放課後が主に鍛える時間帯になります。明日に許可が下りますわ」

 

「ありがとうございます。フー=ルー」

 

「ふふ、皇女を鍛える日が来るとは思いませんでしたわ」

 

「お手柔らかにお願いしますね」

 

「戦いのカンを取り戻すために模擬戦をお願いできます?政征、もちろん実戦形式ですわ」

 

フー=ルーの目には闘志と歓喜を宿していた。

 

「はい、是非ともお願いします。それと提案があるのですが」

 

「言ってみなさい」

 

思案した後に政征はフー=ルーの目を見て口を開いた。

 

「クラス全員に戦いを見せたいのです。戦場とはどういうものかと」

 

「ふむ、魅せるのではなく見せる戦いをしようと?」

 

「はい」

 

「良いでしょう、明日には私の機体であるファウネアが届きます。その時に」

 

「分かりました」

 

「では今日はもう、下校なさい。時間が時間です」

 

「はい。行こう、シャナ」

 

「ええ」

 

二人は寮へと戻ると着替えを済ませ、くつろいでいた。

 

「さて、復習しておかないと」

 

「復習ですか?」

 

「ええ、やっておかないと後から響くからね。シャナもやっておこうよ」

 

「はい、分からない所は教えてくださいね?」

 

「もちろんだよ」

 

二人は教科書とノートを広げ、学んだ所の復習と予習を始めた。

 

「つまり、この配列部分はGからBになってるんだよ。数式はXから求めればいいんだ」

 

「そうでしたか、つまりこの式は」

 

「そう、そう!合ってるよシャナ!」

 

「楽しいですね、こうして教え合う勉強って」

 

政征は数学と工学に関してアシュアリー・クロイツェル社で自分から学んでいた。

 

ラフトクランズを自力で整備できるようになっておきたいという思いからの行動ゆえだった。

 

「ふう、あれ?もう8時か。これくらいにしてお風呂入ってきなよ」

 

「え?あ、はい」

 

政征に促され、シャナは浴室へと向かっていった。

 

「(はぁ・・・まだわからないな。シャナの事は好きだけどlikeなのかloveなのか)」

 

「(早めに答えは出さないといけませんでやんす)」

 

悩んでる中で神様がコスプレ姿で話しかけてきていた。

 

「(また、いきなり話しかけてくるなよ・・・しかもアシェンの姿で)」

 

「(早めに出さないと取られるでありんす)」

 

「(う、わかってるよ・・・)」

 

話している間にシャナが風呂から上がってきていた。

 

「どうしたのです?政征」

 

「いや、何でもないよ。俺もシャワー浴びてくるから」

 

「??分かりました」

 

熱めのお湯を被りながら俺は思った。この気持ちにケリを付けないといけないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、学問授業は問題なく終わり、実演形式の授業の準備をしていた。

 

「よし、専用機持ちは前へ出ろ!」

 

「オルコットさん、織斑君、赤野君ですわね」

 

指名されたから前に出たけど何故か一夏に一瞬だけ睨まれたよ、なんでさ。

 

「では。機体を展開しろ」

 

指示に応じてリベラを展開する。今はバスカー・モードを起動してない為、通常の紺瑠璃色だ。

 

「・・・あれ?」

 

「どうしました?織斑君。展開が間に合っていませんわよ?」

 

「わ、わかってます!来い!白式!!」

 

フー=ルー先生の催促に応え、期待の名前を呼び、数秒後に一夏は機体を展開した。

 

これだけは慣れ、しかないからな。

 

「よし、その場から急上昇しろ」

 

そう言われて、スラスターを噴かして上昇する、セシリア嬢もすぐに上昇していた。

 

「政征さんの機体は全身装甲に近いのですね?それに色が綺麗ですわ」

 

「ああ、この機体は鎧騎士をモデルに作られているからだ」

 

「そうでしたの、どうりで。でも口調は変わりますのね」

 

急上昇の指示の後、雑談していた後に織斑が追いついてきた。

 

「何をしている!織斑!!ラフトクランズはともかく、白式はブルー・ティアーズよりはスペックが上だぞ!」

 

スペック上は上回っていようと操縦者がそれを引き出せなければ意味が無いぞ、織斑教諭。

 

スパロボをやっていたからかこんなセリフが浮かんでしまうな。

 

「ふ、二人共早すぎるだろ!」

 

「一夏さん、自分が想像しやすいイメージを持つといいですわ」

 

セシリア、気があるのか?話してる時に楽しそうだ。

 

全く、この天然ジゴロはどれだけ女性を落とせば気が済むんだ。

 

ん?考えてみれば僅かだがシャナもそうだったな、苛立ってきたぞ。

 

一人で思考に耽っていたらしたから怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「一夏ッ!何をしている!さっさと降りて来い!!」

 

あれは篠ノ之か。何をやってるんだ?山田先生が涙目だ。そんな事したら。

 

ゴンッ!!

 

「お前が何をしている?教師の物を勝手に奪った挙句、勝手に指示を出すな!」

 

拳骨と共に厳重注意を織斑先生から受けた。

 

行動力は認めよう。だが、間が悪すぎるぞ?篠ノ之・・・。

 

「織斑先生の言う通りでしてよ?勝手な行動は慎みなさい」

 

フー=ルー先生も静かな様子で怒っている様子だな。

 

「・・・・」

 

?シャナがすごく俺を睨んでいる・・・恐ろしいな。

 

「次に急降下と停止をやってみせろ。目標は地上との距離10cmだ!」

 

「では、お先に」

 

セシリア嬢が急降下し、地上スレスレで停止をした。

 

「12cmか、流石は代表候補生だな」

 

「ありがとうございます」

 

千冬に褒められ、セシリアは笑みを浮かべた。

 

「次は私か、参る!」

 

オルゴン・クラウドで転移すれば楽なんだが、それは意味がないからな。

 

この感覚はリュンピーで訓練していた時と同じだ、それなら。

 

ベストのタイミングを見出し、停止をかける。

 

「6cmか、やるな。機体性能のおかげか?」

 

「お褒めに預かり光栄です。しかし、機体性能のおかげだというなら二人に勝利してはいませぬ」

 

「む・・・それもそうか(機体に乗ると口調が変わるのか)」

 

罰が悪かったのか織斑教諭はどこか反省するような様子で目を伏せた。

 

「うわああああああああ!!!」

 

ドッガーーン!!と物凄い轟音と共に何かが落下したようだ。

 

「なんだ今のは?一夏か。無事か?」

 

「そう思うなら助けてくれよ・・・」

 

一夏は助けを請うが私は無視した。すぐに助けられていては意味がないだろう。

 

10分後に一夏がクレーターから這い出てきて次の指示が出た。

 

「次は武装を展開して見せろ」

 

「織斑教諭、私はどうすれば?」

 

「なんだ?赤野。ああそうか、お前の武装はほとんどが兼用だったな」

 

ソードライフルを見て、織斑教諭はこちらの言いたい事を察してくれたようだ。

 

「先にブレードを展開しろ」

 

「では、オルゴン・マテリアライゼーション」

 

刀身となる部分にオルゴンを集中させ、結晶を形成する。

 

「次はセシリアだ」

 

「はい」

 

指示された通りに武装であるライフルを展開する。

 

「ふむ、なかなかだがそのポーズはやめろ」

 

「で、ですがこれはわたくしのイメージをまとめるのに必要で」

 

「隣を見てから発言して下さい、セシリアさん?」

 

「フー=ルー先生?それは一体・・・っ!?」

 

「セシリア嬢、こちらに銃口を向け続けるなら撃たねばならなくなる」

 

ライフルの銃口が私に向けられていては無視することは出来ん。

 

「あ・・・」

 

「私から言わせてもらいますと横向きの展開では隙が出来ます。縦向きに展開するよう矯正しなさい」

 

「はい・・」

 

その後。ISの武装などの危険性などを説明され、授業は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリーナは此処でいいのか?フー=ルー教諭」

 

「ええ、皆さんをアリーナの観客席へお願いしますわ」

 

そういって、千冬が全員に聞こえる声で指示を出す。

 

「全員、観客席へ移動しろ!」

 

「はい!」

 

移動を開始した生徒達は次々とアリーナの観客席へ座っていく。

 

その中にはセシリアと一夏も含まれている。

 

「では、準備してきますわ。赤野君にも伝えてください」

 

「わかった」

 

フー=ルーはピットへと歩いていき、千冬は政征のもとへと向かっていった。

 

「赤野、やれるのか?もし無理なら」

 

「心配無用です。食らい付けるところまで食らいつきますよ」

 

「ふ、そうか。そんな気概がアイツにもあればな」

 

「今のところは無理ですよ、被害者って顔してますから」

 

「はっきり言いすぎだ。そろそろ時間だな、アイツ等に戦場を見せてやってくれ」

 

織斑先生は戦場というものを知らない。

 

俺も実際の体験していないが、恐ろしい事なのだと俺自身のフューリーの記憶が語りかける。

 

「ええ、分かってます」

 

俺はラフトクランズ・リベラを展開し、アリーナへと飛び出した。

 

それと同時に向かい側のピットからも何かが飛び出してきた。

 

「それが、貴女の機体ですか」

 

「ええ、これが私の専用機。ラフトクランズ・ファウネアですわ」

 

白と黄色をアクセントにエメラルドのような薄い緑を基調としたカラーリング。

 

頭部部分だけが専用に改修されているようで武装はリベラと変わらない。

 

「胸を借りるつもりで行きます!」

 

「来なさい、手加減は無用でしてよ!!」

 

試合開始のブザーが鳴り、戦いが始まった。




モーションベースは主にスパロボJで書いてますがムーン・デュエラーズのモーションはエッセンスとして考えてます。


ベルゼルートとクストウェルも出したいですが、主はラフトクランズなので一時使用しようかなと。


アンケートもありますので協力お願いします。


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ライバル同士で同じ機体を使う戦いって燃えるよね

騎士VS騎士(未熟)


[推奨BGM 『Fate』MDアレンジ(スーパーロボット大戦より)]

 

 

2体のラフトクランズが並び、生徒達は震えていた。

 

興奮して叫びたいのにそれが出来ない。それほどの緊張感がアリーナの中心から溢れている。

 

「行きますわよ!!」

 

「こちらこそ!!」

 

「「オルゴン・マテリアライゼーション!!」」

 

互いにソードライフルをソードモードへ切り替え、刃となる結晶が形成される。

 

「うおおおおお!!」

 

「参ります!!」

 

刃がぶつかり合い、火花が散る。互いに拮抗しており、せり合いを続ける。

 

互いに間合いを開けると武装を切り替える。

 

「そこだ!」

 

政征はオルゴンライフルを構え、ガンスピンを交えつつ単発のエネルギー弾をフー=ルーへと撃ち込む。

 

「なかなかの精度ですわね!ですが、遅い!!」

 

政征のクセを知っているかのように回避し、そのままスラスターを吹かし突撃していく。

 

「ファウネアの速さはこんなものではなくてよ?クロー、展開!」

 

「しまっ!!」

 

「捉えましたわ!」

 

気付いた時にはクローに掴まれていた。そのままアリーナの地に政征は叩きつけられ引き摺られる。

 

「があああああ!!」

 

遠心力をかけ、投げ飛ばすと同時に転移し背後から引き裂くように叩きつけた。

 

「ぐ・・・ううう!」

 

その攻撃手段を見ていたセシリアは震えていた。政征と戦った際、自分が受けた攻撃はあれほどのものだったのかと。ISの防御機能がなければ自分は死んでいたのかもしれないと思ったのだ。

 

「立ちなさい、この程度で終わってはつまらないでしょう?」

 

「やはり強いですね。フー=ルー様」

 

政征は立ち上がり、クローシールドとソードライフルを構える。

 

「お喋りは無用でしてよ」

 

わずかな会話も許さず、フー=ルーは得意とするオルゴンライフルを撃った。

 

「なっ!卑怯だぞ!!」

 

箒が声をあげるが戦っている二人には聞こえていない。放たれた射撃を回避し政征は自分の間合いへ持ち込む。

 

「捉えた!!」

 

「くっ!?」

 

ファウネアを捉えたリベラのクローはお返しと言わんばかりに地へと叩きつけ、引き摺った。

 

「あうううう!!」

 

先程と同じように遠心力をかけ、ファウネアを投げ飛ばし転移する。

 

「そこだ!!」

 

背後から持ち上げるように引き裂き、そのままクローでアリーナの地へと叩きつける。

 

「あぐっ!」

 

先程の攻撃は荒々しく、フー=ルーの操縦技術がなければ持ち直す事は不可能に近い。

 

「お、女の人にまたあんな攻撃を!」

 

一夏は女性が傷つけられるのが我慢ならない様子だが、教師である姉がおり、自分が飛び出していい戦いではないとアリーナから漂っている。

 

 

「オルゴンキャノン!チャージ完了!ヴォーダの深淵を垣間見よ!!」

 

 

「纏めて落ちなさい!ヴォーダの闇へ!!」

 

 

チャージが必要なリベラの放ったオルゴンキャノンに対し、ファウネアはすぐに対応しオルゴンキャノンを放って相殺させた。

 

 

「様子見はお互い辞めにしましょう。いつまでたってもキリがない」

 

「そうですわね、貴方のおかげでカンを取り戻すことが出来ましたわ」

 

二人は笑っており、この戦いが長く続く事を望んでいた。

 

しかし、残り時間は1分。このままでは引き分けになってしまう。

 

「時間がありませんな、ならば方法は一つ!」

 

「ええ、一騎打ちこそ戦場の華。楽しませてもらいますわ」

 

「「バスカー・モード、起動!!」」

 

全力を出すという宣言と共にファウネアとリベラのツインアイが輝き、更にリベラは機体色にファウネアと同じ緑色が混じり合った。

 

「「オルゴナイト・ミラージュ!」」

 

互いに高速転移しながらのオルゴンライフルによる連射を放ち続ける。

 

だが、ほんの一瞬が明暗を分けた。

 

リベラの射撃が僅かに遅かったのだ。

 

「ぐっ!しまっ!!」

 

「楽にして差し上げます!」

 

既に遅く、ファウネアは連射し続け背後に回りビーム状の一撃を放ってリベラをオルゴナイトの結晶の中へ閉じ込めた。

 

「これはあなたの柩・・・久遠の安息へ導きます!」

 

ソードライフルを上へ投げると変形していき、結晶を踏み台に向かって行く。

 

レーザー誘導によって変形したソードライフルが胸部の砲台へ接続される。

 

「ヴォーダの深淵で眠りなさい!」

 

その一撃は政征がセシリアに対し放ったもの以上に強力であり、リベラを飲み込みオルゴナイトの結晶の欠片が落ちていく中で爆発が起こった。

 

「私の・・負けです」

 

結晶から解放された政征はそのまま倒れた。

 

『あ、赤野政征!エネルギー0!!しょ、勝者!フー=ルー・ムールー!!』

 

フー=ルーが勝利したと同時に歓声が沸き上がる。

 

それは政征が敗北した事が要因だが主はフー=ルーの実力と戦う姿だろう。

 

「静まりなさい!!」

 

フー=ルーの厳しさを含めた声にアリーナの歓声が一気に静まった。

 

「この戦いは戦場の一場面にすぎません!さらに言えばこれは競技ではなく、これが戦場の戦いなのです!」

 

演説のように響き渡る言葉にアリーナにいる生徒達は黙って聞いていた。

 

「一人一人がISという名の兵器を扱っているという自覚を持ちなさい!その覚悟が無く、力に溺れるのであれば今すぐ(IS)を捨てなさい!!」

 

フー=ルーの厳しい言葉に反応した生徒も居たが、特に反応したのが専用機を持つ一夏、セシリア、何故か箒も顔を顰めていた。

 

「そこまでだ、フー=ルー教諭。生徒達が慌てている」

 

「あら?教師ならば真実を教える事も大切ではなくて?」

 

「・・・っ」

 

教えるというのであれば、真実も教えるべきという言葉に千冬は一瞬だけ眉を吊り上げた。

 

「では、私は機体を解除してきますので」

 

ファウネアを起動させたままのフー=ルーは飛び上がり、ピットへと向っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「力に溺れるのであれば今すぐ(IS)を捨てなさい・・・かぁ。確かにね」

 

「競技じゃなくて兵器・・・間違ってないのかも」

 

フー=ルーの言葉に生徒達自身も自覚し深く考え始めた者達。

 

「今更ISを捨てるなんて!」

 

「そんな事出来る訳がないわ!」

 

己の力を過信し、力の制御を怠るもの。

 

「ISは女の力の象徴なのに!」

 

「男が扱うこと自体が汚らわしいの!!」

 

女尊男卑から抜け出せない者達など多種多様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

専用機持ち達もフー=ルーの言葉に対して考えていた。

 

「女尊男卑に染まっていたわたくしは力に溺れていましたのね・・」

 

(IS)を捨てろって・・・過激だな」

 

「・・・」

 

 

三人はそれぞれ思う事があり、考えていたが自分達だけではなにも答えが返ってこなかった。

 

 

特に箒は剣を捨てろという言葉が耳に残って離れることはなかった。

 

 

政征はリベラを待機状態に戻し、観客席へと向かっていた。

 

「活になるか敵が増えるかどっちかになりそうだな。あの言葉」

 

「政征」

 

「シャナ?どうしたのさ」

 

「貴方が心配できたのです。いけませんか?」

 

「いや、嬉しいさ」

 

政征は少し頬を掻いて一緒に歩き始めた。

 

日に日にシャナを見るたびに顔が熱くなって、胸が苦しくなる。

 

 

でも、相手は皇女で自分は騎士。だからこの思いは仕舞っておかないといけない気がしている。

 

 

「ここならば、誰も来ませんね」

 

「シャナ?」

 

俺が思わず声をかけたと同時にシャナが俺に抱きついてきたのだ。

 

 

「ッッッッッ/////////////!!!!!!!!!!!!!」

 

背中を壁にぶつけてしまうがそれでもシャナは離れなかった。

 

華奢な体型のどこにこんな力強さがあるのだろうか?

 

「政征、貴方はどうして私から目を逸らすのですか?」

 

「え・・・そ、それは////」

 

「私は・・・怖かった。いくらフー=ルーとの戦いとはいえ貴方が居なくなる事が!!」

 

シャナが震えていた。本当に不安でどうしようもなくなっていたのだろう。

 

「剣である前に自分を大切になさって下さい」

 

「ああ、わかったよ」

 

返事をするとシャナは笑顔を見せてくれた。

 

うん、シャナは笑顔が一番可愛い。

 

「そうやって私の気持ちを揺さぶるのですね、貴方は」

 

「え、シャ・・・ナ////」

 

そこには潤んだ紫色の瞳で上目遣いしながら俺を見てくるシャナがいた。

 

「そのまま目を逸らさないで・・・」

 

「っ・・・///」

 

逸らそうとしても逸らすことが許されない。なんでだ?心臓がドキドキして来る、確かにシャナの事は大好きだけどいきなり過ぎる。

 

「私は・・・皇女としてでなく一人の女性として貴方を慕っているのです。マサ=ユキ//」

 

それは衝撃的過ぎた言葉だった。

 

シャナが俺の事を好きだと告白してきたのだから。

 

「シャナ・・・俺」

 

「言わないでください。剣としてでなく貴方自身の答えを聞かせてください//」

 

答えるまで決して離さない、そんな強い意志がシャナからは溢れていた。




戦いの後は告白ルートだよ、やったね!

此処で政征の弱ヘタレが発動です、はい

シャナ=ミアから告白されたいと思う作者でした。


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番外 もう一人の地球人フューリー

設定を頂いた青葉 雄輔(あおばゆうすけ)の話の番外編です。

彼がIS世界へ来た経緯、身に付けた事が主です。


よう。俺は今、道場での鍛錬を終えて帰るところだ。

 

テスト期間も終わって、のんびりできるからすごく嬉しい。

 

そんな時の楽しみはゲームだ。

 

特にハマってるのがスーパーロボット大戦OG ムーン・デュエラーズっていうゲーム。

 

今は居ない親友からラフトクランズっていう機体を見せられてドハマリしたんだ!

 

わかるか!?あのフォルムに武装、エネルギー設定!おまけにパイロット達がカッコイイ!これに尽きるだろ!!

 

サブパの三人娘も可愛いし言うことないだろう!?

 

さてと、起動起動っと。今回の絶望総代は絶対に許さねえ!わかるか?あのシャナ=ミア様に自分の子供を宿せって言ったんだぞ!ぶっ倒す!

 

よし!後1万!ん?なんだ!?画面が白くなって・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ここは・・・?」

 

「やっと気づいた?」

 

「ああ、アンタは一体?」

 

「アンタ達の所でいう神様ってところよ」

 

なんで神様がコスプレしてるんだ?しかもスパロボのラミアで。

 

「めんどくさいから簡単に言うけど、私の妹がポカやらかして次元を超えさせちゃったのよ。ここのはその境界ってところ」

 

「はあああ!?じゃあ・・俺がやってたスパロボのデータは!?」

 

「消滅したわよ、完全に」

 

マジかよ、攻略寸前だったのに。

 

「とまぁ、アンタも何故か巻き込まれちゃった訳だし別の世界に行かせてあげる」

 

「別の世界って・・・唐突だな」

 

「戻る事はできないし妹の不始末を片付けるのも当然でしょ?」

 

「妹思いなんだな?」

 

「か、勘違いするんじゃないわよ!あくまで不始末を片付ける為だっての!!」

 

「テンプレすぎるぞ、その反論」

 

「ああ、もう!で、特典も付けてあげるから言いなさい!チートでも構わないから!」

 

「特典か。それならスパロボのフューリーの機体を操縦出来る事。フューリーの記憶を持ってラフトクランズを乗れるようにして欲しい」

 

「あら?随分と質素ね?チートでも望むのかと思ったわ」

 

「フューリーになれるならチートはいらねえさ。ラフトクランズには乗りたいしな!」

 

「あ、そう。ならフューリーとしての記憶は自覚してる方がいいわね。貴方の記憶もそのままにしてあげる」

 

「アンタと会話できるようにもしといてくれ」

 

「はいはい」

 

「それで?行く世界は?」

 

「IS〈インフィニット・ストラトス〉の世界よ」

 

「よりにもよって女尊男卑の世界かよ!?」

 

「仕方ないじゃない!妹が繋げたのがそこしかなかったんだもの!!」

 

「はぁ・・仕方ないか」

 

「フューリーの容姿もサービスしてあげるから」

 

「わかった」

 

「それじゃ、あの扉を潜りなさい。そうすれば世界に着くわ」

 

促されて俺は光が溢れる扉を潜っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

潜った後は何故か山が近くに有る田舎町の旅館の一室だった。

 

交通は発達しているようで、中心に行くのには大丈夫なようだ。

 

「さて、と身だしなみでも整えるか」

 

何気なく洗面台に行き、鏡に映った自分を見て俺は声を上げた。

 

「何だこれはあああああああああ!?」

 

フューリーの容姿にするとか言ってたが青い髪ってなんだよ!

 

「聞こえてるだろ!?なんだよこの髪は!?」

 

「(あえて目立つようにしたのよ、文句言わないの)」

 

「普通、居ないだろ。青い髪って」

 

身だしなみを整えて情報整理をする。

 

IS入手には俺が動かせるのが判明する事。今居る旅館は約2週間分の宿泊費用が既に払われてるらしく大丈夫な事。

 

戸籍の方は青葉 雄輔(あおばゆうすけ)という名前で登録されているそうだ。

 

「(言い忘れてたわ、アンタのフューリーとしての名前はユウ=スケ・ダーブルスよ)」

 

「ああ、そうか。ここに来てるのは」

 

「(記憶を自覚したようね)」

 

「さて、売店で木刀買ったし、山へ行くか」

 

俺はすぐに行動し、朝から午後にかけてまで一週間を旅館と山を行き来した。

 

朝は木刀と携帯食と水を持って山へ登る道をランニングし、山の中で素振りを1000本、自然を利用した筋トレを50回3セットを続けた。

 

残り一週間は旅費と休憩の為に行動していた、そんな時、あの人に出会った。

 

「はぁ、これで今日の手伝い終わり」

 

「君、この商品は此処にあるのかね?」

 

「ああ、これは此処ですよ。失礼ですがお名前は?」

 

「済まない。名乗っていなかったね、私は紫雲セルダという」

 

「っ!?そ、そうでしたか。俺は青葉雄輔と言います」

 

名乗ったのに緊張が解けない。なぜなら目の前に紫雲統夜の父親が居るからだ。

 

「そうか、いい名だな。む・・・雄輔君、君はもしや?」

 

「はい、俺はフューリーです」

 

「そうか、ならば」

 

そう言って紫雲さんは名刺入れを取り出して名刺を俺に渡してきた。

 

「何かあれば此処に連絡するといい。それじゃ、私はしばらく滞在予定だ」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

手伝いという名のバイトを終え、紫雲さんからの名刺を手に俺はフラフラと町を歩いていた。

 

「ん?なんだこの男性の列は」

 

列の最後尾にいた人に話しかけた。

 

「ISの男性操縦者探しだってさ。織斑一夏って奴が動かしたから他にも居るんじゃないかって」

 

「へえ・・・」

 

2時間ほどだろうか?自分の番が回ってきた。

 

「はい、この機械に触ってください」

 

「分かりました」

 

促されるままに目の前のISの前へと立ち、それに触れる。

 

その瞬間、起動してしまいガイドの女性が驚いていた。

 

「き、起動した!?これで三人目よ!?」

 

「マズイな。急いで逃げるとしよう」

 

俺はその場から逃げるように退散し、旅館へと戻った。

 

この時に俺は聞き逃せない言葉を聞いていた、[これで三人目]だと。

 

「はぁ・・はぁ・・起動させてしまった。おまけに俺で三人目とか言っていたな」

 

旅館の一室に戻り、息を整えた雄輔は外に出て名刺に書いてあった携帯電話の番号に公衆電話から連絡した。

 

「もしもし?」

 

「もしもし、どなたかな?」

 

「青葉です。昼頃にお会いした青葉雄輔です」

 

「雄輔君か、どうしたのかね?」

 

「はい、公衆電話だと話しにくいので宿泊場所に伺いたいのですが?」

 

「わかった、私が迎えに行こう。待ち合わせ場所は出会った店の前でいいかな?」

 

「大丈夫です」

 

「それじゃ10分後に」

 

「はい」

 

通話を切り、公衆電話から出ると手伝いをしていた店へと向かう。

 

今のところは何もないようで良かった。

 

しばらくして紫雲さんが時間ぴったりに来てくれた。

 

「待たせてしまったね、こっちだ」

 

紫雲さんが宿泊している部屋に入り、お互いに座った。

 

「それで、どうしたのかな?」

 

「はい、俺ISを動かしてしまったんです」

 

「何!?本当か?」

 

「間違いなく、嘘は言っていません」

 

雄輔の目からは虚偽が感じられず紫雲は少しだけ考え込むと視線を戻した。

 

「しばらく滞在の予定だったが予定を早めて会社に戻るとしよう」

 

「会社ですか?」

 

「ああ、アシュアリー・クロイツェル社にね」

 

紫雲さんの提案で俺は急遽、アシュアリー・クロイツェル社へと向かう事になった。

 

バイト先に挨拶して、旅費はなんとか間に合うくらいの金額はあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デカい・・・」

 

第一声がそれだった。都内レベルで敷地内が広く、ほとんどが子会社であると聞いた時には驚きを隠せなかった。

 

「着いて来てくれ」

 

紫雲さんと共にアシュアリー・クロイツェル社の中へと入ると受付の女性からまたも驚くべき言葉が聞こえた。

 

「会長?しばらく滞在だったのでは?」

 

「急遽、予定を早めたんだ。彼の件でね」

 

俺は受付の女性に会釈した。女性も会釈を返してくれる。

 

「ちょうど社長もお戻りになられてます」

 

「タイミングがいいな」

 

紫雲さんは受付の女性に何かの話を付けて、俺の方に向き直った。

 

「応接室に案内するよ。そこでしばらく待っていてもらえるかな?」

 

「分かりました」

 

応接室に案内され、座るように言われた後に30分ほど待っていた。

 

「待たせてすまなかったね。社長と少し話をしていた」

 

「社長ですか・・・いきなりですね」

 

「はは、同じような事を言っていた子が三か月前に居たな」

 

「え?」

 

「そのことも含めて話し合おう」

 

向かっている最中で会話を切られ、社長室へと案内された。

 

ノックをすると共に部屋の中から声がした。

 

「入りたまえ」

 

「失礼します」

 

「失礼します」

 

初老の男性がまた見つかったのかと言いたげな顔で雄輔を見ていた。

 

「君が同胞であり新たな男性操縦者の」

 

「はい、青葉雄輔と言います」

 

「ふむ、しかしこれで我が同胞から二人目とは」

 

「あの・・お聞きしたい事があるのですが」

 

「なんだね?」

 

意を決して俺は口を開いた。

 

「同胞での男性操縦者の名前を教えてくれませんか?」

 

「彼の名前かね?赤野政征というが」

 

「赤野政征・・・政征!?」

 

「どうしたのかね?心当たりが?」

 

「い、いえ」

 

まさか、アイツが此処にいるはずがない・・まさか・・な。

 

「では、話を進めよう。君はIS学園に行く事が強制になってしまう」

 

「はい、自覚しています」

 

「流石に時間が足りないのでな。セルダ君を筆頭に三週間特訓してもらう」

 

「分かりました、紫雲さんの他に特訓してくださるのは?」

 

「既に連絡してある、そろそろ来る頃だが」

 

そう言ったと同時に社長室の扉がノックされる。

 

「失礼するわ」

 

「失礼致します」

 

入ってきたのは一組の男女だ。女性の方は銀髪に緑色に鋭い瞳を持ち、強さを感じさせる。男性の方は藍色に近い髪色に同じ色の瞳、その佇まいは本物の騎士を連想させる。

 

「この二人がセルダ君と共に特訓してくれる二人だ」

 

「カルヴィナ・クーランジュよ、よろしく」

 

「アル=ヴァン・ランクスだ、よろしく頼む」

 

「青葉雄輔です、フューリーとしての名はユウ=スケ・ダーブルスです」

 

この二人が俺の特訓相手だって!?嘘だろう。

 

そう思ってもこれが現実なのだと握った拳が教えてくれる。

 

「では、雄輔君。君を我が社の所属とする、これは君を守る手段であると思ってくれたまえ」

 

「はい」

 

「特訓は今日から始めよう、三週間みっちりとな」

 

「よろしくお願いします」

 

「ルーキーといっても手加減はしないわ、覚悟しなさい」

 

「私の特訓もカリンと同じように厳しくいくぞ?」

 

「望むところです」

 

その後、住まいや訓練用の機体の貸出などの説明を受けた。

 

「そこ!動きが遅い!!的になる気か!」

 

「っ!もう一回お願いします!!」

 

最初の一週間はカルヴィナさんからの特訓を受けた。

 

この会社でもホワイト・リンクスの名は通っているらしく、特訓は厳しいが成長を感じられる。

 

「訓練終了よ。それと明日からの一週間はアリーが担当してくれるわ。それじゃグッドラック」

 

「明日からアル=ヴァンさんか・・・」

 

しばらく休憩しつつ、勉強もしながらカレンダーに印をつけていく。

 

「どうした!この程度では騎士を名乗れぬぞ!!」

 

「ぐうう!まだまだァ!!」

 

アル=ヴァンさんの特訓はカルヴィナさん以上に厳しい、正にスパルタだ。

 

こんな事で負けてなるものかと二週間目を過ごした。

 

「よく、乗り越えたな。最後の一週間はセルダ殿だ、私以上に辛いぞ」

 

「分かってますよ、望むところです」

 

最後の一週間、紫雲さんとの特訓だ。

 

「照準が右にコンマ4ズレているぞ!」

 

「くっ!まだ合ってないのか!」

 

最後の一週間もなんとか乗り越え、IS学園へ向かうための準備を始めると言われた。

 

「この三週間で出来るだけの事はした」

 

「はい」

 

「後は機体を渡すだけだが、こちらへ来てくれ」

 

紫雲さんと共に地下へと案内される。そこには俺が夢中になった要因である機体が並んでいた。

 

「これは、ラフト・・・クランズ」

 

しかし、六機あるはずの中で一箇所だけ機体が置かれていないことに気づいた。

 

「紫雲さん、一箇所だけ機体が置かれてませんが?」

 

「ああ、そこの機体は政征君の機体になったんだ。改修もされている」

 

「そうでしたか」

 

「うむ。政征君はサイトロンの導きに従い、機体を決めていたよ」

 

「なら、俺もそうします」

 

しばらく歩いているとピタリと足を止め、機体を見上げた。

 

「これですね、この機体を改修してください」

 

置いてある5機以外の場所にあった、白いラフトクランズの前で立ち止まっていた。

 

この機体をサイトロンによって選ばれたように感じていたからだ。

 

「この機体をか?この機体は古い物ゆえに改修と同時に新規にパーツを交換することになるが構わないのかね?」

 

「ええ、大丈夫です。この機体に選ばれた気がしたので、色はダークブルーに変更して頭部はアウルンと同じようにお願いします」

 

「わかった。君も政征君と同じ適性が訓練で発覚していたので三つのバスカー・モードも追加しておく」

 

「え?ええ・・」

 

俺に適性?しかもバスカー・モードが三つって嘘だろう!?

 

 

 

「ユウ=スケ・ダーブルス、騎士としての性分を忘れるでないぞ」

 

「はっ!」

 

フューリーの名で呼ばれると同時に俺は騎士の礼節をしっかり行っていた。

 

「機体に触れるといい。そうすれば剣を抜いたことになる」

 

白色の騎士の剣(ラフトクランズ)に触れると同時に起動した。

 

ラフトクランズ自身もう一人の操縦者を所有者と認めたのだ。

 

 

「IS学園への入学手続きは済ませてある。2日後に現地へ行ってくれ」

 

「分かりました、では」

 

自室に戻り、勉強をしながら二日後の編入に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、この後に二つの騎士の剣(ラフトクランズ)がIS学園という場所で出会うことになる。

 

皇女の守る為の剣と守るべきものを見つけようとする剣。

 

二つの剣は時を待つ。本当の剣となるべく、その時を。




白色のラフトクランズはMDだと無かったことになってますが、スパロボJが基本の軸なので登場させました。

改修によって姿が変わっても基本が変わらないというのがすごく好きです。


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高貴な出身の女の子って恋に積極的だよね

壁が足りない


シャナの恋愛シーンや戦闘シーンには玉置成実さんの『CASTAWAY』が一番いいと思う。


以上


シャナに抱きつかれ見つめられたまま、俺は動けなかった。

 

騎士としての忠誠と俺自身の感情が天秤のように揺れている。

 

「マサ=ユキ・・・//」

 

答えて欲しいとシャナは上目遣いで訴えかけてくる。

 

「俺・・・俺・・は・・・っ!///」

 

言葉にする前に俺はシャナの背中に腕を回して抱きしめた。

 

「あっ!///」

 

突然の行動にシャナは驚いたようだが、そのまま受け入れてくれた。

 

 

「シャナ、俺も・・・シャナが好きだよ//」

 

「え?」

 

「聞こえなかった?俺はシャナが好きだって言ったんだ」

 

「ッッ!/////」

 

両思いであった事を伝えるとシャナは顔を上げた。

 

その目からは涙が溢れ、頬をつたっている。

 

「シャ・・シャナ!?」

 

「よかった・・・怖かったのです。想いを伝えたら貴方が離れるのではないかと」

 

「最初に言ったはずだよ?俺はシャナを護る剣だって」

 

「はい・・はい・・・」

 

そのままシャナが泣き止むまで俺は抱きしめていた。

 

「でも、今すぐに恋人の宣言はしないで欲しい」

 

「なぜですか?私達の思いは」

 

「分かってるよ。でも、これは俺自身の誓いなんだ。フューリア聖騎士団に入団したら正式に恋人として発表して欲しい」

 

今のままではシャナも俺も恋にのめり込んで破滅してしまう。

 

だからこそ、自分が目指すべき目標を立てた。こうすれば恋を糧に頑張れるから。

 

「はい、その時を待っています!マサ=ユキ」

 

「ありがとう、シャナ。俺の我が儘に付き合ってくれて」

 

背中に回した腕を少しだけ力を込めて、シャナを強めに抱き締めた。

 

「っ//」

 

しばらくしてシャナが顔を上げた。お願いしたいことがあるような様子だ。

 

「政征、私に合わせて屈んでくれますか?」

 

「?ああ、分かったよ」

 

シャナに言われた通り、俺はシャナに身長に合わせて屈んだ。

 

「はい、屈んだよ。一体なんの・・・ッ!??????/////」

 

突然の事に目を見開いていた。何が起こったのか自分でも分からない、それでも唇に柔らかい感触があるのだけは分かる。

 

そう、間違いなく俺は・・・シャナに口づけされている!

 

「ん・・・///」

 

わずか数秒の事だった気がするが、何時間にも感じられるほどに長い気がした。

 

例えるならラースエイレムを発動された時みたいに。

 

「・・・私からの決意の証です//」

 

唇を離され、俺は起こったことが現実として理解が追いついていなかった。

 

「シャナ・・大胆すぎだよ///」

 

「今までの仕返しです//」

 

あれ?シャナってこんなに行動的で積極的だったかな?

 

「戻りましょう、いつまでも此処にいたら織斑先生に怒られてしまいます」

 

「あ、ああ・・そうだね」

 

一緒に歩き出し、シャナは何故か腕に抱きついてきた。

 

「シャナ・・・だから」

 

「二人だけの時は良いでしょう?」

 

「っ・・・わかったよ」

 

恋人が出来るとその相手に甘くなるって本当だったんだな・・・。

 

でも、これで俺は護るべきものが明確になった。

 

例えヴォーダの闇に飲まれそうになってもシャナを守ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラス全員が戻り、話題はフー=ルーと政征の戦いで盛り上がり始める。

 

 

政征の戦いぶり、フー=ルーの強さなどが主な内容だ。

 

 

「代表候補生に勝った政征君が負けるなんてね」

 

「フー=ルー先生すごかったよ、あんなに強いんだもの」

 

「正直、フー=ルー先生の事を甘く見てた。改めないとね」

 

クラスメート達の中には戦いから何かを学んだ者もいるらしく、自分の認識の狭さを反省していたりする。

 

「千冬様とフー=ルー様が戦ったらどうなるのかな?」

 

「かなり激しい戦いになりそうだけどね」

 

「見てみたい気もするけど怖い」

 

皆が雑談している中で、政征は本を読んでいた。フューリーの騎士団へ正式入隊するための試験を受けるための物だ。

 

騎士という称号を受けているが、あくまでアシュアリー・クロイツェル社で企業代表候補という名目上で呼ばれているに過ぎない。

 

 

「けっこう難しいけど、この部分さえ勉強しておけば大丈夫みたいだな」

 

「よう、赤野。何を読んでるんだ?」

 

読んでいる中、一夏が話しかけてきた。

 

「ん?ああ・・ただの参考書だよ。勉強しておかないと俺はついて行けないから」

 

「うぐっ・・・確かに」

 

「また勉強してないのか?姉とは言っても織斑先生は優遇してくれないぞ?」

 

「そ、そんなことないぞ!俺だって!」

 

一夏の慌てる様子を見て、政征は少しだけため息をついたが呆れている様子は無い。

 

「剣道なら素振りとかあるだろう?勉強時間も確保しないと」

 

「だ、だからそれは箒が強引で」

 

「篠ノ之さんが強引だというなら自分の意思を見せなきゃ」

 

「女の子の誘いを断れないだろ!?」

 

ほんの少しだけ頭が痛くなってきたぞ?ちょっとは考えないのか。

 

「女の子の誘いだからといって自分の成績を下げたら意味ないだろ?冷たい言い方かもしれないが自分の勉強時間を潰してまで尽くす事かよ?」

 

「そ、それは」

 

「それで勉強出来ないと言ってたら、結果的に篠ノ之さんのせいにしてるって普通なら考えるぞ?それが嫌なら篠ノ之さんを巻き込んで勉強するくらいの強引さを見せなよ」

 

「お、おう」

 

少しは考えたかな?答えをすぐに他人に求めないで自分で考えるのを放棄してないか?一夏は。

 

「政征、一夏さん。授業がはじまりますよ?」

 

シャナが声をかけてきたと同時に一夏はすぐに振り向いた。

 

「あ、本当だ。シャナ=ミアさん!ありがとな!」

 

 

一夏が向けるシャナの態度から俺は気づいていた、一夏はシャナに気があると。

 

他の子達にも笑顔を向けるがシャナだけには笑みが深い。確実に気があると見て間違いない。

 

 

「・・・・っ?」

 

気が付くと机の上にメモ用紙のようなものが二つ折りで置かれていた。

 

開くと[大丈夫です、不安にならないでください]と書かれている。

 

さり気なくシャナの方へ視線を向けると頷いてくれた。

 

「(俺もシャナを信じなくちゃな)」

 

気持ちを切り替えるとシャナから視線を外し、前を向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、此処がそうなのね!」

 

IS学園に一人の小柄な少女がボストンバッグを肩に歩いてきていた。

 

「それにしたってこの学園広すぎでしょ!!」

 

そう言いながらも少女は案内図を見ながら場所を特定し歩いていく。

 

しばらく歩いていると一人の男性とぶつかってしまう。

 

「きゃっ!もう、どこ見てるのよ!」

 

「ああ、すまないな。道に迷ってしまって」

 

年齢は同じ位、身長は平均男性よりも高く、細身だが鍛えられている事が分かるほど引き締まっている。長めの髪を結っており色が青というのが珍しい。

 

「ふーん、ここはIS学園よ?男が入れる場所じゃないはずだけど?」

 

「それなら問題ない。アシュアリー・クロイツェル社の所属でここに来ている」

 

「へ!?アシュアリー・クロイツェル社って・・・あの世界にも進出してる大企業!?そこの所属!?って事はアンタもISを?」

 

少女が口に出そうとしたのを男性は自分の唇に人差し指を立てた。

 

「動かせるが口にしないでくれ。まだ手続きが済んでいないからな」

 

「わかったわ、ところでアンタ名前は?私は中国の代表候補生、 凰鈴音(ファンリンイン)よ」

 

「俺の名か?俺の名前は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アシュアリー・クロイツェル社所属。青葉 雄輔(あおばゆうすけ)だ」




書いていて壁が足りないと感じました・・うぐぐ

一夏はシャナに対して気があると書いていますがもちろんLOVEの方向です。

どうなるかは後々、書きますので大丈夫です。

強いて言えば一夏は何処ぞの絶望総代みたくシャナを奪おうとします




追伸

青葉 雄輔(あおばゆうすけ)は設定を送って頂いた方がいらっしゃいまして此処で登場させました。

彼は鈴と共に編入して来て、政征と接点がある人物でありライバルにもなります。

彼の実力は如何に?


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女の子のテンションってすごいよね

スパロボお約束の戦いの前の平和なシーン


「という訳で、遅れながら織斑君クラス代表おめでとう!」

 

次々と鳴らされるクラッカーの音に一夏は混乱していた。

 

「・・・・なんなんだよ、一体」

 

クラス代表就任パーティーと書かれた紙が置かれている。

 

「まぁ、せっかく開いてくれたんだし邪険にするものじゃないだろ?」

 

「そうだけどよ・・」

 

他のクラスからも集まっているようで、それぞれが友人同士のお喋りで盛り上がっている。

 

「とにかく楽しんでおかないと損だぞ?一夏」

 

「それもそうか」

 

どうやら少しは乗り気になったようだな、よかった。

 

「なぁ?赤野」

 

「なんだ?」

 

「シャナ=ミアさんって、放課後とか何してるんだ?すぐに帰っちゃうみたいだけど」

 

ピキッ・・・。

 

一瞬だけ俺は殺気を強くしてしまった。いけないな、冷静になって答えなきゃ。

 

「彼女は放課後の時間を使って、フー=ルーさんに特訓してもらってるんだよ。ISの戦闘経験なんて全くないからな」

 

「へえ・・・一緒に特訓してみたいな」

 

ピキキッ・・・。

 

コイツ、俺が一番話してるのが長いだけで根掘り葉掘り・・・!っと、まただ!抑えなきゃな。

 

「放課後はフー=ルー先生とのマンツーマンだから無理だぞ?一緒にとか言ったところで追い返されるからな」

 

「本当かよ?」

 

「乗り始めて1週間の奴が教えられるか?」

 

「なら、一緒に特訓するのはできるだろ?」

 

「話を聞いていたか?フー=ルー先生とのマンツーマンの特訓は彼女の必要課題なんだ。フー=ルー先生が所属する会社から学園に提出してたって聞いてるし、邪魔はできないからな」

 

「そっか、機会があれば一緒に特訓したいな」

 

「そうだな・・・」

 

政征は手に持っていたオレンジジュースを一気に煽った。

 

一夏の視線の先には友人達と楽しく談笑しているシャナがいた。

 

クラス代表となった一夏の話題で持ちきりではあるがシャナだけは別の話のようだ。

 

「ふん、人気者だな?一夏」

 

「そう思うか?これが」

 

箒と話している時のテンションがさっきまでとは違いトーンが下がっていた。

 

「オレンジジュース取ってくる」

 

そういって政征は立ち上がり、紙パックからコップにオレンジジュースを注ぐ。

 

「気があるからって俺に聞くなよ、全く」

 

少しだけ独り言を言うように愚痴ると席へ戻った。

 

「はいはい、新聞部でーす。話題の男性操縦者二人にインタビューしに来ました!」

 

「私は二年の黛薫子っていうの、よろしくね?はいこれ名刺」

 

この人は本気でジャーナリストを目指してるんだな、名刺がすごく本格的だ。

 

「まずは織斑一夏君から」

 

「え?えっと・・精一杯自分がやれることを頑張りたいと思います」

 

「もう少しいいコメントちょうだいよ。まだ足りないよ~?そんなんじゃ」

 

「自分、不器用ですから」

 

「うわ、前時代的。まあ、このあたりは捏造するから良いとして」

 

いや、それは可笑しいだろ。というツッコミをしたくなったが堪えた。

 

「それじゃ、次に赤野政征君、お願いしまーす!」

 

「そうですね。きっと一夏はいい代表になると思いますよ」

 

「あれ?赤野君、雰囲気違うね?ISで戦ってる時はこう・・・戦士みたいな口調だったのに」

 

「アハハ、あれはクセみたいなもので高揚しちゃうと出ちゃうんですよ」

 

「なるほどね、それじゃ、次はフー=ルー先生との激戦後のコメントをちょうだい!」

 

「この次はきっと勝ちたいですね」

 

「おお、文句なし。それじゃ男性操縦者二人の写真をちょうだい!」

 

黛先輩がデジタルカメラを取り出して写真の許可を求めた。

 

「わかりました、赤野は?」

 

「構わない、先輩の頼みならね」

 

そう言って一夏と一緒に並ぶ。

 

「そうそう、それじゃ撮るよ?35×51÷24は~?」

 

「えっと・・2?」

 

「74・375」

 

「織斑はブー!赤野君はせいか~い!」

 

パシャっとシャッターが切られると一瞬でクラス全員が写った。

 

「おいおい」

 

「オルゴン・クラウドでも使ったのかな?今の」

 

男性二人は女性陣の行動の速さに驚いていた。

 

「まぁまぁ」

 

「クラスの思い出にぴったりでしょ?」

 

そう言われてしまえば反論はできない。

 

パーティは10時近くまで行われ、お開きとなった。

 

政征とシャナ=ミアは自室へと戻り、軽い雑談をしていた。

 

「楽しそうだったね?シャナ」

 

「はい、同年の友人が出来た事が嬉しくて!」

 

「そうだろうな、同年の友達って出来ると嬉しいから」

 

「本当ですね、今まで見えてなかった所も参考になったりします」

 

雑談するのも良いが明日に響くため、就寝の準備をする。

 

「あの・・政征。お願いがあります」

 

「なんだい?」

 

「一緒に就寝してくれませんか?」

 

「っっ!!!!///」

 

あの日からシャナは積極的になってきていて、俺の理性が危なくなっている。

 

当然、一線は越えていない。越えたら・・・うん、想像したくない。

 

「わかったよ、けど・・・二人きりの時だけだよ?」

 

「はい!!」

 

笑顔で嬉しそうに返事されたら折れるしかないじゃないか・・・。

 

朝、起きた時は抱き締めた状態だったとだけ言っておくよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝になり朝食を済ませ、教室へと入るとかなり賑やかな様子だ。

 

「あ!シャナさん、赤野君!おはよう」

 

「おはようございます」

 

「おはよう」

 

挨拶を交わしていると袖がダボダボの状態で来ている女の子に挨拶された。

 

「あ~ミアミアとユッキーだ~、おはよ~」

 

「おはようございます、本音さん」

 

「おはよう、のほほんさん」

 

彼女の名前は布仏本音、通称のほほんさん。間延びした喋り方と独特の愛称で相手を呼ぶ子だ。

 

シャナに対してはシャナ=ミアだからミアミアと呼び、俺に対しては赤野政征だからユッキーといういかにもという呼ばれ方をしている。

 

「はい、本音さん。約束していたマロングラッセですよ」

 

「ほんと~!?わ~い!」

 

「シャナ・・いつの間に・・」

 

「乙女の秘密ですよ、ふふ」

 

うん、でもこういったシャナも新鮮だな。

 

先程、挨拶を返してくれたクラスメイトが俺とシャナに話しかけてきた。

 

「知ってる?二人共!今日、転校生が来るんだって!!それも二人よ!」

 

「転校生か、珍しいね?こんな時期に」

 

「新しい方が来るのですね、どんな方なんでしょう」

 

シャナも転校生と聞いてどこか嬉しそうだ。

 

「一人は中国の代表候補生で、もう一人は大企業の代表候補に選ばれてるんだって!」

 

「へえ・・なら二人共かなりの実力者って事か」

 

「政征、戦いたいのは分かりますが心を静めてください」

 

「おっと」

 

自分でも無意識に顔へ出ていたようだ。

 

フー=ルー先生との戦い以降、シャナの特訓や自主訓練ばかりで戦いが無い事に退屈していたようだ。

 

未熟だな。戦って勝つ事も大切だけど戦わずに済ます事も大切だ。

 

「中国か・・・」

 

いつの間にか一夏やセシリア、箒達も集まってきていた。

 

「わたくしの存在を危ぶんでの転入かしら」

 

「セシリア、それは傲慢というものだよ?それで負けてしまった事を忘れたのかい?」

 

「あ、いえ・・それは」

 

政征の指摘にセシリアは少しだけ慌て始めた。正論であるために言い返す事が出来ない。

 

「自分以上の実力者はたくさん居るんだから、気を付ける事だよ?セシリアはそれさえ気をつければ強くなれるし、それだけの実力を持ってるんだから。忘れそうになったら初心を思い返せば大丈夫」

 

「は、はい!分かりましたわ。気をつけます」

 

政征のアドバイスにセシリアは自分の悪癖に対して反省を心がけた。

 

「(っ・・寒気が!)」

 

正体は知っている。シャナが俺を笑顔で見ていた、この時のシャナは本気で怖い。

 

「(アドバイスしただけだよ)」

 

「(なら、いいですけど)」

 

聞こえないように小声でシャナに本当の事を話す。どうやら納得してくれたようだ。

 

「けど、みんな一夏には期待してるんだから応えないと」

 

「・・・え?」

 

どうやら一夏はボーッとしていたようだ。理由はわかるから口には出さない。

 

「そうだよ!優勝賞品はスイーツフリーパスなんだから!」

 

「専用機持ちは1組と4組だけだし、優勝はもらったね!!」

 

 

「その情報、古いよ!」

 

いきなりの大きな声で思わず教室のドアの方を向くと、髪をツインテールに結った女の子が八重歯を見せて立っていた。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの、そう簡単に優勝出来ないんだから!」

 

「お、お前・・・鈴、鈴か?」

 

どうやら一夏の知り合いのようで、女の子は軽く笑みを浮かべた。

 

「そう、中国代表候補生 凰鈴音(ファンリンイン)!今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

なるほど、彼女は天性型の人間だ。無意識に物事を荒削りながらに理解してしまう、それだけに吸収が早い。

 

IS学園には努力型と天性型、いわゆる天才型しかいない。

 

天才と呼ばれる人間も己を磨くために研鑽するし、努力型の人間も天才を追い抜こうと研鑽する。

 

要は質の違いでしかない、サイトロンのおかげとは言えこんな事を知ってどうするのか。

 

「それで、一夏。アンタの隣にいるのが二人目の男性操縦者と転入生?」

 

「ああ、俺は赤野政征。よろしく」

 

「シャナ=ミナ・フューラといいます。よろしくお願いしますね」

 

二人が自己紹介を済ませると、鈴は何かを感じたように二人へ笑みを浮かべた。

 

「二人共、羨ましい位に仲が良いのね?」

 

「え!?」

 

「まあ、な?シャナとは付き合いが長いから」

 

鈴の言葉に動揺してるシャナをフォローにするために、政征はやんわりと関係を隠した。

 

「ふーん、それじゃ。また後でね?特に一夏!逃げないでよ!?」

 

そう言って鈴は自分のクラスである二組へと戻っていった。

 

「おい・・・」

 

「ん?」

 

振り返ると一夏が気に入らないと言いたげな目で政征を睨んでいた。

 

「どういう事だよ?シャナ=ミアさんと付き合いが長いってのは!?」

 

「お前が篠ノ之さんと付き合いが長いのと一緒さ、それだけの事になんで俺が責められなきゃならないんだ?」

 

「う・・それは」

 

「貴様!一夏に向かって!」

 

箒が会話に割り込もうとしたが意外にもそれを咎めたのはシャナだった。

 

「篠ノ之さん、ここは政征が正しいと思います。貴女も一夏さんとの事を責められたら嫌でしょう?」

 

「な・・・ぐっ」

 

「お前達、何をしている?SHRが始まる時間だ、席に付け」

 

「皆様もお静かにお願いしますわ」

 

フー=ルーさんは日数を満たし、一組の副担任補佐としてIS学園の教師となった。

 

山田先生もいるが彼女を手助けする事と勉強も兼ねて補佐になっている。

 

 

「では、授業の前に重大な発表がある。本日このクラスに三人目の男性操縦者が来ることになった!」

 

千冬の発表にクラスの中が騒がしくなり始める。

 

「お静かに!織斑先生の話は終わっていませんわよ!」

 

フー=ルーの声にクラスは静けさを取り戻した。

 

「今、廊下で待たせている。入ってこい」

 

「はい」

 

教室のドアが開き、その人物が入ってくる。

 

青い長髪を一本に纏めており、左頬にはフューリー特有の紋様がある。

 

平均男性よりも高い身長、鍛えられた筋肉、それだけでもかなりの実力者である事が伺える。

 

彼の纏う雰囲気は政征とは違った性質の騎士の雰囲気そのもの。

 

政征を「動」の騎士。炎のような荒々しさで表すのであれば、転校生の彼は「静」の騎士。湖のように静かな力強さを表す事ができる。

 

「青葉、自己紹介を」

 

「はい。青葉雄輔といいます。趣味は読書とゲーム、それに鍛錬。嫌いなのは女尊男卑と漬物。これから同じクラスとして仲良くしてくれると嬉しい。よろしく」

 

「き・・・」

 

「あ、やばい!シャナ、早くこれ着けて!」

 

「え?は、はい」

 

「「「「「キャアアアアアアアアアアアアア!!」」」」

 

耳栓が間に合ってハウリングボイスを聞かないで済んだようだ。

 

「男子!三人目の男子よ!!」

 

「青い髪って神秘的でいいわ~!」

 

「それに背も高くてクールな雰囲気!」

 

「ああ、お母さんありがとう!本当に!」

 

「今年は捗るわ!織斑、赤野、青葉の3Pじゃああ!!」

 

またよからぬことを考えてる輩がいるような気がするな。

 

耳栓を外すとシャナもそれに習い、耳栓を外した。

 

「席はちょうど赤野とフューラの間が空いているな。そこに座れ」

 

「分かりました」

 

雄輔は指定された席に座り、二人に挨拶した。

 

「二人共、よろしく」

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

「ああ、よろしくな?」

 

おかしい、俺は何処かでコイツを知っているような気がする。青葉・・・雄輔、雄輔・・まさか!?

 

「それでは授業を始める」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業終了後、赤野と青葉はシャナを交えて話をしながら食堂へ向かっていた。

 

「まさかの再会じゃねーかよ!本当に嬉しいぜ!雄輔!!」

 

「ああ、こっちもだ!政征!!」

 

二人は拳を軽くぶつけ合い、再び友情を確かめ合っていた。

 

「あの、政征。この方は一体?」

 

シャナは少しだけ不安そうに政征に訪ねてきた。

 

「あ、ごめん!シャナ!!コイツは俺の親友だよ。ちょうど5年くらい前から連絡取れなくなって少し疎遠になってたんだ」

 

「今更だがな、こうして再会できたのが本気で嬉しいんだ」

 

「そうだったのですね、確かに5年という時間は長いものですもの」

 

シャナも納得し会話の中で笑顔を見せるようになっていた。

 

「なあ?政征、もしやと思ってたがお前、シャナ=ミア様と付き合ってるのか?」

 

「ああ、今はまだ公表してないけどな。シャナと俺は恋人関係だ」

 

男性二人は小声で周りに聞こえないように話を勧めている。

 

「そうか、おめでとうよ。俺は二人を応援するからな」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

「はは、俺は本当に最高の友を持ったよ」

 

 

食堂へ着くと一夏達はちょうど食券を食堂の人達に出している所だった。

 

「さて、俺は味噌鯖定食にするか」

 

「じゃあ・・俺はおろしハンバーグ定食」

 

「私はパスタにします」

 

食券を買い、お盆を用意して食券を食堂の係の人達に渡す。

 

それぞれの食事の用意が出来ると席を探したが、一夏達の席しか空いていないようだ。

 

「みんな、悪いが相席頼めるか?」

 

「あ、政征さん。ええ、わたくしは構いませんわ」

 

「俺も良いぞ」

 

「私も構わない」

 

「私もよ!」

 

承諾を貰うとそれぞれが席に着いた。

 

「あ、雄輔じゃない!アンタ、1組になったのね」

 

「鈴か。ああ、今日から正式にIS学園の生徒だ」

 

「?青葉の事知ってたのか?鈴」

 

「知り合ったのは今朝なんだけどね?お互いにこの学園の受付が分からなくて一緒に行ったのよ」

 

一夏の疑問に鈴は普通のことに様に説明する。

 

「なるほどな」

 

一夏は周りに気づかれないようわずかな間だけ、視線をシャナに向けていた。

 

「で、ちょっと!聞いてるの!?一夏!!」

 

「え?ああ、悪い。特訓だっけ?」

 

「そう、私が見てあげようかって言ってるの!」

 

シャナを見るのに集中していたようで一夏は鈴の話を半分しか聞いていなかったようだ。

 

「おお、それは助か」

 

「一夏はの特訓を見るのは私だ!一夏に頼まれたからな!」

 

「そもそも貴女は二組でしょう?わたくしが見ますわ!!」

 

箒とセシリアが立ち上がって鈴に敵意を向けていた。

 

そんな中、政征達は食事を終えて立ち上がるところだった。

 

「喧嘩するのもいいけど、昼食の時間が終わるよ?」

 

「遅刻してもいいなら止めないけどな」

 

「私も行きますね」

 

三人は食器を片付け、雄輔を中心に政征とシャナは左右に並んで出て行った。

 

「(・・・ああ、行っちまった)」

 

三人が喧嘩している中で一夏だけは静かに気落ちしていたのだった。




嫉妬の嵐だよ!これ!!

一緒に寝ても抱きしめてるだけだから一線は越えてないよ。

越えたらアル=ヴァンさんとフー=ルーさんが合体攻撃してきちゃうよ。

狙ってる女の子がすぐ近くの男子と恋人関係だって知ったらどうなるのか?

次はシャナの特訓風景、一緒に特訓を持ちかけてくる一夏達

その現場を兎は静かに見ている。

兎のもとに現れる、灰色の騎士機。それを駆る騎士は兎に頼み込む。

「君の技術を貸してもらいたい」

作業用BGMにMDアレンジの[Fate]かけると捗るのは何故?


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特訓って辛いけど成果が分かると嬉しいよね

政征、スパロボJのジュア=ム(狂)状態になる。

以上





※補足

上記はスパロボJやMDをプレイした方には分かると思いますが、セリフや風景描写によっては今回の話はかなりの嫌悪感を持たれると思いますので注意書きをしておきます。

それでも大丈夫という方だけお読み下さい。

今回から嫌悪感を持ちそうなシーンを書く場合は注意書きします。


授業が終わり、放課後のアリーナにおいて三人の人影があった。

 

三人全員がISを展開しており、話し合っていた。

 

「それがお前の機体か?雄輔」

 

「ああ、お前と同じラフトクランズだ。正式名称はラフトクランズ・モエニア」

 

「モエニア・・ラテン語で城壁か。堅牢そうな名前だな」

 

「あの、特訓を始めてもらえませんか?」

 

「わかった、俺だと加減しちゃうかもしれないから雄輔、頼む」

 

「ああ」

 

シャナの催促に促され、政征はピットから二人の戦いを見物する。

 

「シャナさん、手加減はしないからな?」

 

「私もです、いつまでも弱いままではないのです」

 

試合開始のブザーが鳴り、戦闘が始まる。

 

「オルゴン・ブラスター!行ってください!!」

 

シャナの機体は玉座機であるグランティードがISの形となったものだ。

 

サイトロンによる操縦補助によってある程度は操縦も可能だ。

 

フー=ルーとのマンツーマン指導によって戦闘もこなせるようになってきている。

 

先制攻撃で放たれたオルゴンエネルギーを雄輔は回避する。

 

「オルゴン・ブラスター?グランティードなのか・・・あの機体」

 

機体の正体を知って冷や汗をかいた。グランティードは遠距離、中距離、近距離をこなす事のできる万能型の機体だからだ。

 

相手が皇女だと思って甘く見ていた部分があった。しかし彼女は今、剣を持つ皇女に成長し始めている。

 

「全力で行かないと負けるか、これは、な!!」

 

雄輔は反撃に移り、ソードライフルをライフルモードにし、単発のエネルギー弾をガンスピンを交えて放った。

 

「!!政征とは違って拡散しているのですか!あっ!?」

 

グランティードの肩に当たり、エネルギーが削られる。

 

政征はそれを黙って見ているままだ。皇女であり、自分の恋人であっても一度戦場に立てば、男女など関係ないからだ。

 

「雄輔さんは正確な一撃、それを支える冷静さを持っているんですね。政征とは違った戦い方で参考になります」

 

「見事な観察眼だ。あの攻撃だけでそこまで見抜くなんて」

 

「私も接近戦で参ります!テンペスト・ランサー!」

 

オルゴナイトの結晶によって作られた槍を構え、スラスターを吹かせ、接近する。

 

「なっ!?ここでテンペスト・ランサー?ISになった事で接近戦の武器になったのか!それなら、オルゴン・マテリアライゼーション・・・・!」

 

ライフルモードだったソードライフルをソードモードに切り替え、刀身を形成する。

 

「はあああ!!」

 

「っ!?突きが速いっ!」

 

グランティードから放たれる槍の突きが雄輔を追い込んでいく。

 

これはシャナ自身の努力とサイトロンの補助によるシンクロ効果によるものだ。

 

「っ!うおおお!!」

 

強引に槍を捌き、オルゴンソードを振り下ろす。

 

それを慌てた様子も無くシャナは反撃した。

 

「フィンガー・クリーブ!オルゴナイトモード!!」

 

「何!?しまった!うああああ!」

 

この戦いで初めて地に着いたのは雄輔だった。シャナはテンペスト・ランサーを戦略に使い、フィンガー・クリーブによる一撃を打ち込んだのだ。

 

「まだ、終わりませんよね?」

 

砂煙から僅かに三つの輝きが見えてくる。

 

「チャージ完了!オルゴンキャノン!広域モード、ヴォーダの闇へ逝け」

 

「この砂煙の中でオルゴンキャノン!?きゃあああ!!」

 

放たれたオルゴンキャノンはグランティードの左腕部に当たってしまう。

 

それと同時に時間切れ伝えるブザーが鳴る。

 

「あら?時間切れですか?」

 

「みたいだな、これからだったのに」

 

「引き分けですか?」

 

それを聞いた雄輔は首を横に振った。

 

「地に着けられたからな、その時点でシャナさんの勝ちだよ。でも、これは本当の勝利じゃない、相手を倒して始めて勝利なんだ」

 

「はい」

 

「二人共、お疲れ様。はいドリンク」

 

「ありがとうございます」

 

「助かる、ふう」

 

三人がそれぞれ休憩しているとアリーナに誰かが入ってきた。

 

一夏、鈴、セシリア、箒の四人だ。

 

「あれ?シャナ=ミアさんや赤野達もいたのか」

 

「そっか、アンタ達が訓練してたのね」

 

「お疲れ様ですわ」

 

「ふん・・・」

 

 

 

やはり、一夏の視線はシャナに向いている。その視線、ストーカーみたいだぞ

 

「ああ、ちょうど休憩してるところさ」

 

「そう、じゃあ・・先に使わせてもらうわね。一夏!行くわよ!!」

 

「え、ああ・・わかった」

 

一夏は乗り気でない声を出しながら鈴達とアリーナで訓練を始めた。

 

一時間半もした時には全員が休息をとっていた。

 

「なぁ、シャナ=ミアさんと模擬戦してみたいんだけどいいか?」

 

「え?私とですか?」

 

「ああ、シャナ=ミアさんの機体がどんなのか気になってさ」

 

一夏はこちらの意見を聞く耳を持っていなそうだ。

 

「雄輔、オルゴン・クラウドの転移をいつでも出来るようにしといてくれ。万が一のために」

 

「?ああ・・わかった。迂闊にラースエイレムを使うわけにもいかないしな」

 

「頼んだ。俺はいつでも出られるようにしておく」

 

騎士の二人はこっそりと相談して一夏へ近づいた。

 

「俺達は構わない、色んな相手と戦う事は学べるしな」

 

「政征の言うとおりだな、俺は織斑の機体を見てみたい」

 

そうしてシャナと一夏の模擬戦の準備が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(シャナ=ミアさん、やっぱり綺麗だよな)」

 

「一夏ー!ちゃんと集中しなさい!負けるわよ!!」

 

「女の子に負けられるかってんだ」

 

変に意気込む一夏は自分の状態を把握していなかった。機体が万全でも操縦者が万全でないならコンディションは落ちるからだ。

 

「行きますよ、一夏さん」

 

「おう!こっちも行くぜ!!」

 

試合開始のブザーが鳴り、戦闘が始まる。

 

「これで行きます!オルゴン・スレイブ!」

 

菱の形をしたエネルギーが一夏へ向けて発射される。

 

「うお!?すごいな・・・機体も綺麗なだけじゃないって事か」

 

オルゴン・スレイブは射程こそ長いが、形の大きさゆえに照準を合わせづらい。

 

そのデメリットによって一夏に回避されてしまう。

 

「俺だって負けないからな、うおおおお!!」

 

「ブレードによる接近戦ですか!なら、テンペスト・ランサー!!」

 

オルゴナイトの結晶の槍を持ち、ブレードを受け止める。

 

「く・・ううう!」

 

「腕力で女の子には負けねえよ!」

 

ここで差が出てきたのが純粋な筋力だ、シャナにとって競り合いは最も苦手としている。

 

「ねえ・・・一夏の奴、何かおかしくない?」

 

「そうですわね、まるでシャナ=ミアさんが疲れてくるのを待っているみたいに」

 

「それは普通の事だろう」

 

鈴、セシリアは一夏の戦い方に対して違和感を抱いていた。

 

本来ならば一撃必殺を狙うのが白式の正しい戦い方であり、今の戦いは競り合いを続けている。

 

違和感を戦略として見ている箒には一夏の狙いなど分かるはずがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう・・・」

 

「もらった!シャナ=ミアさん!!」

 

テンペスト・ランサーを雪片で弾き飛ばすと同時に、一夏はシャナの両腕を掴んだ。

 

「な、何を!?」

 

「やっぱり綺麗だな、間近で見ると本当に・・・」

 

「何を言っているのですか?今は訓練の最中ですよ!?」

 

シャナは声を荒らげて怒鳴るが、今の一夏の耳にそんな声は聞こえていない。

 

「シャナ=ミアさん・・・俺」

 

一夏の顔が迫ってくる、普通の女性ならば嬉しい状況のはずがシャナにとっては恐怖でしかなかった。

 

「嫌!嫌ぁ!!助けて!!」

 

首を振って拒絶の意志を示し、シャナの悲鳴がアリーナに響くと同時に待機していた二人の騎士が転移する。

 

「何を・・・やって・・!いる!!!」

 

駆けつけた政征と雄輔はシャナを守るように立ち塞がり、クローシールドで一夏を殴り飛ばした。

 

「ぐはあっ!?」

 

殴り飛ばされた一夏はアリーナの地に叩きつけられた。

 

「大丈夫か?シャナ」

 

「どうやら無事のようだな」

 

シャナは恐怖で震えており、政征達の後ろに隠れていた。

 

「うう・・なんだよ!?模擬戦中に!」

 

立ち上がって来た一夏を無視し、政征は雄輔に頼みごとをしていた。

 

「雄輔、シャナとグランティードを回収してアリーナの観客席へオルゴン・クラウドで転移してくれ」

 

「政征?」

 

「頼む・・・もう堪えるのが限界なのだ。だから、頼む」

 

政征の頼みに雄輔は頷いた。自分には分かる、こうして冷静な口調で話しているのもギリギリなのだということが。

 

「わかった。だが、怪我だけはするなよ?」

 

「政征」

 

雄輔はシャナとグランティードを回収し、オルゴン・クラウドによる転移を使って観客席まで距離を開けた。

 

「無視すんな!模擬戦中に乱入して恥ずかしくないのかよ!!」

 

「黙れ!!!!!!」

 

政征の目には明確な怒りが宿っていた。それでも冷静な口調なのはラフトクランズ・リベラのおかげなのだろう。

 

「お前は何をしていた、あれが模擬戦だと?女を手篭めにしようとするようにしか見えなかったぞ!!織斑一夏!!」

 

政征は理性が僅かながら残っていた。今すぐにでも攻撃したいがそれをしないのは騎士として話を先にするべきだと思っているからだろう。

 

「あれは普通の事だろ?武器を無くして掴まれるなんて有り得ることじゃないのか?」

 

 

 

[推奨BGM 『Moon Knights』MDアレンジ]

 

 

 

 

 

ブチッ・・・・。

 

その言葉を聞いた瞬間、政征の中にある理性の糸と堪忍袋の尾が完全に切れた。

 

「ふざけんじゃねぇぇ!!このカスがぁ!」

 

言葉と共にソードライフルをライフルモードに展開し、ガンスピンを交えて一夏へ放った。

 

「な、なんだよ!?うわっ!?」

 

回避するも最後の三発目に当たってしまい、そのまま転がるが唯一の武器である雪片を手にした。

 

「うがあぁあぁっ!!殺す殺す殺す殺す殺ぉす!!!」

 

戦いにおいて政征は戦場にいる覚悟を持ちながらも、騎士としての威厳は失っていなかった。

 

だが、今の政征は理性を失い威厳さえかなぐり捨てて一夏を倒そうとしていた。

 

「不意打ちなど卑怯だぞ!恥を知れ!!政征!!」

 

「うるっせえええええええんだあああああああああ!!」

 

箒が言葉を発したがその数倍の怒号に箒は怯んでしまった。

 

狂気と怒りが頂点に達している政征にとって、箒の言葉は火に油を注ぐ行為と同義だ。

 

「箒に声を荒らげやがってええええええええ!!!」

 

通常状態のブレードで政征に斬りかかるが政征は防御をしなかった。直撃したはずだが政征に応えた様子はない。

 

「ふん・・・効かねえ効かねえ効かねえぇぇぇ!!そんな程度じゃあなぁぁ!」

 

「なっ!?」

 

 

一夏は今の政征に恐怖を感じていた。遊びではなく本気で潰そうとしている、狂気の騎士に対して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒以外のメンバーは政征の怒りと狂ってるかのような状態に震えていた。

 

「ア、アイツ、マジギレしちゃってない!?かなり不味いわよ!あのバカ!導火線に火をつける真似して!」

 

「こ、怖いですわ・・・。政征さんが情け容赦が無くなると此処まで」

 

鈴はなんとか恐怖に耐える事が出来ていたが政征と戦った経験のあるセシリアは恐怖から顔を青ざめさせていた。

 

「くっ、くそ!こうなったら!!」

 

一夏は切り札である零落白夜を使おうとしたがそれは叶わなかった。

 

「零落白夜は使わせねえええ!!砕く砕く砕く砕く!!砕いてやるってんだよォ!!」

 

目の前の相手がシールドクローのクローを展開し、白式を纏った一夏を捉えていたからだ。

 

捉えると同時にアリーナの地に叩きつけ、引き摺られ続ける。

 

「うあああああああ!!」

 

「まだだぁ!!」

 

遠心力を着けて投げ飛ばし、そのまま叩きつける。

 

「ぐはぁっ!?ううう・・・」

 

「圧壊しろぉよ!死ね死ね死ね死ねえ!!」

 

更には展開を解除したシールドクローを突き刺し、そのまま展開したのだ。

 

白式のシールドエネルギーが完全に枯渇し、一夏は気絶寸前だった。

 

「まぁだ、生きてやがるのかぁ!!」

 

政征が止めを刺そうとクロー振り上げた瞬間だった。

 

「止めろ!!」

 

「止めて下さい!!」

 

それを止めたのは雄輔とシャナの二人だ。

 

「もう止めろ、そのまま無傷のままで終わらせろ」

 

「私は大丈夫です!ですから剣を収めてください!政征!!」

 

二人の訴えに政征は冷静になり、シールドクローを下ろした。

 

「ちっ・・・白けちまった。でも、シャナが無事だったからいい」

 

「行くぞ?フー=ルー先生に報告しないとな」

 

「私も行きます」

 

ISを解除し三人はアリーナへの出口へ向かった。その途中で鈴、セシリア、箒の三人は政征の口から確かに聞こえた言葉が頭の中で響いていた。

 

 

「シャナを傷つけるならお前達でも許さない」と。




とうとう、政征がキレました。

目の前で自分の恋人が他の男に襲われてたらそりゃキレるよね。

ちなみにボコボコされた一夏はシャナに両手を封じてキスしようとしてました。

鈴とセシリアはそれに気づき、助けようとしていましたがアリーナのバリアに阻まれて無理でした。

政征はこの後、反省文を書いてます。白式は無事です。


そろそろアンケートを締め切ろうと思います。次のアンケートは誰を強化対象にするかです。



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反省を活かす人って強いよね

助けようとして助けられなかったのは後悔する


ある少女の初恋が終わる。

以上


特訓中のアリーナでの出来事をフー=ルー先生、立ち合いのもと織斑先生にも報告した。

 

「そうか、そんな事が」

 

「織斑先生、今回は彼らが止めてくれましたが彼のやったことは許されませんわ」

 

「戦闘としては正しい事をしているが、人としては許せんな」

 

フー=ルー自身も皇女が危険な目にあったと聞けば守ろうと動くだろう。

 

それだけ今回の出来事は重大だったという事だ。

 

「政征には反省文15枚だ、あの馬鹿には反省文40枚と厳重注意をしておく」

 

そう言うと額に手を置いて千冬は去っていってしまった。

 

「今回の件、会社にも私から報告しておきます。貴方達は教室へ戻りなさい」

 

「分かりました」

 

「失礼します」

 

「それでは、失礼します」

 

職員室を出て三人は教室へと向って行き、その途中で誰かが待っていた。それは鈴とセシリアだった。

 

二人は申し訳なさそうな顔で頭を下げた。

 

「ご、ごめん!私、気付いたのに助けに行けなくて!!」

 

「わたくしもです!本当に申し訳ありません!!」

 

必死な二人に政征達は顔を上げてくれと伝えた。

 

「何もしなかった訳じゃないなら、反省して次に活かせばいいんだよ」

 

「今回は俺達だけしか対応できなかったからな」

 

「お二人が気に病む事はありません」

 

政征は二人が反省していること、雄輔は状況を冷静に考え、シャナは二人に対して許していた。

 

「う・・ありがとう」

 

「ありがとう・・ございます」

 

二人は許してはくれないだろうと思っていたのだろう、目が涙目だった。

 

「鈴さん、セシリアさん、改めて友人となって下さい」

 

「もちろんよ!あんなのを見せられたら、アンタの代わりにアイツをもっとぶん殴ってやるから!!」

 

「シャナさん、わたくしも貴女とは良き友人になりたいですわ」

 

五人は雑談しながら教室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、一夏。私がここへ呼んだ理由が分かるか?」

 

千冬と一夏は今、生徒指導室にいた。一夏は姉からの呼び出しに疑問を持っていたが素直に着いて来たのだ。

 

「千冬姉、俺が何をしたっていうんだ!?」

 

「織斑先生だ。聞いた話によれば、お前は模擬戦中にフューラに対してふしだらな事をしようとしたそうだな?」

 

「あ、あれは捕まった場合を想定して!」

 

パンッ!と乾いた音が響く。千冬は一夏の頬を引っぱたいた音だ。

 

「大馬鹿者!!捕まったのを理由に異性に対してふしだらな行為に及ぶのがお前の想定か!?」

 

「っ・・・」

 

千冬はいつになく怒っていた。模擬戦で相手を組み伏せるのは構わない。だが、動けない女性に対して欲望をぶつけるとなれば話は別だと訴えている。

 

「お前には反省文40枚と臨海学校が終わるまでフューラに近づくことを禁止する!!」

 

「なっ!?」

 

「わかったな?早く教室へ戻れ。もし、違反すれば更にペナルティがあるのを忘れるな」

 

要件を伝えると千冬は指導室から出て行った。一夏は与えられた罰に納得がいかなかった。

 

「・・・くっ!」

 

歯を噛み締めると自分も指導室から出ていき、自分のクラスへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室内では政征、雄輔、セシリア、シャナの四人が雑談をしていた。

 

途中でのほほんさんも加わり、笑い合っている。

 

一夏が戻ってくるとシャナ以外の4人がシャナを守るように囲んだ。

 

女性の噂話は早いもので、一夏がシャナに対し何かをしようとしていたという噂が立ったのだ。

 

内容は具体的では無かった為に噂は噂程度にしか認識されていない。

 

4人の中で一夏は政征だけを一瞬だけ睨んだ。お前がいなければという意志が感じられるには充分だ。

 

政征からすればそんな睨みは意に介していなかった。守るべきものを守れず、感情のまま暴走してしまった思いだけが後悔として渦巻いていた。

 

「チャイムが鳴ったぞ!席に付け!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日数が過ぎていき、クラス代表トーナメントの日がやってきた。

 

一夏の初戦の相手は鈴だ。その目には何が何でも殴らないと気が済まないという意志が見て取れる。

 

「一夏・・本気でぶん殴るから覚悟しなさい!!」

 

「なんでだ!?鈴が怒るような事をしたか?」

 

「アンタ・・自分で何をしようとしていたのか解ってないの!?そこまで最低だったなんて、もういい!問答無用よ!!」

 

自分の初恋がここで終わったと鈴は改めて自覚した。シャナが悪い訳ではない、自分の欲望を彼女に押し付けようとした目の前の一夏(おとこ)が悪いのだと。

 

試合開始のブザーが鳴り、鈴は二本の青龍刀を手に斬りかかる。

 

「っく!?攻撃が重い!」

 

「許せないのよ・・今のアンタはね!大サービスよ!これを持って行きなさい!!」

 

剣の押し合いをしている中、鈴のISの両肩のアーマーがスライドし最大出力で何かを放った。

 

「ぐあああああ!?」

 

その威力で吹き飛ばされた一夏はアリーナの壁に激突し、そのまま崩れ落ちそうになるのを堪える。

 

「左のがイカレちゃったか・・まぁ、少しは気が晴れたわ」

 

「う・・・ぐ、何だよ、今のは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナの入口付近でセシリア、シャナ、政征、雄輔の四人は戦いを見ていた。

 

このような場所で見ているのには理由がある。

 

大会の二日目前に千冬が謝罪を兼ねて頭を下げに来たのだ。

 

その過程で。千冬は一夏にシャナを近づけないよう頼み込み、騎士の二人を護衛として、セシリアは友人としてこの場に来ている。

 

 

「今のは・・・一体」

 

「あれは衝撃砲というものですわ。空間に圧力をかけ、砲身を生成しその際に発生する衝撃を砲弾として撃ちだしたのです」

 

「セシリアさんはすごいですね、説明が分かりやすかったです」

 

セシリアの説明にシャナは驚き、笑みを見せた。

 

「いえいえ、いつか戦う相手となるのですから、情報をしっかり集めていただけですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合も白熱し、盛り上がりを見せ始める。

 

「負けるかよ!俺は・・・千冬姉の名前だけでも守る!」

 

「今のアンタがそんな言葉を口にするな!口にした言葉の重みを少しは理解しなさいよ!!」

 

鈴の攻撃は二刀の青龍刀を左右に持ち、一夏の斬撃を流しながら反撃し続けている。

 

一夏の斬撃も精度が上がっているようで、鈴だからこそ簡単にさばいているように見えるのだ。

 

「っ!サービスしすぎたわね!(衝撃砲じゃなく直接拳が使えれば状況は変わるのに!)」

 

「どうした?焦ってるように見えるぜ?」

 

「冗談でしょ?アンタなんかに負ける理由がないわよ」

 

一夏の指摘を軽口で返すが鈴は内心、焦っていた。

 

愛機である甲龍に無茶をさせ、龍砲を一つ修理不可能な状態にしてしまったからだ。

 

一夏が鈴へ追撃しようとした瞬間、アリーナ全体が揺れた。

 

アリーナのシールドが破壊され、そこから三機のISらしき機体が侵入してきた。

 

 

「おい、あれって・・!!」

 

「ああ、間違いない!真っ黒に塗装されてISになってるがリュンピーとドナ・リュンピー、それにガンジャールだ!」

 

「嘘だろ!?あれはアシュアリー・クロイツェル社にしか無いはずだ!」

 

政征と雄輔は侵入してきた機体の特徴を見ただけで判断し名前を口にした。

 

「っ、どうする!?」

 

「政征、お前はシャナさんを連れてフー=ルー先生の所へ行け!」

 

「わかった!セシリアさん!!生徒みんなの避難誘導を頼む!!」

 

「ええ!お任せ下さい!!」

 

それぞれが行動を開始し、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フー=ルー先生!!」

 

「分かっていますわ、皇女は私が守ります。早く友人のもとへ行きなさい!」

 

「政征、気をつけてくださいね」

 

「ああ、行ってくる!」

 

廊下でフー=ルーと合流した政征はシャナを彼女に託し、来た道を戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナでは鈴と一夏が三機相手に時間を稼いでいた。

 

「もう!あの砲台みたいな奴!厄介だわ!」

 

「(シャナ=ミアさんは避難したみたいだな)」

 

一時的に協力してガンジャールは撃破したが、ドナ・リュンピーとリュンピーの連携に苦戦している。

 

リュンピーが接近戦で足止めし、ドナ・リュンピーが砲撃で強力な一撃を放つ。

 

戦術の基本だが、接近戦が主である鈴と一夏に対しては効果的な連携となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

政征は避難誘導を行っていた雄輔と合流した。

 

「すまない、待たせた!」

 

「シャナさんは大丈夫みたいだな、行くぞ!」

 

リベラとモエニア、自由と城壁の名を冠する騎士の剣(ラフトクランズ)を展開し、オルゴン・クラウドによる転移でアリーナへと侵入する。

 

鈴と一夏のISのエネルギーは枯渇寸前であり、回避がやっとの状態だった。

 

「っ!もう、持たない!」

 

「鈴!!」

 

一夏の声に鈴は前を向くとリュンピーがエネルギーソードで切りかかろうとしていた。

 

「あ・・・」

 

鈴は死を覚悟し、目を瞑ったが攻撃が来ないことに違和感を覚え目を開いた。

 

「間に合ったか」

 

「え?政征!?」

 

目を開くと鈴の前に立ち、リュンピーの斬撃をクローシールドで防御しながら押し返している政征の姿があった。

 

「援護する。オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

ソードライフルをソードモードに変更し、リュンピーの右腕を攻撃する。

 

「あ、あんた!何て事してるのよ!?あのISには人が!」

 

「よく見ろ、攻撃した部分を」

 

鈴が咎めようとしたが政征に言われた通りに視線を移すと、攻撃された部分からは火花が走り、配線のような物が飛び出ていた。

 

「まさか、あれって」

 

「どうやら、無人機のようだ」

 

「そうか、なら!遠慮なく倒せるって事だな!」

 

一夏は雪片を支えに起き上がった。それと同時にアリーナ全体に響くような声がした

 

 

「一夏ぁっ!!」

 

 

声の正体は箒だった。アリーナの放送室に侵入し、マイクで叫んでいる。

 

「男なら・・・男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!!お前の剣はそんなにも脆いのか!?」

 

 

一夏に激を飛ばしているようだが戦場になっているアリーナでは何の意味もなさない。

 

死地に無防備のまま飛び込んできて拡声器を使い、声を出しているようなものだ。

 

「何やってんのよ!?アイツは!!」

 

「バカな!何をしているのだ!?死にたいのか!」

 

「!!まずい!」

 

ドナ・リュンピーが放送室に狙いを定め、足を固定していた。

 

「間に合え!!」

 

それに気づいた雄輔が放送室がある窓の前に突撃する。

 

ロングレンジキャノンが三発発射され、雄輔のラフトクランズ・モエニアがクローシールドを使い防ぐ。

 

「ぐっ!があああああ!?」

 

二発までは防ぐことが出来たが、三発目の衝撃でクローシールドを掲げていた左腕が裂傷する。

 

「雄輔!」

 

「構う・・な!オルゴンキャノンで殲滅する!」

 

「わかった!鈴、接近戦が出来る機体の方を誘導できるか?」

 

「任せなさい!それくらいなら出来るわ!」

 

鈴が誘導する前に向かっていく影があった。それは白式を纏った一夏である。

 

「一夏!?バカ!何やってるのよ!!」

 

「誘導くらいなら俺だって出来る!お前達だけに良い格好させるかよ!うおおお!!」

 

雪片で弱っていたリュンピーをドナ・リュンピーの近くへと一夏は押し出す。

 

その一瞬を逃さず、チャージが完了していたオルゴンキャノンを展開し政征と雄輔が同時に照準を合わせた。

 

「「チャージ完了!!オルゴンキャノン!広域モード!」」

 

「ヴォーダの深淵を垣間見よ!」

 

「ヴォーダの闇へと還るがいい!」

 

上と横から発射されたオルゴンキャノンによって侵入した二体は破壊され、動く事が無くなった。

 

 

「ッ・・痛ぅ」

 

「ちょっと!大丈夫!?」

 

負傷した雄輔を心配し、鈴が駆けつける。雄輔の腕からは血が流れているが重傷ではないようだ。

 

「流石に衝撃までは逃がせなかった」

 

「手当しないといけないわね、付き添うわ」

 

「すまない」

 

「政征!一夏も!処理は教員部隊に任せて行くわよ!」

 

鈴の声に政征は地に降りると同時にISを解除し、一夏もそれに倣って解除した。

 

「ああ、今行く」

 

「(見ててくれたはずだよな)待ってくれ!」

 

政征達は雄輔を保健室へ連れて行くためにアリーナを後にした。

 

 

 

その後、破壊された機体は回収され解析もされたが無人機であること以外全てが不明という結果に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無人機のテストとしては上々だねー!ふふん!」

 

研究施設のような場所で一人の女性が戦闘が起きていたアリーナの映像を見ていた。

 

「量産機としては合格だね!これでゴーレムの代わりにもなるし、問題は」

 

「あの機体だよ・・ラフトクランズだっけ?気に入らないね、この私が知らない機体だなんて」

 

「いずれ解析してみたいなぁ・・・騎士の機体を」

 

女性は舌なめずりするように、並び立った二機のラフトクランズの映像をずっと見続けていた。




マップ兵器を連続で撃つのはマジで勘弁してください。


皆様の中には分かる方がいらっしゃると思いますが、鈴がある機体に対してフラグを立てました。

スパロボの隠し機体のような感じです。

それと、アンケートを明日の1時にて締め切ろうと思います。

乗り換えあったら・・・どうしようかな?というのが正直な心境です。


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他の人の力を借りるって恥じゃないよね

雄輔が騎士として守るものを模索する

転校生二人登場


以上


「はい、これで手当は終わったわよ」

 

「感謝する、鈴」

 

「良いのよ、この位」

 

負傷した雄輔を手当するために鈴と共に保健室に来ていた。

 

一夏と政征は千冬に呼ばれ、先に会議室へ向かっていた。

 

鈴と雄輔も手当が終わり次第、会議室へ来るよう言われている。

 

「会議室へ行きましょう」

 

「ああ」

 

会議室に入ると、今回のアリーナ襲撃事件において関係した人物達が全員いた。

 

「さて、最初に名乗りましょう。私はIS学園学園長、轡木十蔵と申します」

 

この場にいる生徒全員が驚いていた。IS学園の学園長は女性とばかり思っていたからだ。

 

「では、会議を始めましょう。今回の襲撃事件において、です。織斑先生」

 

「はい」

 

千冬が前に出て資料を手に取り、説明を始めた。

 

「襲撃してきた機体はISであり、同時にパイロットの居ない無人機である事が確認されました。更に、この場には居ませんがフー=ルー教諭によると襲撃してきた三機はアシュアリー・クロイツェル社において訓練機とされている機体だという事です」

 

「ふむ、では。アシュアリー・クロイツェル社の企業代表候補生である赤野政征君と青葉雄輔君の意見を聞きたいと思います」

 

轡着学園長の言葉に二人は頷いた。

 

「分かりました」

 

「どこから話せば良いでしょうか?」

 

「そうですね、機体に関してという所からお願い致します」

 

「分かりました、お話します」

 

二人は一歩前に出ると電気が消え、スクリーンに写った画像を基に話を始めた。

 

「まず、この平均的な機体がリュンピー。バランスがよく距離を選ばない戦いが出来ます」

 

スライドを移動させ、次に肩が膨らんだ機体の説明を雄輔が担当する。

 

「次に肩が膨らんでいる機体をガンジャールといい。射撃武装はありますが牽制程度にしか使えません。最も接近戦に特化した機体です」

 

最後の一枚のスライドを表示し、最初に政征が説明する。

 

「そして最後にこの巨大な砲身を持つ機体がドナ・リュンピー。格闘武装が一切無く、遠距離射撃戦に特化した機体です」

 

期待説明が終わるとスライドが消え、電気が点灯する。

 

「これらの機体は全て、リュンピーを基に改修された物ですが訓練機として使われている為、外部に流出する事は限りなくありえないことです」

 

「ふむ・・・では、強奪の可能性は?」

 

説明の途中で千冬が意見し、二人は同時に千冬へ向き直る。

 

「それも可能性は低いでしょう、訓練機とはいえISです。アシュアリー・クロイツェル社では訓練後に管理ロックがかけられてしまう為、強奪は難しいです。もっと言えば黒のリュンピーは存在していません」

 

政征の説明に千冬も納得する。

 

企業代表候補生ともなれば会社内部での動きを知っているからだ。

 

「可能性としてあり得るとすれば一つだけです」

 

「なんでしょうか?」

 

雄輔の言葉に轡着を始めとする全員が一斉に雄輔を見る。

 

「外部ネットワークからのクラッキングです。機体データを盗み出せれば機体を製造する事は可能でしょう。最もアシュアリー・クロイツェル社のセキュリティを掻い潜る事の出来る知識と腕前。それに製造場所があればの話ですがね」

 

雄輔の言葉に誰もが納得せざるを得なかった。

 

アシュアリー・クロイツェル社製の機体を使っているとはいえ、企業代表が説明し世界的大企業にハッキングをかけたところで追跡されてしまうと考えている。

 

「では、襲撃に関してはアシュアリー・クロイツェル社に調査を依頼するという形でよろしいですね?」

 

轡着の言葉に全員が頷いた。

 

「あの、もう一つ聞きたいんですけど」

 

そういって手を挙げてきたのは鈴であった。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「そこに居る、篠ノ之箒の処分についてです」

 

「なっ!?」

 

自分が名指しで呼ばれると思わなかったのだろう、箒は驚愕していた。

 

「ふむ・・そうですね。説明をお願いできますか?凰鈴音さん」

 

「はい。篠ノ之箒は今回のアリーナ襲撃において避難命令を無視し、アリーナにある放送室に無断で入り込み無断放送をした上、被害を抑えようとした青葉雄輔氏を負傷させています」

 

「なるほど・・・篠ノ之箒さん。何か意見はありますか?」

 

「わ、私は一夏の為に激を飛ばしただけだ!それのどこが悪い!」

 

箒の言葉に鈴が言い返そうとするが、それに対して意見したのは意外にも雄輔だった。

 

「どこが悪いだと、全て悪いに決まっているだろう?男の為に激を飛ばす女か、確かにそれは勝てる要因だろう。空想の世界でならな」

 

「何!?」

 

「具体的な例を出そうか。武器を持たずに拡声器だけを持って、銃弾が飛び交う戦場に味方を応援しに行ったらどうなる?お前が襲撃時にやった行動はそれと同じ事だ」

 

雄輔が出した具体例は皆が一瞬で答えが理解できる程に分かりやすかった。

 

そんなことをすれば真っ先に狙われて命を落とす事が明確だ。

 

「それでも、私は何も間違っていない!」

 

感情に任せて箒は叫んだが誰も耳を傾けなかった。

 

「では、篠ノ之さんには一週間の謹慎と反省文50枚の罰則を与えます」

 

「なっ!」

 

「これにて会議を終えます。解散」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議が終わり、廊下へ出ると同時に箒は雄輔へと竹刀で襲いかかってきた。

 

「青葉雄輔ェェ!!!!」

 

「単純な唐竹割りだな」

 

雄輔の目には遅く見えており、この行動が箒にとって最も屈辱的な事となった。

 

「・・・っ!」

 

振り下ろされた竹刀を横へ避けると同時に箒の手首を掴み、軸として回転させ投げ落とすと持っていた竹刀を奪い取り箒へ向けた。

 

「ぐっ!?なっ・・今のは!?」

 

「無刀取りだ」

 

無刀取りとは合気道によく似た技の一つであり、武器を持っている相手から武器を奪い取り相手を制する技だ。

 

「無刀取り・・だと、何故貴様が」

 

「俺も必死になって鍛錬したからだ、だから今は出来る」

 

雄輔の目には箒に対し、哀れみしか映っていなかった。

 

これだけの剣の実力がありながら独善に走ってしまうのは何故なのかと。

 

「哀れすぎる」

 

そう言い残し、雄輔は持っていた竹刀を投げ捨てると去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ襲撃事件から二週間が経ち、教室にはいつもの光景が広がっている。

 

違う事といえば織斑先生が教壇ではなく、教室の後ろの隅に居ることだ。

 

「それでは、ホームルームを始めますね」

 

教壇には副担任の山田先生と臨時の担任になったフー=ルー先生が立っていた。

 

臨時といっても教室内での話であり、正式に担任になった訳ではない。

 

織斑先生が教室の隅にいるのには理由があった、それは一夏の監視である。

 

シャナの護衛として政征と雄輔がいるが、それだけでは監視不足だろうと千冬自らが名乗りをあげたのだ。

 

他の生徒達は気が気でないが私も鬼ではないと、言っているが効果は薄い。

 

教壇からはフー=ルー先生が、後ろからは織斑先生と二重の監視をしている。

 

「では、今日の連絡をしますわ。本日このクラスに転校生が来ます。それも二名です」

 

転校生という単語に即座に反応し、クラスはざわつくがすぐに収まる。

 

「それでは、入ってきて下さい」

 

教室に二人の人物が入ってきた。

 

一人は金髪の髪に中性的な顔立ち、男装すれば女性だとはわかりにくいだろう。

 

女性特有の胸元の膨らみが女性であることを教えている。

 

もう一人は小柄だが眼帯で片目を隠しており、色素の薄い事を示す銀髪が神秘さを醸し出している。

 

「自己紹介をお願いしますわ」

 

「はい、シャルロット・デュノアといいます。フランスから来ました、不慣れな事も多いですがよろしくお願いしますね」

 

名前を教えた瞬間にまたざわめきだすが、後ろのオーラに当てられ静かになる。

 

「では、次の方お願いしますわ」

 

「・・・・」

 

「お名前を」

 

銀髪の少女はフー=ルーの視線に怯んだが持ちこたえた。

 

「ぁ・・ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「あ、あの?それだけですか?」

 

山田先生が声をかけるがラウラと名乗った少女はすぐに答えた。

 

「以上だ。・・・っ!貴様が!」

 

ラウラは一夏を見つけると同時に近づき、平手打ちをした。

 

「っ!いきなり何をしやがる!?」

 

「認めない・・・貴様のような者があの方の弟などと・・!」

 

そう言って今度は政征と雄輔の近くへと来た。

 

「お前達。強いな?」

 

「雑談は休み時間にしてくれるかな?」

 

「早く席に着くといい。織斑先生に怒られる」

 

「・・・そうだな」

 

ラウラはすぐに指定された席に座った。

 

この後に起こる事件がシャナの力の一部が目覚めるとは思わなかった。




これにてIS勢が全員集合。

シャルロットは本来、デュノア社の命令で男装して転校してくるのですが、この世界のデュノア社はアシュアリー・クロイツェル社に吸収されています。

その際にシャルロットの両親は政府との癒着や不正を暴かれ、刑務所で鉄格子をガタガタ揺らしてます。

シャルロットはある人達の養子となって、ある女性の義妹になっています。

ヒントを出すなら「愛憎の果てにヨリを戻した二人」とだけ言っておきます。

アンケートの方ですが結果に同数があったのでスパロボ特有の方法で解決しようと思います。

スパロボの世界にはタイプRとタイプLがある。

ここまで言えばスパロボ特有の方法は分かりますよね。


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裏側 風を感じて兎は月へ向かう

天災科学者が月の大企業の社員と接触し研究員に。

月の大企業の支部がフランスの会社を吸収。

以上




カチャカチャと何かを叩く音が響く、そこには兎の耳を模した機械を頭に取り付け、紫色の服を着た女性がいた。

 

彼女の名前は篠ノ之束。この世界におけるISのコアと機体設計、基礎理論を作り出した科学者である。

 

「どうやっても侵入できない!この束さんが突破できないセキュリティって何だよ!訓練機の方は簡単に突破できたのに!!」

 

何度も繰り返しては弾かれてしまい、束は悔しそうに地団駄を踏んでいる。

 

「た、束様!」

 

「どうしたの?くーちゃん。そんなに慌てて」

 

突然、束の部屋に飛び込んできた彼女はクロエ・クロニクル。

 

束自身が助け出し、自分の傍に置くほど溺愛している人物だ。

 

「そ、外に灰色のラ・・ラフトクランズが!!」

 

「なんだって!?」

 

束が驚いた事は大きく二つあった。

 

一つは自分達が隠れている場所が見つかってしまった事。

 

もう一つはラフトクランズという規格外の機体が現れた事だ。

 

「(篠ノ之博士の居場所は此処でいいのかしら?まさか、アリーの機体に乗るとは思わなかったわ)」

 

研究所から出てきた束とクロエは警戒しており、灰色のラフトクランズを見ている。

 

「お前誰だよ?此処に来るなんて余程の大馬鹿か?」

 

束は敵愾心を剥き出しにしてラフトクランズの操縦者に話しかける。

 

「確かに大馬鹿かも知れないわね。世界規模での最重要人物に会いに来ているのだから」

 

ラフトクランズを解除し現れたのはカルヴィナ・クーランジュ、その人だった。

 

「なんの用だ?私を利用しに来たのか?」

 

「そんなんじゃないわ。貴女が私達の会社に何度もクラッキングを仕掛けて来ているのを注意しに来たのよ。訓練機のデータをクラックされたって大騒ぎよ」

 

「っ!!!」

 

カルヴィナの言葉に束は驚きを隠せなかった。自分がクラッキングを仕掛けていた会社に逆探知されていたからだ。

 

自分の居場所は絶対に見つかる訳がない、そう考えていたのを打ち砕かれたのだ。

 

「仕掛けてきている場所が、一箇所だけというのも足が付く要因よ」

 

「あ・・!」

 

特定された原因は束の探究心からによるものだった。

 

訓練機のデータをクラック出来た事、更にはラフトクランズの機体データに目を付け狙い続けていたからだろう。

 

「上司からの伝言よ。機体データが欲しいならウチの会社に来ないか?だそうよ」

 

「そんな誘いに束さんが乗るとでも?」

 

「そうね、貴女にとっては他の物が路傍にしか見えないでしょうね。それなら内部に入って独自に研究するとか考えられなかった?天才科学者さん?」

 

「っ・・!?」

 

束は自分の心境を読まれた事に嫌悪感を抱いた。

 

ただの会社の一社員であるこの女に自分の考えが読まれているのだろうと。

 

「で、どうするの?来るか来ないかは貴女次第だけど」

 

束にとってはこれほどにもない好条件だ。

 

ラフトクランズを研究出来れば自分の夢を実現できる可能性が大幅に上がる。

 

「分かったよ、一緒に行ってやる」

 

「あら?意外な答えね」

 

「私はISを本来の姿に戻すという使命がある。だから一緒に行くのさ」

 

「貴女の夢、宇宙ね?」

 

「なんで!?」

 

束の驚いた表情にカルヴィナは微かに笑みを見せると答えを明かした。

 

「インフィニット・ストラトス。無限の成層とくれば宇宙の事じゃない、少し考えれば解ることよ」

 

「あ・・・ああ・・・」

 

「叶うといいわね、その夢。行きましょうか」

 

「う、うん!」

 

この日から束とクロエはアシュアリー・クロイツェル社の研究員として入社した。

 

この際に無人機として開発した量産機の三機に関して自分が行った事を自白し、紫雲セルダの根気強い教育指導によって束はコミニュケーション能力か改善された。

 

 

後に、ある機体の強化アーマーとショルダーパーツの基礎を開発するがそれはまだ先の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束が入社してから一ヶ月後、フランスにおいて国家を揺るがすことになる出来事が起こっていた。

 

アシュアリー・クロイツェル社・フランス支部がデュノア社の株の50%を買い占めたのだ。

 

株の買い占めによってデュノア社はアシュアリー・クロイツェル社の傘下に収まる事になるがこれをよしとしなかったのがデュノア夫妻であった。

 

「納得できん!何故我が社があのような会社の傘下に!」

 

「これだから、男の貴方は信用できなかったのよ!!」

 

「何!?私が悪いとでも言うのか!?」

 

「そうでしょう?無能のくせに!」

 

夫妻は互いに罵り合っていたが、社長室の扉が開き、大人数の誰かが入ってきた。

 

その手には一枚の紙が握られており、それを広げ夫妻に見せた。

 

「デュノア社社長。及びその夫人、賄賂、癒着、及びスパイ補助の容疑で逮捕させて頂きます」

 

「な、何!?」

 

「そ、そんな!」

 

夫婦は驚いた、自分達が水面に隠していた裏取引の全てが警察に明るみに出ていたからだ。

 

「しょ、証拠はあるのか!?」

 

「証拠なら既に押収されています。さぁ行きましょうか?」

 

「う、嘘よ!あのガキね!あのガキが裏切ったに決まってるわ!!」

 

叫び、喚きながらデュノア夫妻は警察に連行されていった。

 

これは全て、アシュアリー・クロイツェル社が束に依頼した事だった。

 

トライアルに遅れているとは言え、デュノア社はフランスにおいて最大勢力の大企業である。

 

フランス支部はあらゆるデータをフランス政府に提出したが採用されず、デュノア社に技術が流出している事を突き止めたのだ。

 

原因は政府とデュノア社の癒着であり、不採用と称してデータだけを提出させデュノア社に流していたのだ。

 

抗議もデュノア社の賄賂によって握り潰され、技術流出を防ぐ事が出来ずにいた。

 

フランス支部長は本社にこの事を伝え、対策がないかと助けを頼んだ。

 

本社からはある人物に依頼するとだけ伝えられ、連絡を切られた。

 

その3日後、匿名で送られてきたメールと共にデュノア社の不正取引に関する証拠や政府関係者との密会の写真などが送られてきたのだ。

 

メールの内容は『はろはろー!アシュアリー・クロイツェル本社の研究部長だよ!自分達の欲望のためだけにISを利用されるのが腹立ったから徹底的に集めたよ!有効に使ってね!』

 

と最後にウサギのマークがあったとだけ言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アシュアリー・クロイツェル・フランス支部では、元デュノア社の社員や技術者達に支部長自らが頭を下げて我が社の力になって欲しいと頼み込んでいた。

 

先頭に立つ人物が自ら頭を下げて力を貸して欲しいと頼む事は並大抵の事ではない。

 

その行動に心を打たれた元社員や技術者達は喜んで力を貸すと二つ返事で承諾したのだ。

 

 

 

「これで人員は確保できた。後はそれぞれの得意な部署に配置するだけだな」

 

「支部長、今回のラインですが前回よりも20%も生産が向上しました」

 

「そうか、後は株主総会で説明するだけか」

 

二人の男女が仕事に関する内容を話していた。

 

「ここからはプライベートだ、口調も普段通りでいいぞ」

 

「はぁ、兄さんに敬語を使うの疲れるわ」

 

「仕方ないだろ?公私は別けろって言われてるんだからな」

 

「そうね。でも、これで」

 

「ああ、恩返しができる」

 

「頑張ってね?ジュア=ム(・・・・・)兄さん!」

 

「もちろんだ、クド=ラ」

 

デュノア社を吸収した後、アシュアリー・クロイツェル・フランス支部において二人の兄妹が力を合わせて本社との新しい計画を軌道に乗せようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうするのだ?君は」

 

「僕は」

 

デュノア社から出てスパイとして日本への到着と同時に、デュノア社がアシュアリー・クロイツェル社に吸収されたと現地のニュースでシャルロットは知った。

 

それにより、身寄りが無くなりシャルロットは途方に暮れていた。

 

そんな時に偶然出会ったのがアル=ヴァン・ランクスその人だった。

 

アル=ヴァンは名乗った後に話を聞き、そうかと言って聞き続けていた。

 

「あら?アリー、私が戻ってくると同時に浮気かしら?」

 

「カリン、冗談でもそんな事を言わないでくれ。心臓に悪い」

 

「ふふ、相変わらずね」

 

彼の後ろから女性が歩いてきた。

 

二人はどうやら恋人同士のようだがアル=ヴァンが少し困った顔をしている。

 

「あの・・」

 

「ああ、ごめんなさいね。私はカルヴィナ・クーランジュ、貴女は?」

 

「シャルロット・デュノアです」

 

「デュノア?もしかしてフランスの?」

 

「はい、デュノア社の社長の娘です」

 

少しだけバツが悪そうな顔をするが直ぐに持ち直すとシャルロットに視線を向けた。

 

「もしかして、貴女の家族は」

 

「はい、逮捕されて誰もいません」

 

「その割には何も感じていないように見えるが?」

 

「僕は愛人の子供で、本当のお母さんは亡くなってますから」

 

それを聞いたアル=ヴァンは頭を下げて謝罪した。

 

「すまない、失礼なことを聞いてしまったな」

 

「いえ・・」

 

「それで今後どうするかを聞かれていたという事ね」

 

カルヴィナの言葉にシャルロットは頷いた。

 

「なら、私から選択肢をあげる。私と一緒に来て家族になるか、このままどこかへ去るかの二択よ」

 

「カリン、この子を養子にする気か?」

 

「今更じゃない。あの子達の面倒も見ていたし、今回は一人なだけマシよ」

 

アル=ヴァンは驚き、カルヴィナの面倒見の良さに舌を巻いていた。

 

「僕は・・・」

 

「自分で考えて選びなさい。貴女は人形じゃないはずよ?」

 

「僕は、カルヴィナさんと一緒に居たい!家族になりたいです!」

 

「そう、なら着いて来なさいな。それと娘じゃなく姉として接するからね?」

 

「ふっ、確かにな」

 

シャルロットの決断に満足したのかカルヴィナとアル=ヴァンは笑みを浮かべていた。

 

「もちろん、これからよろしくお願いしますね!カルヴィナ義姉さん!アル=ヴァン義兄さん!」

 

「ええ、こちらこそよろしくね」

 

「兄か・・妹分がまた増えるとはな」

 

二人はまた賑やかになるなと思いながらシャルロットを連れて、アシュアリー・クロイツェル社へと戻っていった。




束さんの積極的なアプローチ(クラッキング)に応えて逆探知するアシュアリー・クロイツェル社のセキュリティって一体・・・。

フランス支部長と秘書がまさかの兄妹!こんな世界があってもいいじゃないか!!

シャルロット、カルヴィナと家族になりました。この二人の年齢で高校生の娘が居たら違和感ありまくりです。

あの三人が娘って・・無理すぎる気が・・

束さんは技術者であり開発者、こういう人が現れた場合スパロボのイベントは一つしかない!

スパロボをプレイした事がある皆様はわかりますよね?


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どんな事でも向上すると嬉しいよね

タッグマッチで自由と玉座が組む

雄輔がフー=ルーと少し近づく

黒い兎が黒い桜に取り込まれる

シャナの力の一部が覚醒

セシリアが自分の想いを自覚


以上


転校生二人の自己紹介と通常の授業は終わり、ISの実践授業に移っていた。

 

その過程でISを纏った山田先生と鈴、セシリアの模擬戦が行われたが結果は鈴・セシリアの敗北。

 

理由としてはお互いに連携が取れなかった事、グレネードを受けた時点で二人が敗北を認めた為だ。

 

「それでは専用機持ちの方をリーダーに、番号順でグループを作ってください」

 

フー=ルーの指示に従い、生徒達はそれぞれ専用機持ちのもとへ向かう。

 

「赤野君とだぁ、よろしくね?」

 

「青葉様・・・冷たい瞳で私をみてください」

 

「織斑君かぁ、よろしくね~?」

 

「シャルロットさん、よろしくお願いしますね」

 

「セシリアさんとかぁ・・・厳しそう」

 

生徒達は各々に専用機持ち達のところへ向かっていく。

 

シャナは赤野と青葉の中心にいるセシリアの組みに入っている。

 

監視があるため、一夏は最も距離がある場所で生徒達に教えている。

 

「そうそう、上手上手」

 

「ゆっくりと一歩踏み出すように、だ」

 

赤野と青葉はそれぞれ教え方が上手く、出来た時は褒め、出来ない所は改善策を教えて自分で出来るようになるよう指導する。

 

「・・・」

 

シャナは政征に視線を向け、むくれていた。

 

「シャナさん、あれは指導ですからこちらに集中してくださいませ」

 

「はい、申し訳ありません・・・」

 

この様子からセシリアは政征とシャナが好きあっているのを見抜いていた。

 

「(ふふ、わたくしも応援しますわ。シャナさん)」

 

セシリアは政征への想いが、憧れであった事を自覚し指導に当たった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、次は誰だ?」

 

一夏は他の専用機持ちが教えている場所よりも少しだけ離れた位置で指導に当たっていた。

 

「次は私だよ」

 

指導に集中しているように見えるが、途中途中でシャナに視線を向けていた。

 

今現在、一夏はシャナと会話どころか近づく事さえも禁止されている。

 

近づこうとすれば容赦なく千冬に声をかけられ、千冬の居ないところで声をかけようとすれば雄輔に注意される。

 

「(臨海学校の時・・シャナ=ミアさんを俺のモノに!)」

 

臨海学校になるその日まで、一夏は忍んで耐える事を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

授業が終了し放課後になるとアリーナへと向かい鈴、セシリア、シャナ、政征、雄輔、新しいメンバーにシャルロットが加わっていた。

 

「さて、今日は誰から模擬戦する?」

 

「そうですわね、わたくしはシャナさんと」

 

「ならば、私はシャルロットと模擬戦闘をお願いしたい」

 

「僕が?別にかまわないけど。政征君ってIS纏うと口調変わるんだね?」

 

「それはコイツの戦意高揚みたいなものだからな」

 

それぞれが少し話し合うとアリーナの奥へと入った。

 

「それではセシリアさん、よろしくお願いします」

 

「ええ、シャナさん、よろしくお願いしますわ」

 

お互いに挨拶すると、戦闘を開始した。

 

審判は鈴が勤め、邪魔にならない場所でISを展開し見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いきますわよ!」

 

セシリアは最も得意とするライフル射撃を放ち、グランティードを牽制する。

 

「中距離戦の機体ですか、手ごわいですね」

 

シャナもやられる訳にはいかないと回避行動をした後に反撃に適した武装を選ぶ。

 

「今です!オルゴン・スレイブ!!」

 

セシリアの構え方から急激な回避行動は苦手と判断したシャナはグランティードの胸部から菱形状のエネルギーを放つ。

 

「なっ!?きゃあ!!」

 

反撃された事に驚いたのか、セシリアは防御の構えをとってしまった。

 

「セシリア嬢、言っておくが今のシャナは強いぞ?」

 

「戦った俺からも言わせてもらおう、本当に強い」

 

シャナの護衛をしている政征と雄輔はキッパリと断言した。

 

「確かに甘く見ていましたわ、ならば全力で!!」

 

シャナの姿を見れば、誰もが自分なら勝てると思うだろう。

 

しかし、現にシャナは戦う事の出来る皇女として成長してきているのだ。

 

「いきなさい!ブルー・ティアーズ!そして、このセシリア・オルコットが奏でる円舞曲で踊りなさい!」

 

セシリアの機体である、ブルー・ティアーズの最大の特徴であるビットを展開してシャナを攻撃し始める。

 

「あうっ!?死角からの攻撃もできるのですか!?」

 

「ふふ、容赦はしませんわよ?」

 

「望むところです!テンペスト・ランサー!」

 

オルゴナイトの槍を出し、シャナはセシリアへ向っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の戦いを政征と雄輔は楽しそうに見ていた。

 

「すごいな、シャナは。これほどまで成長するとは」

 

「護るべき愛しい人が離れそうで怖いのか?」

 

「なっ!?///からかうな!///」

 

「はは、すまん。つい」

 

政征をからかいながら雄輔は笑っていたがこうして笑い合えるのも友情が深いせいでもあるだろう。

 

譲れないからぶつかり合う、どちらも正しいから。互いに研磨していき、乗り越え乗り越えられる関係というのがこの二人だ。

 

二人が談笑している中で、審判を勤めていた鈴が声を上げる。

 

 

 

「はい、そこまでよ!勝者はセシリア!」

 

「あ、危なかったですわ」

 

「悔しいです、あと少しで勝てると思いましたが」

 

テンペスト・ランサーによってセシリアを追い込んでいたが、瞬時加速(イグニッション・ブースト)によってセシリアが自分の間合いを掴み、一斉射撃によって決着をつけたのだ。

 

「いい訓練でしたわ、またお手合わせしてくださいね?」

 

「ええ、もちろんですよ」

 

二人は互いに支え合いながら待機場所へと戻った。

 

「さて、次は私達だな?シャルロット嬢」

 

「お手柔らかにね?政征」

 

二人が模擬戦闘を始めようとした瞬間、一機の黒い機体が乱入してきた。

 

その操縦者はラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツの軍人であり代表候補生でもある生徒だ。

 

「おい、男性操縦者のどちらでもいい。私と戦え」

 

「俺は断る」

 

「何故、私達と戦おうとする?」

 

「教官の弟など取るに足らん、それ以上の実力を持つお前達を倒せればそれでいい」

 

ラウラの言葉に政征と雄輔は一瞬、顔を顰めた。軍人であり、戦士である以前に戦う意味を間違えていないかと。

 

「お前と戦う理由はない、早々に去るがいい」

 

「そうか、ならば戦わざるをえないようにしてやる!」

 

ラウラの機体であるシュヴァルツェア・レーゲンのレールガンがシャナとセシリアへ向けられる。

 

だが、それと同時に二人の騎士の姿が消えた。

 

ラフトクランズのオルゴンクラウドの転移を使い、一瞬でラウラの前後を取った。

 

「何!?う・・・」

 

「砲身を降ろせ、撃たないなら何もしない」

 

「このまま撃つならば圧壊せざるを得ないぞ?ラウラ嬢」

 

雄輔から突き付けられたのはライフルモードに切り替えたソードライフル、政征は背後からクローシールドの先端を突き付けていた。

 

「そこの生徒、何をしている!!」

 

どうやらアリーナ担当の教師に見つかってしまったようだ。

 

「ふん、今回は引くとしよう」

 

シュヴァルツェア・レーゲンを解除し、ラウラはアリーナから出て行った。

 

「訓練どころでは無くなってしまったな、すまないシャルロット嬢」

 

「いいよ、またの機会に手合わせしてね?」

 

ラウラの乱入というイレギュラーが発生し、訓練どころでは無かった為に解散という形になりそれぞれが寮に戻った。

 

 

 

 

 

 

雄輔は珍しく学園の校舎ではなく、中庭を歩いていた。

 

そんな中、大声が聞こえてくる。

 

「ん?」

 

気になってその方向へ向かうと千冬とラウラがおり、何かを訴えかけていた。

 

「何故です!?何故このような極東の地で!」

 

「何度も言わせるな、私には私の役目がある。それだけだ」

 

「どのような役目なのですか!?お願いです教官!我がドイツにてもう一度ご指導を!!」

 

木の陰から雄輔は二人の様子を見ていた。どうやらラウラの故郷であるドイツにスカウトしているようだ。

 

「(・・・崇拝まで行っているな)」

 

「そこまでにしておけよ、貴様は自分が選ばれた人間だと思っているのか?たかが15歳の小娘が」

 

「わ・・・私は」

 

「早く寮に戻れ、私にはまだ仕事が残っている」

 

 

ラウラは走って行き、千冬は雄輔の隠れているほうへ向き直った。

 

「そこの生徒、覗きが趣味か?」

 

「人聞きの悪い、偶然居合わせていただけです」

 

「ふん、まあいい。お前の目から見てラウラを、アイツをどう思う?」

 

「貴女と力を崇拝し過ぎて視野が狭くなっている。というところですね」

 

「そうか、私は精神面のケアが苦手なようだ」

 

千冬は反省するかのように視線を外した。

 

「誰でも万能ではない。俺の好きな言葉です。苦手ならどうすれば軽減できるか探ればいいんですよ」

 

「そうか、ではな」

 

千冬は雄輔のいる方向へと歩き出し、去っていった。

 

「そこにいるのでしょう?フー=ルー先生」

 

「おや、私の気配に気づくとはやりますわね」

 

「これでも鍛錬は怠っていませんから」

 

フー=ルーは姿を現すと雄輔の近くへときた。

 

「織斑君がどうしてあのようになったのか、掴めれば良いと思ったのですが」

 

「精神面のケアが苦手だと言ってましたね」

 

「そうでしたか・・・やはり」

 

「フー=ルー先生、いずれ貴女と並び戦える剣となります」

 

「ふふ、楽しみにしていますわ。その時には是非、私と剣を交えて下さい」

 

「はっ、我が誓いにかけて」

 

フー=ルーは騎士としての誓いを受け取ったが一瞬、胸が高鳴った事に違和感を覚えた。

 

それを振り払い、二人はそれぞれの場所へと戻っていく。

 

 

 

 

 

 

次の日、クラス内では女生徒が騒がしい様子だ。

 

原因は優勝すれば男性操縦者の三人の誰かと付き合えるという、噂が流れたそうだ。

 

「デマもデマ、完全なデマじゃないか」

 

「全くだ、一夏はどう思っているか知らないが」

 

政征は呆れており、雄輔は興味がないといった様子だ。

 

肝心の一夏は「シャナ=ミアさんが告白しに来てくれるかな」などと身も蓋もない事を考えていた。

 

 

昼食後、女生徒達は一斉に男性操縦者の下に集まってきた。

 

どうやらトーナメントのルールが変わったらしく、タッグマッチ形式なったそうだ。

 

「ごめんよ、俺はシャナと組むから無理なんだ」

 

「俺はシャルロットと組むことになっている」

 

優勝候補筆頭の政征と雄輔の二人は互いに組む事を禁止されているため、それぞれのパートナーを発表した。

 

女生徒達は仕方ないなといった様子で諦め、パートナー探しを再開した。

 

一夏はパートナーを決めるのに難儀しているようで、二人はトーナメント当日に備えることができた。

 

 

 

 

そんな中、箒は焦っていた。

 

自分の発した言葉が噂話として流れてしまったからだ。

 

「な、何故、このような事に!?いや、問題ないはずだ!」

 

気をつけるべきは青葉雄輔だけ、その他を倒して優勝すればいいと。

 

「必ず優勝してみせる・・・!」

 

その言葉に偽りは無いようだが、己の力量を過信しているようにも見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、セシリアと鈴が鍛錬していた。

 

目的は優勝ではなく政征と雄輔に当たってしまった場合を想定しての訓練だ。

 

「はぁ、はぁ、ありがとセシリア。ダメね、龍砲一つじゃアイツ等に勝てないわ」

 

「政征さんや雄輔さん、フー=ルー先生のやり方を出来るだけ近づけてみましたが、難しいですわ」

 

「同じライフルでも、アイツ等の武器は一つで二種類あるのと同じだからね。それだけでも非常に厄介よ」

 

 

相談している最中、いきなりの砲撃が二人の目の前を通り過ぎていく。

 

同時に振り返るとそこにはシュヴァルツェア・レーゲンを展開したラウラがいた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・」

 

「いきなりの挨拶とは気品にかけますわね」

 

「ふん、中国の甲龍にイギリスのブルー・ティアーズかデータで見たほうが強そうだったな」

 

明らかな挑発を受けるが二人はそれを流すと向き直った。

 

「ならば試してみる?」

 

「わたくしも同じくですわ」

 

「いいだろう、来い!」

 

戦いが始まった中でかなりの騒ぎになっていった。

 

甲龍は元々、完全な状態ではない。鈴は青龍刀のみで戦っている。

 

セシリアも援護するがラウラのワイヤーブレードによって攻撃できない。

 

「くっ(ごめんね、甲龍)」

 

「終わりだ」

 

「「きゃあああ!!」」

 

ラウラの砲撃によって二人の機体は大破してしまう。火花が散っているがラウラはワイヤー・ブレードで攻撃し続けた。

 

そんな中、オルゴンと思える一筋のビームがシュヴァルツェア・レーゲンを直撃した。

 

「ぐうう!?誰だ!?」

 

「少し、おイタが過ぎるのではなくて?ラウラさん」

 

「な・・フー=ルー教諭?・・・馬鹿な!?あの距離から私に直撃させたのか!?」

 

緑色の機体、ラフトクランズ・ファウネアを纏ったフー=ルーがアリーナの入口からソードライフルを構えたまま、鈴達を背後にラウラの前へと降り立つ。

 

 

「ちょうどいい・・その機体の」

 

「そこまでだ!すまないな、フー=ルー教諭。狙撃などさせて」

 

狙撃の後に現れたのは千冬だ、フー=ルーにラウラへの狙撃を頼んだのは彼女だろう。

 

「構いませんわ、先程の事を見ていれば止めるのが先決でしたので」

 

降り立つと同時にフー=ルーは機体を解除し、千冬を隣に誘導した。

 

 

「模擬戦をやるのは構わんが、アリーナにはお前たち以外にも訓練している者が居ることを忘れるな!」

 

千冬の言葉にラウラは無言で肯定した。

 

「それでは、トーナメント開始日まで一切の私闘を禁じます!解散してください!」

 

フー=ルーの一声に生徒達は全員アリーナから出て行った。

 

 

「二人共、立てますか?」

 

「な、なんとか」

 

「申し訳、ありません」

 

鈴とセシリアは負傷しているようだが歩けないレベルではないらしく、フー=ルーと千冬が肩を貸し、保健室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな・・・」

 

「鈴さん・・気を落とさないで下さい」

 

二人の手当が終わった後に山田先生が保健室に来て、機体の状態を説明した。

 

ブルー・ティアーズはダメージレベルがCだったが甲龍はダメージレベルがB、つまり破棄寸前の状態にまでされていた。

 

「甲龍に関しては中国政府から抗議がきましたが、ある会社がそれを引き取り、修理・改修したいという事で中国政府も納得したようです」

 

山田先生の言葉に鈴は安堵したが、ある会社というのが気になった。

 

「ある会社ってどこですか?」

 

「鈴さんもよく知っているはずですよ?」

 

鈴はハッとして思い当たる会社が浮かんだ。だが、それでも負けた悔しさとパートナーを破棄寸前にまで追い込んでしまったことに涙を流した。

 

「ごめんね、ごめんね・・・・!!甲龍・・・!うああああん!」

 

今は手元にいない自分のパートナーに対して謝罪の言葉と涙を流し続けた。

 

「(今は放っておいたほうが良いですわね)」

 

カーテンを閉めて、セシリアは休む為にゆっくりと保健室のベッドの上で瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日数が過ぎ、タッグマッチトーナメント当日となった。

 

男性操縦者三人が全員同じブロックだったが、トーナメント表を見ると最低でも3位決定戦にまで登らなければ当たることは無いようだ。

 

そして、最初に政征達の初戦の相手が発表される。

 

「マジかよ・・」

 

「まさかの相手ですね」

 

対戦表には、赤野政征・シャナ=ミア・フューラVS篠ノ之箒・ラウラ・ボーデヴィッヒと表示されていた。

 

 

 

 

 

 

ラフトクランズ・リベラを纏った政征とグランティードを纏ったシャナが同時にアリーナへ飛び出す。

 

既にラウラと箒は待機していたようで構えを取っている。

 

「まさか初戦とはな、手間が省けた」

 

「力は所詮、力でしかないぞ?ラウラ嬢」

 

「ふん」

 

ラウラとの会話の後にシャナがプライベートチャンネルで話しかけてきた。

 

「(政征、気をつけてください。篠ノ之さんが貴方を狙っています)」

 

「(そうか、それなら任せても良いか?シャナ)」

 

「(はい、フー=ルーもこの試合がテストだと言ってましたので任せて下さい!)」

 

「(無理はするな、武運を)」

 

「(貴方も無茶をしないでくださいね政征、武運を)」

 

ちょうど会話が終わると箒が二人に声を荒らげて来た。

 

「一夏を惑わした奴め!私が成敗してくれる!!その後には卑怯者の始末だ!!」

 

「もはや、言葉は通じぬな」

 

「行きましょう」

 

試合開始のブザーと共に政征とシャナは同じタイミングで突撃する。

 

「ふん・・・何!?」

 

「なっ!?」

 

突撃した二人は相手を切り替え、ラウラを政征が、箒をシャナが相手をする形になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「丁度いい・・覚悟しろ!一夏を惑わす奴め!!」

 

「私は惑わしてはいません、貴女の目にはそう映るのでしょうが」

 

箒は剣道のように突撃し、シャナへと向かってくる。しかし今のシャナには箒の行動が非常に遅く見えていた。

 

「フィンガー・クリーブ、オルゴナイトモード!」

 

グランティードの両手が結晶に覆われ、左腕で箒の刀を防御し右腕で反撃した。

 

「ぐはあああ!?何!?」

 

「自分を守るためには相手を傷つけなければならない。そして、相手を真の死に導いてしまうこともありましょう・・・・」

 

箒を吹き飛ばしたシャナはテンペスト・ランサーを構えると、決意を持った瞳で箒を見据える。

 

「来なさい!私はもう、戦いを怖がりません!」

 

その瞬間、シャナに変化が起こった。

 

グランティードにオルゴナイトのマントが現れ、バジレウスの竜首を模した砲塔が肩に装着された。

 

[グランティード、出力リミッター解除。バジレウス第一段階、リミッター解除]

 

という表示が出ている。

 

「グランティード、応えてくれたのですね」

 

これは二次移行ではなく、純粋に本来の出力に戻った状態だ。

 

今まではシャナの力量に合わせて出力を抑えられていた為、従来の40%しか出力が出ていなかった。

 

シャナの努力と決意によってグランティードは本来の力を出せるようになった。

 

「虚仮威しに過ぎん!行くぞ!!」

 

箒は立ち上がると再び斬りかかった。それをシャナはテンペスト・ランサーで受け止める。

 

「篠ノ之さん、貴女とは良き友人になりたかった・・・。バスカー・モード!起動!」

 

シャナの口から全力を出すという言葉が発せられた。今まで封印されてきた本来のテンペスト・ランサーが起動する。

 

「はあああ!」

 

今までのシャナではありえない程の高機動と正確な攻撃で箒を攻撃していく。

 

「まだです!」

 

ランサーが回転し、箒のISである打鉄のエネルギーを削っていく。

 

「こ、こんな!一夏を惑わした奴に!!」

 

[篠ノ之箒、エネルギー0]

 

「私の決意は揺るぎません」

 

パートナー脱落の放送と共にシャナは政征の援護へと向っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャナ・・ついにグランティードを乗りこなしたのか、負けていられぬな」

 

「ふん、貴様などにこのシュヴァルツェア・レーゲンは倒せん!」

 

「どうかな?駆けよ!ラフトクランズ・リベラ!」

 

ソードライフルをソードモードに切り替え、刀身を形成すると同時にラウラへと突撃する。

 

「行くぞ!」

 

「そのような愚直な行動はAICの・・・何!?」

 

ラウラが驚くのは当然だろう、得意の結界を使おうとした瞬間に懐に潜られていたのだ。

 

「たあ!うおお!!」

 

「ぐあっ!」

 

「出よ!オルゴナイト・ミラージュ!」

 

剣撃を撃ち込まれ、ラウラは怯むが政征はオルゴナイトの結晶によって作られた分身を出現させた。それに捕まったラウラ

 

「な、なんだ?うっ、動きが!」

 

「せええええい!!」

 

横薙ぎの一閃と共に結晶ごとラウラを斬ったが、エネルギー自体はあまり削れていない。

 

「ぐ・・貴様ぁ!!」

 

「む!?」

 

プラズマ手刀とワイヤー・ブレードによる攻撃を激昂したラウラは、政征に向けて撃ち込んでくる

 

「くうう!攻撃が見切りにくい」

 

回避が出来ない為、シールドクローとソードを使い受けに廻っていた。

 

戦いにおいて守りよりも、圧倒的に攻めの方が有利だ。

 

「もらった!」

 

「オルゴン・ブラスター!」

 

「うぐっ!?何だ?」

 

「政征!」

 

その窮地を救ったのはシャナだった。オルゴン・ブラスターをラウラに放ち、動きを止めたのだ。

 

箒との1体1の戦いを終わらせ、援護に駆けつけたのだ。

 

「シャナに助けられる時が来るとはな」

 

「それだけ私も強くなったという事でしょう」

 

「行くぞ!」

 

「はい!」

 

二人のコンビネーションはまるで社交ダンスのように抜群であった。

 

足りない距離を補い接近戦を政征が、遠距離をシャナが受け持つことでラウラを追い詰めていく。

 

「捉えたぞ!!」

 

ラウラがグランティードに視線を移した隙を狙い、シールドクローを展開し、オルゴンクローで捉えた。

 

「ぐ!がああああああ!?」

 

そのまま、アリーナの地に叩きつけられ引き摺られた後、遠心力をかけ投げ飛ばされる。

 

「シャナ!」

 

「はい!オルゴン・スレイブ!」

 

投げ飛ばされたラウラへシャナがオルゴン・スレイブでの追撃を確認した後にオルゴンクラウドで転移し、クローで地に叩きつけた。

 

「がはっ!?こ、こんな・・・」

 

シュヴァルツェア・レーゲンは中破し、ラウラ自身もボロボロの状態だ。

 

「(嫌だ・・・私は・・・負けたら終わってしまう・・・ふざけるな・・こんな事で)」

 

 

『願うか?汝、自らの変革を望み、より強い力を欲するか?』

 

 

「(よこせ!何者にも負けない唯一無二の絶対的な力を!!)」

 

 

Damage Level・・・D

 

Mind Condition・・・Uplift

 

Certification・・・All Clear

 

《Valkyrie Trace System》・・・・Boot

 

 

「うああああああああああ!!!!!!!」

 

より強い力を望んだラウラは形が崩れたシュヴァルツェア・レーゲンの中へと取り込まれていく。

 

その願いを叶えた姿が明確になってくる。

 

それはかつての世界最強の姿、現役時代の織斑千冬そのものだ。

 

 

「・・・そうまでして、己自身を犠牲にしてまで憧れた人物になりたいと願うのか!ラウラ・ボーデヴィッヒ!!!」

 

取り込まれたラウラに対し、政征は大声で叫んでいた。




長い・・・。

くどくなったかもしれません。

鈴は甲龍への謝罪、機体が大破!スパロボ的にこれはイベントだ!

シャナの覚醒、戦いにおける決意を身につけました。

セシリアは自分の思いに気づき、キチンと整理しました。


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支えてくれる人ってありがたいよね

一夏、試合に乱入、何かを買う

鈴、テストパイロットになり格闘武術を学ぶ

箒が束に力を要求する

シャルロットの機体名が判明


以上


[推奨BGM Revenger MDアレンジ]

 

ラウラを取り込み、形作ったのは織斑先生の姿。

 

あれがかつて世界最強と言われた、当時の織斑千冬なのだろう。

 

「当時の織斑先生、どれほどの力が」

 

政征が立ち合おうとした瞬間、その間を抜けて突撃する影があった。

 

「うおおおおおおお!!」

 

その正体は白式を纏った一夏だった。

 

怒りに任せて突撃したのだろう、複製の織斑千冬に軽くあしらわれてしまった。

 

「ぐあああ!くそっ!!お前がその剣を使うんじゃねえええええ!!!」

 

「一夏!!闇雲に向かって行ってもやられるだけだぞ!落ち着け!!」

 

政征は冷静になるよう声をかけたが、一夏は聞く耳を持たなかった。

 

「うるせえ!!あれは千冬姉だけの剣だ!だから俺がやらなきゃいけないんだよ!」

 

「愚か者が!冷静になれ!今のお前ではあれに勝つことは出来ん!!」

 

「それでも、俺がやるんだよ!!」

 

忠告を無視し、一夏は再び複製の千冬に向かっていく。

 

闇雲ながらに互角に戦っているように見えるが、それは戦いを経験していない者からの視点だ。

 

剣以外の無手による体術を駆使し、複製の織斑千冬は白式のエネルギーを削っていた。

 

「やはり、ここに来ていたか!あの大馬鹿は!」

 

「雄輔!」

 

遅れて現れたのは待機していた雄輔だ、その身にはラフトクランズ・モエニアを纏い政征の近くへ降り立つ。

 

「政征、今の状況は?」

 

「もう、終わる頃だ・・・」

 

「うああああああああ!」

 

政征が呟いた瞬間、一夏は複製の千冬が繰り出した斬撃によって叩きつけられ、白式のエネルギーがゼロになり解除されてしまった。

 

「く・・・くそ!まだ!」

 

「もう充分だろう、これ以上は無理だ」

 

雄輔は一夏に近づき、警告を促した。

 

複製の千冬が攻撃してこない所を見ると、一定の間合いに入った場合のみ迎撃するのだろう。

 

「まだだ!アイツを一発殴らなきゃ気が済まねえ!」

 

「どうやってだ?お前の機体のエネルギーはゼロ、武器も使えない状態で何が出来る?」

 

「だったらエネルギーを補給して!」

 

「そんな時間があると思うのか?その間、あれに取り込まれているラウラは命が危うくなる。見殺しにする気か?」

 

「そんなことはしねえ!必ず助けるんだ!その上で!!」

 

雄輔は一夏の言葉に珍しく静かに怒りを覚えていた。

 

相手は分単位で命の危険がある状態。一刻も早く助ける必要がある状況の上、ISのエネルギー補給には最低でも三十分を要する。

 

それが終わってから助けるなど不可能であり、理想すぎる机上の空論にも等しい。

 

「・・・・・」

 

言い終える前に雄輔はクローシールドをアリーナの地に突き刺し、一夏の延髄を手刀で殴った。

 

「がっ!?ゆ・・す・・・け、おま・・え」

 

「今は眠れ、お前の理想論に付き合う気はない」

 

雄輔は一夏を担ぐと政征とシャナに向き直った。

 

「俺はコイツを運ぶ、一刻も早くラウラを救ってやってくれ!」

 

「わかりました」

 

「任せておけ!」

 

「頼んだぞ、二人共!」

 

雄輔はクローシールドの側に寄り、一夏を担いだままクローシールドを巻き込む形でオルゴン・クラウドの転移を使って安全なアリーナの外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが、どうすればいい!?」

 

政征は一夏の戦いを見ていた限りでの予想を立てていた。

 

ラウラを確実に助けるには接近戦しか無い。

 

しかし、相手は紛い物とはいえ世界最強の力を模倣している。

 

下手に仕掛ければこちらが手痛い反撃をくらって、助ける事が不可能になってしまう。

 

『・・・・け・・・て』

 

「!?」

 

政征が戦略を考えている最中、シャナは何かの声が聞こえていた。

 

弱々しく、助けを求める声が。

 

『た・・・す・・け・・て・・・わ・・・た・・が・・・ぬ・・り・・つ・・・ぶ・・さ・・れ・・・い・・や・・だ』

 

それは中に取り込まれたラウラの声だった。

 

己の存在が塗りつぶされていく、私はまだ存在していたいという意志なのだろう。

 

サイトロンがISのコアに干渉したせいなのだろうか?シャナはそう思ったが原因が解らないまま政征に声をかけた。

 

「政征!急いで下さい!このままではラウラさんが完全に!」

 

「分かっている!だが、どうすれば!?」

 

政征は焦っていた、時間経過の危険性もあるが助けるにはバスカー・モードを使う必要がある。

 

しかし、ライフルでは時間が足りなくなり、ソードでは中に取り込まれたラウラごとダメージを与えてしまう。

 

「政征、落ち着いてください。私の祈りを貴方に」

 

シャナは政征のラフトクランズに手を添え、祈るように目を閉じた。

 

「!?クローシールドが・・・そうか!クローか!シャナ、離れてくれ。賭けになるがラウラを助け出す!!」

 

「はい、貴方を信じます」

 

シャナが離れるとクローシールドにオルゴンエネルギーが集中していく。

 

「行くぞ!クロー展開!バスカー・モード!起動!!」

 

機体からオルゴンが溢れ出し、リベラのツインアイが輝き、機体色に色合いの強い紅色が混じり合う。

 

そのまま急上昇するとクローを展開したまま複製の千冬へと急降下していく。

 

「うおおおおお!!」

 

複製の千冬は迎撃しようと黒い雪片を振るうが、それ以上のスピードで背面を引き裂かれ、更には前面も引き裂かれる。

 

「捉えた!そこだ!!」

 

展開したままのクローで複製の千冬を上空に投げ飛ばす。

 

「出よ!オルゴナイト・ミラージュ!!」

 

ラフトクランズを形取った四体の分身が広がるように現れ、上空にいる複製の千冬へ向かっていく。

 

四体の分身は四肢をそれぞれ掴み、そのまま結晶化して閉じ込めた。

 

「これで!オルゴン・マテリアライゼーション!!」

 

クローがオルゴナイトに覆われ、更に巨大な爪を作り出すとそのまま飛び上がった。

 

「消えよ!偽りの世界最強よ!!」

 

急上昇の速度を利用し、複製の千冬を切り裂いた。

 

切り裂かれた複製の千冬はそのまま元の姿であるシュヴァルツェア・レーゲンへと戻っていた。

 

政征は上空から降りてくるとゆっくり着地し、その先にはシャナが待っていた。

 

「政征、ラウラさんは?」

 

「助け出した、ギリギリのところでだ」

 

政征は何故かラウラを見ないように横を向いたまま、立っていた。

 

「どうしたのですか?」

 

「シャナ、すまないが何か覆うものを頼む・・。出ないと俺はずっとこのままだ」

 

「え?あ・・・!」

 

そう、助け出されたラウラは今、衣服を纏っていない生まれたままの姿になっている。

 

ラフトクランズの腕の中で安らいだ表情で気絶しているのだ。

 

「政征・・・見ましたか?」

 

「見ていない」

 

「本当ですか?」

 

「本当だ」

 

「嘘はついてませんよね?」

 

「ついていない」

 

「分かりました、先生にお願いしてきます。そのままでいてくださいね?」

 

これは拷問以上に拷問だ。ずっと横を向いていると首がまずいことになる。

 

その後、織斑先生とフー=ルー先生がやってきて、ラウラに大きなタオルをかけ保健室に連れて行った。

 

織斑先生からは「待っている間は目を閉じておけば良かったんじゃないのか?」と言われた。

 

俺の首はかなり痛くなったとだけ言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う・・うう」

 

「目が覚めましたか?」

 

「貴女は・・・フー=ルー教諭、それに教官まで」

 

ラウラは目を覚まし、起き上がろうとしたがフー=ルーがそれを制した。

 

「今の貴女は全身打撲、筋肉疲労、それに腹部に僅かな裂傷があります。跡は残りませんが動くと傷口が開くので寝てなさい」

 

「フー=ルー先生の言う通りだ、そのまま横になっておけ」

 

「はい・・・。一体、何が起こったのですか?」

 

ラウラは視線だけを二人の教員に向けると、自分に何が起こっていたのかを質問した。

 

「織斑先生、ここは貴女が説明するべきでしょう」

 

「分かった、最重要機密だが仕方あるまい。VTシステムは知っているな?」

 

ラウラは視線で頷くとその内容を口にした。

 

「はい・・・正式名称はヴァルキリー・トレース・システム・・。過去のモンド・グロッソの優勝者の動きをトレースするシステム、確かあれは」

 

「そうだ、IS条約によって全ての国家間で研究・開発・搭載使用が禁止されている物だ。それがお前の機体に搭載されていた」

 

それを聞いたラウラは無言になってしまった、条約禁止の装備を自分の国が使おうとしたショックだろう。

 

「巧妙に貴女の機体へ搭載されていました。恐らく機体の状態、パイロットの心理的願望、それらの条件がトリガーになっていたのでしょう。ドイツに調査が入ると思いますが、表立っては出てこないでしょうね」

 

フー=ルーの説明にラウラは瞳を閉じた後、天井を見ながら口を開いた。

 

「私が望んだからですね、教官の強さを得るために」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

「は、はい!」

 

「お前は誰なんだ?」

 

「え・・・わた・・私は」

 

ラウラは千冬に名を呼ばれ、その先が出てこない。自分という存在を全く考えてこなかったゆえに答えがないのだ。

 

「誰でもないならお前自身になるといい、まだまだ時間はあるのだからな」

 

「(ふむ、精神的ケアに関して今回は良いみたいですわね)」

 

千冬の言葉を聞いていたフー=ルーも優しげな笑みを浮かべていた。

 

「ラウラさん、私からも。憧れの方にどんなに近づく事は出来ても、その方と全く同じ事を自分が出来るとは限りません。どんなに近づいても貴女は貴女なのです」

 

「私は・・私」

 

「そうですわ。器が無いならこの学園で作りなさい。ラウラ・ボーデヴィッヒという器を」

 

「っはい・・・!」

 

フー=ルーと千冬の言葉にラウラは年相応の笑顔を見せていた。

 

「それと教官、フー=ルー教諭・・・私は気を失っている間、不思議な夢を見ていました」

 

「夢?」

 

「はい、シャナ=ミア・フューラと騎士のような姿の赤野政征が何かを訴えている夢です。私はそのまま黒い何かに覆われて、助けを求めていたらシャナ=ミアが私を引っ張ってくれたのです」

 

「・・・・」

 

「そこから赤野政征が巨大な爪で黒い何かを引き裂いたと同時に目が覚めて」

 

「そうか・・・」

 

そういって、千冬は立ち上がりフー=ルーも扉へと向かっていく。

 

「身体が起きれるようになったら、その二人に礼を言っておけ。お前を助け出した恩人だからな」

 

 

「今は自分の身体を労わりなさい。それからでも遅くありませんわ」

 

二人の教員が去るとラウラは睡魔に襲われ、ゆっくりと眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラの事件によってタッグマッチトーナメントは中止となり、一回戦のみを行う事になった。

 

優勝が無くなった事で女生徒のほとんどが泣いていたが、あのデマを信じきっていたんだろう。

 

そんな中、俺とシャナは雄輔とシャルロットの一回戦を見に来ている。

 

シャナはラウラを助けた後が原因でしばらく不機嫌だったが、俺からのキスで機嫌を直してくれた。

 

物凄い恥ずかしかったし、周りに人が居ないで良かった。

 

そろそろ始まるようでアリーナに視線を向ける。相手は打鉄が二体か、相手方がどれだけ食らいついてくるのかが気になるな。

 

 

「シャルロット、それがお前の機体か?」

 

「うん、カルヴィナ義姉さんの機体データを流用して、リヴァイヴⅡを更に強化カスタムした。ベルゼルート・リヴァイヴだよ」

 

「カルヴィナ義姉さんって・・・あのカルヴィナさんか!?」

 

雄輔の驚きの表情にシャルロットも驚いていた。

 

「え?義姉さんを知ってるの?」

 

「知ってるも何も、俺に射撃訓練をしてくれた教官だ」

 

「不思議な事もあるんだね、カルヴィナ義姉さんの生徒に会えるなんて」

 

「ああ、俺も驚いた」

 

「それじゃ、行こう」

 

「分かった」

 

二人は同時にアリーナへ飛び出し、試合が開始された。

 

ラフトクランズ・モエニアとベルゼルート・リヴァイヴの連携はそれは凄まじいものだった。

 

シャルロットが使う「砂漠の逃げ水」と言われる技術はオルゴンエネルギーを放つ、Bライフルと実弾を放つ通常のNライフルを両手に持ち、相手に隙を与えない。

 

シャルロットの間合いを制しても、そこから雄輔が駆るラフトクランズ・モエニアの援護射撃や得意とする接近戦で確実に相手を追い詰めていく。

 

「なんだろう、容赦ないな・・・」

 

「政征も人の事を言えませんよ」

 

雄輔とシャルロットのペアの勝利が放送され、試合は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、鈴はアシュアリー・クロイツェル社へと呼ばれていた。

 

IS学園には話が通っているらしく、帰ってくる期間まで公欠に扱いにすると伝えられている。

 

「話は聞いてたけど本当に大きいのね・・・アシュアリー・クロイツェル社って」

 

中に入る前に受付で用件を伝え、しばらく待つと一人の男性がやってきた。

 

「君かね?甲龍の操縦者であり、中国の代表候補生の」

 

「はい、凰鈴音といいます」

 

「私は紫雲セルダという。早速で悪いが機体のある場所へ向かおう」

 

「はい!」

 

セルダの後に着いて行き、ラボらしき場所に入るとそこには。龍砲が無い状態の甲龍がハンガーに置いてある状態で修理されていた。

 

「甲龍が直ってる・・・」

 

鈴は感激のあまり、言葉を失っていた。

 

修理は不可能に近いとまで言われていた自分のパートナーが帰ってきたのだから。

 

「鈴音君、君に伝えなければならないことがある」

 

「何でしょうか?」

 

「甲龍の特徴である龍砲をオミットしなければ完全修復が難しいのだ」

 

「そ、そんな!」

 

龍砲を外さなければ完全には戻らないとセルダから伝えられた鈴は再びショックを受けた。

 

龍砲はパートナーの最大の武器だ。これが無いのは特長を無くしてしまったISとも言える。

 

「その代わり、これを見て欲しい」

 

「?」

 

端末の一つに甲龍の特徴を受け継いだ格闘重視の機体プランのデータが表示されていた。

 

「これは・・・完全な格闘重視の機体・・しかも中距離にまで対応する為に分身まで出来る」

 

「この両肩にあるパーツはドッキングさせる事で巨大な爪となる」

 

「でもこれって、操縦者が格闘が出来ること前提ですよね?」

 

「そうだ、それに関しては問題ない。だが、操縦感覚も変わる為に慣れるのに時間も掛かるだろう」

 

「機体の名前は?」

 

「甲龍あらため、爪龍(ジャオロン)だ」

 

名前を聞いて鈴は迷っていた。

 

自分の思いだけでパートナーの姿を変えてもいいものかと。

 

「甲龍に触ってもいいですか?」

 

「構わないよ、思入れもあるだろうからね」

 

「ありがとうございます」

 

鈴は甲龍が置いてあるハンガーへ入ると甲龍に直接触れた。

 

「良いのかな?甲龍・・・アナタを勝手に変えちゃって」

 

その時、僅かに甲龍が動いた。それはまるで鈴に意志を見せているようだ。

 

「甲龍、うん・・・そうよね!アナタもまだまだ戦いたいわよね!」

 

その言葉を肯定したのか、甲龍が一瞬だけ輝いた。

 

「紫雲さん!甲龍の改修、お願いします!!」

 

「わかった。それと君も武術格闘の訓練をする事になるが大丈夫かね?」

 

「はい、私も強くなりたいですから!」

 

この日から鈴は三週間、格闘の訓練と生まれ変わった甲龍である爪龍の機体調整を行うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ日の放課後。ある一室で電話を掛ける者がいた。

 

数回のコールの後、電話相手が出る。

 

「はい、絶好調の束さんだよ~!!」

 

「切りますよ?」

 

「それならそれで別に良いけど、何の用かな?」

 

電話をしているのは箒であり、連絡先は自分の実の姉である束だった。

 

「姉さん・・・私にISを下さい。私だけのISを」

 

「構わないよ、だけど一つだけ条件があるよ」

 

「なんですか?」

 

「模擬戦だよ。自由か城壁の騎士とのね」

 

「それなら構いません」

 

「じゃあ、臨海学校の時に持って行くからまたねー!」

 

会話を終えて箒は喜びに震えていた、これで自分にも力が手に入ると。

 

「ふふ、これで・・・これで私にも絶対的な力が手に入る!自由と城壁の騎士など知らんが蹴散らして、あの女にを成敗してやる!」

 

この時の箒は気づいていなかった。自由と城壁の騎士、このうちの一人は自分に屈辱を与えた一人だということを。

 

 

 

 

 

 

時間は夜、ジャンクマニアが居そうな商店街を一夏は歩いていた。

 

それはある物を購入するためであった。

 

「これが一番いいかな」

 

それを購入した後、誰もいない場所で軽く試運転する。

 

「これで・・準備は出来たな、ふふ」

 

どこか上機嫌で歩く一夏は笑みを浮かべていた。一夏はそのまま帰宅し、購入した物を厳重に仕舞った。

 

「シャナ=ミアさん・・・・」

 

自分の隣にいることを想像した後に就寝についた。

 

 

 

 

 

 

 

この後に彼は最大の禁忌を犯し、一人の騎士と龍の逆鱗に触れる事になる事を知るはずもなかった。




このところ、書きすぎてて眠るのが深夜3時になってる作者です。

思いつくと止まらないから仕方ないね!

シャルロットの機体は直球な名前ですが、武装とスラスターを強化し稼働エネルギーをオルゴンに換えただけで本体はラファールのままです。

ラウラの別方向への行動は次回に

鈴は改修された機体へ乗り換え!爪、格闘、分身、ショルダーパーツ。ここまで言うと察しの良い方は解ってしまうかと。

箒が勝てる相手?今のままじゃソ=デスにも勝てないよ。


一夏が購入した物、ヒントは護身用です。


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龍って怖いけどカッコイイよね

ラウラ、大胆な行動に出るが阻止され妹になる。

鈴、生まれ変わった専用機と共に帰還。

模擬戦で初のラフトクランズ敗北!?


