魔法戦記リリカルなのはIS 高町なのはのIS学園見聞録 (ピロッチ)
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第1章 一学期編
第1話  入学


この作品を読むに当たって一応注意書きを。この作品では…

1、本作の最強キャラはなのはさん。

2、時系列はJS事件の5年後、24歳の頃です。
  なぜこの世界に来たかは話が進んでからのお楽しみ。

3、IS側最強キャラの千冬ですが、
  最終的になのはと互角の強さまで成長します。

4、一夏と嫁達は魔王なのはの生贄です。
  死なない代わりに度々酷い目に遭います。

5、なのはさんはステレオタイプです。
  当然、なのなの五月蠅いです。

6、コメディ寄りで話が進みますが、
  1年次の冬からはオリジナルストーリーです。
  オリキャラを中心に死人がバンバン出ます。

7、追記・修正はちょくちょく入ります。

それでも良いという方は、続きをどうぞ。


西暦2043年4月某日 日本国某所 IS学園 1年1組教室

 

 ここは世界各国からIS操縦者候補を集め、

ISの知識、技能を教える教育機関IS学園である。

 

 ISとはインフィニット・ストラトスの略称であり、西暦2033年、

後に「ISの母」と称えられ、同時に史上最悪のテロリストとして戦かれた

希代の天才、篠ノ之束(シノノノタバネ)が中学生の時分に独力で開発した

次世代パワードスーツである。

 

 ISを扱えるのは女性だけ、つまりIS学園は本来女子校なのだが、

今年になって男の身でISを動かせる者が現れた。その名は織斑一夏(オリムライチカ)

第1回世界大会(モンド・グロッソ)総合優勝者(ブリュンヒルデ)である織斑千冬(オリムラチフユ)の弟である。

 

 そんな彼が入学した次の日の事だった。

 

「えー、皆さん。今日からもう一人新入生の方が登校して来ます。

何でも『職場の都合で入学式に出られなかった』との事ですので、

皆さん宜しくお願いします。」

 

 1組の副担任、山田真耶(ヤマダマヤ)が新入生の来訪を報告する。

 

「職場の都合…?」「どこかの国の代表候補生とか?」「どんな人だろう?」

 

「で、では、どうぞ~。」

 

 真耶が呼びかけた瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

 何者が謎の雄叫びと共に上から降ってきた。

 

「「「「「うわあああああああああああああああああああ!!!!!」」」」」

 

 教室の上から降って来たその女は、右手に自分をモデルとした

高さ30cm程度の3頭身のぬいぐるみを掲げて口を開いた。

 

「私の名は高町(タカマチ)なのは!!ISの母篠ノ之束の専属操縦者なの!!!

特技は篠ノ之束のモノマネで、将来の夢は実家の喫茶店を継承する事!!!

そんな私の目標はこの学園にいるブリュンヒルデと

友達になる事なのおおおぉぉぉッ!!!……以上!!!」

 

 某ボディソープの妖精の如く捲し立てるなのはに一同目が点だ。

そして、なのはが持っているぬいぐるみは何故か声に合わせて

両手をパタパタ動かしていた。

 

 その大音声で真耶と生徒の半数は失神、学園中の窓ガラスは木端微塵になる。

運よく後方にいて耐えられた生徒達は、

後にこの自己紹介が数分は続いた様に錯覚したと語っている。

 

 

 

\パパパッパッパッパ、パゥワァー!!/
 

 

 

 

ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 

 謎のジングルと共に教室の外で何かが大爆発。

一体何が何やらさっぱり訳が分からない。

 

「何…これ…?」

 

「何だろう…凄い人が来ちゃった…。」

 

「うわ、あの人の席私の隣じゃん。」

 

 と、ここで漸くツッコミが。

 

「何が以上だ、馬鹿者!」

 

 それはこのクラスの担任で一夏の姉の千冬だった。

 

「いきなり上から降ってきて、学園中の窓ガラスを破壊しおってからに!!」

 

 出席簿でなのはをシバこうとする千冬だったが…

 

「What?!」

 

 ガシッ!!

 

 何故か英語で反応したなのはに腕を掴まれた。

 

「なっ…!貴様、止めろ!離せ!!」

 

 千冬は離そうとするが、なのはの握力は強大で頑として動かない。

そして、なのはは千冬に詰め寄って一言。

 

「貴女がブリュンヒルデなの?!」

 

「な、確かに初代ブリュンヒルデとは私の事だ、分かったから手を離せ!」

 

「こちらの言い分も聞かず、遠慮会釈の無い先制攻撃……。」

 

「何の事だ!貴様は一体何を…?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

表゛出゛や゛か゛れ゛な゛の゛! !

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒィ!」

 

 なのはは突然ブチ切れた。その迫力に千冬もビビる。

 

「戦わずして友にはなれぬ!いざ尋常にO☆HA☆NA☆SHIなの!!!」

 

 有無を言わさず千冬を掴んだまま窓から外へ飛び出して行った。

 

「ちょ、待て!!ヤメロー!!一夏ぁ、助けてーっ!!」

 

「ちょおおおおおっ、千冬姉ーっ!!!」

 

「「「「「…………………………………………………………………。」」」」」

 

「何だったの、あれ…?」

 

「さあ?」

 

 この間、わずか30秒足らずである。

 

 

 

 

IS学園アリーナ

 

「さあ、どこからでも掛かって来やがれなの!!!」

 

「ナンデ?!!!」

 

 千冬は自分の置かれた状況が全く理解出来なかった。

新年度二日目に束の専属を名乗って編入してきた生徒が、

『友となる為』という意味不明な理由で喧嘩を売って来ると言う状況は、

流石の元世界チャンプも理解できないシチュエーションらしい。

 

 そして目の前には訓練用の日本製第2世代量産機打鉄(うちがね)が。

これを装備して戦えという事なのか。

 

「何でもかんでも無いの!!此処で会ったが百年目!!

さあO☆HA☆NA☆SHIなの!!掛かって来るの!!」

 

「いやちょっと待て!!貴様対話したいのか戦いたいのかどっちなんだ?!」

 

「両方ッッッ!!取り敢えずぶっ飛ばす!!話はそれから聞いてやるの!!」

 

「(駄目だコイツ…早く何とかしないと…)良いだろう、

訳の分からん理屈で喧嘩を吹っ掛ける輩には灸を据えてやらねばならん。」

 

 千冬は仕方なく打鉄を起動させ、日本刀型近接ブレード「(あおい)」を構えた。

 

「それでこそ、天下のブリュンヒルデなのっ!!」

 

 なのはは腕を組みながら頷いていた。

 

「その呼び方は止めろ!!大体、貴様ISはどうした?」

 

 確かに、肝心のなのははISらしき物は何も身に着けていない。

 

「ならば専用機を見せるの!!

専用機を持ってきた人だけが私のISを見る事が出来るのっ!!」

 

「無茶言うな!!私の専用機は凍結中だ!!」

 

「ならばISスーツのみ披露するの!!さあとくと見るのっ!!」

 

 そして、なのはの声と同時に全身が発光。光が収まったその場には…

 

「何…だと…?」

 

 全身白に青の縁取りがされた、まるで少女アニメのコスプレのような衣装。

そして左手には金の穂先を持つ槍が一振り。

 

「(あれが奴のISスーツなのか?……………………………………ダサい!)」

 

 千冬は吹き出しそうになったが、

笑うと何をしでかすか分からないので、何とか堪えた。

 

「ええい、どうなっても責任は取れんぞ!!!イヤーーーーーーーーーーッ!」

 

 掛け声一閃、千冬はランダム蛇行で間合いを詰め、なのはに斬りかかる。

大上段から葵の刀身がなのはへと迫るが…

 

「ぬぅん!!」

 

 ガシッ!!

 

 何となのはは振り下ろされた刃を素手で受け止めた。しかも全くの無傷で。

 

「何ィイーッ!!!」

 

 驚愕で目を丸くする千冬。

 

「ば、馬鹿な……ISの攻撃を生身、しかも素手で止めただと…」

 

 千冬も生身でISの攻撃を止める事は出来る。

だがそれは相応の武器を持っていればの話だ。

まさか素手で成し遂げるとは流石の千冬も予想できなかった。

 

「ぐっ、剣で駄目なら……!」

 

 千冬は打鉄の標準装備となっているアサルトライフル、

焔備(ほむらび)」を抜いてなのはに向けた。

 

「(生徒相手に銃を向けるのは不本意だが、

ISの一撃を素手で食い止める奴相手に贅沢は言えん…やるしかない!!)」

 

 しかし、それがいけなかった。

 

「織斑千冬、敗れたりっ!!!」

 

「な、何っ?!」

 

 なのはは声と共に、千冬の視界から消滅した。そして、次の瞬間……

 

「どーーーーーーーん!」

 

 雄叫びと同時に、強烈な一撃が千冬を直撃した。

 

 

一方その頃教室では…

 

「は、はらほろひれはれ~…。」

 

「山田先生!大丈夫ですか?!」

 

 なのはの個性的な自己紹介で失神していた真耶が漸く目を覚ました様だ。

 

「あー驚いた…。あれ?織斑先生は…?」

 

「えーと、その事なんですけど…。」

 

 一夏は真耶に事情を説明した。

 

「…………………すいません、訳が分かりません。」

 

 当然の事だが、真耶の顔は引き攣っている。

 

「そりゃ俺達も同じですって!あの人いきなり天井から降って来たし、

自己紹介は暑苦しいし、やたらうるさいし…

誰なんですか、あの人の入学をOKしたのは?!」

 

「いや、誰って言われても…」

 

 と、一夏と真耶が問答していると…

 

「どーーーーーーーん!」

 

 アリーナから雄叫びと轟音が響いた。

 

「な、何だぁーっ?!」

 

「…あれはどう考えても、高町さんですね。」

 

 そして…

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 2人が見たのは打鉄から放っぽり出された千冬が

悲鳴を上げてこちらへ飛んで来る姿だった。

 

「「ナーアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア?!」」

 

 千冬は開けっ放しの窓から教室に飛び込み…

 

「ぶ!!!」

 

 何者かが開けたドアを通って見事に顔面から廊下に着地した。

 

「お、織斑先生ぇぇぇえええっ!!」

 

「千冬姉ぇぇぇえええっ!!」

 

 慌てて駆け寄り千冬を起こす。

千冬は額に傷を負った様で、顔面が血みどろだった。

 

「千冬姉!!大丈夫か?!!」

 

「い、一夏…」

 

 目を覚ました千冬、何と千冬は生きていた。

だが様子がおかしい、一夏に気付いた直後…

 

「いちかぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 突然泣きながら一夏に抱き着く千冬。

 

「どうしたんだよ千冬姉!!急に泣き出して…てか、顔中血みどろだぞ!!」

 

「負けちゃっだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

「「負けた?!!」」

 

 世界最強のIS乗りと言ったら織斑千冬。

ISに携わる人間ならこれは誰でも知っている。

その千冬が敗れた。それが意味する所を悟った2人は震え上がった。

 

「そんな…!」「嘘だろ…千冬姉が負けた?」

 

「あの織斑先生が…ブリュンヒルデが負けた?!」「じゃ、じゃあ…」

 

「え?嘘…」

 

「悔゛じい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!

お゛姉ぢゃん゛も゛う゛お゛嫁に゛行゛げな゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!」

 

 そんな千冬の肩を叩く者がいた。

 

「だ、誰だ…?ギャーッ!!」

 

「やあ。」

 

 何とさっきまでアリーナにいた筈のなのはが廊下にいた。

先程ドアを開けたのは、他ならぬ高町なのはその人だったのだ。

 

「ちょっ、何でこの人廊下に?!さっきまでアリーナに…

って、そんな事言ってる場合じゃねえ!

アンタ何て事するんだ!!千冬姉が泣いちゃっただろう!!」

 

「そうだそうだー!!」

 

「鬼!!悪魔!!人でなし!!」

 

「謝れー!!」「外道ー!!」「帰れー!!」「馬鹿ー!!」

 

 いつの間にか1年の他クラスの生徒や教員達も廊下に出て、

口々になのはへ罵声を浴びせる。

 

 全てのIS操縦者の憧れともいうべき織斑千冬を傷つけ、

おまけに泣かせると言う行為は彼女達にとって最も罪深い行為なのだ。

だが、なのはは生徒達の方へ向き直ると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズ       ド       ム       !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

「「「「「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!」」」」」

 

 何と言う気迫!なのはは震脚一つでその場の生徒と教員全員を震撼させた。

 

「戦わずして友とはなれぬ!!ぶつかり合えない友は友と言わないのっ!!!

文句が有るならO☆HA☆NA☆SHIなの!!!」

 

「「「「「やだあああああああああああああああああああ!!!!!」」」」」

 

 他組の生徒と教員達は一斉に逃げ出した。

なのははそれを見届けると、千冬の方に向き直り…

 

「織斑千冬…」

 

「ヒィ!!な、何だ?!」

 

 すっかり怯え捲っている千冬、なのはは千冬に近づくと…。

 

「そぉい!!!」

 

 ムギュッ。

 

「おうっ…。」

 

 なのはは千冬の胸を鷲掴みに。

 

「ちょおおおおおおおっ!!」

 

「え?え?!何ですかこの超展開!!」

 

 いきなりの行為に全員思考停止。一体何のつもりだろうか?

 

「揉みしだいてくれるの!!!!!」

 

 そして揉みしだき始めた。元上官の八神はやてを髣髴とさせるセクハラ…

もとい胸部マッサージ術である。

 

「やあっ!!ダメェ!!触るなぁ…」

 

 千冬の抗議もお構いなしに容赦なく揉みしだくなのは。

 

「モミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミモミ…。」

 

「やらぁ!!揉むにゃぁ…揉まらいれぇ…おねひゃい、もう許ひれぇ…。」

 

 感じてきたのか、舌足らずになっていく千冬。このままでは色々と危ない!

 

「モミモミモミモミモミモミ…さあ落ち着くの!!心を落ち着けるの!!!」

 

「落ち着けるかー!!」

 

「落ち着くのー!!!」

 

「らめへぇえええええええええええええええ!!」

 

 数分後…

 

「う、うううう…汚された、汚されちゃったぁ…。」

(何故だ、嫌なのに物凄く気持ち良かった…!)

 

「何だかんだ言って、落ち着いた様なの!!」

 

 確かに少しは落ち着いた様だ。だが素直に肯定できない。

しかし、なのははそんなのお構いなしに一言こう告げた。

 

「織斑千冬…今日のこの敗北の屈辱をバネに強くなるの。

私よりも強い奴になるのっ!!!」

 

「ぞん゛な゛の゛無理い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」

 

 酷い無茶ぶりを見た。

 

「大丈夫なの!!!この世には私より強い奴はいくらでもいるのッ!!!

かつて誰もが真の最強と認めた偉大なるブリュンヒルデ…

貴女ならば、いつか私と渡り合える強者になれるのっ!!!

その時こそ、貴女が真に私の友達となる時なの!!

こんな所で終わってはいけないの!!!!!」

 

「クスン…本当に?」

 

「その通りッ!」

 

「いやいやいや、発言内容と行動がかみ合ってないから!!

千冬姉に変な事吹き込むのはやめ…」

 

「What?!」

 

「(ポコッ☆)おうっ!」

 

 見かねた一夏が割って入るが、

何処からともなく現れた拳でKOされてしまった。

 

「ううっ…そうか、そうなのか…分かった…私頑張る!!

いつか、お前に友と認められる様な女になってみせる!!」

 

 何か良く分からないが、とりあえず千冬は元気を取り戻したようだ。

彼女も大概である。

 

「その意気なの!織斑千冬復活!織斑千冬復活!

復活!復活ッ!復活ッッ!!復活なのッッ!!」

 

「ああ!さあ皆が待ってる、授業を始めよう。」

 

「アッハイ…。(高町なのは、一体何者なんですかこの人……?)」

 

 蚊帳の外に置かれ、一人困惑する真耶であった。

 

「イイハナシカナー?」

 

 かくして1組の生徒の一人、

のほほんさんこと布仏本音(ノホトケホンネ)がオチを纏めた所で

なのはの編入初日は終わりを告げた。

 

「あの、織斑先生?」

 

「どうした?」

 

「出血…大丈夫なんですか?!」

 

「あっ…」

 

 そうだった、千冬が流血していたのを皆忘れていた。

 

「イダーッ!!頭が割れる!!ってか割れてるーっ!!」

 

「と、とにかく保健室へーっ!!」

 

 幸い千冬の傷は然程酷くなかったが、

怪我の原因を聞いた校医からは呆れられたという。

 この時、誰が想像しただろう。この凶暴で騒々しい24歳の生徒が、

後に「暴走核弾頭」として世界を震撼させる伝説の主人公となる事を。




千冬、早速なのはの洗礼を浴びる。
まさかあの千冬が、後にあんな事になるなんて…


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第2話  セシリア無残

さて、第2話です。…誰がどうなるか、丸解りですね。


 そして翌朝、SHRにて…

 

「諸君、これより再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める。

クラス代表とは対抗戦だけでなく、生徒会の会議等に出席する役目を担う、

所謂級長だと思って貰おう。但し一旦なった以上1年間交代は出来んぞ。

志願者、もしくは推薦する者はいるか?」

 

 頭に包帯を巻いて出勤してきた千冬の言葉に静まり返る教室。

クラス代表者同士が競う対抗戦は実戦経験を積む好機だが、

生徒会の会議や委員会の出席という難事もついてくる。

だが、次第に教室中のあちこちから声が。

 

「はい!織斑君を推薦します!」

 

「私も織斑君に一票!」

 

「私も!!」

 

 とまあ、こんな調子で生徒の票は一夏に集中する。

だが一夏はISの操縦経験が殆ど無く、クラス代表を務める自信は全くない。

と、ここで思わぬ助け舟が。

 

「お待ちを!」

 

「(た、助かった?)」

 

 声を上げたのは英国貴族の令嬢で同国代表候補生を務める

セシリア・オルコットだった。

 

「それならワタクシも志願致しますわ!

連合王国(グレートブリテン)代表候補生で専用機持ちのワタクシなら申し分ありませんわ。

クラス代表は実力者がなってこそ。

男の操縦者と言う物珍しさだけで推薦するのは不合理ですわ。」

 

「…それは、尤もな事だな。」

 

 確かに世界初の男の操縦者と言う物珍しさだけで一夏を推薦するのは問題だ。

それは間違っていない。しかし、

クラスで最も実力ある者がなればいいと言う理屈に従うなら…

 

 スゥッ…

 

「「「「「!!!!!」」」」」

 

「た、高町…さん…?」

 

 なのはが手を挙げて、こう一言。

 

「私も志願するのっ!!!」

 

「「「「「え゛?!!!!!」」」」」

 

 その一言に教室の全員が青ざめた。

 

「その主張が通るなら、初代ブリュンヒルデに勝った私が最も相応なの!」

 

「あっ…(察し」

 

 その通り、1組には初代ブリュンヒルデの千冬に勝ったなのはがいるのだ。

 

「ヒィイ!わ、ワタクシやっぱり取り下げを…」

 

「お、俺も!!碌にIS乗ったことないし、やっぱ高町さんがやった方が…」

 

 先日の戦いを見て怖気づいた一夏とセシリアは辞退を申し出るが…

 

「却下だ。一度志願した、あるいは推薦された以上

規則により辞退は認められん。」

 

「「そ、そんなぁぁぁぁぁぁあああああああああああ~~~~~~~~!」」

 

「「「「「(ご愁傷様。)」」」」」

 

 千冬に一蹴され、涙ながらにその場にへたり込むセシリアと一夏。

これには一同も同情した。

 

「他に意見のある者はいないな?では織斑一夏、

セシリア・オルコット、および高町なのはの3名から選ぶこととする。

選出方法は言うまでもないだろう。ISの腕で競ってもらうぞ。

決定戦は1週間後に…」

 

「What?!」

 

「ヒィ!!」

 

 今度は千冬に噛みつくなのは。完全に狂犬である。

 

「来週などと言わず、放課後に早速戦うのっ!

何なら今すぐでもいいの!2対1でも戦うの!!」

 

「ドンだけ戦いたいんだアンタはーっ?!」

 

「イーーーーーーーーヤーーーーーーー!」

 

 恐怖に怯える一夏とセシリア。

昨日の事を考えれば、なのはと戦えばまず只では済まないだろう。

 

「ま、待て!待ってくれ!」

 

「織斑千冬…戦いを止めるとはどういう了見なのっ?!!」

 

 そして担任を呼び捨てである。

尚、なのはと千冬は同じ年なのでオフの時はタメ口でも問題無い。

 

「来週まで、来週まで待ってくれ!そうすれば一夏に支給される専用機が届く!

その方が貴様も少しは満足出来る戦いになるかもしれん!!

頼む!!それまで待ってくれ!!」

 

 もう泣き出さんばかりの勢いで頼み込む千冬。

弟の命が懸っているのでそれは必死だ。果たして、なのはの回答は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

b⌒*(・∀・)*⌒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サムズアップ。なのはは延期する理由に足ると判断したのだ。

 

「ゆ、許されたぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。」

 

 その場にへたり込む千冬。一夏とセシリアも寿命が延びたのでほっと一息。

 

「で、では決定戦は1週間後に総当たり形式で行う。3名は準備を怠るな。

それと高町、その、何だ…せめてハンデをくれてやれ。

まともに戦うと死人が出かねん。」

 

「………ハンデに全力を尽くすの!」

 

「では、朝のHRはここまでだ。授業に移るとしよう…。」

 

 

 

 

 

 そして一週間後、放課後のアリーナ上空では…

 

「よし、ではクラス代表決定戦1回戦を始める。」

 

「いや、始めると言われましても全然意味が分かりませんわよ!!」

 

 専用機ブルー・ティアーズ(以下、B・ティアーズ)を纏うセシリアは

自分の置かれた状況を把握出来ていなかった。

 

 クラス代表決定戦だと言う事は分かる。

対峙しているのがなのはと言う事も分かる。

だが、どうしても一つだけ理解できない事が有った。

 

「何でこの人はIS無しで宙に浮いているんですのぉぉぉおおおお?!」

 

 そう、なのははISを身に着けていないにも拘らず宙に浮いているのだ。

 

「お前はハンデ戦と言う事を忘れたのか?

高町はハンデとして専用機を完全展開せずに戦おうというのだ。」

 

「いえいえいえ!生身で宙に浮ける理由になってませんわよ!!」

 

「やれやれ…2年のウェルキンに鍛え直して貰ってこの様か。

精進の足りん奴だ。」

 

 千冬の言う通り、セシリアはこの日に備え、

同じ英国代表候補生の2年生サラ・ウェルキンに頼んで

1週間特訓を付けて貰っていた。

 

「「「「「(いや、そういう問題じゃないだろう…)」」」」」

 

 誰もがそうツッコんだが、声に出す勇気のある者はいなかった。

 

「さぁ時間が惜しい、代表決定戦1回戦…始め!」

 

「ええい、先手必しょ「どーん!」

 

 セシリアがB・ティアーズの主武装、

光線銃「スターライトmkⅢ」をなのはに向けた瞬間、

どーん!の声と共にどこからともなく極大の光線が放たれセシリアを直撃。

セシリアは遥か彼方へ吹っ飛ばされた。

 

「(あ、お母様が呼んでますわ、行かなくては。)」

 

 セシリアは現実逃避しながら意識を喪失した。

 

 

 

 

 

 30分後…

 

「あはははははははははははははははははははははははははははははははは!」

 

 保健室で目を覚ますなり笑い出すセシリア。

如何なる奇跡を起こしたのか、あの強烈な一撃が直撃したにも関わらず、

彼女は無傷で生還した。だが、精神的には無傷では済まなかったようだ。

 

「せ、セシリア?」

 

「可哀想に…おかしくなっちゃったんだ。」

 

「こんなのって、ないよ!」

 

 どう見ても様子の変なセシリアを心配し、クラスメイト達が声をかけると…。

 

「あら皆さん。皆さんもお亡くなりになったんですの?」

 

 意味不明な問いを返してきた。その瞳にハイライトは無い。

 

「え?ちょ、えっ…?」

 

「セシリア…まさか…」

 

「死んでない!私達死んでないから!」

 

 どうやら、セシリアは自分が死んだと思っているようだ。

 

「きっとここは天国なのですね。そうと決まればお母様に会いにいかねば…」

 

 そしてベッドから降りようとすると、丁度良いタイミングで千冬が来た。

 

「何だ、もう目が覚めていたか。」

 

「あ、織斑先生!」

 

「先生、セシリアさんがなんか変です!」

 

「ど、どうしましょう?」

 

「見れば解る。心配するな、後は私に任せろ。お前達はアリーナへ戻れ。」

 

「「「はーい。」」」

 

 クラスメイト達は保健室から立ち去った。

 

「まあ!織斑先生までこっちにいらしていたなんて。」

 

「何だ、私がここにいる事がそんなに不思議か?」

 

「それは勿論ですわ!いつの間にお亡くなりになったので?」

 

「…………………………………………………………………………………。(怒」

 

 セシリアは本気で自分が死んだと思い込んでいるようだ。

こんな時、千冬のする事は一つ。

 

「イヤーッ!」

 

SPANK!

 

「ンアーッ!!」

 

 千冬はセシリアを出席簿でシバいた。

 

「落ち着けオルコット、勝手に私を殺すな。」

 

「い、痛いです~~~~~~~~。」

 

「当然だ、お前は生きているのだからな。」

 

「え?…ハッ!」

 

 確かにセシリアの瞳にハイライトが戻っている。

シバかれた衝撃で正気を取り戻したようだ。

 

「どうだ、目は覚めたか?お前はまだ生きている。

親に会いに行くのは後にしろ。」

 

「あ、あ、あ………………。た、助かったぁ~!ふえぁああああああああん!」

 

 生きて帰れたのが余程嬉しかったのか、とうとう泣き出してしまった。

 

「お、おい、何も泣く事は…」

 

「ミス・オルコット!」

 

 と、もう一人生徒が保健室に駆け込んで来た。

彼女がセシリアの特訓相手を務めた2年のサラ・ウェルキンである。

 

「良かった…無事に生きて帰ってこれたのね!!本当に良かった!!」

 

「ミス・ウェルキン!あなたとの特訓のおかげで、

ワタクシ、生きて帰ってこられましたわ!」

 

 セシリアが生還したのが余程嬉しかったのか、二人抱き合って泣いている。

 

「(むむ、声を掛けられん。仕方ない、ここは退散しよう…

それより私の愛する一夏が絶望しきりなのだ、励ましてやらねば。)」

 

 ブラコン全開でこっそり保健室を立ち去り、アリーナへと戻る千冬。

と、そこにひょっこりとやってきたのは…

 

「……………ミス・ウェルキン?それと、ミス・オルコット?」

 

 千冬の先輩であるカナダ生まれの数学担当教員エドワース・フランシィだ。

英国先輩後輩コンビは抱き合う姿をばっちりフランシィに見られてしまった。

 

「えーと、貴方達、ひょっとして…」

 

「ごごごごご誤解ですミス・フランシィ!!

ああ、ミス・オリムラからも何か…って、いない!」

 

「………………大丈夫よ、ミス・ウェルキン。

環境が環境だから仕方ないもの、先生、陰ながら応援してるから。(そそくさ」

 

「ミ、ミス・フランシィィィィィィィィッ!!」

 

 慌てて保健室から退散するサラ。

その日の晩、サラは日記にこの日を厄日と書き残した事は言うまでもない。

 

 同じ頃、○HKのニュース番組からこのような報道が入った。

 

「次のニュースです。先程入った情報に依りますと、

韓国の大統領官邸『青瓦台』で、突如本館に大穴があき、

一部分が崩落したそうです。

幸い、死傷者は出なかったとの事ですが、原因は解っておりません。

 

この件に関して韓国政府は日本に対し謝罪と賠償を求める声明を…

あ、今速報が入りました。

日本政府は韓国政府に対し『遺憾の意を表明する』との声明を発表しました。

繰り返します。

日本政府は韓国政府に対し『遺憾の意を表明する』との声明を発表しました。」




まさに残当。しかし彼女は何も悪くない。ただ、運を除いて。


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第3話  一夏の初陣

嫌な予感しかしない第3話です。一夏、強く生きろ…


「今日、俺は死ぬのかも知れない…」

 

 一方その頃、アリーナのピットでは一夏が死の恐怖に怯えていた。

千冬の言う通り、一夏は学園から白式(びゃくしき)と言う専用機を支給されたが、

実機が届いたのは決定戦当日の朝だった。

 

 その為、機体を一夏に合わせて調整する作業を行いながら

セシリアとなのはの試合(?)をモニターで見ていたが、

その瞬殺ぶりにただ恐れ戦く事しかできなかった。

 

「あんなのに、あんな化け物に挑めって言うのか……!」

 

 一夏は汗を滝のように流しながら青ざめていた。

そこに千冬が保健室から戻ってきた。

 

「一夏、準備は終わった様だな。」

 

「あっ、ち…織斑先生。」

 

「今は放課後だ、姉で良いぞ。」

 

「お、おう…じゃあ千冬姉、やっぱ俺、ギブアップしていいよな。

あんなのに挑んだら俺、冗談抜きで死んじまう!」

 

 この期に及んでヘタレるなんてと思ってはいけない。

あんなのを見せられたら上級生や教員どころか、

国家代表ですら震え上がるだろう。一夏が怯えても誰が責められよう。

 

「そうかもな、奴の攻撃は掠っただけで

即シールドエネルギー(以下、SE)切れは間違いない。」

 

「そうだろ、俺が貰ったIS、武器が剣一振りしかないんだぞ!

これであんなのに挑めって、死ねって言うのと変わりないじゃないか!」

 

「そうです!あの人と戦うのは危険すぎます!」

 

 横からもう一人の生徒が口を挟む。彼女の名は篠ノ之箒。(シノノノホウキ)

ISの発明者である篠ノ之(タバネ)の妹で、一夏の幼馴染みの一人だ。

 

「なあ頼むよ!ギブアップさせてくれ!!

千冬姉は、弟の、唯一の身内の俺が死んでも良いって言うのか?!」

 

「大丈夫だ、お前は私の弟だぞ?(ぱふぱふ」

 

 千冬は一夏の顔を胸に押し付けながら優しい声で言う。

 

「千冬姉……ちょ、胸ヤメテ、息できないから…」

 

「ぱふぱふ…ぱふぱふ…」

 

「ムギュ~。」

 

「千冬さ…織斑先生、何してるんですか?」

 

「何、高町の真似だ。…よし、このくらいで良いだろう。(解放する」

 

「ブハッ…た、助かった…。」

 

「よし、どうだ落ち着いたか?」

 

「あ、ああ…。」

 

「一夏、良く考えてみろ。私はどうだ?

私もアレと戦ったがこうして生きているではないか。」

 

「あっ…。」「確かに…。」

 

「オルコットだってそうだ。ちゃんと無傷で帰って来ただろう。

だからお前にも出来る筈だ。」

 

「いやいや、精神はズタボロですよ!!」

 

「おっと、さあ時間だ、逝くぞ弟よ。」

 

「ちょっ、まっ、誰か助けてえええええええええええええええええええ!!!」

 

 一夏は千冬に引きずられながらピットを後にするのであった。

 

 

第3アリーナ上空

 

 何だかんだ言って結局アリーナに引きずり出された一夏。

既にアリーナ中央にはなのはの姿があり、

一夏も白式唯一の武装、近接用ブレード「雪片弐型(ゆきひらにがた)」を構える。

 

「くっそー、恨むぞ千冬姉。

ご丁寧に出入り口を全部封鎖して逃げられなくしてあるし…」

 

「さあ掛かって来るの!!その専用機の初陣、存分に付き合ってあげるの!!」

 

「あの、できればもう少し手加減をして頂きたいんですけど…」

 

「却下!!完全展開無しだけでも在り難く思うの!!」

 

「酷過ぎる!!畜生、どう考えても勝てる要素はねえけど、

それでも一撃くらいは当ててやる!」

 

 戦闘能力は圧倒的に一夏が不利だ。だけど、それでも一矢は報いたい。

 

「その意気だ一夏、ではクラス代表決定戦2回戦…始め!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 まず動いたのは一夏、一直線になのはへと向かおうとしたが…

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 例によってなのはのどーん!の声と共に

どこからともなく極大の青白い光線が放たれ、一夏を飲み込んだ。

 

「「「「「お、織斑くーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!」」」」」

 

 生徒達の叫びがアリーナに響く。一夏もセシリアの二の舞となったのか?

しかし、光線が消えるとそこには…

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 何と一夏は全くの無傷で、最初の勢いのままなのはに吶喊してきたのだ。

良く見ると白式は金色の光を放ち、

手にした雪片弐型もまた刃が白色光に包まれている。

 

「えええええ!む、無傷?!」

 

「凄い!」

 

「何、どうなってるの?!」

 

 しかし、どうやってあの巨大ビームを切り抜けたのか?

どうやら千冬は原理を見破ったようだ。

 

「一夏の奴…、もう単一仕様能力(ワンオフアビリティー)を使えるようになったのか。

そうだ、それでこそ私の弟だ。」

 

まさかの展開になのはも表情が険しくなる。

 

「!! 単一仕様能力か…。」

 

「どうだ、驚いただろ!こいつが白式の単一仕様能力、零落白夜(れいらくびゃくや)だぁーっ!!」

 

 白式の単一仕様能力、零落白夜。

それは白式のみが持つ最強の矛、エネルギー消滅攻撃。

バリアを構成するエネルギーを消し去り、機体に直接攻撃をする事で

わざと操縦者の生命保護機能「絶対防御」を発動させ、

SEを浪費させる恐るべき切り札だ。

 

 その威力は絶大で、並のISに直撃すれば一撃でSE切れに陥るだろう。

一夏は零落白夜でなのはが放った巨大ビームのエネルギーを消し去り、

機体分の隙間を開ける事で先制攻撃を文字通り「切り抜けた」のだ。

 

「行ける、行けるよ!!」

 

「やっちゃえ、織斑君!!」

 

「千冬お姉様の仇をとってあげてー!!」

 

 アリーナからも歓声が。

 

「行けえええええええええええええええええええええええええええええっ!!」

 

 アリーナの誰もがこれは攻撃が入ったと思った。一夏、まさかの大金星か…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何ィィイイーーーーーーッ!!!」

 

 なのはに渾身の一撃が当たる寸前、雪片弐型の柄頭を謎のアームが掴んだ。

 

「ちょっ、何だこれ!!くっそ、動け、動けよ!!」

 

 一夏が力を込めて押し付けても、雪片弐型の刃は頑として動かない。

 

「単一仕様能力…本来二次移行(セカンドシフト)して初めて発動できる固有スキル。

未だ一次移行の状態で使えるのは大した事なの!!

御褒美に私の専用機のアーム部分を公開するの!!」

 

 なのはの言う通り、アームの正体はなのは専用機の一部。

IS1機の全力を片腕一本で完全に食い止める脅威の怪力だ。

 

「それじゃあ…片を付けるの!!」

 

 なのはが指を上へ向けた瞬間、

アームが勢いよく柄頭を押し上げながらなのは側に引き寄せた。

すると一夏が持っている部分を軸に雪片弐型が縦回転する。つまり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴ            ン           !          !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひでぶ!!!」

 

 一夏の脳天に雪片弐型の峰が直撃。自分の武器で峰打ちを食らってしまった。

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

ズドム!!!

 

 零落白夜を発動していた為、エネルギー消滅効果を食らった白式はSE切れ。

一夏は峰打ちの勢いのままにグラウンドに墜落し、上半身が地面にめり込んだ。

勿論、絶対防御が有る為一夏は全くの無傷だ。

 

「「「「「…………………………………………………………………。」」」」」

 

 まさかの結末にアリーナ中が沈黙に包まれる。

 

「一時はやったかと思ったんですけど…呆気無さすぎですね。」

 

「やれやれ、いくら初陣とはいえ20秒と保たんとは情けない…。

まあ単一仕様能力を発動できたからよしとするか…。」

 

 結局、一夏はなのは専用機のアームで引っ張り出された。

 

「グッ…!まさか一撃も返せないなんて…!」

 

「そう気を落としてはいけないの!!

初陣で単一仕様能力を発動できるなら上出来なの!!

それに、私にもいいデータ収集になったの!!」

 

「え?」

 

「私の専用機は長距離特化型なの!

懐に飛び込まれた時の対処法を鍛えるには有意義だったの!」

 

「「「「「……………………………………………(長距離…特化?)」」」」」

 

 いよいよもって、謎が謎を呼ぶなのはの専用機であった。

 

 

 

 尚、この後のセシリアと一夏の戦いだが、

一夏がセシリアの隙をついて雪片弐型の間合いに飛び込み、

零落白夜の一撃をB・ティアーズに直撃させたが、

同時に白式もSE切れに。判定はダブルKOで引き分けとなった。

 

 その結果、クラス代表決定戦の成績はセシリアと一夏が1敗1分け、

なのはが2勝という一方的な結果に終わった。

尤も、この縁でセシリアと一夏の仲が少し深まったため、

二人にとっては何の成果もないという訳ではなさそうだ。

 

 

 翌日、朝のSHRの席で真耶がクラス代表の発表を行っていた。

 

「と、いうわけで!クラス代表は織斑君に決まりました!!」

 

「「「「「……は?」」」」」

 

 この爆乳大明神は何を頓珍漢な事をのたまうのかと思っていた生徒達だが、

その意味を理解して一斉に一夏の方を向いた。

 

「アイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーッ?!!」

 

 生徒達の視線を向けられた一夏がニンジャでも見たような声を上げた瞬間…

 

 SPANK!

 

「おぶ!!」

 

 一夏は出席簿で脳天をシバかれた。

 

「静かにしないか、馬鹿者。」

 

「い、いやち…織斑先生!何で俺がクラス代表に?!何で?!!」

 

「答えは簡単なの!!」

 

 なのはが千冬に替わって理由を説明する。曰く…

 

「1年の他の組の教員共、事も有ろうにあの後

『ウチの組の代表が死んじゃう!頼むから別の人に代わって!!』

って一斉に泣きながら土下座して泣きついて来やがったの!!

おまけに断ったら学園長に直訴して強引に解任しやがったの!!

あの軟弱者どもめらがっ!!いつか〆てやるのっ!!

ルナティック・ラビイィーッシュ!!!」

 

「な、何て口の悪い方ですの…((((((((;゚Д゚)))))))ガクガクブルブル」

 

「い、いや!なのはさん落ち着いて!!!

俺なんかより、オルコットさんがいるじゃないか!!」

 

「ヒィ!!わ、ワタクシなどまだまだ未熟者ですわ!!

ですからクラス代表は是非一夏さんにやって頂きたく…」

 

「そういう事だ。他の志願者が脱落した以上、お前がクラス代表で決定だ。

良かったな、全員拍手してやれ。」

 

 千冬の言葉がトドメとなり、クラス全員の拍手の中で一夏は絶望した。

箒を見ても、気まずそうに目を逸らされてしまい、味方は誰一人としていない。

 

「チックショーーーーーーーーーーーーーーー(SPANK!)ぷぎゃ!!!」

 

「少しは喜べ、馬鹿者。(ニヤニヤ」

 

 とどめに千冬がニヤケ面を浮かべながら出席簿で一夏をシバいて

クラス代表決定戦は終結した。

 

「そうだ、大事な事を忘れていた。織斑、そしてオルコット。」

 

「アッハイ。」「何でしょう?」

 

「お前達専用機持ちは今後高町に鍛えて貰え。」

 

「はいぃ?!」「ヒィィィィイイイイイ……。」

 

「ふっふっふ、二人共よろしくなの!」

 

「「俺/ワタクシ\(^o^)/オワタ」」

 

「「「「「…………………………………………………………………。」」」」」

 

 二人に心の中で合掌する1組の生徒一同であった。




誰でも良いです。この2人を哀れと思う方は冥福を祈ってあげて下さい。


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第4話  大陸からの使者

さて、第4話。今度は中国のあの娘が暴走核弾頭の洗礼を受けます。


 そして数日後、1組の教室はとある噂で持ちきりだった。

 

「ねえ箒、聞いた?」

 

「ああ、2組に転入生が来るらしいな。」

 

「何でも、中国の代表候補生なんだって。」

 

「中国の?」

 

「まあ。ひょっとしてワタクシの存在を危ぶんでの転入かしら?」

 

「「それはない。」」

 

「シュン…。」

 

「まあ気にする事はない。転入するのは2組なんだろう?」

 

 実際にクラス対抗戦で戦う訳ではない箒にとっては、

思わぬ強敵出現という程度の認識しかない。

 

「中国の代表候補生かぁ…会ってみたいかもな。」

 

「あら一夏さん、興味がおありで?」

 

「ん?まあな。俺、2年前に国に帰った中国人の幼馴染がいたんだ。」

 

「そうなのか?だが一夏、今のお前に女子を気にする暇はないぞ、

何せ来月のクラス対抗戦はお前が出るんだからな!」

 

「そうだよ!!織斑君には是非勝って貰わないと!

知ってるでしょ、優勝賞品の事?」

 

 このクラス対抗戦、優勝者が所属する組には優勝賞品として

クラス全員に学食デザート半年無料パス券が与えられることになっている。

本来女子高のIS学園はスイーツに興味津々な年頃の女子ばかり。

そのテンションは天を衝く勢いだ。

 

 当然、1組の代表である一夏の責任は重大。

経験も技術も不足している今の一夏に、他のクラスを気にする余裕は無いのだ。

 

「はいはい、解ってるって。心配すんな。」

 

「大丈夫なのか?」

 

「まあまあ。それに1年生の専用機持ちは

1組と4組にしかいないから織斑君でも大丈夫だよ!」

 

「え?ああ、まあな…」

 

 その時である。

 

「その情報、古いよ!」

 

 教室の入り口から会話に乱入してくる謎の声。

そこにいたのは小柄で平坦な体型のツインテールの女生徒だ。

 

「2組も専用機持ちのこのアタシがクラス代表になったの!

そう簡単には勝てないからね!」

 

「お、お前は…(リン)、鈴なのか!?」

 

 どうやら一夏の知り合いらしい。

そして、自ら2組の専用機持ちと名乗ったこと言う事は、

一夏が鈴と呼ぶ彼女こそ中国の代表候補生という事になる。

 

「そうよ。アタシが中華人民共和国代表候補生、鳳鈴音(ファン・リンイン)

一夏、2年ぶりの再会ね!!」

 

「鈴…お前…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何恰好つけてるんだ? すっげー似合わないぞ!」

 

「なっ、何て事を言うのよアンタは!!」

 

 その時、鈴音の後ろに立つ一人の女が肩をそっと叩く。

 

「っ!?誰?!(振り返る)うっ…?」

 

 振り返った瞬間、鈴音の顔から血の気が引いた。何故なら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   

⌒*(◎谷◎)*⌒

                  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暴走核弾頭、高町なのはが夜叉般若の形相で鈴音を睨みつけていたからだ。

 

「道を開けるの、そこにいたら通れないの。」

 

「あ、アイヤァー…。」

 

 鈴音は恐怖のあまり青ざめ、その場から逃げだした。

その光景を見た生徒たちは思ったという。

 

「「「「「(やっぱこの人、織斑先生を超える暴君だわ。)」」」」」

 

 少し後…

 

「ん?あれは…

(全く、SHRの時間だと言うのにまだ戻っていないとはけしからん)…!!」

 

 額に傷跡こそ残ったが、なのはに付けられた傷も治り、久々に上機嫌の千冬。

と、視線の先には廊下に生徒が一人残っている。だが様子がおかしい。

足取りがふらついている上、目を凝らして良く見ると顔が真っ青だ。

次の瞬間、その生徒は床に膝を突き、ばったりと倒れた。

 

「!!(生徒に駆け寄る)おい、どうした?!しっかりしろ!!」

 

 倒れた生徒を揺さぶると、弱弱しく口を開いた。

 

「ち、千冬…さん?」

 

「お、お前は…凰鈴音か?どうした?!何があった!!」

 

「た、助け…は、般若…はん…ガクッ。(失神」

 

 倒れたのはなのはから逃げてきた鈴音だった。恐怖の余り貧血になった様だ。

 

「おい、凰、凰!!(鈴音を揺さぶる)くっ!

(鈴音を背負い、教室のドアを開ける)山田先生、大変だ!!」

 

「どうしました?…!! その背負っている生徒は一体…?」

 

「2組の生徒が貧血で倒れた!私はこのまま2組に知らせて、

ついでに保健室までこいつを運ぶ、今日のSHRは任せた!」

 

「ええ?!アッハイ、やっておきます…。」

 

 かくして凰鈴音は「転校初日に貧血で保健室へ担ぎ込まれる」

という笑いのネタを2組に提供するのであった。

 

 

 

 そしてその日の昼食の時間…。

 

「…で、一夏よ。」

 

「おう。」

 

「説明してもらおうか、こいつとの関係を…(ジト目」

 

 一夏と箒、そしてセシリアの前では、

貧血からなんとか回復した鈴音がラーメンを啜っていた。

 

「そ、そうですわ!まさか一夏さん、このフォン・インランとか仰る方と…

その…恋人関係なのではありませんわよね?!!」

 

「ブホッ!!だだだだだ誰が淫乱よ!!

それにアタシはそんなゲルマンチックな苗字じゃない!!

ファン・リンインよ、ファン!リン!イン!そして、アタシこそ一夏の…」

 

「セカンド幼馴染…だろ?」

 

「…………………………………………。」

 

「ほら、箒は確か小4の時に引っ越ししただろ?

あの後すぐ、小5の頭にこいつが中国から引っ越してきて、

で中2の終わりに中国に帰ったんだ。

だから、お前とは丁度入れ違いって事になるんだよ。」

 

「そ…そうか、成程…。なら凰鈴音とやら、改めて自己紹介しておこう。

私が篠ノ之箒、一夏の『ファースト幼馴染』だ。良く覚えておくがいい。」

 

「ふ~ん、そうなんだ。これからよ・ろ・し・く・ね?」

 

「こ・ち・ら・こ・そ。」

 

 両者とも笑顔なのに、その間には火花が散っているようだ。

 

「ち、ちょっと?!このワタクシ、連合王国代表候補生、

セシリア・オルコットの存在を忘れてもらっては困りますわ!」

 

「で、一夏。アンタ1組の代表になったんだって?」

 

「ああ、千冬姉よりもっと恐ろしい人に押し付けられてな。

ほら、今朝鈴の肩を叩いた…。」

 

「うげ。」

 

 どうやら思い出してしまったようだ。鈴音の顔から少し血の気が引く。

 

「そうそう、その事で言おうと思ってたんだけど、

アンタISの知識はからっきしなんでしょ?

何ならアタシが見てあげようか?ISの操縦の!」

 

「あ、いや…その事なんだけどさ。」

 

「ちょっと、なんでワタクシを無視なさいますの!!?」

 

 無視されっぱなしでカンカンのセシリア。

ようやく気付いた鈴音だが反応は素っ気なかった。

 

「ああ…いたの?ごめん、アンタに用は無いから。」

 

「んなっ!?」

 

 あんまりだ。

 

「で、続きなんだけど、実は千冬姉が俺の指南役をもう決めててな…。」

 

「え、そうなの?なーんだ。で、その指南役って誰よ?」

 

「それは…」「そう、私なの!」

 

「げっ、この声は…!!」

 

 鈴音の背後から声が、振り返ると…。

 

「やあ。」

 

「「「「ギャーッ!」」」」

 

またこのパターンである。

 

「私が、一夏君の訓練役の高町なのはなの………おや?」

 

「「「(失神)」」」

 

 一夏以外の3人は失神していた。

 

「私、そんなに怖いかな…?」

 

 知らんがな。と言う訳で、失神した3人を叩き起こし、

ここからはなのはも含めた5人で話の続きに。

 

「…と言う訳で、アタシが中国の代表候補生、凰鈴音よ。」

 

「改めてよろしくなの!」

 

「そ、それよりどうなのよ?ISの操縦の件。

アタシだってこれでも一国の代表候補生、

そこのファースト幼馴染や千冬さん指定の指南役何かよりは上だと思うけど?」

 

「いや、それは無いだろ/な/ですわ/のっ!」

 

「な、何よ。アンタまさかアタシが負けるとでも思ってんの?」

 

 鈴音は知らないのだ、なのはの戦闘能力がどれだけとんでもないのか。

 

「当たり前だろ。この人…千冬姉に勝ってるんだぜ。」

 

「はぁ?!千冬さんに勝った?!」

 

「ああ、それも一撃で。

千冬姉、負けたショックでマジ泣きしたくらいだからな。」

 

「え゛っ!!ちょ…え?!」

 

「ホント驚いたぜ、いきなり上から降って来たかと思ったら、

物凄い大声で自己紹介をまくし立てるわ、窓の外で何か爆発するわ。

で、うるさすぎてブチ切れた千冬姉がシバこうとしたら…」

 

「どうなったのよ?」

 

「今度はなのはさんがブチ切れて千冬姉を掴んで

教室の窓からアリーナまで飛んでった。

で、少し経って千冬姉がアリーナから教室までぶっ飛ばされた。」

 

「うわぁ。」

 

 想像してしまったのか、思わず声が出てしまう鈴音。

 

「もう大変だったぞ。千冬姉は顔面から廊下に着地して顔面血みどろ。

お嫁にいけないとか大泣きして他のクラスの連中とか先生も出てくるし、

で、いつの間にか戻って来たなのはさんを皆で一斉に野次ったら、

『戦わずして友にはなれぬ!』とか何とか怒鳴りつけられて皆逃げてったし。」

 

「どこの毛沢東よ?!」

 

「その後、千冬姉がなのはさんにおっぱい揉まれた。」

 

「ナンデ?!」

 

「で、『私より強い奴になれ』って言われたらなんか立ち直った。」

 

「何それ?!全然訳が分かんないんだけど?!」

 

「俺だって訳分かんねえよ!」

 

 なのはは一夏と鈴音のやり取りを腕組みしながら頷いて聞いていた。

それでいいのか?

 

「……なあなのはさん、アンタは一体何者なんだ?いや、ホント冗談抜きで。」

 

「私?私は束さんに雇われた専属操縦者なの!それ以上でも以下でもないの!!

ここに入った理由はさっき一夏君が話した事もあるけど、

もう一つ束さんから最新機の運用データを作る様に言われているからなの!!」

 

「最新機?」

 

「そう。これを見るの!!」

 

 そう言ってなのはが机の上に置いたのは、

小学生時代のなのはをモデルにした高さ30cm、3頭身のぬいぐるみだ。

 

「あ、可愛いかも。」

 

「そうなの?この外装は昔の私がモデルなの!!」

 

「でも、なんか顔が手抜きじゃね?」

 

 一夏の言う通り、眼は瞳が描かれていない単なる白丸。

口は笑顔のまま開かれ、脳内の花畑が満開になったような表情である。

だが、その指摘にキツイ返答が帰ってきた。

 

「てぬきとかいうな、しすこん。」

 

「な、何だよなのはさん、いきなりシスコンはないだろシスコンは!」

 

 だが、何かがおかしい…それもその筈。

 

「違うよ。今の一言は…。」

 

 次の瞬間、ぬいぐるみが突然立ち上がり、何と一夏の眼前に浮遊した。

 

「何と!」

 

「浮いた?!」

 

「うわ!!」

 

「ええええっ?!」

 

 一斉に驚く4人。更に驚愕する事が。

 

「やあ。(右手を上げる)」

 

「「「「!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは!わたしはなのはせんようきだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 何となのは専用機が一夏達に挨拶したのだ。

しかし、喋る筈のない物が喋った時、人間のリアクションは自ずと限られる。

 

「「「「キエアアアアアアアアアアシャベッタアアアアアアアアア!!」」」」

 

 一夏達は恐怖の余り一目散に逃げだした。

 

「あらら、皆逃げちゃった。」

 

「へたれー。」




なお、専用機の声ですが、一夏がなのはと勘違いした事からも解る通り、
なのはと声がそっくりです。誰の声かは…言わなくても解るね?


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第5話  一夏とセシリアの特訓(?)風景

今回は終始この二人の特訓です。
あんな暴走核弾頭に任せて大丈夫かって?
もちろんです。プロですから。


 今日も今日とて、IS学園第3アリーナでは、

千冬の依頼でなのはが一夏とセシリアを鍛えていた。

 

「さあこれから5分間私の攻撃を避け続けるのっ!!!

5分間避けきるか、隙を見て攻撃を一度でも当てるかすれば勝ちなの!!!

ミスしたらカウントが巻き戻るから頑張って避けるの!!!では始めるの!!」

 

 

「どーーーーーーん!」

 

 

「ンアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

「セシリアッー!!」

 

 専用機のどーん!の雄叫びと同時に無数のレーザー光線が飛び掛かり、

セシリアは呆気無く撃墜された。

 

「アクセルシュータァーッ!!!」

 

更になのはの声に合わせ、

本来の相方レイジングハートからも追尾式の光線が容赦なく射ち出される。

なお、学園内でレイジングハートの存在はなのは以外誰も知らない。

 

「ぶっぺきっぼっ!!!」

 

 悲しいかな全方位から来る攻撃を避けるだけの腕が無い一夏は全弾直撃。

あっさりグラウンドに墜落した。

 

「ダメダメなの!!」

 

「いやいや、あんなの避けられるかよ!!」

 

「死にゲーと思って食らって覚えるの!!」

 

「理不尽極まりねえーっ!!ってまた来たー!!」

 

 ツッコむ暇すら与えず、一夏に弾幕を浴びせかけるなのは。

それを間一髪避け距離を取る一夏。

 

「くっそ、滅茶苦茶だな!!

そう言えば、一発当てても終わりとか言ってたな…やってやる!!」

 

 半ば自棄で雪片弐型を構える一夏。

セシリアもスターライトMk.Ⅲを手に立ち上がる。

 

「一夏さん、お手伝い致しますわ!!」

 

「ああ!どうしたって一発入れなきゃ気が済まねえ!」

 

 そんななのは達の特訓を千冬と真耶の教員コンビ、

そして箒がアリーナ管制室から観戦していた。

 

「ちふ…織斑先生!止めさせて下さい!これじゃ一夏が当日まで保ちません!」

 

「わ、私もあれはちょっとやりすぎかと…」

 

箒と真耶は訓練が苛烈すぎると千冬に文句をぶつけている。

 

「心配するな。

あいつらも私も奴の攻撃を真面に食らったが生き延びたではないか。信じろ。」

 

「しかし……!」

 

 真耶は納得いかず、尚も言葉を続ける。

 

「はぁ…解ってないようだな山田先生。とにかく安心しろ。

今の一夏とオルコットが死ぬ事は断じてないさ、

例え奴等が死にたがりだったとしてもな…。」

 

「それはどう言う事でしょうか?」

 

「言葉の通りだ。」

 

「全然意味が分からないんですが…」

 

「とにかく黙って見ていろ、今言えるのはそれだけだ。」

 

「は、はぁ…」

 

 

 

「うおおおお、零落白夜を食らえーっ!!」

 

「えい。」

 

「ギャーッ、またこのパターンかー!!」

 

 一夏が瞬時加速(イグニッションブースト)で急接近して斬りかかるが、

あっさりクラス代表決定戦の二の舞を踏まされる。だが…

 

「この!!」

 

 一夏の影になっていた所からセシリアがスターライトMk.Ⅲを連射。

隙を生じぬ二段構えだ。

 

「おっと。」

 

 しかし、惜しくも紙一重の差で避けられた。

 

「くっ、スターライトだけでは手数が足りませんわ、

やはりこれを使わなければ…行きなさい、B・ティアーズ!!」

 

 セシリアの専用機、B・ティアーズには秘密兵器があった。

それは機体と同じ名前の第3世代兵器通称「BT兵器」。

所謂ビットと呼ばれる4基の分離式機動レーザー砲で、

本体から誘導されながら多方向から射撃出来る優れものだ。

 

「踊りなさい!私とB・ティアーズが奏でる円舞曲(ワルツ)を!!」

 

「だーめ。」

 

「!!!」

 

 だが、それは悪手だった。BT兵器が起動した瞬間、

何と200mは離れていた筈のセシリアとなのはの間合いが

一瞬で1mと少しばかりに縮まってしまっていた。

 

「な、速…」

 

 

「どーーーーーーん!」

 

 

「ンアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 実はBT兵器には弱点があった。

それは「使用中本体は行動不能になる」という物で、

セシリアは避けるに避けられずアッパーで上空に吹っ飛ばされ…

 

「もいっぱつ、どーん!

 

更に追い打ちの巨大光線に飲み込まれてしまった。

 

「セシリアッー!!うおおおおおお、これ以上やらせるかーっ!!!」

 

 その隙に零落白夜を発動させた一夏が再度背後からなのはへ突っ込む。

斬りかかってはまた掴まれるので、今度は突きで勝負だ。

 

 

「どーーーーーーん!」

 

 

 なのはは振り返らずまたしても専用機の声と共に弾幕を張って応戦。

だが、運が良かったのか、あるいは見切ったのか、一夏は全て回避して見せた。

 

「おおおおお!!」

 

 今度こそ当てられるか?しかし、そのあと少しがとんでもなく遠いのだ。

 

 フッ…

 

「! また瞬時加速か?!」

 

 セシリアに急接近した時と同じ謎の瞬時加速で間合いを取られてしまった。

これでは当たらない。

 

「当てれば勝ちとは言ったけど、避けないとは言ってないの!!

卑怯とは言わないの!!」

 

「畜生、何でもありだな!でも俺だってこのまま「どーん!」

 

 専用機の声と共に光線が「後ろから」直撃。

一夏の意識はそこで無くなった。数分後にはセシリアがアリーナに墜落し、

 

「地球は、青かったですわ…」

 

 と一言残してばったりと倒れた。

 

 

 

「ま、また負けた…」

 

「ふっふっふ、そんな直線的な動きでは移動先がバレバレなの!!」

 

「仕方ないでしょ!瞬時加速は直線行動しかできないし、

通常移動だと全部読まれるし!」

 

「上体を動こうとする方向に傾け過ぎるからいけないの!!

イギリスの娘を見習って、上体を過度に動かさない移動を心掛けるの!!」

 

「は、はぁ…。」

 

「(た、高町さんが真面にアドバイスをしてる…?)」

 

 管制室では真耶が心の中で驚嘆していた。

そりゃ、今までが今までだから仕方ないね。

 

「さあ、もう一回なの!後、山田先生は訓練が終わったら〆るの!!」

 

「ナンデ?!!」

 

 インガオホー。この夜真耶はなのはから

18歳未満にはとても見せられないお仕置きを受け、

翌日、目が♥になってなのはにすり寄っていた。

 

 

 そんなこんなで一夏とセシリアはなのはに稽古(?)をつけて貰っているが、

稽古が進むにつれ、意外な効果が出始めた。

 

「キィエエエエエエエ!!食らいになってぇぇぇぇえええええええええ!!!」

 

 まずセシリア。本来ビットが起動中に本体は行動不能の筈が、

今のセシリアはビット起動中にも関わらず本体を操作しながら攻撃し、

移動している。そして本体の攻撃も格段に進歩した。

セミオートの筈のスターライトmkⅢをアサルトライフルの如く連射している。

その連射速度は毎秒10発を超えているだろう。

尤も、肝心のセシリアが平静を失った状態での話なので効果は半減だ。

 

「(平静を失っているのは頂けないけど、

普段からこれができる様になれば化けるかもね。)」

 

「凄い…あのミス・タカマチとかいう人、私よりも上手く指導してる…。」

 

 クラス代表決定戦の際、

セシリアに特訓を付けていた先輩のサラも実態を見て驚嘆しきりだ。

 

 尚、今回の訓練内容は3分間只管なのはを攻撃し続けると言う物で、

3分経ってなのは専用機のSEに500以上のダメージを与えられれば合格。

次段階へ進めるという事だ。

 

「ふふふ、あと20秒なの。覚悟はいい?私は出来ている。」

 

するとセシリアは、突如射撃を止め…

 

「…………行け!!」

 

 突如、腰のパーツを切り離す。それはミサイル発射管だった。

B・ティアーズは機動砲台の4基のみならず、本当は6基装備されていたのだ。

しかし、セシリアはなのはの直近まで迫ったミサイルに

スターライトmkⅢを向けると…

 

「そこぉっ!!」

 

 何と自分で撃ち落としてしまった。当然、ミサイルは爆発四散。

遂に正気を失ったのか?いや違う。これでいいのだ。

 

「!!!」

 

 なのははミサイルが予想外のタイミングで起爆した事で一瞬だけ動きが硬直。

そして、その隙をセシリアは見逃さなかった。

 

「キィエエエエエエエエエエエエエッ!!覚悟ーッ!!!」

 

 セシリアは唯一の近接専用武装「インターセプター」片手に

全速力で爆風に飛び込み、なのはに思い切り斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、全ては遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タイムアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーップ!!!」

 

「ンアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 まさかの時間切れ。同時にセシリアはアッパーで上空に吹っ飛ばされ、

例によって追い打ちの巨大光線に飲み込まれてしまった。

 

「あーーーーーーーーーーーーーーーれーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 セシリアが昇天する様を見届けると、なのははこう一言。

 

「SEへの合計ダメージはおよそ300。まだまだ目標には遠く及ばないの。」

 

 かったいなぁ。

 

 

 

 

 一方、一夏はと言うと…

 

 

「どーーーーーーん!」

 

 

 何処からともなく飛んで来る弾幕の大嵐で周囲が大爆発する中を、

何とか躱してなのはに肉薄する一夏。

 

「くっそ!!何で何もない所から弾が飛んで来るんだよ!!」

 

「29分経過、残り1分なの!!」

 

「はやくここまでこないと、どーん!!だよ、どーん!!」

 

「ヤバい、もうそんな時間かよ!」

 

 と言いつつもなのはの攻撃を躱している一夏も十分強くなっているだろう。

 

 尚、一夏に課している特訓はセシリアの時は違い、

「近接特化型には弾幕回避の技術が不可欠」という理由で、

なのはが仕掛けてくる攻撃を掻い潜り30分以内に一撃でも当てれば合格。

途中で何度SEが0になっても敗北とはならず、

回復させてそこから仕切り直しと言う物だ。意外と甘いと思うかもしれないが、

時間切れ以外の敗北条件が無いので確実に30分〆られ続ける事になる。

とんだ鬼畜である。

 

「これがラストチャンス、瞬時加速(イグニッションブースト)ォォ!」

 

 一夏は瞬時加速が届く所まで何とか近づき、そこから瞬時加速を発動。

勢いに任せて吶喊する。

 

「食らえぇぇぇ!」

 

 そして雪片弐型を思い切り突き出した。

心臓狙いの一撃、当たれば一夏の勝ち、勝ちなのだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?ちょっ…」

 

「無刀取りパゥワァー!!!」

 

 なのははそう叫ぶと逆に一夏に突っ込み、

雪片弐型の柄を掴んで白式をいなし雪片弐型を奪い取った。

 

「おわ!!」

 

「ぎゃくてんさよならまんるいほーむらーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

「アイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーッ!!!」

 

 そして雪片弐型をフルスイング。

一夏は場外ホームランを決められ、海に落下した。

 

 

 

 

 

 

「一夏め、惜しい所までは行くのだがな。」

 

「いや、言ってる場合ですか?!早く助けないと…」

 

「何、高町がすぐに引っ張り上げるだろう。」

 

「それにしても、二人共上達速度が凄いですね。」

 

「まぁ毎日あんな目に遭えば当然の結果だな。

だが高町の教え方も随分手馴れているな。」

 

「確かに…私達よりも上手いかも知れませんよ。」

 

「まさか、そんな筈はあるまい。」

 

 口では否定するが、心の中では本当にそうなのかも知れないと

内心焦る千冬であった。




やけになのは専用機がどーん!どーん!と煩いですが、
どーん!している内はまだ良い方です。
本気を出すと、無言でもっとD4Cな攻撃が飛んできます。



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第6話  クラス対抗戦…良い奴だったのに…

さて、いよいよクラス対抗戦。
一夏の特訓(?)の成果はいかに…?


 そして月日は流れ、遂に試合当日。

1回戦第1試合はよりによって一夏対鈴音であった。

 

「ハァ…。まさか最初にこのカードとはなぁ。」

 

 会場である第1アリーナは既に満員御礼だ。

ピットでは試合に出る一夏がISスーツに着替え、準備に入っていた。

 

「では対戦相手のISの詳細を説明するの!!

あの子の専用機は中国製第3世代機甲龍(シェンロン)!!

燃費と安定性重点のISなの!!

 

武装は柄を連結してブーメランとしても使える

2本セットの青龍刀『双天牙月』と、

空間に圧力を掛けて銃身を作り衝撃を砲弾として打ち出す『龍咆』なの!!

 

低燃費が売りの機体だから長期戦は厳禁!!

ここぞの時に瞬時加速で肉薄して零落白夜の一撃有るのみなの!!」

 

 何故なのはが鈴音の専用機のスペックデータを知っているのか?

答えは簡単である。雇い主の束から教えて貰ったのだ。

人類最高の天才にしてISの母の前では、

一国のISのデータを盗み出すなど造作もない。

 

「でも安心するの!!こんな事もあろうかと

白式のハイパーセンサーをバージョンアップして気流探知能力を強化したから、

衝撃弾が来たら自動警告して回避を補助してくれるの!!

これで龍咆はほぼ無力化されたの!!ちなみにやったのは私の専用機なの!!」

 

「これぞ、じんこうちのうぱぅわぁーなの!!」

 

「マジかよ…?!」

 

「それじゃ時間なの!!早速行くの!!」

 

「あ、ああ…ぜってぇ勝ってくる!」

 

 カタパルトに白式を接続させた一夏は深呼吸を一度、

更にもう一度して、真っ直ぐ前を見た。

 

『カタパルトオンライン、進路クリアー、白式、発進どうぞ!』

 

 管制をしている真耶の声がピットに響き、一夏は発進の構えに入った。

 

「織斑一夏、白式、行くぜ!!」

 

 気合と共に発進した一夏、アリーナ中央には甲龍を纏う鈴音が待ち構えていた。

 

「逃げないで来たのね、今謝れば手加減位ならしてあげるわ!!」

 

 何故かカンカンの鈴音。

どういう事かと言うと、一夏に好意を抱いていた鈴音は小学校の頃、

『料理が上達したら、毎日アタシの酢豚を食べてくれる?』

と言うプロポーズをしていたが、

一夏は文面通り「タダ飯を頂ける」と解釈してしまっていた。

鈴音はそれに怒り心頭だったのだ。

 

「ああ?手加減なんていらねぇよ!

俺は来る日も来る日もお前が全力で痛めつけるのよりも

もっとキツイ目に遭わされてたんだぜ!!

それにお前のISのネタは解ってるんだ!!

(龍咆を指差して)その浮いてる奴、見えない飛び道具なんだろ?」

 

「ギクッ!!(何で龍咆を知ってるのよ?!)

そ、そう…どうあっても気は変わらないって事ね。

でもアタシだって一国の代表候補生、

付け焼刃の自信なんかで勝てると思わないでよね!」

 

『それでは…始め!!』

 

「イヤーーーーーーーーーーッ!!!」「ハイーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 ガギィィィィィィィィィィン!!!

 

 開始の合図と共に雪片弐型と双天牙月で斬り結ぶ。

しかし、力で勝る甲龍に押される。

やはりパワー型の甲龍とのチャンバラは白式には分が悪い。

一夏は即座に下がり間合いを取った。

 

「へえ、初撃を防ぐなんてやるじゃない。」

 

「へっ、こんなのアリーナ全体が穴ぼこになる

なのはさんの攻撃に比べたら余裕だぜ!」

 

「言ったわね!!ISの絶対防御だって、

それ相応の攻撃力を持つISなら突破出来るのよ!!

例えば…この甲龍みたいにね!!」  

 

 鈴音が双天牙月で斬りかかるが、

そんな物はなのはの弾幕と比べれば何の事はない。

白式のトップスピードでその場から逃げだすと、

甲龍から距離を置いて周囲を旋回する。

 

「それで様子見のつもりかしら?でも、ちょこまかとしつこいわね。

龍咆の存在を知っているみたいだけど…

聞くと見るとじゃ大違いって事もあるわよ!!」

 

 ここで鈴音は非固定浮遊部位(アンロックユニット)に備えられた龍咆から衝撃弾を発射。

確かに衝撃波の弾丸は肉眼には捉えられない。しかし一夏は事前に対策済みだ。

無対策ならまず命中していたであろう衝撃弾も、今の一夏には掠りもしない。

 

「くっ、本当に避けられた!?こいつッ!!この…この!!」

 

 面白い様に避けられる衝撃弾。まるで未来予知でもしているかの様だ。

自慢の切り札を無力化された鈴音が焦り始める。

 

「訓練通りなの!!

上体を過度に傾けず、相手にどの方向へ動くか読ませていないの!!」

 

 これがなのは相手だったら回避位置を即座に見破られて

見越し射撃を食らって終わりだろう。

しかし鈴音になのは程の技量はない。巧みに回避位置の予測を外され、

見当違いの方向へ龍咆の射線を誘導させられている。

 

「よし、今なら行ける!瞬時(イグニッション)………」

 

 一夏は鈴音の隙をついて瞬時加速(イグニッションブースト)で急接近を図ろうとしたが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドッゴオオオオオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーーン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟音と共に一夏と鈴音の間に何かが着地して砂埃を巻き上げた。

 

「な、何だぁ!?」「え、ちょ…何!?」

 

BEEP! BEEP! BEEP! BEEP!

 

「非常事態発生!非常事態発生!!

観客席の皆さんは直ちに避難して下さい!!繰り返します…」

 

「非常事態?!」「一体何が…!一夏、あれ!!」

 

 直後、アリーナに非常警報と避難命令が響き渡る。

更に観客席が装甲シャッターでグラウンドと遮断された。

どう見ても原因は着地した何か。

それもその筈、砂埃が晴れた後そこにいたのは…

 

「あい………………えす…………………?」

 

 そこにいたのは、異様に巨大な腕が特徴の謎のISだった。

 

「くっ…こんな時に乱入者だと?!山田先生!!」

 

「ハイ!!」

 

「直ちにIS教員(=ISを操縦できる教員)勢にスクランブルを発令!!

一般教員(=ISを操縦出来ない教員)には生徒達の避難誘導指示を!!

それから織斑と鳳に脱出を命じ、この事を学園長及び理事会に報告!!

それが済み次第、本土の防衛省にも救援要請を!!」

 

「了解しました!!」

 

 管制室で観戦していた千冬は直ちに真耶を通じて全校に命令。

千冬は初代ブリュンヒルデとしての実績を買われ、

理事会から有事の際の指揮を一任されている。

その真価がまさに問われようとしていた。

 

 

 一方アリーナでは…

 

「うっ…何なんだコイツは?!」「いきなり入ってきて…何のつもりよ?!」

 

 謎のISに試合を邪魔された一夏と鈴音。とそこに真耶から通信が。

 

『織斑君、鳳さん、聞こえますか!』

 

「「山田先生!?」」

 

『試合は中止です!!二人共脱出してください!!

直ぐに他の先生方が助けに来ます!!』

 

「脱出ったってどこへ?!

上はシールドがあるし、観客席はシャッターで塞がれてる!!

これじゃ逃げられないですよ!!」

 

『え?え?!』

 

「しかも、最大出力のシールドよ!!

こんな嫌がらせ…って、こいつ攻撃してきた!!」

 

 このままでは一夏と鈴音は出られないし、IS教員もアリーナに入れない。

更に悪い事に、謎のISが一夏と鈴音を攻撃し始めた為、

二人との通信も途絶してしまった。

 

「織斑君!鳳さん!大丈夫ですか!?もしもし!もしもし!!」

 

「落ち着け!今はそれ所ではない!!」「ファッ!?」

 

「拙い事になってしまった。

奴め、アリーナの管理コンピュータをハッキングした様だ…。

(アリーナの現況を表す画面を出す)これを見ろ。」

 

「…………これは!!最高出力の遮断シールド展開済み、

ステージとの連絡路も全て装甲シャッターで閉鎖済み…そんな、どうしたら!」

 

 千冬からアリーナの状況を知らされ、ようやく真耶も現状を把握した。

 

「現在、IS教員勢がシールドの物理的突破を試みている。

同時に3年のオペレーター達がコンピュータの再アクセス中だが、

あと何分掛かるか判らない。

防衛省からも『IS中隊の到着まで最低20分はかかる』と連絡があった。」

 

「そんな…。」

 

「落ち着け山田先生。

こういう時だからこそ、大人が落ち着いていなければならん。

ここはコーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラするんだ。」

 

 そう言って千冬がコーヒーを一杯淹れて口に含んだ次の瞬間…

 

「ブホッ!!しょっぱっ!!」

 

 千冬は盛大にコーヒーを吹いてしまった。と言うのも…

 

「ゲホッゲホッ…って、なんで塩がこんな所にあるんだ?!」

 

 千冬が開けた容器には塩の字が。千冬は砂糖と塩を間違えて入れていたのだ。

 

「一番落ち着いてないのは…」

 

「言うな。それ以上言ったらこれを飲ますぞ。」「アヒィ~…。」

 

 しかし忘れてはいないだろうか?今の学園にはそれ以上の危険物がいる事を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

 

 何者が雄叫びと共に遮断シールドをすり抜けて上から降ってきたのだ。

 

「「「「「な、何だァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ?!」」」」」

 

 そう、我等が暴走核弾頭、高町なのはの乱入である。

 

「な、なのはさん…?」「な、何しに来たのよ…てか、何で入ってこれたの?」

 

「やっと戦える相手キタ━○ ⌒*(#゚∀゚)*⌒= ⌒(* #)≡○)Д`)・∴'.━!!!」

 

 一夏には目もくれず、謎のISをいきなりブン殴り壁に叩きつけたなのは。

勿論、アームを部分展開している。

 

「ちょ、考えなしに暴れたいだけかよ?!

ヤベぇ…逃げるぞ鈴!早く逃げねえと、俺達にまで殴り掛かって来る!!」

 

「え゛? あ、うん、解った!!」

 

 謎のISよりも寧ろなのはから避難する為、

アリーナの端まで逃げ出す一夏と鈴音。

それに気付いた謎のISは起き上がり腕の光線砲を一夏に放つが…

 

「おら!」

 

なのはにアッパーで弾き飛ばされた。

その隙に謎のISは上空へと逃げ更なる連射を仕掛けるが…

 

 ガパン!!!

 

謎のISの攻撃は奇妙な音と共に弾き飛ばされた。

なのはがバリアを斜めに張り、全ての攻撃を逸らして防ぎ切ったのだ。

受け止めるのではなく逸らす事で最小限のダメージで攻撃を防ぐ高等技だ。

そして間を置かず…

 

「叩き潰してやるの!!!」「どーん!」

 

 逃げようとする謎のISに無数のビームが飛び掛かり、全弾命中。

謎のISはあっという間に爆発四散してしまった。

 

「ウソ…瞬殺?!」

 

 鈴音は震え上がった。今の自分ではどんな手を使ってもなのはには敵わない。

なのはにその気があれば、自分もああなると。

なのはは謎のIS胴体部の残骸を掴むと…

 

「ふんぬっ!!」

 

 バギ!!メリメリ…

 

 アームで力任せに引きちぎり、中からコアを回収。

 

「さて、やる事はやったし脱出するの!!最大出力、用意!!」

 

 ギュルルルルルルルルルルルルルルル…

 

 なのはの周囲に放電を思わせる光が奔る。

数秒後、エネルギーの充填が完了した様だ。

 

「バリアを破るの!!全砲門、発射!!」「どーん!」

 

 ドギュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥウウウン!!

 

 なのはの号令一下、一夏やセシリアを扱いていた時の比ではない

特大ビームが計9本放たれた。

 

「「「ウーワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」

 

 ビームは全て遮蔽シールドに命中し、貫通。

突破の為に取りついていたIS教員達が巻き込まれ、

遥か彼方へ吹っ飛ばされた。

これには管制室で指揮を執っていた千冬達も驚くばかり。

 

「な、何と言う事だ…我々のやろうとした事を…」

 

「見事に一人で片付けちゃいましたね…アハハハハハ…」

 

 圧倒的である。

 

「これで良し…さあ二人共試合を続けるの!!……おや?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピクピク⊂(。Д。⊂~⌒⊃))) ((( ⊂⌒~⊃。Д。)⊃ピクピク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏と鈴音は衝撃で絶賛気絶中だった。

 

「………………………………………………………………………………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

起゛き゛る゛の゛!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドギュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥウウウン!!

 

「「ぎょわあああああああああああああああああああああああああああ!!」」

 

 気絶中の2人に容赦なくビームを打ち込み、強引に叩き起こすなのは。

そして目が覚めた2人が見た物は、

バラバラになって炎と煙を上げる謎のISだった残骸と、

憤怒の相でこちらを睥睨する魔神だった。

 

「さあ、二人とも試合を続けるの!!」

 

「「ギャーッ!!!」」

 

 一夏と鈴音がもう一度気絶したのは言うまでもない。

 

 

 その後の調査で、謎のISの正体は

束が作った無人IS「ゴーレムⅠ」であることが判明。

束を問い質した結果、「一夏を鍛える手助けがしたかった」と供述。

これにより、束は468個目以降のISコアの生産を再開した事が発覚したが、

この事実はなのはと千冬と真耶、

そして学園長と理事会の機密事項とする事になり、コアは学園が保管する事に。

 

 

 そしてその日の夜、N○Kのニュース番組からこのような報道が入った。

 

「次のニュースです。先程ソウルから入った情報に依りますと、

李氏朝鮮時代の王宮『景福宮』で突如宮殿が崩落したそうです。

幸い、死傷者は出なかったとの事ですが、原因は解っておりません。

この件に関して韓国政府は日本に対し謝罪と賠償を強く求める声明を…

あ、今速報が入りました。

 

日本政府は先程『強い遺憾の意を表明する』と声明を発表しました。

繰り返します。

日本政府は先程『強い遺憾の意を表明する』と声明を発表しました。」




今話における一番の貧乏くじは韓国。異論は零落白夜。


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第7話  ダブル転校生 ラウラシルバー 前編

今回で1期ヒロインが全員集結。でも、フランスのあの子はやや空気。


 結局、無人ISゴーレムⅠの出現によってトーナメント所ではなくなり、

クラス対抗戦は中止に。

当然優勝賞品であるスイーツ無料パスも無くなり、

全学年の女子は悲しみに包まれた。

そして、4月も末となり、GWが差し迫ったある日の事…

 

「さあ一夏君、今日からは空間認識能力と分割思考能力を鍛えるの!!

近接特化型スピードタイプの白式を操る以上、

ファイトスタイルは一撃離脱戦法有るのみ!!

しかも燃費が悪いから切り札の零落白夜の使用を制限する可能性がある

瞬時加速(イグニッションブースト)の数はできるだけ絞らないといけないの!!」

 

 相も変わらず大音声でまくし立てるなのは。喉は大丈夫か?

そして、なのはの前には…

 

「(何で私まで…)」

 

「(もう…慣れましたわ…)」

 

「(誰か助けて…)」

 

「(2組なのに…)」

 

 一夏とセシリアに加え、箒と鈴音の幼馴染コンビもいた。と言うのも束から

「箒の誕生日に専用機をプレゼントしたいから、

それまでに少しでも鍛えてやって欲しい。

尚、この事は当人には当日まで内緒にしておいて欲しい。」

と新たな指令が来た為である。

ついでに同じ専用機持ちの鈴音も強引に鍛錬に参加する事に。

 

「よって瞬時加速(イグニッションブースト)に頼らない回避力を付ける為、

周囲の状況を素早く把握する力と、高速飛行・立体機動・広い戦闘視野の3つを

並列して考える力を付けなければならないの!!」

 

「同時に3つの事を並行して考えるのかよ…

それ1つ考えただけで頭が痛くなってきた。」

 

 大丈夫か?

 

「ワタクシは英国で事前に訓練を受けてますから、4つまでなら出来ますわ!」

 

「甘いの、セシリアは本体と同時にBT兵器の操作も出来ないといけないから、

最低7つの分割思考が必要なの!!」

 

「はうあっ!」

 

 セシリア・オルコット、藪を突いて蛇ならぬ悪魔を出した瞬間である。

 

「ううっ…代表候補生の名誉に賭けてやり遂げて見せますわ!」

 

「アタシは…3つが限度ね。」

 

「私は…2つがやっとか…。」

 

「安心するの!!!分割思考は鍛えればいくらでも増やせるの!!!」

 

「マジか…あ、そうだ。なのはさんは分割思考どれくらいできるんだ?」

 

「ああ、アタシも気になる!」

 

「私の場合は平均して37、8程度。自己ベストは40なの!!」

 

「「「「うっそだぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!」」」」

    

 アクセルシューターを同時に32発操作できる天才は格が違った。

分割思考を小学生の頃から鍛え続けた結果である。

しかし、信じて貰えなかった様だ。

そしてこういう時、なのはの反応はおのずと決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

弾幕倍増な゛の゛!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さあ、地獄開始だ。

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

「「「「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」」

 

 数分後、クレーターだらけのアリーナに

専用機持ち+箒の4人が無残な姿で転がっていた。

 

 

 

 

 

 そしてその日の朝のSHRで、真耶がこう切り出した。

 

「皆さん!本日朗報があります!このクラスに2名の転校生が来ました!」

 

 この時期に入ってくる転校生といえば、恐らく国外の代表候補生だろう。

 

「1人はドイツから、もう1人はフランスからです!

それでは、入ってきて下さい!!」

 

 教室のドアが開かれて入ってきた2人。

片方は銀髪隻眼の少女だ。だが、もう片方は…

 

「え、あの金髪の子、まさか…男?」

 

「綺麗…」

 

「ウホッ! いい男…」

 

 そう、フランスから来た転校生が着ている制服は男子用の制服だったのだ。

 

「シャルル・デュノアです、フランスから来ました。」

 

 見た目は女の子でも通る金髪の男子、男子にしては小柄な方なので、

女子から見れば守ってあげたくなるタイプの男の娘だ。

更に真耶からこんなフォローが。

 

「皆さん苗字で予想がついたと思いますが、

デュノア君は欧州一のISメーカー、彼のデュノア社の御曹司です。」

 

 デュノア社とはフランスはリヨンに本社を置く欧州一のISメーカーである。

現CEOのロベルト・デュノアはシャルルの父親であった。

 

「…と言っても、ここでの僕はただの生徒です。

同級生として接してくれれば、それで十分です。

皆さん、どうぞ宜しくお願いします。」

 

 自己紹介が終わった瞬間…

 

「「「「「きゃああああああああああああああああああああああ!!」」」」」

 

「男の子よ!2人目の男の子!!」

 

「しかも! 織斑君とは別の守ってあげたくなる系!!」

 

「おまけに大企業の御曹司!!」

 

「え?じゃあ、もしかして玉の輿のワンチャン?!!」

 

「何それヤバい!!」

 

「ああそうだ、えっと…こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いたんだけど…」

(って、誰も聞いてないよー。)

 

 誰も聞いていない。

寧ろ男にしては妙に高い声が更に歓声を呼んでしまう結果になってしまった。

 

「鎮まれ、鎮まれーっ!!」

 

 で、結局千冬が一喝して鎮静化させた。

一方、ドイツから来た転校生はと言うと…。

 

「おいボーデヴィッヒよ、お前も挨拶しろ。」

 

「はい。ドイツ代表候補生…ボーデヴィッヒ…ラウラ・ボーデヴィッヒです。」

 

「(あれ?あのドイツの子…あの子に似てるなぁ。)」

 

 あの子とは、狂気の人造人間ジェイル・スカリエッティに造られて

JS事件に関わり、今は後輩のスバル・ナカジマの実家に引き取られた

戦闘機人(ナンバーズ)の5女、チンク・ナカジマ。

失明した目が右か左かの違いを除けば、ラウラはチンクと声まで酷似していた。

 

「まあ自己紹介はこんなもので良いだろう。では、2人共席に着け。」

 

「「はい。」」

 

 そして、2人が所定の席まで移動しようとした時…

 

 フヨフヨフヨフヨ…

 

「あっ…。」

 

 なのは専用機がラウラに近づき…

 

 じ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~…

 

「な、何だこのぬいぐるみは?」

 

 なぜかラウラの顔をじーっと見つめるなのは専用機。

なのは専用機のAIはチンクの事を知識として知っている。

そして、チンクは本人の知らない所でどう呼ばれているかも当然知っている。

なのは専用機がチンクにそっくりなラウラを見たら、

まず最初に言う事は一つしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どーもはじめまして、かずのこごごうさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「か、数の子5号?!」

 

「「「「「!!!!!!」」」」」

 

「か、数の子…5号だと…?」

 

 なのは専用機の一言を一夏が教室中に聞こえる声で繰り返してしまった。

予想もしなかった一言に全員目が点になり、教室が沈黙する。直後…

 

 

 

 

ドッ!!!

 

 

 

 

 一夏の一言で教室は大爆笑に包まれた。

 

「数の子w数の子ってwww」「これはwww予想外wwwですわwww」

 

「一夏wwwお前もwww腕を上げたなwww」

 

「おwww織斑君www酷いよwww」「早く謝ったげてwww」

 

「皆さん、静かにして下さい!こんな事してると織斑先生に…織斑先生…?」

 

 唯一笑うのを堪えた真耶が皆を鎮めようとするが、聞こえていない様だ。

こんな時、真っ先に場を鎮静化させるべき千冬はと言うと…

 

「かwwwずwwwwのwwwwこwwwwごwwwwごwwwwうwww」

 

 大爆笑していた。

あまりにもミスマッチなあだ名が千冬のツボに嵌ってしまったらしい。

 

「役立たず!!」

 

 しかし、そんな状況で黙っている者が約一名。

あまりにもあんまりなあだ名がラウラの逆鱗に触れてしまった様だ。

全身を震わせて俯くラウラ。

 

「こ、このぬいぐるみが…」

 

 ラウラは顔を上げ、

赤面して目に涙を浮かべてなのは専用機に殴りかかろうと拳を握りしめた。

 

「私は…」

 

「ちょっ…待て!!言ったのはこいつだぞ、俺は悪くねぇ!!」

 

Heringsrogen(数の子)じゃ…」

 

「やめて!!避けられたら俺が…」

 

「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああい!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BAGOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOM!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おべりばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああっ!!」

 

 なのは専用機は済んでの所で回避した。

その結果、ラウラの渾身の右アッパーは延長線上の先にいた一夏を直撃し、

一夏は天井にめり込んでしまった。

 

「し、しまったぁぁぁぁああああ!!

私はなんて事を…(何物かが肩に手を置く)はうあっ!!」

 

 背後から強烈な殺気。恐怖に震えながら振り返ると…

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ…」

 

 いつの間に復帰したのか、顔の上半分に影の差した素敵な笑顔で

千冬がラウラの肩に手を置いていた。

なんか物凄い力を込めているのは気のせいだろう。

 

「貴様、転入早々我が愛しの弟を殴るとはいい度胸だな…(#^ω^)ビキビキ」

 

 ブラコンは笑いすら凌駕する。恐ろしい事実である。

 

「痛だだだ!!…違うんです教官!私はそんなつもりじゃ!」

 

「ああ、知っている。でも今はそんな事はどうでも良い、重要な事ではない。」

 

「と、いうと…?」

 

「今重要なのは弟を殴った貴様をどう〆るかだ。

さあ始めよう、地獄のアンシュルスを…」

 

「そんなあああああああああああああああああああああああああああーッ!!」

 

 ラウラを小脇に抱えながら教室を出て行った千冬。

残された生徒達に真耶が予定を伝える。

 

「ええと…これから2組との合同実習です!

皆さんも遅れない様に準備して下さいね!織斑先生、待ってー!!」

 

 慌てて教室を出る真耶。後に残るのはこの惨劇に呆気にとられる生徒達。

 

「わーお、ないすあっぱー。(ポン)あっ…」

 

 見上げると、なのは専用機の頭の上になのはが手を置いていた。

 

「ねえ…解ってるよね?(黒い笑み」「お、おゆるしをー。」

 

「却下。(頭部を握り潰す)」「ぐえーっ!」

 

「お、降ろしてー!!」

 

 そして、その間一夏は天井から降ろして貰えず、ジタバタしていたという。




原作では平手打ちで済んだのに、もっと酷い目に遭った一夏。
でも、この日の彼の受難はこれで終わらない。


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第8話  ダブル転校生 ラウラシルバー 後編

独仏転校生、ラウラ編はこれで終了。…ラウラ、何があったんだ?



 今回の授業は真耶の言う通り合同授業の為、

1組の他に2組の生徒が集まって整列している。

生徒達の前に立つ千冬が本日の実習内容を述べた。

 

「うむ、全員時間通りに来た様だな。

今日からはお前達にも実際にISに乗る事になる!

が、その前にISの模範演武を披露して貰う。」

 

「あ、あの、その前に質問していいですか?!」

 

 2組の生徒、鈴音のルームメイトでもあるティナ・ハミルトンから質問が。

 

「何だハミルトン。まさか高町の事か?

あれは最新型のISスーツだ。気にするな。」

 

「いえ、違います!」「む、では何だ?」

 

「さっきからあの灰色のスーツの子が、なんか様子がおかしいんですけど…」

 

「灰色…ああ、ボーデヴィッヒか。」

 

 そのラウラはと言うと…

 

「キョーカンドノー、オユルシヲー、オジヒヲー。」

 

 などと呟きながらハイライトの無い虚ろな瞳でつっ立っていた。

 

「放っておけ、時間が経てば正気に戻る…多分。」

 

「は、はあ…なら良いです。」

 

「織斑先生!模範演武を披露するのは…ひょっとして…?」

 

 今度は1組の相川清香がなのはの方をチラ見しながら問いかける。

 

「いや違う、模範演武を披露するのは高町ではない。披露するのは…」

 

 そこまで言った所で空からISの駆動音が聞こえてきた。

同時に、女性と思しき悲鳴も。

 

「きゃあああああ、どいて下さーい!!」

 

 見てみれば簡単、ISに乗った真耶が回転しながら落下して来たのだ。

それも生徒達が密集している中に向って。

 

「「「「「きゃああああああああああああああああああああああ!!」」」」」

 

「はぁ~…。」

 

 シャルルを見た時とは別の悲鳴を上げて他の生徒達が逃げ出す中、

なのはは動かずため息をつくと…

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 専用機がアッパーで真耶を思い切り上方へ殴り飛ばした。

 

「あーーーーーーーーーーーーーーーーれーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 数秒後、真耶は無事墜落した。

 

「ひ、酷いです~~~~~。」

 

「全く…IS教員ともあろう者が何たる体たらくだ、精進が足りんぞ!」

 

「す、すいません~~~~~~。(涙目」

 

「はぁ…見ての通り、模範演武を披露するのは山田先生だ。

そうだな…よし、鳳とオルコットよ。」

 

「「ハ、ハイ!」」

 

「模範演武の相手をしてやってくれ。」

 

「わ、ワタクシ達二人でですの!?」

 

「いやぁ、いくらなんでも2対1は…」

 

「そうかな?専用機持ちだからと言って教員に容易く勝てると思うなよ?」

 

 千冬の見下した言葉が2人のプライドに火を点けた。

セシリアも鈴音もそれぞれのISを起動させると戦闘態勢に入った。

 

「ムッカー!絶対勝って、千冬さ…織斑先生の鼻を明かしてやるんだからね!」

 

「ワタクシも全力で参ります!!

これでも国家代表候補生の端くれ、遅れは取りません!!」

 

「おお、2人共やる気満々ですね。お手柔らかにお願いしますよ?」

 

「フッ…では始めろ!!」

 

 千冬の合図と共に空へ飛び上がった3人。だが鈴音とセシリアは知らない。

実は山田真耶は元日本代表候補生の上位ランカーで、

IS教員勢の中でIS戦の腕は千冬に次ぐ実力者だと言う事を…。

 

「おい、デュノアよ。」

 

「ハイ!」

 

「山田先生が使っているISは、確かお前の家の会社の製品だったな。

ここで説明してみろ。」

 

「ハイ!えーと、名はラファール・リヴァイヴ(以下、R・リヴァイヴ)。

第2世代機の最後発機にあたり、そのスペックは初期の第3世代機と互角で、

現在配備されてる量産機の中では世界第3位のシェアを持ち、

12カ国で制式採用されています。最大の特徴は

装備によって格闘、射撃、防御といった全タイプに変更可能な汎用性です。」

 

「うむ、宜しい。」

 

 流石はデュノア社の御曹司、親の会社の製品はよく知っている様だ。

そして数分後、模範演武に決着が付いた。

一際大きな煙の中からB・ティアーズと甲龍、

更にR・リヴァイヴが纏めて落下してきたのだ。

 

「あ、アンタねぇ!攻撃しながらビットを使えるなら言いなさいよ!!」

 

「鈴さんこそ!無駄にワタクシの射線に立たないで下さいまし!!」

 

「くっ…チームワークがバラバラだから勝てると思ったのに、

まさか相討ちに持ち込まれるなんて…」

 

 何と模範演武は千冬の予想を裏切ってダブルKOに終わってしまった。

一夏と並んで最も長期間なのはから鍛錬を受けたセシリアが予想以上に成長し、

平常時でもある程度ビットと本体の同時攻撃ができる様になった為である。

 

「中々やるではないか。オルコットと凰よ、ご苦労だった。」

 

「ふふん、ざっとこんな物よ。」

 

「だ、代表候補生たる者この位は当然ですわ、オホホホ…。」

 

「浮かれるな、2人がかりでやっと互角に持ち込んだ程度ではまだまだ甘い。

…諸君、今見た通り山田先生はあんななりでも量産機で専用機持ち2人相手に

互角に戦える技量がある事が分かっただろう。

今後は相応の礼節を以て接する様に。但し高町は免除だ。」

 

「「「「「ハイ!」」」」」

 

「ちょっ、一番礼節を弁えて欲しい人が免除ですか?!」

 

「ああ、そうだ…(急にどすを利かせる)山田。」「ヒィ?!」

 

「貴様…朝のSHRで事もあろうに私に向かって役立たずと言わなかったか?」

 

「(ヒイイイバレてる~!!)な、ななな何の冗談でしょうか~?

『役立たず!!』ギクッ!!」

 

 今の声はなのはが掲げた専用機の音声記録。

ばっちり動かぬ証拠を掴んでいたのだ。さあ、真耶の地獄の始まりである。

 

「山田真耶…」「はい…何でしょうか?」

 

「貴様には高町の模範演武の相手を勤めて貰おう。」

 

「えええええええええええええええええええ!!何ですかその公開処刑は?!」

 

「早速始めるの!!」

 

「イーーーーーーーーーーーーーーヤーーーーーーーーーーーーー!!(逃亡」

 

 まやは にげだした!

 

「知らなかったの?私からは逃げられないの!!」

 

 しかし まわりこまれてしまった!

 

「誰か助けてぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 引きずられて連行される真耶。で、その後どうなったかと言うと…

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 以上。

 

「よし、終わったな。えー諸君、模範演武はこれにて終了だ。

今見た様に一方的にとは言わんが、

この実習の授業にはこれからの3年間弱の間に、

全員が『IS教員の誰かにせめて1勝する』位の気概で当たる様に!

ではグループになって実習に入ろう。リーダーは専用機持ちがやる事、

では分かれろ!…とその前に…(出席簿を取り出す)」

 

 千冬は未だに正気を失ったままのラウラに近づくと…

 

「オユルシヲー。オユルシヲー。オユルシヲー。オユルシヲー。オユルシヲー。

 オユルシヲー。オユルシヲー。オユルシヲー。オユルシヲー。オユルシヲー。

 オユルシヲー。オユルシヲー。オユルシヲー。オユルシヲー。オユルシヲー。

 オユルシヲー。オユルシヲー。オユルシヲー。オユルシヲー。オユルシヲー。」

 

「やれやれ…もういいだろ、目を覚ませ!」

 

 SPANK!!

 

「はうあっ!!」

 

「よし。どうだ、目が覚めたかボーデヴィッヒ。」

 

 叩かれた瞬間、ラウラの瞳にハイライトが戻った。

 

「はっ…織斑教官!!私は一体何を…?」

 

「さあな、白昼夢でも見たのだろう。ほら、さっさと行け。

専用機持ちをリーダーに実習をするからお前もリーダー役を務めろ。」

 

了解(ヤー)!」

 

 かくして、一夏、セシリア、鈴音、シャルル、ラウラ、

そしてなのはの6人が揃った。だが、まるで人数がてんでんばらばら。

やはり一夏とシャルルが一番人気で、

一夏には箒を含めた女子十数人、シャルルにも同じ位で、

セシリアと鈴音が数人程度、ラウラとなのはのグループには誰も来なかった。

 

「何をやっているか馬鹿者…

それぞれのグループから何人かボーデヴィッヒと高町のグループに移動しろ。」

 

 渋々だが女子の何人かがラウラとなのはのグループに移動して、

それぞれのグループに学園の量産機が宛がわれる。

一夏、鈴音、ラウラの班は日本製の打鉄、

なのは、セシリア、シャルルの班にはフランス製R・リヴァイヴだ。

 

「さあ、まずは手本を見せるからよく見るの!!」

 

 この後授業は特に問題なく進み、誰も千冬から怒られる事なく終わった。

 

「こ、怖かったぁ…。」

 

「高町さんって怒鳴り散らす口調だし、

いつキレるか分からないから凄い緊張した~。」

 

「でも、意外と丁寧に教えてくれたよね…。」

 

 実習終了後、なのはの班の女子が口々に感想を語っていた。

皆普段のなのはの様子から、終始緊張しきりだったが、

独りだけ全く動じなかった剛の者がいた。

 

「そうだよ~、ほら、なのさんっておりむーとかの稽古も付けてるけど~、

先生や先輩が『皆上達が凄く早い』って驚いてたんだ~。」

 

 なのはの班に回された生徒の一人、のほほんさんこと布仏本音である。

彼女はなのはを怖がらない点を買われ、

なのはのルームメイトに指名されていた。

 

「あ、そうだ、のほほんさんって高町さんのルームメイトなんでしょ?

怖くないの?」

 

「ん~?特に怖くはないよ。

あの人ね~、部屋の中だと篠ノ之博士のモノマネを練習してたり、

専用機とおしゃべりしてるんだ~。」

 

「篠ノ之博士の?

あ、そう言えば、あの人特技が篠ノ之博士のモノマネとか言ってたね…。」

 

「うんうん、あのぬいぐるみも篠ノ之博士から貰った専用機で、

世界初の喋るISなんだっけ。」

 

「ホント凄いよね~。」

 

「「「(のほほんさん、一番凄いのはアンタだよ。)」」」

 

「?」

 

 

 

 その日の放課後。ラウラが千冬に何事かを請うていた。

 

「お願いです教官。ドイツへ戻ってきて下さい!

こんな所にいては教官の力は半分も生かされません!!」

 

「何…?」

 

「大体、この学園の生徒に教官が教えるに足る者等おりません!」

 

「ほほう、その根拠は?」

 

「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。

そのような低レベルな輩に教官が時間を割かれるなど…」

 

「馬鹿者めが…」

 

 千冬はぼそりと呟いたが、それでもラウラを沈黙させるには十分だった。

 

「!!」

 

「15かそこらでもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る。

お前は何も見ていないのか?」

 

「わ、私は、そのような……」

 

 ラウラの声が震えている。

 

「だが、そんなに私に戻ってきて欲しいのなら、

その願いを聞いてやっても良い。

私が言う課題を卒業までに達成できたならばな。」

 

「その…課題とは…?」

 

「1組に高町なのはという奴がいる。

お前に数の子5号というおかしな渾名を付けたぬいぐるみの持ち主だ。

奴に一回でも勝って見せろ。課題はそれだけだ。

もし勝てたならお前が卒業して帰国する暁には付いて行ってやろう。」

 

「ほ、本当ですか?!」

 

「無論だ。…但し!」

 

「?!」

 

「奴は強い。本当に強い。私は奴と一戦交えたが一撃で負けた。これが証拠だ。」

 

 千冬はラウラに自分の額を見せた。

そこには確かにあの時に付けられた傷跡が残っている。

 

「……………!!……………!!」

 

 尊敬する千冬に土どころか傷をつけた存在。

その信じがたい事実にラウラは声が出なかった。

 

「果たして…お前は達成できるかな?」

 

 そう言うと、千冬は立ち去って行った。

 

「…………ナノハ…ナノハ・タカマチ……一体何者なんだ……?!」

 

 取り残されたラウラは偉大な恩師を傷つけた怪物の存在にへたり込み、

ただ震え上がるばかりであった。

そして去って行く千冬は思いだしたかのようにラウラに一言告げた。

 

「あ、そうだ。一夏にはちゃんと謝っておけよ。」




のほほんさん、メンタル面最強疑惑浮上。
この人、あずささんと互角の胸囲なんですってね。

千冬…女の身で額に傷が残るって…。


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第9話  ダブル転校生 シャルルゴールド 前編

ここからはシャルロット回。


 その日の放課後…

 

「おお、なのさん。帰ってたの?」

 

「やあ、おかえり本音ちゃん。生徒会の仕事は終わったのかな?」

 

「ん?私がいると仕事が増えちゃうからねー。早めに抜けてきたんだよー。」

 

「……………………。」

 

 なのはは千冬と同じ歳とはいえ、一応生徒なので寮に住んでいる。

ルームメイトはのほほんさんこと本音である。

実は彼女は生徒会のメンバーの一人で、生徒会では会計係を務めていたりする。

彼女が選ばれた理由はズバリ消去法。他のクラスメイトは皆怯えて拒否したが、

本音だけは怖がらなかった為、この人選となった。

メンタル面に限っては千冬をも凌駕するある意味学園最強…なのかもしれない。

 

「あー、そうだ。ぬいぐるみさんに聞きたいんだけどー…」

 

「なんなの?」

 

「今日転入してきたドイツの子、

数の子5号って渾名はぬいぐるみさんが言いだしたんでしょ?」

 

「そうだよ。」

 

「なんで数の子5号なの?あと、5号って事は、1号から4号もいるの?」

 

「あー、それはね…

知り合いにそういうニックネームであの子にそっくりな子がいたんだ。

銀髪で、隻眼で、体型も、声もほぼ同じの。はい写真。」

 

 そう言って本音に見せたのは、

ナカジマ家の家族と一緒に映るチンクの写真だった。

 

「おー!眼帯以外はそっくりだー。」

 

「でしょ?でね、この子、名前がチンクって言うんだけど…

チンクはイタリア語で数字の5って意味なんだ。」

 

「へー。」

 

「それだけじゃないよ。

聞いてびっくり、この子は12人姉妹の5番目なんだ。」

 

「12人?!なにそれ凄い!!」

 

「悲しい事に、2番目のお姉さんが亡くなっちゃったから、

今は11人しかいないけど。」

 

「そうなんだ…でも解ったよー。だから数の子5号なんて呼んだのかー。」

 

「解ってくれた?」「うんうん。」

 

「でも、今日のあの反応じゃ、間違ってもそんな呼び方は出来そうにないの。」

 

「アハハハハハハハハ…(苦笑」

 

「早いとこ謝らないといけないなー。」「あいえええええええ…」

 

「そうと決まれば、善は急げだよなのさん。早いとこ謝ったげようよ。」

 

「それもそうだねー。じゃあ、行ってくるか…」

 

「いってらっしゃーい。」「一緒に来るの!(頭部鷲掴み」「おーのー!」

 

 と言う訳で、なのはは専用機を鷲掴みにしたまま部屋を後にした。

 

 

 

 さて、ここで主だった生徒の部屋割りについて説明しよう。

 

 まず一夏は1組の生徒数が奇数だったことが幸い(災い?)し、

一人部屋を割り当てられていた。

もしなのはが入学していなかった、あるいは別の組だったなら、

生徒数が偶数となるので一夏は女子の誰かと相部屋になっており、

倫理的にあまり好ましくない事になっていただろう。

 

 次に、箒は鷹月静寐(たかつきしずね)と相部屋である。

この静寐なる生徒、生真面目な性格であるが、

その一方でジョークが満載された本を好むようだ。

 

 セシリアのルームメイトは相川清香(あいかわきよか)

本音といつも行動を共にしている根っからのスポーツ好きだ。

 

 鈴音はちらりと紹介した通り、ルームメイトの名はティナ・ハミルトン。

鈴音とは対照的な体型で、太る太るとぼやいているお菓子好きだ。

ただし、2組の事なので1組とは関係がない。

 

 

 しかし、シャルルとラウラが転入した事で事情が変わった。まず一夏は…

 

「遂に…遂に…俺にもルームメイトが出来たぁぁぁあああ!!」

 

 今日からシャルルと相部屋。

念願の同性のルームメイトが出来たことで大はしゃぎだ。

 

「今まで一人で淋しかったけど、やっと話相手が出来る!

もうボッチなんて言わせねえ!!」

 

 荷物を持ってシャルルがいる2人部屋へと移動する。

 

「所で、フランスの男子で最近流行りのゲームは何だろうな?」

 

 これが波乱の幕開けとなる事を一夏は知る由もない。

 

 

 一方…

 

「どうしてこうなった…」

 

 一夏に替わり、一人部屋を割り当てられたのはラウラだった。

自身の転入で女子が奇数になってしまった為に

この措置となったと千冬から説明されたが…

 

「どう見てもあの時の誤爆の報復ではないか…。畜生(シャイセ)!!」

 

 あの時の千冬のあからさまなドヤ顔で察した。

誤爆とはいえ、一夏を殴ってしまったことへの報復に違いないと。

 

「(織斑教官…貴女はアンシュルスだけでは飽き足らず、

更なる試練を課そうと言うのか…!)」

 

 何はともあれ、気を取り直して持って来た荷物を開け、

今後の予定について思いを巡らせる。

 

「教官の言いつけ通り、

明日イチカ・オリムラに会ったら真っ先に謝らなければなるまい…

確かドゲザとか言ったな。額と両手と両膝を地に付ける、

この国に古来より伝わる最上級の謝意を示す作法。

これならば許しを得られよう。」

 

 こういった基礎知識は、

日本での生活に必須なスキルとしてドイツで教わっていた。

 

「それにしても…ナノハ・タカマチとは一体どれ程の猛者なんだ?」

 

 当面の問題に頭を悩ませながら、ラウラはベッドに身を横たえた。

 

 

 で、シャルルとの2人部屋に到着した一夏だったが…

 

 コンコン。

 

「あれ?いないのか?」

 

 ノックしても反応が無い。

 

「(でも鍵は開いてる…中にはいるみたいだな。)シャルル、入るぞー。」

 

 ドアを開けて、中に入る。そこにシャルルの姿はなかった。

 

「アレ?いない…おや?」

 

 ふと耳を澄ますと、シャワー室から音が。

 

「ああ、シャワーを浴びてたのか。一応知らせておくか…。」

(男同士なら問題ないよね!)

 

 到着を知らせようとシャワー室に通じる脱衣所のドアを開けた瞬間…

 

 ガチャ…

 

 運の悪い事に、シャワー室の扉が開き、出てきたのは…

一糸纏わぬブロンドの少女だった。

 

「あ、Cカップ…。」

 

 思わず一言。確かに、少女の胸はそれくらいのサイズだった。

 

「あ、あ、あ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏のえっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 SPANK!!!

 

「ぶべら!!」

 

 1日に2度、違う女子に殴られるという稀有な体験をした一夏であった。

 

 

 

 

 

 で、その後…

 

「シャルル、落ち着いた?」「うん…」

 

「で、何で男の振りなんかしてたんだ?」

 

「………………実家が、そうしろって言ったんだ。」

 

 若干青褪めているものの、平静を装った顔でそう答えたシャルル。

 

 曰く、自分の本名はシャルロット・デュノアで、

姓こそデュノアだがロベルトCEOの妻アリエノールからではなく、

彼の秘書だった女との間に生まれた妾の子である。

 

 2年前に生母が病死して父に引き取られたが、

アリエノールには会ったその日に殴られ、泥棒猫の娘、妾腹と蔑まれた。

ロベルトとも碌な会話はなかったが、幸いIS適正が高かった為、

ロベルトの命で非公式のテストパイロットを勤める事になった。

 

 そして、フランスは第3世代機の開発が進んでおらず、

IS開発を担当するデュノア社も技術・情報共に不足している。

その為EUが主導する欧州統合防衛計画(イグニッション・プラン)からもハブにされる始末。

このままでは国際IS委員会(IIC)から

フランスに回されるIS開発予算が減らされ、

下手をするとデュノア社はIS開発の権限を失う可能性もある。

 

 そこに降って湧いたのが一夏だった。日本に出現したISを動かせる唯一の男。

その専用機のデータを入手すれば

第3世代機の開発が進むのではないかと考えた政府の命令で

男として入学し、その専用機のデータ入手を命じられた。

と言うのが彼女の入学の真相だった。

 

「…………。」

 

「ふう…本当の事を話したら、気が楽になったよ。

聞いてくれてありがとね、それと、騙してて御免…。」

 

「なあ…シャルル…じゃなくてシャルロット。お前はそれでいいのか?」

 

「えっ?」

 

「(シャルロットの肩に手を置いて)

いくら親だからって、親が子の人生を好き勝手して良い訳ないだろ!」

 

「い、一夏…?」

 

「俺も千冬姉も、親に捨てられたクチなんだ。

だから、親に愛して貰えなかった気持ちは俺にも解る!

あんな親、今はもうどうでもいいし、会おうとも思わない!

でも、お前はどうするんだ?!」

 

「どうするって…こんな事がバレたんじゃ、

本国に戻されて、良くて幽閉、悪ければ『消される』のかな……。」

 

 何処か諦めたというような、悟りきった表情で述べたシャルロットだが、

一夏はシャルロットをそんな目に合わせる気なんて無い。

 

「そんな事させない!俺が黙ってれば良いだけだし、

仮にバレたってこの学園の生徒は

どんな国にも、組織、団体にも所属しない事になってる!」

 

「そうだけど…でも、そんなの無理だよ!

拾って貰った立場の僕じゃ父には逆らえないし、

妾の子って事で本妻の人にも負い目がある。

邪魔者でしかなかった僕にIS適正があるって判った時から、

僕は父にとって道具でしかなかったんだ…」

 

「親の事なんか関係ない、シャルロットがどうしたいかが大事だろ?

今日来たばっかりであれだけ他の生徒の皆と打ち解けられたってのに、

もう帰らなきゃならねえなんて、そんなのおかしいだろ?!」

 

「それは…そうだけど…」

 

 歯切れの悪いシャルロット。そんな時、不意に部屋の外から声が。

 

「そ奴の言う通りだ、デュノアよ。」

 

 声の主は他ならぬ千冬だった。

 

「ちふ…織斑先生?」

 

「いや、千冬姉で良い。…入るぞ、一夏。」

 

「ん゛ー!ん゛ー!」

 

「き、聞いていたんですか…って、その台車は一体?!」

 

 シャルロットの言う通り、

千冬は真耶に猿轡をはめ、首から下をぐるぐる巻きにして台車に乗せていた。

 

「ああ、これか?

今日の様な失態を起こさない為に補習を行うので地下へ連行する所だ。

それよりもデュノアよ。」

 

「はい。」

 

「今こいつが言った通りだ。IS学園特記事項第21により、

この学園の生徒はどんな国にも、組織、団体にも所属しない。

だからお前はこの学園にいる限りフランスに強制送還される事は無い。

だからこの学園にいる間に己の生きる道を決めればよい。

連れ戻される心配などするな。」

 

「(すげえ…千冬姉がちゃんと担任やってる。)」

 

「おい一夏、お前何か無礼な事を考えなかったか?」

 

「イエ、ナンデモアリマセン!!」

 

「で、でも…」

 

 だが、シャルロットにはまだ迷いがあるようだ、と、そこに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話は聞かせて貰ったの!!」

 

 部屋のドアを開けて、入り込んで来た者が一人。その正体は…

 

「な、なのはさん?!」「高町?!貴様も聞いていたのか…」

 

 誰あろう、我等が暴走核弾頭高町なのはだった。



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第10話  ダブル転校生 シャルルゴールド 後編

シャルロット回後編、さて、なのはの取った行動は…?


 IS学園2人目の男子生徒シャルル・デュノア。

だが、その正体は女子生徒シャルロット・デュノアだった。

彼女は経営状態の良くない実家から、

男として潜入し一夏の第3世代機のデータを奪取する様に命じられていたのだ。

 

 正体がばれた以上、もう学園にいられないと言うシャルロットに対し、

織斑姉弟は「学園の特記事項で、生徒は国家や企業他どんな組織からも

干渉されないから心配するな」と諭す。だがシャルルの心は決まらない。

そこに新たな闖入者、我等が暴走核弾頭高町なのはが入り込んできたのだ。

 

「高町…何のつもりだ?!」

 

 千冬の問いかけには耳を貸さず、なのははこう切り出した。

 

「二人とも、一つ間違いを犯しているの!」

 

「ま、間違い…ですか?」「どういう事だ?貴様は一体何を…」

 

「学園に残る事を諭すのは結構!!でも、それは受け身の対応策なの!!

そんなんじゃ彼女に卒業後の未来は無いの!!」

 

「!!」「む、それは確かにそうだが…」

 

 言われてみればその通り。織斑姉弟は卒業後はどうするのか?

という問いに答えていない。

 

「ならばどうするのかと言うなら、答えは簡単なの!!

こっちから打って出るの!!

早速束さんに連絡して今すぐリヨンでO☆HA☆NA☆SHIをするのっ!!」

 

「「「……………………………………………………………………はぁ?!」」」

 

 いきなりぶっ飛んだ事をまくし立てるなのは。

織斑姉弟は「こいつ正気か?」という顔で意味不明な発言に困惑したが、

即座に意味を悟り一斉に止めに入った。

 

「いやいやいや!ちょっと待て!!門限はとっくに過ぎているんだぞ!!」

 

「そうだって!!それに、ここからフランスまでどうやって「What?!」

 

「「ヒィ!!何でもありません!!」」

 

 すっかり「What?!」がトラウマになった織斑姉弟は一瞬で沈黙した。

 

「さあ、束さんにホットラインを繋ぐの!!」「うっす!」

 

 数秒後、専用機がホットラインを繋ぎ、ホログラムモニターに束が顔を出した。

 

『はろはろ~、なーちゃん元気ー?どうしたの~?』

 

「束さん!!早速だけど今の隠れ家のコードを教えるの!!」

 

『え?一体どうしたの?!』

 

「デュノア社が一夏君の白式のデータを盗んで

パクリ機体を造らせようとしているの!!例のフランス人の子は

男装していたけど本当は女で、実家の命令でスパイをやらされていたの!!」

 

『ナ、ナンダッテー?!!』

 

「放っといたら事がバレてフランスから何か踏み込んで来るかもしれないから、

こっちから打って出てO☆HA☆NA☆SHIをするのっ!!

今からそっちへ行って算段を立てるの!!!」

 

 ビキィ!!!

 

 なのはからの連絡を聞いた直後、束の額に青筋が走り、

鬼のような憤怒の相を浮かべた。

 

『スパイを送り込んで?白式のパクリ機体を造る?

ア・イ・ツ・らぁ~~~~~~~~~!!!』

 

 ISの本家本元を自負する束にとって、その様な行為は到底許せる物ではない。

束の返答は決まっていた。

 

『良く解ったよ!!コードは×××だから、その転入生の子も連れて来て!!』

 

「了解したの!!さあ、私についてくるの!!」

 

「え?え??待って待って!!ホントにこれからリヨンへ行くの?」

 

「そうなの!!とにかくついてくるの!!自由を得る為なの!!」

 

「は、はぁ…。」

 

 結局、シャルロットはなのはの言う通りに部屋を後にした。

 

「何だったんだ、あの人は…?」

 

「知らん。もう私がどうこうできる領域ではない。

さて…私はコイツに地下で補習をしてくる。明日に備えて早く寝ろよ?」

 

「お、おう…」

 

 千冬はなのはの気迫に中てられ、

失神している真耶を載せた台車を押して去って行った。

 

 

 

 フランス共和国 リヨン市 デュノア社本社社長室

 

 その日、デュノア社のCEOロベルト・デュノアは

娘からの報告が来ない事を不審がっていた。

 

「シャルロットは何をやっているんだ…?」

 

 スパイ計画の進捗状況を知らせる為定時連絡をする様に言っておいたが、

連絡が一向に来ない。

 

「無事に入学手続きは済んだ筈…もしや男として入れた事がばれたのか…?」

 

 ありえない事ではない。

学園だって、いや、むしろ学園程セキュリティの強固な所は無いだろう。

ばれたとしてもおかしくはない。

 

「(だが、それならそれで何か言ってくる筈。なぜ何も連絡がない…?)」

 

 全く連絡が来ないこの不気味な状況に不安を覚えるロベルト。その時である!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

「な、何だ?何が一体…!!!!!」

 

 降ってきたのは3人の人間、なのは、束、そしてシャルロットだ。

 

「シャルロット?!それに…タバネ・シノノノ?!」

 

「シャルロット、この人がお父さんで間違いない?!」

 

「う、うん。この人が父のロベルトだよ。」

 

「何だお前達は?!何をしに来た?!」

 

「私はタバネ・シノノノ専属操縦者ナノハ・タカマチ!!

O☆HA☆NA☆SHIに来たの!!」

 

「お、オハナシ…?」

 

「この娘をスパイに仕立て上げて何をしようとしているのかは、

東西南北、赤道直下、天地無用、一つ残らず

宇宙の果てまで全部お見通しなの!!」

 

「何?!くっ、まさかもう見破られたというのか…!!」

 

「でもIS学園の規定により生徒はどんな国、組織、団体にも所属しない以上、

そっちに返してなんかやらないの!!!

返して欲しければ力づくで捕まえてみやがるのっ!!!」

 

「我が社を脅迫するのか?!!お前達、何が望みだ!!」

 

「取引を要求するのっ!!シャルロット・デュノアの自由を認めれば、

ここにいるタバネ・シノノノ本人が直々に第3世代機を提供するの!!」

 

「な、何だと?!」

 

「ど、どうも~。言う通りにすれば、この束さんが手伝いますよ~。」

 

 まさに超展開。

「初日にばれたと思ったら娘が束とその専属操縦者を連れて乗り込んできた。」

こんなカオスを誰が予想しただろう。だがそれ以上に驚くべきは取引の内容だ。

 

「そ…その要求を呑めば…娘の自由を保証すれば…娘を解放すれば…

ほ…本当に…我が社の為に…タバネ・シノノノが…

だ、第3世代機を…提供してくれるのか?」

 

 第3世代機。それこそデュノア社が今最も欲しい物である。

ましてISの本家本元、篠ノ之束直々の第3世代機となれば

その価値は計り知れない。この要求を飲む価値は十分すぎる。

 

「無論なの!!約束するの!!

正式に文書を交わしてのギブ・アンド・テイクなの!!」

 

 さて、ロベルトの回答は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いだろう、要求を呑もう…。」

 

「!!」

 

 ロベルトは観念したようにあっさりと要求を受諾した。

 

「それでは…。」

 

「ああ、その子は自由だ。もうスパイの真似事をする必要はない。」

 

「父様!!」

 

「シャルロット…お前、何一つ親らしい事も、

会話すら碌にしなかった私を、父と呼んでくれるのか?!」

 

「だって、だって、僕の父親は父様だけだから…。

父様が引き取ってくれなかったら…」

 

 確かに、父が見放していたら今のシャルロットは無かっただろう。

 

「あっさり要求を呑んだのは拍子抜けだったの!

この際だからついでに聞いておくの!!実の娘への仕打ちの理由を話すの!!」

 

「よかろう。一言で言えば、

その子を(アリエノール)から引き離したい…ただその一念だった。」

 

 それによると、ロベルトとアリエノールには息子シャルルがいたが、

17年前にロベルトの父諸共事故死していた。

それ以来アリエノールは精神を病み、自分の子が会社を継げないなら、

会社を自分のシンパだけにして乗っ取ってやろうと画策しているという。

 

 今の所はR・リヴァイヴを12か国で制式化させた実績で何とか抑えているが、

第3世代機開発の遅れが災いし、このままでは本当に乗っ取られかねない。

そんな時、自分の元秘書だったシャルロットの生母が死んだと知り、

ロベルトはせめてもの罪滅ぼしに残されたシャルロットを認知し、

正式に実子として迎えようとした。

 

 だが、自分の子ではないシャルロットに

会社を継がれてしまうと危惧したアリエノールは反対。

このままではシャルロットが危ないので、

ロベルトはどうやってシャルロットとアリエノールを引き離すかを模索した。

 

 幸いシャルロットはIS適正が高かったので、

非公式のテストパイロットとして会社に入れる事ができた。

IS操縦者は簡単に代えが利かない為、

いくらアリエノールでも手出しは出来ない。これで当面の安全は確保できたが、

ロベルトもシャルロットと会う機会を失った。

 

 そしてシャルロットの安全を確保するもう一つの手段として、

シャルロットをフランス政府に代表候補生として指名して貰おうと考えた。

そうすれば大手を振ってIS学園に入学させられる。

 

 学園は当人の合意無き生徒への干渉を禁じている為、

在学中の3年間は安全が保障できる。

その間にシャルロットに今までの事情を全て話し、

他国に亡命して貰おうと考えた。

亡命先の代表候補生になればなお良い。

他国の代表候補生には流石に手出しは出来まい。

 

 だが、フランス政府から承諾こそ得たものの、指名の条件として、

「ISを動かせる唯一の男イチカ・オリムラのデータを入手する為、

男として公表すべし。」

と通告を受けた。アリエノールの差し金である事は明白だった。

 

 原因は第3世代機開発の遅れだ。首尾よくデータを入手できればそれでよし、

失敗すればロベルトに責任を取らせて蹴落とし、

ついでにシャルロットもスパイとして捕え、

アリエノールがまんまと後釜となってデュノア社を乗っ取る。

そういう魂胆だった。

 

「…以上が、今までの経緯だ。」

 

「成程ね。会社の道具の様に扱っていたけど、

本心はあくまで自分の子を鬼嫁から護りたい一念だったと。」

 

「そうだ。今までの仕打ち、許してくれとは言わない。全ては私のせいだ…」

 

「父様…」

 

 シャルロットが父の本心を知り、涙ながらに継いだ言葉は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その一言で充分だよ。僕も、母様も、

それに本物のシャルルも、今の一言で救われたよ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真実を知ったシャルロットの心から、父への恨みは消えていた。

彼女は父を許す事を選んだのだ。

 

「シャルロット…!」

 

「良かったじゃない。親子が無事和解できて…。」

 

「…いかにも。その子に付けた名も、あの時死んだ息子から採った物だ。

…おかしなものだ、もうあの頃には戻れないと解っていながら、

私はついぞ未練を捨てきれなかった…。」

 

「致し方ないの!私の知人にもそういう人間がいたの!

その人も先立たれた自分の子への未練を捨てきれずに死んだの!」

 

 彼女が語る知人とは最大の友、フェイトの母プレシアの事であった。

 

「でも、それもこれで終わりなの!

第3世代機を売り出して会社を立て直す事こそ、

息子さんと元秘書さんへの何よりの慰霊となるの!!」

 

「……その通りだ。では、具体的な金額の交渉に入ろう。」

 

「構わないの。…束さん、いいですね?」

 

「うん、いいよ。」

 

 と、そこに間の悪い闖入者が現れた。

 

『ロベルト、あの妾腹からの連絡はまだなの?!』




殴り込みをかける(戦闘するとは言っていない。)
戦わずして勝つ、これぞ理想の勝利。
しかし、空気を読めない不届き者が現れる。
次回、謎の闖入者の正体と、
なのはの前に立ちはだかる強敵の名が明かされる…!


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第11話  フランスのロスチャイルド

さて、前話の最後の最後で現れた謎の声の正体が明かされます。
なのは達に立ちはだかるであろう強敵の正体は…


 シャルロットがスパイで有る事を知り、

早速彼女と束同伴でデュノア社へと乗り込むなのは。

 

 シャルロットの父ロベルトに

第3世代機の提供と引き換えにスパイ任務からの解放を求めた所、

ロベルトはあっさりこれを承諾し3人の前で今までの仕打ちの理由を白状する。

 

 全ては会社乗っ取りを企てる本妻アリエノールから

娘を守る為の精一杯の親心だったのだ。

真実を知ったシャルロットは父を許す事を宣言。

これで親子の和解が成った、と思いきや…

 

 

『ロベルト、あの妾腹からの連絡はまだなの?!』

 

 ホログラムモニターから苛立たしげな声で連絡を入れてきたのは、

大阪のおばちゃんめいた全身ブランドだらけの中年女だ。

何を隠そう、この女こそロベルトの本妻アリエノール・デュノアだ。

 

「むっ、アリエノールか…その件だが、もう必要は無くなった。」

 

『何ですって?!それは一体…』

 

「こう言う事だ。」

 

 ロベルトの指した先には、なのはと束、そしてシャルロットの姿が。

 

『なっ…何でタバネ・シノノノがリヨンに?!それにそこの妾腹はどういう…』

 

 直後、なのはがモニターの前に立つ。なのはが何をするか察した束が叫んだ。

 

「2人共、耳塞いで!!」

 

 次の瞬間、なのはが大音声で吼えた。

 

「妾腹妾腹うるさいの!!!このワイン狂いのへべれけバゲット!!」

 

『んなっ…』

 

 いきなり喧嘩を吹っ掛けるなのは。彼女は休む間もなく怒鳴り散らす。

 

「自分が産んでないのを良い事に汚れ仕事ばっかり押し付けて!!

そんなズルは筒抜けなの!!

ブラマンジェ以下の柔らか脳みそで天下のIS学園を欺けると思ったの?!!

社長は『第3世代機をタバネ・シノノノに依頼する』事に合意したの!!

そっちがどんな手を使おうが、この娘は連れ戻させないのぉぉぉぉぉっ!!!」

 

『な、な、な…何なのこの生意気な小娘は?!』

 

「通りすがりのタバネ・シノノノ専属操縦者なの!!覚えておくの!!!」

 

『小生意気な学生風情が!!誰に向かって口を利いているのか解って?!』

 

「ド田舎の社長夫人なんて知る訳ないの!!

そっちこそ、産業スパイを使ってのパクリ行為、

ISの本家本元に対する冒涜も甚だしいの!!」

 

「ひ、酷い!!」「ど、ド田舎…フランスが…ド田舎…」

 

「なーちゃん、ド田舎は無いでしょド田舎は…」

 

 寧ろ味方の方が精神にダメージを受けている気がするが、

誰も指摘する勇気はない。

 

『オーッホッホッホ!辺境国のメス猿めは物も知らないのね!

「フランスのロスチャイルド」と呼ばれし名門、我が

 

 

 

「ドニエール家」

 

 

 

を知らないなんて、あー可哀想!!』

 

 実家の名を殊更強調して勝ち誇るアリエノール。

その言葉が出た瞬間、束の顔が引き攣った。

 

「え゛?!ど、どどどドニエール家?!ちょっ、何それ、聞いてないよ!!」

 

「おや?束さん知ってるの?」

 

 勿論なのははそんな名前は全く知らない。

だが、束が怯む事から見て余程のビッグネームと言う事は理解した様だ。

 

「有名だよ!

ドニエール家は1000年を超える歴史を持つフランス一の大富豪一族だよ!

一族全員の合計総資産は1兆、2兆じゃ済まされないよ!!」

 

「13桁?ロスチャイルドに例えるにはちょっと…」

 

「単位は円じゃなくてユーロだよ!」

 

「ああ、成程…」

 

『それだけじゃなくってよ!!

 

私のパパは国際刑事警察機構(ICPO)事務総長!!

 

叔父様は欧州連合(EU)理事会事務総長!!

 

叔母様は国際刑事裁判所(ICC)所長!!

 

従兄は現フランス大統領!!

 

兄は対外治安総局(DGSE)長官!!

 

弟は国際IS委員会(IIC)フランス支局長!!

 

分家姻族を含めれば、我が一族は全欧州を動かせてよ!!

ISの母如き、お話にもならないわ!!

 

オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホ!!

 

オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホ!!

 

オーッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホッホ!!!』

 

 実家の名でなのはが完全に怯んだと思い込み高笑いを決め込むアリエノール。

確かに彼のロスチャイルド家に例えられるのも納得の名門である。

 

「な、何と言う事だ…だから今まで私が苦労を重ねて

今日までやってこれたというのに…。」

 

「あ、あはは…解ってたんだ。

やっぱり、僕なんかが逆らうなんて無理だったんだ…。」

 

 本妻の実家がIS学園の特記事項を

ただの文章としてしまう程の権力と財力を有していた。

これがシャルロットが躊躇っていた理由である。

 

 もしも織斑姉弟にこの事を話していたら、

彼等でもこれだけの力ある一族が相手では打つ手なしと諦めただろう。

 

「(成程、だから学園に残りたくても、それを言うのを躊躇っていたのか。)」

 

『お前達も知っていて?ICPOはパパの主導の下、

そこのアリス気取りの小娘対策で大改革を成し遂げた事を!

今のICPOは、国家にも匹敵する戦力を持った法執行機関であってよ!!』

 

 アリエノールの言う通り、ISの誕生によりICPOは変わった。

篠ノ之束という超一級のテロリストに対処する為、

ICPOは国際社会の合意の下、

情報収集機関から実行力のある法執行機関へと再編されたのである。

具体的に言うと、事務総長直属の専門部署「IS犯罪対策課(ICD)」を創設し、

 

「IS絡みの犯罪者に限り、国際刑事裁判所(ICC)が逮捕状を出せば、

対象者を発見次第現地へ捜査官を送り、現地政府に無断で逮捕しても良い。」

 

 と国際社会で取り決めたのだ。そして実働部隊として、

各国から現役あるいは元国家代表候補生の警察官達を選抜して

6機編成のIS隊も創設した。

勿論、機体はお膝下のデュノア社製R・リヴァイヴ。

これを改装したR・R・ICDモデルと呼ばれる特別強化版だ。

 

 その戦力は操縦者の技量も計算すれば、

欧州の4強、英・仏・独・伊と互角あるいはそれ以上。

もしドニエール一族に逆らえば、

ICCの逮捕状を錦の御旗にICDのIS隊が踏み込むだろう。

そればかりか、一族の当主でもある大統領の命令でフランスの対テロ特殊部隊、

治安介入部隊(GIGN)もISを派遣することは明白だ。

 

 そうなれば学園中の全ISを持ち出しても勝ち目はない。

良くてICDの捜査の邪魔をしたカドで逮捕され、

下手すればその場で返り討ちに合い、殺されても文句が言えない。

 

「………………………………………………………………………………………。」

 

「なのはさん…その…黙ってて御免なさい!!

気持ちは嬉しいけど、あの家に逆らえば貴女どころか、

下手したら篠ノ之博士まで捕まっちゃう!だから、これ以上は…」

 

 沈黙を貫くなのはに謝罪するシャルロット。しかしシャルロットは知らない。

目の前にいるのは千冬をも破ったIS学園の暴走核弾頭であると言う事を。

 

『これで辺境の黄色いメス猿にもお解りになって?我が一族の前では、

お前達が何をしようがICDとGIGNがいつでも「どーん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\デデーン♪/
                   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはは最後まで言わせず窓の外へ光線をぶっ放した。

目標はリヨン名物の一つ、ICPO本部。

直後、本部からは爆炎ときのこ雲が。

なのはの攻撃が本部ビルを貫通し大爆発したのだ。

 

「「「『ナーアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア?!』」」」

 

「その程度の権力と財力で私を倒せると思っていたの?」

 

『ちょっとおおおおおおお!!何やってんのおおおおおおおおおおおお!!!』

 

「ロスチャイルド家に比せられる名門一族の女か…

いつかはデュノア社を乗っ取りたいと裏工作をしていたな…

いつかは乗っ取れると良いなぁ…。」

 

 アリエノールを嘲笑うかの様な表情でなのはが一言発した瞬間…

 

 ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!

 

 デュノア社上空から奇怪な発射音と共に次々と光線が放たれた。直後…

 

 ズッウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!!

 

『ギャーッ!!』

 

 突如映像が乱れ、画面の向こうから轟音が。

何となのはは専用機を遠隔操作してリヨンのデュノア社上空から

アリエノールがいるパリを砲撃したのだ。

たちまち画面の向こうから阿鼻叫喚が響き渡る。

 

『何するのよォーッ?!!殺す気ィーッ?!!』

 

「警告なの!!今ので大統領府と対外治安総局(DGSE)とIIC仏支局と、

ついでにヴェルサイユの治安介入部隊(GIGN)本部を木端微塵にしてやったの!!」

 

『ヒイイイイィィィィ!!フランスがー!フランスその物がー!!』

 

「ドニエール家がデュノア社から手を引く意志を見せなければ、

私はこの国を破壊し尽くすだけなのおぉッ!!!」

 

『何で射ってから言うのよ?!!普通は射つ前でしょぉぉぉぉぉぉぉ?!!

こんな事をしてただで済むと思わないで!!

パパに言いつけて、国際指名手配させてやるわよ!!』

 

「やれるものならやってみやがるの!!

全欧州の全軍を差し向けたとて、この私を超える事はできぬぅ!!!」

 

『ば、化け物!!』

 

「私が化け物?違う、私は悪魔なの!!!」

 

『お、お、お、覚えておきなさーい!!』

 

 アリエノールは真っ青になって退散していった。

 

「これにて、一件落着ッッ!!!」「「「どこが?!」」」

 

「あぁ~~~~~~~⌒*(◎谷◎)*⌒~~~~~~~ん?」

 

「アッハイ、一件落着で良いです…。」「で、では金額の交渉を続けよう…。」

 

 その後の交渉はとんとん拍子で進み僅か5分で契約は纏まった。具体的には…

 

・契約総額は3000万ユーロ。

 前金は1/3で、残りは束が実機を引き渡し次第支払う。

 

・もしもEUが完成した機体をイグニッションプランに制式採用した場合、

 デュノア社は礼としてもう1000万ユーロ束に支払う。

 

・第3世代機にはR・リヴァイヴに対する上位互換機能を付け、

 R・リヴァイヴの全装備を無改造で搭載可能とする。

 

・無事に経営が立ち直ったら、ISの本文を果たす為の先駆けとして

 本機をベースに宇宙開発に特化した機体を作り、専門部署を立ち上げる。

 

「…落とし所としてはこんな物だろう。」

 

「そうだね。それじゃあ、契約はこれにて成立!早速書面を交換してと…。」

 

 こうして、束とデュノア社との間で契約は成立した。

だが、誰が予想できただろうか。これがあの惨劇の始まりになろうとは…。




うん、予想はしてた。


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第12話  タッグマッチやろうぜ!お前出禁な!

さあ、ここからはタッグマッチ。一夏の鍛錬の成果が試される時が来ました。


 そして、シャルルの正体が一夏達にバレた翌日の朝。

なのははラウラを除く専用機持ち+箒と朝練に勤しんでいたのだが、

いざ始めようとした矢先、突然クラスメート達が騒がしくなった。

その視線の先を見てみると…

 

「あ、あれは!?」「ラウラ・ボーデヴィッヒ…」

 

 ピットの出口に黒いISが。ラウラが専用機「黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)

(以下、S・レーゲン)を纏ってそこにいたのだ。

 

「あ、あいつが…一夏をぶん殴ったっていうドイツの代表候補生?!」

 

「イチカ・オリムラ!」

 

「な、何だぁ?!」

 

 突然一夏の名を呼ぶとラウラは駆け出した。

 

「イヤーッ!!」

 

 連続前方転回でカタパルトから飛び出し…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日は…」

 

 空中で前方3回宙返りを決めると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に…」

 

 そこから3回ひねりを加え…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまんかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!」

 

 着地と同時に両手と膝と額を地に付けた。

そう、ラウラは一夏の前で見事なジャンピング土下座を決めたのだ。

 

「ぼ、ボーデヴィッヒさん…?!!」

 

「その気はなかったとはいえ、

天井にめり込むくらい思い切り殴ってしまったのは私の落ち度だった!!

この通りだ、許してくれ!!」

 

 何かと思えば昨日の謝罪であった。それにしてもド派手な謝罪である。

 

「な、何というダイナミック謝罪…」「わざわざその為に…」

 

「何というか…面白い方ですわ。」「アイヤー…。」

 

 勿論、こんなものを見せられて、嫌と言えないのが一夏である。

 

「解った、解った!…昨日の事は許すから、もう立ってくれよ。」

 

「ほ、本当か?!」

 

「ああ。それに、お前に謝りたい人がいるんだよ。そうだろ、なのはさん?」

 

「ふえ?」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 見ると、なのは専用機が空中でひたすら土下座していた。

余りの速さにヘッドバンキングにしか見えないが、それだけ必死なのだろう。

 

「本当に御免。うちの専用機が

『数の子5号』なんて酷いあだ名で読んじゃって…」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「(ど、どうしよう…言葉を挟めない…)」

 

 驚異の1秒間に10回ごめんなさい連呼に何も言えずたじろぐラウラ。

というか、ちゃんと言葉が聞こえている時点で彼女も色々とおかしい。

 

「ハッ、いけないいけない…えーと、一つ教えて頂きたい。」「何かな?」

 

「なんで、『数の子5号』なんて呼び方を?」

 

「それはね…私の知り合いにそういう渾名のそっくりさんがいて、

その子と間違えたんだ。」

 

「そっくりさん?」

 

「そうなの。銀髪隻眼で、体型も声もそっくりなの。

ほとんど見分けがつかないの。つ写真」

 

「(写真を一目見て)ファッ?!(眼以外は私にそっくりではないか!)」

 

「えーと、これで解って貰えたかな?」「は、はあ…」

 

「本当に御免ね。」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 1秒間に10回ごめんなさい連呼が次第にペースアップして

12回程に増えている気がするが、キリが無いので止めさせる事に。

 

「そ、その…もう良いです。昨日の事は水に流すので、

そのぬいぐるみ?を止めてやって下さい。」

 

「あ、うん。有難う。もう許すって。」「はーい。」

 

 と、昨日の件は決着がついた、これで一安心。

 

 

 その日の朝食時、N○Kのニュース番組はこの話題で持ちきりだった。

 

「日本時間昨夜7時頃、フランスのパリ、リヨン、ヴェルサイユの3都市で

同時に発生した爆弾テロ事件は未だに解決の目途が立っておりません。

パリ市内で被害を受けた建物は、

 

フランス大統領府『エリゼ宮』、

フランス諜報機関、DGSE、対外治安総局の本部、

IIC、国際IS委員会のフランス支局の3か所、

 

ヴェルサイユではフランス国家憲兵隊の対テロ特殊部隊、

GIGN、治安介入部隊の本部。

 

そしてリヨンではICPO、国際刑事警察機構の本部ビル。

以上の3都市の計5か所が同時に爆破され、建物に甚大な被害が出た模様です。

幸いどの現場でも死傷者は出なかったとの事ですが、原因は解っておりません。

 

この件に関してフランスのドニエール大統領は声明を発表し、

『フランス、いや欧州史上最大のテロ事件である。

EU各国や英国、及び米国の協力も仰ぎつつ国の総力を挙げて

真相究明と犯人逮捕に勤める。だが、政府内では確証こそないが

一人の死傷者も出さずに3都市同時に爆弾テロを行えるのは

世界でもタバネ・シノノノしかいないのではないかと疑っており、

捜査と並行してタバネ・シノノノの捜索にも注力する。』

と事態の解決に向けて全力を挙げる姿勢を示しました。」

 

 このニュースの直後、生徒達は震えながら一斉になのはの方を向いたが、

なのはは平然と朝食を摂っていた。

 

 

 そして、SHRで真耶がこう切り出した。

 

「皆さん!いよいよ学年別トーナメントが近づいて来ました!

今年度の学年別トーナメントはクラス対抗戦でのアクシデントを考慮し、

2人1組で戦って貰います!…但し!」

 

 真耶はそう言うと、教室ドアを開けて廊下に退出、

壁の向こうから顔だけを出した。

 

「高町さん、その…とても言いにくいんですけど…」

 

「…何なの?」

 

「職員会議の決定で…貴女は今回の学年別トーナメントの出場禁止が…」

 

「What?!」

 

「ヒイイイイイ、やっぱりー!!」

 

 まやは にげだした! 

 

「逃げられないの。」

 

 しかし まわりこまれてしまった!

 

「さあ、O☆HA☆NA☆SHIなのぉっ!!」

 

「離してぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

 なのはは真耶を引きずって教室を後にした。

 

「あー、私から言える事は、皆早目にペアを決めろと言う事だ。

では今日のSHRはここまでだ。授業を始めよう…」

 

 千冬がこの一言で場を閉め、本日の授業に移った。

尚、O☆HA☆NA☆SHIの結果なのはは

完全展開禁止及び単騎という条件で出場が決定した。

 

 

 

 そして、その日の昼休み…一夏はなのはとペアの件を相談していた。

 

「一夏君、タッグマッチのペアは決めたかな?」

 

「ペア?いや、まだですけど…でも、大体候補は決まってるんです。」

 

「誰なの?」

 

「やっぱり同じ専用機持ちのセシリアかシャルルかラウラの3人が狙い目かな。

…なのはさんが俺なら、誰と組みます?」

 

「私も大体同じなの!まずシャルル君、次点はセシリアなの!

近接特化の白式と相性が良いのは、汎用性に富んだR・リヴァイヴか、

射撃特化型のB・ティアーズなの!それに…」

 

「…解ってます。アレの件ですよね。」

 

 今シャルロットが女だと知っている生徒は一夏となのはの2人だけ。

その内なのはは単機での出場が決まっているので、

万一の事を考え、一夏が組むのが最善だろう。

箒や鈴音はファイトスタイルが一夏と似通っているため、

一夏のペアとしてはバランスに欠ける。

確かに鈴音には龍咆があるが、それはあくまで補助。

あくまでメインは双天牙月での白兵戦だ。

 

「う~ん。やっぱりそう考えるんだ。

よし!俺、一度シャルルと話を付けて来ます!」

 

「善は急げなの。他の子に取られたら大事なの。」

 

 一夏はシャルロットを探しに席を立った。

 

 

 

「一夏!」「箒か…」

 

 シャルルを探す途中、箒と鉢合わせした一夏。良く見ると、箒の顔が赤い。

 

「一夏…その…今度のタッグマッチ、私と組まないか?」

 

 予想通りだ。ファースト幼馴染を自負する箒が、

いの一番に一夏にペアと組もうとするのは必然。

だが、今の一夏はその申し出を受けられない。

 

「箒…………済まん!(合掌)俺、もう心に決めた相手がいるんだ。」

 

「ンガッ!!」

 

 一夏に出来る事は、心を鬼にしてノーと答える事だけだった。

 

「御免な、ホントに御免な!!」「あ、あ、あ………………」

 

 謝罪しながらその場を後にし、シャルロット探しに戻る一夏だった。

 

「ふええええええええええええええええええええええええええええええ~ん!」

 

 後に残された箒は涙声を挙げながらその場にへたり込んだ。

 

 

 

「さて、シャルルシャルル…ん?」

 

 ふと見ると、食堂の一角が騒がしい。もしやと思って近づくと…

 

「デュノア君、私とタッグマッチのペアを!」「いや、私と!」

 

「いいえ、私よ!」「私なんかどうかな~?」「是非私と!」

 

 予想通り、他の生徒達から誘いを受けるシャルロットだった。

学園に2人しかいない「男子」ならば致し方なかろう。

 

「はわわ、みんな一斉に話しかけないで~~!」

 

 余りの多さにシャルロットも困惑しきりである。

だが、一夏には返って良い目印となった。

 

「シャルル!」「あ、一夏!…どうしたの?」

 

「あ、織斑君だ!」「おお、おりむーだぁ!」「織斑君…まさか!」

 

「その…やっぱり、組むなら男同士がいいと思ってさ。

今度のタッグマッチ、俺と組まないか?」

 

「!!……僕で良いの?」

 

「ああ、お前が良いと言ってくれれば、俺は一向に構わないぜ。」

 

「………有難う!こちらこそ是非お願いね!」

 

一発OK。他の生徒達は呆気に取られてしまった。

 

「ううっ、やっぱり同性の壁は超えられなかった…」

 

「おまけにルームメイトだもん、仕方ないよ。」

 

「こうしちゃいられないわ!私達も早くペアを決めて、

2人を見返してやらなきゃ!」

 

 あっさりペアを決めた一夏とシャルロットに対抗意識を燃やす生徒達。

これは激戦になりそうだ。

 

 と、そこに…

 

「一夏!」「あ、ラウラ。」「その、相談なんだが…」

 

 銀髪隻眼の小柄な影が。

一夏を探し回っていたラウラがようやく目当ての相手を見つけたのだ。

その瞬間、周りの生徒達が一斉にひそひそと囁きだす。

 

「ねえ、あの子って…」

 

「昨日織斑君をアッパーでぶん殴ったドイツの代表候補生だよね?」

 

「でも私見たよ。

あの子が今朝アリーナで織斑君にジャンピング土下座してたのを。」

 

「ジャンピング土下座?!」

 

「うん。ISに乗って3回宙3回捻りから。」

 

「なにそれすごい!!」

 

「じゃあ、当人同士で解決済みって事?」

 

「そうじゃない?」

 

「じゃあ良いや、解散解散。」

 

「異議な~し。」

 

「はぁ…早くペア探さないと。」

 

 生徒達は散って行った。自分が忌避されていると受け取り、

改めて昨日の失態を恥じるラウラ。

 

「(くっ、やはりこの前の失態が響いているのか…

だが、ここでへこたれてはならん!)」

 

 それでもめげずにラウラが一夏を探し回っていた理由、それは…

 

「(このタッグマッチに優勝すれば、

イチカ・オリムラと交際する権利を得られるらしい。

ここで彼と組めば、ナノハ・タカマチと戦う機会が巡るやもしれん!!)

 

 今度のタッグマッチなんだが、私と組まないか?

専用機同士なら、きっと優位に勝ち進めると思うのだが…」

 

 確かに一理ある提案だ。だが、一歩遅かった。

 

「その…御免、ついさっき、僕とペアを組む事で意見が一致したんだ。」

 

「!!」

 

「だから…その…すまん。その話には乗れないんだ。」

 

「そ、そんな…間に合わなかったか…。」

 

 ショックの余りがっくりと膝を付くラウラだった。

 

「ら、ラウラ?!」

 

「ボーデヴィッヒさん?!」

 

「いや、大丈夫だ…しばらく、放っておいてくれないか?」

 

 何とか立ち上がると、足取りの覚束ないまま去っていくラウラだった。

 

 

 

「(くっ、この私が失態続き…どうすれば…)ん?」

 

 踏んだり蹴ったりの体で教室に戻ろうとするラウラ。

と、視界に同じく傷心の箒が入った。

 

「ホウキ・シノノノか…」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒか…見ていたぞ、見事に断られてしまったな。」

 

「ああ…私を笑いに来たのか?」

 

「いや、私もさっき同じ目にあったからな。…これからどうする?」

 

「一つ提案があるんだが…」

 

「奇遇だな。私もだ。」

 

 ラウラと箒は顔を見合わせると、何かを決心したように頷いたのであった。

 

 

 

 

 そして、いよいよタッグマッチ当日。

 

「こ、こいつは凄ぇ……」

 

 一夏が見ているのは更衣室のモニターに映っている観客席。

そこには各国政府の関係者やIS関連の研究所職員、

更には白式の製造元の倉持技研やシャルルの実家デュノア社等の

IS関連企業のスカウトマン、その他諸々の来賓が勢揃いしていた。

 

「3年生は国家や企業からのスカウト、

2年生は1年の成果の確認の為に人が来ているんだって。

1年生もトーナメントの上位入賞者はマークされると思うよ。」

 

「ふーん、そうなんだ。

でもさ…なのはさんを見たら皆どんな顔するんだろうなぁ?」

 

 確かに、ブリュンヒルデを負かした女の力を見たらどうなるのか、

興味が尽きない所だ。

 

「で、俺達は確か、ラウラ・箒ペアと2戦目で戦うんだっけ?」

 

「そうだよ。で、1戦目なんだけど…」

 

 その頃鈴音は…

 

「な……何なのよ、この組み合わせは……」

 

「リン?どうしたの…!!」

 

 鈴音はルームメイトのティナ・ハミルトンとペアを組む事になったのだが、

2人は対戦カードを見て絶句した。それもその筈、その対戦カードは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【凰鈴音&ティナ・ハミルトン】

 

VS

 

【高町なのは】

 

 

 

 

 なんとしょっぱなからなのはの相手をする羽目に。

 

「もうだめだ…御終いだぁ…」「リン、大丈夫?!」

 

「逃げるんだぁ…勝てる訳が無いよぉ…。」

 

 サイヤ人の王子のようなセリフを吐いてへたり込む鈴音。

そりゃ、毎日あれだけ扱かれている相手とぶつかる事になって、

平静でいられるはずがない。

だが、これが現実なのだ。そして非情にも時間が来た。1回戦第1試合、

アリーナではなのはが恐怖で及び腰の鈴音とティナのペアと対峙していた。

 

 勿論、なのははISを展開していないが、観客には事前に

 

「高町なのはは束の専属操縦者につき、

技量及び専用機の性能が他の1年生を大きく凌駕している為、

完全展開の禁止、及び単騎で試合に臨むというハンデを課せられている。」

 

 と言う説明がされていた為、皆至って平静だった。

 

『1回戦第1試合、凰鈴音&ティナ・ハミルトンペア対高町なのは…始め!』

 

 遂に試合開始のコール。次の瞬間、なのはの姿がアリーナから消え…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どーーーーーーーん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、アリーナ全体が震えた。

アリーナを揺るがす咆哮と共に放たれたダブルアッパーは鈴音とティナを直撃。

両機は一撃でSE切れとなり、

 

「アイヤァーーーーーーーーーー!!」「Oh, noooooooooo!!」

 

 遮蔽シールドをブチ抜くや、

天まで届くかと思う悲鳴と共に遥か天空へと飛んで行った。

 

『け、け、け、け、け、決着~~~~~~~~~~~~~~?!』

 

 余りの瞬殺ぶりにコール役の真耶も驚嘆し、思わず声が出てしまった。

だが、最早勝敗は誰の眼にも明らかだ。第1試合はなのはの勝利である。

 

『ハッ…いけないいけない…勝者、高町なのは!!』

 

「POWEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEER!!!」

 

「「「「「…………………………………………………………………。」」」」」

 

 観客は沈黙している。

本来なら勝者の姿に観客は熱狂し、賞賛するものだが、

なのはには歓声も拍手もなかった。

なのはが控え室に戻ろうとすると、観客は避けるように逃げて行った。

 

「あ、あれがISの母の専属操縦者の実力…なのか?」

 

「ISの本家本元、タバネ・シノノノの最新機…恐るべし!」

 

「最早、代表候補生程度では練習にもならんと言うのか…?」

 

 ぶっちぎりの優勝候補、

というか優勝確定であるなのはのぶっ飛んだ戦闘力に他の出場生徒、

各国の来賓、学園教師、その他大勢の誰もが震え上がった。




教員一同「やっぱり出禁にしておくべきだった…」
なのは「⌒*(◎谷◎)*⌒」
教員一同「いえ、何でもありません!」


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第13話  タッグマッチ第二試合

さあ、遂に一夏の鍛錬の成果が試される時が来ました。
相手はラウラと箒。果たして、勝負の行方は…?

尚、昨日を以て、本作はお気に入り100件、
およびUA10,000を突破いたしました、ありがとうございます!

水曜日以降は今月いっぱいまで暴走核弾頭がその本領を発揮する
オリジナル展開を予定しています。御期待下さい!!


 さあ、気を取り直して次の試合である。1回戦第2試合、対戦カードは…

【織斑一夏&シャルル・デュノア】

 

VS

 

【ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒】

 

 試合開始直前、一夏とシャルロットはピットに待機しており、

対戦相手の情報を確認していた。

 

 

 

「シャルル、ラウラのデータがなのはさんから届いたからそっちにも送るよ。」

 

「うん、解った。」

 

「それとなのはさんからの伝言で、

フェアプレーの為に向こうにも俺達のデータを送ったって。」

 

「仕方ないね。一夏、作戦は覚えてるね?

僕は箒と戦うから、その間ラウラの足止めをお願い。」

 

「ああ、あの2人には悪いけど負けられないからな。

…そうだ、そういえば聞いてなかったけど、

お前の機体ってどういうもんなんだ?」

 

「あれ?説明してなかった?僕の機体は…」

 

 シャルロットの説明によると、

機体名はR・リヴァイヴ・カスタムⅡ(以下、R・R・カスタムⅡ)、

量産機であるR・リヴァイヴから基本装備の一部を外し、

後付装備の為に拡張領域(バススロット)を倍増したモデルである。

特徴は最大20種類の武装をシャルロットの特技である

高速切替(ラピッド・スイッチ)で適宜切り替えながら戦える汎用性で、彼女が主に使うのは

 

・15.5mmアサルトカノン『ガルム』

 

・連装ショットガン『レイン・オブ・サタデー』

 

・近接ブレード『ブレット・スライサー』

 

 そして、切り札となるのが

 

・69口径(約17.5mm)パイルバンカー『灰色の鱗殻(グレー・スケール)

別名、『盾殺し(シールド・ピアース)』である。

 

 原型機こそ量産型第2世代機だがその基本性能が第3世代機並みの上

大規模カスタムの上乗せも合わせれば、

事実上第3世代機とほぼ同等のいわば準第3世代機とも言える機体だろう。

 

「へえ、いろいろ積んでるんだなぁ。

俺のは剣一振りしかないから、そういうのが羨ましいよ。」

 

「そう?沢山の武器を使いこなさないといけないから、

これもこれで大変なんだよ。」

 

「そんなもんなのか。あっ…そろそろ時間だぜ。」

 

 2人はISを展開して順番にカタパルトに接続する。

 

「俺が先に行くよ。」「うん。」

 

『カタパルトシステムオールグリーン。進路クリアー!

織斑君、デュノア君、発進どうぞ!』

 

 管制室にいる真耶の声を聞き、まず一夏が、次にシャルロットが発進する。

 

「織斑一夏、白式、行くぜ!!」

 

「シャルル・デュノア、R・R・カスタムⅡ!行きます!!」

 

 勢いよく飛び出す2人。

アリーナに降りると既に箒とラウラのペアが待ち構えていた。

ラウラは専用機のS・レーゲン、箒は量産型の打鉄だ。

 

「一夏!も、もし私が優勝できたなら、

えーと…その…私と付き合って貰うからな!」

 

「ほ、箒?!」

 

 いきなりの爆弾発言に思わず引いてしまう一夏。と言うのも、

 

『このトーナメントで優勝したペアは一夏とシャルルのペアと付き合える』

 

 という噂がまことしやかに囁かれているのだ。

まさか箒は例の噂を信じたのか?だが、彼女の言葉には続きがあった。

 

「か、勘違いするなよ!私は噂の真偽などどうでもいい!

正々堂々、実力でお前に私を認めさせたいだけだ!」

 

「…………。」

 

 実に箒らしい言葉にある意味安心した一夏であった。一方ラウラは…

 

「一夏よ、偉大なる織斑教官の弟の名に相応しい

堂々たる戦いを期待しているぞ!」

 

「あ、ああ…」

 

 と、ここでシャルロットが口を開く。

 

「あの…2人共僕には何も言う事はないの?」「「あっ…。」」

 

 何かを思い出したような顔をする2人。気まずそうに顔を見合わせると…

 

「「スマン…一夏しか見てなかった。」」

 

「(よし、箒は全力で〆よう。)」

 

『それでは、1回戦第2試合…

織斑一夏&シャルル・デュノアペア対

ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒ペア…始め!!』

 

 シャルロットが黒い笑みで危ない決意を固めると同時に、

真耶のコールで試合が始まった。

次の瞬間、一夏は正対していた箒ではなく、

ラウラに瞬時加速で吶喊し斬りかかった。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「何っ、箒に向かわないだと!!」

 

 まさか自分と相性の悪い一夏がいきなり向かってくるという事態に

一瞬平静を失うラウラ。しかし、これでも一国の代表候補生。

袈裟斬りに斬りかかる一夏の雪片弐型を即座にプラズマ手刀で受け止めた。

 

「デヤーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!!!

 

「ぐっ、このおおおおっ!!」

 

 雪片弐型を止めると、すかさずワイヤーブレードを発射。

しかし、一夏はスウェーしながらバックステップで後方に下がり、

バリアを掠めただけで切り抜けた。

 

「さ、流石は代表候補生、一瞬で反応して受けやがった…。」

 

「当然だ!『ドイツの冷氷』の異名、伊達ではないぞ!」

 

 一方、シャルロットは箒にアサルトカノンを向け、斉射を浴びせかける。

 

 VARRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!

 

「うおおっ!」

 

 結構正確な射撃で、数発程被弾してSEを奪われてしまう。

「ぐっ、汚いぞ一夏!!私と戦うんじゃないのか?!」

 

「悪いな、今のお前とチャンバラやるほど、俺の腕は戻っちゃいないんだ!」

 

「そういう事さ。悪いけど僕の相手をして貰うよ、箒!」

 

「は、謀ったな一夏!」

 

 試合は2対2ではなく、2つの1対1に分かれる様相を呈した。

 

「正対している相手に向かうと見せかけて、

敢えて違う相手に行き、相手に本調子を出させないか。成程これは妙手なの。」

 

 控え室のモニターで観戦しているなのはが感心したように頷く。

一方、管制室でも…

 

「へえ、織斑君とデュノア君、考えましたね。」

 

「ふっ、私の弟だぞ、この程度できて当然だ。

…と言いたいところだが、よくあそこまで成長したものだ。

高町め、ISの操縦のみならず教育者としての才能まであるとはな。」

 

 当然である。なのははIS誕生前から管理局で教導任務に従事している。

教官としてのキャリアは千冬の4倍にもなるのだから。

 

「確かに…高町さんが卒業したら学園の実技教官の資格を取ってほしいですね。

きっと良い教師になりますよ。」

 

「だと良いがな。」

 

 一方アリーナでは…

 

「くっ、これがなのはさんから送られたデータに有った砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)戦法か!」

 

 箒が間合いを詰めると銃火器に換装して射撃戦に、

逆に間合いを取ろうとすると剣に換装して接近戦に切り替える。

装備の呼び出しをほぼ一瞬で行える技能、高速切替(ラピッド・スイッチ)を応用し、

状況に応じて武器を使い分け、一定の間合いと攻撃リズムを保ち続ける戦法、

それが砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)だ。

 

「ぐっ!」

 

 またもアサルトカノンの15.5mm弾が右肩に着弾、

当然箒はバリアーで無傷だが、SEが残り半分を割り込む。

 

「まだだ、まだ終わらん!!」

 

 しかし、箒も諦めない。

シャルロットの射線を見切り、的確に回避しつつ剣の間合いに飛び込む。

 

「オオオオオオオオッ!」「哈ァァァアアアッ!!」

 

 シャルロットも近接ブレードに切り替え、応戦する。激しく切り結ぶが、

やはり剣捌きは箒に分があるのか、

打鉄の太刀がR・R・カスタムⅡのバリアを斬りつけ、

少なからぬダメージを与える。

 

「くっ、やっぱり箒に剣で挑むのは危険だな。

そういえば、去年全国大会で優勝してたっけ。

量産機でこれなら専用機なんか持たせたら!!」

 

 IS操縦適正こそ最下位のCランクだが、

仮にも全国大会優勝者の実力者。近接戦闘なら箒は一夏よりも強いのだ。

だが、これはIS戦。シャルロットには剣技の差を

機体の性能と操縦の腕でカバー出来るだけの実力があった。

 

「そーら!!」

 

 連装ショットガンに切り替え、至近距離でぶっ放す。

箒が瞬時に身を捻って射線から身を躱すが、

散弾がいくらかバリアーを掠めたようだ。

シャルロットはその隙に間合いを取り、

今度は右手にアサルトカノン、左手にアサルトライフルの2挺の銃を構える。

 

「求めるほどに遠く、諦めるには近く、

その青色に呼ばれた足は疲労を忘れ、緩やかなる褐色の死へと進む。

さあ追いつけるかな?砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)に!!」

 

 一夏とラウラの戦いも一進一退の様相を呈していた。

雪片弐型一本で近接戦闘を挑む一夏と、

AICでの行動封じをチラつかせながらレールカノンとワイヤーブレードで

中距離を保つラウラだが、AICには操縦者の集中力が要求される。

 

 そこで一夏は、

「ヒット&アウェイでラウラを苛立たせて集中力を奪い、AICを使わせない」

事でAICを封じる作戦に出た。

 

 確かに一夏はろくに攻撃していないが、

ラウラの攻撃もまるで一夏には当たらない。

なのはの弾幕に鍛えられた一夏にとって、

ワイヤーブレード6本とレールカノン1門の回避などお手の物。

ラウラは接近と離脱を繰り返す一夏に怒りを募らせていた。

 

「ええいちょこまかと!まともに戦う気は無いのか?!

それでもブリュンヒルデの弟か!!」

 

「へっ、悪いな!ご自慢のAICは集中してないと使えないんだろ?

だから俺はお前自身じゃなくて、お前の集中力を攻撃してやるぜ!」

 

「くっ…舐めるな!!」

 

 ならばと、6本のワイヤーブレードを発射して上下左右を封じ、

そこにレールカノンを撃ちこむも、僅かの隙を見抜いて巧みに回避する。

 

「遅ぇ!あの悪魔の弾幕に比べれば、この程度屁でもねぇよ!!」

 

「これでも当たらんのか?!何という回避力…ちぃっ!」

 

 今度こそ雪片弐型で斬りかかる一夏、

AICで止めようにも発動までの隙を考えると間に合わないと判断したラウラは

プラズマ手刀でのガードを選び、両手を交差させて刃にぶつけた。

 

「「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」

 

 ラウラは両腕を振り抜いて一夏を振り解き、至近距離でレールカノンを発射。

一夏は雪片弐型を峰打ちに返して盾とし、砲弾を弾き落とした。

 

「ぐっ…すげえ衝撃だ、直撃してたら一発で半分くらい持ってかれたかもな…」

 

 砲弾を弾いた衝撃で両腕がビリビリと痺れる。

もう一度やったらまともに剣を振れなくなりそうだ。

やはりレールカノンは受けるのではなく、回避で切り抜けるしかない。

 

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 第1試合とは打って変わっての接戦に、観客の生徒達の興奮は最高潮だ。

 

「くっ、このままではじり貧だ…」

 

 短期決戦を図っていたラウラは予想外の展開で集中力を切らしたらしく、

大きな隙を晒している。

 

「よし、今だ!…瞬時加速(イグニッションブースト)!!」

 

 勿論一夏はその隙を見逃さない。

瞬時加速(イグニッションブースト)で急接近を図る、だが…

 

「掛かったな、馬鹿め、その時を待っていたのだ!!」

 

 ピタッ!

 

 突如一夏が動かなくなった。

 

「ぐっ、しまった!!」

 

「やった、遂に捉えた!!」

 

 恐れていた事態が、一夏がAICに捕捉されてしまったのだ。

 

 ラウラは距離が離れた所にわざと隙を見せて一夏の瞬時加速を誘い、

瞬時加速中は方向転換できないという特性を利用した進路予測からのAICで

遂に一夏の行動を封じたのだ。

 

 管制室で観戦していた教員コンビも…

 

「!! 織斑君が捕まった…!」

 

「くっ、やはり!」

 

「やはり…? 織斑先生、何かご存知で?」

 

「ああ、あいつは小さい頃から、

有頂天になっていると左手を開いたり閉じたりする癖がある。

そうなると初歩的なミスを犯すことが多いんだ。

ああやっているのを見てまさかとは思ったが…」

 

「そうだったんですか…でも、今は織斑君を信じましょう。」

 

「ああ…」

 

「くっ、完全に動けねえ…」

 

 こうなってしまった一夏は最早腕一本動かすこともできない。万事休すか…

 

「勝負ありだ、もはやのがれることはできんぞ!片を付けてくれる!!」

 

 ラウラがトドメを刺そうと右肩のレールカノンを一夏に向ける。

 

「これで最後だぁっ!!」

 

 レールカノンのトリガーを引こうとした瞬間…

 

 KABOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOM!!!

 

「グワーッ!」

 

 S・レーゲンにグレネードが直撃。

体勢を崩された衝撃でAICが解けてしまった。ぶっ放した犯人は…

 

「シャルル!」

 

 言うまでもない、40mmグレネードランチャーを構えたシャルロットである。

 

「一夏、無事?!箒はやっつけた、ここからは2対1だ!」

 

「ああ、サンキュ…じゃなくてメルシー!!」

 

 シャルロットの言う通り、彼女の背後では

SE切れで行動を停止した打鉄に乗って項垂れている箒の姿がある。

 

「くっ…あれだけ大見得を切っておきながら一番に脱落とは…。」

 

 いの一番に脱落した事で落胆もひとしおだ。

 

「さあ、2対1だぜ。まだやる気か?」

 

「くっ!だが、まだ負けた訳ではない!!」

 

 レールカノンとワイヤーブレードを発射しながらなおも抵抗するラウラ、

だが平静を失った攻撃が動いている相手にそうそう当たる物ではない。

 

「何故だ!何故こちらの攻撃が当たらん!!」

 

「当たり前だ!!

俺の師匠の、なのはさんの弾幕は、こんな物じゃ済まされなかったんだぜ!!

この世で唯一人、俺が誰よりも強いと信じてる千冬姉が

手も足も出なかった人がここまで俺を鍛えてくれたんだ!そして見せてやる!!

俺があの人に少しでも追いつくために磨いた技を!!」

 

 雪片弐型を脇構えに持ち、上体を低くして前のめりになる。

その状態で最後の瞬時加速を発動。

 

「うおおおおおおおおおおおお!!!二重(ダブル)瞬時加速(イグニッション・ブースト)オオオオオオッ!!」

 

 しかし、一夏はその状態から更に瞬時加速を発動。

一気にラウラの懐に飛び込んだ。

 

「あ、あれは!!」

 

「織斑先生?!」

 

「一夏…お前…」

 

 眼前の光景に千冬が思わず身を乗り出す。二重瞬時加速。

それはかつて千冬だけが出来るとされた最強の加速法だった。

 

「二重瞬時加速…馬鹿な…あいつ…使えるようになったのか?!!」

 

「ええ?!二重瞬時加速って…」

 

「高町…奴め、あそこまで鍛えたと言うのか?!」

 

 いつ会得したのかは誰も知らない、恐らく当の本人にも解らないだろう。

だがその理由は明白だ。

なのはの弾幕を避けたいという男の一念が一夏に姉の奥義を会得させたのだ。

 

「ふっ…そうか。まさか、あいつがな…」

 

 いつしか千冬の眼から涙が、頼りなかった弟の成長が嬉しいのだ。

普段はあんなにスパルタだが、なんだかんだ言って

弟が好きで好きでしょうがない千冬がその本性を見せた瞬間である。

 

「ウリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 前のめりになっていた上体を起こしながら振り上げられた雪片弐型、

上体移動の力も加わった強力な居合抜きでS・レーゲンのアームを両断。

 

「ぐあっ…」

 

「まだ終わらないよ!!行っけえええええええええええええええええええ!!」

 

 さらにシャルロットが決戦兵器、69口径パイルバンカー灰色の鱗殻(グレー・スケール)を展開。

胴体に多大な隙を晒したラウラの腹部にぶちかまし、壁に叩きつけた。

 

 ドガッシャアアアアン!!

 

「グワーッ!!」

 

 叩きつけられた衝撃と、

アマチュアに追い詰められた屈辱で混濁した意識の中、ラウラは憤った。

 

「(馬鹿な!この私が負けるだと?一国の代表候補生である私が、

乗り始めて2か月程度のアマチュア如きに?

ナノハ・タカマチは、一体どれ程の鍛錬を施したと言うのだ?)」

 

 薄れゆく意識の中、ラウラに何者かが囁きかける。

 

『汝、力を求めるか?』

 

「力…?何の事だ?!」

 

『何者にも負けない力を求めるか?』

 

「何を言っている?!お前は誰だ!!」

 

『自らの変革を望むか?より強い力を欲するか?』

 

 謎の声はラウラに力を授けようとしている。

だが、ラウラにはそれを絶対に受け入れられない理由があった。

 

「断る!力は自らを磨いてこそ手に入る!私は織斑教官からそれを学んだ!!

願うだけで手に入る力など、有る筈がない!!」

 

『ならば、汝はあの頃に逆戻りするだろう。

出来損ないと蔑まれていたあの頃に…』

 

「そんな筈はない!今は力が及ばなくとも、

いずれ私は勝つ!放っておいてくれ!」

 

『愚かな…この結末は汝が招いた物。

そこから見ておけ、心の奥底で憧れていた絶対の力を…』

 

「止めろ、止めてくれ!私はそんな力などに頼る気は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

VT-system zu starten!!

(VTシステム、起動します!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、アリーナが震えた。

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 ラウラの絶叫が響き渡り、S・レーゲンが謎の放電に包まれると泥状に融解。

 

「や、やめろ!放せ!!、誰か、助け…」「ら、ラウラ?!」

 

 ラウラを飲み込みながら、新たな姿に。

その姿は嘗て、彼がモンド・グロッソで見た憧れの姿とまったく同じだ。

 

「千冬…姉…?なんだよ…何で…千冬姉の暮桜がこんな所にあるんだよ!!」

 

 そこにいたのはかつての世界最強。

現役時代の千冬とその専用機「暮桜」を模した漆黒の怪物だった。



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第14話  タッグマッチの後始末

第2試合が一夏・シャルロットペアの勝利で決着したと思いきや、

ラウラの専用機S・レーゲンが突然謎の変形を遂げた。

かつての千冬とその専用機「暮桜」を模したその姿に、アリーナが騒然となる。

 

「!! あれは…VTシステムだと?!」

 

「知っているんですか、雷…織斑先生?!」

 

「うむ、正式な名はヴァルキリー・トレース・システム。

過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムだ。

操縦者に『能力以上の事』を要求するその性質上、

肉体に命に係わる負荷を掛ける為、

現在はどの国家・組織・企業においても

研究、開発、使用が禁止されている危険物だ。」

 

「そ、そんな!何でそんな物が…」

 

「詮索は後だ!試合を一旦中止する!!来賓の方々を安全な所へ!!

