そして漫画家へ (rearufu)
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ぷろろーぐ
「シュージンちょっとコレ読んでみて」
「赤マルジャンプ?もう発売してたのか」
「表紙に気になるアオリがあったから。ほらココ」
「こ、高校生作家!?」
「うん。俺達とタメみたい」
『time traveler』
パラパラパラ
「読み切りか、面白いな。時間逆行モノみたいだけど話自体は現代が舞台なのな。つか話が妙にリアリティあるなコレ。引き込まれる」
「絵もうまいよ。いや、上手いって言うか洗練されてる?自分の世界を創りあげているからか書いたもの以上に見えるのかも」
「だな。でも俺は絵自体はサイコーの方が上だと思う」
カチカチカチカチ
シュージンはズボンのポケットから携帯を取り出しいじりだす。
「なにやってんの?」
「作中の競馬の日付が今日と同じ日付になってたからどこまで本物を参考にしてるのかなと思って…あった」
僕もシュージンの携帯をのぞき込む。
「宝塚記念か。馬も一頭だけ作中と同じ名前があるな。一文字違いだけど」
「出走はこれからみたいだな。つかスゲーなこいつ。絶対宝塚記念に合わせて読み切り書いてるよなコレ」
「漫画は博打だっておじさんがよく言ってたけど、この人も相当な博打打ちだと思う」
「外して当然。当たれば話題になるって考えるとローリスク、ハイリターンだし有りかもな。なあコレTRAPでも使えないかな?」
「…難しいな」
「設定や見せ方次第でいけるかなとも思ったんだけどダメかな」
「シュージンは真似する方を気にしてるみたいだけどそっちじゃなくて。いや、真似もダメなんだけど。俺が難しいと思ったのはリアルに話を合わせる方。シュージンがやれると思うならやってみてもいいと思うけど」
「仮に一ヶ月後に話を合わせるとして…出走登録してからレースまでの期間ってこんな短いのかよ。いや、重賞レースならあるいは…」
「シュージン博打の経験は?」
「ゲ、ゲーム内でなら」
「だよな。俺も育成ゲームで競走馬を育てるやつはやった事あるけど」
「難しいな。連載の締め切りを考えるとレースを予想する以前に出走する馬を予想しなくちゃダメだこれ」
「うん。リアルに合わせるならある程度の情報も集めなきゃだし、そこまでやっても当たるとは限らない。それなら俺はその時間をシュージンの話を練る事に使いたい」
「だな。しかしそう考えるとここの作品スゲーな」
「内容もそうだけど俺は発想が凄いと思った。こんな事未来でも知ってなきゃ中々思いつかないと思う」
「凄い新人が現れたな」
「ああ、俺達もうかうかしてられないな!」
どうも、元ジャンプ作家で現ジャンプ作家の卵の大神 時也と申します。
何を言ってるか分からない?察してください。
別にチャラくないですよ。変なあだ名付けないでくださいね。薬なんて知らないですから。
しかし高校時代に戻って漫画家を再び目指すまでは問題なかったのですが、いざ投稿しようとして問題が発生してしまいました。当時私は学園を舞台にしたヤンキーモノを連載していたのですが、現在ジャンプでは学園物が多数連載されており連載を勝ち取るのは中々に厳しい状況なようです。連載中の作品の中には当時私が漫画家を目指す切っ掛けとなった心の師匠も現役で連載しており、なんと言うか話がおもいっきり被っているのだ。まぁ私が師匠に憧れて漫画家を目指したのだから当然と言えば当然?だが。パクリ?いえ、ち、違うヨ…
話が逸れました。連載経験を生かし、今ならよりパワーアップした作品を創る事ができると自負する私ですが、師匠に勝てると思うほど己惚れてはいません。そこで心機一転、経験を生かした逆行モノを書いて持ち込みしてみたわけですが
「サーセン」
「いきなりどうした」
「いや、なんとなく。はいコレ」
「おお、サンキュー。まさか売り切れるとは思ってなかったから油断してたわ。どこ行っても売ってないとかナイワー」
「サーセン」
とんでもない結果に。
「でもそれあんまりにも問い合わせが多かったみたいで、なんか来週も同じの掲載されるらしいよ」
「まじか。再掲載ってハガレンの最終回以来じゃね?まぁニュースにもなってたしあり得そうだな。ってか、それ何処情報さ」
再掲載は担当編集から聞きました。なんて言えないな。
「風のうわさ…かな」
「でもその風すこ…サーセン」
「うむ」
「しかし作者ウハウハだろうなこれ」
「な、なんで?」
「だってもし馬券買ってたら12倍だぞ、12倍!」
「あ、ああ。そういう事ね。いや、高校生だと馬券買えねーよ。まぁ親父に買ってもらったけど、高校生の小遣いじゃたかが知れてるしな」
有り金はたいて買えたのは3000円分だ。いや、原稿用紙とかトーンとか結構金掛かるしさ…
「まるでお前が作者みたいな言い方だな。てか馬券買ったのか。おごって!」
「ほいaccelコーヒー」
「アザース」
まぁ予定とは違ったけど結果オーライ。
売れっ子漫画家を目指して頑張るから応援してくれよな!
