虚無の魔神 (千本虚刀 斬月)
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ぬらりひょんの孫
1話 開幕


――――――――――虚夜宮(ラス・ノーチェス)の天蓋の上で、一人の破面(アランカル)がその命を鎖そうとしていた。

 

 

     

 その破面は第4十刃(クアトロ・エスパーダ)ウルキオラ・シファー。

 

彼は黒崎一護に敗北した。だが、黒崎一護は止めを刺すことを拒んだ。

 

「こんな・・・・・・こんな勝ち方があるかよ!!!」

 

(ようやくお前達の心とやらに興味が出てきたところだったんだがな。)

 

傍らに居た井上織姫に手を伸ばしながら問いかける

 

「・・・俺が怖いか女・・・」

 

「こわくないよ」

 

井上織姫は、そう答えながら俺の手をつかもうとしたが、寸前で此方の限界が訪れた。

 

灰塵と為りながらも俺は確かに「何か」を感じていた。

 

そうか この掌にあるものが――――――――心 か

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が覚醒する。

 

(俺は完全に消滅した筈だ。何故意識がある?)

 

体の調子を確認する。

 

刀剣解放第二階層(レスレクシオン・セグンダ・エターパ)は辛うじて維持できている。

 

しかし、内臓の多くが失われたままである。

 

霊圧も残りカス程度。最下級大虚(ギリアン)と同程度だ。

 

(此処が何処だか知らないが、大気中の霊子濃度が随分と濃いな。虚圏(ウェコムンド)には劣るものの重霊地である空座町と同等以上だと?)

 

 ふと人間の気配がしたので、様々な疑問を一先ず棚上げして確認すると、そこには豪奢な着物を着込んだ一人の女が立ち竦んでいた。

 

(霊圧から推測するに、恐らく井上織姫のような人間の能力者といったところか)

 

「質問に答えろ女、此処は何処で貴様は何だ?」

 

女は怯えながらも答えを返してきた。

 

「此処は京の都。わたしはとある公家の娘で名を珱と申します。」

 

 

 

 

 驚いた事に珱と名乗ったその女は、僅かに震えながらも傷の治療をさせろと言って来た。

 

理由を尋ねると、怪我人を放置するのは忍びないかららしい。

 

(危機管理能力の足りん奴だ。まあ、敵意は無いようだし、どの道このままでは俺は死ぬ。なら)

 

「好きにしろ」

 

治療中も質疑応答を繰り返した。もっとも、大半はウルキオラからの一方的なものだったが。

 

結果として、元の世界とは法則も理も違う完全な異世界である可能性が極めて高いと判断せざるをえなかった。

 

なにせ元の世界には(ホロウ)や死神はいても魑魅魍魎や妖怪など存在しなかった。少なくともウルキオラの知る限りは。

 

実際、黒腔(ガルガンタ)は開くことができず、探査回路(ペスキス)で感じ取れた周囲の霊圧は珱姫の話を裏付けるものであった。

 

そうして考えを纏めたところで、どうやら治療は完了したらしい。

 

「それ程時間が経っていないのにあれだけの傷を癒すとはな。大した能力だ。」

 

しかしこの女、能力といい性格といい井上織姫を想起させる。だからなのか、あの時のように手を伸ばしていた。

 

「――――――俺が怖いか女」

 

珱姫は僅かな間呆けていたが、それでも

 

「いいえ、魔神様。私はこわくありません。」

 

確かに、この掌を掴んだのだ。

 

気がつけば俺は帰刃(レスレクシオン)を解除し

 

「借りが出来たな。この借りは必ず返してやる。それまでは詰まらん事で死ぬなよ?」

 

などと、柄にも無いことを口走っていた。

 

だが、この感覚は存外に―――――――――――悪くない

 

 

 

 

 

 

 




自分で書くのって、想像してた以上に難しい(´・ω・`)


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2話 序章

 

 

 珱姫と別れたウルキオラは、先ず霊圧の回復と情報収集をする事にした。幸いにして獲物はそこ等中に居る。食料には困らないだろう。

 

 