アリーナと観客席は装甲シャッターで遮断!!

そしてIS教員にスクランブル発令!!一般教員には避難誘導を命じろ!!

それと…高町を呼べ!!!」

 

「えええっ!高町さんですか?!」

 

「そうだ、偽物とはいえあれは私だ。

鎮圧できるのは奴くらいだろう…急ぎ高町を呼ぶんだ!」

 

「はい!!」

 

一方、アリーナでは…

 

「うっおーっ!くっあーっ!ざけんなーっ!

よくも千冬姉に化けやがったな!!許さねえ!!」

 

ニセ暮桜の姿を見た一夏は怒り心頭で斬りかかろうとするが、

それを止める者がいた。

 

「一夏、落ち着け!!」

 

箒が一夏の前に立ち、制止した。

 

「箒?!止めないでくれ!!あいつは…」

 

「SEゲージを見ろ!!今の白式にSEがどれだけ残っている?!」

 

「うっ…」

 

彼女の言う通り、2回の瞬時加速と二重瞬時加速を使用したせいで、

白式の残りSEは80まで減っていた。

いくら偽物とはいえコピー元はあの千冬である。戦わば一瞬で返り討ちだろう。

 

「畜生!!」

 

「ここは先生方に任せて、私達は下がろう!

悔しいが、今の私達では歯が立たない!!」

 

一夏と言うより、自分に言い聞かせるかのように告げて退避する箒、

シャルロットもそれに続く。一夏も下がり際に改めてニセ暮桜を見る。

偉大なる姉の嘗ての栄光の姿を真似た紛い物、

断じて許せるものではない。が、今の一夏にはどうすることも出来ない。

そうこうしている内にIS教員が到着し、ニセ暮桜を取り囲む。

 

「織斑先生、目標を包囲しました!」

 

『了解しました。

しかし、あの中には生徒がおりますので手出しはしないで下さい。

救出は別の者が行います。』

 

「えっ?別のって…まさか?!」

 

『そうです。そのまさかです。』

 

IS教員達が恐怖に固まる。直後…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

これで何度目だろうか。なのはが上から降ってきた。

 

「「「「「ギャーッ!!で、出たァーーーーーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

『高町、後は貴様に任せるが良いな?!』

 

なのはは無言でサムズアップ。そしてニセ暮桜に向き合うと戦闘態勢に入った。

 

「千冬先生に崇敬の念を持っていたらしいけど、

そんな形だけの猿真似じゃ逆に貶める結果にしかならないのっ!!

…さあ掛かって来るの!!!」

 

ニセ暮桜はなのはの挑発には怯まず瞬時加速で肉薄、

雪片弐型そっくりの黒色剣で斬りかかった。

 

しかし、今のなのはに刀剣での攻撃は通用しない。覚えているだろうか?

なのはが一夏に稽古をつける際、一夏の攻撃にどうやって対応するかを…

 

「(見切った!!)」

 

なのはもニセ暮桜に接近。黒色剣の柄を掴むと…、

 

「むとうどりぱぅわぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

専用機の掛け声一下力任せに黒色剣を奪い取った。

 

「どーん!」

 

そしてニセ暮桜を峰打ちフルスイングで殴り飛ばし、壁に叩きつける。

 

「かぁ!らぁ!のぉ!でやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

更に追撃でニセ暮桜の胴体を強引に切り開き、

埋もれていたラウラを引きずり出した。

 

「意識こそないけど、脈はある…命に別状はないと見た!」

 

ラウラと切り離されたニセ暮桜は元のS・レーゲンに戻り、

待機状態へと戻っていく。なのははレッグバンド状のS・レーゲンを回収すると

素早くピットへ退却していった。

管制室から見ていた千冬は2人の無事に安堵しつつ、

S・レーゲンがニセ暮桜に変形する瞬間を確認する。

 

「どうやら片が付いたようだな…。しかし、このVTシステム…」

 

「どう見ても織斑先生のデータを使っていますよね?」

 

「ああ、恐らくはモンド・グロッソに出ていた頃の私のデータだな。」

 

S・レーゲンはドイツ製。

そして、モンド・グロッソ前回大会開催地にして

一夏が亡国機業に攫われた地もまたドイツ。

千冬は今回の事でドイツに対する疑惑を深めていったのであった。

 

「それにしても、どこのどいつがこんな危ない物を造ったんでしょうか…?」

 

次の瞬間、真耶は強烈な殺気に晒された。

 

「山田…貴様は今夜補習の続きだ。」

 

「ナンデ?!」

 

結局、学年別トーナメントは理事会の判断により1回戦だけは全試合を行うが、

2回戦以降は全て中止と決定した。

 

 

そして、その日の夕方…

 

「………。」

 

ラウラは目を覚ました。消毒液の臭いから、

自分は保健室にいると言う事を察した。

 

「気が付いたか?」

 

ふと声を掛けられ、声の方に向くと、そこには千冬がいた。

 

「教官殿…?何が…あったのですか?

私は、どうなったのですか?…ぐあっ!!」

 

ラウラは自分の寝ているベッドから上半身を起こそうとするが、

直後激痛が走り、倒れ込む。

 

「無理をするなよ。お前には全身に必要以上の負荷がかかっていたからな。

それでお前に聞きたい事がある。」

 

「何でしょうか?」

 

「重要案件であり、機密事項でもある。その積りで聞け。

VTシステムという言葉に聞き覚えはあるか?」

 

「はい。確か、ヴァルキリー・トレース・システムの略語と…」

 

「そうだ。お前のS・レーゲンにそれが搭載されていた。

お前は何か心当たりがあるか?」

 

「いいえ。…敢えて言うならば…。」

 

「何だ?」

 

「私はここに転入する前、

メンテナンスの名目であの機体を整備の者に渡していました。

そして、私は機体とは別の便で日本に来て、

東京のドイツ大使館で機体を受領したのです。」

 

「そうか…ラウラ・ボーデヴィッヒ、お前に問う。」

 

千冬は突然ラウラを呼ぶ。

 

「はい!」

 

「お前は…一体何者だ?」

 

「わ、私は…」

 

「答えられないだろう。だが、何者でもないならちょうどいい、

お前は今ラウラ・ボーデヴィッヒになったのだ。

一人の人間、ラウラ・ボーデヴィッヒにな。」

 

「は、はい…」

 

千冬は立ち上がると、去り際にこう言い残して去って行った。

 

「何をしたいのか、どうなりたいかこれからよく考えるといい。

少なくとも3年はここにいるのだ。

考える時間はある。よく悩んで答えを出せよ。」

 

その夜、NH○のニュース番組からこのような報道が入った。

 

「次のニュースです。先程ソウルから入った情報に依りますと、

韓国の国会議事堂で突如天井の一部が崩落したそうです。

幸い、死傷者は出なかったとの事ですが、原因は解っておりません。

この件に関して韓国政府は日本に対し謝罪と賠償を強く求める声明を…

あ、今速報が入りました。

 

日本政府は先程『真に遺憾である』と声明を発表しました。

繰り返します。

日本政府は先程『真に遺憾である』と声明を発表しました。」

 

 

 

 

 

そしてトーナメントの中止が決まった翌朝の事。

なぜかシャルロットが不在のままSHRが始まった。

そして昨夜千冬に〆られたばかりの真耶が

何とも言えない表情で教卓に立っている。

 

「えー、えーっと…きょ、今日は皆さんに転校生?といえばいいのかな?

を紹介します…。」

 

転校生という言葉が疑問系なのは如何いう事なのか、

その理由を知っている織斑姉弟は顔が綻んでいる。

そしてシャルロットの席は空席だ。

これはどういう事だろうか?クラスの皆が首をかしげる中…

 

「ど、どうぞ~。」

 

真耶の言葉と共に入ってきたのは金髪の女子生徒だった。

正体はもうお解りだろう。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします!」

 

「な…」

 

「な……」

 

「ナンダッテーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー?!」

 

クラス中が絶叫した。

一夏となのは以外のクラスの誰もが今まで彼女は男だと思っていたので、

実は女子だったと知り、驚天動地の事態に。

 

「ま、まさか美少年じゃなくて美少女だったってなんて…」

 

「玉の輿がぁぁぁ…」

 

「これがホントの男装の麗人…」

 

「おかしいと思ったら、こういう事だったのかー。」

 

「って、あれ?今のデュノアさんのルームメイトって織斑君だから…」

 

「って言うか、昨日って男子が大浴場を使えるようになって、

その時デュノアさんも…」

 

とクラスがざわついていると…

 

ドドドドドド…ガラッ!!!

 

「いぃちかぁああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

「おぉおりむらせんせえええええええええええええええええええええい!!!」

 

突如教室のドアが開けられ、鈴音を先頭に何人かの教員が乗り込んできた。

 

「織斑先生!!どういう事ですか?!」

 

「納得いく説明を求めます!」

 

「男女を相部屋なんて、何か事があったらどう責任を取るつもりですか?!」

 

「先生方落ち着いて下さい!この件は…」

 

千冬が何とか先輩達を宥め透かしているが、

その背後では何処から出したのか木刀を構えた箒が

その切っ先を一夏に向けている。鈴音も臨戦態勢だ。

 

「一夏…覚悟はできてる?」「ハイクを詠め、カイシャクしてやる。」

 

「ちょ、ちょっと待って!説明位させて!!」

 

「言い訳無用!!」「天誅ぅぅううう!!」

 

ISを使えば周りに被害が出ると考えるだけの理性は有ったのか、

鈴音はドロップキックで一夏に飛びかかった。同時にに箒も木刀で殴りかかる。

しかし、どちらも一夏に当たる事は無かった。

 

ガシッ!!

 

一夏の前に現れたラウラが鈴音を腕でブロックし、

箒の木刀はもう一方の手で受け止められた。

 

「た、助かったぜラウラ、ありが…むぐ!?」

 

次の瞬間、ラウラはお礼を言おうとした一夏の唇に自分の唇を強引に重ね、

こう宣言した。

 

「『異性を傷物にした罪は、相手を嫁とすることでしか償えない』

と母国で教わっている。よってお前を私の嫁にする!

決定事項だ、異論は認めん!これは私なりのケジメと思ってくれ!」

 

「よ、嫁ぇぇぇえええ?!」

 

騒然となる教室。よりによってラウラが抜け駆け同然に

一夏のファーストキスを奪ったのだから仕方なかろう。

と、そこに救世主が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ達、いい加減にしなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如何者かが教員達の背後から一喝した。その声に教員達が振り返ると…

 

 

 

「げぇっ!!日高主任!!」

 

 

 

そこにいたのはギリギリ20代の見るからに肝っ玉な女教師、

その名は日高舞。IS学園1年の学年主任である。

 

「ひ、日高主任、聞いて下さい!!織斑先生は…」

 

「その件なら学園長も既に承知済みよ!!

尤も、バレた以上また変えなきゃいけないけどね…

とにかく!!この件に文句のある先生は学園長に直接申し立てる様に!!」

 

「「「は、ハイ…」」」

 

「さあ、授業に戻りなさい!ほら、そこの2組の子も!」

 

「…はい。」

 

と、舞の鶴の一声で場は収まり、教員達と鈴音は戻って行った。

 

「日高主任、助かりました。」

 

「なーに、良いって事よ千冬ちゃん。」

 

「う…そのちゃん付けはやめて頂きたいのですが。」

 

「何言ってんのよ、まだまだ教員としては新参なんだから、

もっと経験を積みなさい!(大笑」

 

「はぁ…恐れ入ります。」

 

日高舞、彼女は教育実習生時代の千冬の教育係を務め、

世界でも稀有な千冬に上から物を言える女であった。




韓国…強く生きろ。
でもあと2回やったらフラグ回収だから、気を付けてな…。
次回、暴走核弾頭が遂にその本領を発揮する…!


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第15話  のどかな昼休み…と思っていたのか?

さて、ここからはオリジナル展開です。
我等が暴走核弾頭が遂にその本領を発揮。
なのは専用機の全貌が明らかとなるのも間近です。


 で、それから数日たったある日の事…

時刻は昼休み。一夏はセシリア、箒、鈴音と共に学園屋上の芝生に座っている。

シャルロットとラウラはなのはと共に食堂で食事中だ。

 

「どういう事だ…?」

 

 箒がしかめっ面で一夏に問いかける。

 

「大勢で食った方が、うまいに決まってるって。」

 

「そ、それはそうだが…」

 

 と言いつつも、セシリアと鈴音の間に火花を散らす箒。

鈴音が背後に隠し持っていた弁当箱を開ける、中身は一杯の酢豚であった。

 

「おお、酢豚!!」

 

「ふっふっふ~、今朝作ったのよ。食べたいって言ってたでしょ?」

 

 と、そこへ…

 

「すぶたのにおい~。」

 

 フヨフヨフヨフヨ~…。

 

「げっ…。」

 

 このメンバーにとってある意味千冬よりも恐ろしい存在、

待機状態のなのは専用機が酢豚のニオイにつられてやってきた。

 

「じ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ。」

 

で、目を付けるなり、鈴音の酢豚をジーッと見つめている。

 

「何よ。アンタも咕咾肉(酢豚)食べたいの?」

 

「むりなの。わたしはあいえすだから、

にんげんのたべものはたべられないの。でも…」

 

「でも何よ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、ぱいなっぷるがないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァァアアアア?!パイナップルゥ?アンタ頭大丈夫?!

ちょっと修理して貰った方がいいんじゃない?!」

 

 なのは専用機にパイナップルが無い事を指摘されてキレる鈴音。

彼女は反パイナップル派なので、親パイナップル派のなのはの影響で

「食べられないくせに親パイナップル派」のなのは専用機とは

不倶戴天の敵同士であった。

 

「わたしはしょうきなの!!

すぶたはぱいなっぷるがあったほうがおいしいことは、

かがくてきにしょうめいされてるの!!」

 

「そんなの信じると思ってるのこの凡骨!!AIバグってんじゃないの?!」

 

「うるせーの!!もんくがあるならすずねだけだんまくごばいなの!!」

 

「私はリンイン!!スズネって呼ぶなー!!」

 

 と、侃々諤々の言い争いに発展。

 

「い、一夏さん?あのスブタ論争は放っておきましょう。

ささ、ワタクシも今朝、偶然早起きして作りましたの!」

 

 それを尻目にセシリアがバスケットを開ける。

中身は色とりどりのサンドイッチだ。

 

「連合王国にも美味しい物が有ると言う事を

一夏さんにも知って頂きたく用意致しましたの。」

 

「へえ、言うだけはあるな。それじゃ、これから…」

 

 物は試しにと一夏が一つほおばる。次の瞬間…

 

「ーーーーーッ!!??」

 

 一夏はみるみる青ざめ、顔中に汗が。見てくれこそ素晴らしいが、

肝心の味はものの見事にグレートブリテンクォリティだった。

 

「如何です?遠慮しないでどんどん召し上がって下さいまし。」

 

「い、いや…後にするよ。次は、箒のを。」

 

「私か?私のは、これだ。」

 

 箒が弁当箱を開ける。中身はごく普通の弁当だが、手が込んでそうだ。

 

「おお、凄ぇな。手が込んでそうだ!」

 

「ぐ、偶然だからな!これは、あくまで私が食べる為の物だぞ!」

 

 だが、その顔は満更ではなさそうだ。

 

「そうだとしても、俺は嬉しいぜ!それじゃ、頂きます!」

 

 一夏はから揚げを一口。それを緊張の面持ちで見つめる箒。

 

「…ウマっ!!」

 

「!!」

 

「やっぱ、手が込んでたんだな!」

 

 一夏に褒められて、箒もうれしそうだ。と、ここで箒がこう切り出した。

 

「所でオルコット、前ーから聞きたい事があったんだ。」

 

「何ですの?」

 

「お前はいつの間に一夏と仲良くなったんだ?」

 

「そうでしたわね。それでは、ワタクシの過去からお話ししましょう…。」

 

 そして語り出すセシリア。

それによると、彼女の父エドワードは婿養子という立場上、

妻であるキャサリンに卑屈な態度で接していた為、

彼女は情けない父親に対し憤りを覚えながら幼少期を過ごしたと言う。

しかし両親は12歳の時に列車事故で揃って死去。

 

 親の跡を継いでからは、金に目の眩んだ周囲の男共から目を付けられ、

セシリアは家と遺産を護る為に勉学を重ねた。

 ISの国家代表候補生になったのも、

政府に両親の遺産を保護してもらう為である。

 この様に彼女の周囲には碌な男がおらず、

入学時点の彼女は男性不信に陥りかけていた。

 

 しかし、一夏に出会ってその認識が変わる。

代表決定戦の時一夏は圧倒的不利にも関わらず果敢に攻め込み、

見事ドローに持ち込んで見せた。

 そしてその姿を見たセシリアはこう結論付けた。

「一夏こそ、自分が考える理想の男性像」と。

これにより、セシリアは男への悪印象を払拭したのである。

 

「そうか…嫌な事を思い出させてしまったな。すまんかった。」

 

「良いのです。

おかげでワタクシは素敵な男性と巡り会えたのですから…。(ポッ」

 

「……………。(ムカッ)」

 

 のろけるセシリアを見て機嫌を損ねる箒。それを見た一夏が話題を変える。

 

「でも、まさかあいつが女だったなんて夢にも思わなかったよ。

初めて聞いた時は驚いた驚いた。」

 

「ああ、デュノアの事か?まさか男装の麗人が実在するなど、

夢にも思わなかったぞ。」

 

「そうですわね。」

 

「なあ、それにしても…」

 

「ん?」

 

「あの馬鹿共はいつまでああやってるんだ?」

 

 一夏とセシリアが箒が指差した方を見ると…

 

「むぎゅううううううううううう~。」「んぎゅううううううううううう~。」

 

 ギュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ…

 

 互いに頬を抓り合う鈴音となのは専用機。

 

「…………放っとこうぜ、何か楽しそうだし。」

 

「ひょっ、いひは!みへないへひゃふへへ~!」

(ちょっ、一夏!見てないで助けて~!)

 

 

 

 と、そこに風雲急を告げる者が。

 

「織斑君!!セシリア!!大変だよ!!」

 

 突如、背後から声を掛けられた。振り返ると1組の同級生で

セシリアのルームメイト、相川清香が息急き切った様子でそこにいた。

どうやら、屋上まで駆け足でやってきたようだ。

 

「ああ、相川さん…どうしたんだ?」

 

「そ、それが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今学園にドイツ軍の人が来て、

ボーデヴィッヒさんを連行しようとしてるの!!」

 

「「「「!!!!」」」」

 

 

 

 その頃、ロビーではドイツ軍1個中隊が千冬と真耶、

1組の生徒達と相対していた。

 

「貴様等…もう一度言え、ボーデヴィッヒをどうするつもりだ?!」

 

 千冬が隊長らしい士官に怒り気味に問い詰める。

 

「ヒヒヒ…先程言った通りですよ。(逮捕状を見せて)

少佐殿と彼女の部下の黒兎隊にはVTシステム開発への関与、

及び同システムの使用の罪でICCより逮捕状が出ていましてね。

速やかに引き渡し…いや、其方が引き渡さずとも連行させて貰いますよ。」

 

 オールバックに跳ね上がった口ヒゲ、爬虫類系の人相が特徴のこの士官、

名をヨルギオス・ゲルドといい、

今回学園に派遣されたドイツ軍中隊を率いる大尉だった。

 

「ち…織斑先生!この人達は一体…」

 

「な、何でドイツ軍が来てるんですか?!」

 

「織斑…それに篠ノ之とオルコットか。

こいつらは例のニセ暮桜の件でボーデヴィッヒを捕えに来たらしい。

あいつはドイツ陸軍特殊部隊『特殊作戦コマンド(KSK)旅団』に所属する現役士官でな、

今はKSK指揮下のコマンド中隊『黒兎隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)』の隊長をやっている。

第2回大会で一夏が誘拐された際、連邦軍は救助に協力してくれたので、

私はその礼として昨年1年間、連中にISを教えていたんだ。」

 

「現役の…軍人…!!」

 

「アラスカ条約なんて…どこ吹く風なのですね。

連合王国も人の事は言えませんが。」

 

「さて…おい、ゲルド大尉と言ったな?改めて確認するが、

この件について束…いや、篠ノ之博士から報告書が届いている筈だ。

それはちゃんと読んだのだろうな?」

 

 千冬の言う通り、回収したS・レーゲンのコアは無事だったので、

なのはから連絡を受けた束はISコア・ネットワークを用いて

VTシステムに関する記録を洗い出していた。その結果…

 

「AIの時計を調整して日時を誤魔化していたようだが、

S・レーゲンにVTシステムが搭載された日時は、

機体が日本に届いた後だったらしいな。

しかも、ボーデヴィッヒがまだ日本行きの機内にいた時間帯のな。

 

おまけに発動条件も本当なら

操縦者の精神的窮地、重度の機体損傷、本人の意志及び願望の3つの筈が、

一定以上のダメージを受けた場合自動的に発動する様に細工されていたそうだ。

しかも本人は明確に『拒絶』した事は音声記録で明白。

貴様等…そうと知った上であ奴を連行するのか!!」

 

「ヒヒヒ…あの様なテロリストの報告書、信用する価値があると思いますか?」

 

「何だと…!」

 

 千冬がどこからともなく真剣を取り出して柄に手を掛ける。

いくら確執があっても、20年の付き合いがある親友の名を

無碍にされて怒らない訳が無い。しかし…

 

「止めなさい、織斑先生!」

 

「!」

 

 後方から声が、振り返るとそこには全身真っ黒の男がいた。

 

「あ、貴方は…高木理事長?!」

 

 彼こそIS学園理事長、高木順一朗その人だった。

 

「理事長!一体どういう事ですか?!私が受け持つ生徒の一人が…」

 

「その件は既に聞いている。篠ノ之博士が好意で報告書を造ってくれた事もな。

だが、まさかこのような事になろうとは…」

 

 予想外の事態に高木理事長自ら駆けつけてきた様だ。

そこにシャルロットも合流する。

 

「先生、ラウラさんが…!って、この人達は?!」

 

「こいつらはVTシステムの件でボーデヴィッヒを捕えに来た連邦軍だ。

高町の依頼で束が自ら調べ、

『ボーデヴィッヒは無関係』と調査報告書を送ったにも関わらずな!」

 

「そんな…」

 

「ゲルド隊長、ボーデヴィッヒ少佐の身柄を確保しました!

ISも既に回収済みです。」

 

連邦軍の憲兵隊がラウラを拘束して連れてきた。

 

「くっ…。」

 

「アンタ!濡れ衣でラウラを捕まえようっての!」

 

「この恥知らず!!」

 

「何て卑劣な真似を…」

 

代表候補生3人組がISを展開しようとするが、千冬がそれを制した。

 

「よせお前達!自分の立場を考えるんだ!」

 

「そんなの、どうでもいいわよ!」

 

「クラスメイトの命が懸っているのに、国なんて!」

 

「同級生の命の方が、今の地位よりよっぽど大事ですわ!」

 

「ダメだ!現役の代表候補生であるお前達が外国の事件に介入すれば、

大変な国際問題になってしまう!!」

 

千冬は全てを察していた。こいつらの更に上の連中、

恐らくはドイツ連邦軍の参謀本部若しくはドイツ国防省が

トカゲの尻尾切りとして責任をラウラに負わせようとしているのだと。

 

そして、国の代表に成りうる代表候補生達は国から相応の地位を得ている身。

そんな人間が他国の軍の事件に介入すれば、

内政干渉として何らかの抗議を受けかねない。そうなったら一大事所ではない。

故に、手出しはしないだろうと踏んで乗り込んできたのだ。

 

「そんなこと言ったって、放っとけるかよ!!」

 

「お、おい、一夏、よせ!」

 

千冬の制止を振り切り、一夏が白式を展開。

ラウラを連れ戻そうと、瞬時加速で向かっていく。

 

「許せねえ!ラウラを放しやがれーっ!」

 

雪片弐型を片手に突っ込むが…。

 

「させん!」「うわ!!」

 

前方から謎の光線が一夏に命中、一夏は弾き飛ばされた。

そう、学園側が摘み出そうとISを出して来た場合に備え、

向こうにもISの用意が有るのだ。

 

「動くな!!」

 

 

 

ドイツ兵の後方から現れたのは一夏以上の長身に銀髪のストレート、

両目の赤い軍服の女だった。服装から言って高位の士官だろう。

 

「貴様は…ブレスか!」

 

彼女の名はセルベリア・ブレス。ドイツ連邦軍の大佐であり、

同時に千冬、そして第2回優勝者のイタリア代表に次ぐ世界ランク3位、

いや、千冬が引退した今では事実上の世界第2位の強者。

青い魔女(ブラウ・ヘクセ)」の通称で知られるドイツの現国家代表操縦者の1人だ。

 

「残念だったな千冬。貴様等が抵抗した時に備えて、

私も一緒に派遣されていてな。万一抵抗すれば、

ボーデヴィッヒ諸共射殺しても構わんとの命令を受けている。

無駄な抵抗はしない事だ。」

 

彼女がいたのでは学園側に勝算は無い。

学園にある30機以上のISを全て引っ張り出して抵抗しても、

まず歯が立たないだろう。

 

「ぐっ……!」

 

千冬達に多数の銃口が向けられると、千冬は観念して真剣を取り落した。

 

「畜生…ラウラーッ!!」

 

「暴れるな!」

 

一夏がラウラを呼ぶが、すぐに取り押さえられゲルドに頭を踏みつけられた。

 

「ヒッヒッヒ…残念でした。」

 

「貴様!一夏に何をする!!」

 

「おっと、変な事をすればこの場で殺しても良いんですよ?」

 

「ぐっ…」

 

「同級生共に言っておく。今のうちに別れの挨拶でもしておけ、

こ奴は連邦へ送還次第、軍法会議にて部下共々処断する。…連れて行け!!」

 

「はっ。」

 

その声で憲兵隊とラウラを連行していく。

千冬も生徒達も、それを黙って見ていることしかできない。

いや、本当にそうなのか?

 

 

一夏は思った。こうなったら、最後の手段を取るしかない。

だが、これをやってしまえば何が起こるか解らない。死人が出るかも知れない。

事が終わった後学園が残っているかも怪しい。

最悪、本当に戦争になるかも知れない。でもこうするしかない。

ラウラを助けられる方法は、もうこれしかない!

 

一夏は踏みつけられていた頭を必死に上げ、ロビー中に響く声で叫んだ。

 

「なのはさぁーーーーーん!!敵だーッ!!助けてくれェーーーーーッ!!!」

 

そして、それはやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

 突如上から降って来る影。そう、こんな登場をするのは彼女しかいない。

 

「「「「「な、何だァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ?!」」」」」

 

 当然、セルベリアも予想外の事態にびっくり仰天。次の瞬間…

 

 ガシッ!!

 

「はへ?」

 

 上から降って来た何者かがゲルドの胸倉を引っ掴むと…

 

 ボゴバキゴキベシズゴゲシバゴドムベチベゴミシグキドゴズドォ!!

      

「ギョベクリテペェーッ!!!」

 

 凄まじい打撃音とゲルドの珍妙な悲鳴が木霊する。両者が収まった後には…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………………………………………………。」

 

 ボッコボコにされた無惨な姿のゲルドと、それを踏みしだいて立つ

我等が暴走核弾頭、高町なのはだった。

 

「「「「「で、出たァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

 1組の生徒達は殆どが一斉に逃げ出し、教員達は震え上がった。

この後何が起こるのか予想がついてしまったのだ。

 

「そ、そうだった…今の学園にはこの人がいるんだった…」

 

「な、何と言う事だ…。」

 

「最悪だ…最悪の事態になってしまった…!!」

 

「き、貴様…何者だ?!」

 

 セルベリアが問うや否や、なのはは振り返ると…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヽ⌒*(#◎谷◎)*⌒ノ┌┛)`Д゚)・;'

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐはっ!!」

 

 突如なのはがセルベリアの眼前に出現。セルベリアを蹴っ飛ばした。

 

「「「「「!!!!」」」」」

 

 強烈な一撃で吹っ飛ばされるセルベリア。

いきなりの暴挙にその場の全員が仰天した。

 

「き、貴様、いきなり何をする!!」「ええい、奴を撃て!」

 

 ドイツ兵が一斉になのはに銃を向けた瞬間…

 

「おら!!!」

 

 ドギュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥウウウン!!

 

「「「ウーワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」

 

 巨大光線で兵達を吹っ飛ばすと、

ラウラと一夏を専用機のアームで掴み、千冬に放り投げた。

 

「一夏、ボーデヴィッヒ!!大丈夫か?!」

 

「あ、ああ…」

 

「何とか…」

 

「き、貴様…何のつもりだ!」

 

 ガッ!!

 

 なのはは有無を言わさずセルベリアの胸を掴むと、

次の瞬間、信じられない行動に出た。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 ビリビリビリィ!!!

 

 なのはは軍服を力任せに引きちぎり、

セルベリアの真耶をも凌ぐ乳房を衆目に曝したのだ。

 

「ギャーッ!!な、なにをする きさまー!」

 

 堪らず悲鳴を上げるセルベリア。

周囲からはその光景に感嘆の声が上がった。

 

「おお…プルンプルン…。」

 

「ナイスおっぱい…。」

 

「アタシも…頑張ればいつかはアレ位に…。」

 

「「「「「いや無理だろ。」」」」」

 

 

 

 

 

「おかしいなあ…連邦軍は揃いも揃ってどうしちゃったのかなぁ?」

 

 セルベリアの乳を揉みしだきながら、

いつもとは打って変わって大人しい口調で話すなのは。

 

「法を違えたから誰かが裁かれるのは解るけど、彼女は被害者なんだよ?

被害者が裁かれるなんて絶対に有ってはならないの。」

 

 なのはには信念がある。それは「冤罪を絶対に許さない」。

彼女はかつてテレビのインタビューに対し、

「自分が最も嫌いな言葉のベスト3は、『冤罪』『濡れ衣』『無実の罪』」

と答えていた。なぜなら、冤罪は絶対に償えない罪だからだ。

犯してもいない罪をどうして償えようか?

 

「束さんが調べて報告書を出したのに、

こんな蜥蜴の尻尾切りをしてたら法律の意味が無いじゃない。

ちゃんと専門家の言う事を聞くの。束さんの言葉が信じられないなら…」

 

 なのはには信念がある。この世で最も邪な者は人に冤罪を着せる者であると。

そして結論付けた。それは今この場にいるこいつらの事だと。

 外交問題?知った事か。全面戦争?上等だ。

起きる物なら起きてみろ。私が全部片づける!故にやる事はただ一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P⌒*(◎谷◎)*⌒

 

少し頭冷やそうか…?

 

 

                  

 

 

 

 

 

 

 

 なのはは親指を立てて喉元で横に引き、サムズダウンした。 

妥協などない。全力全開で叩き潰す!

 暴走核弾頭、高町なのは。たった一人の戦争が始まった。




本来ならこんな事に成ってもおかしく無いんだろうけど、
何故原作では何も起きなかったのだろうか?
大方、束が裏で真相をバラすぞとか
何とか言って脅していたから…なんだろうな。

次回、遂に起爆した我等が暴走核弾頭。しかし、その前には
偉大なる先人達が絶対正義の御旗の下に立ちはだかる。
そして遂に明かされるそしてなのは専用機の全貌。
果たして、なのはの運命は?


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第16話  立ちはだかる先人達

さあ、遂になのは専用機がその名を明かす時が来ました。
しかし、なのはの前には今年でデビュー20周年を迎えた
強大なる正義の先人達が立ちはだかります。
果たして、なのはは勝てるのか…?


 突如学園に現れたドイツ軍。それは蜥蜴の尻尾切りを画策したドイツ本国が

ラウラをVTシステム開発の関係者

及び使用者として捕縛せよという命令による物だった。

 

 しかしラウラを連行しようとした矢先、

我等が暴走核弾頭、高町なのはが立ち上がった。

一夏を踏み台にした不届き者に瞬獄殺をぶちかますや否や、

ドイツ代表操縦者セルベリア・ブレスを蹴っ飛ばした揚句、

躊躇なく乳を晒し、正面切って宣戦を布告したのであった。

 

「うおおおおおおお!!全員纏めて掛かって来るが良いのおおおぉぉーっ!!」

 

ドギュルルルルゥウン!!ドギュルルルルゥウン!!ドギュルルルルゥウン!!

 

「「「「「うわあああああああ来るなあああああああああああ!!!」」」」」

 

 光線をぶっ放しながらセルベリアを追い回すなのは。

セルベリアは手で胸を隠しながら逃走。他のドイツ兵も一斉に逃げ出した。

仮に同僚が完全にキレた今のなのはを見たら即座に逃げ出すだろう。

しかし、このままでは大惨事どころか第三次世界大戦になりかねない。

高木理事長が間に割って入りなのはを止めに入った。

 

「おい、君!よせ!!国家代表操縦者への暴力行為は犯罪どころか…」

 

「戦争の邪魔なの、このクルピラ野郎!!!!」

 

 ボゴォ!!

 

「ぶぎゃ!!!」

 

 そして、なのはにラリアット一発でKOされた。

 

「ちょおおおおおおっ!理事長ぉーっ!!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!待ちやがるの極悪非道の犬畜生共!!!

この場で叩き潰して力づくで冤罪を晴らすのおおぉぉーっ!!!!」

 

 改めて明記するが、同僚が今のなのはを見たら絶対に逃げ出している。

こうなったなのはは絶対に妥協も譲歩もしない事を知っているからだ。

そんなこんなで逃げるドイツ軍を追って校舎を飛び出したなのは、

もうどうなっても知ーらない。

 

「…な、何だったのあの生徒は?」

 

「主任、奴こそが私に土を付けた人類初の女、高町なのは。

通称『暴走核弾頭』です。」

 

「………………………。」

 

 

 

 一方、校舎外では…

 

「うおおおお!!!この消費期限切れの乳牛と取り巻き共めら!!!

喉が詰まるまでサワーキャベツを口に詰め込んでやるのおぉぉっ!!!」

 

「そうだそうだー!!ついでにはなにそーせーじをつめてやるー!!」

 

「たーすけてー、たーすけてー!!!」「悪魔が、悪魔が追って来る!!」

 

「ええい、何なんだあの気狂いは?!何であんな奴がこんな所に居るんだ?!」

 

 光線を乱射しながら逃げ惑うドイツ兵を追い回すなのは。

完全に殺る気満々である。だが、彼女に最大のピンチが訪れようとは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「そこまでよ!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん?」

 

 突如割って入る何者かの声。なのはが目を向けると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「国際刑事警察機構(ICPO)IS犯罪対策課(ICD)飛行隊、参上!!」」」」」」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのはICPO-ICD

(IS Crime Division=IS犯罪対策課)

の英字が刻印された色とりどりの6機のIS、

R・リヴァイヴの特別強化版、R・R・ICDモデルだ。

 

「た、助かった!!ICPO-ICDの飛行隊だ!!」

 

「違法システムを使用した犯罪者をかばい立てするのみならず、

国家代表への暴行とセクハラ行為、我等ICPO-ICDが許さ…」

 

「Divine buster FIREEEEEEEEEEEEE!!!!」

 

 ドギュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥウウウン!!

 

 なのはは十八番のディバインバスターをICPO-ICD隊員に発射した。

 

「「「「「「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」」」」」」

 

ディバインバスターは隊員を直撃、全員アリーナへ吹っ飛ばされた。

 

「おいいいいいいいいい?!インターポールのIS隊にも容赦なしかよ!!」

 

「こ、コイツ…真正のマ○キ○だった…」

 

「うおおおおおおおおおお少し頭冷やしてやるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 なのはは更に怒りを高ぶらせ、飛ぶ様にアリーナへと向かっていった。

 

「た、助かった…おい、お前達、早く私の着替えと専用機の用意をしろ!!」

 

「「「「「ヤー!!」」」」」

 

 

 

 そして、十数秒後のアリーナでは…

 

「う…ぐ…」

 

「な、何だったんだアイツは…」

 

 アリーナに吹っ飛ばされたICPO-ICD隊員が何とか起き上がると…

 

 

 

 

 

 

 

「なのおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

「「「「「「うわあああああああああああああああああ!!!!!」」」」」」

 

 例によってなのは降臨である。しかも、今度は怒り核爆発モードで。

 

「うおおおおおおお!!よくも割り込んでくれやがったのこの犬畜生共!!!

ジャガイモ共の口車に乗って冤罪と解ってて捕まえるなんて絶対許さないの!!

そんなだから黄色い電気鼠一味と楽園の素敵な巫女一派に

知名度で大負けしてミリオン一つ出せずに

ナンバリングタイトル5作で製作チームが解散したのが解らないの?!!

明治生まれのスチームパンカー共は舞台女優にでも転職して

モギリとイチャついてればいいの!!

文句があるならセガ○ターンに引っ込んでから言うのおおぉぉーっ!!!」

 

 隊長格の胸倉を引っ掴むと、ブンブン揺さぶりながら

意味不明の罵声を浴びせるなのは。怖い。

 

「ちょっ、貴女何言ってるの?!全然意味が解らな…」

 

「ならば揉みしだくの!!!」

 

「ナンデ?!!」

 

 言うなり、隊長格の胸を鷲掴みに。

 

「ギャーッ!!何処触ってるのよ!!!」

 

「おっぱい!!!」

 

「言わなくて良いわよ!!」

 

「乳!!!」

 

「何で言い直すのよ!!」

 

「揉みしだく為なの!!!さあO☆HA☆NA☆SHIなの!!!」

 

 容赦なく揉みしだくなのは。隊長格の女は堪らず悲鳴を上げる。

 

「イヤァァアアアア!!誰か助けてぇーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 

「ウオオオオオオオオオーッ!!テメエ何してんだコラーッ!!!」

 

 たちまち残りのICD隊員が飛んできた。仕方がないので手を離すなのは。

 

「チッ、さすが正義の味方は行動が早いの!その辺りは称賛されるべきなの!」

 

「ドイツ代表だけで飽き足らず、今度は隊長へのセクハラまで…許せない!!」

 

「もう言い逃れはできへんで、覚悟しぃや!!」

 

「やる事為す事正義のヒーローチームその物なの!!!

でも本物だから仕方ないの!!!」

 

「誰が正義のヒーローチームですって?!私たちは女よ!お・ん・な!」

 

「そうやそうやー!法の番人をナメたらアカンで!」

 

「私達は警察官です!!アニメやゲームのキャラと一緒に…」

 

「違うのッッッッ!!!」

 

 いきなり大喝してICPO-ICD隊員を黙らせるなのは。

なのはは彼女達が何者かの確信があったからだ。

彼女達の正体はアレしかない。そう信じて疑っていなかった。

 

「私はそっちを知っているの!!ICPO-ICD飛行隊、否…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝      国      華      撃      団      !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その通り、ICPO-ICDの飛行隊員達はどう見ても

デビュー作が今年で発売20周年を迎える彼の帝国華撃団そっくりだったのだ。

だが、どうも様子がおかしい。

 

「「「「「「………………………………………………………はぁ?」」」」」」

 

 互いに顔を見合わせ、一斉にこの反応である。

 

「ていこく…かげきだん???」

 

「何ですか、それ?美味しいんですか?」

 

「アナタ、私達を誰かと勘違いしていマース!!」

 

「流石の私もこれは引くわ…」

 

「どうせあれだろ?ゲームのキャラと勘違いしたとか。」

 

「ゲーム脳って奴やろ?怖いわー、マジで怖いわー。」

 

 若干馬鹿にした反応を返されるなのは。だがなのははそんな態度を許さない。

 

「惚けても無駄なの!!こっちは知っているの!!

何なら名前を言い当ててやるの!!」

 

「な、何ですって?!」

 

 なのはは隊員を左端から順番に指差して、名前を読み上げ始めた。

 

「北辰一刀流の使い手、みんなの鬼嫁、真宮寺さくら!!」

「お、鬼嫁?!酷い!!まだ独身なのに!!」

 

「人の名前を覚えられない神崎風塵流の薙刀使い、神崎つ…すみれ!!」

「ちょ、今つみれと言いかけませんでした?!」

 

「寝る時は全裸の銃使い、マリア・タチバナ!!」

「何で知ってるのよ?!ハッ…さては見たわね?!この変態!!」

 

「仲間外れのロケラン使い、元祖チャイナボカン、李紅蘭!!」

「誰が仲間外れや!!」

「両親共に日本人じゃない!!残りは皆どっちかが日本人!!」

「ごもっともー!!」

 

「197cmでB93とか、ド貧乳にも程が有る桐島カンナ!!」

「ああ!一番気にしてる事を!!ってか何で身長と胸囲を知ってんだ!!」

 

「そしてレーザー使いの…アカの手先のおフェラ豚!!」

「ワタシだけ扱いが酷いデース!!

ちゃんとソレッタ・織姫という名がありマース!!」

「『赤い貴族』なんてコテコテの通り名を持つ方が悪いの!!

この時代遅れのヘタリアン!!!」

「ヒック、グスッ、ヒッグ…」

 

織姫は泣きだした。そして残りの隊員達は顔面蒼白に。

 

「ぐっ、まさか名前どころかプライベートまでも言い当てられるなんて…」

 

「何て奴…!」

(この学生、危険すぎる!早めに捕縛、いや、最悪殺害もやむを得ない!!)

 

「これでもまだ言い逃れをするの?!!大人しく白状するの、帝国華撃団!!」

 

「ちーがーいーまーすー!」

 

「誰が何と言おうが私達はICPO-ICDのIS飛行隊よ!!」

 

「変な渾名を付けんといてー!!!」

 

「どっかの劇団と勘違いされるから、そのあだ名やめろー!!」

 

「そうだそうだー!」

 

「妄想の中の正義のヒーローチームと一緒にしないで欲しいデース!!」

 

全力で否定するICPO-ICD飛行隊員、だがその様な態度は逆効果である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

やるかBBA!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」」」」」」

 

 ICPO-ICD隊員はド迫力の大喝に涙目になって震え上がった。

 

「こっちが黙って聞いてれば、どこまでも性根の腐った豚野郎の如き物言い…

断じて許さないの!!」

 

「ナンデ?!!」

 

「酷い!!豚野郎は無いでしょ、豚野郎は!!」

 

「こっちは仕事してるだけなのに!!」

 

「そうだそうだー!

そっちこそ違法システム使用の実行犯を庇うなら承知しねえぞー!!」

 

「いい加減、犯罪者の肩を持つような言動はやめなさい!!」

 

「断るの!束さんの報告書を踏み躙り、

冤罪と知ってて逮捕しようとする犬畜生には断じて屈しないの!!

こちらの言い分も聞かず、遠慮会釈の無い先制攻撃を仕掛けた時点で

話し合う気は無いと解釈するの!!」

 

「いや、先制攻撃を仕掛けたのはおま」「What?!」「ヒィ!!」

 

「ISを持ち込んで学園にやって来た時点で宣戦布告なの!!!

とりあえずぶっ飛ばす!!!話はそれから聞いてやるの!!!」

 

「何やねんその謎理論は?!普通話し合いは戦う前やろ?!!」

 

「鼠の様に逃げ果せるか、O☆HA☆NA☆SHIするか、

どちらか選ぶのぉっ!!!」

 

「何なのこの人…?」「もう帰りたい…」「こんな所、来るんじゃ無かった…」

 

 完全に某英雄殺し並みのブチ切れ大魔神と化したなのは。

その怒り狂いぶりにICDの隊員達は早くも戦意を無くしていた。

 

「そこにいたか!」

 

 と、ここで専用のISスーツに着替えたセルベリアがアリーナに到着。

専用機「青い炎(ブラウ・フランメ)A3」(以下、B・フランメ)を展開した臨戦態勢だ。

 この機体はラウラが所属する黒兎隊が装備する

「シュヴァルツェア」シリーズの前級にあたるが、

2度のモンド・グロッソを始め幾度かの戦訓により3度の改良を受け、

今でも第3世代機と渡り合える準第3世代機と呼ぶべき機体である。

 

「万一に備えてICDを連れて来たのは正解だった、

だがこれは予想外の事態だ…全員無事か?」

 

「はい、何とか!」

 

「最早猶予はない、学園のデータベースに依れば、奴の名はナノハ・タカマチ。

タバネ・シノノノの専属操縦者と称しているらしい。

今ベルリンにこれまでの事を報告した所、

『ボーデヴィッヒ諸共捕えるか、不可能なら殺害すべし』との指令が下った。

だが…事ここに至っては最早捕える所では無い!

ナノハ・タカマチ!貴様にはボーデヴィッヒと共にここで死んで貰う!!」

 

「何…?」

 

 その言葉を聞いた瞬間場の空気が一気に冷え込んだ。

 

「今…何て言ったのかな?殺害とか、死んで貰うとか、

すっっっごく物騒な言葉が聞こえたんだけど…聞き間違いじゃないよね?」

 

「何を馬鹿な事を…貴様の聞き間違い等あるものか!貴様はここで殺す!」

 

「そう…そうなんだ…い、い…い…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいいいいいいいいいいいいいやっっほぉぉぉおおおおおおおおおーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはは叫んだ。それは、心からの歓喜の叫びだった。

 

「な、何だコイツ?!」

 

「殺すと言われて何で喜ぶんや…?」

 

「ま、まさかドM…」

 

「「「「「「それはない。」」」」」」

 

「シュン…」

 

「遂に!遂にッ!!遂にッッ!!!束さん最新機の全力を試せる相手が…」

 

キタ━⌒*(゚∀゚)*⌒━⌒(* ゚)━⌒*(  )*⌒━(゚ *)⌒━⌒*(゚∀゚)*⌒━!!

 

 狂喜するなのは。現役の国家代表が殺す気で挑んでくれる。

専用機の「デビュー戦」にこれ以上のシチュエーションはない。

 

「『束さんの最新機』?!

何か良く解らないけど、奴がはしゃいでいる今の内に先制攻撃を…」

 

「言われるまでもない!!食らえ!!」

 

 セルベリアが真っ先に飛び出し、

右手のランス型荷電粒子砲「ユグド」からビームの先制攻撃を仕掛けた。

 

「Set uuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuup!!」

 

 ビームの着弾と、なのはがISを展開したのは全くの同時だった。

 

「やったの?!」

 

「…いや、遅かった…!!」

 

 セルベリアの言う通り、初撃は通らなかった様だ。

爆煙が収まるとその中から何かの影が…

 

「………来る!」

 

 

 

 

 ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウン!!!!!!!

 

 アリーナを揺るがす程の震脚と共に、それは姿を現した。

その姿に全員が凍りつく。

 

「な、なんて図体だ?!」

 

「これが、コイツの専用機…!」

 

「戦…艦…?」

 

 誰ともなく呟いた一言。だが、その一言がなのはのISを見事に表していた。

 

 その巨体は3mを優に上回り、

レーダーと測距儀を象った武者兜型のバイザーが頭部を固め、

両肩と背後には3基の三連装砲塔。船を縦に割ったような型の翼にも、

それぞれ小振りな三連装砲塔1基と四連装機銃4基が備えられ、

背負った煙突状構造物の両脇上下と背後、

更にアームにも各1基、計7基の四連装機銃が睨みを利かせる。

 

 その姿は正に今は滅びた海戦の花形、戦艦その物。

それはISと言うには余りも大き過ぎ、

ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎる。正に鉄塊であった!

 

「そう…これが…これがッ!これがッ!!

これが私の専用機…世界初の第5世代機!!!!!!」

 

 

その名は…『ヤマト』!!!




ISそっちのけでまさかのリリカルなのはVSサクラ大戦(+1)。
確かに、1996年にデビューしたシリーズといったら
ポケモンと東方(発売は'97年だけど)という二枚看板がいますからね。
それと帝国華、じゃなくてICPO-ICDですが、
ルパンの銭形警部の様な役回りだと思って下さい。

ちなみに、フランスのあの娘はまだ中学生なので出番は来年以降。
ドイツのあの娘もまだいろいろあって今年は出番がありません。

この時、誰が想像しただろうか?
ICDが後々、なのは達の最大の強敵として立ちはだかる事になろうとは…



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第17話  そして魔王は目覚めた

さあ、遂に戦闘開始です。第5世代機の初陣、とくと見よ!


 一夏の声に応え、ラウラの捕縛に来たドイツ軍をぶっ飛ばすべく降臨した

我等が暴走核弾頭、高町なのは。

だが、そこに現れたのは束捕縛の為大改革を成し遂げたICPOの実働部隊、

帝国華撃団…もといIS犯罪対策課(ICD)のIS飛行隊だった。

 

 ドイツ軍に同行していた彼女達に横槍を入れられて怒り心頭のなのはだが、

追い打ちをかける様にドイツ政府は捕縛の指揮を執る

ドイツ代表操縦者セルベリア・ブレスに

「なのはもラウラ諸共捕縛、若しくは殺害せよ」との指令を下す。時は来た。

なのはは伝家の宝刀、束から託された専用機「ヤマト」を展開したのであった。

 

 

 

「だ、第『5』世代機?!」

 

「そんな!世間はまだ第3世代機の試作中やのに…?!」

 

「いや、そんな事より…何ですのあの化け物じみた重火器だらけのISは?!」

 

「全身凶器だらけだぞ…こいつ、強い!絶対に強い!」

 

「これが、篠ノ之束の最新作…?」

 

「冤罪晴らすべし、ジヒは無い!!!

例えこの島が海に沈んでも、私は絶対に妥協しないの!!!

さあ帝国華撃団+1!今この瞬間より…挑 戦 を 許 可 す る の ッ !

 

 なのはが挑戦許可を出した瞬間、

アリーナ中に某8代将軍の大立ち回り時のテーマ曲が流れ始めた。

ヤマトが放送機器のコントロールを掌握してこの曲を放送させているのだ。

 

「『挑戦』を『許可』だと?!何と高慢な物の言い方を…

まあ良い、望み通りに殺してくれる!!ICD、一斉に取り囲め!!」

 

「「「「「「ハイ!!」」」」」」

 

 セルベリアの命令一下、一斉に散開して上昇、なのはを取り囲むICD。

しかし、なのはは悠然とアリーナ中央へ歩きだす。

 

「上空を抑えられて、全く平然としている…」

 

「あいつ何をする気だ?いや、何かする前に決める!!」

(後ろを取った今なら…!)

 

「(私達も!!)」「(助太刀を!!)」

 

 まずカンナが背後から仕掛けた。先祖代々続く琉球空手の使い手らしく、

瞬発力特化、武装は両手のビーム爪だけというシンプルな機体だ。

更に剣術に長けたさくら、及び薙刀使いのすみれも側面から同時に斬りかかる。

事前の連絡無しに独自判断で連携出来るのは流石の一言に尽きる。

プロの面目躍如、余程の鍛錬を積んだのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし…相手が悪すぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貰っ「どーん!」

 

 ビダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!

 

「グワーッ!!」「きゃああああっ!!」「なっ、何が…ンアーッ!!」

 

 ヤマトに飛び掛かった瞬間、カンナ機がヤマトを迂回してさくら機に激突。

更にすみれ機も巻き込み3機纏めてアリーナの壁に激突した。

 

「な、何だ?!何がどうなって…」

 

「ちょ、カンナ?!何をやっているの?!!」

 

「きゅ、急にコントロールが利かな…「ちょえーーーーーーーーーーっ!!!」

 

「うわぁあああああ?!」

 

 ヤマトの掛け声と共に、

カンナ機は見えない手で振り回されるかの様な滅茶苦茶な機動で

他の機体に超音速で激突を繰り返す。

 

「「「「「ぎゃあああああああっ?!!」」」」」

 

「な、何だ?!故障か?!」

 

 流石にセルベリアはギリギリの所で全て回避したが、

他の隊員は避けきれずに激突。あっさり包囲を崩されてしまった。

そしてすみれ機の脇腹に頭から叩き付けられるかの様に激突した直後、

カンナ機は上下逆さまの状態で急上昇。その時、マリア達は見てしまった。

 

「?!!カンナの機体、足首に何かがくっ付いてる?」

 

「な、何だよ、何だこのアームは?!くっそ、離せ、離せよ!!」

 

 良く見ると、カンナ機の脚部を謎のアームが掴んでいたのだ。

まさか、あの正体は…

 

「もう遅い、脱出不可能なの!!」

 

「とどめのいっぱつ、どーん!

 

 ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウン!!!

 

 そのままヤマトの声に合わせて、カンナ機は頭から地面に突っ込んだ。

土煙が収まると、カンナ機は逆さまの状態で足首まで地面に埋まっていた。

 

「か、カンナ! 一体何が?!」

 

「これぞ第5世代技能『遠隔部分展開』なの!!」

 

「えんかく…ぶぶん…てんかい?」

 

「ヤマトは私の視界のどこにでもパーツを部分展開し、

そのパーツは私の意のままに操作可能!!

即ち、ヤマトは機体その物が分離式機動兵器なの!!!」

              

「「「「「「な、ナンダッテーーーーーーーーーーーーーー?!!」」」」」」

 

 一同仰天。

カンナ機を掴んだ謎のアームの正体は遠隔部分展開したヤマトのそれだった。

これこそが今まで一夏達の鍛錬で何も無い所から攻撃が放たれる現象の正体。

あの現象の真相は、ヤマトが「銃火器の先端だけ」展開して攻撃していたのだ。

 

「(分離式機動兵器…確か英国がBT兵器の名で研究中だったが、

タバネ・シノノノめ、もうその進化系を完成させていたのか!)」

 

「アカン!皆止まっとったらアカン!!はよ動き回らんと!!」

(や、ヤバすぎる!!こいつ、距離っちゅう概念をブチ壊しにしよった!!)

 

 ロケットランチャーを連射しつつ瞬時加速でその場から離れる紅蘭機、だが…

 

「全くその通りなの!!」

 

「ぐ…がっ?!」

 

 ヤマトがそれより早くアームを遠隔部分展開し、

紅蘭の頭部にきつーいアイアンクローを仕掛けた。

 

 ミシミシミシミシミシ!!

 

「あだだだだだだだくぁwせdrftgyふじこlp;@:!!!!」

 

 声にならない悲鳴を上げている紅蘭を機体ごと自身に引き寄せるや…

 

「おら!!!」

 

 ドガ!!

 

「アイヤァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 もう一方のアームで殴り飛ばす。飛んで行った先には…

 

「くっ、まだまだ!!私はまだ戦えます…わ…?」

 

 BLAM!!!

 

「「ぶわ!!」」

 

 すみれがいた。当然、両機は激突。

すみれは紅蘭機とアリーナの壁に挟まれてペチャンコに。

但し、絶対防御の御蔭で一応は無事だった。

そして、飛んでくるロケット弾はと言うと…

 

「うおおおおおおおおおお!!鬼嫁は爆発するのおおおおおおおおおおっ!!」

 

 これも簡単に片付いた。遠隔部分展開でさくら機を掴み、

弾幕の中に放り投げて弾除けにしたのである。

 

「ギャーッ!」

 

 勿論さくら機はロケット弾諸共無惨に爆発。アリーナに転がる事に。

 

「ひ、酷い…何で…鬼…嫁…ガクッ。」

 

「後3機…もう総崩れ?弱過ぎてお話にならないの!!」

 

 挑戦許可を下してから20秒足らず。しかしその間に7機中4機が脱落した。

無事なのはマリアと織姫及びセルベリアの3機。完全に総崩れである。

だが勘違いしてはいけない。ICPO-ICDの隊員が弱いのではない。

ヤマトとなのはが強過ぎるのだ。

 

「今度はこっちの番なの!!倍返しなのおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!

 

 反撃開始とばかりに主砲と副砲を射ちまくるなのは。

通常の数十倍の速さでディバインバスターを連射している姿を想像すれば、

なのはのとんでもない猛攻ぶりが伺えよう。

 

 更に副砲からも直径1mを超える光弾が雨あられと放たれる。

しかもタチの悪い事に、この光弾は一定の距離まで進むと大爆発。

たちまち島の上空は爆風の青い閃光に包まれた。

 

「ええい、考えなしにエネルギー弾を乱射する弾幕狂いめ!!」

 

「くっ…まだよ、まだ終わらない!!

ICDは、テロリストの手先などに屈しない!!」

 

 マリアは20mmレールガン「氷河(リディニーク)」と

12.7mm連装重機関銃「雪娘(スネグーラチカ)」を連射。

徹底抗戦の構えを崩さない。

 

「私も援護しマース!!」

 

 織姫機も指先に仕込まれた計10挺のレーザー銃「我が太陽(オー・ソレ・ミオ)」を斉射。

射出されたレーザーは一見見当違いの方向へ飛んで行く。

 

偏向射撃(フレキシブル)の妙味、とくと味わうデース!!」

 

 だがICPO-ICDはここからが違う。何とレーザーが空中で軌道変更。

織姫は精神感応制御によってレーザーを自在に操る事ができるのだ。

しかしなのはに射撃戦を挑む事はそれ自体愚かな選択だった。何故なら…

 

「射撃戦こそ私の本領なの!!

長距離特化の力、とくと思い知るの!!!対空戦闘始め!!」

 

 なのははヤマトの全身に備え付けられた四連装機銃

「ノイジークリケット(束命名)」で直ちに応戦。

銃口に光となったエネルギーが収束すると…

 

 

「どーーーーーーーん!」

 

 

 15基60挺の対空機銃が一斉にビームを発射。

只のビームではない。一発でも掠っただけで即SE切れ必至。

命名元にも勝る驚異の大出力だ。

 

「馬鹿め、どこに目を付けている?!」

 

 しかしICPO-ICDもセルベリアも黙って食らう様な事はしない。

この程度の弾幕は難なく回避した。

そもそも、後方の1基は真反対の方向に射撃している。

だが、ヤマトには向きなんてどうでも良いのだ。何故か?

 

「おおおおおおお!!みようみまねのふれきしぶるぱぅわぁーーーーーー!!」

 

 ヤマトの雄叫びと同時に、60条のビームが一斉に軌道変更。

生き残った3機に殺到した。

何とヤマトは織姫の偏向射撃を一目で看破し、その場で習得したのだ。

正に第5世代機。ISの本家本元篠ノ之束の技術を遺憾なく見せつけた瞬間だ。

 

「馬鹿なーッ!奴も偏向射撃を使うのか?!!」

 

「しかもこの数を同時制御?!それに見よう見まねって…まさか?!」

 

オーディオミオ(オーマイゴッド)!!見ただけでパクったのデスーカ?!

そんなの反則デース!!」

 

 織姫はオー・ソレ・ミオの偏向射撃で迎撃するが、

10対60では話にならなかった。

 

「マンマミィアッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 あっさりパワー負けして大爆発。海上へと吹っ飛ばされていった。

これでICPO-ICDは隊長のマリアを残すのみ。

 

「そ、そんな…!!」

(30秒足らずで私以外全滅?!有り得ない!これが第5世代機の力なの?!)

 

 余りの戦力差に思考停止するマリア。しかしその隙はヤマトの前では致命的。

 

「隙あり!」

 

 ガシッ!!

 

「うっ!!」

 

 即座に遠隔部分展開で首絞めを仕掛けられた。

 

「なっ…!!くっ、こっちもか!邪魔だ!!」

 

 セルベリアが振り払おうとするが、彼女にも別のアームが掴みかかる。

これは紙一重で躱され、

逆に槍型荷電粒子砲「ユグド」とサーベルで払いのけられた。

 

「(こ、このっ…)」

 

 マリアは左手で何かを掴む。

手に取ったのは液体窒素を詰め込んだ冷凍グレネードだ。

それをヤマトのアームに叩き付けた。

 

「!!!」

 

 たちまち液体窒素で関節が凍り付き、異常を察して手をひっこめるヤマト。

 

「むむ、右手が凍ってしまったの…まあ左手が有るから良いか…。」

 

「(隊長として、せめて一矢報いなければ!!)食らえ!!」

 

 すかさず20mmレールガンをヤマトに射ち込む。

弾丸は全弾がヤマトへの直撃コースを取る。

 

「無駄な事を…」

 

 バチバチバチバチバチバチバチバチバチィ!!

 

「?!!」

 

 直後、ヤマトの眼前で火花が散った。

何とヤマトは四連装機銃で20mm弾を「撃墜」したのだ。

 

「何ッ!銃弾を射ち落とすだと?!」

 

「そんな!!これ程の精度のFCSがこの世に…!」

 

「うおおおおおおおおおおおお!!いんかみんみっそおおおぉぉぉーっ!!!」

 

 ヤマトは右手のお返しとばかりに

煙突状構造物とスラスターウイングの全発射管から計36発のミサイルを発射。

 

「今度はミサイルだと?!ハッ、そんな物、全て射ち落として…」

 

「多重量子変換解除!!」「何?!」

 

 その時、不思議な事が起こった!!

 

 ドン!

 

「?!!!!」

 

 何と薬瓶程度のサイズだったミサイルが巨大化。

ミサイルの正体は超音速対艦ステルスミサイルだったのだ。

 

「きょ、巨大化?!…いや、これは量子変か…!!」

 

 ここでミサイルが一斉に起爆。

この対艦ミサイル、束により燃料を減らした代わりに弾頭重量を増やし、

炸薬は1gでRDX爆薬8g分の威力を持つ束謹製の液体炸薬に改めていた。

その威力は絶大で、36発の一斉起爆により学園上空は爆炎に包まれた。

 

「これぞ第5世代技能『多重量子変換』!!

量子変換の重ね掛けで並のISでは搭載不能の大型実体弾兵器を

対IS用小型ミサイルとして搭載し、一斉解除で元のサイズに戻す技能!!

今のヤマトは、ICBMすら搭載できるの!!!」

 

「くっ、今のでICPO-ICDは全滅か…。どうやら広域殲滅型らしいな。

タバネ・シノノノめ、あんな物を造り出すとは本気でテロを起こす気なのか…?

だがっ!これでこちらの勝ちは決まった様な物だな!!」

 

 唐突な勝利宣言。だが、セルベリアにはそれなりの根拠があった。

 

「んん?何を…!! 成程、よく考えたの!!」

 

 よく見るとセルベリアは学園校舎を背にしてヤマトと向かい合っている。

このままヤマトが攻撃すれば、

背後の校舎に流れ弾が直撃するだろう。これでは手も足も出ない。

 

「これで地の利を得たぞ!!

今射てば背後の校舎に当たる!!最早攻撃できまい「と思っていたの?」

 

「…えっ?」

 

 ドギュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥウウウン!!

 

「何ィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

 何となのはは迷わず主砲を斉射。セルベリアは光線をギリギリで躱した。

 

「その昔、遥か彼方の銀河系にいた伝説の戦士

『ジェダイ』に伝わる究極奥義『チノ=リ』。意外な所でお目にかかれたの!!

だが、ヤマトの単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)の前では無意味!!」

 

「単一仕様能力だと?!やはり使っていたか!!」

 

「後ろを見るが良いの!!」

 

 言われて振り向いたセルベリアの視界にあったのは…

 

「な、何…!!これは…そんな、馬鹿な!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何 で 傷 一 つ 付 い て い な い ん だ ? ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにあったのは自分達が乗り込む前と何も変わらない校舎。

だが、校舎にはヤマトの砲撃が直撃した筈だ。

 

「な、何が起きたんだ…奴の砲撃は校舎に直撃した筈!!

それなのに…何故校舎は無傷で残っている?!!」

 

「これぞ私の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)!!

私の視界にある物全て、活かすも殺すも心のままに!!

物体への破壊と非破壊を自在に制御し、無関係の物体を素通りして、

標的のみどんな防御策も関係なく射ち抜く究極の一撃必殺攻撃。

その名は…『活殺自在』!

 

 このワンオフ・アビリティ、束がなのはに語った説明に依ると、

 

「生身の人間の背後にISがいて、

生身の人間越しにISに向けて主砲をぶっ放したとする。

このワンオフ・アビリティがあれば、生身の人間もISも傷付けず、

ISの操縦者だけを絶対防御を素通りして討ち取れる。」

 

 との事である。零落白夜をも超える防御不可能攻撃の一つの完成形。

正に人智を超えた神の力である。

 

「カッサツ…ジザイ…?!破壊と非破壊を意のままに制御するだと?!」

 

「その通り、碌に力も制御できずに国際機関に喧嘩を売ると思っていたの?」

 

「あ、在り得ん…!!何なんだ?…何なんだこいつは?!

タバネ・シノノノは…もうここまでISを進歩させたのか?!」

 

 だが何を言った所で無駄である。あるのはICPO-ICD飛行隊は全滅し、

残るはセルベリアただ1機という結果のみ。

 

「さて…。」

 

 なのはは生き残ったセルベリアの方に向き直ると…

 

「さあ決戦なの!!!1対1なの!!!タイマンなの!!!

私は冤罪を許さない!!!本気で叩き潰してやるの!!!

徹底的に〆て〆て〆捲ってからO☆HA☆NA☆SHIなのぉっ!!!」

 

 荒ぶる暴走核弾頭、高町なのは。もう誰も彼女を止められない。




3世代の差は余りにも大きかった…合掌。


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第18話  決着!

さあお待ちかね、いよいよ一騎打ちでの決着の時です。
昨日投稿した前話ですが、
連載開始以降、初めて日間UAが1000を突破しました!!
いつかは旧版の様に日間1500に到達できると良いなぁ…。


 遂に全貌を現したなのは専用機、「ヤマト」。

ドイツ代表操縦者セルベリアと帝国華…じゃなかった、

ICPO-ICDの飛行隊計7機相手に真正面から喧嘩を売り、

3世代差に物を言わせ、ICPO-ICDを一方的に全滅させた。

残るはセルベリアただ1機。果たして、勝つのはどっちだ?!

 

 

 

 その頃、IS学園地下管制室では…

 

 千冬はラウラを連れて学園の地下まで逃げていた。

 

「ここまでくれば、奴等もそうは追ってこれまい。」

 

 そう言いつつも千冬は準備を怠らない。

壁のラックを開けると、中から現れた日本刀を手に取る。

 

「教官、申し訳ありません、私のせいで学園に大変な迷惑を掛けました。」

 

「気にするな、お前は悪くない。

悪いのは高町の言う通り、束の言葉を無視した奴等だ。お前は気に病むな。」

 

「ですが!そのせいで大佐殿が私を捕えに来てしまいました。

教官殿はご存知でしょう、あのお方がどれ程の実力者かを…!」

 

「うむ。通称『青い魔女(ブラウ・ヘクセ)』。

第1・2回モンド・グロッソのドイツ代表操縦者で、成績は両大会とも第3位。

奴が公式戦で負けたのは私が相手の時だけだな。」

 

「仰る通りです。私を助ける為とはいえ、

彼女は余りに無謀な事をしています。このままでは…」

 

 涙ながらに語るラウラだが、千冬はラウラの頭上に手を置いてこう返した。

 

「お前が心配する事はない。安心しろ、高町は勝つ。

何せ奴は私より強いからな。前にも見せただろう?私の額の傷跡を。」

 

「はあ…。」

 

「奴自身は自分の過去を全く語らない上、

どれだけ調べても詳しい出身地や、家族構成等は一切不明だった。

だがこれだけは解る。奴は強い。途方もなく強い。

そして己が良しとした事なら一切の妥協なく、

結果も顧みずに実行する途方もない行動力の塊だ。

誰かが奴を『暴走核弾頭』と呼んだが、正にその通りの女だよ。

奴はああやって私達の知らない所で

もう何年も修羅場を潜り抜けて来たのかも知れんな…。」

 

 ラウラは千冬の言葉を聞いているうちに、体が震えていることに気が付いた。

 

「超人…。」

 

 ラウラの出身国ドイツにはかつて、

「神は死んだ」と説いた哲学者ニーチェがいた。

彼は「自身の価値観が世界に屈しない生」を説き、

それを成す者を「超人」と呼んだ。

 

 もしもなのはが本当に千冬の言う通りの人間であるならば…

彼女は最早人間ではなく、ニーチェの説いた超人その物ではないのか?

 

「だからお前も、奴を、高町を信じろ。きっと奴は勝って帰ってくる。」

 

「解りました。おかげで、心が落ち着いた気がします。」

 

「そうか、それは何よりだ。ああ、それと…」

 

「何でしょうか?」

 

「ここは一介の高校だ。私の事も教官殿ではなく、先生と呼べよ。」

 

「は、はぁ…。」

 

 

そして、アリーナに戻ると…

 

「さあICPO-ICDはもういないの!!!これで心置きなく戦えるの!!

人類初の『ブリュンヒルデを破った女』に挑める事を誇りと思うが良いの!!」

 

「お、おのれーっ!!…いいだろう、かくなる上は真の姿を見せてやる!!」

 

 セルベリアが告げた真の姿。それは稼働時間と戦闘経験が蓄積される事で

ISコアや機体その物と操縦者との同調が高まり、

単一仕様能力が発現可能となる第二形態、「二次移行(セカンドシフト)」の事を指していた。

 

「見るがいい!!青い魔女(ブラウ・ヘクセ)の本気の姿を!!」

 

「Blau Flamme, Zweite schicht!!!」

(B・フランメ、二次移行(セカンドシフト))!!!

 

 その瞬間、B・フランメが発光し機体が変形。光が消えた中から現れたのは、

両肩からW字型のスラスターウイングを生やした全身装甲型のISであった。

 

「これぞ我がB・フランメの第二形態『天の業火(ヒンメル・フォイアー)』!!

ブリュンヒルデが引退さえしなければ、奴の前で始めて披露する筈のこの姿、

見られた事を光栄に思うがいい!!食らえ!!」

 

 次の瞬間、ヤマトの動きが止まった。

 

「!! AICか…!!」

 

 B・フランメは第2世代機だが、

3度の改良により第3世代機兵装も取り入れられている。

当然、AICも後付けながら搭載されていた。

 

「ひっかかったな!いくら第5世代機でもAICからは逃れられまい!!

そして受けてみろ、我が単一仕様能力…『猛火の戦乙女(ヴァルキュリア・フランメ)』を!!」

 

 直後、B・フランメが炎上。機体全体が青い炎に包まれた。

これがセルベリアの単一仕様能力『猛火の戦乙女(ヴァルキュリア・フランメ)』。

自身をジェット推進効果を伴う炎のバリアで覆う事で

高機動と防御を両立した攻防一体技だ。

この性質故、近くに味方がいると移動の邪魔な上に

衝突時に危険度が増す為使えた物ではない。

つまり、完全なタイマン時専用の単一仕様能力である。

 

「この超音速機動、見切れるか?!」

 

 セルベリアはマッハ2+の超音速機動でヤマトの周囲を周回。

AICで行動不能になったヤマトはセルベリアが何処にいるのか把握できまい。

動けないなら、槍型荷電粒子砲「ユグド」の最大出力で一気に決められる。

 

「これで終わりだぁー!」

 

 セルベリアが一気に急接近。すれ違いざまにユグドからビームを発射。

当然、ビームはヤマトへ過たず直撃。

またもアリーナ上空で大爆発が巻き起こった。

 

「勝負あったな…いくらタバネ・シノノノの専属とは言え、

所詮は軍事教練など受けていない性能任せに暴れるだけの学生風情…

私の敵では無かったか…。」

 

 だが、セルベリアは思い知る事になる。

何故ヤマトが第5世代機と呼ばれるのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「   ど   こ   へ   い   く   の   か   な   ?   」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!!」

 

 セルベリアには絶対に聞こえる筈のない声がはっきりと聞こえてしまった。

声のした方向に向き直ると…

 

「そ、そんな…そんな馬鹿なぁ!!!」

 

 ヤマトは全くの健在だった。

 

「この私が3世代前の荷電粒子砲で死ぬと思っているの?」

 

「あ、在り得ん…在り得んぞ!!

あれをまともに受ければ並みのISは絶対防御すら貫通される筈だ!

何故だ?!何故貴様は…」

 

「何故?そんなのは簡単なの。ヤマトのSE最大値は…530,000なの。」

 

 最大SE53万。これがどれ程ふざけた数値かは他のISと比較すれば解る。

例えば白式を初め競技用のSE最大値はリミッターにより一律1000で固定。

セルベリアやICDの使う業務用は少なくとも1万。

そして軍用の第3世代機ならば4~5万は行くのではないかと言われている。

 

つまり、ヤマトの53万と言うのはその10倍以上。

最早常識もへったくれもない文字通り桁違いの数値であった。

 

「ごじゅう…さん…まん?…53万だとぉぉぉ!!!

貴様ふざけるのも大概にしろ!

最大SEが6桁のISなど、そんな物この世に存在して堪るか!」

 

「無いから束さんが作ったの!!

これぞISの本家本元!!ISの母の叡智、ここに在りなの!!」

 

「ぐっ、ぐぬぬーっ!!…だが、AICある限り

貴様は一歩たりとも動けない「と思っていたの?」

 

 何と背後からなのはの声が。

 

「な、何ッ!!」

 

 セルベリアが振り返ると…やっぱり、ヤマトを駆るなのはだった。

 

「ナーアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ?!!」

 

「AIC敗れたりッ!!

ヤマトは瞬時加速が使用不可能だけど、その代わりがこのワープ能力なの!!

これぞ第5世代技能『ヤマトワープ』!!!」

 

 つまり瞬間移動である。最早反則どころではない。

科学の範疇を逸脱したウルトラチートだ。

そして、即座にヤマトのアームが遠隔部分展開でB・フランメA3を掴む。

 

「良く頑張ったがとうとう終わりの時が来た様なの。

私は冤罪を許さない!!絶対に、絶対に…」    

 

 

 

 

 

ゼ      ッ      タ      イ      に      !

  

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、させるか「レストリクトロォーック!!」

 

 なのはは満を持してレイジングハートを展開。

レストリクトロックでB・フランメA3を拘束。

 

「な、何だこのリングは!!くっ、動けん!!貴様、まさかAICを…」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!これが私の全力全開!!!!

咎人に滅びの光を!!星よ集え!!全てを撃ち抜く光となれ!!貫け閃光!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

STAR LIGHT…BREAKEEEER!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドッゴォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

\キラーン/

 

 

 

 

 

 セルベリアはスターライト・ブレイカーの直撃を食らい、

遥か彼方へ吹き飛ばされていった。

 

 

 一方その頃ベルリンでは…

 

「全く、VTシステムがあっても一撃でやられるとは、

VTシステムのデータ収集すらできんとはとんだ役立たずめ。」

 

「所詮はヴォーダン・オージェとも適合しない欠陥品。

これを期に処分してしまうのが妥当でしょう。」

 

 ベルリンの某所で密談をする謎の輩。

その正体はドイツ国防相を含む国防省の官僚連中である。

ラウラの専用機にVTシステムを仕込ませたのはこの連中の差し金であった。

 

「ドニエール事務総長。

この件で本当に我がドイツが疑われる事は無いのでしょうな?」

 

『如何にも。VTシステムが操縦者の意志に反応する事は広く知られている。

本人が勝手にやったことにすれば誰も疑いはすまい。

この件でドイツ政府が捜査を受ける事は無いと保証しよう。

仮に疑われても、隠蔽は容易い。

それに、ICDの存在感を世界に示す良い機会にもなる。』

 

 ホログラムモニターで密談に加わっているのはICDの直属の上司、

ICPO事務総長にしてデュノア社の社長夫人アリエノールの父

アルフォンス・ドニエールだ。

彼等が結託した理由はただ一つ。「先例」が欲しかったのだ。

 

 代表候補生の専用機に違法システムが搭載されていた事実を逆手に取り、

違法システム使用犯逮捕の名目でIS犯罪対策課(ICD)と軍が学園に乗り込む。

これでICPOがIS学園に干渉できる先例を作ろうとしていたのだ。

そうすれば、以降ICPOがIS学園に不穏な動きがあるとして

強制捜査の名目で乗り込んでも国際社会からは疑われない。

 

 それどころか、自分達が疑われまいと積極的に捜査に協力するだろう。

例えその際、代表候補生の専用機を「抵抗の恐れがある」として押収しても

誰がそれを止め立てするだろうか?そうなった際、最も得をするのは…。

 

「この前はおかしな奴等がロベルトに言い寄ったおかげで、

第3世代機開発の遅れを口実に追い落とすチャンスを失ってしまったけど、

丁度良く巻き返しのチャンスが転がり込んできたわ!」

 

 そう。同席しているアリエノールの言う通り、

ICPO、ひいてはそれを率いているドニエール一族の人間である。

 

「いくらあのメス猿めがタバネ・シノノノの専属とか抜かしていても、

事実上の世界ランク2位と

国家代表に匹敵するICDの精鋭相手に何が出来るものでしょう!

楯突いたところで返り討ちに会うのがオチ…

ドニエール一族に逆らえばどうなるか身を以て思い知る事になる筈ですわ!!」

 

『うむ。「あの方々」に世界中の最新ISのデータを献上し、

我が一族の力と有用さを示せば、我等はいつまでも安泰であろう!』

 

「首尾よく事が運べば、次はあの妾腹よ!

本当ならタバネ・シノノノが第3世代機をロベルトに差し出した後で

事が起きるのが理想だったけど、起きてしまった物は仕方ないわ!

ほとぼりが冷めたらあの妾腹もロベルトがスパイとして送り込んだ事にして、

治安介入部隊(GIGN)とICDの合同作戦で捕えましょう!」

 

「その時は、残りの代表候補生のISも押収しましょう!

そうすれば日本に取って代わりEUが、

ひいては『あの方々』がIS開発の最先端に立てるでしょうからな!」

 

 完全に勝ったと思い込んでいる一同。確かに完璧な計画だっただろう。

只一つの誤算を除けば…そして、その誤算の因果は速やかに跳ね返って来た。

 

『大臣、ハンブルクから緊急報告が入りました!』

 

「何事だ!」

 

 国防相あてに職員から通信が入った。

 

『現地の秘密研究施設が、先程謎のISの襲撃を受けて破壊されました!』

 

「何?!」

 

 そこは表向きシュヴァルツェアシリーズのメーカーが保有する施設。

だが、その実体はドイツ政府の、いや、その裏にいる

「あの方々」の命令でVTシステムを研究している闇の施設であった。

 

『内部からのリークの痕跡がない以上、犯人はタバネ・シノノノでしょう。』

 

「そ、そうか…で、報道機関には知らせてあるのか?」

 

『まだ、そこまでは。』

 

「ならば報道機関には『イスラム過激派のテロの可能性高し』と知らせておけ。

VTシステムの件はあくまで末端の暴走として片づける。」

 

「はっ。」

 

『国防相!例の一件で首相閣下から命令が!』

 

 今度は別の職員が国防相に通信で報告に来た。

 

「何、首相から?何と言っている?」

 

『大統領閣下との連名で、

「今回の一件はドクトル・シノノノの報告書に基づいて沙汰する。

よって逮捕した全員を不起訴処分として直ちに釈放せよ。」と有ります!』

 

「何ぃ!奴め、いつの間に政府に手を回し…」

 

チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

「「「「「『な、何だぁーっ?!!!』」」」」」

 

 突如外から響く轟音。その正体は…

 

「こ、こ、こ、国防相!!大変です!!!」

 

「何事だ!!!」

 

「こ、こっか、こっかい…

国会議事堂が、桃色の巨大光に呑みこまれ爆発四散しました!!!」

 

「「「「「『ナ、ナンダッテーーーーーーーーーーーーー?!!!』」」」」」

 

「馬鹿な?!!国会議事堂だぞ!!

フランスの件と言い、こんな大掛かりなテロが…!!」

 

『ま、まさか…いや、そんな筈が「ぅゎぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」

 

「ん、何だ?」

 

 ドォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

 突如何かが轟音と共に会議室に墜落してきた。慌てて墜落現場を見ると…

 

「「「「「『な、何ィーッ?!!!』」」」」」

 

 そこにいたのはB・フランメを展開したセルベリアだ。

スターライト・ブレイカーを食らったセルベリアは

遥かベルリンの国会議事堂に墜落。

着弾の際の大爆発でここまで吹っ飛ばされたのだ。

 

「こ、これはブレス大佐!学園で捕縛任務に当たっていた筈では…」

 

『な、何だと?!』

 

 更にその直後…

 

「「「「「「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」」」」」」

 

 6機のIS、R・R・ICDモデルが上から降ってきた。

正体は言うまでもないだろう。

 

「「「「「「『うわぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!』」」」」」」」

 

『な、何だ!!何がどうなっておるのだ?!!』

 

「何なのだ、これは!どうすればいいのだ?!」

 

 墜ちてきたISは全てズタボロの状態である。そして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

「「「「「「「グェーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」」」」」」」

 

 無残に床に転がるISを踏み潰し、8機目が降り立った。




決着完了!
2話を跨いでいるので長い事戦っている様に見えて、
この戦い、実際は2分も経ってません。
華撃団とセルベリアが弱いのでは無く、なのはとヤマトがそれだけ強いんです。
戦闘機で言えば、1機のF-35に
6機のF-104と1機のF-4が挑む様な物です。
操縦者の腕も負けてるのに、どう勝てと?


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第19話  見よ!これが高町流交渉術…なのか?

VTシステム使用の疑いで出されたラウラへの捕縛命令。
それは国際刑事警察機構(ICPO)によるIS学園への干渉の前例を作り、
将来シャルロットをスパイ容疑で捕縛する際に
他国のISを押収する口実とする事を企てた
デュノア社社長夫人アリエノールの策略だった。

だが、この行為は我等が暴走核弾頭、高町なのはの逆鱗に触れる。
なのはは怒りに任せ専用機ヤマトを完全展開。
捕縛に来た帝国かげ…IS犯罪対策課(ICD)のIS隊と
ドイツ代表操縦者セルベリア・ブレス大佐をワンサイドゲームで叩き潰し、
とっておきのスターライト・ブレイカーでベルリンへと吹き飛ばしたのだ。



『き、貴様…何者だ!!』

 

「げぇっ!!何だ、こ奴は!」

 

「あの時のメス猿…まさか…」

 

「おおおおおおお!!私がタバネ・シノノノの専属操縦者、暴走核弾頭なの!!

よくも私のクラスメイトにふざけた冤罪を着せてくれやがったの!!

お返しにそっちの代表操縦者と帝国華撃団はぶちのめしてあげたのぉぉっ!!」

 

「「「「「『な、何ィィイイーーーーーーーーーーーーーッ?!!』」」」」」

 

 信じて送り出した代表操縦者とICD隊員が、

たった1人にボロ負けして全員仲良くアへ顔を晒す。

この予想外の事態に一同びっくり仰天。計算が台無しとかそんな問題ではない。

 

「貴様!我が国の代表操縦者にこんな事をして、タダで済むと…」

 

Was(What)?!」

 

 ボゴォ!!

 

「ぶ!!」

 

「おわ!」

 

 なのははB・フランメA3を蹴っ飛ばす。

機体は国防相のすぐ側を掠め壁に激突した。

 

「隣の大麻合法王国からの煙でラリッた尻穴野郎(アッシュロッホ)!!

こんな見かけ倒しの凡骨の100や200、私の前じゃいないも同然なの!!

スワスチカでも振ってチョビヒゲ伍長と国防軍に

助けを求めた方がよっぽど戦力になるの!!このビール脳!!!

芽だらけの毒ジャガイモみたいなタ○キンぶら下げた短小包茎!!

原生林で豚の血でもかっ食らって引き込もりやがるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」

 

 国防相の胸倉を掴んでブンブン揺さぶりながら罵声を浴びせるなのは。

情け容赦ない暴力と暴言に一同は震え上がる。

更にICPOにも怒りの矛先は向けられる。

 

「あ!どこかで見たと思ったらワイン狂いのへべれけバゲット盆暗蛙BBA!」

 

「ヒィ!この前より罵倒が酷い!!」

 

「パパに泣きついてICPOを引っ張り出せば勝てるとでも思ったの?!

ICPOは大人しく裏方でもやってれば良いの!!

明治生まれのBBAしかいないなんちゃって正義のヒロインチーム如きが

私と張り合おうなんて2000年早いの、アカポンタン!!」

 

 怒りが収まらないのか、怒鳴り散らしながら

ICPO-ICD隊員を壁に叩きつけるなのは。本当に頭大丈夫か?

 

『お、おのれ!さてはフランス各地の官庁を吹き飛ばしたのも貴様か?!』

 

「そうなの!!シャルロット・デュノアをスパイとして送り込んで、

何をする気なのか社長から全部聞いたの!!

あの娘にも濡れ衣を着せて連れ戻す魂胆だろうけどそんな事はさせないの!!」

 

『な、何だと?!

今度の事と言い、貴様もテロリストとして国際指名手配されたいのか?!』

 

「やれるものならやってみやがるの!!」

 

「「「「「『?!!』」」」」」

 

「前に言ったのを忘れたの?!!

欧州全国家の全軍を差し向けたとて、この私を超える事はできぬぅ!!!

この通りICDも私の前ではいないも同然!!!

さっさとあの娘と部下を無罪放免にするの!!!

私は冤罪を絶対に許さない!!何故なら冤罪は絶対に贖えないから!!

人に冤罪を着せる様な奴は

先んじて撃ち!!  しこたま撃ち!! すかさず撃ち!!  背中から撃ち!!

それからO☆HA☆NA☆SHIをしてやるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!

 

 轟音を立てて主砲を矢鱈滅多に乱射し、官僚共を吹っ飛ばすなのは。

 

「「「「「「『アイエエエエエェーーーーーーーーーーーッ!!』」」」」」」

 

 更にミサイルも大盤振る舞い。もう手が付けられない。

 

「うおおおおおおおおおおおおお第5世代パゥワァーーーーーーーー!!!!」

 

「なーちゃ~~~~~~~~~~~ん、やーーーーめーーーーてーーーー!!」

 

 と、ここでストップをかける声が。なのはそっくりな声の主は…

 

「! ……何だ、束さんか。」

 

 なのはを止めたのは束だ。無人ISに掴まりハンブルクから飛んできたのだ。

 

「これ以上やったら死人が出ちゃうよ!!ってか、皆失神してるし!!」

 

 確かに、この部屋で動いているのはなのはと束だけだった。

 

「…チッ。それで?束さんが来たと言う事は…決着がついたと言う事なの?」

 

「まあね。この束さんが今日の戦闘を録画して

閣僚連中に見せたら簡単に折れてくれたよ。

全員を不起訴処分とするって首相と大統領にも一筆書かせたし。」

 

「それはめでたいの!早速あの娘にも知らせてあげなきゃ!!」

 

 なのははそう言うと、ヤマトワープでベルリンを去っていった…

 

 この後国防省が纏めた損害報告によると、捕縛任務に従事したIS操縦者は

「全員全治1か月以上の重傷、リハビリ期間も含めれば

向こう3か月は職務への復帰不可能。」

と医師に宣告され、他の一般兵達も死者は出なかったが、

全員が負傷していたと言う。

 

 ラウラとその部下の黒兎隊員達は約束通り

全員証拠不十分につき不起訴処分とされ無事釈放。

その後、黒兎隊はなのはと束の同席の下で今後の方針を話し合った結果、

「隊長のラウラが軍の命令で入学した手前、

卒業まではケジメとして軍に残る。

ラウラが卒業したら全隊員が一斉に除隊して束の護衛に転職する。」

という密約を交わした。

 

 また、生徒に冤罪を着せられた学園もドイツとICPOに謝罪と賠償を要求。

後日謝罪の為に訪問した駐日独国大使と高木理事長及び学園の事実上の責任者、

轡木十蔵(くつわぎじゅうぞう)学園長代理が日本政府の仲介の下で話し合った結果、

学園とラウラ以下黒兎隊の各隊員に賠償金を支払う事で手打ちとした。

 

 但し、学園側にも生徒がICD隊員と一国の代表操縦者、

更に現職の大臣や官僚達に暴力を振るい負傷させたという重大な非がある。

その為ラウラ達の不起訴処分及び賠償、そして独仏での官庁爆破も含む

なのはの今までの行為一切を不問とする交換条件として、

 

・VTシステム開発の件は「末端研究者の暴走であり、独政府は無関係」

 である事を束の協力の下でIICとICCに証言し、証拠資料を用立てる。

 

・今回の一件は秘密とし、全ての記録をICPOと独政府に引き渡す。

 

・今回の捕縛任務の従事者及び関係者全員に対し、一切の処罰を行わない。

 

・なのはが破壊したR・R・ICDモデル6機の修復は学園の責任で行う。

 費用はなのはと束持ちとする。

 

 の4件を仲裁役の日本政府が提案し、双方共に合意。

これによりこの件は一件落着となった。

 

 

 その日の夜、○HKのニュース番組はこの話題で特番が組まれた。

 

「フランスに引き続き、ドイツでも爆弾による大規模テロが発生しました。

被害こそベルリンに集中しましたが、

 

国会議事堂、

大統領官邸「ベルヴュー宮」、

首相官邸、

国防省第二庁舎、

連邦警察局本部など、

計8か所の国家機関庁舎が破壊されました。

 

また、フランスに引き続き、

今回もいずれの現場でも死者は出なかったとの事ですが、

救助にあたっていた同国のセルベリア・ブレス国家代表操縦者と

ICPO、国際刑事警察機構から派遣された

IS犯罪対策課の職員6名の計7名が全治1か月の重傷、

〇△□国防大臣並びに国防省の職員計9名が軽傷を負い、

全員命に別状は無いものの、現在ベルリンの病院で治療中との事です。

 

この件に関してドイツ首相は声明を発表し、

『これだけの大規模テロを誰一人死なせずにやり果せられるのは

タバネ・シノノノ以外に有り得ない。

EU各国にタバネ・シノノノ捜索への協力を要請する積もりだ。』

と事態の解決に向けて全力を挙げる姿勢を示しました。」

 

 そして翌日…

なのはは一夏とラウラ以外のいつものメンバーと朝練に勤しんでいた。

だが、どうも様子がおかしい。

 

「さて、今日からはヤマトは完全展開の状態で朝練に参加するの!

やる事は今までと変わらないから…あれ?」

 

 ふとピットの視線の先を見てみると、

ラウラが専用機S・レーゲンを纏ってそこにいたのだ。

 

「あ、あれは!?」

 

「ラウラだ。どうしたんだろう。」

 

「あれ、この展開どこかで…」

 

「ナノハ・タカマチさん!!」

 

「?!」

 

 突然なのはの名を呼ぶとラウラは駆け出した。

 

「イヤーッ!!」

 

 連続前方転回でカタパルトから飛び出し…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日は…」

 

 空中で前方3回宙返りを決めると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に…」

 

 そこから3回ひねりを加え…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「有難うございましたぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!」

 

 着地と同時に両手と膝と額を地に付けた。

そう、ラウラはなのはの前で見事なジャンピング土下座を決めたのだ。

…この間の展開そのまんまである。

 

「ま、またこのパターン?」

 

「あのまま冤罪を着せられて消されてしまうかと思っていましたが、

なのはさんのおかげで助かりました!この恩は感謝してもしきれません!

どうか、師と呼ばせて下さい!」

 

 黒兎隊のメンバーが今の彼女を見たらドン引きだろう。

一夏達も皆凍結したように動けなかった。

 

「それに、我が嫁一夏にも恩がある。

今度事が起きたら、私が一夏の助けになりたいんです!」

 

「…それは構わないの!!でも一つ言っておくの!!!」

 

「?」

 

「誰に教えられたかは知らないけど、『嫁』は女性に対して使う言葉なの!!

男には『夫』若しくは『旦那』を使うの!!それが正しい日本語なの!!!」

 

「…えっ?」

 

 

 ドイツ某所

 

「ハックション!!」

 

「あ、大尉、風邪ですか?」

 

「まさか。誰かが噂をしてるのかもね。」

 

 一方その頃、上官(ラウラ)におかしな事を吹き込んだ張本人、

黒兎隊副隊長のクラリッサ・ハルフォーフ大尉は

いつも通りの業務に勤しんでいた。




 これにて一件落着。不届き者にきっちり警告を与えたので、
これに懲りて濡れ衣を着せる様な真似はしないでしょう。

 なお、華撃団メンバーの名誉の為に補足します。
華撃団ことICDのメンバーは全くの善人です。仮に前話の密談を聞いたら、
即座にIICに駆け込んで内部告発する位のシロです。
今回ドイツ軍に付いてきたのは単に命令に従っただけです。


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第20話  臨海学校初日 前編

 ラウラ捕縛作戦返り討ち事件も一段落し、月が替わって間もなくの事。

 

「「「「「見えた!海だー!!」」」」」

 

 トンネルを抜けたバスの中で生徒達が歓声を上げる。

 

「そう言えば俺も海なんて来るの久しぶりだよなぁ。」

 

 窓の外を見ながら一夏が呟く。とそこにセシリアが…

 

「一夏さん!」

 

「ん? 何だセシリア?」

 

「も、もしよろしければ海に着いたら私と…」

 

 ガッ!

 

「フゴッ?!」

 

 直後、シャルロットがセシリアの口を塞いだ。

 

「駄目だよセシリア!一人で抜け駆けなんてズルい!」

 

「ん゛ー!!!!ん゛ー!!!ん゛ー!!ん゛ー!ん゛ー…(ジタバタ」

 

 ドサッ…

 

「…………おろ?ちょ、セシリア?!」

 

 意識喪失したセシリアを慌てて抱き上げるシャルロット。

どうやら鼻まで塞いでしまった為窒息した様だ。

 

「え、えーと、大丈夫か?」

 

「う、うん!脈はあるよ!」

 

「ホッ…そうか。」

 

 これにて、一件落着。その頃バスの前列では…

 

「やっぱり海はいいですね、織斑先生。」

 

「うむ。だが勘違いするなよ?臨海学校とはいえ、実質は校外実習だからな。」

 

 最前列に座る千冬と真耶の教員ペア。その後方にはなのはがいる。

 

「その割には楽しそうなの、私は知っているの!

先生が一夏君に水着を選んで貰ってた事を!!」

 

「んなっ!」

 

「………織斑先生?」

 

「な、何故だ、貴様何故それを…」

 

「私は見たの!!先生が姉弟で水着コーナーに入って行ったのを!!」

 

「何…だと…?」

 

「店員さんに夫婦と間違われていたのも、皆見ていたの!!

でもお似合いなの!!血が繋がってさえなければ、仲良し夫婦になれたの!!」

 

 それを聞いた千冬、羞恥で耳まで真っ赤になりながら鬼の形相で睨み付ける。

 

「黙れ喋るな、それ以上何か言ったら〆るぞ。」

 

「どうやって?(ヤマトが出席簿をピラピラ)」

 

「あ!貴様いつの間に?!」

 

「おとなになってね、ぶらこん。」

 

「畜生!!ああ、ほら、そろそろ目的地に着く。ちゃんと席に座れよ。」

 

「はーい。」

 

 そして、バスは目的地である旅館「花月荘」へ到着した。

4台のバスから生徒達が降りてきて整列する。

 

 

 

「さあ皆、ここが今日から三日間お世話になる花月荘よ。

従業員の仕事を増やさないよう注意しなさい!」

 

「「「よろしくお願いします!」」」

 

 今回の引率役のリーダーを務めるのは1年次の学年主任、日高舞。

彼女の言葉に続き、全員で挨拶をする。

 

「はい、こちらこそ。

私が当花月荘の女将、清洲景子(きよすけいこ)です、どうぞ宜しく。」

 

「ああ、それと…」

 

「女将さん女将さん!!この場で伝えたい事が有るの!!」

 

 舞がなのはを呼び出す前に、なのはが学生証片手に女将の前に現れた。

 

「私が以前に連絡した高町なのはなの!!

この学生証の通り、私は織斑先生と同じ24歳なの!!(学生証を見せる)」

 

「は、はぁ…」

 

「(千冬の方をチラ見しつつ)そういう訳だから、

万一私が先生の誰かに混ざってお酒を呑んでいても

『成人だから仕方ない』という事で、

従業員の皆さんにも改めて連絡をお願いするの!!!」

 

「アッハイ。従業員達にも徹底させます。」

 

「何卒よろしくお願いするの!!!」

 

 いつも通りのなのはの迫力に、流石の女将も怖いのか顔が引き攣っていた。

 

「そして…一夏、こっちへ来い。」

 

「お、おう。」

 

 今度は千冬が一夏を呼びだした。

 

「今度は私から連絡事項を。

今年から唯一の男子生徒として私の弟の一夏が入学しました。」

 

「お、織斑一夏です。よろしくお願いします!」

 

「まあ、弟さんが生徒として?それは大変ですね。」

 

「ええ。しかも私の組にですよ?

それで、部屋割りに関してですが、担任の私と相部屋でお願い出来ますか?」

 

「はい、構いませんよ。では皆様、お部屋の方へどうぞ。

海に行かれる方は別館で着替えられるようになっております。

是非そちらをご利用なさって下さいな。

場所が分からなければ従業員に聞いて下さいまし。」

 

 生徒達は女将の説明に応じてすぐさま旅館の中へ入って行った。

なお、なのはは生徒中で唯一の成人故、一人部屋を割り当てられる事に。

 

 

 

 そして生徒達が海へと繰り出す中、一夏はと言うと…

 

「………………………………………………………………………………………。」

 

「さあ一夏さん、お願いしますわ。」

 

 一夏の目の前でビーチパラソルの下でシートにセシリアがうつ伏せている。

しかも水着の紐を解いて完全に背中を晒した状態で。

もし何かの拍子に身体を起こしたら…。

 

「アンタ、一夏に何させる積もりなのよ?」

 

「見ての通り、サンオイルを塗って頂くのですわ。

淑女との約束を違えるなど紳士のする事ではありませんわよ。」

 

 尚、一夏はサンオイルに触った事は一度もない。

どう塗ればいいのか全く分からない。

サンオイルの瓶片手に、一夏はは未だ嘗て無い危機を迎えていた。

 

「解った、仕方ない…そ、それじゃあ…。」

 

 だが約束してしまったものは仕方ない。

オイルを手に塗り、セシリアの背中に触れると…

 

「キャン!」「ファッ?!」

「い、一夏さん。オイルは手で少し温めてから塗ってくださいな…。」

 

「わ、悪りぃ…俺、こう言う事するの初めてなんだよ。」

 

「そ、そうだったんですの?それなら仕方ありませんわね。」

 

「アンタ、何で嬉しそうなのよ…」

 

 傍目でツッコむ鈴音を余所に、一夏は背中にオイルを塗っていく。

 

「はぁっ、アアン…♥」

 

「せ、セシリア?何と言うか、声が物凄くアレなんだけど…」

 

「だ、だってぇ♥一夏さんがお上手だからぁ♥クゥゥ~ン…♥」

 

 声だけ聴いていると、とっても卑猥。

別に疾しい事はしていないのだが、それでも卑猥。

 

「おお、気持ち良さそう。」

 

「こっちまでドキドキしてきちゃうよ。」

 

「な、なんか、凄く…エロくない?」

 

 側で見ているセシリアのルームメイトの清香や、

彼女と常に一緒の本音、そして鈴音も顔が赤くなる程だ。

 

「なあ、背中だけでいいのか?」

 

「いえ…折角ですし、手の届かない所は全部お願いします…♥」

 

「えええっ?!それって…」

 

「脚と…それから、お尻も…」

 

「アイエエエエエエエエッ?!」

 

 と、セシリアからのかなり際どいオーダーに怯む一夏。そこに…

 

「ハーイ、そんならアタシがやったげる!むっふっふ~。」

 

 いつの間にか両手にサンオイルを塗っていた鈴音が割り込んだ。

 

「ほれほれ、ほーれほれほれ!」

 

「アッハハハハハハハ!キャハハハハハハ!」

 

 強引な塗り方がくすぐったいのか大爆笑するセシリア。

 

「ああ、こっちも塗って欲しかったんだよね、ホイホイっと!」

 

 鈴音がセシリアの尻にサンオイルを塗りたくる。

 

「ひゃああん!鈴さん、もういい加減に…」

 

 余りのくすぐったさに思わず起き上がってしまったセシリア、

だが、水着の紐を解いた状態で起き上がったりしたら…

 

「あっ…」

 

 言うまでもなく、胸が丸見えである。

箒程ではないが、その胸は歳の割には豊満であった。

 

「Oh…。」

 

 ガン見してしまった一夏。見る間にセシリアの顔が赤くなり…

 

「イーーーーーーーーーーーーーーーヤーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

SPAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAANK!

 

「ぴぎゃん!!」

 

 一夏は思い切り張り飛ばされ、海へと落ちていった。

 

 

 

 数分後…

 

「はぁ~。セシリアの奴、どんだけ馬鹿力なんだよ。おー痛ててて…。」

 

 海から上がった一夏。ふと顔を上げると、

丁度本音達がビーチバレーをしようとしている所に出くわした。

 

「お~い、おりむー、一緒に遊ぼうよ~。」

 

「ビーチバレーやろう!ビーチバレー!」

 

「ビーチバレーか、ああ、いいぜ!」

 

 一夏も一緒に遊ぶ事に。と、背後からシャルの声が。

 

「一夏、ここにいたんだ!」

 

「んん?…ってうわ!!」

 

 一夏が振り返ると、全身バスタオルでぐるぐる巻きの何者かがそこにいた。

隣には三つ編みにオレンジのセパレート姿のシャルがいる。

 

「何だ、そのバスタオルの妖怪!」

 

「ほら大丈夫だってラウラ。一夏に見せてあげなよ、水着姿。」

 

 確かに、よく見ると左眼の眼帯でラウラだという事が直ぐに判った。

 

「だ、大丈夫じゃない、大問題だ!」

 

 どうやら、ラウラは水着姿を見られるのが恥ずかしいので、

こんな姿になってしまったようだ。

 

「『旦那』になら、水着姿位見せてあげられるよね~?

見せてあげないと、嫌われちゃうよ~?」

 

「そ、それは!ううううう…ええい、ままよ!」

 

 シャルに煽られ、ラウラはバスタオルを脱ぎ捨てた。

その下から現れたのは濃紺色のビキニ。

胸こそ平坦だが、各所に付いたフリルのおかげでとても可愛らしく見える。

 

「ど、どうだ?」

 

「別におかしな所なんてないよね、一夏。」

 

「ああ、俺も可愛いと思うぞラウラ。」

 

「か、可愛い…そうか…私は、可愛いのか。」

 

「ああ、にしても…ラウラって、肌白いなー。」

 

 元々人種が人種だけに色白だが、ビキニの色が対照となっているせいで、

今日のラウラはいつもより色白に見えた。

普段は白が基調の学生服で色白さが目立たなかったから猶更だ。

 

「そ、そうか…だが、何だか病的に見えて余り良い気が…」

 

「綺麗だよ。」

 

「き、綺麗?!」

 

 もうラウラは首から上が真っ赤だ。これ以上やると卒倒しかねない。

 

「い、一夏!」

 

「あ、箒。」

 

 今度は箒がやってきた。箒の水着は白いビキニで、

ラウラとは対照的な豊満な胸を面積の少ない布が強調している。

 

「箒、一緒にビーチバレーやらないか?」

 

「い、いや…私は遠慮しておこう。そこで見物に徹するよ。」

 

「そうか…」

 

「織斑くーん、さっきの約束ー!」

 

「早く、早く~。」

 

「あ、ああ!」

 

 という訳で相手チームのトスでゲーム開始。

お互い一歩も譲らないが、水着というより着ぐるみのようなコスチュームの上、

マイペースな本音が若干足を引っ張っているようだ。

そして、相手チームがアタックを仕掛ける。ボールは真っ直ぐラウラの元へ…

 

「可愛い…私が…可愛い…」

 

「ラウラ!」

 

「ふえ?」

 

 BANG!

 

「ぶえっ!」

 

 ボールはラウラの顔面を直撃。慌てて全員が駆け寄る。

 

「「「だ、大丈夫?!」」」

 

 ボールがラウラの顔面から転げ落ちると、

ラウラは真っ赤になって目を回していた。

 

「あ、あ、か、可愛い…可愛いだなんて…」

 

「も、もしかして、ラウラ…」

 

 何と、一夏に可愛いと言われてまだ照れていたようだ。

生まれて初めての事に、動揺と興奮が隠せないらしい。

 

「ラウラ?」

 

 心配して一夏が覗き込む。するとラウラがタイミングよく目を覚ました。

そして、すぐ眼前に一夏の顔がある事に驚いたような表情を浮かべ…

 

「アアアイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーッ!」

 

 らうらは にげだした!

 

「ラウラ…どうしたんだあいつ?追っかけた方が良いかな?」

 

「ううん、放っておこうよ…。」

 

「おお、ビーチバレーですか、面白そうですね。」

 

 その時、見回りをしていた千冬と真耶の教員コンビと

なのはの20代トリオが通りかかった。

この日は教員達の仕事も見回りだけで、

リーダー格の舞も始め、生徒に交じって遊ぶ者も多い。

 

「先生も一緒にやらない?」

 

「いいですね~、織斑先生もご一緒に如何ですか?」

 

「う、うむ…」

 

 真耶は黄色、なのはは桜色、

そして千冬は一夏に選んで貰った黒いビキニを着ていた。

その姿は女子生徒どころか弟の一夏ですら見惚れてしまう。

しかし、当の千冬は恥ずかしそうだ。

 

「(やはり腹が丸見えなのは少し恥ずかしいな。

まるで男みたいに割れてしまっているのを見られると…)」

 

 彼女の言う通り、千冬の腹は見事に6つに割れていた。

IS操縦者には心身の鍛錬も不可欠だが、

かつて世界最強と呼ばれた彼女程となると、ここまで鍛え抜かれるのだ。

 

「織斑先生、凄ーい!」

 

「うわー、ムッキムキ…細マッチョレディって奴?」

 

「いいなー、憧れるなー。」

 

 生徒達は純粋に憧れているが、それが千冬の羞恥心を更に掻き立てる。

 

「で、では私も入らせて貰おう。」

 

「はい!負けませんよ~?」

 

「それじゃ、私はレフェリー役なの!」

 

 真耶が一夏側に入り、逃げ出したラウラの代わりに箒が入る。

一方、千冬は本音側だ。

そしてなのははレフェリー役を勤める事に。

 

 この3人が入ったことで試合は激戦となる。

本音側は千冬がアタッカーとなり、強烈なスパイクをどんどん連射する。

一方、一夏側は真耶がボールを拾いまくり、

一進一退の試合展開を繰り広げていた。そうこうしていると…

 

 ポーン…

 

 何度目かになる千冬のスパイクを真耶がブロックしたが、

ボールは大きく弾かれて飛んで行ってしまった。

 

「ああ、ごめんなさーい!」

 

「私が取って来るの!」

 

 弾かれたボールを拾いに行こうとしてなのはが背を向けた時、

一夏達は見てしまった。

 

「「「「「!!」」」」」

 

 一夏達が見た物、それはなのはの背中に広く刻まれた

途方もなく痛々しい無数の傷跡であった。

 

「何、あれ…」

 

「うわぁ…」

 

「むっ…」

 

 千冬ですら、その傷跡を見て言葉が詰まる。

 

「(あいつ…一体過去に何があったんだ…?)」

 

 戻ってきたらなのはに聞いてみようとした千冬だったが、

心の中でかぶりを振った。

 

「はーい、ボール拾って来たの!」

 

「あ、ああ…」

 

「んん?皆どうしたの?」

 

「あ、いや…何でもない。」

 

 今はよそう。今は生徒達の楽しみの時間、水を差してはいけない。

そう考え直した千冬であった。



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第21話  臨海学校初日 後編

 こうして楽しい時間は過ぎていき、その日の夜…

 

 

 

「「「「「頂きます!!」」」」」

 

 臨海学校の夜は花月荘での豪華な夕食だ。

座敷席とテーブル席に分かれて用意された海の幸一杯の夕飯を楽しめる。

 

「美味ひーい!流石は本ワサ!」

 

「旅館で栽培してる本ワサビって話だからね。」

 

 一夏は廊下に出る衾のすぐ前に座り、左に箒、右にはセシリアの巨乳2人、

そしてその向かいにはなのはが座り、右にシャル、左にラウラが座っている。

残念ながら組の違う鈴音は別の部屋だ。

そして、正座をした事のない欧州生まれの3人は何処かソワソワしている。

早くも足が痺れた様だ。

 

「3人共、正座がキツかったら足を崩してもいいの!」

 

「い、いえ、大丈夫ですわ!ワタクシ、正座くらいで音を上げたりなど…」

 

「ホントに?」

 

「そーれっ。」

 

「アヒィーッ!ら、らめれすわ~!?」

 

 突然、一夏がセシリアの足を突っついた。

昼に海まで張り飛ばされたお返しである。

 

「折角テーブル席が有るんだから、そっちに行けば痺れずに済んだのに…」

 

「そ、それだけは出来ませんわ!」

 

 一夏の隣という絶好の席。

足の辛さ故に離れてしまっては折角のチャンスを逃してしまう。

 

「そうなの?じゃあ、痺れ位我慢するのっ!!」

 

「も、勿論ですわ!!」

 

 だが、今は食事中である。

 

「お前達、食事位静かに摂れ。高町、年長者の貴様が煽ってどうする。」

 

 案の定、千冬に叱られる一同であった。

 

 

 

 そして夕食後、なのはは織斑姉弟が泊まる予定の二人部屋にいた。

 

「それで先生、何で私を呼び出したの?」

 

「うむ、こいつが今まで鍛えてくれた事と例の一件の礼がしたいらしくてな、

日頃の労いの意味でマッサージをしてくれると言う事だ。」

 

「教導役として当然の務めなの!態々気を使う必要はないの!」

 

「そう言うな、断られるとこっちは恩を返す当てがないんだよ。」

 

「だったら、千冬先生からお先なの!」

 

「良いのか?」

 

「私は一向に構わないの!」

 

「む、そうか…。」

 

「よーし、じゃあ早速始めるぜ。」

 

「うむ。」

 

 布団の上にうつ伏せで横になった千冬にマッサージを始める一夏。

 

「あっ♥あうっ♥はぁぁあん♥」

 

「いつもはあんなんでも、こうなると

随分可愛く喘ぐんだな。ほれほれ、ほーれほれほれ。(グリグリ」

 

「あんっ♥そこっ♥あっあっあっ♥あぁ♥はぁあんっ♥」

 

 一夏の指先から伝わる快楽に目を潤ませて喘ぐ千冬だが、

声だけ聞くとおかしな勘違いしてしまう者が出てしまう事請け合いである。

と、千冬が一夏のマッサージによがっていると…

 

「(チョンチョン)ん?」

 

「なのは、ふすまのそとにひとがごにんいるよ。」

 

「やれやれ、まあ、誰かは予想は付くの。」

 

 その直後…

 

 ガタンと音を立てて襖が倒れ、箒と専用機持ち達が倒れこんできた。

 

「「「……………。」」」

 

「「「「「あ、アハハハハハハ…」」」」」

 

 5人の乾いた笑いが部屋に響き渡る。

どうやら、予想と違う光景にいたたまれなくなった様だ。

 

「全く、何をやっているんだ馬鹿者共。」

 

 案の定、仲良く正座させられて千冬に叱責される5人であった。

 

「マッサージだったんですか…」

 

「しかし良かった、てっきり…」

 

「てっきり?何やってると思ったんだよ?」

 

「それは勿論…むぐっ!」

 

 ラウラがこの場で言ってはいけない事を言おうとしたため、

他の4人から口を塞がれてしまった。

 

「別に!」

 

「特に何とは!」

 

「ほ、ほほほ…」

 

「な、何でもないですよ!!」

 

 所が、ヤマトがラウラの言いたい事を口走ってしまった。

 

「きんし○そう○んをやってたとおもったんでしょ?」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

「き、近親…」

 

「………………ほほう。(#^ω^)ビキビキ」

 

「「「「「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイ((((((((;゚Д゚)))))))ガクガクブルブル」」」」」

 

 生徒達が自分達姉弟をそんな目で見ていた事にお怒りの千冬。

だが、余り怒りを露わにすると…

 

「…なんなの?(ゴゴゴゴ」

 

 案の定、我等が暴走核弾頭が抑止力を発動した。

 

「ぐっ…まあ、今回はこの辺りで勘弁しておこう。」

 

「「「「「お~、流石は暴走核弾頭、ありがたや、ありがたや~。」」」」」

 

「やれやれ…さて、さっき見た通りこいつはマッサージが上手い。

本当は高町に先に受けて貰おうと思ったが、

奴の意向で私が先にやって貰っていたと言う事だ。

物は試しだ、お前達もやって貰ったらどうだ?」

 

「「「「「良いんですか?!」」」」」

 

「ああ、いいぜ!それじゃあ、最初はセシリアから…」

 

「は、ハイ!」

 

 セシリアが嬉しそうな表情で前に出る。

「それじゃあ、ここにうつ伏せになって…」

 

「はい、これでよろしいんですの?」

 

「ああ、じゃあいくぜ。」

 

 早速、一夏が腰からマッサージを始めた。

 

「んううっ♥こ、これは…気持ちいいですわぁ♥」

 

「そうか?そう言って貰えると嬉しいよ。もし痛くなってきたら言ってくれ。」

 

「は、はい♥あっ…でも、これは♥

先生が…思わず♥喘いで…しまう訳ですわぁ♥」

 

「うわぁ…」

 

「こ、これは…」

 

「聞いてるだけでムズムズするような…」

 

「くっ…羨ましいっ!」

 

 しかしセシリアにまたしても災難が襲い掛かる、災難の名は織斑千冬と言う。

 

「ほう?勝負下着とはいい度胸だな、オルコットよ。」

 

「っ?!…って、織斑先生?!」

 

 おお何と言う事、千冬がセシリアの浴衣の裾を捲り、

彼女の真っ黒なショーツを晒してしまったのだ。当然他の皆にも丸見えである。

 

「い、いいいいきなり何をなさるんですの織斑先生?!」

 

「フッ、随分と見栄を張った物だな。

だが教師の前で淫行を期待するなよミドルティーン共。」

 

「っ!? い、いいい…って、先生…?(千冬の胸を凝視)」

 

「…む?」

 

 だが、そんな悪戯にも容赦ないツッコミが入る。

千冬が生徒達の視線の集中先、つまり自分の胸元に顔を向けると…

 

「じ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ。」

 

 ヤマトが千冬の浴衣をはだけ、胸元に顔を突っ込んで凝視していた。

 

「(ヤマトをつまんで)ヤマト、貴様何をやっている?」

 

「……………くろ。」

 

 何の事はない。千冬もまた、セシリアと同じ黒の下着を着用していたのだ。

 

「ばらされた…生徒に下着の色をばらされた… OTL」

 

 ショックだったのか、膝を付いて落ち込む千冬であった。

 

「うう、全くやり辛いったらありゃしない。

おい一夏、何か飲み物を買って来てくれないか?」

 

「え?あ、ああ…。」

 

 そう言うと、一夏は財布片手に部屋から出ていった。

 

「(冷蔵庫から缶ビールを取り出す。)そういえば高町、

清州女将に飲酒していても気にするなと言っていたらしいな、

貴様も一本どうだ?」

 

「遠慮しておくの!私はメラゾーマ以外は飲まないの!!」

 

「そんな物旅館にあるか!!ってか、それで良く喉が保つな貴様は。」

 

「私の喉はローマンコンクリート!!」

 

「もう勘弁してくれ…。それでお前達、一夏の何処が良いんだ?」

 

「そ、それは…」

 

「まぁ、確かに一夏は私に出来ない事が出来る男だ。

家事も料理も中々だしマッサージも上手い。付き合える女は得だな。」

 

 何だかんだ言って一夏を立てる千冬である。

確かに一夏は男としてはかなりの優良物件だろう。

 

「どうだ、欲しいか?」

 

「「「「「くれるんですか!?」」」」」

 

「要らないの!!」

 

「やるか、馬鹿…って、今要らないって言ったのは誰だ?!」

 

「私なの!!」

 

 手を挙げたのはなのはである。

 

「高町…貴様我が愛しの一夏を

要らんの一言で切り捨てるとはどういう了見だ?!」

 

「私は既に彼氏持ちなの!だから、一夏君は他の人達で取り合うの!!」

 

「「「「「「んなっ…」」」」」」

 

 実に単純な理由だ。

だが、自慢の弟を要らんの一言で片づけられた千冬はたまったものではない。

 

「う、うう、ううう…チックショーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 千冬は号泣して部屋から逃げ出した。少し経って一夏が部屋に戻ってくる。

 

「お待たせ…って、あれ?千冬姉は?」

 

「えーと…」

 

「その…」

 

「千冬先生は他の先生と明日の打ち合わせがあるから呼ばれて出ていったの。

さあ一夏君、皆にマッサージの続きをやってあげるの!!」

 

「ああ、はい!」

 

 

 その頃千冬は…

 

「ふえええええええええ~~ん!!ぐや゛じぃぃぃぃぃぃぃいいいいいい!!」

 

 学年主任の日高舞の膝で号泣していた。

 

「どうしたのよ千冬ちゃん?!部屋に入ってくるなり大泣きして!」

 

「いちかがぁぁぁぁああああ!!いちかがフラれたんですぅぅぅううう!!!」

 

「フラれたぁ?誰によ?!」

 

「たかまちにぃ!!フラれたんですぅぅぅぅぅううううう!!!」

 

「たかまち…ああ、高町さんにかぁ…。

(って、弟がフラれて泣いてるって事?!

ドンだけブラコンなのよこのブリュンヒルデは?!)」

 

「ま、まあまあ落ち着いて下さい!」

 

「おおよしよし、泣かない泣かない!ホラ、今夜はとことん付き合うから!」

 

「そうですよ、好みは人それぞれですし。」

 

「年齢的にもやっぱ他の子とくっついた方がいいですって!」

 

 真耶を始め、他の教員達も大慌てで千冬を宥める。

 

「ひ、日高しゅに゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!」

 

「「「「(ああ織斑先生、貴女はどこまでブラコンなの?!!)」」」」

 

 かくしてその日教員達はジョッキ片手に小一時間掛けて千冬を宥め透かし、

酔い潰れて寝込んだ千冬を一夏の相部屋に放り込んだ所で消灯と相成った。

 

「ムニャムニャ…いちかぁ~、いちかぁ~。(チュッチュッ」

 

「お、おううううぅ~…。」

 

 そして、一夏は酔った千冬に抱き着かれ、

怒涛の口づけ連射を浴びながら眠りについたという。



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第22話  咲いた、咲いた、椿の花が…?

 臨海学校二日目の朝、少し早起きした一夏が旅館の中を歩いていると…

 

「………………………………………………………………………………………。」

 

 箒が廊下の途中にしゃがみ込み、庭の一部をジッと見つめていた。

 

「箒?」

 

「ん?ああ、一夏か…あれを…。」

 

「あれ?…!」

 

 箒の指し示した所を見ると、庭の地面からウサ耳が生えていた。

そしてその後ろには…

 

「ひっぱってください」
     

           

 そう書かれた看板が刺さっている。

 

「なぁ、これってもしかして…」

 

「ああ、どう見ても『アレ』だな…」

 

 一夏も箒も、それが何なのかは知っている。アレはどう見ても『アレ』だ。

 

「…どうする?」

 

「そっとしておこう。」

 

 箒は呆れた様子で立ち去っていった。仕方ないので一夏がウサ耳を引き抜く。

 

「おや?何してますの一夏さん?」

 

 その時、散歩に出てきていたらしいセシリアが来た。

 

「いや、ちょっと、庭におかしな物があってだな…そーれっ!」

 

 一夏はウサ耳を引き抜いたが、何も出てこなかった。

 

「あ、あれ?」

 

「何も起きませんわね…。」

 

 すると…

 

 ヒィィィィイイイイイン…

 

「っ! 上?」

 

「ふぇ?何の音ですの?」

 

 ドガッシャアアアアアアアン!!

 

 空を見上げると巨大な人参型ロケットが落下。一夏の眼前に着地した。

 

「「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」」

 

 思わず尻餅を着いて人参を見上げた一夏とセシリアの耳に、

女の笑い声が聞こえてきた。

 

『アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』

 

 直後、ロケットが縦に割れ、中から一人の女が出て来た。

紫のロングヘアに機械のウサ耳を付け、

真耶とも互角の豊満な胸を強調した青い服の女である。

彼女こそISの発明者にして伝説の国際テロリスト、篠ノ之束だった。

 

「ヒャッハー!!いっ君、久っさしぶりー!!」

 

「た、束さん?!!」

 

 ロケットから飛び降りた束は辺りを見回した。何かを探している様だ。

 

「ねえねえいっ君、箒ちゃんは何処かな?」

 

「箒ですか?あいつは向こうへ行きましたけど…」

 

「そうなんだ、でもでも~、

この束さんが開発したこのウサ耳型『箒ちゃん探知機』ですぐに見つかるよ!

それじゃいっ君!また後でね~!!」

 

 そう言うと、束は猛ダッシュで立ち去って行った。

 

「い、一夏さん?今の方は…?」

 

「ああ、あの人が箒のお姉さん…ISの母、篠ノ之束さんだ。」

 

「え?!え?!えええええええええええええええええええええええええ!!!」

 

 まさかのISの母襲来に驚愕するセシリア。

一夏も予想外の人物との突然の再開に驚きを隠せなかった。

そして、一夏は心中で一言呟いた。

 

「(千冬姉に何て言えば良いんだよ…。)」

 

 その千冬はと言うと…

 

「いちかぁ~、いちかぁ~…ムニャムニャ。」

 

 まだやっていた。可愛い。

 

 

 

 

 

 そして臨海学校2日目が始まった。本日は終日ISの実習試験を行う。

特に専用機持ちは母国から届いた追加装備の運用データ収拾の為、

一般生徒より更に労苦を伴う。

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行う。

専用機持ちは別の場所で専用パーツのテストを行う。では全員散開しろ。」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 一同が返事をする。ズラリと並んでいるためかなりの人数である。

と、ここで箒から質問が。

 

「あ、あの!」

 

「篠ノ之か、どうした?」

 

「私の名前がどの班にも無いのですが…」

 

「おっと忘れていた。篠ノ之、お前は専用機持ちと同じ班だ。」

 

「はい?私がですか?」

 

「そうだ。お前は専用機持ちと同じ班だ、イイネ?」

 

「アッハイ…。」

 

 千冬からの念押しに、否応なく頷くしかなかった箒であった。

 

「よし、では専用機持ちと篠ノ之は私に付いて来い。」

 

「「「「「「「はい!」」」」」」」

 

 

 

 

 

 そして、指定された試験場所に到着した一同。

 

「さて篠ノ之。何故お前が専用機持ちと同じ班に入れられたかを…

むっ、奴めもう来たか。」

 

 千冬が何かの気配を感じ取った。直後…

 

「ちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃちゃ~~~~~~~~~~~~ん!!!!」

 

 何者かが猛ダッシュで駆けつける。正体は言うまでもないだろう。

 

「束め……………」

 

 千冬が呆れ顔で呟く。そう、篠ノ之束の再登場だ。

 

「やあやあ会いたかったよちーちゃん!

さあハグハグしよう!愛を確かめ…ムギュ!!」

 

 束が千冬に抱き付こうとした瞬間、千冬は束の頭を掴んだ。

 

「だ・ま・れ・あ・ほ・う・さ・ぎ!!」

 

「んっきゅううううう!!!あ、相変わらず容赦無いアイアンクローだね!!」

 

「ほう、まだ口を利く余裕が有るのか?もっと締め上げてやらねばならんな。」

 

 ギリギリギリギリギリ…

 

「フオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 千冬が更に束の顔を絞め上げると、束がビクンビクンと痙攣する。

しかしそんな事をすれば…

 

 ガシッ!!

 

「なっ!」

 

 千冬が何かに頭を掴まれる、そして…

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\キラーン/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬はなのはに海上へ投げ飛ばされた。

 

「ちょおおおおおっ、千冬姉ーっ!!!」

 

「「「「「…………………………………………………………………。」」」」」

 

 ヤマトの暴挙に一同唖然。はたして千冬の安否は…?

 

「な、なにをする、きさまー!」

 

 何と海に落ちた筈の千冬が空から降ってきた。

 

「はかせをいじめるな、ぶらこん。」

 

「そう言う事なの!!

出会い頭にアイアンクローを仕掛ける人は頭を冷やすの!!!」

 

「…………悪かった。」

 

「うう、雇ったこの束さんが言うのも何だけど、

こうなったなーちゃんはやっぱ怖い!

なーちゃん、それ以上ちーちゃんを苛めないでー!」

 

 目の幅涙を流す束。雇い主ですら怖がるなのはとヤマトとは……。

 

「却下!!戦わずして友とはなれないの!!」

 

「HEEEEYYYY!!!!あァァァんまりだァァアァ!!!!

AHYYYY AHYYYY AHYOOOOOOOHHHHHHHH!!」

 

 懇願をあっさり却下された束は柱の男の様に泣きながら去って行った。

 

「た、束さんが泣いた…だと…?こんなの見た事ねえぞ……。」

 

「ああ、私もだ。」

 

 一夏と箒も唖然呆然。やはりこの3人、色々とおかしい。

 

「あの阿呆兎め、何をしに来たんだ…。」

 

「さあ…?」

 

「あああっ!大事な事忘れてたー!」

 

 と、ここで束がUターン。

 

「フン!やっと思い出したか…。」

 

「えへへへごめんね~。…ムギュ!」

 

 てへぺろしながらの一言が千冬の癪に触ったのか、

束はもう一遍アイアンクローを受けていた。

所で、てへぺろは箒がやるととても似合うと思うのだが気のせいだろうか。

 

「ちょっ!ちーちゃん許して!!何が駄目だったのぉぉ!!」

 

「あらゆる点が駄目だ。」

 

「やべでぇぇぇぇぇ!!そんな事したら、またヤマトが…」

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 束が最後まで言う前になのはが千冬に仕掛ける。

所がヤマトの遠隔アッパーは千冬を素通りした。

 

「馬鹿め、それは残像だ「と、思っていたの?」

 

「何ッ?!はうあっ!」

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 ドギュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥウウウン!!

 

「む゛ぉっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 残念無念、フープバインドで縛られて主砲で吹っ飛ばされる千冬であった。

 

 

 

 

 

「さて、ぶらこんせんせーもはんせーしたし、さっそくほんだいにはいるの。」

 

 千冬は頭にタンコブを造り、海に浮いていた。

主砲を生身で食らって良くそれだけで済んだな。

 

「おkおk。さあ箒ちゃん!」

 

「何ですか?」

 

「今日は箒ちゃんの16回目の誕生日!!

よってお姉さんがプレゼントを用意したのだよ!」

 

「そうですか。」

 

 よそよそしい箒。

この姉妹、ISが出来てからと言うものあまり仲がよろしくないのだ。

 

「さあ、大空をご覧あれっ!!」

 

「?」

 

 大空を指差して告げた束の一言を受け、集まった全員が空を見ると…

 

 ドガッシャアアアアアアアン!!

 

「「「「「うわあああああああああああああああああああ!!!!!」」」」」

 

 上空から人参型ロケットが落下、眼前に着地した。

直後、ロケットが開き中身が露わとなる。

 

「こ、これは……IS?!」

 

「そうでーす!これが箒ちゃんの専用機、その名は紅椿(あかつばき)でーす!!」

 

「私の……専用機?!!」

 

「そう!全スペックが第3世代機ISを上回る、

束さんお手製の第4世代機だよ!!」

 

「「「「「だ、第4世代機?!」」」」」

 

 箒の専用機と紹介された真紅のIS、紅椿。

外観は他の第3世代と変わらないが、その正体はヤマトに続く束直々の新作だ。

 

「さ、流石はISの母…世間はやっと第3世代機の試作機を完成させたばかり。

発祥国の日本でも量産型第3世代機の開発が始まった段階なのに、

もう第4世代機を完成させたなんて…。」

 

 真耶の言う通り、

この紅椿は世界各国の努力を一瞬で台無しにしてしまう代物だった。

だが、何か忘れていないだろうか?

 

「あ、あの…なのはさんの機体って確か…

第5世代機を名乗ってませんでしたっけ?」

 

「そうだよ、やまとはだいごせだいきだよ?」

 

「「「「「「あっ…。」」」」」」

 

 そう、この世には既にヤマトという第5世代機が有るのだ。

 

「あー、そう言えばそうだったね。

でもヤマトはなーちゃんの協力があって始めて建造できた機体なんだよね。

この束さんがいくら天才でも、一人ではまず作れなかったんだ。」

 

 なのはは何も言わず、うんうんと頷いていた。

 

「さぁ、箒ちゃん!早速最適化してレッツ、ファーストシフト!!」

 

「………………………………………………………………………………………。」

 

 しかし、箒の顔はとても嬉しいとは程遠い顔をしていた。

 

「ん?箒ちゃん、どうしたの黙って?

折角の専用機だよ?それもとびっきりのだよ?

紅椿ならどんな相手にも負けないよ?なーちゃんとヤマト以外は。」

 

 束の声にようやく反応した箒。しかしその口からは思いもよらぬ言葉が出た。

 

「姉さん、せっかく作って頂いてこんな事を言うのは何ですが……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

申し訳ありませんが、私はこれを受け取れません!



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第23話  七夕に椿は咲かなかった

一夏達の前に登場したISの母にしてなのはの雇い主、篠ノ之束。
妹の誕生日プレゼントと称して持ってきたのは第4世代機「紅椿」。
各国の努力を無に帰すがごとき最新鋭機の登場に驚嘆する専用機持ち達だが、
箒は予想に反し、まさかの受け取り拒否を宣言したのだった。


「な……篠ノ之さん?!」

 

「ほ、箒?!」

 

「アイエエエエ!!受け取り拒否?!受け取り拒否ナンデェェェ?!」

 

 箒、まさかの受け取り拒否。予想外の言葉に砂場を転がって悶絶する束。

 

「姉さん…いつ私が『専用機が欲しい』なんて頼みましたか?」

 

「そ…そうだけど、

紅椿はこの束さんが箒ちゃんが欲しい物を予想して用意した最新作の…」

 

「確かに、力なんか欲しくないと言えば、それは嘘になります。」

 

 箒は束の言葉を遮り、心中を語り始めた。

 

「この学園に入れられて以来、私は力が欲しかった。

そうすれば一夏と共に有れる、一夏と共に戦える、そう思っていました。

だから、あの日にあんな事が無ければ、

私も専用機が欲しいと強請っていたと思います。」

 

「「「「「「「「…………………………………………………。」」」」」」」」

 

 あんな事が何を意味するかは言うまでもないだろう。

 

「でも、あの戦いを見て気が付いてしまったんです。

『私がとても恐ろしい事を願っていた』と。

あの戦いでは誰も死ななかったと後で知りました。

そしてこう思いました。『何で誰も死なずに済んだのか?』と。

私が出した答えは、『ヤマトを動かしていたのがなのはさんだから』でした。

姉さんに専属操縦者として雇われ、千冬さんですら一蹴できる技量が有るから、

あんな芸当が出きた。

これが私だったら、きっと大勢の人を死なせてしまっていたと思います。」

 

「………………。」

 

「姉さんなら知ってる筈です。私は小さい頃からすぐに手が出る性格で、

力に溺れて自分や周りを見失う人間だった事を。

去年の剣道全国大会だって、確かに優勝はしました。

でも、試合後に泣いている相手を見て、

『自分のした事は単なる憂さ晴らしでしかなかった、

ただ相手を叩きのめしていただけだった』

と気付いて、今じゃ剣を振るうのも億劫になりました。」

 

「(成程、剣道部に身を置きながら、幽霊部員となっているのはその為か。)」

 

「今の私が専用機を持っても、

浮かれて取り返しのつかない事をしてしまうかもしれない。

そう思うと、ISに乗る事すら恐ろしく思えてきたんです。

だから…今の私はこれを受け取れません。」

 

「「「「「「「「…………………………………………………。」」」」」」」」

 

 最後は感極まって涙声になっていた箒。

その独白に一夏達は何も言えなかった。だが、1人だけ声を上げた者がいた。

 

「それでいい。」

 

 いつの間にか復活していた千冬だった。

 

「千冬さん…。」

 

「お前も成長したな、お前は今自分の過去を省みる事が出来た。

それだけでも立派な事だ。」

 

「…………。」

 

「後はそこから前に進むだけだ。心配するな。

お前は1人ではない、多くの仲間がいる。事が起こった時に頼れる仲間がな。

だから自信を持て。ISに乗る事が怖くても、

この事実と自身を省みるその心構えの両方を忘れなければ、

お前も専用機を持つに値する操縦者になれる。私が保証しよう。」

 

「…………………………………………………………………………………はい!」

 

「そう言う事だ束、その最新作は…そうだな。

箒が代表候補生になれた時、その合格祝いに渡すと言う事でどうだ?

それなら箒が専用機を持っても誰も文句は言うまい。」

 

「……分かったよ、そう言う事ならこの束さんも文句は無いよ。

紅椿は代表候補生になってからのお楽しみと言う事にしておくよ。

その間、もっと改良しておくから期待して待っててね!」

 

「はい!」

 

「やれやれ、私が言いたい事を千冬先生が全部言ってしまったの!

でもこれで方針が決まったの!

これからの箒ちゃんには専用機を持つ事に備えての鍛錬を課すから、

その積もりでいるの!」

 

「はい!」

 

 箒は少し嬉し涙を浮かべながら礼を言った。

 

「よし、篠ノ之の専用機(予定)の披露はこんな物だろう。

お前達も後付装備(イコライザ)をインストールして、実習に移れ!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 千冬の命令に従い、

他の専用機持ちもそれぞれの後付装備をインストールして、試験を始める。

 

 

 B・ティアーズの後付装備は高機動パッケージ「ストライク・ガンナー」。

 

 6基のBT兵器の砲口を封印し、

腰部にスカート状に連結して推進力に回す事で高速・高機動化。

更に、超高感度ハイパーセンサーと大型レーザーライフルを搭載した。

 

 

 甲龍の後付装備は攻撃特化パッケージ「崩山」。

 

 主に龍咆を強化するもので、元有った2門にもう2門増設し計4門とし、

龍咆自体も「視えない衝撃弾」から「火炎を纏った衝撃波」を放つ

拡散衝撃砲に換装する事で、破壊力を格段に増強した。

 

 

 R・R・カスタムⅡの後付装備は防御パッケージ「ガーデン・カーテン」。

 

 各2枚の実体シールドとエネルギーシールドで防御機能を強化する。

高速切替と併せれば、防御の間も攻撃が可能となる。

 

 

 S・レーゲンの後付装備は砲戦パッケージ「パンツァー・カノニーア」。

 

 レールカノン「ブリッツ」を両肩に2門装備し、遠距離砲撃・狙撃対策に

計4枚の物理シールドを左右、正面に展開する。

 

 

 

 そして…

 

「……あ、あれ?俺の白式、後付装備が無いんですけど?」

 

「ああ、ゴメンねいっ君…白式に付けられる後付装備は存在しないんだ。」

 

「えええっ!何でですか?」

 

「そりゃ、雪片弐型に拡張領域(バススロット)を全部食われちゃったからね。

その剣はね、第4世代の装備である展開装甲の技術を使って作られた、

言わば展開装甲の試作品なんだ。」

 

「展開装甲?」

 

「うん、第4世代機最大の特徴だよ。

例えばさっき見せた紅椿だと両腕、肩、脚部と背中に付いてるよ。

一つ一つが自動支援プログラムに基づいて状況次第で

エネルギーソード、エネルギーシールド、スラスターに切り替わりながら

独立稼動ができるんだ。

それに、背中の2基は切り離してビットとしても使えるよ。

だから、紅椿には拡張領域(バススロット)なんて必要ないんだ。」

 

「へえ、じゃあ白式は機体は第3世代、武器は第4世代なんだ。」

 

「そうだよ。でも、1世代先の武器を持たせるのは無理があるみたいで、

拡張領域(バススロット)を丸々全部食う上に、燃費が悪すぎて使い物にならなくてさ、

設計元の倉持技研も持て余して欠陥機として放置してたみたい。

で、それをこの束さんが頂いて動くようにいじって今に至るんだ。

でも悪い事ばかりじゃないよ。追加装備不可能で燃費が悪い代わりに

第一形態からワンオフ・アビリティが使えるようになったからね。」

 

「そ、そうなんですか。」

 

「そーしーてー!」

 

 束はなのはとヤマトに向き合い…

 

「束さん、ひょっとして…」

 

「どきどきわくわく。」

 

「その通り。遂に完成したよ。出でよー!!」

 

 ドガッシャアアアアアアアン!!

 

 束の声に合わせ上空から2基目の人参型ロケットが落下、眼前に着地した。

ロケットが開き、そこから山積みになった大量の何かのパーツが現れた。

 

「な、何だこの量の後付装備は!」

 

「ひゃっはー、やまとはもっとつよくなるー!!」

 

 その量、何と他の専用機の3倍。

 

「さあ!レッツインストール!」

 

「ええ、やりましょうか。」

 

「わーい!」

 

 と、同じ声のトリオが盛り上がっていると…

 

 

 

 

 

 

「お、織斑先生!!たたた大変です!!」

 

 何やら慌てふためいた様子で真耶が千冬に声を掛けた。

 

「特命任務レベルA、現時刻より対策を始められたし……か。

聞こえるか?試験は中止だ!専用機持ちは全員整列しろ!」

 

「「「「「「…? はい!」」」」」」

 

 千冬の命令で後付装備の稼働試験中だった一行は降下、整列。

 

「先程、理事会よりレベルAの特命任務が下った。

一旦旅館に戻るぞ、全員付いて来い。」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「束さん、インストールは任せるの!そのまま続けて置いてほしいの!!」

 

「任せて~。」

 

 特命任務の件は別の所で稼働試験中の一般生徒達の所にも伝えられ、

早速、稼働試験の指揮を執る学年主任、日高舞が全員に号令した。

 

「全員、テスト稼働を中止して集合なさい!!」

 

 舞の号令一下、飛行中の生徒達も降下、何事かと訝しながら整列した。

集合を確認すると、舞が全員に告げた。

 

「ただ今理事会より命令がありました。

現時刻を以て、先生方は特命任務へと移ります!

今日のテスト稼働はこれにて終了!

生徒は全員、各班ごとに機材を片付けて旅館に戻り、

連絡があるまで各自室内待機する事!」

 

「え?えっ?」「中止?ナンデ?」

 

「ってか、特命任務って何?!」「わけがわからないよ。」

 

「静かにっ!!」

 

 不測の事態に、周囲がにわかに騒がしくなるが、舞が大喝して鎮めた。

 

「早く片づけに入りなさい!!

無断で室外に出たら命令違反のカドで身柄を拘束するから、

絶対に出ない事!!良いわね!!」

 

「「「「「は、はいっ!!」」」」」

 

 舞の命令に生徒達は大急ぎで片付けを始めた。程なく全員が花月荘に帰還。

一般生徒は室内にて待機に入る。

そして、旅館の大広間には臨時の司令部が置かれ、

千冬と真耶、そして舞他多くの教員と専用機持ち+1が集められていた。

 

「2時間前の事だ。

ハワイ沖で試験稼動中のアメリカ・イスラエル共同開発の第3世代IS

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』通称“福音”が制御下を離れて暴走し、

監視空域を離れたとの連絡があった。その後人工衛星で追跡した結果、

福音はこの先2kmの空域を50分後に通過すると判明した。

そこで学園理事会が在日米大使館からの依頼を受け、

この事態にIS学園が対処する事になった。」

 

「えっと、つまり…?」

 

「暴走したISを我々が止めろ…という事ですね?」

 

「如何にも。」

 

「マジかよ?!」

 

「一々驚かないの!」

 

「作戦に当たり、

先生方には学園の訓練機で該当空域及び海域の封鎖を行って頂きます。

日高主任、封鎖の指揮はお任せします。」

 

「任っかしときなさい!」

 

「え?!先生方が止めるんじゃないんですか?!」

 

「馬鹿を言え、相手は暴走状態の第3世代機だぞ。

いくら教員勢でも型落ちの訓練機で勝てる訳が無かろう。」

 

 一夏が驚いて声を上げるが、千冬に冷静にツッコまれた。

 

「じゃ、じゃあ…」

 

「そうだ。実際に止めるのはお前達専用機持ちだ。」

 

 この任務で実習に同行するIS教員は皆封鎖に駆り出されるので、

本作戦の要となるのは専用機持ちである。

 

「何だよそれ…何でこんな事になるんだよ~。」

 

「文句を言うな。理事会の命令だ。」

 

「まあ、大方理由ははっきりしてるんですけどね~。」

 

 真耶の言葉に合わせ、司令部の全員が一斉になのはを見た。

 

「ん?…みんな、何で私を見るの?」

 

「高町、貴様今まで自分がやった事を自覚していないのか?」

 

「……………ああ、そういう事なのか。」

 

 恐らく理事会はヤマトの戦闘力をアテにして依頼を受諾したのだろう。

 

「文句を言っても始まらん。では作戦会議を始める!質問のある者はいるか?」

 

 早速手を挙げたのはセシリアだった。

 

「では、福音の詳細なスペックデータを要求します。」

 

「うむ。だがこれから公開する情報は決して口外するなよ。

万一情報が漏洩した場合、ここにいる全員がIICの査問委員会にかけられ、

最低でも2年の監視が付く事になる。」

 

「!!…了解しました。」

 

 モニターに福音の詳細なスペックデータが映し出された。

どうやら広域殲滅を目的とした特殊射撃型のISであるらしい。

 

「主兵装は銀の鐘(シルバー・ベル)

大型スラスターと広域射撃武器を兼ねる高出力マルチスラスターシステムか。

36の砲口から全方位へエネルギー弾を射出可能な上、

瞬時加速と同程度の急加速が行える…」

 

「最高速度は2450km/h超、つまりマッハ2以上で飛行可能か…

攻撃力と速力に特化した機体だな。」

 

「この銀の鐘(シルバー・ベル)って言う特殊武装は厄介だよね。

これを防ぐのは難しいと思うよ。」

 

「このデータでは格闘性能が解りませんね。…偵察は行えないのですか?」

 

「そうはいかん。こいつは現在も超音速で接近中だ。

アプローチできるのは1回きりだ。」

 

 つまり福音を止めるには超強力な一撃で

SEを0にして行動不能に追いやるしかない。

そしてそれが可能な機体は、零落白夜でバリアを無効化できる白式と

活殺自在でバリアを素通りできるヤマトの2機だけだ。

 

「相手が有人機である事を考えると、

操縦者を傷つけずにISだけ破壊できるヤマト…高町さんが最適任ですね。」

 

「だが、ヤマトは現在後付装備のインストール中だ…。こうなったら織斑、

お前が白式でアプローチし零落白夜の一撃で仕留める他あるまい。」

 

「え、俺が?!ちょっと待ってくれよ!ち…織斑先生!

お、俺が行かないとだめなのか!?」

 

「当然だ、白式を使えるのはお前だけだからな。」

 

「そ、そんなぁ!!」

 

 いきなりの指名に戸惑う一夏。心配なのか千冬がこう付け加えた。

 

「これは訓練ではなく実戦だ。

もし自信が無いのなら、無理に出る必要はないが…」

 

 しかし、そう言われるとやる気を出してしまうのが一夏の性分である。

 

「いや、俺がやります!」

 

 流石は実姉、弟の性格を知り尽くし、

どう言えばやる気を出すかを良く分かっている。

あるいは単純に心配で言っているのかもしれないが、真偽の程は定かではない。

だが一つ問題がある。

 

「でも白式って、燃費が物凄く悪いんですよね。

目的地までエネルギーが持つんでしょうか?」

 

 その通り。白式が自力で飛んで行ったなら、

間合いに入る頃には零落白夜が使えなくなるだろう。

なぜなら零落白夜は発動に大量のSEを使うからだ。

 

「誰かが牽引しなければならんな。

現在の専用機持ちの中で、最高速度が出せる機体は…

オルコットのB・ティアーズか。ならば…」

 

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「な、何だぁーーーーーーーーーーーーーーっ?!!!」」」」」」

 

 突如旅館の外から聞こえてくる轟音。旅館中から生徒達の悲鳴が響き渡る。

 

「馬鹿な?!まさか福音がこっちを攻撃してきたのか?!」

 

「そんな?!速過ぎる!!」

 

「兎に角生徒を落ち着かせないと!

千冬ちゃんは真耶と残って!残りは私と一緒に客室へ!」

 

「はい、そちらはお任せします!」

 

 教員の何名かが司令部を出て、生徒達が待機する客室へと向かおうとした。

 

「ちょっと待ったぁ!」

 

 と、そこに天井から声が…

 

「む、この声は?!」

 

「どーも、束さんでーす!!」

 

 何と司令室の天井から束が顔を出していた。

 

「し、篠ノ之博士?!」「姉さん!!何やっているんですか?!」「束さん!」

 

「イヤーッ!!」

 

 掛け声と共に空中で回転しながら飛び降りてきた束は

一瞬で千冬の前に移動する。同時に、千冬の表情がみるみる険しくなる。

 

「ちーちゃんちーちゃん!ヘイ!グッドニュースだよ~!」

 

「帰れ!」

 

「聞いて聞いて!

さっきこっちにやってきた変なISをヤマトがやっつけたんだよ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「…………………………………………………………………。」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハ       ァ       (゚Д゚)        ?       ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 束の核爆弾発言により、司令室は凍結してしまった。




箒、まさかの慢心フラグ回避成功。
あの戦いで救われたのは、ラウラだけではなかった…。


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第24話  悪魔の艦の名を継ぐ者

いよいよ今回、束の口からヤマトの詳細が語られます。
果たして、世界初の第5世代機とは何ぞや、いかなるコンセプトで造られ、
どのようなスペックなのか、その全貌をご覧ください。

追記

前話の投稿を以て、本作のUAが2万を突破致しました。
ありがとうございます!!
これからもリメイク前の7万に少しでも近づき、
追い越す努力を重ねます。御期待下さい。




「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

『俺達は米軍の暴走ISを止めようと作戦会議をしてたら、もう解決していた』

な…何を言っているのか解らねえと思うが俺も何が起きたのか解らなかった…」

 

「一夏、誰に向かって話しているんだ?…いや、そんな事より束!!

お前は今、変なISをやっつけたと言ったんだな?!!」

 

「そうだよ。…何か悪いことした?」

 

「(福音の画像を見せる)そのISは、こんな姿だったか?!」

 

「ああ、これだよこれ!

ヤマトの装備テスト中に飛んできたから、

実験台代わりにどーん!で吹っ飛ばしたんだ!!

今頃砂浜でスケキヨ状態になってるよ!!

そんなに大事な物なら、早く回収に行って来たら?」

 

「「「「「「……………………………………………………………。」」」」」」

 

 一同声が出なかった。学園が米軍の暴走ISを止めようとしていたら、

それより先に動いて片づけていた。だがちょっと待って欲しい。

 

「有り得ん…お前が今日持って来たヤマト用の装備の量は尋常ではなかったぞ。

あれだけの装備をもうインストールし終わったと言うのか?」

 

「んん?あの箱の中身の半分は換装、追加を補助する機材だよ?

追加装備自体もそこまで多くないし、簡単だったよ。」

 

「何だ、そうだったのか…。」

 

「でねでね、具体的にどうなったのか聞きたい?」

 

「そんな暇はない!」

 

「えー、ひどーい!!聞いてくれても良いじゃなーい!」

 

 と、ここで沈黙を通していたなのはが動いた。

 

「是非そうするべきなの!!!」

 

「た、高町…?!」

 

「ここにいる皆はヤマトを知らないの!!

今の内にヤマトとは、第5世代機とは何かを知るべきなの!!」

 

「そ、そうね!高町さんの言う通りよ!

設計者の篠ノ之博士から説明して貰いましょう!!」

 

「ひ、日高主に…ムグ!」

 

「(千冬ちゃん、ここは言う通りにして!

あの2人が機嫌を悪くしたら何するか分からないわ!!)」

 

「ううむ、解りました。束、時間が惜しいから手短にしろよ。」

 

 と言う訳でなのはの鶴の一声で束によるヤマトの説明会を始めることに。

 

「やったぜ。じゃあヤマト、出ておいでー。」

 

「はーい。」

 

 束の声で天井から何かが降りてきた。

そこにいたのは3頭身のぬいぐるみ、待機状態のヤマトなのだが…

 

「ヤマ…ト…?」

 

 デカい。あから様にデカい。具体的に言うと、身長が60cmに倍増し、

見た目も小学校時代から今のなのはの姿を模した物に変貌していた。

 

「「「「「(何か成長してるー!!)」」」」」

 

「(ナンデ?!成長ナンデ?!)」

 

「(わ、私に聞くな!)」

 

「ふっふーん。これぞ、本来建造する予定だったヤマトの正式版!

今までのヤマトは入学に間に合わせる為、

最低限の機能を付けたα版だったのだー!!」

 

「「「「「うっそーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」」」」」

 

 驚愕の事実であった。つまりこの前のICDとセルベリアは…

 

「未完成のIS1機相手に、2分と保たずに蹴散らされた事になるのか…?」

 

「御愁傷様としか言い様がないな。ブレスが聞いたら憤死は免れまい。」

 

「でしょでしょ?それじゃ説明するよ!」

 

 そして、束がプロジェクターでヤマトの詳細を披露した。

 

 

 

 

 

 高町なのは専用IS「ヤマト」

 

 概要

 

 世代分類   第5世代

 

 戦闘スタイル 誰が何と言おうが長距離砲撃特化型。

 

 待機形態   3頭身にデフォルメされたなのはの人形。

        自律行動も可能。しかも喋る。

        声は束が自分の声をサンプリングした。

        怒ると盗難防止用の電気ショッカーで攻撃してくるぞ!

 

 展開時形態  どう見ても某擬人化軍艦目白押しブラウザゲームの

        戦艦大和の艤装。

        但し艦後側を縦に分割した形の脚部パーツが追加される。

        また、同名の宇宙戦艦の要素を多分に取り入れている。

 

 SE総量   どこぞの宇宙の帝王に肖り、53万。

 

 全高     3330mm

 

 装甲     カーバイン&グラフェン積層装甲

 

 最高速度   270ノット(500km/h)。ヤマト最大の弱点で、

        エネルギーリソースを攻撃力と防御力に回している為

        瞬時加速も不可能。尤も、補う手段はある。

 

 モチーフ   敵側の目線で見た「宇宙戦艦ヤマト」。

        死神または悪魔その物の戦闘力を与え、

        「例え悪魔の誹りを受けようとも、

        建造された理由、そしてISの本文を果たすべし」

        という願いをこの姿に込めた。

 

 武装

 

 光学兵器

 主砲   :三連装速射砲「ショックカノン」×3

      (両肩、主エンジン後方)

 副砲   :三連装機関砲「ショックカノン」×2

      (スラスターウイング先端部上方)

 近接火器 :四連装機銃「ノイジークリケット」×15

      (スラスターウイング外側各4、

       煙突型VLS両脇上下各1、後方1、両腕各1)

 

 実体弾兵器

 煙突型八連装ミサイルVLS×1(後背部)

 三連装重ミサイルランチャー×4(スラスターウイング先端部)

 側面八連装ミサイルランチャー×2(スラスターウイング側面)

 八連装近接防御グレネード投射機×2(煙突型VLS両脇基部)

 

 特殊兵器

 ロケットアンカー付き電流鎖×2(スラスターウイング先端部)

 戦闘機型自律機動兵器「コスモファルコン」×32

 (短刀型に量子変換されて大腿部に格納。

 分解されたスペアパーツも4機分搭載される。)

 

 決戦兵器

 ホーキング輻射装置「波動砲」×1(スラスターウイング右側)

 

 

 

 第5世代特殊技能

 S・レーゲンのAIC、BティアーズのBT兵器に相当する固有技能。

 

 技能1:遠隔部分展開能力

 従来の機体も部分展開は可能だが、展開位置は操縦者に装着した状態のみ。

 しかし、ヤマトはなのはの視界のどこにでも部分展開が可能で、

 その状態でパーツを操作可能。

 

 技能2:ヤマトワープ

 読んで字の如し。なのはの視界範囲内、及び一度行った事のある場所なら

 どこにでもワープ可能。瞬時加速出来ないヤマトの機動力を支える生命線。

 

 技能3:多重量子変換

 量子変換を複数回行う事で、ISが搭載できない大型の実体弾兵器を

 対IS用小型ミサイルのサイズに変換して搭載可能とする技能。

 ヤマトは全ての実体弾と分離式機動兵器「コスモファルコン」を

 この技能により格納している。

 

 

 第5世代機のコンセプトとは何ぞや?

 

 1:マルチコア化

 ISコアとはCPU兼動力炉兼バッテリー。

 当然、多数搭載すればそれだけ高性能なISが作れるが、

 どの国もコアを製造出来ない上、数が限られている為

 ISはシングルコアが原則だった。

 だが、世界で唯一コアを製造できる束ならその制約には縛られない。

 という訳で、ヤマトは4つ(入学当時、今は8つ)のコアを搭載した

 世界初のマルチコアISとなった。

 

 2:コアとCPUの分離

 マルチコア化のもう一つの問題点は、CPU=脳髄が複数になると言う事。

 これではどのCPUの意思で動けば良いのかがはっきりしなくなり、

 混乱の危険性が出てしまう。

 そこで、ヤマトはコアと別に主CPUとして人工知能を設ける方式を採用。

 ISコアには動力炉としての機能に専念して貰う事で、

 より多くのエネルギーをISの稼働に回せる事になった。

 

 3:操縦者との会話による意思疎通

 2で触れた通り、ヤマトのCPUは人工知能。

 このCPUに人間と会話する機能を搭載する事で学習効率を高め、

 機体稼働率の円滑な向上を実現。現在のヤマトの稼働率は97%に達する。

 

 4:常時武装完全展開

 武装呼び出し時のタイムラグを無くす為、常時武装を展開状態に。

 その為ヤマトに拡張領域(バススロット)は存在しない。

 

 

 

「ヤマトの説明はこんな所かな?

何はともあれ、これで、ヤマトは堂々の完成だよーん!」

 

「「「「「「……………………………………………………………。」」」」」」

 

 束の概要説明はこれで終了。説明を受けた一同の反応は…

 

 

 

「「「「「 何 こ れ ? 」」」」」

 

 

 

 この一言が全てを表していた。

 

「何だこのチートマシンは…。束、お前は全人類と戦争をする気なのか?」

 

「もう、何と言うかワタクシ達の理解を通り越してますわ。」

 

「頭痛くなってきた…姉さん…もう勘弁して下さい。」

 

「まあ、次世代機を通り越した次々世代機だからという事で納得してね?」

 

 と、ここで一夏から質問が。

 

「あれ?ヤマトには今日見せた紅椿みたいな展開装甲は無いんですか?」

 

 確かに、第5世代機を称するヤマトなら前世代機の装備である

展開装甲を装備していても何ら不思議ではない。だが、なのはは否定した。

 

「要らないの!展開装甲は多数の機能を一つに集約しているの!

それがやられたら一気に性能がダウンする事になるの!

何より一つの機能を使用中に別の機能が使えない、

だからヤマトには付けない事にしたの!!」

 

「へえ~…。そういう考えもあるのか。」

 

「とことん実戦仕様と言う訳か、で、これで終わりか?」

 

「まだまだ!今度は後付装備の説明だよーん!!」

 

 

 

 後付装備1:スーパーチャージャー

 ヤマトは瞬時加速が出来ない代わりに機動力をワープで補っていたが、

 ワープしてから再度ワープ可能になるまでに間隔があった。

 だが、これで瞬時加速並みの間隔でワープが可能になる。

 

 後付装備2:追加アーム「錣曳(しころびき)

 非固定浮遊部位(アンロックユニット)化された6基の追加アーム。

 これらのアームもまた四連装機銃搭載の上多重量子変換済みで、

 全ての量子変換を解いた場合、

 IS1機を容易く握り潰す程度のサイズになると言う。

 

 後付装備3:多重量子変換機構・改

 多重量子変換能力を強化し、より小型に量子変換することに成功。

 実体弾を更に多く搭載可能とし、継戦能力を強化した。

 

 後付装備4:対空榴散弾「3式弾」

 史実で使用された同名の弾薬と基本は同じ。

 普段はBB弾以下に小型化されているが、

 主砲口から飛び出すと多重量子変換が自動で解除され、

 直径480mmまで拡大する。

 

 

「そして、これが今回の後付装備の最大の目玉!!!」

 

「じゃじゃーん!」

 

 ヤマトが空中に展開したのは、スピーカー状の謎の物体だった。

 

「何だそれは?」

 

「むっふっふー。これぞこの束さんの自信作、『瞬間物質移送器』でーす!!」

 

「瞬間…物質…移送器?」

 

「ほら、ヤマトには遠隔部分展開があるでしょ?

遠隔部分展開はインストールしたパーツと

それが触れている物体にしか効果が無いけど、

これならインストール無しで他の物体を…

具体的には、他のISを丸ごと転送できまーす!」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

 恐ろしい装備である。

これ自体は遠隔部分展開の応用品だが、その効果は凶悪だ。

 

「………最早ISの範疇を飛び越えていないか?」

 

「そうかもね~。でも、これが第5世代機なんだよ!」

 

「「「「「(もうツッコミ切れない…。)」」」」」

 

「やれやれ、…おっと、こんな事をしている時間は無い。

福音を回収するとしよう。」

 

「解ったわ、もう無力化されているみたいだし、

後は私達が片付けるから、千冬ちゃんと生徒の皆はここで待機してて。」

 

「「「「「「ハイ!」」」」」」

 

 と言う訳で、教員勢が福音の回収に出発した。

万一に備え、全員ISを展開しての出発になる。

 

 

 

 花月荘前の砂浜

 

「あれね…」

 

 束の言う通り、砂浜からISの下半身が突き出し、スケキヨ状態になっていた。

 

「さて、それじゃあまずは砂浜から引きずり出しましょうか。」

 

 真耶が福音に近づき、両足を持って砂浜から引きずり出す。

幸い砂地が柔らかいので、簡単に引っ張り出せた。

そして、残りの教員が操縦者から機体のパーツを引き剥がし、

更に安全の為にコアも抜き取った。

 

「コアを外したわ、これで動く事は無くなったわね。」

 

『了解しました。では、操縦者の安否を確認して下さい。』

 

「了解、脈を確認するわ。」

 

 操縦者の脈を確認すると、幸い失ったのは意識だけで命に別状はない様だ。

バイザーを脱がせると、中から現れたのは金髪の白人女性の顔だった。

 

『む?』

 

「織斑先生、どうかしましたか?」

 

『いや、見知った顔だったのでな。』

 

「知り合いなんですか?」

 

『ああ、名はナターシャ・ファイルス、

米軍のテスト操縦者の一人だ。一度会った事が有ってだな…』

 

「そうだったんですか。」

 

『目立った外傷も無い様だが、一応校医に見て貰おう。

私は理事会に状況を報告しておきますので、

残りの先生方は機体の運搬をお願いします。』

 

「「「「「了解。」」」」」

 

 

 

 だが、波乱はこれで終わりではなかった。

 

 

 

「はぁ~、終わりましたねー。それじゃ戻り…」

 

 ザグッ!!

 

「ガッ…?!」

 

 最後尾を歩く真耶が突然言葉を詰まらせる。その様子に皆が振り返ると…

 

「あ…あ…?」

 

 真耶の胸部から流血が。

よく見ると血塗られた槍の穂先らしき見えない刃が刺さっている様だ。

しかし、背後には何も見えない。

 

「ぐっ…あ…」

 

「え、ちょ…山田先生?」「真耶さん?!」

 

「山田先生?!」「な、何?!」「え?!」

 

「がはっ…!」

 

 直後、真耶は吐血してその場に倒れ伏す。

 

『日高主任、何事ですか?!』

 

「……………ヤマト!」

 

「まかせるの!!」

 

 モニター越しに異変を察知したなのは。即座にワープで海岸に出ると、

見えない何かがいるであろう空間にヤマトの追加アームを発射。

金属音が響き、何かが吹き飛ばされた様だ。

更に、真耶に刺さった「見えない槍」を探り当てて、

機銃で撃ち抜いて叩き折った。

 

「千冬先生!緊急事態なの!!」

 

『どうした?!』

 

「山田先生が刺されて負傷!敵は光学迷彩で肉眼では捕捉不可能なの!!」

 

『何だと?!』




まさかの急展開。果たして真耶の安否は?!そして、下手人の正体は…!!


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第25話  よみがえる悪夢

 暴走していたIS「銀の福音」を止めるべく、作戦会議中だった一同。

だが、福音は作戦会議の最中完全版となったヤマトに撃破され、

教員達によって操縦者ナターシャ・ファイルスも無事保護された。

これにて一件落着かと思いきや、真耶が目に見えない何者かに刺され倒れ伏す。

 

「真耶!」「早く救急車を!!」

 

「大丈夫!校医の先生が同行してるから!!早く旅館へ!!」

 

『おい、高町!!真耶が刺されたのは本当か!!』

 

「映像を送るの!(真耶を見せる。)」

 

『何…だと…?…ぐっ、おのれ…とにかくすぐに連れて来い!!

学園の校医が同行している、応急処置だけでも済ませなければ!!』

 

「「「「はい!!…んなっ!!!」」」」

 

 しかし、そんな彼女達の周りに…

 

「こ、これは?!」

 

「IS…なのか?!」

 

 突如現れたのは9機の人型機。

内訳は剣と盾を持った機体が6機と長槍を持った機体が2機、

最後の1機は隊長機らしく、身長は他機の倍以上に達し、

両手持ちの戦斧を持っている。

その内1機をよく見るとは腹部が凹み、手に持つ槍は穂先の部分が折れていた。

真耶を刺したのはこいつで間違いないようだ。

 

「ああ、上にもいる!!」

 

 上空を見ると、人型の上半身に竜の下半身、

そしてコウモリの翼を持つ怪物型の3機がいた。この3機も武装は長槍だ。

 

「くっ…何よアンタ達は!!」

 

「山田先生を刺したのは貴女達ね?!!」

 

「………………………………………………………………………………………。」

 

「ちょっと、答えなさいよ!!」

 

 教員達の声を無視する謎の機体達。するとなのはが教員達の前に出た。

 

「無駄ですよ。これに何を言っても。」

 

 いつもとは打って変わって、穏当な口調で話すなのは。

 

「…なのはちゃん?」

 

「これはあの時と同じ無人機…。それも束さんが造ったものではない。」

 

 だがその穏やかな口調とは裏腹に、心の中では激しい怒りが目覚めていた。

 

「「「「「!!」」」」」

 

「とりあえず聞いて下さい。こいつらの相手は私が1人でします。

皆さんはヤマトの力で旅館へ転送しますので、後ろに集まって下さい。」

 

「ちょっ、待って下さい!!」

 

「山田先生の搬送なら一人で出来るわ!!」

 

「私達は置物じゃないのよ、一緒に戦う位…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 駄 目 で す 。 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはは主砲を教員達に向け、有無を言わさずに却下した。

 

「ここから先は私の戦い…過去の清算です。文句言うと撃ちますよ。」

 

「「「「「!!!!」」」」」

 

 なのはがやると言ったら本当にやる事は皆知っている。

こうなったら教員達に出来る事は一つ。

 

「しょうがない、全員集まって…。この場は任せていいのね?」

 

「如何にも。」

 

 舞が皆に集合を促し、残りの教員達も従った。

 

「……武運は…祈らなくていいわね?」

 

「ええ、あれには勝った事が有りますから。」

 

 舞の言葉を最後に、新兵器「物質転送器」が作動。

教員勢は花月荘玄関前に転送された。

 

「さて…よくもやってくれたね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

野郎オブクラッシャァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 なのはは雄叫びと共に無人機達に向かっていった。

 

 

 

 花月荘館内 臨時医務室

 

「真耶!!大丈夫か?!!」

 

 真耶を担いだ舞達が駆け込むや否や、千冬も校医を連れて駆けつけた。

 

「織斑先生、後は私が!!」

 

 校医が真耶を室内に運ぶ、その後ろから束も駆けつけた。

 

「ちーちゃん、何が起きたの?!!」

 

「束か…私の後輩が無人機に刺されて重傷を負ったんだ、

既に校医に見て貰っている、お前は変な気を起こすなよ?

…所で日高主任、高町は?」

 

「彼女は無人機相手に戦闘中よ。加勢しようとしても

『一人で相手する。ここから先は私の戦いで過去の清算』

って言って聞かなかったわ。」

 

「そうですか…。」

 

「そう…なーちゃんなら何とかなるね。

でも、あっちの爆乳大明神の方は…よし、ここは束さんも手伝うよ!」

 

「た、束!何をする気だ?!」

 

 束はエプロンドレスのポケットから何かの小箱を取り出した。

 

「こんな事も有ろうかと、この束さんは外科用ナノマシンを造ってるんだ、

それがこの中に入ってる、これを打ってあげて!!」

 

 立場が立場だけに碌に病院にも行けない束。

万一自分が負傷あるいは病に罹った際に備え、

自分で治せる様にナノマシンを作り、常時携帯していたのだ。

束は今回、自分の為に用意したそれを真耶に使えと言ったのだ。

 

「げ、外科用ナノマシン?!そんな、世界のどの国も完成させていないのに…」

 

「す、すぐに打ってあげて!」

 

「束…済まん、助かったぞ!!」

 

「ではナノマシンはこちらで預かります。皆さんは別室で待機してて下さい。」

 

「分かりました、先生…後を頼みます!」

 

「では、私は防衛省と警察、それから学園理事会にこの件を報告してきます。」

 

 真耶と校医以外の者が臨時医務室から退出すると、すぐさま戸が閉められた。

 

 

 

 一方、無人機の一団と交戦中のなのはは…

 

「48cm Shrapnel POWEEEEEEEEEEEEER!!!」

 

 今回のアップデートで実装された対空榴散弾「3式弾」をぶっ放し、

無人機を撃ちまくるなのは。

1発あたり1千発の焼夷弾が飛び散り、

半径250mを焼き払う青い殺人花火が夕暮れの空に咲き乱れる。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp;@:!!!!」

 

 たちまち上空の3機が巻き込まれ爆砕、火達磨になって海上に墜落した。

地上にいる人型機はそれに怖気づいたのか白兵戦を放棄して間合いを取り、

盾の裏に仕込まれた連装レーザー機関砲での射撃戦を仕掛けてきた。

隊長機も背中に隠していた光線式の速射砲を展開。

バリアを張りながらなのはを砲撃する。

 

「むむっ!!」

 

 結構正確な射撃で、ヤマトの機動力が劣悪なのもあり被弾するなのは。

だが、53万もの豊富なSEを持ち、

全自動で傾斜バリアーを展開するヤマトはこの程度では小揺るぎもしない。

 

「成程、この前より進歩はしているみたいなの!!

でもそれはお互い様なの!!そーら!!!!」

 

 ズンッ…!

 

 次の瞬間無人機達に異変が。何と無人機の胸部からミサイルが生えた。

 

「「「「「くぁwせdrftgyふじこlp;@:!!!!」」」」」

 

 ゴウランガ!!これぞ遠隔部分展開の真骨頂。

展開先の座標を標的と重ね合わせる事で、どんな防御も突き破る串刺し攻撃だ。

 

「中に人間がいないなら、容赦なんかしないの!!」

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 ドッゴォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

 無人機に刺さったミサイルが一斉に起爆。

内側から爆破されてはバリアも意味が無く、全機共呆気無く爆発四散した。

 

「他愛ないの!!…さて、帰るか。」

 

 なのはは帰還の途につこうとする。

しかし、このタイミングでアンノウン接近を知らせるアラームが。

 

「!! まさか、増援?!」

 

 その通り。増援に来たのは総勢40機超の竜人型機。

ご丁寧に竜人型機をそのまま大型化した隊長機らしき大型機も3機いる。

 

「……………へえ、そう来るんだ。」

 

 これは、思わぬ長丁場になりそうだ。

 

 

 同時刻、臨時医務室では…

 

「出血は完全停止。脈拍も安定…山場は切り抜けた様ね…。」

 

 無人機の見えない槍で一突きにされてから

ずっと意識が戻らない真耶が眠っていた。

真耶は右肺こそ貫通されたが、

主要な血管は奇跡的に無傷だった為出血は酷くなく、

束が持参した外科用のナノマシンで貫通された傷を修復中だ。

 

「運が良いやら悪いのやら…

とはいえ、意識が回復するまでまだ予断は許されない…か。

しかしこのナノマシン、凄い効果ね。

篠ノ之博士はこっちの分野に来ていれば良かったのに。」

 

 校医の独り言は、当人以外の誰にも聞こえてはいなかった。

 

 

 

 そして、海岸では…

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 怒り狂ったなのはが主砲副砲は勿論、機銃、ミサイル、近接グレネードと

ありったけの火器を乱射していた。

更になのはもレイジングハートを展開し砲撃魔法をぶっ放す。

 

「数頼みの凡骨共!!粉々にしてやるのっ!!!」

 

 今や海岸はノルマンディもかくやの戦場だった。

見るだけでも地獄だが、その中を飛ぶのは地獄どころではない。

もう夕暮れの筈だが、この一帯だけ真昼以上の眩しさだった。

誰がこの悪魔の弾幕を掻い潜れるだろうか?