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1頁
「新妻くん原稿できてる?」
「床に置いてあるのがそうですケド」
「これか。新妻くん次は巻頭カラーだから締め切り気を付けてね」
「もう出来てますケド」
「相変わらず早いね。あ、そうだ。新妻くん赤マルジャンプは読んだ?」
「雄二郎さんが言ってた『time traveler』なら読みました。あれ凄く面白かったです。ただ嘘は良くないと思いますケド」
「嘘?僕新妻くんに何か嘘付いたっけ?」
「雄二郎さん『time traveler』の作者が僕と同じ高校生って言いましたケド。これを書いた人、大人ですよね?」
「いや、年齢までは確認してないけど高校生って聞いてるよ。僕も打ち合わせに来ているのをチラッと見たことあるけど大人には見えなかったね」
「おかしいですね。内容もそうですケド、絵から受ける印象が子供のソレじゃないですね」
「そうか?確かに年齢の割には結構上手いと思うけど、画力は新妻くんの方が全然上じゃないかな」
「雄二郎さん分かってませんねー。凄い絵と上手い絵は違うんですよ」
担当と『time traveler』の連載用ネームの打ち合わせをする為、やって来ました集英社。いや、アンケート1位とか初めて取ったわ。来たね、俺の時代!
ルンルン気分で打ち合わせブースに向かう途中、凄く顔色の悪い自分と同い年ぐらいの少年とすれ違う。
…真城先生?
昔会った時と比べて随分若くなってるから一瞬分からなかったが、間違いない。隣には高木先生も居る。
真城先生とはたしか10年後ぐらいに出会ったんだっけ?
原作の高木先生と作画の真城先生の二人組で、ペンネーム亜城木夢叶。出会った時には既に売れっ子漫画家と言っても過言ではない人気だった。かく言う俺も亜城木先生のファンであり、コミックスは全巻持っている。いや、持っていた。また集めないとなー。
現在連載中の『疑探偵TRAP』もかなり好きだったんだけど、確か病気による休載が響いて打ち切りになるんだよな。…あれ、もう休載したっけ?
「吉田さん、『疑探偵TRAP』って休載しましたっけ?」
ブースで待機していると待ち合わせていた担当の吉田さんが来たので丁度いいとばかりに尋ねる。
「会うなり不吉な事を言うな、君が言うとシャレにならん。亜城木くんか。僕も来る時すれ違ったけど、だいぶ顔色が悪かったように見えたな。港浦にも少し注意するよう言っておくか…」
どうやらまだ休載はしていないようだ。かなり好きな作品だからどうにか出来ないものかと考えてしまうが、もし俺が行動した事により病気を回避出来て連載が続いたとして、これから生まれるはずだった作品がもし生まれなかったら?そう考えると末恐ろしい。責任取れませんがな。
「知らなかった事にしよう」
「何言ってるんだ君は。まさか前みたいに未来が見えたなんて言うんじゃないだろうな」
どっちかと言えば過去じゃないでしょうかね。
「なんで顔を反らす。…大神くん少し待っていてくれ。ちょっと用事を思い出した」
そう言って吉田さんは「港浦ぁあぁぁ!」と叫びながら遠ざかっていく。相も変わらず熱いな、吉田さん。しかし吉田さんの用事ってなんだろう?ワカラナイナー
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2頁
ジャンプにて『time traveler』の連載が決まりました。
学校に行きながらという不安要素はあるが、新妻先生や亜城木先生といった前例があるからか、編集部もいけると判断してくれたようだ。
吉田さんからは高校を卒業してからでも良いとは言われていたが、話題性のあるうちに連載まで持っていきたかったので連載会議にネームを回してもらった。というのも
「『time traveler』の主人公はちょっとキャラが弱いからな。逆行による未来の知識はあっても能力的にはただの人だし、ジャンプの主人公としては普通すぎて子供には受けないかもしれない」
と吉田さんから指摘を受けていたからだ。
キャラが弱いか。そうなんだよな。前に連載していた学園物の主人公も、喧嘩は強くても能力的にはただの人だった。そのせいか一時は連載打ち切りになりそうだった所をギャグ多めに方向転換したらなんとか持ち直したが。
そこらへんを踏まえて実は新しい漫画を描き貯めてはいるのだが。
しかし今回の『time traveler』は逆行とかの設定ばかりに気をとられてそこらへんの事をすっかり忘れていた。ならば特殊能力でもつけるかとも考えたが、ネームを書いて持っていったら微妙な顔をされた。吉田さんいわく、主人公に無理に特殊能力を付けて作品が崩れてしまっているらしい。
そんな経緯もあり、話題性のある今のうちに連載まで持っていきたいと連載会議にネームを回して貰った次第だ。吉田さんも
「ああは言ったがジャンプにだって特殊能力の無い主人公が居ないわけじゃないし、何より君の作品は面白い」
と言ってくれた。
自信はある。だが怖くもある。
以前は売れっ子とはいえないまでもそこそこな漫画家だった俺ではあるが、打ち切り候補に挙げられたことは何度かあった。
病気になりぶっ倒れそうな体で原稿を書いた時もあった。
締め切りに間に合わす為に徹夜なんてざらだった。何度楽になりたいと思った事か。
だがあの気持ちを知ってしまうと止まれない。
初めてジャンプに載った俺の漫画を読んで笑っている人を見かけた時、俺の胸は熱くなった。なんて形容していいかわからない衝動に駆られた。
そして今俺はあの時と同じ衝動に駆られている。
走り出したい。いや、俺はもう走り出している。この道の先に何があろうとも俺はもう止まらない。止まりたくない!