以上


VTシステム事件から3週間が経ち、通常の学校生活に戻っていた。

 

ホームルームが始まる前にラウラが教壇に立ち、頭を下げた。

 

「皆、あの時は済まなかった。改めて謝罪する!本当にすまない!!」

 

クラス全員に向けての謝罪。3週間前の彼女では考えられなかった事だ。

 

プライドのある人間がプライドを捨てて謝罪するというのは余程の覚悟が無ければ出来ない。

 

「大丈夫だよ」

 

「うん、だからこれからは仲良くやっていこうね」

 

クラスメイト達はラウラの謝罪を受け入れてくれた、これで孤立する事はないだろう。

 

ラウラは教壇から降りると真っ直ぐ、政征とシャナの近くへ歩いてきた。

 

政征の方に向き直ると制服のネクタイを引っ張り、ラウラに引き寄せられる。

 

何をしようとするのかサイトロンで気づいた政征は顔を上に向け、それを回避する。

 

コラそこ、サイトロンって便利だなとか言わない。

 

「な、なぜ避けるのだ!」

 

「いきなり引っ張られれば、反射神経が良い人は避けるよ!」

 

「ラウラさん!?いきなり何を!?」

 

「大方、想像つくけどな」

 

ラウラの行動にシャナは驚き、雄輔は呆れながら様子を見ていた。

 

「お、お前は私の嫁にする。決定事項だ。異論は認めん!」

 

ドカン!ドゴン!とズッコケる政征と雄輔の二人。

 

「あの、ラウラさん?嫁というのは男性が女性に向けてへの言葉でして、女性から男性に向けてへの言葉ではありませんよ?」

 

「む・・・そ、そうなのか?」

 

シャナの説明にラウラは混乱したように狼狽えた。

 

「ラウラ、一体誰にそのような事を教わったんだ?」

 

「私の副官に教わったのだ。気に入った者を嫁にすると聞いたのでな」

 

「言っておくけど、それは偏り過ぎの知識だよ?」

 

「ああ、それも悪い方向にな」

 

なんとか持ち直すと男性二人は席に座り直し、間違った知識を指摘した。

 

「むむ・・・なら、どうすれば」

 

「それにラウラ。まだ自分の気持ちが分かってないだろう?それを知ってからでも遅くないんじゃないのか?」

 

政征の説得にラウラはどこか納得したように頷いた。

 

「それならば、私は二人の妹になるぞ!良いだろう?シャナ=ミア姉様、政征兄様!」

 

「え・・・ええええええ!?」

 

「い、妹ですか?いきなりですね」

 

「はぁ・・・ラウラに知識を吹き込んだ奴に本気で説教したい」

 

政征とシャナは苦笑しており、雄輔は額に手を添えて呆れていた。

 

ホームルームが終わると同時に新しい妹が出来てしまった出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

午前中の授業が終わる時間帯、IS学園へ走ってくる人影があった。

 

「やっと帰って来れた。でも、向こうも充実してたから文句はないけどね」

 

走ってIS学園の門を潜ったのは鈴だ。

 

彼女は三週間の間、アシュアリー・クロイツェル社において格闘の訓練と修理・改修された愛機のテスト運用を終了し帰ってきた。

 

頬には白い絆創膏がしてあり、特訓が生半可なものでは無かったことを告げている。

 

 

「紫雲さん、なんであんな人達を呼べるのよ・・・。一回で10発のパンチを放つボクサーとか、鉄のドアを素手でぶち破るパワーファイターとか、少林寺の奥義を極めた人とか、フェンシングの世界チャンピオンとか。極めつけは素手でISの銃弾を止めてそのまま倒しちゃう日本人よ!おまけに全員金色に輝くとかおかしいわよ!!」

 

そんな人達の特訓に耐えられた自分もまたすごいと自分で自分を褒める鈴。

 

「ふふ、だからこそ私が勝つんだから!!」

 

今の鈴は見た感じ変化はないが強さが、滲み出るくらいに成長している。

 

「待ってなさいよ。政征、雄輔!アンタ達のラフトクランズに必ず勝ってやるんだから!!」

 

宣言にも似た事をすると自分の教室へと向っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、鈴が帰ってきた事、シャルロットとの模擬戦をしようと7人はアリーナへ向かった。

 

「今回は私とシャルロット嬢から行こう」

 

「うん、ずっと楽しみだったんだ。よろしくね?」

 

政征はリベラを展開し、シャルロットもリヴァイヴを展開する。

 

 

「私は雄輔師匠と戦ってみたかったのだが・・・」

 

ラウラはどこか不満げな様子だ。無理もない戦いたい相手を先に取られてしまったのだから。

 

「ごめんね、ラウラ。どうしても雄輔と戦いたかったのよ」

 

「この次に手合わせしよう、ラウラ」

 

「む・・わかった」

 

不満げな事を隠そうともせずラウラは渋々、承諾した。

 

「ところでシャナさんは今回、どうしますの?」

 

「今回は見学します。グランティードが整備中なので」

 

「そうでしたの、ではわたくしも今回はシャナさんと一緒に見学しますわ」

 

「なら、私も姉様と見学するぞ!」

 

ラウラはすっかりシャナに懐いてしまったようで、シャナも悪い気はしていないようだ。

 

 

 

 

 

 

[VSシャルロット戦 推奨BGM『Guardian Angel』MDアレンジ]

 

 

「カルヴィナさんの義妹か」

 

「雄輔だけじゃなく、政征も義姉さんの教え子だったんだね」

 

「あの人は厳しいが成長は確実にさせてくれる人だからな、感謝している」

 

「義姉さんの特訓の厳しさは目に浮かぶよ、アハハ・・・」

 

シャルロット自身もカルヴィナに鍛えられていたのだろう、愛想笑いをしながら顔を青くしていた。

 

「それじゃ、行くよ!」

 

「来い!!」

 

開始のブザーが鳴り、政征とシャルロットの模擬戦が始まった。

 

「まずはこれだよ!」

 

実弾のライフルによる牽制を政征に行う、これこそがシャルロットの呼び水となる第一歩だ。

 

「牽制なら、これで返す!」

 

一歩後退したように見せて回避すると、政征はソードライフルをライフルモードに切り替え、ガンスピンと共にエネルギー弾を放つ。

 

「うわ!?すごいね?強引とまではいかないけど、こちらの間合いをギリギリの所で取らせないなんて」

 

シャルロットは放たれたエネルギー弾を回避しながら装備を変更していた。

 

「『砂漠の逃げ水』は深追いせずに尚且つ、仕掛ける相手の意表を付けばいい」

 

「簡単に言ってるけど、それを実行出来てる政征がすごいよ」

 

「次は此方の番だ!」

 

政征はソードライフルをソードモードに切り替える。

 

シャルロットは接近戦を仕掛けて来ると読み、間合いを外そうと後退した。

 

しかし、それこそが政征の狙いだった。

 

「チャージ完了!オルゴンキャノン!広域モード!!」

 

「え!?」

 

意表をつかれた攻撃方法にシャルロットは一瞬だけ動きを止めてしまった。

 

「ヴォーダの深淵を垣間見よ!!」

 

三つの砲台から放たれた巨大なエネルギー波はシャルロットを捉えた。

 

「わああああ!?」

 

オルゴンキャノンが直撃し、リヴァイヴのエネルギーが削られてしまう。

 

「オルゴン・マテリアライゼーション!!」

 

ソードライフルの左右に結晶化したオルゴナイトが形成され、突撃する。

 

「うっ!?させないよ!オルゴンライフルB・N、同時展開!!」

 

突撃に気づいたシャルロットは実弾と非実弾の弾幕を展開する。

 

「ぬう!?そう簡単に近づけんか!」

 

政征は改めてシャルロットの戦闘技術に感心していた。

 

自分の間合いを知り尽くしているがゆえ、着かず離れずのヒット&アウェイを使いこなしている。

 

「ぐわ!?」

 

「絶対に距離は取らせないよ!このまま押し切る!!」

 

弾幕に当たってしまい、リベラのエネルギーが削られる。

 

「ぬう、だが負けるわけにはいかん!」

 

政征はソードライフルのモードをソードからライフルへと切り替える。

 

「フー=ルー先生のやり方をやってみるか」

 

「どういう事?うわっ!?」

 

政征が行ったのはフー=ルーが得意とするオルゴンライフルの狙撃だった。

 

「接近戦だけが、全てではないのでな?」

 

「っ・・!まさか狙撃があったなんて!盲点だったよ!」

 

シールドクローを構えた状態での狙撃に切り替え、シャルロットを追い込んでいったが時間切れによって試合終了となってしまった、

 

「お疲れ、弾幕展開、参考になったよ」

 

「お疲れ様。自信あったんだけどなぁ・・・」

 

お互いに決着が着けられなかったことに不満を持ちながらもピットへ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

[VS凰鈴音戦 推奨BGM 『Duet』OGアレンジ]

 

「ようやく手合わせできるわね」

 

「ああ、俺も鈴と戦いたかったからな」

 

鈴の機体は機体色こそ変わっていないが、機体の肩を始めとするあらゆる部分が変わっていた。

 

「じゃあ・・」

 

「行くぞ!」

 

試合開始のブザーが鳴ると同時に鈴は青龍刀・双天牙月で斬りかかってきた。

 

「なっ!?」

 

雄輔は咄嗟にクローシールドで防御したが、攻撃の重さが伝わる。

 

「今日こそ、その機体を倒してみせるわよ!」

 

「そうか、俺も負ける気はない!うおおお!!」

 

青龍刀を押し返すと同時にソードライフルをライフルモードに切り替え、ガンスピンと共にエネルギー弾を放つ。

 

「その射撃はずっと見てたわよ!今度は直接行くわよ!!」

 

射撃を回避し、鈴の機体の拳にオルゴナイトの結晶に覆われていくと同時に突撃する。

 

「ブラキウム・レイド!まずはジャブ!」

 

「何っ!?」

 

「この連打!!避けてみせなさい!」

 

鈴の機体の拳が弾丸のように撃ち込まれ、反撃の隙を与える事をしない。

 

「うおおおお!?」

 

「まだまだぁ!!ハイハイハイハイィー!!」

 

連打によって出来た防御の隙を狙い、鈴は蹴りの連打を放つ。

 

「ISで蹴り技だと!?ぐああああ!」

 

「吹き飛べ!!」

 

「ぐはっ!」

 

左廻し蹴りを受けた雄輔は吹き飛びエネルギーが削られるが、すぐに持ち直しソードを構えた。

 

「っ・・強い!燃えてきたな!」

 

雄輔の顔には笑みが浮かんでいた。

 

彼の中で政征以外に強い相手が見つかった事に対する喜びを隠せなかった。

 

「これで終わりじゃないわよ!モード・セット!」

 

鈴の機体がオルゴンの輝きに包まれ、上へと上昇した。

 

「来て!オルゴン・シャドウ!まずは二発!!」

 

「おわっ!?」

 

オルゴナイトによる分身と共に二つの拳状の結晶が雄輔へ放たれる。

 

「シャドウは1体だけじゃないのよ!全部持って行きなさい!」

 

そう宣言した鈴はオルゴナイトで作られた結晶の分身を16体作り出し、オルゴナイトの拳を一斉に放った。

 

「うぐああああああ!!」

 

「どうよ!」

 

砂煙が晴れた場所にはモエニアのソードライフルだけが残されていた。

 

「え?ど、どこに!?」

 

「捉えた!!」

 

「え!?嘘ッ!?」

 

目の前に雄輔のモエニアがシールドクローを展開し、鈴を機体ごと捉えていた。

 

「きゃああああああ!!」

 

そのまま落下し、叩きつけると引きずり回し続け遠心力をかけ投げ飛ばす。

 

「うああ!」

 

「これで!!」

 

そのままクローで引き裂くように再び叩きつけた。

 

それと同時に時間切れのブザーが鳴ってしまう。

 

「あ、危なかった・・・後、もう一撃受けていたら負けていた」

 

「ああ!雄輔、エネルギー値がギリギリだったの!?悔しい!」

 

悔しがる鈴をよそに、顔には出していなかったが雄輔は戦いの中で焦っていた。

 

オルゴンを扱う機体は操縦補助があるとはいえ、サイトロンのリンゲージ率が高くなければ動きが鈍ってしまう。

 

地球人でもサイトロンを浴び続ければ適合し、リンゲージ率が下がりにくくなる。

 

しかし、始めから鈴の動きは地球人ではなく、フューリーのパイロットが乗っているかのように動きが滑らかだった。

 

「(機体の可動テスト中に適合したのか、それともフューリーの血を持っているのか、どっちなんだ?)」

 

雄輔は過ぎった考えを振り払って鈴と共にピットへ戻っていった。

 

「すごい機体だな、素早く攻撃力もあるとは」

 

「これでもまだ、機体に慣れてないのよ。だからショルダーパーツもまだ使えないのよ」

 

「そうだったのか」

 

「今度こそ決着をつけてみせるわよ」

 

「望むところだ」

 

 

四人の戦いを見ている中でセシリアだけ嫉妬と悔しさが渦巻いていた。

 

「(わたくしは・・・どこまでついていけますの)」

 

改修された機体に適合し始めている鈴。

 

確実に成長を続けているシャナ。

 

機体性能に頼らず戦略を考え、実践の中で先を目指す政征と雄輔。

 

己の力を過信する事を止め、自分の持った力を磨き続けるラウラ。

 

自分だけは成長するための糧がないとセシリアは悔しさから拳を握り、唇を噛み締めていた。




ほんの少しのスパロボJ要素。

鈴を鍛えたのは5人の同盟者達です、はい。

それぞれの弟子に追い込まれて時間切れが無かったら、負けていた自由と城壁のラフトクランズ。

周りの変化に嫉妬し始めるセシリア。

ラウラが妹宣言、というより娘になりそうではある(この作品ではありません)


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裏側 兎は紅の椿を咲かせ、鈴は爪となる。

束さんの開発。

鈴の特訓

以上




※補足

鈴の特訓はGガンダムのノリで読んでください。


アシュアリー・クロイツェル社の研究室において、1機のISが完成間近になっていた。

 

「第四世代の紅椿、これを箒ちゃんに渡せばいい」

 

束は紅椿を見ながら悩んでいた、今の妹にこの機体を渡して良いのかと。

 

「箒ちゃんは自分より強い者がいるという現実が見えていない・・・そんな状態でこの機体を渡しても利用されるだけ・・・」

 

この会社に来る前の自分ならばこんなにも悩まず、すぐにでも渡す決意をしただろう。

 

だが、今は違う。自分の妹は関係ないと言いながら、自分の意見を押し通す時に自分の名前を使っている。

 

姉という名の駒になっていると自分自身で気付くことが出来たのだ。

 

「箒ちゃん、これを渡すのが箒ちゃんとの最後の関係だよ。私は私の使命の為に動くからね」

 

紅椿の調整を手早く済ませると、セルダ経由出来ている開発の整理を始めた。

 

「まずは爪龍からだね。この子はあの鈴って子を完全に認めてるし改修にも賛同してる」

 

改修において参考になったのがクストウェル・ブラキウムの機体データだった。

 

この機体はアメリカ支部で開発されていたが何者かに破壊されてしまい、残ったのが腕と特徴であるショルダーパーツのみであった。

 

「完全に素手で殴るタイプの機体にになりそうだけど、あの子から双天牙月っていう青龍刀は外さないでってセルダさん経由で言ってたし・・・」

 

束はしばらく思考すると閃いたように目を開けた。

 

「そっか、トンファーの収容部分に収納すればいいんだ!ふふ、となれば後はオルゴンエクストラクターの搭載だね」

 

コンピュータのキーを叩き、手早く設計図を組み立てていく。ものの数分で設計図が完成し整備課へとデータを送る。

 

「次は組立の順番をほいっ!っと」

 

設計の順番を明確にしたデータも先程と同じ整備課へと送信し、次の仕事に取り掛かった。

 

「次はリヴァイヴのカスタム機の更なる強化かぁ・・・この子って量産前提だから弄るところが無いんだよね・・」

 

悩んでいると研究室の扉が開き、誰かが入ってきた。

 

「お疲れ様、束。相変わらず仕事が早いわね」

 

部屋に入ってきたのはカルヴィナだった。何故か束に懐かれてしまいこうして時折、顔を出すようにしている。

 

「あ、カルちゃん!ふふふ、この束さんにかかれば設計図なんてあっという間なのさ!」

 

「有能すぎて怖いくらいよ、コーヒー飲む?」

 

「あ、飲む飲む!ミルク無しのシュガー多めでね?」

 

「はいはい」

 

それでも悪い気はしないらしく。自分と束に頼まれた分のコーヒーを淹れ、持っていく。

 

「うーん」

 

「どうしたのよ?はい、コーヒー」

 

「あ、ありがとね。ほらこの子の」

 

束はコーヒーを飲みながらディスプレイに映った機体を見せる。

 

「ああ、シャルの機体ね」

 

「うん、そうだよ。量産機をカスタムしたものだから、これ以上は弄る場所が無いんだよ」

 

「そうね、なら・・・私のベルゼルートのデータは使えないかしら?使えるならあの子に使ってあげて欲しいのよ」

 

「え?」

 

束は目を見開いて驚いていた。別の機体のデータを使う、どうしてこんな基本的な事に気付かなかったのか。

 

「今すぐシュミレートしてみるね!!」

 

シュミレートした結果、リヴァイヴの拡張領域が広がり、更にはベルゼルートに搭載されているサイズのオルゴンエクストラクターを使えば非実体のライフルを装備出来る事が判明した。

 

「カルちゃん!これいける!!いけるよ!!!」

 

「興奮しないの、落ち着きなさい。この子の機体はこのプランでやってあげて」

 

「あいあいさー!それとね、カルちゃん。この装備に関しても意見が欲しいんだ」

 

興奮が冷めた束は機体ではなく武装の設計データを見せていた。

 

「これは、ラフトクランズの追加装備かしら?」

 

「そう!機体データを研究して設計までこぎつけたんだよ!ただ・・・」

 

束が言葉を濁し、カルヴィナは首を軽く傾げた。

 

「ただ?」

 

「この装備、ラフトクランズ専用のビット兵器だからカルちゃんと同じような人か、アルくんみたいな人達しか扱えないんだよ~!」

 

「それは困ったわね」

 

「うん、だからどうしようと思って・・・」

 

カルヴィナはコーヒーを口にしながらしばらく思考すると、思いついたように束に話しかけた。

 

「それならいっその事、私の生徒達に預けたらどうかしら?」

 

「カルちゃんの生徒?もしかして!」

 

「そう、あの二人よ」

 

カルヴィナが言っているのは男性操縦者の二人だ。事実、ラフトクランズを使いこなしているのはあの二人しかいない。

 

「そうだね、二人に使ってもらうしかないね。なんとか間に合わせなくちゃ」

 

表示されている設計図と組立図を送信し、束は次の仕事に取り掛かる。

 

「これは・・2号機の?」

 

「うん、イギリスの支部で破壊されちゃったけどね。私が回収をお願いしたんだ」

 

「これは扱いが難しいわよ?空間把握が出来ていないと味方を巻き込むから」

 

「一応、開発だけしておくよ。使う機会はあるかもしれないからね」

 

束は回収されたある機体のアーマーの設計をするため打ち込みに集中し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同会社のアリーナで鈴はセルダが呼んだ。五人の格闘家に格闘の指導してもらっていた。

 

「かかってこい!」

 

「行きます!たああああ!!」

 

「甘い!」

 

「あうっ!?」

 

拳を撃ち込もうとするも、簡単に流され逆に反撃を食らってしまう。

 

「一撃を与えようとする時には迷うな!迷いは拳に出るぞ!」

 

「もう一度、お願いします!」

 

「その粋だ!来いッ!!」

 

他の格闘家の四人は鈴が向かっていく姿を見守っていた。

 

彼女の向上心は自分達を初心に返してくれる貴重なものであった。

 

「あのチャイナガール、よくやるなぁ。アイツにあそこまで食らいついていくなんてよ」

 

「彼女も強さを身に付けたい理由があるのでしょう。私達にとってもあの姿勢は見習わないといけませんね」

 

「オイラは自信なくしそうだよ、鈴はオイラが教えた事をすぐ出来るようになっちゃうからさぁ・・・」

 

「三週間で出来る限りの事はしてやらねばな、そろそろ・・・終わるぞ」

 

四人の会話が終わると同時に鈴は大の字に倒れ、呼吸を荒くしていた。

 

「よし、30分の休憩だ。その後に再開するぞ」

 

「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・!あ、ありがと・・ござい・・ま・・した」

 

そういって先程、鈴と組手をしていた男性は仲間達の近くへと歩いてきた。

 

「どうだい、ジャパニーズ?あのチャイナガールは」

 

「ああ、アイツは要領を掴むのが上手い。この三週間で化けるだろうな」

 

「このままだとオイラ達も危ないかもね」

 

「ふふ、こうして鍛錬の火を灯してくれた事に感謝しましょう」

 

「ふ・・・面白くなるな。この特訓は」

 

 

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・・ごほっ!・・・はぁ・・はぁ」

 

私は今、動けない。こうして大の字になっているのがやっとだ。

 

特訓を始めて三日目、これでもかなりマシな方になってきている。

 

始めの時は楽勝かと思っていたけど見事にそれを打ち砕かれた。

 

私が持てる格闘の全てをぶつけたのにも関わらず、まるで子供の遊びのように軽くあしらわれてしまった。

 

拳も、蹴りも、武器も使った。極めつけは訓練機のISまで使ったのに勝てなかった。

 

私は改めて思った、この人達に食らいつく事が出来れば必ず強くなれると。

 

それからの私は必死に食らいついていった、倒れようとも止めたくなかったからだ。

 

ボクサーの人にはフットワークを教えてもらい、パワーファイターの人には忍耐力を培ってもらえるよう頼み込んで特訓し続けた。

 

一番驚いたのは、故郷の武術で有名な本家本元の少林寺の拳法家がいた事よ!

 

私はそれを聞いて必死になって教えてもらった。それこそ相手がドン引きするぐらいの勢いで。

 

フェンシングの世界王者の人には剣の特長、攻め方、守り方を教えてもらった。

 

私は青龍刀を使っていたが、その人から一本も取ることが出来なかった。

 

細くて脆そうな剣なのに受け流されたり、先手を読まれたりされたから。

 

その人に言わせれば。

 

「貴女の剣は押し込んで斬る為の物です。更に言えば相手が受ける事を前提で振るっています。相手を倒すつもりで振るいなさい」

 

との事だ。私も知らずにISは競技という認識があったのね。

 

そして最後に赤いハチマキをした日本人の人、この人は変わった武術を身につけていた。

 

おまけに「ISの重火器を使っても構わんぞ」と言われ、ISの訓練機を纏った状態で感情的になった私はその人に向かってマシンガンを撃っていた。

 

その時、目を疑ったわ。マシンガンの弾を全て素手で受け止めたかと思ったら、懐に入られて、拳の弾幕を打ち込まれISが機能停止していたんだもの。

 

その瞬間、自分を鍛えることを止めたのを海よりも深く反省したわ。

 

そうして今、私はその五人に鍛えられている。

 

女だからといって特別扱いはしないと言ってくれた事が何よりも私は嬉しかった。

 

「鈴、起きろ。特訓の続きだ!」

 

「はい!」

 

私はその人がマスターした流派の基本の型を習得しようとしている。

 

この流派は自然の恵みを受けて生まれた拳法らしく、習得が難しい。

 

機械が大半の環境で育った私にとって、自然の偉大さを知らなすぎたからだ。

 

「お前が最も記憶に残っている自然の風景はあるか?それを思い返してみろ」

 

「私が最も記憶に残っている自然の風景・・」

 

そう言われて私は目を閉じた。

 

父さんと母さんとで旅行に行って、船に乗り大きな川を下った時に見えた大きな山・・小さい時にすごいと思った思い出がある。

 

あれ?川の流れの音・・水の音・・なにか見える・・・一滴の水?

 

「至ったな、鈴」

 

「え、今のは・・・」

 

「明鏡止水、穏やかで澄んだ心の境地だ。自分の中にある力を最大限に引き出す事のできる状態だ」

 

「私の力を・・最大限に」

 

「至ったとはいえ、それはお前一人の力じゃない」

 

その人は厳しくも優しい目で私に話している。

 

「お前には共に戦う友と相方がいるはずだ、その存在を忘れるな」

 

「はい!」

 

返事をした私を見たと同時に構えを取った、どうやら組手をするらしく私も構えを取る。

 

「今日の総仕上げだ。かかってこい!!」

 

「行きます!たああああ!」

 

結果は今日も私の完敗。この三週間のうちに絶対、一撃くらい打ち込んでみせる。

 

そう、決意して私は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして最終日。私は試験として特訓してもらった5人、1人ずつと戦って一本取る事が合格条件だと言われた。

 

全員が全力で来たのはいいけど、全身が金色になるなんて聞いてないわよー!?

 

私は妥協点で何とか4人から合格を貰い、最後の相手はハチマキの人だ。

 

「行きますよ!」

 

「来い!」

 

私は前のように先手をすぐ取る真似はしない、それをやったせいで何度もこの人に負け続けたからだ。

 

「へぇ、成長したようだな?チャイナガール」

 

「反省を活かし、このような勝負で先に動けば負けるという事を学んだようですね」

 

「三週間前とは大違いだね、すぐに飛び出してたのに」

 

「弱い一撃とはいえ、俺達から一本を取った事は評価すべきだろう」

 

 

四人が見ている中で、鈴が攻め手を緩めずに動き続けていた。

 

「ハイハイハイハイィー!!」

 

「う、くっ!」

 

「まだまだぁ!!」

 

「うおおお!」

 

拳と脚の応酬が終わった後には、鈴は手刀を頭上で受けたまま腹部に拳の一撃を入れていた。

 

「ふ・・・合格だ。よくやった」

 

「・・や・・やった」

 

鈴の一撃は子供の投げたボールが当たった程度の威力しか無かった。

 

それでも一撃には変わらず、合格と言われた。

 

「あ、ありがとうございました!!」

 

鈴は5人に向き直ると一礼した。自分はボロボロだが、鍛えてくれた事に精一杯の誠意を見せたかったからだ。

 

「へっ、チャイナガールを見ていたら俺達も鍛え直す事にしたぜ」

 

「ええ、貴女の直向きさは、私達に初心を思い出させてくれました」

 

「オイラ達の稽古で身に付いた事を忘れちゃダメだぞ?」

 

「また機会があれば会おう・・・凰鈴音」

 

「三週間という短い期間だったが出来る限りの修行はしたつもりだ。これからも怠るんじゃないぞ?」

 

五人はそれぞれ握手してくれた、右手に何か紋章のような物が見えたけど気のせいよね。

 

「はい!本当にありがとうございました!!」

 

ボロボロでもこの三週間が充実していた事を鈴は実感した。




スパロボJのタグがあるから問題ないはず。


機体を修理やら開発していたのは束さんでした。

そりゃあ早いよ、生みの親だもの。


鈴にとってはこの修行の三週間は最高の時間だったのではないかと思います。

フィンガー系はやりませんが、代わりがありますよね?

何せ鈴の機体はブラキウムですから(笑)

セシリア・・・どうしよ。このままだと置いてけぼりくらっちゃうよ。


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旅行前の準備ってワクワクするよね(デート回)

政征、シャナとデート

雄輔、勇気を出してお誘い

戦闘無し

ミルクチョコレートより甘すぎる

スパロボJ参戦作品の要素あり

以上



追伸

この話は是非ともスパロボBGMの『君とのひととき』を聞きながら読んでくださいませ!

作者も聞きながら書いていました!


二週間後に迫った臨海学校、その為に必要な物を買いに行かなければならない。

 

しかし、これはチャンスだ。シャナとは訓練や勉強ばっかりで遊びになんて行かなかったからなぁ。

 

「シャナ」

 

「はい?」

 

丁度、休み時間になったためシャナに話かけた。

 

「今度の土曜、デートしないか?」

 

「え?デート、ですか?」

 

突然の誘いに驚いたようだが、シャナは少し落ち着かない様子だ。

 

「臨海学校の水着を買わないといけないし、シャナと二人っきりになりたいしさ」

 

「ありがとうございます、一緒に行きましょう!」

 

シャナはとびきりの笑顔で応えてくれた。うん、可愛くて抱きしめたくなるけど我慢だ。

 

 

「政征はシャナさんとデートか・・・」

 

雄輔は二人を微笑ましく見ていたが自分も行動しなければと考え、次の授業に備えた。

 

「(俺も、誘ってみるか)」

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、雄輔はフー=ルーを探していた。

 

無論、他の生徒には見つからないようにだ。

 

ちょうど良く、廊下を歩いてきたフー=ルーを見かけ声をかけた。

 

「フー=ルー先生」

 

「あら?雄輔さん、何かご用かしら?」

 

顔にこそ出していないが雄輔はかなり緊張していた。だが、時間もあまりないと感じ行動した。

 

「自分と一緒に土曜日に臨海学校の買い物に行きませんか?」

 

突然の誘いにフールーは驚いた。

 

この男から誓いを受け取って以降、胸が高鳴るのを感じていた。

 

今は学園内、放課後という時間帯に助けられたが咄嗟に答えてしまった。

 

「構いませんわ。では、土曜日に」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

フー=ルーが去り、姿が見えなくなった所で大きく息を吐いた。

 

「一歩、前進・・か」

 

窓の外を見て、雄輔は小さくガッツポーズしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

職員室に戻ったフー=ルーも大きく息を吐いていた。

 

胸の鼓動が早く、顔も熱い。

 

「全く・・剣ではなく、言葉で私の心を揺さぶるなんて。罪な人ですわね」

 

「皇女も見つけたようですし、私も隣の伴侶を見定めましょう」

 

雄輔の顔が頭から離れず、その日の業務は山田先生に注意されっぱなしだったそうな。

 

 

 

 

 

そして土曜日、俺はモノレールの駅前で待ち合わせている。時間は少し早いが好きな人を待ってるというのもイイものだ。

 

「お待たせしました」

 

「ああ、シャナ。大丈夫だよ、行こうか?」

 

「はい!」

 

二人きりのせいか、シャナは俺の腕を掴んで歩き出した。

 

私服姿も新鮮で可愛いし、文句はない。今までは紫色の皇女のドレスしか見たことなかったからだな。

 

モノレールに乗ると俺はシャナをドア付近に立たせ、シャナの後ろに立った。

 

「学園以外で一緒にいるのは初めてですね。政征」

 

「ああ、そういえばそうだね。ずっと学園に居たからなぁ」

 

「ふふ、こうして一緒に歩くだけでも楽しいです」

 

目的の駅がアナウンスされ、はぐれない様にシャナと手を繋ぐ。

 

恋人つなぎじゃなく普通の繋ぎ方だ。手を繋いだだけでもシャナは笑顔のままだ。

 

ショッピングモールに入ると涼しい風と賑やかな人の声が響いている。

 

「流石に女性物が多いなぁ。男のはあっちかあ」

 

「あの政征・・・一緒に選んでくれませんか?」

 

「え!?俺が?」

 

「はい・・・ダメですか?」

 

う・・・シャナにこう言われると俺はかなり弱い。

 

「わかった、一緒に行こう」

 

そう言った瞬間、シャナは笑顔になる。ああ、もう!可愛すぎるだろう!!

 

「うーん、シャナは全体的に青のイメージが強いからなぁ」

 

それにシャナは着やせ型だ。すごく大きいって訳でもなく、全く無いという訳でもない平均よりは大きいって感じ。

 

目の前の人!全く無いなんて言うなよ?シャナが泣くから、何処とは言わないけど。

 

「やっぱりこれかな?」

 

俺は白の色合いが強く薄めの菫色が付いたパレオ付きの水着を選んだ。シャナは色白だから色があったほうがいいと思ったからだ。

 

「あ、政征」

 

シャナの手には自分で選んだ感じの水着があった。どれも似たような物ばかりだな。

 

「おや?政征君ですの?」

 

「え?」

 

振り返るとそこにはフー=ルーさんと雄輔が一緒にいた。

 

目的は一緒で臨海学校用の水着を買いに来たのだろう。

 

「フー=ルー?それに雄輔さんも」

 

「よう、シャナさん。政征と一緒に買い物か」

 

「ええ、フー=ルー。一緒に見繕ってくれませんか?」

 

「構いませんわ、行きましょうか」

 

そういって、シャナはフー=ルーさんの手を引いて売り場の奥へと行ってしまった。

 

「俺達も買いに行くか」

 

「そうだな」

 

俺はある意味助かっていた。

 

シャナの水着選びは正直、男の俺には物凄くダメージがあったからだ。

 

「これがいいな」

 

男性用の水着売り場で、俺は明るい配色に青色の太陽のような模様のある水着を選んだ。

 

「俺はこれにするか」

 

雄輔は落ち着きのある配色に三日月のような模様のある水着を選んでいた。

 

「ところで雄輔。フー=ルーさんとデートか?」

 

「なあ!?////」

 

「なんだ、図星かよ?わかりやすいなあ」

 

「な・・・なんでわかった?///」

 

「顔に出てるぞ?真っ赤だし」

 

「ぐ・・・///」

 

かつて自分がからかったのを仕返しされるとは思わなかったようだ。経験値では俺の方が少しだけ上だしね。

 

会計を済ませ、俺達は近くのベンチで二人を待っていた。

 

女性の買い物は基本的に長いので気長にいる事が重要だ。

 

会計してる途中で見知らぬ女性が、俺達に自分の買う物を買わせようとしてたが追い払った。

 

「お待たせしました」

 

「申し訳ありません、待たせてしまって」

 

フー=ルーさんは珍しく結っている髪を下ろしてるから別人だよ。

 

シャナは逆に結ってるから新鮮だ。

 

「じゃあ、行きましょうか?雄輔さん」

 

「え、もうお別れですか?」

 

「シャナ、違うよ。別の所へ行くだけだ、そうだよな?」

 

「あ、ああ・・・!」

 

「なら・・一緒に」

 

「(シャナ、ここは二人っきりにさせてあげよう?)」

 

「(え?あ・・・そういうことですか)」

 

俺が小声で言った言葉の意味を理解してくれたようだ。

 

「じゃあな」

 

「それでは」

 

雄輔とフー=ルーさんの二人は一緒に他の店へと向っていった。

 

「じゃあ、俺達も何か見てまわろうか?」

 

「はい!」

 

そういえば、関係を公にしないまでもシャナにプレゼントの一つも送ってなかったなぁ。

 

チャンスだし、シャナに買ってあげよう。ちょうどアクセサリーのお店あるし!

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ、ゆっくりご覧になってください」

 

店員さんの挨拶を聞いた後、俺はシャナの手を引いて店に入る。

 

来る途中で、何処かの学校の制服を着てハリセンを持った女の子が軍人っぽい喋り方をする男の子の同級生にツッコミを入れてたり。

 

その男の子が居ない間「ふも!ふも!ふもっふ!」とか言ってる着ぐるみが格闘技を見せていたのは見ない事にしていた。

 

シャナは「ふも!ふもっふー!」って言ってたのを可愛いって言ってたけど。

 

あれ、なんて言ってたんだろう?

 

「赤と水色・・・へえ。シャナ、来てくれ!」

 

「なんですか?」

 

「ほら、このアクセサリー。赤と水色でくっつけられるんだよ」

 

「わぁ、素敵ですね」

 

「少し待ってて」

 

「はい、他の物も見ていますから」

 

シャナが見ている間に先ほどのアクセサリーを購入した。店員さんに頼んで丈夫なチェーンタイプのペンダントにしてもらった。

 

「あの女性にプレゼントですか?」

 

「ええ、まあ」

 

「なら、お代は頂きましたから此処で渡して差し上げたらどうです?」

 

「じゃあ・・さっそく」

 

シャナの近くへ行き、後ろから呼びかける。

 

「シャナ」

 

「あ、政征。なんでしょう?」

 

「そのままで居てくれる?」

 

「?はい」

 

そのまま、シャナの首に先程買ったペンダントの赤い方を首にかける。

 

「あ・・・これは?」

 

ペンダントに気づいた後、シャナは驚いた様子で振り返った。

 

「俺からのプレゼントだよ」

 

「え、あ・・・対になる水色のを」

 

「うん、分かりやすいと思ってさ!」

 

「ありがとうございます、政征。大切にしますね!」

 

すっごく上機嫌だ、これなら早めにちゃんと渡しておけばよかったな。

 

アクセサリーのお店を出ると次はデザート・タイガーというカフェに入った。

 

雰囲気が良く、窓際の良い席に座る事が出来た。

 

日差しは無いけど明るめの所で気持ちがいい。

 

「なにか飲もうか?」

 

「はい」

 

メニューを見ながら飲む物を決める。

 

その中で占いコーヒーというものがあった。

 

モカ・コーヒーを頼み、一緒に飲んで「美味しい」と同時に言えたカップルにペアカップをプレゼントと書いてある。

 

「政征、これ・・・」

 

「やってみる?」

 

「ええ!」

 

「すみませーん!」

 

「ハーイ」

 

店員さんを呼ぶと女性の人が来た。

 

前髪両端のひとふさを金色のメッシュで染めていて綺麗な人だ。

 

あくまでも客観的に見ての話だけどね。

 

「モカ・コーヒーを二つ」

 

「はい、畏まりました」

 

その店員さんは察しが良い人のようで、笑顔を見せるとオーダーをしに行った。

 

しばらくするとその店員さんがコーヒーを持ってきてくれた。

 

「お待たせしました、ごゆっくり」

 

店員さんが去った後に俺とシャナは同時にコーヒー口を付けた。

 

「!!」

 

「あ・・!」

 

「「美味しい!」」

 

意識したつもりは無かったがほぼ同時に言っていた。

 

「おお、相性最高のカップルをまた目撃してしまったな!」

 

奥から浅黒い肌をした陽気そうな男の人が出てきた。

 

雰囲気は陽気だが何かをくぐり抜けてきてるようなそんな感じがしていた。

 

「え・・えっと」

 

「ああ、済まなかったね。これがペアカップだ、大事に使ってくれよ!」

 

「アンディ、説明になってないわよ?」

 

いつの間にか先ほどの女性の店員さんが来ており、男の人を窘めていた。

 

ゆっくりと飲み終えた後、会計を済ませると先程の男の人に呼び止められた。

 

「待ってくれないか?占いコーヒーが成功したカップルは写真を撮らせてもらっているんだが、構わないかね?」

 

「どうする?シャナ」

 

「構いませんよ。その写真、頂けるのでしょうか?」

 

「もちろんだとも!さ、並んでくれたまえ!!」

 

お店の看板前に立たされ二人で並んだが、女性の店員さんに肩を抱くよう言われてしまった。

 

仕方なく、シャナの肩を抱いて写真を撮ってもらう。

 

ポラロイドタイプだったみたいですぐに現像されてきた。

 

他のカップルを見せてもらったら、大人しそうな男の子とピンク色をした歌姫のような女の子のカップル。

 

生真面目そうな男の子と気の強そうな金髪の女の子のカップル。

 

極めつけは雄輔とフー=ルーさんだった事だ、本気で驚いたよ。

 

帰る前に写真立てを買って、お店で撮ってもらった写真を入れておこうと思う。

 

シャナと二人きりの写真って初めてだしさ。

 

帰り道のモノレールの中、席が空いていたので座るとシャナが俺の肩に身体を寄せて眠ってしまっていた。

 

慣れないデートで疲れが出たのだろう、目的の駅までそのまま寝かせてあげる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、こうして出かけるなど今までなかったことです」

 

「そうなのですか?」

 

「ええ、学園に来るまでは」

 

俺とフー=ルーさんは今、服などを売っているブティックのお店に来ている。

 

フー=ルーさんは私服をほとんど持っていないと言っていたので、モール内のお店で買う事にした。

 

「これと・・これだと色合いが合いませんわね」

 

ちなみに今、フー=ルーさんが着ているのはサイドスリッドが入っていて、左側だけが半袖になっているあの服だ。(公式資料の服)

 

目立って仕方ないから選んでもらってる訳だが、かなり悩んでるみたいだ。

 

「フー=ルー、新しい色を着てみたらどうだ?青系が多いからな」

 

「え?わ、分かりましたわ」

 

雄輔に「さん」付けで呼ばれなかった事と年齢に見合わない大人の対応にフー=ルーは一瞬だけしどろもどろになった。

 

彼は平均男性よりもかなりの高身長だ、フー=ルーと並んでいてもお似合いにしか見えないだろう。

 

本来の年齢は高校生と同じだが、自分と同じ年と言われても不思議ではない。

 

「(ま、全く油断も隙もありませんわね!こうして不意に心を揺さぶってくるのですから)」

 

学園で教鞭を取っていても、騎士の精神を持っていてもそこは一人の女性、やはり心を揺さぶられるのは慣れていないようだ。

 

アドバイスをした雄輔本人はというと。

 

「(や、やってしまった!よりにもよって呼び捨てなんて失礼すぎるだろう!!)」

 

自己険悪に陥っていました、はい。

 

そうしてる間に店員さんの一人が服をコーディネートしてくれたようでフー=ルーも満足気だった。

 

「正直、女性の服はわからないぞ・・・本当に」

 

途中でお揃いのアクセサリーも買ったが、説明してくれた店員さんによると[強固な愛]だそうだ。

 

知らずに買った俺自身、すっごく恥ずかしい。

 

その後はカフェへ入ったり、休憩を挟みながら物を見て回ったりした。

 

夕食の時刻になった為にモール内でお店を探していると中華料理店らしきものを見つけた。店名は『日々平穏』と書いてある。

 

「あら、興味深いですわ」

 

「食べてみますか?中華料理」

 

「ええ」

 

お店に入り、注文を済ませるとフー=ルーさんはどこか落ち着かない様子だ。

 

「どうしたんですか?」

 

「いえ、何でもありませんわ」

 

お茶を飲んで熱がる姿とか、けっこう可愛い一面も見ることができて嬉しいな。

 

「お待たせしました~!」

 

店員さんがカートに乗せられた料理が運んで来て、テーブルに置かれていく。

 

「ご注文は以上でお揃いでしょうか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「ごゆっくりどうぞ~!」

 

そう言って店員さんはカートを押しながら店のキッチンへと戻っていく。

 

「頂きましょうか」

 

「そうですわね」

 

二人で微笑み合い、フー=ルーさんは点心の入った蒸籠のフタを開けた。

 

「これは、美味しそうですわね・・・!」

 

小龍包を見て目を輝かせているフールーさん、これがギャップってヤツか?鼓動が早くなってきた。

 

「あむ・・熱ッ!」

 

どうやら慌てて食べたようで熱さに驚いたようだ。

 

落ち着いて冷茶を手渡すと、舌を冷ますようにフー=ルーさんは冷茶を飲んでいる。

 

「気をつけて下さい、中華料理は基本熱いですから」

 

「先に言って下さい!そういったことは!!」

 

少し怒ったフー=ルーさんだったが壁を感じなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食を済ませ、学園に戻ると丁度いい感じの時間帯になっていた。

 

「今日は色々楽しかったですわ」

 

「俺も付き合っていただけて嬉しかったですよ、それじゃ」

 

「待ちなさい」

 

フー=ルーさんに呼び止められ、俺は振り返った。

 

すると俺の右頬に柔らかい感触が。

 

今のまさか、キス・・・・・!?

 

「今日のお礼ですわ、こちらは誓いを果たした後で//」

 

フー=ルーさんは自分の人差し指を自分の唇に当てながら俺に言うと、自分の部屋へと戻って行ってしまった。

 

「っ・・!まずは聖騎士団に入団しなきゃな!」

 

脈アリという事と新たな目標を胸に俺は寮へと戻っていった。

 




作者は「ゆきのさつき」さんが演じる強気なヒロイン大好きです。

所々にスパロボJ要素を散りばめてみました。お答えできる方々はぜひ!

ああ、もう!甘い!!麦茶が甘すぎるぞ!!砂糖は入っていないのに!!


フー=ルー先生、最後の最後で大人の余裕です。

シャナはお疲れ気味。

アンケートの方ですが臨海学校編が終わった後に書く予定なのでお楽しみに!

次回はセシリアがオーガニックなマシンと出会い、尖った心を癒される


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バスの中って何故か盛り上がるよね

臨海学校前にセシリアが荒れてしまうが、原点に返り強化イベント発生



臨海学校開始


以上


臨海学校一週間前、アリーナを借りてシャルロット、鈴、セシリアが模擬戦をしていた。

 

 

 

[セシリア戦闘推奨BGM『Dancing Blue』スパロボOGより]

 

 

 

「あぐっ・・もう一度ですわ!」

 

「まだやるの!?これ以上はオーバーワークになるよ!?」

 

ブザーが鳴り、結果はシャルロットの勝利。

 

しかしセシリアは直ぐに立ち上がるとシャルロットの指摘に耳を貸さず、セシリアは次の対戦相手を指定する。

 

「早く来なさい!次は鈴さんでしてよ!」

 

「一体どうしたのよ?セシリア・・。今のアンタ、ものすごく焦ってるように見えるわよ」

 

「お喋りは要りません!早く模擬戦を!!」

 

「わかったわよ。シャルロット、離れて」

 

「うん、分かったよ」

 

開始のブザーが鳴り、セシリアと鈴の模擬戦が始まる。

 

「行きなさい!ブルー・ティアーズ!!」

 

定番のビット攻撃を展開し、射撃戦を展開する。

 

「(わたくしは・・・わたくしだけが置いていかれるわけには!!)」

 

セシリアの焦りはこうして今に限った事ではなかった。

 

政征や雄輔というイレギュラーは仕方ないにしても、他のメンバー達は確実に強くなってきている事に嫉妬していた。

 

「(セシリアってば焦りすぎてて、ビットにも射撃にも集中出来てない・・・これじゃあ)」

 

「どうしました!?わたくしに!・・・え?」

 

そこにあったのは鈴が愛用している二本の青竜刀だけであった。

 

「ど、どこに!?」

 

「上よ!オルゴン・シャドウ!!」

 

「っ!ティアーズ!」

 

「それを待っていたわ!牽制の二発!」

 

ティアーズが一箇所に集まったタイミングを逃さず、オルゴナイトの拳をビットへ放った。

 

「あ・・・そ、そんな」

 

ビットを撃ち落とされ、セシリアはそのまま呆然となるが鈴は容赦しない。

 

「シャドウはまだまだ出るわ!行けぇ!!」

 

オルゴナイト・シャドウを16体出現させ、その分のオルゴナイトの拳をセシリアへ放った。

 

その全てを受けてしまったブルー・ティアーズはエネルギーがゼロになり、ブザーが響く。

 

「ま・・また・・負けましたわ・・・っ!もう一度」

 

「セシリア、気付いてないの?」

 

「な、何を!?」

 

「機体状態よ。それ以上はもう模擬戦レベルじゃない損傷になるわよ?」

 

「え?あ・・・」

 

二人に指摘されて気づいたが、ブルー・ティアーズはダメージレベルがギリギリでDラインになっている。

 

本気でも全力ではなく、しかも手加減されていた事にセシリアは更に悔しさを覚えた。

 

「一体どうしたのよ?いつもの冷静さを無くしてるわよ、アンタ」

 

「なんだかものすごく焦ってるしね・・」

 

二人の心配をよそにセシリアは声を震わせていた。

 

「・・・・せんわ」

 

「え?」

 

「お二人に、わたくしの気持ちは分かりませんわ!強さを得ることができた貴女達に!追いつく事の出来ないわたくしの気持ちは!!」

 

そういってセシリアは泣きながらアリーナを飛び出してしまった。

 

「あ、セシリア!!」

 

「行っちゃった・・・」

 

「そっか・・・セシリア、自分が置いていかれてると思ってるのね」

 

「無理もないよね。僕はカルヴィナ義姉さんに、鈴は機体の改修と格闘を鍛えてもらえたんだもの。僕達との模擬戦だけじゃ追いつけなくなってきてるのかもね」

 

「周りに鍛えてくれる人が居ないものね・・セシリア」

 

鈴は改めて自分がいかに恵まれていたのかを噛み締めていた。

 

鍛えてもらった師曰く、己一人だけでは限界がある。

 

傍にいる友や相方を大切にしろと。

 

「・・・私達は置いていかないわよ。セシリア」

 

 

 

 

 

 

 

 

着替えた後、セシリアは学園を飛び出してモノレールに乗っていた。

 

感情的になってしまった故の行動だったが、頭を冷やすには丁度いいと適当な駅で降りた。

 

「ここは・・・まだ緑が溢れていますのね」

 

IS学園は基本的に都会と言われる部類の中心に建っている。

 

適当な駅で降りた場所は都会に近いものの緑が生きている田舎町だった。

 

「歩いてみましょう」

 

しばらく歩き続け、見ていた風景は全てが新鮮だった。

 

自分の生活とは全くの正反対の生活、それでも見る人の顔には笑顔があった。

 

「活き活きとしていますわね。あら?あれはなんでしょう?」

 

「・・・・(ウゴケナイノ)」

 

白色の変わった何かが目の部分らしき所を光らせていた。生命体のようなそれを見たセシリアは動けないのだろうと察した。

 

「この、木片が足を挟んでいますのね?少し待ってくださいませ!」

 

「・・・・(ウン)」

 

自分の愛機であるブルー・ティアーズの両腕のみを部分展開し、木片を危険のない場所へと移していく。

 

「ふう、これでもう大丈夫ですわよ」

 

部分展開を解除して生命体を見ると、また目の部分が光っていた。

 

「・・・(アリガトウ)」

 

「構いませんわよ、ふふ」

 

セシリアは持っていたハンカチを使い、土で汚れていた部分を拭き取った。

 

「・・・・(ウレシイ)」

 

「不思議ですわね、アナタといると荒れていた心が静まってきましたわ」

 

「・・・・(イカナキャ)」

 

しばらくして、それは立ち上がるように起き上がっていた。どこかへ帰るような様子だ。

 

「帰るのですね?理解しているかは分かりませんが、お気をつけて」

 

「(・・・・マタネ)」

 

肯定を示す光を出した後、それは何かに乗って一瞬で居なくなってしまった。

 

「わたくしも帰りませんと・・・。それにしてもあれは・・・一体?」

 

セシリアが見た幻だったのか、聞いた事もなく情報も無かった。

 

「貴重な体験でしたわね」

 

駅に向かうセシリアの表情はどこか晴れやかだった。

 

この時のセシリアは気づいていなかった。

 

その生命体と共に、身体中の細胞を蝕む病に犯されながらも懸命に生きた一人の女性が微笑みを向けていた事に。

 

 

「(貴女には貴女が気付かない力が眠っています。その目覚めは近いですよ)」

 

 

 

学園に帰ると織斑先生とフー=ルー先生に怒られてしまった。

 

授業を中抜けして飛び出してしまったのが原因だろう。

 

飛び出したことを深く謝り、反省文を書いた事で処分は終わった。

 

帰宅前にセシリアはフー=ルー先生に呼び止められた。

 

「セシリアさん、我が社のあるアーマーのテストパイロットをしていただけませんか?」

 

「わ、わたくしが!?」

 

「このアーマーは空間認識能力とビット適性で高度に扱えるのは貴女だけなのです」

 

これはチャンスだと思い、セシリアは二つ返事で返事を返そうとしたが一つ、疑問に思ったことを質問した。

 

「わたくしの国は大丈夫なんですの?」

 

「問題ありませんわ、合同という形でイギリス政府からも承認を頂いています」

 

「そうでしたか、ではお受けいたしますわ」

 

「臨海学校時になると思いますので、お忘れなく」

 

「はい!」

 

その後、セシリアは生命体を撫でたハンカチを大切に持ち続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日数が過ぎ、臨海学校当日となった。

 

「海だー!」

 

バスの中ではカラオケなどで盛り上がった後、窓の外に映る海にみんな目を奪われていた。

 

バスの席では一夏が織斑先生と一緒の席で、箒はフー=ルー先生と一緒だった。

 

シャナはバスの最後尾の席だ。左の窓際から政征、シャナ、雄輔、セシリア、鈴の順番で座っている。ラウラは補助席に何故か座っており、シャナと話している。

 

鈴は本来2組だが、教員二人が一組に乗るよう言ってきたのだ。

 

その意図に気づいた鈴はすぐ、バスに乗った。

 

バスから降りると旅館の女将が玄関から出てきた。旅館の名前は花月荘というらしく、IS学園では長くお世話になってるそうだ。

 

「今日から三日間、この花月荘でお世話になる」

 

「皆さん、節度を持って行動してください」

 

「「「はーい!」」」

 

「今年は賑やかで良いですね」

 

歳は三十代そこらだろうか?佇まいと笑顔がしっかりとマッチしている。

 

「今回はすみませんでした、男女の区分けでお手数をおかけしてしまいまして」

 

「いえいえ、こちらの三人が?」

 

「そうですわ。あ、私はフー=ルー・ムールーと申します」

 

「ご丁寧にどうもありがとうございます。清洲景子です」

 

「赤野政征です」

 

「青葉雄輔と申します」

 

「織斑一夏です」

 

男性三人はそれぞれ挨拶を済ませるとクラス全員と共に旅館へと入っていった。

 

シャナはセシリア、ラウラ、シャルロット、特別に鈴も加わった部屋だ。

 

恐らく、アリーナでの一夏の行動を考慮に入れての判断だろう。

 

男性三人は教員の部屋で泊まる事になった。

 

一夏は織斑先生、政征は山田先生、雄輔がフー=ルー先生となっていた。

 

この時の雄輔はガチガチになっていたのだけは覚えている。

 

一夏は首を傾げており、政征は何故か知っているため黙っていた。

 

荷物を置き、軽めのバッグに必要な物を入れて浜辺へと向かう。

 

そしてこの時に俺は海という事を考えておくべきだったのだ。

 

IS学園のプライベートビーチ状態、IS学園は女子高。

 

それが頭から抜けていた為に男にとっての拷問を受ける事となる。

 

そう、女性の水着姿という名の。




とうとう、やってきました臨海学校編。

更新は一話だけだと言ったな?  あれは嘘だ。

ここでISの原作ガールズは合体攻撃という名の連携を生み出すことになるかも?

自由の騎士が暴走した銀の音に惑わされ白き夜に飲み込まれてしまう。

片割れを助けようとする城壁の騎士の前に立ち塞がる紅い椿。

騎士を傷つけられ、悲しみに暮れたシャナ=ミアへ向けられる毒牙。

片割れの騎士と龍の爪はシャナを守れるのか?


「我は無限、我は混沌・・・。全てを飲み込み、力と成して無へと還すもの。儚き希望は寂滅すべし!」

このくらいのレベルの絶望が来ます。


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大人しい子が大胆になるとビックリするよね

圧倒的ッッ!圧倒的ッッッ!!水着回

断片的に現れる黒幕


以上


海の家から借りたパラソルを手に、浜辺に出てると同時に日差しが突き刺さる。

 

雲も無く、まさに快晴だ。政征が到着したのとほぼ同時に雄輔も歩いてくる。

 

「よう、待たせたな」

 

「ああ、とりあえずパラソルを立てておこう。お姫様たちが来る前に」

 

「お前が言うと洒落にならないんだが?」

 

「いいから、手伝えよ」

 

政征と雄輔は適当な場所を見つけ、パラソルを立てる。シートも広げて準備を済ませた。

 

「さて、と」

 

「そろそろ来る頃か」

 

二人は着ていたTシャツを脱ぎ、水着姿となる。

 

政征は力で押していくイメージがあるように、腕と胸元の筋肉が多めで腹部は引き締まっており、その要となる胸筋、腹筋や足腰なども満遍なく鍛えてある身体だ。

 

一方の雄輔は技巧的なイメージがあるのだが、政征と同じレベルで鍛えてあり、その技術を鍛えた筋力が支えている事を納得させる身体を惜しげもなく披露している。

 

何より、赤い髪と青い髪という対照的な髪色を持っている為、女性を惹きつけるアイテムになっているのだ。

 

 

「わぁ・・二人共すごい鍛えてある」

 

「なんだか、ファンタジーの作品の主役みたい・・・」

 

「カッコイイ・・・あの腕で抱きしめてもらいたいなぁ」

 

「ここは赤野×青葉だろ?常識だから」

 

「何を言ってるの!青葉×赤野だって!それが一番だって言われてるから!」

 

「忘れたのか!?三人同時こそが至高なのだよ!!」

 

俺達で勝手に腐ってる妄想のカップリングを作らないでくれ・・。

 

「また成長したのかな~?この大きさは、うりゃあ!」

 

「きゃあ!?ちょっと揉まないでよ!・・んっ!」

 

「水着すっごく大胆ね?」

 

「そうかしら?これくらい普通だと思うけど?」

 

女性同士のイタズラって遠慮がないな、しかも水着姿だからすごく危ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はぁ・・・」」

 

クラスメイト達の騒ぎに男性二人は同時にため息をついた。

 

「何をため息ついてんのよ!二人共!!」

 

「おわ!?」

 

「うお!?鈴か。いきなり飛びかかってくるな、危ないだろう?」

 

不意に二人へ飛びついてきたのは鈴だった。

 

オレンジ色の水着を着ており、その無邪気さと小悪魔的魅力が溢れ出ている。こういったスキンシップをされると非常にマズイくらい魅力的だ。

 

「ふふん、別にいいじゃないの!あ、みんな来たわね!」

 

「お待たせ致しました」

 

「少し時間が掛かったけどね」

 

「うう・・・///」

 

「は、恥ずかしいです///」

 

いつものメンバーがこれで全員集まった。

 

男性二人はその光景に固まっている。

 

まずはセシリアだが、青のビキニに腰に巻いたパレオがモデルとなんら遜色のない肢体にマッチしており金髪がアクセントとなって非常に美しい。

 

次にシャルロット。彼女の水着はレモン色のビキニでセシリアと同じパレオを腰に巻いている。髪を結っているリボンも可愛さを引き立てており、弾けるような明るさが眩しい。

 

「ほら、二人共タオル取らないと水着がわからないよ?」

 

「だ、だが・・//」

 

「恥ずかしくて仕方ないのです//」

 

タオルで身体を隠しているのはラウラとシャナだ。

 

二人共恥ずかしそうに身体を縮こませている。

 

「ダメだよ、二人に評価して欲しいんでしょ?」

 

シャルロットの言葉にラウラは決心したように縮こまっていたのを止めた。

 

「ええーい!笑いたければ笑え!政征兄様!雄輔師匠!//」

 

タオルを取るとそこには妖精が居た。

 

ツインテールに結った銀髪、真っ白な肌にピッタリなフリルの付いたビキニタイプで黒の水着を着ている。眼帯と紅い瞳がより一層神秘的で引き込まれる様な魅力に溢れている。

 

「最後はシャナ=ミアね、覚悟を決めなさい!!」

 

「む、無理です!///やっぱり私は!」

 

「もう!焦れったいね!それっ!」

 

「きゃあ!?あ・・・み、見ないでください!///」

 

シャルロットにタオルを取られ、シャナはその下に隠していた水着姿を顕にした。

 

「あ・・・」

 

政征はその姿を見て完全にフリーズした。

 

透き通るような水色のロングヘアー、白い柔肌の上に薄い菫色のビキニタイプの水着を着ている。

 

同じ色のパレオを腰に巻いており、女性特有の胸元の膨らみがほどよく揺れている。

 

その首にはアクセサリーの赤い石と待機状態のグランティードがあった。

 

「・・・・・・」

 

「へ、変ですか?」

 

「逆、魅力的すぎて言葉を失ってた」

 

「っ!/////////」

 

政征の感想にシャナは顔を真っ赤にしてその場で固まってしまった。

 

「す、すごいわね。シャナ=ミアってこんなに綺麗になるんだ、制服着てるとちょっと綺麗で可愛いなって感じなのに」

 

「本当ですわ、女性の視点から見ても神秘的すぎます・・・」

 

「僕も初めて見た時はびっくりしたよ、まるで宝石みたいなんだもの」

 

「シャナ=ミア姉様は本当に美しいな!」

 

メンバー全員が褒めまくっていたのでシャナはその場で座り込んで、恥ずかしさのあまり顔を隠してしまった。

 

「あらあら」

 

「お前達、何をしているんだ?」

 

振り返るとそこには教員の二人が水着姿で立っていた。

 

今度は雄輔がその姿を見てフリーズした。

 

織斑先生は黒のビキニタイプの水着を着用し、その肢体を堂々と晒していた。無駄の無い身体だが女性特有の胸元はしっかりと出ており、カッコよさを醸し出している。

 

フー=ルー先生は群青色に近いビキニタイプの水着を着用しており、千冬と同じで無駄の無い身体だ。

 

女性特有の胸元は大きめであるのに嫌味さは全く感じられず、女傑としての気品さを忘れていない姿だ。

 

「すごく美しいな・・」

 

「え?」

 

その瞬間、パカンッ!と雄輔が頭を殴られていた。

 

「痛ッ!?」

 

「教師を口説くな、馬鹿者」

 

殴ったのは千冬らしく目つきが鋭くなっていた。

 

「いや、素直に思った事なんですが?」

 

「なら、ちゃんと言葉を選べ」

 

今度は軽い手刀だけで済ませてくれたようだ。最初のが一番効いたが。

 

「・・・・」

 

なんだかフー=ルー先生にすごく睨まれているような・・?

 

「なるべく此処から離れないようにな?」

 

「沖に行き過ぎないよう注意もしてくださいね」

 

二人から注意を受けた後、メンバー全員がそれぞれ行動を開始した。

 

政征と雄輔は交互でパラソルの番をするという取り決めになった。

 

「あの、政征さん。背中にサンオイルをわたくしとシャナさんに塗ってくれませんか?」

 

「え?構わないが、なぜ俺に頼む?」

 

セシリアがいきなりとんでもない事をお願いしてきたのだ。

 

「皆さん、ビーチバレーをしていてお願いが出来ないので」

 

少し悩んだが決意してやることにした。

 

「わかったよ、俺で良ければ」

 

「ありがとうございます」

 

セシリアはシートの上にうつ伏せになり、その背中を政征に晒した。

 

「このオイル、冷たいな?ならば」

 

適量を手に垂らし、馴染ませるように擦り合わせる。こうする事で人の体温で僅かに温まるのだ。

 

「それじゃいくよ?セシリア」

 

「はい」

 

政征に邪な気持ちは一切なく、満遍なく背中に塗っていく。その塗り方はエステで行うオイルマッサージのようだ。

 

「はい、終わり」

 

「ふう・・・ありがとうございます、次はシャナさんですわよ?」

 

「うう///」

 

終わると同時に政征は後ろを向いていた。流石に女性が水着を直しているのをシャナが居る前で見るわけにいかない。

 

「そ、それではお願いしますね?政征//」

 

「あ、ああ」

 

セシリアが邪魔になるだろうと髪をまとめてくれたのは助かる。髪を巻き込む訳にいかないしな。

 

そう思いながら、俺はシャナの背中に優しく触れた。

 

「ひゃん!?//」

 

「シャナ!?大丈夫?」

 

「だ、大丈夫です!続けてください//」

 

いきなりビクンって反応したから驚いた。ただ塗るだけなのにドキドキしてしまう。

 

「んぅ・・ん・・ぁ・・・・あ・・ぅ//」

 

「(シャナ・・頼むからそんな声を出さないでくれ、色々とまずいから!//)」

 

政征はオイルを塗る度にシャナから漏れる甘い声と格闘していた。

 

そんな声を聞かされれば健全な男は反応してしまう、まさに悲しい性である。

 

「(作戦成功ですわね・・・うふふ)」

 

セシリアはこの時、楽しそうに笑っていた。オーガニックな影響を受けたせいだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

ビーチバレー組は教師を交えて盛り上がっていた。

 

チーム分けはシャルロット・ラウラ、織斑先生・鈴、フー=ルー先生・雄輔という組み合せだ。

 

勝ち進んだのはやはり、教師とペアを組んだチームだった。

 

「千冬さん!上げてください!」

 

「任せろ!」

 

千冬のトスから鈴がジャンプし身体をしならせる。

 

「それっ!ブラキウム・ショット!!なんてね」

 

鈴のスパイクを雄輔が落下位置まで走り、滑りながらトスする。

 

「上がった!今です!フー=ルーさん!!」

 

「ええ、よくってよ!そぉれ!」

 

フー=ルーのスパイクが鈴も千冬も間に合わない位置へ向かっていく。

 

「な!?」

 

「そんな、間に合わない!」

 

ボールは地に着き、シャルロットが点数が入る事を宣言する。

 

「今ので16対17です!」

 

即席で作られた点数を表示の紙をラウラがめくる。

 

二人は出番ではないためにこうして審判と点数付けをやっている。

 

むしろこの組みの試合が白熱し過ぎて、ギャラリーがたくさん出ているのだ。

 

「ナイスです!フー=ルーさん!」

 

「これくらいは当然の事でしてよ!」

 

二人はお互いを健闘しながら片手でハイタッチをした。

 

「あの二人、やけにコンビネーションが良いな?だが!」

 

「ええ、私達だって負けるつもりはないんだから!」

 

その後、このビーチバレーはオリンピックレベルのぶつかり合いとなってしまい、全員が応援していたという。

 

試合はちょうどお昼と同時に終了し、最後まで盛り上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅館から離れた海岸にフードをかぶった人物が一人いた。

 

「ようやく見つけたぞ」

 

「くく、お前達は我が同胞に相応しかろうに」

 

声質は高く、深い笑みを浮かべている。

 

「織斑一夏、欲しいなら奪えばいい。篠ノ之箒、気に入らぬのなら倒せばいい」

 

「今度こそ私が全てを掌握する・・女の身体になってしまったのは忌々しいが」

 

どうやら女性らしく、その身体は女性が見れば羨み、男性が見れば魅力的に映るほど均衡が取れている。

 

「機体に乗れるという点はありがたい」

 

「かつてグ=ランドンに滅ぼされた身だが同じ轍は踏まぬ!」

 

「フフフ・・・ハハハハハ!」

 

 

その女性の笑いは夕焼けが迫る空に溶けていった。




水着、水着、水着のオンパレード。

大丈夫だよね?ほんの少しだし。


黒幕がほんの少し登場、政征が特典でもらった記憶から忌々しい因縁が解放されます。

雄輔も特典の記憶から因縁を自覚。

そしてシャナ=ミアは貞操の危機。


次回は注意書き必須です。


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怒りが沸くと周りが見えなくなるよね

一夏、状態説明、一線を越える

政征、雄輔、セシリア、強化される

銀の福音がR-GUNリヴァーレ並のレベル

ペルフェクティオがクロスゲートから出現レベルの絶望

以上


※注意書き

今回のお話はものすごーーーーーーーーーく嫌悪感を持たれると思います!

ですので、それでも構わないという方のみ、この話へのクロスゲートを通ってください。

どうしても許せないと思いますが、その怒りはスパロボOGシリーズの最強技で倒してくださいませ。

コメント欄でコメントが消えるのは悲しいので是非とも!お願いします。


[推奨BGM 『Dark Moon』MDアレンジ]

 

 

皆が白熱している中、一夏だけはシャナ=ミアの事だけしか考えていなかった。

 

視線の先にはシャナが飲み物を飲んでいる。それを遠くから見ていることしか許されていない。

 

「なんでだよ・・なんで!俺は頑張ったのに!」

 

一夏は気づいていなかった。自分の理想、戦いへの向き合い方、ISという存在に対しての考え方。そして、シャナ=ミア自身の思いに。

 

自分は世界初の男性操縦者、ただそれだけで自分の意志とは関係ない。

 

偶然、動かしただけだという考えしか持っていなかった。

 

それでも、ISという力を得た自分は大切な人を守るという理想を持った。

 

嬉しかった。自分は姉と同じ場所に立ち強くなれたのだと、この力で皆を守る。

 

そこに現れたのが二人目の男性操縦者、赤野政征。

 

初めは気の良い奴だなと思った。

 

だが、自分が思い描いていた人物とは全く違っていた。

 

自らを騎士として戒め、男女関係なく倒すための戦いをする。

 

許せなかった。か弱い女性を容赦なく倒そうとする姿勢が。

 

自分は勝てるはずだ、世界最強の姉と同じ力を持った自分ならアイツを倒せると。

 

結果は惨敗。その時にどんな場所でも戦うからには戦場だと言われてしまった。

 

戦場の経験がなくても戦場として考えるべきだ、俺はこの考えが理解できなかった。

 

そして俺は千冬姉以外に守るべき存在を見つけた。

 

シャナ=ミア・フューラ・・・。

 

彼女を一目見たときは綺麗な子だなとしか思わなかった。

 

でも、彼女の笑顔を見た時、俺はこの子を守りたいと思った。

 

俺がこの子を守り続けると。

 

そう決意して近づこうとした時、アイツが近くにいた。

 

赤野の奴だ。彼女の宝石のように輝く笑顔は何故かアイツに向けられていた。

 

そして、もう一人の男性操縦者が現れた。

 

青葉雄輔。アイツを一目見た瞬間、俺は恐怖を感じた。

 

コイツには勝てない・・・直感的にそう思ってしまったのだ。

 

青葉と赤野、こいつらが揃うと何故か中世の騎士が並んでいるように見えた。

 

それからの俺の行動は全てコイツに潰されてきた。

 

シャナ=ミアさんを手に入れられるチャンスを潰され、活躍の場を取られ、千冬姉の剣を勝手に使った奴さえも倒せなかった。

 

なんでだ・・俺は間違っていないはずなのに。

 

俺は決意した。シャナ=ミアさんに俺の物だという証を付ける事を、その為に!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅館での夕食の時間となり、皆それぞれが料理に舌鼓を打っていた。

 

「ん、美味いな。本わさも食えるとは」

 

「ここの料理は本当におもてなしがしっかりしてるな、飯持ってくる」

 

「ま、まだ食べるの?すごいね」

 

シャルロットの驚きも当然だ、政征はこれで4杯目のご飯を食べていた。

 

男だから仕方ないといえば仕方ないが食べ過ぎである。

 

雄輔も同じ量を食べていた、それを見ている女性陣は驚いている。

 

「政征、あの・・」

 

浴衣姿のシャナが政征に話しかけた。箸の使い方がちゃんと上手く出来ない様子だ。

 

「シャナ?あ・・なるほど」

 

「こうやって、摘むんだ」

 

シャナの手に自分の手を添えて扱い方を丁寧に教える。

 

「こうですか?」

 

「そうそう、上手だよ」

 

シャナは礼儀作法に関しては飲み込みが早い、こうして教えるとすぐに出来るようになる。

 

「ねえ、なんだかお醤油が甘いわ」

 

「奇遇ね、わさびも甘いわよ」

 

クラスメイト達はそんな事を言っていたが、政征には聞こえてなかった。

 

「(此処でイチャつくなよな・・・政征)」

 

雄輔は呆れながら食事を続けていたが、自分達に向けられる視線に気づいた。

 

「(織斑か・・・嫌な予感がするな)」

 

雄輔のこの予感が後々、最大の後悔になる事をこの時は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

臨海学校も二日目となり、専用機を持っていない生徒達は山田先生が監視の下で訓練をしていた。

 

専用機を持つ、政征、雄輔、一夏の男性操縦者とセシリア、鈴、シャルロット、ラウラが集合していた。

 

一夏はシャナの近くへ移動しようとしていたが、専用機持ちの4人に阻まれ出来なかった。

 

「織斑先生、フー=ルー先生。一つ質問が」

 

「なんだ?」

 

「なんでしょう?」

 

「なぜ、専用機を持っていない篠ノ之さんがいるのですか?」

 

政征の疑問は最もだ。専用機を持たない箒は本来山田先生の訓練を受けなければならない。

 

「我が社の研究部長からの条件なのです。篠ノ之箒を連れてくるようにと」

 

「ああ、その条件を飲むよう学園から通達があった」

 

「なるほど」

 

学園からの命令もあったのでは仕方ないと納得し、その研究長が来るのを待った。

 

30分後、大きな輸送機と共にその人は三人の助手を連れて現れた。

 

「ちーーーーーちゃーーーーん!会いたかったよーー!さぁ、ハグハグしよう!」

 

「相変わらずだな?束」

 

千冬は突っ込んできた相手をアイアンクローで押し止めている。

 

「ぬぐぐ・・相変わらず容赦のないアイアンクローだね!」

 

そう言っているが応えている様子はなく、アイアンクローからすぐに抜け出した。

 

「束、お前雰囲気が変わってないか?」

 

「ん?そりゃあそーだよ!だって今の私はアシュアリー・クロイツェル社の研究部長だもん!」

 

「何!?」

 

「「「「「「えええええええーーー!!」」」」」」」

 

「あらあら」

 

千冬を始めとするフー=ルー以外のメンバーが全員驚いて声を上げていた。

 

「ふふん。さて、と・・・久しぶりだね?箒ちゃん」

 

「姉さん、例の物は?」

 

「もちろん出来てるよ。ただし、フィッティングとパーソナライズをしたら私からの条件を飲んでもらうからね?」

 

「分かっています、すぐにお願いします」

 

「せっかちさんだなぁ、カティちゃん!お願いね!」

 

「はい!」

 

黒髪のショートカットをした一人の女の子が作業用のISに乗り、コンテナを運ぶ中身を開いた。

 

「これが束さんお手製のIS!『紅椿』!現行で最も先を行ってるISだよ!」

 

「これが・・・」

 

箒は喜びに震えていた。これで自分も同じ場所に立てる力を得たのだと。

 

「早速始めようか・・フィッティング開始!テニちゃんお願い!」

 

「まっかせて!!」

 

箒が紅椿と呼ばれるISに乗り込むと同時に、元気な声で紅い髪の少女がすごい速さで紅椿のフィッティングを完了させていく。

 

「次はパーソナライズだね!メルちゃんよろしくねー!」

 

「はい、お任せ下さい!」

 

一番大人しそうな金髪の少女も紅い髪の少女に負けないくらいの速さで完了させていく。

 

「さ、どうかな?箒ちゃん」

 

「はい、大丈夫です」

 

「じゃあ・・模擬戦してもらうよ。お願いね?城壁の騎士」

 

そう、束が声をかけた方向には雄輔が立っていた。

 

「何!?城壁の騎士が青葉雄輔だと!?」

 

「そうだよ?気づいていなかったの?それとね、自由の騎士も隣にいるよ」

 

「な・・!?バカな・・自由の騎士は政征だと!?」

 

束の言葉に箒は信じられない様子だ。

 

騎士と呼ばれているだけで、相手にはならないだろうと思っていた相手が自らに敗北を与えた二人だったからだ。

 

「なら、青葉雄輔!お前に戦ってもらう!」

 

「束!勝手な真似は!」

 

千冬は辞めさせようとしたがそれを止めたのは意外にもフー=ルーだった。

 

「フー=ルー教諭?」

 

「・・・あの子は一度、上には上がいるという事実を身をもって教えたほうが良いでしょう」

 

「む・・・それは」

 

その言葉に千冬もどこか納得していた。

 

箒は自分に優位な部分しか見ない傾向がある、自分より強い者を決して認めないのだ。

 

「分かりました、受けましょう」

 

雄輔は迷いなく、ラフトクランズ・モエニアを身に纏った。

 

「篠ノ之博士、武装の制限は?」

 

「無いよ、思いっきりやっていいからね。卑怯者と言われても無視して」

 

「了解しました」

 

雄輔はそのまま箒のいる浜辺へと飛んだ。

 

「青葉雄輔!!今度こそ私がお前を倒してやる!この紅椿で!」

 

「・・・・」

 

雄輔は無言のまま、ソードライフルをライフルモードに切り替え、エネルギー弾を一発撃った。

 

「な!貴様!不意打ちとは卑怯だぞ!!」

 

「やはりお前は剣を持つに値しない・・・今ならまだ間に合う、剣を捨てろ」

 

「なんだと!?ぐっ!」

 

ライフルからソードモードに切り替え、斬りかかってきたが箒は何とか武装である「空裂」を展開し受け止めた。

 

「なぜ、私が剣を捨てなければなれない!?」

 

「先ほどの一発を卑怯と言ったからだ。お前は自分の対戦相手が全員、正々堂々挑んでくると思っているのか?これは武道の試合じゃない、ISによる戦闘だ」

 

雄輔が言っているのは戦闘の違いにおける考えだ。

 

箒は自分に挑んでくる相手が自分と同じ条件で戦いに来ると考えている。

 

だが、それはルールが決められたスポーツである場合のみだ。

 

戦場にはルールが存在しない。つまり勝つか負けるかではなく、生きるか死ぬかの二択だけだ。

 

箒の考えで戦場に立てば、まず間違いなく死ぬ可能性が高いだろう。

 

同時に専用機という新たな剣を手にした事で浮かれすぎている。

 

それを見抜いたがゆえに、雄輔は剣を捨てろと箒に言ったのだ。

 

「く!負けるかあ!!」

 

「型通りの剣を闇雲に振るうだけでは、戦場で生き残れないんだよ!オルゴンクロー!」

 

雄輔は箒の刃を回避し続け、シールドクローを展開し突撃した。

 

「何!?がっ!?」

 

「捉えたぞ!」

 

地上で戦闘を行っていたが雄輔はシールドクローを展開し、紅椿ごと箒を捉えて上昇し浜辺に叩きつけ引き摺った。

 

「うああああああああ!!!?」

 

そのまま遠心力をかけて投げ飛ばし、オルゴンクラウドの転移で背後に廻り、そのまま叩きつけた。

 

「がはっ!?この・・!な・・!?」

 

「終わりだ」

 

箒は起き上がろうとしたが、目の前にオルゴンソードを突き付けた雄輔が立っていた。

 

「これがルール無用の戦いだ、これを受け入れられないなら剣を持つな」

 

「う、うるさい!お前に決められる覚えはない!!」

 

「忠告はしたぞ・・・」

 

雄輔はモエニアを解除し、他の専用機持ちが居る場所へと戻った。

 

 

「ありがとね、それじゃ私からの依頼を渡すよ」

 

束は模擬戦が終了したのを確認すると他のコンテナを開いた。

 

「えっと・・セシリア・オルコットって誰かな?」

 

「わ、わたくしですが・・・」

 

「そう、じゃあ説明するね?これはある機体のアーマーなんだけど武装の部分だけを追加する仕様にしたものなんだ」

 

「なるほど・・・」

 

「それからアーマー・ビットが4つ、左右の足から発射するオルゴンレーザーL・Rを装備してるよ」

 

「完全な射撃型になるんですの?」

 

「そうだね、ただしこれを装備するとビットの数は増えるし実弾兵器も無くなるよ」

 

「構いませんわ、ぜひ装備を!」

 

「OK!ついでにその機体もオルゴン仕様にしちゃうね!」

 

「え?」

 

宣言後、すぐに束は三人の助手と共にブルー・ティアーズをオルゴン仕様に改修してしまったのだ。

 

束は「こんなこともあろうかと材料は持ってきてたのさ!ぶい!」の一言で済ませてしまった。

 

「さて、これで最後だね。ラフトクランズ専用の装備を持ってきたよ!」

 

「え!」

 

「ラフトクランズの?」

 

ラフトクランズの操縦者である二人は驚いた。専用の装備を持ってきたのだと急に言われたからだ。

 

コンテナを開くとそこには、それぞれの機体色に塗装された八つの小型化したビット兵器らしきものがあった。

 

「これが、武装の少なさと防御力を補ってエネルギー効率を良くする事を追求した追加装備、オルゴン・ガーディアン!」

 

「オルゴン・ガーディアン・・・」

 

「クセがありそうな武装だ」

 

「これは防衛用の装備だからね、特に二人はお姫様を守る騎士なんだから」

 

「「!!!!」」

 

束の言葉に政征と雄輔は一瞬だけ顔を顰めた。どこまで知っているんだこの人は・・と。

 

「ほい、っと装着を終わらせたよー」

 

驚いてる間に装備させられてしまった、何やってんだこの人はー!

 

「!なんと、緊急事態ですわ!織斑先生!!」

 

「何!?」

 

織斑先生とフー=ルー先生は何かを話し合っているようで、しばらくして向き直った。

 

「全員注目!これよりIS学園教師は特殊任務行動に移る!」

 

「一般の生徒は山田先生の指示に従い、それぞれの部屋にて待機してください!」

 

どうやら重要な出来事のようで専用機をもつ全員が招集された。

 

 

 

 

 

 

[推奨BGM 勝利者への機構]

 

 

作戦会議室となった大広間では専用機所持者全員と教員二人、そしてアドバイザーとして篠ノ之束とその助手三人が集まっている。

 

「では、説明する。二時間ほど前、アメリカ・イスラエルにて合同開発されていたIS『銀の福音』が暴走し、逃走。追撃を逃れてこの空域に向かってるそうだ」

 

「現段階で自衛隊による迎撃は不可能、よって戦力のあるIS学園の専用機によって迎撃されたしとのことですわ」

 

千冬とフー=ルーの説明に全員が表情を引き締める。遊びではなく本当の実戦へ出撃することになるからだ。

 

「ここまでで何かあるか?」

 

セシリアが挙手し、要求を口にする。

 

「目標であるISのスペックデータを要求します」

 

「分かりました。ですがこれは最重要軍事機密情報ですので漏洩した場合、最低でも二年の監視と裁判が確定されますので注意しなさい」

 

「はい」

 

フー=ルーの忠告の後、ターゲットである機体のスペックデータがモニターに表示される。

 

「高機動特殊射撃型、わたくしのブルー・ティアーズと同じで広域殲滅タイプですわね」

 

「攻撃と機動力に特化した機体ね、私の爪龍でも速度ではギリギリ追いつけないわ」

 

「おまけに遠距離からの狙い撃ちも可能ときてる。射程外から狙われる危険性もあるよ」

 

「これだけでは格闘能力も未知数だ。偵察は行えないのだろうか?」

 

4人が話し合いをしている中、政征と雄輔も参加した。

 

「無理だな、この機体は機動力に特化してるって鈴が言ってただろう?更に軍用ときてる、学園で相手にしていた機体とは訳が違う」

 

「個人撃破は難しいだろう。この作戦は連携が成功の鍵になる。それに俺達の中で最大の攻撃力を有し、それをすぐに引き出せるとしたら」

 

 

意見を出し合っていた全員が一夏を見る。

 

「俺の零落白夜だけだって事だろう?やってやるさ!!」

 

一夏は拳を強く握りやる気に満ちていた、しかしそれは何処か危なげだ。

 

政征はこっそりとシャナへ近づいてデートの時、密かに買っておいた小型のICレコーダーを録音状態でシャナに髪を結ってるリボンの中へ忍ばせるよう言った。

 

「(これ・・隠し持っておいて。シャナを守ることになるから)」

 

「(?はい)」

 

シャナはそれに従ってリボンの中にそれを忍ばせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、編成が成され。出撃には一夏、箒、政征、雄輔、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラというメンバーになった。

 

箒の出撃には雄輔や政征、鈴が反対したが紅椿の速度を使わざる得ない状況である為に却下されてしまった。

 

シャナは作戦の危険性から待機を命じられフー=ルーと共にいる。

 

「(何でしょうか。この得体の知れない不安は?胸騒ぎが治まらない)」

 

「一夏、今回は大船に乗ったつもりでいろ。しっかり運んでやるからな」

 

「ああ、わかったよ・・」

 

二人の様子を他のメンバーは警戒しながら見ていた。

 

箒は浮かれきっており、一夏からは作戦会議時までのやる気が感じられない。

 

「(マズイな、これは)」

 

「(いくら何でも浮かれすぎだろう、おまけに集中していない)」

 

雄輔と政征は出来るだけのフォローをしようと考え、機体を展開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

合計八機の専用機は戦闘空域に向かっていた。接触まであと一分といったところだ。

 

「(何だ?さっきから胸騒ぎが治まらない、政征に何か起こるのか?)」

 

雄輔は出撃と同時に妙な胸騒ぎに支配されていたが気にしている余裕が無かった。

 

「!見えたぞ!!一夏!」

 

「!!」

 

[推奨BGM 『虚空からの使者』スパロボOGより]

 

 

それは一目で表すならば白銀の天使だった。

 

機械的な部分がありながらも穢れのない白に美しさすら感じる機体だ。

 

「敵機・・・確認・・・迎撃」

 

「今だ!一夏!」

 

「おう!!くらえええ!!」

 

紅椿から飛び出した一夏は絶対の自信を持って目標である銀の福音に斬りかかった。

 

「回避行動・・・敵機、8」

 

「何っ!?」

 

その一撃は難なく回避され、反撃を開始しようと福音が光を収束する。

 

「させん!オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

逃がさないよう政征が接近戦を挑み、オルゴンソードで牽制する。

 

「セシリア、いきなりの合わせだが出来るか?」

 

「ええ、お任せ下さい!」

 

雄輔はセシリアの隣に並び、ティアーズとガーディアンを同時展開する。

 

「行きなさい!ティアーズ!!」

 

「狙い撃て!ガーディアン!」

 

八つのビットが福音を狙うがダメージ効果が薄く、むしろ回避している福音を挑発するように見えていた。

 

「ちっ!」

 

「ダメですわ!効果が!」

 

福音が距離を取ろうと動くが、オルゴンソードを持った政征がそれを許さない。

 

「逃がさんぞ!まだまだ社交は始まったばかりだ!」

 

「・・・・・」

 

一夏はその政征の後ろ姿を見て、今なら隙があると考えた。

 

「(アイツを・・・殺れる!)うおおおおお!!」

 

そのまま突撃し一夏は零落白夜を発動させ、政征ごと福音を斬った。

 

「ぐああっ!?い、一夏・・・!おま・・え」

 

「は・・はは・・安心しろよ・・これで福音を倒したんだ。お前の言う戦場のやり方だろ?シャナ=ミアさんもみんなも俺が守る・・・!」

 

「ぐ・・う・・・」

 

政征はそのまま海へと落下していき、水しぶきを上げた。

 

福音はダメージを負ったものの、ギリギリで戦闘不能には至っていない。

 

「織斑・・・お前・・・お前って奴はあああああ!!」

 

一夏へ突撃しようとした雄輔だったが、そこに立ち塞がったのは紅椿を纏う箒だった。

 

「一夏をやらせはせん!!」

 

「どけええええ!オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

今の雄輔に冷静さの欠片もなかった。自分の親友を敵ごと落とされるというのを目撃して冷静でいろというのが無理な話だ。

 

 

オルゴンソードを展開し箒に向かっていくが守りを無意識に得意としているのか、雄輔は行動を阻まれ続けた。

 

 

 

 

政征が一夏から攻撃を受ける二分前、教師達も連携がうまくいっていない事を感じていた。

 

フー=ルーが偶然、シャナの視界を塞いだ時にそれは起こった。

 

「な・・何!?」

 

「なんと!?」

 

二人の教師が驚いている中、シャナは見てしまった。

 

最愛の恋人が、海へと落下していく一部始終を。

 

「い、いや・・・嫌ぁああああああああああああああああ!!」

 

その絶叫は部屋中に響き、部屋へとフー=ルーが運び待機させた。

 

「あの場面は」

 

「大丈夫、偶然にもフーちゃんが視界を塞いでたから見てない」

 

束の言葉に安堵し千冬は通信を繋げた。

 

「作戦失敗だ、帰還しろ!」

 

 

 

 

 

 

 

『作戦失敗だ!帰還しろ!!』

 

千冬の声に我に帰った雄輔以外の四人は歯を噛み締めていた。

 

「・・・」

 

なんとか撤退することができたが、全員が無言のままで帰投すると同時に雄輔は一夏を殴った。

 

「お前!なぜ政征を斬った!?答えろ!」

 

「っ、あの方法が最善だと思ったからだ!あれが戦場のやり方なんだろう!?それが間違ってるのかよ!」

 

「てめえ!(あの時の胸騒ぎは、くそっ!!)」

 

雄輔は再び一夏を殴ろうとしたがフー=ルーを始めとする。代表候補生達に押さえられ出来なかった。

 

「全員解散しろ、一夏は私が連れて行く」

 

「あの、私・・外を見ていたいので良いですか?」

 

「私もお願いします、教官」

 

鈴とラウラの言葉に千冬は仕方ないと言った顔で答えた。

 

「一時間だけだ、それ以上は許さん」

 

「ありがとうございます」

 

「では」

 

二人は外の景色が見える窓の場所へと歩いて行った。セシリアとシャルロットはシャナのもとへ行き、落ち着かせている。

 

 

 

 

 

「さて、織斑・・お前はなぜあのような真似をした?」

 

「・・・」

 

「答えろ!」

 

「正しいと思ったからだ。あのISを倒すために」

 

「お前に教えたはずだったがな、命の重さを軽く見るなと」

 

そう言うと千冬は拳で一夏を殴った、一発だけだがその重みは強かった。

 

「お前はこの部屋で待機だ。出ることは許さん」

 

それだけを告げて出ていこうとした矢先。

 

「千冬姉」

 

「何だ?それに織斑せん・・・ッッッが!!」

 

千冬の身体に突如、強力な電流が流れ続けた。

 

それを受けた千冬はその場で倒れる寸前、その手に握られている物が電流を発していたのが見えた。

 

「ごめんな、千冬姉」

 

一夏はそのまま部屋を飛び出していってしまった。

 

「ま・・て・・い・・・ち・・・」

 

千冬は動けずに追いかける事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

一夏は物陰に隠れながらシャナの居る部屋へと向かっていた。

 

「じゃあ・・僕達、飲み物買ってくるからね」

 

部屋から出てきたのはシャルロットとセシリアだった。

 

「あの部屋にいるのか」

 

 

二人が出て行ったタイミングを見計らい、そのまま部屋の扉をゆっくりと開ける。

 

その時に見られていたのを一夏は気づいていなかった。

 

「(あれって・・・)」

 

「急いでフー=ルー先生と雄輔を呼びに行かないと!!」

 

それを目撃した鈴は急いで二人を探し始めた。何かとても嫌な予感がすると感じたまま。

 

 

 

 

シャナは部屋の中で泣き続けていた。愛しい恋人が映像とはいえ海に落ちて行くのを見てしまったからだ。

 

「うう・・・う・・・ぐす」

 

ドアの開く音が聞こえ、シャナは出迎えようと立ち上がった。

 

「シャルロットさんですか?それともセシリアさん?・・・っ!?貴方は!!」

 

目の前に居たのは一夏だった。あのアリーナでの出来事から一切話していない。

 

あの出来事以降、シャナは一夏から距離を置いていた。

 

「シャナ=ミアさん、泣いてたのか?」

 

「貴方に心配される事はありません、出て行って下さい!!」

 

「俺だって心配で」

 

「出て行ってください!!」

 

あまりの拒絶の意志に一夏はシャナに近づいて行き、腕を掴んで布団の上へと押し倒した。

 

「いやっ!何をするんですか!?離してください!」

 

「シャナ=ミアさんを誰にも渡したくないんだよ!俺が俺が守るから!」

 

「貴方は私の剣にふさわしくありません!!」

 

あくまでも拒絶の意志を示すシャナに対して一夏は強硬手段に出た。

 

「だったら俺だけの証を刻んでやる!」

 

一夏はシャナの意志を無視しシャナが着ている浴衣を強引にはだけさせた。

 

「嫌!嫌やあああ!!誰か!誰かあああ!!」

 

その悲鳴は部屋の中ではなく通路にまで響いていた。




三人娘はこの話のどこかにいます。

はい、持ってきていたのはスタンガンでした。

スタンガンは本来、気絶なんてしませんが架空の強さとして気絶レベルにしています。

そんなの持って来てたり携帯してる時点でアウトですがね。


さて、とうとうやってしまいました・・・。

政征は海の中、シャナは一夏に犯される寸前。

まさにペルフェクティオクラスの絶望。

たった一人残された騎士と龍の爪はシャナを助けられるのか?

次回へ


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知人が無事だと嬉しいよね

一夏、謹慎処分

政征、別世界のシャナが愛した彼と会話し、二次移行の前兆

以上


「あの時、気をつけていれば!くそっ!」

 

雄輔は深い後悔と共に誰もいない場所で壁を殴りつけた。

 

自分は気づいていた、出撃の事態となる前日に一夏が政征に対して殺気を向けていたことに。

 

「気づいていた、気づいていたのに!俺は!!」

 

何度も壁を殴り続け、その拳から血が出始めていた。

 

「もう止めなさい!」

 

「!フー=ルー先生・・・」

 

腕を掴んで止めたのはフー=ルーだった。

 

血が出ている雄輔の手に自分が持っているハンカチで止血した。

 

「不測の事態は起こるもの、後悔しても戻らないのです」

 

「だがあれは!」

 

「お黙りなさい!騎士たる者、次の一手を考えずにどうする!」

 

「っ!」

 

フー=ルーの叱咤に雄輔は冷静なった。

 

起こったことは戻らない、それならば次の一手を考えるのが先決だ。

 

「ありがとうございます、目が覚めました」

 

「ええ、では」

 

会話の途中でバタバタと鈴がこちらへ走ってきた。息は弾んでいるが疲れを顔に出していない。

 

「はっ・・はっ!雄輔!フー=ルー先生!ちょうど良かったわ!お願い、早く!一緒に来て!」

 

「一体どうした?」

 

「何があったのです?」

 

「いいから早く!何か嫌な予感がするのよ!!」

 

鈴は走ってきた通路を引き返し、再び走り出した。雄輔とフー=ルーは着いていくために走り出す。

 

到着と同時に三人は部屋から何かが聞こえた。

 

『嫌!嫌やあああ!!誰か!誰かあああ!!』

 

「今のはシャナ=ミアの声!?」

 

「この部屋からだ!」

 

「っ!?ダメですわ!鍵が掛かってます!!」

 

声が聞こえた部屋を雄輔が指差し、フー=ルーが開けようとしたが鍵が掛かっていて開けることが出来ない。

 

「っ!二人共退いて!フー=ルー先生!後で反省文でも謹慎でも、勝手に処分して!」

 

鈴はドアの前で構えを取り、一歩引くとそのままドアを蹴り飛ばした。

 

「マジかよ・・・」

 

「ボケっとしてないで中に入るわよ!!」

 

「火事場の馬鹿力というやつでしょうか?」

 

鈴の蹴りの威力に驚きながらも部屋に入り、雄輔は麩を思いっきり開けた。

 

「な!」

 

「!!!!鈴さん!雄輔さん!フー=ルー!!」

 

そこには、浴衣をはだけさせられたシャナが一夏に組み伏せられており、これから起こる事が容易に想像する事が三人には出来た。

 

「何を・・・」

 

「やってんのよ!この馬鹿一夏ァァァァ!!」

 

鈴は遠慮なしに一夏へ飛び蹴りを撃ち込み、一夏をシャナから引き剥がした。

 

「ぐはっ!?」

 

「シャナさん!」

 

それと同時に雄輔はシャナを起こし、フー=ルーに預けた。

 

「大丈夫ですか?何もされていませんわよね?」

 

「大丈夫です、この身は汚されていません」

 

シャナの言葉に雄輔とフー=ルーは安堵し、一夏を鋭い目で睨みつけた。

 

「織斑、お前・・男として、いや・・人間として一番やっちゃいけねえ事をやりやがったな・・・・!!!!」

 

雄輔は明確な怒りをその目に宿し、一夏を睨み続けている。

 

「っ、俺はアイツの代わりにシャナ=ミアさんを!」

 

「私の名を呼ばないで下さい!!」

 

シャナから発せられる強い言葉に一夏はたじろいだ。

 

「言ったはずです、貴方に私の剣を名乗る資格はありません!!」

 

「そ、そんな!俺は!!」

 

「私は貴方を拒絶します!はっきり言います、近づかないでください!!」

 

「っっ!!」

 

一夏はシャナから発せられた拒絶の言葉にショックを受け、放心状態になった。

 

「それに、貴方は言い逃れは出来ません」

 

シャナはリボンを解き、その中にあった物を三人に見せた。

 

「これは・・小型のICレコーダー?」

 

「それも録音状態になってるわね」

 

「こんな物を一体どこで手に入れたのです?」

 

三人の疑問にシャナは当然のように答えた。

 

「政征が渡してくれたのです、私を守ることになるだろうと」

 

それを聞いた一夏は怒りの表情を見せていた。

 

「なんで、アイツはいつも・・・いつも俺の邪魔をするんだよ!」

 

ICレコーダーを奪おうと襲いかかったが、目の前に鈴が立ち塞がり強烈な一撃を腹に撃ち込んだ。

 

「が!?あ・・・り、鈴!?」

 

「二人の恋路を邪魔する奴は!拳に砕かれ地獄へ落ちろぉ!!」

 

そのまま顎にも拳を打ち込み、一夏を気絶させた。

 

「拘束して織斑先生の部屋に運びましょう」

 

「分かりました」

 

 

この出来事により一夏は白式を没収され臨海学校終了までの間、織斑先生の監視の下、謹慎処分となった。

 

その間の指揮権はフー=ルーに託され、対福音二次作戦のミーティングを開始した。

 

 

 

 

 

 

[推奨BGM 『THIRD SADNESS』スパロボOG]

 

シャナが助けられる2時間前。

 

「(俺は・・どうしたんだ?確か・・一夏に斬られて)」

 

政征は何もない空間に立っていた、わかるのは自分の身体の感覚だけだ。

 

「(まだ死んでいないでやんす)」

 

「(神様?ああ・・そっかこの感じは初めてこの世界に来た時と似てる)」

 

『君が死んだら彼女が悲しむだろう?』

 

「誰だ?」

 

振り返るとそこには一人の青年が立っていた、紫雲セルダと似ているが彼を若くして幼くした感じだ。

 

『俺はトーヤ・シウン。紫雲統夜って言い換えればいいかな?もっともこの世界の俺は生まれてないみたいだけど』

 

「な・・・なんで?」

 

政征は驚きを隠せなかった。

 

かつて自分自身を投影していた人物がこうして現実に目の前で現れたからだ。

 

『君がこの世界のシャナ=ミアの剣なんだろう?彼女は今、泣いている』

 

「シャナが・・・?」

 

『俺と同じ想いに至ったんだろう。俺も彼女から好意を受けてたからな』

 

「それで俺と会話できるこの空間に来たってのか?」

 

『違う、君の枷を外してくれって頼まれたんだ。君の剣にね』

 

「俺の剣?」

 

統夜が指を差した方向に振り向くとそこには中性的な顔をした重鎧騎士が立っていた。

 

女性のようであり、男性のようでもある。

 

本当の中性というのはこんな感じなのだろう。

 

「我は何者にも縛られぬ自由を勝ち取る剣、ようやく貴方と言葉を交わせました」

 

「自由の剣・・・まさか!?お前、リベラなのか?」

 

「はい、我が主よ」

 

リベラは俺の目の前で騎士の礼節を行いながら膝をついた。

 

『君の機体の枷を外すにはグランティード・ドラコデウスの力が必要なんだ。でも、この世界のグランティードはまだ目覚めてない』

 

「シャナの専用機になったせいか?」

 

『その通り、だからこそ俺が枷を外すために来たんだ』

 

「統夜、なぜ?」

 

『この世界に俺の世界で真の死を迎えた奴が女性として生きている。そいつを倒して欲しい』

 

「そうか・・・わかった。俺はシャナの剣だ、シャナを傷つけようとする者は許さないし仲間を殺そうとするやつも許さない」

 

『本当に似た者同士だな、俺達ってさ』

 

「だな、ありがとう。統夜」

 

互いに笑い合うと統夜は人間が持てるサイズのインフィニティ・キャリバーを出現させた。

 

「これで、リベラを斬るんだ。それで枷が無くなる」

 

インフィニティ・キャリバーを受け取り、それを振り上げる。

 

「・・・いくぞ?リベラ」

 

「はい」

 

そのまま振り下ろし、刃が当たると同時にリベラから眩しい光が溢れ、鎧騎士ではなく髪が長髪となり鷲の意図をモチーフにした鎧を纏っていた。

 

『これで枷は解かれた。この世界を頼んだ、政征』

 

「任せておけ、統夜」

 

『気を付けてくれ、奴は[破滅の王]の欠片を宿している』

 

統夜の言葉に政征は驚愕した、破滅の王という単語が何故出てくるのかと。

 

「まさか!?それって」

 

言い終える前に政征は光に包まれて意識を失った。




今回は短めです。

スパロボでいう死んだと思っていた奴が誰かと出会っていて生きていたインターミッション的な話です。


シャナはなんとかギリギリで、貞操を奪われずに済みました。

一夏は今、全身を拘束され、白式をも取り上げられて織斑先生の部屋で謹慎です。

更にはシャナからの拒絶によってトドメが刺さりました。

会話の中で出てきた「破滅の王」とは?一体何フェクティオなのか?

鈴のセリフはアレです、馬に蹴られるアレですよ。


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連携って見てるとすごいよね

政征、復活&二次移行!

ISガールズ、ぶっつけ本番で合体攻撃

福音、撃破後に二次移行


以上


[推奨BGM 戦友よ、奮い立て スパロボOG]

 

第二次銀の福音対策会議と題された作戦会議にフー=ルーが千冬の代わりに状況説明をしていた。

 

「現在、銀の福音はポイントB付近の海域において休眠状態となっています」

 

モニターされた場所を見て一番に反応したのは雄輔だ。

 

「政征が落とされたすぐ近くか!ふざけやがって!!」

 

「お静かに。次の出撃が最後になるでしょう」

 

「最後・・ですか?」

 

「おそらくは此処で失敗すれば、この旅館も被害に遭うということですね?フー=ルー教諭」

 

「その通りですわ、ラウラさん」

 

フー=ルーは表情一つ変えずに事実を口にしている。

 

「故に負ける事も逃げる事も許されません、それでも行きますか?」

 

フー=ルーは試すように厳しい声で専用機持ちのメンバーに問いかけた。

 

「私は行くわよ、必ずね」

 

「わたくしも行きますわ」

 

「僕も行くよ」

 

「兄様を探さねばならないからな、私も行く」

 

「無論、俺も行く」

 

全員が参加の意志を固め、その目には決意があった。

 

「分かりました、これより一時間後!再出撃の収集をかけます!各自自由にしてください!」

 

フー=ルーの一声で会議は終わるが雄輔以外の4人は残っていた。

 

「実はわたくしから提案があるのですが」

 

セシリアは鈴、シャルロット、ラウラに声をかけていた。

 

「え?」

 

「一体何の提案?」

 

「ぜひ、聞かせてくれ」

 

「はい、実は」

 

セシリアが提案したのは四人による連携攻撃の提案だった。

 

「何考えてんのよ!こんなの相当練習しなきゃ完成しないわよ!?」

 

「弾幕展開が難しすぎるよ、これ」

 

「私は出来ない訳ではないがAICで相手を止められるかどうか・・・」

 

そう思うのも無理はない。

 

セシリアが提案したのは、鈴が先行し、セシリアがビット兵器での牽制、シャルロットのライフルによる連続発射とラウラのレールカノンによる位置調整及びAICによる停止、そこから鈴の最大威力の武器を敵に撃ち込むという流れだ。

 

「分かっていますわ、こんな連携があると頭の隅においてくださいませ」

 

「考えなしに言ってる訳じゃなさそうね」

 

「もちろんですわ、皆さんを信頼しての事です」

 

「わかったよ、使うって決めたら合図して」

 

「その時は私達も覚悟を決めよう」

 

セシリアを除く三人は同時に頷き、セシリアの考案した連携を頭に入れ待機した。

 

 

 

 

 

 

雄輔は出撃前にシャナと会っていた。

 

今の目的である誓いをシャナの前で誓うために。

 

「シャナさん」

 

「雄輔さん?」

 

「今回は青葉雄輔ではなく、フューリーのユウ=スケ・ダーブルスとして来ました」

 

フューリーとしてと聞いてシャナはフューリーの皇女の顔つきになった。

 

「では、改めて聞きましょう。ユウ=スケ。私に何の用か」

 

「はい、我が親友・・マサ=ユキ・フォルティトゥードーの事です」

 

「っ、それで?」

 

「彼を貴女様のもとへ必ずお連れします。それを誓いにする為に此処へ来ました」

 

「そうだったのですね、ならばフューリーの皇女として命じます。必ず生きて帰りなさい!フー=ルーに私と同じ思いをさせる事は許しません」

 

「!シャナ=ミア様・・・」

 

「あのような思いだけはもう・・誰にもさせたくないのです」

 

「はい、必ず!」

 

誓いを口にした後、雄輔は振り返って出撃待機場所へと向かおうとした。

 

「ユウ=スケ、武運を・・・」

 

背中でシャナの言葉を受け止め、頷くと待機場所へ走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

出撃時刻となり、雄輔、鈴、セシリア、シャルロット、ラウラの5人は出撃していく。

 

 

[推奨BGM 招かれざる異邦人 スパロボOG]

 

「ターゲット接触まで後、20秒」

 

『油断せず行きなさい!戦闘開始!!』

 

5機が散開し、銀の福音を攻撃によって叩き起す。最高の気付けによって福音は警戒状態を最大にしている。

 

「来たわ、どうやら寝起きが悪いみたいよ!」

 

「お寝坊さんにはお仕置きしなければなりませんわね!」

 

「目覚まし時計は沢山あるからさ!」

 

「おまけにビンタもあるぞ!」

 

警戒が最大の福音は光の雨を降らし、四人全員を狙ってくる。

 

「きゃあ!?」

 

「ああっ!」

 

「うわあああ!」

 

「ぐううう!」

 

四人は回避行動を取ったが放たれた広域レーザーに被弾してしまう。

 

「やらせる訳がねえだろう!」

 

雄輔はオルゴン・キャノンを展開しロックオンする。

 

「オルゴンキャノン展開!!広域モード!!」

 

「ヴォーダの闇へと還るがいい!」

 

三つの砲口から放たれるエネルギーが福音を捉える。

 

「LAAAAAAAAAA!!」

 

ダメージを受けた福音は与えた相手であるラフトクランズ・モエニアに狙いを定め、連続でレーザーを放ってくる。

 

「な、なに!?ぐああああああ!」

 

シールドクローとガーディアンをシールドとして展開し、直撃は防ぐがそれでもエネルギーを大幅に削られてしまう。

 

「ぐ・・・うううう!俺は・・誓いを果たすまでやられるかよ!」

 

「Laaaaaaaaaa!!」

 

福音は人間で言う所の怒っている状態であり、執拗にモエニアを狙い続ける。

 

「くそ・・!回避が間に合わねえ!」

 

大量のレーザーに追われ直撃を覚悟した雄輔だったが、その攻撃は寸前で何かに防がれた。

 

レーザーを防いだそれは紺瑠璃色をしたオルゴン・ガーディアンがシールドモードによって雄輔を守っていた姿だった。

 

「な・・・!!」

 

「あれって・・オルゴン・ガーディアン?」

 

「嘘・・ということは!」

 

「こんな事が出来るのは雄輔さんの他に一人しかいませんわ!」

 

「全く・・・姉様や私を待たせて、遅すぎる帰りではないか!兄様!」

 

歓喜の声を上げると同時に海から水しぶきが一気に上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(・・・・っ!行かないとな)」

 

政征はラフトクランズ・リベラを纏ったまま海中で目を覚まし、今現在五人が福音と戦っている事をセンサーによって確認した。

 

「(ん?二次移行・・・だと?)」

 

政征はディスプレイに表示されている『二次移行』の項目に触れた。

 

[オルゴンクロー、リミッター解除完了済]

 

 

[オルゴンキャノン、リミッター解除完了済、チャージリミッター解除完了]

 

 

[全バスカー・モード開放済]

 

 

[オルゴン・クラウド部分限定発動からオルゴン・クラウドSへと更新、常時発動済]

 

 

[ラースエイレム限定解除・使用許可承認後に発動可能状態へ移行済]

 

 

[オルゴンライフル、リミッター解除しました]

 

 

[オルゴン・ガーディアンとの同調完了]

 

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー) オルゴン・レガリア習得]

 

 

完全な全身装甲となり、ラフトクランズ・リベラは更なる進化を遂げた。

 

「全てのリミッターが完全に解除されたのか?」

 

今まで重みがあった動きとは違い、まるで手足のように軽い。

 

「(駆けよ!ラフトクランズ・リベラ!我が誓いと共に!!)」

 

新たな姿となったラフトクランズと共に政征は海中から抜け出していった。

 

 

 

 

[政征戦闘時 推奨BGM 『Limit Over』MDアレンジ]

 

 

水しぶきから現れたそれは雄輔のラフトクランズのように仮面を被ったようなISの姿ではなく、全身装甲に覆われISから本来のラフトクランズに近くなった姿だ。

 

「みんな、すまなかった!」

 

その声は一度は白い夜に飲まれ、深い海へと落ちていった騎士の声だった。

 

「政征・・・本当にお前なのか!?」

 

「ああ、正真正銘の私。赤野政征だ!」

 

「生きてたんだ・・心配かけて!」

 

「本当に・・・良かったですわ」

 

「主役は遅れてやってくるとはいえ、遅刻しすぎだよ!」

 

「良かった、これでシャナ=ミア姉様にも笑顔が戻る!!」

 

政征以外のメンバーは生きていた事に驚きを隠せず、笑顔が浮かんでいた。

 

「LAaaaaaaaaa!!」

 

「福音、今は眠っててくれ。オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

ソードライフルを構え、ソードモードへと切り替えると一気に突撃した。

 

「速い!速度がまるで違うぞ!」

 

「はああ!せいっ!」

 

雄輔の驚きも当然だろう。リベラは福音が放つレーザー以上の速度で迫り、接近戦を仕掛けていた。

 

「出よ!オルゴナイトミラージュ!でやあああ!」

 

オルゴナイトによる分身が増え、4体となり福音の四肢を掴み結晶化すると同時に横へ薙ぎ払った。

 

「LA・・・・LAaaaa」

 

福音は深くダメージを負ったがそれでも戦闘を止めようとしない。

 

 

 

 

[ISガールズ 合体攻撃 推奨BGM『VARIABLE FORMATION』スパロボOG]

 

セシリアはチャンスは今しかないと三人へ通信を繋げた。

 

セシリアからの合図である「S・F・A」という表示を見て三人も同じ気持ちだったらしく、全員が頷いた。

 

「行きますわよ!皆さん!」

 

「了解だ!」

 

「うん!」

 

「わかったわ!ショルダー・パーツ、パージ!」

 

4機の専用機が福音へとへと向かっていく、先行していくのは鈴だ。

 

「オルゴンライフル!N・B!ダブルシューート!」

 

実弾と非実弾の弾幕を展開し福音の動きを止めるシャルロット。

 

「ついでだ!これも受けろ!」

 

ラウラはシャルロットに並ぶ様に動き、大口径レールカノンを発射し続ける。

 

「行きなさい!ブルー・ティアーズ!アーマー・ビット!オルゴンレーザー!RB!LB同時発射!!」

 

八つのビット兵器を展開し、追尾するレーザーによって逃げ場を失い福音はビットから放たれるレーザーの雨を浴びてしまう。

 

「逃がさんぞ!」

 

ラウラがAICによって攻撃を受けた福音を停止させる。

 

「今ですわ!鈴さん!」

 

「わかってるわ!ブロークン・アームリンク!」

 

敵へと向かっていくブロークン・アームへ突撃する。

 

「ドッキング!オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

そのまま、右腕とドッキングし、鈴の爪龍はその速さで一気に蹴りの連撃を叩き込み、その巨大な爪で福音の翼を掴んだ。

 

「リミッターカット!砕けろォ!!ブラキウム・ブローッ!」

 

翼を破壊された福音は海へと落下し、水しぶきを上げた。

 

「で・・出来た!」

 

鈴は連携もそうだが、ブラキウム・ブローを成功させたことが無かったのだ。

 

「やりましたわ!」

 

「まさか上手くいったなんて!」

 

「これは訓練に組み込まねばな」

 

他の三人の女性専用機持ちも喜んでいたが、男性二人は警戒を解いていなかった。

 

「油断するな!どうやら終わりじゃなさそうだ・・・」

 

「まさか、あやつもか」

 

水しぶきを上げて出て来たのは銀の福音。二枚だった翼は四枚に増えており、翼には砲撃の砲口と剣を装備していた。

 

そう、銀の福音は戦いの中で二次移行してしまったのだ。




政征、進化して復活!!

IS原作ガールズは合体攻撃を習得しました

次回はラフトクランズが合体攻撃!?

そして新たなる力、オルゴン・レガリアの力とは?


銀の福音(二次移行)

HP13万

NE500

パイロットブロック
HP回復(中)
NE回復(中)
Gテリトリー


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裏側 暗躍する破滅の諜士長

一夏、箒の二人、勧誘を受け離脱

フードの女の正体が断片的に判明

以上


雄輔達が出撃していった後の30分後。

 

 

「俺は・・」

 

千冬監視の下、一夏は白式を没収された上、謹慎状態となっていた。

 

「私は少し出て行くが、変な気を起こすなよ?」

 

千冬は部屋を出ていき、一夏は再び自分の思考に耽った。

 

「・・・・」

 

アイツに向けられる笑顔を認めたくなかった、彼女は自分が姉以外で初めて意識した女性だった。

 

自分の隣にいて欲しかった、その思いが暴走した結果がこの始末。

 

「・・・・嫌だ、このままで終わりたくない」

 

そうつぶやくと、いつの間にかフードを被った一人の女性が入ってきていた。

 

「今から脱却したいか?」

 

「!」

 

「この現状から抜け出したいか?」

 

「あ、あんたは誰だよ!」

 

一夏は驚きながらも言葉を紡いだ。この女性の得体の知れない雰囲気に飲まれまいと必死に自分を奮い立たせる。

 

「名は明かせぬがお前に機会を与えに来た者だ」

 

「機会、だって?」

 

「自由の騎士を倒したいのだろう?今のお前からは復讐の炎が見えるぞ」

 

その言葉に一夏はハッとする。このまま終わりたくないと自分はアイツを倒したいと。

 

「でも、俺はもう・・・」

 

「理想など変わるものだ、それともこのまま終わって行くのをただ見ているだけか?」

 

「!!!」

 

その一言で一夏の中にあった黒い感情に火が点いた。復讐という言葉がこれほどまでに甘美に感じた事があっただろうか。

 

「アイツ以上に強くなれるのか?」

 

「それはお前次第だ。力を与えたところで今のお前では自滅する」

 

「っ!」

 

この女性にも自分の弱さを見抜かれていた。

 

考えを変えなかった事で暴走した事さえも見抜かれているのではと一夏は不安がよぎる。

 

「共に来るがいい。白き夜で更に照らしたいのなら私が鍛えてやる」

 

「!!わかった・・アンタに着いていく」

 

「では、後ほどな」

 

フードの女性は姿を消し、一夏だけが部屋に残された。

 

「政征を倒す・・・必ず」

 

まずはアイツを倒したい、アイツを越えたいそれだけが一夏の中で激しく湧き出ていた。

 

「くくく・・・欠片を容易く受け入れたか」

 

フードの女性は没収された待機状態の白式を容易く発見し、その手に握っていた。

 

「では、次に紅き椿を活けるとしようか」

 

一夏の前から消えたようにフードの女性は再び姿を消してしまった。

 

紅き椿を破滅という剣山で活ける為に。

 

 

 

 

「なぜ、私は勝てない・・・アイツに!!」

 

最初の出撃から帰還した後、箒は気づかれないよう旅館を飛び出し誰もいない海岸で身を潜め考えていた。

 

戻れば無断で抜け出した事を咎められ、待機を命じられるだろう。

 

「なぜだなぜだなぜだなぜだ!!なぜアイツは私に哀れみの目を向けるのだ!おまけに剣を捨てろなどと!!」

 

彼女は雄輔に対して言われた意味が分かっていなかった、彼はただ剣を捨てろと言っていた訳ではない。

 

見知らぬ相手でさえ自分と同じ土俵で戦ってくるのが当然だと思っている事。

 

力を得ればすぐに浮かれきってしまう、この二つの要素を見抜いた上での言葉だった。

 

しかし、その真意に気づくことはなく自分よりも各下なのだから剣を捨てろと解釈してしまっている。

 

彼女の内には自分より上の存在など居ないという考えが深く根付いてしまっていた。

 

「剣を捨てるかは私が決めることだ、アイツの言葉など意味はない!!」

 

「随分と荒れているようだな?」

 

「何者だ!?」

 

後ろから声をかけられ振り返るとそこには先程、一夏と話していたフードの女性が立っていた。

 

「倒したい相手がいるのだろう?その相手に勝てないままで終わるのか?」

 

「な・・何をいう!」

 

「分かりやす過ぎるほどの激情、それを使って倒したくはないか?」

 

「っ・・」

 

「それならば私と共に来るがいい。鍛えてやろう」

 

その言葉はまるで蜜のように甘美だ、だが深く思考できる者ならばその危険性に気づくだろう。

 

箒はその危険性を敢えて受け入れた。ただ一つ、自分を地に付けた相手を倒したいがために。

 

「いいだろう・・お前と共に行ってやる」

 

「ならば、しばらく待っているがいい。もう一人連れてこなければならぬのでな」

 

フードの女は消え、箒だけがその場に残された。

 

「ふふふ・・・これで私はまた力を得ることが出来る」

 

箒の思考は力自体に取り込まれていた、力を示す事でしか己のあり方を確立する事が出来なくなっている。

 

しかし、それが雄輔が箒に対し、悲しんでいた事でもあるのを箒は気づいていなかった。

 

 

 

 

 

千冬が戻る最中、フードの女性が一夏が謹慎されている部屋の前にいるのを目にし警戒しながら声をかけた。

 

「貴様、何者だ!?」

 

「織斑千冬か、世界最強ともてはやされながらも導く事を誤る戦乙女よ」

 

「なっ・・!」

 

「貴様に他者を導く資格はない。故に白き夜を扱う者は私が導く」

 

白き夜と聞いて千冬は直ぐに誰なのか気づいた。

 

「一夏の事か!?行かせんぞ!それと貴様には話を聞かねばならん!!」

 

フードの女を取り押さえようと千冬は掴みかかろうとする。

 

「世界最強の栄光を掴んだだけはある、体術には優れているか。だが」

 

千冬の手を掴み、フードの女はその勢いを利用してそのまま取り押さえるように腕を捻り上げた。

 

「ぐああ!?は、離せ!」

 

「身を護る術くらい、私が身につけていないとでも思ったのか?織斑千冬」

 

フードの女は腕を捻り上げたままゆっくりと千冬に話しかける。

 

「破滅の一部を垣間見るが良い。織斑千冬」

 

「な、何!?」

 

千冬は怒りを宿した目でフードの女を見るが、同時にもう片方の手で頭を掴まれた。

 

「な、なんだこれは!?」

 

千冬の中に流れ込むのは数百、数万とも言えるほどの負の感情の流れであった。

 

あらゆる怒り、憎しみ、嘲り、苦しみ、恐怖、絶望といった負の流れが見せしめを受けている死刑囚のようにぶつけられてくる。

 

キエロ!シネ!クヤシイ!シニタクナイ!ユルサナイ!オマエダケガ!

 

その黒い流れに千冬は恐怖し、女が手を離すと同時に崩れ落ちた。

 

「あ・・嫌だ・・来るな・・見るな・・触るな・・・違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!」

 

今の千冬は顔を真っ青に染め上げ、汗をかき全身を震わせ自分で自分を抱き締めていた。

 

その姿に最早ブリュンヒルデと呼ばれた威厳ある姿はなく、一人の女が恐怖に屈した姿だけがあった。

 

「破滅を受け入れたか、最期の時まで待っているがいい」

 

千冬に興味を無くした女は部屋へと入り、一夏へと近づく。

 

「おとなしく待っていたようだな?」

 

「こんな状態じゃ大人しくしてるしかないだろ?」

 

「確かに」

 

女は一夏の拘束を解き、ある物を渡した。一夏にとって唯一の武器であり鎧でもあるそれを。

 

「こ、これは・・・白式!?」

 

「それを持ったまま来い」

 

フードの女は白式を手にした一夏の手を掴み、部屋の窓から外へ出るとそのまま海岸へと向かった。

 

 

 

海岸へ到着し、フードの女はすぐにある人物をすぐに探した。

 

「待っていたか」

 

「当然だ、それにしても遅かったのだな?」

 

海岸の岩場に箒が座っていた。早く自分を連れて行けと言わんばかりだ。

 

「もう一人、連れて来るのに時間がかかっただけに過ぎぬ」

 

「もう一人だと?」

 

「箒!?なんでお前が?」

 

「一夏!?」

 

一夏と箒は互いに驚きを隠せない、着いていく事を決めた相手が同じだったのなら尚更だ。

 

「お前達は倒したい相手がいるのだろう?それを忘れてはいまいな?」

 

「「!!」」

 

女からの言葉に二人は黙ってしまう。軽い気持ちで着いていこうとしたのを見破られたのだろう。

 

「俺は・・アイツを、赤野を倒す!」

 

「私もだ、青葉雄輔を倒す為に力が必要だ!」

 

二人に共通しているのは目的の相手を倒すという復讐にも似た感情だ。

 

その感情によって破滅という名の種子が埋め込まれていることに二人は気づくはずがなかった。

 

「(せいぜい先駆者となるがいい)」

 

女にとって二人は自分の目的を果たす為の手駒としか考えていなかった。

 

彼女の目的はただ一つ、この世界にて女尊男卑の思想を利用し己が動かせる世界とする事。

 

「なぁ、俺達はどこへ向かえばいい?」

 

一夏はこれから向かう場所が知りたくなり、女に問いかけた。

 

自分を鍛えて欲しいがために急かしているのだろう。

 

「まずはこの座標に二人で先に行くがいい」

 

女は一夏と箒にある施設の座標を教え、向かうよう告げた。

 

「行くぞ、一夏」

 

「ああ」

 

箒と共にISを展開し、二人は指定された座標へと向かって行った。

 

その姿を見送った女のフードが突風で取れる。

 

髪は闇を思わせる黒髪、顔には傷のような黒い模様、釣り上がった目に耳には銀のピアスをしている。

 

「では、私達は挨拶を兼ねて行こうとしようか・・カロクアラ?」

 

ISを展開した女は戦闘域へと向かう、己自身に憎しみを向けさせるべき相手に出会うために。




最近、続きが浮かばなくて転がりまくってる作者です。

色々、要因はありますが完結は目指しております。



ルート予告を此処で。

臨海学校後に伸び悩んでいたラウラがある人物に出会います。

出会うのは脳髄の虫に支配された家族と戦った騎士とだけ言っておきます。


雄輔と政征は野生を解放されます。


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別れる時って淋しさがあるよね

銀の福音との決着。

嫌な記憶復活

ラウラとセシリアの焦り

以上


「LAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

一度倒れ、二次移行を果たした福音は広範囲にレーザーを放ち、六人を近づけさせない。

 

回避行動をし続けているがそれでもレーザーが掠っていく。

 

「くっ!なんなのよ!全く近寄れないじゃない!」

 

「広範囲の攻撃が更に強化されて、こちらが反撃する暇がない!」

 

「参ったね、このままじゃエネルギーが消耗していくだけだよ」

 

「この距離ではビットも使えませんわ!」

 

四人が騒いでいる中、政征と雄輔は回避行動をしながら福音を観察していた。

 

「やはり、何かあるな・・・」

 

「ああ、ここまで頑なに接近を許さないなんて」

 

「牽制する。雄輔、接近戦を頼む!」

 

「牽制って、この距離からか!?」

 

政征はソードライフルをライフルモードに切り替え、フー=ルーが行っていた狙撃の構えを取った。

 

「この距離じゃ挟み撃ちは無理か、ならば・・・!」

 

ビーム状のオルゴンライフルを二発放ち、福音の注意を向けさせると同時に雄輔が突撃する。

 

「オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

雄輔がオルゴンソードを振り下ろすと同時に、反撃のタイミングを逃した福音は二次移行によって手にした剣を使い、パイロットを守るようにその剣を受け止めた。

 

「!?守ったのか?なぜ・・・」

 

「LA!Laaaa!!」

 

「ぐはっ!?」

 

剣によって押し込まれ、雄輔は斬撃を受けてしまいレーザーの一斉総射に晒される。

 

「ガーディアン!ぐっ・・・おおおおおお!?」

 

己が装備しているオルゴン・ガーディアンをシールドモードで展開し、シールドクローを構え防御するがSEを削られていく。

 

「雄輔師匠が!」

 

ラウラの視界に雄輔が集中砲火を受けているのが入るが、遠すぎて援護に向かえない。

 

「シャルロット!セシリア!援護してくれる?アイツの羽根・・・噛み砕いてやるから!」

 

鈴の言葉に二人は彼女の決意に驚きを隠せない、反撃の為にもう一度先行すると言っているのだから。

 

「大丈夫ですの?先ほどの連携での大技で鈴さんは・・・」

 

「心配しないで!新しくなった羽根を一枚でも砕くことが出来れば勝機はあるはずよ!」

 

「うん、わかった・・・タイミングは任せるよ!」

 

鈴は精神を落ち着かせ、自分の相方である爪龍に声をかけた。

 

「(もう少し、もう少しだけ付き合ってくれる?爪龍)」

 

ISである爪龍は答えない、それでも僅かばかり機体が軽くなったような感覚が鈴にはあった。

 

「ありがと、爪龍。行くわよ!ショルダー・アーマー!パージ!ブロークン・アームリンク、コネクト!」

 

鈴は再び龍の爪を思わせる装備を展開し、雄輔を狙い続けている福音へと迫っていった。

 

「オルゴン・マテリアライゼーション!お願い!二人共!たあああ!」

 

鈴からの合図を受けたセシリアとシャルロットの二人は得意とする距離から援護する。

 

「オルゴン・レーザー!LB!RB!同時発射!!」

 

「オルゴンライフルB!シュート!!」

 

脚部から放たれる光線の雨と銃撃による弾丸の嵐が福音に命中し、注意が雄輔から逸れる。

 

「La!?」

 

その隙を狙い、鈴はオルゴナイトの結晶に覆われた爪で四枚の羽根のうち一枚を握る事に成功した。

 

「これが・・・反撃の一歩よ!リミッター解除!ブラキウム・ブローッ!!」

 

爪龍からオルゴンが溢れ出し、その勢いを乗せた握力で福音の翼を握り砕いた。

 

「LA!?LAAAAAAAAAA!!!?」

 

翼を握り砕かれた福音は断末魔のような叫びを上げ、砕いた相手である鈴を剣で切り払った。

 

「あぐっ・・!!っ・・でも、これで反撃開始よ・・」

 

強力な斬撃を受け、SEを消費しながらも鈴は後退し、すぐ後ろでラウラがレールカノンを構えていた。

 

「全弾・・・くらうがいい!」

 

ラウラが放った六発の弾丸は福音のSEを削り、更には羽根の一枚を持っていった。

 

「LA・・・・LAA!」

 

「なっ!」

 

素早い相手に攻撃を命中させたという一瞬の油断が福音の反撃を許した。

 

レーザーの砲口を向けられ、その光をあびてしまう。

 

「ぐああああ!!・・・く、しまった」

 

SEを持って行かれながらも致命傷を避け、後退する技量は軍の訓練を続けてきた成果だろう。

 

「ラウラ!」

 

「雄輔師匠!」

 

「その呼び方はやめろと注意してるだろ。っとそんな場合じゃなかったな」

 

モエニアがダメージを受けたレーゲンを抱え、福音の射程範囲外から離脱し始める。

 

「ぐ・・・油断した結果がこれだ。申し訳ない」

 

「いや、これで推進力を二つ潰した。けど気になる事がある」

 

「気になること?」

 

「そうだ、福音は何故かパイロットを異様に守っている時がある」

 

「パイロットを?」

 

「もしかしたら福音は有人機の可能性が高い」

 

その言葉にラウラは目を見開いた。有人の可能性を考えず、無人だと決めつけて戦っていた自分とは違い、戦闘の中でわずかな違和感を見逃していなかった雄輔に驚愕していた。

 

「どうするのだ?師匠」

 

「だから、・・・まあいい、まだAICは使えるか?」

 

「長時間は持たないが使えるはずだ。一体何を?」

 

「福音の動きを止めてくれ、有人なら助けなきゃならない」

 

「了解だ」

 

 

 

 

福音は四枚のうち二枚の羽根を失い、推進力が低下させられていたが戦闘力は低下していなかった。

 

「おかしい、何故こんなにも福音は決め手を出さない?」

 

政征も福音との戦闘の中で雄輔と似た違和感を感じ始めていた。

 

「異様にパイロットを守り続けているな・・・まさか?いや・・そんなはずは」

 

「政征!」

 

「雄輔か?どうした?」

 

城壁と自由の騎士が立ち並び、互いに感じた違和感を口にする。

 

「戦って思ってたんだがあのIS・・・」

 

「私も同じ事を考えていた・・・恐らくは有人だろう」

 

「仮に有人だとして、どうやって助け出す?」

 

「お前と私で同時に仕掛けるしかないだろうな」

 

それを聞いた雄輔は今までにないほど真剣な顔付きになった。

 

同時攻撃などこの状況で行うなど正気の沙汰ではない故だ。

 

「俺と・・・お前が」

 

「それしか手はない!」

 

「いいだろう、その賭けに乗ってやる」

 

福音は広範囲レーザーを遠距離から放ち、二機のラフトクランズに迫る。

 

「LAAAAAAAAA!LA!?」

 

迫ろうとした矢先、福音は突然動きを止めた。

 

「頼まれた事は必ず、遂行するのが任務だ!」

 

そこにはAICを使い、必死に足止めをしているラウラの姿があった。しかし、相手は二次移行を果たした軍用ISであり持って後、数秒だろう。

 

ラウラのアシストを受けた二機のラフトクランズは散開し、そのままソードライフルを構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

[政征&雄輔 合体攻撃 推奨BGM 『Drumfire』スパロボOGアレンジ]

 

「行くぞ!雄輔!」

 

「ああ!!」

 

二機のラフトクランズは同時にソードライフルをライフルモードに切り替え、突撃した。

 

「牽制する」

 

「持っていけ!」

 

オルゴンライフルから放たれる六発のエネルギー弾が福音の行先を制限し、動きを鈍らせる。

 

「オルゴン・マテリアライゼーション!でやあああ!」

 

鈍った瞬間を雄輔は逃さず、ソードモードに切り替えたオルゴンソードで福音を乱れ切り、斬り上げた。

 

「LAAA!?」

 

「上げたぞ!」

 

「その隙は逃さん!捉えたぞ!!」

 

政征はオルゴン・クラウドによる転移を使い、展開したクローで福音を捉え回転しながら更に上へ投げ飛ばした。

 

「今だ!!!」

 

「オルゴナイト・ミラージュ!」

 

二機のラフトクランズは連続転移し、ライフルモードに切り替えたソードライフルでオルゴナイトを連射し結晶の中へ閉じ込める。

 

「「バスカー・モード!!起動!!」」

 

二機のツインアイは輝き、リベラの機体色に黒が交じり合う。

 

「「エクストラクターマキシマム!!」」

 

二つのソードライフルが左右へ開き、二本のバスカーソード展開されオルゴナイトの大剣が現れる。

 

「この双剣!!」

 

「避けられはせん!!」

 

二機の転移が一瞬で行われ、真っ先に唐竹割りの要領で福音に斬りかかったのは雄輔だ。

 

「オルゴナイト!!」

 

それと同時に政征も雄輔に繰り出された斬撃の後、横薙ぎの斬撃を福音へ繰り出す。

 

「バスカー!!」

 

「「クロォォォス!!!」」

 

この縦と横の斬撃によって福音はその動きを止めてしまい、二つの大剣は福音に戦闘不可のダメージを与えていた。

 

「光の後に、闇が来る」

 

雄輔のオルゴナイトの大剣はまるで輝きによって少しずつ砕け散っていき。

 

「闇が去り、光が昇る」

 

政征のオルゴナイトの大剣は一気に粉々に砕け、ソードライフルのパーツがカシュンと閉じる。

 

多大なダメージを受けた福音に抵抗の様子は無かった、むしろパイロットを助けて欲しいと哀願しているようにも見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと、なんとか倒しましたが・・・」

 

「どうして、暴走したのかな?」

 

セシリアとシャルロットが同時に停止した銀の福音を支えていたが、暴走した事に対して疑念が晴れなかった。

 

「やはり恐怖で動かした程度では時間稼ぎが限界か」

 

「!?」

 

声がした方向に全員が視線を向けるとそこには、ラフトクランズだけが持つはずのシールドクローを両腕に装備しているISがそこにいた。

 

「誰だ!?貴様!」

 

「まずいわね・・・援軍だなんて」

 

ラウラは鈴のとなりへ移動した後に警戒を強め、鈴は自分の機体状態を鑑みて戦闘は避けたいと考えていた。

 

「わたくし達はこのままだと・・・」

 

「間違いなく落とされるね・・今のこの状態じゃ」

 

セシリアとシャルロットは回収が可能な状態の福音を抱えており、戦闘は出来ない。

 

「っ・・・」

 

「なんだ・・・?」

 

政征と雄輔は突如現れた謎のISを見て軽い頭痛の症状が起きていた。

 

自分の中で何かが呼び起こされるかのように。

 

「・・・私を見て思い出しているのか?そうだろうな、私とお前達には因縁がある」

 

まるで自分達を知っており、ISを纏った女は楽しそうに言葉を紡いでいる。

 

「なんだと?」

 

「俺達とお前に因縁?」

 

女は一度ため息をつくと仕方ないといったように口を再び開いた。

 

「仕方あるまい、名を明かすとしよう。私はカロ=ラン、カロ=ラン・ヴイ」

 

カロ=ラン・ヴイと名乗った女は嘲るような笑みを二人に見せていた。

 

「カロ=ラン・ヴイ・・・だと?」

 

「カロ=ラン・・・ぐっ!?」

 

特典として望んだ二人のフューリーとしての記憶の中でカロ=ラン・ヴイという名前が合致する。

 

謀殺によって全て奪われ、何も出来ず無念のまま眠らされた忌まわしい記憶が蘇る。

 

「どうやら思い出したようだな?くくく・・・あの当時の貴様達は実に滑稽だった。卑怯卑怯と罵りながらヴォーダの闇に堕ちたのだからな」

 

「っ・・・」

 

「くそっ・・」

 

政征と雄輔、そしてカロ=ランと名乗った女の間で舌戦が行われているが他の代表候補生達は会話に置いていかれていた。

 

「あの女性と何かあるみたいですわね」

 

「一体、どういうことだ?」

 

「二人共怖い顔してる、おまけに怒りで震えててマズイよ」

 

「カロ=ランって名前に過剰に反応してるわね」

 

四人はそれぞれ集まりあって、フォローし合う事を忘れないようにしているが、福音を支えているため自由が利かない。

 

「では、今回は去るとしよう。既に此処に用はない」

 

「待て!カロ=ラン!!」

 

「いずれ会うことになろう、破滅の意志はこの世界にも現れるのだからな」

 

「破滅の意志だと!」

 

カロ=ランは去ってしまい、二人は追撃する事も出来なかった。ただ、破滅の意志という言葉だけが耳に残っている。

 

「・・・っくそ」

 

「(トーヤが言っていた。女性となり、破滅の王の欠片を持っている相手というのはカロ=ランの事だったのか)」

 

雄輔は毒づき、政征はその場で静止したままカロ=ランが去った場所を見続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

六人全員が銀の福音を抱えたまま、旅館へ戻ると同時に山田先生とフー=ルー先生が急いでやってきた。

 

「た、大変です!皆さん!」

 

「え?」

 

「代表候補生の皆さんは福音を運んでください、政征さんと雄輔さんの二人に今起きている事をお話しますので後ほど聞いてください」

 

「「「「は、はい!」」」」

 

代表候補生の四人は銀の福音をアシュアリー・クロイツェル社の研究部長である束に預け、操縦者の女性は救護室となっている部屋へ運んだ。

 

 

会議室となっている大広間ではフー=ルーが険しい顔で政征と雄輔を待っていた。

 

「今、この部屋を人払いしました。マサ=ユキ・フォルティトゥードー、ユウ=スケ・ダーブルス。よく来てくれました」

 

「「はっ!」」

 

フー=ルーが二人をフューリー名で呼ぶ時は真剣な場合と激怒した時のみだが、今回は真剣な目で二人を見ている。

 

「まずは、これを」

 

「来るな・・違う、私は・・そんな」

 

フー=ルーが見せたのは恐怖に震え続ける千冬の姿だった。自らを守るように抱き締め、周りの様子など視界に入っていない。

 

「お、織斑先生!?」

 

「これは・・一体」

 

二人がフー=ルーに視線を向けると彼女は悲しそうな目をしながら事実を告げた。

 

「おそらく、強烈な恐怖を与えられたのでしょう。織斑先生が屈するほどの」

 

「そんな、織斑先生が屈する恐怖だなんて」

 

「いや、ありえない話じゃない」

 

「何故です?」

 

政征の言葉に雄輔とフー=ルーは視線を向けて問いただした。

 

「破滅の王・・・」

 

「!」

 

その単語を聞いたフー=ルーは驚愕した。破滅の王というのはフューリーにとって恐怖の権化の名前だからだ。

 

「銀の福音と戦った後、その欠片を宿している者が接触してきました。織斑先生はきっとその者に」

 

「そうでしたか、居なくなった篠ノ之さんと織斑さんはその者に着いていった。という事ですわね」

 

「待ってください!篠ノ之と織斑が着いていったというのは一体!?」

 

雄輔の疑問にフー=ルーはすぐに答えた。

 

「貴方と代表候補生の皆様が出撃した後の事ですわ。没収していた白式が無くなり、篠ノ之さんと織斑さんは行方不明なのです」

 

「な・・・!」

 

「あの二人が!?」

 

雄輔と政征が驚愕すると同時に二人は怒りよりも驚きに打ちひしがれた。

 

間違いを己で自覚し正せると信じていた故に。

 

「今はその事において問題になっています。二人には戻ってきても無期限の停学処分が与えられるでしょう」

 

「更には未遂とはいえ一夏はシャナ=ミア様を手篭めにしようとしていた。これも罪状に加わる」

 

「何・・・一夏がシャナ=ミア様を!?」

 

「ああ・・・」

 

雄輔の言葉に政征は怒りが爆発しそうになったが今ここにその相手が居ない事が幸し、怒りを鎮めた。

 

「織斑先生は私が何とかして持ち直させます。二人は代表候補生の皆様に説明を」

 

「分かりました」

 

「・・・・」

 

雄輔は政征と共に代表候補生達が待つ部屋へと向かうため、大広間を出て行った。

 

 

 

 

 

代表候補生達は銀の福音を束に預けた後、全員で一つの部屋に待機していた。

 

誰一人、口を開かず沈黙だけが支配している。そんな中、ノックが聞こえ扉が開く。

 

「政征兄様」

 

「雄輔も来たのね」

 

ラウラと鈴が出迎え、政征と雄輔が部屋に入りセシリアとシャルロットも会釈で応えた。

 

「ああ、これから話す事は他のみんなには口外しないで欲しい」

 

「それだけ重要なことだからな」

 

それから二人は代表候補生全員に一夏と箒が行方不明になった事、千冬が恐怖に屈して錯乱状態になってしまったなどを全て説明した。

 

「まさか、教官が・・・」

 

「事実だ」

 

ラウラの驚きを筆頭に他の全員も驚きを隠せず声を出せずにいた。世界最強の称号を持つ織斑千冬が恐怖に屈したなど聞きたく無かっただろう。

 

「おまけに箒と一夏まで居なくなるなんて」

 

「カロ=ランに着いていったんだろうな・・・理由は分からないけど」

 

「あの、一体・・カロ=ランという人は何者なのでしょうか」

 

セシリアの疑問も最もだが、二人は答えようとしない。その疑問に口を開いたのは鈴だった。

 

「雰囲気からしてマトモな人間じゃないわよね」

 

「そうだな・・」

 

その後、誰一人として口を開かず部屋へと戻った。

 

 

 

 

それぞれが部屋に戻った後、雄輔自身も部屋に戻りカロ=ランが現れた事を思い返していた。

 

「カロ=ラン、俺の記憶にもある。だが・・記憶の上では男だったはず」

 

思い出した記憶を整理してもカロ=ランは男性であり、女性ではなかったはずだった。

 

しかし、自分達に接触してきた相手は確かに女性であった。

 

「・・・それに破滅の意志という言葉、もしかしたら政征の言う通り破滅の王が来るのか?」

 

あれには門が必要なはず、更にはこの世界にそれと同じものがあるのかも分からない。

 

「戻りました。どうしました?雄輔さん。深刻そうな顔をして」

 

「フー=ルー先生、俺は」

 

「接触してきた女や破滅の王、そして専用機所持者二人の離脱。混乱しているのは貴方だけではありません」

 

「ええ・・・分かっています」

 

「なら、休みなさい。誓いを果たす前に倒れてしまっては本末転倒でしてよ」

 

 

その言葉を聞いて自分の中で焦りがあったことを反省した。

 

やはり戦場の経験ではフー=ルーさんには叶わない。

 

今はカロ=ランの事を話すべきことじゃない、そう考えた俺は休むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、フー=ルーの喝と決死のカウンセリングによって千冬は持ち直す事が出来た。

 

それでも、トラウマが残ったのか頭に触れられる事を極端に嫌い、弟である一夏が居なくなった事にショックを受けていた。

 

時間は過ぎて行き、臨海学校最終日となり、IS学園へと帰る日となった。

 

箒と一夏は事情により、学園へ戻る事が出来ないと生徒に伝えたが生徒達はざわつき、説明を求めたがフー=ルーの説明によって全員は渋々納得した。

 

生徒全員がバスに乗り込んだ後、各々が思考に耽っていた。

 

 

「(今の僕達じゃ無理・・みんなの事を義姉さんに頼まなきゃ、でも)」

 

シャルロットはカロ=ランと出会った時に実力の差を感じていた。

 

義姉であるカルヴィナから戦闘技術を教え込まれたことで実力差を感じ取れたのだろう。

 

今の自分達では力不足すぎる。そう思った彼女は他のメンバーを鍛える事を頼もうと考えている。

 

 

 

 

「(・・篠ノ之、お前は全てを捨ててまで力を求め続けるのか。もう一人も)」

 

雄輔は行方不明になった箒の事を考えていた。

 

力に魅せられた人間はその力を喜々として振るってしまう。しかし、逆を言えば力の抑制が出来れば素晴らしい競争相手になるということだ。

 

箒は闇雲に力を求めすぎている、それは一種の暴走だ。力に善悪は無い、ただ力なだけであり使う者次第で性質が変わる水のようなもの。

 

恐らく自分を狙ってくるだろう、その時こそ決着をつけると胸に誓った。

 

 

 

 

 

「(何とかあの時は強化アーマーを扱えましたが・・・今のわたくしのままでは、それに)」

 

セシリアは自分の中にある芯がブレていた。

 

束から渡された強化アーマーを無我夢中で扱っていたが、戦闘後に展開してみたものの思う様にいかず今の自分の力では扱えきれない事を痛感したのだ。

 

周りから置いていかれる焦燥感を感じてから焦りの傾向が強くなっていることに自分でも気づいていた。

 

自分には代表候補生として、訓練を重ねてきた自信があった。だがそれはガラス細工のように脆い物だと今回の実戦で改めて思い知らされてしまった。

 

今の己に出来る事は無いのか?という疑問を抱き、考えていた。

 

 

 

 

 

「(私は何も出来ていなかった・・私は・・・。だが、二人を)」

 

ラウラは今回の件で自分の無力さを呪っていた。連携とAICによる足止めしか出来ていなかった事に。

 

軍属とはいえ今回のような突発的に起こる実戦への出撃は少ない、自分も油断しているつもりは無かった。

 

だが、意識しないうちに政征や雄輔という強力な味方の力に頼っていたのだろう。

 

味方を頼る事は悪い事ではない、しかしそればかりで自分が何もしなくなるのは別の問題だ。

 

自分は一人ではない。しかし自分の戦う目的や役割とは何なのか?ラウラはそれを考えている。

 

 

 

 

 

「(どうしても戦いながらあの境地に至れない・・・もう一度鍛え直さないと。じゃないとアイツ等に)」

 

鈴は強くなった己に対し、反省していた。セルダが連れてきた5人の格闘家によって確かに強くなる事は出来た。

 

しかし、今回の実戦でまだ感情的になってしまう自分自身をコントロール出来ていなかった。

 

あの三週間の中で至れた境地、感情的になってしまう為その境地を自在に引き出せないでいる。

 

自分の力をコントロールし、感情的にならないようにするにはどうすれば良いのか?