小規模から中規模の妖怪の群れを幾つか食い尽くし霊圧はほぼ万全の状態にまで回復した。同時に、コチラの勢力図もある程度把握できていた。

 

 

また、コチラの妖怪達の間には、生き肝信仰なるものが流行しているらしい。

 

生き肝信仰とは赤子・巫女・皇女といった尊い存在の人間の生き肝は、妖怪が食らえば絶大な力が得られると言う俗信である。

 

 

もっとも、ウルキオラにとっては

 

(人間の、それも女・子供の内臓を好き好んで食らうとはな。悪趣味なことだ。)

 

と非合理的なものであり半ば迷信のようなものとしか思えなかったが。

 

 

 

ちょうどその頃、3匹の妖怪がウルキオラの前に現れた。そいつ等の中の1匹が名乗りあげる。

 

「我が名は鬼童丸。こちらの2名は拙者の部下だ。我等は羽衣狐様にお使えする妖である。」

 

 

(二匹のほうはゴミ同然。この鬼童丸とやらは護廷十三隊の副官相当の実力がありそうだな。)

 

それが3匹に対するウルキオラの率直な評価である。

 

「・・・・・・俺に何の用だ?」

 

「最近このあたりで暴れ回っている妖とは貴様のことか?」

 

ウルキオラは、厳密に言えば妖怪ではなく破面なのだが、一々訂正するのも面倒なので

 

「だったらどうした」

 

とだけ答えた。

 

 

「我等の縄張で好き勝手に暴れてくれたオトシマエはつけさせてもらう。」

 

鬼童丸はそう言うと刀を抜き、ほかの二人も妖力を上昇させた。

 

「なるほど。・・・・・・俺も舐められたものだ」

 

そう言ってウルキオラは霊圧を解放した。ただそれだけで二匹は戦闘不能に陥ってしまった。

 

「なん・・・・・・だと  まさかこれ程だとは」

 

鬼童丸は辛うじて戦意を保っているものの気圧されてしまっている。

 

「この程度か?肩透かしもいいところだな。所詮噂など当てにならんと言うことか」

 

逆にウルキオラの戦意のほうが失せてしまい、そのまま立ち去ろうと踵を返した所で

 

「ま、待て!」

 

「・・・・・・まだ何かあるのか?力の差は理解できたはずだが?」

 

ウルキオラは斬魄刀に手を添えながら振り返る。

 

「我等には成さねば為らんことがある。その悲願を成就する為に貴様の力を貸してほしい!」

 

これにはウルキオラも些か困惑した。

 

(コイツは一体何を言っている?)

 

「断る」

 

そう冷たく言い放った。だが鬼童丸も簡単には引き下がらない。

 

「仮に貴様らに協力してやるとして、俺に何の得がある?」

 

「羽衣狐様は今、淀殿として豊臣家を支配しておられる。貴様ほどの力があれば大抵の物は報酬として望めよう。」

 

確かにウルキオラもそろそろ拠点が必要だと考えていたが

 

(罠の類である可能性は低くない。だがまあ、其のときは奴らを皆殺しにしてしまえば済む話か。)

 

 

「まずは羽衣狐とやらに会わせろ。話を受けるかどうかはそれから決める。解っているだろうが妙な真似をすれば容赦はせん。」

 

 

そうしてウルキオラは大阪城に赴く事になった。




ヤミーでさえ霊圧を開放しただけで竜貴の魂を潰しかけたの考えると、ウルキオラってこの世界だとチートじゃね?


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3話 邂逅

しばらくはBBA駄狐で我慢してくだちい。
千年魔京編まで逝けたらちゃんと黒JKモードの9尾羽衣狐様を出すから!?


