魔法少女リリカルなのはvivid×仮面ライダーキバ 〜戦いの運命〜 (セルヴィ)
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ワタルという少年

魔法が発達した世界ミッドチルダに存在する深き森。そこには馬の意匠がある異形の怪人 ホースファンガイアと白い純白の戦士 イクサがいた

 

イクサという名はIntercept X Attacker 未知なる驚異=ファンガイアに対する迎撃戦士の略称である。ロールアウトしてからそろそろ2年。もうすぐ新たなイクサシステムが創られようとしていた。これが今のイクサにとって最後の戦いとなるかもしれないのだ。当然今までとは気合の入り様が違かった

 

「さあ、そろそろお終いだ」

 

イクサの言葉にホースファンガイアの身体のあちこちに人間の顔が写り、喋り出す

 

『くっ・・・まだ負けはしない!』

 

そう苦しそうに呟くホースファンガイアだったがイクサは銀色のフェッスルを取り出し、ベルトの挿入口に差し込む。そしてイクサナックルを左に押す

 

「あばよ」

 

『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』

 

イクサはイクサナックルを右手に持ちホースファンガイアへと殴るように向ける。イクサナックルから放たれた山吹色のエネルギー弾がホースファンガイアを襲う。ブロウクン・ファングと呼ばれるこの必殺技はホースファンガイアの身体に当たり、大きく吹き飛ぶ

 

『グァアアア‼︎』

 

そして悲鳴を上げるとステンドグラスとなって砕け散った事を確認したイクサは変身を解く

 

「渡・・・頑張れよ。俺もかげながら応援しているからな」

 

そう呟くイクサの変身者 白銀オトヤ。ファンガイア族を統制する役割を持つ最強の四人 チェックメイトフォー。オトヤはその頂点であるキングという称号を持つ者だった。しかしそれは昔の話。今はもうキングは新たな者が襲名した。その者は白銀ワタル。彼の息子である。だがワタルはまだ赤ん坊。未来から来たワタルの話からおそらく悩み多き人生を歩むだろうと思いながらも彼は息子を信じていた。そして彼は自身の妻であるマヤと旅の途中だった

 

「あいつらは元気だと思うか?」

 

「大丈夫よ。ビショップたちがついてるわ」

 

「そうだな。まぁ、いつか時が来れば会えるだろう」

 

二人は手を繋いで森を歩いて行く

 

 

 

 

 

 

あれから12年後

 

 

夜の広場を何かから逃げるようにカメレオンの意匠を持つカメレオンファンガイアが走っていた。しかしカメレオンファンガイアの前に現れるブラウンの髪をした少年。彼を見た瞬間カメレオンファンガイアは尋常ではない程に狼狽える

 

「どこへ行く気ですか?」

 

『キング!』

 

チェックメイトフォーのキングこと白銀ワタル。ブラウンの髪は風に吹かれて靡き、目は鋭くカメレオンファンガイアを見つめている

 

「我々に害なす者よ。貴方に死の制裁を与えます」

 

そう告げるとキングの紋章がある左手をカメレオンファンガイアに向ける。慌てて逃げようとするカメレオンファンガイアであるがワタルの左手から制裁の雷と呼ばれる黄色い光がカメレオンファンガイアを襲う。するとカメレオンファンガイアの身体はステンドグラスとなって粉々に砕け散り、それを確認したワタルは音もなく姿を消した

 

 

 

 

 

ミッドチルダの首都クラナガンにある高層マンション。その一室にワタルはいた。空はまだ暗く、星が浮かんでいる

 

「さて。これからどうすればいいんだろ?・・・」

 

椅子に座り、手袋をしている左手を見ながらそう呟くワタル。そしてその疑問に答える黒い蝙蝠 キバットバット2世がいた

 

「今のところはお前にできる事はない。できるとすれば粛清とビショップからの連絡を待つだけだな」

 

「うん・・・もし僕たちが得た情報が本当なら大変な事になる。絶対に阻止しないと」

 

そう神妙な顔で呟くワタル。ファンガイアを統べるキングである彼には一族を守る長としての責任がある。その為一族が滅亡してしまうような事になるのは見過ごせないのだ。ここにいるのはキングという肩書きを持った少年ではない。一族を守ろうとする王の姿だった

 

「ファンガイアは必ず守ってみせる」

 

 

 

翌日

 

「そろそろ学校に行く時間じゃないのか?」

 

2世の言葉を聞いたワタルは時計を見る。確かにそろそろ行った方がいい時間だと思ったワタルは頷き玄関へと向かう

 

「うん。じゃあ行ってくるね」

 

「ああ」

 

ワタルが通う学校はST.ヒルデ魔法学院という。ここには初等部と中等部があり、ワタルは中等部一年生だ

 

 

 

「・・・頑張っているようだな」

 

ワタルが授業を受けている姿を少し離れたところから見ている2世はそう呟いた

 

 

 

放課後 ワタルの前に黒い短髪の少年 天宮リュウヤ。彼は手を顔の前で合わせながらワタルに頼み込む

 

「ワタル!宿題教えてくれよ!」

 

「いいけど。ちゃんと自主的に勉強してよ」

 

ワタルの話しに言葉を詰まらせるリュウヤは冷や汗を垂らす。リュウヤは勉強が大の苦手だ。得意な教科は何かと問われたら無いと話す程である

 

「うっ・・・善処します」

 

 

ワタルの家で勉強しようと家への道を歩いている二人は同じクラスメイトである蒼銀の髪をした少女 アインハルト・ストラトスを見かける

 

「あれってアインハルト・ストラトスじゃん。あいつは何してんだろうな?」

 

走っているアインハルトを見てそう呟くリュウヤは彼女が普段何をしているのか少し気になっていた

 

「さあ。ただあまり関わりたくないな」

 

「なんでだよ?確かに無愛想だけど可愛いじゃねえか」

 

ワタルの言葉に疑問を感じたリュウヤは自身が思っていることを口にする

 

「僕はファンガイアのキングで彼女はイングヴァルトの末裔で記憶継承者だ。僕がキングだと分かればどうなるか分からない」

 

”覇王イングヴァルト”

 

古代ベルカの時代に存在した王の一人であり、アインハルトの祖先だ。キングとも深い関わりを持っていた。その為アインハルトとあまり関わりすぎるとどうなるのか分からない。ワタルの答えに納得したような声を出すリュウヤは彼の肩を叩く

 

「そっか。確かにお前はキングだから色々大変だもんな」

 

「まぁ、僕の仕事はあまりないんだけどね」

 

 

 

ワタルの家に着いた二人はリビングで勉強をしていた

 

「で何が分からないの?」

 

「数学のこれだよ」

 

問題の一つを見せてくるリュウヤに溜め息を吐くワタル

 

「簡単だし前にやったやつだよ」

 

「数学は寝てるから覚えてねえ」

 

堂々と言い切る彼に呆れた目を向けるワタルは

 

「a=4だよ」

 

「おっサンキュー!」

 

こんな調子で勉強は進んだものの無事に終わった

 

 

 

 

夜のシロガネ邸

 

そこではワタルが寝間着姿で外を見つめていた。まだ眠れないようだ。そんなワタルに2世が近付いて来る

 

「眠れないのか?」

 

「うん・・・」

 

2世はコクンと頷くワタルの肩に乗る

 

「明日も学校があるのだろう?早く寝ろ」

 

「うん。ありがとう。ねぇ」

 

「何だ?」

 

ワタルは遠くを見ていた。行方が分からない父と母。二人の行方を自身の持つ力を駆使して探しているワタルと見たという場所に赴く双子の弟であるコウガだがいつもすでに去った後という状態だった

 

「父さんと母さんは見つかるかな?」

 

「きっと見つかるだろう」

 

「・・・そうだね」

 

こうしてワタルの1日が終わる。果たして彼はオトヤとマヤに会うことができるのだろうか?

 



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第1楽章 start! 先祖の形見と覇王との邂逅

ワタルの一日はバイオリンとリュウヤに割かれる。バイオリンに割かれるのは音楽、特にバイオリンが好きな為。リュウヤに割かれるのは唯一無二の友人である為に一緒にいる事が多く、更にはファンガイア関係者でもあるので必然的に時間が多くなるのだ

そして今日は学校も終わり暇だった為にリュウヤと遊んだワタルは夜。タキシードを着崩したワイルドな男性 次狼ことガルル、燕尾服を着た屈強な男性 力(リキ)ことドッガ、セーラー服を着ているラモンことバッシャーがいるキャッスルドランに来て、彼らと本棚を整理していた

 

しかしその最中、ラモンが一つの赤い古びた本を手に取った時。突如本が光り出し、弾かれるようにラモンは本棚に背中をぶつける

 

「うわっ!」

 

その際に出た音に気付いたワタルたちがラモンに近付く。まず最初に口を開きかけた次狼だったがラモンの近くにある赤い本を見て顔色を変える

 

「これは・・・」

 

特に変わった様子もないただの本にしか思えなかったワタルは次狼に問いかける

 

「次狼さん、あれが何なのか知ってるんですか?」

 

「ああ。ワタル。その本を左手で持ってみろ」

 

言われた通りに手袋をした左手で本を持つが何もない。ますます不思議に思うワタルに反し、次狼は何かを確信したかのように笑い、指示を出す

 

「これに意味あるんですか?」

 

「慌てるな。直に分かる。一度地面に置け。力。今度はお前が持ってみろ」

 

すると力はラモンと同じように弾かれるように後ろへ後退させられる。まるで何かが拒絶しているかのようで三人は困惑した顔を見せた

 

「ねえねえ。どうしてワタルだけ大丈夫なの?」

 

「それは初代キングが後世のキングに残した本だ。おそらく、レジェンドルガとその時代に生きた王たちについて書かれている。覇王についても詳しくな」

 

ファンガイアの王家には初代キングの警告にも似た遺言が残されている

 

”イングヴァルトの子孫と関わるな。もし、関われば苦難が待ち受ける”という謎の遺言が。ワタルは一度ビショップに聞いた事がある。何故こんな文を初代キングは残したのかと。その時返って来たのはますます困惑させるような答えだった

 

『初代キングは覇王とご友人でした。共に切磋琢磨し合う相棒のようだったと言われている程に。だから私も何故そんな文を残したのかと言われても分からないのです。ただ、私は覇王との間に何か二人の仲を切り裂く何かがあったのではないかと思っています』

 

だが、だからこそその日からワタルはその二人の仲を切り裂く何かがあったのか、何故あのような遺言を残したのかを知りたいと思っていた。その答えが今、目の前にあるのだ。気付けばワタルの喉がゴクリと鳴っていた。ただ、白紙なので何か見る為の仕掛けがあるのだろうと考えていた

 

「じゃあ、曽祖父さんがなんであんな言葉を残したかも・・・」

 

「書かれている筈だ。魔皇力を込めてみろ」

 

ワタルが次郎の言う通りに魔皇力を込めると何も書かれていなかった本に文字が浮かぶ

 

「文字が・・・」

 

ワタルはページを開くと息を呑む

 

 

 

 

一時間掛けてワタルは初代キングの手記を読み終えた。その文に書かれていたのはワタルの疑問を解いてくれた。だがまだ全てではない

 

「なるほどな。これで幾らか謎は解けたな」

 

「はい。でも最後に書かれていた我がクイーンの形見って何だろう?」

 

「さあな。それはまだ分からん」

 

初代クイーンの形見とは何なのか、この場にいる誰も分からなかった。初代クイーンの形見はおそらく紛失したのだろう。あるのならばワタルが、次郎たちが知らない筈がないのだから

 

しかし場所が分からなくてもワタルはミッドチルダにあると思っていた。何故なら、初代クイーンが死ぬ間際まではあったと記載されており、初代クイーンはミッドチルダで亡くなったのだ。そしてその後、何らかの理由で紛失してしまったのだと思っていた

 

幸いにも最後の行に、クイーンについて書かれた本をキャッスルドランの本棚のどこかに隠したと書かれている。ならば見つかる筈。まずは本を見つけ、初代クイーンの形見が何なのかを知り、場所を特定しなければならない

 

「じゃあ、僕は明日から形見について調べときます。場所も分かると思うし」

 

早速明日から始めようと思ったワタルだが次狼がそれに待ったを掛ける

 

「待て。それは俺たちがやっておく。お前はヴィヴィオと覇王の末裔に気を配っておけ。その二人を狙う奴らが現れるかもしれんし、覇王の末裔が本当に初代キングが記した通りなのか知る必要もあるしな」

 

「だけど・・・」

 

しかし、それでもワタルはまだ調べる気があった。それに気付いた次狼は自分の本音を話していく

 

「いいか。お前はまだ子供だ。オトヤのように一人で簡単にこなせる物は少ない。だが力なら、オトヤに負けているとは到底思えん。もしかしたら凌いでいる可能性もある」

 

「僕が父さんを?」

 

ワタルは次郎の言う事が信じられなかった。なんせ、オトヤは歴代キングの中でも最強だと言われているのだ。それに対して自分はファンガイアのなり損ない。ファンガイア態になる事は出来るし、その力は上級ファンガイアとやり合える程である。だが、なった後の後遺症がとてつもなく凄い。力の反動とも言うべきそれはファンガイア態の途中になる事すらあり、とても実戦で使うにはリスクが高すぎる。所謂宝の持ち腐れという奴だ

 

自分はファンガイア態にならなくてもある程度はファンガイアと戦えるがファンガイア態になると力の制御が難しい。しかしオトヤはファンガイア態にならないで中級ファンガイアと余裕でやり合えるし、ファンガイア態になっても力の制御は完璧。ファンガイアになると自我を失いかける事すらあるワタルとは正反対なのだ

 

なのにも関わらず自分が父を凌いでいる可能性すらあると次狼は言う。ワタルはそれがお世辞であっても嬉しいと思った。そう言ってくれるという事は自分を認めてくれているという事だから。ただし、次狼はお世辞でもなく、本当にそう思っていたのだがワタルはそう思わなかったようだ

 

「ああ。だからこそ、お前は二人に気を配っておく必要があるんだ。これから先に起こる戦いではどちらかが重要なキーマンとなる。奴らの手に渡るような事があってはならない。分かるな?」

 

小さくコクンとワタルは頷く

 

「これはお前にしか出来ないキングとしての責務だ」

 

ワタルは次狼の言う通りにする事にした。それが最善だと思ったから

 

「はい。でも、何か分かったら教えて下さいね」

 

だが初代クイーンの形見が何なのかは気になるのでちゃんと報告するように釘は刺したが

 

「ああ。ほら、早く寝ろ。もう子供(ガキ)は寝る時間だ」

 

「おやすみなさい」

 

そのままワタルは部屋を出て、寝室に向かって行った。それを確認した次狼たちは再び作業を再開した

 

 

 

 

〜翌日〜

 

昼の時間 ワタルはリュウヤと屋上でご飯を食べながら話していた

 

「今日さ。ワタルは用事あんの?」

 

「ないけど・・・」

 

キングの仕事はやる事が少ないから楽だというのはオトヤの弁。まさにその通りで、やる事は全くないので趣味に一日の大半が割かれるがワタルも今日はやる事がないので暇だった

 

リュウヤはワタルの言葉を聞いてガッツポーズをする。ヴィヴィオは近所に住む妹みたいな存在で大事に思っているから試合を応援しに行ってやりたい。だが流石に女子ばかりがいる所に男一人だけで行くのは気が引ける。その為に女子がたくさんいても全く気にしないワタルについて来て貰おうと考えたリュウヤはすぐに誘おうとした

 

「よし。じゃあ、ヴィヴィオがスパーやるから来てくれって言ってたから一緒に行こうぜ!」

 

「分かった。でも、一応あれは持って来なよ?襲い掛かるだけの価値がある人ばかりいるんだから」

 

確かにナンバーズは数人は絶対に来る。しかもヴィヴィオは聖王だからファンガイアが襲い掛かって来ても不思議ではない。ならばワタルの言う通りアレを持って来た方がいい

 

「分かってるって‼︎」

 

そう判断したリュウヤは満面の笑みで返事をする

 

「(・・・・・・不安だ)」

 

 

 

 

 

 

〜放課後〜

 

ワタルはリュウヤと彼の家に向かっていた。リュウヤが持って来ない可能性は高いので付いていく事にしたのである。やがて二人の目の前に一軒家が見え、リュウヤが鍵を開け、扉を開ける

 

「ワタルはちょっと待ってろよ」

 

「うん。なるべく早くね」

 

「ああ‼︎」

 

ドタドタという音と共にリュウヤは家の中に入り、階段を登って行く。その直後、ガシャガシャと何かを漁る音が数分の間、響き渡った

 

 

 

 

 

しかし漁る音が止むとリュウヤが出て来る。少し疲れた顔をしており、少し息切れを起こしていた

 

「お待たせ〜」

 

「あったの?」

 

「入れといたっての。じゃあ、行こうぜ」

 

その言葉とともにリュウヤはすぐに息を整えると区民センターに向かって歩き始めた

 

 

 

 

区民センターに着いた二人は中に入るとどんどん進んで行く。やがて練習場へ足を踏み入れると女子の人集りが出来ているところに近付いて、10歳くらいの金髪の少女に声をかける

 

「よう、ヴィヴィオ」

 

「あっ!リュウヤ!ワタルさんも!」

 

高町ヴィヴィオ。彼女はリュウヤの家の近くに住むご近所さんで母親は高町なのは。因みにワタルが少し怖かったりする

 

「お前、スパーって誰とすんの?」

 

リュウヤがヴィヴィオに問いかけると答えたのは近くにいた赤髪の女性 ノーヴェだった

 

「あいつだよ」

 

ノーヴェが視線を向ける方に二人が目をやるとそこにはアインハルトがいて、ワタルが小さく声を上げる

 

「あっ」

 

「あいつは・・・」

 

二人は戸惑いが籠った目でアインハルトを見ている。まさか彼女がヴィヴィオの相手だとは思わなかったがワタルにとっては彼女を見極める良い機会だと言えた

 

「アインハルト・ストラトス」

 

初めて覇王の末裔と魔皇の末裔が邂逅を果たした日であった



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第2楽章 the first! 王の変身‼︎

今回、ワタルが変身します。


ワタルとリュウヤは皆より少し離れた場所でヴィヴィオとアインハルトの試合を見ていた。しかしその最中、リュウヤがある場所に目をやると目を見開き、ワタルに耳打ちをする

 

 

「ワタル・・・」

 

「うん。見てるね」

 

二人がチラッと目を向けた先には眼鏡をかけた男性 墨田が。墨田はヴィヴィオとアインハルトの試合を表向きは真剣に見ている。だが二人は知っていた。あれは過激派のファンガイアだと。彼はワタルが生まれる前に起こった戦いで破れ、6年前に牢獄で死んだと思われていた

 

だが今、二人のすぐ近くにいる。目的はおそらく、ヴィヴィオかアインハルトのライフエナジーだと推測したワタル。それは聖王と覇王。その血を受け継ぐ二人のライフエナジーはかなり価値が高いと言われるからだ

 

通常、ライフエナジーの摂取は食事という価値でしかない。しかし例外として古代ベルカ時代に存在した王の血を引き、力か記憶を受け継いでいた者からライフエナジーを摂取した場合、進化を遂げたファンガイアが少数であるが存在する

 

もっともこれを知る者はチェックメイトフォーと次郎たち アームズモンスター、そして高位に位置するファンガイアくらいなのだが墨田は下級のファンガイア。それを知る事が出来るほどの力があった訳でもなく、そもそも過激派にはそういう情報が入らないようにビショップが動いていた筈なのだ。つまり、考えられるのはそれを知る誰かが墨田に教えたという事になる

 

だが一体誰が?

