この素晴らしい紅魔族に祝福を! (西陣L)
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ああ、めぐみんさま
プロローグ


この世のものとは思えないような空間に。

目が覚めると俺はそこに居た。

 

「佐藤和真さん、ようこそ死後の世界へ。私は貴方に新たな道を導く女神、アクア。この世界での貴方の人生は終わったのです」

 

目の前の女神という女は死後の世界とか言ってきた。

 

死後の世界……?

 

あれ?俺死んだんだっけ……?

 

俺は確か、親が仕事に出かけた後、いつも通り通学路から自宅に戻りネトゲしてブラブラ散歩をしていたところまでは覚えているんだが……

 

 

「な、なあ女神さん?」

 

「なんです?」

 

「俺って何で死んだんでしたっけ……?」

 

そう言うと、女神様は俯いて。

 

 

 

肩を震わして笑いをこらえているのがわかった。

 

 

 

 

 

 

……………は?

 

 

「ぷっ…ぷぷっ……あっ…あなたはっ……後ろから来たトラックをかっこよく避けるフリをして道を踏み外して田んぼに頭から突っ込んで水死したんです……ぷぷぷっ……」

 

 

 

……………………………はぁ??

 

 

「ぷぷっ……あの頭から落ちた時の顔とポーズといったらっ………ぷぷぷぷっ…………あはははははははははははははははははははっっっっっ!!!!!」

 

 

はああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!???

 

 

「死ぬのでこんなに笑ったのは貴方が初めてよっ……ぷーくすくすっ」

 

 

何だろう。

 

 

本当に女神なのだろうかこの自称女神は。

 

 

「さてと……私のストレス発散はこのくらいにしておいて……。」

 

 

…………無性に殴りたくなってきた。

 

 

「じゃ、本題に移るわね。貴方には選択肢があります。この日本にまた赤子として生まれるか、天国でおじいちゃんおばあちゃんみたいな暮らしをするか。」

 

そんな笑った後の涙目で言われても。

 

「ここまでは日本の空想であった死後の選択肢みたいでしょ?」

 

「は…はぁ……」

 

「貴方、ゲームは好きでしょ?んで、ゲームみたいな異世界があるのよね。そこは魔王軍の所為で死んじゃった人がトラウマで転生を拒否しちゃって人口が減る一方なのよ。そこで、日本で若くして死んだ者を肉体と記憶はそのままにして送ってあげてはどうかってことになったの。でもそこですぐ死んじゃったら意味ないでしょ?それで何か一つ何でも持っていける権利を与えてるの」

 

つまりチートってことか。

 

……こいつ、散々俺を馬鹿にしてくれたよなぁ……?

よし、仕返ししてやる……

 

隣では女神が「あぁ、言葉の心配は~」と言って何かの本を見させて「習得~」がなんだのとかチートの何かを見せてくるがあまり耳に入って来ない。

 

「ねえ~早く決めてよ~中3の引きニートになんか期待してないから」

 

こいつっ!!

引きニートでもない俺を引きニート言う奴には天罰を下してやる!

 

「じゃ、あんたで」

 

「……?じゃあ魔法陣から出ないように立って……えっ?」

 

そう言うと女神の下にも魔法陣が浮かび上り。

 

 

「えっ!!ちょっ!?待って!!まだ私やることいっぱいあるのに!!ダラダラしたいのに!!!まってよおおおおおおおおおっっっっ!!!!!ああっ!今ならスキルポイント100のチートを200にしてあげるからああああああっっっ!!!許してええええええっっっっっ!!!!!!!」

 

「俺を馬鹿にした罰だ!せいぜい、俺の足元で下僕として頑張ることだなああああああ!!!!!!」

 

「いやあああああああああああああっっっっっっっ!!!!!!!!」

 

 

そして俺は嫌がる女神を連れて異世界に飛び立った。

 

 

 



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オーク

目を開けるとそこはだだっ広い草原でした。

 

「ここが異世界か……」

 

初期転生位置が草原かよ。

普通は街とか村とかが基本じゃないのか。

 

「おい自称女神、ここはど……こ………ってどこ行ったんだよ!!あの自称女神は!?」

 

普通は勇者を導いてくれるはずの女神がいねえ。

 

あたりを見回しても女神はいなかった。

 

 

だが、代わりに100メートルほど離れた場所にぽつんと立つ人影がみえた。

 

「しょうがない……あの人に聞くか……」

 

そして俺はその人影に近づいていき。

その人影が人ではない事に気が付いた。

さらにあの生物もこちらに気付いたようで、こっちに近づいてきた。

 

その生物は、花と耳は豚だが、顔の造形は人に近かった。

俺は少しこれとは違うが、似たようなものを知っていた。

 

 

 

オーク。

 

 

 

豚の頭を持つ二足歩行型のモンスターで、ゲームの類ではコボルトやゴブリンと並ぶ、大変メジャーな雑魚モンスター。

 

旅人から奪ったのだろうか、一丁前に服まで着ていた。

そして、特徴的なのは髪がある事。

ザンバラな髪をした、緑色の肌を持つオークは、パッと見には本当に人に近い姿をしている。

 

「こんにちは!ねえ、男前なお兄さん。あたしと良い事しないかい?」

 

えっと。

 

どういうことでしょうか。

 

とりあえず、俺は当然の事ながら。

 

「お断りします」

 

「あらそう、残念ね。あたしは合意の上での方が良かったんだけど」

 

……合意の上とか何言ってやがるんだコイツは。

 

「ここはあたし達オークの縄張り。通ったオスは逃がさない。そうねえ……。三日。三日ほどウチの集落に来て頂戴?この世の天国を味わわせてあげる。まあ、捕まえた男達は本当に天国に行っちゃうんだけどね!」

 

そう言いながらオークが飛び掛かってきた!