売れっ子漫画家を目指して頑張るから応援してくれよな!
「サイコー、体の方はもう平気か?」
「通院はしなくちゃいけないけどなんとかな」
「気付いてやれなくて悪かった」
「なんでシュージンが謝るんだよ。悪いのは俺だろ。体調管理も出来ないなんてプロ失格だ」
「…しかし編集長まで出てくるとは思わなかったな。こういうのって普通担当の仕事だろ?」
「それはたぶん『川口たろう』が俺の叔父だからだと思う」
「…そっか。編集長、おじさんの担当だったって前に言ってたもんな」
「ごめん」
「なんでサイコーが謝るんだよ。それこそ誰も悪くねーだろ」
「…シュージン、ありがとう」
「や、やめろよ。なんか体がムズムズしてくる」
「でも一ヶ月休載はキツイな」
「けっこう頻繁に休載してる漫画家とかもいるし大丈夫じゃね?」
「新人の俺たちと人気漫画家が休載するのじゃわけが違う。週刊連載は休んじゃダメなんだ」
「…もしかして、かなりまずい?」
「シュージンはジャンプの漫画全部読んでる?」
「俺は見るな」
「俺もそう。でもそうじゃ無い人も居る。自分の好きな作品だけ読んで後は読まないって人も結構居ると思うんだ」
「…居るな。俺の場合面白いからってのは勿論だけど、やっぱりライバルの作品は気になるし。他誌だと確かにいくつか読み飛ばしてるな」
「そういう人たちが休載している間に離れたり、連載再開しても読み逃したりして話の続きが解らないからまぁいいかみたいなのもあるかもしれない」
「まずいじゃん!」
「だからそう言ってるだろ。来週からは新連載で『time traveler』も始まる。休んでる場合じゃないのに…」
「いや、サイコーはゆっくり休んでまずは体を治してくれ」
「でも…」
「体調管理もプロの仕事だろ?それに逆境に立たされてなんか燃えてきた!俺休載する前より人気の出るようなすっごいの考えてくるから、サイコーはそれをベストな状態で書けるようにしておいてくれよな。話はいいけど、絵はちょっと…みたいなのは勘弁な」
「シュージン…。ああ、分かった!俺も書くのは禁止されてるから出来ないけど、仕事部屋にある漫画を読み直してコマ割りとかキャラの動きとか研究してみる!行こうぜ、シュージン。ゆっくりでもいい」
「ああ。足踏みは終わりだ。行こうぜ、サイコー。俺たちの戦いはこれからだ!」
「…シュージン君、そういうのやめてくれるかな。縁起が悪いよ」
「す、すまん、つい。あは、あはは…」
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3頁
未来なんて簡単に変わる。変えられる。変わってしまう。そう実感した。
これから起こる事を知っているからと言って、全部がその通りに起こるとは限らない。
『疑探偵TRAP』の休載が本来約三ヶ月のはずが、何故か一ヶ月で連載再開になって驚いた。変えたのは俺じゃないけど。俺じゃないけど。たぶん吉田氏のせい。
昔の俺なら、高校生で漫画家デビューなんて出来なかった。
昔の俺なら、この時期原稿を集英社に持って行く事も無かった。
昔の俺なら、その原稿を無くす事も無かった…
未来は何時だって不確定だ。
未来は何時だって僕らの手の中にある。
でも俺の未来(原稿)はただいま絶賛行方不明中…カイジ面白いよな。ってそんな事考えてる場合じゃねぇ。
本来なら担当の吉田さんが原稿を回収に来てくれるのだが、近くまで行く用事があったのでついでに持ってくかと思ってしまったのがいけなかった。幸い電車に乗る前に気が付いたので、無くしたのは家から駅までの間と分かっている。
俺は来た道を戻りながら原稿を探していた。過去形だ。川原で俺の原稿らしきものを読んでいる女の子を発見
「………」
あかん、なんて声掛けたらいいんだ?
思わず女の子の斜め後ろに座ってしまったが俺怪しすぎる。いや、でもやっぱあれ俺の原稿だわ。返してもらわんと。
しかしなんて声を掛けよう。見た感じ女の子は俺より年下だろうか。後姿だし良くわからないが、体格が同年代の女の子よりかなり小さいし、たぶん年下なのは間違い無いと思う。
ピーポーピーポー
不意に聞こえてきた救急車の音に体をビクリと震わせる俺。何も悪い事してないんだけど、何故かパトカーを連想してしまい警官が居ないか周りを確認してしまう。
周りにはパトカーも人影も無く、ホッとして前に向き直ると女の子が振り向きこちらを見ていた。
モンスターが現れた。
モンスターはこちらの様子を伺っている!
⇒はなす
なぐる
にげる
持ち帰る
「い、いい天気です、ね」
「……」
無言のカウンターが炸裂。
大神は64のダメージを受けた。
モンスターはこちらの様子を伺っている!
何言ってんの俺ぇぇぇ!見合いじゃないんだから!しかも年下の女の子になんで敬語!?
…落ち着け俺、まだライフは残ってる。
「曇ってるよ?」
モンスターの攻撃。
大神は57のダメージを受けた。
モンスターは首を傾げている!可愛いなおい
「…そうだネ。ところで君が持ってるその原稿なんだけど」
過程はどうであれ、話す切っ掛けはできた。このまま返して貰おう。
「あ、これお兄さんの?はい、返すね。中も確認したけど全部あると思うよ」
にこりと笑って持っていた封筒に原稿を入れ、こちらに差し出す女の子。
天使が現れた。
天使は光輝いている。
大神のライフは全快した!