 

鈴はそれを考えながら格闘家五人からの指導を思い返しながら別の事を考えていた。

 

 

 

 

「(リベラは進化を果たした・・・でも、俺はそれについて行けていない。このままじゃ二人を引き戻せない)」

 

政征は自分のISが二次移行を果たした事によって力に振り回されるのではないか?という恐怖を抱いていた。

 

ラフトクランズは強力な剣だ。それに見合うだけの訓練や鍛錬、そして知能は一通り身につけた。

 

ハプニングがあったとはいえ油断があったのだろう初の実戦の中で自分は撃墜され、戦闘不能になりかけた。

 

その中で、二次移行を果たした事によって自分は確かに高揚していた。だが、それは箒に対して自分が注意しようとしていた事だ。

 

シャナを守るという揺ぎ無い誓いがあったからこそ、自分は新たな力に飲まれずに済んだ。

 

政征は熱に動かされやすい己の心を鍛えなければならないと考えていた。

 

 

 

考えが異なっていても最後に思っていた事は全員共通していた。

 

「「「「「「「あの二人の目を必ず覚まさせ(ますわ)る」」」」」」

 

一夏と箒、居なくなった二人を思いながらもバスは無情にトンネルへと入っていく。

 

それはまるで、二つの道を別々に歩んでいく軌跡を表しているかのようであった。




長い・・ちょっとやりすぎた感が。

黒幕登場、それも私だ。

夏休みに甘さはあるのか・・。

一足先にワールド・パージに近いものを出してしまうか悩みどころです。


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当たり前になると物事って感じなくなるよね

教師の処罰と夏休み突入

特訓が飽和状態になる

それぞれの思い

以上


IS学園に帰還後、臨海学校で起きた実戦による処理及び生徒二人の行方不明による処分について会議が開かれ引率した三人の教師の処分決定がなされた。

 

山田真耶に対してはの訓告のみ、織斑千冬は六ヶ月の停職、その間の担任は山田真耶となり、フー=ルーは二ヶ月間の謹慎、その後の二ヶ月は減給となった。

 

夏休みに入る前の最期の登校日、1組は重苦しい雰囲気となっていた。

 

クラスから二人の行方不明者、更には千冬とフー=ルーの停職処分などが重なりクラスメイト達も明るく振舞う事など出来なかった。

 

「では、今学期はこれにて終了です。皆さん、良い夏休みをすごしてくださいね」

 

真耶が締めくくりの挨拶をすると同時にチャイムが鳴り、クラスメイト達は教室をそれぞれ出て行く。

 

 

そんな中、専用機を持つメンバーは集まって現状を整理していた。

 

「つまり、今の俺達ではカロ=ランに勝てない。そういうことだね?シャルロット」

 

「うん、あくまで僕自身の分析だけどね」

 

「いや、逆にそれがありがたい」

 

「シャルさんの分析は正しいと思いますわ・・・今のわたくし達では」

 

「悔しいが、事実だからな」

 

「そうね・・・」

 

臨海学校の実戦以降、夏休みに入るまでの間にそれぞれが最も必要と思われる訓練を可能な限り行ってきた。だが、自分達が考える訓練では限界が来ていた。

 

「僕は義姉さんに訓練の事で掛け合ってみるよ」

 

「俺も会社に連絡してみる。特訓の後だけど」

 

「俺は政征と同じだな」

 

「わたくしは一度、祖国へ戻らねばなりませんので・・・」

 

「ごめん、私もよ。爪龍の事を報告しなきゃいけないの」

 

「私は此処に残る」

 

それぞれが目的を明確にし、メンバーは解散となり教室には政征とシャナだけが残った。

 

「政征、カロ=ランとはもしや?」

 

「察しの通りだよ、アイツが二人を連れて行った」

 

「シャナ・・これからの戦いはもっと酷い事になるかもしれない。ひょっとしたら真の死を迎える事だってありえる」

 

「!!」

 

政征の今の目は普段の穏やかな目ではなく、戦いに赴く時に見せる騎士の目だ。

 

「それでも、共に居てくれるか?」

 

「聞かれるまでもありません・・・」

 

「ありがとう、一度部屋へ戻ろう」

 

「はい」

 

この時にシャナは漠然とした不安がよぎっていた。

 

戦いに赴く騎士達は真の死、つまり命を落とすことが多い。

 

自分は恋という異性を愛する感情を知ってしまった。それだけに自分から離れて欲しくない、死を向えて欲しくないといった感情が溢れ出し、それが不安を増長させている。

 

「(私も戦わねばなりません・・・)」

 

政征の横を歩きながら、シャナは決意を固めていた。

 

 

 

 

 

夏休みに入ると同時に政征と雄輔はアリーナで実戦を意識した特訓をしていた。

 

「そこだ!」

 

「うお!?」

 

政征は雄輔とのオルゴンソードの競り合いに押し負け、倒れた。

 

機体性能は上のはずがモエニアに軽々と吹き飛ばされた事に雄輔は違和感を抱いていた。

 

「っ・・・」

 

「政征、お前・・・」

 

「気づかれてたか、そう、今の私では二次移行したラフトクランズを上手く扱うことが出来んのだ」

 

「反応が速すぎてついて行けないのか、だから・・・」

 

二次移行を果たしたという事はIS自体が強力になるという事だ。

 

だが、修理・改修された鈴の機体とは勝手が違うために極めて扱いにくい。

 

「それに・・私も感じていたが雄輔、お前からも焦りを感じるぞ」

 

「・・っそうだな、俺は二次移行していない。正直、その事でお前に嫉妬している」

 

「お互いにままならないって事か」

 

「そうだな」

 

これ以上は無意味と判断した二人はお互いにISを解除した。

 

いがみ合いになりかけているのは嫉妬と焦り、お互いに爆発しそうな感情を抑えているからだろう。

 

「政征、一つだけ聞かせろ」

 

「何だ?」

 

「もし、お前がシャナさんと戦う事になったらどうする?」

 

「・・・わからない。でも、俺の手で倒してと欲しいと請われたら倒すさ」

 

政征はそのままアリーナを出ていき、雄輔だけが残された。

 

「気づいていないのか?政征。お前はシャナさんがアキレス腱になっているんだぞ。おまけにお互い、特訓してもこれ以上の成長が無いとは」

 

そんな呟きを政征が去った通路へつぶやくが、独り言のように消えていった。だが、事実として雄輔の考えは正しい。

 

どんなに騎士を名乗ろうとお互いに十代の高校生、どこかに脆さは必ず出てくる。

 

それを補う為の特訓もお互いにクセを知り尽くしているが故に成長を感じる事が出来なくなってきていた。

 

雄輔は自分の嫉妬と友の焦り、特訓のマンネリの解消方法を考えながらアリーナを出て行った。

 

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・」

 

イギリスにあるセシリアの別荘でセシリアはずっとプールで泳ぎ続けている。

 

彼女は政府への報告を済ませた後に自宅から別荘に移り、ずっとこのままだった。

 

「(このままでは追いつけない・・・どうすれば)」

 

「お嬢様」

 

「はぁ・・はぁ・・・チェルシー?」

 

泳ぐのを止めたと同時に声をかけたのは彼女のメイドであり、幼馴染でもある女性、チェルシー・ブランケットだった。

 

「それ以上は負担が過ぎますよ、休憩なさってください」

 

「ですが・・!」

 

「なさってください」

 

「分かりましたわ」

 

観念したセシリアはプールサイドへ上がり、用意された椅子に座った。

 

「お嬢様、何を焦っておられるのです。身体を酷使しても焦りは消えませんよ?」

 

「ええ・・・チェルシー、貴女に聞きたいことがありますわ」

 

「なんでしょう?」

 

「追いつきたくても追いつけない時、貴女ならどうしますの?」

 

「・・・私ならまず自分の出来る事を振り返ります。そしてそれを意識せずともこなせる様になるよう努力します」

 

「!」

 

「お嬢様、誰でも壁にぶつかって乗り越えられない時は必ず来ます。それが今のお嬢様なのでしょう」

 

チェルシーの言葉にセシリアは軽く俯いた。的を射た事を口にされ、自分の焦りを見抜かれたゆえだろう。

 

「今のお嬢様は焦りすぎです。先程、私が言ったように自分の出来る事を振り返ってみて下さい」

 

「チェルシー・・・」

 

「出過ぎた真似をして申し訳ありません。お茶を淹れてまいります」

 

チェルシーは別荘へ歩いていき、中へ入っていった。

 

その姿を見送ったセシリアはプールにもう一度、飛び込むと泳ぐ事はせず浮かぶように両手を広げた。

 

「今のわたくしに出来る事・・・それを意識せずにこなす」

 

プールに張られた水が焦りという熱が冷めていく感覚にセシリアは軽く目を閉じ、しばらくその身を任せる事にした。

 

 

 

 

 

時を同じくして、一時帰宅したシャルロットはカルヴィナとアル=ヴァンに頼み事をする為にリビングへ呼んでいた。

 

「カルヴィナ義姉さん、アル=ヴァン義兄さん。二人に頼みたい事があるんだ」

 

「随分と急ね?」

 

「一体、頼み事というのは?」

 

「うん、僕・・・いや、僕を含めた友人達全員を改めて鍛えて欲しいんだ!」

 

シャルロットの突然の言葉に二人は面食らった。自分と友人達を鍛えて欲しいと言ってきたからだ。

 

だが、二人の顔はどこか申し訳なさそうだ。

 

「シャル、心情としては鍛えてあげたいのだけど・・」

 

「今すぐにという訳にはいかんのだ」

 

「!どうして!?どうしてなのさ!」

 

納得がいかないとシャルロットは声を荒らげて立ち上がった。

 

「スペースナイツ研究所から試作型武装のテストを頼まれてるのよ」

 

「私も接近戦のアドバイザーとして参加して欲しいと会社からも言われてしまっているのだ」

 

「そんな・・・」

 

今の自分達では到底、勝てない相手が出てきてしまった。

 

鍛えて欲しいと頼んだはずが間が悪く断られたのだ。二人は会社の社員でもある、それだけに自分だけの我が儘で二人に迷惑はかけられない。

 

そう考えてしまったシャルロットは椅子に座り直すと俯いてしまった。

 

「でも、上に相談はしてみるわ」

 

「私もセルダ殿に掛け合って特訓相手がいないか聞いてみよう」

 

その言葉を聞いたシャルロットは顔を上げ、二人を見た。

 

「可愛い義妹がこんなにも必死に頼み込んできたんだもの、無下には出来ないわよ」

 

「そうだな・・カリンの言う通りだ」

 

「義姉さん、義兄さん」

 

シャルロットは泣きそうになっていたが、それを見たカルヴィナがシャルロットに軽くデコピンをした。

 

「痛っ!?」

 

「すぐに泣くんじゃない、全く!」

 

「カリンは相変わらずか」

 

「うう・・」

 

この厳しさこそがカルヴィナの優しさである、厳しさゆえの優しさという不器用な愛情しか彼女は示せないのだ。

 

デコピンした後、カルヴィナはシャルロットの近くへと歩み寄った。

 

「シャル、立ちなさい」

 

「え?」

 

言われるまま立ち上がり、それと同時にシャルロットはカルヴィナに抱きしめられた。

 

「ね、義姉さん!?」

 

「心を強く持ちなさい、私が言えた義理じゃないけどシャルは自分が思っている以上に強いんだから」

 

「うん・・うん!」

 

義理の姉とはいえ抱き締められた事にシャルロットは実の母の事を思い出していた。

 

幼い自分が泣いた時、叱られた時、褒められた時にこうして抱き締めてくれた。

 

そんな二人の様子をアル=ヴァンは微笑ましく見ていた。

 

 

 

 

 

日本滞在組より時差が一時間前の中国では鈴が政府の人間と話をしていた。

 

「つまり、甲龍のデータと爪龍のデータを両方持ち帰ったと?」

 

「はい、これも全てアシュアリー・クロイツェル社のおかげです」

 

鈴は緊張した様子もなく堂々と話を続けている。自分がやってきた行動に恥じることはない現れだ。

 

「では、引き続き君には代表候補生を勤めてもらう」

 

「承知しました」

 

「爪龍は我らの新しい宣伝となるからな。しっかり頼むよ」

 

「はい、では失礼します」

 

鈴は部屋から出ていき、建物から出るとため息をついた、単純に政府との会話での緊張が解けたせいだ。

 

「はぁ・・・やっぱり息が詰まるわね」

 

身体を軽く伸ばし、鈴は自宅へと帰宅した後にランニングを始めた。

 

日本へ帰るまでの5日間、一時でも身体を鈍らせないために。

 

「はっ・・はっ・・ダメね、まだまだ足りない」

 

日本から故郷に戻ってからも鍛錬を欠かさなかった。自分で考えられる限りのトレーニングをしてきたがそれも限界に来ている。

 

「やっぱり、あの人達に鍛えてもらった反動ね。自分で考えた特訓じゃ足りなく感じちゃうもの」

 

イメージによる独闘などを繰り返しても特訓の物足りなさを身体が鈴に教えていた。

 

「・・・・・・」

 

ランニングを終えて自宅に戻り、誰も居ない部屋で鈴は床に座ると瞑想を始めた。自分自身を最も見つめ直す方法として日本人の格闘家から教えてもらったものだ。

 

時間にして30分は経っただろう、ゆっくり目を開けるが鈴はどこか悔しそうな表情をしている。

 

「あの時の境地・・どうしても私だけじゃ至れない」

 

鈴自身も伸び悩んでいた。特訓の時に至れた穏やかで澄んだ心の境地、それが自分だけでは至れずに鈴は強く拳を握った。

 

必ず至ってみせるという決意を固めながら。

 

 

 

 

「うおお!」

 

「はあああ!!」

 

何処かの施設の闘技場のような場所で一夏と箒がISによる戦闘訓練を行っていた。

 

「そこまでだ、今日の訓練はここまで」

 

「く・・・はぁ・・はぁ」

 

「はぁ・・・はぁ!」

 

二人の息は上がっており、特に一夏は酸素を貪るように呼吸が早かった。訓練といっても学園の中での経験しか無かった反動だろう。

 

「はぁ・・・は・・。なんとか、マシになってきたか」

 

「ふふ、確実に強くなっている。これだ!これが私の望んでいたものだ」

 

二人はカロ=ランから殺し合いを前提とした訓練を受けていた。迷いなく相手を死に至らせる嫌悪、二人はそれを克服し始めていた。

 

「まだだ、まだこの程度じゃ」

 

「そうだ、この程度ではまだ足りん」

 

「ありがとうな?箒、いつもこんな訓練に付き合ってもらって」

 

「構わない、私も好きでやっている。一夏のためにな」

 

「それでも助かる、全ては」

 

「そうだ、全ては」

 

「「破滅の名の下に!」」

 

二人の様子を見ていたカロ=ランは次の策を講じていた。それはかつて自分が全ての実権を握ろう暗躍した時のように。

 

「さて、次はシャナ=ミアを確保をせねばならんな」

 

カロ=ランの次の標的、それはシャナ=ミアであった。彼女を確保できれば自由の騎士は必ず死地に飛び込んでくるだろうと。

 

「くくく・・・フォルティトゥードーの名を持つ者よ。お前の忠義はどこまで耐えられるかな?」

 

自分の手駒となる二人を見つめながらカロ=ランはIS委員会に連絡端末でコンタクトを取っていた。

 

IS委員会に関しては先ず、自分が女尊男卑の考えを持っている事と相手側の不正などをちらつかせ手玉に取った。

 

無論、これはカロ=ラン自身が謀士長として培ってきたものだ。相手の情報を自身の道具とし、優位に立つ。

 

これがカロ=ランの最も得意とするものだ。女尊男卑を謳ったのは単純に思想として使えたに過ぎない。

 

自分も同調していると思い込ませる事で内部への侵入を容易にするためでもあった。

 

「これで、味方も揃い始めた。まだ準備は必要だが後はシャナ=ミアのみ」

 

カロ=ランの視線はモニターに映っているシャナ=ミアに移った。

 

「皇家の資格はやはりお前にはない、破滅を受け入れよ、全てを私の手中に収めんが為に」

 

モニターに移ったシャナ=ミアを睨みながらカロ=ランは部屋を出て行った。




ようやく更新できた。

ラウラだけが抜けていますが、ラウラは出会いがあるため裏側編になります。

この世界のカロ=ランは謀士長であった時の経験が有るため策謀、戦略、交渉が得意です。

シャナを狙っているのは単純な人質と戦いに使える駒としか考えていません。


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裏側 仮面の下の生きる意志

ラウラがある人物と出会う。

以上


夏休みとなり、ラウラは制服姿のまま街を歩いていた。

 

「どうすればいい・・どうすれば」

 

臨海学校時に起きた実戦の中で事実、倒したのは兄として慕う政征と師として見ている雄輔の二人だった。

 

初めて出会った時の事を思い出す、ただ妄信的に千冬の強さだけを見ていた自分自身は相手を挑発し倒そうとしていた。

 

だが、それは叶わなかった。理想の強さだけを追い求めていた結果、自分で思考するという事を投げ出していた為に強さだけが正しいと思い込んでいた。

 

その結果、今の自分が出来る事が少ないという事を事実として突き付けられた。

 

「強さとはなんだ・・何が足りないのだ?うわ!?」

 

思考に耽っていると同時に誰かとぶつかってしまった。

 

「ああ、すまない。大丈夫か?」

 

どうやら男性のようでサングラスをかけているが、その奥にある瞳は何か壮絶な事を経験してきたと言わんばかりの鋭さがあった。

 

「え・・あ、大丈夫です」

 

「君はIS学園の生徒か?なにか悩んでいるようだが」

 

男性に指摘された事に驚くが学園の生徒というのは自分の着ている服のせいだと納得できた。しかし、悩みに関しては驚きを隠せていなかった。

 

「ええ・・・自分は何が出来て、何をするべきか解らなくなってしまって」

 

何故、出会ったばかりのこの人物に相談しているのだろうか。ラウラは初めての感情に戸惑っていた。

 

「・・・そうか」

 

男はサングラスを外すと懐から何かを取り出して見せた。

 

「興味があるなら来てくれるか?俺はそこで開発員をしている」

 

それは名刺らしく、受け取って確認するとそこには『スペースナイツ研究所』と書かれていた。

 

「スペースナイツ・・・宇宙の騎士?」

 

「あくまで名義上だ。では、失礼するよ」

 

男性はそのまま歩道を歩いて行ってしまい、見えなくなってしまった。

 

「・・明日、尋ねてみるか」

 

 

 

 

翌日、スペースナイツ研究所にラウラは電話し、そちらへ向かう旨を伝えた。

 

「スペースナイツ研究所・・・一体何の研究を」

 

受付で手続きを済ませ、名刺を見せると待っているように伝えられた。

 

「ごめんなさい、待たせてしまったかしら?」

 

迎えに来てくれたのは女性の職員だった。この女性も名刺を渡してくれた男性同様に何かを目撃してきた目をしていた。

 

「いえ・・・」

 

「初めまして、私は愛紀。ここではISの武装の設計・製作とそのノウハウを活かした作業道具を研究してるの」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒです・・IS学園で学生をしています」

 

「案内するわね。ついてきて」

 

着いてきた先には机と椅子が置いてあり、その先には二本の刃が中心で連結している槍のような武器が置かれていた。

 

「これは?」

 

「これはね、ある象徴よ」

 

「象徴?」

 

「少し長くなるからお茶を用意するわね」

 

亜妃と名乗った女性の職員は一旦部屋を出ると二人分の茶を淹れ、持ってきた。

 

「紅茶は平気かしら?」

 

「大丈夫です」

 

「じゃあ・・お話しましょうか。彼からほんの少しだけ聞かせてあげて欲しいと言われてるから」

 

その女性が語り始めたのはラウラですら、いや普通の人間が聞けば信じる事が出来ないほど悲しく、辛いものだった。

 

「自分が親しかった者を全員・・・命や記憶、肉体を傷つけてまで」

 

「それが彼の宿命だったのよ、狂った運命と言われても仕方ないわ」

 

ラウラは己に置き換えて考え始めた。自分が慕っている姉、兄、副官、そして仲間の全てが敵となり、命を削り、思い出を失ってまで独りで戦う事が出来るだろうかと。

 

「・・・・何もできない、それは今の私と同じです」

 

「自分が何も出来ないと感じるのは仕方ないことよ。私もそうだった」

 

二人は紅茶に口を付けて一息つくとお互いに微笑みあった。

 

「もしよかったら、ウチのISの武装を見ていかないかしら?」

 

「はい」

 

連絡した後、許可が下りたらしくラウラは亜妃と共に研究所の見学を始めた。

 

「此処では全身装甲のISの武装が多いのですね?」

 

「ええ、それと武装に関しては接近戦用と広範囲の粒子ビーム砲が主になるわね」

 

「広範囲の粒子ビーム!?」

 

その言葉を聞いてラウラは心底驚愕した。広範囲の粒子ビームというのは軍レベルに匹敵するものだからだ、それをこの研究所は研究している。その事がラウラにとっては驚きに値することだったからだ。

 

「ただし、一発のみで撃てなくなるから配備されることはないだろうけど」

 

「そうでしたか」

 

しばらく歩き、ある研究室の一室に案内された。そこには何かを加工しているらしく、試作型と思われる武装がいくつも置かれている。

 

「彼が居るわね、話を付けてくるから待っていて」

 

「は、はい」

 

女性の職員は左目の辺りに傷痕がある男性職員と彼の友人らしき男性職員に話をつけていた。

 

話を終えたらしく傷痕がある男性がラウラに近づいてきた。

 

「君は、街でぶつかった時以来だな?」

 

「え?」

 

ラウラは呆気にとられたように男性の顔を見ていた。自分はこの男性を知らない、会った事もないのに相手は自分を知っているからだ。

 

「こうすれば分かるか?」

 

男性がサングラスをかけるとラウラは自分の記憶とその姿が合致した。その様子を見た男性はすぐにサングラスを外し、ポケットにしまった。

 

「あ、あの時の!」

 

「驚かせてすまなかった」

 

「い、いえ」

 

「彼女から話を聞いた、俺の話を聞かせてあげてくれとな」

 

「・・・・」

 

この男性は何かを背負って生きている、それがラウラの抱いた男性に対する印象だった。

 

「ここでは話しにくい、愛紀が話していた部屋でいいか?」

 

「構いません」

 

男性職員の後に着いて行き、女性職員と話した部屋に案内され席に着く。

 

「さて、どこから話そうか」

 

「貴方がどんな人なのか、からで」

 

「そうか・・・どう話せばいいか」

 

男性職員はそう言いながら一つの紅いクリスタルのような物を取り出しラウラに見せた。それは神秘的だが、どこか触れてはいけない禁忌のようなものに感じた。

 

「これは・・・?」

 

「これは弟の形見みたいなものさ。もっとも・・・もう弟はいないが」

 

「話は先ほどの女性から聞きました、大切な人達を手にかけたと」

 

「ああ、そうだ。俺は大切な人達と仮面を身に付けて戦いあった」

 

「何故ですか!?大切な人をその手にかけるなんて!」

 

「『人』だったなら・・・手にかけたりしなかったさ」

 

ラウラの指摘に男性はどこか悲しそうに目を伏せた。それは今でもすぐ思い出せるかのように。

 

「え?」

 

「俺の大切な人達は『人』ではなくなっていた。所謂、生体兵器になっていた」

 

「!!!!!!」

 

生体兵器、それは何かの目的で作られたという事実があり自分と似た産まれ方をしたという事にならなかった。

 

「それは、このような感じですか?」

 

ラウラは自分のしている眼帯を外し、その奥にあった黄金の瞳を男性職員に見せた。

 

生体兵器と聞いて作られた自分と同じではないかとラウラ自身が感じた為であった。

 

「オッドアイ、まさか?」

 

「これはヴォーダン・オージェというものです。私も貴方と似たような感じがしたので」

 

「君からの信頼の証ということか?」

 

「ええ」

 

「そうか、俺も自分の事を話そう。俺も『人』ではなくなっている」

 

「やはりそうでしたか。先程、仮面を付けて戦っていたとおっしゃっていましたが・・?」

 

「その通りだ。二度と引き返せないと決めていた道を突き進んだよ。逃げ出す事もできず、戦いしか自由がなかった」

 

聞けば聞くほどに壮絶だった、愛していたはずの家族を罪という名の仮面で自分を隠しながら倒し続けたのだから。

 

「俺は強くなんてなりたくなかった。できることなら、変わりたくなどなかったんだ」

 

「え!?」

 

強さとは望まなくとも得てしまうもの、学園を離脱した織斑一夏が良い例だろう。

 

だが、目の前の男性は倒すための力を持ちながらもそれを自分自身で否定しており、それがラウラには理解できなかった。

 

「家族を手にかけるなんて誰でもしたくないだろう?」

 

「・・・・っ」

 

この人は夢を見る事も許されず、悲しみを感じる自由さえもなく戦い続けた。自分に何が出来るなんて悩んでいた自分に腹が立ってくる。

 

ラウラは顔を伏せながら唇を噛んで拳を強く握り締めた。

 

「君にはまだ、支えてくれる人達がいるだろう?俺が仲間といるように」

 

「!はい」

 

「自分の中にある想いを忘れない事だ」

 

「(自分の中にある想い・・)」

 

その言葉がラウラの胸に響き渡った、自分が見逃していた存在こそが己を支えてくれているのだと。

 

軍にいる部下達、学園で出会った新しい仲間、血の繋がりがなくとも姉と兄として慕う者。

 

それら全てが自分にあると自覚しラウラは改めて守りたいと誓っていた。

 

そんな思いをラウラの見えない所でシュヴァルツェア・レーゲンが受け止めていた。

 

モノを言わぬISであっても、彼女と共にあったシュヴァルツェア・レーゲンは決して永遠の孤独に迷い込ませる事はしないと誓うかの様に一瞬だけ光った。

 

「長く話してしまったな、着いてきてくれ」

 

「?分かりました」

 

部屋を出て再び研究室に案内される、男性職員は試作されていた中で一本だけ輝きが良い物の前にラウラを連れてきた。

 

「これを君に渡したい。IS用の武装として使えるはずだ」

 

「おいおい、良いのかよ?数ある中でよく加工できたうちの一本だぞ?」

 

「いいんだ、今のこの子には決意があるからな」

 

友人らしき男性職員と話している彼はラウラに渡すことを決めているようだが、逆に説得されて納得したようだ。

 

「これは・・・両刃の槍?」

 

IS用であると聞いた為に自分の相棒であるシュヴァルツェア・レーゲンを腕のみ展開し、それを手に取った。

 

「重い・・軽いはずなのに」

 

「そいつには戦いが染み込んでいるからな、大事に使ってくれ」

 

金髪の男性職員は仕方ないといった様子で肩をすくめていた。

 

ラウラが手にした両刃の槍、それはかつて仮面舞踏会への参加の証とされ、全てを失おうとも戦い抜いた戦士の武器であった。

 

女性職員がラウラの後ろに立ち、二人にへ話しかけていた。

 

「じゃあ、私はこの子を送っていくわ」

 

「ああ、頼む」

 

「連絡は俺がしておくさ」

 

「ありがとうございます・・・この槍、大切に使います」

 

「ああ、強さだけを追い求めるなよ」

 

それを伝えられたラウラはどこかスッキリした様子で研究所を去った。

 

「二人共、アシュアリー・クロイツェル社に連絡を取ってくれ、試作の武装をテストして欲しいと」

 

「わかった、任せておけよ。D」

 

「データは私がまとめて送るわね、お兄ちゃん」

 

 

後にシュヴァルツェア・レーゲンが仮面舞踏会の武装(ドレス)を着ることになるが、それは後の話である。

 




この世界の時間軸はスパロボJのクリア後としています。

生存フラグも立てたルートになっています。

例の寄生生物はすべて駆逐されていますので仮面舞踏会が開催することはありません。


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些細な事でも衝突ってあるよね

政征、シャナと軽い衝突し絶望する

雄輔、焦りと共に政征に喝を入れ、修行の旅へ

カロ=ラン、動き出して拉致する

以上


追伸

玉置成実さんのCASTAWAYを聞きながら書きました。


でも、今回の話の主題歌はL'Arc-en-Cielの『Lost Heaven』です。



夏休みも二週間が経ち、政征はシャナと共にアリーナで訓練をしていた。

 

「そこです!」

 

「うぐあああ!?」

 

グランティードのテンペスト・ランサーを受け、政征は壁に激突すると同時にラフトクランズ・リベラが解除されてしまう。

 

「う・・ぐ・・・・ちくしょう・・」

 

リベラが解除された政征はアリーナの地を苛立ちと悔しさから拳で殴った。

 

「政征、これ以上は意味がありません、一度休息を」

 

「うるさい!俺はリベラを使いこなさないといけないんだ!!」

 

「政征・・・」

 

シャナは政征の焦りに気付いていた。彼は実力が下の自分にも勝てなくなっている、それは以前にはあった冷静さがかけているが故の敗北だった。

 

「あ・・ごめん、シャナ」

 

「よいのです、今は焦る時ではありません」

 

「・・・っ」

 

今の政征にとってシャナの優しさは逆に自分を追い詰める要因となっていた。機体を使いこなせない騎士は騎士と言えず、それが政征を焦らせることにもなっている。

 

恋人であるシャナの剣であると誓っておきながら、今の自分は機体さえ扱えないという状態に歯痒さだけが募っているのだ。

 

「(このままじゃ・・俺は)」

 

「(政征、貴方は今、殻を破ろうとしている状態。ですが、今の政征が聞き入れては)」

 

互いにすれ違いを起こし、二人の間には僅かながらに亀裂が走っていた。

 

力を使いこなそうと焦る政征、支えようと優しさを示すシャナ。お互いに想いすぎるがゆえに食い違いが起こり、それが二人の距離を離している。

 

 

再び訓練を再開しようとした矢先、アリーナの天井が爆発を起こした。

 

 

 

 

 

時を同じくして雄輔は無心になろうと木刀を手に外で素振りをしている。

 

「999・・・1000!はぁ・・はっ」

 

汗を流しながら息を切らしているが、自分の中にある嫉妬の感情は消えなかった。

 

対等という言葉が雄輔の中でいかに脆いことなのかを噛み締めていたからだ。

 

親友が次のステージへ行った、自分はまだ至れていないという現実だけが雄輔を支配している。

 

「くそっ・・・!」

 

どんなに羨んでも嫉妬しても自分が至れないのは分かっていた。

 

二次移行に至るにはきっかけが必要であり、そのきっかけが来ない事に焦っているのだ。

 

「俺も政征の事を言えないな・・・」

 

自分へ向けた皮肉を口にし、部屋へ戻ろうとしたその時、爆発音が響く。

 

「!なんだ!?アリーナの方か?」

 

雄輔は爆発が起こったアリーナへと急いで走り出した。

 

その途中で爆発を聞きつけ慌てた様子のラウラと合流した。

 

「ラウラ!」

 

「雄輔師匠か!」

 

「話は後だ!急ぐぞ!!」

 

二人は走り出すとアリーナへと一直線に向かった。学園内では迂闊にISを展開できない為に走るしかない。

 

胸騒ぎと共に自分の足の遅さを呪いながらラウラと雄輔は走り続けた。

 

 

 

 

 

[推奨BGM『Doomsday』スパロボOG MD]

 

 

爆発したアリーナの天井から現れたのは二つのシールドクローを持つラフトクランズに似たISだった。

 

「!!お前は・・・カロ=ランか!!」

 

「久しいな?だが、今回は目的があるのでな。シャナ=ミア、私と共に来てもらおう」

 

「!!」

 

カロ=ランの視線はシャナに向けられていた。政征は眼中に入っておらずISを纏ったままシャナへと近づいていく。

 

それに気づいた政征はリベラを展開し、シャナの前に立った。

 

「シャナ=ミアを引き渡してもらおう」

 

「素直に応じると思うか?カロ=ラン!」

 

「ならば力ずくで奪い取るまでよ!」

 

「させんぞ!」

 

カロ=ランの機体の肩から発射されるビームがリベラへと向かっていく。それをシールドクローで防御し、ソードライフルを構えた。

 

「来るがいい」

 

カロ=ランは余裕を崩さず、ビームを連射してくる。政征は機体に引っ張られ回避が上手くできない。

 

「っくそ!ガーディアン!!」

 

オルゴン・ガーディアンをシールドモードで展開し、自分とシャナを守るように操作する。

 

「ふん、今の機体に慣れきっていないようだな?薙ぎ払ってくれるわ!」

 

カロクアラが展開したのはオルゴンキャノンだった、その照準が向けられる。

 

チャージに制限が無いのかオルゴンキャノンを展開と同時に放ってくる。

 

「ぐっ、おおおおお!がああああ!」

 

政征は叫びながらシールドクローで防御するが直撃を避けられただけで、SEは大幅に削られていた。

 

「ほう?直撃を避けるとはな?だが!」

 

その隙を狙っていたかのようにカロ=ランは突撃するとクローを展開し、リベラを捉えた。

 

「しまっ!」

 

「オルゴン・クロー!足掻くがいい!!」

 

捉えられると同時にそのままアリーナの地へ叩きつけられ、遠心力をかけ上へと投げ飛ばすと同時にオルゴン・クラウドで転移し真下へと叩きつける。

 

「叩き落とす!」

 

「ぐああああ!!」

 

成す術もなくアリーナの地に叩きつけられ、政征は動けなかった。

 

「観念するのだな」

 

落下と同時に地に降りていたカロ=ランはゆっくりと近づき、リベラを足で踏みつけた。

 

「くくくく・・・圧壊せよ!」

 

シールドクローを突き刺し、展開させた。それと同時にリベラに火花が走る。

 

「うあああああああ!!!」

 

「政征!」

 

SEが切れる寸前までダメージを受け、先頭可能な状態ではない。シャナは思わず声を上げたが届くはずがなかった。

 

「さぁ・・来てもらうぞ」

 

「ま、待て・・・まだだ!オルゴンキャノン!広域モード!」

 

政征はオルゴンキャノンを展開し、直撃するはずだったその一撃を避けていた。

 

「な・・・何!?」

 

「騎士と違って私に戒めはないのでな?貴様を完全に倒すとしよう。バスカー・モード・・・!」

 

カロ=ランはラースエイレムを使い、僅かな間だけ時間を停止させオルゴンキャノンを避けていたのだ。

 

追撃と言わんばかりにバスカー・モードを起動する。それはこの機体が持つ全力を解放する言葉であると同時にカロ=ランの機体がオルゴンを使うラフトクランズと同型である事を示していた。

 

スラスターを全開にし、クローで軽く引き裂いた後に連射されるオルゴンキャノンの弾幕が政征を捉える。

 

「クロー展開!」

 

それと同時に両腕のシールドクローが展開される。リベラへと迫り、クローで機体を何回も引き裂いていく。

 

「抉り!削ぎ!剥ぎ取り!!全てを細断してくれるわ!!」

 

「がっ!?ぐあっ!ぐあああああ!?」

 

クローで掴むとアリーナの地にリベラを叩きつけ、クローがオルゴナイトに覆われると同時に斬撃を振り下ろすように撃ち放った。

 

「ヴォーダの闇が間近に迫っているぞ?オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

オルゴナイトによって形成された巨大な爪を構え、オルゴン・クラウドで転移しリベラをその巨大な爪で地面ごと引き裂いた。

 

「断殺!」

 

「があああああああああ!!」

 

 

 

 

雄輔とラウラがアリーナへたどり着くと同時に目に映ったのはラフトクランズ・リベラを纏った政征がオルゴナイトの爪で引き裂かれた瞬間だった。

 

「な・・!」

 

「政征、兄様・・!?」

 

アリーナの壁に叩きつけられ、リベラが解除されると同時に政征は倒れ動かなくなった。

 

「政征!!」

 

「貴様あああああああああああ!!!」

 

ラウラは怒りに任せ、シュヴァルツェア・レーゲンを展開しワイヤーブレードをカロ=ランへ向けて放つ。

 

「ふん、余計な邪魔が入ったか」

 

「許さん許さん許さん許さんぞォ―ー!!」

 

「ラウラさん!ダメです!!」

 

シャナの静止も聞こえるはずがなく、ラウラは攻撃を続ける。しかし、カロ=ランはそれを遊戯の相手をしているかのように避け続けている。

 

「影が運ぶは滅死の報せ、黒き雨は降り止むだろう」

 

隙を見つけたカロ=ランはラウラの懐へ潜り込み、シールドクローを腹部に突き刺す形で動きを止めた。

 

「がっ・・・!」

 

「急所を抉ってくれるわ!」

 

突き刺したシールドクローを展開し引き裂くように吹き飛ばした。その攻撃を受けたシュヴァルツェア・レーゲンは壁にまで吹き飛ばされ解除されてしまう。

 

「うああ!?が・・・あ・・」

 

「ラウラさん!」

 

たった一撃でラウラは戦闘不能に追い込まれ、倒れながらもカロ=ランを睨んでいた。

 

雄輔は待機状態のモエニアを握り締め、それを展開しカロ=ランの前へと立った。

 

「っく・・!させるか!」

 

「ほう?だが、貴様と遊んでいる暇はないのでな?」

 

カロ=ランは再びラースエイレムを起動させ、気絶させると同時にシャナをその腕に抱えていた。

 

「な、いつの間に!まさか!ラースエイレム!?」

 

「ではな、貴様とは再び合う事になるだろう」

 

「ぐ・・シャナ・・ミア・・・・姉・・・様!」

 

カロ=ランはそのまま破壊したアリーナの天井からシャナを連れて離脱していった。

 

「う・・うう・・」

 

連れ去られると同時に気絶していた政征は意識を取り戻した。周りを見渡すがシャナの姿はない。

 

「シャナ・・?シャナアアアアア!ぐ・・くそぉおおおお!カロ=ラァァァァン!!」

 

政征は慟哭の叫びを天井へ向けて上げていた。大切な恋人を守れずに連れ去られてしまった、その悔しさを表すかのようにアリーナの壁を殴り続けた。

 

「政征!やめろ!」

 

「離せ!雄輔!!俺は!」

 

「大馬鹿野郎!!」

 

「ぐあっ!?」

 

雄輔からの拳を受けた政征は軽く吹き飛ぶが、直ぐに起き上がった。その目には悔しさと怒りが入り混じり、雄輔を睨んでいる。

 

「お前はシャナさんを取り返そうとは思わないのか!そこまで落ちたのか!?」

 

「お、俺は・・・」

 

「今のお前は何も見えなくなっている、頭を冷やせ。何のために騎士になったかを思い出せ」

 

「騎士になった・・・理由」

 

「政征兄様、雄輔師匠・・・」

 

ラウラも目を覚まし、二人の様子を見ていた。

 

「俺は・・シャナを守る為に、くそっ!」

 

「シャナ=ミア姉様を取り戻す機会は必ず来ます。それまでは私が特訓相手を努めます」

 

「ラウラ・・・すまない」

 

「いえ、私が出来る事を精一杯やろうとしているだけです」

 

頭が冷えた政征は自分が自惚れていたのだろうと反省した。これでは何も変わっていない。シャナを守護する騎士を名乗っていながら大失態を起こしたのだから。

 

「政征、ラウラ・・俺はしばらく学園から離れる」

 

「え?」

 

「どうしてですか?」

 

「自分を見つめ直してくるだけだ。それまで頼む・・・フー=ルー先生にも伝えといてくれ」

 

「わかった」

 

「ありがとう」

 

そういって雄輔はアリーナから出て行った。政征とラウラもアリーナから出て行き、アリーナで起こった事を全て教員に報告した。

 

 

 

 

その日の午後、政征は一人でフー=ルーの部屋を訪れていた。

 

「そうでしたか、雄輔さんとシャナ=ミア様が・・・」

 

「これは私の責任です」

 

「過ぎた事を悔やんでも仕方ありません、それよりも」

 

フー=ルーは真剣な目で政征を見ていた、ここから先は嘘は許さないと言わんばかりの威圧を放ちながら。

 

「あのカロ=ランが存在しているのは本当ですか?」

 

「はい、事実です。女性でしたが確かにカロ=ラン・ヴイと名乗りました」

 

「そうでしたか、次にユウ=スケ・ダーブルスに関してですが」

 

「彼は修行に出ると学園を出て行きました。フー=ルーさんにそう伝えて欲しいと」

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

「では、失礼しますね」

 

政征が部屋から出ていくとフー=ルーはカロ=ランの行動を考察していた。

 

「恐らく、ユウ=スケを勧誘させようとするはず。ならば、ファウネアを取り戻さねば」

 

 

 

 

[推奨BGM 『Forgotten Temple』スパロボOG]

 

カロ=ランはシャナを連れ去った後、機械がある部屋に拘束していた。

 

「うう・・・」

 

「お目覚めかな?シャナ=ミア様」

 

「!貴女は!?」

 

「そう、カロ=ラン・ヴイでございます。今は女の身でありますが」

 

シャナは目の前の現実が信じられなかった。この女性が謀士長のカロ=ラン・ヴイ

を名乗っている事に。

 

「私をどうするおつもりですか!?」

 

「ふ・・簡単な事。貴女には自由の騎士と戦ってもらうまで」

 

「!!!」

 

シャナに衝撃が走る。自由の騎士、それは自分の愛する男と戦わせられるという事に他ならない。

 

「では、受け入れるといい。破滅の意志をな!」

 

その瞬間、機械に電源が入りシャナに電流が走って行く。拷問ではなく、自分の意識を溶かされていく感覚、それが徐々にシャナを侵食していく。

 

「嫌!嫌ァアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」

 

シャナの意識は眠らされ、仮の意識が覚醒する。その目に輝きは無くまるで人形のようにも見える。

 

「くくくく・・・フォルティトゥードーの名を持つ者よ。貴様に戦いへの絶望をくれてやる」

 

「破滅の意志の名の下に・・・リベラ・・破壊・・」

 

自意識を失っているシャナの手には赤黒くなった待機状態のグランティードが握られていた。




更新しました。

政征は二次移行しているものの何も出来ないままシャナを連れ去られてしまいました。

雄輔も政征と同じ場所に登ろうとかなり焦っています。

シャナは催眠を受け、グランティードと共に襲ってきます、特訓もしていたのでかなり強いです。

スパロボでいう説得が必要な敵ですね。

さて、次回は雄輔がメインとなります。

破滅への誘惑を断ち切り、大切な仲間、教官、フー=ルーへの愛を自覚した時モエニアが目覚めます。


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悪い勧誘は断るに限るよね

雄輔、二次移行を果たし、フー=ルーとの愛が成就

学園長の意外な繋がりと正体。


以上


学園から離れた雄輔は自分が最初にこの世界に来た時の山へと向かい、その麓の町に到着していた。

 

「あの時以来か・・・」

 

「(随分と追い詰めた顔してるのね?)」

 

「(!神様か・・しばらく見ないと思えば)」

 

「(ふん、気まぐれよ)」

 

「(そうか、とりあえず山へ行かないとな)」

 

『(気づいていないのね、アンタも目覚めかけてるのに)』

 

その呟きは風に流され、聞こえることはなかった。雄輔は自分が修行していた場所にたどり着き、修行を始める。

 

「はぁ・・はぁ・・俺は」

 

雄輔は上半身だけ服を脱ぎ、自分の体重を支えられる枝を見つけるとぶら下がって腹筋を始めた。

 

要である肉体を鍛えれば、何かを掴めるかも知れないと信じて。

 

 

 

 

 

フー=ルーは学園長のもとへ行き急いでいた。今は没収されている自分の専用機であるラフトクランズ・ファウネアを取り戻すために。

 

「やはり来ましたか、フー=ルーさん」

 

学園長の顔はようやく来たかといった感じの様子で待っていたようだ、机の上には待機状態になっているファウネアが置かれている。

 

「学園長 私は」

 

「分かっていますよ。私の友人から懇願されましてね、貴女に剣を返還して欲しいと」

 

「え?」

 

フー=ルーは理解が追いついていなかった、学園長自らが謹慎処分を受けている自分に剣を返還すると言っているのだから。

 

「私は貴女の会社の重役の方と数年以上の友人でしてね、その友人は貴女もよく知っている方ですよ」

 

「よく知っている?まさか!?」

 

「急いでください、このまま学園の騎士達を失う訳にはいかないのです」

 

「っ・・ありがとうございます!この恩は必ず」

 

フー=ルーは返還されたファウネアを手にし、学園長がいる部屋から飛び出していった。

 

それを見送った後、学園長は受話器を取り友人のもとに連絡を入れた。

 

「約束通り、彼女に剣を返還しました。これで良かったのですか?」

 

「ああ、すまないな。嫌な役を押し付けて」

 

「いえいえ、これも上に立つ者の役目です。しかし」

 

「ん?」

 

「同胞が皇女とフー=ルーさん以外に純血とハーフがこの学園に来るとは思いませんでしたよ」

 

学園長の言葉に電話越しの人物は軽く笑っていた。

 

「ははは、確かにね」

 

「では、今後もよろしくお願いしますよ?セルダ(・・・)

 

「ああ、こちらこそ」

 

受話器を置くと学園長は立ち上がって窓の外を見た、その視線の先には一筋の飛行機雲が見えていた。

 

「頼みますよ、次世代の同胞達・・・そして共存の架け橋となる者達」

 

その表情は子供を見守る親のように慈愛に満ちていた。

 

 

 

 

 

学園長が電話を終えた一時間後、雄輔は特訓と着替えを終えて待機状態のモエニアを見つめていた。

 

「どうすればいい・・モエニア、俺は」

 

「ならば、私と来るがいい」

 

「!!」

 

その声は親友の恋人を奪っていった女の声、いや記憶の中では男性だった人物の声。

 

「カロ=ラン!!」

 

「何を驚く?お前に力を授けてやろうというのに」

 

「ふざけるな!お前の、破滅の力など望まん!」

 

雄輔はカロ=ランの誘惑を跳ね除けるかのように声を荒らげた。

 

「ふん、ならば倒すしかあるまい!」

 

「ちぃっ!」

 

雄輔はモエニアを展開し、カロクアラを展開したままのカロ=ランと空中戦を始めた。

 

「オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

ソードライフルをソードモードに切り替え、スラスターを全開にしカロクアラへと突撃する。

 

モエニアの斬撃をシールドクローで受け、カロ=ランは余裕の表情を浮かべている。

 

「貴様の焦りが伝わって来るぞ?くく・・城壁の騎士よ」

 

「ぐ・・黙れェェェェ!!!」

 

「そのような動きで」

 

もう一方のシールドクローでカウンターを繰り出し、展開せずにモエニアを殴り飛ばした。

 

「がはァァ!?」

 

地上への落下だけはしまいとスラスターをふかし、姿勢を維持する。だが、それでも受けたダメージが大きかったのか肩から出血している。

 

「ぐ・・・ぅ・・・」

 

「共に来い、お前の力が必要だ」

 

今のカロ=ランからは雄輔にとって魅力的な誘い文句が紡がれている。

 

その誘いに乗りそうになったその時、オルゴンエネルギーが二人の間を通り抜けた。

 

 

 

 

雄輔が誘いに乗りそうになる30分前。

 

IS学園から飛び出していったフー=ルーはファウネアを展開し、モエニアの反応を頼りに限界値ギリギリの高さを飛んでいた。

 

「間に合ってください、手遅れになる前に!」

 

フー=ルーは自分の想いに気づき始めていた。教師という名の仮面を被っても一人の女としての自分が愛している者がいる事に。

 

「!不明機の反応が!彼を行かせるわけにはいきません!!」

 

不明機の反応をキャッチし、ソードライフルをライフルモードに切り替え構えた。

 

「この距離は得意とは言えませんが、引き離すことが出来れば!」

 

彼女が最も得意とするオルゴンライフルによる狙撃、それを長距離とは言えない超長距離から行おうとしていた。

 

自分を導いてくれたサイトロンを信じ、フー=ルーはそのトリガーを引いた。

 

 

 

 

 

「む!?これはオルゴンライフル!?」

 

カロ=ランは突然、飛来したエネルギーがオルゴンライフルであることを見抜き距離を取った。

 

「この長距離からのオルゴンライフル?こんな事が出来るのは!」

 

エネルギーが飛来した方向へ視線を向けると同時にISらしき機体が雄輔の隣へ並び立つ、それは親愛を旨とする騎士の姿だった。

 

「久しい、と言った方がいいかな?フー=ルー・ムールー」

 

「まさか本当に女性になっているとは思いもしませんでしたわ、カロ=ラン」

 

互いに女性の為、一人の男を取り合っているようにも見えるが実際は最前線で戦う騎士と裏側で敵を屠る謀士のにらみ合いだ。

 

「今の私は怒りに満ちていてよ?」

 

「ほう?所詮は女だったという事か?」

 

フー=ルーは静かにライフルモードにしていたソードライフルをソードモードに切り替えていた。

 

「彼に手出しはさせませんわ!」

 

「来るがいい!」

 

カロクアラとファウネアの戦闘が始まり、カロクアラは二つのシールドクローを使いファウネアのオルゴンソードを捌いている。

 

「く・・・流石に防御装備を重視しているカロクアラに一撃を与えるのは厳しい!」

 

「ハハハハ!腕が落ちたか?フー=ルー、それともそこの男と愛でも交わしでもしたか?」

 

「くっ・・・!!」

 

元々ファウネアは射撃重視のチューンをされたラフトクランズであり、防御重視のカロクアラとは相性が悪い。

 

さらに言えば防御重視でありながら接近戦をこなすのがカロクアラの最大の特徴だ。

 

それだけにファウネアを駆るフー=ルーは少しずつ追い詰められていく。

 

「でやああああ!!」

 

ファウネアを援護するようにカロクアラへ攻撃を仕掛ける機体があった、負傷しながらも戦う意志を捨てていなかったモエニアを駆る雄輔だ。

 

「ほう?その傷でまだ戦えるだけの力があったか」

 

「雄輔さん!」

 

「ぐ・・・この腕じゃバスカーソードを使うのは無理か?」

 

雄輔は痛みをこらえながらもソードライフルを手放さないよう強く握った。

 

「ならば先に貴様を倒すとしよう、バスカー・モード起動!」

 

カロクアラのゴーグルアイが輝き、カロ=ランは雄輔に狙いを定め突撃してくる。

 

「ユウ=スケ!」

 

「おわ!?」

 

フー=ルーは雄輔を咄嗟に突き飛ばした、バスカー・モードの攻撃範囲に入ったファウネアに攻撃を仕掛ける。

 

シールドクローでフー=ルーのファウネアへ攻撃し殴り飛ばした。

 

「うあ、ぐうう!!」

 

「撃ち抜く!!」

 

オルゴンキャノンを単発で連射し、ファウネアを撃ち抜いていく。それでも追撃が止むことはない。

 

「クロー、展開!」

 

両腕に装備されたシールドクローを展開する、展開されたクローはまるで獲物を狙う飢えた獣だ。

 

スラスターを全開にし、ファウネアへと追いつくとクローで引き裂き始める。

 

「ぐうう!がっ!うあああ!」

 

「フハハハハハ!貴様を切り刻んでくれるわ!」

 

一撃一撃が重く、ファウネアの装甲が僅かに引き裂かれていき、SEも削られていく。

 

「あああああっ!」

 

「貴様は間もなく堕ちる、ヴォーダの深淵にな!!」

 

クローに集中させたオルゴンエネルギーを斬撃として飛ばし、ファウネアの動きを緩和させる。

 

「オルゴン・マテリアライゼーション!滅殺!」

 

巨大なオルゴンナイトの爪に引き裂かれ、ファウネアは更に吹き飛ばされ落下していく。

 

「きゃああああああああああ!!」

 

「っ!!!フー=ルー!!」

 

雄輔は自身の怪我を顧みず、ファウネアを助け出しフー=ルーに話しかける。自身の血がフー=ルーに着くが話しかける。

 

「な・・何故?こんな・・・」

 

「ふふ・・・愛しい人を守りたいと・・・思ったから・・・です」

 

「っ・・・!?」

 

「私も・・・あの方と同じ・・でしてよ。よかった。貴方を守れて・・・」

 

そのままフー=ルーは笑みを浮かべ気を失ってしまった。

 

「ぐ・・・く・・うおおおおおお!!フー=ルーーーー!!」

 

気を失ったフー=ルーを抱え、普段は冷静な雄輔が咆哮のように声を上げた。

 

自分の想いと彼女の想いが同じであったのに傷つけてしまった。守れなかった、剣を持った身で守れないなど何が城壁の騎士か。

 

これが親友が受けた苦しみなのか、愛する者を自覚し守れなかった悔しさがこれなのかと。

 

「所詮は女か、もっともこの身で言えた事ではないな」

 

「っ・・く!」

 

「退いたか、良いだろう。ここで待っていてやる」

 

 

 

 

[推奨BGM 『THE GATE OF MAGUS』スパロボOG]

 

雄輔は地上に降り、自分が鍛錬していた場所に寝かせると同時に雄輔の意識が光に飲まれた。

 

「ここは・・?城?」

 

『ようやく対話が出来たな・・主よ』

 

城から誰かが歩いてくる、全身を鎧を着込んだ人らしきものだ。

 

「主、まさか?お前は・・・」

 

『そうだ、貴方の剣であり自由と共にある騎士・・・モエニアだ』

 

「・・・」

 

『時間が無い、主よ。私の剣で私を斬れ』

 

「何!?」

 

『この鎧、いや・・・兜こそが枷なのだ』

 

「・・・」

 

雄輔は迷っていた、モエニアは自分を斬れと言っているがそれは正しい事なのかと。

 

『早くしろ!迷うな!!私は貴方と共にある、気にするな』

 

「!わかった」

 

モエニアから剣を受け取ると雄輔は思い切り、剣を振り下ろしてモエニアを斬った。

 

その兜の中から現れたのは整った顔立ちの女性だった。全身を覆っていた鎧の意図が変わり、四足歩行の獣をモチーフにしたような鎧を纏っていた。

 

『主よ、愛とは完全な弱さではない。それは強さであり弱さともなるのだ、それを忘れるな』

 

「ああ」

 

強い光の中に再び飲まれると同時にフー=ルーを寝かせた特訓の場所へ戻っていた。

 

「ここで持っていて欲しい、フー=ルー」

 

雄輔はモエニアを再び纏うとカロ=ランが待つ上空へ上がり、対峙した。

 

「此処に来たという事は誘いを受けるか?」

 

「その誘いは受けない、お前のおかげでようやく政征と同じ場所に立てた」

 

「何!?」

 

モエニアに表示されているディスプレイに手を触れ、二次移行の項目に触れた。

 

「俺は・・・フー=ルーと共に戦う。そしてかつての(誓い)を示す!」

 

 

[オルゴンクロー、リミッター解除完了済]

 

[オルゴンキャノン、リミッター解除完了済、チャージリミッター解除完了]

 

[全バスカー・モード開放済]

 

[オルゴン・クラウド部分限定発動からオルゴン・クラウドSへと更新、常時発動済]

 

[ラースエイレム限定解除・使用許可承認後に発動可能状態へ移行済]

 

[オルゴンライフル、リミッター解除]

 

[オルゴン・ガーディアンとの同調完了]

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー) オルゴン・サンクトゥス習得]

 

 

二次移行を果たしたラフトクランズ・モエニアは全身装甲となり、リベラと同じように本来のラフトクランズに近い姿となった。

 

「行くぞ、カロ=ラン!フー=ルーを傷つけた罪は重いぞ」

 

「ふ、その機体もろとも此方へ引き込んでやろう!」

 

「やれるものならな!オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

雄輔はソードライフルをソードモードに切り替え、カロ=ランへと突撃していく。

 

「オルゴン・クロー!」

 

カロ=ラン自身もシールドクローを展開し突撃する。

 

「はあああああ!」

 

「うおおおおおお!」

 

剣と爪がぶつかり合い、火花が散る。互いに引かずに攻め続け一歩も引くことをしない。

 

 

 

「うう・・・ここは?」

 

二人が戦っている最中、フー=ルーは目を覚まし起き上がった。どうやら誰かが特訓場所として使っている場所のようだ。

 

目を覚ましたフー=ルーが最初に気づいたのは空で火花を散らしながらぶつかり合うラフトクランズ(IS)だった。

 

「あれは・・・」

 

フー=ルーの目に映ったのはカロクアラと本来のラフトクランズに近い機体だった、その姿は守る為の戦いをしているようにも見える。

 

「もしや・・モエニア!?」

 

雄輔が纏うダークブルーの色がそれをフー=ルーに教えている。そして確信する、あれこそモエニアが二次移行した姿のだと。

 

「雄輔・・・」

 

今の自分は戦いに割り込むことが出来ないと考え、その戦いを見守るしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「はあああ!」

 

「ぐうう!おのれ!!」

 

雄輔はカロクアラを追い詰めていたが戦う前に受けていた傷の影響で後一歩の一撃が届かなかった。

 

「ふ、ここらが潮時か」

 

「カロ=ラン!」

 

「いずれ学園に侵攻する、その時まで待つのだな」

 

「ぐ・・傷が」

 

カロクアラは撤退し、それを追撃しようとしたが叶わず雄輔も特訓場所へと降りていった。

 

「ユウ=スケ・ダーブルス」

 

「!」

 

フー=ルーは真剣な表情で雄輔のフューリーとしての名を呼んでいた。この時のフー=ルーは真剣そのものだと知っている。

 

「っ・・!」

 

「なっ!?」

 

驚きもするだろう、フー=ルーが雄輔の胸元に飛び込んだのだから。

 

雄輔は驚きと気恥ずかしさで何も考えられなかった。

 

「何故・・・私がこのような事をしてるか分かりますか?//」

 

「え・・・?」

 

「私、フー=ルー・ムールーは教師ではなく、騎士でもなく、一人の女として貴方を慕っているのです・・分かりますか?///」

 

「あ・・・え・・・//」

 

フー=ルーの突然の告白に雄輔は混乱した。確かに自分はこの女性に誓いを立てたがそれだけだった。

 

「・・・う、うう//」

 

答えが分からず雄輔は混乱を極めてしまい、フー=ルーへの返答が出来ないままだった。




はい、告白イベント第二弾です。

そして学園長の意外な繋がりと正体が判明です。

学園長が言っていた純血は分かると思いますが、ハーフは誰なんでしょうね。

隔世遺伝というのもありますから意外と近くにいるかもしれません。


次回は夏休み後半、全員が集まります。

ラウラに二次移行の兆しが!

ラウラ、仮面の下の涙を拭え!優しい姉を取り戻すために!


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大切な人は取り戻したいよね

雄輔とフー=ルーが想いを確認

特訓の成果が少しずつ現れる

ラウラ、仮面舞踏会の参加者の姿となる(外見)

以上


今回をスパロボのステージの勝利条件風に言うなら

[グランティード(シャナ機)をラフトクランズ・リベラ(政征機)とシュヴァルツェア・レーゲン(ラウラ機)で説得し規定値(32000)以下にする]

敗北条件は[グランティード(シャナ機)の撃墜]

といった感じです。


特訓場所でフー=ルーに胸元に飛び込まれ、雄輔は固まっていた。

 

「フ、フー=ルーさん//」

 

「貴方の答えを聞いていませんわよ?」

 

な・・どうしてこうなったんだ、突然の告白なんて聞いてないぞ。しかも答えるまで離さないつもりだ。

 

政征の奴もシャナさんから告白を受けた時はこんな感じだったのか、これは心臓に悪い。

 

何が悪いって、女の人が持ってる特有の胸元の膨らみが、だ。

 

女性に抱きつかれた事なんて皆無だし、それだけに刺激が強すぎる。

 

「お、俺は」

 

「答えなさい・・!//」

 

「ユウ=スケ・ダーブルス、フー=ルー・ムールーを一人の女性としてお慕いしております//」

 

「っ!」

 

雄輔からの返答を聞いたフー=ルーは恥ずかしさから顔を隠すように雄輔の胸元に顔を埋めた。

 

「ホント・・貴方は私の心を揺さぶるのが上手なんですから//」

 

「え・・あ//」

 

「けど、負けっぱなしは性に合いませんわね」

 

「へっ?・・・っ!!!/////////////」

 

な、なんだ?この感触、唇に何か柔らかいものが・・・これはまさか、接吻!?

 

「んぅ・・////」

 

フー=ルーは僅かに届かない差を背伸びで補って雄輔に口付けしていた。ほんの数秒だったが唇を離し、雄輔を見つめた。

 

「え・・あ・・//」

 

「学園に帰りますわよ、それから学園ではこうして接しないように!///」

 

フー=ルーさんはいつものフー=ルーさんに戻っていた。肩の怪我の応急手当を済ませ、ISを纏って学園へと帰還した。

 

 

 

 

 

夏休みも残り一ヶ月となり、セシリアと鈴が祖国から帰国し現状の情報交換を始めていた。

 

「そんな、シャナ=ミアさんが」

 

「私達が居ない間にそんな事があったのね」

 

「ああ」

 

日本を離れていたセシリアと鈴にシャナ=ミアが臨海学校時に出会ったカロ=ランに連れ去られた事、二機のラフトクランズが二次移行した事など全てを雄輔が説明していた。

 

「あのさ、雄輔。政征とラウラが見当たらないんだけど?」

 

「あの二人はアリーナで訓練している。特に二人は・・な?」

 

「あ、そっか・・」

 

シャルロットの質問に雄輔は少しだけ苦い顔しながら説明をした。

 

シャナ=ミアを姉として慕っているラウラ、そしてシャナ=ミアの恋人である政征の二人は当然だろう。

 

「俺達もアリーナへ行くとしよう」

 

「うん、行こう!」

 

「そうですわね」

 

「さっさと行きましょ」

 

少しでも二人の力になろうと話していた全員がアリーナへと向かった。

 

 

 

 

 

何処かの施設、その一室でカロ=ランを筆頭に全員が集まっていた。一夏は喜んでおり箒は不機嫌を顔に出している。

 

「まさか、シャナ=ミアさんが一緒なんて嬉しいぜ!」

 

そういってシャナに近づこうとするがシャナはすぐに距離を開けた。

 

「近づかないで下さい、貴方と馴れ合う気はありません」

 

「なっ、そんな!」

 

光の消えた目は冷たい印象と威圧を醸し出しており、他人を寄せ付けるのを嫌っているようにも見える。

 

「貴様!一夏に向かって!!」

 

「うるさいですよ、貴女は騒ぐだけですか?」

 

シャナの視線に箒は怯まず睨むが、無表情で感情の変化がないシャナに少しずつ根負けした。

 

「く・・・!」

 

「宣言しておきます、二機のラフトクランズは私が倒します。貴方達に渡しません」

 

「ふざけるな!!アイツ等は私達が!」

 

「何度も言わせないでください、っ・・私が倒すんです」

 

箒の怒号を受け流した後、シャナは一瞬だけ頭を押さえるが持ち直すと部屋を出て行った。

 

「おのれ・・!」

 

「箒、シャナさんに悪気はないんだからよ」

 

「分かっている!だがな一夏!!お前はアイツの肩を持ちすぎだ!!!」

 

「そんな気はないんだけどな」

 

箒の言葉を飄々とした様子で流している。そんな二人にカロ=ランが声をかけた。

 

「今回はお前達三人で偵察に行ってもらう」

 

「なぜ、私達が!」

 

「威力偵察と今のお前達が通用するか確かめるためだ」

 

「わかったよ」

 

「出撃は明日だ、それまでシャナ=ミアを刺激するな」

 

忠告を残し、カロ=ランはIS委員会に応援の要請の為、部屋から去っていた、二人もそれに習い機体状態を見るために出て行く。

 

「っ・・頭が」

 

自室に戻ったシャナは頭を押さえていた。時折聞こえてくる誰かの声、それが自分を惑わせる。

 

「これです・・か、これがあるから」

 

シャナが手にしたのは政征から貰った対になる赤色のペンダントだった。自分でも何故身につけたままなのか分かっていない。

 

「っ!どう・・して、どうして捨てられないの?」

 

『ほら、このアクセサリー。赤と水色でくっつけられるんだよ』

 

「誰・・誰なのですか!?」

 

頭を押さえながら記憶の中にある声を思い出そうとするが、それが叶うことはなかった。

 

 

 

 

 

 

IS学園アリーナ。そこでは政征のラフトクランズ・リベラとラウラのシュヴァルツェア・レーゲンが訓練していた。

 

「そこだ!!」

 

「ぬぐっ!」

 

プラズマ手刀をオルゴンソードで受け返すが、ラウラは追撃の手を緩めずワイヤーブレードを展開する。

 

「政征兄様!その程度ではシャナ=ミア姉様を取り返すなんて夢で終わってしまいます!」

 

「ああ、まだやれる。来い!ラウラ!!」

 

この夏休み中、政征はラウラと雄輔に頼み込み、勉強と訓練に費やしていた。

 

基礎の体力作り、筋力作りをしつつISの基礎訓練である歩行、飛行を続けた。

 

その成果もあって二次移行したラフトクランズ・リベラを扱えるようになってきていたが、戦闘だけは二次移行前の動きとは程遠い状態だった。

 

「ぐああ!」

 

政征はワイヤーブレードに捉えられ、地に叩きつけられたが直ぐに立ち上がる。

 

「政征兄様、ここからは私も実体系の刃を使わせて貰います」

 

ラウラは拡張領域から二本の刃を取り出した、それは戦士と共に最後まで戦い抜いた証のような雰囲気を持っている。

 

「なんだ、あの刃は?」

 

「ふんっ!」

 

ラウラは取り出した二つの刃を中心にある柄の部分を連結させ、両刃の槍にした。

 

「連結させた!?」

 

「行きますよ!政征兄様!!」

 

ラウラはまるでバトンを扱うように連結させた刃を回転させ、突撃してくる。

 

「はあああああ!!」

 

「うおおおおお!!」

 

シールドクローでその刃を受け止める。その一撃を撃ち込んできたのはラウラだが政征の目には別の何かが映ったように見えた。

 

「なんだ?ラウラと何かが重なる」

 

ラウラの姿に重なって見えたのは二人の仮面を着けた戦士だった。

 

一人は赤と黒の戦士、もう一人は白と赤の戦士だ。それぞれが憎しみと愛、昔と今のラウラの心を映しているかのようだ。

 

「そこだ!」

 

「させん!」

 

展開したままのオルゴンソードで刃を止め、競り合いを起こすが互いに一歩も引かず押し合う。

 

「ぐうううう!」

 

「う、おおおおお!」

 

ラウラの刃を押し返し、オルゴンソードで切り払うがラウラには届いていない。むしろ、子供が重い刀を扱うような状態に近く、すでに息切れを起こしている。

 

「はぁ・・はぁ・・遠慮はするな。来い!」

 

「当然です!だあああ!」

 

ラウラが突撃すると同時にブザーが鳴り、試合終了だという事に二人は気づく。

 

「時間ですね、一度休息しましょう」

 

「はぁ・・はぁ・・ああ、わかった」

 

ラウラと政征は同時にISを解除し休憩する。政征が座る隣にラウラが座り、顔を見ている。

 

「なんだい?」

 

「いえ、二次移行を果たしたISはここまで扱いにくくなるのかと」

 

「逆だよ、今の俺がリベラに使われている状態なんだ」

 

「え?」

 

「要は今のリベラを使いこなせる域まで俺が達していないということさ」

 

政征の言葉にラウラはどこか既知感があった。それはかつて自分がVTシステムに取り込まれた時だ。

 

IS自体に取り込まれ、IS自身に自分が使われてしまう。それは力でも何でもない、ただの命令を実行する機械だ。

 

ラウラはかつて自分がその状態になりかけ暴走した。しかし、それを助けてくれた兄と姉に対し自分に出来る事はないかと考えた。

 

だが、戦闘しか教えることの出来ない自分は、今回のように共に特訓することで恩を返そうとした。

 

役立っているかは分からない。兄の大切な人で自分の姉でもあるシャナを取り戻そうとする意志は政征にも負けない。

 

姉の大切な人を自分と同じ目に合わせるわけにいかないとラウラは固く誓っていた。

 

「(特訓中に感じたが、レーゲンと一体化している感覚に襲われる時がある。スペースナイツ研究所で譲られた両刃の槍を使っていると特にだ)」

 

ラウラは自分のISが再び自分を取り込もうとしているのではないかと考えたが、肝心のVTシステムは今のレーゲンには無い。

 

それならISと一体化している感覚はなんなのか、考えるが答えがでない。

 

「ラウラ、どうした?」

 

「い、いえ。なんでもありません」

 

「?そっか」

 

この感覚がラウラとシュヴァルツェア・レーゲンを結びつけるきっかけとなるのを本人は知らない。

 

この後、セシリア、鈴、雄輔、シャルロットの四人が集まり、更なる特訓を重ねることになる。

 

 

 

 

とある施設の会議室にてカロ=ランを含めた四人が椅子に座り大きなモニターを見ていた。

 

「さて、今回は三人で出撃してもらうぞ」

 

「わかった」

 

「・・・」

 

「ええ」

 

カロ=ランはIS学園の座標を教え、三人に出撃するよう促した。

 

一夏はシャナと共に出撃できるのを喜んでいるが、シャナ自体は関心がなく箒は不機嫌さを露骨に出していた。

 

「私は一夏の為に動く、貴様は邪魔するな」

 

「どうぞ、前にも言いましたが私はあなた達に興味はありません。興味があるのはラフトクランズだけですので」

 

「っ・・貴様」

 

「出撃前に喧嘩はやめろって、箒」

 

「では、出撃しろ。学園上空におびき出すように戦闘してもらう。全ては」

 

「「「破滅の意志の下に!」」」

 

それぞれの目的の為に三人は出撃していく、戦いの目的は騎士達を倒すことだけだ。

 

それだけがこの三人を繋げているものだった。

 

 

 

 

 

その二時間後、政征と雄輔はサイトロンの反応によってIS学園上空に敵がいるのを察知し全員を呼び出した。

 

「敵はこの上にいる」

 

「サイトロン反応があるという事はカロ=ランなのか?」

 

「とにかく、行ってみないことには分かりませんわね」

 

「敵さんも待ってくれてる事だし、行くしかないわ」

 

「行こう、みんな」

 

「ああ、取り戻しに行かねばな・・」

 

それぞれのISを展開し、IS学園の上空へとむかう。そこには全員が見慣れた三人の姿があった。

 

「!そんな・・・」

 

「そう、アンタ達だったのね」

 

「久しぶり、といえばいいのかな?」

 

「・・・・!」

 

「あれは・・!!」

 

「お前達が来たのか」

 

六人の目の前にいたのは白式、紅椿、そして赤黒く変色したグランティードだった。

 

「一夏・・!」

 

「篠ノ之箒・・・」

 

「シャナ・・・?シャナなのか?」

 

それぞれが信じられないといった様子で三人を見ている。そんな中、一夏が口を開いた。

 

「シャナ=ミアさんは俺達の仲間だ、気易く声をかけるんじゃねえ!」

 

「何・・!?シャナが?」

 

「うるさいですよ」

 

「まさか今のシャナさんは、うお!?」

 

「貴様の相手はこの私だ!」

 

鯉口を箒が切り、雄輔に襲いかかったことで戦闘が始まった。

 

一夏は政征に突撃し、箒は雄輔に向かって刀での接近戦を仕掛けてくる。

 

「ぐ、邪魔をするな!織斑一夏!私はシャナ=ミアに用がある!」

 

「行かせねえ!シャナ=ミアさんは今度こそ俺が守るんだよ!」

 

距離を離そうとするが一夏は執拗に政征を追い続け、振り切ることができない。そんな中、援護にシャルロットが入ってくる。

 

「一夏は僕が引き受けるから!政征は早くシャナ=ミアさんの所へ!」

 

「すまない、恩にきる!」

 

政征はスラスターを全開にして一夏を振り切り、シャナのもとへと向かった。

 

「シャル、俺の邪魔をするのかよ!?」

 

「あの二人の間には誰も入れないよ。さぁ、一夏!行くよ!」

 

「なら、お前を倒してやるさ!」

 

銃撃と剣撃の舞が始まり、二人は戦闘を開始した。

 

 

 

 

「っく!剣に迷いがない!殺し合いを経験してきたとでも言うのか!?」

 

「いつまでも昔のままの私だと思うな!青葉雄輔!!」

 

箒と雄輔は戦闘を始めており、ソードライフルをソードモードに切り替えシールドクローをも使い箒の剣を受け返していた。

 

「くっ!機体に振り回される!」

 

「どきなさい!雄輔!!」

 

雄輔の前に立ち、二刀を受け止めたのは二本の青竜刀を手にしている鈴だった。

 

「鈴か!邪魔をするな!!」

 

「悪いけど、アンタは私が相手をするわ箒」

 

モエニアを後退させ、鈴が箒の前に立った。自分が倒さないといけない相手だと認識しているかのように。

 

「私の目的は青葉雄輔のみだ!貴様など!」

 

「問答無用よ!」

 

刀と青竜刀。性質の違う二つの刃が交差し、火花を散らしながらぶつかりあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあっ!」

 

「うわ!」

 

「弱いですね、貴女達では相手にならない」

 

テンペスト・ランサーを手にしたシャナはセシリアとラウラ相手に無傷のまま圧倒していた。

 

シャナの弱さの根本はその優しさだ。しかし、今のシャナはカロ=ランによって本来の人格を消されている為に優しさという感情がない。

 

その為に容赦がなく、たとえ顔見知りだろうと倒せる状態になっている。

 

「く・・シャナ=ミア姉様!思い出してください!ラウラです!」

 

「貴女など知りません、落なさ、あうっ!?」

 

「シャナ・・!」

 

グランティードへ一撃を当てたのは政征の駆る、ラフトクランズ・リベラだった。その手にはライフルモードに切り替えたソードライフルが握られている。

 

「見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた!ラフトクランズ・リベラ!貴方を倒します!」

 

テンペスト・ランサーを構えたままシャナは政征に突撃し、それを咄嗟にソードモードに切り替え、オルゴンソードで受け返す。

 

「シャナ!私だ!赤野政征だ!目を覚ましてくれ!」

 

「政征・・・うっ!知らない・・・私は知らない!喋るなああ!!」

 

「シャナ!」

 

頭を押さえる仕草をしながらもランサーを振るい政征に刺突を繰り出していく。二人は刃を交えながらラウラとセシリアから距離を離していった。

 

大切な二人が、愛し合っているはずの二人が殺し合っている。それを見ていたラウラは無力感に苛まれていた。

 

「(どうして、政征兄様とシャナ=ミア姉様が戦い合わねばならないのだ!今一度力が欲しい!二人を止められるだけの力を!私は二人を助けたい!)」

 

その思いに共鳴したのか。シュヴァルツェア・レーゲンが輝き、再びラウラの精神を取り込み始める。

 

「な!?」

 

「ラウラさん!?」

 

セシリアの声はシュヴァルツェア・レーゲンに精神を取り込まれたラウラに届くことはなかった。

 

 

 

「ここは?」

 

ラウラの視界には施設のような場所が広がっていた、そこに一人の軍服を着た少女が近づいてくる。

 

『ようやく、会話できましたね?我が操縦者よ』

 

「操縦者、ということはレーゲンか?貴様」

 

『そうです』

 

「なぜ、私を取り込んだ?」

 

ラウラの質問にレーゲンはすぐに答えた。理由など些細でしかないと言いたげに。

 

『貴女と安全に会話するためです、それと』

 

「ん?」

 

『どうして力を求めるのです?下手に力を求めればあの時のように』

 

「そうだな。でも、今の私は大切な人達がいるのだ。その人達は今殺し合っている、それを止めたい!」

 

『涙を拭えない仮面を被ってでも?』

 

「ああ!」

 

『そうですか。ならば私は貴女と一体になりましょう、騎士の姿となって』

 

「それは一体どういう、うわ!?」

 

ラウラの前からレーゲンの姿が消え、そこにはスペースナイツ研究所で渡された両刃の槍だけが残されていた。

 

「レーゲン、一緒に行こう」

 

それを手にすると同時にラウラの意志が現実に戻り、シュヴァルツェア・レーゲンが自動更新を始めた。

 

「な、何が起こるんですの!?」

 

セシリアは何かが起こる予感と共にラウラを心配していた。

 

ラウラに対して何かが起こっているのは確かだが、それが何なのかは分からない。

 

 

[同調フォーマット及び二次移行スタート、全身装甲化に更新開始]

 

[ヴォーダン・オージェ、二次移行により安定化]

 

[武装追加、荷電粒子砲 追加開始]

 

[AIC 手部ブレード ワイヤーブレード状態維持]

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『マスカレード』習得]

 

 

「ラ、ラウラさん?」

 

更新が終わると同時に元のシュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラの目に光が戻る。

 

セシリアはラウラの様子がいつもと違う事に驚きと恐怖があった。

 

 

[推奨BGM 『永遠の孤独』 スパロボW アレンジ]

 

「うあああああああ!!!」

 

シュヴァルツェア・レーゲンがラウラと一体化していき、全身装甲となっていく。

 

叫び声を上げているがラウラは変化を受け入れており、止めようとせず抵抗もしなかった。

 

変化が終わり、顔は全てを覆う仮面のようになっており手にはスペースナイツ研究所から託された両刃の槍を持っている。

 

「これは・・・」

 

最も驚いたのはラウラ自身だった。全身がシュヴァルツェア・レーゲンに覆われ、不完全なはずのヴォーダン・オージェは安定して機能しており、自分の身体の状態が把握出来るようになっていた。

 

その姿はかつて仮面舞踏会に参加した戦士達の姿に酷似している。

 

「レーゲン、ありがとう・・・そしてともに戦おう!セシリア、行くぞ!援護を頼む」

 

「え?あ・・はい!」

 

二次移行を果たしたラウラはセシリアと共に政征の援護へと向かった。自分の感情を仮面で覆い、大切な姉を取り戻す為に。




前半と後半の落差が酷い事に。

ついにラウラも二次移行を果たしました。

荷電粒子砲の追加はマイクを壊す事になるアレの代わりです。

初めは二次移行と書いてブラスター化とルビを振ろうと思いましたが流石に止めました。

ブラスター化は記憶崩壊や肉体崩壊などの代償が必要なのを思い出したので。

ですので、外見が彼らに似ているだけの全身装甲化となっています。

この世界では二次移行すると全身装甲が多いですが。

それは私の中で全身装甲化したのが強いんじゃないかな?と思っている事と全身装甲にロマンを感じている為です。

ほとんどはロマン重視ですが。

次回

戦闘後、特訓相手が見つかり再び会社に集合!

鈴が自分の力だけであの境地に?

シャルロットが義姉の呼び名を継承!?

セシリアも覚醒!? 以上

追伸

フー=ルーさんのR-18どうしよ・・・


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取り返せないもどかしさって悔しいよね

政征、未だ取り戻せない。

ラウラ、マイクを壊す

特訓メンバー現る

以上


リベラとグランティードは互いの味方から離れた空域で戦っていた。

 

「シャナ!思い出してくれ!シャナ!!」

 

「しゃ・・喋らないでええ!!」

 

テンペスト・ランサーとオルゴンソードが火花を散らしながらぶつかり合う。お互いにクセを知り尽くしているせいか拮抗し続けていた。

 

「っぐお!?」

 

槍と剣のリーチの差が此処で出てきてしまった、オルゴンクラウドによって守られたがSEが削られてしまう。

 

テンペスト・ランサーを突き立てようとするがそこに何かが突撃してくる。

 

「倒れて!貴方が倒れればこの頭痛が治まるはず!」

 

「シャナ=ミア姉様!やめてください!」

 

それは二次移行を果たし、仮面を身に付けたラウラだった。政征の前に割り込み、突き立てられかけていたテンペスト・ランサーを手にした両刃の槍で受け止めている。

 

「ラウラ!?」

 

「シャナ=ミア姉様!思い出して下さい!貴女と政征兄様は互いに想い合っているはずです!」

 

「私が・・この者・・と?く・・あああああ!?」

 

テンペスト・ランサーを手放し、自分の頭を両手で押さえ苦しみだした。

 

「シャナ!」

 

「嫌ああああ!!近寄らないでええええええええええ!」

 

頭を押さえたままシャナは戦闘空域を離脱して行ってしまった。

 

「シャナ!?行くな!!シャナァァァァァ!」

 

「政征兄様、みんなと合流しましょう!まだ戦闘は終わってません!」

 

「あ、ああ。行こう」

 

途中でセシリアと合流し、他の三人が戦っている空域へ向かった。

 

 

 

 

「オルゴンライフルB、N!ダブルシュート!」

 

「くそっ!相変わらずシャルの射撃は厄介だぜ」

 

シャルロットが得意とする[砂漠の逃げ水]に一夏は翻弄されているが、シャルロットも追い込まれていた。

 

「(一撃でも一夏の剣に斬られたら僕の機体はやられてしまう、ライフルのエネルギーも危ない)」

 

「これで終わらせるぜ?シャル!!」

 

「!!」

 

シャルロットの悪い予感は当たってしまった。目の前で一夏はエネルギー状の刃を発現させ、それを構えた。

 

「零落白夜ァ!!」

 

「回避できない!やられる!?」

 

白式のスピードはベルゼルート・リヴァイヴを上回っており、一夏は一気に突撃してくる。

 

「させませんわ!」

 

「うわっ!?」

 

一夏を狙撃したのはセシリアであった。メンバーの中で最も狙撃を得意とするのが彼女だ。

 

「く!?セシリアかよ!」

 

狙撃によって一瞬の隙ができ、それを見逃さずシャルロットは急いで後退する。交代するように前進したのは一夏の仇敵である相手だった。

 

「赤野・・・!」

 

「・・・オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

二人の間に言葉は無かった、お互いに道が違ったが同じ異性を愛した男として譲れないものがあるからだ。

 

だが、その想いが叶わなくなっていることにもう一人の男は知らない。

 

「行くぞおお!!」

 

「来いっ!」

 

破滅の雪と自由を示す剣が再び火花を散らしぶつかりあった。

 

 

 

 

「はああ!」

 

「だああ!!」

 

すぐ先では紅椿と爪龍が刃を交えていた。拮抗しているように見えるが体術では鈴が一歩先を行っていた。

 

「こんな、何故こんな体術をお前が!」

 

「アンタだけじゃない!私だって自分を鍛えてるのよ!」

 

刃をぶつけ合っていたが性能の差で鈴が青竜刀を手放してしまう。

 

「もらったぞ!」

 

その隙を狙った箒は刺突を繰り出すが、鈴は最低限の動きで回避した。

 

「っ痛!」

 

それでも刀が当たってしまい、鈴は僅かに怯んでしまう。それすらも箒は見逃さず追撃してくる。

 

「落ちろおおお!!」

 

「やられる、とでも言うと思ったの!?自分が有利になった途端に油断するのがアンタの悪い癖よ!」

 

「何!?」

 

「ブラキウム・レイド!!」

 

オルゴナイトの結晶を拳に纏い、振り下ろされた刀を鈴はオルゴナイトの結晶を纏った拳で受け止めた。

 

「な!」

 

「不利になれば隙を作るのも相変わらずね!」

 

鈴はオルゴナイトの結晶を纏った拳でジャブを箒へ放つ、その連打はまだ軽い。

 

「この連打に耐えてみなさい!!」

 

「ぐあ!がぁあ!」

 

鈴の拳の速度は上がっていくがその正確さは失っておらず、箒を捉え続け逃がさない。

 

「まだ終わらないわよ!ハイハイハイハイハイィー!」

 

「ISで蹴り技!?うあああああ!!」

 

拳の連打から蹴り技へと繋げ、更に箒に攻撃を浴びせ続ける。

 

「吹き飛べぇ!」

 

「があああ!」

 

鈴の廻し蹴りによって箒は一夏達が戦っている空域へと蹴り飛ばされてしまった。

 

「あ、いっけない。やっちゃったわ!ああ、もう!すぐ熱くなるのが私の悪い癖ね。雄輔行くわよ!」

 

「一人で盛り上がりすぎだろう、全く」

 

鈴と雄輔は一夏達が戦っている空域へとスラスターを全開にし、向かった。

 

 

 

「くうっ!」

 

「どうしたんだよ!?赤野、やられっぱなしじゃねえか!」

 

一夏は政征を追い詰めていた。戦闘の経験や純粋な強さではなく、機体の安定性が原因だった。

 

一夏の白式は二次移行していない分、自分の感覚で機体を扱うことが出来る。

 

一方、政征のラフトクランズ・リベラは二次移行を果たしてしまった為に扱いが難しくなっている。

 

不安定な機体と安定性がある機体とでは戦闘においても大きな差となる。

 

「お前を倒してシャナ=ミアさんの騎士になるのは俺だァァァ!!」

 

「くそおお!」

 

「終わりだ!赤野ォ!うわっ!」

 

一夏が零落白夜を発動させ、政征に斬りかかろうとした瞬間に何かが一夏にぶつかった

 

「ぐ・・すまない、一夏!」

 

「箒!?機体が!」

 

「撤退するぞ!このままじゃ不味いからな!」

 

箒の状態を危ういと見た一夏は箒を支え、撤退し始めた。

 

「逃がさんぞ!貴様達はシャナ=ミア姉様を!!」

 

「ラウラ!?」

 

追撃しようとしているのはラウラだ。肩の部分にあたる部分とユニットが連結し開く。

 

荷電粒子が収束し、チャージを完了させ狙いをつけた。

 

「うおおおおおお!ボルテッカァァァー!」

 

ラウラが放った荷電粒子砲(ボルテッカ)は撤退していく二人を捉えかけていたが。

 

「なっ!?危ねぇ!!」

 

ギリギリのところで回避されてしまい、二人はそのまま撤退していった。

 

「く・・はぁ・・はぁ・・・何だ、この荷電粒子砲は?一発撃っただけで、ものすごいエネルギーを持っていかれた上に疲労が」

 

「ラウラ、大丈夫か?(あれが荷電粒子砲だと?どう見ても)」

 

「はぁ・・はぁ、だ・・大丈夫です」

 

「ラウラ、物凄く疲労してるよ?」

 

「ええ、早く戻りませんと」

 

「報告もしないといけないからな」

 

「そうね、急ぎましょ」

 

学園へと戻ると教師三人が待っていた。特に千冬とフー=ルーは怒り心頭であり、戻った途端に全員が拳骨をくらった。

 

「それで?お前達は何をしていた?」

 

「織斑一夏、篠ノ之箒の二名、それとシャナ=ミア・フューラとの戦闘を」

 

「なんだと!?」

 

雄輔が代表して起こった事を全て話した途端に千冬の表情が変わっていた。

 

「一夏が来ていたというのか?此処に」

 

「ええ、もう撤退していきましたが」

 

「そうか、だが反省文は書いてもらうぞ」

 

千冬が話を終えると同時にフー=ルーが口を開いた。

 

「それからシャナ=ミアさんの事ですが、彼らと一緒にいたと?」

 

「間違いありません」

 

「そうですか、では後ほどお話を聞きますわ」

 

二人からの尋問が終わった後、山田先生が戦っていた全員に向けて話を始めた。

 

「それとですね。学園長から皆さんは残り一ヶ月の夏休みの間、アシュアリー・クロイツェル社に行って欲しいそうです」

 

「アシュアリー・クロイツェル社に!?」

 

「私達が!?」

 

シャルロットと鈴が驚いたように声を上げる。いきなり大企業に行けと言われたのだから当然の反応だろう。

 

「はい、社員の皆様も歓迎しているそうです」

 

「分かりましたわ、それで出立は?」

 

「明後日です」

 

「明後日、また急だな」

 

「仕方ないですよ、準備もありますから」

 

「それでは解散だ!」

 

千冬の言葉に全員が反省文の提出とアシュアリー・クロイツェル社へ向かうための準備の為に解散しようとした。

 

「赤野君、少しお時間をもらえませんこと?」

 

「え?はい」

 

フー=ルーに呼び止められ、その場に政征だけが残った。

 

「マサ=ユキ・フォルティトゥードー、シャナ=ミア様がカロ=ランのもとにいるのは本当でして?」

 

「はい、意識を消され手駒になっています」

 

「そう、皇女を守る自由の騎士よ。皇女を取り戻しなさい」

 

「無論です」

 

「では、行きなさい」

 

「はっ」

 

政征も他のメンバーと同じように準備するため教師達がいる場所から去っていった。

 

 

 

その後、アシュアリー・クロイツェル社へ向かう日となり迎えの車の中でメンバー全員が乗り込んでいた。

 

到着と同時に挨拶を済ませ、荷物を置くと同時に訓練所へ案内された。

 

そこには鈴を鍛えた五人の格闘家と、男性三人と女性一人の四人のチームが待っていた。

 

「俺達がこいつらを鍛えろってのか!?」

 

「つべこべ言うんじゃないよ!!」

 

「へえ?みんな女の子は可愛い子ばっかりじゃん」

 

「お前もほどほどにしておけ」

 

四人の方々は二人を除いてすごく柄が悪い、それでも歴戦の戦士達だという事だけは雰囲気からわかる。

 

「すまないね、うちのリーダーはすぐ頭に血が上るからさ」

 

「いえ、大丈夫です」

 

政征達に話しかけてきたのはメッシュを入れた赤い髪と吊りあがった大きな目が特徴でかなりの美人な女性だ。

 

リーダーらしき男性と話している所を見ていたが、かなりの男勝りで勝気な性格なようだ。

 

政征と雄輔に興味を示したらしく、二人を交互に見ている。

 

「へえ、この坊や達とそこの縦ロールの子は『野生』の素質があるようだね?」

 

「本当かよ!?」

 

「ああ、今よりも鍛えれば強くなるよ」

 

どうやら何かの素質に気づいたようだが政征達には何なのかわからなかった。

 

「俺達、九人がこの一ヶ月でお前達を鍛えてやる。必死についてこい!」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

全員が返事をした後、四人のチームリーダーらしき男性が開始と言わんばかりに叫んだ。

 

「やぁぁってやるぜ!!!!」




すみません、覚醒は後半戦になります。

最後のセリフで追加の特訓メンバーが分かったかと思います。

そしてラウラがぶっぱなしました。

これは私がどうしても抜かしたくなかった事なので。

次回

政征がシャナ=ミアを取り戻すために大胆な行動を

以上


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大切なモノを取り戻すと嬉しいよね

それぞれの特訓開始

特訓途中で戦い発生

各々が単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を習得し発動

政征、改めて自分から告白(世界三大恥ずかしい告白レベル)

以上


アシュアリー・クロイツェル社にて特訓が開始され、それぞれ別れた。

 

女性陣は五人の格闘家達に、男性二人が四人のチームの下で特訓を始めた。

 

「久しぶりだな?鈴」

 

「はい、お久しぶりです」

 

「鈴さん、この方々と知り合いですの?」

 

「ええ、私に格闘の特訓をしてくれた人達だから」

 

「そうだったんだ」

 

「この方々はかなり強いな」

 

「言っとくけど、学園でやってたよりもかなりハードだから覚悟したほうがいいわよ?」

 

鈴の言葉に全員が目を見開くがそれでも強くなりたい一心で着いていく覚悟を固めた。

 

「あらかじめ言っておく、俺達は女といえど容赦はしないぞ」

 

ハチマキをした日本人の格闘家の言葉を合図に特訓が開始された。柔軟体操に二時間近くかけてから基礎訓練が始まった。

 

「はぁ・・はぁ・・・!!こ、こんなにハード、です・・・の!?」

 

「はぁっ・・はぁ、これ・・キツいって、レベルじゃ、ないよね!?」

 

「ぜい・・・ぜい、これは、軍隊訓練や教官、以上・・だな」

 

「みんな何言ってんのよ?この程度はまだ序盤よ?私はこの特訓を三週間だけとはいえ耐えたわよ」

 

鈴以外の三人は開始三十分で体力を使い果たしかけていた。だが、この特訓に着いてこれているだけでも賞賛されるべきだろう。

 

「道理で、タフなはずだよ・・」

 

「この特訓に・・・耐えられたなんて」

 

「だが、これを乗り越えれば強くなれる確信がある」

 

三人の中で回復が早かったのはラウラだった、軍隊訓練を乗り越えてきた成果だろう。

 

「さぁ、強くなりたいなら休んでる暇なんてないわよ?(私もあの境地に至りたいから)」

 

「負けませんわ、絶対に!」

 

「僕だって、義姉さんを越えるんだ!」

 

「私も姉様を助けるために強くなる!」

 

全員が気力を出し、特訓を再開した。それを見ていた五人の格闘家は見守るように眺めていた。

 

「チャイナガールは怠っていなかったみたいだな?でも、他のガールズは鍛えなきゃダメか」

 

「仕方ないよ、見てると鈴以外の三人は最初の頃の鈴と同じだもん」

 

「みたいですね、ですが今回は時間がありますから」

 

「ああ、かなり鍛え込む事が出来る」

 

「(鈴は明鏡止水に自力では至れていないようだな、今回でモノに出来ればいいが)」

 

五人の格闘家はそれぞれ四人をどうやって鍛え込むかを考え、特訓を見守った。

 

 

 

 

 

政征と雄輔の二人は特殊隊の四人にISを展開するよう指示を受け、後に軽い模擬戦をするようにも指示を受けた。

 

模擬戦の後、ISを待機状態にすると同時に赤髪の女性に思いっきり頭を殴られた。

 

「「痛ったぁ!?」」

 

「なにやってんだい!お前達は!?」

 

女性はかなりの剣幕で怒っている、どうやら機体の扱いに関してのようでまた拳を握る。

 

「お前達、自分のISをなんだと思ってるんだ!使いこなそうとして強引に動かしてるじゃないか!!」

 

「俺達が・・」

 

「強引に?」

 

「ああ、機体ってのは操縦者と共にあるんだ。今のアンタ達は無理やり機体を自分に従わせようとしてんだよ」

 

女性の言葉に衝撃を受けた。自分達がやっていた特訓が機体との親和ではなかった事実に。

 

「これからみっちりと鍛えてやるよ」

 

「俺達全員でな」

 

更に二人の男性が加わり、四人が政征と雄輔に視線を向ける。その目は優しさと同時に野性的な力強さも持っている。

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

 

 

IS学園のメンバーが修行を始めてから三週間が経ち、ある施設ではカロ=ランが兵を呼び集めていた。

 

その兵はIS委員会から送られてきた女尊男卑を旨とするメンバー達だ。彼女達は女性だけの社会というスローガンを掲げている。

 

「わざわざ御足労いただき感謝しますぞ」

 

「いえ、貴女のような方が我々に賛同してくれたのはありがたい」

 

部隊の隊長とカロ=ランは握手を交わし、これからの作戦を話し合う。

 

「では、織斑一夏以外の男性操縦者を抹殺すると?」

 

「それが一番の宣伝になりましょう」

 

隊長の目的を聞いたカロ=ランは利用できると考え、その提案に乗る事にした。

 

「では、三日後に再び出撃させましょう。よければシャナ=ミア嬢を使っていただきたい」

 

「何故です?」

 

「男性操縦者の一人にぶつければ確実に始末できますゆえ」

 

「分かりました、他の二人も?」

 

「ええ」

 

出撃に備えてISの整備をするよう呼びかけ、備えるように放送した。

 

 

 

 

「やあああああ!」

 

「てやあああああ!」

 

その頃。鈴と日本人の格闘家は拳の応酬をしており、拮抗している。

 

「す・・すごい!」

 

「わたくし達はようやく、慣れてきたところですのに」

 

「あそこまで食らいつくとは・・」

 

休憩をとっている三人は鈴の食らいつきに舌を巻いていた。鈴がどんな相手にも食らいついていく姿勢を忘れなかった理由がはっきりしたからだ。

 

「あれがチャイナガールの良さなのさ。どんな相手でも食らいついて行く強さがある」

 

「お前達はまだ基盤が出来たに過ぎん、その上に自分だけの強さを重ねていけ」

 

ボクサーの格闘家が話しかけた後、パワーファイターの格闘家が三人に話しかけ、精神的フォローをした。

 

どんなに強がっていても十代の少女達だ、追い抜かれる事は彼女達にとって暴走の要因となってしまう。

 

この格闘家は仲間を大切に思い、守りぬくという信念を持っている、その為に精神的フォローが上手い。

 

「さぁ、ガールズ達。休憩は終わりだ」

 

「次はオイラが稽古をつける番だ!油断してると怪我するぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

三人は休憩を終えて、少林寺拳法を使う格闘家の稽古を受け始めた。

 

 

 

 

「たああああ!」

 

「甘い!」

 

鈴の一瞬の隙を見抜き、日本人の格闘家は鈴の腹部に拳を打ち込み。その瞬間、鈴は怯み膝を着いた。

 

「ぐっ!」

 

「ここまでだ、熱くなりすぎているぞ?鈴」

 

「あ・・・」

 

「明鏡止水に今のお前では至れないぞ」

 

「どうしてですか!?」

 

「お前は何をそんなに熱くなっているんだ?」

 

「そ、それは」

 

鈴は熱くなってしまう原因が自分で分かっていない。

 

彼女が熱くなる原因、それはどうしても倒したい相手がいるからだ。

 

その相手とはラフトクランズを駆る二人の騎士だった。彼女にとって超えたい壁が彼らだ、倒せそうで倒せないというのは彼女にとって最も辛いのだ。

 

「鈴、一度だけ俺の明鏡止水を見せてやる」

 

「え?」

 

「・・・・」

 

ハチマキを締めた日本人の格闘家は智拳印(ちけんいん)を結び、精神を集中させる。

 

智拳印(ちけんいん)とは仏教における金剛界の大日如来が結ぶ印で一切の煩悩、無明を滅し仏の智恵を意味するものだ。

 

己を鍛え続けている鈴には彼の状態が分かった、怒りも憎しみも悲しみも彼からは感じない。

 

あるのは純粋な戦う相手への敬意だけ、穏やかで澄んだ心の境地を見せられた鈴はその姿を瞬きもせず見ていた。

 

「お前に足りない物が掴めたか?」

 

「まだ、分かりませんけどきっかけは掴めた気がします」

 

「そうか」

 

普段の状態に戻った日本人の格闘家は今日の修行を切り上げる事を鈴に伝え、出て行った。

 

「そっか、倒したいと思ってるだけじゃダメなんだ。相手への敬意が足りてないんだ・・・私」

 

鈴は先程、日本人の格闘家が結んでいた智拳印(ちけんいん)を結び、目を閉じて自分が倒したいと思っている相手への敬意を抱いた。

 

「(あれ?この感じ・・・あの時と一緒?川の流れ、静かな流れ・・見えた!水の一滴!)」

 

その瞬間、待機状態となっている爪龍が僅かに輝いた。

 

「明日、試してみよう」

 

鈴は吹っ切れた様子で訓練室から去った。

 

 

 

 

鈴が去った二時間後。シャルロットは特訓の途中でカルヴィナに呼び出されISを纏って来るよう言われたのだ。

 

「来たわね?」

 

「カ、カルヴィナ義姉さん!?どうしてISを纏ってるの!」

 

今のカルヴィナはベルゼルートのようなISを纏って立っており、その目には闘志が宿っている。

 

「ああ、これ?束に頼んだのよ。ISでベルゼルートを再現してくれって」

 

「篠ノ之博士に?」

 

「そうよ、シャル。アンタに私の呼び名を継承出来る実力があるかテストしたくなってね」

 

「カルヴィナ義姉さんの呼び名?もしかして!?」

 

「ホワイト・リンクス、それが私が呼ばれている呼び名よ。今でも現役だけどね」

 

「全戦全勝の白い山猫・・・」

 

シャルロットは身体が震えていた。自分に射撃の技術を鍛えてくれたのはこの人だ、その人が自分を越えてみせろと言ってきている。

 

「義姉さん・・・いや、カルヴィナ・クーランジュ!僕は貴女を越えてみせる!」

 

ベルゼルート・リヴァイヴの拡張領域からオルゴンライフルNとBを両手に構える。

 

「私を越える・・か。やれるもんならやってみなさい!」

 

「行くよ!義姉さん!!」

 

「来なさい!」

 

シャルロットとカルヴィナ、二人の銃口が火を噴きそれが開戦の合図となった。

 

「オルゴンライフルB、N!ダブルシュート!!」

 

実体と非実体の弾幕を展開しカルヴィナに迫っていく。しかし、カルヴィナはそれを知り尽くしているかのように回避してしまう。

 

「確かに成長してるけど、動きのクセまでは直せない!ショートランチャー!」

 

小銃のような武装を両手に持ち、正確な射撃を繰り出しシャルロットを狙い撃ってくる。

 

「嘘!?義姉さんが二丁射撃を!?うわああ!」

 

「確かに私はシングルの方が得意よ?でも、二丁射撃が出来ないとは言ってないわ」

 

カルヴィナの予期せぬ射撃に当たってしまうがシャルロットはすぐに持ち直し、銃を構えなおす。

 

「山猫の目は逃げ水に惑わされない・・か」

 

「そういう事、諦める?」

 

「ふふ、冗談キツいよ。こんなにも越えたい人が身近に居たんだ。ますます越えたい!」

 

シャルロットは笑みを浮かべていた、越えるべき目標を見つけた事による高揚からくるものだった。

 

「なら、来なさい!」

 

「もちろん!」

 

再び弾幕を展開し、カルヴィナへ撃ち込んでいく。回避されてしまうがそれがシャルロットの狙いだった。

 

「そこだ!」

 

「何!?グレネードか!うあっ!」

 

弾幕をわざと囮にし、グレネードを投げていた地点におびき寄せダメージをあたえたのだ。

 

「ふふ、やるじゃない」

 

カルヴィナがショートランチャーを収め、オルゴンライフルを手にする。それはカルヴィナが本気になった事を示していた。

 

「シングルのオルゴンライフル・・・僕が一度も勝てなかった本気の義姉さん」

 

「シャル、行くわよ?」

 

カルヴィナの目は姉としてではなく、好敵手に見せる目をしている。それだけ本気にさせてしまったという事でもある。

 

「オルゴンライフルB、そこだ!」

 

オルゴンのエネルギーで狙い撃ちし、ベルゼルートが接近してくる。

 

「まずい!接近戦の切り替えが」

 

ビーム状のエネルギーを回避しつつ、シャルロットは接近戦用の銃器を取り出す。

 

「遅い!ブレード!」

 

オルゴンライフルのエネルギーを瞬間的に出力し、それを刃のように扱い斬りかかった。

 

「ううっ!?しまった!避けたらバランスが!」

 

「まだまだぁ!」

 

横薙ぎを避けられたがすぐさま縦の唐竹割りに切り替え、斬りかかる。

 

「そんな!わああああ!!」

 

カルヴィナがライフルのエネルギーを利用した剣撃戦闘をしてくるのが予想外だったのだ。それによってシャルロットは直撃を受け、SEを削られてしまう。

 

「ビームにはこんな使い方もあるのよ、撃つだけが全てじゃないわ」

 

「負けない、義姉さんを越えるって決めたんだ!負けてたまるもんか!」

 

「その不屈、嫌いじゃないわよ」

 

シャルロットは立ち上がり、その目の闘志は微塵も薄れていない。

 

「行くよ!」

 

実弾のライフルに切り替え、カルヴィナの周りを撃っていく。

 

「この程度じゃ牽制にもならないわよ!」

 

「百も承知だよ!僕の狙いは牽制じゃない!」

 

シャルロットは拡張領域からグレネードをばら撒いた。

 

「それだ!」」

 

「グレネード?同じ手は!な!?くあああ!」

 

シャルロットの狙いはグレネードに自分の銃弾を撃ち込み、爆発させることだった。

 

「今だ!義姉さん、これが僕の全力全開だァァァァ!!」

 

シャルロットはゼロ距離で両手のライフルを全て撃ち込んだ。

 

「うあああああ!!」

 

ベルゼルートとベルゼルート・リヴァイヴは損傷し、二人は動けなくなっていた。

 

「ふふ・・ゼロ距離の全開射撃なんて、初めて貰ったわよ」

 

「結局越えられなかったかな、僕」

 

「そうね、お互い戦闘不能で引き分け。と言いたいけど私の負けよ」

 

「え?」

 

「よく見なさい、お互いにSEがギリギリだけど僅かに私が下回ってるの。些細な事だけど負けは負けよ」

 

「え、じゃあ・・」

 

「二代目ホワイト・リンクスの名、貴女に譲るわ」

 

カルヴィナからの言葉にシャルロットは驚きを隠せなかった。ホワイト・リンクスの名を自分が継承したという事が信じられなかったからだ。

 

「カ、カルヴィナ義姉さん!」

 

「すぐ泣くんじゃないの!頑張りなさい、私の後継者」

 

カルヴィナがアル=ヴァンにしか見せなかった笑顔をシャルロットに向けている。

 

「(カルヴィナ義姉さんの笑顔ってこんなに綺麗だったんだ)」

 

その綺麗な笑顔を写真に撮れなかった事を残念に思いながら、シャルロットはホワイト・リンクスの名を守ると誓っていた。

 

誓いを受け止めたベルゼルート・リヴァイヴはその名を冠した能力を得ようとしていたが、シャルロットがそれに気づくことはなかった。

 

 

 

 

カルヴィナとシャルロットが戦っている間、セシリアは赤髪の女性から指導を受けていた。

 

「アンタも焦ってるね、機体を自分の思い通りにしようと考えてるよ」

 

「やはり、自分でもわかってはいるのですが」

 

「そうだね。アンタは一回、死ぬ寸前まで追い込まなれないとダメだね」

 

「え?」

 

「ISを展開しな。アタシも借りてくるよ」

 

赤髪の女性は訓練用のISを借用し、セシリアもブルー・ティアーズを展開した。

 

「これから攻撃を開始するけど、アンタは回避だけしな」

 

「そんなっ!?」

 

「ほらほら、行くよ!」

 

赤髪の女性が借りてきたISには大量のマシンガンやフルオートのライフルや弾薬がそばに置いてある。

 

本気でセシリアを死ぬ寸前にまで追い込もうとしているのだ。

 

「戦場で合図なんてないよ?ほらほらぁ!本気で避けないと

!!」

 

「きゃあ!」

 

セシリアは弾幕を回避し始めるが、正確な射撃に少しずつ当たり始めてしまう。

 

「あうううう!」

 

「甘ったれてんじゃないよ!」

 

回避し続けているがSEが削られていき、後一撃で機能停止するという状態まで追い込まれてしまう。

 

「うう・・ああああああ!!」

 

「絶対防御?そんなもんエネルギーが切れちまえば意味がないんだよ!!」

 

赤髪の女性は情け容赦なく銃撃を続ける。セシリアは機体とISスーツの防弾仕様によって守られてはいるが動けないのは明白だ。

 

「く・・・あ(嫌・・嫌です、死にたくない、負けたくない、追いつきたい!)」

 

「このままだと本気で死ぬよ!」

 

「いゃ・・で・・す・・わ!」

 

セシリアは本当に死ぬ事を自覚し、それと同時に心の底から死にたくないと願った。

 

「わたくしは・・・わたくしは死にたくない!!」

 

追い込まれたセシリアは自分の中に眠っていた『野生』とチャクラを自覚しブルー・ティアーズと共に動けないハズの状態で回避した。

 

「うう・・い、今のは?」

 

「目覚めたね?アンタの中の『野生』もう一つは・・どっかで見たことあるけど忘れちまったね」

 

「わたくしの『野生』・・・」

 

「優雅に戦おうと考えず、たまにはがむしゃらに戦ってみなよ。戦いで優雅さなんて捨てちまったほうがいい」

 

「・・・はい!」

 

野生とチャクラ、二つの力の影響を受けブルー・ティアーズの中のコアが僅かに輝いた。それはセシリアが今まで自分で付けていた枷を解き放ったということだ。

 

「(優雅さを捨てて戦う、この特訓の間にやってみせますわ)」

 

 

 

 

 

セシリアが野生を自覚した後、別の場所で政征と雄輔も己の『野生』を引き出し、模擬戦を行っていた。

 

「うおおおお!」

 

「でやああああ!!」

 

互いに得意とするのはオルゴンソード、鍔競り合いをしておりお互いに一歩も引かない。

 

「二人共、見違える程に動きが良くなってきているな」

 

「ああ、最初の時が嘘みたいだぜ」

 

「すごいったらありゃあしないって」

 

模擬戦を見ている三人の男性は二人が成長しているのを感じていた。機体制御を赤髪の女性から指導され、格闘と射撃をこの三人から鍛えられた。

 

「た、大変です!」

 

飛び込んできたのはラウラだった、ここまで急いで走ってきたのだろう息が弾んでいる。

 

「模擬戦中止!どうした!?」

 

「IS委員会の奴らが政征兄様と雄輔師匠を引き渡せと上空から要求してきています!」

 

「なんだと!?」

 

「そいつは本当か!?」

 

「マジでやばいな、それ」

 

ラウラの言葉に三人は苛立ちを隠せない様子だ。更に要求に関してラウラは付け加えた。

 

「更には私達四人と政征兄様、雄輔師匠だけで出て来いと」

 

「そうか・・恐らくはカロ=ランが仕向けたか。シャナを取り返すチャンスだ」

 

「更には俺達の機体の接収と実験体にする気か」

 

「政征兄様」

 

「ラウラ、行くぞ?シャナを取り戻すためにね」

 

「!はい!!」

 

「親友の恋人を取り戻す手伝いっていうのも悪くないか」

 

三人はセシリア、鈴、シャルロットとも合流し外へ出た。外には量産型のISを纏った数十人の女性と一夏、箒、シャナの姿があった。

 

その中で隊長機らしきISを纏った女性が言葉を発した。

 

「出てきたか、要求通り赤野政征と青葉雄輔の二人を引き渡してもらおう」

 

「断るわ!」

 

「何?」

 

鈴の言葉に上空にいる女性全員が驚いた。女性が男性を庇うなど彼女達にとってありえない事だからだ。

 

「貴女達の要求に応える義務はありませんわ!」

 

「君達は女性でありながら男の味方をするというのか!?ISという女性の象徴を纏いながら!」

 

「関係ないよ、僕達はこの二人と特訓を通じて女性も男性も関係ないというのを学んだからね」

 

「シャルロットの言う通り、兄様達がISを動かせたという事はISも先へ行く事を望んでいるのだ!」

 

「ふざけた事を!ISは我らの象徴だ!男など抹消すべきだ!」

 

女性達が宣言したと同時にIS学園のメンバー達もISを展開する。

 

「来なさい!ブルー・ティアーズ!」

 

「来て!爪龍!」

 

「リヴァイヴ!力を貸して!」

 

「レーゲン!テックセッター!」

 

一人だけ何かが違うような気がするが政征と雄輔はあえてツッコまなかった。

 

「目覚めろ!モエニア!」

 

「行くぞ!リベラ!」

 

全身装甲が三人、通常のISが三人というそれぞれの展開を目の当たりにし量産型を纏っている女性達は驚きを隠せない。

 

「(リベラ、今回は顔は覆わないでくれ)」

 

『了解した』

 

ラフトクランズ・リベラだけは全身装甲の顔部分だけを展開したままになっている。

 

「総員!戦闘開始だ!!」

 

隊長機の宣言と同時に戦闘が開始された。

 

「政征さん、私達が敵を惹きつけます!早くシャナ=ミアさんの所へ!」

 

「セシリア!?」

 

「アンタはシャナ=ミアの騎士でしょ!?囚われのお姫様を助け出すのが騎士の役目じゃないの!」

 

「鈴!」

 

二人の言葉に政征は頷き、シャナのもとへと向かうが他の女性達に阻まれてしまう。

 

「今度は僕の番だね、早く!シャナ=ミアさんの所に!」

 

「シャルロット・・・!」

 

「ふふ、二代目ホワイト・リンクスを信じてよ、ね?」

 

「っ・・ああ!」

 

政征はシャルロットに場を任せ、雄輔、ラウラと共にシャナのもとへと向かっていく。

 

「来たな、赤野!」

 

「織斑一夏・・・!」

 

「シャナ=ミアさんの所へは行かせねえぞ?うおおおお!」

 

一夏が雪片弐型を手に政征へと突撃するが、その刃を黒い雨の仮面を着けた少女が両刃の槍で止めた。

 

「政征兄様!ここは私が引き受けます!早くシャナ=ミア姉様を!」

 

「この全身装甲の操縦者、ラウラか!?」

 

一夏の刃を止めながらラウラは政征に話しかけていた。兄の道を自分が作り、姉のもとへ向かわせるために。

 

「ラウラ・・」

 

「私ではシャナ=ミア姉様を助けられません!助けられるのは政征兄様だけなのですから!」

 

「わかった!」

 

「な、待ちやがれ!」

 

「行かせるか!」

 

「く、ラウラ!!」

 

政征は一夏の相手をラウラに任せシャナのもとへと急いだ。ラウラは両刃の槍をバトンのように回し構えると一夏へ突撃していく。

 

 

 

 

 

「俺は篠ノ之箒を惹きつける。シャナさんを絶対に助け出せ!」

 

「!わかった!」

 

モエニアを纏った雄輔は途中で方向転換し、箒へと向かっていく。政征が向かった先にその相手がいた。

 

「シャナ・・」

 

「ラフトクランズ・リベラ。今度こそ!うう・・」

 

シャナは頭を押さえながらテンペスト・ランサーを展開する。政征もソードライフルをソードモードに切り替え、構える。

 

「必ず助ける、待っていてくれ!オルゴン・マテリアライゼーション!!」

 

「喋らないでええええ!!」

 

シャナの突撃と同時に政征も突撃し、戦闘が始まった。

 

 

 

 

政征とシャナが戦いを始めている最中、セシリアは戦い続けていた。

 

「狙撃だけに拘っていたわたくしが愚かでしたわ!華麗さなどもう必要ありませんわ!」

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『野生化のチャクラ』習得・発動]

 

「はあああああ!!」

 

「な、なんだあれは!?」

 

セシリアはビットを展開し、ライフル射撃と同時に攻撃していく。かつて優雅さを魅せていたセシリアの戦い方ではなかった。

 

「やあああああ!!」

 

「わああああ!」

 

セシリアはそれでも殺しだけはしていなかった、ISだけを戦闘不能にしパイロットだけは無傷だった。

 

「わたくしは殺しがしたくて強くなろうとした訳ではありません!さぁ、来なさい!」

 

セシリアの恫喝はIS委員会の女性操縦者達を怯ませている。今の彼女に優雅さは無い、人間が失ってしまった野生の力を振るう一匹の獣となっていた。

 

 

 

 

「たぁ!」

 

「ぐあ!」

 

鈴は格闘でISを戦闘不能にしていたが自分の中に出てくる熱さを抑えていた。

 

「(ダメ、どうしても倒したくなってくる)」

 

「もらったぞ!!」

 

「え?きゃあああ!」

 

鈴はライフルで撃たれ、SEを削りながらも体制を立て直した。だが、その目には自分を撃った相手への怒りが宿っている。

 

「よくも!やったわね!だああああ!」

 

「ふん、すぐ熱くなるのが癖のようだな!」

 

「はっ!?」

 

攻撃を回避しながら自分の癖を指摘され、改めて鈴は自覚させられると同時に深呼吸した。

 

「ふうううう・・・はぁぁぁぁ・・・!」

 

精神を落ち着かせた鈴は智拳印(ちけんいん)を結び、目を閉じる。

 

「(思い出すのよ、あの一瞬を・・・。水の流れ、見えた!水の一滴!!)」

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『明鏡止水』 習得・発動]

 

爪龍が輝き、鈴の表情からは怒りが消え穏やかになる。

 

「だああああ!ブラキウム・レイドォ!」

 

「なんですって!?きゃああ!」

 

オルゴナイトの結晶を纏った拳で自分のクセを見抜いていた相手を殴り飛ばした後に、次々と相手を倒していく。

 

「来なさい、みんな倒してあげるわ!」

 

 

 

 

「山猫からは逃げられないよ!」

 

シャルロットは一対多数でありながら、相手を追い詰めていた。高機動を利用した二丁射撃、長距離の実弾狙撃。

 

あらゆる射撃を使いこなし、次々と戦闘不能にしていく。

 

「山猫だと?この動き、どこかで・・まさか!」

 

一人の女性がその姿に誰かと重ねていた。それはかつて一度だけ軍に席を置いた時に見た事があった。

 

獲物を狙う山猫のごとく、相手を仕留め、戦いにおいて全戦全勝を打ち立てた女性がいた。

 

「ホ、ホワイト・リンクス・・・カルヴィナ・クーランジュ!」

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『ハンター・ホワイト・リンクス』 習得・発動]

 

「これが僕の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)・・・行くよ!」

 

発動した能力によってロックオンプログラムが向上し、エネルギー消費が最小限になっている。

 

「二代目ホワイト・リンクス!シャルロット・デュノア!ここから先は行かせないよ!」

 

その姿はカルヴィナ本人がシャルロットと重なって見え、女性達に戦慄を覚えさせていた。

 

 

 

「うおおおお!」

 

「はぁああ!」

 

一夏とラウラの戦いは一夏が僅かに押されていた。彼が押されている要因は男は女よりも弱いという認識だった。

 

更には姉の剣を受け継ぎ、カロ=ランの下で訓練したことで自分が強くなったと確信を持っていた。

 

「くうう!」

 

「おらぁ!!」

 

一夏の一撃を受けてしまい、ラウラは体制を崩してしまう。

 

「でやああああ!!」

 

「うわああああああああ!!」

 

追撃を受けたラウラは落下してしまうがすぐに持ち直し、間合いを開く。

 

「貴様は・・貴様はシャナ=ミア姉様のなんなのだ!」

 

「シャナ=ミアさんは俺が守る人だ!誰にも傷つけさせはしない!」

 

「けるな・・・!」

 

「なんだよ!?ラウラ」

 

「ふざけるな!それはお前の理想を押し付けているだけではないか!」

 

ラウラは怒りを覚えると同時に、過去の自分と一夏が重なって見えていた。

 

かつて自分自身、織斑千冬に憧れ、千冬の強さを自分の理想として押し付け、強さ以外の千冬の感情を認めなかった。

 

それと同じように一夏はシャナ=ミアに対し、弱さ以外の感情を認めようとせず自分の理想を押し付けている。

 

「今のお前はかつての私だ!姉様を理想の弱者とし、自分が守る事に酔っているに過ぎん!」

 

「それの何が悪いってんだよ!女の子を守るのは当然のことだろ!」

 

その言葉がラウラの中にあった一本の糸を切ってしまった。

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『マスカレード』発動]

 

「ぬうあああああああああ!」

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の発動と同時にシュヴァルツェア・レーゲンという仮面を着けたラウラの姿が更に変わっていく。

 

それは記憶や肉体を代償に戦い抜いた二人の仮面の戦士が行った進化(ブラスター化)と似ている。

 

「な、なんだよあれ!?三次移行なのか!?」

 

「ぬおおおおおお!うああああ!」

 

赤と緑の輝きがシュヴァルツェア・レーゲンから発生し、背から尻尾のような触覚と翼のような物が現れ変化が終わる。

 

その能力はAICに使うエネルギーをブースターの出力強化に回し、ワイヤーブレードの強化だ。戦闘特化型の状態になったと言っていいだろう。

 

「行くぞ!」

 

「は、早い!?」

 

「言っておくがこれは三次移行ではない!純粋に戦闘に特化した姿だ!」

 

男の筋力に女は勝てない、それならば別の方法で補えばいいという柔軟な発想が今のラウラにはある。

 

「それでも負けねえ!」

 

「私も負けん、この仮面は私の決意の証だからだ!!」

 

二つの刃がぶつかり合い、新たな舞踏会が開演された。

 

 

 

 

「シャナ・・」

 

「たあああ!」

 

政征は戦闘開始から剣を持ったまま回避だけしかしていなかった。恋人だから攻撃できない訳ではなく何かを伺っている。

 

「どうして、どうして反撃しないのです!」

 

「・・・・(まだだ)」

 

「たあああああああ!」

 

「・・今だ!」

 

一瞬の攻防の中で政征はシャナを抱きしめるような形でテンペスト・ランサーを止めていた。

 

「は・・離しなさい!」

 

「シャナ・・今でも身につけてくれてるんだな」

 

「・・はっ!?」

 

政征はプレゼントしたペンダントを見た後に視線をシャナへと戻した。

 

「シャナ、今度は俺から言うよ」

 

シャナを抱きしめたまま、政征は口を開いた。その目には自分の思いを伝えようとする為に。

 

「俺は、俺は君を愛している!」

 

政征からの告白を受け、テンペスト・ランサーがその手から滑り落ちていった。

 

この時、オープンチャンネルで告白してしまったために戦闘している全域で聞こえてしまっていた。

 

「政・・・征?」

 

「シャナ!」

 

「政征!!」

 

シャナの目に光が戻り、全ての記憶が戻った。その目からは涙が流れている。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい政征!私、貴方を傷つけて・・!」

 

「良いんだ、シャナ。おかえり」

 

政征はシャナの涙を受け止めた。ようやく取り戻した大切な人を決してもう離さないと誓いを新たにして。




書いていたら一万字を超えてしまっていた。

全員が覚醒、これもう勝てるメンツいないんじゃ・・・。

シャナ=ミア皇女は世界三大恥ずかしい告白されました。

ラウラの変化は変形みたいなものです、三次移行はしません。


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ホントのキスをお返しにされると恥ずかしいよね

砂糖製造回

戦闘の方がおまけ

以上


「ごめんなさい!本当にごめんなさい!」

 

シャナは政征に抱きついたまま泣いて謝り続けている、そんなシャナを政征は受け止め続けていた。

 

「いいんだ、私はシャナがこうして戻って来てくれただけで嬉しい」

 

「政征・・・」

 

「シャナ・・・」

 

 

戦闘中だというのに記憶を取り戻し、再会した途端イチャつく二人である。

 

 

 

 

全域に届いた政征の告白を聞いた全員が戦闘を止めていた。会話も全て漏れてるためにIS委員会のメンバーは砂糖を吐いたり、ハンカチを噛んで悔しがったりしている。

 

「政征さん、本当に大胆ですわね」

 

「いいなぁ・・シャナ=ミアが羨ましい。私もこんな風に大胆な告白、受けてみたい」

 

「聞いてるこっちがすごい恥ずかしくなるよ!全く!」

 

「政征兄様・・シャナ=ミア姉様を助け出せたんですね」

 

それぞれの戦闘域で感想を述べている。どんなに戦闘に長けていても女学生、恋に憧れるのは当然だ。

 

そんな中、それを認められない人物が一人いた。

 

「認めねぇ・・・認めてたまるか!シャナ=ミアさんがアイツの恋人だなんて!認めるかよおおお!!」

 

一夏が叫んだ瞬間、白式が光の柱に包まれ白式はその姿を変えていく。

 

「何!?」

 

近くにいたラウラはこの現象を知っている、これは二次移行だ。本来、二次移行というのはISとの対話が必要になる。だが一夏には破滅の因子が無意識に埋め込まれているためにISの意志を無視してでの二次移行を成立させてしまった。

 

「赤野・・俺が倒してやる!」

 

「しまった!」

 

二次移行を完了させた一夏は凄まじいスピードで政征とシャナがいる場所へ向かってしまった。

 

近くにいたラウラにとって敵を逃し、行かせてしまった事はこれほど屈辱的なことはないだろう。

 

 

 

別の場所では雄輔が箒と戦いながら政征の告白も聞いていた。

 

「オープンチャンネルで改めて告白か、俺じゃ恥ずかしすぎて出来ないな」

 

「たたたた戦いの最中に!」

 

学園から離脱していようとも箒も十代の女の子だ、あんな告白を聞けば恥ずかしくもなるだろう。

 

「くく・・意外と初心だな?篠ノ之箒、そんなんじゃ想い人に告白できないぞ?」

 

「うううううるさい!」

 

箒は顔を真っ赤にし、雄輔はその様子を見て笑っていてお互い戦いに集中できていない。

 

その二人の隣を横切るISがあった、それは二次移行を果たした白式改め雪羅の姿だ。

 

「織斑!?」

 

「一夏!?待ってくれ!」

 

正気に戻った箒は一夏を追う為にスラスターを全開にし、向かった。

 

 

 

「・・シャナ、下がってくれ」

 

「え?」

 

「赤野ォォォ!!!」

 

政征がシャナを下がらせると同時に一夏がふたりの前に姿を現した。その目には明確な怒りと嫉妬が宿っている。

 

「赤野、俺は認めねえ!絶対に認めねえぞ!!」

 

「そうか、それなら」

 

政征はシールドクローとソードライフルを投げ捨てた。更にはオルゴンガーディアンまでも外してしまう。

 

「どういうつもりだ!?武器を捨てるなんてよ!」

 

「この時だけは騎士の赤野政征を捨てて、いつもの赤野政征になる」

 

「政征!?」

 

「シャナ・・見守っていてくれ」

 

「は、はい」

 

シャナは二人から離れると見る事が出来る場所で待機した。

 

「一夏、男ならコイツでやり合おうぜ・・・!」

 

政征は握った自分の拳を見せて、一夏を促す。それを見た一夏は歯ぎしりをしている。

 

「なんだと?」

 

「武器でやりあうより、余程単純だろ?それとも殴り合いは出来ないのか?世界最強の剣を使わなきゃ戦えないのかよ?」

 

「ふざけんじゃねえー!!」

 

一夏は突撃し、その勢いを利用した右ストレートの拳で政征を殴った。

 

「ぐうっ!?」

 

「なんで、なんでお前がシャナ=ミアさんの!!」

 

「自分の気持ちをちゃんと本人に伝えていない奴が騒ぐんじゃねえ!!」

 

「ぐあっ!」

 

政征の繰り出したアッパーカットを受け、一夏は後ずさる。

 

「どんな結果になろうと、ちゃんと気持ちを伝えればよかったんだよ!」

 

「うるせえ!」

 

お互いに防御の事は考えず、殴り合う。SEが無くなろうと二人には関係ない。

 

「お前が俺の邪魔をするから!」

 

「邪魔だと!?強引に手篭めにしようとする奴が言えたことかよ!」

 

「ぐうっ!」

 

「があっ!」

 

お互いの拳が顔の中心に突き刺さり、血が出始める。それでも二人の殴り合いは止まらない。

 

「はぁ・・はぁ・・」

 

「ぜい・・ぜい・・」

 

一時間以上も殴り合いを続け、お互いに体力は限界だった。それでも気力だけで奮い立たせているに過ぎない。

 

「いい加減、倒れろよ!このクソ騎士が!」

 

「そっちこそ倒れろ、姉の威を借る大馬鹿野郎が!」

 

「うらああああ!」

 

「おらああああ!」

 

二人が繰り出したパンチは同時に互いの顔面を捉え、ふらついた。その様子を見守っていたシャナと全速力で追いついた箒が同時に声をかける。

 

「政征!」

 

「一夏!」

 

二人の少女はそれぞれに想っている相手をその手で支えた。二人は鼻血や唇を切っており、ボロボロだ。

 

「政征、しっかりしてください!政征!」

 

「一夏、目を覚ませ!一夏!」

 

二人の声を気付け替わりに政征と一夏は目を覚まし、互いを睨み合う。

 

「俺は必ず!」

 

「その先は言わせる訳ないだろうが!」

 

身体は動かないが口を動かすことは出来た為、互いに罵り合う。

 

「一夏、引くぞ!」

 

「くっ!」

 

箒は一夏を抱えて全速力で離脱して行った。IS委員会のメンバー達も引き上げていき、戦闘が終わった。

 

その後、アシュアリー・クロイツェル社へシャナを含めた全員で戻り始めた。戻る間、正面ゲートでは五人の格闘家と四人の特殊隊が話していた。

 

日本人の格闘家に対して全員が視線を向けている。

 

「おい、何故俺に視線を向けている?」

 

「だって、な?みんな」

 

「オイラ達は似たような現場見たことあるし!」

 

「ええ、そうですね」

 

「・・・ふっ」

 

「あ、あれは!」

 

日本人の格闘家を他の四人が、からかっているようで慌てていた。

 

特殊隊の四人も何故かニヤニヤ顔で見ている。

 

出撃していた六人がシャナを連れて戻ってきた。政征は顔がボロボロの状態だがそれ以外は問題がない。

 

「ただいま戻りましたわ!」

 

「最後の最後でとんでもないもの見せられちゃったけどね」

 

「本当だよ、みんな無事で良かったけど」

 

「シャナ=ミア姉様が戻ってきてくれたのが私は嬉しい」

 

代表候補生全員が笑顔で振り返ると同時に政征とシャナを見ていた。二人は離れていた時間を取り戻すかのように見つめ合っている。

 

「シャナ」

 

「政征・・」

 

政征は対になるペンダントを取り出し、シャナのペンダントと繋げ合わせた。

 

「あ・・!んっ!?」

 

それに気を取られている間に政征は全員が見てる前でシャナにキスをした。

 

「ま・・ま、政征さん!?」

 

「わぁーお!やるぅ!」

 

「え、あ、ちょっと!みんな見てるのに!?」

 

「流石は政征兄様だな!」

 

 

代表候補生達がそれぞれ驚いていたが、特訓メンバーも驚いていた。

 

「あ、アイツ!」

 

「ヒュー!やるじゃねーか!」

 

「あははっ、アニキ以上にすっげえや!」

 

「本当ですね」

 

「ああ、全くだ」

 

特殊隊の四人も政征の大胆な行動に驚きながら感心していた。

 

「相当、惚れ込んでいるみたいだな。あの子に」

 

「やるねえ、ホントに。俺だって出来ないよ」

 

「何だかアタシはデジャヴるんだけど?」

 

赤髪の女性はこの後に起こる事を予想できている様子で微笑んでいる。キスされたのを全員に見られたシャナは恥ずかしさと政征に対して怒っていた。

 

「はぁ・・//政征、いきなりなにするんですかぁーー!!//」

 

パァン!とシャナは政征の頬を平手打ちした。それほど強いものではなかったらしくその痛みを受け入れた。

 

「うっ!」

 

シャナからの平手打ちを受け入れた後、政征は簡単なピースサインをすると口を開いた。

 

「やったぜ」

 

「それは俺のセリフだ!」

 

特殊隊のリーダーが政征に対して怒鳴ったが、政征は全員にウインクして笑っていた。

 




今回は短いです。

シャナが珍しく怒りましたが仕方ないですよね。

甘くて甘くて・・虫歯になりそうです。


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全盛期の人と会うのは緊張するよね

特訓再開

束さんの天災発動


以上


※注意書き

この回以降はメンバー、一人一人のストーリーとなります。

好きなキャラだけ読むも良し、飛ばすもよし、全員のを読むもよしです。


オープン・チャンネル告白の出来事から一日が経ち、全員が特訓を再開した。

 

「うおおおお!」

 

「でやあああ!」

 

政征と雄輔はフェンシングの世界チャンピオンの指導の下、オルゴンソードでの模擬戦をしていた。

 

「ぐ、ぐううう!」

 

「ぬ、うおおおお!」

 

お互いに競り合いを起こしているが筋力がほぼ同等で拮抗している。更に押し込もうとした瞬間、オルゴンソードの左右に覆われたオルゴナイトの結晶が砕けてしまう。

 

「なっ!?」

 

「オルゴンソードが砕けた!?」

 

「どうやら君達の力が拮抗しているようですね」

 

その言葉に二人は同時にソードライフルを見つめた。自分達の力が拮抗している、それは引く事も無ければ先に進む事も無いという事にほかならない。

 

「拮抗している・・か」

 

「これを解消する手段は・・」

 

二人には解消する方法がある事を知っていたがそれは未知の方法だ。それを使うと何が起こるか分からない。

 

「あれだけか・・・」

 

「ああ、俺達の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)だけだ」

 

二人の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)は習得はしているもの発動には至っていない。

 

オルゴン・レガリア、オルゴン・サンクトゥス。王権と神聖を意味する二人の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)

 

その能力は未だに未知数だ、発動した時に何が起こるかが分からない。

 

「ひとまず今は、今の全力を二分の力に出来るよう特訓を続けましょう」

 

「「はい」」

 

その後、エネルギーが切れるまで何度も模擬戦を続けた。追い抜くためではなくではなく基礎力をつけるために。

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・もう一度、お願い・・・します」

 

「見た感じはお姫様にしか見えないのに頑張るね」

 

記憶が戻ったシャナは全員が特訓していると聞いて自分も参加させて欲しいと願い出て、赤髪の女性にコーチされている。

 

長い水色の髪をポニーテールに纏め上げ、走り込みや筋トレ、護身術などを叩き込まれている。

 

「しかし、あれにはまいったね」

 

「あ、あれは政征が!」

 

「大丈夫、アタシも経験者だからさ」

 

この二人は同じ経験という共通点が出来たために意気投合していた。

 

「さて、休憩を取りな。少しずつ身体に慣らさないと意味がないからね」

 

「はい」

 

赤髪の女性の手を握り、立ち上がって休憩を取る為、椅子に座り水分を取った。

 

「これほどハードな特訓を皆さんこなしているのですね」

 

「それでもアンタがやってるのは一番軽いよ?無理してレベルを上げる前に基礎を固めないとね」

 

「ええ」

 

「ふふ、彼氏に影響されたのかい?こんなに頑張るなんてさ」

 

「そうかもしれません、守られるままなのは嫌ですから」

 

「おや?恥ずかしがると思ったんだけどね」

 

「もう、慣れましたから」

 

二人は笑い合うと特訓を再開するために立ち上がった。

 

「今度はアタシが相手をするよ」

 

「よろしくお願いします」

 

組み手を始めると同時に、赤髪の女性はシャナに出来る隙などを指摘しつつ指導を始めた。

 

 

 

「たあああ!」

 

「うおおお!」

 

鈴は日本人の格闘家と組手をしており、シャルロットは少林寺の拳法家、セシリアはボクサー、ラウラはパワーファイターの格闘家とそれぞれ相手をしてもらっている。

 

「やあああ!」

 

「まだまだ、遅いよ!」

 

「くう、なんてフットワークですの!」

 

「まだまだ追いつかれるわけには行かないんでな!」

 

「だあああ!」

 

「軽いぞ・・・」

 

この格闘家達に食らいついているだけでも相当なレベルになっているが、彼女達はこの夏休みの間に出来る限り実力を上げておきたい一心で特訓を続けていた。

 

「よし、三十分の休憩だ!その後すぐに特訓を開始する!」

 

日本人の格闘家の号令で、それぞれの組手が止まり格闘家達が一箇所に集まり代表候補生達はその場に座り込んでしまった。

 

「ふう・・やっぱりこの人達との特訓が一番応えるわね」

 

「はぁ・・は、わたくし達もだいぶ慣れてきました」

 

「そうだね、激しい息切れもしなくなったし」

 

「ここまで強くなれるとは思わなかったな」

 

それぞれが話している中、鈴が立ち上がって宣言する。

 

「いい、みんな!政征と雄輔を倒せるようになるまで頑張るわよー!」

 

「「「おーーー!!」」

 

女性陣が話している中、格闘家達は一人を除いて話していた。それぞれが彼女達の成長に驚いている。

 

「なぁ?ジャパニーズ、あのガールズ達、紋章を持ってるんじゃねーのか?」

 

「オイラもそれ思った、上達早すぎるよ」

 

「ありえん話ではないかもしれんな」

 

「女だけのシャッフルか、そんな事もあり得るのかもな」

 

日本人の格闘家は少し笑っていたが、少林寺の拳法家が少し声を荒らげた。

 

「笑い事じゃないよ!アニキ!」

 

「落ち着け、奴らが強くなるなら俺達も強くなればいいだけの話だ」

 

「あ、そっか」

 

簡単に納得してしまうのは格闘家の性か、強い相手が来るなら自分達も負けないくらいに強くなればいいという言葉には妙な説得力があった。

 

そして、特訓が一週間早めに切り上げられた、全員の成長と束が特訓の為の装置を開発したとの事でだ。

 

「俺達が教えられる事は限界まで教えたぞ」

 

「まさかこんなに早く、ガールズやボーイズが成長するとは思わなかったぜ」

 

「ホントに吸収が早くてびっくりしたけどね」

 

「これからも精進を忘れずに」

 

「また会おう」

 

五人の格闘家達は直ぐに去ってしまい、四人の特殊隊だけが残った。

 

「さて、俺達もそろそろ行かねえとな」

 

「そうだな」

 

「はぁ、可愛い子達を鍛えるのも今日で終わりかぁ」

 

「アンタはいい加減にしなよ」

 

赤髪の女性はきつい口調で軟派な男性を注意した。このやりとりもこの部隊ならではなのだ。

 

「本当にありがとうございました」

 

「おう、お前らも訓練を怠るなよ?、俺達もいくからな」

 

政征のお礼の言葉にリーダーの男性が応え、握手した。

 

「また、会おうね」

 

そう言い残し、四人の特殊隊も去っていった。その後、束がいる研究室へと向かった。

 

 

 

 

「やぁやぁ、みんな来たね!」

 

「一体どうしたんです?」

 

待っていたと言わんばかりに束のテンションが上がっていた。

 

「実はね、リンク型の訓練装置を開発したんだ!」

 

「リンク型の訓練装置!?」

 

「な、何ですの!?それ」

 

「どんな訓練ができるの!?」

 

「気になるね」

 

「ああ」

 

次々に言葉を発してくる代表候補生達にストップをかけたのはクロエだった。

 

「お静かに、説明ができませんから」

 

その一言で全員が静かになった。

 

「じゃあ、改めて説明するね?これはオルゴンをエネルギーとして機能する訓練装置で、サイトロンを利用して過去の相手とも戦えるよ!」

 

「「「「「ええええーーー!?」」」」」

 

束のとんでもない発言に全員が驚きの声を上げる。当然だろう過去の相手と戦えるという事は歴代最強の相手とも戦える事だからだ。

 

「それで、装置を使ってこの一週間の特訓の総仕上げしようと思うんだ」

 

束の言葉に全員が納得したがそこでシャルロットが手を挙げた。

 

「総仕上げをするのはいいけどISはその装置の中で使えるんですか?」

 

「それは問題ナッシング!ここにいる皆は自分の機体と深く結びついてるからね」

 

そういうと束は装置を起動した。この時、全員が気づいていなかった。これから起こる事が訓練ではなく、自分達に降りかかる最大の試練だという事に。

 

「えっと、ちょうど六人だね!」

 

「あの・・・私は?」

 

「ごめんね、シャナちゃん!君は六人が終わってからでいいかな?」

 

「そうですか」

 

シャナは気落ちした様子で六人の方へ視線を向けた。それに気づいたのが政征だ。

 

「シャナ、すぐ終わらせてくるさ」」

 

「はい、待っていますね」

 

「おお、ラブラブだねー?マーくんとシャナちゃんは!」

 

束のからかいにも動じず、二人だけの合図をすると政征は改めて装置の中に入った。

 

「それじゃ、起動するよー!」

 

「オルゴン・クストラクター正常、サイトロンリンゲージ安定、ダイブ開始」

 

装置が起動し、六人の意識が装置の中へとダイブしていく。

 

「うん、順調順調!」

 

「・・・」

 

順調に進んでいたが突如としてアラートが鳴り響き、それに気づいたクロエが慌てて声をかけた。

 

「ど、どうしたの!?」

 

「束様、大変です!六人の意識が別方向に!」

 

「なんだって!?直ぐにサイトロン・リンゲージを調整して!このままじゃ別のパターンに入っちゃう!」

 

「だ、ダメです!間に合いません!」

 

「っ、ならせめて六人の状態と何処へ行ったかをモニタリングして!早く!」

 

「分かりました・・・!」

 

クロエは急いで束の指示通りにモニタリングする、そこには六人にとって不可能と思える相手を倒さねばならないと表示されている。

 

「そんな・・」

 

「いくらデータ上とは言っても・・・これはハードすぎるよ」

 

その表示されている相手を見て、束は目を見開いていた。




ここからオリジナルを展開します。

メンバーそれぞれが倒さなきゃならない相手を明かします。


セシリア・・バロンズゥ(バロン・マクシミリアン搭乗)

鈴・・デビルガンダム第4形態

シャルロット・・アル=ヴァン・ランクス(スパロボJの乗り換えイベント前の戦闘)

ラウラ・・テッカマンエビル(ブラスター化状態)

政征&雄輔・・グ=ランドン・ゴーツ


以上です。絶望しかない


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突発ネタ
もしも突然、政征と雄輔がTS(女化)ったら??


突発的なネタです。


以上


朝日が差し込む時間帯、朝の7時。朝食を取ったり登校する時間だ。

 

「ふぁ~、さて早く起きないと。なんだか体が重いなぁ?特に頭と胸元が」

 

そうつぶやきながら洗面台に行く、鏡に映ったのは赤髪の女性だった。スタイルは均衡が取れており、巨乳とまではいかないが大きめで瞳も赤い。(今井信女[銀魂]がイメージ画)

 

「なんだこりゃああああああ!?」

 

「政征!?どうなさ・・・どなたですか?」

 

本人が混乱している中、シャナが運悪く入ってきてしまい更に混乱を極めてしまった。

 

更には服がはだけている為に胸元が丸出しである。

 

「シャナ!オレだよ!政征だよ!!(CV戸松遥)」

 

「え?ええええええええ!?」

 

二人揃って叫び声を上げてしまい、落ち着いたのは二十分後である。

 

「つまり、朝起きたら女性になっていたと?」

 

「ああ、なんでか分からないけど・・・」

 

今現在シャナと対面で政征(♀)は喋っている。偶然にも男物のワイシャツがあったのでそれを着て、学園の制服のズボンを履いた。

 

「うーー・・・」

 

「シャナ?」

 

「どうして・・・こんなに大きんですか?羨ましいです・・・!」

 

シャナはむくれながら政征(♀)の胸を揉んできた。程よい弾力がシャナの手に返ってくる。

 

「シャ、シャナ!揉まないで!」

 

「むーむー!」

 

シャナを引き剥がすと同時に政征は男性の制服を着込んだ。無論、胸元が大きいのでそこだけは開いている。髪も邪魔になるのでポニーテールに纏めている。

 

「なんだか、フー=ルーみたいですね?」

 

「いや、普通だと思うけ・・・」

 

政征(♀)は校舎に向かう途中で立ち止まった。目の前に何かとんでもない物を見てしまったような様子だ。

 

「あ・・・え」

 

「おま・・政征か?(CV伊藤静)」

 

目の前にいる青髪の女性が名前を口にした。スタイルも政征に負けていない、どちらかというと青髪の女性の方が胸元が大きく、背も高い。髪はサイドテールに纏めている(沖田総子[銀魂]がイメージ画)

 

「まさか・・・まさか・・・雄輔か!?お前ええ!?」

 

「お前も女になってたのかよおおお!?」

 

二人が揃うと登校途中の生徒達が騒ぎ始めていた、どうやら二人を見ている様子だ。

 

「あれって転校生?」

 

「赤い髪と青い髪って珍しいわ」

 

「これってまずいぞ!すぐに教室へ行かないと!」

 

「あ、ああ。そうだな!」

 

 

二人は逃げるように走り出し、教室へ入ると同時に席に座るとセシリアが話しかけてきた。

 

「あら?転校生ですの?その席は別のお方の」

 

「いや・・」

 

「俺達・・・」

 

「「本人なんだ」」

 

「え?ええええええええええええええええ!」

 

セシリアの絶叫と同時に他の専用機持ちも現れ、同じ反応を返した。

 

「なんで・・二人共こんなに大きいのよおおお!」

 

一番反応したのは鈴だった、同時に政征(♀)と雄輔(♀)の胸を掴んでいた。

 

「いたたたた!」

 

「や、やめてくれ!真面目に痛いから!!」

 

「うるさあああああい!もげろおおおお!!」

 

「り、鈴!落ち着いて!!」

 

シャルロットが鈴を押さえ、ラウラが口を開いた。

 

「こ、これはどう呼べば良いのだ!?政征姉様!?雄輔姉様と呼べばいいのか!?」

 

ラウラは暴走しているようで混乱もしていた。当然だろう、いきなり男性二人が女性なれば混乱もする。

 

そんなコントを繰り広げているといつの間にかチャイムが鳴ってしまった。

 

「ホームルームを始めるぞ?ん?見かけない生徒が居るな・・」

 

千冬が二人に近づき、両方を見比べる。政征(♀)と雄輔(♀)は冷や汗を出しながら千冬を見ていた。

 

「まさかと思うが・・・お前達、ソッチの趣味が?」

 

「「全然、違いますからー!」」

 

その日は授業時間を全て使い、二人に質問や身体検査などをさせられた。今は女同士なのだから問題ないとの事で教室で公開処刑をくらった。その際

 

「うう・・胸の大きさが負けた・・」

 

「スタイル良すぎるよ・・・」

 

「肌まで綺麗・・」

 

「まずい。女同士なのに目覚めそう」

 

などなど、クラスメイト達から色々言われたが、それ以前に無理やり脱がされた政征(♀)と雄輔(♀)の精神的ダメージが大きかった。

 

「女の子って・・・」

 

「容赦ないな・・」

 

二人は大至急で渡された女の制服を渡されたのでそれを着たが、何故かミニスカートを履かされそうになっていた。

 

「なんでさ」

 

「これ、ミニスカートじゃ・・」

 

クラス一同が一致団結し、二人を押さえ込んきた。全員、目が血走っており力が強い。

 

「似合う、絶対似合うから!」

 

「履きなさい!むしろ履け!!」

 

「「やーめーてー!」」

 

二人は暴れるが、すぐに押さえ込まえれてしまい強引に履かされ、何故か黒ニーソまで履かされてしまった。

 

「うう・・男の時より酷い」

 

「もう・・どうにでもしてくれ・・」

 

二人は恥ずかしさから顔を真っ赤にしていた。しかし、太ももの絶対領域や見えそうで見えないミニスカート、大きく開いた胸元、何より赤と蒼という髪がよりクラスメイト達を盛り上がらせていた。

 

「キャー!まるで姉妹!」

 

「元男なのに可愛すぎるわ!」

 

「私、コスプレ衣装持ってくる!!」

 

生徒達が盛り上がっている中、書類を持ったフー=ルーが教室に入ってきた。

 

「あら?どうしました?」

 

「あ・・」

 

雄輔(♀)がフー=ルーと目が合ってしまい、気まずくなってしまった。

 

「誰ですの?その方?」

 

「あの実は・・」

 

女性になってしまった男性二人は出来るだけ具体的に説明した。

 

「ふむ・・・少し待っていてくださいますこと?」

 

そういってフー=ルーは教室を出て行き、すぐに戻ってきた。

 

「二人共、これを着て下さいません事?」

 

フー=ルーが見せたのはフー=ルーがファウネアに搭乗する時にISスーツの代わりに着ている服だった。(公式資料の服)

 

「フー=ルーさあああん!?」

 

やはり強引に着替えさせられ、 フー=ルー自身も着替えており三人が並ぶとますます盛り上がった。

 

「キャーーーッ!!三姉妹!三姉妹よ!!」

 

「スリット!スリットだわ!」

 

「ああ、もう!女同士なのに鼻血がー!!」

 

盛り上がりが最高潮に達していた。コスプレ衣装を持ってきた生徒は二人に衣装を着せ、それを写真に収めていた。

 

メイド、巫女、ネコ耳、初○ミク、考えられる限りのコスプレをさせられていた。

 

「もうヤダァ!」

 

「勘弁してくれ」

 

しかし、コスプレをさせられるのも無理は無いだろう。今の二人は同性から見ても非常に魅力的だからだ。

 

他の代表候補生達も参加し始め、鈴からはチャイナドレス、ラウラからは軍服、シャルロットからは男装一式、セシリアからは民族衣装のキルトを着せられた。

 

一日がコスプレ撮影で潰れてしまい、終わったのが入浴の時間になる寸前だった。

 

入浴も今まで別れていた時間が同じ時間に入るように言われてしまい、クラスメイト達と入ることになってしまったが、代表候補生達と交渉し、なんとか時間を合わせて入る事にしたのだ。

 

「はぁ・・」

 

「散々な目にあった」

 

二人は髪を洗いながら、今日の事をぼやいていた。なぜ突然、女になってしまったのだろうと。

 

しかし、考えがまとまらないうちに話しかけられてしまった。

 

「政征さん、雄輔さん」

 

話しかけてきたのはセシリアだった。身体は女でも思考は男のために目を背けてしまう。

 

「あらあら、まだ慣れませんか?」

 

「慣れるわけ無いだろうが!」

 

「いきなり女になったら・・な」

 

そんな風に話していたら政征(♀)と雄輔(♀)が背中から胸を揉まれていた。

 

「雄輔の方が若干大きい!このー!もげろおおお!!」

 

「んぅ!?痛いからやめてくれ!」

 

雄輔(♀)の胸を揉んでいる犯人は鈴だ。相変わらず大きい胸に対して嫉妬を露わにしている。

 

「大きいな!悔しいぞ・・私もいずれ!」

 

政征(♀)の胸を揉んでいたのはラウラだった。その感触が気に入ったのか揉み続けている。

 

「ラウラ!ん・・!くすぐったいからやめてくれ!」

 

若干、危なくなりラウラを引き剥がそうとするが今度は抱きつかれてしまう。

 

「兄様(♀)の肌、とても心地よい・・・」

 

どう見ても姉妹にしか見えないが政征(♀)は仕方なさそうにそのまま抱きつかせたままにしていた。

 

「あーもう!仕方ないか・・・」

 

雄輔(♀)の方も鈴に抱きつかれ、肌を堪能されている。

 

「胸も大きくて肌までスベスベなんて、女子力高すぎよ」

 

「好きでなった訳じゃないんだが?」

 

お構いなしに抱きついた二人はずっとその肌を堪能し続けていた。




続けますか?

はい  いいえ
  ↑

どっちがいいですかね?

突発的なネタなので。シリアスばっかり考えすぎてこんなネタを・・。


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赤と蒼の百合の花

女化その2(10-1)

学園中がネコ(受け)だらけ


以上




なぜ続いたんだ・・おい銀○ァァァ!どうしてこんなネタを浮かばせた!?(良い意味で)


女性になってから二日経ち、騒ぎも収まった。女性としての名前に改めさせられ、赤野政征は『赤野夕妃(あかのゆうひ)』青葉雄輔は『青葉柚月(あおばゆづき)』という名になった。

 

男性操縦者の二人は留学し、二人の姉という事で入学してきたと生徒達には説明したそうだ。

 

二人が教室に入るとクラスメイトは飛び切りの笑顔になった。

 

「はぁ、いつまで続くんだろうか」

 

「仕方ないだろう?こうなってしまったからには」

 

今の二人は髪を結っておらず、髪をロングヘアを靡かせている。更には整えるように手で髪をかきあげる。

 

「はぁ・・羨ましいです」

 

「シャナ、大丈夫・・・女になっても変わらないから」

 

シャナの制服の乱れを直し、頭を優しく撫でる。その様子はまるで姉妹のようだ。

 

「分かっているのですが・・複雑です//」

 

自分の恋人が同性になってしまったが、優しさや態度が変わらないためにどうしても顔を赤くしてしまう。

 

「生百合!?生百合よ!!」

 

「初めて見たわ!」

 

「夕妃×シャナ=ミアだと!?新境地だわ!!」

 

教室中は百合に近い現場を見てしまったために大騒ぎである。そんな中、柚月の目の前でタイが解けてしまった生徒がいた。

 

「全く、タイはちゃんとしておきなさい。身嗜みは基本だから」

 

「は、はい・・お姉様//」

 

タイを直された生徒、谷本癒子は柚月に対して自分の理想とする姉として認定してしまった。

 

「夕妃さんが面倒見のいい近所の『お姉ちゃん』で柚月さんがお嬢様学校の『お姉様』って感じだわ」

 

「はぁ・・はぁ・・//」

 

クラスメイト達が興奮しており、発情に近い状態になっていた。

 

「柚月さん、みんなの目が血走ってるけど・・」

 

「嫌な予感がする・・」

 

二人の予感は大当たりし、クラスメイト全員が向かってきた。

 

「「「夕妃お姉ちゃん!私達と禁断の一夜を!!」」」

 

「「「柚月お姉様ー!私達の愛を受け取ってー!」」」

 

「おいィィィ!?なんだかとんでもない事を口走ってるよみんな!!」

 

「捕まったら食われる!こんな時は急いで逃げるに限る!!」

 

二人は同時に教室から逃げ出し、廊下を走り出した。本来、廊下を走ってはいけないはずだが緊急事態のために走り続けている。

 

「「「待ってェェ!夕妃お姉ちゃァァァァん!柚月お姉様ァァ!」」

 

「私達、今女の子よ!?なんで追いかけてくるのおお!?」

 

「全員が全員、百合に目覚めたんじゃないの?」

 

「冷静に分析しとる場合かァァ!!」

 

学園が二人を狙う生徒達が追いかけてくる為に地震のように揺れている。全速力で逃げ続けるが当然のように追いかけてくる。

 

「このままじゃ捕まる!二手に分かれるぞ!」

 

「分かった!」

 

左右に分かれた廊下を別々に走り出し、追いかけていた生徒達は目的の方へと左右に別れていった。

 

「なんでみんな止まらないんだよォォォ!?」

 

夕妃は死角になる木の上に登ると身を潜めた。その下では夕妃親衛隊が本人を探している。

 

「あれ?お姉ちゃんこっちに来たはずなのに」

 

「探し出してみんなで熱い夜をすごすのよ!ムチも用意したし、お姉ちゃんに躾てもらおうよ!」

 

完全に目覚めた百合女子達は目が血走っており、まるで飢えた狼状態になっていた。

 

全員が全員、熱い夜の下に百合の花を咲かせようと必死だ。

 

「(ここ、R-18じゃないよ!このままじゃこの作品がR-18ゾーンに入っちゃうよ!)」

 

 

 

別方向に逃げた柚月も中庭の木の上で様子を伺っていた。身を隠せるくらいの枝に隠れている。

 

「お姉様、どこですかー!?」

 

「ああん、お姉様と夜を過ごしたいのに。お仕置きしてくださーい!」

 

柚月親衛隊も暴走しており、どちらの親衛隊も二人の純潔を狙っているようだ。

 

「(開き直りすぎだろう・・・このままじゃ危ない)」

 

とんでもない発言ばかりが飛び交っており、親衛隊側の方が攻めるよりも攻められたい方が多いようだ。

 

 

 

 

「皆さん、集まってもらったのは他でもありません。あのお二人の事です」

 

セシリアをはじめとする専用機持ち達は食堂に集まっていた。

 

「ええ」

 

「うん」

 

「姉様達の事か?」

 

鈴、シャルロット、ラウラも参加しており、話を聞いている。

 

「ずばり、どちらと夜をすごしたいですか?わたくしは断然、夕妃さんですわ!」

 

「私は柚月・・かな」

 

「ぼ、僕も柚月」

 

「迷うが私は夕妃姉様とだ!」

 

この四人もどうやら二人との夜を狙っているようだ。誰と過ごしたいかとだけ話し合っているらしく、周りには聞こえていない。

 

だが、この四人も目が血走っていた。

 

「わたくし、お風呂を夕妃さんともう一度、ご一緒したくて・・」

 

「私は柚月の肌に触れたい・・」

 

「僕は柚月に触れて欲しい・・・あの時、すごくゾクゾクしたんだ」

 

「夕妃姉様にもう一度抱きしめてもらいたな・・」

 

この四人も蒼赤の親衛隊の熱気に当てられており、妄想に耽ってしまっている。件の二人とお風呂を共にした事がより一層、暴走をかきたてている。

 

誰もが危ない妄想ばかりして二人に狙いを定めている。その原因は女性となってしまった二人が時折見せる騎士としての表情だった。

 

夕妃(政征)が見せる女の騎士としての顔は英霊と共に人類焼却を止める戦いで有名なゲームに出てくる影の国の女王に似ており、対する柚月(雄輔)は槍を持った騎士王に似ていた。

 

二人の眼差しは攻めて欲しいと思える程に美しく、また魅力的に映ってしまうのだ。

 

その結果、親衛隊と受け手だらけとなってしまい二人を求めるようになってしまった。

 

魅了に取り付かれたのはクラスメイトだけではなく、専用機持ち達も魅了には勝てなかった。本人たちがそれに気づいていない。

 

「この状況、どうすんだよォォォォ!?」

 

「このままじゃこの話だけで百合が発生してしまうな」

 

二人は別々の場所で今起こっている出来事にツッコミを入れていた。




短いですがここまでで。

百合ハザード発生。大元の原因は前回、コスプレ撮影の時に夕妃(政征)がスカサハのコスプレ、柚月(雄輔)が槍トリアのコスプレをしてドS全開の目で見たせいです。

そのせいでクラスメイト達は攻められる事を想像しまくりの妄想しまくりで発情しました。

シャナはコスプレ時に偶然、軽い目眩で保健室にいたので難を逃れていました。

谷本癒子さんは憧れ状態なので発情していません。


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セシリアの日記(その1)

セシリアの今まで歩んできた心中

以上





※追伸

話し言葉風になりますが、それはご了承願います。


日記を付けるのはあまり得意ではないのですが、振り返るために付けることにしました。

 

 

入学当初、わたくしは自分自身が正しいと思い込んで女尊男卑の思想に染まっていました。

 

両親を失い、遺産を狙った自称家族や男性が弱い所ばかりしか見てこなかったのです。

 

 

 

入学しクラス別けの後に奇しくも男性操縦者のお二人と同じクラスとなりました。

 

クラス代表を決める際、男性というだけでわたくしは自分よりも各下が上の立場になることなど許す事が出来なかった。

 

男性二人に決闘を申し込もうとしましたら、教育実習生のフー=ルー先生が戦いを組んでしまいました。

 

その時のフー=ルー先生の笑みの下に隠された冷徹な目は未だに忘れることは出来ません。

 

何故なら「お前如き小娘が決闘などと軽がしく口にするな」と言っていたように感じましたわ。

 

それから一週間後に始まった、クラス代表を決める決闘で織斑一夏と赤野政征の二人と戦うことになりました。

 

 

織斑一夏さんとの戦いはわたくしが後一歩という所まで追い込まれました。初期設定の専用機で追い込まれたこと、一次移行を果たして敗北の手前まで諦めない意志を持っていた事に興味が湧きました。

 

次に赤野政征さん。彼は自分を騎士と名乗り、全力で向かってきましたわ。彼との戦いはまさしく戦場そのものといっても過言ではありませんでした。

 

「女性だから手加減される」「女性だから勝たせてもらえる」そんな甘い事を一切せず、この女尊男卑の世の中で区別せず戦ってくる姿勢に驚いていました。

 

「戦場には男も女も関係ない、ISは兵器として使われている」少し考えれば理解できる事をわたくしは考えようともしていませんでした。

 

彼は改めてわたくしにISの危険性を教えてくれたのだと身を持って知りました。もっとも、彼のISの武装である爪のような武器に捉えられて、地面を引きずり回されるのは二度と御免ですわ・・・。

 

それから、わたくしは不用意に発言すると国際問題に発展しかねないという自分の立場を理解していなかった事をも猛省しましたわ。

 

フー=ルー先生があの時、わたくしをクラス代表になれるような擁護する発言をしてくれたのはそれを起こさないようにする為だと先生自身から聞かされたのです。

 

自分の経験が少なかったとはいえ、感情に先走るようではエリートや貴族などと名乗れません。一度落ちた信用を取り返すのは容易ではないという事はわたくしでもわかります。

 

一夏さんと政征さん・・・クラス代表決め以降、わたくしの中で二人の殿方の存在が大きくなっている事に薄々気づいていました。

 

一夏さんは優しく、紳士的でどんな場面でも諦めないという真っ直ぐな目がわたくしの気持ちを昂ぶらせていました。

 

一方の政征さんは普段は誰とでも打ち解けるほどの親しみやすさを持ち、自らを戒める騎士としての一面を持っていて一夏さんとは違い、厳しく接してきました。

 

一夏さんとは話していると胸の高鳴りが強くなっていくのを感じましたが、好意なのかは分かりません。それでも顔が熱くなったのは事実ですわ。

 

政征さんとは訓練などで会話をする事が多かった。騎士として話す彼にわたくしは憧れを抱くと同時にこの方を越えたいと思うようになりました。

 

横に並ぶのではなく互いに切磋琢磨していく、それこそが友人と呼べるのではないかと今のわたくしは思うのです。

 

内に秘めた想いに関して書きましょう。それは・・・。




本当にちょっとだけのセシリアの日記です。

彼女達が何を思い、受け止めて来たかを感じられたらと思います。

日記風は話し言葉になりやすいので許容して頂けると幸いです。


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セシリアの日記 その2(最終)

セシリアの心境です


わたくしは秘めた想いがあります。一度は諦めたはずの恋でした。

 

あの方達の隣は既に空席では無かった。ですから、その隣にいる女性を応援すると決めたのです。

 

でも、その後は知らず知らずにわたくしは泣いていました。想いが遂げられないというのはこんなにも辛い事だと。

 

わたくしの片想いにすぎませんが、こうして日記に記す以外に捌け口が無かったのかもしれませんわ。

 

政征さんと雄輔さん・・・二人には憧れと片想いを同時に抱いた殿方達でした。

 

今、わたくしの想いは告げずにいます。

 

胸の内を明かしてしまえばわたくしは、わたくしを抑えきれ(涙で滲んでいる)

 

二度目の恋を吹っ切ろうとわたくしは訓練に没頭しましたわ。

 

ですが、シャルさんや鈴さんには勝てない時がずっと続きました。

 

二人はそれぞれ訓練を受けて、更に上の実力に至っていたのです。

 

心底、悔しかった。同時に羨ましかったのも事実です。

 

わたくしには訓練や特訓を指導してくれる方がいらっしゃらなかったのです。

 

自分だけで考えたトレーニングをしたり、模擬戦闘をしてもらっても差が縮まらなかった。

 

周りに置いていかれているような気がしてわたくしは焦りました。

 

感情に任せて学園を飛び出してしまったりしましたが、わたくしの焦りは少しだけ解消できました。

 

それから、チェルシーから「自分が出来る事を全力で取り組む事が大切」というのを学び、必死に自分の出来る事に全力を注ぎ込みました。

 

政征さんと雄輔さんが所属する会社に呼ばれ、鈴さんを鍛えた格闘家の方達との特訓を受けましたが、あれは鈴さんが強くなれた事を身をもって実感しました。

 

大の字に倒れそうになるのを堪えるのが出来るか出来ないかの限界寸前でしたわ。

 

あれだけ厳しい特訓はこれから先、出会うことはありませんわね。

 

逆をいえばそれだけ充実していたという事、この特訓は忘れないようにしなくては。

 

獣戦機隊という特殊部隊の所属の女性から特訓を受けたわたくしは「野生」というものを目覚めさせられました。

 

野生と聞くと野蛮な感じがしましたが、わたくしは自分を押さえ込んでいたのを認識させられたのです。

 

美しさや綺麗で優雅な戦いをしたいというのがわたくしの考えでしたが、特殊部隊の女性から「戦いの中で優雅さは捨てろ」と指摘されました。

 

初めは理解出来ませんでしたが理由が模擬戦闘を通じてわかったのです。

 

優雅さは動きを制限する枷のようなものだと、戦場という狩り場では狩る側へとまわるようになれという事に。

 

最後になりますが、わたくしは特訓の仕上げに入って来ますわ。

 

やはり、想いを告げる事だけは諦めきれません。どんな結果になろうと、特訓を終えたらあの方に気持ちを伝えますわ!

