愛奴隷の居る朝。 (春夏冬 秋人)
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愛奴隷の居る朝。
心地のいい香りに誘われ目を覚ます。目を開けるとどうやら今日も先に起きていたようで、シルヴィはベットにいない。
頭と腰の気だるさを感じながら起きて部屋を出る。キッチンには朝食を作っているシルヴィの姿があった。
……服は着ていた。
黒色のエプロンドレスを着て、青色の大きなリボンで長い黒髪を結わえていて、露出された火傷の跡が残るうなじに目を奪われる。……服の露出度が少ないからだろうか? いやに艶めかしく感じる。
このままでは昨日さんざん致したのに襲ってしまいそうなので声をかけることにした。
「あ、おはようございます、ご主人様。昨日は……その……、気持ちよすぎて……。いつの間にか気を失ってたみたいで……。気づいたら、もう朝で……。すいません」
申し訳なさそうな、それでいて悔しそうなシルヴィとあいさつを交わし、鼻孔をくすぐるシルヴィの手元に目を向ける。
「今、朝食を準備をしているので、もう少し待っていてください」
どうやら視線に気づかれたらしい。シルヴィに微笑みながらそう言われ、くすぐったい気分になる。
しばらくシルヴィが料理をしているところを眺めながら待つことにする。
今にも鼻歌が聞こえてきそうなくらい、楽しそうに料理をしている。きっと尻尾が生えていたら勢いよく振られているだろう……今もシルヴィの小ぶりなおしりが揺れているから、間違いないだろう。
シルヴィが家に来てから久しく続いているいつもの朝だ。
しかし、いつもの光景だからこそ疑問に思う。
シルヴィはなぜ毎朝先に起きることができるのだろう?
単純にシルヴィの方が朝が強いというだけでは納得ができない。なぜならシルヴィは今日のように――昨晩気絶するほど致したのにもかかわらず、当然のように先に目を覚ましこうして朝食を作っているのだ。――それも毎日。
ほぼ毎日シルヴィが気絶するまで――時には気絶した後もお構いなく――致しているのに、翌朝になればこうして何事もなく朝食を作っている。――いや、むしろ致さなかった翌日の方が調子が悪そうなくらいだ。致さなかった翌日は決まってエプロンだけしか身に着けておらず、湧き上がる衝動を理性で抑えながら挨拶すると、どこかもの寂し気に料理をするのだ。
いったいあの小さい体のどこにそんな体力があるのだろうか?
シルヴィは一度死にかけている。
これまで奴隷としてひどい扱いを受けてきたであろうシルヴィは、その不養生が祟って危うく命を落としかけたのだ。あの時、きっと何かが少しでも違っていたらシルヴィは今この場に居なかっただろう……。あの時ばかりは神に涙して感謝した。医者としても――男としても。
そしてそんな過去を持つシルヴィは、当然常人より体力はない。
今では多少はマシになっているとはいえ、やはり同年代と――もちろん成人男性とも――比べて圧倒的に少ない。
それは森を散策した時に確認している。
それなのに、シルヴィは朝早く起きることができている。
――いったいなぜだ?