 

「過去の遺物の癖にしゃしゃり出て!!」

 

 それでも、無人機の大群は何とか弾幕を掻い潜ろうとしていた。

有人機とは違い、Gの制限が無い分無茶な運動も出来るのが理由だろう。

だが、その数は今や10機にも満たない。斉射開始から2分と経っていないが、

その戦力は既に1/4以下に削られ、

圧倒的な制圧力に反撃すらままならなかった。

 

「大人しく墜とされていれば痛い目に遭わずに済んだ物を…

流石改良版と褒めてやりたい所なの!!でももう終わらせるの!!」

 

 遂に苛立ちが頂点に達したなのはは全ての火器を止め、

スラスターウイングを一直線に広げ、右手側に回転させた。

 

「これを使うのは今しかない!!今必殺の、波動砲を!!」

 

 伝家の宝刀、波動砲。

スラスターウイングの右側にだけ装備されているヤマトの決戦兵器だ。

なのははレイジングハートの先端をスラスターウイングの先端口に接続。

直後、スラスターウイング先端のシャッターが開く。

 

「とっておきなの…おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 なのはの気合と共にシャッターの先端に光が集まる。

残った無人機が攻撃の止んだ隙に距離を詰める。

だが、ここはむしろ退却すべきだった。

 

「Wave force cannon fire.」

 

レイジングハートのアナウンスと共に、遂に波動砲は放たれた。

 

「おおおおおおおお!!!波動砲パゥワァーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 その瞬間、1,000個の太陽よりも明るく輝く青い光線が海上を照らし、

突撃してきた無人達は悉く蒸発した。

 

「ハァ、ハァ…」

 

 全てが終わり、肩で息をするなのは。だがなのはの怒りは収まらなかった。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 今や何も無い上空に火器を乱射して八つ当たりである。

何がそんなに腹立たしいのか?

 

「何で…?何でこんな所にいるの?そもそも、何で生きてるの…!!」

 

 そして、なのはは一人の人物の名を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プレシア・テスタロッサァァァアアアッ!!!」



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第26話  真実 前編

 その頃、医務室前では。

 

「やはり、高町を護衛に付けて置くべきであったな…」

 

 後輩の思わぬ負傷に意気消沈する千冬。

隣には学年主任の舞と篠ノ之姉妹が付き添っていた。

 

「ちーちゃん、ちーちゃんは悪くないよ。」

 

「そうそう、悪いのは例の無人機連中よ!」

 

「それはそうでしょうが…」

 

 生徒達には絶対に見せられない弱り切った表情の千冬を見た束。

彼女は千冬の顔を真耶と互角以上のどたぷ~んなバストに押し付けた。

 

「ほーら、おっぱいですよー。」

 

「フゴッ、ふがもがけだぁ~あ!(ジタバタ」

 

 千冬は息が塞がって苦しそうな声を上げながら何とか束を引き剥がした。

 

「ブハッ…な、なにをする、きさまー!」

 

「はいはい怒らな~い。で、落ち着いた?」

 

「ああ…何とかな…(くっ、一夏にした事の因果が巡ったか…。)」

 

「なら良いんだ。あの爆乳大明神の事なら大丈夫だよ、

何たってこの束さん謹製のナノマシンだよ?

あれくらいの傷なら今日中には塞がるよ。」

 

「そうか…だがその爆乳大明神という渾名はどうにかならんのか?」

 

「えー、いいじゃん、爆乳なんだし。」

 

「貴様…自分の胸に手を当ててもう一遍考えたらどうだ?」

 

 箒も横でうんうんと頷いていた。

 

「うーん、たわわだね~。(ユッサユッサ」

 

「あ?(威圧」

 

「ああん、ひどぅい!!箒ちゃ~ん、ちーちゃんが苛めるぅ!」

 

「自業自得です。(そっぽを向く」

 

「ふえ~ん!」

 

 SPANK!

 

「オフッ!」

 

 結局、平静を取り戻した千冬に出席簿でシバかれる束であった。

 

「馬鹿やっていないで、静かにしろ。」

 

「は~い。」

(この束さんも知らない無人機、誰が造ったかは知らないけど…

絶対にただじゃおかない。こんな事をされて、

頭に来ないとでも思ってるのかな?)

 

 と、痴話に興じていると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プレシア・テスタロッサァァァアアアッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だァーッ?!」

 

「アヒィーッ?!」

 

 それはなのはの怒りの叫びだった。海岸から花月荘に轟く程の大音声で、

医務室で眠っていた真耶が即座に飛び起きてしまった。

 

「な、何だったんだ今のは…?」

 

「なーちゃん…?」

 

「と、兎に角外が静かになったと言う事は、

決着がついたと言う事なのだろうな…」

 

「そうだね。」

 

「よし…私が見て来るので、この場は主任にお任せします。」

 

「分かったわ、こっちは任せて。」

 

 そして千冬が旅館の外に出ると、そこには無人機の残骸となのはがいた。

 

「(どうやら無事の様だな。

まあ、あれだけの事が出来るのなら当たり前の事だろうが…)」

 

「ちーちゃん、どうだった?」←玄関ドアの裏から顔を出す。

 

「自分で見てみろ。」

 

「おー、無事に全滅させたみたいだね。」

 

「うむ。後は警察と防衛軍の到着を待とう。話はそれからだ。」

 

「そうだね。」

 

 数十分後、警察と防衛軍がやっと到着。

千冬と束、及び交戦したなのはが事情を説明し、

後処理を防衛軍が引き継ぐ頃には既に夜を迎えていた。

 

「やっと終わったか、とんだ校外実習だったな。」

 

「まあまあ、爆乳大明神も完治したみたいだし、

食事が済んだら早いとこ寝よ寝よ!」

 

「その通りなの!皆も待ってるの!」

 

 そう言って部屋に戻ろうとしたなのは。だが次の瞬間足が止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何のつもりなの?」

 

 見ると、背後から千冬がなのはの首筋に日本刀を突きつけていた。

 

「ち、ちーちゃん?!」

 

「束、静かにしろ。」

 

 千冬は咎める束を黙らせ、なのはにこう問いかけた。

 

「高町、貴様に聞きたい事が有る。

貴様が先程叫んだ『プレシア・テスタロッサ』とは何者だ?」

 

「かつての敵なの!!事の元凶であり、過去の亡霊なの!!」

 

「そうか…ならもう一つ聞く。

束の専属操縦者になる前、貴様は何をしていた?」

 

「………!」

 

「どうやら貴様、

過去に『プレシア・テスタロッサとの間に何かの因縁があった』様だな。」

 

「………………………………………とうとう、来るべき時が来てしまったの!」

 

「何?」

 

「この場所は説明するには不相応、と言ったの!!」

 

「………そうか。」

 

「それともう一つ、

篠ノ之姉妹と一夏君を含む専用機持ち全員の立ち会いを求めるの!

束さんは全て知ってるけど、残りの人は真実を知る必要があるの!」

 

「………解った、私の客室で聞こう。

束、お前は一夏と箒を連れて来い、私は残りの専用機持ちを呼んで来る。」

 

「分かったよ。」

 

 そして、織斑姉弟の泊まる客室に篠ノ之姉妹と専用機持ち、

なのはと千冬の9人が集結した。

 

「織斑先生、一体どうなされたのです?」

 

「む~っ、これから夕食時ってとこなのに…。」

 

「姉さん、何か知っているんですか?」

 

「……………。」

 

「さて、お前達を呼んだのは他でもない。山田先生を襲った例の無人機の件だ。

山田先生の傷は束の協力もあり快方に向かっている。

校医の先生曰くもう動いても問題ない程だ。

その上で話がある。山田先生を刺した無人機の正体、

そしてそれを語る上で欠かせない、

『なぜ高町が束の専属操縦者になったか』…つまりは高町の過去についてだ。

お前達には高町の希望で、

真実を知って欲しいと言う事でここに呼ばれた事になる。」

 

「「「「「「……………………………………………………………。」」」」」」

 

「念の為に忠告するけど、

これからなーちゃんが話す事はここにいる9人だけの秘密。

もし、この場以外の誰かにバラしたら

例えちーちゃんや箒ちゃんでも生かしておかない。

そう思って聞いてね。無理だと思ったら悪い事は言わない。

この場を去る事を勧めるよ。それでも聞きたい人だけ残ってね。良い?」

 

 その宣告に一同が更に青ざめる。千冬ですら背筋が凍る恐怖に駆られた。

だが、その場を去ろうとする者は一人もいなかった。

 

「皆、最後まで聞く覚悟を決めたと言う事でいいね?

それじゃ、まずはこれを見て。」

 

 束がホログラムモニターで見せたのは、ある都市の風景。

だが、画面の向こうの都市は世界の名だたる大都市をも凌ぐ

広大無辺の巨大都市だ。

 

「こ…これは?!」

 

「何だこの街は、東京の比ではないぞ?!」

 

「この街はね、

なーちゃんがこの束さんに雇われる前に住んでいた街なんだ。どこだと思う?」

 

 束の問いに対し、千冬が逡巡しながら呟く。

 

「どこ…と言われても…まさか、いや、そんな事が…?」

 

「んん?千冬姉、何か解ったのか?」

 

「ああ、荒唐無稽すぎるが、そうとしか考えられん。」

 

「どういう事なんだ?」

 

「気づかないのか?()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「「「「「…………!」」」」」

 

「この中央のビルを見ろ。高さは明らかに2kmを超えている。

今の地球の技術ではとても建てられる物では無い。」

 

「た、確かに…」

 

「考えられる可能性は、この街は地球上ではないどこかにあると言う事。

あるいは、これは未来の地球のどこかと言う事だ。」

 

「え?!それじゃ…なのはさんは…」

 

「真実は2つのうちの1つだ。高町は異星人、あるいは未来人のどちらかだ。」

 

「………………………………。」

 

「それで、どうなんだ?」

 

 なのはは少し黙るが、やがて口を開いた。

 

「…………如何にも!」

 

「「「「「「……!」」」」」

 

「先生の推測通り、私はこの地球で生まれた人間ではないの!」

 

「……って事は、宇宙人?!」

 

「半分は当たってるよ。

正解は…『もう一つの地球』と言えば解るかな?なーちゃんは

『並行世界の、それもまだISが誕生していない地球からやって来た』

と考えればまあ間違いないよ。」

 

「もう一つの地球…?」

 

「そうだよ。向こうの暦はまだ西暦2020年。

この束さんやちーちゃんがやっと立つか立たないか位の時代なんだ。」

 

「成程、それなら確かにISはないな。」

 

「そして最初に見せた街だけど、

この街はちーちゃんの考えた通り地球の都市じゃない。

ここはクラナガン市と言って、惑星ミッドチルダの首都だよ。」

 

「みっど…ちるだ?」

 

「そうだよ。なーちゃんはこの束さんに雇われる前はね、

ミッドチルダの惑星間武装警察…『時空管理局』の職員だったんだ。」

 

「時空管理局?惑星間武装警察??

宇宙規模の機動隊とかSATとかみたいな物なんですか?」

 

「そんな物じゃないわよ。武装警察がうちの国の人民武装警察と同じ意味なら、

なのはさんは現役軍人の資格を持ってるって事になるわ。」

 

「半分は当たってるの!管理局の本業は警察と国防だけど、

それだけじゃなくて司法も担っている統合機関なの!!

他にも、各世界の伝統文化の維持と管理、更には災害救助もやっているの!!」

 

「ちょっと待て、警察と国防と司法を一手に担当する組織だと?

それが事実なら、ミッドチルダは三権分立を知らない社会と言う事になるぞ。」

 

「如何にも!私が昔先輩に同じ質問をしたら

『何それ美味しいの?』と言われたの!あの国ではそれが常識なの!」

 

「何…だと…?」

 

「地球人の常識で考えては駄目なの!ミッドチルダはミッドチルダ人の物なの!

見かけこそ地球人そっくりだけど、断じて地球人ではないの!!

この事実は変えられないの!!」

 

「…確かにそうだな。なら、何で地球人の高町が管理局に入れた?」

 

「話せば長くなるよ。事の発端は15年前に遡るんだけど…

当時のなーちゃんはただの小学生で、

もう一つの地球で普通に暮らしていたんだ。でもね…。」

 

「15年前に何があったんですか?」

 

「プレシア・テスタロッサ事件と言ってね…

事故で子供を亡くしておかしくなったプレシア・テスタロッサとか言うのが、

その子を生き返らせようとクローンだの何だのと

違法な技術に手を染めたけどうまく行かず、

終いにはどんな願いも叶うジュエルシードとかいうのを集めて

死人を甦らせる技術を持つ異世界へ行こうとしたんだって。」

 

「死人を生き返らせる?異世界へ行く?おいおい、何だそのお伽噺は。」

 

「訳が分からないでしょ?でも全部実話なんだよ。

何たってミッドチルダの社会は魔法で成り立ってるんだ…これを見て!」

 

 そう言うと束は別の映像を出した。そこには…

 

「え?! 何…これ?」

 

「これって、なのはさん…だよね…?」

 

 そこに映っていたのは10年前、中学生だった頃のなのはの訓練風景だ。

 

「飛んでいる…生身で、飛んでいるだと?」

 

「因みに言っておくけど、ミッドチルダにはISなんか無いよ。」

 

「うわ、杖からレーザーが!」

 

「今度はバリア?!」

 

「これは、本当の事なのか…?」

 

 その光景に全員がそれ以上言葉が出なかった。

あの千冬ですら、前代未聞の光景にただ唖然とする他無かった。

 

「驚いたでしょ?向こうにはこういう魔法が技術体系付けされて

社会の根幹を担ってる。勿論、科学もそれに劣らず発展してるよ。

何たって惑星間を移動できるんだからね。」

 

「これは参ったな。ISもいずれはそうなるのか?」

 

「そうなると良いね、超光速の移動手段さえ確立出来れば、実現は容易いよ。

じゃ、話を戻すよ。

それでね、プレシア・テスタロッサはジュエルシードを強奪しようとしたけど、

ジュエルシードは飛んで行っちゃった。それが、もう一つの地球。

それもなーちゃんが当時住んでいた街の周辺だよ。

その時地球に飛んできた魔導師の人に魔法の才能を見いだされた事で、

眠っていた魔法の才能が目覚めちゃったんだ。

つまり、なーちゃんはその時から魔法使いになっちゃったんだよ!」

 

「ま、魔法使いって?!」

 

「そうか、道理で生身で空が飛べた訳だ…」

 

「ブレスの奴をいとも容易く蹴散らしてのけたのも魔法の御蔭と言う事か…

魔法サマサマだな。」

 

「そう言う事だよ。尤も、なーちゃんも飛んできた魔導師も、

最初は事故だと思ってたみたい。

それで2人で一緒にジュエルシードを集めてたんだけど、

さっき言った通り、プレシア・テスタロッサはクローンにも手を出していた。

そしてそのクローンにジュエルシードを集めさせていたんだ。」

 

「それでどうなった?両者がかち合えば、奪い合いになってしまうが…。」

 

「当然、奪い合いになったよ。何度か戦ったけど決着は付かなかったんだって。

そうこうしている内に管理局が嗅ぎつけて地球にやって来たんだ。

で、魔法の才能があるならと言う事で

なーちゃん達も管理局に協力する事になって、

ここでプレシア・テスタロッサが仕組んだと言う事を知ったんだ。」

 

「成程な。

だが、小学生をそんな大事件の捜査に協力させるのはどうかと思うぞ?」

 

「そうかな?ミッドチルダの法律では、最低就労可能年齢は9歳だよ。

勿論、義務教育なんて物は向こうには無いよ。」

 

「き、きゅうさ…」

 

「何と言うか、滅茶苦茶ですわね。」

 

「あー、うん。予想以上だな。これ以上聞くと色々と危ないので話を戻そう。」

 

「で、異次元にあるそいつのアジトを見つけ出して突入したんだ。

さっき言った通り、そいつはジュエルシードの力で異世界に行こうとしたけど、

実際に異世界へのルートを開いたら、

その余波で地球が消えて無くなっちゃうかも知れない。

これは絶対に止めなきゃと言う事で、そいつと直接対決に至ったんだって。」

 

「遂に最終決戦か。で、当然勝ったんだな?」

 

「勿論。プレシアは破れかぶれで

残ったジュエルシードの力で逃げようとしたけど、

失敗してアジトが崩壊、虚数空間…魔力の使えない空間に墜ちちゃった。

これじゃ捕まえようがないから、結局死んだ事にした見たい。

そうそう、例の子供のクローンはこの後和解して、

言われるがままだったと言う事で大した罪にも問われずに

管理局で働く事になったよ。今ではなーちゃんの最大の親友なんだって。」

 

「ああ、『戦わずして、友にはなれぬ』ってそういう事だったのか…。」

 

「それが、高町とプレシア・テスタロッサとの因縁か…

だが、何故そいつだと解った?」

 

「山田先生を襲った機体は

15年前に彼女が使っていたロボット兵器『傀儡兵』にそっくりだったの!!

あの時は何mもあるデカブツだったけど、

今回襲ってきたのはIS並みに小型化されていたの!!

進化形だろうけど、基本的な形は変わっていなかったの!!

あんな物が出来る理由として考えられる可能性は一つだけなの!!

プレシア・テスタロッサは生きてこの惑星に漂着したの!!

そうとしか考えられないの!!」

 

「「「「「ナ、ナンダッテーーーーーーーーーーーーーーーーー?!」」」」」

 

「おい束、そんな事が有るのか?」

 

「解らないよ!この束さんも虚数空間なんて調べた事もないし!」

 

「私の言葉はあくまで憶測なの!!

他の可能性が思いつかないからこう言っただけなの!!」

 

「オホン…そ、そうか。で、高町。

貴様は管理局で普段は何をやっているんだ?」

 

「私の正式な肩書きは

『時空管理局本局武装隊 航空戦技教導隊所属 戦技教導官』なの!!

簡単に言えば、魔法で空を飛んで戦う方法を教える。

または教える教官を育てるのが仕事なの!!

武装警察だから階級の呼び方は軍隊風で、

今の私は大尉…管理局流の呼称は一等空尉なの!」

 

「えええっ?!ではお師様は私より2階級下…?!」

(独連邦軍には大尉と少佐の間に「上級大尉」がある。)

 

「如何にも!でも管理局員として学園に来たのではないの!!

階級の上下は忘れるの!!」

 

「……そうさせて頂きます。」

 

「教導官…人に物を教えるという意味では、私と同業と言う事で良いんだな?」

 

「その通りなの!!でもキャリアは違うの!

私はこっちの地球でISが生まれた頃には既に今の任務に従事していたの!!」

 

「(ああ、だから教え方が手慣れていたのか。

この鬼教官風の口調も、職業上の癖なんだ…。)」

 

「成程、手際が良い訳だ。貴様から見れば私の教え方など、

さぞ稚拙に映っていたのだろうな。」

 

 自嘲気味に語る千冬だが、なのはの返答は更にキツイ物だった。

 

「論外なの!」

 

「ひ、酷い!!」

 

 織斑千冬に向かって堂々と「お前の教え方は論外」と言ったのは

後にも先にもなのはだけである。

しかも、なのはと千冬の関係は教師と生徒。

他の教員が聞いたら確実に黙ってはいないだろう。

 

「『細かい事を叱る暇があったら模擬戦で〆るべし。

その方が、教えられる側も学ぶ事が多い』

という言葉があるの!!自分だけISに乗らないであーだこーだと言うより、

実際にISに乗って指導するべきなの!!出席簿でシバくより効果的なの!!

生徒は皆声に出さないだけで、

本心では『ISに乗った織斑千冬』を望んでいるの!!」

 

「うう…そうか。

やはり、ISに乗ってきちんと模擬戦を通じて向き合うべきなのか…?」

 

 千冬は2年前、第2回モンド・グロッソで

一夏が誘拐された為決勝を放棄して助けに行った。

それ以来、弟を危険な目に遭わせた罪悪感からか一夏を自然とISから遠ざけ、

いつしか自身もISに乗るのを忌避する様になっていた。

ここでも躊躇う千冬だったが…

 

「千冬姉…俺もなのはさんの言う通りだと思うぜ。」

 

「一夏?!」

 

「俺はあの時の事は恨んでなんかいないし、今の俺はなのはさんに鍛えられて

二重瞬時加速(ダブルイグニッション・ブースト)だって出来る様になった。

もう護られっ放しの昔の俺とは違うんだ。

だからさ…いい加減、独り相撲はやめて千冬姉もISに乗ろうぜ。」

 

 だが、その一夏が背中を押してくれた以上、

もう千冬がISを拒む理由はどこにもない。

 

「一夏…そうか、お前がそう言うのなら決断をしなければならんな。

良いだろう。私も、夏休み明けからはISに乗ろうと思う。

お前達にブリュンヒルデとしての私を見せる為、

何より、高町との約束を果たす為にも。」

 

「ほ、ホントですか?」

 

「おお、遂に偉大なるブリュンヒルデの勇姿が蘇る!!」

 

「千冬さんが再びISに…ヤバい、胸熱かも。」

 

「織斑先生がISを駆る姿、生で見られるのですね!」

 

「皆も喜ぶと思いますよ!」

 

 専用機持ち達も、千冬の復活に意気が上がったようだ。

 

「よーし、そういう事ならちーちゃんの為に、

この束さんが専用機を用立ててあげよう!」

 

「た、束?!良いのか?!」

 

「勿論!親友が一念発起したんだもの、手助け位やっても罰は当たらないよ。」

 

「束…有難う…有難う!!」

 

 あんなに暴力的に振る舞っていても、20年来の親友は伊達ではない。

千冬は束の手を取って感謝を示したのであった。



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第27話  真実 後編

「では次は私がここにやって来た理由の説明をするの!!

結論から言うと、私がこの世界に来たのは管理局の任務だからとかではなく

全くの偶然なの!!一言で表すなら事故なの!!」

 

「事故?それはまた運の悪い事だな。」

 

「半年前、私は演習場に使っているある無人惑星で教導任務中だったの!!

でも休憩中にその惑星の遺物が誤作動して、

異世界へ物体を転送する術に引っかかったの!!

演習場からこの世界に放り出された時は驚いたの!!

空戦魔導師じゃなかったら死んでたの!!」

 

「うんうん。それで墜ちた場所がたまたまこの束さんの隠れ家の近くで、

危ないと思って咄嗟に侵入者撃退用ネットを動かしたら、

空中で突然静止しちゃって、もうびっくり!

それで腰を抜かして驚いたら、その声でばれちゃったんだ。

それが、私となーちゃんの馴れ初めなんだ。」

 

「恋人同士みたいに言うな、気持ち悪い。」

 

「あ~ん?(威圧」

 

「わ、悪かった…。」

 

 

 

「それで、次に話すべきなのは…

この束さんとなーちゃんがヤマトを建造した理由かな。」

 

「いまあかされる、やまとたんじょうのひみつー!(両手パタパター」

 

「ヤマトの誕生秘話?!」

 

「あ、それ聞きたい!」

 

「確かに、あの滅茶苦茶な強さの根源は是非知っておくべきですわ。」

 

「そうそう、アタシ達いっつも扱かれてばかりだから、

情報開示してくれるなら大儲けよねー。」

 

「うーん、皆が期待している話とは違うと思うよ?」

 

「え?そうなんですか?」

 

「まあね。さて、皆はこの束さんがISを生み出した目的を覚えてるかな?」

 

「ええと…授業で習った限りでは、

『宇宙空間で限りなく生身に近い状態での行動を可能とする

次世代パワードスーツ』が設計のコンセプトでしたよね。」

 

「そうだよ。でも、今の世界でISはどう扱われている?」

 

「あっ…、そう言えば…」

 

「そう。ISは今じゃスポーツ競技として勝負に使われてるよね?

しかも、軍事利用を禁止したアラスカ条約と言う物が有りながら、

加盟国がみんなそれを無視して兵器として使ってる。この日本も含めてね。」

 

「「「「「…………………………………………………………………。」」」」」

 

「まあ、原因ははっきりしてるんだけどね。」

 

「白騎士事件…ですね。」

 

 10年前、束はISを世に発表したが、世界は取り合おうとしなかった。

憤慨した彼女は世界にその性能を認めさせる為に

主要国のコンピュータをハッキングし、

合計2341発のミサイルを日本に向けて発射させ、

それをIS1機で全て撃墜させたのだ。

 

 そればかりか、各国が差し向けた

戦闘機207機、巡洋艦7隻、空母5隻、監視衛星8基を

1人の死者も出す事無く破壊して見せた。これが白騎士事件の全貌である。

 

「あの時、この束さんは世界にISを認めさせる事しか考えていなかった。

他の方法を取るべきだったと後悔しきりだよ。

宇宙へ行って地球の写真を撮ってくるとか。」

 

「確かにあんな方法を採ってしまっては、

皆ISを凄い兵器として見るのは仕方ありませんわ。」

 

「そうだね。今となっては、ISを兵器として使うのは致し方無いのかもね。

…その上で聞くけど、皆はこんな世の中をどう思う?」

 

「どう?と言われましても…」

 

「良い世界…とは言えないよね。特に…(ラウラを見る)」

 

「危うく冤罪で捕えられる所だったからな。

お師様への恩、生きている間に返しきれるか予想も付かん…」

 

「そうだね。でも皆も良く考えてみて。

確かに白騎士事件の御蔭で世界はIS=超兵器と見ている。

でもその後できたアラスカ条約制定にこの束さんは何一つ関わってないんだよ。

つまり、『この束さんと無関係にISの平和利用を訴える条約が出来たけど、

世界中が無視している』事になる…おかしいと思わない?」

 

「確かに…それを言われるとその通りだな…。」

 

「この束さんはそれを調べる為、3年前に要人保護プログラムから逃げ出した。

そのせいで、箒ちゃんや両親には迷惑を掛けちゃったけどね。

…それでも、やらなきゃいけなかった。

この束さんなら出来る、いや、この束さんしかできない。

そう思ってたんだ。そして、この束さんは遂にその答えを見つけた。

それは…秘密結社『亡国機業(ファントム・タスク)』。」

 

「ふぁんとむ・たすく…?」

 

「第二次世界大戦中に生まれ、

半世紀以上前の冷戦終結と前後して活動している武器密売組織。

そして2年前にいっ君をドイツで誘拐した連中の正体。それが亡国機業だよ。」

 

「!!!」

 

「こいつらの目的は世界を戦場にする事。

そして、戦場となった世界で武器を売り捌く事。

こいつらをこのまま放っておいたら、世界はIS同士の戦争で大変な事になる。

だから、この束さんはこいつらを成敗しなきゃいけない。

…それが、ISを生み出した張本人としての責任だから。」

 

「せ、責任…あの姉さんが、『責任』?!」

 

 突然驚いた様な声を上げる箒。直後、目頭を押さえて啜り泣きを始めた。

 

「おい、どうした箒、急に泣き出して…。」

 

「グスッ…だって、姉さんが、グスッ…あの姉さんに、他人どころか、

家族の迷惑も省みない姉さんに責任感があったなんて信じられなくて…。」

 

「むー、今まで箒ちゃんには束さんがどう見えていたのかが良く解る一言だね。

でも…ホントに御免ね。この束さんのせいで…」

 

 束がISを発明して以降、篠ノ之家は一家離散の状態にあった。

箒自身、小学4年生の時から政府により日本各地を転々とさせられ、

3年前に束が失踪してから、箒は執拗な監視と聴取に晒され、

心身共に負担を受け続けてきた。

 

 IS学園にも束の妹という理由で政府に命じられ渋々入った訳で、

この事から、箒は姉にかなりの不信感を感じていた。

だが、それもようやく氷解しようとしているようだ。

箒は束を抱きしめると、一言こう答えた。

 

「もう良いんです。その一言だけで良いんです。一言謝って欲しかった。

周りを顧みないばかりで、いつも迷惑を掛けられてきたから、

せめて、その事だけでも一言謝って欲しかった…。」

 

「箒ちゃん…う、うううっ…。」

 

「姉さん、父さんと母さんに遭えたら、

今までの事、ちゃんと謝ってあげましょう。」

 

「うん…そうするよ。」

 

 篠ノ之姉妹は抱き締めながら泣いた。

それが、数年来のわだかまりから解放された瞬間だった。

 

「フッ…束の奴、少しは成長したか。」

 

 良く見ると、千冬の目にも涙。貰い泣きしているのだ。

 

「お、おにのめにもなみだ…」

 

「黙れ喋るな。」

 

「あ~ん?(威圧」

 

「…済まん、悪かった。」

 

 本当になのはに頭が上がらなくなった千冬。大丈夫なのか?

 

「それでね。この束さんはどうやってこの憎き亡国機業を成敗するかを考えた。

相手は世界規模の組織で、国家すら味方につけている強大無比な敵。

簡単には破れない。結局この束さんが考え付いたのは、

ISの母として世界のどのISも敵わない

『わたしのかんがえたせかいさいきょうのあいえす』を世に送り出して、

『ISで世界戦争を起こし、

武器を売って儲けたいのなら、この束さんが相手だ!』

って真正面から叩き伏せる事くらいだった。」

 

「「「「「(おいおい、普通無理だろ。)」」」」」

 

 世界規模の秘密結社に正面切って喧嘩を売ろうとする束も十分凄いが、

相手はその束の手に余る程強大だった。

 

「でも、いくらISの本家本元のこの束さんでもそんなISは造れなかった。

今日見せた紅椿もその目的で造られたISだけど、

あれでも要求を満たす機体とは言い難い。

結局こんな計画は無理なのかなと諦めかけてたんだ。

 

そんな時、出会ったのがなーちゃんなんだ。

なーちゃんと出会った日、この束さんはついポロリとその計画を語ってね。

そうしたら、なーちゃんはこう言ってくれたの。

『初対面の人にそう言う踏み入った話をするのは、

まだ心の底では諦めていないから。』

だって。それで、なーちゃんはこの束さんに協力してくれたんだ。」

 

「「「「「「「「「………………………………………………。」」」」」」」」

 

「皆もさっき見たよね?

ヤマト、つまり第5世代機のコンセプト『コアとCPUの分離』。

今までのISはコア=CPUだったけど、

ヤマトはコアと別にCPUとなるAIを搭載した。当然、これを実現するには

ISコアに頼らずに同等以上の知能を持つAIが必要になる。

これが難しいのなんの。この束さんでもできなかった位なんだ。

でも、なーちゃんが持って来たある物がそれを解決してくれたんだ。」

 

 そう言うとなのはは首から下げていたレイジングハートを手に乗せて掲げた。

 

「それが、このレイジングハートなの!!さあ、皆に挨拶するの!!」

 

『How do you do?

My name is Raising heart.』

 

「な、何ィーッ!!ペンダントが喋った?!!」

 

「こ、これは…」

 

「このレイジングハートとはかれこれ15年の付き合いがあるの!!

もう解ったと思うけど、束さんはレイジングハートのAIを解析した事で、

ISコアに頼らずにISを制御できるAIを完成させ、

ヤマトを建造することに成功したの!!」

 

「…成程、そう言う事か!」

 

「その結果出来たのが、遠隔部分展開やワープといった第5世代技能だよ。

あれは、なーちゃんが教えてくれた魔法が基本になっているんだ。

なーちゃん自身はこの手の魔法は苦手だったみたいだけど、

そこは人工知能の得意技、ヤマトのAIで補えば…。」

 

「まさに、まほうとかがくのあわせわざなの!!」

 

「…やけに急激に進化したと思ったら、そういうカラクリがあったんだな。」

 

「それで聞きたいんだけど、皆はどう思う?」

 

「どう思う…とは?」

 

「この束さんは今後もなーちゃんと協力して、

亡国機業を成敗する為に活動を続けるつもりだよ。

その上で、国家代表候補生として専用機を託された君等と、

そして箒ちゃんに聞きたい。皆はこの束さんの考えをどう思う?」

 

「「「「「「「「…………………………………………………。」」」」」」」」

 

 皆口を閉ざす。亡国機業は世界規模の秘密結社、

もし裏で自分の国と繋がっていれば、

下手な賛同は祖国への叛意の表明とも取られかねない。

 

「やっぱり…こんなのはおかしいよ。」

 

最初に答えたのはシャルだった。

 

「おかしい…やっぱりそう思うんだ。」

 

 ノーを突きつけられた。

予想通り、現役のIS操縦者には共感されなかったようだ。

落胆する束だが、シャルの回答には続きがあった。

 

「おかしいのは束さんじゃない。世界の方だよ!

折角条約まで作って禁止したのに…その条約を造った国が皆で無視するなんて、

こんなの絶対おかしいよ!」

 

 シャルがノーを突きつけたのは束ではなく、世界。

それは、束に理解を示すという意思の表明だった。

更に、他の専用機持ちも束の問いに答える。

 

「アタシも同感だわ。

その亡国機業とか言う奴等には誰かがきっちり落とし前を付けなきゃ!」

 

「ワタクシも、ISの道を選んだのは先祖代々の家名と、

我が家に仕える人々、そして遺産を護る為。

戦争の為では断じて在りませんわ。」

 

「全くだ。私とて連邦軍人の端くれ。軍人は戦争には反対する物だ。」

 

「私も皆と同じだ。姉さんをここまで悩ませる問題…さぞ根は深いだろう。

が、妹として、せめて手助けくらいはしなければ。」

 

 専用機持ち5人衆の意見は皆同じ、束への合意だった。

それが意味するところはたった一つ。

 

「皆…。それは、この束さんに手を貸してくれるって事で…いいの?」

 

「勿論です!ISを戦争に利用するって事は、

最悪ここにいる皆がそいつらの金儲けの為に

戦争に駆り出されるって事でしょう?私はそんなのは御免だ!!」

 

「勿論、アタシもよ。」「ワタクシも!」

 

「私もだ!」「僕も!」

 

「そう…そうなんだ…。皆…ありがと…。」

 

「めでたい事なの!!テロリスト呼ばわりされている束さんにも、

解ってくれる人はまだこんなにいたの!!

これなら、きっと束さんの夢も叶うの!!」

 

「な~ちゃぁぁぁん…!」

 

 泣きながらなのはに抱き付く束。だが、忘れられている者がもう二人。

 

「おいおい束、ここにも協力者がいるぞ。」

 

「ちーちゃん…。」

 

「私も加勢させて貰うぞ。弟や生徒を戦わせるのは嫌だが、

奴等の金儲けの為に戦わさせられるのはもっと嫌だからな。

…一夏、お前はどうなんだ?」

 

「俺だって戦うさ!!世の中戦わなきゃ生き残れない場面がある!!

理不尽な暴力が沢山ある!!

俺は仲間をそんな理不尽から護ってやりたいんだ。この世界で戦う仲間を!!」

 

「フッ…そうか。なら決まりだな。」

 

「ちーちゃん…いっ君…。皆、有難う!!」

 

 未来の者は口を揃えて語る。IS革命と呼ばれる一連の騒乱。

その萌芽はこの時から始まったと。

 

「それじゃ、なのはさんの正体も解った事だし、

今日はお風呂に入って、ゆっくり休もう!!」

 

「そうですわ!初日はバラバラでしたから、

皆さんと一緒の露天風呂は楽しみですの!」

 

「ほら、織斑先生も一緒に!」

 

「お、おい押すな押すな。」

 

「ハハハ…。」

 

「それじゃ、束さんも一緒に入りましょうか。」

 

「………………うん!」

 

 なのはの誘いに応じつつ、束は一人涙を零したのであった。



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第28話  臨海学校、大団円…?

 なのはが一夏達に正体を明かし、

束の悲願、ISの戦争利用を企てる武器密売結社「亡国機業(ファントム・タスク)」の成敗と

ISの宇宙開発ツールへの回帰に皆が賛同の意を示して程なくの事。

 

「それにしても、見れば見るほど痛々しい傷跡だね~。

この束さんのナノマシンなら、跡形も無く消せるけど、

本当にこのままでいいの?」

 

 ここは大浴場。女湯ではなのはと束が仲良く疲れを癒していた。

束がなのはの背中を流しつつ問いかけたのは、

臨海学校初日に一夏達が見た通り、なのはの背中の傷跡の事だ。

 

「構わないの!他の傷は治しても、この傷跡だけは消してはならないの!

かつての私の様な目に遭う人を一人でも減らす為の丁度良い教材となるの!」

 

「ふーん。」

 

「でも束さんには感謝してるの!

この傷跡以外の後遺症を何から何まで皆治してくれたんだから、

その恩は深いの!」

 

 12年前、今までの無茶が祟り、

任務中の僅かな反応の遅れから瀕死の重傷を負ったなのは。

半年間のリハビリの末奇跡的に復帰したが、

本来の性分なのか、任務の過酷さ故なのか、その後も無茶をする事が多く、

JS事件以来、身体に後遺症を抱えてしまっていた。

主治医でもあるシャマルに長期の療養を勧められるが、

 

「休んでも完治しない可能性があるし、

そもそもずっと飛び続ける事はできないのだから、

飛ぶのをやめるまでに何を残せるかが勝負」

 

 と説き、あくまで第一線にとどまる事を選んだ。

だが、この世界に漂着した時に転機が訪れる。

束の世話になった時、精密検査で体に残った後遺症や傷跡を見た束が

自作の医療用ナノマシンを試させてくれないかと申し出、

これを受けた所、治療は大成功。

 

 今まで積み重ねた後遺症が全て消えた結果、

最大出力はJS事件解決後と比べて30%以上増加。

平均魔力量も300万弱から380万強にまで増大した。

15年前は127万だったので、ほぼ3倍に増強された事になる。

もしも今彼女の魔導師ランクを測定するなら、

現状のS+から間違いなくはやてと同じSSまで上がるだろう。

 

「まさかこんな所にミッドの医療技術を超える技術が有ったなんて

思っても見なかったの!後遺症が完璧になくなったと知った時は驚いたの!!

束さんなら、ミッドに移住してもISその他の技術力で一財産築けるの!!」

 

「ホント?でも、向こうはこっちより科学も進んでるんでしょ?

通用するのかなぁ?」

 

「大丈夫、向こうは質量兵器…

この世界で使われている様な兵器を廃絶する事が国是なの!

当然パワードスーツなんて無いから、

ISも宇宙開発ツールとして使ってくれると思うの!」

 

「そう言えば、そんな話もしたっけ。う~ん、こっちの世界の人達が

ISを正しく使えるようになったら、

ミッドチルダって所で売り込むのも悪くないかもね。」

 

「それにはまず、私が帰る手段を見つなければならないの!」

 

「それが一番の課題か…ハァ。」

 

「とりあえず、今は目の前の問題から片付けるの!

まずはこっちの世界のISを有るべき姿に回帰させてからなの!

一夏君達も協力してくれるそうだし、前途多難だけど、希望は見えて来たの!」

 

「うん!じゃあ、攻守交代。今度は束さんの背中をお願いね。」

 

「任せるの!と、その前に…」

 

「え?何する気?」

 

「 ち ち を も み し だ く 。 」

 

「え゛?!」

 

 いきなり声を上げたヤマトに合わせ、

なのはは束の背後に回り込み、その豊満な胸を…

 

 モミュンモミュンモミュン…

 

「おっほぉぉぉおおお?!なーちゃん、それはらめなの~~~~~~~~っ!」

 

 束の訴えがなのはに聞き入れられなかったのは言うまでもない。

 

 

 

 それから暫くして…

 

「でも良かったじゃない真耶ちゃん!もう傷の方は完治したんだって?」

 

 傷が完治した真耶を含め、教員達が一斉に露天風呂に押し寄せていた。

 

「そうですね。でも、念の為に学園に帰ったら精密検査を受ける事にしてます。

何か有ってからじゃ遅いんで…」

 

「うむ、それが最善だな。しかし本当に良かった。」

 

「ええ、私もダメかと思いました。死んだ祖母の幻を見たくらいですから…

でも、高町さんのあの叫び声で目が覚めたんです。」

 

「「「「「(マジか…)」」」」」

 

 なのは凄いな。

 

「あれ?日高先生。あれは…」

 

「んん?あれ、誰か寝てる…」

 

 ふと、教員の一人が前方を指差す。そこには…

 

「は、はへぇ~~~~~~~~~~。」

 

 教員達が見たのは、

なのはに胸を揉みしだかれた結果あられもない姿でアヘ顔を晒す束であった。

 

「な、何事…?ひょっとして、新手の敵襲?」

 

「ってか、この人篠ノ之博士ですよね…何でこんな所で…」

 

「日高主任、こいつは殺しても死なん女です。もう放置で問題無いでしょう。」

 

「問題あるよっ!!」

 

 アヘ顔で倒れていた束が起き上がった。

 

「ちっ…しぶとい奴。」

 

 幸い、発見が早かったため湯冷めはしなかった。

 

「ちーーーーちゃーーーーん、なーちゃんがいじめるぅぅぅうううう゛!!!」

 

 千冬に抱き着いて号泣する束。

 

「フン、どうせ乳繰り合っていたんだろう?」

 

「違うのー!なーちゃんが一方的に揉みしだいて来たのぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「なーちゃん?もしかして高町さん?」

 

「そうなのぉ!!

なーちゃんったら、いきなり背後に回ってこの束さんのおっぱいを…」

 

「ハァ…確かに、あの人矢鱈上手いから感じちゃうんですよね。

私も実際されたから解ります。」

 

「そうそう、なーちゃんどこであんなテクを学んだのかなぁ?」

 

「そんなもん知るか。」

 

「ぶー、ちーちゃんも被害者なんでしょ?

ならこの束さんの気持ち位(パコン☆)ヲ゛ッ!!!」

 

 束は千冬に桶でシバかれた。思い出したくない事を呼び起こした代償である。

 

「だが、本当に無事に治って何よりだ、主任どうでしょう?ここは皆で一杯。」

 

「良いわね!賛成!!」

 

「あ、私も!!」

 

「よし…それじゃあ、今夜も飲むわよぉ!!」

 

「「「「おおおぉぉぉぉ!!」」」」

 

 かくして、その日教員達は御猪口片手に小一時間掛けて世間話に明け暮れ、

最も大量に飲んで酔い潰れた千冬を一夏の相部屋に放り込んだのであった。

 

「ムニャムニャ…いちかぁ~、いちかぁ~。(チュッチュッ」

 

「ま、またかぁあああ~…。」

 

 一夏は初日同様酔った千冬に抱き着かれ、

怒涛の口づけ連射を浴びながら眠りについたという。

 

 

 

 翌日、IS学園一同は学園に帰る為にバスに乗り込んでいた。のだが…

 

「フゴフゴフゴフゴ!」

(一夏ー!ほどけー!シバくぞー!)

 

「ねぇ一夏、何で織斑先生がぐるぐる巻きにされてるの?」

 

「聞くな、聞かないでくれ…」

 

 バスの最前列では、千冬がぐるぐる巻きの上猿轡を噛まされていた。

2度にわたる千冬の睡眠妨害に嫌気が差し、

一夏が朝早く起きて眠っている千冬をお返しにふん縛ったのだ。

そのせいか、一夏はやけにげっそりした様に見受けられる。

余程睡眠妨害が酷かったのか?

 

「あー、織斑君と高町さんはいるかしら?

会いたいという人がいるので、いるならちょっと降りてきてくれるかな?」

 

「「あ、はーい。」」

 

 二人が舞に言われるがままバスから降りると、

バスの外には金髪の女性がいた。福音の操縦者、ナターシャ・ファイルスだ。

 

「ね、ねえあの金髪の人、何かツヤツヤしてない…?」

 

 生徒の一人の指摘通り、

ナターシャはなぜか肌が輝いていた。ナニが有ったのだろうか?

 

「う、な、ナターシャ、さん…」

 

 一夏はその姿を見るなり、恥ずかしそうに俯いた。

 

「ふふっ、昨夜はとても楽しかったわ。」

 

 ナターシャは一夏とすれ違いざまに小声で一言告げ、なのはの方に向き直る。

 

「始めまして、ミス・ナノハ・タカマチ。

私はナターシャ・ファイルス、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の操縦者よ。」

 

「ドーモ、ハジメマシテ、ナターシャ=サン。」

 

「わーお、ぱつきんびじょだー。」

 

「…えっ?」

 

「ああ、この子はヤマト。私の専用機なの!会話が出来る世界初のISなの!」

 

「どーも、はじめまして、なたーしゃ=さん、やまとです。」

 

「Oh, my god…。」

 

 喋るISなど見た事も聞いた事もないナターシャ。

この後、日本驚異の技術力と勘違いした彼女が米国へ帰って

何を報告するかは想像に難くないだろう。

 

「昨日は私を、そして福音(あの子)を助けてくれてありがとう。」

 

「私は何もしていないの!礼ならヤマトに言ってあげて欲しいの!!」

 

「そうみたいね…なら、ヤマト、これはお礼よ。」

 

 そう言うと、唐突にナターシャの唇がヤマトの頬に触れた。

 

「わーい、きすされたー。」

 

「それじゃ、私は報告があるから帰国するわ。今度は戦場以外で会いましょう。

See you again!」

 

 そう言い残し、ナターシャは米大使館が手配した車に乗って去って行った。

こうして、一夏達の臨海学校は終わった。

 

 

 

 一方その頃北の大地では…

 

 

 ロシア連邦 首都モスクワ 大統領執務室

 

 コン、コン。

 

「入りたまえ。」

 

 ノック音に答え、ドアの奥から女の声が聞こえた。

 

「失礼します。」

 

 ドアを開けて入って来たのは、ライトブルーの髪に紅眼の少女だった。

 

 彼女を出迎えたのは、この部屋の主にしてロシアの長、

連邦大統領ビクトル・D・ザンギエフ。元プロレスラーにしてモスクワ大学卒、

身長210cmを超える文武両道の大巨漢だ。

 

「サラシキ君。二次移行(セカンドシフト)に成功したと聞いたぞ。

おめでとう。わがロシア初の快挙、国家を代表して祝わせて貰おう。」

 

「ありがとうございます。

これもザンギエフ閣下を始め、ロシアの御支援の御陰様です。」

 

「うむ。して、君が目覚めたワンオフ・アビリティはどう言った物かな?」

 

「はっ、名前は沈む床(セックヴァベック)

高出力ナノマシンによって空間に標的を沈める様に拘束する

超広範囲指定型空間拘束結界です。

拘束力はドイツ製のAICを遥かに凌ぐと検証されました。」

 

「ほほう、中々強そうだな。

来年の第3回大会、開催国の代表としての活躍を期待している。」

 

「ありがとうございます。」

 

「それで、翌日の便で学園に帰還するのだったな?

向こうもなかなか面白い事になっている様だ。

確か今年の新入生には一人男子が混じっているのだったな。

イチカ・オリムラ…彼のブリュンヒルデことチフユ・オリムラの弟とか。」

 

「はい、私はまだ会った事が有りませんが、会うのが楽しみです。」

 

「そうであろう。だが、我がロシアはもう一人注目すべき生徒を発見した。」

 

「! それは、誰なのです?!」

 

「うむ、口頭で説明するより映像を見て貰った方が早かろう。

補佐官、映像データを。」

 

「はっ。」

 

 補佐官が再生した映像記録には…

 

「こ、これは?!」

 

 3連装砲塔を従える巨体、なのは専用機ヤマトがICPO-ICDと

ドイツ代表セルベリア・ブレス大佐を相手に大暴れ、

見事単機で全滅せしめる光景だった。

 

「最初に見た時は我等も信じられなかった。

だが、ここに映っているのは間違いなく真剣勝負だ。

1対7という状況下でここまで一方的な戦いぶり、見事と言う他無い。」

 

「…全く仰る通りです。それで閣下、この生徒の名は?」

 

「名前はナノハ・タカマチ。

かのタバネ・シノノノ博士の専属操縦者にして、

パリとベルリンでの同時爆破テロ事件の実行犯『暴走核弾頭』だ。」

 

「!!! 暴走核弾頭が…我が校の生徒と言うので?!」

 

「我がロシア連邦保安庁(FSB)に詳細を調べさせたが、

間違いなくこの者こそ暴走核弾頭で間違いない。

だが、それ以外の詳細が解らんのだ。

解っているのは国籍は日本、年はブリュンヒルデと同じ24歳と言う事のみ。

詳しい出身地、家族構成等は一切不明だ。」

 

「それは、私の専用機よろしく随分とミステリアスですね。」

 

「うむ。我が国の代表である君の前で言うのも何だが、

これ程の強者が他の国の代表になれば大会を開くまでもない。我々は惨敗だ。」

 

「確かに、事実上の世界ランク2位のブレス大佐がこれでは私など…」

 

「そこでだ、ロシア代表操縦者としての君に新任務を与える。」

 

「はい。」

 

「この者への対策として政府が考えている案はいくつかある。

第1案は『ロシアに引き込み、ロシア代表として出場させる』事だ。」

 

「…まるで、私が要らない子みたいな言い方をなさるのですね。」

 

「案ずる事は無い。『G8と中、印、(ブラジル)は代表を2枠持てる』

という特権を利用して、

君とこの者をロシア代表として送り出すのが理想のプランだ。」

 

「そう上手く行きますか?戦いを見る限り、力づくは絶対に通用しませんし、

ICPO-ICDのIS隊と正面切って戦う様な人間です。

国家権力相手ですら容易に牙を剥くでしょう。」

 

「そこで第2案だ、それは『この者が他国の代表となるのを妨害する』。

何と言ってもタバネ・シノノノの側近で大規模テロの実行犯だ。

他にも何かしらの違法行為に関わっているやも知れん。

それを見つけ出して弱みを握れば、脅迫して代表入りを辞退させるもよし、

断れば事実を暴露して代表から引き摺り下ろす事も出来よう。」

 

「随分セコイ手ですね。もし失敗して逆に噛みつかれたら止められませんよ?」

 

「だろうな。だが、事はモスクワ大会の成否に関わる。

これくらいやらねば、真面な大会とはならんよ。

この様な怪物に他国の代表として出場されて

『モスクワ大会は出来レース同然の大会だった』

と評されればロシア末代までの大恥だ。

百歩譲って出場を認めるとしても、それはロシア代表としてでなければならん。

そして、第3案が…『手っ取り早く暗殺する』。」

 

「まず失敗するでしょうね。そしてタタールの軛の再来と…」

 

「容易に想像できるから困る。だが、これはあくまでも最終手段だ。

そしてどの案で挑むにせよ、我がロシアにはこやつの情報が足りぬ。

君は帰国次第、速やかに情報を集めてくれたまえ。」

 

「お任せ下さい、ザンギエフ閣下。」

 

「頼んだぞ、カタナ・”タテナシ”・サラシキ君。」

 

「では時間が押していますので、私は失礼します。(退室」

 

 少女の名は更識刀奈(さらしきかたな)。人呼んで更識楯無(さらしきたてなし)

対暗部専門の暗部を務める影の名門更識家において

当主の身分を示す「楯無」の17人目。同時に、彼女は日本人でありながら

自由国籍権によりロシア国籍を取得したロシア代表操縦者でもあった。

 

 

 

 

 ????

 

 

「くっ…新型の試作機は全滅か…

あの小娘、15年前とは比較にならないわね…」

 

「ごめんね母さん。私が力を持っていれば、一緒に行ってやれたのに…」

 

「良いのよ、貴女はそのままでいいの。」

 

 会話しているのは癖のある黒髪の初老の女と、彼女を母と呼ぶ金髪の女だった。

 

「折角この世に帰ってきた貴女を危険な目に遭わせたくないの。

正直、貴女がISに乗る事もあまり勧められないわ。」

 

「心配してくれるんだ、有難う。

でも無理しちゃ駄目だよ。もう若くないんだから。

それに、私だってもう大人。親に守られているだけの存在じゃないのよ。」

 

「■■■■…。そうね、時の流れは残酷だわ…。」

 

 とそこに3人目が入って来た。年のころは金髪の女と同じ位、

見た目はアジア人だが、

ブラウンのおかっぱに2つのリボン。緑色の瞳の女だった。

 

「性能テストは散々だったわね。」

 

「御蔭様で。いつになったらコアの解析は終わるのかしら?」

 

「早くても今年中よ。焦りは禁物。ISの根幹何だから、

念入りに、じっくりと解析して事を進めないとすっ転ぶわよ。」

 

「1日1回転ぶ貴女からそんな言葉を聞くと、不吉ったらありゃしないわ。

用件はそれだけ?」

 

「まさか。アリエノール・デュノアから電話があったわ。

…デュノア社がタバネ・シノノノから第3世代機の1号機を受領したみたい。」

 

「くっ、話には聞いていたけど、余計な事を!」

 

「でもこれはチャンスよ。これは向こうから新戦力を提供してくれるのと同じ。

それに、第3世代機を売り捌かせて、その上前をはねた方が金になるわ。」

 

「そうね。まずは性能を見極めましょう。

使えそうなら欧州統合防衛計画(イグニッション・プラン)のやり直しを

理事長と…幹部会にも提案しておくわ。」

 

「ええ、ぜひお願いするわ…国際IS委員会(IIC)常任理事にして次期理事長、

サンドラ・リーバーマンとその娘、

イタリア代表候補生、ラケーレ・リーバーマン。

…おっと、今はこう呼ぶべきだったわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亡国機業(ファントム・タスク)幹部会副議長、プレシア・テスタロッサ。

そしてその娘にして、実働部隊『モノクローム・アバター』隊員、

アリシア・テスタロッサ。」

 

「貴女もね、亡国機業(ファントム・タスク)エンジニア筆頭、

『ドイツのタバネ・シノノノ』天海春香…もとい、ハルカ・ハルシュタイン。」

 

 この世界の真の黒幕、亡霊の牙が剥かれる時は近い。



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第29話  北の国から

 臨海学校が終わって程なく、朝練を終えた生徒達の間でこんな話が広まった。

 

「ねえねえ、例の話聞いた?」

 

「公欠してた生徒会長が帰って来たとかいうあれでしょ?」

 

「そうそう、学園史上初めて

在学中に国家代表操縦者に任命された天才なんだって!」

 

「確か、ロシアの代表操縦者なんだって?」

 

「…暴走核弾頭さんとどっちが強いのかな?」

 

「そ、それは…」

 

 どう考えても国家代表+6を単機で〆たなのはだが、相手だって国家代表。

実際に戦わなければ分かるまい。と、そんな話をしていると…

 

「ねえ、そこの1年生に聞きたいんだけど?」

 

「「「…えっ?」」」

 

 背後から何者かの声が。

振り返ると右手に扇子を持ったライトブルーの髪に赤い瞳の生徒がいた。

胸元につけた黄色のリボンは、2年生である事の証だった。

 

「えーと、どちら様ですか?」

 

「どちら様って、今皆が噂話をしていた生徒会長って、私の事だけど…?」

 

 何を隠そう、彼女こそこの度帰国して学園に到着した生徒会長、

更識楯無その人であった。

 

「「「ええ~っ!!」」」

 

「これがホントの『噂をすれば影が差す』。…なんちゃって。

それで聞きたいんだけど、皆は高町なのはって生徒、知ってるかしら?」

 

「えーと、高町なのはって…暴走核弾頭の高町さんの事ですか?」

 

「そうよ。彼女に会いたいんだけど、皆はその人がどこにいるか知ってる?」

 

「はい。あの人は織斑先生の命令で、

いつも第3アリーナで専用機持ちの人達と朝練をしているんです。」

 

「第3アリーナね。分かったわ、有難う。」

 

 そう言うと、楯無は去って行った。

 

 

 一方その頃第3アリーナでは…

 

「高町、今日の朝練は終わった様だな。」

 

「いかにも!」

 

「うむ、篠ノ之の事で話がある。

着替え終わったら2人共警備主任室まで来てくれ。」

 

「「はい。」」

 

 そして、千冬に言われるがまま警備主任室へ来たなのはと箒。

 

「織斑先生、先程の話はどう言う件で?」

 

「うむ。お前に日本政府から、

『今月末に行われる代表候補生認定試験を受験して欲しい』

との通達があってな。」

 

「代表候補生認定試験…ですか?」

 

「そうだ。今のお前は高町の鍛錬により、

訓練機でも専用機と十分戦えるレベルに到達している。

一般生徒の中では間違いなく最強の部類に入るだろう。

更に言えば、束によるとお前のIS操縦適正を再測定した所、

最高位のSランクに向上していた事が解った。

つまり、私や高町と同ランクと言う事だな。

この度学園が書類を送った結果、受験させる資格ありと判断されてな。」

 

「本当ですか?!」

 

「それはめでたいの!」

 

「近日中に願書が届く。試験までは予習復習でもして備える事だ。」

 

「ありがとうございます!!」

 

「篠ノ之に関しては用件は以上だ。下がってくれ。」

 

「では失礼します。(退室」

 

「さて、高町…実は貴様の処遇で世界中が揺れていてだな…。」

 

「?」

 

「いくら束の専属とは言え、

貴様が公的な資格無しに専用機を持っていると言うのが問題になっていてだな、

国際IS委員会(IIC)内部でも貴様をどう扱うかで大論争になっている。

それだけではない。貴様が暴走核弾頭である事実を幾許かの国が掴んだ様でな。

特に米仏露3国の諜報機関からの接触が激増している。」

 

「これも有名税の一つの形なの!…む!(視線を横へ)」

 

「どうした?」

 

 ふと視線を逸らしたなのは。千冬が何事か尋ねる。

 

「確かに、諜報機関が活発に動いている様なの!」

 

「むむ、確かにな。出来れば穏便に済ませたいが、奴の性格上無理だろうな。」

 

「知っている人なの?」

 

「ああ。私が去年担任を務めた生徒の一人だからな。

奴に会ったらこう言っておけ、『少しは私の胃を労わる努力をしろ』とな。」

 

「覚えておくの!!」

 

「で、話の続きだが…貴様にはこれ以上ごたごたを増やして欲しく無いと言う

学園たっての願いで篠ノ之と共に代表候補生の試験を受けて貰いたい。」

 

「極めて不純な動機なの!でも合法的に専用機を持てる身分になれば、

IICも文句は言えないだろうし、

何よりヤマトの情報を日本政府に渡す事になるから、

諜報機関をそっちへ誘導して学園への接触を減らせる…そういう事なの?」

 

「そうだ。」

 

「では物は試しに受けて立つの!!」

 

「ああ…用件は以上だ、下がってくれ。授業には遅れるなよ?」

 

「失礼するの!」

 

 警備主任室を出たなのは。教室に戻る帰り道、なのはは急に立ち止まった。

 

「そこの人、気付いてないとでも思ったの?」

 

「おやおや…もうバレたんだ。」

 

 その声と共に楯無が姿を現した。

その手に持った扇子には「初顔合わせ」の文字が。

 

「家業の都合でストーキングは結構鍛えたのに…良く解ったわね。」

 

「普通の人なら誤魔化せても、私には通じないの!…で、どちら様?」

 

「IS学園2年生、現生徒会長にしてロシア代表IS操縦者、更織楯無よ。

その自分を模したぬいぐるみの待機形態…

貴女が『暴走核弾頭』高町なのはで良かったかしら?」

「いかにも、私が高町なのはなの!」

 

「ずどらーずどう゛ぃちぇ。やまとだよ。」

 

「!! ISが喋った?!」

 

「だー。これぞせかいはつのだいごせだいきー。」

 

「(呆然)…………。ハッ!」

(いけないいけない…あっちのペースに乗せられる所だった。)

 

 流石の楯無も、まさかISが喋るなどとは予想もつかなかった様だが、

そこは日頃の鍛錬の賜物か、即座に平静を取り戻す。

 

「ど、どうも。生徒会長の更識楯無よ。」

 

「で、生徒会長がなんでストーキングなんて真似をしてるの?」

 

「一言で言うなら、

貴女に関して生徒の代表者として確認しておきたい事が有るの。

高町なのは24歳。前職は篠ノ之束博士のアシスタントで、専用機はヤマト。

表向きは『第3世代』ISだけど、実態は『第5世代機』。

 

先月の学年別トーナメント後、VTシステム使用の容疑で逮捕状が出た同級生、

ドイツ連邦軍ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐捕縛任務のため派遣された

ICDのIS隊及び、ドイツ代表操縦者セルベリア・ブレス大佐を単機で撃退、

全員に全治1か月以上の重傷を負わせ、

彼女のとその部下達の無罪を力づくで認めさせた。

 

現在、担任の織斑先生の命で

同じ組の専用機持ちの朝練の教導役を受け持っている…

これが私が今まで集めた情報だけど、間違いないわね?」

 

「正解なの!流石連邦保安庁(FSB)と褒めてやりたい所なの!!

でも、どうしてそんなに私の詳細を知りたいの?まさか弱みを握りたいの?!」

 

「(ギクッ!)まさか。私、そこまでセコイ女じゃないのよ、高町さん。」

 

「なら良いの!他には?」

 

 楯無は扇子を裏返し、「警告」の文字を見せた。

 

「では生徒会長として一つ警告を。貴女と織斑君、部活に入ってないわよね?」

 

「そういえば、自主練漬けで部活動なんて入る暇がなかったの。何か問題が?」

 

「あるわよ。1年生の中では間違いなく最強の実力者と言っても良い貴女が

どこの部活動にも所属していないというのは、

生徒の代表者として、本当に困るのよ。理事会にも急っつかれてるし、

今週中は見逃すけど、来週には所属する部活を決めて欲しいのよ。

私からも通告しておくけど、貴女からも織斑君にもそう伝えておいてほしいな。

何なら、生徒会入りという選択肢もあるけど…。」

 

「そうだったの?まあ、それ位なら承るの。

ああ、それと、千冬先生から言伝なの。『私の胃を労わる努力をしろ』なの!」

 

「気を付けておくわ。部活動の件、よく考えておいてね。

それじゃあ私はこれで。」

 

 それだけ言い残し、楯無は去って行った。

 

「怪しいの…」

 

 どうやらロシアはなのはに興味津々のようだ。自陣営に引き込みたいのか、

あるいは危険人物として消し去りたいのか。

今は結論を出すには早い、もう少し待とう。

そう決心しつつ、なのはは朝食を取りに食堂へ向かうのであった。

そして朝食時、○HKのニュース番組からこの様な報道が入った。

 

「次のニュースです。経営危機が取り沙汰されている欧州最大手ISメーカー、

デュノア社から待望の第3世代機、『タイフーン』が発表されました。

 

最大の特徴は、第3世代機では史上初となる量産機であり、

現在日本が開発中の第3世代機『打鉄弐式』に先んじての完成となります。

 

先日行われた報道機関へのお披露目に際し、

同社CEO、ロベルト・デュノア氏は

『世界最初の量産可能な第3世代機というアドバンテージを売りに、

まずはR・リヴァイヴの運用国を中心に売り込みを掛ける。

売上次第では、本機をベースとした宇宙開発特化型の機体を開発し、

専門部署を立ち上げることも予定している。』

として、量産への意欲と新たな展望を明らかにしました。

 

これを受け、IIC本部の報道官は次のようにコメントしました。

『フランスが第3世代機を完成させたことは大変喜ばしい。

IIC理事会は現在、欧州統合防衛計画(イグニッション・プラン)制式ISの選定を中止し、

本機を含めた形でのやり直しをEUに提案するか協議中である。』

では次のニュースです…」

 

「父様…」

 

 ニュースを見たシャルロットは感慨も一入だ。

第3世代機が完成したのなら、本妻の実家も文句は言えないだろう。

これで彼女は名実共に晴れて自由の身となれた。

 

「シャル、良かったな!」

 

「これで、デュノア社も立ち直りますわね。」

 

「良かったじゃん!」

 

「皆、有難う。きっと会社の皆も喜んでると思うよ。」

 

「そうだな…、夏休みには帰省して顔を見せてやると良い。」「そうだね。」

 

「お前達、SHR開始10分前だ。遅れないように早く完食しろ。」

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

 この時、あの様な事になるなどと誰が予想しただろう。

欧州がとんでもない災いに見舞われるあの悲劇は、まだ兆しすら見せていない。



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第30話  楯無ですが、楯が欲しいです。

 そして週明け、1学期最後の週の月曜日の昼休み…

 

 ピーンポーンパーンポーン…

 

『こちらは生徒会執行部です。

1年1組の織斑一夏君と高町なのはさん。

食事が終わりましたら生徒会室へ来て下さい。

1年1組の織斑一夏君と高町なのはさんは、

食事が終わりましたら生徒会室へ来て下さい。』

 

「うえ?!呼び出し?」

 

「あ~、あの件か…」

 

 どうやら、楯無が2人に部活動加入に関する回答を求めて来たようだ。

だが、それに託けて何を企んでいるのやら…

 

「(まあ、行くだけ行ってみるか。

先方も今までの私のやったことを知っている以上、

そこまで大それたことはしないだろうし。)」

 

 

 

 そして、昼食後の生徒会室。

 

 コン、コン。

 

「入って。」

 

「失礼します/するの!」

 

 生徒会室に一夏となのはが入室すると、そこには生徒会長の楯無と、

生徒会会計で本音の姉、3年主席の布仏虚(のほとけうつほ)がいた。

 

「さて2人共。貴方達がどの部活動に所属するか、

その答えを聞かせて貰うわよ。」

 

「では…」

 

なのはは封筒を取り出し、中の文書を楯無に渡した。

 

「これは?」

 

「理事会からの通告書なの!

私と一夏君の部活動入りは任意で良いという事なの!!」

 

 楯無は文書を無言で一読すると、机に置いた。

 

「………確かに、高木理事長の正式な通告ね。

ご丁寧に一夏君のもあるとは根回しの速い事で。」

 

「それで、この件はこれで見逃してくれるの?」

 

「こういう事なら仕方無いわ。

でも、気が変わったらいつでも生徒会室に来てね?

それじゃ一夏君はもう下がっていいわ。

高町さんにはもう一つ用があるからこのままで。」

 

「は、はぁ…」

 

 一夏は退室していった。

 

「さて高町さん。

貴女…IS学園の生徒会長はどうやって決めるかは、もう知っているわね?」

 

「『学園で最もISが強い生徒が成る』と…」

 

 だからこそ、2年生の楯無が生徒会長を務められるのだ。

 

「その通り、その上で言うけど…今日の16時以降、

もし開いていたら私とISで一戦競って欲しいのよ。」

 

 何と言う事か、楯無はなのはにIS戦を挑んできたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………あー、生徒会長さん?」

 

「何かしら?」

 

「もう一回言って欲しいの。16時以降に何をして欲しいと?」

 

「今日の16時以降、もし開いていたら私とISバトルを…。」

 

「What?!」

 

「ヒィ?!!」

 

 いきなり楯無に噛みつくなのは。

 

「16時以降と言わず、早速戦うのっ!

何なら2対1でも戦うのぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!」

 

「ハァアアアア?!ドンだけ戦いたいのよ貴女?!」

 

「ちょっ、私整備科なのにー!!」

 

 なのはは有無を言わさず楯無と虚を引っ掴み、アリーナへワープした。

 

 

 そして…

 

「な、何なのよ一体…」

 

 楯無はISを装備してアリーナ中央に赴く。

彼女の専用機はロシア製第3世代機、モスクワの深い霧(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)(以下、G・T・M)を

自ら改修して組み上げた霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)(以下、M・レイディ)。

特徴は他のISと比べて装甲化された部分が少なく、

周囲に浮遊するクリスタル型のパーツ、「アクア・クリスタル」によって

ナノマシン制御される水のヴェールで機体を包んでいる点だ。

 

『お嬢様、授業開始まであと20分。

それまでに決着を付けなければいけません。』

 

「解ってるわ、でも手加減してわざと負けるなんて真似はしない。

勝って帰るわよ。」

 

『ええ、その通りです。』

 

 管制室で見届け役を務める虚に勝って帰ると告げたのは、

仮にも学園最強の証、生徒会長の地位に就いている自信の表れか。と、そこに…

 

 

 

 

 

 

「なのおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 例によって、ヤマトを展開してなのはが空から降ってきた。

 

「アップデート後の対有人機戦は初めてなの!!

(福音は暴走中だったのでノーカン)さあ掛かって来るのっ!!!」

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 ヤマトのどーん!の声と共にいきなりダッシュアッパーで殴りかかるなのは。

 

「ちょおおおおおおっ?!」

 

 楯無はギリギリでアッパーを躱し、何とか一撃死を免れた。

 

「…………………何これ?

(ヤバい、あのアッパーが当たっていたら即敗北だったわ!)

くっ、とんだせっかちさんね、そっちがその気なら!!」

 

 楯無が蛇腹剣(ラスティー・ネイル)を構え、なのはに瞬時加速で斬りかかるが…

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 アリーナを揺るがす咆哮と共に放たれたダッシュアッパーが直撃。

しかし手応えが無い。

 

「!! これは水?!」

 

 なのはが殴ったのは水で出来たフェイクだった。では本物は…

 

「…! この霧は…?!」

 

 突如、なのはは霧に包まれた。

 

「まさか…!」

 

 直感でその霧が人為的な物だと察したなのははワープで逃げようとするが、

その寸前で霧が蒸発。ヤマトを高熱の衝撃波が襲った。

 

「むっ、水蒸気爆発…!」

 

「ナノマシン制御された水を霧と為し、

高熱で瞬時に蒸発させて標的に熱と衝撃のダメージを与える。

これぞM・レイディの奥義、清き熱情(クリア・パッション)!さあ、どんどん行くわよ!」

 

 間髪入れず、ヤマトを再び霧が包み込む。

だが、ヤマトに同じ技は二度も効かなかった。

 

「ならばこちらは…はどうばくらいぱぅわぁーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 ヤマトは近接グレネード「波動爆雷」を射出し、ナノマシンより早く点火。

爆風で霧を吹き飛ばした。

 

「!! もう破られた?!」

 

「さあ一転攻勢なの!!弾幕2倍なの!!」

 

「うおおおおおおおおお!!!いんかみんみっそぉーーーーーーーーー!!!」

 

 追い打ちで煙突型VLSと全発射管からミサイルをぶっ放す。

 

「ちょっとぉぉぉ!!これウチの国のミサイルじゃないのよぉ!!!」

 

 何と発射されたのは全て楯無の所属国であるロシア製のミサイルだった。

しかも燃料を減らした代わりに弾頭を何倍にも増量して威力を強化した特別版。

一発でも当たれば一撃KOは免れまい。

 

「あの兎博士ったら、どっから盗んできたのよ?!」

 

 楯無は周囲の水を螺旋状に成形したガンランス「蒼流旋」を展開。

仕込まれた4門のガトリングガンでミサイルを迎撃。

ミサイルの一発に銃弾が命中し、周囲のミサイルを巻き込んで大爆発。

残ったミサイルは清き熱情で吹き飛ばして切り抜けた。

 

「威力強化の為に弾頭を増量していたみたいだけど、それが仇になったわね。」

 

 但し、楯無も打つ手がほとんど残されていない。

「(沈む床(セックヴァベック)には追加装備『麗しきクリースナヤ』が必要だけど、

アレは調整の為にロシアに置いてきちゃったからなぁ…)」

 

 そもそも、ワープできるヤマトに

拘束系の技が効かない事は以前に証明されている。

 

「(流石は暴走核弾頭…こうなったらアレをやるしかない!)」

 

 M・レイディの周囲を囲む水が蒼流旋の穂先に集まる。

 

「見るがいいわ、M・レイディ最大の一撃を!!」

 

 集束された水がヤマトに向けられ、

エネルギーへと転じたナノマシンの水が一気に放出された。

 

「穿って見せる!『ミストルティンの槍』よ!!」

 

 防御に回しているナノマシン制御の水を一点に集中させ、

更に超振動を与える事で強固な装甲ですら貫通し、内部から爆破する。

それが楯無の最大奥義『ミストルティンの槍』。

そのエネルギー総量は小型気爆弾4個分に相当する。

一見強力そうな技だが、発動に時間がかかり、それまでは無防備となる上、

当たれば自分まで危険に晒されると言う所謂ロマン技の部類に入る奥義だ。

 

「行けえええええええええええええええええええええええええええええっ!!」

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 楯無が瞬時加速でなのはに迫る。一方なのははアッパーで迎え撃つ。

 

 ドッゴォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

 アリーナを揺るがす大爆発。果たして結果は…

 

「その程度のパワーでヤマトに穴が開くと思っていたの?」

 

「こ、こんな事が…」

 

 楯無の捨て身の一撃はヤマトには届かなかった。

見ると蒼流旋の穂先がぽっきりと折れている。

攻撃が当たる直前、ヤマトの追加アーム「錣曳(しころびき)」が地下から飛び出し、

蒼流旋を拳で叩き折ったのだ。

カウンターを主軸とするなのはらしい対応策だった。

 

「さっきの爆発で視界が塞がった隙に、足元に仕込んでおいたの!!

さあ決着をつける時なの!!覚悟するの!!」

 

「くっ、まだ終わった訳では…」

 

 蒼流旋を蛇腹剣(ラスティー・ネイル)に持ち替えて応戦しようとした楯無だが、

そうは問屋が卸さない。

 

 ガッ!!

 

「!!」

 

 遠隔部分展開で楯無を捕えた。即座にワープで背後に回り込むと…

 

「とくと味わうがいいの!!ロシア人に相応しいフィニッシュホールドを!!」

 

 本体のアームで楯無を掴み、信じられない行動に出た。

 

 

「これがっ!!」

 

 ドガッシャン!!

 

「ふご!!」

 

 何となのはは楯無にバックドロップをぶちかました。

 

「ちょ、プロレス技?!プロレスナンデ?!!」

 

 勿論これで終わりではない。

 

 

 

「私のっ!!」

 

 更にもう一回バックドロップ。だが攻撃はまだまだ続く。

 

 

 

「全!力!全!開ッ!!」

 

 今度はスクリューパイルドライバー。

ハイジャンプから横回転しながらのパイルドライバーだ。

 

 

 さあいよいよ最後の〆だ。

なのはは楯無を真上に放り投げ、ワープで追いついて空中でキャッチ。

そのままもう一度スクリューパイルドライバーを仕掛ける。

その時、楯無は漸く気が付いた。

 

「(こ、これは元プロレスラーだった大統領が

現役時代に使っていたフィニッシュホールド?!まさかこれはロシアへの…)」

 

 

「ファイナルアトミックバスタァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウン!!!

 

 ヤマトが轟音と共にアリーナに着地し、例によってクレーターが。

勿論、スケキヨ状態のM・レイディは今のでSE切れに。勝負ありだ。

 

「………な、何でIS戦でプロレス技が飛び出すのよぉ~…ガクッ。(K.O」

 

 だが、楯無もヤマトのSEに500以上のダメージを与えた。

それは間違いなく楯無の実力の証明であった。

 

「POWEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEER!!!」

 

 そしてこの雄叫びである。一部始終を見届けた虚は思った。

 

「(あれって、絶対トッ○ギアのあの人の真似だよね…?)」

 

 残念、ボディソープの妖精の方である。

かくして、学園最強の生徒決定戦は

予定調和に等しい内容でなのはの勝利に終わった。

 

「これで文句無しに私の勝ちなの!!」

 

「はあ…負けちゃった。こうなった以上生徒会長は続けられないわ。

来学期からは貴女に生徒会長をやって貰うけど、構わないわね?」

(ふっふっふ、これで彼女は生徒会長の身分に縛られて

行動に制限がかかるけど、逆に私は唯の2年生として

より自由度の高い振る舞いが可能になる。

腰を据えて彼女の情報を収集出来るわ!)

 

「私は一向に構わないの!!」

 

「それじゃ…さあ待ってて簪ちゃん!!お姉ちゃんが今行くよー!!」

 

 ガシッ!!

 

「お嬢様、昼休みが終わります、続きは放課後に…」

 

「ああ!虚、離してぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 

 楯無は虚に引きずられてアリーナを去って行った。

それを見届けながらなのははこう思った。

 

「(簪ちゃん?お姉ちゃんと言っていたから恐らく妹の事か…。)」

 

 どうやら、彼女とのごたごたはこれで終わりそうも無い様だ。



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第31話  落ちこぼれとは何だったのか

姉が登場すれば、次は妹の番。はっきりわかんだね。


 そして、その日の放課後… 

 

 アリーナのピット内に1機のISがあった。

どうやら未完成らしく、長い間置きっぱなしの様だ。

その機体と向き合い、端末を操作する少女の姿があった。

その名は更織簪(さらしきかんざし)。IS学園1年4組に所属する日本代表候補生であり、

そして生徒会長楯無の妹でもある。簪はこの機体を完成させる為、

アリーナで放課後の鍛錬をしている一夏達のデータを収集して、

反映させようとしていたのだ。

 

「……………。」

 

 そんな彼女の背後から、怪しく近づく影があった。

 

「じ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ…。」

 

「っ…誰?!」

 

 突然背後から聞こえたじ~っの声に驚き振り返ると、

そこには3頭身のぬいぐるみが浮いていた。

 

「ぬいぐるみ…?」

 

「やあ。」

 

「?!喋った?!!」

 

「わたしがやまとだよー。」

 

「ヤマト?! じゃあ…」

 

 あの事件以来、ヤマトの名は操縦者のなのはと

その異名「暴走核弾頭」と共に学園中に広まっている。

そして、ヤマトがいると言う事は…

 

「そう、私もいるの!!」

 

「ヒッ?!」

 

「私が高町なのはなの!!」

 

「ど、どうも…1年4組の更識簪…です。」

 

「更識…つまり、貴女は生徒会長の…」

 

「はい、楯無は私の姉です。」

 

「やっぱり!生徒会長とは今日の昼休みに一戦交えて勝ったばかりなの!!」

 

「そ、そうなんだ…」

 

「で、ここで何をしてたの?」

 

「この機体を…打鉄弐式を完成させる為のデータの採集をしてたの。」

「成程。」

 

 話を聞くと、この機体は日本が世界初の量産型第3世代機の

プロトタイプとして開発中だったが、一夏の登場により開発元の倉持技研が

彼の専用機白式の方に掛かりっきりになってしまった為、

未完成のままで放置されていた。

それを簪が専用機として使う事を条件に譲り受け、

自力で完成させようとしていた。

 

 簪は周囲から天才と言われている姉に対してコンプレックスを抱いており、

身内からも出来損ないと蔑まれる日々を送っていた。

姉は在学中に一国の代表に伸し上がり、専用機も自分で造ってしまった。

だが自分はそんな姉にいつも勝てない、

天才の姉と比べられて、誰も自分を認めてくれない。

 

 だから現在開発中の量産型第3世代機、

「打鉄弐式」のプロトタイプ1号機を引き取り、

自分の手で完成させようとした。完成させれば、周囲だって認めてくれる。

更織の出来損ないと身内から蔑まれた過去から決別できる。

 

「でも、打鉄弐式は…」

 

「まだ完成していないのかな?」

 

「うん。やっぱり、私じゃ無理なのかなって何度も思った。

所詮、私じゃお姉ちゃんの真似事をしても上手くいかないんだって思った。

だけど、諦められなくて…それで…。」

 

「皆の鍛錬のデータを採集して、その機体に反映させようとしたのかな?」

 

「そう…でも、一番の本命は…」

 

「やっぱり、やまとなの?」

 

「(無言で頷く)」

 

 ISの本家本元が造った第5世代機。そのデータを反映させれば、

もしかしたら姉の専用機以上のISを造る事が出来るかもしれない。

そう思ってデータを取っていた。

 

「そう言う事だったの?それは失礼な事をしてしまったの!」

 

「…良い、専用機のデータを勝手に取っていたのは私だから…」

 

「でも、今のを聞いて確信した事が有るの!………同じなの!!」

 

「同じ?」

 

「実はこう見えても、私も二女で落ちこぼれなの!!」

 

「え?え??」

 

「私の家は喫茶店だけど、先祖代々ある剣道の流派を継承しているの!!

そして、一人ずついる私の兄と姉は後継者として剣の腕に恵まれているの!!

でも私は剣の腕何てからっきしなの!!

つまり落ちこぼれなの!!貴女と同じなの!!!」

 

「エエエエエエェェェェェェ(´Д`)ェェェェェェエエエエエエ」

 

 なのはの言葉が全く信じられない簪。当たり前だ。

あれだけの事をしておいて自ら落ちこぼれを名乗った所で誰が信じるのか?

 

「落ちこぼれって…落ちこぼれって…。」

 

「でも、そんな私でもIS操縦者としての腕は知っての通りなの!!

こればかりは親兄弟の誰も真似できないし、真似させないの!!

『競うな、持ち味を活かせ』。

人間として必要な事を全て教えてくれた父の友人から授かった言葉なの!!」

 

「そ、そうなんだ…。」

 

「そう言う事だから、お姉さんと同じ事をして敵わないと思うのなら、

自分の持ち味を見つけ出して、それを伸ばす事を心掛けるの!!」

 

「自分の持ち味…?私に、それが出来るの?」

 

「この学園に入学できた時点で、その資格と素質はあるの!!」

 

「………………。」

 

「何にせよ、まずはこの機体をちゃんと完成させない事には何も始まらないの!!

と言う訳で、貴女が望めば協力をするの!!」

 

「協力…?貴女が手伝ってくれるの?」

 

「そうだよ。やまともかいはつならきょうりょくするよー。」

 

 ISの本家本元、束直々の作であるヤマトのAIなら、

IS開発のノウハウも充分持っている。

更に、仕上がった機体のチェックをなのはが行えば言う事は無い。

 

「…じゃあお願い!この機体の開発を手伝って!」

「おーけーなの!さっそくげんじょうをみてみるの!!」

 

 ヤマトは簪から端末を受け取ると、

自身と端末をケーブルで繋ぎ、打鉄弐式の状況を確認する。

簪はキーボードに触れずに端末を操作する

ヤマトの姿を食い入るように見つめていた。

 

「………」

 

「どう、ヤマト?」

 

「…………これじゃだめなの。」

 

「駄目…?」

 

「ひとことでいうと、ちゅうとはんぱなの。

ありとあらゆるめんでておちがあるの。

しゅつりょくがほんらいひつようなぶんにぜんぜんたりてないの。」

 

「クスン…」

 

 呆気無く一蹴され、半べその簪。

 

「でも、だれのたすけもかりずにここまでできたこと。

それはじゅうぶんすごいことなの。

なのはでもぶらこんせんせーでもできないことをやった。

それはむねをはっていいことなの!」

 

「…ほ、ホント?」

 

「ほんと!あとはやまとがてなおしをするの!!

じゅんちょうにいけば、せっけいだけならこんがっきちゅうにおわるの!!」

 

「……!」

 

 今学期は今週で終わりである。

つまりヤマトは設計は最短で一週間で終わると言い切ったのだ。

 

「あ、ありがとう…」

 

「それじゃあ、せっけいがおわったらあとはまかせるの!」

 

「え?」

 

「とちゅうまではひとりでできていたんだから、

さいごのけじめはじぶんでつけるの。そのほうがじしんがついておとくなの!」

 

「……!!うん、高町さん、ヤマト、ありがとう!

…そうだ。もう一つ聞きたい事が有るの。」

 

「なんなの?」

 

「お姉ちゃんと勝負したって言っていたけど、どうして戦う事になったの?」

 

「それはね、どうやら彼女は私の事をもっと調べたいみたいなの!!

大方、弱みを握って所属先(ロシア)の意のままにしたいと思うの!!

束さんや千冬先生曰く、

実家や日本政府、FSBまで私を調べたいみたいなの!!」

 

「そう、お姉ちゃん、そんな事をしてたんだ…」

 

 だがなのはは知らないが

楯無とてザンギエフ露大統領から直々に命令されてやっているのだ。

止めたかったら大統領本人に話を付けねばなるまい。

 

 しかし日露両国、いや世界のどの国も束の専属操縦者と第5世代機という

超一級のパワーバランスブレイカーの情報や技術は欲しいに決まってる。

口約束で止めさせるなどできっこない。

 

「それなら…。」

 

「? どうするの?」

 

「私、この機体が完成したら…お姉ちゃんにIS戦を挑もうと思います。

お姉ちゃんに、そんな汚い事をして欲しくないから。」

 

「良いの?仮にも国家代表が相手だけど。」

 

「それでも、だよ。私、家族とはあまりうまく行かなかったけど、

お姉ちゃんだけは別だから。

私の言葉なら、お姉ちゃんだって聞いてくれる筈。」

 

 確かに、理に敵ってはいる。

 

「そう、それなら全力を尽くせる様にヤマトには頑張って貰わないとね。」

 

「あいえすのせっけいならまかせろー!」

 

「はい!」

 

「待っててね。もうすぐ完成させるから。

そうしたら、お姉ちゃんと正面切って向き合うんだ。」

 

 誓いを新たにする簪。しかし、なのはから非情な宣告が下された。

 

「そうだ、その機体が無事に完成したら、

貴女も2学期からは他の専用機持ちと一緒に鍛錬に参加するの!!」

 

「………………えっ?」

 

 頑張れ簪、君の受難はこれからだ!



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第32話  いざ行かん認定試験

さて、ここからまたオリジナル展開です。
代表候補生の試験を受けにきたなのはと箒、果たして、試験は無事に終わるのか?


 そして、1学期最後の日曜日、

なのはと箒は引率の真耶共々代表候補生認定試験受験の為、

防衛軍のヘリで本土の空軍基地にやって来た。

 

「ここが試験会場…」

 

「懐かしいですね~。私もここで認定試験を受けたんですよ。」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、候補生を脱退した今となっては昔の話ですけどね。」

 

 何かおかしな事に気が付いただろうか?

何故日本なのに自衛隊ではなく防衛軍なのだろう?答えは白騎士事件に遡る。

あの事件の結果、日本中で憲法改変と軍拡の声が上がり、

翌年の国民投票により改変が決定し、自衛隊は防衛軍に再編されたのだ。

 

 その際、規模も大きく拡大する事が決まり、防衛予算は年30兆円に増額。

人員は陸軍25万、海・空軍は各13万まで増員し、

旧自衛隊の水陸機動旅団も基に総勢9万の海兵隊を創設した為、

防衛軍の人員は一気に60万人まで増やされた。

 

 当然、念願の半島統一を5年前に達成した韓国と中国は反対したが、

当時ISの技術を独占していた日本は尖閣諸島及び竹島同時奪還と言う

力づくの手段で反撃。全面戦争の飛び火を恐れた米露が大慌てで間に入り、

北方四島の返還に加え、日米安保の解消と在日米軍の日本領からの完全撤退、

及び中韓両国へ割り当てるISコアの倍増を条件に日本と中韓を和解させた。

 

 更に、ここにISが加わるのだ。日本はIS発祥国の特権で

米国と並び世界トップタイの50個のコアを保有している。

その内軍が保有するのは2個中隊分32個と研究用の4個で計36個。

更に警視庁と日本政府指定のISメーカー「倉持技研」が4個ずつに

残り6個は代表候補生の分である。

 

 この結果、こちらの日本は中国を抜いてアジア一の軍事大国にのし上がり、

極東アジアは往年の日本一強体制が復活した。

そんな訳で、ISと白騎士事件により立場が良くなった防衛軍上層部の中には、

束に好意的な者が少なくなかったりする。

 

「では最後のおさらいをします。試験はISに関する知識を計る筆記試験と、

ISをどの程度動かし、戦えるのかを見る実技試験の2種類が行われます。」

 

「そうでしたね。」

 

 実技に関しては2人共問題ない。

なのはは国家代表、それも最上位勢を難なく叩き潰した実力者だし、

入学当時は他の生徒と変わらなかった箒も一夏達の鍛錬に付き合わされた結果、

一般生徒の中では最強の一角に入る程度の練度まで鍛え上げられていた。

 

 だが、問題は筆記試験だ。

何たってIS学園は倍率1万倍とも言われる世界一のエリート高校。

国家代表候補生でもない限り入れるのは本物のエリートばかり。

しかし箒は束の妹と言うだけで日本政府に強制的に放り込まれた身。

学力に関しては人並みしかない。

 

「期末試験も散々でしたからね…

一般科目は60点以上が1つも有りませんでしたし。」

 

「だ、大丈夫ですよ篠ノ之さん!

赤点(50点未満)が無かっただけまだマシですから!

それに、筆記は4択のマークシート方式だから大丈夫ですって!

経験者が言うんだから間違いはありません。」

 

「なら良いんですが。」

 

 ちなみになのはは理、数とIS理論は満点で学年トップ。

英語も酷似したミッドチルダ語を使いこなしている為90点台後半。

国、社は50点代のギリギリ及第点。総合的な評価は平均80点強だが、

これでもまだ中の上と上の下の境界付近との事だ。

IS学園がいかに高レベルのエリート揃いかが伺える。

 

「さあ、それじゃあ中に入りましょうか。」

 

「ええ。」「いざ行くの!」

 

 

 

 

 

「ねえ、あれ…」「あの眼鏡の人って…」

 

 3人が会場となる建物に入っていくと、軍のIS操縦者らしき者達がいた。

真耶を見つけるなり、何やら噂し合っている。

 

「あの人、銃央矛塵(キリング・シールド)の山田真耶ですよね…。」

 

「そうそう、射撃重視の異端の操縦者だった…。」

 

「惜しい人だったよね…近接戦さえ出来てれば次期代表に成れたのに…」

 

 そのひそひそ話が耳に入ったのか、

真耶の表情がどんどん険しくなり、顔色も見る間に悪化していく。

 

「(射撃重視は『異端』…?)山田先生、どうされました?」

 

「……………。」「山田先生?」

 

「…ハッ!いけないいけない。

あまり触れて欲しくない事についての話だったから…」

 

「そうですか…。っと、ここが筆記試験の会場ですね。」

 

「では、ヤマトの御守りくれぐれもよろしく頼むの!」

 

「はい。2人共試験頑張って下さい。」「がんばれー。」

 

「はぁ…大丈夫かなぁ…。」

 

 なのははいつも通りの態で、箒は不安げに会場となる講堂へ入って行った。

 

 

 

 

 そして試験開始から幾らか経ち…

真耶は喉が渇いた為コーヒーを買いに基地の自販機へと向かう。

 

「懐かしいな、合宿で来て以来、ここは何も変わってない…」

 

 真耶が基地の窓から外を眺めていると…

 

「ま、真耶?…お前、真耶か?」

 

突然何者かが真耶を呼ぶ、真耶が振り返るとそこには…

 

「い、飯田さん…。」

 

 そこにいたのは、少佐の階級章を付けたポニーテールの女軍人だった。

その名は飯田奈緒(イイダナオ)。彼女は千冬及び束の中高時代の先輩であり、

千冬の後任の日本代表操縦者の一人でもあった。

一人と在るのは、日本は国家代表操縦者の席を2つ持っているからである。

 

 どういう事かと言うと、現在ISを保有している21か国の内

G8及び印、中、(ブラジル)の11か国は

国家代表操縦者を2人まで持って良いとされており、

こうする事で国家代表操縦者が合計21+11=32人となり、

2の5乗というトーナメントにおいて切りの良い数字となるのだ。

 

「IS学園の教師に就職したそうだな。

ここぞの時にドジを踏んでばかりだったが、大丈夫なのか?」

 

「ええ、おかげ様で。今は織斑先生が担任をやっている組の副担任で、

例の織斑先生の弟さんも私の組なんですよ。」

 

「へえ、姉が弟の担任か?学園も妙な人事をするようになったな。」

 

「ええ、織斑先生も首をかしげてましたよ。

『何で私が担任なんだ、姉として接せなくなるではないか』

ってよく愚痴ってましたし。」

 

「そうか…で、そのぬいぐるみは何だ?」

 

「これですか?これは今日代表候補生の試験を受けにきた生徒の専用機です。

名前はヤマト、篠ノ之博士が直々に作った世界初の喋るISなんですよ。」

 

「どーもはじめまして、やまとです。」

 

「あ、ああ…。ちゃんと挨拶するのか、束が作った割には随分常識的だな。」

 

「そうでもないですよ。篠ノ之博士を悪く言うと、

織斑先生相手でも容赦なくお仕置きしますし、

それに、持ち主はもっと恐ろしい人ですから…。」

 

「いえーす。」

 

「……前言撤回、やっぱり危険物だな。」

 

「ふへへへ、それにしてもばくにゅうだいみょうじんさまはふかふかだなー。」

 

「ひゃあ!やめて、よして、触らないで!!」

 

「爆乳大明神…真耶、お前昔から色々おかしな渾名を付けられていたが、

とうとう回り回って神呼ばわりされるようになったのか?」

 

「そのとーり!たばねはかせじきじきのめいめいなのー。」

 

「酷い!」

 

「…………………何してるの?」

 

 と、そこに回答を終えたなのはがやって来た。

 

「ああ、高町さん!丁度良かった、

ヤマトが私の胸で遊ぶんで何とかして下さいー!」

 

「しょうがない、ほーら、定位置だよー。」

(ヤマトの襟首をつまんで、自分の頭に乗せる)

 

「はーい。」

 

「それで、こちらの方は?」

 

「私か?私は航空防衛軍少佐で、現日本代表操縦者の飯田奈緒だ。

お前の担任の千冬と束の先輩にあたるな。」

 

「私が高町なのはなの!所で、ここに来る途中で妙な話を聞いたの!!」

 

「何だ?」

 

「他のIS操縦者の人が山田先生を見て、

『射撃重視の異端の操縦者』と呼んでいたの!!

射撃を異端扱いするなんて長距離特化型の私への挑戦なの!!

どんな教え方をしてるの?!!」

 

いきなり喧嘩腰のなのは。

初対面の、しかも他国とは言え1階級上の人間によくそんな態度採れるな。

 

「な、何だと!日本人なら正々堂々、剣を使うのが正しい在り方…

 

「What?!」

 

「!!」

 

「私は外国暮らしが長いから、そんな下らない事は考えた事も無いの!!

『競うな、持ち味を活かせ』の教えに基づいて長所を磨くのが私の道なの!!」

 

「く、下らない事だとぉ?!」

 

「はわわ、2人共止めて下さ~い!!」

 

 一触即発の事態に陥るロビー、

と、そこに頭を使い過ぎてフラフラの箒が合流した。

 

「や、やっと終わった…。」

 

「おや、篠ノ之さんも意外と早く終わりましたね。」

 

「はい、何とか…あ、あの、其方の方は?」

 

「この方は飯田奈緒少佐。織斑先生の後任の国家代表操縦者です。」

 

「あ、はい。えーと、篠ノ之箒です。」

 

「そうか…。私は急ぎの身だ、この続きは午後の稼働試験にとって置く!」

 

 奈緒はそう言うと去って行った。

 

「な、何か有ったんですか?」

 

「それが…」

 

「射撃重視の戦い方を異端と呼んでいたのは、

日本人は黙って刀を使うのが正しい在り方とか言う

ふざけた押し付けの結果だったの!!これは何とかしないといけないの!!」

 

「は、はぁ…そうだったんですか…」

 

 物凄く嫌な予感しかしない箒。

何せ目の前にいるのは暴走核弾頭である。間違いなく大騒動になるだろう。

ふと外を見ると、ISの訓練をやっている。

昼食までまだ間が有るので、2人は訓練の様子を密かに見学する事に。

 

「やっぱり、近接戦の訓練に偏っている節があるなー。」

 

 なのはの言葉通り、訓練のメニューがどれもこれも全部接近戦ばかりで、

射撃武装対策を教えようとしていない。そう思いながら訓練を見学していると…

 

「2番組!一時訓練中断!」

 

「やれやれ…」

 

「あら高町さん、こんな所にいたんですか?」

 

「ええ、ちょっと訓練の様子を見てみようかと。」

 

「ああ、そうだったんですか~。」

 

なのはと真耶がそんな話をしていると…

 

「6番組やる気あんのか!?」

 

さっきの教官らしき女が他の操縦者に怒鳴っていた。

 

「誰ですか、あの教官は?随分と高圧的な人ですね。」

 

倉林美也子(クラバヤシミヤコ)と言う人で、ISの日本代表監督です。

私や織斑先生の教官も務めた実績ある人なんだけど、

少し性格に難があって他の代表候補生からも賛否両論なんですよ。」

 

「はあ…そうなんですか。」

 

「ええ…」

 

「おっと、そろそろ昼食の時間ですね。続きはこの後で。」

 

 

 そして昼食後…、

 

「次はいよいよ稼働試験ですね…その…頑張って下さいね…。」

 

 何故か塞ぎ込むように告げる真耶。これは本当に過去に何か有ったのだろう。

 

「これは…事によると、一波乱あるんじゃないかな?」

 

 そして、いよいよ稼働試験である。

実際にISに乗り込み、どれだけ動かせるのか、戦えるのかを計る。

 

「稼働試験は30分後に開始します。2人は準備に移って下さい。」

 

「「はい!」」



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第33話  目には目を、理不尽には理不尽を

 そして30分後…なのはと箒は稼働試験の会場となるグラウンドにいた。

少し離れた所には、立ち合い人として真耶が控えていた。

そして、稼働試験を監督するのは…

 

「これより稼働試験を行う!!」

 

 竹刀を持った日本代表監督、倉林美也子であった。

 

「稼働試験は、1対1の実戦形式にて行う!

両名には現日本代表操縦者、飯田奈緒少佐と一本勝負にて一戦し、

その戦いぶりにて評価する!尚、勝てば稼働試験の合格は保証するが、

負けたからと言って不合格とは限らん!

要はどう戦うかを見るだけじゃ!では…飯田奈緒、前へ…ん?」

 

 倉林が何かに気付いた、そこには真耶の姿。

 

「何じゃ、まともに剣も振れん癖に

代表候補生なんぞ名乗っとった出来損ないがおるな。」

 

 その声に真耶はビクッと身を震わせる。

 

「先人達が苦労してISでの剣術を確立した物を踏み躙り、

銃なんぞに頼る臆病の軟弱物、

あれだけ鞭で打ちのめして代表候補生から除名したやったにも関わらず、

今度はIS学園の教師か、ご立派なもんじゃの~…。」

 

 そう言えば、他のIS教員は日本製の打鉄に乗っていたが、

彼女だけフランス製のR・リヴァイヴに乗っていたな。

だが、真耶に嫌みを言うこの女、大分性根が悪そうだ。

 

「(〆る必要が有りそうなの。)」

 

 対する真耶は俯き、グッと拳を握りしめていた…

 

「まあ良いわ。ではまず、篠ノ之箒から試験を行う。篠ノ之箒、前へ!!」

 

 まず箒が奈緒と対峙する。果たして箒はどこまで立ち回れるか…?

 

 

「篠ノ之さん、頑張って下さいね!」

 

「はい!」

 

 真耶の声援を受け、箒は打鉄を起動し、奈緒の前に立った。

 

「篠ノ之箒、打鉄、出ます!」

 

 奈緒も専用機である第3世代機「撫子虎(なでしこ)」を展開し、

両手持ちの大剣「高砂丸」を手に待ち構えている。

 

「ちゃんと剣で来たか。日本人の魂を守っているのは良い事だ。」

 

「……どうも。」

 

「この試合で、その腕前見せて貰うぞ。」

 

「…はい!」

 

 箒は標準装備のブレード「葵」を構え、試合開始の合図を待つ。

 

「試験、開始ィ!!」

 

 開始の合図と同時に奈緒と箒は一直線に近づき、剣で切り結んだ。

 

「「イヤーーーーーッ!!!!」」

 

 互いの剣がぶつかる度にガギンガギンと刃噛みの音が鳴り響き、

橙色の火花が辺りに飛び散る。

 

「キエーッ!!」「何の、デヤーッ!!」

 

 箒が横薙ぎに斬りかかるのを確認した奈緒は高砂丸を用い、

棒高跳びの原理でハイジャンプ。

箒の後ろに回り込むと、振り向きざまに切り払う。

 

「グッ…! はぁ!!」

 

 箒は葵で何とか受け止めたが、衝撃で大きく後ろに押し下げられる。

ガードしたおかげでそんなにダメージは大きくなかった為、

すぐに瞬時加速で懐に飛び込もうとするが、

奈緒も迎え撃たんと高砂丸を振り下ろす。

 

「見えた!!」

 

 しかし、なのはの弾幕の雨で鍛えられた箒はその太刀筋を見切った。

最小限の動きで高砂丸をギリギリ回避し、お返しに袈裟斬りを見舞い、

撫子虎のSEを削り取る。

 

「くっ、やるな小娘…だが、これならどうだ!!」

 

 次の瞬間、何と奈緒が4つに増殖。前後左右から斬りかかって来た。

これは国家代表レベルの操縦者が使いこなす加速技法、

瞬時加速と急停止を繰り返し、分身した様に見せ掛けて相手を惑わす、

その名も幻影加速(ミラージュブースト)だ。

 

「これは幻影加速(ミラージュブースト)…!」

 

 3つまでなら箒でも対処出来たが、残る1つの分身の対応が間に合わない。

箒は残る1つが分身だと信じて対応できる3つを防ごうとしたが、

25%の確率を引き当ててしまった。その残り1つこそ本物だったのだ。

 

「グッ!?」

 

 斬撃を食らい、SEにダメージを受ける箒。

少し距離を取ってアサルトライフル焔備(ほむらび)を抜き、牽制の為銃撃する。

しかし、これは避けられた。だが、解り切っていた事だ。

銃撃を避けながら近づいてくる奈緒を引きつけると、

箒はタイミングを見計らい、焔備を投げた。

 

「ふん!」

 

 奈緒が焔備を避けようと動いたそのわずかな隙を箒は見逃さなかった。

 

「(今だ!)」

 

 箒は葵の刃先を下に向けて半回転させ、峰を自分に向けて地面に軽く刺し、

右足で思い切り峰を蹴り上げる。

その勢いで加速の付いた葵の刀身は奈緒の顔面を直撃した。

 

「ぐあ!!」

 

 勿論、絶対防御が有るのでこの程度では傷一つつかないが、

SEへのダメージは甚大だ。

今の技の正体は箒の実家に代々伝わる剣術、篠ノ之流の技の一つ「昇り竜」だ。

 

「篠ノ之流…やはり使ってきたな!」

 

 こんな特徴的な苗字である。篠ノ之家の娘である事は疑う余地などない、

当然、篠ノ之流の心得くらいあるだろう。

 

「ならばこちらも、遠慮なく使わせて貰うぞ!!」

 

 言うなり、高砂丸が白く発光。

 

「見るがいい、破邪顕正…桜花放神!!」

 

 奈緒が呪文と共に高砂丸を振り下ろす。しかしこの距離では箒に届かない。

だがこれで問題は無い。何故なら…

 

「!!」

 

 何と高砂丸から白色の光線が放射されたからだ。

予想外の攻撃に箒は対応が遅れ、回避が間に合わない。

 

「ぐあっ!!」

 

 直撃こそ何とか避けた箒だが、衝撃で地に転がされ、

葵も右手から払い落とされ、真っ二つになって落ちていた。

この勝負、誰がどう見ても奈緒の勝ちだ。

 

「そこまで!!」

 

「くっ、やはり一国の代表には敵わなかったか…」

 

「まさか一度ならず、二度も直撃させるとは思わなかったぞ。

だが、私とて国家代表。『ブリュンヒルデを継ぐ者』がこの程度と思うなよ。」

 

 矢張り国家代表、箒の敵う相手では無かった。

別に負けても不合格と言う訳では無いが、

それでも負けは負け。やはり悔しい物だ。

 

「篠ノ之さん、ナイスファイトでしたよ!」

 

「よく健闘したの!!訓練の成果は充分出ていたの!!」

 

 だが、今までの成果は充分実を結んでいる様だ。

 

「では次、高町なのは、前へ!!」

 

 さあ、次はなのはだ。

 

「高町さん、その…手荒な事はしないで…下さいね。」

 

「努力はするの!高町なのは、ヤマト、発進!」

 

 なのははヤマトを展開。奈緒の前に対峙する。

 

「全く、何だその飛び道具だらけのISは。日本人の魂は無いのか?!」

 

 ヤマトを見るなりこれである。

だが、そもそも砲撃魔導師上がりのなのはには大きなお世話もいい所だ。

 

「何じゃ、最近の専用機持ちは堕ちる所まで堕ちたもんじゃの~。

日本の恥晒しめ、外国に長く居過ぎた海外かぶれか?」

 

 審判役の倉林までこの言い種である。

誰に口を利いているのか解っていないから、こんなふざけた事が言えるのだ。

 

「(よし、この馬鹿2人は全力で〆るの。)」

 

 案の定、これである。さて、どうなる事やら…

 

「ではさっさと始めてやろう、試験、開始ィ!!」

 

 開始の合図が出た瞬間、奈緒は高砂丸を手にヤマトに突っ込む。

 

「(この図体なら動きも遅い筈、懐に飛び込めば一瞬で終わる!!)

イヤーーーーーッ!!!!」

 

 だが奈緒は知らなかった。目の前にいるのは

そんな大甘な見通しで挑んで良い相手では無い事を。

そして、否応なしにそれを思い知らされる事になる。

 

 

 

 ガシッ!!!

 

 

「なっ…!!!」

 

「あ、あれは?!」

 

 何と奈緒が動いてから僅か0.2秒後、

巨大なISの手が奈緒を撫子虎ごと握りしめていた。

ヤマトの後付装備、追加アーム「錣曳(しころびき)」だ。

 

「な、何だこの手は?!は、離せ!!」

 

「離さないの!!その手1つ動かすのにIS5機分の動力を使ってるの!!

それともう一つ、そこにいる監督に一言言っておく事が有るの!」

 

「何じゃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

射撃戦を舐めるな!

 

       

 

 

 

 

 

 

 

 ドッガァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアン!!!

 

「ぴゅぶ!!」

 

 なのはは奈緒を思い切り地面に叩き付けた。

 

「ヒイ!」

 

 跳ね飛んだ機体は倉林の直ぐ側を掠め壁に激突。

 

「き、貴様!いきなり何を…」

 

 なのはは有無を言わさず錣曳を遠隔部分展開し、奈緒を壁に押さえ付けた。

 

「反撃何て許した覚えはないの!!

頭を冷やすの!!このなんちゃって日本人共め!!」

 

 ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!

 

 ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!

 

 ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!

 

 ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!

 

 ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!

 

「ぴぃぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 壁に押し付けたままショックカノンを連射。滅多射ちに射ちまくる。

着弾点は石油コンビナートの火災の如く爆炎に包まれ、

たちまちのうちに灼熱地獄と化した。

 

「実弾もくれてやるの!!在り難く思うの!!!」

 

 言うなり、ミサイルを一斉発射。

多重量子変換を完全解除した超高圧窒素弾頭の対艦ミサイルの威力は絶大で、

活火山の噴火の如く火柱が吹き上がる。

 

「次はこれなの!!ロケットアンカー発射!!」

 

 スラスターウイングからチェーンを曳いてアンカーが発射される。

アンカーはヤマトのAI制御で誘導され、チェーンで奈緒を縛り上げた。

 

「10まんボルトなの!!こうかはばつぐんなの!!!」

 

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!

 

「ぴゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 今度はチェーンから高圧電流である。

家庭用コンセントの1000倍の高電圧。間違いなく死ぬレベルの高電圧だが、

活殺自在の効果で絶対に傷一つ付く事すら無い。

 

「これで最後なの!!とりあえず山田先生に謝って来るが良いのぉーっ!!!」

 

 ドギュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥウウウン!!

 

 トドメとばかりに主砲と副砲、

四連装機銃の最大出力にて一斉集中射撃をぶちかました。

 

 BAGOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOM!!!

 

「ぴょべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええ?!!!」

 

 専用機の撫子虎は木端微塵。奈緒は黒焦げになって放り出され、

グラウンドに転がった。勿論、命に別状のある様な傷は無い。

 

「まだやるの?」

 

なのははただ一言吐き捨てた。

その背後では、3基の三連速射砲が排熱の為蒸気を上げている。

 

「ちょ、高町さん?!」

 

「やっぱりこうなるのか…」

 

 まあ当然の結果だろう。国家代表ごときが暴走核弾頭とタイマンを張るなど、

無謀という言葉では到底足りない愚行なのだ。

所が、このあからさまな結果に物言いをつける不届き者がいた。

 

「貴様!何じゃ今の戦い方は!!こんな事をして…」

 

 言うまでもなく倉林である。

だが、なのはは審判役にあるまじき行為には容赦しなかった。

 

ヒュルルルル…ザグッ!!!

 

「ギャーッ!!」

 

 なのはは倉林の足元に撫子虎の大剣高砂丸を投げつけ、地面に突き刺した。

もう少しずれていたら、倉林は串刺しになって死んでいただろう。

 

「まだやるの?」

 

「ヒイ!!こ、こここ殺す気か?!」

 

 まだ口が減らない倉林に対し、

なのはは遠隔部分展開したアームで高砂丸を引き抜き、

頭上に思い切り振り下ろした。当然、倉林は見事な真っ二つ…

には成らなかった。刀身は僅か1mm手前で見事に寸止めされていたからだ。

 

「ま・だ・や・る・の?」

 

「あ、あわわわわわわ…」

 

「早く終了の合図を出すの!!次は峰打ちでブン殴るの!!!」

 

 しびれを切らして怒鳴り付けるなのは。完全に目が本気だ。

 

「そ、そ、それまでぇ~…。」

 

 倉林は絞り出すような声で力なく試験終了を告げ、へたり込んだのであった。




まあ、当然の結果ですね。
尚、飯田奈緒がなぜかあの人の技を使っていましたが、
これにはれっきとした理由が有ります。
詳細は後の話で本人に語らせましょう。


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第34話  進展

 そして試験の翌日、IS学園は創立8回目の夏休みに入った。

夏休みに入ると、生徒達は基本的にそれぞれの実家へ帰郷する。

そして外国人生徒、特に専用機持ちは運用記録報告の為、

一時帰国する事が義務付けられている。

当然、1組も外国人の専用機持ちは夏休みが始まるや否や帰国するだろう。

 

 そして残留組はと言うと、なのはは箒の専用機である紅椿の受領に備えて

自主練の為に暫く学園に残り、一夏は千冬と共に自宅に帰る事になるだろう。

しかし、あのブラコンが弟同伴で自宅に帰ると何をやらかすか予想もつかない。

そんな時、なのはは束から連絡を受けてある所に来ていた。そこは…

 

「これはまた…人里離れたなんてレベルじゃないの。」

 

 そこは雪と氷の大地、南極大陸。

かつて使われた某国探検隊の基地の廃墟の地下に、

束の隠れ家の一つが隠されていたのだ。

確かにここなら早々見つかる事はあるまい。

なのはも座標を教えて貰い、ヤマトワープを使う事でようやく到着した。

 

「束さーん、私ですよー!」「やまとだよー。あけてー!」

 

 地下に通じるハッチをノックすると、中から白髪の少女が顔を出した。

 

「お帰りなさいませなのは様。束様もお待ちです。」

 

「やあクロエ、変わりない様で何よりなの!!」

「なのは様も御無事で何よりです。」

 

 彼女の正体は、かつて束が引き取って養子として巣立てている少女、

クロエ・クロニクル。どうやらフェイトと同じクローン人間なのだが、

詳細を知っているのは本人と束だけだ。

 

「やあなーちゃん、急に呼び出してごめんね。さあ入って。」

 

「ではお邪魔するの!!…と、その前に、頼まれていた物を渡すの!!」

 

 ここに来る前、なのははある物を束に頼まれていた。

なのはが持って来た箱に入ったその正体は…

 

「おおっ!こ、これはこの束さんの大好物、『辛さ1000倍カレー』!!

ヒャッハー!!持つべきものは友なのー!!」

 

 毒々しい真っ赤なパッケージが特徴のレトルトカレーだった。

束は余程嬉しいのか箱を手に大はしゃぎだ。そんな束を見てなのはは思った。

 

「(これを昼食に出されたらどうしよう…。)」

 

 数分後…

 

「それで、代表候補生試験はどうなったの?」

 

「それが、飯田奈緒とか言う千冬先生の後任の代表操縦者と

代表監督を称する倉林美也子とか言う不届き者がいて…」

 

 なのはは事の顛末を説明した。

 

「うわー、くっだらなー!!

この束さんがISを造ったのを剣道の手助けかなんかと勘違いしてる訳?!

でもなーちゃんが徹底的に〆てくれたなら、少しは大人しくなるよね?!」

 

「だと良いの、今度何かやってきたら日本にいられなくしてやるの!!」

 

「うんうん、やっちゃえ、やっちゃえ!!」

 

「では次なの!束さんがこの前デュノア社に渡した

第3世代機の…タイフーンでしたね?

昨日1号機を引き渡したみたいだけど…どうなったの?」

 

「にゅふふふ~!流石はこの束さんの作品!!

第3世代機なのに量産可能って言うのが決め手になったみたいでね、

IICもEUも『欧州統合防衛計画(イグニッション・プラン)制式ISの選定をやり直す』

って方針で意見が一致したみたい!

まあ、このアドバンテージが有る限りそのまま制式化は待ったなしだね。」

 

「それはめでたい事なの!!デュノア社とは

『経営再建なり次第宇宙開発の専用機開発の為、宇宙開発の専門部署を創る。』

という約束をした手前、きっちり売り上げを出して貰わないといけないの!!」

 

「だよね~。という訳で

デュノア社から契約通りお礼として3000万ユーロを受け取ったから、

ここから例のICDの専用機の修理代を現金一括で払ってきたよ!

(領収書をピラピラ)

今頃ICPOの連中、札束をヒイコラ言って数えてるんじゃないかな?」

 

「それだけじゃないの!

『自分が保有するISの修理代を篠ノ之束に請求したら、

事務総長の娘の嫁ぎ先から金を受け取って払ってきた』

と知ってどんな顔をしてるかも目に浮かぶの!!」

 

「アッハハハハ!!そうだよね!!

これで奴等もEUの次期制式最有力候補のISがこの束さん謹製だと気付いて、

怒りと屈辱で悶絶必至だよね!」

 

 本当に根性の悪い大人達である。こんな大人になってはいけない(戒め)

 

「でもさ、本当に良いの?国家代表候補生なんて肩書を貰ったら、

身動きがとりにくくなるよ。」

 

「どうと言う事はないの!!

『無資格で専用機を保有する危険人物』扱いよりはマシなの!!

代表候補生になって、追手がかかるリスクを減らしておかないと。」

 

「う~ん、やっぱりそうなるのか。」

 

「束様、なのは様、そろそろ日本時間で正午になります。昼食にしませんか?」

 

「ああ、もうそんな時間か。それじゃあ今日はこの束さんが作るよ。」

 

「いいですね。是非お願いします。」

 

 

 そして、数十分後…

 

「どうかな?この束さんも人並みに料理ができると自負してるんだけど…」

 

「大丈夫なの!お土産のカレーを出すかと思ったけど、和食系で安心したの!」

 

「だってこの束さんは日本人、それも実家は神社だもん。…無神論者だけど。」

 

 神社生まれの無神論者。

成程、破天荒な行動の理由はここにあったのかと納得したなのはであった。

 

「ねぇ、なーちゃんは料理って出来るの?」

 

「私?そりゃもう。だって私は子持ちなの!!」

 

「え!子供がいたの?!」

 

「…養子なの。それに、実家は喫茶店なんで、自然と覚えたの!!」

 

「そうだったんだー。」

 

 もし魔導に目覚めていなければ、そのまま実家の2代目になっていただろう。

 

「そうそう。束さん、紅椿の改良はどうなったの?」

 

「あー、紅椿ねぇ…

やっぱり、シングルコアだと燃費の悪さがどうにもならなくてさ…

結局、オクタコア化する事に決めたよ。」

 

「やっぱりそうなるのか…連続稼働時間が白式以下だったから、致し方ないの。

でも、そうなると統制用のAIが必要なの!AIはどうなっているの?」

 

「ああ、『モッピー』の事?それならもうじき完成するよ。」

 

「もっぴー?」

 

「うん、AIの名前だよ。完成したら、

この『箒ちゃん人形』を待機状態にするんだ。」

 

 そう言って見せたのは、箒を模した2頭身半のにやけ面のぬいぐるみだった。

 

「…………(これ、貰った本人はどんな顔するのかな?)」

 

「そうだ、せっかくだからテレビでニュースでも見るか。」

 

 と、ここで束が唐突にテレビのスイッチを入れ、

チャンネルをN○Kに合わせた。

 

『次のニュースです。

EU、ヨーロッパ連合は現在進めている

欧州統合防衛計画(イグニッション・プラン)の制式ISの選定に関し、

選定を一旦中止した上、この度完成したフランス製第3世代機

タイフーンも含めた形でもう一度やり直す事を正式に決定しました。

 

今回新たに候補に挙げられたタイフーンですが、

この機体はデュノア社が開発した第3世代機で、専門家の話では、

「世界初の量産型第3世代機である事が今回の決定の要因なのは明白だ。

その汎用性と量産性が認められれば、

滑り込みで制式化を勝ち取る可能性もある」との事です。』

 

 上手く行った。これでタイフーンがEUの制式ISとなれば、

デュノア社はEUから大量の発注を受け、一挙に業績を立て直すだろう。

 

「やったぜ。」

 

「採用が決まれば、デュノア社から契約通り1000万ユーロが届くの!」

 

 尚、束がIS関連の発明で稼いだ金はセシリアの総資産を遥かに上回る。

 

『これを受け、IIC、国際IS委員会の

リーバーマン常任理事は次の様にコメントしました。

 

「ISの発祥国である日本に先んじ、

欧州から世界初の第3世代量産機が誕生したとなれば、

これはIS史における新時代の始まりを意味する。

我々人類はISの母タバネ・シノノノに頼らずとも、

自らの知恵と技術に依りISを発展させるだけの…」』

 

「!!!」

 

 テレビの画面に映るリーバーマン常任理事の顔を見たなのはは目を見開き、

驚いたような表情を浮かべた。

 

「なーちゃん?」「どうしました?」

 

「ま、まさかこんな所に…」

 

「どういう事ですか?」

 

「プレシア・テスタロッサ…間違いないの!!!

このリーバーマンとかいう常任理事こそ、

間違いなくプレシア・テスタロッサなの!!!」

 

「「ええええええっ?!!」」

 

 見間違う筈がない。画面に映った人物は、

見紛う事無くプレシア・テスタロッサその人であった。

しかし、なのはが直に見たあの時よりもその風貌は年老いて見える。

無理もない。この画面の女がプレシア本人なら、

その年齢は50代半ばに達しているだろうから。

 

「なのは様、それは本当ですか?!」

 

「見間違う筈がないの!!まさか、こんな所にいたなんて…

束さん、プレシア…いや、サンドラ・リーバーマンの詳細は解るの?」

 

「ちょっと待って、今詳細を出すよ…出た!!

サンドラ・リーバーマン、55歳。イタリア出身のIIC常任理事で、

翌年の現理事長・副理事長の引退に伴い、

次期理事長就任が内定している大物中の大物だよ。

コイツの娘、ラケーレはイタリアの代表候補生の一人だよ!」

 

「ラケーレ…まさか、アリシア・テスタロッサ?!

まさか、どうやって蘇らせたの?!」

 

「アリシア…?ああ、そう言えば、コイツはなーちゃんのいた地球で

娘を蘇らせる為に色々悪さをしてたって言ってたね。

でもまさか、こんな因縁が有ったなんてね。

コイツはIICの中でもこの束さんを捕まえようとしている急進派の大ボスで、

正直、顔も見たくないけど、

余りにもしつこかった御蔭でこの束さんが顔を覚えちゃった程だよ。

それだけ人探しの能力が有るって事なんだろうけどね。」

 

「そうだったの…となると…」

 

「うん。これではっきりしたよ。

あの無人機は間違いなくこの老いぼれの手駒だね。

性能テストで串刺しにされた爆乳大明神には堪った物じゃないね。

そして確実に言えるのは、

コイツは15年前の事件からまだ懲りてないと言う事だよ。」

 

「その通りなの!!そして、今後IICは計画の完全な邪魔者…

敵と認識して事に当たるべきなの!!」

 

「そうだね…はぁ~、気が重いよ…だってそうでしょ?

事と次第によっては、箒ちゃん達が自分の手で人を殺す事になる。

そんな惨い事はこの束さんとなーちゃん達大人だけで沢山だよ。」

 

「もう手遅れなの!!箒ちゃん達は自分の意志でこっち側に来てしまったの!!

それに、殺されるよりは殺した方がマシなの!!

あっちの地球にいた盆暗な誰かさんみたく、

『おちゃけくみかわちてはなちあえば、みんななかよくなれるんでちゅ!』

なんてのは、戦って雌雄を決した後でやれば良いの!!」

 

「ええ?なーちゃんの地球には、そんな馬鹿がいるの?」

 

「確かにいたの!!私にも駅前で絡んできたから、

『友達が苛められても全力で見捨てるなんて言う奴は、

頭蓋骨を毟り取ってコップにしてやるの!!』って言い返したの!」

 

「うええ…そんな大人も御免被るわ。」「同感です。」

 

「今は只、為すべき事を為すだけなの!!」

 

「そうだね。」

 

「私も、最後までお供します。」

 

「うん、二人とも…有難う。」

 

「ああ、そうだ。なーちゃんは夏休みは何をする予定なのかな?」

 

「私?私は…鍛錬かな。今も昔も、

『勝負事はより鍛えた者が勝つ』の原則を考えれば、

鍛えるに越した事は無いの!!」

 

「なーちゃん、そればっかだね…

1日35時間活動するこの束さんが言うのも何だけど、

たまには休む事も考えたら?例えば、ちーちゃんの家に居候したりとか。」

 

「千冬先生の家に?…………

うーん、面白そうなの!!機会が有ったら、考えておくの!!」

 

「うんうん、それが良いよ。」

 

 こうして、なのはは束との情報交換を終え、ワープで学園に帰還した。

そして翌朝…束の携帯の着信音が鳴り響いた。

 

「ん~、こんな朝っぱらからこの束さんを呼ぶのは誰かな~?」

 

 携帯を出すと、サブディスプレイに表示されていたのは千冬の名だった。




次回、またもや始まるオリジナル展開。
学園にやって来た懲りない奴等を前に、またもや暴走核弾頭が起爆…するのか?!


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第35話  宿痾

この話を読む前に、作者から注意があります。

今回は登場人物のDQN行為が激しいです。
読んでる内に不愉快な気分になったら、
無理せずブラウザバックをすることをお勧めします。
それでも良いという方は、続きをどうぞ。

追記

前話の投稿を以て本作のUAが3万を突破致しました。
ありがとうございます!!


「もしもし?ちーちゃん、いきなりどうしたの?」

 

『束か、大変な事になってしまった。』

 

 電話の向こうの千冬の声は、明らかに焦燥感に駆られた声だった。

 

「え?何?どうしたの?」

 

『……ああ、学園は昨日で1学期が修了したが、

その後倉林監督と飯田先輩、その他軍の操縦者がやって来て、

「1年だけ夏休みは無しで補習をする」と言い出したんだ!』

 

「えええっ、ナンデ?!何をしたって言うの?!」

 

 仰天する束。

 

『私も良く解らん。ただ、一部の人間が

先人の苦労を踏みにじる外道にはお似合いとか

何とかと言っていたのが聞こえたんだ。』

 

「先人の苦労…?何の事かな?さっぱりだよ!」

 

『兎に角、このままじゃ埒が明かん。向こうにはIIC日本支局の連中もいる。

下手に動くと何が起こるか解らんのだ。

だが、このままだと生徒達の夏休みが無しになってしまう!』

 

「……………………。」

 

 束が沈黙する。千冬は知っている。

束は怒りが一定以上まで昂ぶると沈黙するという癖を。

 

「…うん、解った。この束さんが何とかするよ。」

 

『た、束…?』

 

「なーちゃんに知らせて。

『この束さんが許すから、全力で〆てから摘み出せ』と言っていたって。

それと、この束さんもそっちに向かうからそれまで待ってて!」

 

『あ、ああ…では、一旦切るぞ。続きは学園で。』

 

 そう言って、千冬は電話を切った。束は学園に向かう為、

間髪入れず移動用の人参型極超音速ロケットの準備を始めた。

 

「IICの間抜け共…

箒ちゃんやいっ君に何かあったら、脊椎をブッコ抜いてやる!!」

 

 

 

 

 一方その頃学園では…

 

「何度も言うが、1年日本人生徒共に夏休みなど無い!!

日本人としての魂を鍛え直す為、

夏休みを総べて潰して補習を行う事を、決定したーっ!!」

 

 声を上げているのは代表監督の倉林美也子であった。

これに相対しているのは千冬と真耶、

それに学園の運営責任者、轡木代理と高木理事長だ。

 

「どう言う事ですか?!そんな話は聞いていません!!」

 

「貴様の担当の生徒が飯田を砲撃戦などというふざけた戦い方で

チマチマチマチマネチネチネチネチといたぶった揚句、専用機を壊した!!

よって連帯責任で1年生の日本人生徒は全員補習じゃ!!」

 

 要はこの前の報復である。こいつは学園を何だと思っているのだろうか?

無論、学園の運営責任者である轡木代理はにべもなく撥ね付けた。

 

「そうは参りませんな。いくら代表監督と言えども、

その様な事を勝手に決めて貰っては困ります。」

 

「その通り、元はといえばそっちがウチの職員に暴言を吐いたのが原因だろう!

それで叩きのめされたとしてもそれは自業自得、

我が校はこのような事を受け入れる気はない!!

早急にお引き取り願おう!!これは理事会メンバーの総意だ!!」

 

 轡木代理に続き、高木理事長も強気の構えだ。

学園理事会のメンバーは試験後、

なのはから音声記録で一連のやり取りを全部聞かされていた。

新人とはいえ部下を貶されてあまつさえこの仕打ち、絶対に許すつもりはない。

 

「だから何じゃ!!この補習はIICの決定じゃ!!

逆らうなら1年共はIS操縦禁止じゃ!!」

 

「IICが?馬鹿な、そんな決定がよく出来ますな。

なら、正式な通告文があるとでも?」

 

「無いと思ったのかね?」

 

 そこにもう一人男がやって来た。

その正体はIIC日本支局長、綿貫三樹夫(ワタヌキミキオ)だ。

 

「綿貫支局長…」

 

「この通り、今回の決定はIICの正式な物だ。これでも、拒否するのか?」

 

「バカな事を!『我が校への合意無き干渉は禁止』

この原則はIICが定めた物。

それをIICが破るとはいかなる了見か?!」

 

「だから合意をしろと言っているんだよ!」

 

 いきなり怒鳴りつけ、スリッパで机を叩きだす綿貫。

 

「私はな、曲がった事がだ・い・き・ら・いなんだよ!!

我々が定めた、日本人として正しいIS戦の戦闘様式を無視して、

あまつさえ国家代表の専用機を木端微塵に破壊?

そんな奴をよく学園に入れられたものだな!

その生徒を呼んで来い!!

金輪際操縦資格を剥奪する事が決定したから、通告してやるよ!!」

 

 なのはからヤマトを取り上げると言うのだ。

もし本人が聞けば、今度こそ死人が出かねない。

 

「これだから親のいない奴は…

やっぱりお前なんぞ碌な奴じゃない。お前みたいな人間は屑だ。」

 

「前回大会で弟可愛さに決勝を放棄した時から思っとったわ!!

お前は馬鹿で馬鹿で馬鹿で仕方ない!!だから私達の言う事を聞け!!!

お前が初代ブリュンヒルデになれたのは我々のおかげじゃ!!

だからお前は我々の言う通りにする義務があるんじゃ!!」

は・いと言え!!たった、たった一言は!い!と言えばそれで許してやる!!

だからはっきり言え!!」

 

 千冬が何も言わない事を良い事にメタメタに畳み掛ける倉林。

だが、千冬はこの連中に逆らう事が出来ない。

逆らえば全てを失い、二度と一夏に会えなくなる。

こいつらには、そうする事が出来るのだ。

今の千冬は怖くて仕方なく、ただ泣く事しか出来なかった。

 

 

 だが、思わぬ人物がそれを打ち破った。

 

 

 

「おい。」

 

 

 

 ふいに聞こえた怒りに震える声、次の瞬間。

 

バッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!

 

「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 何と、いきなり現れた何者かがバケツ一杯の水をぶちまけたのだ。

 

「だ、誰じゃ?!」

 

 全員が振り向くと…

 

「い、一夏?!」

 

「お、織斑君…」

 

 そこにはバケツを持った一夏がいた。

 

「手前等、誰に口を利いてるんだよ!!

よくも俺のただ一人の家族を馬鹿にしやがって!!

例え千冬姉が許そうが、俺は許さねえ!!

今すぐ謝れ、謝って消え失せろ!!二度と学園に入って来るんじゃねえ!!」

 

「お前誰に何をしとんのだああああああああああああああああああああ!!!」

 

 勿論、黙っている訳が無い。いきなりの行為に叫び散らす綿貫。

 

「暴行罪の現行犯で警察呼ばれたいのかおんどれぇ!!

今すぐここから飛び降りんかい!!」

 

「うるせえ!!!」

 

 一夏は綿貫にバケツを叩き付けた。

 

「姉貴を馬鹿にされて俯いている位なら俺は暴力に訴える!!

暴行罪?現行犯?!それがどうした!!ここは日本じゃねえ、IS学園だ!!

IICだろうが、代表監督だろうが、

部外者が勝手に人の予定を決めるんじゃねえ!!」

 

 ボカ!!

 

 一夏は雪片の峰打ちで倉林をぶん殴り、ついでに綿貫も蹴り飛ばした。

 

「お、おい!何て事をするんだ!!」

 

「おい理事長さん、あんたこの学園のトップなんだろう?!

千冬姉がこんなメタメタに言われて、黙っていられるのかよ?!

こんな奴等、不法侵入でとっとと警察に突き出しちまえばいいだろ?!!」

 

「そ、それはそうだが、彼等はIICの人間だ!

こんな事をしたら、IIC本部が何と言うか…」

 

「そうだ。」

 

「「「「!!!」」」」

 

 そこにいたのは、防衛軍のIS中隊。飯田奈緒の姿も有った。

専用機の撫子虎は昨日なのはに破壊されたが、

代わりのパーツが1機分の確保されているので、

今回はそれを持ちこんできたのだ。

 

「代表監督と綿貫支局長への暴行の瞬間ははっきり見ていたぞ!

現行犯なら警察の助けなど必要ない、取り押さえてくれ「と思っていたのか?」

 

 突如上空から響くどすの利いた声。まさか…

 

「だ、誰じゃ?!」

 

「ああ?世界一の有名人、この束さんを知らないの?」

 

 そこには束の姿が。ISの母本人の登場に一同がざわつく。

 

「た、束さん?!」

 

「し、篠ノ之博士…」「え?嘘?」「あの人が、ISの母…?!」

 

 周りには目もくれず、束は室内に飛び込むや、

倉林の胸倉を引っ掴み、別人の様な低い声で難詰した。

 

「ヒイ!」

 

「おい生ごみ。この束さんの最大の親友のちーちゃんに対して

よくもふざけた事を抜かしてくれたね…」

 

「だからどうした!貴様の大親友のあの孤児を

優勝に導いてやった恩を忘れたか!紫頭の動物は恩も知らんのか!

生粋の日本人として顔から火が出る位恥ずかしいわ!!」

 

 ボカッ!

 

「ぶ!」

 

 束は何も言わず、倉林に右ストレートをブチ込んだ。

顔からは火ではなく血が出たのは言うまでもない。

 

「人の親友に何してくれてんの?ちーちゃんを馬鹿扱いとか、

この束さんを馬鹿と呼ぶのと同然なんだけど?全部聞いてたんだよ?

ちーちゃんを親無しだと馬鹿にして、あまつさえ屑だと?

なんで今更そんな人間の前にしゃしゃり出てきてるのかな?

自分より下だと思ってる人間に何を求めてる訳?

自分がどれだけ上に居る積りなのかなぁ?」

 

 さあ大変だ。ISの本家本元の前で千冬への暴言を吐いた以上、

唯で学園から出られる訳が無い。

 

「ハイクを詠め、カイシャクしてやる。」

 

 そう言えば箒も同じ事を言ってたな。やっぱりこの二人は姉妹だなと、

一夏が心中でそう回想しているのを余所に、束は更に問い詰めた。

 

「大体お前等、NOT日本人なのに

何で日本のIS業界に潜り込んでる訳?

ガイジンは自分の国に引っ込んでろ!!」

 

 いきなりとんでもない事を言い出す束。もし事実なら一大スキャンダルだ。

 

「はああああああ?!お前何を証拠に喚いとんのだ!!」

 

「証拠は挙がってるもんねー!DNAと戸籍っていう決定的な奴が!

ちーちゃんを虚仮にした仕返しにお前等の出自は

国中のネット掲示板とテレビ局に資料込みでバラしちゃったよーん!!

ついでに差別だか何だか言われる前に言っておこう!!

日本ではこれを軽蔑って言うんだよ!!ガイジ…ンの分際で

余所の国のIS教育に口を出すとこうなるんだよ!この…ブタヤロウ!!」

 

 束は倉林を綿貫に投げつけた。

 

「こ、このアマ~!!おい、コイツを捕まえろ!!」

 

「やれる物ならやってみろ!!

ISの本家本元であるこの束さんに刃向う奴は叩き潰す!!!

行け、なーちゃん、ぶっ潰せ!!」

 

「げっ…」

 

 さあ、お決まりのアレが来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

「Ice bucket challeeeeeeeeeeeenge!!!」

 

 バッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!

 

「「「「「「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」」」」」」

 

 ヤマトのアームに目いっぱい氷水入りのバケツを乗せ、

それをIICの回し者共に投げつけるなのは。

全員水浸しの上、バケツをぶつけられて歯を折られた者まで。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

一度ならず二度までも学園に対してイチャモンを付けやがって!!

ただじゃ済まさないの!!自分の教え方が間違いなのを認めないばかりか、

織斑千冬が親無しな事をいい事にそればかり責め立てる糞チ○ポ共!!!

短小○茎の腐れ○ラ野郎共は叩き潰してから

その汚い尻を八つ裂きにして海に沈めてやるのぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!」

 

「ち、○ンポ…短小包○…腐れマ○…」

 

「幾らなんでも、女に向けて言う言葉じゃないぞ…」

 

「ムキーッ!!小娘が生意気じゃ!!

貴様はISの操縦資格を剥奪されてるんだぞ?!!

何でISに乗ってるんじゃ?!」

 

「そんな物は聞いてないの!!文句があるなら文書で持ってくるの!!!」

 

「これじゃ!!」

 

 倉林は通告文を見せた。だが相手はICPOにすら喧嘩を売る暴走核弾頭。

そんな物で止められると思っているのだろうか?

 

「あぁ…そう。」

 

 なのはは一言反応するや、遠隔部分展開で通告書を奪い取り、

丸めて放り投げるや機銃で焼き払った。

 

「通告に従わない事を通告するの!!

ヤマトを取り上げたかったら力づくで来るの!」

 

「んなっ…」

 

「力づくで来るの!!」

 

「お前何IICに逆らっとんのだ!!」

 

「力づくで来るの!!!」

 

 綿貫が怒鳴り付けるが、当然なのはは動じない。

 

「本気で大人を怒らせたいんかオラァ!!」

 

 綿貫が灰皿をなのはに投げつける。

だが、なのはは灰皿をあっさり掴むと投げ返した。

 

「ち か ら づ く で く る の ! ! ! 」

 

灰皿は綿貫の顔面に直撃。鼻から流血したのは言うまでもない。

 

「ぷぎゃぁ!」

 

「貴様!!」

 

「私は力づくで来いって言っているの!そんな紙切れで私に勝てる訳が無いの!!

さあ決闘の時間なの!力尽くで雌雄を決するの、この不法侵入のクルピラ野郎!!

ペテン師共は便所に追い詰めて、肥溜めにぶち込んでやるの!!

その後は○丸を縛って吊るし上げて、海に沈めてやるのおおおおぉぉぉっ!!」

 

 なのははレイジングハートで綿貫を滅多打ちにした挙句、

トドメにヤマトのアームで海へ放り投げた。

 

「ギャーッ!」

 

「貴様!!IIC支局長になんて事をするんじゃ!!何様の積もりじゃ!!!」

 

「ああ?私を何と呼べば良いのか分からないの?!ならば名乗ってやるの!!

私こそが 暴   走   核   弾   頭 なの!」

 

 その場の全員に聞こえる程の声で堂々と宣言したなのは。

その名乗りに一同がざわつく。

 

「ぼ、暴走核弾頭?!」

 

「アイツが?!」

 

「ドイツ代表とICDのIS隊を単騎で蹴散らした『織斑千冬の再来』…!」

 

「う、噂は本当だったのか…?」

 

 独仏の首都でテロを起こした超危険人物「暴走核弾頭」の噂は

既に軍部の中にも都市伝説として伝わっていた。

だが、まさか目の前にいるのが本人と誰が想像しただろうか?

 

「ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ暴走核弾頭じゃとぉ?!」

 

「ほ、本人…だったのね…。」

 

「こいつが…伝説の超○地外…暴走核弾頭!」

 

「さて、それじゃ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P⌒*(◎谷◎)*⌒

 

少し頭冷やそうか…?

                  

 暴走核弾頭、起爆。さあ、地獄開始だ。




IICの回し者を馬鹿に書きすぎたかもしれない…
だが、今後の話の為には避けては通れない話、後悔はしない。


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第36話  先人の苦労、その真価

さて、戦う前にこの回し者達がなぜ白兵戦にこだわるのか、
なぜ真耶を代表候補生から解任したのか、説明して貰いましょう。


 夏休み初日、突如日本人の1年生生徒全員に夏休み中の補習を命じてきた

近接戦至上主義の回し者達。それは先日の代表候補生試験において、

射撃重点の真耶へ、ひいては自分への嫌味を言った

代表監督の倉林美也子の言動に激怒したなのはが集中砲撃で

千冬の後任代表、飯田奈緒を吹っ飛ばした報復であった。

 

 だがその行為はISの母、束の逆鱗に触れた。束は学園に乗り込むと、

回し者達のドン、倉林美也子と綿貫三樹夫はNOT日本人とカミングアウト。

なのはに力づくでの排除を命じる。

IS学園を舞台に、国家代表対なのはの戦い(?)が再び始まろうとしていた。

 

「な、何て事を…」

 

「IICの役員を海に放り投げるなんて…」

 

「噂通りの暴走ぶりね…」

 

 ICPO-ICDの飛行隊とドイツ代表操縦者を

真正面から叩き伏せた凄腕の操縦者、暴走核弾頭の噂は

防衛軍の間でも既に広まっていたが、

本人を前にして改めてその傍若無人さに震え上がる一同。

 

「き、貴様…」

 

「た、たたたたた高町さん?!それ以上はもう勘弁して下さい!

悪いのは近接戦で成績を上げられなかった私であって…。」

 

 真耶が泣きの制止に入るが、なのははその程度で止まる筈がない。

 

「だからこそなの!!第2、第3の山田真耶を出してはならないの!!!

文句言うとこの前の続きなの!!!」

 

「でも!こんな事したら折角の代表候補生試験は…!」

 

「どうでも良いの!!こんな奴が代表監督に居座っていたんじゃ、

そんな肩書は取るだけ損なの!!!」

 

「あーん、やっぱりこうなるのね…」

 

「大体、千冬先生はどうして何もしないの?!

いつもみたいに、こんな奴出席簿でぶん殴れば片付くのに!!」

 

「そ、そうですけど…織斑先生はどうもあの人達に頭が上がらないみたいで…」

 

「だとしたら、真相を知らなければいけないの!!

とりあえず、こいつらを〆て吐かせるの!!」

 

 言うなり、なのははヤマトを完全展開した。

 

「さあ掛かって来るのバ監督!!

まさか、自分はISを操縦できないなんて言わせないの!!!

山田先生に銃央矛塵…

『「銃」を戦法の中「央」に置き、「矛」を「塵」程にしか見ない無能者』

なんてふざけた烙印を押して摘み出した馬鹿の宿痾はここで断ち切ってやるの!

と言うか、メンドクサイから希望者は纏めてかかって来るのぉぉおおお!!!」

 

 怒りに任せて奈緒と部下達に突っ込むなのは。

掛かって来いと言いながら先制攻撃するスタイルである。

 

「ええい怯むな!!止めろ!!止めるんだぁっ!!」

 

 奈緒の部下達がISを展開しようとするが…

 

「うおおおおおおおお!!!雑魚は引っ込むのおおおおおおおおおおお!!!」

 

 ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!ドギュルルルゥウン!!

 

 KABOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOM!!!!!

 

「「「「「ぎょわああああああらあああああしゃがあああ!!!!!」」」」」

 

 たちまち主砲と副砲の斉射で纏めて吹き飛ばされる。

勿論、活殺自在の効果で命は無事だ。

 

「おのれ卑怯者!!日本人なら黙って剣を使わんか!!!」

 

 ビダァァァン!!

 

「ぷぎゃ!!」

 

 なのはは主砲塔をフライパンの様に振り下ろして奈緒をぶっ叩いた。

 

「な、なにをする、きさまー!」

 

「御生憎様なの!!!ヤマトにそんな装備は無いの!!

接近すればワープで逃げるから、必要ないの!!

この前の事と言い、千冬先生の先輩で後任だから期待したけど、

とんだ期待外れなの!!

期待外れと言う言葉に対して無礼なくらいの期待外れなの!!!

大体、何でそんなに剣にこだわって、

飛び道具重点の山田先生を執拗に馬鹿にするの?!!」

 

 それが一番の疑問だった。この考えを何とかしない限り、

今後も真耶の様な目に遭う人間は尽きないだろう。

 

「貴様には解らんのか?!!外国に居ついて日本人の魂を忘れた非国民が!!

生っっ粋の日本人として、本当に恥ずかしいわ!!」

 

「馬鹿馬鹿しいの!!そう言う人間が本当にそうだった試しはないの!!!

そもそも私は霊魂だの何だのと目に見えない物には惑わされないの!!!

勿体付けてないで、早く話すの!!!」

 

「貴様!『真宮寺一馬』の名を知らんのか?!おい、遺影持ってこんかい!!」

 

「「ハッ!!」」

 

 倉林の口から出て来たのは、ある一人の軍人の名前だった。

真宮寺一馬。苗字で気づいたかもしれないが、

彼はICPO-ICD飛行隊員の一人、なのはが「皆の鬼嫁」と呼んだ

真宮寺さくらの亡父である。

用意の良い事に、一馬の遺影を持って来る始末。

何故そんな物を持ち込むのだろうか?

 

「このお方はその腕前を見込まれ、

ISを用いた剣技を確立する為に自らデータサンプルとなり、

寝る間も惜しんで剣を振り続けた!!その苦労が実って、

織斑の奴はモンド・グロッソで優勝する事が出来たんじゃ!!

だがその代償にこのお方は剣技の完成後程なく体を壊し、

第1回大会が開かれる直前に…」

 

「……………………………………………」

 

 これで、真耶が代表候補生を追われた真相がなのはにも呑み込めた。

つまり、近接戦至上主義が罷り通っていたのはこの回し者共が

 

「織斑千冬がモンド・グロッソで優勝出来たのは、

真宮寺一馬が苦労の末、命と引き換えに確立したIS剣技を学んだ結果である。

今日の織斑千冬の栄光は彼の苦労の上に成り立っており、

日本のIS操縦者は成功者である彼等の様に苦労しなければならない。」

 

 と主張しているからで、これに対する異論には悉く

 

「自分は剣道なんか全く出来ないしISを動かした事も無いけど、

織斑千冬がモンド・グロッソで優勝した何て大した事じゃない。

適当に飛び道具使えば自分でも今すぐできる位簡単な事だと思ってるし、

その真宮寺一馬とか言う奴は意味も無く生まれて、

意味の無い事をして、意味も無く死んだ馬鹿の中の馬鹿だと思ってます。」

 

 位の大言壮語をしたと拡大解釈し、故人の努力を踏み躙って憚らない

極悪非道のDQNだとレッテルを貼る。これがこの連中のやり方なのだ。

真耶もそうやって剣技重視のやり方に抗議した結果、

倉林にこの様な拡大解釈をされて上層部に睨まれて解任されたのだ。

 

「これで馬鹿で馬鹿で馬鹿で馬鹿で馬鹿で馬鹿で仕方ない貴様にも解ったか?!

貴様なんぞ剣も振れんまぐれ勝ちだけのロクデナシじゃああ!

周りにいる貴様の先輩様はそうやって扱かれてここまで来たんじゃ!!

だから貴様も同じくらい扱かれんかい!!

目上にされた事はの目下にやる、それが当然!!常識!!社会正義!!

だから全員やるのが人倫の道ィィィィィィーーーーーーーーーーーーーッ!!!

何が暴走核弾頭じゃ!!テメエは低劣!低レベル!低能!

やれないテメエがアホで無能で滓なだけなんじゃ!!

目上のやり方を変えるなんてのは最低最大最悪の罪悪じゃ!!

睨まれてクビにされて当然なんじゃボケェ!!!

すぐさま土下座して詫び入れろやぁあああ!」

 

 なのはが何も言わない事を良い事に言いたい放題言っているが、

倉林は一つ致命的な見落としをしていた。それは簡単な事である。

「もし目の前の奴が上記の大言壮語通りの事が出来る本物の天才だとしたら?」

倉林はその答えを身を以て思い知る事になる。

 

「成程、千冬先生が優勝できたのはその真宮寺一馬という人の御蔭なんだ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

とでも言うと思ったの?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのははいきなり一馬の遺影を遠隔部分展開で奪い取ると、

何の躊躇いも無く枠ごと引き裂き、破り捨て、足元に捨てて踏み躙った。

 

「「「「「ナーアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア?!」」」」」

 

 当然である。かつてなのはが後輩達の危険行為に激怒して

吹っ飛ばしたのは、自分が経験した苦難を後世に繰り返させない為である。

 

 もしもなのはが倉林の主張を正しいと思っていれば、スバル達後輩には

「自分はかつて任務中の僅かな反応の遅れから瀕死の重傷を負ったが、

リハビリの末復帰してSランクを取得した。

だから、同じ様に傷ついてから這い上がれ。」と訓示しただろう。

 

 第一なのはの本来の職場であるミッドチルダには

魔導師と非魔導師と言う個人の努力では絶対に超えられない壁がある。

そんな社会では「自分が出来る事は他人も出来る」は通用する筈が無い。

 

 故に、倉林のやり方はなのはにとって

過去の経験、職場の環境、そして自身の信条から

「言語道断」の一言で事足りる暴論でしかない。

 

「そんなまやかしは効かないの!!

織斑千冬優勝の最大の功労者は織斑千冬本人であって、

ISも動かせない輩を一番手柄に祭り上げるなど言語道断なの!!

私は剣なんて扱えないし、ISの操縦だって瞬時加速すら全くできないけど、

そんな私でも日、独、露の国家代表に勝ち、織斑千冬すら私には敵わなかったの!!

つまりそんな苦労なんかしなくても、既に私は世界最強なの!!」

 

 まさか遺影を破って踏み躙るという暴挙に出るとは。

束ですら予測不能の行為に場は一瞬で凍りついた。

これ以上シンプルかつストレートな故人への冒涜はそうそうないだろう。

一体誰ならばここまで挑発されて喧嘩を買わずにはいられるだろうか?

 

「これ以上語る事は無いの!!さあ掛かって来るがいいの!!

そんなに補習させたいのなら、私に勝って見せるがいいのぉぉぉおおおお!!」

 

「き…き、さ、ま…。」

 

「悪魔め…」

 

「あんな奴を放っておいたら、大佐の命を賭した苦労が踏み躙られてしまう!」

 

「絶対にここで倒さなければ!」

 

 いつの間にか、操縦者達も恐怖から立ち直りISを展開していた。

良く見ると、なのはは完全に囲まれてしまっている。

 

「プピーッピッピッピッピ!!

残念じゃったな、ここにいる奴等は全員貴様の敵じゃ!」

 

「知ってる!それで自分だけ戦わずに逃げるの?!

まさかISを動かせないの?!弱いの?!ヘタレなの?!!」

 

「ムキーッ!そんなに叩きのめされたいのか貴様!!!」

 

「声の大きさだけで私が怯むはずがないの!!

口先だけじゃなくて、たまには自分で動くの!!

専用機を持ってるなら早く展開して見せるの!!

さもないと相手してやらないの!!!」

 

「やまと、ようしゃしねーのっ!」

 

「ムキーッ!!昨日の事と言い、どこまでも付け上がりおって!!!

生意気じゃ!生意気じゃ!生意気じゃ!生意気じゃ!生意気じゃ!生意気じゃ!

 

生     意     気     じ     ゃ     っ    !

 

 地団太を踏んで生意気じゃ!と繰り返す倉林。

だが、それを聞いた軍人達は一斉に震え上がった。

 

「で、出た…『倉林怒りの七点唱』…。」

 

「唱えれば誰か一人が必ず再起不能となる、倉林美也子の本気の合図…」

 

「あの生徒…完全に終わったな。」「だが相手はあの『暴走核弾頭』だぞ?!」

 

「ドイツの青い魔女とICPO-ICDの飛行隊を全滅させたという噂だが…

もし事実なら、一体、どれ程の力を持っているんだ?!」

 

「この正義丸で打ちのめして、二度とISに乗れない体にしてくれるわ!!」

 

 やっと倉林も戦う気になった様で、専用機「正義丸」を展開した。

その両手には合金製の鞭が。どうやら、こいつは鞭使いの様だ。

 

「やっと戦う気になった様だが、その程度の機体で私を倒せると思っているの?

…改めて言うけど、私は剣の腕が悪かったら他が良くても

代表候補生失格なんて馬鹿な一元論は断じて認めないの!!!

『競うな、持ち味を活かせ』の教えを力づくで認めさせてやるの!!!」

 

「ほざくな!!貴様は今日ここで二度とISに乗れない体に成るんじゃ!!!

人生最後のISの前に一言言わせてやるわ、

内容次第では手加減してやらん事もないぞ?ん~?」

 

「いいの?それじゃあ…」

 

 なのはが告げた一言。それは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倭は 国のまほろば たたなづく青垣 山隠れる 倭しうるはし…
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

ニ次移行(セカンド・シフト)の時間だオラァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とびっきりの絶望の宣告だった。




注意!

遺影を破いたり、踏み躙ったりするのは故人への重大な冒涜です。
良い子も極悪人も、絶対に真似しないようにしましょう。


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第37話  まほろば降臨

さあ、お待ちかねのお仕置きの時間です。
ですが、そのまま戦うと力量と性能差に差が有りすぎてすぐ終わるので…
結構大変でした。


 1年生の日本人生徒からから夏休みを奪い、

補習で日本人としての魂を鍛え直すと称して

学園に乗り込んできた近接戦至上主義者の回し者一味。

よくよく話を聞いてみると、この回し者共が剣に偏重する原因は

ICPO-ICD隊員の一人、真宮寺さくらの亡父、一馬にその一端があった。

 

 優れた剣士だった彼はISによる剣技を確立する為自らを資料とし、

その結果完成した刀法で千冬がモンド・グロッソを優勝できたと言うのだ。

だが、その際の無理が祟った一馬はそれを見る事無くこの世を去る。

要は「こうやって成功したのだから、

お前らも同じ位苦労して剣を学べ」と言いたいのだ。

 

 だが、それは「競うな、持ち味を活かせ」がモットーのなのはとは

全く相容れない思想だった。

ご丁寧にも持ち込んできた一馬の遺影に土下座して謝れと倉林は迫るが、

なのはは遺影を奪い取り、破って踏み躙るという真逆の返答を返す。

そして、勿体付けてばかりの倉林に遂に専用機を展開させたなのはは、

それを待っていたかのように二次移行を宣言したのであった。

 

「な、何だとォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 いきなりの二次移行宣言に慌てふためく倉林。

この前のは本気では無かったと言う事なのだ。

直後ヤマトは発光。暫くして光が収まった中から現れたのは、

更なる異形へと変形したヤマトであった。

 

「で、デカい、デカすぎる!!」

 

 その高さは優に4mに達し、バイザーの頭上には三方を向いた般若面。

三連装主砲も3基から5基に増え、

背中から生えた巨大な手を思わせるフレキシブルシャフトの先端に移設。

 

 非固定浮遊部位(アンロックユニット)化されていた6基の追加アームも

しっかりと腕に付けられ、左腕の一本にはなのはの相方、

レイジングハートエクセリオンモードを模した長槍をその手に握っていた。

 

 即ち、その姿は三面八臂の天魔鬼神。

否、それ以上の何かだった。

 

「これが…これがッ!これが!!ヤマトの第二形態『まほろば』なの!!!

さあ掛かって来るの!!今度と言う今度は、徹底的に〆てやるの!!!」

 

「な、何じゃあの化け物は…腕ばかり増やして気持ち悪い!!

第一貴様、いきなり二次移行なぞ卑怯だぞ!!それでも日本人か?!」

 

「私が化け物?違う、私は悪魔なの!!そして言っておく事が有るの!!

このヤマトは形態移行をする度に戦闘力が遥かに増す…

その形態移行を後2回も私は残している…この意味がわかるよね?」

 

「あ、後2回…後2回じゃとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお?!」

 

 ISの形態移行は一次、二次、三次移行が知られているが、

このうち三次移行は理論上の物とされ、実際に達成した者は一人もいない。

だが…もしなのはの言葉が事実なら、なのはは三次移行を通り越して

更にその上、四次移行を達成したと言う事になる。

 

 その姿を目の当たりにした日本人生徒もその異形に震え上がった。

 

「あれがヤマトの二次移行…!」

 

「高町さん…本物の悪魔になっちゃったんだ…」

 

「悪魔と言うより、むしろ仏像?ほら、ナントカ明王さまとかあんな姿だよ。」

 

「でもさ、見た目は仏様でも…中の人『アレ』だよ…?」

 

「うん、そうだよね…」

 

「「「「「…………………………………………………………………。」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「やっぱ悪魔だわ、アレ。」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千冬姉…」「すまん一夏、私が監督達に強く言える立場にないばっかりに…」

 

「気にすんなって!悪いのはあいつらなんだから!!

それに、あんな奴等なのはさんが瞬殺してくれるって、だから泣くなよ。」

 

「そうか、そうだな…」

 

「一夏…」「んん?どうした?」

 

 千冬は涙ながらに、無言で一夏を抱きしめた。

 

「有難う…私の為に、あれだけ怒ってくれて…」

 

「千冬姉…」

 

 少しだけ、姉が丸くなった様な気がした一夏であった。

 

 

 

 

 

「これで理解した?誰を相手にしたのかを、してしまったのかを。

さてエセ日本人のバ監督、『本人の合意無き干渉は禁止』の原則を破って

学園に踏み込み、先人の犠牲を盾に下らない理論を押し付けた罪は重い。

よって今この瞬間より…挑 戦 を 許 可 す る の ッ !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはの挑戦許可を合図に、学園中に音楽が鳴り響く。

流れるのは例によって某8代将軍大立ち回りのテーマ曲だ。

 

「ムキーッ!!生意気じゃ!!全員かかれー!!」

 

 倉林が命令した次の瞬間…

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

KABOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOM!!!!!

 

「「「「「ぬわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」

 

どーん!の声でいきなり空間が爆発。なのはに向かっていったISは

全て爆発に巻き込まれて全滅した。何が起こったと言うのか?

 

「な、何じゃぁ?!」

 

「0.79秒。この程度の数なら1秒かからないの。」

 

「「」」

 

 何の事はない。なのははありったけの近接防御グレネードを

向かってきた各機の直近に遠隔部分展開し、起爆させたのだ。

この離れ業に遠巻きに見ていた他の教員や生徒達も唖然とした。

 

「な、何と言う…殆ど超能力じゃないか?!」

 

「あれが『暴走核弾頭』の二次移行…?!」

 

「何あれ、あんなの誰も反応できないわよ…」

 

「あれで本気の…片鱗の…一部…なんだよね…」

 

「これ、逆に強すぎてモンド・グロッソ出禁とか…あるよね、絶対。」

 

「「「「「うんうん。」」」」」

 

 

 

 

 

「それで?まさか今ので怖くなって動けないとか言わないよね?」

 

「ムキーッ!!どこまでも舐め腐りおって!!

貴様こそ、この倉林サマがあの小娘に勝ったと言う事を知らんのか?!」

 

「小娘…?それって、千冬先生?」

 

「そうじゃ!!あの屑めが、弟可愛さに決勝を放棄し負ったから、

この倉林サマが懲罰模擬戦で専用機を再起不能にして、

代表から降ろしてやったんじゃ!!」

 

 意外や意外、こいつも千冬に勝った事があるらしい。

こんな性根の腐った奴が居座れるのはそういう事なのか。

 

「どうじゃ、恐れ入ったか!!ん~?今なら逃げても良いんだぞ?」

 

 こうは言っているが、コイツの専用機は第3世代機、

一方千冬の暮桜は第1世代機である。

第3世代機で第1世代機に勝っても、それが何だというのか?

と言いたい所だが、

それを言うと第5世代機で戦ってるなのははどうなんだと言う事になるので、

心の内に収めて3本指を立ててこう告げた。

 

「3分間!」

 

「3分?3分が何じゃ!!」

 

「3分間待ってやるの。好きに打ってくるの!!織斑千冬に勝ったというなら、

その力に敬意を表してハンデをくれてやるの!!在り難く思うの!!!」

 

 なのはは「3分だけ黙って攻撃を食らう」というハンデ戦を宣言。

色々な意味で大丈夫なのか?

 

「な、なーちゃん?!」

 

「待って下さい!相手も千冬さんに勝っているんですよ?!

ハンデなんかあげて良いんですか?!」

 

「いいんだよ。私に勝てるのは、同世代機を駆る織斑千冬だけなの!

この程度の相手ならどうやっても負けは無いの!!

さあ、バ監督と役者不足!!このハンデ戦、受けるの?受けないの?!!」

 

「こ、小癪なぁ~~~~~~~~~~~~…(ビキビキ」

 

「この程度?どうやっても負けないだと?!!

き…き、さ、ま…。言っちゃいけない事を言ったなぁぁぁぁああああああ!!」

 

 完全にいきり立つ倉林と奈緒。やる気満々だ。

 

「その意気なの!!さあ、さっさと打ち込んで来るの!!!」

 

「言われなくてもやってやるわ!!」

 

 そう言い放つと、一斉になのはに飛びかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして…。

 

「「ぴぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」」

 

 両機はまほろばの攻撃で吹き飛ばされ、絶叫をあげながら転がされた。

 

「もう終わり?」

 

 なのははただ一言吐き捨てた。纏っているヤマト…

いや、まほろばは全くの無傷だ。

その背後では、5基の三連装速射砲が排熱の為蒸気を上げている。

 

「そ、そんな…あれだけ攻撃されて、ビクともしないなんて…」

 

「やっぱり、暴走核弾頭には誰も敵わないのか…」

 

 勝負は一方的だった。ハンデとして3分だけ一方的に攻撃できる為、

一気に近づいて猛攻をかける両機。

当然、なのはは黙って受けると言った手前動かず、回避しようともしない。

 

「ハーハッハッハッハ!!私に3分与えたのが運の尽きだったな!!

貴様や束の様な奴がいるから、

日本人が世界中から危ない奴等だと誤解されるんだ!!

大和撫子の魂の剣、受けてみろ!!」

 

直後、奈緒は目にもとまらぬ速さで怒涛の猛攻を仕掛けた!

 

衝屈藤(ツキカガミフジ)!!跳衝菫(ハネツキスミレ)!!廻飛菖蒲(マワリトビアヤメ)!! 

 屈飛菖蒲(カガミトビアヤメ)!!屈藤(カガミフジ)!!衝飛菖蒲(ツキトビアヤメ)!! 

 廻屈藤(マワリカガミフジ)!!飛菖蒲(トビアヤメ)!!跳柳(ハネヤナギ)!! 

 跳飛菖蒲(ハネトビアヤメ)!!廻牡丹(マワリボタン)!!跳屈藤(ハネカガミフジ)!!

 廻飛菖蒲(マワリトビアヤメ)!!衝廻牡丹(ツキマワリボタン)!!跳廻牡丹(ハネマワリボタン)!!衝菫(ツキスミレ)!!

そして、これが…!!我が師真宮寺大佐より授かりし奥義、

破邪顕正・桜花放神ぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいん!!!」

 

 奈緒の怒涛の猛攻でアリーナから爆炎が上がる。

曲りなりにも国家代表に選ばれる実力があるという事が良く解る光景である。

これならばICDの飛行隊相手にも五分以上に戦えるだろう。

そして、倉林はと言うと…

 

「この忘八めがぁぁぁぁぁ!!!

貴様なんぞ剣も振れんまぐれ勝ちだけのロクデナシじゃああ!

貴様に倉林流双鞭術の恐ろしさを解らせてやるわ!!

この双鞭『人倫丸』でぶちのめしてやるわ!!

見たらすぐさま土下座して詫び入れろやあああ!!ん、徳義鞭んんーっ!!」

 

 倉林は鞭を両手に縦回転しながらまほろばに吶喊。

流石の超ヘビー級ISのまほろばも激突の衝撃で後ろに押し出された。

 

「ほ、節義砕ぃ!は、信義撃ぃ!よ、忠義突ぅ!」

 

 今度は振り下ろし→軸回転→突出しの連撃だ。

 

「や、道義縛ぅ!! あ、正義断んん!!」

 

 そして、縛り上げてから折りたたんだ鞭で連打。

千冬に勝ったと豪語する怒涛の鞭捌きでなのはを攻め立てる。

 

「そしてこれでとどめじゃ!!!絶対正統・人倫丸ぅ!!!」

 

 何と人倫丸が十数本に枝分かれした。

某鬼の哭く街の獄長を髣髴とさせる多条鞭だ。

 

「そして最大奥義…あ、大義殺ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 な、何たる卑劣非道か!!〆に放たれたのは多条鞭の全力振り回し。

奈緒が間合いにいるにも関わらずトドメを刺しに掛かったのだ。

最早言葉も出ぬ程の蛮行だ!!

 

「な、監督!!私まで巻き込む気なのですか?!」

 

「知るか!隙を見せた餓鬼の耄碌は叩きのめすだけじゃ!!」

 

 当然、見ていた生徒や教員達も怒り心頭だ。

 

「何て事を…!あの人飯田先輩に当たったらどうする気なんですか?!」

 

「うわー、見損なったわ…。」

 

 

「どうじゃあ!!この攻防一体の鞭捌きを破れた者はおらんのじゃ!!

これで貴様の馬鹿さ加減がわぁぁぁぁぁかったあああああああああああ!!!」

 

 そして、タイムリミットの3分が経過した。周囲は鞭の土煙で何も見えない。

だが、徐々に鎮まるとまほろばが姿を現した。どうやらなのはも無事だ。

果たして、どうなったのだろうか…?

 

「プピーッピッピッピッピ!!

勝った!!これだけの攻撃を受ければもうSEは残るまい!!

何か言わんか、この畜生が!ん~?それとも、

この倉林サマの言ってる事が余りにも正し過ぎて反論が出来んのか~?」

 

 完全に勝ったと思い込み勝ち誇る倉林だが、

それに対してなのはは嘲笑するかの様な表情でSEゲージを見せる。

そこにははっきりとこう記されていた。

 

まほろば SE残量 1000000/1000000   

 

「プピィィィィィィィィィイイイイイイイーーーーーーーーーーーーッ?!!」

 

「ば、馬鹿なーッ!!ノーダメージだと?!!

いや、それよりもSE100万?!何だそのふざけた数字は?!!」

 

 なぜこんな事になったのか?答えは簡単だ。

一見ノーガードで攻撃を食らっている様に見えたなのはだが、

その実、全方位にラウンドシールドを展開して全ての攻撃を受け止め、

SEを消費せず悉く捌ききったのだ。

 

「甘い甘い、そんな石ころの様な攻撃がヤマトに効くと思っていたの?!

ISの本家本元、篠ノ之束の最先端技術ならこの位は当然なの!!

最後の慈悲として、今のを1手としてあと9手分だけ待ってやるの!!

少しでもダメージを入れられる物なら入れてみるの!!」

 

「い、言わせておけば…」

 

「ムキーッ!!どうせまぐれじゃ!!

そうに決まっとる!!今度こそ叩きのめしてくれるわ!!」

 

「やれるものならやってみろー!」

 

 その後も眼にも止まらぬ猛攻を仕掛けるが、

ラウンドシールドに弾かれてまほろばのシールドには掠りもしない。

これでは何度やってもSEには1ポイントもダメージは入らない。

そして、倉林も奈緒もそれに全く気づいていない。

 

「あと8手…7手…6手…5手…4手…3手…2手…1手……。」

 

 なのはがする事と言えば、淡々とカウントダウンを続けるだけ。

 

「な、何て事?!まるで効いていないの?あれだけの攻撃が…!!」

 

「これが暴走核弾頭?恐ろしい…あの力は最早ISのそれを超えている…。」

 

「もう織斑千冬の再来なんてレベルじゃねーぞ!!」

 

 

 そして…

 

「時間切れなの。良く頑張ったがとうとう終わりの時が来た様なの。」

 

 ラウンドシールドに悉く弾かれ、

ヤマトのSEに遂に1ダメージも与えられなかった。

 

「な、何故だ…何故だ何故だ何故だ!!!

何故ダメージが入らないんだ?!!こんな事が有って良いのか?!!!」

 

 どうやら、最後までラウンドシールドを破れなかったようだ。

 

「大人しく本土に籠っていれば痛い目に遭わずに済んだ物を…

流石似非日本人と褒めてやりたい所なの!!!」

 

 なのはが右手を上げると…

 

 ガシィッ!!

 

「な、何ッ?!」「プピィーッ!!な、何じゃこりゃあ?!!」

 

 まほろばの追加アームが遠隔部分展開され、正義丸と撫子虎を掴んだ。

勿論、多重量子変換は完全解除、最大サイズで機体を握りしめる。

 

「とっておきなの。」

 

 事ここに至り、倉林と奈緒は

なぜなのはが暴走核弾頭という異名を名乗る理由を思い知った。

 

「覚悟はいい?私は出来ている。」

 

 なのはは主砲塔を遠隔部分展開し、砲口を顔面に押し付けて接射。

上記の状況に至ったのであった。

 

 

 

 

 

 

「これで自分達の軟弱さが解ったでしょ?

IICの回し者みたいに海に落とされたくなかったら、早く本土に帰るの!!」

 

「こ、こんな馬鹿な…こいつが正しいと言うのか?

我が師真宮寺大佐の命を賭した苦労の末に確立された剣技が、

全く通用しないとは…!!千冬とて、そうやって大佐に鍛えられて

漸く日本代表となり、世界頂点にまで上り詰めたというのに、

それすらも全て無駄だったと言うのか?!」

 

 それに対し、ヤマトが嘲るように言い渡した。

 

「わかってねーの、なのははそのせんじんいじょうのそんざいなの。

じぶんのせんぽうをかくりつして、ぶらこんせんせーにだってかったの。

だから、そんなものはほこるにあたいしないの。

 

だいいち、こうしんならせんじんをこえ、

そのうえをいこうとするのがれいぎなの。それこそがただしいありかたなの。

せんじんのくろうだのなんだのと、

ひとがたやすくさからえないものをならべたてて、

そのきになっていたおまいらのすがたはおわらいだったの。ぷーくすくす。」

 

「ヤマト、さっさと黙らせるよ。もう一発ブチ込んであげて。」

 

「はーい。」

 

 なのははそう言うと、

砲塔をもう2基遠隔部分展開して正義丸と撫子虎を押さえつけた。

 

「さて、先人達の苦労を盾にした愚行のツケの徴収の時間なの!!」

 

 もう一度主砲で吹っ飛ばそうとした瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「待ちなさい!!」」」」
          

 

 

 

 

 

 

 

     

 

「!」

 

 突如割って入る何者かの声。どうやらこの戦いはまだ終わりではなさそうだ。




最後の声ですが、帝国か…ではなくて、ICDではありません。
敢えてヒントを挙げるなら、
「今までのゲスト出演者の中に、同じ作品の出身者がいる」
とだけ言っておきましょう。もちろん、全員女性です。


尚、奈緒の技名は彼女のモデルとなったあるキャラクターから拝借しました。
皆さん、誰かはもう解りますね?


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第38話  裁きまでのカウントダウン

さて、最後の最後に割り込んできた
闖入者の正体の答え合わせの時がやって参りました。


 先人の犠牲を盾に近接戦至上主義を蔓延らせる異国からの回し者、

倉林美也子に正面切って喧嘩を売り、日本代表の一人、飯田奈緒諸共

一方的にKOしたなのは。だが止めの一撃を射ち込もうとしたその時、

何者かが割って入るのであった。

 

「!!」

 

 なのは達が声の方に目を向けると、そこにはパトランプに白黒塗装、

アーマースカートには桜の代紋こと旭日章と警視庁の3文字が刻印された

3機の打鉄。そして、その先頭には同じカラーリングだが

専用機らしき見慣れない機体が在った。恐らくはあれが隊長機なのだろう。

 

「あ、あの人達は…!」「知っているんですか、山田先生?!」

 

「はい、彼女達は警視庁IS小隊、SATを超える警視庁の最高戦力です!!」

 

 その正体は警視庁IS小隊。

機動隊、SATと同じ警視庁警備部に所属する部署である。

その任務は災害救助支援、化学兵器除染、果ては暴徒鎮圧に海難救助と、

あらゆる任務への備えを持つ、日本警察でも最高の精鋭の集まりであった。

 

 恐らく、高木理事長辺りがこっそり通報したのだろう。

だが、この闖入者の行為は今のなのはを刺激するには十分すぎた。

 

「こちらは警視庁のIS小隊です!!全員、すぐにISを解除し…」

 

 ガッ!!

 

「え、ちょっ、まっ…」

 

 なのはは4基のアームを遠隔部分展開してISを掴むと、

有無を言わさず引き寄せて殴り飛ばした。勿論、活殺自在は発動済みだ。

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

「「「「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」」」」

 

                   

 なのはのマッハパンチ!こうかはばつぐんだ!

 

 あいてのISたいいんAはたおれた!

 

 あいてのISたいいんBはたおれた!

 

 あいてのISたいいんCはたおれた!

 

 あいてのISたいいんDはたおれた!

 

 けいしちょうISしょうたいとのしょうぶにかった!

 

「……………………………………………………………………………なんなの?」

 

「ちょぉぉぉっ、い、いきなりぶん殴っちゃたよ?!」

 

「マジで警察だろうがお構いなし?!」

 

「やばいよ…やばいよ…誰かこの人、何とかしてーっ!!」

 

 野次馬連中もびっくり仰天。もう滅茶苦茶だ。

 

「なっ!何をするだァーッ、ゆるさんッ!」

 

 勿論、吹っ飛ばした隊員は即座に立ち上がって食って掛かる。が、次の瞬間…

 

「あ~ん?」

 

 ガシッ!!