 

 

 羽衣狐(はごろもぎつね)――――――――――京妖怪を統べる大妖怪・8尾の妖狐。転生妖怪と呼ばれる特殊な妖怪。

 

 

時代の節目に現れては幼年期の人間を依代にして取り憑き、依代が成熟した所で体を完全に支配する。

 

依代自体はあくまで人間である為、肉体が滅びれば本体は次の依代を求めて彷徨う。

 

また、それを繰返す度に尾が一本つづ増え、力も上昇していく。

 

 

 

 

 

 

 ウルキオラが大阪城で対面しているのはそんな妖怪であった。もっとも、だからといって萎縮するようなウルキオラではない。

 

「貴様が羽衣狐とやらか?」

 

相変わらずポケットに手を突っ込んだまま、感情の読み取れない瞳を羽衣狐に向けている。

 

この態度に取巻きたちが多少ざわめいたが、羽衣狐は泰然としたもので

 

「如何にも。妾が羽衣狐と呼ばれる魑魅魍魎の主に相違ない。して、お主の名は何と言うのじゃ?」

 

「・・・・・・・・・ウルキオラ・シファーだ」

 

「ほう、変わった名じゃな。その身なりといいお主、南蛮の妖かえ?」

 

「まあ、そんなところだ。」

 

(実際の所は、異国どころか異世界なのだかな。)

 

とウルキオラは小さく呟いた。

 

 

そこで鬼童丸が恭しく頭を垂れながら羽衣狐に進言する。

 

「羽衣狐様。このうるきおらの力は土蜘蛛にも比肩し得るもの。うるきおらの協力があれば悲願成就はより確実なものとなりましょう。」

 

「まずは、その悲願とやらの内容を聞かせろ。手を貸すかどうかは其れから決める。」

 

 

 

 

 その悲願とは反魂の術を達成せんとするやや子・安倍晴明を羽衣狐自ら出産する事だと言う。俄かには信じがたい話しである。

 

だが、羽衣狐や鬼童丸らの話しを訊いて行く内に信じざるを得なくなっていった。

 

 

「うるきおらよ、お主の力を妾達に貸してはくれんかの?」

 

ウルキオラとしては当初はそこまで乗り気ではなかった。だが、今の話しを聞いて気が変わった。

 

 

 

 井上織姫が言っていた心の繋がり。その「絆」の力によって黒崎一護は艱難辛苦を乗り越え、遂には自分をも斃してのけた。

 

こいつ等と共に居れば、もしかしたらそれを理解できるかもしれないと思ったのだ。

 

 

「いいだろう。鵺による人間の支配などは如何でもいいが、貴様ら母子の絆とやらには興味がわいた。その行く末、見届けてやろう。」

 

「ただし、俺は貴様の下につく気は無い。あくまで対等な協力関係だ。」

 

それを聞いて取巻き達の中には憤る者も少なからず居たが、羽衣狐が黙らせた。

 

「よい。既に土蜘蛛という前例もおる。協力してくれるのならそれでかまわぬ。」

 

「妾はお主を歓迎するぞ?うるきおら」

 

 

 

 こうしてウルキオラと羽衣狐の協力関係は結ばれた。

 

 

 

 

 

 

 ウルキオラが大阪城で羽衣狐と条約を交わした翌日の夜の事。ウルキオラは城下町を見て回っていた。

 

もっとも、月が綺麗とか町並みが気に入ったとかの情緒あふれる理由ではない。単なる地形の下見である。

 

正直、ウルキオラとしては町が瓦礫の山と化そうが住人が死に絶えようが瑣末な問題である。だが、あの女狐には

 

「この辺り一帯は妾の膝元じゃ。あまり派手に暴れてもらっては困るぞ?」

 

と釘を刺されている。

 

 

(まず在り得ないと思うが、十刃級の力を持つ相手と戦う事になった場合、町中では不利だな。その時は上空で戦う事にでもするか。)

 

そう考えを纏めていると、不意にある霊圧を感じ取った。コレには流石のウルキオラも驚愕した。

 

 

「バカな・・・!この霊圧は・・・何故貴様がこの世界に居る?――――――――黒崎一護」

 

 

 仮に、コチラの世界で黒崎一護と再開しても戦闘になるとは限らない。だが、戦闘になる可能性は低くないだろう。

 

感知した黒崎一護の霊圧を分析し、過去の戦闘の記憶と照らし合わせた結果、ウルキオラはそう判断した。何より、破面としての本能と直感がそう告げていた。

 

 

