☆ボンゴレの白狼 (モン太)
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トレーノ=クウォーレリーテ

最初に目覚めて見た光景は、暗い部屋と体を包み込む塩水、そしてガラスの向こうで俺を見て何やら大喜びしている白衣を着た研究者達と数人のスーツを纏った男達だった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

俺の名前はトレーノ=クウォーレリーテ。この名前は親に付けてもらった名前ではない。元々俺には親はいないった。年齢も精神年齢を基準に考えるべきか、産まれてからの年齢で考えるべきか、体年齢で考えるべきかわからない。

 

なぜなら、俺は作られた人間だからだ。所謂、人造人間やホムンクルスと言われている存在だ。

 

当然、俺は他の人間達とは少し違っていた。目の色は緋色。髪の毛や体毛は白。肌の色も病的な程白い。服は手術服。産まれた時から歩けたり、言語を理解し、また筆記もできた。

 

俺と同じ存在は他には居ないらしい。成功体は俺だけで、他にもカプセル型の水槽がいくつもあったが、全て空で失敗したそうだ。

 

この施設は俺以外に研究者とスーツを着た男達、そして沢山の子供達。子供達の中には、腕が無かったり、片目を失っている子もいた。また、時々子供の叫び声や悲鳴が聞こえる事もあった。

 

俺は普段の何も無い日の生活は、朝起きたら血液を抜かれ、ネチョネチョした朝食を食べる。美味しいや不味いと言ったものを知らない俺はただそれを自分の胃袋に流す。昼も夜も同じ様な生活サイクルだ。

 

先程年齢が分からないと言ったが、体年齢は8歳で俺という精神が産まれて3年になる。3年間は、ひたすらよく分からない薬物を投与され、偶に水槽に入れらたりしていた。俺は人造人間という事で毒に耐性があるらしく、実験で色々な毒を投与されたが全て効力はなかった。あとは電気椅子や鞭打ちなどの拷問に耐える訓練を施された。

 

 

そして、今日から戦闘の訓練が始まる様だ。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

俺は研究員に案内されるがまま、広い部屋に入る。そこには白い天井に床とガラス張りの壁だけがあり、そこから研究員やスーツの男達が戦闘の様子を観察する様だ。

 

裸足で歩く床はいつも以上に冷たく感じた。足取りも自然と重くなる。

 

部屋の中央には、白人の巨漢が佇む。ボサボサの色素が落ちた金髪にシワまみれの顔。体には囚人服を纏い両手には手錠が嵌められている。目付きは悪く、目の下にはクマができており、瞳は濁っていた。

研究員の1人が白人に近づき手錠を解く。そして、手錠と交換する様にピストルとナイフが渡された。研究員はそのまま部屋を出てガラスの向こうへ行ってしまった。どうやら俺にはなんの武器も持たせてはくれないらしい。

 

パンッ!

 

そうこうしている内に、白人の巨漢が発砲してきた。初めての戦闘に緊張と言うものは感じなかったが、ピストルの発砲は初めて見たもので余りの速さに呆気に取られ、そのまま額にもろに受けてしまう。

 

しかし、俺は一切何事も無かった様に歩き出す。その様子に白人の巨漢は目を見開くが、すぐに2、3発分、発砲してきた。だが、それすらも俺の皮膚は弾いた。

 

「う、うあああああぁぁぁっぁぁぁ!」

 

バキッィ!