 

「ちょっ!?待っ……!ふあああああああああああああ!」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

お父さん、お母さん。

僕は、日本で死んでも異世界に転生して元気にやってます。

でも、そんなことより、

 

助けて下さい。

 

助けてくださいたすけてくださいタスケテクダサイ。

 

 

俺はオークから半泣き……いや、ガチ泣きで逃げていた。

ついでに言うと、絶叫もしながら。

 

「ああああああああああああああああああああっっっっっっ!!!!!!!!!」

 

怖い恐いこわい。

 

日本に帰りたい。

 

帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい。

 

どうしてこんな事になってしまったのだろう。

 

ああ、そうか。これは夢か。

 

目が覚めたらいつも通り学校サボって家でネトゲするんだ。

 

ああ………足が痛い。脇腹も痛い。

 

もう俺は、泣くのを止め、考えるのを止め、自分でも走っているのかどうかすらわかっていない。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

俺が少しだけ意識を取り戻した頃には、もう夜だった。

 

俺は歪む視界の中、トラウマを植え付けられ、自分が夜森の中を歩いている事も知らずに

いた。

 

そして、自分の視界が少しずつ明るくなっていくのがわかった。

 

どうやら森を抜けたらしい。

 

「つ……着いた……」

 

着いた場所は村だった。

 

俺は何とか重い足を引きずってどこか泊まる場所はないかと思い一つの建物を見つけ。

 

 

 

 

そこで意識を失った。

 

 



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頭のおかしい紅魔の里

目が覚めると、木の天井が見えてきた。

 

日本に戻ってきた、なんて言ってみたいが、ここは明らかに俺の知らない場所だった。

 

……ここはどこなんだ。

 

と、思っていると、一人の女子生徒が入って来た。

 

「先生、失礼します……って居ないんですか……あ、貴方は朝の人じゃないですか。目が覚めたんですね」

 

「朝の人……?俺朝何かしたっけ……」

 

「覚えていないんですか……貴方、朝廊下で倒れてたんですよ?」

 

あー、確かにそんな記憶が……

 

「見たところ、貴方紅魔族ではありませんよね?名前は何ですか?」

 

「ああ……俺はカズマ。佐藤和真だよ……んで、そう言うお前は?」

 

「ふっ、よくぞ聞いてくれました!」

 

そう言うと彼女はバサッとマントを翻し。

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の天才にして、いつか爆裂魔法を操る者!!」

 

…………は?

え?この世界の第一住民がこれ……?

……まさかこの世界の人が全員こんな奴じゃないだろうな。

しかもめぐみんって何だ。

 

「紅魔族は知力がとても高いのです……おい、今私の名前について思った事を正直に言ってもらおう」

 

何だこの喧嘩っ早いロリっ娘は。

 

「いや…別に何も思ってないよ」

 

「おい、ちゃんと私の目を見て言ってもらおう」

 

やばい。棒読みで喋ってるのがバレた。

 

そんな下らないことを話してると、一人の保健の先生みたいな人が入って来た。

 

「あ、起きましたか、旅人さん。あれ?めぐみんまたサボりですか?」

 

「違います、違いますよ!いつもここに来るとサボりって決めつけないで下さい!あとサボってません!……今日ここに来たのは、鍵を閉め忘れ、そこの…ええと、カズマを校内に入れた犯人がウチの担任のぷっちんだってわかり、そのウチの担任が現在逃走中だから捕まえてほしいということでここに来たのですよ」

 

どういう状況だそれは。

そして何だぷっちんって。

 

「あいつかっ!」

 

……保健の先生はそう言って保健室を後にしましたとさ。

 

「はあ……それでは私は用が済んだので教室に戻ります……あ、もう大丈夫だったら勝手に出て良いと思いますよ」

 

「あ、ああ……ありがとな、……めぐみん」

 

俺がそう言い終わる頃にはめぐみんは保健室から出ていた。

 

……呼びにくいよな……めぐみんって。

いや、発音じゃなくて。

 

「まあ、ここで寝てても始まんないし、外出るかぁ……」

 

そう言って俺は部屋を後にした。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

俺が廊下を歩いているとこんな声が聞こえてきた。

 

「出欠を取る。……あるえ!かいかい!さきべりー!」

 

そう担任に名前を呼ばれ、次々と生徒が返事をしていく。

 

……ここにはこんな名前の奴しかいないのか。

俺はそう思いながら教室をチラッと見ると出欠をとってる先生がロープで縛られていた。

 

……どうしてこうなった!