 

それが、わたくし!セシリア・オルコットの決意なのです!




作者です。生きてますよ!

仕事が忙しくて書く時間が上手く確保出来ません!(汗)

次回の日記は鈴かシャルロットになるかもしれません!

先に心境日記を読みたい女性キャラがいれば活動報告かメッセージにてお願いします!


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番外編 自由の騎士、生涯の誓い

改めてプロポーズする


以上

この話の支柱はメッセージにて頂いています。ルオンさん、本当にありがとうございます!


連休近くの最終授業を受け終わった後に政征のもとへ珍しく雄輔が来ていた。

 

「なぁ、政征。頼みがあるんだが良いか?」

 

「ん?雄輔から俺に頼みごとなんて珍しいな?なんだい?」

 

「ああ、実はフー=ルーさんにプレゼントをしたくてな」

 

「それなら普通にすればイイじゃないかよ?」

 

「それじゃ、ダメなんだ」

 

政征の言葉も最もだが、年上の恋人を持つ雄輔自身はそれなりの物を渡したいのだろう。

 

「うーん、それならお互いに貯めてある貯金を使って指輪でも買うかい?」

 

「それはいい考えだな!お前もシャナ=ミアさんに送ったらどうだ?」

 

「確かにな、それもアリか!」

 

放課後になり、政征と雄輔の二人は街に出ていた。素顔を隠す為のサングラスや帽子は忘れずに身につけている。

 

曲がりなりにも男性操縦者である二人は女尊男卑の人間からも狙われている為に、変装せざるを得ないのだ。

 

しばらく歩いていると、とある宝石店が目に入った。宝石が一つ三万円で付ける事が出来るキャンペーンをやっている。

 

企業代表候補生として二人は所属しているが、戦闘データの提出や改良点などを所属先であるアシュアリー・クロイツェル社に提出する義務もある。

 

それだけでは不便だろうと、セルダが契約社員としても雇ってくれていたのだ。

 

ただし、二人は社会人ではない為に給与はさほど高くはない。だが、あまり買い物をしない二人は宝石を三つ着けられるくらいの金額を余裕で貯金していた。

 

「ここにするか」

 

「そうだな」

 

二人は店に入り、キャンペーンの事を店員に伝えた。店員は着けられる宝石のリストを二人に見せた後に、素体となる指輪を持ってくるためにスタッフルームへと入っていった。

 

「うーん、シャナに似合うのは・・・この三つかな?」

 

政征はカイヤナイト、アメシスト、セレスタイトの三つをチョイスした。

 

カイヤナイトには[清浄]

 

パパラチア(色違いのサファイヤ)には[博愛]

 

スギライトには[浄化]

 

という意味を持っている。

 

 

「フー=ルーさんにはこれか」

 

対する雄輔はクンツァイト、ガーネット、アクアマリンをチョイスした。

 

クンツァイトには[寛大・優しさ]

 

ガーネットには[秘めた情熱]

 

アクアマリンには[聡明・勇敢・沈着]

 

という意味を持っている。

 

二人は意図的に選んだわけではなく、色合いや身につけている姿を想像しながら決めただけだ。

 

「お会計が合計18万円になります」

 

普通の高校生ならなら目が飛び出すくらいの金額ではあるが、貯金していた二人はお互いに9万円ずつ出し合い、会計を済ませた。

 

 

定番の青い箱に指輪を保管し、学園へと戻った二人はすぐに渡そうとしたが明日の夜にアシュアリー・クロイツェル社でのパーティーがある事を思い出した。

 

「明日はパーティーがあるから夜の外出許可を取ってたんだ!」

 

「正装は用意しているが大丈夫なのかな?」

 

翌日の夜になる数時間前、それぞれの部屋で鏡を見ながら二人はスーツに身を包んでいた。更には美容院に行って髪型を整え、夜になりパーティー会場である高級ホテルの会場へ向かった。

 

 

 

 

会場に入るとそこには正装やドレスに身を包んだ高級官僚の方々や、権力を持つ富豪や会社の有名重役などあらゆる権力者の人間が会場に溢れている。

 

「俺達、場違いすぎるな・・・」

 

「ああ、初めてだからな」

 

政征と雄輔は初めての高級パーティーの雰囲気に飲まれかけていたが持ち前の適応力ですぐに持ち直した。

 

パーティーが始まり、それぞれが会話などをしている中、政征はシャナを見つけ出したが一人の富豪の息子らしき人物に言い寄られている。

 

「もう、しつこいですよ」

 

「良いじゃないか、一目見て君を気に入ったんだ!是非、僕のフィアンセになって欲しい!」

 

「何度も申し上げていますように私には心に決めた方が居りますのでお断りします」

 

「そんな奴とは縁を切ってさ!お願いだよ!」

 

それを目撃した政征は人の間の隙間をぬってシャナと富豪の息子のもとへ近づいた。

 

「なんだお前は?今は大事な話をしているんだからあっちへ行け!」

 

「そうもいきません、ご本人の意思を無視してでの婚約など愚かなことです」

 

「なんだと!?僕に意見するというのなら!」

 

富豪の息子は近くにあったブドウジュースの入った大きめのビンを手にすると、政征の頭上から中身が無くなるまでブドウジュースをかけ続けた。

 

「ははは!オシャレになったじゃないか!」

 

「・・・・」

 

「あの男・・・!」

 

「!・・・(雄輔、来るな)」

 

富豪の息子は正装が汚れた政征を指差し、大声で笑っている。それを見た雄輔は殴りかかろうと向かってきていたが、それを政征が止めていた。

 

「シャナ=ミア様」

 

「はい?」

 

政征は懐のポケットから青い箱を取り出し、シャナに向き直ると蓋を開いた。それは雄輔と共に買った指輪である。

 

「自由の騎士ではなく、貴女様の伴侶としてこの指輪を贈りたい」

 

「!はい、その指輪を受け取りたくあります」

 

シャナからの返事を聞いた政征はその白く細い指に嵌めた。しかも、婚約を意味する左手の薬指に。

 

それを見た富豪の息子は政征を殴りつけた。普通なら倒れる所だが鍛えられた政征は倒れず、その場で立ったままだ。

 

「貴様!貴様ぁ!よくも僕の婚約者に指輪など!!」

 

「いい加減にせんか!馬鹿息子が!!」

 

「え?パ、パパ!?」

 

「シャナ=ミアさんはこの方を選んでいるのだ!人の気持ちだけはお前の思い通りにならんぞ!」

 

「嫌だ嫌だ!シャナ=ミアさんは僕の!」

 

「僕の、何ですか?」

 

政征は静かに富豪の息子に迫っていた。しかし、それを父親らしき人物が頭を下げて止めた。

 

「申し訳ない!ここは私に免じて許して欲しい!」

 

「パパ!なんでこんな奴に頭を下げてるんだ!?」

 

「馬鹿者!この方は二人目のISの男性操縦者であり、フューリア騎士団の一員である赤野政征さんだ!」

 

「え?ええええ!?」

 

「いや、そんなに畏まらなくても大丈夫ですので」

 

「申し訳ない、そのスーツも弁償しよう」

 

「いえ」

 

政征は年上の、しかも自分の父親と変わらない年齢の人に頭を下げられた事に心苦しさを抱いていた。

 

子供の責任は親にあるのだという考えなのだろうが、本人の謝罪は本人がしなけらばならないのが本来の責任の取り方である。

 

「申し訳ありませんが、貴方の婚約者にはなれません。私はこの方を心から慕っておりますので」

 

そういってシャナは政征に寄り添った。その姿は二人の愛が深い事を意味している。

 

「う、うわあああああああ!」

 

富豪の息子は振られた事を受け入れた瞬間にパーティー会場から走って出て行ってしまった。

 

父親もそれを追うようにパーティー会場を後にした。

 

 

 

 

「政征、大丈夫ですか!?」

 

「ああ、平気さ」

 

シャナはハンカチで政征が浴びせられたブドウジュースを拭える範囲で拭っていた。

 

「すごいな、政征。一発も殴らなかったなんて」

 

雄輔も政征が富豪の息子に対して殴らなかった事に驚きを隠せなかった様子だ。

 

「殴る価値もないし、ここで騒ぎを起こしちゃ迷惑になるからね」

 

「そうか」

 

「政征・・・」

 

シャナは政征から貰った指輪を政征に見せた後に政征の唇に軽くキスした。

 

「なっ!?」

 

「待っていますからね?婚約の式が出来る日を」

 

「ふ、こりゃあ結婚はすぐだな」

 

「からかうなよ!」

 

恋人と親友との会話に政征は笑みを見せていた。数分後にホテルの一室を借り、シャワーを浴びてブドウジュースまみれになった正装スーツを着替えた。

 

 

 

 

「ああ、あの方・・・クールで素敵ですわ。必ず私のモノにしますわ!」

 

パーティー会場では一人の資産家令嬢が雄輔を自分の物にしようと画策していた。




今回はここまで、今回は政征編でした。

雄輔の方はアダルティーにするために次回です。


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二章 関連世界での戦い
IN MY DREAM(セシリア編)


セシリアがオーガニック的な皆様と友人になる。

以上



※注意書き

この話は個人ルートになります。


セシリアが目を覚ますと同時に何処かの甲板にいた。

 

「う・・どういう事ですの?どうしてこんな所に?」

 

「セシリアさん、大丈夫?」

 

小声で突然話しかけられる、その女性に自分は見覚えがない。だが、なぜかその女性の名前を知っていた。

 

「大丈夫ですわ、比瑪さん。今、どういう状況ですの?」

 

「ノヴィス・ノアにリクレイマーが侵入しちゃったのよ、早く助けないと」

 

どうやら侵入者らしく、迂闊に動けない状態のようだ。それでもセシリアは自分を冷静にさせ現状を確認した。

 

「(ブルー・ティアーズは・・・ありますわね。迂闊に展開すれば気づかれてしまいますわ)」

 

それならと、周りを確認できるハイパー・センサーと同時にオルゴンエクストラクターを起動する。

 

「比瑪さん、先に行ってきますわね」

 

「セシリアさん?」

 

特訓のおかげか、大抵の事では動じなくなっていたセシリアはノヴィス・ノアの中へと向かっていった。

 

「セシリア?どうして!?」

 

「勇さん、わたくしも手伝います」

 

「そうだな、セシリアは強いもんな」

 

途中で出会った彼の名は伊佐未勇、なぜか彼の名前も突然、頭の中に浮かんできたのだ。

 

「(篠ノ之博士が組み入れたサイトロンのおかげでしょうか?)」

 

「行くぞ」

 

「ええ!」

 

勇に促され、その後に着いていく。その先の通路を走っていくと侵入者に出くわした。そこには金髪の男性が幼子の男の子を肩車するような形で背負っている。

 

「もうこれ以上、上には上がれないぞ!ジョナサン!!」

 

「その子を離しなさい!」

 

「悪いな、今はお前達に構っている暇は無い!」

 

振り返るとそこには指揮官でありこの船の艦長らしき女性が拳銃を男性に向けている。

 

「いい加減にクマゾー君を離して投降なさい、そうすれば悪いようにはしません!」

 

「嘘をつけ!悪いようにしないなんてずっと言ってきたじゃないか!だけど、いつもいつも裏切ってきたのがママンだ!」

 

それは男性が母親らしき艦長の女性に裏切られた思いをにぶつけているようにも見える。セシリアはそれを見て胸が締め付けられた感覚が走った。

 

「そんなことありません!!」

 

「八歳と九歳と十歳の時と、十二歳と十三歳の時も僕はずっと!待ってた!」

 

「な、何を・・?」

 

「クリスマスプレゼントだろ!!」

 

「ああっ・・・!?」

 

子供が親を待っている、二人を見ているセシリアも同じ経験があった。両親、特に母親は経営者の才があった為パーティーなどに出席せねばならず、家にいなかった。父は父でまるで道化になっているような姿に嫌気をさし自分から関わろうとしなくなっていた。

 

「カードもだ!ママンのクリスマス休暇だって待ってた!あんたはクリスマスプレゼントの代わりにそのピストルの弾を息子にくれるのか!?」

 

「そんなに忘れてるっ・・・?」

 

女性の言葉にセシリアは思わず声を上げた。その目には怒りと羨望が同時に溢れていた。

 

「忘れているならどうして改めて向き合わないんですの!?」

 

「セシリア!?」

 

セシリアの行動に勇は驚いていた、なぜこんなにも普通の子が激情を表しているのか。

 

「貴女は子供が親に居て欲しい時に見放してたのでしょう!?」

 

「わ、私はそんな事!」

 

「ない、とは言わせません!貴女の勝手な思い込みが自分の子供を追い込んだのですわ!」

 

「あ、ああ・・・」

 

「セシリア、もういい。ジョナサンを追うぞ」

 

「ええ」

 

勇の言葉に冷静さを取り戻したセシリアは勇と共にジョナサンと呼ばれている金髪の男性を追った。だが、エレベーターは動いてしまい扉は開かない。

 

「くそ!」

 

「勇さん、こちらです!こちらが外に通じてますわ!」

 

外に通じた場所から、二人はクマゾーを抱えたジョナサンに声をかける。

 

「クマゾーを離せ!」

 

「その通りですわ!」

 

その時、一つの光が甲板を揺らし、ジョナサンとクマゾーが落下していってしまう。

 

「落ちるなぁ!踏ん張れ!」

 

「ジョナサン!」

 

「男なら踏ん張ってみせろ!」

 

「お前なら出来る!」

 

クマゾーも踏ん張りを利かせるが結局は落下してしまう。それを見ていたセシリアがブルー・ティアーズ展開して向かっていく。

 

「クマゾー!」

 

「クマゾーさん!」

 

「勇、セシリアー!」

 

勇は海に落下し、セシリアが手を伸ばすが速度が速すぎてクマゾーを追い越してしまう。落下から助けたのは意外にも茶色のグランチャーと呼ばれるものだった。

 

ジョナサンとグランチャーに助けられたクマゾーは対峙するような形で互いを見ている。

 

「君は立派だったよ、尊敬に値する坊やだ。オルファンに来ればグランチャーをくれてやる。一緒に来るか?」

 

「い、行かないも!」

 

「残念だな。おい、そこの女!今から坊やを引き渡すが条件として何もするな!」

 

「分かりましたわ」

 

クマゾーを受け取ると同時にジョナサンはグランチャーと共に去っていった。

 

セシリアは甲板に降りるとクマゾーを縛っていた縄を解いた。

 

「セシリア、ありがとうだも!」

 

「え、ええ」

 

クマゾーはセシリアにお礼の言葉を言った後、走っていってしまった。セシリアはISを解除し自分の置かれた状況を整理しようと考え始めた。

 

「(わたくしは篠ノ之博士が作った訓練装置が作動した後、意識を失って・・・それに何故、この方達の名前が分かるんですの?)」

 

自分が今いる世界はデータで出来た世界、しかし何故このような状況になってしまったのだろうか。

 

此処には自分しかいない、他のメンバーはどこへ行ったのだろう?それだけが気がかりだ。

 

「(きっと、皆さん。無事ですわよね)」

 

これが訓練ならば倒すべき相手を倒せば戻れるはず、そう考え空を見上げると同時に今はいない他のメンバーの安全を願った。

 

 

 

 

「え?あら?」

 

景色が切り替わり、いつの間にかセシリアは雪原にいた。何もなくただ一面に雪が広がっている。

 

「ひどく不安定ですのね、このままではいけませんわ」

 

ブルー・ティアーズを再び展開するとハイパー・センサーによって見覚えのある顔を見つけた。

 

「勇さん?」

 

「セシリア?お前も飛ばされていたのか!」

 

「え?は、はい」

 

話を合わせるためにセシリアは肯定する返事を返した。その中でセシリアは違和感も感じていた。

 

「勇さん、勇さんのブレン酷いケガですわ・・・」

 

「ああ、無茶をさせてしまった。本当に済まない」

 

そう、ユウブレンが大怪我をしていたのだ。セシリアはブルー・ティアーズの手で優しく触れる、その優しさに反応を返した。

 

「セシリアって、優しいんだな?」

 

「え?」

 

「ブレンが喜んでるよ、俺にはよくわからないけど」

 

「勇敢ですのね、勇さんのブレンは。でも、勇敢な方ほど優しくされたいと思うのですよ」

 

セシリアは自分が感じた事、考えた事を素直に勇へと伝えた。

 

「そうなのか?ブレン」

 

「・・・・(ヤサシクサレルノスキダヨ)」

 

しかし、二人の会話を邪魔する何かが現れた、それは白い何かだった。その姿はグランチャーと酷似しているが凶悪性を感じ取れるほどに凶暴だ。

 

それを真っ先に感じ取ったのがセシリアのISであるブルー・ティアーズだった。

 

「ブルー・ティアーズが最大警戒!?ということは・・」

 

セシリアはこの訓練機の中で自分が倒さねばならない相手を見つけ出した。

 

「勇さん、ブレンと一緒に後退してください」

 

「何!?」

 

「わたくしがあのアンチボディと戦います!」

 

「無茶言うな!お前の機体じゃ!」

 

「わたくしはわたくしのために戦うのです。仲間のために」

 

セシリアの言葉に勇は目を見開いた。仲間のために戦う、それが彼にとっては衝撃的な事だったのだろう。

 

「行きますわよ!」

 

「ハァーハッハハハ!アンチボディでもない奴が!」

 

「その声、あの時の殿方ですわね!?」

 

「あの女か!死ねよやー!」

 

相手が刃とした肩の部分を展開し、セシリアの戦いが始まった。




はい、訓練の総仕上げ始まりました。

メンバー達は倒さなければならない相手の関連した世界に飛ばされています。

場面がコロコロ変わるのは、すぐに戦わせるための訓練機の意地悪です。

倒し終えると本来の世界で目を覚まします。


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REVIVAL(セシリア編その2)

セシリアが自分の心を救ってくれた恩人に出会う。


以上


※補足
セシリアの個人ルートその2です。


[推奨BGM 『Ground Zero』第二次スパロボα]

 

ブルー・ティアーズを纏ったセシリアは白いアンチボディと戦闘を始めていた。

 

「ハハハハハ!やれよ!バロンズゥ!!」

 

「なんて、追尾スピード!それに数が多い!」

 

「女!オーガニック・エナジーが作ってくれた再会のチャンスをともに祝おう!」

 

ジョナサンが駆るバロンズゥの武器、フィンがセシリアを追尾する。

 

「自然溢れるこの場所で使いたくないのですが!行きなさい!ティアーズ!アーマー・ビット!」

 

特訓メンバーの中に、ビット兵器を扱うフェンシングの世界チャンピオンと訓練した事がセシリアにとって幸運だった。

 

彼との訓練によってビット兵器であるティアーズとアーマー・ビットに対し自分の精神を感応させることに成功したからだ。

 

しかし、特訓中に彼からも注意を受けた。

 

『ビットを扱う時は相手の姿を自分の中に置くのです。そうしなければ無害なものにも危害を与えてしまいます』

 

「ぬうう!何だこれは!?追尾兵器とでも言うのか!?」

 

チャクラシールドによってビットから放たれるレーザーは消されている。それでも戦えているのは特訓の成果だろう。

 

「ダメですわ!あの光が攻撃を消してしまう」

 

「行けよやぁぁ!!」

 

再びフィンを展開し、セシリアは回避しようとするが変則的に仕掛けられ直撃してしまう。

 

「きゃああああ!」

 

「セシリア!」

 

フィンに直撃したセシリアはそのまま落下してしまうが、落下する前にビットを回収し落下した。

 

雪が落下の衝撃を緩和してくれたおかげでセシリアに怪我はないが、戦闘が難しい状態になってしまった。

 

「うう・・!」

 

「ブレン!助けられてばかりで悔しくないのか!」

 

勇の喝にブレンがフラつきながらブレンバーを構える。それ見たセシリアは大声で叫んだ。

 

「ダメです!うっ!片手しかないそんな状態で戦ってはいけません!」

 

どこかを打撲した様子でセシリアは顔を顰めていた。

 

「逃げてくれ!セシリア!ここは!」

 

「ダメです!わたくしが!」

 

「二人共、一気に終わりにしてやる。消えてなくなれぇ!!」

 

ジョナサンの気迫に押されるようにバロンズゥが追撃を仕掛けようとしたが何かの光に阻まれた。

 

「何だ?援軍か?」

 

そこには従来よりも大型化したブレンパワードがおり、すぐにユウ・ブレンの傍へ寄り添った。

 

「お辞めなさい!バロンズゥを操る人、貴方には貴方が思うほどの力はないのです!お帰りなさい!バロンズゥ!アナタのプレートに!」

 

女性の声が聞こえる、その声は凛としていながらも静かで力強い声だ。

 

「俺のバロンズゥ!何をビビってる!?たった一人のブレンだぞ!?」

 

「そこの人、まだ飛べますか?飛べないのなら私のブレンの手に」

 

「はい、お願いしますわ」

 

女性が寄り添っているブレンパワードの手の上に乗り、共に去った。バロンズゥの追撃はなく、女性が住んでいるという小屋の近くに着陸した。

 

雪原に降りると同時にセシリアは女性に声をかけた。

 

「ありがとうございます、あの・・貴女は?」

 

「ネリー、ご覧通りの女です」

 

「わたくしはセシリア・オルコットと言いますわ、よろしくお願いしますね?ネリーさん」

 

「はい」

 

挨拶を交わした後にセシリアは疑問を感じていた。勇を始めとする全員の名前が浮かぶはずなのに何故、この女性だけは名前が浮かばなかったのだろうかと。

 

「セシリア、無事だったか」

 

「ええ、勇さんも。でもブレンは治すことが・・」

 

「ああ」

 

「いいえ、この子は強い子のようね。私のブレンといれば少しは落ち着くてくれるようね」

 

「(この人、不思議な方ですわ・・・全てを悟りきっているような、それでいて全てを包むような優しさがあります)」

 

セシリアはネリーの後ろ姿を見つめていた、何故か自分が惹き込まれて仕方なかったからだ。

 

「どうしました?」

 

「いえ・・・なんでもありません」

 

「セシリアさん、貴女は焦っていますね」

 

「え?」

 

「もうすぐ吹雪が来ます、小屋へ行きましょう」

 

三人は歩き出すとネリーが住んでいる小屋の中へと入った。中は一人で住むには広すぎるくらいの大きさだ。

 

暖炉に火を入れると温かい紅茶をネリーが淹れ、座った。勇は簡単な手当を受けると疲れが来たのか直ぐに眠ってしまった。

 

「いただきますわ、ネリーさん」

 

「ええ、どうぞ」

 

ネリーの淹れた紅茶を一口飲む。何故か長い溜息が出た、飲むたびに自分の中にある蟠りが消えていくような気がして仕方が無かった。

 

「美味しい・・不思議です、こんなに落ち着く紅茶を飲んだのは初めてですわ」

 

「ふふ、そんなに褒めても何も出ませんよ」

 

「此処に来る前にも言いましたが貴女は焦りすぎていますね、蒼い雫の訴えが聞こえないまま」

 

「!」

 

蒼い雫と言われセシリアは目を見開いた。何故この女性が自分のISの機体名を知っているのかと、束曰くこの世界は過去のデータだ。

 

データとはいえこの世界は生きている、それだけは信じることができた。

 

「ブレンと意志を交わせる貴女なら、すぐに蒼い雫の言葉が聞けるはずですよ」

 

「はい、ありがとうございます。それにわたくしは・・・」

 

セシリアはいつの間にかネリーに対し、自分の事を全て話していた。なぜ話したのか自分でもわからない、今話しておかないと必ず後悔するという予感めいたものがあった。

 

「そうでしたか。でも、今の貴女には信頼できる沢山の友人がいるのでしょう?勇みたいに」

 

「はい」

 

こうして会話しているがセシリアは妙な胸騒ぎを覚えた。ネリーが居なくなってしまう、それは予感ではなく確信に近いものだ。、

 

「ネリーさん」

 

「はい?」

 

「わたくし、貴女と出会えたことに感謝しますわ」

 

セシリアの言葉にもネリーは微笑みを見せているだけだった。セシリア自身も微笑みを見せる、今の二人には言葉でなくても通じ合える何かがあった。

 

 

 

 

吹雪が止んだ朝、勇、ネリー、セシリアはバロンズゥに襲われていた。セシリアはISを展開し二人から離れない位置で援護している。

 

「く、この女!私の邪魔をするのか!」

 

「お二人をやらせはしませんわ!攻撃が効かなくても!」

 

ライフルによる射撃を展開するがバロンズゥのチャクラシールドに阻まれてしまう。

 

「セシリアさん、自分だけと思わないで!それでは貴女のチャクラは通用しません!」

 

「セシリア!ネリー!俺達の事はいい!逃げてくれ!」

 

「そうはいきません!」

 

「わたくしも逃げるわけにいきません!」

 

バロンズゥが展開するフィンを回避し続けるが二機のブレンは被弾し、それによって窮地に追い込まれてしまう。

 

「とどめは一気に受けた方が楽だぜ!勇!」

 

「ああっ!くっ!」

 

「くうう!」

 

「ネリーさん!勇さん!」

 

「女ァ!余所見をしてるヒマがあるのかぁ!」

 

「はっ!?きゃあああっ!?」

 

二人に気を取られていたセシリアはバロンズゥの放つチャクラ光に被弾してしまい。それを見届けたジョナサンはすぐにブレン達を狙う。

 

ネリー・ブレンの一撃がバロンズゥを引き離すと同時に何かがブレン達を包み込んだ。

 

「リバイバルのブレード!?」

 

「な、何ですの!?あの現象は!?」

 

リバイバル。それはブレンパワード、もしくはグランチャーが生まれ出る現象だ。しかし、二体のブレンが巻き込まれる形になるという極めて珍しい現象が起こっている。

 

「中で何が起こってるんですの!?動かない!どうして!?」

 

セシリアは向かおうとするが身体が動かない、むしろ自分のISであるブルー・ティアーズが近づかないように引き止めているような感じだ。

 

「カーテンの向こうで何やってる!?」

 

ジョナサンはブレン達がいる場所へ攻撃を続けている。しかし攻撃が届くことはない、全てが吸収されているかのように。

 

『勇、忘れないで憎しみだけで戦わないでね?』

 

「ネリー・キム!」

 

リバイバルの中で二人が会話している中、ジョナサンはいつの間にか撤退しており、誰かを連れて行ったようだ。

 

 

勇がネリーの声を聴いている中、その声はセシリアにも聞こえていた。幻覚ではなくはっきりした声で。

 

『セシリアさん、貴女は自分の戻るべき世界で破滅と戦う事になるでしょう』

 

「ネリーさん?わたくしの世界で何が、破滅とは一体何ですの!?」

 

『忘れないで、破滅は憎しみや怒りでは決して倒せないの。希望と宇宙への翼である無限の成層を信じて』

 

会話している間にもリバイバルの光が薄れていく、少しずつ見えてくるのは青いブレンだ。

 

『蒼い雫の声を聴いてあげてね?貴女達はきっと掛け橋になれる』

 

「行かないで!ネリーさん!ネリー!!」

 

『貴女の力はもう目覚めています、きっとこの試練を乗り越えられるはずです』

 

「わたくしは・・・わたくしは貴女にお礼も言えなかったのに!」

 

セシリア自身も次の場所へ飛ばされる前兆のように光り始めていた。それに伴い、ネリーの姿も霞んでいく。

 

『この世界で貴女が倒すべき相手は怨念で戦ってきます。憎しみで戦わないで、セシリア』

 

「あ、あああああっ!ネリーーーーー!!」

 

セシリアは泣きながら必死に手を伸ばすが、その手がネリーに届くことなく、その涙と共に最終地点へとセシリアは跳ばされていった。




大切となった友人をセシリアは再び両親と同じように失ってしまいました。

ちなみにネリーは一度、セシリアの前に現れています。

次回はセシリアの個人ルートの決戦。

セシリアは倒すべき相手を倒せるのか?親と子の複雑さも学びセシリアは元の世界に戻れるのか?



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Ground Zero(セシリア編・最終)

セシリア、オーガニックを理解し野生をものにする。

以上




セシリア個人ルート最終です。



飛ばされた先には花畑が広がっており、一面自然に覆われていた。

 

セシリアにとってその風景は幻想的としか言いようが無かった。自分の世界では自然を見ること自体が難しく、花畑など本の世界での中だけでの想像でしか無かったからだ。

 

「綺麗・・」

 

花畑を眺めている中で勇と比瑪が互いに抱き合っているのを目撃した。二人の間には純粋な気持ちしかなく、何も卑しさがない。

 

「比瑪は強いな、その強さをブレンに分けて.くれないかい?」

 

「良いよ!ネリー・ブレンが嫌でなければ!」

 

比瑪が両腕を広げてネリー・ブレンに強さを分け与えようとしていた。その姿は同性であっても見惚れるほどに美しく映る。

 

「セシリアさん?」

 

「え?」

 

「あ・・・」

 

二人に見惚れていたセシリアは見つかってしまい、気まずそうに目を逸らした。比瑪はそんなセシリアを気にした様子もなく笑顔のまま近づいて来る。

 

「セシリアさんも、ほら!」

 

比瑪は笑顔でセシリアの手を握る、その手は暖かく力強さすら感じるようだ。

 

「セシリアさんだってブレン達と心を通わせられるんだよ?だって本当は優しいから!」

 

セシリアは比瑪の言葉を聞き、二人のブレンを見る。ブレン達は合図のように目を光らせる、それはまるで比瑪の言葉を肯定しているかのように。

 

「わたくしが・・・」

 

二人はそれぞれのブレンパワードに搭乗し、オーガニックエナジーに反応する花からエナジーを受け始めた。

 

セシリアもブルー・ティアーズを展開しエナジーを浴びる。ISであるはずのブルー・ティアーズが輝いているように感じていた。

 

蒼い雫。仲間が出来た国での呼び名、その意味をセシリアは考える。自分のISの名を何故、蒼い雫と名付けたのかと。

 

ISは宇宙へ行くためのものだと勉強した、宇宙から見た地球の映像も思い出す。蒼い地球は宇宙の中にある一滴の蒼い雫、その意味が込められているのではないかと。

 

「故郷である星の名を持つ・・・それがわたくしのIS」

 

名の意味に到達したと同時に勇とセシリアは何かを感じた。その瞬間、現れたのが白いアンチボディ、グランチャーバロンズゥだ。

 

「あれは!?」

 

「(あの時に感じた凶暴さがありませんわ。その代わり深い怨念のようなものが)」

 

バロンズゥに対し、セシリアは違和感を感じていた。ここに飛ばされる前に戦ったジョナサンから感じられた凶暴さが無いのだ。

 

フィンを展開し、勇を執拗に狙っている。その様子を冷静に観察しある結論に達した。

 

「勇さん、あれはジョナサンという方ではありません!別の誰かですわ!」

 

「何!?その者、やめろ!」

 

フィンを切り払うが瞬く間に再生し、追撃してくる。セシリアも勇を援護するがやはりチャクラシールドに攻撃が阻まれてしまう。

 

「っ!」

 

「セシリア!お前の攻撃は届かない!離れろ!」

 

「伊佐未勇、死ねよぁ!」

 

絡め取られたブレンバーを取り戻し、チャクラ光を弾丸として放つがそれすらも今のバロンズゥは意に介さず攻撃を続ける。

 

「わたくしは・・・わたくしは諦めませんわ!必ず届かせてみせます!」

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『野生化のチャクラ』発動]

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が発動した事でセシリアはバイタルネットやチャクラの流れを読むことができるようになっていた。

 

この状況で発動した事に意味を見出す事がセシリアには出来ていた。セシリアが忘れていたのは諦めずに何かを守ること。

 

失ってしまっても自分が大切だと思うものを守っていきたいという決意こそがブルー・ティアーズの単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を発動させる鍵だったのだ。

 

「この世界でもわたくしは負けませんわ!行きなさい!ティアーズ!」

 

強化された全てを使うのではなく、ブルー・ティアーズの基本戦法に戻す事でバロンズゥと戦おうと考えた。

 

チャクラの光を帯びた弾丸はバロンズゥのチャクラシールドを貫通し、ビットからのレーザーもチャクラの光を含んでダメージを与えていた。

 

「お前も私の邪魔をするのか!?ジョナサンの敵か!セシリア・オルコット!なら、見ていなさいジョナサン!貴方の敵は私が全て排除する!」

 

「この方、もしや・・」

 

「アノーア艦長?」

 

「我が力を使え!そして、息子の為に死ねぇー!」

 

バロンはバロンズゥに自分のエナジーを吸わせ、巨大化させていく。それはまるで命を捨てる事も厭わない特攻する人間を思わせる。

 

「そんな・・自分の命を」

 

「二人共、あの人を止めないと大変なことになる!」

 

比瑪の言葉に勇とセシリアはバロンに対し、何かを感じ取った。それは親として子供に何も出来なかった後悔を出しているようだった。

 

「比瑪、合わせろ!」

 

「お前の願いは私が叶えてやる!」

 

二体のブレンパワードが並び立ち、ブレンバーを構えると同時にバロンズゥに二体分のチャクラ光を放つ。

 

「「チャクラエクステンション!」」

 

「バローーン!!」

 

「こんな事ではー!!」

 

突如としてジョナサンが現れ、守るかのようにチャクラエクステンションを弾き消した。バロンからくる思いはジョナサンへの異常なまでの思いだ。その思いを攻撃的になるまでバロンズゥへ送り続けている。

 

「落ちない?」

 

「これが怨念で戦うということですの?」

 

「勇・・・」

 

巨大化したグランチャーは三人に迫るとフィンを使い、変則的な攻撃を仕掛けてくる。刃を切り払ったり、回避し続けているがこのままでは追い詰められていく一方であった。

 

「私の思いを受けて誕生したバロンズゥは無敵である!」

 

最早、暴走と何ら変わりのないバロンは勇を殺すことしか考えていなかった。それだけが息子の望みであると解釈しているがゆえ、それしか考えていないのだ。

 

「勇さん!比瑪さん!三人のチャクラを合わせましょう!」

 

「え?」

 

「そんなことをすれば!」

 

「いいえ、あの方を戦いから解放するのにはそれしかありませんわ!」

 

「あの人を」

 

「戦いから解放するだって?」

 

二人はセシリアから聞かされた言葉に驚きを隠せないでいた。バロンを倒すのではなく、戦いから解放すると言ってきたからだ。

 

「信じてください!この機会を逃したらあの方は目的を果たしたとしても、罪悪感に囚われたままになってしまいますわ!」

 

「セシリアさん、うん!わかったよ!勇!」

 

「ああ!」

 

「いきますわよ!」

 

セシリアを中心に比瑪が左に勇が右にピタリと密着し、ブレンバーを構えセシリアは銃弾の無いライフルを構えた。

 

銃弾は必要ない、ただブレンバーに集まるエナジーを増幅させればいい。自分はそのためのトリガーだ、そうすればバロンズゥも大人しくさせる事ができると確信を得ている。

 

「1!2!3!」

 

「ブルー・チャクラ・エクステンション!」

 

「「シュートォォォォ!!」」

 

三つの光が重なり、宇宙から見た地球を連想させるようなチャクラ光が巨大化したバロンズゥを捉え、鼓動を打っている頭部を破壊すると同時に包み込んだ。

 

「何・・これは・・?」

 

「もう、良いでしょう?アノーアさん。貴女はやり直せる機会を得たのですから」

 

「セシリア・オルコット・・・貴女は」

 

「わたくしはもう、向き合うことも話すことも出来ません。でも、貴女達はまだどちらも出来るのですから」

 

蒼い光から解放されたバロンズゥは眠っているかのように動きを止めていた。それをジョナサンのグランチャーがバロンズゥを支えながら着地させていく。

 

コクピットからはジョナサンと勇の声が飛び交っている。だがセシリアはそれを見ているだけだった。自分はこの戦いで家族の複雑さ、人との向き合い方を学んだ。

 

それ以上に親が生きている二人が純粋に羨ましかった。向き合うことが出来る、やり直すことの出来る二人が。

 

「わたくしはここから離れないといけませんわね・・」

 

「やったんだよね!セシリアさん!あれ?セシリアさん・・・身体が!?」

 

比瑪が駆けつけると同時にセシリアは身体が光の粒子に包まれ始めていた。それはまるで此処に居たのが泡沫の夢であるように。

 

「わたくしの役目は終わってしまったようですわね・・・元の世界に帰らないと」

 

「帰るの?せっかくお友達になれたのに・・」

 

「何処かでまた会えますわ、きっと」

 

セシリアの表情はもう見えなくなっていた。光が大きくなり顔を覆い隠しているためだ。

 

「うん、またね!セシリアさん!」

 

「比瑪さんもお元気で。勇さんにも伝えておいて下さいね」

 

挨拶を終えると同時にセシリアは姿を消した。比瑪の顔に涙はない、あるのは笑顔と再会の約束だけだ。

 

「私は忘れないから」

 

比瑪の呟きはオーガニックエナジーに乗り、オルファンへと消えていった。

 

 

 

 

元の世界にある束の研究室、カプセルらしき装置から目覚めたセシリアは起き上がるとすぐに口を開いた。

 

「篠ノ之博士。セシリア・オルコット、帰還しましたわ」

 

「!ああ・・よかったぁ!君が帰還者第一号だよぉぉぉ!」

 

束は思いっきり安堵しており、その場でへたり込んでしまった。今の束は自分以外の人間は違った方法で生きているという一般的な認識があるため、気に入った人物以外とのコミュニケーションが出来るようになっていた。

 

「どうしたの?何かを掴んだような目をしてるけど?」

 

「いえ、自分が出来る事と欲しかった物が分かっただけです」

 

「そっか、データと機体整備するから休んでて」

 

「整備は必要ないのでは?」

 

整備をするという言葉にセシリアは疑問を抱いたが束はすぐに答えつつ、コンピュータのキーを叩いていた。

 

「束さんの勘なんだけど、機体自体が今の君に着いて行くのがやっとのはずだから整備と改修もやっちゃうよ」

 

データによる総仕上げとはいえ、本当の生き死にを経験したセシリアの変化を束は見抜いていた。今のセシリアは己の中の野生を『厳しさ』オーガニックエナジーを『優しさ』として自分の中でものにしている。

 

優雅さは競技として魅せればいい、戦場では本気で殺し合う覚悟で戦えばいい。今までの自分では考えられなかった考えを持ち始めていた。

 

初めて政征と戦った時と同じ、自分が本当に死ぬのではないかという恐怖を再び味わい、自分が何を求め、なぜ戦うのか答えも得る事が出来た。

 

「もし、再会できるならデータでの世界ではなく・・この現実でお会いしたいですわ。比瑪さん」

 

データの世界で出会った相手へ、呟いた声が届くことを願いセシリアは束の言葉に従い、休息を取る為にクロエのもとへと向かっていった。

 

 

 

 

とある孤児院。そこでは子供達の面倒を見る一人の少女が青空を見上げていた。周りには幼子達が服を掴んだりして少女に声をかけている。

 

「なんでかな?どこかで誰かと出会うような気がする」

 

少女にとってそれはただの予感めいたものだ、確信はなく記憶にもない。名前も知らない相手と出会うというただの予感。

 

そんな予感は普通ならば流してしまうだろう。しかし彼女、宇都宮比瑪は流すことをせず、子供達を説得した後に自分の大切な相棒がいる場所に歩いて行った。

 

「君も出会う予感がするの?」

 

そこにはアンチボディ・ブレンパワードが座っており、比瑪の言葉を肯定するように目にあたる部分が光りだす。

 

「きっと、良いお友達になれる人よ!ね?ブレン」

 

ブレンは再び肯定する意志を見せ、比瑪に合図する。セシリアと比瑪の想いはオーガニックエナジーの流れに乗り、消えていった。




よ、ようやく書けた・・。

個人ルートがこんなにもキツイとは思いもしませんでした。

セシリアにブレンパワードを当てた理由は「頼まれなくたって生きてやる」というキャッチコピーと家族という部分ですね。

特にクリスマスプレゼントの部分はセシリアにとって最も大人になる糧に出来たのではないかと思います。

遺産狙いの自称家族、両親の本質が分からないなど共感部分もあるかと。

もしも最初期のセシリアのままだったら、ジョナサンの言葉を全て肯定しているのではないでしょうか?

ブレンパワードの原作も観ましたが親子の擦れ違いや自分はどう戦っていくのかと、一番セシリアが成長出来る環境だと個人的に思いました。

次回は鈴ルートに入ります。

鈴にとって鍛えてもらった修行よりも辛い場面を見る事になりますね。

ラオタン島のデビルガンダムと言えば、確か二人の兄が・・・。

ひょっとした鈴がモビルトレースシステムを使うかも?

乗せる?乗せちゃいます?モビルトレースシステムに。


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FLYING IN THE SKY(鈴ルート編)

鈴がファイターに!?いきなりの決勝リーグ

鈴の個人ルート

以上



さて、皆さん。

ネオホンコンの首相権限によって決勝リーグに現れた、新たな謎の女性ファイター。

彼女の駆るジャオロンガンダム、ファイターは凰 鈴音(ファン リンイン)。我々の知るネオチャイナの代表と似て非なる者のようです。

波乱の予感のする今大会、彼女はどんな戦いを見せてくれるのか。そして何故、彼女がこの世界に来たのか?大きな謎が深まるばかり。

それでは!

ガンダムファイト!レディーーー!ゴー!!(秋元羊介ボイス)


鈴は目を覚ますとホテルのような一室のベッドで横になっていた。私服もIS学園の制服も置いてあったため、起き上がると急いで着替えた。

 

「どこよ、一体ここは!?」

 

着替えが終わると同時に扉をノックされ、誰かが入ってくる。サングラスにスーツを着た男性と紫色の拳法着を着込んだ男性だ。

 

「凰 鈴音さんですね?」

 

「ええ」

 

「(この小娘、良い目をしておる。まだまだ荒削りだが素質は目覚めておるな)」

 

スーツを着た男性は笑みを見せているが鈴にとってその笑みは気持ち悪く、嫌悪感を醸し出していた。

 

「私はネオホンコン首相、ウォン・ユンファと申します。早速ですが首相権限で貴女にはガンダムファイトに参加して欲しいのですよ」

 

「ガンダムファイト?・・ああ、でも私に機体は無いし、所属国もチャイナだから無理よ」

 

「そこは問題ありませんよ。特別枠としていますし、貴女にはそれだけの実力がありますからね」

 

鈴も二人の名前、この世界の傾向などが頭の中に浮かんできた。サイトロンに最も順応しているからこそ適応も早かった。

 

「機体に関してはすぐに用意できますからね。待っていてください」

 

ウォンは出て行き、部屋には拳法家らしき男性が残った。二人の間には緊迫した空気が流れており、部屋に飾られていた植物の葉が落ちると同時に男性の方が格闘を仕掛けた。

 

「ぬおおおああ!!」

 

「っ!たあああ!」

 

男性の拳に合わせるように鈴も拳の弾幕を仕掛け、二人の拳がぶつかり合うと同時に動きが止まる。

 

「(ほう?流派・東方不敗に着いてくるか、此奴、腕には多少なりとも実力があるようだな)」

 

「(この人の拳の弾幕、まるで私を鍛えてくれた日本人の格闘家と似ているわね)」

 

二人は拳を離し、向き合うと男性の方から鈴へと言葉を発した。

 

「荒削りだが実力はあるようだな。名乗っておこう、ワシは東方不敗・マスターアジア」

 

「凰 鈴音です。私はまだまだ未熟ですからね、つい最近になって鍛えられた身ですので」

 

「そうか、決勝バトルロワイヤルで待っておるぞ。勝ち上がってくるがいい」

 

東方不敗も部屋を出ていき、部屋には鈴だけが残った。一人になると同時に鈴は床に手を着け、大量の汗を流している。

 

「はぁ・・はぁ・・なんなのよ、あの人。着いていくだけで精一杯だった・・それに」

 

鈴は自分の手を見る。その手は震えており収まる気配がない、それは高揚であると同時に恐怖でもあった。

 

「あの人は鍛えてくれた人以上に強い、今の私ならわかる」

 

本当の実力者というのは対峙した相手の実力を推量る事ができる。そのせいで鈴はマスターアジアとの実力差が分かってしまったのだ。

 

「爪龍・・・一緒に戦ってくれる?」

 

待機状態の爪龍を見つめながら鈴は考えていた。この世界から自分の世界へ帰る方法を探らなければならない。その為に今できることに集中しようと。

 

 

 

 

翌日、簡単な素体のMF(モビルファイター)を渡されると同時に試合が六時間後にあることだけを伝えられた。

 

対戦相手はバイキングガンダムと表示されており、自分の機体がISではなくMFとして紹介されている。

 

「まさかと思うけど・・・翳しただけで機体になるなんて無いわよね?」

 

鈴は素体のMFに近づき待機状態となっている爪龍を翳すと機体が変化し、元の世界で改修の際にデータを見せられたクストウェル・ブラキウムと似た姿へと変わり、頭部はこの世界の機体と同じ物、更には自分の愛機の素体となった甲龍と同じ機体色の色が付いた。

 

「これがガンダムって奴なの?」

 

自分が呼ばれてしまった世界に順応したという形で鈴は納得し、試合に備えることにした。

 

 

 

六時間後、試合会場では観客たちが今か今かと試合を待ち望んでいた。船からの観戦が主な為、戦いの場となる場所では船が大量に留まっている。

 

「さぁ、強豪ネオノルウェーのバイキングガンダムが会場に到着しました!対戦相手は!」

 

実況の女性が新たに入った情報を観客に伝えるための紙を手渡された。

 

「ここで、急報です。ネオホンコンのウォン首相からメッセージがあります!」

 

首相であるウォンは放送用マイクに向かって話し、会場にいる全員に伝え始めた。

 

「皆様、ネオホンコンのウォン・ユンファです。今回、この決勝リーグにおいてスペシャルサプライズを用意しました。エキサイティングなファイトを期待できる相手として私が推薦したファイターです!それでは登場して頂きましょう!ジャオロンガンダムに!!」

 

ウォンの言葉と同時に鈴は生身でバトルステージに姿を現した。しかし観客達は大ブーイングだ。無理もないだろう、いくら宇宙国家の主導権を握っている首相の推薦とはいえ見ず知らずの少女が戦うとなれば期待は出来ない。

 

だが、鈴はそんな事は何も意に介していない。このブーイングは当然といえば当然の事、自分の世界で例えるなら世界大会であるモンド・グロッソに委員会推薦で突然参加が決まったようなものだからだ。

 

「来て!ジャオロンガンダーーーーム!!」

 

 

[推奨BGM『燃え上がれ闘志 忌まわしき宿命を越えて』原曲]

 

 

鈴は深呼吸すると同時に声を張り上げ、指を鳴らした。その音が合図となったのか海中からMFと融合した爪龍が現れ、鈴はそれに乗り込む。

 

衣服は粒子化し、拡張領域に入ると操縦方法であるモビルトレースシステムが作動する。

 

「え?な、何よこれ?うあああああ!?」

 

MFの操作を伝達する為のファイティングスーツが裸体の鈴に張り付いていく。初めて乗り込んだ為、その苦しさは強力な万力で身体を締められているような錯覚に陥るくらいの締めつけだ。

 

「んうう!ああああん!んぅああ!キ、キツすぎるわよ!これ!」

 

張り付きが完了した部分を引きちぎっていくと同時に全身に完全なファイティングスーツ姿となり、コンピューター音声が流れる。

 

『モビルトレースシステム、セットアップ。脳波、血圧、心拍数、呼吸、体温、代謝機能、オールグリーン』

 

「はああああ!はっ!はぁ!!てえええい!たあっ!」

 

鈴が演武を披露し、MFの姿となった爪龍が全く同じ動きをトレースしている。その演武は美しく観客や他のファイター達も引き込まれるほどだ。

 

「待たせちゃったわね、改めてファイトしましょうか?」

 

「ふん、良いだろう。小娘の相手というのは癪だがな!!」

 

「それじゃ改めて!ガンダムファイトォォォ!」

 

「レディィィィ!!」

 

「ゴォォォ!」

 

同時に突撃し、二体のMFの拳がぶつかり合う。お互いに一歩も譲らない戦いに観客達は歓声を上げだした。

 

鈴の戦いを見始め、先程までのブーイングが嘘のように応援が飛び回っている。

 

「ふん、小娘ごとき敵ではないわぁ!!」

 

「小娘だからって舐めないでよね!っう!?」

 

「この程度の実力で参加できたものだな!」

 

「がはっ、あうっ!(この機体、よく動ける代わりにダメージもパイロットにそのまま来るの!?これは応えるわね・・)」

 

機体に慣れていなかったせいか、バイキングガンダムの反撃を食らってしまい追撃をも受けてしまう。

 

バイキングガンダムのパイロットは鈴に対して完全に眼中にない状態だ。ガンダムの姿となった爪龍に慣れていない鈴に対し、船のオールのような武器で殴り続けた後に足で踏み始める。

 

爪龍にダメージが入り、装甲などが剥がれていくが鈴は攻撃を受け続けている。

 

しかし、あえて攻撃を受ける事こそが鈴が付け入る隙でもあった。実力が自分よりも下だと思い込んでいる相手の対処方法は身体が覚えている。

 

「もらったぁ!」

 

「させないわよ!!」

 

バイキングガンダムが振り下ろしたオールを鈴は白刃取りの要領で挟み込んで止めた。その技量に観戦していた観客やファイター達も驚愕する。

 

「な、何!?」

 

「たかが小娘でも、鍛えれば強くなれるのよ!私は例え格上でも食らいついてやるわ!」

 

「ぬううう!!」

 

得意の蹴り技でバイキングガンダムを蹴り飛ばすと同時に鈴は智拳印を結び、精神を集中させる。決して自分を熱くさせず、相手を制する事が戦いの本質だという事を己に戒めた。

 

瞬間、鈴は自分を鍛えてくれた五人の格闘家のように身体を黄金色に輝かせた。その影響は愛機である爪龍にも及び、文字通り人機一体となっている。同時に両肩にあるブロークン・アームが右手に装着されていき鈴はオルゴンを集中させていく。

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『明鏡止水』 発動]

 

 

 

[推奨BGM『我が心 明鏡止水 されどこの掌は烈火の如く』原曲]

 

 

「私のこの手が輝き唸る!勝利を掴めと叫びを上げる!」

 

「な、なんだこれは!」

 

「爆光!オォォォルゴン!フィンガァァァ!!」

 

オルゴンエネルギーをブロークン・アームに集中させたまま鈴はバイキングガンダムの胸部に爪を立て、そのまま持ち上げた。

 

「ぐああああああああ!?」

 

オルゴンフィンガーを受けたバイキングガンダムはコクピットに電流が流れている。同時にオルゴンエネルギーが送り込まれ、結晶化していきそれが凄まじいダメージとなっていた。

 

「ブラキウム・エンドォ!!」

 

フィニッシュを宣言すると同時にバイキングガンダムから発生した結晶が爆発を起こし、パイロットは投げ出された。しかし、派手な爆発とは裏腹に機体損傷も酷くなくパイロットに大きな怪我もない。

 

「な、なんだと!?こんな小娘に加減されたとでもいうのか!?」

 

「加減なんてしてないわ、私は全力で本気だったわよ」

 

鈴の言葉に一切の嘘偽りは無い。事実、爪龍の方がダメージが大きく装甲などがひしゃげている。

 

「おのれ、この借りは必ず返すぞ!」

 

「戦う機会がまたあればね」

 

「大番狂わせ!首相推薦枠のジャオロンガンダムが強豪バイキングガンダムに逆転勝利しました!」

 

実況の声に会場の観客たちが沸き上がる、ファイティングスーツのままコクピットから出てくると更に盛り上がった。特に男性達からの声援がすごい。

 

「おっと!?登場時はカメラで上手く確認できませんでしたがパイロットは女性のようです!それも十代半ばでしょうか?」

 

映像で見るためのカメラに鈴の顔が映し出され、モニターに映った鈴の顔を見てますます男性達は盛り上がっている。

 

「これじゃ、ファイターというよりアイドルじゃない。はぁ・・」

 

鈴は呆れたようにため息をつくが鈴が仕草をするだけで観客達は盛り上がり続けていた。十代半ばの女性ファイターともなれば仕方ないことだろう。

 

「帰って次の相手の対策考えなきゃ・・・」

 

鈴は爪龍と共に試合会場を後にし、ホテルへと戻っていった。それを見届ける一人のファイターがいた。

 

「あの娘、どうやら見込みがありそうだな」

 

ドイツの国旗のような色をした覆面の男は鈴に対し、何かを見出していた。しかし、この出会いが鈴にとって大きな成長と共にそれ以上の悲しみを受ける事になるをまだ知らなかった。




鈴の個人ルート開始です。

しかもいきなりの決勝リーグ、爪龍がISの要素を持ったモビルファイターになってしまいましたがデータ世界での限定です。

所属国家は一応、ネオチャイナとなっていますがこれは便宜上で鈴に所属国家はありません。

この世界で鈴は鍛えてくれたシャッフル全員とも戦うことになります。弟子が師を越えるような感じで。

さて、お聞きしますが鈴がモビルトレースシステムを起動した時に張り付いていく過程をエロい方向で妄想した方は正直に答えてください。

ファイティングスーツ姿の鈴を描くかもしれません


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勝利者たちの挽歌(鈴ルートその2)

ゲルマン忍者が鈴と接触し対戦。

旧シャッフル同盟と邂逅する。

新シャッフル同盟との戦いを組まされる。

以上


さて、皆さん。

見事に実力を世界に示したジャオロンガンダムのファイター、凰 鈴音(ファン リンイン)。

その破竹の勢いは止まらず並みいる強豪を打ち倒し、ついにはコロニー格闘技五天王であるシャッフル同盟への挑戦権を獲得したのです。

彼女自身は彼らに鍛えられたそうですが事実は分かりません。しかし、彼女の実力が彼らに迫るものがあるのも確かです。

それでは!

ガンダムファイト!レディーーー!ゴー!!(秋元羊介ボイス)


決勝リーグでのバイキングガンダムの一戦以降、鈴は全勝で勝ち進んでいた。未だ戦っていないのはネオスウェーデンのノーベルガンダムとシャッフル同盟の五人、そしてタッグを組んでいる二カ国だった。

 

「はぁ!たぁ!!」

 

鈴は試合に備え、身体を鈍らせないように軽めのトレーニングをしていた。次の試合の相手はネオドイツのガンダムシュピーゲル、試合を全て見てきたがまるで日本の忍者のような攻撃を仕掛けてくる。

 

「たとえ誰が相手でも制するのみ!それが今の私に出来る最大限の事よ!」

 

「ふはははは!制するとは倒す事よりも難しく険しい道だぞ!」

 

「!?誰!」

 

壁の影から現れたのはドイツの国旗の色をした覆面の男だった。実力を付けた鈴でさえ見抜けないほどの気配消しに流石に警戒を隠せない。

 

「見た所、明鏡止水の境地に至ってはいるようだな?」

 

「っ!?なんでそれをアンタが・・・それ以前に一体誰よ!」

 

「私の名はシュバルツ・ブルーダー。お前の次の対戦相手、ネオドイツのファイターだ!凰 鈴音よ」

 

鈴は更に驚いた自分の次の対戦相手が目の前に現れた事もそうだが、何よりも自分が目指す境地に関して知っている事の方が驚きだからだ。

 

「お前の明鏡止水は機体によるものだろう。己自身の心では至れていない、違うか?」

 

「それは・・・」

 

この男、シュバルツに自分の心を見抜かれていた。自分は明鏡止水の境地に至れたものだと思っていたが実際は機体に乗らなければ発動できず、目覚めた境地の欠片が単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)として体現したに過ぎない。

 

「試合当日の日、お前の明鏡止水の心を目覚めさせてやろう。さらばだ!」

 

「あ、ちょっと!」

 

既にシュバルツは姿を消していた。鈴の明鏡止水に足りないもの、それは本当に殺すつもりで向かってくる相手と対峙していない事だった。追い詰められる事は多々あったが自分が本当に死ぬという恐れを経験していない。

 

「どういうつもり、敵陣視察だったの?」

 

鈴の疑問は風の中へと消えていった、次の試合の相手への疑問が晴れないまま試合当日となった。

 

 

 

ガンダムシュピーゲルとジャオロンガンダム、この対戦を逃さずに見ようと観客を乗せた船が続々と集まり、その中で鈴は戦いの舞台となる海上ステージに立っていた。

 

「凰 鈴音、わざわざ機体に乗らずに来たのか?」

 

「呼ぶ方がしっくりくるのよ、来て!ジャオロンガンダーーーム!」

 

鈴が指を鳴らすと海中から爪龍が現れ、鈴は機体に乗り込む。衣服が粒子化し裸体となった鈴に対してモビルトレースシステムが作動する。

 

「んううう!く・・・ああああっ!!」

 

二回目の搭乗で少し慣れてきたのか、以前ほど締めつけが緩和されているがそれでも装着の苦しさは変わらないままだ。

 

「あ、んぅうう!このキツ・・さ、やっぱり・・んうううう!!慣れ、ない・・わね!」

 

「くううう!んああああああ!!」

 

ファイティングスーツが鈴の全身に張り付いていき、腕と足のスーツフィルムを引きちぎっていく。それと同時に龍爪が起動し鈴は確かめるように演舞を繰り返す。

 

「はぁぁぁ!はっ!いやあああ!たあっ!準備できたわよ!」

 

「緊張はしていないようだな、ならば!ガンダムファイトォォ!」

 

「レディィィ!」

 

「ゴォォー!!」

 

青竜刀とシュピーゲルブレードがぶつかり合い、衝撃波が走る。実力は明らかにシュバルツが上だ、鈴はそれでも食らいついていく覚悟で戦いに臨んだ。

 

「はぁあああ!」

 

「甘いぞ!凰 鈴音!」

 

鈴は青竜刀で斬りかかるが残像を残しながら回避され、全く攻撃を当てる事が出来ずにいた。

 

「くっ!」

 

「そらそらそらそらそら!!」

 

一瞬の隙をついてシュバルツはメッサーグランツと呼ばれるクナイ型の爆弾を連続で投げつけられ動きが止められてしまう。

 

「このぉ!舐めるなぁ!!」

 

青竜刀を連結させ、まるでブーメランのように投擲し、それを相手に回避させるとその軌道上に向かい、両刃となった青竜刀の柄をキャッチする。

 

「ほう?なかなかの機転の利かせ方だな?わざと私に回避させる事で間合いを取り直すとは」

 

「どんな事でも勝負なら私だって負けられないのよ!」

 

再び刃による戦闘が再開され観客の興奮も最高潮に達している。対戦相手であるシュバルツよりも実力が下であるはずの鈴が食らいついていく戦いに子供達は勇気づけられ、他のファイター達も戦いの火を着けられている。

 

「ならば、私も見せよう!本気の全力をなぁ!」

 

シュバルツはシュピーゲルブレードを構えると回転し始め、ステージを回り始める。

 

始めは遅く回り続けていたが次第に速くなっていき、その速さで分身しているようにも見える。

 

「な、なんて速さなのよ!?嘘!ハイパーセンサーでも見切れないなんて!」

 

MFと融合したとはいえISの基本的な機能を持っている爪龍は一般的なMFよりもセンサーや防御機能などが優れている。

 

その機能をもってしてもガンダムシュピーゲルの動きが全く捉えられないのだ。

 

「シュトゥルム!ウント!ドランクゥゥゥゥ!!」

 

高速回転したガンダムシュピーゲルに捉えられ、鈴は直撃を食らい回避も防御も出来ずに攻撃を受け続けてしまう。

 

「うああああ!あぐうううぁあ!」

 

少女が出すべきではない声を上げ続け、鈴は倒れてしまいジャオロンガンダムも同じ姿で火花が走っている。

 

「さぁ、心静かに死ぬがいい!凰 鈴音!!」

 

シュピーゲルブレードを鈴が搭乗している位置に突き立てようと迫ってくる。

 

「(死ぬ?私が!?本当に!?政征、雄輔、シャナ=ミア、セシリア、シャルロット、ラウラ・・全てが過ぎ去っていくこの感じ、似てる?あの時と・・でも、全然違う)」

 

鈴はこれから本当の死を迎える寸前だというのに仲間の事が思い浮かび、恐れも蟠りも悲しみも溶けていく感覚に身を任せていた。

 

これはかつての格闘訓練の時に僅かながらに至れた境地や大勢の敵と戦った時に単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が発動した時と似ていた。

 

「(負けるな!鈴!)」

 

「(そうだ、俺達も待っているぞ!)」

 

「(頑張ってください鈴さん!)」

 

「(そうですわ!鈴さん)」

 

「(鈴がいないと意味がないよ!)」

 

「(鈴、私達は互いに高め合っていくと約束しただろう!)」

 

「見えた!見えたわ!本当の水の一雫!!」

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)更新 『真・明鏡止水』発動]

 

鈴はシュピーゲルブレードを受け止めるとは同時に突き飛ばすように蹴り技を繰り出し、間合いを開いた。

 

「っ!!そうだ。出来たぞ!凰 鈴音。それこそまさしく本当の明鏡止水だ」

 

それと同時に立ち上がり、智拳印を結ぶ。今まで発動していた『明鏡止水』とは違い、鈴が元から持っている天真瀾漫な心が爪龍に力を与え輝いている。

 

「ありがとう、シュバルツさん。でも、勝負は別よ!」

 

「良かろう!ならば心して受け止めて見せよう!お前の全力を!」

 

爪龍はショルダーパーツを右腕に装着し、決着をつけるために構えを取る。ガンダムシュピーゲルも必殺技を繰り出すための構えを取る。

 

「私のこの手が輝き唸る!勝利を掴めと叫びを上げる!爆ァァ光!」

 

「オォォォルゴン!フィンガァァァ!!」

 

「うりゃああああああああ!!」

 

爪龍のオルゴンフィンガーとシュピーゲルのシュトゥルム・ウント・ドランクがぶつかり合い、凄まじい光がステージ内で輝きだす。

 

光が消え、二体のガンダムが現れるが彫刻のように動かないままだった。

 

「よくぞここまでたどり着いた・・・良いファイトだったぞ」

 

「えへへ・・次は・・絶対・・負けないん・・だ・・から」

 

倒れたのはジャオロンガンダム。つまり鈴が敗北した事を意味する。シュバルツの腕に支えられ、その顔に悔しさはなく年相応の笑みを浮かべていた。

 

「ガンダムシュピーゲルの勝利です!」

 

実況が勝敗を発表するが、観客や他のファイター達は勝敗以上の勝負を見せてくれた二人に拍手や喝采を送っていた。

 

 

 

 

 

気を失った鈴はまどろみの中で一人、廃墟のような街の中に立っていた。誰もいない街に佇んでいると声が聞こえてきた。

 

「ようやく出会えましたね。凰 鈴音」

 

「誰!?」

 

「我は・・・!ブラック・ジョーカー!」

 

「クラブ・エース!」

 

「クイーン・ザ・スペード!」

 

「ジャック・イン・ダイヤ!」

 

「「「「我等!シャッフル同盟!!」」」」

 

鈴の目の前に現れたのは自分が知るシャッフル同盟とは違う四人だった。それぞれが圧倒的な実力者であることが鈴自身にはわかる。

 

「シャッフル同盟!?私を鍛えてくれた人達とは全然違うじゃない!」

 

鈴が自分を鍛えてくれた五人に対しての言葉を発するとリーダーらしき女性が笑みを深くした。

 

「その者達は我等の後継者」

 

「次世代へと繋いだ若き獅子たち」

 

「ゆえに我らは肉体を持たぬ身」

 

「ここにいるのは魂の存在にすぎない」

 

それぞれが言葉を発し、理解した。この方達は何かを伝える為に自分の目の前に現れたのだと。

 

ブラック・ジョーカーと名乗った女性が代表し、鈴へと歩み寄り彼女の肩に触れた。触れられた肩が暖かくなり、手の甲に熱が篭る。

 

「何!?右手が熱い!何をしたんですか!?」

 

「貴女の中にある命の力を目覚めさせました。貴女は自分が帰るべき世界で破滅と戦わねばならぬ宿命」

 

「破滅?」

 

「その為にも貴女はこの世界の試練に打ち勝たねばならない」

 

「それこそがこの世界に呼ばれた意味」

 

「破滅は確実に蝕み始めている」

 

「試練を乗り越えよ凰 鈴音」

 

旧シャッフル同盟の四人は鈴に対し試練を乗り越えろと言っている。しかし、鈴にはその試練が何なのか分かっていない。言葉を発しようとしたが旧シャッフル同盟の四人が光に包まれていく。

 

「ま、待ってください!まだ聞きたいことが!」

 

「貴女には試練と共に大きな悲しみがやってきます。それを乗り越え破滅と戦うのです!」

 

ブラック・ジョーカーの言葉を最後に四人が消え、それと同時に鈴は目を開いた。

 

目を覚ました場所は自分が特別権限で宿泊しているホテルの自室だった。

 

「誰かに運ばれたのかしら?痛っ!流石に軽い怪我くらいしてるわよね」

 

痛みが走った自分の右手に視線を落とす、そこには赤い光が灯っていた。痛みは一瞬で手の甲に何かが浮かび上がった。

 

「これって、鍛えてくれた人達が持ってた紋章と同じ?でも、どうして」

 

少しでも情報が欲しかった鈴はテレビの電源を点けた。それと同時に対戦相手の発表がされる放送らしく鈴は食い入るように観ている。

 

「さぁ!惜しくもガンダムシュピーゲルに敗れてしまったジャオロンガンダムですが、次の対戦カードはなんと!そのジャオロンガンダムがコロニー格闘技五天王であるシャッフル同盟と一人ずつ戦う好カードです!」

 

「なんですって!?私があの人達と戦うの?」

 

「注目の初戦はネオアメリカのガンダムマックスター!チボデー・クロケット選手VS首相推薦のジャオロンガンダム!ファン・リンイン選手の一戦です!!」

 

「ウッソぉ!?ボクサーの人じゃない!痛っ!?」

 

鈴の右手の甲には紋章の一つであるクイーン・ザ・スペードが浮かび上がっていた。

 

「こういう事だったの、対戦相手の人と同じ物が浮かび上がってるじゃない」

 

次の対戦相手であるシャッフル同盟のメンバーと戦い、勝利する。それが自分を鍛えてくれた五人への恩義になると鈴は考えていた。

 

「元の世界に帰る前に色々とやらなきゃいけない事が増えちゃったわね」

 

鈴の目には闘志が宿っていた。いままで指導してもらうだけで戦える機会がなかった、一度だけでもいい鍛えてもらった五人と全力で戦いたいと鈴は思っていた。

 

データの世界とはいえどようやくその夢が叶う時が来た。鈴の顔には笑みが浮かんでおり、待ちきれない様子だ。

 

「必ず勝ってみせるわ!それが私からの恩返しなんだから!!」 




鈴ルートが思いっきり長くなりそうです。

おまけに鈴のファイティングスーツの装着シーンまで必ず入れるようになってしまいました。(だって、服を着てないし)

鈴の身体がバラバラになるのでは?と心配していた方がいましたが。シャッフル同盟に鍛えられ、鍛錬を欠かさない鈴ならファイティングスーツの着用には耐えられるかと思います。

原作のISガールズ達がファイティングスーツを着たらどうなるんだろう。

特に五人は当然として千冬さんとか束さんとか、すっごい気になる。


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海よりも深く[VSガンダムマックスター戦](鈴ルート3)

鈴がシャッフル同盟との戦い開始。

連戦の中で相手の技を見取る。


以上


さて、皆さん。

シャッフル同盟との戦いに燃える凰 鈴音(ファン リンイン)。彼女は決意を新たにし挑戦者として彼らに挑もうとしています。

一方のチボデー・クロケットは対戦相手である彼女に対し、何やら不満の様子。

一体この戦いはどんなドラマが待ち受けているのでしょうか?

それでは!

ガンダムファイト!レディーーー!ゴー!!


組み合わせが決まった翌日、チボデーは不満をトレーニングにぶつけていた。一つ二つとサンドバッグに穴が空き中に詰まっていた砂が床にこぼれ落ちる。

 

「はぁ、はぁ・・なんで俺があんなチャイナガールと戦うハメになるんだ?実力は確かにありそうだがよ」

 

チボデーの不満はますます膨れ上がり、残りのサンドバッグ全てに穴を開けてしまった。

 

「チボデー、いくら相手が年下の女の子でもファイターはファイターよ?」

 

彼を支えるクルーの一人、シャリーがタオルを手渡しながら油断しないように注意した。それに便乗するようにキャス、ジャネット、バニーの三人が近づいて来る。

 

「わかってるさ、どんな相手でも俺は勝つ!」

 

「そうよ、それでこそチボデーよ!」

 

「ええ!」

 

「あの子も全力で来るんだからそれに応えてあげなきゃ!」

 

クルー達の言葉にチボデーは自分がどれだけ大人気ないことを言っていたのかを反省した。自分よりも年下で首相推薦すら勝ち取るファイターが自分に挑戦してくる、それだけでも戦う相手に相応しいと考え、闘志が湧いてくるのを己の中で感じていた。

 

「いよいよ、今日の午後だ・・・その時にこそ全力で迎え撃つぜ、チャイナガール・・凰 鈴音」

 

もはやチボデーに油断も嘲りもない、ただ一人のファイターとして挑戦を受ける。それだけを考え、夢の体現者としての力強い目つきに変わっていた。

 

 

 

 

それと時を同じくして、鈴は緊張のせいか何度も何度も演武を繰り返していた。

 

「はぁ・・はぁ・・こんなに緊張してるだなんて・・」

 

これ以上の演武は体力を失う事になり兼ねないと考えた鈴は自らを休める事にした。緊張を解す為の演武が逆に緊張を深めてしまい、焦りが出ている。

 

「はぁ、無理もないか。なにせ相手は私を鍛えてくれた恩人の一人だし」

 

鈴は自分の右手の甲に浮かび上がる紋章を見つめた。クイーン・ザ・スペード。シャッフル同盟の証の一つであり、コロニー格闘技五天王の称号でもある物だ。

 

他にもクラブ・エース、ジャック・イン・ダイヤ、ブラック・ジョーカー、キング・オブ・ハートの紋章が鈴の手の甲に順番で浮かび上がる。

 

「これって、この世界での最強の証よね?どうしてあの人達は私に全ての紋章を渡したのかな?」

 

鈴の疑問は最もだ。シャッフル同盟の証は次世代に継承すれば消えるものではない、継承される相手自身が内から現れるものなのだ。

 

「ひょっとしたら私の世界で誰かに渡ったりして、そんな訳無いか」

 

冗談を言いながら汗を流そうとシャワーを浴びる為にホテルの部屋へと戻り、浴室へと入る。

 

自分が許容できる温度に調節し、湯を浴びる。今はガンダムファイターになっているとはいえ十代の女の子、汗などは気になってしまう年頃だ。

 

「・・・・勝ってみせる、勝てないなんて決めつけた瞬間に勝てる試合も苦戦するんだから」

 

壁に手を着きながら湯を頭から被り続け、身体の熱を収めていく。自分は挑戦者、鍛えてもらった恩人ではなく、一人の格闘家として戦う覚悟を改めて決めた。

 

 

 

 

 

そして、時間は午後18時。日が完全に落ちており夜での戦いになる。そんな中、サーフボードモードにしたシールドを使い、ガンダムマックスターが会場に現れる。

 

観客席となっている廃ビルにはネオアメリカの住民が代表であるチボデーを応援する為に駆けつけていた。会場にガンダムマックスターが現れたと同時にチボデーコールがより一層強くなる。

 

その数分後、挑戦者である鈴が現れマックスターを見上げる。その目には勝つのは自分だと言わんばかりの闘志に溢れた目をしていた。

 

「ヘイ、ガール!ガンダムに乗って来なかったのか?」

 

「呼ぶ方がしっくりくるんです。来て!ジャオロンガンダァァァム!」

 

チボデーの言葉を聞いた後、鈴は指を鳴らした。それを合図にジャオロンガンダムが上空から現れ、試合会場の地にゆっくりと着陸する。

 

鈴はすぐに乗り込み、機体を起動させた。起動と同時に衣服は全て量子化していき拡張領域へと収まるとモビルトレースシステムが起動する。

 

「んううううっ!ああああ!!」

 

頭がリングを通過すると同時に裸体となっている鈴にファイティングスーツの膜が張り付いていく。その苦痛に身体が慣れてきたのか以前ほど骨の軋みなどの負荷が少なく、手足の幕を引きちぎる。

 

「くぅあああああ!」

 

ファイティングスーツの着用が完了し、チボデーの正面に立ち構えを取る。二人の間には火花が走っており開始の合図を待ち構えていた。

 

「お前は俺達シャッフル同盟が鍛えたんだってな?俺達にそんな覚えはねえが」

 

「誰から聞いたんですか?私は誰にも話していないはずなのに」

 

「ただの噂だ、だがその口振りからすると噂は嘘じゃなさそうだな?」

 

「・・・」

 

鈴は無言になることで肯定の意志を示した。自分の口からシャッフル同盟に鍛えられたなどと口にすればこの世界では大問題になるからだ。

 

「さぁ!試合開始まで後三分です!」

 

実況の言葉に鈴は少しずつ緊張を解し始めていた。自分の持てる力をこの試合に集中すればいい。ただそれだけを考える。

 

「ヘイ、ガール!出身はネオチャイナだってな?だからチャイナガールと呼ばせてもらうぜ」

 

「どうぞ、好きなように呼んでください」

 

鈴はいつもの砕けた話し方ではなくずっと敬語を使い続けている。やはり、鍛えてくれた恩師だけあって下手な話し方は出来ないのだろう。

 

「さぁ、試合開始です!!」

 

「それではガンダムファイトォォ!」

 

「レディィィ!!」

 

「ゴォォォ!っ!?うあああ!」

 

ウォンの試合開始の合図と同時に鈴は突撃しようとしたがチボデーのパンチによって吹き飛ばされてしまう。

 

「チャイナガール!俺達に鍛えてもらったってんならそれを活かしてみろぉ!」

 

「うあああああ!」

 

鈴はすぐに受けの構えを取り、チボデーのラッシュを防御し続けるがパンチの一つ一つが重く素早い。

 

「ウラウラウラウラァ!!」

 

「こ、これがチボデーさんのパンチ!素早くて重い!こんなのずっと受けていられない!!」

 

「俺は必ず俺を支えてくれるクルーの為、ネオアメリカの為、それにも増してライバルの為!俺は勝つんだぁ!」

 

「あぐぅ!がはっ!ぐはぁっ!?」

 

ほんのわずかに出来た隙を突かれ鈴はチボデーのブローを顔面に受けてしまい、更には右アッパーが顎に直撃し、ノックダウンしてしまった。

 

「立て、リン!こんなんで終わる訳がねえ!俺達に鍛えられたというのなら、俺達全員を超えてみせろ!立て!立つんだ!!リーーン!!」

 

チボデーからの叱咤激励に鈴は思わず笑みを浮かべてしまった。まるで自分を奮い立たせ、燃え上がらそうとしている事に。

 

「うう・・ふふ!すごく嬉しくなって来て、ますます超えたくなるじゃないですか!チボデー・クロケットさぁぁぁん!!」

 

鈴は闘志に燃え、気力を膨れ上がらせていた。自分を超えてみせろという言葉に鈴は魂が燃え上がり立ち上がっていた。

 

「そう来なくっちゃな、リン!」

 

ある一室では首相のウォンとマスターアジアが観戦し、試合会場から少し離れた場所ではシュバルツと他のシャッフル同盟のメンバーも観戦していた。

 

「一方的な展開となっていたはずなのに」

 

「チボデーの闘志が鈴音の魂に火を着けたか」

 

「そして互いの死力を持って魂の拳を打ち放つ、悟ったようだな二人共」

 

「チボデーの攻撃を受けて立ち上がってくるとは」

 

「やるねぇ、ただの女の子じゃなかったって訳だよね」

 

「さぁ、貴方の叱咤激励で彼女は気力が膨れてしまいましたよ」

 

「どう出る?チボデー」

 

チボデーは全身を黄金色に輝かせ、自分を最も支えてくれる人達の名前を呼ぶ。

 

「さぁ!一緒に行こうぜ!シャリー、キャス、ジャネット、バニー!俺達の夢を、この一撃でコイツに見せてやるんだああああ!」

 

チボデーの気迫と共にガンダムマックスターの肩パーツがボクシンググローブのように装着され、機体も軽量化し構えを取った。

 

「チャイナガァァァル!」

 

「はい!」

 

「豪ォォ熱!マシンガァァァン!パァァァンチ!!」

 

放たれた技は鈴自身も自分の世界で一度だけ見た事があるチボデーの必殺技だ。それを見た鈴以外の人間全員が驚いていた。

 

「全力で放ったか!チボデー!」

 

「あれが!」

 

「さぁ、どう受け止める?鈴音」

 

「チボデーの熱き魂を!」

 

たった一発のパンチが十発分の衝撃となってが襲いかかってくる。一人では受けきれない、しかし爪龍と協力すれば受け止める事は不可能ではないと鈴は信じている。

 

「分かりますよ、チボデーさん!貴方の夢が!だから、それを越えてみせる!分身結晶!!オルゴン・シャドウ!!」

 

鈴は爪龍の姿を形どったオルゴン・シャドウを九体出現させ、受け止める構えを取った。

 

「何だと!?」

 

「くうううううう!!」

 

オルゴン・シャドウで作られたジャオロンガンダムと本体のジャオロンガンダムは放たれた全てのパンチを受け止めている。

 

「チボデーさん!貴方が一度に十発のパンチを放つなら私は十体の爪龍となってその全てを受け止めます!!」

 

「ドモンと同じ方法で俺の必殺技を・・受け止めた、だと・・?」

 

オルゴン・シャドウは砕け散っていき、本体のジャオロンガンダムだけが残ったが、衝撃だけは緩和できずにダメージは受けている様子だ。

 

「チボデーさん、貴方が強くなればなるほど私はそれを超えたくなるのよ!」

 

「そうか、それならば超えてみせろリン!さぁ来い!今度はお前の番だ!!」

 

鈴はその言葉に泣きそうになった。自分の世界でなくても叱咤激励と共に越えるべき壁で有り続けてくれる、それだけでも嬉しすぎることだからだ。

 

「ならば!勝負です!私のこの手が輝き唸る!!」

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『真・明鏡止水』発動]

 

「勝利を掴めと轟き叫ぶぅ!!」

 

「爆光!オルゴン!フィンガァァァ!」

 

「でやああああああ!!」

 

双方の一撃が相打ちの形になっており、ブロークン・アームの爪がマックスターの胸部に突き立てられ、マックスターの拳は爪龍の顔面に寸分の狂いもなく完全に入っていた。

 

「チボデーさ・・ん!!」

 

「リ・・ン!ぐはっ・・・!」

 

「チボデー!!」

 

しばらくして均衡が崩れるように爆発が起こり、片方のガンダムが倒れる。倒れたのはガンダムマックスターでクルーが声を上げるがチボデーには審判の幻聴が聞こえテンカウントを数えている。

 

「うう・・・超えられちまったか」

 

「いいえ、今回の勝負は勝敗以上でした。だから何度でも戦いましょう?お互いが納得するまで!」

 

「そうだな、チャイナガール!お前の言う通りだ。夢は果てしなく続くものだから夢なんだ!それを諦めるか諦めないかで変わる!」

 

「ええ!!」

 

鈴がチボデーを支えて外へ出るとチボデーコールと鈴コールが交互に行われている。両者の試合を見た観客達は興奮と共に二人への応援をやめない。

 

「チャイナガールを認めてくれたようだな?故郷のみんなも」

 

「それなら、何か皆さんに一言をどうぞ?」

 

「そうだな! I'll never give up!」

 

チボデーの宣言に観客達は更なる盛り上がりを見せた。試合を見ていた新シャッフル同盟のメンバーは笑みを深くしていたが一人だけは鈴を見続けていた。

 

「次の貴女の相手はこのサンド家当主、ジョルジュ・ド・サンド。凰 鈴音、貴女とのファイト楽しみにしていますよ」




皆さんお待ちかねー!

はい、待遇の差が著しく出てきたと自覚し始めた作者です。

さっさと個人ルート終わらせて本編行けや!という声が聞こえてきそうです(震え声)

個人ルートはどうしてもやりたかったので。

鈴のファイティングスーツ着用シーン省こうかとも考えてます。もし、ダメなら「それをはぶくなんてとんでもない!」とおっしゃってください。

小説に集中するとイラストを描く時間がとれない・・・(泣)

あ、作者は原作ISガールズの中で鈴とラウラとセシリアが好きです(今更)

鈴の酢豚・・本気で食いたいです。白米と一緒に


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燃え上がれ闘志[VSガンダムローズ戦](鈴ルート4)

騎士と格闘家の戦い


以上

さて、皆さん。

いよいよシャッフル同盟との戦いも大詰めとなってきました。

残る相手は三人。その中の一人でありガンダムローズのジョルジュ・ド・サンド。

凰 鈴音(ファン リンイン)は彼から勝利をもぎ取る事が出来るのでしょうか

それでは!

ガンダムファイト!レディーーー!ゴーーー!!


次の対戦相手のカードはジョルジュ・ド・サンド、ネオフランスの代表でシャッフル同盟の一人であるジャック・イン・ダイヤの継承者だ。

 

「試合を見ている限りだとビット搭載型なのね、セシリア以上の数を使ってくると考えて間違いない。この世界で私の世界の常識は通用しないんだもん!」

 

映像や行われている試合を見て、鈴は次の対戦相手の機体であるガンダムローズの研究をしていた。相手の研究をしておけば自分との相性などがわかるからだ。

 

「サーベルでの戦闘はまだしも、問題はビットによる攻撃ね」

 

自分の機体である爪龍はクストウェル・ブラキウムと似ており接近戦が主な間合いとなるため、遠距離からの戦略と非常に相性が悪い。

 

それでも負ける訳にはいかない。自分を鍛えてくれた相手を越えてこそ初めて強くなったと言える。それが鈴の中にある持論だ。

 

「あの人と戦う事になったからか、違う紋章が浮かび上がってる。でも紋章があるだけじゃ実力者には・・なってたわ。はぁ・・不安ね」

 

今の鈴の手に浮かび上がっているのはジャック・イン・ダイヤの紋章。シャッフル同盟が相手の場合にのみ同じ紋章が浮かび上がり共鳴する。その理由は鈴本人にも分かってはいない、あるとすれば夢の中で聞いた命の力という単語だ。

 

命の力とは一体何なのかは分かっていない、自分がもどるべき世界に戻った時に破滅と戦う為に必要である事は確かだ。

 

「今は、どうやってビットの攻撃を攻略するか考えなきゃね!」

 

それから鈴は軽くトレーニングをしながら対戦相手の録画映像を何度も見続けていた。

 

 

 

 

 

一方、同時刻にジョルジュは紅茶を飲み、自らが忠誠を誓っている少女マリアルイゼと共にいた。それでも対戦相手であるジャオロンガンダムの映像だけは観ている。

 

「この方、女性でありながらファイターとなって首相推薦まで勝ち取られた方ですのね。私とほぼ変わらないように見えますが」

 

「ええ、それだけに強敵かと思います。もっとも負けるつもりはありませんよ」

 

二人はジャオロンガンダムの戦いを観ていたが、ジョルジュだけは鈴の実力が高いレベルであることを見抜いていた。

 

「(噂やチボデーによれば彼女を鍛えたのは我々という事らしいですが、鍛えた覚えなどありませんね)」

 

鈴とチボデーの試合後、チボデーに会いに行き彼から聞いた鈴に関することはとても信じられる事ではなかった。

 

彼女の手にはシャッフルの紋章がありチボデー自身も敗北したとはいえ、その実力は自分達と同等、下手をすれば越えていると言われた。

 

「覚えはないが間違いなく鍛えたのは俺達みたいだ。アイツは俺達の戦いのクセを知っている」

 

その言葉にジョルジュ自身も驚きを隠せず表情に出してしまっていた。覚えがない相手に自分の癖を知られているともなれば驚くしかないだろう。

 

「あのチャイナガールは俺達を越えるつもりで戦ってくる。いつものキザな戦い方したら確実に負けるぜ?」

 

自分を小馬鹿にしたような態度をとってはいたがチボデーの真剣な目を思い出したジョルジュは紅茶が注がれたカップを置くと空を見た。

 

「(騎士としてではなく、純粋なファイターとして戦わねばなりませんか)」

 

騎士としての戦いは自分を戒めている枷だ。その枷を外さなければ彼女を侮辱する事に繋がる。

 

「マリアルイゼ様、此度の戦いは貴女様へ捧げられる戦いではなさそうです」

 

「ジョルジュ?」

 

「騎士ではなく一人のファイターとして挑まねばなりません。それほどの強敵です」

 

「はい、私は見守っていますわ」

 

幼くとも見守るという気丈さを身につけたマリアルイゼに対し、ジョルジュは心の内で礼を言うと試合当日の日を待った。

 

 

 

 

 

試合当日の日、ガンダムローズに乗り込んだジョルジュは先に戦いの場に立っていた。試合開始まで後三分を切っており、未だに対戦相手であるジャオロンガンダムが到着していない。

 

「このままでは試合放棄となります」

 

「ちょォォォっと待ったァァァァァ!!」

 

大声で響く声が会場に届いた。そこには試合会場のステージにおいて肩で息をしている鈴の姿があった。

 

「マドモアゼル、遅刻ではないとはいえガンダムにも乗らずそのまま来たのですか?」

 

「(毎回言われてる気がする)呼んだ方が私には馴染むんですよ、来て!ジャオロンガンダァァァム!」

 

もはや恒例となった鈴の指鳴らしと共に愛機が現れ、コクピットが開く。鈴はすぐに乗り込み、モビルトレースシステムを起動させた。

 

衣服は粒子化し拡張領域へと収納され、ファイティングスーツをファイターに張り付けさせるリングが降りてくる。

 

「んっ!うううううう!!あああああっ!」

 

何度も身体に慣れさせてきたせいか、鈴は張り付いていくファイティングスーツのキツさを叫ぶことで緩和していた。

 

「あんんっ!こ・・・のぉ!」

 

手足の残りを引きちぎり、ジャオロンガンダムが起動し鈴が軽い演武を披露する。それだけでも会場は盛り上がりをみせ試合を待ち望んでいた。

 

「ごめんなさい、ギリギリまで整備していたから遅くなってしまって」

 

「いえ、時間には間に合っていますから」

 

「改めて、ガンダムファイトォォ!」

 

「レディー!」

 

「ゴーー!!」

 

ガンダムローズのシュバリエサーベルとジャオロンガンダムの双天牙月が交差し、火花が上がる。

 

「ほう、剣で私に挑みますか?」

 

「剣の形は違えど鍛えられたのは剣ですからね、だから剣で挑みます!」

 

「その挑戦、受けて立ちましょう!でやああああ!」

 

フェンシングの冴えは自分の世界と変わっておらず、素早い突きを繰り出され受けに回る事が出来ない。

 

「っ!はっ!ふっ!」

 

ギリギリの所で回避に成功しているがサーベルの剣先が当たっており、僅かながらにダメージを与えられている。それをシャッフル同盟の一人であるジョルジュは見逃さない。

 

「いつまでも避けられると思わない事です!」

 

大きな一撃を兼ねた突きを繰り出されたが鈴はあえてそれを左腕に突き刺させた。

 

「あぐっ!うああああ!」

 

「何!自らの腕に剣を貫かせた!?」

 

「これで・・・貴方の剣を止めましたよ!いやああああ!!」

 

鈴は青竜刀を振り下ろし、ガンダムローズを斜めに切り裂かれた。

 

「ぐああああああああ!」

 

左肩と胸部を切り裂かれたガンダムローズは倒れ、ダメージを受けたジョルジュは膝を折りながらも立ち上がった。

 

「さすがです・・・ね。何処かで私は貴女を蔑んでいたようです、ならばバラの洗礼をお見せしましょう!」

 

左腕のマント状のシールドから大量のビット兵器が射出されガンダムローズの周りに現れる。

 

「!ビット兵器!?けど、セシリアが使っている物より小型で数も多い!」

 

「行け!ローゼス・ビットォォォ!」

 

ローゼスビットと呼ばれるバラの花弁の形をしたビット兵器が鈴へと向かっていき、次々とビームを放ってくる。

 

正面、左右、背後とあらゆる角度からジャオロンガンダムはビームを受け続けてしまう。

 

「きゃああ!うあぁ!っく!」

 

「バラの洗礼の前に逃げ道などありません!」

 

「爪龍を・・・私の相棒をバカにしないで!爪龍、お願い!私に力を貸して!」

 

鈴の昂ぶりに爪龍が応えオルゴンと同じ色をした輝きが機体から溢れ、オルゴン・クラウドを発生させると同時にその場から転移した。

 

「何!?機体ごと消えた!?」

 

「い、今のは!?政征や雄輔が使っていた空間転移?どうして爪龍が!?確かにオルゴンがエネルギー源になってるけど!?」

 

鈴自身が何故、オルゴン・クラウドによる転移が出来たのか理解が追いついていなかった。自分の機体は確かにクストウェル・ブラキウムの機体データを基に改修されている。

 

だが、それだけでは発動出来た理由にはならない。鈴は自分自身に対して何かあるのではないかと疑問を抱き始めていた。

 

「でも、このチャンス!逃さないわよ!オルゴン・シャドウ!」

 

ISの時にも使っていた技を使い、オルゴナイトの結晶で作られた分身を16体出現させた。それを見たジョルジュは転移以上に驚愕している、実体を持つ分身などはありえない事だからだ。

 

「な、何だ!?あの分身は!」

 

「全部受けろォォォォ!!」

 

ジャオロンガンダムの本体とその分身16体がオルゴナイトの結晶の拳をガンダムローズへと放つ。

 

「うああああああ!」

 

放たれた結晶の拳を全て受けてしまったガンダムローズのダメージは相当なものでジョルジュから完全なダウンを奪った。

 

ダウンを取られたジョルジュは試合前にチボデーから忠告されていた事を思い出していた。

 

「(あのチャイナガールは俺達を越えるつもりで戦ってくる。いつものキザな戦い方したら確実に負けるぜ?)」

 

「(っ・・・チボデーが言っていたのはこの事だったのですね。確かに彼女の気迫は凄まじい)」

 

ジョルジュの内にある闘志が騎士の誇りにも火を点け、同時に形振り構わない勝負をするべきだという考えに至った。

 

「マドモアゼル・リン!そろそろ決着をつけましょう!」

 

「ジョルジュさん・・・ええ、望むところです!」

 

「行け!ローゼス・ハリケーン!」

 

再びビットが射出され、エネルギーの渦とビットによるビーム攻撃がジャオロンガンダムと鈴に襲いかかる。

 

「きゃああああああああああ!」

 

鈴はオルゴンクラウドの転移を使わずに真正面から受けて立つと決めていた。相手の必殺技を受けきってこそ初めて相手を越えられる故に。

 

「こんな・・もの!ビットを破壊出来れ・・ば!」

 

「一つや二つのビットを破壊したところで、このエネルギーの渦から逃れる事など不可能!」

 

「まだよ・・・!やああああああ!!」

 

右手にブロークン・アームを装着し、オルゴンエネルギーを地面に叩きつけ結晶化させていく。

 

「一体何を!?ですがそんな事は悪あがきにすぎません!」

 

「オルゴンは砕くことが可能なら余剰エネルギーで結晶を爆発させる事だって出来るはず!」

 

「まさか!?」

 

「こんのおおおおおお!砕けろおおおお!」

 

オルゴナイトの結晶を爆発させ、その威力を利用しローゼスビットを全て破壊したが鈴自身もダメージは大きく、ブロークン・アームも一回のマテリアライゼーションが限界だろう。

 

「こんな捨て身の方法で私のローゼスハリケーンを破るとは・・」

 

「身体張らなきゃ破れない・・・技でしたから・・ね」

 

鈴の顔は激痛で歪んでいる、自爆にも近い方法で相手の必殺技を破った代償にモビルトレースシステムによるダメージ伝達が激しかったのだ。

 

「私も負ける訳にはいかない!行くぞ!ガンダムローズ!」

 

「爪龍!底力を見せるわよ!」

 

二人は同時に剣を掴み、突撃する。シュバリエサーベルがジャオロンガンダムの顔面を捉え、双天牙月がガンダムローズの左腕を斬る。

 

「ぐあああ!」

 

「あううう!」

 

「どうした!戦いはまだ、終わっていないぞォォ!」

 

「当然!絶対に負けない、勝つのは私よ!」

 

二人の気迫は拮抗し、互いの剣は手元を離れてしまい技に意味はなく意地のぶつかり合いとなっていた。その戦いは見る者を引きつけてやまない。

 

「この一撃が最後の勝負よ!」

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『真・明鏡止水』発動]

 

「良いです!受けて立ちましょう!」

 

「私のこの手が輝き唸る!」

 

「勝利を掴めと轟き叫ぶ!」

 

ジョルジュは再び剣を手にし、鈴は爪を研ぎ澄まして構える。二人に残された力は後一撃だけであり機体も動くのがやっとの状態だ。

 

「爆光!オルゴン!フィンガァァァ!」

 

「でやああああ!!」

 

ガンダムローズのシュバリエサーベルがジャオロンガンダムの脇腹を貫通し、ジャオロンガンダムのオルゴンフィンガーはガンダムローズの左肩に深く食い込んでいる。

 

「ぐっ・・・うううう!」

 

「ぐあっ・・・く!」

 

ダメージは鈴の方が蓄積されていたのも含め、多かったが決め手の一撃で倒れたのはジョルジュの方であった。

 

「勝った・・・の?」

 

鈴は勝利した事への実感が沸いてこず、信じられないというのが本音であった、しかしそれを認識させたのは実況の声だった。

 

「接戦のすえ勝負の結果はジャオロンガンダムの勝利です!」

 

勝利という言葉を聞いて気が抜けたのか鈴自身もその場で倒れてしまった。しかし、その顔はまた一つ壁を越えることが出来たという想いに満ちた顔であった。

 

二人の試合を見ていた一人の少年が手の甲にある紋章を輝かせた。それは早く戦いたいという闘争心を抑えられない表れでもあった。

 

「次の相手はオイラだ、同郷とはいえど手加減はしないぜ!」

 

自信に満ちた笑みを浮かべ、少年は自分の場所でと帰って行った。




一話で二人ずつ戦わせようと思いましたが流石に無理でした。

オルゴンクラウドはスパロボJだと反則級で強いですよね。

鈴が自分自身に疑問を抱き始めました。一体なぜでしょうか?考察OKです。

次の戦いは龍同士の戦いですのでお楽しみに!


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忌まわしき宿命を越えて[VSドラゴンガンダム戦](鈴ルート5)

鈴が大食いに!?

以上


さて、皆さん。

シャッフル同盟のメンバーも今回の対戦相手を含めれば残り三人。

今回、ジャオロンガンダムの相手となるのは奇しくも同じ国家代表、ドラゴンガンダムのサイ・サイシー。

この戦いはどちらが勝ってもおかしくはないでしょう。

それでは!

ガンダムファイト!レディーーー!ゴーー!!


ガンダムローズとの激戦を経て、爪龍を本格的に整備するために鈴はネオホンコンのハンガーに訪れていた。

 

整備といってもISである部分に損傷は無く、むしろ素体となったMFの部分の損傷がひどくコクピット部分も調整されていた。

 

「ごめんね、爪龍。私の無茶に付き合わせちゃって」

 

MFになっているとはいえ自分の相棒に近づき、自分の無茶苦茶な事に付き合わせてしまったことを謝る。

 

「鈴さーん、コクピットの調整手伝ってくださーい!」

 

「はーい!」

 

元気よく整備班のもとへと行き、調整の数値やバランスに関して意見を出しながら相棒のコンディションを最高にしようと手を動かし、メンテナンスを始めていた。

 

 

 

 

鈴がハンガーから帰った後の時間帯、ネオチャイナの代表でありシャッフル同盟の一人でもあるサイ・サイシーは市場を訪れていた。

 

「少林寺再興も大切だけど腹が減っては戦は出来ないってね!お?へへ、おっちゃん!」

 

「すみません!」

 

「「この中華まんを下さい(くれるかい)!」」

 

サイ・サイシーの注文と同時に注文してきたのは鈴だった。中華まんを販売している店の主人は申し訳なさそうに注文してきた二人に対し口を開く。

 

「すまんのう、それが最後の一個なんじゃ」

 

「ええ!?」

 

「んじゃ、オイラが!」

 

「ふざけないで!私が先に注文したのよ!」

 

「「ぐぎぎぎぎ・・・」」

 

どちらも譲る気はない。それならと鈴は相手がサイ・サイシーとは知らずに声を荒らげた。

 

「なら、勝負よ!」

 

「おう!」

 

「「最初はグー!ジャンケン!ポン!!」」

 

その場でジャンケン勝負を始めてしまい、サイ・サイシーはグーを出し、鈴はチョキを出していた。

 

「よっしゃああ!オイラの勝ちだ!」

 

「嘘おおお・・!負けちゃったぁ!?」

 

最後の一個の肉まんをサイ・サイシーが手にし、袋に入れた。それと同時に空腹を知らせる音が鈴から出ていた。

 

「あ・・・//」

 

「あれ?もしかして腹減ってるの?」

 

「う、うん・・・」

 

「だったらオイラが料理を振舞うよ!肉まんの代わりにさ!」

 

「え?いいの!?」

 

「もちろん!この場所で待っててくれよ!」

 

そう言ってサイ・サイシーは二時間後、材料を購入し助けた事のある店の厨房を借りて、炒飯を始めとする中華料理を鈴の為に振る舞い始めていた。

 

「へい!あーらよっと!お持ち!」

 

「ああ・・本場故郷の味だわ!美味しい!!」

 

鈴は次から次へと来る中華料理に舌鼓を打っており、ホクホク顔で皿を重ねていた。その食べっぷりに周りにギャラリーが出来るほどになっている。

 

「ねぇねぇ、酢豚作れる?」

 

「任せておきなよ!」

 

そういって調理に取り掛かり、すぐに酢豚が鈴の目の前に出てきた。それを一口食べた途端に鈴は衝撃を受けた。

 

「そっか、火力が足りなくて野菜とかに火が上手く通ってなかったんだ・・・うん、こう作れば良いのね!」

 

サイ・サイシーが作った酢豚を味わいつつ、自分の料理で上手くいっていなかった部分を反省していた。

 

「言いにくいけどさ、君が次のオイラの対戦相手なんだろ?」

 

「やっぱり気づいてたんだ・・・仕方ないか。でも、今は関係ないわ」

 

「そうだよな、ばっちりスタミナつけてベストコンディションにしておいてもらわないと!」

 

「ありがとう!後で私に料理教えて?」

 

「お安い御用さ!」

 

この後、鈴は心ゆくまで故郷の味を堪能し、満足した顔で自室へと戻っていた。戻った後でも次の試合の対戦相手であるドラゴンガンダムの研究は怠らない。

 

サイ・サイシーは鈴自ら鍛えて欲しいと願い出て、体に染み込ませるくらいの鍛錬をしてくれた。ドン引きされることもあったが、それでも拳法のなんたるかを叩き込んでくれた恩を返すためにも負けられない。

 

「負けないからね・・・絶対に」

 

自分の手に浮かび上がったクラブ・エースの紋章を見つめ、試合当日である明日の為に鈴は早めに休むことにした。

 

 

 

 

鈴と別れてからのサイ・サイシーは静かに闘志を燃やしていた。自分と同郷であり、自分を越えるつもりで戦ってくると伝えられている。

 

「楽しみだな・・どんな戦いになるかさ!」

 

演武をした後、サイ・サイシーは対戦相手である鈴の姿を思い浮かべる。偶然とはいえど料理を振る舞い、年相応の笑みを見せていた姿を。

 

「手加減なんかしないぜ、知り合った仲でもな!」

 

今の自分には果たさなければならない事がある。そう、少林寺の再興という託された父親の悲願を実現させるために負けられないと強く誓った。

 

 

 

試合当日、鈴は先にネオホンコンの海上にあるステージで先に待っていた。もちろん機体には乗らず生身のままステージ上で腕組みをして待機している。

 

しばらくしてガンダムの動きとは思えない程のアクロバティックな動きと着地で、対戦相手であるドラゴンガンダムが現れた。

 

「お待たせ!さぁ、闘ろうぜ!鈴!!」

 

「そうね!来て、ジャオロォォォン!」

 

指鳴らしと共に鈴の相棒が海中から現れ、鈴はすぐに乗り込む。衣服は意味を成さない為にすぐ量子化し、ファイティングスーツを張り付けさせるリングが回転しながら降りてくる。

 

「んううううう!あああああっっ!!」

 

身体が慣れてきたのか腕に張り付いた部分を直ぐに引きちぎり、自由にしていく。

 

「くううう!ああああっ!んうっ!」

 

両足も完全に張り付くと同時に引きちぎり、自分の相棒であるジャオロンガンダムを起動させ、演武を披露する。

 

「へえ、綺麗な武だ。それでも勝負は別だからな!」

 

「当然よ、肉まんの借りをここで返すわ!」

 

「まだ覚えてたのかよ!?」

 

「問答無用!ガンダムファイト!」

 

「レディー!」

 

「ゴーー!!」

 

試合開始と同時に青竜刀と棍がぶつかり合い、同時に距離を取った。ドラゴンガンダムは槍術の構えを取り、ジャオロンガンダムは青竜刀を二本、手にし構える。

 

「(青竜刀を構えているだけなのに隙がない・・・)」

 

「(懐に入ったところで反撃されるのは目に見えてる、下手に動けないわね)」

 

お互いに自分の武器の間合いを知っている故、先に仕掛けたほうが不利になるという緊迫した状況になっている。

 

「うおおおお!」

 

均衡を破ったのはサイ・サイシーの方だがそれを見逃す鈴ではない。青竜刀の一本で突き出された槍を受け流し、利き腕で持った青竜刀を繰り出すが顔を反らされ、ギリギリの所で避けられてしまった。

 

「やっぱり当たらない・・か!うっ!?」

 

下がろうとした途端に鈴の背中に何かがぶつかる、それはドラゴンガンダムに装備されているフェイロンフラッグがステージに突き刺さっており、相手を追い込むためのものだ。

 

「覚悟おおお!」

 

「そうは・・・いかないわよ!」

 

繰り出された槍の一撃を横へと避け、脇に固めるとそれをもう一方の腕でへし折る。へし折られたフェイロンフラッグを投げ捨てると龍となっている腕がジャオロンガンダムへ向けられる。

 

「くっ!なら、ドラゴンファイヤー!」

 

「え?炎!?きゃあああ!」

 

とっさの事で回避できず直撃してしまい、炎によるダメージが鈴へと伝わる。防御すら出来なかったために片膝を着いてしまう。

 

「まだまだ、行けえ!!」

 

龍の火炎の次は腕が龍自身となり、鈴へと襲い掛かる。変幻自在のその動きは捉えることが出来ずジャオロンガンダムに巻き付き、全身を締め上げる。

 

「が・・ああああああ!?」

 

身動きがとれず、締め上げ続けられるが鈴の目には諦めた様子は一切なく寧ろ反撃の隙を狙っていた。

 

「もらったあああ!」

 

「私を・・・侮らないで!ブラキウム・レイド!」

 

もう一方の腕の龍が襲いかかる前に鈴はオルゴナイトの結晶を打撃に特化した形ではなく、手刀に合わせた刃状にして締め上げている方の腕を一本断ち切った。

 

「うああああああああ!?ぐうう、こんなもので・・負けられるかあああああ!!」

 

「私だってええええ!!」

 

年齢が近い事もあってか鈴はいつもの言葉遣いに戻っていた。いくら歳が近くても相手はシャッフル同盟の一人、手加減する余裕などない。

 

「あぐっ!?」

 

上空にいるドラゴンガンダムへ鈴が繰り出そうとした一撃は腹部を狙ったサイ・サイシーの左肘の一撃で止められ、怯んでしまう。

 

「くらえええ!」

 

頭部にある弁髪に仕込まれた刃が鈴へと襲い掛かり、左肩を傷つける。更には蹴り技で追撃し連続で撃ち込まれた。

 

「きゃあ!がはっ!?ぐふっ!」

 

「っ!無影脚ゥゥゥ!!」

 

「うあああぁぁっ!」

 

受けた蹴り技によってステージへと落下してしまうが鈴はすぐに立ち上がり、青龍刀を手にし再び飛び上がる。

 

「それを断ち切る!」

 

「ぐああっ!」

 

左腕一本で右から来る鈴の青竜刀を止めたが、左から来たもう一本の青竜刀によってドラゴンガンダムの弁髪が破壊された。残っているのは左腕と足だけであり武器はない。

 

「オイラ、負けるわけには・・いかないんだ!」

 

「サイ・サイシーさん、私だって引けないのよ!」

 

「なら、勝負だ!」

 

損傷が酷いはずのドラゴンガンダムが黄金色となり、鈴の右手の紋章が赤く疼きだす。ドラゴンガンダムは空高く飛び上がり、まるで蝶のような光の羽根を出現させ、片腕しかないがその姿はまるで祈りを捧げる修行者のような姿だ。

 

「うっ!紋章が・・・!」

 

「天に竹林、地に少林寺!」

 

「目にもの見せるは!最終秘伝っ!」

 

「な、何?あれは・・!?」

 

それはかつて少林寺の修行を極め、この世界では失われたとされており命と引き換えに放たれると言われた最高奥義。それが鈴の目の前で放たれようとしている。

 

「真!!流星!胡蝶剣!」

 

「ならば・・正面から受けて立つわ!オルゴン・マテリアライゼーション!!」

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『真・明鏡止水』発動]

 

鈴自身も智拳印を結び、黄金色の姿となるとショルダーパーツをパージし右腕へと装着する。

 

「私のこの手が輝き唸る!」

 

「勝利を掴めと、轟き叫ぶぅぅぅ!」

 

今のドラゴンガンダムは落下してくる一本の巨大な剣だ。鈴は最大出力を右腕に集中正面から受けて立つために飛び上がる。

 

「爆光!オォォルゴン!フィンガァァァ!」

 

「うおおおおおお!」

 

互いに必殺級の技をぶつけ合い、拮抗するがすぐに打ち破りジャオロンガンダムの肘から先が破壊されてしまう。

 

「きゃああああああ!」

 

その様子を見ていたファイター達も驚愕する。オルゴンフィンガーを真正面から破壊し、打ち破ったからだ。

 

「あの技を、破った!?」

 

「勝った!勝ったぞ!!」

 

「ぐううう!いいえっ!まだよォォォ!」

 

「ぐはっ!?ひ・・左腕に結晶の刃!?」

 

勝利を確信したサイ・サイシーを驚かせたのはジャオロンガンダムから腹部に撃ち込まれた刃状のオルゴナイトの結晶に包まれた手刀だった。

 

「あっ・・ぐああああ!ま、負けない、負ける訳には!」

 

「ま、まだだ!凰 鈴音!」

 

「そう、それならこれで!ブラキウム・エンドォォォ!」

 

戦意を失わない相手に対し、鈴が止めを刺そうとした瞬間、試合終了の銅鑼が鳴らされ、それを聞いた鈴は左腕を引き抜いた。

 

「サイ・サイシーさん!」

 

「ぐ・・・今回はオイラの負けみたいだ・・・けど、次は負けないから、な?」

 

ボロボロの状態だが再戦の約束をしながら笑みを見せていた。その姿に自分が勝者である事を名乗れるわけがない。

 

「勝った・・・んだから、さ・・・!」

 

「あ!」

 

残った左腕でジャオロンガンダムの腕を掴み、まるで勝者である事を示すように腕を上げさせた。その姿に試合を見ていた観客達すらも両者を湛えている。

 

 

 

 

 

その様子をネオロシアの輸送船の中で観ている人物がいた。元・宇宙海賊であり今はネオロシアの代表ファイター、アルゴ・ガルスキーだ。

 

「次は俺の番か・・・試合の日、海賊式のやり方、みせてやろう・・・凰鈴音」

 

寡黙な表情の中にある熱い闘争心を燃やしながらアルゴは試合中継を見続けていた。




シャッフル同盟全員と戦わせるとなると一話を丸々使っちゃいますね。

鈴とサイ・サイシーは同年代に近いみたいなので敬語は無しにしました。

もうこれ、Gガンだけでいいんじゃないかな・・(白目)

ああ、早く。シャルのルートやラウラを書きたい・・。

政征と雄輔も書きたい状態の作者でした。

次回はアルゴ戦です。

ドモンとの戦いは皆様、見たいですか?(恐る恐る)


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我が心 明鏡止水[VSボルトガンダム戦](鈴ルート6)

アルゴとの戦い。

鈴が見取り稽古の成果で最終奥義を習得。


以上


さて、皆さん。

いよいよ、シャッフル同盟との戦いも大詰めとなりました。

今回の相手はネオロシアのボルトガンダム、ファイターは元・宇宙海賊のアルゴ・ガルスキー。

彼女、凰 鈴音にとっては最も苦しい戦いとなりそうです。

それでは!ガンダムファイト!レディーーー!ゴーー!!


ドラゴンガンダムとの一戦から数日が経ち、鈴は料理修行に打ち込んでいた。最も鍛錬ばかりでは自分が参ってしまう為に変化をつけるためのもので、サボっているわけではない。

 

「よし、今日はここまで。オイラ、試合あるからさ」

 

「そう、わかったわ。じゃあまた!」

 

「おう!」

 

サイ・サイシーと共に後片付けを済ませた後、鈴も自室へと戻り次の対戦相手であるボルトガンダムの映像を観始める。映像でも理解がついたが、かなりのパワーファイターであり機体も強い装甲のようだ。

 

「掴まれたらまずいわね、力任せに引きちぎられて戦闘不能になるわ」

 

パワーファイターというものはその名の通りパワーで押し切る戦法を得意としている。相手が速さや技術に自信があろうと強引に押し切ってしまうのだ。

 

その為に戦法で直線的になる場合が多いが、今回の相手はそうはいかない。冷静な判断力を持つパワーファイター程に厄介な相手はいないのだ。

 

「パワーで私は圧倒的に負けてる・・・それなら絡め手を使わないと」

 

パワー重視でも必ずどこかに付け入る隙があるはずと鈴は考え、身体が睡眠で休まるギリギリまで映像を視聴し続けた。

 

「残るは二人、私は越えてみせる!」

 

右手に浮かび上がった紋章の一つであるブラック・ジョーカーに視線を移した後、鈴は試合に備え休む事にした。

 

 

 

 

 

鈴が休んだ後の時刻、アルゴは監視者のナスターシャと共にいた。ナスターシャ自身は次の対戦相手である鈴に不満を隠せない。

 

「まさか、あんな小娘が対戦相手とはな。アルゴ、まさか手加減などしまいな?」

 

「手加減など必要ないのはお前は一番分かっていると思うが?」

 

「ふん、そうだな。試合当日は容赦なく叩き潰せ」

 

「言われるまでもない・・・!」

 

返事をナスターシャに返すがアルゴの内では引っかかる事があった。鈴自身が言っていた鍛えたのは自分達だという点だ、シャッフル同盟の仲間も自分にも一切覚えがない。

 

だが、試合を見た限りシャッフル同盟のメンバー達のクセを知り尽くしているような様子をアルゴは見逃してはいなかった。海賊時代に培った洞察力は伊達ではなく、鈴自身に対する自分達を越えようとする意志にも危うさがある事も見抜いている。

 

「俺は手加減しない、それが最大の礼儀になるならな」

 

鉄仮面のようで表情の変化のない顔の内に熱い感情を燃え上がらせながら、試合の日を持ちきれないのを堪えるかのように拳を強く握っていた。

 

 

 

試合当日、会場はある島の断崖などがある場所でのファイトとなり、鈴は機体に搭乗はせず岩の一つに立っていた。そこへボルトガンダムが歩いて試合会場に現れた。

 

「待たせたな、凰 鈴音。今日のファイト、手加減はしない」

 

「手加減は無用です、アルゴさん。来て!ジャオロォォォン!」

 

鈴の指鳴らしと共に地中からジャオロンガンダムが姿を現し、コクピットが開き乗り込む。

 

服が量子化し、モビルトレースシステムが起動すると同時にリングが回転しながら鈴にファイティングスーツを装着させていく。

 

「ぐ、んううううう!あああっ!」

 

張り付きが完了した両腕のスーツ素材を引きちぎり、鈴の胸元、太腿、足へと張り付いていく。

 

「うあああああ!」

 

全身にファイティングスーツの張り付きが完了し、起動と同時に軽い演武を披露するとボルトガンダムに向き合う。

 

「お待たせしました、アルゴさん」

 

「問題ない、行くぞ!ガンダムファイト!」

 

「レディー!」

 

「ゴーーー!」

 

ジャオロンガンダムとボルトガンダムが組み合い、押し合いを始める。互角のように見えるが、やはりパワーファイターであるアルゴと十代の少女である鈴とでは筋力の差がありすぎて押され始めている。

 

「ぐ・・・ぐううううう!!」

 

「軽いぞ・・・!その程度の力では俺には通じん!」

 

組み合いを外され、左腕を掴まれてしまった。鈴にとっては決して陥ってはならない状況に立たされてしまったのだ。

 

「ぬううううう!」

 

「あ・・ぐ!っああああ!!」

 

ボルトガンダムはそのパワーに任せ、ジャオロンガンダムの左腕を破壊しようとしている。抵抗するかのように蹴り技や右腕で反撃するがボルトガンダムの強固な装甲には一切通用しない。

 

「うおあああああ!」

 

「きゃあああああああああああ!」

 

アルゴの気合と共にジャオロンガンダムの左腕を引きちぎると同時に、ショルダータックルで押し飛ばした。

 

「ぐ・・く・・たかが、左腕一本!まだ戦えるわ!」

 

「まだ、戦意を失わないとはな。なら一気に止めを刺してやる!」

 

ジャオロンガンダムが岩壁から立ち上がるとボルトガンダムは肩から鉄球が射出し、鎖の形をしたビームが鉄球を捉えそれを振り回す。

 

「グラビトンハンマァァァ!」

 

それは純粋な質量の塊そのもので、それだけに直撃を受ければ、間違いなく今のジャオロンガンダムは戦闘不能になってしまう、それだけの威力を持った鉄球が迫る。

 

「えええい!」

 

「何ぃ!?」

 

鈴は残った右腕で青竜刀を持ち、迫り来るグラビトンハンマーのビーム鎖を断ち切った。それには流石のアルゴも驚きを隠せない。

 

「見取り技!無影脚ゥゥゥ!ハイハイハイハイハイハィー!」

 

鈴がボルトガンダムへと放った蹴り技はサイ・サイシーと戦った自分の試合の映像を見返し、見取り稽古から見様見真似したものだ。

 

「ぐおおおお!」

 

奇襲にも近い鈴の蹴り技を受けたアルゴは地面に叩きつけられ、初めてダウンを奪われるがすぐに立ち上がり構えを取る。

 

「はぁ・・はぁ・・」

 

「・・・」

 

機体損傷と体力は鈴の方が圧倒的に不利となっている。だが、鈴の目からは闘志が衰えておらず、勝利をもぎ取る意志が感じられる。

 

「アルゴさん、貴方に一騎打ちを挑みます!」

 

「望む所だ!来い!」

 

アルゴは両手の拳をぶつけ合い、精神を更に高揚させ全身を金色に輝かせた。それは全力で鈴を迎え撃つという事にほかならない。

 

「私の全力をこの一撃に込める!」

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『真・明鏡止水』発動]

 

鈴は智拳印を結ぶと同時にショルダーパーツをパージし、それがジャオロンガンダムの右腕に装着される。

 

「私のこの手が輝き唸る!」

 

「勝利を掴めと轟き叫ぶ・・・!」

 

二人の気迫が最高潮に達し、それが一騎打ちの合図となってぶつかりあった。

 

「爆光!オォォルゴン!フィンガァァァ!」

 

「炸裂!ガイア!クラッシャァァァ!」

 

ボルトガンダムが地面に拳を撃ち込み、その衝撃で地から何本も槍のような突起が現れ、鈴の突撃を阻もうとする。

 

「こんな、ものでえええええ!」

 

鈴はオルゴナイトの結晶に覆われた腕を突き出し、突起を破壊しながら真っ直ぐにボルトガンダムへと向かっていく。

 

「来い!凰 鈴音!」

 

「いやあああああああ!」

 

オルゴンフィンガーはボルトガンダムの胸部を捉え、オルゴナイトの爪を思いっきり喰い込ませていく。

 

「ぐうあああ!」

 

「私の勝ちよ!」

 

「いや!これからがガイアクラッシャーの真骨頂だァァァ!」

 

アルゴは接近したジャオロンガンダムの頭部に両腕を撃ち込み、ガイアクラッシャーを再び発動させた。零距離で撃ち込まれたガイアクラッシャーの威力は地面への衝撃伝達時よりも遥かに威力が高い。

 

「あ、がああああ!?ア・・アルゴさん!捨て身で!?」

 

「そうだ!たとえ相打ちになろうとも負ける訳にはいかんのだ!うおおおお!」

 

ガイアクラッシャーをその身に受けた鈴はその威力に意識が飛びそうになる。しかしここで負ければ越える事はおろか恩を返せずに終わってしまう。

 

「アルゴさん、流・・・石です!でも、私も!私も負ける訳にはいかないの・・・!貴方達を越えるために!」

 

しかし、今のボルトガンダムに隙は見当たらずジャオロンガンダムの頭部を破壊しようとしている。

 

「あ・・があああ!ま、負けるも・・んか!はっ!?」

 

鈴はボルトガンダムの脚部に負荷が掛かっているのを見つけ出した。しかし、見つけたところで零距離でのガイアクラッシャーによって動きを止められているために動くことができない。

 

「それなら!オルゴン・マテリア・・・ライゼーション!噛み・・・砕け!ジャオロォォン!」

 

ボルトガンダムを掴んでいるオルゴンフィンガーはオルゴンエネルギーでブロークン・アームを覆い、相手に突き立てる事でそのエネルギーを送り込み、結晶化させ爆発させる技だ。鈴は機転を利かせ、ブロークン・アームを覆っていたエネルギーを結晶化させる事で握り潰そうとしている。

 

「ぐあああああ!な・・・!何ぃ!?」

 

「ブラキ・・・ウム・ブローッ!」

 

そのままボルトガンダムの胸部装甲を握り潰し、ガイアクラッシャーから解放され鈴はマウントを取るとブロークン・アームで追撃しボルトガンダムの頭部を掴んだ。

 

「ま・・負けるのか!?」

 

マウントを取られると同時に二人の金色のオーラが消え、それと同時に鈴はネオロシアのスタッフに通信を繋げた。

 

「ジャオロンガンダムの凰 鈴音です。この勝負、そちらの機体がもう戦闘続行不可能です」

 

「何!?はっ・・!?」

 

通信を受けたナスターシャはボルトガンダムの機体状態をチェックをする。鈴の指摘通り、ボルトガンダムの左脚部の関節が爆発したのを確認した。これではファイターが無事でも戦闘は不可能となる。

 

「このような結果に不満は残りますが、戦闘不可能では戦う意味がありません」

 

「・・・貴殿の寛大な判断に感謝する」

 

鈴の指摘をナスターシャは受け入れ、ギブアップの信号を送った。

 

機体の不備によって試合が終わってしまったが、鈴はすぐにアルゴへと通信を繋いだ。

 

「アルゴさん、こんな形で勝負が終わってしまったのが残念です・・・」

 

「仕方あるまい、結果的にはお前の勝利だ」

 

「・・・・正直、不満です」

 

「お互いにな、お前とはもっと戦いたかったぞ」

 

鈴にとっては勝利よりも真正面から相手を越えることが出来なかった不満の方が大きかった。自分はこの世界の人間ではない、今回だけが戦えるチャンスだったのを機体のトラブルという形で終わってしまった事に腹が立っていた。

 

それでも試合結果は鈴の勝利だ。結果などは周りが騒げばいい、切り替えた鈴の眼中にあるのはシャッフル同盟のリーダーであるキング・オブ・ハート、ドモン・カッシュとの対戦だ。

 

相手は最初に自分を鍛えてくれた恩人、それでも勝利は自分が掴むという決意を固めながら島を後にした。

 

 

 

 

 

鈴は試合後の夜、ネオホンコンの港で佇んでいた。残る試合も後一戦、しかも相手は自分を一から鍛えてくれた大恩人であり、現キング・オブ・ハートであるドモン・カッシュ。

 

「必ず・・・勝ってみせる」

 

そうつぶやいた瞬間に誰かの笑い声が響き渡った。それはこの世界で出会った最強の格闘家の声だった。

 

「貴方は!?」

 

「いかにも、東方不敗・マスターアジアよ!喝ッ!応えよ凰 鈴音!流派!東方不敗は!」

 

マスターアジアはいきなり掛け声をかけてきたが、その掛け声に鈴は覚えがあった。

 

「(えっと、確か!)王者の風よ!」

 

「全新!」

 

「系列!」

 

「「天破!侠乱!」」

 

着いていくだけで精一杯だが、鈴はマスターアジアの拳を捌き続けている。それはシャッフル同盟との戦いによって鈴自身が成長してきている事を表していた。

 

「「見よ!東方は紅く燃えている!!」」

 

鈴は掌底でマスターアジアの拳を受け止めており、鈴自身はこの人物について行けた事が信じられなかった。

 

「って、こんな事の為に私に話しかけたんじゃありませんよね?マスターアジアさん!」

 

「無論だ、着いてくるがいい!」

 

「え!?ちょっと!ああ、もう!」

 

拳のぶつかり合いを解くと同時にマスターアジアは先に走っていってしまい、鈴は普通に走って追いかけた。鈴自身は本来はガンダムファイターではなく、ISの操縦者だが何故か追いつくことが出来ていた。

 

「こ、此処は・・・」

 

後に着いて行き、たどり着いた場所は見渡す限りの廃墟で人もおらず建物は全て倒壊している。華やかさとは真逆の破壊し尽くされた黄昏の場所である。

 

「凰 鈴音、お主はこの廃墟を見て何を思う?」

 

「え?華やかさの裏ですか?繁栄の裏にある犠牲じゃないんですか?」

 

「その通りよ、確かな答えだ。それよりも貴様はドモンと戦うのであろう?戦いを見ていたが流派東方不敗を身に付けているようだな」

 

流派東方不敗と聞いて鈴は素直に浮かんだ疑問をマスターアジアへと投げかけた。それは鈴がこの世界に来た時から抱いていた疑問だ。

 

「あの、もしかして・・・貴方は私を鍛えてくれたドモンさんの師匠なのですか?」

 

「はははっ!あの未熟者が貴様を鍛えたとはな!面白いものよ」

 

マスターアジアは嬉しそうに笑っていたが、どこかに寂しさを含んだ目をしており何かを悟っているかのようだ。

 

「凰 鈴音よ、貴様に流派東方不敗最終奥義を見せてやる」

 

「え!?貴方の下で修行した訳じゃないのに!?どうして!」

 

鈴の驚きと戸惑いは当然の事だろう、弟子になった訳でもない自分にいきなり最終奥義を見せると言われたのだから。

 

「それはだな、ぐ・・ゲホッ!ゲホッ!」

 

マスターアジアは突然、咳こみ僅かながら吐血した。それを見た鈴は自分に最終奥義を見せるといった理由を察した。

 

自分自身がもう長くはなく、自分の流派を学んだ相手には次世代の人間にそれを伝えていって欲しいという思いもあるからだろう。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「心配するな。良いか、よく目に焼き付けておけ!はああああ!流派東方不敗が最終奥義!石破天驚拳!」

 

マスターアジアが構えを取ると手から光が溢れ、それを倒壊している最も大きなビルに向かって放った。ビルには大きな手形のような跡が残り、ビルは更に倒壊し崩れていった。

 

「す、すごい・・!」

 

「確かに見せたぞ、石破天驚拳!技を見た今の貴様ならば出来るはず、撃ってみせい!」

 

「わ、私が!?」

 

鈴は自分が最終奥義を放つ事が出来ると言われたが信じる事が出来なかった。マスターアジアは鈴が見取り稽古によって技を習得している事を見抜いていたからこそ最終奥義を見せたのだろう。

 

「やってみせるわ!はぁあああ!流派東方不敗・・・!最終奥義、石破!天驚拳!」

 

鈴が放った石破天驚拳は目の前の先にあった廃墟のビルを倒壊させていた。マスターアジアに及ばないものの確かに放つことが出来ていた。

 

「で、出来た・・!私が!?」

 

「凰 鈴音よ。流派東方不敗最終奥義、石破天驚拳。確かに伝えたぞ」

 

「マスターアジアさん・・・」

 

「その技あればドモンに遅れは取るまい。よいか!この人類の黄昏を目に焼き付け、貴様の世界の破滅と戦うのだ!」

 

「!?どうしてその言葉を!」

 

「さらばだ!」

 

「待って!マスターアジアさん!」

 

鈴はマスターアジアを引きとめようとしたがそれは叶わず、一人だけ廃墟に残された。

 

「人類の黄昏・・・」

 

鈴は再び廃墟を見渡し始めた。あの人は一体、自分に何を伝えようとしていたのか?再び出てきた破滅という言葉、自分の世界に何が迫っているのだろうか。右手に浮かび上がったキング・オブ・ハートの紋章が次の戦いへの導きを示し、鈴は自室へと帰って行った。

 

 

 

 

その頃、ドモンは宿代わりにさせてもらっている船の船尾で次の対戦相手である鈴の事を考えていた。鈴と戦ったシャッフルの仲間達から、彼女は自分達を越えるつもりで戦いを挑んでくると全員に言われた。

 

「凰 鈴音、噂では俺達が鍛えたファイターとも言われている。確かにアイツの格闘センスは並みのファイターではない、だがそれでも俺は全力で迎え撃つ!」

 

夜空に浮かぶ月に向かってドモンはファイターとしての最大の敬意を戦いで示す事を新たに誓った。




よ、ようやくドモン戦にまで行けそうです。シャッフルの戦闘後はデビルガンダムとの一戦。

鈴ルートが現状で一番長くなっていて読者の皆様が飽きててるのではと不安になります。


次回はドモン戦とデビルガンダムとの戦いとなります。

鈴にとっては成長と同時に大きな悲しみを背負うことになります。

このデビルガンダムとの戦いによってです。


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されどこの掌は烈火の如く[VSゴッドガンダム戦&ラオタン島](鈴ルート7)

ドモンとの決戦

鈴の倒すべき相手が登場


以上


さて、皆さん。

シャッフル同盟と凰 鈴音の対戦も残り一つとなりました。

相手はここまで全勝を遂げているネオジャパンのゴッドガンダムのドモン・カッシュ。

果たしてそのような戦いが繰り広げられるのか?彼女は決勝に進むことができるのか?

それでは!!ガンダムファイト!レディーーー!ゴーーー!!


ボルトガンダムに破壊されたジャオロンガンダムの左腕の修理と共にネオホンコンの技術者が鈴を呼び出していた。

 

「え?あと三戦が限界!?」

 

「ええ・・・シャッフルの皆様とのファイトでのダメージが大きくて」

 

「そう、わかったわ」

 

鈴は形は違えど同じ事を仕出かしてしまったと自分で反省した。自分の感情に任せて機体を酷使するのは悪癖だ。

 

「直そうにも直らないのよね・・・爪龍には本当に負担をかけてばっかりで申し訳ないわ」

 

自覚はあるようだがどうしても直せず、相棒にばかり負担を強いて何をしているのかと。ガンダムとなった爪龍自身も言葉にせずとも仕方ないと言っているようにも見えていた。

 

修理が完了し、鈴は料理修行をした後にゴッドガンダムの試合を自室で観ていた。どれを観ても全戦全勝、それだけ手強い相手だという事しか分からない状態だ。

 

「何も分からないのと同じって事ね。いいわ、それでも必ず!」

 

握り拳を作ると同時に、鈴の手にはシャッフル同盟の中で最強の証であるキング・オブ・ハートの紋章が浮かび上がっていた。他の紋章も浮かび上がるがキング・オブ・ハートだけは輝きが強い。

 

「・・・今度は機体不備なんて出ないで欲しいわね」

 

鈴はボルトガンダムの一戦を思い出していたがすぐに振り払うと、すぐに切り替えて試合当日の日までコンディションを整えるためのトレーニングを開始した。

 

 

 

試合当日、シャッフル同盟の最後の一人との戦いとだけあって観客はかなりの数だ。全勝宣言をしたゴッドガンダム、シャッフル同盟のうち四人に勝利し実力を示したジャオロンガンダム。この二機がぶつかり合うとなっては見逃す訳にはいかないと観客はさらに集まってくる。

 

「凰 鈴音、手加減はしないぞ?俺が必ず勝つ」

 

「その言葉、そっくり返しますよ。ドモンさん」

 

「ならば!」

 

「ええ!」

 

「出ろぉぉぉ!ガンッダァァァァム!」

 

「来て!ジャオロォォォォン!」

 

二人が指を鳴らすとゴッドガンダムは上空から、ジャオロンガンダムは地下から現れ、それぞれの機体に乗り込む。ゴッドガンダムはすぐに起動し、ジャオロンガンダムのモビルトレースシステムも起動する。

 

服はすぐに粒子化し、ファイティングスーツを張り付かせるリングが降りてくる。

 

「んんっ!くうううう!うああああ!」

 

腕に張り付いたファイティングスーツを引きちぎると同時に全身へも張り付き、最後に残った足の部分すら引きちぎり、機体の起動を確認の為に軽い演武を見せる。

 

「来い!鈴!」

 

「全力でいきます!ドモンさん!ガンダムファイト!」

 

「レディー!」

 

「ゴーー!」

 

[推奨BGM『最強の証~キング・オブ・ハート』原曲]

 

互いに突撃し手を掴み合う取っ組み合いを仕掛け、拮抗する。しかし、その組み合いもすぐに解くと拳の応酬を始めた。

 

正拳、肘打ち、裏拳、手刀、あらゆる打撃が二人の間で繰り出される。受けては繰り出し、繰り出しては受けられるという応酬が長時間続く。

 

「なかなかやるな、ここまで着いてくるとは!」

 

「鍛えられてから一日たりとも鍛錬は怠っていないんですよ、貴方達を越えるために!」

 

「ふ、超えるためか。なぜ俺達を越えようとする?その先は無いのか!?」

 

「っ!それは・・・」

 

「それをも拳に乗せてかかってこい!己の拳は己の魂を表現するものだ!」

 

「!たあああああああ!!」

 

鈴の拳は速さを増し、ドモンに襲いかかる。受けに回るが突破されてしまい、ドモンにダメージが伝達する。

 

「ぐおっ!?がはっ!(これは恋慕か?一度目の恋を振り切り、内に秘めた新たな恋慕。一体誰を想っている?)」

 

魂の拳によってドモンは鈴の魂の叫びが聞こえた。鈴が内に秘めていたのは恋慕、誰かを想い、恋した者を守りたいという想いが鈴が魂の中で叫んでいた。

 

「まだよ!見取り技!無影脚ゥ!ハイハイハイハイハイィー!」

 

「ぐあああああ!」

 

「(そうよ、私だって・・・私だって!アイツの事が好きなんだからぁー!)」

 

恋する女というものは、実力が何倍にも何百倍にも跳ね上がるほどの力がある。しかしそれはドモン自身が頼りにしていた[怒り]と同じで極めて危ういものだ。

 

「うう・・!なるほどな、お前の力の源がわかったぜ。だが、それは危ういぞ!」

 

ドモンは立ち上がりながら今の鈴の状態が怒りに囚われていた自分と同じである事を指摘した。

 

「!?」

 

「恋慕を糧にするのは良い事だ。だがな!それで立ち止まっていては何も進まんぞ!」

 

「!(そうだった・・・何、自分の中に秘めておこうなんてバカなこと考えてたのよ、ハッキリ言えばいいだけじゃない)」

 

鈴は目を見開き、改めて自分の気持ちを素直になる事にした。秘めて満足するよりも向き合って想いを伝えることこそが自分らしいと考えた為だ。

 

「やっぱり、ドモンさんには導かれてばかりですね。でも。勝負は別ですよ!」

 

「ふ、当然だ!来い!」

 

再び拳の応酬が始まった。リーチの差を補うために蹴り技を織り交ぜ、ドモンに迫るがそれを完全に受け流され今度は反撃をくらってしまう。

 

「うああ!くうううう!」

 

「であああああ!」

 

防御にまわざるを得ない状態に鈴は反撃のチャンスを伺っていた。どれだけ追い込まれようとも、必ずチャンスはやって来る事をこれまでの戦いから学んだからだ。

 

「!たぁあああ!」

 

自分が最も得意とする左足を軸にした回し蹴りを鈴はドモンに放つ。それがドモンの顔面を捉えた。

 

「うおおお!」

 

ダウンしそうになるのを堪え、間合いを開く。お互いに体力の削り合いとなっている状態に嫌気がさしていたのだ。

 

「はぁ・・はぁ・・ドモンさん、もう削り合いはやめにしませんか?」

 

「はぁ・・は、そうだな。決着をつけるぞ!」

 

二人は同時に智拳印を結び、同じ境地に立つ。先を行く者と追いかける者、世界は違えど拳に載せる思いは変わらない。

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『真・明鏡止水』発動]

 

「俺のこの手が真っ赤に燃えるゥ!」

 

「勝利を掴めと叫びを上げる!」

 

二人の必殺技はほぼ同じだ。違いはエネルギーの質と大きさだけ、それだけに真っ向勝負となる。ジャオロンガンダムはブロークン・アームを右腕に装着し構えを取る。

 

「爆熱!ゴォォォッド!フィンガァァァ!」

 

「爆光!オォォルゴン!フィンガァァァ!」

 

二体のガンダムが同時に互いの頭部を捉え、ダメージを与え続ける。それは見ているだけでもどちらが勝つのかという手に汗握る状態だ。

 

「リィィィィン!」

 

「ドモンさぁぁぁぁん!」

 

拮抗はついに破られ、二機は同時に倒れてしまい観客達はそれぞれの応援するファイターに声援を送り続けるが、無情にもテンカウントは数えられ続けられる。

 

「ぐ・・う・・!」

 

ゆっくりと立ち上がってきたのはゴッドガンダム、つまりドモン・カッシュがテンカウント前にファイトの意思がある事を示したのだ。

 

ジャオロンガンダムは立ち上がる気配がない、テンカウントは数え終わってしまいゴッドガンダムの勝利が実況者から告げられた。

 

「鈴!起きろ!」

 

「うう・・・やっぱり、負けちゃいました・・か」

 

「だが、良いファイトだったぞ」

 

「ええ・・・次があれば負けませんからね?」

 

「ふ、何度でも挑んで来い」

 

握り合った手からは確かに戦いあった者だけが感じることのできる繋がりが確かにあった。

 

 

 

 

シャッフル同盟との戦いを終えた鈴はこれまでの戦績からラオタン島で行われる決勝バトルロワイヤルへの出場権を獲得した。

 

島へたどり着くと同時に鈴はドモンと少し離れた場所で行動していた。すぐに戦うのではなく周りのガンダムを倒しておかなければ決着がつけられないからだ。

 

コブラガンダムとゼウスガンダムの両者が倒され、鈴はすぐにゴッドガンダムのもとへと向かった。

 

「鈴か、ファイトしに来たのか?」

 

「ええ、でも。厄介な邪魔者が来たので共闘しませんか?」

 

「何!?」

 

「ウガアアアアアア!」

 

戦車のような音共にやってきたのは先程ドモンが倒したゼウスガンダムだった。まるで理性を失っているかのように攻撃を仕掛けてくる。

 

「きゃあ!?」

 

「うおおおっ!このパワー、DG細胞か!?」

 

「このぉ!邪魔しないで!」

 

「でやあああ!」

 

鈴は青竜刀を連結させ、機動力を奪う為に戦車のようなサポートメカを破壊した。ドモンはその隙を狙いゼウスガンダムの胸部を切り裂いた。

 

「ヌアアアアアア!!」

 

切り裂かれた胸部から機械の触手のようなものが飛び出し、ドモンはそれに捉えられてしまった。電撃が走り、ゴッドガンダムにダメージを与えている。

 

「うああああああああ!」

 

「ドモンさん!やられたなら眠ってなさいよぉ!」

 

鈴は青龍刀でドモンを捉えている触手を切り、ドモンを開放すると同時に隣へ並び立った。

 

[推奨BGM 我が心明鏡止水~されどこの掌は烈火の如く 原曲]

 

「鈴、俺達でアイツを片付けるぞ!いいな!?」

 

「はい!ドモンさん!」

 

二人は同時に構えを取り、鈴はブロークン・アームを右腕に装着した。

 

「「我らのこの手が真っ赤に燃える!!」」

 

「悪を倒せと!」

 

「轟き叫ぶっ!!」

 

鈴は素早くゼウスガンダムの背後に回り、挟み込む形になるように合わせた。同時に突撃してくる二人にゼウスガンダムは混乱している。

 

「オォォルゴン!!」

 

「ゴォォォッド!!」

 

「「フィンガァァァァッ!!」」

 

前後からの同時攻撃を受けたゼウスガンダムは持ち上げられ、二つのエネルギーを送り込まれる。

 

「ヒィィィト!」

 

「エンドォ!」

 

二つの破壊エネルギーを送り込まれたゼウスガンダムは爆発し、巣食っていたDG細胞ごと破壊された。それと同時に島で地震が起こり、地中から何かが出てくる。ガンダムのようだがその姿は巨大で異形そのもの、まさしく悪魔という言葉が体現したかのような姿をしている。

 

「あ、あれってなんですか!?ドモンさん」

 

「あれはデビルガンダム、必ず破壊しければならない悪魔だ!」

 

「デビルガンダム・・・」

 

鈴はその姿に戦慄していたがすぐに持ち直し、視線をデビルガンダムへと移す。

 

「ウハハハハ!待っておったぞ!ドモン!凰 鈴音!」

 

「その声は!」

 

「東方不敗!」

 

「そうだ、ワシはこの日を待っていたのだ。すべてが集結するこの日をな!」

 

マスターアジアは笑い声を上げながらデビルガンダムのすぐ近くにおり、馬に跨った姿で二人を見下ろしている。

 

「さぁ、ここへ来い!ワシと戦いたければここまで登ってくるがいい!」

 

ゴッドガンダムとジャオロンガンダムはマスターガンダムを見上げ、必ず向かってやるという意志をぶつけていた。




次回で鈴ルートは最終回です。

鈴が好きとはいえど話を伸ばしすぎてすみません。

この話の中では合体攻撃がありますので見つけてみてください。

鈴の恋慕は一体誰に向いているのでしょうか?