「えっと……それは……、言わなきゃダメですか?」
できれば答えてほしい。もし、無理をしているのなら大変だ。というより、できればちゃんと身体を休めて欲しい。夜アレだけ乱れているのだ、当然身体に負担が掛かっているはずなのだから。
「っ…………」
朝食の際にふと訊いてみると、シルヴィは顔を赤くして俯いてしまった。
……朝から――それも朝食時に――する話ではなかった。普段から誘惑されているので、どうやらその辺りの感覚が狂っていたらしい。正直赤くなったシルヴィの姿にかなりキている。
……しかし、まぁ考えてみればこの話はシルヴィの限界まで致すのが悪いのだから、今後はシルヴィが気絶しないよう抑えればいいだけだ。なぜ平気なのかは分からないが、それでもシルヴィが倒れるかも知れないのなら知らないままでいい。
これからは少し自制しよう。
「それはダメですッ!」
…………驚いた。シルヴィがここまでの大声を上げたのを、喘ぎ声以外で初めて聞いた。
つい、呆然とシルヴィの顔をまじまじと見てしまう。
「あっ、す、すみません……急に大声出して。……あの、でも……その、ご主人様とするのは、全然苦じゃありませんし。そ、、それに……ご主人様のは私にとって、その……元気のもとというか……、とにかく私大丈夫ですから、ご主人様が我慢されることはありません」
そ、そうか……? じゃあせめて――さっきも言ったが――致した翌日は存分に休んでくれ。もしあの時のようなことになったらと思うと、気が気じゃない。朝食くらい作れるのだから、無理してまで作ってくれる必要はない。
「それも大丈夫です。私は無理していませんから……私はご主人様を悲しませることは絶対しません」
それなら、なんでそんな朝先に起きるのに拘っているのか教えてくれないか……?
「そ、それは……」
それは?
「…………からです」
すまない、良く聞こえなかった。
「……ご主人様の寝顔を、見たいから……です……」
森で致すときでもここまで恥ずかしがらないのではないか? というくらいシルヴィは恥ずかしがっていた。顔は赤く染まり、目は潤み、小刻みに震えながら両手で顔を隠している。
その姿は大変愛らしく、朝だというのにデザートまで食べたくなったが――どうにかその欲望を理性で抑え込んだ。それというのも、寝顔よりもよほど凄いモノを寝ている間に堪能していたことすらあるのに、なぜ今さら寝顔でそんなに恥ずかしがっているのか、という疑問があったからだ。
……最近では珍しい本気で恥ずかしがっているシルヴィをもっと堪能したいという下心も、もちろんある。
シない夜はシルヴィの寝顔を堪能してから寝るから、おあいこだな。
「そ、そんなことしてたんですか……!?」
シルヴィの寝顔はとてもかわいいから仕方がない。ただ見ているのだけでも眼福だが――頬をつっついたりすると、なお愛らしい。なにせつっついた指を甘噛みしてくるのだから――それはもう天使と遜色ないくらいだ。
「~っ……~っ……」
もはや声も上げることができないほどで、両手で顔を覆いながらブンブンと左右に首を振っている姿は大変愛らしい。
最近のシルヴィは恥ずかしさよりも先に興奮が来ていたので、実に新鮮だ。
更にシルヴィのテレ顔を堪能すべく、畳みかける。
なぜそんなに寝顔を見たいんだい?
「それが……それが私の幸せだからです」
しかし――次に顔を上げた瞬間、シルヴィの顔つきが変わっていた。
未だに恥ずかしがっているのは確かだが、それよりも強い決意をその目に感じた。ソレはまるであの日――初めてシルヴィと結ばれた日のようだった。
「今私は幸せです。でもそれはご主人様と出会ったからです。ご主人様と出会う前私は……毎日が地獄でした」
シルヴィが壮絶な過去を歩んできたのは、その身体に刻まれた火傷の後から想像がつく。それにシルヴィからも断片的には聞いている”自分は痛めつけられるための奴隷だった”と。幼いシルヴィがどのような苦痛を受けてきたのか、それはきっと想像を絶するものであると同時に想像したくもないモノなのだろう。だから今までシルヴィに何も訊かなかった。