 

深い思考にはまり掛けていたワタルだったがそれを遮るようにリュウヤが話しかける

 

「で、どうすんだ?」

 

ワタルは我に返り、すぐにどうするかを考え出す

 

ここで戦うという案は却下だ。そもそも墨田は人間社会では何もしてないので傍から見たら、喧嘩を売ったようにしか見えないしキバに変身して戦うというのもリスクが高すぎる。下手をしたら管理局が敵になるので駄目

 

見逃すも却下。見逃したら他の魔族に危害を加えるかもしれないのでそんな選択肢は無い

 

あとは泳がせて、捕らえる。まずどちらが標的なのかを知り、襲って来たところで適度に攻撃して捕まえ、情報を聞き出す。まあ、情報は聞き出せなくても仕方ないので、聞き出せるなら聞き出すという形にしよう。ワタルは瞬時にそう決めた

 

「正体がバレるのは避けたい。それに戦えば被害は大きいし、ファンガイアは悪という印象を与えかねない」

 

それは今、この世界に生きるファンガイアたちの人生を奪う事になりかねない。人間と共存するファンガイアの中にはその人間に全てを話している者もいるのだ。そんな事はキングとして到底許容出来るものではないし、大勢の前で戦っても損しかない

 

「大丈夫なのか?」

 

そしてそれは逆も然り。正体がバレれば人間から攻撃されるのは間違いないだろう。墨田は気付いていないが魔導師だけでなく、ファンガイアのキングがいる。魔導師だけでも手こずるのだ。ワタルに気付いていなくてもそれでも戦おうとしない筈。やるとしたら僅かな人数になった時である

 

「奴としてもバレるのは避けたい筈だから、ここで暴れる事はないよ。やるとしたら少人数になった時だね。俺たちで片方を守って、もう片方はティアナさんたちに任せよう。勿論、密かに部下の護衛をつける」

 

「分かった。じゃあ、ヴィヴィオは一緒に帰る事を口実に護衛するか。アインハルトはティアさんたちに任せて」

 

「そうだね。ストラトスさんとは接点がないし。あの程度なら魔法を使って戦えば十分に対処出来るから大丈夫だろうしね」

 

墨田は実力は高くない。魔法を使えば手こずるが必ず勝てる相手だ。その為、ティアナたちがいれば大丈夫だろうとワタルは考えた

 

「なら、ティアさんには俺から言っておく」

 

「うん。よろしく」

 

「(上手くいけば、確かめられるからね。彼女がどっちを持っているのか)」

 

 

 

 

夕方頃 ワタルとリュウヤは落ち込むヴィヴィオと一緒に帰り道を歩いていた。アインハルトと戦ったヴィヴィオは自分が不真面目に闘っていたと思われたのかもしれないと先ほどからずっとこの調子だ

 

確かに遊びと趣味の範囲内だったら十分強い

 

そう言われたら落ち込むのも無理はないだろう。ただ、そのせいで三人の周りだけ暗いオーラが漂っていた

 

「あんま落ち込むなって」

 

リュウヤがそう言うもののヴィヴィオは相変わらず落ち込んだまま

 

「・・・うん」

 

それにまた会話が途切れ、ますます空気が重くなるかと思いきや、珍しくワタルがフォローに回った

 

「リュウヤの言う通り落ち込む事はないよ。次戦う時にはヴィヴィオちゃんの気持ちが届くように頑張ればいいぬんだから」

 

「ワタルさん」

 

「ああ!落ち込む暇あったら練習した方がいいんじゃねえのか?アインハルトにお前の気持ちが届く為にな!」

 

二人の言葉に笑顔を見せたヴィヴィオ。

 

「うん!ありがとう!リュウヤとワタルさん!」

 

それを見た二人はホッと息を吐いた。

 

 

 

 

一方で夜。ティアナはスバルとアインハルトを乗せ、車を走らせていた。帰る前にリュウヤから少し話を伏せながらではあるが墨田の事を聞いたティアナは帰り道に襲われるかもしれないので、護衛の為に車で送っているのだ

しかしその途中、ティアナたちの前にマントを羽織い、指輪を幾つも着けている男が現れた。いきなり前に立たれた事に驚きつつもティアナは車に急ブレーキをかけ、何とか止まると車から降りて

 

「あんた!危ないじゃない!」

 

男に注意する

 

「覇王の末裔がそこにいる筈だ。渡してもらおうか」

 

しかし彼は全く取り合わずに命令するような物言いで話す

 

「(まさか、こいつがリュウヤの言っていた奴?でも聞いていた特徴と全然違う)」

 

彼がアインハルトを狙っていると分かるとティアナはデバイスを展開しようとする

 

「まあ、いいわ!」

 

「渡すつもりは無いんだな?なら」

 

その行動でティアナがアインハルトを渡す気は無いと理解した彼の顔にステンドグラス模様が浮かんだかと思うと次の瞬間、虎の意匠を持つタイガーファンガイアに変身した

 

「なっ⁉︎」

 

「力尽くで奪うまでだ」

 

その姿にティアナは目を見開く。明らかに人間とは違う姿。彼が何者なのか。それを知りたいと思うがアインハルトを守る事が重要だと気を引き締め、自身の相棒と言うべきデバイス クロスミラージュを構える

 

 

 

 

 

 

そしてそれを見ていた者たちがいた。人数は男が三人に女が一人

 

「キング。S級犯罪者 ドウコが対象と接触しました。いかがなさいますか?」

 

一人の男がインカムを着け、ワタルに確認を取る。今、自分たちが行った方が良いかもしれない。だが自分たちでは1分もかからずに倒されてしまうだろう。その為、上司であるワタルに確認を取った。勿論、戦えと言われたら戦い、死ぬ覚悟はある

 

『今向かってる。判断は任せるよ』

 

「分かりました」

 

だがそうは言われなかった。ならば自分たちが命を捨てるのならば、奴が油断しきった時か、アインハルトたちの誰かが彼にやられそうになった時だ

 

そう決めた彼らは密かに戦いを見守っていた

 

 

 

 

数分後 蛸の触手で三人は拘束されていた。ティアナたちはタイガーファンガイアの隙を突き、逃げようとしたのだがオクトパスファンガイアという予想外の敵が現れてしまう。そのせいで触手に身体を拘束され、引き寄せられようとしている。ティアナとスバルは管理局の陸戦魔導師として、足腰を鍛えている為に今は大丈夫だがアインハルトはそうもいかない。まだ12歳という年齢である為に足腰を鍛えられていないのだ。現に今、アインハルトはゆっくりとオクトパスファンガイアたちの方へ引き寄せられていた

 

 

 

 

それには静観していた彼らも不味いと思ったようだ

 

「おい!」

 

「不味いな。我々も参戦するぞ」

 

彼らの頰にステンドグラス模様が浮かび、ファンガイアに変身しようとする。しかし一人の男がある一点に目を向けると他の者を止めた

 

「いや、待て‼︎」

 

 

 

 

男が見た方向にはワタルと二世の姿が。ゆっくりとティアナたちの方に歩くワタルはおもむろに右手を身体の前に出す

 

「行くよ。二世‼︎」

 

「ああ‼︎任せろ!」

 

二世は出された右手に近付き、噛み付く

 

「ガブリ!」

 

するとワタルの身体に変化が起こる。魔皇力が活性化された事で首筋から頰にかけてステンドグラス模様の痣が浮かび、腰に複数の鎖が巻き付いたかと思うとそれは左右にそれぞれ三つの笛の形をしたフェッスルと呼ばれる物を装鎮した黒いベルトが

 

「変身!」

 

強い決意を持ってそう叫んだワタル。それに応えるように二世が逆さ吊りでベルトに収まるとワタルを中心に緑色の波紋が広がる

 

それが弾けるようにして消えるとワタルは闇のキバという一族に伝わる最強の鎧を纏っていた

 

蝙蝠を彷彿とさせる姿、緑色の複眼に黒いマント。そして血を思わせる赤い真紅の鎧

 

 

闇のキバの鎧はかつて古代ベルカの時代にナイトとポーンという双子によって作られた鎧だ。純度の高い魔皇石は使用者の力を最大限に引き出す事を可能にし、その力を持って魔族を滅ぼして来た恐怖の象徴であるがリスクも存在する。大き過ぎる力はその者の身を滅ぼすと言われるように力を制御出来なくなり、暴走する可能性がある。その為にダークキバに変身するのを避けたがる傾向にあるワタル。しかし本当に変身しなければならない時にしない程彼は愚かではない。変身した時にはキングとして敵を滅ぼす、現代のキバだ

 

「ハアッ‼︎」

 

ダークキバは彼女たちの方へジャンプすると、アインハルトとオクトパスファンガイアの間に入り、触手を解く。突然の事で驚いているのか、固まった動けないオクトパスファンガイアにダークキバは構う事なく、二人を拘束していた触手も解き、オクトパスファンガイアを蹴り飛ばす。勢いよく吹き飛んだオクトパスファンガイアを追撃しようと走るダークキバ。しかしそんな中、アインハルトはギュッと拳を握る

 

 

 

更に追撃しようとしたダークキバの前にタイガーファンガイアが現れる

 

「まさか、キング自ら現れるとはな」

 

その声は震えていて動揺しているのが分かる程だった

 

「ふん。貴様ら重罪人を他人に任せるつもりは無い。俺、自ら裁いてやる」

 

口調を変えて喋るダークキバはタイガーファンガイアが繰り出したパンチを軽く流し、逆に右ストレートを叩き込む。一歩、二歩とよろめくタイガーファンガイアに攻撃しようとする。それを見たダークキバは早く戦いを終わらせようと両手を広げ、波動結界を発動しようとした

 

 

しかし、そこへ武装形態によって成人女性の姿となったアインハルトがダークキバに拳を向ける

 

「キバーーーーーー‼︎!」

 

 




「貴方は何をしたのか分かっているのですか⁉︎」

「あいつの先祖がお前の先祖に何をしたのか俺は知らない。だけどあいつはお前に憎しみを向けられる理由は一つも無いんだ。同じ鎧を着ていてもお互いに違う存在だから思う事も性格も違うんだ」

「しばらくは闇のキバになるのは禁止だ」

「僕はキングだ。キングとして一族に仇なす輩は排除する!」

「王の名の元に貴方を処刑する‼︎」

次回『over heat キングの判決!」


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第3楽章 over heat キングの判決!

ダークキバがアームズモンスター使役するとしたらどうなんだろ。


「キバーーーーーー‼︎!」

 

アインハルトの拳がダークキバに向かって放たれる。しかしその拳はダークキバが跳んで避けた事で空を切り、当たる事は無かった。

 

「アインハルト!どういうつもり⁉︎」

 

これはティアナたちも予想していなかったのか、ティアナが問いかける。

 

「すいません。ですがこれは私の中にあるイングヴァルトの悲願なんです」

 

強い意志で自身を見つめてくるアインハルトにダークキバは自分の中で結論を出していた。

 

「(あっちの方の記憶で間違いないかな)」

 

彼女に関わるのは良くないという結論を。もう既にタイガーファンガイアたちは逃げてしまった。部下が追っているが見失うだろう。ならば、また両者と関わる事になりそうだがそれは仕方ない。裏からバレないようにするだけだとダークキバは考える。

 

そこへベルトから離れ、ダークキバの肩に乗った二世が問いかけてくる。

 

「どうする?」

 

「勿論逃げるよ」

 

「逃してくれるかどうか分からんがな」

 

そう言うと二世はベルトに戻り、ダークキバは逃げようとする。しかしアインハルトはそんな隙は与えないと言わんばかりに拳を次々と繰り出す。攻撃すれば彼女を殺してしまうし、受け止めたら彼女の腕が折れてしまう。結果、ダークキバは避け続けるしか方法が無かった。

 

「くっ・・・」

 

小さく苛立ちの声を上げるダークキバ。ワタルがダークキバに変身していられるのもそろそろ限界だ。

 

「(どうしよう。人間でも耐えられる武器とか目眩しが出来る武器なんてないし)」

 

悩んでいたダークキバだが彼女は黄色い鎖 バインドで何者かに四肢を拘束されていて動けなくなっていた。バインドが伸びる方向に目をやるとそこには新たなイクサが。オトヤが変身者だった頃とは違って顔の十字架が開き、赤い複眼が現れていた。

 

少しの間であるが出来た隙。

 

 

その隙を見逃さず、ダークキバは一目散に去って行く。

 

 

ダークキバが見えなくなったのを確認するとイクサはバインドを解除する。元々少しの間しか足止め出来なかったのだ。それでもダークキバを逃すという目的を達成したので、どうこうしようという気は全く無かった。その為、すぐに背を向けて戻ろうとするイクサだったがアインハルトに問いかけられた事でその足を止める。

 

「何のつもりですか⁉︎貴方は彼が何者か分かっているんですか?」

 

バインドが外れた頃にはダークキバの姿は見えなくなっていた。憎き敵、どんなに恨んでも恨み足りない相手。それをみすみす見逃してしまった。案の定、アインハルトの怒りはイクサに向いていた。

 

「ああ。お前よりよっぽどな」

 

しかしそんな事に取り乱す事はなく。怒りで声を荒げるアインハルトとは対照的にイクサは落ち着いていた。

 

「なら、どうしてキバを逃したんです⁉︎あの魔皇を‼︎」

「俺にはお前が憎しみで動いているようにしか見えない。あいつの先祖がお前の先祖に何をしたのかは知らない。だけどあいつにはお前から憎しみを向けられる理由がない。同じ鎧を着ていてもお互いに違う存在だから感じる事も違うし性格だって違うんだ」

 

諭すように話すイクサは一拍置いて、自身の考えを話す。

 

「助けられたのに攻撃しようとしたお前の方が悪いと俺は思うな」

 

 

 

あそこからは遠く離れた場所に移動したダークキバは変身を解くと同時に膝をつく。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」

 

ワタルは彼女が正常な判断が出来ていなかった事に助けられた気分だった。もし、正常な判断で攻撃して来ていたら自分は変身を解く事になっていたかもしれない。いや。もしかしたら攻撃して来る事は無かったかもしれないが、変身を解く事になっていたらと思うとゾッとする。

 

そこへワタルの頭上を二世が飛び、話しかける。

 

「少し休め。それから暫くは闇のキバになる事は禁止だ」

 

「・・・と言っても聞こえていないだろうがな」

 

二世の視線の先には気を失い、倒れているワタルの姿があった。

 

 

 

 

キャッスルドランの王の間にて目を覚ましたワタル。身体を覆っていた赤い薔薇はワタルが起き上がると同時に飛び散る。

 

「ここは・・・キャッスルドラン?」

 

まず、周りを見渡して状況を確認するワタルの脳裏に気絶する前の記憶が浮かぶ。あの時、ワタルはダークキバになった副作用というべきもののせいで気を失ってしまったのだ。

 

「そっか。あの後」

 

「目は覚めたようだな」

 

ワタルが状況を理解すると同時に次狼とラモンが入って来る。

 

「次狼さん。ラモンも」

 

「ねえねえ!飴、食べる?」

 

「うん。ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

飴を貰うワタルに厳しい目を向ける次狼。ワタルは気付いていないが今は昼間だ。そして今日は平日。誰かが連絡していなければワタルはズル休みをした事になる。

 

「今は昼間。それも学校の時間だ」

 

「えっ・・・じゃあ僕、ズル休み?」

 

勿論、それはキングであるワタルにとって許容出来る事ではない。しかし、なんだかなんだで次狼はワタルが大切だと思っているし、ワタルに赤ん坊の頃から仕えている黒沢という人物がいるのだ。敵襲が無い限り、ズル休みになる事は無いだろう。

 

「いや。事前に連絡は黒沢がしておいた」

 

「良かった」

 

ホッと息を吐くワタル。だが次郎は立ち去る前にワタルにとっては衝撃の一言を発する。

 

「それと二世から伝言だ。”暫く、闇のキバになる事は禁止する”とな。お前が闇のキバになるのはリスクが高い。まあ、少しの間かもしれんが休暇を楽しんでおけ」

 

「えっ・・・ちょっと‼︎」

 

慌てて引き止めようとするワタルだったが次狼たちは立ち去ってしまう。

 

「・・・どうしよう」

 

 

 

 

 

〜翌日〜

 

学校に向かうワタルだったがその表情は浮かない。皆が動いているのに自分だけ休む。そう考えると申し訳なさが胸中を占めるのだ。何か出来る事はないか。そう考えたところでワタルはある人物を思い出す。

 

「聞いてみる価値はあるかも!」

 

その時のワタルの目は何かを期待するようで。そこへやって来たリュウヤは首を傾げる。

 

「何かあったのか?」

 

「変身禁止令が出されちゃったから何か出来る事は無いかなぁと考えてたとこ」

 

また、リュウヤは首を傾げるが確かに変身禁止令なんて言われたら首を傾げても仕方ないだろう。

 

「変身禁止令?」

 

「うん。僕が生まれつき魔皇力が高いのは知ってるでしょ?」

 

「ああ。それでコントロールが難しくてもっと小さい頃は暴走しまくってたんだろ」

 

リュウヤの言葉にワタルは苦笑する。多分教えたのはコウガだと思うが簡単に教えないで欲しい。そう考えるが結局は仕方ないかという結論に至る。

 

「はは。僕の魔皇力って量だけなら歴代最強らしいからね。闇のキバになるとコントロールが二世でも難しいんだ」

 

「キバットの父ちゃんでも難しいってどんだけあんの?」

 

「う〜ん。僕の場合は四分の三がファンガイアの血で占められているからっていうのもあると思うけど」

 

オトヤは純血のファンガイアでマヤはファンガイアと人間のハーフだ。マヤもファンガイアの血が目覚めた時に暴走した事がある。それが四分の三だとアンバランスで。だから制御が難しくなるのだろうとワタルは推測していた。しかし

 

「でもコウガは上手だったんじゃねえの?ビショップが良く褒めてたし。もしかしてお前が下手なだけなんじゃね?」

双子の弟のコウガを引き合いにして辛辣な言葉を言われる。

 

「確かにコウガも通常のファンガイアより魔皇力が高いけど、コントロールがずば抜けて上手だから。僕が下手って訳じゃないよ」

 

「力が大き過ぎる兄貴と制御が上手過ぎる弟か」

 

双子だから力が偏ったのかとリュウヤは思う。ファンガイアの方に血が偏っているのもあるのだろう。だから二人は両極端な力を受け継いでしまった。魔皇力が強大なのは歴代キング全員に共通する事。それはオトヤも同じで、強大さで言えば初代キングと同等かそれ以上と言われていた。

 

一方でマヤはハーフであったが魔術と魔法に精通し、魔皇力の制御に秀でていた。暴走した事があるものの短期間で克服している。それは人間の血が半分繋がっていた事が関係していたのではないか。ワタルはファンガイアとしての血が、反対にコウガは人間の血が色濃く出たんじゃないかとビショップや次狼は考えているがそれが本当かどうかはまだ分からなかった。

 

話を戻し。リュウヤは何故変身禁止令に繋がるのか分からなかった。

 

「それで何で変身禁止令に繋がんだよ?」

 

「闇のキバって変身者のポテンシャルを見極めて、最大限に引き出す力があるんだ。だけど僕の魔皇力は不安定だから、暴走しちゃうんだよ」

 

通常でもダークキバはいつ暴走するか分からない危険性がある。それが力の不安定なワタルが使えば、その危険性は増す。二世が制御しているからこそかろうじて暴走はしていないが爆弾を抱えて戦うようなもので、必然的に長時間の使用は不可能だった。

 

「それで変身禁止令が出たと」

 

「うん。だけど長時間使わなければ暴走はしないよ。せいぜいが変身を解いた後に眩暈がしたり、気絶したり、嘔吐するぐらいだから」

 

「いや。結構危ねえぞ」

 

サラッと危ない事を言ったワタルにリュウヤが突っ込む一方でワタルは真剣に考えていた。今までの敵は制裁の雷で済む相手だったし、無理だったとしても黄金のキバの鎧を使えば大丈夫だった。しかし今、その鎧を使う為の鍵であるキバットバット三世はいない。彼はある任務の為に違う世界に行ってしまっている。戦うにはダークキバに変身するしかなかった。

 

「(これからどうするか考えないと。いつも気絶したりしたりするのは身体が持たないし)」

 

これからを考えて溜め息を吐くワタル。それを知ってか、呑気にお菓子を食べるリュウヤが恨めしく思うワタルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。アインハルトの担任である若い女性の教師が辺りを見渡している。屋上にいる彼女はビクビクしながら目の前にいるワタルを見ていた。彼女の名前はリンカ。ファンガイアである。その為、ある例外を除いて知らない筈がないワタルは彼女にとっては主に当たる訳で。いつも低い物腰がもっと低くなっている。

 

「リンカさん」

 

「はい‼︎」

 

「何でしょう?キング」

 

呼ばれただけで声が裏返ってしまっている彼女にワタルは溜め息を吐く。ビクビクされているのが少し嫌に感じる。授業中もこんな感じで、その為ワタルは学校の最中に彼女に話しかけて来なかったのだが今日は聞きたい事があるのだ。話さない訳にはいかない。それでもやはりビクビクされるのは嫌なので一応言っておく。

 

「今はそれ駄目。授業中にビクビクしないでよ。僕がなんかしたと思われるんだから」

 

「はっはい!」

 

それもあまり意味があるとは思えないが。

 

「・・・まあ、いいや。ストラトスさんってどんな子?」

 