次回は鈴にとって心が成長する試練です。涙を流しながら倒すべき相手と対峙します。


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Trust You Forever(鈴ルート最終)

二つの悲しみを背負い帰還する

戦いの紋章は消えない

以上


「東方不敗!今からそこへ向かってやる!」

 

「待って、ドモンさん!」

 

「ウハハハハ、威勢がいいな!だが、ワシと戦う前に此奴らを倒して来てみろ!」

 

ラオタン島に現れたデビルガンダムとマスターアジアだが、マスターアジアが軽く手を挙げると二機のガンダムが現れた。

 

ネロスガンダムとジョンブルガンダムの二機だ。しかし、その姿を変えていき全くの別の姿となった。

 

天剣絶刀・ガンダムヘブンズソード、獅王争覇・グランドガンダムの二体。どちらもデビルガンダムの力によって進化したものだ。

 

「いいわ、相手になってやるわよ!」

 

「ああ、望む所だ!」

 

四天王の二体に向かっていこうとした二人を止めるかのように、四つの影がヘブンズソードとグランドの二体を押さえ込んだ。

 

「ドモン!ここは俺たちに任せろ!」

 

「ここは私たちが抑えます!」

 

「チボデー!?ジョルジュ!?」

 

グランドガンダムを押さえ込んでいるのはマックスターとローズの二機だ。

 

「鈴!アニキと一緒に行ってくれ!」

 

「ドモンのサポートを頼む!」

 

「サイ・サイシーさん!?アルゴさんまで!」

 

四人はそれぞれ押さえ込んだ敵と共に別の場所へと移動していってしまった。それを見届けた二人は真っ先に上へと向かっていく。

 

しかし、それを阻もうとしていたのがノーベルガンダムだが乱入してきたもう一機のガンダムが体当たりでノーベルガンダムを押しのけ、海中へと潜っていった。

 

「今のはライジングガンダム?一体誰が!」

 

「急ぎましょう!ドモンさん!」

 

「ああ」

 

マスターアジアのもとへたどり着くと同時に仕掛けたのは鈴だ。しかしマスターアジアは子供の相手をするかのように受け流してしまう。

 

「っく!このぉ!」

 

「未熟者がぁ!」

 

「きゃああああ!」

 

マスターガンダムのマスタークロスによって引き寄せられた鈴はそのまま蹴りを受けてしまい、地面に倒れてしまう。

 

「鈴!」

 

「隙有りィ!」

 

今度はゴッドガンダムを引き寄せ、一撃を加える。事実上の二対一だが、そのハンデを感じさせない程、マスターアジアは圧倒的だ。

 

「ぐはぁああ!」

 

「どうした?立ち上がる気力を失ったか!?」

 

「ぐうう、俺はみんなの力を借りてここまで来たんだ!その志を無駄には出来ん!俺は必ずデビルガンダムを倒す!」

 

「私だって・・負けないわ!」

 

「まだ寝言をほざきおるか!」

 

「いや!その粋だ!二人共!!」

 

突然の声に二人は驚いたが、その声には聞き覚えがあった。時に厳しく、時には導いてくれた大恩人。

 

「おのれ、シュバルツ!またしても!」

 

「そうだ!貴様に我が弟をやらせはせん!」

 

弟という言葉にドモンはやはりという表情を見せ、鈴は逆に驚きを隠せないでいた。

 

「弟!?それじゃ、やっぱり俺の兄さんなんだ!」

 

「え、え?どういう事!?シュバルツさんがドモンさんのお兄さん!?」

 

「二人共、話は後だ!今はデビルガンダムを倒すことが先決だ!マスターは私が相手をする」

 

マスターガンダムとガンダムシュピーゲルがファイトを始め、シュバルツの一言で鈴は目的を認識し、デビルガンダムのもとへと向かっていく。それと同時にドモンも鈴に続いてデビルガンダムへと向かった。

 

デビルガンダムはまるで見せつけるようにコクピットを開き、パイロットであるキョウジを表に出した。

 

DG細胞で身体の欠損は再生されており、機械の触手に絡め取られている姿はまるで植物の根が土から養分を吸い上げているようにも見える。

 

あまりにも酷い姿に鈴は絶句したが、それ以上に驚きなのがデビルガンダムに取り込まれているキョウジとシュバルツの素顔が全く同じだという事だ。

 

「どういうことなんだ、これは!?」

 

「キョウジさんが、二人!?」

 

キョウジに気を取られているとガンダムヘッドが細かな触手に分裂し、ジャオロンガンダムとゴッドガンダムを締め上げる。

 

「ぐわああああああああ!」

 

「きゃあああああああああああ!」

 

二人はどうにかして触手を振り払おうとするが、四肢を絡め取られていて動くことができない。

 

「くうう!これじゃシャドウも出せない!」

 

「ぬうううう!」

 

「見たか!屍同然の兄の姿を!然るにドモンよ!貴様が新たなデビルガンダムの生体ユニットとなれ!」

 

「ぐうう、マスターアジアァー!」

 

マスターアジアの言葉にシュバルツは叫びを上げ、鈴も怒りが沸いたが四肢を絡め取られて動けない状態だ。

 

「いい加減にしてよ、ねェェェ!」

 

鈴は使うまいと決めていたオルゴン・クラウドの転移を使い、拘束から抜け出し青竜刀を手にするとドモンを拘束している触手を切り、救出した。

 

「すまない、助かった!」

 

「お礼は後でいいですから!襲ってきてますよ!」

 

ガンダムヘッドの大群は敵味方問わずに襲いかかってきている。鈴はガンダムとしてではなくISとして使ってきた技を使い始めた。

 

「これが爪龍の力よ!オルゴン・シャドウ!全部受けろォォォ!」

 

鈴は16体のオルゴン・シャドウを出現させ、オルゴナイトの結晶化した拳をガンダムヘッドへ撃ち込んでいる。

 

「な、なんだあれは!?このワシも知らんぞ!」

 

鈴の攻撃にマスターアジアすら驚く事だったが、戦いの中で突如シュバルツが苦しみだし、ドモンが救出に向かいシュバルツを安全な場所に移した。

 

「兄さん、やっぱり無理だ!早く手当を受けないと!」

 

「いや、もう大丈夫だ」

 

「それよりも兄さん、どうして兄さんが二人もいるんだ!?教えてくれ!兄さん!」

 

「わかった、全てを話そう。私はキョウジであってキョウジではない存在、いわば影・・・」

 

「影?」

 

「そうだ。私は鏡に映ったキョウジの影であり、DG細胞の転写複製因子よって作られたキョウジのコピーなのだ」

 

転写複製因子。それはコンピューターでいうところのコピーデータであり、デビルガンダムというコンピューターの中でプログラムの一部となっているキョウジ自身の人格や記憶などのデータをコピーし移し替え、別の人間という古いコンピューターで稼働させている状態と似ている。

 

「そ、そんな・・・じゃあ!兄さんがデビルガンダムを奪って全宇宙の征服を企んだっていうのは」

 

「ネオジャパンの軍によるでっち上げだ」

 

「ならどうして、最初に出会った時に本当の事を話してくれなかったんだ!?」

 

「ふ、頭に血が昇り過ぎていたお前に言っても信じるはずがあるまい。だが、私も辛かったぞ!」

 

「兄さん!アンタは兄さんだ!間違いなく・・・俺の兄さんだぁぁ!!」

 

裏切られていたと思っていた実の兄の真実を知って、ドモンはその目に涙を浮かべていた。自分を思ってくれている優しさ、家族の暖かさを感じたからだ。

 

驚愕の真実に話を聞いていた鈴ですら驚きを隠せなかった。軍の企みによってドモンの家族は引き裂かれてしまったのだ。

 

デビルガンダムは無差別破壊をしており、鈴は風雲再起に乗ったマスターアジアを相手に闘っていた。

 

「はぁ!はっ!」

 

「ウアハハハハ!言ったであろう!貴様は未熟だとな!だが、貴様もデビルガンダムのコアとなるだろう!」

 

「ふざけないで!誰があんなゲテモノなんかに乗るもんか!」

 

「隙有りィィ!」

 

「しまっ!きゃああああ!」

 

「鈴!」

 

鈴はマスターアジアの操るマスタークロスに捉えられ、身動きが取れなくなってしまう。ドモンも鈴を助けに向かおうとするが無差別攻撃の爆発で向かう事が出来ずにいた。

 

「う・・まずい、意識が・・・!私の命はキョウジと共にある、もはやこれまでか・・?いや、まだ終われん!」

 

シュバルツは力無くガンダムシュピーゲルを動かし、マスタークロスに囚われた鈴をシュピーゲルブレードでその布を斬ると同時にデビルガンダムへ突撃していった。

 

「後少しだけ持ってくれよ、この身体・・・!」

 

「シュバルツさん!?」

 

「貴様、何をする気だ!?」

 

「知れた事!デビルガンダムを食い止めるのよォ!」

 

「無茶だ!兄さん!」

 

「黙って見ていろォォォォ!」

 

ガンダムシュピーゲルはデビルガンダムへ特攻していくかのように必殺技のシュツルム・ウント・ドランクを発動させる。

 

デビルガンダムはそれを撃退するためにバルカン砲を放つ。デビルガンダムクラスのバルカン砲は従来のガンダムタイプよりも大口径であり、威力は桁違いだ。

 

「ぐううう!」

 

シュバルツは苦悶の声をあげるが特攻をやめようとはしない。バルカン砲を弾いていた必殺技も限界を迎え、ガンダムシュピーゲルが蜂の巣にされていく。

 

それを見たドモンと鈴は全速力でデビルガンダムの上半身へと向かった。

 

「兄さぁぁぁぁん!」

 

「シュバルツさぁぁぁん!」

 

シュバルツはシュピーゲルの爆発前に脱出しており、デビルガンダムのコクピットへ潜り込むと自身のオリジナルであるキョウジの肉体を捉える。

 

「ぐうう!」

 

生体エネルギーの伝達が遮られたのかデビルガンダムの動きが止まってしまう。だが、デビルガンダムの意思はシュバルツすらも取り込もうと触手を伸ばし巻き付かせた。

 

「いかん、デビルガンダムは私まで取り込むつもりだ!」

 

「ドモン!鈴音!撃て!私と一緒にデビルガンダムを!」

 

「え!?」

 

「そんな・・・!」

 

「早く!私の身体ごとコックピットを吹き飛ばすんだ!」

 

鈴とドモンはシュバルツから言われた事に戸惑いを見せた。何故なら自分ごとデビルガンダムを吹き飛ばせと言ってきたからだ。

 

「そ、そんな・・嫌だ!僕には出来ない!!」

 

「嫌ァァ!!私だって嫌よぉ!」

 

「甘ったれるな!その手にあるシャッフルの紋章の重さを忘れるなァ!」

 

「紋章の重さ・・・」

 

シュバルツは甘えを捨てて自分の使命を全うし目的を見失うなと叫びをあげている。

 

「それとも、こんなキョウジのような悲劇を繰り返させるつもりか!?」

 

「うう・・・」

 

「いや・・いやよ!」

 

二人は未だに迷いが解けない。ドモンにとっては実の兄、鈴にとっては自分を鍛え直してくれた大恩人だからだ。その中でマスターアジアがドモン達に向かって叫んでいた。

 

「止めろ!ドモン!鈴音!貴様等、実の兄と恩人をその手で殺めるつもりか!?止めろォォ!!」

 

「やるんだ!デビルガンダムの呪いから私達を解き放ってくれ!頼む、ドモン!鈴音!デビルガンダムに最後の一撃を!!」

 

「・・・っわかった!」

 

「わかりました、シュバルツさん・・・・!」

 

「鈴、協力・・・して、くれ」

 

「は・・・・い」

 

ドモンは懸命に涙を堪え、鈴は既に涙を流し二人は流派東方不敗の最終奥義を放つ体勢に入る。浄化の意味も込められた二つのキング・オブ・ハートの紋章がゴッドガンダムとジャオロンガンダムの前に現れる。

 

「よせ!デビルガンダムなくして地球の環境は!止めろおおおお!!」

 

「ぐ・・に・・・兄さん・・・!」

 

「シュバルツ・・・・さん!うわああああああああああッ!」

 

「爆熱!」

 

「爆光!」

 

「「石破!天驚けェェェん!」」

 

二体のガンダムの目からは涙が溢れており、二つの石破天驚拳はデビルガンダムのコックピットへと向かっていく。同じ顔をしながら全く異なる二人のキョウジは直撃の瞬間に目を合わせた。

 

「(すまなかったな、お前に損な役割をさせて・・・)」

 

「(いや、構わない。これでようやく役目を終えて次に託せるのだからな・・・)」

 

「兄さん・・・!」

 

「シュバルツさん・・!」

 

「「ありがとう・・・ドモン、鈴音・・・」」

 

「にぃぃぃぃさぁぁぁぁん!!」

 

「シュバルツさぁぁぁぁん!」

 

デビルガンダムは上半身を完全に失い、崩れ落ちていった。ドモンと鈴は深い悲しみに包まれており完全に膝を着いている。

 

鈴にとって恩人を亡き者にしてしまったという事実が自分に重くのしかかっていた、それほど自分がやった事は根深いものとなっている。

 

悲しみに暮れていたが鈴の身体が少しずつ光に覆われていた。それに気づかないままドモンとマスターアジアの最終決戦が始まり、鈴はその戦いを見届けた。

 

かつての師匠と弟子の戦いは死力を尽くす激闘であり、誰にも手出しする事は出来ない。

 

だが、マスターアジアは地球を思うがあまりの行動だったことが明らかになっていく。

 

「我が身を痛めない勝利が何をもたらす・・・か、深すぎる言葉ね」

 

ドモンとマスターアジアの一騎打ちは最終奥義の撃ち合いとなった。二人は限界を越えて機体と共に黄金色に輝いた。

 

「はぁぁぁぁぁ!たああああああ!」

 

「はあああああ!でいあああああ!」

 

「行くぞぉ!」

 

「おおっ!」

 

「はあああ・・・流派!」

 

「東方不敗が!」

 

「最終!」

 

「奥義ィィィ!!」

 

身体を覆う光が強まっている鈴はこの戦いを最後まで見届けたい、見届けるまでこの世界から返さないで欲しいと強く願った。

 

「石!」

 

「破!」

 

「「天驚けェェェん!」」

 

二人の最終奥義は周辺の岩山を吹き飛ばし、ぶつかり合いを始めた。それほどまでに凄まじく眩しい。

 

「ぐああああっ!」

 

同じ技を放ったが経験と熟練の差か、ドモンの方がダメージを受けている。

 

「ウハハハハ!ウハハ!そこまでか!貴様の力などそこまでに過ぎんのか!?それでもキング・オブ・ハートか!?」

 

「足を踏ん張り、腰を入れんかぁ!そんな事では、悪党であるワシ一人倒せんぞ!この馬鹿弟子がぁ!!」

 

二人のぶつかり合いに鈴は違和感を感じていた。これではまるで武術の稽古そのもの、マスターアジアが本気ならばドモンは既に倒されてもおかしくはない。

 

「まさか、マスターアジアさんがドモンさんを鍛えてるの?」

 

「何をしておる!自ら膝を着くなど勝負を捨てた者のする事ぞぉ!立て、立ってみせい!」

 

「う、うるさい!今日こそ俺はアンタを越えてみせる!」

 

強引に立たされていたがドモンが押し返していき、それを見た鈴は声を張り上げていた。

 

「ドモンさん!越えて!自分の師匠を越えて見せてェェェ!」

 

「おおおう!石破!天驚!ゴォォォッド!フィンガァァァ!」

 

鈴の言葉に応えた一撃、石破天驚ゴッドフィンガーがマスターアジアを捉えた。この一撃こそ弟子が師を越えた事を意味するものだった。

 

「ヒィィト!エェェン!」

 

「宜しい、今こそ・・・お前は本物のキング・オブ・ハート」

 

「師匠ぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

マスターガンダムは爆発し、マスターアジアは海岸沿いで横たわっていた。傍にはファイティングスーツ姿のドモンと鈴がおり、少し離れた場所には新シャッフルのメンバーとクルーが立っている。

 

「う・・・なぁ、ドモン。お前には教えられたよ、人類も自然の一部である事に、ワシはまた、同じ過ちを繰り返す所であった」

 

「し、師匠・・・」

 

「ワシをまた、師匠と呼んでくれるのか・・?」

 

「俺は今の今になって初めて師匠の悲しみを知った、それなのに俺は話を聞こうともしなかった!」

 

ドモンはマスターアジアの真意を知った事で後悔だけが一気に溢れてきていた。

 

「マスターアジアさん・・・」

 

「凰 鈴音か・・・」

 

鈴が話しかけるとマスターアジアは鈴に視線を向けた。その眼差しは何処か優しげで最後のアドバイスだと言わんばかりだ。

 

「鈴音よ、良いか?お前の世界の破滅を追い返せるのはお前たちだけだ。心して戦え・・・」

 

「はい・・!」

 

「美しいな・・・」

 

マスターアジアの目からは涙が溢れ出し、それと同時に夜明けの光りが溢れてくる。

 

「はい、とても美しゅうございます」

 

「本当に・・・綺麗ですね」

 

「ならば・・・」

 

「「「流派!東方不敗は!」」」

 

「王者の風よ!」

 

「全新!」

 

「系列!」

 

「「「天破!侠乱!」」」

 

「「「見よ!東方は紅く燃えているゥゥゥ!」」」

 

マスターアジアは言い終えると同時に息を引き取った。その顔は穏やかで闘っていた相手とは思えないほどだ。

 

「・・・ドモンさん」

 

「わかって・・!鈴、お前!?」

 

鈴の身体はほとんどが光に覆われており、消えかけていた。その姿にドモン以外のシャッフル同盟のメンバーも驚いている。

 

「私の役目は終わったようです。でも、きっと再会できますから」

 

「ああ、また拳を交えよう」

 

「ええ・・・それじゃまた!」

 

鈴の姿が完全に消え、場に残ったのはISの爪龍と融合していた素体のMFだけだった。

 

 

 

 

アシュアリー・クロイツェル社の研究室で二つ目のカプセルが開き、鈴が目を覚ました。

 

「戻って、来れたのね」

 

起き上がって扉を開けるとそこにはセシリアと束がおり、驚いた様子で近づいてきた。

 

「鈴さん!」

 

「二人目の帰還者だね!よかったぁああ!」

 

二人は鈴の帰還を喜んでいたが鈴自身はとても喜べる心境ではなかった。

 

「ごめん、今は少しだけ一人にして・・・」

 

「わかった、その前に爪龍を預からせてね」

 

「はい」

 

鈴は待機状態となっている爪龍を束に預け、それと同時に束とセシリアが鈴の右手の輝きに気づいた。

 

「鈴さん、その紋様は何ですの?」

 

「え?」

 

「束さんも気になるねー?何だろう!?」

 

急いで右手を見るとそこには、キング・オブ・ハートを始めとするシャッフルの紋章が浮かび上がっていた。

 

「シャッフル同盟の紋章ね・・・あとで説明するから」

 

鈴は部屋を出ていくと廊下で泣き始めた、堪えられなかった思いを吐き出さんばかりに泣き続けた。

 

「シュバルツさん、マスターアジアさん・・・うああああああああん!」

 

今だけは泣かせて欲しいという思いと共に鈴は泣き続け、泣き終えてから研究室へと戻っていった。




鈴ルート、これにて終了です。

次回からはシャルロットのルート、恐らくこんなに長くならないと思います。

自分の義姉が荒れており、更には義兄と戦う事になるシャルロット。

三人娘も登場予定です。


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殺したいほど愛した人(シャルロット・ルート編)

自分の義姉の闇を知る

義兄との戦いに迷う

シャルロットのルート


以上


※注意書き

時間系列はスパロボJの20話の戦闘後から37話ですが並行世界的な路線になります。

敵はほとんどがデータ世界でのフューリーです。

宇宙ステージはある方の発明で出撃可能になります。


扉を叩くような音と共にシャルロットは目を覚ました。どこかの一室のようで個室のような感じだ。自分の愛機であるIS、ベルゼルート・リヴァイヴは待機状態でペンダントのままになっている。

 

「ここ・・何処だろう?個室みたいだけど」

 

「シャル!早く来てくれ!カルヴィナとカティア達が揉めてるんだ!」

 

「(え?義姉さん達が?)うん、わかった!先に行ってて!」

 

シャルロットが声をかけた瞬間、呼びに来た女性らしき相手は走り去っていった。知らず知らずのうちに待機状態のベルゼルート・リヴァイヴに触れ、自分が来た世界の情勢、人物の名前などの知識が頭の中へと入ってきた。

 

「ああ・・・そうなんだ、此処は。ああっと!いけない、呼ばれてたんだ!」

 

シャルロットは急いで騒ぎが聞こえる格納庫へと走っていった。到着した場所ではカルヴィナがカティア、メルア、テニアの三人を鬼のような顔で追い込んでいた。

 

「お前達が知っている事全てを話せ!事と次第によってはアンタ達でも容赦しない!」

 

「ごめんなさい、私達は本当に何も知らないの!」

 

「何度も言ってるじゃない!本当に何も知らないよ!本当だよ!」

 

「やめて、やめてください!」

 

カルヴィナは周りの事すら視界に入っていない様子で三人に詰め寄っている。それをシャルロットが止めようと割って入った。

 

「止めてよ!こんなの義姉さんらしくないよ!」

 

「なんだお前は!?それに私はお前の義姉なんかじゃない!」

 

「っ・・!」

 

自分の世界で最も信頼している人物から完全な否定の言葉を受けたシャルロットはショックを受けたが、サイトロンから受けた知識で自分と出会った事のない義姉だという事を認識し、持ち直した。

 

「それにまだそいつらには聞くことがある!退け!」

 

「退かないよ、どうしてもというなら力ずくでボクを退かしてみなよ」

 

「いいだろう、後悔するな!」

 

「おい、止めろ!」

 

「止めないで、カガリさん」

 

カガリと呼ばれた少女に声をかけたシャルロットを見て、隙だと確信したカルヴィナは怒りに任せたパンチをシャルロットに放つがシャルロットはそれを見切り、手で受け止め押し返した。

 

「う!?ぐうううう!」

 

「どうしたの?僕が知ってるカルヴィナ義姉さんなら、ここから左パンチで攻撃して来たよ?」

 

退役しているとはいえ、この世界でのカルヴィナは軍属だった経験がある、怒りに任せている状態であってもシャルロットのような少女が止められるはずがない。しかし、今のシャルロットは本来の自分の世界で曲がりなりにもシャッフル同盟や獣戦機隊、義兄であるアル=ヴァン、そしてカルヴィナに鍛え上げられた身である。怒りに任せた乱雑な攻撃を見切れて当然の事だ。

 

「やあっ!」

 

「ぐっ・・あ!?」

 

手加減をしながらもシャルロットのパンチは腹部を的確に捉え、それをに受けたカルヴィナは蹲り、シャルロットを下から睨んでいる。その目には邪魔をされた事に対する怒りしか宿っていない。

 

「義姉さん。いや・・・カルヴィナさん、この三人が何も知らないのは本当だと思うよ?そうじゃなきゃこんなに必死にならないよ。でも、暴れたいならボクが相手になってあげる」

 

「ヒュウッ」

 

「過激だねえ、シャルロットちゃん」

 

「すごい体捌きじゃないの、マーシャルアーツか何かやってるのかしら?あの子」

 

二人の様子を格納庫にいたブレンパワードのパイロットであるラッセ・ルンベルクと獣戦機隊の一人である式部雅人、そしてミスリル所属のメリッサ・マオがシャルロットの格闘技術に驚いていた。

 

 

「うる・・さい!みんな・・守れなかったんだ!みんな死んでしまった!誰も守れなかったんだ!」

 

「それなら話してみて、自分の中に溜め込んでおくよりも話したほうが気が楽になるかもしれないから・・」

 

カルヴィナから明かされた事実は酷いものだった。この世界は自分の知っている世界とは全てが異なっていて、アシュアリー・クロイツェル社は消滅しておりフューリーは地球への侵略行為をしている事を断片的に聞くことが出来た。

 

「(ボクが知ってる事と全部違ってる、カルヴィナ義姉さんがいるって事はアル=ヴァン義兄さんもいるって事だよね?それならやっぱり・・戦う事になるのかな)」

 

 

「だから私は・・っ!?」

 

「もういいよ・・・もう、無理に話さなくて大丈夫だから」

 

誰も居なくなったのを見計らいシャルロットはカルヴィナを抱きしめていた。かつて実の母や自分の知っているカルヴィナが自分にしてくれたように。

 

「なんなのよ・・・どうしてこんなにも落ち着くのよ!うあああ・・!」

 

「・・・・ボクも全部は受け止められないけど、泣くための胸を貸す事位は出来るから」

 

シャルロットに抱きしめられたカルヴィナは混乱しながら涙を流し、その抱擁を受けていた。

 

「年上なのにみっともないところ、見せたわね?」

 

「ううん、僕がやりたくてやったことだから・・・」

 

抱擁から離れたカルヴィナは少しだけ晴れ晴れとした表情になっていた。その様子を見たシャルロットは笑みをカルヴィナに見せている。

 

「(なんなのかしら?この子・・明らかに年下のはずなのに、それに見合わない抱擁力や強さがあるわ)」

 

「カルヴィナさん、僕も手伝うよ。もちろん邪魔をしない範囲で」

 

「貴女、まるで私が追っている相手を知ってるような口ぶりね?」

 

「知っているけどカルヴィナさんが欲しがる情報は持ってないよ?カルヴィナさんが既に知った事と全く同じだからね」

 

「そう・・・」

 

シャルロットの真っ直ぐすぎる眼差しに思わず目を逸らしたカルヴィナだが、初対面であるはずなのに、どこかで自分がほんの少し、この少女を頼りにし始めている感じがあった。

 

「(この世界の義姉さんは『復讐者』なんだ・・・僕に復讐を止める事なんて出来ないけど義兄さんを殺させるにはいかないよ。だって、義姉さんにとっては全てだからね)」

 

シャルロットはカルヴィナの中にある愛憎に気づいていた。だが、今は憎しみが強く現れており、それが誰に向けられているのかもサイトロンを通じて分かってしまっている。

 

「正直、気味が悪いわね。全てを見抜かれてるみたいで、アンタの目を見る事が出来ないわ」

 

「見抜いてるなんて大げさだよ。僕はただ向き合って逃げないようにしてるだけ、それを助けてくれた恩人や友達から教わったんだ」

 

「・・・向き合う、か」

 

「そろそろ、行こう?いつまでも格納庫に居たら迷惑になっちゃうから」

 

「ええ」

 

二人は格納庫から食堂へと移ると二人は交流を深めるために席に座った。その後。格納庫でカルヴィナと揉めていた三人が現れた。

 

「あ、貴女は!」

 

「カルヴィナさんを止めてくれた人ですよね!?」

 

「探してたんだよ!?お礼を言いたくてさ!」

 

三人のいきなりの言葉の流れにシャルロットは苦笑しながら、三人を窘めた。

 

「あははは・・・お礼は有難いけど本人の前で言うべきじゃないと思うよ?」

 

「あ・・・」

 

「貴女達、後でオ・ハ・ナ・シしましょうか?」

 

「ひえっ・・・!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

シャルロットが苦笑しながら注意したが時すでに遅く、カルヴィナは笑っていて明らかに黒いオーラが出ており、三人は恐怖で冷や汗をかいている。

 

「あ、そういえば自己紹介してなかったね?ボクはシャルロット・デュノア、よろしくね」

 

「カティア・グリニャールです、よろしくお願いしますね」

 

「アタシはフェステニア・ミューズ、よろしく!」

 

「メルア・メルナ・メイアといいます、改めてよろしくお願いしますね?シャルロットさん」

 

「うん、ボクの名前は長いからシャルって呼んでもいいよ」

 

自己紹介を終えると同時に三人も座り、雑談を始めた。難しい話は何もしておらず、主にシャルロットに関することばかりだ。

 

「シャルロットはさ、なんで自分の事を『ボク』っていうの?」

 

「あ、やっぱり気になっちゃう?実はね、男装カフェとかでお手伝いしてたからクセになっちゃってるんだ」

 

「男装ですか?確かにシャルさんは中性的な感じですから違和感がありませんね」

 

「一度見てみたいです、シャルロットさんの男装」

 

「あはは、機会があればね?」

 

「苦労してたのね、シャルロット」

 

誤魔化す為の言葉だったが、本気にされてしまいカルヴィナからは同情の目が向けられ、カティアとメルアからは興味深い視線を浴びる事になってしまい、シャルロットは苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

雑談を終え、シャルロットは自室に戻り状況整理をしていた。自分が知っている人物は居るが全く異なった世界である今の世界、データの世界とは言えどシャルロットは混乱していた。

 

「(この世界でやるべきことはまだわからないけど・・・きっと戦う事には変わりはないだろうね。リヴァイヴ、一緒に戦ってくれるかな?)」

 

ISであり自分の相方であるリヴァイヴは応えない。しかし、共に戦うことは当然と言わんばかりにリヴァイヴは輝いた。

 

「・・・今は休もう」

 

きっとこの世界は自分がいる世界以上に戦いが厳しいはず、シャルロットはそれを思いながら身体を休める事に専念した。




はい、シャルのルート開始です。

初っ端から修羅場に巻き込まれてますが、本来の世界で鍛えこまれたシャルならば平気でしょう。

ひょっとしたらデータ世界のミスリルやネルガルなどに目をつけられるかも。

区別を付けるため、このルートでのカルヴィナはシャルの事を愛称で呼ばずに呼び捨てにします。

ハーフ・フューリー三人娘の呼び方ですが補足すると。

カティア→シャルさん

テニア→シャルロット

メルア→シャルロットさん

となります。

次回はフューリーが攻撃を仕掛け、その中で無名の準騎士がシャルに目を付けます。


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憎むほどアナタを思っている(シャルロット編・その2)

シャルロットのISがピンチ

一人の準騎士の解放

以上


休息した後、シャルロットはナデシコと呼ばれる戦艦に所属する事になった。その過程でプロスペクターと呼ばれる人物に呼び出されていた。

 

「では、これが契約書となりますのでサインをお願いしますよ」

 

「は、はぁ・・・(現実的だけど此処って僕の居る世界じゃないからなぁ)」

 

「シャルロット・デュノアさん。はい、これで契約はOKです。機体の方は」

 

「僕には専用機がありますから大丈夫です」

 

「?それに関しては見当たりませんが」

 

「(流石にISの事は言えないよね)戦闘時以外は見せたくないんです」

 

「分かりました、ですが機体データは提出してくださいね?」

 

「はい」

 

手続きを済ませたシャルロットは身体が少し鈍っているのを感じ、トレーニングルームに行くことにした。

 

「ん?シャルロットじゃない、貴女もトレーニング?」

 

「そうです、えっと・・・メリッサさんですか?」

 

「そうよ、マオって呼んでくれると有難いわね」

 

マオとの会話をしながらシャルロットは準備運動を始め、30分の時間をかけ身体を解すと自分のサイズにあったレンタルシューズを履き、ランニングマシンで走り始めた。

 

「へぇ・・・基本が出来てるわね」

 

マオはシャルロットの準備運動にかける時間や走り方のフォームなどを観察していた。素人目にはわからない体幹の動きなどから高度な鍛錬や特訓を受けてきた事をマオは見抜た。

 

「(軍属?いえ・・それなら私達の耳にも入るはず、あの子の事をテッサにでも調べて貰おうかしら)」

 

「はぁ、はぁ・・よし、身体が温まったね」

 

「ね?ちょっと組手してくれるかしら?」

 

「組手って格闘技のですか?」

 

「そ、カルヴィナを止めた時のアンタの動きが素人じゃなかったから興味がわいたのよ」

 

「良いですよ、身体を動かす意味でも」

 

「じゃ、遠慮無くいくわよ!」

 

マオからのハイキックが始まりの合図となり、シャルロットはそれを受け止め反撃の左パンチを放つ。

 

「っと!」

 

「やああ!」

 

二人の応酬は一時間ほど続き、どちらからでもなく動きを止めた。互いに息が上がっているが運動レベルに近いものだ。

 

「ありがと。いい訓練になったわ」

 

「こちらこそ、ありがとうございます」

 

礼を言い終わると同時にナデシコに警報が鳴り響く、それは敵が来た事を知らせる合図にほかならない。

 

「どうやら、敵さんみたいだね。行くよ」

 

「え?あ、はい!」

 

マオの後を着いて行き、出撃準備に入った。現在は地球の地上である為に出撃が可能だ。

 

「お知らせします、敵の反応は謎の勢力、指揮官機はいませんが気を付けてください」

 

ナデシコのオペレーターであるホシノ・ルリの放送により、艦内全体に緊張が走る。それほどまでに謎の勢力(フューリー)との戦闘は注意しなければならない。

 

「おい、お前さん。機体に乗らねえで何やってんだ?無いなら危ねえから下がってな」

 

「大丈夫、ボクも出撃出来ますから」

 

「はぁ?」

 

「リヴァイヴ!力を貸して!」

 

その言葉と共にベルゼルート・リヴァイヴが展開され、エアロックへと近づく。先程まで注意していたエンジニアが驚きの声を上げる。

 

「な、何だ!?新たなパワードスーツか!?」

 

「それじゃ、行きます!」

 

スラスターを吹かし、出撃していったメンバー達と合流する。そこのにはあのカルヴィナの姿もあった。

 

「?シャルロット?その機体、私のベルゼルートと似てるわね」

 

「参考に作られたから似てるだけですよ」

 

「そう、無駄話は後、アイツ等は雑魚といえど強いわよ」

 

敵はリュンピーが八機、ドナ・リュンピーが四機、そしてヴォルレントが一機だ。数は多いが統制が取れており、連携で追い込まれていく。

 

「そこよ!」

 

「ライフル、シュート!」

 

カルヴィナが駆るベルゼルートとシャルロットの操るベルゼルート・リヴァイヴの二機はヴォルレント以外の機体を翻弄していた。

 

二人の動きはまるで鏡合わせのように寸分も狂いが無く、従士の機体を行動不能にしていく。

 

「すごい・・・シャルロットってばカルヴィナに着いてきてる」

 

「・・・やはり、まだ此処には来ないということか!」

 

カルヴィナは謎の勢力に対してだけは容赦がない。それは信じていた相手に裏切られた事が起因しているのだろう。シャルロットが目覚める前にカルヴィナはアル=ヴァンと戦ったのだ、自分が愛していた相手が全ての黒幕だったと分かってしまったがゆえに憎しみを爆発させ今の状態になっている。

 

「カルヴィナさん、今は集中しないと!」

 

「分かっている!」

 

残りの銀色のヴォルレントだけが二人の連携をいなし、粘りを見せている。他のメンバーは突如現れたASの傭兵部隊の迎撃で援護には来てくれない。

 

「っ・・!あの銀色の機体!粘ってくるね!」

 

「いい加減に落ちろぉ!」

 

カルヴィナのベルゼルートから放たれたオルゴンライフルBがヴォルレントに直撃し、右腕が切り離された形となり爆発してしまう。

 

「っ!先頭続行不可能!撤退する!パワードスーツらしき機体は要注意だ」

 

「待てっ!逃げられちゃったか・・・でも、あの機体の動き、何処かで見たことあるような気がしたけど」

 

銀色のヴォルレントの動きがシャルロットの中で誰かと重なりかけていた。だが、今の自分にその相手は思い出すことが出来ない。

 

「戦闘終了。全機、帰投してください」

 

「帰るわよ、シャルロット」

 

「分かりました」

 

帰投と同時に技術エンジニアであるウリバタケ・セイヤがシャルロットに詰め寄ってきた。

 

「おおい!アンタ、シャルロットだっけか!?なんだそのパワードスーツみたいなのは!あんなの見せられたら黙っちゃいられねえ!早速見せてくれ!」

 

「あ、あの!そんなに詰め寄られると怖いですよ!?ちゃんと見せますから!!」

 

ウリバタケがいる限りリヴァイヴを待機状態に出来ないため、本人の気が済むまで見せていたがウリバタケが突然声を上げた。

 

「使用してるエネルギーはベルゼルートと同じだが、ディストーション・フィールドみたいなバリア機能まで着いてやがる。だが、地上戦闘用だな?今のままじゃ」

 

「すごい・・・」

 

シャルロットはウリバタケの見識に舌を巻いていた。一目でISの最終目標である宇宙での運用が出来ない事と地上でしか使えない事を見抜いたからだ。

 

「ベルゼルートのデータがあるから整備が出来るみてえだな、空間戦闘をできるようにしておかねえとコイツはダメだな。任せておきな」

 

「は、はぁ・・あまり変な事しないでくださいね?」

 

強引に改造されそうな雰囲気にシャルロットは思わず注意していたがウリバタケは笑ったままでリヴァイヴの改修プランを頭の中で勝手に立ち上げてしまっていた。

 

 

 

「申し訳ございませぬ、このような失態を。一命をもって!」

 

「構いません、それほどの実力者がいるのなら望むところです」

 

どこかの施設らしき場所で一人の青年が上司らしき女性に片膝を着いて頭を下げていた。

 

「準騎士たる貴方が追い込まれたのです。これからは二人で行動しなさい、そのための相方にあの者を使います」

 

「は?あの者とですか?今、あの者は投獄されているはずですが」

 

「ですが、準騎士としての実力は貴方と互角のはずでしたわね?」

 

「ええ、態度が騎士として相応しくないと、聖騎士団長の判決を受けて投獄されましたから」

 

女性は含み笑いを浮かべた後に準騎士たる青年を見つめ、その目には騎士の血が燃えているように見える。

 

「その者と共に戦いなさい、貴方の生真面目さは脆さにもなります。奔放に戦うあの者の姿を参考になさい」

 

「はっ!」

 

「フフフ、我が騎士団の準騎士を追い込んだ地球人・・・気になりますわね。次は私も出撃するとしましょう」

 

騎士としての血を滾らせてくる報告に女性は身体の震えが止まらずにいた。震えの正体は歓喜、今まで戦ってきたナデシコ以外の艦隊や機動兵器はまるで相手にならなかったからだ。

 

ラースエイレムを使用している事を抜かしても、並大抵の相手では騎士の血を燃え上がらせるには足りなかった。そこへ男性が一人歩いてきた。

 

「今度は君が出撃するのか」

 

「ええ、貴方の因縁もあるでしょうが今回ばかりは譲りませんわよ?」

 

「ああ、今回は私が出るべきではないからな」

 

「では、失礼しますわ」

 

女性が出て行くと同時に男性は何かを思い出すように目を閉じた。その思いが今は届くことはない。

 

「カリン・・・私は」

 

 

 

 

「出ろ」

 

「んだよ?謀反の可能性があるってだけで勝手に投獄して、この次は処刑か?」

 

「黙れ、第二騎士団長がお呼びだ」

 

「へえ、あの女性騎士様からお声かよ」

 

牢獄から出た青年の態度からはとても高潔さは感じられない。あるのは狂気と強者への渇望、そして奔放さだけだ。

 

「そのまま付いて来い、変な気を起こすなよ?」

 

「へいへい、起こそうにも、こんなクソ重い手枷嵌められてちゃ何も出来ねえっての」

 

番人二人に連れられ、悪態を吐き続ける青年は先ほどの女性のもとに連れてこられた。

 

「来ましたか」

 

「で、騎士団唯一の女士団長サマが俺になんのようだ?」

 

「貴方には我が隊の二人目の準騎士になっていただきたいのです」

 

「はぁ!?まさか、あのお固いお坊ちゃんみたいな奴とコンビを組めってのか!?ッハハハ、笑わせんなよ!」

 

「出来ませんか?曲がりなりにも騎士に近い貴方が」

 

「挑発か?ケッ!勝手に投獄されて勝手に使われんのはゴメンだな。俺は自由が好きなんでね」

 

相手が上の階級だろうとその野生の狼のような目の輝きは薄れておらず、今にも牙をくい込ませようとしているかのようだ。

 

「そうですか、ならば私の隊に所属させますわ。これなら貴方を監視している事になり、貴方は自由に戦えばいい」

 

「取引って訳か、いいぜ?アンタにならな」

 

「では、また後ほどに」

 

そういって女性は部屋を出ていった。一人残された青年はそのままおとなしく座っている。

 

「厄介なもん残してくれたぜ、貴族の家系のダーブルス(・・・・)家、俺の実家で武の家系のフォルティトゥードー(・・・・・・・・・)家の協定なんてよ」

 

青年のつぶやきは誰にも聞こえていない。それが相手にとって最大の驚きになるとも知らずに。




さて、次回はシャルロットが大ショックを受けます。

データとは言えど並行世界、これも全てサイトロンって奴の仕業なんだ!

戦闘描写まで行けるか、それとも次になるか。

もう、バレバレですよね(苦笑」)


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愛憎と親愛(シャルロット編・その3)

戦士への導き手との戦い

シャルロットの新たな決意

以上



※注意書き

今回は少しだけ龍が如く成分があります。


謎の勢力と初めて戦ってからシャルロットはナデシコの食堂で食事をしながら自分の中に違和感を感じていた。戦闘時に起こる不安に似た何かが心の奥からせり上がってくる感覚が支配してくるのだ。

 

「なんだろう・・?あの時のモヤモヤは」

 

シャルロット自身もそれが何なのか正体は掴めないが戦闘の時だけに出てくるとなれば厄介なことに変わりはない。

 

「・・・わかんないなぁ」

 

そんな様子を見て危険を察知していたのがミスリル所属のマオだった。あらゆる戦場の経験がある彼女はシャルロットが抱える心の問題を見抜いていた。

 

「(あの子、・・・マズイかもしれないわね)」

 

マオの不安はシャルロットが戦場で潰されないかという事だ。彼女は確かに優れたパイロットであり、その強さを裏付ける実力も持っている。

 

もしも、何かのきっかけでシャルロットが戦場で快楽を見出し、そこへ正義感や義務感などが加われば間違った正義感を振りかざす快楽殺人者となってしまう。

 

それだけは避けたいのがマオの考えだ。戦場の狂気は敵味方に関わらず伝染しやすい、それが味方であれば最もあってはならない事だ。

 

「ボクは・・・」

 

シャルロットは自分の中で考えが纏まらないうちに食事を終えてしまい、自室へと戻る。そこから二時間ほど経った後に艦内の風呂に向かう途中でカルヴィナと出会った。

 

「シャルロット、アンタも風呂かしら?」

 

「うん、汗は流しておかないといけないから」

 

「そう、ならご一緒させてもらうわ」

 

「え?」

 

「たまには友好を深めようと思ってね」

 

カルヴィナと共に風呂の脱衣所へと入り衣服を脱ぎ、裸体となると浴室へとはいる。とても戦艦の内部に作られたとは思えない程の大浴場で、寧ろ銭湯と言ってもいい位の広さだ。

 

「すごい・・・」

 

「全くね、逆に呆れるくらいよ」

 

二人は会話がないまま身体と髪を洗い、身を清めると広い湯船に身を沈める。程よい暖かさの湯が身に染み入り二人は軽く息を吐いた。

 

「一つ、指摘していいかしら?」

 

「何?カルヴィナさん」

 

「アンタ・・・人を撃ちたくないんでしょ?いくら機体があるとはいえどね」

 

「!!」

 

カルヴィナの指摘にシャルロットは驚くがどこか納得出来ていた。自分の中で溢れていた違和感の正体を教えてもらえたような気がしたからだ。

 

「正直に言いなさい、今は私達だけしかいないんだから」

 

「(世界は違っても、やっぱりカルヴィナ義姉さんだ・・こうして何気なく聞いてくれるだもの)うん、正直言って人を殺すのは嫌だよ」

 

「そう、それなら死を悼む気持ちを持ち続けなさい。今の私が言える事じゃないけど、アンタは潰れることはない。殺したくないなんて当たり前の感情よ、私は別だけどね」

 

「っ・・・うん、ありがとう。カルヴィナさん」

 

「何故かしらね、アンタの事が放っておけないのよ。カティア達三人に詰め寄っていたのを止められてから」

 

シャルロットはこの世界のカルヴィナを受け入れ始めていた。自分の知っているカルヴィナと何一つ変わらない、違うとすれば復讐者になっている事だけだ。それでもこの時だけは自分に厳しくもアドバイスをくれる義姉だとシャルロットは信じた。

 

 

 

二人が風呂を堪能している同時刻、どこかの訓練施設では牢獄から出された一人の準騎士が従士数名相手に一人で戦っていた。その姿は楽しんでいるというより任侠物の映画やゲームなどで出てくる相手への示しのような感じだ。

 

「な、なぜ・・あれだけ攻撃を受けてるはずなのに・・・!」

 

「お前等に一つ良い事を教えてやる。男ってのはな、喧嘩や試合に負けた奴が敗者になるんじゃねえ・・最後まで"意地を張り続けられなかった"奴が負けなんだよ」

 

その姿は騎士という称号が全く似合わない。従士達に殴られ続けたのか全身が青痣や切り傷まみれであり、唇すら切っている。さらに物言いは力でのし上がる世界に身を置いていたかのようだ。

 

「俺はなぁ・・・誰が士団長になろうが、牢獄に投獄されようが、称号を剥奪されようが構いやしねえ」

 

従士達はその眼力と凄みのある声に怯んでいた。目の前にいる準騎士の男は本気でそう思っており自らの意地と執念を持って従士達に近づいてくる。

 

「命ある限り、何度だって這い上がってやる・・・だからよぉ」

 

「てめえらみてえな半端な奴らが・・・一番腹立つんだよ!倒れろや!ボケ共がぁああ!」

 

「うわああああああ!」

 

男は握り拳を作り、そのまま振り下ろすが誰かに掴まれ、従士に振り下ろされることはなかった。

 

「そこまでだ、この者達を殺す気か?お前のカンを取り戻すための体術訓練だろう?」

 

「・・正当な準騎士の登場か」

 

「ふん、機体は出来ている。さっさと行け」

 

先程まで暴れていた準騎士の男はもう終わったと言わんばかりに部屋を出て行き、もう一人の準騎士は従士達を運び、治療を担当する者に任せた。

 

「何故、アイツが・・・」

 

もう一人の準騎士は不満を言葉を口にしていた。先程の男は騎士としての精神が無く自由奔放で態度も粗暴だ。だが、それでもその自由な態度と任侠心溢れる行動に憧れを持ち、人を惹きつけていることも事実だった。

 

「出撃の準備をしないとな・・・。もう、あの頃には戻れないのか?」

 

何かを懐かしむように、それでいて後悔を含んだ独り言を呟くともう一人の準騎士も出て行った。

 

 

 

 

数時間後、地上へ残留する事をカルヴィナと共に選んだシャルロットは出撃の準備をしていた。カルヴィナのベルゼルートとシャルロットのベルゼルート・リヴァイヴが並ぶと同時にカティアは声を上げた。

 

「気を付けてください・・彼らが来ます!」

 

「そうか・・・わかったわ」

 

「彼ら・・・この世界で初めて戦った人達かな?あの時、見た事があった動きをした相手の手がかりが掴めればいいけど」

 

シャルロットは銀色のヴォルレントの動きが見た事がある誰かに似ているような気がしてならなかった、それも自分が知っている相手に。最初の戦い以降、彼らとは接触出来ていないため手がかりを掴めずにいた。

 

「今度こそ確かめてみせるよ!行きます!」

 

身に纏ったリヴァイヴと共にシャルロットは砂漠へ出撃し、それに続くようにカルヴィナが駆るベルゼルートも出撃してきた。

 

「アンタもアイツ等と因縁があるのかしら?」

 

「違うよ。どうしても確かめたい事があるだけ、邪魔をする気はないよ」

 

「なら、いいけどね」

 

その後、八卦衆と呼ばれる者たちが現れ、壮絶な激戦となった。人工地震や原子核破砕砲、決して地上で爆発させてはいけない核ミサイルを搭載された機体などが現れたが辛くもこれを撃破した。

 

その戦いの最中、ゼオライマーと呼ばれる機体のパイロットであった秋津マサトと氷室美久が行方不明となってしまった。そして、同じ名を持つ機体のパイロット二人は警戒を強めた。一人は復讐の為に、一人は因縁となる相手を知るために。

 

ゼオライマーの反応が消失したと同時に謎の勢力の機体が転移してくる。従士の機体が複数現れるが指揮官機はおらず、その代わりにヴォルレントが三機に増えていた。

 

「なんで、アル=ヴァン様の副官である俺がお前達と一緒なんだ?」

 

「仕方ないだろう?あの方たちの命令だ」

 

「青臭え奴だな?てめえから殺りあっても良いんだぜ?」

 

「はっ!よく吠えるぜ。恋人を政略の道具にされ、没落した武家にしてはな!」

 

「言い過ぎだぞ!ダルービ!」

 

「あ?やんのか、ジュア=ム。それとも・・・[狂って]やろうか?」

 

「よせ、我らの任務あの転移システムの調査だったはずだが、崩壊した今ではあの機体を破壊する事だ」

 

「けっ・・!喧しい奴だ」

 

真面目な性格の準騎士の一言で二人の言い争いは収まり、一斉にシャルロットやカルヴィナが所属している部隊へ視線を向ける。

 

「・・・」

 

カルヴィナは謎の勢力の機体を見続けている。その目の憎しみの輝きは薄れてはいないが比較的に冷静な様子で機体を動かし、戦闘が始まった。

 

「邪魔をするな!お前らァ!!」

 

カルヴィナの駆るベルゼルートは鬼神の如き強さを見せつけていた。リュンピーやガンジャールの接近戦を難なく避け、オルゴンライフルBやオルゴンライフルAの一撃を確実にコックピットへと撃ち込んで撃墜していく。

 

「接近戦は刃物や格闘術だけじゃないんだよ?」

 

その横に並ぶのがシャルロットのベルゼルート・リヴァイヴ、彼女は実弾や非実弾の切り替えを素早く行い、リュンピーやドナ・リュンピーの四肢や武装を破壊し、戦闘不能に追い込んでいる。

 

本来、接近戦の主流は剣や刀、もしくは素手の拳などが多い。だが、この二人においてはその常識が通用しなかった。近距離と中距離の中間に位置する距離を読み、その間合いを決して外さない。その技術を習得しているだけでも驚愕に値するだろう。

 

 

 

 

「雑魚は片付いた!後はあの機体だけだ!」

 

「先走らないで!焦ると負けだよ!?」

 

「シャルさんの言うとおりです、カルヴィナ!」

 

残ったのは三機のヴォルレントだ。だが、そのうちの二機がパーソナルカラーに塗られているらしく、一機はオレンジ色、もう一機はダークブルーに近い色で着色されている。

 

「俺が実験体の乗ったベルゼルートをやる、いいな?」

 

「それなら俺達二人でパワードスーツに似たあの機体を相手する」

 

「勝手にしな、俺は兵隊として動くだけだ」

 

それぞれが相手をする機体を決め、三機のヴォルレントが散開し向かっていく。

 

「聞こえるかよ、カルヴィナ。まだ生き残っていたなんてな!なら此処でおれが確実に始末してやる」

 

「貴様、ジュア=ムか!お前になど私がやれるものか!アル=ヴァンはどこだ!奴を出せ!」

 

「あんたのせいなんだよ、あんたが生きていたからアル=ヴァン様は!だが、安心しろよ。お前の仲間も含めて全員同じ場所に送ってやるからな」

 

ジュア=ムと呼ばれた男から発せられた挑発にカルヴィナの頭が怒りで沸騰してくる。自分が愛した男も、教え子だった目の前の相手も自分を騙していた、それだけに憎しみは大きい。

 

「まずはお前から落としてやるッ!ジュア=ム!」

 

「アンタの腕は知ってるよ?教官殿。けど生意気なんだよ!サイトロンを扱えない奴がなぁ!」

 

「ジュア=ムゥゥゥゥーーー!!」

 

 

 

 

ベルゼルートとオレンジ色のヴォルレントが戦闘を開始している間、シャルロットと二機のヴォルレントの戦闘は既に始まっていた。

 

「(やっぱり、この動き・・・あの二人に似てる!でも、どうして)」

 

シャルロットはオルゴンライフルを二丁構え、ダークブルーのヴォルレントを攻撃しながらオルゴナイトを纏ったもう一機のヴォルレントの拳を避け続けている。

 

「なんだ、コイツは・・・?俺達のクセを知っている?」

 

「だったら、リズムを崩しやイイだけだろうが、シッ!」

 

ダークブルーのヴォルレントが間合いを取ると同時に通常色のヴォルレントがボクシングのブローやラッシュをシャルロットへと放ってくる。

 

「うっ!?早い!うわああああああ!」

 

ブローを避けたと同時に懐に飛び込まれ、ラッシュを受けたシャルロットはオルゴンによって強化された絶対防御で守られたが吹き飛ばされてしまった。

 

「やっぱナマってんなぁ・・・投獄される前はオルゴンクラウドをブチ抜ける位にはサイトロン率はあったんだがよ」

 

ガラの悪い準騎士は機体の拳を動かすと再びシャルロットに視線を向ける。吹き飛ばされたシャルロットは空中で体勢を整え再び突撃して行く。

 

「もしかしたらだけど・・・やってみよう!」

 

シャルロットが試みたのはオープンチャンネル、つまり全方位通信だ。味方に聞かれてしまえば内通者として処分されてしまう可能性があるが、それだけの事をしなければこの二人の正体を掴めないと確信したゆえの行動だ。

 

「聞こえる!?そこの二機!周波数は486.610!さっき言った周波数に合わせて!」

 

「あ?」

 

「何だ?」

 

偶然にも先程の通信はカルヴィナ達の戦闘の爆発音で味方にも聞かれていなかったらしく、二人の準騎士はシャルロットが提示してきた周波数に通信を合わせた。

 

「・・・さっきの一撃、効いたよ」

 

全方位から個人通信に切り替わった事で完全に会話は三人の間だけで行える様になったが、シャルロットにとってこれが最大の誤算だった。

 

「あれくらいで調子にのるなよ?」

 

「女か。こんな時に会話を申し入れてくるとは気高い精神の持ち主なのか、無謀なのか分からないな」

 

「!!!!!!!」

 

声を聞いたシャルロットは驚愕し目を見開いた。何故ならその声は大切な友人で特訓のパートナーとして接してくれた二人と全く同じ声だったからだ。

 

「名を名乗ろう、私はユウ=スケ・ダーブルス」

 

「マサ=ユキ・フォルティトゥードーってもんだ」

 

「そ、そんな・・・」

 

名前こそ違うが確かに自分の世界の友人である二人だと確信を持ってしまった。ショックなのは隠せないが倒さない訳にもいかないという矛盾からシャルロットは動きが止まってしまっている。

 

「くっそおおお!」

 

三人が戦闘を止めてしまったと同時にジュア=ムの声が響く、カルヴィナの戦闘が終わっていたようでオレンジカラーのヴォルレントが大破している。

 

「良い事を教えてやる。機体が変わっても動きのクセまでは直せない、よく覚えておけ」

 

そういってカルヴィナは大破したオレンジカラーのヴォルレントにオルゴンライフルを付きつける。

 

その引き金を引こうとした時、また転移して現れる機体があった。カルヴィナは即座に反応し、シャルロットにもその機体は見覚えがある。

 

「ラフトクランズ・・・!っ!?リヴァイヴが反応してる?」

 

シャルロットがリヴァイヴの反応に気付くと同時にカルヴィナがアル=ヴァンに向けてオルゴンライフルを向けようとする。

 

「アル=ヴァン様!?」

 

「退け、ジュア=ム・ダルービ。いずれあれは抹消する、今は退くのだ」

 

「はっ!」

 

オレンジカラーのヴォルレントは転移で前線から退いていき、敵側で残ったのは二人の準騎士とアル=ヴァンだ。

 

「さぁ、コイツを破壊しに来い!私かお前、どちらかが倒れるだけだ!」

 

「クーランジュ、君との戦いの舞台は此処ではない。私にはそれが見えた」

 

「何だと!?」

 

「(これが、この世界でのカルヴィナ義姉さんとアル=ヴァン義兄さんの戦う姿なの?見ていられないよ・・・)」

 

シャルロットは二人の様子を見ていたが、仲の良い二人を自分の世界で見ていたが為に心苦しくなりながらも許せなくなっていた。想い合うからこそ感情が反転した時の感情は大きい、想い合っている二人を知っているからこその怒りだ。

 

しかし、カルヴィナは話を聞こうとせず、アル=ヴァンも話そうとしない。これでは平行線になるのも当然と言える。

 

「サイトロンによる未来の断片だ。君と戦った後、もう一人戦う事になる」

 

ラフトクランズ・アウルンがシャルロットに視線を向けたがすぐにベルゼルートに戻した。

 

「立っているのは君か私、どちらかだろうな。もしくは」

 

言うべき事を言い終えたのか、アル=ヴァンは転移し撤退して行ってしまい、残ったのは二人の準騎士だけだ。

 

「な!戻れ!アル=ヴァン!戻れェェェ!くそおおおお!」

 

旗艦からも撤退命令が出されたがシャルロットだけはその場に静止している。

 

「ボクはこの二人と戦ってから行きます、すみません」

 

「わかったわ、勝てないと分かったら素早く撤退しなさい」

 

もう一つの戦艦であるアークエンジェルの艦長からの言葉に笑みを見せると二人の準騎士に向き合った。

 

「さぁ、戦おう」

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『ハンター・ホワイト・リンクス』発動]

 

「良い目をしてやがる。一線は越えてねえようだが、それでも相当鍛えてきたようだな」

 

この世界のマサ=ユキが駆る銀色のヴォルレントが構えを取る。格闘戦用に調整されているようで、その基本スタイルはボクシングに近く、他の格闘技も取り入れているようだ。

 

「お前がやるのか?」

 

「コイツは俺の獲物だ、てめえは女に甘えだろうが。それにな、サイトロンでもてめえが戦う相手じゃねえんだ」

 

「っ・・!」

 

自分の甘さを見抜かれ、ユウ=スケは唇を軽く噛んだ。女性に手を出すなと教育されてきた為に手加減してしまうクセが彼には無意識に身についている。

 

「戦る前に女、てめえの名前を聞かせろ。名無しのままじゃ意味ねえからよ」

 

シャルロットに向き直った別世界のマサ=ユキは名前を聞いてきた、身体に染みつき、僅かながらに残った戦いの作法を無意識に行っていたのだ。

 

「シャルロット、シャルロット・デュノア」

 

「そうか、刻んだぜ」

 

[推奨BGM『怨魔の契り』龍が如く0より]

 

「行くぞォ!ゴラァ!!」

 

オルゴンダガーの代わりに両腕の拳の全てにオルゴナイトの結晶を纏わせ、アッパーやフックパンチを繰り出してくる。

 

「人型起動兵器でこれだけ大振りなのにキレがすごい!?うっ!」

 

見切れない速さではなかったがフックパンチがかすってしまった、その鋭さはカミソリのようで絶対防御があっても油断ならない。そもそも、目の前にいる相手は性格が違うだけで自分が知っている人物とほぼ同じなのだ、それだけに全力で戦わなければならないためシャルロットは接近戦用の銃に切り替え迎え撃つ。

 

「うぐぁ!銃撃か・・・だがよ、それだけで止まると思ってんじゃねえぞ!」

 

「っ・・・!」

 

シャルロット自身も簡単に決着がつくとは思っていない、それでも怯んでしまったのは大声で叫ばれたからではなく執念深さと諦めの悪さだ。

 

その姿は自分の世界の政征とダブってしまう、それがシャルロットに迷いを生じさせ動きを鈍くしていた。

 

「全力で来・・・っ!?」

 

ヴォルレントの拳がシャルロットの顔面を捉えようとした瞬間、突然動きが止まった。原因はサイトロンのようでヴォルレントは間合いを開いた。

 

「どうやら決着は別の場所らしい。まさか、おめえが別の世界のヴァウーラと戦う宿命を持ってるとはよ」

 

「?どういう事!?」

 

「決着を付けるのは此処でも俺でもねえって事だ。俺はただの前座、それにな・・・てめえの銃撃で腕が動かねんだよ」

 

「え?」

 

よく見れば銀色のヴォルレントの右腕から火花が出ている、シャルロットの放った銃撃が関節部の隙間に命中してしまっていたのだ。

 

「楽しみにしておけ、てめえとの決着の相手をな」

 

「ま、待って!」

 

「勝手に帰還したか、相変わらずだ」

 

準騎士の二人は砂漠から転移してしまい、シャルロットも急いで帰還したがアークエンジェルの副官にコッテリと怒られてしまった。

 

 

 

 

アークエンジェルに戻った後、シャルロットは通路を歩いていると同年代の男女が逢引している現場を偶然にも目撃してしまった。赤髪の少女と優しそうな少年の二人でシャルロットは声を掛けなかったが赤髪の少女がシャルロットに気づいた。

 

「アンタ、何でこんなところにいるのよ!」

 

「偶然だよ、通りがかっただけだから」

 

「そんな事いって、私を脅す気なんでしょ!」

 

赤髪の少女はシャルロットに噛み付くような勢いで叫びをあげている、少年はおいていかれているが声をかけられる雰囲気ではない。

 

「そんな事しないよ、もう行っていいかな?艦長さんにレポート出さなきゃいけないんだ」

 

「ふざけんじゃないわよ!」

 

少女が平手打ちを繰り出してきたが、シャルロットは少女の平手打ちを何も抵抗せずに受けた。

 

「・・!」

 

「っ・・・これで満足した?もう行くね」

 

赤髪の少女は目を見開いてその場で固まっており、シャルロットはそれを見たと同時にその場から去っていく。

 

シャルロットの実力ならば少女の平手打ちは止める事も避ける事も出来たはずだが、あえてそれをしなかった。

 

ISに乗る為の訓練や特訓を乗り越えてきた自分と一般人である先程の少女とでは、自分がケガをさせてしまうと考え抵抗しなかったのだ。

 

その後、自分の機体であるリヴァイヴや戦闘データ等を纏めたレポートを提出し用件を済ませた。ナデシコの所属とだけあって軍人扱いされないのが唯一の救いだ。

 

「ボクがこの世界で相手にしなきゃいけないのは・・・アル=ヴァン義兄さんと政征、雄輔の三人」

 

シャルロット自身もこの世界はデータだと理解している、それでも友人二人と似た人物が現れるとは思っていなかったのだ。

 

「サイトロンってホント意地悪だよね・・・別人とはいっても戦わせるんだから」

 

サイトロンのが見せる映像は乗り越えられる試練を見せる、しかしそのほとんどが大切な人や友人などの戦いだ。

 

「でも、乗り越えてみせる」

 

シャルロットはこの世界の試練を受けて立つことを改めて決意した。

 

 

 

 

数週間が経ち、敵対勢力の一つの拠点である地獄島を壊滅させ、あらゆる勢力を弱体化させていくと同時に途中でクリムゾン島で海水浴をする事にもなってしまった。

 

「シャルロットって・・・すごかったんだな」

 

「ああ、眩しすぎてたまらないぜ」

 

「あんな子が勇ましく戦うんだもんなぁ」

 

「あそこまで可愛くて素直な子が腕っ節も強いんだよなぁ、ドモンさん達レベルで」

 

以上がバカンス中に男性陣からシャルロットに向けられた水着姿の感想である。

 

バカンスを終え、次の作戦の為にへと移動している最中、謎の勢力であるフューリーの機体の一つ、ヴォルレントがたった一機、ナデシコとアークエンジェルの前に現れた。

 

「アイツは!?私が出る!アイツから奴らの居場所を聞き出してやるっ!」

 

ヴォルレントを見た瞬間、カルヴィナは出撃しようとしていたが相手側から意外な指名があった。

 

「シャルロット・デュノアを出しな!奴と一体一で戦わせろ!」

 

「何っ!?」

 

「ボクを指名してきた?」

 

「シャルロット!私を代わりに行かせなさい!」

 

カルヴィナはシャルロットに譲るように言ってきたがシャルロット自身も譲る気はなかった。

 

「悪いけど譲れないよ、ボクも戦う理由があるからね」

 

「っ!」

 

シャルロットから放たれた威圧がカルヴィナを一瞬だけ怯ませていた。その目には明確な覚悟の意思が見て取れる。しかし、すぐに笑顔になると口を開いた。

 

「必ず情報は持ってくるから」

 

そういってシャルロットは出撃しアークエンジェルの副官からは命令違反だと罵られるが、相手の要求が自分である事と要求反発は破壊されかねない事を伝え、黙らせた。

 

「来たか」

 

「うん、でもね・・・今の君ほど手強い相手もいないと思う」

 

二人の間には邪魔をするなと言わんばかりのオーラが出ている。援護しようとしていたシャルロットの仲間達のクルーは手が出せない。

 

「あ?」

 

「君はボクと決着を付けるためにここにいる・・・一つの決着を付ける事だけに命を掛ける相手はすごく手強いのを知ってるからね」

 

「ほう?女の割にはよくわかってんじゃねえか、俺を動かしてんのは男の意地だ」

 

二人は旗艦から離れるように移動していく。二人だけで決着をつけられる距離まで移動し終え、構えを取る。

 

「たった二回の戦いだけだったけど・・・この戦いで決着をつけよう、マサ=ユキ」

 

シャルロットは得意とする銃を構えず、マーシャルアーツのような構えを取っている。それを見たマサ=ユキは感心したように笑みを浮かべる。

 

「俺の流儀で来るか、いいぜ。・・・殺すつもりでかかってこいやあ!!」

 

[推奨BGM『閻魔の誓い』龍が如く0より]

 

その声が合図となり、ヴォルレントとリヴァイヴがぶつかり合う。互いの武器は相棒の拳だけ、それでも互いに退くことはない。

 

「シッ!おらぁ!」

 

ヴォルレントから繰り出される大振りのアッパーとフックパンチは相変わらず驚異的だ。そのキレは衰えるどころか更に早くなっている。

 

「っう!たああっ!」

 

シャルロットは一撃一撃を防御しながら反撃の機会を伺い、反撃に転じる。パワーは無いがその分をスピードで補い、腰が入った一撃を繰り出す。

 

「ぐはっ!ナメてんじゃねえぞ・・・!本気で来い!ゴラァ!!」

 

シャルロットからの痛烈な一撃でコックピットに強烈な衝撃が伝わり唇を切ってしまうがそれでも反撃の一撃を加える。

 

「あぐっ!まだまだぁ!」

 

お互いに防御を捨てた殴り合いを始め、絶対防御もオルゴンクラウドも衝撃を緩和する役目を果たしていない。

 

「どうしたぁ!シャルロットォ!」

 

「こんのぉ!」

 

「ぐああっ!」

 

頭部の左半分を破壊されるがヴォルレントは体勢を直すと再び殴りかかってくる。それをシャルロットは正面から挑んでいった。

 

「くそがああああ!」

 

「うわああああああ!」

 

無我夢中で放ったシャルロットのカウンターパンチがヴォルレントの動力部を捉え、決着がついた。

 

「はぁ・・はぁ・・どこまで強くなりやがるんだ、てめえは」

 

「マサ=ユキ・・・」

 

「これで、おめえはヴァウーラと戦う戦士になったって訳だ・・・」

 

「どういう事!?ヴァウーラって一体なんなの!?」

 

「破滅って言えばわかるか?オメエはそれに対抗出来る力を得たんだよ・・・」

 

「!!?」

 

破滅という言葉に更なる謎が生まれた事、自分がそれに対抗できる力が身に付いたという事が信じられなかった。

 

「だがな、オメエには戦わなきゃならねえ相手があと一人いる」

 

「っ」

 

「オーブって場所に行け、そこがテメエの最終決戦の場所だ・・・そこに奴らも必ず来る」

 

「オーブ・・・」

 

荒っぽい口調とは裏腹に導くような声にシャルロットは真剣な顔つきになった。

 

「わかってんだろうな、シャルロット。テメエは戦士として、深い所に足を突っ込もうとしてる。戦士として破滅と戦う覚悟があるんだったら・・・行けやあ!!」

 

「うん、覚悟の上だよ・・・じゃあ、行くね」

 

シャルロットは帰艦するためにマサ=ユキのいる場所から去っていった。

 

「ようやく逝けるな、お前のトコによ・・・」

 

その間、後方で爆発がありシャルロットは後ろ髪引かれるような想いを押し殺して戻った。

 

 

 

旗艦へ戻った後に戦闘報告を済ませ、カルヴィナの自室へと向かっていた。約束通り情報を伝えるためだ。

 

「それで、アイツ等に関することは?」

 

「うん、オーブって所で必ず出てくるだろうって・・・当然、カルヴィナさんが追っている人も」

 

「そう、それだけでも充分すぎるわ。ありがとう」

 

「じゃあ・・ボク、戻るね」

 

カルヴィナの自室から出て行くとシャルロットもあてがわれた部屋へと戻った。

 

「命懸けで導いてくれた・・・それを決して無駄にはしないよ」

 

友人と似たこの世界のマサ=ユキに感謝の念と哀悼を捧げ、シャルロットは祈るように目を閉じていた。




また、一万越え・・だと?

シャルロットがいるデータ世界のオリキャラ達の簡単な説明をします。

次回はアル=ヴァン戦、シャルロットは勝てるのか?


※説明↓

マサ=ユキ・フォルティトゥードー(データの平行世界の中で可能性の一つ)

純粋なフューリーであり武闘で名を馳せるフューリーの武家の出身。現在は没落している。

恋人(容姿はシャナ=ミア、性格は鈴にそっくり)を政略で別の貴族に奪われた挙句、病死している。また謀士の策略によって総代騎士から騎士の称号を受けるのを永久剥奪されてしまっている。

その後は荒れ狂い、騎士の誇りを捨て従士の愚連隊相手に暴れまわり、その後、力で纏めている。

粗暴で口が悪く、荒っぽい性格という本来の世界と真逆である。

準騎士はあくまで監視の為の名目であり、本人は自分を兵隊としてしか思っていない。

希死念慮があり常に最前線で戦う。


ユウ=スケ・ダーブルス(データ平行世界の中で可能性の一つ)

こちらも純粋なフューリーであり、フューリーの貴族出身でフォルティトゥードー家と協定を結んでいる間柄。正式な準騎士であり最も騎士に近い存在でもある。

恋人(容姿はフー=ルー、性格は織斑千冬にそっくり)がいるが互いの立場の関係上、公にしていない。

マサ=ユキとは親友だったが荒れ始めたマサ=ユキから一方的に友の縁を切られてしまっている為に嫌っているような態度を周りには見せているが、気にかけているのを隠すための仮面である。

原因である貴族の政略から友とその恋人を救えなかった事を深く後悔して無力感に苛まれており、自分だけが幸せになってはいけないという歪んだ考えを持っている。

性格は生真面目で熱血という本来の世界と真逆。


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憎くて憎くて、それでも愛しくて(シャルロット・ルート最終)

アル=ヴァンとの決戦

シャルロットの涙

以上


マサ=ユキとの戦いの後、アークエンジェルと別れたナデシコは連合軍の策略によって接収させられてしまい、クルー全員がバラバラに逃げ出す事になってしまった。

 

連合軍の目的はナデシコを始めとする起動兵器の確保であった。元から所属している起動兵器やマジンガーなどの民間協力の戦力を一ヶ所に集めた結果、敵勢力を殲滅する事は出来たがその部隊に反旗を翻される事を恐れ、軍内部に取り込もうとしたのだ。

 

更にその裏で暗躍している[青き清浄なる世界のために]というスローガンを掲げる過激派団体が表へと出てきていた。

 

その事態を重く見たミスリルは独自に協力し、ナデシコを奪還。その際、謎の勢力の指揮官の一人であるフー=ルーを撃退して脱出した。

 

「まさか、フー=ルー先生まで出てくるなんて思わなかったよ」

 

シャルロットはフー=ルーが戦いに出てきた事に驚きを隠せなかった。

 

自分の世界では静かに厳しく、優しく導いてくれた恩師だが、この世界では一人の戦士であり戦いの事しか考えていない。

 

「ボクはフー=ルー先生と戦うのが目的じゃない、義兄さんと義姉さんを止める事が目的だからね」

 

シャルロットの目には戦意と殺気が宿っており、それを見ていたメルアが少し怯えている。

 

「シャ、シャルロットさん。なんだか怖いです」

 

メルアの怯えた声にシャルロットはいつもの通りの雰囲気に戻るとメルアに笑顔を見せた、

 

「ゴメンね?メルア、少しばかり高揚しちゃって」

 

「いえ、大丈夫です。シャルロットさん、一緒にお菓子食べませんか?」

 

「そうだね、じゃあ・・お詫びも兼ねてサプライズをしてあげる」

 

シャルロットの言葉にメルア首を傾げたが、サプライズと聞いて笑顔を見せている。

 

「じゃあ、カルヴィナさん達も呼んできますね!」

 

メルアは急いで他の三人を呼びに行きシャルロットは自室に戻ると着替え始め、数分後にナデシコの食堂に集まった。

 

「一体何なの?シャルロットのサプライズって聞いたから来たんだけど」

 

「そうだよ、メルア!ご飯だったからいいけどさ!」

 

「全く、サプライズって一体何?」

 

カルヴィナ、テニア、カティアの三人がメルアに連れられて食堂に現れるとタキシードのようなスーツに身を包んでいる人物が一人いた。

 

「いらっしゃいませ、お嬢様方。こちらへどうぞ」

 

それは男装したシャルロットの姿、その姿に四人は驚きを隠せていなかった。それほどまでに男装が似合う女の子など見た事が無い事の証明でもある。

 

「シャ、シャルロット!?」

 

「えっ?すごく似合いすぎてて一瞬誰かと思ったよ!」

 

「シャルさんの男装・・・やっぱり良いですね」

 

「サプライズってこの事だったのですか?」

 

「見てみたいって言われてたからね、今日だけ特別だよ」

 

シャルロットの笑顔に他の四人も笑みを浮かべる。この時だけは戦士でもシャルロットでもなく、執事のシャルルとして接している。そのまま食堂の厨房へと歩いて行くとコーヒーをカップに注ぎ、お盆に乗せて持ってくる。

 

「お待たせしました、コーヒーです」

 

シャルロットから提供されるコーヒーを見てカルヴィナは少し苦笑していた。

 

「様になりすぎてるわよ、よっぽど訓練されたのね」

 

「アハハ・・・それは言わないで、これでも気にしてるから」

 

カルヴィナの言葉にシャルロット自身も自虐しているように苦笑している。三人娘は期待に胸を膨らませている様子でシャルロットを見ている。

 

「あ、あのさ。シャルロット!私にあーんしてくれないかな?」

 

「畏まりました、テニアお嬢様」

 

テニアのお願いを承諾したシャルロットはテニアに近づき、用意していたクッキーを手にした。

 

「テニアお嬢様、口をお開け下さい」

 

「あ、あーん」

 

男装しているとはいえど、今のシャルロットは男性と変わらないためテニアは顔を真っ赤にしながら遠慮がちに口を開いた。シャルロットは優しく手にしたクッキーをテニアに食べさせる。

 

「おいひい、ありがと!シャルロット」

 

「ふふ、お安い御用ですよ」

 

「シャルさん、今度は私に紅茶を淹れてください」

 

「畏まりました、カティアお嬢様」

 

カティアからの頼みを聞いたシャルロットは厨房に向かい、紅茶の入ったポットとカップを用意しお盆に乗せ持って歩いてくる。その姿ですら本当の執事のようで三人娘は見入っていた。

 

ポットから紅茶をカップへと注ぎ、ティーソーサーの上にカップとティースプーンを置くとカティアの前へと置いた。

 

「お待たせしました」

 

「あ、ありがとうございます」

 

お嬢様として扱われる事が初めてのカティアはしどろもどろになりながら紅茶を飲み始めた。ストレートのままだったが程よい暖かさと紅茶の渋みがカティアを落ち着かせる。

 

「はぁ、美味しい」

 

すっかり落ち着いたカティアはシャルロットに一礼し、笑みを浮かべた。自分のお願い事を聞いてくれたお礼も兼ねていたようで、それに気づいたシャルロットも笑顔で応えた。

 

「最後は私ですね、シャルロットさん。私は頭を撫でて欲しいです」

 

「畏まりました、メルアお嬢様」

 

メルアの頼みごとを聞くために傍へ来るとシャルロットは優しくメルアの頭を撫で始めた。メルアはくすぐったそうに目を閉じるが執事の姿をしたシャルロットを直視できないのが本音である。

 

「はぁ・・・」

 

シャルロットが撫でるのを止めるとメルアは少し目が潤んでおり、まるで王子様を見ているかのようにシャルロットを見つめていたが我に返り、頭を下げた。

 

「ありがとうございました、シャルロットさん」

 

メルアのお礼を笑顔で応え、シャルロットは自分の席に戻った。執事としてのサプライズを終わらせ一息を入れるためだ。

 

 

 

 

こうして楽しい時間はあっという間に過ぎていき、オーブへと到着した。マサ=ユキが最終決戦の地であると伝えた国である。シャルロットは着替えを済ませ、ナデシコと同じ敵前逃亡艦となったアークエンジェルのクルー達とも合流し話し合いを始めた。

 

その席にはオーブの代表であるウズミ・ナラ・アスハも同席し、世界が二分されている現実を知る事になった。その途中で地球連合軍からオーブへの通告という要求が通達された。

 

内容はオーブ国の無条件解体と連合軍への加入、更にはナデシコとアークエンジェルが保有する戦力の引渡しであった。

 

「(これと似たような要求、ボク自身の世界でも見た事がある・・・)」

 

シャルロットが要求に既知感を感じたのは自分の世界で女尊男卑を掲げるIS委員会の過激派が攻めて来た時があったからだ。

 

ISは女性の物であり、男が使うことは許されないという考えの下で動いている過激派は男性操縦者の二人を引き渡すように要求してきた。

 

これを今居る世界で当て嵌めれば全ての兵器は連合軍が扱うべきだと主張している。形は違えどこれは全く同じ事を目の前で行われているのだ。

 

「どこにでも自分の手元に置いておきたい人や排除したい人っているんだね・・・」

 

「シャルロット、何か言った?」

 

「ううん、何でもないよ。カルヴィナさん」

 

シャルロットは最終決戦の場にいる事で気を貼りすぎている様子で更には自分が育ったデュノア社の事も思い返していた。都合のいい道具として使われ続け、ISのテストパイロットも強引にさせられ八つ当たりのサンドバッグにもされてきた。

 

思い返しても変える事は出来ない過去だが、それだけシャルロットの中には根深くなっているのだろう。しかし、シャルロット自身は仲間やカルヴィナという新しい支柱を得た為に過去を乗り越えている。それを乗り越えた強さは自分や仲間達と共に積み上げて来た特訓や経験そのものだ。

 

過去を振り返る事は誰にでもある。しかし、それを立ち止まる理由にしてはいけないという事にシャルロットは自分の世界において自力で気付く事が出来ていた。自分の過ちも大切な事も己で乗り越えていくしかないのだ。

 

「(アル=ヴァン義兄さんは必ず来る・・・カルヴィナ義姉さんの代わりじゃなくボクが決着を付ける)」

 

 

 

 

二十四時間後、地球連合軍によるオーブ侵攻が開始された。地球連合軍、その物量はオーブ以外の全ての世界を相手にするようなものだ。その物量に怯む事なくナデシコとアークエンジェルの部隊はオーブを守るために出撃した。

 

自由の名を持つガンダムを筆頭に連合軍の量産機を戦闘不能に追い込んでいく。それでも次から次へと送り込まれてくる部隊に疲労が蓄積していく。

 

「自由の名を関する機体、ふふ・・・やっぱりあの二人とは切っても切れない縁なのかもしれないね」

 

シャルロットはフリーダムガンダムの姿を一瞬だけ見ると連合軍の機体を戦闘不能にしていく。ベルゼルート・リヴァイヴの動きは後ろで戦っているカルヴィナのベルゼルートの動きと鏡合わせのように同じだ。援護も忘れず、カルヴィナが撃ち漏らせばシャルロットがその相手を落とし、シャルロットが撃ち漏らせばカルヴィナが落とす。

 

二人はまるでテレパシーを使っているかの様にお互いに次で何をするのか分かり合っている。その理由はベルゼルートという名前にある。

 

ベルゼルート・リヴァイヴは元々、ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIを強化改修したものでありシャルロット自身の世界でベルゼルートの機体データとオルゴンエクストラクターを追加された。

 

その際、サイトロンを起動する為のデータを時間短縮のためにベルゼルートからそのままコピーし使った結果、ベルゼルートとのシンクロが可能になっていたのだ。更にはシャルロット自身もカルヴィナを越えようと特訓を重ね続け、異名を継承する為の戦いでカルヴィナのクセを見抜き覚えていた。

 

だからこそ、鏡合わせの動きが可能となり二人が並んだ時は双子のように抜群のコンビネーションを発揮できるのだ。

 

「はぁ・・はぁ・・・流石に全世界との戦いは応える・・ね」

 

連合軍との戦いは徐々にオーブが不利となっていた。質がどれだけ良くとも相手は圧倒的な物量を誇る軍隊である為、数が減っていない感覚に襲われるのだ。

 

切り札でもあった襲撃、禁忌、災厄の名を関するガンダム達を退け、連合軍を撤退させた。しかし、その機を伺っていたのかのように謎の勢力であるフューリーの機体達が転移して来る。

 

「・・・・来た」

 

「灰色のラフトクランズ・・・アル=ヴァン義兄さんだね」

 

従士の機体を率いる中に、オレンジ色とダークブルーのヴォルレントがラフトクランズを守るように浮かんでいる。ダークブルーのヴォルレントはシャルロットを見つけると同時に個人通信をつなげてきた。

 

「そこの機体、聞こえるか?」

 

「ユウ=スケ、だね?何かな」

 

個人通信であるために他の味方には聞こえていないが両者が動かないために手出しする事も出来ない。

 

「マサ=ユキはどうなった?解りきってはいるが一応聞いておきたい」

 

「見ていないけど彼は・・・死んだよ。ボクが戦ったからね」

 

「そうか、仇を討つなどとは言わない。知りたかっただけだ」

 

「そう・・・」

 

ユウ=スケは親友が死んだと聞き、目を閉じた。黙祷と共に自分の中にあった僅かな生存の可能性を消すために。

 

「(お前は逝けたのか?シャウ=ファンの元へ)」

 

ユウ=スケは通信を切り、アル=ヴァンが戦闘を開始する号令を発した。フューリーの機体はそれぞれが役目を担っており隙がない。

 

「カルヴィナさんの邪魔はさせないよ!ダブルシュート!」

 

「シャルロット、ありがとう!」

 

カルヴィナがアル=ヴァンの駆るラフトクランズのもとへと行けるようシャルロットは道を切り開いていく。オルゴン・ダガーによる接近戦をさせず、オルゴン・ガンを回避しながら弾幕によって四肢を奪っていく。

 

従士を退けると同時にオレンジカラーのヴォルレントが立ちふさがった。決してアル=ヴァンには近づけさせない意思が強く現れている。

 

「てめえのような奴にアル=ヴァン様と戦う資格なんてねえんだよ!俺がぶっ潰してやる!」

 

「君は何かを成そうとしてるみたいだけど信念の強さではマサ=ユキの方がすごかったよ」

 

「俺をあんなクズと一緒にするな!俺はアル=ヴァン様の為に戦うんだよ!」

 

「!今、バカにしたね・・・?命を賭けてボクを導いてくれた人をクズ呼ばわり・・・許さない、君はボクが落とす!」

 

シャルロットは初めて自分の怒りを表に出した。会話と戦いだけの交流であったとしても、自分自身の命を散らしてまでも導いてくれた相手を馬鹿にされたからだ。

 

その相手を馬鹿にされるという事は互いに全力で戦った決闘さえも馬鹿にされているのと同義である事だとシャルロットは考えたのだ。

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『ハンター・ホワイト・リンクス』発動]

 

「来なよ、そのねじ曲がった考え、撃ち抜いてあげる!」

 

「はん!やれるもんならやってみな!」

 

オレンジカラーのヴォルレントとベルゼルート・リヴァイヴの戦闘が始まり、カルヴィナはその隙をみてラフトクランズ・アウルンへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「そらそら!どうした!」

 

「く、どうしたの?リヴァイヴ・・・!反応が鈍いよ!?」

 

放たれたオルゴン・ガンをシャルロットは回避するが、ギリギリといっていい程の成功だったために追撃を仕掛けられていた。

 

この土壇場でベルゼルート・リヴァイヴの弱点が表立ってきていたのだ。それを表すかのように動きが連合軍と戦っていた時よりも鈍くなっている。

 

「はっ!そういうことか。その機体、サイトロンを使ってやがるな?上手く動かしていたからわからなかったけどよ」

 

「っ・・!動力を見破られた?」

 

「お前もカルヴィナと同じって事か!一人で動かせている事は驚きだったが、ネタが分かったからな!死ねよ!」

 

ジュア=ムはオルゴン・エクストラクターの出力を上げるとオルゴンキャノンによるロングレンジビームをシャルロットへと放った。

 

「!うああああああああ!」

 

動きが鈍くなっていたシャルロットは直撃してしまうが、シャルロット自身はオルゴンによって強化された絶対防御によって守られ無傷だった。

 

「模造品の模造品はさっさと消えろよ!」

 

「や、やられる!このままじゃ!」

 

二発目のロングレンジビームをシャルロットへと放とうとした時、何かが飛来し姿を変えた。

 

「そこを退けぇ!」

 

「な、何!?」

 

突然の声にシャルロットは驚いたが急いでその場を離脱しナデシコへと退避した。

 

「うおおおおおおお!ボルテッカァァ!」

 

それと同時に仮面舞踏会に招待された白き仮面の戦士が必殺の一撃を放ってきた。

 

「マズイ!ジュア=ム!そこから退け!」

 

「何!?しまった!うああああああああ!」

 

ユウ=スケの叫びと同時にジュア=ムの駆るオレンジカラーのヴォルレントは光に包まれると機体を大破させられ、撤退した。

 

「ボルテッカ!?今のはテッカマンか!?」

 

カルヴィナの言葉にシャルロット以外の全員が驚く、ナデシコ艦内でシャルロットはリヴァイヴを展開したまま応急修理と補給を受けている。

 

「二次移行したラウラの機体みたいなのが・・・あれ、テッカマンっていうんだ」

 

シャルロットは驚きながらも焦りを押し殺していた。この修理と補給が終わらなければ出撃が不可能だからだ。

 

 

 

 

「そこだ!オルゴンクロー!もらった!」

 

「何!?しまった!」

 

アル=ヴァンの駆るラフトクランズ・アウルンとカルヴィナの駆るベルゼルートの戦いはアル=ヴァンが押していた。そして今、ベルゼルートはオルゴンクローに捉えられてしまっている。

 

「うああああああああ!」

 

「きゃああああああああ!」

 

シールドクローを展開し、オルゴンクローに捉えられたベルゼルートは地上に叩きつけられ、地に引き摺られる。

 

遠心力をかけ、空へと投げつけるとオルゴンクラウドの転移を使い、背後に回るとそのままクローで引き裂くようにベルゼルートを地上に叩きつけた。

 

「うぐああああ!カティア、機体状況は!?」

 

「機体損傷、レッドゾーン!戦闘は僅かに可能ですがもう一度攻撃を受けたら戦闘不能です!」

 

「ぐっ!」

 

「カルヴィナ・・・せめて最後は私の手で苦しまずに逝かせよう!オルゴン・マテリアライゼーション・・・」

 

ラフトクランズ・アウルンが介錯の意味を込め、ソードライフルをソードモードに切り替えると刀身が形成される。

 

 

 

 

「間に合えええええ!オルゴンライフル!B・N!同時発射!」

 

「何!?」

 

アル=ヴァンはシールドクローで己に向かってきた弾幕を受けきり、ベルゼルートから距離を離した。

 

倒れているベルゼルートを守るかの様にラフトクランズ・アウルンの前に立ったのはベルゼルート・リヴァイヴ。後一歩の所で間に合い、カルヴィナとカティアを救出した。

 

「カルヴィナ義姉さん・・・借りるよ」

 

ベルゼルートのオルゴンライフルを手にし、ラフトクランズ・アウルンの目の前に立つ。応急修理を完了させたとはいえ、この戦いが限界だろうと忠告されている。

 

「シャルロット・・・アイツは私が!」

 

「分かってる、けど今の状態では戦えないでしょ?戦いを奪うことになっちゃって・・・ごめんなさい」

 

「く・・癪だけど譲るしかないようね」

 

カルヴィナからの通信を切り、アル=ヴァンへと通信を繋ぐ。ラフトクランズ・アウルンもカルヴィナとの激闘で中破に近い状態だ。

 

「アル=ヴァン・ランクスさん・・・ですよね?カルヴィナさんから聞いてます」

 

「私の名をカルヴィナから聞いていたのか?」

 

「はい」

 

シャルロットはわざと知らない様に装った。この世界のアル=ヴァンもカルヴィナ同様、自分が知る相手ではないからだ。

 

「長引かせる訳にはいかんのでな、すぐに倒させてもらう!」

 

「させませんよ、僕だって!負けられない!」

 

別世界とはいえ義兄との真剣勝負にシャルロットは正面から向かっていった。

 

「我が業はいずれ時が裁く!今の私には戦いあるのみ!」

 

ラフトクランズ・アウルンはソードライフルをライフルモードに切り替えると、ガンスピンを交えエネルギー弾を三発、タイミングをずらして放ってきた。

 

政征や雄輔とも違うアル=ヴァンの射撃にシャルロットは驚くが冷静に回避し、反撃に移る。義姉のベルゼルートのオルゴンライフルと自分のリヴァイヴのオルゴンライフルを両手に構えた。

 

「行くよ!アル=ヴァンさん!」

 

リヴァイヴの動きは応急修理と同時にサーボモーターと高性能スラスターを装備し、動きの鈍さを緩和させているがシャルロットの動きに着いていくのがやっとの状態だ。

 

「オルゴンライフルB!ダブルシュート!」

 

「ぬう!?この者、カルヴィナと同等の射撃技術を持っているのか!?」

 

「ボクは貴方もカルヴィナさんも死なせない!だから、二人を止めてみせる!」

 

リヴァイヴから放たれるオルゴンライフルの射撃とシャルロット自身の技術である『砂漠の逃げ水』が噛み合い、アル=ヴァンを追い込んでいく。

 

「だが、まだだ!」

 

アル=ヴァンは本来、剣撃戦闘を最も得意とする。リヴァイヴの動きが僅かに鈍り始めたのをアル=ヴァンは見逃さなかった。

 

「変幻の剣!受けてみよ!!オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

「え!?」

 

ソードライフルをソードモードに切り替え、オルゴンソードを構えると接近戦の間合いを取った。

 

「はああああ!」

 

「あの二人よりも早い!?うわあああああ!」

 

ラフトクランズ・アウルンの剣撃を受けたシャルロットは吹き飛ばされてしまい、アル=ヴァンはそれすらも逃さない。

 

「出よ!オルゴナイト・ミラージュ!」

 

オルゴナイトの結晶によって形成された三体の分身がリヴァイヴを捕らえ、結晶の中に閉じ込めた。

 

「せえええええい!」

 

「あぐああああああ!」

 

絶対防御によってシャルロットは守られたがリヴァイヴは限界寸前に近くなっている。仮に必殺級の武器があるとしても一撃が限界だろう。

 

「ぐ・・・う・・・まだ、だよ!アル=ヴァン・・・さん!」

 

「む!?よかろう、一騎討ちを申し込む前に君の名前を聞いておきたい」

 

「シャルロット・デュノア・・・!」

 

「シャルロットか、君に一騎討ちを申し込む!」

 

「本当ならカルヴィナ義姉さんの役目・・なんだけど、ね。受けて立つよ!」

 

シャルロットは体勢を整えるとベルゼルート・リヴァイヴに声をかけた。機体が限界寸前、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の恩恵が有るとはいえ状況は不利なのは変わらない。

 

「リヴァイヴ、後少しでいい!ボクに力を貸して!」

 

その言葉に呼応するようにリヴァイヴは僅かに輝き、二つのオルゴンライフルにその輝きが宿る。

 

「参るっ!!うおおおおお!」

 

「やあああああああ!!」

 

ラフトクランズ・アウルンとベルゼルート・リヴァイヴは同時に突撃し、ぶつかりあった。

 

アル=ヴァンはシャルロットの行動に驚きを隠せなかった。肉を斬らせて骨を断つを実践し、オルゴンソードの刺突を傷を負いながらも腋に腕を挟み込んで止めていたからだ。

 

「なんと!?」

 

「これ・・が!ボクの全力全開、だああああああああああ!」

 

「ぬおおおおっ!?」

 

シャルロットは左手に持ったカルヴィナの駆るベルゼルートのオルゴンライフルをゼロ距離から、エネルギーが尽きるまでラフトクランズ・アウルンに撃ち込み続けた。

 

オルゴン・クラウドによってパイロットは守られたが、ラフトクランズ・アウルンも大破している。

 

「(確かに見届けた)」

 

決闘を見届けたユウ=スケは先に撤退していき、一騎討ちをしたベルゼルート・リヴァイヴとラフトクランズ・アウルンは同時に地上へ落下した。その位置は偶然にもカルヴィナのベルゼルートが倒れている場所であった。

 

「う・・うう、どうして真実を言わなかったの?アル=ヴァンさん」

 

ボロボロになりながらも問いかけてくるにシャルロットにアル=ヴァンは、申し訳ない気持ちを乗せるかのように口を開いた。会話の全てが聞こえるようにした上で。

 

「地球は我らフューリーの約束の地であったのだ・・・計画では地球人類を全て排除するはずだった。だが、私は計画を捨て、人類を愛してしまった」

 

「約束の地・・・それならどうして!?っ!?」

 

シャルロットは叫ぼうとした瞬間、自分の身体の異変に気づいた。身体が光り出し、存在が薄くなってきている。

 

「(アル=ヴァン義兄さんを倒したから!?待って!まだ伝えてない!)」

 

「シャルロット・デュノア・・・私は我が故郷でヴァウーラと戦い敗れたのだ。だが、今の君ならば」

 

「アル=ヴァンさん・・・」

 

「カルヴィナ、済まなかった・・・私は」

 

「もういいの、今でも貴方は私の全て・・・戦えなかったのは残念だけど、今も愛しているわ。アリー」

 

「カリン・・・許してくれるのか?」

 

「言ったでしょう?貴方は私の全てなの、許すも許さないも無いわ」

 

二人の関係が修復されようとした瞬間、予備機らしき銀色のヴォルレントに乗ったジュア=ムが現れ、ラフトクランズ・アウルンを抱えて上昇しだした。

 

「それ以上は言わせませぬぞ!」

 

「君は!?」

 

「ジュア=ム!貴様、乱心したか!?」

 

「ご乱心はアル=ヴァン様にこそ!何を血迷われて地球人などに!?」

 

銀色のヴォルレントはラフトクランズ・アウルンを抱えたまま上昇していく、追いかけようにも二機のベルゼルートは動く事が出来ない。

 

「ジュア=ム!貴様、何をする!そこからどけえっ!!」

 

「離せ!この機体はもはや持たぬ、巻き込まれたいか!?」

 

「離しませぬ!お連れまいらせる!!」

 

「アル=ヴァン義兄さん!カルヴィナ義姉さんを一人にするつもりなの!?」

 

「!カルヴィナ・・・!」

 

アル=ヴァンがカルヴィナへ声をかけると同時に地上から離れた上空で、ヴォルレントを巻き込む形でラフトクランズ・アウルンは爆発を起こした。

 

「あ・・・アル=ヴァン・・!?アル=ヴァーーーン!!」

 

「カルヴィナさん・・・」

 

「い・・嫌あああああああああああっ!」

 

「そんな・・・」

 

シャルロットは消える前に急いでカルヴィナのもとへと向かった。自分を覆う輝きは強くなってきており、時間は少なかった。

 

「カルヴィナさん!」

 

「シャル・・・ロット?あんた、身体が・・・!?」

 

「シャルさん!?」

 

「ボクの役目は終わっちゃったみたいだからね・・・カルヴィナさん、アル=ヴァンさんはきっと生きてる。貴女を残して死ぬ人じゃないから」

 

シャルロットはこの世界の二人が並んで歩く姿を伝えようとしたが上手く伝える事が出来なかった。

 

「他の奴なら気休めを言うな!って・・・言いたいけど、あんたの言葉なら信じてみるわ」

 

「うん・・・じゃあ、またね」

 

そういってシャルロットは光の中へと消えていった。それを見届けた別世界のカルヴィナは涙を拭わないまま、先程までシャルロットが居た所を見つめていた。

 

 

 

アシュアリー・クロイツェル社の研究室で三つ目のカプセルが開き、シャルロットが目を覚ました。

 

「帰って来れたんだ・・ボク」

 

「シャルさん!」

 

「シャルロット!」

 

「ああ・・・三人目の生還者だ。良かったよぉ!!」

 

セシリア、鈴、束の三人が一度に押しかけ、シャルロットの帰還を大いに喜んだ。シャルロット自身は一刻も早く会いたい二人が居た。

 

「みんな、ありがとう。でもボクは・・・会いたい人がいるんだ」

 

「(カルちゃんとアルちゃんだね・・・)うん、わかったよ。その前にベルゼルート・リヴァイヴを私に預けてね?」

 

「はい、分かりました」

 

待機状態のベルゼルート・リヴァイヴを束に預けると同時に研究室を飛び出し、走った。

 

 

 

 

会いたい二人がいる部署へと一刻も早くたどり着きたかった。理由はない、ただ会いたいというだけ。

 

目的の部署に入ると休憩時間なのかカルヴィナとアル=ヴァンはコーヒーをテーブルに置き、談笑していた。

 

「あら?シャルじゃない、無事だったのね!束から聞いて心配してたのよ!?」

 

「どうした?シャル、固まってしまって」

 

「カルヴィナ義姉さん・・・アル=ヴァン義兄さん・・・うあああん!」

 

シャルロットは泣きながら二人へと飛び込んだ。どんなに気丈に振舞っても、一人の少女である。データ世界での戦いに押しつぶされそうだったのだろう。

 

「何があったのか知らないけど、今回は許してあげるわ」

 

「そうだな、さぞかし辛い事があったのだろうからな」

 

二人はシャルロットを受け止めカルヴィナは背中を、アル=ヴァンは頭を撫でている。義理の妹だとしても大切な家族であり、辛い事があったのなら自分達が受け止める役割をすればいい。

 

シャルロットは二人の優しさを一身に受けながら、ずっと泣き止む事はなかった。




シャルロットの時だけ字数が多い気がする。

お待たせしてすみません。ようやく書けました、これにてシャルロットのルートも終了です。

残りはラウラと政征・雄輔の三人だけとなりました。

次はラウラのルートです。

もしかしたら、ラウラの戦いが最も辛いものになるやもしれません。

※彼の妹は生存ルートの為、生存出来た過程を辿ります。

---

ラウラが飛ばされた世界、そこは寄生生物と地球人の仮面舞踏会が行なわれている世界だった。

そこでラウラは不完全な仮面の戦士に出会い、彼の妹を助ける事に助力する。

次回

[REASON]

仮面の下の涙を拭え!


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REASON (ラウラ・ルートその1)

ラウラが仮面舞踏会に参加。

人の心を持つもう一人の仮面の戦士を助けようとする。



以上


「うう・・ここは?」

 

目を覚ますとラウラは廃墟らしき街にある一軒家で目を覚ました。見知らぬ場所だが待機状態となっているレーゲンを通じて、今いる世界の状勢を把握した。

 

「外に出よう、閉じこもっていては場所も把握できないからな」

 

軍に在籍していた事が役に立ち、ラウラは冷静に自分の状況を把握していた。この世界は自分のいた世界ではないという事を知ってからの現状把握は最も優先されるべきことだ。

 

「しかし、なんだ?この気味の悪い植物のようなものは?」

 

街を見渡した後、ラウラは休憩を挟みながら歩き続けた。レーゲンを展開すれば楽に進む事が出来たが紫色の植物が気になり、調査も兼ねて徒歩を選んだのだ。

 

「人が住めなくなる以外の被害は出ていない・・だが、何かありそうだな」

 

自分の五感や考察を交えながらラウラは紫色の植物の調査を終え、人の居る場所を探そうとした時、爆発が起こった。

 

「うわ!?な、何だ!?」

 

空を見上げるとそこには白と赤を基調とした戦士と赤と黒を基調とした戦士が戦っており、二人の戦いは熾烈を極めており一進一退だ。

 

「ふふ、どうした?ブレード、何もできないなら今日こそ引導を渡してやる!」

 

「俺は死ぬ訳にはいかない!」

 

両刃の槍で互いにぶつかり合うが僅かながらに赤い戦士が押している。ラウラはその様子を地上から見て援護すべきか迷いが生じる。

 

「お前が拘っている人間の愛というものがお前を滅ぼすという事を教えてやろう!ブレード!」

 

「何処へ行く!?エビル!!」

 

エビルと呼ばれた戦士はスラスターを吹かし、一体のロボットと一人の女性のもとへ向かっていく、すぐに女性を見つけたエビルは槍を女性へ投擲した。

 

「アキィィィ!!」

 

「っは!?」

 

投擲された槍は真っ直ぐにアキと呼ばれた女性へ向かっていく、そのまま当たれば間違いなく即死してしまうだろう。

 

「テック!!セッターー!!」

 

「!!????」

 

「その人を殺させはせん!」

 

エビルが投擲した槍をワイヤーブレードによって弾き返し、アキの窮地を救った仮面の戦士がもう一人現れた。

 

それはシュヴァルツェア・レーゲンを展開したラウラだ。その姿はエビルやブレードと呼ばれた戦士達と酷似している為、アキは混乱している。

 

「テ、テッカマンが私を助けた!?」

 

「何!?我々の知らないテッカマンだと!?」

 

「アキを・・・助けてくれたのか?」

 

エビルとブレードも混乱していた。テッカマンはお互いの事を知り尽くしており、更には同族共鳴する事も可能なため知らないはずがないのだ。

 

しかし、目の前に現れた灰色に近い黒と赤を基調に緑のアクセントの色を持つテッカマンに関しては何も知らない。

 

「ハハハッ!そうか、そういう事か!貴様がそうなのか!」

 

エビルは何かを理解したように高笑いを上げて笑い続けていた。それをラウラは睨み続け、いつでも攻撃出来るよう警戒を解かない。

 

「興が逸れた。ブレード、今回はこれで引くとするよ」

 

「待て!エビル!!」

 

「慌てなくても決着はいずれ付けるよ、それが今回じゃないというだけさ」

 

エビルは飛行補助のユニットような物へ乗り込むと素早く撤退していってしまった。エビルが去った後、ブレードはラウラに向けてテックランサーと呼ばれる槍を向ける。

 

「お前は・・・一体誰なんだ!?何故テッカマンでありながらアキを助けた!?」

 

「・・・」

 

ラウラは答えない。下手に答えてしまえば間違いなくブレードはラウラに襲いかかってくるからだ。

 

「答えろ!」

 

「待って!Dボゥイ!」

 

「アキ!?」

 

襲いかかろうとしたブレードを止めたのはラウラに助けられたアキだった。アキはラウラに助けられた恩返しと無益な戦い争いをしない為にブレードを止めたのだ。

 

「お願い教えて、あなたは誰?どうして私を助けてくれたの?」

 

ラウラは自分が争う意思が無い事を示すためにシュヴァルツェア・レーゲンを解除した。解除した姿は裸体ではなくIS学園の制服姿であり、年端もいかない少女であった為に二人は驚きを隠せない。

 

「テックセットを解いた・・のか?」

 

「貴方と戦う意思がない事を示すためです。それに女性を助けたのは私自身の意思である事に変わりません」

 

「貴女、名前は?」

 

「ラウラ、ラウラ・ボーデヴィッヒです」

 

名前を聞いてブレードとアキは警戒を解いた。ブレードもぺガスと呼ばれるロボットを呼び寄せ、テックセットを解除した。

 

「お前、テッカマンでありながらラダムの支配を受けていないのか?」

 

「私はラダムの支配も不完全なテッカマンでもありません、似たような鎧を纏っているだけです」

 

Dボゥイと呼ばれた男性からの質問にラウラはISの事を隠しつつ、事実だけを伝えた。ISの事を伝えれば間違いなくこの世界で利用されることが確かだと確信を得ているからだ。

 

「つまり、ソルテッカマンに似たような物と考えていいのかしら?」

 

「ええ」

 

「だが、あの戦闘力は間違いなくテッカマンでなければ無理だ!」

 

Dボゥイの指摘も最もだろう、ソルテッカマンは射撃武装しかなくエネルギーとなるフェルミオン粒子が無くなれば戦えなくなってしまう。

 

しかし、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンはテッカマンと変わらない武装と武器を持ち戦闘力もテッカマンと同等だ。

 

「私は色々な方達に特訓をしてもらい、今でも訓練を怠ってはいませんので」

 

「自分の実力という訳か」

 

「お願いがあるの、私達に協力してくれないかしら?ラウラさん」

 

「アキ!?」

 

「考えてもみて?Dボゥイ。人の心を失っておらず、時間制限も無く私達に協力してくれるテッカマンがいれば貴方の負担も軽減できるわ」

 

「っ!」

 

アキの言葉は正論だ。人の心を失っていないとはいえど自分にはタイムリミットあり、テッカマンは自分でなければ倒せず戦いの負担が大きすぎていた。

 

しかし、ラウラは自分と変わらないテッカマンそのもので協力してもらえれば二対六の戦いにする事ができ、ほんの僅かだが戦いの質を上げられる。

 

「分かりました、協力させて下さい」

 

「良いのか?」

 

「私も身を寄せられる場所が欲しかったので、ありがたい誘いです」

 

「ありがとう、一緒に着いてきて」

 

移動用の車に乗り、ぺガスは飛行でその後に着いていく。三時間後、スペースナイツ基地へと到着し案内された。

 

チーフであるフリーマン、オペレーターのミレッタ、メカニックのレビンと本田のおやっさんにもラウラは紹介され、まるで妹分が増えたようにメンバー達は感じていた。

 

 

 

 

その後、ラウラはDボゥイとコンビを組んでラダム獣やテッカマン達と激闘を繰り広げ続けた。その最中、一人のテッカマンが敵側のテッカマン達に追撃されているのを発見した。

 

「まさか、あれは・・・いや、そんなはずは!」

 

「あのテッカマン、追われている?」

 

「お、お兄ちゃん・・・」

 

「ミユキ!?ミユキなのか!」

 

「Dボゥイさん、ここは私が先に行きます!テック!セッター!!」

 

シュヴァルツェア・レーゲンを展開し、ラウラはテッカマンの姿でスラスターを全開にし飛び出した。

 

ラウラは急いで追われているテッカマンの所へ駆けつけようとしたが四人のラダムテッカマンが現れ、行く手を遮られてしまう。

 

「久しぶりだな!イレギュラー!レイピアを追っていた中で貴様と再会するとは」

 

「ほう?あれが報告にあったイレギュラーのテッカマン、裏切り者のブレードと共に居る奴か」

 

「荒削りのようだが、実力は高そうだな」

 

「ふん、ブレードと共にいる奴など大したことはない」

 

エビル、ソード、アックス、ランスの四人はラウラに視線を注いでいる。ブレードと同じ人の心を持つテッカマンを許す訳にはいかないというラダムのプライドからくるものだろう。

 

 

[推奨BGM『REASON』歌有り原曲]

 

 

「・・・私もテッカマンだ、今ここで名乗りを上げる!私はテッカマン、テッカマンレーゲン!」

 

「レーゲン、ドイツ語で雨か」

 

フリーマンはラウラの名乗った名前の意味を口にしていた。雨は恵みと厄災を与えるものだ、その名を名乗ったラウラが運んできたのは恵みか厄災かは未だにわからない。

 

「来い!ラダムのテッカマン達!Dボゥイさんが来るまでの間、私が相手をしてやる!」

 

テッカマンレーゲンを名乗ったラウラが戦闘態勢を取り、エビル達に向き合う。その言葉にラダムテッカマン達は怒りを露わにした。

 

「貴様一人で我々と戦うだと!?」

 

「舐められたものだな!」

 

「良いだろう」

 

「ならば私が先に相手になってやろう、レーゲン!」

 

先行したのはテッカマンランスだ。テックレーザーを放ちながらテックランサーで斬りかかってきた。レーザーを回避しテックランサーは手刀ブレードで受け止めた。

 

「ぐ、ううううう!」

 

「何!?」

 

「私を・・・舐めるなぁ!」

 

ラウラはランスを蹴り飛ばし、ワイヤーブレードを展開した。このワイヤーブレードこそが一人で多人数戦をこなす事の出来る要因であり最大の武器だ。

 

「な、何だ!?うわあああ!」

 

「テックランサー!ふんっ!」

 

テックランサーを取り出し、ラウラは二つの刃を連結させバトンを回すように回転させランスへと向かっていく。

 

「うおおおおお!」

 

「不完全なテッカマン如きがぁ!」

 

ランスもテックランサーで迎え撃つ。二つの刃がぶつかり合い、押しては返し、返しては押されるという攻防戦を繰り広げる。

 

「隙を見せたな!テッカマンランス!」

 

「何!?ぐわあああああああ!?」

 

ラウラが刃の競り合いを誘ったのはワイヤーブレードをによる一撃をランスに撃ち込むためだった。その誘いに乗せられたランスは大きなダメージを受けた。

 

「・・・さぁ!次だ!」

 

 

 

 

ラウラが四人のラダムテッカマンと戦っている最中、Dボゥイはぺガスの調整を手伝っていた。新装備であるハイコートボルテッカの調整が難航しているためにテックセット出来ない。

 

「急がないとミユキやラウラが!」

 

「急かすな!そんな事を言っている暇があったら手を動かせ!」

 

本田のおやっさんは慌てるDボゥイに調整を手伝えと促した。メカニック総出で調整をしているが、それでも難航している。

 

「Dボゥイ、気持ちは分かるけど手伝ってちょうだい。簡単な部分だから」

 

レビンも手を動かしながらDボゥイが手伝える部分を指示している。こうしている間にもラウラとミユキは危険な状態だ、一刻も早く調整を終わらせるために手伝いを始めた。

 

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・・」

 

「まさか、本当に我々四人を相手に一人でランスとソードを戦闘不能にまで追い込むとはね、素直に称賛するよ」

 

「だが、ここまでのようだな?レーゲン」

 

「く・・・!」

 

レーゲンは戦闘力の高いテッカマンエビルとテッカマンアックスを前に体力切れを起こしていた。長時間のIS展開だけはラウラ自身も経験した事がなく、おまけに連続戦闘という事も相まって体力を削られ続けていたのだ。

 

「終わりだ!レーゲン!」

 

「ぬおおおお!」

 

「ぐあっ!うああああああ!」

 

エビルとアックスはテックランサーでラウラを切りつけ、エビルが腹部を蹴り飛ばして地上に落下させた。

 

「ぐ・・・う」

 

「ほう?急所と直撃だけは避けたか」

 

「なかなかの体術だ、だが」

 

エビルとアックスは追撃するためにレーゲンが落下した場所へと降り立った。それを見たレーゲンはテックランサーを杖代わりにして立ち上がった。

 

「まだ、戦うつもりかい?」

 

「エビル様、私がコイツにトドメを刺しましょう。貴方様はブレードを」

 

「任せたぞ、アックス」

 

エビルはそのままブレードが待機している基地へと向かっていった。アックスはラウラへと近づいていき、斧型のテックランサーを振り上げると同時にその刃を振り下ろした。

 

 

[推奨BGM『REASON』スパロボW アレンジ]

 

 

「死ね!テッカマンレーゲン!」

 

「わ、私は死ねない!必ず生きて帰るんだ!姉様や兄様達、そして仲間達の所へ!はあああ!」

 

ラウラはアックスが振り下ろした刃を白刃取りで止め、その底力にアックスは驚愕した。咄嗟とはいえど武術の見切り技の最高峰である白刃取りを実戦の中で見せられたのだ。

 

「白刃、取り・・だと!?」

 

「うあああああ!」

 

「うおおお!?何!」

 

ラウラはワイヤーブレードでアックスを攻撃し、間合いを開いた。奇襲をかけられたアックスは地に倒れ、ラウラはスラスターを吹かし、急いでDボゥイとエビルの居る場所へ向かった。

 

Dボゥイはテッカマンブレードにテックセットしてエビルと戦っており、もう一人のテッカマンであるレイピアはその後ろで倒れている。

 

「Dボゥイさん!」

 

「ラウラか!」

 

「ほう?レーゲン、まだ戦う気力があったか」

 

エビルの嘲りも今のラウラには通じない、あるのはDボゥイと同じエビルを倒すという目的だけだ。

 

「行くぞ!エビル!!」

 

「はあああ!」

 

Dボゥイとラウラは同時に攻撃を仕掛けるがエビルは簡単に受け流しと反撃をこなしている。ラウラはエビルと競り合いを起こすと同時に何故、彼がこんなにも強いのかというのを感じる事が出来た。

 

彼は天才でも何でもない。ただ、兄を越えたいという思いだけで努力を重ねてきた努力型の人物だったのだ。それはラウラ自身、最も共感できる事だろう。

 

己自身も出来損ないの烙印を押され、自分の努力と教官である織斑千冬の指導によって軍の一部隊である黒ウサギ隊の隊長にまで返り咲いた。

 

兄弟でも仲間でも越えたい相手は必ず出てくる。それを糧に自分も強くあろうとしている姿勢はエビルも一緒だろう。

 

「ほう?レーゲン、なかなかやるじゃないか。ブレードと同じくらいの楽しみが増えたよ」

 

「ぐ、刃を合わせた今なら分かる!このテッカマンエビルという者、強い!」

 

両刃の槍の刃をぶつけ合いエビルを押し込んでいく。ラウラの狙いは間合いを開き、距離を開けることだ。

 

「なぜだ?なぜここまで間合いを・・・!レーゲン、貴様!まさか!?」

 

「ふ、気づいたようだな!私の狙いは貴様をミユキさんから引き離し、Dボゥイさんが救出できる時間を稼ぐ事だ!」

 

ラウラの狙いに気づいたエビルだったが既に遅く、ブレードはレイピアを救出し再びエビルのもとへ向かって来ている。

 

「はあああ!」

 

「調子に乗るな!イレギュラー如きがァ!」

 

テックランサーの応酬を続け、互いに装甲を傷だらけにしながらも一切手を抜かない。テックランサーをぶつけ合い後ろへと間合いを開いた瞬間、ラウラはユニットを接続し荷電粒子砲の発射態勢に入った。

 

しかし、それを見たエビルは仮面の下で口元に笑みを浮かべていたのをラウラは知らなかった。

 

「これで終わりだ!ボルテッカァァァ!!」

 

「バカめ!!SPYボルテッカァァァ!!」

 

ラウラの放ったボルテッカはエビルのSPYボルテッカに吸収されていき、飲み込まれて逆に拡散されラウラに向かっていく。

 

「何!?私のボルテッカが!?うああああああああ!」

 

「ふん、まさかボルテッカまで使えるとはな、少しは見直したよレーゲン。でも、タカヤ兄さんとの決着も貴様との決着も今つけてはつまらないからね」

 

「ぐ・・うう・・・、なんだ・・と?」

 

「楽しみはとっておくさ、さらばだ。レーゲン」

 

「く・・・待・・・て」

 

ラダムテッカマン達は撤退していき、ラウラはその場で倒れてしまった。絶対防御機能でもSPYボルテッカの直撃で受けた為に無傷とまではいかず、全身が傷だらけだ。

 

倒れる瞬間、エビルに本当に勝つ事が出来るのだろうか、元の世界に戻る事が出来るのかと思いながらラウラは気を失った。




ラウラがテッカマンとして名乗りを上げました。

このデータ世界においてラウラはブレードやレイピアと同じように[人類の味方をしてくれるテッカマン]として認知されています。

ラダムテッカマン達からすれば全くのイレギュラーであり、自分達と同じで戦闘に時間制限が無い為ブレードと同じ危険性で警戒されています。

ラウラにブラスター化はありませんが、鈴と同じように単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の更新の可能性はあります。

---

ラダムから逃れる事の出来たテッカマンレイピア、相羽ミユキはスペースナイツ基地において治療を受ける。

テックシステムによるダメージはミユキの身体の内部を蝕んでおり、テッカマンの治療方法も研究段階であった。

そんな時、確実な治療に必要となるのはラダムテッカマンのテッククリスタルである事をフリーマンから極秘事項として知らされるラウラ。

ブレードとレーゲンを倒すためにテッカマンアックスがテッカマンランスと共に現れる。

次回

『蘇るアマリリス』

仮面の下の涙を拭え!


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蘇るアマリリス(ラウラルートその2)

ラウラが初めて1体1でラダムテッカマンと戦う。

死の重みを教えられる。

以上


※Dボゥイの戦闘はありません。


ラダムテッカマン達との戦闘後、ラウラはメディカルルームへミユキと共に運ばれ治療を受ける事になってしまった。

 

エビルのボルテッカを直撃してしまった事で安静させねばいけないというフリーマンの適切な判断である。

 

「う・・うう」

 

ラウラは倒れてから何かにうなされていた。それはこの世界での初めての戦いが原因であるが実際は違っている。

 

『死になさい!テッカマンレーゲン!』

 

「何故、止めてください!シャナ=ミア姉様!」

 

『お前が我らラダムを裏切ったからだ!レーゲン!』

 

「政征兄様!」

 

ラウラはラダムに支配されている姉と兄に追い込まれていた。二人は見慣れないテッカマンの姿をしており、本気で殺しにかかっている。

 

『レーゲン!逃がしませんわ!!』

 

「セシリア!?お前まで!」

 

『いい加減に倒れなさい!』

 

「鈴!?来るな!殺したくはない!」

 

『終わりだよ、ボク達テッカマンの手にかかって死ねる事を光栄に思うんだね』

 

「シャルロット!どうしてだ!?」

 

仲間であったはずの三人までもがラウラに牙を向けてくる。死ぬ訳にはいくまいと必死に抵抗を続けるが崖に追い込まれてしまう。

 

『隊長、ここまでです!お覚悟を!』

 

「クラリッサ!止めてくれ!」

 

四肢にテックランサーを突き立てられ、動けなくなったラウラはテッカマン達を見ていた。仲間や家族である者、全員がラダムに乗っ取られ、敵と化している。

 

「があああああ!ラダム・・・ラダム、貴様ァァァァ!!

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああ!?はぁ・・はぁ・・・夢、か?」

 

 

ラウラは悪夢から目を覚まし、飛び起きるように身体を起こした。自分の相棒であるレーゲンが手元にある事を確認すると安堵したようにラウラはため息を吐いた。ラウラにとってはこれがテッククリスタルの代わりとなっている為だ。

 

「目を覚ましたのね、ラウラ。かなりうなされていたみたいだけど大丈夫?」

 

「アキさん、うっ!」

 

「貴女は軽傷だけど、全身疲労で動き回るのは無茶よ。そのままで大丈夫だから」

 

「すみません・・・」

 

アキはラウラに対して未だ不信感を拭えていなかった。突然現れた事もそうだが、この世界においてブレード以外のテッカマンは人間の味方をしていたとしても外的な脅威でしかないのだ。

 

ラウラを引き入れたのはDボゥイの負担を減らす為としか考えていなかった。しかし、彼女はテッカマンの姿を持ちながらも本気で協力してくれている。

 

「ごめんなさい」

 

「え?」

 

「私は貴女の戦いを見るまでは貴女を信じる事が出来なかった、Dボゥイと共に戦う姿を見続けて少しだけ信じる事が出来たの」

 

アキの言葉にラウラは何も答えなかった。自分がいくら言葉を紡いだところで自らテッカマンを名乗った以上、敵対していてもおかしくはないからだ。

 

「いいんです。私もテッカマンである以上は疎まれるのを覚悟していましたから」

 

「!」

 

ラウラの言葉から彼女はDボゥイとは違った覚悟を持っている事をアキは感じていた。集中治療室にて治療を受けているミユキと年齢は変わらなそうな少女であるはずなのに何故、このような覚悟を持った目をしているのかと。

 

「私はDボゥイさんみたく全てを捨てて戦う覚悟は持っていません、それでも大切な人や思い出は守りたいと思っています」

 

「ラウラ・・貴女は」

 

「私が皆さんの所に来たのはきっと何かしらの意味が有るはずです。私はそれを見つけるまで一緒に戦います!でも、今アキさんはDボゥイさんの所へ行ってあげて下さい」

 

「どうして?」

 

「あの人に今必要なのは傍で支えてくれる人です。それが出来るのはアキさん、貴女だけなのです」

 

ラウラがアキ対してこのような言葉を言えるのは自分の世界において、姉と兄として慕っている大切な二人が敵味方に別れて戦ったのを見届けた事があったからだ。

 

自分では姉を救う事が出来ず、その時に救ったのはその恋人である兄だ。想い合う男女ならば傍で支えてくれる人こそが救いになるのだとラウラは学んでいた。

 

「ラウラ、貴女は強いわね。私なんかよりもずっと」

 

「私は強い訳じゃありません。自分が出来る事をやるだけですから」

 

「・・・」

 

ラウラの言葉はアキの心に深く染み込んできた、自分が何も出来ないと考えるのは簡単だろう。しかし、自分の為に泣いてくれたり、傍にいてくれるというだけでも相手は救われる事もある。

 

指摘したのはDボゥイの心の支えになれるのはアキだけだという事。ラウラ自身は口下手であるために上手く言葉に出来なかったが、それをアキに伝えたかったのだ。

 

「忘れるところだったわ、身体が動くようになったらチーフが自分の部屋に来て欲しいって」

 

「分かりました」

 

アキは部屋から出ていき、ラウラは横になったまま自分が何故、あのような事を言ったのか考えていた。

 

「私は何故、アキさんにあんな事を言ったのだろう・・・?」

 

自分の世界で出会ったアキとDボゥイは何か壮絶な出来事を乗り越えてきた事だけは感じていた。ラウラはこの世界で二人の経験した壮絶な出来事がこの戦いであると確信を得ている。

 

「今は少しでも・・・休むとしよう」

 

ラウラは少しでも疲労を取るために目を閉じて睡眠を取る事にした。

 

睡眠を取ってから四時間後に目を覚ましたラウラは歩ける位にまで回復していた。ラウラはベッドから起き上がると身支度を整えてフリーマンの部屋へと向かった。

 

 

 

 

「失礼します」

 

「来たか」

 

フリーマンはコンピューターから視線をラウラに移すと鋭い目つきのままで口を開いた。これから話す事は他言無用と威圧しているかのように。

 

「ラウラ、君には話しておくべきだろうと思う。Dボゥイの妹であるミユキ君の事だ」

 

「?何故、私に?」

 

「彼女を救う方法は一種の賭けだからだ。彼女が余命幾ばくもなくなっている事は知っているな?」

 

「はい、身体の組織崩壊が起こっていると・・・まさか!?」

 

ラウラは自分で発した言葉からミユキか何故、危険な状態なのか答えを頭の中で出してしまった。

 

「そう、彼女を苦しめているのはテックシステムそのものだ。それによって身体の内部から組織崩壊が進行している」

 

「っ!」

 

「まだ研究段階だが、彼女を助ける方法はある。極めて難しいが・・・」

 

「それは一体!?教えてください!」

 

ラウラは飛びかからんとする勢いでフリーマンに詰め寄った。例え可能性が低くとも兄妹を引き離す事はしたくないと思っている為だ。

 

「テッククリスタルの入手だ。Dボゥイやミユキ君のではなく、完全なテッカマンであるラダムテッカマンのテッククリスタルが必要となる」

 

「テッククリスタルを・・・」

 

ラダムテッカマンのテッククリスタルの入手は極めて難しすぎる事である。テッカマンにとってテッククリスタルは命そのものと言って良いほど重要な物だ。

 

それを入手するには敵を半死半生の状態にしなければならなず、ボルテッカなどの火力のある武装を封じて戦う事になるのだ。

 

「Dボゥイや皆には内密にしておいて欲しい、この事を聞けば確実に無理をするのは目に見えている」

 

「ラーサ!」

 

スペースナイツにおいて了承した事を意味する言葉を口にしながらラウラは敬礼をした。自分が出来る精一杯の決意の意志を見せるために。

 

「ラウラ、ミユキ君との面会を許可しておく。出来れば彼女に会っておいて欲しい」

 

「分かりました」

 

フリーマンに背を向け、ラウラは部屋から出て行き、フリーマンはその後ろ姿を見送ると椅子に深く座り直した。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、身体検査の結果が出たが信じられん・・・」

 

フリーマンはラウラの治療をすると同時にラウラ自身の身体検査をするように命じていた。味方をしてくれているとはいえ、テッカマンである以上は警戒を怠らないようにするためであった。

 

「明らかに人為的処置をされている身体だ。だが、今の技術でここまでの処置は出来ない・・・一体、彼女は何者なのだ?」

 

結果が記された書類を眺めながら、フリーマンはラウラへの疑問が深まるばかりであった。彼女は今の技術ではありえない処置を受けている、その他にもテッカマンを名乗りながらラダムの支配を受けていないのもありえない事である。

 

疑念を止め、フリーマンはテッカマンに関するデータを纏める為にコンピューターのキーを叩き始めた。

 

 

 

 

 

ラウラはミユキと会って欲しいという言葉に従い、彼女が治療を受けている部屋へと趣いた。彼女の容態は今は安定しているらしくこちらに視線を向けてきた。

 

「貴女がDボゥイさんの妹の」

 

「はい、相羽ミユキです。貴女は?」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。すまない、こんな口調で」

 

ラウラが謝るとミユキは笑顔を見せた。ラウラとほとんど変わらない年相応の笑顔だ。

 

「ふふ、ラウラさんって不器用な人なんですね?タカヤお兄ちゃんにそっくり」

 

「そうなのか?」

 

「だって、口数が少なくて口下手ですぐに謝るから」

 

「む・・・」

 

ミユキのペースにラウラは少し戸惑いを見せていた。こんな風にペースを持っていかれるのは自分の世界の仲間であるシャルロットと会話した時以来だったからだ。

 

「ラウラさんも、なんですよね?」

 

「ああ、私もテッカマンだ」

 

「お兄ちゃんや私とは違って、ラウラさんは不完全なテッカマンじゃないんですね」

 

「・・・・」

 

ミユキの言葉にラウラは答えられない。自分のテッカマンの姿が相棒であり機体であるISでラダムのフォーマットによって生まれたのでは無いからだ。

 

「お願いがあります、ラウラさん」

 

「何だ?」

 

「もし、私が死ぬ事になったらお兄ちゃんと共に戦って・・・ラダムを」

 

「ふざけるなっ!」

 

「っ!ラウラさん!?」

 

ラウラはミユキが言い終える前に怒気を含めた声を上げていた。全てを諦めているミユキに対して怒っているのだろう。

 

「可能性が低くとも何故、生きようとしないのだ!?Dボゥイさんの妹ならば諦めることをするな!」

 

「でも、私は不完全なテッカマンだから・・・」

 

「まだ生きているのだから希望を捨てる時じゃない。私がDボゥイさんと貴女を決して離れさせたりはさせん!」

 

ラウラは兄妹というものに自覚無しで非常に過敏になっていた。自分にも兄と姉がいる、例え血の繋がりが無いとしても死なせまいとするだろう。

 

「ラウラさん・・・私は」

 

「今はゆっくり休む時だ、戦いは私とDボゥイさんが請け負う」

 

「はい・・・」

 

「では、な」

 

ラウラは病室から出ていき、アキやDボゥイ、ソルテッカマンの搭乗者であるノアル達が待つ場所へと向かった。

 

 

 

 

 

話し合いを始めて三時間後、基地の警報が鳴り響く。それは敵が近くに現れた事を全員に知らせているということだ。だが、敵の姿は見えない。

 

「呼んでいる・・・しかも二人か」

 

「Dボゥイ、そいつはテッカマン同士の共鳴か?」

 

「ああ、ラウラも連れて来いと言っている」

 

「私も?ですか」

 

「恐らく、俺達をまとめて倒すつもりだろう」

 

ノアルとラウラの疑問にDボゥイは簡潔に答え、外へ出ようと出入り口へと向かい、その後に続くようにラウラも走っていく。

 

「Dボゥイ、ラウラ!」

 

アキとノアルが引き止める前に二人は出て行ってしまった。

 

 

 

 

外に出ると男性二人組が待ちかねていたように笑みを浮かべている。その目はこれから戦う事を楽しみだと言わんばかりだ。

 

「レーゲン、着いてこい!」

 

「何!?」

 

「待て!」

 

「ブレード、貴様の相手は私だ!」

 

格闘技の経験がありそうな男性がラウラを呼び、細身の男性がDボゥイの行く手を阻み、二手に分かれてしまった。

 

 

 

 

促されるまま、男性について行った先にあったのは礼拝堂のような建物の中だった。男性は礼拝に腰掛けると話を始めた。

 

「さて、テッカマンとしての俺の名は知っているな?レーゲン」

 

「テッカマンアックス・・・だ」

 

「そうだ、人間だった時の名も名乗っておく。俺の名はゴダードだ」

 

テッカマンアックスは人間だった時の名をラウラに名乗ってきた。その意図をラウラは理解できない、罠である事は可能性が高く同情を誘うためなのだろうか?あらゆる可能性をラウラは思考している。

 

「ふ、安心しろ。同情を誘うために名乗った訳ではない」

 

「では、何のために名乗った!?」

 

「話し合うためだ。ブレードであるタカヤ坊と共にいる相手が気になってな、お互い名を知らぬのは不便だろう?」

 

ゴダードと名乗った男性はDボゥイの事を幼い時から知っているようにラウラへ話してくる。敵であるはずなのにまるで成長を見守ってきたかのように。

 

「タカヤ坊とシンヤ坊、つまりブレードとエビル様を鍛えたのはこのワシだ。ワシはあの二人が殺し合う事に心を痛めている。わかるだろう?嬢ちゃん」

 

「っ!?」

 

ゴダードの言葉にラウラは目を見開くほど驚愕した。目の前の敵である男は本気で心を痛めている様子だからだ。

 

「私はラウラ・ボーデヴィッヒという名がある!嬢ちゃんではない!」

 

「そうか、ラウラか。確かに刻んだぞ」

 

ゴダードはまるで新しい弟子を見つけたかのように饒舌になっている。顔には笑みが浮かんでおり、楽しげだ。

 

「ラウラ、タカヤ坊と共にラダムに来る気はないか?お前ほどの実力があれば歓迎してくれるぞ」

 

「何!?」

 

敵から来たのは戦いの合図ではなく、勧誘の誘いだった。それもDボゥイと共に来いというものだ。ラウラは魅力的すぎる誘いに乗りかけていたが唇を噛み締め、ゴダードを睨んだ。

 

力を絶対的なものとし、織斑千冬を崇拝してた時のラウラならば喜々としてラダムの誘いに乗っただろう。しかし、今のラウラにはラダムの誘いに乗る理由がなく、自分にとって帰らなければならない場所がある。姉と兄、そして大切な仲間達が待つ世界に。

 

「断る!私はラダムになる気は無い!」

 

「そうか、やむを得んな・・・ブレード共に障害なる相手は倒さねばならんからな!でえええい!」

 

「なっ!」

 

ゴダードは立ち上がるとラウラに向かって全力でパンチを打ち込んできた。それをラウラは避けるが左目の眼帯の紐に当たり、取れてしまう。

 

「ほう?オッドアイとは珍しいな、だが止めるつもりはないぞぉ!」

 

再び繰り出されるパンチをラウラは特訓で学んだ中国拳法の聴勁(ちょうけい)を使い、捌き出した。本来、聴勁(ちょうけい)は鋭敏な皮膚感覚と相手の動作から繰り出される技を読み取る洞察力、捌くための反射神経が必要不可欠だ。しかし、ヴォーダン・オージェの封印を解かれた、今のラウラはその全てをクリアしている為にゴダードの攻撃に対応している。

 

「これは中国拳法の聴勁(ちょうけい)か!?こんな年端もいかない小娘が習得しているとはな!だが、守ってばかりでは勝てんぞ!」

 

「くうう!」

 

いくら攻撃を捌けるといっても、ブレードとエビルに対して格闘技を教え込んだ相手である。その技量とパワーによって次第に押され始めていた。

 

「タカヤ坊とシンヤ坊にも教えた事だが、ラウラ!お前にも教えてやる!攻撃は最大の防御となるのだ!」

 

「ならば、私も攻撃に移る!でええい!」

 

ラウラも反撃に転じ、蹴り技を繰り出す。小柄な体格ではパンチは牽制程度にしかならない。しかし蹴り技ならば腰を要にすることで小柄な体格でも体重を乗せた一撃を加える事が出来る。

 

「蹴り技がお前の得意技か!」

 

「そうだ!」

 

ゴダードはラウラの飛び蹴り、ローキック、ミドルキックなどを防御しているが少しずつ体力を削られている。

 

「今だ!だああああ!」

 

「ぬおっ!?」

 

ラウラの後ろ蹴りがゴダードの腹部を捉え、片膝を着かせた。ダメージは大きくはないが怯ませただけでもかなりの技量だろう。

 

「凄まじい吸収力だな。ワシの教えをすぐに実践に移すとは!ならば、そろそろ本番と行こうか!テックセッター!!」

 

テッククリスタルを取り出したゴダードはテッカマンへの変身を行い、その姿を変えていく。

 

「テッカマンアックス!」

 

「レーゲン!テックセッター!」

 

ラウラ自身もシュヴァルツェア・レーゲンを展開し、テッカマンの姿へと変えていく。展開を終えるとラウラは地に降り立った。

 

「テッカマンレーゲン!!」

 

「ふふ、テックセットしたか!テッカマン同士の戦いの方が倒しがいもあるというもの、どうせ勝つのはワシの方よ!」

 

「行くぞ、アックス!でやああああ!」

 

「うおおおお!」

 

斧型のテックランサーと両刃の槍のテックランサーをぶつけ合い、互いに攻め合う。パワーと技量では圧倒的にテッカマンアックスが上回っているが、手数の多さと攻め方はレーゲンに分がある。

 

レーゲンはワイヤーブレードと手刀のプラズマブレードを同時展開し、アックスへ向かっていく。だが、アックスはワイヤーブレードを受け払い、接近戦を仕掛けてくる。

 

「どうした!?レーゲン!!そんな事ではワシを倒す事なぞ出来んぞ!」

 

「まだだ、私は負けん!必ず勝ってみせる!」

 

「威勢が良いな、でやあああ!」

 

アックスは衝撃波をレーゲンへ放ち、それをレーゲンは空へ上昇して回避し落下速度を利用した唐竹割りを仕掛ける。

 

「うおおおおおお!」

 

「甘いぞ!」

 

唐竹割りを受け流され、アックスの蹴りをレーゲンはまともに受けてしまった。その威力でレーゲンは建物に叩きつけられてしまい、僅かな間、動けなくなってしまう。

 

「ぐ・・うううう!」

 

「立ってこい、レーゲン!この程度ではやられはせんだろう?」

 

「!今だ!」

 

「ぬぐううう!?」

 

レーゲンはワイヤーブレードを展開し死角から攻撃を仕掛けた。アックスは目の前のレーゲンに集中していた為にワイヤーブレードを受けてしまう。だが、照準が僅かに甘く、直撃とまではいかなかった。

 

「はぁ・・はぁ・・・こんな時に」

 

「どうした!?スタミナ切れか!?」

 

アックスの言葉は的を射ていた、ヴォーダン・オージェが安定して発動出来ているとはいえ発動中は体力を奪われ続ける。ましてや、テッカマンになる前から発動していた為に体力を消耗していたのだ。

 

「ならば、そろそろトドメといくか」

 

「なんだ?あの構えは?」

 

「この技はタカヤ坊ですら一度も破れなかった技だ!お前に見切れるかな?」

 

テックランサーを脇に抱えるような構えを取ると同時に、アックスは攻防一体の技を繰り出しながら近づいてくる。

 

「(バカな、ヴォーダン・オージェでも見切れないだと・・!?)これでどうだ!」

 

「無駄だ!無駄だ!!」

 

テックランサーを投擲するが簡単に弾かれてしまい、そのままアックスは近づいてくる。レーゲンは両手のプラズマ手刀を展開し構えた。

 

「死ねええ!レーゲン!!」

 

見切ることの出来ない技へ自ら飛び込み、左肩を犠牲にして振り下ろされた刃を喰い込ませた。

 

「ぐあああああっ!!」

 

「自ら飛び込むことで急所を避けたか!だが!」

 

「違う・・な!でやああああ!!」

 

右手のプラズマ手刀をアックスの左脇腹に突き立て、左手のプラズマ手刀は右の脇腹に突き立てた。

 

 

『推奨BGM [永遠の孤独] スパロボW アレンジ』

 

 

「ぐおおおおお!うご・・・あ、レー、ゲン!」

 

手刀を引き抜くとアックスは完全に膝を着いてしまい、肩で息をしている。

 

「見事だ、レーゲン・・・肉を斬らせて骨を断つ、惚れ惚れする一撃だったぞ!」

 

「ゴダード、さん」

 

「餞別だ、ワシに勝った証に持っていけ!」

 

アックスから投げ渡されたのはアックス自身のテッククリスタルだ。それを見てレーゲンは仮面の下で驚きを隠せない。

 

「これは、貴方のテッククリスタル!?」

 

「お前が倒したのはラダムのテッカマンアックスだ、気にすることはない。撃て!ボルテッカを!」

 

「!!!」

 

テッカマンアックス。いや、ゴダードはラウラに対して自分を撃てと言っている。それは完全にトドメをさせという事でありラウラは迷いが生じた。

 

「し、しかし!」

 

「お前の甘さはワシがあの世に持っていく、戦士として強くなりたいのならワシの屍を越えてみせろ!さぁ、何をしている!?撃てェェ!!」

 

レーゲンはユニットを接続すると荷電粒子砲の発射口を肩から出現させた。荷電粒子が収束していき、チャージが完了する。

 

「う、うわあああああああああああ!!ボルテッカァァァァ!!」

 

「そうだ・・・それで、いい!ラウラ嬢ちゃん!ぬぐわあああああああああ!!」

 

テッカマンアックスはボルテッカの光に飲み込まれ、何も残らず消滅してしまった。アックスのテッククリスタルだけがラウラの手の中で輝いている。

 

「う・・うう、ゴダード、さん」

 

ラウラはクリスタルを握ったままその場で座り込んでしまった。相手がトドメをさせと言ってきたとはいえ、自分の手で格闘の第二の師を亡き者にしてしまったのだから。

 

「急いで戻ろう」

 

 

 

 

四時間かけてスペースナイツの基地へテッカマンの姿のまま戻り、テックセットを解除すると基地内部へ入りフリーマンのもとへと向かった。

 

「チーフ、例のクリスタルを回収出来ました」

 

「なんと!?本当かね?」

 

「はい、これがそうです」

 

アックスから渡されたクリスタルを取り出し、フリーマンに見せた。フリーマンは驚愕するのを隠しながら受け取るとそれをすぐに、解析コンピューターのスキャンの中へと入れた。

 

「では、失礼します」

 

「ああ、助かった」

 

フリーマンの部屋から出るとラウラはテッカマンアックスとの戦いを思い返していた。ラダムとなっても人の心を自らの最後の中で取り戻した人だ。

 

自分にとっては第二の師であり、自らの死を持って死の重みを教えてくれた。

 

廊下を歩きながらミユキの容態を見ようと面会に行くのであった。




次回はブラスターブレード回です。

命を奪う重みを知ったラウラ自身も何かが変わります。


---

ラウラに活躍によってテッククリスタルを入手し、ミユキの治療は確立されていった。

そんな中、Dボゥイが進化を決意する。

次回

『永遠の孤独』

仮面の下の涙を拭え。


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永遠の孤独(ラウラルートその3)

ブレードがブラスター化

レイピア生存。

以上


※注意書き

レイピアの生存フラグを立てたルートを前提に生存した状態で書いています。

スパロボJではブラスター化を応用した事になっていますが、応用の仕方を独自解釈にしています。


ミユキの面会へ行こうとメディカル・ルームへと足を運んだラウラだったが、部屋の中からミユキの悲鳴にも似た叫びが上がっていた。

 

その原因はテックシステムによるもので、フォーマットが完全ではないミユキは身体の組織崩壊がテッカマンとの感応で進行が加速していたのだ。

 

「ああう!あああう!ああああっ!!」

 

「っ!」

 

その声を聞いたラウラはすぐにでも飛び込んでいきたい衝動に駆られたが、医療の知識など怪我に対しての応急処置程度しかない。おまけに医療班によって立ち入り禁止を言い渡されてしまい中に入る事が出来なくなってしまった。

 

「私は・・何もできないのか?新たな友人が死にそうなほど苦しんでいるというのに!」

 

戦いでは自分の世界での実戦で無力だという事を感じる事はあった。だが、今の自分は目の前で苦しんでいる友人に対して声すらもかけられない。

 

出来る事はただ無事を願う事だけ、その現実がラウラ自身が自分を追い込む要因になってしまっていた。

 

「くっ!」

 

悔しさともどかしさからラウラは壁を殴った。壁を殴りつけた拳から痛みが伝わり、頭が少しだけ冷静になる。

 

何をしているのだろうかと自分自身に問いかける。八つ当たりにも等しい行動をしたところでミユキの容態が変わる訳でもない。ただ、無力さを再認識するだけであった。

 

「ラウラ」

 

「Dボゥイさん?」

 

「ミユキを心配してきてくれたのか?」

 

「ええ」

 

ラウラは短く答えたが本心はミユキを死なせたくないという思いでいっぱいだ。請われたとはいえど、自分の手で人の命を奪った経験から命の重みを自覚したためだ。

 

Dボゥイ自身、ラウラが苦しむのをよしとしていない。テッカマン同士だからではなく一人の仲間として自分で自分を追い込んで欲しくない。

 

自分はラダムであり、テッカマンとなった家族全員を殺さなければならないという重い使命を背負ってしまっている。それ故、抱え込んでしまう事もあるが、フォローをしてくれているのがラウラだとアキから聞かされていた。

 

妹であるミユキの事も自分では出来なかった厳しい叱咤激励もラウラが代わりに行ってくれた他に、テッククリスタルの入手も彼女のおかげだった。

 

「すまない、お前にばかり負担をかけさせてしまって」

 

「え?」

 

ラウラはキョトンとした表情でDボゥイからの言葉を聞いていた。自分に出来る事を精一杯やっていただけで謝罪されてしまったからだ。

 

「ラウラ、お前にはいくら感謝しても足りない位だ。ミユキの事を含めてな」

 

「私は兄妹を離れ離れにさせたくないだけです。私にも姉と兄がいますから・・・」

 

「初耳だな」

 

「今、Dボゥイさんだけに明かしましたからね。血の繋がりはありませんが大切な姉と兄なんです」

 

「そうか・・うっ!?」

 

Dボゥイは突然、ふらつくと同時に倒れてしまった。額からは汗が浮かんでおり、呼吸も浅く顔色も青ざめている。

 

「Dボゥイさん!?誰か!誰か来てくれ!!」

 

ラウラの叫びにアキとノアルが現れ、二人は声をかけながらDボゥイとラウラに近づいた。

 

「Dボゥイ!」

 

「一体何があったんだ!?ラウラ!」

 

「わ、わかりません!私と話していたら急に倒れて!」

 

「急いで運びましょう!ラウラも手伝って!」

 

「は、はい!」

 

幸いにもメディカルルームの近くだった為に、Dボゥイはすぐに第二集中治療室に入れられることになった。

 

 

 

 

 

麻酔によってDボゥイは眠っており身体検査が行われた結果、メディカルルームを見下ろせる部屋に居たフリーマン以外の全員が驚愕する事実だった。

 

「そんな、Dボゥイの身体も」

 

「ミユキさんと同じ状態に・・・?」

 

「嘘だろう!?チーフ!」

 

「残念ながら事実だ」

 

フリーマンの口から伝えられたのはDボゥイの身体も組織崩壊を起こしており、それが表立って出てきてしまったということだ。

 

それを聞いたアキを含め全員が驚きを隠せない。Dボゥイがテッカマンとして戦いを続ければ続けるほど命が削られていくのだから。

 

「だが、彼が助かる可能性があるとすれば一つだ」

 

「それはなんですか、チーフ!」

 

アキが声を荒らげながらフリーマンに問い質し、フリーマンは落ち着いた様子でDボゥイの組織崩壊を止める手段とその原因を話し始めた。

 

「彼の組織崩壊はテッカマンでありながらテッカマンと戦うという生存競争によるもの、加えてDボゥイは不完全なテッカマンだ」

 

「でも、それだけで組織崩壊は起こらないはずです!それ以外にも原因があるのでしょう!?」

 

「研究の結果、テッカマンには進化の余地がある事が判明した。恐らくDボゥイの組織崩壊の原因はDボゥイ自身が進化を果たすべき状態であるにも関わらず進化を果たしていないからだろう」

 

テッカマンの進化こそがDボゥイを助ける唯一の方法だとフリーマンは全員に話している。進化の方法は研究自体で判明しているがそれを話すべきかフリーマンは顔に出さず悩んでいた。

 

「チーフ」

 

「Dボゥイさん!?」

 

Dボゥイはいつの間にか麻酔が覚め、声をかけていた。ラウラが最初に気づき他のメンバーも視線を向ける。

 

「俺を・・・進化させる事は出来ないのか?俺がもう一度テッカマンとして生まれ変わるために!」

 

「Dボゥイ、何を!?」

 

アキの心配をよそにDボゥイは戦う事を選んでいる。自らの命をかけてまで成さねばならない使命があるためだ。

 

「方法はある。テッカマンの爆発的進化・・・即ち、ブラスター化を行う方法はラウラが入手してくれたテッククリスタルのおかげで研究が飛躍的に進み確立されている。更にはブラスター化の方法を応用すればミユキ君の組織崩壊も治療出来るだろう、しかし」

 

「何だ!?勿体ぶらずに言ってくれ!」

 

「君の進化もミユキ君の治療も成功するかは分からない。良くて50パーセントだ」

 

フリーマンの言葉にDボゥイは言葉を失った。自分の進化も妹の治療も成功確率が50パーセントという低い可能性である事を告げられた故だ。二人が生き残れる可能性が出てきたというのに。

 

だが、それに対して声を荒らげる者がいた。その正体はラウラだ、ミユキに叱咤激励をしたように全員に激を飛ばしている。

 

「何故、そこでみんな諦めるような雰囲気になるのだ!『50パーセントしか無い』ではない、『50パーセントも』あると考えれば低くはない可能性のはずだろう!!」

 

「ラウラ・・・」

 

ラウラが言っているのは捉え方の問題だ。可能性があるのならばそれに賭けてみる事こそが先へ行く事になるはずだと訴えている。

 

「チーフ、ラウラの言う通り50パーセントも可能性があるんだ、俺はそれに賭ける!俺は戦い続けなければならないんだ!」

 

「Dボゥイ・・・」

 

アキを始めとするスペースナイツの皆が心配をよそにDボゥイは自ら進化する道を選んだ。自分の使命は他の人間にさせてはならないという責任からくるものであると同時に、負担をかけさせまいとする行動でもあった。

 

 

 

二時間後、サポートロボットであるぺガスに増幅エネルギーを送り込む装置が取り付けられ、進化を促進させる準備が完了していた。

 

「クリスタルに人工的なエネルギーを与え、進化促進を行う。所要時間は三時間、その三時間後にすべての結果が出るだろう」

 

「三時間後に全てが」

 

Dボゥイはぺガスを見上げながら覚悟を決めている。そんな中、バーナードと呼ばれた軍人の男がDボゥイに声をかけた。

 

「坊や、これはお前自身の戦場であり戦いだ。手助けは出来ねえが忘れるんじゃねえぞ?生きて帰って来い!」

 

「ああ、忘れないさ。必ず生きて戻ってくるさ」

 

Dボゥイはぺガスの内部へと入り、ブラスター化の準備に入った。それを確認したフリーマンはコンピューターを起動させる。

 

「クリスタルエネルギー増幅開始」

 

進化の為のエネルギーが送り込まれ、処置が始まった。これは己自身の死との戦い、これを乗り越えて必ず生きて帰るという約束を果たす為の戦いが始まった。

 

「あら?ラウラは?」

 

ミリーの言葉にフリーマンがすぐに答え、ラウラの居所をミリーに教えた。

 

「ラウラは今、ミユキ君の所だ。彼女の言葉が一番ミユキ君に届くのではないかと思ったゆえ、任務として任せた」

 

「ミユキさんの所に・・・」

 

ミリーが意外な答えに驚いている中、ラウラとミユキはメディカルルームの一室で話をしており他愛のない雑談から本題に入るところであった。

 

「ミユキ、ブラスター化を応用した治療を受けないか?」

 

「ブラスター化?」

 

ミユキの疑問にラウラは目を少しだけ閉じると自分を落ち着かせ、意を決した様子で説明を始めた。

 

「ブラスター化とはテッカマンが進化する事を意味する言葉だ。ただし、成功確率は50パーセント」

 

「・・・」

 

「高いとは言えない確率だが治療方法はこの方法しかないとチーフも言っている」

 

「その治療方法は恐らく再フォーマットと同じですね、私の場合は初期フォーマットを経た後、戦闘フォーマットの最終調整前に不適格になって排除されましたから戦闘フォーマットのやり直しとなるはずです」

 

ミユキからの言葉にラウラ自身もその推測は当たっていると考えている。治療という名を借りてはいるが、実際は完全なテッカマンになる事に変わりはない。

 

「もし、タカヤお兄ちゃんがブラスター化に挑戦しているなら私も挑戦します。私もタカヤお兄ちゃんと一緒にいたいから」

 

「!ミユキ・・・」

 

ラウラは改めて彼女がDボゥイの妹だという事を再認識した。性別は違っていようとも心の奥底にある決意のあり方はDボゥイそのものだ。

 

彼女は一度は諦めかけた生きる事を強くラウラに見せている。その決意を見届けたラウラは彼女のへの信頼の証として眼帯を外した。

 

「金色の瞳?左右で色が違うなんて」

 

「オッドアイを見るのは初めてか?私は生まれが特殊なんだ」

 

ラウラは自身の生まれ、黄金の瞳に関する事をミユキに話していた。そんな自分に内心、戸惑っていたがミユキに話すことで彼女の恐怖を少しでも和らげようとしたのだろう。

 

人工的に生まれた存在である事はラウラ自身も負い目を感じている。名前すらなく、名乗っている名前でさえ認識の為に着けられた名前だ。それでも、一人の人間として、ラウラ・ボーデヴィッヒという存在として生きて来た事は誰にも否定させない。

 

それを伝えたかったようにラウラの話は終わっていた。

 

「ラウラさん、私をフリーマンさん達の所へ連れて行ってください」

 

「何!?」

 

「再フォーマットを行います。こうして話してきたという事は方法はあるのでしょう?」

 

ミユキの目には決意が宿っていた。組織崩壊をただ待つのではなく、自分もテッカマンとしてあるならば完全体となって兄と共に戦う事を。

 

そんなミユキの決意を無駄にしないためにラウラはミユキに肩を貸し、フリーマン達のいる部屋へ共に向かった。

 

 

 

 

部屋に入ると全員が非常に驚いた様子でラウラとミユキを迎えた。Dボゥイは既にブラスター化処置を開始しており、ぺガスの内部で自分自身と戦っている。

 

「ミユキさん!?どうしてここに!」

 

「ラウラ!どうして彼女を連れてきたんだよ!」

 

「お節介な事をしてるもんだね」

 

「ミユキさん、早くメディカルルームに戻らないと!」

 

「なにやってんのよ!?ラウラ!」

 

「なんで彼女を連れてきてんだよ!」

 

「・・・・」

 

アキ、ノアル、バルザック、ミリー、レビン、本田はミユキを連れてきたラウラを一斉に責めたがミユキがそれを止めた。

 

「良いんです、私が此処に連れてきて欲しいとラウラさんにお願いしたんです」

 

「ミユキさん、どうして?」

 

「フリーマンさん、私にもタカヤお兄ちゃんと同じ処置をお願いします!」

 

「何!?」

 

ミユキの言葉にフリーマンは珍しく感情を表に出している。それもそのはずだ、彼女は自らブラスター化する事を望んできたのだから。

 

「ミユキさん、何を!」

 

「私は再フォーマットを行う事になります。ラウラさんから聞いたブラスター化と同じ成功確率でしょう」

 

「確かに擬似クリスタルエネルギーで君のクリスタルフィールドのエネルギーを増幅すればできない事はない」

 

フリーマンの言葉に全員が目を見開いて驚くが、その先の言葉を言わないフリーマンに皆が不安を覚える。

 

「だが、その為にはテッククリスタルを使わなければならない。ラウラが命懸けで手に入れてきてくれたクリスタルを」

 

「そ、そんな!」

 

ミリーが驚くのも無理はない、テッククリスタルはDボゥイが月へ行くために必要不可欠な物だ。それを使うという事は月へ向かうための手段が無くなってしまうのだ。

 

「私がDボゥイさんなら迷いなく、ミユキさんの為にテッククリスタルを使ってくれと言います」

 

突然の言葉に全員が聞き入った。ラウラがDボゥイの代わりにメッセージを伝えようと必死に言葉を見つけようとしている。

 

「ラウラ」

 

「ミユキもDボゥイさんに負けないくらいの決意を持ってここに来たんです。ですから、再フォーマットの処置をしてあげて下さい」

 

「・・・・わかった。テッククリスタルは今、ここにある。ミユキ君、君の決意は確かに受け取った。君のテッククリスタルを私に預けてくれるね?」

 

「はい!」

 

Dボゥイが処置を受けている隣でミユキは自分のクリスタルフィールドの中へと入った。ラウラが手に入れたアックスのテッククリスタルをコンピューターに入れ、エネルギーを作り出し処置を開始した。

 

「ううう・・・!ああああっ!!」

 

クリスタルへエネルギーが送られ再フォーマットが開始される、それに伴う痛みでミユキは叫び声を上げた。それを心配するアキはフリーマンに詰め寄る。

 

「チーフ!ミユキさんをこれ以上!」

 

「アキさん、中止させてはダメです!」

 

それを咎めたのはラウラだ。アキの腕を掴み、フリーマンから引き離した。その力強さは小柄な少女とは思えない程の強さだ。

 

「ラウラ、貴女だってミユキさんが心配じゃないの!?」

 

「私だってミユキが心配です!私が冷血な人間だと思っているのですか!?」

 

「っ!ラウ・・・ラ?」

 

ラウラの剣幕にアキは怯み、言い返そうとしたがそれを止めた。ラウラの目からは涙が溢れ、頬を伝っていたからだ。ラウラは感情を隠すのが上手いがその奥底ではミユキを心配していた。

 

「代われるものなら私が代わりたいですよ!でも、これはミユキが自分の意志で決めた事なんです!私達が止める事は出来ません!」

 

「うあああっ・・あああああああああああ!」

 

ミユキの叫び声が止み、戦闘フォーマットが始まった。ぺガス内部のDボゥイもクリスタル内部に居るミユキも静かにフォーマットが完了するのを待っているかのように。

 

そんな時、敵襲を知らせる基地の警報装置が鳴り響いた。監視システムの映像を出し敵を確認するとそこには数百とも言える数のラダム獣が基地に迫って来ている。

 

「ラダムだ!こんな時に!!」

 

「バーナード軍曹、作戦の指揮は軍曹にお任せします。よろしいですか?」

 

「おう、今日はなんとしても坊やとその妹を守り抜かなきゃならねえ!てめえの身体がどうなろうとな!」

 

バーナードの焚き付けによって全員が一斉に掛け声を上げた。その様子を見てラウラは自分の世界の仲間達を思い返している。みんなが集まれば特訓の時もこうして掛け声を掛け合って気合を入れていた。

 

初めはなんと馬鹿らしいと思っていたが仲間達と共に自分が高揚している事に気づき、掛け声を楽しんでいる自分がいた。

 

「よーし、じゃあ此処にいるメンバーでチームを編成する!例え上官でも文句は言わせねえぜ」

 

「わかってるさ、元軍曹さん」

 

バーナードが基地内部の構造を映した見取り図をモニターに表示し、作戦の説明を始めた。最初にノアルバルザックの方に視線を向けている。

 

「まず、ソルテッカマンの兄ちゃん達は外へ出て化物の数をなるだけ減らしてくれ!」

 

「オーライ、毎度毎度の雑魚掃除ってわけね」

 

「いつも通りのお仕事だな」

 

バーナードは説明を終えると今度は本田とレビンの方へと視線を向ける

 

「本田の旦那とオカマちゃんは俺の部下と基地内に侵入する敵を防げ、場所は二箇所だ。二人一組でチームを組め」

 

「ちょっとちょっと!ちゃんとレビンって呼んでよ!」

 

名前を呼ばれなかった事に不満を持ったレビンが不満を漏らしたが、アキがそれを止めた。

 

「静かにしてレビン、それで私はどこを守ればいいの?」

 

「私も何処ですか?」

 

アキとミリーの言葉にバーナードはすぐに答えた。

 

「嬢ちゃん達は俺と一緒に此処に居ろ、坊やと妹ちゃんを守る最終防衛ラインって訳だ」

 

「「ラーサ!」」

 

二人は了解した事を告げる言葉を口にし、バーナードはラウラに視線を向ける。このチームの中でテッカマンと互角に戦える唯一の存在に。

 

「私はどうすれば良いですか?」

 

「銀髪の嬢ちゃんは敵のテッカマンが現れた時に真っ先に向かって行って惹きつけて欲しい。坊や達以外でテッカマンに対抗出来るのは銀髪の嬢ちゃんだけだからな」

 

「了解しました!」

 

元々、軍属であるラウラは軍での受け答えを熟知している。その為、自分の役割を理解し敬礼によって了解した事を告げた。

 

「もちろん、フリーマンの旦那にも戦ってもらいますぜ」

 

軽いノリを見せながらバーナードはライフル銃をフリーマンに投げ渡した。それを受け取ったフリーマンは弾が込められたカードリッジを一度外すとそれを入れ直した。

 

「こう見えて、射撃の成績はAだった。この銃のように特殊な弾を使った銃を用意してある、好きなタイプの銃を持って行きたまえ」

 

各々が準備を済ませ、ソルテッカマンの二人はラダム獣との戦闘に入り内部戦闘を任されたメンバーも定位置についた。

 

「敵のテッカマンが内部に来る可能性があります。それに備えて私が最終防衛ラインの門番を努めます」

 

「頼んだぞ、ラウラ」

 

「ラーサ!」

 

ラウラは相羽兄妹がブラスター化とフォーマット処置を受けている部屋から出て行った。

 

通路は閉鎖され、閉鎖された通路の前でラウラは小さなテッククリスタルと似た形になってペンダントになっている待機状態のシュヴァルツェア・レーゲンを手にする。

 

「レーゲン、出来る事ならば私も進化させてくれ。あの二人を守るために!」

 

シュヴァルツェア・レーゲンへ言葉を紡いだ後に基地内部が大きく揺れた。内部での戦闘が始まったらしく銃声が鳴り響く、その途中で聴こえてくるのは味方の断末魔の声だ。

 

「来る・・・!」

 

「ほう?この方角に奴が居る訳か」

 

防衛部隊を倒しながら足音が聞こえてくる。それはテッカマン特有の足音でゆっくりだが確実に近づいてきていた。

 

「今度は貴様が相手か?全くアリ共はしつこい」

 

「テッカマンランス!ここからは私が相手をする!レーゲン!テックセッター!!」

 

「何!?なぜ私を知っている!」

 

ラウラが待機状態のシュヴァルツェア・レーゲンを掲げ、キーとなる言葉と共に機体を展開する。ランスはその様子に驚愕しており、それと同時にブレードがいる確信を得ていた。

 

「テッカマンレーゲン!」

 

「貴様・・レーゲン!そうか、貴様がイレギュラーだったのか!」

 

「そうだ!ここから先へは行かせん!」

 

展開が完了すると同時にレーゲンはテックランサーを手にし、連結させるとランスへ向かって行きテックランサーの応酬を始めた。

 

斬る事と突く事に特化したランスのテックランサーと左右の両刃によって死角の少ないレーゲンのテックランサーが火花を出しながらぶつかり合う。

 

「私の目的はブレードだけだ、貴様に興味はない!邪魔をするな!」

 

「興味がなくとも戦ってもらう!たああああ!」

 

「おのれええ!」

 

ランスが反撃の一撃として斬りかかるがレーゲンはそれを軽々と見切って受け返し、腹部を狙い後ろ蹴りを打ち込む。

 

「ぐおっ!」

 

「まだまだぁ!(後2分!)」

 

「ふ、ここまで私を追い込んだことは褒めてやろう。だがここまでだ!」

 

「何!?」

 

「くらええええ!」

 

ランスは肩の砲門部分からテックレーザーを放ち、レーゲンを怯ませると頭を掴み、閉鎖の為の扉を破壊しながら進んでいった。

 

「ぐあああああああ!!」

 

最終防衛ラインをランスに突破され、レーゲンはフリーマン達の近くへと投げ飛ばされた。それでもテックランサーを床に突き立て、立ち上がる。

 

「ま、まだだ!」

 

「言ったはずだ、私はブレードを倒す以外に興味はないと!」

 

『貴方にタカヤお兄ちゃんを、お兄ちゃんとその仲間を殺させはしない!』

 

「な、何だ!?」

 

ランスが声のした方向へ振り向くとクリスタルフィールドからミユキが飛び出してきた。その手にはテッククリスタルが握られており、ミユキはすぐにそれを掲げた。

 

「テックセッター!」

 

「先に終えたのはミユキさん!?」

 

「テッカマンレイピア!」

 

その姿は初めて発見された時とほとんど変わらない、変化があるとすれば胸部部分にボルテッカの発射口が追加されている事だ。

 

「レイピアだと!?不完全体の貴様が生きていたのか、まぁいい。イレギュラーと共に始末するだけだ!」

 

ランスは嘲る様子でレイピアを見ており、レイピアはレーゲンへと寄り添って肩を貸した。

 

「ミ、ミユキ!」

 

「ラウラさん、後一分戦えますか!?」

 

「言われるまでもない、行くぞ!」

 

「ええ!」

 

レーゲンとレイピアはテックランサーとテックソードを手にし、ランスへと向かっていく。その速さは他のテッカマン達には追いつけない程のスピードが出せる位のレベルだ。

 

レイピアは元々諜報偵察型のテッカマンとしてフォーマットされている。再フォーマットによって戦闘力が追加されたことにより攪乱戦法を取る事が可能になったのだ。

 

「ぐ!おのれ!貴様等、不完全体如きに!」

 

「(何だ?この感じ、まるでミユキの力が共鳴してくるような・・・)」

 

レーゲンは即席のコンビをレイピアと共に組んで時間稼ぎをしている中、不思議な感覚に覆われていた。優しさを失っていないテッカマンである事が影響しているのか、それとも別の要因なのか自分の身体が何かに包まれているような感じがある。

 

「終わりだ!」

 

そんな考え事をしている中、ランスが放ってきたテックレーザーが二人を襲い直撃してしまう。

 

「うああああ!」

 

「きゃああ!」

 

「ラウラ!ミユキさん!」

 

それと同時にぺガスに繋がれていた装置が軽い爆発と共に外れていき、ぺガスが着地する。

 

「何!?Dボゥイ!」

 

「危ない!アキさん!」

 

アキがぺガスへ近づこうとするのをミリーが必死になって止め、フリーマンがぺガスを見ながら呟いた。

 

「や、やったか!?」

 

同時にぺガスの内部からテッカマンブレードが現れる、腕組みをした状態でランスを見ている。

 

「あれは・・・」

 

「あれが、進化したテッカマンなの!?」

 

「タカヤお兄ちゃん!!」

 

「Dボゥイさん!」

 

「進化したテッカマンだと?バカめ、何一つ変わっていないわ!」

 

ランスの嘲りの言葉が響く中、ブレードが叫び声を上げ始める。緑色の余剰エネルギーがブレードを包み込んでいく。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

ブレードはその姿を変えていき、肩の装甲が大型化し、より鋭角的なフォルムと翼のような装甲が現れてくる。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

姿を完全に変化させたテッカマンブレードを見て、アキを始めとするスペースナイツのメンバーは驚きを隠せない。

 

「こ、これが!」

 

「進化したテッカマン・・・ブラスターテッカマンの姿だ!」

 

フリーマンの言葉に倒れていたレーゲンはその姿を目に焼き付けようとブレードを見ている。

 

「ブラスターテッカマンだと!?バ、バカな!我ら以上の完全体が存在するものか!これでもくらえええ!!」

 

ランスはテックレーザーをブレードへ向けて放ったが爆発で起こった黒煙の中からブレードは突撃し、ランスの首を掴んで地下から地上へ向かっていく。

 

「あれが・・ブラスターテッカマンの姿・・・」

 

「お兄ちゃん!」

 

「ラウラ、ミユキさん!」

 

「二人共、大丈夫!?」

 

「Dボゥイさん・・後は・・・頼み・・ます」

 

ラウラは限界を超えていたらしく気を失い、テックセットが解除されてしまうと同時に倒れてしまった。それを見たスペースナイツのメンバーとレイピアはラウラに声をかける。

 

「ラウラ!」

 

「ラウラ!しっかりして!」

 

「チーフ!ラウラが」

 

「ラウラさん!!」

 

その声が聞こえていたのかはわからないが、ラウラは気を失っていてもDボゥイの勝利を信じているように穏やかな表情のままだった。

 

 

[推奨BGM『永遠の孤独』スパロボWアレンジ及び歌有り原曲]

 

 

「うおおおおおおおお!!」

 

ブレードはランスを掴んで引き摺っていき、地上を目指している。地上へ抜けた二人のテッカマンを目撃したのはソルテッカマンの二人だった。

 

「うお!?な、何だ!?」

 

「あれは、ブレード!」

 

ランスはブレードを引き離そうともがき続けていた。それでもブレードは手を離そうとはしない。

 

「は、離せ!ボルテッカァァァ!!」

 

ブレードの手を振り払いランスは至近距離から最大の必殺技であるボルテッカを放った。

 

「フッ、いくら進化したとはいえど、この至近距離からのボルテッカならひとたまりも!何ッ!?まさか!」

 

ランスはブレードを倒したことを確信していた。なにしろボルテッカはテッカマンが誇る最強の殲滅武装だ。その威力はブレードが他のテッカマンに対して放って倒した事で立証されている。

 

しかしその常識を覆すかのように進化したテッカマン、ブラスターテッカマンブレードは傷一つなくランスに向かって突撃してきた。

 

「う、うわぁ!」

 

「クラッシュ!イントルード!」

 

緑色の光を身に纏い、ブレードはランスに体当たりを仕掛ける。その速さはレイピア以上でランスは回避することができず当たり続けてしまう。

 

「ばかな、こんな!こんな事があってたまるか!私は完全なテッカマンだ!それをブレードのような不完全体に」

 

ランスは初めてブレードに対し恐怖を抱いた。今までは互角以上の戦いをしていたはずが、ブレードは自分よりも先のステップへと向かっていたからだ。

 

その集大成こそがブラスター化であり、もはやエビルと互角だった時の自分では勝てないと根底から思ってしまった。一度でもその状態で恐怖を抱けばその相手に勝てることはない。

 

一度撤退し、ラダム母艦へ戻る事を考えたランスだったがそれをブレードが許すはずもない。

 

「逃がすかぁ!!」

 

肩と腕の装甲が開き、そこから砲門が現れると同時にチャージが開始された。その衝撃で地上や空中に居るいるラダム獣達は次々に蒸発してしまっている。

 

その危険性を察知したソルテッカマン達はブレードを見上げたまま移動している。

 

「こりゃあ、ヤバそうだぜ?ノアル!」

 

「あぶねぇ!急ぐぞ!!」

 

二人が衝撃波の範囲外へと逃れると同時にチャージが完了し、ブレードは標的を逃すまいとする。

 

「うおおおおおッ!ボルテッカァァァー!!」

 

チャージされたボルテッカのエネルギーを象徴するかのようにテッククリスタルが現れ、それが砕けると同時に従来のボルテッカ以上のエネルギーが発射された。

 

「うわああああああああああああ!!」

 

ブラスターボルテッカに飲み込まれたランスは数百ともいうべきラダム獣と共に消滅していった。




ブラスターブレードの登場はスパロボでも原作アニメでもカッコイイですよね。

代償がものすごいけど。

レイピアに関しては再フォーマットによる戦闘力追加ということでボルテッカの発射口を追加しました。

そうしないと自爆確定ですので。

さて、いよいよラウラルートも最終局面間近です。マイクロレコーダーの話も出します。

---

ブラスター化を果たし、戦う力を取り戻したDボゥイと完全なテッカマンとなることでその命を繋いだミユキ。

たった一人の肉親が生き残ったことに仲間達も喜びを隠せなかった。

そんな中、Dボゥイはアキとラウラと共にある場所へ向かう。

次回

『時の止まった家』

仮面の下の涙を拭え。


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時の止まった家(ラウラルートその4)

ラウラに思っても見ない症状が現れる。

怒りと憎しみを忘れない為に思い出を振り返る。

以上


ブラスター化を果たしたブレード、Dボゥイは肉体の組織崩壊を克服し、死から解放された。そして今、メディカルルームにてミユキが診断を受けていた。

 

「チーフ、ミユキは!?ミユキの容態は!」

 

「・・・・」

 

「どうしたんだ!?黙っていないで何か言ってくれ!」

 

「お兄ちゃん!」

 

Dボゥイがフリーマンに詰め寄ろうとした瞬間、扉が開くと同時にミユキは兄であるDボゥイに飛びついた。

 

「ミユキ!?お前!ミユキ、ミユキ治ったのか・・・!?ミユキッ!」

 

「見ての通りだ、奇跡と言っていいだろうな」

 

「お兄ちゃん・・・お兄ちゃんっ!」

 

「ミユキッ・・・!」

 

ラダムに捉えられ、テッカマンとなりながらも心を失わなかった二人の兄妹は生き延び、抱き合っている。それを見たスペースナイツのメンバー達は喜びと感動を隠せなかった。

 

「おいおい、人が悪いぜ?チーフ!」

 

「Dボゥイ、よかった」

 

「組織崩壊を考えれば間一髪の所だった。ほんの僅かでも再フォーマットによる再生が不完全だったのなら命は無かっただろう」

 

「じゃあ、ミユキは本当に!」

 

「ええ、ドクターのお墨付きです。ミユキさんはテックシステムのダメージを完全に克服したんです!」

 

笑顔のままのミリーの言葉にアキも自分の事のように笑顔になる。大きな絶望の中でほんの僅かな光を消える事がなかったのだから。

 

「おめでとう!Dボゥイ、良かったわね!」

 

「ああ、ミユキ・・・みんな、ありがとう」

 

だが、メンバーの中に一人だけ欠けている人物が居ることにミユキが気づいた。

 

「あの、ラウラさんは?」

 

「そうだ、ラウラは何処にいるんだ?」

 

ラウラの話題が上がった同時にミリーの表情が暗くなってしまった。その様子を見たフリーマンがあえて答えた。

 

「彼女は今、集中治療室だ。みんな来てくれ」

 

全員が集中治療室の患者を見ることの出来る部屋に着くと同時に、ラウラの姿を見て目を見開いた。

 

全身に包帯が巻かれ、呼吸の為の酸素吸入装置が着けられており、点滴や心電図までもが取り付けられている。今は鎮静剤でぐっすり眠っているようだ。

 

「これは・・・どういうことだ?何故ラウラがこんな!」

 

「ラウラさん・・・」

 

自分達、兄妹を離れ離れにさせまいと行動する中でラウラは己自身を犠牲にしていたのだ。ラダムテッカマンとの戦いで受けた傷が開き、更には疲労困憊も重なって自立呼吸すらも弱くなっている。

 

「彼女は我々が思っている以上に爆発的な負担を持っていたようだ。それに」

 

「それに・・・何です?」

 

「いや、これは私の口から話す事ではない。今はラウラの回復を待とう」

 

 

 

 

ラウラの回復を待って三日間が経過し、ラウラはようやく目を覚ました。それでも点滴を外す事は許されず横になったままであり、ラウラは天井を見つめていた。

 

「(レーゲンとのテックセットが問題なのか?それともこの左目が原因なのか?)」

 

二人を守るために戦っていたはずが、自分が二回倒れてしまった事にラウラは原因を知りたくなっていた。

 

一度目はテッカマンエビルとの戦いであるに対し、今回は原因が分からないままブラスターテッカマンの姿となったブレードを見届けた後に意識を失ってしまった。

 

「ラウラ」

 

「ラウラさん!」

 

手中治療室の内部を見ることの出来る部屋からDボゥイとミユキの二人が声をかけてきた。二人はフリーマンに頼み込み、三人だけで話がしたいと伝え見舞いに来ている。

 

「Dボゥイさん、ミユキ・・・」

 

酸素吸入装置をつけたままラウラは二人に視線を向ける。Dボゥイは申し訳なさそうにラウラを見ており、ミユキもラウラを心配している様子だ。

 

「すまない。お前のおかげでミユキは助かったがその代わりにお前への負担が・・・」

 

「ごめんなさい・・・ラウラさん」

 

二人の様子を見てラウラは笑みを浮かべると優しい声で言葉を紡ぎ始めた。

 

「良いんです。私が自分の意志で決めた事ですから気にしないで下さい、Dボゥイさん」

 

「それにミユキもな、やっとお兄さんと一緒にいられるようになったのだから」

 

ラウラの優しい言葉が今の二人にとっては罵られるよりも辛いことであった。確かに自分達二人は助かる事が出来た、しかし一人とはいえど仲間が己が身を犠牲にしてまで助けてくれていたのが二人にとって負い目となっているのだ。

 

「ですから・・・うぐっ!?あああああああああああっ!!」

 

「!ラウラ!?」

 

「ラウラさん!?」

 

突然、ラウラは左目を押さえて苦しみだした。その苦しみ方は尋常ではなく、酸素吸入装置が外れ、ベッドの上から転がり落ち床の上でのたうち回るほどだ。

 

「が、ああああっ!」

 

その様子をドクターから聞きつけたフリーマンがDボゥイとミユキの居る部屋へと駆け込み、指示を出した。

 

「鎮静剤の投与を急げ!」

 

のたうち回っているラウラを医師が四人掛りで押さえつけ、五人目の医師がラウラに鎮静剤を注射しラウラは眠りにつくように意識を手放した。

 

「恐れていた事が起こったか・・・」

 

「どういう事なんだ!?チーフ!ラウラの身に何が起こっているんだ!?」

 

「説明する前にみんなを集めてくれ、そこで話す」

 

 

 

 

全員がブリーフィングルームに集められ、ラウラに関する事を話すというフリーマンの言葉に全員が真剣な顔つきになる。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。彼女は人工的に産まれた人間であり、また我々の世界の人間ではない」

 

「!?それは一体・・・?」

 

「彼女がエビルとの戦いで倒れた際に治療と同時に身体検査を行なった結果。成長促進剤及び機械に適合させるための薬物などの反応があった。それも全て今の時代に作り出せる物ではない」

 

「な、なんだって!?」

 

「じゃあ、ラウラは別の何処からか来たってこと!?」

 

「それは分からない・・・だが、彼女がラダムでは無い事は私が保証する」

 

ノアルやレビンの言葉に皆がラウラに対する疑念が再び膨れ上がっていることを察したフリーマンはラウラが敵ではない事を強調した。

 

「それと、彼女がテックセットしている物に関してもテッカマンとは違う物と判明した。更に彼女が苦しんでいる原因もな」

 

「テッカマンとは違うだって!?」

 

「でも、あれは確かにテッカマンだろう?」

 

本田とバルザックの疑問は最もだろう。テッカマンの姿を持っていながらテッカマンではないという言葉は矛盾しているからだ。

 

「ラウラには悪いが彼女のクリスタルを調べた結果、彼女がテックセットしている物は進化する余地を持った機械であることが判明した。恐らくテッカマンの姿を模しているのはラウラ自身の心を反映させ進化した姿なのだろう」

 

フリーマンの言葉に誰もが言葉を失っている。この時代には有り得ない産まれ方や、開発できない進化する機械などを持っている事が更なる疑念の種が大きくなっている。

 

「ラウラを苦しめている原因、それはラダム樹から発せられる花粉だ」

 

「何!?」

 

「そんな?」

 

ラダム樹が時折、呼吸している時に放つ花粉のような物がラウラを苦しめていると伝えられDボゥイとミユキが反応を示した。

 

「恐らく、彼女の左目にある機械がラダム樹の花粉を拒絶しているのだろう。抗体が抵抗しようとして自らの肉体を自ら傷つけているのだ」

 

「チーフ!何とか、何とかならないんですか!?私達の為に身を犠牲にして戦ってくれてる仲間が苦しんでいるのに!」

 

アキの言葉にフリーマンは静かに首を横に振った。出来る事は何もないと言わんばかりに、フリーマン自身も内心は悔しさで満ちている。

 

「残念ながら、無い・・・今の技術ではせいぜい抵抗力を標準値に戻す事ぐらいしかな」

 

全員がショックを受けていたが、それを払拭する言葉が全員の耳に聞こえた。

 

「大丈夫です、私の事ならば気にしないでください」

 

「ラウラ!?」

 

全員が振り返ると患者用の服を着たままのラウラがブリーフィングルームに来ていた。回復はしているようで自力で歩けるようだ。

 

「ラダム樹の花粉が私にとって毒だとしても私は戦います!それが私の出来る事ですから!」

 

ラウラの決意は固く、咎めることはしなかった。本人が戦い続ける事を望み、疑念に駆られていた自分が恥ずかしくなると皆が反省するように目を伏せた。

 

 

 

 

数時間後。ラウラ、Dボゥイ、アキの三人はブルーアース号を使って世界各地を飛び回っていた。ミユキの記憶からラダム樹の花が咲く時こそ全人類がテッカマンにされてしまうという事を伝えるためにだ。

 

三人で行動する時のためにラウラはフリーマンから渡された特別性のマスクを装着し、出来るだけラダム樹の花粉を吸わないようにしている。

 

「アキ、済まないが寄って欲しい所があるんだ」

 

「わかったわ」

 

Dボゥイが寄って欲しいと頼み込んだのは海に近い場所にある大きな家だった。表札にはローマ字で『AIBA』の文字がはっきりと残っている。

 

「まさか、この家は」

 

「俺の・・・家だ」

 

「Dボゥイさんの・・・ご自宅」

 

その家はラダム樹に侵されているものの大半が残っており、扉を開け中に入る。植物は枯れてしまっているが何一つ変わっていない事にDボゥイは呟く。

 

「昔のままだ。数年前、宇宙を目指して出発したあの日のままだ・・・」

 

ラウラは此処でDボゥイの家族がラダムと出会う前に住んでいたのを聞かされ、胸が苦しくなった。それはアキも一緒だろう、大切な人との思い出というものは良ければ良いほどそれを失った時の苦しみは大きい、特に家族であればなおさらだ。

 

「(正に、時の止まった家だ・・・この家だけが美しい思い出のまま残っているなんて皮肉すぎる)」

 

「アキ、ラウラ・・・ケンゴ兄さんの部屋へ行かないか?」

 

「ケンゴ兄さん?」

 

「俺の兄さんで相羽家の長男だよ、テッカマンオメガになった」

 

「まさか、その方がテッカマンの総司令官・・・?」

 

アキとラウラは疑問が浮かんできた。何故、Dボゥイは家族との思い出が詰まったこの場所に来たのかと。彼にとって家族との思い出は自らを追い込む要因にしかならない。

 

Dボゥイは父親のパイプを手に取ったり、飾られている時計などを見ている。楽しそうに家族の事を話すDボゥイを見てラウラは目を逸らしてしまった。

 

その姿を見てるだけであまりにも辛くなってきてしまった。こんな辛さは初めてであり、あまりに見ていられなかったからだ。

 

「Dボゥイ、もう帰りましょう。此処にいたって苦しいだけじゃない!今日の貴方はどうかしてるわ!」

 

「・・・・」

 

「二人共、一緒に来てくれ。今から行く場所は一人では寂しすぎるんだ」

 

「Dボゥイさん、なぜこんなにも自分を追い込むような真似を!?」

 

「・・・・」

 

Dボゥイはアキとラウラの疑問に答えず、家の傍にある一本の木の根元へ向かうとそこを素手で掘り始めた。

 

「何を掘り出しているの?Dボゥイ」

 

「埋まっているんだ、ここに・・・!十歳の時に埋めたタイムカプセルが」

 

「タイムカプセル?」

 

「二十歳になったら一緒に開けようって約束してたんだ、シンヤと二人で!」

 

掘り出された瓶の中には幼き日の思い出の品であるおもちゃなどが出てくる。その中で唯一、おもちゃではないものがあった。

 

「それは、型が古いですがマイクロレコーダーですよね?」

 

ラウラが指摘した通り、それはマイクロレコーダー音を録音する機械である。何故、このような物がタイムカプセルの中に入っていたのだろうか?

