もう1人の主人公 (おもち)
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プロローグ

「フレア、行くぞ」

「カゲ〜」

 

 フレアが、よちよちとついてくる。

 一番道路の草むらで、俺はフレアに現実を教えていた。

 

 フレアは、数日前に孵ったヒトカゲ。オーキド博士の厚意で貰ったタマゴだったのだが、無事孵すことができて何よりだ。

 パートナー、ピカチュウのレオンと共にデータを集めてみると、6V。拘るわけではないが、レオンも6Vだしちょうどいいのだろう。

 そこからドーピングを始め、努力値を与えていく。

 そこから、まずは体調管理などを徹底し、数日経って外に出しても大丈夫だとわかってから、マサラタウンから出して一番道路を歩かせている。

 

「よし、フレア。今から地図を渡す。此処が現在地、俺は此処で待ってるからな。レオンと一緒ではあるが、レオンは手伝ってはくれないぞ。いいな?」

「カゲ!」

「じゃあ、頑張るんだな」

 

 それだけ言うと、俺は素早くフレアから離れていった。

 そして、裏道を使ってマサラタウンに戻り、その外れの川へ向かう。

 ポケットから取り出したモンスターボールを川へ向け、センタースイッチを押す。

 赤いレーザーと共に出現したのは、アクア———ヒンバスであった。

 今のところ、レオンにですら秘密にしている個体。オーキド博士に会いに来たカスミのミロカロスの子供。ちゃんと6Vであることも確認している。

 

「よし、アクア。訓練だ」

「ヒ!」

 

 まずは、力をつけさせる為に、逆流して泳ぐことから始める。時間を掛けてでもいい、それを成功させたなら、次は出来るだけ早く。それを繰り返していき、どんどん筋力をつけていく。

 これを始めてから、1年。軽々と波に乗り、泳ぐことが出来るようになった。

 

「全く、レオンに見つからないようにするのは大変だった……。が、もうすぐの辛抱だな」

「ヒィ!」

 

 ご褒美に、青いポロックをひとつ食べさせる。

 

「よし、フレアが帰ってくる前に、初バトル、やってみるか?」

「ヒィッ!」

「じゃあ、コイキングかなんかを探してきてくれ」

 

 アクアは元気よく返事をして潜っていった。

 次の瞬間、大柄なコイキングと共に現れる。

 

「デカいの連れてきたな……。まあいい、行くぞ!」

 

 アクアが戦闘体勢に入る。

 それに合わせるように、コイキングも構えた。

 

「先手は貰おう。———れいとうビーム!」

「ヒィンーーー!!!」

 

 口から、青白いビームを力一杯出す。

 まだレベルが低いせいで大した威力もなく、反動も大きいがコイキングに対しては使える。

 

「コイィ!」

 

 コイキングが、それを受けてウロコを凍らせながらも、たいあたりをかます。

 

「潜って避けろ!」

 

 それを、水に潜ることで回避。素早く背後に回る。

 

「もう一度れいとうビームで決めろ!」

 

 アクアのれいとうビームを避けることもせず、コイキングはアクアに迫った。

 そして、じたばた。

 

「やばっ! アクア、耐えろ! お腹に力を入れて!」

 

 お腹に力を入れているのかはよくわからないが、なんとか耐えきる。その間にも、コイキングは一度後退した。

 掛けてもいい。次来るのは、たいあたりだ。

 

「来るぞっ! 水面をれいとうビームで凍らせろ!」

 

 アクアが水面を凍らせ、近付けないようにする。

 それに対し、コイキングは跳ねて薄く張った氷の上に乗り、スピードをつけて滑ってくる。

 それってアリかよ。

 

「仕方ない、まもる! そっから距離をとれ!」

 

 一度攻撃を防いでから、素早さを活かして距離をとる。

 

「相手は弱ってるぞ! 今だ、れいとうビーム!」

 

 渾身のれいとうビームが決まり、今度こそコイキングが倒れる。

 コイキングの口にきのみを押し込み、川に流してからが本番だ。

 

「ヒ? ヒ?」

「進化だぞ、アクア。この姿とはおさらばだ」

「ヒ、ヒ、ヒ!」

 

 アクアの身体が白い光に包まれ、どんどん形を変えていく。

 破れた尾は伸び、色は変わり、胴体は伸び———

 

「ミー!」

 

 ミロカロスに進化をする。

 