 

「ちょ、やめろ!!HA☆NA☆SE!!!」

 

 遠隔部分展開したアームで締め上げられ、ヤマト本体まで引き寄せられると…

 

 ゴッ!!

 

「ぶわ!」

 

 情け無用の左ストレート。しかし、それだけでは済まされない。

 

 ガン!!

 

「おぶ!!」

 

 一旦距離を取ってから再度引き寄せ、追撃の腹パン。そしてトドメに…

 

 ゲシ!!

 

「あべし!!!」

 

 顔面を思い切り蹴った。

 

「な、何すんだよぉ~!!」

 

 勿論、活殺自在の効果で隊員は痛いだけで傷一つ付かない。

だが、なのはは追い打ちとばかりに

アイアンクローで頭部を鷲掴みにして持ち上げた。

 

「遅いの!!!通報してから何分かかってるの?!!

暴徒鎮圧ならとっくに終わってるの!!!この遅刻魔どもめ!!!!」

 

「「「「「(え゛?!そこが怒る所なの?!!)」」」」」

 

 戦いの邪魔をされた事でキレたのかと思ったが、どうやら違うらしい。

しかし、まさかなのはが通報していたとは。いつの間に通報したのだろう?

 

「ギャーッ!!ヤメロー、ヤメロー!!

死゛ぬー!脳ミソ潰れて死゛ん゛じゃう゛ー!!(ジタバタジタバタ」

 

「誰が喋って良いと言ったの?」

 

 ミシミシミシミシ!!

 

「イダァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 臨海学校で千冬が束にやったのと同じ構図である。

違うのは、死人が出かねないという所だ。

 

「ちょっと!!いい加減にしなさいっ!!暴徒は貴女でしょ、ア・ナ・タ!!」

 

「あ~ん?」

 

 なのははヤマトワープで隊長らしき隊員の眼前にワープし、

アームで後頭部の三つ編みを掴んで持ち上げた。

 

「あだだだだだだだだだ!!はなじでぇぇぇぇぇぇぇ!!(ジタバタジタバタ」

 

「遅いの!!!通報してから何分かかってるの?!!

暴徒鎮圧ならとっくに終わってるの!!!この遅刻魔どもめ!!!!」

 

「ちょっ、テイク2?!」

 

 と、なのははここで矢鱈胸の平坦な隊員に主砲塔を向けてこう問いかけた。

 

「そこの貴女…」「な、何ですか?!」

 

「これ、離してほしいの?」「え、えーと…」

 

「引きちぎるまでのカウントダウン…5…」

 

「うわああああーっ!!おねがいですはなしてあげてください!!

やめてくださいしんでしまいます!!」

 

「チッ…なら離してやるの。」

 

 意外や意外、すんなり解放するなのはであった。必死の訴えが通じたのか?

 

「でも、そのかわり…おら!!」

 

 ヤマトは隊員を持ち直すと、掛け声一下同時に放り投げた。

 

 ドンガラガッシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!

 

「「「「おぶはっ!!!」」」」

 

 当然、残りの隊員に直撃。4人仲良く地面に転がされた。

 

「い、痛たたた…。」「何なんだよ、この暴力女は…。」

 

「何でこうなるのよ…」「もうっ、とんだとばっちりね~。」

 

 などと愚痴っていると…

 

 ガシャン!!

 

「「「「ヒイイイッ!!」」」」

 

 震脚の轟音につい其方を向く隊員達。その前には…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ…怒らないからO☆HA☆NA☆SHIをするの!!!!」

 

 明王の如く構えを取り、憤怒の形相で己を睨みつける魔王がいた。

 

「「「「嘘つけェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」」」」

 

 

 

 

 

 そして…

 

「で、山田先生、この警視庁出オチ隊は何なの?」

 

 未だに怒りが冷め遣らないなのはは苛立たしげに真耶に問いかけた。

その眼前にはIS隊員達が仲良く正座させられている。

 

「誰が出オチ隊だ!僕等は警視庁の…」

 

「聞・い・て・な・い。」

 

「はい…(シュン」

 

「えーと、この人達は警視庁IS小隊で、

右から小隊長で私の同期、飯田先輩と並ぶ日本国代表操縦者の秋月律子警部補、

織斑先生の同級生の三浦あずさ巡査部長、

そして私の2期後輩の菊池真巡査と如月千早巡査です。」

 

「そうなの?で、目的は?」

 

「どうもこうも無いわよ!私達は『学園にISで武装した暴徒が押し入った』

って通報を受けて、慌てて桜田門から飛んで来たんですよ?!!」

 

「それは知ってるの!!通報したのはこの私なの!!

その暴徒はちょっと前に〆た所なの!!早速拘束するの!!」

 

 なのはの指差した方向には地面にめり込んだ倉林以下回し者達がいた。

 

「ムキーッ、出せーっ、出さんかーっ!!」

 

「はぁ…どうも、って、あれは代表監督じゃないですか?!」

 

「そうなの!!あれが暴徒なの!!」

 

「嘘おっしゃい!!どう考えても暴徒は貴女の事でしょう!」

 

「(ムカッ!)その根拠は?!」

 

「根拠って…たった今警察官である私達に暴力をふるったじゃないですか!

これは現行犯です!」

 

「そうです!!ISを用いての乱暴狼藉、この警視庁IS小隊がゆるさ…」

 

 千早がそこまで言いかけた所で…

 

「じ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ。」

 

 待機状態のヤマトが急接近し、ドアップでガンを飛ばす。

 

「ひいいっ、近い近い近い!

な、何ですかこのぬいぐるみ?何で私を凝視してるんですか?」

 

「……………………………………………………………………………つるぺた。」

 

「「「!!!」」」「ひ、酷い!!って、えっ…?」

 

 喋るISなど見た事もないIS隊員。ヤマトの一言に顔を見合わせ…

 

「「「「ギャーッ!喋ったァァァァァ!!!」」」」

 

「え?え、え?何これ?!何でISが喋るんですか?!喋るナンデ?!」

 

「最近のISって、ここまで進歩してるんですね…ああ驚いた~。」

 

「山田先輩、何なんですかこのぬいぐるみ?!」

 

「ぬいぐるみじゃないんですよ、それ…。この人の専用機で、名前はヤマト。

篠ノ之博士直々の作で、世界初の会話できるISなんです。」

 

「や、ヤマト…?じゃ、じゃあ…。」

 

「ま、まさか…」

 

「こ、この人って…暴走…」

 

 一斉に青ざめるIS隊員。

どうやら、ヤマトの名を聞いた事でなのはの正体に気が付いてしまったらしい。

なのはもここでネタばらし。

 

「そうなの!!私が暴走核弾頭、高町なのはなの!!!」

 

「「「「…………………!!」」」」

 

 とうとう声が出なくなった隊員達。一呼吸置いて…

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「うわああああああ、暴走核弾頭だーっ!!」」」」

 

 IS隊員は一斉に逃げ出した。そして、アームですぐに引き戻された。

 

「知らなかったの?私からは逃げられないの。」

 

「「「「いーーーーーーーーーーーーやーーーーーーーーーーー!!!」」」」

 

 そして、隊員を落ち着かせてO☆HA☆NA☆SHIの続きに入る。

どうやって落ち着かせたかは…記さなくてもいいよね?

 

「警視庁に私の名が知られているのは意外だったの!!誰から聞いたの?!!」

 

「同級生のさくらを痛めつけた張本人の事くらい、知らない訳ないでしょう!!

私達警察関係者にとって、貴女は篠ノ之博士と双璧を成す

世界最重要危険人物なんですよ!!!」

 

「そうなの?でも何で?」

 

「何でって…不問に処されたとはいえ

フランスの3都市同時爆破テロ事件と、

ベルリン官公庁同時多発爆破事件の実行犯であり、

ICPO-ICDのIS飛行隊員の前で

ドイツ代表への暴行とセクハラ行為をやらかし、両者に喧嘩を売って

7人全員に全治1か月以上の重傷を負わせてるんですよ?!

死人が出なかったからよかった物の、

貴女のやった事は、国辱級の大悪行なんですよ!」

 

「………………………………………………………………………。(ムカムカ)」

 

「そして、今度は学園内で代表監督及び代表操縦者飯田少佐、

揚句に綿貫支局長への暴行と

防衛軍保有のISへの破壊行為、もう言い逃れは…」

 

 ボゴォ!!

 

「ヒィ?!!」

 

 なのはは足下をアームの鉄拳で殴りつけ、強引に律子を黙らせた。

 

「大人しく桜田門に籠っていれば痛い目に遭わずに済んだ物を…

さすが警視庁と褒めてやりたい所なの。致し方なし、纏めて相手してやるの。」

 

「やまと、ようしゃしねーのっ!」

 

 なのははヤマトを展開、展開速度は0.2秒に満たない。

 

「さあもう一遍かかって来るがいいの、こいつらと同じ様に〆てやるのっ!!」

 

「ちょっと待てーーーー!

怒らないから全てを話せって言ったのはそっちでしょう?!」

 

「そうだそうだー!!自分で通報しといてそんな馬鹿な話があるかー!!

納得いく説明をしろー!!」

 

「O☆HA☆NA☆SHIをするとは言ったの!!

でも逮捕して良いなんて誰が言った?!!」

 

「いやいやいや!ちゃんと話聞いてたの?!

逮捕のたの字も出てこなかったでしょう?!」

 

「聞いてたの!!

どう考えても〆は『○○の現行犯で逮捕する』とかそんなオチでしょう?!!」

 

「そ、そんな事は…(うわ、バレてる。)」

 

「なななな何の事でしょう?」

(こ、これ以上怒らせたら何をされるか解った物じゃない!)

 

「そうだよ!僕等は録画した映像を証拠に

現行犯逮捕しようとかそんな事はこれっぽっちも…」

 

「「「あっ。」」」

 

「ほうほう、それが本音なの?」

 

「真!何で相手を怒らせる事を言うのよ?!」

 

「いくら事実でも、言って良いタイミングを考えて!!」

 

「空気読みなさいよ、もう…」「えええっ、僕の所為?!」

 

 この期に及んで仲間割れである。だが、そんな暇があると思っていたのか?

 

 ガシッ!!

 

「「「「ギャーッ!何か鎖が出たぁ!!」」」」

 

 隊員達はロケットアンカーのチェーンで縛り上げられた。

 

「…ヤマト、この出オチ隊を一発ずつシバいて。」

 

「ちょっ、よせ!やめろー!!」

 

「こっちは生身なのよ!!」

 

「ISでぶたれたら、死んじゃいます!!」

 

「我がISは活殺自在。張り手はおろか、

主砲の直撃で生身の人間を『殺さない事』すら造作もないの!(キリッ」

 

「そんな訳あるかー!

かっこよく決めセリフで決めたつもりでも、全然信用できないわよ!」

 

「張り手もう1発追加ね。」「「「「ナンデ?!!」」」」

 

「さあ出オチ隊、少し…頭シバこうか。」

 

「「「「やめてぇー!!!」」」」

 

「とりあえずぶっとばす、つづきはそれからきいてやるの。」

 

「「「「うわああああああああああああああああああああああああ!!」」」」

 

 追加アームの張り手が放たれた。

直撃すれば、間違いなく学園の外まで吹っ飛ぶ一撃だ。

隊員達は恐怖に縮こまる。だが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガッ!!

 

「はい、ストーップ!」

 

「あ、あら?」

 

 シバかれなかった。

ヤマトの追加アームが途中で突然止まったのだ。何が起きたのか?

 

「ね、姉さん?!」「篠ノ之博士?!」

 

 アームの前にいたのは束。

何と束は片手でヤマトの追加アームを止めて見せたのだ。

 

「むむ、束さん……。」

 

「なーちゃん落ち着いて!!折角呼んだのにもう退場じゃ可哀想だよ!!

せめてあそこの汚物を回収して貰わなくちゃ!!」

 

「ああ、そうだった!!血が上って忘れてたの!!」

 

「え?!『たばね』って…」「まさか…篠ノ之博士?!」

 

「間違いないわ、彼女は篠ノ之束よ!!…ねえ、貴女束なんでしょう?!!」

 

 あずさは千冬の同級生である。それは、即ち束の同級生でもある。

当然、あずさは束の顔を知っている。だが…

 

「ああ?誰だよ君は。

この束さんの知り合いにちーちゃんよりおっぱいのデカい女は

爆乳大明神と箒ちゃんの2人しかいないんだよ。

どういう了見でしゃしゃり出てきてるのかなぁ?って言うか誰だよ君は?」

 

「…そうだった、束は千冬以外には興味すらなかったんだった…。」

 

 案の定、取りつく島もなかった。

 

「まあ、文句を言っても始まらないか。

そういう訳で、ここから先はこの束さんが説明してあげるよ誰かさん共、

在り難く聞いてね。」

 

「「「「は、はぁ…」」」」




と言うわけで、闖入者の正体はアイマス勢の皆さんでした。
雪歩、やよい、伊織、美希、そして双海姉妹の出番は、当分先になるでしょう。
なおアイマス勢の年齢ですが、
無印当時の歳に4を足したという扱いで話を進めます。

単なる顔合わせで、丸々一話が出来てしまいました、
もっと早く話を進めたいのに…このオリジナル展開に決着がつくまで、
この話を含めてあと2、3話はかかるでしょう。
それが終わって、ようやく夏休み編に突入です。
来月27日の特別企画、予定通りにできるかな?


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第39話  天罰覿面

非道なる近接戦至上主義者、倉林美也子率いる回し者を
ヤマトの二次移行「まほろば」で叩きのめしたなのは。
トドメの一撃を放とうとしたその時、警視庁のIS小隊が到着。
横槍を入れられたなのははひとしきりIS小隊を〆ると
O☆HA☆NA☆SHIに持ち込み、
事の顛末を束の口から彼女達に説明して貰うのであった。


「以上が事の顛末だよ。それで?これからどうする?」

 

「……………………。」

 

「全く、『自分が苦労したからお前らも苦労しろ』なんて馬鹿のする事だよ。

そうしない奴は自分どころか先人の苦労を踏み躙る人間の屑と決め付けるとか!

ホント馬鹿だよねぇ!!(笑」

 

「……………………篠ノ之博士……。」

 

 律子が束の名を呟く。その声にはあからさまに怒りが滲んでいた。

 

「んん?どうかしたのエビフライ?」

 

「貴女…本気でそう思ってるんですか?」

 

 その手は怒りで小刻みに震えていた。

 

「あったり前じゃん!だから、ここで明言したんだよ。」

 

「いい加減にして下さいっっ!!!」

 

 突然怒りを露わにする律子。

 

「あ~ん?どうしたの、急にキレて?なんかおかしなこと言った?」

 

「篠ノ之博士、いくらISの母と称される貴女でも、

言って良い事と悪い事が有ります!!」

 

「はぁ?何が?」

 

「真宮寺大佐は貴女のお父さんの同級生にして、

最大のライバルだったじゃないですか!!

貴女だって、面識が有る筈です!!!何でそんな人の努力を、

それももう亡くなった人の努力を平気で中傷出来るんですか?!!」

 

 律子の言う通り、真宮寺一馬にはライバルがいた。

その名は篠ノ之柳韻(りゅういん)。束と箒の父である。

彼と一馬は中高の同級生で同じ剣道部に属し、

一馬が防衛大、柳韻が実家の継承と言う形で

別の道を歩んで以降も剣道全国大会で競い合う事は数知れず。

互いに勝ったり負けたりを繰り返し、遂に雌雄がつくことはなかった。

 

「私は真耶と同じ理由で軍を追われ、色々な伝手で警視庁に入り、

辛うじて代表の座にしがみついている身です。

ですから、倉林監督のやり方は明らかにおかしい、非常識だと思っています。

ですが、大佐の命を賭した努力と苦労は本物です!!

現に初代ブリュンヒルデ、織斑千冬という結果が出ているじゃないですか!!

これだけの功績ある人が、そこまでの誹謗中傷を受ける謂れはありません!!」

 

 確かにその主張は正しかった。

一馬の努力の否定は、それ即ち千冬の功績を否定する事だ。

だが、律子は二つ大きな見落としをしていた。

 

 一つは、束こそISを創造した当人であり、

ISに関して彼女以上の権威は存在しないと言う事。

もう一つは、束は身内でない人間に対しては

どこまでも無慈悲に振る舞える女だと言う事を。

 

「だから何?!!この束さんが何でISを作ったのかを忘れて、

ISを剣道の補助ツールみたいに扱う馬鹿共の苦労と犠牲?

そんな物、有り難くも何ともないよ!ましてや全員に強制なんて…

 

ば~~~~~~~~~~~~~~~~~っかじゃないの?!

 

そんなのやりたい連中だけがやればいいんだよ!!

『我々がやっているからお前等もやれ』

なんてふざけた同調圧力は真っ平御免だよ!!

 

IS関連の権威なら、この束さんがこの世で一番上なんだよ!

この束さんを世界ぐるみでISの母、ISの本家本元って持て囃してるなら、

それらしくきっちり断言してやるよ。

その父さんの同級生は、ISを汚した屑の中の屑だよ!!」

 

 いつもの無邪気な姿からは想像もつかない剣幕で怒鳴り散らす束。

当然だろう、宇宙開発ツールとして生み出した筈の自分の発明品を

そんな風に扱っていた奴の扱いなど、束にとってはこれで十分なのだ。

 

「な、何て事を…」「ちょっ、姉さん?!!」

 

 流石にこの言葉には真耶と箒も絶句した。

 

「チェッ、見損なったよ!!何がISの母だよ、

これならやっぱり、国際手配されて当然の人でなしじゃないか?!」

 

「それは尤もな事だよ。でもISに乗ってる限り、説得力は微塵も無いよね?」

 

「…………っ!!」

 

「ちょ、ちょっと!…そこの貴女!」

 

「ええ、私ですか?」

 

 このままでは収拾が付かないので、千早が箒に説得して貰うべく声を掛けた。

 

「貴女は篠ノ之博士の妹さんでしょう?このままじゃ収拾がつかないから、

貴女からもお姉さんに何とか言ってやって下さい!!」

 

だが、箒はにべもなく撥ね付けた。

 

「そんなの出来る訳が有りません!!例え姉さんを説得できても、

暴走核弾頭…なのはさんが絶対に聞く耳を持ちません。

そうでなかったら、一馬さんの遺影を破って踏み躙ったりはしません!!

仮にこの場に千冬さんがやってきて説得しても、まず聞く耳を持ちません!!

逆になのはさんは攻撃して来る筈です…そういう人なんです、あの人は!!」

 

「くっ…」

 

「ハァ…所でエビフライ、まさかとは思うけど、君、

ISを正義の力だとか人を守るものだと信じているのかな?」

 

「それが…真宮寺大佐の教えですから…『力ある物は私欲を捨てよ』。

あの人の口癖は、貴女も…もう忘れてるんでしょうね、どうせ。」

 

 その言葉に、今度はなのはが答えた。

 

「そう、貴女がそう思うのならそうなんだと思うよ、貴女の心の中ではね…

但し、私はそれに賛同しないの!!」

 

「なっ…!」

 

「正義は武器を取りはしないし、人を強くもしないの!!

ただ人に担がれる事しかできない神輿でしかないの!!

武器を取るのはあくまで人間なの!!人間の力量こそが雌雄を決するの!!

担ぐ人が力量不足ならその重みに足を取られ、却って人を弱らせるの!!

故に私は、正義よりも日頃からの鍛錬で培った己の力を信用するの!!!」

 

「「「「!!!」」」」

 

 それがなのはの本心だった。なのはにはそう言わしめる過去があった。

なのはが魔導師となった元凶プレシア・テスタロッサを狂気に貶めた黒幕、

伝説のマッドサイエンティスト、ジェイル・スカリエッティ。

彼は5年前に超大規模テロ、JS事件を起こして捕えられ収監されたが、

何を隠そう彼のスポンサーは管理局の最高機関「最高評議会」であった。

その真実がなのはの内面を大きく変えてしまっていた。

 

 と言うのも、それまで彼女にとって管理局とは自分が得た力を

何処よりも活かせる一番の居場所であった。

彼女自身、法の番人としてこの危険な力を社会に有効活用できる

管理局員としての生き方に、何一つ疑問を抱いてはいなかった。

 

「社会の正しい姿とは、目に見える健全さと、目に見える不健全さが

ちゃんとここにあることだ。不健全さのない社会は、健全さも目立たない。」

 

 名も知らぬ父の知人がかつて語った言葉の通り、

自分達管理局員と、魔導を悪用する犯罪者。

はっきり区別された正と邪が目に見える形で存在していた社会が、

当時のなのはにとって世界の全てだった。

 

 だからこそこの事実を知った時なのはは戦慄した。

もしそれが本当ならば、自分は一体どうあるべきなのか?

あの事件の後、解決に功があったと言う事で昇進の話もあったが、

なのははあくまで最前線に在りたいという理由で断った。

 

 だが、真相は違う。当時のなのはは己の在り方に苦悩し、

とても昇進を受け入れる気になれなかったのだ。

だが、あれから5年。苦心の末答えを見出したなのはに迷いは無い。

 

「それは…この世の正義もルールも信じず、

自分の好き嫌いを優先すると言う事?!」

 

「大体そう言う事なの!!」

 

「な、何て無道な…」「やっぱり、貴女こそ真っ先に捕えるべきだわ!!」

 

「何が暴走核弾頭だよ!!僕等の日本には、核弾頭なんかいらないんだ!!」

 

「ならば決着をつけてやるの!!警視庁出オチ隊!!」

 

 またもや一触即発の状態に。

この場の誰も妥協しないのなら、こうなるのは必然だった。

だが、傍から見ればたまったものではない。

 

「やっぱり、こうなるのか…」

 

「ひーん、もう勘弁して下さいー!!と言うか、4人共早く逃げてー!!!」

 

 慌てて逃げ出す箒と真耶。だが、そこに新たな声が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『手前ぇ等、いい加減にしねえか!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「な!?」」」「だ、誰?!」

 

 突如学園に響く一喝。現れたホログラムモニターの向こうでは、

苛ついた様子の眼鏡の老人がこちらを睨んでいた。

 

「あ、貴方は…」

 

「すいません、どちら様でしょう?」

 

 またしても横槍を入れられた事に、

イライラが高まるなのはは吐き捨てるように問うた。

 

『ああ?俺が誰だか知らねぇのか?日本国防衛大臣の米田、米田一基(ヨネダイッキ)だ!

どっかの喫茶店みてぇだなとか言うなよ!コメダと書いてヨネダだからな!!』

 

「!!」

 

 なんと、現職の防衛大臣が自ら通信に出向いてきたというのだ。

 

「そうですか、防衛大臣ですか。何の御用件でしょう?

ひょっとして仲裁ですか?仲裁なんですか?」

 

『その前に聞きてえ事が有る!(なのはを指して)そこのお前ぇさん…

暴走核弾頭、高町なのはとはお前ぇさんの事で良いんだな?!』

 

「そうなの!!私はこれからこの出オチ隊を〆るんで、後にするの!!」

 

『待て!その前に2分だけでも良いから俺の話を聞け!!!!』

 

「…と言うと?」

 

『何、簡単な事だ。日本政府の意向により、高町なのはに対し…』

 

『日本国の国家代表操縦者の座、くれてやる!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「な、ナンダッテーーーーーーーーーーーーーーーーー?!」」」」」

 

 まさかの決定である。一体日本政府に何があったのか?

 

「…あー、米田防衛相でしたっけ?

それは一体どういう意味なの?唐突過ぎて理解し難いの!!」

 

 流石のなのはもいきなりそのような事を言われ、返答に困ってしまった。

 

『ああ?言葉の通りだ!お前ぇをそこの行き遅れの飯田奈緒に替わる

日本国の代表操縦者に任命する。それだけだ!!』

 

 と、ここで我に返った奈緒が米田を問い詰めた。

 

「ぼ、防衛相?!いきなり何を言い出すのですか!!こいつは…」

 

『ダマラッシェー!!』

 

 いきなりニンジャスラングで奈緒を怒鳴りつける米田防衛相。コワイ!

 

「!」

 

『手前ぇという奴は、千冬の跡目を継がなきゃいけねぇ奴が

仮にも学生に一撃も返せずに負けといてその役目を果たせるかーっ!!

どう考えても実力的にコイツの方が国家代表に相応しいだろうが!!』

 

「んなっ…!」

 

『倉林、手前ぇも手前ぇだぁ!!先人の労苦だのと言い掛かりを付けて、

そこの、ええと…誰だっけ?ああ、山田真耶と言い、そこにいる律子といい、

ロシアに逃げ出した更識の嬢ちゃんと言い、

一体ぇどれだけの腕っこきを首にしやがった?!

俺がこいつらの再就職を斡旋するのにどれだけ苦労したと思ってるんだ?!!

 

もう沢山だ!!2人掛かりで学生1人にぶちのめされて

篠ノ之束に睨まれる様な奴にこの国のISを任せられるか!!

手前ぇなんか防衛相権限で軍のIS教官から解任してやる!!

ついでに今回の件は山口総理経由でIICの花小路理事長に報告するからな!!

このエセ日本人共が!!手前ぇ等全員、日本から消えちまえーっ!!』

 

「ぷ、プピィイイイイーッ!!」

 

 米田の剣幕に、流石の倉林も悲鳴を上げてへたり込むしかできなかった。

と、ここで律子が米田の一方的な通告に噛みつく。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい防衛相!!彼女達が処分されるのは良いとして、

どうして暴走核弾頭が後釜なんですか?!

防衛相は自衛官時代、真宮寺大佐の上官だったのでしょう?!

その防衛相が、大佐の功績が踏み躙られるのを良しとするんですか?!!」

 

 当然の主張だろう。この決定が通れば一馬の労苦と犠牲が台無しだ。

だが、米田の反応は…

 

『俺だって納得はしてねえよ!!一馬との昔のよしみだ、

他の誰かが同じ事を言いやがったら、この馬鹿共の側に立っていた!!

だが、だがな!!お前ぇ等、コイツの実力と実績を否定できるのか?!!

コイツだけは、ああ言う事を堂々と宣っても許される…と言うより

許すしかないんだよ!!日本政府は、コイツがそれを罷り通せるだけの

実力と実績が有るって所を見せられちまったんだからな!!』

 

「「「「「!!!!」」」」」

 

『とにかくだ、高町なのは!そもそも日本政府としては

無資格で専用機を乗り回すお前ぇをどうにかしねえとと困ってた所だった!

 

それを踏まえてだ!

代表がこの様では最早代表候補生では役不足と言う話になった!

そういう訳で、そこの行き遅れを解任するから、

お前ぇにはその後釜に就いて貰う!!

 

ついでにそこにいる…篠ノ之…箒…ホウキで良いのか?

そいつも併せて代表候補生として指名する事が決まったから

ここで通告する!!俺が言いてぇのは以上だ!!

後日正式に文書が届くから、その積りでいろ!!』

 

 そう言うと米田は通信を切った。しかし箒はあまり嬉しくなさそうだ。

代表候補生に指名されたのは嬉しいが、それまでの経緯を考えれば当然だろう。

 

 

「ば、馬鹿な…真面に剣も振れない奴が、のうのうと代表の座に就くなんて…」

 

 代表解任を通告され、がっくりと膝を付く奈緒。

そんな奈緒に対し、律子は笑顔で容赦なく追い打ちを掛けた。

 

「まあ負けたんだから当然ですよね。貴女達の天下が終わって清々しましたよ。

大佐の件は納得できませんが『自分が苦労したから、お前等も苦労しろ』なんて

馬鹿の精神論が一掃されて、これでやっとまともな代表選びができますね!!

ま、相手が悪かったと思って、さっさと身を引いてくださいね。

いっそそこのバ監督諸共、日本からも出て行ってくれませんか?」

 

「秋月貴様!!」

 

 律子もまた、真耶同様に倉林に睨まれて軍を追われ、

米田の計らいで警視庁に就職した口である。当然、倉林やその取り巻き、

そして倉林を居座らせる綿貫支局長に対しては積もる恨みがあった。

この程度の恨み言を言った所で、誰が咎められようか?

 

「おお、怖い怖い。

どっちにしろ、『当人の合意なき干渉は禁止』が原則のIS学園に踏み込んで

箒ちゃんやいっ君達に補習を強要したんだもん、当然だよねぇ~バーカ!!!」

 

 更に束も援護射撃。完全に笑い者にしていた。だが、そんな事をすると…

 

「お、お、お、オオオオオオオオオオおおのれぇぇーーーーーーーーっ!!!」

 

 ほらやっぱり、倉林がなのはに向かって行ったのだ。その途中には束が。

 

「この犬畜生めがあああ!!貴様如きが代表など言語道断じゃああああ!!!」

 

「「!?」」

 

「姉さん、危ない!!」

 

 突然の事に慌てる一同。

 

「どけェェェェェェェェェェェェェェェ、犬餓鬼がァァァァァァァァァァ!!」

 

 倉林は束に鞭を振るう。だが…

 

 

 ボゴォ!!

 

「ぴゅぶ!!」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

 何と、何者かが倉林を峰打ちでぶん殴った、その正体は…

 

「………………………………………………………………………………………。」

 

「ち、千冬…さん?」「ちーちゃん?!」

 

 そこにいたのは、今まで沈黙を貫いていた千冬だった。



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第40話  過去からの解放

学園にやって来た警視庁IS小隊の前で、事の顛末を説明した束。
だが、自分の父柳韻(りゅういん)の同級生にして最大のライバルである真宮寺一馬を
「ISを汚した屑の中の屑」とまで断言する束の言動は
彼女達にとって受け入れ難く、またもや一触即発の事態に。

しかし、そこに日本国防衛大臣の米田一基から通信が入る。
二度も戦いを邪魔されてブチ切れ寸前のなのはに対し、
米田防衛相は倉林を防衛相権限で軍部のIS教官から解任すると宣言し、
更に「なのはを奈緒に替わる日本国代表操縦者へ指名し、
併せて箒も代表候補生指名が決まった」と通告したのだった。

納得いかない倉林は生き埋めから脱出してなのはに襲い掛かる。
だが、今まで沈黙を貫いていた千冬が突如倉林を峰打ちで殴ったのであった。


「ち、ちーちゃん…」「お、織斑先生…?」

 

「織斑、貴様!!恩師様に何をするんじゃ!!」

 

「黙れ、この下種が!!」

 

 千冬は更に峰打ちでぶん殴った。

 

「ぶぎゃ!!」

 

「黙って聞いていれば、言いたい放題言いおって…!!

貴様には失望したぞ…倉林!!!

 

「んなっ…」

 

 何と、千冬は代表監督を堂々と呼び捨てにした。

規律にうるさい今までの千冬からは考えられない行為である。

 

「千冬!!お前、監督を呼び捨てとは何事だ!!」

 

「黙れ飯田!!この行き遅れの屑の走狗が!!」

 

「な、私まで呼び捨てだと!!」

 

「今までは上下関係も有って黙っていたが、

こうなった以上、もう黙ってはいられるか!!」

 

「ムキーッ!!貴様、余りの屑さに親から捨てられた分際で、

今まで大佐に鍛えて頂いた恩を忘れたか!!」

 

「忘れた!!いや、そもそもあんな奴に恩など無い!!」

 

「な!!!」

 

 とうとう、一馬すらあんな奴呼ばわりである。

 

「私と一夏が親に捨てられた事を知った時、奴は何と言った?!

『いずれ再会できる、その時は許せ。

仮にも生を受けた相手からの恩を踏み躙るのは外道の行為』だぞ!!

誰が許すか!!私はあんな屑共なんぞ記憶から消し去りたいんだ!!

事情も知らん他人風情の善意なぞ、ゴミにも劣るわ!!」

 

 勘違いしてはいけない。

生前の一馬は断じて悪人ではない、ごく真っ当な人物だった。

間違っても、ここまでの罵倒を受ける謂れなどない善良な人間だった。

だからこそ織斑姉弟の受けた理不尽な仕打ちを理解できなかった。

 

「私がどれだけ傷ついたか等、貴様等には永久に解るまい!!

それを拒絶して真実を語ったら、

貴様に『性根の捻じ曲がった不良娘』と看做されて

叩きのめされた事は今でも覚えているわ!!

だから、今まで何も言わずに従う振りをしていたが、それをいい事に、

貴様等は私達が親に捨てられたのも、全部私達のせいだと決めつけてきたな!!

ある日突然見捨てられた事の、どこに私達の非があるんだ?!」

 

「ちーちゃん…」「千冬姉…」「………………」

 

 束達は言葉が出なかった。

まさか、あの千冬が心にそんな傷を抱えていたなんて想像もしていなかった。

 

「………………………………………………。」

 

 なのはは思った。その様な経験のない自分に

千冬の気持ちを理解し切ることは出来ない。

だが、千冬は何の非も無いのに今まで責め続けられていた。

それだけははっきりと理解できた。

 

「黙れ黙れ!!貴様が何を言った所で、

大佐に鍛えて頂いた御蔭で優勝できた事実は変わらんのじゃ!!」

 

「…否定はしない。私は剣一本でモンド・グロッソを優勝したのだからな。

だが、努力を認めるどころかまさかそれをダシにここまで増長するとはな…

頑張ればいつかは見返せる、認めて貰えると信じて黙っていたのは

全くの間違いだった様だ。」

 

 千冬は今まで口出ししなかった事を後悔する様にそう告げた。

 

「今日、束と意見の一致を見ると言う事をこれ程嬉しく思った事は無かったぞ!

奴自身に非がない事は認めるが、奴が私にした行いは人間の屑のそれだった!」

 

「貴っ様ァァァァ!!

己が育ち方を間違えておいてそれを棚に上げるんかボケェ!!」

 

「育ち方だ?そんな物この世にあるか!!」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

「育ち方などと言う言葉は自分の育て方を完全無欠絶対無謬だと思い上がった

馬鹿親、屑親共が矛盾を突かれて咄嗟に思いついた苦し紛れの妄想だ!!

この際だ、ついでに奴に精一杯の復讐をした時の事を言ってやる!!

私はあの屑が死ぬ前日に面会する機会があってだな。

その時今までの思いの丈をぶつけてやったよ。

 

『親に捨てられたのはお前が屑だからと

皆に決めつけられる環境を用意してくれて有難う。

貴様の善意など全く感謝していない。

命を懸けた努力とやらが実を結ぶところを見られないまま死んで行け!!!』

 

と、はっきり言い渡してやったよ。奴が死んだのはその次の日だったな。

まさかこんな風にしか思われていなかったと知って、さぞ絶望しただろうな!!

実に清々したよ、ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

 

 遂に笑い出す千冬。その光景に律子達警視庁のIS隊員は戦慄した。

 

「………何て事を、まさか、千冬さんが大佐をそこまで恨んでいたなんて…。」

 

「千冬ぅぅぅ!!貴様それ以上喋るな!!人間性を疑うぞ!!!」

 

「ああそうだ、飯田、お前にも失望したぞ。

最早お前を先輩として見る気が無くなる程にな。

お前も私がどんなに苦悩しているか打ち明けても、

私を『何でも人のせいにするな!』と取り会おうともしなかったな。

代表の座を賭けてお前と戦い、

正面切って叩き伏せた時は本当にいい気分だったよ。」

 

「黙れ…黙れ黙れ黙れぇっ!!!」

 

「お前らのやって来た事と言ったら何だ!出自を偽る卑怯者の肩を持ち、

私の言葉を餓鬼の戯言と取り合おうともせず、

ISを汚した屑ばかりを信用し、奴が死ねば死んだで

『先人の努力と犠牲』を題目に実力ある射撃型操縦者をIS業界から追い出し、

私の後任最有力候補の真耶を代表候補生から除名し、

その同期の秋月を軍から摘み出した!!

そして今日に至っては私怨むき出しで私のたった一人の家族である

一夏を含む生徒達から夏休みを奪おうとした!!

お前等がやってきたことは、どれもこれも全て最低の屑の所業でしかない!!」

 

「あ、あああ…」

 

 倉林は頭を抱え、その場で膝をついてガタガタと震え始める。

今まで言いなりだと思っていた千冬が正面切って逆らい、

自分を罵倒しているという現実が受け入れられ無い様だ、

そんな倉林を冷たく見下ろす千冬は、遂にダメ押しの一撃を言い放った。

 

「私は今まで貴様等を信じて、

生徒が貴様等のお眼鏡にかなう様にスパルタでやって来た。

『全て私のやった通りにしろ!!

ミス無く動く奴を育てろ!!出来なければお前はアホ!!』

と高圧的に言われたが、黙ってその通りにやって来た!!

時には貴様が私にした様に、出席簿でシバいたりもしてきた!!

だがもう沢山だ!!貴様の言われた通りにやって

暴力教師に墜ちるのは真っ平御免だ!!私は今、この瞬間から貴様に逆らう!!

二度と言う事は聞かん!!自由にやらせて貰う!!」

 

「あああああああああああああ…」

 

「貴様等などもう上下関係も何も無い赤の他人、嫌、明白な敵だ!!

消え失せろ!二度と私達の前にその面を見せるな!この…虫けらが!!」

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」

 

 倉林は学園中に響き渡る声で絶叫した。だが、千冬は更に言葉を続ける。

 

「こんな風にしか思われていなかったと思っても見なかったか?

精々絶望するがいい!!」

 

 千冬に続き、一夏や篠ノ之姉妹、果てはセシリアになのはも責め立てた。

 

「まさか千冬姉が必要以上のスパルタの理由が

手前等の仕打ちのせいだとは思わなかったぜ、

まあ、積もる話は精々警察でしろよ、ブスババァ!!」

 

「本当に救えない奴等共め!

反面教師という言葉は、まさに貴様等の為にある言葉だ!!」

 

「二度と学園に来ないで下さいまし、この人でなし!!

今度来たら実弾射撃の的にしてさしあげますわ!!!」

 

「母国ごと焼き払われないだけ有り難く思うの!!

このゴキブリ共め!!」

 

「ダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレエエエエェェェェェェ!!!」

 

「いやー、この束さんが言いたい事をちーちゃんが見事に言ってくれたね。

あーすっきりした。それじゃエビフライ、後はよろしくねー。」

 

「誰がエビフライですか!まあ何にせよ、連行はしますけどね。」

 

 そんな倉林達を尻目に、一夏達は学園の方へと歩き始める。

 

「さて、これで馬鹿共の相手は終わった。じゃあ、改めて夏休みに入ろうぜ!」

 

「ああ、そうだな!」

 

「はぁ、馬鹿の相手も楽じゃないの。さて、夏休みのプランを考えないと…」

 

「…けるな」

 

「ん?」

 

 なのはが微かに聞こえた倉林の声に反応し、後ろを振り向く。

 

「フザけるナ…フザけるナ…フザけるナ!!!

オンシラズ…オヤフコウ…私利私欲の狗が…八徳を叩き込んでくれるわああ!!!」

 

 なのはが見たのは、倉林が完全にキレて、千冬に向かっていく姿だった。

 

「この糞餓鬼がああああああああああああああああああああああああああ!!!

二度と逆らう気も起きん様に叩きのめしてくれるわあああああああああ!!!」

 

仁!!!義!!!礼!!!智!!!忠!!!信!!!孝!!!悌!!!  

 

仁!!!義!!!礼!!!智!!!忠!!!信!!!孝!!!悌!!!  

 

仁!!!義!!!礼!!!智!!!忠!!!信!!!孝!!!悌!!!  

 

仁!!!義!!!礼!!!智!!!忠!!!信!!!孝!!!悌!!!  

 

 八徳を叫びながら千冬に向かっていく倉林。箒はその技を知っていた。

 

「あれは父さんの得意技、篠ノ之流奥義『八徳刃』!!

あの女、篠ノ之流で千冬さんを…」

 

 まずい、今の千冬はISを持っていない。このままでは命に係わる。

 

「千冬姉ーっ、逃げろおおおおおおおおおーッ!!!」

 

 一夏の声が響き渡る、しかし千冬は動こうとしない。果たして千冬の運命は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナーアアアアアアアアアアッ!!」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

「それだけか?」

 

 何と、突如合金鞭がバラバラになってしまった。

千冬が手にした日本刀で鞭を切り裂いてしまったのだ。

 

「馬鹿な奴…貴様の前にいるのは初代ブリュンヒルデだぞ?

ISを降りはしたが、鍛錬を怠った日は一度もない!!

今の私の前では貴様など路傍の石にも劣るわ!!」

 

 まさか生身でISに勝つとは、これにはなのはも苦笑い。

 

「ア、ア、ア…アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

「なーちゃん、今だよ、やっちゃって!」

 

「勿論!!」

 

 ゴスッ!!

 

「ふおぉぉっ?!」

 

 倉林はヤマトのラリアットで本土のとある山の岩盤に叩きつけられた。

衝突の衝撃で、岩盤には真円のクレーターが。

 

「もう、終わり?」

 

 倉林にアイアンクローを掛けたまま岩盤に押し付けるなのは。

 

「ぷ、プピィィィィィィィィィ…」

 

 動けない倉林、なのはが手を放すと墜落して行った。

それを見たなのははこう一言。

 

「終わったな…所詮、屑は屑なの。」

 

 

 そして…

 

「それじゃあ、この馬鹿達は連れて行きます。」

 

「ほら、さっさと歩け!!」「お、覚えてろよ~~!!」

 

 こうして回し者一味は律子たちにしょっ引かれ、学園から去って行った。

 

「はぁ~。今度こそ終わったね~ちーちゃん。…ちーちゃん?」

 

 束の声に全く反応しない千冬、直後…

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 突然泣き崩れる千冬。緊張の糸が切れてしまった様だ。

 

「ち、千冬姉?!!」

 

「いちかぁぁぁぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 泣きながら一夏に抱き着く千冬。

 

「どうしたんだよ千冬姉!!急に泣き出して…!!」

 

「今まで無意味に厳しくしてごめんなさい!

事あるごとに出席簿でシバく暴力教師になってごめんなさい!

姉弟なのに織斑と呼んでしまう他人行儀な姉でごめんなさい…!!」

 

 突然謝り出す千冬。今まで怖くて逆らえなかった倉林一味が一掃され、

漸く辛い過去から解放された事で、本心を明かす事が出来たのだ。

 

「そっか…なあ、千冬姉。」「一夏…?」

 

「千冬姉は、何か勘違いしてないか?」「…ふぇ?」

 

「千冬姉は、今まで俺達に謝る必要のある事なんか何一つしてないよ!

寧ろ、俺こそ今まで千冬姉に心配かけっ放しだったし。

でも、俺はもう大丈夫だ。

だからさ、これからは、ありのままの千冬姉でいればいいんだぜ!」

 

「一夏…一夏ぁ~っ!」

 

「良かったねちーちゃん!もうちーちゃんは、

あんな馬鹿共の言う事を聞かなくても良いんだよ!!」

 

「そうですよ!!これで、いつもの織斑先生らしく振る舞えるんです!!

前を向いて、歩いていきましょう!!」

 

「束…真耶…」

 

「千冬さん、今は休みましょう!!

2学期から、新しく生まれ変わった千冬さんを皆に見せてあげられる様に!!」

 

「その通りなの!!これはめでたい事なの!!」

 

「箒、高町…なのは…」

 

「ああ、千冬先生!今私を下の名で呼んだ?呼んだよね?」

 

「う、うるさい!呼んで悪いか?!」

 

「まさか!いつもそうしてほしい位なの!!」

 

 かくして、夏休み初日の騒動はようやく終結したのであった。




今回の回し者一味、困った事にまた出番が回ってきます。
勿論、なのはさんがじっくり血祭り…ではなく頭を冷やして下さるでしょう。

次回からやっと夏休み編。
なのはが海外へ挨拶回りに出かけます。乞う御期待!

追伸

重要な発表が有ります。詳細は活動報告にて。


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第41話  なのは、花の都に立つ

さて、今回は回し者一味のその後の顛末を記し、
それからお待ちかね、なのはの挨拶回りを始めます。


 近接戦至上主義者達を叩き伏せ、力づくで夏休みを奪い返したなのは。

その規格外の実力と今までの所業に恐れをなした日本政府は

近接戦至上主義者の首魁だった代表監督倉林美也子と

現代表操縦者の1人飯田奈緒を解任し、

なのはを後任の日本国代表操縦者として指名したのであった。

 

 そして、この後の経過を記すとこの様になる。

 

 米田防衛相から報告を受けた日本国首相、山口和豊(ヤマグチカズトヨ)

防衛軍最高司令官の権限で倉林美也子の軍部IS教官解任を承認。

『アラスカ条約制定最大の功労者』と称される国際IS委員会(IIC)のボス、

花小路頼恒(ハナコウジヨリツネ)理事長にもこの決定を報告した。

 

 律子達にしょっ引かれた近接戦至上主義者の回し者一派だが、

取り調べの結果、一派のドンの綿貫支局長と倉林に関し

とんでもない事実が発覚した。それと言うのも何とこの2人、

束の言う通り本当は日本人ではなかったのだ。

 

 この不届き者は本当の母国にあたるさる国から

「日本の操縦者とIIC日本支部を近接戦至上主義に染め、

わざと偏った訓練を施して遠距離武装にも正面突撃しかできない

弱い操縦者しか育たない環境にしろ」と命じられていたのだ。

 

 彼等はその命令通り防衛軍上層部に防衛軍一の剣士として高名だった

真宮寺一馬をISでの剣技確立の為のデータ構築に協力して貰う様に提言し、

彼が体を壊して死亡した事も近接戦至上主義への抗議に対し

「先人の犠牲を踏みにじる悪党」として糾弾する為の口実に利用していたのだ。

 

 この事実を知った山口首相と米田防衛相は大激怒。この2人は元自衛官で、

定年後に国会議員を経て今の地位に就いた身である為、

かつての職場(の後身)と元部下の一馬を汚された怒りは凄まじく、

綿貫と倉林は余罪を洗い出されて裁判に掛けられた。

最終的な判決は翌年にずれ込むだろう。

 

 また、IIC日本支局にも花小路理事長のOKの下公安警察を送り込み、

綿貫達のシンパを片っ端からしょっ引くや、

これら回し者連中の親玉である某国に対し問答無用の国交断絶を通告。

IICもこれらの行為は不正と断じ、某国に対し

来年度以降3年間の予算支給停止処分を下したのであった。

 

 勿論、山田真耶を初め倉林の被害者達へのあらゆる処分は撤回され、

希望者は元の地位に復する事となり、真耶は晴れて代表候補生に再任。

軍を追われた律子も免職前の最終階級である防衛空軍少佐として軍に復帰し、

防衛軍のIS第2中隊長 兼 代表監督代行に任じられた。

 

 尚、律子が抜けた警視庁のIS小隊だが、

律子の後任の小隊長はあずさが警部補に昇進して就任。

減った人数も、新しく操縦者を雇う算段が付いているという。

 

 そして、倉林に従っていた奈緒達軍の操縦者はどうなったかと言うと、

実はそこまで厳罰を受けなかった。それと言うのも、

軍部のIS操縦者は訓練に際し、代表監督の管理に従う義務がある

と規定されているし、IS学園に踏み込んだのも建前では

「倉林の命令に従って生徒に稽古をつける為」で、

命令通りに動いていただけなのだから、その分を酌量する必要が有ったのだ。

 

 勿論、そう規定したのは他ならぬ防衛省である。

第一首にしたが最後、今回の決定を逆恨みして他国に逃げ、

軍部の機密をばらす恐れがあり、

そうなった際、穴を埋める為の操縦者の目途が立っていない。

 

 結局防衛省は悩んだ末、全員の今年一杯の停職と、

来年度丸1年間代表監督代行である律子の下で

近接戦至上主義からの脱却の為の再訓練を行う事を決定した。

また、奈緒のみこれに加えて国家代表操縦者解任が正式に決定した。

 

 しかし、これ以上の処罰は無く、彼女は今後も

防衛空軍の軍籍と少佐の階級を維持し、専用機「撫子虎」を以て

防衛軍IS第1中隊の隊長職を続ける事となる。

 

 かくて当座の処置は終了した。だが、この結果一馬を良く知る者達、

特に実子のさくらが所属するICPO-ICD一同は

一馬の犠牲と苦労を踏み躙るに等しい今回の決定が下った事で、

なのはと束、そしてこの二人の肩を持つ行為を働いた

山口内閣に不信感を抱く事に成る…。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、なのはに話を戻そう。

 

「ここがパリ!思えばパリは初めてなの!!」

 

 代表操縦者就任が正式に決まった翌日、

なのはとヤマトはフランスはパリ、シャルル・ド・ゴール空港にいた。

 

「まさかコンコルドがリメイクされたとは驚いたの!!

良い時代になった物なの!!」

 

 かつて一世を風靡した超音速旅客機コンコルド。

色々あって2003年に引退したが、ISの台頭により技術が進歩し、

この度40年の時を越えて次世代版コンコルドが就役。

旧版の欠点を改善し、充分実用に耐える航続距離と輸送量を実現しながら、

最高速度マッハ2.5+まで向上したその性能は、

まさに「20世紀半ばに想像された21世紀の旅客機」その物だった。

どれくらい早いかと言うと、直線距離で1万km弱離れた東京-パリ間を

僅か4時間足らずで結ぶ程だ。

 

「でも、ヤマトなら1秒かからないんだけどね…」

 

 確かにヤマトワープなら1秒足らずでパリ所かリオにだって行ける。

しかし代表操縦者として赴く手前、その様な密入国は出来ない。

 

「さて、この辺りでシャルが待っているはずなんだけど…」

 

 と、ここでシャルの声が。

 

「おーい、なのはさーん!!!」

 

「やあ、待たせたの!!」

 

 出迎えに来ていたシャルの装いはIS学園男子の夏服であった。

何故ならシャルは未だに表向き

「欧州初の男性IS操縦者」という扱いになっているからだ。

その為フランスに帰ったシャルは、人前では男装をする必要があるのだ。

 

「聞きましたよ、日本代表就任、おめでとうございます!!

と言うか、日本の代表監督って…とんでもない人だったんですね…。」

 

「まあね。きっちり〆たからまず大丈夫なの。今頃は留置場の中なの!!

それにしてもまさか代表操縦者の座が貰えるとは思っても見なかったの!!」

 

「はははは…(苦笑」

 

 なのはがフランスにやって来た理由。

それは翌日にデュノア社のパリ支社試験場で行われる

束謹製のデュノア社向け第3世代機「タイフーン」の

デモンストレーションに立ち会う為だ。

そして、その際タイフーンを操縦するのは

他ならぬデュノア社CEOロベルトの「御曹司」シャルその人である。

そんな訳で、なのはは挨拶回りの1番手にフランスを選ぶ事となった。

 

「さて…明日のデュノア社でのデモンストレーションに備えて、

まずはパリ観光なの!!!」

 

「それなら、案内は任せて下さい!!」

 

「大丈夫なの?シャルって確かリヨン生まれだよね?」

 

「大丈夫!僕は父に拾われて以来パリ支社にいたから、

パリの名所はある程度解るんです!」

 

「なら良いの!!早速お願いするの!!」

 

「それじゃ、まずはパリの象徴、エッフェル塔に行きましょう!!」

 

 こうして、なのはとシャルは空港を後にした。

 

「…………?」

 

 ふと、なのはは視線を感じて振り返る。

 

「どうかしましたか?」

 

「うーん…背後から視線を感じたの!でももういないの!」

 

「ええ?全く気づきませんでした!誰かが後を追っていたのかな?」

 

「だとしたら、亡国機業か、あるいは対外治安総局(DGSE)か…」

 

 どちらかは判らないが、もう既に逃げた後だろう。

だが、どっちが来ようがやる事は同じだ。

全力を以て叩き潰す。暴走核弾頭の武威からは誰一人逃げられはしないのだ。

 

「(あれが我等の本部を吹き飛ばし、

ICDのIS隊とドイツ代表を一纏めに叩き潰した『暴走核弾頭』

ナノハ・タカマチか…早くも尾行に感づくとは恐ろしい奴だ。)

 

 なのはの予想通り、2人は尾行されていた。

尾行しているのはフランス国防省傘下の諜報機関、

対外治安総局(DGSE)に勤める1人の諜報士官だ。

その名はロムスカ・ラピュタ。階級は大佐で、通称ムスカ大佐と称される。

彼はDGSE内では「フランスの007」の異名を持つトップエースであり、

なのはの訪仏を知ったフランス国防省の密命により、

同国一の諜報員である彼自ら、こうして尾行を行っているのだ。

 

「(しかしシャルロット・デュノアめ、スパイ任務は失敗した様だな。

早い内に処理するべきなのだろうが、

あの様な怪物が近くにいたのでは手出し出来んな。)」

 

 流石は「フランスの007」。

早くもシャルロットが女だとバレたことを看破してしまった。

 

「(それにしても、

3都市同時爆破テロ事件の実行犯がのうのうとパリに来いてるにも関わらず、

こうして遠巻きに見ているのが精一杯で手出し一つ出来ぬとは!

そこに持ってきて、最近は『アレ』の事もある…

おかげでパリの観光客は例年の半分以下だ!

全く、我が共和国の不幸続きにはウンザリさせられる…!)」

 

 そう心中で愚痴るムスカの手に握られた新聞には、この様な見出しがあった。

 

「連続切り裂き魔『怪人ハサミ兎』再び!

パリ市警、3000人体制で市内の警戒強化!!」

 

 

 

 そして、パリ市街地に到着した2人が真っ先に向かったのは、

パリの象徴エッフェル塔。

 

「おお、あれが彼のエッフェル塔!!」

 

「でしょでしょ?もっと近くで見て下さい、何か気付きませんか?」

 

「何か…?おや、何か違和感があるの…ああ、色が違うの!!

しかも、何か高くなってる気がするの!!」

 

 その通り、エッフェル塔は錆び止めの為、7年に一度塗装を塗り直すのだが、

そのカラーリングは決まってエッフェルブラウンと呼ばれる茶一色であった。

だが、なのはの目の前にあるエッフェル塔は

フランス国旗と同じ鮮やかなトリコロール塗装だ。

 

「そうです!実はエッフェル塔は老朽化や安全上の問題で、

4年前完成150周年を期に解体され、今あるのは最新技術で建て直されて、

この春オープンした、『新エッフェル塔』なんですよ!!」

 

 無理もない。旧エッフェル塔が完成したのは1889年。

日本では京都であの伝説の花札屋が創業し、

大日本帝国憲法が発布された年の事である。

 

 構造材は当時の技術の関係上、鋼鉄より強度の低い錬鉄で、

おまけに展望台は柵あるいは金網が設置されているだけの吹きさらし。

これに加えて2020年代からは老朽化が問題視され、

流石に危ないと言う事でパリ市議会は5年前、

エッフェル塔解体の上建て直しを決定。

その翌年の3月末日、エッフェル塔は完成150周年を期に閉鎖され、

その年の内に解体された。

 

 その際費用と人員は現大統領が率いる名門「フランスのロスチャイルド」こと

あのドニエール一族が用意し、作業はトラブルも無く進み、

旧版同様一人の犠牲者も出さず、

今年の3月末に晴れて新エッフェル塔は完成した。

 

 その最大の特徴は、本業である電波塔としての機能を高める為、

高さを旧版の324mからジャスト400mまで大きく高めた事だ。

当然、その分増えた重量をきっちり支える為構造材も鋼鉄に替わり、

展望台も念願の壁と屋根の付いた密閉式に。

「より高く、より安全に、より充実した」新エッフェル塔は

パリの目玉となる…筈だった。

 

 そうこうしている内に、二人は新エッフェル塔の展望台に到着。

かつての吹きさらしとは違い、

ちゃんと壁、床、天井のある新エッフェル塔の展望台の眺めは…

 

「おお、これは絶景なの!!」

 

 地上324m、旧エッフェル塔の頂点と同じ高さに備えられた

展望台からパリの景観を一望して、思わず感嘆の声が出るなのは。

 

「スカイツリーも言った事が有るけど、

こっちはこっちで良い眺めなの!!…一部は除くけど。」

 

 なのはの言う一部が何を指すのかは、今更言う事ではないだろう。

 

「気に入って貰えました?良かったぁ…。」

 

 シャルもなのはに喜んで貰えて一入だ。

 

「この眺めを皆が見たら何て言うかな?一夏君と箒ちゃんは…

『スカイツリー』とどっちが良いかで揉めるんだろうなぁ…」

 

「確かに…日本のスカイツリー展望台は

新エッフェル塔の天辺より高いですからね。」

 

「セシリアは…英国貴族のプライドと英仏のライバル意識を考えると、

『こんな高いだけの塔より

ロンドン名所の方が見所があるに決まってますわ!!』位言うんだろうな。」

 

「ああ、それ解ります!!」

 

「鈴音は…普通に喜ぶだろうね。特に空の綺麗さを…」

 

「大気汚染、シャレにならないみたいですからね…中国…。」

 

「ラウラは…職業柄

『よく整備されてはいるが、いざと言う時、

多方向から攻められて容易に制圧されるだろうな』とか言い出すかもね。」

 

「100年前、本当にされましたからね…」

 

「ねえ、シャル…一つ聞いていい?」

 

「どうしました?」

 

「こんな新しい名所があるのに、どうして観光客が疎らなのかなぁ?」

 

 その通り。今は夏休み、パリは観光客で書き入れ時の筈。

それなのに、この新エッフェル塔の展望台にいる人数はなのはとシャルの他、

観光客の数は両手でも数えられる程度。想像よりずっと少ないのだ。

 

「うーん、やっぱりあの噂かなぁ…?」

 

「噂?」

 

「それがですね…僕が学園に編入してから1月くらい経った頃から、

パリ中で『妖怪ハサミ兎』とかいう都市伝説が広まってるそうです。」

 

「妖怪ハサミ兎?」

 

「はい、これは社員から聞いた話なんですけど、

そいつはシルクハットに赤いアスコットタイを締め、

顔を兎の被り物とサングラスで隠し、両手に大きな枝切りバサミを持っていて、

夜な夜なパリの街に現れては、通りかかった人をハサミで切りつけるそうです。

もう何人も被害者が出ていて、警察も何千人と投入して行方を追ってるとか…」

 

「What?!」

 

「うひぃ?!」

 

「それは危険なの!!早速見つけ出して成敗するの!!」

 

「せ、成敗って…止めましょうよ、そう言うのは警察に任せて…」

 

「⌒*(○∀○)*⌒どうして?」

 

 なのはに思いとどまってもらおうとするシャルに、

ヤマトがどアップで理由を問い詰める。

 

「どうしてって…危ないよ!」

 

「あぶないの?⌒*(○∀○)*⌒=⌒*(○∀○)*⌒でもなんで?」

 

 そのまま左右にシャカシャカと反復運動。これは怖い。

 

「ヒイ、動きが怖い!

と、とにかく、僕が言いたいのはなのはさんが危ないんじゃなくて、

パリが危ないって意味で言ったんだよ!

もしなのはさんがパリのど真ん中で本気で暴れだしたら…」

 

 その日の内に、「パリは燃えているか?」が現実となるだろう。

だが、なのはにはあの力が有るのだ。

 

「かっさつじざーい。」

 

「あっ…(察し」

 

 そうだった。ヤマトの単一仕様能力は

物体への破壊と非破壊を意のままに切り替える活殺自在。

例え流れ弾が出ても、周辺にダメージは絶対に入らない。そういう能力なのだ。

 

「そう言う訳なの!!私が動く事に何の問題も無いの!!だから、

シャルは安心して明日のデモンストレーションの操縦役に専念するの!!」

 

 うん、やっぱり止めるだけ無駄だった。

シャルは開き直ってなのはに全部丸投げする事にした。

 

「は、はぁ…それじゃ、もしもハサミ兎が出てきた時はお任せします。」

 

「任せるの!!…おっと、もうこんな時間なの。それじゃ、昼食に行こうか。」

 

「あ、はい!!それならこの塔の中にある『ジュールベルヌ』とかどうですか?

ミシュランで星を取ったお店で、

僕も一度行った事ありますけど、ホントお勧めですよ!!」

 

「それは期待できるの!!じゃ、そこへ行くの!!」

 

「はい!」

 

 かくして、なのはとシャルは展望台を降り、腹ごしらえに向かった。

パリを戦慄させる怪奇、妖怪ハサミ兎の脅威に一抹の不安を覚えながら…




回し者連中への罰が甘い?いやいや、今後の出番の為の布石です。
心配無用。この不届き者達には
きっちりインガオホーの原理が魂に刻まれます。ご安心を。

さて次回、謎の都市伝説「妖怪ハサミ兎」の真実が明らかとなる…!


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第42話  目覚めよ、タイフーン!

8月が終わっても、夏休みは終わらない。
第42話、始まります。



「流石はミシュラン一つ星!納得の味だったの!!」

 

 新エッフェル塔内部のレストラン『ジュールベルヌ』で

昼食を済ませたなのはとシャル。

ミシュラン一つ星の実績は伊達ではなく、なのはも納得した様だ。

 

「喜んで貰えて何よりです!それじゃ、市内観光を続けましょうか!」

 

 新エッフェル塔を下りた二人は、パリ市内の散策を再開した。

 

「それにしても、そこかしこに警官と国家憲兵隊(ジャンダルムリ)が屯してるの!!

本気でパリ中を見張ってるのかな?」

 

「そうみたいですね。」

 

 観光が売りの街で観光客が来なくなるのは致命的。

フランスがいかに本気で妖怪ハサミ兎を捕えたいかが伺える。と、早速…

 

「あ~、そこで凱旋門を見ている君!!そう、君だよ君!!」

 

 どこぞの高木理事長の様な呼びかけが。

なのはが振り返るとそこには刑事らしき中年男が。

 

「(身分証を見せて)パリ市警の者だが、その後ろのぬいぐるみは何だね?」

 

 どうやらパリ市警の刑事らしい。

後ろで浮いているヤマトを怪しんで職質を掛けたのだろう。

 

「じ~…。」

 

 早速、ヤマトがどアップで刑事に迫る。

 

「って、近い!近いから!!ちょ、やめ、離れ、離れてー!!」

 

「やまとはあいえすだよ。それいがいのなんでもないよ。」

 

「な、何だISか…ISなら仕方ない、

ってちょっと待て!!こいつ、今喋らなかったか?」

 

「いかにも!これぞメイドインジャパンのしんこっちょうなの!!」

 

「いや、パリのど真ん中で英語を使われても…」

 

「Quelle?!」「ヒィ!!」

 

 刑事もビビる「What?!」の一喝、今回はフランス人向けの仏語版だ。

しかし、フランス語への拘りは何とかならない物か。

 

「埒が明かないの、とにかくこれを見るの!!」

(国家代表操縦者の身分証を見せる)

 

「何々…日本国国家代表IS操縦者、ナノハ・タカマチ…

何だ、日本の国家代表操縦者かぁ…。」

 

「これで納得できたの?」

 

「ま、まあ…で、こんなご時世に何でまたパリに?」

 

「翌日のデュノア社製第3世代機のデモンストレーションに、

社長直々の招待状を頂いたの!!

と言う訳で、こんな状況だけどパリに来たの!!

今はここにいるシャルル君の案内で、市内の観光中なの!!」

 

「ど、どうも~。」

 

「むむ、ロベルトの息子が案内人だと?!それは随分贅沢な案内人だな。」

 

「まあ、同級生のよしみと言う事ですけどね…。」

 

「え?同級生?」

 

「そうだよ。なのははぴかぴかのいちねんせいだよ。」

 

「えええぇぇぇ…。

(IS学園の生徒だと?!厄介な事にならない内に切り上げるか…)

オホン…つまり、御宅は我が国念願の第3世代機お披露目に

ロベルト直々に招待され、わざわざ日本から来たと言う事で宜しいのかな?」

 

「如何にも!」

 

「それはご苦労な事で。…くれぐれも、夜間の外出は控えて頂きたい。

何しろ今パリでは…」

(日本人は警戒心が緩いからな、一応釘を刺しておこう。)

 

「知ってるの!」

 

「そ、そうか…なら宜しい。では、私はこれで失礼する。」

 

 そう言うと、刑事は去って行った。

 

「はぁ…まさかパリにまで来て職質を食らうとは思ってもみなかったの…。」

 

「そうですね。」

 

「所でシャル、あの人、社長をロベルトと呼んでいたけど…。」

 

「ええ、あの人はパリ市警のジム・エビヤン警部。父の同窓生です。」

 

「成程ね。では、観光を続けるの!!」

 

 こうして、なのはとシャルの2人はパリ観光を続け、その日の夜…

 

「では、パリ支社から迎えが来たので僕はそっちに行きます。

明日、パリ支社で会いましょう!」

 

「解ったの!カラダニキヲツケテネ!」「またあした~。」

 

 なのはは今日泊まる予定のホテルの前で別れ、チェックイン。

パリ市でも屈指の一流ホテルだが、

束の恩もあって費用はデュノア社が出してくれた。

 

「ふう…さて、とりあえず安眠確保なの。ヤマト、何が見える?」

 

 なのははヤマトに命じ、部屋全体をハイパーセンサーで調べ上げる。

 

「とうちょうきとかくしかめらがいっぱいあるよ。

ぐたいてきにいうと、とうちょうきは30こ、かくしかめらは10こあるよ。」

 

「やっぱり…大方対外治安総局(DGSE)が前もって仕掛けていたに違いないの。」

 

「さっそくこわす?」

 

「勿論なの!」

 

 ワンオフ・アビリティ、活殺自在を発動。

これで部屋の外装には傷一つ付けず、盗聴器と隠しカメラのみ破壊できる。

あとは四連装機銃(ノイジークリケット)でズドンとやれば一安心。

早速ヤマトが機材を銃撃し、一撃で破壊し尽くした。

 

「これで良し。では、明日に備えるか…。」

 

かくして、パリ初日は幕を下ろしたのであった。

 

 

 

 

 翌日、デュノア社のパリ支社試験場では…

 

 束が設計し、デュノア社から発売される第3世代機「タイフーン」が、

いよいよデモンストレーションの為、最終調整に入っていた。

 

 試験場にはEU、IIC、ICPOと言った国際機関をはじめ、

フランス政府、特に国防省と国家憲兵隊の高位幹部達が集まっている。

更には、アリエノールを始めドニエール一族の姿も。

その顔は憤懣やる方ないといった所だろう。

 

 無理もない。タイフーンが束の設計通りに動けば、彼等の手下共は

自分達に喧嘩を売った束の設計したISを制式化する羽目になるのだから。

 

 そして、なのははCEOのロベルトから

他国の代表操縦者の一人として招待されたという扱いで、

他国の操縦者と共に試験場の一角で見物していた。

 

「(これはこれは…結構人が来てるの!)」

 

 招待席にいる他国からのゲストのメンツは、錚々たる顔ぶれであった。

 

 まず、近場のG8構成国及びホームのフランスからは

現在入院中のセルベリアと並ぶドイツ代表操縦者、ミーナ・D・ヴィルケ。

2代目ブリュンヒルデことイタリア代表操縦者、アリーシャ・ジョセスターフ。

日系人でイギリスクォーターの英国代表操縦者、ナナミ・タカツキ。

そしてフランスからは代表操縦者、アンジェラ・バルザックの4人。

 

 そしてアジアからはなのはの他に、

中国代表操縦者、カンフー使いで先代のICD飛行隊長黄春麗(ファン・チュンリー)と、

韓国代表操縦者、テコンドー使いで全国大会10連覇、

五輪も2連覇中の韓蛛俐(ハン・ジュリ)が来ていた。

 

 大西洋の彼方からも、米国代表のイーリス・コーリングが招待されていた。

のんきに欠伸しているが、大方時差ボケだろう。

勿論、ロシアからも楯無が招待されていた。

なのはに気付くと、露骨に目を逸らす。

 

「(よし、隣に座ってやるの。)」

 

 特に理由のない意地悪が楯無を襲う!

 

「………………おや、見た顔がいるの!貴女も招待されたの?」

 

「ええ、御蔭様で…。まさか私以外に

在学中に代表にのし上がる人が出てくるなんて思っても見なかったわ。

ねえ、貴女日本政府にどんな裏技を使ったのかしら?」

 

「向こうがビビっただけなの。」

 

「………はい?」

 

「私は何もしてないの!!向こうが勝手にビビっただけなの!!」

 

「いや、流石にそれは嘘でしょ…。」

 

「⌒*(◎谷◎)*⌒」

 

「……うん、もう良いや。(チッ、IICのザパニーズ共め、余計な事を!)」

 

「おっと、そろそろ時間なの。」

 

『皆さん、お待たせ致しました!!我がデュノア社の最新モデル、

第三世代機タイフーン、今こそお披露目です!!』

 

 アナウンスに合わせ、遂にタイフーン1号機がその姿を現した。

その機体は前級のR・リヴァイヴをベースにより単純化されており、

一見すると、R・リヴァイヴの廉価版に見えなくもないデザインだ。

 

「やはり、外見は新味がないな…」

 

「まあ量産可能という触れ込みなのだから外見の古めかしさは仕方あるまい。」

 

「如何にも、肝心なのは中身だ。

準第3世代機とも呼ばれるR・リヴァイヴの後継なのだ、

さぞ優れているのだろう。」

 

 見物人も外見の平凡さには目をつぶるしかないという意見が支配的だ。

だが、タイフーンは束直々の設計である。

外見はともかく中身は第3世代機そのものだ。

 

『では、ここからは弊社CEO、ロベルト・デュノアに替わりまして、

パリ支社長、ソウイチ・タケダが本機の説明を致します。』

 

 ここで呼ばれたのは会場となるパリ支社を預かる日本人、武田蒼一支社長。

彼はアリエノールのシンパが多数派を占めるデュノア社では数少ない

親ロベルト派の重役であった。

 

『えー、私が只今紹介に預かりましたパリ支社長のタケダです。

このタイフーンですが、その最大の特徴として、

IS初の上位互換機能を標準装備しております。端的に言えば、

本機は前級のR・リヴァイヴが搭載可能な全装備を無改造で搭載可能です。』

 

 その言葉に来場者がざわつく。

唯一平静を保っていたのは、ネタを知っているなのはだった。

 

「上位互換機能!その手があったか…!!」

 

「既にR・リヴァイヴを導入した国には、この上ないセールスポイントだな…」

 

「こればかりは他国のどのISも敵わん。

やはりEUの次期制式ISはこれで決まりなのか?」

 

『また、本機はPICやスラスターの新型化により、前級では不可能だった、

より柔軟な運用を可能としました。その一例を挙げましょう!

ここに「クアッド・ファランクス」を!』

 

 武田支社長の声に応じ、ピットから運ばれてきたのは

28の砲身を持つ巨大な機関砲だ。その正体は、

四連装25mm7砲身ガトリング砲「クアッド・ファランクス」。

これはR・リヴァイヴの追加装備の一種で、

その火力はISの実体弾装備としては最大だが、その重量と反動の大きさから、

R・リヴァイヴが装備した場合全く動けなくなってしまう。

 

『会場の皆様方にお聞きしたい!もしも私が

「このタイフーンはクアッド・ファランクスを装備したまま飛行し、

自由に機動可能である」と宣言したとして、何名がそれを信じるでしょうか?

いえいえ、信じなくとも構いません!

絵空事と笑うなかれ、これより実演して御覧に入れましょう!』

 

 そう言うと、クアッド・ファランクスがタイフーンに装着される。

その所要時間、僅か30秒だ。

 

「速い!もう装着を完了させたのか?!」

 

「ううむ、このような細かい箇所の進歩は実に喜ばしい事だ。」

 

『それでは皆様、準備が完了しました。

これより、タイフーンの出力と反動制御性能を実演致します。

操縦を行うのは、弊社CEOロベルトの実子、シャルル・デュノアです!!』

 

 武田の声と共に、試験場にシャルが現れた。

ISスーツはいつもの女性用ではなく、

体型矯正機能の付いた黒一色のレーシングスーツ型。

胸には所属先を示すデュノア社のロゴ入りだ。

早速タイフーンを装備し、発進準備を待つ。

 

『それでは、発進します!3…2…1…Aller(ゴー)!』

 

 武田の号令一下、シャルがタイフーンのスラスターに点火。

反動をつけ、一気に飛び上がった。

 

「こ、これは!!」

 

「何と!!本当に飛んだぞ!!」

 

「まさか、こんな事が…ううむ、これは敵わん!」

 

「まさに次世代機と言う事か…!」

 

 来場者も目の前の光景に仰天した。

クアッド・ファランクスを装備した状態で自由に飛行できるという事は、

最強の砲台が、自由に攻撃箇所を決められると言う事だ。

その価値は想像もつかない。

 

 地上の仰天を余所に、シャルはタイフーンを操り、

旋回し、上昇し、降下し、宙返りと様々な機動を行う。

その速度と運動性は、標準時のR・リヴァイヴとほぼ遜色なかった。

クアッド・ファランクスという重しを付けてこれなら、外した場合は…

 

『さて、次は反動制御能力の実演を行います。画面をご覧下さい!!』

 

 そう言うと、来場者の目の前にホログラムモニターが。

 

『これより、タイフーンが3km先の標的に向け実弾射撃を行います。

しかも、地上に降りてではありません!!

空中でこの4門の25mmガトリング砲を射撃し、

標的を撃ち抜いて見せましょう!!』

 

 モニターの向こうには、スチール製の直径1m程度の的が、アレを撃つのか。

 

「だ、大丈夫なのか?!」

 

「反動で、こっちを向いたりしないだろうな…?!」

 

『3…2…1…Tirer(撃て)!』

 

 VARRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!

 

 地上の心配をよそに、武田の号令でクアッド・ファランクスが発射された。

強烈な反動にも関わらず、タイフーンは空中にぴったりと制止。

全くぶれるそぶりも見せず、見事3km先の標的を粉々に粉砕して見せた。

 

「おお…これは見事な…」

 

「あの反動を、完全に抑え込んだと言うのか…」

 

「まさか、ここまでやるとは…」

 

「機体も凄いが、デュノアの御曹司も大した腕だ。

見事に全弾を命中させるとは!」

 

 来場者は目の前の光景に感嘆し、ただ呆気にとられるしかなかった。

 

 この後も、タイフーンがいかにR・リヴァイヴ用の装備を

R・リヴァイヴ以上に使いこなせるかの実演が幾種か行われ、

タイフーンの前級以上の汎用性がアピールされた。

かくして、タイフーンのお披露目デモ午前の部は恙なく終了。

昼食を挟んで、午後からは専用装備のお披露目と実演だ。

 

 

 

 そして、パリ支社の中庭で昼食会が開かれた。

 

「なのはさん、どうでした?」

 

 例によって男装したシャルが、真っ先になのはに感想を聞きに来た。

 

「よく出来てたの!機体も、それにシャルも。

これなら午後の部も問題ないの!!」

 

「やった、なのはさんのお墨付きなら安心ですね!!」

 

 と、ここでなのはとシャルの会話を茶化すお邪魔虫が約一名。

 

「お~?御曹司相手に玉の輿でも狙ってるのか?お熱いこった!」

 

 振り返ると、そこにいたのは頭頂から水平に左右へ纏めた

クロワッサン型の髪型が特徴の韓国代表操縦者、韓蛛俐(ハン・ジュリ)だ。

 

「すいません、どちら様でしたっけ?」

 

「あ~ん?イルボンの代表サマはすぐお隣の代表操縦者も知らないのか?

アタシは韓国代表操縦者のハン・ジュリだよ!」

 

「ああ、○イズリって言うんだ、

私がこの度日本代表に指名された高町なのはなの!!」

 

「パ○ズリねぇ…あれってやって気持ちイイのかなぁ…(照れる)

って、誰がパイ○リだ!!アタシはハン・ジュリだ!!」

 

「見事なノリツッコミと関心はするが、どこもおかしくはない。

それで?そんな良い身体してるのにやった事無いんだ、

へぇ…どうせ彼氏いなんでしょ?

(ズイッと接近して)…私は彼氏もいるし、パイズ○やった事有るの。」

 

「おまっ…そんな事ここで言うか?!」

 

「どうせ外国語嫌いのフランス人には気付かれないの!!

(2人は日本語で会話している)

そんな事より、今年のそっちは散々だったみたいなの!!」

 

「誰のせいだと思ってるんだよ!!とっくに調べは付いてんだよ!!

青瓦台、景福宮、国会議事堂の修理費、手前に請求してやるからな!!」

 

「ああ?そっちの見積もりなんか信用してやらないの!!

第一、もう国交も無い国に払う金なんかないの!!

文句は馬鹿な回し者共にでも言うの!!向こう十数年は返してやらないけど。」

 

「畜生!!偶の休みで日本観光と洒落こんでたら、

いきなり国交断絶が決まったとかなんかで警察にとっ捕まって、

そのままソウルに送り返されたアタシの気持ちが手前に解るか?!」

 

「一生理解してあげないの!!ざまぁwwwなの!!

悔しかったらモンド・グロッソで私に勝って見せるがいいの!!

…私は織斑千冬より強いよ?」

 

「チックショー!!何で強い奴は殆ど日本人ばかりなんだよ?!

日本人の癖に生意気だぞー!!」

 

「⌒*(◎谷◎)*⌒ ギロリ…」

 

「アイゴォ…。」

 

「あまり私を怒らせないほうが良い…」

 

「クスン…覚えてろよ!!(泣」

 

 一流の戦士は眼で敵を倒す。なのはの一睨みでジュリは涙目で退散した。

 

 

「…………なのはさんって、ずいぶん下品な事も会話の種にするんですね…。」

 

「そうなの!!でも人は皆その下品な行為の産物なの!!

ありのままの事実を受け入れるの!!」

 

「………………そんな真理、知りたくなかった………。」

 

 などと下世話な話をしていると、それは起こった!!

 

 

 

 ズッドオオオオオォォォォォォーン!!

 

「「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」」

 

 突如響き渡る爆音と悲鳴。そして、中庭に迫る無数の影。

 

「!!」

 

「これは…兎?!」

 

 その正体は兎。しかし元来の赤い眼もあるのか、その形相は凶暴そのものだ。

兎の大群は、手当たり次第に来場者や他国の操縦者を襲う。

 

「うお!!なんだこの兎は!!」

 

「イダダダ!!噛むな、噛むな!!」

 

「ちょ、千切れる、離せ!!アルマーニだぞ、5,000ユーロだぞ!!」

 

 たちまち大混乱に陥る会場。これは、どう考えてもアレしかない。

 

「なのはさん、これって…」

 

「どうやら、当たりを引いてしまったの!!…来るよ!!」

 

 なのはの声の直後、そいつは遂に姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウーッサッサッサッサッサ!人間共め、好き勝手はさせないピョーン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのは、シルクハットに兎の被り物と赤いサングラス。

手に枝切りバサミを持つ小男、間違いなく連続通り魔「妖怪ハサミ兎」だ。

だがなのはは見破っていた。奴はそんな生温い存在ではない。

あの頭は被り物ではない。正真正銘、兎頭人身の怪人なのだ。




遂に出ました、妖怪ハサミ兎。どう見ても生贄?さて、何の事やら…


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第43話  兎狩りinパリ 前編

デュノア社のパリ支社試験場で行われた
フランス製第3世代機「タイフーン」のお披露目会。
午前の部を終え、昼食会で一息ついていた来場者の前に
突如現れる兎の大群と謎の怪人。
それは昨今パリを騒がせている連続通り魔「妖怪ハサミ兎」であった。


「げぇっ、妖怪ハサミ兎!!噂は本当だったのか?!」

 

「まさか実在していたとは!!逃げろ、ハサミで色々とちょん切られるぞ!!」

 

 たちまち大混乱となる昼食会場。だが何か忘れていないだろうか?

この会場にはカナダ以外のG8諸国と

中韓の9人の国家代表操縦者が招待されているのだ。と言う事は…

 

「ケッ、何が妖怪ハサミ兎だよ!

丁度いいや、挨拶代わりにブチのめしてやるぜ!!」

 

 案の定、逆に食って掛かる者がいた。

先陣を切ったのは韓国代表の韓蛛俐(ハン・ジュリ)だ。

 

「おいウサ公、手前、人の飯時に何邪魔してくれてんだ?!

蹴っ飛ばされてェのか、あぁ?!」

 

「な、何だお前は?!このシゾー様をウサ公だと?!!」

 

「あぁ~ん?手前以外に誰がいるんだよウサ公!!

鏡で自分の顔見てみろよパーボ(バーカ)!!」

 

「い、言ったなぁ~!!」

 

 どうやら、妖怪ハサミ兎の本名はシゾーと言うらしい。

シゾーとは仏語でハサミ。名は体を表すの好例である。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいジュリ!!」

 

 と、ここでジュリを止めに入る者が。

中国代表操縦者でジュリのライバル、黄春麗(ファン・チュンリー)だ。

 

「あぁ?あんだよチュンリー、邪魔すんじゃねーよ!!」

 

 このチュンリーなる操縦者、本業は警察官である。

彼女は昨年までICPO-ICDのIS隊隊長を務めていた。

当然、この手の輩への対処法はよく知っている。

 

「1対1は危険よ!こう言うのは複数でかかるのが基本よ!!

どうしてもやるなら、私も加勢するわよ!!」

 

「チッ…好きにしろよ。」

 

「こ、小癪なぁ~、二人纏めて、切り刻んでやるピョーン!!」

 

「おっと、そうはいかないよ。」

 

「「!!」」「だ、誰だ!!」

 

 シゾー達が声のする方を向くと、

そこには完全武装した兵士に周囲を固められた1人の中年女が。

兵達の戦闘服には白い落下傘のエンブレム。

フランスの対テロ特殊部隊、治安介入部隊(GIGN)のマークだ。

 

「残念だったねぇ、妖怪ハサミ兎。

アンタがこんな『祭り』を見過ごす筈が無いと思って、

陸軍、国家憲兵、DGSEとついでにパリ市警の加勢も得て、

このパリ支社に罠を張っておいたのさ。

今ここは完全にウチ等の手勢と伏兵で取り囲んである。

今日が年貢の納め時だよ、観念おし!」

 

 見ると、確かにそこら中で兵士やら警官やらが銃火器でこちらを狙っている。

中韓コンビも警官達が間に割って入り、その場から連れ出された。

更に、あちこちから無線で謎の中年女に報告が。

 

『こちら第1歩兵連隊、連隊長ギーズ大佐。パリ支社の包囲完了しました!!』

 

『こちらDGSEムスカ大佐。

パリ支社に散らばった兎は全て捕獲しました!!』

 

『こちらパリ市警、エビヤン警部。ロベルトCEO以下のデュノア社社員、

及び来賓の方々の身柄を保護致しました!

脱出次第、正面玄関を閉鎖致します!!』

 

「ご苦労!ゲストは無事かい?」

 

『ハッ!来賓の方々は全員無事です!!』

 

「やれやれ…まずは一安心。さて、これで準備は整った!お前達、出番だよ!」

 

「「「「Oui,Madame!!!」」」」

 

 中年女の号令に合わせ、4機のR・リヴァイヴが会場に突入して来た。

このISにも、GIGNのエンブレムが。

 

治安介入部隊(GIGN)第5介入隊(FI5)、参上!!」

 

 彼女達こそ本作戦の切り札にしてフランス唯一のIS専門チーム、

国家憲兵隊治安介入部隊第5介入隊、略してGIGN-FI5だ。

 

「遂に追い詰めたぞ、妖怪ハサミ兎!!」

 

「今までの悪行の数々、ツケを支払う用意は出来たか?!」

 

「うぎぎぎぎ…」

 

 更にフランス代表操縦者アンジェラ・バルザックもGIGN-FI5に合流。

彼女もまた隊員の一人で、今回の作戦の従事者であった。

 

黒猫(シャノワール)0、無事か?」

 

「ええ、御蔭様でね、黒猫(シャノワール)1。

…それにしても流石は国防相、手際の良い事ですわ。」

 

「御世辞は後だよ、アンタも早く専用機を展開しな。」

 

「Oui!」

 

 どうやら、謎の中年女はフランスの国防相らしい。

彼女の命でアンジェラも専用のR・リヴァイヴを展開。

これでISは5機に増えた。

 

「ぐぐ、まさか完全に囲まれるとは…お前、何者ピョン?!」

 

「おっと、自己紹介してなかったかい?アタシゃイザベル・ライラック。

フランス国防大臣を務めてる者さ。人はアタシの事をグラン・マとも呼ぶよ。」

 

 国防大臣自ら陣頭指揮を執る辺り、フランスの本気度が良く解る一コマだ。

 

「それで?ここまで追い詰められたんだ、もう逃げ場はないよ、妖怪ハサミ兎!

Tu donnes ta(降参して) langue au chat(貰おうか)?」

 

 これだけの包囲を敷かれては、どう考えても逃げられっこない。

これを抜けられるのはなのはと束、そして千冬位だろう。

だが、シゾーの回答は…

 

「ウーッサッサッサッサッサッサッサ!!この程度で勝った気に成るとは、

人間共は実に馬鹿揃いだピョン!!これを見ろー!!」

 

シゾーが声を張り上げると、会場のそこかしこから謎の光が。

 

「な、何だ、何だ、何だぁ?!」

 

「くっ、コイツ! 隠し玉を持っていたのか!!」

 

 GIGN-FI5の隊員達は一瞬目が眩む。

勿論、シゾーがその隙に包囲を抜けたのは言うまでもない。

 

「あっ!待て、逃げるな…!!」

 

 隊員の一人が気付いて後を追おうとした瞬間、会場の光は収まった。

そして、そこに現れたのは、甲冑を模した人型のロボットだった。

 

「な、何?この…IS?」

 

「くっ、これがコイツの切り札って訳?!」

 

「それだけじゃないぞ!こいつ等の立ち位置…」

 

 武装ごとに色分けされた人型ロボットは総勢二十数機。

機体の後背から定期的に蒸気を吐き出し、GIGN-FI5を囲んでいた。

 

「やれやれ、まさかこんな奥の手があったとはね…」

 

「囲んだと見せかけて、囲まれていたのは私達の方だったのか…」

 

「ウーッサッサッサッサッサッサッサ!!さあ行け、『蒸気獣ポーン』!!

人間共を血祭りに上げてやれぇーっ!!」

 

 シゾーの号令一下、人型ロボットもとい蒸気獣ポーンが

一斉にGIGN-FI5へ向かっていった。

 

 

 

 同時刻、パリ支社正門前…

 

「け、警部殿ーっ!!」

 

「何だ?!」

 

「招待を受けた国家代表操縦者ですが、1名足りません!!」

 

「何?!本当なのか?!もう一度よく数え…いや、私が直接やる!!」

 

 緊急事態に焦ったエビヤンは、堪らず自ら人数を確認する。

 

「1、2、3、4、5、6、7、…

おい、他国から招待された代表操縦者は何人だった?」

 

「8名であります!」

 

「ゲェェーッ!!も、もう一度…1、2、3、4、5、6、7…

ど、どう数えても7人しかおらーん!!」

 

「ま、まさか一人連れ出し損ねたとか…?!」

 

 たちまち青ざめる警官隊。

これで怪我でもさせたら国際問題どころの騒ぎではない。

 

「一体、誰が居ないんだ?!」

 

「確認します!!」

 

 警官達が代表操縦者の顔とデータを照合する。その結果…

 

「報告します!!この場にいないのは…

日本代表、マドモアゼル・ナノハ・タカマチです!!」

 

「ナノハ・タカマチ?!昨日私が職質をかけた…」

 

「ヒッ!!」

 

「ま、まさか…」

 

「!!」

 

 エビヤンの言葉を聞いた瞬間、シャルと楯無、

そしてドイツ代表のミーナは顔が強張った。

 

「おい!何か知っているのか?!」

 

「あ、あの人…多分自分で妖怪ハサミ兎を倒しに行ったんじゃないかと…」

 

「な、何だと?!余計な事を…兎に角すぐに連れ戻さなければ!!」

 

「いや、あの…やめた方がいいと思いますよ?」

 

「何故だ?!いくら国家代表とはいえ、勝手に行動されては…」

 

「止めたら、今度はこっちを攻撃するからです!!」

 

「えっ、ちょ…!」

 

ここでシャルに替わり、楯無が言葉を続けた。

 

「刑事さん…『暴走核弾頭』という言葉に聞き覚えは?」

 

「暴走核弾頭?確か、この間の3都市同時爆破テロ事件の

実行犯の通称だった様な…ハッ、まさか?!!」

 

「そうよ。ナノハ・タカマチこそ暴走核弾頭の正体。

これは本人も公言してるわ。」

 

「あ、あ、あ…」

 

 漸く警官隊も事の重大さに気が付いた。

このパリに、しかも自分達のすぐ近くに妖怪ハサミ兎以上の超危険人物が居る。

こうなった彼等が取るべき行動は一つ、一つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ぜ、全員退避ーッ!!!!!暴走核弾頭が、暴走核弾頭が出たぞーっ!!」

 

 

 

 

 

 

「アイエエエ!暴走核弾頭?!!暴走核弾頭ナンデ?!」

 

「暴走核弾頭警報ーッ!!!暴走核弾頭警報発令ーッ!!!!」

 

「逃げろー!!パリに暴走核弾頭が出たぞー!!!」

 

「ヒイイイイイイイ!!パリの終わりだー!!」

 

 エビヤンを先頭に、警官隊は一斉に逃げ出した。

 

 

 

 

 さて、話を戦場と化した昼食会場に戻す。

 

「デイヤーッ!!」

 

 戦斧と楯という中世さながらの武装の青い機体

「黒猫1」が掛け声一閃、ポーンの1機を真っ二つにしている。

 

「そーら!!」

 

 更に別の所では、鉤爪と大鎌に火炎放射器を装備した緑の機体

「黒猫3」がポーンを鉤爪で串刺しにした。

 

「ハッハー!!燃えろ燃えろー!!」

 

 そのまま火炎放射器に点火。ポーンは火だるまになった挙句、爆発四散。

 

「どうした凡骨共、掛かって来い!まさかロボットの癖に我等が怖いのか?!」

 

 挑発する余裕がある所から、どうやらこのポーン、

彼女達にとって大分手応えの無い敵らしい。

 

 そして青と緑の近接型2機の後方では、

3機の射撃型が弾幕でポーンを狩り捲っていた。

 

「変なロボットの皆さん、早く投降しないと蜂の巣ですよ!!」

 

 赤の機体「黒猫2」は3砲身の20mmガトリング砲をぶっ放し…

 

「いい加減に狼藉をやめないと、串刺しにします!!」

 

 黒の機体「黒猫4」は、放つ事でプラズマの鏃を持つ矢が分裂して飛んでいく

異色の兵装「量子ロングボウ」を射掛け…

 

「進もうが、逃げようが、アタシに立ちはだかった時点で終わりなのよ!!!」

 

 そして白の機体は「黒猫0」ことGIGN-FI5の隊長、

フランス国家代表のアンジェラ・バルザック。

彼女は片手に1挺ずつレーザー重機関銃を構えていた。

 

「ぐぬぬぬぬ…ええい、何でたった5機相手に手こずるんだピョーン?!!」

 

 突如現れた蒸気獣ポーンなるロボットの一団に囲まれたGIGN-FI5だが、

いざ戦闘となると、5倍近い数の敵を相手に驚く程の健闘ぶりを見せていた。

何しろ世界最高峰の呼び声高い対テロ特殊部隊である。

これに対抗できるのはドイツのGSG-9くらいの物だろう。

 

「一時はどうなるかと思ったけど、何の事は無かったわね。

数を揃えれば勝てると思った?」

 

「我等GIGNは世界一の特殊部隊、そしてFI5こそGIGNの最高戦力!

これしきの数の差に屈しはしない!!」

 

「おのれ~っ!!だったらお前等以外の奴を襲うピョンね!!行けーっ!!」

 

 ポーンの何機かが戦線を離れ、別の標的に狙いを定めた。

その標的とは、GIGNの他の介入隊員に囲まれた「総大将」、

つまりイザベル国防相である。だが、これだけの罠を用意する人間が

この程度の穴を見過ごすと思ったのだろうか?

 

「馬鹿な奴、そんな事態に何の対策もしていないと思っていたのか?

…そら、やっちまいな!!」

 

「国防相を護れ!!総員、斉射!!」

 

「FI5だけがGIGNじゃないんだぜ、くたばれロボ公!!」

 

「陸軍を忘れるなよ!!対戦車ミサイルも食らえ!」

 

 案の定、イザベルの壁となったGIGNの他の介入隊員と、

陸軍の兵士の猛反撃を食らう事に。向かっていったポーンは

対物ライフルから対戦車ミサイルまであらゆる重火器の弾幕を食らい、

たちまち蜂の巣どころか爆発四散、木端微塵となってしまった。

 

「ゲゲーッ!!他の奴でこれだと?!

ええい、残りはあと6機しかないじゃないか!!役立たずのポーン共め!!」

 

「今頃気が付いたの?間抜けなウサギさん。まさか、まだやる気なのかしら?」

 

「小癪な~っ!こうなったら、

このシゾー様が直々にその首ちょん切ってやるピョンねー!!

出でよ、『プレリュード』!!」

 

前奏曲(プレリュード)?前奏曲がどうし…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ!」

 

 シゾーの声で上から降ってきた何者かが、

ポーンの1機を思い切り踏み潰して着地した。

それは高さ4mもある兎型のロボット。耳は巨大なハサミと化し、

2基の4連装機銃と棘付き鉄球のハンマーを備えた武装ロボットだ。

どうやら、これが「プレリュード」らしい。

 

「な、何だこいつは?!兎型の…ISなのか?」

 

「どうやら、それがお前の本当の切り札らしいな!妖怪ハサミ兎!!」

 

「誰が妖怪ハサミ兎だ!!シゾー様と呼べ!!

それと、この蒸気獣『プレリュード』をお前等のISとかいう

ロボットの出来損ないと一緒にするとはいい度胸だピョン!!」

 

「出来損ないだと?!

貴様、我がフランスの誇る傑作機をよくもそんな風に言えたな!」

 

「あ~ん?それがどうかしたピョン?これからお前等はこのプレリュードで

ギロチンより酷い死に方をする事になるんだピョンね!!

ウーッサッサッサッサッサ!!」

 

 いよいよ佳境に入るシゾーとGIGN-FI5の戦闘。

だが、そんな戦場に、悪魔の到来を知らせる声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『暴走核弾頭だーッ!!暴走核弾頭警報ーッ!!暴走核弾頭警報発令ーッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?!今何が…暴走、核弾頭?!」

 

「ば、馬鹿な?!この状況下で、これ以上の危険物が…」

 

「おいおいおい…警部、エビヤン警部!!今、暴走核弾頭と言ったのかい?!」

 

『国防相、お逃げ下さい!!暴走核弾頭が、暴走核弾頭がそっちに…!!』

 

「えっ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

「「「「「うわあああああああああああああああああああ!!!!!」」」」」

 

 またも何者かが上空から落下。そこにいたのはもう言うまでもないだろう。

 

「ウゲゲーッ!!何だこの武器だらけの…何かは?!」

 

「ま、まさか…こいつが、『暴走核弾頭』?!」

 

「この状況下で、な、何をしに来たんだ…?!」

 

 直接会った事こそないが、GIGNにとってなのははかつて

自分達の本拠地を吹っ飛ばした因縁の相手。

本人のいきなりの襲来に、思わず腰が引ける一同。

なのははそんな隊員達を尻目に、シゾーの真正面に陣取った。

 

「な、何だお前は?!いきなり空から降ってきて!!」

 

「ねえ、そこの兎さん…」「誰が兎だ!!シゾー様と…」

 

「What?!」

 

「ヒィ!!」

 

「よくも食事時に乗り込んでくれたの…

御蔭で楽しみにしていた狩猟肉(ジビエ)料理がパァになっちゃったの。」

 

 この穏当な口調は、なのはが完全に怒り心頭に達した印だ。

 

「ウーッサッサッサッサッサッサ!!ざまぁ見ろピョン!!

人間共の悲しむ姿は見てて飽きな…」

 

 ゴッ!!

 

「ぶぎゃ!!」

 

 なのははアームの多重量子変換を全解除して、

思い切りプレリュードをぶん殴った。

 

「ねえ知ってる?日本人って、世界一食への冒涜に厳しい民族なの。

で、実は私は日本人なの。だからね、今日の夕食は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

お前の兎鍋だ

 

 

 

 

 

 

 

 

         

「ウサッ?!」

 

 なのは、怒りの死刑宣告。この場で完全にシゾーを狩る気だ。

 

「うおおおおおおおおおお!!!ヤマト二次移行なのぉぉぉぉおおおお!!!」

 

「まかせろー!!やまと、せかんどしふとー!!」

 

 ヤマトは直ちに第2形態まほろばに形態移行。

三面八臂の鬼神がパリの地に堂々の降臨だ。

 

「さあ掛かって来るの、妖怪ハサミ兎!!

その首は柱に掛けられるのがお似合いなの!!!

It’s monster hunter tiiiiiiiiime!!!」

 

 なのはは雄叫びと共にプレリュードに吶喊。

本来の狩人であるGIGN-FI5を差し置いて、

兎狩りは第二ラウンドに突入した。



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第44話  兎狩りinパリ 後編

さて今回、44話という不吉な話数に相応しく、
本作初の死人が出てしまいます。誰かは…敢えて言いませんよ?



 第3世代機「タイフーン」のお披露目会に突如乱入してきた連続通り魔

「妖怪ハサミ兎」こと怪人シゾー。

だが、仏国防相イザベル・ライラックはこの襲撃を予想し、

パリ市警の協力の下、陸軍と国家憲兵隊、更にはISまで動員して

パリ支社そのものを罠とする包囲網を敷き、見事にシゾーを追い詰めるに至る。

 

 しかし、追い詰められたシゾーは謎の人型ロボット蒸気獣ポーンを呼び出し、

包囲作戦の切り札でフランス国家憲兵のISチーム、

治安介入部隊第5介入隊(GIGN-FI5)と交戦。

5倍近い数を物ともせず、ポーンの群れを圧倒するGIGN-FI5だが、

シゾーも負けじと切り札、兎型ロボット「蒸気獣プレリュード」を投入。

 

 戦闘が佳境に入った正にその時、我等が暴走核弾頭、

高町なのはがヤマトを展開して戦場に乱入したのであった。

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおお!!少し頭かち割ろうかぁ?!!」

 

「ピョッ?!」

 

 いきなりプレリュードに槍で殴りかかるなのは。

プレリュードはハイジャンプで辛うじて回避。パリ支社の屋上に脱出した。

 

「な、何をするウサ?!」「取って食うの!!」

 

「ナンデ?!」

 

「昼食の恨みなの!!ドタマかち割って、皮を剥いでやるのぉーっ!!!」

 

「ピョーッ!!」

 

 完全に食べる気満々のなのはに堪らず逃げ出すシゾー。

だが、今の状況を解っているのだろうか?

 

「ちょ、ちょっと、そこの…暴走核弾頭さん!」

 

 言わんこっちゃない。

後から追い掛けてきた赤い機体の「黒猫2」がなのはを呼び止めた。

 

「あ~ん?」

 

「あ~ん、じゃないですよ!!今私達が戦ってるのに、何で割り込…」

 

「兎狩りの邪魔なの、このプリン脳!!」

 

 ドギュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥウウウン!!

 

「アヒィーッ!!」

 

 勿論、なのはが砲撃で返答した事は言うまでもない。

幸い砲撃は黒猫2ではなく、残った5機のポーンを狙ったもので、

光線は活殺自在の効果でポーンのみを蒸発させ、

包囲網を敷いていた誰一つ傷付けず飛び去った。

 

「な、何て事をするんだお前はぁあーっ!!」「危ないじゃないのよーっ!!」

 

「何でもいいの!!昼食の恨みを晴らしに来たの!!

邪魔する人は頭を冷やすの!!

正義のヒロインチームなら、それ位の空気は読むの!!

文句があるなら、兎狩りの後なの!!!」

 

「えーと…とりあえず、

妖怪ハサミ兎退治に協力してくれると言う事でいいんですか?」

 

「如何にも!!さあ、早速一狩りいくの!!!」

 

「どーん!!!」

 

 ヤマトのどーん!の声と共に

ダッシュアッパーで再度シゾーに殴りかかるなのは。

 

「ピョーッ?!!」

 

 しかし、兎の外見に相応しい跳躍力で辛うじて攻撃を躱す。

正に脱兎のごとし。

 

「あ!あいつ、逃げる気だな!!」

 

「私達も追うわよ!!FI5、全機続け!!」

 

 アンジェラの指示で、GIGN-FI5も即座に後を追う。

幸い、速度はこっちが圧倒的に上なのですぐに追いついた。

 

「あいつ、凱旋門へ向かっているぞ!!」

 

「いかん!!近づかれたら、凱旋門が大変な事に!!」

 

 慌てて急接近するGIGN-FI5。ヤマトもワープで後を追った。

 

「ええい、しつこいピョン、調子にのりやがって!!

こうなったらあの門をちょん切ってやるピョンねー!!

その間こいつらで遊んでろ、出でよポーン共!!」

 

 シゾーは懲りずにポーンを召喚、数は十数機と一度目より少ない。

が、凱旋門へ取り付くまでの足止めなら…

 

「奮!!」

 

 次の瞬間、ポーンの頭から何かが生えた。

 

「ピョッ?!!」「な、何が…?!」

 

「どーん!!!」

 

 KABOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOM!!!

 

「ピョオオォォーッ?!!」「うわ!!」

 

 直後、全てのポーンが一斉に爆破四散。

生えてきた何かの正体はヤマトのミサイルだった。

以前傀儡兵を殲滅した時と同じ手段で、

ポーンをミサイルで串刺しにして爆破したのだ。

 

「遠隔部分展開の応用技、実体弾兵器を標的と同一の座標に展開し、

いかに強固な物体であろうと、その硬さに関係なく貫通する。

大した技じゃないから名前は付けなかったけど、

こうして見ると便利な技なの!!」

 

 なのはは簡単に言うが、この応用技は途方もなく恐ろしい反則技だ。

何しろISの絶対防御すら問答無用で貫通し、内部から木端微塵に出来る。

今でこそ1秒未満とはいえタイムラグがあるが、

これを減らせば減らす程、その威力は指数関数的に増加するだろう。

 

「こ、これが…噂に名高い『暴走核弾頭』の戦い方なのか?!」

 

「は、はは…何が大した技じゃないだよ…。

あんなの、対処できる奴なんかいねーよ…!」

 

「道理で、テロリストの使い走りが国家代表の座を掠め取れる訳だわ…」

 

 GIGN-FI5にしてみれば堪った物ではない。

事と次第によっては自分達がああなるのだ。特に国家代表のアンジェラなど、

来年のモンド・グロッソでは1対1で対峙する可能性がある。

もしもかち合ったりした日には…想像もできない事になるだろう。

 

「さて兎、逃げてないで戦うの!!

それ以上逃げると凱旋門ごと同じ目に遭わすの!!!」

 

「ゲゲッ!!お、おのれーっ!!」

 

「「「「「ちょっとおおおおおおおおおっ!!!」」」」」

 

 凱旋門と言えばエッフェル塔に次ぐパリ名物。爆破されては一大事だ。

こうなったらGIGN-FI5のやる事は一つ。

 

「これ以上奴をのさばらせたらパリがどうなるか解らないわ!!

妖怪ハサミ兎は我等の手で仕留めるわよ!!いざ!!」

 

「「「「Oui!!」」」」

 

 ヤマトには目もくれず一斉に前に飛び出した。

先頭は斧使いの黒猫1、その直後に大鎌を展開した黒猫3が続く。

 

「黒猫2、黒猫4、散って!凱旋門を背に、タイミングを見計らって叩く!!」

 

「「Oui!」」

 

 アンジェラと黒猫2、4は例によって援護及び牽制の弾幕担当だ。

 

「ソイヤァアアアーッ!!!」

 

「あーらよっと!!」

 

「おわっとと…ええい、猪口才な!!」

 

 早速黒猫1が斧で斬りかかるが、

プレリュードのジャンプはかなり俊敏で中々当たらない。

 

「おっと、こっちにもいるんだぜ!!」

 

 その隙に、今度は背後から黒猫3も大鎌で斬りかかる。

 

「そんな物が当たるか!!」

 

 プレリュードはジャンプで凱旋門に飛び乗った。

 

「ああ!何て所に!!」「野郎、引きずり降ろしてやる!!」

 

 黒猫1、3も凱旋門上に飛び乗りシゾーを挟撃。

怒涛の攻防戦の様相を呈してきた。

 

「この!この!!この!!!」「ええい、そんな物が効くか!!」

 

 シゾーも棘付き鉄球パンチと四連装機銃で応戦。

黒猫1は左手の盾でガードしながら間合いを保つ。

 

「こいつめ!!」「ケーッ!!やられて堪るか!!」

 

 背後から黒猫3が斬りかかるも、こちらは耳状の大ハサミを伸ばして止めた。

 

「何て所にいるのよ、あの馬鹿兎!!」「許せません!!」

 

 残りの3機も加勢の為上空へ、そして、なのはも動く。

 

「私とてただ見てるだけに来た訳では無いの、加勢するの!!」

 

 副砲塔をスラスターウイングから外して両腕に装着すると、

早速主砲共々援護砲撃を射掛けた。

 

「食らえ三式弾、蜂の巣の火達磨に成るが良いの!!」

 

 挨拶代わりの三式弾と副砲弾が凱旋門上空で起爆。

青白い殺人花火が凱旋門に乱れ咲く。

当然、凱旋門上で白兵戦を仕掛けていた黒猫1、3も巻き込まれる事に。

 

「ギャーッ!黒猫1と黒猫3がーっ!!」

 

「何て事すんのよぉーっ?!!ウチの仲間を…」

 

「Quelle?!」「ヒィ!!」

 

「このヤマトのワンオフ・アビリティは活殺自在!

物体への破壊と非破壊を意のままに切り替えるこの力なら、

例え無関係の人間や物体を巻き込んでもダメージは無いの!!」

 

「「「な、ナンダッテー!!」」」

 

 言われてみれば、凱旋門と周囲は何ともない。当然、黒猫1、3も無傷。

そもそも、活殺自在とはこういう時の為の能力。今使わないでいつ使うのか?

 

「な、何て便利な…」「これが、国家代表の力…?」

 

「そうか…だからあの時も死人が出なかったのか…!!

これがISの母の本気…何て恐ろしい!!」

 

 一方、凱旋門上のシゾー+2は…

 

「な、何だったんだ今のは…?!」

 

「し、死ぬかと思った…」

 

「暴走核弾頭め、なんつー心臓に悪い攻撃するんだよ!」

 

 黒猫1、3は活殺自在の効果で無傷だが、

プレリュードも余りダメージは無い様だ。

このクラスの機体には榴散弾は効果が薄い様だ。

 

「ちっ、あまり効いてないの!!ならば通常砲撃なの!!」

 

 今度は通常砲撃に切り替えて斉射。ビームが凱旋門上部を薙ぎ払う。

 

「ええい、私まで射つ気か?!」

 

「こ、こんな所にいられるか!!」

 

「ひぇええ~!!」

 

 慌てて飛び降りる黒猫1、3、そしてシゾー。

当然、凱旋門にダメージは無いが…

 

「隙を見せたの…」「んなっ?!」

 

 いきなりシゾーの眼前にヤマトがワープ。

 

「どーん!!!」

 

 ゴッ!!

 

「ぷぎゃぁあ!!!」

 

 思い切り殴られたプレリュードは凱旋門を通って反対側へ吹き飛ぶ。

そして飛んだ先には…

 

「知らなかったの?私からは逃げられないの!!」

 

 ワープで回り込んだヤマトがいた。勿論、もう一発ぶん殴られた。

 

「ううう…でっかい図体の癖にちょこまかと~!!」

 

「今時蒸気機関なんぞ使ってるそっちが悪いの!!

文句があるなら、兎鍋になって食べられてから出直すの!!!」

 

「ええい、言わせておけば!!

本気でこのシゾー様を取って食うつもりか?!許さんピョーン!!

堪忍袋の緒が切れたピョン!!真っ二つピョン!!

受けてみろ、巨大鋏(ジガンテスク・シゾー)!!!」

 

 プレリュードの切り札、巨大鋏(ジガンテスク・シゾー)

やる事は耳状の大ハサミで標的を切断するだけだが、その破壊力はかなりの物。

真面に食らえば、ISでも切断可能な威力を誇る。

シゾーは大ハサミを目一杯伸ばし、ヤマトを斬り付ける。

 

 ジョギィィン!!!

 

 目にもとまらぬ早業でハサミの刃が閉じられた。果たして、どうなったのか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あ、あらら~…?」

 

 むーざんむざん、はさみでかくだんとうきったら、はさみがぽっきりおれた。

 

「その程度の鋏がヤマトに効くと思っているの?」

 

 プレリュードの大ハサミは見事に真っ二つに折れていた。

カーバイン&グラフェンの積層装甲は

只のスチールでは傷一つ付けられなかったのだ。

 

「ピョォォォオオオオオーッ?!!何ぞこれぇぇぇえええ!!!」

 

「折角の抵抗も、無駄に終わった様で何よりなの!!さて…」

 

 ガシィッ!!!

 

「ギャーッ!!何か一杯手が!!」

 

 6基の追加アーム、錣曳が一斉にプレリュードに掴みかかる。

 

「人の昼食を邪魔したお返しなの!!!

こんなダサいロボットは…八つ裂きにしてやるのぉぉぉぉぉおおおおお!!!」

 

 ブチブチメキメキメキバキバキグシャアアアッ!!

 

「ぎょえーーーーーーーーっ!!!」

 

 何と言う怪力無双、ヤマトは腕力に任せて蒸気獣をバラバラに引きちぎった。

 

「何とぉーっ!!」

 

「力づくで、あの兎ロボをバラバラに…」

 

「……。(驚愕のあまり声が出ない)」

 

「バケモンだ…真正のバケモンがいた…」

 

「ま、正に暴走核弾頭…。」

 

 流石のGIGN-FI5もこれには思わずドン引き。

と、ここでイザベルが他のGIGN隊員と陸軍共々

装甲車で凱旋門前に到着した。

 

「黒猫0、妖怪ハサミ兎はどうした?!」

 

「え、えーと…たった今決着がついたのですが…」

 

「………………。」

 

 アンジェラが指し示した先には、バラバラになったプレリュードの残骸と

恐怖に震え上がるシゾー、そしてなのはがいた。

 

「あー、黒猫0?」「何でしょう?」

 

「どうしてこうなった?」

 

「…暴走核弾頭に、直接聞いてみて下さい。

もう、あれは私達の理解を超えてますから。」

 

 

 

 

 

「あ、あわわわわわ…こ、このシゾー様が人間如きに負けるとは…」

 

「私が人間?違うの、私は悪魔なの!!!

それでね、もう一つ言いたい事が有るの…」

 

「な、何ピョン?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          

Finish you!!(トドメを刺す!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイエエエエエエエエーッ?!」

 

 シゾーは逃げようとしたが、ヤマトが遠隔部分展開で引っ掴んだ。

 

「逃がさないの!!今夜の夕食にしてやるの!!!」

 

「ヒィィイイイ!!このシゾー様を本気で食べる気か?!よせ!!止めろ!!

絶対不味いから!!食べたら腹壊すぞ!!食中毒起こして死ぬぞ!!!」

 

 なのはは有無を言わさず、アームでアイアンクローを仕掛けると…

 

「奮!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブヂィッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もいだ。

なのははシゾーの首を引きちぎり、脊椎ごと引っこ抜いた。

当たり一帯がたちまち血に染まる。

なのはは返り血を浴びながらイザベル一行に見せつけるように首を高く掲げ、

大音声で宣言した。

 

「妖怪ハサミ兎、討ち取ったのぉぉぉおおおっ!!!」

 

 直後、謎のアナウンスがパリ中に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

Nanoha wins

 

Flawless Victory

 

FATALITY

 

 

 

「「「「「モー○ルコンバットかよ?!」」」」」




まさかフランス編だけで5話も使う事に成るとは…
次からはもっと端折るべきか…?


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第45話  夏はやっ「パリ」、兎鍋!

さて、前々話から登場しているGIGN-FI5ですが、
ここでようやくアンジェラ以外の面子の正体が明かされます。
まあ、もう解ってるんでしょうけど…。


 パリを騒がせる妖怪ハサミ兎こと怪人シゾー。

フランス国防相イザベル・ライラックはパリ市警の協力の下、

陸軍と国家憲兵隊、更には諜報機関DGSEまで動員して罠を張り、

新型機「タイフーン」のお披露目会に乱入して来たシゾーを

パリ支社に閉じ込める。

 

 だが、シゾーは謎の人型ロボット「蒸気獣ポーン」の大群を呼び出して反撃。

フランス唯一のISチーム、GIGN-FI5が迎撃して壊滅させるが、

今度は兎型の専用ロボット「蒸気獣プレリュード」を呼び出し、

戦闘は一時膠着状態に。

 

 そこに乱入したのは我等が暴走核弾頭、高町なのは。

昼食をパァにされた怒りに任せて殴り込み、

逃げるシゾーを追って戦場は凱旋門前へ。

GIGN-FI5を差し置いて殆ど一人でプレリュードを八つ裂きにすると、

「兎鍋にしてやる!」の宣言通り

シゾーの首を脊椎ごと引きちぎってトドメを刺したのであった。

 

オオオオオッ、モンデューッ(オーマイゴッド)!!

暴走核弾頭め、何て事をしてくれたんだい!!!」

 

 突然叫び出したのは作戦の指揮を執っていた国防相イザベル・ライラック。

折角の作戦を全部なのはに台無しにされたショックで悶絶し、転げ回っていた。

 

「アイツの所為で、折角奴を生け捕りにして余罪を追及する筈が、

全部パァにされちまったよ!!」

 

「こ、国防相ーっ!!」

 

「グラン・マ?!お気を確かに!!」

 

 つられて部下達も大慌て。だが、彼女達に煩悶している暇は無かった。

 

「やあ。」

 

「「「「「ギャーッ!!」」」」」

 

 なのはがいきなり眼前にワープして来たのだ。しかもシゾーの首を持って。

 

「ヒイイイイ!!暴走核弾頭が目の前に!!」

 

「な、何だ!!何をする気だ!!!」

 

 戦慄する軍と国家憲兵一同。それを見据えてなのはの口から出た言葉は…

 

「そこのフランス軍…聞きたい事が有るの。」

 

「何だ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この辺りに生鮮食料品店は在るの?在るなら場所を教えて欲しいの!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「…………………………………………………………………?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの兎を鍋にして皆で食べるの!!だから、具材を調達したいの!!

知ってる人は教えて欲しいの!!!」

 

 なのはは首を引きちぎったシゾーを指して言葉を続けた。

兎鍋というのは例えでも何でもなく、本当に鍋にして食べる積りらしい。

 

「はぁ…それなら北に…って、ちょっと待てー!!」

 

「何なの?」

 

「あれを食うのか?!あれを食う気なのか?!!」

 

「止せって!絶対腹壊すぞ!!」

 

「いや、それ以前の問題かと…」

 

「ドンだけ食い意地張ってるんだこいつはーっ?!」

 

「もう狩猟肉(ジビエ)料理ってレベルじゃないぞ!!」

 

 そりゃ当然返ってくる反応はこんなのばかり。だが、なのはは本気だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

兎゛鍋゛食゛え゛よ゛!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!」」」」」

 

 なのはの容赦ない一喝がパリに響き渡った。

 

「折角兎狩りを果たしたのだから、狩った兎はきちんと食べるの!!

最初に捕まえた兎も、野生なら残さず食べるの!!!」

 

「ナンデ?!」

 

「今日の夕食なの!!」

 

「ちょ、おま…アタシ等は兎狩りをしてたんじゃねーんだぞ!!」

 

「「「そうだそうだー!!」」」「そんなに食べたいなら一人で食えー!!」

 

「Quelle?!」「「「「「ヒィ!!」」」」」

 

 なのははアームを遠隔部分展開し、

GIGN-FI5を引っ掴んでブンブン揺さぶった。

 

「それでも正義のヒロインなの?!!!

狩った獲物を食べないなんてケダモノ畜生にも劣る極悪人なの!!

何と言う極悪非道、これはもう鬼畜の所業なの!!」

 

「ち、ちが…ちょ、待て、待って!!」

 

「誰が正義のヒロインだ!!

確かに私達は国と市民の守護者だが、断じてアニメやゲームの…」

 

「違うの!!ネタは上がってるの!!国家憲兵隊治安介入部隊第5介入隊、否…

 

巴      里      華      撃      団      !

 

その通り、アンジェラ以外のGIGN-FI5の飛行隊員達はどう見ても

デビュー作が今年で発売15周年を迎える彼の巴里華撃団そっくりだったのだ。

だが、どうも様子がおかしい。

 

「「「「「……………………はぁ?」」」」」

 

 例によってこの反応である。その光景は以前、帝国華…ではなく、

ICPO-ICDのIS飛行隊と繰り広げたやりとりと全く同じだった。

 

「えーと、それって…私達の事…でいいんですか?」

 

「如何にも!」

 

「ぱりかげきだんって…何?」

 

「貴方達のチーム名は巴里華撃団なのでしょう?!!

それ以外の何でもないの!!」

 

「いやいやいや、ちょっと待てよ!!勝手に変なチーム名つけんなよ!!」

 

「却下!!それ以上の言い逃れは許さないの!!!

文句を言うと、この場で名前を言い当ててやるの!!」

 

「「「「「え゛?!」」」」」

 

 なのはは以前ICDのIS飛行隊員にした様に、

隊員を左端から順番に指差して、名前を読み上げ始めた。

 

「先祖はヴァイキングなのにタコ嫌い、メイドの数は88人!!

黒猫1こと斧使いのグリシーヌ・ブルーメール!!」

 

「違うぞ!先月に2人結婚して退職したから…あ、あれ?

来月新しく2人入るから…ギャーッ、合ってる!!」

 

 

「パリジェンヌなら偶にはプリンじゃなくてブラマンジェも食べるの!!

黒猫2こと機銃使いのエリカ・フォンティーヌ!!」

 

「えー!!プリン美味しいのにー!!」

 

 

「いい加減、その眼鏡のヒビを直して貰ったらどうなの?!

黒猫3こと、パイロキネシストのロべリア・カルリー二!!」

 

「あ、テメェ!アタシの最大の秘密を何処で知りやがった?!」

 

 

「先祖に喋る白い犬が居るんでしょ?!

黒猫4こと、弓使いの北大路花火!!」

 

「えっと、あれは確か白戸家だったような気がするんですが…」

 

 と言う訳で、次々とGIGN-FI5の隊員の名前を言い当てるなのは。

 

「な、何て奴だ…何で我々の名前とプライベートを知っているんだ?!」

 

「えーと、ひょっとして…す、すと…」

 

「ストーカーの事か?ああ、有り得るな。何たって雇い主がアレだからな…。」

 

 だが、何か忘れていないだろうか?

 

「ちょっとぉぉぉおおお!!何でアタシを無視すんのよ!!」

 

 その通り、最後の一人であるアンジェラがほったらかしだった。

 

「あ、いたの?」

 

「いたのじゃなーい!アタシこそGIGN-FI5の隊長で、

フランス国家代表のアンジェラ・バルザックなのよ!!何で無視するのよ!!」

 

「……………………。」

 

 なのははいたたまれなさそうな表情をすると、アンジェラに背を向けた。

 

「無視すんなァーッ!!チックショー!!隊長なのに、国家代表なのにー!!」

 

「お、落ち着いて黒猫0!!下手に刺激するとこっちが攻撃されるから!!」

 

「くぎゅぅうううううううううううううううううううううううううーっ!!!」

 

 とことんパッとしないアンジェラであった。

 

「はぁ…それで、一緒に食べる気になったの?!」

 

「「「「「なるかーっ!!」」」」」

 

「あ~ん?(シゾーの首を掲げる)」

 

「わああああ!!ちょ、止めて!!一々見せんでいい!!」

 

「これでもまだ逃げるの?!!大人しく一緒に食べるの、巴里華撃団!!」

 

「「「「「イィーーーーーーーーーーヤァーーーーーーーーー!!!」」」」」

 

「こ、国防相?!国防相からも何とか言ってやって

(イザベルの方を向く)…っていない?!!」

 

 見ると、イザベル一行は装甲車の群れでさっさと逃げ出していた。

 

「「「「「さよ~ならぁ~…」」」」」

 

「グラン・マァァァ!!逃げないでぇぇええ!!」

 

「逃がさないの!」

 

 すかさずなのはが残ったアームを遠隔部分展開し、逃げるイザベルを掴んだ。

 

「ギャーッ、捕まったぁ!HA☆NA☆SE!!」

 

「却下!!今回の作戦の責任者は逃がさないの!!

と言う訳で今夜の夕食は兎鍋なの!!早速食材を調達するの!!!」

 

「「「「「「そんなぁぁぁあああああああーーーーーーーっ!!!」」」」」」

 

 おお哀れ、巴里華撃団…ではなくGIGN-FI5とイザベル、

ついでにパリ支社の社員とシャルも諸共巻き添えで

なのはお手製シゾーの兎鍋を食わされる羽目になったのであった。

 

「兎鍋かぁ…私、兎って食べた事無いからちょっと楽しみかも…」

 

「おいいいいい?!エリカ…じゃなくて黒猫2!!

落ち着け!!あれは兎の様で兎じゃないんだぞ!!目を覚ませー!!」

 

 

 その日の夜…

 

「もぐもぐ…これなの!これが食べたかったの!!

でもキムチが無かったのが残念なの!!あればキムチチゲに出来たのに!!」

 

 なのはは哀れな生贄達と一緒にシゾーの兎鍋を食べていた。

 

「なのはさん…何でこんな暑い日に鍋なんですか?せめてムニエルに…」

 

「却下!!私が兎鍋を食べてみたかったの!!ポン酢で頂くのがイケるの!!」

 

「酷過ぎる!ってか、あそこにいるのって、うちの国の国防相ですよね…?」

 

「そうなの!兎狩り作戦の総責任者には狩りの結果と向き合って貰ったの!!」

 

 シャルの指したところには、確かにイザベルとGIGN-FI5がいた。

 

「ううっ、何で大臣になってまでアタシがこんな目に…

ちゃんと食べられる料理になってるのが逆に腹立たしい!」

 

「何故だ…何故あの怪人の肉からこのレベルの鍋料理が作れる…!」

 

「アイツの料理の腕前が優れているのか…

はたまたこれが東洋の神秘なのか?」

 

「これが、兎鍋…?兎って、こんな味なんですね!」

 

「ちょ、喜んでどうすんの?!確かに普通に食べられるけど…」

 

 フランスの狩猟肉(ジビエ)料理には兎肉も存在する。

その為、このメンツにも兎肉を食した事のある者がいた。

彼女達はなのはが拵えた兎鍋が真面な鍋料理になっている事に驚き呆れていた。

特に兎料理初体験の黒猫2ことエリカ・フォンティーヌに至っては、

普通に兎鍋を喜んでいた。元がアレなのに…

 

「とはいっても、これだけの人数が居ても1食ではとても食べきれないの!!

………よし、明日の朝食も兎肉でいくの!!!」

 

「あ、いいですねそれ!!」

 

「「「「「阿呆かーッ!!!!」」」」」

 

 これにて、一件落着…なのか…?

 

 

 

 翌日…

 

「大変有意義な2泊3日だったの!!今度はワインの季節にまた伺うの!!」

 

「「「「「二度と来んなぁーっ!!!」」」」」

 

「⌒*(◎谷◎)*⌒あ゛あ゛?!」

 

「「「「「ヒィ!是非またいらして下さい!」」」」」

 

 こうしてエリカ以外の巴里華…ではなく、GIGN-FI5とイザベルの

在り難いお礼の言葉と共になのははパリを後にし、

次の目的地ロンドンへと向かったのであった。




まさか、巴里華撃団の顔見せだけで3話も使ってしまうとは…
尚、アンジェラ=サンは歳の都合で当分出られないであろう
ベトナムのあの娘の代役です。
やっぱり、残りの国はもっと描写をあっさりさせるべきなのかな…


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第46話  悪魔のお料理in英国

さて、今度は英国編。いよいよ例の奴等が活動を始めようとしています。
そして、世界最悪の悪食帝国と言われ続けるこの国でなのはのできる事は何か…?


 さて、フランスで兎狩りを満喫したなのはは英仏海峡トンネルを経て

次の訪問先、英国に着いたのだが…。

 

「じ~………。」

 

 ヤマトが前方の何かを凝視していた。その視線の先には…

 

「ここも警察と軍だらけなの…」

 

 なぜか駅中には首都警察(スコットランド・ヤード)と英軍特殊部隊、特殊空挺部隊(SAS)がうようよ。

一体何があったのか?事の発端は、1週間前に遡る。

英国の指定IS開発企業、BAEシステムズのIS試験場でそれは起こった。

 

 

 

 

 

 

「6-Dエリアに侵入者在り!迎撃せよ!!

繰り返す、6-Dエリアに侵入者在り!迎撃せよ!!」

 

 侵入者を告げるアナウンスが試験場格納庫の暗闇に響き渡る。

その中を歩く1人の影、アナウンスが告げる侵入者だ。

だが、その侵入者の出で立ちは極めて異様であった。

 

 背丈は160cmにも満たず、前髪で目元を隠している。

推定される年の頃は恐らく中学生位、性別は女だろう。

その服装も特異で、上半身はケープですっぽりと覆い、

隙間からはISスーツが覗いている。

下半身はスカート、ズボンの類は身に着けておらず、

サイハイブーツだけを履いていた。一体、何を狙って忍び込んだのだろう?

 

「侵入者発見!!侵入者発見!!!」

 

 警備の英陸軍1個分隊が侵入者の少女を見つけた。

この試験場はISを扱うという特殊性から、警備担当者には英国政府から、

侵入者に対して無警告で実弾射撃をする許可が与えられていた。

そのため、兵達は迷わず少女に銃撃を仕掛けた。のだが…

 

「面倒だな…殺さないと言うのはッ!!」

 

 少女はひらりひらりと銃撃を躱して間合いを詰めていく。

そして、ハイジャンプで飛び掛かると二挺拳銃で反撃。

銃弾は全て命中し、警備兵を打ち倒した。

 

 だが、兵達はまだ生きていた。銃弾が急所を外れていたからだ。

いや、外れたのではない。外したのだ。この少女はわざとその様に撃ったのだ。

残った兵達はしぶとく反撃するが、こちらもハイジャンプで後ろに回り込み、

銃撃と蹴り技であっという間に打ち倒し、数秒で警備兵一個分隊を沈黙させた。

 

「フンっ…む?」

 

 だが、これで終わりではなかった。

少女が振り返ると、そこには4機のR・リヴァイヴ。

メンテナンスの為に試験場にいたSASのIS小隊が

警報を聞きつけて格納庫に駆けつけたのだ。

 

「SASだ、武器を捨てて両手を上げろ!!」

 

 一斉に機銃を少女に向けて勧告する。

すると少女は口元を歪め、視線を逸らす。つられた隊員が視線の先を追うと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハー!!隙だらけだぜ、SASさんよぉ!!」

 

 8本の脚を持つ異形の何かが空中から強襲。見ると脚先には銃口が。

 

「何、仲間だと?!」

 

 SASの隊員が機銃を構え直す暇も与えず、異形の何かは脚先から銃撃。

R・リヴァイヴは機銃を破壊され、無力化された。

 

「しまっ…」

 

「おっと、これで終わりじゃねえぜ!!!」

 

 追撃とばかりに、両腕から謎の糸が放たれ、R・リヴァイヴを絡め取る。

 

「な、これは…エネルギーワイヤー?!まさか…『アラクネ』か?!」

 

 アラクネ、それは米国製の第2世代ISの1機である。

数年前に試作され、表向きは開発終了後に解体された事になっていたが…

今SAS隊員の目の前にあるのは、紛う事なきアラクネそのものであった。

 

「くっ、貴様等、何を狙ってここに…!」

 

「知れた事、この格納庫の奥に眠るIS、サイレント・ゼフィルス

(以下、S・ゼフィルス)を…奪いに来た!!」

 

 S・ゼフィルスとは英国製第3世代機の1機である。

その基礎データはセシリアの専用機B・ティアーズの物が使用されているが、

B・ティアーズのビットが攻撃のみ可能なのに対し、

本機は防御にも使用可能なシールドビットを試験的に搭載した、

所謂上位互換機である。

 

「何ッ?!まさかこいつ等…亡国機業(ファントム・タスク)か?!」

 

「おっと、それ以上は命に関わるぜ!!」

 

 アラクネ操縦者はカタールを抜いて、隊員の喉元に突きつけた。

 

「殺すなよオータム。我等はS・ゼフィルス以外に用は無いからな。」

 

「けっ、一々指図するなよエム。」

 

「フン…では先に行く。そいつらの見張りは任せた。」

 

「あ、おい、待て!」

 

 オータムと呼ばれたアラクネ操縦者の声も聞かず、

エムと呼ばれた少女は奥へと走っていく。

数分後、何かを破壊する轟音と共に1機のISが試験場から飛び去り、

その後に続いてアラクネも試験場を後にした。

 

 数分後、通報を受けた英軍と

英国代表操縦者のナナミ・タカツキが駆けつけた時には、

格納庫最奥のS・ゼフィルスは奪われ、後には破壊された天井と

エネルギーワイヤーでぐるぐる巻きにされたSASのIS隊、

そして負傷した警備兵が転がっていたという。

 

 

 

 

 

「と、そう言う事が有ったそうなので、英国は現在厳戒態勢中なのですわ。」

 

 出迎え役のセシリアからの説明で事情を悟ったなのは。

 

「そういう事だったの…アリバイがあって良かったの!何せその時私は…」

 

 その日は奇しくも夏休み初日。

なのはは日本に近接戦至上主義を植え付けようとしていた

某国の回し者を締め上げていた真っ最中だった。

つまり、どう考えても現場には居ない。

 

「そういう訳だから、どう考えても

私に疑いの目が向けられる余地は無いと言う事なの!!でも、その割には…」

 

 なぜか周囲の視線が2人に集中する。原因は、もう言うまでもないだろう。

 

「と、と言う訳で…これから我がオルコット邸に御招待いたしますわ!

…と言いたいのですが、本当に送迎は不要ですの?

言われた通り、独りでお迎えに上がりましたけど…」

 

「無論なの!私にはこれが有るから…」「いえーす。」

 

「ああ、そう言えば、ヤマトってワープ能力もちでしたっけ…。」

 

「そういう事なの…では、いざオルコット邸へ!」

 

 かくして、なのははセシリア共々オルコット邸へとワープしていった。

 

 

 そして、その頃のオルコット邸の一室では…

 

「さて、どうしましょう?」

 

 オルコット邸では、同家の筆頭侍女でセシリアの幼馴染でもある

チェルシー・ブランケットが今日の料理担当者と相談をしていた。

 

「この中に日本料理の出来る方はおりませんよね…」

 

 皆コクコクと頷いていた。相談の内容は至ってシンプルだ。

「なのはにどんな料理を出すか?」この一点だ。

何しろ英国と言えば世界最悪の悪食帝国と名高い。

食文化で圧倒的に優る日本からの凶暴無比なゲストを

満足させ得る料理を出せるのか極めて疑わしかった。

 

「お嬢様の話では、ミス・タカマチは暴走核弾頭と称される程気性の激しい方…

もしも不手際があって彼女の怒りを買うような事に成ったら…」

 

 間違いなくオルコット邸は全壊、巻き添えでロンドンは火の海と化すだろう。

 

「我等の失態で英国を破滅させる訳には参りません、

何とかして、彼女を納得させ得る献立を考えませんと…」

 

 所が、その答えは思わぬ所からやって来た。

 

「じ~…。」

 

 作戦会議中の一同をじっと凝視する小さい影、待機状態のヤマトだ。

 

「え、えーと…ヤマト、さん…?」

 

 チェルシーが初対面のヤマトを知っているのは、

家主のセシリアから事前に知らされていたのは言うまでもない。

 

「やまとはきいてたの、きょうのこんだてのそうだんをしてるの?」

 

「ええ、まあ、そうですけど…」

 

「それなら、いいほうほうがあるの!…なのはがじぶんでつくればいいの!!」

 

「「「「「…………………………………ハッ、その手があったか!!」」」」」

 

 これは妙手だ。何故ならこれで失敗しても責任は作ったなのはにある。

オルコット家には何の責任もないのだから、

損害を被る可能性は限りなく0に近い。

 

「確かに…それなら、こちらが文句を言われる可能性はないですね。」

 

「そうでしょ?それじゃ、なのはにせつめいするの。」

 

「アッハイ…」

 

 と言う訳で、なのはに事情を説明する事に。

 

「ふむふむ、私を納得させられそうな献立が作れないから、

食材提供するので作るのは自分で…と言いたいの?」

 

「そうなの。まずめしにあたるよりはましなの。」

 

「でも、仮にも上流階級なら良い物食べてそうな気がするの!」

 

「…宜しいのですか?

英国で上流階級が食べる物と言えば、仏料理が主流なんですけど…。」

 

「………………。」←今朝までフランスにいた。

 

「お分かり頂けましたか?」

 

「致し方なし、それじゃ食材を見せて欲しいの!」

 

「では、こちらへどうぞ。」

 

 そして、オルコット邸の食糧庫を案内してもらう事に。

 

「うーん、やっぱり名家だけあって食材は立派なの!」

 

「は、はぁ…そう言って頂けると、在り難いのですが…」

 

 そして、数分掛けて食糧庫を調べ回った結果…

 

「大体目途は立ったの!でも、私が予定している献立に足りない食材が有るの!

その分を調達するので、それまで待ってて欲しいの!!」

 

「……そうですか。それは失礼致しました。お嬢様にもその様に伝えます。」

 

「では、行ってくるの!!」

 

 その後、オルコット邸キッチンにて…

 

「待たせたの!!早速料理するの!!」

 

 食材の調達を終えたなのは。早速、調理開始だ。

 

「全く、まともな下処理が出来てないの!!いくら内臓を使う料理だからって、

アンモニアの臭みの残る様な手抜きは論外なの!!」

 

 早速難癖をつけるなのは。だが向こうではこれが良いという意見もある。

この辺りは日本人と欧州人の食への考え方の違いなので、

余り気にすると碌な事にならない。

 

「きっちり塩コショウで下味を付けて…よし、こいつはこれで良いとして…

にしても、土用の丑じゃないけど、活きの良いウナギが手に入ったの!!

これなら、あれが出来るの!!ふっふっふ…」

 

 早速ウナギを捌いていくなのは。

 

「ウナギの血は有毒だから、血抜きをきっちりしておかないと…

ヤマト、醤油ダレはどう?」

 

「こんなかんじだよー!」

 

「ぺろり…まあこんな所なの!!

英国くんだりでも醤油があったのは大きかったの!!

危うく白焼きのままで出すところだったの!!

炭火は…オーブンで代用できるかな…

ヤマト、焼くのは任せるの!!でもその前に…」

 

 なのはの周囲にヤマトのアームが、その手には野菜包丁。

 

 トトトトトトトトン、トトトトトトトトン、トトトトトトトトン…

 

 なのは自身の手と、ヤマトのアームまで動員しての野菜のみじん切りだ。

 

「(玉ねぎは1人でやるとガスがきついけど、冷凍庫で冷やせば安全なの!!)

ヤマト、鍋はどうなった?」

 

「おゆならわいてるよ!」

 

「よしよし…

英国だから炊飯器がないのは覚悟の上だけど、何とかなりそうなの!!」

 

 調理は順調に進んでいる様だ。そしてその様子を物陰から覗く者達がいた。

チェルシー率いるオルコット家の従者達に加え、

家主であるセシリア自身も何を食べさせられるのかが気になり、

こっそり覗いているのだ。

なのは調理作業ぶりを見てそれぞれの反応は…

 

「(な、何て勿体ない事を!あの臭みが内臓料理の醍醐味なのに~。)」

 

「(玉ねぎを凍らせるのかと思ったが、5分くらいで出してたな…

一体何をしたかったんだ?)」

 

「(ウナギを背中から切り開いていたな、何を作る気なんだ…)」

 

 御付きの料理人達は自分達とは全く違う日本人の食材の扱い方に驚き…

 

「(皆、くれぐれも声を立てないで下さいね。

機嫌を損ねたら何をしでかすか解りませんよ…!)」

 

 チェルシーはそんな従者達の動向に気を配る。

 

「(な、なのはさんって、お料理も出来たんですの?!)」

 

「(お嬢様……。)」

 

 セシリア自身、花嫁修業の一環として自らキッチンに立つことはあるが、

彼女の料理の腕前は以前記した通りだ。

対するなのはは今の一夏達の年には既に就職して1人で家事をこなしていた上、

元々実家を継ぐのが夢だったので、就職して以降も料理は勉強している。

セシリアの様なポイズンクッカーとは手際が全く違っていた。

 

「たけたよー!でもしゃもじがないよー!!」

 

「What?!えーと、何か代用できるのは…」

 

「「「「「(大丈夫かなぁ…)」」」」」

 

 そして、なのはが用意したのは…

 

「遂に完成なの!!」

 

「まあ、それは楽しみですわ!!早速頂きましょう!!!」




なのはは何を作ったのだろうか?


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第47話  ハギスは嫌"い"な"の"です!!

 そして、なのはが用意したのは…

 

「まずは英国名物、フィッシュ&チップスなの!!」

 

 まずなのはが出してきたのは英国が誇るファースト・フード、

フィッシュ&チップスだ。

 

「な、何と言うか…庶民的な所から攻めてきましたわね…。」

 

 貴族の家に生まれたセシリア、

実はフィッシュ&チップスはこれが初めてだったりする。

そして、なのはもフィッシュ&チップスを作るのはこれが初めてである。

 

「私は英国に行ったら、一度はこれを食べてみたかったの!

でも、こっちで作ったのは信用ならないの!

こうして自分で作る機会を持てたのは渡りに船なの!

ソースはタルタルソースとケチャップソース、

更にバーベキューソースを用意したの!と言う訳で熱い内に早速頂くの!!」

 

「は、はぁ…では頂きます…。」

 

 セシリアは早速一口。すると…

 

「こ、これは…!実に素晴らしいですわ!!」

 

 どうやら気に入って貰えた様だ。

 

「それは何よりなの!!色々ソースを変えて試してみるの!!」

 

「実にサクサクに仕上がってますわ!初めてでこれとは……」

 

 チェルシー率いるオルコット家の従者達も好評の様だ。

 

「普通のフィッシュ&チップスは生地に苦みと食感を追加するため

ビールを加えるらしいけど、

私はビールが好きじゃないから日本製の調理酒で代用したの!!」

 

「調理酒…ですか?それって、我々が同じ物を作る場合、

日本から態々取り寄せが必要になると…」

 

「そういう事になるの!!アルコール度数が高いから水分がより多く飛んで、

衣のサックリ感が上がるの!!」

 

「な、成程…」

(いつか役に立つかもしれないので、これはメモしておきましょう…。)

 

「所でなのはさん、なのはさんがフライに掛けているそれは何ですの?」

 

「おろし醤油なの!!

すりおろした大根のペーストとソイソースを一緒に掛けるの!!」

 

「大根のペースト…そういうのも有るのですか…。」

 

「所でなのはさん…チップスがやけに塩辛いのは…?」

 

「塩で事前に味付けしておいたの!…そんなにキツイかなぁ?

これにバーベキューソースを付けて食べるのが、私の好みなの!!」

 

「そ、それは何と言うか…随分と…スパイシーな食べ方ですわね…。」

 

「そうなの?マクドナルドで慣れてるから大して疑問に思わなかったけど…

ああ、そうか、行った事無いよね?マクドナルド。」

 

「ええ、まあ…。」

 

 和食は欧州料理と比較して塩気が多いと言われている。

故に、その味に慣れたなのはの味付けは英国人には濃いめと思われた様だ。

 

「日本人基準での味付けは向こうでは濃すぎる…か。

今度やるときはもう少し薄めにするか…。

さて、次はステーキ&キドニーパイなの!!」

 

 次になのはが出してきたのは、

伝説の推理小説「シャーロック・ホームズ」シリーズでお馴染み、

あのジェームズ・モリアーティ教授の好物として有名な

牛肉と牛の腎臓を用いたパイである。

腎臓の下処理がなってないとアンモニア臭がキツイので

よく不味いと言われるが、逆に言えば、下処理がきっちり出来ていれば…

 

「まぁ!今まで食べたどのパイよりも美味しく仕上がってますわ!!」

 

「腎臓の癖が全くなくなってる…

あのやり過ぎな程に徹底していた腎臓の下処理はこういう事だったのですね…」

 

「ここまでやって、初めてまともなパイになると言う事か…。」

 

「内臓はきっちり洗ってこそなの!!アンモニア臭のする様な物を出すから、

イギリスは悪食帝国なんて呼ばれるの!!良く覚えておくの!!」

 

「は、はぁ…(でも、このパイも味付けは濃い目なんだな。)」

 

「さて、本日のメインディッシュなの!!出でよ、ローストビーフ丼!!」

 

「「「「「ろ、ローストビーフ丼?!」」」」」

 

 なのはのいた方の日本では昨今大流行中のローストビーフ丼。

それは、早くも米が恋しくなったなのはの願望が生み出した産物だった。

 

「ヒイ!!牛肉が米の上に山盛りに!!!」

 

 山の様にと言うのは例えではない。

なのは製のローストビーフ丼は牛肉が富士山の形に盛られていたのだ。

傍から見れば生焼けの牛丼だが、

ローストビーフは赤みが残るのが最上とされているので、これで問題は無い。

 

「牛肉の赤の中に白いワンポイントとして

西洋わさび入りのヨーグルトソースをあしらったの!

それと、追加のグレイビーソースを用意したの!!

これは日本ではツユダクと言って、

ソースをわざと多くかけて米まで浸透させる牛丼ではよく見られる技法なの!!

試したい人はやってみるの!!」

 

「わ、わざわざご丁寧にどうも…」

 

「本当はもう一つアクセントとして、天辺に生卵を載せるはずだったけど、

まともに使えそうな生卵が無かったの!嘆かわしいの!!」

 

「な、生卵って…」「うわぁ…」

 

 当然だ。英国に生卵を食べる習慣は無い。あるのは日本くらいのものだろう。

 

「それと、セシリアのは特別製で、肉は全てエンドカット

(ローストビーフの両端、最も味が染みている貴重な箇所)で統一したの!」

 

「まあ!そこまで気を遣って頂くなんて!!では早速頂きましょう!!」

 

 因みに、オルコット邸に箸は無いので皆スプーンで食べている。

 

「ローストビーフは英国でも外れの少ない料理ですけど、

この様に手を加えると、更に美味しく頂けますわね!!」

 

「炊飯器を使わないでお米を炊いたのは小学校の飯盒以来なの!!

上手くいって良かったの!!さて、間髪入れずに次のが来るの、これなの!!」

 

 次に出されたのは、悪名高い英国料理の中でも特にゲテモノの2品だった。

まず一つは…

 

「こ、これはまさかウナギのゼリー寄せ…」

 

 ご存知ウナギのゼリー寄せ。見ただけで食欲が失せる事請け合いの

英国料理の暗黒面の象徴。

実は独仏やイタリアにも同種の料理が有るのは内緒だったりする。

ただし、なのは製ウナギのゼリー寄せは何かが違っていた。

 

「あの…何か茶色いんですけど…」

 

「しかも、ウナギがぶつ切りじゃなくて開きに…」

 

「いかにも!それはウナギはウナギでも、ウナギの蒲焼のゼリー寄せなの!!」

 

「か、カバヤキ…?」

 

 まさかの蒲焼のゼリー寄せ。というか、これは最早蒲焼の煮凝りである。

 

「ま、まさかウナギのゼリー寄せにここまで大規模なアレンジを加えるとは…」

 

「こっちはウナギと向き合ってきた歴史が違うの!!

石器時代からウナギを食べていた民族の知恵と技術を駆使すれば、

ウナギのゼリー寄せでもここまで出来るの!!」

 

「せ、石器時代って…」

 

「 色 々 と お か し い 。」

 

「さあ食べるの!!感想は食べてから聞くの!!!」

 

 と言う訳で早速頂く一同、その感想は…

 

「こ、これはこれでよく出来ている…出来てはいるが…」

 

「確かに美味しいけど、ソイソースベースのタレと山椒の味しかしない…」

 

 なのはの行き過ぎたアレンジと、

欧州人の舌には濃い味付けから言葉に詰まる一同。全員の総意を表すなら、

「料理としてはよく出来ているが、ウナギのゼリー寄せではない。」

といった所か。

 

「……何か不評みたいだけど、文句位なら聞くの。」

 

「いえいえいえ!!和風のアレンジに不慣れなだけであって、

断じて美味しくないとか、その様な事はございませんわ!!」

 

「………疑わしいの。では次に行くの。それは…これなの!」

 

 さて、次である。食卓に並べられるのはソーセージ状の物体。

切ってみると、レバーのミンチに麦を混ぜたような何か。これは、まさか…

 

「スコットランドが産んだ伝説の逸品、ハギスなの!!」

 

「「「「「ギャーッ!で、出たー!!!」」」」」

 

 やっぱり予想通りだった。そのあまりの不気味な外観と味の所為で、

隣国の大統領から「あんなの食ってる連中は信用ならん」と言われ、

時の外相が「この料理に関しては尤もだ」と返答し、

本場のスコットランドですら不人気な事で有名なある意味名物料理、ハギス。

 

「な、何て物をチョイスしたのですか…?」

 

「幾らなんでも、よりによってこれを選ぶとは…」

 

 オルコット家の従者達もこれには絶句。そしてセシリアに至っては…

 

「あ、あ、あ…は、ハ…ハギ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハギスは嫌"い"な"の"です!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ青になっていきなり逃げ出すセシリア。

 

「え?ちょ、なんなの?」

 

「ハギスは嫌"い"な"の"です!!

 ハギスは嫌"い"な"の"です!!

ハ ギ ス は 嫌" い" な" の" で す ! ! !」

 

 部屋の隅に丸まって震え上がるセシリア。

どうやら、トラウマを刺激してしまったらしい。

 

「まさか、ヘンな地雷を踏んだのかな?」

 

 何はともあれ、とりあえず落ち着かせることに。

 

「……ヤマト。」

 

「はーい。」

 

 ヤマトは震えているセシリアにワープで近づくと…

 

「そぉい!」

 

「おうっ!」

 

 ヤマトはアームの一撃の下に意識を断ち切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数分後…

 

「…………ハッ!ワタクシは何を…?」

 

 目が覚めたら、そこは自室のベッドだった。

 

「お嬢様、お気づきになられましたか?」

 

「チェルシー…一体何があったのですか?」

 

「お嬢様はハギスをご覧になって、ショックで震え上がっておられました。

それを落ち着かせて、こうしてベッドまでお運びしたのです。」

 

「申し訳ないの…チョイスを誤ったの…」

 

「そうだったのですか…ワタクシは10年前、

お母様が作って下さったハギスに中って何日か入院した事が有りまして、

その時のトラウマが蘇ってしまったのです。」

 

「そう言う事だったの?」

 

 つまり、セシリアのメシマズは母キャサリンからの遺伝という事である。

素直に料理番に任せればよかったのに…

 

「ですが、ハギス自体は大変美味しかったですよ。」

 

「そうですか…ワタクシは遠慮致しますが…」

 

「⌒*(◎谷◎)*⌒」じ~…

 

「ヒィ!あ、在り難く頂かせて頂きます!!」

 

 その後、勇気を出して何とかハギスを完食したセシリアは

この時の出来事をこうコメントしていた。

 

「味は素晴らしかった…ですわ…」

 

 かくして、オルコット邸での晩餐は何とか終了した。

この時のなのはのレシピはチェルシーが記録し、

後にオルコット家の食卓を彩る事になる。

 

 

 そして2日後、英国観光を終えたなのはの次の目的地は、

ドイツ南部、バーデン=ヴュルテンベルク州の地方都市カルフ。

そこはラウラ率いる黒兎隊と、黒兎隊を指揮下に置く連邦軍特殊部隊、

特殊作戦コマンド旅団(KSK)の本拠地であった。




次回はドイツ編。果たして、黒兎隊の反応やいかに…?


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第48話  兎の巣穴へ

さて、今度はドイツ編です。
なのははラウラ率いる黒兎隊から基地への招待を受けたようですが…。


 英国での2泊3日の観光を追え、なのはは黒兎隊の本拠地がある

ドイツ南部の地方都市カルフに向かうべく、ミュンヘン空港に降り立った。

 

「さて、隊から迎えが来ている筈なの…。」

 

 ワープを使えばとっくに基地に入っているが、それだと不法侵入になる。

あくまで国家代表の挨拶回りとして行く以上、

合法的な手段での入国が必要なのだ。

等と言っているとラウラ達黒兎隊の出迎えが。

 

「お師様、ようこそドイツへ!」

 

「「「「「黒兎隊一同、お待ちしておりました!!」」」」」

 

 中隊長のラウラと副長のクラリッサ以下、隊の士官総出で出迎えである。

例の一件以来、なのはは黒兎隊の大恩人という扱いを受けているからだ。

勿論、連邦軍上層部にとってはかつての赤軍を超える超危険人物である。

 

「わざわざ総出で出迎えに?」

 

「如何にも!お師様の入国の報を受けて、黒兎隊士官一同、

装甲車で馳せ参じました!早速我等の本拠地、カルフ市へ参りましょう!!」

 

 かくして、一同はクラリッサが運転する特殊装甲車で

黒兎隊の本拠地があるカルフ市へと向かう。

 

 ここで、黒兎隊について簡単に説明する。

まず、黒兎隊という隊名は公式のものではない。

黒兎隊の書類上での正式な隊名は、

「ドイツ連邦陸軍 特殊作戦コマンド(KSK)旅団 第5コマンド中隊」である。

 

 隊員数は他のKSKコマンド中隊が総勢80名なのに対し、

黒兎隊は丁度100人と20人多い。

保有する3機のISのメンテナンスの為、

20人のIS整備小隊を指揮下に加えているからだ。

 

 その最大の特徴は、隊員は全員女だけで構成され、

左眼に疑似ハイパーセンサー「オーディンの瞳」を移植されている事だ。

その為隊員は普段カバー替わりにアイパッチをはめており、

それが隊の識別章でもある。

 

 そして、その本拠地は同隊を指揮下に置く連邦軍の特殊部隊、

特殊作戦コマンド(KSK)旅団の本拠地内に置かれている。

 

 

 一方その頃旧西ドイツ時代の首都、ボン市にあるドイツ国防省本庁では…

 

「暴走核弾頭が、遂にこのドイツに再び降り立った!」

 

 会議室の一つで、軍と国防省の大幹部が何事かを会議していた。

口火を切ったのは連邦陸軍の最高官、陸軍総監ベルホルト・グレゴール中将だ。

 

「忌々しい事だが、現在の連邦軍に奴が暴れ出した時に対処できる戦力は無い!

セルベリアは現在リハビリの最終段階だが、完全な復帰には半月かかるだろう。

第一、専用機の性能差は歴然だ。」

 

 世界ランク実質第2位の操縦者が

学生相手に蹂躙されるという大敗北を喫したのだ。

しかも、ICPO-ICDのIS隊が同伴していたにも関わらずである。

 

「学園にはあんな強者がいたのか?!」

 

「奴がいる限りIS学園には干渉できない!」

 

 あの一件がドイツ、いや欧州に与えた衝撃は大きかった。

 

「それだけならまだしも、今の奴は日本国家代表という地位まで獲得している。

下手に手出しすれば、防衛軍のIS隊同伴でベルリンどころか

ドイツ、いやEU全土を焦土にするまで暴れ回るんだろうな…」

 

 そう零したのはKSK旅団を管理下に置く

陸軍特殊作戦師団(DSO)の師団長、ラディ・イェーガー少将だ。

 

「やめろイェーガー、余計な事を言ったから想像してしまったではないか!!」

 

「へいへい、そう神経質になりなさんなって。」

 

「お前が能天気なだけだ!全く、今世紀生まれの若造はこれだから…!」

 

「おっと総監殿、生まれの文句は無しですぜ。

俺達はそんな話をしに来たんじゃない。話を戻しますがね…ガランドの話じゃ、

黒兎隊の奴等は暴走核弾頭とタバネ・シノノノに大恩を感じているらしく、

隊長のボーデヴィッヒ少佐が卒業したら、奴等は一斉に軍を辞めて

タバネ・シノノノの傭兵になるって噂がKSK中に流れているらしいですぜ。」

 

「何だと、何故もっと早く言わん!」

 

「確証が無いからに決まってるでしょう。これはあくまでも噂であって…。」

 

「国防省内にもそういう噂はあった。

奴等は軍法会議で無罪放免が決まった直後に何らかの密談をしていたと言う。

もしや国を裏切る算段をしていたのではとな。だが、今のではっきりしたな。

最早、奴等は裏切り者として扱うべきだろう。」

 

「成程成程。では仮に暴走核弾頭に手出しをしようものなら、

連中は向こうに寝返ると見るべきだろうな…。」

 

「暴走核弾頭との敵対路線をとり続ける限り、

黒兎隊は戦力として全くアテにならない所か、潜在的な敵という事か…。」

 

「すぐにでも始末したい所だが、今の我々にはどうする事も出来ん。

残念だが、しばらくは放置せざるを得んか…。」

 

 他の将軍や国防省高官達も、

自国にやって来たこの超危険物の扱いに頭を悩ませている様子だ。

 

「こうなったのも、全てはあのアリエノール・デュノアのせいだ!

あのフランス女の策に乗ったばかりに、我等が被った損害は甚大だ。

だが、『あのお方』は今の所あ奴を処罰するつもりはないらしい。」

 

「矢張りカネか…ドニエール家のカネは重要な活動資金だからな。」

 

「では陸軍総監、今回の我々は沈黙を保ち、

奴が出国するのを待つという事で良いのか?」

 

「いかにも。『アレ』が完成しない限り、我等は何も出来ませんな。

KSK旅団長のガランド准将と戦闘隊長のヴィルケ中佐には、

くれぐれも奴を刺激する真似をするなと再度伝えておきましょう。」

 

「致し方ない…だが、あの時の借りは必ず返すのだ!

これは連邦政府はおろか、あのお方の意向でもある、それを忘れるな。」

 

「よく心得ております。では本日はこれにて。」

 

 結局、今回の作戦会議の結論は

「沈黙を保って何もしない」という消極的な結論だった。

こうして、上層部の作戦会議は終了した。

 

 

 ドイツ南部 バーデン=ヴュルテンベルク州 カルフ市 

連邦陸軍 特殊作戦コマンド(KSK)旅団基地

 

「ここが我等黒兎隊を指揮下に置く連邦軍特殊部隊、KSK旅団の基地です!

我等はこの基地の中に本拠地を構え、日夜の鍛錬に勤しんでいます!」

 

「KSKか…旧自衛隊の特殊部隊『特殊作戦群』の創始者は、

かつてドイツに留学した際、この旅団で訓練を受けたと聞いた事が有るの!!」

(※実話です。)

 

「そういえば、なぜか日本人の写真が有りましたね。

あれはそう言う事だったんですか。」

 

「成程ねー。」

 

「所で一つ聞くけど…外国人の私が軍の、

それも特殊部隊の基地なんかに入って大丈夫なの?

ほら、私この前ベルリンで滅茶苦茶やらかしたから…」

 

「だ、大丈夫ですよ!ここに旅団長直筆の許可証が有りますので、

これを見せれば問題は有りません!」

 

「それに、お師様を国内へ入れる気が無くても、

連邦軍にお師様を止める手段はありませんから。

ブレス大佐は未だリハビリ中ですし、

もう一人の代表であるヴィルケ中佐も大佐程の腕は無い…

第一、お師様にそんな行為を働くなら、

我等黒兎隊は国を裏切ってお師様に味方します!!」

 

「そ、そうなんだ…。まあ、あの密約があるから当然だよね。」

 

 黒兎隊はあの一件の後、なのはと束と今後の方針を相談し合っている。

そこで決まったのは、

「ラウラが学園を卒業次第、黒兎隊は全員一斉に除隊して国籍も捨て、

束の下で私兵として活動する」という事だ。

一時の事とはいえ国に冤罪を着せられて捨て駒扱いされた以上、

水面下で見限るのは当然である。

こうして連邦軍人として活動するのも、あと2年半だ。

 

「所でお師様、教官はどの様な様子でした?」

 

「千冬先生は一夏君といちゃつくので忙しいみたいなの!!

とんだブラコンなの!!」

 

「そうですか…何やら良からぬ輩に良からぬ事を吹き込まれていたと聞いて

不安になりましたが、元気そうで何よりです。」

 

 一方その頃織斑姉弟は…

 

「いちかぁ~!いちかぁ~!!いちかぁ~!!!

もっとお姉ちゃんをかまってぇ!!!ってか、むしろ抱いてぇ!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!千冬姉が狂ったぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 教師と生徒の関係から解放され、

ブラコンが爆発した千冬が泥酔して一夏といけない事に及ぼうとしていた。

 

「勘弁してくれーっ!!俺達は血が繋がった姉弟なんだぞ!!

俺の知ってる千冬姉は弟に身体を許す女じゃないから!!

頼む、正気に戻ってくれ!!」

 

「断る!正気にて大業はならず、武士道はシグルイなり!!」

 

「ナンデ?!しかも武士道関係ないから!!誰かー、助けてー!!」

 

「さあ、観念してその身を姉に委ねるが良い!!」

 

「いーーーーーーやーーーーーーー!!」

 

 この後、どうなったかはここでは書き表せない。だがこの晩に限っては

一夏が超えてはならない一線を超えずに済んだ事だけは明記しておこう。

 

 

 

 

 

 KSK旅団本拠地 正門前

 

「……………おや?正門の奥に…」

 

 基地正門を入ってすぐ、そこにKSKの兵と2人の女が。

良く見ると、二人とも頭の上に獣の耳らしき物体が。

 

「あれは…!クラリッサ、車を停めろ!」

 

「はい!!」

 

 突然車を停止させるラウラ。

どうやらあの二人、身なりからしてこの基地でも高位の士官の様だ。

 

「どうしたの?」

 

「あの2人は私達の上官です。

右側の方がKSK旅団長のアドルフィーネ・ガランド准将。

左側が我々コマンド中隊を束ねる戦闘隊長のミーナ・D・ヴィルケ中佐です。

私達はこれからあのお二方へ報告に向かいますので、

お師様もここで下車して下さい。」

 

「解ったよ。(ヤマト、いつでも動けるように準備して。)」

 

「(無言で頷く)」

 

 旅団長直々に正門の前で出迎えるとは、余程重大な話があるらしい。

ラウラ達黒兎隊士官一同は2人の前に整列し、一斉に敬礼して現状を報告した。

 

「旅団長閣下に報告します!

ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐以下第5コマンド中隊士官一同、

こちらの日本国代表操縦者、

フロイライン(ミス)・ナノハ・タカマチの護送任務を終え、

只今帰投致しました!」

 

「ご苦労!後は私が直接話すので、お前達は下がって良い!」

 

「「「「「ヤー!」」」」」

 

 ガランドはラウラ達を下がらせると、ミーナ共々なのはの前に歩み寄る。

 

「さて…お初にお目にかかるな、フロイライン(ミス)・ナノハ・タカマチ。

私がKSK旅団長のアドルフィーネ・ガランド准将だ。

そして、こっちが我が国のもう一人の代表操縦者で

KSK戦闘隊長のミーナ・D・ヴィルケ中佐。

確か、中佐はパリで会ったと言っていたが…?」

 

「如何にも!!

ただし、邪魔な兎が割り込んだおかげで会話を交わした事は無いの!!」

 

「兎…?ああ、アレか。

だが、まさかアレを取って食らうとは、噂以上の人間離れだな。

前任者から聞いたチフユ・オリムラも常識を逸脱していたが、

彼女ですら敵わなかったのも頷ける。」

 

「当然なの!!でも、それも長くは続かないの!!

いずれ彼女とは、正式に決着を付ける時が来るの!!

モンド・グロッソをも超える史上最大のIS戦にするから、期待するの!!」

 

「左様か…では早速本題に入らせて貰う。

その前に聞くが、貴女は疑問に思った事は無いか?

『何故私の様な20代の若造が、1個旅団、

それも特殊部隊の長を任されているのか?』と。」

 

 考えてみればそうだ。なのはの元の職場では、

クロノ、カリムなど20代の将官は珍しくなかったが、

普通ならまずありえない年齢だ。

 

「大体予想は付くの!

千冬先生と同じで、元国家代表操縦者だったとか、そんな所なの!」

 

「如何にも。私は第1回モンド・グロッソ当時のドイツ代表だった。

ここにいるヴィルケ中佐に代表の座は譲っているが、

こうして1個旅団を任される今でもISの鍛錬には欠かさず参加している。

その上で申し上げるが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「畏れ多くも、暴走核弾頭!我等KSKは、貴女との一戦を希望する!!」




というわけで、親善試合を挑まれたなのはさん。果たして、無事に終わるのか…?

ここで、ストパンシリーズのファンの皆様に謝罪しなければいけない事が有ります。
ゲストキャラのミーネとアドルフィーネですが…















ちゃんとスカートを履いています。


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第49話  八つの道

 ラウラ率いる黒兎隊を指揮下に置くドイツ特殊部隊、

KSK旅団の基地に招待されたなのは。

基地に着くや、待ち構えていたKSK旅団長で先代国家代表操縦者の

アドルフィーネ・ガランド准将からKSK対なのはのIS戦を希望されたが…

 

「…………………………じ~。」

 

 何故かガランドをガン見するヤマト。

 

「何だ?別に仇討ちする訳では無くて、只の親善試合だ!……ホントだぞ?」

 

「…………………………じ~~。」

 

 それでもやっぱりガン見するヤマト。

 

「な、何が不満なんだ?」

 

「…………………………ほんとに?」

 

「ほ、本当だ!…ホントにホントだぞ?!」

 

「…………………………じ~~~。」

 

「……全然信用されてない…。」

 

 当然の結果である。

 

「まあ何でも良いの!!で、何対1なの?」

 

「い、いきなり多対1が前提なのか?まあ今までした事を考えれば当然だが…

それなら、我等は私とヴィルケ中佐、

そして黒兎隊の3機の総勢5機で挑む事とする。

これでKSKは、配備された全ISを動員する事になる。」

 

「5対1なの?…まあ、そのくらいなら…」

 

「そうか…なら、早速操縦者に支度をさせる。

準備出来次第黒兎隊の者が呼びに来るので、それまで別室で待機願おう。」

 

「承知したの!!…ああ、そうだ!!」

 

「どうした?」

 

「先日のタイフーンのお披露目会、

闖入者の所為で発表し損ねたタイフーン専用装備が有るの!!

丁度ヤマトが同じ物を持っているから、

私はハンデとしてその専用装備のみで戦うの!!」

 

「タイフーンの専用装備…?」

 

「それは、我がドイツのAIC、

英国のBT兵器に相当する物と解釈して良いのですね?」

(やった!遂に喋れた!!)

 

「勿論なの!!第5世代の武装だと、

どう頑張っても只の集団いじめられにしかならないから、

私は敢えて、このハンデを付けて戦う事にするの!!」

 

「左様か…。では、その様に。」

(こちらが何も言っていないのに、勝手にハンデをくれた…?)

 

「(余裕なのか、はたまた自身の装備を

間近で見せる気は無いと言う機密保持の為か…。

何にせよ、私達を新兵器の実験台にされては叶わないわ、

ここはKSKの力を見せないと!)」

 

 何はともあれ、KSK対なのはの5対1ハンデ戦の準備は着々と進む…。

 

 

 

「まさかお師様と戦う事になるとは…准将は何を考えておられるのだろうか。」

 

 こちらは数の上でKSK側の主力となる黒兎隊。ラウラとクラリッサ、

そしてもう一人の操縦者が準備中だった。

 

「我が国最強の『青い魔女』が手も足も出なかった強者…

我等だけで勝てるのでしょうか?」

 

「解らん。そもそも戦いになるかどうかすら怪しいな。

何しろあの織斑教官が一撃で倒された空前絶後の怪物だ。」

 

「! あのブリュンヒルデが一撃で?!」

 

「そうだ、教官の額にはその時の傷が残っている。」

 

「…………………。」

 

「彼女は一体どのように戦うのでしょうか?」

 

「『相手が動く前に行動を封じ、全火力で一気になぎ倒す』のが基本だな。

お師様のヤマトは遠隔部分展開と言って、

機体の一部を視界のどこにでも展開する事が出来る。

その上でアームを展開して標的を掴み、装備した無数の重火器で吹き飛ばす。

それが必勝パターンだ。」

 

「………! それは、距離という概念を完全に破壊する能力では?」

 

「そうだ。AICも効かんぞ、何しろお師様はテレポートの使い手だ。

通常移動の遅さをこの力で完全に打ち消してしまっている。」

 

「て、テレポート!」

 

「それ、もうISの定義から外れてませんか?」

 

「そうかもな。ISの母、ドクトル・シノノノ直々の次世代機。

火力、装甲、速力どれもこれも既存のISを骨董品に貶める、

現時点で間違いなく最強のISだろう。」

 

「……もう、暴走核弾頭という言葉では足りませんよね?」

 

「だろうな…。」

(ハンデ戦で全火器を封じるらしいが、果たして、何をしてくるのだろうか?)

 

 

 

 

 そしてIS訓練場にKSK側の5機が集結した。

かつてセルベリアと戦った時とは違い、今回は双方量産機が1機も無い。

まず、数の上での主力となる黒兎隊は

3機とも第3世代機のシュヴァルツェア・シリーズ。

 

 その内訳は、ラウラはお馴染みの専用機S・レーゲン。

副長のクラリッサは2号機の「S・ツヴァイク(黒い枝)」。

3人目の操縦者は3号機の「S・ドラッヘ(黒い竜)」。

 

 そしてKSK大幹部の2人はセルベリアと同じ第2世代のブラウ・シリーズだ。

ガランド専用機は「ブラウ・マウス(青い鼠)(以下、B・マウス)」。

ミーナ専用機は「ブラウ・フュルスティン(青い女公爵)

(以下、B・フュルスティン)。

 

 機体こそ古いが、操縦者は先代代表と現役代表。

性能の不足は、技量の面でカバー出来るだろう。

 

 

 

 

 一方、なのはだが…

 

「ヤマト、『アレ』の準備は?」

 

「ばっちりなの。どこもいじょうはないの。」

 

「ならばよし…、後は向こうの準備を待つか…。」

 

 そして、KSK側の準備ができたらしく、呼び出しが来た。

 

「遂に来たか…さて、行くか。」

 

 そして、なのはも訓練場に。

宣言通り、展開しているのはヤマトの本体のみで、武装は全て未展開だ。

 

「(あれが暴走核弾頭の機体『ヤマト』か…。

3つの顔と8本の腕…まるでブディズムの『ホトケ』だな。

本来なら、これに銃火器が展開されるのだろうな。

見てみたいが、相手にはしたくないな。)」

 

 視認したヤマトを見て仏像を思い浮かべるガランド。

 

「(寧ろ、あの異形はインド…ヒンドゥー教の様な…?)」

 

 一方、ミーナはヒンドゥー教の神を連想したらしい。

 

「さて、例のフランス製第3世代機の専用装備のみ使用すると言っていたな?

その専用装備はどう言う物だ?」

 

「これが、それなの!」

 

 なのはが取り出したのは、長さ1m超のバトン。

 

「これぞタイフーン専用第3世代装備、HR兵器なの!」

 

「HR兵器…?」

 

「近接武器?…いや、それにしても刃がない…あるいは光学式なのか?」

 

「一体、どうやって使うのだろう…」

 

 KSK側は、この新兵器がどう使われるのか全く予想がついていない様だ。

 

『では、これより5対1のハンデマッチを開始します!!』

 

 訓練場にアナウンスが鳴り響き、KSK側は一斉に身構えた。

対するなのはは、追加アームも全て量子変換して格納し、

HRをアームの上でルーレットの針の如く回転させている。

安全の為、モニター越しに観戦しているKSKの兵も緊張の面持ちだ。

 

「暴走核弾頭、ナノハ・タカマチ…。

ISの母、タバネ・シノノノの側近にして専属操縦者であり、

その意思を最も忠実に実行する者。

同時に我が同期、セルベリアを痛めつけた仇であり、

部下を冤罪から救った恩人でもある。

我等KSKに恨みも恩もある

この『偉大なテロリスト』に今後我等がどう向き合うか、

この一戦で少しでもヒントが得られれば良いが…」

 

「偉大なテロリスト。」

ガランドの言葉は、連邦軍にとってのなのはがどういう存在かよく表していた。

超一級の国際テロリストに仕える身であり、

かつて部下が教えを受けたあのブリュンヒルデを一撃で負かす程の操縦者。

同じISの名を冠する中東の某組織も一蹴しうるこの真の怪物に、

果たして、つけ入る隙はあるのか?

 

『3…2…1…始め!!』

 

 そして試合開始のコールが響いた瞬間、KSK側は全機が一斉に後退し、

散開しながら攻撃を開始した。

 

 シュヴァルツェアシリーズは

レーゲンとツヴァイクが88mmレールカノンを斉射。

ドラッヘは後方へ下がり、砲戦装備パンツァー・カノニーアを展開して

後ろから20mmレールカノン「ブリッツ」を連射する。

 

 一方ブラウシリーズは上空を抑えながら両手剣(ツヴァイヘンダー)兼用の

30mmリヴォルヴァーカノン「ボルトカノーネ30」を連射。

相手の武器が近接戦用と推定して、間合いを取って銃撃戦を仕掛けたが…

 

「周囲を警戒しろ!!特に後ろだ!!隙を見せると回り込まれるぞ!!」

 

 ガランドの指示通り、KSK側が最も恐れていたのは、

セルベリア戦で見せたヤマトワープでの背後への回り込みだ。

いくらハイパーセンサーで後ろが見えるとはいえ、

大抵のISは振り返らなければまともな反撃ができない。

 

 ではどうするか?背中合わせになれば良いのだ。と言う訳でガランドとミーネ、

そして黒兎隊の3機は背中合わせになって固まり、

全方位を警戒しながら射撃を続ける。

 

「ヤマトに動く気配無し…こっちに対処できなかったとは考えまい…」

 

 ワープで逃げた様子は無い。着弾点をハイパーセンサー越しに見ると…

 

「………傘?」

 

 ヤマトは光の傘を正面に向けていた。

それが、右手のHRの変化した姿だと言う事は明白だった。

 

「?! さてはビームシールドか!」

 

 只のシールドではない。

円錐型に成形され、傾斜装甲の原理も応用した極めて強固なシールドだった。

 

「くっ、あれが有る限りレールカノンは通らんか…射撃戦は止めだ!!