 

「めぐみん!」

 

「はい」

 

その返事を聞いた担任は満足そうに頷いている。

 

ああ。なるほど。

あの担任がぷっちんって奴だな。

んで、逃げられないようにロープで縛られたって訳か。

 

「よしよし、全員揃っているな。では……」

 

「せ、先生!」

 

名簿を閉じようとする担任に、確かめぐみんとかいう奴の隣に座る子が泣きそうな顔で手を上げた。

 

「私の名前が呼ばれてませんが……」

 

「ん?おおっ、すまん!そういや、一人だけ次のページに掛かっていたんだったな。悪い悪い!では……ゆんゆん!」

 

「は、はいっ!」

 

ゆんゆんと呼ばれた、セミロングの髪をリボンで束ねた優等生といった感じの子が少し赤い顔で返事をした。

 

ゆんゆんってマジで何なんだ。

しかもさっきはあるえとかも言ってたし。

 

とか、そういうことを考えながら俺は学校を出て。

 

……まあ、何にせよ、俺の異世界暮らしが始まったわけだ!

 

 

 

 

 

 

 

~2時間後~

    

「いきなり躓いた」

 

俺は太陽が上の方に上がる頃、呆然と呟いた。

 

はあ……ここ宿すら無いのかよ……

 

そう、俺は2時間の間聞き込みしてわかったことが、ここは紅魔の里というところで、観光客がほぼいないらしく、そのため宿も無い。まあ、俺無一文だし宿があったとしても借りられないけども!

後、里の外に居るモンスターは強くて、駆け出し冒険者にとってはほぼ100%勝てないらしい。

 

「もっと情報収集した方がいいか……」

 

そう言って俺は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「へいらっしゃい!我が名はちぇけら!アークウィザードにして上級魔法を操る者、紅魔族随一の服屋の店主!あれ?あんた紅魔族じゃないね?何しに来たんだい?」

 

「あ、俺は佐藤和真と申します……あの、冒険者になりたいのですが、冒険者カードって物が必要らしいんですよね。んで、冒険者カードってどこで手に入れるか聞きたいのですが……」

 

「ああ、君冒険者になりたいんだね。確か冒険者カードを作る魔道具があったはず……」

 

「あるんですか!?」

 

「うん、あるよ。確かこの辺に……あったあった。じゃあこの上に手をかざしてくれ。」

 

「こうですか?」

 

そう言って俺は手をかざすと。

魔道具の針の先端から光が出て、カードに字を刻んだ。

 

「よし、完成したぞ兄ちゃん。どれも普通だな……知力がそこそこ高い以外には……」

 

どれも普通って。

 

「他には……おおっ!幸運がかなり高いじゃねえか。なあ、俺と一緒に服屋でもやんねえか?」

 

いやいや、服屋って。

 

「はああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!????」

 

「えっ!?えっ!?どうしたんですかっ!?」

 

何事だと言わんばかりに俺が聞くと。

 

「す……スキルポイント200って何だこれは……多くても20くらいなのに……」

 

あー。そういえば言ってたなぁ……自称女神が「スキルポイント200にしてあげるからー」って。

 

……スキルポイントって。

もっと武器とか才能のチートがよかったなあ……

 

「な、なあ兄ちゃん?ここで今日一日バイトしてみねえか?」

 

「はい?」

 

「あんたの幸運の高さだとかなり儲かると思うんだ。勿論、バイト代は出るし、結果がよけりゃあお礼として魔法も教えてやる」

 

魔法か。

異世界と言えば魔法だよな?

しかも金ももらえるって一石二鳥じゃねえか!

 

「はい!じゃあやらせて頂きます!」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「今日はありがとな!新入り!」

 

そんな声を背に受けながら俺は店を出た。

 

……正直、こんな稼げるとは思わなかった。

 

4時間で1万6000エリス。

1エリス何円なのかわからないが、時給4000エリスと言うことになる。

 

ついでに上級魔法と中級魔法、あとテレポートという魔法を教えてもらった。

今すぐ魔法を使いたい……ところだが、魔法には詠唱が必要らしい。

詠唱を覚えて魔法を使う前に唱えなければ魔法は使えないらしい。

 

「しっかしこの雨は何なんだ……」

 

そう、今は普通の雨より強いくらいに収まったが、1時間前くらいは土砂降りだった。

 

ちぇけらさんは「多分どっかのバカが雨と雷の魔法を使ったんだろう」って言ってたんだが。

まあ、おかげで「土砂降りなのにこんなに稼げたのは初めてだ!」という事になってバイト代弾んだから良いんですけどね。

 

「とりあえず何か食い物買いにいくか……」

 

そういえば朝から何も食ってなかったんだよな……

早くどっか行って食おう。

 

そして俺はちぇけらさんから借りた傘を差して雨の降る道を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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この魔性の一家で居候を!