「よし、そろそろ帰ってくる頃だな。戻れ、アクア」

 

 モンスターボールのレーザーに当て、アクアを一度戻す。

 ポケットに入れてある小さな機械を確認すると、もうすぐそこのようだ。自分のポケギアをレオンに預けていたのだが、GPSって便利だな。

 

「っと、来たか。おーい、フレア、レオン、お帰りー!」

「カゲ〜!」

「ピッカ! ピカピー」

 

 飛びついてきた2体を抱き上げ、少々よろめきながらも水辺に運ぶ。

 

「よし。実はな、紹介したい奴が居るんだ」

「ピカピ?」

「カゲ?」

 

 2体の見守る側で、俺はモンスターボールを軽く投げる。

 

「出てこい、アクア!」

 

 赤いレーザーと共に、アクアが現れる。

 

「アクアだ。さっき進化したばかり。仲良くしてやってくれよ」

「カゲ〜」

「ミー」

 

 アクアとフレアは早速遊んでいるが、何故か

 

「ピーカーピー?」

「ちょ、レオン、何怒ってるの……?」

 

 レオンが激おこであった。解せぬ。サプライズ失敗? いやでも、レオンに嫌いなポケモンなどは……

 

「ピカピ! ピカピカ!」

「あ、ごめんごめん、内緒にしてて」

「ピーカーヂュー!!!」

「ぐぎゃーーー!!!」

 

 内緒にしていたのが逆鱗に触れたらしい。特大のじゅうまんボルトを食らってしまった。

 ……解せぬ。




・パーティ
「レオン」
種族:ピカチュウ
性別:オス
性格:しっかり者
備考:6V

「アクア」
種族:ヒンバス→ミロカロス
性格:メス
性格:???
備考:地味に6V

「フレア」
種族:ヒトカゲ
性別:オス
性別:???
備考:6V


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お守り

 さて、自己紹介がまだだったな。

 俺はシアン。何処にでも居そうなごく普通の、極普通の9歳11ヶ月の少年だ。普通を極めているのは俺が一番だと胸を張れる。

 ただ、普通じゃないことがある。

 それは、俺が転生者だという事実。日本という国で、これまたごく普通の少年をやっていたのだが、何故か飛ばされちまった。異世界であるポケモンの世界に。

 そして、消えた両親の遺産をやりくりしつつ、ポケモンを育ててもうすぐ旅に出ようと思ってる。

 この世界では、10歳からトレーナーOKなんていうものはない。ある程度の責任感とマナーと頭があれば、ポケモン協会の試験に合格してトレーナーカードを貰うことができ、旅に出ることが出来る。また、資格がなくても、資格を持った18歳以上の人の下であれば、ポケモンを捕まえて育てることが出来る。

 というわけで、5年ほど前に試験を受けて見事合格。前世の知識で、二次方程式なんぞチョチョイノチョイだったよ。面接にも不備はなかったしね。

 というわけで、まずはオーキド博士にレオンのタマゴを貰い、孵して1匹目GET。2匹目のアクアは、川に流されていたから説得してGET。フレアも数日前にGET。見事パーティが半分埋まった。

 そういうわけで、旅に出るのである。

 が。

 

「レッド、お前は何がしたいんだ。グリーン、ツンケンしてたら面接落ちるぞ。ブルーはおめかししすぎ!」

 

 主人公ズのお守りをする羽目になっていた。

 何故かというと、オーキド博士が押し付けやがったのである。トレーナー試験の付き添いを。

 オーキド博士のピジョット2体に、片方は男衆、もう片方はブルーが乗ってタマムシまで向かっている。

 ピジョットに興奮しているレッドの頭を1発殴り、引くほど化粧をしたブルーに濡れティッシュを押し付ける。流石にこれは知り合いだとは思われたくない。

 そして、なんとかタマムシシティに到着。タマムシ大学での受験なので、ピジョットをモンスターボールにしまって歩いていく。

 

「おい、見ろよ! あのポケモン見たことないぜ!」

「……」

「あのお店、かわいい服が多いのよね!」

 

 お静かに。

 

「ほら、ついたぞ。まずは面接、そのあと試験だ。面接は、ブルー、レッド、グリーンの順で、試験は同時スタートだ。頑張れよ? 迎えに来るから」

「迎えなんていらねーよ」

「さっさと帰りやがれ」

「迎え? 馬鹿にしてるの?」

「お前ら面接落ちるぞ!!!」

 