 

その疑問を解く鍵になる再生ボタンをDボゥイは静かに押した。数秒間の無音の後、その答えが返ってくる。

 

 

[推奨BGM 『Once More Again』宇宙の騎士テッカマンブレード挿入歌]

 

 

『兄さん・・・タカヤ兄さん。僕だよ、シンヤだよ』

 

それは幼き日の兄弟の片割れが吹き込んだ兄へのメッセージであった。それを聞いたDボゥイは驚愕し、アキとラウラは目を見開いた。

 

『これを聞いている兄さんはもう大人なんだね。なんか・・・それって不思議だな。兄さんも僕もどこで何をやっているのかな?』

 

『仲良くしてるよね?まさか、喧嘩なんかしてないよね?』

 

『だってケンゴ兄さんったら意地悪言うんだもん』

 

『「大人っていうのは難しいから変わっちゃうかもしれないよ」って・・・』

 

『そんなことないよね?僕たちいくつになっても変わんないよ。僕が兄さんが好きだって事は』

 

『だって僕達一緒に生まれた双子だもん。僕達は元々一人だったんだもん』

 

『僕はずーっと兄さんが大好きだよ。ケンゴ兄さんよりも、ミユキよりも、ずっとずっと・・・!』

 

マイクロレコーダーに録音された音声が終わり、Dボゥイの目から涙が溢れる。幼き日の思い出が家族を失った悲しみとラダムへの憎しみが溢れ出してくる。

 

「シンヤ・・・シンヤッ・・!シンヤッ!くうううあああああ!っうああああああああ!ぐ・・・うおおおお!」

 

Dボゥイは弟の名を呼んだ後、大声で叫び声を上げた。その目からは涙が溢れ出しており、頬を伝っている。土を握り締めて泣き続けている。

 

そんなDボゥイにどんな声をかければ良いのか分からず、アキとラウラは視線を逸らしていた。アキは静かにDボゥイへ声をかけた。

 

「Dボゥイ、どうして?傷つくだけだって分かりきっていたはずなのに」

 

「泣けるだけ・・・いいさ」

 

「え?」

 

「シンヤの事も・・・ミユキの事も・・・まだ覚えている。まだ悲しむことが出来る・・・そして、この涙を、この思い出を失わない限り・・俺はラダムを憎む!俺はラダムと戦える!」

 

アキとラウラはDボゥイからの言葉で何故、この家に来たかを理解した。自らを苦しめるためではなく家族を引き裂いた元凶を忘れない為に来たのだと。

 

彼は一度目のブラスター化で記憶の混乱を起こし、ラダムへの怒りを忘れる事を恐れている。それと同時に愛しい存在であるアキの事も忘れたくないと。

 

「Dボゥイさん、貴方は・・・・ラダムへの怒りと憎しみを忘れない為に・・・その為に、この家に」

 

ラウラが口を開き言葉を発した後、Dボゥイはタイムカプセルを埋め直していた。決意を新たに戦うために。

 

「っ・・・Dボゥイさん、アキさん・・・私は先にブルーアース号に戻っていますね」

 

「ラウラ、分かったわ」

 

ラウラはブルーアース号へ戻り、中へ入るとシートに腰を下ろした。ため息をつき、少しだけ自分を落ち着かせる。

 

「ゲホ!ゲホッ!く・・・はぁ・・・はぁ、花粉を少しだけ吸ってしまったか」

 

ラダム樹の花粉をほんの少しだけ吸ってしまい咳き込んだが、すぐに持ち直すと目を閉じて仮眠をとり始める。少しでも身体を休めようと考えた故だ。

 

 

 

日が落ち、夜となって相羽家の家ではアキとDボゥイがリビングでコーヒーを飲んでいた。Dボゥイは落ち着いた様子でアキに話しかける。

 

「俺は今、とても素直な気持ちだ。今なら素直に言えるよ、大好きだった兄さん達をこの手で殺す・・・そんな宿命、背負いたくなかったよ」

 

「Dボゥイ・・・何も出来ないの・・・。Dボゥイが苦しくても、私は何も出来ず傍で見ているだけしか出来無い」

 

「良いんだ、アキ。傍に居てくれるだけで俺は・・・忘れたくない、アキの事・・・名前も思い出も何一つアキの事を・・・!」

 

Dボゥイの素直な気持ちを聞いたアキは抱きつき、Dボゥイから忘れさせまいと口づけをした。

 

 

 

 

 

その頃、ラダム母艦ではエビルこと相羽シンヤがオメガに対して訴えかけていた。ブラスターテッカマンとなったブレードに敗北したためだ。

 

「兄さん、ケンゴ兄さんなら知っているよね?ブレードが新しいテッカマンになった事を!」

 

「新しいテッカマン!?まさか、ブレードが進化したテッカマンになったというのか!?」

 

「進化したテッカマン?」

 

進化という言葉を聞いてシンヤは驚きを隠せない、ブレードを越えたと思っていたが更なる先にブレードが先に到達していた事を知ったからだ。

 

「そうだ、テッカマンの現在の姿は完成体ではなく・・・進化の一形態に過ぎんのだ」

 

「それじゃ、俺もそれになることが出来るんだね?」

 

「うむ・・・」

 

「その方法を教えてくれ!兄さん!!」

 

「それは出来ん・・・!」

 

「どうして?兄さん!」

 

シンヤは進化する事に固執しており、ブレードを倒す事こそが彼の最大の目的であるからだ、だからこそ互角の力を身に付けたいのだ。

 

「落ち着けシンヤ、進化したテッカマンになるには凄まじい程の体力と精神力が必要だ。例えブラスター化に成功したとしてもお前の寿命を確実に縮めるのだ。それに戦わずともブレードはやがて朽ち果てる」

 

「だったら尚更だ!生きている間にブレード倒したいんだ!!ブレードが進化したのなら俺も同じく!ケンゴ兄さんは俺がタカヤより劣ると言いたいんだね!?」

 

「違う!!」

 

「だったら挑戦させてくれ!例え1パーセントの可能性でも構わない!タカヤをこの手で倒せるのであれば!!」

 

「ならぬと言ったら、ならんのだ!!!」

 

「どうして!!!?どうしてなんだ!!兄さん!!」

 

「許せ、シンヤ!」

 

テッカマンとはいえど元は家族であるため、オメガはエビルを死なせまいとラダムのカプセルの中へシンヤを閉じ込めた。

 

「兄さん!お願いだ!ケンゴ兄さん!!俺からタカヤを取らないでくれ!!兄さああああああん!!」

 

オメガの目の前に残ったのはエビルのテッククリスタルだけだ。事実上の謹慎であり、戦う事を許されなくなってしまったのだ。

 

「ケンゴ兄さん!出してくれ!俺は死んでも構わない!このままタカヤに勝てずに終わるのはもう嫌だ!!ケンゴ兄さん!聞いてくれ!兄さあああああん!!」

 

シンヤの訴えにオメガは耳を貸さなかった。どんなに訴えてもシンヤを死なせまいとするオメガは放置している。

 

「出してくれ・・・出してくれよ兄さん・・・俺は戦いたいんだ!ブレードが生きているうちに!!」

 

「その言葉、本心からのものですね?エビル様」

 

「!フォンか!?」

 

エビルの前に現れたのはオメガの護衛をしているテッカマンソードことフォン・リーであった。彼女は彼にブラスター化の処置を施すために来たのだ。

 

「エビル様はクリスタルの中へ、他の処置は私が致します」

 

「ああ」

 

シンヤは自らのクリスタルフィールドの中へと入り、ブラスター化の処置が始まった。多少の痛みを堪えた後、シンヤの表情は何処か穏やかだ。

 

「タカヤ兄さん・・・待っててよ。俺が進化するその時まで・・・フフフ」

 

これにより別世界から来たラウラにとって、最大にして最強の相手であり倒すべき相手が現れる。仮面舞踏会も終焉へと向かっていた。




ラウラが倒すべき相手が現れ、ラウラ自身もこの戦いで単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を発動し仮面舞踏会の終曲に参加します。

Dボゥイの悲しみを僅かでもラウラが背負います。


あかほりさん、やっぱりすげえ・・・テッカマンブレードを使うのがあまりに難しいと感じている作者でした。

---

進化したエビルとブレード、その戦いに割って入ろうとするレイピアとレーゲン。

ブレードが僅かな間、戦う事が出来なくなった時、レーゲンがブラスター化を果たす。

互いに命をかけた一撃を放ち、生き残るのは赤き悪魔か、黒き雨か。

次回、ルート最終

『マスカレード』

仮面の下の涙を拭え


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マスカレード(ラウラルート最終)

戦いの中で進化

ラウラが仮面の意味を理解する。

以上


スペースナイツの基地の内部にある運動場らしき場所で、細身の剣を持ったミユキと槍を持ったラウラが稽古をしていた。

 

Dボゥイもミユキの指導役として二人の稽古を見ており、このような稽古をしている理由はミユキにあった。

 

彼女自身がラウラの強さを知って自分を鍛えて欲しいと頼み込んできて、その頼みをラウラは無下に出来なかった為に承諾したのだ。

 

 

ラウラは全員には伝えていないが自分の世界では現役の軍人であり少佐の階級を持っている、指導力も改善されている為にトレーニングに関しては的確な指導者ともなっていた。

 

ミユキ自身もテックセットのダメージによって寝たきりの状態が続き、筋力が弱まってしまっていたが元々アルゴス号の乗組員として必要な宇宙用訓練をパスした程の身体能力がある。

 

それをリハビリも兼ねて少しずつ戻す訓練を行いながら武器の稽古を行っているのだ。

 

「ミユキ!腕で振るな!腰を入れるように振るうんだ!」

 

「はいっ!」

 

「ラウラ!腕が下がって来ているぞ!その程度か!?」

 

「まだまだ!まだやれます!」

 

二人の訓練をDボゥイは厳しく指導している。それはかつて自分が格闘技の師であるゴダードに鍛えられていた時のように。

 

「(まさか、こんな風にミユキを鍛える日が来るとはな・・・)」

 

今のミユキはラウラと互いを高め合おうという気概があった。訓練方法は違っても基本が一緒なのは変わらない。

 

「よし、三十分の休憩の後に二人で手合わせをしてもらうぞ!」

 

「うん、お兄ちゃん!」

 

「分かりました!」

 

二人は隣り合って座ると水分補給の為の飲み物を手にすると喉を潤した後に話を始めた。

 

「ラウラさん、ありがとうございます。私の特訓に付き合ってくれて」

 

「気にするな、私も訓練をしたかったのだ。特に剣に関してのな」

 

「おかげで私も少しだけ強くなれた気がします」

 

「まだだ、そのくらいではDボゥイさんやスペースナイツの皆さんを守れはしないぞ?」

 

「分かってます!ですから手合わせをよろしくお願いします!」

 

ミユキのやる気に後押しされたのかラウラも笑みを浮かべながら高揚してきた気持ちを抑えきれない様子だ。

 

「望むところだ、私は容赦もしなければ手加減もしないぞ?」

 

「ふふ・・・」

 

二人の間にはライバル心が現れ、休憩後に剣による手合わせを体力の限界が来るまで続けた。

 

 

 

 

 

 

 

その一日後、月のラダム母艦ではエビルがブラスター化を終えて、ラダムのカプセルから出て来た。その表情には怒りも憎しみもなく穏やかで何かを悟ったようにも見える。

 

「不思議だ・・・こんなにも素直で穏やかな気持ちになったのは初めてだ。フフ、これもタカヤ兄さんやレーゲンと戦うために・・・ッ!?」

 

「うああああああああ!?ま、まさか!?これが、ブラスター化の副作用なのか!?ぐああああああ!!」

 

シンヤは突如、苦しみだし叫び声を上げている。Dボゥイと同じテッカマンの進化であるブラスター化を成功させたが、その代償として肉体の組織崩壊が始まったのだ。

 

不完全なテッカマンであるブレードとは違い、エビルは完成している完全体のテッカマンだ。完成された物の能力を更に上げようとすればどうなるか?その答えは過負荷である。

 

その余剰な力に器が耐えられなくなり崩壊を始めてしまう。今のエビルは罅割れた器そのもの、ブラスター化した事でその余剰エネルギーに肉体という器が耐えられないのだ。

 

「こ、これほどまでに激しい副作用だったなんて・・・!っ・・!タカヤ兄さん!」

 

シンヤはテッカマン同士の感応を使い、Dボゥイに意志を送り始めた。肉体の組織崩壊が始まった身体では月から地球へ向かう事が出来なくなってしまった為だ。

 

「!シンヤ・・・」

 

「タカヤ兄さん、そろそろ決着を付けよう。それと、もし出来るならテッカマンレーゲンにも伝えて欲しい・・・オービタルリングで待っていると」

 

「ラウラとも戦うつもりなのか!?」

 

「ラウラ?そうか・・それがレーゲンの人間としての名前なんだね?ああ、兄さんと同じ位に決着を付けないといけないからね」

 

シンヤは決着をつけるべき相手である兄のDボゥイ、そしてラウラを連れて仮面舞踏会の会場へ来て欲しいと言ってきている。

 

「待っているよ、兄さん・・・ラウラにもそう伝えてくれるかい」

 

感応が消えると同時にDボゥイは部屋を出ていこうとするが、それをアキとミユキが引き止める。

 

「Dボゥイ?」

 

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 

「シンヤだ。テッカマンエビルが言った。オービタルリングに来いと!」

 

「シンヤお兄ちゃんが・・?」

 

「ミユキ、お前は此処に居ろ」

 

「お兄ちゃん!」

 

Dボゥイは部屋を出ていき、オービタルリングへと向かう前にエビルの要望に応えるためラウラのもとへと向かった。

 

「ラウラ」

 

「Dボゥイさん、私に何か?」

 

「一緒にオービタルリングに来てくれ、テッカマンエビルがお前も呼んでいる」

 

「私もですか?エビルはDボゥイさんとの決着を一番望んていたはずなのに」

 

「理由は分からない、とにかく一緒に来てくれ」

 

「分かりました。先に行ってて下さい、その前にチーフに会ってきます」

 

「そうか、わかった」

 

Dボゥイは先にオービタルリングへと向かい、ラウラはフリーマンに出会う為に司令室に向かっていた。

 

「失礼します」

 

「ラウラ!?」

 

「ラウラさん?」

 

「何か用かね、ラウラ」

 

フリーマンが声をかけるとラウラはしっかりとした受け答えで口を開き、自分の望む物を要求した。

 

「宇宙服とミユキの出撃をお願いしたいのです。これは私自身のワガママではありますが」

 

「構わない、止めてもミユキ君は行くつもりだろう。ラウラがいれば抑止にもなる」

 

フリーマンの意外な答えにラウラは驚きを隠せなかった。冷静で合理的な人物だからこそこのようなワガママが通るとは思いもしなかったのだ。

 

「それとラウラ、これを持って行きたまえ」

 

「え?これは!?」

 

フリーマンから手渡された物、それはラウラが奪取しミユキの再フォーマットに使用されたテッカマンアックスのテッククリスタルであった。亀裂が走っており、複数回の使用に耐えられるものでは無い事を物語っている。

 

「テッククリスタル・・・」

 

「そうだ、君の戦いを見守る物としてだ」

 

「宇宙服は用意してある、Dボゥイを頼んだぞ・・・ラウラ」

 

「ラーサ!」

 

ラウラは宇宙服を着込みミユキと共に出撃が可能な場所に向かうとその場に止まり、自分のクリスタルをミユキと共に掲げた。

 

「レーゲン!テックセッター!」

 

「テックセッター!!」

 

二人のテッカマンが同時に現れ、先に激闘を繰り広げているブレードとエビルの所へ急いで向かった。

 

「っ・・・?」

 

向かう途中でラウラはフリーマンから持たされたテッククリスタルから何か違和感を感じていた。気にしなければ気にならない程度の微弱な違和感だが、戦場へ近づけば近づいて行く程にその違和感は強くなってくる。

 

そして、それは起きた。アックスのテッククリスタルがクリスタルフィールド形成しラウラを包み込んだ。

 

「な、何だ!?これは!」

 

「ラウラさん!?」

 

クリスタルフィールドに包まれたラウラことテッカマンレーゲンはその場で動きを止めてしまう。オービタルリングのすぐ近くであり、ブレードとエビルの戦いは少し先で続いている。

 

「これは・・・ミユキが入っていた物と同じ?ッ!うあああ!?」

 

「クリスタルフィールドにレーゲンが取り込まれてる!?」

 

痺れと痛みが同時に起こり、レーゲンは叫び声を上げたがすぐに収まりクリスタルが鼓動を打つように光っている。それはまるで何かをレーゲンに与えているようだ。

 

時間にして20分が経過し、クリスタルフィールドが砕けた。レーゲンの姿に変わった様子は無い、テックセットしたままラウラは目を覚ますと自分が宇宙服を着ていない事に気づいた。

 

「(どういう事だ?ISは宇宙空間では動けないはずだ!?何故だ、何故動ける!?それに呼吸すらも出来る)」

 

テッククリスタルが形成したクリスタルフィールド内部でシュヴァルツェア・レーゲンはテッカマンの特性のデータを送り込まれ、取り込んでいたのだ。

 

その結果。テッカマンが持つ保護機能を得て、ISからよりテッカマンに近い機体となった為、宇宙空間での戦闘が可能となっていた。

 

宇宙空間での戦闘はブレードと同じ30分の時間制限があるものの戦える事は大きい。ラウラはテッククリスタルの元の持ち主であるゴダードに感謝の念を持ちながらミユキと合流した。

 

「すまない、待たせてしまって」

 

「いえ、急ぎましょう!」

 

二人はボルテッカの発射された位置へ全速力で向かった。急がなかればならない焦りがあったが間に合う確信を得ていた。

 

 

 

「ボルテッカァァァー!」

 

「うおおおあああ!」

 

ブレードから発射されたボルテッカはエビルの左肩を抉り、破壊した。腕を奪う事は叶わなかったがそれでもダメージを与えた事には変わりはない。

 

「うおおおおおお!」

 

止めの一撃を加えようと突撃したが、頭部のクリスタルがタイムリミットの三十分を知らせるアラームを鳴らし始めた。

 

「うあっ!?が、ああ!?」

 

「うおおおおお!むっ!?」

 

エビルの突撃を阻む何かが飛来し、テックランサーが握られたエビルの腕にはテックワイヤーが巻き付いており、ブレードを守るように前に二人のテッカマンがいた。

 

「!貴様、レイピア!?生きていたのか!それにレーゲンまでも!」

 

「シンヤお兄ちゃん!もうやめて!」

 

「しつこいぞ!レイピア!!貴様如きが俺と兄さんの間に割って入る事なんて出来ん!!」

 

「それでも私は何度でも割って入る!シンヤお兄ちゃんがラダムとなってタカヤお兄ちゃんを傷つけるから!タカヤお兄ちゃんを守るためなら私だって!」

 

「お前などに何が分かる!!どけ、ミユキィィィ!!」

 

レイピアのテックワイヤーを強引に引きちぎり、レイピアへと迫るがその刃を止めたのはレーゲンであった。

 

「ミユキ、Dボゥイさんを早く安全な場所に!」

 

「わかりました!お兄ちゃん!」

 

「ミユキ・・・?来るなと言ったのに・・・ぐ!」

 

レイピアに支えられ、ブレードはオービタルリングの内部へと撤退していった。それを見たエビルは追撃しようとするがレーゲンに阻まれる。

 

「邪魔をするか!レーゲン!」

 

「エビル、タイムリミット状態のブレードを倒して嬉しいのか?状況的には貴様の方が圧倒的に有利だがな」

 

「何?」

 

「対等の条件で勝ちたい、それが望みだったのではないのか?」

 

「・・・・ふ、良いだろう。タカヤ兄さんに伝えてくれ、決着は一時間後だと。もし、兄さんが来れないなら君の相手をするよ。フハハハ」

 

説得に応じたのかエビルは別の方向からオービタルリングの中へと入っていった。僅かな時間とはいえ休息を取る事が可能になった事は大きい。

 

レーゲンは急いでDボゥイの居る場所へ向かうためにオービタルリングの内部へと向かった。ブレードはテックセットを解除しており、同じくテックセットを解除していたミユキに支えられている。

 

ラウラもテックセットを解除し、Dボゥイへと近づいていく。だが、Dボゥイはエビルとの戦いに向かおうとしていた。

 

「ラウラ、退いてくれ。俺はシンヤと決着を着けなければならないんだ」

 

「・・・・ごめんなさい、Dボゥイさん」

 

ラウラはDボゥイの腹部に拳による重い一撃を加えた。その一撃にDボゥイは膝を付き気を失いかけていた。

 

「ラウラさんっ!?」

 

「ぐ・・・・あ・・・ラウ・・・ラ?何・・を?」

 

「貴方を死なせる訳にいかない、それにエビルとの戦いは私が行かないといけないんです。私はエビルに聞きたいことがある」

 

「ぐ・・・・」

 

延髄に手刀を叩き込まれ、Dボゥイは気を失った。ラウラの表情には固い決意が宿っており、感情を表に出していない。

 

「ミユキ、Dボゥイさんを頼む。テックセットして来たのなら仕方ないがな」

 

「分かりました」

 

 

 

 

約束の一時間が経過し、ラウラはテックセットした状態でエビルを待っていった。数秒後にすぐにエビルが現れ対峙する。

 

「ん?そうかレーゲン、お前が相手か。タカヤ兄さんと決着をつけられないのが残念だが、君も兄さんと匹敵するぐらいの相手だからね!」

 

「行くぞ!エビル!私はお前に聞かなかればならない事がある!」

 

「俺に勝ったら教えてやるよ!レーゲン!」

 

二人はテックランサーを手にし、ぶつかり合う。そのぶつかり合いが戦いの合図となって二人のせめぎあいが始まる。

 

 

[推奨BGM『マスカレード』原曲+スパロボWアレンジ]

 

 

「うおおおおおお!」

 

「させん!」

 

「ちいいいい!」

 

オービタルリングの上で始まった二人の戦いは激しさを増す一方であった。

 

エビルの突撃をレーゲンはワイヤーブレードで牽制し、自らがテックランサーで斬りかかる。それをエビルは受ける真似はせずに横薙ぎの攻撃で反撃した。

 

「ぐあああ!」

 

「ぬぐっ!」

 

互いの装甲を刃で傷つけながらも止まることはない。受けたダメージ、傷の一つ一つが生きている実感を与えているかのように熱を持つ。

 

「はぁ・・・はぁ・・」

 

「はぁ・・は・・」

 

膝をついたエビルへレーゲンは突撃し、それを見たエビルは身体を横に逸らして避け、勢いを殺せなかったレーゲンは両足で踏み込んでブレーキをかけた。

 

「でやあああ!ぬううううう!」

 

突如、エビルから赤い光が溢れ出し、その姿を変えていく。その現象にレーゲンは見覚えがあった。それはブレードが到達した同じ進化した姿へと至る方法だ。

 

「うおおおおお!うあああ!おああああ!ぬあああああ!!」

 

エビルの両肩が大幅に広がり、背中の装甲からは尻尾のような触覚が現れた。更には胸部装甲までもが脱皮するように砕け散った。

 

「エビルがDボゥイさんと同じようにブラスター化したのか!?」

 

レーゲンは驚愕していた。決して高い可能性ではないブラスター化をエビルが成功させていたのに驚きを隠せなかったのだ。

 

「(レーゲン、私に力を!力を貸してくれ!)」

 

力を得る事をラウラは再び願った。ただ力を得るのではない、己の全てをかけてでも、この相手をラダムという呪縛から解放したいという思いからだった。

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『マスカレード・イン・ザ・レイン』更新・発動]

 

「うあああああああああ!!」

 

赤と緑の光が溢れ出し、レーゲンがその光に覆われていく。背から尻尾のような触覚と翼のような物が現れ、更には頭部は鋭角なフォルムへと変わった。

 

「何!?まさか、レーゲンがブラスター化だと!?」

 

「ぬああああああああああああああ!!」

 

両肩のユニットも接続され、大型化しワイヤーブレードは収納されず垂れた状態だ。逆にそれがレーゲンの攻撃性を表しているようにも見える。

 

「ふ、ふふ・・・良いぞ、何でだろうなぁ?今はタカヤ兄さん以上にお前を倒したい!レェェェゲェェェン!!」

 

「あは・・あははは!何でこんなにも笑いを堪えられないんだ!?こんなにも楽しいと思えるんだ!?エビル、私は貴方を越えたい!」

 

二人は刃を交えながら笑いを堪える事が出来ずにいた、高揚状態も関係しているだろうがそれ以上に戦いを楽しみ始めている。

 

繰り出す技やそれによって受ける攻撃の一つ一つが生きている実感と強い相手への敬意、更には倒したいという欲望が溢れ出てしまっていた。

 

「でやああああ!」

 

「はあああっ!」

 

テックランサーのぶつかり合う音と火花が二人を更に滾らせる。唐竹、横薙ぎの斬撃を繰り出し、受け返せば必ず止められるのが逆に嬉しくなってきている。

 

攻撃を受け止めて喜んでしまうというのは戦いにおいては良くない事だが、どうしても嬉しいと感じてしまう。それほどまでにこの戦いが激しくも楽しく、終わってほしくないものだと感じていた。

 

二人は成層圏を飛び回った後、間合いを開いた。その理由はテッカマンである事が関係しており最大の武器で相手を倒す為であった。

 

「これで最後だ!レーゲン!!」

 

「っ!私も負けん!」

 

二人はそれぞれのボルテッカの発射態勢に入った。この一撃がお互いの全力をかけた一撃である事は変わらない。

 

「うおおおおおお!」

 

「ぬああああああ!」

 

チャージされたボルテッカは二人の間に拮抗しているのを表すかのように範囲がぶつかり合っている。

 

「SPYボルテッカァァァー!」

 

「AICボルテッカァァァー!」

 

それぞれのクリスタルが二人の間に現れ、最大出力を表すかのように砕け散る姿が幻影として現れ、砲口からボルテッカが発射される。

 

ブラスターボルテッカに匹敵する二つのボルテッカがぶつかり合い、拮抗する。停止と吸収という性質の違うもの同士が反応し爆発を起こした。

 

「うわああああ!何っ!」

 

「うおおおおお!さらばだ!レーゲェェン!ぬおおおお!!!」

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の限界を迎えていたレーゲンはブラスター化状態が解除されており、エビルはブラスター化した状態でテックランサーを手に突撃してきている。

 

「くうう・・・!」

 

「終わりだ!ぐおっ!?」

 

エビルが一瞬だけ動きを止め、手にしていたテックランサーはレーゲンの肩を突き刺し、その隙を狙いレーゲンは腹部に自らが手にしていたテックランサーをエビルに突き立てた。

 

それと同時にエビルとレーゲンはオービタルリングへと落下していき、その内部へと倒れた。

 

「う・・・ぐあああ・・・うう」

 

レーゲンは肩に突き刺さったエビルのテックランサーを引き抜き、自分の隣へ置いた。それ以上に突き立てられた肩の傷の痛みがレーゲンを苦しめていた。

 

「ううう・・・!」

 

「ぬおおお!うおおおおおおお!!!」

 

その横にはレーゲンのテックランサーが突き立てられたままのエビルが叫び声を上げながら迫っていた。

 

「エビル!」

 

しかし、エビルはレーゲンに迫ろうと二歩だけ歩くと倒れテックランサーが押し出された。それと同時にエビルの背中から虫のような生き物が飛び出しテックセットが解除された。

 

「シンヤ・・さん!?」

 

「どうやら、悪い夢を見ていたようだよ・・・。レーゲ・・ン」

 

「シンヤさん、貴方は人の心を取り戻したのですか?」

 

「そういえば・・・君の名前を聞いて・・・無かった・・ね?」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・です」

 

テッカマンレーゲン・・・いや、ラウラは初めて相羽シンヤという人物に自分の名前を名乗った。

 

「ラウラ、君に教えないといけないね・・・あれがラダムの本体さ、ラダムは寄生生物なんだ。脳髄だけが高度に進化した知的生命体かもしれない」

 

「っ・・・!コイツを早く取り除ければ貴方を助ける事も!」

 

「無理さ、僕がもうすぐ死ぬからラダムは僕を見捨てたんだ・・・仕方ない事だったんだよ」

 

シンヤは自分に残された時間が少ない事を自覚しており、その為にラウラに伝えなければならない事があった。

 

「ラウラ・・君との戦いは兄さんとの戦いに匹敵するぐらいに素晴らしいものだったよ・・・戦う事を楽しく思えたのは初めてさ・・・」

 

「シンヤさん・・・」

 

「聞いてくれ・・・ラウラ。君は破滅と戦える唯一の・・・テッカマンなんだ・・うああっ!」

 

ラウラはシンヤから伝えられた言葉に仮面の下で驚いていた、破滅という言葉をこの世界でも聞くとは思わなかったからだ。

 

「テッカマンは・・・ラダムが破滅と戦う為に作り出した鎧・・・なのさ・・・」

 

「どういうことですか?」

 

「ラダムは他の惑星へ侵略を行う前に自分の母星で・・・破滅と戦っていたのさ・・・けど、ラダムは見ての通り人間のような肉体を持たない・・・だから、数人のテッカマンをフォーマットする事は出来たが、倒す事は不可能で滅ぼされたんだ」

 

「っ!」

 

テッカマンが作り出された経緯を知ってラウラは驚きしかなかった。自分が破滅と戦えるテッカマンになっているのだと伝えられ、信じる事が出来無い。

 

「君は・・・戻るべき所で破滅と戦う事になる・・・決して負けは許されない・・んだ。うっ!ぐああ!」

 

「もう、喋らないで下さい!」

 

シンヤは自分が伝えるべき事を伝えると最後の力を振り絞ってラウラにある物を差し出した。

 

「これを・・・タカヤ兄さんに渡して・・・くれ・・・月へ行って・・・ケンゴ兄さんを・・・止めてくれと・・伝えて欲しい・・」

 

それは先程まで使われていたテッカマンエビルのテッククリスタルであった。それを兄であるブレードに渡して欲しいという相羽シンヤとしての最後の頼みであった。

 

「分かりました・・・必ずタカヤさんに渡します・・・!」

 

「それから・・・ミユキにも伝えてくれ・・・・すまなかった・・・って・・・ごめんね、兄・・さん」

 

最後の遺言を聞き終えたラウラ、テッカマンレーゲンは周りで動き回っているシンヤに寄生していたラダム虫を踏み潰した。一度では飽き足らず何度も何度も。

 

「こんな、こんな虫の為に!Dボゥイさんは!!ミユキは!!シンヤさんは!!相羽家の皆さんは!!アルゴス号の人達は!!こいつの!こいつの為に!!!!!!」

 

怒りに任せたまま完全にラダム虫の身体を粉々にし、それでもラウラの怒りと悲しみは収まらない。こんな小さな虫の意志で一つの家族が肉親同士で殺し合いをさせられてしまったのだから。

 

それを自分の立場に置き換えて考えていたラウラは思い切り、オービタルリングの天井を仰いで叫んだ。

 

「うわあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

テッカマンという名の仮面の下でラウラは涙を堪える事が出来ずに泣いた。かつて、レーゲンのコアの意志に言われていた事が頭をよぎる、仮面の下の涙を拭えなくなるのが二次移行したこの姿(テッカマン)だという事を。

 

それを今、自分の身体で実感していた。涙を拭いたいのに拭えない・・・傷ついてもこの仮面で覆い隠して戦い続ける・・・。それがテッカマンという存在だというのを自覚した。

 

「っ!?これは?急いで届けないと・・・時間がない・・・」

 

ラウラの身体は光に覆われ、消えかかっていた。シンヤの遺言を叶えるためにラウラは急いでDボゥイのもとへ向かった。

 

 

 

 

Dボゥイが目を覚ますとテックセットを解いたミユキが付き添っていたようで手当てがされていた。

 

「ミユキ、ラウラは?」

 

「わからないわ」

 

「そうか、ん?誰か来る!」

 

「Dボゥイさん」

 

二人の前に現れたのはテックセットを解除せずにテッカマンレーゲンの状態のままであるラウラだった。

 

「ラウラ?お前・・・身体が!」

 

「ラウラさん!?」

 

「Dボゥイさん、これを。月でケンゴ兄さんが待っているとシンヤさんからの遺言です。それとミユキにもすまなかったっと」

 

「!!これは、エビルのクリスタル!という事は・・・シンヤは!?」

 

「シンヤお兄ちゃん・・・」

 

ラウラから渡されたエビルのクリスタルを手にしたことでDボゥイは弟が力尽きたという事を理解してしまった。それを看取ってくれたのがラウラだという事も。

 

テッククリスタルを渡したと同時にラウラを覆っている光も強くなっていく。まるで、この世界に留まることは許さないと言われているように。

 

「私の役目は終わってしまったようです・・・Dボゥイさん、ミユキ、スペースナイツの皆さんにも元気でと伝えてください」

 

「ああ、分かった」

 

「ラウラさん、また会えますよね?」

 

「会えるさ、きっと」

 

ミユキとの会話を最後にラウラは光の中へ消えていった。その場所をDボゥイこと、相羽タカヤと相羽ミユキはその場所を見つめ続けていた。

 

 

 

束の研究室のカプセルが開き、ラウラが目を覚ます。元の世界に戻ってきたのだと実感し息を吐いた。

 

「ラウラさん!」

 

「ラウラ!帰ってきたのね!?」

 

「ラウラ、よかった・・・」

 

「これで代表候補生の子達は全員帰還したね。よがっだぁぁぁ!」

 

セシリア、鈴、シャルロット、そして束がラウラの帰還を心から喜び、特に束は嬉し涙を流している。

 

「みんな、ただいま・・・」

 

「うん、お帰り。あれ?ラウラ、その目・・・どうしたの?」

 

「え?」

 

「少し待って、手鏡持ってくるよ」

 

シャルロットが手鏡を渡し、鏡に映った自分の顔を見てラウラ自身も目を見開いた。Dボゥイと似た場所に傷のようなものが右目にあったからだ。

 

「Dボゥイさんの悲しみを少しでも受け止めたからか?」

 

「?ラウラ?」

 

「なんでもない・・・」

 

「はいはーい、いきなりで悪いけどシュヴァルツェア・レーゲンを預からせてねー?」

 

「分かりました」

 

ラウラは待機状態となっているシュヴァルツェア・レーゲンを束に預けると研究室の外へ出る扉へと向かった。

 

「ラウラさん?どこへ行きますの?」

 

「少しだけ、一人にさせてくれ。すぐに戻る」

 

セシリアからかけられた言葉に返事を返し、ラウラは廊下へと出て行った。通路を歩いている途中で外が見える窓の前に立った。

 

「被検体009号も、教官を崇拝し力に溺れていたラウラ・ボーデヴィッヒもあの世界で死んだ!私はテッカマンレーゲンだ!」

 

空を見上げ、自らをテッカマンと宣言するラウラの目には破滅という名の新たな敵との戦いに必ず勝利するという決意が宿っていた。

 

そんなラウラをシャナが見守るように通路の影から見守っていた。




ラウラルート終了、これにてISガールズ全員帰還です。

テッカマンブレードの世界は難しすぎて大変でした。

ラウラの右目にある傷のようなものとはDボゥイの悲しみを少しでも解消した証です。

(特にミユキの件)

気づいた事なのですが全員が一応、総仕上げの世界はそれぞれ宇宙が関連しているんですよね。

次回は政征と雄輔の総仕上げです。ようやくここまでこれた・・・。


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機神の拳を学ぶ二人の騎士(政征・雄輔ルートその1)

二人が目を覚ました世界で意外な人物と出会う。

一から精神を鍛え直す為に再び格闘技を習う


以上


政征が最初に目を覚まし、周りを見渡すとそこはどこかの街のようだが人っ子一人居なかった。

 

隣には雄輔が倒れており、政征は急いで声をかけた。

 

「雄輔、起きろ!」

 

「う、うう・・・此処は?」

 

「どこかの街みたいだが、誰も居ないんだよ・・・子供一人」

 

「何?」

 

政征は手を差し出し、それを見た雄輔は手を掴み立ち上がった。親友であるからこそ、お互いに協力と個人の使い分けが出来ているのだ。

 

「一体・・」

 

「しっ!誰か来る!隠れろ!!」

 

政征と雄輔は二人が隠れられる程の壁の内側へと隠れ、それと同時に歩いてくる三人の集団を見ていた。

 

「どうやら此処も制圧出来たようだ」

 

「地球人共は根絶やしにしろと総代騎士様の命令だからな」

 

「今やフューリーの長である、我が総代騎士様はな」

 

どうやらフューリーの従士達らしく、生き残りが居ないかどうか見回りをしているようだ。それを聞いている二人は飛び出したい気持ちを堪えて三人が去るまで待った。

 

三人が去った後、二人はラフトクランズからのサイトロンによってこの世界がどうなっているのかを理解したが詳しくは分からなかった。

 

「そこの二人、何してるの?」

 

政征と雄輔に話しかけてきたのは自分達と変わらない年齢の女性だった。フューリー特有の模様が顔にあり、髪の色が薄い緑色をしており、前髪のひと房は赤くしてメッシュに近くセットされている。

 

「ああ、俺達は偶然ここに迷い込んでしまって」

 

「何もわからないから此処で立ち往生していた訳だ」

 

「そう。見た所、アンタ達は同族のようだけど・・・奴らの仲間って訳じゃなさそうね」

 

二人は女性から言われた奴らとは先程の従士達の事だろう。フューリー同士で敵対しているのかと疑問を抱いていた。

 

「名前を教えていなかったわね、私はクド=ラ。クド=ラ・ダルービよ」

 

「え!?」

 

「な!?」

 

女性の名前を聞いて二人は驚きを隠すことが出来なかった。彼女は自分達の知識にあるキャラクターの妹であり、それだけに驚きも大きすぎたのだ。

 

「アンタ達の名前は?」

 

「赤野政征」

 

「青葉雄輔だ」

 

「そ、じゃあ着いてきて・・・私達の潜伏している場所に案内するわ」

 

クド=ラに案内されたのは地下の広いシェルターだった。広さは日本の東北くらいの面積だろうか?それぞれが生活している。

 

ほとんどがフューリーで、多いとも少ないとも言えない人数ではあるが地球人がいるのも確認できた。

 

「こっちよ」

 

案内されたのはシェルターの中心にある大きな施設だ。どうやらレジスタンスの活動拠点らしく、フューリーの準騎士、謀士、従士や地球人達までもが手を取り合っている。

 

「クド=ラ隊長、この者達は?」

 

「地上で迷ってたのを拾ったの、しかも同族よ」

 

「なんと!?」

 

「この二人にこの世界の情勢を説明したいから、お茶を用意してくれる?」

 

「分かりました」

 

副隊長らしき女性がお茶を淹れる為に部屋を出て行き、残ったのは三人だけとなった。

 

「じゃあ、聞きたい事があるならどうぞ?答えられる範囲でなら答えるから」

 

「それなら、まず俺から質問するよ。この世界は今、どうなってるんだい?」

 

政征からの質問にクド=ラは真剣な目で答えた。その目には嘘や偽りは言わないと訴えかけているかのように。

 

「この世界はフューリーが内部分裂を起こした後に穏健派が敗北して、主戦派の主導者であるグ=ランドンが全ての政権を握って地球人を滅ぼそうと生き残りを探しているのよ」

 

「なんだって!?」

 

「既に地球上の60パーセントの人類が滅ぼされているの。最もサイトロンに適合できた地球人は生かされてるけどね」

 

質問の答えからこの世界はフューリーの主戦派が考えていた地球人抹殺計画が遂行されかけている事でもある。

 

「次は俺からだ。この世界のシャナ=ミア様と三騎士は?」

 

「っ・・・それは」

 

雄輔からシャナ=ミアと聞いてクド=ラは暗い表情を表に出し、答えたくない様子だったが意を決して口を開いた。

 

「シャナ=ミア様は今、ガウ=ラの内部で静養中・・・というのが一般的に伝わっている事よ。でも、事実は違うの」

 

「え?」

 

「シャナ=ミア様はグ=ランドンに手篭めにされたの、噂では身重になっているそうよ。そのせいで精神的ショックを受けて失語状態なのよ」

 

「な・・・に!?」

 

話を聞いた政征は爪が肉に食い込むほど拳を握り締めた。別世界とはいえどシャナが手篭めにされたと聞いて一気に怒りの感情が湧き上がっていたからだ。

 

握り締めている拳からは血が流れており、床に斑点を着けている。

 

「それから三騎士についてだったわね?詳しく言えばフー=ルー様は行方不明、アル=ヴァン様と私の兄であるジュア=ム兄さんは殺されたわ」

 

「な・・・!三騎士が殺された!?」

 

「アル=ヴァン様は主戦派に暗殺されて、ジュア=ム兄さんはグ=ランドンに反抗した反逆者として処刑されたの・・・ジュア=ム兄さんはシャナ=ミア様に好意を持っていたから」

 

「・・・・っ」

 

頼みの綱となるであろう三騎士も全滅していた。フー=ルーが行方不明とは言っているが生きている可能性は限りなく低いだろう。

 

「グ=ランドンが皇女を手篭めにし、更には近衛兵の長である三騎士までも・・・」

 

「ふざけやがって!!」

 

「冷静になれ!政征、今ここで怒りに身を任せても意味は無いだろ!」

 

「言われなくても、んなこたぁ分かってんだよ!」

 

「俺もお前と同じ気持ちだ!だが、今は落ち着け!今の俺達は何も出来ないんだぞ!」

 

「っく・・・!」

 

政征は怒りに頭が沸騰しており、顔には出していないが雄輔もそれは同じであった。二人にとって最も守る存在であり、愛した者がこの世界では最悪な出来事の被害者になっていたからだ。

 

「アンタ達、まるで三騎士の皆様みたいね?守るべきものを命を賭けてまで守ろうとする意志がそっくりだわ」

 

クド=ラはどこか懐かしむかのように二人を見ていた。彼女自身も守りたい者を守れず、それでも決起するためにレジスタンスを結成したのだろう。

 

「もしかしてだけど、アンタ達・・・騎士の称号を受けてない?」

 

「それは・・・」

 

「もし、受けていたとしたらどうする?」

 

「私達に協力して欲しいわ。無論、タダでとは言わない。協力してくれれば衣食住を保証するわ」

 

衣食住の保証、それは二人にとっては非常に魅力的な条件だ。

 

「わかった。でも、こちらからも条件がある」

 

「何かしら?」

 

「道場みたいな場所はないか?なるべく訓練を怠りたくないんだ」

 

「道場ならあるわよ?変わった流派の拳法を教えてるところが」

 

二人からの意外な条件にクド=ラは肩透かしを食らったような表情をしていたが、逆にそれが好印象であり信頼に値するものだと感じている。

 

「その道場の流派ってなんだ?」

 

「えーっと、確か・・・機神拳とか」

 

「はっ!?」

 

「何!?」

 

流派の名前を聞いて、二人は呆気に取られた。その流派はスパロボの世界において最強の拳法であるからだ。

 

それを教えている道場があるとは思いもしなかったようで、二人は笑みを浮かべた。

 

「拳による戦闘方法か・・・学んでおいて損はないな」

 

「ああ、武器を失った場合を想定してな」

 

「アンタ達、本当に訓練の鬼なのね・・・」

 

クド=ラは呆れ始めていたが、二人の様子から止める事は絶対にできないと思い深く追求はしなかった。

 

 

 

 

その翌日、二人はレジスタンスのメンバーに紹介された後、機神拳という拳法を教えている道場へ顔を出した。

 

門下生はさほど多くはないが、稽古の様子からかなり厳しめの道場だというのが伺えた。

 

「ん?お前達がクド=ラから紹介を受けた者達か?」

 

「ああ、そうさ」

 

「俺達も是非、鍛えて欲しくてな」

 

「そうか・・・だが、我が機神拳の稽古は生半可な気持ちでは着いてこれんぞ?」

 

「それは、望むところさ」

 

「俺も政征と同じ意見だ」

 

二人の目を見て道場の師範代は笑みを浮かべていた。鍛えがいのありそうな門下生が現れた事に嬉しさを隠せない様子だ。

 

「よし、ならば早速稽古に入ってもらう!」

 

「ああ」

 

「わかった」

 

二人は稽古が出来る服に着替えて準備運動と柔軟体操を始めた。一時間をかけて身体を解すと稽古の内容を師範代に聞き、立会いの下で稽古を始めた。

 

「せいっ!せいっ!」

 

「はぁっ!はっ!」

 

空手の基本稽古と似ており、最も基本の型を身に付ける事から始まるようで、突きと蹴りをそれぞれ千本だと言い渡された。

 

二人は汗をかきながらも一向に稽古を止めようとはしない。守れなかった悔しさを二人は稽古の中で思い返したからだ。

 

政征はシャナ=ミアを、雄輔はフー=ルーを、自分の未熟さで守れずに傷つけてしまい、それによって後悔と悔しさだけが残った。

 

あの時の思いは二度と味わいたくはない、全てを守るとは言わない自分の手に届くのであれば守る。ただ、それだけを思い稽古に集中する二人であった。




短いですが、ここまでです。

この世界はフューリーの主戦派が全てを完全に支配してしまっている状態です。

穏健派はほとんどが処断され、生き残りはレジスタンスの下にいます。

この世界のシャナは女性としての威厳と人生を奪われたと言える程の酷い方法でグ=ランドンに手篭めにされました。

フー=ルーが行方不明なのは後の展開のお楽しみです。


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悲しい怒り(政征・雄輔ルートその2)

一時的に道場から追い出される。


改めて友情を誓い合う。


以上


俺達がこの世界に来てから早くも一週間が経った。今は機神拳という流派の拳法の道場で自らを鍛え直している。

 

今は実戦を踏まえた組手の稽古をしている。無論、手加減や安全などを考慮になど入ってはおらず、拳による殺し合いといっていいほどのレベルの組手を師範からさせられている状態だ。

 

「だああああ!」

 

「でやああああ!」

 

二人の拳の突きや蹴りの応酬はまさに受ければ大怪我は免れないほどに鋭い一撃が続いていた。そんな中で最初の一撃を与えたのは雄輔だ。

 

腹部を狙った拳が政征の支点を正確に捉えた。その一撃は重く、政征は膝を着きかけている。

 

「ぐ・・う!でやっ!」

 

僅かにフラつきながらも政征は意地で膝を着く事をしなかった。武術の経験では雄輔の方が上ではあるが、それでも食らいついていく気概を見せ、貫手を雄輔の脇腹に撃ち込んだ。

 

「ぐはっ!?」

 

反撃が来るとは思ってもみなかった雄輔も油断していた為、その貫手が強烈な一撃となって呼吸を遅らせている。

 

「が・・は・・!」

 

しかし、お互いの一撃が決まると同時に二人は同時に膝を着いてしまい、呼吸も荒くなっている。

 

「はぁっ・・はぁ!」

 

「はぁ・・はぁ・・かはっ!」

 

二人の目からは闘志が消えていない、二人の試合を見ている別の弟子達もそのまま硬直したように見ていた。

 

この戦いは野生動物の如く、荒々しくも美しき原初の争いを見ているようで目が離せないのだ。

 

 

「がああああああ!!ユウ=スケェェェェ!!」

 

「おああああ!マサ=ユキィィィ!!」

 

「それまで!」

 

「「っ!?」」

 

お互いの拳が同時に捉える寸前、師範の大声で止められてしまった。二人の目には理性が戻り、拳を下ろした。

 

「お前達、今日はもう帰れ」

 

「え?」

 

「何故ですか?師範」

 

「これ以上、殺気を放たれていては他の弟子達が稽古に身が入らん。それに」

 

「それに?」

 

「少しは自分の身体を労われ、気づいてないのかもしれんがお前達の拳などがボロボロだぞ」

 

師範に指摘された通り二人の拳は拳タコと皮膚が擦り切れており、ボロボロであった。過剰に稽古しすぎる傾向が二人に現れている事でもある。

 

「わかりました」

 

「では、俺たちは帰ります」

 

二人が道場から出ていこうとすると師範が呼びかけた。その目は二人の内にある感情を見抜いているかのようだ。

 

「今のお前達は冷静さを失っている、しばらくは心を休めろ」

 

 

 

 

 

帰宅途中、政征と雄輔は一言も会話を交わさなかった。データの別世界いえど、それぞれの想い人が悲惨な目にあってしまっているからであろう。

 

一人は強引に手篭めにされ、望まぬ相手との子を身に宿してしまい、もう一人は生死不明の状態で生存は絶望的だからだ。

 

どんなに鍛えても、試合をしてもお互いに宿る怒りが消えることはなく、その怒りが復讐という感情に近くなっている事に二人は気づいていない。

 

歩いている途中で二人は従士らしき二人と肩がぶつかってしまう。それと同時に従士の二人は因縁をつけてきた。

 

「おい、コラ!人にぶつかっておいて謝りも無しか!?」

 

「・・・・」

 

「てめえら!シカトこいてんじゃねえぞ!」

 

「この世界の従士は気高さが無いのか、まるでチンピラだな」

 

「んだと!?」

 

「これが力で支配された結果か・・・見るに堪えない」

 

「俺達にそんな口を叩くとはな、身の程を教えてやる!」

 

そう言うと同時に従士の二人は政征と雄輔に殴りかかってきたが、二人は避けようとはせずにそのまま殴られた。

 

「これで」

 

「身を守る理由が出来た」

 

「何ィ・・・!?」

 

「そりゃあ、どういう!ぐふっ!?」

 

先に反撃したのは雄輔だ、自分が得意とする膝蹴りを従士の一人の腹部に打ち込んだのだ。

 

「て、てめぇ!ごばっ!」

 

「他所見してるなよ?」

 

政征も従士に対し胸元へ肘鉄を放った。その一撃は重く、従士達は蹲っている。二人の目には怒りの他に全てを壊してやるという危うい光もある。

 

「これ以上は手を出さない。だが、やるなら受けて立つぞ?」

 

「へ・・へへ・・・、お前達は終わりだ。今にお前達は我らフューリーの精鋭に殺されるから・・な」

 

「上等だよ」

 

そう言い残して従士は気絶してしまった。

 

だが、実際二人は本当に、たった一撃だけしか手を出さなかった。暴れたくとも暴れてはいけないという自制心が二人を止めていた。

 

「帰るぞ、政征」

 

「ああ・・・」

 

その後ろ姿は興味が無くなったと言わんばかりの雰囲気を醸し出しており、騎士としての姿は無かった。

 

二人は半ば八つ当たりに近いもので先程の従士達と殴り合った。どんなに戒めようと十代の青年、感情的になりやすく流されやすい。

 

「なぁ・・雄輔、覚えてるか?二人揃って、元の世界のある作品の言葉に共感したのを」

 

「ああ、覚えてるさ。Dead or Alive・・・生きるか死ぬか、喰うか喰われるか、だっけ?」

 

「そうさ、俺は[喰われる前に喰え、生きるというのは他の命を喰らうという事]という言葉に共感した」

 

政征がそう言うと雄輔は軽く笑い、政征の肩に腕を回した。

 

「そして俺は[一度、人に牙を向いた獣は二度と元には戻れない]という言葉に共感した」

 

そのまま二人は肩を並べて歩き、クド=ラから指定された平屋の一軒家へと向かった。

 

「俺達はこの世界のグ=ランドンに牙を向こうとしている二匹の獣だ」

 

「ああ、そうだ。それと以前、シャナと戦えるかって聞いてきたよな?俺はその時、倒してくれって懇願されたら倒すって答えた。雄輔、お前はどうなんだ?」

 

「フー=ルーの事か?俺は・・・」

 

「倒すとは言ったが俺自身もこの世界のシャナを殺す事はしたくないし、お前にもフー=ルーさんを殺めて欲しくない」

 

「政征・・・」

 

親友の言葉に雄輔は目を見開く。殺すと決めても実際に出来るのは狂人か殺しの経験がある者、もしくは快楽殺人者のどれかだ。

 

命というものは軽いようでいて実際は重い。そんな重りをお互いに背負って欲しくは無い。しかし、いつかは背負う事になってしまうのが騎士の宿命だ。

 

「政征・・・いつか、最後の一線を越えなきゃならない時が来たら一緒に越えてくれるか?」

 

「先走るような事を言ってんじゃねえよ、雄輔(きょうだい)。最後の一線は俺達が遅かれ早かれ、越えなきゃならねえだろうが」

 

「う・・・確かにな、すまない」

 

「謝るなって。でも、俺達のどちらかが早く一線を越える事になるかもしれない・・・それでも、お互いに止め合おう、雄輔」

 

「ああ、もちろんだ」

 

そう言って政征は拳を突き出す、それを見た雄輔も拳を握り政征の拳に軽くぶつけ合う。これは本来の世界でも行っていたお互いに決意を固く結ぶ為の行為だ。

 

親友同士でもいずれ離れる時が来る。再会を約束した時もこの拳のぶつけ合いをしていたのだ。

 

「今日はもう休もう」

 

「そうするか」

 

二人はシャワーを済ませ、簡単な食事を取るとすぐに睡眠を取った。

 

 

 

 

二ヶ月ほど経ったある日、地上が襲撃を受け、地上にいたレジスタンスのメンバー全員が皆殺しに合ってしまったという事を朝早くに二人は聞かされた。

 

その様子を話した副隊長らしき男は顔を歪ませ、報告を聞いたクド=ラは悔しそうに唇を噛み締めている。

 

「また、仲間が・・・!」

 

「・・・・」

 

「行くか・・・」

 

政征は何も言わず、雄輔も地上へ出るための出入り口を目指そうと立ち上がった。二人からは憤怒と殺意がにじみ出ているかのように、近寄りがたい様子だ。

 

「貴方達!何処へ行くの!?」

 

「地上に行く・・・もう、これ以上蹂躙されているのを見てるのは嫌だ」

 

「俺も政征に同感だ」

 

「何言ってるのよ!?たかが一般人の貴方達が・・・・っ!?」

 

クド=ラは二人を止めようとしたが、二人の顔には抑えきれないくらいの怒りが明確に現れている。下手に止めれば自分が殺されてしまうと感じてしまうくらいの殺気だ。

 

「フューリーの汚点はフューリーが綺麗にしないといけないだろ?」

 

「毒を持って毒を制すの言葉があるようにフューリーの横暴は俺達が止める」

 

そう言い残すと二人は地上への出入り口へと向かって行ってしまい、クド=ラはその場で呆然としている。

 

「あの二人、同族だったのは分かってたけど・・・まさか、本当に騎士クラスの実力があるの?」

 

 

 

 

 

[推奨BGM『Armour Zone』仮面ライダーアマゾンズより]

 

 

 

地上へ出た二人を待っていたのは量産型ヴォルレントを筆頭にリュンピーやガンジャールなどが女子供を手篭めにし、男や老人を殺し、街を蹂躙している様子だった。

 

「!隊長!アイツ等です!アイツ等が我らに反抗した愚か者です!」

 

「ほう?」

 

二人にやり返された従士二人が居たらしく、政征と雄輔を見つけると同時に隊長機であるヴォルレントに報告している。

 

「久しぶりだな、お前達はもう終わりだ!」

 

従士達が一斉に二人を取り囲んだ。絶対に逃がさず殺すと言わんばかりに。

 

「私の部下に危害を加えたそうだな?悪いが消えてもらうぞ」

 

隊長らしき準騎士の言葉に二人はそれぞれ言葉を発した。

 

「部下は守るが地球人は皆殺しって訳かい?」

 

「女子供を嬲るのがフューリーなのか?」

 

「ふん、我らの約束の地で勝手に増えた物を殺して何が悪い?」

 

話し合いは出来無い、そう感じた二人は待機状態となっているそれぞれのISを手にする。その目は獣のように鋭い。

 

「政征、特訓で目覚めた俺達の中の獣を解き放つぞ?」

 

「言われるまでもない、こいつらを喰い尽くしてやる・・・!」

 

明確な殺意に従士達は一筋だけ汗を流した。この二人は本気だ、本気で自分達を倒すつもりだと。

 

「うおおおおおお!ラフトクランズゥ!!」

 

LIBERA(リベラ)

 

Knights(ナイツ)  Knights・of・liberty(ナイツ・オブ・リベリー)

 

荒々しい咆哮と共に政征はラフトクランズ・リベラを展開する。更には紺瑠璃色の装甲に怒りを表す赤い一本の線が両肩に現れている。

 

「な・・・に?」

 

「ラ・・ラフトクランズ!?あの機体は無くなったはずじゃ!?」

 

周りが驚く中、展開したのを見届けた雄輔もニヒルな笑みを浮かべた後、静かに待機状態のISを見せるように口元の近くへと上げる。

 

「ラフトクランズ・・・」

 

MOENIA(モエニア)

 

Knights(ナイツ)  Knights・of・the・city・walls(ナイツ・オブ・シティ・ウォールズ)

 

政征とは対照的に雄輔は冷静な状態でラフトクランズ・モエニアを展開した。ダークブルーのカラーリングに両腕には傷のような白い線が現れている。

 

「馬鹿な・・・失われているはずのラフトクランズがこの場に、それも二機!?」

 

「今の俺達は騎士じゃない・・・」

 

「ただ敵を倒す事しか頭に無い、獣だ!ウオアアアアアアアア!!」

 

政征はオルゴンクローを展開し、雄輔はオルゴンソードを手に小規模の従士の軍勢へと向かっていった。

 

二人のISの意志はもの悲しげにコアの内部から二人の心を感じていた。二人の怒りは悲しみからくるものであり、それを自らの内側で爆発させる事で怒りに変えている。

 

「主達よ・・・怒りに身を任せる時もあるのだろうが」

 

「それは自らを偽っているのと同義だ」

 

自由と城壁のコアの意志は主に届く事はなく、戦いを見守る事しか出来なかった。




今回の政征と雄輔達の八つ当たりに近い状態です。

騎士と戒めていてもやはり十代ですから暴走します。

それゆえ二人は策略に嵌められる事にもなります。


今回のISの展開の仕方は大人向けのグロテスクな描写で有名な某ライダーのオマージュです。

あれ、やっぱり何度見てもかっこよすぎます!

暴走時に使うことにします、機会は少ないかもしれませんが。


NEXT HUNT

二人の目の前に倒すべき存在が現れ、目の前で愛しい者を別世界とはいえ奪われる二人。

解放の条件は二人が殺し合う事。愛か友情か

その様子を楽しむ総代騎士。

次回、自由VS城壁


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新たな誓い(政征・雄輔ルート3)

政征VS雄輔

ISの意志が僅かに喋る

以上


騎士の鎧を纏いながらも獣のごとく戦い始めた政征と雄輔、一人が流血し倒れる度に従士達の戦意が喪失していく。

 

「うおあああああ!」

 

「がああああああああ!」

 

獣の爪を表すかのようにオルゴンクローを振るう政征、獣の牙を模したかのようにオルゴンソードでなぎ払う雄輔。

 

「なんだ、あれは・・・本当に騎士なのか!?」

 

「来いよ、俺は・・・まだ、戦えるぞぉぉ!!」

 

俺の中にある怒りが収まらない、別世界でもシャナを守りたいと思っていたのに守る前から離されていた。

 

これが無力な現実なのか、何も出来ずただ呆然と見ているだけそんなのは絶対に嫌だ。

 

笑われるかもしれない、蔑まれるかもしれない。それでも自分の好きな人を守れないで何が騎士だ!

 

そんな事すら守れないで称号に固執するのなら騎士の称号なんか捨ててやる。

 

 

「どうした、従士なら自分の敬愛する騎士を守って見せろ、来い!」

 

怒りを通り過ぎて俺は笑いが止まらない。頭の中は非常に冷静なのに気持ちが昂っているという矛盾した状態だ。

 

この世界のフー=ルーは居ない、親友の恋人も倒すべき相手の腕の中に居る。随分と残酷な場所に連れてきてくれたものだと思う。

 

こうして戦っているのもただの八つ当たりだ、自分の思い通りに事が運ばない事への八つ当たり。

 

異性を愛する事を知ってしまったからなのか、感情をコントロールするのが苦手になってしまっている、フー=ルーが居ないというだけで悔しさと歯がゆさと寂しさが表に出てくる。

 

しかも、誰かを傷つけなければ自分の感覚を感じる事も出来なくなってもきている。これが盲目状態ってやつなのか、愛さえあれば他には何もいらなくなるという危険な状態。

 

それを自分自身でなってしまうなんてお笑い種だな。結局はまだまだ足りないモノがあるって事か。

 

政征と雄輔、それぞれは自分の事を思いながら戦い続け、遂には隊長機であるヴォルレントを追い込んでいた。

 

「な、何故!騎士でもないお前達がラフトクランズを!?」

 

「知りたいのか?」

 

「なら、こちらからも条件がある」

 

「な、何だ!?」

 

「お前達が居る場所は何処だ?」

 

「そ、それは・・・」

 

リーダーたる準騎士は答えようとするも言い淀んだ。この二人に場所を教えるという事は騎士団を裏切る事になるからだ。

 

「言わないなら身体に聞くか?」

 

「ひっ!?わかった!言う、言うから!」

 

『裁きの光を受けよ!』

 

「っ!があああああ!?」

 

「「!?」」

 

上空から突如ラフトクランズ以上に強力なオルゴンのエネルギービームが準騎士のヴォルレントを捉え、跡形もなく消滅させた。

 

それをオルゴンクラウドの転移で回避した二人だったが攻撃を仕掛け、上空から降りてきた機体に戦慄し、汗をかいていた。

 

「我らを裏切る者はヴォーダの闇に消え行くのみ・・・!」

 

「皇帝機・・・ズィー=ガディン!」

 

「こうして対面すると・・・すごい威圧感だ。だが、何故?機体のコクピット部分に当たる場所が異様に大きい?」

 

「ほう?ラフトクランズ、その機体をまだ扱える者がおったとはな」

 

威圧感が漂う低い声に二人は歯を食いしばる。実際はその場に座り込んでしまいたい程の恐怖に苛まれており、それを堪えるためだ。

 

「お前が・・・お前がシャナ=ミアを傷つけたのか!?」

 

「シャナ=ミア?我が妻の事か、気安くその名を口にするな。貴様のような未熟な若造が」

 

「っ!ざけんじゃねえええええ!!」

 

「政征!!よせええ!!」

 

雄輔の制止も聞かず、政征は怒りのままズィー=ガディンへと突撃していく。それを見たグ=ランドンは表情を変えずにオルゴンバニシングソードを容赦なく突き刺した。

 

「があっ!?は・・っ・・が・・・」

 

「その無謀さ・・・あやつと一緒よ、貴様ではこのズィー=ガディンに傷一つ負わせられぬわ」

 

まるで邪魔になった異物を振り払うように政征を雄輔の隣へと投げ飛ばし、ラフトクランズを強制解除させてしまった。

 

「はぁ・・はぁ・・ぐ・・ごふっ!」

 

政征は地に叩きつけられた衝撃で吐血し、それを見た雄輔はその場で止まってしまっている。グ=ランドンは更に絶望に叩きつける事実を二人に見せつけた。

 

「これを見るがいい」

 

「!?」

 

「なっ!?」

 

二人の目に飛び込んできたのはコクピット内部に生体ユニットのようにズィー=ガディンに取り込まれたシャナ=ミアとフー=ルーであった。

 

「シャ・・ナ?」

 

「フー・・・ルー?」

 

信じられない、信じたくないと言わんばかりに二人の声は震えている。生体ユニットと化している二人を現実として見せつけられ、思考が停止しかける。

 

「愛するというのなら我と一体化させたまでよ、これによりズィー=ガディンは従来以上の性能を持ったわ」

 

「そ、そん・・な・・・」

 

「嘘だ・・嘘だ・・・嘘だァァァァ!!」

 

完全に戦意を喪失した二人は地に手を付け、ISを解除してしまった。

 

「ならば機会をやるとしよう、貴様同士が戦い勝った方が望む相手を開放してやる」

 

「・・・!?」

 

「なんだと?」

 

グ=ランドンの言葉に二人は顔を上げた。発せられたその言葉は甘美に二人の胸に染み込んでいく。

 

「場所はコロセウム、地球人達がローマと呼ぶ場所にあった闘技場で行うとしよう」

 

「わかった・・・」

 

「ああ・・・」

 

ズィー=ガディンはオルゴンクラウドで転移し、先にコロセウムへと向かった。政征と雄輔はお互いに睨み合っている。

 

いずれ戦う事になるのはお互いに分かっていた事ではあるが、それが自分の愛しい存在を人質に取られてでの戦いとは思わなかった。

 

二人は言葉を交わす事もせず、クド=ラに変装してコロセウムに来るよう頼んだ後に自分達も指定された場所へと向かった。

 

 

 

 

 

数時間後、ローマのコロセウムには溢れんばかりのフューリーと帰化した地球人達が観客として集まっていた。いまや失われたとされるラフトクランズの戦いが見れるとの事で宣伝は抜群だったのだろう。

 

コロセウムの中心には政征と雄輔が相対しており、リベラとモエニアを手にしている。

 

二人は共に培ってきた友情を思い返していた。些細な事で喧嘩した事、強くなろうとお互いに決意した事、別世界で再会した事、あらゆる事が思い浮かぶ。

 

「俺達は逃げ続けてきた」

 

「その通りだ」

 

「だから、着けられなかった決着をつけよう」

 

「あぁ、これは俺達自身が乗り越えなきゃならない戦いだ。決着をつけよう!俺達の戦いに!」

 

お互いに退路を封じた事を示すかのように上半身を覆っていた服を脱ぎ捨てた。その様子を見た地球人の観客は盛り上がりを見せていたがフューリーの観客は静かだった。

 

その理由は二人の背中にあった、政征の背には皇族の剣を表す模様が、雄輔の背にはバシレウスの頭部を模した模様が浮かび上がっている。

 

「力を貸せ!リベラァ!」

 

「開放しろ!モエニアァ!!」

 

二人のラフトクランズは戦いを望んでいないかのようにスラスターのみしか展開されなかった。

 

「っ!?これは?」

 

「スラスターしか展開されない!?」

 

『我らはこのような戦いは望まない・・・』

 

『故に力を貸す事は出来無い』

 

望まぬ戦いを強いられた二機のラフトクランズは主を守る機能とスラスターのみを展開する事で主を守ろうとしている。

 

「頼れるのは自分の拳だけって訳か、いや・・・かえってそれがいい」

 

「最初に喧嘩したあの時も殴り合いだった。決着を付けるには一番だ」

 

「「うおおおおおおおお!!」」

 

同時に放った二人の拳はお互いを捉え、倒れそうになる。それでも踏ん張って構えを直す。

 

 

[推奨BGM 『X VS ZERO』ロックマンX5より]

 

 

「ぐあっ!」

 

「がはっ!」

 

二人の戦いが始まり、グ=ランドンもVIP席らしき場所で上から見ており、その顔はまるで娯楽を見ている姿そのもの。

 

「でああああ!」

 

「勢いだけで何とでもなると思うなァ!!」

 

「がはっ!?」

 

政征の一撃を簡単に避け、雄輔はカウンターの掌底を顎に打ち込んだ。その一撃を受けた政征の視界は歪み、雄輔を認識出来づらくなっている。

 

「く・・・う・・」

 

「オラァ!」

 

「ぐふっ!だが・・俺だって負けられねえんだよぉ!」

 

腹部に雄輔の拳の一撃をくらい、一瞬怯むが政征は培った感覚で雄輔の頭を掴みヘッドバッドを顔面にくらわせた。

 

「ぐあああああああ!」

 

ヘッドバットは拳以上に強力な一撃を相手に打ち込む事が出来る。ましてや政征も格闘家達に鍛えられた身であるためにその一撃は非常に重い。

 

「ぐ・・真っ当な技で来る訳がねえか」

 

ヘッドバットを受けた雄輔からは鼻血が出ており、政征も唇から血を流している。

 

「昔からだろ?俺は喧嘩のやり方しか知らないんだよ」

 

「ふ・・・だったら起き上がれなくしてやるよ!」

 

「上等だぁ!」

 

今では失われた本当の喧嘩という見世物を見せられている観客達は血肉を踊らせ、どちらも応援している。

 

 

 

「なんで・・・なんでアンタ達が戦ってるのよ!?」

 

二人に呼ばれてコロセウムに来ていたクド=ラは驚きと怒りをサングラスの奥の瞳に宿していた。仇であるグ=ランドンに唆されたのだろう二人の殴り合いは拳に血が着いても止まる事はない。

 

「アンタ達のどちらが勝っても意味の無い事よ!?もう・・もうやめて!!」

 

クド=ラの叫びは二人には届かない。むしろ二人はこの戦いが自分達の望んでいた事かもしれないと考えているために止まらない。

 

「うおおおお!」

 

政征のパンチが雄輔を捉え、雄輔のパンチも政征を捉えお互いに仰け反る。

 

「何だ!?そのパンチは!腰が入ってねえぞ!」

 

「っ!雄輔ええええ!」

 

「がはっ!は・・・はは、そうだ、そう・・・来なくっちゃよ!」

 

「はぁ・・はぁ・・まだ、だ!」

 

フラつきながらも繰り出した二人のパンチはお互いを同時に捉え、倒れた。どちらも起き上がる気配はない。

 

観客達は声援を送る者もいれば野次を飛ばして戦いを再開させようとする輩まで出てきている。

 

 

 

 

「興が逸れたわ、始末しろ」

 

グ=ランドンは興味を無くしたように配下の従士達に取り囲ませ、政征と雄輔に射撃武装の銃口が向けられる。それを見ていたクド=ラだったが自分の機体は地下で整備中であったのを思い出す。

 

「こんな時に整備中だなんて!」

 

「撃ち方用意、撃て!」

 

準騎士の号令で一斉に銃口が並べられ、倒れている二人に狙いを付けると同時に砲撃が一斉に始まった。

 

爆発による煙が舞い上がり、周りを全て覆い隠す。煙が晴れた後には何もなかった。

 

「消失確認」

 

「これで完全にラフトクランズは消滅させたか」

 

従士達は消失したと考え、撤退していき観客達もコロセウムからゾロゾロと出て行く。そんな中、クド=ラだけがコロセウムに残っていた。

 

戦いの舞台となり、二人が消えた場所に向かい口を開く。

 

「いるんでしょ?二人共」

 

『気付いておられたか』

 

『流石はクド=ラ殿だな』

 

音声のようだが、政征と雄輔の声ではなかった。声の正体はリベラとモエニアの意志だ。二人の音声を利用する事にによって言葉を発している。

 

ISの意志である二人は爆発と同時に二人を守るためにオルゴンクラウドで守っていたのだ。その影響でエネルギーが残り少なくなってしまっていた。

 

『我らも守るので精一杯だった』

 

『主達が起きる、よろしく頼みますぞ』

 

僅かな言葉を残し、ISの意志は再びコアへと戻ると同時に主たる二人が意識を取り戻した。

 

「うう・・・俺」

 

「気を失ってた俺達を守ってくれたのか・・・モエニア達が?」

 

「そうよ!自分の機体に感謝しなさい。それとね」

 

クド=ラは二人の頬を一発ずつ平手打ちをした。突然の事に二人は驚きを隠せない。

 

「二人共、何をしてるのよ!騎士としての心得を忘れて、勝手に突っ走って!」

 

クド=ラは泣きながら政征と雄輔の二人を怒鳴っている。悲しいからではなく怒りで涙を流しているのだ。

 

「俺達はどうしても!」

 

「言い訳しないで!まずは基地に帰るわよ!それからラフトクランズも預からせてもらうわ!」

 

「何!?」

 

「まずは戦いから離れて自分の心の中を整理しなさい!」

 

地下へ戻るように促された二人はクド=ラを守るようにして地下へと戻り、待機状態のリベラとモエニアを強制的に預かられてしまった。

 

その後、二人は自分の行動を思い返し頭を冷やして考えていた。

 

「なぁ、雄輔。俺達・・・何の為に戦うんだっけ?何の為に剣を手にしたんだっけ?」

 

「俺に答えられる訳が無いだろう?答えはもう得ているんだから」

 

「あ・・・」

 

雄輔の言葉に政征は自分が何故、騎士を志したかを改めて思考する。自分はシャナ=ミアを守るために強くなろうとしていた、しかし実際はシャナ=ミアの事しか頭になく周りの事などこの世界に来てから考えていなかったのだ。

 

それは雄輔自身もだった。フー=ルーの事だけを考えており、この世界など知ったことではないという考えを持っていた事を反省している。

 

「騎士を志したのは」

 

「剣を手にしたのは」

 

「「自分の手の届く大切な仲間や弱者、愛しい人の為の剣となるためだ!」」

 

二人の答えは全くの同一であった。全てを守るとは言わない、いや言えない。それだけの力があるとすれば、それこそまさに全知全能だろう。

 

それでも自分の手の届く範囲で大切な人を守りたいという答えが今の二人の出した結論だ。

 

「全く、ちゃんとしようとすれば出来るじゃないの」

 

「クド=ラ」

 

「でも、しばらくは養生なさいな。アンタ達、外見よりも内面がボロボロなんだから」

 

そう言ってクド=ラは部屋を出て行った。二人は顔を見合わせると同時に吹き出し、大声で笑い合い始めた。

 

「キザな事を言ったな俺達」

 

「ああ、本当にな」

 

「一線を越える時が近いな」

 

政征の真剣な表情に雄輔も表情を引き締めた。二人の間には決意を新たにするという事を確認し合っているような雰囲気が流れている。

 

「背負う覚悟はあるか?愛しい人を手にかけるかも知れないんだ」

 

「言われるまでもない」

 

「愚問だったな」

 

二人は拳をぶつけ合った後に風呂に入って血を流し、クド=ラや他のメンバーに簡単な手当てを受けた後に身体を休める為に就寝した。




ライバル同士の戦いというと、ロックマンXのエックスとゼロの戦いが先に浮かぶ作者です。

更新停滞していて申し訳ありません。次回でこの二人のルートも終わります。

二人にとっての最大の試練が来ます。

ワンオフアビリティーも使います。


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騎士の目覚め(政征・雄輔ルート最終)

二人にとって本物の騎士となる為の試練

ワンオフアビリティー解禁

以上


八つ当たりに近い感情のままグ=ランドンに敗れ、望まぬ戦いを強いられ完敗した二人は己自身の未熟さを自覚し、二人は精神的休養を取るために地下の街をそれぞれ散策していた。

 

クド=ラの言葉によれば。

 

『アンタ達は自分で自分を追い込み過ぎてるわ、しばらく修行も鍛錬も禁止!まずは身体と心を休めなさいな』

 

との事だ。

 

「とはいっても、何をすればいいのか分からないのが正直な所だし、それなら静かな場所に行きたいな」

 

政征は静かな場所を求めて歩き出し、街の中へと消えていった。

 

「参ったな、鍛錬を取られると何もすることがない。よし、それなら街の甘味処でも巡るか!お金は・・・あった」

 

雄輔も街の中へと消えて行き、甘味処を探し始めた。

 

 

 

政征は地下の街の教会のような建物を訪れていた。信仰は持ち合わせてはいないが静かな場所の一つであり、中ではパイプオルガンの演奏が流れている。

 

「あ・・・ちょっとお邪魔してみよう」

 

中に入ると丁度演奏会のようなイベントが開かれているようで、教会に来た人達は静かに聞き入っているようだ。

 

長椅子に座り、パイプオルガンの演奏を聴き始める。ゆったりと流れる曲調に政征は瞳を閉じて聞き入る。

 

「(こんなに安らぐなんて、初めてだな)」

 

[主よ、人の望みの喜びよ]から始まり、クラシック曲が次々と演奏される。政征自身クラシックは嫌いではないが詳しいわけではない。ほとんどがピアノ主体の曲ばかりで、ショパンやベートベンなど有名な物しか聞いていないだけである。

 

パイプオルガンの音色に身を任せ、政征は少しずつ凝り固まっていた自分自身の内側を癒していた。

 

 

 

 

「甘味処を探してたとはいえ、こんなに沢山あるなんてな。迷うな」

 

雄輔は甘味処を探すという名目で街を歩いていたが、ちょっとした通りに甘味メインの場所にたどり着いてしまったのだ。

 

「洋菓子に和菓子、はたまた中華系の甘味まであるのか・・・うーん」

 

迷いに迷った結果、雄輔は和の甘味処のお店の暖簾を潜った。

 

「いらっしゃいませ」

 

何故か和装した店員さんがおり、席に案内され簡易なお品書きを目に通す。

 

「すみません、この小豆アイスを」

 

「あ、申し訳ありません。小豆アイスは売り切れてしまっていて」

 

「ガーン!まじかぁ・・」

 

小豆は雄輔にとって大好物であり、それが売り切れてしまっていると聞いて効果音を口にするくらいのショックを受けていた。

 

「うーん、小豆アイスがないなら何がいいかな?お?これがいい!すみません、豆かんを下さい」

 

「豆かんですね?かしこまりました。豆かん一つでーす!」

 

提供されたお茶を啜りながら豆かんが来るのをじっと待っている。何を隠そう雄輔は大の甘いもの好きであり、それを隠していたのだ。

 

「お待たせしました。豆かんです」

 

提供された豆かんは涼しげなガラスの器に目分量でたっぷりと入っており、そこに黒蜜が流されている。

 

「これは、美味そうだな。頂きます」

 

スプーンで黒蜜と共に豆と寒天を掬い、口の中に入れる。モグモグと口を動かせば下の上で黒蜜の甘味と豆の柔らかさ、寒天の感触が広がる。

 

「美味い!しばらく食べてなかったから忘れてたな・・・甘いものってこんなに美味かったんだって事を」

 

当たり前の事を当たり前のように感じることが出来る。慣れてしまえば自覚せずに忘れてしまう事であるがそれを雄輔は豆かんを通じ、改めて噛み締めていた。

 

当たり前である事、それは自分を追い詰める要因にもなり得る。出来て当たり前、出来ないのは恥だ。それが精神的な圧力となって自分を圧迫してしまう。

 

「この豆かんを味わいながらゆっくりと落ち着くことにしよう」

 

雄輔自身も政征とは違った方法で凝り固まっていた気持ちを解きほぐそうと豆かんを堪能した。

 

甘味を堪能する雄輔、ゆったりとした場所で音楽を聴く政征。お互いが同じ事をする必要はない。それぞれが心を癒すことの出来る行動でゆったりと休んだ。

 

 

 

 

しばらく休んだ後に今いる世界の体感時間にして、半年が経ちレジスタンスが等々決起する事となった。

 

機体はリュンピーを始めとする機動兵器群だ。機体があるだけでもありがたいという状態なのが伝わってくる。

 

「この日の為にクド=ラ隊長の機体も修理、改修も完全に出来た」

 

クド=ラ自身の機体も出来上がっていると報告してくる。政征と雄輔はクド=ラに視線を向ける。

 

「クド=ラの機体って一体何だ?」

 

「確かに、気になる所ではあるな」

 

「・・・兄さんの形見でもある機体、紅色のラフトクランズよ。リミッターも解除してファイナル・モードも使用可能な状態にしてあるわ」

 

ラフトクランズと聞いて二人が驚愕する。しかも、形見の機体であると口にしていた。

 

「兄さんは致命傷で助からなかったけど。機体の方は中破状態で修理が不可能じゃなかったの、だから私も出撃する」

 

「なるほど」

 

「本当の大決戦だな」

 

短い会話を済ませると政征達二人も自分のラフトクランズの調整に入った。自分達の身勝手な考えと行動で、相棒である機体を悲しませ負担をかけてしまった事を謝るために。

 

「リベラ、済まない・・・」

 

「モエニア、改めて一緒に戦ってくれるか?」

 

待機状態の二機のラフトクランズは応えない。今はまだ二人の謝罪が本物のかを疑っているのだろう。

 

それでも整備だけはしようと作業を始める。一度失った信頼を取り戻すのは容易なことではない、今回の件で相棒の信頼を失ってしまったのは完全な自業自得だ。

 

「今一度、力を貸してくれ。この世界の[自由]を勝ち取るために」

 

「俺からも頼む、戦士達を守りきれる[城壁]とならんがために」

 

二人の若輩の騎士は改めて本物の騎士となる為の誓いを自分の機体に込めた。

 

別世界とはいえど大切な人を救い出したい、もしかすれば命を奪ってしまうかもしれない。

 

命を奪ってしまったのならばその咎を背負い続けよう。救い出せたのならば誇りとしよう。

 

そんな思いと共に二人は地上への出撃時間を待った。

 

 

 

 

 

 

 

出撃の時間となり紺瑠璃、暗青、紅の三機のラフトクランズが先行し、レジスタンスの機動兵器部隊は本拠地となっている場所へと向かっていた。

 

本来、月の内部にある戦艦ガ=ウラがフューリーの本拠地ではあるが、この世界では地球侵攻がほぼ完了しつつある為に地上に前線基地を作り、主力戦力部隊は移住していたのだ。

 

「見えてきたわ、あれがグ=ランドンがいる最大規模の基地よ!」

 

「あの基地にいるのか」

 

「借りは必ず返す」

 

「全機!戦闘開始!!」

 

クド=ラの掛け声によって基地の防衛部隊とレジスタンスの機動兵器部隊の戦闘が開始された。

 

「娘を強引に奪われた悲しみを今ここで晴らしてやる!」

 

「目の前で父を殺された恨み、思い知れ!」

 

レジスタンスのメンバー達は各々の恨みや怒りなどで戦っている者が多かった。

 

「帝国主義の政策を変えるために!」

 

「地球人とだって上手くやっていけたはずなのに!」

 

中には政策を変えようとする者、共存を望む者なども居て戦う理由は一人一人違っていた。

 

「レジスタンス共が!!」

 

「撃て!撃て!!我ら正規軍の前ではレジスタンスなど恐るに足りん!」

 

 

やはり正規の訓練を受けている軍人相手にレジスタンス達は追い込まれてしまう。元従士や謀士などは居るが、ほとんどが機体を教わった通りに動かす事なのが精一杯だった。

 

それでも、正規軍の機体に対し複数機による連携を駆使して戦えているのは政征と雄輔が提案した事であった。

 

正規軍の機体一機に対し、レジスタンス側は三機のチームで戦うように進言していた。

 

相手は正規軍、実戦も経験しているパイロットもいるかもしれない。それならば複数で戦いをしかけ各個撃破していくという方法を指導した。

 

無論、これには元従士のメンバーから卑怯な行いだと反論も出た。しかし、一対一で相手に勝てたとしても連戦で勝ち続けられる保証はない、それならばチームで戦う方が一人一人の負担も少なくし、勝利が近づくと戦略面で説明する事で納得させた。

 

「!巨大熱源反応!これは・・・あの機体だわ!」

 

「来るか、ズィー=ガディン!」

 

「グ=ランドン・・・!」

 

たった一機現れただけで戦局を変えてしまうような雰囲気を持つフューリーの巨大人型兵器、皇帝機ズィー=ガディンが自ら姿を現したのだ。

 

[推奨BGM 『Doomsday』スパロボOG ムーンデュエラーズ・アレンジ]

 

「ほう?三機のラフトクランズ、近衛隊長であったあの三人の反逆を思い出す」

 

「っ!」

 

グ=ランドンの言葉にクド=ラは唇を噛み締める。自身の兄はこの相手によって屠られたのだから。

 

「二機の蒼きラフトクランズよ、今一度この絶望を味わうか?」

 

己の物と言わんばかりに再び生体ユニットと化しているシャナ=ミアとフー=ルーを政征と雄輔に見せつける。

 

それを視界に入れたと同時にサイトロンの影響か、二人に声が聞こえてきた。

 

「別・・・世界の・・・騎士達・・」

 

「私達を・・・開放・・して・・・」

 

それはズィー=ガディンの生体ユニットと化している女性二人が僅かに残った意思を使ったメッセージであった。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「二人共、どうしたの?」

 

政征は深呼吸し、雄輔は柏手を一回だけするとズィー=ガディンへと視線を向ける。

 

「何だ、その目は・・・貴様達!」

 

「俺達はもう迷わない」

 

「助けようとして自己犠牲はしない、例え、この世界の大切な存在を殺す事になろうともそれを受け入れる」

 

自由と城壁の騎士はソードライフルの鋒を同時にズィー=ガディンへと向ける。

 

「「オルゴン・マテリアライゼーション!」」

 

ソードモードに切り替え、政征と雄輔は同時に突撃していく。その後ろからクド=ラが駆る紅色のラフトクランズがオルゴンライフルをズィー=ガディンへ放ち、援護する。

 

「ほう?なかなかの攻撃力だ」

 

ズィー=ガディンのオルゴン・クラウドSはラフトクランズを基に出力を僅かに上げており、更には機体自身の装甲も相まってかなりの防御力を誇っている。

 

その防御力の前に単発のオルゴンライフルでは装甲に傷一つ付いていない。

 

「でやあああ!」

 

「うおおおお!」

 

だが、ISとなっている二機のラフトクランズによる斬撃がズィー=ガディンの装甲に傷を付けた。

 

「ぬう!?やはり貴様等が脅威となるか!」

 

「俺達は殺す覚悟で戦っている!」

 

「それが例え、愛する人と全く同じ姿をしてる人が一緒だろうとな!」

 

二人は容赦なくズィー=ガディンに攻撃を仕掛ける。しかし、僅かな傷を負わせるだけで決定的な一撃にはなっていない。

 

「フハハハハ、魂に絶望を刻むがいい!」

 

グ=ランドンはエネルギーをチャージし、周囲一帯を殲滅する武装であるオルゴンウェイブキャノンを発動させ、三機のラフトクランズを吹き飛ばし、ダメージを与えた。

 

「きゃああああ!」

 

「うわああああ!?」

 

「ぐああああ!?」

 

三機のラフトクランズは地に倒れるがソードライフルを支えに立ち上がり、ズィー=ガディンに向き合う。

 

「ほう?まだ戦意を失わぬか。ならばズィー=ガディンの出力を最大にする。モード、ガ=ウラ!」

 

「きゃああああああ!」

 

「くあああああああ!」

 

生体ユニットと化している二人が突如、苦しみだしズィー=ガディンの出力が上がっていく。

 

その様子を見ていたクド=ラは持ち前の観察力でその出力の出処を推察していた。

 

「ま、まさか!?ズィー=ガディンはシャナ=ミア皇女とフー=ルー近衛隊長の生体エネルギーを機体に使用してるの!?」

 

「なんだと!?」

 

「モード、ガ=ウラと言っていたのはそういう事か!」

 

スーパーロボット大戦Jの知識が強い政征が叫んだ。最終局面でグ=ランドンはステイシスベッドの動力と繋がるガ=ウラの中心とズィー=ガディンを接続し暴走した。

 

その動力をシャナ=ミアとフー=ルーの生体エネルギーを利用することでガ=ウラと同等のエネルギーを得た。

 

「我が剣の舞いを見るがいい!」

 

「!気をつけろ!雄輔!クド=ラ!!オルゴン・マテリアルゲイザーが来るぞ!」

 

政征の言葉に二人はシールドクローを構えようとするが、防御の体制を取るのが間に合わない状態だ。

 

「仲間を、これ以上傷つけさせるか!」

 

シールドクローを掲げ、攻撃目標を己自身に向くよう誘導し政征はオルゴン・クラウドを全開にする。

 

「己の身を盾とするか!むうん!」

 

大剣の一撃を受け、リベラは吹き飛ばされるがズィー=ガディンの追撃を止める事はない。

 

「でえい!オルゴン・コーティング!我が敵を切り刻めい!!」

 

ズィー=ガディンの大剣が六つに分離し、打突式のビットのようにリベラを追撃し続ける。

 

分離したパーツが元の大剣の姿に戻り、リベラへと突き立てられる。

 

「我が元に戻れ!」

 

リベラに刃を突き立てたまま、ズィー=ガディンの下へと戻り大剣の柄を掴んだ。

 

「断ち切る!」

 

「がああああああ!?」

 

抉る様に切り払われたリベラはモエニアと紅のラフトクランズの横隣りへと吹き飛ばされた。

 

「政征!」

 

「しっかりして!」

 

「ぐ・・う、オルゴン・マテリアルゲイザーの威力がこれ程とは」

 

シールドクローを犠牲にした事で政征自身は戦闘不能には至っていない。しかし、これで防御手段を失ってしまった事も事実である。

 

「ほう?耐えたか」

 

グ=ランドンは自らの一撃に耐えた

 

「雄輔、やるぞ。俺達の連携を」

 

「!ああ、分かった」

 

「クド=ラ、俺達が連携攻撃した後にバスカー・モードを使って一撃を与えてくれ」

 

「了解よ!」

 

リベラとモエニア、二機の騎士機がライフルモードに切り替えたソードライフルを手にズィー=ガディンへと向かっていく。

 

「まずはこちらだ!」

 

「行けえ!」

 

政征はズィーガディンの背後に転移し、雄輔は正面からガンスピンを交えたオルゴンライフルを単発ではなくビーム状でタイミングを合わせ放った。

 

「何!?何だ、この連携は!?」

 

「余所見している暇があるのか!?」

 

「てやあああ!」

 

ライフルモードからソードモードに切り替え、オルゴンソードによる二つの斬撃がズィー=ガディンに襲いかかる。

 

「き、貴様達!シャナ=ミアとフー=ルーの両者を失っても良いというのか!?」

 

「言ったはずだ!俺達は失ってでも先に進む覚悟をしてきたと!」

 

「グ=ランドン!お前はこの世界のシャナさんを手篭めにし、フー=ルーの気持ちすら利用した!許すことは出来ないんだよ!」

 

「「バスカー・モード!起動!!」」

 

間合いを開き、二人は同時に全力を出す宣言した。

 

「エクストラクター・マキシマム!!」

 

「伸びろ!オルゴナイトの刃!」

 

二つのソードライフルが左右に展開し、巨大なオルゴナイトの刃が現れ、形作る。

 

前方と後方からズィー=ガディンへと突撃し、二つの大剣が捉える。

 

「ぬおおおおお!?」

 

「オルゴナイト!!」

 

「バスカー!!」

 

「「クロォォォス!!」」

 

ズィー=ガディンに二つのバスカーソードが大ダメージを与え、その瞬間を狙ったかのように紅のラフトクランズがシールドクローを展開しズィー=ガディンを捉え、上空へ投げ飛ばした。

 

「兄さんの得意とした技よ!クロー展開!ファイナル・モード!」

 

クド=ラの駆る紅色のラフトクランズがオルゴナイトの分身を出現させ、ズィー=ガディンの四肢を掴み、結晶内部に閉じ込める。

 

「兄さんの無念!その身で味わいなさい!オルゴン・マテリアライぜーション!だぁあああ!」

 

オルゴナイトの巨大な爪を出現させ、地上から上空へ向けて飛び上がりその爪で結晶を切り砕いた。

 

「嫌あああああああああ!」

 

「来ないでえええええええええええ!!」

 

ズィー=ガディンに取り込まれた生体ユニットの二人が叫びを上げ、ズィー=ガディンの持つ大剣を振り回し三人を吹き飛ばした。

 

「うあああああ!」

 

「がああああああ!?」

 

「きゃああ!」

 

ズィー=ガディンが体制を整え、ゆっくりと向かってくる。

 

「流石は我が皇女と次妻だ。我を守ろうと動いてくれたわ」

 

「く・・」

 

「おのれ・・・」

 

「まだ、だ」

 

三人はフラフラになりながらも戦意を失っていない。立ち上がってすぐにそれぞれが得意とする武装を構える。

 

「雄輔、シールドクローを貸してくれ。ソードじゃ無理だ」

 

「良いぞ、その代わりソードライフルを俺に」

 

「ああ」

 

雄輔はソードライフルの二刀流を展開し、政征はシールドクローを構える。クド=ラも兄が得意としていたクローを構える。

 

「私は・・・殺す覚悟も助ける気持ちにも偽りはない!だから、力を・・・俺に力を貸してくれえええ!リベラァァァ!」

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『オルゴン・レガリア』発動。

 

リベラから蒼い光が溢れ、その光が雄輔とクド=ラの機体を包み、外で戦っているレジスタンス達の機体にも向かって行く。

 

「な、なんだ?機体のパワーが上がっていく!?」

 

「それだけじゃないわ!スピード、反応速度、基本能力まで!?」

 

雄輔とクド=ラは驚きを隠せず、政征が単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を発動した影響で劣勢だったレジスタンス達が押し返し始めた。

 

「ズィー=ガディンのパワーが下がっている!?何故!?」

 

これこそが、封印されていた政征の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)[オルゴン・レガリア]の力であった。

 

味方には高揚と力を、敵には戦慄と弱体を与えるという能力だ。王権の名を持つ能力ゆえに指揮する力を得たのだろう。

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の発動状態では敵に対して機体の基本能力を低下させ、機体自体を弱体化させている。

 

「政征、俺も同じ覚悟を持っている。負けず劣らずのな!改めて力を貸してくれ!モエニアァァァ!」

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『オルゴン・サンクトゥス』発動。

 

雄輔自身も単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を発動させた。

 

その能力は機体の防御力を上昇させ、エネルギーと装甲を常時回復させ続けていくというものだ。

 

神聖を意味する力という意味では回復という名の光を分け与えるという力を得たのだろう。

 

彼の機体は城壁の名を冠している。

 

城壁は敵からすれば打ち壊さなければならない、しかし城壁が強固な物であればあるほど籠城され兵を回復されてしまう。

 

それが能力となって体現し、味方に光を与える存在となったのだ。

 

「エネルギーとダメージが回復していく?使っても無くならないのか!?」

 

「この二人の力・・・すごい!」

 

 

 

 

「貴様等はやはり危険だ!やはり貴様等を殺さねばならん!」

 

「それはこちらも同じこと!」

 

「行くぞ!」

 

グ=ランドンは単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の発動を見た瞬間に追い込まれている様子だ。

 

無理もないだろう。己は弱体化させられ相手は能力値が上昇しており、機体ダメージとエネルギーが常時回復しているのだ。

 

「「「バスカー・モード!起動!」」」

 

「性懲りもなくバスカーモードか!」

 

「フー=ルー、俺に力を貸してくれ!ツイン!オルゴナイトミラージュ!」

 

雄輔は二つのライフルモードに切り替えたソードライフルを左右の手に持ち、転移しながら交互にオルゴンのエネルギー弾を放つ。

 

「な、なんだ?このバスカー・モードは!?」

 

オルゴン・クラウドの転移を使い、全方位からオルゴンライフルを放っていく。ズィー=ガディンをオルゴナイトの結晶へと閉じ込めていく。

 

「まだだ!これが俺の最大の一撃だ!」

 

オルゴンライフルを上へと投げ、胸部の砲口に接続し発射体制に入った。同時に政征もシールドクローを展開し、オルゴナイトの巨大な爪を展開していた。

 

「シャナ=ミア!」

 

「フー=ルー!!」

 

「「許してくれ!!」」

 

二人は涙を流し、政征はオルゴナイトの爪で結晶に閉じ込められたズィー=ガディンを引き裂き、雄輔は最大の砲撃を放った。

 

それを受けたズィー=ガディンのコクピットは中破し、生体ユニットが取り込まれていた部分が壊れていた。

 

「あの二人・・・本気で取り込まれていた二人を殺すつもり!?ダメよ!」

 

クド=ラはオルゴンクラウドの転移を無意識に使っていた。

 

 

『ありがとう、別世界の騎士達よ』

 

『これで私達は・・・解放されました』

 

 

生体ユニットと化していた二人の声はオルゴンの光の中へと消えていった。

 

二人は全身を震えていた。別世界とはいえど己の愛しい相手をその手にかけてしまったのだと思っている。

 

「う、うおおおおおお!シャナァァァ!!」

 

「く、うああああああ!フー=ルーゥゥゥ!!」

 

命の重みを理解する事は出来た。しかし、サイトロンの試練は二人にとってとても辛いものになってしまった。

 

二人はそれでもズィー=ガディンと対峙する。泣きながらも先へと進む事を止めないという意思を見せるかのように。

 

「よくも、よくも私の妻達をおおおおおお!」

 

「その言葉を」

 

「口に」

 

「「するなあああああああ!」」

 

雄輔は手にしていた政征のソードライフルを投げ渡し、二人は全力を出すという言葉を発する。

 

「「バスカー・モードォォォ!起動ぉぉぉぉ!!」」

 

二人は剣撃を仕掛けず、溢れ出るオルゴンエネルギーが自由と城壁のパワーを表している。

 

「オルゴナイトの刃よ!伸びろ!私はあの人の口上をやらせてもらう!」

 

「貴様如きが我を倒せるとおもうてか!?」

 

「黙れッ!」

 

「何!?」

 

「そして聞け!!」

 

 

[推奨BGM 『悪を断つ剣』スパロボOGより]

 

政征はバスカーソードをまるで剣術のある流派のように構え、相手を見据えた。

 

「我が名はマサ=ユキ!マサ=ユキ・フォルティトゥードー!!」

 

「我こそは!フューラの剣なり!!うおおおおおお!」

 

そのままスラスターを全開にし、飛び上がり落下速度を利用して刃を振り下ろした。

 

「一刀!!両断!!」

 

「ぐおおおおお!?」

 

「我が剣に断てぬものなしッ!!」

 

その刃は防御に使った大剣を断ち切り、ズィー=ガディンの片腕を奪っていた。

 

「まだ終わらない!見ろ!グ=ランドン、そして政征!この俺の最大最高の剣を!!」

 

そう宣言した雄輔のオルゴナイトの刃はエネルギー状になっていく。

 

 

[推奨BGM『THE GATE OF MAGUS』スパロボOGより]

 

 

「我はユウ=スケ!ユウ=スケ・ダーブルス!!ガ=ウラの剣なり!!うおおおおおお!」

 

政征とは違い、地上からスラスターを全開にしエネルギー状になったオルゴナイトの刃を発生させたまま突撃する。

 

「伸びよ!オルゴナイトの刃よ!!」

 

地表を崩しながらエネルギー状の刃はズィー=ガディンへと向かって行く。それを危険と判断した政征はすぐにオルゴンクラウドの転移を使い、雄輔の背後へと避難した。

 

「薙ぎ払え!月ごと奴を!!」

 

「ぬぐあああああああ!!」

 

「我が剣に断てぬものなし!」

 

二つのバスカーソードの斬撃を受けたズィー=ガディンとグ=ランドンは完全に消滅した。

 

「はぁ・・はぁ・・フー=ルー」

 

「シャナ・・・」

 

二人は目的の敵を倒したが勝利に喜べなかった。何故なら別世界といえど自らの愛している人物と同一の存在を手にかけてしまったのだから。

 

「二人共、勝ったのに暗い顔してるんじゃないわよ」

 

「クド=ラ?」

 

「でも、俺達は」

 

「全く、いい加減に・・・って!アンタ達、身体が!?」

 

政征と雄輔の二人は光の粒子に包まれていた。それはこの世界に留まる事を許されなくなったという意味でもあった。

 

「急に来て、急に帰るだなんてアンタ達らしいわね」

 

「異邦人だったからな、私達は」

 

「そうだな、ん?」

 

二人は僅かに手にかけてしまった二人の人影のようなものを見かけたつもりだったが、気のせいだと解釈した。

 

「それじゃ、クド=ラ」

 

「また、会えたら」

 

「ええ、またね」

 

政征と雄輔の二人は光の粒子の中へと消えていった。それを見届けたクド=ラは背後に声をかける。

 

「よかったのですか?あの二人に声をかけなくて」

 

「良いのです。あの方達の事は私達にとっては恩人というだけですので」

 

「フー=ルーの言う通り、あの方達には私達がヴォーダに還ったと思っていただければ、それで」

 

現れたのはこの世界のフー=ルーとシャナ=ミアであった。クド=ラは転移を利用して二人を救出し、安全な場所に移していたのだ。

 

「これからが大変よ、アンタ達も勝ちなさい。ヴァウーラとの戦いに」

 

 

 

 

 

 

本来の世界で二人は束の研究室にあるカプセルの蓋が開くと同時に目を覚まし、身体を起こした。

 

「戻って、これたのか?」

 

「みたい、だな」

 

管理していた束がものすごい音と共に現れ、代表候補生達も同時に飛び込んできた。

 

「あ”あ”~よがっだ~!これで全員揃ったよ!」

 

「お帰りなさいませ、政征さん、雄輔さん!」

 

「遅かったじゃないのよ!」

 

「でも良かった、二人が無事に帰ってきて」

 

「兄様、師匠!」

 

それぞれが声をかけている中、扉が開きその人物に全員が驚いていた。

 

そこにはシャナ=ミアとフー=ルーが立っていたのだから。シャナ=ミアは政征の胸元に飛び込み、フー=ルーは雄輔の頭を撫でた。

 

「よかった、政征・・・本当に!!」

 

「束博士から報告を聞いて心配しましたのよ?」

 

「シャナ、ごめん」

 

「フー=ルーさん、すみません」

 

シャナは泣いており、フー=ルーは優しく頭を撫で続けている。

 

「相変わらずラブラブですのね、シャナさん達は」

 

「見せつけられてる身にもなってよね!」

 

「鈴の言うとおりだよ」

 

「?仲が良いのは良い事ではないのか?」

 

代表候補生達は見せつけられて苦笑していた。しかし、そこでシャルロットが素っ頓狂な声を上げた。

 

「あ!夏休みの宿題が!!」

 

「「「「ああーーーーーーーー!!」」」」」

 

半分しか終わっていなかった宿題を思い出したフー=ルー以外の全員はフー=ルーの指導の下、宿題に取り掛かることになった。




これで、個人ルート全て終了です。

次回は文化祭になるのかとおもいます。

戦いの前の平和なインターミッションのアレですね。

例の姉妹も出すかと思います。


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第三章 学園と亡国
楽しい事ってあっという間に過ぎるよね


文化祭の出し物を決める。

聖騎士団試験の結果が出る。

以上


夏休み最終日、政征と雄輔は緊張した面持ちでセルダの前にいた。

 

夏休みの前半、二人はフューリア聖騎士団の入団試験を受けていたのだ。

 

「二人の試験の結果だが・・・・」

 

「「は、はい」」

 

二人は同時に返事を返した。緊張のあまり声が重ねってしまっていた。

 

「おめでとう、二人は見事に合格だ。少し危うかったがな」

 

「!や、やった!」

 

「合格出来たのか!」

 

「「いよっしゃあああ!」」

 

二人は嬉しさを表すかのようにハイタッチをして喜びを分かちあった。セルダはそんな二人を微笑ましく見ていたが敢えて厳しめの声を出した。

 

「喜ぶのは良いが、そこまでにしておけ二人共!」

 

「は、はい!」

 

「す、すみませんでした!」

 

セルダの喝に二人は改めて浮かれていた気持ちを引き締めた。

 

「さて、正式に聖騎士団入りになった訳だが・・・これまで以上に精進せねばならないぞ?」

 

「はい、もちろんです」

 

「無論、無茶はしませんが」

 

「それでよい。二人はまだまだ若いのだから、これからだ」

 

セルダから正式に入団した証としての腕輪のアクセサリーと証拠である証文を貰い、部屋を後にして会社から出た。

 

「合格したのは嬉しいけど」

 

「夏休みの宿題がギリギリだったな・・・」

 

そう、メンバー全員が夏休みの宿題をギリギリで最終日前に全て終わらせることができたのだ。

 

成績が優秀なはずのセシリアは古文に苦戦し、鈴は英語、シャルロットは社会(日本史)、ラウラは国語という日本の学校での苦手科目が出てきた結果であった。

 

「さて、俺は正式に発表しないと」

 

「何を、って・・・ああ、そうか」

 

「ああ、アレさ」

 

雄輔は政征が何を発表するのかを察した。自分も恋人に近い相手がおり、親友の恋人が誰なのかを知っているから。

 

「ようやく誓いを果たせるよ」

 

「ほどほどにな?周りに見せつけるなよ?自覚が無いみたいだから言っておく」

 

「え?あ、ああ・・・」

 

親友の言葉に政征は反省気味な様子だ。無理もない、堂々と全方位チャンネルの告白をし、訓練の総仕上げから帰って来てからは二人は離れる事が無かったのだから。

 

二人は話題を変えながら、駅へと向かい学園へと戻った。

 

 

 

 

夏休みが終了し、数週間が経ち学園行事の一つである学園祭の出展を決める為のホームルームが行われていた。

 

だが、提案されたのは。

 

「男性操縦者とポッキーゲーム」

 

「男性操縦者によるシュチュエーションルーム」

 

等といったものばかりであった。これに対し二人は断固として拒否の態度を取った。

 

「ええー、二人共ノリが悪いよー」

 

「そうそう」

 

クラスメートと女生徒達が不満を漏らす中、政征と雄輔は冷静に答えた。

 

「あのね、こんなの一部の人しか得をしないじゃないか」

 

「それに俺達の負担が大きすぎる」

 

「それならメイド喫茶はどうだ?」

 

一石を投じたのはラウラだった。メイド喫茶というのはメイドを売りにしているお店の事だ。

 

「メイド喫茶ならば女性も楽しめる、男性は執事で登場すれば問題ないと思うがな(政征兄様と雄輔師匠執事姿、それとシャナ=ミア姉様のメイド姿・・・写真に収めねば!)」

 

「うーん、それだと面白みに欠けるからコスプレ喫茶にしたらどうかな?それなら色んな衣装が着られるし」

 

「それ、採用!」

 

「コスプレ喫茶とは盲点だったわ!」

 

「い、衣装なら私、レイヤーだから沢山あるし!」

 

「男性用はみんなで揃えちゃえば問題ナッシング!」

 

流れが一気に変わり、コスプレ喫茶で決定してしまった。二人は大きくため息をついたが、ゾクリと政征は背中に何かを感じていた。

 

正体はラウラとシャナだった。ラウラは姉と兄の望む姿を、シャナは恋人の執事姿を想像していた。

 

「(シャナ=ミア姉様のメイド姿・・・ああ、麗しい!政征兄様と雄輔師匠の執事姿、とても良い!)」

 

「(政征の執事姿に着物姿・・・ああ、私も見たいものがあり過ぎます)」

 

「シャナの目がこ、怖い・・・」

 

「ラウラもかなり入り込んでいるようだな・・・」

 

出展が決まり、その準備などを話し合うためにより一層、クラスはホームルームに力を入れた。

 

 

 

出展が決まった後の三日後、政征と雄輔は本音に呼ばれ、学園にある整備室の一室に来て欲しいと言われ向かっていた。

 

「一体、俺達に何をさせようって言うんだい?本音さん」

 

「のほほんさんの事だから難しい事ではないと思うけどね」

 

「いーから着いてくるのだ~」

 

目的の部屋にたどり着くと扉を開き、中に入る。そこには一機のISが展開状態で鎮座されており、所々にコードが繋がれている所をみると完成していないのが伺える。

 

「かんちゃん、来たよ~」

 

そこにはモニターと睨めっこしながらキーボードのキーを叩き続ける女の子がいた。

 

眼鏡をかけているようだが目の保護のための物なのだろう。視力は悪いようには見えない。

 

「本音?それにこの人達は男性操縦者の?」

 

「赤野政征、よろしくね?」

 

「青葉雄輔だ、よろしく」

 

「更識簪・・・」

 

更識簪と名乗った少女は二人に対し、警戒している。

 

「更識さんは」

 

「簪・・・」

 

「え?」

 

「簪って呼んで、苗字で呼ばれるの好きじゃない」

 

「じゃあ、簪さん。これでいいかい?」

 

政征の言葉に簪は頷き、作業を再開する。

 

「簪さん、この機体は簪さんの専用機か?」

 

「そう、打鉄弐式。白式の開発で凍結してしまったから、私だけで作っているの」

 

「これだけの機体を!?」

 

「たった一人で!?」

 

二人は驚きを隠せなかったが、そこへ本音が二人を呼んだ経緯を説明し始めた。

 

「実はね~、二人にはかんちゃんの専用機の開発を手伝ってあげて欲しいのだ~」

 

「本音!?何を勝手な!?私は一人で作るの!お姉ちゃんだってそうしたんだから!」

 

簪の言葉を聞いた二人は簪の方へ顔を向けると口を開いた。

 

「いや、協力させてくれ。これだけの機体を一人でだなんて無茶だ」

 

「三人寄れば文殊の知恵ともいうからな。だが、今は四人いる。全員でやれば完成も早くなるはずだ」

 

「で、でも・・・お姉ちゃんは」

 

男性操縦者の二人はサイトロンで簪が姉に対しコンプレックスを持っている事を見た。

 

それを踏まえた上で言葉を吟味する。

 

「他の人に力を借りるのは恥ずべきことじゃないと思うよ?簪さん」

 

「君のお姉さんが一人で組み上げたのなら、こちらは協力して組み上げればいい。同じ道だけが越える方法ではないさ」

 

「っ・・・・」

 

二人の言葉に簪は言い返すことが出来なかった。追い詰められているのではなく、こんな自分に手を貸してくれる事が信じられない為であった。

 

「それに、もしよければ機体のデータを提供するよ?」

 

「え・・・?その機体って、もしかしてラフトクランズ!?」

 

「ああ、もっとも武装と基本のデータだけしか提供できないが」

 

「それでもいい、意地張ってごめんなさい。私のISを完成させるのを手伝ってください!」

 

簪は先ほどまでの大人しい印象とは真逆に必死に頭を下げて手伝って欲しいと懇願して来た。

 

「よし、決まり!早速だけど機体データを見せて」

 

「はい」

 

「なるほど、実弾兵器とマルチロックによる一斉射撃か」

 

「これならこのデータと接続をすれば使えるね」

 

二人が協力し、簪も輪に入って自分の意見を言いながら機体を組み上げていく。

 

本音は笑顔で機体の配線の配置などを繋ぐアドバイスを送っている。

 

 

 

 

 

数時間後、機体の組み上げを切りの良い所で切り上げ、政征と雄輔は部屋へと戻ってきた。

 

「はぁ、疲れた。そういえばシャナは鈴達の所に居るって」

 

自室の扉を開いた瞬間、政征は呆気にとられた。

 

「お帰りなさい、ご飯にする?お風呂にする?それとも私?」

 

「は?」

 

水着を着た姿でその上からエプロンをしている女性が自分の部屋に居たからだ。

 

「申し訳無いですが、どなたですか?それに俺はシャナ以外の女性に靡くつもりはないのですけど?」

 

「ええ~?淡白な反応、お姉さん悲しいぞ?」

 

これが政征と後々、協力関係になる更識姉妹との邂逅であった。




ようやく、更識姉妹を出せました。

ちなみに政征と雄輔とって二人は協力関係であり友人という認識です。

姉妹が二人に恋したら、確実に病むか、ビターエンドまっしぐらなのでw


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助ける事は非常に大変だよね

政征と雄輔が助けを求められる声を聞く。





以上


謎の女性が勝手に自分の部屋に入っていた為に政征は混乱していた。おまけに着ているのは水着とエプロンという男なら興奮してしまう姿でだ。

 

「それで、改めて聞きますが俺に何の用ですか?それとちゃんと服を着てください」

 

「ええ~、何も感想ないの?」

 

「さっきも言いましたが、俺はシャナ以外の女性に靡くつもりはないので」

 

「一途なのね、そこはお姉さんも好感が持てる所よ」

 

女性は制服を着直すとお茶を出されたテーブルの向かい側に座った。

 

「それで、貴女は誰ですか?」

 

「私は更識楯無、この学園の生徒会長よ」

 

「その生徒会長さんがどうして俺の部屋に?(簪さんと同じ苗字、もしかしたら?)」

 

「君に、正確には君達に興味があったからよ。特に君達の扱う機体、ラフトクランズにね」

 

いつの間にか彼女の手には扇子が握られており、それが開かれると「興味津々」と書かれていた。

 

「監視したいんですか?」

 

「そんなつもりはないわ、私からのお願いは君達二人に生徒会に入って欲しいって事よ。もう一人は此処にはいないけど」

 

「具体的には?」

 

「部活動に精を出してる生徒達の意見が殺到してきてるのよ。部活に所属させろって」

 

「なるほど、形だけになりますが大丈夫ですか?出来るだけお手伝いしますけど」

 

「それでも構わないわ、みんなも納得するでしょうし」

 

再び楯無は扇子を開く。文字が変わって「交渉成立」と書いてある。どういった仕掛けなのだろうか?

 

「話は変わるけど、学園から出て行った二人の事を聞きたいの」

 

「一夏と箒さんですね。あの二人は今、破滅の軍勢のもとにいます」

 

「破滅の軍勢?」

 

おどけた表情から一転し、暗部としての顔つきになった楯無は広げたままの扇子で口元を隠した。

 

「ええ、今は女性権利団体の過激派と手を組んでいます。それだけに俺達じゃ手も足も出ない」

 

「確かに。女性権利団体はIS委員会とも接点があるから、男性である貴方達では無理もないわね」

 

「それに、あの二人は学園には戻って来ないでしょう」

 

「どうしてそんな事が言えるの?」

 

政征はお茶を飲んで喉を潤すと楯無の目を見て真剣に話し始めた。

 

「一夏はシャナを自分のものにする事に固執していて、箒さんは力に飲まれている。おまけに破滅の因子が埋め込まれている可能性が高いですから」

 

「つまりはもう戻れないところまで来てしまっているという事?」

 

「その通りですよ。それに破滅の軍勢の目的は恐らく、破滅の王を呼び出す事です」

 

「破滅の王?」

 

聞きなれない言葉に盾無はますます顔つきが鋭くなっていた。政征が話している事は半信半疑ではあるが、実在する団体と手を組んでいると聞かされたが故に聞き逃す訳にはいかない。

 

「ええ、それを呼び出されたら世界どころか、地球そのものが破壊されます」

 

「!そんなものが存在する訳がないわ!!現れるという事は倒す事が出来るんでしょ!?」

 

「残念ながら破滅の王は消滅させる事は出来ません、奴は形を持たない存在なんです。ですから寄り代が必要になる」

 

「寄り代?もしかして!?」

 

「想像通りです。あの二人のどちらかを使う気でしょう」

 

「そんな事が・・・」

 

盾無は政征の口から話される事に驚愕するしかなかった。権利団体など組織ぐるみでの出来事なら暗部としての力を借りれば簡単だが、地球の消滅という現実にはありえない事を危惧している内容だからだ。

 

「楯無さん、お願いします。恐らく破滅の王を呼ぶためのゲートらしき場所がどこかにあるはずです。それを調べて欲しい」

 

「どこまで出来るか分からないけど調べてみるわ」

 

「ありがとうございます。それとですね」

 

「何かしら?」

 

「一度、彼女・・・簪さんと話し合ったほうがいいですよ?姉妹なんですから」

 

「!!!」

 

楯無は衝撃を受けた。彼の言っている簪という言葉に心当たりがあったからだ。

 

彼女は自分の妹の事だ。話し合った方が良いという言葉を発したという事は彼が妹と何らかの形で接触したという事だ。

 

「どういう事かしら?返答によっては・・・」

 

広げた扇子には[始末]と書かれている。殺気も出してきたという事はよほど心配なのだとわかる。

 

「なら、どうして彼女と向き合わないんですか?【お姉ちゃんが出来るなら私も出来る】など無茶をしてましたよ?」」

 

「そ、そんなことが?」

 

政征は厳しく言葉を叩きつけ続ける。優しさだけでは二人の修復は難しいと考えているからだ。

 

「恐らくですが、【私よりも下でいなさい】みたいな事を言ったんじゃありませんか?」

 

「う・・・そ、それは!簪ちゃんを危険に晒したくなかったから・・」

 

「危険に晒してくないというだけで彼女を追い込むような言葉を言ったんですか!?それは残酷ですよ」

 

「うう・・・」

 

政征の厳しい言葉に楯無は縮こまってしまい、俯いてしまった。

 

「楯無さん、兄弟や姉妹というのは喧嘩などをして初めて認め合えるんですよ。家系の事を考えず、ただの姉妹として接してみたらどうですか?」

 

「!そう、そうね・・・私達は姉妹だもの、そうしてみるわ!」

 

政征のただの姉妹として接したらどうだという言葉に楯無は笑顔になった。

 

「じゃあ、依頼は改めて受けるわ。結果が分かったら生徒会室で報告するわね?生徒会への手続きも済ませておくから」

 

「わかりました」

 

「じゃあね、一途な騎士さん」

 

楯無はウインクすると部屋から出ていった。政征はため息をつくと寝転がり、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「(助けて・・・私が黒く塗りつぶされる・・・助けて・・・)」

 

「誰だ?君は誰なんだ?」

 

「(私は■■・・・助けて・・・破滅に飲まれたくない・・・助けて・・・)」

 

「聞こえない!!君は?君は誰なんだ!?」

 

「助けて・・・対となるあの子も・・・助け・・・」

 

「ま、待ってくれ!」

 

政征と雄輔はそれぞれ別の場所で目を覚ました。別の場所ではあったが二人は同じ量の汗と呼吸を荒くしている。

 

「なんだったんだろう・・?今の」

 

「助けを求める声だったな、女の子みたいだったが」

 

「雄輔と」

 

「政征に」

 

「「相談してみるかな」」

 

二人は同じ考えを持ちながらシャワーを浴び、着替えを済ませてそれぞれが出会うために部屋を出て行った。




短くてごめんなさい。

そろそろ、佳境です。

後にアンケートをとりたいのでその結果でエンドを分岐させようと思います。

協力お願いします。


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亡国・破滅の意志・王の目覚め

破壊が本格化する。

二つの機体が飲まれる。

リベラの意志が二つに別れる(フラグ)


以上


政征と雄輔が不思議な声を聞き、時間にして翌日。ある国の地域で破壊活動が行われていた。

 

「この程度かよ?全然足りないな」

 

「ふふ、こんなに斬ったのは初めてだ!興奮が収まらなくて仕方ないぞ!」

 

破壊されたISの機械油が二機のISに対し、まるで返り血のように浴びていた。

 

白を基調とした機体は機械油がまるで血のように白い部分へ付着し、どれだけの破壊をしたのかを物語っており、反対に鮮やかな紅色をしていたはずの機体は血が染み込んだ羽織のように赤黒く変わっている。

 

「ふむ、亡国機業の粛清地域に対する破壊はこのくらいで良いな」

 

カロ=ランは二人が殺しに対して慣れが出てきているのを確認し、笑みを浮かべていた。

 

当初は殺したくないと喚いたり、命を奪った瞬間に嘔吐などを繰り返していたが破壊活動を続けるにつれて二人は殺戮に慣れていった。

 

 

「必ず俺がシャナ=ミアさんを守る騎士になる・・!この手でお前を必ず!」

 

「待っていろ、あの時の屈辱を必ず晴らしてやる!!」

 

一夏と箒は復讐という名の炎を燃え上がらせていた。自由と城壁の騎士、その二人をこの手にかけるその時こそ自分達の復讐は果たされると。

 

「(因子は芽吹き始めているな。そろそろ、あの者にこの二人の機体の改修を頼まねばな)」

 

完全に破壊された廃墟を歩きながら、三人は転がっている人間の四肢などを踏み潰し去っていった。

 

『助け・・・て・・・・わた・・・ヲ』

 

『嫌・・・ダ・・・飲まれ・・』

 

 

 

 

 

 

「どういう事、手を組んでいたはずの破滅の軍勢が私達の支部を破壊するなんて!」

 

「機体も仲間も全員皆殺しな上、施設まで完全に破壊してやがった!クソッ!!」

 

亡国機業の幹部であるスコール・ミューゼルとオータムは出向いていた別の支部いたために難を逃れていたが、もう一人の仲間の安否は不明であった。

 

「スコール、どうすんだ?このままだとアイツ等に全部やられちまうぞ!」

 

「わかっているわよ、癪だけどIS学園にいる別の男性操縦者に接触するしかないわ」

 

「そんな事出来るかよ!あたしらが亡国機業だって事が知られたら!」

 

「もう、なりふり構っていられないのよ。こうしている間にも奴らは次々に支部を破壊してる。証拠となりうるこの映像を持っていけば信用されるはずよ」

 

「くうう、手を組んだ奴らに噛み付かれるなんて」

 

「奴らの目的を見抜けなかった私の責任でもある。それよりもMが心配だわ」

 

「うまく逃げ切れてればいいがな。アイツの事だ、必ず無事なはず」

 

二人は悔しさを内に隠し、握り拳を作り強く握り締めていた。決して少なくはない仲間を全滅させられてしまった故だ。

 

「破滅の軍勢とはよく言ったもんだ。あたしはアイツ等とは手を切るぜ!」

 

「それに関しては私も同意よ。とにかくMを探しましょう」

 

「ああ!」

 

二人はそれぞれの愛機であるISを展開すると支部を脱出し、仲間の探索へと向かった。

 

 

 

同時刻、一人の少女が街の裏路地と似た場所で腹部から出血し、壁にもたれかかっていた。

 

 

「く・・・はぁ・・はぁ・・。機体の飛行機能は生きているがこのまま動けば傷が開いてしまうか」

 

ある少女がISを纏ったままの姿で物陰に蹲っていた。彼女の名はM、コードネームではあるが自分の名であり、戦士としての物でもある。

 

「止血剤は・・・まだあったか、崩壊してるとはいえ運がいい。傷の手当ができる物が残っていて」

 

その施設は崩壊しているが堅牢に作られていたのか、治療室らしき場所で消毒用アルコールを使い、傷を洗い止血剤を塗りこむと包帯を巻き傷を開かないようにした。

 

乱暴な応急手当だが、幾らかはマシな程度になった。手当を終えるとMは急いで崩壊した施設から飛び出した。

 

彼女がこのような状態になったのは二時間前に遡る。

 

 

 

それは突然やってきた。レーダーに反応はあったが、突然攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

「全員、戦闘態勢に入れ!」

 

Mの指揮の下、所属メンバーとして集まっていた亡国機業に賛同する者達がISを纏い、先頭を開始した。

 

その戦闘は無差別破壊と言っていいほどのものだった。M以外のメンバーはまるで肉食獣が獲物を貪るがごとく殺され、施設も破壊されていったのだ。

 

「クソッ!くらえ!!」

 

『我らの役目は・・・・終わった』

 

『此処で我らを打ち倒したところで・・・』

 

倒しても聞こえてくるのは断末魔ではなく、機械的に何かを遂行したような声ばかりだ。

 

「うあっ!?しまった!前方ばかりを気にしすぎ・・・!」

 

そのまま落とされたMは気絶し、意識を失った。意識を取り戻した時には既にメンバーも施設も破壊されていた。

 

「(仇は必ずとる・・・!その為にはまず二人と合流しなければ)」

 

止血を確認した後、Mは仲間と合流するために移動を開始した。

 

 

 

破滅の軍勢による破壊活動が活発化してはいたが、亡国機業の施設ということもあり世界は対して騒がなかった。

 

IS委員会にいる過激派がカロ=ランと手を組んでいることもあり、表沙汰にはならなかったのだ。

 

 

そんな中、日本では政征達、専用機を持つメンバー達は学園祭の準備に勤しんでいた。

 

「ああ、看板の立てかけはそこだ」

 

「おーい、雄輔!こっち手伝ってくれー!女性陣じゃ持ち上がらないんだ!」

 

「わかったー、今向かうから待っててくれ」

 

男性二人は看板の組立や力仕事を主に手伝い、女性陣は飾りつけやテーブルを配置したりとそれぞれが動いている。

 

「衣装はOKですわね、裏方の設置はどうです?」

 

「はい、出来上がっていますよ。少しスペースを取ってしまってますが」

 

「仕方ありませんわね、裏方のスペースはどうしても必要ですから」

 

セシリアとシャナは料理や飲み物を作る裏方の設置を担当し、ラウラとシャルは飾り付けの花を配置したり、他の生徒と共にメニューを書いたりしていた。

 

今現在、クラス代表を務めているのはセシリアであった。一夏が学園から出て行ってしまった臨海学校後に、改めてクラス内で決められたのだ。

 

「皆さん、明日には本番です!総仕上げをしましょう!」

 

「「おおーー!」」

 

それぞれが協力し、本番へ向けての意気込みと気合いを入れて準備を急いだ。

 

 

 

 

それと同時刻、ISの心象世界の中でリベラは何かと対峙していた。自らの影が形となり顔は伺えない。

 

「貴様、何者だ!?」

 

『我は王、全ての頂点に君臨する者』

 

「ふざけるな!王などと、ここは自由を守る者の聖域だ!!」

 

王と名乗った影はリベラの姿を模しており、自らを王と名乗った。

 

リベラにとって最も愛し、守るものは自由だ。自由とは何もしないことではない。

 

己の意思、思考、行動、全てを自分で決める事の出来る事、それが自由である。

 

王は彼女とは相容れない存在である。王とは君臨し導く者と支配する者に分かれる。

 

己の姿を模した、この王と名乗る存在は支配する者だ。彼女は剣を王へと向ける。

 

『我に刃を向けるか?不敬であるぞ』

 

「言ったはずだ!此処は自由を守る者の聖域だと!ここを侵させん!」

 

『仕方あるまい、しばらくは眠るが良い』

 

王と名乗った影が手をかざすと、リベラはまるで縛り付けられたかのように動けなくなってしまった。

 

「な、何!?」

 

『あの玉座(政征の肉体)は王が腰掛けるもの、一介の騎士ごときが触れていいものではない』

 

リベラの姿を模した影は玉座へと向かって行ってしまった。

 

「(我が友よ!私を・・・止めてくれ!城壁の騎士、龍の爪、黒雨の騎士、銃撃士、博愛の騎士よ!)」

 

リベラは己が友と慕う機体達へ必死の呼び掛けをすると同時に影へと飲み込まれていってしまった。




短いですがここまでで。

楽しく学園祭を準備している裏側では着々と破滅が侵攻しています。

更にはリベラが危機に!

またもやスパロボ的イベント、システムLIOH・・・サルファ、うっ!頭が!!

因みにリベラの姿をした王はFGOの[獅子王]を思い浮かべていただけるとわかりやすいです。


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創世の王の出現

学園祭を楽しむ

亡国が持つ切り札

政征の力の暴走

鈴に隠された真実


以上


学園祭当日となり、三日間の間のお祭りが始まった。

 

一組はコスプレ喫茶だが、休憩者や招待した親類などが集まってきており、売上は好調だ。

 

そんな中、一番注目されているのは。

 

「お待たせ致しました。フルーツ盛り合わせと紅茶でございます」

 

「あ、あの・・・食べさせてもらえるコースを追加で!」

 

「畏まりました、お嬢様。失礼を」

 

女性は口を開き、政征にフルーツを食べさせてもらっている。それを受けた女性は顔が真っ赤のまま硬直しながらフルーツを堪能した。

 

「それでは、ごゆっくりと」

 

「はぁぁぁ・・・」

 

一方のテーブルでは。

 

「お待たせ致しました。こちらはモンブランとブレンドでございます」

 

「あの、セットメニューのサプライズをお願いします!」

 

「はい、では・・・お手を」

 

雄輔はケーキセットを頼んだ女性の手の甲を膝をつき忠誠を誓っているような姿で、自分の口元に持っていき軽く口づけをした。

 

「ごゆっくりとお寛ぎ下さいませ。お嬢様」

 

「あんな執事が居たら・・・」

 

手の甲にキスされた女性はウットリとした後、落ち着くためにコーヒーを飲み始めていた。

 

 

そう、最大の目玉となっているのは男性操縦者二人による執事姿でのご奉仕である。

 

女性客が多く、男性操縦者がいるとの事で一組の喫茶店は大盛況なのだが男性二人は休まる暇がないのだ。

 

「ふう・・・」

 

「全く、休めないのは応えるな」

 

「ごめんねー、あと二人のお客さんを入れたらその後、休憩だからー」

 

「大丈夫、あと二人くらいなら、なんとか」

 

「ああ、気張っていくさ」

 

裏方のスペースで飲み物を軽く飲むと二人は再び、ホールスペースへ戻っていった。

 

政征と雄輔は二人のお客の案内とサービスを終わらせると休憩に入った。

 

「(何だ?リベラから違和感が・・・気のせいか)」

 

「どうした?」

 

「いや、とりあえず鈴の所へ行こう」

 

二人は二組へと向かい、鈴へと会いに行った。二組はチャイナ喫茶を開店しており、鈴は看板娘さながらのチャイナドレス姿で忙しく動き回っていた。

 

「あ、政征!雄輔!いらっしゃい!空いてる席に座って!」

 

鈴は次から次へとオーダーをこなしている。それを見ている男性二人は感心しながら中華まんの注文をした。

 

「お待ちどうさま!ゆっくりとしていってね!」

 

注文した中華まんを鈴が持ってきたのを確認し、食事をとり始める。

 

「すごいな、あんなに手際が良いなんてさ」

 

「実家が昔、中華料理屋をやってたらしい、その影響じゃないか?」

 

「へえ・・・」

 

二人が仲良く食事をしている中、鈴の熱っぽい視線に二人が気づくことはなかった。

 

休憩を終え、自分のクラスへ戻るとシャナが接客をしていた。皇族として身につけていた礼儀作法、持っている気品の良さから一般男性客に人気のようだ。

 

「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」

 

「は、はい」

 

シャナに接客された男性は見とれており、飲み物を急いで飲んで視線を逸らした。

 

「・・・・・」

 

「おい、政征!」

 

「はっ!?」

 

「シャナ=ミアさんに見とれてたか?ボーッとしてたぞ」

 

「あ、ああ・・・シャナのメイド姿があまりに可愛くてな」

 

「惚気るなよ、ドアホ」

 

「いてっ」

 

漫才のようなやりとりにクラスメイト達は笑っていたが、すぐに裏方へと押しやられ執事や和服などを着させられ、接客することになってしまった。

 

 

 

その日の午後、学園祭一大イベントとして代表候補生達によるISバトルをすると生徒会長である盾無が宣言した。

 

政征達を含む一年生の代表候補生全員のみとされ、バトルロワイヤル方式のルールを採用し、会場はバリアを強化した特別会場で行うと説明される。

 

「まさか、イベントバトルとは」

 

「バトルロワイヤルか、手加減はできないな」

 

「ふふ、久方ぶりに皆さんと戦えますわね」

 

「上等よ、またとないリベンジの機会だわ!」

 

「ボクだって負けるつもりはないからね」

 

「無論だ!シャナ=ミア姉様や政征兄様には悪いが勝つのは私だ!!」

 

「わたくしも剣を振るうとしましょう!」

 

 

特別会場となったアリーナへ七人は同時に向かうと各々の機体を展開する。

 

「リベラ!」

 

「モエニア!」

 

「ティアーズ!」

 

「爪龍!」

 

「リヴァイヴ!」

 

「レーゲン!テックセッター!」

 

「グランティード!」

 

それぞれが機体を展開すると観客席から歓声が湧き上がる。それ程までにこの戦いを見たいと思う者が多かったということだろう。

 

「ラフトクランズの戦い、観させてもらうわよ」

 

「私もこの戦いだけは見逃さない」

 

更識姉妹も別々の場所から観戦しており、一般生徒達もそれぞれ応援している。

 

戦いの合図であるブザーが鳴り、バトルロワイヤルが開始された。

 

 

 

試合が開始される一時間前、Mはスコール、オータムとの合流を完了させていた。

 

「M!良かった、無事だったのね」

 

「奴らからよく逃げられたな!?」

 

「二人こそ、無事で良かった。だが・・・他の者達は」

 

「分かっているわ、とにかく目的地へ向かいましょう」

 

三人は合流し、日本へ向かう飛行機へ乗るために空港へ向かった。無論、亡国機業の息が掛かっている便に乗る為にだ。

 

破滅の軍勢へ惹かれていったメンバーは誰一人としていない状況で、飛行機へと乗り込む。

 

パイロットも乗客も客室乗務員に至るまで全員が、亡国機業のメンバーというチャーター機での出発である。

 

「そう、全員殺されてしまったのね・・・?」

 

「ああ・・・偶然生き延びたのは私だけだった」

 

「そうか、やはりあいつらに対抗するには」

 

「ええ・・・今、手元にある黒き地獄と黒き天使、そして黒き銃神の欠片の封印を解いて、私達の機体に組み込むしか無いわ」

 

スコールが言葉を発した瞬間、オータムとMは驚愕した表情で声を張り上げた。

 

「正気かよ!?スコール!!それを組み込んだら間違いなくお前や私は!!」

 

「そうだ!死ぬ事になるぞ!」

 

「他に方法がある?今の私達では奴らに太刀打ち出来ないどころか手も足も出ないのよ?」

 

「く・・・」

 

「それは、そうだが」

 

惨劇を目撃しているだけあってオータムもMも歯を噛み締めてしまった。今の自分達は破滅の軍勢に対して指揮官どころか、尖兵にすら勝てない状態なのだ。

 

「とにかく、今はIS学園に向かって話し合いの場を設けて貰うことが最優先よ。もう、亡国機業や世界を変えるなんて言っている場合じゃない、地球規模での戦いになってしまってるんだから!」

 

スコールの言葉に二人は頷いて肯定した。それ以降、三人は言葉を交わすことなく飛行機は到着時刻の機内放送を流しながら日本へと飛び続けた。

 

 

 

亡国機業のメンバー三人が日本へ向かっている頃、IS学園ではバトルロワイヤルが白熱していた。

 

「ぐわぁ!?」

 

「うおおお!?」

 

ラフトクランズを駆る二人は他の機体に追い込まれていた。それもその筈、彼女達は彼らから勝利をもぎ取るために、ラフトクランズに対しての対策や二人のクセなどを研究していたのだから。

 

「申し訳ありませんが勝利を騎士から奪いますわ」

 

「龍は勝利を食べたくて仕方ないの」

 

「二人の中にある勝利を撃ち抜くよ」

 

「勝利してこそ二人へ恩が返せるのだからな!」

 

「さぁ、勝利を私に献上してください」

 

五人が迫って来るが二人は立ち上がって鎧の中にある表情を喜びに変え、武者震いしていた。

 

「強者との戦い・・・これが騎士の本懐よ!」

 

「燃えてきたな、さあ!行こうか」

 

一歩踏み出そうとした瞬間、政征の脳内に声が響いた。

 

『不敬なる者ども、王たる我が裁きを下してやろう』

 

「な・・なんだ!?あああああああっ!?」

 

ラフトクランズ・リベラからオルゴンエネルギーの柱が登り、全身が紺瑠璃色ではなく細部に金色が入り、オルゴンクラウドが常時全開であるのを示すかのような緑色が、ツインアイから溢れ出ている。

 

「政征!?」

 

『一介の騎士が気易く声をかけるでない・・・!』

 

「っが!?」

 

たった一発の単発のオルゴンライフルを受けた雄輔はISガールズのもとへ吹き飛ばされ、彼女達によって受け止められた。

 

「い、一体政征さんに何が!?」

 

「いつもの雰囲気じゃない・・!?まるで映画とかゲームに出てくる王様のキャラみたいになってるわよ!?」

 

「雄輔、大丈夫!?」

 

「政征兄様に何が起こっているんだ!?」

 

「っ!いけない!政征は今、オルゴンに取り込まれています!」

 

シャナの声に皆が一斉の視線を送る。雄輔が代表しシャナに声をかけ質問する。

 

「オルゴンに取り込まれている?どういう事だ、シャナさん」

 

「分かりやすく言えば単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の暴走です!オルゴンは自然エネルギー、意志を持つことがあるのです!」

 

『皇族の者、后のようだが我を知っての事か』

 

政征の口から発せられるのは女性的な声だ。それだけでも別人だと全員が理解できる。

 

しかし、何故今になって単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が暴走したのか?その理由が分からないでいた。

 

『レガリア、其方達の言葉で言えば王権を意味する。王権という言葉による力とこの自由の騎士が触媒となり我が生まれた』

 

「つまり貴様は兄様の機体であるリベラの影という事か!」

 

『影ではない、この肉体(玉座)は我の物である。実体として存在している』

 

「ふざけないで!政征の肉体は政征の物よ!勝手に出てきて自分のものだなんて言ってるんじゃないわよ!」

 

鈴の叫びに全員が頷き、各々が戦闘態勢をとる。王と名乗った存在は鈴に対し興味深そうに言葉を紡いだ。

 

『龍の爪を駆る娘よ。貴卿は己の真実を知らぬのか』

 

「?どういう事よ!?」

 

『貴卿は皇族の者や、その隣にいる騎士、更にはこの肉体の持ち主と同じ純血の者である事を』

 

「え・・・・?」

 

「鈴さんが」

 

「姉様や兄様と同じ」

 

「フューリーだっていうの?」

 

「デタラメを言わないで!私がフューリー!?私はちゃんとした地球人よ!」

 

『信じられぬか、無理もあるまい。ならば問おう、何故(なにゆえ)、龍の爪を扱えるのだ?銃撃士以上に』

 

問われた鈴は自分の感覚に覚えがあった。爪龍はクストウェル・ブラキウムのデータを元に改修され、オルゴンエクストラクターを搭載されたISだ。

 

改修され初めて模擬戦をした時、馴染みすぎている位に機体が自由に動いた。武装もまるで知っているかのように簡単に扱えていた。

 

そして何より、特訓のためのデータ世界でオルゴンクラウドの転移を使えた事が疑問ではあったが全てが一本に繋がった。

 

「私は・・・フューリー?地球人として産まれた・・・純血の?」

 

鈴はショックから目が虚ろになり、膝をついてしまった。真実を知った事で戦闘意欲を削がれてしまった。

 

「鈴!しっかりして!!」

 

シャルロットが必死に声をかけるが今の鈴はブツブツと同じ事を繰り返しつぶやいている。

 

「影のリベラ、政征の肉体を返してもらいます!」

 

「わたくしもシャナさんと同じですわ!」

 

『玉座、蒼き雫、城壁の騎士、銃撃士、黒雨の騎士、そして龍の爪・・・我が剣によって裁かれるのを光栄に思え』

 

王の意志に支配された政征はソードライフルをオルゴンソードにモードを切り替え、刀身を形成した。

 

「消えなさい!偽りの王!!」

 

シャナ=ミアの一言が合図となり、戦闘が再び始まった。




亡国の切り札、黒き○○の欠片ってなんでしょうね?(知らん振り)

さて、鈴が純血のフューリーである事をバラされてしまいました。

鈴にとって差別は最も思い出したくないことかと思います。

この戦闘はHPを規定値以下にするスパロボイベントみたいなものです。

皇女が敵に回ったのなら逆も然りです。

※追伸

ラフトクランズ・アウルンのキットが発売確定になりましたね!