 

男は突然奇声をあげてピストルを捨て、手に持ったナイフで切りかかる。ナイフはそのまま俺の脳天に直撃するがナイフの刃が砕ける。

 

「ば、化け物め!」

 

俺は部屋の隅まで逃げ、震えながら俺を睨みつける。

 

「く、来るな!」

 

そう言えば、俺ってずっと水槽やベッドで寝かされてばかりだったから、体を本格的に動かすのって、初めてなんだよな。

 

「あーあ、折角体動かせるチャンスだったのに結局全部受け止めてしまったぜ。」

 

俺は部屋の隅で震えている男の目の前まで歩く。

 

「おい、おっさん。もう終わり?もう少し頑張れよ。」

 

「...................」

 

男は何も言わない。と言うより歯の根が合わずに言葉が出ない様だ。俺は落ちていたナイフの刃の破片を拾い、

 

「はあ、もういいよ。じゃあ、死んで。」

 

首を裂いた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ガラスの向こうで全身を真っ赤に染めた俺を見て何やら喜んだり、騒いだりしている研究員達。さしずめ、自分達が作り上げた道具がよく機能していると喜んでいるのだろう。別にどうでもいいが...

 

俺が研究員達を冷めた目で見ていたら、扉が開き、研究員の1人がやって来た。

 

「よくやった、トレーノ。初めての戦闘はどうだった?」

 

「別に。俺は何もしていないし。勝手に相手が戦意喪失しただけだからな。」

 

「なるほど。だが、今日はもう部屋に戻っていいぞ。今日はあくまでも慣らしだ。明日からが本番だからな。」

 

「ああ、わかったよ。」

 

俺は部屋から出て、シャワーを浴びる。全身に纏わりつく滑りのある赤い液体が体から流れていく。その感覚に目を細めながら、俺は自分の両手を見つめる。

 

 

あの感覚は一体何だったのか。

 

俺が首を裂いた瞬間に感じた感覚。

 

血を浴びた瞬間の感覚。

 

研究員達の笑う姿を見た時の感覚。

 

この胸にモヤモヤを残しているこの感覚は一体?

 

 

知識や言語が初めからわかる俺でも感情は誰かに教えて貰わないと分からない。しかし、ここの研究員達は教えてくれない。俺は単なる人形だから。

 

結局俺自身が流した血は一滴も無かった。今日の戦闘でわかった事と言えば、人間というものはあんなにも簡単に壊れるものだと言う事だけだ。

 

シャワーを浴び終え、手術服に袖を通す。何だか今日は特に何もやる気が起きない。さっさと寝てしまおう。今日は水槽で寝る訳でも無いしな。

俺はベッドに横になり、目を瞑る。明日も夜は戦闘訓練がある様だ。それを考えると興奮が押し寄せると同時に胸が痛くなる。この感覚も分からないまま、俺は眠りについた。

 

 

ここはイタリア。エストラーネオ・ファミリー人体実験研究所。



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美優

朝、いつもの様に目覚める。何時なのかわからないが、勝手にある時間に目覚める様に調整されているので問題は無い。

 

ネチョネチョの流動食のようなと言うか、流動食を胃袋に流し込み自身の部屋に帰ろうと足を進める。基本的に自由はないが、立ち入り禁止の部屋以外はどこでもいける。手錠や首輪をしても物理的に意味がないから、施設そのものを檻として俺を管理している様だ。

 

 

ここに収容されている子供達も俺と変わらない生活をしている。血液を抜かれ、薬を投薬される。年齢の高い子供は戦闘訓練も行う。ただ俺と違うのは、戦闘、血液、薬などの成績、特に戦闘の成績が悪いと体の一部を持っていかれる。施設で時々聞こえる悲鳴はつまりそう言う事だ。その血液や人体を使ってホムンクルスを作る実験を行っている。俺は今まで何人、何千人の犠牲の上で産まれた存在だそうだ。だから、研究により貢献すれば犠牲者が減るそうだ。また、俺が唯一の成功例と言う訳で体をバラバラにされずに済んでいる。

 

話が逸れたがここの子供達はついてだが、子供達は何処もに何人かのグループで群れている。幼い子供程その傾向は顕著だ。子供が友達を作るのは、日本もここも同じ様だが、年齢が上がるとここでの心と体の傷からか1人の子供が多い。

 

今日も子供の補充があったそうだ。今回はかなり素質がある子供なのか研究員達が朝から色めき立っている。俺はすれ違う研究員や子供達を避けて自身の部屋に向かって歩く。

俺が部屋の前まで来て、戸を開こうとした時

 

「おはようございます!私新入りなんですけど、よろしくお願いします!」

 

耳鳴りがする様な大きな声が響いて来た。ついでに聞きなれない言葉だと思ったが、確か日本語と呼ばれている言語だった様な...