「ここには変な食い物しかないのか」

 

俺は定食屋に来て、渡されたメニューを見ながらそんなことを呟いた。

 

カモネギだの今朝畑で採れた魚定食だの俺が見たことも聞いたこともなかったような意味不明なのが書かれていた。

 

「とりあえず一番わかる野菜炒め定食にするか……あ、野菜炒め定食1つで」

 

そう言って「お会計600エリスです」と言われたので、この店は前払いなのがわかった。

ついでに言うと、定食一つ600エリスだとすると、1エリス約1円と考えていいだろう。

 

さて……問題はこれからどうするかなんだよなあ…………

くそう、こんな事になるんだったらちぇけらさんにでも頼めば良かった……!

 

……しょうがない、どっかの家に頭下げて住まわせてもらうか……

 

「お待たせしましたー」

 

まあ、今は腹減ったし、考えるのは後にして食う……!…か……

 

…………え?

 

何かこの野菜ピクピクって動いているんですが。

え、何か恐いんですが。

恐る恐る口に運んでみると。

 

「……やっぱりちょっと動いてる」

 

は?これ野菜炒めなの?

モンスターの類じゃないの?

 

「うん、やっぱり動いてる」

 

そう思い、店員に動いていると指摘しようとしたその時。

 

「お!今日の野菜一段と動いてて鮮度がいいな!」

 

…………今何と?

え?今の言い方だと野菜は動いてんのが普通どころか野菜は動いてる方がいいみたいな意味になっちゃうんですけど。

 

 

………………マジでどうなってんだこの世界は!!

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「納得いかねえ」

 

何で動いてる得体の知れないタダの野菜炒めが美味いんだ。

 

そんなことを考えながら俺は夕飯の食材を買いに行った。

食材って言っても調理器具なんて無いけどね?

泊めてくれる人へのお礼って意味だけどねっ!

 

「えっと……キャベツ200エリス……カモネギの肉300エリス……じゃがいも1個50エリス……」

 

うん。やっぱり1エリス1円と見ていいと思う。

しかし野菜の外見とか名前は日本と一緒なんだな。

 

「お会計800エリスになります。ありがとうございました」

 

俺は買った袋を握りしめ。

これからどうするか考えていた。

 

さてと……どの家にお邪魔するか。

今は大体4時頃。

泊めさせてもらうには少し早い時間だが早く泊まる場所を取っておくのに損はないだろう。

 

そこで俺は一つの民家が目に入った。

 

結構ボロいとても裕福とは言えなさそうな家。

 

俺の知識によるとこういう裕福ではない家の方が優しいとは思うんだが。

 

「すみませーん。誰かいませんかー」

 

俺がそう言うと奥から何やらバタバタと足音が聞こえてきた。

そしてドアが開いて、服の裾を泥だらけにしたまだ幼い女の子がドアから俺を覗き込んでいた。

年齢はまだ5歳ほだろうか。

 

「新聞屋のお兄ちゃんですか?」

 

「えっと。俺は新聞屋の人じゃあないけど、君のお父さんお母さんに用があって来たんだ。……お父さんお母さんはいるかな?」

 

と、まるで誘拐犯みたいな事を言ってみた。

何か、絵面的に俺が誘拐犯みたいになってきた気がする。

 

心の中で何とも言えない気持ちになってると女の子が。

 

「もうみっかもかたいものをくちにしてないんです」

 

と、そんなことを。

 

……可哀想に。

まだこんなに小さくて三日も腹に溜まる物を食べれてないなんて。

 

「……っていうとたべものがもらえるって姉ちゃんが言ってた!」

 

おい。どこの姉だそいつは。

 

「こめっこー。帰りましたよー。……って、あなたはカズマではないですか」

 

お前かよ。

 

「姉ちゃんお帰り!」

 

「あーあー……。ローブの裾が泥だらけではないですか。留守番してなさいって言われてたのに、また外に遊びに行っていたんですか?」

 

「うん!新聞屋のお兄ちゃんはげきたいしたから、その後に遊びに行った!んで、また新聞屋のお兄ちゃんが来てたから、またげきたいしようとしてたとこ!」

 

「ほう、今日も勝ちましたか。流石は我が妹です。あと、その人は新聞屋ではないですよー。たぶん」

 

多分じゃねーよ。絶対だよ。

 

「うん!もうみっかもかたいものをくちにしてないんですって言ったら、お食事券を置いてってくれた!」

 

同じ事したのかよ。

 

こめっこが貰ったお食事券を見せびらかせてめぐみんが「よくやったぞ」的な表情でこめっこを撫でていると、こめっこが何かに気付いた様だ。

 

「姉ちゃんから良い匂いがする」

 

「おっと、流石は我が妹。お土産です。魔神に捧げられし子羊肉のサンドイッチ!さあ、その腹がはち切れるまで食らうが良いです!」

 

……そんな感じの名前のサンドイッチをどっかの定食屋で聞いたことがある。

あーあー。おぼえてないなー。きのせいじゃないかなー。

 

「すごい!魔王になった気分!じゃあ、捕まえてきた晩ごはんは、明日の朝ごはんにしよう!」

 

お土産のサンドイッチに喜ぶこめっこが突然そんな事を言い出した。

……捕まえてきた晩ごはん……?

紅魔族って子供までそんなことすんのか……?