「アインハルトちゃんですか?良い子ですよ。友達は全然いませんけど」

だが生徒の話になると一変、ハキハキとした様子で答え始める。

 

「そっか。他は?」

 

「他と言っても、特に変わった様子はないので」

 

「友達が全然いないって一人も?」

 

それはありえない。ワタルはそう考えていた。彼も人付き合いは苦手であるもののリュウヤのような親友がいるし、意外とクラス内での人気は高い。

 

「いえ。一人だけ。神城ミヅキという子が」

 

神城ミヅキ。その名前を一度聞いた事があるような気がしたワタルだが思い出せない。だがそれは今でなくても大丈夫だろうと考えるのを止めた。

 

「分かった。ありがとう」

 

ワタルは彼女から背を向ける。

 

「そんな!」

 

「じゃあ、頑張って。僕は仕事があるから」

 

「は、はい‼︎」

 

ワタルは一階に降りると携帯を取り出す。そこにはドウコを発見した事が書かれていた。ただ、問題なのは二世が来るかだ。

 

「さてと。どうするか。ドウコが動いたって来たから見つけたんだろうけど」

 

思わず呟いてしまったワタルは左手の手袋を外し、ドウコがいる場所に向かおうとする。しかしその呟きを拾っていたリュウヤが後ろから現れる。

 

「誰が動いたんだよ?」

 

「過激派ファンガイアのドウコ。14年前にクーデターを起こした集団の幹部みたいな奴」

 

「へ〜ビッグじゃん」

 

「リュウヤも来る?」

 

まあ、ワタルが来ないでって言っても来るだろう。それが一瞬で分かる程にリュウヤは目を輝かせていた。

 

「勿論‼︎今日は持って来てるしな。ってか、今日から毎日持ってくる事にした」

 

「そう。じゃあ、行こう」

 

ただ、リュウヤが心配するのはただ一つ。闇のキバにワタルはなれないのに戦えるのかという事。

 

「お前、闇のキバになれねえのに大丈夫なのか?」

 

「大丈夫。キングだから」

 

「その理由のない根拠は何だよ」

 

呆れつつも安心している自分がいるリュウヤ。笑いを溢し、着いて来る。学校を出てただ進んで行き、廃墟の近くに行くとドウコたちがいた。彼らは学校への道を進んでおり、襲撃しようとしていたのが分かる。

 

「ここから先には行かせない」

 

「何だ。餓鬼か。だが俺の事を知っているという事はファンガイアだな」

 

強い決意を持って言ったワタルに対し、笑みを浮かべるドウコは彼らに命令を下す。

 

「丁度いい!キングへの見せしめにこいつらを殺せ!」

 

それと同時にタイガーファンガイアになったドウコ。後ろにはオクトパスファンガイアとシャークファンガイア。そして三体のラットファンガイアだ。タイガーファンガイア以外は全員、下級と中級。ワタルが生身でも十分に戦える相手だった。

 

「あの虎野郎は俺に任せろ!」

 

リュウヤがふところに右手を伸ばし、イクサナックルを取り出す。すると左手にそれを打ち付ける。

 

『レ・ディ・ー』

 

リュウヤは孤児で、両親の知り合いであった嶋という男性に育てられた。彼にたくさんの話を昔から聞いていたリュウヤはオトヤの話も聞いている。オトヤはリュウヤの憧れなのだ。そのオトヤから受け継いだイクサの力を使うのにはまだ抵抗がある。自分がイクサに相応しいと思えないからだ。だが、そうも言っていられない。相応しく無いなら戦い続けてイクサに相応しい人間になろうと決意していた。そしてリュウヤはその決意を胸に抱きながら嶋から教えて貰ったあの言葉を叫ぶ。

 

「変身‼︎」

 

『フィ・ス・ト・オ・ン』

 

イクサを模った黄色い光が現れ、リュウヤに纒われる。その次の瞬間、熱エネルギーが放射され、リュウヤはイクサに変身していた。

 

「行くぜ!」

 

リュウヤの言葉と同時に戦闘が開始される。狙いは向こうも同じなのかワタルに向かって来るシャークファンガイアとオクトパスファンガイアに三体のラットファンガイアとリュウヤに向かって来るタイガーファンガイア。二人は完全に分断されたが焦ってはいなかった。シャークファンガイアたちは舐め切っているのかただ近付いて来るだけ。それでも普通の人間なら恐怖に怯え、動けなくなるだろう。しかしワタルは今更、その程度で怯えるような事は無い。冷静に彼らの動きを見て、判断を下して素早く攻撃を仕掛ける。

 

まずシャークファンガイアを蹴り、ラットファンガイアの一体に制裁の雷を放つ。その力に耐え切れず、ステンドガラスとなって砕け散るラットファンガイア。それを見て残りの四体が警戒し出すが突如彼らの間にイクサが倒れ込むように入り込む。

 

「リュウヤ!」

 

変身が解除され、傷だらけの状態で気絶しているリュウヤを見て俯いているワタルにタイガーファンガイアが呟く。

 

「さあ。後はお前だな」

 

タイガーファンガイアは自身の武器である剣を持って、ワタルに振り下ろそうとする。しかし、その寸前。二世がタイガーファンガイアに攻撃してそれは阻止された。 しかも二世に続いて現れたムースファンガイア、次狼の真の姿である青い狼 ガルル。ラモンの真の姿。緑色の半魚人 バッシャー。そして力の真の姿である紫色のフランケンシュタイン ドッガが現れ、アームズモンスターたちはシャークファンガイアたちを攻撃し、ムースファンガイアはタイガーファンガイアを攻撃する。

 

そんな中で、二世は避けようとしなかったワタルに問いかけていた。

 

「何をしている?何故避けようとしなかった?」

「二世。力を貸して」

 

ワタルは二世に力を貸すように頼む。避けなかったのもその為だろう。彼は二世たちが密かに監視していたのを分かっていたのだ。だから自分がやられそうになれば必ず出て来ると思い、あのような賭けに近い行動に出た。

 

「また気絶してもいいのか?あれは実質、お前の命を守る為の措置と言える。闇のキバに変身するという事はお前の命を削りかねないのだぞ」

 

脅しにも聞こえる事実を話し、止めようとする二世だったがワタルにそれは無駄だった。

 

「僕はキングだ。キングとして一族に逆らう輩は排除する!この命に代えて」

 

ワタルの強い覚悟を確認したのか、二世は説得するのを止めた。元々、言う事を聞くとは思っていなかったのだ。一族の為に戦い、命を懸ける。自分の意思というものを抑え込んで、一族に尽くす。それがワタルだ。非常に危うい人生であるがだからこそ、二世はワタルを守ろうとした。

 

親友である二人の子供であり、自身の息子が認めた者。その彼らがいない今、守るのは自分の役目だと言うように。ワタルを支えてくれる者が現れるまで二世は彼を自分のやり方で守るとそう決めたのだ。

 

ならば、ここで力を貸し、ワタルの意思を尊重する事が今出来る事ではないか。二世のやり方。

 

それはワタルを導く事。

 

ワタルには心に穴がぽっかりと空いている。それを埋める事が出来るのは自分たちでは無理だと分かっていた。少しなら埋める事が出来ても完全には無理なのだ。

 

だから二世には闇のキバの力を持ってワタルを支える。平時にはワタルを膨大な知識によって支え、戦闘の際には少しでも戦いが楽になるように出来るだけ力をコントロールする事。彼の鎧を持ち、それを守る。二世はそれこそが自身に出来る事だと考える。

ならばと二世はワタルに自覚を促す。

 

「分かった。そこまでの覚悟があるのならば俺も力を貸そう。だがお前は自身の力を恐れ、無意識の内に抑えこもうとしている」

 

思う節があったのだろう。目を伏せるワタルに二世は言葉を続ける。

 

「力を恐れるな。要は使い手によって力は善にも悪にもなるのだからな。だが力があるのにそれを使わずに大切な者を傷付けるのは悪だ」

 

そしてワタルの迷いを断ち切る。守る為にワタルは強くなる。それはファンガイアの力が強く出つつも人間らしさを兼ね備えたワタルだからこそ。ならば守りたいという思いを引き出してしまえばいい。

 

「うん。大丈夫だよ。もう、力を恐れるなんて事はしない。僕は僕だから」

 

「勿論分かっている。それでは行くぞ。絶滅タイムだ!」

 

ワタルの周りを二世が飛び回り、ワタルが左手を上に掲げるとそこに収まる。

 

「ガブリ!」

 

闇のキバになる準備は整い、ワタルは左手を前に出す。

 

「変身!」

 

その言葉を叫び、逆さ吊りに二世をベルトに填める。

 

ダークキバに変身したワタルは静かにタイガーファンガイアを見据え、威圧するように魔皇力を今までより開放した。

 

「王の名の元に貴方たちを・・・処刑する‼︎」

 

 



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第4楽章 what⁉︎ 謎の怪人

お久しぶりです。今日から少しずつ取り戻して行きたいと思います。


ワタルの弟の名前をコウガに変更しました。


何かを怖れるように飛んで行く小鳥たちはダークキバとは反対方向に向かっていた

 

「(さっきよりはマシになったな。少しは楽しめるか!)」

 

小鳥たちが感じたのはダークキバから発せられる魔皇力だ。今までとは比にならないであろうその力に驚愕する者、恐怖する者がいる中でタイガーファンガイアは歓喜していた。強い者が出て来れば出て来る程彼は戦闘意欲を燃やす。自身の欲を満たし、戦い合える可能性がある者。それは今、自身の目の前にいるダークキバである

 

「さあ、俺を楽しませろよ‼︎」

 

「今だ!やれ‼︎」

 

ガルルの声が辺りに響いた瞬間、ダークキバとタイガーファンガイア。二人の足元に魔法陣が出現する

 

 

 

 

 

 

魔法陣によって二人は滅多に人が近付く事は無いであろう海すぐ傍に広がる廃墟に移動していた。辺りを見回すタイガーファンガイアは状況を確認し、理解する

 

「廃墟か・・・優秀な魔導師が部下にいるようだな」

 

「えぇ。これで遠慮なく戦える。僕も、貴方も」

 

人間に存在を知られるというのは両者にとってはまだ避けたい事なのだ。大多数の人間は自分達という存在を知ればどのような行動を取るかは大体想像がつく。その為に人がいない場所で戦いたいというのがワタルの考えである

 

「ふっ。予め用意していた魔導師に移動させたか」

 

「(僕が用意していた訳じゃないんだけどね。流石次郎さん。なんでもお見通しか)」

 

「来るぞ!」

 

タイガーファンガイアの纏う空気が変わる。それを感じ取ったダークキバは対応出来るように構えると同時にタイガーファンガイアが迫る。鋭い蹴りが放たれるが慌てる事なく対処し、避けるダークキバだが相手は数多の修羅場を乗り越えた強者だ。想定内だというように小さく笑い声を溢し、一瞬で後ろに回り込む

 

「オラァッ‼︎」

 

振り返る暇も無く蹴り飛ばされたダークキバに二世が忠告する

 

「油断するなよ。奴はクーデターさえ起こさなければルークに選ばれていた程の奴だ」

 

おそらく実力は今のルークと同等かそれ以上であろう。それ程までに強い敵を相手に油断をする事は死に直結する。ダークキバは今まで以上に警戒心を強める

 

「・・・はぁっ!」

 

二人がお互いに走る。そしてぶつかり合う拳。それを起点に広がる魔皇力は強大かつ濃厚であった。魔皇力を感じ、恐怖する者もいる

 

戦いの最中、タイガーファンガイアの攻撃が不意に止み、それを見計らったようにダークキバがタイガーファンガイアに問いかける

 

「貴方の目的は何ですか?」

 

タイガーファンガイアは話さない。二人は互いに敵同士だ。容易く情報を与えようとはしなかった

 

「言うと思うか?」

 

「いいえ・・・」

 

「だが一つだけ教えてやるよ」

 

しかしあえてタイガーファンガイアは情報を与えようとする

 

「覇王イングヴァルト。奴の力を色濃く発現した人間を捕まえる。または殺す事が俺の目的だ!」

 

自ら目的を明かしたタイガーファンガイアだがダークキバは引っかかりを覚える

 

「(つまり彼らはアインハルト・ストラトスを狙っていたという事。だが、殺す?力を手に入れる事が目的じゃない?)」

 

彼女のライフエナジーを吸えば凄まじい力を得る事が出来る。なのにも関わらずそれをしようとしないという事は彼女を殺す事自体に何か意味があるのだろう。それを知るにはまだ時間がかかりそうだが

 

「で、お前はそれをまだ邪魔するのか?奴はお前の敵でもあるんだぞ」

 

「それを判断するのは貴方じゃない」

 

取り敢えず彼女を殺す事は容認出来ない。未来が全く予想出来ないのだ。彼女を殺す事で何をしようとしているのか。ワタルには分からない。だが、殺す事で生じるデメリットを考えればさせる訳にはいかなかった

 

「まあ、いい!」

 

突如としてタイガーファンガイアの姿が消える

 

「オラァアッ!」

 

現れたのはダークキバのすぐ後ろ。パンチが放たれた瞬間に気付き、振り返るがその時には目前まで拳が迫っていた

 

「気をつけろ。こいつの真骨頂はこのスピードだ。これは音也でさえ手こずった程だからな」

 

「それは戦う前に教えてよ!」

 

あまりの速さにダークキバは防御に徹する事しか出来ないのか、ダメージを最小限に抑えようとしていた。何度も高速移動をして、ダークキバを翻弄し、ダメージを与えていく。しかし、ダークキバはある事に気が付いたのか小さな笑い声を溢す

 

「トドメだ!」

 

タイガーファンガイアがダークキバの目の前に現れる。そしてその時、彼の動きが()()()()()()()()()になる

 

「ハァアッ‼︎」

 

その瞬間に波動結界で動けないようにするダークキバにタイガーファンガイアは笑う

 

「どうして分かった?」

 

「貴方のスピードは確かに脅威です。でも、そのスピードに貴方自身が追い付いていない事に気付きました。貴方がそのスピードで攻撃した時は全て急所を外れている。反対に元のスピードの時は急所に当たっていた。更に右、左、後ろと元のスピードで攻撃してきた」

 

「そして貴方は何らかのジンクスを作る癖がある。違いますか?」

 

「流石は奴の息子だ」

 

「これで終わりです」

 

ダークキバがフェッスルを取り出して二世に咥えさせ、二回口を叩く

 

「Wake up! two!」

 

だがその瞬間、ダークキバの身体を黄金の剣が貫く

 

「何⁉︎」

 

これはタイガーファンガイアも予想していなかったのか。結界波動が解け、自由になった身体で剣が飛んで来た方向を見る。そこには何処と無く凶暴な魚を思わせる肉体に、蠍を彷彿とさせる顔をした謎の怪人がそこにはいた

 

「貴様は⁉︎」

 

人間体に戻り、ドウコの顔が驚愕の色で染まる。そして剣がダークキバの身体から誰も触れていないのにも関わらず抜かれて、彼は重力に従って海に沈む。一瞬、ダークキバを見たドウコは謎の怪人がいた場所に視線を戻すがそこにもう怪人はいなかった

 

「やっとあの時の借りを返せる。待っていろ!」



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第5楽章 mysterious! 邂逅!そして進展!

ダークキバが謎の怪人による襲撃を受けて、3日。あの日からワタルは一度も戻っていない。親衛隊というワタルに忠誠を誓う者たちが捜索しているが居場所が分かる事は無かった。ただ、ワタルが消えた事は親衛隊と次郎達《アームズモンスター》しか知らない。それを知った過激派の動きが活発する可能性が高いからだ。ドウコも見つからず、アインハルトに護衛を密かにつけたものの時間だけが過ぎて行った

 

 

 

 

 

ある家で二人の男女が和やかに会話していた。仲良さ気に話している二人だが、彼らは会ってから3日。話すようになってから10分も経っていない

 

「へぇ〜じゃあ、バイオリン出来るんだ」

 

一人は包帯を手と腕と頭に巻いたワタルである。頰には絆創膏が貼られていて、重傷という感じではないがそれなりに傷は負っているようであった。もう一人はみづきというロングの黒髪で柔らかい感じの少女だ。胸に青い宝石があるのが特徴だろうか。偶々、海の近くに住む親戚の家に行った帰りにワタルを見つけたらしい。見つかった時は海水を吸収して重くなっていた服は洗濯され、畳まれていた。ただ、手袋は発見された時には無かった為に今はワタルの左手に手袋はない

 

「うん。少しね」

 

そう話す中、ワタルが密かに窓へと目をやると二世の姿があったのだがすぐに何処かへ行ってしまった

 

「そうだ。バイオリンやってみる?」

 

 

 

 

 

二人は近くの公園に移動していた。ワタルの手にはバイオリンがある。どうやら彼女の兄の物らしく、すんなりと借してもらえた。と言っても彼女が電話で聞いて許可を得たという話でワタルは実際に会っていない。ワタルが静かに構え、弾き始める。彼が奏でる美しい音色にみづきは魅了されていた。しかし、その演奏は乱入者によって中断させられてしまう

 

「誰!」

 

「君が知る必要はないのさ〜!ただ、君を連れ去りに来ただけなんだからね〜!神城ミヅキちゃん」

 

二人の前に現れたのは墨田だ。彼はイカの意匠を持つスクイッドファンガイアに変身する。彼は下級ファンガイア。二世を呼ぶまでもない。制裁の雷で大丈夫だろうとワタルは判断した。一応、衝撃で怪我を負わないようにワタルは退がるように言う

 

「下がって!みづきちゃん!」

 

『邪魔をするのか〜?』

 

そうスクイッドファンガイアは問いかけた。彼にとってみづきを連れ帰る事が最優先事項。ワタルの正体を知らない為に放っておいても大丈夫だろうと考えていた。それを聞いてワタルの口が弧を描く

 

「邪魔ではなく処刑をするんです」

 

空が静寂の夜に包まれる。突如変わった空に驚きを隠せないみづきとスクイッドファンガイア。それでも二人の間には認知の相違があった。みづきは突如昼の空が夜に変わった事に対する驚き。スクイッドファンガイアはチェックメイトフォー等の一部のファンガイアが秘めたる力を使う時に現れる現象が目の前で起きた事に対する驚きだ。それと同時に理解する。目の前にいる少年が何者なのかを

 

「まさか・・・キング!⁉︎」

 

「貴方には裁きを受けてもらいます」

 

「とりあえずは貴方の後ろにいる人物について話してもらいましょうか?」

 

スクイッドファンガイアは考える。話すべきか。それとも話さないべきかと。彼が選んだのは・・・

 

『逃げるが勝ちだ!』

 

言わずに逃げるだ。これにはワタルも呆気に取られ、逃げ足が速いのもあって取り逃がしてしまった

 

「・・・再開しようか?」

 

 

 

 

 

 

ワタルから逃げたスクイッドファンガイアはある人物達の元にいた。彼の前にいるのはワタルを攻撃した謎の怪人と女性型怪人 赤いフェニックスを思わせる鳥の怪人にライオンの頭、山羊の胴体に毒蛇の尾を持つ キマイラのような怪人だ

 

「あのような幼い王に恐れをなして逃げるとは。仮にも我々を封印したファンガイア一族の者が、情け無い」

 

フェニックスがそう話すとスクイッドファンガイアの肩が小さく揺れる

 

「ふん。何にせよ、我々レジェンドルガがやる事は変わらない筈だ。そうだろう?クリュサオル」

 

キメラレジェンドルガがクリュサオルレジェンドルガに確認するように言うと彼は小さく頷いた

 

「ああ。キバ共を倒し、ロード復活の為にな。もうじき他の同胞も目覚める。その時こそ本当の戦いの始まりだ」

 

クリュサオルレジェンドルガの言葉と共に彼らは影に紛れ、姿を消す。その場に残ったのは恐怖心からか、身体が震えているスクイッドファンガイアだけであった

 

 

 

同時刻キャッスルドラン城内に次郎、ラモン、力の三人がカードゲームに興じている。そこに現れた二世は次狼に近付く

 

「俺を呼び出したという事は何か報告が来たのか?」

 

「ああ。やはり神殿にある棺桶は破壊されていたようだ」

 

「これで4軒目でしょ。どうするの?」

 

「しかも、破壊されたのはアークの棺桶だ。そろそろ奴らの動きが本格化するぞ」

 

二世の言葉を聞くや、次狼が一枚のカードを手に取る。それには円状に配置された赤い12個の石と・・・

 

「鍵を握るのはブラッドストーン。そして初代クイーンの形見だ」

 

その中央に青く光る石が描かれていた

 

 

 

 

 

 

 

フェイト・T・ハラオウン。管理局に所属する魔導師の一人で高町ヴィヴィオの後見人である。彼女は上層部から司令を受けて、ある人物を追う事になった。その瞳には強い覚悟が見て取れる

 

”闇の鎧の戦士”

 

管理局内でそう呼ばれている謎の戦士だ。正体は不明とされている。自身が知り得るものは姿だけ。フェイトは確認するようにその画像を見る。もしファンガイアの誰かが見ていれば目を見開いていた事だろう。そこに写っていたのは闇のキバだった。彼女はこの時、ダークキバを捕まえる事に意欲を燃やしていた。しかし、彼女はその正体を知った時、どうするのだろうか?