 

声のした方を見ると短髪で黒髪の少女が、肩を震わせてこちらを見つめていた。

 

「ああ、よろしく。」

 

俺は適当に挨拶をしてすぐに部屋に入ろうとしたが、彼女に止められる。

 

「あ、あの!私、神崎美優って言います!あなたは?」

 

「トレーノ。じゃあ、もういい?」

 

「ま、待って!」

 

「何?」

 

「私と友達になってください!」

 

「..........は?」

 

「だから、友達になってください。」

 

「お前、俺の事をここの奴らに聞いてないのか?」

 

「聞きましたよ。あいつは僕達とは違うから、関わらない方がいいって。」

 

「じゃあ、なんで?」

 

「既に出来てる人の輪に入るのは、勇気がいるじゃないですか。」

 

もしかして、こいつ....

 

「まさか、俺が1人だからとか?」

 

「はい!私人見知りなんで!」

 

これのどこが人見知りなんだよ。しかもとんでも無く失礼な奴だな。

 

でも、偶には誰かとつるむのも経験か...

 

「友達になってもいいけど、一つ条件がある。」

 

「はい」

 

「まず、その鬱陶しい敬語をやめろ。」

 

「はい!あ、じゃなかった!うん!」

 

「それから...」

 

「あれ?一つじゃなかったの?」

 

「あー、いいから、これが一番大切な事だから」

 

「俺は産まれた時から何でも知っている。でも、経験がない。経験がないと分からない事もこの世の中いっぱいある事も知っている。だから、教えてくれ」

 

俺は彼女の顔を見る。これからの俺の発言で彼女が忌避感を感じるなら友人の誘いは断るべきだ。

 

なぜ、こんな事をだらだら考えているのか俺にも分からないが、直感で友人になるならやっておかなければならない問答だと思った。

 

「俺は昨日、初めて人を殺したんだ。」

 

「..........」

 

「その時は体が熱く感じたんだけど、後はずっと、体が怠くて、頭の中がモヤモヤするし、胸が時折チクチク刺すような痛みを感じるんだ。これは一体なんなんだ?俺の知識にもこんな病状は無いから、経験しないと分からない事なんじゃないかと思ってるんだ。」

 

美優は一度目を見開いたが、すぐに真剣な表情になり、またすぐに微笑みを浮かべた。全く、良く表情の変わる奴だ。

 

「体が熱く感じるのは生物としての闘争本能。頭のモヤモヤは嫌悪感。胸の痛みは罪悪感。.........たぶん、そんなところじゃないかな?」

 

「..........俺が罪悪感を感じてる?」

 

「トレーノ君は優しいんだよ。」

 

俺が優しい?そんなこと考えた事もなかった。それに今考えてもそれは違うんじゃないかと思う。あのおっさんを殺す時も面倒臭くなって早く終わらせようと思って殺したのだから........

 

「ねえねえ。それより、あとは何もない?」

 

「あ、ああ。.........じゃあな。」

 

美優の声で意識が浮上する。俺はそのまま自分の部屋に入る。

俺は他の奴らとは違って個室が与えられている。とは言っても鉄パイプで出来た簡易ベッドしかないコンクリートむき出しの殺風景な部屋だ。

それでもまだベッドがあるだけ俺は恵まれているのだろう。俺以外は皆冷たいコンクリートの上で寄り添って寝ているのだから。

 

「はあ....。」

 

ベッドに転がりため息をつく。

 

正直こんな部屋はいらなかった。1人で使うには広すぎるし寒い。こんな冷たい部屋なんか......