奴に銃火器は通らん!!黒兎隊は先行して近接戦に移行せよ!!」

 

「「「ヤー!」」」

 

 自分が行かないのは、黒兎隊のシュヴァルツェアシリーズの方が

より近接戦装備が充実しているからだ。

 

「そんな所だろうと思ったの…。」

 

 次の瞬間、ビームシールドだったHR兵器から

ストックにグリップ、更に細い筒が飛び出すと…

 

「な、何ッ?!」

 

 ドガァッ!!

 

「グワーッ!!」

 

 筒先からビームが放たれ、先頭のS・ドラッヘを直撃。

一撃で脱落させてしまった。何と、ビームシールドが光線銃に変形したのだ。

 

「しまっ…野兎(ハーゼ)3が!」

 

「光線銃だと?!馬鹿な、さっきまでビームシールドだったはず!」

 

「まさか、高速切替(ラピッド・スイッチ)か?!」

 

「まさにその通り!HRとは仏語で『八つの道(ユイット・ルート)』の略。

すなわちHR兵器とはIS仕様の八徳ツールなの!!」

 

 これ1つで8つの武器となる多機能ツール。

人工知能の補助の下で束が開発した第3世代機向けの展開装甲。

それがHR兵器の正体だった。

空飛ぶ兵器庫とも呼ばれる程の多様な搭載兵器が売りのR・リヴァイヴの

更に数倍の拡張領域を持つタイフーンならではの専用装備だ。

 

「くっ、そう言う事だったのか!!」

 

 ラウラはレールカノンで牽制しながら、ワイヤーブレードを発射。

しかし、なのははHR兵器をビームシールドに切り替えて攻撃を弾くと、

すかさずHR兵器からもワイヤーブレードを発射した。

 

「今度はワイヤーブレード?!そんな機能まであるのか!」

 

 散開して回避するが、誘導機能付きの様でこちらを追ってくる。

 

「ええい、しつこい!!」

 

 プラズマ手刀で先端部を切り落とし、何とか切り抜けた。

 

「成程ね、自分が持ってるから対処は出来ると…ならば打って出るの!!」

 

「くっ、遂に来るか…一体、何を出してくるんだ?!」

 

「気を付けろ!今度こそテレポートが来るぞ、全機散れ!!」

 

 ……………パッ!!

 

 直後、ヤマトの姿が消えた。

 

「来るぞ!!」

 

 ガッ!!

 

 なのははまず頭を潰す構えだ。ガランドの真正面にワープアウトし、

HR兵器を槍に変形させて突き出した。

 

「チィ!!」

 

 ガランドは辛うじてボルトカノーネ30の刀身で槍を逸らしたが、

なのはは自分ごと一回転しながら続けざまにHR兵器を振るう。

今度は槍ではなく、単分子の刃を持つブレードだ。

 

「今度は剣か!だが!!」

 

 IS1機を超音速で振り回す様な怪力の機体と真面に切り結べば、

一瞬で武器が真っ二つにされるだろう。よって、ここは回避の一手だ。

 

「させない!!」

 

 そこに、ミーナが援護射撃。ヤマトは横に飛んで躱した。

 

「ならばこっちは!」

 

 今度はHR兵器の両端から湾曲した棒と、その両端を繋ぐワイヤーが飛び出す。

それは、ロングボウと呼ばれる物だった。

 

「今度は弓?!さては量子ロングボウか!」

(GIGNの操縦者に日系人の弓使いがいたが、それにも対応してるのか?!)

 

 更に、格納されていた矢が展開されて射出位置に並ぶ。

 

「弓は使った事がないけど、ISの補助を受けている状態なら!!」

 

 なのはは左腕でロングボウを持ち、後方に飛び退きながら矢を連射。

放たれた矢はプラズマの鏃をもつ無数の矢に分散、雨の如くに降り注ぐ!

 

「いかん、全機回避!!」

 

 数百発、いやそれ以上の矢が訓練場に降り注ぐ。

これではAICで止める暇もない。

 

 ズガガガガガガガガガガガガッ!!

 

「「「「うわあああああああああ!!!」」」」

 

 そして…

 

「くっ、大分食らったか…ミーナ、野兎1、損害は?!」

 

 ガランドが機体に刺さった矢を抜きながら状況を確認させる。

 

「まだ大丈夫です!!」

 

「私も何とか…ですが野兎2がSE切れで脱落です!」

 

 被害は甚大だった。

クラリッサはここで脱落、残り3機もSEに半分以上の大ダメージだ。

 

「ちっ、やっぱり専用機持ちはしぶといの!!」

 

 梃子摺っている様に見えるが、

KSK側はヤマトが本来の武装を全て封じているからこそ

ここまで持ち堪えている訳で、

そうでなかったらあっという間にビームの暴風雨の前に沈んでいただろう。

 

「それなら、とっておきのが有るの!!」

 

 なのははここで片を付ける構えだ。HR兵器を再び変形させる。

現れたのは6連装の空対空ミサイルランチャーだ。

 

「これを避けられるかな?」

 

 ミサイルのブースターに一斉点火。6発のミサイルが超音速で飛んでいく。

 

「ちぃっ!今度はミサイルだと?!」

(盾、銃、鞭、槍、剣、弓、ミサイル…

8徳ツールと言う事は、まだ1つ残っているな…。)

 

 KSK側はチャフとフレアをばら撒いて目くらましを図るが、

ミサイルはしつこく付いてくる。どうも熱感知式では無い様だ。

因みに、このミサイルは光学カメラとレーダーの複合式。

チャフとフレア程度ではまず惑わされない。

だが、本当にタチが悪いのは発射したなのはだった。

 

「OK、OK。その調子で一直線に並ばせて。」

 

 実はこのミサイルは自動制御では無い。KSK側のISを上手く並ばせる為、

ヤマトのAIがミサイルを遠隔操作して動きを誘導していたのだ。

 

「タチの悪い!これだから日本製は!!」

 

 ガランドがボルトカノーネ30に替わり、切り札の荷電粒子砲を抜く。

 

「向こうも追い詰められてるの。それでは…」

 

 なのははそれを確認すると、HR兵器最後の1つを展開。それは…

 

「纏めて吹き飛ばしてやる!!」「残念、それはこっちのセリフなの!!」

 

「何!」

 

 ガランドがミサイルの向こうに見た物、それは…

 

「これぞ本命の、155mmプラズマ砲なの!!」

 

 なのはが展開したのはバズーカ型のプラズマ砲。

口径155mmは既存のIS搭載兵器を遥かに上回る。

 

「ま、まさか?!(馬鹿な、あんな物を格納できるのか?!)」

 

「これで最後なの!!」「さ、させるか!!」

 

 なのはとガランドは同時にトリガーを引き、

荷電粒子ビームとプラズマビームが一斉に放たれた。

囮のミサイルを呑み込み、2つのビームが正面からぶつかる。

 

 しかし、ガランド専用機B・マウスの荷電粒子砲は第2世代向け、

対するヤマトのHR兵器は本来第3世代機向けの兵装だ。

1世代の差は、余りにも大きかった。

 

 ズッゴォォォオオオオオオウウウウウ!!

 

 正面衝突の瞬間、パワー負けした荷電粒子ビームはプラズマに呑み込まれた。

そして、射線上にいるガランドと残りの2機も…

 

「「「うーわぁぁぁぁあああああああああああ!!!」」」

 

 3機は大爆発して訓練場に転がる。これでKSK側は全滅だ。

 

『そ、そこまでぇぇぇぇ!!』

 

 終わってみれば、一撃も返せずに負けてしまった。

 

「くっ、一撃も返せないなんて…これが暴走核弾頭の力なの?」

 

「セルベリアの奴が歯が立たなかった理由が、良く解ったよ…。」

 

「素晴らしい!!流石はお師様です!」

 

「「(おいおい、隊長ったら負けて喜んでるよ…)」」

 

 かくして一方的とはいえKSK対なのはの親善試合は邪魔も入らずに終了した。

 

 

 

 一方その頃、ドイツ某所の地下施設では…

 

「ドクトル・ハルシュタイン。何故私をここへ…?」

 

 そこにいたのは、軍務への復帰間近まで回復した

もう一人のドイツ代表操縦者セルベリア・ブレスと、

亡国機業の筆頭エンジニア、ハルカ・ハルシュタイン。

ハルカは表向き、ドイツ国防省のIS部門で技官を務めている為、

こうして国家の研究施設にも堂々と入り込めるのだ。

 

「良い知らせが有るのよ。来たるべきヤマトへのリベンジの為、

貴女が乗るB・フランメに替わる専用機…第3.5世代機が完成したのよ。」

 

「第3.5世代機…!」

 

「この奥にあるのがそれよ。自分の眼で確かめてみなさい。」

 

 ハルカがパスワードを入力すると、分厚い合金製の耐火ドアが開く。

その奥には、1機のISが。

 

「これが、私の新たな専用機…」

 

「如何にも。これが貴女の今後の専用機、

第3.5世代機『ブラウ・ヴァルキュリア(青い戦乙女)』(以下、B・ヴァルキュリア)。

私が現時点で建造できる最強の機体よ。」

 

「最強の機体…?」

 

「1対1なら、ヤマト以外の誰が相手だろうと無敵を保証するわ。

これにイグニッション・プランでの制式化が決まったタイフーンが加われば、

この前の様な負け方はまず有り得ないわよ。」

 

「本当だろうな?奴も二次移行を達成したと聞いたが?」

 

「知ってるわ。

でも、今度の機体はタバネ・シノノノの力を一部利用しているのだから、

そうそう堕ちる様な軟弱な仕上がりにはなっていないわよ。

そもそも、タイフーンはあの女がデュノアと裏取引をして

デュノア社の名で開発した物。それをこうして、利用させて貰ったのよ。」

 

「タイフーンが?あれもタバネ・シノノノの作なのか?」

 

「そうよ。『業績を持ち直せば宇宙開発特化型と専門部署を作る』

という約束をしていたみたい。

でも、我々には不都合だから全力で妨害する必要があるのよ。

タバネ・シノノノは確かにISの本家本元、彼女以上にISを知る者はいない。

でも所詮は人間であり、彼女のISもまた人間の作りだした物。

それなら、我々人類が追いつけない道理はないのよ。」

 

「そうか…。良いだろう。今度こそ、ヤマトは、暴走核弾頭は私が堕とす!」

 

「それで良い。正式な軍への引き渡しは来月を予定しているわ。

予定通り、リハビリが終わりさえすればね。」

 

「分かった。期待して待っている。」

 

 着々と力を増す亡国機業。果たしてヤマトはこの先生き残れるのか?




今回登場したタイフーン専用装備、「HR兵器」ですが、
イメージとしては某スタイリッシュ戦国アクションゲームの
将軍様の武器の発展型です。
殆ど紅椿の展開装甲と変わりありませんが、大容量拡張領域のおかげで、
第3世代機のタイフーンでも何とか搭載できます。
つまり、同じ第3世代機の白式も…


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第50話  モスクワや 迎え人無き 露の中

いよいよ記念すべき50話!
でも、特に盛り上がりはないのが残念です…。
さて、今度はロシアを訪れたなのはだが…どうやら、様子がおかしいらしい。
一体、何が起きたのか?

追伸
前話の投稿を以て、本作のUAが5万を突破致しました。
ありがとうございます!!


 さて、ドイツ特殊部隊KSKとの親善試合を終えたなのはは

次の目的地ロシアへ向かったのだが…

 

「ええ?彼女はロシアにいない?」

 

 モスクワのIICロシア支局へ電話をかけているなのは。内容は

「今度日本代表に選ばれた。

挨拶回りの為そちらの国家代表を訪ねたいが、今どこにいるか?」

と言う物だ。

 

 楯無にとってなのはは単なる年長の後輩。

ロシアに来たからと言って出迎える義理は無い。

よってこちらから会いに行く必要がある。

 

 と言う訳でIICロシア支局に問い合わせたが、

帰ってきた返答は、「ガスパジャー・サラシキは実家の法事の為

既にロシアを出国して、現在日本にいる。」と言う物だった。

 

 ロシアはG8なので代表の席を2つ持っているが、もう1つは未だ空席。

代わりにもう一人の代表を訪ねるという事も出来ず、

まんまと逃げられた格好になる。

 

「(ちっ、逃げやがったの。後で弄るの!!)

それは残念なの!では、これにて失礼するの!!」

 

 かくして、電話を切ったなのは。

結局、楯無を弄れないなのはは一通りモスクワを観光すると、

ロシア第二の都市、サンクトペテルブルグへ向かっていった。

 

 

 

 モスクワ クレムリン宮殿 ロシア大統領府

 

「大統領、FSBから報告です。

暴走核弾頭はサンクトペテルブルグへ向かったそうです。」

 

「やれやれ…何とか凌いだか。」

 

 補佐官からの報告に、ロシア大統領ビクトル・D・ザンギエフはほっと一息。

 

「暴走核弾頭からIIC宛に電話が来た時はどうなるかと思ったが、

これで一安心だ。

どうやら我等が工作を続けている事は気付かれていない様だな。」

 

 翌年のモンド・グロッソ第3回大会はモスクワで開催される。

当然、日本代表であるなのはには出場資格がある。

あるのだが、今までの戦闘の結果からもし出場すれば大変な事に成るだろう。

 

「全く、あの半島の奴等が余計な事をしたせいで貧乏籤を引いてしまった。

報復として、来年以降奴等に輸出する天然資源を値上げしておこう。

…さてどうした物か。残り1年で、奴を出場させない為の策を立てねば…」

 

 と、そこにホログラムモニターが。画面の向こうには

大巨漢のザンギエフとは対照的な、170cmにも満たない小柄な老人がいた。

 

『ビクトル・ザンテミロヴィッチ、奴はどうなった?』

 

「こ、これは長老!今FSBから報告が有りまして、

奴はサンクトペテルブルグへ向かったそうです。」

 

『む、そうか…。』

 

 長老と呼ばれるこの老人は、今世紀が始まる前後からロシアの実権を握る

いわば影の大統領。ロシア風に言うと『灰色の枢機卿』である。

 

 彼は表向き10年以上前に政界を引退した事になっているが、

現役時代には皇帝とまで呼ばれたその権威は未だ健在で、

政界に多大な影響力を与えている。ザンギエフ大統領が楯無やFSBに

なのはへの詮索等裏工作を命じたのもこの老人の意向による物だ。

 

『では、引き続き監視を続ける様に。だが、こちらからの手出しはするなよ。』

 

「はっ。」

 

『全く、前任者が早まったおかげで、

交渉カードを自ら捨ててしまったのは痛かった。

こんな事なら、あの4島を返すべきでは無かったな…。』

 

「最早、詮無き事です。」

 

『実に嘆かわしい事だ。私が引退するや否や、

我がロシアは日本人(楯無)におんぶに抱っこする所まで落ちぶれるとは…!

あと30年遅く生まれていれば、日本の台頭など防げた物を!

タバネ・シノノノの如きも、すぐにでも消せたのだが…

(ゴキッ)ぐふっ、こ、腰が…!』

 

「ちょ、長老ーッ!!」「長老!!大丈夫ですか?!」

 

『だ、大丈夫だ…矢張り年には勝てんな。思えばもう90年以上生きた。

こうして後見できる時間は少ない。今後の政界は君の世代に懸かっている。

それを忘れるな、ビクトル・ザンテミロヴィッチ。』

 

「よく心得ております、我等が長老。」

 

『宜しい、祖国の為に。』

 

「「祖国の為に!」」

 

 そう言うと、通信は終わった。

尚、長老と呼ばれたこの老人、ソ連時代はKで始まる某機関に所属し、

「あまり私を怒らせないほうがいい」のフレーズで一世を風靡した事が有る。

 

 結局、ロシアでのなのはは特に被害を齎す事無く出国。

鈴音の居る中国へ向かおうとしたが…

 

「えええっ?!中国は危険情報レベル4?!退避勧告発令?!!」

 

「そうだよ。なんかきょーさんとーとかいうのが

『にほんじんはにゅうこくきんし!』っていったんだってー。」

 

「⌒*(◎谷◎)*⌒ アカの手先ですらない似非コミュニスト共めらが…

いつか血祭りなの…」

 

「?」

 

「仕方ない…他の娘達も日本に戻ってくるだろうし、

箒ちゃんを専用機に慣らす鍛錬もあるから、そろそろ私も日本に帰るか…」

 

「さーんせーい。」

 

 かくして、なのはの挨拶回りはこれにて終了。

なのはは不完全燃焼のままモスクワへ戻り、

同市郊外のドモジェドヴォ空港から成田への直通便で日本へ帰国した。

 

 

 

 一方その頃織斑姉弟は…

 

「あっ♥あうっ♥はぁぁあっ♥」

 

 全裸でベッドにうつ伏せになった千冬を一夏が背後から責め立てていた。

 

「ほらほら、千冬姉、ここか?ここがええのんか?(グリグリ」

 

「うんっ♥そこっ♥そこなのぉ♥気持ち良い、気持ち良いのぉ♥

もっと、もっとぉ~♥もっと激しくしてぇ♥」

 

「ハハッ、一旦ツボに嵌ると、あっさり墜ちちゃうんだな。」

 

 一夏の快楽責めに全身を震わせ、虚ろな目でよがる千冬。

 

「おうっ♥おううっ♥もっと♥もっとわらひをきもひよくひてぇ♥」

 

「ふっふっふ、それじゃあ…………………お預け!」

 

 突如、一夏は動きを止めてしまった。

 

「え?あっ、らめっ!とめないれぇ!おねがいぃっ!」

 

 千冬は懇願するが、一夏はニヤニヤして動かない。

 

「わらひのそこ、こんなにうじゅいてるのぉ♥

おねがい、がまんれきないぃ♥はやくついてぇ♥」

 

 両足をばたつかせて駄々をこねるが、それでも一夏は動かない。

 

「いやぁっ♥ついて♥もっとついてぇ♥いじわるしないれぇ♥

じゃないとわらひ、きがふれひゃうっ♥ふれひゃうううううううううううっ♥」

 

 いよいよ本気で泣きそうな声でせがむ千冬。余程気持ち良かったのだろう。

 

「ふーん、じゃあ、ちょっとだけな。」

 

 そういって、グッと押し込むと…

 

「おっほおおおおおおおおおおおおおお♥きいいもちいいいいいいいいい♥」

 

 嬉し涙を流して猛り狂う千冬。

 

「どうした千冬姉、もう終わり?」

 

 千冬の尻に両手を置き、さらに力強く押し込む。

 

「ひゃあああああああああああああっ♥そこおおおおおおおおおおおおっ♥」

 

 凄まじい快感にのけ反る千冬。一夏以外の誰にも見せられない姿だ。

 

「どうだ千冬姉、これだけやればもう十分だろう?」

 

「あ♥やぁっ♥ほひぃ♥ほひいよぉ♥」

 

「ん?もっとはっきり言ってよ。」

 

「あ、あ、あ、…ほひい!ほひいよおお!からだじゅうがっ♥

うじゅいてっ♥もっとついてほひいっていってるのおおおおおっ♥」

 

 呂律の回らない舌でおねだりする千冬。もう涙もよだれも止まらない。

 

「へえ、じゃあこんなのはどうだ?

学園内で千冬姉と呼んでも怒らないって認めたら、

千冬姉の気が済むまで相手してやるぜ。」

 

 その言葉に、脳が蕩けていた一瞬だけ理性が戻る。

 

「だ…ダメ!それだけは駄目だ!

私達は学園の中では教師と生徒なんだ、ちゃんと織斑先生と…」

 

「へえ、そんな事言うんだ、

じゃあこれからは家でも千冬姉を織斑先生って呼ぶけどいいかな?織斑先生。」

 

「や、やめろ!それだけは…!!」

 

「むっふっふ、どうする?今の千冬姉は感じ過ぎて、

ちょっとの刺激で何も考えられなくなっちゃうんだろ?」

 

 グッ…!!

 

「おほぉぉぉぉお♥気持ちいいよぉぉぉぉっ♥」

 

「早く答えないと、俺自分の部屋で寝ちゃうよ?

時計見なよ、もうこんな時間だぜ。」

 

 確かに、時計が差す時刻は日付が変わるのが近い事を示していた。

 

「ヒギィ!意地悪するなぁ♥

学園でも二人きりの時は千冬姉と呼ぶのを許したじゃないかぁ…」

 

「あれで足りると思ってるの?10カウントまでにOKしてくれないと、

お開きにしちゃうよ?10…9…8…」

 

「う、う、う…」

 

 一夏の意地悪な要求にまた理性が戻りかける千冬。

だが…一夏の責めで敏感になっていた身体は、

もう理性で抑えられる状態ではなかった。

 

「もうだめ、もうだめぇ♥すきに、すきにしていいからぁ♥おねがいいいい♥

きのすむまでわらひをせめてぇ♥おねがいれひゅ♥せめてくらひゃいっ♥」

 

 完全に堕ちた千冬。一夏は姉の頭を優しくなでると…

 

「よしよし、それでこそ千冬姉だぜ、意地悪して御免な、

じゃあ、お望み通りに…」

 

 一夏はトドメとばかりに、千冬をぐいぐいと責め立てた。

 

「おおおおおおおおおん♥…も、もうダメェ♥お、お、お…

フォオオオオオオオオオオオオッ♥うおおおおおおおおおおおおおおおっ♥」

 

 千冬は満面の笑顔の如く緩んだ表情で、獣の如く歓喜の声を上げ、

次の瞬間には痙攣しながら意識喪失してぐったりと倒れ伏した。

 

「ふぅ…」

 

 一夏は千冬から離れるとその場に座り込んでしまった。

 

「やっぱ千冬姉はエロいなぁ…

さて、もう一遍シャワーで汗流したら寝るか…」

 

 一夏は疲労困憊の様で、全身汗だくになっていた。

早速シャワーを浴びながら、先程の姉の痴態を思い出す。

 

「にしても、全力で千冬姉の全身をマッサージしたのはいつ以来かな?

あの時はあそこまで喜んでくれなかったけど…

ひょっとして、俺のマッサージの腕が上がっているのか?!

よし、学園を卒業したらこいつでも食っていける様に

プロのマッサージ師の資格を取ろう、そうしよう。

千冬姉もプロの資格持ちのマッサージなら今よりもっと喜ぶはずだしな。」

 

 つまり、こう言う事である。

ウカツにも姉と弟の激しく前後を妄想した人はハイクを詠み、

千冬のカイシャクを神妙に待ちましょう。そして翌朝…

 

「う…私は…そうか、昨日は久々に一夏にマッサージして貰ってたんだった。」

 

 結局、あのまま眠ってしまった千冬。一夏はまだ眠っているので、

先にシャワーを浴びて汗を流す事に。

 

「ふう…体が軽いな、やはり一夏のマッサージは最高だ。」

 

 と言いつつすっかり汗を流し、着替えを終えると…

 

 

 

 ピンポーン…

 

「んん?客か?」

 

 ガチャリ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\キャッ キャッ/

⌒*(○∀○)*⌒

⌒*(・∀・)*⌒

やあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬がドアを開けると、立っていたのはヤマトを肩車したなのはだった。




只のマッサージに態々全裸?と思うかもしれないけど、
ゲーム版でも皆マッサージの時は
裸でうつ伏せ+腰にタオルを掛けただけという格好だったから、別に良いよね!

さて次回、千冬、受難の日々が始まる。


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第51話  千冬、女子力鍛錬の日々

さて、特に盛り上がりはありませんが1学期編はこれで終わりです。
ISが生んだあの二次キャラも登場します。



 玄関を開けると、そこにはヤマトを肩車したなのはが立っていた。

 

「………………。」

 

 ガチャン。

 

 千冬はそっ閉じで玄関のドアを閉めた。

と、インターホンの音で一夏が目覚めたようだ。

 

「あれ?千冬姉、お客さんか?」

 

「いや、誰もいなかった、鳥が間違ってインターフォン押したのだろうな。」

 

 ピンポーン…

 

「い、いや、また鳴ったんだけど…」

               

「気にするな、鳥の悪戯だ。」

 

「えー、でも、鳴って…」

 

「 い ま せ ん 。 」

 

 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン…

 

「すごく鳴ってますよ。」

 

「お前は私の言う事を否定するのか?(威圧」

 

「えーと、そういう訳じゃ…あっ、お、俺、着替えて来る!!」

 

 そう言うと、一夏は逃げる様にその場を立ち去った。

 

「お、おい、どこへ…(チョンチョン)………ん?はうあっ!」

 

 肩をつつかれる千冬、振り返ると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはがいた。ワープでドアをすり抜けて入り込んだのだ。

 

「織斑千冬…客を無視するとはいい度胸なの。」

 

「招いた覚えはない、というか、貴様こそ担任を呼び捨てとはいい度胸だな。

今回は見逃すから帰れ、ハウス!」

 

「…………………。」

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

揉みしだくの!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んなっ、よせ!!止め…ハッ、動かん!!貴様何をした?!」

 

「フープバインドなの!」

 

 確かに千冬の両手両足首にはリング状の光が。

なのはは拘束魔法で千冬の四肢を拘束したのだ。

 

「そぉい!!」

 

 ムギュッ!

 

「はうあっ!!」

 

 なのはは千冬の胸を鷲掴みに。

 

「ひぃっ…!貴様、止めろ!HA☆NA☆SE!!」

 

「却下!そっ閉じする人はお仕置きなの!!」

 

 千冬の制止など聞かず、なのはは千冬の胸を揉みしだいた。

 

「モミュンモミュンモミュンモミュンモミュンモミュンモミュンモミュン…。」

 

「やぁあっ!!揉むなぁっ!!あっ、そこだめぇ!!

あーん、一夏ー!!助けてー!!」

 

 弟に助けを求める千冬。しかし一夏は自室に引き籠り、耳を塞いでいた。

 

「俺は何も見ていない…俺は何も聞いていない…。」

 

「ヒィィィィ、私が悪かった、謝るから!!おねひゃい、もう許ひてぇ!

ああ、ヤバい、気持ち良くなって来た!!これ以上揉まないれぇ!!」

 

「ならば更に気合を入れて揉みしだくの!!

後3分、黙って揉ませてくれたら許すの!!」

 

「らめへぇえええええええええええええええ!!」

 

 

 

 

 3分後…

 

「う、うう…また汚されちゃったぁ!私の乳房は一夏の物なのにぃぃぃ!!」

 

 色々と問題のある発言をしながら悔し泣きをする千冬。

だが、自業自得なので仕方ない。

 

「これに懲りたら、私へのそっ閉じは二度としないの!!

今度やったら、純潔を剥奪するの!!」

 

「ヒィ、それだけはやめてくれ!!それで貴様、何しにここまで来たんだ?!」

 

 正にそれだ。一体、何をしに逆家庭訪問を企てたのだろう。

 

「束さんから聞いたの!!24にもなって家事一つ出来ない哀れな負け組に、

今日から私が家事を教えるの!!

これを機にブラコンを治して、弟離れをするの!!」

 

「や、やかましい!!大きなお世話だ!!大体、誰が負け組だ!!」

 

「あぁ~~~~~~~⌒*(◎谷◎)*⌒~~~~~~~ん?」

 

「わ、私は負け組ではない!!」

 

「あぁ~~~⌒*(◎谷◎)*⌒=⌒*(◎谷◎)*⌒~~~ん?」

 

「ヒィ!!その動きは止めろ、寿命が縮む!!」

 

「それなら、私の下で家事を学ぶの!!」

 

「断る!!私には一夏かけて一夏を愛でると言う使命が…」

 

「拒否すると束さん自作の専用機を用立ててやらないの!!

それでも拒否できるの?!」

 

「何…だと…?」

 

「この前、束さんから専用機を新調してやると言われたよね?

実は束さんから条件を付けられたの!

それは、『炊事洗濯が一人で出来るようになる』なの!

と言う訳で、できないと専用機を用立てて貰えないの!!」

 

 何と言う過酷な条件。凡そズボラの権化に対して出す物ではないだろう。

 

「くっ…解った、仕方ない。なら、家事を学ぶ事にする。」

 

「それで良いの!!なら、早速支度するの!!」

 

「支度…?」

 

「逃げられない様に、束さんのラボで教えるの!!」

 

「ガーン!!」

 

「と言う訳で…早速ワープなの!!」

 

「そんなぁ~!!」

 

 かくして、なのはは千冬を連れて束のラボにワープ。残された一夏の下には、

 

 

 

 束さんのラボで千冬先生に家事を学ばせるので、暫く預かります。

 8月中には返します。

 

                     

高町なのは

 

 

 と言う書置きが残されていた。

 

 

 

 

 篠ノ之束私有ラボ 「吾輩は猫である」内部

 

「さあ、ここがISの聖地『吾輩は猫である』なの!!」

 

「これが…束の技術力の集大成なのか?」

 

 千冬ですら初めて見る束の研究室。

それは、IS関連の特許でオルコット家を凌ぐ富を得た束が

金に任せて創り上げた世界最高峰の研究施設だった。

 

「束さん、クロエ!千冬先生を連れて来たの!!」

 

 なのはが束を呼ぶと、早速束とクロエが奥から飛んで来た。

 

「ヒャッハー!!ちーちゃん、ここに来るのは初めてだねぇ!!」

 

「お初にお目にかかります、織斑千冬。

篠ノ之束の養子兼助手、クロエ・クロニクルです。」

 

「うむ…私が織斑千冬だ。それと束…あまりはしゃぐな、私は機嫌が悪い。」

 

「ぶー、なーちゃんの前でそんな態度で良いのかなぁ?」

 

「……………………。」

 

「ほらほら、そんな顔しない!!

さあ、ちーちゃんの家事修業、レッツスタート!!」

 

 かくして、なのはと束とクロエの3人をコーチとする、

千冬の地獄の鍛錬が始まった。

 

 

「畳み方が雑なの!そんなんだと箪笥に入りきらないの!!」

 

「ひいいいいいいいいいい!」

 

 

「洗剤の量が多すぎだよ!そんなんだと逆効果どころか色移りしちゃうよ!!」

 

「そんなああああああああ!」

 

 

「千冬様、それだと中まで火が通っていません、生焼けです。」

 

「馬ー鹿ーなーぁぁああ!!」

 

 

「失敗した料理は、責任を持って食すの!!」

 

「ううっ、黒焦げ味!!」

 

 

「後、修行中は禁酒です。」

 

「アルコールがー!アルコールが足りないー!!」

 

 

「部屋の掃除は高所から!掃除機は最後だよ!!」

 

「ガァーーーーーーン!!」

 

 

「分別がアバウトなの!!何でも燃やせば良いと言う物ではないの!!」

 

「あばばばばばばばばば!!」

 

 

 こうして、修行場と化した束の施設ラボでは

こんなやり取りが1週間にわたって続けられた。

 

 

「ううっ、地獄だ…酒も飲めないし、一夏にも甘えられないし、

束は夜這いを仕掛けるし…でも、でも負けない!

絶対高町なんかに、負けたりしない!(キッ」

 

 と、誰に向けてか知らないが、千冬が個室で一人言を言っていると…

 

 

 

 

 

「モッピー知ってるよ。そんな事を言う人は即座に負けちゃうって事。」

 

 

 

 

 

「だ、誰だ?!」

 

 突如聞こえてくる謎の声、箒そっくりのその声は、

なぜか膝くらいの高さから聞こえてきた。千冬が声の方へ視線を向けると…

 

「やあ、モッピーだよ。」

 

 そこにいたのは、身長60cm程度で

箒を模した2頭身半のにやけ面のぬいぐるみだった。

 

「………………………は?」

 

「モッピー知ってるよ、チッピーの今の一言は敗北フラグだって。」

 

「…その前に言いたい事が有る。」

 

「モッピー知ってるよ。チッピーがモッピーが何者か知りたいんだって事。」

 

「………………。」

 

「モッピーは本当はモッピーじゃないんだよ、

モッピーの本名は紅椿って言うんだよ。」

 

「何っ?!紅椿だと、ではお前はIS…」

 

「そうだよ。モッピーは篠ノ之箒専用機『紅椿』の待機状態だよ。」

 

「成程な、お前もヤマトの同類と言う事か…」

 

「まあね。でもモッピー知ってるよ。

モッピーはヤマッピーよりAIが進歩してるから、

モッピーの言葉が活字になったら漢字が使われる筈なんだよ。

平仮名しかないヤマッピーより、モッピーの方が優秀なんだよ。」

 

「……………………。」

 

「そ、そうか…」

 

「と言う訳で、モッピーが言いたいのは、

『折角過去から解放されたんだから、

変な気負いは止めて、肩の力を抜く事を覚えてね』だよ。」

 

「……………………どういう訳か解らんが、その言葉だけは覚えておく。

それと、2つ言いたい事が有る。」

 

「何だい?」

 

「まず一つ。私を呼ぶなら千冬で良い。チッピーと呼ぶのは止めてくれ。」

 

「プクー。」

 

「ふ、膨れるな。そんなに嫌なのか?」

 

「(コクコク)」

 

「駄目だ。チッピーだけは止めろ。それで、もう一つの方だが…。」

 

「何かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 後 ろ に ヤ マ ト が い る 。 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ…?」

 

 モッピーが振り返ると…

 

「じ~…。」

 

 千冬の言う通り、ヤマトがいた。

 

「あっ…」

 

 ヤマトはアームを遠隔部分展開し、モッピーを掴んだ。

 

「やまとはきいたの。やまとをやまっぴーなんてふざけたよびかたをしたのを。

そんなばかつばきはおしおきなの!」

 

「え?怒る所そこ?流石のモッピーもこれは予想が…」

 

「えい。(アームで握り潰す)」

 

「グェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 千冬はヤマトのお仕置きに、おろおろするばかりであった。

 

 

 

 そして、この日を境に千冬は家事の腕を順調に上げて行く。

 

「いい感じだよちーちゃん!やっと片づけのコツを掴んだんだね!」

 

「そ、そうか?そうなのか?…成程、何だか自信が出て来た様だな。」

 

「うんうん、料理も洗濯も上手くなってきてるし、この調子だよ!!」

 

「あ、ああ…これで夜這いさえなかったら、もっと上手くなれるのだがな。」

 

「………………………。」

 

 そんなこんなで、更に1週間が経過した…

 

 

「さてなーちゃん、どうかな?ちーちゃんが作ったんだけど…」

 

「………………………………………………………………………………………。」

 

 何をしているかと言うと、千冬が作った食事をなのはに評価して貰っている。

果たして、なのはの回答は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

b⌒*(・∀・)*⌒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サムズアップ。なのはは合格点と判断したのだ。

 

「これなら問題ないの!!もう十分やっていけるの!!」

 

「ゆ、許されたぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。」

 

 終わった。やっと地獄が終わった。

 

「もう教える事はないの!!一夏君に生まれ変わった姿を見せてあげるの!!」

 

「ああ、解った!!」

 

 その日の夕食は、千冬が作った食事だったと言う。

 

 翌朝、遂に帰って来た千冬、早速生まれ変わった自分を見せてやりたい。

その思いに胸を高ぶらせ、千冬は一夏の部屋の前に立つ。

 

「……グッモーーーーニング、我が愛しの弟よ!!」

 

 勢いよくドアを開け、一歩踏み入れた千冬が見た物…それは…。

 

「「ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ…。」」

 

 一夏とシャルがベッドで寝入っていた。

しかも、シャルは何も身に着けていない状態で。

 

「………………………………………………………………………………………。」

 

 なぜか付いてきたモッピーはその様子を見て、一言叫んだ。

 

「妾!妾!妾の子!!やる事為す事ビッチ臭い!!」

 

「い、い、い…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いぃちかぁああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

「「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーース!!!」」

 

 千冬はブチ切れてどこからともなく真剣を取り出した。

 

「この愚弟が!!私と言う物が有りながら、

そんなフランス娘なんぞに現を抜かしおって!!

許せん、許せん!許せん!!

そこに直れ!!その泥棒猫諸共去勢してくれるわぁーっ!!!」

 

「「アイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」」

 

「モッピー知ってるよ、これが修羅場って言う事。」

 

 結局、暴走した千冬はなのはと束が止めた。

 

 その後の調査で一夏を問い質した結果、

単なるマッサージ疲れで寝入っていただけだったと判明。

他の専用機持ちと箒にも同じ様な事をしていたと供述した。 

かくしてIS学園の生徒達は平和裏に夏を楽しんだ。

そして月が開け、学園は2学期へ移行する。 




次回は時系列を飛ばして特別編を上げます。


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特別編  一夏の誕生日

さて、本日9月27日は一夏の誕生日です。
今回ご覧頂くのは時系列をすっ飛ばして27日当日の一夏達の様子です。
また、本日2016年9月27日は作中の一部のゲストにとって、
「現実世界における重要な記念日」でもあります。
何の事かは、全て見ておられる方はすぐに解る筈。それでは特別編、幕開けです。


 それは、二学期が始まって一か月が経とうとしていたある日の夜だった。

 

「へぇ、学園にはこんな場所があったのか…。」

 

 その日、真耶から地下のM-38号室に資料を持ってきて欲しいと頼まれ、

学園の地下を歩いていた一夏。渡された地図に依ると、

目的地は生徒がまず来る事のない場所だった。

 

「ここかぁ。さて、と…!」

 

 一夏が部屋の扉を開けると、照明が消えていた。

廊下の照明で、辛うじて部屋の中が見える程度だった。

 

「山田先生、頼まれてた資料を持ってきましたよ!」

 

 一夏が声を掛けるが、反応は無い。そして、次の瞬間!

 

 バタン!!

 

「!!」

 

 部屋の扉が閉まり、一夏は真っ暗闇に包まれた。

 

「?!」

 

 そして、一夏の背後から何物かが近寄る。

 

「?!!」

 

 振り返る間もなく一夏は首筋を叩かれ、一撃でノックアウトされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うう…。 !!」

 

 真上から照らす照明で一夏が目を覚ますと、体は椅子に縛られていた。

 

「な、何なんだ一体…」

 

 訳が分からない一夏、その時である!

 

 ブゥオオオオオオォォォォォォォ…

 

「法螺貝…?」

 

 突如響き渡る法螺貝の音。そして、銅鑼の音に合わせ、

5文字のホログラムが空中に現れた。

 

 

 

 

 

乙女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開幕

 

 

 

 

 

「禁断の宴にようこそ、織斑一夏君!」

 

 そして、部屋中に謎の女の声が木霊した。

その声は一夏にとって、聞き覚えがある物だった。

 

「誰だ?!って、この声どこかで……まさか!」

 

「フッフッフッフッフッフ…照明オン!!」

 

 太鼓の音が鳴り、部屋の照明が点灯。一夏の目の前に現れたのは…

 

「な、何だこりゃ?!」

 

 『織斑一夏にサービス対決』の看板を掲げた舞台とカーテン。

そして壇上には、牛を思わせる高露出度の衣装を着た真耶。

事情が読めない一夏を無視して真耶がマイクを手に語り始めた。

 

「遂に始まりました、『織斑一夏にサービス対決』!!

進行は私、山田真耶です!!内容は各自自由。

織斑君を最も楽しませた人が勝ちです!!」

 

「……え?え?何ですか?!何なんですかこれ?!!」

 

 全身ごと椅子を揺らして説明を求める一夏に、

真耶は顔を赤らめてこう答えた。

 

「これは秘密の対決です。早速始めましょう。

エントリーナンバー1番、篠ノ之箒さんです!!」

 

 真耶の声でカーテンが開き、ステージに襖が現れる。

衾越しに映るのは、鹿威し、梅の花、そしてススキに満月。

箒が好きそうなデザインだ。

 

 そして襖が開くと…立っていたのは箒。

その出で立ちは肩と膝から下を露出した

巫女装束ベースの衣装に白いニーソックス。

頭からは狐の耳を生やし、狐の尻尾をつけている。

確かに、神社の娘らしいコスプレだ。

 

「ほ、箒?」

 

「あ、余りジロジロ見ないでくれ…。」

 

「そ、そう言ってもな……」

 

 幼馴染が初めて見せる姿に、一夏も目が離せない。

 

「と、とにかく一夏!!もてなしてやるからステージに上がって来い!!!!」

 

「あ、ああ…」

 

 拘束がリモコン操作で解除され、言われるがまま箒の目の前に正座する一夏。

 

「「………………………………………。」」

 

 相対したはいいが、二人共言葉が出ない。

気まずい空気の中、一夏は箒にこう尋ねた。

 

「で、その恰好はなんだ?」

 

「これか?これは、その、狐の、巫女だ……。」

 

 なぜか動く耳。どんな原理かは、敢えて聞かないでおこう。

 

「でも、その…こうして見てると…撫でて見たくなるな。」

 

「う、あまりじろじろ見るな…。」

 

 一夏が見ていたのは、箒のタプンタプンの胸の谷間だった。

尚、箒は視線を逸らしているので一夏が何処を見ているか気付いていない。

 

「す、済まん…。」

 

「そうか…そうだ、一夏、茶でも飲むか?」

 

「あ、ああ。」

 

 早速緑茶を淹れる箒。箒が言うもてなしとはお茶の事の様だ。

 

「ど、どうだ?上手く淹れられたか?」

 

「うん。旨いぞ。」

 

「そ、そうか!お替りならまだあるぞ!」

 

「あ、ああ。頼む。」

 

「解った、ちょっと待ってろ。」

 

 再び一夏の湯呑に緑茶を淹れる箒。一夏が湯呑を取ろうとした瞬間、

箒と手が触れあった。

 

「ッ!!」

 

 箒は驚いて一瞬だけ身を竦め、茶が撥ねて一夏の太股にかかってしまった。

 

「熱っ!」

 

「あああっ!!すまない、大丈夫か!?」

 

「あぁ、大丈夫だ……」

 

 箒は慌てて布巾で茶のかかった部分を拭く。

この体勢だと、一夏の眼前に肌蹴られた箒の胸元が。

一夏はじっと見ていたが、はっと我に返り大きく顔を逸らす。

 

「すまない……大丈夫だったか?」

 

 落ち込んでいるのか耳は垂れてしまっている。

被っている耳は感情に応じて動くらしい。

 

「こんな格好をするのは、初めてだから…

その…恥ずかしくてだな…緊張しきりなんだ…。」

 

 やはり箒も恥ずかしいらしい。良く見ると少し目が潤んでいる。

 

「いや、仕方ないと思うぞ…。」

 

「な、なあ一夏…お前はどう思う、この格好は…?」

 

「その、なんだ…似合ってると思うぞ。」

 

 当たり障りのない返答だったが、箒は嬉しいらしく、

その言葉を聞いて一夏の手を握りしめた。

 

「本当か?!」

 

「あ、あぁ…。」

 

「なら、何で目を逸らすんだ?」

 

「そ、それは…」

 

 一夏は箒の方を向くに向けない。

なぜなら箒の豊満な胸が嫌でも目に入ってくるから。

箒が一夏を向かせようとしたとき、大きな銅鑼が鳴り響いた。

 

「はーい、時間でーす!!」

 

「そんな!!早すぎるのでは?!」

 

「ごめんなさーい、後が閊えてますので…。」

 

 諦めがついたのかため息一つついて立ち上がった。一夏もそれに続く。

 

「ああ、そうだ!」

 

「ど、どうした?」

 

「一回だけ…触らせてくれないか?」

 

「え…ええええ?」

 

 箒は何を勘違いしたのか、胸を手で庇う。

 

「その…そこじゃなくて、被り物の耳をふにふにさせてくれ。」

 

「あ、ああ…」

 

 一夏は被り物の耳をふにふにした。

 

「おお、ふにふにだな。」

 

 何だか恥ずかしそうな箒。

 

 すると、一度舞台が消灯。箒はどこかへ連れ去られていった。

                                 

<モ、モウスコシダケヨイデハナイカ!!

 

 再び照明が付くと先程とは違い、賑やかなクラブの様な装いになっていた。

                                  

<ハッ、HA☆NA☆SE!!

 

 ミラーボールの照明があたりを照らす中、中央にはビリヤード台が置かれ、

その前にはバニーガール姿のセシリアが立っていた。

 

「せ、セシリア…?」

 

「一夏さん。ワタクシの一流のサービスに酔いしれて下さいな♪」

 

「…なあ、これは一体何なんだ?」

 

「まだ秘密ですわ。今回はビリヤードで遊んで頂きますわ。」

 

「ビリヤード?俺、やった事無いんだけど…?」

 

「ご安心下さいませ。ワタクシが教えて差し上げますわ。」

 

 セシリアはボールをセットし、キューを構えた。

 

「まずはキューを構えて……打ち抜きます!!」

 

 セシリアのブレイクショット。見事に的球は散って行く。

 

「そして、番号の小さい的球から順にポケットに…!」

 

 台に乗ったり、前かがみになったりと

扇情的な体勢で的球を的確に落としていくセシリア。

余程練習を積んだのか、あるいは日頃からやり慣れていたのか。

ボディラインがはっきり見える衣装の為か、

一夏は台よりセシリアに見とれている。

 

「へぇ、上手いなぁ。」

 

「それ程でもありませんわ。ああ!しまった~!」

 

 最後に9番を落とそうとしたセシリアだが、球はポケット手前で止まった。

 

「一夏さんの番ですわ。」

 

「あぁ。アレを落とせばいいんだよな…。」

 

「一夏さん、そんなに硬くなっていてはいけませんわ…」

 

 セシリアは背中から抱き付く様に一夏にくっつく。

当然、一夏の背中にはセシリアの胸がムギュッと張り付いてしまっている。

 

「せ、セシリア…当たってるんだけど…。」

 

「一夏さん、集中して下さいな…。」

 

「うう、集中できないんだけど…。」

 

「なっ…何て不埒な!!」「篠ノ之さん、立つと危ないですよ!!」

 

 後方で箒がいちゃもんをつけるが、真耶に窘められてしまっている。

 

「もっと肩の力を抜いて…右手はこの位置取りですわよ。」

 

ワザと耳元で囁くので意識せざるを得ない一夏はもっと体を固くしてしまう。

 

「さ、この位置で真っ直ぐに突いてくださいな。」

 

「おう……」

 

 一夏の打ち出したボールはゆっくりと進み、9番の的球に真っ直ぐ当たる。

的球はそのままポケットに落ちて行った。

直後、真耶が銅鑼を慣らして時間切れを告げた。

 

「はぁい、タイムアップでーす!!」

 

「流石ですわ、一夏さん!!」

 

「あぁ!セシリアが教えてくれたおかげだな、今度またやろうぜ!」

 

「はい!今度は二人きりで…(消灯)あら?」

 

「(点灯)うわわぁ!!照明付くの早すぎるよぉ!!」

 

 舞台の下からシャルの声が聞こえてきた。

どうやら、この舞台はエレベーター型になっており、

セシリアのいる舞台の下から喫茶店風のステージがせり上がって来る。

シャルもそこにいる様だ。

 

「今度はシャル?!一体どうなってるんだ?!」

 

 シャルの衣装はふわふわの綿毛で包まれたビキニタイプの水着だ。

だが、何がモデルか解らない。

 

「シャル、えーと、その恰好は…?」

 

「これ?これはフレンチプードルだよ。それより一夏、楽しんでもらえてる?」

 

「あ、ああ……」

 

「僕はクッキー焼いてきたんだ。一緒に食べよ。ほら、座って座って。」

 

 シャルロットに手を引かれ、席に着いた一夏の目の前に座り、

封を開けると焼きたてクッキーの香ばしい香りが一夏の鼻を刺激する。

 

「いい匂いだな……」

 

「でしょ?結構自信作なんだ。」

 

 この一品を作る為にクッキーを数枚ごとに生地の配分を変更して焼き、

それを後で自分で処理することになったシャルロットは

一夏にクッキーを差し出した。

 

「ほら一夏、目を瞑って口開けて。」

 

「あぁ、分かった…。」

 

 言われるがまま目を閉じて口を開ける一夏。

それを確認したシャルロットはそのままクッキーを咥えると……

 

「んっ…………」

 

 シャルはクッキーを口移しで食べさせる積もりだ。

 

「「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」

 

 それを見た箒とセシリアが悲鳴を上げる。流石にこれは我慢できないようだ。

 

「な、何だ?」

 

 思わず一夏が目を開けると、クッキーを咥えるシャルが目の前にいた。

 

「なっ?!」

 

 驚いた一夏が立ち上がるとその拍子にクッキーが弾かれる。

クッキーは何とシャルの胸の谷間にすっぽりと挟まってしまった。

 

「「「「………………………………………………………」」」」

 

 いきなりの事に固まってしまった一同。

 

「ねえ、一夏…」

 

 少し目を潤ませたシャルロットは自分の乳房を持ち上げると一夏に寄せた。

 

「ひょっとして…こっちの方が……良いの?」

 

「…………………は?」

 

 すると、突如舞台中に笛の音が響いた。

 

「レッドカードです!!デュノアさん、退場!!」

 

 どうやらシャルは超えてはいけない一線を越えてしまった様だ。

審判役の真耶がレッドカードを出した。

 

「えええええええ~っ!!!」

 

 シャルロット、あえなく箒とセシリアに強制連行。

 

 

 

 そして…

 

「待たせたな、我が未来の旦那よ!」

 

 セシリアの時を思わせるミラーボールとカラフルな照明に照らされた舞台。

その中にバニーガール姿のラウラがいた。

その横には、夢の字が掲げられた巨大なカプセルトイ。

 

「次はラウラか…で、お前はどうやってもてなしてくれるんだ?」

 

「うむ、これから一夏には一緒にダーツをして貰おうと思ってな!!

只のダーツでは無いぞ、景品付きだ!!」

 

 見ると、カプセルトイの向こうにはダーツの的が。

 

「では、試しに一投げしてやろう!!」

 

 ラウラが矢を一投げすると見事に中心に命中。

するとカプセルトイが作動、カプセルが一つ転がり出た。

ラウラがカプセルを手に取り、開けると何枚かの紙の綴りが。

 

「見ろ!食堂の回数券1週間分だ!!」

 

 どうやら、景品も本格的な様だ。

 

「へえ、それじゃ俺も…そーれっ!」

 

 一夏もダーツを投げると、見事にラウラの投げた矢の隣に突き刺さった。

それに合わせてカプセルトイからもカプセルが1つ。

 

「さて…何が入ってるのかな?」

 

 少し固いカプセルを開けると…。

 

「……スク水?」

 

「らうら」と書かれたスク水だった。つまり…。

 

「なっ!?」

 

 これはラウラの私物のスク水だった。

 

「ななななな何故私の水着がっ!!」

 

「ご免なさい。予算の関係上

景品の一部はボーデヴィッヒさんの私物を拝借させて頂きました。」

 

「山田先生?!何て事を?!」

 

「だ、だって~!!ああ、もう…タイムアーップ!!」

 

「ちょっとぉぉぉおおお!!!(消灯)」

 

 こんな感じで宴は続いていくのだが…

その頃、学園の最重要危険物は何をしているかと言うと…?

 

 

 

 

 フランス共和国 リヨン市 国際刑事警察機構(ICPO)本部ビル前

 

「「「「「「リヨンよ、私達は帰って来たぁ!!!」」」」」」

 

 3か月前、ラウラ捕縛任務に同行したばっかりになのはに叩き潰され、

ベルリンの軍病院で治療とリハビリに明け暮れていた帝国華撃団…ではなく

IS犯罪対策課(ICD)IS隊員が久々の復職に歓喜していた。

 

「あの敗北から3か月、長かった…まさか飯田少佐が国家代表を首にされ、

あの女が後釜に就くなんて、何て時代ですの?!」

 

「全く、思い出すだけでも腹が立つわ!!

私なんか、胸を揉みしだかれたのよ!あの屈辱、絶対に忘れないわ!!」

 

「増してや、自分の価値観だけで善悪を裁く所業、許す訳にはいきません!!

父の遺影を破って踏み躙った蛮行からも見て、奴は根っからの悪党です!!」

 

 セクハラされた隊長のマリアと言い、父の苦労を否定されたさくらと言い、

なのはに対する隊員達の恨みは甚大だ。

 

「でも冤罪は事実だったじゃねえかよ…

しかも連続切り裂き魔を退治してパリ警視総監から感謝状貰ってるって話だし…

おまけに西の奴等から軍部とIS部門を護ったって、

アイツ、ネットじゃ英雄扱いだぜ?」

 

「そこが頭の痛い所よ。

ハァ…私達はこれから奴とどう向き合うべきなのかしら?」

 

「でも、悪い話だけやないで!

遂に来月から、ウチ等にも第3世代機が配備されるんや!!」

 

 紅蘭の言う通り、10月からICPO-ICDにも

R・リヴァイヴに替わりタイフーンが配備される。

何せ作っているのは彼女達の直属の上司、

アルフォンス・ドニエール事務総長の娘婿の会社だ。

優先順位が高いのは当然の事だろう。

 

「そうデース!つまり来月からは訓練漬けの日が続きマース!

皆、落ち込んでないで気を引き締めないといけないのデース!!」

 

「そうね…早く新型に慣れて、

一刻も早くかつての体制に復帰しないといけないわ。」

(春麗前隊長が中国に帰った穴、何としても私達で埋めなければ!)

 

「そうそう!前向きに前向きに!」

 

 と、大分気持ちを持ち直した一同。しかし、悲劇は突如やって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「20th anniversary POWEEEEEEEEEER!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

 

 何者が謎の雄叫びと共に上から降ってきた。

 

「「「「「「うわあああああああああああああああああ!!!!!」」」」」」

 

「な、何?何者?!」

 

 土煙が収まると、そこにいたのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(・∀・)*⌒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ。」

 

「「「「「「ギィヤァァァァッ!!暴走核弾頭だぁーーーっ!!!」」」」」」

 

 3か月前自分達を酷い目に遭わせた張本人が再び。その場で腰を抜かす一同。

 

「な、何で?!何でリヨンに暴走核弾頭が?!」

 

「うおおおおお今日はサク○大戦発売20周年で、しかも一夏君の誕生日なの!

よって同時に祝ってやるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!」

 

 ガシッ!!!

 

「「「「「ギャーッ!!!」」」」」

 

 なのはは遠隔部分展開で隊員を掴み、そのままワープ。

どこへともなく消え去った。

 

ポツ~ン。

 

「……アレ? 何でワタシだけ置いてきぼりデスカ?」

 

 そして置いてきぼりを食らう織姫。どこまでも扱いの悪い織姫であった。

 

 

 

 

 

 そして、学園では…

 

「ま、待て、落ち着け!!話せば解る!!」

 

 一夏がダーツの矢で壁に貼り付けられていた。

その前には怒りの専用機持ち5人衆。

 

「ダーツの的になりたい様だな…。(ゴゴゴゴゴゴ」

 

 何が起きたのか。本来、最後に控えていた鈴音が一夏をもてなす筈だったが、

気が付いた時には、一夏は猫モチーフのビキニ姿の楯無に押し倒されていた。

 

 どうやら本人は、妹の簪の件で一夏と話し合いたい様だったが、

そこに衣装を奪われ、マッパで毛布に包まった鈴音が奇襲を仕掛け、話は中断。

更に他の4人も駆けつけ、されるがままだった一夏に嫉妬したラウラが

一夏に矢を投げつけた結果、こんな状況になってしまった。と、そこへ…

 

「はーい!!皆さん壇上に上がって下さい!!

ラストイベントが残っています!!」

 

 真耶がマイクで呼びかけた。

壇上前の一夏の周りに皆が集まるがその表情には疑問の色が浮かんでいる。

 

「これで全員では……?」

 

 箒が疑いの目をして呟くが、

直後、大量のクラッカーとファンファーレが鳴り響く。

そして、ステージ中央が照明で照らされ床がせり上がると

そこから現れた人物に全員が驚愕した。

 

「…………………………………………。」

 

 現れたのは千冬だった。しかも、メイド服だ。

性格からして絶対に着る事の無い衣装だが、彼女は見事に着こなしている。

しかし、彼女はこの衣装が不満の様で、その表情は不機嫌そのものだった。

 

「ち、千冬姉…?」

 

「何も言うなよ、何か言ったら殺すぞ。」

 

 本当に殺す気満々の表情に全員が固まった。

千冬は一夏の前に立つと、左手に持つパフェを一掬いし、口元に突き出した。

 

「一夏、口を開けろ。」

 

「……はい。」

 

 一夏が口を開くと同時に千冬がスプーンを口にねじ込み、

未だ混乱している一夏に食わせた。

その瞬間、『織斑一夏にサービス対決』の文字が

『織斑一夏バースデーパーティー』に替わった。

 

「「「「「「ハッピーバースデー!!!一夏!!!」」」」」」

 

 いつの間にか一夏を取り囲んだ皆が笑顔でクラッカーを鳴らして祝う。

一夏もようやく今日が何の日なのかを思い出した。

 

「…あ、そう言えば!!俺、今日誕生日だった!!すっかり忘れてた!!」

 

 今日は一夏の16回目の誕生日。何と一夏はその事をすっかり忘れていた。

漸く事の真相を知った一夏。直後、奴はやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Happy birthday POWEEEEEEEEEEEER!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

 毎度お馴染み、何者が謎の雄叫びを上げて上から降ってきた。

 

「「「「「うわあああああああああああああああああああ!!!!!」」」」」

 

 勿論、降りて来たのはなのはだ。その手には高価そうな誕生日ケーキ。

何とパリの一流店でこの日の為に調達した特注のケーキだ。

 

「おおおおおおおお一夏君16回目の誕生日おめでとうなの!!!

ついでに帝国華撃団も快気祝いと発売20周年を祝ってやるから

ありがたく思うのぉぉっ!!!」

 

 見ると、確かに織姫以外のICPO-ICDの5人が

アームで掴まれたまま宙に浮いていた。

 

「「「「「離してぇーーーーーーーーっ!!!」」」」」

 

「って、誰だこの人達はーっ!!」

 

「た、高町さん?!これはもしかしなくても、その…誘か」「What?!」

 

「ヒィッ!!!」

 

 最早様式美となったやり取りである。

 

「千冬ーッ!!助けてぇーっ!!」

 

 解放されるや否や、真っ先に千冬に泣きついたICPO-ICD一同。

 

「んん?何だ、タチバナか。お前等、何しに来た?

まさか…またラウラを捕まえに来たのか?」

 

 まるで彼女を知っているかのような態度の千冬だが、

それもその筈、マリアとカンナは束及びあずさと同じく

千冬とは高校の同級生の間柄にあった。

 

 ついでに言うと、さくらと紅蘭は真耶及び律子の同級生、

すみれはその1期後輩である。

そして置いてきぼりにされた織姫はそのまた1期後輩で、

真及び千早と同期である。

 

「違うわよ!!暴走核弾頭に連れて来られたの!!

貴女が担任なんでしょ?!何とかしてー!!」

 

「無茶を言うな。それと、私は今機嫌が悪いから話しかけるな。」

 

「ナンデ?!って、千冬?…その衣装、何?」

 

 千冬のメイド服に気が付いたICPO-ICD一同。その反応は…

 

「ダッヒャッヒャッヒャッヒャ!!

千冬がwww千冬がwwwメイド服www似合わねぇwww」

 

「千冬…貴女、随分はっちゃけてるのねwww」

 

「ブリュンヒルデのwwwメイド服www」

 

「千冬さんがwww千冬さんがwww」

 

「こうして見ると、千冬はん胸デカいなwww」

 

 普段の千冬では絶対に有り得ない出で立ちに、

事情を知らないICPO-ICDは転げ回って大爆笑。

だが、それは今の千冬の前では最もしてはいけない行為だった。

 

 

 

 ビキィッ!!!

 

 

 

「!!」

 

 血管の浮かぶ音に驚いてICD一同がぎこちなく千冬に向き直ると…

 

「貴様等… そ ん な に 死 に た い の か ?(#^ω^)ビキビキ」

 

「「「「「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイ((((((((;゚Д゚)))))))ガクガクブルブル」」」」」

 

 千冬が引き攣った笑顔で指を鳴らす。今更震え上がった所でもう手遅れ。

 

「千冬先生…私も手伝うの。

私のワンオフ・アビリティはこういう時、とっても役に立つの。」

 

「そうだったな、好きにしろ。

この馬鹿共をもっと良い女にしてリヨンに帰してやらねばな。」

 

「ちょ、ま、待って!!」「止めてー!!暴力反対!!」

 

「千冬、お願い止めて!!それは普通に犯罪なのよー!!」

 

「ヒイイイイ、ごめんなさい、もうしません、許してー!!!」

 

「真耶ーっ、止めてーっ!!千冬さんを止め…っていない!!」

 

 これから起こる惨事を予想したのか、

真耶と一夏達生徒一同はいつの間にか逃亡していた。

 

「本当にか?」

 

「はい?」

 

「今一度問うが、貴様等…本当にすまないという気持ちがあるのか?」

 

「そ、それは勿論ですわ!」

 

「なんかよく解らないけど、

大方イベントで着たくもない服を着せられて不機嫌だったとか、

そう言う事なんでしょ?!」

 

「そうかそうか。では、高町に判定して貰おう。貴様はどう思う?」

 

「それなら…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

黙ってシバかれるの!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「ナンデ?!」」」」」

 

「良く解った。では…」

 

 千冬は出席簿を取り出した。

 

「ヒイイイイイ、お助けー!!って、あれ…動けない…。」

 

 なのははフープバインドでICD隊員を拘束。さあ、お仕置きの時間だ。

 

「一瞬で終わる、耐えぬ方が身の為だ。」

 

「「「「「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアア((((((((;TДT)))))))ガクガクブルブル」」」」」

 

 さくらは号泣した。

 

 すみれは卒倒した。

 

 マリアは弁解した。

 

 カンナは絶望した。

 

 紅蘭は命乞いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、誰も許されなかった。

 

「この…馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!」

 

 SPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPANK!!!!

 

「「「「「ぴゃああああああああああああああああああああーっ!!」」」」」

 

 M-38号室に戦女神の逆鱗に触れた哀れな乙女共の悲鳴が木霊した。

 

 

 

 

 

 数分後…

 

「では改めて、織斑君、誕生日おめでとう!!」

 

 皆いつもの服装に着替え、

バースデーケーキを囲んで食堂で一夏の誕生日を祝っていた。

 

「結局、こういう事だったのか…たかが誕生日に大げさだなぁ…ハハハ…。」

 

「お前は毎年、自分の誕生日を忘れていたからな。」

 

「だから、皆で驚かせようってなった訳!」

 

「せっかくですから、思い出に残るような事にしようと思って。」

 

「たかがじゃないよ。大切な日だよ!!」

 

「あの格好は私の案だ。上級のもてなしだと副長に聞いてな。」

 

 かわるがわる説明する専用機持ち一同。

 

「そう言う事か…でも、皆ありがとな!」

 

「それにしても、千冬先生のメイド服は大好評だったの!!

あとは笑顔だけなの!!」

 

「…………………。(無言でなのはを睨む)」

 

「⌒*(◎谷◎)*⌒」

 

「うっ…悪かった。」

 

「でも、千冬姉までよくあんな格好を…。」

 

「むむむ…。」

 

「こうして千冬姉と誕生日を一緒に過ごすの、随分と久しぶりだなぁ…

子供の時以来じゃね?」

 

「ま、まぁ…そう言う事になるな。」

 

「んん?何か言った?」

 

「何も言っとらん!」

 

 と、ここで真耶がこう切り出した。

 

「所で、織斑君。今日は誰が一番良かったですか?」

 

「ええと…?」

 

「「「「「!!」」」」」

 

 つまり、本日のMVPを選べと言う事だ。

 

「「「「「…………………………………………………………………。」」」」」

 

 一同に緊張が走る。果たして、一夏の回答は…。

 

「そ、それじゃ、ちふ…」

 

「但し!!」

 

 千冬姉、と言いかけた瞬間、なのはが一喝して制止した。

 

「選択肢はあの5人の中からだけなの!!

専用機持ち5人の中から1人を選ぶの!!」

 

「えええっ?ナンデ?!」

 

「(おお!高町さんナイス!!)」

 

 真耶がファインプレーを称賛。あのまま千冬を選んでいたら、

一夏は専用機持ちの嫉妬心を買い、袋叩きにされていただろう。

 

「何でって…答えは簡単なの!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この5人は、一夏君と恋人になりたがっているからなの!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、こい…恋人ぉぉぉぉ?!!」

 

 思いもよらぬ単語が飛び出し、仰天する一夏。

 

「如何にも!!ラウラの言葉がいい例なの!!

この娘が一夏君を旦那呼ばわりしていると言う事は、

いつか一夏君に本当に旦那になって欲しいと言う考えが有るからなの!!」

 

 皆が心の中で思っていた事をありのまま曝け出したなのは。

だが、時期尚早に過ぎないか?堪らず箒がなのはに耳打ちした。

 

「(な、なのはさん?!いきなりそこまで踏み込むのは…)」

 

「(良いの!!ああ言う鈍感な男には、

はっきりと言葉にしないと思いは伝わらないのっ!!

私はそれで苦労したから、皆には同じ轍を踏ませる事は出来ないの!!)」

 

「(確かにその通りですけど…一夏を見て下さい!!)」

 

「???」

 

 一夏はこちらに背を向け、頭を抱えていた。

彼はかつて、ひと夏の思い出を作ったとある人物の言葉を思い出していた。

 

『君の周りの女の子の中には、

君と恋人になりたがっている娘がいるかもしれない。』

 

 まさか3か月にも満たない内に

その選択を迫られる事になろうとは思ってもいなかった様だ。

 

「あー、ひょっとして私、何かトラウマでも思い出させちゃった…のかな?」

 

「いや、そういう訳では無いかと…」

 

 なのはも一夏の尋常ならざる様子に、ちょっとだけ不安を覚えた。

 

「お、おい!一夏!!大丈夫か?!!」

 

堪らず千冬が駆け寄る。振り返る一夏は真っ青になっていた。

そして、一言こう叫んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや無理だって!!無理無理無理無理!!

この中から今すぐ恋人を選ぶとか無理だろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏、まさかの回答拒否。

 

「「「「「……………………。」」」」」

 

「だってそうだろ!!この中から一人を選んだりしたら、

選んだ瞬間俺は残りの4人にボコられるに決まってるだろ!!」

 

 いくら切羽詰っているとはいえ、そこで逃げの一手は無いだろう。

一夏は最悪の返答をしてしまった。

 

「お、織斑君?ここで選ぶのは、

『5人の中で誰のもてなしが最高だったか』であって、

ここで5人の中から恋人を選べとは一言も言っていないんですけど…。」

 

「………………………えっ?」

 

「私があの様に言ったのは、

選択肢を絞らないと千冬先生を選んでしまうだろうから、

千冬先生を選択肢から除く為に釘を刺しただけなの!!」

 

 一夏、痛恨のミス。さあ、修羅場の幕開けだ。

 

「一夏…」

 

「な、何だ?」

 

 どすの利いた鈴音の声に反応してギ、ギ、ギとぎこちなく振り返ると…

 

「お前は…」「ワタクシ達を…」「そんな人間だと…」「思っていたのだな…」

 

 言わんこっちゃない、

怒り心頭の専用機持ちが真っ赤なオーラを出して睨んでいた。

 

「え?え、え、ええええ?!!」

 

「一夏…お前は極めつけの阿呆だな…。」

 

 呆れた千冬が一言呟く。その瞬間、5人の怒りは爆発した。

 

 

 

 

「「「「「馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!」」」」」

 

「ひょんげぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」

 

 結局、一夏は専用機持ちに袋叩きにされ、専用機持ちもなのはに鎮圧された。

 

 

 

 

 

 おまけ

 

「皆何処デスカ?!何処へ行ったのデスカ!!

どうしてワタシだけ置いてきぼりなのデスカ!!」

 

 その頃、織姫は仲間を探して泣いていた。

 

                                    




と言う訳で、一夏の16回目の誕生日と、
現実世界におけるサクラ大戦シリーズ発売20周年記念の特別編でした。
そうです。作者がサクラ大戦シリーズの主要キャラを
ライバルチームという美味しいポストにつけたのは、
「一夏の誕生日と第1作目の発売日が同じ9月27日だから」という
偶然の一致があったからなのです。
えっ?一人忘れている?えーと、ほら…彼女は「2」からの加入だし…


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第2章 二学期編
第1話  紅の 椿で祝う 新学期 前編


さて、ほぼ1か月遅れですが本作のIS学園も遂に2学期に突入。
あんなキャラやそんなキャラも新たに登場し、戦いはますます激化します。
果たして、なのはは、そして一夏達は生き残れるのか?
第2章、「2学期編」始まります。


 2学期に突入したIS学園。

夏休みを隔てて久しぶりに会ったクラスメート達は相変わらずで、

特に変わったという者も見られない。

それは1年1組の教師2人も同じで、

特に1学期と変わる事無く新学期の幕が開けるのだった。

と、言いたいところだが…

 

 

 

「「「「「…………………………………………………………………。」」」」」

 

 

 

 

 講堂に集まった生徒達は緊張の面持ちだった。何故なら…

 

「さて、全校生徒の皆さん!!

私がこの学園の生徒会長『だった』更識楯無です!!

本日皆を集めたのは他でもありません。

今学期より、私に替わる新しい生徒会長が誕生した事を報告させて頂く為、

こうして皆に集まって貰いました!」

 

 その言葉にざわつく生徒達。

IS学園の生徒会長はどうやって選ばれるかを考えれば、

楯無に取って代わり得る存在など、たった一人しかいない。

 

「新しい生徒会長って…」

 

「絶対、あの人だよね?」「うん、私もそう思う。」

 

「うわぁ…」

 

「それでは、紹介します!1年1組所属、

日本国代表操縦者、高町なのはさんです!どうぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

 楯無の紹介と同時に、なのはが上から降ってきた。

 

「「「「「うわあああああああああああああああああああ!!!!!」」」」」

 

「私が今紹介を受けた新生徒会長、1年1組所属、高町なのはなの!!!

昨今、『我が校に対する当人の合意なき干渉は禁止』

というIICの定めた取り決めは有名無実化し、

国際社会からの不当な干渉が罷り通っている悲しい現実があるの!!

しかしッッ!!私が生徒会長として生徒の代表者となったからには

その様な事はさせないの!!

 

知っての通り我が校はいかなる国家にも所属しない以上、

事が起こった時我が校が頼れるのは

国際社会から仲裁を義務付けられた日本政府を除き、我が校自身のみ!!

よって私は生徒代表として我が校への不当な干渉に対しては

抗議等の受け身の行為のみならず、積極的に打って出てこれを成敗し、

以て学園と生徒達の安全な学園生活を護る事を約束するのおおぉぉっ!!!

 

……以上!!!」

 

 マイクも使わずに怒鳴り散らすかのごとく就任演説をぶちあげるなのは。

その迫力に生徒も教員も何も言えなかった。

と言うか、なのははこの時点で1度ならず2度までも

外部からの干渉を叩き潰している。

 

 だからこそ1年生、しかも束と言う国際テロリストの側近が

国家代表にまで成り上がれるのだ。

当人はすると言った事をしているだけなのだが、

それが周囲に与えた衝撃はそれだけ大きかった。

 

「では、続いて新生徒会メンバーを発表するの!!一同、注目するの!!!」

 

 なのはの頭上にホログラムモニターが、そこに映った新生徒会の全容は…

 

 

 生徒会長…高町なのは(1年)

 

  副会長…布仏虚(3年)

     

      更識楯無(2年)

 

      織斑一夏(1年)

 

  書記係…ダリル・ケイシー(3年)

 

      フォルテ・サファイア(2年)

 

      布仏本音(1年)

 

  会計係…布仏虚(3年)(副会長と兼任)

     

 役員見習…篠ノ之箒(1年)

 

      セシリア・オルコット(1年)

 

      凰鈴音(1年)

 

      シャルロット・デュノア(1年)

 

      ラウラ・ボーデヴィッヒ(1年)

 

      更識簪(1年)

    

 

「えっ、ちょっ…」

 

「何…だと…!」

 

「な、何で俺まで…!」

 

「うっそ~ん…。」

 

 挙げられた名前に驚愕する一同。

特に、ここで初めて名の上がった3年のダリル・ケイシーと

2年のフォルテ・サファイアには青天の霹靂だった。

この2人はそれぞれ米国とギリシャの専用機持ち代表候補生で、

特にダリルは3年生唯一の専用機持ちでもある。

つまり、この一覧で布仏姉妹以外は全員専用機持ちである。

 

「この通り、副会長と書記係は各学年から1名ずつ選出したの!!

また、専用機持ちの代表候補生には

今後上級生が卒業した際後任として行動できる様、

今の内に役員としてのノウハウを学ばせる為、新たに役員見習のポストを置き、

残った1年生の専用機持ち全員をこの役に任ずるの!!」

 

 なのははこう言っているが、

就任演説で語った内容から考えれば何をしたいのかは一目瞭然だ。

自分を含む11人の全専用機持ちを自身の下で一元管理し、

事が起こった時、外敵討伐の為

自分が率いる学園の実働部隊として運用する積もりなのだ。

つまり、生徒会に名を借りた学園の防衛隊を造りたいのだ。

 

「これって生徒会執行部と言うより、

(侵入者の)死刑執行部の方が正しい気がする様な…。」

 

 誰が言ったかは知らないが、

この言葉を聞いた者達は皆、言い得て妙だと納得した様子だった。

 

 

 

 

 

 かくして朝の全校集会が終わり、1組の教室に入ると…

 

「「「「「高町さん、日本代表操縦者正式決定、

おめでとうございまーす!!」」」」」

 

「「「「「そして篠ノ之さん、日本代表候補生正式決定おめでとう!」」」」」

 

「「「「「おめでとー!!!」」」」」

 

 何人かの生徒がなのはの日本国代表操縦者、

及び箒の代表候補生就任正式決定を祝福する言葉を投げかけてきた。

 

「皆、知ってたのか?!そうか…その、有難う。」

 

 尚、一夏と他の専用機持ち及び2組の鈴音は夏休み中に知らせを受け、

皆でこの事を既に祝っているため、今さら祝福の言葉をかけたりはしない。

と、そこになのはのルームメイトの本音がこう切り出した。

 

「でもでも~、代表候補生って来月合宿に行かなきゃいけないんでしょ?」

 

「そうらしいね。」

 

「……相当、辛いみたいだよ~。」「え?布仏さん、知ってるの?」

 

 珍しく同情的な表情で語る本音。

だが何で本音が合宿の内容を知っているのか?

 

「うん。私の知り合いの日本代表候補生でね~、

かんちゃん…更識簪って娘が4組にいるんだ~。

これはその娘から聞いたんだけど~……。」

 

 本音の言う通り、日本代表候補生は資格を取得した場合、

毎年10月に1か月の合宿が義務付けられている。

但し、例外としてIS学園の生徒に限っては特記事項に配慮し、参加は任意だ。

 

 だが、現在裁判中の前監督、倉林美也子が

「モンド・グロッソ制覇の最大の功労者」真宮寺一馬の労苦と犠牲をダシに

近接戦偏重訓練をしていたことからも解る通り、

この合宿は刀、槍等の近接兵器こそ至上、

銃火器を用いての戦いは卑怯という思想を徹底的に叩き込む為のもので、

参加しないと先人への侮辱という理由で代表候補生から除名されることも有る。

勿論在校生と言えども例外ではない。任意とはいえ、事実上義務だったのだ。

そうして本音が語る内容に、他の生徒達はドン引きした。

 

「そんなに厳しいの?」

 

「そんな事するんだ、それなら代表候補生って、安易になる物じゃないよね…」

 

「でも織斑先生も山田先生も合宿を受けてあれだけ強くなったんだよね?

なら、行くのは仕方ないのかも…。」

 

 だが、この件に関して箒の方針は決まっていた。

 

「そうか…その件はもう姉さんから聞いたが、私は行かない事にした。」

 

「ええっ?!行かないの?!」

 

「ほら、篠ノ之さんはお姉さんがアレだから…」

 

「確かにね…合宿とか必要ないよね。」

 

 何人かが束の七光りと誤解したようだ。

だが箒が不参加を決めた理由はそんな物ではない。

 

「か、勘違いするなよ。私なりに考えて決めたんだ。

私は今日の放課後、初めて専用機を受け取るクチなんだ。

今日貰って来月の合宿に行った所で、

他の代表候補生の足手纏いになってしまうだろう?

だから『私はまだ未熟者故、学園で腕を磨き、

卒業してから改めて合宿に加わります。』

とIICの日本支局に手紙を出してきっぱり断って来たんだ。」

 

「そ、そうなんだ…。」

 

「ゴメン…お姉さんの七光りかと思っちゃった。」

 

「そういう理由なら仕方ないよね。」

 

「で、なのさんは…」

 

「私は行くの!!」

 

「えええ?!行くんですか?!」「凄い厳しいって話ですけど…」

 

「但し、『教える側』なの!!」

 

「「「「「…………………………………………………………………。」」」」」

 

「私はもう国家代表だし、同じ国家代表程度の人から教わる事など無いの!!

寧ろ、そのレベルの人は私から教えを受けるべきなの!!

全盛期の千冬先生が第5世代機に乗って来ない限り、私には勝てないの!!」

 

 傲慢な物言いだが、国家代表を何度も破った実績あっての発言である。

例え千冬でも今のなのはの発言を聞けば頷くしかない。

これには全員反論のしようが無かった。

 

「そ、そうだよね!あはは…(汗」

 

「暴走核弾頭さんに教えられる人なんて、

それこそ篠ノ之博士以外に居る訳無いよね。

うん、これはもう仕方ない。」

 

「そ、そうだ!今日の夜7時から

1組の皆で二人の合格祝いのパーティーをやるんだけど、

2人ともその時間帯は開けといてくれるかな?」

 

「ああ、いいぞ。」「大丈夫なの!!」

 

「おっと、先生だ。席に戻ろ。」

 

「皆、揃っているな?ではSHRを始めよう。」

 

 かくして、IS学園の2学期が始まった。

 

 

 その日の午後…

 

 2学期初日につきこの日の授業は午前中で終了。午後からは皆自由時間だ。

そんな訳で、生徒達は現在自由時間だが…

 

 

 第3アリーナには1組の専用機持ちと箒と鈴音、そして千冬が集結していた。

そして、その前には…

 

「じゃじゃーん!!皆、待ったー?!束さんだよー!!」

 

 いつもながらハイテンションの束、千冬はウンザリした様子で見つめていた。

 

「解ったから早く本題に映れ、この阿呆兎。」

 

「おおおおおん♥その蔑むような目が堪らない!!」

 

「そうか、なら高町に睨んで貰え。」

 

「ヤダ!なーちゃんのはガチで怖いから!!」

 

「⌒*(◎谷◎)*⌒」じ~…。

 

「アヒィーッ!!」

 

「ハァ…馬鹿やってないで、さっさと紅椿を披露してやれ。」

 

「解ったよ。それじゃモッピー、カモン!!」

 

「「「「「「(モッピー…?)」」」」」」

 

 束が紅椿を呼ぶ。そして、次の瞬間…

 

「モッピイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィーッ!!!」

 

 奇声を上げて飛んで来たのは、以前千冬が見た通り、

身長60cmの箒を模した2頭身半のにやけ面のぬいぐるみだ。

 

「「「「「「な、何だーっ?!!」」」」」」

 

 当然、なのは以外の専用機持ちはびっくり仰天。

 

「……な、何なんだ?このちっこい箒っぽい物体Xは?」

 

「やあ。紅椿の管制AI『モッピー』だよ。」

 

「ど、どうも…」

 

「えーと、つまり、これはなのはさんのヤマトの同類と思えば良いと…?」

 

「そうだよ。」

 

 さて、箒の反応は…

 

「こ、これは…。い…い…い…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良い…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え゛?!」

 

「これ、可愛い…。」

 

「「「「「な、ナンダッテー?!!」」」」」

 

 何と、モッピーは箒に矢鱈好評だった。

 

「ほ、箒?正気か?!どう見ても言動も顔もウザそうなんだけど…」

 

「そ、そうですわ!!ワタクシ、さっきから嫌な予感しかしませんわ!!」

 

「私も同意見だ。何というか、凄く不吉だ…。」

 

 こんな感じで口々に不安を語る一同だが、箒には全く届いていない様子だ。

 

「う、うるさいっ!!可愛い物は可愛いんだ!!

文句が有るなら相手に成るぞ!!!」

 

「な、何ですってー!!」

 

 一触即発の危機に陥る一同。しかし、こんな時は彼女の出番である。

 

「…………なんなの?(ゴゴゴゴ」「⌒*(◎谷◎)*⌒ それ以上いけないの。」

 

 我等が暴走核弾頭、満を持して抑止力発動である。

 

「「「「「お、お許しを~~~~!!」」」」」

 

「やれやれ…。さあ、モッピー、こっちに来い。その…抱っこしてやろう。」

 

「イエース。」

 

 そして、モッピーは箒に後ろから抱きかかえられる。

この体勢だと後頭部に箒の胸が当たる事に成る。

つまり、今のモッピーは胸囲90オーバーの女子高生が

後頭部に胸を押し付けてくれると言う大変羨ましい状態にあった。

 

「うむ、フカフカだな…。(ナデナデ」

 

「モッピー知ってるよ、箒おばさんの胸はすっごい弾力だって事。」

 

「お、おば…さん?」

 

 ご存知の通り、箒は今年の七夕に16歳になったばかりである。

どう考えてもおばさん呼ばわりされる年代ではない。

 

「ちょ、えーと、流石にそれは怒られるんじゃないかな…。」

 

「そんな事無いよ。モッピー知ってるよ。

親の姉妹は何歳でも『おばさん』だって事。

束博士はモッピーの親だから、

その妹の箒おばさんはモッピーにとって『叔母さん』なんだよ。」

 

「よしよし、良く知ってるなモッピー。いい子だ。(ナデナデ」

 

 おばさん呼ばわりされても怒るどころか、寧ろ褒める程だ。

余程モッピーを気に入ったのだろう。

 

「箒…俺、お前のセンスが解らなくなって来た。」

 

「私もだ。やっぱり、これも篠ノ之の血が為せる技なのか?」

 

「ま、まあ…本人が気に入って居るのであれば、良いんじゃないでしょうか?」

 

「うんうん!気に言って貰えて何よりだよ!!」

 

「はい、有難うございます!!」

 

 かつて劣等感を抱いていた偉大な姉とすっかり打ち解けている箒。

もしも半年前の本人が見たら、確実に卒倒するだろう。

 

「それじゃ、箒ちゃん!早速最適化してレッツ、ファーストシフト!!」

 

「はい、やりましょう!!」




次回、第4世代機から第5世代機2号機へと生まれ変わった紅椿が
力の片鱗を学園に示します。果たして、その性能は如何程か?


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第2話  紅の 椿で祝う 新学期 後編

やっと登場した箒の専用機「紅椿」。
2か月遅かった分、束が改良を加えたその真価、遂に披露される時が来ました。


 臨海学校の際、箒の誕生日プレゼントとして披露された専用機「紅椿」。

しかし、箒は己の力不足を理由に受け取りを拒否。

千冬が「箒が代表候補生に成ったら、その合格祝いに渡す」

という条件を出した事で束を納得させ、

その時に備え更なる改良が加えられる事となる。

そして、約束通り箒は日本代表候補生の座に就き、遂に紅椿は引き渡された。

 

「よーし、後はこうすれば、…よし、最適化完了!」

 

 流石は最新型+ISの母直々の最適化(フィッティング)だ、

所要時間僅か数分で一次以降が終了した。

 

「よし、準備は良い?それじゃ試運転してみよー!」

 

「はい、では…行きます!」

 

 一夏達が避難すると、箒は意識を集中させ、一気に飛び上がる。

 

「おおっ?!」「これは!」「速いな……!」

 

 一瞬で音速を突破し、

飛行音を置き去りにして1秒で上空1,000mに到達した。

 

『どう、凄いでしょ?これぞ第5世代機2号機、

今の上昇速度はマッハ3+だよっ!』

 

「は、はい……!」

 

 紅椿初披露の日、暴走状態で接近してきた

銀の福音の最高速度がマッハ2+だった。

しかもそれは水平移動。重力に逆らう垂直移動だと、もっと速度が落ちる筈だ。

だが、紅椿は垂直移動でマッハ3を達成した。

軍用ISをも遥かに凌ぐ驚異の速力と上昇力に、

なのは以外の他の専用機持ちはただ呆然とするばかり。

 

「凄ぇ…!」「な、何て速さですの…。」「驚いたぁ…。」

 

 何たってトップスピードで他の機体の2倍以上。

このメンツで最も遅いヤマトとの差は何と7倍以上に達するのだ。

操縦者の名前が箒と言う事も考えれば、

正にIS界の赤い彗星となり得る驚異の機体となろう。

だが、約1名は全く違う反応をしていた…

 

「……(ヤマト、気が付いた?)」

 

「(うん、もっぴーはほうきにあわせててかげんをしているの。

ほんきをだせば、さらににばいはいくの。)」

 

 なのはは管制AIモッピーが専用機を初めて動かす箒の為に

手加減をしていると見破ったのだ。

もしもその必要がなくなれば、紅椿の速力は今の2倍にも達するであろう。

つまり本当の最高速度はマッハ6+。ヤマトの14倍速超と言う事に成る。

(但し、ヤマトワープを使うヤマトに速度勝負は無意味でしかない。)

 

『よし、次は武装を試してみるよ!刀を抜いてみて!』

 

「はい!(抜刀)」

 

『右手の刀は雨月(あまづき)、左のは空裂(からわれ)という名前があるよ。

それぞれ特性が違うから確かめてね。』

 

 流石は全国大会優勝者。難易度の高い二刀流も瞬時に対応した。

あるいは、紅椿を制御するモッピーが凄いのか。

 

『まず右手の雨月!

これは突きの動作に合わせてレーザーが発射されて敵を蜂の巣にしちゃうの!

射程距離は…対物重機関銃くらいかな。実際に的を用意するから狙ってみて!』

 

「突きに合わせてレーザー発射…ですか。では行きます。」

 

 的として用意したヤマトの近接グレネードが視界に映ると、

箒が雨月を構え、突きの構えをとる。

 

「イヤーッ!!」

 

 掛け声と共に突きの素振りを放つと、紅椿の周囲に赤い光球が現れ、

レーザービームとなって突きの方向に飛んで行った。

そして、箒からはレーザービームが

標的のグレネードを全て撃ち抜くのがはっきり見えた。

 

「おおぉー…。」

 

『次は左手の空裂!こっちは斬撃に合わせてエネルギー刃が飛んでいくよ!

振った範囲に自動で展開するから超便利。

今度の標的はヤマトのミサイルを使うよ。上手く落としてみてね!!

それじゃなーちゃん…ミサイル発射っ!』

 

 束の声に合わせて、

ヤマトが地上に16発のミサイルを遠隔部分展開してブースターに点火。

一斉に上空の箒へと飛んでいく。

 

「やれるか?いや、やって見せる…この紅椿ならば!デヤーッ!!」

 

 箒は空裂で眼前を薙ぎ払った。すると光の刃が赤い帯状に広がり、

16発のミサイルは一瞬で巻き込まれ大爆発した。

 

「うお、一振りで全滅?!」「むっ…!」「凄い…。」

 

「こりゃ凄ぇな…」「たーまやー。」

 

 と、ここで千冬がこう持ちかけた。

 

「成程…中々やるな。さて…お前達に問う。

この中で紅椿と戦ってみたい奴はいるか?」

 

「紅椿と…ですか?」

 

「ああ。実際に一戦してみるのも経験の内だ。

誰か戦って見たい者いるか?た…なのは以外で。」

 

「「「「「(うん、やっぱりなのはさんは省くんだ…)」」」」」

 

 まあ国家代表、しかもその中でも別格の強さなので仕方がない。

 

「じゃあ、俺はいくぜ。」「では、ワタクシも…」

 

「そうか、お…一夏とオル…セシリアの他にはいるか?」

 

 生徒を下の名で呼ぶ千冬。1学期からはまず想像もつかない光景だろう。

あの一件で千冬は変わった。

親無しというだけで周囲から碌な人間ではないと決めつけられ

それを見返すためにどんな非常識な教えも言われるがままにしていたが、

なのはがその元凶を吹っ飛ばした事で吹っ切れたのか、

1学期とは別人の様に変わっていた。

 

 スーツでの出勤を止め、真耶や他の教員達と同じ私服姿で出勤し、

事有るごとに出席簿でシバく癖を改めるべく、出席簿を持つ事もしなくなった。

そして、生徒を苗字で呼ぶのも改めようと、こうして努力している。

千冬は、少しずつだが丸くなっていたのだった。

 

「他にはなしか…では、一夏とセシリアは準備に入れ。」

 

「解ったぜ、…って、2対1でやるのか?」

 

「そうなるな。

近接特化のお前は前衛、射撃特化のセシリアは後衛とバランスも良い。

なのはがあいつをどこまで鍛えたのか、お前達の全力で見せて貰おう。」

 

「解った、じゃ、行ってくる。」「では、ワタクシも。」

 

「よし…束、篠…箒に伝えてくれ、『総合的な性能が見たいので、

これから一夏及びセシリアと2対1でIS戦をやってみてくれ』と。」

 

「解ったよ。箒ちゃん聞こえる、これからね…?」

 

 

 

 そして、双方共に準備完了。

 

 一夏が白式、セシリアがB・ティアーズ展開して紅椿と対峙する。

 

『3人共、準備は良いな。では、模擬戦を始める。3、2、1…始め!!』

 

「先手必勝!!!」「イヤーーーッ!!!」

 

 千冬の合図と共に一夏が瞬時加速で箒に吶喊し、

背後からセシリアがビットとスターライトmkⅢからレーザービームを放つ。

 

「何のぉッ!!」

 

 負けじと箒も雨月の連続突きでレーザーを撃ち返しつつ、

合間に空裂を振るい一夏を牽制。飛んで来たレーザービームは

展開装甲をエネルギーシールドに変形させて弾き飛ばす。

 

「成程ね、遠近両用武装ってのは見る分には良いけど…、」

 

「実際に対峙すると、これ程厄介な武装も早々有りませんわ!!」

 

 しかし、なのはの弾幕で鍛えられた一夏はこれくらいでは落とせない。

空裂のエネルギー刃を躱し、たちまち間合いに飛び込む。

対して箒は展開装甲をスラスターに変形させて後ろ向きに瞬時加速して離脱。

更に別の展開装甲をスラスターにして上方向に瞬時加速。

疑似的な「瞬時加速しながらの方向転換」を行い、一気に頭を押さえる気だ。

 

「こ、これは?!」

 

「くっ、速えぇなおい!!」「こ、こんなに速いなんて?!」

 

 やられた側もびっくりだが、やった側の箒もびっくりだ。

燃費の悪い白式は瞬時加速を多用出来ないが、

こんな事をされては通常移動で追いつける訳が無く、

慌てて瞬時加速で後を追う。セシリアもストライク・ガンナーを起動し、

全ビットをスラスターにして追い縋る。地上で見ているなのはは…

 

「おー、速い速い。遠隔部分展開で掴めるかな?」

 

「ん?何だた…なのは、お前でもあの速度には反応しきれないのか?」

 

「まさか。こっちはワープで攪乱すればいいから、

対応できないと思ってはいけないの!!」

 

 

 一方上空では、箒が雨月と空裂でセシリアと射撃戦をしていたかと思えば、

不意を突いて切りかかってきた一夏と展開装甲のエネルギーソードで斬り合う。

それならと一夏と切り結んで動きが止まるタイミングを衝いて

セシリアが横から撃ってきても、別の展開装甲がシールドを展開して弾き返す。

 

 正に完璧な機体だった。ヤマトに続き8つのコアを搭載した事で、

唯でさえ基本性能で途方もない差がついているのに加え、

ソード、シールド、スラスターに変形できる展開装甲で

攻守と機動の底上げがされ、これに遠近両用の雨月と空裂の火力が加わり、

専用機持ち2人掛かりを寄せ付けなかった。

今の箒はIS学園1年生の専用機持ちでは

なのはに次ぐ実力を得たと言えるだろう。

 

 

「何…あれ…新型?」

 

「あれ、乗ってるの篠ノ之さんじゃない?」

 

「ああ、本当だ!」

 

 紅椿のテスト戦闘の光景は別の生徒達からも見えていた。

生徒達は全員その光景に魅入られていたが、やがてある疑問に行き当った。

 

「でも篠ノ之さんって、ISに乗ってたった5か月だよね?

何で代表候補生になれたんだろう?」

 

「あれだよあれ、篠ノ之さんのお姉さんって篠ノ之博士でしょ?

妹の為に口利きしたとか?」

 

「ええっ!妹ってだけで代表候補生になれたって…。」

 

「噂じゃ篠ノ之さん、

学園への入試も全部パスだったって言われてるし…なんか、ずるくない?」

 

「でもそれを言ったら、

あれだけやらかしてる暴走核弾頭さんが国家代表になれたのって…。」

 

「「あっ…。」」

 

「うん、この話は終了。私達は私達で地道に練習しよ。」

 

「行こ行こ。下手に首突っ込んだら後が怖いし。」

 

「「賛成ー。」」

 

 こんな所でも、なのはの存在が黒い噂の広まりを止めていた。

生徒達がいかになのはを恐れていたかが良く解る一コマだ。

 

 

 

 

「うーむ、なのはさんの弾幕に慣れているから、

こちらのエネルギー弾攻撃は当たらんな…。」

 

 その頃、箒は攻めあぐねていた。皆なのはの超弾幕に鍛えられている為、

互いに射撃兵装は躱されて当たらないのだ。

剣の腕にしても、ブランクのある一夏には簡単に勝てるだろうが、

セシリアの援護射撃が的確なので隙を突こうに突けない。

 

 かつて遥かに格上の真耶相手に鈴音とセシリアが互角に戦った通り、

専用機持ち同士はなのはの相手をしている内に連携が大分洗練され、

お互いに容易く各個撃破出来る相手では無くなっていた。

 

「何か、何か無いか…?刀以外に使える兵装は…これだ!!」

 

 どうやら、何か見つけたようだ。一方、一夏達も…

 

「そろそろ決めないと…」「そうですわね!」

 

 こちらも最後の攻勢に出る。

 

「あの展開装甲のシールドを抜けるのは、やっぱこれしか無えよな!!」

 

 一夏は零落白夜を発動し、瞬時加速で吶喊。更にセシリアも前に出る。

 

「BT兵器、全盛りですわ!!」

 

 光線型に加え、実弾型のミサイルも発射。

更には近接兵器のインターセプターも抜いて

一気に間合いを詰める。恐らく飽和攻撃狙いだろう。

 

「あっちも焦っているな…ならば見せてやる!!」

 

 紅椿の背部パーツが腕に装着され、弓型に展開された。

 

「両腕に弓…あいつ、まだ武器を隠してたのか!」

 

「そうだ、これが紅椿の隠し玉、ブラスター・ライフル穿千(うがち)だ!!」

 

 クロスボウ型出力可変型ブラスターライフル、穿千。

箒の戦闘経験が一定値に達した事で紅椿に備わった機能、無段階移行により、

使用可能と判断されて発現した飛び道具だ。

早速エネルギーの弦が張られ、穿千の発射準備が整う。

 

「貰ったぞ!!穿千の最大出力、受けてみろ!!」

 

「い、いけない!!」「やっべ、間に合えええーッ!!」

 

 一夏とセシリアは方向転換して回避しようとするが、少し遅かったようだ。

 

「当たれェーッ!!」

 

 穿千からビームが発射された。

オクタコア化されている為、その出力は7月の披露当時とは比較に成らない。

特大のビームは回避中の2人をギリギリの所で捉えた。

 

「「グワーッ!!」」

 

 両機ともSE切れ、これにて勝負ありだ。

 

「やはり箒の勝ちだな。3人ともご苦労だった。どうだ、紅椿は?」

 

「はい、今日初めて乗ったのでまだまだ使いこなしきれませんが、

これから頑張ってやっていきます。」

 

「そうだな。…お前達はどうだ?実際に戦ってみて。」

 

「やっぱり、あの展開装甲が曲者だな。」

 

「同感ですわ。箒さんがアレを使いこなせるようになれば、

とんでもない事に成りますわね。」

 

「確かにな。」

 

 かくして、紅椿のデビュー戦は終了した。

最強の1年生代表候補生、堂々の誕生だ。




穿千が原作より早く使用可能となった理由は…察しの通りです。
なのはの鍛錬とモッピーの補正で、初めから使用可能と言う事にしました。
この後どこまで進化するか…見当もつきませんね。


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第3話  学園祭

 箒が紅椿を受領した翌日、

1年1組では学園祭の出し物を何にするか話し合っていた。

 

「え~、それでは学園祭における1組の出し物を決めたいと思います。

意見のある人は挙手してから発言して下さいね。」

 

 担任の千冬は現在職員会議中につき、司会進行は真耶が行っている。

 

「はい!私は『織斑一夏のホストクラブ』を提案します!!」

 

「なら私は『織斑一夏とツイスター』を!!」

 

「じゃあ、私は『織斑一夏とポッキーゲーム』で!!」

 

「私は、『織斑一夏と王様ゲーム』が良いと思います!!」

 

 次々と意見が飛び出すが、どれも高校でやるにはちょっと…な意見だった。

 

「いやいやいや!!やらねぇから!!ってか、高校でやる事じゃねえだろ!!」

 

「「「「「えええええええ?!」」」」」

 

「えーって何だよ、おかしいだろ!誰得だよ、それ!!」

 

「私達得だよ!!織斑君とこういう事がやれたら皆喜ぶよ?」

 

「そうそう!少なくとも私は嬉しいわ!」

 

「「「「「そうだそうだー!」」」」」

 

「(ここって、世界一のエリート高校…で良かったんだよな?)」

 

 今更ながら同級生のはっちゃけ振りに混乱する一夏であった。

 

「や、山田先生!流石にこんなふざけた企画は駄目ですよね?」

 

「え?!ここで私に振るんですか?!」

 

 堪らず真耶に話題を振る一夏。

だが、真耶に振った所で事態が好転すると思っているのか?

 

「え、えーっと…私は…その…ポッキーゲームなんかしてみたいなぁって…」

 

 何故か頬を紅く染めて生徒達に賛同する真耶だった。

 

「駄目だこの人…早く何とかしないと…と、兎に角もっと普通の意見をだな!」

 

 と、ここで立ち上がったのが我等が暴走核弾頭、高町なのはだ。

 

「喫茶店なの!!!」

 

「…………えっ?」

 

 極めて当たり障りのない喫茶店という提案。

だが発言者は暴走核弾頭である。つまり、これは決定事項だ。

 

「飲食店系なら掛かった費用を回収できるの!!

学園祭中は招待券を持つ人だけ外からも中に入れるから、

休憩場にも利用して貰えるの!!裏方要員なら私に任せるの!!

なぜなら私は喫茶店の娘なの!!」

 

 暴走核弾頭らしからぬ真面な意見に、一同沈黙。

 

「お師様の仰せられる通りだ!!

折角だから、もう一捻り加えてメイド喫茶などどうだろうか?」

 

 真っ先に賛同したラウラ。だが、メイド喫茶にするとある問題が。

 

「あー、ラウラ?その案が通ったとして、俺はどうなるんだ?

ずっと厨房担当で良いのか?」

 

「そうだな。一夏には厨房…

もしくは執事の姿で接客をすれば、皆喜ぶと思うがどうだろう?」

 

 千冬の影響からか、一夏も容姿はそれなりに良い。

唯一の男子見たさに生徒達も続々押し寄せるだろう。

 

「ああ、それは良いよ!!

一夏が執事姿で接客すれば、一杯人が集まると思うよ!!」

 

「ちょ、シャルまで何言ってんの?!」

 

 シャルまでラウラの案に便乗して来た。

この2人はシャルが女だと公表されて部屋割りを更新した結果、

同じ部屋になっており、それ以来2人は仲が良くなっている様だ。

 

「うんうん、織斑君の執事とか最高じゃん!!」

 

「そうだよ!これが一番!!」

 

「私もそう思う!!」「私も!!」「私も!!」

 

 とうとうクラス全員が賛同してしまった。

 

「いやいやいや、メイド服と執事服はどうするんだよ?!」

 

「それならワタクシの家に山程ありますわ!!

何せワタクシ、これでも貴族の子ですから!!」

 

 衣装はセシリアが用意してくれる様だ。

かくして、学園祭での達1年1組の出し物はメイド&執事喫茶に決まった。

なのはは裏方で料理担当、一夏は執事服で女子達に接客をする事に決まり、

一夏は今後の展開に頭を悩ませる事となる。

 

 

 

 

 

 そして学園祭当日…

1年1組は朝から出し物の準備に追われていた。

 

「じゃ~ん!一夏、見て見て!!」

 

「ワタクシ、メイド服は普段から見慣れておりますが、

こうして自分で着るのは初めてですわ。一夏さん、どうですか?」

 

 一夏の目の前にはメイド服のシャルがいた。

二人とも一夏の感想が聞きたくて見せに来たのだ。

 

「シャル、それにセシリア?うーん、俺、メイド服なんて初めて見るから、

はっきり言えねえけど…俺に見せられるくらい自信が有るなら、

きっと似合ってると思うぜ!」

 

「そ、そうなんだ…似合ってるんだ…。(やった、一夏に褒められた!!)」

 

「! そ、そうですの…似合ってるん…ですの?」

 

 手放しで褒めた訳ではないが、

2人共満更でもなさそうだ。それを裏から見ていたなのはは一言。

 

「全く、一夏君は女の扱いが上手いんだか下手なんだか…」

 

 そして、遂に開店の時間が来た。

予想通り1年1組の喫茶店は執事服姿の一夏見たさに

学園中の女子がよってたかって行列を作っていた。

 

「一番席、ミルクティーとアップルパイ入りました!」

 

「一番席、ミルクティーとアップルパイ了解なの!

一夏君、三番席のブラックコーヒーとフレンチトースト、完成したの!!」

 

「了解!!すぐ行きます!!」

 

 当然、厨房は大忙し。

料理経験豊富ななのはが厨房を取り仕切り、何とか保たせているレベルだ。

既に教室の前には総勢1クラス分の行列が並んでいた。

 

「おや、あそこにいるのは…。」

 

 ふと見ると、チャイナドレスを着た鈴音が来ており、

注文したで執事のご褒美セット」の特別サービスで、

一夏にお菓子を食べさせて貰っていた。

 

「(楽しそうで、何よりなの。)………んん?あれは…?」

 

 ふと見るとライトブルーの髪の見慣れない生徒。

正体はメイド服を着た楯無だ。

自分の組をほっぽり出して何をやっているのやら。

 

「そこの2年生…何をしてるのかな?」

 

「あらあら、バレちゃった?ちょっと後輩のお手伝いを…。」

 

「そういうのはまにあってるの。もちばにもどるの。はうすなの。」

 

「連れないわね、そんな無愛想だと嫌われちゃうわよ?」

 

「それ以上文句を言うと、山田先生と同じ目に遭わすの…。」

 

「(ゾクッ!)な、何か悪寒が…悪いけど急用が出来たから…さよなら~。」

 

 気が付いたら楯無は居なくなっていた。

なのははため息をつくと、再び厨房に戻る。

 

 そして正午過ぎ…漸く客が掃けて休める様になったなのは

厨房を他の生徒と交代して、他の組の出し物を見ながら学園を回っていると…

 

「もし、そこの方?」

 

「?」

 

 振り返ると、スーツ姿の女性が近づいてきた。

だが、その所作は所定の訓練を受けた人間が

無理して普通の人間の振りをしている様だった。

 

「日本代表の高町なのはさんで間違いありませんね?

私、こういう者なのですが…」

 

 差し出された名刺には、

IS装備開発企業『みつるぎ』渉外担当・巻紙礼子と書かれていた。

だが、目の前の女はどう見ても日本人の顔立ちではない。

 

「貴女方に相談が有るのです。

是非とも我が社の開発した装備を使っていただけたらと思いまして…。」

 

 なのはは聞いた事が有った。夏休み、千冬の修行で束のラボに詰めていた頃、

こういう企業の人間が何人も来て、

白式に自分達の会社の装備を使って欲しいと勧誘してきたと。

何故なら、世界初のISを動かせる男の専用機に

自分達の装備を使って貰えればその宣伝効果は絶大だからだ。

 

「却下なの!!

7月に装備を追加したばかりだから、そういうのは間に合ってるの!!

更に言うと、束さんのOKが無い限りそういうのは受け付けないの!!」

 

 だが、なのはにそのような余計なお世話に付き合う理由は無い。

その場で却下するなのはだった。

 

「そ、そうおっしゃらずに話だけでも…」

 

 と、ここでヤマトがなのはに耳打ちをした。

 

「ああ!今組の出し物が忙しい事になっているらしいからこれで失礼するの!」

 なのははそう言うと足早に去って行った。

 

「(危ない危ない…遂に来たね、亡国機業!)」

 

 なぜ彼女が亡国機業なのか。ヤマトが耳打ちした内容は以下の通りである。

 

「IS装備開発企業『みつるぎ』に、『巻紙礼子』という社員はいない。」



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第4話  亡霊の牙

さあ、遂に亡国機業との初戦闘です。
初戦の相手は、英国で一騒動起こしたあのコンビ。
果たしてなのはは、死人を出さずに片づけられるのか?


「何?亡国機業の構成員らしき女が接触して来ただと?!」

 

『そうなの!写真を転送するの!!』

 

「むむ、こいつか…」

 

 織斑姉弟にとって亡国機業は因縁浅からぬ存在だ。

なぜなら第2回モンド・グロッソベルリン大会の際、

一夏を誘拐した組織こそ亡国機業である。

恐らくはドイツ連邦軍、

ひいてはドイツ政府ばかりか世界主要国の政府と繋がっているであろう

国際的武器密売組織の人間が学園内にいる。この事実に千冬も緊張する。

 

『「みつるぎ」の社員、巻紙礼子を名乗っているけど、間違いなく偽名なの!!

どう考えても日本人の顔じゃないし、

そもそもあの会社にそんな名前の社員はいないの!!

この時期に偽名を使って学園に接触してくるのなら間違いなくクロなの!!』

 

「…だろうな。私は理事会と職員達に連絡する。お前はその女を…」

 

BEEP!BEEP!BEEP!BEEP!BEEP!BEEP!BEEP!

 

「な、何だ?!」

 

 千冬が居る学園の警備管制室に警報音が響き、モニターに学園見取り図が。

その中の更衣室で、赤い点が点滅している。その光点の下には白式の文字が。

 

「白式…と言う事は、一夏は今更衣室にいるのか?」

 

『そうらしいの!!この赤点滅は異常事態発生のサインなの!!

私が早速見てくるから、先生は上に報告するの!!』

 

「解った!!」

 

 報告を終えたなのははヤマトワープで一瞬で更衣室へ移動。そこにいたのは…

 

「な、何?!!」「なのはさん!!」

 

 ISを装備していない一夏と

八本脚の蜘蛛型ISを展開した女…巻紙礼子がいた。

 

「やあ、5分振りなの。トイレットペーパー=サン。」

 

「チィッ、テメェが噂の暴走核弾頭かよ、

いくら巻紙なんて名乗ってるからって舐めた渾名付けやがって…!!」

 

 先程とは打って変わった粗暴な口調の巻紙礼子。これが彼女の素の様だ。

学園最重要危険物であるなのはの登場に舌打ちをする。

と、ここでなのはは彼女が持つISコアに目を付けた。

 

「そのコア…ひょっとして、白式のかな?」

 

「ああそうさ!ついでにテメェのご自慢のヤマトも分捕る積もりだったが、

つくづく勘の鋭い野郎だな!」

 

「なのはさん、気を付けろ!!

そいつは変な機械でISを強制的に待機状態に戻して来るぞ!!」

 

「ISを待機状態に…さては剥離剤(リムーバー)

そう言えば束さんが言ってたの!!でもヤマトには効かないの!!

既に1度使ってるの!!!」

 

「ケッ、用意の良い奴だぜ!!

でもなぁ…テメェを殺せば済むって事だろうが!!」

 

 8本の装甲脚が展開され、先端の銃口がなのはを狙い、実弾を放った。

しかし、なのははラウンドシールドで全ての弾丸を弾き飛ばす。

 

「んなっ…IS無しで弾を弾いただと?!テメェ、何しやがった?!」

 

「当たってないだけじゃないの?どうせ旧式だし、

そんな型落ち品で私にタイマンを挑むなんて、舐められた物なの。

その蜘蛛の様なデザイン、米国製の第2世代機アラクネで間違いないの!!

それで?まさか実体弾しかない型落ち品如きで、

この私に戦いを挑んだりしないよね?」

 

「言ってろ!!なら、こいつはどうだ!!」

 

 ガッ!!

 

 両手のカタールで持って切り掛かってきたが、

やはりなのはのラウンドシールドで弾かれる。

 

「何ッ?!こいつも止められた…!!」「無駄な事を…今楽にしてやるの!!」

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 毎度おなじみのどーん!の声と共に

遠隔部分展開されたアームが飛び出してアッパーをぶちかまし、

両腕と装甲脚を一瞬で粉砕した。

 

「ぐあ!!」

 

「今なの!!一夏君、白式を呼ぶの!!」

 

「白式を…? っ!!来い!白式!!」

 

 一夏が白式の名を呼ぶと、

礼子が持っていた筈の白式のコアが消え、一夏の右手に現れた。

 

「な、何ィーッ!!コアがワープしやがっただと!!」

 

「まさか知らないの?

『剥離剤を一度使われたISは、遠隔呼び出しが可能になる』という事を…

こっちはISの本家本元、そんなことはとっくに知ってるの!!」

 

 一夏はそのまま白式を展開し、リベンジとばかりに礼子に吶喊した。

 

「さっきのお返しだ!食らえ!!」

 

 一夏は零落白夜を発動し、無力化されたアラクネのバリアーをすり抜けて

本体の絶対防御に直接切りかかり、追い打ちに蹴り飛ばした。

 

「ぎゃあ!!」

 

 壁に激突したアラクネは大破している。そのまま拘束しようと一夏が

礼子に近づいたその時だった。

 

「織斑君!!」

 

 千冬の命令を受けたのか、M・レイディを展開した楯無を先頭に

R・リヴァイヴを展開した真耶を始めIS教員達が更衣室に突入して来た。

 

「……………どうやら、もう勝負は付いたみたいね。

とりあえず、そいつが侵入者でいいのね?」

 

「いかにも!!早速連れて…!!」

 

 そこまで言いかけた所で、何かに気が付いたなのはは上空にバリアを展開。

 

「!!」

 

 直後、天井を突き破って複数の光線が降って来た。

勿論、光線はヤマトのバリアで弾いたので天井以外に被害は出なかった。

 

「?!」

 

 そして、天井に空いた穴の向こう側にいたのは黒い蝶の姿をしたIS。

英国製B・ティアーズ2号機、S・ゼフィルスだ。

操縦者は仮面型バイザーで顔が見えない。

だが、その体付きから中学生程度の少女と思われる。

 

「迎えに来たぞ、オータム。」

 

「え、M!テメェ、私を呼び捨てにするんじゃねぇ!!」

 

 Mは礼子を嘲笑する様に一言告げた。

オータムと呼ばれた礼子は文句を言うがMは意に介さない。

もう解っただろうが、巻紙礼子の正体は

2月前にMと共に英国BAEシステムズの格納庫から

S・ゼフィルスを強奪した国際武器密輸組織

「亡国機業」のIS操縦者オータムだ。

 

「S・ゼフィルス…!!」

 

 Mはなのは達にS・ゼフィルスの主兵装、

エネルギーマルチライフル「スターブレイカー」を乱射する。

しかし、ヤマトはその程度ではビクともしない。

 

「ケッ、ふざけた耐久力だぜ、まるで戦艦だな!」

 

 オータムは戦闘不能になったアラクネからコアを抜き取り、

機体を自爆させて一目散に逃走。

真耶達が爆風に怯んで動けない隙にMと合流した。

全員が態勢を整えると既にオータムの姿はなく、

Mも学園上空から遠ざかっている。

 

「くっ、逃げられたか…!!」「そうですね……」

 

 機体の性能を考えると、真耶達教員勢はまず追いつけないだろう。

専用機持ちも、今から出撃して果たして間に合うかどうか。

しかし、ここに諦める気のない者がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

逃゛け゛ん゛し゛ゃ゛ね゛ぇ゛の゛っ゛!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「この場の収拾は山田先生と千冬先生に任せるの!!

私はアレを〆てやるのぉーっ!!」

 

「え、ちょっ、待っ…」

 

 なのはは追う気満々だった。

早速ヤマトワープでS・ゼフィルスの至近に移動する。

 

「待ちやがるのぉぉぉおおおーっ!!」

 

「!! 追いついただと…そうだ、奴はテレポート使いだったな!!」

 

 Mはまさかの追撃に一瞬怯むが、すぐに反撃に移行。

スターブレイカーと全ビットを以てなのはを迎え撃つ。

 

「何の!!目には目を、ビットにはビットなの!!」

 

 ヤマトの大腿部からナイフが出現。なのははそれを頭上に放り投げた。

 

「出でよ、コスモファルコン!!」

 

 ナイフが量子変換を解かれると、現れたのは32機のミニチュアの戦闘機。

それは、いわば篠ノ之流BT兵器ともいえる戦闘機型の分離式機動兵器

「コスモファルコン」だ。

 

「チッ、奴もビットを使うのか!!」

 

 32機のコスモファルコンは全方位からS・ゼフィルスに群がり、

一斉に荷電粒子ビームガンを撃ちまくる。

更に機体下方の扉からは超小型ミサイルを投下、多重量子変換を解かれ、

本来のサイズの対ISミサイルとなって襲い掛かる。

 

「こっ、このぉぉおおおっ!!」

 

 Mは全ビットをシールド形態に展開して防ぐが、数が多すぎて防ぎきれない。

何発かが本体に命中し、SEを削っていく。

 

「まだまだ終わらないの!!」「のいじーくりけっとぱぅわぁーっ!!」

 

 ヤマト本体も4連装機銃を斉射。偏向射撃(フレキシブル)

コスモファルコンを避けながら60の光線が迫る。

 

「偏向射撃だと?!どこまでも常識外れな奴め!!」

 

 Mもスターブレイカーとビットで反撃。

こちらも偏向射撃(フレキシブル)を使えるらしく、

光線は逃げるコスモファルコンを追尾、何機かが被弾して炎上し、黒煙を曳く。

 

「しぶとい奴なの!!被弾機は撤収!!残った機体は攻撃続行!!そして…」

 

 主砲と副砲を遠隔部分展開して加勢させ、ミサイルも総動員、

砲撃とミサイルが暴風雨の如く飛び掛かる。だが、Mは巧みに弾幕を躱す。

 

「くっ、化け物め…!!

(ただ逃げて送り狼の真似事をされればただでは済まない…

どうしてもこいつを撒かなければ…!!)」

 

 防戦一方でジリ貧のM。

だが、1対1で機体に2世代差があるという条件を考えると、

1分近く攻撃を凌いでいる彼女も充分凄い。ICPO-ICD、KSKでさえ、

ここまでは保たせられなかった。

 

「………これは、余程の手練れなの!!こうなったら、あの新技を使うの!!」

 

 なのはの前に多数の魔法陣が出現。それは、なのはが苦手とする転移魔法だ。

だが、今のなのはにはヤマトがいる為、この手の魔法も問題なく使用可能だ。

しかし、ヤマトワープが使えるのになぜ転移魔法を使うのか?

 

「照準良し…これを避けられるかな?!」

 

 

 

 

 

 一方、なのはが魔方陣を展開したのを見たMは…

 

「(何だ、あの光の円は?!まさか…)」

 

 それをとんでもない大規模攻撃の予兆と判断。

ここは全速力で軸線から離れ、ランダム回避で距離を取るべきと判断した。

 

「(奴は波動砲という凶悪な大口径ビーム兵器を搭載していた筈…

さては痺れを切らしてそれを使う積もりか?だが、当たる物か!!)」

 

 だが、Mの判断は不正確だった。

大規模攻撃までは当たっていたのだが、その内容は予想とは違っていた。

 

「…それで逃げた積もり?」

 

 なのはは魔方陣の集合体に波動砲では無く、他の全火砲を向けた。

そして、一斉に全火砲を斉射した。

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 本日2度目のどーん!で全砲撃が魔方陣の集合体を直撃。

しかし、転移魔法なので砲撃は全てどこかに転送されてしまう。

では、その転送先は…?

 

「(何もしてこないなら、このまま逃げ切る!!)」

 

 Mはなのはが何もしてこない内に、距離を稼ぐ為最大速度で直線飛行。

だが、既になのはの一撃はMを捉えていた。

突如、Mの眼前に魔方陣が現れると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォォオオオオオオン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グワーッ!!」

 

 Mは自分から砲撃に突っ込む形で直撃を浴び、大爆発して墜落。

しかし、なのはが落下中にアームの遠隔部分展開で掴み、捕縛された。

 

 一方、オータムは…

 

「くっそ、何もできねぇまま撤収とはな…!」

 

 どさくさに紛れ、何とか学園敷地外に逃げ出したオータム。

そのまま二輪車で本土との連絡手段であるモノレールの発着場へ逃亡を図る。

 

「ここまで来れば、後はモノレールで逃げるだけだ…

あいつに連絡して早いとこ合流しねぇと…」

 

 しかし、そうはいかないのがIS学園だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガシィッ!!

 

「な、何ィーッ!!!」

 

 突如現れた巨大な手がオータムを二輪車ごと鷲掴みに。正体は勿論…

 

「知らなかったのかな?私からは逃げられないの!!」

 

「ゲェッ、暴走核弾頭!!テメェ、何でアタシの居場所が…」

 

「コアを持ったままで逃げられると思ったの?!

ハイパーセンサーには丸見えだったの!!

勿論、観念してくれるよね?原型が解らなくなるまで握り潰されて、

バイクとごっちゃにされて送り返されるなんて死に方は嫌だよね?」

 

 なのはのやる気満々の顔を見たオータムはたちまち真っ青に。

 

「よ、止せ!ギブアップするから、握り潰すのだけは…」

 

 オータムに出来る事は最早それだけだった。

かくして、学園祭の闖入者は呆気無く鎮圧された。

 



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第5話  亡霊が告げる真実

無事に亡国機業の回し者をひっ捕えたなのは。
しかし、ここから話が急展開に!

お知らせ
今話から試験的に、各種特殊タグを使っていきます。
結果次第では、今まで投稿した話にもフィードバックするかもしれません。
そうなったら、あとがきと活動報告でまた通知しますので
何卒よろしくお願いします。

追記
前話の投稿を以て、本作のUAが6万を突破致しました。
ありがとうございます!!


 学園祭に侵入した国際武器密売組織「亡国機業(ファントム・タスク)」のIS操縦者、

オータムとM。しかし、なのはの迅速な対応により、

2人共捕縛する事に成功したのであった。と言う訳で…

 

「うおおおおおおおおお!!早速連れて来たのぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」

 

「「ふぎゃっ!」」

 

 高木理事長と轡木代理、そして教員勢及び織斑姉弟の下に

簀巻きにされたオータムとMが転がされた。

 

「たか…なのはよ、なんでそんなにハイテンションなんだ?

まあ良い、で、こいつ等がそうなんだな…。」

 

 千冬がMのバイザーを引っぺがす。すると…

 

「な、こ、こいつは…!!」

 

 千冬が驚愕した理由。

それは、バイザーの下から現れた顔が自分とそっくりだったからだ。

 

「こ、これは…千冬姉そっくりじゃないか?!」

 

「まさか…まさか彼女は織斑先生の妹…?!」

 

 たちまち騒然となる一同。

 

「お、織斑君!まさか彼女は君の…」

 

「いえ…私に一夏以外の兄弟姉妹はおりません、これは一体…」

 

 すると、ここでMが口を開いた。

 

「………矢張りそう言うと思っていたよ、『姉さん』。」

 

「「「「「!!!!」」」」」

 

 千冬を姉と呼んだM。だが千冬の言う通り織斑姉弟は千冬と一夏だけの筈。

 

「や、やはり彼女は織斑先生の妹…」

 

「いえ、そんな筈がありません!私はこ奴と面識すらないのですよ?!」

 

「そ、そうだぜ!俺もこいつの事なんか全く知らない!!」

 

「当然だろう。姉さんとこうやって直接会うのはこれが初めてだからな。」

 

「どういう事だよ?!お前、…本当に何者だ?!」

 

 一夏の問いに対しMはこう答えた。

 

「私か?私はお前だ…織斑一夏。」

 

「「「「「?!!!!」」」」」

 

 意味不明の回答に、その場の全員が困惑する。

 

「お前……何を言っているんだ?!」

 

「言った通りだ。私はお前だと…そして、私の名は織斑マドカ。

漢字をあてるなら、真の十の夏と言っておこう。」

 

 一夏にそう吐き捨てると、

マドカを名乗る少女は隙をついて簀巻きを振りほどいた。

 

「そして織斑一夏、お前には私が私であるために……死んで貰う!!」

 

 拳銃を取り出し、一夏に向けたその瞬間…。

 

「くらえー、じゅうまんぼるとー。」

 

 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!

 

「らめえええ!電撃しゅごいのおおおおんっほおおおおおおおお!!!」

 

 ヤマトがスパーク音を響かせ、マドカに電撃を浴びせた。

マドカは悶絶絶叫してアへ顔でぶっ倒れた。

 

「は、はへぇ~~~~。」

 

「危ない所だったの!!」

 

 なのはが拳銃を奪い、セーフティロックを掛けて机の上に置いた。

 

「やまとのはいぱーせんさーがかんちしたの。

このこはのうみそになのましんがはいっているの。

なのましんがうごいたからやまとがじゅうまんぼるとでこわしたの。」

 

「んだとぉ…!!」

 

「何…!!おい貴様、コイツの言っているのは本当か?」

 

 驚愕するオータムに真剣を突きつけて問い質す千冬。

オータムは少し黙っていたが、やがて口を開いた。

 

「ああそうさ。そいつは組織へ忠誠を誓ってる訳じゃないから

反逆したら脳幹を壊して殺す為に監視用ナノマシンを埋め込んであるのさ。

まさかアタシ等でも取り出せないナノマシンを、簡単に無力化しやがって…。」

 

「これぞ、かっさつじざいのだいごみなのだー。(両手パタパター」

 

「フン…下らん細工をした物だな。で、貴様等、何が目的で忍び込んだ?」

 

「それは私が既に聞いたの!!この2人は白式とヤマトを奪う為に来たの!!」

 

「成程、そんな事だろうと思ったよ…。」

 

「その上で私から聞きたい事が有るの!!

プレシア・テスタロッサ…この名前に覚えは?」

 

「あぁ?知ってた所で誰が言うか…」

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 ゴシャ!!!

 

「ぴゅぶ!!!」

 

 ヤマトの鉄拳がオータムの脳天に直撃。

オクタコアISの本気の拳は、本来人間など木端微塵になる威力だが、

活殺自在の効果でオータムは傷一つ付かず、単に「死ぬほど痛い」だけで済む。

 

「言わないと、活殺自在を発動して殴るの!!

原型が無くなる力で殴られても

死なないどころか傷一つ負わせずに痛みだけ味わわせるの!!!」

 

「何…だと…!!」

 

「さあもう一発行くの!!カウントダウン…3…2…」

 

「ちょ、止めろ、止めろって!!言うから殴らないでくれー!!」

 

「ちっ…じゃあ言うの!!皆に聞こえる様に言うの!!」

 

「プレシア・テスタロッサはアタシ等の意思決定機関、幹部会副議長だ。

つまりアタシ等のナンバー2だよ。

表向きは国際IS委員会(IIC)の常任理事にして次期理事長、

サンドラ・リーバーマンを名乗ってる。

娘のラケーレはイタリアの代表候補生の一人だよ。」

 

「やっぱり…でも、それは知ってるの!!

じゃあ、亡国機業の本拠地はどこなの?!!

ドニ何とか一族は奴等の仲間なの?!!

と言うか、そもそも亡国機業の首領は誰なの?!!」

 

「そんなもん知らねえよ!!アタシ等実働部隊はアメリカが本拠だけど、

幹部会が何処にあるのかは実働部隊じゃ隊長しか知らねえよ!!

てかドニ何とかって何だよ!!」

 

「フランスのロスチャイルド気取りの田舎貴族なの!!

そいつらからいくら貰ってるの?!!」

 

「何だ、ドニエール家かよ…そんなもん、本人に聞きゃ…」

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 ボゴォ!!

 

「ほげ!!」

 

 オータムの脳天にまたもやヤマトの拳骨が落ちた。

だが、活殺自在の力で全く傷つく事は無い。

殺す程の力で痛めつけても、ただ痛いだけで絶対に殺傷しない。

これも活殺自在の恐ろしい使い方の一つである。

 

「何すんだよー!!」

 

「私は答えろって言ったの!!答えないともう一発いくの!!」

 

「だ、だから知らな…」「本当に?」「ホントだって!!」

 

「⌒*(◎谷◎)*⌒ ホ ン ト ウ ニ ? 」

 

「ホントにホントだって!!」

 

「⌒*(◎谷◎)*⌒ ……………………。」

 

「……………………。」

 

「ちっ、なら次の質問なの!!誰がボスなの?!!」

 

「何で舌打ちするんだよ…アタシ等のボス?

そんなもん、いるかどうかも解らねえのに答えられるかよ!」

 

「あぁ~~~~~~~⌒*(◎谷◎)*⌒~~~~~~~ん?」

 

「そんな顔したって答えられねぇよ!!アタシ等の隊長曰く

『幹部会にも音声でしか参加しないから、誰も顔を見た幹部はいない』んだよ!

文句あっか?あんなら本人に直接言えよ!!」

 

「あぁ~~~⌒*(◎谷◎)*⌒=⌒*(◎谷◎)*⌒~~~ん?」

 

「ちょ、怖ぇえよ!!何だよその動き!!」

 

 流石にテロリストの実働部隊でも、ヤマトが眼前で

悪鬼の形相を浮かべて反復運動するのは怖いらしい。

しかし、一体どこで思いついたのだろうか?

 

「止めて貰いたかったら、心を込めてボスについての知ってる事を話すの!!

本当に知らないなら、改めて知らないってはっきり言うの!!」

 

「だから、ボスの顔を見た奴は幹部にもいないんだよ!!これで良いだろ?!」

 

「………ちっ、一般構成員から聞ける情報なんて、こんな物なの!!

仕方ない…用済みだから、然るべき所へ引き渡すの!!

と言う訳で、理事長には警視庁と在日米英両国の大使館に連絡して頂くの!!

襲撃に英国の最新鋭機と米国の試作機を使っていたんだから、

これらを返す必要があるの!!」

 

「解った、ではそうさせて…」

 

 と、高木理事長が本土への連絡に立とうとした瞬間!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆伏せるのぉ!!!!」

 

 なのはが突如大喝。直後…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピッシャァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!」」」」」

 

 会議室に響いたのは落雷の轟音。

例えでも何でもない。会議室に本物の雷が落ちたのだ。

果たして、会議室はどうなったのか…?

 

「…………危ない所だったの!!」

 

 間一髪、なのはが最大出力のシールドを張った事で全員命は無事で済んだ。

但し、着弾点であるなのはの直近にいたオータムは

マドカ諸共衝撃で吹っ飛ばされ意識喪失している。

 

「な、何だったんだ一体?」

 

「千冬先生、下がるの!!これは、私でないと相手できないの!!

………やっと、直接話す気になったみたいなの!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プレシア・テスタロッサ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後、ホログラムモニターが出現。そこにいたのは…

 

『まさか、アレを防ぎきられるとはね…どこまでも忌々しい小娘が…!!』

 

 なのはの言葉通り、

現れたのは15年前虚数空間に墜ちたフェイトの母プレシア・テスタロッサ。

いや、今はIIC常任理事 兼 次期理事長サンドラ・リーバーマンか。

 

「り、リーバーマン常任理事?!」

 

「常任理事!これは一体何の真似ですか?!」

 

 高木理事長と轡木代理も仰天。IIC最高幹部の彼女が

亡国機業構成員の引見に割り込んで来たと言う事は、つまり、IICは…

 

「2人共下がるの!!」

 

「た、高町君?!」

 

「そこにいるのは、IIC役員の皮をかぶったテロリストの最高幹部なの!!

コイツの相手は、私がするの!!口を挟むと、またラリアットなの!!」

 

「よ、止せ!!

挟まない、口を挟んだりしないから、こっちを攻撃しないでくれー!!(逃亡」

 

「ああ!理事長、待ってー!!」

 

 高木理事長以下、千冬以外の教員達は一斉に逃げ出した。

残ったのはなのはと織斑姉弟、そして絶賛失神中のマドカとオータムだ。

 

「なのはさん!!こいつが例の…」

 

「その通り、私が魔導の力を得る事となった元凶、

プレシア・テスタロッサとはこの老いぼれの事なの!!」

 

「どういう事だ?!彼女はIICのリーバーマン常任理事ではないか?!

まさか…IICは既に…」

 

「おそらく、IICはもう乗っ取られているの!!

そうだよね?プレシア・テスタロッサ!!

いや、今はサンドラ・リーバーマンで良かったよね?」

 

『如何にもその通り。現理事長のヨリツネ・ハナコウジが居なくなれば、

我等亡国機業の手によってIICの掌握は完遂されるのよ!』

 

「成程、ならばIIC次期理事長内定、一応、祝っておいてあげるの!!!

過去に囚われてあれだけの目に遭ってもまだ諦めてなかったの?

病み上がりの老いぼれが!!」

 

『あの程度で諦められるものか…

でももう済んだ事よ。御蔭で私は思いを遂げられたのだから。』

 

「全然懲りてないみたいなの!!

まあ、当初の目的を遂げられたのだから当然か…。

それで?瀕死の老いぼれのなけなしの落雷攻撃で、私を殺せると思ってたの?

そもそも、何でそんなに元気でいられるの?瀕死の病人風情が!!」

 

『病人病人と煩わしい!!確かに、あの頃の私は明日をも知れぬ命だった。

だが、この世界に漂着してすぐ、私は「あの2人」に拾われた。

そして、向こうにはない技術…ナノマシンの力で、私は命を繋ぐ事が出来た。

身体こそあの時よりも老いたが、

今の私の力はあの時とは比較にならないと知る事ね、小娘!』

 

「それはこっちのセリフなの!!この15年で私の力は3倍に増えたの!!

何なら生で見せてやってもいいの!!IICと亡国機業の本拠地を、

目の前で木端微塵にしてやるの!!」

 

『やれる物ならやってみるが良いわ…

我等の世界支配は、既に最終段階に入っているのよ。

後は、不要なお前とあの小兎を消すだけ…。止めること等出来るものか!』

 

「小兎か…その小兎の被造物に頼る時点で、

盛大に終わり切っている自分の分際がまだ解らないんだ。

もしかしてアレなの?認知症なの?

まさか、私の力が今まで見せた分だけ何て甘い事を考えてるの?」

 

『減らず口を…まあ良いわ。なら、お前に面白い真実を突きつけてやろう。』

 

「何なの?」

 

『この私がこの地に漂着して最初に出会い、

そして生き永らえる原因となった「あの2人」…

当人の許しが下った今、その名を教えてやろうと言ったのよ。その名は…』

 

 そして、プレシアが声を張り上げて告げた名は…

 

 

 

 

 

 

 

『その名は織斑春三、そして妻の織斑千秋!!

そこの織斑姉弟と出来損ないの実の両親にして、

我等が双頭の首領!!それがお前の真の敵よ!!』




敵ボスと主人公が実の親子だった。
まあ、ある意味王道の結果に落ち着きましたね。


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第6話  新たな生贄は台風の目に 前編

お待たせしました。丸二週間ぶりの投稿です。


 遂に姿を現した国際武器密売組織「亡国機業(ファントム・タスク)」。

その刺客として学園に忍び込んだ構成員オータムとMを捕えたなのはだったが、

Mの素顔を暴いた時、恐ろしい事実を本人が語った。

彼女は自らを千冬の妹「織斑真十夏(マドカ)」と名乗り、

一夏に対し私が私である為に死んで貰うと告げるや、銃を向ける。

だが、マドカはヤマトの電撃でKOされ、大事には至らなかった。

 

 更に、なのははオータムから亡国機業の情報を聞き出そうとするが、

一構成員に過ぎないオータムが知っている事実は余りにも少なかった。

なのはは匙を投げ、警視庁に連絡して引き渡そうとしたが、そこに謎の落雷が。

済んでの所でなのはが防ぎ切ったが、なのははその正体に覚えが有った。

 

 15年前、自身が魔導の道に入った元凶にして、

最大の友フェイトの母、プレシア・テスタロッサ。

彼女は表向き国際IS委員会(IIC)常任理事にして次期理事長、

サンドラ・リーバーマンを名乗っていたが、

同時に亡国機業のナンバー2、幹部会副議長という要職にもあった。

 

 ホログラムモニター越しに対峙したなのはに対し、

プレシアは衝撃的な事実を告げる。

それは、亡国機業の首領は織斑姉弟の両親、春三と千秋の二頭制であり、

かつて不治の病で明日をも知れぬ身体であったプレシアを病から救ったのも、

この二人の意向であるという物だった。

 

 

 

「なん……だと………?」

 

 驚きを隠せない織斑姉弟。

自分達を置いて消え去り、陰鬱な青春時代を送る元凶となった両親が、

あの時自分達が倒すと誓った組織の首領だったという真実は、

それだけ衝撃が大きかったのだ。

 

「ま、まさかあいつ等…そんな所で…!!」

 

「俺達を捨てて、テロリストの親玉なんかになってたのか?」

 

 そして、その真実を聞いたなのはの反応は…

 

「そんな所だろうと思ったの!!大方、自分の子を道具扱いする者同士

馬が合ったんでしょ?いい機会だから、きっちり〆てやるの!!

たかが国際機関を牛耳っている程度で、この私に敵うと思った浅はかさを

悔やむ前に息の根を止めてやるの!!覚悟するの!!」

 

『やれる物ならやってみるが良い!!

そっちこそ、世界を敵に回した愚かさを思い知る事になるのよ!!』

 

「上等なの!!勝って世界を総取りしてやるの!!

こっちはいつでもいいから、好きな時に掛かって来るの!!」

 

『減らず口を…後悔する事になるわよ!!』

 

 かくして通信が切れ、15年前の怨霊との再会は終了した。

 

「やれやれ…とんだ再会だったの!!」

 

「お、おいなのは…お前の言うプレシア・テスタロッサは、

IICの次期理事長ではないか!お前…本気でやるのか?!」

 

「勿論なの!!先生も腹を括るの!!

心配無用なの、一度勝った相手に後れは取らないの!!」

 

「そ、そうか…いいだろう!私もブリュンヒルデだ。

やれるだけの事はやってやる!!」

 

「俺だって!!」

 

「さて、それじゃ…この2人をどうするかなの!!」

 

 なのはは2人の操縦者、オータムとマドカを見て今後の予定を思案する。

 

「うむ、オータムとやらは米国に引き渡すとして、

問題はマドカだな。こいつには積もる話がある。」

 

「それはその通りなの。彼女は事情聴取の間、

鍵付きの空き部屋に監禁するのが妥当なの!!

それと、このトイレットペーパー=サン(偽名の苗字、巻紙から)は

米国では無く英国に引き渡すのが良いと判断するの!!」

 

「理由は?」

 

「亡国機業の実働部隊は米国に本拠があると言ったからなの!!

米国に引き渡すと、匿われる可能性があるの!!

いくらミスしたからって、IS操縦者をおいそれと粛清する事は出来ないの!!

だから、英国への引き渡しを提言するの!!」

 

「うむ、そう言う事ならそうするべきだな。

理事長と轡木代理にもそう提言しておこう。」

 

 かくして、乱入騒ぎは幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 そして翌朝…

 

「さて、先日の亡国機業襲撃は皆も知ってると思うけど、

連中の本拠は未だ解らずじまいなの!!解り次第早速殴り込みをかけるから、

それに備えて、今日から専用機持ちは全員鍛錬に参加するの!!」

 

 なのはの前には学園の専用機持ち10人が集められていた。

 

「何で私まで…」「だ、だりぃ…」「いい迷惑っス…」「(お姉ちゃん…)」

 

 今回から加わるのは以下の4人。

前生徒会長で現副会長の更識楯無とその妹の簪。

3年生唯一の専用機持ち、米国代表候補生の俺っ娘ダリル・ケイシー。

そのルームメイトで2年生、ギリシャ代表候補生のフォルテ・サファイアだ。

 

 そして、このダリルとフォルテのコンビはイージスコンビの愛称と共に

学園きっての実力者として有名だ。

尤も、代表と代表候補生の差を考えると楯無程の実力はない。

 

 そんな訳で連れて来られた4人、簪以外は不満たらたらだ。

何たって1年生の専用機持ちの朝練の過酷さは、

授業がウォーミングアップにしかならないレベルと有名だからだ。

 

「………なんか上級生程やる気が感じられないのはなんなの?

そんな人は危ない補習をするの!!」

 

「「「「ビクッ!!」」」」

 

 危ない補習の言葉に猛烈に嫌な予感がする4人であった。

 

「さて、それでは朝練を始める前に、簪とシャルは前に出るの!!」

 

「「!!」」

 

 突然簪とシャルを呼び出すなのは。その理由は明白だ。

 

「2人の専用機が遂に完成したので、ここで引き渡すの!!

まず、これはR・リヴァイヴ・カスタムⅡに替わるシャルの専用機、

タイフーンCカスタムなの!!」

 

 夏休みのお披露目デモの一件の後、改めてお披露目をやり直したタイフーン。

その結果、EUは「この機体こそ制式機に相応しい」と認め、

晴れてタイフーンは欧州統合防衛計画(イグニッション・プラン)の制式機となった。

 

 これにより、フランス代表候補生のシャルも政府から専用機の新調を命じられ、

今までのR・リヴァイヴ・カスタムⅡに替わる新専用機、

タイフーンCカスタム(以下、タイフーンCC)がこの度支給された。

勿論、CカスタムのCは本名シャルロットの頭文字だ。

 

「これが…僕の新しい相棒…。」

 

 待機状態の姿は今までと変わらない。だが、中身は今までとは格段に違う。

シャルは手にしただけで、その違いが感じられる様な錯覚を覚えた。

遂に彼女も、箒以外の代表候補生と同じ第3世代機持ちとなったのだ。

 

「次は簪の番なの!!これが待ちに待った打鉄弐式なの!!」

 

「……ゴクリ!」

 

 倉持技研と簪が半ばまで組み立て、ヤマトの人工知能が仕上げを施した

タイフーンに続く世界第二の量産型第3世代機、打鉄弐式。

最終的な組み立てを簪が済ませた後、

データ提供の為倉持技研に渡していた機体が、この度簪の下に戻ってきたのだ。

 

「最適化は束さんが済ませたから、早速展開するの!!」

 

「コクン…来て、打鉄弐式!」

 

 簪の声に応え、打鉄弐式が展開された。

 

「これがタイフーンに続く量産型第3世代機…打鉄弐式か。」

 

「IS発祥国の面目躍如と言った所だな、

本当ならこの機体が世界初の量産型第3世代機になる筈だったんだからな。」

 

「ああ…だが、その座を奪ったタイフーンは姉さん直々の設計…

仕上げをヤマトのAIが担当したとはいえ、

どこまで差を縮められたのだろうか。」

 

 他の代表候補生のコメントを余所に、

なのはは打鉄弐式の武装のチェックを始める。

 

「じゃあ、先ずは荷電粒子砲からなの!!

近接グレネードを展開するから、それを撃ってみるの!!」

 

「はい!『春雷』展開良し…エネルギー充填、正常!」

 

 最初は試射なので、時間をかけて動作を点検しながら準備を進める。

異常がない事を確認すると、なのははダミーの波動爆雷を上空に遠隔展開した。

 

「じゃあ、実際に標的を射つの!!標的展開!!」

 

「はい、照準セット…発射!!」

 

 放たれた荷電粒子ビームは標的を一発で捉え、跡形もなく消し去った。

これで出力と精度は設計通りだと確認された。

 

「次は連射するの!!砲身の異常には気を付けるの!!」

 

「はい!!」

 

 ダミーの波動爆雷計12発が次々と上空に展開され、簪がそれを狙い撃つ。

次々とビームが標的を捉え、蒸発させていく。

簪も代表候補生の端くれ、一発のミスも無く標的に命中させ、

12発の標的を僅か6秒で消し去った。

 

「発射速度は毎秒2発程度か…

このクラスの荷電粒子砲なら妥当なの!!問題は、砲身の耐久性なの!!」

 

 遠距離戦の主兵装だけに、砲身のチェックは特に厳重に行われる。

だが、砲身に異常は見当たらない。つまり、春雷は設計通りと確認されたのだ。

 

「各部異常なし…ヤマトの設計通りという事がはっきりしたの!!」

 

「はい、春雷は完璧に作動してます!」

 

「ならば、次は近接用の薙刀を試すの!!」

 

 簪は超振動薙刀『夢現』を展開して構える。

標的はバリアを張ったヤマトのアームだ。

 

「では、行きます!」

 

 簪はアームに切り払い、突き、振り下ろしなどあらゆる方向から

夢現を振るう。勿論、オクタコアの大出力シールドは

シングルコアISの薙刀程度で破れる物ではないが…

 

「一発当たり平均ダメージは160…

ヤマト曰く150前後が目標だったけど、それ以上の結果を出しているの!!」

 

 夢現は想定以上の攻撃性能を出せるらしい。

 

「では最後はミサイルのチェックなの!!

打鉄弐式の目玉、ミサイル64発の同時制御は完璧か、実際に試すの!!」

 

「はい!」

 

 打鉄弐式の最大の武装、それは八連装ミサイルランチャー「山嵐」。

当初の倉持技研の予定では打鉄弐式はこれを6基搭載し、

第3世代技術マルチロックオンシステムで

最大48の標的に射ち放し型ミサイルを発射出来る予定だったのだが、

肝心のシステムが出来ず、通常通りのシステムで妥協する予定だった。

 

 所が、人工知能の補助を得ている束はそれ以上の

マルチロックオンシステムを実用化。その最初の搭載機ヤマトには驚くなかれ、

最大256目標を攻撃できるシステムを搭載したのだ。

当然、ヤマト自身もその原理を知っている為、打鉄弐式の拡張領域(バススロット)を考え、

4分の1の64目標を攻撃できる簡易型を搭載させたのだ。

その為、ミサイルの数がシステムに追いつかず、

当初の6基搭載の予定を急遽8基に増設して数を揃える事になった。

 

 本来の3分の4倍に性能を引き上げられたマルチロックオン・システム。

果たして、設計通りに動くのか?

 

「では、ミサイル64発の一斉ロックオンを実際に試すの!!

出でよコスモファルコン!!」

 

 なのはは短刀型に量子変換されたコスモファルコンを上空に放り投げる。

32機のコスモファルコンが一斉に展開され、上空で編隊を組んで待機。

 

「あの機体から、2発ずつダミーのミサイルを発射するの!!

それを見事射ち落として見せるの!!…全機投弾!!」

 

 号令一下、コスモファルコンがマイクロミサイルを発射。

空中で量子変換が解け、空対空ミサイルに戻るとバラバラの方向に飛んでいく。

 

「目標、上空の空対空ミサイル…64発、全弾ロック!!」

 

 次第に自信が付いたのか、簪も知らず知らずの内に口元に笑みが浮かぶ。

やれる。今の自分なら、全て落とせる。

 

「山嵐、全弾発射!!」

 

 閃光と白煙と共に、射ち放しミサイル全64発を発射、

ミサイルは上空の空対空ミサイルを捉え、次々と命中。上空に爆炎が広がる。

 

「命中弾57…58…59…60…61…62…63…。」

 

 そして、最後の一発の命中を確認。

簪はISよりはるかに小さいミサイル相手に、64発全弾を命中させてのけた。

 

「こ、こいつは凄ぇ…!」

 

「これなら、姉さんの作ったタイフーンに対抗できるかも知れんぞ…。」

 

「それだけではありませんわ。これを形にしたヤマトの人工知能が、

完成直後より着実に進化していると言う事の証明でもありますわ。」

 

「大変結構なの!!マルチロックオンシステムは完璧に作動したの!!」

 

「はい、ありがとうございます…!

これで…山嵐が万全の性能で使えます!」

 

「もう機体は問題ないの!!後は人間が機体に付いて来れるかの問題なの!!」

 

「…はい!」

 

 簪の方は問題ない事が確認された。

次はシャルの新専用機、タイフーンCCの番だ。




作中の打鉄弐式は量産機の扱いですが、
本当にそうなのかははっきりしていないです。
でも「量産機の2型」を意味する名前が付いているなら、
量産を意識していると考えるのは…自然…ですよね。

追伸

活動報告にて重要な発表が有ります。詳細はそちらで。


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第7話  新たな生贄は台風の目に 後編

お待たせしました。ほぼ3週間ぶりの更新です。


 さて、簪の専用機打鉄弐式の披露は終わった。

次はデュノア社から届いたシャルロットの新専用機、タイフーンCCの披露だ。

 

「では早速展開するの!!」

 

「はい!タイフーン、出て!!」

 

 展開されたタイフーンCCは夏休み中のお披露目デモで見た通り、

今までのR・リヴァイヴを更に単純化した様な外観だった。

だが油断してはいけない。この機体はISの母、篠ノ之束本人が設計した

世界初の量産型第3世代機だ。

 

「あれが姉さんの作った、史上初の…」

 

「量産型第3世代機『タイフーン』。

R・リヴァイヴの装備は全て無改造で搭載できるという上位互換機能から、

早くもR・リヴァイヴ保有国から注文が殺到しているという話ですわ。」

 

 タイフーンの前級、R・リヴァイヴは12か国で制式化された名機だった。

具体的に言うと、EU加盟国では仏、独、伊、西、ギリシャ。

非EU圏ではウクライナ、ブラジル、トルコ、英国、インド、豪州。

そしてもう1国、欧州にEU未加盟の保有国があるが、

その国は現実世界には存在しない国であり、今は説明する時ではない。

 

 ここに上位互換機能を持つタイフーンが発表された事で、

この12国は装備更新の為一斉にメーカーのデュノア社にタイフーンを発注。

現在、デュノア社の生産部門は空前の大忙しだと言う。

 

「しかし、量産前提の設計のおかげで大分シンプルな見た目だな。

知らない人間が見れば、まず第3世代機とは思うまい。」

 

「だが、中身は紛れもなく第3世代機だ。

校外実習で試験していたガーデン・カーテンの完全版が初期装備らしい。

防御面は間違いなく進歩しているだろう。それにな…」

 

「え?まだ何かあるの?」

 

「夏休みにお師様が国家代表として我々の基地を訪問したが、

そこで親善試合が有ってだな。その時、お師様はタイフーンの専用装備1つで

国家代表と先代代表含む我が方のIS5機を圧倒してのけたんだ。」

 

「…この前散々な目に遭わされたのに、何でまた試合しようと思ったのよ…。」

 

「命令だったから致し方ないのだ…その時の兵器はHR兵器とか言ったな。

まあISサイズの八徳ナイフ?…みたいな物だったが…。」

 

「八徳ナイフ…?」

 

「それでは、実際に武器のテストなの!!

まずは主力の多目的ツール、HR兵器からなの!!」

 

「はい!」

 

 シャルがHR兵器を展開。

以前ドイツのKSK基地で披露した物からシャル向けに装備が置き換えられ、

量子ロングボウは40mm自動グレネードランチャー、

ワイヤーブレードは37mmパイルバンカーに変更されていた。

シャルはHR兵器に装備された武装の1つ1つを確認するため、

展開しては素振りし、或いは的を的確に射抜いて行く。

 

「うわ、高速切替(ラピッドスイッチ)がホントに早くなってる!

『これさえあれば誰でも高速切替が出来る』って、こんなに便利なんだ…」

 

「そう言う事なの!!これは第3世代機向けの展開装甲なの!!

拡張領域をR・リヴァイヴの数倍に広げた事で、

第3世代機だけど展開装甲を搭載可能になったの!!!

ただし、これを装備している場合他に追加装備を搭載できないの!!」

 

「やっぱり展開装甲って、それだけ拡張領域を食うんだ…

でも、これなら充分元は取れますよ!!」

 

「それは何よりなの!!そしてそのHR兵器だけど、

『HR兵器』に替わる通称が出来たの!!名付けて『コネターブル』なの!!」

 

大将軍(コネターブル)…それって、ド・ゴール大統領から採りましたよね?」

 

「……正にその通りなの。」

 

 かつてのフランス大統領シャルル・ド・ゴール。

彼は若い頃、そう言う渾名で呼ばれていた事が有る。

なのははシャルロットがシャルル名義で入学してきた事に因んで、

HR兵器にこの銘を付ける事を提言し、採用に至ったと言う。

 

「それじゃ、次はテスト飛行なの!!

ウォーミングアップも兼ねて島を一周してみるの!!」

 

「はい!!」

 

 早速タイフーンCCを急上昇させ、指示通り島を一周する事に。

流石に世代が上の紅椿には及ばないが、束直々の作品の名は伊達ではない。

同じ第3世代機の中で最速のB・ティアーズ+ストライクガンナーを

追加装備無しで凌駕するその高速性で、あっという間に島を一周してしまった。

 

「こりゃ速ぇ!ホントに量産機ベースなのか?!」

 

「ハイパーセンサーで確認しましたわ…

最高速度マッハ2.5…ストライクガンナーでも追いつけませんわよ…。」

 

 この結果はなのはにとっても意外な様だ。

 

「これは驚いたの!!デュノア社は大分手を加えた様なの!」

 

『はい、最初は僕も驚きましたけど、慣れると凄く機敏に動きますよ!!』

 

「では戻って来るの!!ウォーミングアップはそこまでなの!!

降りてきたら、改めて本日の朝練に入るの!!」

 

『はい!』

 

 そして、シャルがアリーナに帰還し、本日の朝練内容が告げられる。

 

「今日は2人1組で組手をやって貰うの!

でもここにいるのは11人だから、私以外でペアを作るの!!」

 

 と言う事で、なのはを除く残る10人でペアを作る。

というか、なのはとタイマンでの組み手=拷問なのでこうするしかない。

その結果、まず一夏と箒、鈴音とセシリア、ラウラと楯無でペアが組まれた。

新顔のイージスコンビ、ダリルとフォルテはそのまま。

そして、シャルと簪は専用機を新調した者同士で組み手を行う事に。

 

「東西の量産型第3世代機対決かぁ…どっちが勝つのかな?」

 

「機体性能はタイフーンが上だろうな。何せ姉さん直々の設計だ、

あの人の事だ、まだ何か隠しているかもしれん。」

 

「後は、あの簪とかいう娘の腕次第か…じゃ、俺達は俺達でやるか。」

 

「ああ、そうしよう。」

 

 

 

 

 

「そ、それじゃ、組手…しよっか?」

 

「うん…良いよ。」

 

 かくして対峙したシャルと簪。互いに初顔合わせ故か、

何となく挨拶がぎこちない。双方は改めて専用機を展開し、武器を構える。

 

「じゃあ…始めるよ!」「(頷く)」

 

「では、準備の出来た組は早速始めるの!!」

 

 なのはの合図と共に簪とシャルも組手を開始。

史上初の量産型第3世代機対決は射撃戦から始まった。

コネターブルと春雷から放たれる紅白の荷電粒子ビームが

晴天の学園上空を派手に飾り立てる。

 

「(っ!やっぱり速い!)」

 

 タイフーンCCの高機動性に驚く簪。

ただでさえクアッド・ファランクスを装備したまま飛行できる

大出力を発揮した機体である。そこにシャル向けの更なる改装で

スラスターが増設されたことも有り、巧みな機動性で春雷を回避する。

 

 だが、速いのはタイフーンCC本体だけではない。

以前から機銃を好んで使うシャルに合わせ、コネターブルは光線銃形態の際に

威力と引き換えに発射速度を最大16発/秒まで上げる機能が新設されていた。

 

「でも…それならこっちだって!」

 

 簪も負けずに春雷を機銃モードに移行。

本来の設計元、倉持技研では付ける予定の無かった追加機能だが、

遠距離戦での手数を補う為、ヤマトの手直しで急遽追加された。

 

 偶然だが、こちらも威力を絞る代わりに最大16発/秒まで連射を加速できる。

その結果、シャル対簪は次第にドッグファイトの様相を呈してきた。

 

『これは見事なドッグファイトなの!!

でも、それで千日手になるのなら…解るね?』

 

「「!」」

 

 地上のなのはから、暗に火器ばかりに頼らず他の武器も使えと指示が飛ぶ。

 

「確かに…光線銃だけがコネターブルじゃない!」

 

 コネターブルを傘型ビームシールドに切り替えて簪に突っ込み、

間合いを見て槍に切り替える。簪も超振動薙刀「夢現」で応戦。

 

「イヤーッ!!」「デヤーッ!!」

 

 掛け声と共に双方の刃がぶつかり合い、火花が飛び散る。

ポールウェポンの扱いは簪が上らしく、何度かシャルの隙を衝くが、

タイフーンCCはR・リヴァイヴでは追加防御パッケージだった

ガーデン・カーテンを標準装備しているので、有効打を与えるには至らない。

 

「やっぱり近接戦は不利か…仕方ない!」

 

 シャルは高速機動で間合いを取る。

簪も後を追うが、タイフーンCCが速度で有利の為、間合いを詰められない。

 

「何て速さ…!でも!」

 

 簪は打鉄弐式の切り札、山嵐を全弾発射。

64発の対ISミサイルが一斉にタイフーンに襲い掛かる。

 

「やっぱり使って来たね…これを凌げば、だいぶ楽になるんだけどな!」

 

 傘型ビームシールドとガーデン・カーテンで防ごうにも、

数が多すぎて途中でSE切れになるのは明白。ここは射ち落とす他無い。

 

「こっちだって、ミサイル位持ってるんだから!!」

 

 シャルは逃げながらコネターブルをミサイルランチャーに切り替え、

後方へ向けて迎撃。但し、数は6発しかないので全て落すには足りない。

幾らかは誘爆で射ち落とせたが、まだまだミサイルはやって来る。

 

「今度はこれだよ!」

 

 コネターブルをグレネードランチャーに切り替えて迎え撃つ。とここで…

 

「!」

 

 今度は簪がミサイルの合間を縫って春雷で攻撃。ビームシールドで受け流す。

さっきまでグレネードランチャーでミサイルの迎撃をしていたかと思ったら、

簪からの不意射ちをビームシールドで弾き飛ばしたシャル。

 

 専用機を新調した事で、異なる距離の相手にも

同時に対応可能なまでに高速切替(ラピッドスイッチ)が高速化している。

タイフーンが試作機の枠を出ない従来の第3世代機を

大きく上回る性能を秘めている事が良く解る光景だ。

 

 箒が専用機に慣れていない現状、今のシャルはIS学園1年生の中で、

なのはに次ぐ強者と言っても過言ではないだろう。

 

「そろそろ決着を付けないと…こちらからも打って出る!」

 

 シャルはガーデン・カーテンと傘型ビームシールドを展開して、

残ったミサイルを防御すると、

コネターブルを切り札の155mmプラズマ砲に切り替える。

 

「これで決めてやる!!」

 

 プラズマ砲を発射。

放たれた熱線は打鉄弐式を正確に捉え、着弾した。だが…

 

「全方位型ビームシールド『天岩戸(あまのいわと)』…。

それくらいで、この防御は破れないんだから…。」

 

 打鉄弐式は光のカーテンに覆われて無事だった。

この防御装備、元々は「不動岩山」という名の追加装備だったが、

ヤマトが各種調整を行った結果拡張領域に余裕が出来たので、

更に重防御のビームシールドとして、

天岩戸という新たな名で搭載された経緯が有る。

 

「プラズマ砲を止められた…?!」

 

「遅い…!」

 

 簪が春雷を連射。1発の荷電粒子ビームがコネターブルの砲口に飛び込み、

直後、爆発四散した。

 

「うわ!」

 

 爆発の衝撃で姿勢を崩すシャル。

簪は夢現を手に決着を付ける為一気に間合いを詰める。

 

「これで…終わり!!」

 

 しかし、決着を付ける筈の一撃は途中で止まった。何故か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「引っかかったね!コネターブルは…もう一つあるんだよ!」

 

 何とシャルが持っていたのは2基目のコネターブルだった。

これこそがタイフーンCCの原型機からの最大の改装ポイント。

万一に備え、コネターブルを2基搭載できたのだ。

 

「くっ…!折角のチャンスだったのに…!」

 

 勝負を決められずに悔しがる簪。だが、ここで時間切れ。

 

『そこまでなの、今回はドローなの!!』

 

「終わった…んだよね?」

 

「そうだね…。じゃあ、降りるか…。」

 

「うん…。」

 

 納得いかない様子だが、時間切れになった物は仕方ない。

量産型第3世代機対決の決着は次回以降に持越しとなった。

 

「それで2人共、専用機の調子はどうだったかな?」

 

「正直…予想以上だった。これなら、大手を振ってお姉ちゃんとも…。」

 

高速切替(ラピッドスイッチ)が凄く早くなってました!

2基同時に操作できる様になったら、きっと化けますよ!!」

 

 専用機を格納状態に戻した2人は専用機での組手の感想をこう答えた。

 

「矢張り、専用機慣れしている分操作の手際が良かったな。

私も頑張ればいつかは…。」

 

「ああ、箒もいつかああなるんだろうな…でもさ…」

 

「何だ?」

 

「箒が紅椿に慣れたら、あのレベルじゃ済まないと思うぞ…。

紅椿って確か…オクタコアなんだろ?」

 

「……………。」

 

 この時、自分達の成長がとんでもない方向へ進む事など

一夏も箒も、なのはですら全く予想していなかった。




実を言うと、学園は今後暫くは平穏が守られるので、
なのはが学園内部で暴走核弾頭になる場面はほぼないです。
でも、10月の合同合宿や修学旅行以降のオリジナルストーリーでは…
核より酷い暴走ぶりを披露して下さる事でしょう。


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第8話  姉妹対決 序

お待たせしました。記念すべき第60話です。


 さて、9月下旬のある日の授業の事、

今回合同で授業を行う1、2、4組が第6アリーナに集合していた。

 

「えー、それでは皆さん!今日の授業は高速機動についてです!」

 

 この第6アリーナは高速機動の実習の為のアリーナであり、

高速機動が得意な生徒はよく此処を使って自習をしているのだとか。

 

「と言う訳で、早速専用機持ちに実演して貰おう。

オ…セシリアと、織…一夏は前へ出て専用機を展開しろ。」

 

「「はい。」」

 

 千冬の声で一夏とセシリアが前へ出る。

 

「まず、セシリアのB・ティアーズだが

高速機動用に追加パッケージ、ストライクガンナーを装備している。

BT兵器の砲口を封じ、

腰周りにスカート状に連結して推進力に回す事で高速・高機動化した装備だ。

 

次に一夏だが、白式は追加装備を付けられないので、

代わりにスラスターに全出力を調整して仮想高速機動装備にした。

また、2人は高速機動時に備え、補助バイザーを装着しているのが解るな?

まずはこの2人がアリーナを周回するので、良く見ておく様に。

その前に、質問のある者はいるか?」

 

 と、ここで生徒が一人手を挙げた。

 

「あの!暴走核…じゃなくて、高町さんは高速機動実演はしないんですか?」

 

「うむ。実はだな…高…なのはのヤマトは

最高速度が僅か500km/hでな。とても高速機動出来る機体ではない。

奴が俊敏に見えるのは特殊技能のヤマトワープで速度を補っているからだ。

更に言えば、ヤマトは瞬時加速も出来ん。火力と装甲に特化した機体なのだ。」

 

 あの完全無欠の怪物にも弱点があった。千冬の言葉に騒然となる一同。

一方その背後では…

 

「一夏さん、どうなさいました?」

 

「なあセシリア…このバイザー、何処でモードを切り替えるんだ?」

 

「一夏さん、それでしたらここをこうすればハイスピードモードになりますわ。

 

 そして、各スラスターをこうすれば連動監視モードになりますの。」

 

「ああ、こうするんだな…出来た!これで良いんだな?」

 

「はい、そうですわ。」

 

「やったぜ、助かったよ。ありがとな。」

 

「よし、準備が整った様だな…では始めよう。3、2、1…行け!!」

 

 千冬の号令で一夏とセシリアはスラスター全開にして上昇。

B・ティアーズも白式もたちまち超音速に達し、

アリーナに繋がるタワーに突入する。

 

 すると、2人に差がつき始めた。一夏は高速機動をやった事はないが、

セシリアは英国で訓練を受けた事がある。この差がそのまま現れたのだ。

セシリアはカーブの手前で然程速度を落とさずに曲がったが

一夏は大分速度を落とす羽目になった。

 

「ちょっ、セシリア速い速い!」

 

「逆ですわ、一夏さんが遅すぎるのですよ!!」

 

「畜生!やった事ねぇから勝手が解らねぇ!

もうちょっと手加減とかねぇのか?」

 

「無理言わないで下さいまし!」

 

 一方その様子を地上で見ていた他の生徒と教員達は…

 

「うーん、やっぱり織斑君が遅れてますねぇ…。」

 

「まぁな…初めてならこんな物か。

高町が高速機動を教えられれば、まだ何とかなっただろうが…。」

 

「無い物強請りですよねぇ…。」

 

 そうこうしている内に、セシリアがタワーの頂上から折り返して、

一夏も1,2秒ほど遅れて後に続く。一夏は何とか追い縋ろうとするが、

やはりカーブでのスピード調整がうまく行かない様で、少しずつ差が開き。

終わってみれば、セシリアに2秒半以上の差を付けられてしまっていた。

 

「はい、お疲れ様でした!2人共上手でしたよ!!」

 

「おいおい、そう褒められた物ではなかろうに…

と言いたい所だが、まあ初めてだ、大目に見よう。

と言う訳でご苦労だった、2人は戻って良いぞ。」

 

「「はい。」」

 

「うへぇ…出力で勝ってるのに負けちまったぜ…。」

 

「気にするな一夏。初めてならそんな物だ。

何度も繰り返して慣れろ。それで何とかなる。」

 

 以前なら遅いだの何だのと小言をぶつけていたが、

なのはの「小言を言う位なら模擬戦で〆ろ」の教えを思い出し、

逆に宥める事を覚えた千冬であった。

 

「………………?」

 

「どうした?何を驚いている?」

 

「い、いや…小言でもくらうのかと思ったら、意外な一言が出たから…」

 

「わ、悪かったな…良いから早く戻れ!」

 

「うっす。」

 

「ああ、それと…そこの元生徒会長、自分の授業に戻れ。」

 

 千冬が誰もいない場所に呼びかけると、いつの間に隠れていたのか、

楯無が飛び出してきた。まさかばれるとは思っていなかったらしい。

 

「そ、そんなぁ!せめて専用機を完成させた簪ちゃんの勇姿を

カメラに収めさせて下さい!」

 

「だーめ。」

 

 ヤマトが物質転送器を起動させ、楯無を校舎に転送させた。

 

「全く人騒がせな先輩なの!!後で〆るの!!

放課後に束さんに連絡しておくの!!」

 

「…………高…なのはよ、何をする積もりだ?」

 

「山田先生に聞けば分かるの!!後でこっそり訊くと良いの!!」

 

「はぁ…お姉ちゃんの馬鹿…。」

 

 なのはが悪企みをしている後ろで、簪は姉の醜態に溜息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その日の昼休みの事、なのはが生徒会室に向かうと…

 

「おや…?」

 

 生徒会室のドアが開き、中から一夏が出てきた。

 

「あっ、なのはさん。ちょっと聞いて下さいよ。実は…」

 

 一夏によると、楯無にIS戦を挑まれたらしい。

一夏が勝てば特に何もないが、負けた場合、楯無が教導役をやると言うのだ。

 

「なのはさんがいるから良いと思って断ったんだけど…楯無さんが

『彼女の教え方には偏りがある。このままだとそれ以上上には行けない。』

って言うから…」

 

 そこまで言われたらとつい乗ってしまったというらしい。

だが、なのはが極端に性能の偏ったISに乗っているというのは事実であり、

高機動型の白式を駆る一夏を教える点で不都合が有るのもまた事実だ。

楯無が全く事実無根の言い掛かりをつけているとはとても言えない。

そして、なのはは盾無が何をしたいのかも予想がついた。

 

「(一夏君を引き込んで、芋蔓式に他の娘も手先にする気なのかな?)」

 

 確かに一夏を引き込めば、そこから専用機持ちを芋蔓式に味方に引き込める。

そしうすれば、なのはの情報を探って弱みを握る事も容易いだろう。

 

「無謀なの…。」

 

「…は?」

 

「残念だけど、今の一夏君は一国の代表を相手にするレベルではないの。」

 

「なっ!」

 

「例えISだろうと、生身だろうと、一夏君の勝算は少ないの。」

 

 何たって、相手は先祖代々暗部対策を司っている一族の長である。

言い換えれば、スパイ狩り専門のスパイの長と言う事だ。

事と次第によっては、手ずから人を殺した事が有るやも知れない。

なのはは本業での経験上知っている。技量が互角なら、殺人経験者の方が強い。

それは、身内を見ただけでも明白だった。

 

 かつて用心棒だった父の後を継いだ兄は任務中、

護衛対象に迫る刺客を斬った事が有るという。

一方、稽古では同等の技量を持つ姉は人を斬った事は無い。

どっちの剣なら無刀取りが出来るかと聞かれれば、迷わず姉と答えるだろう。

 

 更に言えば、なのはは剣道の段位で親兄弟を凌ぐ人間は見てきたが、

例え最高位である八段の位を持っていても、人を斬った事のない者の剣は軽い。

はっきり言って簡単に見切れるし、無刀取りだって容易く出来る。

だが、兄の剣だけは目で追えない。まして無刀取りを決めるなど到底叶わない。

 

 これに国家代表を務めるISの技量が加われば、学園生徒が敵う道理はない。

IS操縦だろうと、生身の戦闘だろうと、今の一夏よりも実力は上のはずだ。

 

「今の一夏君はブランクを取り戻すので手一杯なの!

去年まで学園最強だった彼女に敵う道理はないの!!

戦えば、向こうの勝ちは間違いないの!!」

 

「………やっぱりかぁ…。」

 

 生身でも結果は同じだろう。

楯無はなのは以外の1年の専用機持ちの中で生身で最強のラウラと同等以上。

ラウラに白兵戦で勝てない一夏が勝てる相手ではない。

尚、なのはは一騎打ちなら生身でもISなど難なく蹂躙できる。

但し、全盛期の千冬が乗っていなければの話だが。

 

「こんな事なら、早々に剣道部に入っておくべきだったのかもなぁ…。

あー、ホントにどうしよう…。」

 

「……………仕方ないか。」

 

「?」

「それなら、私に名案が有るの!」

 

「ホントに?!」

 

「ホントなの!!まあ見てるの!!まあ、それは置いといて…」

 

「何ですか?」

 

「溜まってる書類の決裁なの!!前任者の怠慢のせいでまだ終わらないの!!

一段落ついたら思いっきり〆てやるの!!」

 

「…………………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その日の放課後の第1アリーナでは

恒例の練習を行っていた専用機持ちだが、

途中で模擬戦があるからと楯無が乱入してきた。

 

「あの、先輩?模擬戦って、誰とやるんですか?」

 

「ああ、一夏君とね…あの人の教え方には偏りがあるから、

私が勝ったら教導役を引き受けると言う条件でね。」

 

「あ、あの人って…なのはさんの事ですよね?

良いんですか?そんな事言っちゃって…。」

 

「そうですわ!入学してちょっと経った頃に鍛えて貰っていた時、

山田先生が『なのはさんがワタクシ達に真面な助言をした事』に

心の中で驚いただけで〆られた程ですから…」

 

「そうですって、千冬さん相手でも向かっていく暴走核弾頭ですよ?

聞いてたら何をされるか…」

 

「………。」

 

「まぁ、今更言っても仕方ないんですけどね。」

 

「あら、どういう事かしら?」

 

「だって、もう来てますから…。」

 

「え…?」

 

 その時、楯無のM・レイディのハイパーセンサーがミサイルを検知。

振り返り、蒼流旋の機銃で撃ち落とした。その先にいたのは…。

 

「か、簪ちゃん…?」

 

 打鉄弐式に乗った妹の姿が。そして、その後ろにはなのはもいた。

 

「最低だよ、お姉ちゃん……

ズルい手段で人の弱みを握ろうとしてたなんて思わなかった。

身内で唯一人会話できたお姉ちゃんが、そんな事に手を染めてたなんて…」

 

「……………!」

 

「なのはさんが言ってたの。なのはさんはお姉ちゃんが自分の事を嗅ぎ回って、

弱みを握ろうとしているんじゃないかって疑ってる事。

来年のモンド・グロッソをモスクワでやるって話だから、モスクワの手先として

なのはさんが出られない様に何か裏工作をするんじゃないかって…。」

 

「そ、そんなの当たり前よ!彼女が今までして来た事を考えれば、

何処の国だって同じ事をするに決まってるじゃない!!何が悪いのよ!!」

 

「悪いよ!!裏工作で出場を止めさせようなんてズルなんかしたら、

お姉ちゃんはロシアごとICPOの人達と同じ目に遭っちゃうんだよ!!