 

 



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第6楽章 miracle! 謎と謎・・・そして堕天使?

カルナージという多次元世界の一つに無人世界だった星がある。今はメガーヌ・アルピーノとルーテシア・アルピーノの二人がここに住んでいる

 

ワタル、リュウヤ、ヴィヴィオ、コロナ、リオ、アインハルト、スバル、ティアナ、ノーヴェ。高町なのはとフェイト。そしてみづきは自然豊かな星であるカルナージに強化合宿をする為にやって来た。立派な造りの家の前に来た彼らを迎えたメガーヌとルーテシア

 

「皆。いらっしゃい!」

 

「こんにちは!」

 

「お世話になります!」

 

なのはとフェイトが代表としてメガーヌに挨拶をする。ヴィヴィオとコロナはルーテシアとの再会を喜び、はしゃいでいて、彼女と直接面識がないリオ、アインハルト、みづきの三人が自己紹介をしていた

 

 

少し時間が過ぎ、元機動六課のメンバーは一度着替えに。子供達はノーヴェ引率の元、川へ遊びに行った。そんな中・・・ワタルとリュウヤの二人は皆から離れた場所で話し合っていた

 

「もう、身体は大丈夫なの?」

 

「おう・・・」

 

二人は地面に座る。その表情は暗い。当然だ。二人は敵の正体を知らないが実力は自分達より高い事は理解している。未知の恐怖が二人に襲い掛かっている

 

「まだ、敵は何者かは分からない。分かっているのは僕達の敵という事」

 

「三つ巴の戦いってやつか・・・」

 

リュウヤは大きく溜め息を吐く。彼らは何者なのか。それが二人には分からない

 

「もしかしたらドウコの仲間かもしれない」

 

「お前が戦っている時に攻撃した奴はファンガイアじゃないのか?」

 

「あの剣をナイトとポーンが作る筈がないし、人間によって作られたというのも魔皇力の力に耐えられる剣を作ることはあり得ない。今、存在する魔族も矛盾が生じる」

 

話が進展する事は無い。その為、ワタルは立ち上がり

 

「皆の所に戻ろう」

 

子供達がいる川に向かう。その後を追い、リュウヤも川へ

 

 

 

 

 

川に向かったワタルの目に入ったのはヴィヴィオ達が遊ぶ姿を眺めているみづきだった。ワタルに追い付いたリュウヤはヴィヴィオ達の輪に交ざり、一緒に遊んでいる

 

「みづきちゃん。混ざってないの?」

 

彼女の隣に腰掛け、ワタルは前を見る。元気に、無邪気に遊ぶ彼女達を見ていると自分のいる闇の世界がどうしようもない世界に思えてしまう。彼の仕事は裏切ったファンガイアを処刑する事だ。闇の世界に身を置き、自身の手が同胞の血で醜く汚れている事は自覚している。それを否定するつもりは無い。それが生まれた時から決められていた自分の運命であると分かっていた。ただ、闇を知らないような彼女達を見ていると思ってしまう事がある。もし、クーデターが起きなければ自分はあのように闇を知らず、生きていられたかもしれないと

 

「うん。ワタル君は交ざらないの?」

 

「・・・見ているだけで十分だから」

 

みづきはヴィヴィオ達と何かが違うとワタルは思っていた。光の世界にいながら深い闇を持つ。ワタルはアインハルトを見る。彼からしたらアインハルトもそうだ。光と闇の境界線にいる。彼女自身は光の世界にいる筈なのに、イングヴァルトの記憶が彼女に暗い影を落とす

 

「うん。私もそうかな」

 

「みづきちゃんってさ。何でストラトスさんに関わろうと思ったの?」

 

不意にその言葉が口から発せられた。ミヅキは驚いたようにワタルを見る

 

「え?」

 

「いや。別に気にしないで」

 

”気になっただけだから”

 

ワタルはその言葉を飲み込んだ。ミヅキは口元に指をあて、考える仕草をする

 

「う〜ん。私に似ていると思ったからかなぁ」

 

「どんなところが?」

 

「・・・過去に囚われているところ。かな?」

 

悲しそうに笑うみづき。それを見てワタルは確信する。彼女は昔、誰か大事な人を亡くしていると。その時、不意にみづきの青い石のネックレスが外れ、落ちてしまう。しかし、ファンガイアの優れた身体能力と反射神経を生かしてワタルがそれをキャッチすると雷が走ったような衝撃を受ける。キングの紋章も反応しているように感じる。ワタルは固まったように動かなくなった

 

「ワタル君?」

 

「何でもないよ。はい、ネックレス」

 

「ありがとう」

 

ネックレスを受け取ったみづきはそれを首にかけ直す一方でワタルの表情は険しくなっている

 

「(あのネックレスは間違いなく魔皇石。だけどあの色の魔皇石があるなんて聞いた事がない。それに何故、彼女は平気でいられる?魔皇力を高める魔皇石は人間にとっては猛毒の筈・・・。調べてみる必要がありそうだね)」

 

 

 

合宿1日目はワタルに大きな謎を残して終わりを迎える。そして2日目。再び森に来たワタルとリュウヤの前にある一人の戦士が現れる。堕天使を思わせる風貌をした赤の戦士。腰には五角形のベルトが装着され、左右にはそれぞれフェッスルが二つ

 

「白銀ワタル。天宮リュウヤ。貴様らには死んでもらうぞ」



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第7楽章 big and big! 荒ぶる本能!

合宿2日目。なのは達が模擬戦をやっている中、ワタルとリュウヤは昨日の森に来ていた

 

二人がこの森に来たのは自身達を見ている謎の気配をワタルが感じ取った為だ。昨日は感じなかったその気配は二人が気付くと殺気を向ける事で戦う意思を示した。そして二人はこの森に来たわけだがその者は姿を現さない

 

「そろそろ出て来たらどう?」

 

一陣の風が巻き起こる。それと同時に姿を現したのは赤い謎の戦士だ。その戦士を見る二人は腰にある五角形のベルトを見て、イクサと同じライダーシステムだと推測する。勿論、作製者は違うだろうが

 

「貴方は何者ですか?」

 

「白銀ワタル。天宮リュウヤ。貴様らには死んでもらうぞ」

 

彼は左にある白のフェッスルを装鎮し、ベルトに手をかざす

 

『gun』

 

彼の左手に銃が召喚され、二人に弾を放つ

 

「リュウヤ!行くよ!」

 

それを躱した二人は彼が本気で自分達を倒そうとしている事を悟り、変身しようとする

 

「おう!」

 

リュウヤはベルトを巻き、イクサナックルを左手に打ち付ける

 

『レ・ー・ディ・ー』

 

「二世!」

 

ワタルの声に二世が飛来するが彼は合宿について来ていた訳ではない。ミッドチルダから現れたのだ

 

「ガブリ!」

 

ワタルは左手で二世を掴み、二世が彼の右手に噛み付く。瞬間、ワタルの魔皇力が活性化する。頰にステンドガラスの模様が広がり、黒いベルトが巻かれた事でワタルとリュウヤ。二人は変身する準備を整えた。そして・・・

 

「「変身!」」

 

ワタルは二世を、リュウヤはイクサナックルをベルトに填める

 

 

ワタルはダークキバに、リュウヤはイクサに変身した

 

「兎に角、そのライダーシステムの事とか、色々教えてもらうぜ」

 

「やれるものならな」

 

『sword。clone』

 

再び手をかざすと今度は銃が消え、代わりに剣が現れる。更にフェッスルを別の黒いフェッスルを装鎮し、また手をかざすとベルトから幻影が投影され、黒い分身が現れる。イクサカリバーを構えるイクサと幻影がぶつかり合う

 

 

「闇のキバ。貴様は直接殺す」

 

「一体、誰の差し金?」

 

「行くぞ‼︎」

 

ダークキバに赤の戦士が迫る。赤の戦士は剣で何度も斬りかかるがダークキバはその全ての攻撃を避けていた

 

「ハァアッ!」

 

イクサは幻影と剣と剣の応酬を繰り広げ、交錯する度に火花が散る。段々とイクサの攻撃が幻影に当たっている。しかし、疲れて来ているのはイクサの方だ。イクサの攻撃が当たった箇所は一瞬、霧のように拡散するがすぐ元に戻ってしまい、無駄に体力を削られていた。それでもイクサが幻影にイクサカリバーを突き刺す。それは心臓の部分に当たっていて、一瞬、小さく火花が散る

 

「・・・‼︎」

 

その様子を見たイクサは幻影の事に一つの確信を得たようだ

 

「成る程な。心臓が唯一の弱点って訳か」

 

それから何度も剣が交錯する

 

『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』

 

フェッスルを挿入し、右手に持つイクサは幻影に接近する。イクサカリバーで幻影の攻撃を受け流し、心臓の部分にブロウクン・ファングを放つ。ロールアウトしたばかりの頃から使われているイクサの必殺技であるがその威力は高い。一瞬にして幻影の身体は形を保てなくなり、霧となって拡散した

 

 

 

ダークキバのパンチが赤の戦士に炸裂する。戦況はダークキバの圧倒的有利とまではいかないまでも優勢だった。地に伏せる赤の戦士にダークキバがゆっくりと近付く

 

「貴方の後ろには誰がいる?」

 

「・・・誰が言うか」

 

剣を捨て、向かって来る赤の戦士と何度か拳を打ち合うダークキバは大きな一撃を当てれば勝てるだろう

 

「終わりです」

 

その時、ダークキバは強大な禍々しい力を感じ取り、頭の中にはバイオリンの音色が響き渡る

 

「(・・・何これ?誰かが僕を導こうとしている?)」

 

導かれるようにしてダークキバが上を見るとフェニックスレジェンドルガがいた。ダークキバはあのような魔族を見た事がない。しかし、鎧で見えないが動揺しているだろう。彼らが最も恐れていた事態が起きようとしているのだから

 

「我が名はフェニックス。誇り高き最強の一族レジェンドルガなり」

 

「もう、復活してたのか」

 

二世が静かに呟く。あまり驚いていない事をイクサは疑問に思うが口を挟む事は無かった

 

「我々の目的はロードの復活とキバ。貴方の抹殺。そして世界を手中に収める事」

 

「ふざけやがって!」

 

フェニックスレジェンドルガの言葉にイクサが激昂する。しかし、イクサには目をくれず、フェニックスレジェンドルガは赤の戦士に近付く

 

「何故、来た?」

 

「もちろん、助ける為ですよ。ここは私に任せて戻りなさい。まだ貴方はあの方に必要な存在」

 

彼らの会話から二人は仲間。少なくとも協力者である事を悟ったダークキバは二人に迫る

 

「・・・分かった」

 

「逃さない!」

 

赤い羽が弾丸のようにダークキバを襲う。大した威力はないがこれでは近付けない

 

「白銀ワタル。俺の力はこんなものではない。このシステムが完成した時。その時が貴様の最後だ」

 

黄色いフェッスルを挿入し、スイッチを一度押した赤の戦士の身体を黄色い二重の輪が包む

 

「あれはテレポートシステム?」

 

「ふふ。考え事ですか?」

 

ダークキバは一度大きく後退する。それを見計らったかのようにフェニックスレジェンドが手を上げた

 

「貴方の実力がどれほどのものか確かめさせていただきますよ」

 

フェニックスレジェンドルガの手に正方形のキューブが現れる。赤、青、緑、白の四つの色がバラバラに配置されたそれはフェニックスレジェンドルガが手を翳すとその意思に反応しているのか、パーツがひとりでに動き出し、一面が赤に染まる。瞬間、キューブから放たれる炎は二人を呑み込まんと迫る。二人はそれを躱すも火が一本の木を燃やし、それが広がっていく

 

「くっ・・・」

 

更に一面が白になり、たくさんのファンガイアが召喚される。ホースファンガイア、モスファンガイア、シケーダファンガイアを始めとする十数体のファンガイア達。彼らはいずれも既に死した者で、意識もない。フェニックスレジェンドルガの傀儡だった。

 

「さあ、行きなさい!」

 

「やっぱり倒さないように戦うか?」

 

「・・・ううん。彼らはもう死んでいるし、不本意な形で生き返る事になった意識を持たない人形みたいなもの。倒した方が彼らもゆっくり眠れる筈だから・・・倒して」

 

ダークキバとイクサは蘇ったファンガイア達に向かって行く。イクサがダメージを与え、ダークキバが蹴りやパンチで彼らを倒す。あっという間にファンガイアの数はホースファンガイア、ゼブラファンガイアの二体にまで減った

 

「中々やりますね。ならば、このマナを使いましょう」

 

フェニックスレジェンドルガが取り出したのは黒く形が整っていない石。一見すると価値があるものには見えないが妖しく光るその石はどこか不気味であった

 

「マナ?なんだそれ」

 

「魔力と魔皇力。この二つの力が融合した事で出来た奇跡の産物。その力は人間には扱う事の・・・いや、チェックメイトフォークラスの者でなければ扱えない代物だよ」

 

マナは古代ベルカの時代に生まれた産物だ。魔族の持つ特有の力 魔皇力と生物が持つ魔力の力が混じり合い、誕生したそれは強大かつ、危険な力を秘めている

 

「全部で何種類あんの?それ」

 

「確認されているマナの数は全部で5種類。だけどその四種は僕が管理しているし、もう一種は行方知れずだけどあんな形じゃないよ。つまり、僕が知らない未知のマナという事になる」

 

ダークキバがそう言うと大地が揺れ、残っていた二体のファンガイアが砕ける。二体のファンガイアの魂が浮かび、マナを媒介としてその二つの魂が一つとなる。彼らの魂が一つに交わった事で変化が起き、巨大なペガサスとなった。空からダークキバとイクサを見下ろすペガサスが翼を上下に激しく動かし、風が吹き荒れる。その余波で木々は折れてしまい、二人を強烈な衝撃波が襲う

 

あの巨体ならば格好の的であるが、自由に空を飛ぶ姿を見ると機動力は高く、攻撃は当たりそうにない。攻撃を仕掛ければ上空で身動きが取れなくなったところを狙われて、やられるだけだ。ならばどうするか。ダークキバは巨大なモンスターには巨大なモンスターで対抗しようとする

 

「リュウヤは下がってて。あいつは僕がやる」

 

ダークキバはドランフェッスルを二世の口に挿入する。

 

「キャッスルドラン!」

 

フェッスルを二世が奏で、召喚されたのは竜の城 キャッスルドラン。

ドラン族に改造を施し、激戦の時代は移動要塞として、現在はファンガイア族の本拠地であり、アームズモンスター達の住処としての役割を果たしている

 

「ギャォォオオオォオオオオォォ‼︎」

 

キャッスルドランの咆哮が響く。ダークキバはキャッスルドランの頭部に乗り移り、キャッスルドランとペガサスが激突する

 

 

 

 

 

一方で模擬戦を行っていたヴィヴィオ達は動きを止めていた。空が昼から突如夜に変わった為だ。大半の者達はその現象を理解出来ていなかった。理解出来たのはアインハルトとキャロのパートナーであるフリードだけだった

 

アインハルトは怒りを漲らせ、フリードは闘争心を燃やす

 

「どうしたの⁉︎フリード!」

 

アインハルトとフリードはダークキバが戦っている場所へと急ぐ。その様子に何かあると感じたのか、ヴィヴィオ達はアインハルトとフリードを追いかける

 

 

 

 

キャッスルドランがミサイルを発射する。被弾したペガサスだが勢いが弱まる事はなく、仕返しとばかりに体当たりを行う。後ろに後退するキャッスルドランは反撃しようとするが後方から凄まじい衝撃が襲う

 

「下等種族のドラゴンか。キャッスルドランに闘志を燃やしているのか」

 

フリードとペガサス。二体に攻められているせいで防御一辺倒になってしまっているキャッスルドランであるがダークキバに焦っている様子はない

 

「二世。ククルカンを呼ぶよ」

 

「分かった。ククルカン!」

 

二世が紺色のフェッスルを吹く。ロック調の音色が響き、現れたのはククルカンと呼ばれる蛇型モンスター。普段は指笛を鳴らす事で現れるのだが変身中は出来ない為、ククルカンを呼び出す為に作られたフェッスルを使う事で呼び出す事が出来るのだ

 

 

ククルカンがフリードを絡め取り、キャッスルドランから離すと尾で攻撃する。鞭のように動く尾による攻撃はフリードに攻撃の対象を変えさせるには十分だった

 

 

「早く決めるぞ」

 

「うん。行くよ!キャッスルドラン」

 

キャッスルドランからミサイルが放たれ、ダーキバはウェイクアップフェッスルを手に取る

 

「wake up two!」

 

二世の口に挿入し、二度口を叩いたダークキバ。空は紅い満月が浮かぶ夜へと変わる

 

「ハァァアアアァァァァァァァ‼︎」

 

空高く跳躍したダークキバにキャッスルドランはエネルギー光弾を放ち、それが守るようにダークキバに纏われる。勢いを増し、ペガサスに必殺技 キングス バースト エンドが炸裂。ダークキバが地上に着地すると同時に爆発した

 

「で、どうする?あれ、キャロって人の相棒みたいだぞ」

 

イクサがダークキバにそう告げる。フリードを倒せば、ヴィヴィオ達が敵意を向けるのは必然だと言いたいのだろう。勿論、ダークキバはそれを理解していた

 

「大丈夫。穏便に済ませるから」

 

ククルカンに乗ったダークキバはフリードに近付いていく。フリードの目の前で止まるダークキバは丁寧に、しかし威圧するように話しかける

 

「僕達には君と戦う理由はない。大人しく引いてくれるね?」

 

みるみる内に小さくなったフリードは下へ降りる

 

「フリード〜‼︎」

 

キャロの声が聞こえる。声がした方向へ二人が目を向ければ、ヴィヴィオ達の姿がそこにはあった

 

「貴方は、誰?」

 

警戒しながらフェイトが問いかける

 

「貴様には関係の、いや。知る必要の無い事だ」

 

ダークキバに代わり、二世がそう言うとフェイトはバルディッシュを構え、戦う姿勢を示す

 

「やる気か?」

 

「貴方は指名手配犯。捕まえさせてもらいます!」

 



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第8楽章 a declaration⁉︎ 最強と最凶

ダークキバとイクサ。なのは達の戦いが始まる。イクサに迫るアインハルトとダークキバに迫るフェイトと怯えて縮こまるフリードを抱き抱えるキャロにこの状況を上手く飲み込めず、立ち竦むなのは達。そして上空で待機しているキャッスルドランとククルカンと少し離れた場所で見ているフェニックスレジェンドルガ。彼女は戦うつもりがないのか、微動だにせずにいる

 

 

アインハルトの拳が連続してイクサに放たれる。それを躱しているイクサに険しい目を向けるアインハルトはパンチを繰り出しながら話した

 

「貴方はまた私の邪魔をするのですね‼︎」

 

一度、バインドで止めた時の事を言っているのだろう。そしてアインハルトには明確な怒りが存在しているのをリュウヤは感じていた

 

「いやいやいや‼︎なんでそうなる⁉︎邪魔してんのはお前だろ!」

 

「問答無用‼︎」

 

アインハルトの拳を躱し、後ろに大きく後退したイクサ。彼は攻撃をする訳にもいかず、焦り始めている

 

 

 

一方のダークキバも冷静とは言えない状態だった。彼は本気で戦えば彼女達が来る事は分かっていた。まさか捕まえようとして来るとは思っていなかったが、それでも逃げ切れる自信がある。今、彼が持つカードの中で使える者は二つほどだ。ただ、それを使えば大なり小なり彼女達が怪我を負う可能性があった。言い方は悪いがワタルにとって初めて会ったキャロ達がどうなろうとあまり関係の無い話。だが、ヴィヴィオやリオ、コロナ。ミヅキ、なのはやフェイト、ノーヴェといった一部の者は別だ。なるべくならあまり傷付けたくはないというのが彼の思いであった

 