 

「こめっこ、晩ごはんとは何ですか?何を捕まえて来たんです?」

 

「見る?しとうの末に打ち倒した、きょうぼうなしっこくの魔獣!」

 

不穏な言葉を残し、こめっこが家の奥に駆けて行く。

 

お、おい、紅魔族の子供は魔獣まで捕まえて来んのかよ!

すぐ逃げれるように心の準備をして待ってると、やがてこめっこが抱えてきた物は……。

 

「……にゃー……」

 

一体何があったのか、疲れきった様にぐったりした、黒い子猫だった。

 

「……これまた大物を捕まえて来ましたね」

 

「うん。頑張った!最初は抵抗してきたけど、かじったらおとなしくなった」

 

「勝ったのは喜ばしい事ですが、むやみに何でもかじってはいけませんよ?」

 

めぐみんの言葉に素直に頷くこめっこから、彼女は小さな黒猫を受け取った。

その黒猫はめぐみんの手の中に収まると、よほど怖い目に遭ったのか、怯える様にめぐみんの胸元に頭を寄せて丸くなる。

こめっこは、めぐみんのお土産のサンドイッチを両手でわし掴んでひとしきり頬張ると、やがてそれをジッと見てかじりかけのサンドイッチをめぐみんに差し出し。

 

「……食べる?」

 

「私はお腹いっぱいですから、こめっこが全部食べるといいですよ。それより、この毛玉は私が預かっても良いですか?」

 

「うん!」

 

こめっこはそのまま幸せそうに、サンドイッチをかじる作業に没頭した。

 

「んで、何故貴方はここに来たんですか?」

 

そうめぐみんに聞かれ、当初の目的を思い出す。

 

「ああ……よく考えてみたら俺泊まる場所無かったんだよな。でもここの里に宿なんて無いからどっかの家に泊めて貰おうと思って目に入ったのがこの家だって訳」

 

「はあ……だからといってなんでこんなボロ屋に……私はともかく、家は貧乏ですから、家の親が何て言うかわかりませんよ?」

 

「まあ、今日一日だけでいいからさ。お礼と言っちゃなんだが、俺が今持ってる食い物もやるか「さあどうぞ入って下さい!一日とは言わずに何日でも良いですから!」

 

……貧乏一家に食べ物というのはかなり効くらしい。

 

 



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紅魔のたのしいばいと

私は、この黒い毛玉を自室に入り放してやると、堂々と私のベットで丸くなった猫を見て呟いた。

 

「さて、こいつはどうしたものでしょうか」

 

このふてぶてしさ。この子は意外と大物なのかもしれない。

 

まさか、こめっこの希望通り朝ごはんにするわけにもいかず、そうかと言って、家で飼ってやれる余裕も無い。

……まあ、あのカズマという男を使えば良いような気もするけど。

とりあえず、それは後でやる……じゃなくてそれは最後の手段として。

 

しかし、このまま外に放り出して再びこめっこに見つかればカズマが持っている食糧が有るとは言え、いつかこの子は今度こそ食われる事だろう。…………となると…………

 

そう静かに覚悟を決めた時、ドアの方からノックする音が聞こえてきた。

 

「おーいめぐみーん居るかー」

 

「あ、はい、入って良いですよー」

 

そうして入って来たカズマはベットの上で丸くなっている猫を両手で包み込んで「おー」と言っている。

 

「それで?今日は何でここに来たんですか?」

 

「あー。いや、俺これから何すればいいかなーって思ってさ」

 

…………

 

「……何するも何も、カズマは旅人何でしょう?別に何したっていいじゃないですか」

 

「旅人じゃあないけど……あのさ、俺遠い国からやって来たばかりで何もわかんないんだよな。だからこの世界……じゃなくて、ここの事教えてくんないかなーって思って」

 

ノープランですか。

 

「まあ、ずっとここでダラダラしてるのもいいかなとは思ったけどいつまでもここに迷惑かけるのもあれだからな……」

 

…………どうやら、迷惑をかけてはいけない、とちゃんと思ってるらしい。

それなら…………。

 

「それなら提案があるのですが」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

俺はめぐみんに言われて次の日に農業区みたいな所に来ていた。

 

空には厚い雲が垂れ込め、今にも雨が降りそうだ。

そんな中、真剣な表情をした三人の紅魔族が、それぞれ、杖を手にして離れた場所に立っている。

 

「いくわよー!」

 

遠くからお姉さんが声を張り上げる。

その声に応えるように、他に散らばっている者もそれぞれ手を挙げ、合図を返した。

合図を受け、遠くから声を掛けてきたお姉さんは杖を地面に突き立てると……!

 

「我が魔力を糧に、この地に大いなる豊穣を与えよ!『アース・シェイカー』!」

 

大仰な口上と共に、大声で魔法を唱えた。

 

おおっ、これが魔法か!

何で農業のバイトで魔法を使わなきゃいけないのかわからんが、俺ってば初めてこの世界で異世界っぽい事を体験したような気がする!

 

そう思っている間に大地がうねり、振動し、脈打つように流動する。

術者の意のままに土は動き、俺の前に広がっていた土地は広い範囲で耕された―――――!