「助かったよ。ありがとう」
差し出された封筒を受け取り胸を撫で下ろす。まじ感謝。
「お兄さん漫画家?」
「うん。ジャンプで連載中の『time traveler』って漫画を書いてる。って言っても女の子じゃ分からないかな」
「分かるよ。お姉が買ってきたの私も読んでるし」
貴重な女性読者発見。
女の子でジャンプ読むの珍しいねと聞いてみたところ、なんとお姉さんがプロの声優さんらしくその影響でこの子も読んでいるそうだ。サイン貰えないかな
「いいよ。今度お姉に貰っておいてあげる」
「まじで!?」
「うん。だからお兄さんのサインも頂戴」
「俺なんかのサインでいいの?」
「お兄さんの漫画好きだよ。あと知り合いが漫画家だって自慢できるし!」
ええ娘や。この娘マジ天使。
KMT!KMT!
EMTだと?RMTの間違いだろ。鬼嫁が欲しい?正しい判断です。
原稿を拾ってくれたお礼もしたいしサインの件もあるので、連絡先を交換してお別れした。
未来は予定通りには行かない。でもそれでいいと思う。
未来が決まったものなら、俺は売れっ子漫画家になんてなれない。俺は俺の望む未来を掴み取る。そう、この手で!
「この女の子もっと出そうか」
ただ今吉田さんと『time traveler』8話目のネームの打ち合わせ中。
吉田さんは5話で出した女の子を指してそう言ってきた。
5話で出てくる女の子は、この間知り合った子がモデルで未来が分岐する話を作った回だ。この回オンリーのつもりで描いたのだが
「じゃぁ、ヒロインの友達ポジションですかね」
使い捨てで描いた割には可愛く描けてたので俺も勿体ないとは思っていた。
しかしまだ数コマしか出ていないが、すでにヒロインは居るのだ。
「いや、この娘をヒロインにしよう」
「なん…だと…」
「絵もそうだが、話し方とか雰囲気がこのヒロインは少し大人すぎる」
ヒロインのモデルはまぁキャバ嬢ですから。そのままだとさすがに大人すぎるから子供っぽく描いたつもりなんだけど…
「その点こっちの女の子は、絵も話し方も自然に見える」
モデルがリアル少女ですから。
「このヒロインダメですかね?」
「ダメではないが、ジャンプを読むのは子供だ。ヒロインは読み手により近い方が身近に感じられるし、感情移入もしやすい。それに読者受けもいいと思う。実際この女の子が出た回の話はアンケート結果も良かっただろ?」
「確かに」
「とりあえず8話はこの間話をした1話読み切りの話を────」
予定通りに行かない事は多いけど、売れっ子漫画家の未来を目指して頑張るからみんな応援してくれよな!
はなす
なぐる
にげる
⇒持ち帰る
もちろん原稿の事です
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4頁
なんか表現力足りなくてすみませんm(__)mみたいな内容になってしまった
全てとは言わないが、大抵のマンガ家は漫画好きだと俺は思っている。
好きだからこそこの道を歩いてきた。
そして声を大にしては言えないが、やはりジャンプ以外の作品も大好きだ。他誌の少年誌も勿論買っている。
だからソレに気づいたのは偶然じゃなく必然だったのだろう。
「『デビルイレイザー』?あれ、こんなんだったっけ?」
ソレに気づいたのは少年スリーを読んでいた時のことだ。
当時好きだった作品が連載開始したのだと、初めはそれほど気にしていなかった。
だが読み進めていくうちに次第に違和感が大きくなっていった。内容は同じはずなのに、まったく別の作品を見ている気にさせられる。
暫くして思い出した事だが、『デビルイレイザー』は俺が高校を卒業して数年経ってから掲載された作品だ。
俺が居るせいでバタフライ効果的なものが発生して掲載が早まったのかとも思ったのだが、絵のタッチが違いすぎる。絵のタッチとは個性と言い換えてもいい。それがこうも違うとは同じ人間が描いたものとは到底思えない。これなら別人が描いたと言われたほうがよほど納得がいく。そう思い至り体に電流を流された気がした。
「盗作……?」
これを描いた奴はマンガ家じゃない。マンガ家であっていいはずがない!
確かに俺だって最初は好きな漫画があって、真似る事から始めたさ。プロになってからだって、似たような作風だったし何処かで聞いたようなセリフを使った事もある。だが、これはそんなもんじゃない。作風を真似ただとかネタをパクっただとかそんなもんじゃない。もっとおぞましいものを見せられた気分だ。
どうして
なんのために
だれが
だれが?
俺は少年スリーを開き、掲載されている作者の名前を確認する。
「時乃正義…?」
知らない。こんな奴を俺は知らない。
『デビルイレイザー』の作者は、作品に合わせたのかもっと悪そうな感じの名前だった。確か悪之なんとか。
いや、問題はソコじゃない。この名前が本名なのか、それともペンネームなのかだ。マンガ家の何割かはペンネームを使っているが、本名で売り出している人も多い。もし本名だとしたら、何か分かるかもしれない。
そう思い俺は何か調べられないかとパソコンの電源を入れる。
しかし結果は散々であった。分かった事と言えば、少年スリーの新人賞で大賞を取った時に書いてあった埼玉県在住の22歳という情報だけだった。
画面に浮かぶ作者の名前を睨みながら考える。誰だ。誰なら『デビルイレイザー』を盗む事が出来た?