「(・・・どうすればいい。敵を狙おうにもこのままでは)」

 

敵を逃すつもりはない。おそらく相手もまだ逃げるつもりはないだろう。そして理由は分からないが戦うつもりがないという事も。それが分かっていても、この状況に苛立ちを覚えていた。人間に危害を与えた事などない。むしろ自分は人間を守って来た。なのに何故、自身に刃を向ける?黒い感情が彼の心を蝕み始めるが、その考えを打ち消すように首を横に振る

 

「とりあえずはこの状況を打破しなければならないぞ」

 

「分かってる」

 

その時、スワローテイルファンガイアが現れる。なのは達が異形の存在に身構える中、ダークキバは安心したような声を出す

 

「ビショップ!」

 

突如現れたスワローテイルファンガイア。その正体はチェックメイトフォーの一人『ビショップ』だ。ワタルに魔術を始めとする力を教えた者でもある。今はキバットバット三世と共に調査に向かっていたのだが。ビショップはダークキバに向かって膝をつき、頭を垂れる

 

「ただいま帰還いたしました。王よ」

 

「うん。あれを頼める?」

 

「・・・貴方の頼みならばなんなりと」

 

そう言うとビショップはダークキバの前に立ち、光の壁を出現させた。壁はサークル状になのは達を囲むように展開され、一種の結界でもあるこの壁はダークキバ達が逃げる時間を作るには十分すぎる時間を与えていた

 

「逃げられた‼︎」

 

結界を破壊しようとした瞬間、結界が消えたがそこにはもう彼らの姿は無い。悔し気に唇を噛むフェイトとアインハルト。正義の為、復讐の為。目的は違えどダークキバを追う二人の姿はなのは達を困惑させていた

 

 

 

一方で無事に逃げ切ったダークキバ達は周囲を警戒しながらビショップに話しかけた

 

「ありがとうビショップ。助かったよ」

 

「礼には及びません。それよりもご報告が」

 

変身を解いたワタルとリュウヤ。ビショップも丸眼鏡と黒いロングコートを着用する長身痩躯の男の姿になる。ビショップがワタルに話をしようとした

 

「うん・・・っ!」

 

木にもたれかかったワタルはダークキバに変身した副作用から痛みが走り、小さな呻き声が溢れる

 

「あんま無理すんなよ」

 

「・・・やっぱり闇のキバになるのは・・・疲れるね」

 

自嘲気味にそう話すワタルだが、数分もすれば痛みが引くレベルの軽いものだ。そしてビショップは頃合いを見計らって膝をつき、頭を垂れる

 

「キング。アークの遺跡からある物を発見しました」

 

「ある物?」

 

「ブラッドストーンです」

 

ビショップの言葉にリュウヤは疑問の声を上げた。その疑問に答えたのはワタルだ

 

「ブラッドストーンって何だよ?」

 

「かつての戦いにおいてレジェンドルガを封印する時に使われたという伝説の石。伝承によるとその石は封印の力を増幅させ、半永久的に持続させる能力があると言われている」

 

更にワタルの言葉を二世が引き継ぎ、自身の考えを話す

 

「奴らは蘇った。それは外部から何者かの干渉があったとしか考えられない。封印された者に抵抗する力などある筈はないからな。まあ、ワタルは奴らが復活した際に回収したものと思っていたようだが、手札は出来るだけ増やしておきたい」

 

「何者がやったかどうかはまだ分かっていないけど・・・それは遺跡を調べればいずれ明らかになる。今は彼らを倒す事が先決だよ。そうしなければ世界は闇に覆われてしまう」

 

ワタルの強い決意がこもった言葉にリュウヤとビショップが頷く。二世も頷いてはいないが考えは同じ筈である。しかしそこにフェニックスレジェンドルガの声が響いた

 

「なるほど。今代のキングも中々・・・」

 

彼女はワタルと木を挟んで背中合わせの状態だった。気配がしないのにも関わらず、声はする。警戒を高めたワタルは距離を取ると臨戦態勢を取り、戦おうとする。しかし、それを制止するようにビショップがワタルの前に出る

 

「盗み聞きとは趣味が悪い。キング。少しお下がり下さい。ここは私が」

 

「レジェンドルガはこの世界を手中に収めたい。ですが、その為には貴方達ファンガイアを排除()()()()()()()()()()

 

そう話すフェニックスレジェンドルガにワタルは厳しい目を向ける。一族を滅ぼすと告げているのだ。とても無視出来る内容ではない

 

「それは我々への戦線布告と思っても?」

 

「構いません。この戦いはレジェンドルガが滅ぶか、ファンガイアが滅ぶまで終わる事はありません」

 

ファンガイアとレジェンドルガ。 この二つの一族の戦いは魔族の存亡に関わる。もちろんその戦いからワタルは逃げる事は許されない。ワタルにはキングとして一族を、一族と友好を結ぶ魔族を守る義務がある。とはいえ、ワタルに逃げる気は微塵もないが

 

「消えるのは貴方達だ。ファンガイアはキングの誇りにかけて必ず守り抜く‼︎」

 

「ファンガイアを滅ぼす。これはアーク様のご意志!私達はアーク様への忠誠を示す為、ファンガイアを滅ぼします‼︎」

 

「変身‼︎」

 



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第9楽章 a step! 魔族と謎と人間と

ワタルはダークキバに変身し、フェニックスレジェンドルガに迫る

 

「はぁあっ!」

 

「・・・それでは、また」

 

ダークキバのパンチが当たったと思われたその瞬間、フェニックスレジェンドルガの身体は消え、無数の羽根が飛び散る

 

「逃げられたな・・・」

 

変身が解かれ、ワタルの肩に二世が乗る。ワタルの顔は暗い。フェニックスレジェンドルガが見せた召喚術。彼女が出来るのはそれだけではないだろう。しかも、まだ同格の敵は何人もいる筈だ。今のままで果たして勝てるのか。そんな不安がワタルにのしかかる

 

「・・・うん。しかも彼女と同格の者は少なくとも一人はいる」

 

「しかし、今はそれを考える時ではない。一刻も早く戦いの準備を整える事が先決だ」

 

ワタルは気を取り直して彼らに話す。キングである自分が不安がってはいけない。そう自身に言い聞かせ、ワタルは自分の不安を隠すように明るく装う

 

「とりあえず僕とリュウヤはここに残るよ。いなくなったら怪しまれるし」

 

「そうですか・・・では、私は護衛兵の選別を行っております」

 

「俺も俺でやる事がある」

 

そう言って去ったビショップと二世は赤の戦士と同じように黄色い二重の輪が二人の身を包み、ミッドへと転移する

 

「あれ何?」

 

「・・・テレポートシステム」

 

ワタルがリュウヤの質問に苦々しく答える。彼にとって、あまり好ましい物ではない。システムの有用性は認める。しかし、その開発者がワタルがこの世で最も憎む者なのだ。その為にワタルはあまり好きではない

 

「あの野郎が開発した物か・・・」

 

一方のリュウヤもワタルの表情を見て、誰が開発者か察したのだろう。彼もまた、苦虫を噛み潰したような表情になる

 

「帰ったら聞いてみようか。会いたくないけど、会わなきゃいけないな。神田博士には」

 

そう呟いたワタルにリュウヤは頷く。そのまま二人が帰ろうとしたが、そこにミヅキとルーテシアがやって来る。気配を感じ、一瞬であるが眉を顰めるワタルは彼女達の方を向く

 

「あら。こんなところにいたの?お二人さん」

 

「二人は?演習中じゃないの?」

 

中止されている事を知りながら知らないふりをして聞くワタルにルーテシアは意地の悪い笑みを浮かべる

 

「どっかの誰かさんのせいで中止になっちゃったのよ。今はそいつを探しているんだけど見つからなくて」

 

「そうなんだ。探すの手伝おうか?」

 

さらにはルーテシアの皮肉を躱すワタルだったが、内心は焦っていた。気付かれてる。そう思い、どうするか思案しているが、ルーテシアが彼の腕を掴む。みづきはオドオドしており、リュウヤは状況についていけていない

 

「そうね!なら、情報収集を手伝って貰おうかしら?白銀ワタル。いいえ、魔皇 キバ」

 

ワタルはすぐに周囲を見ると、小さな虫が飛んでいるのを見つける。それを見て、すぐに彼は得心がいった。ルーテシアが虫に追跡させていたのだろうと。彼女は召喚師である為、虫を呼び出すくらい造作も無い事。ましてやワタルの集中力は低下していて、リュウヤは元々、小さな気配をかなり近くで無いと感じ取る事が出来ない。しかし、それでも気付く事が出来なかった自分にワタルは苛立ちを覚える

 

「誰にも口外しないのなら三つだけ答えましょう」

 

自分の感情をおくびにも出さず、質問に答える姿勢を条件付きで見せるワタルにルーテシアは内心、舌を巻きながらも質問をする

 

「なら、聞かせてもらうわ。貴方はキバ。つまり、貴方の先祖は覇王イングヴァルトと関係があったのよね?」

 

「えぇ。一度は親友ですらあったようですね」

 

「それなら二つ目の質問よ。何故、アインハルトはキバを憎んでいるの?」

 

「覇王には二つの記憶があるとだけ言っておきましょうか。何故そうなったのかは僕にも分かりませんけど・・・」

 

ワタルの答えにある程度の納得がいったのか、ルーテシアは最後の質問をする

 

「そう。じゃあ、最後の質問。貴方は人間の味方?それとも敵?」

 

「それは人間の行動次第で決まる。まあ、()()味方だと言っておきましょうか」

 

ワタルは最後まで余裕のある表情で質問に答えた

 

「・・・そう。みづき!貴方も聞きたい事があるんでしょ?」

 

自身としては聞きたい事を聞いたルーテシアはみづきに話を振った。その言葉を聞いたみづきはワタルの前に立ち、ルーテシアとリュウヤにお願いする

 

「二人きりにしてくれる?」

 

「良いわよ。じゃあ、ごゆっくり〜」

 

「あんたも来なさいよ!聞きたい事もあるしね〜」

 

ルーテシアがリュウヤの腕を引っ張る。強く握られるそれはリュウヤにとってはあまり痛くないし、振り解くのも簡単だ。しかし、逃げるのは許さないという無言の圧力がかかっているせいで抜け出す事が出来なかった。結果、ルーテシアに連れて行かれたリュウヤは色々聞かれる事となる。まあ、後でリュウヤは予想外の展開に状況を呑み込むので精一杯だとワタルにボヤいたそうな

 

「ワタル君がキバ・・・だったんだね」

 

二人がいなくなるとみづきが呟いた。ワタルはみづきを注視する。みづきは妙に落ち着いているのだ。ルーテシアも落ち着いてはいなかった。最後の質問が自分を警戒しているのを示していた。なのに彼女には警戒心がない。その様子がキバの事を知っているのではないかというワタルの疑心を駆り立てる

 

「・・・・・・うん」

 

みづきはキバについてこれ以上追求する事は無かったが、おずおずと躊躇いながらも口を開く

 

「あの、覚えてる?」

 

「何を?」

 

「ううん。何でもない。良かったら今度、一緒に遊びに行こ?」

 

一瞬、悲しそうに目を伏せたみづきは作り笑いをして、ワタルに遊びの誘いをする

 

「うん。みづきちゃんさえ良いなら」

 

柔らかくワタルが微笑む。みづきは顔を赤く染めて、俯かせる。因みにみづきの誘いは二人きりならば、完全にデートである事は言うまでもないだろう。二人がその事に気付いているかは分からないが。ともあれ、二人は和やかな雰囲気だった

 

 

 

 

 

一方でリュウヤとルーテシアの二人はお互いに睨み合い、微動だにしていない

 

「ねえ、リュウヤ」

 

ルーテシアは笑顔を見せるが、額に縦ジワを寄せて不機嫌そのものだ。怒っていると察したリュウヤだが、何故だか分からない

 

「ん?」

 

「私が怒っているのは分かるわよね?」

 

「ああ!何でかは全然分からないけど」

 

リュウヤは彼女が怒っている理由が分からない為、正直に答えたのだが、それは彼女を更に怒らせる結果となってしまったようだ

 

「分からないですってぇぇぇぇぇええええええ!!!?」

 

「な、何だよ?言わないと分からんねえよ」

 

「そうね。なら言ってあげるわよ‼︎」

 

ルーテシアの迫力に押されているリュウヤに彼女が予想の斜め上をいく言葉を紡ぐ

 

「お、おう」

 

「何でキバが白銀ワタルだって事を黙っていたのよ‼︎」

 

「・・・・・・は?」

 

しばしのフリーズ。こいつはワタルの事を知ってたのか。いや、そもそも先程はすごい意地悪な感じを出してたよなというのはリュウヤの心の声である。だが、それを言えばどうなるかは明白で、それが分からぬ程リュウヤは空気が読めない訳では無かった。とはいえ、予想外の言葉に固まってしまい、ルーテシアが疑心に満ちた目を向けてきたのは仕方がないだろう

 

「何よ?」

 

「いや。お前、キバ好きなの?」

 

リュウヤの質問にルーテシアが目を輝かせる

 

「勿論‼︎なんたって昔、私を救ってくれたのよ!色は白銀ワタルのとは違って白だっただけど」

 

昔、キバに救われたというルーテシアはそれ以来、キバに会いたいと思っていたようだ。だが、自身を救ってくれた相手に会う事は出来なかったので、落胆しているのは間違いないだろう。まあ、リュウヤは彼女がダークキバと謎のキバを同じ存在としている気がしてならないが

 

「(・・・白?他のキバなんて黄金のキバしか知らねえけど白なんていなくね?まあ、後でワタルに聞いてみよ)」

 

因みにこの後、イクサシステムについて聞かれたリュウヤは皆には自分達の正体を教えないようにと念を押していた

 

 

 

その日の夜。怪しまれる事なく、やり過ごした二人はベッドで横になっていた。既に服は夜間着に着替えている。ワタルは携帯電話を弄る。因みにパスワードは0108。デバイスは必要ないので持っていない。元々身体能力は人並み以上にあり、襲われたら制裁の雷。それで対処出来なかったらダークキバに変身するとは言っても、変身するのは上級ファンガイアレベルの者だけである。一方のリュウヤは少し疲れているようだ。欠伸をしてから一度、伸びをする

 

「ふぁあ〜疲れた」

 

リュウヤを見るワタルはまあ、確かにと同調すると、穏やかな目から一転して少し厳しい目を向けた

 

「で、他にキバがいるって話は本当?」

 

「おう。あいつが言うにはそのキバに助けられたんだと。他にキバっていんの?」

 

「いや。闇のキバと黄金のキバ。それに最初のキバの鎧であるサガ。この3つ。他に存在するなら僕が所持していなくても知っている」

 

ワタルの所持する闇のキバの鎧と黄金のキバの鎧。それにコウガの所持するサガの鎧の三つしか今、ファンガイアの王の鎧は認知されていない

 

「ナイトとポーンが他の奴に流したとか?」

 

「いや。それは無いよ。でも、それも近いうちに調べていかないとね」

 

柔らかく微笑むワタルは布団をかけると数分後には寝息を立てて寝ていた。やはり、ダークキバに変身すると疲れがかなり溜まるようだ。リュウヤも、ワタルが寝たのを確認すると眠りについた

 

 

そして旅行4日目 ワタル達は多少のハプニングがあったもののミッドへと帰る。その間、ワタルは頭の中でこれからのレジェンドルガの行動について考えていた

 

最初から幹部クラスが来るかどうかは分からないが、いきなり全戦力を傾けはしないだろう。気になる事があるとすればヴィヴィオを始めとする古代の王の血を引く者達。無関係じゃないかもしれない。そう考えると彼女達に護衛をつけるべきか否か

 

昨日、ワタルはインターミドルチャンピオンシップ。通称”DSAA”という大会にヴィヴィオ達が出るという事で、去年の出場選手を調べていたのだが、それによってジークリンデ・エレミア。ヴィクトーリア・ダールグリュンの2名が大会に出場していたという事を知った

 

この二人は古代ベルカの王の血を引く者。それに加えて彼女達の話から今年の大会にヴィヴィオとアインハルトも参加するようだ

 

「(もし、彼女達を狙っているのならばそれを見逃す筈が無い。と言ってもエレミアとダールグリュンという人は情報でしか知らないから警護するのは大会当日から。チェックメイトフォーに近い実力を持つ者達に警備員を装わせて守らせよう)」

 



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第10楽章 rush! 溢れる怒り

初代キングの時代より遥か昔、ファンガイアは掟によって、人間を愛する事を認められていなかった

 

”破れば死が待っている”

 

それでも尚、人を愛してしまった者は逃げるように暮らしていた。しかし、そんな生活も終わりを告げる。2代目キングが死の間際、後継者として選んだ自身の弟。彼は人間を愛してはならないという掟を撤廃した

 

「彼が唯一行った善行」

 

とその時代を知る半分程の者が言う事であるが、実際、彼はとても見るに堪えない有様だったようだ。それを示すかのように今の時代では、存在すら抹消されている。彼がいた事はワタルさえも知らない

 

 

この掟がなくなってから約100年

 

今、この時代においてファンガイアは人間とのハーフだけでなく、ハーフと人間のクォーターが存在する。これを平和の証だと楽観視する者もいるが、一部のファンガイアの間では異種族混血問題と呼び、問題視されているのも事実だ。人間の血が濃くなり、ファンガイア態になれない者が増えた。ファンガイア態になれる者でも人間より少し強い力を持っているだけであり、純血の者達と遜色ない力を持つ者は珍しい。しかし、それでもまだ楽観視出来たかもしれない。レジェンドルガとの戦争さえなければ

 

 

レジェンドルガとの戦争。これは即ち、一族の存亡をかけた戦いになる。少しでも戦力が必要だ。だが、今のファンガイアには非戦闘員が多い。その者達を守る為の部隊。自身の庇護下にあるホビット族やマーメイド族等を守る為の部隊。レジェンドルガと戦う為の部隊。これだけでも、たくさんの兵が必要だ。クーデターさえ起こらなければ何とかなったかもしれないが。とは言え、もしもの事を考えても仕方がなく、キャッスルドランの中にある執務室でワタルは部隊編成に頭を悩ませていた

 

「これはこうすれば・・・いや。そうしたら今度はこっちが」

 

ワタルは書類と睨めっこしていた。内容は部隊編成についてだ。これをするのはワタルの仕事なのだが、何せ部隊編成など初めてである為に手間取っているようだ。まあ、それも仕方ないだろう。普段は部隊編成をする事がない。基本的にファンガイアは掟を守りさえすれば、有事の場合と任務以外は自由が保障されている。唯一の例外はワタルの護衛部隊ぐらいだ。彼らの仕事は当番制。本来ならルークの仕事を彼が今、いない為に代わりにやっているに過ぎない。まあ、彼らはそれを進んで引き受けたので、苦痛ではないのだろう

 

それはさておき。ワタルは人手不足な現状に頭を抱える。せめて、もう少し人材が欲しい。そう思っても現状は変わらず、投げ出したくなる・・・かと言って世界の危機を前に投げ出す訳にはいかず。良い案は無いかと考え続けるしか道は無いのだった

 

「おい!ワタル!」

 

ワタルの前に書類を持って来た次郎に目を向ける。彼は管理局の三提督と会議に行っていた。しかし、予定よりも時間が遅かったし、何かあったのだろうかとワタルは不安になっていた

 

「次郎さん。何か不味い事でもありましたか?」

 

「いや、三提督との会談は何の問題もなく終わった。お前の指名手配は取り下げ。やった奴は降格処分だ。レジェンドルガの事も伝えたしな。協力体制を取ってくれると言ってくれた」

 

どうやら指名手配は他の者が独断でやったらしい。そして、後で話を聞くと、その者達は精神に異常が見られたので、彼らが用意した部屋に監視付きで過ごしてもらうようだ。しかし、協力体制が取れるのは喜ばしい事で、ワタルはホッと胸を撫で下ろす。後は聖王教会との会議が明後日。ファンガイアのD&Pの上役達を始めとする企業の責任者との会議が3日後。リュウヤの父親代わりである嶋マモルが会長を務める嶋財団との名ばかりの会議が6日後。協定を結んでいる魔族の長との会議が一週間後に控えている

 

「良かった。教会とは明後日ですよね?」

 

「ああ。しっかりやれよ。なんせ一族の未来を決める大事な戦いの前だ。ヘマをする事は許されない。それを忘れるな」

 

そう念を押す次郎だが、それは当然だ。なので、次郎の言葉は間違っていなかった。それを理解しているのかは分からないが、期待するような目で次郎を見つめる

 