 とりあえず腹いせに3人でレッドをタコ殴りにし、送り出す。

 

「ふぅ、疲れた……」

「ピカ……」

 

 肩にしがみついていたレオンに労われる。

 だが、こうしてはいられない。

 

「あいつらのことだ、試験が終わる前にお呼び出しが掛かるに違いない。それまでに用事を済ませるぞ」

「ピィカ、ピ」

 

 

 タマムシマンションには、イーブイがいる。裏口から、迷ってしまった風に入り、階段を登って屋上へ向かう。

 そこには、ひとつのモンスターボールが落ちていた。

 それに近付き、しゃがもうとしたところで気付いた。老婆がこちらを見ている。

 

「あなたのですか?」

「さあ、どうだろうね。拾わなくていいよ、自分で拾うから」

「そんなわけにはいかないでしょう」

 

 しゃがんで拾い、それを老婆に渡す。

 

「この中身はイーブイ。かわいそうに、捨てられていてね。よければ貰っていかないかい?」

「いいんですか?」

「もちろんだよ。———バトルに勝てたらね」

 

 老婆がモンスターボールをポケットに入れ、傍に控えていたウインディが威嚇してくる。

 それから目を離さず、老婆に問いかける。

 

「ルールは?」

「ポケモン1体ずつ、道具は使用可。フィールドは何処までも、使える限り。これでどうだい?」

「いいでしょう。タイプ、水が居ますがどうしますか?」

「なんでも構わないよ」

「じゃ、レオン、頼むよ」

「ピカ!」

 

 アクアという選択肢を蹴って、レオンを選出する。アクアだとレベルが足りていないだろうし、フレアは進化前だ。こうなると、レオンしかいない。

 充分なスペースをとって、2体が相対する。俺は、屋上の柵に座り、全体が見渡せるようにする。

 

「トレーナーへの攻撃は?」

「直接は駄目に決まってるよねぇ」

 

 つまり、間接的にヤる気はあるらしい。

 

「じゃあ、始めだよ」

 

 老婆の声で、戦闘が開始される。

 

「ニトロチャージ」

「レオン、アンコールだ」

「ピ〜カ〜! ピカピカ〜!」

「そう来るか」

「ニトチャオンリーでお願いします」

「おや、ニトチャなんて略知ってるのかい?」

「まあ。———レオン! かげぶんしんからのこうそくいどう!」

 

 レオンの姿が数百にわかれ、その全てがフィールド中を駆け回る。

 

「本物を紛れさせる、か」

「我ながらいい手だと思っています。けど、そちら、大丈夫ですか?」

「様子見だからね。問題はないよ」

「おっし、レオン。大丈夫だとよ。サクッとやっつけようぜ。———でんこうせっか!」

「耐えろ、ウインディ」

 

 レオンのでんこうせっかをかわすことなく耐える。一瞬、ウインディの目が見開かれた。

 

「特性:せいでんきですので」

「なるほどね」

「とりあえず聞きますけど、ポケモンの個体の強さアピールと戦術アピールとコンビネーションアピールと育成(トレーナー)アピールのどれがご希望ですか」

「育成(トレーナー)アピールが嬉しいね」

「了解しました。よし、レオン! 奥義行くぞ!」

「ピ、ピカ!?」

「正気だよ。話聞いてたでしょ。やるよ」

「ピカピー?」※訳:どっちー?

「うーん……。じゃ、()()()()()()()!」

「え、ちょっと流石にそれは———」

「ピッカピー」

 

 いっくよーというニュアンスで、レオンが軽々とクロスサンダーを放つ。

 

「ウインディ、流石にアレだ。アレだよ、避けろ!」

「おお、やっと必死こいてやがりますね」

 

 でんじはによって動けてないけどな。

 

 どっかーん。

 

 光がおさまった中では、ウインディが目を回していた。

 

「ち、負けちゃったか。ほい、イーブイ」

「くれるんすか?」

「やるよ。どうせ、私には懐いてくれないし。ほいよ、()()()()()

「どうも、()()()()()()()()()。いやぁ、悪いねぇ」

「ホントムカつく性格してるな。前世何かあったか?」

「いや、主人公ズの性格が悪タイプな感じでして。お守りで来たんすけど、ちょっと負担が」

「そりゃ頑張れ。じゃ、さっさと出な」

「ほい。また来ますわ」

 