 

 

そう。耕されただけだった。

 

 

…………ええっと。

 

 

 

 

 

………………魔法って何だったっけ。

 

 

俺の頭のなかが真っ白になっていく中、その間にどんどん魔法が撃ち込まれていく。

 

 

………勿論全て農業用の。

 

 

こんな事に魔法を使っているところを国のお偉いさんが見たらこう思うのではないだろうか。

 

こんな事に魔法を使ってないで、魔王軍と戦ってくれ、と。

現に今、俺も同じ事思ったしな。

 

「今日はこんなものね!魔力もほとんど使い果たしちゃったし、私達も収穫するわよー!それじゃあ、バイトさんも頼むわ!」

 

あのー。

 

収穫は魔法じゃないんですね。

 

 

「どうしよう……。俺も上級魔法だの何だのと覚えたけどこんな事にしか使わないのかよ…………」

 

と、それを聞いていたのか、お姉さんがこう聞いてきた。

 

「え?あなた上級魔法が使えるの?」

 

「あ、はい。この前もバイトして、お礼に冒険者カードを作って貰って上級魔法を覚えたんです」

 

「冒険者カードを作ってすぐ上級魔法を覚えた……?そんなこと出来るはず無いのに………ちょっと冒険者カード見せてくれる?」

 

そう言われ、言われるがままに冒険者カードを見せた。

 

「サトウカズマ……ⅬⅤ1……?スキルポイント……150!?えっ!ちょっと貴方、上級魔法と中級魔法とテレポート覚えておいてⅬⅤ1で150って!?どんだけスキルアップポーション飲んだらこんな事なるのよ!?」

 

いや転生特典ですが。

 

「いやでも、詠唱だなんて覚えてませんし、宝の持ち腐れだと思いますけど……」

 

「ええ……。どうなってんのよ……。こんな感じの名前の人は凄い能力を持っているって聞いたことあるけどほんとだったのか…………。ねえ、詠唱は私が教えてあげるからさ、魔法を打ってみる気は無い?」

 

「えっ、まあ、打てるものなら打ってみたいですけど……。」

 

「決まりね!じゃあ、畑の真ん中に向かってこう言って魔力を込めて『トルネード』って言ってみて」

 

「あ、わかりました」

 

きたっ!異世界で初めての魔法だっ!

魔力を込めるってのがよくわからんけど……

 

そう思いながら俺は詠唱を唱えた――――!

 

「大気よ、風よ、荒れ狂え、我が意のままに、舞い上がれ……『トルネード』」

 

俺がそう言うと、畑からうっかりしてると転ばされそうな程の風が畑から吹き荒れ、野菜が宙を舞い、畑の中心に集められた。

 

……人生初の魔法が畑仕事かよ……

 

気怠さを感じながら、少し悲しいなと俺は思った。

 

「おー!初心者にしては上出来上出来。ほら、あの野菜たちも目回してるよ!」

 

野菜が目回すってどういう事だよ。

 

そして俺はちょっとふらついて中心にある野菜を収穫しに行った。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「あー疲れた……」

 

というかなんで本当に野菜が目回してんだよ。

あと、なんでまだ動いてる奴までいんだよ。

……何でじゃがいもが膝に体当たりして来るんだ。

 

結局あの後、全ての野菜を収穫して1万2千ほどのバイト代を貰った。

 

……1万2千。

 

バイトでこれはかなり高いと思ったが、魔法を使ってくれたからこんなに渡してくれたらしい。

 

今俺は昨日みたいに食材を買って家に向かっている。

 

改めて冒険者カードを見るとスキルポイント150って結構凄いんだなーって実感出来る。

 

そう思い家のドアを開け。

 

「ただいまー」

 

と言うと一人の女性が出て来て。

 

「あれ……?あなたは……?」

 

めぐみんが大人になったみたいな人だった。

 

 

……はい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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この素晴らしい一夜に祝福を!

感想ありがとうございました。

ちょっと早く書いたので変かもですが、最後まで見ていただければ幸いです。


「―――――で、あなたは遠いところから来て、ここに泊まったってことですね?」

 

「はい」

 

俺はあれからいつの間にか帰ってきた奥さんと旦那さんと共に居間に座っていた。

 

「そんなことより、キミは昨日どこで寝たんだね?」

 

いきなり何を言い出すんだこの人は。

 

俺は正直にこう言った。

 

「……この部屋ですが」

 

「なあああああああああああああああああああああ!」

 

「あなたああああああああああ!止めてっ!ちゃぶ台ひっくり返して壊すのは止めてください!」

 

俺は本当の事を言っただけなんですが。

 

「失礼、取り乱した。いやキミがわかりやすすぎる嘘を吐いたものだからね」

 

『嘘なんか吐いて無いんですが』と喉まで出かかった言葉を飲み込み、俺は話題を逸らそうと、今持ってるある物を取り出した。

 

「あのこれ。さっき買って来た食べ物ですが……」

 

と、俺が差し出した食べ物の袋を、ひょいざぶろーと奥さんが同時に掴んだ。

 

ひょいざぶろーと奥さんはしばしお互い怖い笑顔で見つめあい。

 

「それではカズマさん、私は今からこれを使って夕食を作ってきますので……風呂にでも入って来て下さい……」

 

「じゃあワシは魔道具でも作ってくる。……あ、カズマさんはこれからここに居てかまわんからな」

 

何だろう。

何だろうこの変わり様は。

 

と言うか風呂入っても着替えが無いんですがそれは。

……まあ、その時はその時で考えよう。

 

 

 

―――――結局あの後、俺は奥さんから貸してもらった紅魔族ローブってやつを着て、居間に戻り夕飯を食べていた。

 

さっきからひょいざぶろーが居間の真ん中で高いびきを上げているんだが正直うるさい。

俺が風呂に行く前は起きていたはずなのに、なんだか寝るのが早くないか?