「はい。でも、付いて来てくれてるんですよね?」

 

まるで悪戯を思いついたような餓鬼のようだなと次郎は思う。そして、一方でこの子犬のような目に俺は弱いんだと次郎は心の中で叫ぶ。既に次郎の返事は決まっていた

 

「ああ。だから、気負わずにいけ」

 

「分かってます」

 

「ならいい。しっかり準備しておけよ」

 

ワタルの頭を撫でながら次郎が呟いた。この年になると恥ずかしがって拒否するものだが、ワタルにはそれがない。将来のことを考えると不安になる次郎。しかし、それでも甘えてくれる今の内に堪能しておこうと撫でる手を止める事はない

 

「はい。分かりました」

 

「それと少し前にビショップから連絡が来た。神田の今の居場所が割れたそうだ」

 

次郎が思い出したように言うとワタルの目が鋭くなる。神田には今まで会いたくなかった。彼はクーデターを起こした張本人。憎い。家族との時間を奪い、親友の父親の命が失われる原因を作った彼が。だが、その気持ちを抑えてワタルは会わなければならない。会って、聞かなければならないのだ

 

「何処ですか?」

 

 

 

 

翌日。ワタルは某研究所の中を歩く。階段を上り、廊下を歩く。険しい目で前を見るワタルの前にやがて、一つの大きな扉が見えた。彼はそれを押し、中に入る。ワタルは色々な機械がある部屋の中にいる白衣を着た男性に近付いて行く。この男性が神田博士だ。神田はワタルに気付いたのか、彼を見る

 

「オトヤの息子・・・ワタルか。あの赤ん坊がデカくなったものだ」

 

「貴方にだけは会いたく無かった。父さん達を裏切った貴方にだけは・・・」

 

余裕のある表情を浮かべる神田と怒りを必死で抑えているワタル。何しろ神田はワタルにとって本来なら得られた幸せの未来を潰した元凶であるだけでなく、親友の父親を奪った人物であるのだ。その怒りは当然だった。しかし、神田はその怒りを悟っても悪びれない

 

「私としては感謝してもらいたいぐらいなんだが。私のおかげでお前らの政策に反対するファンガイアはごく僅かになったのだからな」

 

反省などしておらず、むしろ、自身の行動を正当化しているような口ぶり。そして、その言葉を聞いたワタルが怒りを抑えられる筈もなく、左手で神田の首を絞める。首が焼かれているのか、煙が僅かに出ていた

 

「そのせいでリュウヤの父親は死んだんだ。貴方に聞きたい事が無ければ既に殺している」

 

そう言って手を離すワタルに神田はこの場においては不釣り合いな笑みを浮かべ、椅子に座る

 

「お前はオトヤに似ているな。そして、今の行動。私がこの道を歩む事が決まった時を思い出す。闇のキバになった奴に私達は負けた」

 

神田が言葉を切ると、ワタルはその結末を言った

 

「そして貴方は父さんにファンガイアの力を奪われて半端者になった」

 

「そうさ。お前と同じ半端者だ」

 

真のファンガイアと言えない二人。片や僅かながら人間の血が流れていて、片やファンガイアとしての力を失った。お互いに二つの種族を彷徨う存在であると神田は言っているのだ。人間と言えず、かと言ってファンガイアでもないのだと。しかし、ワタルはそれを否定する

 

「貴方と僕は違う」

 

「それもそうだ。私にファンガイアの力はないが貴様にはある」

 

言葉遊びをする為に来た訳ではない。しかし、冷静さを欠き、神田のペースに引き込まれてしまっていたワタルは話の内容を変える

 

「・・・貴方に聞きたい事がある。あの赤い戦士のシステムは貴方が作った物ですよね。あれは貴方一人で作った物ではない筈だ。協力したのは誰ですか?」

 

「・・・お前の父親だ。設計図を私に送りつけて来た。私はそれを元に作っただけだ」

 

神田の協力者がオトヤであると言う神田。ワタルには理由が分からなかった。何故、敵を作らせたのか。何をしたいのかも。オトヤの考えすらも分からなかった

 

「何で父さんが・・・?」

 

「さあな。奴が考える事は私達にも分からん。ファンガイアと人間のハーフであるがクイーンの力に選ばれた時もそのクイーンを殺さずに迎え入れたり、闇のキバを多用せずにイクサを愛用したりとな・・・・・・そういえばお前は闇のキバを使っているらしいな」

 

神田が話題を変える。それに対して、ワタルは神田の意図が読めず、困惑していた

 

「何が言いたいんですか?」

 

「お前にあの力は重い。いつか、命を落とすぞ」

 

「貴方には関係が無い事です」

 

「確かに私に関係はない。だがそれで暴走されて世界を滅茶苦茶にされるのはゴメンだ。お前がそれを纏う時は常に暴走の危険性が高い。赤ん坊の頃、お前の不安定な魔皇力が安定するようにオトヤが掛けた封印魔術も解け掛かっているみたいだしな」

 

それにワタルは答えない。しかし、一瞬だけワタルの手が僅かに動いたのを神田は見逃さなかった

 

「図星か」

 

オトヤがかつてワタルに掛けた魔術は解けかかっている。昔はオトヤの魔術安定剤のような役割を果たしていた。しかし、ワタルが成長するにつれて緩くなり、彼の魔皇力の不安定さを増長させていたのだ

 

「・・・今はどうでもいい事です。それより、あの赤い戦士の正体を教えてもらいます。力づくでも」

 

ワタルは平静を装う。分かっていた事であったが、改めて言われるときついものがある。それでも、戦う事に迷いはない。死んでも構わなかった。そして、その覚悟がワタルの過激さを生んでいた。

 

「私としても教えてやりたいのだが、どうやら時間だ」

 

それと同時に研究所のあちこちで爆発を起こる

 

「貴方は誰ですか?何がしたいんですか?」

 

ワタルが叫ぶ。感じる違和感。力を失った者ではない。自身を凌駕する力を秘めている。彼は危険だとワタルの本能が囁く

 

『流石はファンガイアの王だ。中々鋭い。そうだな。一つだけ言えるとすれば私の元へと来い。我が僕達を倒し、全てを終わらせる為に』

 

そう言うと神田の前に山羊を彷彿とされるカプリコーンファンガイアが現れる。しかし、その姿はどこか歪で、ワタルには改造されているように感じた。カプリコーンファンガイアが自身の身を研いで槍を取り出し、突く。それを寸前のところで躱したワタルであるがその威力は凄まじく、突き刺さった壁に亀裂が大きく入っていた。既に神田はいなかった。やはり、彼は何かが違う。ワタルはそれを確信する

 

「二世!」

 

「こいつは何かおかしいぞ。気を引き締めてかかれ!」

 

ワタルの元に飛来した二世はワタルの左手を噛む

 

「ガブリ!」

 

「変身・・・」

 

ベルトに自らついた二世。同時にワタルはダークキバへと変身を遂げる

 

「ハアァッ‼︎」

 

ワタルは再び放たれた槍を左手で掴み、カプリコーンファンガイアの胸を右の拳で殴る。魔皇力を込めて放たれたそのパンチにカプリコーンファンガイアは一歩、二歩、三歩と後ろによろめく。それをダークキバが逃す筈がなく、連続で拳のラッシュを浴びせ、右足で蹴り飛ばす

 

「wake up! one!」

 

世界から光が消える。唯一の光はダークキバの背後に浮かぶ紅い満月のみ。右拳に収束された魔皇力を、ダークキバはカプリコーンファンガイアにダークネスヘルクラッシュを放つ。キバの紋章が浮かび、爆発が起きるもカプリコーンファンガイアは倒れない。ダークキバが攻撃しようと構えると、カプリコーンファンガイアは身体のあちこちから煙を上げて倒れた

 

「改造されているのか。調べるか?」

 

「・・・・・・うん」

 

ワタルの顔は暗く、悲しみに満ちていた。操られていたのだろう。自我を奪われ、物言わぬ傀儡に成り果てた。再生体と同じ。いや、それ以上の屈辱を彼は与えられていたのだ。それを考え、ワタルは彼の身体をこれ以上弄りたくなかった。しかし、キングとして私情を捨てた決断を下さなければならない。死した同族と、生きる同族。優先されるのは生きる者達だ

 

「今度こそ安らかな眠りにつけますから、後少しだけ我慢して下さい」

 



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第11楽章 over play 人間

合宿が終わってから二週間が経過した。ファンガイアは常にピリピリとしている。聖王教会となんとか協力に漕ぎ着け、有事の際にはバックアップをしてくれる事を約束してくれた

 

D&Pの上役達は不満そうな顔をしていたが一応は一族の危機という事で協力するようにさせ、誓書を書かせた

 

嶋とは会談とは名ばかりの話し合いをして、今まで通り協力してくれるらしい。他にも対レジェンドルガの武器を開発するらしく、3つの会談の中で一番簡単に終わった会談だろう

 

それはともかく、ワタルは戦いへの準備を進める。しかし、学業を疎かには出来ないので学校には通っていた

 

 

 

 

 

アインハルトはチャイムが鳴り、HRが終わると帰る準備をしているみづきに近付く

 

「みづき!一緒に帰りませんか?」

 

「ごめんね!今日は約束があるから・・・」

 

「そうですか・・・」

 

「本当にごめん。じゃあ、明日ね」

 

申し訳なさそうにしながらも急いで教室を出るみづきを見送る。誰と約束があるのかなどアインハルトは分かっていた。だって合宿から帰ってから一緒にいる事が多いのだから。それに文句を言うつもりはない。しかし最近は全く一緒にいられず、彼の話ばかりしているみづきにアインハルトは不満を抱いていた。それが爆発するのは近いだろう

 

 

 

 

 

ワタルは校門の前で携帯を弄りながら待っていた。リュウヤはイクサの点検があるとかで早く帰っているので今は一人だが、待ち人がいる事を考えると先に帰ってくれたのは都合が良かった。彼なら必ず揶揄ってきただろうから

 

やがてワタルにみづきが走って近付いて来る。これだけで注目される事にワタルは人間は変だなと思う。何故男女が揃うだけで騒ぐのか理解出来なかった。とはいえ周りの人間に興味は無いので放置する。また、あらぬ噂を流されるのだと思うと少々気が滅入るが

 

「走って来なくてもいいのに」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「謝らなくていいよ」

 

「・・・ごめんなさい」

 

最近、こんな会話が多い。幾つか原因は推測出来るが確かめはしない。そうすると落ち込むのが目に見えているからだ。それはともかくワタルは遠くに車があるのを確認する。そこまでみづきの手を引いて歩き、ドアを開ける

 

「乗って。移動するよ」

 

ワタルはドライバーに近くのカフェに行くよう指示を出した。それに頷いたドライバーは最短ルートでカフェまで行く

 

 

 

 

 

 

カフェに入り、注文をする。ワタルはドリンクに口に含み、喉を潤すと話しを切り出す

 

「今日呼んだのはみづきちゃんに護衛をつけたいからなんだ。もちろん、出来るだけプライバシーには配慮させる」

 

「えっと、何で護衛を?」

 

みづきが困惑するのも無理はない。今回の話が唐突だったからだ。だからこその質問だったのだが、それにワタルは少し苦い顔をする

 

「最近は敵対勢力の動きが活発なんだ。僕に関わった人間が襲われる可能性がある。その為の対策だよ」

 

合宿から帰って来てから動きが活発になり始めたのでレジェンドルガも無関係ではないだろう。しかし、それよりも味方がどれだけいるのかという事がワタルは気になっていた

 

「うん。そういうことなら」

 

みづきは少し考えた後に了承する。そんな事は無いと思うがワタルの好意を無駄には出来ない。そう思いみづきは了承した。するとワタルは小さな赤いボタンがついたスイッチを渡す

 

「それじゃあこれを。危なくなったら押して。これを押すとみづきちゃんの場所が分かる仕組みになっているから」

 

ボタンを押すとボタンの電波を母機であるワタルの携帯が受信して居場所が分かる仕組みになっている。この電波は母機の方からシャットアウトするしかないのでもう一度ボタンを押したところで無意味なのだ。つまり、敵が気付いても意味は無い。破壊するにも一度場所が分かれば探すのは幾らか楽だ

 

「う、うん」

 

緊張した様子でそれを受け取るみづき。それから二人はワタルの奢りで会計を済ませると店を出て商店街を回る。周りから見ればデートだと勘違いするであろう雰囲気だったとこっそり後を尾けていたドライバーは語る。ドライバーはカフェから出て少しの間尾行していたが気付いたワタルに睨まれて車に戻った

 

夕方になってワタルはみづきと共に車に戻った。車の中でワタルはある事を思い出し、バックを開ける

 

「ああ。後これ渡しとくよ」

 

ワタルがみづきに渡したのは赤色の携帯だった。目を丸くし、次の瞬間には顔を青くして受け取れないと言うみづきだがワタルは彼女に持たせようとする

 

「携帯⁉︎う、受け取れないよ」

 

「大丈夫だよ。全然生活には影響ないから。それに連絡は出来た方が良いでしょ?」

 

ゆっくりと頷き、震える手で携帯を受け取るみづきは意外に嬉しかったりする。まあ、生まれて初めて他人からプレゼントを貰ったら誰でも嬉しいだろう。嬉しさを隠し切れずワタルに笑われ、顔を赤くするみづきにドライバーは思った。この人がクイーンだったら最高だと

 

ワタルは普段笑わない。というより仏頂面。基本的にリュウヤと側近以外には笑顔を見せないし、D&Pの会社の上役と話す時は常に殺気だっている。だが、みづきの前では側近といる時以上に柔らかい。むしろ優しい雰囲気がありすぎる。そんな訳で彼女がクイーンになって欲しいと願うが人間という壁がある以上は無理だろうなと一人で自己完結していた

 

 

 

 

 

時間は6時半。ワタルは車から降りてみづきを見送る。それに暗い顔をするみづきを不審に思う

 

「じゃあ、またね・・・ってどうかした?」

 

「な、何でもない」

 

ここは追及しない方が良いだろうと思ったワタルは信じる振りをする

 

「・・・そう?気を付けてね」

 

あからさまにホッとしている様子のみづきが気になったワタルは嫌な気持ちを振り払う為に歩いて帰る事にして、ドライバーにその旨を言って帰路につく。近くで二世が見ていたが物思いにふけていて気付いていなかった

 

「(絶対に何かある。多分、家庭内の問題だから首は突っ込めないけど・・・調べてみた方が良いかな?)」

 

少し考えてワタルは近くに会いたくない者の気配を感じ取る。確か家がすぐ近くだったと思い出し、車で帰れば良かったと後悔していた。ワタルの近くをアインハルトが通る。彼女にワタルは会いたくなかった。一族の問題もある。しかしそれ以上にみづきと一緒にいる度、見つめてくる彼女にうんざりしていた

 

「こんばんは。トレーニングの帰りですか?」

 

「はい。貴方こそどちらへ?」

 

「えっ、ああ。みづきちゃんを家に送って来ただけですけど」

 

「そうですか・・・」

 

アインハルトが面白くなさそうな表情をしていたがワタルにとってそれはどうでもいいことだ。更に言えばワタルの意識はアインハルトを尾けていたのだろう自身の一族に向いていた

 

「囲まれてるな・・・・・・6体か」

 

「え?」

 

アインハルトはキョトンとするが同時に6体のラットファンガイアが二人を囲む

 

『おい!覇王の末裔だ‼︎男はどうでもいい!あいつのライフエナジーをもらうぞ‼︎』

 

「ファンガイア‼︎」

 

すぐに武装形態になって構えるアインハルトを尻目にワタルは考える

 

「(雑魚だけか。なら、僕を知らないのは当然か。僕の存在は奴等に認められていないしね。だけど、誰なんだ?裏にいるのは)」

 

考えられるのは上役の者達だ。しかし、彼らなら自分がキングである事を敵にバラすだろうと思うが他に思い当たる人物はいない

 

「貴方は下がって下さい!ここは私が」

 

囲まれている状況で啖呵を切れるなんて実力差を理解しているのかとワタルは思う。ワタルの評価では人間がファンガイアに生身で勝つのは難しい。ナカジマギンガ、スバルの二人なら可能かもしれないがアインハルトでは不可能だ。人間がファンガイアに挑むなら遠距離からの魔法弾による攻撃などしかない。キングの書いた本にはイングヴァルトはファンガイアとやり合ったとあるから自分も戦えると思っているのだろうかと考え、切り捨てようかと思ったがみづきの存在が頭にちらつく

 

「一人でやるよりも二人の方が良いと思うけど。彼らはどこか危険な感じがしますし」

 

結構、甘い奴になったなと自嘲するが警戒心は捨てていない。アインハルトにもラットファンガイアにも

 

「分かりました。ですが無理はしないで下さい」

 

「はい(その気になればこいつら殺せてるんだけどね。まあ、黙っとこう。絶対に正体がバレる)」

 

ワタルは殺すつもりは無かった。聞きたい事があるからだ。裏に誰がいるのか。それを知りたいのである。とりあえず一匹だけ生かしておけばいいと判断したワタルは近くにいた一体を蹴り飛ばす。彼らは下級のファンガイア。しかしワタルは現在のファンガイアの中でもトップレベルにはある。ただ、力を扱い切れない為に中・上級のファンガイアとやり合うとなると苦戦するのが殆どだが。それでも、下級を倒すのは生身でも十分だ

 

「覇王断空拳‼︎」

 

アインハルトをチラッと見ると今はそこそこ出来ているようだ。しかし、傷が多いからそろそろリタイアするだろう事は予想出来た

 

「まずは一匹(制裁の雷使っていいかな?早く終わらせたいんだけど)」

 

ワタルは足蹴りにして一体を倒す。それに驚愕したのはラットファンガイアだけではない。アインハルトも無傷で一体を倒したワタルに驚いていた

 

『くそっ‼︎てめえ、何者だ‼︎』

 

「ただの学生です(そうは見えないだろうけど)」

 

『嘘つけ‼︎』

 

そんな会話をする間にもワタルは敵を蹴り、殴り追い詰めていく

 

「本当ですよ(ファンガイアのキングという事実を除けばですけど)」

 

『く、くそっ!こうなったら、逃げるぞ!』

 

勝ち目が無いのが分かり、ラットファンガイアは逃亡を図る

 

「(逃がそうか。五体も殺すとなると肉弾戦だけじゃキツイ。最近は身体が変だし)」

 

ワタルは追わず、アインハルトが追いかけようにもそのダメージでは追う事など出来ない。そもそも何故そこそこ大きな傷を負ったのに引き止めようとするのか。見逃してくれるというのだから喜べばいいのにとワタルの疑問は尽きない

 

「待ちなさい‼︎」

 

「大丈夫ですよ。彼らはまた現れます。貴方を狙って」

 

しかし、そんな考えはおくびにも出さず、アインハルトに言う

 

「貴方は何者なんですか?」

 

「貴女が知る必要はありません。もし知るとしてもそれは貴女が死ぬ時です」

 

アインハルトは先程の戦いで確信に近い疑問を抱いていた

 

「貴方もファンガイアなのですか?」

 

「だとしたら?」

 

ワタルは否定をしなかった。それにカッとなったアインハルトはワタルに突きを繰り出す

 

「私は貴方を倒します!」

 

アインハルトの拳を受け止めたワタルは人間の骨を砕きはしない程度の力で握り締める。ワタルは溜め息を吐くと同時にある事を思いつく

 

「野蛮な人間だ。キングの言う通り、人の話を聞かないようですね」

 

「誰がファンガイアの話など・・・」

 

アインハルトは自分がキングだと気付いていない。ならば一般のファンガイアの振りをして自分の考えを言うのも一興だろうと

 

「貴女の行動一つで我々の動きが決まる。今はまだ殆どが人間に溶け込んでいます。人間を害するのは掟に反するから。実際に人間を殺したファンガイアはキングによって裁かれる」

 

目を見開いたアインハルトにワタルは話しを続ける

 

「キングは4分の1ではありますが人間の血が流れているから彼は人間を守ろうとしている。しかし、貴女が善良なファンガイアを倒そうとするならばキングは人間を殺すでしょう。キングにとって人間はペットと同じ。懐くならば大切にするが懐かないのなら必要ない」

 

少し大袈裟な表現だが実際にワタルが最優先するのは一族の安全。人間の安全は二の次だ

 

「勝手な・・・」

 

小さく呟いたアインハルトにワタルは鋭い目を向ける

 

「だから言っているのです。気を付けろと。キングは人間に友好的でも人間とファンガイア。どちらを取るかと聞かれれば彼は必ず後者を取る」

 