しかしどう考えても俺が思い浮かぶ可能性は2つだけだ。
一つは俺が居る事によるバタフライ効果で本当に作品が盗まれた可能性。
そしてもう一つは俺と同じ未来の記憶がある人間だ。出来れば前者であって欲しい。盗まれて欲しいわけじゃない。俺と同じような存在がそんな事をしたと認めたくないだけだ。
あれから数日経つが時乃正義に関しての情報は何の進展も無いままだ。
今日は先日原稿を紛失した際にお世話になった美奈ちゃんが、友達を連れ仕事場に遊びに来ている。本来ならお世話になったこちらが足を運ぶのが筋なのだが、漫画家の仕事場を見てみたいとの事で歓迎することと相成りました。
仕事場は実家の庭に建てたプレハブ住宅。
最近のプレハブ住宅は凄いね。見た目も洒落てるし、組み立て式だからか1日で工事終わっちゃうし。朝は無かったのに学校から帰ったら建ってるんだもん、そら驚きますわ。
冷暖房完備。トイレ・お風呂・キッチンは同じ敷地内に上記3点の有る建物を2ヵ所建てる場合には色々小難しい申請が必要とかで断念した。まぁ予算的にも無理っぽいんだが。そこらへんは実家のを使わせてもらっている。
美奈ちゃんの友達はジャンプ初心者らしいが、漫画自体は嫌いじゃないようで普段は少女漫画を読んでいるらしい。アンケートで票入れてねーと下心全開でサインなどしつつ色々お話しをした。
制作裏話で最新話に出てるヒロインのモデルが美奈ちゃんだと話すと、友達にからかわれて顔を真っ赤にしていた。
「お兄さんまたねー」
「「「おじゃましました~」」」
「気をつけて帰ってねー」
時が経つのは早いもので、既に空は暗くなり始めている。
送ろうかと言ったのだが、恥ずかしいからと断られてしまった。
「お兄さん」
忘れ物でもしたのか遠ざかる一団から離れ、引き返してきた美奈ちゃんに呼び掛けられる。
「目が死んでるよ?」
天使の攻撃。
快心の一撃!
大神は999のダメージを受けた。
どうやら俺は時々心ここに在らず状態だったようで、美奈ちゃんはどうしたのかと皆を先に帰し心配して戻って来てくれたらしい。ちゃんと対応出来てると思ったんだけどな。
「ちゃんと歓迎してあげられなくてごめんね。ちょっと今悩み事があってどうしたらいいか分からなくて悩んでたんだ。たいした事じゃないから気にしないで」
何処の誰だか分からない、未来から来たかもしれない人間が盗作をしたかもしれない。などと説明出来る訳もなく、口から出たのはなんとも曖昧な言葉だった。
「本当に?」
本当にわからないの?そう言われた気がした。
恐らくは大丈夫?みたいな事を言いたかったんだと思う。
だがそう聞こえたのはきっと俺のせいだ。本当はわからないんじゃない。分かりたくないだけだ。時乃正義という存在は俺を否定しているように思えてしまう。そんな奴を見つけたとして俺はどうしたらいいと分からないふりをしていた。何時までも見て見ぬフリはしていられない。解決法なんて分からないけどやりたい事は見つかった気がする。
「うん」
今俺はちゃんと笑えてるだろうか。笑えてるといいな。きっと笑えてるさ。
「なんかちょっと悩み解決した気がする」
盗作ダメ絶対!盗作犯なんか見つけたらぶっ飛ばすような売れっ子漫画家を目指して頑張るからみんな応援してくれよな!