 

そして食べ終わった俺は皿を片付けようとして台所に行こうとすると奥さんが。

 

「あ、カズマさん、今日は上で寝て下さい。居間は家の主人が使ってますし……」

 

「あ、はい……じゃあ俺は寝ますんで……」

 

と言って部屋に行こうとすると奥さんが後ろからついてくる。

俺が気になって後ろを振り返ると、奥さんが笑顔でぐいぐいと俺の背中を押してくる。

 

何故押してくるんだろう、と思っていると部屋に着いて部屋にそのまま押し込まれ。

 

「それではごゆっくりー……明日も私達は朝早くから居ませんので……」

 

と言われてドアを閉められた。

 

……ドアを閉められた後に『ロック』と聞こえたのはただの空耳だよな。うん。

ま、そんなこと考えないで寝るか……。

 

と、俺が布団に寝っ転がると。

 

「ミギャッ!」

 

と言う声と共に何か踏んだ感触が伝わってきた。

 

何事かと思い、感触がしたところを見ると。

 

「……こめっこが持って来た猫じゃねーか」

 

そう、あの黒猫だった。

 

あれ……?待てよ……何であの黒猫が居るんだ……?

 

と、思い隣を見ると、目を擦りながら起き上がるめぐみんだった。

 

「うるさいですね……。こんな時間に何を……って、カズマじゃないですか」

 

って言うか、何でめぐみんがここに居るんだよ。

 

「って言うか何でカズマがここに居るんですか!?しかも何で同じ布団に入ってるんですか!!」

 

「いーや、それはこっちのセリフだよ!何でここで寝てんだよ!!」

 

「それはここが私の部屋だからですよ!勝手に人の部屋に入っておいて何言ってるんですか!」

 

「え?俺はただここに奥さんに進められてきただけだけど?」

 

「そんな嘘吐かないで下さい!紅魔族随一の天才にそんな嘘通じませんよ!というわけで、私はもう寝ます!」

 

「嘘じゃねーよ!何が紅魔族随一の天才だよ、ガバガバじゃねーか!よくそんなんで紅魔族随一の天才を名乗れたもんだな!!」

 

「なっ……!紅魔族随一の天才の名を馬鹿にしましたね!」

 

「俺はほんとの事を言っただけだから何も悪くないんだよ。分かったら、いつまでも布団の中独占してないでそこをどけよ」

 

「どこが本当なんですか!と言うか、ここは私の家で部屋なんですから独占するなと言われる筋合いは無いはずです!」

 

「え?お前何言ってんだ?家は親のだし、俺はここで住むことを認められたんだからお前の部屋を使う権利はあるんだよ!!」

 

「最低です、最低ですよこの男!居候の分際で!」

 

「ふははははは!何とでも言うがいい!!そんなんで俺は屈しな……!と言うか押すなよ!俺を布団から追い出そうとすんなよ!」

 

「私がここで寝るんですからカズマはもう他の部屋で寝て下さい!じゃないとぶっ飛ばしますよ!?」

 

「お?お!?なんだやるのかこの男一人とすら寝れないお子ちゃま風情が!お子ちゃまの分際で大人に勝てるとでも思っているんですかねえええええええええ!!!!」

 

「この人自分を大人とか言い出しましたよ!私ともそれほど歳は変わらないはずなのに!」

 

「いやいや、俺にはお前がただの子供にしか見えないんだよ。んで、俺は大人。それが分かったんなら行った行った」

 

「そうですかそうですか!それなら一緒に寝れば解決ですね!ええ、一緒に寝ればいいですよ!」

 

「ああそうか。んじゃ、俺は先に寝るとするよ。おやすみー」

 

「あれっ!?」

 

何故か言い出しっぺのはずのめぐみんが逆に驚いている。

 

「すみません、こういう時って、『ばかっ、そんなことできるわけ無いだろ!?』とか言って譲るのではないでしょうか」

 

「何で俺がそんな流れに乗ってやんなきゃいけないんだよ。俺に常識とかは通用しないからな」

 

「はあ……。じゃあ私はもう他の部屋で寝ますよ……」

 

「あ、言い忘れてたけどお前の母ちゃんがドアに魔法で鍵かけていったぞ」

 

「私がこの男と寝ないって選択肢は無いんですか!?もう……!」

 

と、言いながら布団に入って来た。

 

って言うか結局布団入るのね……。

 

うわあ……。何か凄く疲れたわ……。

 

「これなら日本で引きニートやってた方良かったかもな……」

 

そう自然と声が漏れていた。

 

「……?カズマは引きこもりだったのですか?ああ、だからこんなにダメ人間なんですね」

 

「ダメ人間ゆーな!これには深い訳があってだな……」

 

「で、その訳は?」

 

「まあ、簡単に言うと俺には『大人になったら結婚しようね』って言ってくれた子が居て、その子が先輩のバイクの後ろに乗っていた所を見て何とも言えなくなった俺は……」

 

そこで俺は自分の口を片手で塞いだ。

やべえ、流されて洗いざらい吐いちまった……!