「貴女も気を付けて下さい。これは警告です。貴女がキングに牙を向くのならばそれが人類の答えと取られるでしょう。そうなれば世界中に潜むファンガイアが人間を食らい尽くしてしまうでしょう」

 

まあ、反体勢力に許可すれば喜んでライフエナジーを吸うだろうなとワタルは思う。アインハルトは怒りと恐怖で震えていた。それを見てワタルは彼女の手を離すとアインハルトを素通りして帰路につく

 

 

 

 

 

 

少し歩き、完全に彼女が見えなくなると二世がワタルの肩に乗る

 

「素晴らしい演じっぷりだったぞ」

 

「あれでバレてないかな?」

 

実際に人間を襲わせる気は無い。だが、どちらの命を取るかと聞かれればファンガイアだ。人間を守るつもりはあってもそこまで必死に守りたいという訳ではないのである。一応、リュウヤ達への義理を通す為に守っているだけ。他の人間を守るのは掟があるからという理由とリュウヤ達一部の人間を守るついでの意味合いが強い

 

「少し怪しかったがまあ、餓鬼には分かるまい」

 

「なら、大丈夫かな?あれで抑えられるかは分からないけど」

 

「なに。動きを鈍らせるぐらいなら出来るだろう」

 

ワタルは彼女があれで抑えられるとは思っていない。元々、イングヴァルトの記憶を介してキバを知り、憎しみをぶつけてきた。彼女の中にあるのはオリヴィエをキバに殺されたという憎しみとオリヴィエを守れなかったイングヴァルトの自身への怒り。この二つが彼女の視界を狭めてしまっている

 

「面倒だね。人間って。悲しいぐらい真っ直ぐで愚かだ」

 

 

 



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第12楽章 secret 暗躍と同居人

ある日のこと。ワタルは珍しく一人で学校を出ようとしていた。みづきは用事があるからと既に帰っていてリュウヤにいたってはこの次元世界にはいない

 

ワタルは若干の寂しさを感じながら門へ向かっていたが後ろから自身を呼ぶ声に振り返る

 

「ワ、ワタルさん‼︎」

 

後ろから追って来たのはヴィヴィオ、リオ、コロナの三人だった。ヴィヴィオが来た時点でワタルはリュウヤの事を知りたいのだと分かった。リュウヤがいないせいかいつもよりも微妙に距離があるが

 

「・・・ヴィヴィオちゃん。リュウヤを探しているのなら無駄だよ。あいつはしばらく帰って来ないから」

 

「何でですか?教えてください‼︎ワタルさん!」

 

リュウヤを心配している彼女には申し訳ないがワタルが話す事は出来無かった。それはリュウヤの頼みでもあるし、自身の立場からも軽々しく言う事が出来ないからだ。ワタルは一瞬、目を伏せて静かに返事を返す

 

「君が知る必要は無いよ・・・」

 

そう言って背を向けようとしたワタルにリオとコロナが呼びかける

 

「あの、私からもお願いします!教えて下さい‼︎ワタルさん!」

 

「お願いします‼︎」

 

頭を下げてお願いする二人だが、ワタルの答えは変わらない

 

「知る必要は無いさ。リュウヤはヴィヴィオちゃんよりも強いしね」

 

ワタルはヴィヴィオ達が自身の言葉で放心しているうちに立ち去るがその光景を見ている人物がいた事には気付かなかった

 

 

 

 

 

一方で同時刻。ある廃墟に十数人の男女が集まっていた。彼らの視線は自分達を見下ろすように座る神田に集中している

 

「よく集まってくれた。私が今回お前達を集めたのは意思確認の為だ。2回目のクーデターを起こす気があるのか否か。お前達はどっちだ?」

 

ガヤガヤとにわかに騒がしくなる。しかし、一人の男があると答えたのを皮切りに他の者達もそれに賛同する

 

「・・・私たちの目的はキングと側近達の抹殺とアインハルト・ストラトスの誘拐だ。二つに分かれてやってもらいたい」

 

しばらくすると意見が纏まり、一人二人と立ち去っていく。やがて廃墟の中にいるのは神田と白のワンピースを着た女性だけになった

 

「良いのですか?彼らでは・・・」

 

失敗するだろうと彼女はそう考えていた。神田を敬愛するがゆえに言い淀んでいたが神田自身失敗すると考えていた

 

「失敗するだろうな。だが、どうでもいい。私はあれの研究データが取れればな。気にならないか?私達を封印してきたブラッドストーンが兵器として使われたらどうなるのかを」

 

今回は実験の成果を見るというのが一つの目的だ

 

「はい。ですが、彼らは捨て駒としては使えるでしょう。今投入する必要性が私には分かりません」

 

「私にとって奴らは使えるだろう。だが、今の私に力はない。力を取り戻すのは早い方がいい」

 

神田の言葉の意図を理解した彼女は神田に尋ねる

 

「ならば、キングへの手勢は囮・・・という事でしょうか?」

 

「そうだ。今回の目的は改造ファンガイアの実験とアインハルト・ストラトスの誘拐だ。まあ、キングを倒せるに越した事はない。期待はしているさ。改造ファンガイアにはな」

失敗する事など考えていないかのような顔をしている。それを見て安堵する彼女は神田に背を向けて歩き出す

 

「それでは私も仕事をしてきます」

 

「そうか。頼むぞ。フェニックス」

 

「yes,my lord」

 

柔らかく笑うとそのまま廃墟から立ち去る

 

「期待しているぞ。我が僕達よ」

 

 

 

 

 

家に帰って来たワタルの携帯が鳴る。相手はリュウヤだ。電話に出たワタルは携帯を左耳に添えて話しかける

 

「リュウヤ。どう?そっちは」

 

『おう。俺の親父とお前の親父さんが残したっていう設計書を持っている人の情報は手に入った。これで作れるぜ。ライジングイクサが』

 

リュウヤは今、違う次元世界にいる。ライジングイクサの開発を進める為だ。オトヤが一時期住んでいたというそこは緑溢れる世界で科学技術が発展している世界ではない。その世界にいるある人物がライジングイクサの設計を持っているという情報を得た為にリュウヤは自身の育ての親 嶋と共にその世界を訪れているのだ

 

「そっか。良かった」

 

『そっちは大丈夫か?』

 

「早速問い詰められた。説明ぐらいしといてよ」

 

どうせちゃんと説明してないんでしょと続けるワタルにリュウヤは反論する

 

『したぜ。置き手紙で。少々、厄介な事件の解決に必要なものを得る為に留守にしますって。お前んとこの部下が』

 

「なんでそんなストレートなの?」

 

『そいつに聞けよ』

 

俺が書いたんじゃねえなら知らねと宣うリュウヤにワタルは溜め息をこぼすとどうせ聞いてもろくな回答が返って来ない事は分かっているのだ。聞いても無駄だろうと早々に考える事を放棄した

 

「まあ、いいや。頑張って。リュウヤが帰って来るまでの間ぐらい部下もいるし、守れるから」

 

『おう。俺もなるべく早く帰るぜ』

 

電話を切り、ワタルは目を瞑る

 

「そろそろあいつを呼び戻そうかな?」

 

 

 

 

 

アインハルトは街を歩いていた。天気はあいにくの雨で傘を差している。買い出しに向かっていたのだが、引き返す事になった。親からの連絡で同居人が来る事を知ったからだ。いきなりの事に驚きはしたが事情が事情なので仕方ないと思っていた

 

家に帰ると自身と同じ年齢の少年が座っていた。おそらく彼がそうなのだろうとアインハルトは考えていた。

 

「貴方の名前を教えてください」

 

彼女が親から聞いた話によると自身と同じ年齢らしい。らしいというのは本当の年齢が分からない為だ。俗に言う記憶喪失。自分の名前以外の事が分からないという。だからアインハルトは今、自分の目の前にいる茶髪の少年に優しく話しかけていた

 

「暁・・・・・・切羽」

 

 



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第13楽章 double date! 闘争と逃走。謎の鎧

アインハルトが切羽と同居を始めてから3日が経った。彼女はこの3日間で知ったのは切羽はあまり喋らない事と彼が記憶喪失をあまり気にしていないようである事。そして腹部に黒の丸い痣がある事ぐらいだろうか。学院へは明後日から通う事になっている

 

彼女は可愛らしい薄ピンク色の服を着ていた。みづきから貰ったものである。女の子なんだし身嗜みには気を付けなきゃねと言うみづきによって彼女の棚には可愛い服で溢れている。色は薄紫色などの淡い色が多いらしい。まあ、それは兎も角。彼女は今日、切羽と買い物に行くのである

 

「アインハルト。準備出来た」

 

今日の買い物の主な目的は切羽の服を買いに行く事だ。今日の朝。今から2時間前の朝8時に決まった事である。早朝トレーニングから帰って来たアインハルトは一昨日と同じ服を着ていた切羽に驚き、聞いたところ服が2着しかない事が判明したという一連の流れから買い物が決まった

 

「では行きましょうか。切羽」

 

 

 

 

一方で二人が服を買いに街中を歩いている頃。それはとてもお洒落な格好をしたワタルはこれはまた可愛らしい明るめな色合いのものを着たみづきと街中を歩いていた。後ろには運転手が幾つもの荷物を持っている。普通なら不満を感じそうなものだが、彼の表情は輝いていた

 

「(ああ。なんて素晴らしい光景かな。まさかお二人のデートをこの目で見られるとは!心残りがあるとすればこの手‼︎カメラで撮影出来ないのが無念でなりません。いや、しかしワタル様に頼りにしてると言われて渡されたこの袋共を落とさないという命よりも大事な使命が私にはあるのです!仕方ありません。ええ、悔しくありませんとも!)」

 

変人入りしているしか言えない心の声である。因みに頼りにしているぞと言ったワタルは落としたらお前クビなというニュアンスを含んでいたのだが、彼が気付いている様子はない。とはいえ落としてはいないのだから結果オーライである。恐ろしきは彼の凄まじいキングとクイーンへの愛である(みづきはクイーンではないが彼の中ではクイーンと位置付けられているようだ)

 

そして近くにはとファンガイアの男性と女性がそれぞれ携帯とカメラ(動画撮影)を構えていた

 

「次は何を買おうか?」

 

「本当に良いの?」

 

「大丈夫だよ。みづきちゃんの為にこの金達があるんだから」

 

二人は二人で彼を気にしている様子がない。みづきはワタルとのデートに浮かれているし、ワタルはそもそも彼を認知しているのかが怪しいところである。いや。荷物を持って車に帰ったと思い込んでいるのかもしれないが

 

「じゃあ・・・本屋さんに寄ってもいい?」

 

遠慮がちにそう言ったみづきにワタルはニッコリと笑って了承する

 

「いいよ。どんな本が欲しいの?」

 

料理の本が欲しいのと答えたみづきはワタルに作ってあげたいというささやかな望みがあったのだが、ワタルは分かっていないだろう

 

「みづきちゃんの料理。食べてみたいな」

 

「うん。頑張るね‼︎」

 

しかし、無意識のうちに彼女が望む言葉を言ってみづきのやる気を引き出したのは流石というべきか。呆れればいいのかリュウヤがいたらさぞ悩むであろうワンシーンであった

 

 

 

 

さて。時間は1時となり、ちらほらと昼食を摂っている人がいる。それを買い物を済ませたアインハルトと切羽の二人が見ていた。時間は1時であるので昼食を食べていても不思議でない時間だ

 

「切羽。そろそろお昼でも摂りましょう」

 

「近くに知っている店はあるのか?」

 

切羽の質問にアインハルトが頷いて答える

 

「ええ。この前ヴィヴィ・・・私の友達に教えてもらったんです」

 

じゃあ、そこでと切羽が言ったのを聞くやアインハルトは切羽を連れてその店に向かおうとしたのだが、彼女は自身の周りに人があまりにも人が少ない事に気付いた。辺りを見渡すアインハルトに首を傾げる切羽が彼女に問いかける

 

「どうしたんだ?アインハルト」

 

「気付いたか。ならば話は早い。お前には来てもらうぞ。我々レジェンドルガの元に」

 

「レジェン・・・ドルガ?」

 

近付いて来た20人程の人達の顔にステンドガラス模様が広がり、ファンガイアに変わる。オクトパス、ラット、ホースなどたくさんのファンガイアが二人に近付いて来る

 

「逃げますよ。切羽‼︎」

 

アインハルトは切羽の手を引いて走る。これだけの数相手に勝つ事が出来ないのは明らかだ。逃げるしか手はなかった

 

 

 

 

「何のつもりですか?」

 

同時刻。ワタル達のところでも二人と同じ事が起きていた。10人以上の人達が立ち塞がり、進路を塞いでいた

 

「貴方には我々レジェンドルガの繁栄の為に死んでいただきます」

 

そう言ってアインハルトのところと同じようにファンガイアに全員が変身する

 

「なるほど。レジェンドルガに魂を売ったか」

 

ワタルはみづきを庇うように立っていた。間の悪い事に男性達は仕事が入った為に帰ってしまっている。運転手も荷物を車に置きに行っている為にいない。いささか戦い辛い状況だった

 

「はあっ!」

 

しかし、ワタルはその場から動かずに左手を前に出して制裁の雷を放つ。上級ファンガイアにダメージを与える事は出来ないがこの中に上級に匹敵する力を持つ者は一人もいない。一度放っただけで僅かな数しか残らず、それも再び制裁の雷を放ち呆気ない程すぐに終わった

 

「白銀ワタル。やはり貴様は倒しがいがある」

 

近付いて来たのはワタルよりも年上らしき少年だった。黒い髪と同じ色の鋭い瞳をしたその少年をワタルは警戒するように見つめる

 

「・・・誰だ?」

 

「ふん」

 

五角形のベルトを巻き、フェッスルを取り出す。少年がベルトに手をかざすと機械音がベルトから発せられる

 

『hope。ready』

 

そして上部の挿入口を開けて赤いフェッスルを挿入して再び手をかざす

 

「変身」

 

『change hope mode flame』

 

瞬間、少年の身体を鎧が包み赤い戦士に姿を変える

 

「前は名乗っていなかったな。俺の名はホープ。ファンガイアの希望を砕き、絶望を与える為に生まれた戦士だ」

 

「ホープね。こっちからしたらディスペアーの方が合ってると思うけど」

 

「ふん。そんな事はどうでもいい。俺は貴様を殺す」

 

「なるほど。まあいい。貴方がファンガイアに仇なす以上放ってはおけない。王の名の元に貴方を処刑する。二世!」

 

「ガブリッ!」

 

飛来した二世がワタルの左手に噛み付き、ベルトに収まる

 

「変身」

 

ダークキバに変身したワタルはホープと対峙する

 

「みづきちゃん。下がってて」

 

ダークキバの言葉に従ってみづきが後ろに下がると同時に二人の雰囲気はより冷たく鋭いものに変化していったのをリュウヤやそれなりに経験のある戦士達から感じただろう

 

「こい」

 

二人の拳がぶつかり、空中で静止する。お互いに力は拮抗しているように動く事はない

 

「前の未完成という言葉は嘘じゃなさそうですね」

 

「俺は嘘が嫌いだ。そしてこれはキバの鎧に匹敵する力を秘めている」

 

「そうですか。でも、勝つのは僕です」

 

二人の拳が引かれ、ダークキバは金と白の、ホープは白のフェッスルを取り出す

 

「ザンバットソード。召喚だ」

 

ダークキバは二世の口に差し込み

 

『sword』

 

ホープは上部の挿入口に挿入してベルトに手をかざす

 

 

 

キャッスルドラン城内で仕事をしていた次郎、力、ビショップの3人は王の間に安置されていた王だけが振るう事を許された剣。ザンバットソードが橙色の玉に包まれ、ダークキバの元へ向かって行ったのを確認していた

 

「ワタルのところへ行こうとしているのか。それ程の敵が現れたか」

 

次郎はあくまで冷静に状況を推測し、ビショップは与えられた仕事を全うするだけだと言う

 

「キングがあれを使うとは少々意外でしたが我々がやるべき事は変わりません」

 

「分かって、る」

 

それに力が頷き、仕事に戻ろうとする中、ビショップだけが席を立ってどこかへ行こうとする

 

「どこへ行くんだ?」

 

「少し仕事を」

 

「認めるものか。私は」

 

顔を歪めてそう言ったビショップの声は二人に聞こえていなかったようだ。すぐに仕事に戻っていた

 

「力。お前の一族はどうだ?」

 

「万事、オーケー」

 

「そうか。後はお互いの内容を確定させるだけだな」

 

ホッと一安心する次郎に力が言う

 

「まか、せろ。俺、やる」

 

「頼むぞ」

 

 

 

 

場面を戻し、双方共に剣を持って対峙していた。ダークキバの持つザンバットソードは使用者を選ぶ。キングの為に創られたこの剣に認められなければ持つ事は出来ず、認められたとしても力が無ければ意味は無い。確固たる意志と剣に見合うだけの強さ。この二つを持っていなければ剣に自我を奪われる

 

ワタルは剣を持ち、自身の意志で扱うだけの力があるにはあるのだが、相乗効果で力が暴走しやしないかと不安が拭えない為に次郎、ラモン、力の3人のライフエナジーが融合して生まれた幻影怪人 ザンバットバットがザンバットソードに憑依してザンバットソードの魔皇力を制御しているのだ

 

とまあ、それは兎も角

 

「はあっ!」

 

「ふんっ!」

 

二人の剣が重なり、火花を散らす。剣が交錯するとお互いに離れ、ダークキバは一度ザンバットバットをスライドさせる

 

ダークキバが仕掛け、上から振り下ろすが身を屈めてホープは躱し、回し蹴りを繰り出すもそれはザンバットソードで受け止められた。膠着状態。その言葉が今の状況に合うだろう。お互いに一撃が遠い

 

ワタルがダークキバに変身していられる時間は長くはない。二世が今のキバット族の中で最も魔皇力の制御に長けた者であってもコントロールしていられる時間には限りがあるし、反発し合う力によってワタルの身体にも負荷がかかる

 

しかし、変身していられる時間が長くないのはホープも一緒だった。ホープの能力はダークキバと互角に渡り合える程だが、こちらも負荷が大きいし、稼働時間を過ぎると変身が解けて大変な事になる

 

おそらく最初に一撃を与えた方が勝つ。そう二人は直感していた

 

「はあっ!」

 

数秒の沈黙の後に二人が動き出す。ザンバットバットをスライドして、ダークキバは剣を振り下ろした。しかし、それはホープに躱される。ホープもまた剣で突くが身体をずらしてダークキバが躱す。両者共お互いに微妙な距離を取っていた。二人は今、膠着状態になるのを恐れている。その為、お互いの攻撃を受け止めるのではなく、躱すようにしていた

 

「(だけど今のままでは同じだ)」

 

「(奴を倒す為にも徹底的に攻める)」

 

剣が交錯してどちらも引かない状態になるかと思われたがダークキバは右足でホープを蹴り飛ばす。転がるようにして倒れたホープにダークキバが剣を振り下ろすが彼は何とか受け止めて持ち堪えていた。それでも段々と腕が身体に近付いて来ていて、時間の問題だ

 

「ぐっ・・・・・・」

 

もう少しでホープに剣が届く。しかし、それは出来なかった。切羽を連れたアインハルトが逃げて来た為だ。ホープは突然の事で力が緩んだダークキバの剣を押し上げ、体勢を持ち直す

 

「キバ!これでは」

 

周りにはファンガイアの群れが出来ていた。ダークキバはその群れの内、その普通とは違う歪な形をした一体は改造ファンガイアだろうと推測した。二世は自身らの周りに群がる彼らを見てゆっくりと口を開く

 

「反対勢力のファンガイア共だな」

 

「雑魚ばかりだ。大した事はない」

 

ダークキバはザンバットソードを構え、ホープを警戒するがホープは自身の戦いを邪魔した一番前にいるファンガイアに文句を言う

 

「おい!邪魔をするな。奴は俺と戦っていたんだ」

 

「ロードの命令です」

 

「何?」

 

顔が見えない為、どんな表情をしているのかは分からないが拳を強く握っている事から悔しいのである事は分かる

 

「キバを確認。最優先対象はアインハルト・ストラトス。キバは死者共が相手をしろ」

 

「リョウカイ」

 

「死者だと⁉︎」

 

「行け」

 

ダークキバは自身の横を過ぎ去ろうとしたファンガイア五体を斬る

 

「貴様らに慈悲はいらないな。絶望と共に死ね」

 