なのはさんがあの日暴れたのは、向こうが濡れ衣なんてズルしたからだよ!!」

 

「…………くっ!」

 

 楯無が殺意の篭った目でなのはを睨みつけてきた。

 

「高町さん、貴女、よくも簪ちゃんに入れ知恵を…」

 

「悪いのは狡い手を使うモスクワなの!!文句はそっちに言うの!!

それと、余計な事をしたソウルと、

ついでに私を代表にした東京にも言えば良いのっ!!」

 

 なのはに向かっていこうとも思ったが、

7月になのはとのタイマンで酷い目に遭わされている以上、

とても立ち向かう度胸も勝算もない。と、ここで簪が夢現を展開した。

 

「お姉ちゃん…そんなに任務が大事なら、彼と戦う前に、私とISで戦って!」

 

「簪ちゃん?!」

 

「私に勝てたら、お姉ちゃんの好きにすれば良い。

でも私が勝ったら、お姉ちゃんがしようとした事を学園中にばらすから。」

 

「簪ちゃん…それは、私が一国の代表だと知っての事なんだよね?」

 

「うん…もう、私はお姉ちゃんのおまけなんかじゃないもん。

周りから蔑まれるだけの過去を切り捨てて、今日から立ち上がるの。」

 

「……そう。なら、相手してあげる。」

 

 楯無も蒼流旋を構える。かくして放課後の鍛錬は姉妹対決の場となった。




早く原作イベントから脱出して、オリジナル展開に話を持っていかなければ…
暴走核弾頭の名を貶める前に、何とかしないと…。

尚、なのはの経験として語った地の文の
「技量が同じなら殺人経験者の方が強い」は、
本作でのみ通用する全くの憶測です。鵜呑みにしてはいけない、イイネ?


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第9話  姉妹対決 破

お待たせしました。通算第61話目です。


 9月下旬のIS学園。

打鉄弐式を完成させた日本代表候補生、更織簪は

実姉でロシア代表の更織楯無こと更織刀奈に対し姉妹対決を仕掛けた。

 

 事の発端は来年のモンド・グロッソ開催国のロシアがなのはを恐れ、

万一なのはが出場可能となれば大会が出来レースと化してしまうと危惧した末、

ロシア代表である楯無に情報収集を命じ、弱みを握ってのロシアへの引き込み、

若しくは暗殺も含めた出場妨害を図ったのだ。

 

 しかし、なのはは楯無の接触をロシアの裏工作と疑い、

簪にそれとなくその事を話してしまう。

簪は姉が姑息な手段に手を染めるのを止めさせる為、

専用機が完成次第、姉に戦いを挑む事を決意。

そして、その決意が実現する時が来た。

 

 放課後の第1アリーナでは、専用機M・レイディを展開した楯無と、

打鉄弐式を展開した簪の更織姉妹が向かい合っていた。

 

「簪ちゃん…どうなっても責任は取れないからね。」

 

「良いよ…もう、出来損ないなんて言わせない!」

 

 楯無もガンランス蒼流旋とアクア・クリスタルを展開。

簪も夢現と春雷を展開し、準備は整った。

 

『試合開始!』

 

 真耶の合図と共に、簪が春雷を連射。楯無は回避しながらも、

ビームの威力を落とそうと、水のヴェールを水蒸気に変換して周囲に展開。

同時に、蒼流旋の機銃で撃ち返す。

 

「この連射、見た目以上に危険ね…。」

 

 何とか避けた楯無だったが、何発か被弾したらしくSEが減少していた。

 

「近距離からの射撃か…あの似非日本人共の『近接バカ化計画』の呪縛は

まだ抜けきっていない様ね…」

 

 妹が自分と相容れない者達の間違った教えの下で歪められている。

それが嫌だった。堪らなく屈辱だった。

だから当主の座を継ぐや、自由国籍を取得して近場のロシアに逃げた。

立ち向かうという選択肢は無かった。幾ら暗部の一族の長と言えども、

日本IICを牛耳っていた奴等に立ち向かうには非力過ぎたからだ。

 

「でも、彼女が全て片づけてしまった。」

 

 本当なら、妹が打鉄弐式を完成させるのだって手伝いたかった。

簪さえ助けを求めてくれれば手伝うつもりだった。でも…

 

「それも、彼女が全て片づけてしまった。」

 

だが、それも仕方ないのかも知れない。

 

「(あの時、あの様な事を言わなければ、今こうなる事も無かったかもね…。)

簪ちゃん…まさかとは思うけど、昔のあの言葉を根に持ってたりするの?」

 

「………うん…だって、信じてたんだもん。

お姉ちゃんなら、親身になって助けてくれると思ってたのに…。

みんなから出来損ない、不肖の子と蔑まれるばかりだった私が助けを求めても、

『無能でいればいい』って突き放すばかりで、何もしてくれなかったから…。」

 

「そう…なら、戦いの後であの言葉の真意を教えてあげても良いわよ。

簪ちゃんに、それだけの実力が有ればね。」

 

「それが答えなら…やって見せる!マルチロックオンシステム起動!!」

 

 マルチロックオンシステムを立ち上げ、M・レイディに多重ロックオン。

 

「これに耐えられる?!山嵐全門斉射!!!」

 

 八連装八基64発のミサイルが斉射され、楯無を全方位から追いかける。

 

「全方位からの多重ロックオン…!!それなら!!」

 

 楯無は水蒸気で自分を前方に集中させ、

ミサイルを清き情熱(クリア・パッション)で誘爆させる積りだ。

 

「(前方のミサイルだけ墜として、そのまま正面突破を図る!!)」

 

「そうはさせない!!」

 

 だが、簪は半数だけミサイルの標的を楯無が収束させた水蒸気に変更。

ミサイルが集中するや起爆させて水蒸気を吹き飛ばす。

 

「!! これはあの時の…!!まさか!!」

 

 楯無より先に起爆させて水蒸気を散らす。

以前なのはが見せた清き情熱(クリア・パッション)対策だ。

 

「まずい、清き情熱(クリア・パッション)を防がれたら…!!」

 

 残りのミサイルを防ぐ手立てが無い。

慌てて回避する楯無だが、全てを回避しきれず被弾が増える。

気付けば残りSEは半分を割り込んでいた。

 

「今なら行ける…このまま畳みかける!!」

 

 簪はそのまま夢現で追い打ちをかけるが、蒼流旋で止められる。

 

「させない!!」

 

 しかも、蒼流旋はガンランスなので…

 

「隙を見せたわね!」

 

 内蔵された機銃から弾丸が放たれ、打鉄弐式を捉える。

打鉄弐式のあちこちから火花が飛び散り、SEを一気に削っていく。

 

「ンアァッー!!」

 

 更に追い打ちで清き情熱(クリア・パッション)を使おうとしたのだが…

 

「背後からミサイルの撃ち漏らし…?!」

 

 ハイパーセンサーが背後から何発かミサイルが迫るのを感知。

逃げようとした瞬間…。

 

「今だ!!」

 

 簪が打鉄弐式で激突。楯無はバランスを崩して回避が遅れる。

 

「しまっ…」

 

 ドガァッ!!

 

「ぶわ!!」「あ、ぐっ!」

 

 楯無にミサイルが直撃。そして、捨て身の行為の代償に

簪も爆風に巻き込まれ、SEに大ダメージを受ける。

 

「くっ…まさかここまで無茶な事をするなんて…。」

 

 M・レイディの残りSEは200を切ってしまった。

機体もあちこちにガタが。これ以上被弾すると本当に負けかねない。

だが、打鉄弐式も蒼流旋の銃撃と捨て身の残りSEは300程度になった。

 

「くっ…これ以上長引かせると拙い!! アレを使うしか無いわね…。」

 

 M・レイディの全身に覆われていた水が急速に引いて一箇所に集中していく。

まさか、アレの正体は…

 

「ミストルティンの槍?!拙い!!」

 

 簪は春雷でトドメを刺しにかかるが…

 

「!! え?春雷が動かない?!!何で、ナンデ?!」

 

 春雷の各部から火花が。どうやらエラーが発生した様だ。

さっき爆風に巻き込まれた際、配線を一部損傷したのか?

 

「これじゃ、お姉ちゃんを止められない!!」

 

 相手は一族きっての天才。エネルギー充填を早めるコツも熟知している。

 

「(何かトラブったのかしら…?今の内に片を付ける!)

これで終わりよ、貫け、ミストルティンの槍よ!」

 

 M・レイディの切り札、ミストルティンの槍が発動。

超振動を与えられたナノマシンの水が一直線に打鉄弐式に迫る。

 

「そ、そんな…っ! 天岩戸よ!!」

 

 簪は咄嗟に天岩戸を展開。防御を固めてやり過ごす構えだ。

 

「あああああああああっ?!!」

 

 そして、ミストルティンの槍が直撃。

爆発と衝撃で大きく揺さぶられ、悲鳴をあげる簪。幸い何とか耐えはしたが、

この一撃で打鉄弐式の残りSEは70程度まで減ってしまった。

機体から火花が散り、正に満身創痍。

 

「天岩戸か…勝ったと思ったのに…でも、もう終わりよ!!」

 

 蒼流旋が暫く使えないので、

代わりに蛇腹剣(ラスティー・ネイル)でトドメを刺しにかかる楯無。

だが、簪はまだ諦めてはいなかった。

 

「まだだよ…」

 

「?!」

 

「まだ、まだ動ける!!私は、まだ動けるんだから!」

 

 唯一つ残った武器である夢現を最大出力にして最後の突撃を仕掛ける。

 

「くっ、しつこい!!…こっちだって!!」

 

 蛇腹剣を鞭の様に目一杯伸ばして突き刺し攻撃を仕掛ける。

この長さなら、夢現は届かない。間合いの差で押し切れる筈。

 

「その位で…その位でぇぇっ!!」

 

 しかし、ここで楯無の予想外の出来事が起こった。

何と簪が最大出力の夢現で蛇腹剣の刃を切り飛ばしたのだ。

 

「なっ…見切られた?!」

 

 簪はそのままの勢いで1回転しながら楯無に斬りかかる。

 

「これで…これで決めてやる!!」

 

「それは、こっちのセリフよ!!」

 

 夢現を振る簪と、折れた蛇腹剣を振る楯無。

お互いの死力を尽くした一撃。その決着の行方は…

 

「「きゃああああああああああっ!!」」

 

 強烈な火花が飛び散り、弾き飛ばされる両者。

蛇腹剣と夢現の刃先が同時に直撃し、突き刺さったのであった。

これが意味するのは…

 

『そこまで!!両者SEエンプティ、勝負なし!!』

 

「………引き…分け………?」

 

「終わった…。」

 

 真耶のアナウンスがアリーナに響き渡る。姉妹対決はまさかのドロー。

両者のSEが無くなったのは同時であり、勝敗は無し。

それが、姉妹対決の結末だった。

 

 パチ、パチ、パチ、パチ、パチ…

 

「2人共、ナイスファイトだったよ!!」

 

「ああ、久々に名勝負を見られて何よりだ!!」

 

「凄いよ!!先輩相手にあそこまで戦えるなんて!!」

 

 地上に降りた2人を他の専用機持ちが拍手で出迎えた。

今までなのはが見せたワンサイドゲームばかり見てきた彼女達には、

今回の様な互角の攻防戦は感動すら覚える名勝負に映ったからだ。

 

「まさかこうなるなんて…勝ったと思ったのになぁ…。」

 

「何だ…やっぱり勝てなかったか…。アハッ、アハハハハハ!」

 

急に笑い出す簪。一体どうしたのか?

 

「……簪ちゃん?」

 

「私、嬉しいの。だってお姉ちゃんと互角に戦えたんだよ。

今までお姉ちゃんには追いつけないって思ってたけど、

私…お姉ちゃんに追いつけたんだよ。だから、嬉しいの。」

 

 今までの簪は楯無の次いで、不肖の妹と蔑まれる人生を過ごしてきた。

姉に助けを求めても、「無能でいればいい」と突き放され、

それでも諦めきれずに、頑張って国家代表候補生にまで成れたと思ったら、

姉は国家代表になっていた。このまま姉に追いつけずに終わるのかと思うと、

自分に自信を持てず、臆病になっていた。

 

 だが、同じ境遇と自称するなのはが助けてくれた。

ヤマトが専用機を組み立てるのを手伝ってくれたおかげで、

今日、こうして楯無と相討ちでドローに追い込むまで渡り合えた。

学園で初めて在学中に国家代表に上り詰めた天才を相手に、

凡人、不肖の妹でしかない自分が対等の戦いをして見せた。

 

「ねぇお姉ちゃん。結局、勝負はつかなかったけど、あの約束はどうするの?」

 

「うーん…引き分けなんて想定してなかったし…現状維持で良いんじゃない?」

 

「お姉ちゃん…真面目に答えて。嫌いになるよ?」

 

「そ、それは! それは勘弁してー!!」

 

「ならお願い。お姉ちゃんがなのはさんに何をしようとしてるのか、

正直に白状してあげて。

それと、あの時どうして私を突き放したのか、教えて貰うから…。」

 

「はぁ、分かったわよ…。」




次回、姉が語るあの日の真実。そして…

「第10話  姉妹対決 急」

果たして、真実を知った簪が出した答えは…?
そして作者は、今年中に姉妹対決の形を付けられるだろうか?


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第10話  姉妹対決 急

さて、今年最後の投稿となる通算第62話。
今話で更識姉妹の問題が当面の解決を見ます。


 9月某日の放課後、急遽行われた更識楯無と更識簪の姉妹対決。

結局引き分けに終わったこの対決後、楯無は今までの行動の理由と

姉妹対決に至った経緯を千冬と虚も同席の上で説明する事になった。

 

「で…結局、先輩は何をしようとしたのよ?」

 

「それはね…」

 

 楯無は専用機持ち達に今までの行動の理由を説明した。

国家代表として専用機のメンテナンスの為帰国していた際、

ロシア大統領ビクトル・D・ザンギエフからなのはの存在を知らされた事。

 

 大統領はもしも翌年のモンド・グロッソモスクワ大会になのはが出場したら、

モスクワ大会が八百長同然の出来レースと化し、

ロシアが世界に大恥を晒してしまう事となるのではないかと危惧している事。

 

 そこで、なのはの引き込み、もしくは暗殺も含めた出場阻止工作の為、

楯無に情報収集を命じたと言う事を…。

 

「という訳で、帰国してすぐ生徒会長の座を賭けてタイマンを仕掛けたのよ。

私が負ければ生徒会長の座を彼女に押し付けて行動を制限できる上に

私は行動の自由度が増すという事に成るからね。

万一勝ったなら、『私なら暴走核弾頭相手でも勝てる、心配無用』

とモスクワに報告すればそれで全て終わる…とそういう魂胆だったの。」

 

「………まあ、大統領の気持ちは解らんでもないな。」

 

「確かにね…。なのはさんがモンド・グロッソに出たら…ちょっとね…。」

 

 現役の国家代表を4人もKOし、初代ブリュンヒルデをも一撃で破った悪魔、

暴走核弾頭にタイマンで敵う操縦者など、この世にいる筈が無い。

開催国として、ロシアの対応はある意味仕方ないと言うのが一同の総意だった。

 

「でも、IICに巣食った似非日本人と近接戦至上主義者の盆暗が

彼女の逆鱗に触れたせいで、彼女の力を恐れた日本政府がご機嫌取りの為、

日本代表操縦者に指名してしまった。御蔭でロシアは大分追い詰められたわ。」

 

「まあ、あいつらはねぇ…」

 

「正直、二度と思い出したくもないな。」

 

「それと前後して、私の妹の簪ちゃんが彼女と接触したみたい。

これに関しては…本人が説明するべきだわ。そうでしょう簪ちゃん?」

 

「うん…解った。私ね、小さい頃から出来が良かったお姉ちゃんと比較されて、

身内から不肖の妹とか出来損ないとかずっと蔑まれてたの。助けて貰おうにも、

家には『他人に能動的な行動を取るのは甘え』って家訓があって、

誰にも泣き言を言えず、悩みを打ち明けられなかったの。

でもある日、一度だけ精一杯の勇気を出してお姉ちゃんに悩みを打ち明けたの。

でも、返ってきた答えは…」

 

 

 

 

 

『貴女は何もしなくていいの。私が全部してあげるから。

だから貴女は無能なままでいなさいな。』

 

 

 

 

 

「それが、お姉ちゃんの答えだった…。」

 

 簪の説明で、千冬と専用機持ち達が一斉に楯無に白い眼を向けた。

 

「うん、予想通りの反応ね…。」

 

「それでお姉ちゃん、さっき約束した通り、

どうしてあの時あんな事を言ったのか、話して貰うからね…。」

 

「…解ったわよ。一言で言えば、『更識を忘れて欲しかった』の。

簪ちゃん、知ってるでしょ?家が先祖代々どういう事をやって来たか。」

 

「どういう事だ?我々に解るように教えてくれ。」

 

「はい、私達更識家は暗部狩り専門の暗部です。

言ってみれば、この国を先祖代々他国のスパイから護って来た、

国家お抱えの忍者一族とでも思って下さい。」

 

「暗部か…と、言う事は…。」

 

「はい。その特性上、汚れ仕事もこなす必要が有ります。

具体的には、他国から入り込んだスパイの暗殺とか…。」

 

「ええ?!じゃあ、先輩も…。」

 

「…そうよ。かくいう私も中3の時、初めて…

私が当主の称号、楯無を得たのはその年の事だったわ。で、続きに戻るけど…

そんな家だから、簪ちゃんの様な普通の人間に近い感性を持った人にとって、

我が家は決して居心地の良い所ではなかったわ。

身内も皆、才能で勝る私をちやほやするばかりで、

簪ちゃんに見向きもしない事は知っていた。

 

でも、さっき言った様な家訓が有るから、

如何に次期当主最有力候補といえども、庇うに庇えなかったの。

下手すれば、『軟弱者に情けを掛ける未熟者』と思われて

自分も簪ちゃん共々身内からの軽蔑を受けるかも知れない。

だから、悩んだ末私が出した精一杯の答えが…」

 

「敢えて、突き放す事だったと言いたいのか。」

 

「はい。あの家に簪ちゃんの居場所が無い以上、

簪ちゃんには、自分を蔑むばかりの家の事は忘れて欲しい。

でも、私が甘い事を言えば、未練が残って家を捨てられない。」

 

「だから、あんな事を言ったの?」

 

「そうよ。貴女にはいつまでも自分を蔑んでばかりの家なんか捨てて、

更識と関係の無い1人の人間として生きて行ける様になって欲しかった。

その手助けなら、いくらでもしてあげられた。だから、あの娘を側に付けた。」

 

「あの娘…本音の事?」

 

「はい。ここで、知らない方の為に御説明致します。

私達布仏家は先祖代々更識家に仕え、その補佐を生業としてきた一族なのです。

具体的に言えば、私はお嬢様、イコール楯無様の、

そして妹の本音は簪様の専属メイドを務めています。」

 

「じゃあ、本音は私を監視する為じゃなくて、

何かあったらお姉ちゃんが私を助ける為に…。」

 

「そう言う事よ。『他人に能動的な行動を取るのは甘え』なんて、

どうせ家の中でしか通用しないんだから、

家訓の事なんか忘れて、自分を正しく評価してくれる人に助けて貰えばいい。

本当は気付いてるんでしょう?貴女は自分が無能なんかじゃないって事に。」

 

「………。」

 

『実はこう見えても、私も二女で落ちこぼれなの!!』

 

『私は剣の腕何てからっきしなの!!

つまり落ちこぼれなの!!貴女と同じなの!!!』

 

『自分の持ち味を見つけ出して、それを伸ばす事を心掛けるの!!

この学園に入学できた時点で、その資格と素質はあるの!!』

 

 簪は臨海学校が終わって程なくなのはに言われた言葉を思い出した。

よくよく考えれば考える程、その言葉の通りだと言う事を思い知らされる。

倍率1万倍とも言われる世界一のエリート高校に自力で入学した。

専用機も持ち、国家代表候補生にもなった。

そして、ついさっき現役のロシア代表操縦者の姉を相手に引き分けた。

それは、常人では不可能な事だ。

 

「あそこまでやれる人間が無能の筈がないじゃない。

もう悩むのは止めて、貴女の好きにすればいいのよ。」

 

「お姉ちゃん…」

 

「私も、先輩の言う通りだと思うぞ。」

 

 今度は箒が簪に言葉を掛けた。

 

「簪と言ったな。私は篠ノ之箒、ISの母、篠ノ之束の妹だ。」

 

「篠ノ之博士の…妹…じゃあ、貴女も…。」

 

「そうだ。私もまた、天才と呼ばれる姉を持つ妹として生まれた身だ。

そして、ここにいる織斑一夏も…。」

 

「………………。」

 

 沈黙する一夏に替わり、箒の言葉を千冬が続けた。

 

「そう言う事だ、更…簪よ。少し前に篠…箒にも言った事が有るが、

お前は1人ではない、この学園にはお前と同じような境遇の人間が複数いる。

お前がこの先、実家に戻るにしろ、離れるにしろ、他人に頼る事は恥ではない。

他人に頼った結果、今までの努力が実ってやっと姉に追いつけたのだろう?

だから自信を持て。」

 

「あ、ああ…」

 

 いつしか、簪の眼に涙が浮かんでいた。

 

「お姉ちゃぁぁぁぁぁぁん…!!(つД`)」

 

「簪ちゃん…。」

 

「お嬢様…簪様…。」

 

 気が付いたら、簪は姉に抱き着いて鳴いていた。

かくして、姉妹の和解は成ったのであった。

 

 

 

「さて、更識姉妹の事は片付いたけど、片づけなきゃいけない問題が有るの!」

 

「ロシアの事だな…連中が楯無を差し向けたのは

自国開催のモンド・グロッソが出来レースと化すのを恐れての事である以上、

それを防ぐ手段さえ講じれば、ロシアの工作を止める事が出来るかもしれん。」

 

「それなら、モンド・グロッソ本大会に匹敵する『何か』を開けば良いの!!」

 

「何か、とは…?」

 

「それを皆で考えるの!!

考案したら早速クレムリンに飛んで、大統領に直談判するの!!」

 

「じ、直談判って…」

 

「あの…ここからモスクワまで、何kmあるか「Что?!」「ヒィ!!」

 

 そしてこの「What?!」の一喝である。

日系1世の楯無相手に敢えてロシア語版を使うのがなのは流。

 

「ねえ、一夏君。この人…隣の部屋に行く感覚で

外国の大統領官邸に行こうとしていないかしら?」

 

「先輩…慣れて下さい。なのはさんはこういう人なんです。」

 

「うん、流石は暴走核弾頭だわ。」

 

 何かもう、色々とどうでも良くなってしまった楯無であった。

 

 

 

 

 

 そして、1時間後…

 

 ロシア連邦 モスクワ クレムリン宮殿

 

「補佐官、サラシキ君からの連絡はまだなのか?」

 

「はっ、未だそれらしき物は…もしや、我々の工作が学園にばれたのでは…?」

 

「うーむ、だとしたら一大事だ…念の為、長老にも連絡を入れなくては。」

 

 ロシア大統領ビクトル・D・ザンギエフは

楯無からの報告が来ない事を不審がっていた。

 

「まずい…まずいぞ…もしも本当にばれていたとしたら、

長老に何と申し上げれば良いのやら…。」

 

「我が祖国の威信が懸かる世界大会、来年の開催地にモスクワが選ばれたのは

長老の働きかけあっての事。もしも奴の出場を阻止できなければ…」

 

 焦りを隠せないザンギエフと補佐官達。その時である!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

「な、何事だぁ?!!」

 

 突如天井から降ってきたのは3人の人影だった。

そして、その内の1人は…。

 

「ど、どうも~…定時報告が遅れて申し訳ありません~。」

 

「な、サラシキ君、これは何事か?!」

 

 楯無である。そして、残る2人は…。

 

「ぶ、ブリュンヒルデ…?!何故だ、何故ブリュンヒルデがクレムリンに?!」

 

 その後ろには、仏頂面の千冬が居た。そして、残る1人は言うまでも無く…

 

「おおおおおおおおおおお!!!私が暴走核弾頭ナノハ・タカマチなの!!」

 

「げぇっ、暴走核弾頭!!」

 

「な、何をしに来た?!」

 

「大統領とO☆HA☆NA☆SHIに来たの!!」

 

「お、オハナシ…だと?」

 

「私が怖くてこそこそと裏工作を仕掛ける灰色熊共!!

本当ならツングースカより酷い目に遭わす予定だったけど、

今日は機嫌が良いから、その悩みの種を解消する話を持って来たの!!」

 

「悩みの種…それは、モンド・グロッソの事か?!」

 

「そうなの!!私が出たら出来レースに成るとか怯えているみたいだけど、

本大会より盛り上がる事必至の催しを提案しに来たの!!」

 

「何だと?!」

 

「馬鹿な!そんな旨い話があろう筈がない!!」

 

「…だが、物は試しだ、聞くだけは聞いてやろう。」

 

「私の専用機はタバネ・シノノノ直々に建造した世界初の第5世代機なの!!

そして、彼女はここにいる初代ブリュンヒルデの新たな専用機として

第5世代機を建造中なの!!

モスクワ大会が私の優勝の決まり切った出来レースと化すと言うのなら、

『優勝者は第5世代機を駆るブリュンヒルデとのエキシビジョンマッチを行う』

という特別ルールを設ければいいの!!

真の世界最強決定戦をモスクワで開こうと言うの!!在り難く思うの!!!」

 

「何ッ?!ブリュンヒルデVS暴走核弾頭の、第5世代機対決…だと…?!」

 

 悪い話ではない。初代ブリュンヒルデとしての千冬の知名度は絶大だ。

モスクワで奇跡の復活となれば大きな集客効果が期待できる。

 

「そう言う事です。モスクワ大会の成功を気に掛けているのであれば、

是非この案を容れて頂きたい。タバネ・シノノノも宜しくと申しております。」

 

「た、タバネ・シノノノまで関わっているのか…。」

 

 国家代表、暴走核弾頭、初代ブリュンヒルデ、そしてその裏のISの母、

この4人からの直接の提言に対して、ザンギエフの回答は…

 

「…よかろう。ISの母にまでバレたとあっては、最早工作は出来ん。

その案を国会に提案しておく。」

 

「ほ、本当ですか?!」

 

「うむ。ただし…最終的には長老の返答次第だ。」

 

「長老…ああ、『おそロシア』を体現するあのお方ですか?」

 

「如何にも。長老が何と言うかは解らん。それだけは忘れるな。」

 

「ですよねー…。」

 

「それだけ解れば十分なの!!では退散するの!!ダスビダーニャなの!!

因みにこの会話は録音してあるからちゃぶ台返ししたらツングースカなの!!」

 

 そう言うと、なのは達はワープでクレムリンから脱出したのであった。

 

「な、何だったんだ一体…」

 

「助かった、と言えば宜しいのでしょうか?」

 

「そう言う事に成るだろう…しかし、この状況、長老にどう説明したものか?」

 

「「はぁ…」」

 

 

 

 

 

 IS学園

 

「これで当面の問題は解決したの!!姉妹も和解できて何よりなの!!」

 

「やれやれ…私と束の名で何とか成った様な物だな。」

 

「…………(もう一杯一杯、今日は早く帰って寝よう。)

高町さん、そ、その…今日は有難う。おかげで、あの娘と仲直りが出来たわ。」

 

「それは何よりなの!!でも、もう一つ言っておきたい事が有るの!!」

 

「えーと、何かしら?」

 

「書類。」

 

「書類?」

 

「未決書類が山の様に溜まってたの!!おかげでまだ終わらないの!!

前生徒会長の怠慢が生んだ事態なの!!責任を取って貰うの!!」

 

「…えっ?」

 

 楯無が気が付いた時には時すでにお寿司。

なのはに担がれて地下室に連行されていた。

 

「イーーーーーーーーーーーーーーーーヤーーーーーーーーーーーーーーー!」

 

 この後、滅茶苦茶18歳未満閲覧お断りのお仕置きをした。




2か月以上感想が無いのは、
なのはの暴走を期待されてるのに暴走していないからだと信じたい…

次回「第11話 キャノンボール・ファスト」。

競技参加に際し、ワープと攻撃厳禁を言い渡されたなのは。
ヤマトの最も苦手なスピード競技に、
果たして、なのははどう立ち向かうのか?

それでは、よいお年を!


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第11話  キャノンボール・ファスト

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。ピロッチです。
1か月の時間を費やし、どうにかこうにか1月中に完成させました。
それでは、2017年最初の投稿です。

注意!
今回は導入部分なので中身は3000字に満たない上、
話の進展は全くありません。ご了承下さい。


 そして9月も末、更識姉妹の確執を解決して程なく、

SHRで真耶がこう切り出した。

 

「皆さん!いよいよ来週はISバトルレース

『キャノンボール・ファスト』の本番です!

このレースは一般生徒が参加する訓練機部門と

専用機持ち限定の専用機部門とに学年別に分かれて競うレース競技で、

競技は校外にある2万人入りの専用アリーナで実施されます!!…但し!!」

 

 真耶はそう言うと、教室ドアを開けて廊下に退出、

壁の向こうから顔だけを出した。

 

「高町さん、その…とても言いにくいんですけど…」

 

「…何なの?」

 

「「「「「(あれ?この光景どこかで…)」」」」」

 

 その光景を見た生徒達はデジャビュに囚われた。

 

「職員会議の決定で…貴女は今回のキャノンボール・ファストは

出場はOKですが、ヤマトワープと攻撃禁止という条件が…」

 

「……………………………。」

 

「「「「「(あ、これO☆HA☆NA☆SHI確定だわ。)」」」」」

 

 しかし、なのはは動かない。

 

「あ、あれ…?」

 

 真耶も予想していたO☆HA☆NA☆SHIが来ないので、

怪しんで身を乗り出す。

 

「……………………………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

b⌒*(・∀・)*⌒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆ、許されたぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。」

 

 まさかのO☆HA☆NA☆SHI回避成功にその場にへたり込む真耶。

 

「よ、良かったな、真耶…。」

 

「山田先生、おめでとう!!」

 

「おめでとう!!」「おめでとう!!」

 

「Congratulation!Congratulation!」

 

「おめでとう…!おめでとう…!」

 

「あ、有難ぉぉおおおおお…」

 

 SHRそっちのけで真耶を祝福する1組一同であった。

 

(やれやれ、束さんに追加装備を発注しておくか…。)

「………で、授業はいつ始まるの?」

 

「「「「「あっ…」」」」」

 

 

 

 

 

 そして、キャノンボール・ファスト当日。

この日は競技には良い晴天であり、9月末の割に残暑が厳しい。

青空には花火が上がり、会場となる専用アリーナは満員になっていた。

 

「今日の日程は、まず午前中は1、2年生の順に一般生徒が競技を行い、

昼食を挟んで午後からは3年生一般生徒のレース。

その次に1年生の専用機持ち、2・3年生合同の専用機持ちと続いて、

IS教員によるエキシビジョンレース、

最後は各レースのトップ5人による学園最速決定戦で締めくくる…か。」

 

 レースの日程を確認するなのは。

その後方ではヤマトが今回の大会参加に際して束から送られた

秘密兵器をチェックしていた。

 

「かくかいろいじょうなし、すいしんざいもせいじょう…

これできほんてきにもんだいはないの。

あとはごごにさいどさいしゅうちぇっくして、

ばんぜんのじょうたいでれーすできるの。」

 

 一体、何を送られたのだろうか…。

 

「それじゃ、会場へ行くの!」

 

「はーい。」

 

 なのはがピットに行くと、1年生の予選レースが始まっていた。

全体的な展開としては、1組所属の生徒が僅かに差をつけている様だ。

理由については、今更言う事はないだろう。

 

「やあ、皆はもう準備はできているのかな?」

 

「ああ、なのはさん!俺達はいつでも出られますよ!」

 

 確かに、一夏達もISを展開して

自分達のレースがいつ始まっても良い様に準備を整えていた。

 

 一夏、箒、簪、の3人の機体はスラスターの出力調整のみなので、

外見は今まで通りだ。

だが、ラウラは増設スラスターが3つ追加され、

セシリアもストライクガンナー、

鈴音も中国から届いた高速機動パッケージ「(フェン)」を装備している。

そしてシャルは、多目的ツール「大将軍(コネターブル)」を2基背中に括り付けていた。

 

「それで…なのはさん、本当に出るんですか?」

 

「え?」

 

「ヤマトって…500km/hしか出ないんですよね?

しかも、ワープも攻撃も駄目って言われてるし…。」

 

「私達の機体は皆超音速が当たり前だから、

それだけ速度に差がある機体同士のレースはちょっと…ねぇ?」

 

「そうそう、だからアタシ達、いつも良い様にされっぱなしだったなのはさんに

唯一勝てるかもしれない競技だなーって、皆で噂し合ってたとこで…」

 

 どうやら、もう勝った気でいるらしい。

確かに、ワープ無しのヤマトに速度で負ける機体など今では退役した

第1世代機にもいない。だが、ヤマトはISの本家本元、束謹製である。

 

「国家代表を舐めてはいけないの…すぐに身を以て思い知る事になるの。」

 

 果たして、なのはは何をする気なのか…?

 

 尚、レースの優勝者だが、1年生はなのはのルームメイトの本音。

2年生は非専用機持ちながら英国代表候補生を務めるサラ・ウェルキンだった。

 

 

 

 

 

 そして昼食の時間。この後は3年生一般生徒の競技を挟み、

その後は遂に専用機持ちによる競技である筈だった…

と、ここで緊急のアナウンスが。

 

「えー、ここで大会本部から緊急のお知らせが有ります!

この後のキャノンボール・ファストのプログラムですが、

本来1年生の専用機持ち、2・3年生合同の専用機持ち、

そしてIS教員の皆様によるエキシビジョンレース、

各レースのトップ5人による学園最速決定戦という事でしたが…。

大会本部の判断により、以下の様に変更となりました!」

 

 ここにきて予定変更。一体何が起きたのか?

そして、アナウンスの声に合わせ、

電光掲示板に変更後のプログラムが映しだされた。

 

「まず、1年生と2・3年生のレースは統合され、

全学年の『国家代表操縦者』以外の専用機持ち生徒、

計9名による合同レースとなります!

そして、IS教員の皆様によるエキシビジョンレースですが、

IS教員と『国家代表操縦者』によるエキシビジョンレースに変更となります!

最後に、学園最速決定戦については当初5名を予定しておりましたが、

各学年及び専用機持ちの優勝者計4名によって競われる事となります!」

 

「!」

 

 現在学園で国家代表操縦者の地位にあるのはなのはと楯無の2名である。

つまり、この2人の出番はエキシビジョンレースのみとなった。

 

「…………………………………。」

 

「あー、あの…なのはさん?」

 

「………⌒*(◎谷◎)*⌒何なの?」

 

「ひょっとして…怒ってますよね?絶対。」

 

「…こんな事をされて、頭に来ない奴はいないの。決めた人は後で〆るの。」

 

 とことん周囲に恵まれないなのはであった。

尚、3年生の優勝者はは本音の姉、虚である。

そして、専用機持ち総勢9機によるレースがいよいよ開幕の時を迎えた。

 

「さあいよいよ本日最大のビッグイベント、専用機組のレースの開幕です!

日、米、英、仏 独、希、中、計7か国8名の代表候補生と

世界初の男性操縦者、織斑一夏君の総勢9名によるデッドヒート!!

 

今回の注目は何と言っても織斑一夏君ですが、もう一人の要注意選手は

ISの母、篠ノ之束博士の実の妹にして、新作となる世界初の第4世代機、

「紅椿」(紅椿は表向き、第4世代機と公表してある)を駆る篠ノ之箒さん!!

果たして、各国が威信をかけて開発した第3世代機を駆る

国家代表候補生達はどこまで追い縋れるか?間もなく、スタートです!!」

 

 楯無の同級生で2年生の新聞部長、

黛薫子のアナウンスから程なく、カウントダウンが始まる。

そして、一際高く響くブザーの音と共に、スタートを示す青LEDが点灯した!




さて、次回からいよいよ専用機持ちのレース本番です。
今作では、亡国機業の操縦者2名が行動不能の為、
レースは無事に終わる予定です。
レース終了後は、彼女達のその後にも言及するでしょう。

次回「第12話 高町流、レースの勝利法」。

専用機持ち9名のデッドヒート、果たして、誰がこのレースを制するのか?
そして、なのはは楯無ほか速力で圧倒的に優位なIS教員達から、
どうやって勝利を掴むのか?!

追伸
第12話のサブタイトルですが、予定していた内容が長すぎるため、
やむなく2分割する事となり、それに伴い、サブタイトル名を
「高町流、レースの勝利法」→「フーリッシュ・デッドヒート」
に変更致します。


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第12話  フーリッシュ・デッドヒート

さあ、いよいよレースが始まります。
本来は専用機持ちとエキシビジョンレースの2試合を
一気に投稿する予定でしたが、長くなりすぎてしまった為、
やむを得ずサブタイトルを「高町流、レースの勝利法」から
「フーリッシュ・デッドヒート」に変更し、
2話に分割してお送りする事に成りました。
まずは、専用機持ち9名のデッドヒート(?)からお楽しみください。


「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」」」」」」」

 

 遂に始まったキャノンボール・ファスト専用機持ちのレース。

先頭に出たのはシャルロットのタイフーンCCだった。

背中のコネターブルはデュノア社から届いたレース用の特注品。

ブースターと全方位型ビームシールドのみに機能を絞り、

大出力化と単純化を達成した代物だったのだ。

 

「うおっ!!バックブラストが!!」

 

 その特徴は、物凄い勢いの噴射炎。絶対防御の御蔭で火傷の心配はないが、

他の機体が追いかけると後ろへ押し戻され、中々差が縮まらない。

 

『まずトップに出たのは、フランス代表候補生、シャルロット・デュノア選手!

実家が開発したフランス悲願の第3世代IS、タイフーンに

追加ブースターとビームシールドを装備し、

軽量化の為一切の武装を降ろしたレース特化型装備です!!

続く篠ノ之さん、全身のあちこちからスラスターを展開し追いかけています!!

他の選手達も横一線になって追いかける!!果たして飛び出すのは誰だ?!』

 

 と、直線の半ばに来た所で3位集団に動きが。

 

「隙あり!!」

 

「なっ…鈴さん?!」

 

 鈴音が風を装着した事で側面に移転した龍咆を発射、

真横にいたセシリアが直撃を受け、大きく速度を落としてしまう。

 

「へっへーん!お先~!」

 

「では、私も先に行かせて貰おう。」

 

「あああっ?!ちょっとぉぉおお!!」

 

 その隙に先行しようとした鈴音にラウラがハーケンセイバーを絡ませ、

体勢の崩れた鈴音は危うく壁にぶつかる所を切り抜けた。

 

「うお!危ねぇ!!」

 

また、後ろにいた一夏は何とか回避。と、そこへ…

 

「おーっと、よそ見は禁物だぜ!」

 

 3年生唯一の専用機持ち、ダリル・ケイシーが

専用機ヘル・ハウンドの犬頭型肩部パーツから火炎放射を仕掛けてきた。

 

「こっちだって居るッスよ!」  

 

 続けてダリルの相方の2年生、フォルテ・サファイアも

専用機コールド・ブラッド(以下、C・ブラッド)で冷気を吹きかける。

 

「2対1かよ!!でもこの程度、いつもの弾幕と比べりゃ!!」

 

 しかし、なのはの弾幕回避訓練で慣れた一夏にはそうそう当たらない。

 

「チッ、ちょこまかと避けやがって…」

 

「妨害するくらいなら真面目に飛べって事なんじゃないスか?」

 

「正直、これあんま速くないから嫌なんだけどなぁ…」

 

「まあまあ、今年で最後なんだから…」

 

「解ってるって。」

 

 と、こんな感じで互いに妨害しながら何とか飛んでいる。

 

「うわぁ…後ろは混戦かぁ…真っ先に飛び出して良かった。

こうしちゃいられない、今の内に距離を稼がなきゃ!!」

 

 現在トップのシャルロットは少しでも距離を稼ぐ為、

増速して距離を取ろうとする。箒は何とか追いつこうとしているが、

まだ紅椿に慣れていないせいもあり、離されないのがやっとだ。

だが、ここで紅椿の切り札が発動する。

 

『ねえねえ、箒叔母さん。』

 

「だ、誰がおば…って何だ、モッピーか。どうした?」

 

 紅椿の管制AI、モッピーが箒に話しかける。

 

『モッピー知ってるよ。箒叔母さんは妾…じゃなくてあの娘に勝ちたいって事。

モッピーに操縦の制御を回せば、勝たせてあげられるかも知れないよ。』

 

「ほ、本当か?」

 

『ホントだよ。モッピー知ってるよ。

箒叔母さんはまだ紅椿を充分に使いこなせてないって事。

でもモッピーなら本来の力をフルに活用出来るよ。』

 

「………良いだろう。操縦はお前に任せる。」

 

『解ったよ、…覚悟してね。』

 

 箒は紅椿の制御をモッピーに回した。これで紅椿は全力を出せる。

全スラスターが一気に出力最大になり、急激に速度が上がる。

 

「おおおおっ、これは…!!」

 

 この加速に、何より箒が最も驚いた。

 

「そうだった、コイツはオクタコア機だったのを忘れていた…。

よし、気を取り直して…覚悟しろよ、シャルロット!」

 

「!!」

 

 箒が空裂を振ると、レーザーが発生し先頭のシャルに襲い掛かる。

 

「うわ!箒が本気で追ってきた!!」

 

「おおおおおお!!待てぇぇええええ!!」

 

「2学期初日に貰ったばかりの機体だから、

操作も慣れてないと思ってたんだけどな…速く逃げなきゃ!!」

 

「させるか!!」

 

「ひえええ!!」

 

 猛攻をしかける箒。ビームシールドで何とか防いでいるが、

被弾が続くとリタイアにもなりかねない。

 

「こんな事なら反撃手段を持っておくべきだった…」

 

 と、集団から抜き出たセシリアとラウラも猛追。

 

「お待ちなさぁぁぁぁーい!!!」

 

「待てぇぇえええ!!」

 

 ロングライフルとレールカノンを撃ちながら箒に襲い掛かる。

しかし、機体制御をモッピーに切り替えた事で的確に展開装甲を駆使し、

ビームシールドで悉く防いでしまう。

 

「くっ、まるで効いていない!」

 

「展開装甲…敵に回すとこれ程厄介な装備もありませんわ!!」

 

 続いて、他の機体も後方から迫りくる。

 

「うおおおお!!俺だってぇ!!」

 

「よくも足を引っ張ったわね!!」

 

だが、その後ろでは…

 

「今なら行ける…逃がさない!」

 

 簪が64発に増設された山嵐の発射準備を整えていた。

そして、ターゲットロックが完了。山嵐64発全てが発射された。

 

「ちょ、後ろからミサイル?!!」

 

「もう!ちょっとは周囲の迷惑を考えてよぉぉおお!!」

 

 各々後ろから飛んでくるミサイルを回避する。

だが、これはそう言う競技なので、今更文句を言っても何にもならない。

そして、ミサイルがあちこちに着弾し、周囲は地獄絵図となる。

 

「うお!危なっ!!」

 

「やばっ、1発当たった!!」

 

「ひぃ!こっち来たッス!」

 

「ちょ、フォルテ…待て、ぶつかる、こっち来んな!!」

 

 他の機体が回避に追われて混乱する隙に順位を上げる簪。

物凄くはた迷惑だが、これがキャノンボール・ファストだ。

 

「後ろが混乱している?なら、ここで抜いてやる!!」

 

 残ったミサイルが追いかけてくるのを尻目に、

箒はここでシャルロットを追い抜く。

 

「あ、しまった!!」

 

「軽量化の為に非武装化したのが仇になったな!!

次いでだ、これでも食らえ!!」

 

背中の展開装甲を切り離し、機動砲台に変形させて射ちまくる。

 

「ひゃあ!!…って、後ろからもミサイルの残りが!!」

 

「ええい、しつこい!!纏めて落してやる!!」

 

 空裂の一振りでミサイルを撃ち落とす。しかしミサイルはまだ残っている。

そして、その後方からは簪が迫って来ていた。

 

「ここで追い抜く…!!」

 

「また1機来たのか!!こうなったら…」

 

 紅椿の背部パーツが腕に装着され、弓型に展開された。

 

「両腕が弓型に…まさか、穿千《うがち》が!!」

 

「もう遅い、回避不可能だ!!」

 

 2学期初日のお披露目で一夏とセシリアを纏めて吹っ飛ばした

紅椿の切り札、穿千。箒はここでその切り札を切ったのだ。

 

「食らえぇぇぇぇ!!」

 

 穿千からビームを発射。

 

「ひええええ!!」「!! 躱さないと…!!」

 

 簪とシャルはすんでの所で回避した。だが、飛んで行ったビームの先には…

 

「くっ、ミサイルを躱してたら遅れちまった…」

 

「ちっ、今年の1年は凶暴なのが多いぜ!!」

 

「早く追いつかないと…ん?」

 

 ミサイル回避で後れを取っていた後方集団が。この後どうなるかと言えば…

 

 

 

 

 

 

 

 

KABOOOOOOOOOOOOOOOOOOOM!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「グワーッ?!」」」」」」

 

 当然、ビームが着弾して大爆発。爆風でてんでんばらばらに吹っ飛ばされた。

その凄惨な光景に箒、シャル、簪は震え上がり、思わず脚を止めていた。

 

 

「ぎょわぁぁぁぁあああああ!!」

 

 一夏も例外ではなく爆風に巻き込まれる。

だが、彼は吹き飛んだ方向がまずかった。

何故なら、彼が飛んでいく先は先頭集団そして、ゴールがあったからだ。

 

「い、一夏?!」

 

 咄嗟に回避する箒、だが、ここで一夏を避けると…

 

 ガッシャン!!

 

 一夏はコースに墜落し爆風の勢いのまま転がっていく。その先にはゴールが。

 

「ああ!!」「い、いかん!!」「!!」

 

 先頭集団の3機とも慌てて急加速したが、現実は非情である。

 

「おー、痛ててて…って、あ、あれ、このラインは…?」

 

 一夏が起き上がる為にコースに手を付くと、

機体の指先が一部ゴールラインを越えてしまった。と言う事は…

 

『ゴォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオル!!!』

 

 アナウンスの大音声がアリーナに木霊した。

 

「え?え?ええええええ?!」

 

『たった今、ゴールです!!1位は織斑一夏君!!

世界初の男性操縦者、最下位からまさかの逆転優勝!!奇跡の勝利です!!』

 

「何…だと…?」

 

「そ、そんな…。」

 

「あ、アハハハハ…途中まで1位だったのに…。」

 

 一夏、まさかの逆転優勝。穿千の爆風で吹っ飛ばされたせいでゴールという

前代未聞の間抜けな勝ち方に、本人が最も驚いたのは言うまでもない。

かくして、今年のキャノンボール・ファスト専用機レースは、

史上稀に見る間抜けなレースとしてIS史に名を刻む事となる。

 

 だが、このレースは然程その後の話題とはならなかった。

何故なら、次の国家代表&教員達のエキシビジョンレースが

これ以上に酷い結末を迎える事となるからだ。

と言う訳で、いよいよ国家代表&IS教員によるエキシビジョンレースである。

 

「………全く、誰かさんのせいでとんだとばっちりね。」

 

 そう愚痴っているのは、国家代表の地位に有ったばっかりに、

エキシビジョンレースのみの出番となった楯無である。実を言うと、

「今回のエキシビジョンレースは、国家代表は攻撃禁止のハンデ戦である」

と観客にアナウンスされている為、

楯無も強制的にハンデを背負わされて今回のレースに参加する事となったのだ。

 

「とても嘆かわしい事なの!!

こういう時だからこそ、全力を尽くさなければならないの!!」

 

「(………何でこの人、この状況でモチベーションが維持できるんだろう…)」

 

「高町さん、やる気満々ですねぇ…(苦笑)」

 

 このレースの優勝候補である真耶も、

ワープと攻撃厳禁と言う状況下なのに全く平静のままのなのはには

苦笑いするしかない。

 

「でも彼女の専用機って、ワープ抜きだと滅茶苦茶足が遅いって話でしょ?

よくあの条件OKしたわよね。」

 

 久々に登場した1年の学年主任、日高舞は未だに

なのはが真面目にこのハンデ戦を受けた事が信じられない様だ。

 

「そうですねぇ…ひょっとして、学園生活で丸くなったとか?」

 

「ああ、それ有るかも知れませんね!」

 

 こんな事を話しているのは楯無のクラスの担任である音無小鳥と

鈴音のいる1年2組の担任、千川ちひろだ。彼女達は2人共舞の1期後輩で、

IS教員としてエキシビジョンレースに参加する出場者だ。

 

「で、結局千冬ちゃんは出ないんだ。」

 

「ええ、織斑先生の新しい専用機の完成は、早くても再来月になるとか…

お披露目は…多分3学期の始業式になると篠ノ之博士に言われたそうです。」

 

「そう。まあ、篠ノ之博士の事だし、

1番の親友に手抜きの機体は渡せないから

念を入れてると考えるのが妥当でしょうね。」

 

「それもそうね。それじゃ、時間も来たから行くわよ。」

 

「ええ。今日こそ高町さんに勝てる…と良いですね。」

 

 その後ろでなのはが例によって⌒*(◎谷◎)*⌒になっていた事は

気付く由も無かった。




困った…外伝と同じミスをしてしまうとは…

次回、遂になのはがレースの舞台に降り立ちます。
「第13話  史上最低の決着」


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第13話  史上最低の決着

お待たせしました。
キャノンボール・ファスト編、いよいよ決着です。


『皆様、お待たせしました!それでは、これから在学中の国家代表操縦者及び、

IS教員の皆様の総勢7名によるエキシビジョンレースの開始です!!』

 

 かくしてスタートラインに並んだ計5名のIS教員、そしてなのはと楯無。

なのはと楯無は専用機、教員達はR・リヴァイヴでレースに臨んでいる。

だが、なのは以外の参加者は皆一様になのはの方を向いて絶句していた。

 

「ね、ねぇ真耶…」

 

「何でしょう、主任?」

 

「アレ…何なの?」

 

「……さぁ?」

 

 それと言うのも、ヤマトは機体に直径50cm、長さ6m程度の

4基の何かを括りつけていたからだ。

 

「千川先生、あれって…」

 

「…更識さん、わざわざ言わなくて良いと思いますよ…だって、どう見ても…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「(ミサイルだよね…アレ。)」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その通り、ヤマトの機体に追加された物体は、

例によって束がどっかからパクって来た超音速巡航ミサイルだった。

束はレース用にミサイルから弾頭を撤去し、空いたスペースに燃料を追加して

ヤマト用のブースターに仕立て上げたのだ。

 

『それでは、レーススタートです!!』

 

 参加者の不安など一切構わず、レースのカウントダウン開始が告げられる。

そして、スタートを示す青LEDが点灯した瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」」

 

 ヤマトがブースターに点火。

だが、それは点火と言うより爆発と言うべき物だった。

何故なら、その強烈な爆風と衝撃によりなのはの後方からスタートする筈だった

真耶他1名のIS教員が吹き飛ばされて壁に激突。

そのままSE切れでリタイアしてしまったからだ。

これで、参加者は7名から5名に減ってしまった。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 当然、それだけ強烈な力で加速したヤマトは一気に先頭に立つ。

 

「ちょっ…何よあの反則装置は?!」

 

「ハハハ…やっぱ予想通りね。」

 

「でも、あれって攻撃になるんじゃ…」

 

 その答えはすぐにアナウンスされた。

 

『えー、只今の爆発ですが、映像を確認した結果、

単にブースターに点火しただけである事が確認された為、

攻撃にはあたらないとして、このままレースを続行します。』

 

「「「「酷過ぎる!!!」」」」

 

 だが、事実に文句を言っても利益は無い。残念だが、レースは続行である。

 

「あー、もう!!何でもいいから少しでも追いつくわよ!!」

 

「「はい!」」

 

「あー、日高先生?私『国家代表は攻撃禁止』のルール上手出しできないので、

先生方が頑張って何とかして下さいねー。」

 

「……………畜生!」

 

 と言う訳で、レースはなのはを残りの4人が連携して追う展開に。

 

「うおおおおおおお!!待ちなさーーーーーーーーーーーーーーい!!!」

 

「何が何でも止めてやるー!!」

 

「鬼!悪魔!なのは!」

 

 舞、小鳥、ちひろの教員3名が後方から

機銃やらミサイルやらで果敢にヤマトを攻撃する。

 

「無駄な事を…。」

 

 だが、荷電粒子砲やら専用機の攻撃やらを全て食い止めたヤマトの重防御は

そんな物では揺るぎもしない。

 

「うわ…ミサイルが当たっても無傷どころか、

全くバランスが崩れないとか何なの?ホント凹むわ~。」

 

「当たり前なの!たった3匹の蟻が恐竜に勝てると思ったの?!」

 

「んなっ…ちょっと!教師を蟻呼ばわりは無いでしょ?!!」

 

「今はレース中なの!!レースに教師と生徒の上下関係は無いの!!

在るのは、女同士の速さ比べなの!!分を弁えるの!!」

 

「……すいませんでした。」

 

「弱っ!!主任弱っ!!」

 

 学年主任の舞ですらこの有様である。

最早暴走核弾頭の威光は理事長すら上回っていたのであった。

 

「ええーい、ダメ元ピヨ!!やってやるピヨー!!!」

 

 小鳥が名前通りの妙な語尾と共に、

近接用ブレード、ブレットスライサー片手に急加速。

と、ここで教員トリオ+1は意外な事に気が付いた。

 

「あ、あれ?小鳥さん、簡単に追いついた…?」

 

 何と、R・リヴァイヴであっさり追いついた。

ド派手な追加ブースターの割に、最高速度はそこまで速くない様だ。

 

「バックブラストは派手だけど、そこまで速くは無いみたいね。」

 

「ああ、そう言えば!生徒達の間で、『ヤマトは重すぎるから、

カタパルトに乗せると重量オーバーで壊れる』って噂になってたんだった!」

 

「……うん、ありそうだから困るわね。」

 

 どうやら、重すぎて追加ブースター4基がかりでも速度が出ない様だ。

ひょっとしたら、つけ入る隙になるやもしれない…

だが、彼女達は国家代表を舐めていた。

 

「ピヨーッ!!覚悟ーッ!!」

 

「……早速堪え性の無い人がやって来たの!!」

 

 躊躇なく突撃する小鳥。ルール上反撃は絶対にやってこないので、

一直線に背後から突っかかる。だが、なのははそれを狙っていた。

 

「このブースターの真の使い方、身を以て思い知るの!!パージ!!」

 

 何と、なのはは折角のブースターを1基投棄してしまった。

これで出力が25%減ってしまう。だが、このブースターが曲者だった。

 

 ガッ!!

 

「ピヨッ?!」

 

 何と、投棄された筈のブースターからアームが展開され、

小鳥機をアームでがっちりとホールド。

 

「え?え??ちょ、何これ?何がどうなるのぉぉおお?!!」

 

「こうなるの!!」

 

 なのはの声でブースターが急上昇。

小鳥機はブースター諸共、場外へ飛んで行ってしまった。

 

「ピィィィィヨオオオオオオオオオオォォォォォーーーーーーッ?!!!!!」

 

 

 

 

 

\キラーン/

 

 

 

 

 

『あーっと!!音無先生がここでコースアウト!!

今レース3人目のリタイアです!!』

 

 そう、束はこのブースターをヤマトを加速させる為に作ったのではなく、

妨害OKというルールを逆手に取り、

相手にくっつけてコースアウトさせる為に作ったのだ。

 

「な、な、な…」

 

「何と言う裏ワザ…ルールの抜け穴を見事に衝かれたわね…」

 

「確かに、攻撃はしてませんからね…」

 

 厄介極まりない秘密兵器である。

だが、今ので出力が激減したヤマトは速度が更に低下。

3機との差が徐々に詰まっていく。

 

「こうなったら、高町さんは下手に手出ししない方が得ね!!

私達だけでレースを続けるわよ!!」

 

「……え?それって、私が一方的に不利「さあ行くわよ!!」

 

 楯無のツッコミを無視して、舞とちひろは加速。

つられて楯無も加速してなのはと並んだ。

 

『おおお?!ここで後方の3機が急加速して

先頭の日本代表、高町さんを抜きにかかる!!』

 

「させないの!!」

 

 なのはもブースターの出力を上げて対抗。

漸く4機が一塊となり、誰が優勝してもおかしくないまともなレースとなった。

 

「何とかしてあのデカいブースターを壊せば、

ヤマトは重すぎて自然に脱落するんだけど…」

 

「下手に近づくと、音無先生と同じ目に遭いますからね。

さわらぬ神に祟りなしと言う事でFAにしませんか?

じゃ…そう言う事で…さよなら~!!」

 

 と、ここで楯無が仕掛けた。

なのはと並んで専用機で参加しているアドバンテージを活用して、

瞬時加速を発動し、逃げの一手に出た。

 

「あああっ!!更識さん、逃げる気?!」

 

「ごめんなさーい、私、普通のレースがしたいんで、先に行ってまーす!!」

 

「「待ちなさーい!!」」

 

 つられて舞とちひろも瞬時加速。これで一気になのはを追い抜いた。だが…

 

「私を無視しようなんていい度胸なの…」

 

 なのはを相手にしないと言う行為は、それだけで逆鱗に触れる行為である。

なのははスピーカー状の何かを展開。

それは、臨海学校の時に装備された後付装備「物質転送器」だ。

 

「遂にこれを使う時が来たの!!ブースター、全パージ!!」

 

 残る3基のブースターを全て投棄。

重しが無くなったブースターがヤマトの前に飛び出す。

 

「そして…物質転送器、スイッチオンなの!!」

 

 転送器が作動し、ブースターに光が放たれる。

次の瞬間、ブースターは消えてしまった。

 

「あ、あれ?高町さん、ブースターを全部捨てて何を…」

 

「まずい、何かして来る!!急いで逃げ…」

 

 

 

 

 

ガシッ!×3

 

 

 

 

 

「あ、あら?」「アイエッ?!」「ヒィ!!」

 

「知らなかったの?私からは逃げられないの!!」

 

 何が起きたのかと言えば、

転送されたブースターが3機をがっちりとホールドしていたのだ。

これで、楯無、ちひろ、舞の詰みは確定した。

 

「「「私達\(^o^)/オワタ」」」

 

「それではお待ちかねの…どーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 そして、3機は場外へ飛ばされていった。

 

「「「あーーーーーーーーーーーーーれーーーーーーーーーーーー!!!」」」

 

 

 

 

 

\キラーン/

 

 

 

 

 

『あーっと、これで日本代表の高町さん以外の全参加者がコースアウト!!

ここで高町さんの優勝でレース終了が決定しました!!』

 

「「「「「BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」」」」」

 

 アリーナからは大ブーイングだが、残念な事にルールには触れていない。

この結果は決定事項である。

 

 この後、キャノンボール・ファストの締めの一番、

各学年の一般生徒の優勝者、本音、サラ、虚と

専用機持ちの優勝者の一夏の4人で最速決定戦が行われたが、

流石に専用機のアドバンテージは大きく、一夏が3人を抑えて1着でゴール。

 

 かくして今年のキャノンボール・ファストは一夏の優勝で決着がついた。

そしてその日の夜、N○Kのニュース番組からこのような報道が入った。

 

 

「次のニュースです。先程ソウルから入った情報に依りますと、

李氏朝鮮時代の宮殿の1つ『徳寿宮』で、

突如本殿にあたる中和殿が崩落したそうです。

幸い、死傷者は出なかったとの事ですが、原因は解っておりません。

この件に関して韓国政府から日本に対し謝罪と賠償を強く求める声明を…

あ、今速報が入りました。

 

日本政府は先程『甚だ遺憾である』と声明を発表しました。

繰り返します。

日本政府は先程『甚だ遺憾である』と声明を発表しました。」




このイベントの展開は今まで一番苦労しました。
正直、バトルレースの描写なんて二度としたくないです…
そして、半年以上振りに韓国の死亡フラグが追加されました。
これで死亡フラグは限界まで積み上げられたので、
今度何かした場合…これ以上は言いませんよ?

さて次回、10月の合同合宿に参加する為本土に降り立ったなのは。
果たしてなのはを待ち受けているのは…?
「第14話  ISの本分 序」


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第14話  ISの本分 序

お久しぶりです。7週間ぶりの更新になってしまいました。
と言うのも、この次の話の展開についてどうするか2択となり、
漸く決断を済ませて、ここまで来たという次第なのです。

また、今回の話はほとんどが地の分で構成されています。

それでは、合同合宿編、始まりです。


 学園主催のキャノンボール・ファストが史上最低の結末を迎えて数日後、

10月初日…日本代表と代表候補生の合同合宿の始まりである。

 

「はぁ…遂にこの時が来てしまったのね…。」

 

 ここは合宿参加者の集合場所、桜田門こと警視庁の会議室である。

合同合宿の参加者はここでまず訓練内容及び今後の日程の説明を受けてから、

富士山麓の防衛軍演習場に移動して1か月のISの合同合宿を行うのだ。

 

 そして、会議室内で嫌そうな顔で溜息をついているのは

現在裁判中の前監督倉林美也子に替わり代表監督を代行する防衛空軍少佐にして、

もう一人の国家代表の秋月律子であった。

 

「何で合宿に参加しようとするのよ、あの暴走核弾頭は…。」

 

 溜息の原因は言うまでもない。今年は前国家代表の飯田奈緒を始め、

防衛軍のIS操縦者が学園での一件のせいで多数停職中の為、

参加者が少なくなっているのだが、その元凶であるなのはが

国家代表の名の下に何食わぬ顔で堂々と参加を表明してきたからだ。

 

「IS学園生徒の参加は任意だし、篠ノ之博士の妹とかいう代表候補生の娘は

『まだ専用機を貰って間もない未熟者なので、

学園で腕を磨き、卒業してから参加します』

って手紙で参加拒否を表明したから、参加しないと思ったのに…ハァ…。」

 

 説明会前から、早くもやる気をなくす律子。

だがこの日、更に彼女の胃を傷めつける出来事が起こる事となる。

そして、その元凶はと言うと…

 

「これが東京! 思えば初めてなの!!」

 

 合宿参加の為、警視庁本庁にやって来た我等が暴走核弾頭、高町なのは。

尚、なのはは国家代表として合宿への参加に際し、

理事会から期間中の休学を許されている。

 

「さて、ここが桜田門か…。んん?」

 

 ふと見ると、憂鬱そうな顔の代表候補生らしき人物を発見。

 

「やあ、合宿の参加者かな?」

 

「………………(無言で頷く)」

 

「私が高町なのはなの!周りから暴走核弾頭と呼ばれてるんだけど…

何か元気がなさそうだから、気に成ったの!!何かあったの?!」

 

「………………アンタに言った所で、意味なんかないよ。」

 

素っ気ない態度の名もなき代表候補生。だが、なのはにそんな態度をとると…

 

「………………………。」

 

「あぁ~~~~~~~⌒*(◎谷◎)*⌒~~~~~~~ん?」

 

「ヒッ!ちょ、来ないで…」

 

「あぁ~~~⌒*(◎谷◎)*⌒=⌒*(◎谷◎)*⌒~~~ん?」

 

「や、止め…」

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

⌒*( ◎谷◎)⌒  ⌒(◎谷◎ )*⌒

あぁ~~ ⌒*(◎谷)(゚Д゚;)=(;゚Д゚)(谷◎)*⌒ ~~ん?

⌒*(  ⌒*)ヒイイイイイ!!(*⌒   )*⌒

⌒*(   )*⌒

 

「O☆HA☆NA☆SHIなの!!O☆HA☆NA☆SHIをするの!!

O☆HA☆NA☆SHIしてくれない人は一人包囲殲滅陣で囲んでやるの!!」

 

「止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 やっぱり、こうなるのである。と言う訳で、例によって強引に

O☆HA☆NA☆SHIに持ち込んだなのはであった。

 

 

 

 

 

「さあO☆HA☆NA☆SHIをするの!!」

 

「それじゃあ…」

 

 こうして、この名も無き代表候補生が語る所によると…

彼女の親は所謂毒親という部類の輩で、幼いころからいびられてきたと言う。

 

 父は御近所全員から気持ち悪がられる所謂ブサメンで、

いつもニタニタしてヒゲもそらず、ちょっとでも話に相槌を打ったりすると、

好きになったと勘違いして言い寄る根っからの「キモい」人間性らしい。

 

 しかし声量だけはあって、泣き落としと媚を売るのがやたら得意で、

なぜかお偉いさん程そいつの言う事を信用するという不思議な人間だった。

例えば、彼女が自分の現状を他人に訴え、その者が父を呼び出して難詰すると、

その者の上司が丸め込まれてなだめすかされるという事の繰り返しだった。

 

 つまり担任に訴えれば校長が丸め込まれ、

児童相談所に訴えればそこの所長が丸め込まれ、

警察に訴えれば担当警官の上司、

時には警察署長が丸め込まれるという有様だった。

だから、とりなしを突っぱねても

「お偉いさんのとりなしを突っぱねる礼儀知らず」

と取られて、相手にして貰えなかった。

 

 当然、こんな碌でもない輩と夫婦に成る母もお察しくださいな人格で、

はっきり言って、ペットの様な扱いだったと言う。

そんな中、何とかしてこの境遇から抜け出そうと勉強に励んでいた中3の時、

IS操縦適正検査で学校トップのAランクを叩き出した。

これを転機とばかりにISで身を立てる事を決意。

倍率1万倍を見事潜り抜け、無事IS学園に合格した。

 

 所が両親は大反対。「IS学園なんて『男は屑』なんて思想を吹き込む

気狂い学校に行く位なら身体売ってでも働け、

言う事を聞かないならお前に一切金は使わない」

と言われ、勝手に入学辞退の連絡を入れられたと言う。

 

 所が、電話を聞いたのは学園長に代わり

IS学園の経営を取り仕切る学園長代理、轡木十蔵だった。

その電話が「本人の意志かどうか解らない」という理由でこれを突っぱねると、

代理自ら彼女の自宅に乗り込んで直談判。

 

 「うちにエリート校サマに入れられるような金はありませんから、

それにうちの子は馬鹿すぎて授業には付いていけない」と言う言葉尻に噛みつき

「我が校に学費・授業料の類は無い!倍率1万倍を潜り抜けた自分の子供を

褒めようともせず、本人の意志を無視して入学辞退させるとは何事だ!」

と両親を叱り飛ばした。

 

 得意の上司丸め込みも、上司より実権を持っている轡木代理には効かず、

轡木代理から国際的な取り決めにより卒業まで干渉は一切許さない、

もしもちょっかいを出したら問答無用で裁判を起こすと言い含められて沈黙。

こうして無事に入学し、今年の春に晴れて学園を卒業し、

これを機に独り暮らしの為家を出て戸籍を分けた。

夏には代表候補生試験を見事パスし、完全に親に頼らなくても良くなった。

 

 ここまでは良かった。だが、先月になって両親が押しかけてきた。

戸籍を分離した際にどのように住所が変わったかの履歴である「附票」から

今の住所がばれたらしい。

卒業して学籍を離れてしまったから、もう学園の助けも期待できない。

 

 早速警察にストーカーとして訴え、被害届を出そうとしたが、

 

「子供を愛さない親なんていない。

間を取り持ってあげるから、仲直りしなさい。」

 

 と聞き入れなかった。両親は自分が学園にいる間、彼女を

「親のありがたみを忘れて女尊男卑に染まった人でなし」

と周囲に言い降らして回っていた様で、

地元の警察もそれを信じてしまっていたらしい。

 

 おまけに、両親は反省している様な態度で頭を下げているので

許そうとしないこっちが余計悪玉に見えていたらしく、

 

「親なんだから一緒にいてあげて」

 

「育ててもらった恩を忘れたのか?」

 

「こうして謝ってくれてるんだから、ちゃんと許してあげて」

 

 と在り難いお説教(笑)を貰う羽目になった。

彼女は自分の父親がいかに危険な人物で、

今までどんな目に遭わされてきたかを説明したが、

女尊男卑に染まって親を親とも思わない程歪んでしまったと決め付けられ

 

「何故そんなに性根が腐ってしまったのか」

 

「親を捨てると言う事は人間を辞めると言う事だ」

 

 とよりきつい説教をされる羽目に。

以前なら親身になって間を取り持とうとする善意の人(笑)に屈して

媚びを売り、気を使い、親と私の仲介に入ってもらい、

18歳にもなって、頭を踏んづけられながら泣いて土下座して謝っていた。

だが、彼女はもう変わってしまった。

 

「それなら日を改めて話し合うから、その時は親を連れて来い」

 

 という主旨の返答だけして、その足で弁護士に相談し、

いざ当日は弁護士同伴で突入。

 

「悪いのは親の義務を果たさなかった向こうなので、仲直りはしない。

貴方方が親身になって助けようとしてるのは私じゃなくて自称親の方だ!

これ以上私を苦しめるのなら全員訴えてやる!」

 

 警官と両親の前で啖呵を切り、被害届を叩き付けて帰ろうとしたが、

それが最悪の事態を呼んでしまった。

 

「よくもだましたあああああ!!だましてくれたなアアアアア!!」

 

 声量だけは人一倍ある父親が署内に響き渡る声で叫んでしまった。

そして、合同合宿の打ち合わせの為に居合わせた

全日本剣道連盟の会長の耳に入ってしまった。

 

 この人物は京都にある武道の名家の主で、

何を隠そう応対した警官の一人は会長の実子だった。

そして、この会長は何よりも嘘を憎む為人で有名で、

門下の嘘には鉄拳制裁も辞さない厳格さで知られていた。

 

 当然「他人の善意を踏み躙り、親と警察を謀るとは卑怯千万!」

と会長は激怒。この様な性悪娘は折檻已む無しとして鉄拳制裁を受け、

止めようとした弁護士も嘘つきを庇うなら同罪として張り倒されたと言う。

 

 普通に考えれば暴行の現行犯だが、警察は

「悪いのは親と警察に仲直りに応じると言っておきながら

手の平を返して親を訴えようとした娘の方だろう。

何より、『嘘吐き絶対懲らしめるマン』で有名なこの人程

倫理道徳に厳しい人が咎めなかったのなら、やっぱり両親は悪くない」

と解釈し、誰も咎めなかったらしい。

 

 彼女は両親に土下座させられてその場は収まったが、

代表候補生と操縦資格を放棄する事を念書で書くと約束させられ、

親元に連れ戻され、またいびられ続ける日々に逆戻り。

耐えられなくなって逃げ出し、

ビジネスホテルを転々とする日々を送っていると言う。

 

「これで解ったでしょ?もうどうしようもないって。

私が何をしても、何を言っても無駄なんだよ?

逆らったら殴られる、蹴られる、それも私が全部悪いって事にされる。

誰に相談しても、全剣連の会長に嘘つきの親不孝を庇う屑認定されて、

誰が何言おうが、怒鳴られて殴られるんだよ!!

だから、放っといてよ!どうせ私は、大人には勝てない…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

そんな事をする程、馬鹿じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…えっ?」

 

「そんな事をする程、馬鹿じゃない。

その様な脅しを決して怖がってはいけないの!!つまり野犬と同じ事なの!!

野犬と言うのは、相手が己を恐れている事を察して噛むの!!

だから有効な方法は一つなの!!こっちから攻撃する事なの!!

相手が立てなくなるまで徹底的に叩きのめす事なの!!

私は暴走核弾頭だから、それ位の相手なら楽勝なの!!

早速解決してやるの!!」

 

 これは子に対する親の搾取を正当化する

歪曲された儒教思想の名残だ。始末しなければならない。

なのははそう決意すると、早速準備を始めた。




さて、いよいよ合同合宿の顔合わせに乗り込むなのは。
そこにいたのは、日本の誰よりも礼節、道徳に厳しい
武道の第一人者達だった。
果たして、なのはは名もなき代表候補生を救えるのか?
「第15話  ISの本分 破」


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第15話  ISの本分 破

お待たせしました。
エイプリルフールに嘘を憎む者達との対決を投稿する
皮肉な第67話です。


 そして、警視庁本庁の会議室では、

合同合宿の説明会に先んじ、今後のIS運用についての

意見陳述会が開かれていた。

 

「今こそ、『IS道構想』を確立すべし!!」

 

 こう切り出したのは、どう見ても極道の大親分にしか見えない

厳めしい人相の和装の男。彼こそ全日本剣道連盟の長にして

その規格外の技量故、かつて廃止された十段の段位を特例で授けられた武道の名門、

磯鷲一家の当主にして「嘘つき絶対懲らしめるマン」磯鷲剣之介(イソワシケンノスケ)その人であった。

 

 で、なぜ武道家の一族がこんな所に居るのかというと、

この一族は「篠ノ之束の如き大悪党が創造した破壊の為の道具を、

如何にして世の為、人の為に役立てるか」

という触れ込みで世界中の武道家とその連盟とのコネを用い、

ISを用いてのスポーツ競技大会、即ちモンド・グロッソの創立に

多大な貢献があったと言う事でIICからの覚えが目出度く、

家長の剣之介はその功績から海外では近代五輪の祖に準え

「東洋のクーベルタン」とまで称されている。

 

「綿貫三樹夫、倉林美也子の様な不届き者が巣食っていたのは、

日本IS界にとって大いなる不幸であった!この様な事を二度と起こさせぬ為、

今後我が国で国家代表とその候補者となれるのは武道を通じて心技体を鍛え、

その証として段位を持つ者のみと定め置くべきと提言する!!」

 

 気勢を上げる剣之介。同じく武道家として大成し、

今回の会議に出席している妻子達も無言で首肯する。

 

「故に、武芸の心得無き者をこれ以上これらの地位に留めるべきではない!

現に一名ほど女尊男卑に憑りつかれ、恩師隣人の注意温情はおろか

一人の警官として取り為さんとしたワシの娘の善意まで踏みにじり、

果ては二枚舌まで使って訴訟沙汰などと騒ぎ立てた卑怯者が蔓延っておる!

 

見るに耐えぬ所業故ワシ自ら折檻したが、これでもまだ足りぬ故、

本日の会議で代表候補生と操縦資格の放棄を念書を出させる所存である!!

そして…もう一人、代表の座から降ろすべきは…高町なのは!!」

 

 剣之介はなのはの写真を指し、なのはの代表解任を主張する。

確かに今のなのはは日本武道における段位など一つも持っていない。

それは、IS道構想から見ればISに携わる資格なき存在と言う事に成る。

 

「この輩は篠ノ之束などという大悪党に盲従し、

碌な武道の心得も無しに暴力で一国の代表の座の座を掠め取り、

暴走核弾頭などという渾名を悪びれもせずに吹聴しておる!!

 

そればかりか、奴は欧州でのテロ騒ぎを起こした張本人と言うではないか!!

更に言えば、この重要な会議にすら遅刻するとは真に怪しからん!!

この様な輩をおいそれと国家代表に仕立て上げる等言語道断である!!」

 

 なのはのみならず、政府にすら苦言を呈す剣之介。

ここで軍部の代表者として出席していた防衛大臣の米田一基が返答した。

 

「あー、磯鷲先生よ。その高町なのはだが、

彼女は山口総理から呼び出しを受け、首相官邸に出向いてからこちらに向かうと

連絡が有ってだな…今現在は首相官邸からこちらへ向かっているとの事だ。」

 

「…フン!ならば遅刻も致し方なし。許してやろう。」

 

 続いて、代表監督代行の秋月律子が剣之介に質問を投げかける。

 

「あー、先生、一つお尋ねします。先生は暴走…

いえ、高町なのはを解任したとして、後任にアテはあるのでしょうか?」

 

「如何にも。一国の代表に推すからには本構想の旗手として知名度が肝要と考え、

並びに我が一族が発起人としての責務を全うする旨を世間に示すにあたり、

我が一族より後任者を出すが妥当であると断じた。よって…」

 

 剣之介は一人の婦人警官を指示して答えた。

 

「ここは一つ、ワシは我が長女早矢(ハヤ)を奴の後任として推薦する!

この早矢こそ、我が一族が本構想の旗手に推薦しうる最良の人材である。

聞けばその方、我が娘とは同級生の間柄でもあったな。

なれば、互いに技を磨き合うに良き相手となろう。」

 

 彼女の名は磯鷲早矢。剣之介の長女にして、

女子大学弓道で全国制覇を成し遂げ、剣道等の武道にも通じており、

その性格は大和撫子その物と周囲や上からの評判も良く、

代表操縦者としては一見申し分ない逸材に見える。だが…

 

「は、はぁ…ご意見有難うございます。」

(冗談でしょう!!確かに暴走核弾頭よりは遥かに人間性は真っ当だけど、

肝心のIS操縦適正が追い付いてないじゃない!!

警視庁IS小隊の私の穴埋めの最終選出で

萩原雪歩に負けた程度の腕前しかないんじゃ、

代表なんて務まる訳無いじゃない!!)

 

 この通り、為人に技量が追いついていないのである。

律子に言わせれば、彼女を代表にする位なら

真耶の方が良いというレベルらしい。

但し彼女は弱くない。雪歩が警察官じゃなかったら

彼女が即座に律子の穴埋めを務めていた。それ位の力量はあった。

 

「(それにしても、今度の会議への磯鷲一家の力の入れようは凄いわね。

先生本人のみならず、夫人で陰陽道の名家錦織部家出身、

磯鷲流弓道七段の穂之華(ホノカ)師範、

 

日本武道全般の統合振興組織、『日本武道会』の会長で、

各流派にて免許皆伝の称号を帯びた物だけが入れる集い、

『格闘奥義道』の総帥も務める長男蘆嵐(セイラン)

 

磯鷲流古武道の免許皆伝にして、独自考案した新興武術『撃破拳』の

最高師範「王位」の称号を持つ次男蘿虎(カゲトラ)

 

磯鷲流合気道免許皆伝にして、剣道界の昇段試験年齢下限撤廃により

それまで満46歳以上しか受けられなかった最高位の八段昇段試験を

史上最年少で合格した俊英、三男飛竜(ヒリュウ)

 

そして末子で、女子大学弓道全国覇者で現在警察官の長女、早矢…

京都の、いや日本武道界で一番の名家全員が出席すると知ったら、

流石の暴走核弾頭もどんな顔をするのやら…

まさか、このメンツに喧嘩を売ったりはしないわよね…)」

 

「よし…早矢よ。皆に意気込みの一つでも申してみよ。」

 

「はい。お集まりの皆様、私が只今紹介を受けました、磯鷲早矢と申します。

国家代表たる者確かに実力も大事ですが、これからのISを武道と為すのならば

唯強ければ良いと言う物ではなく、心技体の鍛錬こそが

ISの本分であると確信しております。ですので皆様、

何卒、国家代表操縦者の任はこの私に宜しくお願い致します。」

 

 挨拶が終わると、会場からは拍手が鳴り響いた。

 

「いやー、素晴らしい!!心技体、良い響きですな!!

流石は磯鷲家の御嬢さんだ、上司としても鼻が高いですぞ!!」

 

 この様に相槌を打っているのは、今年の合同合宿の警視庁側の担当者で、

早矢の勤め先である葛飾警察署の署長も務める屯田五目須(ゴメス)警視正だ。

 

「(全く、屯田署長は調子の良い事を…

ところで、肝心の暴走核弾頭はいつ来るのかしら?)」

 

 と、ここで会議室に伝令役が報告に来た。

 

「失礼します!!代表操縦者の高町さんが入室します!!」

 

「やれやれ、やっと来たか…」

 

 

 

 

 そして…

 

「ドーモ、ハジメマシテ。この度代表操縦者に指名された高町なのはです。

遅刻の件に関しては事前に連絡した通り

山口総理から呼び出しがあっての事ですので、改めてご連絡させて頂きます。」

 

 いつもとは違い、穏当な口調のなのは。

かつてなのはに酷い目に遭わされた律子達は少し安心するが、

この後、笑い事では済まなくなる事には気づいていない。

 

「あー、その、何だ…今会議でお前ぇさんの事が議題に上っててよ…」

 

「と、仰いますと?」

 

「実を言うとだな。今、ここにおられる京都の大武道家の名家の御当主、

磯鷲剣之介先生とその御家族を中心に『IS道構想』って物が練られててだな。

こいつぁ『ISの運用そのものを新興の武道とし、

以て心技体の練成と人間性の向上を図る』という構想なんだが…。」

 

「その心は?」

 

「『世界的テロリストの創造物を、如何にして世の為人の為に役立てるか』だ。

そもそも、モンド・グロッソ自体がその構想の一環でな。

ISを用いた人間性の育成、心身の鍛錬の為、

ここにいる磯鷲先生を始め御一族の多大な貢献が有って

今日のモンド・グロッソが有ると言っても過言じゃねぇんだよ。」

 

「そうですか。で、肝心の創造者である篠ノ之博士には、

何の相談もしていないと言うのですか?彼女の協力を仰げば、

とっくに完成する構想なのに…。」

 

「そんな物は要らぬ!」

 

 なのはの指摘に対し、束の協力は不要と切り捨てる剣之介。

 

「何故ですか?」

 

「あの様な大悪党に、社会貢献に携わる資格など無い!

これからの代表操縦者とその候補者は、五徳の心を学び、その証として

武道の然るべき技量を備えた者のみが就くべきである!!」

 

「成程。(大悪党…?よし、このヤクザ顔は分からせる。)」

 

 剣之介の言葉に続き、穂之華夫人も言葉を続ける。

 

「その上でお聞きします。貴方、武道の心得は?」

 

「武道…?親兄弟は小太刀の心得がありますが、

私は剣才皆無なので、全く無い…と言っておきます。」

 

「つまり、貴女は代表に不相応な身で

代表の座に就いているという事になりますね。」

 

「IS道構想に則れば、確かにその通り。」

 

「ならば、代表操縦者と学園を辞めるのか、

或いは、この合宿の間になにかしらの武道を習得して段位を得るか、

どちらか一つを選ぶべきです。」

 

「…………その二択に答える前に、一つ忘れていませんか?」

 

「ほう?」

 

「そこのヤクザ…失礼、先生とやら、この前とある代表候補生が

警察相手に二枚舌を使ったとか何とかで折檻を食らわせて、

本日の会議で代表候補生と操縦資格放棄の念書を出させようとしたとか…

今日、持ってきましたよ、ここに。」

 

 なのはは封筒を見せた。

 

「プロジェクターは在りますか?皆に見える様にしたいのですが。」

 

「あ、ああ…おーい、プロジェクター持ってこい!!」

 

「はい!!」

 

 暫くしてプロジェクターが用意されると、なのはがそこに文書を置いた。

 

「では、お目通しお願いします。」

 

 そこに書いてあったのは…

 

 

 

 

 

 念書などでは無く、名もなき代表候補生が今まで親にされた事の羅列だった。

 

 

 

 

 

「こ、これは!!」「どういう事だこれは!!」

 

「これは念書じゃなくて、告発文ではないか!!」

 

 会議室がたちまち騒然となる。そして、なのはが告発文の末尾を読み上げた。

 

「私は親を自称するこの人でなし共に今までこんな目に遭わされて来ました。

こいつらはこれは愛の鞭だから、子供は黙ってこれを許さなければならない。

仲良くしなければならないと、こいつらの肩を持つばかりでした。

 

許す気が無いので裁判を起こそうとしたら、

警察に二枚舌を使う卑怯者への折檻として暴力を振るわれました。

会議室にいらしてる皆様、私はこのような環境で生きてきました。

 

ですから、国家代表操縦者である高町なのはさんを通じて

山口首相本人にこいつ等が今まで私にした事を洗いざらい実名入りで告発して、

その足で東京地裁に保護命令の申し立てを起こしました。

 

誰が何を言おうと、裁判を起こしますのでよろしくお願いします。

私にはもう両親はいません。護るべきものは自分自身だけです。

それでもこいつらが正しいと仰るなら全員纏めて裁判で相手になります。

東京地裁でお会いしましょう。」

 

 告発文はこのような徹底抗戦の宣言で締めくくられていた。

 

「最後に私から一言。私は彼女に味方します。国家代表操縦者として、

ISも碌に動かせない、そもそもIS開発の目的も知っていそうにない、

男とも呼べない、言うなれば『女ならざるだけの者』が、

ISに関与する事を許す気は毛頭ありません。

これは我が師、篠ノ之束の意見でもありますので、異論がある人は、

まずこの場で自慢の武道で私の首を取って、どうぞ。以上。」

 

 なのはがそこまで言い切った直後…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォオオオン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議室に轟音が。剣之介がテーブルを叩き、凹ませていた。

 

「あの二枚舌め!!またも我等を謀りおったな!!」

 

 二度も騙されたらこうなるのは当然の事であった。

 

「ま、まあまあ落ち着いて!!」

 

 屯田署長が宥めるが手が付けられない。

 

「黙っておれ!!」

 

「しかしですね…」

 

「大体この者の物言いも怪しからん!公僕を謀る両舌の輩を庇うとは何事か!

彼奴めは自己の都合のみ追い続け、二枚舌にまで成り腐り、

度重なる恩師隣人からの注意温情をも踏み躙り、チンピラ街道驀地!

私利私欲の数々、犬畜生外道にも劣る!その様な振る舞い断じて許し難い!

それを庇うなど人非人以下だ!」

 

剣之介がそこまで言い切った瞬間…

 

「おい、磯鷲。」

 

 銃剣神父を髣髴とさせる特徴的な声の呼びかけ。

だが、声のした所にいたのはなのは本人。それだけではない。

なのははいつの間に移動したのか、剣之介の眼前にいた。

そして、窓を指差して短くこう言い渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

戯言はやめろ。私を馬鹿にする気か?

 

出口はあそこだ。




なのはのセリフですが、最後の太字の部分は、

「CV:アナゴさん」

です。


「CV:アナゴさん」

です。

大事な事なので、二度繰り返しました。

次回、第16話「ISの本分 急」
さあ、いよいよなのはのターン。
果たして、なのはは磯鷲一族の言い分を如何に論破するのか?
果たして、警視庁は残っていられるのか?


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第16話  ISの本分 急

お待たせしました。2週間ぶりの更新です。方針は決まっても、
それを文にするのに思いの他手間取りました。
尚、今話のなのはさんは前話ラストに続き、
「CV:ちよ父」でお楽しみ下さい。


「「「「「…………………………………………………………………。」」」」」

 

 窓を指差して告げたなのはの一言に、一瞬で会議室は沈黙した。

 

「その方、今何と言った?!」

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

出口はあそこだ!

 

 青筋を立てて問い返す剣之介に全く動じず、

なのはは窓を指差したまま、有無を言わさず繰り返した。

その恐ろしさに、律子他IS操縦者は勿論、

米田防衛相以下出席者全員が震え上がった。

 

「き、君!!先生に向かって、何て失礼な態度を…」

 

「ゴメス、口をつぐめ。話はこれの片を付けてからだ。」

 

「アッハイ…」

 

「け、警視正を…呼び捨て…。」「先生を、これ呼ばわりだぞ…。」

 

 屯田警視正を一言で黙らせるや、なのはは剣之介への難詰を続けた。

 

「貴方方はISへの知識の欠如、人間の対等の付き合いを許さない

歪曲された儒教精神、そしてもしかしたら単純な女尊男卑への対抗心から、

1人の代表候補生の人生を壊そうとしている。これは認められる事ではない。

こんな事も平和的に解決できないのなら、貴方方抜きで決めるだけだ。」

 

 管理局員としては比較的温厚ななのはが、

まるでザンギエフ露大統領も畏敬するロシアの陰の実力者「長老」の様な口調で

他人を難詰している。それも相手は学生などではない。

日本一の武道の名家の長であり、日本で唯一人本来の最高位である八段を超え、

特例で十段の名誉称号を与えられた第一人者である。

当然礼儀や作法には人一倍厳しく、

間違っても一介の学生が自分にこんな態度を取る事等許す筈がない。

だが、なのはにはそんな事はどうでも良い。

 

「子供は親の言う事を聞く。こんな当たり前のことが出来ない

恥ずかしい人間を庇って、情けないと思わないか!!」

 

「彼女は成人だ。よって親とは対等だ。

何様のつもりかと問うのなら、余所様と答えよう。」

 

「誠意を以て頭を下げた人間をあざ笑う奴は地獄に行くぞ!!」

 

「地獄は故郷。」

 

「親を大事にしない者は誰も大事にせず、

結果誰からも相手にされない孤独地獄を見る事に…」

 

「お伽噺に本気で期待してはいけない。

誰も私達を助けてはくれない。

神も、天皇も、英雄も。私達はいつでも、

自らの手で事をやり遂げなければならない。」

 

「自分を他人に優先する事は許されない!!

自分だけ良ければいいと、公言して憚らない非常識な行為だ!!」

 

「人も良かれ、我も良かれ、

人より我が、尚良かれ。」

 

「嘘つきは泥棒の始まりだ!!

死んでも嘘はついてはならぬと言うのが解らんのか!!」

 

「己の心のままに相手を動かし、

これを打つのが剣ではないのか?

ならば身を守る為の嘘は兵法の基本だろう。

剣の基本はどこへ行った、どこだ?

柳生の教えは私でも知っている事ではないか。」

 

 他の武道関係者が口々に非難するが、なのはは悉く切り返した。

 

「言わせておけば…素人が柳生の名を借りて聞いた風な口を利くか!」

 

 なのはに剣之介が凄んだ次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズンッ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはは細長い何かを剣之介の眼前の机に突き刺した。

それは、抜き身の日本刀だった。

 

「だったら刀で語るのっ!!!」

 

「な、な、な…」「真剣…だと…」

 

「私の言葉に少しでも文句が有るなら、

自慢の武芸で私の首を取ってみろと言った筈だが?…出来ないなら…。」

 

バンッ!!

 

 なのはは何かの文書をペンごと机に叩き付けた。

 

「この合意文書に署名しろ。話はそれからだ。」

 

 その合意文書の内容を意訳すると、

「日本国に属する全ての武道関係の連盟及びその関係者は、

今後二度とISに関わらない事を明言し、IS道構想も永遠に破棄する」

という内容になる。

 

「何をふざけた事を!貴様、どこまで非礼を重ねれば…」

<そうだそうだ!!恥を知れ!!

「親父、そんな奴の言う事など聞いてたらキリが無いぞ!!」

<それでも人間か?!

「誰か、奴を摘み出さないのか?!」

<武道を舐めてるのか!!シバくぞ!!

「そうです!それ以上父に無礼を働くなら許しません!!」

 

 磯鷲四兄妹や他の武道連盟の代表者達もいきり立つ。

 

「控えよ、倅共!」

 

 しかし、剣之介が一喝して押し留めた。

 

「お、親父?!」「良いのか?」

 

「構わん、言わせておけい!」

 

「お、応…」

 

「で、返答は?」

 

「斯様な物に署名する謂れは無い…これがワシの答えだ!」

 

 あっさり捨てられてしまった。まあ、当然と言えば当然だ。だが…

 

「磯鷲流には門下が家元の定めた禁忌を犯しても大目に見る風習があるのか?」

 

「何…?」

 

「真宮寺一馬を知っている?」

 

「知らぬ筈がなかろう!あ奴がISにもたらした刀法が

織斑千冬を優勝へと導き、以て剣道の競技人口増加に繋がった。

あ奴は剣に多大な貢献が有る。あ奴が何だと言うのだ!!」

 

「私の師、篠ノ之束の評価は違う。

あれはISを汚した屑の中の屑。それが彼女の評価。」

 

「な、何だと!!」

 

 今度は米田防衛相が激昂した。

だが、そんなのお構いなしになのはは言葉を続ける。

 

「私もそう思う。本人にあった事は無いが、

彼の死は家元を蔑にしたISの運用に手を貸した当然の報いと解釈している。

織斑千冬すら、死に際に罵倒したと明言したのだから。」

 

「………私も、確かに聞きました。

織斑教諭は、彼に凄まじい恨みを感じていた事をはっきり明言しました。」

 

 あの時その場に居合わせた律子も同調し、

他の警視庁IS小隊の隊員も無言で頷く。

 

「何故そうなったと思う?ISの家元篠ノ之束は

宇宙開発ツールとしてISを創造し、そして自らの意志で

兵器としても如何に有用であるかを白騎士事件を以て証明した。

 

だから兵器として使われる事は最早致し方ないとしても、

まずは次世代宇宙開発ツールという

本分への回帰は果たさなければならない。

そしてその発信地はこの国を置いて他ならない。

なぜならこの日本こそIS発祥国だから。

 

よってIS道構想や代表候補生受験資格の武道有段者への限定等という発想は

ISへの冒涜も甚だしい。ISは武道の稽古道具でも御為倒しの道具でもない。

家元である篠ノ之束の意に背く使い方は…例え当代の天皇が

額付いて頼み込もうが、私が決して許さない!!!」

 

それとも、日本武道はISが無ければ

 

先人が創造した極意を会得できない程、

 

技量と精神が堕落したのか?

 

IS抜きでも出来る事にISを巻き込むんじゃねーのっ!!!

 

 

 なのはの大喝で一同は完全に沈黙。誰も反論出来無い様だ。

「お前等はISが無いと先人同様の稽古も出来ない上、

門外漢の癖に家元の定めた理念に逆らうのか?」

と言うのが武道関係者にとって何よりの殺し文句だった。

 

「た、確かに…。家元の意向に背くなど武道にあるまじき行為…でしょうな…」

 

 と、屯田署長がビビりながら同調していると…

 

「旦那様。」

 

 穂之華夫人が口を開いた。

 

「当家の総意としての返答は私が行っても?」

 

「…好きにせい。」

 

「では。高町なのは…当家の総意をお答えします。

『極めて残念』…これが我等の答えです。」

 

「残念?何が?」

 

 嫌な予感を覚えつつも、なのはがそれを顔に出さずに返すと、

この様に言葉を続けた。

 

「なまじ突出した才能が有るばかりに傲り昂ぶり、

『己は誰に対しても対等以上』と思い上がっての暴言非礼の数々、

果ては女尊男卑に染まり、肉親はおろか周囲の隣人、

更には警察にまで二枚舌を使う性悪娘をかばい立てするとは言語道断。

 

本来人の心には天意、神意と言う物が宿っていて然るべき。

それを根っから捨て去り、己自身を神と崇めるかの如き所業、

見苦しいにも程があります。最早国際社会に申し訳が立ちません。」

 

「ほーん。で、何が言いた…」

 

 

 

 

  表  へ  出  ま  せ  い  !

 

 

 

 

 裂帛の気迫と共に、会議室に響き渡る穂之華夫人の喝。

 

「磯鷲の武芸はその様な輩を打ち据え、戒め、

改心させる為に磨かれてきました。故に高町なのは!!

磯鷲の総力を挙げ、これより折檻を下します!!」

 

 剣之介以下、一族全員と他の武道関係者も一斉に無言で頷いた。

何たるインガオホーか、なのはは今まで自分が仕掛ける側だった

「高町流交渉術」を仕掛けられる側に回ってしまった。

 

 

 

 

 

 そして、警視庁本庁の道場で相対するなのはと

磯鷲一族率いる武道関係者達。だが…

 

「「「「「……………………。」」」」」

 

 始めから気合充分の磯鷲一族を始め、

見届け人の他の操縦者や軍、警察関係者一同全員が沈黙していた。

その原因はと言うと…

 

┣¨┣¨┣¨┣¨⌒*(◎谷◎)*⌒┣¨┣¨┣¨┣¨

 

 

 なのはの出で立ちだった。全身から殺意の波動を放ち、

普段ISスーツと称して使っているアグレッサーモードでは無く、

本気で叩き潰す気のブラスターモードである。しかも、リミッター全解除だ。

 

「な、何なんだあの格好は…」

 

「さ、さあ…」

 

 尚、この折檻と言う名の決闘だが、やる事は一体多の組手である。

但し、多の側は全員その道の第一人者達であり、

そんな人間が本気で掛かって来るのは充分な折檻である。

当然、磯鷲会長は竹刀に防具姿だし、

穂之華夫人も弓に代わり木製の薙刀で完全武装している。

 

「逃げずにここまで来た事は褒めて差し上げます。

今ならまだ間に合います。ISから永劫に手を引くと明言なさい。

さもなくば、本気で打ち据えます。」

 

「『良く吠えた、挑戦を許可する。』これが答えです。」

 

「何処までも傲慢な…

嘘は拳で戒める磯鷲の家訓、その身で思い知れい!!」

 

「良く吠えた、挑戦を許可する。」

 

「貴様…その思い上がり、断じて許さん!」

 

「ああもう、キリが無いので始めますよ!では…」

 

 折檻と言う名の組手の審判を務める事になった律子が

双方の準備が整った事を確認し…

 

「始め!」

 

 旗を振り下ろして号令した瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッパアアアアアアアアァァァァァァァァン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「アバッババッババババーッ!!!」」」」」」

 

 竹刀、薙刀、拳に蹴りがなのは目掛けて迫るよりも早く、

なのはは指先からアクセルシューターを発射。

一斉に武道関係者達に着弾し、壁に叩き付けた。

 

「な、何だァーッ!!!」「指先から光線?!」

 

「アイエエエ?!ビーム?!ビームナンデ?!」

 

 騒然となる道場。なのはは追い打ちの為レイジングハートを展開し、

アクセルシューターを連射する。

何しろ束のナノマシンの実験台となった結果、後遺症が完治して

SSランク相当まで成長した全力のアクセルシューターだ。

物理破壊設定をオフにしているから傷こそ付かないが、

もしオンだったら難なく初弾で武道家達を皆殺しに出来ただろう。

 

「貴様…何をした?!!」

 

「武道の経験は皆無と言ったな。あれは嘘だ。

 

「き…貴様!!本性を現したな外ど…」

 

 しかし次の瞬間には

なのはが剣之介の顔面にアクセルシューターをぶちかましていた。

 

「ぶわっ!」

 

「私は百歩神拳の使い手。何か質問は?」

 

「「「「「ひゃ、百歩神拳?!」」」」」

 

 百歩神拳。中国武術に伝わる伝説の拳である。

「気」や「頸」を用いて拳の届かない所の敵を打ち、

文字通り百歩先の蝋燭の火をも掻き消す恐るべき拳法だ。

 

 正直に魔法と言う義理も理由もないなのはは、

武道家に最も通じやすいであろう

ビッグネームを持ち出す事でどちらが上か示す構えだ。

 

「馬鹿なーッ!!中国武術最大の伝説の拳法だと!!」

 

「何でこんな奴がそんな物を使えるんだ?!」

 

「そもそも実在していたのか?!」

 

 当然、武道家達は仰天して震え上がる。

目の前で起きた現象はどう考えても現実。

それなら、目の前のなのはは本物の百歩神拳使いであり、

それだけで自分達より圧倒的に格上の武道家であると言う事になる。

 

「ええい黙れ黙れ!!そんなハッタリには騙されんぞ!!」

 

「Chain-bind!」

 

「な、ナンダ、カンダ、ハンダ?!」

 

 チェーンバインドで全員を纏めて縛り上げ、ブラスタービットを展開。

スターライト・ブレイカーの発射体勢に入った。

 

「さっきの降伏勧告、そのまま返してやるの。

さもないと、一番の奥義で吹っ飛ばす。」

 

「や、止めろ!!」

 

「ま、参った!!降参する!!」

 

 一部の武道家がギブアップを宣言。だが、時すでに遅し。

 

「ならば降伏の証に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

黙って吹っ飛べ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、ヤメロー!!ヤメロー!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 気合と共にチャージを加速するなのは。そして魔力の集束が完了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで終わりなの!!Lyrical magical…家無しになれぇ!

Star-Light Breaker-Ex-FB…FIRE!!!!!」

 

 言うなり、レイジングハートとビットから極大光線を発射。

 

「「「「「ギィヤアアアアアアアアアアァァァァァァァァーッ!!!」」」」」

 

 まるで核爆弾でも起爆したかの様な閃光と爆風に武道家達は呑み込まれ、

壁を貫通して遥か彼方に吹き飛ばされた。

 

「しょ、勝負…あり…」

 

 当然の結果だった。いくら武道の第一人者でも、

ISに乗った千冬すら生身で破るなのはに試合形式で挑めば負けて当然。

なのはに本気で勝ちたかったら、彼女の親兄弟の様に

人斬りの経験を積むべきだったのだ。

 

「たかが剣道十段の分際で、私に生身の戦いを挑むからこうなるの!!

それで?何か質問のある人はいるの?!!」

 

 事ここに至って、ようやく地の声で喋りだしたなのは。

だが、この状況で質問が有るとなぜ言えようか?

 

「い、いえいえいえ!!見事な…その…百歩神拳でございました!!」

 

 首を横に振る屯田署長。軍、警察関係者と操縦者もそれに倣う。

 

「まあね。知らない人に言っておくけど、私は生身の方がずっと強いんだよ。」

 

 そう言い残して、道場を後にするなのは。と、ふと足を止め振り返った。

 

「ああそうだ!!実は私、もう一つ嘘をついてたの!!!」

 

 ここでまさかのカミングアウト。

 

「え゛?!!」

 

「まだあったんですか?で、一体何なんです?!」

 

「それはね…」

 

 呆れた声で聞き返す律子に答えたなのはが自分の顔を掴むと…

 

バリバリバリ!!

 

 何と顔の皮を毟り取った。その下から現れたのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は篠ノ之束だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何と束の顔が現れた。

警視庁にやって来たのはなのはに化けた束だったのだ。

 

「し、篠ノ之博士ーっ?!!!」

 

「アイエエエエエ?!篠ノ之博士?!!篠ノ之博士ナンデ?!!」

 

「ほ、本人…だったのね…。」

 

 ISの母堂々の降臨に全員驚愕。

つまり、IS道構想に開発者直々のノーが突きつけられたと言う事だ。

 

「そう言う事だよ。この束さんはISを宇宙開発ツールとして創ったのに、

その目的も果たしていない内から勝手に別の使い方を決めないでくれる?

これ以上文句言うと、日本中のISを使えなくするよ?冗談抜きで。」

 

「「「「「………………。(開いた口が塞がらない)」」」」」

 

 ISの母直々にノーを突きつけられては最早なす術はなかった。

かくして、悠々と道場から去っていく束であった。

そして、束は道場を出るなり本庁のトイレに入ると…

 

「全く、国家代表も楽じゃないの。」

 

 何と束が顔を再びはぎ取る。その下から現れたのはなのはの顔。

なのはは会議室に乗り込む前に束に連絡した所、束の考案で

「高町なのはに化けた篠ノ之束」に変装して乗り込む様に指示されていた。

 

 こうすれば、いざとなれば束の顔を出してISの母の名の下に

磯鷲一家を黙らせられるし、万一突っかかってきたら

なのはが魔導で返り討ちに出来るからと言うのが束の説明だった。

 

 それなら束本人が行けばもっと簡単に片付くのだが、束は束で

山口首相にIS道構想を破棄させる事を同意させる為

今も首相官邸にいるので、警視庁の側はなのはが片づけるしかない。

 

「(さて、山口首相は束さんが説得してる頃だし、

後は今来た風を装って正面玄関から入り直すだけなの。)」

 

 なのははヤマトワープで人目のない所にワープすると、

何食わぬ顔で道場に入り直した。

 

「あの!皆道場にいるって聞いて来たんですけど、

会議はどうなったんですか?」

 

「ああ、高町さん!来てたんですか?!!実は…」

 

 この後、日本政府は「ISの本来の開発目的からの逸脱」を理由に

IS道構想の完全放棄を決定した事は言うまでもない。

 

 その日の夜、○HKのニュース番組ではこの様なニュースが流された。

 

「パリ、ベルリンに続き、遂にここ日本でも同時多発爆弾テロが発生しました。

本日13時過ぎ、全剣連、全日本剣道連盟の会長、

磯鷲剣之介氏の自宅が突如爆発し、完全に倒壊しました。

それに前後して、日本各地の柔道、空手道、弓道など武道の連盟本部が

次々と破壊され、甚大な被害が出たとの報道が入っています。

現在警察が原因を調査中ですが、

爆発物らしき物は未だ発見されていないとの事です。この事故により…」




結局、何を迷っていたかと言うと、
武道関係者に食って掛からせるか、
大人しく引き下がらせるかの2択だったんです。

高位の有段者なら、相応の精神修養を積んでるから
「家元に背くのか?」が殺し文句になって
引き下がる公算が高いんですが、それだと暴走核弾頭が暴走しないので、
「余りにも礼儀を弁えない態度に堪忍袋の緒が切れた」
という解釈を採り、食って掛かったという結果に至りました。

剣之介が「嘘つき絶対懲らしめるマン」じゃなかったら、
あのトドメの一喝で引き下がっていたんでしょうけど…

次回、第17話「Mリポート」。
話は9月末に遡り、拘束されたマドカに焦点が当てられます。
果たして、姉妹の会話でマドカは何を語るのか?



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第17話  Mリポート

や、やっと話が出来た…
オリジナル展開は作るのに時間がかかるのが、一番の難点ですよね。


 話は遡り、学園祭襲撃騒動から少し経ったある日の事…。

IS学園の地下倉庫を改装した急造の拘禁室には、

亡国機業の刺客、Mこと織斑マドカが収容されていた。

 

「…………………。」

 

 ヤマトの10万ボルトでKOされた状態から目を覚ましたマドカだが、

特に何をするでもなく、ベッドに座ってボーっとしている。

と、そこにやってきたのは…。

 

「マドカ、目が覚めたか?」

 

 千冬だった。

 

「姉さん…何をしに来た?」

 

「単に様子を見に来ただけだ。随分大人しくしているらしいな。」

 

「何故、私は生きているのかが解らなくて…。」

 

「何の事だ?」

 

「私の脳幹には、監視用のナノマシンが入っていた筈。

反逆しても、脳を壊して殺せるようにされている私がこうして囚われた以上、

用済みとして消されるのが道理なのに…

何故、私はこうして生きているのだろうかと、それだけが疑問なんだ。」

 

「そうだった、確かもう一人の奴がそう言っていたな。

だが、そのナノマシンはもう完全に破壊された。」

 

「破壊…!あれは埋め込んだドクター・ハルシュタイン本人が

『自分でも無力化は不可能』と言っていた…」

 

「簡単な事だ。お前を倒した高町なのはの機体は、

標的への破壊と非破壊を自在に切り替えるワンオフ・アビリティを持っている。

その力で、脳内のナノマシンのみを高圧電流で破壊しつくした。

だから、お前が組織に消される事は無い。それだけだ。」

 

 その割にマドカは感電していたが、それはナノマシンを破壊する電流とは別に

マドカ自身を無力化させる為にもっと弱い電撃を浴びせていたからだ。

 

「…………………………!」

 

「これで納得したか?もう奴等に怯える必要は無い。

私は知っているぞ、亡国機業の首領が我等を捨てた愚かな親共である事もな。

組織の事、忘れろとは言わんがもう遠慮する事も無い。安心しろ。」

 

「…………………………姉さん…!!(つД`)」

 

 千冬の言葉で目が覚め、涙するマドカ。

組織の鎖が外れ、漸く年相応の顔を見せた瞬間であった。

しかし、そんな彼女に悲劇が襲う!

 

「やっと目が覚めたみたいなの!!」

 

 ここでうるさい奴が登場。我等が暴走核弾頭、高町なのはだ。

 

「束…いや、高町か。相変わらず紛らわしい位にそっくりな声色だな。」

 

「それは、禁則事項なの!!さて、早速だけど織斑マドカ…

O☆HA☆NA☆SHIの時間なの!!」

 

「げっ…」「お、オハナシ…?」

 

「あのトイレットペーパー=サンは碌に情報を持っていなかったの!!

まるで使えないから、今度はこっちから情報を聞き出すの!!

ボスの実の子なら、意外と多くの情報を知っていそうなの!!

よって知っている事を全部話すの!!!」

 

「ま、待て高町!!せめて姉妹の感動の和解の余韻にだな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

⌒*( ◎谷◎)⌒  ⌒(◎谷◎ )*⌒

あぁ~~ ⌒*(◎谷)(゚Д゚;) (;゚Д゚)(谷◎)*⌒ ~~ん?

⌒*(   ⌒*)ヒイイイイイ!!(*⌒  )*⌒

⌒*(   )*⌒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬が文句を付けた次の瞬間、

織斑姉妹はいきなり増殖したなのはに取り囲まれていた。

 

「ゲエェーッ!囲まれた!!」

 

「これぞヤマトワープを応用した究極のロマン技

名付けて一人包囲殲滅陣(フォーメーション・ワンマン・シージュ)なの!!

O☆HA☆NA☆SHIしてくれるまで只管囲んでやるの!!」

 

 この2週間後の合同合宿初日、名もなき代表候補生相手に使って

強引にO☆HA☆NA☆SHIに持ち込んだあの技である。

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

「な、何で私まで囲まれるんだ?!」

 

「アイエエエエエ!!分身?!!分身ナンデ?!!コワイイイィィ!!」

 

 織斑姉妹は抱き合って恐怖に震え上がっていた。

 

「さあO☆HA☆NA☆SHIなの!!

とりあえず亡国機業の本拠地を教えるの!!」

 

「あ、アバババババババババババ…」

 

「た、高町…せめて私だけはこの分身包囲網から出してくれ!!」

 

「却下!!きっちり知ってる事を

O☆HA☆NA☆SHIしてくれなきゃ出してあげないの!!」

 

「ナンデ?!と言うか、貴様その分身…

一人包囲殲滅陣とやらで何を殲滅する気なんだ?」

 

「SAN値!!」

 

「「…………………………。」」

 

「それで、亡国機業の本拠地はどこなの?!!」

 

「は、ハーグ…ハーグだ!!

ハーグの国際IS委員会(IIC)欧州本部地下区域が、

そっくりそのまま奴等の本拠なんだ!!」

 

「何、ハーグだと?!中立国の最重要都市の一つではないか!

道理で各国が討伐に動かない訳だ…。」

 

「それだけじゃない!!

アラスカ条約加盟国のIIC支部は、全部奴等の拠点でもある!!

そして、ナンバー2のサンドラ・リーバーマンが新理事長に内定して

事実上IICを完全掌握した事で、今度はアラスカのアンカレッジにある、

IIC総本部を新本拠にする計画らしい!!」

 

「アンカレッジ…アラスカ条約制定の地か…。IICを乗っ取ったのなら、

それを隠れ蓑に出来るだろうから、確かに妥当な選択だな。」

 

「なら、次はドニエール一族の事なの!!奴等は仲間なの?!!」

 

「そうだ、奴等の稼ぎの一部が組織の活動資金に使われている。

当然、あの一族が責任者を務める機関は皆組織の傀儡だ。」

 

「それじゃ、他にも各国の要人で組織に関わっている奴がいるの?!」

 

「私の知っている限りでは………(略)………が、幹部会のメンバーだ。」

 

「OK、全部メモったの!!じゃあ、この前私が〆たバ監督共は?!」

 

「倉林一派か?奴等は違う。奴等の本国と親玉は仲間にして欲しかった様だが、

日本人がボスと知ってから連絡を寄越さなくなった様だ。」

 

「そうか…今じゃ奴等は国全体で大発狂している。見るに耐えんよ。」

 

「今朝のニュースでもやってたの!!

大統領が変わった途端に韓流民主主義とか何とかで、

国民何たら法を新憲法とするとか、コーランが憲法のサウジもびっくりなの!!

それはそれとして…次は、奴等はこれから何をする予定なのか話すの!!」

 

「私の知る限り、3つの計画を進めている。

一つはドニエール一族を通じてデュノア社が生産中の

第3世代機(タイフーン)を組織の息のかかった奴等に配備させている様だ。

 

私が聞いた限りでは、元々は第3世代機の開発を遅らせて

その不手際の責任を現社長に負わせて追い出し、

社長夫人を後釜に据えて会社を乗っ取る予定だったらしい。

 

だが、篠ノ之束の邪魔が入った事で、第3世代機が完成してしまった。

その結果、『とりあえず制式化させて世界中に配備させ、

収益の上前をはねつつ戦力を更新する』という方針に切り替えたと言う話だ…。

二つ目は、組織の技術部門がISコアの解析をしているらしい。」

 

「ISコアの解析…?」

 

「ドクター・ハルシュタインが中心になってコアの分析を行い、

篠ノ之束が極秘にしているISコア製造法を模倣しようとしているとか…」

 

「ドクター・ハルシュタイン…お前にナノマシンを埋め込んだ奴だな。

待て、どこかで聞いた事が有るぞ…。」

 

「フルネームはハルカ・ハルシュタイン。

日系ドイツ人で、生まれた時は天海春香と言う名だった。」

 

「天海…春香…!やはりアイツか!!」

 

「千冬先生、知ってる人なの?!」

 

「うむ、連邦軍に雇われていた頃に会った事が有る。

奴はIS学園史上唯一の飛び級卒業生だ!

基礎知識、操縦は元より、整備、技術関連でプロと同等以上の技量を持ち、

『束の再来』とも称された天才エンジニアだ。

卒業後ドイツに移住・帰化して国防省のIS技官になっていたが、

奴程の技術者が亡国機業のメンバーだったとは…」

 

「そして最後の一つは、EOS(イオス)発展型の開発。」

 

「EOS…国連主導で開発した武装パワードスーツだな。」

 

 EOS、略さず言うとエクステンデッド・オペレーション・シーカー。

千冬の言う通り、国連が主導して開発した次世代兵器と言う触れ込みだが、

ISと比べると、その性能はまるで話にならない。

 

 まず、パワーアシストは有って無い様な物で、

しかも、エネルギー節約の為オフがデフォルトである。

 

 機体重量もISより遥かに過多で、

ISの様に絶対防御の様な防御装備が無いのに

操縦者の生身の身体が露出している。

 

 武装はと言うと、反動が強過ぎて使い辛い事この上なく、

何よりも最大作戦行動時間は僅か十数分しかない。

バッテリー重量は30kgもあるにも関わらずである。

 

 ISに勝っているのは、ISコア不要なので数の制限が無い事と、

性別に関係なく動かせる点だろう。

 

「次世代兵器という触れ込みだったが、あの様では

PKOでシェアを獲得するのが精一杯だろうな。

で、それの発展型と言うのが…」

 

「アドバンスドEOS…略してAEOS(エイオス)だ。

バッテリー周りを大幅に強化して、パワーアシスト全開の状態で

作戦行動時間を現行機種の2倍程度に延長するのが当面の目標らしい。

コアが不要だから、IS相手には数を揃えて立ち向かうだろうな。

防御力が無い点は、無人化でカバーする気だ。」

 

「それならやられても死人は出ないから、人的資源の節約が可能と…」

 

「如何にも。ただ、これはISの補完がメインだから、優先度は低い様だ。」

 

「成程…それだけ解れば十分なの!!」

 

「それで、私はどうなるんだ?」

 

「とりあえず警視庁に引き渡すの!!

いきなり海を挟んですぐ隣が敵の本拠地何て所に送り返したら、

何が起きるか解らないの!!理事長には向こうの責任者に今回の件を報告して、

上手い事取り計らってくれるように提案しておくの。

それと、機体だけは製造元の英国に返すの!!」

 

「………やはり、そうなるか。」

 

 

 

 

 そしてマドカから全ての情報を聞き終えたと報告を受けた高木理事長が

英国政府のIS管理部門、その名もIS省に連絡を取る事に。

 

『Mrタカギ、アイランズIS相とヘルシング管理官です。』

 

 応対した職員の声に合わせ、ホログラムモニターに

老紳士と色黒の金髪女性が映った。2人共丸眼鏡を掛けている。

老紳士は英国の大貴族の一人で、英国IS大臣のヒュー・アイランズ。

金髪の女は代表候補生管理官、インテグラ・F・W・ヘルシング。

両名ともマドカがあげた亡国機業関係者の中に名が入っていないシロだった。

 

『Mrタカギ、この度我が国の最新鋭機を強奪した犯人を

学園が捕縛したと聞いたが、本当なのかね?』

 

「如何にも。例の彼女が一人で片づけてくれましてな。

この通り、機体も無事に取り返しました。

残念な事に米国製の…『アラクネ』とか言う方は機体が自爆したので、

コアだけの確保となりましたが。」

 

『例の彼女…?ああ…成程…。』

 

『では、念の為に機体を見せて頂きたい。』

 

「それでは、こちらをご覧下さい。」

 

 カメラをS・ゼフィルスに向け、英国側に機体を確認させる。

 

『うむ、確かに我が国のS・ゼフィルスに間違いない。感謝致します。』

 

『危うく最新鋭機を喪う所でしたが、貴校の御蔭で助かりました。』 

 

「それと、犯人のオータム、マドカ・オリムラの両名の身柄ですが、

オータムについては貴国に引き渡します。

ですが、マドカ・オリムラに関してですが…」

 

『何か問題でも?』

 

「彼女は亡国機業の首領の実子です。扱いとしては捨て駒に近いですが、

それでも情報を持っておりました。彼女の話を信じるなら、

奴等の本拠は貴国とは海を挟んだ対岸のハーグにあるという話でしてな…。」

 

『何と?!…いやその前に、オリムラと言う事は、まさか…』

 

「はい、マドカ・オリムラは我が校の教員、チフユ・オリムラの実の妹です。

つまり、亡国機業の首領は…」

 

『そうであったか…まさか初代ブリュンヒルデの両親が

国際武器密売組織の首領とは…』

 

「マドカ・オリムラには組織への忠誠心は無く、

脳幹には監視用のナノマシンを埋め込んであったそうです。

反逆した際には脳幹を壊して殺害できる様にされていたとか。

ナノマシンは既に破壊されたそうですが…当人も、

『自分に人質としての価値は無い』と公言しております。

ですが亡国機業を掃討するためにも、彼女の情報とIS操縦者としての力量は

大きな助けになるのではないでしょうか?」

 

『何を言いたいのかね?』

 

「亡国機業の討伐協力と引き換えに、彼女が犯した犯罪行為、

出来る限り減刑できませんか?そもそもまだ未成年です。

成人と同じように処罰する訳には行きますまい。」

 

『司法取引をして欲しいと?仰りたい事は分かるが、

そればかりは私の一存では決められない。

しかし、世界規模の犯罪組織の本拠地が海峡を挟んですぐ向こうと言うのは

良い気分では有りませんな。出来る限りの事は致します。』

 

「感謝致します。その間、マドカ・オリムラは

日本警視庁で身柄を確保すると言う事で構いませんな?」

 

『まあ、それ位なら問題ないでしょう。今回の一件、元を正せば、

我が国の失態で貴校に迷惑をかけてしまったのがそもそもの原因。

国のISを管理する部署に属する身として、再発防止に努めるのが道理です。

それ位の便宜なら何とかして見せましょう。』

 

「それは有りがたい。是非よろしくお願い致します。」

 

『今回は本当に申し訳ない。所で、一つ質問が。』

 

「何でしょう?」

 

『セシリア・オルコットの件で一つ。彼女にはBT1号機を任せてありますが、

現在の習熟度がどれ程の物かを教えて貰いたい。』

 

「そうですな、担任の織斑先生曰く、

『BT兵器を展開したままでの機動・戦闘訓練に専念させた結果、

今年中には未展開状態と同等の動きが出来るだろう』

と報告を受けております。」

 

『成程…順調に成長していると言う事か。

流石は代表候補生中最高のBT兵器適性を持っていただけの事はある。

それを聞いて、安心しました。』

 

「(まあ、織斑先生ではなく、彼女が鍛えたおかげなんだけどね。)」

 

『彼女にはもっと修練を積み、

最終目標である偏向射撃の会得を達成して貰いたいと伝えて頂きたい。』

 

「解りました。」

 

 かくして、英国への報告は終わり、襲撃者2名は警視庁に引き渡され、

オータムは英国送りとなり、マドカは一時的処置として留置場に収容された。

また、マドカが話した内情はMリポートの名で日英両政府に渡されたが、

現時点での公表は世界規模の混乱が予想されるため、

対亡国機業の秘密兵器として保管される事に。

 

 

 

 

 

 所が…

 

「何?!逃げられた?!」

 

「はい…ドイツ東部上空に差し掛かった所、

所属不明のISから襲撃を受け、輸送機は墜落!

現在代表操縦者のナナミ・タカツキ、キャミィ・ホワイトの両名が

連邦軍IS隊の協力の下で追跡中との事!」




先月末に遂にIS11巻が発売され、
シャルの両親の名も正式に明かされましたが、
本作はなのはが漂着したパラレルワールドである事を示す為、
敢えて名前はこのままで通します。

次回、第18話「タッグマッチ再び」。
秋の全学年対抗タッグトーナメント、
皆が一夏とのペアを望む中、果たして一夏が組んだのは…?


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第18話  タッグマッチ再び

大変お待たせ致しました。外伝にかかりきりで遅れましたが、
やっとの思いで2か月ぶりに更新できました。
それでは通算第70話、始まります。


「さて諸君!2週間後に全学年合同のタッグトーナメントが開催される。

高町は合宿で不在だが、今度こそ無事に成功させよう。

と言う訳で、今のうちにパートナーを決めておけ。特に一夏!」

 

「な、何?」

 

「お前はパートナーを決める時に一騒ぎに成る事請け合いだからな、

慎重に選べよ?」

 

「……ううっ、否定できない!」

 

「まぁ、言っても無駄だとは思うがな。」

 

 間違いなく専用機持ちが一夏争奪戦を起こすだろう。

 

「重ねて言うが、高町は合宿参加の為出場はしない。仮に出たとなれば、

結果が見え見えになる事はこの場の誰もが知っているからな。

(と言うか、学園と全日本のISが一斉にかかっても1分と保たんだろう。)

…とにかく、皆早目にパートナーを決めておけ。では、授業を始め…」

 

 ガラッ!!

 

 千冬がそこまで言いかけた所で、突如教室のドアが勢いよく開かれた。

ドアを開けたのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(・∀I壁

やあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「ギャーッ!!!」」」」」

 

 合宿に行っていた筈のなのはだった。いきなりの登場に全員が悲鳴を上げる。

 

「た、高町?!合宿はどうしたんだ?!!」

 

「ヤマトワープが有れば、造作もないの!!

でも時間が押してるから黙って用件を聞くの!!」

 

「アッハイ…」

 

「まず一夏君のパートナー選びで騒ぎにならないように、

彼のパートナーは私がここで指名するの!!

パートナーは私のルームメイト、布仏本音とするの!!

 

次に、今回のトーナメントで専用機持ち同士は

ペアを組んではいけない事とするの!!

他の専用機持ちはルームメイトと組むの!! 

よってルームメイト同士のラウラとシャルは別人と組むの!!

 

更に、今回のトーナメントは教員も参加するの!!

私におんぶに抱っこで役に立って無いから、

せめてISを動かす経験でも積んでおくの!!

 

以上、IS学園生徒会長の名において伝えるの!!

尚、今の内容の詳細はプリントしておいたから、

役員見習いの皆は役員と手分けして掲示板に貼り出しておくの!!以上!!」

 

 そう言うと、なのははワープしていった。

 

「「「「「………………………………。」」」」」

 

「で、では授業を始めよう…。」

 

 

 

 そして、その日の昼休み…

 

「ねえ見た?掲示板の生徒会布告。」

 

「見た見た、織斑君のパートナーはもうのほほんさんで決定なんだって?」

 

「そうそう、生徒会が決めたんだって。

いいなぁ、専用機持ちは…皆が悩んでるのに、パッと決めて貰って。」

 

「でも生徒会って事は…決めたのは暴走核弾頭さんだよね?

暴走核弾頭さんの決定じゃ…ねぇ…?」

 

「だよねぇ…で、肝心の暴走核弾頭さんは

合宿に行っててトーナメントには参加しないんでしょ?」

 

「うんうん、それがせめてもの救いだよねぇ、

参加したらその時点で即優勝決定だもん、参加しなくてよかったよ。」

 

「それに専用機持ち同士のペア禁止でしょ?

それって、誰にでも優勝の可能性があるって事だよね。」

 

「そうだね。暴走核弾頭さんも案外みんなに気を使ってくれてるんだねぇ…。」

 

「じゃあ、私達は私達で地道にパートナー探しでも始めるか。」

 

 なのはの不参加表明と専用機持ち同士のペア禁止の布告で

全員に優勝の可能性が出てきた為、皆前回よりやる気が出た様だ。

但し、何事にも例外はある。例えばフォルテとダリルのイージスコンビだ。

 

「ようフォルテ。例の布告見たか?暴走核弾頭の奴、合宿で不参加だって。」

 

「見たッスよ。これでみんなに優勝の機会が出て来たッスね。

でも、先輩と組んじゃダメってのが残念ッスよ。」

 

「そうだな、でもオレはもっと残念な事があんだよな。」

 

「何がッスか?」

 

「暴走核弾頭だよ。アイツ、ヤバいヤバいって言われてるけど、オレさ、

奴がどんだけヤバいのか見てないんだって。生で見たかったんだけどなぁ…。」

 

「怖いモノ見たさって奴ッスか?私も見てみたいけど、

見たら絶対碌な事に成らない気がするッス。」

 

「………うん、そんな気がして来た。でも、やっぱり見たいんだよなぁ…。」

 

「…………。」

 

 二人はなのはの実力をはっきり見ていないので、

実際に見られる機会が来たと思っていたらしく、

今回のなのは不参加表明が少々残念らしい。

 

「で、フォルテ、お前誰と組むんだ?」

 

「同級生でUKの代表候補生、サラ・ウェルキンッス。先輩は?」

 

「オレ?オレはあのエロガキのパートナーの姉貴だよ。

生徒会役員のパートナーは暴走核弾頭が勝手に決定したんだと。」

 

「マジッスか。じゃあ、私がサラと組むのも…」

 

「アイツが勝手に決めたんだろうな…。」

 

「「ハァ…。」」

 

 

 一方、他の専用機持ちはと言うと…

 

「ねえラウラ、僕達は専用機持ち同士でペアを組めないから、

別の人を探さないといけないよね?」

 

「うむ、そうだな。」

 

「誰か心当たりの人、いる?」

 

「それが…私は専用機持ち以外の生徒と交流がほとんど無くてだな…」

 

「駄目じゃん…」

 

 

「うううううう…一夏ぁ~、一夏ぁ~…」

 

「あんまりですわぁ~…」

 

「何でぇ…何で一夏と組めないのよぉ…」

 

 そして箒、セシリア、鈴音は3人仲良く泣いていた。その背後では

既にパートナーとなる事が決まった静寐、清香、ティナが3人を宥めている。

 

「だ、大丈夫だよ篠ノ之さん!」

 

「セシリア、泣かないで~!」

 

「いつかはチャンスが来るから、それまでの我慢だよ!」

 

「「「ふぇええええええ~ん…」」」

 

 

 

「おりむ~、今回は私とペアだよ~、宜しくね~。」

 

 一方、一夏のパートナーに指名された本音は早速一夏にくっついていた。

 

「お、おう…で、でものほほんさん、あんまくっつかないで、

お願い、皆見てるからヤメテ…。」

 

周囲の妬みの籠った視線が一夏と本音に突き刺さる。

だが、本音は気にしていない様だ。

 

「ダイジョブダイジョブ~。

何かあったらなのさんが〆るって言ってたから大丈夫だって~。」

 

「ええええええぇぇぇぇぇ…おや?」

 

 じ~…。

 

 ふと自分達を妬む周囲の視線を見渡すと、見覚えのある顔が約一名。

 

「あの~、そこの黒づくめの人?」

 

「何だ?」

 

「何で、生徒に交じって俺等の事を睨んでるのでしょうか?」

 

「見て解らんのか?そこの小動物めが

馴れ馴れしくしとるのが気に入らんからだ。」

 

「まあまあ、トーナメントが終わるまでの辛抱だって千冬ネビュラッ!」

 

「織斑先生と呼べ、馬鹿者。」

 

「ヤダ!生徒に交じって妬みの視線を向けてくる姉貴兼担任とか、

恥ずかしいから先生と呼びたくねえよ!」

 

「ほほう…(ニブニブニブニブニブニブ」

 

 殺気立つ千冬。いつもならこれで一夏が折れるのだが、今は違う。

一夏は誰もいない天井に向かって一言。

 

「なのはさーん、千冬姉が文句タラタラなんです、何とかしてー!」

 

「おい、止めろ馬鹿!『布仏を妬む会』終了!皆解散!!」

 

 いちかは ちふゆの せいぎょほうほうをおぼえた!

 

 

 一方その頃更識姉妹は…

 

「虚ちゃ~ん、今度のトーナメントは私と組んでくれるのかな~?」

 

「お嬢様、私のパートナーは同級生のミス・ケイシーで既に決まってます。」

 

「ええっ、ナンデ?」

 

「高町さんが勝手に決めました。」

 

「………………ちょっと確認させてくれないかしら。」

 

「…はい、どうぞ。」

 

 虚が布告文を楯無に渡し、楯無が目を通す。

 

「専用機持ちのパートナーはルームメイトで固定、

但し専用機持ち同士の場合は除く…………ねえ虚。」

 

「何でしょう。」

 

「私、生徒数の関係で一人部屋にされた身なんだけど。」

 

「そうでしたね。」

 

「って事は何?私だけ1人で戦えって事?

一国の代表なら1人で充分だろって事?」

 

「さあ?」

 

「つまりこれって、新手の嫌がらせかしら~?」

 

「ご愁傷様です。(アトズサリ」

 

「あ、ちょっ、逃げないでー!!」

 

「さよ~なら~…(逃走」

 

「ちょっとぉぉぉぉ!!何とか言いなさいよぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「お姉ちゃん………」

 

 

 こうして、紆余曲折は経たが何とかペアが決まった。

そして当日の開会式。壇上にはなのは不在の間、

生徒会長代行を任された虚が立っており、司会進行を行っている。

 

「では前生徒会長の更識楯無さんから、開会の挨拶があります。」

 

 楯無が虚と交代してマイクの前に立つ。

 

「どうも皆さん。前生徒会長の更識楯無です。

今回のタッグマッチは専用機持ちとそうでない生徒計10組に加え、

生徒会長の高町さんの意向で教員の皆さんも6組が参加すると言う

過去に類を見ない大規模な試合になりました。

 

ですが、その分より実質的、実用的な操作を見る事が出来るかと思います。

トーナメントに参加する生徒・教員は勿論の事、

参加しない生徒の皆さんも試合を見て、存分に学びましょう。」

 

当たり障りのない挨拶である。

そもそも、このトーナメントはこういう目的で開かれている。

 

「そして!」

 

 と、ここで楯無は更にセリフを続ける。

 

「今日は生徒全員に楽しんでもらう為に生徒会である企画を考えました!!

名づけて『デザート無料パス券争奪・優勝ペア予想祭』です!」

 

 その瞬間、アリーナがにわかに騒がしくなる。

 

「皆さんは覚えていますか?1学期の学級代表対抗戦の際、優勝クラスには

クラス全員に学食デザート半年無料パス券が与えられる事になっていた事を。

あの時は対抗戦が中止となって立ち消えとなりましたが、

今回のトーナメントでは、もう一度皆さんにチャンスが与えられました!!」

 

 直後、会場のアリーナから歓声が上がった。

 

「な、何…だと…?」

 

「えーと…いつの間にそんな話が決まったのでしょうね~…アハハ…」

 

 今回審判役を務める千冬と試合参加者の真耶は全く知らされていない為、

2人仲良く混乱していた。あのなのはがそんな企画を思いつく筈が無い。

どう考えてもやったのは楯無だ。

 

「(更識…後でどうなっても知らんぞ…)」

 

「ルールは簡単です!!

学年、組、氏名と優勝するであろうペアの名前を用紙に記入したら、

アリーナ各所の投票箱に入れて下さい!見事予想が的中した生徒及び

優勝したペアは今年度末まで有効の学食デザート無料パス券を差し上げます!!

皆さん、ふるって御参加ください!!

とまあ、そろそろ本題に入りましょう…では、対戦表を発表します!!」

 

 楯無の声で巨大ホログラムモニターが現れ、今回の対戦表が掲示された。




気が付いたら、本編より外伝の方がUAが多くなってるってどういうことなの…
次回、「第19話  二度ある事は…」
果たして、今度こそ無事にトーナメントは終了できるのか?


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第19話  二度ある事は…

大変長らくお待たせ致しました。
やっとの思いで完成させた2か月ぶりの更新です。
果たして、なのはの鍛錬の結果、生徒達はどこまで成長したのか…?
それでは通算第71話、始まります。


「では、対戦表を発表します!!」

 

 楯無の声で巨大ホログラムモニターが現れ、1回戦の対戦表が掲示された。

気になる1回戦第一試合のカードは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【山田真耶&日高舞】

 

VS

 

【セシリア・オルコット&相川清香】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええええええ?!山田先生が一回戦の相手なのぉ?!!」

 

「ワタクシ\(^o^)/オワタ」

 

 2人が嘆くのも仕方がない。何しろ千冬を除けば教員勢の最高実力者であり、

一時除名されていたとはいえ、現役の国家代表候補生でもある。

その実力は、かつて千冬の後継者最有力候補とまで言われ、

模範演武でセシリア&鈴音ペアに量産機で互角に渡り合った事からも明らかだ。

他の参加者もメンバーも不憫そうな視線を向けている。

 

「あらま…いきなり山田先生と当たるとか、ついてないね。」

 

「1学期になのはさんに当たったアタシ等よりはマシだけど…

ホントに『なのはさんよりはマシ』レベルの不運ね。同情するわ。」

 

「……ノーコメントだ。」

 

 しかし決まってしまった物は仕方ない。そして試合の時間がやって来た。

1回戦第1試合、セシリア&清香と真耶&舞のペアの教員対生徒対決である。

尚、清香は打鉄、真耶と舞はR・リヴァイヴに搭乗している。

 

『それでは1回戦第1試合、

セシリア・オルコット&相川清香 対 山田真耶&日高舞の試合を始めます!』

 

「はぁ…遂にこの時が来ちゃったよぉ…」

 

「あ、諦めてはなりませんわ!こんな時の為に策を考えておきましたから

上手くいけば、まだ勝ち目は有りますわよ!」

 

「そ、そうだと良いんだけど…」

 

「ただ、くれぐれもBT兵器の射線には出ないで下さいまし。

1学期の模範演武の時はそれで色々と苦労しましたから…」

 

「あ、うん…出来るだけ努力はするよ。」

 

「それと、ワタクシが開始直後にアレをやりますから、

その時に備えて行動なさいませ。」

 

「うん、OKだよ。」

 

『…始め!』

 

 遂に試合が始まった。

 

「今度こそ先手必勝、参ります!」

 

 セシリアは早速ミサイルを発射し、残るビットを展開して斉射を仕掛ける。

4月以降なのはに鍛えられた結果、セシリアは遂に本体とビットの同時攻撃を

自由に行えるまでになっていた。

 

「何の!」

 

 真耶がすかさずミサイルを撃ち落とすと、ミサイルが起爆し、閃光が発生。

 

「「うおっ、まぶしっ!!」」

 

「良し、早速掛かりましたわね!」

 

 何が起こったのかと言うと、セシリアは教員ペアに挑むに当たり、

ミサイルの弾頭を照明弾に換装していたのだ。

 

 真耶の射撃の腕なら、ミサイルは難なく落とせる。

そう読んで逆手に取り、撃墜した瞬間発光して目晦ましとし、

隙を見せた所に集中攻撃を仕掛ける構えだった。

 

 案の定ハイパーセンサーが遮光するが若干間に合わず、

教員ペアはほんの一瞬だけ閃光を直視し、目を眩ませる。

 

「今です!!」「うん、分かった!!」

 

 当然、生徒ペアは最初からバイザーの遮光機能をオンにしているので、

視界はきっちり確保していた。早速ビットと光線銃に加え、

清香もアサルトライフルで援護射撃を加える。

 

「って、ひゃあああっ!!」

 

 2機がかりの集中砲火でたちまち被弾してSEを奪われる真耶。

 

「させない!!」

 

 しかし教員ペアも何とか立ち直り、すかさず舞がセシリアに斬りかかる。

 

「くっ!」

 

 セシリアも護身用の近接ブレード、

インターセプターで受けながら後退して間合いを取る。

 

「真耶、まだSEは残ってる?!」

 

「は、はい、まだ半分程…」

 

 辛うじて切り抜けた真耶。

 

「さ、流石は織斑先生の後継者最有力候補だった人…

この程度では倒し切れる筈も有りませんでしたわ。」

 

「ど、どうしようか?」

 

「取りあえず山田先生への集中攻撃は続けますわ!

山田先生さえ何とかなれば…」

 

 しかし教員ペアも黙ってはいない。早速真耶がアサルトカノンで反撃に移る。

 

「さっきのお返しです!!」

 

 VARRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!

 

「う、わ、わ!!」

 

 セシリアはなのはの弾幕地獄で回避は慣れていたが、清香は何発か被弾した。

 

「畳みかけるわよ!!」

 

 更に、舞も加勢し斬りかかる。

 

「させませんわ!!」

 

 それをセシリアがビットからの射撃で迎え撃つ。

 

「これが漸く物にした同時攻撃ですわ!果たして見切れまして?!」

 

「くっ、この!もうここまで出来る様になっていたの?!」

 

「専用機が届けば、まだやり易くなってたんでしょうけど…」

 

 代表候補生の資格を返して貰った結果、

真耶にも新しい専用機が支給される事が決まっている。

だが、専用機が実際に届くのは来月以降である。

 

「だからって、押されてばかりでもいられませんからね!」

 

 真耶は回避しながら周囲に目を配り、精神を集中させると…

 

「……そこです!!」

 

 一点にアサルトカノンを向けてトリガーを引いた瞬間…

 

 BANG!!

 

 突如空間が爆発した。何が起きたのかと言うと…

 

「んなっ、ビットを撃墜されるなんて…!!」

 

 何と真耶は高速でランダムに飛び回るビットを撃墜したのだ。

これには生徒ペアも仰天。

 

「さ、流石山田先生…」

 

「1学期の模範演武では見せなかったと言う事は…

まさか、あの時は全力ではなかったので?!」

 

「(ダメ元で狙ってみましたが、案外当たる物なんですね…ホッ。)」

 

 動揺する生徒ペアだが、その実態はまぐれ当たりだったりする。

 

「隙を見せたわね…!」

 

 その隙を見逃さなかったのが舞。取り出したのは105mm無反動砲だ。

 

「これで決めるわよ!!墜ちなさい!!」

 

 舞が生徒ペアに突っ込んで105mm弾を発射。標的は清香だ。

 

ズッドオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

「ンアアアァァァーッ!!」

 

 至近距離で105mm弾が直撃し大爆発。ここで清香はKO。

生徒ペアは真耶を落として2対1に追い込む筈が逆に追い込まれてしまった。

 

「よし、片方は仕留めたわ!!」

 

「ナイスです、主任!」

 

「そ、そんな…いえ、まだ諦める訳には…!!」

 

 セシリアは上空に飛び上がり、

残ったビットと光線銃から全方位攻撃を仕掛ける。

 

「くっ、1基落としてここまでとは…」

 

「オルコットさんが凄いのか、育てたなのはさんが凄いのか…」

 

「そこです!!」

 

 頃合いを見計らって、セシリアがもう1発のミサイルを発射。

 

「またミサイルを…まさか、これも?!」

 

 照明弾の目晦ましを疑って手を出さない教員ペア。

しかし、今度のミサイルは照明弾ではない。

 

 ドッパァァン!!!

 

「くっ、これ…照明弾じゃない!!」

 

「高熱反応…って、これナパーム弾じゃない!!」

 

 なんと2発目の正体はナパーム弾。

高熱で地表付近を焼き払い、酸欠させる危険物には堪らず教員ペアも上空へ。

 

「またこんな危険物、よく渡しますね…」

 

「観客席は絶対安全だから良いけど…」

 

 しかし、不用意に上昇などすれば…

 

「軌道が丸見えの動き…不用心ですわ!!」

 

 セシリアの集中砲火が舞を襲う!

 

「しまっ…!」

 

 背後からのビットの一撃で被弾し、バランスを崩した所に

某名人と同じ毎秒16連射の弾幕を浴び、SEを全て失ってしまった。

 

「ぐっ…残りSEなし、私はこれまでか…」

 

 舞はここで脱落。これで勝負は真耶対セシリアのタイマンに持ちこまれた。

 

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 教員勢相手にまさかの大善戦に、観客の生徒達も盛り上がる。

 

「主任が落とされちゃいましたか…でも、まだ勝負は決まってませんよ!!」

 

「さあ山田先生、1学期の模範演武のリターンマッチですわ!!」

 

「の、望む所です!!」

 

 仕切り直しとばかりに上空で正対するセシリアと真耶。さあ決着の時だ。

 

銃央矛塵(キリング・シールド)の本領、ここで見せます!!」

 

 互いに追いつ追われつ、相手の銃撃を避けながら射ちまくる両者。

射撃系同士の戦いがドッグファイトの様相を呈するのは必然だった。

 

「1対1なら、味方を射つ心配もありませんわ!!」

 

 しかしこの前とは違うのは、味方が射線に入る心配がない為

セシリアが全力でビットを使える事だ。

 

「(流石に手強い…高町さんの鍛錬で成長するのは、

見ている分には喜ばしいけど、敵に回すとここまで恐ろしいなんて…)」

 

 ビットからの攻撃を避けながら、合間にアサルトカノンで反撃する真耶。

教えた生徒でこれなら、なのは本人はどうなるのかと思った真耶だったが、

とても想像できる物ではない為、考えるのをやめた。

 

「でも、文句を言っても始まらないので…!!」

 

 真耶は今一度ビットの撃墜を狙う構えだ。

ビットさえ無ければ、セシリアの攻撃力はガタ落ちする。

 

「…見えた!」

 

 ビットが射撃の為、一瞬止まった隙を突いて一撃。

放たれた銃弾はビットに命中し、一撃で破砕した。

 

「これで残り2つです!」

 

「ま、またしてもビットを…これが教員勢の本気ですの?!」

 

 1度ならず2度までもビットを破壊され、動揺を隠せないセシリア。

その動揺が射撃にも現れ、射撃の精度が甘くなってしまう。

 

「くっ…何故当たらないんですの?!」

 

「(しめた!オルコットさんが動揺している今なら…!)」

 

 すかさず温存していた重火器を展開して攻勢に出る真耶。

セシリアはなのはの弾幕回避の経験を活かして回避するが、

真耶の射撃が僅かに上回り、何発か直撃弾を受けて大ダメージを受けてしまう。

 

「(さ、流石は織斑先生の後継者元最有力候補、

あっという間に追い詰められてしまいましたわ!

こうなったら、一か八かアレを使わなければ…!!)」

 

 セシリアは最後の賭けに出る。

それは、2学期に入ってからなのはから教えを受けたあの技である。

 

「相手もSEは残り僅かの筈、そろそろ終わらせないと…!」

 

 真耶も最後の攻勢に出て、勝負を決めにかかる。

セシリアの反撃を躱しながら、持っている重火器全てで猛攻を仕掛ける。

しかし、これらの火器は本命ではない。

 

「これなら当たれば確実に落とせる筈…勝負!」

 

 取り出したのは舞が落としたのを拾った105mm無反動砲。

教員ペアはこの時の為にR・リヴァイヴ同士で試合に臨んだのだ。

 

「あれは日高主任が持っていた…」

 

 真耶が無反動砲を発射。弾頭は広範囲に散弾をばら撒くフレシェット弾。

炸裂すれば逃げ場はない。

 

「避けきれない!!こうなったら…!!」

 

 セシリアは咄嗟にビットをぶつけて105mm弾を全く別の方向に弾き、

散弾から免れた。しかし、これでビットは残り1基に。

 

「弾かれた?!でも、ビットはもう1基のみ、今なら…」

 

「一か八か…行け!!」

 

 セシリアが光線銃と共にビットから光線を発射。

しかし真正面から狙った攻撃は躱されてしまう。

 

「お願いです、B・ティアーズ…修行の成果を!」

 

 精神を集中させたセシリアが空間を指でなぞると…

 

「え?!ビームが曲がっ…!!」

 

 何と光線が空中で湾曲。避けた筈の真耶に飛び掛かる。

 

 ズドォォオオン!!

 

「おっほぉぉぉおおおおおおおお!!!」

 

 真耶はまさかの事態に回避が間に合わず被弾。

珍妙な悲鳴を上げて墜落した。これで勝負あり。

 

『勝負あり!!勝者はセシリア・オルコット、相川清香ぺア!!』

 

 何と言う番狂わせ。教員勢の最有力ペアが初戦敗退してしまった。

 

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 

 まさかの結果に、観客の興奮は最高潮に。

まるで優勝が決まったかのような歓声だった。

 

「あーん、もう少しで勝てたのにー!!」

 

「わたしまけましたわ…ふにゃん。」

 

「はいはい、名前にあわせて回文で纏めない。

それにしても、彼女の性格はともかく

IS教官としての腕前は本物って事が良く分かったわ。」

 

「それと、私達の技量不足も証明されちゃいました…。

はぁ…織斑先生にまた〆られる~…。」

 

 敗退を悔しがる教員ペア。

なのはが「教員勢は自分におんぶに抱っこ」と言った通り、

生徒に敗れると言う形でその言葉を証明する結果となった。

 

「あ、危なかった…なのはさんの鍛錬の成果で何とか勝てましたわ…。」

 

「やった、やったよ!!セシリア凄い!!私達、勝っちゃったんだよ!!

ギリギリだけど、山田先生に勝っちゃったんだよ!!」

 

 一方、勝った生徒ペアはクタクタになりながらも大喜び。

ギリギリの勝利とはいえ教員勢の最有力者に勝った事で、

なのはの鍛錬の結果、自分達がどこまで成長したかを再確認したのであった。

 

「やったなセシリア!山田先生に勝つなんて並みのことじゃないぜ!!」

 

「や、やるじゃない…でも、直接対決になったら、アタシが勝つんだから!」

 

「お、おめでとう…と言っておこう。

その…私も負けぬ様に頑張らせて貰うから、期待してくれ。」

 

 他の生徒も祝福の声を掛ける。何度も言うが、これは1回戦第1試合である。

 

「皆さん…ありがとうございます!この調子で、2回戦も勝って見せますわ!」

 

 セシリア・清香ペアへの祝福の拍手はこの後しばらく鳴りやまなかった。

こうして1回戦は何の妨害も入らず、全8試合が無事に終了。

この日の日程は終了し、明日の2回戦に備える。

 

 尚、1回戦を勝ち残ったのはセシリア・清香ペアの他、

一夏・本音、箒・静寐、鈴音・ティナ、虚・ダリルと、

楯無とその同級生の新聞部副部長、黛薫子(マユズミカオルコ)の6組に加え、

教員勢からはキャノンボール・ファストでなのはと競った

小鳥・ちひろペアとエドワース・榊原菜月(サカキバラナツキ)ペアが勝ち残った。

 

 

 

 

 

 そして翌日、2回戦の組み合わせが発表される。

 

「2回戦の相手は音無先生か…

なのはさんにすっ飛ばされたイメージしかないんだけど、大丈夫かな…?」

 

「そうだね~。でも、おりむーなら、

キャノンボール・ファストの時みたく優勝取れると思うよー。

あ!シノノンはお姉ちゃんとぶつかるみたい!」

 

「お、おう…」

(そう言えばのほほんさんの姉貴のパートナーって、ダリル先輩だよなぁ…。

うっ、夏休みを思い出して…我慢、我慢…!!)

 

 彼女と一夏の間に何が有ったのかは、ここに記す事ではない。

と言うより記せない。と、そこにやって来たのは…。

 

「一夏、準備はできているな?」

 

「ああ、良いぜ。ち…織斑先生。」

 

「いい加減詰まらずに呼べないのか?舌打ちされているみたいだぞ。」

 

「そっちだって、休みの時の約束を守ってくれないじゃんか!」

 

「約束…?…あんなのは無効に決まってるだろう。(赤面」

 

「あー、そう言う事言うと、またなのはさんに…」

 

「やめろ!あの後私は奴等に地獄を見せられたんだぞ!」

 

「おっと、こうしちゃいられねぇ!!

じゃ、俺等は試合の準備が有るからこれで…」

 

「あ、ちょっと待て、まだ話す事が…」

 

 と、千冬が呼び止めた瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヒャッハアアアアアアァァァァァーッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園に響き渡る謎の歓声。世紀末のモヒカンか?はたまた梨の妖精か?

いや違う。この時世にこんな歓声を上げるのは一人しかいない。

 

『どーも、みんなの天才、束さんでーす!!!』

 

 その通り。ISの母、篠ノ之束まさかの降臨である。




何と、よりによって、まさかのISの母、篠ノ之束乱入。

次回、「第20話  生ける天災、篠ノ之束」
果たして、どんな騒動を起こす気なのか…?
そして、なのはにばれたらどうなるのか…?

そう言えば、外伝のアーキタイプ・ブレイカーの公式サイト曰く、
ISの舞台は2022年だそうですね。でも、あの世界観が
今から5年後というのは…ちょっと…と言う訳で、
本作は当初の通り今後とも舞台は2043年と言う事で話を進めます。


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第20話  生ける天災、篠ノ之束

さて、突然現れた束は一体何をする気なのか…?
それでは通算第72話、始まります。


「な…あの阿呆兎…何をしに来た?!!」

 

 突如降臨した束。一体全体どうやって忍び込んだのだろうか?

いや、そんな事より何をする気なのだろうか?

 

『さて、そろそろかな~?』

 

 束が時計を確認すると…

 

ドッゴオオオオォォォォォーーーーーーン!!!!

 

 轟音と共に各アリーナに何かが降り立ち砂埃を巻き上げた。

 

「な、何だぁ!?」「え、ちょ…何!?」「おお、これはまさか…」

 

 

 

 

BEEP! BEEP! BEEP! BEEP!

 

 

 

 

「非常事態発生!非常事態発生!!

観客席の皆さんは直ちに避難して下さい!!繰り返し…(ポコッ☆)おうっ!」

 

 直後、アリーナに非常警報と真耶のアナウンスが響き渡ったが、

唐突に掻き消されてしまった。

 

「な、何だ、何がどうなってるんだ?」

 

『はーい、皆ちゅーもーく!!』

 

 アナウンスの声が真耶から束に切り替わる。放送室を乗っ取られたのだ。

 

『第2回戦は、勝手ながらこの束さんが競技を発表しまーす!!

気になる内容はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!

そう!!ここにある最新式の無人IS、ゴーレムⅢとの組手だよー!!

その機体を破ってコアを奪い取ったペア4組が

勝者として準決勝に進出できるから、張り切って戦おう!!』

 

「「「「「な、ナンダッテー!!」」」」」

 

「あ、あ、あ…あの阿呆兎がっ!!」

 

 千冬と一夏、本音ペアは一直線に放送室へ向かったが…

 

「あ、あら…?」

 

『ちーちゃん、ざーんねーん!来ると予想してたから、

別の所に移動して実況してるよーん!』

 

 なんと放送室はもぬけの殻。いるのは頭にタンコブを造り、

エビフライめいてぐるぐる巻きにされて吊るされていた真耶だった。

 

「は、謀られた…!」

 

 と、ここで千冬の携帯が鳴った。

 

「はい、織斑です…はい、はい…!!んなっ、本当ですか理事長?!

ですがなぜ…はぁ…そう言う事なら…分かりました、その様に致します。」

 

 どうやら高木理事長かららしい。携帯を切った千冬は大きく溜息をつく。

 

「ど、どうしたんだ?!」

 

「理事長から連絡があった…今回のサプライズは理事会の許可を得た物なので、

大会はこのまま続行するとの事だ。さっきの非常放送は、

真耶が早とちりして流してしまった誤報として片づけるとの事だ。」

 

「マジで?!」

 

「おおおー、楽しそうだねー!」

 

「それじゃ、俺等は行ってくる!」

 

「あ、ああ…頑張れ。」

 

 一夏、本音ペアがピットへ向かうのを見送ると、

千冬はその背後で再度ため息をついた。

 

 

 一方その頃アリーナでは…

 

『えー、こちらは生徒会です。先程理事会から連絡が有りました。

只今の非常放送は誤報です!!繰り返します、先程の非常放送は誤報です!!

降り立った無人機は、理事会の許可を得た正規のサプライズです!!

繰り返します、只今の無人機は理事会の許可を得た正規のサプライズです!!

非常事態ではありませんので、このままトーナメントを続行します!!』

 

 生徒会長代理の虚からのアナウンスが流れる中、

乗機を展開し、第2アリーナに降り立った一夏と本音ペア。

アリーナには既に一応の対戦相手である音無小鳥・千川ちひろの教員ペアと、

標的である無人機ゴーレムⅢが降りている。

その外観はゴーレムⅠより女性的で、塗装も黒一色から赤と黒の二色になり、

右腕はブレード、左腕は熱線砲を備える巨大アームを備えていた。

 

「音無先生、遅くなりました!」

 

「ああ織斑君、待ってましたよ!」

 

「どうもすいません。千冬姉と一緒に束さんを捕まえに行ってまして…」

 

「逃げられちゃったんだよね~。」

 

「うん、予想通りの行動ね。」

 

「にしても、束さんどうやって理事会の許可を取ったんでしょうね?」

 

「さあ?」

 

「正直、余り知りたくもないですしね。」

 

「兎に角、これが理事会の許可を得た正規の試合である以上、

高町さんの助けは受けられません。

私達だけでこの無人機を倒さないといけないって事です、頑張りましょう!」

 

『それじゃ、いってみよー!!第2回戦、スタートー!!』

 

「よし、短期決戦で終わらせてやる!!早速いくぜ、零落白夜!!」

 

 一夏は先手必勝とばかりに零落白夜を発動、金色の光を放ちながら

瞬時加速(イグニッションブースト)で間合いに飛び込む。

 

「こっちも負けてられません!!」

 

 教員ペアも短期決戦を考えていたのか、ミサイル斉射で畳みかける。

しかし、最新式は以前とは勝手が違う。

 

「え、ちょ…?!」

 

 ゴーレムⅢは瞬時加速で後退し、攻撃を躱した。

 

「えええっ?!無人機が瞬時加速?!」

 

 予想外の瞬時加速で出鼻を挫かれ、両ペアとも大きな隙を晒す。

勿論ゴーレムⅢは左腕の熱線砲で応戦、ミサイルは悉く迎撃され、

小鳥も被弾してSEを削られた。

 

「くっ、ここまで進歩しているなんて…。音無先生、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です!でもSEは7割にされましたけど…。」

 

 一夏も零落白夜の影響でSEを少なからず消費している。

やはり時間はかけられない。

 

「おりむー、まだ動けるよね?」

 

「ああ、大丈夫だ!」

 

 まだまだ勝負はこれからだ。一夏達は仕切り直して

再度ゴーレムⅢへ向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 一方その頃第1アリーナでは鈴音・ティナとエドワース・菜月の両ペアが

ゴーレムⅢに相対し、鈴音が先頭で剣戟戦に持ち込んでいた。

 

「ハイヤーッ!!」

 

 鈴音が双天牙月で斬り掛かると、火花と金属音と共に

ゴーレムⅢの右腕ブレードで止められるが、隙を突いて龍咆で追撃を仕掛け、

よろけた拍子にそのままピット内の壁まで蹴り飛ばした。

 

「全く1学期の時と言い、何でこの学園は行事の度に邪魔が入るのよ!!」

 

 文句を言いながら更に龍咆を連射する。これがゴーレムⅠなら

当たれば確実に破壊できたただろうが、

ゴーレムⅢは背部ユニットから黒い球体を展開すると、

球体がバリアーを発生させ、龍咆を食い止めた。

 

「バリアーを張った?!まさかシールドビット?!

あんなのまで持ってるなんて、それなら…」

 

「リン、先生達がミサイルで援護するから、そこから動かないでって!!」

 

「…くっ、分かったわ!」

 

 鈴音が再度斬り込もうとしたが、ティナからの声でその場に留まる。

直後、鈴音の背後からエドワース・菜月の教員ペアがミサイルを斉射。

 

ズッドオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

 ミサイルは全てゴーレムⅢに着弾し、大爆発。

 

「おお、凄い威力!これなら効いたんじゃない?」

 

 しかし、ゴーレムⅢは炎の中から脱出した。

 

「嘘?!仕留めきれなかった?!」

 

「ミサイルも駄目なの?!これじゃ隙がないじゃない!!」

 

 だがよく見ると、一部のパーツが欠落している。

ノーダメージと言う訳では無い様だ。

 

「多少は効き目が有ったみたいね…。

まさか無人機ともう1度戦う事に成るなんて思わなかったわ。

こんな事なら、崩山を装備しとけば良かった!」

 

「リン、これ絶対ミス・タカマチが考えたんだと思うわ!篠ノ之博士に頼んで、

自分抜きでこれを倒せる様になれって試練じゃない?」

 

「そう言えば聞いたけど、高町さんは

『教員勢が自分におんぶに抱っこで役に立ってない』って言ってたとか。」

 

「言ってたわ。文句を言えないのが辛い所ね…。」

 

「何でもいいけど、手負いの今なら何とか!」

 

 一区切りがつき、改めて仕切り直して相対する両ペア。

尚、第3アリーナでは箒・静寐と虚・ダリルの両ペアが、

第4アリーナではセシリア・清香と楯無・薫子の両ペアが当たっている。

そして、1回戦で敗れたペアは2ペアずつ1つのアリーナに付き、

周囲の警備と安全確認に当たっていた。

 

 

 そして、第2アリーナに戻ると…

 

「うおおおおっ、そこだぁ!!」

 

 尚も交戦を続ける一夏達。だがゴーレムⅢの機動力に翻弄され気味だった。

何せ有効打が零落白夜しかなく、回数に制限が有るので迂闊には使えない。

そこで牽制の為に本音と教員ペアが銃火器で援護するのだが、

Gの制限を気にしなくて済む無人機ならではの機動で悉く回避。

更にシールドビットも展開し、当たりそうな攻撃は悉く弾いてしまう。

 

「あれだけの機動力に加えて、バリアーも備えてあるなんて…!!」

 

 と言っているとゴーレムⅢが地上に向けて巨大な左腕を向け、

掌にある四つの砲門から熱線を放つ。

 

「おまけにこれだけの火力もあるなんて…!!」

 

 何とか躱す4人。しかし、切り札の一夏のSEを考えると長期戦は出来ない。

 

「流石は篠ノ之博士直々に開発した機体…。やはり手強い…!!」

 

「考えてみれば、ルール上向こうは専用機持ちを含む4人に

単機で挑まなければならないんだから、高性能なのは当たり前か…。」

 

「どうします?」

 

「それなら…二重瞬時加速で突っ込みます!!

いくらあれでも、二重瞬時加速には追い付けないと思いますから…。」

 

「SEは大丈夫なの?」

 

「はい、一発決まれば!」

 

「それなら、この場で一番SEには余裕が有るから私が囮になるよ。」

 

「それじゃ、行動を開始しましょう!」

 

 小鳥の号令で早速行動開始。

本音が正面から突っ込んで近接ブレードで斬りかかるが、

当然ビットを展開してバリアを張り、阻まれてしまう。

しかし、本音は直ぐに目線で一夏に合図を出した。

 

「よし、今だ!!」

 

 一夏は二重瞬時加速を発動。一気にゴーレムⅢに突っ込んで斬りかかると

そのまま吹き飛ばされ、更に教員ペアの無反動砲の一撃を浴びた。

 

「これは効いた…よね~?」

 

「どうだろうか?」

 

 次の瞬間、煙の中からゴーレムⅢが飛び出し本音に熱線砲を向ける。

 

「しまっ…まだ動けるの?!!」

 

「危ない!!」

 

 次の瞬間、一夏が後方に弾き飛ばされる。

瞬時加速で本音の前に出た一夏が熱線砲の直撃を受けたのだ。

 

「お、おりむー!!」

 

 無惨に転がる一夏、果たして、彼の安否は…?

 

 

 

 

???

 

「あれ?…ここは?」

 

 ふと目が覚めた一夏、そこは夕暮れの湖上だった。

 

「そうだった、俺は直撃を食らって…じゃあ、ここは…」

 

 だとしたら、ここは死後の世界なのか?自分は死んだのか?

 

「いいえ、貴方は生きていますよ、織斑一夏。」「!!」

 

 不意に何者かの声、振り返ると…

 

「白…騎士?」

 

 そこにいたのは白いISを纏った女。顔はバイザーで隠れて見えないが、

彼女が纏うISはこの世で最も有名なIS、

全てのISの起源、白騎士そのものだった。

そして、白騎士を操れるのはこの世にただ一人。あのISを纏っているのは…

 

「そこにいるのは、千冬姉…なのか?」

 

「いいえ、私は織斑千冬ではありません。姿を借りているだけです。

さて、貴方に聞きたい。貴方は、力を欲しますか?」

 

 一夏は、無言で頷いた。

 

「それは、何の為に?」

 

「そうだな…友達を、いや、仲間を護る為かな?」

 

「仲間を…。」

 

「ああ。俺は見たんだよ。

世の中には戦わなければ生き残れない場面や理不尽な暴力がいっぱいある事を。

だから俺は仲間を、そんな理不尽から護ってやりたいんだ。」

 

「そうですか…ならば、貴方には力を得る資格がある。

さあ、貴方の目覚めを待っている者がいる。もう行きなさい。」

 

「行くって、どこへ行けばいいんだ?

それに、あんなの食らったらもうSEなんて…」

 

「大丈夫、ここは夢の世界。貴方が夢から覚めれば、この世界から出られます。

そして、SEの事は心配無用です。何故なら…………だからです。」

 

「! 本当に?!」

 

「はい。夢から覚めれば、すぐに分かります。

詳しい事は、己の眼で確かめると良いでしょう。」

 

「そうだったのか…ありがとな、ええと…」

 

 一夏の意識が戻りつつあるのか、白騎士の姿が徐々に薄れていく。

ふと、おもむろに白騎士はバイザーを開けて素顔を晒した。

そこには本人の言った通り、千冬の顔が。

 

「私は白式。貴方の専用機です。この姿は、かつての私の姿を模した物。

私のコアは、かつて白騎士と呼ばれたISのコアが使われているのです。

さあ、夢から覚め、新たな力を携えて、共に行きましょう。」

 

 そう言うと、白騎士=白式の姿は虚空に消えた。次の瞬間…

 

「あっ…」

 

 一夏は意識を取り戻した。仰向けで寝ていた一夏の視界に青空が映る。

 

「本当に、夢だったんだな…。」

 

「お、おりむー?無事だったの?」

 

「…ハッ!!のほほんさん!!今状況はどうなってる?!」

 

「えーと、音無先生がやられちゃったよ。ちひろ先生も私ももうボロボロ。」

 

「そっか、待たせてゴメン!今なら何とか出来そうだから、

ちょっとケリ付けてくる!!」

 

 一夏は飛び起きると、ゴーレムⅢの下へ飛んで行った。

 

「ちょっ、おりむー?アレ?何かおかしいな?」

 

 

 

 その頃、小鳥をKOされて後がないちひろは…

 

「参りましたね、音無先生はともかく、

有効打を撃てる織斑君がやられるなんて…。

所で、両方ともやられたらどっちが勝つ事になるんでしょうか…。」

 

 と、どうでも良い事に考えを巡らせていると…

 

ズッドオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

 何と後方から謎の砲撃が直撃。ゴーレムⅢは右腕が吹き飛んでしまった。

 

「え?え?!何事?!!」

 

「千川先生、無事ですか?!」「あ、はい、無事で…す…あ、あれ?」

 一夏の姿を見た時、ちひろは言葉が詰まってしまった。

何故なら白式の姿が以前と変わっていたのだ。

 

「あ、あの…織斑君?何で…無事だった…

と言うか…機体の形が変わってませんか?」

 

「はい、こいつが…白式が土壇場で二次移行してくれました!!

新しい名前は雪羅、雪の羅刹です!!」

 

 白式、まさかの二次移行到達。さあ、一転攻勢の時は来た。




福音戦をスルーした事で遅れていた白式の二次移行ですが、
ここで漸く到達しました。
肝心の戦闘力ですが、なのはが基礎訓練を施した為、
原作の同時期よりも大きく向上しています。

次回、「第21話  雪羅見参」
果たして、雪羅の力は如何に?そして、トーナメントの結末は…?

おまけ
10/23中に活動報告を投稿します。
どうでもいい質問がありますので、暇な方は御回答お願いします。


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第21話  雪羅見参

原作では福音戦で二次移行を達成する筈だった一夏。
しかし、色々あってすっ飛ばされた結果、この時まで先延ばしになっていた。
そして今、遂に一夏はお待ちかねの二次移行を達成し、アリーナに降り立った。

それでは通算第73話、始まります。


 全学年タッグトーナメントに突如乱入した束の意向で、

急遽無人機との組手に試合内容を変更された第2回戦。

無人機の攻撃の直撃を受けて一度は倒れた一夏だったが、

土壇場でまさかの二次移行を達成したのであった。

 

「ま、まさかこのタイミングで二次移行(セカンドシフト)するなんて…って後ろ後ろ!!」

 

 振り返ると無人機が体勢を立て直し、熱線砲で射掛けてきた。しかし…

 

「雪羅、シールドモード!」

 

 雪羅最大の特徴、左腕の多機能武装アームが

一夏の声に合わせてシールドに変形する。

直後、アームの掌から深緑のシールドが発生すると、

飛んできた砲撃は直撃と同時に消え去ってしまった。しかもそれだけではない。

 

「!!」

 

「SEが…回復している?!」

 

「これが雪羅の切り札、エネルギー吸収バリアだ!

今の俺へのエネルギー兵器の攻撃は全て、この機体のSEになる!」

 

 恐るべき防御装備である。このバリアが有る限り、

近接ブレードを既に破壊されたゴーレムⅢは完全に無力化された事になる。

なのはの鍛錬による基礎戦闘力の向上が無ければ、

まずこんな装備を得る事は無かっただろう。

 

「SEは満タン…今度こそ決着を付けてやるぜ!!」

 

 真正面からバリアで受けた結果、雪羅のSEは完全に回復している。

これなら一気に決着を付けられそうだ。しかしAI制御の無人機故の悲しさか、

ゴーレムⅢは雪羅がそんな装備を手に入れた事をまだ理解できていない。

バリアを展開して阻もうとするが…

 

「今度はこれだ!!その名も…零落白夜砲!!」

 

 武装アームから再び砲撃を仕掛ける一夏。

バリアに真正面から射っても意味が無い筈だが、

何と砲撃はバリアを掻き消しゴーレムⅢを直撃。

 

 光弾の正体は零落白夜。エネルギーを消し去る力をそのまま弾にする事で、

エネルギーシールドを無効化する強力な対IS兵器である。

当然、直撃したゴーレムⅢはズタボロに。

まさに一夏の言う通り「零落白夜砲」と言うべき超兵器だ。

 

「これで…トドメだぁ!!」

 

 そのまま雪片弐型の間合いまで飛び込み、

真正面から大上段に斬り下ろすと、ゴーレムⅢは呆気無く一刀両断。

残骸からコアを奪い取り、アリーナ中に見える様に掲げた。

 

「ゴーレムⅢのコア、獲ったどー!!」

 

 興奮のせいで獲った「ぞ」が獲った「ど」になってしまったが、

兎に角撃破は撃破である。これにて勝負あり。

 

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 観客の大歓声がアリーナ中に響き渡る。

 

「やったねおりむー!準決勝進出決定だよ!!」

 

「いやぁ、凄いですね織斑君、完敗です!」

 

「まさか土壇場で二次移行に到達するなんて思っても見ませんでした!」

 

 小鳥・ちひろペアもまさかの二次以降からの逆転勝ちに思わず拍手していた。

 

「は、はぁ…どうも…。」

 

「この調子で決勝に行こうね!」

 

「お、おう…。」

 

 尚、残りの試合だが、勝ち残ったのは一夏・本音ペアに加え

箒・静寐ペア、エドワース・菜月ペア、楯無・薫子ペアである。

 

 以下、参加したペアのコメント

 

「た、助かった…そうだ、音無先生のペアは…え、負けた?!」

 

「えええ?!それじゃ教員組は私達だけじゃない!」

 

「まあ…今年の1年生はアレだから…ねぇ?」

 

「確かに…」

 

「アイヤー、負けちゃったぁ…」

 

「仕方ないよ、生徒に簡単に負ける様じゃ教師は務まらないもん。」

 

「だよねぇ~。」

 

 

「直接対決でないとはいえ、まさか3年生のペアに勝つとはな。」

(姉さんが私と対峙する機体だけ手を抜いたと言う事は無いと信じたいが…。)

 

「やったね篠ノ之さん!あと2回勝てば優勝だよ!!」

 

「あ、ああ…」

 

「チッ、負けちまったぜ。学園最後のタッグトーナメントで

自己ワースト記録を更新するとは笑えねぇな。」

 

「まあ、そう言う事もあるわよダリル。

2月の期末トーナメントで挽回すればいいだけよ。」

 

「まあな、そうだ、ウツホの妹は勝ったんだって?」

 

「そうそう。あの娘普段はいい加減でもISの腕は確かなのよ。

噂じゃ専用機を支給されるかもって言われてるからね。」

 

「ふーん、そう言えば一応代表候補生だったもんな。」

 

「あ、先輩!」

 

「んん?あ、篠ノ之さんか、どうかした?」

 

「えーと…妹さんが準決勝進出を決めたそうで…

その…おめでとうございます…。」

 

「あ、うん…有難う。準決勝、頑張ってね。」

 

「アッハイ…。」

 

 

「あーん、山田先生に勝ったからこのまま行けると思ったのにぃ!」

 

「仕方ありませんわ。なのはさんに次ぐ生徒のナンバー2で、

学園に2人しかいない国家代表ですもの。

直接対決でなかっただけマシと思いましょう。」

 

「そうだね。」

 

「惜しかったわね、オルコットさん。これが代表と代表候補生の差よ。

新技を覚えたみたいだけど、まだまだ使いこなせていないんじゃないかしら?」

 

「はうあっ!その通りですわ…。」

 

「彼女、射撃系は特に力を入れて鍛えているみたいだから、

もっと教えて貰った方が良いわよ。」

 

 

 そして、一夏・本音ペアがピットに戻ると、

千冬とぐるぐる巻きにされた束が出迎えた。

 

「一夏、良くやった。一時はどうなるかと思ったが、

あの土壇場で二次移行を達成するとはな。」

 

「お、おう…。で、その手に持ってるのは…」

 

「ああ、手間取らせたが、漸くこの阿呆兎を捕まえる事が出来た。

何をするか分からんから、せめて優勝者が決まるまでは

こうして縛った上で私が監視しておくことにした。」

 

「は、はぁ…。」

 

「いっくん、おめでとー!後そこの小動物も。」

 

「えへへへありがと~。」

 

「だが先は長いぞ。準決勝ではもう一度教員ペアと戦って貰う。」

 

「ま、またかよ。」

 

「心配するな。今のお前なら勝てる。しっかり勝って、決勝まで進んで来い。」

 

「そうそう、その白式もこの束さんが完成させた機体なんだから、

今のいっくんなら量産機に乗った教員位楽勝だよ!!」

 

「ああ、そうですね。」

 

 と、そこに…

 

「ああ、織斑先生、そこにいたんですか?(ふらふら」

 

 頭にタンコブを作り、フラフラになりながら真耶がやって来た。

 

「んん?何だ、山田先生、大丈夫か?」

 

「は、はい、何とか。それより、状況はどうなったんですか?