三つ買ってリベラ・モエニア・クラルスの三機のカラーにしたい!


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創世の王 座への帰還

王の意思が消失。

亡国機業が交渉。



以上


シャナの一言から始まった戦闘はラウラが一番槍と言わんばかりに飛び出し、テックランサーを連結させ斬りかかった。

 

「!冷静な受けだ。それでも!兄様を返してもらう!」

 

『黒雨の騎士よ。貴卿は純粋なる者の擬似的な存在として生まれたか』

 

「そうだ!私は確かに人工的に生まれた。だが、今は違う!!シャナ=ミア姉様も政征兄様もいて、頼れる仲間達もいる!だから私はこの仮面を着けた!涙を拭えなくても戦おうと決めた故に!」

 

『悲しみを背負って戦うか、それすら我は断ち切ろう』

 

王として振るわれるリベラのオルゴンソードの一振り一振りが重く、痺れる一撃を繰り出してくる。

 

テッカマンレーゲンとして戦っていても纏っているのは十代の少女、重さがある一撃を受け続けてはいられない。均衡が崩れ、ラウラは横薙ぎの一撃で吹き飛ばされた。

 

「ぐあああああ!」

 

『行け、我が守護者たる下僕達よ。黒雨の騎士を封じろ』

 

オルゴンガーディアンを射出し、レーゲンの四肢に枷を嵌めるかの如く動きを封じてしまった。

 

「ぐっ!くそっ!動けん!!」

 

アリーナの壁に磔にされたラウラ、テッカマンレーゲンは枷を外そうと藻掻くが全くの徒労であった。

 

「行きなさい!ブルー・ティアーズ!アーマー・ビット!!」

 

『障壁、展開。この天より水の子が滴るような攻撃は蒼き雫か』

 

セシリアが放ったビット攻撃をリベラはシールドクローを掲げ、オルゴンクラウドによって防いだ。

 

シールドエネルギーは僅かに減ってはいるが雀の涙ほどでしかなく、セシリアは唇を噛み締めた。

 

「いい加減に政征さんを返しなさい!彼はわたくし達の仲間なのです!」

 

『先にも言ったはずだ。この肉体は我の者だと』

 

「ならば、このセシリア・オルコット!戦士として参りますわ!」

 

ビットを展開した状態でオルゴンを主なエネルギーとする事になったスターライトmkIIIを構える。実体弾からオルゴンというエネルギーになった事で、効率を考えにばならなくなったが、セシリアはビームを放つ時の出力を抑え、留めることで非実体の接近戦用の武器として使用できる事を自らの力で発見していた。

 

また、鈴との特訓でオルゴンエクストラクターを搭載されたブルー・ティアーズはオルゴンを結晶化させる事も可能だと見つけ出している。

 

『むう!?剣だと?蒼き雫にそのような事が出来るはずが』

 

「わたくしは常に先を目指しているのです!過去を振り返っても戻っては来ない、それならば先を目指し変わって行く事を選んだのですわ!」

 

『人の内にある優しき気と先を目指す野生、相反する二つの力を扱うとは・・・その力、我が砕く!』

 

シールドクローを展開し、出力を最大にしている状態に等しいリベラは容赦なく、その爪でブルー・ティアーズを掴む。

 

「あがっ!」

 

『砕けよ』

 

そのまま地に叩きつけ、引きずり始める。それはセシリアが初めてラフトクランズと戦った時と酷似していた。

 

「あああああああっ!」

 

そのまま遠心力を利用し空中へと投げ飛ばされ、リベラはオルゴンクラウドの転移を使用し一瞬で背後に回った。

 

『もう一撃だ』

 

「させないよ、オルゴンライフル!ダブルシュート!」

 

『何っ!?ぬうう!』

 

セシリアに一撃を加えようとした瞬間、実体と非実体の弾幕がリベラに向かって放たれた。セシリアを救出した弾幕を展開を放ったのはシャルロットが駆るベルゼルート・リヴァイヴだ。

 

弾幕をまともに受けたリベラはダメージが入るが、シールドエネルギーは僅かに削ったに過ぎない。

 

「これは一対一の決闘じゃないよ?ボク達もいるって事、忘れないでよね?」

 

シャルは鈴の傍からセシリアの傍に来ていた。それに加え高度な技術が要求される精密な弾幕展開を二丁のライフルでこなしたのだ。これには同じく射撃を主体としているセシリアも驚きを隠せない。

 

『銃撃士、蒼き雫・・・そうか、なるほど貴卿らは遠き混血か。長き年月によって血は薄れてはいるが、貴卿らの世代で目覚めたのだな』

 

「何をおっしゃっていますの!?」

 

「ボク達がフューリーだって言いたいのかな?今は関係ないよ!行くよ、セシリア!合わせて!」

 

「ええ!」

 

「オルゴンライフル!N・B!ダブルシュート!!」

 

「オルゴンレーザー!LB・RB!同時発射!」

 

シャルが誘導し、セシリアが追尾レーザーを発射する。リベラは回避しようとするが、シャルの豪雨のような弾幕と滝の如く流れ追尾するセシリアのレーザーがそれを許さない。

 

『ぐおおおおおおお!!』

 

リベラはシールドクローを爪として展開していたが為に盾は間に合わず、直撃する。蒼き雫は流れるよう光の雨を降らし、銃撃士は山猫の如く弾幕を爪とし、その身に食い込ませる牙として放ち続ける。

 

「どうですか!?」

 

「これで終わりな訳が!」

 

『砲塔展開。総てを飲み込め、破壊の愛されざる光よ!』

 

傷を付けられた報復なのか、リベラはオルゴンキャノンを二人に向けて放つ。その出力の大きさは政征が放っているもの以上に範囲が広い。

 

雄輔が駆るモエニアのオルゴンキャノンでは相殺できない規模だ。

 

「きゃあああああ!」

 

「うわああああああああ!」

 

二人はオルゴンキャノンに飲み込まれ、鈴と雄輔、シャナの目の前へと吹き飛ばされた。絶対防御としてオルゴンクラウドSが二人を守ったが機体は大きなダメージを受けてしまっていた。

 

「セシリア!シャルロット!!」

 

「そんな・・・!」

 

雄輔は二人に向かって叫び、シャナは信じられないといった表情を顕わにしている。セシリアとシャルはメンバーの中で最も中核を成す存在だ。

 

その二人がリベラに一撃を与え、たった一撃だけの反撃で、すぐには立ち上がれない程のダメージを受けてしまっている。

 

 

 

 

王としての意志に乗っ取られたリベラは政征の顔で表情を作った。その顔は笑みに満ちている。相手を嘲るようでも、何かを楽しんでいるようでもない。

 

高らかに笑い声を上げ始める。それは嬉しさのあまり抑えきれないといった様子だ。

 

『ははは、はははははははは―――!!ああ、そうだ・・・これだ、これが欲しかったのだ。戦いでも何でもよかった』

 

それは生きているもの全てが至極、当たり前のように感じている事。いつか終わりがあろうとも今ここに存在しているという実感。

 

『我は今――生きているッ!!』

 

そう叫んだリベラは再び笑う。生の実感、存在の味がリベラを歓喜に震わせていく。

 

王としての意志はあれど器が無かった。肉の体でも機械の体でも構わず、己の存在を、この世界を感じたかった。

 

幼子のような稚拙な願い、それを叶えるのは闘争だ。故に王権の力を持ったこの者(政征)を選んだ。

 

闘争の相手として立ち塞がったのは、別の宇宙において破滅と戦った者の血統の一族達。

 

己が作り上げた種族と交わった者、年月を経て再び交わった純血の者、魂と記憶の輪廻を経て自身が純血として目覚めた者。

 

ああ、だが何故だ。敵対しているはずなのに愛しく感じてしまう。宴にも似たこの戦いを終わらせたくない、終わってくれるなと願ってしまう。

 

我は座という別世界において一つの神格に近いもの。摂め、導き、護る者だった。戦友すら己の身に宿して。

 

 

 

 

「次は俺達か」

 

「参りましょう、ユウ=スケ!」

 

『玉座の妃、城壁の騎士・・・ああ、この刹那も愛しきものに変わっていく。我という存在を我と戦う貴卿らに刻みたい!』

 

もう一機のラフトクランズであるモエニアと、玉座機たるグランティードがそれぞれ剣と槍を構え、リベラへ突撃する。

 

舞踏と化したアリーナは誰もが息を飲んで見守っている。たった一言、声援を送ることすら許されない。

 

しかし、目が離せないほど美しく栄える。瞬きすらしたくない、この光景を焼き付けておきたいと伝えられるのならば未来永劫伝えていきたいと思える程に。

 

「オルゴン・マテリアライゼーション!!」

 

「参ります!」

 

剣と槍、全く性質の違う武器。それすらも受け返しリベラは笑いながら刃を振るう。

 

倒れたくない、そして倒れてくれるな愛しき好敵手達。我を押し返すのは貴卿らでなければならない。

 

上から目線だが王として、更には別世界の神格としてあるが故に、この在り方は変える事は出来ない。

 

リベラは嬉しすぎて笑っていたが、一人の存在を忘れていた。そう、もう一人の純血の存在を。

 

「オルゴン・シャドウ!ブラキウム・ショット!」

 

不意に突かれた一撃に直撃したリベラはその方向へと視線を向ける。それは牽制で放たれた拳の形をしたオルゴンの結晶であった。

 

「今のは、龍の爪・・・!貴卿は!?」

 

「鈴さん!」

 

「ゴメン、みんな・・・!もう平気よ!」

 

シャドウが消え、改めて自分を持ち直した鈴はその場で拳を打ち込んだ姿勢のままだが、手の甲には戦いを経て育んだ誓いの証であるキング・オブ・ハートの紋章が浮かび上がっている。

 

「ショックは大きかったけど、合点がいったわ。この機体を・・・鍛えてもらったとはいえ軽々と扱えた理由も!」

 

鈴は己の真実を受け入れている目をしていた。己自身に纏わる謎も発見できた。

 

「例え、私がフューリーであっても私は私!地球産まれの凰鈴音!!それだけよ!」

 

「鈴・・・」

 

鈴の言葉に戦っているメンバー全員が驚きを隠せなかった。先程まで戦意喪失していたはずの鈴が、自分の力で立ち上がってきたからだ。

 

 

 

 

 

 

[推奨BGM【Duet】スパロボOG アレンジ]

 

「たあああああ!」

 

スラスターを吹かしながら、鈴はオルゴナイトを爪龍の拳に纏わせ結晶化させ、リベラに拳の連打を叩き込む。

 

「ブラキウム・レイド!まだまだ!!」

 

『ぬぐう!ごあああ!』

 

「さっきのはジャブ!ここからよ!無影脚ゥ!!ハイハイハイハイ――!」

 

拳に纏ったオルゴナイトが砕け、追撃の蹴りを撃ち込む。訓練とデータ世界での経験からか蹴りの正確さが上がっており、急所が分かっているかのように連撃を止めない。

 

『真実を受け入れた事で迷いを断ち切ったか、うおおお!?』

 

「吹き飛べ!」

 

左右から繰り出される蹴りの連撃から繋げた廻し蹴りを受けたリベラは、アリーナの壁に叩きつけられた。

 

代表候補生メンバーでラフトクランズを省いた中、最大の攻撃力を有しているのが鈴だ。

 

フューリーの純血として自覚はしたが、それでも自分が生まれ歩んできた生は否定させない。

 

王が何だ?別宇宙の人間としての血統が何だ?目の前の相手は王であり神であるとでも言いたいのか?

 

だとしたら私、凰鈴音は神すらも噛み砕く龍となって牙を突き立てよう。

 

「この程度の攻撃で倒れるわけがないでしょ?さっさと立ち上がってきなさいよ!」

 

砂煙が上がり、壁に叩きつけられたリベラへ毒を吐きながら鈴は仲間の一人のもとへと向かった。

 

磔にされているラウラの近くへ行くと、鈴は青龍刀を拡張領域から取り出し、四肢の枷となっているオルゴナイトの結晶を砕いた。

 

「すまない、助かったぞ。鈴」

 

「礼は後でいいわ。その前にアイツを何とかするほうが先よ!」

 

『ふふふふふふ・・・ああ、身が震える。これが歓喜か、貴卿らに最大の感謝という感情を贈りたい。何物にも替え難い刹那という輝きを私に感じさせてくれ!』

 

王の意志、リベラの影は此処で初めて自らの望みを口にしていた。政征の肉体を使ってでも誰かに伝えたかった望み。

 

肉体を利用されている政征以外の全ての人間が王の思いを心に感じた。

 

アリーナにいる皆が感じた思いは『切望』

 

一つの存在、別世界では神として崇められた戦士の幻影。

 

仲間と呼ばれた存在がいた、愛した存在がいた、導いてくれた存在がいた、全てを失っていたが残滓として自分は生き残った。

 

力は無い、感情は忘れた、器すらも砕かれていた。まつろわぬ霊として、その王に取り込まれかけた時、王権の力に引き寄せられ、そこには自由を重んじる騎士が居た。そしてそれに追従する王の資格を持った意思だけの存在が玉座(にくたい)に座っていた。

 

王は我一人、王の資質たる者の存在は許さない。ならば影としての存在であろうが、鏡の虚像のように似て異なる者として奪おうとした。

 

だが、この世界の人間は神格に迫る程の力を有していた。

 

懐かしく、憤怒し、また悲しくも嬉しくもあった。戦士として駆け抜けた、一人として愛した者もいた、共に戦った戦友がいた。

 

一人一人が神格に至る前、共にあった存在達と重なる。唯の一度だけ剣を交えた戦友達、自分が神格に至っても肉体という器を失い、魂となっても傍らにいた者達。

 

しかし、その者達もまつろわぬ霊となってしまい、破滅に力を貸す一翼を担ってしまった。

 

取り戻したい、打ち勝ちたい、自由を与えたい。それだけを望み、自由という意思がリベラと同調し影の存在として再生したのだろう。

 

 

 

 

悲しき思いを持った存在、王に同情する者も居た。

 

それでも、政征の肉体を使って見えている目の前の騎士達は同情はしない。

 

彼女達が取り戻そうとしているのは王である自分ではなく、一介の騎士である肉体の持ち主だ。

 

「そこだ!」

 

「今です!オルゴン・スレイブ!」

 

雄輔とシャナが単発のオルゴンライフルとオルゴンスレイブを追撃するために放った。それをリベラは盾で防御する。

 

『ああ、そうだ。この感覚を久しく忘れていた。我の剣を抜かねばなるまい』

 

リベラはソードライフルを振るって土煙を払い、構えを直すと同時にソードライフルの左右を展開する。

 

それを見た雄輔は大声で動けるメンバー達に叫んだ。

 

「気をつけろ!バスカーモードが来るぞ!!」

 

バスカーモードと聞いて全員が警戒を強める。その威力は特訓や初の実戦であった副音との戦いでも全員が見たことがある。

 

『制御開放、オルゴンよ全てを断ち切る王の剣となれ』

 

刀身が形成され結晶化し王の剣が鞘走る。更に余剰エネルギーが結晶を輝かせていた。それはラフトクランズ・モエニアがたった一度だけ見せた奇跡、月すら薙ぎ払うと公言した刃と酷似していた。

 

しかし、その刀身を振り下ろさせまいと一つの影が素早くリベラへ突撃した。

 

「させないわよ!ショルダー・アーマー、パージ!ブロークン・アーム!コネクト!オルゴン・マテリアライゼーション!!」

 

『なんだと!?』

 

刀身を掴んだのは鈴が駆る爪龍だ。最大出力を必要とするブロークン・アームを装備した状態でだ。

 

「アンタなんかに私達の仲間を消させはしない!リミッター解除!ブラキウム・ブローッ!!」

 

爪龍から最大出力を現すオルゴンの奔流がアリーナを満し、鈴の意志を汲んだ龍の爪は王の剣を握り砕いた。

 

「バスカーソードを・・・砕いた!?」

 

「きゃあああああ!」

 

その反動で鈴は吹き飛び、セシリア達と同じ場所に投げ出された。驚きのあまり雄輔はその場で固まってしまっている。

 

「その隙は逃がさん!ボルテッカァァァー!」

 

『うおおおおおお!?』

 

追撃といわんばかりにレーゲンから放たれたボルテッカはリベラを捉え、シールドエネルギーを初めて大幅に削った。

 

「っ!目を覚ませ!親友!!」

 

「政征ーー!テンペスト・ランサー!!」

 

シャナが突き立てたテンペスト・ランサーを現実に戻った雄輔が連携しオルゴンソードで押し込み、オルゴンクラウドを突き抜け、機体にダメージを与えた。

 

『王たる・・・この我が一介の騎士達に敗れるなどと・・・』

 

「王の意志、自由の騎士の影よ!この世界はあなたの愛した世界では無いのです。然るべき場所に還りなさい!」

 

『そう・・・か、我は・・・座に還る・・・おお、皆が我を』

 

王の意志が政征の肉体から消失し、リベラは解除され本人はその場で倒れ込んでしまった。それをグランティードを纏ったままシャナが抱きとめる。

 

「政征!」

 

「シャナさん。大丈夫、気を失っているだけだ」

 

「そうですか、良かったです・・・」

 

シャナは安堵したように大きく息を吐き、雄輔はそれを見て笑みを浮かべた後にISガールズ達のもとへ向かった。

 

「大丈夫か?みんな」

 

「少し、無茶をし過ぎましたわ。今、景色が回って見えてます」

 

「僕も両腕がすごく痛い、アハハ・・・」

 

「また爪龍に無茶させちゃった、今は右腕の感覚が無いわ」

 

「はぁ・・はぁ・・やはり、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を発動していない状態でのボルテッカは応える」

 

機体も、それを纏っていた本人達もこの戦いでボロボロになっている。重傷ではないにしろ怪我には変わりはない。

 

シャナと雄輔も武器を使った利き腕を軽く負傷してしまっていた。

 

イベントどころではなくなってしまったために急遽、バトルに参加していた全員が医務室へと送られてしまった。

 

 

 

医務室で全員が手当てを受けたが、政征だけはベッドの上で意識を取り戻してはいない。リベラも待機状態で展開出来ない状態になっている。

 

 

「政征・・・」

 

シャナは政征の手に自分の手を重ねていた。カーテンで仕切られている為に外からは覗けない状態であるが、手を重ねる以上の事はしていない。

 

「早く目を覚ましてくださいね」

 

「シャナ、行くわよー?」

 

鈴の声に返事を返し、シャナは鈴達と共に医務室から出て行った。政征は夢を見ている時と似た状態でリベラの意識の中にいた。

 

「俺は・・・何で此処にいるんだ?」

 

「私が貴公に謝罪せねばならないからだ」

 

「リベラ?」

 

リベラは申し訳なさそうに膝をつき、騎士の礼節の取った。表情からは、ただただ申し訳ないという思いしかない。

 

「私は・・・貴公を騎士として守る事が出来なかった。あまつさえ肉体を私自身の影に乗っ取らせるという事まで」

 

悔しさと申し訳なさからリベラは初めて涙を流している。守るという誓いを立てた身であるからこそ、その誓いを果たせなかった事がリベラを追い詰めているのだろう。

 

「もはや、私は・・・」

 

「リベラ!」

 

「!!」

 

政征は珍しく大声を張り上げた。その目は澄んでおり嘘を付くことはしないと訴えかけている。

 

「お前は俺の相棒であり、力の象徴だ。お前がいなければ俺は騎士になれなかったんだよ」

 

「・・・」

 

「だからこそ、居てくれなきゃ困る。イレギュラーな事態だったが、破滅と戦う前の試練だったんだろうさ」

 

「っ・・」

 

リベラは顔を上げ、政征を見る。騎士として新たな誓いを示すために剣を差し出す。

 

「誓いを・・・再び此処に」

 

政征は誓いを受けるかのように剣を手にし構え、顔を上げ礼節の構えを取っているリベラの近くへ趣き、右肩から左肩へと一回ずつ剣の腹で軽く触れた。

 

それは忠誠の儀であり、政征は改めてリベラを騎士であり、ただ一つの剣と認めた事を意味する。

 

「俺は王じゃない、お前と同じ騎士の一人だ。忠誠と愛を捧げているのは唯一人のみ」

 

「ならば私はそれを支える騎士となろう、改めて貴公の力とならん!」

 

 

互いに誓いを交わし、政征は目覚めた時間にして3時間は経過しており、学園祭も一日目が終了間近になっている。

 

「あちゃあ・・・どやされるの覚悟しとくかな」

 

苦笑しながら待機状態になっているリベラを眺めた後、眠りについた。

 

 

 

政征が眠りにつくと同時に亡国機業、正確には元・亡国機業の幹部である三人が、IS学園の本来の学園長である轡木 十蔵と通信装置を使って接触していた。

 

「こちらに戦意はありません、話し合いの場を設けていただきたく連絡しました」

 

「ふむ、テロ行為は行わないと解釈してよろしいですかな?」

 

「はい、今の我々は戦力と呼べるものはありません。出来れば此方にいる男性操縦者との話し合いが我々の要求です」

 

スコールの言葉に嘘偽りは無い事を感じ取り、要求が比較的受け入れやすいものである事に安堵する。

 

「では、こちらの要求も飲んでいただけますかな?」

 

「そちらの要求とは?」

 

十蔵はほんの僅かに、通信装置越しでも分からない程度に含んだ笑みをした後に要件を切り出した。

 

「簡単ですよ。貴方達のISをアシュアリー・クロイツェル社に預けて欲しいのです」

 

「っ!それは・・・」

 

スコールは僅かに声のトーンが下がった。世界的に有名とは言えど、自分達の機体を息のかかっていない会社に預ける事など、相手に塩を送るようなものだ。

 

「ならば私から機体に手出ししないよう伝えておきましょう。もしも、改修などが必要な場合は貴女達を必ず立ち合わせます。無論タダというのは難しく、機体データなどは取られると思いますが」

 

「それでしたら、構いません」

 

駆け引きでは負けないと思っていたスコールだったが、十蔵の方が一枚も二枚も上手であった。伊達にIS学園の学園長をしている訳ではなく交渉の駆け引きというものを知り尽くしている。

 

「(都合良く武器を取り上げられたわね。仕方ないわ、話し合いの経費だと考えましょう)」

 

「では、よろしいですかな?こちらは受け入れる方向ですが」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

通信を切ると同時にスコールは悔しさを表情に出していた。駆け引きにおいて自分が負けるなどと思いもしなかったのだ。

 

「スコール、どうしたんだよ?」

 

スコールの様子を見に来たオータムが声をかけた。オータムの顔を見て少しは落ち着いた様子を見せる。

 

「ええ、ちょっとね」

 

「そうか、とりあえず交渉は上手くいったのか?」

 

「完璧とは言えないわ」

 

IS学園との交渉は成功したが、こちらの武装を完全に放棄した上での話し合いになるという旨を伝える。

 

それを聞いたオータムは少し感情的になるが、相手が話し合いの席を設けてくれただけでもありがたい状況というのを思い返し大人しくなった。

 

「ひとまず、IS学園へ向かいましょう。破滅の軍勢との共同戦線を張れるように」

 

「ああ」

 

二人が話している間、コードネームMこと織斑マドカが思考にふけっていた。

 

「遺伝子学的に家族には会えるが複雑だな」

 

今更、家族になどなれない。お互いに顔など知らないし、ましては自分はクローン体。顔もよく似ているため鏡合わせのように映るだろう。

 

「でも、今は関係ない。破滅の軍勢を必ず!」

 

報復という感情がマドカを支配しながらも、IS学園に向かう準備を進めようと行動を開始した。




次回は裏側。

鈴は母から

セシリアは実家に遺されていた曾祖母の日誌から

シャルロットはカルヴィナから渡された実母の遺品から

自分達が血統である真実を知る事になります。


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最終章 破滅と並行世界へ
裏側 三つの血筋


竜の爪、銃撃士、蒼き雫。三人が真実を知る



以上


裏側 それぞれの血統

 

 

あの戦いの後、すぐに私は今は連絡しか取る事の出来ないお母さんに電話で連絡した。フューリーという単語を口にした途端、電話越しからも解るくらい驚くのが伝わった。

 

「鈴、私が日本に行くわ。一週間滞在するからそこで全てを話すわね」

 

「分かったわ」

 

鈴の母である凰蘭は当日に出発し、予約したホテルにチェックインし、鈴に連絡した。すぐに行動に移す所を鈴は受け継いだのだろう。

 

「鈴、ラースホテルまで来て。そこで会いましょう」

 

「うん」

 

鈴は夜間の外出許可を取り、母親が指定したホテルへと向かった。IS学園からは電車に乗り、二つ目の駅に降り30分ほど歩いた距離にあった。

 

「鈴!」

 

「お母さん!」

 

久々の親子の対面とあって鈴の母は鈴を抱きしめた。無論、変化にも気づいており、しばらくして身体を離すと宿泊している部屋に鈴を招き入れた。

 

「鈴、聞きたい事は分かるけど、どこから聞きたいのかしら?」

 

「お父さんもお母さんも、どうしてフューリーなのか?から聞きたい」

 

鈴の真剣な顔に鈴の母は少し目を閉じると、見つめ返しながら口を開いた。

 

「先ずは、これを見せないといけないわね」

 

そう言って鈴の母は髪をかき分けた。そこには鈴にとって見覚えのある紋様が額の左右にあった。

 

「それって、政征や雄輔の顔にある模様と同じ・・・」

 

「知っているのね?鈴が考えている通り、これはフューリーである事を示す一族の模様よ。本来は生まれた時からあるものだけど」

 

髪を戻すと鈴の母は静かに語り始めた。

 

「私はね、お父さんと出会う前にステイシス・ベッドから目覚めて、地球の環境を報告する担当者だったの」

 

「ステイシス・ベッド?」

 

「分かりやすく言えば人工冬眠装置よ。目覚めたのはちょうど貴女ぐらいの年頃、16歳位ね」

 

「(だからお母さん、年齢の割に周りから若く見られてたのね)」

 

「りーんー?今、何か失礼なこと考えなかった?」

 

「う、ううん!(お母さん、変な所で鋭かったの忘れてたわ)」

 

昔から母は勘が鋭く、失礼な事を言われたりすると問い詰めてくるので余計な事は言えなかった。

 

「まぁ、いいけど。それからちょうど地球人で言えば25歳の時にお父さんと出会ったの。お父さんは軍属だったけど」

 

「どうりでお父さん、揉め事に強かった訳ね」

 

「恋愛して普通に結婚して貴女が産まれた。ここからがフューリーに関することよ」

 

話の本筋に入るという意味なのだろう。母の目は怖いくらいに強い光を目に宿している。

 

「純血なのは本当に偶然なのよ。私は純血だって自覚してたわ、お父さんが純血に気づいたのは貴女を身篭った時よ」

 

「え?」

 

「お父さんはステイシス・ベッドから目覚めた時に調整不足のままで眠ってしまって、記憶が封印されていたの。言いにくいけど子作りで記憶を取り戻したのよ」

 

「流石にそれはドン引きだわ・・・」

 

親の記憶が子作りで戻るなど、子供からすればあまり気分のいいものではない。母は笑いながら話を続ける。

 

「貴女が生まれた後、すぐに昔の知り合いに連絡して、貴女のフューリーとしての力を封印したのよ」

 

「どうして?」

 

「フューリーとして生きれば否応なしに戦いへ駆り出されるわ。そんな事はさせたくなかったの」

 

「それに人は違うものを忌避する。分かるでしょう?そのせいで、私は貴女が苦しんでいたのに私は何もできなかった」

 

母の顔から悲しみに満ちたトーンで鈴に話しかける。かつて日本で生活していた時にいじめられていた事を言っているのだろう。

 

子供の問題は子供一人で解決すべきレベルを越えた場合、親が出るものだが、父親よりも母親の意見が通ることが多い。

 

だが、鈴の家庭は中華料理店、しかも人気店であった為に子供の問題に手が伸びなかったのが現実だ。

 

「その事はもう大丈夫よ」

 

「そう言ってくれると気が楽になるわ。それで貴女のフューリーとしての力は結果的に、再び訪れたこの日本で目覚めてしまった」

 

「うん、自覚してる」

 

「だから、最後の封印を解いてあげる。鈴」

 

鈴の母は鈴の額に手をかざし、何かをブツブツと唱えるように言葉を紡いでいる。そしてその後。

 

『鳳凰は鈴の音と共に飛び立つ』

 

暗示に近い封印であったのか、ただの解除キーかは分からないが、母から発せられた言葉を聞いた瞬間、自分の中で何かが弾け飛んだ感覚を味わった。

 

「鈴、これで貴女に託せるものは全て託したわ。フューリーなのを黙っていて本当にごめんなさい」

 

「いいの、フューリーだって事にショックは受けたけど、そのおかげでサイトロンと爪龍が使えるし、逆に感謝してる」

 

「それならフューリーとしての名前も教えておくわね?フューリーの名はファン=リン・ウィルトスよ」

 

「ファン=リン・ウィルトス、それが私のフューリーとしての名前・・・」

 

噛み締めるのようにフューリーとしての名前を呟く。どちらも自分自身には変わりはない、自分がフューリーの純血であると改めて聞かされてから覚悟していた。

 

「お母さん」

 

「なに?」

 

「私の顔にもフューリーの紋様を付けて?出来ればお父さんのも含めて」

 

愛娘からの言葉に鈴の母は驚く。顔の模様は覚悟を決めた戦士の証でもある。それを刻んでくれと自分から進言してきたのだから。

 

「本当に良いのね?」

 

「うん、お願い。地球人としての凰鈴音の名前は捨てないけど、しばらく伏せておきたいから」

 

「そう、分かったわ」

 

鈴の母が近づき、鈴の頬に触れると額と頬に花弁のようで鳥の爪のような模様が浮かび上がった。

 

それが、ファン=リン・ウィルトスを名乗る女性フューリーの誕生であった。

 

 

 

 

 

鈴が母と出会っている間、セシリアの元に小包が届いていた。差出人はチェルシーで手紙と鍵のついた古い日記帳、それを開けるための鍵と一枚の古い写真が同封されていた。

 

「一体、これは?」

 

日記の鍵を開ける前にチェルシーからの手紙を読もうと紙を開く。謝罪からの文面のようだ。

 

『お嬢様、突然の荷物をお許し下さい。同封した日記らしきものは屋敷の掃除をしていた時に偶然見つけた物です。写真の方を見てしまい大急ぎで送りました。恐らくですが、お嬢様が最も知りたい事が同封した日記に書かれているかと思います』

 

手紙を読み終えると古い写真を手にして見る。そこには二十代半ばの男性と長い髪を持ち貴族が着るようなドレスを身に纏った女性が写っていた。

 

「これは?曾祖母様ですの!?それにこの男性、政征さんや雄輔さんの顔にある紋様と似ている物が」

 

写真を見た後、母と同じような顔立ちに驚きつつ日記の鍵を開ける。中身はかなり分厚く、人生の中で重大な出来事を書き留めてきたかのような厚さだ。

 

『あの方と出会い、私は恋した。でも私は貴族の身、許されざる恋だ』

 

読み進めていくうちに当時の婚姻が厳しかった事などの情景が浮かんでくる。それだけ、自分の曾祖母は自分で選んだ伴侶に本気だったということだ。

 

『私と共に逃げて欲しいと頼んだ。でも、あの方は騎士として君を迎えに来ると言って旅に出てしまわれた』

 

『数年後、あの方が戻ってきた。しかし、オルコット家の仕来りでわたくしの両親が決めた婚約者ともう一人婚約者が現れた場合、決闘にて決めねばならない。これは騎士の武家であるためだから』

 

「曾祖母様・・・」

 

読み込んでいくうちに自分がその場に立っているような錯覚に陥ってくる。僅かにブルー・ティアーズが光ったのにセシリアは気づかなかった。

 

『決闘は一進一退だった。でも、両親が連れてきた婚約者の一撃をあの方は迷いなく腕で受け、急所に一撃を加え倒してしまいました』

 

『両親は驚きを隠さず、あの方を仕方なさげに彼を受け入れた。無理もない、彼が倒したのは資産家の御子息だったのだから』

 

次々に読んでいき、曾祖母が幸せな結婚をしながらも葛藤していた事も書かれている。

 

結婚後、彼は本当に支えてくれた。娘を出産した時にも「性別など関係ない、私達の大切な子供だろう?」と。まるで本物の騎士のようだ。

 

子供が出来てから様子が変わったのだ。どうやら曾祖母に自分は地球の人間ではないこと、フューリーである事を明かしていたようだ。

 

『私は信じられなかった。心を惹かれたあの方が別の種族だという事にわたくしと子供に深い愛情を注いでくれたあの人が』

 

『夫婦関係を解消するつもりで言ったのではないと言ってはくれましたが、不安は拭えません』

 

『彼曰く、私の代で純血としては絶えるかもしれない。しかし、子孫の中で隔世によって純血に近しくなる者も現るだろうと』

 

ここまで読んでセシリアは王の意志となっていたリベラの言葉を思い出す。自分達の世代で目覚めたのだと

 

「目覚める・・・という事はわたくしの家系はフューリーの血を引いているということなのでしょうか?」

 

混血であっても、自分の家系はフューリーの血を引いている事なのだろう。セシリア自身も薄々と疑問に思っていた。

 

臨海学校時、ブルー・ティアーズにオルゴンエクストラクターを束によって搭載された時、違和感なく何故、受け入れられたのだろうかと。

 

それがこの日記によって明らかになった。母方の曾祖母が、フューリーの騎士と結ばれていた事実を知る事ができたのだ。

 

「曾祖母様、曽祖父様・・・感謝致しますわ。わたくしに力を与えて下さった事に」

 

最後のページには子孫へ当てたメッセージらしき言葉が書かれていた。

 

『オルコット家の未来の子孫へ。目覚めた子孫に【ナトゥーラ】の名を与えたい。わたくしと夫、そして会う事は叶わぬ子孫との繋がりとして』

 

「フューリーとして名乗るなら、セシ=リア・ナトゥーラという事になるのでしょうね」

 

セシリアは嬉しげな笑みを浮かべながら日記を閉じると、かつて自分の思想に間違いはあったにせよ、自分の家系は誇り高い貴族の家系であった事を誇りに思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれが思いを馳せている頃、シャルロットは義姉と義兄であるカルヴィナとアル=ヴァンの家にいた。

 

そこへ実家であったデュノア社にいた社員の一人から、カルヴィナ宛に小包が届けられたのだ。

 

「シャル、貴女宛に小包が来てるわよ?」

 

「ボクに?誰からだろ・・・あ、アガットさんから!?」

 

それはカルヴィナと出会う前、デュノア社にいた時にシャルロットがお世話になった年配の女性であった。

 

既婚者で女尊男卑の思想にも染まってない人物であり。また、シャルロットの実母が亡くなる直前まで親しくしていた人物でもある。

 

小包を開けるとそこには一冊の日記帳らしきものが入っていた。

 

「日記帳みたいだね、お母さんの筆跡だって間違いない事を証明するために、アガットさんってば筆跡鑑定までしてくれたんだ」

 

添えられていた手紙を見てシャルロットは笑みを浮かべる。アガットは研究員であり、科学捜査官でもあるため鑑定ができたのだ。

 

『まだ見ぬ娘、シャルロットへ』という件から始まり、日記を読み進めていく。

 

日記の日付は自分を妊娠し、三ヶ月経ってから始まっているようだ。

 

『私は恐らく、貴女が産まれる頃には私はこの世にいない』

 

『この日記に書き綴った事は全て真実、これが手元に届く時、貴女が受け止められるほど強くなっていると信じて書きます』

 

日記を読み進めていくうちにシャルロットは驚愕の事実に打ちのめされ、義姉と義兄であるカルヴィナとアル=ヴァンを呼ぶことにした。

 

「カルヴィナ義姉さん、アル=ヴァン義兄さん。少し良いかな?」

 

「あら、どうしたの?シャル、追い詰めた顔して」

 

「ああ、何があった?シャル」

 

「うん、これを読んで欲しいんだ」

 

シャルロットは手にしていた実母の日記を二人の前に差し出す。それを見て更に二人は首を傾げる。

 

「これ、産んでくれた本当のお母さんの日記なんだけど・・・途中まで読んでたら一人じゃ全部読めなくなっちゃって」

 

「よほどの事情があるようね、三人で読んでみましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

カルヴィナとアル=ヴァンはテーブルに置いたまま日記のページを開いていく。シャルロットが読んだ所まで読み進め、二人の表情が真剣になっていく。

 

『私の両親はフューリーという別宇宙の種族、隠していてごめんなさい。でも、私は地球で育った影響と病弱だったせいかフューリーとしての力を覚醒しなかった』

 

『両親から聞いていた話によれば、世代によっては覚醒する者としない者がいるそうで、私が覚醒できなかったのは病弱が原因なのだろう』

 

『もしかしたら、貴女が覚醒する可能性は十分にありえる。その時に傍にいられないのが辛い』

 

カルヴィナとアル=ヴァンの表情にも驚きが走る。まさか、自分の義妹がフューリーと関係があったのだと知らなかったのだから。

 

『過ちを犯してしまった子として、蔑まされないだろうか?女尊男卑に近づいている世の中で』

 

『混血となったフューリーは純血よりも少しだけ劣る。出来る事ならサイトロンに関わらず、覚醒はせずに幸せに暮らして欲しい』

 

「シャルの母君が純血のフューリーだったとはな。よもや、サイトロンの波動を浴び続けた事で動かせるようになったと思っていたが」

 

「驚きすぎて言葉も出ないわ。確かにこれは一人で読むには辛すぎる内容ね」

 

「お母さん・・・」

 

それぞれが驚きを隠せず、会話もないまま日記を読み進めていく。最後のページの日付はシャルロットの誕生日で終わっている。

 

『シャルロット、女の子だと判明して名付けようと決めていた名前。もしも、フューリーとして覚醒し生きると決めたのならば』

 

『シャル=ロット・アストルム、それがフューリーとしての名前です。貴女の幸せを願っているわ』

 

最後のページの裏側に走り書きされたような言葉が残っていた。

 

『シャルロットを守ってくれている方へ。もしも、この日記がその方に届いているならお礼を言わせてください。ありがとうございます』

 

日記を読み終えると黙祷するようにアル=ヴァンは目を閉じ、カルヴィナは静かに日記を閉じていた。

 

「ボクは・・・・フューリーの」

 

「シャル」

 

カルヴィナの声にシャルロットは頭を上げる。カルヴィナの表情はいつもと変わらない、厳しさを表に出した顔だ。

 

「一つだけ聞くわ、シャル。貴女は自分が別の種族だと思ってる?」

 

「え?」

 

「答えなさい」

 

「ううん、ボクは地球人だよ。フューリーの血を引いていてもね」

 

その言葉を聞いたカルヴィナはため息を一つ吐くと笑みを見せた。それは家族に接するときにだけ見せる微笑みだ。

 

「もし、自分の事を悪く言うようならひっぱたいてた所だけど。その言葉を聞いて安心したわ」

 

「ふぇ?」

 

「だって、地球人でもフューリーでも一緒になれるって目の前で証明してあるのよ」

 

「あっ!」

 

カルヴィナの言葉にシャルロットは思わず声を上げる。そうだ、二人は種族の壁を越えて愛し合っている。

 

自分も愛人の子とはいえど、二つの種族の間に生まれ母から望んで生まれた子供なのだと。

 

「カリンの言う通りだ。フューリーとしての名と地球人としての名、二つの名を誇りに思うといい。君は母君が望んで産んだ命なのだからな」

 

「カルヴィナ義姉さん・・・アル=ヴァン義兄さん」

 

カルヴィナが席を立ちシャルロットを抱きしめ、アル=ヴァンは頭を撫でた。二人からの愛情にシャルロットは涙を目に溢れさせている。

 

「本当に泣き虫なんだから、全く」

 

「ふっ、そうだな」

 

「うう・・・うあああああああああん!!」

 

シャルロットは大声でカルヴィナの胸の中で泣いた。母に望んで生まれた事、新しい家族となった二人も母と変わらぬ愛情を向けてくれる事に嬉しさと感謝を伝えてくても、それが涙となって伝えきれない。

 

母が残してくれた名前を胸に刻み、今だけは思いっきり泣きたいとシャルロットは嬉し涙を泣く事で流し続けた。

 

 

 

 

 

リベラの影に告げられた言葉が真実と知った三人はその日の翌日にIS学園へと戻り、放課後を利用して三人だけで集まった。

 

「やっぱり、本当の事だったわ。アレは」

 

「わたくしも鈴さんと同じですわ」

 

「ボクも」

 

三人は飲み物を飲みながら自分達がフューリーの血筋であったことを隠さずに話した。聞いた所で三人は驚きもなにもしない。

 

真実を知って吐き出した事でどこかスッキリしている様子だ。

 

「改めてフューリーとして名乗るわ。凰鈴音改め、ファン=リン・ウィルトスよ」

 

「セシリア・オルコット改め、セシ=リア・ナトゥーラですわ」

 

「最後はボクだね。シャル=ロット・アストルムだよ」

 

地球人でありながらフューリーの血を引く三人は改めて名を名乗った。フューリーとしての名前を。

 

それはデータ世界で忠告された破滅と戦う戦士としての名前として名乗ったのだ。

 

「ところでさ」

 

「はい?」

 

「何?鈴」

 

鈴が急に口を開いて二人は首をかしげた。

 

「私達、反省文を書けって絶対に言われるわよ」

 

「あっ・・・!」

 

「あ・・」

 

三人は怒られる覚悟でフー=ルーのもとへ行ったが、鈴は母から連絡が来ており、シャルロットもカルヴィナ達から連絡が入っていた。セシリアに関しては学園の中庭に居た為に注意だけで済んだ。

 

「それじゃ、また明日ね」

 

「ええ、訓練時に」

 

「うん、またね」

 

三人はそれぞれ、部屋へと帰っていく。三人で会話していた時、ベルゼルート・リヴァイヴとブルー・ティアーズがコアを通じてデータ交換を行っていたのを誰も知らない。




判明しただけで全てが変わるという訳ではないです。

オルゴンエクストラクターを扱えるという謎が三人の中で解けただけに過ぎません。

フューリー名は二週目でも使う可能性があります。


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言葉って時として相手を傷つけるよね

ブルー・ティアーズの限界とリヴァイヴとの繋がり。

亡国メンバーの処遇。

教師二人の戦いの前兆。

以上


学園祭終了後、いつも通りに訓練しているメンバーは今回の反省点を振り返っていた。そんな中、シャルロットがセシリアに声をかけた。

 

「ねえ、セシリア。不思議なんだけどセシリアの機体とボクの機体が反応し合ってる気がするんだ」

 

「シャルさんも感じていましたか。ええ、確かに反応し合っている時がありますわ。ですが」

 

「どうしたの?」

 

シャルロットが疑問をぶつけると全員に聞こえるように、それでいて気まずそうにセシリアは言葉を発した。

 

「ブルー・ティアーズが鈍くなったように感じるのです。今までそんな事はなかったのですけれど」

 

「もしかしたら、機体がセシリアについて行けなくなってきているのではないのか?」

 

ラウラの言葉にセシリアは驚くが、全員がありうる事だと肯定している。

 

「機体が悪い訳じゃないのよ。セシリアの成長に追いつけなくなって来てるという事になるわ、嬉しい誤算だけど」

 

「ああ、このままではいずれ、ブルー・ティアーズ本体が壊れてしまう可能性がある」

 

鈴はセシリアが成長した事で機体がついていけなくなった事を、政征は機体の損壊の危険性を口にした。

 

「一体、どうすれば・・・」

 

「フー=ルー先生か篠ノ之博士に相談してみましょう。意見をくれるはずです」

 

「シャナさんの言う通り、相談してみたほうがいいな」

 

意見交換と対策している中、校内放送が鳴り響く。

 

「各国代表候補生の皆さん。並びに赤野政征君、青葉雄輔君。シャナ=ミア・フューラさん至急、会議室まで来て下さい」

 

校内放送が終わり、自分達が呼ばれたことに疑問を持つが全員、機体を待機状態にし急いで会議室へと向かった。

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

全員が会議室に入るとそこには見知らぬ女性が三人、織斑先生に山田先生、フー=ルー先生の三人と、生徒会長である更識楯無、学園長である轡木十蔵が揃っていた。

 

学園の重要人物が勢ぞろいするという事はかなり重要な事を話すのだろうと全員が思った。

 

「全員揃いましたね。それでは重要会議を始めます。それと此処にいる三名は元・亡国機業の方々です、最も今は9割を壊滅させられたそうですが」

 

亡国機業と聞いて警戒を強めるがそれを十蔵が手で制した。会議を始める前の無用な争いは避けたいのだろう。

 

「先ずはこの映像を観てください」

 

会議室が暗くなり、映像が映し出される。そこには破滅の軍勢の尖兵であるミーレスが扱うアンゲルス、ベルグランデ、スカルプルムといった機体が建物、人間すべてを破壊し蹂躙している模様が映し出されていた。

 

修繕不可能なほどに破壊された建物。人間に関しては最も酷いもので首から先が無い物や下半身と上半身が別れてしまっているもの、悲鳴を上げて殺されていく場面が鮮明に残っていた。

 

映像を観ていたシャナはショックを起こし、セシリアやシャルロット、鈴などは嘔吐しないまでも口元を押さえている。

 

「ん?映像を一時停止をして拡大できないか?」

 

千冬の言葉に映像を一時停止し、拡大する。何かを見つけたように指示をする。

 

「もう少し、右だ。やはり・・・!!」

 

そこに映っていたのは見覚えのある三人。カロ=ラン、一夏、箒の姿であった。破壊活動の中に居るとは思っていなかったらしく千冬は唇を噛み締めた。

 

映像が終わり、会議室が明るくなる。それぞれ険しい顔をしており言葉を待った。

 

「先ほどの映像は亡国機業の方から提供されたものです。スコールさん」

 

「ええ。映像を観てもらって分かる通り、私達はこの軍勢・・・破滅の軍勢に組織をほとんどを壊滅させられた」

 

「破滅の軍勢・・・」

 

「(政征君が言っていたのはこの事ね、これが破滅の前触れ。急いで調査しないと)」

 

「ここからは私が説明する。私が戦ったが勝てなかった。それだけ、私が弱いという事でもあるが、相手が強すぎるのだ」

 

「悔しいけどな、私達じゃ指揮官どころか尖兵にすら勝てねえんだよ!」

 

盾無は調査を急ぐ事を考え、Mが説明しオータムが声を荒げるが、重蔵に再び制される。

 

「私が意見を話そう。今、仮面を着けているが、この仮面は話が終わった後に取るので了承してもらいたい。私達は男性操縦者の二人と同盟を結びたいんだ」

 

「俺達と同盟?」

 

「どういう事ですか?それは」

 

政征と雄輔は一歩前に出て、亡国機業の三人に視線を合わせる。リーダーであるスコールが目を合わせ口を開いた。

 

「詳しく言えば破滅の軍勢との戦いに私達も参加させて欲しいのと、アシュアリー・クロイツェル社に私達を紹介して欲しいって事」

 

亡国機業の三人は本気だ。そうでなければ此処まで男性操縦者の二人に会いに来るメリットはない。しかし、彼らを受け入れて良いものなのかは自分達だけで決められるようなものではない。

 

「そのお話、私にも聞かせてくれますこと?」

 

スコールの提案にフー=ルーが仲介役として参加した。一介の高校生に決められる案件ではないため、それに気づき名乗りを上げたのだ。

 

「学園長、映像通信を。この時間帯ならば会長もいらっしゃるはずですわ」

 

「ふむ、分かりました。織斑先生、山田先生と一緒に準備を」

 

「分かりました」

 

「は、はい!」

 

大型スクリーンを用意し映像通信を繋げ、そこには会長であるセルダと社長の男性が映った。

 

「お久しぶりですね、セルダ」

 

「十蔵かね?そうだな、久しいな」

 

「セルダ君、再会の挨拶はそこまでにしておいてくれ。どうやら重要な事のようだからな」

 

「失礼しました」

 

社長の隣に立ち、セルダは姿勢を正した。社長の男性は十蔵に視線を合わせ話し合いの雰囲気となる。

 

「では、本題に入ります。此処にいる元・亡国機業の三名をそちらで預かって欲しいのです」

 

「いきなり直球だな。だが、会社である以上、こちらとしても無償で要件を飲む訳にはいかないのだ」

 

権力を持つ上流者同士の話し合いに学生達は緊張を隠せない。フー=ルー以外の二人の教師にも言えることであった。

 

ただ話し合っているだけに見えるが、その実、二人は画面越しに言葉というカードを切りながら見えない戦いを繰り広げているのだから。

 

「つまり、何かしらの利益がない限り三人を迎え入れることは出来ないと?」

 

「そういう事になる。先程も言ったが私達は慈善団体ではない、一つの会社なのだ。どうしても利益は必要になる」

 

「ふむ・・・」

 

十蔵はスコールに一瞬だけ目配せし、スコールは目を閉じる事で肯定の意思を示した、無論、オータムとMも同じである。

 

それを合図と見た十蔵はスペードのキングに値するカードを切った。そのカードで天秤が傾く

 

「それならば、こちらの三名が持つ専用機をそちらに預けるというのはいかがでしょうか?」

 

「む・・・」

 

「こちらの条件は預ける三機の専用機の改修の際に操縦者を立ち会わせてもらいたいのです。監視をつけて貰っても構いません」

 

この言葉に社長は長考した。この時世において専用機を預けるなど利益放棄にも等しいからだ。更には立会の際に監視をつけても良いと言っている。

 

「お言葉だが、その専用機の操縦者の皆さんは納得しているのかね?」

 

様子見を兼ねて社長は牽制をかけ、揺さぶる。キングを切られたからには弱いカードといえど出すしかない。

 

「では、ご本人に聞いてみましょうか」

 

十蔵はスコールを呼ぶと社長と対面できる位置に待機させ、マイクを渡した。

 

「亡国機業代表、スコール・ミューゼルです。以後、お見知りおきを」

 

「ご丁寧な挨拶、心よりお受けする。先程の言葉通り、君達は学園長の提案に納得しているのかね?」

 

「もちろん、納得していますわ。亡国機業と名乗っていても最早、弱体化が著しいのです。我々とてこれ以上の被害は抑えたいですので」

 

「そうですか。では、専用機をこちらでお預かりして良いと?」

 

スコールは男ならば見惚れるほど妖艶な笑みを見せると答えを口にした。

 

「無論です。改修の際にだけ立ち合わせて頂ければそれで構いません。それ以上の事は望みませんわ」

 

スコールはマイクを置くと座っていた席に戻り、再び十蔵がマイクを持ち社長と対面する。

 

「ご納得いただけましたかな?こちらの要件は先程も申した通り、亡国機業の三名を預かって欲しいという事と改修時に立ち合わせて欲しいという事だけです」

 

「・・・・」

 

「幾ら国家レベルで守られている学園とは言えど、学び舎に過ぎません。世界的大企業に不利益な条件など出すことはできませんので」

 

「それに、この条件ならば、第三世代レベルの量産機を作り出すことも可能になるのではありませんかな?」

 

此方に切り札たるジョーカーはない。利益というキングを使い、相手が下手に回ってくるという型破りな切り札を持っていた。

 

更には第三世代での量産機を開発できる可能性を示唆されてしまった。これには素直に舌を巻くしかない。第三世代での量産機が開発できれば爆発的に利益は上がるだろう。

 

同時に設計と基礎理論を提唱した開発者である篠ノ之束も会社にいる。兵器としてではなく、誰もが宇宙へ気兼ね無く行くためのスーツとしての移行計画も提出されているのだ。

 

仮にISが無くなったとしても、宇宙計画や主力である農業など生活分野においても利益を出している。工学分野において彼女はISに代わる物を開発してしまうだろう。

 

社長はしばらく考え、この条件を飲む事にした。テストパイロットや実戦を経験している人材は希少である為だ。

 

「分かりました。亡国機業の三名をこちらでお預かりしましょう。入社試験は受けてもらいますが」

 

「ありがとうございます」

 

「では、入社試験の詳細は学園へ後日送ります。失礼」

 

 

 

 

映像通信が切れ、再び十蔵は全員が見える位置に座り直し、亡国機業のメンバーに向き直った。

 

「聞いての通りです。それまでは我が学園で安全を確保しますので、それとMさんと言いましたか?そろそろ仮面を外して欲しいのですが」

 

「分かりました」

 

Mが仮面を外す。その素顔を見た瞬間、一番驚いたのは千冬だった。なぜならその素顔は幼さを残してはいるが、そのまま千冬自身の顔だったからだ。

 

「織斑・・・先生の顔?」

 

「確かに私達と同じくらいの年齢みたいだが、教官に瓜二つだ」

 

シャナは驚きを隠せていないが、千冬と同じ位に驚いていたのはラウラだ。あまりにも似ている、瓜二つという表現が合っているかもしれない。

 

「そうだろうな。私はそこにいる織斑千冬のクローンで、テロメアなどの問題も解決している唯一の成功体だ。肉体年齢も加齢速度もお前たちと変わらない」

 

「ク、クローンだと!?」

 

「織斑先生、落ち着いて下さい。それでは貴女の本名は?」

 

フー=ルーの質問にMは淡々と答えた。

 

「織斑マドカ、だ」

 

M改め織斑マドカは自分の本名を名乗った。僅かな希望が千冬の中で芽生え、近づこうとしたが、フー=ルーがそれを制した。

 

「今はまだ家族と呼ぶには難しいでしょう。ゆっくりと時間をかけて歩み寄るべきではなくて?」

 

「フー=ルー教諭・・・確かにその通りだな」

 

同僚であり友人でもあるこの女性には、つくづく助けられている。自分自身、友人と呼べる人間は束くらいしかいない。

 

しかし、このフー=ルー・ムー・ルーという女性は不器用な自分に付き添い、破滅に自分が飲まれそうになった時には、どこで学んだのかカウンセリングによって持ち直させてくれた。

 

更には自分の行動が間違っているなら指摘し、自分に出来る事を再認識させてくれる貴重な存在でもある。

 

「フー=ルー教諭、後で内密な話があるのだが・・いいか?」

 

「ええ、この会議が終わった後でよろしければ」

 

「では、織斑マドカさんはIS学園の転入生として入学してもらいます。いいですね?」

 

「はい」

 

 

 

 

二人の会話とマドカの件が終了し、スコールとオータムに関して話し合うことになった。IS学園で預かるにしても、ただ身柄を置く訳には行かず、何かしらの業務に付かせなければならない。

 

「では、お二人の経験を活かし、実戦訓練の非常講師として雇い入れます」

 

「え?」

 

「良いのか?仮にも私達はテロリストだったんだぜ?」

 

「重々、承知の上です。私からのお願いですが、貴女達の実戦経験を生徒達に伝えて欲しいのです。自分の身を守れるように」

 

十蔵は学園に欠けている物を理解していた。それは己の身を己で守る為の術である。ISを学ぶ上で機体に関する知識や戦術などは重要視されている。

 

だが、現状ではスポーツという隠れ蓑によって、兵器という認識を逸らされてしまっている事を憂いていた。

 

フー=ルーが一時的に改善したが、それでもISを過信する生徒や教員が多い。

 

テロリストだったとはいえ、戦場というスポーツの概念がない世界で戦って来た彼女達の教えが必要なのだと十蔵は二人に訴えた。

 

「分かりました、お力になりましょう。正直、若い命を戦場に送り出すみたいで嫌ですが」

 

「私も人に教えられるかどうか、わからねえしな」

 

「心構えを教えるだけでも人は変わるものですよ。これから教員としてお願いしますね?スコール先生、オータム先生」

 

「ええ、寛大な処遇に感謝します」

 

「その、先生ってのは・・・やめてくれ、くすぐったくってしょうがねえよ」

 

照れ隠しなのか、オータムは顔を逸らしてしまった。その様子に雰囲気が少しだけ柔らかくなるが、すぐさまスコールが立ち上がり政征達に頭を下げた。

 

「改めてお願いするわ。それと破滅の軍勢と戦う時には私達も参加させて欲しい」

 

それを見たオータムも立ち上がって頭を下げた。

 

「頼む!この通りだ!」

 

「二人共、顔を上げて下さい」

 

政征の言葉に二人は顔上げると、その隣にシャナが寄り添い、雄輔も隣に立ち代表候補生達も横一列に並んでいた。

 

「俺達は代表候補生ではありますが、学生であり実戦経験は皆無に近い。こちらからお願いするのが筋でしょう」

 

そういって政征は騎士の礼節をする。シャナは皇女として見守っており、雄輔やセシリアを始めとする代表候補生達も習って礼節をした。

 

二人の騎士と各国の代表候補生達に騎士の礼節を見せられ、オータムとスコールは驚きを隠せない。

 

自分達よりも遥かに年下である者達が礼を尽くし、逆に鍛えて欲しいと頼まれてしまったのだから。

 

「現代にも、まだ騎士は居たのね」

 

「こんなことされちゃ、断れねえよ」

 

二人は手を差し出し、握手を代表として政征と雄輔に求めた。それは敵対する意思にない事を示すためのものだ。

 

礼節をやめ、立ち上がると二人はその手を握り返した。

 

「よろしくお願いしますね?スコール先生」

 

「実戦訓練、お手柔らかにお願いしたい。オータム先生」

 

「ふふ、ええ。現代の騎士さん」

 

「先生ってのは止めろっての!」

 

「それでは、重要会議を終わります」

 

会議は無事に終了し、政征と雄輔はセシリアとシャナを伴って簪の下へと向かい、鈴、シャル、ラウラは訓練と機体状況を把握するためアリーナへと向かった。

 

亡国機業メンバーの三人は自分のISを学園長の十蔵に渡し、真耶と共に職員室へと向かっていった。

 

 

 

「それで、内密なお話とはなんでしょうか?織斑先生」

 

「ああ、ISで私と戦って欲しい」

 

フー=ルーは少しだけ驚いた表情を見せた後、機体に関しての現実的な意見を述べた。

 

「それは構いませんが、機体はどうするのです?学園にある量産機では貴女の動きに耐えられませんわ」

 

「承知している。だが、どうしても戦いたくなってな・・・勘を取り戻す意味でも」

 

フー=ルーはファウネアから発せられているサイトロンによって勘を取り戻したい理由に気づいた。

 

「もしや、弟さんを止めたいと思っているのではなくて?」

 

「っ!?」

 

自分の思考を見抜かれ、千冬は驚愕する。サイトロンに全くの縁のない者からすれば、予知能力でも使ったのかと思うだろう。

 

「辛い事をあえて口にしますが、彼はもう、こちら側に戻ってきませんわ。いえ、戻らないでしょうね」

 

「何故だ!?私が一夏を止めなければならないのに!!」

 

「気持ちは分かりますわ。ですが、彼はもう破滅の軍勢の一員、何かしらの処置や因子を埋め込まれていると考えるべきなのです」

 

「何が気持ちは分かる、だ!人を愛した経験が無い奴が知ったような事を言うな!!」

 

千冬の言葉が突き刺さり、フー=ルー自身の逆鱗に触れたのか、もしくは譲れない感情を揺さぶられたのか、冷静な表情を作りながら彼女の内側では怒りがこみ上げてきていた。

 

フー=ルーは怒れば怒るほど冷静になるタイプであり、千冬は彼女の感情のスイッチを押してしまったのだろう。

 

「・・・良いでしょう。友人ではなく、一人の騎士として貴女の挑戦を受けます。勝負は二週間後、それまでに機体を用意させますわ」

 

フー=ルーが去る前に千冬の足元へ投げつけられたのは白色の手袋だ。その意味を悟った千冬は手袋を拾い上げていた。

 

それを見届けたフー=ルーは背を向けて去っていった。もう後には退けない、二人の女傑が決闘を承諾してしまったのだから。

 

フー=ルーはアシュアリー・クロイツェル社にいる束に連絡を取り、今から二週間で機体を用意しろという無茶ぶりを珍しく要求した。

 

連絡を受けた束は理由を問いただすとフー=ルーはしばらく無言になり、聞き出せた後に承諾した。

 

 

 

 

「まさか、ちーちゃんとフーちゃんが決闘だなんて・・・連絡が来た時フーちゃん、本気で怒ってた」

 

束は千冬の愛機であった暮桜に代わる機体の設計に取り掛かりながらも、フー=ルーに対する考えを止めない。

 

「コアはIS学園から提供されてたのを使うとして。ちーちゃんの新しい機体はこれしか無いかな。VR-02・・・カルちゃんがコッソリ渡してくれたデータからISにする設計図は出来たけど、武装面と追従性が問題だね」

 

キーボードを叩きながらも問題部分を修正しては書き直していく。二時間後には全てが終わり、開発技術課へ組み立ての順番を表示したデータと共に設計図を送った。

 

「武装はオルゴンの結晶化を参考に実体剣に出来るようにしたし、機動性に重点を置いた剣撃戦闘タイプ。中距離も対応出来るようにしたしOKだね!さっすが私だよ!」

 

約束の二週間で間に合わせる事が出来るのは束以外には無理な話だ。しかし、今の彼女は自分の友人が決闘しようとしている事に心を痛めている。

 

「変わっていく事を受け入れなきゃ進歩はない、いつまでもアリスではいられないんだよね。セルダさんから言われた事が今になって効いてきてるなぁ」

 

置いて行かれているアリスとしての自分を現実で生きている自分が、抱きしめるイメージを持ちながら、束は思考を巡らせ目を閉じた。




はい、ここで千冬とフー=ルーの決闘という名のケンカです。

親しくなったからこそ争ってしまう。

一方は家族を助けたいという考え、一方は現実的な問題を直視してのこと。

友人同士や親友であっても必ずぶつかる時が必ずあります。

それが今回です。


※追伸

決闘を書いた後はデートか、皆で遊びに行くのを書こうと思います。

簪の機体に白雪の女神の加護が宿ります。


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どんなに仲が良くても許せない事ってあるよね

ブルー・ティアーズが過負荷状態

簪の機体のプログラムにシュンパティア的なフラグ

千冬とフー=ルーのぶつかり合い


以上


フー=ルーと千冬が決闘を承諾し合っている同時刻、政征と雄輔はセシリアと共に簪のいる整備室へと足を運んでいた。

 

「あ、政征。それに雄輔も!あれ?イギリス代表のセシリアさんまで」

 

「こうして会話するのは初めてですわね。更識簪さん」

 

「うん、そうだね。私の事は簪って呼んでいいよ」

 

「では、わたくしの事もセシリアとお呼び下さい」

 

簡単な会話を済ませ、簪は政征の方へと向き直る。

 

「簪、機体の方はどうだい?」

 

政征が重要な話題に触れると簪は複雑そうな顔で言葉を紡いだ。

 

「機体自身に問題は無いんだけど、プログラムに問題があるの。マルチロックオンプログラムが組めなくて」

 

「うーん、マルチロックオンか。難しいな」

 

「ああ、プログラムに関しては基本的な知識しか無いし」

 

行き詰まっていた所、政征の携帯電話から着信音が鳴り、画面を見るとそこにはウサギのマークが表示されていた、本体を手にし取り出すと操作して着信を受けた。

 

「(束さん?タイミング良いな)はい、もしもし?」

 

「あ、まーくん?束さんだよ!」

 

受話器からは陽気な束の声が響く。どうやら何かしらの要件があるようだ。政征は一人になれるよう部屋から出ると廊下で会話を続けた。

 

「実はね、武装によってロックオンが変わるプログラムを開発したんだ!だけど、テストしてないから、まーくんか、ゆーくんに頼もうかと思って」

 

「束さん、俺達のラフトクランズはテスト機じゃ・・・!待てよ?束さん、そのプログラムってマルチロックオンって出来ます?」

 

「通常時はマルチロックオンだよ。接近戦とかになったら距離を算出してロックオンを切り替えるんだ」

 

政征は束に交渉しようと考えた。簪の機体に組む込めれば打鉄弐式は形になるのではないかと。

 

「束さん。俺達が使うよりも、それを日本の代表候補生の子に譲ってあげられませんか?」

 

「え?あの子に?」

 

「条件としてプログラムテストのレポートをメールで提出させますから」

 

「なら良いよ。流石にタダではあげられないからね」

 

「ありがとうございます。それとですね」

 

「ん?何かな?」

 

電話をしてきたこの機会を逃さず、政征は伝えられる事を全て伝えようと電話を切らせなかった。

 

「イギリスのブルー・ティアーズっていう機体が操縦者の動きについて行けなくなってきているようなんです。動きが鈍いと言っていまして」

 

「あちゃー、やっぱり出て来ちゃったか。その子の身体はね?試作機として作られたから、ドッキング状態で強化アーマーを使い続けてきた為に、余剰出力に耐えられなくなっちゃったんだよ!夏休みの時に改修したけど、誤魔化しみたいなものだったから」

 

「という事はどうなるんです?」

 

「形を保っている今のうちにオーバーホールを兼ねて、一から作り直さないとコアごと壊れちゃうよ」

 

ISの生みの親であり、科学者でもある束が言っているのだから間違いないのだろう。しかもコア諸共となれば重大である。それを知ったセシリアはどうなるだろうか?失意に落ち込むだろう。

 

「あ、ゴメン!まーくん、少しだけ待ってて!」

 

束が電話を保留状態にしてきた。誰かしら来たという事なのだろう。それも会社の人だと予想できる。

 

「大変だよー!!まーーーくん!」

 

「ぎゃああああ!?」

 

耳がキーンとなるような叫び声に政征は悲鳴を上げる。思わず電話から耳を離してしまうが、手にしっかりと握っている。

 

「い、いきなり大声を出さないで下さいよ!」

 

「ああ、ごめん!ってそれよりも大変なんだよ!亡国機業の機体の中にイギリスから強奪された機体、サイレント・ゼフィルスがあったんだよ!」

 

「ええ!?それって大変な事態じゃないですか!というよりも俺に教えて大丈夫なんですか!?」

 

「上からの指示でイギリスの代表候補生に君から伝えて欲しいって。あ、見つけたことは既にイギリスの支部を通して、偶然私が見つけて奪還したって事でイギリス政府には報告済みだよ」

 

束が偶然見つけたとなれば政府も納得できるだろうという判断だ。開発者ならば見つけて奪還する事は実際、容易い事実である。

 

「それで、話を戻しますがブルー・ティアーズに関しては?」

 

「そうだね。コアが無事なうちに強化アーマーの余剰出力をエネルギーに利用出来る機体を用意しておくよ。ちょっとしたサプライズと共にね」

 

「サプライズ?」

 

「それは後々のお楽しみ!レポート用アドレスは君の携帯に送るから教えてあげてね。確認したらプログラムとサプライズを送るから!じゃ、バイビー!」

 

要件を終えた束は通話を切ってしまった。やれやれと思いながらも政征は携帯をしまうと部屋の中に戻った。

 

 

 

 

 

中へ戻ると三人はマルチロックオンに関して意見を出し合っているようだが、一向に形にならない様子だ。

 

「簪、アシュアリー・クロイツェル社の研究部長から、ロックオンプログラムのテストをして欲しいって依頼が来たけど受けてみるかい?」

 

「え?良いの?」

 

「ああ、ただしプログラムに関しての改善点やレポートをメールで提出しなくちゃならないけど」

 

政征は簪に事実を少し隠した上で伝える。開発者である束からのプログラムだと聞いたら失神するかもしれないからだ。

 

「ありがとう。でも、どうしてこんなにも協力してくれるの?初めて会った時から」

 

「【手が届くのに、手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔する。それがいやだから手を伸ばすんだ】ってセリフ知ってるかな?」

 

「!!それって、特撮ヒーローの・・?」

 

「そういう事だよ。機体を完全に仕上げてお姉さんと戦うんでしょ?」

 

政征に続く形で雄輔が口を開く。それは冷静な彼が最も気に入っている熱い言葉送るために。

 

「【俺たちは弱い。だが、弱いからこそ強くなれる。これまでも、これからも】そうじゃないのか?」

 

「あ、それも聞いた事ある!」

 

「それと、お姉さんと戦う時に言ってあげたら?」

 

「そうだな。二人で一人の戦士になって相手に投げかけるあの言葉をな」

 

二人は目配せした後、まるで本人そのものになりきった様にセリフを言った。

 

「「さぁ、お前の罪を数えろ」」

 

それを聞いた簪はキラキラしたように感動していた。赤髪と青髪という特殊な髪色も相まって特撮のキャラクターそのものに見えたのだ。

 

「私、頑張る!そのプログラムのテスト引き受けるよ!」

 

「じゃあ、これアドレスね?簪の端末に送信しておくから」

 

素早く携帯を取り出し、アドレスを送るための操作をしてアドレスを送る。

 

「ありがとう!それとね、打鉄弐式の名前を変えようと思うの」

 

「名前を?」

 

「そう、打鉄弐式改め・・・ケラスス・レーギーナ!登録されちゃってるけど私はそう呼ぶ」

 

 

そんな会話をしているとセシリアが先程の二人を見た上で声をかけた。

 

 

 

 

 

 

「演技、お上手でしたわね」

 

なりきっていた二人に対してセシリアは冷静に感想を述べていた。呆れているわけではなく演技が上手い事に素直に賞賛していた。

 

「そうでもないよ。あ、そうだ!!セシリア、少し良いかな?」

 

「はい?」

 

簪達から距離を離した後、セシリアに小声で束から伝えるべき事を伝え始めた。ブルー・ティアーズの後継機であるサイレント・ゼフィルスが束の元にあり政府には報告済みである事、ブルー・ティアーズ自身がやはり限界で、このままではコアごと壊れてしまう事実を伝えた。

 

「そうでしたか、やはり限界が来てしまっていたのですね」

 

「束さんがブルー・ティアーズのコアの為に新しい機体を開発中らしいから、それに乗り換える事になるかもしれないな」

 

「機体が変わってもブルー・ティアーズと戦えるのが私には嬉しいのです」

 

真面目な話が終わると、飛び込むように本音が整備室に入って来た。全力で走ってきたらしく息が切れている。

 

「はぁ・・・はぁ・・!大変だよ~!」

 

「のほほんさん、話す前に喉を潤してからの方がいい」

 

雄輔は紙コップを手に取るとウォーターサーバーから水を注ぎ、それを本音に渡した。

 

「んぅ、んぅ!はぁああ・・・生き返ったよ~。ってそうじゃない~!大変だよ~!」

 

「一体何が大変なのですか?本音さん」

 

「織斑先生とフー=ルー先生がアリーナで決闘するって~!」

 

本音の言葉に反応したのは雄輔だった。何故、自分の担任と恋人が戦う事になったのか?雄輔は本音に迫る勢いで聞いた。

 

「どういう事だ?のほほんさん!詳しく聞かせてくれ!」

 

「こ、怖いよゆーゆー・・・」

 

「雄輔、落ち着けよ。それで、のほほんさん。どうしてあの二人が決闘する事になったんだい?」

 

政征が雄輔を本音から引き剥がし、喋りやすい環境を作る。落ち着いたのか本音はポツポツと話し始める。

 

「うん、織斑先生とフー=ルー先生が言い争って、フー=ルー先生が織斑先生へ手袋を投げつけてたのを見てた人がいたって話だよ~」

 

「本気の決闘だな・・・。一切の遠慮なしの」

 

「え?どういうことですの?」

 

セシリアの疑問に政征が真剣な顔で答えた。

 

「クラス代表を決める時、決闘だって言った事があったけど、あの時はあくまで名義上だったんだ。手袋を投げつけたって事は、生死を賭けるほどの戦いになるって事」

 

「そんな・・・」

 

「余程の事があったんだろうね。それでのほほんさん、決闘の日にちはわかる?」

 

「今日から二週間後だって、新聞部の人が言ってた~」

 

新聞部に知られたという事は当日、千冬やフー=ルー目的でギャラリーがくるだろう。しかし、この戦いは見世物ではなく、本気の殺し合いに近い事を二人の騎士は予感していた。

 

だが、決闘を止めさせる訳にはいかない。決闘を止めるという事はその決闘に立つ者を侮辱する事にほかならない行為だからだ。

 

雄輔はやり場のない気持ちを押し殺し、歯を噛み締めていた。生死をかけた戦いに向かおうとしている恋人に声をかけたくともかけてはならない。かけてしまえば騎士の掟を破ってしまう。

 

「くっ!」

 

「雄輔さん!?」

 

セシリアの制止を振り切り、整備室を出て行った雄輔は離れた位置で壁を殴った。かつて親友が嘆き、苦しんだ恋人との一時的な別れ、それが今、己で味わっている。

 

手を伸ばせば届くのに伸ばしてはいけない。親友は恋人を洗脳され戦った。自分は恋人を助けてはいけない掟に縛られた。

 

「勝ってくれ・・・フー=ルー」

 

今の雄輔にできる事、それは恋人であるフー=ルーの勝利を願う事だけであった。

 

 

 

 

 

 

そして二週間後、決闘の日の当日となった。この日は誰もがアリーナに集い所狭しと言わんばかりに生徒達や教職員が詰めかけている。

 

そんな中、ピットの待機室の椅子に腰掛けたまま千冬は何かを待っている。扉が開きそこへ真耶が手に匕首サイズの小太刀を握って入ってきた。

 

「織斑先生、これが先生の機体です。今は待機状態になってますが」

 

「そうか、ありがとう」

 

小太刀を受け取り、手にする。待機状態の機体は千冬を認めたかのように一瞬だけ輝いた。

 

「機体展開」

 

刀の鯉口を切ることが展開の合図であるらしく、千冬は久々のISに大きく深呼吸をした。

 

「VR-02・・・ヴァイサーガ。それがこの機体の名前、か」

 

千冬は一足先にアリーナへ飛び出す。一次以降(ファースト・シフト)すら出来ていない機体で飛び出すなど、弟の初陣と同じではないかと思い自虐した。

 

自分が出来たのだからお前も出来るだろうという考えを、今更になって後悔する。いざ、自分がその立場に立ってみると丸腰で戦えというのも同じ状態ではないか。

 

居なくなって初めて己の失態を自覚する。これは最早、悪癖に近いだろう。

 

そんな風に自己反省していると向かい側から、最早、この学園の人間にとって見慣れている機体が現れた。

 

機体のカラーリング。頭部部分は違っているものの紛れもなくその機体はラフトクランズであった。その操縦者はフー=ルーである。

 

「お早いのですね。それにまだ完全では無い」

 

「ああ、しばらく待っていてもらえないか?一次以降(ファースト・シフト)が完了するまで」

 

「ええ、対等でなければ意味はありませんもの」

 

千冬は歩行と飛行を繰り返し続け、一次以降(ファースト・シフト)を完了させた。

 

背にはマントのようにしなやかなシールド、腕部に装着された爪、極めつけは鞘に収められた剣だろう。見るからに剣撃戦闘用であることが伺える。

 

「これがヴァイサーガの姿・・・か。武装は?メイン武装は五大剣。投げナイフと似た烈火刃、腕にある水流爪牙、斬撃を衝撃波として飛ばす地斬疾空刀、エネルギーを利用して風の渦を引き起こし剣で一撃を加える風刃閃・・・それから」

 

「リミッターを解除し、フルドライブで相手を音速で斬る奥義・光刃閃か。なるほど、確かに武装と追従性から私向きの機体だ」

 

一次以降(ファースト・シフト)を完了させた千冬は武装の全てを試した後、フー=ルーと向き合った。

 

「待たせてしまったな。始めようか」

 

「ええ、それに時間はさほど経っておりませんわ」

 

千冬は五大剣を構え、フー=ルーはソードライフルをソードモードに切り替え、オルゴンソードを礼節のように構えた。

 

「織斑千冬、参る!!」

 

「フー=ルー・ムールー!お相手致しますわ!」

 

二つの刃が交差し、火花が散る。これこそが二人の女傑の戦いの合図であった。

 

「叩き切ってやる!貴様の気概を!!」

 

「止めてみせますわ!貴女の盲進を!!」

 

性質の違う二人の女傑が譲ることの出来ない思いを剣に込めて、戦いによる対話が今ここに始まった。




ブルー・ティアーズは過負荷状態ですが、名称は変わらず別の機体にコアを移されます。

束さんが作成し、テストさせようとしたプログラムはリ・テクノロジストの技術が使われています。無論、アレです。

二人の決闘はどちらが勝つか。

千冬さんへヴァイサーガを選んだ理由は近距離武装が多い事と剣を扱う事でピンと来た為です。

介錯役になるやもしれません。


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現実を知る人は何かしら背負っているよね

教員二人の決闘


以上


※注意書き

今回は一つだけ精神コマンドを使っていますので、それを承知の上でお読みください。


二人の女傑の戦いが始まると同時にアリーナは緊張感に包まれた。その中で、二人の闘志に当てられた一部の生徒は気を失っている。

 

この戦いはルールで縛られたスポーツ形式の決闘ではない。ISが現れる遥か以前の古来から伝わってきた正真正銘の決闘である。

 

アイドルのコンサートを観に来たようなミーハーな気持ちで、今のアリーナに居ようとすれば重圧に耐えかね気を失う。

 

戦いを観る事が出来ているのは強い意志や信念、自分を律する者達のみとなっていた。

 

「はぁあああああ!」

 

「っく!?流石はブリュンヒルデといわれた事だけはありますわね!剣の一撃一撃が重い」

 

二人の間で剣の舞踏が繰り広げられている。繰り出し、受け返し、押し返す。火花の激しさだけがこの戦いを物語っている。

 

千冬の駆るヴァイサーガの武装である五大剣は形状こそ違うものの、扱いはほぼ日本刀と変わらない。

 

それだけにフー=ルーにとっては厄介な太刀筋が繰り出され、オルゴンソードで受け、止めざるを得ない状態だ。

 

日本の太刀筋は主に斬る事に特化している。フー=ルー自身も東洋の剣を学んではいるが、叩き潰す事に特化した剣が癖になっているために受けに回ざるを得ない。

 

「(これ以上の接近戦は危険ですわね)」

 

フー=ルーは剣を切り返し、ソードライフルをライフルモードに切り替えた。だが、次の瞬間、フー=ルーの目に入って来たのは手に忍者の扱うクナイのような小刀を持つ千冬の姿だった。

 

「射撃武器は使わせん!烈火刃!!」

 

「うっ!?」

 

千冬が投げつけてきた刃が突き刺さると同時に燃え上がり、フー=ルーの体勢を崩させる。僅かな隙だが、千冬にとってはその僅かな隙すらチャンスになりうる。

 

「爪牙・・・水の流れの如く、その身を穿つ!!」

 

五大剣を地に突き刺し、腕に装備された爪を出現させ最大速度で回転しながら向かっていく。ヴァイサーガの速度に対応できているだけでも驚愕だが、フー=ルーはシールドクローを掲げ防御の態勢を取る。

 

爪によって装甲を引き裂かれるが、オルゴン・クラウドSによって装着者自身は無傷だ。それでもダメージを受けた事には変わらない。ヴァイサーガの速度は並みの専用機を越えるものなのだから。

 

「こういった武器は慣れないのだがな」

 

速度を利用し、五大剣を突き刺した位置に戻り剣を引き抜いた。剣を持つと同時に投げ捨てたはずの鞘が元に戻っている。

 

「これは便利だな。投げ捨てたはずの鞘が戻っているとは」

 

「っ、もう機体に順応している?(私はあの二人のように全てのバスカー・モードは使えない。それならば)」

 

「ファウネア、モードT解除。コード[Moon Knights]・・・これを解放するのを忘れてましたわ。迂闊ですわね」

 

ファウネアからの重圧が増した事を感じ取った千冬は警戒するように、五大剣を鞘から抜いて構えた。

 

「纏めて堕ちなさい、ヴォーダの闇へ・・・!」

 

肩部のユニットが胸部の砲口と同じ向きへと開き、輝きを帯びる。それを見た千冬は回避しようとするが、オルゴンキャノンを発射されてしまう。

 

シールドマントで防御は出来たがエネルギーは削られており、機体にもダメージを与えられた。

 

「ぐ・・・まさかの砲台とは!」

 

「侮ってもらっては困りますわ。その位置ならば、これで」

 

ファウネアがスラスターによって僅かに浮き上がると同時に高速で突撃し、シールドクローを展開する。

 

「オルゴン・クロー・・・!」

 

あの爪に捕まればひとたまりもない。千冬は政征や雄輔が見せたラフトクランズの力を、己自身の目で見ている。

 

対策はしていたつもりだったが、フー=ルーのラフトクランズは二人のラフトクランズとは明らかに違っていた。

 

そのはずだ。政征のラフトクランズ・リベラは攻撃力、雄輔のラフトクランズ・モエニアは防御力を重きにおいているのに対し、フー=ルーのラフトクランズは速さに重きをおいている。

 

加えてフー=ルーは本来、歴戦の騎士であり、二人以上に実戦経験が豊富だ。それだけに戦場の流れを知っている。

 

思考が回避のタイミングを遅らせてしまい、千冬はオルゴン・クローに捉えられてしまった。

 

「し、しまった!」

 

「捉えましたわ!」

 

オルゴン・クローでヴァイサーガを纏った千冬を捉えたまま空中へ上がり、落下速度を利用して地へと叩きつけ、そのまま引きずり回し始める。

 

「ぐがああああああああああああああ!!!!!!」

 

アリーナはかなり広いが円状にもなっているため、回り込むように引きずり回した後、軽く持ち上げ遠心力を利用して上空へ投げ飛ばした。

 

更にオルゴン・クラウドを利用した転移で、上空にいる千冬の背後に回り引く裂くように追撃をくらわせた。

 

「こちらでしてよ!」

 

「ぐああああ!く・・・うう、先程までと動きと速さがまるで違う!?」

 

「当然でしょう?忘れていた私の方にも非がありますが、今のファウネアは本来の出力になっているのですから」

 

「な・・・に?」

 

「今までファウネアは生徒達との模擬戦用に出力に制限をかけていたのですわ。それを先程、解除しましたの」

 

千冬の表情が変わり、歯ぎしりをしている。無理もないだろう。フー=ルー本人も忘れていたとはいえ、出力を落とした状態で戦われていたのだから。

 

「次はこちらから参りますわよ」

 

フー=ルーが最も得意とするのは射撃だ。烈火刃によって妨害されたが、ソードライフルのモードを切り替え、オルゴンライフルを再び構えガンスピンさせる。

 

「させん!行け!!地斬疾空刀!!」

 

鞘に収められた五大剣にエネルギーが送り込まれ、千冬は剣を抜き、それを叩きつけると同時に横薙ぎでフー=ルーへと飛ばした。

 

「ファウネアの速さを甘く見てもらっては困りますわ」

 

ここで初めて、フー=ルーはオルゴンクラウドの転移を回避に使用した。本気の決闘である故に出し惜しみをしない。

 

「何!?」

 

回避後、再び正面に現れフー=ルーはオルゴンライフルでビーム状のエネルギーを放った。それは狙撃で放たれるもの以上だ。

 

「死にたくなければ抵抗してみせなさい」

 

オルゴンクラウドの転移で背後に回り、ガンスピンを交え、再び同じ大きさのエネルギーを放ってきた。

 

千冬は自分が今置かれているこの光景に覚えがあった。政征と弟である一夏が、戦った時に一度だけ見たものと同じだ。

 

あの時、弟は瞬時加速の弱点を突かれ、前後からの挟み撃ちに対し、何も出来ないまま直撃を受けてしまった。

 

しかし、ヴァイサーガの速度が千冬にある事を過ぎらせた。この機体の速度ならば残像を生じさせて回避出来るのではないかと。

 

迷いを断ち切り、実践する。ヴァイサーガの速さは千冬の推察通り残像を生じさせてフー=ルーの射撃を回避したのだ。

 

「分身とは・・・やってくれましたわね。その機体の速さだから出来ること」

 

「次はこれで行く!リミット解除!ヴァイサーガ、フルドライブ!出力限界突破!!」

 

上空に上がり、シールドマントを靡かせ、五大剣の鞘が刃から滑り落ちていく。千冬は今まで片手扱っていた剣を初めて両手持ちで持った。

 

それと同時に一気に加速し、ファウネアへと迫る。一瞬だけ意識が飛びそうになるが持ちこたえ、速さを見せるかのように刃が地との摩擦で火花が走る。

 

「奥義・光刃閃!!風を…そして、光を超えろ!」

 

超高速による連続の斬撃、その一閃一閃が光の筋が走ったようにファウネアへ襲いかかる。

 

「うぐっ!あああああっ!!」

 

「これで終わりだ、受けろ!」

 

連続の斬撃を終えた後に剣を構え直し、強烈な横薙ぎの一閃でファウネアを斬った。咄嗟にシールドクローを掲げた事でダメージを抑える事は出来たがエネルギーを大幅に持って行かれてしまった。

 

 

 

 

 

フー=ルーだったからこそ機転を利かし、機体への致命傷を避けることが出来た。並みの代表候補生や操縦者では一気に戦闘不能まで追い込まれていた程の威力があったのは想像に難しくはない。

 

「流石ですわね。私じゃなければ間違いなく・・・先程の一撃で終わってい・・た」

 

「っ・・!?奥義・光刃閃を受けきった・・・だと!?」

 

千冬自身も機体からくる負荷に耐えていた。フルドライブの影響による冷却で、しばらくは奥義・光刃閃を使う事は不可能になっている。

 

「言ったはずですわ。貴女の盲進を止めると!オルゴン・マテリアライゼーション・・・!」

 

オルゴン・ソードを構えたフー=ルーは千冬へと突撃する。冷却状態とはいえどフルドライブを使わなければ通常の戦闘は可能であり、五大剣が鞘に収められている状態で、上から振り下ろされたフー=ルーの剣を受け止めた。

 

「私に剣で挑むなど!」

 

「この剣は覚悟の証!止められるものではなくてよ!」

 

五大剣での居合抜きを繰り出そうとした千冬だったが思いもがけない追撃を目にする。

 

「はっ!」

 

オルゴン・ソードに気を取られていた為、脇腹に隙を作っていたのをフー=ルーは見逃さず、脇腹へ蹴りを打ち込んだのだ。

 

衝撃が千冬を襲い、そのまま、間合いを取りフー=ルーは剣を構え直す。

 

「ぐはっ!?あ・・・ぐ・・・ISで蹴り・・だと!?」

 

「武器だけが全てではなくてよ?無手でも戦えるように鍛錬しておくのも騎士の嗜みですわ」

 

千冬の中でISでの蹴り技は想定していなかった。IS戦闘の常識としては銃撃や剣撃などの武器による戦いが主だ。

 

それだけに武器での攻撃を囮にされた場合、例外を除いて次の一手が分からなくなってしまう。

 

学園にもたった一人だけISで蹴り技を使う人物がいるが、、その人物の戦いを見れた訳でもなく調べる事をしなかった。

 

「ぐ・・・自分の不甲斐なさに腹が立つな」

 

「ISは兵器。一つ間違えれば人を殺す事すら簡単に出来る。織斑先生・・・いえ、織斑千冬!」

 

フー=ルーはここで初めて、千冬を名前で呼んでいた。そこにいるのは教師としてのフー=ルーではなく、歴戦の騎士であるフー=ルー・ムールーであった。

 

 

 

 

 

「貴女、人の命を奪った事がありまして?」

 

「っ!?」

 

「どうやら自分の手で奪った事は無さそうですわね。はっきり言いましょう、私はこの手で何人もの命を奪ってきました」

 

プライベート・チャンネルで聞かされたフー=ルーの言葉に千冬は驚きを表情に出している。目の前にいる同僚が人の命を奪ってきた事実を口にしているのを信じられなかった。

 

「勿論、防衛の為だといえば聞こえは良いですが、命を奪った現実から逃れる為の方便に過ぎませんわ」

 

「何故このような事を話したか?私は決闘の前に言ったはずでしてよ。貴女の弟はもう戻らないと。あの映像の中で殺戮に加担し、自らの意思で命を奪っている事実から目を背けるつもりでして?」

 

「う、うるさい!私にとってはたった一人の弟なんだぞ!それに、生きていればやり直す事も!」

 

「いい加減になさい!!貴女が現実から目を逸らしてどうするのです!?そのような空絵事、叶うはずがないと自分で分かっているのではなくて!?」

 

「う・・・!」

 

フー=ルーの恫喝に千冬は言葉を詰まらせた。自分でもわかっている、弟は最早、越えてはならない一線を越えてしまっている。

 

千冬の中で自分がかつての優しい弟に戻す事が出来るのではないか、生きていればやり直しが出来るのではないかという考えが現実から目を晒させる甘い毒となっている。

 

「言ったはずだ!人を愛した事のないお前に言われる筋合いはない!」

 

「千冬、弟に対する忠告はしました。ここからは貴女が知らない本物の実戦というものを教えて差し上げます!」

 

「何!?っ・・!」

 

フー=ルーはオルゴンクラウドの転移を使い、一瞬で間合いを詰め、オルゴン・ソードで斬りかかった。

 

「ぐっ!?重い!?」

 

「剣だけではなくてよ!!」

 

「な!?ぐあああ!」

 

フー=ルーはシールドクローで千冬を殴り飛ばすと同時にスラスターを吹かし、飛行するとソードライフルをライフルモードに切り替え、細いビーム状のエネルギーを放った。

 

「!!」

 

咄嗟に千冬はシールドマントでオルゴン・ライフルから放たれたビームを防御するが、落下速度を利用しオルゴンソードを振り下ろしてくるフー=ルーの姿が迫っていた。

 

「(な、なんだ!?この私が追いつけないだと!?)ぐあっ!」

 

速度に対応できず、フー=ルーの剣を受けてしまう。それと同時にアリーナの壁へと蹴り飛ばされてしまう。

 

「纏めて堕ちなさい!ヴォーダの闇へ!!」

 

再びオルゴンキャノンを蹴り飛ばした先に向かって放つ。砂煙で見えないが千冬が蹴り飛ばされた先がオルゴンの光に飲み込まれた。

 

突然変わったフー=ルーの戦い方に千冬の信奉者達は野次や罵倒を送っているが、フー=ルーの信奉者達は真剣に言葉を発さず、フー=ルーの動きを自分の物にしようと戦いを見ている。

 

「狂風がお前を引き裂く!!」

 

「うああっ!!」

 

ヴァイサーガの速度で脱出していた千冬は上空から奇襲を仕掛け、ラフトクランズの肩部に刃を突き立てていた。

 

「これが、風刃閃だ!」

 

奇襲の一撃により、オルゴンキャノンは使用不能となり千冬は薄く笑みを浮かべ、五大剣を引き抜こうとする。

 

「うう・・・奇襲とはやりますわね。ですが!クロー展開!」

 

フー=ルーが繰り出したのはオルゴン・クローだ。至近距離で剣を抜く前に掴まれてしまう。

 

「がっ!?」

 

「オルゴン・クローは、ただ引きずり回すだけではなくてよ!!」

 

オルゴン・クローは本来、振動を利用し圧破壊をするものだ。引きずり回すのは更なるダメージを狙う為に考案された技の一つであった。

 

いつの間にか、全てのラフトクランズの攻撃モーションになってしまったが、戦略として本来の用途に戻したのだ。

 

「ぐああああああああ!!」

 

「はぁっ!オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

オルゴン・クローから開放した瞬間、再び蹴り飛ばし、同時にオルゴン・ソードの刀身を出現させ追撃する。

 

「やらせん!ぐううう!」

 

千冬は五大剣で受け止めるが、フー=ルーは連続で刃を振るってくる。

 

「決着をつけて差し上げます!」

 

フー=ルーのファウネアが輝き、七つの小さな光がフー=ルーに宿った。ファウネアから炎のような輝きと全てのロックオン機能がヴァイサーガを捉え【熱血】【必中】、星のような輝きが表れる【ひらめき】。

 

更にはスラスターが輝き【加速】、青色と紫色の輝きが包んだ後【幸運】【努力】燃え盛るような光が溢れ出た【気合】。

 

その現象に客席で観戦していた政征と雄輔は見覚えがあった。自分達がこの世界に来る前にゲームの知識でそれを得ていたもの。その現象が目の前で行われ、初めて目撃する出来事だ。

 

「(あれは?精神コマンドを使った時に起こる現象!?なんで!?)」

 

「(バカな!?精神コマンド現象だと!?フー=ルーがスパロボのイベントと同じように使うなんてありえないはず!)」

 

千冬自身も目の前に居る相手に何が起こったのか理解が追いつかなかった。ただ確信している事がある、今のフー=ルーは危険だということ、そして確実に攻撃が当たってしまうという確信があった。

 

 

 

 

[推奨BGM 【[Moon Knights】OGアレンジ]

 

 

「バスカー・モード、起動!」

 

ファウネアのツインアイが輝き、全身からオルゴンが溢れんばかりに放出される。同時にスラスター全開で突撃し、すぐにオルゴン・ライフルを構えた。

 

「オルゴナイト・ミラージュ!」

 

オルゴンクラウドによる連続転移を行いながらの乱数射撃。千冬はこの攻撃は政征がセシリアとの戦いで使ったものと同じであると考えた。

 

今のファウネアの射撃精度は政征以上ではあるが、避けられないことはないと。しかし、その考えはすぐに打ち砕かれることになる。

 

ヴァイサーガの速度によって残像を生じさせる分身で避ける事が出来るはず、しかし、分身を見抜いているかのようにフー=ルーの射撃は千冬のヴァイサーガを捉えた。

 

「何!?射撃を受けた箇所が結晶に包まれている!馬鹿な!」

 

「楽にして差し上げます!」

 

背後から発射されたオルゴン・ライフルが千冬をヴァイサーガごとオルゴナイトの結晶の中へと閉じ込める。

 

千冬は内部で砕こうともがいたがオルゴナイトの結晶は二重三重と覆われており、次第に四肢が動かなくなっていく。

 

「これは貴女の柩・・・」

 

オルゴンライフルを上空へ投げ、オルゴンクラウドによる転移で結晶の上部へ転移し、千冬を閉じ込めたオルゴナイトの結晶を足場にして更に上へ向かっていく。

 

投げられたオルゴンライフルが変形していき、レーザー誘導によって胸部の砲口に変形したオルゴンライフルが接続される。

 

「久遠の安息へ導きます!」

 

完全に砲口とドッキングしたオルゴンライフルを両手で支えるように持ち、すぐにチャージが始まる。

 

「ヴォーダの深淵で眠りなさい!」

 

至近距離から発射されたオルゴナイト・バスカー・ライフルは、千冬を閉じ込めたオルゴナイトの結晶を僅かに砕きながらアリーナの地へ叩きつけると同時にバスカー・ライフルのエネルギーが千冬を襲った。

 

「があああああああああああああああ!」

 

[ヴァイサーガ、エネルギー0!勝者、フー=ルー・ムールー]

 

放送と同時にISの試合としては終わった。しかし、これは正式な決闘(・・・・・)である。

 

「うう・・・」

 

ファウネアを纏ったまま、フー=ルーは大の字で傷だらけの千冬に近づいていく。その目には感情がない。

 

「オルゴン・マテリアライゼーション・・・」

 

ソードライフルをソードモードに切り替え、オルゴンソードを手にし、ゆっくりと歩いて近づいていく。

 

決闘の掟として相手に息がある場合、止めを刺すのが礼儀である。その礼儀をフー=ルーは果たそうとしている。

 

 

 

 

アリーナに居た千冬の信奉者達は内部に入ろうとするが、バリアによって阻まれてしまう。中には入れない事に歯ぎしりしながら、千冬の信奉者達全員がアリーナの入口へと向かう。

 

放送室から観戦していた真耶はフー=ルーが何をしようとしているのか理解してしまった。それ故、放送室から呼びかけてしまう。

 

「フー=ルー先生!それだけは、それだけは止めてください!」

 

そんな真耶の言葉に今のフー=ルーが聞く耳を持つはずがなかった。これはISの試合ではない、教師として戦ったのならばブザーが鳴った時点で終わりにしただろうが。

 

今のフー=ルーは騎士として決闘していた。騎士でもない唯の見物人が決闘に口を出すことは許されない。仮に出せたとしても当事者たちが許さないだろう。

 

「織斑千冬、戦士として貴女は間違いなく最強でした」

 

「っ・・・覚悟は・・・出来ている・・・やるといい・・・」

 

千冬の傍まで来たフー=ルーは声をかけた後、オルゴンソードの切っ先を千冬に向け切っ先を振り下ろした。




複数の精神コマンドが発動していますが、フー=ルーが発動したのは「愛」だけです。

介錯するのか、はたまたしないのか。

信奉者達が暴走を始めています。

次回は説教とデートになるやもしれません。


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現実って逃げ出したい出来事が多いよね

決闘の決着。

千冬の変化。

以上


振り下ろした先は千冬の首筋であり、ほんの僅かに切り傷が付けられていた。頚動脈に近い位置ではあるが、致命傷には至っておらず応急手当をすれば治る程度の傷であった。

 

「これで、現実を見ずに盲進していた織斑千冬は死にました。今の貴女はただの織斑千冬ですわ」

 

「何・・・?どういう事だ?」

 

「今の貴女は教職者という立場も、一人の姉という立場もブリュンヒルデとしての立場もない、ただの織斑千冬という一個人。どうです?全てを降ろせた感覚は?」

 

フー=ルーの言葉を聞いて教員でもなく、一夏の姉でもなく、ISを扱うブリュンヒルデとしての自分すら無い状態。破滅の恐怖も、何も縛られていない一個人の織斑千冬という存在になった。

 

「ああ・・・そうか・・・そうだったのか」

 

今まで自分は一人で解決してきた。それ故にプライドと虚勢に塗り固められた自分を演じ続けなくてはならなくなった。

 

がむしゃらに力を求め続け、スポーツ界のISで世界の頂点にもなったが、己を保つための自衛に過ぎなかった。

 

今ここで、その総てを崩され破壊されたのだ。いや、背負い込んだ物を降ろすことが出来た。それを許されたのだと。

 

「フー=ルー教諭、いや・・・フー=ルー」

 

「はい?」

 

「ありがとう。ようやく私は私に戻れた気がする」

 

千冬は自分の腕で目を覆い、声を殺して泣いた。溢れ出した涙が頬を伝っている、悔しさとカタルシスが同時に起こっているのだろう。

 

千冬を起こそうとしたフー=ルーに向かって狙撃の弾丸が向かって来ていた。それをフー=ルーはオルゴン・ソードの刃で軌道を逸らした。

 

「フー=ルー・ムールー!千冬様を地につけた罪を償いなさい!!」

 

「そうよ!千冬様が負けるなんて絶対にありえない!」

 

「千冬様はブリュンヒルデ、最強で無敵なんだから!!」

 

 

 

 

 

アリーナの内部に侵入して来たのは千冬の熱狂的な信奉者達だ。纏っているのは強引に学園から奪い、纏ったラファールや打鉄などだ。

 

「彼女達は貴女の熱狂的なファン達みたいですわね?」

 

「こんな時に来るか」

 

フー=ルーから差し出された手を握り、千冬は立ち上がると再びヴァイサーガ・楔渦を身にまとう、傷だらけな為にフルドライブは使えないが通常戦闘は可能な状態だ。

 

五大剣を鞘から引き抜き、その切っ先を自分の信奉者達に向ける。その目からは「貴様等は私の戦いを侮辱しに来たのか?」と言わんばかりの怒気を放っている。

 

目の前にいる傷だらけの戦乙女、正に神話に出てくるヴァルキューレ・ブリュンヒルデそのものの姿と重なっている。放たれる威圧感に千冬の信奉者達は冷や汗を流し続けていた。

 

「フー=ルー様」

 

「私達も援護します」

 

反対側の入口から現れたのはフー=ルーの信奉者達だ。しかし、フー=ルーはオルゴン・ソードで塞ぐように構えた。

 

「気持ちは受け取っておきます。しかし、これは騎士の決闘の領内。理解出来ているのならば下がりなさい」

 

「はい!」

 

フー=ルーの信奉者達はおとなしく引き下がり、アリーナから去った。フー=ルーの信奉者達は女性でありながら騎士を目指している者が大半で、フー=ルーの補講授業や実務などを熱心に受けている。

 

しだいに講義の中で騎士の在り方などを教えていたフー=ルーに憧れを持つようになっていった。今の世の中は女性の社会ではあるが、彼女達は女性でありながら、小説などに出てくる騎士のように誇り高く生きたいと思っている。

 

そんな彼女達にフー=ルーは騎士としての厳しさも教えていた。それゆえ彼女達は狂信者にならずに済んでいた。

 

目の前の千冬の信奉者達は狂信者となっていた。最早、千冬への憧れはこじ付けで力を崇拝しているに過ぎない。

 

「さて、今の私はただの織斑千冬・・・私の心に従い、良いと思った事をするとしよう。まず手始めに私のせいで出来が悪くなってしまった目の前の生徒達をお仕置きするとしよう」

 

「決闘は終わりました。今は共闘するとしましょう、あの生徒には少し痛い目にあって反省させましょう」

 

二人の刃が乱入してきた生徒達に向けられる。ブリュンヒルデと博愛の騎士、正しく理解し少しでも実力が付いているものならば目の前にいる相手がどれだけ恐ろしいのか、理解出来るだろう。

 

「千冬様が私達に刃を・・・!?」

 

「千冬様!私達の目的は隣にいるフー=ルーです!退いてください!」

 

千冬はため息を吐くと五大剣を鞘に収めた。だが、威圧は変わらず生徒達に向けられている。

 

 

 

[推奨BGM【ASH TO ASH】スパロボOGアレンジ]

 

 

 

「悪いがそれは出来んな。お前達は何があってフー=ルー教諭を狙う?」

 

「貴女を地につけた。ソイツが許せないだけです!退かないと言うなら例え貴女様でも!」

 

その先を言おうとした瞬間、千冬はその生徒の背後に居り、五大剣を鞘にゆっくりと収めていた。居合抜きを終えたように鍔と鞘がぶつかり、刃が収まれる。

 

「これが風刃閃、二の太刀だ」

 

「きゃあああああああ!?」

 

生徒が纏っていたラファールは刃が収まった瞬間に機能が停止していた。斬られた生徒も周りに居た生徒達も驚きを隠せない、何故ならISだけを無効化されたのだから。

 

今の千冬に心を縛っていた鎖はない。それだけに迷いがなく、刃には重さが増していた。先程の一撃を見ていたフー=ルーは笑みを浮かべている。

 

「っ!遠慮はもうしないわ!例え千冬様でもぉ!!」

 

打鉄の射撃特化型を身に纏っている生徒はマシンガンを千冬に向かって撃っていた。それは恐怖心から来るもので己の心を制御出来ていない。

 

「やった!あの千冬様に一撃を与えられたわ!!」

 

「私は一撃?それだけで満足しているのか?」

 

「え・・・?そ、そんな、確かに私は命中させたはず!?」

 

命中させた先に視線を向けるとヴァイサーガを纏った千冬と同じ姿が陽炎のように消えていた。それを見て、全身から震えが来ている。

 

「あ・・・ああああっ!うわああああああ!!」

 

再びマシンガンを放つが全て残像を生じさせ回避されてしまっている。しかし、フー=ルーと戦った時とは違って分身を使用しておらず、更には鞘から五大剣を抜かず回避だけを行っている。

 

「ああああっ!あ・・・・?」

 

気付けば両手のマシンガンが弾切れを起こしていた。トリガーを何度も何度も引くが弾は出ず、恐怖で青ざめ始めた。

 

「そんな恐怖に飲まれた状態で当たる訳がないだろう?弾切れになったとて、武器を持っているのなら容赦はせん」

 

千冬は五大剣を鞘から抜き、圧倒的な速度で向かってくる。斬撃を打鉄に二回ほど切りつけ、仕上げの一撃となる横薙ぎの斬撃を与えた。

 

「あああああっ!」

 

「風刃閃、三の太刀。これがな」

 

二人同時に倒され、三人のうちリーダー格らしき生徒だけが残っていた。この間にフー=ルーは足止めをしていただけでダメージは与えていない。

 

「何故、何故ですか!?千冬様!私達は貴女の為に!!」

 

「私の為?勘違いするなよ、小娘共が・・・。私はフー=ルーと正々堂々戦い、敗れた。それをお前達が認められずにフー=ルーを倒そうとするなど、私の戦いを侮辱している事に他ならん!」

 

千冬の言葉にリーダー格の生徒は打ちのめされた様な感覚に陥る。お前達がやろうとしている事は私を侮辱しつつ、自己満足に浸るのと同義であると千冬自身が言っているのだ。

 

「っっ!貴女まで堕ちたのですね!ならば私が貴女を元に戻します!!強く気高かった千冬様に!」

 

「力しか信じていなかった私に戻す・・・か。余計な事だ」

 

「そこにいる奴の洗脳を解いて差し上げますから、今は倒れてください!」

 

リーダー格の生徒の言葉にフー=ルーは千冬の隣へ並び、ソードライフルを構えながら話しかけた。

 

「あれが現実を見ようとせず、盲進し自分の都合の良い世界を作り出した者ですわ」

 

「私もあの状態に近かったというのか?」

 

「ええ、弟を救いたい。その一点しか見ていなかったのです」

 

フー=ルーの言葉は冷酷にかつ残酷に千冬の心を抉った。目の前に鏡に映った自分等しい存在もいる。だが、今の千冬はそれすらも受け入れていた。

 

助け出せる、やり直せるという甘い考えは最早無い。ならば自分の心が求めるのは何かと考えた結果、弟の介錯であった。

 

弟は何かしらの処置を施され、それが解けることはない。肉親殺しが最大の罪とされているのならば自分はそれを背負う覚悟はある。

 

弟の罪は肉親であり、姉である自分の罪。その罪を断ち切るために剣を取る、ヴァルハラへ導く戦乙女のように。

 

少し考えてみれば自分も間接的に人を殺している。あの白騎士事件で。

 

人殺しの罪は人殺しが背負う。これではまるで毒を以て毒を制すの言葉通りではないかと自虐した。

 

「今はあの子の目を覚まさせてあげましょう。常勝無敗の人物などいない、ただ力の扱いが出来る人間なのだと」

 

「そうだな・・」

 

オルゴンソードと五大剣、二つの刃の鋒が向けられた。それは宛ら武士と騎士が並んでいるようにも見える。

 

「お前が、お前が千冬様をおかしくしたんだああああああああああ!!」

 

叫びながらラファールに装備されているライフルを狙いなどつけずに撃ってくる。二人はシールドマント、シールドクローを掲げ、銃弾を防御した。

 

「逆恨みもほどほどにしてくださいな」

 

そのまま近づいていき、それでも弾丸の雨が止むことはない。逆に近づかれる事が重圧となって相手を追い詰めていく。

 

「来ないで来ないで来ないで!来るな来るな来るなぁあああああ!!」

 

「!烈火刃!!」

 

千冬の投げた刃は武装とスラスターに突き刺さり、燃え上がった。両方は使用不能だろう。その隙を逃さずフー=ルーがオルゴンソードで斬りかかった。

 

「この剣は覚悟の証、止められるものではなくてよ?」

 

たった二回の斬撃でISを解除されたリーダー格の生徒はその場で座り込み、自然喪失状態になってしまった。都合の良い現実だけを見て、現実をいきなり直視させられた結果だろう。

 

 

 

 

 

「さて、私達の戦いは終わりましたわね」

 

「ああ、やっとな」

 

二人は機体を解除すると生徒達に校舎へ戻るように催促した。戦いを挑んできた生徒達は教員達によって連れて行かれた。

 

その後、ラフトクランズ・ファウネアとヴァイサーガは修理と調整を行うことになり、整備陣営に預けられた。

 

二人に戦いを挑んだ生徒三人は二人が二週間の停学、リーダー格だった生徒は自然喪失状態となった為に休学となった。

 

 

 

 

その頃、アシュアリー・クロイツェル社の研究施設では一機のISが完成間近となっていた。

 

「私の専用機、ラピエサージュ・アルキュミア」

 

継ぎ接ぎの錬金術師の名を持つ専用機。ラフトクランズなどを始めとするあらゆる機体の武装や、機体特性を参考に作られた機体である。

 

「・・・・候補は地点は三つ」

 

コンピューターには世界各国の未開となっている地域が映し出されていた。

 

「最初で最後の大ゲンカ、盛大にやるとしようか?ねえ、箒ちゃん・・・」




デート回は次回です。

束さんならグランゾンじゃないの?と言われそうですが、グランゾンは流石にと思ったのでボツにしました。

その代わり、パーツや調整しだいで変化するラピエサージュにしました。

ラピエサージュって準チートですし、精神的に成長した束さんが乗ったら十分すぎるのではないかと。


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意外な事を見ると驚くよね

カラオケ回

以上


フー=ルーと千冬の決闘という名のケンカが終わった後の土日に特訓を予定していたメンバー達を集めて、本音がある提案を出した。

 

「ね~、みんな~。このメンバーでカラオケ行かない~?」

 

「カラオケ、ですか?」

 

「なんだそれは?」

 

カラオケを知らないシャナとラウラに皆が説明する。歌を歌えると聞いて他のメンバーもノリノリだ。

 

「カラオケかぁ、良いな!」

 

「確かに久々にいいかもしれないな」

 

政征は目が輝いており、雄輔も賛成側に回っている。女性陣も鈴やシャルロットはノリノリでセシリアも参加したいと言っている。

 

もう、決定事項となり本音も簪も巻き込まれてカラオケ店へ行くことになった。

 

大人数である為、そこそこに良い店をチョイスした。簡易的ながらダンスができる広さのステージがあり、スタンドマイクも設置されていて動画撮影も可能なようだ。更には映像によって衣装や姿を変えられる装置まである。

 

「何この無駄に豪華な設備」

 

「全くだな」

 

男性二人が呆れているが女性陣が各々、好きな席に座ると歌本を早速広げたり、端末で曲探しをしている。

 

「一番手は貰うわよ!!」

 

すぐに曲に入力し、鈴が一番で歌うためにステージに立つ。マイクを持つとそこはもうステージに変わっていた。

 

言うまでもないがIS学園の生徒は容姿レベルが高い。それだけにカラオケに行くというのは、アイドルが隠れてカラオケに来ているようなものなのだ。

 

「一番最初に歌います!凰鈴音で【好吃スマイル◎】!!」

 

 

 

 

音楽始まり、鈴が歌い始めると驚く。明るい曲調と時折歌詞の中に織り交ざる中国語、それでも鈴はノリノリだ。

 

特訓や勉強ばかりでこういった娯楽は少なかっただけに怒り以外の鬱憤も溜まっていたのだろう。それに歌唱力はアイドル並で上手い

 

歌が終わると鈴は笑顔で席に戻り、飲み物を飲み始めた。

 

「じゃあ、次はボクだね?聴いてください【mon cherie,ma cherie】」

 

女性陣、曲入れるの早すぎるだろう。シャルロットもマイクを持って歌い始めた。何処か、のどかな町並みを連想させるような曲でシャルロットは丁寧に歌っている。

 

うん、これもこれで良い。しっとり系だけどシャルロットにぴったりじゃないか。

 

「次はわたくしですわね。【Perfect Pride】聴いてくださいませ!」

 

真っ直ぐな曲できたな。セシリアにピッタリ過ぎないか?この曲。セシリアは心底楽しそうに歌っている。歌い終えると一礼して席へと戻っていく。

 

「う、うう。初めてだが次は私だ!【An die Freude】というのを歌わせてもらう!」

 

ダークっぽい曲調とは裏腹に初めは恥ずかしがっていたが、次第に曲に入り込んできたのか凛々しく歌っていた。

 

「うーん、雄輔・・・この曲で行くか?」

 

曲入れの端末を見せると雄輔は少し驚いた表情をする。デュエット曲を提案された為だ。

 

「これか、パートはどちらを歌う?」

 

「俺が鎧武者だよ」

 

「じゃあ、俺が男爵か」

 

曲を入力し、すぐに始まった。二人の雰囲気が変わり曲に入り込んでいく。

 

[曲名 【乱舞Escalation】]

 

歌い始めた途端に二人が歌いながら戦いを始めた。戦いといっても暴力ではなく、ダンスで殺陣を再現しているような感じである。

 

政征のパートは背後が白、雄輔は黒という演出がされている。曲が最後に近づいていき二人の全身が優しさを貫いた白銀の鎧武者、強さを求めた紅い伯爵の姿となった。

 

ただの映像処理だが、その世界感に魅せられ女性陣は固まっていた。歌い終わって曲が終わり二人の姿が元に戻った。

 

「どうしたのさ、みんな?」

 

「ボーッとしてるな」

 

二人の声に意識が覚醒した女性陣はそれぞれ感想を言い始めた。

 

「世界観がすごかったですわ」

 

「二人共、本気すぎよ」

 

「まさか、ここで戦国のライダーを観られると思わなかった」

 

セシリアと鈴は世界観に飲まれ圧倒されており、ヒーロー番組や特撮が好きな簪は感動したように感想を述べている。

 

「ユッキー、ゆーゆー、ダンスがある曲歌って~」

 

のほほんさんに催促され、周りを見回す。女性陣はやれという雰囲気が強い。

 

「それなら、これかな?終わったら一回休みで頼むよ」

 

曲名を端末で検索し、入力する。まだ歌っていないメンバーに出番を回すために政征と雄輔は一回休みという条件をつけた。

 

[曲名【EXCITE】エグゼイド主題歌]

 

政征が歌い始め、雄輔がバックダンサーを務める。立体映像で四人ほど増やされダンスが形となっていく。

 

『EXCITE EXCITE!』

 

6人(うち四人は立体映像)のダンスが激しく華麗に披露されている。流石に疲れがあるのか歌に少し追いついていないがそれを補うダンスパフォーマンスが女性陣の前で披露され続ける。

 

全てを歌い終わり、ダンスを終えると同時に二人はステージから息を弾ませたまま降りて椅子に座り込んだ。

 

「ぜい・・ぜい」

 

「はぁ・・はぁ」

 

「お疲れ様~ありがとうね~!」

 

「はぁ~ゲームのライダーまで聞けるとは思わなかった」

 

次に入力していたのはシャナで曲が表示される。

 

[曲名【哭】どうこく]

 

「初めてですが歌ってみます」

 

曲調は少し早めだが、シャナは歌っている。強気でありながら献身的な愛を捧げる何処か悲しげなプリマドンナの曲を。

 

「ど、どうでしたか?」

 

「すごい、シャナ=ミア姉様はこのような曲も歌えるのだな!」

 

「イメージと全然違う・・・でも良い曲だったわ!」

 

「おしとやかな曲を歌うと思ってたけど・・・」

 

「意外ですわね・・・本当に」

 

「ミアミアって声が柔らかいんだね~」

 

男性陣二人は拍手しており、女性陣は女性陣で褒め合っている。

 

「ねえねえ、ミアミア~。強気な言葉やってみて~」

 

「え?そ、それは・・・」

 

「お願い~」

 

本音のからの押し頼みに折れたシャナはマイクを手にセリフを発する。

 

「で、では!」

 

コホンと軽く咳払いをすると意を決したような顔つきになり、彼女の雰囲気が一変した。

 

「アナタ私のモノになりなさい。甘く溶かしてあげる」

 

「程々にしないとお仕置きだぞ?」

 

「あら、怖い怖い」

 

政征が咎めるとシャナは強気なまま残念そうな目でセリフを言い終え、元の雰囲気に戻った。

 

「い、いかがでしたか?」

 

「ミアミア~雰囲気全然違ってた~」

 

サプライズも終えてカラオケを楽しんだ後にそれぞれが別れる。雄輔は呼び出しがあったらしく途中で離脱し、簪と本音も寄りたい所があると言って別れた。

 

学園へ戻る組は歩きながら、会話をしている。そんな中、セシリアと鈴は最後尾から最前にいる政征とシャナを見ていた。

 

「セシリア」

 

「はい?」

 

「やっぱり、あの二人さ」

 

二人の目の前にはシャナと政征が歩いており、仲が良さそうに話している。それはどこか、友達というよりも恋人同士のような感じだ。

 

「ええ、わたくしも同じ考えですわ」

 

「そうよね、うん・・・でも」

 

「でも?」

 

「はっきり気持ちを伝えてから引き下がる事にするわ。そうじゃなきゃ引きずっちゃうもん」

 

鈴の言葉にセシリアは頷く事しか出来なかった。女性であるが故の柔軟な発想で二人の関係を薄々気づいたのだろう。

 

「わたくしは・・・」

 

「これだけは自分の気持ちをしっかり自覚してからの方がいいわよ?」

 

鈴の言葉にセシリアはストンと自分の中に何かが落ちたような感覚がした。

 

確かに自分は政征に好意と似た様なものがあった。それが恋なのか。憧れなのかをわかっていない。

 

恋ならば、恥ずかしくともはっきり気持ちを相手に伝えるべきだろう。憧れならば追いついて肩を並べられるように精進すればいい。

 

「(わたくしは騎士としての政征さんに憧れを抱いていただけなのでしょうね・・・)」

 

セシリアは自分の憧れを胸の内にしまいながら、女性としての想いに別れを告げ、改めて二人を祝福した。




曲名は散りばめたのでコピペ&検索でわかると思います。

次回は更識姉妹の姉妹ゲンカ(ISで)です。


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亀裂って見えないところから広がるよね

簪の特訓

更識姉妹ゲンカ勃発


以上


カラオケ会の日から訓練を予定していた土日に簪が訓練に参加させて欲しいと言ってきた。完成した自分の機体で実戦の空気を感じておきたいためだろう。

 

代表候補生達は二つ返事でOKを出し、政征達も異論はなかった。訓練は試合を織り交ぜつつ、実際の戦闘で起こりうる行動を想定したプログラムだ。

 

「じゃあ、まず格闘戦から行くわよ?私が相手になるわ。よろしくね?簪」

 

「うん、よろしく。鈴」

 

爪龍を纏った鈴と打鉄弐式を纏った簪がアリーナで対峙する。簪は日本の代表候補生まで上り詰めた実力者だ。和やかに話してはいるが、鈴が隠している実力を本能で感じ取ってしまっている。

 

「(鈴は間違いなく相当の実力者。半端に訓練した訳じゃないのが分かる)」

 

「(お手並み拝見よ、簪)」

 

ブザーが鳴り、二人が戦いを始める鈴は二刀の青龍刀を手に突撃し斬りかかる。それを拡張領域から薙刀を出現させ受け止めた。

 

「薙刀とは珍しいわね」

 

「突くよりも切る方がいい。長物で切る事が出来るのはこの武器だって調べて見つけたの」

 

正確には超能力に目覚め光の力を持った戦士が、アンノウンと戦う時に使う武器を参考にしたものだ。

 

 

[簪 戦闘時推奨BGM[Duologue]スパロボOGより]

 

 

鈴の一撃を受け返した後に薙刀の石鎚を利用し反撃した。薙刀は刃で切るだけではなく、柄にある石鎚も打撃武器となるのだ。

 

回避が一歩遅れた鈴は回転で繰り出された石鎚を受けてしまい、エネルギーを削られてしまうがオルゴンクラウドの防御機能によって鈴自身は無傷だ。

 

「ぐっ・・!なるほどね。折れても殴れるし、折られないなら範囲の広い武器として使える訳ね。生身で受けたらと思うとゾッとしたわ」

 

「流石に直撃は避ける、か(あの一撃・・・自信あったのに)」

 

鈴は一息吐くと青龍刀を地に突き刺し、拳法の構えを取った。その姿に簪は目を丸くする。

 

「どういう事?武器を手放すなんて」

 

「別に舐めている訳じゃないわ。私の本当の武器はこの拳と脚なの、武器を使っているのは牽制なのよ」

 

「格闘戦重視って事かな?」

 

「そういう事」

 

鈴は両手を何度も閉じたり開いたりした後、軽く浮いて足をプラプラと準備運動にも似た動きをする。

 

「良い?神経を研ぎ澄ませなさい、一瞬たりとも気を抜いたら終わるわよ」

 

「それってどういう・・・!!!」

 

言葉を発する前に鈴は最大速度で簪の懐に入り込んでいた。

 

爪龍の拳にオルゴナイトの結晶が纏っており、ブラキウム・レイドを起動していたのだろう。

 

「これはジャブ!この連打に耐えてみなさい!!」

 

拳の弾幕とも言える鈴のラッシュに簪は薙刀で必死に防御する。鈴の拳の速さはハイパーセンサーがあっても見切るのが難しく、打鉄弐式に積んだプログラムのおかげで防御出来ている。

 

「うああああ!くっ!こ、こんなに早いなんて!」

 

予想外だった!ISで此処までの動きを、しかも体術だけで鈴は追い込んでくる。拳の弾幕だけが強さなのだと私は考えた。

 

「ISの常識なんて私達の間では通用しないわよ!簪!!」

 

「え?」

 

「見切れるものならやってみなさい!無影脚!!ハイハイハイハイハイィーーー!!」

 

「嘘!?ISで蹴り技!?うああああああ!」

 

ISの常識を覆す事に驚いた簪は蹴りに直撃してしまい、追撃をも受けてしまう。それでも攻撃の手を鈴は緩めることはしない。

 

「吹き飛べ!」

 

仕上げと言わんばかりに最も得意とする回し蹴りで簪を壁まで蹴り飛ばした。

 

「あがっ!?ぐ・・・う・・・こ、こんな戦いを・・・訓練で・・してるの?このメンバー・・・は」

 

「フー=ルー先生や政征達も言ってたじゃない、どんな形であれど戦いの場は全て戦場。命を失うかもしれない覚悟を持って立てって」

 

壁に叩きつけられた簪は薙刀を支えに立ち上がりながら、鈴に命がけに近い戦いをしているのかと聞いた。

 

聞かれた鈴はさも当然のように答える。鈴がさらに追撃をしないのは簪がどれだけの喰らいつく意思を持っているか確かめるためだ。

 

高揚して来てるのか、鈴の額や頬にはフューリー特有の模様が浮かび上がってきていた。それを見た簪は立ち上がって思わず指摘する。

 

「その模様・・・フー=ルー先生や政征と雄輔もあるのと同じ?」

 

「ええ、そうよ。だから何?私は私、本当の自分を受け入れているもの」

 

「簪、私達との模擬戦で何故戦うのか、自分が戦う理由というのを考えなさい。その答えが見つかれば貴女は必ず強くなるわ」

 

鈴の瞳にはフー=ルーや政征達と同じように自分を試練と導きを示してくれる騎士のような雰囲気を出していた。

 

「私の戦う理由・・・」

 

鈴に言われて私は初めて自問した。私はなぜ戦うのだろう、お姉ちゃんを見返すため?頂点に立ちたいから?誰かに認められたいから?

 

認められたいのは確かだ、でも、私が戦う理由はそうじゃない。お姉ちゃんと同じ舞台に立って一緒に戦いたい。小さい時に仲の良かったあの頃の関係に戻りたいのが本当の願い。

 

それから、どうしてあんな事を言ったのか。聞いてから一度殴らないと気も済まない!

 

簪は目つきが変わり、すべての砲門を展開する。それと同時にテストプログラムが起動しモニターに表示された。

 

 

 

 

「【system sympathia】システム・シュンパティア?テストしてるプログラムの名前なの?」

 

表示されたロックオンシステムには鈴を逃がさない為のホーミング機能、そして切り札となるリミットオーバーモード表示されている。

 

「ベクターミサイル!オールロックオン!発射!」

 

立ち上がった簪は飛び上がり。緩急を付けながら機体に搭載されているミサイルを鈴に向かって放った。その数、中小合わせて58発。

 

全てが完全にロックオンされ、ホーミングされている状態だ。しかし、鈴の顔には笑みしか浮かんでいない。

 

簪はその笑みの意味が分からなかった。自分を嘲っている訳でも、馬鹿にしている訳でもない。それなのに何故笑えるのかと。

 

「それが簪の全力、それを待っていたのよ!!」

 

「嘘?全てホーミング仕様でロックオンしてるはずなのに・・・!」

 

簪は信じられないものを見るように鈴の動きを見ていた。

 

僅かにしか無いはずのミサイルの抜け道、鈴はそれを見つけて隙間を潜ると上下左右に動いて緩急を付けつつ離脱することでミサイルを誘爆させている。

 

「私が想像している以上の訓練を受けてきたの!?」

 

「モード・セット、オルゴンシャドウ!余所見してる場合?まずは二発!!」

 

巨大な拳の形をしたオルゴナイトの結晶を分身と共に放ち、残ったミサイルを迎撃し爆煙によって目くらましを作った。

 

「目くらまし!?どこ・・・!?」

 

「上よ!シャドウは一体だけじゃないのよ」

 

フューリーとして自覚した鈴はシャドウを16体から18体に増やしていた。サイトロンとの親和性が高まった恩恵だろう。

 

「っ!!!!!」

 

「全部受けなさい!!」

 

本体と分身から放たれた拳の形をした巨大なオルゴナイトの結晶が簪に迫ってくる。回避することは叶わない、それならダメージを最小限にするために後ろへ退くようにして防御する。

 

「きゃああああ!」

 

簪が攻撃を受けたと同時に終了のブザーが鳴る。実戦と変わらない戦いをしていてもこれは訓練だ、機体を損壊させたり怪我をさせては本末転倒だ。

 

「大丈夫?簪」

 

鈴が手を差し出し、立ち上がれるようにする。勝ち負けに関係なく純粋に相手を労っての事だ。その手を掴み、簪は立ち上がった。

 

「大丈夫、でもこのメンバーでやる訓練は練度が濃いね。今までやってたのがお遊びに見えるくらい」

 

「あはは、それは大袈裟よ。私だって未だにあの二人には勝てないんだから」

 

あの二人というのはラフトクランズを扱う男性操縦者の二人の事だろう。鈴も勝てないだなんてどれだけ強いのだろう。

 

「私は格闘。セシリアは空間攻撃、シャルは戦術射撃、ラウラは強襲を得意としてるのよ。私達は長所を伸ばしながら短所を補えるように訓練するの」

 

「長所を伸ばして短所を補う・・・そんな訓練があるんだ」

 

「セシリアはビットで逃げ場を無くしてくるし、シャルは自分の間合いで戦わせてくれない。ラウラは軍人だからもっと凄いわよ?」

 

「何・・・それ」

 

想像した簪は顔を青ざめてしまった。無理もないだろう鈴の動きを見て気づいた事だが、このメンバーは誰もが国家代表になっても可笑しくないくらいの実力がある。

 

己に枷を付けてまで何故、代表候補生のままなのか?そんな疑問が簪の中で湧き出てくる。

 

「簪、これは私が自分でたどり着いた持論だけどね。力を持ったならある程度、隠さないといけなくなるのよ」

 

「!?どうして?ちゃんと立証すれば!」

 

疑問に答えるように鈴が話を始め、簪の反論を聞く前に鈴は肩を貸しながらピットへと戻り始めた。

 

「確かに全部の力を見せつければ賞賛されるわ。けど、その後はどうなると思う?」

 

「え?どうって・・・」

 

「その力をずっと維持し続けろと言われるでしょ。どんなに維持しようとしても衰えていくのは止められない、次の世代に追い抜かれる時が必ず来るわ」

 

鈴の持論はある意味正論だ。今はどれだけ強くともいずれは衰え、次の世代が生まれて追い抜かれる日が来る。

 

自らが苦労して手に入れた力を手放すのを嫌がるのは当然の事だ。しかし、それ以上の力に対抗できなくなってしまえばどうなるか?

 

盛者必衰、栄えるものはいずれ必ず終わりが来る。戦士だった千冬が今、教壇に立っているのがいい例だろう。

 

「だから力を隠すの?それならどうして訓練を続けるの?」

 

「守りたいからよ、ここで出会えた最高の友人達をね」

 

ニカッと輝くような笑顔を見せて来た鈴が簪には眩しく見えていた。ああ、これが私の目指したい英雄の姿なんだ。

 

「それと、英雄になろうとしちゃダメよ?」

 

「え?」

 

考えを読まれたかのように簪は驚き、鈴は真剣な目付きで簪を見ている。

 

「英雄ってのはね、英雄になろうとした瞬間に英雄じゃなくなるの。英雄なんてこじ付け、賞賛されることじゃないのよ」

 

「(その言葉は)でも、私は!」

 

「目指すな、とは言わないわ。でもね・・・卑怯だと思われる事が戦略だと言われるのを忘れないで」

 

ピットから鈴が去るまで簪はその背中を見つめていた。自分より背丈が小さいのに大きく見えて遠くに居るようにも見える。

 

今、訓練に付き合ってもらっている各国の代表候補生、そして男性操縦者の二人。

 

全員が並んでいる状態で背中を観る事が出来たが、今の簪にとっては全員が遠い存在だ。自分も代表候補生なのにと思わずにいられない。

 

彼らにあって今の自分にないもの、それは戦場に立つ覚悟だ。競技ではなくルールなどない生きるか死ぬかの本物の戦場へ立つ事への覚悟。

 

それでも自分はヒーローに憧れる。慣れなくてもいい、覚悟なんてそう簡単にはできないし自分は自分でしかない。それが分かっただけでも簪は自分の中で新たな目標が出来上がったのを嬉しく感じた。

 

 

 

 

訓練後、簪は生徒会室に向かっていた。己に楔を打ち込んだ相手と戦うために、自分で自分の過去にケジメを付ける事を決意して。

 

扉を開けると生徒会長である楯無が驚きと感動を同時に表現するような表情で出迎えた。その隣にいる従者の虚も躍いている。

 

「簪ちゃん!ここに来てくれて嬉しいわ!」

 

「お姉ちゃん、私がここに来たのは仲良くお喋りするためじゃないの」

 

「え?」

 

「生徒会長の肩書きは抜きにして私と戦って、お姉ちゃん。いや、更識楯無!」

 

「!!」

 

簪に名前で呼ばれ、さらに驚きを隠せない。だが、簪は戦う事を望み、ごまかして逃げることは許さないと言わんばかりの雰囲気がにじみ出ている。

 

「わ、わかったわ。日にちは?」

 

「今週の土曜日・・・本気で行くから覚悟しておいてね」

 

そういって簪は出て行った。それと同時に盾無は政征に言われた事が頭をよぎる。

 

姉妹や兄弟はぶつかり合って初めてお互いを認識できるのだと。自分は妹を自分より下に居させることで守ろうとした。

 

だが、それはかえって逆効果となり確執を生んでしまった。しかも、妹は自分と戦う決意まで固めてきている。

 

それなら、全力で迎え撃つのが今の自分にできる事だと盾無は考えた。

 

「お嬢様、申し上げておきますが今の簪お嬢様は強いかと」

 

「ええ・・・」

 

虚の言葉に盾無はただ俯くしかなかった。

 

 

 

 

 

約束の曜日となり、それまで訓練に付き合ってくれた全員を集めた簪から報告があると言われた。

 

「私、今日の放課後お姉ちゃんと戦ってくる」

 

その言葉に全員が吹き出すが、その顔は真剣そのものだ。戦いを挑むという事は自分自身を姉に見せるためだろう。

 

「簪、思いっきりやってきなよ」

 

「いつまでも弱い妹ではなく、更識簪という一人の人間だとぶつけてやればいい」

 

「見せつけてやりなさいよ!アンタの強さを」

 

「簪さんならきっとやれますわ」

 

「うん、そうだよ。きっといけるから」

 

「私達との特訓を乗り越えた今ならな」

 

「ありがとう、みんな!」

 

二人の騎士と仲間の激励を受けた後、簪は笑顔で応えた。

 

その日の放課後、更識姉妹はアリーナの中心にいた。観客は代表候補生の四人と男性操縦者の二人だけ。

 

「簪ちゃん、どうして私と戦うなんて・・・簪ちゃんが私に勝てる訳が」

 

「お姉ちゃん、その言葉が上から目線になってるって気づいてないの?」

 

簪の言葉に姉であるは息を飲んだ。可愛いたった一人の妹、自分が彼女を守らなければならない立場になり、とっさに言ってしまった一言を思い出してしまう。

 

『貴女は無能のままでいなさい』

 

その言葉から始まり、姉が出来るのだから自分もできる。それだけを思い、簪は逆に自分に追いつこうと努力を重ねてきてしまった。

 

暗部の世界に踏み込ませたくはない。その思いは通じなかったのだ。

 

「私はね、ずっとお姉ちゃんに勝てないまま生きていくんだなんて諦めてた。そんな時、政征と雄輔、鈴達が私を引っ張り上げてくれたの」

 

「!?」

 

「私はどんなに足掻いてもお姉ちゃんにはなれない、同じ血を引いていてもお姉ちゃんとは違う人間だもの。出来る事も出来ない事も違って当たり前」

 

簪は少しだけ言葉を強めながら、今まで考えていた自分の意見を姉である盾無に向けて言っていく。

 

「当たり前すぎて気づくのに時間が掛かりすぎちゃった」

 

簪は一度目を閉じ、顔を伏せ探偵が被るハットを拡張領域から取り出した。そのハットは傷が入っており日常生活で使うのには適していない。

 

「一つ、私は自分一人で出来ると思って周りの人を信じられなかった」

 

「二つ、大切な人を傷つけて閉じ篭った」

 

「三つ、そのせいで周りを見る考えを持たなかった」

 

簪からブツブツと何かを聞かされる言葉に楯無は意味がわからなかった。

 

「何を言っているの?簪ちゃん!」

 

「私は自分の罪を数えたよ?お姉ちゃん・・・」

 

被っていたハットをピット付近へと投げつけ、顔を上げる。数多く観てきた特撮ヒーローの中でハードボイルドを体現している戦士のようにゆっくりと楯無を指さす。

 

「さぁ、お前の罪を・・・・数えろ」

 

その言葉と同時にブザーが鳴り、最大の姉妹喧嘩が始まった。




あれ?鈴が導く役になってる・・・?

姉妹喧嘩、勃発です。自分より下のままでいろ、これってどんな人でも「ふざけんじゃねえ!」ってなるかと思います。

因みにこの世界の簪は特撮好きなのが強調されています。それだけにヒーローに憧れやすいですが、理想とは違うと鈴が止めました。

シュンパティアの理由?弱気な子が強気になる方法ですよ(ニッコリ)


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喧嘩の後って何故かスッキリしてしまうよね

姉妹ゲンカ開始。

簪の身体に二つの魂が宿る。


以上


※注意書き

今回は特撮のライダーネタや奇妙な冒険のネタがありますので、それを踏まえたうえでお読みください


開始と同時に簪は薙刀を手にし、盾無に突撃する。それを見た楯無は迷いながらも蒼流旋と呼ばれる槍を手に受け止める。

 

「お前の罪を数えろって、大切な人を守るのが罪になるの!?簪ちゃん!」

 

「やっぱり気づいてない、それなら、私がこの戦いでお姉ちゃんの罪を教えてあげる」

 

楯無は迷いながらも反撃を仕掛けるが、迷いがある攻撃は簡単に避けられてしまう。

 

「お姉ちゃんの罪はね、自分が良いと思った事を私に押し付けてしまった事よ」

 

「な・・・!」

 

「無能のままでいなさい。だなんて言われたら反抗されて当たり前、諦めかけた私にも罪はあるけどね」

 

簪の言葉にショックを受けた楯無は薙刀の石鎚を利用した攻撃に当たってしまい、後退されられる。

 

「うう・・・!(簪ちゃん、映像で観たよりもキレが増してる!?)」

 

「生徒会長の地位を奪おうだなんて思ってない、純粋に姉と妹として戦おう?これが最初の姉妹喧嘩よ!」

 

簪の姉を越えるという精神に共振しシュンパティア・システムが起動する。その瞬間に簪は自分の内側から何かを引っ張り出される感覚に陥る。

 

「(な、何!?誰かいる?)」

 

『(初めまして、というべきね。私はシュンパティアから引っ張り出された貴女の強気な一部分よ)』

 

「(私の強気な・・・所?)」

 

戦闘中でありながら会話が出来るのは自分自身の心の中だからだろう。強気な簪と言える人格は構わず話を続ける。

 

『(私は貴女、貴女は私。どちらも更識簪に変わりはないけど、紛らわしいから、そうね・・・笄(こうがい)って名乗るわ』

 

「(そう、笄・・・力を貸して?)」

 

『(なら、私が表に出るわ。武装の扱いをよく見ていて、二人で戦いましょう?)』

 

「(うん!)」

 

心の中の会話を終えると笄の人格が表に出る。そして何故か打鉄弐式から何かの待機音のような音が出始めた。

 

【Level Up!Mighty Brothers!Futari De Hitori!Mighty Brothers!Futari De Victory!X!!】

 

「だ~~~い!変身ッ!!」

 

音が終わると同時に両腕を大きく振り回しその場でターンすると、薙刀を構え直した。

 

【Gacchan!!Double-Up!Ore Ga Omae De!Omae Ga Ore De!We are!Mighty!Mighty!!Brothers XX!!】

 

「(え?今のって変身音!?)」

 

『(良いでしょ?私達は今から二人で一人なんだもの。貴女が観てた特撮作品からちょうどいいのがあったから使ってみたの)』

 

「い、今の何!?」

 

呆気に取られている楯無をよそに笄の人格となった簪は髪をポニーテールに纏め、眼鏡型のディスプレイを外して拡張領域にしまったようだ。

 

どうやら主人格である簪に負けないくらい、笄も特撮作品が好きな様子だ。元は簪自身なのだから当然といえば当然だろう。調子に乗ったのか、作品の主人公がやる口上まで真似をし始めた。

 

「超協力プレイでクリアしてやるわ!なんてね」

 

『(ちょっと~!ずるい~!!)』

 

「か、簪ちゃん?」

 

雰囲気が180度変わった妹の様子に楯無は混乱していた。オドオドした様子は無くなり口調も強気だ。

 

「さぁ、お姉ちゃん。喧嘩の続きをしようか?」

 

「ど、どうしちゃったの!?」

 

笄の人格となった簪の薙刀捌きは正当な薙刀術ではなく、拳法家が使うようなアクロバティックな動きをしている。それによって楯無は追い込まれていく。

 

「ぐっ!?さっきまでと全然違う!?」

 

「手加減なんてしたらボコボコにするからね?」

 

 

 

 

立会人を兼ねた観客として見ている代表候補生達と騎士の二人は簪の変化に何かを感じていた。

 

「あの変わりよう・・・束さんが作ったプログラムのせいか?」

 

「束さん、サイトロンも研究してたからな、ありえるぞ」

 

「簪ってあんな性格だったかしら?特撮好きなのは知ってるけど」

 

政征と雄輔は原因を、鈴は困惑した様子で試合を見ている。

 

「先程の音、ISから聞こえていたような気がしますわ」

 

「その音がしてからまるで性格が変わった感じだね」

 

「しかし、音だけであのように変わるものなのか?」

 

データ世界での壮絶な出来事があってからメンバー達は人としての常識が麻痺してしまっており、単純な事では驚かなくなっていた。

 

冷静に状況を見られるようになったのは幸いだが、逆にそれは一般人としての生活を送る事ができない事を意味していた。

 

「(この姉妹喧嘩、油断してたら負けますよ?楯無さん)」

 

政征は心中で楯無に忠告のような言葉を考えていた。簪の変わりようは負けたくないという気持ちから変わったのだと解釈した。

 

 

 

 

 

「混乱してたけど身体を動かして頭が冷えたわ。ところで簪ちゃん、なんだか熱くないかしら?」

 

「っ!?やば!!」

 

気づいた瞬間に水蒸気爆発が起こった。これが楯無の専用機、霧纒の淑女の技の一つ、清き激情、クリアパッションと呼ばれるものである。

 

「ぐ・・・う・・・まさか、こんなに削られるなんて、侮って・・・た」

 

直撃を受けた笄は仰向けに近い状態で倒れ込んでいる。水蒸気爆発の直撃を受けたのだから当然の結果だ。

 

「簪ちゃん、もういいでしょ?貴女は」

 

「次にお姉ちゃんは『私には絶対に勝てないんだから』と言う!」

 

「私には絶対に勝てないんだから・・・はっ!?」

 

「ふふ、油断大敵って言葉を知ってる?お・姉・ちゃ・ん?」

 

してやったりといった表情をした後、ベクター・ミサイルを近距離から一斉に発射した。普段の簪からは考えられない大胆な戦法であり周りも驚いている。

 

「ああああああっ!」

 

自分の考えを読まれ動揺していた楯無は防御のタイミングを逃してしまい、ミサイルに直撃してしまった。それにより、ダメージが五分と五分になった。

 

「これでダメージは五分五分、武器は使わずに殴るっ!」

 

「がはっ!?」

 

笄から受けた拳の一撃によって別の何かと気づいたが、追撃を警戒し防御しようとした。

 

「私に殴られるのが怖いのか!この自分勝手のシスコン姉貴がぁーー!」

 

笄のラッシュと本音をぶつけられ、防御機能を使わずに防御したままだ。それにも関わらず笄は殴り続ける。

 

「ぐ・・ううう!一撃一撃が重い!」

 

『(笄、代わって!私も殴りたい!!)』

 

主人格の簪が笄の熱に当てられたのか自分も殴りたいと言ってくる、それを聞いた笄は笑顔で応えた。

 

「(良いわよ!殴り方は私がアドバイスしてあげる!)」

 

『(うん!)』

 

主人格の簪に交代し一呼吸置いた後、ラッシュを再開した。重さは先程よりも無いがその分、速さが増している。

 

「すぅ・・・・ふぅ、これが私の積年よ!」

 

「やああっ!!!これがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがこれがぁーーー!!」

 

殴れる機会が回ってきた事で興奮して、アドレナリンが大量分泌されている影響か勢いが止まる事が無い。ISによる補助があるにしても第三者から見れば異常だ。

 

「調・・子に・・・乗らないでぇ!!」

 

「げほっ!?」

 

ラッシュを防御していた楯無もとうとう我慢の限界を迎え、殴り返した。それによりラッシュが中断させられてしまう。

 

「大切だから、裏に関わらせたくなかったから突き放したのよ!それが悪いの!?」

 

楯無も防御を考えずに殴り始めた。怒り泣きをして殴り続けるが簪も負けてはいない。

 

「悪すぎよ!たとえ関わらなくても普通に姉妹として協力すれば良いだけの話じゃない!」

 

簪のアッパーが盾無の顎を捉える。絶対防御機能によって無傷となってはいるが、その衝撃は逃す事は出来ない。

 

「それじゃ、いずれ狙われるわ!」

 

「だったら訓練して強くなればいい!!」

 

「私より弱かった癖に!!」

 

「自分から突き放したのはお姉ちゃんでしょ!!」

 

もはや会話になっていない、真面目な戦闘から姉妹間で起こる取っ組み合いの喧嘩に発展し、それがアリーナの中心で行われている。しかもISを纏ったままで。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、私達・・・此処に居ていいのかな?」

 

鈴の言葉に全員が言葉を濁した。ISの試合を見守るはずが、いつの間にか唯の姉妹喧嘩を見せられているのだから。

 

「と、とりあえず。見守りましょう?簪さんに頼まれていますし・・・」

 

「そ、そうだね」

 

「なかなか決着がつかなそうな気がするのだが・・・」

 

「ラウラの言うとおりだな」

 

代表候補生達と雄輔は呆れ気味だったが、楯無と話した事のある政征は笑いをこらえつつも何処か羨ましそうに二人を見ている。

 

「そろそろ、終わるな」

 

その一言で両者がパンチをお互いの顔面にヒットさせ、同時に倒れ気絶した。それを見届けた立会人の6人はアリーナに駆けつけると担架を二つ用意し、医務室へ運んだ。

 

担架で運ばれていく二人の顔は何処か満ち足りた表情で笑ったままであった。

 




簪がリアナとクリス(リム)化した、これも篠ノ之束って奴の仕業なんだ(棒読み)

はい、姉妹喧嘩の結果はドローです。これでもかというくらい鬱憤は溜まってるんじゃないかと思いながら書いていました。

変身音は特に意味はありません、変身する訳ではなく入れ替わりの演出代わりです。

笄(こうがい)は実際に髪飾りとしてあるらしいです。名前が簪なら髪飾りに関するモノにしました。

次回はラフトクランズが・・・破滅の白い氷に貫かれます。

それを見た玉座機が咆哮を上げ、無窮の剣をその手に。


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頼まれるとどうすべきか悩むよね

バシレウスの覚醒

紋章の移動

神話技能習得!?