ザンバットバットをスライドし、向かって来た者から斬り捨て、またスライドする。足は前へと進んでいて自身の間合いに入った者全てを斬っていた。改造ファンガイアは躱したが他の者は斬られるしかない。しかし、逃げるという選択肢はレジェンドルガの僕となった時点で消えている。ただ、捨て駒として斬られるのみだ

 

 

そしてその様子を近くでアインハルトは見ていた。今なら逃げられる。しかし、それは出来ない。切羽が頭を抱えて蹲っている以上、逃げられなかった

 

「大丈夫ですか?切羽。早く行きましょう」

 

様子がどこかおかしいとアインハルトは感じていた。何となくであるが切羽の纏う空気が鋭くなっている気がするのだ

 

「ウァァァアアアアアアァァァアアアア‼︎」

 

切羽を中心に風が起こる。それによってアインハルトは建物の壁に吹き飛ばされて気を失う

 

「キバァァァ」

 

風がおさまった時。切羽がいた場所にいる者の姿にダークキバとホープは動揺する

 

「なっ⁉︎」

 

「ありえん‼︎何故・・・」

 

そこにいたのは薄紫色の複眼。黒い鎧とボディー。胸と両脚、両肩にある真紅の魔皇石

 

「キバに・・・似過ぎている」

 



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第14楽章 fantastic! 一夜の奇跡

切羽がなった姿は言うなれば漆黒のキバ。ダークキバでさえもあの鎧を知らない

 

「何故・・・あれはキバという他ない」

 

漆黒のキバがダークキバに向かって来て、パンチを連続で放つ。それを全て躱しながらも彼は違和感を感じていた

 

「グルァァァ‼︎」

 

漆黒のキバに改造ファンガイアが迫る。それを見てダークキバは一度下がる。シープファンガイアのところどころが歪な形になっていたりしている姿は改造を施された存在である事を示している

 

「おい。お前も知らないのか?」

 

「・・・知らないさ」

 

「そうか」

 

改造ファンガイアに漆黒のキバの攻撃が放たれる。その姿は野生的な印象を受けた。彼は改造ファンガイアに対しパンチや蹴りだけでなく頭突きも使い、その攻撃は荒々しい。その様を見て二世が呟く

 

「まるで獣だな」

 

しかし、そんな攻撃でも改造ファンガイアを倒している。いや、むしろ予測が出来ない為に改造ファンガイアを倒せたのかもしれない。両の掌から放たれる魔皇力は閃光となってダークキバを襲う

 

「おい。ここは一時共闘しないか?」

 

ホープはそれを見てダークキバに共闘を持ちかけた

 

「確かにそれが妥当か。分かった。協力しよう」

 

脅威なのはその戦闘力もそうだが、それだけではない。力は自分達よりも少し上なだけ。やりようはいくらでもある。一番の脅威は理性がない事だ。理性がない分攻撃がどうくるか分からない。今まで経験のないタイプ。それゆえに二人共警戒しているのである

 

「奴はお前の存在を認識している」

 

「なるほど。つまり、僕へ視線が集中する訳だ」

 

先程、ホープは彼がキバと言ったのを聞き逃しはしなかった。そしてダークキバに連打を繰り出した。そこから考えられるのはキバを狙っているという事だ

 

「ああ。そうだ。隙を作るにはお前が近接戦闘。俺が遠距離からの射撃。これしかない」

 

「まあ、時間があれば他のも思い付くけどそんな時間はないしね。それで行こう」

 

『gun』

 

ホープは銃を構えて連射する。それは全て命中した。それによって狙いを一瞬、彼に定めたようだが、ダークキバがザンバットソードで斬る事で対象がダークキバに戻る

 

「(躱さないのか。いや、躱せない?)」

 

 

 

 

みづきが気絶しているアインハルトを呼ぶ

 

「アイン。起きて!アイン!」

 

ゆっくりと目を開けたアインハルトにミヅキはホッと息を吐く。

 

「みづき。何でここに?」

 

「ちょっとね・・・・・・」

 

みづきがここにいる理由は答えられない。ワタルが今、ダークキバになって戦っている以上、言えばまずい事になる事も考えられるからだ。二世の話では襲いかかった事もあるようなのだから。その為、みづきは答えをはぐらかしたのだが、アインハルトは切羽の事の方が気になっていた為にあまり気にしている様子はない

 

「切羽は?」

 

「アインと一緒にいた子ならあの黒い鎧を着て戦ってるけど暴走してるみたい」

 

アインハルトは切羽の姿を見て目を見開く。明らかに動揺し、狼狽えている

 

「そんな・・・あれはキバに。それにこれではキバに倒され・・・」

 

「大丈夫だよ。きっと」

 

”ワタル君が何とかしてくれる”

 

その言葉は心の中に仕舞われたけれどみづきの見る目が信頼に満ちているのをアインハルトは感じ取っていた

 

 

 

 

 

ダークキバは戦いながらも違和感を感じていた。漆黒のキバは攻撃を避けるという事をしないのだ。ただ、本能のまま暴走するように動くだけで攻撃をしてもそのまま受けるか我武者羅に攻撃をして弾き返す事しかしない。だが、後者の方が多い辺り自衛本能は優れていそうだとダークキバは思った

 

「大丈夫か?」

 

執拗に攻撃をされてダークキバが後ろに大きく下がるとホープが近付いて来る

 

「彼は躱す事が出来ないのかもしれない」

 

「・・・確かに奴は躱そうとしないな。それなら必殺技をお見舞いしてやれば倒せるだろう。あいつはやばい程防御力が優れている訳でもないだろうしな」

 

「よし」

 

ダークキバはザンバットバットに付いているフェッスルを取り、二世の口に咥えさせる

 

「wake up!」

 

ザンバットをスライドすると刀身が赤く染まる

 

”ファイナルザンバット斬”

 

ザンバットソードの魔皇力が限界まで高められた事で発動する必殺技だ

そしてホープも赤いフェッスルを上部の挿入口に入れ、ベルトに手をかざす

 

『hope,Lightning burst』

 

「はあっ‼︎」

 

ホープが持つ銃の銃口に黄緑色の球体のエネルギーが溜まっていく。ダークキバはザンバットソードを手に迫り、剣を振るがその攻撃はアインハルトが庇うように両手を広げて止めに入った為に当たる事は無かった。それを見たホープは舌打ちをして銃の引き金を引く

 

「っち。屈め!キバ!」

 

ダークキバはザンバットソードを持っていない右手で倒れ込む際にアインハルトの手を引いた。ホープの攻撃は球体となって迫り、それを切羽は両手で受け止めようとするも受け止める事は出来ず、後ろに後退する結果となった

 

「どういうつもりだ?覇王の」

 

相手と距離が出来た事でホープが二人に近付くが怒っているだろうなとダークキバは分かった。みづきの方をチラッと見ると彼女がいた場所にあった椅子などが倒れていた為、押されたのだと想像出来る。彼女は駆け足気味にこちらへ来ていたのだが、今はこちらを見どうするかだ。ホープは敵を倒すタイミングで邪魔をされた為に怒っている。ダークキバはこちらへ味方すべきなのだろうがアインハルトが庇うように邪魔をしたのには理由が、いや。彼が大事な存在であると考えていた

 

「場合によっては殺す」

 

ドスがきいた声で言うホープにアインハルトが懇願するように話す

 

「あの子は私の知り合いなんです。だから」

 

「てめえっ」

 

これは収束がつかなくなりそうだと思ったダークキバは話しを切り替える為に案を出す。その際には声を変えて言うのでアインハルトへの警戒心は大きいのだろうが

 

「仕方ない。死なないダメージを与えて変身解除だ」

 

ホープもその思惑に気付いているだろうがこの不毛な話しをするよりかは彼をどうにかすべきだと考えたのかこの話しに参加した

 

「奴の弱点が分からないが」

 

「もう一度必殺技を放つしかないか。だが、外すと不利になる。変身を解除させるにも動きを止めて確実性を高めるべきだ」

 

例えばバインドを使って敵を動けなくするなどがある。しかし、キバの鎧シリーズでは魔法を使えない。ホープも魔法を使うには少々制約があるようだ。それを見てみづきが控えめに手を挙げる

 

「なら私が。バインドで縛れば少しだけど動きを止められる」

 

みづきは魔法が得意だ。と言っても攻撃魔法は使わないのでサポート魔法に限られるようだが一瞬でも動きを止められれば行けると二人は考えているので問題はない

 

「なるほどな。覇王の。貴様はそいつの護衛をしてろ」

 

「私も戦います」

 

「足手まといはいらないよ」

 

また邪魔される可能性もあるし、自分達が放つパワーは人間の身体など簡単に捻れる。掴む時の力加減は出来るがパンチを放つ時などになるとそうもいかない。そうなると危険だし、あちらは掴む場合でも手加減などしないだろう。無謀と勇気を履き違えた今のアインハルトでは余計な死者を生み出すだけだとダークキバはそう思った

 

「覇王の。今やるべき事は分かるよな?」

 

「はい」

 

邪魔することは事は許さない。言外にそう言われ、悔しいという気持ちを抱えながらも切羽を助ける為にその気持ちを我慢する

 

「大丈夫。彼は助ける」

 

そう言った瞬間、鎧に埋め込まれた魔皇石が光り出す。その光のせいでダークキバと二世以外は気付いていないがみづきの青い宝石が埋め込まれたネックレスも光っていた

 

「光ってる・・・」

 

「凄い力を感じる」

 

ダークキバの身体に変化が起きる。マントの形が翼になり、複眼の色が黄緑色に。そして魔皇石は碧く染まる

 

「キバの新たな姿・・・!」

 

翼を広げ、前に接近する。今までとは段違いの速さ。切羽が反応する前に間合いに入り、ザンバットソードを振る

 

「(これなら行ける‼︎)」

 

今なら変身解除まで持ち込めると確信したダークキバは空高く飛翔し、再びウェイクアップフェッスルを装鎮した

 

「wake up!」

 

紅く光る刀身。最大限に高められた魔皇力は今まで以上の力を発揮し、周囲にまで影響を及ぼす。空は赤い満月が浮かぶ夜へと変貌していく

 

「空が夜に・・・・・・」

 

「はあっ!」

 

急降下してすれ違いざまに斬る。空を自由に動き、連続して斬ったダークキバはみづきに声をかける

 

「今だ」

 

「うん!」

 

ダメージを負った切羽に水色のバインドが仕掛けられ、それを見たホープは高熱のレーザーが射出する

 

『hope,burning triger』

 

それは切羽に当たり、ダークキバがトドメにとザンバットソードで一閃

 

「喰らえ‼︎」

 

最早変身を保つ事は出来ず、身体から火花が散ると同時に切羽の変身が解ける。倒れ込んだ切羽をダークキバが抱き抱える。ホッと一息ついたダークキバにホープが話す

 

「キバ。お前の強さは分かった。だが、それでも俺は勝つ」

 

「負けないよ。僕にも守りたいものがあるから」

 

自分の一族という大きな纏まりを。ホープは分かってはいないだろう。だが、彼はダークキバの守りたいものの為に負けないという言葉を否定しなかった

 

「ふん。なら、守りたいものを守ってみせろ」

 

彼はそのままテレポートシステムを使ってその場を後にする。それを見届けたダークキバはアインハルトに切羽を渡す。不思議な事に切羽の怪我は軽かったが心配そうに切羽を見るアインハルトに二世が言う

 

「寝ているだけだ。時期に目を覚ます」

 

「ありがとう・・・ございます」

 

ダークキバはアインハルトに聞こえない声量でみづきに待ち合わせ場所を言うとその場を離れた

 

 

 

変身を解いているワタルは下を向いて何かを考えていた

 

「何か考え事か?」

 

「あの鎧の力は強大だし誰か制御する者が必要だなと思ったんだけど。キバット族でやれそうなのいない?」

 

二世には一人だけ該当する者がいた

 

「思い当たる奴が一人だけいる」

 

「キバットバット族でも異質の存在。キバードという奴がいる。そいつなら行けるかもしれん」

 

実力は確かだが性格に難ありだと思っている二世からすればあまりお勧め出来ないもののあの鎧を制御する者が必要だというのもまた事実で。そして彼しか制御出来そうにない事も分かっていた

 

「明日にでも城に連れて来てもらえる?」

 

「言っておこう」

 

 

 

誰もいなくなった戦闘の場に人間のを姿したフェニックスレジェンドルガがいた。彼女は改造ファンガイアを回収すると感心したように呟く

 

「まさかディザイアが蘇っていたとは。それに改造ファンガイアを倒すなんて。彼の実力は私達と同等という事かしら?」

 

しかし、後ろからクリュサオルレジェンドルガが現れ、彼女の言葉を否定する

 

「いや。あれは改造ファンガイアの不具合によるものだ」

 

「どういう事?」

 

「まだブラッドストーンが馴染んでいないのだろうな」

 

それだけではないがなとクリュサオルレジェンドルガは思っていたがそれを告げる事はない。単に説明が面倒だったのもあるがそれ以上に言う必要がないと判断していた

 

「まだ調整が必要ね」

 

「早く帰るぞ。ロードがそろそろ次の計画に移る」

 

「では準備が出来たのですね」

 

彼女の頰が緩む。彼女の言葉に頷いたクリュサオルレジェンドルガは説明を続ける

 

「ああ。我々最後の同士も含め全てのレジェンドルガが復活した」

 

「いよいよ始まるのですね。何者も邪魔する事は許されない聖戦が」

 

二人は戦いがもうすぐ始まるのだと感じていた




次回

『あんたの中の鎧を俺の中に封印させてもらうっス』

『ブラッディローズが呼んでいるのか?』

第15楽章 seal ! 漆黒の戦士 ディザイア


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第15楽章 seal! 漆黒の戦士 ディザイア

ワタルこれから文献を読んで戦争に役立つ情報を集める為にキャッスルドランの中にある廊下を歩いていた。行き先は本棚のある一室。キングの手記を見つけた場所だ。しかし、彼が歩いていると後ろから険しい顔をしたビショップが近付いて来る。おそらく何か話したい事があるのだろうとワタルは歩く速度を落とす

 

「キング。何故、アインハルト・ストラトスを始末しないのですか?奴は貴方の命を狙う存在。始末しても良いでしょう」

 

「彼女を殺すかどうかは僕が決める。僕が許さない限り彼女を殺した者には罰を与えるからそのつもりで」

 

鋭い目を向けてそう言い放つワタルにビショップはなおも質問をぶつける

 

「貴方は一族より人間を取るつもりなのですか?」

 

「そんな事は言っていないよ。彼女はまだ罪を犯してはいない。それなのに殺しては我々の掟に、人間と結んだ協定に反する事になってしまう。ただ、それだけの理由だよ」

 

ただ、それはワタルが見逃しているというだけでファンガイアに危害を加えるのは重罪だ。それもトップに立つキングを襲うという暴挙。二世代前の二代目キングなら即処刑となっていただろう。彼はワタルと違い、甘くはなかった。一族の害になるならすぐに消す。そういう性格をしていた。そんな彼を知っているだけにビショップはワタルのやり方を甘いとしか見れないでいる

 

「しかし・・・・・・いえ。分かりました」

 

ワタルの後ろ姿を睨み付けるように見るビショップ。その目はどこか狂気を孕んだ、そんな目をしていた

 

「貴方も所詮人間側だと言うのですか。キング」

 

 

 

 

 

赤い目をした白色の蝙蝠 キバードと切羽が森の中を歩く。歩いていると足元には小人のホビット族やこの森の警護に当たっているウルフェン族、ファンガイア族の戦士達が見える

 

「おい。どこだ?ここは」

 

「ここはファンガイア族が所有する土地っス」

 

この森にはホビット族が住んでいて、ファンガイアの庇護下にある一族である。そしてこの森はファンガイア一族の中では大切な森。その為、人間などが浸入する事のないように常に警備が敷かれているのだ

 

「何故ここに来る必要がある?」

 

「あんたの中には鎧が存在するって言ったっスよね。そしてそれは力を制御出来なければ世界に破壊を齎す鎧」

 

一応、簡単な説明を受けた切羽だが、そこまでのものだとは思わず、息を呑む

 

「ここに来たのは鎧を封印するのに都合が良い場所だからっス。今のままではまた、あんたは暴走する戦いによってあんたは闘争本能を刺激されて暴走する」

 

キバード達は森の中にある泉の前に着く

 

「お前はそれを止められるのか?」

 

「俺もキバット族の端くれっスよ。甘く見ないで欲しいっス」

 

キバードは切羽を泉に浸からせるとゆっくりと口を開き、それじゃあと言葉を紡ぐ

 

「あんたの中の鎧を俺の中に封印させてもらうっス」

 

封印の儀式が始まる。長くも短い時間。しかし、それが新たな戦士誕生の為の大事な時間なのだ。邪魔する事の許されない大切な

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダにある古ぼけた屋敷。門には蔓が巻きつき、長い間人が住んでいないように見える。しかし、中は蜘蛛の巣も存在せず綺麗なまま。屋敷の中には次郎がいた。彼がいる二階の部屋のガラスケースの中には二人の赤ん坊を抱えたマヤと共にオトヤがいる写真とオトヤが作り上げたバイオリン 『ブラッディローズ』が置かれていた。次郎によってガラスケースが開けられ、写真を手に取る

 

「オトヤ。お前は今どこにいるんだ?ワタル達も大きくなった。お前の見届けるべき成長を俺は見守ってきた。だが、あいつらを導くのは俺でも他の誰でも不可能だ。親であるお前とマヤが導かなくてはな。なあ、オトヤ。どうしてお前はあいつらの近くで愛情を注いでやらなかったんだ?」

 

写真を手に取った次郎は写真に写るオトヤに自身の気持ちを吐露する。分かっていた。これはキングを守る使命を帯びた自分達がキングであったオトヤを守れなかった為だと

 

ワタル達が親の愛情を受けた記憶がないのは自分達のせい。守るべき者を守れず、ワタルが幼い時からキングとして生きなければならない辛い運命を背負ったのは自分達が不甲斐ないせいだった

 

「そんなものは問わなくても分かるだろう?2代目の力が足りなかったせいだ」

 

不意に自分以外の男の声が響く。振り向けばそこにはドウコがいた

 

「お前がここに来るとはな。何かあったか?ドウコ」

 

さらに自分の生き様に迷いが生じたのかと問い掛ける次郎にドウコは鼻で笑い飛ばす

 

「ふん。俺は自分の生き方を悔いた事はない。それはこれからもだ」

 

悔いるという事は自分の生き様を否定する事だとドウコは考えていた。あの時、こうしていればなどという酔狂な世界に浸る事など愚の骨頂。過去は振り向くものではなく、未来への踏み台。昔からそう宣うこの男を次郎は今は敵という形になったとはいえ、今でも高く評価していた

 

「戻る気は無いのか?」

 

「今更戻ってどうする?俺は裏切り者だ。永遠にな。まあ、目的は変わらん。俺はアインハルト・ストラトスを殺す。それをオトヤのガキが邪魔するのなら怪我を負わせて邪魔出来ないようにする」

 

「お前は相変わらずだな」

 

「ふん。貴様こそな」

 

二人の間に緩やかな空気が流れるがそれはすぐに消える。ブラッディローズが触れていないにも関わらず、音を奏で始めたからだ

 

「ブラッディローズが呼んでいるのか?」

 

自身の主の形見を。 そして教えている。時の到来を。次郎がそう考えているとドウコは背を向ける

 

「ついに時が来たという事だ。オトヤの言うところの運命(さだめ)がな」

 

「キバ、イクサ、サガ、ホープ、ディザイア、アーク。この戦いのカードが全て揃った。一つの世界にいなくともこの全てが目覚めた。最早、止まりはしない。この戦いから逃れる事は出来ん!」

 

戦いが終わるのは世界の消滅か、キバとアーク。ファンガイアとレジェンドルガ。どちらかの絶滅した時だけ。そこには人間も含まれる。しかし、殆どの人間が知らないところで存続をかけた戦いが始まっていた。そしてそれを防ぐ為に新たな戦士が生まれようようとしている

 

 

 

 

「ぐぁああーーーーーー‼︎」

 

絶え間無く響き渡る悲鳴に等しい叫び。身体中を駆け巡る痛みは彼から鎧を抜く為。人間の姿とディザイアの姿が交互に見え隠れする。想像を絶する痛みの中、気を保っているのは痛みが眠る事を許してくれない為か。彼の強い精神力によるものかはキバードにすら分からない。しかし、痛みに耐えようとするその姿は彼も戦士なのだと教えている

 

「楽しみっスね。新たな戦士、漆黒のキバ。ディザイアの誕生の瞬間が」

 



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