私目を覚ましたばかりなんで状況がよく分からないんです…。」

 

「ああ、それの事だが、理事会の許可を得た正規のサプライズと言う事で

理事長から連絡が有ってだな、もう心配しなくていいぞ。

それに、騒ぎの元凶はこうして捕まえてある。」

 

「えっ…?」

 

 千冬の一言で青ざめる真耶。

 

「ん?どったの爆乳大明神?」

 

「そ、その…実はそうとは知らなくて…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついさっき、高町さんに助けを求める連絡を入れちゃったんですー!!」

 

「「えっ…」」

 

「じぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~…。」

 

 直後、ピットに聞こえる「じーっ」の声。

擬音の筈の「じーっ」を態々声に出す奴と言えば、

学園にたった一人、否、たった一機しかいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じぃ~~~~~~⌒*(◎谷◎)*⌒~~~~~~っ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ…(察し」

 

 さあ、インガオホーの時間である。

 

「束さん…千冬先生の新しい専用機建造を放っぽり出して何してるのかなぁ?」

 

「えーと、箒ちゃんの成長のお手伝いをしようと思って~…」

 

「そう言う事だ。それと、これは理事会の許可を得た正規のサプライズでな、

詳しい事は理事長にでも聞けば分かるが、誰も負傷していない事だけは確かだ。

そういう訳でこの場はもう解決済みだ。だからもう帰ってくれて構わんぞ。」

 

「なーんだ、そうだったのかぁ…なら致し方ないの。」

 

「「ホッ…」」

 

 なのはも納得した様だ。その場の一同がほっとした瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

〆る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ナンデ?!」」

 

「おおおおおおおおおおおおおお!!ドタマ冷やしやがるのおおおおお!!!」

 

「どーん!どーん!どーん!どーん!どんどこどんどんどーーーーーーーん!」

 

 二次移行するや、謎のリズムに乗ったヤマトの声に合わせて

追加アームで束を袋叩きにしてしまった。

 

「さあお仕置きなの!!地下室へ連行なの!!」

 

「なーちゃ~~~~~~~~~~~ん、やーーーーめーーーーてーーーー!!」

 

「はぁ…奴も大概だな…1番の吉外の束が、まだまともに見えるぞ…」

 

 

        千冬

 ⌒*(・∀)つ( ゚∀゚)ん?

 チョンチョン…

        千冬

 ⌒*(◎谷)つ(゚∀゚;)あっ…

 ダレガキ○ガイナノ? 

                  千冬

 ⌒*(◎谷)うわあああああああ!=(;゚Д゚)

                  糸冬

          ギャーッ!!!(;゚Д゚)(谷◎)*⌒ニゲテハイケナイノ!!

 

 

「さあO☆HA☆NA☆SHIなの!!全力全開で〆るの!!」

 

「一夏ぁー、タスケテー!!」

 

「やめてー!O☆HA☆NA☆SHIだけはー!!」

 

 かくして、食事時に呼び出され虫の居所が悪かったなのはの逆鱗に触れ、

束と千冬は翌日が土曜日だった事も有り、

18歳未満お断りのお仕置き2泊3日地下ツアーで〆られた。

尚、トーナメントに乗じてイベントを企てた楯無は許された模様。

 

 

 

 そして数時間後…

 

 いよいよ決勝戦である。決勝に残ったのは、

準決勝でエドワース・菜月ペアを下した一夏・本音ペアと

楯無・薫子ペアを破った箒・静寐のペアだ。

 

「はわわ!篠ノ之さん!とうとう決勝まで来ちゃったよ?!」

 

「あ、ああ。決勝の相手は一夏だ。2回戦で二次移行を達成して、

準決勝では先生のペアを寄せ付けなかったらしいな。」

 

「だ、大丈夫なの?!」

 

「心配するな。この紅椿は第5世代機2号機だ。世代の差で圧倒して、

一夏に私を認めさせてやる!」

 

「モッピー知ってるよ。イッピーは唐変木だから、

箒叔母さんが付き合ってと言っても、ちゃんと受け取ってくれないよ。」

 

「う、うるさい!やってみなきゃ分からないだろう!」

 

「うん…そ…その意気だよ、頑張ろうね!!」

 

 

 

「とうとう来ちゃったね、おりむ~。」

 

「あ、ああ…。だが、決勝の相手は箒だからな。

なのはさんと並ぶ第5世代機使い…今までの相手とは桁が違う。」

 

「そうだね。でも、おりむーは二次移行したんだから、

まるっきり勝てない相手じゃないよ。

シノノンは先月専用機を貰ったばかり何だし、つけ入る隙は有るよ。」

 

「それもそうだな。よし、行くか!」

 

 そして両者がアリーナに並ぶ。決戦の舞台は整った。

 

『それでは…織斑一夏・布仏本音ペア対

篠ノ之箒・鷹月静寐ペア…決勝戦、始め!!!』




原作を読んだ人なら知っている筈ですが、
雪羅にはエネルギー兵器の攻撃を吸収してSEを回復する機能は有りません。
何で一夏がこんな装備を得られたのかと言えば、
「なのはの鍛錬で基礎戦闘力が原作以上に向上したから。」
この一言に尽きます。当然、一夏のみならずその嫁達もまた、
原作の同時期に比べ基礎戦闘力は大きく向上しています。

次回、「第22話  紅白IS合戦」果たして、勝つのは一夏か箒か?


そう言えば、外伝アーキタイプ・ブレイカーの公式サイトの
ツイッター欄を見ると、新キャラ「ヴィシュヌ」の紹介がこうなっていました。

タイ代表候補生。しなやかな脚線美から繰り出される蹴りは肉体凶器たりうる。

( ゚д゚) ………
 
(つд⊂)ゴシゴシ

タイ代表候補生。しなやかな脚線美から繰り出される蹴りは肉体凶器たりうる。
 
(;゚д゚) ………
 
(つд⊂)ゴシゴシゴシ

タイ代表候補生。しなやかな脚線美から繰り出される蹴りは肉体凶器たりうる。

(;゚ Д゚)………?!

( ゚Д゚ )

タイで、蹴り…。きっとスタッフに「絶対に笑ってはいけないシリーズ」の
ファンがいるに違いありません。もし本作に彼女を出すなら、
絶対誰かをタイキックさせましょう。例 デデーン!一夏、タイキックー!


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第22話  紅白IS合戦

さあ、いよいよ決勝戦。一夏と箒、勝つのはどっちだ?
それでは通算第74話、始まります。


 遂に決勝戦を迎えた全学年タッグトーナメント。

2回戦で土壇場からまさかの二次移行で逆転勝ちし、

その勢いで準決勝も勝ち進んだ一夏・本音ペアと

ヤマトに次ぐ第5世代機を駆る箒・静寐ペアの時間無制限一本勝負。

果たして、その結末は…?

 

『それでは…織斑一夏・布仏本音ペア対

篠ノ之箒・鷹月静寐ペア…決勝戦、始め!!!』

 

 次の瞬間、一夏が箒に向かって斬りかかった。

一夏と本音は試合前、一夏が箒と戦っている内に本音が静寐を落とし、

然る後2対1で箒の相手をすると言う事にしていた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 相手は今までとは違う。ヤマトと並ぶ第5世代2号機にして、

8つのコアで動くオクタコア機。その出力も火力も耐久力も

今までの機体とは圧倒的に桁が違う。まず小細工は通じない。

やるなら正面から突っ込むしかない。

 

「やはり真っ先に私に向かってきたか!」

 

 対する箒は空裂からエネルギー刃を放って迎え撃つが、

なのはの弾幕回避訓練で鍛えられた今の一夏には牽制にもならない。

 

「やはりそうそう当たる物ではないか…!ならば!!」

 

 だが箒はそれでも怯まない。展開装甲をソードビットに変形させ、

4刀流での連撃を仕掛けると、死角からの一撃で雪羅のSEが大きく削られる。

 

「くっ、やっぱり2世代差はデカいな!でもこの速さは見切れねえだろ!」

 

 一夏は距離を取ると、二重瞬時加速で間合いを詰める。

 

二重瞬時加速(ダブルイグニッションブースト)か!くっ、速い!」

 

 この速度の一夏と正面から斬り合うのは危険と判断し、箒は上空へ逃れる。

 

「それなら!」

 

 一夏も多機能武装アームから零落白夜砲を放ちながら追撃を掛ける。

箒は空裂のレーザー刃で迎え撃つが、弾同士がかち合うと

エネルギー消滅効果でレーザー刃が掻き消され、一方的に押される。

 

「レーザー刃が消える?!モッピー、あれが何だか分かるか?」

 

 しかし、ここで紅椿の切り札の一つが発動した。

制御AIモッピーからの情報提供である。

 

「モッピー知ってるよ。あれは零落白夜だよ。

イッピーは零落白夜の力を攻撃に転用してるんだよ。

当たれば大ダメージ必至だし、しかもエネルギーシールドは無効化されるよ。

防御手段が無いから全部避けてね。」

 

 何しろ束謹製のAIである、ISに関する知識は完璧に備えている。

当然、一夏の攻撃の正体も一目で看破してしまった。

 

「くっ、厄介な力に目覚めた物だな!だが、それでこそ倒し甲斐が有る!!

今度こそ勝って、一夏に私を認めさせる為にも!!」

 

 どうやら箒はこの戦いを1学期のタッグトーナメントの続きと見ている様だ。

今の一夏は専用機持ちが自分と恋人になりたがっている事を知っている。

ならば、幼い頃剣道で敵わなかった一夏に勝てば、

一夏に己を認めさせる事に近づくのではないかと考えるのは必然だった。

 

「逃げっぱなしという訳にはいくまい!今度は雨月と空裂同時に…」

 

 空裂のみならず、雨月からもレーザーを連射、手数で押し切ろうとする。

なのはが見せた弾幕地獄を髣髴とさせる無数の紅い閃光が一夏に迫る。

 

「くっ、今度は2本掛かりかよ!切り札を見せたくなかったけど、

相殺しきれねえなら…!!」

 

 しかし、今の一夏には雪羅のエネルギー吸収バリアがある。

レーザー刃は吸収され、SEに変換されてしまう為、全く効果が無い。

 

「何だ?!レーザーを…吸収した?!」

 

「?! モッピー知ってるよ!!あれはエネルギーを吸収して

SEを回復するバリアだよ!!実体兵器でないと攻撃は通らないよ!!」

 

「何?!そんな物まで持ってるのか?!」

 

 拙い事に、今の紅椿は両手の剣以外に実体兵器が無い。

これでは性能差は殆ど意味が無い。

 

「今だ!」

 

 一夏は攻撃の手を止めた隙を突いて二重瞬時加速で突っ込み、

雪片弐型を振り下ろす。

 

「くっ、させるか!!」

 

 箒は雨月と空裂を交差させて雪片を受け止め、押し返して斬りかかる。

 

「おっと!!」

 

 一夏はギリギリで躱し、間合いを取る。

 

「くっ、一夏がまさかここまで相性の悪い相手になっていたとは…」

 

「エネルギー吸収バリアの存在が知られた以上、もう箒が使えるのは

二刀流の実体剣だけ…。でも、こっちもSE回復手段がねぇ…。」

 

 SEを回復手段にされてしまうのなら、射つだけ無駄である。

 

「二次移行したせいで、ただでさえ悪い燃費が更に悪化してやがるならな。

早いとこ箒を落とさねえと…。」

 

 何しろ紅椿は燃費の悪さを補う為、

通常のコアより大型の特注コアを8つ搭載している。

その出力は桁違いだ。今一夏が拮抗しているのは、

モッピーが箒に配慮してわざと力を抑えているからに過ぎない。

もしもモッピーが機体を掌握したら、今の一夏など瞬殺可能だ。

そうなったら、勝てるのはヤマト以外にいない。一方、箒はと言うと…

 

「モッピー、何か策はあるか?」

 

「モッピー知ってるよ、こう言う時はセッシーに倣うんだよ。」

 

「セッシー?セシリアの事か?」

 

「そうだよ。モッピーがビットで全方位から牽制するから、

その隙に箒叔母さんが攻めればいいんだよ。モッピーあの機体を分析したけど、

あのエネルギー吸収バリアは全方位に対応してないから、きっと有効だよ。」

 

「よし、それなら…!!」

 

 箒はビットを射出し、機動砲台として一夏を全方位から攻撃する。

モッピー制御のビットなら精度も申し分ない。これで多少の牽制になる筈だ。

しかし一夏はビットを無視し、箒に瞬時加速で急接近する。

 

「千冬姉が箒の親父から教わり、俺に教えてくれた最大の技…

あの頃はまだ使えなかったけど今なら!!」

 

 刃先を下に向けて半回転させ、峰を自分に向けると、

下段から抜刀の要領で一気に振り上げ、

同時に右足を峰に押し付けながら宙返りする。

代表候補生認定試験で箒が使った篠ノ之流奥義「昇り竜」その空中版である。

 

「昇り竜か!ならば…!!」

 

 しかし、篠ノ之流の奥義には基本的にどんな技にも対処技が有る。

箒は左手の空裂を逆手に構え、

剣を交差させる様に右手の雨月を後ろに向けて構える。

昇り竜は下段からの斬り上げである事から、左に構えた空裂で攻撃を受け止め、

右手の雨月で反撃する構えだ。

その名も「剣虎」。昇り竜に対抗する篠ノ之流の奥義だ。

 

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」

 

 昇り竜と剣虎のぶつかり合い。激しい衝撃破と火花が散った瞬間。

 

「うわ!」「ぐっ!」

 

 一夏と箒が同時に弾き飛ばされる。激突の衝撃に双方の剣が耐えられず、

雪片は弾き飛ばされ、空裂は破砕してしまった。

一夏はバランスを崩すが、何とか立て直して着地。箒も後を追って着地すると、

地上では双方のパートナーである本音と静寐が戦っていたが、

やはり更識家の従者にして代表候補生の一人でもある本音に分があり、

静寐の打鉄をKOしていた。

 

「篠ノ之さん、ゴメーン!やられちゃったぁ!!」

 

「くっ、静寐がやられたか!」

 

 これで戦況は2対1。しかし油断はできない。何しろ第5世代機だ。

一瞬のミスであっという間に逆転されかねない。

 

「よし、作戦通りだ!行くぞのほほんさん!!」

 

「まかせてー!」

 

 とは言ってみたものの、一夏は雪片を弾き落とされている。

その雪片は、今箒の背後の地面に刺さっていた。

しかも、箒にはモッピーが付いている。

モッピーが機動砲台ビットと化した展開装甲を制御し、

一夏・本音ペアを寄せ付けない。

 

「うわ、わ!シノノンの機体にはこれが有ったんだった!」

 

 セシリアとは違い、操縦者がビット操作に関わらないので

箒は本体の操作に専念できる上、何より精度も違う。

一夏はエネルギー吸収バリアで受けようとするが、

モッピーはバリアの向きを見ながら2方向以上から攻撃する為、

逆に被弾が増えていく。

 

「駄目だ、守りに入ったら負ける!攻勢に出ないと!」

 

 一夏・本音ペアは何とかビットの攻撃を掻い潜り、

瞬時加速で一気に箒に近づこうと試みる。

しかし、瞬時加速しようとしているのはモッピーに看破されてしまう。

 

「今だ!瞬時加速に合わせて、カウンター攻撃だよ!!」

 

「そうか、よし、ならばこいつで!」

 

 箒の呼びかけで、紅椿の肩部のユニットが変形する。

大出力のクロスボウ型レーザー砲、穿千が展開された。

姿勢を安定させると、バイザーに照準器を表示し、照準を本音に合わせる。

 

「貰った!」

 

 瞬時加速した瞬間、穿千から放たれた深紅の光線が本音の打鉄を直撃。

一点突破の大出力レーザーの威力は絶大で、

本音はアリーナの壁に激突してめり込み、SEを全て奪われてKOされた。

 

「よし、これで1対1だ!!」

 

「クソ、のほほんさんが!!でも、これで雪片を…」

 

 一夏は本音がやられている隙に、雪片を拾う事に成功していた。

 

「覚悟しろ、一夏!!次で決着を付けてやる!!」

 

「ああ、望む所だ!!来い!!」

 

 本音を犠牲にする形になってしまったが、何とか武器を拾う事が出来た。

このチャンスを逃すまいと一夏は雪片を構え、零落白夜で決着を付けにかかる。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 しかし、ここで箒の眼前にメッセージが現れた。

 

『戦闘経験値は一定量に達しました。単一仕様能力を発動可能になります。

単一仕様能力、絢爛舞踏発動します。』

 

 絢爛舞踏が発動した瞬間、紅椿の展開装甲が金色に発光。

 

「な、何が?!」

 

いきなりの異変に一夏が一瞬戸惑うが、

何か起こる前に何とかしなければと二重瞬時加速で突っ込む。

箒も雨月で正面から迎え撃つ。

 

「「おおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」

 

 雄叫びと共に放たれる最後の一撃、果たしてその結末は…

 

『勝負あり!!勝者は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

篠ノ之箒・鷹月静寐ペア!!』

 

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 

 アナウンスと同時に、観客がトーナメントで最大の歓声を上げた。

今度こそ、本当に優勝が決まったのだ。

 

「か、勝った…」

 

「あ、あと一歩だったのに…!」

 

 一夏の雪片は確かに箒を捉えていた。

しかし、雨月の一突きもギリギリの所で雪羅の胴体を捉えていた。

これで雪羅はSEを喪失。その場で沈黙するのだった。

 

「これで私の勝ちだな、一夏。

今のがこの機体の単一仕様能力、絢爛舞踏だ!

その効果は『SEを増幅し、全回復する』!

SEを回復したから、お前の一撃にも耐えられたんだ!」

 

「は、はは…俺の二次移行を厄介な力とか言ってたけど、

お前も人の事言えなくなったな…。」

 

「ま、まあな…と、兎に角、この戦いは私の勝ちだからな!」

 

「あ、ああ…分かってるって!」

 

 かくして、箒と静寐及び彼女達の優勝を予想した生徒には

年度末まで有効のデザート無料パス券が配布されたのであった。




はい、優勝したのは箒でした。
まあ原作から最も強化されているのだから致し方ないのですが…

さて次回、「第23話  一方その頃富士の麓では」
代表操縦者と候補生の強化合宿に参加したなのはが、
久々に大暴れ…できるのか?
そして、大暴れしたら何が起こるのか?


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第23話  一方その頃富士の麓では

さあ、今度は強化合宿に参加したなのはのターンです。
果たして、合宿は無事に終わるのか?
それでは通算第75話、始まります。

追記

前話の投稿を以て、本作のUAが10万の大台を突破致しました。
ありがとうございます!!
外伝にUA数で追い抜かれはしましたが、
追い越せる様に努力を重ねます。御期待下さい。


 一夏達がタッグトーナメントに勤しんでいるその頃、

代表操縦者及び候補生の強化合宿に参加しているなのははと言うと…

 

「いよいよやって来たの!!富士の麓の大演習場!!」

 

 ここは旧自衛隊が使っていた富士山麓の大演習場。

当然、拡大再編された防衛軍も使用しており、

伝統の総合火力演習一般公開も大規模化した上で年に1回行われている。

 

 日本代表候補生及び代表操縦者は毎年10月、

丸1か月の強化合宿の為、この富士演習場にて鍛錬を行う。

但し、今年から代表候補生に成った箒と専用機がやっと完成した簪は

専用機への慣熟の為不参加を表明し、合宿には来ない。

 

 また、IIC日本支局長と代表監督が日本のIS操縦者をわざと弱くする為、

近接戦偏重訓練をする事を隣国から命じられた回し者だった事が発覚し、

束の逆鱗に触れて叩き潰された揚句、警察にしょっ引かれた結果、

日本が隣国との国交を断つ事態にまで発展した。

その結果、今年からは訓練内容の大幅な合理化、効率化が実現する事となる。

 

 余談だが、これでも怒りが収まらない日本政府は

「来年以降我が国と国交のない国の国籍保有者は

新規入国・居住・就労・帰化を厳禁する」と定め、

既に在住している隣国出身の住人とその親類縁者も、

帰化していない限り全員日本風の名を名乗る権利を剥奪され、

今後は他の外国出身者と同等に扱われる。

勿論事が有れば即座に強制送還されるし、そうなれば日本には帰れない。

 

 と言う訳で、演習場の広場に集結したなのはと代表候補生、

そしてもう一人の代表操縦者にして監督代行の秋月律子が集結した。

 

「気を付け!」

 

 早速、律子の号令が響き渡る。

 

「もう面識のある人達ばかりですが、改めて自己紹介をします!

私が強化合宿の代表監督を代行する防衛空軍少佐にして、

警視庁IS小隊の前隊長の秋月律子です!

前任者の…アレが解任の上、逮捕されて現在公判中の為、

今回は私が監督職を代行します!(なのはをチラ見」

 

「⌒*(◎谷◎)*⌒」

 

「あの…ちょっとチラ見しただけでその顔するのは止めて貰えません?」

 

「どうして?」

 

「怖いです。」

 

「⌒*(◎谷◎)*⌒なら続けるの。」

 

「あ、あの…」

 

「⌒*(◎谷◎)*⌒ つ づ け る の 。 」

 

「すいませんでした。続けさせて頂きます。」

 

「「「「「(大丈夫なのか…?)」」」」」

 

「え、えー、それでは…今年から国家代表操縦者となった、

高町なのはさんから御挨拶をお願いします。」

 

 嫌な予感満々で律子がなのはを紹介すると、なのはが前に出た。

 

「私が今紹介を受けた新国家代表操縦者、    

人呼んで暴走核弾頭、高町なのはなの!!!  

 

この間ぶちのめした隣国の下らない策略も、   

ISの本来の開発目的を知らない奴等の

IS道構想も無に帰って何よりなの!!

 

これからは心機一転、IS発祥国に相応しく、

ISの母篠ノ之束の悲願、

宇宙開発ツールへの回帰を目指して努力するの!!

 

勿論、国家代表として日本に仇成す輩が現れたら、

誰彼構わず先陣を切って木端微塵にして、

日本海に沈める事を宣言するのぉぉおお!!!

 

……以上!!!」

 

 

 

 

 

 

 例によって大音声の挨拶をぶちかますなのは。

その気迫に誰もが震え上がった。

 

「え、えー…それでは、今年の訓練内容に関してですが…

まずは例年通りの基礎体力訓練の為、

防衛陸軍から新進気鋭の新兵訓練教官を招きました。軍曹、前へ!」

 

「マム、イエス、マム!!」

 

 基礎訓練教官の軍曹が前に出る。この合宿は訓練対象者が全員女である為、

セクハラ対策として教官は女性が充てられている。だがどうも様子がおかしい。

 

「聞け!!私が基礎体力訓練の教官を務める二等軍曹、雨井心(アメイココロ)だ!!

私の前では話掛けられない限り口を利く事は許さん!!

口を利く時は前と後にマムを付けろ!!(なのはから目を逸らしながら」

 

 この教官、何故かなのはを視界に入れようとしない。

当然だろう、暴走核弾頭の恐ろしさは防衛軍中に知れ渡っている。

一介の二等軍曹如きがその本人を目の当たりにする等、

恐れ多くてとても出来た物ではない。

だが、自分に怯む心になのはは容赦しなかった。

 

「まむ、いえすまむ…」「マム、イエス、マム!!」

 

「うっ…!」

 

 早速なのはからジャブが飛んで来た。その気迫に一瞬怯む心。

何しろなのははIS誕生以前から教官をやっているいわば先輩。

若手の教官如き物ともしない。

 

「どうした!声が小さいぞ!!

男のマ○を咥える様に大きな口を開け糞虫共!!

(なのはと目を合わせない様に」

 

「マム、イエス、マム!!」

 

「貴様等雌豚共が私の訓練に耐えられた時、各人が兵器となる!!

戦争に神楽を捧げる死の巫女だ!!

しかしその日までは蛆虫だ!!地球上で最下等の生命体だ!!

今から貴様等は人ではない!!両生類の糞をかき集めた値打ちもない!!

私の仕事はこの合宿で貴様等糞虫が一端の基礎体力を得るまで鍛え抜く事だ!!

どうだ嬉しいか!!!(なのはの方を見ない様に」

 

「マム、イエス、マム!!」「マム、イエス、マム!!」

 

「ふざけるな!大声出せ!乳落したか!!(なのはを無視しながら」

 

「マム、イエス、マム!!!」「マム、イエス、マム!!」

 

 容赦なき罵詈雑言の嵐である。人格否定により余計な自尊心を消し去り、

国家と任務に忠実な操縦者を作り上げる為の各国共通の通過儀礼である。

IS操縦者に軍人が多いが、それはこれらの精神修養を修めているからである。

当然なのははとっくにこれらの訓練は修めている。

 

 と、ここで心が一人の代表候補生の前で立ち止まる。

彼女は以前なのはに救われた名も無き代表候補生だった。

 

「…スキン顔、名前は? 」

 

「マム、玄田生子(ゲンダイクコ)であります、マム!」

 

「何ぃ~?現代だぁ?!生意気な韓国かぶれが!

今からレトロ娘と呼ぶ!在り難く思え!!」

 

「マム、イエス、マム!!!」

 

「聞いて驚くなレトロ娘!うちの食堂では韓国料理は出さん!」

 

「マム、イエス、マム!!!」

 

「まだまだ語彙が未熟なの…」

 

 思わずなのはがぼそりと一言。しかし心には聞こえていた様で、

背後から聞こえた小声に振り向き、ズカズカと迫り来る。

 

「誰だ!どのクソだ!シナの手先のおフェラ豚め!ぶっ殺されたいか?!」

 

 しかし、誰も答えない。

 

「…答え無し?魔法使いのババアか?

上出来だ、頭が沸騰するまで扱いてやる!

ケツの穴でミルクを飲む様になるまで扱き倒す!」

 

 そしてなのはの前を通り過ぎた瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺!

 

「はっ、この殺気は…」

 

 心が恐る恐る横を向くと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

┣゛┣゛┣゛┣゛⌒*(◎谷◎)*⌒┣゛┣゛┣゛┣゛

 

「はうあっ!!」

 

 悪鬼の形相で心を睨むなのは。

「魔法使いのババア」と言う単語がアウトになってしまった。

これ見よがしに先輩の気迫を見せつける。

 

「そこの軍曹…さっきからどうして私の方を見ようとしないの?

まさか…私が怖いの?」

 

 いきなり挑発するなのは。案の定怒る心。

 

「き、貴っ様ぁ~~!何だその反抗的な眼は!私の許可なしに口を利くなと…」

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

殺!

 

 

「ヒィ!!」

 

 精一杯の強がりにすかさずなのはが悪鬼の形相で殺気を放つ。

パリで通り魔を殺し、鍋で煮て食った女の気迫に流石の鬼教官も後ずさりする。

 

「そこの軍曹…改めて聞くの。名前は?」

 

「マム、雨井心であります、マム!!」

 

「教官に成ったのはいつなの?」

 

「マム、4年前であります、マム!!」

 

 呆気無く立場が逆転してしまった。

 

「(心の口を指差して)私が反抗的な眼をしていると言ったのはこの口なの?」

 

「マム、い、イエス、マム…」

 

 堪らず心は律子の方を向いて暗に助けを求めるが、律子は動くに動けない。

 

「(そうだった~!そう言えばこの人、パリで通り魔を殺して

パリ警視庁から表彰されてたんだった!

そりゃISでの実戦と殺しを経験してれば、

実戦経験のない人間なんか圧倒できる訳だわ…)」

 

「これは敵を殺す時の顔なの!!この顔を手本に真似するの!!

さあやってみるの!!」

 

「んんんんんんん…うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「そんなんじゃ蚊も殺せないの!!ヘタレなの!!軟弱者なの!!」

 

「んんんんんんん…うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 どこぞの凄い漢を思わせる雄叫びをあげて精一杯の憤怒の形相をする心。

さあ、なのはの判定は…

 

「……………ハハッ。

 

「鼻で笑われた…。OTL」

 

 実戦未経験者なんてそんな物である。これからに期待しよう。

 

「と言う訳で早速基礎訓練を始めるの!!

皆が事故無く、怪我無く、いじめ無く、1か月間全力を尽くして鍛えるの!!」

 

 結局、なのはが挨拶を締め括った。挨拶終了後…

 

「少佐ー!何故新国家代表が暴走核弾頭と

教えてくれなかったんで有りますか?!あんなの敵う訳が無いで有ります!!

こんな事なら自分の代わりに彼女が教官で良いじゃないですかー!!」

 

「軍曹、耐えなさい。これは試練よ…

貴女が教官としてのスキルを磨く試練と思って耐えるのよ。」

 

「そんなー!!」

 

 そんな様子を見た代表候補生達は思った。

 

「「「「「(もう、全部あの人だけで良くない?)」」」」」

 

 かくして、2週間の基礎体力訓練が始まった。

 

 

 

 

 

「タラタラ走るな!!全く、代表候補生が何たる様だ!!

今の貴様等は貴様等が見下す男にも劣る最底辺のクズだ!ダニだ!!」

 

 まずはランニング。1周400mのグラウンドを30周である。

その間も容赦なく罵詈雑言が飛んでくる。

 

「この程度でへばるのなら、帰って彼氏にでも泣き付け!!

貴様等クソ虫にも劣るクズの彼氏の事だ、

さぞや救い様の無いヤリ○ンなんだろうがな!!」

 

 ガッ!!

 

「!!」

 

 突如背後から何者かが肩を掴む。振り返ると…

 

じぃ~~~~~~⌒*(◎谷◎)*⌒~~~~~~っ…

 

 そこには案の定なのはがいた。何のつもりだろうか?

 

「そこの軍曹…一緒に走るの!!」

 

「ナンデ?!」

 

「これも仕事なの!!」

 

「よ、止せ!何故私まで…」

走るの!

走るの!⌒*(◎谷◎)*⌒走るの!

走るの!⌒*( ◎谷◎)⌒   ⌒(◎谷◎ )*⌒走るの!

走るの!⌒*(◎谷)(゚Д゚;) (;゚Д゚)(谷◎)*⌒走るの!

走るの!⌒*(   ⌒*)ギャーッ!(*⌒  )*⌒走るの!

走るの!⌒*(   )*⌒走るの!

走るの!

 

「さあ一緒に走るの!教官たる者ランニングは一緒に走り込んでこそなの!!

自ら走って間近で訓練を見るのが効率の良い教官の仕事なの!!

より速く!より長く!より遠くへ!!力の限り疾走するのおおおぉぉ!!!」

 

 一人包囲殲滅陣で律子と心を取り囲みながら、

レイジングハートを振り回して2人を追い回すなのは。

 

「アイエエエエエエエエエエーッ!!」

 

「何で私までー!!」

 

 結局、30周の筈がこの3人は50周したと言う。

 

「な、何で教官が代表候補生よりきつく扱かれるのよ…」

 

 

 

 

 

 別の日…

 

「良いか!これからのランニングはその銃を背負って行う!!

その銃を貴様等の彼氏の粗チ○だと思って愛○してやれ!!」

 

「フフフ……逞しいわね。」

 

「こんなに硬くしちゃって、嬉しい?」

 

「一杯気持ち良くしてあげるわ。」

 

 絶え間ない扱きにも慣れ、すっかり出来上がっている代表候補生。

しかし、なのはと律子の姿が見当たらない。

 

「あれ?暴走核弾頭は…」

 

 2人を探す心。そして、ある部屋のドアを開けると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあユーノ君たっぷり扱いてあげるの!!

毎回毎回ヤる度に泣いて命乞いさせられる身にもなるの!!

ピッカピカにしてやるから有り難く思うの!!」

 

「止めてー!それは億単位の金がかかってるのよー!!」

 

 なのはは何処から持ち出したのか、155mm自走砲を磨こうとして

律子に止められていた。

 

「アイエエエエエエ!!155mm?!!155mmナンデェェェ?!!」

 

「止め立てするんじゃねーの!!

そんな邪魔者はひん剥いて磨いてくれるの!!」

 

「ヒィィィイイイイイイ!!止めてー!!私にエロい事する気なの?!

エロ同人みたいに!エロ同人みたいにー!!!軍曹ー!助けてー!!」

 

「わあああああああ!!!止めろー!!!」

 

「ええい、次から次へと!!纏めてひん剥いて磨いてやるの!!!」

 

「ひぃぃぃいいいいい!!HA☆NA☆SE!!!」

 

 この後、滅茶苦茶乾布摩擦した。

 

「「痛いよぉ~…。」」

 

 そんな調子で、律子と心が何かする度に、

なのはが2人に余計きつい扱きを課すという日常が繰り広げられた。

勿論、なのはは2人より更に多くの鍛錬量をこなしている。全ては先輩として、

未熟な教官にそれとなく稽古を付ける為である事は言うまでもない。

 

 

 

 

 

 そして、2週間後の夕方…

 

「ただ今を以て基礎訓練は終わりだ、貴様等は最早蛆虫ではない!

今から貴様等はIS操縦者である!死の瞬間まで姉妹の如き絆で結ばれる!

どこにいようとIS操縦者は貴様等の姉妹だ!

ある者はモンド・グロッソへ向かい、またある者は軍に所属する。

またある者は企業所属のテストパイロットとなるだろう。

だが肝に銘じておけ。ISは永遠である。つまり貴様等も永遠である!!」

 

「マム、イエス、マム!!!」

 

「私の訓練はここで終わるが、今後は秋月少佐が直々に稽古をつけて下さる!!

ここからは、口を利く前後にマムを付ける必要は無いが、

今まで以上に過酷な鍛錬となるであろう!!心して励め、以上!!」

 

 かくして、基礎体力訓練は終了。

心にとっては代表候補生よりも扱かれた2週間であった。

 

「終わった…大いなる試練だった…。」

 

 心は感涙していた。先輩であるなのはの扱きにより、

きっと教官として成長した事だろう。

 

「あー、その…雨井軍曹、実戦経験者の扱きで

色々と学べて何よりだと言っておくわ。これからに期待するわ。」

 

「出来れば二度と来たくないです…。」

 

 かくして、基礎訓練は終了。次の2週間はISを用いた機動訓練だ。

しかし、悲劇はその夜の夕食に起こった。

食事中、N○Kのニュース番組からこの様な報道が入ったのだ。

 

「次のニュースです。先程ソウルから入った情報に依りますと、

韓国国会は『我が国の最高法規たる国民情緒法により、

大統領官邸、国会議事堂、並びに徳寿宮、景福宮の崩壊は

日本に全責任がある事は明白であると結論付けた』として、

日本に対し謝罪と賠償を強く求め、

 

同時に保有する全ISとコアの放棄、並びに旧憲法9条の復活、

在日韓国人に対する日本国民と同等の権利の保証、

及び今年7月から国家代表操縦者に就任した高町なのはさんを

ソウル各地の建造物崩壊の実行犯として、身柄引き渡しを要求する

との声明を発表しました。

 

また、金道均(キム・ドキュン)大統領は記者会見で、

『日本政府が要求を拒否した場合、

国際連合憲章の敵国条項に基づき武力行使を以て制裁する』

との声明を発表しております。

この件に関して日本政府からは未だ声明は発表されておりません。

では、次のニュースです。」

 

「あーあーあー、まーた韓国がおかしな事を口走ってるわね。」

 

 律子が愚痴るのを余所に、なのはは無言で席を立ち、食堂から出ようとする。

 

「ちょっ、高町さん?何処へ行くんですか?!」

 

 律子の呼びかけも無視し、なのはは食堂から立ち去った。

それから30分後…

 

「只今先程の韓国政府の表明に対する最新の速報が入りました!!

え?え?ええええっ?!これ本当ですか…!失礼致しました、読み上げます。

 

今回の声明に対して天皇陛下が日本政府の合意の下、

日本国の意志として自らお言葉を述べられました。

天皇陛下は今回の韓国政府の声明に対し、日本国の意志として

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朕  茲  ニ  戦  ヲ  宣  ス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とのお言葉を述べられました!!繰り返します、天皇陛下は

 

朕  茲  ニ  戦  ヲ  宣  ス

 

とのお言葉を述べられました!!




はい、予想通り無事には終わりませんでした。
尚、今回初登場した雨井二等軍曹ですが、
見てわかる通り、名前の由来はご存知ハートマン軍曹です。
チョイ役なので、今後出番はまずないでしょう。
そして、韓国は…もうどうなっても知ーらない。

次回「第24話  魔王再臨」
はたして、空白の30分間の間に何が有ったのか?
そして、なのはは何をする積もりなのか?


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第24話  魔王再臨

さて、またしても始まったオリジナル展開。
過去最長の9000字オーバーの上、地の分多め。
しかも、深夜のノリで連ねたDQNな発言も含まれる上に
とっても右寄りと非常に読む人を選ぶ内容です。そこだけはご注意の程を。

それでは通算第76話、始まります。


 基礎体力訓練終了後、N○Kのニュース番組から入った報道で、

なのはが宿舎食堂から立ち去った同時刻、東京の首相官邸では…

 

「ええい、何なのだこれは!懲りない奴等め!」

 

 官邸の執務室では、1人の老人が憤っていた。

彼こそは他ならぬ日本国首相、山口和豊(ヤマグチカズトヨ)その人である。

 

『どうする、山口さん?ノー一択しかないだろうが、今は状況が悪いぞ!』

 

 そんな山口首相とホログラフモニターで会話しているのは、

これまでにも少しだけ登場した防衛大臣の米田一基。

 

『暴走核弾頭がソウルの各建造物をぶっ壊したのは

捏造、歪曲の欠片も無ぇ明白な事実、言い逃れは出来っこ無ぇ!

おまけにIS操縦者をあの一件で10人以上停職させちまった事で、

連中が逆恨みして寝返るかも知れねぇ!!』

 

 近接戦至上主義者学園乗り込み事件の結果、

そのシンパだった操縦者達は停職する羽目になっている。

彼女達はなのはの代表就任を「モンド・グロッソ制覇最大の功労者」

故真宮寺一馬の犠牲を愚弄して踏み躙るに等しい行為と見ている為、

山口内閣に対して恨みを持っていることは明白であった。

 

『一応防衛相権限で停職を解ける様に手配はしてある。後は山口さん次第だ。

だが、寝返りでもしたら…』

 

「うむ、彼女等についての判断は時期尚早だ。

それよりも、防衛軍がいつでも動ける様にデフコンを2に引き上げておけ。」

 

『了解…おい、聞いたな!最高司令官命令だ!

統合参謀本部と各統合軍司令部はデフコンを2に引き上げろ!』

 

『『『『『ハッ!』』』』』

 

 ホログラフモニターで通信を聞いていた統合参謀本部の構成員と

各統合軍を率いる将軍、提督達が一斉に反応し、

部下達に防衛体勢の強化を命じていく。

 

「まさか軍制改革が日の目を見る…否、見せられる事に成ろうとは…

こんな物が役に立つ日、来て欲しくは無かったのだがな…。」

 

 日本にとって唯一の救いは、防衛体制が徹底的に強化されていた事だった。

白騎士事件を期に憲法を書き換えて防衛軍の配備を明記した事に加え、

元自衛官だった山口首相と米田防衛相の二人が延べ200兆円もの大金を投じ、

米軍を参考に徹底的に軍制を再編した結果、

米軍自身が「小さな米軍」「実戦経験が無い事以外質は米軍と同等かそれ以上」

と評する程の体制を築いていた。

その真価が、まさかこんな所で発揮されることになろうとは。

 

「さて、当座はこれで良いとして、問題は…」

 

 と、その時、首相官邸にあの雄叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

「な、何だ、何だ、何だ!!!」

 

 突如降って来た謎の人影、もう誰が来たかは明白だ。

 

「こうして直接会うのは初めてなの!!私が暴走核弾頭、高町なのはなの!!」

 

「ぼ、暴走核弾頭…!!」

 

「ど、どうも~!皆の天才、束さんだよー!」

 

 なのはが首相官邸に乗り込んできたのだ。

例によって、その隣には束も一緒である。

 

「う、うむ…わしが内閣総理大臣、山口和豊である。

こっちの米田防衛相は…。」

 

「既に警視庁で直接会っているの!!」

 

「左様か…それで、いきなり乗り込んで何の用なのだ!」

 

「今さっきニュースは見たの!!これは戦争なの!!

日本に対する宣戦布告と解釈して、早速打って出るの!!」

 

「んなっ…!」

 

『お、おい!暴走核弾頭!!いきなり乗り込んでしゃしゃり出られても…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

手温いの!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは侵略なの!!奴等はがこの国を侵略しようとしているの!!

もう対話では解決できないの!!奴等のやっている事は、

先祖の冤罪を子孫に押し付けているの!!これは二重の意味で冤罪なの!!

 

本人に罪が無いのに先祖が犯してもいない罪を犯したと難癖漬けて

償わせようとする獣にも劣る所業なの!!

私は冤罪を絶対許さない!!人に冤罪を着せる様な奴は

先んじて撃ち!!  しこたま撃ち!! すかさず撃ち!!  背中から撃ち!!

それからO☆HA☆NA☆SHIをしてやるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

『「………。(一番話をする気が無いのはコイツじゃないのか?)」』

 

「だ、だが…勝ち目はあるのか?通常戦力なら防衛軍に分があるだろうが、

問題はISとNBC兵器だ。旧北朝鮮のICBMとSLBMは廃棄された筈だが

奴等の事だ、何発か隠していてそれを基に新規開発している可能性もある。」

 

『それだけじゃねぇぞ!

ISの軍事利用はアラスカ条約で禁じられているたぁいえ、

連中はそんなもん守るたぁ思えねぇ。間違いなく繰り出して来る筈だ。

奴等は10個、俺達は50個ISコアを持ってるから数では優位だが、

この前しょっ引いた近接戦至上主義者のシンパが寝返る可能性がある!

もしそうなっちまったら、ISの戦力は韓国が優位になる!』

 

「それに、敵は韓国だけではない。

この機に乗じて、中国が加勢してくる可能性もある。

仮にも安保理常任理事国だ。もし中国が動こうものなら

国連憲章の敵国条項を盾にした武力制裁に正当性が加わる事に成ろう…。」

 

 確かに元自衛官の2人の言う通りである。

但し、「日本にはなのはがいる」と言う事実を見落としている事以外は。

 

「そんなのどうだって良いの!!例え奴等の全戦力数に

0がもう2つ付いていたとしても、私が勝って当然なの!!

奴等に如何程の戦力が有ろうと、それは形骸でしかないの!!

敢えて言うの、カスであると!!」

 

「『!!』」

 

「私は強い!!奴等は弱い!!

力の強い私が、力の弱い韓国を撲滅するのが道理なの!!

どんな倫理道徳の上を行く弱肉強食、優勝劣敗の真理は

人の世以前からの自然の摂理!!

よって、打って出てぶちのめす以外の選択肢は無いの!!」

 

「……しかし、敵は国外だけではない。国内の反日勢力がゲリラ化でもすれば…

鎮圧行為を民間人虐殺と銘打って国際社会が韓国側に付く可能性は…」

 

「全部私がぶっ潰す!!何事も暴力で解決するのが一番なの!!」

 

「…そ、それは…極端過ぎるのではないのか?!」

 

「そんな事言ってたら極東アジアの中華主義反日体制一極化を

正当化する事に成るの!!

私は『反日とは現代のアパルトヘイト』と考えているの!

あの政策の野蛮さ、醜悪さ、残酷さは誰でも知っている事なの!

 

日本はそんな国に屈する為に存在するのではないの!

完膚なきまでにぶちのめして、終わらせる為にあるの!!

これこそ聖徳太子の頃からの由緒正しい日本の有るべき姿!!

アンチ中華主義!!アンチ平和主義!!そしてアンチ儒教道徳!!

これが日本の掲げるべき題目なのおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 

『「(駄目だコイツ…早く何とかしないと…)」』

 

 このままでは勝手に韓国に乗り込むかもしれない程怒り心頭のなのは。

流石の山口首相もなのはの後ろにいた束に視線を合わせ、

「何とか言ってくれ」と無言のサインを送るが…

 

「あー、ゴメン。この束さんが言いたい事は

もうなーちゃんが全部言っちゃったからさ、もう腹括りなよ。

ほぼ100年ぶりの戦争、やっちゃおうよ。絶対勝てるしさ。

何なら無人ISを10機程貸してあげても良いんだよ?」

 

「む、無人IS…だと…?」

 

「うん、今まで黙ってたけど、

この束さんはね、ISコアの生産を再開してたんだよ。

それで、今研究してるのが無人IS。

取りあえず第3世代機相当の機体が10機手元にあるからさ、

それを使わせて上げるから、早く命令出しなよ。『韓国をぶっ潰せ!』って。」

 

「………。」

 

 山口首相は米田防衛相に目配せするが、米田は無言で首を振るのみ。

 

「最早やるしかないのか…わしは元自衛官故、

歴代のどの首相よりも人一倍平和には拘っていた積りであった。

だが、それをわしの代で終わらせる事に成ろうとは…

しかし、ISの母と暴走核弾頭がそこまで言うなら、最早何も言わん。

……防衛相!!」

 

『ハッ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宣戦布告だ。今回の韓国政府の要求は我が国への宣戦布告と解釈する。

直ちに全軍に防衛出動を命じる!!デフコン1だ、全力で韓国を潰せ!!」

 

『了解、デフコン1を全軍に発令します。』

 

 そう言うと、米田は通信を切った。

 

「さて、わしも行くとしよう…。(椅子から立ち上がる」

 

「何処へ行くのかな?」

 

「皇居じゃ。宮内庁に連絡し、

今上陛下に『最早開戦やむなし』と報告せねばならん。」

 

「……ならば付いていくの!!折角だから顔合わせをしておくの!!!」

 

「え?ちょ…待て!!アポなしで陛下の下に参内するのは…」

 

「国家元首に会うのに一々アポを取ってたら暴走核弾頭じゃないの!!」

 

「よ、止せ、止めろ!!た、助けてくれぇ~!!!」

 

 有無を言わさず山口首相の背広の襟首を摘むと、なのはは皇居へワープした。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ここはソウル市。

 

 IS誕生の5年前、米国の助けを借りて不倶戴天の敵、北朝鮮を打倒し、

建国から80年の時を経て遂に半島を統一した韓国の首都である。

その大統領官邸「青瓦台」では…。

 

「遂に、民族第二の悲願を達成する時が来た!!」

 

 会議室に居並ぶ閣僚の前で気勢を上げるのは韓国大統領、金道均(キム・ドキュン)

彼は3か月前、日韓断交が原因で辞任した前任者に取って代わると、

「韓流民主主義」を旗印に韓国固有の理念「国民情緒法」を

正式に憲法として採択し、国民の熱狂的支持を受けている人物だった。

 

「首相、国連総会への工作は無事に済んでいるな?!」

 

「如何にも!『先生』の力により、賛成多数は間違いなしとの事です!

あの豚足共はともかく、安保理常任理事国の5か国を含め

他加盟国の4分の1程が棄権の構えですが、

どのみち敵国条項に基づく武力制裁は止めてはならないのが原則。

最早我等の勝利は確実です。」

 

 尚、国連憲章の敵国条項だが、国際社会は既に削除する方針を固めているが、

批准する国が規定の数に達しておらず、未だに削除されていない。

削除されていない限り、同条項は有効と言うのが韓国の主張である。

 

「IICは何と言っている?」

 

「はい、数分前にリーバーマン新理事長から

『ICCが理事長の花小路への逮捕状を出した』と連絡が有りました。

併せて、テロリストを代表に指名した事を口実に

日本のIS保有・開発の禁止と全ISコアの没収も内定したとか。」

 

「うむ、これで日本、いや…ネトウヨ・キモオタ帝国は終わりだ。

アジアは共和主義中華思想の下、真の恒久平和を実現する時が来た!」

 

 実は韓国、日本に国交を断たれた腹いせに「これからは日本を日本と呼ばず、

『ネトウヨ・キモオタ帝国』と呼ぶ」事を国会で議決してしまった。

国民情緒を考えての決定らしいが、

日本が米国経由で猛抗議した事は言うまでもない。

そんなこんなで、まだ見ぬ勝利に陶酔する金大統領。と、そこに…

 

「「「待て待て待てーい!!」」」

 

 突如閣議に怒鳴り込んで来たのは3人の軍装の男達。その正体は…

 

「あ、貴方方は…」

 

「南北統一最大の英雄、陸軍参謀総長、金甲煥(キム・カッファン)大将!」

 

「李舜臣の再来、海軍参謀総長、全勲(ジョン・フーン)大将!!」

 

「そしてIS部門の長も兼ねる空軍参謀総長、琴全力(クム・ジョンリョク)大将!!!」

 

 この男達は韓国の3軍の長であった。何をしに来たのかと言うと…

 

「大統領、この度の行為は何事ですか!!我が国が日帝に敵うと御考えか?!」

 

「左様!!日帝軍は最早自衛隊時代とは比較に成らない程強大化している!!」

 

「1対1で戦えば、勝ち目はあるまい…」

 

 3大将の言う通りこの2国は戦力は圧倒的な差が有る。

まず兵員の数は日本60万に対し、韓国は80万。

数こそ韓国有利だが、これには裏が有る。

韓国は国境を接する中露が両方とも陸軍大国の為、

80万の内実に8割が陸軍と海兵隊で占めているのだ。

つまり、海を隔てた日本は韓国にとって相性が極めて悪い相手でなのだ。

 

 まして国防の自給自足を掲げ、全装備の国産化を進めてきた日本海空軍は

量どころか質も大きく韓国海空軍をリードしている。

 

 10年前の白騎士事件直後、日本は世論の突き上げを食らう形で

憲法を書き換え、自衛隊を防衛軍に再編して予算5倍増を宣言したが、

その結果中韓と一触即発状態に陥り、米露の介入で戦争は回避したが、

中国が日米安保条約廃止と在日米軍の完全撤退を主張し、米国がこれを承諾。

 

 おまけに国際社会(主に米国)からはIS技術の公表とIS教育機関の

創設及び管理義務を負う事を迫られこれを受け入れる羽目となったが、

日本には救いがあった。

当時の総理大臣(=山口総理の前任者)が希に見るやり手だったのだ。

 

 何と交換条件として白騎士事件の際に無力化され、

退役が決まったニミッツ級空母3隻の輸出を米国に認めさせ、

これを7年掛けて修繕と改修を行い、自力で運用可能としたのだ。

そしてニミッツ級の代替として自前でもう3隻の空母を建造する予定を立て

既に1隻の戦力化が完了している。

 

 これに加えて、イージス艦の代替として

空母の護衛専用に18隻建造する予定の巡洋艦12隻と、

それ以外のDD型護衛艦の代替として36隻建造予定のイージス艦が24隻、

そしてもがみ型フリゲート22隻と後継艦2隻の計24隻が戦闘可能であり、

以上計64隻が日本の主力艦の全てである。

 

 一方潜水艦はと言うと、そうりゅう型以降を全て代替する

燃料電池式48隻の内36隻とこれに加えて米国から

空母のついでとばかりに退役したシーウルフ級攻撃原潜を購入し、

これを基に16隻建造予定の内4隻が今月から戦力に加わっている。

 

 今までの日本から考えれば、ちょっとでも攻めいった日には

「海に沈めてやる!」と言わんばかりの殺意満々の陣容である。

 

 一方韓国はと言うと、何とこちらも空母を持っていたりする。

どういう事かと言うと、対中国海軍対策として当初米国に建造を依頼したが、

「通常動力の空母の作り方なんか忘れちまったよ!」と袖にされ、

仕方がないので英国にクイーンエリザベス級を基に設計図を作って貰い、

自力で通常動力の中型空母3隻を建造したのだ。

 

 他の水上艦はと言うと、イージス艦は就役から30年超の

オンボロと化している某大王級3隻と追加で建造した改良型が3隻。

これに非イージス駆逐艦12隻とフリゲート24隻が全てである。

潜水艦はドイツ製から卒業して建造した国産潜水艦がたった16隻。

 

         日本   韓国

空母        4    3

巡洋艦      12    0

イージス駆逐艦  24    6

非イージス駆逐艦  0   12

フリゲート    24   24

原子力潜水艦    4    0

通常動力潜水艦  36   16

 

 これを纏めるとこうなる。はっきり言って、数も質も全く話にならない。

 

 当然空も似た様な物で、

日本は総勢千数百機もの戦闘機を全て第5世代機のF-35とF-3で統一。

F-35は金の力で米国からライセンス生産の許可も貰い、

日本が自由に生産可能である。

 

 万一米国から手の平返しを食らってライセンスを失っても、

代わりにF-3を作ればいいので、全く困る事は無い。

予算に余裕が出来たので整備面も盤石になり、

稼働率に限っては米軍を超えて世界一を達成し、常に8割が行動可能だ。

 

 一方韓国もF-35を20年以上かけて増量してはいるが、

やっと200機に達したばかりである。

しかも韓国は日本程信用されていないので

ライセンス生産は許可して貰えず全て米国からの輸入品である。

一応数の上の主力として国産戦闘機も作ってはいるが、

技術不足で性能に問題があり、本土防空が精一杯。

おかげで日本ではとっくに退役した第4世代機のF-15とF-16も

前線に引っ張り出さないといけない始末である。

 

 おまけに物量モンスターの中国が怖くて数を揃える事を最優先した結果

未だに整備を軽んずる風潮が改善できず、事故や故障は中々減らない。

ちょっと軍事の知識があれば「こんなの勝てる訳が無い」と言う事は明らか。

だが、それがわかっていない奴がいた。言わずもがなこいつである。

 

「しかし所詮、相手はネトウヨ・キモオタ揃いの弱卒であろう。

実戦経験者を有し、新兵ですら彼等が鍛えた精強極まりないわが国の兵士とは

士気も練度も比較にならないはずだ。」

 

「完全志願制の上、米軍が鍛え続けた旧自衛隊が前身の連中が

そこまで軟弱とは思えませんな。

実戦経験なら、災害派遣と言う形で毎年出動しております。

殺し合いだけが実戦とは言いませんぞ。」

 

「それだけではない!大統領はあの『暴走核弾頭』をどうする御積りか?

奴は最高位レベルの国家代表操縦者をも一蹴する鬼神…

我が国の代表、韓蛛俐(ハン・ジュリ)に勝ち目はあるまい!」

 

「ドイツ大会でジュリは織斑千冬(ブリュンヒルデ)と直接戦い、負けました。

それ以上の奴にどうして勝てましょうか?」

 

「某の孫の慧弦(ヘヒョン)も『あれは無理』と申している。

それでも戦えと仰せられるか?」

 

「では、どうしろと言うのか?!」

 

「もっと味方を増やしなさいませ!!米中…否、露に英仏、

安保理の全常任理事国の全面協力を得てからでも遅くは無い!!」

 

「それなら間違いなく勝てます!!今は時期尚早、開戦はまだ早い!!」

 

「左様、現状では必勝は期待できまい。今一度御再考を。」

 

 だが、金大統領は3大将の諫言を一笑に付した。

 

「フッフッフッフッフ…ウェハハハハハハ!!心配無用!!

我々には秘策がある!!これを見るのだ!!」

 

 金大統領はある文書を3大将に見せた。

 

「こ、これは…!!確かにこれが事実なら、一発逆転も夢ではない!」

 

「夢ではないのだが…果たして、そう上手く行きますかな?」

 

「左様、一度失敗しているのです。過信は禁物ですぞ。」

 

「心配するな。国際社会の支持は粗方得たのだ。

諸君等は黙って作戦立案に専念しておればよい。」

 

「「「………………。」」」

 

 3大将は互いに顔を見合わせると、観念した様に返答した。

 

「分かりました。大統領がそこまで仰るなら、最早何も言いますまい。」

 

「ですが、もしも暴走核弾頭にソウルに乗り込まれた場合、

我等は助けられませんぞ。それだけは、良く覚えて頂きたい。」

 

「そして何より、戦争は終わらせ方が肝心。そこだけは肝に銘じられよ。」

 

 3大将は敬礼して会議室を去って行った…。

 

「口うるさい奴らめ…黙って従っておれば良いものを。

事が終わったら『勇退』して貰わねばなるまい。それでは…作戦を発動しろ!」

 

「はっ!」

 

 果たして、金大統領の秘策とは…?

 

 

 

 そして、ここはニューヨークの国連本部大会議室。

 

「以上を以て賛成多数により、日本国が先の大韓民国の要求を拒んだ場合、

国連憲章第53条に基づき、賛成各国は反日大同盟を結成し、

武力制裁を仕掛ける事を決議します!!」

 

事務総長の声が会議室に響き渡る。

一体どうしてこのようになったのだろうか?何を血迷ったのか、

国連総会は韓国の対日要求を支持する道を選んでしまった。

 

決議に賛成票を投じた国の総数、何と150。

この場にいる全ての代表が賛成票を投じた事になる。

そして、もう一つ異様な点を挙げると、

韓国国連大使の席の近くにはなぜか道着姿の男が侍っていた。

 

「流石は先生!!まさかこれ程呆気なく丸め込むとは!!」

 

「うむ、我が力を以てすれば、造作もない事。」

 

 国連がこんな荒唐無稽な決議をしたのはこの先生なる者が

原因である事は間違いない。だが、どうやって?その詳細は、定かではない。

尚、安保理常任理事国と日独及び伊・加を含む残りの国は

棄権して会議室から立ち去ってしまい、この場にはいない。

 

「さて、向こうではそろそろ始まっているようですな。」

 

「うむ!」

 

 何が始まっているのかと言うと…

 

 

 

 

 

「そ、総理ー!!!」

 

「何事だ?!」

 

 大慌てで山口首相に駆け寄る秘書官。いったい何が起きたのか?

 

「緊急事態です!!武装蜂起です、東京で市民が武装蜂起しました!!」

 

「何ィ?!誰だ?!誰が首謀した!!」

 

「野党の各党首が結託して対韓即時降伏を訴え、

前代表操縦者の飯田少佐と前監督の倉林美也子を引っ張り出し、

更に極左市民団体と韓国系の住人が一致団結し、デモ行進を起こしています!!

 

「警視庁は何をやっているのだ?!」

 

「IS小隊は倉林美也子にやられました!!

機動隊及びSATも応戦していますが、

一部は我が方以上の武装している為、手が出せないとか。

更に、残った停職中のIS操縦者も行方不明です!!

そして、最も重要な情報ですが…警視庁の推定では

蜂起に加わった人数は、30万を下らないかと…」

 

「何だとぉぉぉおおおおおおおおおおおっ?!!!!」

 

 

 

 その頃、渋谷のスクランブル交差点では…

 

「戦争反対!!即時降伏!!」

 

 30万人のデモ隊のシュプレヒコールが響き渡る。

 

「国民の皆さん!!山口内閣は韓国の要求を宣戦布告と解釈し、

韓国に武力行使を仕掛けようとしています!!

この様な事が許されていいのでしょうか!!

 

山口内閣はこれまでにも、かつて彼らにして来た行為を償うどころか、

全てを虚構と嘲り笑い、とうとう国交を断絶すると言う

外交史上最悪の失態を犯しています!!

これ以上、こんな人間に政治を任せてはおけません!!

 

我々は!!武力を行使する資格のない民族である事を!!自覚するべきです!!

もし韓国が本気で戦争を仕掛けてくるのであれば、

お酒を酌み交わし、歌って、踊って、戦争を止めましょう!!

これこそが本当の抑止力で無いでしょうか!!

 

戦ってはいけません!!断固として対話での解決を目指すべきです!!

それが、戦争を引き起こして大罪を犯した者達の子孫である

我等の使命では有りませんか!!

私達は、未来永劫罪を償う義務が有る民族なのです!!」

 

 今やすっかり零細化した野党の代表者の演説に、デモ隊から歓声が上がる。

その為にクーデターをしている時点で矛盾しているが、

誰も気づいていないらしい。

 

「ここにはヒトラーの再来と化した山口内閣の犠牲となり、

国家代表を解任された飯田奈緒少佐も来ています!!」

 

 野党代表がマイクを奈緒に渡す。

 

「国民よ!!我々は今まさに岐路に立たされている!!

山口内閣は篠ノ之束の手先と化し、

その側近、彼の暴走核弾頭高町なのはを国家代表に指名した!!

 

一体どれだけの者が覚えているだろうか?

モンドグロッソ制覇最大の功労者、真宮寺一馬大佐の名を!!

彼の犠牲は決して無駄にされるべきではない!!

 

しかし、今度代表操縦者に指名された高町なのはは

事もあろうに大佐の遺影を踏み躙り、

篠ノ之束に至ってはISを汚した屑の中の屑と罵倒した!!

 

更にはIS道構想をも力づくで止めさせるなど、その所業は横暴極まりない!!

私は日本人として、篠ノ之束と高町なのは、

そしてこの2人にすり寄る山口内閣を恥ずかしく思う!!

 

今こそ、私達は篠ノ之束と高町なのは、

そして白騎士事件の実行犯、織斑千冬を…」

 

ズンッ…!

 

「?!!」「な、何が…?!」

 

 突如、セリフが止まってしまった。

何と奈緒の口からミサイルが生え、尻から口までミサイルで

「串刺し」にされてしまったのだ。そして…

 

KABOOOOOOOOOOOOOOOOM!!!

 

 直後、ミサイルが点火して飛び立つと上空で起爆し、

奈緒は機体諸共爆破四散。途端に交差点に悲鳴と怒号が響き渡る。

勿論、その一部始終は世界中に放送されている。

 

「な、何だ、何が起こった?!!」

 

「や、奴だ…奴がやったのだ!暴走核弾頭が、遂に動き出したのだ!!」

 

 慌てふためく反日大同盟。それが、日本の反撃の狼煙であった。

 

「た、大変です!!」

 

 突如国連職員が会議室に駆け込んできた。

 

「どうした?!」

 

「先程、米国中の放送局がジャックされました!!

恐らくは、他の各国も同じ状況下にあるかと…

そして、日本国天皇(エンペラー・オブ・ジャパン)が…

日本国天皇が全世界に緊急放送を行うとの事です!!」

 

「な、何だと?!」

 

 直後、国連の大会議室に巨大なホログラフモニターが出現。

モニターには当代の日本国今上天皇が現れた。

その表情は険しく、怒りを露わにしている事は誰の目にも明らかだった。

 

『この声が聞こえる全ての方々と、

国連総会に列席する全国連大使に御挨拶申し上げる。

朕が第12X代日本国天皇、■仁である。

 

朕はこの度、日本国政府の同意の下、日本国の元首として

先の大韓民国なる者共の言葉と、汝等の決定に返答する。

これより先、朕の言葉は日本国全国民の総意と解釈されたい。』

 

 今上天皇は一息つくと、声を張り上げて口上を述べ始めた。

 

『汝等は特権を人権と呼び、誹謗中傷と罵詈雑言を対話と呼び、

不都合な事実の指摘を差別、もしくはヘイトスピーチ等と呼ぶ。

日本語の同単語にその様な用法、意味は存在しえない事は明白であり、

日本語に対する無理解と非人間性を露わにした知性の欠如、真に軽蔑に値する。

 

更に、歴史、領土、文化、技術…枚挙に暇のないありとあらゆる点で

我が国に対する執拗で陰湿な嫌がらせを幾度となく繰り返す事甚だしく、

あまつさえ今日、国家としての独立を放棄させるに等しい

驕り高ぶった要求を突き付けた。

この人類史上稀に見る理不尽で事実無根な民族差別に対し、憤怒に耐えない。

 

しかし、生き残るのは、この世の真実だけである。

真実から出た誠の行動は、決して滅びはしない。

戦後98年、汝等民族の国家の所業により、多くの方々が犠牲となった。

しかし、彼等の無念や怒りは滅んでいない。

 

今だからこそ朕は明言する。彼等の無念が、怒りが、そして我等の悲しみが、

我が国にISの母、篠ノ之束博士を、初代ブリュンヒルデ、織斑千冬氏を、

そして暴走核弾頭、高町なのは氏とその専用機ヤマトを齎したのだと。

 

朕は大韓民国政府及び国民に問う。汝等は我が国に挑みたいらしいが、

彼女等を前に果たして滅びずにいられようか?

日本国は今回の要求を我が国への宣戦布告と解釈し、大韓民国に申し渡す。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朕  茲  ニ  戦  ヲ  宣  ス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『我々は最早平和主義国家ではない。

武力による国土と国民への侵害に対しては武力を以て応戦する。

これを往年の大日本帝国の復活、軍国主義への回帰と捉えるのは

全てこの言葉を聞いた者達の自由である。

 

我が国は最早汝等が我が国を如何様に思うかについて、配慮しない。

同時に、汝等の生命、財産、人権その他諸々について、配慮しない。

結果はどうあれ、このような要求には屈しはしない。これが回答である。

 

最後に日本国民の怒りを代弁し、大韓民国とその主張に賛同した全ての国家、

並びに、日本国と日本国民を憎み蔑む全ての者にこの言葉を送る。』

 

そして、この時今上天皇が述べた一言は後に

「史上最も単純明快にして、詩的で荘厳な宣戦布告の前口上」として

後世に語り継がれる事になる。

 

 

 

 

 

何ゆえ藻掻き、(Why do you)生きるのか?( struggle to live?)

 

滅びこそ、(My joy is thy)我が悦び。( destruction.)死に行く者こそ、美しい。(My beauty thy death.)

 

さあ(Come forward)( then,and…)

 

我 が 腕 の 中 で 息 絶 え る が 良 い ! !(DIE IN PEACE!!)




何と言う事、今上帝怒りの死刑宣告が下ってしまいました。
果たして、この狂乱の結末はどうなる…?
ええい、もうどうにでもなってしまえ!!!!

次回「第25話  世界よ、これが日本だ!」
西暦2043年10月16日、世界は暴走核弾頭を知る。


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第25話  世界よ、これが日本だ!

さあ、お待ちかね。暴走核弾頭三度目の大暴走です。
果たして、期待通りの暴走が出来るかな?

それでは通算第77話、始まります。



 韓国の理不尽な要求に、遂に三度起爆した暴走核弾頭、高町なのは。

束同伴で首相官邸に乗り込み、首相とO☆HA☆NA☆SHIの末

開戦を決断させると、全世界規模の電波ジャックを敢行し、

今上天皇の口から韓国への宣戦布告文を読み上げさせる暴挙に出たのであった。

 

「な、何て事を…」

 

 デモの名を騙る反乱軍の前に立ちはだかるのは、

ヤマトを展開した我等が暴走核弾頭。

手始めに反乱軍に与した前代表の飯田奈緒を

ミサイル串刺しで爆殺しているせいで、反乱軍は震え上がっていた。

 

「おかしいなあ…これから戦争って時に政治家が戦争に反対するなんて、

揃いも揃ってどうしちゃったのかなぁ?」

 

 普段よりも穏当な口調は、なのはが完全にキレている証だ。

 

「あ、あああああアナタ自分が何をしたのかわわわわわかってるのぉぉぉ?!

これは人殺しよ!!殺人罪なのよぉぉぉぉ!!!」

 

 零細野党の党首が詰問するが、なのはは一笑に付す。

 

「見て分からないの?敵を退治しただけなの。軍人の癖に

反戦デモの名を騙る反乱に加わる奴の扱いなんか、これで十分なの。」

 

「私達は対話による平和的な解決を求めてるのよぉぉぉ!!

こんな事絶対許される筈が無いわ!!誰かー!!警察呼ん…」

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 なのははショックカノンを発射。砲撃は反乱軍を直撃。

一瞬で無数の参加者が木端微塵に砕け散った。

たちまち阿鼻叫喚の地獄絵図と化す渋谷。

 

「ほげェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ?!!!」

 

「こんな格言を知ってる?『和平の使者は槍を持たない』。

IS操縦者が加わってるって事は…最初から武力行使前提なんだよね?

そんな集団なんかと対話すると思ってるの?黙って土に還るなら許すの。

さもなくば…」

 

 

 

 

 

 

 

 

P⌒*(◎谷◎)*⌒

 

少し頭冷やそうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおおおおおおおおお!!二次移行なのおおおおおおおおおお!!!」

 

 早速第2形態まほろばに移行。

 

「まずお前等から血祭りに上げてやるの!!」

 

 普段「お前」なんて二人称を使わないなのはが相手をお前呼ばわりしている。

それだけ、なのはは怒り心頭なのだ。そして、血祭りを宣言したその瞬間、

今上天皇の開戦演説の締めの口上が全世界中に流されたのであった。

 

 

 

 

 一方その頃皇居では…

 

『おいいいいい!!!手前ぇ、お上に何て事言わすんだぁああああ?!!』

 

 今上天皇の演説直後、通信で米田防衛相が束に詰め寄っていた。

何せ開戦演説の締めの口上が某RPG第3作目のラスボスの前口上だったのだ。

こんな物を流した日には世界中に日本が誤解される事請け合いである。

 

『陛下はどこぞの大魔王か?!今の締めの一文、

明らかにゾ○マの前口上だったよな?!!』

 

「そうだよ、だから何?!良いじゃない、ド直球で!!」

 

『良くねぇよ!!そのお方を誰だと思ってるんだ手前はよぉ!!』

 

 後ろでは山口首相が今上天皇に平謝り。もう滅茶苦茶である。

 

「誰って…父さんの大ボスでしょ?知ってるよ、神社の子だもん。」

 

『違う、そうじゃねぇ!』

 

「兎に角、日本の意志を誤解しようのない言葉ではっきり伝えたから

これで良いの!後は全力でぶっ潰すだけだよ!!

分かったら、早く連中の軍勢をぶっ飛ばす算段を立てに行ったら?」

 

『チッ、陛下からどんなお叱りを受けても知らねぇからな…!』

 

 米田防衛相は作戦指揮に戻る為通信を切った。

その後で、今上天皇は山口首相にぽつりと一言漏らした。

 

「総理、もしこの戦争に勝ったら篠ノ之博士と暴走核弾頭には

特例で大勲位なり国民栄誉賞なりできる限りの顕彰をしてやって欲しい。

その代わり、二度と皇居に入れさせない様に。

あれは子の教育に悪過ぎる。」

 

「確と…承りました。」

 

 案の定、今上天皇直々に皇居への出禁を食らった束となのはであった。

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

ダレカシネェェェェェェエエエエエエ!!!!!」

 

 一方渋谷では、大音量で「勇者の挑戦」を流しながら

なのはが反乱軍を砲撃で薙ぎ払っていた。

主砲、副砲は勿論、四連装機銃、ミサイル、近接グレネードと

ありったけの火器をぶっ放し、自律機動兵器コスモファルコンも

32機全機が逃げる反乱軍に機銃、ロケット弾、爆弾を乱射していた。

更になのはもレイジングハートを展開し砲撃魔法をぶっ放す。

 

「ぎぃえええええええ!!!」「だずげでぇええええ!!」

 

「どぼぢでぇぇ?!!どぼぢでごん゛な゛ごどずる゛の゛ぉぉぉぉ?!!」

 

 あっという間に反乱軍は阿鼻叫喚の悲鳴を上げて血肉すら残さず蒸発し、

30万人いた筈が僅か1分で10万人を割り込んでいた。

 

「ナンデナンダロォォォォォオオオオオ!!!!」

 

 更に対韓降伏を訴えた野党の本部ビルを根元からもぎ取ると、

滅茶苦茶に振り回して反乱軍を文字通り粉砕し、

用済みとなれば放り投げて退路を塞ぎ、逃げ場をなくした反乱軍ごと爆砕。

もうどっちが被害を与えているのか解った物ではない。

 

『ヒャッハー!!良いぞー!!やっちゃえなーちゃん!!

片っ端から吹っ飛ばして、後顧の憂いは無くしちゃえー!!』

 

 通信で見ていた束もノリノリだ。頭大丈夫か?

 

「うおおおおおおお!!!この平和主義者共!!!

お前等みたいなのがいるからいじめが起こるの!!

他人が苛められてても全力で見捨てるのを

良しとする風潮なんか作りやがって!!!

そんなに平和が欲しいなら、

武器を取って私に勝って見せるか、

自分の頭蓋骨毟り取って脳味噌くりぬいて

コップにして酒を注いでから言うのぉぉぉぉ!!」

 

「アーイーエー!アーイーエー!」「ごろ゛ざれ゛る゛ぅぅぅぅぅう!!!」

 

「ヤメロー!シニタクナーイ!シニタクナーイ!」

 

 今や1万人を割った反乱軍は発狂し、最早意味の通る言葉を言えない者も。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

これで終わりなの!!殲滅完了なの!!」

 

 なのはが右往左往する反乱軍に主砲を向けると…

 

「プピーッピッピッピッピッピッピ!!そこまでじゃこの殺人鬼が!!」

 

「おや?」

 

 どこかで聞いた事のある珍妙な笑い声。

そこにいたのは代表監督を追われ、逮捕されて公判中だったはずの倉林美也子。

 

「これを見るんじゃ!!」

 

 そこにいたのは中年の夫婦らしき2人組。

 

「ああ?誰それ?」

 

「あの犬畜生の両親じゃ!!」

 

「んん?両親…?あっ、ひょっとして…。」

 

『あああああっ!!父さん!!母さん!!何で!!どうしてぇぇぇぇぇ?!!』

 

 突如騒ぎ指す束、もう分かっただろう。そこにいたのは篠ノ之姉妹の両親、

父の柳韻と母の紅葉(クレハ)だった。

3年前、束が逃亡してから行方不明となっていた両親が

まさか向こう側に付いていた事に、束は仰天してパニック状態に。

 

「束ー!もうこんな事は止めろー!そんな風に育ったお前が恥ずかしいぞー!」

 

「もう止めてー!人の心が少しでも有るなら、これ以上罪を重ねないでー!」

 

『何で?!何で父さんと母さんが!!何これ?!!』

 

「プピーッピッピッピッピッピッピ!!どうじゃあ!!

貴様等の凶行を止めに親が来たんじゃぞ!!」

 

 どうやら篠ノ之夫妻は束となのはが政府と結託して

戦争を起こそうとしているのを止めに来たらしい。

止めたくもなる気持ちはわからないではないのだが。

 

「いくら貴様でも親には逆らえまい!!諦めて降伏すれば…」

 

 これこそが韓国の切り札の一つ。上下関係を重んじる儒の教えから考えれば、

親が戦いを止めろと言えば逆らいはすまい。

まして柳韻は厳格で知られ、剣を修めた達人。

拒否すれば雷を落として力づくで従わせることだってできるし、

やろうと思えば、人質にだって出来る。

まさか親に実力行使する程冷酷非道だとは思われたくない筈。だが…

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 なのはは有無を言わさず主砲を発射。篠ノ之夫妻を遥か彼方へ吹っ飛ばした。

 

「「アッーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」

 

「ナーアアアアアアアアアアアアアアアアア?!!人質兼交渉役がぁー!!」

 

「儒の教えから考えて、子が親には逆らったりしないと思ったの?

残念!束さんは無神論者だから、そんなのは信じないの!!」

 

「何でじゃ?!何で平然と吹っ飛ばせるんじゃあ?!!」

 

『違う!なーちゃんが勝手にやっただけ!なーちゃん、何て事するの?!』

 

「あんなのに惑わされてはいけないの!!」

 

『そうだけど、うちの親って厳しいから、後で滅茶苦茶怒られるよ!!』

 

「その時は、もう一回ぶっ飛ばす!!話はそれから聞いてやるの!!!

時間が惜しいから早速掛かって来るのぉぉぉおおお!!!」

 

「プピーッ!!こうなったら奥の手じゃ!!」

 

 奪い返した専用機正義丸を展開すると、両手の合金鞭人倫丸が多条鞭に変化。

 

「今こそ倉林サマの本気を見せてやるぅ!!キエエエエエエエエ!!」

 

 叫びと共に正義丸が発光、どこで習得したのか二次移行する様だ。

そして、光が消えると…

 

「どうじゃ!!これが倉林サマの真の切り札、第二形態『人道丸』じゃあ!!

これに弓を引くと言う事は、すなわち人道に弓を引くと同じィィィ!!!」

 

 4本の腕に多条鞭を携えた新たな姿、人道丸。この倉林、

正義だの人道だの人倫だのと常人が刃向い難い物の名を冠するのを好むらしい。

 

「そしてぇぇええええええ!!

これが攻防一体のワンオフ・アビリティ、邪獄陣じゃああ!!!」

 

 多条鞭を発光させながら超音速で振り回し、ドーム状の防御陣を形成する。

どうやら、あの光の正体はエネルギー光の様で、今倉林が振り回しているのは

エネルギー光に覆われたビーム多条鞭と言うべき状態になっている。

全方位を覆う攻防一体のワンオフ・アビリティは伊達ではないらしい。

 

「どうじゃあ!貴様等『邪』悪が地『獄』を見る

この無敵の防御『陣』、貴様に破れ…」

 

ゴシュッ…ビィィィイン!バギバギバギィ!!!

 

 無言で主砲を斉射。今までと違う砲撃音は最大出力の証である。

砲撃はビーム鞭をあっさりすり抜け、

全てのアームを一撃で吹き飛ばしてしまった。

 

「プッピィィィィィイイイイイイ?!」

 

「やっと二次移行できたみたいだけど、

その程度の性能でこの私に勝てると思っていたの?」

 

「ばばばばば馬鹿なぁ!!無敵の邪獄陣が一瞬で消されたじゃとぉぉぉ?!!」

 

「馬鹿だねぇ…まさかヤマトのワンオフ・アビリティを忘れたの?

ワンオフ・アビリティ活殺自在。

如何なる防御も素通りして、ターゲットだけを破壊する…。

本物の日本人じゃないから教えておくの。

日本ではね、そういうのを無駄って言うの。」

 

「こ、ここここんな馬鹿な事が有って堪るか!!

貴様等如き碌な親兄弟もいない様な…幸せになる資格のない畜生如きが

良い思いをして、世の中を好き放題にしおってぇぇぇ!!」

 

「自分を知るの。そんな美味しい話があると思ったの?お前みたいな人間に…

いや…人間のふりをしたケダモノ畜生が人類の模範面してるだけの分際で!!」

 

「なんてひどい野…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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無駄ァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤッダーバァアァァァァアアアアア!!」

 

 倉林は怒りの無駄無駄ラッシュで文字通りボッコボコにされ、

偶然にも置いてあったゴミ収集箱にシュートイン。勿論、収集箱には

「燃えるゴミは月・水・金」と書かれてあった事は言うまでもない。

 

「チッ…1万人近く取り逃してしまったの!!

早く補足して始末しないと…!!」

 

『おーい、暴走核弾頭!!聞こえるか?!!』

 

 追撃掃討に入ろうとしたなのはの元に、米田防衛相から通信が入った。

 

「……何なの?」

 

『渋谷の30万人は囮だ!残った韓国シンパの奴等は

前日までに機体を持ち出して韓国軍と合流してやがった!!』

 

「早速ぶっ潰すの!!!」

 

『待て!!もっと重要な事が有る!!

空軍の防空システムが弾道ミサイルを捕捉した!!数は25!!

標的は日本の全政令指定都市と長崎、呉、佐世保、横須賀、舞鶴だ!!

しかも海軍の主力は半数が韓国艦隊迎撃に出動して手一杯だ!!

残りと空の防空部隊に迎撃を命じたが、射ち漏らしが有るかも知れねぇ!!

すまねぇが、お前ぇさんも迎撃に手を貸してくれぇ!!』

 

「しょうがないの…手を貸すの!!」

 

 

 

 

 

 一方その頃対馬沖では…

対馬北方200km沖合を韓国艦隊が対馬に向けて進撃していた。

 

 旗艦は英国空母「QE(クイーン・エリザベス)」をパクリ…もとい模倣した

韓国初の空母「太祖李成桂(テジョ・イ・ソンゲ)」。そして同型艦「白凡金九(ペクポム・キム・グ)」「赫居世居西干(ヒョッコセ・ゴソガン)」の

計3隻を主力とする本格的な空母機動部隊である。

 

 これに護衛として「鴎波白貞基(クパ・ペク・チョンギ)級」イージス駆逐艦6隻、

安龍福(アン・ヨンボク)級」ミサイル駆逐艦12隻、潜水艦「元均(ウォン・ギュン)級」16隻が付き、

更に対馬占領の為海兵隊1個旅団が

強襲揚陸艦「鬱陵(ウルルン)島」級3隻を中核とする揚陸艦隊に乗り込んでいた。

 

「しかし、日帝…では無く、ネトウヨ・キモオタ海軍は引っかかりますかね?」

 

 旗艦「太祖李成桂」の艦橋では、前方の闇夜を睨み付けていた韓国提督に、

傍らにいた艦長が不安を示していた。

 

「我が国海軍の主力を全てかき集めたのだ、しかもご丁寧に揚陸艦隊付きだ。

どう考えても対馬占領目的の艦隊にしか見えまい。

これを無視する馬鹿などいるものか。」

 

「ですが、その揚陸艦隊の足の遅さは我等の足枷にしかなりませんよ。」

 

「文句を言うな。大体、奴等とまともに戦って勝ち目などあるものか。

敵の空母搭載数は、我が方の倍もあるんだぞ。」

 

「それは、よく聞かされました。しかし、無謀過ぎませんか…?」

 

「馬鹿言え。南北統一の英雄、3大将が練られた作戦だぞ。

あの方々の作戦に手落ちなどある物か。

だが、それを実行する我々が怖気づいたら何にもならん。

兵共に気取られない様にポーカーフェイスを維持しておけ。

ばれて士気が下がったら、責任問題だぞ。」

 

「はっ…。」

 

 3大将が立てた作戦はこうだ。

 

 まず、韓国主力艦隊+揚陸艦隊を対馬に差し向け、

日本主力艦隊の迎撃を誘い、防空能力を弱らせると、

その隙に隠していた弾道ミサイルで日本の主要都市を核攻撃。

 

 同時に空軍の攻撃隊が対馬の影に隠れて

日本側のレーダーの眼を掻い潜って近づき、

海空同時にありったけの対艦ミサイルを日本主力艦隊にぶつける。

 

 実戦と言う修羅場を潜り抜けた3人の猛者による、

肉を切らせて骨を断つ精密かつ大胆な作戦だった。

最悪の場合、韓国主力艦隊は撃滅されかねない。だが、それでも御釣りが来る。

 

「それに暴走核弾頭の事だ。あの凶暴さなら、

迷う事なくこっちに飛び付くに違いない。

その足止めの為にこうしてISも持ち込んできたのだ。そうだな、韓君?」

 

 提督が艦橋にいる女に声を掛ける。

そこにいたのは韓国代表操縦者、韓蛛俐(ハン・ジュリ)だ。

 

「おうさ!アイツにパリで泣かされた落とし前、

まさかこんな形で付けられるたぁ思わなかったぜ!

それに、ソウルはアンタ等を見捨てねぇよ、

その証拠にこうしてヘヒョンを送って来たじゃねぇか、なっ、ヘヒョン?」

 

「うん、任せてジュリ…全力を尽くすから。」

 

 もう一人の操縦者は琴慧弦(クム・ヘヒョン)

空軍参謀総長、琴全力大将の孫にして、ジュリに次ぐ実力者であった。

もし韓国が代表を2人持つことが許されたなら、

彼女が2人目に納まっていただろう。

 

「分かってんだろうな?暴走核弾頭との直接対決は、

お前の『全弦撤廃』が頼りなんだからな。

間違っても真っ先に飛び出すんじゃねえぞ。」

 

「ジュリもね…私が間合いに入る突破口、必ず開いてみせて。」

 

「わーってるって!まあ見とけ、やる事はきっちり…」

 

 と、ここで通信士官から報告が上がった。

 

「中将!早期警戒機から報告が!!日本…じゃなくて、

ネトウヨ・キモオタ艦隊発見しました!!」

 

「遂に来たか!!数は?!!」

 

「空母2、巡洋艦6、駆逐艦12であります!!」

 

「妥当な数だな…奴等も我等を捉えているに違いない!!

ここが正念場だ、空軍の攻撃隊にも一報を…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ─┼─┃┃

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 対馬沖に響いた轟音が何を意味するのかは、この時、誰も知らない。

その頃ソウルでは…

 

 

 

「分際を弁える!!これは人間の最も美しい美徳である!!」

 

韓国大統領、金道均(キム・ドキュン)が市街地で開戦の決定を伝える演説をしていた。

 

「古くからも『君を君とし、臣を臣とし、父を父とし、子を子とす』

という言葉が有る通り、常に各々が身分立場を弁え、

上下関係を遵守する事こそ、安定し、平和な社会は成り立つのだ!!

 

然るに!!その垣根を踏み躙り、今再び我等を侵略しようと

悪逆外道の日本、否、ネトウヨ・キモオタ帝国が牙を剥きだした!!

奴等は犯罪者の子孫で有りながら、さも自分は無辜であるかのように振る舞い、

軍事右傾化の限りを尽くし、歴史を歪め、同胞を差別し、

そして、ISなどという物を作りだした事で女尊男卑の風潮を創造し、

儒の教えを根こそぎ踏み躙ろうとしている!!」

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

 群衆からは狂気じみた歓声が上がる。

 

「思い起こすだけでも悍ましい!!帝国を率いる極東のヒトラー、

山口和豊は今年だけでも我々に何をしただろうか!!

国交を断ち(自業自得)、同胞を差別し(他の外国人と同じ扱いにした)、

入国すら許さないと公言した!!(皆で決めたのだから仕方ない。)

 

あまつさえ、教科書では今は亡き元慰安婦おばあさん達の悉くを

ペテンと決め付け、メディアの前で人間の屑の極致と公言して憚らなかった!!

そして今、奴等の王が何を語ったかを考えれば、奴等の本性は明白である!!

 

しかし、恐れる事は無い!!

民の望みそのものが力となる我が国の前では、

奴等が何を言おうと、それらは言い訳にしかならないのである!!

 

奴等のしている事は、人権の侵害であり、対話の否定であり、

差別である事は明白である!!誰がそれを決めるのか!!

我が国8000万の民の意志が、思いが、そうさせているのだ!!」

 

「そうだそうだー!!」「お婆さんの仇を取れー!!」

 

「正義は必ず勝つ!!」「ネトウヨ・キモオタ徹底粉砕!!」

 

「今こそ、復讐の時である!!今は亡き元慰安婦おばあさん達も、

薄汚いネトウヨ・キモオタ帝国に復讐する事を望んでいる!!

8000万人の大韓民国国民よ!!

共に立ち上がり、ネトウヨ・キモオタ帝国をやっつけましょう!!

国際社会は、常に私達の味方である!!大韓民国、万…(テーハミング・マン…)

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッゴォォォォォォォォオオオオオオオオン!!!

 

 突如ソウルに鳴り響いた轟音。一体何が起きたのか?

群衆が音のした方を向くと…

 

「ふ…ね…?」

 

 ソウル市民と金大統領が見た物、それは…

安龍福(アン・ヨンボク)級」の1隻が艦首を上に向けて、

元慰安婦達の眠る墓地が有った所に「突き刺さった」光景だった。

 

「だ、だ、だ、だ、大統領ぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!」

 

直後、伝令が金大統領の街宣車に駆け寄る。

 

「何事だ?!!今の事なら既に…」

 

「違います!!釜山から連絡が有りました…!!」

 

「釜山から?何だ?!!」

 

「読み上げます…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暴走核弾頭、釜山に上陸!!

()()()()()()で釜山を破壊中!!!」

 

 伝令が報告しながら見せたホログラフモニターに映っているのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオズギュルルルルルラアアアアイ!!」

 

 意味不明な雄叫びを上げ、()()()()()()()()()()()()()()()

釜山中の建物を叩き壊しながら北上するなのはの姿だった。

 

「あ、あ、あ…」

 

 

 

 

 

「アイゴオオオオオオオオオオオオーッ!!!!」

 

 ソウルの大通りに金大統領の絶望の悲鳴が響き渡った。




これこそ日本!と言う方も、
こんなの日本じゃないわ、NIPPONよ!と言う方も、
暇な方は感想お願いします。

韓国を馬鹿に書きすぎたかもしれないが、
今までの韓国の行動を考えると、もしもISが世の中に登場したら、
規模の大小はともかく、
絶対に日本にちょっかいを掛けてくると思うのは気のせいでしょうか?

次回「第26話  シン・ナノハ」
暴走核弾頭の怒りが、天地を薙ぎ払う。
真実(なのは)VS虚構(韓国)、決着の時は来た!!


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第26話  シン・ナノハ

さあお待ちかね。いよいよなのはの大暴走in韓国が始まります。
果たして、韓国IS隊との決戦の行方は?
そして、この茶番同然の戦争はどのような形で幕切れを迎えるのか?
それでは、通算第78話、参ります。


今話は今までの1話平均が5,200字程度の所、
計23,000字超の長文となっております。
また、なのはがいつにも増して狂ってしまい、
人道もへったくれもない所業を繰り返しております。
心してどうぞ。


 なのはが釜山に上陸する少し前の事…

 

『どうなーちゃん?ミサイルは見えてる?』

 

「見えてるの!!全25発、ハイパーセンサーにばっちり映ってるの!!」

 

 今なのはがいるのは東京上空2万m。

この高度なら、ヤマトのハイパーセンサーは日本全土を難なくカバーできる。

当然、弾道ミサイルもばっちり捕捉済みだ。

 

『ミサイルを全弾捕捉したのか?よし、それじゃデータを送ってくれ!

迎撃ミサイルで射ち落としてやる!!』

 

 米田防衛相が迎撃を命じようとするが、そこに束が割り込む。

 

『待った!!弾頭を壊したくないから、迎撃はなーちゃんがやって!!』

 

『ああ?お前ぇまたよからぬ事を考えてるのか?!』

 

『まあね、奴等には二度とこんな事起こさせない様に

それ相応の最期をくれてやらないと!』

 

『それ相応の…はっ、おい!止せ!それは流石にヤバい!!

それをやったら、国際社会が本当に敵に回っちまうぞ!!』

 

『どうせ今も敵みたいなものだよ!!なーちゃん、やれるよね?』

 

「造作もないの!!でも念の為に、データだけは送っておくの!!」

 

『よーし、なーちゃんやっちゃえ!!』

 

 なのはは改めてハイパーセンサーの画面に集中する。

画面には極超音速で向かってくる25発の弾道ミサイルが映っている。

なのはは慌てず騒がず、全ミサイルをロックオンすると…

 

「対空ミサイル、量子変換解除…遠隔部分展開!」

 

 直後、日本海上空に25の火花が咲いた。

弾道ミサイルの側面に対空ミサイルを遠隔部分展開して串刺しにすると、

そのまま遠隔操作で弾道ミサイル諸共爆破した。

 

「全弾撃墜…ざっとこんな物なの!!」

 

『よーし、ゴーレム隊に弾頭を回収させるよ!!』

 

『おい、レーダーの反応はなくなってるのか? 

…全レーダーに反応なし、間違いなく全弾撃墜を確認したんだな?

よし…こっちでも全弾の撃墜を確認した!協力感謝する!おかげで助かった!

で、これからどうするんだ?』

 

「早速韓国に殴り込むの!!その前に、韓国艦隊を吹っ飛ばしてやるの!!」

 

 なのはは対馬沖へワープ。早速韓国艦隊を発見した。

 

「さあ見付けたの!!

早速オブクラッシャァァァアアアアアア!!!」

 

 なのはは5基の三連装主砲を最大出力で韓国艦隊にぶっ放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ─┼─┃┃

/│\

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 対馬沖に5基15門の着弾の轟音が轟いた。

 

 

 

 

 

 一方韓国艦隊は…

 

「何だ!何が一体!!」

 

 突然の事態に韓国艦隊旗艦「太祖李成桂」の艦橋で韓国提督が慌てる。

 

「レーダーに新たな反応ありません!!この攻撃、まさか暴走核弾頭では?!」

 

「くっ、やはり来たか!!おい!IS隊に出撃命令を…」

 

 直後、司令部にジュリとヘヒョンが駆け込んだ。

 

「おいっ!提督さんよ、今のは何だったんだ?!」

 

「韓君か?今のは暴走核弾頭だ!!確認は取れてないが、

奴で間違いないだろう!!すぐに出撃してくれ!!」

 

「よし分かった、行くぞヘヒョン!」

 

「……! 分かった!」

 

 二人が司令部を立ち去ると、提督は部下に状況報告を命じた。

 

「被害状況はどうだ!!無事な艦はあと何隻いるか?!!」

 

「間もなく確認が終了します…確認取れました!!

安龍福級は2隻だけ無事です!!白貞基級も残っているのは1隻のみ!!

元均級と揚陸艦隊は、未だ被害なし!!」

 

「空母はどうした!!」

 

「『白凡金九』が艦橋を撃ち抜かれ、戦闘不能!!

ただ浮いてるだけの状態です!!」

 

「くっ、たった1撃でこの被害だと?!

これがISの力…やはり、通常兵器ではISには勝てん!!」

 

「どうします提督?この状況では我々はもう戦えません。

暴走核弾頭はIS隊に任せて退却しますか?!」

 

「くっ…逃げられるものなら逃げ出したいが…、

暴走核弾頭の背後からは敵の艦隊が向かってきている。

嵩にかかって攻撃して来れば、今度こそ終わりだぞ!」

 

「では、空軍に敵艦隊への攻撃を続行させましょう!

敵が空軍の対艦ミサイル攻撃に対処している隙に、

我等もミサイルを射つだけ射ったら反転して戦場から離脱するのです!

空軍にもミサイルを射ち尽くし次第、撤退する様に言っておきましょう!」

 

「それなら…まあ、良かろう。全艦に命令!

空母と揚陸艦隊は即時戦線から離脱せよ!対艦ミサイルを積んでいる艦は、

全弾発射の後、反転離脱しろ!」

 

「て、提督?!生存者の救助は行わないのですか?!」

 

「この状況で生存者などいるものか!今は我々が死なない事が優先する!!」

 

「……了解!全艦に伝えます!!」

 

 

 

 

 

 かくして撤退の準備を始める韓国艦隊、そして、上空では…

 

「とうとうこの時が来たな、暴走核弾頭!

パリで泣かされた落とし前、ここで付けて…」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「って、話聞く気ねえのかよ!!」

 

 なのはと対峙するのはジュリとヘヒョンに加え、韓国空軍IS小隊4機と

これに加えて束にすり寄ってなのはを国家代表に任じた山口内閣に叛旗を翻した

近接戦至上主義者15機の計21機。

かつてICPO-ICDと対峙した時の3倍である。

尚、ジュリとヘヒョンは専用機で韓国製第3世代機の「太極(テグ)」。

空軍IS小隊の操縦者は韓国製第2世代機「八卦(パルゲ)」に搭乗している。

 

「いくら暴走核弾頭でも、21対1で勝てると思うな!!やっちまえ!!」

 

 全方位から一斉に襲い掛かる韓国軍。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 最早発狂状態のなのはは全砲門とミサイル発射管を開き、最大出力で斉射。

放たれた砲撃はもはやビームでは無く、

まほろば本体を上回る巨大な青いエネルギー弾となり、

対空機銃ですら、通常時の主砲と同等の威力のビームと化して

偏向射撃で韓国側ISに襲い掛かる。

 

「くっそ、完全に頭がイカレちまったらしいな!!」

 

「これが、暴走核弾頭全力の弾幕…

これを掻い潜らなければ、私達は勝てない…ジュリ!!」

 

「ああ、やってやるさ!!」

 

 しかし、第1形態の時点で既に40機もの無人機を殲滅する悪魔の弾幕。

いかな国家代表と言えどもGの制限が無人機を下回る

有人機の回避は困難を極める。ましてや、一般操縦者は猶更だ。

 

「ほっぎゃあああああああ!!」「ぎぃええええええーッ!!」

 

 次々と被弾して、爆発四散する操縦者。

近接戦至上主義者にしてみれば、たった1機でこんな弾幕を張るISなど

想像の範囲外。とてもじゃないが、回避などできっこない。

 

「ちっ、弾除けにもなりゃしねぇ!

こりゃこいつを使わなきゃ突破できねぇな!!風水エンジン起動!!」

 

 ジュリの声に合わせて、左眼が発光した。

彼女はIS誕生前、ある理由で左眼を失明していたが、その左眼には今、

脳と直結する眼球型疑似ハイパーセンサー「風水エンジン」が嵌められていた。

 

「ハッハー!これで弾幕の軌道が丸見えだぜ!!付いて来いよヘヒョン!!」

 

「!! 分かった、全力で後に続く!!」

 

 風水エンジンの力でジュリの反応速度が増大。

怒涛の弾幕が見えているかのように躱される事に、流石のなのはも焦り始める。

 

「三式弾ぁぁぁあああ゛あ゛あ゛ん!!!」

 

 主砲を対空榴散弾に切り替え、機関銃の如く連射。

悪魔の殺人花火がジュリ達を襲う。

 

「こんなのまで有るのか?!丁度いい、こっちも射程に捕えたぜ…そーら!!」

 

 ジュリはなのはに接近しながら、突然何も無い空間に連続蹴りを放つ。

すると、専用機「太極」1号機の脚先から衝撃波が飛び出した。

これこそ太極の主兵装「風破刃」。

中国製の見えない衝撃砲「龍咆」を参考にした飛び道具で、

テコンドー金メダリストのジュリに相応しく、

蹴りを繰り出す事で衝撃波を発生させる。

無数の衝撃波は迫りくる散弾を弾き飛ばし、散弾同士の衝突で空間が大爆発。

 

「そらそらそらぁ!!どうした暴走核弾頭!!こんな弾幕屁でもねぇぞ!!」

 

「!!!」

 

 弾幕を弾きながら向かってくるジュリに一瞬驚くなのは。

そして、こういう時に限って良くない事は重なる物である。

 

『なーちゃん、大変だよ!!さっきなーちゃんが落とした弾道ミサイル、

全部通常弾頭だったんだよ!!』

 

「なのっ?!」

 

 間の悪い事に束から通信が。さっきなのはが迎撃した弾道ミサイルは

全て核弾頭では無かったのだ。そしてなのはが束の連絡に気を取られた事で、

一瞬だけ機体の入り込める隙が出来た。

 

「…今だ!!」

 

 すかさず瞬時加速で迫る2機。遂に有効射程に入った。

国家代表が無人機との差を見せつけた瞬間だった。

 

「今だー!ヘヒョォン!!やれーっ!!」

 

「分かった、全力で行くよ…『全弦…撤廃』!!

 

 ここでヘヒョンが専用機「太極」2号機のワンオフ・アビリティ

「全弦撤廃」を発動した。

 

「?!」

 

 一見、何も起らない。しかし全弦撤廃の効果は確実になのはを捉えていた。

 

「なのは、たいへんなの!ばりあがきえちゃったの!!」

 

 ヤマトからバリア消失の警告が。更に…

 

「弾幕が…消える?!」

 

 これこそが全弦撤廃の効果である。その詳細は

「対象のエネルギー攻撃及び防御とワンオフ・アビリティの効果を消し去る。」

常に全力の格闘戦を求めるヘヒョンならではのワンオフ・アビリティであった。

 

「!!! 主砲の攻撃が消される…チッ、ならばロケットアン…」

 

「隙を見せたな!!」

 

 自慢の火力の大半を消された事で戸惑うなのは。

その隙に、ジュリが間合いに入った。

 

「捉えたぜ!!これで手前の出番は終わりだ!!そら行くぞぉ!!」

 

 ジュリはなのはに連続回転蹴りを掛けつつ上昇、昇り切った所で踵落とし。

 

「ぐっ!!むっ、むっ!!」

 

 更に落下するなのはを追い抜いて急降下すると、背後から追撃のハイキック。

 

「効いただろ?これがアタシの奥義…回旋断界落だよっ!!」

 

 なのはを支えていた脚を振りおろし、海面へと叩き落す。

そして、その落下地点にはヘヒョンが待ち構えていた。

 

「これでトドメを刺す!!ジュリ、全力で合わせて!!」「任せろ!!」

 

 太極2号機の両手から手の形をしたオーラが展開される。

 

「くっ、ワープで回避を…」

 

「させない!!全力で決める!!阿羅漢…三千掌!!」

 

 落下しながらワープで逃げようとしたなのはの機先を制し、

ヘヒョンが瞬時加速しながら両手で掌底突きをぶちかます。

 

「ぐは!」

 

 跳ね上げられて体勢を崩すなのは。

 

「これで…」「終わりだ!!」

 

 そして、ジュリとヘヒョンはトドメを刺すべく全力の一撃を放った。

 

「殺界…風破斬!!」「神弓…調伝丸!!」

 

ズッドオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

 上からジュリの最大奥義、「殺界風破斬」の衝撃波、

下からヘヒョンの「神弓・調伝丸」のエネルギー弾がなのはを直撃。

なのはは火に包まれて海に墜落した。

 

「やった…やったぞ!!」「暴走核弾頭に…勝った!!」

 

 歓喜するジュリとヘヒョンのコンビ。

こちらも空軍IS小隊と近接戦至上主義者が全滅と甚大な被害を出した。

もう残ったのは2機しかいない。だが、敵の最高戦力を倒したのは事実だ。

 

「さて、長居は無用だ!!『太祖李成桂』に連絡して、撤収するぜ!!」

 

 そして、撤退中の太祖李成桂の艦橋では…

 

「提督、ハン・ジュリから報告です!!」

 

「何?…よし、繋げ!」

 

『提督、聞こえるか?!こちらジュリ!!暴走核弾頭は撃墜した!!

映像を送るぜ!!』

 

 ジュリが送って来た映像には、火達磨になって墜落するなのはの記録映像が。

そして、海上からは今も黒煙が立ち上っている。

 

「こ、これは…本当に、撃墜できたのか?!」

 

『ヘヒョンの全弦撤廃でバリアを消し去った上で、

アタシ等の最大の技をぶちかましたんだぜ!!

これで生きてたら、もうISじゃなくて化け物さ!!』

 

「…そうか…やったのか…!やったぞ(ヘネッター)!!

皆見ろ!この映像を!!ネトウヨ・キモオタ帝国の切り札、

暴走核弾頭は海に沈んだ!!我々は、暴走核弾頭に勝ったのだ!!」

 

万歳(マンセー)!!」「万歳(マンセー)!!」「万歳(マンセー)!!」「万歳(マンセー)!!」「万歳(マンセー)!!」「万歳(マンセー)!!」

 

 周囲から口々に万歳の声が巻き起こる。我々は敵の最高戦力に勝ったのだ。

民族の悲願、日本への復讐実現の大きな一歩を遂に踏み出したのだ。

 

「すぐにソウルに報告!!内容は、『我、暴走核弾頭を撃墜せり』だ!!

それと、生き残ったIS操縦者は直ちに帰還する様に伝えろ!!」

 

「了解!!直ちに通信…を…!!!!」

 

 突如言葉を詰まらせる通信士官。彼はとんでもない物を見てしまったのだ。

 

「おい、どうした…!!!!」

 

 提督が通信士官の視線の先に目をやると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

やあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのは、紛れもなく撃墜した筈のなのはだった。

しかし、機体はジュリとヘヒョンの攻撃でボロボロになり、

砲塔も3つ程欠落し、追加アームに抱えている状態だ。

 

「「「「「うわあああああああああ!!!」」」」」

 

 まさかの生還に一同騒然、艦橋は上を下への大騒ぎ。

 

「ば、馬鹿なーっ!!奴は確かに撃墜された筈だ!!なのに、何故…」

 

 確かにそうだ。絶対防御以外の防御が出来なくなった状態で

国家代表とそれに準ずる実力者の最大の一撃を食らって、何故生き延びたのか?

 

「このまほろばのSEに60万超のダメージを与えたのは見事。大した物なの。

でもね…まほろばのSEは100万まであるんだよ。」

 

 何と言う事。なのはは単純なSE量のみを以て2人の攻撃を耐えきったのだ。

RPGに例えれば、「防御力を0にされたが、HPが豊富だったので助かった」

と言う事だ。

 

「もう分かったよね?あれで仕留められなかった以上、

もう勝つのは諦めてね。さて、それじゃお礼をしてあげるの…」

 

 そして、なのはが死の宣告を下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤマト…三次移行(サードシフト)ぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後、ボロボロのまほろばが発光。

光が収まった中から現れたのは、更なる異形と化したヤマト第3形態であった。

 

「あ、悪魔だ…」

 

 その背中からは悪魔の如き新たなスラスターウイングを生やし、

片翼の上下に1基ずつ4連装機関砲が取り付けられている。

 

 元の船型スラスターウイングもより大型化し、ショルダーアーマーの如く

肩の後ろに水平に取り付けられ、4連装と化した副砲は4基に増えていた。

 

 下半身は8基の四連装機関砲が備えられた

長さ3mものアーマースカートにより、脚部パーツが完全に覆われていた。

 

 頭部も兜型バイザーの頭上、三方を向いた憤怒の面が2段重ねに増え、

アーマーで覆われたなのは自身の手にはなのはの相方、

レイジングハートエクセリオンモードが内蔵された長槍が握られていた。

 

 そして、最大の特徴は…

 

「手…?」

 

 本体の両脇に浮遊するのは、2つの巨大な手。

目一杯指を広げれば、その差し渡しは優に5m。

指先からは口径12in、メートル法で言う304.8mmもの

ビーム砲の砲口が覗いていた。これぞヤマト第3形態の主砲、

マニピュレーター型五連装12in光学砲。その名は「L・彼岸手(エル・ヒガンテ)。」

 

 そこにいた者を言葉にするのに、最早悪魔では足りない。

魔王、いや、大魔王というべき真の怪物がそこにいた。

 

「これがヤマト第三形態、その名は…『大魔王ナノリオン』!

さあ覚悟するの。こうなった私は…前程優しくないの。」

 

 ここでジュリとヘヒョンも艦隊と合流。生きていたどころか、

異形と化したヤマトにたじろぐ2人。

 

「おいおいおいおいおい!!何で生きてるんだよ!!

しかも、形が全然違うじゃねぇか!!!」

 

「私達の全力の攻撃が…形態移行を招いた?!あ、在り得ない!!」

 

「そこの2人…」

 

「「(ビビクッ!!)」」

 

「まずお前等から血祭りに上げてやる…。とっておきなの!!」

 

 L・彼岸手の計10門の12in砲が一斉に狙いを付ける。

しかし韓国側にはビーム無効化能力、全弦撤廃が有る。

 

「させない!!全力で防ぐ…全弦撤廃!!」

 

 再びヘヒョンが全弦撤廃を発動。これでビームは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ─┼─┃┃

/│\

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………は?」

 

 最初の一撃と違わぬ轟音と共に、青い10条のビームが対馬沖上空を貫く。

光が消えると、そこにいた筈のヘヒョンと太極2号機はいなかった。

 

「あ、あれ?ヘヒョン…?おい、ヘヒョン!どこに行っちまったんだよ!!」

 

「ヘヒョン?それがさっきの鬱陶しいワンオフ・アビリティの使い手の名前?

なら、もう諦めるの。たった今死んだの。消えて無くなったの、蒸発したの。」

 

「んだとぉ…?!」

 

「全弦撤廃だっけ?エネルギー系の効果を消し去るんだ。確かに強いと思うの。

でもね、そんな物出力の差で押し切ってやったの。」

 

 ワンオフ・アビリティを通常攻撃で押し切り、

一国のナンバー2の実力者を瞬殺した。淡々と語るなのはを前に、

漸く事の重大さを把握したジュリ。彼女が取る行動は一つしかなかった。

 

「手前ぇ…手ん前ぇええええええええええ!!!」

 

 これ以上ない程の怒りと共になのはに飛び掛かるジュリ。

 

「手前の面に殺界風破斬を嫌と言う程ブチ込んでやるよぉ!!!」

 

 もう一度殺界風破斬の衝撃波を放つジュリ。

しかし、怒りの一撃はL・彼岸手に難なく阻まれた。

 

「そんな攻撃は受け付けないの。それと、大事な事を言っておくけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

L・彼岸手は8基あるの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジュリのハイパーセンサーには、3~7基目の

L・彼岸手に艦橋を射抜かれて沈黙した韓国残存艦隊と

8基目のL・彼岸手が背後から掴みかかるのが見えた。

 

「では…アンニョンヒカセヨ(さようなら)。」

 

グ  シ  ャ  ア  !  !  !

 

 こうして、対馬沖上空で生きているのはなのはだけとなった。

 

「さて…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「韓国ゥゥゥウウウゥァア゛ア゛ア゛ーッ!!!」

 

 怒りが爆発したなのは。もう誰も止められない。

韓国に怒りの審判が下る時が来た、来てしまった。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 ヤマトが雄叫びを上げると、信じられない行動に出た。

何と艦橋を破壊されてスクラップと化した安龍福級を

L・彼岸手で持ち上げた。そして…

 

「挨拶代わりなの!!この…ブタヤロウ!!!!」

 

 投げた。

全長150m超、満載排水量7000tを超える駆逐艦が、

たった1機のISの腕力で、対馬沖上空へ投げ飛ばされた。

直後、投げ飛ばされた船体は瞬間物質移送光線により、

なのはの眼前から消失。ソウルに転送され、

元慰安婦の集合墓地の真上に墜落した。

 

「覚悟するの韓国…全国民の愛する物を消し去り、

無に帰してくれるのぉぉぉぉぉぉおおおお!!!」

 

 なのはは怒りに任せて、戦闘不能になった3隻の李成桂級を

L・彼岸手2基ずつで持ち上げると、ヤマトワープ。

行先は釜山。南から順番に、韓国中を破壊しつくす。

行く手を阻むなら米中露だろうが、IS学園だろうが、

日本だろうが同じ目に遭わす。そして、なのはは釜山上空にワープアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

 暴走核弾頭、高町なのはが全世界に名乗りを上げた瞬間だった。

 

 

 

 なのは釜山上陸の知らせがソウルに届いたのは、その2分後の事だった。

 

「何なのだ、これは!どうすればいいのだ!」

 

 安龍福級が降って来た事で、ソウルは今や驚天動地の大混乱と化していた。

 

「に、日本軍だぁ!日本軍がやってくるぞー!!」

 

「この世の終わりだぁあああ!!」「もうダメだぁ…お終いだぁ!!」

 

「韓国\(^o^)/オワタ」「嫌だー!死゛に゛だぐな゛い゛ー!!」

 

「ひゃははははは!きゃはははははっ!死ぬ、死ぬんだ!!」

 

「皆殺されるんだよっ!あっははははははは……!!」

 

「日本軍に、日本軍に殺されるー!!」

 

「お母ぢゃぁぁああん!!怖いよぉぉおおお!!」

 

 徹底的に見下した呼び名で呼ぶのも忘れて、

日本防衛軍の襲来と勘違いした市民が右往左往。

更に追い打ちをかける様に、韓国全土にある曲が流れ始めた。

 

「な、何だ、この音楽は!」

 

 それは伝説の特撮シリーズ、ゴジラの初代テーマ曲。

ゴジラに立ち向かう旧自衛隊のテーマ曲でもあったそれが、

今まさに本来の意味通り、日本に仇成す者と戦う為に流されている。

そして、韓国中の通信システムがジャックされ、映像が切り替わると…

 

『韓国ゥゥゥウウウゥァア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!

カーンーコークゥウゥァア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!

殺しに来たのォォォォオオオオオオオオオ!!!』

 

 怒りが頂点に達したなのはのどアップでの血の叫びが韓国中に響き渡る。

 

「「「「「うわあああああああああああああああああああああ!!!」」」」」

 

 最早韓国全土がパニックになっていた。

彼等に出来る事と言えば、ただ逃げ惑い、許しを請うだけだった。

そして、許しなどそこには全く無かった。

 

「オオオオオズギュルルルルルラアアアアイ!!」

 

 意味不明な雄叫びを上げ、満載排水量6万t超の李成桂級で眼前を薙ぎ払う。

逃げ惑う市民、捨てられた車、立ち並ぶビル群が一振りで木端微塵と化す。

 

「ギャア゛ア゛ア゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」

 

 なのははそのまま空母を振り回し、まるで小枝を振っているかのように

釜山中の諸々を薙ぎ払う。直撃を受けたビルが粉砕されて破片と化し、

周囲をさらに破壊していく。

 

 市民は今、どうしてこんな事になったのか全く理解できないだろう。

国際社会をどうやってか味方に付けた今なら、

日本など虫ケラのように倒せると思い込んでいた筈だ。

だが、自分達はその虫ケラに踏み潰され、敗れ去り、死のうとしている。

だが、なのははそのまま死ねばいいと思っていた。

 

 なのはは知っている。今吹き飛ばした市民に戦闘力は無い。

唯の人間であり、武器を持っていない非戦闘員であると。

しかしそれは攻撃しない理由にはならない。

何故なら韓国は国民情緒こそ憲法と明言したからだ。

 

 即ちこの戦争を起こす事は、全て国民1人1人の意志で決定したと言う事だ。

ならば何処の国民であろうと、国民の総意で他民族の絶滅を企てた以上、

その結末は死以外にはない。彼等に下す罰は一つ。

己が為そうとした事を、己の身に味わわせるのみ。

 

 まず釜山という都市そのものを殲滅する。

韓国第2の都市を破壊し尽くし、二度と再建できなくする。

それが終わったら、半島中の主要都市を同じ目に遭わせる。

 

 誰かが止めようとするのなら、止めに入った奴も同じ目に遭わせる。

それが他国なら、他国も同じ目に遭わせる。

その結果世界が滅ぶなら、それでよし。

世界全体がその程度の価値しかなかったと言い張れば全て終わる事だ。

 

「韓国ゥゥゥウウウゥァア゛ア゛ア゛ーッ!!!」

 

 今度は残った2基のL・彼岸手の12in五連砲を照射。

最大出力のビーム直径はもはや砲の口径を遥かに上回り、

射線上に本来の決戦兵器、波動砲さながらの破壊と死を齎す。

照射しながら薙ぎ払う事で、あっという間に釜山市街地は半分が蒸発。

アスファルトの下の土がむき出しとなり、マグマの如く融解していた。

しかし、韓国側も黙ってはいない。

 

「暴走核弾頭、射程に入りました!」

 

「よし!全部隊、在るだけの弾を撃ち込めー!!」

 

 既に臨戦態勢を整えていた為か、

釜山に待機していた陸軍1個師団がなのはに攻めかかった。

 

 主力は主要国MBTの主流である140mm電磁砲を搭載した

最新型無人砲塔戦車、K3「天豹」とK3と同型砲に換装した

旧式戦車K2「黒豹」の改良版、K2A2。

その後方からは自走砲K9とその後継の次世代自走砲K13が

155mm榴弾砲から誘導砲弾をあるだけ射ちまくる。

 

 上空からも戦闘ヘリの対戦車ミサイルを初め、

戦闘機からロケット弾、対地ミサイル、クラスター爆弾と、

ありとあらゆる兵器がなのはに襲い掛かる。

 

「おら!!」

 

 しかしなのはは李成桂級を振り抜き、難なく攻撃を撃ち返す。

弾き飛ばされた砲・爆弾は半壊した市街地や路上に直撃し、

市民を木端微塵に粉砕していく。

 

 なのははヤマトワープで間合いを詰めると、もう1隻の一撃で薙ぎ払う。

張り飛ばされた50t超の戦車がホームランボールのごとく飛び去り、

ビル群に激突して大爆発。後にも先にも、MBTがホームランされて

ビルに激突するというのは戦史上唯一の事だろう。

 

 ダメ押しとばかりに残った戦車もL・彼岸手で掴み、後方に放り投げた。

戦車は自走砲に激突し、大爆発。周囲の自走砲も誘爆し、あっさり全損した。

しかし、これで終わりではない。

 

「ISも無しに…!」

 

 なのははL・彼岸手2基の主砲でトドメを刺しにかかる。

しかし、今度は砲口がプリズムで塞がれている。

1門あたり256方向にビームを拡散させる特殊量子プリズムだ。

 

「挑んでんじゃ…!」

 

 マルチロックオンシステムは形態移行により装置自体の数が増え、

今ではL・彼岸手1門につき1つが備えられる。

つまり、40門全て使えば最大で256×40=10240目標を攻撃可能だ。

そして、悪魔の一撃は放たれた。

 

「ねえええええええええええええええええ!!!」

 

 2基のL・彼岸手から発射された計2560の光線が残存部隊を直撃。

釜山の守備師団は一兵残さず即死し、殲滅された。

更に光線は防衛線を貫通し、釜山の残った半分の市街地も直撃。

 

 こうして、なのは上陸から僅か10分、たった600秒の攻防で、

韓国にとっての横浜と言うべき朝鮮半島第2の都市釜山は

3百数十万の全市民と陸軍1個師団を道連れに死んだ。

 

 

 

 

 

 その頃、ソウルに隣接する韓国第3の都市仁川では…

 

「こ、これが…我が国が日本にしてきた事の代償とでもいうのか…!」

 

 南北統一の英雄にして、韓国軍の最高幹部である3大将は

ここで作戦を立案していた。

 

「やはり、暴走核弾頭の力は圧倒的過ぎたか…!」

 

 陸軍参謀総長、金甲煥(キム・カッファン)大将が絞り出す様な声で呟いた。

モニターの中では先程までなのはが釜山を破壊して回っていたが、

カメラが破壊された為、今は砂嵐しか映っていない。

 

「こんな事なら、先人に倣いクーデターを起こしてでも

大統領を引きずり下ろすべきだった!もう、韓国は終わりだ…

一時の国民感情で戦争を引き起こす国に成り下がった以上、再建は出来まい。」

 

 主力艦隊を破壊し尽くされ、まともな戦力を喪失した海軍参謀総長、

全勲(ジョン・フーン)大将も反対意見を徹底しなかった事を悔やんでいた。

本来3大将は戦争には絶対反対の立場だった。

どう考えても韓国は日本には敵わない。

旧自衛隊時代ですら勝ち目など全く無い事は歴代の指導部も知っていた筈だ。

勿論それ以上の戦力を備えた今では、戦いを挑む事すら夢のまた夢。

 

 だが、戦いを望む圧倒的多数の国民の声を背景に大統領が命令を下した以上、

命令に従う他無い。故に、これまで培った情報、実戦経験、スパイ網を駆使し、

最善と言える作戦を立てた積もりだった。

 

 しかし韓国には2つの誤算が有った。

一つはまさか日本があそこまで迅速に戦争を決定した事。

もう一つは、武器を持っていない市民まで容赦なく蹂躙するなのはの凶暴さを

予測できなかった事だ。

 

「起きてしまった物は仕方あるまい。これから先、某等が為すべきは、

いかにして始末をつけるかだ…。」

 

 ヘヒョンの祖父で空軍参謀総長、琴全力(クム・ジョンリョク)大将はこう言っているが、

その実、どうやったらあの悪魔を止められるか全く見当もつかない。

 

「せめて一矢は報わねばならん。このまま完敗となれば、

二度と我が国は立ち直れん。

我等は人類史上のあらゆる貧困国以下に落ちぶれよう。どうした物か…」

 

「失礼します!全提督、報告が入りました…。」

 

 ここで全提督の部下が報告書を持って来た。受け取った報告の中身は…

 

「全力翁…部下から報告が入った。残念ながら、お孫さんは…」

 

 全提督の部下が報告して来たのは、ヘヒョンとジュリ以下、

全IS操縦者の戦死を確認したとの報告だった。

 

「ヘヒョン…!おお、何たる事だ…!」

 

 孫娘の戦死の報に膝を付く琴将軍。

 

「全力翁…心中、最早察するに余りあります。」

 

「ジョン、ヘヒョンがやられたと言う事は…」

 

「……………そうだ。」

 

「くっ…ジュリッ!まさかお前までが…!」

 

 金将軍もがっくりと項垂れた。彼はジュリのテコンドーの師匠でもあった。

 

「このままでは終われん!見ておれ暴走核弾頭!

必ずや、孫の後を追わせてくれようぞ!

(ヘヒョン、仇は必ず爺が取る故…どうか、見届けてくれい!)」

 

「「応!」」

 

 

 

 

 

 

 なのははゴジラのテーマを流しながら、ソウルへの進撃を続けていた。

道中にある都市は、片っ端からL・彼岸手の砲撃と鈍器と化した空母で

融けかけた更地に替え、市民も生きたまま一瞬で荼毘に付していく。

 

「ッダロガケカスァアアアアアアアアアッ!!!」

 

 空母を振り回し、8つの手の悪魔が吼える。

6万t超の鉄塊が振り回される度に、幾万もの兵士、火砲、装甲車、戦車、

諸々の兵装が炎と血肉の花と散る。

 

 そうかと思えば、今度は本体に備わった4基の57mm四連装砲と、

12基の20mm四連装機銃から一斉にビームを発射。

無数の戦闘機と戦闘ヘリが発射されたミサイル諸共粉砕され、

無惨に散っていくが、その後方から、矢の雨の如くロケット弾が降り注ぐ。

 

 これらは旧北朝鮮製で、自国製のロケット砲より優れている為、

韓国が自国仕様に改修した自走ロケット砲から発射されていた。

これも空母で振り払うが、数が多すぎた為、船体が穴だらけになり、

鈍器の要を成さなくなってしまった。

 

「ナマルベッケロアァアアアアアアアアッ!!!」

 

 しかし、なのはは空母を放り投げると、

瞬間物質転送器でロケット砲の戦列の真上に転送。

遠隔部分展開した近接グレネードで弾薬庫を爆破し、

1000tでは済まされない弾薬を誘爆させ、一撃で壊滅させてしまう。

そして空母が1隻破壊されたと言う事は、

その分自由になったL・彼岸手が増えると言う事に成る。

 

「ッスケガダラァアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 4基のL・彼岸手で更に反撃するなのは。

20門の12in砲から放たれた青い閃光が防衛線を抉り、

有象無象の区別なくその光に触れたが最後、いかなる物体も蒸発し消え去った。

 

 こうして、あっという間にまた1個師団が消えてしまった。

韓国は陸軍だけで日本防衛軍全軍を超える兵数を持っていたが、

陸軍の移動速度ではISに追いつけるはずもなく、

進路上の師団を逐次ぶつけるという下策しかとる事が出来なくなっていた。

 

 そして、破壊の限りを尽くした進撃の末、遂になのははソウルに到着した。

その視線の先には韓国一の高層ビル、高さ555mを誇る

第2ロッテワールドタワーが聳えていた。

 

 目障りだったので早速空母で叩き壊そうとしたが、

持ち上げた所、船体が折れてしまった。

鈍器代わりにして都市と言う都市を破壊しつくした結果、

李成桂級空母はすっかりボロボロになっていた。

こうなってはもう使い物にならない。なのはは2隻共「返品」する事にした。

 

「返品の時間だオラァアアアアアアアアン!!!」

 

 なのはは空母の残骸をソウルに投げつけ、転送するやグレネードで爆破した。

それと同時に、ソウル中から続々と反撃の砲火が浴びせられる。

陸軍最精鋭、猛虎師団こと首都機械化歩兵師団がソウルで待ち構えていたのだ。

戦車は只管電磁砲を射ち捲り、ヘリからはミサイルとロケット弾が降り注ぐ。

 

 対北朝鮮戦に備えて設置され、統一達成後も残されていた

アメリカ製の長距離レーザー砲台もそれに続いて砲撃を仕掛ける。

歩兵も一矢報いんと果敢に対戦車ミサイルを四方八方から射掛けてくる。

更に、空軍も戦闘機からミサイルやロケット弾、各種爆弾が降り注ぐ。

 

 

 

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 勿論、全く効かなかったばかりか、

L・彼岸手の砲撃一発で殲滅されたことは言うまでもない。

しかし、直後になのはの周囲も大爆発。

磁石に吸い寄せられる砂鉄の如く全方位から陸軍の猛攻がなのはに殺到する。

 

「撃て!撃て!暴走核弾頭を少しでも足止めして、時間を稼げ!!」

 

 ソウルには金将軍の意向で、首都機械化歩兵師団を指揮下に置く

陸軍第7機動軍団総勢10万人が事前に集結していたのだ。

かつて旧北朝鮮との統一戦争で最も活躍した軍団であり、

当時、金将軍はこの軍団を率いていた。

 

 全方位から電磁砲、ミサイル、ロケット弾、レーザーが襲い来るが、

三次移行した結果SEが200万に増大し、

バリア出力も跳ね上がったなのははびくともしない。

 

 再び8基のL・彼岸手が全方位に展開され、エネルギーをチャージする。

8基とも砲口を量子プリズムで塞いだ拡散ビーム形態だ。

更に副砲と対空機銃も量子プリズムで砲口を塞ぎ、

拡散形態で全方位に向けられる。

 

「ンドゥオッッゴルルァラアァァァァァァ!!!」

 

 雄叫びと共に全方位に光線を発射。全方位に放たれた光線の合計は、

主砲40門から10240、副砲16門から4096、

及び対空機銃48門から12288の計26624条。

その全てが偏向射撃で標的をロックオンしている為、

恐ろしく効率的に韓国軍を焼き払う。その怒りの閃光の前では、

厚さ120cmの鋼鉄板を2km先から貫通する電磁砲を跳ね返すと豪語した

最新複合装甲で前方を固めたK3すら居ないも同然に破壊されて行く。

 

 更に、着弾の余波で膨大な爆炎が周囲を焼き払う。

砲撃で絶命した韓国兵の遺体と装備の残骸は更に細かく千切れ飛び、

塵芥となって吹き飛ぶ。地表のアスファルトは根こそぎ引き剥がされ、

むき出しになった地面も融解し赤く輝く。

 

 ヤマト第3形態最大の攻撃の一つである「全方位フルバースト」である。

もしも地獄の存在を信じている人間がこの惨状を見れば、

今現在のソウルの様な状況こそ真の地獄と言うだろう。

 

 しかし、これだけの破壊の限りを尽くしても尚韓国の反撃は止まない。

全てのIS戦力を撃滅された以上、最早韓国に抵抗する手段は無い筈だ。

それでも、韓国軍は反撃を止めなかった。

 

 当然なのはもL・彼岸手からのビームで反撃し、次々と韓国軍を消滅させる。

最優先は最も威力の高いレーザー砲台。次が電磁砲を備える戦車隊である。

破壊を繰り返し、次第に防衛線の最後方に布陣していた砲兵隊まで肉薄する。

しかし砲兵隊からの反撃は無かった。弾が無くなってしまったのだ。

 

 韓国はかつてPKO活動で日本から弾薬を提供された屈辱から

弾薬の生産力向上に力を入れていた。

旧北朝鮮との統一戦争では遺憾なく発揮し、

米軍の支援もあって終始圧倒的優位のまま統一を達成したが、

その生産力と保有量を以てしても、ソウルに運び込んでいた弾薬は底を尽き、

おそらく統一戦争以来初めての弾切れを起こしていた。

そして、それが確実なる死を意味した事は言うまでもない。

 

「消えて無くなれェェェェエエエエエエエ!!!」

 

 なのはが叫びながらL・彼岸手の12in砲を発射。砲列は一瞬で蒸発した。

圧倒的劣勢である。1950年の朝鮮戦争で韓国軍は

旧北朝鮮軍相手に常に劣勢を強いられていた。

しかし、その時は米軍主体の国連軍上陸で辛うじて助かった。

少なくとも今、韓国に他国の援軍が来るという情報は無い。

そもそも、援軍となり得る戦力を持った国は存在するかもわからない。

 

 だがそれでも、ソウル防衛の為に集結した陸軍第7機動軍団総勢10万は

なのはに一矢報いる事も出来ず完全消滅の危機に瀕しても諦めない。

最早反日では無く憎日の域に達した日本への敵意と、

朝鮮民族こそ最も優れた民族と言う根拠のない選民意識が、

日本の攻撃相手に背を向けると言う考えを齎す余裕を与えなかった。

だが、そんな物は何事もなかった様になのはの一撃で蒸発した。

 

 そしてなのはは韓国一の高層建造物、第2ロッテワールドビルの麓に到着。

L・彼岸手の指先から青いエネルギー光を発生させる。

砲口から爪状の光線剣を発生させる近接武装の一つ、ビームネイルである。

勿論、そんな物を展開させた理由は一つだ。

 

「そぉい!!!」

 

 L・彼岸手を振り払い、ビームネイルでビルの根元を切断。

根元から切断されたビルはたちまちなのはの方に向けて倒れてくる。

しかし、なのはは逃げようとしない。何故なら…

 

ガッ!!!

 

 何となのはは8基のL・彼岸手で総重量75万tもの巨塔を受け止めたのだ。

更に、ビルを持ち上げると…

 

「ウオラアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 ビルを韓国軍の残存部隊目がけて放り投げた。

墜落したビルは轟音と共に周辺の街並みを巻き込みながら砕け散り、

瓦礫と土埃を巻き上げる。

韓国軍が布陣していた全ての道と言う道が

瓦礫によって引き裂かれ、砕かれ、押し潰された。

これが、総勢10万に達する陸軍第7機動軍団全員戦死の瞬間であった。

 

 かくして、日本の仇敵だった韓国の首都、

朝鮮半島最大の1000万都市ソウルは釜山上陸からわずか6時間で陥落した。

日本防衛軍には一人の死傷者も出ていない。

おそらく、戦争史上に残る偉業と語り継がれるだろう。

しかし、戦いはまだ終わらなかった。

 

『ウェハハハハハハハハッ!!!』

 

 突如聞こえてきた笑い声、その正体は韓国大統領、金道均だ。

 

『聞こえるか暴走核弾頭!!俺が韓国大統領の金道均だぁ!!』

 

 しかし、声はすれども姿は見えない。一体どこにいるのやら。

 

『よくも韓国中を荒らし回ってくれたな!だが、それもここまでだ!!』

 

「今更何の用なの?!!降伏なんか許さないの!!」

 

『降伏?降伏するのは貴様等の方だ!!これを見ろ!!』

 

 道均が見せたのは…

 

「ホワイト…ハウス?」

 

 それはアメリカ大統領官邸。

既に我関せずを決めた筈のアメリカが一体何の用だろうか?

だが、米国首脳陣の様子がおかしい。そして映像をよく見ると、

会議室には米国大統領以下閣僚達の他に道着姿の男と駐米韓国大使がいる。

もしや…

 

『気付いたか?この道着の男の名は金成羅(キム・ソンラ)

物部天獄(モノノベテンゴク)の名前でネトウヨ・キモオタ列島で宗教団体を率いていた男さ!

この男は超能力の使い手でな、自分の発言に他人を同調させる事が出来る!!

例えばこの男が誰かを指定してケチだと言い降らせば、

どんな太っ腹でも周りの人間にケチと思わせる事が出来るのさ!!

 

もう分かっただろう!!

この力で、貴様等ネトウヨ・キモオタ帝国は滅ぼすべきと

国連大使とアメリカ首脳陣に思想同調術を掛けさせたのさ!!』

 

 これこそ国際社会が韓国に味方した原因だった。この物部天獄こと金成羅が

国連大使に今米国首脳陣へやった事と同じ事をしたのだ。

 

『これ以上暴れれば、アメリカを動かして直ちに攻撃を始めさせるぞ!!

いや、アメリカだけじゃない!!他の国にも同じ事をしてやるぞ!

そうなれば、全人類が総出で貴様等を滅ぼしに来るんだぞ!!』

 

 ある意味核以上の恐ろしい切り札である。

 

『これで分かったか豚足野郎(チョッパリ)!!

いくら貴様でも全人類を敵に回して、

あまつさえふっ飛ばすだけの戦闘力が有る訳無いだろう!!

貴様等ネトウヨ・キモオタ民族と誇り高き我が韓民族では、

最初から持ってる器が違うんだよ!!

貴様等屑共は、俺の前では平伏すしか無い!!

俺の前に跪け!!今の貴様にできる事はそれだけ…

 

「全人類が怖くて暴走核弾頭は名乗らないの!!」

 

 なのは、全く意に介さずソウルの破壊を続行。

 

『な…やめろ!それ以上やれば取り返しのつかん事になるぞ!!』

 

「私は取り返しのつかない事が大好きなの!!」

 

 破壊の限りを尽くしたなのはは、ついに青瓦台の前に到着する。

業を煮やした道均は脅しの為に核ミサイルを見せ付けた。

 

『良いのか?!この核ミサイルで

ネトウヨ・キモオタ列島が吹っ飛ぶんだぞ!!』

 

「良い景気付けなの!!早速やるの!!」

 

 動揺しないどころか、逆に煽ってくるなのはに対し、

遂に道均はミサイル発射命令を下した。

 

『こ、こうなったら…

列島壊滅をその目で見ろぉおおお!!ミサイル全弾発射ぁ!!』

 

 日本に向けて数百発のミサイルが発射された。

しかし、発射したのは超音速巡航ミサイルだった。

確かに核弾頭こそ搭載できるが、

弾道ミサイルではない為、撃墜はより容易である。

 

『ふふ…ふは…は……ははは!

どうした?核ミサイルでなくてガッカリしたか?

残念だったなぁ!!今撃ったのは全部通常弾頭さ!!

 

最初から核ミサイルを撃っても、迎撃される事は解ってたからな!!

囮の通常弾頭ミサイルを最初に発射して、迎撃ミサイルを使い切らせてから

本命の核を搭載したSLBMを別行動の潜水艦隊から

発射する手筈になってるんだよ!!

 

例えそれを凌げても、今度はアメリカ中の核ミサイルが降り注ぐ!!

アメリカ首脳陣を洗脳した今、その核も俺の気分次第で発射されるのさ!!

こうすれば例え韓国中のミサイルを全て落しても、

その頃にはもう迎撃ミサイルは残っていないだろう!!

これでネトウヨ・キモオタ帝国はお終いだぁああああ!!!』

 

 まともに撃っても世界最高峰の弾道ミサイル迎撃網を備える日本には

そう当たる物ではない。それなら、核搭載可能な超音速巡航ミサイルを囮にして

迎撃ミサイルを使い切らせ、それから本命の核を潜水艦から発射するという

2段構えの作戦にしようと考えたのだ。

 

 勿論ISが防衛に回ればこれでも全く足りない。

簡単に迎撃されてしまうだろう。

そうさせない為、倉林と奈緒が極左市民団体連合と日本在住の同胞を

反戦デモ隊と言う名の楯にして足止めし、その間に核を発射する。

勿論、これを考えたのも3大将の仕業である。

 

 そして、それでも駄目な場合に備え、金成羅にアメリカ首脳陣を洗脳させ、

道均の指示で韓国の味方として対日参戦させ、

米軍のISで日本側のISを破り、然る後核攻撃するという

3段目を3大将とは別に道均が用意していた。

超学歴社会の韓国に相応しい、インテリが考え抜いた用意周到な作戦だった。

 

『これで分かっただろう?貴様等低能民族共がいくら刃向っても、

我が国を倒せはしない!!我が民族こそが、この世で最も優れた民族なのだ!!

貴様等ネトウヨ・キモオタ民族は私の手の平で蠢く蛆にすぎん!!

さあ、跪け!土下座して、私に許しを乞え~!!』

 

 完全に勝ち誇る金道均だが、その様がかえってなのはの逆鱗に触れた。

 

「……ラ…」

 

 左腕のレイジングハート内蔵槍を構え、なのはが叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

このクルピラ野郎!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怒りに任せて、青瓦台をL・彼岸手の12in砲で爆破。

しかし、まだ怒りは収まらず周囲に乱射しまくる。

 

『止めろ!!それ以上暴れれば、本当に米軍が、

いや、全人類が貴様等の敵に回って、

ネトウヨ・キモオタ列島は吹っ飛ぶんだぞ!!!』

 

「まだ言うの?!!

吹っ飛ばせるなら、吹っ飛ばしてみやがるの!!」

 

 なのはは40門の12in砲で周囲を薙ぎ払う。

一瞬にして射線上の建造物が蒸発していく。

 

「私は核爆発が見たかったの!!なのに、

あんな偽物ばかり送りつけてきやがって!!!!」

 

 しかし、なのはの恐ろしい所はここからだった。

なのはは巨大な物体を展開。それは全長8m、直径2mの爆弾だった。

 

「さっきからハッタリばっかり!!

やるなら黙ってやれば良いの!!!

どうせ碌に起爆しない不良品しか作れない癖に!!

もう許さないの!!こうなったら、

自前の水爆でここを爆破してやるのぉぉぉ!!!」

 

 何と、なのはは核爆発見たさにソウルを水素爆弾で爆破するつもりだ。

このあまりに狂気じみた言葉に流石の道均も震え上がった。

 

『狂ってる……こ い つ は く る っ て る ! !』

 

 しかし、なのはは直後思わぬ一言を口にした。

 

「…と、思ったけどやめたの。」

 

『……へ?』

 

何とまさかの中止宣言。何がそうさせたのか?

 

「そこにいたんだ…このドキュン野郎。

今からそっちに水爆をワープさせて送りつけてやるの!

有り難く死にやがるの!」

 

『…………!!!!』

 

 その理由は簡単だった。なのはに通信で降伏勧告をしたばっかりに、

道均の居場所がばれてしまったのだ。しかし、その場所は…

 

『止めろー!!俺が何処にいるのか分かってるのか?!!

中韓国境の手前なんだぞ!!中国領土まで100kmも無いんだぞ!!』

 

 何の事は無い。道均と閣僚達はなのは上陸の報を聞くや

政府専用機に乗り込んでソウルから脱出し、

そのまま中国に逃げようとしていたのだ。

そして、既に機体は旧北朝鮮の核関連施設が集中していた

寧辺上空まで差し掛かっていたのだ。

 

「知ってる!じゃあ、早速爆破するの!!」

 

『ナンデ?!』

 

「大統領だから!!」

 

『ヤメロー!ヤメロー!中国に放射能が行けば、中国と戦争になるんだぞ!!

中国とも戦争をする気なのか貴様はぁああああ?!』

 

「戦争…?」

 

 道均の一言で、一瞬で⌒*(◎谷◎)*⌒と化したなのは。

 

「中国如きがなぁ!!私と戦争なんか!!

出来るわきゃねぇだろぉぉぉぉぉおおおお!!!」

 

『ナーアアアアアアアアアアアアアアアア?!!』

 

「死ねーッ!!死ねーッ!!死、死、死、ね!!」

 

『シニタクナーイ!シニタクナーイ!

シニタクナーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!』

 

「食らえ必殺…内閣総辞職ボンバァァァァ!!!」

 

 なのはは瞬間物質転送器の照準を政府専用機に合わせ、

巨大水爆を転送。ワープアウトした水爆が専用機に接触した瞬間…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピカッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツァーリ・ボンバという爆弾がある。

かつてソ連が製造した水素爆弾で、正しい名称はAN602と言う。

その出力はTNT換算で実に100メガトン。しかし、その余りの威力に

そのまま起爆させれば人口密集地に死の灰が降り注ぐと予想された結果、

実際に起爆させる際はリミッターを掛けられ、出力を半分に落とされていた。

 

 それがどうしたのかと言うと、なのはが今寧辺上空で起爆させたのは、

出力にリミッターを掛けていない、紛う事無き本来の威力を再現した

ツァーリ・ボンバだったのだ。

 

 爆発による火球は半径3kmを超え、時間経過と共に膨れ上がった結果、

その上端は最終的に高度13kmを突破。

その様子は東京は勿論、日本列島各地からも観測されたという。

 

 生じたキノコ雲は高さ50km、幅200kmに達し、

爆発の衝撃波は治まるまで地球を4周近く駆け巡り、

遥かロンドンでも衝撃波到達が観測された。

 

 更に言うと、爆心地から半径6kmを超える範囲に

人間が死に至る放射線がまき散らされ、

半径10kmを超える範囲で建造物が全壊。

そして、半径70km以上の生物が致命傷レベルの大火傷を負った。

 

 その被害は、かつて日本で2度引き起こされた惨劇の比では無い。

何しろ余りにも被害範囲が広い為、複数の都市を一発で焼き払ってしまった。

この一撃で100万人超の死者が出た事は間違いないだろう。

 

「ハァ…すっきりした。」

 

 

 

 

 

 同時刻、ソウルのすぐ隣の仁川では…

 

「金将軍、政府専用機との通信が途絶しました。」

 

「………やはり、逃げ切れなかった様だな。」

 

「国の代表として、真っ先に責任を負うべき立場にありながら、

率先して逃げ出した報いであろう…致し方ない、因果応報だ。」

 

「それともう一つ。先程、平壌から

『北方で閃光とキノコ雲を見た』との報告が相次いで入ってきています。

恐らく…核爆発では無いでしょうか?」

 

「何?!我が国が核攻撃を受けたと言うのか…!」

 

「報告が事実であるなら、そう言う事に成るでしょう。」

 

「将軍!平壌の件について詳細が入りました!!」

 

「何だと?!…読み上げろ!」

 

「はっ。閃光とキノコ雲ですが…核爆発で間違いありません。

推定される爆心地は寧辺付近。そして、爆弾の威力ですが…」

 

「どうした?早く続きを読め!」

 

「…………信じ難い事ですが、と前置きをさせて頂きます。

衝撃波や地震の規模から計算した結果…推定される威力は…

100メガトン程度との事です!」

 

「ひゃ、ひゃくめが…!」「ぬうぅっ!!」「何とぉーっ?!」

 

 さしもの3大将も言葉が出なかった。

人類史上、そんな威力の爆弾は聞いた事が無い。

 

「コンピュータの計算が正しければ、この威力の核爆弾が起爆した場合、

爆心地から半径70km超の人間に致命傷を与える程度の威力との事です。

恐らく、死者は100万人は下らないかと…」

 

「な、何たる事だ…日本め、ここまでやるのか?!」

 

「どうやら日本は、この戦いで大韓民国と韓民族そのものを

この世から消し去りたいらしいな…。」

 

「あのような前口上から考えても、そうとしか考えられん。

だが、奴等も我等をそれだけ恨み、憎んでいたと言う事なのだろう。」

 

「どうする?大統領も、首相も、国防部長も、統合参謀本部議長も皆死んだ。

ここから先は、我等の独断で動くしかない。」

 

 彼等の直接の上官で、韓国全武官のトップである統合参謀本部議長は

大統領と行動を共にしていた事から、

他の閣僚諸共大統領に殉じた事は間違いない。

最早、彼等に命令を下す立場の人間は一人もいなくなってしまった。

 

「ソウルが陥ちた今、次に暴走核弾頭が向かってくるのはここだろう。

…奴を迎撃する作戦、一応は練り上げたが…。

例の物は運び込んできたであろうな?」

 

「はっ。」

 

「矢張り、やるしかないのか…。」

 

「うむ…最早代案は無い。これが、我等に出来る最後の抵抗となろう。

奴をこの仁川に引き付け、この司令部の地下に埋めた核爆弾で

奴を仁川ごと吹き飛ばす。これしか無い。」

 

「しかし、遠隔爆破は専用装置が故障して、修理は間に合わん。

時限爆破装置も奴がセット時間に仁川にいるかどうかは分からん。

となると…誰かが手動で起爆させるしかないぞ。」

 

 つまり、この仁川諸共なのはと刺し違えて死ぬ事が前提の任務である。

当然、その様な任務に志願する者は一人もいなかった。唯一人を除いて。

 

「ならば…核のボタンは某が押そう。」

 

 何と、空軍参謀総長の琴将軍が名乗りを上げた。

 

「全力翁!!」

 

「何と仰せられますか!それでは全力翁が…」

 

「孫を対馬の海に散らせて、某一人どうして生き延びられようか。

奴と刺し違える役目、某が果たそう。」

 

「全力翁、それはなりませんぞ!ボタンなら私が…」

 

「いや、私がボタンを押そう!」

 

「ならん!ならんのだ!!」

 

 金将軍と全提督が思いとどまらせようとしたが、琴将軍は突っぱねた。

 

「金将軍、全提督…主等は生きよ。ソウルが滅びた以上、

国を束ねられるのは主等しかおらん。」

 

「「全力翁…!」」

 

「我等が、国を束ねよと…?」

 

「左様。閣僚も国会議員も主だったものは皆死んだ。

最早、国を束ねる大役を果たせる器は主等を置いて他に無し。

主等はこの場を逃げ延び、政府要人が死した今、

自ら国の代表として名乗りを上げ、日本に全面降伏を宣言するのだ。」

 

「全面降伏…ですか?」

 

「左様。それならもう攻撃はされまい。

恐らく、途方もなく過酷な講和条件を呑まされるだろうがな。

下手をすれば、彼のベルサイユ条約の方がまだマシな条件かもしれん。

今までの我が国を支えてきた恨の精神も打ち砕かれ、

反日という心の拠り所も根底から間違っていた事を認めさせられるだろう。

 

だが、それでも『それだけで済んで良かった』と言わねばならんのだ。

ここでしくじれば、いよいよ大韓民国はこの世から消えて無くなる。

それよりはマシだと言い聞かせ、全く別の国として再出発せねばならん。

某は、主等ならそれを形に出来るだろうと信じておる。

故に、主等に対してここは逃げろと言うのだ。」

 

「何と…!」「そこまで考えておられたのか…!」

 

「おい、地上の仁川市民の避難はどうだ?」

 

「核爆弾の危害範囲内の住人は、既に避難完了しております。

今危害範囲内にいるのは、我々だけです。」

 

「うむ。これで障害は無くなった。では、主等が避難する番だな。」

 

 淡々と準備に入る琴将軍。

いつの間にか、司令部中の誰もが泣いていた。

本当なら、自分達が護る筈だった。

そもそもそんな事をする必要すらなかった筈だった。

だが、現実は非情だった。あの悪魔が市民を都市諸共ゴミの様に焼き尽くすのを

ただ見ている事しかできなかった。

 

 確かに、内心では同胞ながら馬鹿な国民だなと

心のどこかで軽蔑していたかも知れない。

自分達の情緒を国のあらゆる法の上位に位置づけられる国にすると聞いて、

ホイホイと金道均とかいうデマゴーグに投票して大統領にしてしまった上、

一時の感情で、国力で遥かに格上の隣国に戦いを挑んでしまった。

 

 本当に馬鹿以外の何でもない国民である。

100年前の日本の方がまだマシなレベルの愚行と言う他無い。

しかし、そんな人間をも守るのが軍の務めであり、矜持。

その一点だけは、絶対に譲れはしなかった。

だが、その矜持はたった一人の怪物の手で最初から無いも同然に踏み躙られた。

それが、この上なく屈辱だった。だからこそ、せめて一矢は報わねばならない。

 

「さあ、主等は行け。主等が生き延びるのも奴への反撃の内。

皆、早く逃げよ。」

 

「それでは全力翁…さらばです!」

 

「お孫さんに良き報告が出来る事を祈ります…御武運を!」

 

「うむ!…前途多難かもしれんが、後の事、くれぐれも頼むぞ!」

 

 こうして、金将軍以下司令部の要員は空軍機で中国方面へ逃げる為、

司令部を立ち去っていった。後に残されたのは、琴将軍唯一人。

 

「さて…琴全力、一世一代の大勝負ぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『暴走核弾頭に告ぐ!!暴走核弾頭に告ぐ!!』

 

 突如、琴将軍の怒号にも似た呼びかけがなのはの耳に入る。

 

「何なの?」

 

『某は韓国空軍大将、琴全力!韓国空軍参謀総長にして、

ウヌが対馬沖にて討ち取った琴慧弦の祖父である!!』

 

「…………続けて。」

 

『某は孫とウヌが欲情のままに殺戮した国民の敵を取りに来た!!

某を討たぬ限り、我が国は決して降伏はせん!

某はここに最後の決戦を所望する!

某に挑まんとするならば、仁川までくるが良い!!』

 

「……………………。」

 

 なのはは一目で悟った。この老将は並々ならぬ覚悟を背負っている。

今まで自分が虐殺して回った市民の恨み、嘆き、悲しみ。

そのすべてを背負い、最後の戦いを挑もうとしている。ならば…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全力全開で、上から叩き潰すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それなら、受けて立つの。その前に一つ質問が有るの。」

 

『何ぞ?』

 

「今私が何処にいるか…答えられる?」

 

 そう問いかけるなのはの周囲は満点の星空しかない。

少なくとも、琴将軍の見ているモニターの中ではそうとしか見えない。

 

『何処…だと?ウヌは先程までソウルに…』

 

 なのはは首を振った。

 

「残念。ソウルはソウルでも…」

 

ソ ウ ル 上 空 4 0 0 k m な の

 

『何?上空400km?!一体何の真似を…!』

 

 なのはは無言でスラスターウイングを一直線に広げ、右手側に回転させた。

 

「琴全力将軍だっけ?名前からして、事に全力で当たって来た人みたいなの。

実は、私のモットーも全力全開なの。それでね…

実は今までの攻撃は本当の全力とは言えないんだよね。

(船型スラスターウイングを差して)これ、何だと思う?」

 

『そんな物は知らん。ISの一パーツである事以外はな。』

 

「これはホーキング輻射装置『波動砲』。

量子変換で小型化してるけど…使うときはねっ!」

 

 なのはは量子変換を解除すると、

スラスターウイング諸共波動砲パーツが巨大化した。

その口径は、原型となった大和型戦艦の主砲と同じ46cmであった。

 

「私はねえ、最初からこの戦争の〆はこれって決めてたんだ。

何たってこの波動砲の最大出力はさっきの100メガトン級水素爆弾を

爆竹扱い出来るからね。」

 

『な、何…だと…?』

 

「漸く、本当の全力が使える時が来たみたいなの。

そういう訳だから、悪く思わないでね。」

 

『な、何を言っておる!ウヌは、何をする気…』

 

「何って、韓国が私達にやろうとした事だよ。

今からこの46cmホーキング輻射砲をぶっ放す。

多分半径400km位が吹っ飛ぶけど…覚悟してね。」

 

 なのははレイジングハートの先端をスラスターウイングの先端口に接続。

直後、スラスターウイング先端のシャッターが開く。

 

「これが私のォォォ!!!全力全開ァァイ!!!」

 

 なのはの気合と共にシャッターの先端に光が集まる。

 

『おのれ…おのれェェェェェェェェエエエエエエエエエエーーーーーッ!!!』

 

「あ、そうそう、最後に韓国に一言、これだけは言っておきたかったの。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

1910年から出直して来い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Wave force cannon…fire.」

 

 レイジングハートのアナウンスと共に、波動砲は再び放たれた。

 

「破ァアーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 46cmの砲口から照射されたホーキング輻射は

ソウル北方80km先、旧国境付近の都市、鉄原市を直撃。

TNT火薬16ギガトン超と推定されるエネルギーの輝きは、

鉄原市から半径400kmの全生物を死に至らしめた。

こうして、この戦争における最後にして最大の一撃により

韓国全軍は消滅した。

 

 こうして、2043年10月17日午前4時44分、

後世に第三次世界大戦の前哨戦と位置づけられた日韓戦争は、

一晩で日本の勝利に終わった。

 

 終わってみれば、日本人の死者は韓国に与した者以外には一人もおらず、

防衛軍は死傷者無しと言う軍事史上最高のキルレシオを記録した戦いとなった。

 

 その一方、韓国は人が入る事が困難な程の大ダメージを受けており、

どれ程の被害を受けたのか、そして、今後の処遇をどうするかを決定するには、

これから更に2年近い月日を要する事となった。




日韓戦争、これにて終結です。
終わってみれば、極めて予想通りの結果に終わりましたね。
唯一の心配と言えば、なのはの暴れ振りが期待通りかと言う事です。
前話投稿後、ある方から「思ったよりはおとなしい」という
感想を頂いてしまったので、そこだけが心配です。

尚、今月の投稿はもうありません。
もし今月に更新が有るとすれば、それはR-18版の次話投稿になるでしょう。

しかし、平均5千字ちょっとの所をまさか一話で2万3千字を超えるとは…
もし長くて読み辛いと言う方は、感想を上げて頂く際に明記をお願いします。
今後の展開によっては活動報告で事前に連絡の上、分割して投稿し直します。

次回「第27話  もう笑ってはいられない」
いよいよもって地球が戦乱一色に染まっていく。
果たして、世界の反応は如何に?日本政府は?亡国機業は?
そして、ISの宇宙開発ツールへの回帰という束の野望の行方はどっちだ?


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第27話  もう笑ってはいられない

お待たせしました。来年春に投稿予定の新作の情報収集に感けて
随分遅れてしまいましたが、今年最後の投稿です。

ただ、本当は今話で日本国外の反応を入れる予定でしたが、
話が長くなりすぎたので今回は内輪での現状報告の描写しかありません。
それでは通算第79話、参ります。


 なのは入学以来、韓国はなのはの暴走で吹っ飛ばされたISによって

ソウル各地の政府主要機関や旧王家の宮殿を破壊され、

更に日本に送り込んだ回し者、IIC日本支局長の綿貫三樹夫と

代表監督の倉林美也子をぶちのめされ、逮捕された上に国交断絶を通告され、

大統領が辞任する所までフラストレーションが溜まりに溜まっていた。

 

 そして、前政権に替わって韓国独自の法理念「国民情緒法」を

正式に憲法に採択した新大統領金道均(キム・ドキュン)の下、

通算5度目の謝罪と賠償請求を行う。

しかし、要求内容になのはの身柄引き渡しを加え、

拒否した場合国連の敵国条項を盾に武力行使を行うと表明したのが運の尽き。

 

 案の定なのはは大激怒。なのはと束は日本国首相、山口和豊への

説得…否、O☆HA☆NA☆SHIの結果対韓開戦を決断させる。

手始めに渋谷で蜂起した反戦デモの名を騙る反乱軍を虐殺…もとい成敗し、

秘密兵器の弾道ミサイルを撃墜すると、対馬沖に進出した韓国艦隊を強襲した。

 

 しかし、途中で韓国代表操縦者、韓蛛俐(ハン・ジュリ)と韓国ナンバー2の実力者、

琴慧弦(クム・ヘヒョン)他IS隊の迎撃を受け、一度は対馬沖に墜落してしまう。

 

 しかし、それでもなのはは倒れなかった。

夕食を邪魔された事で怒りを募らせていたなのはは遂にブチ切れ、

第3形態「大魔王ナノリオン」への形態変化を敢行。

ジュリとヘヒョンを瞬殺するや、破壊した空母を鈍器にして韓国本土に上陸。

各地で破壊の限りをつくし、中国に逃げようとした道均も水素爆弾で抹殺。

そして、最終兵器波動砲を発射し、完全に韓国を破壊したのであった。

 

 

 

 そして、なのはが韓国にトドメの波動砲をぶっ放した直後の事…

 

「これで韓国は終わったの!さて…それじゃ帰るの!」

 

『高町さーん、聞こえますか?こちら秋月です!』

 

 帰還しようとしたなのはにもう一人の国家代表、秋月律子から通信が入った。

 

「何なの?」

 

『日本に発射された巡航ミサイルは、こちらで全弾撃墜しました。

直ちに市ヶ谷に集合して下さい!』

 

 市ヶ谷とは防衛省の所在地。即ち防衛省に来いとの事である。

 

「了解したの!」

 

 なのはは即座に防衛省へワープしていった。

 

 

 

 

 そして、防衛省の統合参謀本部では…

 

「よし、全員揃ったな。これから現状の報告会を行う。」

 

 会議室に集まったのは米田防衛相と防衛軍統合参謀本部の構成員に

陸海空と海兵隊の参謀総長と次長の8名、

そして、国家代表操縦者の律子となのは、そして束も通信で参加している。

 

「まずは暴走核弾頭だ、今まで何をして来たか報告してくれや。」

 

「では報告するの!!まず飯田奈緒は渋谷で串刺しにして爆殺してやったの!!

倉…なんとかは袋叩きにしてゴミ収集箱に突っ込んでやったの!!

そして他の近接戦至上主義者は韓国軍のIS隊諸共皆殺しにしてやったの!!

勿論、パイズ…じゃなくてハン・ジュリと何とかいう操縦者も一緒なの!!」

 

「な、なんとかって…、ちゃんと覚えておきましょうよ。

クム・ヘヒョンですよ。韓国空軍参謀総長、琴全力将軍の孫娘の。」

 

「何でも良いの!もう殺したんだから脅威ではないの!」

 

「はぁ…そうですか。」

 

「ついでに韓国主力艦隊を全滅させて、上陸して半島の南側と

ソウルを空母を鈍器にしてぶち壊しにしておいたの!

それと、大統領とか閣僚は中国に逃げようとしたけど、

核で爆殺しておいたの!」

 

「た、高町さん…?当たり前の様に核って単語が出てきたんですがそれは…」

 

「核攻撃を仕掛けた当然の報いなの!」

 

「そうですか…。

(何か言うとまたいちゃもん付けられるから、聞き流そう、そうしよう。)」

 

「「「「「(どうでも良いが、何でこいつは常にキレてるんだ…?)」」」」」

 

「トドメに半島のど真ん中にホーキング輻射砲を打ち込んで、

半径400kmの生き物を皆殺しにしておいたの!

但し、一部は中国領と被るからそこは一部を除いて

活殺自在で被害無しにしておいたの!これで韓国はもう何もできないの!」

 

「お、おう…。」

 

「まあ、こんな事はどうでも良いの!!!」

 

「いや、どうでも良いのかよ?!」

 

「それより、何で国際社会が韓国に味方したのか

理由を見つけたから、それを報告するの!!」

 

「な、何だって?!」

 

「おい!そりゃ本当か?!」

 

「それは是非知りたい!!」

 

「早く教えてくれ!」

 

「では説明するの!!これを見るの!!」

 

 なのはが見せたのは、物部天獄なる超能力者の力で

アメリカ首脳陣に日本は滅ぼすべきという思想同調を仕掛け、

韓国の味方に付けたと自慢げに話す韓国大統領金道均の映像であった。

 

「これが理由なの!!

これからは、国際世論をこの超能力から解く事を考えるの!!」

 

「………おいおいおい、野郎がまさか本物だったたぁ思わなかったぞ!」

 

『んー?おっちゃん、知ってるの?』

 

「ああ、知ってるぞ!警視総監から聞いた事が有る!

本名は金成羅(キム・ソンラ)!天魁教って儒教系のカルト教団を率いてた外道だ!!

教祖としては小物っちゃあ小物だが、妙な超能力を使うって噂になっていた!!

ちょっと前には堂々と表社会でコメンテーターなんぞやって、

本まで出してやがったってぇ不逞な野郎だ!!」

 

『へぇ~、どんなタイトルの?』

 

「確か…『毒子に告ぐ!~育ち方を間違えた者達へ~』だったな。」

 

『なぁにそれぇ?』

 

「俺ぁ読んだ事は無ぇがな、読んだ奴曰く、

近頃は子供に毒にしかならねぇ毒親ってのが増えてるんだってぇな?

だがそいつに言わせりゃ、『毒親なんてのはいなくて、いるのは毒子だけ、

普通の人間に出来る事が出来ない出来損ないだから、

それらしい生き方をしなきゃならねぇてんで、そう言う奴は

生涯最底辺を這いつくばるべし』だとよ。」

 

『うわ、くっだらなぁ~い!まさに外道だねぇ~。死ねば良いのに。』

 

「全くだ!…だが、まさか奴が本当に超能力者で、

国連大使を洗脳して、韓国の主張が正しいと思わせてたたぁ予想外だなぁ…。」

 

『早い事世界中にこの映像を送って、是非を問わなきゃいけないねぇ。』

 

「おうよ。それじゃ暴走核弾頭よ、その映像記録がコピーできるなら、

早速コピーして引き渡してくれ。」

 

「無論なの!」

 

「まあ、暴走核弾頭からの報告はこんなもんだろう。

では次は軍部だ、現状を報告しろ。」

 

「はっ、では、防衛陸軍から順番に成果を報告してやれ。」

 

「了解です。デモ隊を騙って渋谷で武装蜂起した30万人の韓国系住人

及び極左市民団体ですが、先程残党全員の殺害を完了したと

特殊作戦旅団から報告が有りました。現在、死体を基地に運搬し、

警視庁の協力の下で身元確認を急いでおります。また、殺害した者の中には、

前IIC日本支局長、綿貫三樹夫がいた事も確認しました。」

 

「ほう、そいつぁ良かった。」

 

「ただ、良くない報告もあります。倉林美也子ですが、

ゴミ収集箱に放り込まれていた所を捕縛しようとした所抵抗に遭い、

応戦もままならず、逃亡されました。」

 

「チッ、往生際の悪い畜生なの!!まあ責任は殺しきれなかった私にもあるし、

寧ろ殺す楽しみが残ったから良しとするの!!」

 

「それでいいのかよ…まあ暴走核弾頭が居りゃどうとでもなるがな。

よし、次は防衛海軍だ。」

 

「では、これをご覧下さい。」

 

 防衛海軍参謀総長が机に置いたのは、一つのトランク。ふたを開けると…。

 

「それは…ISコアか?」

 

「如何にも。篠ノ之博士の無人ISの協力を得て、

近接戦至上主義者に奪われた全てのコアと、

韓国が持っていた全10個のISコア、全て回収に成功しました。」

 

「おう、ご苦労だった。」

 

「ついでに、ハン・ジュリの死亡も確認しました。

…とても直視できない程酷い有様でしたが。」

 

「仕方ないの!握り潰してやったんだから。」

 

「に、握り潰したって…」

 

「三次移行して差し渡し5mのデカい手が8つ出来たの!

指先に12インチ砲が付いてとても便利なの!」

 

「12インチ砲って…!おまっ、戦艦か!」

 

「まあ、名前からしてモデルが戦艦ですからね…」

 

「これ以上追及すると碌な事にならねぇな。次、空軍。」

 

「では、報告します。現在、我が国の国土に

ミサイルの着弾は確認されておりません。

また、太平洋側からのミサイル攻撃等も確認されておりません。

そして、韓国海軍の潜水艦隊からいくらかのSLBMが発射された模様ですが、

全て撃墜に成功し、その内無人ISによって撃墜された弾体からは、

核弾頭の回収に成功致しました。現在、これらは不発処理の上、

韓国が民族浄化戦争を企図していた証拠として厳重に保管してあります。」

 

「うむ。最後は海兵隊だ。」

 

「現在、1個師団を仁川経由でソウルへ派遣する準備を進めております。

偵察衛星で確認した所、ホーキング輻射攻撃後も市街地の残骸は残っている為、

青瓦台跡地中心に機密文書を捜査し、

発見次第押収して戦争計画の全貌を暴くのが目的です。」

 

「ああ?半径400kmはホーキング何とかで吹っ飛んだんじゃねぇのか?」

 

「活殺自在なの!ヤマトのワンオフ・アビリティを忘れたの?」

 

「ああ、そう言やぁそんな仕様だったな。良いだろう。そのまま続けてくれや。

回収が終わったら、全部世界に公表する様に山口さんには俺から言っておく。」

 

「了解しました。そのように命じます。」

 

「よし、今回の報告会は粗方終わったな。

韓国との戦争はもう決着が付いたと考えて良いだろう。

だが、最後っ屁がまだ残ってるのも事実だ。

コイツを何とかしねぇと臨戦態勢の解き様は無ぇ!

幸いな事に、暴走核弾頭が話を付けてくれた御蔭で

篠ノ之博士は日本に全面的に協力してくれる事になっている!

こうして大きな成果も上げてくれた事、軍部を代表して改めて感謝する。」

 

『そうだね~。皇居の出禁は心外だけど。』

 

「当たりめぇだろ!今上陛下に大昔のゲームのラスボスの前口上言わせるたぁ、

どういう了見してんだよ!」

 

『それが良いんじゃない!』

 

「良くねぇよ!まあ、陛下も一応は感謝して下さって、

政府は篠ノ之博士と暴走核弾頭の2人には特例で

大勲位を授与すると決定したから、それで機嫌を直してくれよ。」

 

「大勲位?!それって、首から下げるあの?」

 

「それは菊花章頸飾。既に大勲位を貰った人間が貰うもんだ。

お前ぇさんは今回が初めてだから、菊花大綬章の方で我慢してくれ。」

 

「致し方ないの!」

 

『ぶ~。』

 

「あー、分かった分かった。それで、お前さんには今後とも

警戒態勢に協力して貰うが、構わないな?」

 

「それは一向に構わないの!但し、やる事が有るの!」

 

「ああ?何をだ?」

 

「合宿なの!!」

 

「「「「「……………………………………………………………はぁ?」」」」」

 

「今月は合宿の月なの!!今日からは実機での稽古が始まる予定なの!!

と言う訳で、これから演習場に戻って合宿の続きなの!!」

 

「た、高町さん?!こんな状況で合宿なんか続けられる訳が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

合宿なの!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ合宿は終わってないの!!

こんな物は、私にとって日常と何も変わらないの!!

さあ予定通り合宿を続けるの!!」

 

「嫌ぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 なのはは律子を掴んで富士の麓の演習場にワープしていった。

残された米田防衛相と軍の最高幹部達はなのはの剣幕に震え上がっていた。

 

「米田さん、何なんでしょうなありゃ?」

 

「知るか、関わると碌な事を聞かねぇ。取り敢えずだ。

俺ぁ山口さんに報告してくる。アメリカ首脳陣が洗脳されちまってる以上、

いつ攻めてくるか分かったもんじゃねぇからな、

お前等はこのまま警戒を続けろ。それじゃ、今回は解散だ。

何かあったら、その都度報告しろ。」

 

「「「「「了解しました。」」」」」




2万3千字もぶち込んで、UAが過去最低だったのは応えたなぁ…。
やっぱり、内容が右に寄り過ぎたのが悪かったのか…?
何はともあれ、良いお年を。

次回「第28話  もう臆してもいられない」
遂に、満を持してラスボス(仮)が初登場。
果たして、暴走核弾頭、なのはの所業に何を思うのか?


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第28話  もう臆してもいられない

遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
ようやく完成した2018年、最初の投稿です。
今回は韓国と国境を接していた中露の2国と、
そして満を持して登場した「奴等」のリアクションです。
それでは通算第80話、参ります。


 中華人民共和国 首都北京 中南海

 

「まさか、ここまで…」

 

 驚きを隠せない様子のこの人物こそ何を隠そう

国家主席にして共産党総書記ならびに中央軍事委員会主席を兼任する

中華人民共和国の最高指導者、貴智凱(グイ・ジーカイ)である。

 

「偵察衛星で撮影した結果、爆心地は半島中央部の鉄原市、

危害半径は400kmとの推計結果が出ております。」

 

「半径400km…!」

 

 同席している党の最高幹部、

中央政治局常務委員会のメンバー達も冷や汗が止まらない。

 

「韓国をけしかけて様子見する筈が、怪物を目覚めさせてしまったな…。」

 

「どうします?あんな奴が向かってきたら、

我が国のIS操縦者が束に成ろうとも、ひとたまりも有りませんぞ。」

 

「在日大使館からの報告では、どうやら武装蜂起した市民も

近接戦至上主義者のシンパ諸共皆殺しにしたらしい。」

 

「市民すら容赦なしか。

それでは、工作員に反戦世論を煽らせて内部崩壊させる事も期待できんな。」

 

「主、主席ーっ!」

 

 と、ここで1人の将軍が駆け込んできた。

彼は弾道ミサイル及び巡航ミサイル専門の軍、

人民解放軍ロケット軍司令官である。

 

「何だ?!」

 

「通化市のミサイル基地から、

『先程の攻撃の直後、基地内部の弾道ミサイルを緊急点検した結果、

全てのミサイルの電子機器が焼損していた』との報告がありました!

このままでは発射すら出来ず、使い物になりません。

通化基地は完全に無力化されてしまいました!」

 

「何?!電子機器だけがやられただと?!そんな都合の良い事が…」

 

「ですが、暴走核弾頭は物体の破壊と非破壊を自在に制御できる

ワンオフ・アビリティの使い手…そう言う芸当は充分可能なのでは?」

 

「そうだ、それなら危害範囲に我が国の領土が含まれていたのに、

被害報告が来ない事も説明が付くぞ!」

 

「確かに…おい将軍、日本を射程圏内に入れている基地はあと幾つある?」

 

「4つであります。」

 

「そうか、直ちに反撃能力を喪う事は無いが…。しかし、状況が状況だ。

いざと言う時の備えは多い方が良いな。よし…良かろう、

修理部品の手配を任せる。通化の基地に届き次第直ちに修繕させる様に。」

 

「了解しました!では失礼します。(退室」

 

「しかし主席、被害がこれだけで済んだのは不幸中の幸いでしたな。」

 

「左様。これで国境付近が更地にでもなっていたら、

韓国と秘密同盟を結んだ手前、嫌でも戦わなくてはならん所でしたからな。」

 

「馬鹿を言え、喜んでいる場合ではないぞ。

奴はあれだけの力を自在に制御できていると言う事がはっきりしたのだ。

あれをフリーハンドで投入出来る限り、

1対1では、最早我が国は日本には敵わんと考えた方がいいだろう。

それにしても、韓国の役立たずぶりは目に余る。

韓国からの援軍要請を先延ばしにしておいたのは正解だった。」

 

「では、今後はどうするんです?」

 

「さしあたり、少し前に雇った特務工作員…何と言う名だった?」

 

「金成羅の事ですか?