 多分このおばあちゃんどっかで会ったことあるわ。雰囲気がめちゃくちゃ似てる。

 そんなことを考えていたから、大惨事に気付かなかったんだろう。




・訂正版
「レオン」
備考:クロスサンダー、らいげきなども使える。

「アクア」
備考:こんげんのはどうなども使える。

「フレア」
備考:クロスフレイム、あおいほのお、かえんだん、Vジェネレートなども使える。


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お守り II

「だから! 言っただろ! 余計な! こと! するなって! 面接! 落ちるから! やめろって!」

「「「シアン様ー、お許しをー」」」

「今かみなり落としてるんだから」

 

 そう言った瞬間、レオンのかみなりが3人に直撃する。命中率? 気合いでなんとかなるのさ。

 

「君、流石にそれは……」

「オーキド博士もです」

「」

 

 警察署、ジュンサーさんの前にて。主人公ズを叱っている最中である。

 時折、ジュンサーさんがやり過ぎではないかと声を掛けてくるが、その度にオーキド博士もやってますよーアピールで誤魔化している。実際やってるし。

 

「んで。どう落とし前つけてくれるの」

「「「えーと……」」」

 

 3人揃って斜め上を見上げる。よって、レッドにチョップを叩き込む。

 

「グボギャッ!?」

「とぼけんじゃない。どうすんの、エリカさんまで出てくる始末、俺が頼めばジュンサーさんも前科を1人ひとつずつつけてくれるかもよ? それ以前に、君ら合格しに来たんでしょ? 何やってんの。ホント何やっちゃってんの」

「だって、レッドと組んだから大技完成させようと……」

「君達がなるのは、ポケモンコーディネーターじゃないの! ポケモントレーナーなの! 知識と判断力と常識と統率力があるかを見極める試験なんだから、それに当てはまるアピールしないと意味ないでしょ! わかる!?」

「いやでもレッドの奴が」

「言い訳はしない! 次はレオンのクロスサンダーとフレアのクロスフレイムだからね!」

「「「それはマジでシャレにならない」」」

「じゃあ反省しろ」

「「「はい」」」

 

 実際こいつらが何をやったかというと、実技試験で会場をぶっ壊し、なおかつ借り物のポケモンを暴走させたのだ。

 ジュンサーさん達が出動する直前に俺が捕獲したからいいものの、駆けつけたエリカさんによって警察署に強制連行。事情聴取となっている。

 

「レッド!」

「はいぃ!」

「何ポケモン煽っちゃってんの。君が暴走の一番の原因だと思うよ? わかってる?」

「ほいぃ」

「グリーン!」

「ひゃい!」

「あんた馬鹿か。馬鹿なんだな。何故レッドを野放しにした? 馬鹿だな。馬鹿すぎてオーキド博士昇天しちゃうよ」

「すんません」

「ブルー!」

「ひぃっ……!」

「お前はなんで、大技を完成させようとしたぁっ!」

「ご、ごめんなさい!」

「ポケモン協会のブラックリスト、載るかもよ?」

「がびーん」

 

 反応を返したのはブルーのみ。あとは意識が飛んでるか、固まってるか。

 

「と、いうわけでお説教は此処まで。エリカさんとジュンサーさんにも謝りなさい」

「「「ごめんなさい」」」

「い、いいんですよ。そこまで気にしなくても……」

「エリカさん。こいつら、似たようなこと100回以上やってます」

「もう少し反省しましょうね」

 

 ジムリーダー・エリカ。意外とノリがいい。

 解決したため、全員で警察署をあとにする。出てすぐに白い軽トラが停まっていた。

 

「君達は、またやらかしてくれたな?」

 

 オーキド博士が、呆れた顔をしながら出てきた。

 

「お陰で、迎えに来る羽目になったよ……折角シアンに押し付けたのに」

「オイ貴様」

「叔父に向かってなんじゃお主」

「自業自得だ……!」

「帰るぞ。じいちゃん、レッドとブルーは荷台で」

「馬鹿かお主」

 

 調子に乗ったグリーンは、俺と博士から頭を叩かれる。

 

「「お前も荷台だ」」

「……ちっ、しょうがねーな」

「しょうがなくねーよお前のせいだよ反省しろ今日の晩御飯抜き」

「それはよせ」

「よさない」

 

 レッドの尻を蹴って荷台に追い込み、あとの2人も乗せる。

 