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5頁
「これとかはどうですか?最近TS物とか流行ってますよ」
「視点とか話自体は面白いけど、性転換させた意味が良くわかんないこれ。TS物とか僕あんまり好きじゃないんだよね」
たぶん良作とかはあるんだろうけど、人には好みってものがあってね。
読まず嫌いでごめんなさい。
「でも先生『プリティフェイス』とか好きっすよね?」
「あれ顔が美少女になったってだけで性別は男のままだしTSとは違うんじゃ?でも立場的には女になってるし通じるものはあるのか?よくわかんないな」
現在は原稿も上がり仕事後のマンガ談義中。
お相手はアシスタントその1 田中くん。アシスタントその2 秋野くんは机の下で眠っている。2人共年上だがまだ20代前半と比較的歳も近く、時々こうやって仕事後にだらだらしながら喋っている。
「先生ギャグ漫画好きですよね」
「うん。最近のだと『恋のキューピッド 焼野原塵』とか。個人的には5話のファミレスのやりとりが爆笑もの」
マジで面白いから読んだ事無い人は一度読んでみてくれ。
ギャグ漫画といえば先週の11月29日発売の週刊少年ジャンプ51号にて亜城木叶夢先生の読み切り『TEN』が載っていた。
吉田さん経由で聞いた話によると笑いを取り入れる為に描いたそうで、『疑探偵TRAP』でいきなり試すのは怖かったらしく読み切りを描いたらしい。
次号新年1号では亜城木先生の所でアシをしている高浜さんの読み切り『BBケンイチ』が掲載される。尚『Future Watch』の掲載予定は無いようだ、残念。しかし毎年思うけどなんで12月なのに新年1号なんだろ。何処かで出版業界の都合とか聞いた気もするけど、大した問題でもないから詳しくは調べてないんだよね。
最近の亜城木先生は絶好調なようでアンケート順位も上位をうろうろしている。
「僕もギャグは好きなんだけど描くとなるとなかなか難しいっすよね。単発なら色々思いつくんすけど、それを話しに絡めようとするとなかなか上手くいかなくて」
例外も居るだろうが、アシスタントの多くはマンガ家を目指している。うちのアシスタントもその例に漏れず開いた時間を見つけては自分の漫画を書いている。
「でもこの間見せてもらった『Final Future』上手くできてたと思うよ」
『Final Future』は絶望の未来を回避する為、未来から主人公がやってくるって感じの田中くんが描いている作品だ。何処かで見た事あるような設定だったが、内容は中々に面白かった。
「あれは上手く組み込めたと自分でも思ってました。友達にも見てもらったけど中々評判いいんですよ」
「見せる相手は選んだほうがいいですよ」
後ろから聞こえた声に振り返ると、秋野くんが体を起こし机の上に置いてあった眼鏡を掛けていた。
「ごめん、うるさかった?」
「いえ、そこまで寝るつもりは無かったので丁度良かったです」
「そうだ、秋野にはまだ見せてなかったっけ。良かったら見て感想聞かせてくんない?」
そう言って田中くんは近くに置いてあったカバンから原稿を取り出し秋野くんに差し出す。
「だからそういうのは軽々しく人に見せないほうが良いですよ」
「なんで?」
「なんでって……なんででしょう。ちょ、押し付けないでください!わかりました、わかりましたから。『Final Future』承認」
「それな。タイトル付けてから気付いたわ。秋野もそういうネタ好きだよな(笑)」
「まぁ好きだからこういう仕事してるんですけどね」
「んで、どう?」
「そうですね、これトランクス出てきませんけど大丈夫ですか?」
「出て来る方が問題だろ!」
「冗談です。まぁ未来から誰かが来る漫画なんて結構ありますしね。でも話の導入の所とかもうちょっと変えないとダメだと思いますよ」
「先生にも言われて直したんだけどまだダメかぁ。もういっそ設定変えようかな。未来から電波を受信したとか」
「有りですね。はっきり言って今のままの設定だとジャンプ読者には『ドラゴンボール』の印象が強すぎて…パクリと言われかねません」
「まぁ実際トランクス編見てこれ思いついたわけだし」
「似たような設定なら『ターミネーター』ですかね、漫画じゃないですけど。時間移動メインの漫画だとジャンプなら『タイムウォーカー零』ですかね」
「それ欲しいんだけど売ってねえんだよな」
「今度持ってきましょうか?」
「まじで!?サンキュー」
アシスタント共々売れっ子漫画家を目指して頑張ってるからみんな応援してくれよな!
最近までバクマン映画化してるの知らなくて先週DVD借りてきて視聴しました。
時間が限られているせいか色々省かれていたり原作とは少し違う展開でしたが、原作を知っていても楽しめる内容でした。
映像技術なども上手く使って動かないシーンでも飽きさせない作りだったり、逆にこんなふうに動かしちゃうんだと感心させられました。
作中の漫画なども原作と色々違いがあって見ていて楽しかったです。
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6頁
「港浦さんがあんなにギャグが好きだったなんて意外だよな」
「そうでもないかな。港浦さん前にもTRAPの連載ネーム見た時に硬いって言ってたし、おじさんが川口たろうだって知った時の反応も凄かったし。今思い返してみれば他にもいろいろあった気がする」
「そっか。まぁそのお蔭って訳じゃないけど『TEN』の読み切り載せてもらってラッキーだったよな」
「読者の反応が確認できたのは良かったと思うけど、シュージンギャグ路線に変更したいなんて言わないよな?」
「言わない。言わないけど笑いは必要だと思ってる。俺データ派だから港浦さんが集めた資料見てそう思った。実際ギャグ&シリアスって言うのかな。ギャグのある漫画は強いし人気もある。『キン肉マン』『銀魂』『CITY HUNTER』『REBORN』挙げればキリがない。要はさじ加減だと思うんだよな」
「そこまで考えてるなら問題無いな。問題があるとすれば…」
「アシスタントだよな」
「高浜さんの読み切り結果が良かったのは素直に嬉しいんだけど、白鳥くん大丈夫かな」
「加藤さん目がハートになってた」
『BBケンイチ』の読み切りの結果が良かった為、高浜さんが本格的に連載に向けて原稿に専念する為アシスタントに入れる日が大分減った。
高浜さんの穴を埋める為補充で入ってきたアシスタント白鳥くん。実力的には問題無いのだが、顔が良いせいか加藤さんに狙われている。
「加藤さん面食いだからな」
「おやおや、サイコーくんそれは自分がイケメンだと言いたいのかな」
「そ、そんな事言ってないだろ!」
「冗談だって。そう怒るなよ」
「…怒ってないし。そうだ、シュージン大学はどうする?」
「大学か。あと少ししたら高校生マンガ家からただのマンガ家になるんだよな俺たち。連載してるからいいけど、もし連載終わったら俺たちただのニートじゃん」
「肩書で人気が取れるとは思いたくないけど、保険はあったほうがいいのかな」
「行くとしたら仕事に差し支え無い所だな」
「勉強したくないな…」
「名前書けば受かるって所けっこうあるみたいだし平気だろ。行くなら同じ所行こうぜ」
「シュージンなら良い所狙えるんだし、わざわざ合わせなくてもいいんじゃ」
「サイコーがマンガ家やめるって言うならそうするけど」
「やめねーけど」
「ならいいじゃん。欲しいのは学歴じゃなくて肩書な」
「なんかごめん」
「最初にマンガ家になろうって誘ったのは俺」
「そっか。そうだな」
で、出番がなくても売れっ子マンガ家目指して頑張るから応援してくれよな!