 

「あ〜あ!ベッドある!いいなぁ。」

 

またもや、耳鳴りがする様な声が反響する。こいつ勝手に入ってきてるんじゃねぇ!

 

「何勝手に入って来てるんだよ。出ていけよ。」

 

「えへへぇ」

 

勝手に入って来た美優は俺の言葉を無視してベッドに腰掛ける。会ってまだ数分しか経っていないが、大体はこいつの性格も分かってきた。これ以上何を言っても話を聞かないなら、無視して眠ろう。

 

「はあ......」

 

再びため息をつくが、今度は余り嫌な感じはしなかった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「トレーノ、起きろ。訓練の時間だ。」

 

研究員の声で眼が覚める。どうやらあの煩い馬鹿は大人しくしてたらしい。まあ、ちゃっかり研究員が来る前に帰ってるあたり、意外と抜け目がない様ではあるが。

 

部屋を出て冷たいタイルの床を裸足で歩く。研究員の背中を眺め歩きながら、昨日の出来事を思い出す。

 

今日は一体、誰を殺す事になるのか。研究員も昨日は単なる慣らしと言っていたしな。

 

俺は扉の取っ手を掴みながら考える。

 

だが、俺の考えは思わぬ形で裏切られる。

 

なぜなら、扉の向こうに居たのは人間ではなかったからだ。

 

「グルルル.....」

 

「.………….」

 

なるほどね。

 

今回の相手はライオンだそうだ。

鋭い牙と爪。そして巨体。何よりも全身から放って来る圧倒的プレッシャー。そこには肉食獣として獲物を狩る準備のできた、敵が居た。黄金の鋭い眼で俺に狙いをつける。

 

とりあえずは昨日の反省を踏まえて、攻撃を避ける練習をしようと思う。それが慣れて来たら、カウンターの練習もしようかな。

 

「ガアアアア!」

 

そんなことを考えている間にライオンが飛びかかって来た。

 

俺はそれを横に飛び退いて避ける。

 

避ける。避ける。避ける...........

 

さすがに飽きてきたな。確かに動きもそれなりに速くて、人間よりも動きに躊躇いが無いのはいいけど、直線的すぎる。まあ、カウンターの練習にはもってこいなのかな?

 

というわけで、俺はライオンの牙を自分の左腕に噛ませて、右手で思いっきり殴る。って、あれ?これじゃあ、攻撃を受けてしまってるではないか!俺の皮膚にはライオンの牙なんて通らないけど。

 

何はともあれ、ライオンは吹っ飛び壁に激突。自身の出鱈目っぷりに呆れるばかりである。

 

ライオンは倒れたまま動かなくなった。おそらく失神しているのだろう。結局、一撃で終わってしまったな。

 

そんなことを考えてたら奥の扉が開かれ、そこから7匹のハイエナが出て来る。

 

今度は多対一の戦闘ってところかな。

 

先程と同じ様に攻撃を避けては、蹴りやパンチを放とうするが、上手く連携して妨害して来る。

 

めんどくさいな。より効率良く、敵を無力化できればいいんだけど。

 

俺はハイエナの攻撃を避けながら、考える。その間にもハイエナの爪や牙が掠る。それでも無傷ではあるが。

 

!?.....いや、いい方法あるじゃん。

 

掠る爪を見て、俺は殴る攻撃から指を揃えて放つ、突き攻撃に移行する。一匹のハイエナが俺に向かって飛び込んで来る。それを交差法の要領で交わし、相手の腹めがけて突く。

 

「ギャアアアアアアア」

 

突き出した腕はハイエナの腹を破り、そのまま背中まで貫通。ハイエナ一体を即死に追い込む。

 

一度コツを掴むと後は早くて、ハイエナの飛び込みを避けながら突き、又は脳天目掛けてハンマーの様に腕を振り下ろす。蹴りも敵を吹っ飛ばす事を考えるか、殺傷力重視で蹴るかでも効率が変わる。その様な作業で七匹のハイエナは肉塊となった。

 



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