「じいさん」

「なんじゃ」

「ピジョット借りていい?」

「駄m———」

「借りていい?」

「d———」

「借・り・て・い・い?」

「……いい」

「よし、研究所に送っとくから。じゃね!」

 

 さて、トキワにひとっ飛びしますか。

 

 *

 

「トキワシティとうちゃーく! さて、ポケモンセンターを探しますか」

 

 ピジョットの背中を降り、すぐそばのポケットモンスターに入る。

 ロビーの隅に設置されているパソコンにパスワードを入力し、続けて個人の暗証番号も打ち込む。

 

「久しぶりすぎてよく覚えてないな……。此処か」

 

 ブツブツ呟きながら、「転送」をタップし、モンスターボールを専用のホルダーに入れる。

 宛先は……オーキド博士研究所っと。これで完了だな。

 ピジョットは返却できたので、受付に行ってジョーイさんに部屋の鍵を貰う。旅というものは案外お金のかかるもの。出来る限り、出費を減らさなければいけない。

 必要事項を除いてどんどん買う物を削っていくと、上手くいけば月2万円程でやりくりできるのだが、そこまで貧乏ではないし、何かあったら叔父(オーキド博士)に借りればいい。

 ポケットモンスターの部屋は、空いてさえいれば無料で泊まることが可能だ。ただ、

 

「やっぱ貧乏くさいなぁ」

 

 めちゃくちゃ狭いのである。

 1R(ワンルーム)で、コンロとミニ冷蔵庫、安物レンジのみの簡易キッチン付きで、しかもどれも一回ワンコイン(五百円)取られ、それが嫌だったらポケモンの技を借りるしかないのである。

 また、折りたたみ式のプラスチック製の低いテーブルと、常に敷かれている布団、毛布。あと、小さな洗面台。

 これが、三畳の中にぎゅうぎゅうに詰め込まれている。

 

「……ふぅ。タダで泊まれるだけマシか」

 

 ジョーイさんの努力の成果により、使い込まれているもののどれも綺麗だし、何よりタダだ。無料だ。これほどいいものはない。

 

「しかも、壁紙は寄付っぽいな」

 

 ……ポケモンセンターの台所事情が心配である。ウチも余裕はないわけだが。

 ただ、鍵は最新式である。ピッカピカの真新しいものである。

 

「ピッカピカー」

「おいレオン、お前わざとだろ」

 

 ともかく、残りのモンスターボールを2つとも展開して、シアンファミリー大集合をさせる。

 

「フレア、かえんほうしゃ」

「カゲ〜」

 

 フレアのかえんほうしゃでコンロに火をつける。

 

「とりあえず、きのみスープでも作るか」

 

 アクアのみずでっぽうで、備え付けの鍋に水を入れ、火にかける。

 

「缶コーヒーも冷めてるな。よし、レオン、頼んだ」

「ピカー」

 

 レオンが缶コーヒーを受け取り、レンジに入れる。そして、じゅうまんボルト。

 

 ウィーン。

 

 変な音を出して動き始めた。

 

 10分後、調理を終えてテーブルを囲む。

 

「いただきます」

「ピーカーピー」

「カゲゲゲー」

「ミー」

 

 流石に独り暮らしをしていれば、そして財政難であれば、ある程度の資源があれば何か食べられるものを作ることぐらいできる。受付で、豚肉を分けて貰ったので、きのみで出汁をとったりきのみを野菜の代わりにしたりして、なんとか豚汁を作り出してみた。いやぁ、味の再現って大変。

 ちなみに、大量に作ったので、ジョーイさんや近くの部屋の人にも分けて差し上げた。持ちつ持たれつっていいね。

 お礼に、珍しいきのみや何やらも貰えたし、正解だったと思う。

 

「さて、寝ますか」



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鬼ごっこ inトキワの森 I

数分前に1話投稿しています。


 トキワシティのジム。運が良ければジムリーダーが居て、さらに運と機嫌と都合が良ければジム挑戦ができるという、なんとも公私混同した最初のジム。此処を最後にするという手もあるが、残り数%の希望を捨てたくはないので、街の中心部へ向かう。

 貼り紙には、案の定ジムはお休みと書かれている。

 そんなに某マフィアの頭首というのは忙しいのか。というより、上層部(うえ)には何て言い訳をしてサボってるんだろ。有給?