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「初めまして、大神 時也です」
明けましておめでとうございます。
年も明けて本日は集英社の新年会にお呼ばれされています。
新人は辛いですね。挨拶回りとか気を使って疲れるし。
吉田さんは平丸さんを追いかけて何処かに行ってしまった。
平丸さんは吉田さんが担当するマンガ家でちょっとした逃亡癖がある。
最初に会った時は眉間に皺を寄せた気難しそうな人だなと思ったが、話してみると中々に愉快な人だったのを覚えている。人の懐に入るのが上手いというか、人の家に上がりこむのが上手い。
酔うと良く奥さんとの馴れ初めを聞かされた。なんでも奥さんは元マンガ家らしく、大恋愛の末に結婚したとか。
あれ、この時期ってもう結婚してるんだっけ?馴れ初めは良く聞かされたけど、何時頃結婚したとかはそういえば聞いた事ないな。
最近は良く仕事場に遊びに来るのだが、先程その事を知った吉田さんが逃げる平丸さんを追いかけ何処かに消えてしまい只今一人で挨拶回りを続行中。
「は、はじめまして、高木です。よろしくお願いします」
「作画を担当している真城です。なんでシュージンの方が緊張してるんだよ」
「いや、なんか大神さん堂々としてるから。何かコツとかってあるんですか?」
「コツってほどじゃないですけど、休み休みやってるからですかね?先生方に挨拶するの気力要りますから」
「でも休むって言っても立食パーティーだし食べてても結構声かけられるからあんまり休めない気が」
「イスに座ってると声かけられないですよ。まぁ暗黙のルールみたいだし絶対って訳じゃないみたいですけど」
「サイコー知ってた?」
「知らなかった。でも去年挨拶回り終わった後にイスに座ってた時はそういえば声かけられなかった気がする」
「初参加の大神さんが知ってるのに、参加2回目の俺たちが知らないとか超恥ずかしい…」
僕も知ったのは参加3回目ぐらいだったけどね。
「亜城木先生こんばんわー、シュピーン!」
何処からともなく新妻先生がサタデーナイトフィーバーの決めポーズをしながら現れた。
「新妻さん、こんばんわ」
「新妻さん今回もスウェットなんですね」
「楽な恰好でいいって雄二郎さんが言ってました。ところでそちらの人だれですか?」
「僕たちもさっき知り合ったばかりなんですけど、『time traveler』の大神先生です」
「初めまして、大神 時也です。よろしくお願いします」
「本当に若いですね。あ、新妻です」
新妻エイジ。
後にジャンプの看板作家となる若き天才。
前に会った時はもうちょっと落ち着いてたけど、若さ故なのかはじけてるな(笑)
というか本当にってどういう意味ですか。
「大神先生絵が上手だったのでもっと年配の人が描いてると思ってました、反省です」
「新妻さん、それってどういう意味ですか。失礼ですけど絵の上手さなら新妻さんの方が上ですよね。なのにそう思ったって事は何か理由があるんですよね」
おっふ。確かに新妻先生や真城先生ほど絵は上手くないけど、改めて言われるとけっこうくるものがある。
「大神先生の作る話とても引き込まれます」
「話の内容で負けてるってことじゃないよな…」
「シュージンの作る話は面白いよ。新妻さんが言いたいのはそういうことじゃないと思う。たぶん話の流れとかじゃないかな」
「はい。大神先生の作る話とても上手です。それに場面に合った絵も絶妙だと思います。力を抜くべき所は抜く感じとても勉強になります」
「確かに新妻さん常に全力って感じするしな」
「うん。前に福田さんにも似たような事言われてた」
話の構成には自信があります。なにせ絵が中々上達しないものですから、それ以外の所で補おうと試行錯誤してましたから。
力の抜き加減は覚えるまでに随分と怒られました。時間短縮になるからと安易に絵を崩した時なんか吉田さんにアームロック食らいました。力を抜く=デフォルメとかじゃないんですよね。場面に合った柔らかさと言いますか、日本語って難しいね。
なんか新妻エイジに認められた凄い奴みたいな目で亜城木先生に見られてます!過大評価だと言いたいけれど言わない。すぐに先生たちと争えるような売れっ子漫画家を目指して頑張るからみんな応援してくれよな!
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知っていて行動を起こさない事は悪い事だろうか。
俺には未来の記憶がある。つまりこれから先起こるであろう出来事を知っているのだ。
ただ知っていると言ってもなんでも知っているわけではない。俺の頭はそこまでハイスペックではないのだ。
覚えているのは大きな事件や災害、自分に関係する事ぐらいだ。それだって何月何日何時何分と詳しく覚えているわけではなく、あれって今年の夏だよなーとか確か2月ぐらいだったかなとか非常に曖昧だ。
そんな曖昧な記憶を頼りに行動して、もし記憶違いとかだったらどうする。
もう一度聞こう。知っていて行動を起こさない事は悪い事か?