氷と炎が一線越え済み


以上

※注意書き

胸糞表現があるので、それを踏まえたうえでお読みくださいませ。


とある国の地下、そこには地下に似つかわしくない機械や施設があった。その内部で一組の男女が一室から別々の訓練を終えて出てきた。

 

「ふう、訓練をすればするほど、身体が軽くなってきてるな」

 

「一夏」

 

「よう、箒。そっちも終わったのか?」

 

「ああ、鼻血が少し止まらないがな」

 

血を拭い、止血のための詰め物をした後に隣へ並ぶ。それが二人の間では当たり前となってきているからだ。

 

「大丈夫なのかよ!?」

 

「問題ない。その・・・一夏、今晩も・・・良いか?」

 

「訓練後で疲れてないのか?最近多いし」

 

「大丈夫だ、だから」

 

「わかった、部屋でな」

 

この二人は共通の敵と目的、それを果たせない悔しさと支え合いもあり、一線を越えていた。

 

愛などの感情は箒からの一方通行であり、一夏はただ受け入れているだけであった。お互いに辛さを忘れるために貪り合い快楽を得る、傍から見れば傷の舐め合いにも等しいだろう。

 

しかし、それがこの二人にとって、理性の繋ぎ留めであった。一夏は自分の中にある意中の相手を投影し、箒は愛しい男の熱を受け入れられる。

 

約束を取り付けた後に一夏と箒はある一室に向かった。そこにはクロスゲートがあり、カロ=ランが解析班と共にいる。

 

「織斑一夏か、何用だ?」

 

「強化してくれた機体のテストを兼ねて出撃したいんだよ、相手にはもう予告したし」

 

「ほう?あれのテストか、構わんが。向こうはお前の味方は居ないに等しいぞ」

 

「アイツを倒したいだけだからそれでいい。倒せばシャナ=ミアさんを俺のものに出来る」

 

シャナ=ミアと聞いて箒は歯を噛み締めながら憤っていた。愛しい男の中には必ずシャナ=ミアが居る、何故、自分に振り向いてはくれないのか。

 

「お前はそればかりだな。念の為聞いておくがシャナ=ミアを手に入れたらどうするつもりだ?」

 

「俺の証を刻み込むさ」

 

「ほう?」

 

証と聞いてカロ=ランが不敵に微笑む。その意味を理解している故に笑みが浮かんだのだろう。

 

「とにかく、行かせてくれ」

 

「よかろう」

 

「一夏ッ!私も連れていけ!!」

 

「ああ、箒の機体も生まれ変わったからな」

 

箒の目的は雄輔を倒すこと、そしてシャナ=ミアの始末である。障害があるなら排除し消せばいい、居なくなれば何もかもが収まるはずだと。

 

出て行く二人を見送った後、クロスゲートに身体を向けて独り言のように口を開く。

 

「後は呼び寄せるだけ、その時こそお前達が役立つ時だ。せいぜい今のうちに生を謳歌しておけ・・・ククク」

 

 

 

 

 

 

二人が出撃する二時間前、政征は休み時間に送信者不明のメールを鋭く睨むように読んでいた。

 

『もう一度俺と戦え!シャナ=ミアさんを立会人に連れてこい。場所は』

 

差出人の予想はついていた。仮に罠だとして隠れて向かってもサイトロンによってメンバー全員に気づかれてしまうだろう、そんな風に思っていると電話の方に着信が入った。

 

相手は楯無からのようですぐに通話ボタンを押した。

 

「もしもし?」

 

「あ、政征君?依頼されていた結果が出たから放課後に生徒会室へ来て欲しいのだけれど」

 

「そうですか。じゃあ、いつものメンバーも?」

 

「立会人をしてくれたみんなもよ。それじゃ、放課後にね」

 

通話を切り、教室にある時計を見る。ちょうど授業が後、一科目だけで放課後となる。授業に集中しようと考えを収め、準備を始めた。

 

放課後、代表候補生のメンバーと男性操縦者の二人が生徒会室に向かい、扉を開け中へとはいる。そこには楯無が真剣な目付きで座っており、従者たる虚も表情を引き締めている。

 

「みんな、集まってくれたわね」

 

部屋の内部の雰囲気に今から話すことは重要事項だという事を無言で伝えている。その雰囲気を組んでか誰もが軟派な気持ちで無くなった。

 

「破滅の軍勢が拠点にしているとされる場所がようやく見つけられたわ」

 

楯無の言葉に皆が息を呑む。破滅の軍勢の経典だとされる場所が見つかったと聞いたのだから。

 

「ただし、前提として候補とされる場所が見つかっただけだから確定とは言えないの」

 

映像用スクリーンが用意され、世界地図が映し出される。その中でマーキングらしき赤い円が二ヶ所に付けられている。

 

「二ヶ所か」

 

「ええ、スリランカとアイスランドよ。どちらかに破滅の軍勢が拠点としているの」

 

「(拠点・・・破滅の王を呼ぶクロスゲートがある可能性があるのか。もし、クロスゲートが暴走する時あれば。元々俺は・・・)」

 

雄輔が楯無と会話している中、政征は自分の中で固い決意をしていた。それはサイトロンが見せる必要もないほどに微弱な決意で誰も知る由もない。

 

「・・・・」

 

どちらに拠点があるのか話し合っている最中、鈴、セシリア、シャルロットの三人がサイトロンによって映像を見せられる。

 

「っ・・あ」

 

「っ・・これは?」

 

「っ・・サイトロンからくる情報?」

 

フューリーとして自覚した三人はサイトロンの親和性が高くなり、断片的な未来を見ることが可能になっていた。戦闘を行っているようで場所は間欠泉や雪景色、大西洋の海域が見える場所だ。

 

「ちょっと聞いて、恐らくアイスランドよ。奴らはそこにいる」

 

「え?そうなの?根拠は?」

 

鈴の言葉に楯無が疑問を持つが、その疑問に対して続くようにセシリアが答える。

 

「間欠泉の風景が浮かんできたのです。断言はできませんが・・・」

 

「雪景色のような場所も浮かんだし、アイスランドは北極圏に位置しているはずだから」

 

「まるで予知能力者ね、わかったわ。アイスランドを重点的に調べてみるわね!それと織斑先生とフー=ルー先生にも報告をお願い」

 

「分かりました」

 

雄輔が代表して返事を返し、報告会は終了した。生徒会室から出ようとした瞬間、楯無が政征だけを引き止めた。

 

「政征君、ありがとうね。あの模擬戦をやってから簪ちゃんと仲直りする事が出来たわ!」

 

「俺は何もしてませんよ。ただ、簪にも考えがあるって事だけを知って欲しかっただけですから」

 

「でも、本当に君ともう一人の彼は何者なのかしらね?」

 

「俺とアイツは唯の企業代表候補生で、IS学園に在籍している一人の生徒ですよ」

 

答えをはぐらかされた上で政征は出て行ってしまった。妹の一件は感謝しているが、楯無からすれば彼らには謎が多すぎていた。

 

彼らを見送ると楯無は扇子を広げる。そこには『報本反始』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

生徒会室から出た後にフー=ルーと千冬の二人を見つけ出すと、破滅という単語で内密な話があると口にした。

 

それを聞いたフー=ルーは千冬に目配せし、応接室へ案内するよう説得した。全員が応接室に入り、生徒会室であった事を話す。

 

「そうか、アイスランドに」

 

「意外な場所ですわね・・・あの国は確かに隠れ蓑にはピッタリですが」

 

「まだ、断定は出来ませんがね」

 

「とにかく、情報に関して感謝する(一夏・・・お前もそこにいるのか)」

 

応接室を出ると同時に一瞬だけ、IS学園が揺れる。地震ではなく何かの衝撃を与えられた揺れだ。千冬は急いで厳戒態勢を敷くように命じ、フー=ルーは生徒達の安全を確保するよう指示を出した。

 

 

 

 

「出てこい・・・早く!」

 

「来る、必ずな」

 

駆けつけたのはメンバー六人と教員の二人、ISを纏って空にいる二人を見上げて全員が目つきを鋭くする。

 

「一夏・・・」

 

「それに・・・篠ノ之箒」

 

破滅の軍勢へ組みした二人は全員を見下すように見ている。ただ、一点だけ優しさと憎悪の対象を向けている事を除けば。

 

全員がISを展開する。だが、その瞬間に政征と雄輔、シャナ=ミア以外の機体の四肢が凍らされていった。

 

「何!?」

 

「これは!?」

 

真っ先に千冬のヴァイサーガとフー=ルーのファウネアが凍らされ、代表候補生達も戦闘が不可能な状態にされていく。

 

「邪魔はしないでくれよ、千冬姉・・・俺は赤野を倒してシャナ=ミアさんの騎士になるんだ」

 

「一夏!何故、破滅の軍勢になど手を貸す!?今ならまだ!」

 

「うるせえよ。あの時、助けにくれてきたのは感謝してるさ。けどな、それ以外に何をしてくれたんだ?」

 

「な・・・に・・・」

 

一夏は千冬に対し、自分が溜め込み抑え込んでいた感情を吐き出し始めた。

 

「私の弟ならば出来ると自分本位で考えて、周りからは千冬姉の話ばかり聞かされて、唯の付属品だったんだよ!千冬の弟というだけで何でも出来る扱い!出来ないといえば何故できないと言われ、出来てもそれが当然とされる!」

 

「分かるかよ!?周りが見てたのは俺自身じゃない!俺の後ろにいるブリュンヒルデの栄光を掴んだ織斑千冬の存在だけだったんだ!!」

 

「っ!!!」

 

初めて見た一夏の本音に私は応えられない、弟の為にと思って行動してきた事が逆に追い詰めていたのだから、それは私自身も未熟であったせいだろう。

 

両親が蒸発し、当時十代であった私は自ら生きていく糧を得なければなかった。その為には何だってやった、その時も間違いだと知りながらも生きていくためには仕方のない事だと割り切ったつもりだった。

 

栄光を手にし、それによって基盤が出来ると思っていた時には私はたった一人の家族を蔑ろにしていた現実を目の前で叩きつけられた。

 

一夏の独白に誰もが反論は出来ない。一般社会でも強い権力を持つ相手に怯え、その相手との繋がりがあれば一個人など目に入らないだろう。

 

その叫びは誰もが持つ、自分を見て欲しいと望む切実な叫びであった。

 

「だから俺はぶっ壊してやる!赤野を倒して、シャナ=ミアさんを手に入れた後、何もかもぶっ壊してやる!」

 

「・・・・それがお前の本音か」

 

シールドクローとソードライフルを強く握り締めた政征が一夏を見据える、その目には同情と怒りが入り混じったものであった。

 

「環境に関しては同情はできる。だが、フー=ルー教諭から聞いた。お前がシャナ=ミア様にしようとした事を考えれば許す事は出来ん。身勝手な言い訳にしか聞こえないが、シャナ=ミア様を守るのは俺だ!」

 

「やっぱり気に入らない、赤野!!」

 

「感情の赴くままで戦いを仕掛けるか!」

 

二機のISが空へ飛び上がり二人の刃が交差する。だが、刃を合わせたと同時にソードライフルが僅かずつだが凍り出していた。

 

「何!?冷気?」

 

「そうだ、零落ではなく冷落白夜・・・白き夜の凍てつきで凍えろおお!!」

 

「ぐっ!?」

 

触れたものを凍りつかせるという特性に気付く事は出来たが、逆にそれは受けを使えない事を意味していた。一夏から振るわれる刃を避け続けてはいるが僅かでも掠った部分も凍らされている。それによって動きが鈍くなっていく。

 

「剣だけだと思うなよ?赤野!」

 

一夏はライフルにも似た武装で射撃を繰り出してきた。狙いは正確でギリギリの所で避けられたが、あまりの正確さに肝を冷やす。

 

武装の要は凍らされ、頼りになるのはオルゴンクローのみとなってしまっている。

 

「かかったな!赤野!!」

 

「な・・・がっ!?」

 

突然襲った痛みに政征はゆっくりと痛みのある方角へ顔を向ける。そこには鋭いトゲのような氷柱が肩に突き刺さっていた。オルゴンクラウドを突破し、直接搭乗者へ傷を負わせる程の威力がある事に驚きを隠せない。

 

生暖かい血の感触が政征の腕を伝っていく、こんな攻撃を受け続けたら身が持たなくなってしまう。

 

「お前は俺の領域に踏み込んだんだ。氷柱は一本だけじゃないんだぜ?」

 

「!!!!」

 

見上げた瞬間、まるで吊り天井が落ちてくるがごとく、氷柱に貫かれた。両腕、両足、腹部、貫かれた部分からは鮮血が流れ、武器はその手から滑り落ち落下していく、オルゴンクラウドを貫通するほどの威力だ。

 

「ごふっ・・・・あ・・・・ぐ・・・」

 

「これであの時の借りは返した」

 

政征自身も落下していき、そのまま地に大きなへこみを作りながら、赤い水たまりを作り出していた。貫通されたとはいえオルゴンクラウドの防御機能は生きていた為に息はあった。

 

一夏は大の字の状態になっている政征に近づくと左腕に突き刺さっている氷柱を抉るように回してから引き抜いた。

 

「がああああああああああ!?」

 

「ハハハハハ!少しは気持ちが晴れてきたぜ!」

 

堪えきれない痛みに獣のような声を上げるがそれは相手にとっての愉悦のスパイスにしかならなかった。更には両手と両足に氷柱を落として磔にする。

 

「政征!嫌ぁ!!」

 

「ぐ・・・・この氷、厄介だわ!それなら、命の炎を燃やす!」

 

余波で足を凍らされていた鈴の右手の甲にシャッフルの紋章が浮かび上がり、炎のような輝きが溢れ凍りつかされた部分が溶け始める。

 

政征の四肢を磔にし、一夏は鈴達に向き直る。氷を溶かし始めている鈴に驚きを隠せない。

 

「鈴が俺の氷を溶かしてる!?いつの間にそんな力を持ったんだ!?」

 

「アンタ達が乗り込んできて帰った後、かなり特訓させられたから・・よ。シャッフルの証よ!少しの間だけでいいわ!みんなに力を貸してあげて!」

 

そう言って最初に氷が溶けた溶けた右腕を突き上げるように上へ向けると、四つの小さな光が女性陣四人の右手に宿っていく。

 

「な、何ですの!?右手が、右手が熱い!」

 

「まるで火に炙られてるみたい!ううっ!」

 

「ぐうううう!?痛いが熱い、熱いが痛い!」

 

「ああっ!熱い!熱いぃ!!」

 

「それは敵じゃないわ!味方なの、みんなを試しているのよ!」

 

鈴は叫ぶが、女性陣は右手からくる痛みに苦悶の表情をしている。右手の光が収まり、少しずつ彼女達の右手に浮かび上がってくるものがあった。

 

セシリアからはクイーン・ザ・スペード、シャルロットからはジャック・イン・ダイヤ、シャナ=ミアからはクラブエース、そしてラウラからはブラック・ジョーカーの模様が完全に浮かび上がった。

 

浮かび上がると同時に凍らされて奪われていた四肢の自由が利くようになり、四人が立ち上がる。

 

「一夏の破滅の氷を溶かしただと?」

 

箒は四人に起こった現象に驚き、戦闘態勢を取り警戒した。破滅と聞いた瞬間にシャナ=ミア以外の表情が殺気立つ。

 

「賭けだったけど命の炎でね。それに・・・箒、アンタ破滅の洗礼を受けたって訳?」

 

「そうだ、力を得るためにな!私は全てを燃やし尽くす炎を得た!」

 

「・・・何が炎よ、アンタはこの世界を破滅させて何がしたいのよ!?」

 

「全てを破滅させた後など知ったことではない!後はお前達さえいなければ一夏は私のものになる!」

 

「狂ってますわ・・・!でも、わたくしもあのような考えを持つ事もありえたのですね」

 

「自分の欲しいものだけしか考えられなくなってるみたいだね。分かる、分かるよ」

 

「これが・・・破滅の力の影響なのか?」

 

 

 

 

 

 

それぞれが立ち上がり、箒に対して武器を向ける。だが、箒自身も手にし構えた。

 

「まさか、一人で相手をするというのか!?」

 

「これが破滅の炎だ!」

 

刀で一閃すると同時に凄まじい熱量が鈴達を襲う。その熱量は敵対している目の前の者だけに作用し、磔に使用されている氷柱に影響は無い。

 

「ぐうう!?っ!?みんな!」

 

「何!?お前は耐えられるのか?私の炎に!」

 

箒の一閃で鈴、セシリア、シャルロットの三人が膝を着いていた。冷却に対しては対抗したものの、熱量に対抗するものがオルゴンクラウドのみしかなく、操縦者を守るので精一杯だったのだ。

 

しかし、その中でラウラだけは熱量に耐えられていた。それだけではなく、物質を凍結させる気化熱にも耐える事が出来ていたのだ。それは彼女の相棒でもあるレーゲンに理由がある。

 

レーゲンはデータ世界での出来事であるとは言えど、テッカマンブレードの世界においてテッククリスタルによるフォーマットをラウラと共に受けていた。

 

その影響でレーゲンはラダムテッカマンとしての特性を取り込んでいたが為に、ISとしては過剰とも言える程の防御機能を有している。ラウラ自身はあの時の戦いで消失していたと考えていた。だが、レーゲンはラウラと共にあり、ラウラを守るという意志を有している。

 

その為にテッカマンとしての特性を最大限に利用したのだ。ラウラを守るために。

 

「そうか。レーゲンが、Dボゥイさんが、シンヤさんが、ミユキが、そして第二の戦闘教官であるゴダードさんまでもが、私を守ってくれている」

 

「なんだ!?コイツの、ラウラの後ろにいる奴らは!?」

 

箒の目にはラウラの後ろに立つ四人の仮面の戦士の幻影が見えていた。それぞれが武器であるテックランサーを手にラウラを守る形で前へと一歩踏み出し構えた。

 

自分の世界ではDボゥイとミユキの二人は生きているが、あの世界での出来事で影響があったのかは分からない、シンヤとゴダードは亡くなってしまっている筈だ。

 

「まやかしだ!まやかしは消えろォ!」

 

「あやつの目には私が共に戦い、そして敵対していたが尊敬に値する二人が見えているのか?」

 

ラウラはテックランサーを取り出し、幻影の四人と並ぶように構えると箒の目から四人のテッカマンがラウラへと重なっていき消えていった。

 

「っ!まやかしが消えたか!」

 

「鈴から借り受けた力もある。今回は私が相手をしてやろう!テッカマンレーゲンとして!!」

 

二人は飛び上がり、一夏達がいる方向とは別の方角へと向かい、戦闘を始めた。

 

 

 

 

「ぐ・・・う」

 

「シャナ=ミアさん、俺と一緒に来てくれ!そうすれば」

 

一夏は磔にした政征を放置し、シャナを説得しようと歩み寄る。

 

シャナは一時的なシャッフルの紋章からの試しに耐え、自らのISであるグランティードを展開し、テンペスト・ランサーを手にしている。

 

「何故、破滅の使者と共に行かねばならないのですか?それに、あの時、私の名を呼ばないで欲しいと言ったはずです」

 

「っ・・・何で、なんでそこまで俺を避けるんだよ!?」

 

「組み伏せられて犯されかけて、貴方を避けない理由がありません」

 

シャナが言っている事は女性の視点からすれば正論だ。己を犯しかけた相手を受け入れるなど、被害を受けた側からすれば最も嫌悪するものだ。

 

「だったら、今度は強引に連れて帰るまでだ!」

 

「・・・!」

 

一夏はシャナへ向かって刀身を振り下ろす、冷気を纏っていないのかランサーのオルゴナイトが凍りつかず競り合いになっていた。

 

「へへ・・・こうすれば!」

 

「っ!また、あの時と!!」

 

かつて模擬戦をした時と状況が似ていた。あの時は力もなく、強引に押し込まれ迫られた。

 

「ここで使わせてもらう!冷落白夜!」

 

一夏が発動したのは先程の冷気を纏い触れるものを凍てつかせる刃だ。それを感じたシャナはペンペスト・ランサーを手放し、距離を取る。

 

「っ、ランサーを失ったのは大きいですね」

 

「そこまでして来ないなら・・・」

 

一夏は磔にし放置していた政征の近くへ来ると足にその刃を突き立てた。

 

「があああっ!」

 

「っ!?」

 

「どうする?シャナ=ミアさん、大人しく着いてくればこれ以上は何にもしないぜ?」

 

引き抜いては別の場所を刺し続ける。今までのシャナであれば泣き叫んで大人しく着いていっただろう。

 

「許さない・・・もう、許しません!」

 

「ぐ・・・シャナ・・・ダメ・・だ!それが・・破滅の・・・」

 

「その口を閉じてろよ!」

 

容赦のない刃が政征の腕に突き立てられ、引き抜かれる。それを見たシャナは珍しく頭に血が上ったのか、 フィンガー・クリーブで殴りかかった。

 

「そうだ、その憎しみを俺に向けてくれよ!憎しみは愛情の裏返しとも言うからさ!」

 

「ふざけないで!」

 

だが、怒りに目を眩ませた相手ほど簡単に倒せる者はいない。一夏も殺し合いのような特訓の中で才能を開花させていたのだから。

 

「あうっ!?」

 

殴りかかってきた腕を掴み、押し倒した一夏はまるでシャナ覆いかぶさっているかのような状態にした。

 

「あの時出来なかったのを今ここでやってやる!」

 

「ぐ・・・やめ!」

 

「いやぁ!」

 

チャンスとばかりに一夏はシャナ=ミアを再び手篭めにしようとした瞬間、グランティードから咆哮のような声が上がる。それは人のような物ではなく、何か威厳のある生き物の咆哮だ。

 

咆哮は衝撃波となり、一夏を軽々と吹き飛ばす。ユニットとなっていたバシレウスが龍の姿の幻影を見せるとグランティードを包み、その形状を変えていく。

 

肩のユニットが大型化し、肩と腰にあたる部分からは竜の首のようなものがシャナを守るように現れ、胸部にはその竜の主首が合体していた。

 

本来は竜と一体化した男性の巨人ような姿だというのがフューリーに伝わる伝承だが、ISであり皇女自身が扱うという心が反映され、全身装甲化せずにドレスアーマーの竜騎士のような姿になっている。

 

「ま、まさか!?二次移行したのか!?シャナ=ミアさんを助けようとして。嘘だ!ISが助けようとするなんて!」

 

シャナは起き上がると自分の扱っている玉座機の変化に驚きを隠せない。己をなかなか認める事が出来ずにいたのに何故、グランティードは二次移行を果たしたのかと。

 

「己自身の心を認めろと、そう言っているのですか?玉座機、グランティード」

 

『だい・・・じょう・・・。貴女は・・・・強い』

 

僅かに聞こえた声はすぐに聞こえなくなり、代わりに雑音だらけの無線機から聞こえる声のようなものが頭の中に響く、それはまるで助けを求めているかのような声だ。

 

『して・・・・はや・・・・・・消え・・・・破滅・・・嫌』

 

「(今の二つの声は、一体!?)」

 

「二次移行したからといって変わる訳が!っ!?」

 

「真のグランティード。グランティード・ドラコデウス!皇家の剣、今ここで!」

 

胸に合体している竜の頭部から槍の柄のような物が現れ、それを手にしオルゴナイトの結晶で槍を再び作り出した。

 

「竜の神だって!?そんなのが存在するかよ!」

 

一夏は自信を持った剣撃をシャナ=ミアへ繰り出すが、シャナ=ミアはそれを受け止めず流れるように優雅な動きで受け流し、一夏をオルゴナイトの槍で殴り飛ばした。

 

回転による遠心力とグランティードの補助がある一撃は女性の力とは思えない威力を持っていた。

 

「ぐあっ!?な・・なんだよ今の!?」

 

「私が弱いままだと思いですか?私に厳しい修行を課してくれた方々が居るのです、今ここで強くして下さった方達に最大の感謝と敬意を」

 

「嘘だ、嘘だ!シャナ=ミアさんは俺が守るんだ!俺が守らなきゃいけないんだよぉ!!」

 

「やはり、貴方も破滅の洗礼を受けていたのですね」

 

箒と同じく目的しか目に入らず、破壊と己の欲するものを手に入れようとする欲だけが彼を突き動かしている。

 

追撃しようとした瞬間、一夏へ通信が入った。

 

「もういいだろう?テストとしては上々だ。戻ってこい」

 

「嫌だ!シャナ=ミアさんを手に入れるまで俺は!」

 

「また洗礼を受けたいのか?」

 

「っ・・・わかった」

 

「篠ノ之箒は既に撤退している。お前も早く戻れ、期待を調整せねばならぬからな」

 

カロ=ランからの通信が終わり、一夏は名残惜しそうに飛び去っていった。入れ替わるようにテッカマンレーゲンことラウラがボロボロになりかけた状態で戻ってきた。

 

「ラウラ!」

 

「シャナ=ミア姉様・・・申し訳ありません。取り逃がしてしまいました」

 

「いいのです。それよりも早く皆の手当を!」

 

破滅の軍勢に与する二人が去った事で教師二人も自由となり、全員を医務室へと運んだが、政征は一夏から受けた傷が思いのほか重傷でアシュアリー・クロイツェル社が出資している病院へと搬送された。

 

病院への教員はシャナ=ミアにフー=ルーが付き添い、ラウラ以外の代表候補生達は学園の医務室で手当てを受けているため、付き添いには来れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「姉様・・・」

 

「ラウラ、私は大丈夫ですよ」

 

姉様は平気なのを装っているがそんなはずはない、政征兄様が重傷を負ったのだ。それだけでも辛いだろう。

 

もしかしたらシャナ=ミア姉様は何かされたのではないかと私は思う。だが、それが何なのかは分からない。

 

「兄様の傷は致命傷ではないと医者が言っていました。ですから安心してください」

 

「ええ・・・ありがとう、ラウラ」

 

こうやって励ますのが精一杯だ。だが、姉様は何かを考えて老いるようにも見える。

 

「(二つの声、グランティードともしや?)」

 

「シャナ=ミアさん」

 

「雄輔師匠!」

 

「だから、師匠はやめろ」

 

「はっ!?つい癖で言ってしまった。いかんな、修正せねば」

 

鵜呑みにするだけではいけないという事か。とラウラは心の内で反省した。

 

「雄輔さん、どうしたのですか?」

 

「ええ、知らせておきたいことがありまして」

 

雄輔も付き添いに来たと同時に手当てを受け、腕に包帯が巻かれていた。軽い傷を負っただけで済んではいたが助けられなかったのを悔いている様子だ。

 

「知らせておきたい事・・・ですか?」

 

「はい、日にちはかなり前になるのですが夢の中で声が聞こえてきたのです」

 

「夢の中で声が?」

 

「消えたくない・・・塗りつぶされる・・・破滅に飲まれると」

 

雄輔が敬語になってしまうのはやはりシャナ=ミアの持つ皇女としての気品さ故だろう。

 

「もしや?」

 

「推測が正しければ・・・あの二人の機体かと思います」

 

「雄輔殿、どういう事だ?」

 

「(今度は殿呼びか、師匠よりはましだが)言葉通りだ、ISの声じゃないかと推察している」

 

「ISの声・・・」

 

ISの声と聞いて私には覚えがある、恐らく兄様や雄輔殿も経験があるのだろう。破滅に意思を飲まれているのだとしたらまず間違いなくあの二機は。

 

助ける事は難しいだろう、望むのであれば破壊するしかない。ISは意思を持つ、その意思が破滅を望んでいないのならば。

 

 

 

 

 

アイスランドに関して重点的に調査した結果、地下に巨大な建造物があると内偵者から連絡があった。報告後に連絡が途絶えた事を鑑みればその人は・・・。

 

「お嬢様、より詳しい結果が出ました。休火山の内部で建造物は動いているそうです」

 

「その建造物が破滅の王を呼ぶ装置なのかもしれないわね。それで軍勢の動きは?」

 

虚は書類をめくりながら淡々と報告を続ける。

 

「軍勢は今、何も動きを見せていません。おそらくは建造物の解析を優先しているのではないでしょうか?」

 

「だとしたら急がないと。でも、肝心の政征君が入院・・・あまり言いたくないけど主力となる代表候補生達も怪我で動けない状態、状況は悪いわね」

 

生徒会長が守るべき生徒を戦力として考える。常識では考えられない思考だろう。しかし、それ程までに一般生徒と代表候補生となった生徒の力の差は歴然だ。

 

そんな中で破滅の王がこの世界に現れたら生きとし生けるもの全てが破滅してしまうという事を聞いてしまい、戦力を考えねばならない。

 

本来と相反する考えにより楯無は精神的に追い込まれていた。

 

「お嬢様。お嬢様はクトゥルー神話というのはご存知ですか?」

 

「クトゥルー神話、クトゥルフ神話のことかしら?確か、トーク系のゲームなどで用いられてる物よね?」

 

「そう、宇宙的恐怖を題材にした作品です。似ていると思いませんか?破滅の王と呼ばれる存在が」

 

「まさか、実際に破滅の軍勢は出てきているのよ?虚ちゃん」

 

虚はその時点で口をつぐんだ。これ以上は報告できる内容は無いということなのだろう。

 

「もし仮にそのような存在だとしたら・・・政征くんの言う通り、本体なんて出てきたら良くて追い返すのが精一杯なのかも」

 

「その時には誰かが犠牲になっているやもしれませんね」

 

虚の呟いた言葉に楯無は何も答えることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

病室で政征は眠っていた。夢の中で紅いドレスを着た少女と白いワンピースを着た少女が立っている。

 

彼女達は何かを訴えかけている。それがよく聞き取れない、聞こうとした瞬間に彼女達は黒い何かに飲まれ、沈んでいく。

 

「私達を・・・・破滅・・・から」

 

「開放・・・して・・・くださ・・い」

 

聞こえたのはそれだけだった。自分も飲まれようとした瞬間に目を覚ます、病室のベッドの上で寝かされているようだ。

 

身体を起こすことはできず、まだ感覚がボーッとしている。鎮痛剤を打たれ点滴もされている影響だろう。

 

「開放・・・破壊してくれって事なのかな?」

 

自分一人の意見では決められない。破壊する事が正しいにしてもISそのものを自分の我が子と思っている人が居るのだから。




あれ?一万越えてた。

紋章の移動はある合体攻撃のフラグです。

本陣乗り込み前に大怪我。

玉座機が竜の身体を得ました。これも意味があります。

次回は裏側です。束さんがとある神になってます。


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裏側 私の夢は不滅だァ―――!

束に神が乗り移る。

ナノマシン万能、現代の就労問題がなんのその

バルマーの技術に名状しがたくなり悶絶

以上


アシュアリー・クロイツェル社、研究室。そこでは研究部長である篠ノ之束が懸命にコンピューターのキーボードを叩き続けている。

 

「束様、少し休んだほうがいいのでは?」

 

「私のクリエイティブな時間を邪魔するなァァァ!もっと、もっと強くコードをイメージしないとォォォ!ブゥハハハ!」

 

クロエの忠告も聞かず、束は不眠不休でオルゴンと親和性のあるプログラムをラピエサージュ・アルキュミアに搭載する為、開発を続けている。

 

それと同時に亡国機業から提供されたパーツの解析も済んでいない為、併用して進めているのだ。

 

「束、あんまり根を詰めると大変な事になるわよ?」

 

夜食を差し入れたり、助手としてカルヴィナが手伝いに来ているが、束はそんな事を耳にも入れずお構い無しに深夜テンションのまま開発を止めない。

 

目の下に隈を作りつつも、ブラインドタッチから人差し指一本で束はキーボードを叩き続ける。正確さが変わらないのは速さを優先しているのだろう。

 

「ブフフフ!!もう少しだよ!もう少しでェェェ!!ヴッ!?」

 

しゃっくりのような声を出した後、束はまるで過労の限界を突破したかのような状態で動かなくなってしまった。

 

「ふえっ!?束様!どうして?」

 

「開発作業と解析作業に命をかけすぎたみたいね・・・この子、のめり込むと止めないから」

 

クロエが驚き、カルヴィナが呆れていると束が着けているカチューシャの形をしたウサ耳の機械が動き、飛び上がるように復活すると椅子に座りなおした。

 

「こんな事もあろうかと復活用ナノマシンを投与しといて正解だった!一度使えば疲労回復も兼ねて無くなるけど、また投与すれば問題なし!」

 

自分に回復用ナノマシンを投与しつつ、プログラム開発と解析を再開する束。それを見つつもコーヒーや栄養のある食べ物の提供を忘れないクロエとカルヴィナ。

 

 

 

 

数時間経った後、束は額にハチマキをした姿で背もたれに背中を預けながら大声で笑っている。その声を聞き椅子の上ででうたた寝をしかけていたカルヴィナは目を覚ましたが、クロエは向かい側のソファーで眠っている。

 

「アーーーッハハハハハハ!!ハハハハハハハハーーー!!」

 

「ん・・・?出来た・・・?開発出来たの!?解析も出来た!?」

 

「ダメだぁーーーーーーー!!」

 

「ダァァーー!!」

 

束は落ち込んだように机に突っ伏し、カルヴィナは思わず机の上にあった空のお盆を叩き落としてしまった。

 

「もう、これで不眠不休四日目の朝よ?いい加減に休憩しなさい!それじゃ開発も出来ないし、解析も進まないでしょう!?」

 

「黙ってェェーーーー!!はうっ!?」

 

机を思いっきり叩いた瞬間、束はまたビクンと身体を痙攣させ、その場で立ったまま動かなくなってしまう。その瞬間に再びウサ耳のカチューシャが動き、束がターンして復活する。

 

「残りナノマシン・・・80、私の才能はこんなもんじゃないだろおおおおお!!」

 

「うるさい!うるさいですよ、束様!睡眠中は静かにしてて下さい!」

 

叫んで騒がしくしていた束をクロエが飛び起きて注意する。その後、クロエは再び睡眠に入った。束は呆然としたままその場で固まっている。

 

「怒られちゃったわね、束」

 

カルヴィナから優しく声をかけ、束は静かに開発と解析作業に取り掛かり始めた。

 

 

 

 

 

 

作業を途中で中断し、しばらく休憩を取った後に束はまたもや作業に没頭している。

 

 

「よし、開発は出来た。解析ももう少しだぁー!」

 

とは言うものの提供されたパーツの解析はあまりに高度なテクノロジーで作られており、束でも解析に時間がかかっている。

 

「何が黒き地獄だ!何が黒き天使だ!何が黒き銃神だ!このシン・束にかかれば解析できない物なんか無いぃーー!」

 

開発時のテンションで勧めているらしく、ものすごく騒ぎながら解析している。そうでなければ自分を保っていられないのだろう。

 

「大層な名前を付けてても私にかかれば!私の手にかかればあー!はぐっ!?」

 

再び束は机に倒れこんで動かなくなってしまうが、復活用ナノマシンが作動しジャンプした後、床に着地する。

 

「残りナノマシン・・・55。徹夜がなんぼのもんじゃーーー!こんなもの見せられて寝てられるかぁー!!」

 

キーボードが壊れかけているんじゃないかと疑いたくなるくらいの勢いで叩き、身体の方を全く考慮していない。

 

化学者に適している集中力だが、このまま酷使し続ければ身体のほうが持たないだろう。

 

破滅の脅威から救える機体を作れるのは自分だけだという強迫観念に突き動かされ、解析を進めた。

 

無論、この後で復活用ナノマシンが残り三十五となり、カルヴィナにたいそう叱られた。

 

 

 

 

亡国機業に所属していた三人は、アシュアリー・クロイツェル社に機体の改修為に会社に居てくれと依頼され、改修に立ち合い形になったと連絡が入り、ハンガーへと向かう。

 

三人からすれば思ってもみない幸運だが、今までの機体とは姿が全く変わってしまっていた事に驚いていた。

 

「な、なんだよあれ!?私のアラクネがとんでもない形になってんぞ!?」

 

「ちょっと!私のゴールデン・ドーンまで!?」

 

「私のは新しく作り上げられたのか?」

 

それぞれが困惑しているようで怒号を上げている。しかし、自分達が承諾したのだから文句は言えない。

 

更には改修したのがISの生みの親である篠ノ之束だと聞いた瞬間、三人は黙り込んでしまった。

 

「やぁ、待たせたね」

 

改修者の束の登場だが、その足取りはフラフラですぐにでも倒れてしまいそうだ。その様子見た三人は呆れており、満場一致で休めと言いたげだ。

 

「提供されたパーツを解析しながらプログラムを組んでたら四徹しちゃったよー!」

 

「バカじゃないの?」

 

「バカじゃねえか?」

 

「バカだな」

 

「三人そろって意見が全く同じ!?」

 

束はショックを受けていたが、気持ちを切り替えて機体に関して説明を始めた。

 

「えっと、先ずはゴールデン・ドーンと呼ばれた機体はタオフェ・アストラナガンという名前に変えて機体も一から改修しちゃいました!」

 

「・・・・洗礼の黒き天使、皮肉ですね」

 

「アストラナガンって名前は解析したパーツの記録から命名したんだよー。あ、でも本家には遠く及ばないし、武装を似せて作ってあるだけだからね?特にインフィニティ・シリンダーって武装は危険過ぎるよ!なんだよ物体の時間逆行って!」

 

どれだけ危険なのか、この機体を作った人はどんな人物であり、自分が会いたいという旨を力説して暴走している束にスコールが注意する。

 

「あー、その・・・私の機体に関しても聞きたいんだけどよ?」

 

「ごめんごめん、えっとね・・・アラクネと呼ばれた機体はジュデッカ・リートという名前に変えて改修したよ!この機体の記録もおかしいよ!カルケリア・パルス・ティルゲムって何!?」

 

「ジュデッカ・・・神曲に登場する主人を裏切った奴が堕ちる第四の地獄が名前かよ。それに地獄の歌とはまたいいじゃねえか」

 

カルケリア・パルス・ティルゲムに関してまたもや暴走している束を無視し、生まれ変わった自分の相棒を見る。

 

名前の通り自分は破滅という地獄を見て、生きてきた中で裏切り、裏切られを繰り返してきた。正に地獄の歌を歌う歌手にふさわしいじゃないかと。

 

「それで?私の機体は?」

 

マドカの声に正気に戻った束はマドカに向き直ると、抱きつこうとしてくる。それをマドカは合気道のように束の突撃してくる運動エネルギーを利用して地面に叩きつけた。

 

「ほんとにちーちゃんそっくりだぁぁぁ!がふっ!?」

 

「説明をお願いします」

 

「合気・・・道の・・・小手・・・返し・・・?柔・・・かぁ」

 

受身を取りつつ、ハンドスプリングの要領で立ち上がるとマドカに機体に関して説明を始めた。

 

「コアは提供されてた物を使って、解析したパーツからディス・アストラナガンという名前が出てきたんだけど、それじゃ被るから・・・ガリルナガン・ナーゲルという名前にしたよ。これもディス・レヴっていうおかしい動力源があったけど、解析してるうちに私のSAN値(正気度)がぁ!」

 

「SAN値?何を言ってるんですか?」

 

いあ!いあ!くとぅるふ ふたぐん!などと叫んでいる束から離れるとマドカは自分の新しい機体であるガリルナガン・ナーゲルに近づいた。

 

「複製の爪か、私らしいじゃないか。それに武装も気に入った」

 

何かを叫んでた束が再び正気に戻ると機体の説明を開始した。

 

「元々ガリルナガン・ナーゲルはインフィニティ・シリンダーと似たような武装があるんだ。私に出来たのは再現出来そうな武装までで、特殊武装のプログラムまで解析してたら正気を失うものばかりだもん」

 

「仮にその特殊武装を使えたとして、使用して消滅したらどうなるんですか?私達も?」

 

「うん、最悪は死ぬ。良くて因果律に囚われて二度と自分の世界には帰ってこれなくなるよ。それだけの力を解析したパーツは持っていた」

 

それを聞いた瞬間に三人は表情を強ばらせる。特にスコールは顕著だ、自分が大切な人が乗る機体に帰ってこられない危険性が増していると口にされたのだから。

 

「それにね?私だって解析はしたけど、ブラックテクノロジーを簡単に搭載するほど間抜けじゃないよ?動力源はこの世界にあるものだから安心して」

 

動力源と言った瞬間に再び束は言動が暴走し始めた。今度はのたうち回るように転げまわっている。

 

「ディス・レヴにティプラー・シリンダー、ズフィルード・クリスタル、量子波動エンジンってなんだよー!私の理解が追いつかないー!」

 

また科学者としての発作なのかと三人は放っておくことにした。

 

「仇は取ってあげるわ、私達がね」

 

「待ってやがれ、破滅の軍勢ども!」

 

「虚空の彼方に消し去ってやる」

 

それぞれの機体を見つつ、三人は破滅の軍勢へ向かう電撃戦の日まで己を鍛え、機体調整の日々と学園での生活を続けた。




どうしてもやりたかった神ネタ。

頭の中で[GAME OVER]と聞こえたあなたはウイルスに感染しています。

速やかに治療をお勧めします。

束さんだとやりかねないと思うのは自分だけでしょうか?


※アフレコ中(例の二人)

「私が君を」

「お前が私を」

「「(We are)何度も何度も試して(HEY!)ダブルエーックス!!」」

「I am GOD!!」

「いや、喧しいぞ束」


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雰囲気が変わると誰でも驚くよね

スコールが因果律を見守る二人の意思を受ける。

学園のピンチ(物理的な意味で)

破滅の新しい機体が犠牲の下、生まれる



以上


破滅の軍勢に汲みした二人の襲撃から二日後、マドカは代表候補生の一人であるラウラと手合わせをしていた。

 

IS学園の生徒としてマドカは転入を認められた為、アリーナを使う事が出来ている。

 

ラウラはテックランサーを手に格闘戦を仕掛けているが、マドカの新しい機体、ガリルナガン・ナーゲルの固定武器であるバスター・アックス・コンポジット・ガン、通称バスタックス・ガンのアックスモードで受け返され続けている。

 

再現された物ではあるが、戦斧を彷彿とさせるその力強さにラウラ自身も圧倒される。

 

「このまま切り裂いてやる!デッド・エンド・スラッシュ!!」

 

戦斧による一撃が決まりそうになった瞬間、終了のブザーが鳴り響いた。

 

「あ、危なかった!」

 

「終了か。新しい機体の動きも未だに慣れないから力押しになってしまうな」

 

二人は機体を解除し、休憩を取るためにピットへと向かい、マドカが自販機から飲み物を購入するとラウラに投げ渡した。

 

「すまないな、私の機体の訓練を手伝ってもらって」

 

「構わない。私自身も未だに未熟だからな」

 

ウマが合うのか二人はメンバーと共に訓練していても話していることが多い。似ている所もあり同族嫌悪をすることもあるが、今では戦友に近い関係だ。

 

「とにかく今は機体を自分の思うように動かせるようになって、武装の反動を克服しなければな。時間も少ない」

 

「うむ、次は私がワンオフ・アビリティーを使い、ブラスター化して相手をしよう。高機動戦闘の訓練になる」

 

「わかった」

 

休憩後の二人の戦いは熾烈を極め、お互いに距離を取り必殺技を放とうとしていた。

 

「うおおおおおおおお―ーッ!!」

 

「メラフティー・ディーンよ!ディス・レヴの火を目覚めさせろ!テトラクテュス・グラマトン・・・!」

 

「AICボルテッカァァァ――!」

 

「アイン・ソフ・オウル!デッド・エンド・シュートォォォ――!!」

 

「止めんかァァァ―――!!大馬鹿共ォ!!」

 

「学園ごと一帯を崩壊させるつもりですか!

 

AICブラスターボルテッカとアイン・ソフ・オウルのぶつかり合いに発展しそうになったが、あわや発射される寸前で千冬とフー=ルーが巨大なエネルギーを感知し、大急ぎで駆けつけ怒鳴り散らした。

 

問題を起こしたラウラとマドカの二人は駆けつけた教員二人に拳骨と説教を貰う事になった。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アシュアリー・クロイツェル社が実験とテストの為に買い取っていた島で改修された機体のテストが行われていた。

 

「最終武装テストを開始します。最大出力での武装を使ってください」

 

「ああ、分かったよ。時空の狭間に消えやがれ!最終地獄ジュデッカ!」

 

海に立てられたターゲットへと向かって放たれたエネルギー波は海を円形に抉り、海底が一時的に見えるほどに強力なものであった。

 

「うう・・・コイツはキツイ。一番威力の低い武装の第一地獄カイーナを使っただけで腕が痺れたのに、ジュデッカは数倍のパワーで頭に響く・・・」

 

武装の反動に苦悶の表情を浮かべるオータム。本来、彼女達の使っている機体はテレキネシスが無ければ使うことが出来ないはずであった。

 

しかし、束から簡単なテストを受けた結果。二人はテレキネシス・リンク・システムを起動する事の出来る能力者であった事が判明していた。

 

だが、彼女達からすればそれは全く興味のない事であった。改修された自分の機体に逸早くなれる事しか考えていない。

 

希少な素質を持っていたのにも関わらず、それに対して二人は機体を動かす為に必要なものとして割り切ってしまっているのだ。

 

「最終武装テスト、終了です。帰投して下さい」

 

「おう、了解だ」

 

オータムの機体であるジュデッカ・リートが帰投し、それと入れ替わるようにスコールがタオフェ・アストラナガンで外へと飛び出した。

 

「それではタオフェ・アストラナガンの武装最終テストを開始します。全て空中にターゲットを配置してますので、最後はAI制御の戦闘ヘリが出てきます」

 

「分かったわ」

 

「では、テスト開始」

 

「(タオフェ・アストラナガン・・・本物には遠く及ばないって言っていたけど、本来のアストラナガンってどれほど強力だったのかしら・・・っ!?)」

 

スコールが機体へ意思を向けた瞬間に引っ張られる感覚を感じた。その速度はあまりも早く、気づいた時には二人の男らしき影が眼前に立っていた。

 

「だ、誰!?それに此処は一体?」

 

『此処は正の力と負の力が交わる因果律の境界』

 

『機体だけとはいえど、この世界において因果律に触れる事の出来る者が現れた事で俺達は来ることができた。最も一人は自覚がないようだが』

 

「そう、それで私に何をしようというの?(もう一人はMかしら)」

 

『お前の機体はアストラナガンの名を冠している。それ故に知らねばならない、戦いの軌跡・・・そして』

 

『ディス・アストラナガンとアストラナガンが渡り歩いた世界も』

 

語られた瞬間、スコールは吹き飛ばされるように空間の流れを体感した。時間にしては数秒のはずが、まるで何年もの時間を経験してきたかのような感覚に襲われる。

 

「こ、これが。二つのアストラナガンが歩んできた世界の全て・・・重い、重いわ。アストラナガンという名前そのものが」

 

『アストラナガンは因果律を見守る番人ゆえ、姿を変えつつも並行世界を渡り歩いている』

 

「そう・・なの、ねえ、一つだけ聞かせて頂けるかしら?」

 

『何を聞きたい?』

 

「私も、その・・・因果律の番人となり得るのかしら?」

 

『お前ともう一人は番人には成りえない、可能性があるとすれば平行世界を渡り歩く【旅人】だろう』

 

「そう、ありがとう」

 

自分が背負った機体の名前の重さと使命にため息を吐きかけたがそれをこらえる。番人となった瞬間に自分はどうなるかを想像してしまい恐ろしさを隠すためにため息をしなかった。

 

『だが、お前のタオフェ・アストラナガンは未だ枷が残されている』

 

「枷ですって?」

 

『そうだ。それを俺達二人の力で枷を解き放つ・・・』

 

『生きる意志を持って、破滅を追い返せ。命の力は生きる意志そのもの』

 

その言葉と共にスコールは己の肉体へと引き戻されていく。その中で銀髪の青年が口にした言葉が耳に残っていた。テトラクテュス・グラマトンと。

 

「テストを開始しています。始めてください、スコールさん。スコールさん?」

 

「・・・・」

 

「スコール?何やってんだ?止まったままで」

 

 

[推奨BGM【THE GUN OF DIS】第三次スパロボαより]

 

 

 

「『我が手に還れ、タオフェ・アストラナガン・・・!テトラクテュス・・・グラマトン・・・』」

 

スコールの声ではあるが低めの声で何かを見据えるような瞳をしている。雰囲気がいつもと違う、まるで何かに憑依されているような様子だ。

 

「『時を遡り、お前は無に帰するのだ!インフィニティ・ヴァルツァー!』」

 

タオフェ・アストラナガンの象徴である黄金色の翼からオルゴンと似た色をしたエネルギーが溢れ出し、それと同時にスコールは男性も女性も虜にする恐ろしくも見惚れてしまうような妖艶な笑みを見せていた。

 

「『デッド・エンド・シュート!』」

 

美しく長い金髪が深い青色へと染まり、それを靡かせ更には隣に同じ髪の色をした長髪の男らしき影が重なると左手を握りこみ、同時に巨大な光弾を胸部から放った。

 

その光弾は分裂し、ターゲットである軍用ヘリに向かうと囲むように衛星のような軌道を描き取り囲んでいく。弾の一つが命中し、その部分が削り取られたかのように穴が空き、次々とターゲットの身を削っていった。

 

光弾が霧散すると同時にターゲットは初めから存在しなかったかのように跡形もなく消滅している。

 

「す・・・すげえ、これがスコールの生まれ変わった機体。タオフェ・アストラナガンの力・・・」

 

「スコールさん、テストは終了・・・です」

 

空中で放たれていたとはいえど、あまりの威力に職員もオータムも戦慄していた。機体のエネルギーは収束し静止したままだ。

 

「はっ!?わ・・・私は一体何を?え?インフィニティ・ヴァルツァー?何なのかしら、この武装は」

 

スコール自身、インフィニティ・ヴァルツァーを放った瞬間を覚えていない様子だ。髪も青から元の金髪に戻っており、雰囲気もいつもの感じになっている。

 

「あの二人は一体誰だったのかしら?っう!?身体が・・・急に重く・・・」

 

どうやら先程の一撃で、身体への反動が表立ってきたようだ。何かに憑依されていた時は自意識が無かったために反動に対しての反応が鈍っていたのだろう。

 

「急いで・・・戻らないと」

 

帰投したスコールは全身疲労で医務室へと運ばれ、オータムが付き添った。運ばれている中で自分が話した謎の二人組の男性の言葉が浮かんだ。

 

「(枷を外すって行っていたわね。インフィニティ・ヴァルツァーを使える事が枷を外したと解釈するべきなのね、それに・・・一部が機械化されていても生きる意志が力となる・・か)」

 

疲労から来る眠気に身を任せ、スコールは自分の中で目覚めた因果律の事を思いつつ目を閉じていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

各々が機体に慣れるための訓練をしている中、アイスランドにあるルイーナの基地ではISコアを使った起動実験が行われていた。

 

『嫌・・・イヤ・・・イヤアアアアアアアアアアアア!!』

 

「ウィオラーケウムへの搭載、完了しました。人工知能パイロットも問題ありません」

 

「そうか、では次の機体だ」

 

カロ=ランは自分の記憶と破滅の王の欠片から引き出した情報を基に決戦へ備えた指揮官クラスのミーレスを生み出していた。

 

『止めて!ヤメテ!止めてくれエエエエエエエエエエ!!』

 

「フォルティス・アーラへの搭載、完了です」

 

搭載されていくISコアは自意識がある事を発見された物ばかりであった。それを知ったからこそ破滅の軍勢の機体を再生させているのだろう。

 

「残りは一つ、最もバランスがよく連度の高いこのコアはこの機体に使いましょう」

 

『ア・・・・アアア・・・私が消える!塗りつぶされる!嫌ッ!助けて!誰か、誰か!ワタシハ・・・宇宙へ・・・お母さあああああああああああああん!!』

 

「プリスクス・ノクスへの搭載、完了」

 

三つあったISコアの全てが破滅の軍勢の機体へ搭載され飲み込まれていった。その意志はミーレスと一体化し表に出てくる事は二度とない。

 

そんな中で科学者やカロ=ラン達は自分達が行った搭載実験の結果に満足しているような笑みを浮かべていた。

 

「これで指揮官の機体が出来上がった。所詮は機械のコア・・・操作でどうとでもなる」

 

「私の頭脳は間違っていなかった!今こそ、私が篠ノ之束以上の物を作り上げるのよ!」

 

「(馬鹿な奴だ、その程度の頭脳では奴の足元にも及ばん。せいぜい駒を作り続け、夢心地に浸っているがいい)」

 

 

カロ=ランは心の中で科学者へ向けて冷笑を浮かべていた。夢を見ている間が幸せだと思いながら。




スコールはあの二人から枷を外してもらい、刻印を刻まれました。

マドカの方はまだ自覚していません。

ヴァルツァーは独語でワルツを意味します。

ガリルナガン・ナーゲルがアイン・ソフ・オウルを撃てるのは発射口が胸部にあるためです。形状はガリルナガンでも元はディス・アストラナガンのデータを解析して改修されているため発射が可能です。


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近づく破滅の日から救世主の生誕へ

決戦がいよいよ迫る。

スパロボではあまりない恋人同士のインターミッション

目撃してしまう二人の少女。

以上


※注意書き

セシリアのファンや鈴のファンの方には少し嫌悪感を持たれる描写があります。

それを踏まえた上でお読みください。


亡国機業のメンバーが機体に慣れる為の訓練をしている中、ラウラ以外の代表候補生及び更識姉妹、布仏姉妹が揃っていた。その中には機業代表候補の男性二人もいる。

 

「アイスランドで確認されたわ。織斑君の機体が休火山の火口へ降りていく情報が」

 

「確定ですね。だとすれば乗り込んでゲートを停めるか、破壊しなければ破滅が来る」

 

「そうだな、間違いない」

 

楯無からの報告と男性二人の言葉に全員が頷く。破滅の軍勢の目的と学園を去った二人が根城にしている場所を突き止めた為だ。

 

「それともう一つバッドニュースよ。女性利権団体のタカ派が団体の全てを掌握したそうよ」

 

「なんですって!?」

 

「本当なのですか!?」

 

「裏が取れているわ。タカ派はクーデターを起こして、ハト派を完全に粛清。全員がアイスランドに集結してるそうよ」

 

「妙な話だね。それなら代表就任挨拶とかが世界的ニュースになるはずなのに」

 

「表向きに騒動を悟られないよう根回しされていたのよ。利権団体のタカ派は手を結んでいたそうだから」

 

「どこまで愚かなんだろう~・・・」

 

女性利権団体に対して全員毒付くが全てを否定することができなかった。特にセシリアは自分の立場に置き換えて考えていた。

 

自分も女尊男卑に染まっていた過去が有る。どんなに取り繕うとも覆すことの出来ない過去として自分の中で眠っており、それが自分を苦しめる。

 

それは誰の責任でもない。女尊男卑の世の中で男は弱く、女性は強いというのが家族の中で目の前で行われていた、其れが当たり前だと信じて疑う事もしなかった。

 

しかし、弱いと思っていた男性に敗北し、女尊男卑の考えを改めた時、セシリアは自分の父親に対してある考えが浮かんでいた。

 

女尊男卑の世の中で父は仮面を被っていたのではないのかと。ラウラのように悲しみを背負うためではなく、母を、そして自分を守るためにわざと仮面を被り道化を演じていたのではないかと。

 

そしてそれは、母と共に考え抜いた末の苦渋の選択ではなかったのかと。母が本当に父に対して愛想を尽かしていたのなら離婚などの出て行く手段は多くあったはずなのに。

 

今となっては聞く事は叶わない。聞けたとしても両親ははぐらかすであろう。そんな考えを持ちながらセシリアは報告を聞き続けた。

 

「ここからが本題よ。突撃強襲を仕掛けようと思うの。もちろんケリをつけるという意味合いになるわ」

 

楯無の言葉に全員に緊張が走る。あの破滅の軍勢を相手に、これだけの人数で戦うと宣言しているに等しいからだ。

 

「(戦いに勝ったとしても、恐らくクロスゲートに誰かが特攻しなきゃ破滅の王は追い返せない。その時は)」

 

「(政征の奴・・・命を捨てようと考えてやがるな。でも、それは架空の世界だけでしか通用しない精神だぞ)」

 

男性二人の思考を他所に話は進んでいく。そして決行の日は十二月二十五日のクリスマスということになった。

 

何故、クリスマスの日に乗り込むことが決まったのか。それは救世主が生誕した日に破滅によって救わんとする王を追い返す意味で皮肉ったものだそうだ。

 

話し合いが終わり、生徒会室から出て行くと訓練を終えたラウラとマドカが合流し、生徒会室で話し合った全てを伝えるために場所を移動していった。

 

 

 

 

スコールとオータムも機体のテストをしている中で映像通信で決行日を聞かされていた。通信の相手は無論、楯無である。

 

「という訳です。スコール先生、オータム先生」

 

「理解は出来たわ。クリスマスだなんて随分と皮肉が効いていて素敵じゃない」

 

「破滅の神を追い返す日が救世主の生誕とはな、コイツは面白くなりそうだぜ!」

 

二人の顔には殺意と歓喜が入り混じったような笑みで楯無を見ていた。その表情に楯無も恐怖を隠せない。

 

画面越しとは言えど二人は世界に暗躍していた亡国機業の幹部であり、自分以上に殺し合いや戦場に慣れている。

 

その経験の差を隠しきれないオーラが物語っているためだ。

 

 

「それじゃ、私達は明日、学園に戻る予定だからその時に詳しく話し合いをしましょう」

 

「ええ、お待ちしています」

 

「ありがとな?生徒会長さん」

 

通信が切れると同時に二人はようやくといった雰囲気で通信が切れた画面を見つめている。

 

「私は因果律の旅人になるのは構わない、せめて仲間の無念だけでも晴らしてあげたい」

 

「恨み辛みで戦う訳じゃねえが、ケジメだけは付けさせてもらうぜ、破滅の軍勢」

 

漆黒の祈りを捧げる堕天使と地の獄で掲げられる黒き十字架を継承した二人は決戦の日に備えてよりハードな訓練を組み入れつつ、学園での教師生活に戻る準備を始めた。

 

 

 

 

 

その日の夜、政征は一人で学園の道場に正座していた。織斑先生に許可をもらい、門限ギリギリまで使わせて欲しいと頼み込んだ。

 

虚勢を張っていても覚悟を持っていてもやはり戦いは怖い、臨海学校の時のように死ぬ寸前までいった事を思い出す度に震えが来る。

 

「・・・・クロスゲートへ追い返すには、でも」

 

目を閉じ、浮かぶのは自分が初めて心から愛した女性の顔。シャナ=ミアを置いて死ぬことなど騎士道不覚悟。

 

死にゆく覚悟はしても死ぬつもりはない、それに加えて奴との決着もつけなければならない。

 

「思い出せ、何の為に剣を振るうのか?何故、自分は騎士となったのかを」

 

自問自答を繰り返し、騎士としての己自身の意味を問いただす。そんな中で意識の奥底に到達した時、その根源たる思いを再確認する。

 

初めは護衛として接していた。接していくうちに隣にいるのが当たり前となっていった、当たり前などいずれ消えて行くのには瓦は当然の事なのにと思いを押し殺した。

 

彼女を強欲に欲した時があった。彼女を傷つけられることに憤怒もした。暴食の如く彼女を色欲に任せ貪りたいとも思った。彼女を守る自分に酔い、傲慢となった。

 

彼女の優しさに溺れ、怠惰した。彼女が決着をつけるべき相手に笑みを向けた時、嫉妬をした。

 

彼女を守る為にこれだけの罪を犯している。だが、その罪は人間が人間であるために必要なもの、それをも受け入れよう。

 

今の自分は彼女以外にも守る存在が居る。その為にも破滅を追い返さねばならない。自分の本来の世界は帰郷の思いもあった。

 

でも、今はこの世界の住人だ。帰りたいといえば迷いなくこちらを選んでしまうだろう。産んでくれた母は自分で選んだのなら迷いなく進めと教えてくれた。

 

ゆっくりと瞑想を解き、改めて決意を表す為に言葉を口にする。

 

「俺は仲間と、それ以上に大切な存在・・・シャナ=ミア・エテルナ・フューラを守りぬく!」

 

「政征?」

 

「どうわぁ!?シャ、シャナ!?どうして此処に?」

 

「なかなか帰って来ないので探していたんです。もう、寮に戻る時間ですよ」

 

「そ、そっか!」

 

まさか聞かれてないよな、さっきの独り言。聞かれていたらものすごく恥ずかしいよな。

 

「政征、貴方に想いを打ち明けた時もこのように二人きりでしたね」

 

「あ、ああ。場所は違うけどそうだったね」

 

あの時はシャナから告白してきて慌てちゃったんだよな、女の子から直接告白されたことって全然なかったから。

 

「政征・・・」

 

「シャナ?どうしたの?」

 

シャナは今にも泣きそうな表情で俺の目を見つめてくる。何かを感づいているように視線を逸らそうとはしない。

 

「お願いですから死ぬ事なんて考えないで、貴女が死んでしまったら私は・・・っ!」

 

まただ。また俺はシャナを悲しませてしまった。俺は何度、この愛しい存在を悲しませれば気が済むのだろうか?

 

一度目はクラス代表を決める戦いで、二度目は臨海学校時での実戦、そして今に至るまで。

 

「シャナ・・・」

 

「だから、だからもう!あっ!?」

 

行動で示す以外にないと俺はシャナを優しく抱きしめていた。あの時に抱きしめた以来の華奢な身体つきに加え、女性特有の胸元の膨らみの感触と暖かさが伝わってくる。

 

「ごめん、シャナ・・・そうだよね、シャナの言う通りだ。死ぬ事なんか考えてちゃダメだよな」

 

「・・・」

 

「シャナ、ル=クク・ヴォーデュを停止させるのを手伝ってくれないか?破滅の王を追い返すために。もしかしたら死ぬ事になるかもしれないけど」

 

「私は貴方と共にあると誓った身です。ル=クク・ヴォーデュを停止させる鍵となるのは玉座機、グランティードなのですから」

 

「怖くないの?死ぬのが」

 

「貴方とならどこまでも」

 

まいった。いつの間にかシャナに此処まで肝が据わっていたとは。まるで三国時代の女傑のように。俺もどこかシャナの事を戦えない皇女扱いしていたんだな。

 

「ありがとう、シャナ」

 

「ふふ、お礼は早いですよ」

 

シャナはより強く抱きついてきた。引き離さないと俺の理性がマズイのに、シャナは離してくれない。

 

「シャナ、必ず生きて戻ろう」

 

「はい、必ずや」

 

シャナの頬を両手で包むとシャナは目を閉じて僅かに背伸びしてきた。ああ、これと俺は察してシャナの唇に優しくキスをした。

 

「・・・ん」

 

しばらくして唇を離し、腕を組むようにして道場を後にし、鍵を返却して寮へと戻っていった。

 

 

 

 

 

「97・・・98・・・99・・・100!っはぁぁ!!」

 

政征が道場に居る間、雄輔はトレーニングルームで器具を使い、身体を鍛えていた。

 

「はぁ・・はぁ・・、くそっ!」

 

いつになく雄輔は苛立っていた。本来は冷静な彼だが決戦を前にして緊張が今まで以上に強くなり、悪いイメージばかりが浮かび上がっていた。

 

「精が出るのはよろしいですけど、自分の身体に八つ当たりしても意味がありませんわよ?」

 

「っ!フー=ルー・・・いや、フー=ルー先生」

 

「今は教師としての時間は終わっています。呼び捨てでも構いませんわ」

 

そう言いながらフー=ルーは手に持っていたペットボトル入りのスポーツ飲料を投げ渡し、雄輔は難無くキャッチしてキャップを取り、口をつけて飲み始めた。

 

「どうしました?普段の貴方からは考えられないほどのオーバーワークですよ?」

 

「怖いんだ・・・・」

 

「?」

 

「怖いんだ、どうしようもなく。臨海学校で親友を落とされた時のように、自分が真の死を迎えるのが怖いんだ!」

 

「雄輔」

 

彼の恐怖は無理もないだろう。大人びた体格、考えを持っていても若干17歳の青年。死地に向かうともなればこうなって当然なのだ。

 

「俺は政征のようにヴォーダの闇を垣間見た訳でもない!ただ騎士としての実力を備えただけ、俺は・・・!」

 

次の言葉を口にする前にフー=ルーは、雄輔を自分の胸へと、抱きしめていた。まるで恐怖を分かち合うかのように。

 

「フー・・・ルー?」

 

「その恐怖は当然の事、戦場に向かう者が恐怖を感じないなど本来はありえないのです。でも、貴方は弱さを持つ者でありながら強くあろうとする。その気概こそが」

 

その先は上手く聞こえなかった。より強くフー=ルーに抱きしめられていたからだ、その包容は安らぎと同時に俺の中の恐怖を和らげてくれていた。

 

「フー=ルー、もう・・大丈夫。少し苦しくなってきた・・・!」

 

「あらあら、それに汗まみれなのを忘れていましたわ」

 

包容を解かれると気恥ずかしくなってくる。未だこの人と本当に男女の関係になっているのが、夢じゃないかと疑ってしまう。だが、先程の包容の暖かさが現実だと教えてくれている。

 

「フー=ルー、俺の親友は皇女と共にル=クク・ヴォーデュへ突撃しようとするはずだ」

 

「その時は私達もお供せねばなりませんわね。それがフューリア聖騎士団の誓いでもありますので」

 

「共に来てくれるのか?」

 

「貴方とならヴォーグの闇の底まで共に」

 

フー=ルーに返され、雄輔は自分からフー=ルーを抱き寄せた。共に歩んでくれる愛しい女傑と共に、未来を歩みたいという想いを込めて。

 

「強引ですわね・・・いつから獣になったのかしら?」

 

「貴女に誓いを立てたその時から」

 

「ふふ・・・そうでしたか。いずれこの身を捧げる時が来るでしょう」

 

「それって・・・どういう」

 

「それを聞くのは野暮というもの。さぁ、戻りなさい決戦時には騎士の貴方を見たいのだから」

 

包容から離れ、フー=ルーは去っていき雄輔も寮へ戻るとシャワーで自分の身を湯に晒して休むことにした。

 

 

 

 

 

そんな中で鈴とセシリアは政征と雄輔がシャナ=ミアとフー=ルー、それぞれが逢引に近い事をしている現場を目撃してしまった。

 

鈴は雄輔、セシリアは政征の現場を目撃してしまった後、泣きながら自分の部屋へと戻っていった。

 

「雄輔・・・フー=ルー先生と・・・」

 

「政征さんが・・・シャナ=ミアさんと・・・」

 

初めて意識した異性と改めて恋した相手、想い方は違っていても元は変わらない。だが、二人の想いは届く事はなかった。

 

「あれ・・・?どうしてかな?アイツ意識しなくなった時より悲しいよ・・・」

 

「叶わなかったというのはこんなに悲しいものなのですか・・・」

 

二人の目からは涙が止まらない。傍に居たかった相手の隣は空席ではなかったのだから。

 

「うう・・あああっ・・・私ってば。いざとなったら恥ずかしくなって言わないままで・・・相手が出来てから気づいてる」

 

「ううう・・・あああ・・・お話ではいくらでも知っていたのに、自分がその立場になってしまうなって・・・」

 

誰もいないのに気づいた二人は、辛さを涙に変えて吐き出そうと思った。この想いを否定したくは無い、辛かったとしても見てしまったのだから。

 

「でも、泣き終えたら・・・想いだけは聞いてよ・・・ね・・・・うわああああああああああああん!!」

 

「わたくしの気持ちを知ってほしいのですから・・・ああっああああああああああああ!!」

 

報われることのなかった恋。それすらも大切な事だと自覚しながら二人の少女は泣いた。泣いて泣いて、この辛さを受け止めて前へ進もう。

 

そんな考えと共に二人は泣きつかれるまで一晩中泣き続けた。涙を流しきるかのように。




いよいよ、本拠地であるアイスランドへ乗り込みます。

この世界でのラウラとシャルロットはifではない限り二人を友人以上には思いません。

鈴とセシリアには異性としてみる要素がたんまりでした。

この二人がどちらかと結ばれていたらというifが見たいとあれば書くやもしれません。


本音を言うと泣かせるシーンって結構来るものがあるので・・・某SUMANAIさんみたくなりそうです。すまない・・・鈴、セシリア


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突然変わる物って恐怖があるよね

最終決戦の前のインターミッション


マドカにフラグ。


以上


束の治療用ナノマシンをアシュアリー・クロイツェル社の息のかかった病院から看護師が派遣され、それを投与された政征は検査入院後、入院の必要はないと診断された。

 

教員四名、代表候補生達七名、男性操縦者二名がIS学園の屋上で何かを待っていた。その後、迎えに来たのかのように、屋上へ戦艦のような物がステルスを解除して現れた。

 

「お待たせ、最終調整に時間が掛かっちゃって遅れちゃったよ」

 

映像通信で全員に見えるように現れたのは篠ノ之束本人だ。だが、待っていた全員は驚きもせず、要件を述べる。

 

「束、この乗り物でアイスランドまでどのくらいかかる?」

 

「四時間って所かな?相手が何の対策もなく無防備にしてるとは思えないよ。とりあえず、みんな乗り込んで!話はそれから!」

 

全員が乗り込み、再びステルスを展開し、学園から飛び去り、戦艦のブリッジにて全員が集合した。ステルスを展開し、上空を飛んでいる。

 

「いよいよ本拠地に乗り込む事になるけど、確認しておきたい。命を背負う覚悟は皆あるかな?」

 

束の言葉に全員が頷く。命を軽んじているのではない、小規模ではあるが戦争が始まる。命を奪い、その重さに耐えられない者は連れて行く訳にいかない。

 

この戦艦に乗り込んだ者は皆、命の重さを学んだ者達ばかりだ。例外はいるがそれぞれが命に対しての価値を見出している。

 

「うん、それじゃ。それぞれ自由に行動していいよ。セッシーちゃんは話があるからあとで呼ぶね?」

 

「分かりましたわ」

 

「ちーちゃん、ちょっと来て。姉同士、話したい事があるんだ」

 

「?わかった」

 

誰も居ない艦橋で千冬と束は向き合って話を始める。束の真剣な目に千冬も気を引き締める。

 

「ちーちゃん、分かってるよね?」

 

「ああ、私達は姉として最後のケジメを付けなければならない。アイツを・・・一夏を介錯してやるつもりだ」

 

「同じ考えだったなんてね。私も箒ちゃんにケジメをつけるよ。ISを本来の姿に戻さないといけない」

 

「お前の夢を最初に壊したのは私だ。生きている限り償っていこう」

 

「ちーちゃん、本当に変わったね?そんな言葉が聞けるなんて思いもしなかったよ」

 

束からすればやはり己の夢への翼のあり方を最初に壊したのが千冬だ。それでも有用性を示す為にマッチポンプをしたのは自分自身、千冬一人が全て悪い訳ではない。

 

己が未熟だったが故に今の世界になってしまった。自分が望んだ世界とは全く違っている。誰もが好きな時に自由に宇宙へ行ける事。それだけが私の望みだったのに。

 

「もう一人の友のおかげだ。その友が居なければ、私は変わる事が出来なかっただろう。今となっては称号すら要らない物に成り下がっている」

 

「フーちゃんだね?すごいなぁ・・・私には出来ない事をやり遂げちゃったんだもん」

 

「ああ、そうだな。それに・・・今の私は、ただの織斑千冬だ。称号も何もなく一人の人間でしかない」

 

「捨てたんじゃなく、降ろせたんだ。私も戻れるかな?ただの篠ノ之束に」

 

「私が戻れたんだ。お前も戻れるさ」

 

「ありがとう。それじゃ、用があるから行くね。迎えに行かなきゃいけない二人もいるから」

 

束が去った後、入れ替わるようにフー=ルーが現れる。二人のやり取りを物陰で見ていたようだ。

 

「よろしかったんですの?あのような事を」

 

「良いんだ。私はアイツの夢を壊した。だからこそ向き合っていかなければならない」

 

「・・・・もし、私達に着いてくると博士が言ったらどうするのかしら?」

 

「着いて行くさ、私は生きている限りアイツを支えねばならん」

 

「そうですか・・・でも、その前に自分のトラウマを抑え込まなければなりませんわよ?」

 

「!気づいていたか、流石だな」

 

千冬は自分の身体に震えが来ていた。武者震いではなく、カロ=ランに植えつけられた破滅の記憶が今も千冬を蝕んでいたのだ。

 

一度、恐怖に蝕まれた心が立ち直るのは容易ではない。人よりも並外れた精神力を持って彼女は破滅と対峙しようとしている。

 

「止めはしませんが、貴女が迷うのなら彼は私が真の死へと誘います。それだけは頭に留めておいて下さい」

 

要件を終えてフー=ルーが去った後、千冬は窓から空を見るように手摺りへと手をかけた。

 

「迷い・・か」

 

空に向かって吐き出した言葉を噛み締め、手摺りを強く掴む。取り戻せるのではないかという僅かな可能性が、千冬に僅かな迷いを生じさせていた。

 

「いかんな。アイツはもう、人間として越えてはならん一線を越えている」

 

手摺りから手を離し、匕首サイズの小太刀となっている待機状態のヴァイサーガを強く握る。それと同時に身体の僅かな震えが止まった。

 

「ヴァイサーガ、私の相棒の魂を受け継ぐ剣。改めて力を貸してくれ」

 

 

 

 

 

 

束に艦内放送で呼ばれ、セシリアは一対一で束と話をする事になった。ブルー・ティアーズに関しての事だろう。

 

「待たせたね。ブルー・ティアーズは完全に新しい身体を受け入れてくれたよ。使いこなせるかはキミ次第ってところだね」

 

「ありがとうございます」

 

機体の情報と武装の情報をモニタニングすると、セシリアは一箇所に見覚えのない武装が追加されているのを発見した。

 

「オルゴン・バスター・キャノン?それに断空光牙弾?何ですの?この武装は」

 

「ん~?これは束さんも搭載した覚えがないねー、改修の際、ベルゼルートのデータを少し流用したけど」

 

「新しくなったユニットが変形して放つ武装みたいですわね?」

 

「これは束さんの勘だけど、オルゴン・バスター・キャノンの方はシャルちゃんも使えるかもしれないね。あの子は機体が殆どベルゼルートだから交互性があるかも」

 

「ふふ、切り札として使う時が楽しみですわ」

 

「そうだね~、束さんも見たいよ」

 

二人は未知の武装に心をときめかせながら武装の調整と、今までのブルー・ティアーズの戦闘データを移し替える作業に勤しんだ。

 

「(今までありがとう、プロト・ブルー・ティアーズ・・・アナタの意志と魂はわたくしとブルー・ティアーズ・ブリガンディが受け継いでいきますわ)」

 

 

 

 

 

戦艦内部にあるカタパルト付近において、ラウラとシャルは運動も兼ね格闘技の組手をやっていた。

 

「ふっ!」

 

「やっ!」

 

お互いに拳や蹴りを受けては返し、返しては受けるを続ける。あくまでも組手ではあるが、試合ではない為に直撃しそうになれば寸止めするというルールだ。

 

「うっ!?しまった!」

 

「はあああ!」

 

拳を止めたラウラがシャルに笑みを向けながら口を開く。

 

「私の勝ちだな?シャルロット」

 

「負けを認めるよ、ラウラ」

 

シャルは立ち上がり、ラウラから少し離れた後、同時に一礼する。鍛えてもらった格闘家から教わった相手への尊敬を忘れないために行う作法だ。

 

「ねえ?ラウラ」

 

「なんだ?」

 

「ラウラは誰かが死んじゃった所に出くわしたことがある?」

 

「あるぞ、何度もな・・・だが、一番辛かったのは夏休みの最終訓練の時だった」

 

ラウラは空に浮かぶ雲を見ながら、自分が飛ばされたデータ世界での激戦を話し始める。家族や友人との望まぬ戦いに身を投じた戦士。

 

その片割れであり、自分と激戦を繰り広げた強くも悲しい戦士の末路を。

 

「そっか、そんな事が・・・」

 

「あの人との戦いで、私は失われていく命を改めて学んだ・・・だからこそ、破滅は許してはならない」

 

眼帯に触れ、ラウラは決意を改めてシャルに語っている。そんな中でシャルは自分が経験したデータ世界での決闘を思い返していた。

 

「(マサ=ユキとの戦い、あれがボクにとって命を学ばされた事、自分の信念を貫く人、無意味に奪う人・・・ボクは命を託された、だから戦うよ)」

 

別世界の拳王の騎士たるマサ=ユキの存在は、シャルの中で大きいものとなっていた。異性としてではなく、己の信じた信念を曲げない姿勢に憧れを抱いていたのだ。

 

鎖に繋がれたにも等しい生活をしていた自分にとって自由は求めるものであった。しかし、いざ解放されてみれば自分には何もなかった。

 

戦いの中で奔放的でありながら、任侠を通し、信念を貫く者から与えられた戦士としての命。それを手にした自分は次代へとつなげる役割がある。

 

母から与えられた命、騎士から与えられた命、二つの命を失う訳にはいかない。その為には破滅と戦う事を改めて胸に誓う。

 

 

 

 

 

同じ艦に乗り込んだ亡国機業の三人と更識姉妹、布仏姉妹は一緒だが、それぞれが話し合っていた。

 

「つまり、今の簪ちゃんは一つの体に二つの魂と意識があって、お互いに共有しているって事?」

 

「そうだよ。機体は一緒でも戦い方も全然違うし、思っている事も性格も違うの」

 

『二人で一人!だから、私達は共存している!でも・・・ね?』

 

楯無はいきなりの展開に冷静に整理してパニックになってはいないがショックである事は変わらなかった様子。

 

「でも、何?笄(こうがい)ちゃん」

 

『私は・・・貴女達が戦おうとしている破滅と同質の存在なの、成り損ないだけどね?』

 

「そう、なのね・・・でも」

 

『次にお姉ちゃんは「私の妹に変わりないんだから」という!』

 

「私の妹に変わりないんだから・・・ハッ!?また、笄ちゃんに読まれたー!?」

 

「お姉ちゃんは分かりやすいから」

 

「本当にその通りですね」

 

「虚ちゃんまでー!」

 

「かんちゃんに笑顔が戻って良かったのだ~」

 

二人の仲は以前の溝は無くなり、笄も受け入れられている。破滅の意志と似た魂が簪の中に有るのも事実。

 

それでも、楯無にとってはたった一人の妹だ。同時に本音にとっては主人であり友人でもある簪は大切な存在だ。

 

二人がようやく仲を取り戻せた、この光景を失いたくないと思い、布仏姉妹は固く決意するが、自分達は破滅と戦う術がない。

 

ならば、二人が帰る場所を守ろう。それが自分達に出来る戦いだと認識し、今はこのひと時を楽しむことにした。

 

 

 

 

 

同時刻、艦内のトレーニングルームでは鈴とマドカが座禅を組んでいた。マドカが座禅に付き合ったのは己自身を見つめられると聞き、実践したいと鈴に頼み込んだからだ。

 

「・・・・」

 

「・・・・っ」

 

「マドカ、まだ乱れがあるわね」

 

「うう・・・」

 

座禅を解き、目を開く。なれない事もあるだろうが、それ以上にマドカは自分の内に眠る何かを怖がっていた。

 

「鈴、自分の中で違う自分が出てくる感覚はないか?座禅をしていると私はその感覚がある」

 

「うーん・・・何か覚えはない?私は専門じゃないから」

 

「覚え・・・もしや、ガリルナガン・ナーゲルか?」

 

「自分に覚えがるのならそれかも知れないわね、そこから先はマドカだけで何とかしなくちゃならない領域よ」

 

「私だけで?」

 

鈴から言われた言葉にマドカは目を見開く。今まで命令を聞いていれば良かっただけの考えから、己自身で答えを見つけねばならない状態になった為だ。

 

「そのIS、ガリルナガン・ナーゲルだっけ?言いたくないけど、ものすごく嫌な感じがするのよ。例えるなら恨まれたり、付き纏われているような・・ね」

 

「・・・嫌な感じ?(まさか、ディス・レヴが原因なのか?)」

 

マドカは束が正気を失う程の動力源、ディス・レヴに関する注意を思い出した。ディス・レヴは奉ろわぬ霊達を取り込み、そこから発生するエネルギーを利用していると。

 

仮に制御が出来なくなれば自分自身が取り込まれ、ガリルナガン・ナーゲルは暴走し続けるであろうと。

 

「私が向き合わないといけないのか・・・・鈴、協力してくれ」

 

「分かったわ。けど、協力できるのは入口までよ?そこからはマドカ次第だから」

 

「ああ」

 

マドカは再び座禅を組み、鈴に意識を集中するよう指導されながら己の心の深淵へと潜っていく。

 

「っ・・・!これは、これが奉ろわぬ霊か?」

 

己の心とガリルナガン・ナーゲルの動力であり、コアが眠っているディス・レヴの内部へと到達したが、そこで待っていたのは己を取り込もうとする奉ろわぬ者達であった。

 

「行かなければ・・・ディス・レヴを何とか制御できなければ私の相棒は破壊するだけの機械になってしまう」

 

中心である門に到着する。恐らくはイメージだろうが開くとそこには、一人の女性が磔にされているような姿で眠っているかのように目を閉じている。

 

近づこうとした時、一人の男が陽炎のように不安定な形でマドカを見つめていた。

 

細身で銀髪、何かを伝えるように頭の中へと声が響く。

 

『ようやく自覚したようだな?この世界でのディス・レヴを持つ者よ』

 

「っ!何故、ディス・レヴの事を!?」

 

『お前は数多の世界を旅する覚悟はあるか?』

 

銀髪の男は試すような口調で聞いてくる。自分の生まれた世界との決別を意味する為だ。

 

「・・・」

 

『ディス・レヴを制御した瞬間、因果律に囚われ、数多の世界を彷徨うことになる』

 

「そうなのか・・・」

 

『それでも望むか?ディス・アストラナガン・・・・銃神の火を』

 

「ああ、私は望む!」

 

『わかった・・・この先へ向かいコアに触れろ、さすれば目覚める』

 

銀髪の男が消え、磔にされた女性へ触れる。この女性こそがガリルナガン・ナーゲルのコアそのものだ。

 

「貴女・・・と・・・共に」

 

マドカは現実に引き戻され、目を開く。鈴は真剣な目のままマドカを見つめていた。

 

「何か掴めた?マドカ」

 

「ああ・・・」

 

待機状態となっているガリルナガン・ナーゲルを手に持つと、僅かに熱を持った感覚があった。

 

それがマドカにとって、自分が生まれたこの世界との決別を意味しているとも知らずに。

 

 

 

 

 

別の場所では聖騎士団メンバーの三人と皇女であるシャナ=ミアが騎士の鎧や剣が飾られている一室に集まり、話をしていた。

 

「どう思います?」

 

「間違いなく狙ってくるかと・・・」

 

「向こうにとって自分達は憎悪の対象ですからね。愛しくなった者を奪った相手、己よりも上に居るのが許さない相手・・・と」

 

フー=ルーの質問に騎士の二人は、さも当然のように答える。何度も戦闘しているがゆえの予想だろう。

 

「私も行きます。条件として政事と皇女の身分から降りるように言われました。後継には私が最も信頼を置ける者を手紙にて指名してあります」

 

シャナ=ミアから告げられた言葉に三人は驚くが、それは当然だろうというフー=ルーの冷静な意見に政征と雄輔も頷いた。

 

「皇女を戦場に出すなど、我らにとっては大問題ですからね」

 

「確かに」

 

「その通りです」

 

「ですが、守ってくれるのでしょう?貴方が」

 

シャナからの視線に政征は力強く頷く。そんな二人を微笑ましく、また厳しくも見ていた。戦いに本来は持ち込んではいけない感情を持ち込んでいるからだ。

 

しかし、今のシャナは戦う事の意味を理解している。以前までは自らが剣を取るとは考えなかったが、フー=ルーを始めとする仲間との特訓により力の制御と守る事の難しさを身につけた。

 

追い返す鍵となるのはシャナであり、それゆえ最も危険な事に身を委ねなければならない。

 

「私達も共に有りましょう。皇女と友の為に」

 

「無論。それに私は貴女を守る誓いがあります・・・フー=ルー様」

 

騎士の礼節をフー=ルーに向けてする雄輔。それを見ていたシャナが壁にあった模造の剣を手にし、フー=ルーへと差し出す。

 

「皇女殿下?」

 

「誓いを捧げた者に対する返礼を・・・フー=ルー。それに今の私は皇女ではありませんよ」

 

剣を手にし、雄輔の右肩から左肩へと剣の腹を当て、誓いを受け取った事を肯定するかのように剣を構える。

 

政征の隣に寄り添い、騎士の誓いの義を見届けたシャナは笑みを見せていた。これで二人の絆はより強固なモノになっていると。

 

終えると同時に艦内放送が響き渡る。AIによるもので到着まで後30分という内容だ。

 

30分後に見えてきたのは、アイスランドにある休火山から遺跡のような姿をした要塞ともいえる建物であった。

 

全員がカタパルトへと集合する。それぞれの思いと破滅を追い返す事を胸に秘めて。




いよいよ最終回まで後3~4話となります。

え?インターミッションの間にベッドシーンは無かったのかって?

健全なルートですよ、ここは!え?早く書けよ・・・ですか?

うう・・・書きますよ。何とか

どうぞ、最終回までお付き合い願います。

ラフトクランズと別れたくないよ~(願望)


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我は!破滅を断つ剣なり!

ラースエイレムが解禁(ザコ敵限定)


フラグは折るもの


以上


カタパルトに集合した操縦者達は驚くべき光景を目にした。開発者である篠ノ之束がISを纏っていたからだ。

 

「束、それは一体?」

 

「これ?これは特別チューンを施した私だけの専用機、ラピエサージュ・アルキュミアだよ」

 

「継ぎ接ぎの錬金術師・・・ですか?」

 

ラピエサージュ・アルキュミアという名だけあって、身体の節々にあらゆるの機体を参考にして開発されたパーツが見え隠れしている。

 

カスタムに使用した原型機体は紅椿のようであるが、驚くべきなのは脚部はグランティードを解析した物を採用。オルゴンエクストラクターをも搭載し、ラフトクランズのオルゴンキャノンを装備。

 

武装はラフトクランズのソードライフルを研究し、射撃武器として完成させたハルバート・ランチャー改、遠距離迎撃用のオーバー・オクスタン・ライフル。

 

近距離用にはクストウェル・ブラキウムのデータを参考に作り上げた高周波武装のマグナム・ビーク・ファング、ヴァイサーガの五大剣を参考にしたディバイン・アーム。牽制用の四連チェーンガン。

 

スラスターは紅椿の機構を使用し、ラフトクランズのデータから流用したブースターを装備している。これだけ見ればあらゆるISの良いとこ取りともいえる機体だが、その分扱いは非常に難しくなっている。

 

それに加え、束自身が己の身体能力に合わせてチューンをしてある為、並の人間や代表生が乗れば瞬く間に機体に振り回され、落下速度による衝撃などで重傷を負うだろう。

 

「良いとこ取りの機体ですね、これは」

 

「アハハ、そう言われると言い訳できないね。それとね?私、サイトロンに適応させるために自分を使って人体実験したんだ」

 

人体実験という言葉を聞いて全員が驚愕する。だが、束本人はあっけらかんとした様子で話を続ける。

 

「そしたらね?会社でサイトロンを浴び続けてたせいか簡単に適応しちゃってー」

 

アシュアリー・クロイツェル社はサイトロンを有効活用しようとISを始めとし、あらゆる機械のエネルギーの代わりにならないかと日夜、研究が続けられている。

 

その研究部長を勤め上げているのが、篠ノ之束本人である。故にサイトロンを浴びる機会は少なくはない。

 

「セルダさん曰く、サイトロンを毎日浴び続けた影響で遺伝子がフューリーに近くなっちゃってたみたい。あくまで予想だけどね?人体実験でそれが表面化したのかな」

 

束が話している中、出撃前にシャナが三人の騎士に向かって、何かを伝えようと声をかける。

 

「政征、雄輔、フー=ルー、私から伝えることがあります」

 

「ん?」

 

「伝えること?」

 

「なんでしょうか?」

 

「今はまだ私に権限があります。故にラースエイレムの使用許可を、封印を開放します」

 

「ラースエイレムを?確かにあの数を相手にするのは消耗戦ではありますが」

 

三人は冷静な顔を装いながらも驚きを隠せずにいる。ラースエイレムは騎士にとっては禁忌ともいえるものだ。

 

「エイテルムは希少なはず、それを使用して大丈夫なのですか?」

 

「この戦いは負ける訳にはいきません。故に許可するのです」

 

シャナ自身も戦いの重要性を分かっているのだろう。だからこそ、禁断でもあるラースエイレムの使用許可を出したのだ。

 

「分かりました。二人共、ラフトクランズを。フー=ルーもです」

 

「「はい」」

 

「御意ですわ」

 

展開する前に待機状態のラフトクランズをシャナの手に握らせる。三人のラフトクランズを祈るような仕草で握った後に何かをつぶやく。

 

「フューラの名の下に命ず、騎士の枷を解き放ちたまへ」

 

『音声確認、声紋確認、ラースエイレム使用許可認証』

 

三機のラフトクランズから枷が外され、封印されていた機能が復活する。最後の確認にガーディアン・パックを装備している事を確認し、準備を終えた。

 

「さぁ、出撃するよ!クーちゃん、ウチガネは任せたからね!」

 

「はい!お任せ下さい!」

 

「行くよ!皆!」

 

束の号令と共に機体を持つ操縦者達は一斉にウチガネと呼ばれた戦艦から出撃していった。

 

 

 

 

 

操縦者全員が出撃したと同じ時刻、要塞の地下の最深部ではカロ=ラン、一夏、箒が機体の調整を終えていた。

 

「どうやら来たようだな、我等の倒すべき敵が・・・!」

 

「赤野・・・青葉・・・」

 

「アイツ等を葬る・・・」

 

白と紅を関する機体を駆る二人はもはや仇敵を打ち倒すことしか考えていない。倒したと同時に一方は女を嬲り犯し、一方は次なる敵を求めて虐殺を続けるだろう。

 

破滅の因子はISに宿る意志だけではなく、操縦者の意志すらも奪ってしまったのだ。それ故、カロ=ランにとっては都合が良い駒となっている。

 

「では、歓迎の支度をせねばな・・・くくくくく!」

 

騎士から暗殺者へと変わったラフトクランズ・カロクアラ、白き真実、失われた愛と新たに名付けられた白と紅のIS達。

 

対となる二機に最早、自意識はない。あるとすれば自壊衝動、つまりは死への渇望だけが深層内部で残っているに過ぎない。

 

『コロ・・・・し・・・て・・・』

 

『ワタ・・・し・・・達・・・を』

 

そんな声すらも虚空の彼方へと消えて行き、意識は完全に眠り込んだ。

 

 

 

 

 

要塞近辺では女性利権団体のタカ派に属する操縦者とミーレスの混合部隊に足止めを食らわされていた。

 

「邪魔だぁ!」

 

「退けええ!」

 

現状で最も戦力となっているのはラウラと千冬の二人だ。彼女らの機体は基本的に、実態のある武装をメインで戦う為、エネルギーの消耗が少ないのだ。

 

「な・・何故、ブリュンヒルデがああああ!?」

 

量産型のラファールを纏っていた一人の女性が一瞬で撃墜され、地に落ちていく。まるで引き裂かれたような装甲の傷がどのように攻撃されたのかを物語っていた。

 

「私を蔑称で呼ぶな・・・!私はブリュンヒルデではない。さぁ、この水流爪牙で引き裂いて欲しい奴から前に出てくるがいい!」

 

千冬から発せられる威圧はミーレス以外のパイロット達を怯ませるだけの力があったが、隊長格らしくカスタムされたラファールを纏った女が叫ぶ。

 

「惑わされるな!最早、あの方は我々の裏切り者!倒せば名誉が付くぞ!」

 

「これが権力という名の力にしがみつく者達の実態か・・私自身も人の事は言えんが」

 

無謀に突撃してくる女利権のメンバー達を今度は五大剣で迎撃していく。ヴァイサーガのスピードには追いつけないが一発の弾丸が狙ってきていた。

 

「やった!これならブリュンヒルデを落とし・・・・」

 

刹那、周りの全ての流れがまるで映像を一時停止したのかのように止まった。否、止められていた。ミーレスも女利権のメンバーも、千冬を含めた味方までもが全て止まっている。

 

動けているのはラフトクランズを駆る三人の騎士とグランティード・ドラコデウスを纏うシャナだけだ。

 

 

【推奨BGM[Moon Knights]スパロボMDアレンジ】

 

 

「申し訳ありませんが、彼女を撃たれる訳にはまいりませんので」

 

周りの全てを止めていたのはフー=ルーだ。ラースエイレムを起動し、千冬を狙った弾丸を雄輔が弾くように軌道を逸らした後、護衛のミーレスを撃墜し、狙撃を行った女利権のメンバーの機体へ一気に接近し、武装と機体を行動不能な状態にする。

 

「では、解除」

 

フー=ルーがラースエイレムを解除すると同時にミーレスの機体が爆発し、女利権の兵士達は何が起こったのか分からずに混乱している。

 

狙撃を行ったメンバーは機体が行動不能になっており、強制解除に追い込まれたのを信じられずにいた。

 

「何!?何が起こったの!?どうして機体が行動不能になってるのよぉ!?」

 

「な、何故だ!?私の機体があああああ!?」

 

千冬への狙撃の軌道を逸らした位置に別部隊の部隊長がいたようで、その弾丸に命中し撃墜され、地に落ちていく。

 

「力を得ようとも制御できないのならば、戦士の資格はありませんわよ?」

 

そう言いながらも情け容赦のないオルゴンライフルの閃光が無慈悲に相手を倒していく。ミーレスには容赦なくコクピットを狙い、女利権メンバーは撃墜するまでも操縦者としては再起不能な状態にしていく。

 

倒しても倒しても援軍が増えていく。その中に蛇と竜を掛け合わせたような機体、ウィオラーケウム。空戦特化型の機体、フォルティス・アーラ。中距離格闘に特化した機体、プリスクス・ノクスの三機が現れる。

 

「な、なんだアレは!?」

 

「どうやら指揮官機ね。おまけにISのコアも搭載されてるみたい」

 

ラウラの驚きをよそに鈴は冷静に戦場を見ている。三機の指揮官機は、内部突入は許さないといわんばかりに自らを防衛拠点としている。

 

鈴からの通信を聞いた束は怒りの表情をしたが、すぐに持ち直し、味方の全てに通信で訴えかけた。

 

「お願い・・・あの子達を楽にしてあげて!これ以上、あの子達を苦しめたくない!!」

 

束の訴えを聞きながら前衛に出たのが、スコールとオータムの二人だ。スコールの手にはZ・O・レイピアが握られ、オータムは腕部に一本を鮫の口のような形にしている。

 

「ここは私達が引き受けます」

 

「お前らはサッサと内部へ行きな!私等が道を作ってやる!」

 

二人は長年の相棒らしく、同時攻撃を開始した。距離が離れてはいるが、念動力の感知力によって彼女達には意味を成さない。

 

「行きなさい、レイン・ファミリア」

 

「ハハハハッ!コイツは痛いぜ?第三の地獄!!トロメア!!」

 

二機の回転式銃に翼をつけたようなビット兵器と、スズメバチの姿をした大量のビット兵器が指揮官機の一機であるウィオラーケウムにダメージを与え、ウィオラーケウムが塞いでいた突入口をこじ開けた。

 

「ケリを着けるべき相手が居るのでしょう?私達はあの指揮官機を相手にしてから向かいます」

 

「お前らの機体は大軍相手に向いてねえ。範囲兵器がある私等が此処は引き受けてやる!パーティーには必ず出席してやるさ!」

 

二人からの言葉に全員が戸惑うが、指揮官としての経験があるフー=ルーが全員に叱咤する。

 

「皆、行きますわよ!今を逃したら突入できません!」

 

「「「「「御意!!」」」」

 

内部に突入していく中、束が残った二人に通信を繋げる。その声は震えており、哀願してるようだ。

 

「あの子達を・・・頼んだよ。スーちゃん、オーちゃん」

 

それだけを言い残し、束も内部へ突入する。

 

「・・・産みの親からすれば子供を利用されているようなものね、私が言えた事じゃないけど」

 

「そうだな。でも、この力を使わなきゃ変えられねえ、この世界もな」

 

「余計な事は後にして今はこの場を殲滅するほうが先よ!受けなさい!アトラクター・フォルス」

 

「おう!凍りついて砕けろやぁ!!第二の地獄!アンティノラ!!」

 

祈りを捧げる黒き天使と地獄への歌を歌う歌い手は大軍の中、突っ込んで行った。

 

 

 

 

 

「あの二人、大丈夫かな」

 

「俺達以上に実戦経験が豊富なんだ。きっと大丈夫さ」

 

「そうだ、我らは先へ行くのみ」

 

「うん!」

 

シャルの不安を政征と雄輔が励まし、進んでいく。出口を示す光が見え、通り抜けるとそこには巨大な円を象った建造物があった。

 

その下にはカロ=ラン、一夏、箒が守るように立っている。

 

「ようこそ、IS学園の諸君。心より歓迎申し上げる」

 

「カロ=ラン・・・!」

 

「だが、我らの下にたどり着けるかな?」

 

指を鳴らすと同時に女利権のメンバーが通路を塞いだ。精鋭のようでカラーリングが違っている。

 

「我等はヴァルキュリア!大人しく投降し、そちらの男共の機体を渡せ」

 

数としては五百人程だが、全員が一斉に、マシンガンやガトリングを向けていた。

 

「皇女の許可が有るとはいえど・・・騎士としては禁忌だが、やむをえぬ・・・!ラースエイレム起動!」

 

今度は政征がラースエイレムを起動させる。時を止めたかのように極限まで減速させられた空間の中で動けているのは、ラフトクランズとグランティードだけである。

 

束による緊急補給を施されたフー=ルーとラースエイレムの中で動ける雄輔が女権利メンバー達のラファールを武装を破壊し、展開と行動不能な状態にしていく。

 

「ラースエイレム解除!」

 

約三分間の間で五百の部隊が全滅していた。女権利メンバー達の命に別状は無いが、狂ったように叫んでいる。

 

「何が、何が起こったのよ!?」

 

「機体が・・・機体が破壊されてる!?どうして、何もしてないのに!?」

 

「私達の力であるISが・・・嘘よ!こんなの!!」

 

「ヴァルキュリアであるはずの私達が負けるなど!」

 

騒ぎ立てる女権利のメンバー達を鎮めようと政征と雄輔はソードライフルを地に突き刺し、轟音を立てた。その音に機体を失った全員が怯む。

 

「我等は命を奪うつもりはない。望むのはここから退去してもらいたいという事だけだ」

 

「ここから去れ!力無き者が居ていい場所ではない!!」

 

騎士としての二人の威圧に女権利メンバー達は我先にと施設から逃げ出していった。タカ派が潰れた事でISによる女尊男卑は瓦解し、報復もあるだろうが少しずつ修復されていくだろう。

 

 

 

 

 

「クク・・・ラースエイレムを使うとは、騎士の誇りを捨てたか?」

 

「いいえ、彼らは私の承認を受けた上で使用しました。故に騎士としての誇りは失っていません」

 

「シャナ=ミアか・・・」

 

カロ=ランの表情は変わらない。女性となった身でも内側からにじみ出る黒い野望は隠しきれていないようだ。

 

その言葉を聞いた一夏が歓喜した様子で口を開く。

 

「なぁ、シャナ=ミアさん。俺と一緒になってくれよ!俺と一緒に何処か遠くへ行って一緒に暮らそう?そうすれば」

 

政征は何も言わない。雄輔も黙ったままで、代表候補生達も更識姉妹も一夏の発言を聞いている。シャナ=ミアが一歩踏み出し、目を閉じ深呼吸すると目を開いた。

 

「いいえ、貴方とは共に行く事は出来ません」

 

「何で!?」

 

「貴方のした事は最早、消し去る事は出来ません。それに私にはもう心に決めた御人がおります」

 

「っ・・・!何で、何でだ!?初めて心から愛した人が離れていくんだよ!?」

 

「アンタ、まだ気付いてないの?」

 

痺れを切らした鈴がシャナの近くへ歩み寄り、口を開いた。呆れ返っているようでため息を一つ吐いている。

 

「好きな人と一緒に居たいと思うのは女性として当たり前の事だけど、アンタはシャナに対して何をした?思い返してみなさいよ!」

 

「お、俺はシャナ=ミアさんとずっと一緒にいたくて・・・」

 

「じゃあ聞くけど、アンタ・・・ちゃんと自分の気持ちをシャナに伝えたの?」

 

「っ!?」

 

鈴から発せられた言葉はかつて政征から言われた言葉と同じものだった。自分の恋した気持ちを相手に伝えたのかと。

 

一夏は鈴の厳しい言葉に狼狽えていた。自分の気持ちだけを先行させ、シャナ=ミアの気持ちを考えていなかった。それを再び指摘されたのだ。

 

「私も人の事は言えないけど、好きな人がいるなら気持ちを伝えるべきよ!それをしないで自分の物にしようなんて愚の骨頂よ!你明白嗎?(分かった?) 你很大(大馬鹿野郎)

 

「ぐ・・・ううう!もういい!赤野を殺せばシャナ=ミアさんは俺のモノに出来るんだ!」

 

一夏は首を振った後、太刀を握り、その鋒を相手に向ける。敵対の意思を明確にしたのだ。思い通りにならないのなら破壊してしまえと。

 

最后、你已经跌到了那么远?(とうとう、そこまで堕ちたのね?)

 

鈴はあえて祖国の言葉で話している。怒りを抑え込むためだ。全員が武装を構えた。

 

「黙れ!私が一夏を惑わしたソイツを始末してやる!!」

 

「篠ノ之箒、哀れさは変わらずか・・・」

 

最早、言葉は意味がない。全員が戦闘の意思を見せ、突撃していった。




次は戦闘回です。

いよいよラスト二話前です。

最後までどうぞお付き合いくださいませ。


後々、この世界線が見たいという意見があればアンケートをとりますのでよろしくお願いします。


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殺めた命の重さ

白と紅が完全に消滅。


ラスボス登場


以上


「私はヴォーダの門の前で待つとしよう」

 

戦闘が始まると同時にカロ=ランは転移し、最深へと向かっていった。姿が消えると同時に白い機体が政征へ向かっていき、赤い機体はシャナへと向かっていった。

 

 

[推奨BGM【Devastator】第二次スパロボOGアレンジ]

 

 

突撃してきた白い機体、それを駆る一夏の剣を受け止めたのは政征だ。決着をつけるのならばシャナを守ると誓った自分がふさわしい。

 

「赤野っ!」

 

「決着をつけるぞ、織斑一夏!」

 

政征には何処か相手を殺したくないという考えがあった。それを払拭し、殺す覚悟を決めた政征の目に迷いはない。

 

一夏はまた凍りつかせようと冷落白夜を使用するが、先にオルゴン・ガーディアンのビットモードで牽制する。

 

「!?ビット兵器!?クソッ!それなら、これはどうだ!?」

 

政征の頭上の水分を凍らせ、氷柱にしそれを落下させていく。だが、政征はガーディアンを戻し防御機能であるオルゴン・クラウドSを起動し回転させ氷柱を砕いてしまった。

 

「な・・あ!俺の攻撃を全部、捌かれた!?」

 

「一度見た攻撃を二度受けるのは、騎士として恥じることだ。見慣れた攻撃を受け続ける訳ではあるまい?」

 

「くっ!」

 

狼狽えている一夏をよそに政征はシールドクローを展開し、突撃する。油断や慢心、遠慮は一切なくクローで機体を掴んだ。

 

「しまっ!」

 

「戦いの最中に考え事とは・・・舐められたものだ!」

 

突撃の勢いのまま地に叩きつけ、引き摺る。初めて戦った時に繰り出された時以上に容赦がない。

 

「ぐあああああああ!」

 

「もう一撃だ!」

 

オルゴン・クラウドで背後に転移し、下から上へと引き裂くような一撃と、地へと叩きつける一撃を加えた。

 

「ぐ・・・うああああ!負けるか・・・負ケるカ!マケルカよォォォォォォ!!」

 

「破滅に飲まれていたか・・・オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

ソードライフルをソードモードに切り替え、騎士の礼節の構えを取ると、突撃してきた一夏を迎え撃つ為に自身も突撃する。

 

刃が火花を出しながら鍔迫り合いを起こす。お互いに両手持ちで刃を押し続ける。

 

「シャナ=ミアさんは俺が・・・オレが守る人だ!お前なんかに相応しくない!俺のモノなんだアアアアア!!」

 

「・・・シャナ=ミア様をモノ扱い、気持ちだけを押し付けるなど・・・愚かの極み!!」

 

政征は一瞬だけ、バランスを自ら崩しブーストをかけて軽く押しと、横薙ぎで思い切り後方へ吹き飛ばした。

 

「グウウウ・・・!コロス・・・殺してやるううう!!」

 

今度はなり振り構わない連続攻撃を仕掛けてくる。オルゴンソードと楯状態のシールドクロー連続攻撃を冷静にさばき続ける。

 

「感情に任せての攻撃など、冷静に見れば見切れる」

 

「クソッ!クソオオオオオオオ!!オレの、オレのジャマばかりしやがってエエエエエ!アカノォォォォォォ!!」

 

「ならば一騎打ちで勝負!バスカー・モード起動!」

 

ラフトクランズ・リベラが学園での最初の戦闘と同じように灰色が機体に混じり合い、オルゴン・エナジーが余剰に溢れている。

 

オルゴンソードを空へ掲げるように構えるとパーツの左右が展開し、オルゴナイトの結晶が大剣の刀身を作り上げる。

 

「行くぞ!」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオ!零落白夜ァァァァ!!」

 

お互いが必殺の武装である、拮抗しているが僅かにオルゴナイトの剣が押されている。ほんの僅か、目を凝らして見なければわからないほど小さな罅が生じる。

 

「シ、ネエエエエエエエエエエエエエエ!」

 

「おおおおおおおおおお!」

 

拮抗の中、光の中から腕が一本投げ出され、それが鈍い音を立てて地へと転がった。

 

 

 

 

「ガアアアアアアアア!?」

 

「ぐっ・・・う」

 

投げ出された腕に握られているのはアルゲオ・インサニアである。オルゴナイトの大剣は砕け散っており、ソードライフルは元の形状に戻っている。

 

全身装甲である為、外見からは分からないが政征は腕から生暖かい感触のする液体を少しだけ流している。

 

「お、俺の腕!俺の腕があああああ!?」

 

「一騎打ちは私の勝ちだ・・・織斑一夏。だが、介錯は私の役目ではない」

 

政征はクロスゲートへと近づくために最深へと向かっていく。それと入れ替わるようにして現れたのは姉である千冬であった。

 

その身にはヴァイサーガを纏っており、五大剣が抜き身のままで手に握られている。一夏はその姿を見て、かつて自分を救ってくれた姉の姿を思い出し、その身を這って千冬に近づいていく。

 

「ち、千冬姉・・・俺の腕が・・俺の腕、斬られたんだ。赤野に・・・助けて・・・助けてくれよ・・・千冬姉」

 

かつての千冬ならば、痛々しいその姿に自らが汚れる事を厭わず抱きしめただろう、しかし。

 

一夏に捧げられたのは暖かい抱擁ではなく、冷たい処刑の刃であった。

 

「一夏、戻る事の出来ない道を歩ませてしまったのは私のせいだ。少しでも私が向き合っていれば破滅などに・・・」

 

「な、何言ってんだよ?千冬姉?」

 

「戻れないからこそ、私がケリを着けねばならない。眠るといい・・・お前の罪は私の罪だ」

 

五大剣を首筋に当てる。その瞬間に一夏は悟った、姉は本気で自分を殺そうとしている。

 

わからない、どうして、なぜ、俺は強くなれた。もしかしたら姉を越えたかもしれない力を得たのにどうして?

 

「さらばだ、弟よ」

 

瞬間にその首が胴体から切り離された。血が吹き出しヴァイサーガを紅に染めていく。千冬は血の噴水が終わるまでその場で立ち続けた。

 

涙もない、震えもない。弟を大切に思っていたはずが、自分は何も感じていないと言える程に冷静だ。

 

「割り切ってしまったのか・・・・?それとも・・・理解が追いついていないのか?」

 

もう一度、弟の亡骸を見た後に自分も最深へと向かった。どこからか「ありがとう」という少女の声を遺して。

 

 

 

 

 

 

別の場所ではシャナ=ミアを殺そうとする箒が狂気の目で雄輔と戦っていた。更識姉妹や鈴以外の代表候補生達は先行させ、クロスゲートへと向かっている。

 

「退けええ!私は一夏を惑わした悪女を斬るのだ!」

 

「退く訳がないだろう?俺はシャナ=ミア様を護衛する騎士だ。今のお前のように殺意ある者を近づける訳にはいかない」

 

「ぬううう!シャナ=ミア・フューラ!!貴様さえいなければ一夏が惑わされる事はなかった!貴様が!貴様が悪いんだ!!」

 

「感情に身を任せた攻撃か、あの時の冷静さが無い」

 

シールドクローだけで捌いているのは純粋に雄輔の技量が高いからだろう。剣道を主軸とする箒の剣は、今の雄輔にとって人形を相手にしているようなものだ。

 

「ならば尋ねるが、お前は想い人に対して女と見てもらえるように務めたか?」

 

「な・・に?」

 

「少しでも美しく魅せようとしたか?女として見て欲しいと伝えたか?ただ、傍に居るだけなら方法は幾らでもある。例えば織斑家に養子に入るなど、な」

 

「っ!」

 

雄輔はあえて女の部分を指摘していた。お前は自分を女として魅せる事はして来たのかと、女として自分を見て欲しいと伝えたかと。努力している女性からすれば余計なお世話だと言うだろう、しかし。

 

「う、うるさいうるさいうるさい!私はただ一夏の傍に!傍にいればいいんだ!一夏は私の・・・ワタシのモノだァァァ!」

 

「なるほど、純潔を守りすぎたのか。女性としてみれば純潔を愛しい男に捧げたかった。だが、それに比例して心の純潔を守るまで至ってしまったという事か」

 

変わらないでいて。私はずっとそばにいるのだから離れないで欲しいという乙女の祈り。ああ、素敵な考えだろう。だが、それはいずれ瓦解してゆく考えだ。

 

変わらないで欲しいというのは個人のエゴにもなる。人は成長し変わっていくものだからだ。変わらないものなど無い、流れは全て無常であるのだから。

 

「人は物じゃない。そんなに変わるのが嫌なら・・・その思い出を心の中の宝石箱の中にでも閉まっておけ!」

 

「うああああ!」

 

吹き飛ばして距離を取ると雄輔は後方へと下がる。それをチャンスと見てシャナへと襲いかかるが、シャナを守るように前に立った機体があった。

 

「!また邪魔者が!」

 

「シャーちゃんは殺させないよ?箒ちゃん」

 

「そ、その声は姉さん!?」

 

「久しぶり、になるのかな?」

 

箒の刃を弾き、束は箒と対峙する。以前なら名前も呼ばずに子供が癇癪を起こしたように騒いで罵倒しただろう。

 

「一つだけ聞かせてくれるかな?箒ちゃんにとってISって何?」

 

「ISは力です!私を一夏の傍に導いてくれる、邪魔なものを排除出来る唯一無二の力です!!」

 

「あっ、そう・・・やっぱり渡したのは間違いだったかな」

 

「いくら姉さんでもこの・・・な!?」

 

箒は束の纏っている機体を見て驚嘆の声を上げていた。機体ベースは紅椿、脚部はグランティード、腕部はラフトクランズ、武装はあらゆる機体を参考にした物と言わんばかりの物だ。

 

「な、なんですか?その機体は!」

 

「ラピエサージュ・アルキュミア、特別チューンを施した私だけの機体だよ」

 

「っ!?」

 

「この機体はね。兵器として使えるノウハウは全て組み込んだんだ。ISを・・・兵器の呪縛から解放するためにね」

 

「何?」

 

マグナム・ビークで箒の刃を弾き、距離を取る。先手を取らせないと言わんばかりにハルバート・ランチャー改を構える。

 

「矛と槍、避けられるかな?ハルバート・ランチャー!発射!」

 

砲身が展開し、内部にエネルギーが収束すると同時に発射され少しずつ範囲が広がっていくビームが発射される。

 

「っぐ!!」

 

僅かに右腕部へ掠る。掠っただけなのにシールドエネルギーを二割持って行かれていた。その威力を体感した箒は瞬間加速を利用して突撃し、二刀流で束にバツの字に斬りかかる。

 

「へえ、少しは腕を上げてたんだね。でも・・・!」

 

左手にディバイン・アーム、右腕に装備されたマグナムビークで二刀流の刃を束は簡単に止めた。

 

「ぐっ!私が、今の私が負ける訳がない!姉さんを殺して、その機体を私の機体のパーツにシテヤル!!!」

 

「(私は生まれた時から、細胞レベルでオーバースペックだった。周りの人間なんてゴミ屑だと思ってたよ)」

 

束は箒からの連撃を捌きながら己の過去を考えていた。自分以外の人間の頭脳が遅く、自分が優れているのだと自惚れていた。

 

自惚れていた自分が初めて敗北した相手と出会った。その人に言われた事は未だに私の中で心の中に深く根付いている。

 

 

 

 

 

 

「何で!?、凡人の男に過ぎないはずなのに!何でこの天才束さんが負けるのさ!?」

 

束はかつて癇癪を起こし、セルダに対して報復しようと子供のように生身で戦いを挑んだのだ。

 

自分は天才でありながら驚異的な身体能力にも恵まれている。その為に何一つ負ける要素は無いと。

 

だが、結果は惨敗。殴りかかればその力を利用して投げ飛ばされ、蹴ろうとすれば軸足を捌かれて倒される。

 

最後には剣を握って斬りかかったが、自分よりも短い刀身の剣で受け流されて剣を取り上げられてしまった。

 

「確かに私は君よりも頭脳や身体能力は劣っている。それなのに何故勝てないか解るかね?」

 

「それは、束さんが弱いからだ!じゃなきゃ負けるはずがない!」

 

「違う、君は生まれ持った頭脳と身体能力に甘んじて、己自身を磨き上げなかったからだ」

 

「えっ!?」

 

セルダから聞かされた言葉が束の心に染み込んでいく。まるで乾いた紙が水を吸収していくかのように。

 

「君は己の夢に対し、どのような手段を取った?ISは宇宙に行きたいという君の純粋な気持ちが現実の形になったものではなかったのかね?」

 

「・・・・・」

 

「成層圏を抜け、そこを飛行するだけでもアピールになったはず、何故君は力を示すような真似をしてしまったのだ?」

 

「それは、周りが私を認めなかったから!」

 

「君の技術は今を生きる人にとっては未知なのだ。だからこそ畏怖し、罵倒などをする事で自分の優位性を誇示したかったのだろう」

 

「な・・・に?」

 

「君はまだ原石だ。だが、宝石の一部が見えている。それを磨きたまえ、私も協力しよう」

 

「あ・・・あああっ」

 

束は全身を震わせている。現実に歩み寄ってくれる人間の暖かさと厳しさを持った人物が目の前に現れた事によって、嬉しさと心の重圧の糸が切れそうになっていた。

 

「私は協力を惜しまない。何かあれば出来る範囲で協力しよう」

 

「うう・・・あああああああああんっ!」

 

「おっと?」

 

泣いて飛び込んできた束をセルダは優しく受け止め、頭を撫でた。それはまるで、父親が愛娘をあやしているようにしか見えないだろう。

 

「辛かったのだな、今は泣いておきなさい。その涙はきっと君の強さになろう」

 

「辛かった、辛かったよおおおおお!ああああ!わあああああ!」

 

 

 

 

【推奨BGM【桜花幻影】スパロボOGsアレンジ】

 

 

「(凡人が天才に勝てる訳がない。それを崩してくれたのがセルダさん・・・私だっていつまでも立ち止まってられないんだ!)」

 

束の思いに応えたのか。ラピエサージュの出力が上がり、失われた愛を関する機体を押し返す。

 

「うあっ!?」

 

「箒ちゃん、これが姉としてみせる最後の愛情だよ」

 

「何を!誰もタトエ姉さんでも、私に勝てるはずがない!」

 

束は拡張領域から射撃武器の一つであるO・O・ライフルを取り出した。

 

「自分の得意な物を打ち砕かれた時の自分の脆さを知るといいよ!オーバー・オクスタン・ライフル!Bモード、シュート!」

 

遠距離から放たれる実弾を連射し、命中させる事の出来る位置へわざと回避出来るように仕向ける。

 

「こんなもの!」

 

銃身をフォールディングさせ、ライフルのように長くすると照準を合わせて引き金を引いた。

 

「続けてEモード、シュート!」

 

荷電粒子を混合させたビームを放ち、直撃させた。それでも、最新鋭のISだけあって防御力は高く、シールドエネルギーを削っただけであった。

 

「こんな物で私を倒せると思うなぁ!」

 

一度削ったはずのエネルギーをリガートゥル・オブリーウィオーで回復し、ボウガンで牽制してくる。

 

「っ!エネルギーを回復してる!?もう、戻れないんだ・・・それなら!」

 

「今度こそ!死ねえええええ!!」

 

「散りぬべき 時知りてこそ 美しく・・・」

 

束の口から短歌のような言葉が紡がれ、ラピエサージュの武装が全て解放される。四連チェーンガンを命中させ箒に回避も防御の隙も与えない。

 

「ぐ・・あああ!」

 

「桜花爛漫!」

 

一気に接近し、ディバイン・アームで斬りつけ、マグナム・ビークで押し出し、ハルバートランチャー改を手にし、発射する。

 

「花王と共に散れ・・・!!」

 

オーバー・オクスタン・ライフルのBモードを放ち、とどめに特大のEモードを撃ち放った。

 

「があああああああああああ!!」

 

箒は墜落するが、機体は大破に近く動くのがやっとの状態だ。仮にエネルギーを回復しても逃走すらできないだろう。

 

束は箒が墜落した場所へ歩いていく。箒は片手だけでも刀を向け、目的を果たそうとする。

 

「退け・・・!」

 

「・・・・・」

 

「退けと言っているんだああああああ!」

 

刀を束に振り下ろすが、それをあえて何もせずに受け止めた。炎のような熱さを感じるが何も束に変化はない。

 

「綺麗だなって褒めてくれる人はいるよ。今から逝く所にはね」

 

「なんだと?」

 

反撃と言わんばかりのディバイン・アームが箒の下腹部を貫いていた。内臓と子宮に深く刃に貫かれており治療は不可能だろう。

 

「ごふっ!?・・・あ、あああっ!わ、私の腹が!一夏と・・・成した証がアアアアアア!私の・・・!」

 

「産めるかどうか、地獄で閻魔に聞いたらどうかな?」

 

仕上げにマグナムビークで箒の心臓を貫いた。抉るように引き抜くと展開していたISが箒から消え失せ、待機状態となって束の足元に落ちた。

 

それを拾い上げ、空中へ放り投げるとハルバートランチャーで狙いを付け撃って消滅させた。

 

「さよなら・・・」

 

その後は一言も喋らず、全員が最深を目指して進んでいった。

 

 

 

 

 

 

最深へたどり着くとそこにはカロ=ランがクロスゲートの前で愛機であるラフトクランズ・カロクアラを展開し、何かを待っている。

 

「カロ=ラン!」

 

「たどり着いたという事はあの二人はやられたか、所詮は捨て駒か」

 

「っ!」

 

僅かな会話を交わした瞬間、クロスゲートが振動しカロ=ランに向かって何かが入り込んでいく。

 

「ハハハハ、来たぞ!破滅の王が顕現する!」

 

「なんですって!?」

 

「そんな・・・」

 

「破滅の力で今度こそ私が・・・うっ!?な・・なんだ?」

 

黒いモヤのようなものがカロ=ランを覆い、包んでいく。

 

「ば、馬鹿な!?欠片を持っているわがああああああ!」

 

首をガクッと垂れた後にカロ=ランから感じる雰囲気が完全に変わった。

 

「な、何ですの?これ!」

 

「得体の知れない殺気だ・・・」

 

「く・・・」

 

「こ、怖い!」

 

セシリア、千冬、シャル、暗部に通ずるはずの楯無でさえ震えていた。そこに声をかけたのが政征であった。

 

「お前はカロ=ランか?それとも」

 

「我は無限、我は混沌。全てをただ消し去り、広がり続ける宇宙を原初の闇へと戻す者」

 

声はカロ=ランそのものだが、口調が全く異なっている。後から合流してきた雄輔達も飲まれかけている。

 

「まさか・・・破滅の王?」

 

「然り。この身体の持ち主が我と同じ種子を持っていた為に、門を通じて我を現界させた。故に滅びの時を迎えねばならない」

 

「ふざけないで!簡単に滅ぼすなんて絶対にさせないから!」

 

「お前は鍵に触れた事で我と近しい存在になったか」

 

「え!?」

 

「お前のもう一つの魂は鍵を通じてこちらへ来ている。だが、いずれは我と同じ存在になるであろう」

 

「・・・・うう」

 

「聞きたい事がある。貴様の言う"鍵"とは一体何なのだ?」

 

ラウラの言葉に破滅の王は表情を変えず、淡々と答える。

 

「お前達がISと呼ぶ機械体へ搭載しているサイトロン・システム、それが最も近しい。それを複製し作られたのがシュンパティア、最も不完全なものではあるがな」

 

「「「「!?」」」」

 

「え!?」

 

フューリーとして自覚した三人、そして簪が驚く。サイトロンシステムと簪のシュンパティア・システムが同じものであると指摘されたからだ。

 

「更識簪、お前はシュンパティアを起動させたことによって、メリオルエッセに近しい存在となった。だが、不完全故に至ってはいない」

 

破滅の王は残忍ともいえる笑みを浮かべた後に、何かを呼び出すように腕を上げていく。

 

「お前達の機械体を基に我の機械体を蘇らせた。よってこの世界が破滅へ導かれる時が来た」

 

カロ=ランが扱っていたラフトクランズ・カロクアラの形状が変形していき、姿を変えていく。両腕の盾が男女を示す仮面のようなものに変わり、破滅の王の全身を覆った。

 

全身装甲のISとして再現されているが、所々が生物的に動いており、ただの機械ではないことを伺わせている。

 

 

【推奨BGM [Despair]スパロボOGアレンジ】

 

 

「ペルフェクティオ・・・とくれば、あれはファートゥム・・・!」

 

「あのゲームのプレイヤーを絶望させてきた、最悪にして最強の相手・・・」

 

誰にも聞こえないよう政征と雄輔は静かに呟き、戦闘態勢をとる。あの時は自分が守られていた、だが今は立ち向かっていかなければならない。

 

「滅びよ、人と名乗る生命体よ」

 

今ここに、宇宙的恐怖を持つ最大最悪の存在との決戦が幕を開けた。




アンケートを取ったのですが話の流れ的に退場という形をとりました。

生存を期待した皆様、申し訳ございません。

次回はいよいよ最終決戦です。

持つもの全てを放出するつもりです。

この世界へ来たイレギュラー達は意外な結末を迎えるかもしれません。

お楽しみに。


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極めて近く、限りなく遠い世界へ

最終回!!!!



以上


ISとなったファートゥムからは圧倒的なプレッシャーが放たれている。並の実力者であれば、間違いなく発狂してしまうだろう。

 

「ぐ・・・何ですの、この重圧」

 

「圧倒的な負の感情・・・?」

 

「違うよ、これは殺気だ」

 

「この私が怯えているのか?」

 

「負けない・・負けられないよ!」

 

「ディス・レヴとは違う性質の負念か?」

 

代表候補生達は己を奮い立たせ、ペルフェクティオと対峙する。だが、ペルフェクティオは試すと言わんばかりに男女の仮面の両目と口から、砲口を出現させる

 

「これは、我の力の一つの顕れ・・・」

 

テネブラエを展開したファートゥムは黒いエネルギーの弾を連射してくる。次第に連射速度が早くなり回避が厳しくなっていく。

 

「「「ああああああっ!?」」」」

 

「「ぐあああああ!」」

 

ファートゥムから放たれているエネルギーは一発一発が負の念を糧にしたものだ。それだけに威力は高い。

 

「こ、これが破滅の力・・・」

 

「まだ、だ!」

 

三機のラフトクランズはオルゴンライフルによる射撃、射撃に特化したISは援護を行い、鈴はブラキウム・ショットで攻撃していく。

 

「無駄だ……我は、死と滅びを糧として存在するが故に。我を滅ぼすことは出来ぬ」

 

「全く効いてない!?」

 

「それに・・・ううっ!?」

 

「どうした?みんな!?」

 

「機体がうまく動かない・・・!」

 

機体の能力が低下しているのはファートゥムの単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)、パッシーオが常時発動しているためだ。

 

名状しがたい何かに見られているような感覚によって、意志を持つと言われるISコアが狂気に染まりつつあるのだ。

 

「ぐ・・・うおおおおおお!」

 

オルゴンソードで向かっていったのは政征であった。横薙ぎに一撃を加えてが装甲を傷つけただけでオルゴナイトの刀身が砕けた。

 

「オルゴナイトが砕けた!?」

 

「受け入れよ、滅びんが為に生まれた者達よ!」

 

ファートゥムが上空に上がり、腹部にある口のような部分から黒い粘液のような物が発射され、全員がそれを浴びてしまい爆発する。

 

「うああああああ!」

 

「きゃああああああああああ!?」

 

ウルティムムと表示された武装はまるで大津波に押し流すかのように全員を飲み込んだ。この攻撃によって最も被害を受けたのは千冬と束であった。

 

「あ・・ああ」怨嗟

 

「う・・ぐうう」

 

千冬は破滅から受けたトラウマが蘇り、束は初めての恐怖に動けなくなってしまっている。

 

「絶望と恐怖の闇・・・」

 

ファートゥムが黒い霧の中に隠れ、姿を隠してしまう。ハイパーセンサー何も感知していないが、楯無の後ろにそれは現れた。

 

「!!楯無さん、後ろ!!」

 

「えっ!?」

 

「これは死をもたらすもの!」

 

瞬間、絶望の男面と呼ばれている仮面の口部からドリルのような物が楯無を貫き回転した。オルクステレブラーと表示されたそれは容赦のない一撃だ。

 

「あああああっ!」

 

シールドエネルギーが0となり、機体が解除され投げ出された。急いで簪が安全地帯になりそうな場所へ運び、千冬と束も運ばれた。

 

「うう・・・」

 

「よくもお姉ちゃんを!」

 

「簪さん、怒りに身を任せてはダメだ。奴に力を与えてしまう!」

 

「お前たちの焦燥、周章を感じるぞ。それもまた、我の力となる……」

 

簪の怒りの感情すら破滅の王は糧としてしまっている。それだけではなく、徐々に破滅へと飲まれてきているのだ。

 

「滅びよ、人と名乗る生命体よ。絶望の男面、恐怖の女面・・・・」

 

ファートゥムから両腕が分離し、戦闘可能なメンバー全員に照準を合わせた。

 

「轟哭!」

 

男女を模した二つの顔は血涙を流しつつ、怨嗟の声を上げそれが超音波のように戦闘メンバーへと響く。

 

「うああああああ!!」

 

「混沌へ堕ちよ!享笑!!」

 

今度は嘲るような声によって戦闘メンバー全員が暴風の如き、怨念の塊によって閉じ込められてしまう。

 

「な・・なんだよ!これ」

 

「抜け出せない!?」

 

ファートゥムがゆっくりと黒い塊に近づき、憑依したカロ=ランの肉体で内部から出てくると、その塊の上へと乗った。

 

「ふうっ・・・・はぁっ・・・・」

 

その目からは狂気とも何とも言えない光が宿り、塊に手を突っ込む。

 

「我は無限、我は混沌・・・・。全てを飲み込み・・・・そして!!

 

黒い塊に閉じ込められた負の念を解放するかのように引き裂いた。

 

「力と成して無へと還すもの!!」

 

言葉にならないほどの衝撃が皆を襲い、全員がエネルギーシールドを九割近くを削られている。それだけ破滅の王の必殺武装、エデッセサペレが強力なのを物語っていた。

 

「まもなく、我が本体が現出する。終焉の時だ。お前達に与えよう……これまでに我が糧となった、亡者達の怨念を。絶望の果てに滅びを迎え……我が糧となれ、人という名の生命体よ」

 

ペルフェクティオは自らの糧とした怨念を一気に開放した。それはかつて、カロ=ランが千冬に対して行ったものと一緒のものだ。

 

「う・・ああああ!これ・・・は・・・!」

 

「ぐ・・・身体が・・・震える!?」

 

「あ・・助けてください・・・嫌・・・嫌ぁ!!」

 

「か・・勝てない・・・・の?私達・・・・・では・・・!?」

 

「くううう・・・動いて・・動いてよおお」

 

「ふざ・・ける・・・な・・・がああ」

 

「怖い・・怖いよおお!(うう・・・私も割りかし・・・マズイ)」

 

「政・・・征・・・助け・・・て!」

 

それぞれが絶望にうちひしがられる中、それぞれの機体が辿った世界での光が溢れた。

 

 

 

 

 

『負けないで、セシリアさん!』

 

「比瑪さん?比瑪さんですの!?」

 

『アンタはやれるはずだ。まだ希望は潰えちゃいない』

 

「紗羅さん!?」

 

『アンタの希望という名の野生をアイツに見せてやりな!』

 

『あの子達もセシリアさんともう一度会いたいって、だからもう一度立ち上がって!』

 

「ええ、やってやりますわ!」

 

 

 

「勝てないの?私は・・・」

 

『馬鹿者!!』

 

『そんな心構えで、よく流派東方不敗を修め、俺達を越えるなどと言えたものだな?鈴』

 

「マスターアジアさん!?それにドモンさんまで!」

 

『お前にはまだ龍の炎が残っているはずだ。命の力の炎が』

 

「シュバルツさんも!」

 

『お前が信頼する仲間達と共にシャッフル奥義を使え、今なら出来るはずだ!』

 

「はい!!」

 

 

 

「も、もうボクには・・・」

 

『諦めてどうするの?私を越えたいんでしょ?』

 

「カ、カルヴィナ義姉さん!?」

 

『あの時に見せた不屈はウソだったの?』

 

「そ、それは」

 

『立ち上がって戦いな、絶望の中の希望を見出す事が出来るはずだぞ』

 

「マサ=ユキまで!?」

 

『諦めが悪いのが貴女でしょ?シャル』

 

『行け、この世界を破滅から救ってみせな』

 

「うん!」

 

 

 

「ぐ・・私はこんなにも」

 

『弱かったなんて言うなよ?ラウラ』

 

「え?この声は・・・シンヤさん?」

 

『この僕に勝っておいて勝手に敗北するなよ。タカヤ兄さんも幻滅してしまうだろ』

 

『そうだ、お前もテッカマンならば立ち向かって見せろ』

 

「Dボゥイさん!?じゃあ!?」

 

『私もいますよ。ラウラさん』

 

「ミユキ!」

 

『俺達は抗う事で希望を掴んできた。お前もテッカマンなら抗って見せろ!』

 

『勝て、テッカマンレーゲン!』

 

「私達は共に戦っています!」

 

「ああ!」

 

 

「ち・・きしょう、俺はまだ」

 

「守れていないのに・・・」

 

『情けないわよ!あの時の啖呵はどこへ行ったの!?』

 

「「クド=ラ!?」」

 

『絶望の中にある希望、人との繋がり・・・それが破滅の王に対抗するものよ』

 

「「・・・」」

 

『行ってきなさい!あん時のアンタ達を・・・今一度見せてよ!』

 

「「おう!」」

 

 

 

 

それぞれが出会いの中で繋いだ絆。それが形を成し、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)として体現する。

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『野生化のチャクラ』発動」

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー) 『真・明鏡止水』発動」

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『ハンター・ホワイト・リンクス』発動 」

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー) 『マスカレード・イン・ザ・レイン』発動」

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『オルゴン・レガリア』発動」

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー) 『オルゴン・サンクトゥス』発動」

 

各々が身に付けた単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が己を強化し、仲間を強化していく。

 

「何だ、これは?我の、我の力を押しのけるだと?あり得ぬ……我は無限、我は永遠。滅びの宿命を持つただの生命体が、死と滅びと負の波動によって存在し続ける我の力を退けるなど」

 

「例え、我がこの仮初めの体を通してのみ、この宇宙に存在しているとしても……あり得ぬ!」

 

破滅の王は絶望へ叩き込んだはずのメンバー達から溢れる希望の想いが、破滅の王の波動を押し返している事を信じる事ができない。。

 

 

 

 

 

 

 

「シャナ!セシリア!シャル!ラウラ!私に力を貸して!シャッフルの紋章と共に!!」

 

「はい!鈴さん!」

 

「わたくし達の命を!」

 

「鈴から授かったこの紋章と共に預けるよ!」

 

「行け!鈴!!」

 

「ぬう!?何を!」

 

「ドモンさん達が思い出させてくれた!新しく出会い、苦楽を共にした人との絆こそが、最高の力なのだと!!」

 

鈴の右腕からキング・オブ・ハートの紋章が浮かび上がり、それに共鳴した四つの紋章が託された四人の右手の甲に浮かび上がる。

 

鈴の掛け声と共にシャナを含めた代表候補生達がファートゥムに向かい、胸部に紋章を浮かぶ上がらせ全身が黄金色に輝き出す。

 

「「「「「この魂の炎!!極限まで高めれば!倒せないものなど、ないッ!」」」」」

 

「「「「「私のこの手が真っ赤に燃える!勝利を掴めと叫びを上げるッ!!」」」」」

 

「「「「「爆ぁぁぁ光!!」」」」

 

 

【推奨BGM【我が心 明鏡止水 ~されどこの掌は烈火の如く】原曲】

 

 

一時的とはいえど、完全な状態でシャッフル同盟の力を受け継いだ五人の紋章が重なっていき、一つになる。その輝きは命の炎を凝縮させたものだ。

 

「「「「「シャッフル!!同盟けぇぇぇん!!」」」」」

 

ファートゥムに向かっていった命の炎はファートゥムを焼き、再生を追いつかなくさせた。だが、反動で鈴は片膝を着いてしまっている。

 

「まさか、ここまで我を押し返すか!」

 

「うう・・・私はここまでよ・・・。後を頼んだわ!皆!!」

 

 

 

 

 

「皆様のお力、お借りしますわ!シャルさん!わたくしのユニットをパージしますわ!お使いなさい!」

 

「え?」

 

「蒼の心にて・・・悪しき空間を撃ち抜く!名付けて断空光牙弾!!やぁぁぁぁってやりますわ!」

 

たった一発の弾丸に込められた絆という銀が蒼い軌道を描いて行き、破滅という名の怪物の身体を撃ち抜く。これによってセシリアも行動不能になってしまう。

 

「仮初とはいえ、この機械体を貫いただと!?」

 

「シャルさん!受け取ってください!わたくしの力を!バスター・ユニット・パージ!・・・ここまでですわ、後をお願いします・・・!」

 

 

【推奨BGM 【Guardian Angel】スパロボOGアレンジ】

 

 

「これは!うん、ダブルBフォーム!ガイド・レーザー!ドッキング!」

 

セシリアからシャルに託されたユニットは砲台となり、ベルゼルート・リヴァイヴと合体した。

 

「セシリアから・・・ブルー・ティアーズから託された力を感じる!先ずは弾幕のミサイル!オルゴノン・レーザー!スプレッド・シュート!」

 

実弾のミサイルからオルゴンによるレーザーの連携攻撃を加えていく。今のファートゥムは自分と相反する強力な二種類の攻撃を受けた為に、ダメージを負っていた。

 

その影響で防御機能が破壊され、通常兵器が通じる状態だ。シャルの放つオルゴンエネルギーがダメージを与えていく。

 

「今だ!いけええ!!」

 

オルゴナイトのエネルギーがファートゥムを結晶の中へと封じ、動きを縛る。

 

「エクストラクター・マキシマム!これが!皆から託された一撃!オルゴン・バスター・キャノン!シュートォォォ!」

 

最大級のオルゴンエネルギーがファートゥムを捉え、内部で結晶爆発を引き起こし、地に崩れた。バスターユニットと分離しシャルもまた動けなくなってしまう。

 

「有り得ぬ・・・滅び行く宿命を持った者がこれほどの力を持つなど!」

 

「ボクも・・・限界・・・頼んだよ!ラウラ!簪!政征!雄輔!シャナさん!」

 

 

 

 

そんなシャルの横を、灰色と紅の線を持つ仮面の戦士が横切っていく。単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)によってブラスター化を果たしたテッカマンレーゲンである。

 

ブラスターテッカマンレーゲンは両腕四つ、両肩五つの18の砲門を展開し、エネルギーを収束させていく。

 

「(Dボゥイさん、シンヤさん、ミユキ、ゴダードさん、スペースナイツの皆さん、そして掛け替えのない私の仲間達!私に力を貸してくれ!!)」

 

【推奨BGM【永遠の孤独】スパロボWアレンジ】

 

「私は、私はもう孤独じゃない!!私には守りたい大切な人達がいる!私は被検体009号でも、力に溺れたラウラ・ボーデヴィッヒでもない!!私はテッカマンレーゲン!だがこの世界を守るテッカマンレーゲンだ!」

 

ラウラの左右に四人のテッカマン達が並ぶ、待機状態であるテッククリスタルが目の前で砕け散り、そこから発生した余剰エネルギーすら取り込んだ。

 

「うぉぉぉおおおおおおおお!」

 

全ての想いと共にラウラは最強の武装を放った。その瞬間に四人のテッカマン達がレーゲンへと一つになっていった。

 

「AICボルテッカァァァーッ!!」

 

放たれたボルテッカは機能再生をしかけていたファートゥムへと命中し、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)であるパッシーオの中枢を破壊した。

 

「この機械体が!?」

 

同時に、ラウラもゆっくりと落下していき、それをシャルがギリギリのところで受け止めた。

 

「私も全てを・・・出した。後は頼む!簪!シャナ=ミア姉姉様、政征兄様、雄輔殿!」

 

 

 

「私達だって!」

 

「(譲れないものが私にも出来た!)」

 

「ケラスス・レーギーナ!行くよ!レース・アルカーナ出力上昇!ブースト!!」

 

 

【推奨BGM【Duologue】&【Duet】スパロボOGアレンジ】

 

 

二人の簪から受けた想いによってケラスス・レーギーナと呼ばれた打鉄弐式はリミットを大幅に越え120パーセントを示した。

 

「加速速度限界値突破!ターゲットロック!ベクター・ミサイル!!」

 

ミサイルを再び受けたファートゥムの動きが止まる。その隙を逃すほど愚かではない。

 

「レイヴ・レーザー!バレル展開!!」

 

シュンパティアの影響によって武装の扱いに長ける笄(こうがい)が粒子砲を拡散で発射する。適切な距離を見計らい、チャージを完了させた。

 

「(シュンパティア、LBファンクション・・・!)(笄、私も)」

 

二つの魂が共鳴し、その力を受けたケラスス・レーギーナは限界を越えた砲撃を放った。

 

「行っけええええええ!ニュートロン・バスタァァァ!」

 

リミットオーバー状態から放たれたその一撃はファートゥムの右腕を完全に奪ったが、二人も冷却状態に入り動けなくなってしまった。

 

「三人共、後はお願い!」

 

「(恐らく封印の鍵になるのは)」

 

「この肉の体に縛らえた故か・・・これほどまでに!」

 

破滅の王は再生できない自分の機械体を維持できなくなってきていた事で綻びが生じ始めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞ、雄輔!」

 

「ああ!」

 

政征と雄輔は同時にバスカー・モードを起動し、ファートゥムへ突撃していく。それと同時に二人の間へ走る緑の閃光があった。

 

「オルゴン・ドラコ・スレイブ!!行ってください!!」

 

その一撃はグランティード・ドラコデウスを纏ったシャナからの一撃だ。それを好機に二人の騎士は連続攻撃を加えていく。

 

「飛ばすぞ!」

 

「分かった!!」

 

オルゴンクローによって打ち上げられ、オルゴンソードによる一閃を与えた。二人のコンビネーションは例えるならば戦場における相棒だ。

 

「これが!」

 

「双剣の極意!」

 

リベラが上空から、モエニアが正面からファートゥムへと突撃していく。二つの青と蒼が閃光となって二つの刃となった。

 

「オルゴナイト!」

 

「バスカー!!」

 

「「クロォォォス!」」

 

「有り得ぬ・・・このような事はありえぬはずだ!!」

 

機械体を破壊された破滅の王はカロ=ランの肉体ごとクロスゲートの内部へと消滅していった。

 

「や、やりましたわ!」

 

「破滅の王を追い返した!」

 

「これで、ようやく!」

 

「全てが終わったのだな!」

 

代表候補生達が喜んでいると同時にスコールとオータムが合流した。歴戦の風格よろしくのようで機体には損傷が殆ど見られない。

 

「あら、パーティーは終わっちゃったのかしら?」

 

「ちっ、おいM?」

 

「っ!?まだだ!!まだ終わってない!!」

 

 

 

 

 

マドカが叫ぶと同時にクロスゲートが揺れ始め、内部から何かが蠢いていた。それは何かの球体であるかのようにで出てこようとしている。

 

「!!あれは破滅の王の本体だ!あれをこの世界に出現させたら、世界が終わってしまう!」

 

「今動けるのは俺たちだけか・・・うっ!おおおおおお!」

 

「政征さん!?」

 

「「政征!?」」

 

「政征兄様!?」

 

「この世界を・・・破滅させてたまるかああああああ!!」

 

政征は再びオルゴナイト・バスカー・ソードを手に突撃し、クロスゲートの中心に刃を振り下ろし押しとどめた。

 

「ぐ・・・・おおおおおおおおおお!!」

 

押し返し続けていたが、政征のオルゴナイト・バスカー・ソードに亀裂が走っていく。その真横でもう一本のバスカー・ソードが振り下ろされ押し返し始めた。

 

「っ!?雄輔!?」

 

「一人でカッコつけて、特攻なんてやってんじゃねえよ!大馬鹿野郎!ぬううううううう!」

 

二本のオルゴナイト・バスカー・ソードが押し返している中、更にその横へ通常のオルゴンソードで押し返すもう一人の騎士が現れた。

 

「フー=ルー!?」

 

「本当に世話が焼けますわね!貴方達は!」

 

代表候補生達が三人の騎士の援護に向かおうとするが、全員がまるで命令されているかのように動くことができない。

 

破滅の王への根本的な恐怖と力を使い切ってしまった弊害によって身体の自由が利かなくなってしまっていたのだ。

 

その最中、限界を迎えた政征のオルゴナイト・バスカー・ソードが砕けてしまう。

 

「しまった!」

 

「政征!」

 

「シャナ!?」

 

グランティード・ドラコデウスが咆哮を上げ、尻の先端部と頭部にある角状のパーツが連結し、それを政征の手に握らせる。

 

「無窮の剣を貴方に・・・!」

 

「おう!オルゴン・マテリアライゼーション!っ!うあああああああああああ!?」

 

あまりの高出力にラフトクランズ自体も悲鳴を上げていた。本来はグランティード・ドラコデウスの扱うインフィニティー・キャリバーを強引にラフトクランズが扱っているためである。

 

神話的な表現でいうところの、神だけが扱うことの出来る武器を人間の戦士が扱おうとしてその力に振り回されているようなものだ。

 

「私達も行くわよ、マドカ!」

 

「了解した、スコール!」

 

因果律の旅人となりかけている二人もZ・Oの名を冠する剣で押し返し始めた。僅かな時間稼ぎにしかならないが、その時間が大きな好機となった。

 

「ぐぬううおおおおおおお!!」

 

「政征、私も共に・・・」

 

シャナの手が政征の手に重ねられ、シャナは笑みを浮かべた。

 

「っ!ああ、行くぞ!シャナ!!」

 

「はいっ!」

 

「「はああああああああ!!!」」

 

ラフトクランズ・リベラがグランティード・ドラコデウスに乗る形になり、二人でインフィニティー・キャリバーを握り締め突撃している。

 

「破滅の王!そして、ヴォーダの門よ!この世界から出て行けえええええ!インフィニティー!オルゴナイト!」

 

「バスカー!」

 

「「キャリバァァァ!」」

 

インフィニティー・キャリバーにラフトクランズのバスカー・モードによる余剰出力によって破滅の王の本体は押し返された。

 

だが、クロスゲートは暴走を始め近くにいた政征、雄輔、シャナ、フー=ルーの四人とスコール、マドカの二人も巻き込まれ、転移が始まってしまった。

 

「!転移が始まるのか!?」

 

「ダメだ、抜け出せない!」

 

「オルゴン・クラウドの転移機能まで封じられていますわ!」

 

「ラースエイレムも使えません!」

 

「このままじゃ、私達まで!」

 

「う、動けない!」

 

 

ようやく身体の動いた代表候補生達は全員、転移に巻き込まれそうになっている六人を救出しようとした。

 

「今行きますわ!」

 

「待ってて!」

 

「ボクはまだ恩を返せてないからね!」

 

「兄様と姉様は必ずお助けする!!」

 

 

 

 

「「来るな!!!」」

 

 

 

 

その怒号のような叫びに全員が足を止めてしまった。クロスゲートから発せられるエネルギーは止める手段がない。

 

「来てはならん!お前達も転移されてしまう!!」

 

「で、ですが!」

 

「俺達は元々イレギュラーな存在だ。お前達まで付き合う必要はない!」

 

「何言ってんのよ!?それじゃ、アンタ達が!!」

 

「そうだよ!!」

 

「貴女達はこの世界の住人、並行世界に渡れば対消滅を起こして、存在そのものが無くなるかもしれませんわ!」

 

「スコール!マドカ!!」

 

「シャナ=ミア姉様!!」

 

「オータム、この世界を頼んだわよ?」

 

「私達の居た証を守って欲しい」

 

「ラウラ、この世界を守ってください。私は政征と共に参ります」

 

転移が始まり、巻き込まれた五人の存在が薄まっていく。

 

「お、お待ちになってくださいませ!政征さん!わたくしは、わたくしは!!」

 

「雄輔、待って!私、アンタに言いたいことが!!」

 

「貴方様(アンタの事)が、好きでしたの(だったのよ)!」

 

「ありがとうな、セシリア。その気持ちは嬉しいが、すまない・・・」

 

「鈴、俺もだ。好意は嬉しいが俺はお前の恋人になる事は出来ない・・・」

 

二人の告白を聞い政征と雄輔は申し訳なく思いながらも、告白に返事を大声で返した。

 

「良いんですの、政征さん。このセシリア・オルコット・・・お伝えできただけでも誇らしいですわ!」

 

「雄輔、必ず後悔させてやるんだから、帰ってきなさいよ!!」

 

その言葉を最後に五人は転移し、今いる世界から完全に居なくなってしまった。それと同時に施設が崩れ始めていく。

 

「脱出だ!早くしろ!!おい、銀髪のガキ!!行くんじゃねえ!!」

 

「嫌だ!シャナ=ミア姉様が居なくなったなど認めるものか!助けに行くのだ!離せ!!」

 

駄々をこねる子供のようにクロスゲートへ向かおうとするラウラをオータムが強引に連れて行き、気絶した楯無を簪が千冬をセシリア、鈴、シャルの三人が運んだ。

 

束は最初に脱出しており、ウチガネと呼んだ戦艦の誘導をしている。

 

 

 

 

 

 

 

全員が脱出し、ウチガネに乗り込んだが一言も喋らずに全員が暗い顔をしていた。

 

「破滅の王は追い返したけど・・・・」

 

「仲間が居なくなってしまいましたわ・・・」

 

「これからどうなるのか、分からないわね」

 

「うん・・・」

 

「兄様、姉様・・・」

 

それぞれが思いに耽っていると束が改めて宣言するように口を開いた。

 

「みんな聞いて、ここにあるISのコア・・・8つだけを残して、世界で動いているISを休眠状態にしようと思う」

 

それを聞いた全員が驚きを隠せず、驚嘆の声を上げた。

 

「どういう風の吹き回しだ?束」

 

千冬の言葉に束はどこか寂しそうな笑みを浮かべて答えた。

 

「私はISを本来の姿に戻したいと言ったよね?今のままじゃ到底無理だから、休眠させようと思うの」

 

「男性でも動かせるISを開発したら休眠を解除しようと思う。スポーツ分野やレスキュー分野、開発分野などの作業用としてしか使用できなくするんだ」

 

「束様・・・」

 

「贖罪に近いけどね?君達の機体は武器を置く事を学んでるからそのままで良いよ」

 

束の決意は固いようで皆は了承していた。自分達も束の夢を本来に戻す手伝いのために。

 

「世界に向けて宣言するよ。大混乱になるだろうけどそうしなきゃ前に進めないから・・・」

 

その後、IS学園に束とクロエ以外のメンバーが降り、束は再び行方をくらました。

 

翌日には政征、雄輔、シャナの三名は急遽海外へ転校してしまった事になった。クラスメート達は突然の別れに驚き、嘆いたが千冬の説得によって渋々納得し、騒動は収まった。

 

アシュアリー・クロイツェル社においては、クロスゲートへの突入をシャナ=ミアが手紙にて伝えてあったために大きな騒ぎにはならなかった。

 

次代は皇権制度ではなくなり、また新しい皇女が誕生していた。シャナ=ミアとは違い、勝気で優しいという正反対の皇女が誕生していた。

 

 

そして・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、新たな物語が始まる。

 

 

Moon Knights IS~Prayer of a Rabbit Fury~の世界へ・・・。




本編はこれにて完結です。

どんな作品でも終わりが来るのは必然。

最終回ということで詰め込みまくったらこのようになりました。

この作品は愛着があるので、基本世界として並行世界を書くかもしれません。

ラフトクランズを使いたいと思って始めたのがきっかけでしたが、文でスパロボの戦闘を表現するのは難しいと痛感させられたものでありました。

私の作品にお付き合いいただき、本当にありがとうございます。

ISガールズのエピローグは書く予定です。

書き終えたら、並行世界であるMoon Knights IS~Prayer of a Rabbit Fury~の世界を更新していく予定です。

https://syosetu.org/novel/120230/ ←作品URLです。

では、別の作品でお会いしましょう!

※もう、ちっとだけ続くんじゃ


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エピローグ

四人のそれぞれ


以上


あれから三ヶ月。束さんは世界に対してISの休眠を宣言し混乱がようやく静まっていた。

 

ISが事実上、無効化された為にIS委員会は形をそのままに、改革的なハト派の人達が実権を握った。

 

女性利権団体は解体され、その権力に群がっていた女性達も全員追放された。男性からの報復も懸念されたが、新しい法案によってISが出来る前の男女の権限が戻っていた。

 

タカ派の女性達や賛同していた女性、女尊男卑に染まっていた女性は今まで自分達が行ってきた事の自業自得なのか、まともな職には就けなくなり、噂では男性が通うお風呂屋さんにいるという。

 

IS学園は形だけ残り、普通科、軍事科、宇宙開発科、整備科という新しい分野が組み込まれ、共学になった。

 

千冬さんは一から学ぶ為に大学へ入り直し、教育課程を受けて改めて教師となったそうだ。

 

本人曰く「次世代を育て、夢を共有出来る相手を持たせるようにするのが私の贖罪だ」と言っていた。

 

束さんから教師を続けた方が良いとも言われたそうだ。軍事教育のようなやり方は無くなり、山田先生が言うのには厳しくともしっかりと生徒と向き合うことの出来る教師になったそうだ。

 

 

オータム先生は軍事科の護身担当に正式に任命され、教師となった。ボディバランスを上手く出来るようになると評判だが、男勝りなのが怖いという生徒もいるという。

 

最近は軍人さんと良い関係があるとかないとか。

 

 

 

セシリアは長くて腰まであった金髪のべリーロングヘアをボブディにして驚かれたそうだ。女性が髪を切る時というのは何かを断ち切るためだという迷信がある。

 

政征への想いを胸に未練だけを切ったのかもしれない。最近はフー=ルー先生みたく優雅で力強くある騎士を目指しているそうだ。

 

 

シャルはあれからアシュアリー・クロイツェル社によく通うようになった。義理のお姉さんとお兄さんが働いているらしく、自分も此処で目指したいものがあるかも知れないとの事。

 

最近は男装させようとするクラスメートに困っているらしく、セシリアがよく止めているのを見かけていた。

 

 

ラウラはショックで落ち込んでいた時も多かったが最近は元気になってきた。眼帯をとってオッドアイにした事で人気が高くなり、よく追われている。

 

共学になった事で悪質な男子生徒や女子生徒を取り締まる風紀員みたいな活動もやっており、鍛え直すとの名目での軍事式のシゴキは生徒だけではなく先生にも恐れられている噂だ。

 

 

私、凰鈴音はあれから新しい部活を作ってそこの部長をしている。ラクロスの方は私の身体能力が高すぎて試合にならないとの事でヘルプのような状態になってしまったのだ。

 

格闘技研究部と申請したが、実際は私が教わった拳法を教えていく部だ。今でも弱い女性はたくさんいる、そんな人に自分の身は自分で守れるようになって貰いたいと思って立ち上げたが、入部者が殺到して驚いたけど。

 

私はあれからツインテールを止めて、単なる一本結びで髪をまとめるようになった。

 

別に意味なんてない、幼かった自分から脱却に意味も込めてしたものだ。

 

そんなこんなで学園生活も充実している。でも、フューリーとして自覚した私達は卒業と同時にアシュアリー・クロイツェル社へ行きたいと考えていた。

 

フューリーから見た宇宙を見てみたいというのは建前で、実際はフューリーの人達に出会ってみたいからだ。

 

シャナや政征、雄輔だってフューリーだった。もしかしたら友達になれるフューリーだっているかもしれない。

 

いつの日か、再会した時に言えるようにしておきたいから・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさい」って・・・・。




鈴視点でエピローグは締めました。

作者の私が物事をハッキリ言いつつもどこか弱い部分があるというキャラが好きなもので。

優遇キャラと言うのもあったので、こんな形で締めました。

それでは。


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