 

「流されないって言った後にこれですか……。そう言うことなら、ちょっとだけ慰めてあげてもいいですよ?」

 

「えっ。マジでいいの?じゃ早速……」

 

と言って、俺は両手を広げて指先でくいくいっと手招きした。

 

「……少しでも可哀想って思った私が馬鹿だったようです……」

 

「あれっ?これじゃないのかそうかーちがうのかー」

 

と、棒読みで言ってると、めぐみんが静かな寝息を立てていることに気付いた。

 

寝るの早えーなおい。

 

「明日こそ……。爆裂魔法を……。習得するん……。で……す……」

 

いやだから爆裂魔法って何なんだ。

 

 

窓から差す淡い月明かりの中。

 

俺の隣ではいつの間にか俺の手を握ってくれているめぐみんが静かに寝息を立てていて。

 

少し心地よいとも言えるこの中で俺は就寝した。

 

 

 

 



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アクシズ・女神へレッツ&ゴー!!
~序章~


ちょい短いですすんません!


いつも通り、もう朝とは言えないような時間に俺は起床する。

 

多分、もうめぐみんは学校に行ったのだろう。

 

腹を空かして階下に下りるが、こめっこもあの黒猫も姿は見えなかった。

こめっこは多分どこかへ遊びに行ったのだろう。

猫は……。こめっこが持っていったのか?

いや、流石に外出先に猫なんか持って行かないだろう。

ということは……。

 

……おい、あいつ学校に猫持ってったりしてないだろうな。

 

まあ、俺には関係無いし、怒られるのはあいつだし、放っておこう。

 

それより俺はやりたいことがある。

それは、スキルの習得。

俺の冒険者カードに書いてある冒険者という職業は全スキルを習得できるらしい。

何か気付いた時には冒険者って書かれていて、どういうことかと思い里の人に聞くと、ステータスが低くて勝手にそうなったらしい。

 

……まあその話は置いといて!

それで俺の耳にある街の名前が入って来た。

 

―――――水と温泉の都アルカンレティア。

 

本当は紅魔族の方々にスキルを教えて欲しかったのだが、みんな魔法使い職なので魔法スキルしか教えてもらってない。

そこでアルカンレティアに行って色んな人にスキルを教えてもらって温泉にも入っちゃおーって考えだ。

今日には行きたいが、とりあえず武器屋があるらしいからそこに行ってから考えよう。

 

そして俺は少ない金と旅の準備をして出かけた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「―――――おうらっしゃい!お、紅魔の里に旅人なんてめずらしいな。なんだ、何が欲しい?異様に長い剣だとか、こんな形したヤツもあるぞ」

……?この里は観光客とか来ないのか?

「いや、そんなのより普通の武器をくれよ。……もっとこう……おすすめとかはねえのか?」

紅魔族のおすすめって言ったらまた変な武器すすめそうだが。

「おすすめねえ……。あ、おすすめじゃなくて貰ったものだったらあるぞ。なんでも、捨てようしたけど珍しいしもったいなかったから置いたヤツだけどな。……ほらこれ」

と言われて渡されたのは、先っぽは普通の剣だが、持ち手の部分が魔法の杖みたいになってて、なんだか痛い傘みたいだ。

「家は武器防具専門店だから杖がついてるのはあまり置きたくなかったが、剣にはアダマンタイトも入ってるし、杖にはマナタイトも使ってたから置かせてもらった。……あ、そうだ、ついでにこれもやるよ」

と、言われて渡されたのは一つのキューブみたいなもの。

「……これは?」

「ああ、これは使った相手の魔法抵抗力をほぼ0にするどっかの誰かさんが作った魔道具だよ」

ほう、結構凄いじゃないか。

「でも相手の魔法攻撃力が上がる欠品だから気を付けてな」

誰だそれを作った奴は。

「じゃあそれ下さい。いくらですか?」

「まいどー。確か値段は……。そうそう、30万エリスだったな」

 

…………。

 

―――――俺は異世界に来てまで土下座することになった。

 

 

 

その後、ツケという形でこの謎の剣と魔道具を手に入れた俺はさっきの武器鍛冶屋の人とちょっと話をして、アルカンレティアに旅立つ所だった。

 

「お、もう行くのか?」

「はい。今日はお世話になりました」

鍛冶屋の人からテレポートの詠唱を教えてもらい、俺はテレポートの詠唱を開始する。

「あ、そういえばもう終わったと思うがアルカンレティアの登録は終わったよな?登録しないとランダムテレポートになっちまうから気を付けろよ」

えっ。

そんな話聞いて無いんですが。

だが俺はもう詠唱が終わってて、そのまま『テレポート』と言って、俺は未知の世界へ飛び立った。

 



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