話したくないことは話さなくていい。思い出したくないことは忘れたままでいい。今ここにシルヴィが居る、それ以上に確かなものなどきっと必要ない。
だが、シルヴィの覚悟は裏切るわけにはいかない。あの日と同じ決意を無為にすることは、幸せな今を否定することになるから。
それに奴隷の全てを受け入れるのがご主人様というものだろう。
「……毎朝起きるとそこは地獄です。朝起きるのが怖くて、いつも寝る前はこのまま目が覚めなければいいのにと思っていました」
シルヴィは目をそらさない。全てを受け入れてくれるという全幅の信頼を感じる。
だから、ソレに応えるためにシルヴィの頭を撫でた。そのままサラサラの髪を指の隙間に通し、梳く様に撫で、指の間をくすぐる感触を楽しむ。
「でも今は違います、私は幸せです。……朝起きたらご主人様がいる。私の愛するご主人様のかわいい寝顔を堪能して、ご主人様の朝ご飯を作れる。一日の一番最初から、ご主人様にご奉仕できる。この時間、私はご主人様とシテいるときと同じくらい幸せを感じられるんです」
シルヴィは撫でられている手を取り自らの頬へと寄せ、そのまま目をつむる。まるで確かめるように、噛みしめるように、手に頬ずりをする。
「……この幸せの為なら私はなんだってできます。ご主人様の為なら……なんだって……。ん……ちゅ……んん……」
そう言ながら、シルヴィはキスをしてそのまま抱き着いてくる。しっかりと手を回し、もう離さないと、あるいは離さないでと言外に訴えるように、力が籠められる。
「……私は今、幸せです。幸せです。幸せです」
シルヴィのを抱き返す。強く強く抱きしめる。
「――だから私は怖いんです」
シルヴィの震えが収まるように、強く、強く、強く。
「怖いんです……。この幸せが、ご主人様が……本当は全部夢なんじゃないかって、朝起きるたびに怖くなるんですっ。本当は目が覚めたらあの地獄が続いているんじゃないかって……っ」
夢じゃない。シルヴィはここに居る。シルヴィがここに居るから幸せを感じられる。シルヴィが来てからの何もかもを覚えている。
「はいっ私はここに居ますっ。他の誰でもないご主人様の奴隷です……っ。……でもっ、……怖いんですっ……。朝起きてご主人様がいないなんてっ、想像するだけで――んんっっ」
我慢の限界だった。
シルヴィの口を口で塞ぐ。
そして深く深く――魂さえも結合させようと深く口づけを交わす。舌を絡ませ、互いの唾液を混ぜあい、一つにしてすすり合う。まるで互いは一つなんだというように。
夢だとしても二人が別つことが無いように。
「ごしゅじ……ん、ちゅっ……じゅる、じゅじゅっっ――んはっ……。ぁ……つっ……んッ」
口を離し、シルヴィの涙を舌で掬いとる。悲しみを掬い取り、飲み干すように……一滴、一滴、丁重に……そして、その源泉である眼球にも舌を這わせる。
「んっ、くッ……!」
シルヴィが呻く。痛いのだろう……当たり前だ。目を舐められて痛くないわけがない。それでも舐める。コレは夢じゃないというように、コレが夢でも大丈夫なように。
「あっ……いッ……。……ぁ」
舌を離す。
シルヴィが身じろぎした瞬間――、
――クチュリ。
シルヴィの下腹部から音が聞こえた。とたん甘い匂いがすることに気づく。
それはシルヴィから漂っていた。
「はぁ……はあ……ん、……はぁぁ……」
どこにも行かないよ。シルヴィとずっと一緒だ。だから、毎日朝ご飯を作ってほしい。
「はい……っ」
シルヴィを抱き上げ、さっき出てきたばかりの寝室へと戻る。
これからすることはただ一つ。シルヴィがもう二度と怖がらないように、徹底的に中に刻み付け
注ぎ込む。確かな証しをお腹に宿せば、もう二度とこれが夢だと思わないだろう。
さて……とりあえず薬を二つ用意しなければいけない。まだこんなにも日が高いが……あの薬は両方とも効力が高いので大丈夫だろう。
その日は過去一番盛り上がった。
そして、その後結果がどうなったのかと言えばただ一つ。
――シルヴィは朝ご飯を毎日人数分作り続けたということだけだ。
シルヴィちゃんのような子が来たら堕落しそう……。
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