「そりゃ悪いだろ。罪にはならないかもしれないけど人間として最悪だな」
「だよなー」
自分が至った答えと同じ事を言われ、どうしたものかと肩を落とす。
「なんかいいアイデアない?」
「ちなみに何もしないとどうなる設定?」
相談相手の千葉は相談料のアクセルコーヒーをすすりながら問いかけてくる。
千葉は過去未来も含め一番付き合いの長い友人であり俺がマンガ家なのも知っている。知っているというかこの間バレた。だからマンガの中の話と仮定してこれから起こる誘拐事件をどうしたらいいのか相談している。
「数日で警察が犯人を探し出すんだけど、犯人を確保した時にはもう女の子は殺されてた」
「なんで過去形。女の子を生かしておいてそれを助け出すとかに話変えれば?」
「攫われてからどれくらいで殺されたかわかんないから無理。攫われたら女の子が死んでるのはデフォルトでお願いします」
「なんでだよ」
「…もう描いちゃったから?」
「俺が聞いてるんだよ。前の話直せばって言いたいけど都合が悪くなるたびに直してたら話がおかしくなっちゃうか。んー、そうだな。その子尾行しようぜ」
それは俺も考えた。
攫われる日時や場所は曖昧、犯人の名前も記憶に無いのだ。確実に誘拐を阻止したいのなら、起こるまで見守ればいい。
幸いというか期間は限られている。
犯行は1月20日土曜日、もしくはその次の日の日曜に行われる。
1月20日土曜日はこれから受験をする中学生の保護者を対象にした説明会で本校の生徒は休みで部活もない。
当時は本来登校日のはずの月曜日が説明も無く臨時休校となり、事の詳細を知ったのは火曜日になってからだった。同級生の子だっただけに衝撃的で、忘れたくても忘れられない記憶だ。深く考えず臨時休校ラッキーとか思っていた自分が恥ずかしかったのを今でも覚えている。
「み、見つかったらどうしよう」
だが確実だからって簡単にYESとは言えない。もし見つかってストーカーと思われたらどうするのさ!
「見つからないように描けよ。マンガなんだしそれくらい有りだろ」
出来ないとは言えない。しかし他に方法も思い浮かばなかった。
「サイコー、あれ」
八名大経済学部の受験が終わり帰ろうと校門を出た所でシュージンが前を指さし立ち止まる。
なんだろうとシュージンが指し示した方向を見ると
「…大神さん?」
少し離れた場所だったので声が聞こえたわけではないだろうが、こちらの声に反応したかのように振り返る。
大神さんは回りをキョロキョロと見回すと再び歩き出す。
咄嗟に隠れてしまったけど声かけた方がいいだろうか。
「何してんだろう?」
「ここに居るって事は大神さんも大学受験に来たんじゃないのかな?」
「新年会で大学には行かないって言ってた気が。それになんか大神さん動きが変じゃね?」
「そういえば妙に周りを気にしてるような」
「サイコーちょっと尾行してみようぜ」
「なんでだよ」
「なんかおもしろそうだし。それにTRAPの参考になるかもしれないしな。探偵と言えば尾行は付き物だろ」
そう言われると断れない。
尾行し始めて気付いたのだが、どうやら大神さんも誰かを尾行しているみたいだ。これは俗に言う二重尾行というやつではないだろうか。なんかハンターハンターっぽくてワクワクする。
最初は乗り気ではなかったのだが、尾行の途中で身バレしないように途中で帽子やサングラスを買ったり、掛かってきた電話にあたふたしているうちに楽しくなってきた。
「サイコー、俺アイデアがガンガン沸いてくるんだけど!」
「うん、僕も尾行してる構図とか自然に頭に浮かんでくる」
そうこうしてるうちに大神さんが突然走りだす。
どうしたのかとこちらも走り、目にしたのは見知らぬ男にドロップキックをかます大神さんの姿だった。
近くには大神さんが尾行していたであろう女の人が尻もちをついて座り込んでいた。
「えっ、なに、どゆこと!?」
「シュージン、停まってる車からも誰か降りてきた!」
大神さんはすぐ横に停まっていた車から降りてきた2人の男と起き上がってきた男に囲まれ殴られ始める。
「け、警察────」
犯人が3人なんて聞いてないよ…。
いや、覚えてないと言うのが正しいのだろうかこの場合。
あの後誰かが警察を呼んでくれたらしく、無事犯人は捕まった。俺は無事じゃないけど。
助けた女の子からは泣きながらありがとうと言われたが、俺は感謝されるような人間じゃないと言いたかった。
俺はこの事を知っていたんだ。知っていて本人に誘拐されると伝えるかどうか迷ったが、結局言えなかった。
なんて言えばいいのか分からなかった。
何言ってんのと変な目で見られるのが怖かった。
もし誘拐が起こらなかったらなんて言い訳すればいいんだ。
我が身可愛さにそんな事ばかりが頭に浮かんだ。
もっと強くなりたい。そう思った。
今は情けない俺だけど、自分を貫けるような売れっ子漫画家目指して頑張るからみんな応援してくれよな!
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