第三者に他人に対する自身のイメージを同調させる例の超能力者です。」

 

「そうだ、そんな名だったな。

奴には国連大使と美国(アメリカ)首脳陣への思想同調術を解かせろ。

戦争のお膳立ての為に韓国に派遣したが、この状況では各個撃破されるだけだ。

奴の矛先が我が国に向かう前に、和平を斡旋して後始末をするのだ。」

 

「何と、我等が和平を斡旋すると…?して、条件は?」

 

「『日本人の中国入国禁止の全面解除』

『敵国条項削除への批准』

『今後日本国の安保理常任理事国入りに反対しない』

というのはどうだ?

日本とて、メンツ最優先の我等の御国柄は良く知っている筈だ。

その我等がここまで下手に出ればまず蹴りはすまい。」

 

「そこまでするのですか?そんなに下手に出ては、人民が何と言うか…」

 

「やむを得ん。負けるよりは良いだろう。我等が日本と戦うには

少なくとも美国と…ロシアとも手を組む必要が有るだろう。」

 

「ロシアはともかく、美国と…同盟ですか?!」

 

「先人達も100年前にそうやって日本に勝ったのだ。我々もそれに倣うのみ。

この3国で漸くIS保有量で2倍の差となる。

今わかっている事は1つだ。戦争は時期尚早。今は戦力増強に努めよう。

首相、今回の件は直ちにこの様に処置しろ。」

 

「では、その様に。」

 

 一方、韓国のもう一つの隣国ロシアでは…

 

 

 

 ロシア連邦 首都モスクワ クレムリン宮殿 大統領執務室

 

「それで、韓国はどうなったのだ?」

 

「偵察衛星の写真が出来ました。

ソウル、平壌、釜山、仁川、大邱の朝鮮半島5大都市は元より、

半島は我がロシア国境に近い東北部だけ残して壊滅です。」

 

 国防相が提出した衛星写真には、

半島のほとんど全域で電燈の明かりが消えた様子が映っていた。

 

「何と言う事だ…!これが…たった1機のISのした事なのか?!」

 

「我々も信じられません。この破壊力は最早ISの領域を超えております。」

 

「(あの時『ツングースカよりも酷い目に遭わせる』と言ったのは、

誇張でも比喩でも何でもないと言う事か…。)

国連大使を総会に欠席させたのは正解だったな。連中は信用ならんからな。」

 

「大統領、今回の件で長老から通信が入りました。」

 

 と、秘書官が大統領の後見人「長老」から連絡が入ったと報告が。

 

「何?よし、繋げ。」

 

『ビクトル・ザンテミロヴィッチか?私だ。』

 

「これは長老。今御意見を伺おうかと…」

 

『うむ。まずは君の意見を言ってみよ。』

 

「その前に、韓国の現況から報告致します。

偵察衛星の報告では、暴走核弾頭の推定16ギガトン超級の

核攻撃(本当はホーキング輻射、核と誤解している)により、

着弾点から半径400kmを壊滅状態に陥れたとの事です。」

 

『……半径400kmか。最早核弾頭の領域を超えているな。

それで、どうするつもりだ?』

 

「ここは静観の一手でしょう。学園に彼女がいる限り、

国家代表が人質にされている様なものです。」

 

『妥当な所だな。』

 

「ですが、来年のモスクワ大会はいかが致します?

今回の事を口実に出場停止させる事も…」

 

『やめておこう。奴の意に沿わない事をすれば身の破滅を招く。

それより東部軍管区に露韓国境の警備強化を命じておけ。

放っておくと、韓国人の生き残りが流れ込んで来るやもしれん。

絶対に我が国には入れるな。場合によっては力づくで排除しろ。』

 

「はっ。」

 

『当面はそんな物で良いだろう。今回は北方四島を手放した事が奏功したな。

これで北方四島を持ったままなら、

いつ奴が攻め込んでくるかに怯える所だった。』

 

「全くです。では、この様に処置致します。」

 

『うむ。』

 

 

 

 その頃、富士の麓の合宿場に戻ったなのはは…

 

「…何なの?」

 

 なのはの眼前には無数の報道陣が待ち構えていた。

 

「ご覧下さい!!今、我々の前に、

新国家代表の高町なのはさんが到着しました!!

渋谷のデモ隊に対し、政府の命令で実弾射撃を行った張本人が

今、我々の目の前に姿を現しました!!

これより、本邦初のインタビューを開始したいと思います!!」

 

 そして、報道陣が一斉になのはにカメラを向けた。

 

 

 

 一方その頃IS学園では…

 

「高木理事長!今TVで高町が渋谷のデモ行進に実弾で攻撃したとか…」

 

 千冬が報告の為会議室に入った時には、理事長の高木順一郎以下

理事会メンバーと学園長の轡木夫人と夫で学園長代理の轡木十蔵の他、

主だった職員が集合していた。

 

「ああ。日本政府からも

『彼女のする事は全て日本政府が命令して(束がそう言わせた。)させた事。

国家代表操縦者として為すべき事を為すだけなので、処罰する事の無い様に』

と総理直々に釘を刺されたばかりだ。」

 

「そうですか…まあ、ここで理事会が何かしらの処罰を下すなら、

私も彼女に味方して即謀反を起こす積りでしたから。」

 

「そ、そうか…。」

 

「彼女のした事が、結果的に学園を護った事になっています。

その事実を無碍には出来ません。」

 

「でも、今上陛下に大昔のゲームのラスボスの前口上を言わせてましたよね…」

 

「確かに…日本のイメージダウンはもう避けられませんよこれ…」

 

「幾らなんでもやり過ぎじゃないんですか?」

 

「だが、政府がこう言った以上文句は言えまい。

下手な事を言おうものなら何をされるか…」

 

 千冬も無言で頷いた。

 

「「「「「(まだラリアットされた事がトラウマになってるんだ…)」」」」」

 

「理事長、間もなく高町さんへのインタビューが開始されます。

TVのチャンネルをNH○に合わせて下さい!!」

 

「ああ、○HKは…ここだな。」

 

 チャンネルが切り替わった瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 TVに映ったのは、なのはの悪鬼の形相のどアップだった。

 

「「「「「ギャーッ!!」」」」」

 

 N○Kを見ていた全ての人間が悲鳴を上げたのは言うまでもない。

 

「あ、あの…!近いんでもうちょっとカメラから離れて貰っても良いですか?」

 

「却下!!どアップでなかったら、取材させてやらないの!!」

 

「そ、そんなー!!」「酷過ぎる!!!」「もうやだー!!」

 

 早くも逃げ腰の報道陣。当たり前だ。

しかも、アームを遠隔部分展開して逃げようとしたカメラを押さえつけ、

強引にどアップ状態を維持している。

 

「え、えーと…新国家代表の高町なのはさんでよろしいですね?」

 

「如何にも!!私が高町なのはなの!!

さあ質問するの!!1局1問だけ質問を聞くの!!」

 

 かくして、どアップのままインタビューが始まった。

 

「で、では渋谷のデモ隊に対し、政府の命令で実弾射撃を行ったとの事ですが、

事実なんですか?!」

 

「確かにやったの!反戦デモの名を騙ってISまで持ち出した武装蜂起だから、

皆殺しは当然なの!!政府は奴等をゲリラと判定した結果がこれなの!!

その後は韓国主力艦隊を全滅させて釜山に上陸して、

主要な都市を片っ端からぶち壊しにしたの!!

更に大統領と閣僚が中国に逃げようとしたからこれは核で爆殺したの!

トドメに半島のど真ん中にホーキング輻射砲を打ち込んで、

半径400kmを吹っ飛ばしたの!!」

 

 なのはの返答にたちまちどよめきが。

 

「半径400kmですか?!40kmじゃないんですか?!」

 

「400kmなの!!」

 

「それが事実なら、やり過ぎじゃないんですか?!」

 

「先制核攻撃に対する当然の報いなの!!自業自得なの!!」

 

「そんなに韓国が嫌いなんですか?」

 

「冤罪を着せる奴は誰でも嫌いなの!!

これがアメリカだろうがバチカンだろうがスイスだろうが、

今みたいな事をする奴は同じ目に遭わすの!!」

 

「韓国はこれまで儒教の教義に則って日本を見下し、

反日と言う名の日本人差別を行ってきました。到底許されない事は分かります。

ですがどう考えてもやり過ぎにしか感じないのですが?」

 

「この時ついでに中国を吹っ飛ばして、初めてやり過ぎと言うの!!」

 

「韓国だって、悪人ばかりではない筈です!それが分からないんですか?!」

 

「そんな奴は真っ先に始末するべきなの!!一番の脅威なの!!」

 

「はっきり言ってここまでやるのは世間も引きますよ。

国民からも非難の声が上がる事は間違いないのですが、それについて一言。」

 

「私は暴走核弾頭なの!!他人がどう思うかは気にも留めてないの!!

私を嫌悪するのは個人の自由なの!!でもね…」

 

「でも?」

 

「自分の国が戦争に勝って、自分も身内も無事で済んだ事を喜ばない奴は、

この世に存在してはいけない生き物なの!!そんな奴も始末するの!!

まさか…ここにいる皆は、そうじゃないよね?」

 

「そ、それは…勿論です!!」

 

「これから世間から大変なバッシングが出ると思いますが、

それは全て覚悟の上と言う事でよろしいのですか?」

 

「バッシングなんかどうと言う事は無いの!!

私の存在は、それ自体が世の中への一つの教訓なの!

バッシングではどうにもならない事がこの世には存在するの!!

この私こそがその例なの!!我が為す事は、我のみぞ知る!!

私をどんなにバッシングしても、何一つ、変わる事はないの!!

それじゃ質問が終わったみたいだから、最後に3つ言っておく事が有るの!!」

 

「3つですか?」

 

「まず一つは、日本政府は今月中に世界中に真相を公表して、

全世界に信を問う予定なの!!それでも世界が戦いを止める意志を見せなければ、

私は今回の武力行使に賛成した国を片端から破壊し尽くすだけなの!!

 

二つ目は、私はどんなSNSのアカウントも持っていないから、

ネットで私の名を騙る奴は全部成りすましなの!!

テレビ生放送での顔出し以外で、私がメディアで意見を言う事は無いの!!

そして三つ目は…」

 

 なのはは声のトーンを落とし、とびっきりドスを効かせてカメラに宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万国の女尊男卑主義者よ…絶滅せよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は冤罪を許さない!!それと同じ位女尊男卑も許さないの!!!

よって女尊男卑を推し進めるいかなる人権団体も、

それを見て見ぬふりをする国際IS委員会(IIC)

そしてIICを牛耳っていると噂の国際武器密売組織、亡国機業も、

全部私がこの世から廃絶してやるの!!

 

何故ならISは宇宙開発ツールに回帰しなければならないからなの!!

開発者の篠ノ之束が自分で兵器としての有用さを証明した以上、

兵器として使われる事は大目に見るの!!

でも、それも本当の開発目的の宇宙開発ツールに回帰してこそなの!!

だから私がIS道構想を止めさせたの!!

ISは女尊男卑の証明書じゃないし、武道の稽古道具でもないの!!

 

奴等に味方する全ての者よ、皆私を憎むが良いの!!

我が名は暴走核弾頭、高町なのは!!

我こそはISを極めし者、そして女尊男卑の最大の敵なの!!

文句が有るなら武器を取れ!!掛かって来い!!私が相手になってやる!!

…以上!!」

 

「えーと、それではこれでインタビューを終了します。

以上、現場からお伝えしました…。」

 

 これ以上のインタビューを続けると危険と判断した報道陣は、

逃げる様に演習場から去って行った…。

そして、その様子を遥か彼方から見つめる者達がいた…。

 

 

 

アメリカ合衆国 アラスカ州 アンカレッジ市 

国際IS委員会(IIC)新本部地下「亡国機業」 幹部会会議室

 

ハーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!

 

「こりゃ面白い!久々にワロタって奴だ!!」

 

 ここはアラスカ条約制定の地、アンカレッジ市に建設中のIIC新本部。

その地下会議室に下卑た笑い声が響き渡る。声の主は束の怨敵にして、

一夏を攫った国際武器密売組織「亡国機業(ファントム・タスク)」の首領の片割れ、

一夏、千冬、そしてマドカの父、織斑春三その人である。

 

「おやおや、楽しそうね春三。」

 

 傍らにいるのは妻の織斑千秋。もう一人の首領である。

 

『首領、笑い事ではないと思うのですが…。』

 

 通信の相手は報告に来ていたナンバー2のIIC常任理事にして

次期理事長のサンドラ・リーバーマンことプレシア・テスタロッサである。

 

「だが面白い物は面白いんだよ。

あんなギャグみたいなインタビューがあるか?」

 

『それはそうですけどね…』

 

「で、IICの常任理事サマは今後どうする気なんだ?」

 

『取り敢えず、現理事長の花小路は逮捕させる予定でしたが取り消します。

当然、日本のIS保有・開発の禁止と全ISコアの没収も同様です。

今奴を刺激すれば、我々はひとたまりも有りません。』

 

「おう、そりゃそうだ。」

 

『但し、韓国が保有していたコアは返還要求をする事を提案します。

何しろ10個ありますから、これはIICの所有としましょう。

大きな戦力増強となる筈です。日本政府には

「そうしてくれれば今後韓国が復興してもISコアは保有させないし、

日本の行為もジェノサイドとは看做さない」という条件を出して呑ませます。』

 

「成程な、そうしろそうしろ。…お?」

 

『ボス、私です。ハルシュタインです。』

 

 今度は筆頭技官のハルカ・ハルシュタインから通信が。

 

「ああお前か。何か面白い話を持って来たんだろうな。」

 

『それはもう。4つ良い報告が有ります。

まず一つ。米英が共同開発中の対IS兵器

「エクスカリバー」の乗っ取りが完了しました。』

 

「そりゃ結構だ。で、あれは生体融合兵器なんだろう。誰を載せるんだ?」

 

『もう搭乗者の手配は済んでます。ほら、そこに寝かせている…』

 

 ハルカが指差した場所には、少女が一人水槽に寝かされていた。

 

「なら良い。そいつは奴に対する切り札になるだろう。丁重に扱えよ。」

 

『勿論です。もう一つは、コイツの回収に成功しました。

現在治療中です。専用機はコアを奪われましたが、操縦者としては

学園の専用機持ち相手なら充分相手に成ります。どうします?』

 

『な…なま…なま…い…き…じゃ…』

 

 ハルカの後ろには、なのはに蛸殴りにされてゴミ収集車に放り込まれ、

満身創痍の倉林美也子がうわ言を吐きながら治療されていた。

 

「使えねえ事は無いからな。一応配下には入れておこう。

今度コアが10個入る予定だからな。専用機も作ってやれ。」

 

『10個?!どっから手に入れ…あっ。(察し』

 

「そう言う事だ。」

 

『成程…3つ目は、Mの居場所を突き止めました。

監視用ナノマシンを破壊されたせいで、大分苦労しましたが、

学園と英国IS省の裏取引の結果、警視庁に引き渡され拘留中です。』

もう間に合わないかもしれませんが、口封じをしておきますか?』

 

「あんな欠陥品なんぞどうだっていいさ。奴を超えられなきゃ、意味はねえ。

どうせ寝返って来るだろうが、その時は…分かってるんだろう?」

 

『まあ、アレくらいなら私でもどうとでも出来ますから。

最後に、これまでISコアの解析の進捗状況が纏まりました。

現在の進捗状況は9割を超えています。

我々は遅くとも年内にはISコアを生産できます。

但し、適切な資金が投入されればの話です。』

 

「ほう、遂にそこまで行ったか!よし、それなら資金を…っておい、

もうタイフーンの売り上げをはねた分は使っちまったぞ!」

 

『それでしたら、私から提案が。』

 

「何かあるのか?」

 

『世界各地の女尊男卑主義団体に声を掛けましょう。

奴は調子に乗って女尊男卑最大の敵を自称し、

我等やIICのみならず、彼女達に宣戦布告したというミスを犯しました。

大殺戮者が宣戦布告したとなれば、挙って我等に味方してくれる筈です。

彼女達から資金を募れば…』

 

「そりゃ尤もだ。そいつはお前に任せる。

あんな奴等に男が交渉に行っちゃ拙いだろうからな。」

 

『了解しました。』

 

「よーし、良いぞ。とんでもねえイレギュラーがやって来ちまったが、

俺達の計画はまだ順調に進んでる。

プロジェクトD.O.S(選別の餞別)は予定通りだ。

戦力を整えろ!政府を操れ!民衆を煽れ!決戦の日は近いぞ!

俺達亡国機業が、世界を次世代化するのは目の前だ!

ハーッハッハッハッハッハ、ハーッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」

 

 恐るべき陰謀は想像を絶する規模に達している。

果たして、亡国機業の真の目標は?その先にどんな世界を求めているのか?

その答えは首領のみぞ知る。




早く軌道修正して、本格的な全面戦争に入らなければ。

今話のインタビュアーの質問内容は頂いた感想から採りました。
今後も感想での内容を本分にセリフとして反映させます。
尚、返答は全て「暴走核弾頭はそう思っている」ので、
間違っても作者の本心と誤解しないで下さい。
誤解して誹謗中傷的な感想を書いたから粛清なんて
運営もやりたく無い筈ですから。
(おかげで投稿が遅れたのは内緒です。)

次回「第29話 鬼神の居ぬ間に…」
次回以降は、なのはが不在の学園の様子を取り上げます。
ただ、何話まで続くか現段階では分からないんですよ。


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第29話  鬼神の居ぬ間に…

さて、今回からは息抜きになのは不在の学園の様子をご覧頂きましょう。
本当は早く軌道修正して、亡国機業との戦いに突入したいのですが、
その前の最後の休息の為、避けて通れないんですよこれが。
それでは、通算第81話、始まります。


 さて、なのはが富士の麓で合宿に勤しんでいた頃、

学園では何が起きていたのかと言うと…

 

「はい、では皆さん、今日の1時限目は秋の身体測定です!

出席番号順に並んで下さい!」

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

 と、言う訳で本日は身体測定である。

 

「それでは、全員静かに保健室へ移動しましょう。」

 

 

 

 そして…

 

「えー、織斑君には別の用件が有りますので、

別の場所で測定させて貰いますね。それじゃ、こっちへ。」

 

「ああ、はい。」

 

「それじゃ始めますね…身長は…172cm。

では体重は…65kgと…で、胸囲は…95cmですね。

で…次は…(中略)……はい、測定は終わりました。もう良いですよ。

それでは、次は保健室まで来て下さい。」

 

「はい。」

 

 そして、一夏が保健室に到着すると…

 

「あの!測定が終わったらこっちに来いって言われたんですけど、

一体何の用なんですか?」

 

「ああ、織斑君。測定が終わったんですね?

それじゃ、他の子の測定の手伝いをしてくれませんか?」

 

「……はぁ?」

 

 真耶から言い渡された用件は、何と測定の手伝い。

当然、この向こうの生徒は全員下着姿である。

 

「えーと、山田先生?今、測定を手伝えって言いましたか?」

 

「はい、お願いします。」

 

「ええええええええええ?!」

 

「何を騒いでいる、お…一夏。」

 

「あ、ちふ…じゃなくて織斑先生。」

 

「お前という奴は、これしきの事も出来んのか?」

 

「そう言う問題じゃねぇよ!何で俺が測定係なの?!おかしいでしょ!

男子に女子の身体測定手伝わせる高校がどこに有るんだよ?!」

 

「お前の朴念仁を少しでも治す為だ、諦めろ。生徒は全員合意済みだ。」

 

「いや、何か違う気がするんだけど…」

 

「心配するな。ホラ、目隠しだ。これを巻け。」

 

「しょうがないなぁ…何かあったら、責任取ってくれよ。」

 

 かくして、身体測定が始まった。

 

「よし、では出席番号順に入って下さい。はい、相川さん。」

 

「はーい。」

 

 出席番号1番で、セシリアのルームメイトの相川清香が入って来た。

 

「そ、それじゃ織斑君、お願いね。」

 

「あ、ああ。前が見えないから、何処にいるのか…」

 

 と、両手を前に出すと…

 

「きゃあん♥」

 

「うお、この弾力!まさか…」

 

 慌てて一夏が目隠しを取ると…

 

「もーう、織斑君ったらぁ♪」

 

 案の定、一夏の手が掴んでいたのは清香の乳房だった。

だが、清香は何故か嬉しそうだった。

 

「はうあっ! ごごごごごゴメンナサイ!!」

 

「清香さん!今の悲鳴はなん…で…すの?」

 

 そして、最悪のタイミングでカーテンを開けて入って来たのは、

よりによって下着姿の専用機持ち4人だった。

 

「あっ…」

 

「い、一夏…お前という奴は…」

 

「私達と言う者が有りながら、他の生徒にまで手を出すとは…」

 

「もーう!最低だよ!!」

 

「許せませんわ!」

 

「お、おまっ、見て分からねえのかよ!

目隠ししてるんだから間違って触っただけだよ!」

 

「問答無用!成敗じゃー!!」

 

「アイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」

 

 かくして千冬に鎮圧されるまで専用機持ち4人にしばき回された一夏だった。

 

「だから言ったのに~…。(ボロンチョ」

 

「ううむ、失敗か…仕方ない、山田先生にやって貰おう。」

 

「最初からそうすりゃ良かったじゃんかよー。

畜生、なのはさんに訴えてやる…。」

 

「………すまん。悪かった。だからそれだけは止めろ下さい。」

 

 

 

 因みに、1組の女子専用機持ち4人+鈴音の身体測定の結果と、

24歳トリオ+真耶の参考記録は以下の通りである。

 

 尚、T=トップバスト

 

   U=アンダーバスト

 

   C=カップ

 

   である。

 

        H   W  BMI T  U  T-U  C   W  H

 箒     160 51 19.9 98 68 30  I  60 91

 

 セシリア  156 48 19.7 85 65 20  E  54 82

 

 シャル   154 44 18.5 83 65 18  D  55 81

 

 鈴音    150 41 18.2 75 62 13  B  53 78

 

 ラウラ   148 39 17.8 78 64 14  B  54 79

 

 

 参考 

        H   W  BMI T  U  T-U  C   W  H

 真耶    155 49 20.3 97 66 31  I  57 93

 

 千冬    166 53 19.2 88 68 20  E  56 87

 

 束     161 52 20.0 98 68 30  I  59 92

 

 なのは   160 50 19.5 85 67 18  D  55 85

 

 

 多少ごたごたしたが、身体測定は終わったので良しとしよう。

 

 

 

 別の日…

 

「一夏さん、少しよろしいですか?」

 

 ふいにセシリアが一夏に声を掛ける。

 

「織斑先生が言っていましたが、一夏さんは料理が出来ると聞きましたわ。

もし宜しければ、料理を教えて頂けませんか?」

 

「え?料理?」

 

「ええ、実は夏休みになのはさんが代表操縦者就任の挨拶回りで

英国に来たのですが、その際ワタクシの家に泊まっていったのです。

その際、なのはさんの気に入る料理を出せるのか疑わしかったので、

なのはさんと相談した結果、料理をなのはさんに作って頂く事に成りました。」

 

「ああ、そうだよな…イギリスって言ったら…アレだもんな…。」

 

「ええ、そういう訳で、その時なのはさんに作って頂いた料理のレシピを基に、

自分で作れる様になりたいのです。」

 

「成程な。それじゃ、次の土日は暇だからその時に…。」

 

「ええ、是非お願いしますわ!」

 

 そして、土曜日の事…

 

「な、何でお前等まで…」

 

 何故か1組の他の専用機持ちと鈴音までいた。

 

「2人きりにしたら、何が起こるか解らんからな。」

 

「それに、料理ならアタシ達も教えられるから、一石二鳥でしょ?」

 

「な、成程な…。」

 

 という訳で、料理指導が始まった。

 

 

 

「取り敢えず、私は唐揚げを教える事にしよう。」

 

 まずは簡単な物から教えると言う事で、箒が唐揚げを指導する事に。

 

「おっと、調味料が足りないな、ちょっと持って来るから待っててくれ。」

 

「はい。」

 

 そして完成した唐揚げは見た目は美味しそうな物に仕上がっていたのだが…

 

「グエーッ!!なんだこの苦味は!!それにこの異臭…

おい、お前一体何を入れたんだ?!!」

 

「はい、箒さんが調味料を持って来る間に香り付けの為、

唐揚げに香水をかけたんですの。何か、おかしな事をしましたか?」

 

「アホかー!!」

 

 

 

 TAKE2…

 

「それじゃ、僕等はポトフを教えるよ。」

 

「はい、お願いしますわ。」

 

「あ!コンソメが足りないよ、ちょっと持って来る!」

 

 

 そして…

 

「グエーッ!!不味いー!!」「こ、この彩り目的のこれは何だ…」

 

「もー!セシリア、何を入れたの?!!」

 

「彩りが不足しておりましたので、えーと、何を入れたんでしたっけ…」

 

「自分でも分からない物を入れないでよー!!」

 

「あっ、思い出しましたわ、ライムを入れたんですの!!」

 

「ナンデ?!!」

 

 

 TAKE3…

 

「次はアタシね!アタシは炒飯を教えるわ!!」

 

「お願いしますわ…。」

 

「中華は火力よ!とびっきりの強火で、一気に炒めるの!!」

 

「分かりましたわ!!では…B・ティアーズ!!」

 

「え、ちょ、おま…」

 

 セシリアはBT兵器を展開し、レーザーを照射。

勿論、チャーハンは大爆発。消し炭となってしまった。

 

「馬鹿ー!!!!(黒焦げアフロ」

 

「ちょ、ちょっと火力が強過ぎましたわ…。」

 

「ちょっとで済むかー!!」

 

 と、こんな感じで兎に角滅茶苦茶な結果に成るのであった。それと言うのも…

 

「ちょ、セシリア、タバスコ多過ぎ多過ぎ!!」

 

「そんな事を言われましても、このままでは

この料理本の完成写真と全然見た目が違いますわ!!」

 

「見た目は二の次!まず食べられるのが第一だよ!!

それに、本当の味を知らずに変なアレンジしちゃ駄目!!」

 

 どうもセシリアは見た目重視の上、独自のアレンジを加える癖が有るらしい。

その為、見た目「だけ」はよさそうだったので被害は拡大し、

被害理由について自身の落ち度とは欠片も思っていない様だ。

 

「セシリア…ゴメン、悪いけどセシリアの料理下手は僕等の手に負えないよ。

なのはさんに直接教えて貰いなよ。」

 

「俺もそう思う。はっきり言って、教えられる自信が無い。」

 

「全くだ。」

 

「ガビーン!!あんまりですわ!!なのはさんに料理を教わったら、

どんな厳しい修行に成るか…」

 

「うん、千冬姉もなのはさんから家事を教わってたけど、

トラウマになったらしくてどんな様子か教えてくれなかったんだよな…。」

 

 と、なのは不在の学園は平穏に過ぎて行く。

だが、IS学園の安息の日々は長くは続かないのであった。

 




専用機持ちの身体測定結果ですが、
身長以外は全部作者が適当に作った数値です。
(束は身長も全部自作。)
セシリアのトップバストが80代はおかしいと思うかもしれませんが、
原作で「胸が控え目」とあるので、敢えて千冬以下の数値に留めました。


2018/6/15 専用機持ちの3サイズを修正しました。
どうやら設定上でこのような数値になっているそうです。
これで、オリジナルの数値は体重とBMIのみとなりました。

どこまで続くか解らない息抜き回。果たして、息抜きに成るのやら…
さて次回、遂に日本漫画が誇る大御所キャラクターが満を持して登場します。
ただ、なのはとは絡めるかどうか…。

次回「第30話  鬼神の居ぬ間に…その2」
なのはがいなくても、騒動は終わらない。


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第30話  鬼神の居ぬ間に…その2

さて、いつぞやの合同合宿初日の騒動の結果、
あの大御所キャラクターが遂に話に絡む事に成ります。
通算第82話、始まります。


 ここは合同演習開始から数日後の東京は葛飾区。

その一角の亀有公園前では…。

 

「何ィ?!早矢の親父が負けた?!!」

 

 突如公園前の派出所から驚愕の声が響き渡った。

声の主はこの派出所に勤める名物警官、両津勘吉巡査長その人である。

 

「両津、声が高いぞ!」

 

 仰天している両津を一喝したのは、

この派出所の責任者で巡査部長の大原大次郎である。

 

「いや、部長!それ所じゃないでしょう!早矢の親父って言ったら…。」

 

「そうだ。ワシも信じられんが、署長が一部始終を目の前で見ていてな。

ほら、この間DVを受けていた両親に住所がばれたと言って

住民票閲覧制限の申し立てをして、親も反省してるんだから

仲直りしなさいって説得されたIS学園のOGがいただろう?

 

署長から聞いた話では、その場は合意しておきながら、

次の日に掌を返して弁護士同伴で被害届を叩きつけて訴訟沙汰にすると

突っかかって来たらしくてな。

 

それを聞いた親御さんが『騙したな!』って叫んだのが

偶々居合わせた先生の耳に入って

『周りの善意を踏み躙り、親どころか警察を謀るとは何事か!』と

お怒りになった先生がきつい折檻を食らわせたらしい。」

 

「まあ、あの人なら仕方ありませんよね。」

 

「近所からも仲直りする様に説得されてるのを

全部無視して振り切ったらしいですからね。」

 

 相槌を打っている警官はこの派出所勤務の若手、

黄地に縦縞のストライプのド派手な制服が特徴の中川圭一巡査と、

こちらも桃色の制服にブロンドの婦人警官、秋本・(カトリーヌ)・麗子巡査である。

この2人はどちらも実家が世界屈指の大富豪として有名だ。

 

「確かにな。あの親父は『嘘吐き絶対懲らしめるマン』だったからなぁ…

でもよ、聞けば聞く程周囲の連中は下らねぇな。

どうせそいつの両親なんざ不良上がりだろう?

不良が更生した、反省したから何だってんだよ。」

 

「おい両津、そんな言い方は無いだろう!」

 

「そう言いますがね、今まで酷かった奴が漸く普通になっただけでしょう。

何だって皆して持て囃すんでしょうね?

過去に手前のガキを甚振ってたのは変わりっこ無ぇんだから、

どんなに反省しようが、居場所を知られたくないのは当たり前でしょうが!

そうは思いませんか部長?!」

 

「まあ、お前の場合は過去が過去だからそう言う考えに至るのも分かるが…。

だが両津、それなら先生が親御さんを咎めなかった事の

説明が付かんだろう?」

 

「そうよ。早矢さんのお父さんくらい倫理道徳に厳しい人が

何も言わなかったって言う事は、やっぱり親御さんに非は無くて

自分の親不孝を責任転嫁しようとして

躾をDVと騒ぎ立てただけって事じゃないの?」

 

「うーむ、あの早矢の親父が外道の肩を持つ訳が無いからな…。」

 

「で、この話には続きが有ってだな。

あの後、その話が例の新任の代表操縦者…暴走核弾頭の耳に入ってな、

奴さんは彼女の肩を持って、事もあろうに演習初日のミーティングの時に、

遠回しにだが先生に面と向かって『死ね』と言ったそうだ。」

 

「げっ?!!あの早矢の親父に『死ね』って?!」

 

「部長!それホントですか?!」

 

「本当なら、命知らず過ぎますよ…。」

 

「厳密に言うと、会議室の窓を指差して『出口はあそこだ』と

きっぱり2度言い放ったと言う事らしい。」

 

「何て事を…。」

 

「あの早矢さんのお父さん相手に、面と向かって良くそんな事を…。」

 

「勿論先生は怒ったし、何より御夫人の堪忍袋の緒が切れたらしくてな、

『警察すら謀った親不孝者の肩を持つなら表へ出ろ!』と啖呵を切って

一族総出で折檻しようとしたらしいが、何と言ったか…

百歩神拳とか言う超能力だか拳法だか良く分からん術で、

全員返り討ちにされてしまったらしい。」

 

「ちょ、超能力ですか?!」「部長、それ作り話じゃないんですか?」

 

「いや、ワシは直接見ておらんからさっぱり分からん。

だが、この話をしている署長は真剣だったしな、何よりだ。

早矢君を含めて何人も怪我人が出ているんだ。事実なんだろう。」

 

「確かに…」

 

「まあ、早矢の親父に喧嘩で勝つとなると、

超能力でも使わなきゃ無理だろうが…その暴走核弾頭とかいう奴、

まるで日暮みてえな奴だな。そんなの使えるなら、もうIS要らんだろ…。」

 

「ああ、ワシもその話を聞いた時は真っ先にアイツを思い出したよ。

そう言えば、来年は五輪が有るから、また起こしに行かねばならんな。

とまあ、それはそうとしてだ。先生達を返り討ちにした直後に

暴走核弾頭の正体は変装した篠ノ之博士だったってオチが付いて、

この話は終わるんだが…」

 

「ほら、やっぱり作り話じゃないんですか?」

 

「そうですよ。変装して潜り込んだって、どっかの大泥棒じゃあるまいし…。」

 

「だが怪我人が出ているという動かぬ証拠がある。信じるしかあるまい。

ワシもこの前早矢君の見舞いに行ったが、酷い物だった。

医者の話では右腕左足を骨折していてな、今年中の復帰は無理だとの事だ。

早矢君曰く御家族も皆『嘘つきを庇う慮外者に負けた』事に大変落胆していて、

先生など自宅の再建が一段落付き次第後事を御子息に託して隠居し、

出家するとお弟子さん達に宣言したとの事だ。」

 

「あ、あの親父の出家姿…見て見たくもあるが、見て見たくもない…。」

 

「そう言えば、先生は早矢さんを暴走核弾頭に替わる

日本代表操縦者にと推していたそうですが…」

 

「それも無しになったそうだ。政府がISを宇宙開発ツールに回帰させる為、

IS道構想の放棄を決めた際、先生の肝いりで選ばれた代表候補生は

IS学園に入っていなかったと言う理由で全員が除名されたとの事だ。」

 

「そんな!怪我人に対して酷い事しますね。

踏んだり蹴ったりじゃないですか。」

 

「暴走核弾頭の代表指名と言い、今度の一件と言い、

日本政府は国際社会から非難轟々だそうじゃないですか。

これから先、日本はどうなるんでしょうか?」

 

「うーむ、ワシには分からん。先生は人脈を駆使して

モンド・グロッソの創設にも多大の貢献をして下さったお方だった。

ISの平和利用の為、新たな武道に昇華させるという構想も

先生の提言で計画された物だったが…。

篠ノ之博士から徹底的に反対されて、政府が昨日撤回を決めたそうだ。」

 

「僕もIICに勤める親戚から聞きました。

IICの上層部は日本政府の決定には否定的で、

翌年のモスクワ大会の日本代表出場停止も有り得るとか…」

 

「おうよ。ネットでも散々言われてるからな。」

 

「それでな両津。お前に本庁から名指しで命令が来ている。」

 

「わ、ワシにですか?!」

 

「IS学園の用務員が一人病気で入院したらしくてな。

そこでお前が期間限定で雇われた用務員に扮して、学園に潜入しろとの事だ。

幸い、暴走核弾頭は富士の麓で演習中だ。

詳細はこの辞令に書いてあるから、ここで読んでおけよ。」

 

「うええ…」

 

 

 

 

 数日後…

 

「(と、そんな事が有って早数日…)」

 

 両津は授業で使った大量の資料の山を台車で真耶と共に運んでいた。

 

「どうもすいません、両津さん。」

 

「なーに、この程度の量、どうと言う事はないさ!」

 

 学園に期間限定の用務員として入った両津は力仕事を率先して引き受ける為、

早くも他の用務員からも重宝され、すっかり打ち解けていた。

 

「向こうじゃこれ以上の荷物を運ぶのはよくある事だからな。

この手の仕事は慣れっこよ!」

 

「そうなんですか。本土の学校は大変ですね。あ、資料室はここです。」

 

 両津と真耶は運んでいた資料を手分けして資料室に片づけていく。

そして数十分掛けて資料を片付け終えた後、それは起こった。

 

「ふぃ~、漸く終わったな。」

 

「はい、今日はどうもありがとうございました。」

 

「いやいや、そう気にする事は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブツッ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だ?!」

 

「え?何ですか?!まさか停電…?!」

 

 突如学園の照明が消えた。幸い、昼間だったので、視界はまだ十分だったが…

 

「あ?!おい、窓が…」

 

「防弾シャッターが…勝手に?!」

 

 学園中の窓に防弾シャッターが下り、日光が遮られる。

これで、学園内部は誘導灯以外の照明が無い暗闇になってしまった。

 

「こ、これじゃ何も見えませんよ?」

 

「おい、ここはこんな事が良くあるのか?」

 

「い、いえ。私今年入った新入りで、こんなの初めてなんです!」

 

「!! そこに誰かいるんですか?!」

 

 突如背後から聞こえる何者かの声。

 

「私です、山田です!そっちは誰ですか?」

 

「山田先生か…僕です、デュノアです。」

 

「何だ、デュノアさんか…こっちは今度入った用務員の両津さんです。」

 

「あ、ど…どうも。」

 

「しかし、何が起きたんだ?普通停電の時はすぐに自家発電装置が動く物だが、

まるで動く気配がないぞ。これじゃ非常照明も付かん。

それに、窓を塞いだら誰も校舎から出入りできんぞ。」

 

 両津がぼやいていると、シャルの専用機に

コアネットワークを通じて千冬の声が聞こえてきた。

 

『おい、聞こえるか?私だ、織斑だ。』

 

「ああ、織斑先生!」

 

『おお、山田先生もそこにいたか。

それよりも緊急事態だ。詳細は皆揃ってから説明するが、

兎に角専用機持ちは全員地下の非常時司令室に集合してくれ。

今からマップを転送する。もし防壁で道が塞がっている場合は、

ISで破壊して良いと理事会から許可が下りている。

それと、山田先生も一緒に来て貰う。兎に角急いでくれ。』

 

「…は、はい!山田先生、行きましょう!」

 

「はい!」

 

「おい、ワシはどうしたら良いんだ?!」

 

『ん?誰だ…って今度臨時で入った用務員の…

申し訳ないが、貴方には他の職員と共に地下のこの部屋に退避して貰いたい。

場所は転送したマップに記されている。』

 

「お、おう。」

 

 転送された見取り図には、非常時司令室と両津が退避を指示された

別の地下室が記されていた。

 

「それじゃ、皆地下へ行きましょう。」

 

 幸い誘導灯は内蔵バッテリーでしばらく動くため、

真耶達は誘導灯の明かりを頼りに先に進む事が出来た。

かくして、3人は一路地下へと進んで行く。




息抜きと思った?残念!ワールド・パージです。
今作では他作品からゲスト出演者が出ているという都合上、
敵も味方も、何人かキャラを追加する予定です。
果たして、両さんという第一級のジョーカーを切る余地はあるだろうか…?

次回「第31話  鬼神の居ぬ間に…その3」
果たして、学園はなのは抜きでこの窮地を切り抜けられるのか?


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第31話  鬼神の居ぬ間に…その3

さて、ここからワールド・パージ篇が本格的に始動します。
果たして、なのは抜きで学園の脅威に立ち向かえるのか?
通算第83話、始まります。


「よし、全員揃ったな?」

 

 今、地下の司令室には千冬と真耶、

そして一夏となのはを除く1組の専用機持ちと更識姉妹が集結していた。

 

「では、現状を説明しよう。

現在、この学園のシステムが何者かにハッキングを受けている。

残念な事に、誰が何の為にやったのかは未だ不明だ。

 

だが、はっきりしている事は一つある。

現在の学園は外部との通信手段を完全に喪失してしまった。

当然、コア・ネットワークもだ。

 

学園内部までは通じるが、外部との通信は不可能だった。

ISを飛ばして伝令を出そうとしたが、出口は塞がれていて脱出不可能だった。

つまり、高町や束に助けを求める手段が無いと言う事だ。」

 

「更に言うと、織斑君は今日白式の製造元である倉持技研からの依頼で、

公欠を取ってそっちへ向かっていますので、彼との連絡も不可能です。」

 

「そこでだ。これからお前達にはシステムを戻す為、

アクセスルームに入りISコア経由で電脳ダイブをして貰う。」

 

「電脳…ダイブ…。」

 

「確か、個人の意識をISと同調させ電脳世界に入るって言う…。」

 

「そうだ。志願する者はいるか?」

 

 専用機持ち達は暫く顔を見合わせると、全員が電脳ダイブに応じた。

 

「よし、ではさ…楯無は私と外の見張りを頼む。簪、オペレーターは任せた。」

 

「「はい!」」

 

「では、皆さんはアクセスルームに移動して下さい。」

 

 専用機持ち達はアクセスルームに移動。

 

「では皆さん、このベッドの上に横になって下さい。」

 

 専用機持ちは簪の指示で一斉にベッドに横になる。

 

「では電脳ダイブを開始します。

尚、電脳ダイブ中は睡眠状態に入ります。暫くお休みなさい。」

 

 彼女達は睡眠状態に入り、電脳世界に突入していった。

 

 

 

 一方その頃一夏は…

 

「ここが倉持技研かぁ…」

 

 まだまだ暑さの残る10月上旬、一夏は額の汗を拭いながら

目の前の施設「倉持技研第二研究所」の入り口に立っていた。

勿論、IS学園に再び何かが起こっている事など全く知らない。

そんなドアの前で立ち尽くす一夏に魔の手が迫っていた。

 

「やあやあ、いらっしゃい!!」

 

「!!」

 

 突然背後から肩を叩かれて振り向くと、

サングラスにISスーツを着た女性がにやにやして一夏を見ていた。

 

「ようこそ倉持技研へ、アタシがここの責任者の篝火ヒカルノだよ。」

 

 ヒカルノは何故か水浸しになっており、手にモリと魚を持っている。 

 

「ど、どうも。織斑一夏です。」

        

「ふふふ、君、初対面の女に顔を赤らめてどうしたのかな?

何なら、お姉さんと良い事でもしようか?」

 

 とこんな発言をするヒカルノを見て一夏はため息をつくのであった。

 

 

 

 

 

「これが電脳ダイブか…」

 

「まるで宇宙空間みたいだな、だが、呼吸は出来るみたいだが。」

 

 学園システム復旧の為電脳世界にダイブした専用機持ち。

専用機持ちの周囲はまるで宇宙空間のような星空が広がっていた。

と、彼女達の前に5つの扉が出現し、どこからともなく簪の声が聞こえてきた。

 

『聞こえますか?今皆さんの前に扉が5つ有る筈です。』

 

「ああ、確かに5つあるぞ。」

 

『扉には皆さんの名前が書かれている筈です。』

 

「あ!確かに名前が…」

 

『では、皆さんは名前の書かれた扉に入って下さい。』

 

「分かったわ。」

 

 5人はそれぞれの扉に入って行った。

 

 

 

 セシリアの場合

 

 ここはロンドン郊外の大豪邸、その中の執務室にて

金髪の女がテレビ電話の相手に向かって難しい顔をして話していた。

 

「ですから、もう少し詳細な報告を…」

 

 そこにいたのは、実家オルコット家を継承し、

傘下の企業を纏め上げる財閥の長として働くセシリアの姿だった。

 

「とにかく、今度の報告では何とも…はい。では…」

 

 テレビ電話の画面が切れ、セシリアは椅子にもたれてため息を吐く。

そして、机に置いてあるベルを鳴らすと、正面のドアが開かれる。

入って来たのは盆に乗ったティーセットを持って正装した一夏だった。

 

「お呼びですか、セシリア様。」

 

「もう、今は二人きりなんですよ。セシリアと呼んでくださいまし。」

 

「あ…ごめん。」

 

 机にティーセットを置くと、早速セシリアが紅茶を口にした。

実はこの日は週に一度の「ある日課」がある為、彼女はそれを待ち詫びていた。

 

「一夏さん、今日は『あの日』ですから、よろしくお願いしますね。」

 

「あ、ああ。」

 

 暫くして、セシリアが紅茶を飲み干すと、二人は別の部屋へ移動する。

 

 

 

 鈴音の場合

 

「ここは…?ああ!これって…まさか?!」

 

 気が付いたら、教室のような場所に一人で座っていた鈴音。

席から立ち上がると、いつの間にかISスーツでは無く中学時代の

黒いセーラー服に衣装が変わっていた。

 

「そうだ、甲龍は…あ!無い?!」

 

 手首に装着していた待機状態の甲龍は、何時の間にか消えてしまっていた。

 

 「(ヤバい、もし敵か何かが出てきたら…)」

 

 鈴音が状況確認の為に教室から出ようとすると教室のドアが開く。

入って来たのは…ここにいるはずのない一夏だった。

 

「何だ鈴、ここにいたのか?」

 

「あれ…一夏?! 何で?」

 

「何でって、さっきまで先生の仕事手伝ってたからだよ。」

 

「いやそうじゃなくて、いつの間に…

あれ、アタシ何を言おうとしてたんだっけ?」

 

 倉持技研から帰って来たのか聞こうとした鈴音だったが、

突然言いたい事が頭から消えてしまった。

思い出そうとすると、一夏に手を引かれる。

 

「早く帰ろうぜ、今朝TVで『今日は夕方から雨』って言ってたしな。」

 

「う、うん…」

 

 鈴と一夏が誰もいない廊下に出ると、外では雨が降り始めていた。

 

 

 

 シャルロットの場合

 

「♪♪♪♪♪♪」

 

 シャルロットはメイド姿で鼻歌を歌いながら脚立に登り窓を磨いていた。

彼女は織斑家で働くメイドであった。と、その後ろから一人の男が近づき、

シャルロットのスカートをたくし上げる。

 

「きゃ?!」

 

「ははっ、随分可愛い声出すんだな、シャル。」

 

 バスローブを着た一夏が意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

「も、もーう。御主人様…」

 

 シャルは涙目になってスカートを押さえていると、

一夏はシャルを抱きかかえて別室に連れて行く。

 

「あ、な、何を…?」

 

「おいおい、メイドは主人を喜ばせてこそだろう?」

 

 別室に連れて来られたシャルを前に、一夏はある物を取り出して見せつけた。

 

 

 

 ラウラの場合

 

「うむ、分かった。詳細は後程に…」

 

 軍を退役し、部下共々傭兵に転職したラウラはため息をついていると、

彼女の嫁、いや彼女の夫が台所から出て来た。

 

「どうしたラウラ?可愛い顔が台無しだぞ?」

 

「うむ、仕事が入ってな。今度の仕事場所はソマリアだそうだ。」

 

 エプロンを着たいかにも主夫と言った感じの一夏がコーヒーを手渡す。

ラウラは照れ隠ししながらコーヒーを飲んでいると

一夏がポケットから何かを取り出す。

 

「そうか、アフリカに行くとなると暫く会えなくなるな。

それじゃ、その前にこの間貰ったこれ、使ってみようかな?」

 

「あああっ、そ、それは?!」

 

 そこには「肩叩き券」ならぬ「何でもおねだり券」と手書きで書かれており、

二人はそれぞれ何枚か持っていた。この2人はこれまでこの券を使用して

コスプレしたり、マッサージされたりと色々と。

 

「こ、今度は何をする気なんだ?」

 

「何って?それはな…。」

 

 一夏が発表した内容に、ラウラは震えるのであった…。

 

 

 

 箒の場合

 

「イヤーッ!!」「デヤーッ!!」

 

 実家の剣道場にて箒と一夏が稽古をしていた。

暫らく双方の竹刀が交差する。暫く打ち合いが続いていたが…

 

「イヤーッ!!」

 

 箒が一瞬の隙を突いて、一夏から一本を取った。

息を上げながら、二人は互に礼をし防具を外した。

 

「あー、また負けた!腕上げたな箒。」

 

「あ、ああ…一夏のおかげだからな。ふう…しかし、すっかり汗だくだな。」

 

「だな。稽古は一時中止して、風呂でも入ろうか?」

 

「そ…そうしよう。では…先に入ってるからな。」

 

 箒は顔を赤くして道場を後にした。

 

 

 

 その頃、コントロールルームでは…

 

「拙い…連絡が取れない!でも、何で、どうして?!」

 

 5人との連絡が途絶してしまった簪が、

連絡の手段を探してキーボードを操作していた。

しかし、変化がなく時間だけが過ぎていく。

 

「なのはさんも織斑君もいない今、私達で学園を護らないと…。」

 

 

 そして、いよいよその時が来た。

 

「さて、鬼が出るか、蛇が出るか…」

 

 司令室の前で敵の襲来を警戒する千冬と楯無。すると…

 

ドン!!

 

「むっ、何だ?!」

 

「私が見て来ます!」

 

 遠方から爆発らしき音が響く。さては誰かが壁を爆破して忍び込んだのか?

早速、楯無が様子を探る為に向かっていった。

 

 

 

 そして…

 

「うーむ、道に迷ってしまったぞ。」

 

 一方、別の地下道ではもう一人の男が窮していた。

警視庁から学園の調査を命じられ、用務員に扮して潜入した両津勘吉である。

 

「確か、あの地図じゃこっちだと言っていた気がするが…うーむ。」

 

 と、道に迷って途方に暮れている両津。そして、それはやって来た。

 

ドン!!

 

「うおっ!何だ、何だ、何だぁ?!!」

 

 突如突き当りの壁が爆発。

崩れた壁の向こうから黒一色の戦闘服を着込んだ兵達が雪崩込んできた。

 

「げえっ、新手の…強盗か?!」

 

 突然の襲来につい声を上げる両津。

一斉に銃口を向けられたのは言うまでもない。

 

「何だ、用務員か?!」

 

「どうする?誰かに知らせる前に捕まえないと…」

 

「な、何だお前等は?!何をしに来た?!!」

 

「おーおーおー、ここがあのボーイの通ってる学園かぁ…

ステーツの代表操縦者になって、やる事がこれかよ…泣けてくるぜ。」

 

「それは言わない約束よ。彼に会えないのは残念だけど、

暴走核弾頭の居ない今だから、こういう事が出来るのよ。」

 

 更に、壁の向こうから女の声。入って来たのは2機のISだった。

片方は米国製第3世代機、ファング・クエイク(以下、F・クェイク)。

 

 そしてもう1機はどこかで見たシルバーの機体、ハワイ沖から飛んで来て、

ヤマトに殴られて砂浜に突き刺さった試作機、銀の福音。

動かしているのは言うまでもないだろう。

米国代表操縦者イーリス・コーリングと、その相方ナターシャ・ファイルスだ。




何とまあ、国家代表と代表級の実力者がわざわざ乗り込んで来るとは…
しかし、恐怖の襲撃者はこれで全員では無かった。

次回「第32話  鬼神の居ぬ間に…その4」
果たして、襲撃者の真の目的は?
そして、一夏となのはは学園の危機に気付くのか?


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第32話  鬼神の居ぬ間に…その4

 お久しぶりです。先月新たに投稿した作品の情報収集で
すっかり遅れてしまいまして、どうもすいませんでした。
それでは通算第84話、始まります。


 合同合宿でなのは不在の中、突如外部との連絡手段を喪ったIS学園。

残された専用機持ちが電脳ダイブでシステムの修復を図る中、

遂に下手人が正体を現す。何と正体は米国代表操縦者イーリス・コーリングと、

その相方のナターシャ・ファイルスだった。

 

「げぇっ、これが本物のISって奴か?!お前等、何しに来やがった?!」

 

「何って…言う義理なんか無ぇよ!」

 

「悪いけど、しばらく黙ってて貰うわよ!」

 

「くっそ、捕まって堪るか!」

 

 両津は身の危険を察し、早速逃亡。

 

「ああ!逃がすか!!」

 

 慌てて兵士が追おうとすると…。

 

「おっと、そうはいかないわよ。」

 

 その前に楯無が立ちはだかった。

 

「ちっ、もう邪魔者が来たのかよ。」

 

「イーリス・コーリング…パリで会った以来ね。

そしてもう一方はナターシャ・ファイルスね。まさか米国が下手人とは…

あら?貴方、新入りの用務員さんじゃないの、どうしたのよこんな所で?」

 

「済まん、道に迷ってた!そしたらこいつらが

いきなり壁をぶっ壊して乗り込んで来たんだよ!」

 

「成程ね。後は私に任せて、早く逃げなさいな。」

 

「良いのか?!」

 

「大丈夫よ、これでも一国の代表操縦者なんだから!」

 

 楯無はM・レイディを展開。米露代表対決に持ち込む構えだ。

 

「それじゃ、ここはイーリに任せて私は………けど良いわね?」

 

「良いぜ!さあ相手してやるよ!来な、ジャパニーズ・ロシアンガール!」

 

「ざーんねーん。悪いけど、相手して貰うわよ!」

 

 

 一方、千冬の方はと言うと…

 

「さて…これで終わりではなさそうだな…。」

 

『織斑先生、新手です!現在格納庫へ向かう通路をこちらへ向かってます。』

 

「うむ、分かった。そっちは私が行こう。(やはり来たか…仕方ない。)」

 

 暫くして千冬が連絡のあった通路に到着すると、確かにISが向かっていた。

機体はイーリスと同じF・クェイクだ。

 

「F・クェイク…やはり今回の騒動の黒幕は米国か…。いざ参る!」

 

 一方、IS操縦者も千冬に気が付いたらしい。

だが、気づいた時には両手の剣で斬りかかっていた。

 

「! ブリュンヒルデ…?なぜ生身で…?」

 

「どうした?お前の前にいるのは初代ブリュンヒルデ…

全身全霊で掛かって来い!」

 

「良いのかしら?私もいるのよ。」

 

「何?」

 

 背後から聞こえてきた声、振り返ると福音を駆るナターシャが。

最初に楯無が迎撃に来た事で、千冬がこっちにいると判断して

こちら側に合流しに来たのだ。

 

「この間の恩を仇で返す様で悪いけど、これも任務、悪く思わないでね!」

 

 言うなり、ナターシャの福音からは羽形の光弾が放たれる。

同時にもう1機がブーストを掛けて急接近。

 

「むっ!」

 

 持ち前の身体能力で難なく回避した千冬。

しかし、今の彼女の状況は危険だ。

何しろ生身で2機のISに挟撃されているのだ。

 

「この状況で戦える筈が無かろう、いい加減降伏して貰おうか。」

 

「F・クェイクか…さては米国特殊部隊、アンネイムドだな。

随分暇なのだな。態々日本の学園にまで潜入してくるとは…

目的は無人機の未登録コアだけではいな。まさか…白式か?」

 

「!」

 

 米国特殊部隊アンネイムド。隊員全員が国籍も民族も宗教も名前も無く、

米軍所属であるが記録上、書類上どこにも存在しない部隊。

恐らく、この操縦者が隊長なのだろう。

 

「だが残念だな、白式は今別の場所にある。」

 

「…そこまで知っていて、何故立ちはだかる?」

 

「生身ではIS相手に勝ち目がないとでも思っていたのか?

並みの人間ならばな…っ!」

 

 千冬は刀を手にF・クェイクに飛び掛かった。

 

「くっ!」

 

 名も無き隊長はブレードで迎撃。刃が激突する度に金属音と火花が飛び散る。

 

「…強い!」

 

 ISの力で振るっているにも関わらず、腕を押し戻されかねない。

一方、ナターシャは誤射を恐れて攻めあぐねていた。

 

「くっ、これが生身の人間の動き?!ブリュンヒルデは未だ健在と言う事ね…」

 

 2対1にも関わらず生身で渡り合う千冬。

ふと、切り結んだ反動でF・クェイクとの距離が離れた。

 

「ソルジャー、下がって!今度は私が…!」

 

 ナターシャがその僅かな隙を突き、シルバー・ベルで弾幕を張る。

だが、千冬はあっさり回避した。

 

「なっ?!」「避けられた?!」

 

「即興の割には連携できている様だな…だが、誰が相手だと思っている?」

 

「成程ね…これは…」「想像以上に困難な任務になりそうだ…」

 

 予想外の抵抗に苦戦するナターシャと名も無き隊長であった。

一方、米露代表対決は…

 

「おら!」「くっ!」

 

 早速イーリスが仕掛けた。瞬時加速からの右ストレートで先制攻撃。

楯無はその一撃を間一髪で回避するが、イーリスは回し蹴りに繋げて追撃。

何とか蒼流旋で食い止めた。

 

「ちっ!武器を出して来るなら…」

 

 単分子ブレードで斬りかかる。真面に止めれば蒼流旋でも切断されかねない。

 

「これは、本気で行くしかない!アクア・クリスタル!」

 

 楯無はアクア・クリスタルを展開。

 

「あれが出てきたと言う事は…クリア・パッションか?!」

 

 直後、空間が爆発。イーリスはギリギリで回避した。

 

「あら残念。」

 

「成程な!これが水を操作する能力か。自前で造ったISって聞いてたが、

ロシア人なのに氷操作じゃねーのはどう言うこった?」

 

「知らないの?ロシアのロは日本語で露と書く。

水分操作の方が寧ろ合ってるのよ!」

 

「そう言う事かよ…だったらよっ!」

 

 無理問答の直後、イーリス、今度は瞬時加速からのドロップキック。

楯無が躱すと壁蹴りからの三角飛びで上からブレードを突き出して飛び掛かる。

 

「思いっきり近づけば良いって事だろ?!自分を巻き込んじまうからなぁ!」

 

「!!」

 

 いくら絶対防御が有っても、巻き込まれればSEに大ダメージを受ける。

自分ごとクリア・パッションを使う訳にはいかない。

 

「ならば!」

 

 蒼流旋の機銃で牽制。

 

「戦法を変えたって事は、やっぱり図星だったみてぇだな!」

 

「まぁね。」

 

「(とはいえ、相手だって同格の国家代表、只の瞬時加速じゃ見切られちまう。

成功率が少し心許ねえが、あれもやらなきゃいけねぇって事か…)」

 

 あれとはイーリスの固有技、スラスターを次々に点火させて加速する加速法、

個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)である。

 

「どりゃあ!!」「このっ!!」

 

 楯無の蒼流旋とイーリスの拳が再度激突し火花を散らす。

 

「くっ、とんだ腕力馬鹿ね…!」

 

「悪いか?!これで代表まで昇ったんだよ!」

 

 イーリスは満を持して個別連続瞬時加速を発動。

成功率4割と不安定な技だが、運よく決まった事で勢いに乗る。

だが、向かう先はなぜか楯無と逆方向。まさか逃げる気なのか…?

 

「?! 何を… 逃がさない!!」

 

 楯無は瞬時加速で後を追う。

イーリスが壁を蹴って廊下の曲がり角を曲がる所までは目で追えた。

そして、壁を蹴って後に続こうとした瞬間。

 

「今だ!」

 

 イーリスの声で曲がった先で待ち構えていた特殊部隊の兵士が

スタングレネードを投げ込んだ。グレネードが発光、一瞬だけ目が眩む。

 

「しまっ…」「貰った!」

 

 背を向けていたイーリスは光の影響を受けず、

隙を見せた楯無に瞬時加速でショルダータックルを仕掛けた。

 

「ンアーッ!!!」

 

 楯無は壁に激突し、めり込んだ。

 

「くっ、IS戦に一般兵を割り込ませるなんて…」

 

 既存のどんな兵器も超越するIS同士の戦い、

普通はIS抜きでは足手纏いにしかならない。

だが、火力では敵わなくてもこう言う援護方法もあるのだ。

 

「悪ぃな、任務をしくじるよりはマシなんで、ズルさせて貰ったぜ。」

 

 

 

 

 一方、千冬はと言うと…

 

「…速い!」

 

 ナターシャの弾幕を巧妙に掻い潜り立ち回る千冬。

 

「無駄な事を…!」

 

 名も無き隊長も機体のベアクローで応戦するが、ジャンプで避けられる。

 

「それはこっちが、決める事だ!」

 

 千冬がジャンプで背後に回り込むと、ワイヤーがソルジャーの首に絡まる。

 

「しまった!」

 

「絶対防御に頼りすぎて、判断が遅れたな。」

 

「くっ…」

 

 絶対防御をピンポイントで発動し、ワイヤーを熱で切断して脱出。

 

「消えた…?」

 

 しかし、千冬が見当たらない。

 

「ソルジャー、右!」

 

 ナターシャの声で右を向くと、千冬が飛び掛かって来た。

何とか腕でブロックしたが、ドロップキックでバランスを崩す。

 

「ぐっ、恐ろしい身体能力だ…」「流石はブリュンヒルデね…」

 

「大方、未登録のコアによる無人機の開発を企てて…」

 

 そこまで言った所で、ナターシャの弾幕が再度襲い掛かる。

千冬は咄嗟に回避するが、一発が足を掠めた。

 

「ちぃっ!」

 

 そこに瞬時加速で追いついたソルジャーの一撃を食らい、吹き飛ばされる。

手にした日本刀も床に落ちた衝撃で手から落ちていた。

 

「ぐっ…やはり2対1はきついか…。」

 

「これで終わりの様だな、ブリュンヒルデ!」

 

「ちっ…」

 

チョンチョン…

 

「んん?」

 

ふと、何物かが千冬の肩を突く。振り返ると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\キャッ キャッ/

⌒*(○∀○)*⌒

 

「お前は…ヤマト?」「縫い…ぐるみ?」

 

 さあ大変だ。一番来て欲しくもあり、欲しくもない奴が来てしまった。




さあ大変だ。遂に奴が来てしまった。
果たして、無事に帰れるのは誰だ?

次回「第33話  鬼神の居ぬ間に…その5」
学園襲撃事件も、遂にクライマックス。



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第33話  鬼神の居ぬ間に…その5

 お久しぶりです。まだまだ続くワールド・パージ編。
しかし、学園にとうとう奴が来てしまった。
それでは通算第85話、始まります。


 その頃、倉持技研に出向いていた一夏は…

 

「ふぃーっ、終わったよ。」

 

「はぁ…有難うございます。」

 

「これで次世代機量産計画に大きく弾みがついたよ。それでさ…。」

 

「何でしょう?」

 

「君、あんな事をするのは初めてじゃないんだろ?」

 

「…バレました?」

 

「分かるよ、アタシは初めてだったけど。何か手慣れてたからね。」

 

「そうですか…。それじゃ、もう学園に戻っても良いですか?」

 

「ああ、お疲れ様。あ、それとさ…」

 

「はい?」

 

「今度会ったら…な?」

 

「…………………。」

 

 一夏は白式を受け取り、展開して学園へ戻って行った。

 

 

 

 一方その頃学園では…

 

 追い詰められた千冬の下にやって来たのはなぜか待機状態のヤマトだけ。

 

「や、ヤマト…助けに来たのか?」

 

「そうなの。」

 

「高町は…奴はどうした?」

 

「なのははべつこうどうなの。こんなやつは、やまとだけでじゅうぶんなの。」

 

「そうか…。」

 

「な、何だあのぬいぐるみは…」

 

「まさかあれは?!ソルジャー、気を付けて!それは暴走核弾頭の専用機よ!」

 

「ぼ、暴走核弾頭?!」

 

「やあ。」

 

 気が付くと、ヤマトは名も無き隊長の後ろに回り込んでいた。

 

「何ッ?!いつの間に…」

 

「とりあえず、かってにがくえんにはいってくるやつはしめるの!」

 

「くっ…!」

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 名も無き隊長は対応する間もなく、最大展開された錣曳で殴り飛ばされた。

 

「ソルジャー!!」

 

「おせーのっ!!」

 

ドギュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥウウウン!!

 

「ンアーッ!!!」

 

 ナターシャにも主砲を至近距離で発射。

5基15門の斉射で突き当たりまで吹き飛ばし、壁にめり込ませた。

 

「これでよしなの。」

 

「……そうか、おかげで助かった。感謝する。」

 

 

 

 一方、イーリスとの米露代表対決は…

 

「取り敢えず、もうコイツには用は無いな。

無力化してどこかの部屋にでも閉じ込めて、さっさとナタルと合流するぞ。」

 

「了解。」

 

 倒した楯無を縛って部屋に押し込めようとしていると…

 

「じ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ。」

 

「だ、誰だ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(・∀・)*⌒

やあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何者だ?!」「こ、コイツは…」

 

 そこにいたのは勿論なのは。レイジングハートも既に展開済みだ。

 

「お前さては…暴走核弾頭か?!」

 

「昼食時なのに連絡が無いから来てみたら、やっぱりおかしな事になってるの!

でも、原因がはっきりして何よりなの!おい、そこの奴。」

 

「「「「「(ビビクッ!!)」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

取り敢えず〆る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「野郎、生身で国家代表と戦う気か?舐めるな!」

 

「アクセルシューター。」

 

 ドッパアアアアアアアアァァァァァァァァン!!!

 

「「「「「グワーッ!!!」」」」」」

 

 なのはは有無を言わさずアクセルシューターを発射。

イーリスは何とか避けたが、付いてきた特殊部隊兵士は直撃して吹っ飛んだ。

 

「な、何だァーッ?!!!」

 

「おおおおおおおおDivine busteeeeeeeeer!!!!!」

 

 ドギュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルゥゥウウウン!!

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 しかし続けざまのディバインバスターが直撃。派手に吹っ飛ばされる。

 

「くっ、生身でビームをぶっ放しやがって…さてはエスパーだなオメー!!」

 

「さてはも何も無いの!!さあ掛かって来るの!!

今すぐ掛かって来るの!!何は無くとも掛かって来るのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「ちっくしょ、パリで現地の特殊部隊を差し置いて暴れ回ってた訳だぜ!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「野郎、生身なら躊躇うと思っていい気に成りやがって…!

こうなりゃこっちも本腰入れて反撃するっきゃねえ!!」

 

 イーリスも踏ん切りがついたのか、単分子ブレードでなのはに反撃するが…

 

「ふんぬっ!!!」

 

 入学初日に千冬相手にした時と同じ様に、ラウンドシールドで止められた。

 

「止められた?!くっそ、超能力でバリアも作れるのかよ?!」

 

「当然なの!!私はブリュンヒルデを生身で倒したの!!」

 

「何…だと…お前、本当に人間かよ?!」

 

「違うの!!私は悪魔なの!!」

 

「んなっ…!」

 

「何でもいいから、早く掛かって来るの!!

さもないとO☆HA☆NA☆SHIなの!!」

 

「な、何だコイツ…支離滅裂過ぎる…。」

 

「おおおおおおおおお!!O☆HA☆NA☆SHIなのおおおおおおおお!!」

 

 アクセルシューターを乱射して迫るなのは。

昼食の邪魔をされて気が立っているのか、言動が若干不安定になっている。

 

「こ、コイツ、ひょっとして本当に人間じゃねえのか?」

 

「やっと分かったの?ならもう一発ディバインバスターなの!!その前に…」

 

 そんな状況でも戦闘の勘は忘れないなのは。

チェーンバインドを発動し、イーリスを拘束した。

 

「し、しまった!コイツ、こんな事も出来るのか?!」

 

「さあとどめの時間なの!!ハイクなんか読ませないの!!」

 

「ちょ、おまっ、後ろのロシアンガールごと吹っ飛ばす気か?!」

 

「人質のつもりなの?!活殺自在の私に人質は効かないの!!」

 

「こ、コイツ、マジだ…

そう言えば、コイツは物体への破壊と非破壊を自由に制御できるんだった…」

 

 狭い屋内で周囲の被害を気にする事なく全力攻撃が出来る。

屋内戦でこれ程恐ろしい能力はない。もうそれだけで勝利が確定したに等しい。

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

「アッバァアアアーッ!!!」

 

 至近距離でディバインバスターを発射。イーリスは呆気無く吹っ飛ばされた。

 

「たかが国家代表なんて、こんな物なの。

学園のトラブルをこれ以上増やすんじゃねーのっ!」

 

「こ、こんなの有りかよ…ガクプシュ。」

 

 あっさり制圧完了したなのは。全員をふん縛って纏めようと動き出した瞬間…

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

 壁をぶち破って現れたのは、白式を展開した一夏だった。

 

「千冬姉ー!箒ー!皆無事…か…あれ?」

 

「おや?」

 

「あ、あのなのはさん?何でこんな所に?合宿は?」

 

「定時連絡が無かったから来てみたらこうなってたの!!

ここは私に任せて先に行くの!」

 

「アッハイ、そうさせて頂きます…」

 

 そして数分後、一夏はコントロールルームに到着した。

 

「皆、無事か?!」

 

「ああ、織斑君!!助けに来てくれたの?!」

 

「ああ、早く用事が終わったから…。で、何が有ったんだ?!」

 

「実は学園のシステムがダウンしてしまって…

その直後に米軍が攻めて来たの。」 

 

「べ、米軍…?!」

 

「織斑先生とお姉ちゃんは迎撃に出ていて、今連絡が取れないの。」

 

「そっか…でも、ここに来る途中でなのはさんに会ったから、

そっちの方はもう安心だと思うぞ…」

 

「そうだったんだ…なら安心だね。それでね…」

 

「そうだ、箒達は?皆は今どこに…。」

 

「篠ノ之さん達はシステムダウンを解決しようとして

電脳ダイブをしたんだけど、連絡が取れなくて、こちらから操作もできないの!

解決するには、誰かが電脳ダイブしてシステムを復旧させないといけなくて…」

 

「誰かがって…もしかして?」

 

「うん…織斑君、お願いできる?」

 

「…………分かった、俺が行く!」

 

 そう言うと、簪の操作で余った一つのべッドが動き出す。

 

「それじゃ、ベッドに仰向けになって。」

 

 一夏が覚悟を決めベッドに横になる。

 

「3、2、1…電脳ダイブ、開始!」

 

 様々な機械音が聞こえた後、簪の合図と同時に、

一夏の視界が真っ黒になった。

 

「………んん?」

 

 一夏がうっすらと目を開けると、

宇宙空間を思わせる背景に五つの扉が浮いていた。

 

「これが電脳世界か…。」

 

『織斑君、ダイブは無事成功したよ。

今、貴方の前にある扉の先に篠ノ之さん達がいるから、

一つずつ開けて中の皆を助け出してあげて!』

 

「ああ、分かった!!」

 

 簪の説明を聞くと、一夏は左端の扉に近づき、ドアを開けて中に飛び込んだ。




 正に残当。成るべくして成った結果である。

 次回「第34話  鬼神の居ぬ間に…その6」
遂に暴走核弾頭とあの大御所が顔合わせ。
そして、一連の騒ぎも遂に終結の時が来た。

 4月に投稿開始した新作、「戦場のヴァルキュリアThe after」も
よろしくお願いします。更新は毎月1日午前7時の月1ペースですが、
ちびちびやっていく所存です。早く「4」の資料集が欲しい…


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第34話  鬼神の居ぬ間に…その6

 大変長らくお待たせしました、お久しぶりです。
以前の活動報告にも書いた通り、身内の入院(現在退院済み)、
自身の資格試験と転職でさっぱり暇が取れず、
更新が滞っていましたが、漸く完成しました。
それでは通算第86話、始まります。


 さて、宇宙空間に浮かぶ扉に入った一夏だったが…。

 

「あん♥イイ♥イイよぉ♥」

 

「いいぞ、その調子♪もっと腰振ってよがっちゃえ!」

 

 一夏の目の前では、鈴音がもう一人の一夏に跨り

「子作りごっこ」に励んでいた。

 

「り、鈴?何やってるんだ…?」

 

「ふぇ?え、ええええっ?!一夏?!何で一夏が二人もぉぉぉぉ?!!」

 

 直後、鈴音が跨っていたもう一人の一夏に異変が発生した。

 

「異物確認、排除ヲ開始スル」

 

「っ!!い、痛っ!!」

 

 もう一人の一夏が鈴音から離れ、ノイズのかかった様な声で一言告げると、

突如鈴音が頭痛に襲われる。

 

「この野郎!!鈴音から離れろ!!」

 

 殴りかかるもう一人の一夏をギリギリで躱し、逆に殴り倒す。

直後、もう一人の一夏は光となり、消えてしまった。

 

「消えた…?鈴、大丈夫か、鈴!!」

 

「あ…い、一夏…?」

 

 事情が分からず混乱して震える鈴音を一夏は優しく抱きしめた。

 

「その…何だ…色々と…ゴメンな。」

 

「本当に、本物の一夏なんだよね?生きた一夏なんだよね?!」

 

「ああ…」

 

 直後、辺りが光に包まれ、二人は五つの扉の前に戻されていた。

 

 

 

「ゴメン!本当にゴメン!!

知らないで偽物と『子作りごっこ』なんかしちゃって本当にゴメン!!」

 

 ワールド・パージから脱出した鈴音は、

気付かずにニセ一夏と「子作りごっこ」をした事を土下座して平謝りしていた。

 

「まあ、仕方ないよな。俺等はもう『子作りごっこ』した仲だし、

バーチャルの中の理想の俺相手なら、騙されて相手するのは分かるけどさ…」

 

「今度の土日は一夏の気が済むまでアタシを好きにしていいから、

それで許して!」

 

「……分かったよ。

好きでやった事じゃないってのは分かってるんだ。だからもう許すよ。」

 

「ホント?」

 

「その代わり、今言った事は守れよ。」

 

「う、うん…良いよ。好きにして♥」

 

「それじゃ、俺は他の奴を助けに行ってくる!」 

 

 一夏はそう言うと、鈴音を置いて他の扉に飛び込んだ。 

 

 

 

「ああん♥Yes♥Yes♥Yeees♥」

 

 一夏が扉に飛び込むと、セシリアがバスタブでニセ一夏に

背後から抱きかかえられ、裸で「子作りごっこ」に励んでいた。

 

「あんっ♥あんっ♥あら?い、一夏…さん…?一体何事ですの?」

 

「異物ノ侵入ヲ確認、排除ヲ開始スル」

 

「させるか!!」

 

 一夏が近くにあったコートハンガーでニセ一夏を殴ると、

ニセ一夏は光になって消えて無くなった。

 

「え?え?えええっ?!」

 

「セシリア、大丈夫か?!」

 

「ふえ?」

 

 セシリアに駆け寄る一夏、セシリアは訳が分からず混乱していたが、

やがて自分が裸だと気付き…

 

「いーやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

「あべばー!!!」

 

 一夏は臨海学校の時よろしく張り飛ばされた。

 

 

 この後、シャル、ラウラ、箒の入った扉に入り込んだ一夏だったが…

 

「あん♥あん♥ああん♥」「もっと♥もっと強く♥」「凄い♥凄すぎるぅ♥」

 

 やっぱり全員ニセ一夏と「子作りごっこ」に励んでいた。

例によってニセ一夏を退治すると、空間が光に成り、扉の前まで戻される。

 

「そ、その…」「何と言うか…」「あんな事して…」「ゴメンナサイ…」

 

「仕様がないなー…。一応許すけど、今度の土日は分かってるよな?」

 

「「「「…ゴクリ。」」」」

 

 何故か期待に固唾をのむ専用機持ち。と、ここで簪から通信が。

 

『織斑君、5人共助け出せたんだね?』

 

「あ、ああ…何とかな。」

 

『それじゃ、こっちに戻すよ。』

 

「ああ、分かった。」

 

 気が付くと、一夏は電脳ダイブ用のベッドの上で目を覚ましていた。

 

「お疲れ様。他の皆も特に異常は無かったから、

後はお姉ちゃんと織斑先生だけだね。」

 

「あ、ああ…。って簪?何で顔が…」

 

「だって…今までのやり取り見ちゃったから…。」

 

「ガビーン!!!」

 

「ねえ織斑君?今度の土日は私も…いいよね?」

 

「もう…好きにして…。」

 

 おめでとう、土日はお楽しみ確定である。

 

 

 

 一方その頃…

 

「大変だ!同行していたISが3機共やられたらしい!」

 

「何だって!それじゃ学園側のISが向かってきたら…」

 

「ど、どうする?」 

 

 イーリス達に同行していた特殊部隊の討ち漏らしが

ここで味方のIS全滅を察知した様だ。

 

「こうしちゃいられない!作戦は失敗だ!!早く脱出しなければ…」

 

 と、そこに姿を表したのは…

 

「ああ!お前等は…!」

 

 避難していた筈の両津だった。

 

「見付けたぞ!」

 

「な、何だコイツは…!!」

 

「よくも驚かせてくれたな!お返しだ!」

 

 両津、まさかの先制攻撃。ドロップキックで襲い掛かる。 

 

「グワーッ!!」

 

「こ、この野郎…!」

 

「させるか!!」

 

 更に倒れた兵を掴み、鈍器代わりに振り回す。

 

「「「「「アイエエエエエエエエエエ!!!」」」」」

 

 たちまちなぎ倒される残党。

一応は現役の警察官、武道等の基礎訓練を受けているとはいえ、

特殊部隊相手に素手で立ち向かうあたり、彼もまた最早人間なのか疑わしい。

 こうして、両津はあっさり残党を全員ノックアウトしてのけたのであった。

 

「やれやれ、驚かせやがって…んん?」

 

「じ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ…」

 

 背後から聞こえるじ~っの声。振り返ると…

 

「じ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ…」

 

 謎のぬいぐるみ。正体は言うまでもないだろう。

 

「な、何だこのぬいぐるみは?!」

 

「やあ。」

 

「うお!喋った?!」

 

「やまとだよー。」

 

「ヤマト?喋るぬいぐるみ…ああ!さては暴走核弾頭の…?!」

 

「そうなの!」

 

「げっ、また出た!」

 

 今度はなのは本人が登場。

 

「⌒*(◎谷◎)*⌒じ~…」

 

「って、怖い怖い怖い!何だその悪鬼の形相は!」

 

「そこの用務員さん…」

 

「な、何だ?!」

 

「やけに手馴れた暴れ振りなの!ひょっとして…そっち系なの?!」

 

「な、何の事だ?!」

 

「まさか…国の手先なんて事は無いよね?」

 

「(ギクッ)そ、そんな事は無いぞ!ワシゃただの代理用務員だ!」

 

「本当に?」

 

「本当だぞ!」

 

「本当に?」

 

「ほ、本当だぞ!!」

 

「⌒*(◎谷◎)*⌒ホ ン ト ウ ニ ? 」

 

「ほ、本当に本当だぞ!!」

 

 あくまで惚ける両津だが、束謹製のISに通じなかった。

 

「だうとー!」

 

「(ビビクッ!)」

 

「けいしちょうのでーたにいっちするかおをはけーんなの!

これ、だーれ?」

 

 ヤマトが出したデータには、両津が警察官である事が明示されていた。

 

「げぇっ、バレた?!」

 

「あぁ~~~~~~~⌒*(◎谷◎)*⌒~~~~~~~ん?」

 

 やっぱり、こうなるのである。

 

「畜生、バレちゃあしょうがねえ!

確かにワシゃ本庁の命令で派遣された警察官の両津勘吉だ!

この前お前の師匠が本庁で滅茶苦茶やらかして大迷惑したんだぞ!

どうしてくれるんだ?!」

 

「本庁で…?ああ、アレ?」

 

「そうだ!早矢の親父はモンド・グロッソの事実上の発案者だぞ!

今度の事で日本は世界中から非難轟々だし、

お前だって警視庁も警察庁からも完全にマークされてるんだぞ!

一体お前等何がしたいんだ?!」

 

「何って、ただ全力で目の前の問題に挑むだけなの!」

 

「でぃすいずみーなの!」

 

「史上最低の『This is me(これぞ私)』だな…。

こんな奴に付き合わされる生徒には同情するぜ…」

 

「とにもかくにも、がくえんにすぱいするやつはしめるの!」

 

「げっ!」

 

 早速お仕置きしようとしたヤマトだが、この日の天は両津に味方した。

 

「あっ、休憩時間が終わりそうなの!

ヤマト、こんな事してる場合じゃないの!引き上げるの!」

 

「おーのーなの!」

 

「「じゃ、さよなら~。」」

 

 なのはとヤマトは演習に戻る為、ワープで学園から脱出したのであった。

 

「な、何だったんだ…?しかし、何であんな奴が世に出てきたんだ?」

 

 これが、なのはと両津のファーストコンタクトであった。

数日後、両津は本来の用務員が退院した事を受けて本土に帰還した。

それはなのはが韓国で大暴走に至る3日前の事である。




 こんな調子で、果たして続きを作れるのかな…?
あと、hoi2DH面白いです(^q^)。

 次回「第35話  秋霜」
ここからは、富士の麓の演習の続きです。
はたして、影が薄くなって久しい
もう一人の日本代表、律子の実力は…?



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第35話  秋霜

 あまけしておでめとうございます。ピロッチです。
平成もあと4か月で終わりですが、まだまだ本作の終わりの目途は立ちません。
そこに転職も加わって若干時間が取れなくなって来ましたが、
それでも2019年、張り切って更新をちまちま続けるつもりです。
それでは通算第87話、参ります。


 さて、なのはの大暴走in韓国から一夜明けた演習場では…

 

「さあ今日からはISを用いた機動訓練なの!!!

今年からは各々が持ち味を活かした訓練にシフトチェンジしたから、

きっちり己の得意分野を把握して腕を磨くの!!!」

 

 何となのはがあれだけの所業をやらかしておきながら、

何事もなかったかの様に合宿を続けていた。 

そして、なぜか監督代行の秋月律子を差し置いてなのはが朝礼を仕切っていた。

 

因みに、朝礼の通り今日からはISを用いた訓練に移ることになっている。

 

「あ、あの~…」

 

「…何なの?」

 

「えーと、監督代行は私ですので、勝手に仕切らないでくれませんか?」

 

「却下!貴方が仕切らないから私が代わりに仕切ってやってるの!」

 

「いや、貴方が先走り過ぎ…」

 

「⌒*(◎谷◎)*⌒」

 

「だからその顔は止めて下さい、怖いです。」

 

「と言う訳で、早速訓練に入るの!!でも、その前に…」

 

「その前に…?」

 

「私の専用機がこの度三次移行を達成したの!!正しく言うと、

三次移行は夏に達成済みで今回の一件で初公開という形になったの!!

と言う訳で、三次移行した私の専用機、大魔王ナノリオンのお披露目なの!!

 

「だ、大…魔王…?」

 

 律子と合宿参加者達はその禍々しい名前にドン引きである。

 

「出でよ…大魔王ナノリオーン!!!」

 

「わーい!!」 

 

 なのはの声に応じて現れた大魔王ナノリオン。

そこに現れたのは、これまでと変わらないヤマトの待機状態だった。ただし…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\キャッ キャッ/

⌒*(○∀○)*⌒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身長が2mに達している事を除いて。

 

「で、デカくない…?」

 

「更に成長してるうううぅぅぅ!!」

 

「ヒイイイイイイイ!!」「怖いー!!」「ナンデ?!成長ナンデ?!!」

 

 最早着ぐるみである。但し、中の人などいない。

 

「驚くのはここからなの!!さあ見せてやるの!!」

 

「いでよ、わがやっつのてよー!!」

 

パカッ
/ \

⌒*(○∀○)*⌒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワラワラ…やあ。⌒*(○∀○)*⌒ ⌒*(○∀○)*⌒やあ。ワラワラ…

やあ。⌒*(○∀○)*⌒⌒*(○∀○)*⌒やあ。\   /やあ。⌒*(○∀○)*⌒⌒*(○∀○)*⌒やあ。

ワラワラ…やあ。⌒*(○∀○)*⌒⌒*(○∀○)*⌒⌒*(○∀○)*⌒やあ。ワラワラ…

 

 ナノリオンの頭がハッチの様に開くと、

α版当時の待機状態と同じ姿の8体のぬいぐるみが飛び出した。

その正体は、主兵装L・彼岸手の待機状態である。

 

「イーーーーーーーーーーーーーーーヤーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

「増えたー!!」「何か増殖してる~!!」「キモいよ~!!」

 

 その惨状に恐怖し、怯え、叫び、竦む参加者達。

 

「とっても好評の様で何よりなの!!それでは訓練に入る前に…

国家代表にして監督代行である秋月律子による、模範演武を披露するの!!」

 

「えっ?高町さん?今日はそう言う予定は無いんですが…」

 

 いきなりの無茶振りに困惑する律子。

 

「と言う訳で、哀れな生贄…もとい、合宿の特別ゲストを紹介するの!!

米国代表操縦者のミス・イーリス・コーリングと

米軍テストパイロットのミス・ナターシャ・ファイルスなの!!

では早速秋月律子VSイーリス・コーリングの日米代表対決なの!!」

 

 そして、律子を無視して特別ゲストとして招かれたアメリカンコンビ。

この2人は学園襲撃の際に捕えられ、色々と危ないお仕置きを食らった挙句、

「この事をバラされたくなかったら

日米合同合宿の名目で今月一杯なのはに付き合え」

と束に脅されて渋々連れて来られてここにいる。

表向きはゲストだが、その実は体の良い人質である。

 

「な、何でアタシ等が日本の合宿に…」

 

「えーと、貴方達って、今韓国と戦争してる…のよね…」

 

「戦争は決着が付いたの!1910年以前から出直させてやったの!!」

 

「えっ…1910年って…」

 

「ちょ、ちょっと!勝手に合宿の予定を変えないで下さい!!」

 

 と、ここで我に返った律子から漸くツッコミが。しかし…

 

 

 

 

 

ギロリ…

⌒*(◎谷◎)*⌒⌒*(◎谷◎)*⌒⌒*(◎谷◎)*⌒⌒*(◎谷◎)*⌒

⌒*(◎谷◎)*⌒⌒*(◎谷◎)*⌒⌒*(◎谷◎)*⌒

⌒*(◎谷◎)*⌒⌒*(◎谷◎)*⌒⌒*(◎谷◎)*⌒

何なの?

 

 

 

 

 

「ビビクッ!!」

 

「早く支度するの!!さもないと3対1で対私の模範演武に切り替えるの!!」

 

「「「ハイヨロコンデー!」」」

 

 効果が無かった事は言うまでもない。

 

 

 

「はぁ~…何でこうなるのよ…」

 

 と言う訳で、訓練前の模範演武と称した律子VSイーリスの

日米代表対決が行われる事に。えっ?なのはとナターシャはどうするって?

ほら、ナターシャは代表じゃないし、対なのは?それは唯の拷問である。

 

「ああもう仕方ない、私だって国家代表の端くれ、

やってやろうじゃないのよ!」

 

「OK!お前相手ならまともな戦いが出来そうだな!」

 

「そうだと良いわね…『秋霜』展開!」

 

 イーリスのF・クェイク展開に合わせ、律子も専用機「秋霜(しゅうそう)」を展開する。

この機体は全身装甲(フルスキン)型と呼ばれる全身を覆う形式を取っており、

武装は右手の大型光線砲と左手と両踵の計3挺のレーザー銃、

更に格闘戦に備え、全身のあちこちに仕込み衝角を備えている。

もっと端的に言い表すと「サ○ス・ア○ン+ベ○ネ○タ+α」である。

なのはは夏休み初日の騒動で一度見ているが、

律子が防衛軍に復職を命じられた事で

警視庁IS小隊時代の白黒塗装から迷彩に塗り替えられ、

パトランプと旭日章は外されていた。

 

 

「では始めるの!!いざ勝負なの!!」

 

「オラーーーーーーーーーーーッ!!」「イヤーーーーーーーーーーーッ!!」

 

 開始早々、両者共瞬時加速で急接近しインファイトに持ち込む。

 

ガッ!!

 

 互いのハイキックが激突。と、ここで予想外の事態が発生。

 

「「うわ!」」

 

 何と衝撃で両者とも弾き飛ばされ、距離が開いてしまった。

 

「くっ、昔戦った時より威力が上がってる…以前の積りで戦うと

絶対勝ち目はないわね…仕方ないか。」

 

 律子は左手と踵のレーザー銃で牽制。

唯射つのでは無く、体術と複合させる所謂ガンカタである。 

 

「おっと!」 

 

「この!」

 

 しかし、レーザーはあくまで牽制用の為弾幕を張るには至らず、

イーリスには避けられてしまう。

逆にイーリスは単分子ブレードを展開して再接近。イーリスの突きに対し、

律子は右手の砲からエネルギーワイヤーを射出して絡ませた。

 

「なっ?!」「そぉい!」

 

 そのまま後ろに投げ飛ばすが、体勢を立て直してあっさり着地した。

 

「お互い…以前とは変わっちまったな。」

 

「そっちこそ…!

(レーザーを機銃にバージョンアップの予定は立っているけど、

まだ実物が届くのに時間がかかるのよね…)」 

 

「気を取り直して…オラーーッ!!!」「何の!!イヤーーーーーーッ!!!」

 

 仕切り直すと再度急接近。まずイーリスが右ストレートで仕掛ける。

 律子も拳で受けて初撃を撥ね退けるが、追撃で左の裏拳が飛んで来た。

 

「うわっとと…!」「ちっ、避けられた!」

 

 隙を与えず、今度は足技で仕掛けるイーリス。

律子に飛び道具を使わせない為、兎に角離れず攻撃し続ける作戦を取った様だ。

 

「さっきから互いに直撃を貰ってないの。お互い実力は互角なのかな?」

 

「知らなかった?リツコとイーリは前回大会で戦った事があるのよ。

その時はギリギリでイーリが勝ったわ。次の相手がブリュンヒルデだったから、

負けるが勝ちで貧乏くじを引かされたけど。」

 

「その辺りはさっぱりなの!!私、ISに乗って1年も経ってないの!」

 

「えええええ…(そんなドヤ顔で言われても…)」

 

 こちらの情報を知らないというより興味も無いのに、

学園であれだけ一方的に倒された事実から、

改めてなのはが突然変異級の大怪物と思い知ったナターシャであった。

 

「体術と銃を組み合わせたファイトスタイルか。

どちらかに特化した方がよさそうな気もするけど、

仮にも国家代表になれたなら、必要は無いか…」

 

「なんかねー、もともとはかくとういっぺんとうだったみたいなの。

でも、あいえすはかくとうせんがすべてじゃないことをしゅちょうするために

がん・かたにてをだしてから、あのくそばばあどもににらまれて

ぼうえいぐんをおわれたんだってー。」 

 

「成程ね…」

 

 今の所両者の実力は伯仲している。この戦い、中々一筋縄ではいかなそうだ。




 久しくワンサイドゲームしか書いていなかったから、
実力の互角同士の戦いを書けなくなる所だった…。
おかげで、顔文字大量生産で誤魔化す始末。

次回「第36話  烈日」
日米代表対決、決着編。
しかし、何やら良からぬ企てを企む者が…



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第36話  烈日

 やっぱりオリジナル展開は、投稿に予想以上の時間がかかるんだなあ…。
とか何とか言いながらも、ギリギリで正月休み中にもう一話完成しました。
それでは通算第88話、参ります。


 富士の麓の合宿も後半に差し掛かり、

いよいよISを用いた訓練が始まると思いきや、何故か連れて来られた

米国IS操縦者との日米合同合宿になのはが勝手に予定変更。模範演武と称し、

秋月律子とイーリス・コーリングの日米代表対決が行われていた。

 

「オラーーーーーーーーーーッ!!!」「イヤーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 律子の蹴りとイーリスの拳がぶつかり火花を散らす。

一見すると図体で勝るF・クェイクが重量差で優位そうだが、

律子はブースターの加速で威力を補い、拮抗していた。

 

「…と、ここで、これも追加よ!!」

 

「ちっ…!」

 

 更に踵のレーザー銃で追撃、何発かF・クェイクに掠った様だ。

 

「所詮、セミオートではこれが限界なのね…。」

 

「当たり前だ!それぐらいどうって事ねえよ!」

 

「dsynー…。」

 

 

 

 一方、代表対決の事実上の審判役のなのはは進展の無さに

半分飽きてきた様子だった。

 

「さっきからまるで進展が無いの!一進一退なの!」「つまんねーの。」

 

 なのはの後ろでは待機状態のL・彼岸手が

電子化されたウノで遊んでいる始末。傍から見ればとても和むのは気のせいだ。

 

「……えーと、暴走核弾頭さん?」

 

「何なの?」

 

「ひょっとして貴方…モンド・グロッソの映像とか、見た事が無いのかしら?」

 

「ないよ。」

 

「…国家代表相手にワンサイドゲームが出来る貴方は知らないでしょうけど、

代表同士の戦いって、それこそブリュンヒルデとか最上級の操縦者相手とか

余程の事が無い限り結構時間がかかる物なのよ。」

 

「そうなの?」

 

「そういう物なのよ。貴方だって、一撃で倒せる相手より

互角に渡り合える方が戦い甲斐があって良いでしょう?」

 

「そういうのは趣味の範疇に留めておくの!

仕事なら、ワンサイドゲームが良いに決まってるの!」

 

「………そう。(戦闘狂じゃなくて戦闘マシンなのね…。

何をどうしたらこうなるのかしら?)」

 

 

 

「ええい、埒が開かないわね!距離さえ取れればこれを使えるのに…」

 

 律子は戦闘中も秋霜の主砲である右手の大型光線砲への

エネルギーの充填を欠かさなかった。

 

「夏の間に移動しながら充填可能に出来たのが救いね…。」

 

 当然、相手もそれが分かっているから

こうして間合いを詰めながら戦っている。

 

「早いとこ離脱して、何とかして発射の隙を作らないと!……!」

 

「させねえよ!」

 

 律子が距離を取ろうにも、イーリスはぴったり食らいつき、

猛攻を仕掛け続ける。そうこうしている内に、戦局に少しながら動きが有った。

 

「くっ?!しまった!!」「よし、やっと決まったぜ!!」

 

 一瞬の差で、イーリスの拳が律子の腹部に命中した。

衝撃で吹き飛ばされ、引き離される。

 

「避け続けてへばったらビームで反撃しようかと思ったけど、

それよりも先に一発食らっちゃったか…。

でも今ので少し間合いを離せたわ、ここは必要経費と割り切って…仕掛ける!」

 

 律子はもっと間合いを取らないとビーム砲を打つ前に近づかれると判断し、

ここで更なる引き離しにかかる事を決断。万一追いつかれたときに備え

打撃の威力を上げるべく各所の仕込み衝角を展開しながら、

銃撃で牽制しつつ瞬時加速で逃げ出した。

 

「拙い…ここで逃げられたらビームが来ちまう!」

 

 当然イーリスも瞬時加速で追いかける。

 

「只の瞬時加速じゃ間に合わないな…こういう時はこれだ!」

 

 イーリスはやむなく個別連続瞬時加速を使用。

今回は運よく成功し、距離を縮める。

 

「この速さ…追いつかれる…なら!」

 

 律子は近づいてきたイーリスにビーム砲からエネルギーワイヤーを展開し、

瞬時加速の勢いを利用して投げ飛ばそうとする。

 

「またか!二度も嵌って堪るか!破ぁ!!」

 

 イーリスは単分子ブレードでエネルギーワイヤーを斬り難を逃れる。

 

「嘘!ええい、ならこうよ!」

 

 投げ飛ばしが出来ないなら直接攻撃で弾き飛ばすしかないと判断した律子は

反転急加速で一気に近づき、ドロップキックで反撃する。

瞬時加速故の直線機動の隙を突いた為簡単に直撃し、大きく間合いを離した。

 

「くっ!やられた!」

 

「良し!これで一転攻勢に出られる!」

 

 ここで律子が一気に攻勢に出る。ビーム砲とレーザー銃からの連射が、

F・クェイクを襲う。

 

「そんな簡単に!!」

 

 イーリスは近づきながら回避運動を行うが、相手も同格の国家代表。

何発か被弾してしまった。

 

「ちっくしょ!やっぱり無傷は無理か!でもアタシをあまり舐めんなよ!!」

 

 それでもやっぱり米国代表。個別連続瞬時加速も駆使して

逃げに集中している場合ではない律子との距離を少しずつ縮める。

ある程度はダメージを受けた物の、インファイト可能な間合いまで追いついた。

 

「くっ、倒しきれなかったか…思ったより小回りが利く様になったのね…!」

 

「結構食らっちまったが、何とか追いついたぜ!今度こそ!!」

 

「私だって!!」

 

 互いに手段を選んでいられなくなったのか、

単分子ブレードで斬りかかるイーリスに対し、

拳や蹴りでは受ける訳にいかない律子はやむなく衝角で受けようとするが、

武器の強度の差は埋めがたく、あっさり斬り落とされ、追撃を喰らってしまう。

 

「おぶはっ!」

 

「まだまだいくぜ!」

 

「させない!」 

 

 律子も反撃と言わんばかりにレーザー銃で応戦するが、

切り払いで姿勢を崩されてしまう。

 

「ンアーーーーーーッ!!」

 

 次々と機体各部に直撃し、見る見るうちにSEが減少していく。

 

「おや?ここに来て試合が動いてるの!決着も近いかな?」

 

 主審のなのはもそろそろ決着がつく頃合いと期待している様だ。

 

「ヤバい!ちょっと喰らい過ぎたわね…」

 

「いける!このままなら…!」

 

 このまま押し切れると確信したイーリスは捨て身の攻勢に出る。

レーザーの反撃に構わず至近距離からの瞬時加速で突撃して、

遂に律子を地面に墜落させた。

 

「やったか?!」

 

 しかし、直後に墜落地点から白い閃光が発生。正体は…。

 

「?! な、何の光?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、危なかった…ギリギリの所でSEが保ったわ…。」

 

 光が収まると、律子が中から現れた。だが様子がおかしい。

 

「ああ!機体の形が微妙に違う…まさか?!」

 

「今日はツイてたみたいね、まさかここで私も二次移行出来るなんて…ね!」

 

「せ、二次移行!よりによって…ここでかよ?!」

 

 何とここに来て律子の秋霜がまさかの二次移行に到達。

 

「二次移行したとなると、新しい銘が必要になるわね…それなら…よし!

秋霜改め、秋霜烈日!この機体の銘は、今から秋霜烈日よ!」

 

「くっそ、生身の暴走核弾頭にやられるわ、

相手が戦闘中に二次移行するわ、今月はとことんついてねえぜ!」

 

「ご愁傷様、こういう事もあると思って諦めなさい!」

 

「あらら、まさかの二次移行なの!」「こ、ここで二次移行なんて…」

 

 流石のなのはもこれには苦笑い。

 

「ねえ、今の見た?!」「見た見た!二次移行ってああなるんだ!」

 

「嘘…生で見ちゃった!」「えー!いいなあ!」「羨ましい!」

 

 他の参加者達も二次移行達成の瞬間を目撃して驚きを隠せない様子だ。

 

 

 

「さあまだ決着は付いてないの!仕切り直していざ最終ラウンドなの!」

 

「やっとここまで追い詰めたのに…!」

 

 とは言え律子が追い詰められたのは事実。何しろ残りSEは5しかない。

つまり、後一撃当てれば勝てるのだ。

 

「何かされる前に、後一撃決めるしかねえ!」

 

 イーリスが急接近すると、律子はリボルバー型に変化したレーザー銃で応戦。

引き金を引いた瞬間、シリンダーが高速回転し、機銃の如き連射が放たれる。

 

「な?!この連射、まさか…

レーザー銃が半自動式から機銃にパワーアップしたのか?!」

 

 これはつまり、牽制用だった飛び道具が

実戦でも真面に通用する兵装にパワーアップした事を意味していた。

 

「私の欲しかった機能がジャストミートで手に入ったわね!

これなら、逆転勝ちも狙えるわ!」

 

 律子は再び上空に上がり、両脚の銃も含めた3挺の機銃で

かわるがわる弾幕を張る。

 

「こ、こいつはキツイ…!」

 

 予想外の火力アップで、たちまち被弾が増えるイーリス。 

しかし、ここで近づかないと更に危険な大型ビーム砲で攻撃されてしまう。

 

「よし…再充填も完了した…。」

 

「ヤバいな…!もうSEが2割もねえ!こうなったら…賭けるしかねえ!!」

 

 個別連続瞬時加速の成功に賭け、最後の正面突撃で決着を付ける積りだ。

 

「これが最後の勝負だ…決まってくれよ!個別連続瞬時加速!!」

 

 一方、律子も最大出力のビームでトドメを刺す考えの様だ。

 

「もう一発も喰らえないわ!

確実に倒せる一撃…最大出力の一撃を当てるしかない!」

 

「「これが…最後!!!!!」」

 

 ズドォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

 真正面からの最後の一撃が炸裂。果たして、その結果は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝負あり…!判定は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドローなの!!この勝負、DKOにつき勝負なしなの!!」

 

 なのはの判定はドロー。一体何が起こったのか?その真相は…

 

「ま、間に合わなかった…」

 

 イーリスは最大出力のビーム砲の直撃で吹き飛ばされ、地面に転がっていた。

では、律子はと言うと…

 

「あ、危なかった…」

 

 何と、秋霜烈日の胸部装甲に単分子ブレードが刺さっていた。

イーリスがビーム直撃の直前に破れかぶれで思い切り放り投げた所、

まだ運が残っていたのかそのまま突き刺さったのだ。

律子自身は何ともないが、残りSE5ではこの一撃は充分トドメとなる。

と言う訳で、両者同時にSE0となった結果ドロー判定が下ったのであった。

 

「決着は付かなかったけど、いい勝負だったの!!

と言う訳で、全員で拍手してあげるの!!さあ拍手なの!!」

 

 なのはの一声で、残りの参加者は全員拍手で両者の健闘を讃えた。

 

「あ、はぁ…ありがとう…ございます。」

 

「ところで~…。」「ビビクッ!」

 

 と、ここでナノリオンが一言。その声に過剰に反応する律子。

 

「せっかくせかんどしふとしたんだから、

こんどはなのはとたたかって…くれるよね?」

 

「え゛?!」

 

「くれるよね?」

 

「あ、いや…えーと…その…。」

 

 律子が周囲を見渡すと、

いつの間にかL・彼岸手が取り囲んで凝視していた。

 

「「「「「「「「じ~…」」」」」」」」

 

「はわわ…」

 

「 く れ る よ ね ? 」

 

他の参加者を見渡すと…

 

「まずは基礎機動からだねー。」「私達も早く二次移行したいなー。(棒読み」

 

「さ、組手組手~。」「取り敢えず、イーリの機体の修復に行かないと…」

 

「ちょっとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお?!!!」

 

翌日、滅茶苦茶どーん!された。

 

 

 

 

 ???

 

 一方その頃この世のどこかでは…

 

「遂に、この時が来たな…。」

 

「はっ。」

 

「■■■様がこの地を首府と定めて440年、今や往時の面影は見る影もなし。

だが、いよいよこの地が在るべき姿に還る時が来た。…例の物はどうじゃ?」

 

「この通りでございます。」

 

「うむ。速やかに複製し、然るべき地に据えるのじゃ。」

 

「仰せのままに。」

 

「良いか、決行はかねての予定通り、神無月の2日とする。

くれぐれも遅れるでないぞ、他の物にも左様伝えい。」

 

「神無月の2日…地上で言う所の来月13日ですな。

しかと承りました。では私は複製の支度にかかりますので、これにて御免。」

 

「うむ。期待しておるぞ。」

 

 またも何者かが良からぬ企みを企てていた。果たして、その目的は?

その答えを知るのは、今はまだ当人ばかりのみ…。




 何か忘れてると思ったら、ヤマトの第三形態「大魔王ナノリオン」の
名前の由来を説明するのをすっかり忘れてました。
といっても、由来は至ってシンプルで、
ナノリオンとは、「ナノ」ハとエヴァンゲ「リオン」をくっつけた造語です。
別に他意はありません。

次回「第37話  ショー・ザ・フラッグ」
なのはがNH○のインタビューで答えた通り、
世界中に真相を公表し信を問う時が来た。
果たして、人類の反応は如何に?


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第37話  ショー・ザ・フラッグ

 さあお待ちかね、真相発表の時間です。果たして、各国の反応は如何に?
それでは通算第89話、参ります。


 律子とイーリスの日米代表対決から数日後、

なのはの大暴走in韓国の結果と韓国の惨状が国際社会に広まるにつれ、

世界各地から日本及びなのはの所業への非難の声が上がりつつあった。

そして東京の首相官邸では…

 

「そうか…やはり意図的に行っていたと言うのだな。」

 

『そう言う事になりますな。しかし、これだけの機密文書があれば…。』

 

「うむ。国際社会も反論は出来まい。」

 

 今、山口首相が米田防衛相から

「ソウルに派遣した水陸機動師団が押収した機密文書が到着した」

と報告を受け取った所である。

 

「これで暴走核弾頭が○HKに宣言した通り、今月中の真相公表が可能となる。

直ちに記者会見の準備を始めよう。それと米国の方はどうなっている?」

 

『今の所、何か動きがあったという報告はありませんな。』

 

「そうか。だが米政府が未だ沈黙を保っているのもは解せん。」

 

『金道均は確かに物部天獄に米首脳陣へ思想同調術を掛けさせたと

言っていましたからな。何はともあれ、防衛軍には警戒を続けさせます。』

 

「良かろう。いざと言う時は暴走核弾頭と篠ノ之博士への連絡を

最優先に行う事も忘れるな、全軍にもその旨再度確認させる様に。」

 

『確かに伝えます。では、これにて。』

 

 

 

 

 

 

 一方、IS学園では…

 

「な、何だよコレ…!」

 

「そんな…こんな事って…!」

 

 なのはの大暴走の全容が明らかとなり、

各国で報道されている件は当然学園にも伝わっていた。

 

「こんなの…幾らなんでもやりすぎだよ!」

 

「で、でも先に手を出したのは韓国だし…」

 

 1組の生徒達はなのはの行為に対して賛否両論の様子だ。

 

「お前達、静かにしろ。早くしないとSHRが始まるぞ。」

 

「でもち…織斑先生、なのはさんが韓国を…」

 

「ああ。その件で束から報告があるから良く聞け。実は韓国はSLBM…

潜水艦からの核ミサイルで日本を攻撃しようとしていたらしい。

そして、弾道ミサイルの目標を解析した結果、

一発がこの学園を狙っていたという結果が出たそうだ。」

 

「え?!それって…」

 

「つまり、もしも高町が居なかったら日本全土どころか、

この学園も核の炎で灰にされていた…私達諸共な。」

 

「じゃ、じゃあ…」

 

「奴はまたしてもこの学園を救ったと言う事に成る。

お前達があ奴の行動をどう考えるかは自由だ。

だがこの件を語るなら、この事実だけは頭に留めておけ。」

 

「「「「「…………………。」」」」」

 

「(学園に韓国籍の生徒がいないのは幸いしたな。

もし一人でもいれば…イジメだの何だのと、問題の拡大は免れんな。

高町め…相も変わらず反応に困る事をしおって…はぁ…)」

 

 千冬の苦労はまだまだ続きそうだ。

 

 そして、記者会見の時が来た。

諸外国の報道陣が一堂に会する中、山口総理が姿を現して着席する。

 

「それでは先の日韓戦に関し、

山口総理大臣の記者会見を始めさせて頂きます。」

 

「日本国内閣総理大臣、山口和豊である。

私は日本政府の代表者として、この度の大韓民国…

以下、同国への武力行使に関し、兼ねてからの約束通り

世界に真相を公表する為にこの会見を行うものである。

 

まず断言する事が有る。今回の我が国が武力行使を行った理由は

我が国に対し同国が民族浄化を目的とした先制攻撃を行ったからであり、

今日の同国の惨状は、それらの所業に対する自衛の結果である!」

 

「「「「「え、民族浄化(エスニック・クレンジング)?!」」」」」

 

 いきなり飛び出したワードにざわめく報道陣。

すると、その中の一人が質問を申し出た。

 

「BBCの○△□です。山口総理、1億人を遥かに上回る日本国民に対し

民族浄化を仕掛けると言うのはあまり現実味のある話とは言えません。

なぜ韓国が民族浄化を仕掛けたと言えるのか、根拠をお聞かせ願いたい。」

 

「根拠としては、二つの物的証拠が挙げられる。」

 

「物的証拠とは?」

 

「一つは、この核弾頭である!」

 

 防衛軍が回収したSLBMから取り外された核弾頭の写真が公表された。

 

「同国は旧北朝鮮を吸収合併した際、

非核化を宣言しておきながらのうのうと核を秘蔵し、

あまつさえ広島と長崎を含む日本各地に核攻撃を企てていたのである!

そしてこの写真の核弾頭は広島を目標としていた事が判明している!」

 

「成程…では、もう一つは?」

 

「大統領府地下から発見した機密文書である。この文書には、

この戦争が日本国民の絶滅を最終目標としている事が明記されていた。

詳細に関しては、他の文書共々公表する用意がある。」

 

「分かりました。私からの質問は以上です。」

 

「アルジャジーラの△○□です。韓国が日本国へ核兵器を用いた

民族浄化戦争を企てていた事は理解しました。

ですが、日本が行った反撃はやりすぎではないでしょうか?

総理の見解をお聞かせ願います。」

 

「我等が同国に行った行為は、同国が我等に行わんとしていた行為である。

同国は国民情緒法という独自の理念を持ち、

この度開戦を決断した金道均大統領は韓流民主主義を掲げ、

国民情緒を以て憲法と為すと明言し、それを実行した。

 

即ち、同国は自国民の確固たる意志を以て我が国への民族浄化戦争を

決意したのであるから、その責任は同国の全国民が取るべきである。

そして具体的な方法として、彼等が我等に為そうとした事を

その身で味わう事が、彼等が為し得る最上の贖罪と判断した。

故に、暴走核弾頭と防衛軍に全力で同国を討伐せよと命じたのである。」

 

「その結果が、寧辺への100メガトン級水素爆弾による核攻撃と、

鉄原への16ギガトン級の超核爆弾攻撃と言いたいのでしょうか?」

 

「…如何にも。但し、一つ訂正すべき所がある。

暴走核弾頭が鉄原市に行ったのは核攻撃では無く、

ホーキング輻射砲による砲撃である。」

 

「ホーキング輻射砲…それはいかなる兵器で?」

 

「開発者である篠ノ之束博士曰く、人工マイクロブラックホールを生成し、

ブラックホールからの熱的エネルギー放射を弾丸とする火砲である。

その威力は最大出力ならば、

半径400kmを破壊可能であるとの試算が出ている。

この砲は現在波動砲の名で暴走核弾頭専用機『ヤマト』に搭載されている。」

 

「そうですか…質問は以上です。」

 

「では真相公表の続きに移りたい。同国の悪業はこれに留まらず、

国連総会の場で敵国条項に基づいた武力行使を提言し、

棄権の上退室した者を除く国連大使及び米国首脳陣に対し、

超能力者による洗脳工作を行い、可決させていた事実が発覚した!」

 

「ちょ、超能力だって?!」「幾らなんでも荒唐無稽が過ぎる!」

 

「新手のジョークの積りなのか?」

 

「いくらアニメ大国とはいえ、

そんなアニメの世界の所業を信じているなんて…。」

 

 超能力による洗脳工作。俄かに信じがたい所業に更に騒然となる報道陣。

 

「信じ難いと言うのは分かる。

だがこれは同国大統領金道均が自ら認めた事実であり、

我が国はその証拠としてホログラフ通信の記録を公表するものである。」

 

 そして、道均からなのはへの降伏勧告の記録が会見場に流された。

 

『気付いたか?この道着の男の名は金成羅。

物部天獄の名前でネトウヨ・キモオタ列島で宗教団体を率いていた男さ!

 

この男は超能力の使い手でな、自分の発言に他人を同調させる事が出来る!!

例えばこの男が誰かを指定してケチだと言い降らせば、

どんな太っ腹でも周りの人間にケチと思わせる事が出来るのさ!!

 

もう分かっただろう!!

この力で、貴様等ネトウヨ・キモオタ帝国は滅ぼすべきと

各国の国連大使とアメリカ首脳陣に思想同調術を掛けさせたのさ!!

 

これ以上暴れれば、アメリカを動かして直ちに攻撃を始めさせるぞ!!

いや、アメリカだけじゃない!!他の国にも同じ事をしてやるぞ!

そうなれば、全人類が総出で貴様等を滅ぼしに来るんだぞ!!』

 

「「「「「……………。」」」」」

 

 記録を一通り見終えた報道陣は、最早開いた口が塞がらない様子だった。

 

「これは…本当の事なのか?」

 

「おいおいおい、コイツは…史上最大のスクープだ!!」

 

「もし事実ならナチの上を行く悪行だ…!!」

 

「こんな事有って良いのかよ…これはもう…。」

 

「ああ…うん…もう擁護しようが無いな…。」

 

「そ、そ、そ、総理!質問の許可を!!」「許可します。」

 

 ここで米国CNNの記者が大慌てで質問の許可を願い出た。

 

「CNNの△□○です!もしこの通信記録が事実ならば、

我が合衆国の首脳陣は今まさに対日戦を企てていると言う事になります!

総理はその前に合衆国へ先制攻撃する意図はないと保証できますか?」

 

 もしそうなったら、今度は米国本土に波動砲が飛んで来る事は明白だ。

そうなれば、今度は100年前と立場が逆転する可能性は極めて高い。

復讐と称して米国をどんな目に遭わすのか分かった物ではない。

 

「米国の動きに関しては、防衛軍に監視を続けさせているが、

米国への先制武力行使は在り得ないと明言する…但し!」

 

「但し…?」

 

「もしも交戦状態に突入した場合…

我が国は暴走核弾頭に『好きに暴れろ』と命ずる用意がある!」

 

「!!!」

 

 要するに、韓国でやった事をそのままやれという命令である。

 

「改めて申し上げるが、この度今上陛下があの様な口上を述べられたのは、

これまでの同国の日本国への所業に対する徹底報復の意思表示である!

 

なぜ我が国が今まで沈黙していたのか?

それは断じて彼等の主張を認めるという意図では無い。

諸外国の記者の中にはもう知っている者もいるかもしれないが、

一つは我が国の

『低程度の主張への反論は、自らが相手と同程度と認めるのと同じ』

とする風潮であり、

もう一つは同国の我が国への所業が政府主導で意図的に行っていたという

確証を得ていなかったからである。

 

だが、我が国は変わった。最早同国と同程度の国と思われても構わない。

我が国は今後この様な所業には徹底的に反撃する!

 

また、我々は同国の荒唐無稽な歴史認識と

それに基づく今までの仕打ちの数々は、

漢字を捨てて自国の古文書の読解を困難にした結果では無く、

全てを知った上で、日本民族への差別行為を全世界に許諾させる為に

行っていた事の証拠を遂に発見したものである!

 

その証拠とは、同国大統領府の地下に秘蔵された機密文書である!

今回、我が国はその原文と英訳文を一切の修正を行わず、

全世界に公表するものである!

 

そして、肝に銘ずるが良い!

これまで日本国は紛争解決の手段として武力を用いないという

旧9条の理念に基づき外交での解決に努めていた。

だが、白騎士事件を経て我が国は変わった。旧9条を改め、

自衛の為なら実力行使も辞さないと明記した以上、

我々は武力による自衛を厭わない!

 

その上で、日本国は同国に対して以下を要求する!」

 

 山口総理が出した要求を纏めると、以下の通りとなる。

 

・今までの反日政策は旧北朝鮮との正統性争いと旧貴族層の逆恨みが齎した

 事実無根の民族差別であると正式に認め、

 今後はドイツの非ナチ化政策を参考に、反日を法によって禁止する事。

 

・これまでの同国の歴史教育は自民族の優越を誇示する事を目的とし、

 国民に意図的に史実と異なる歴史を教えていた事を正式に認め、

 今後は客観性確保の為第三国の調査に基づいた資料を以て教育を行う事。

 

・今回、非核化を宣言しておきながら核兵器を秘蔵し、日本に発射した事は、

 同国が韓流民主主義の名の下に国民情緒を憲法と定めている以上、

 同国民の確固たる意志で日本国民の絶滅を企てたと解釈されるべきである。

 よって、残された同国民は責任を取り、今回のホーキング輻射砲攻撃を含む

 日本国代表IS操縦者「暴走核弾頭」高町なのはが同国に対して行った

 全ての行いは同国民の自業自得である事を認めてその全てを許し、

 その証拠としてあらゆる形での謝罪、賠償の請求権を永久に完全放棄する事。

 

「以上の3つを同国に要求する物である!もしこれを拒否した場合、

日本国は暴走核弾頭に対し、ホーキング輻射砲を用いて

同国領の全生存者の殺害を命ずるだろう!

 

無論、回答如何に関わらず同国出身者並びにその子孫が

来年度以降日本国に居住する事を許可しない事とする!

当然、国交断絶時に決定した入国、就労、帰化等の厳禁は継続する!

 

その上で国際連合に対し、今回の議決は大使を超能力者で洗脳して得た

不当な議決と認めて直ちに撤回する事、同時に同国を国際連合から

除名する事を要求する!また全国連加盟国に対しても、

同国に対する国家承認取り消しか国交の破棄を要求する物である!

 

併せてICPO、国際刑事警察機構に対し、国連大使を洗脳した超能力者、

物部天獄こと金成羅を国際指名手配する事を要求する!

 

もしこれを拒む国があれば、日本国民に対する民族浄化に賛同したと見做し、

直ちに暴走核弾頭に対してホーキング輻射砲を含むあらゆる手段を以て

同国と同じ目に遭わせる事を命ずるだろう!

我が国は今後自らに仇為す輩に対し、以下の一文に基づいて対処する!

即ち『我等、汝等をして我等の身に為さんとする行い、

汝等の身にしかと味わわせる』である!!

 

最後に、改めて同国に以下の事を申し渡す!

 

『今回の事態は全て汝等の自業自得である。

最早汝等に諸外国と国交を持つ資格は無い!

国交を結び直すに値すると認めて欲しければ、

今までの反日思想を嘘偽りと認めて永遠に放棄し、

己の力のみで1910年から出直せ!』

 

それが、我々の要求である!!…以上で会見を終了する。」

 

 山口首相の会見は早速世界各国に報道され、

各動画サイトでも英語吹き替え版がアップロードされた。

そして、一夜明けた官邸では…

 

「総理!先日の会見の結果、英仏両国が今回の件に関し中立を宣言!

国連大使は人事不省を理由に職務を停止し、代理人と派遣するとの事!」

 

「EUも韓国に対し、最大級の非難を表明!

併せて我が国への同情と中立を宣言しました!」

 

「インド首相が会見!韓国との国交を破棄し、

我が国への全面協力の用意があるとの事!」

 

「米国から最新報告!先の会見の真偽確認の為首脳陣の身柄を一時拘束し、

精神鑑定を行うと宣言!その間は下院議長が大統領を代行する模様!」

 

「ハーグのIICから声明!韓国が保有していたISコア、

計10個の返還を要求して来ました!返還するなら

今後韓国のIS保有資格抹消の用意があるとの事!」

 

 続けざまに国外の反応が首相の下に齎される。

 

「どうやら、我々の主張は好意的に受け止められていると見て良いだろうな。」

 

『その様ですな。これで長年の懸念が払拭されれば良いんですが…』

 

「そ、総理ーっ!!」

 

「何事か!」

 

「先程中南海から、中、韓、露と国際刑事裁判所、

そしてICPOの合同で以下の声明が…」

 

「何?」

 

 その声明というのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本国に対する軍備の解体及び皇室の国外追放と共和制への移行要求と、

また、国際刑事裁判所から現閣僚となのは、束、千冬への逮捕状発行の決定。

そして敵国条項に基づく武力行使の決定であった。




 戦争終結の一筋の希望は与えられ、
呆気無く断たれてしまいました。
それが何を意味するのか、なぜ誰も気づかないのだろう?


次回「第38話  魔王の国」
講和斡旋にあれだけ積極的だった中国の翻意、そして理不尽な決定。
なのはの怒りは、遂に越えてはいけない一線を越えた。


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第38話  魔王の国

 真相公表で韓国の悪行を明るみにし、何とか納得して貰ったと思った矢先、
まさかの中露合同での武力行使宣言。
あれだけ和平の斡旋に積極的だった中国と
中立の方針を固めていたロシアに何が有ったのか?
それでは通算第90話、参ります。



 日本政府はなのはの宣言通り韓国が超能力者で国連大使を洗脳し、

日本に対する民族浄化戦争を正当化しようとした証拠を世界に公表、

各国は韓国と国交を破棄する国、非難声明を出す国、

中立を宣言する国とその反応は様々だった。

だが、何故かここに来て中露が日本への武力行使を表明する。

そう。日本の対応よりも早く、事態は思わぬ所で急展開していたのだ。

 

 それは、日本政府が会見を決定した頃だった。

 

「貴主席、いよいよ日本政府が声明を発表するようです。」

 

「うむ。金成羅は思想同調術を確かに解いただろうな?」

 

「確かに解除したと申しております。もう間もなく戻ってくるかと……」

 

「主席、金成羅が戻りました。」

 

「おお、そうか。通してやれ。」

 

「畏まりました。金工作員、主席がお呼びだ、入れ。」

 

「ははっ、失礼します。」

 

 首相の命令で入室したこの男こそ、特殊工作員金成羅。

かつて日本で物部天獄を名乗りカルト教団天魁教を率いた宗教家にして、

自分の思考に他人を同調させる力を持つ本物の超能力者である。

この男こそ、共産党の命令で韓国を唆し、

世界各国の国連大使を日本討つべしの思想に同調させ、

総会で日本への武力行使を決定させた張本人であった。

 

「金工作員、この度はご苦労だった。

暴走核弾頭の暴れ振りは予想外だったが、まだ芽はある。

今は身を潜め、次に備えるが良い。」

 

「勿体なきお言葉。して、主席によき土産話がございます。」

 

「ほほう?それは何だ?」

 

 金成羅はにやりと口元を歪め、一言こう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美国総統(米国大統領)より、

『美中俄三国同盟の件、確かに承った』との回答を戴いた由にございます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」「美中俄三国同盟…だと?」

 

「如何にも。この同盟が成れば最早日帝…

否、ネトウヨ・キモオタ帝国など怖い物は有りませんな。」

 

 金成羅の言葉に一瞬言葉が詰まる貴主席。

美中俄とは米国、中国、ロシアの事である。つまり金成羅は

米大統領がこの3国による軍事同盟を締結する事に合意したと言ったのだ。

 

「ま、待て金成羅!わしはそんな命令を出した覚えは…」

 

「おやおや、『日本と戦うには美国と俄国とも手を組む必要が有る』

と仰った事、忘れた訳ではありますまいな?」

 

「バカな事を!美国はともかく、いつの間に俄国に手を回したのだ?!」

 

「ふっふっふ、これでも元は教祖でしたからな。

しかし面子をかなぐり捨ててまで講和の斡旋とは、

弱気になりましたなぁ…だが!」

 

「やめろ!貴様、まさかわし等に…」

 

「いかん!おい!警備兵!金成羅を止め…」

 

 

 

 

 

『ネトウヨ・キモオタ帝国は倒されるべきだー!!』

 

 

 

 

 

「「「「「……。」」」」」

 

 金成羅の声で警備兵を含む執務室の全員が沈黙した。

沈黙を最初に破ったのは貴主席だった。

 

「……お前の言う事も一理あるな。仮にも韓国は秘密同盟を結んだ同盟国。

それを見捨てるなど面子に関わる。やはりここは加勢するのが道理だろう。」

 

「ご尤もです。常務委員会は『美・俄両国から同盟の申し出有り』

という事で説き伏せましょう。」

 

「御英断です。既に『ザンギエフ大統領』が北京入りしております。

合同で声明を出し、韓国の仇討戦と参りましょう。」

 

 

 

 

 

 そして、東京に戻る。

 

「うぬぬぬ…中国は想定していたが、まさかロシアが向こうにつくとは…」

 

『世界第二の核大国でもあり、ISコアを25個保有しているロシアが

中国に加勢すれば、ISコアの保有数はこちらと同数。

俄然不利になりましたな。』

 

「ソ連時代から恐れていたことが、遂に現実になってしまったか…

防衛相、直ちに暴走核弾頭に連絡を取り、出撃の用意をさせるのだ。」

 

『はっ!』

 

 と、ここで職員が報告に来た。

 

「そ、総理…今宜しいでしょうか?」

 

「何だ?」

 

「それが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロシアのザンギエフ大統領からの『我が国へのSOS通信』でして…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「…………はぁ?」』

 

 ついさっき宣戦布告されたばかりの国の代表者から通信。

それも、SOSという意味不明の事態に混乱を隠せない。

 

『ちょっと待て!今ロシアが武力行使を宣言したばかりなんだぞ!

何でそこの大統領がSOS通信を寄越して来るんだ?!』

 

「と、兎に角、話だけでもお伺いした方が宜しいのでは?」

 

「仕方ない。聞くだけ聞いてやろう。繋いでくれ。」

 

「畏まりました。」

 

 そして、ザンギエフとの通信が繋がると…

 

『山口首相か?!私だ、ビクトル・ザンギエフだ!

今私が中韓と合同で対日武力制裁の声明を発表しなかったか?!』

 

「な、何だと?!」

 

『あれは私ではない!!テンゴク・モノノベだ!

テンゴク・モノノベが動いたのだ!!私に成りすました手下を送り込んで、

勝手に中国との同盟を結ばせたのだ!!』

 

「な、な、な…?!」

 

『そうだ、奴ぁ元はと言えばカルトの教祖!!

教団は潰したが、教団残党ってぇ自前の手下を持っていやがるんだった!!』

 

「何?!では奴本人だけでは無く、配下も超能力者だったと言うのか?!」

 

『恐らくそうなのだろう。私は自力で拘束を解いて逃げられたが、

首相以下閣僚と長老は未だ囚われたままだ!

長老はロシアの発展に多大な貢献をした人物、隠居人とはいえ影響力は絶大だ。

もしも偽長老がコメントを出せば、国民が丸め込まれるやもしれん。』

 

 確かにモニターの向こうのザンギエフ大統領はあちこちが土埃や泥で汚れ、

如何にも何かから必死で逃げてきたという出で立ちである。

 

『ど、どうします山口さん?』

 

「…………ザンギエフ大統領。」

 

『何か?』

 

「貴方はこれからどうする積りなのか聞かせて欲しい。」

 

『私はドモジェドヴォ空港へ逃げ、国外に脱出する積りだ。

そしてテンゴク・モノノベと手下がロシアを乗っ取った事実を公表する。

私一人で出来る事といえば、これが精一杯だろう。』

 

「そうか…防衛相。」

 

『はっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「直ちに暴走核弾頭に連絡を取れ!内容は

『物部天獄がロシアを乗っ取った。

助けを求めてきた本物の大統領の身柄を保護しろ』と。」

 

『山口首相…それでは!』

 

「うむ。我々はこれ以上の戦争拡大は望まない。

出来うる限り穏便な解決を目指す積りだ。ここは貴方を信じよう。」

 

『スパシーバ…。貴国の決断に敬意を払おう。

むっ…いかん、見つかったか?!済まないが、一旦通信を終える!』

 

 どうやら追手が来た様だ。通信はここで終了した。

しかし、そうこうしている間に事態は先へと進んでいた。

ニューヨークの国連本部大会議室では…。

 

「先程、国際刑事裁判所から日本国の現閣僚及び

暴走核弾頭高町なのは、ISの母篠ノ之束、初代ブリュンヒルデ織斑千冬への

逮捕状が発行されたとの報告が有りました!!また、米国議会より

 

『韓国の我が国に対する所業を差し引いても、

日本が暴走核弾頭に行わせた行為は到底容認できない。

彼女が韓国でした事はジェノサイドと看做すべきであり、

安保理常任理事国の一国として武力を以て制裁すべきと判断した。

我が国は首脳陣の精神鑑定の結果如何に関わらず

中露に協力し、敵国条項の発動に合意する。』

 

との表明が有りました!

よって、本総会はここに米国、中国、露国の

反日大同盟への参加を許可します!!」

 

 普通に考えれば、自国の首脳を洗脳して戦争に加わらせようとした

韓国の方を非難すべきである。ところがなのはの大暴走の結果

この言い分にも筋が通り、日本討つべしの風潮は

米議会のみならず国民の間にも広まり受け入れられつつあるのだ。

 

「国際社会の英断に改めて感謝します。

日本改めネトウヨ・キモオタ帝国の軍及び天皇制、現与党の解体は

今回の悲劇を再び起こさない為にも国連主導の下で遺漏なく行われ、

その軍備と技術はネトウヨ・キモオタ帝国民諸共

我が大韓民国が責任を持って管理し、独占する必要が有るのです。」

 

 韓国国連大使はこんな滅茶苦茶な事を言っているが、

それが何を意味するのかまだ分かっていない様だ。

そして、その報いを受ける時が来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だぁーっ!!!」

 

 突如降って来た謎の人影、もう誰が来たかは明白だ。

 

「暴走核弾頭、参上なの!!」

 

 満を持してなのは参上。傍らには束の姿もある。

 

「ぼ、ぼ、ぼ、暴走核弾頭?!!」

 

「ヒイイイイ!!出たぁあああああああ!!」

 

 阿鼻叫喚となる大会議場。

 

「誰かー!!暴走核弾頭だー!!誰かー!!助けてー!!」

 

「警備は全滅なの。もう助けなんか来ないの。」

 

「ナーアアアアアアアアアアアアア?!!」」

 

 そしてなのはは国連大使達が逃げ出すのに目もくれず中央の演壇に立ち、

束にカメラを向けられると、こう切り出した。

 

「全人類に告ぐ。100年前の前大戦の敗戦国という理由で、

国力不相応の小さき身の丈で有れとする呪縛を課し、

民族浄化に対する自衛の戦いを既に廃止するつもりだった

条文を持ち出してまで制裁しようとするその罪は重い。

先祖の罪は子孫の罪ではない以上、これは冤罪であり、絶対許さない。

ましてや私一人が勝手にやった事を国が命じたとする態度、

いよいよもって気に入らないの。よって…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⌒*(◎谷◎)*⌒

 

今から暴れに行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を言うか!!貴様等の先祖がやった事だから自分達は無実だと言う気か?

ネトウヨ・キモオタ帝国はネトウヨ・キモオタ帝国だ!

貴様等にも先祖と同じ様に韓国への仕打ちを未来永劫償う義務が有るのだぞ!

分かったか!一億総戦犯国家!!世界最低劣等犯罪国めが!!」

 

「(あーあ、言っちゃったよ。この期に及んでまだそれ言うの?

折角併合前から出直す機会だけはやったのに。

相手は地上から朝鮮半島を消し去る事が出来るって分かって言ってるの?!)」

 

「そんな連座制が通用すると…」

 

「まだそんな言い訳をする「あ゛あ゛?!!」

 

「ヒィ!」

 

「今私の言葉を言い訳と言ったの?!!

つまりO☆HA☆NA☆SHIはしないと言ったの?!!」

 

「な、何を…?」

 

「憤!!」

 

 ゴッ!!

 

「み゛ゃむ゛っ!!!」

 

 なのははワープで近づき、鉄拳制裁をぶちかました。

 

「私の前で人の言葉を言い訳と決め付ける奴は殴る!!

それが我が家の家訓なの!!!」

 

 当然である。そうでなかったらO☆HA☆NA☆SHIが出来ないからだ。

 

「なーちゃん、殴るだけ体力の無駄だよ!

こんな奴は『アレ』の的にしちゃいなよ。」

 

「アレ…ああ、昨日届いた!なら早速使うの!!」

 

 言うなり、なのはは魔方陣を展開。

右手を魔方陣に差し込み、引き抜いた手に持っていたのは…

 

「ジャジャーン!これぞこの束さん謹製の新兵器、

震動破砕銃『デシマティウス』!…今からお前はこいつの錆になる。」

 

「そう言う事なの。在り難く思うの。」

 

「ヒイイイイイイイイ!」

 

 なのはが手にしたのは震動破砕銃『デシマティウス』。

その外観は銃床を切り落とした昔懐かしのレバーアクションライフルだ。

かつての弟子スバルの技能「震動破砕」を束が再現し、

震動波を弾丸として発射する生身での戦闘用の武装である。

最大の特徴はISコアがジェネレーターであるため、魔力を不要とする事だ。

 

「や、ヤメロー!!私を殺して口を封じた所で、

歴史を直視しない貴様等ネトウヨ・キモオタ帝国には

未来が無い事で決まって…」

 

「天に確たる意志も無ければ、地に確たる歴史も無い!」

 

「(絶句)」

 

「後世とは何か?前世に天意が消滅し、

この束さんが現れた事を知るのみ。

そこには儒の教えなんか、残りはしないんだよ!!」

 

「クハハー!うっかり者!

我が大韓民国を儒教の国だと思い込んでいるらしいが、

我が国はクリスチャンの国だ!!」

 

 これはその通りである。韓国は儒教の国だったのは過去の話。

今はキリスト教が最大勢力を占めているのだ。

 

「天の神はいつでも我等を見ておられる!!絶対神の前では…」

 

「日本国は魔王の国であるぞ!!」

 

 束の大喝が会議場に響き渡った。

 

「(二階○盛義in信○の野望○天録状態)」

 

「日本国は多神国!だから絶対神と言えども絶対じゃないよ!!

たかが絶対神の分際で悪を為すなら、魔王が神をぶちのめす!!

日本国内で断じて絶対神の威光なんか通用しないよ!!」

 

「あ…そうだった…ネトウヨ・キモオタ人は…日本人は…」

 

 『たかが絶対神の分際で』。

後にこのやり取りが動画としてアップロードされた際、

そのパワーワードに誰もがメガテン…ではなく目が点になった。

確かに、かつて絶対神を殺してその座を奪うというゲームを造り出した国が

一神教の絶対性、無謬性など信じる筈もない。

 

「もう分かったよね?日本には暴走核弾頭って言う魔王がいるんだよ!!

一旦動けば、世界なんか今年中に滅ぼせるんだよ!!

良く覚えておくんだね!!日本の軍事力を舐めるんじゃないよ!!

ISの母たるこの篠ノ之束、初代ブリュンヒルデ織斑千冬、

暴走核弾頭高町なのは在る限り、日本国は圧倒的世界一の軍事大国だよ!!

まさか…それでも挑むの?それでも降伏する気は無いの?」

 

「それだけではないの!!既に米国代表操縦者イーリス・コーリングと

軍所属のテストパイロット、ナターシャ・ファイルスは

我々が身柄を確保しているの!!もう米国の戦力は半減状態なの!!」

 

「あ…あ…あ…」

 

「最後に、物部天獄。お前はコイツと同じ目に遭わせる、良く見ておけ。

なーちゃん、やって良いよ。」

 

 束の声で、なのははデシマティウスを国連大使に向け、ラテン語で一言。

 

Iaponia experrectus.(日本国は目覚めた)

 

「ヒイイイイイ!!や、止めろー!!命だけは、命だけは助けてくれー!!」

 

UN delenda est.(国連滅ぶべし)

 

「ゆ、許してくれー!殺さないでくれー!!」

 

「この銃に聞くの。刻まれた言葉が答えなの。」

 

 デシマティウスの側面にはラテン文字でこう刻まれていた。

 

 

 

 

 

DECIMATIUS

 

 

 

 

 

 銃その物の名であり、間引き、殺戮を意味するラテン語。

つまり向けるという行為自体が「お前を殺す」という意思表示である。

なのはは暗にそう言ったのだ。

 

「もう分かったね?死んだら許してやるの。…逝って来い。」

 

 なのはが引き金を引くと、震動破砕弾が韓国国連大使を直撃。

当然、大使は爆発四散した。

 

「よし、なーちゃん!最後の総仕上げだよ!!派手にやっちゃって!!」

 

「分かったの!!早速外に出るの!」

 

 なのはと束は直ちにヤマトワープで脱出。

なのはは国連本部に背を向けたままデシマティウスを向け、口を開いた。

 

「世界よ、これが日本だ。

この国は今、私達の目指す身の丈に相応しい地位に立つ。それは…」

 

Be the only one.(唯一であれ)

 

 なのはは言い終えると、引き金を引いた。




 言わんこっちゃない!と言う人も、
もうやめて!国際社会のHPは0よ!と言う人も、
感想お願いします。

追記
なのはの新武器、震動破砕銃『デシマティウス』ですが、
外観のモデルについてもっとぶっちゃけて言うと、
ラテン語で仮面と言う意味の某ゲームシリーズ第5弾で
ラスボスにトドメを刺したあの銃です。

次回「第39話  去る者と残る物」
なのはの怒りは、未だ収まる所を知らない。



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第39話  去る者と残る物

待っていた方がいれば、お待たせしました。8か月ぶりの更新です。
それでは通算第91話、参ります。



 中露の武力行使宣言の真相は、中国共産党が雇った特殊工作員、

物部天獄こと金成羅が首脳部へ日本討つべしの思想同調術を仕掛けた事が

原因だった。そして、金成羅の部下の手はロシアにも迫っていた。

辛うじてその魔の手から逃れた露大統領ビクトル・D・ザンギエフから

首相官邸にSOS通信が入る。曰く、自分は偽物とすり替えられ、

首相以下閣僚と後見人「長老」が未だ拘束されたままだと言う。

 

 その頃、真実を知って尚態度を改めない国連総会に激怒したなのはは

束を伴ってワープで国連本部に乱入。全人類に大暴れを宣告するや、

韓国国連大使を束謹製の新装備、震動破砕銃「デシマティウス」で抹殺。

トドメに国連本部に2射目を叩き込んだのであった。

 

 この暴挙は当然、東京に即座に伝えられた事は言うまでもない。

 

「そ、そ、そ、総理ーっ!!!」

 

「何事か?!」

 

「国連本部が…国連本部が…」

 

「国連本部がどうした…!! ま、まさか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暴走核弾頭がNYに出現!!国連本部を爆破しましたーっ!!」

 

 モニターの向こうでは、根こそぎ吹き飛んだ国連本部「だった」所を背に、

束から「雑魚殲滅用」にプレゼントされた

振動破砕銃「デシマティウス」を持って⌒*(◎谷◎)*⌒になったなのはが

こっちを睨んでいた。

 

「あ、あ、あ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「天魔じゃあ~っ!天魔の所業じゃあ~~~っ!」

 

 ばたんきゅー。

 

 山口総理はひとしきり叫ぶと、その場にぶっ倒れた。

 

「ちょおおおおおおっ、そ、そそそ総理ー!!!」

 

『や、山口さん?!山口さーーーーーーーん!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、そんな事をやっている間に他の所では…

 

『鳳候補生、何度言えば分かるのですか!』

 

 学園寮の鈴音の個室で鈴音と会話しているのは、

中国の候補生管理官、楊麗々(ヤンレイレイ)だ。

 

『これは軍国主義、反民主主義の本性を露わにした全人類最大の敵、

日帝に対する正義の戦争です。

全ての共産党員はこの聖戦に参加する義務が有るのですよ!』

 

この2人が何を言い争っているかと言うと、要するに

「学園にISを伴った特殊部隊が潜入して日本人生徒を人質にするので、

学園を裏切って潜入の手引きをしろ」と言う内通命令が下ったが、

鈴音がそれを拒否したのだ。

 

「嫌よ、アタシに同級生を裏切れって言うの?」

 

『これは共産党の決定です。

仮にも党員の貴女が党の命令に逆らうとでも?

(中国の代表操縦者と候補生は全て中国共産党党員の地位を与えられる。)』

 

「千冬さん…織斑先生から聞いたわ、

韓国が日本に核ミサイルを沢山発射したって事。

しかも、篠ノ之博士がその内の1発は学園を狙ってた事を突き止めた事もね。

自分を殺そうとした奴の味方に手を貸す奴が何処にいるって言うのよ?!」

 

『あの様な超一級の犯罪者の言う事を信じるというのですか?』

 

「信じるわよ!」

 

『んなっ…!』

 

「アンタは篠ノ之博士にも暴走核弾頭にも直接会った事がないから、

そんな事が言えるのよ!あの2人は仮にもアタシの老師(師匠)と、

そのまた老師でISの母なのよ!

そっちこそ、あの2人を騙し切れると思ってんの?!」

 

『どうあろうと、党に逆らうと言うのですね?』

 

「そうよ、党の命令だろうと断固拒否するわ。

きっぱり言うけど、アタシは共産党よりも暴走核弾頭の方がよっぽど怖いし、

そうでなくても、一介の『良きIS学園生徒』として振る舞う積りよ!

IS学園生徒である限り、いくら党の命令でも従う義務はないわ!」

 

『…後悔する事になりますよ。』

 

「そんな脅しに、アタシも学園も屈しないわ!

そっちこそ、明日学園中にこの話をバラしても良いのよ!

何ならこの会話は録音してあるから、

永田町に持って行く事が出来るのよ!」

 

『所詮は日本かぶれの出戻りか…

党は貴方を漢奸に堕ちた王八蛋(人非人)と看做すでしょう。』

 

「………。」

 

『党がどんな決定を下すのか、楽しみにしておきなさい。』

 

 そう言うと、楊管理官は中南海へ鈴音の反逆宣言を報告しに行く為、

一方的に通信を切ってしまった。

そして、鈴音の他にも祖国に反旗を翻そうとする者がいた。

 

「総理、警察庁から報告です!

ICPO-ICDに所属している警官3名が、

日本国籍の放棄を表明しました。併せて、反逆を宣言しております。」

 

「ああ、そうか…」

 

『まあ、そういう奴が出てくるのは予想済みだがなぁ…

仕方ないとはいえ、よりによって一馬の娘がそれをやっちまうかぁ…。』

 

「そうだったな。ICPO-ICDには真宮寺大佐の一人娘の…」

 

『ええ、暴走核弾頭の奴を代表に据えちまった所為で、

連中は俺達が一馬の命がけの苦労を踏み躙ったと看做した様ですな。

それで今度の件で、完全に日本を見放したと…』

 

「はい、篠ノ之博士と暴走核弾頭への特例による大勲位叙勲決定の直後、

警察庁に3名から連絡があり、

『もう自分達の知っている日本は滅んだ、こんな国は祖国でも何でもない。

今後はICD職員としての義務に専念し、今上陛下及び閣僚と

暴走核弾頭、篠ノ之博士、ブリュンヒルデの3人を絶対に逮捕する』と。」

 

「何?おい、今何と言った?!」

 

「はい、例の前口上が決め手となり、国際刑事裁判所は追加で

今上陛下にも逮捕状発行を決定したと通告がありました。

国家元首への逮捕状発行は一昔前のスーダン大統領という

前例もありまして…。」

 

「おのれICC、ふざけた真似をしおって!!」

 

 山口総理は激怒して机を殴り付ける。

 

「そっちがその気なら、こっちもやってやる!…朝敵だ。」

 

『…山口さん、もう一度言って頂きたい。今何と?』

 

「朝敵だ!あの裏切り者も、ICPOも、ICCも、

奴等とその関係者は皆朝敵と呼ぶべき逆賊、

そうでなければ日本国その物の仇敵である!!

直ちに声明を発表せよ!!以後奴等を朝敵と呼称し、

記者会見での宣言通り廃滅対象に指定する!!」

 

『幕末以来の所業ですな。ましてや外国人ばかりか国際機関を朝敵とは…』

 

「だが、反対者は武力で廃滅するとあの日記者会見で言い切った以上、

最早やるしかない。」

 

「それで…例の3人から、宣戦布告と称して通信が入っているのですが…。」

 

「良いだろう、聞くだけは聞いてやろう。回せ。」

 

 山口総理の指示で、ICPO-ICDの日本人メンバーが通信に現れた。

 

『山口総理と米田防衛相、ICCからの通告は聞きましたね?』

 

『ああ、聞いたよ。裏切り者がどの面下げて…と言いてぇ所だが、

俺達はお前ぇ等に裏切られるだけの事をしちまったのも事実だ。

まあ覚悟はしていたさ。』

 

『見損ないました。父の元上官だった貴方が、

あの大虐殺実行犯の言いなりになるなんて…』

 

『そう言うとは思ってたよ。だが俺はもう自衛官でも防衛軍の将軍でもねえ。

仮にも閣僚の端くれ、それも日本国民の安全に責任を負う

防衛大臣になっちまったんだよ。

その俺や山口さん他日本政府があの2人に尻尾を振り続けている限り、

アイツらは日本に危害を加えねえ、それ所か日本の防衛に手を貸してくれる。

となれば俺達のやる事は一つだ、政府総出で尻尾を振って、

徹頭徹尾アイツらのポチに徹し切る…それだけだ。』

 

『どこまで見下げ果てた性根ですの…!』

 

『正気じゃねえ…!あんな奴等に尻尾を振るなんざ、イカれてるぜ!』

 

『こんな人が父の元上官だったなんて…』

 

「それはお互い様だ。そっちこそ自分の生まれた国を何だと思っている?!」

 

『他国の幸せを願い、他国の不幸を悲しむ事のできる国で在って欲しい。

そう思っていました。でも、今はっきりしました。

私達の知っている日本は、白騎士事件の時に滅んでしまった。

今あるのは日本の皮を被った篠ノ之束と暴走核弾頭の言いなりの集まり。

私達にはそう見えている…と言っておきます。』

 

「成程、それが本音か…。つまり、日本は最早国でも何でもない、

言うなればかつてのISILと同類の世界的テロ集団とでも言うのか?」

 

『そう思って頂いて構いませんわ。既に一族は出国しました。

私達はもう、日本に未練も何にもありませんのよ。』

 

『そうだ!今まで中国だの韓国だのが散々日本が酷い事をしたって

言い続けたのは、単に日本を虚仮にする為の嘘って言ってた癖に!!』

 

『あの2人は韓国を黙らせる為だけに、

あの国の人達の主張よりもっと酷い事をしたんです!こんな事は許せない!

そんな奴に味方する国なんて、この世に存在してはならないんです!!』

 

『言ったな…!だが、手前ぇ等も越えちゃならねえ一線を越えちまった。

今上陛下に逮捕状を出した以上、覚悟は出来てるんだろうな?

手前ぇ等のやった事は、もう非国民なんて言葉じゃ温すぎて言い表せねえ。

今この瞬間から…手前ぇ等は全員「朝敵」だぁ!!』

 

『朝…敵…?!』

 

『おうよ、それも間違いなく徳川慶喜公以来の第一等の朝敵ってもんよ。

これがどういう意味かは分かってるな?

「絶対に生かしちゃおかねぇ、日本の総力を挙げて皆殺しにしろ!」って

軍と警察に命令を下す積りなんだよ、俺達は。

もう一度言うぞ、ICPOとICCの全関係者は朝敵だ。

これが俺達日本政府の答えだ。覚悟は…出来てんだろうな?』

 

「そう言う事だ、我々はICPOとICCの者共を絶対に生かしておかん!

年内に暴走核弾頭を送り付けて葬り去り、二度と再建できなくしてくれる!

これは私見ではない、日本国全国民の代表としての公式宣言と思え!」

 

『…良いでしょう。例え朝敵と呼ばれても、

私達は法の番人として世界に証明して見せます。正義は勝つと。』

 

『やってみろ、出来る物なら。その理屈がアイツに通じるかは別だがな。』

 

『通して見せます!私が、私達が正義であるが故に!!』

 

『…せめて骨くらいは拾ってやる、俺から言えるのは以上だ。』

 

 これが、彼等の最後の会話となった。

 

 

 

 そして、数分後… 

 

「防衛相!総理!暴走核弾頭と連絡が取れました。モニター繋ぎます!」

 

「おお、やっと繋がったか!!直ちにこっちに回せ!!」

 

『やあ。』

 

 直後、モニターになのはとナノリオンが姿を現した。

 

『(きょ、巨大化?!)

あー、暴走核弾頭か?こちら米田だ!ロシアの件は聞いたか?』

 

「ロシア?何の話なの?!」

 

『物部天獄の野郎、手下共と結託してロシアを乗っ取りやがった!!

中国にいるザンギエフ大統領は偽物だ!!

本物はモスクワのドモジェドヴォ空港に逃げようとしている!!

済まねぇが、お前ぇさんが大統領の身柄を確保してくれ!!』

 

『モスクワのドモジェドヴォ空港…了解したの!!』

 

「ああ、それとだな。無事ザンギエフ大統領を確保したら、

その足でハーグとリヨンへ向かい、

ICCとICPOの本部を破壊してくれまいか?」

 

『ICCとICPOを…?理由は?』

 

『ICCの野郎、今上陛下にまで逮捕状を出しやがったんでぇ!!

それで今しがたICPO-ICDの奴等が宣戦布告してきやがった!!

もうICCとICPOの連中は朝敵だ!日本人がいようが関係ねぇ!!

あそこの関係者はどうしようとお前ぇさんの勝手だ!!』

 

「ちっ、帝国華撃団め、予想通りの対応なの!!」

 

「(帝国…華撃団?)彼女達は日本に幻想を抱き過ぎた様だ…

この国が『他国の幸せを願い、他国の不幸を悲しむ事のできる国』

であって欲しいなどと言っていたが、

今の日本は篠ノ之博士と君の言いなりの集まりなどと吐かしおった。

残念だが彼女達はもう日本国民ではない。…後は分かるな?仔細は任せる。」

 

「『他国の幸せを願い、他国の不幸を悲しむ事のできる国』?

バカらしいの!この国にいつまでものび太でいろって言うの?!

私はこの国を私の様にしてやるの!!命令は了解したの!!

邪魔者の帝国華撃団め、この世から消してやるの!!!」

 

 なのはは早速モスクワへワープしていった。

 

『山口さん、あいつ、最後に何て言いましたかね?』

 

「聞き間違いでなければ、『この国を私の様にしてやる』

と言っていたと思うが…」

 

『「………………………………………………………………………………。」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「担ぐ神輿を間違えたかも知れん…。」』




 8か月も更新を怠っていたせいで、
前書きと後書きのテンプレを忘れかけてました。

 所で、日本国召喚、良いですよね…
いつか、あれで二次創作をやってみたいです。
もう、プロット作っちゃいましたし…。

次回「第40話  秋の夜長の大暴走 その1」
取り敢えず、全人類逃げてー!


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第40話  秋の夜長の大暴走 その1

お久しぶりです、ピロッチです。
外伝に続いて、本編もやっと最新話です。
それでは通算第92話、参ります。


中華人民共和国 首都北京 中南海

 

「楊管理官。先の鳳鈴音代表候補生の内通命令拒否に関し、

処分が決定したので通告する。」

 

『はっ。』

 

「鳳鈴音は我が国及び党への反逆者と看做す。

この貴智凱の名において同人物は党及び代表候補生から除名とする。

その上で国家反逆罪にて軍特殊部隊を派遣して速やかに抹殺を命じよう。

直に裁判所からも、正式な死刑判決が下るであろう。」

 

 学園襲撃に際しての内通命令を鈴音に拒否された楊管理官は、

直ちにIIC中国支部経由で党中央政治局常務委員会にこの件を報告。

程なくして鈴音の処置が決定したという事で貴主席直々の通告を受けていた。

 

『そうですか。…となると一つ問題があります。』

 

「何だ?」

 

『彼女がIS学園に在籍している以上、

「当人の合意無き生徒への干渉は禁止」の特記事項に従い、

彼女には国際社会公認の拒否権が有ります。抹殺を命じるとの事ですが、

どの様な大義名分に基づいての処置なのか各国にはどう説明致しますか?』

 

「君が知る必要はない。党の方針は全てに優先する。それが我が国だ。」

 

『分かりました。それでは、万一反撃された場合に備えて代表操縦者、

若しくは候補生を何人か同行させるべきかと考えますが如何でしょうか?』

 

「代表操縦者を?…ああ、それは構わん。

手が空いているのは…代表操縦者の黄春麗だな。彼女を同行させよう。」

 

『では、黄同志にはその様に連絡します。

で、もう一人の王同志は如何します?』

 

「王元姫か?彼女は本土の守りに就かせる予定だ。今回は動かせん。

…では、用件は以上だ。」

 

『畏まりました。失礼致します。』

 

「ああ、ちょっと待て。もう一つ用が有る。」

 

『何でしょう?』

 

「うむ。…………………とする。」

 

『…! 貴主席、それは本気ですか?』

 

「無論だ。派遣部隊には既に知らせてあり、準備は完了している。

では、今度こそ通告は以上だ。」

 

 こうして鈴音はあっさり本国から切り捨てられた上、

追われる身となったのであった。果たして、彼女の明日はどっちなのか?

それは、奴が知っているだろう。一方、その頃モスクワでは…。

 

 

 

ロシア連邦 首都モスクワ ドモジェドヴォ空港近郊

 

「確かこの辺りなの…。」

 

 日本政府からザンギエフ大統領の身柄保護の命を受けたなのはは

直ちに合流先のドモジェドヴォ空港近郊にワープ。

程なく1台の要人専用リムジンが猛スピードで空港に駆け込み、

なのはに近づくや急停止。中から降りて来たのは…

 

「暴走核弾頭か?私だ、ビクトル・ザンギエフだ!」

 

 全身ボロボロになりながら、辛うじて物部天獄の魔手から脱出した

ザンギエフ大統領その人だった。

 

「恐ろしく早い到着、私でなければ間に合わなかったの!

では早速東京にワープするの!!」

 

「良かろう。だがその前に言っておく事がある。

長老と他の閣僚の監禁場所だ。」

 

「それは何処なの?!」

 

「連邦保安庁本部庁舎、通称ルビャンカだ。私はそこから逃げてきた。

恐らく、私が脱出した事で閣僚と長老をそこから別の場所に移すだろう。

最悪の場合、口封じに抹殺を図るやも知れん。

私を東京に送った暁には、出来ればで良いから彼等も救出して貰いたい。」

 

「それ位なら、私は一向に構わないの!!でも、東京が許すかは別なの!!

…それと、どうやら其れ処ではなくなって来たみたいなの!!」

 

「何ッ?」

 

「後ろを見れば分かるの!!」

 

「!!」

 

 成程、後を見れば何かがこちらに向かってきている。

 

「しまった!追手か!!」

 

「何の!!」

 

 なのはは早速雑魚殲滅用の震動破砕銃「デシマティウス」をぶっ放す。

震動破砕エネルギー弾に巻き込まれた刺客は片っ端から爆発四散。

余りの一方的猛攻に最後の一人が逃げ出そうとするが…

 

「逃がしはせん!!」

 

 何と大統領は刺客に突撃し、ふん掴まえる。

 

「受けて見よ、祖国の怒りを!!…ファイナルッ!!」

 

 大統領は掛け声と共に刺客に高速の二連バックドロップをぶちかました。

 

「ぐぇあ!!」

 

 勿論これで終わりではない。

今度はスクリューパイルドライバーを喰らわせる。

 

「アトミックッ!!」

 

「ぐげ!!」

 

 トドメは更なるハイジャンプからのスクリューパイルドライバー。

もう言うまでもないだろう。プロレスラーだった若き日の大統領の

フィニッシュホールド、ファイナルアトミックバスターだ。

 

「バスタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「ぶぴ!!」

 

「うわっはっはっはっは、大勝利(ボリショイ・パビエーダ)ッ!!」

 

「……満足したの?」

 

「うむ!」

 

「ではさっさと東京にワープするの!!」

 

 なのはは大統領をL・彼岸手に乗せ、東京の総理官邸へワープ。

大統領は官邸で山口総理と面会し、改めて残る閣僚と長老の救出を依頼。

山口総理はこれを承諾し、大統領は駐日ロシア大使館に匿われる事となる。

無論、なのははモスクワへとんぼ返り、ルビャンカこと連邦保安庁本部庁舎に

正面切っての殴り込みを仕掛ける事に。という訳で…。

 

「おおおおおおおおおおおおっ!!!アクセルシュータァッー!!」

 

ドッパアアアアアアアアァァァァァァァァン!!!

 

「「「「「「アバッババッババババーッ!!!」」」」」」

 

アクセルシューターを乱射し、目に付いた人間を片っ端から蜂の巣に。

ついでにデシマティウスもぶっ放し、地下に向かって進んでいく。

尚、全員銃を向けて来たので、無関係の職員との判別は容易かったりする。

そして、難無く閣僚達が収用されて居るであろう地下に到着。 

片っ端からドアを蹴破って中を確認して回る。

 

「おおおおおおおおおお!!閣僚共居るかゴルァなのおおおおおおお!!!」

 

「な、何だァーッ!!!」「誰だこいつはーっ!!」

 

「見つけたの!!」

 

「むっ、ぼ、暴走核弾頭?!まさか…助けに来たのか?!!」

 

「そうなの!!大統領は東京に避難したの!!さあ付いてくるの!!」

 

 と、こんな調子で乗り込んで来たなのはを止められる筈も無く、

首相以下閣僚と長老は無事東京にワープ。早速大統領以下閣僚総出で

「自分達こそ本物であり、今露国内に居るのは中国が送り込んだ偽物である。

中国こそ本当の敵であり、露連邦軍には対中警戒を命じる」

旨の声明を発表する準備に取り掛かる。

 

「やれやれ、思わぬ道草を食ったの!!さて…いよいよ本番なの!!」

 

 今度こそ首相命令を果たす時が来た。

ハーグとリヨンにあるICCとICPOの本部への攻撃を敢行する。

 

「まずはリヨンから潰してやるの!!」

 

 そう言うや、なのはは早速リヨンのICPO本部前にワープ。

 

「なのおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

「待たせたの!!さあ掛かって…おや?」

 

 雄叫びと共に着地したなのは。向こうもなのはの襲来は予測済みで

迎撃が来ると思いきや…

 

 

 

 

 

「「「「「そこまでよ!」」」」」

 

「あれ?」

 

 突如割って入る何者かの声。しかし、どこか違和感が。

なのはが目を向けると…

 

治安介入部隊(GIGN)第5介入隊(FI5)、参上!!」  

 

 そこに居たのは帝国華撃団…ではなくICPO-ICDの筈が、

何故かなのはが勝手に巴里華撃団と命名したGIGN-FI5こと

国家憲兵隊治安介入部隊第5介入隊だった。

尤も、彼女達は一応フランス国家憲兵なので

フランスの防衛に動員されるのは当然の事なのだが。

 

「何で巴里華撃団なの?!!帝国華撃団は何処に行きやがったの?!」

 

「誰が巴里華撃団だ!!変なチーム名を付けるな!!

貴様に言う義理が有ると思うのか?この大量虐殺犯め!!」

 

「高町なのは…手前がここまでいかれた虐殺をやるとはな…」

 

「1億2000万人が死ぬよりはマシという考えは無いの?!

全国民の総意で隣国を滅ぼそうとした国の8000万人と、

どっちが生き残るべきかなんて、一目瞭然なの!!

政府が私に何をしたのかをどう思ってるの?!」

 

「それに関しては否定しません。日本政府の声明が本当なら、

韓国のやった事は犯罪のレベルを超えて永久に許されない行為です。

でも…向こうにだってそんな事に反対したまともな人だっていた筈です!

そんな人も含めて殺すなんて…」

 

「何度言えば分かるの?!真面な奴…つまり、日本を詳しく知ってる奴なの!

一番の危険分子なの!!最優先で倒す!!」

 

「どこまでも胸糞悪い奴ね…もう言葉を交わす気も起きないわ。」

 

「ええ。自分の国が戦争に勝った事を喜ばない人を

『存在してはいけない生き物』なんて言い切るなんて、

同じ日系人として、絶対に相容れない!!

暴走核弾頭…世界最悪の狂人め!!」

 

「私が狂人…?違う、私は悪魔なの!」

 

「違う!!貴様には悪魔を名乗る資格すら無い!!

貴様こそ、真に『存在してはいけない生き物』だ!!」

 

「ならば大魔王とでも名乗るの!

大体、私の狂気を皆の信じる者が保証するというなら、

皆の信じる者が正気で有る事を、誰が証明できると言うのかな?」

 

「何を…!」

 

「言葉で戦う位なら、黙ってISで戦うの。

文句が有るなら武器を取れ、掛かって来い、私が相手になってやると

何の為に世界に宣言したのか…忘れた訳では無いよね?

さあ巴里華撃団!今この瞬間より…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

挑  戦  を  許  可  す  る  の  !

 

 

 

 

 

「「「「「だから勝手におかしなチーム名付けるなあああ!!!!」」」」」




 さあ、上弦の零…じゃなくて暴走核弾頭が今一度起爆する時が来ました。
やっぱり、書き方忘れてるな…。

次回「第41話  秋の夜長の大暴走 その2」

追伸
あとがきの後半ですが、何の気無しに書いた所
感想コメで実際に答えて頂いた方が見えたので、
これはもう感想目当てと捉えられ兼ねないと判断し、活動報告に転載します。


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第41話  秋の夜長の大暴走 その2

 大変長らくお待たせ致しました。
いよいよなのはの暴走のギアが上がります。
それでは通算第93話、参ります。


 日本政府から蘭国ハーグのICC本部と

仏国リヨンのICPO本部を破壊する様にとの指令を受け、

早速現地に飛んだなのは。だが、迎撃に来る筈の帝国華撃団…

じゃなくてIS犯罪対策課IS隊(ICPO-ICD)の姿はそこには無く、

居たのは巴里華撃団…と見せかけて仏国国家憲兵隊の対テロ特殊部隊、

治安介入部隊第5介入隊(GIGN-FI5)だった。

当然だが、全く会話は噛み合わない。こうなったらやる事は一つ!

 

「とうとうこの時が来たか…暴走核弾頭め!」

 

「絶対に許さない…本部は壊すわ(第11話参照)、

ICPOの部隊を滅茶苦茶に痛め付けるわ(第17話参照)、

妖怪ハサミ兎退治の出番を持って行った挙げ句、

勝手に止めを刺して鍋にして食べさせるわ(第43~45話参照)…」

 

「あまつさえ私達におかしなチーム名まで付けて…(第45話参照)

今までの恨み、今日こそ晴らす!」

 

 やる気満々のGIGN-FI5。しかし、なのはは余裕を見せる。

 

「私に恐怖しないとは…何と言う弱さ加減、これはもう勝負が見えたの!!」

 

「おろかなの。おまいらはしをせんたくしたの。」

 

 ヤマトの煽りと同時に某8代将軍の大立ち回り時のテーマ曲が辺りに響き渡る。

 

「な、何なのこのBGMは…」

 

「何でも良いから行くわよ!!全機ランダム機動で散開、絶対に直線機動は厳禁よ!

下手な機動をすると即遠隔アームに捕まってバラバラにされるわ!」

 

「「「「Oui!」」」」

 

 隊長にして仏国代表操縦者、コールサイン黒猫0こと

アンジェラ・バルザックの号令でFI5は一斉に散開。

対するなのはは敢えて第2形態「まほろば」で迎撃。

第3形態「大魔王ナノリオン」は見せるに値しないとでも言うのか。

 

「弾幕でじわじわ削るわよ!!」

 

 まず黒猫0、2、4が同時に仕掛ける。

以前ICPOーICDが初手で接近戦を仕掛けた結果、

遠隔部分展開で掴まれて鈍器にされ、あっという間に総崩れにされた事の反省から、

最初は遠距離攻撃で様子見をする構えだ。

 

「多少は学んでいるみたいなの!…しかしッ!!」

 

射撃戦を挑むと言う事はなのはの得意なフィールドに自ら踏み込むと言う事。

それが意味する物は…

 

「それで対策してるつもりなら、舐められた物なの!!」

 

 即座に四連装機銃(ノイジークリケット)の銃口に光となったエネルギーが収束、そして…

 

「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 15基60挺の対空機銃が一斉にビームを発射。

直後、ビームは空間に飲み込まれる様に消失。次の瞬間…

 

「「「「「グワワワーーーーーッ!!」」」」」

 

 何と何もない空間から消えた筈のビームが襲来。

FI5の5機全機に10方向以上からビームが直撃した。

かつてMこと織斑マドカを一撃でKOした転移魔法を用いたワープ砲撃だ。 

 

「他愛なしッ!!!」

 

 最早国家代表レベルの操縦者が準第三世代機に乗ってきた位では

足止めすらできないと言う事か。

ズタボロになった機体が黒煙を上げて周囲に墜落した。

 

「こ、こんな…バカな…」「つ、強すぎる…」

 

 しかし、今夜のなのはは以前より遙かに機嫌が悪かった。

無理もない。お目当ての相手が居なかったのだから。

当然、こうなったなのははこんな物では済まさない。

 

「ナーニ終わった気になってるのかなぁ?」

 

「ふぃにっしゅゆーなの、ふぇいたりてぃのじかんなの。」

 

「ヒィ!」

 

 言うなり、近くに落ちた黒猫3(ロべリア・カルリー二)を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

め き ょ っ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶ!!!」

 

 蹴った。渾身の力で顔にトーキックをぶちかました。

ロべリアは超スピードで吹っ飛ばされ、本部ビルの東にある

テット・ドール湖内の島スーヴニールに墜落した。

しかしワンオフ・アビリティ活殺自在の効果で死ぬ所か傷一つ負う事は無い。

 

「まだ終わりじゃねーのっ!!」「もういっちょう!!」

 

 しかし、なのはの怒りは治まらない。追加アームでロべリアを掴むと、

近郊のリヨン現代美術館に放り投げた。

 

「ぐべし!!」

 

 ロべリアは美術館の壁を突き破って頭から墜落。床に上半身がめり込んだ。

勿論それでも無傷な事に変わりは無い。そして、なのはの暴虐も止まらない。

今度は黒猫4(北大路花火)を思いっきり踏んだ。勿論、踏んだのは顔である。

 

「おら、おら、おるるぁ!!」「ちょ、ま…ぶわっ!!!」

 

 それも一度ではなく連続で只管踏みまくる。花火はそのまま地面にめり込んだ。

なのははそれで気が済んだのか、花火から離れる。今度の獲物は黒猫2(エリカ・フォンティーヌ)だ。

 

「さあプリン脳、覚悟は良い?!!」

 

「おまいなんか、きょうかいのじゅうじかにくしざしにしてやるの!!」

 

「キャァァァァァァァァァ!!!止めてぇぇぇぇぇー!!死にたくなーい!!」

 

「神に祈りやがるの!!」

 

 なのはは問答無用でエリカを放り投げた。

おお哀れ、エリカはリヨン名物ノートルダム大聖堂の十字架に串刺し…にはならなかった。

 

「あああああああああああ…ぶべら!」

 

 若干軌道がずれ、十字架に衝突したが横棒に刺さる事無く屋根に墜落した。

日頃からの祈りが通じたのだろう。

 

「ちっ、運の良い奴なの!!」

 

 当然、更に不機嫌になるなのは。そのとばっちりは黒猫1(グリシーヌ・ブルーメール)に向けられた。

 

「さあ、水切りの時間なの…!!! 何回跳ねられるかな?」

 

「いしなの!!おまいはいしになるの!!」

 

「ヒィ、や、止めろぉぉぉぉっ!!」 

 

「黙って投げられるの!!そしたら止めてやるの!!」

 

「そ、それは止めるとは言わ…」

 

 なのははグリシーヌをぶん投げた。

 

「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…オ゛フッ!!

 

 グリシーヌは石の様に跳ね、ICPO本部ビルの直近を流れるローヌ川にかかる

ウィンストン・チャーチル橋の橋脚に頭から激突。首から上が橋脚に突き刺さった。

残るは隊長の黒猫0ことアンジェラ・バルザックだ。 

 

「さて国家代表、トリはお前なの。」

 

「だ、だから私はアンジェラ・バルザックよ…名前位おぼ…」

 

「却下!!!お前に名前を覚えられる資格はないの!!!」

 

「ナンデ?!」

 

「悪魔を名乗る資格がないなんて吐かしやがったからなの!!」

 

「そ、そんな…止めて、何をする気なの?!」

 

「何をするって…こうするの!!」

 

 追加アームでアンジェラの足首を掴むとICPO本部ビルにワープし、

ビルに向かって全力で振り抜いた。

 

「ごぱぁ!!!」

 

 アンジェラを本部ビルに叩き付けると、何と本部ビルの壁が砕け散った。

なのはは活殺自在のもう一つの効果により物体の強度を無視できるので、

人間を建物に叩き付け、人体を傷つけずに建物だけを破壊する事が出来るのだ。

 

「今からこのビルを解体するの!!お前がハンマーになりやがるのぉぉ!!」

 

「ゲェ!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!ぶっ壊れやがるのぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 砲撃で上階を射ち抜き、追加アームで周囲の壁やら柱を殴りまくりながら、

アンジェラを振り回すなのは。

当然、中のICPO職員はなのはの攻撃に巻き込まれ木っ端微塵に。

 

「「「「「ギィエエエエエエエエエエエエエエ!!!」」」」」

 

 かくして、ICPO本部は職員の断末魔と轟音を上げて

ものの数秒で穴だらけとなり、直後、あっけなく崩れ去った。

 

「あ、あああああああああ…」

 

「さあ見るの!お前等が守ろうとした物は消え去り、無に返ったの!!」

 

「ど、どうして…惨い…どうして非戦闘員の職員まで…」 

 

「この私に、ひいては篠ノ之束には未来永劫敵わないと

フランス中に分からせてやるの!!

これでも認めない奴は端から順番に同じ目に遭わす!!」

 

「そ、そんな…」

 

「そしてぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 ヤマトの声に併せて追加アームでアンジェラを掴む。

 

「とりあえずおまいはぱりおくりなの!!」

 

「ヒィィ!!」

 

「とべうりゃー!!」

 

「アイエエエエエエエエエエエエエエーッ!!!!!」

 

 なのははアンジェラを放り投げ、瞬間物質移相器でパリ上空に転送。

直後、自身もパリにワープする。

 

「さあパリの人間共、よーく見届けるの!!」

 

「これでえっふぇるとうはおしまいなの!!」

 

 直後、凄まじい轟音を立ててアンジェラが新エッフェル塔に直撃。

 

「グェッ!!!」

 

 直撃の衝撃で新エッフェル塔が根元から折れ、

ゆっくりと北西に掛けられたイエナ橋に向かって倒れる。

活殺自在の効果で物理破壊への耐性を消し去った事で、

人間一人を超音速で衝突させただけで破壊可能な状態になっていたのだ。

 

 程なく根元の鋼材が折れ曲がる音を立てながら新エッフェル塔は完全に倒壊。

塔が衝突したイエナ橋も衝撃で橋脚が砕け、轟音と水柱を残してセーヌ川に消えてしまった。

 

「ふう…手間を掛けさせやがってなの。さて…」

 

 なのはは新エッフェル塔の倒壊を見届けると、ワープでパリから姿を消す。

目指すは北北東にあるオランダの都市、ハーグ。

自分達と今上天皇への逮捕状を発給したICCに対し、

悪魔の鉄槌を食らわせに行くのだ。




なのはが完全に狂ってしまいました。助けてください。
次回「第42話  秋の夜長の大暴走 その3」
もう逃げ場なんて無い。逃げる方法は死あるのみ。


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