 まあ、R団の考えることは永久にわからないだろうし、今のうちにレベル上げとイーブイとの初対面を済ませてしまおう。

 そう考え、最低限の荷物を持ってトキワの森へ向かう。

 

 太陽が輝き、手にじっとりと汗を掻くような暑さの中、トキワの森は生い茂った木々で心地よい日陰を作り出していた。

 タオルで汗を拭きながら、人間が通れるよう定期的に草刈りがされている道から外れ、獣道(ポケモン道?)に足を踏み入れる。

 住み着いているポケモンを、レオンの圧だけで牽制しながら奥へと進むこと、10分後。ツタのカーテンが垂れ下がるところをくぐり抜けると、太陽の光が程よく差し込んだ広場に出た。

 

「久しぶりだな、レオン。よく此処で修行したっけ」

「ピカー」

 

 フレアとアクアを出し、中央に円を描くように座る。

 

「さて。イーブイとの顔合わせだ。そのあとは、最近新入りが立て続けに入っていたからな、とりあえず中断していた修行をする。メニューはだいたい決めた、あとは気合いだけあれば充分だ。行けるな?」

 

 返事を聞き、準備は整っていることを確かめる。

 

「よし。じゃ、出すぞ」

 

 モンスターボールを真ん中に置き、ロックを解除して大きさを戻す。もう一度、カチリ、という音がするまでセンタースイッチを押し込み、展開する。

 光のエフェクトの中から現れたイーブイ。そいつは、こちらを見た瞬間森の中へと駆け出した。

 

「おい、待て!」

「ピカ!」

 

 俺が立ち上がるより早く、レオンがでんこうせっかで加速してイーブイを追い掛ける。

 

「レオン!」

「ピッカー!」

 

 頼むぞ、という思いを込めて声をかけると、遠くから返事が返ってくる。とりあえず、フレアは早いうちに訓練し、主人公ズにいじめられないようにした方がいい。リュックサックの中から一枚のレポート用紙を取り出し、2体に渡す。

 

「すまん、これやっといてくれ! 俺は追いかけてくる!」

 

 返事を聞くより先に、俺は駆け出していた。

 

 あのイーブイは、もともとトレーナーに飼われていた。

 一瞬見たところ、まだ体も小さかったことから、あまり生まれてから間もない頃に捨てられたと考えられる。捨てられてから俺に引き取られるまでは、ほとんどの時間をモンスターボールの中で過ごしていたそうだから、野生ならば知っているべきことを知らないはずだ。

 レオンも野生ではないが、小さい頃から俺とトキワの森に入り浸り、草むらで遊んでいたから、野生の勘や知識は持ち合わせている。だから、トキワの森にたったひとりで放つこともできる。

 だが、イーブイはそうもいかない。毒にやられたらどのきのみを使ったらいいのかわからない。野生の危険なポケモンの縄張りがある可能性も知らない。

 それをわかっていたから、レオンはすぐ追いかけた。

 

「ゲッコウガがいたら良かったんだが、居ないしな。こちらシアン、レオン、追跡だ。絶対逃すなよ」

『ピッカ』

 

 当たり前だよ、という頼もしい答えがスピーカーから流れる。

 俺が持っているポケギアは、レオンが隠し持っている無線機と繋がっており、GPSによって位置も特定できる。

 俺は、もう一度レオンに呼びかけた。

 

「いいか、そのまま頑張ってくれ。俺は何か良い手がないか探してみる」

「ピ———ビ!」

 

 レオンが急加速した音を聞き流しながら、俺は戦略を練り始めた。

 

 

「おーい、スピアー! コクーンが道端でラッタにひかれそうになってたぞー! 怪我の応急処置はしといたから、引き取ってくれないか?」

 

 たまたま見つけたコクーンを抱えて、俺はスピアーの縄張りに足を踏み入れた。

 すぐに下っ端と思われるスピアーが現れ、コクーンを回収していく。そして、新たに来たスピアーに案内され、更に奥へと進んでいく。

 その先には、一体のスピアーが———死線を潜り抜けたと思われる傷を身体中につけ、更に普通のスピアーよりふたまわり以上大柄なスピアーが、待っていた。

 

「やあ、俺はシアン。コクーンを一体助けたついでに、協力して貰いたいことがあるんだが、いいか?」

 

 スピアーは動かない。話の続きを待っているように見えたので、続ける。

 

「まあ、ちょっとお手間を借りるだけだ。実はな———」

 

 俺の言葉に、スピアーはゆっくりと頷いた。



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