(その可能性が在ると解っていながら対策を怠るなど愚昧のやる事だ。黒崎一護が相手なら尚更な。)

 

 

 

 




この黒崎一護は『劇場版BLEACH 地獄篇』のちょっと後くらいです。


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4話 土蜘蛛

 

 

 

 翌日の夕刻、ウルキオラはある妖怪に絡まれていた。土蜘蛛と言う名の、般若の面のような顔で4本の腕(本来なら6本らしい)を持つ巨躯の男である。

 

土蜘蛛は空腹時なら人・妖怪はおろか神仏ですら喰らい尽す「絶対に遭遇してはならない妖」と言われている。

 

 

「うるきおらっていったか?オメェ強いんだってなぁ。ならよぉ、オレと戦ろうぜ?」

 

ウルキオラからすれば、律儀に付き合う理由も特に無い。適当にあしらっていたのだが、それを聞いてやってきた羽衣狐が

 

「ほう、これは面白い余興になりそうじゃな。よいぞ。許可する。」

 

などと言い出した。

 

「勝手に決めるな。何故俺が貴様の暇潰しに付き合わねばならん?」

 

そうウルキオラが言うと、羽衣狐は少しの間、考え込み

 

「そうじゃのぅ。では、勝者には何ぞ褒美を給わそう。それでどうじゃ?」

 

ウルキオラは承諾する事にした。褒美に釣られた訳ではなく、これ以上断ると逆に面倒だと考えたからだ。

 

 

「だが主らの力を考慮すると、まさか今、ここでと言うわけにもいかんな。」

 

「よし、では今宵、月が昇りきった頃に、山の麓で決闘を行うとする。双方、依存は無いか?」

 

この提案に土蜘蛛は楽しそうに笑いながら、ウルキオラは煩わしく思いながらも承諾した。

 

 

 

 

 

 満月の光の下、ウルキオラと土蜘蛛は向い合っている。

 

「さあて。思う存分に戦り合おうじゃねぇか。なあ、うるきおらぁ!」

 

「・・・・・・いいだろう。かかって来い。」

 

 

 両者の準備が整ったのを見計らい、鬼童丸が合図を下す。

 

「では、始め!!」

 

 

 土蜘蛛は開始と同時に高速で回転しながら突進し、その勢いのままウルキオラに殴りかかった。

 

「おらぁ!回転阿修羅腕ァ!!」

 

ウルキオラは響転(ソニード)で危なげなく回避し、背後に回る。

 

「バカが、隙だらけだ。」

 

虚弾(バラ)を打ち込む。その数は、十三発。

 

土蜘蛛は被弾し、吹き飛ばされながらも嗤い続ける。

 

「グハハハハ。これだよこれぇ。戦いってのはこうでなきゃいけねえ!!もっとだ。もっと味わわせろぉ!!」

 

そう言うと土蜘蛛は体躯に見合った巨大な煙管をウルキオラに叩きつけた。だが

 

「それで隙を突いたつもりか?」

 

ウルキオラは右の掌だけで受け止めて、すかさず回し蹴りを叩き込んで数メートルほど後退させた。

 

「何だお前?最高じゃねえかぁ!?こんなに楽しいのは600年前に鵺と戦り合った時以来だ!!」

 

土蜘蛛は四股を踏みながら妖力を全開まで上昇させると、突撃の構をとる。

 

「―――――――――――発気揚揚」

 

それを見たウルキオラは碧光を指先に収束させる。

 

「遅い」

 

土蜘蛛が攻撃に移るより早く、加減なしの虚閃(セロ)を撃ち放った。

 

だが、それだけでは終わらない。流石に古から存在し続け、天災にまで喩えられるだけはあると言えよう。

 

「成る程。虚閃が直撃する瞬間、突撃の為の力を防御に費やしたのか。大した反応速度だ。だが、何故回避を選択しなかった?」

 

「グハハハハ。こんだけうめぇのはめったに味わえねえからな。よけたりしちゃもったいねぇ!」

 

そう言うと、土蜘蛛は4本の腕で張り手の弾幕を繰り出す。

 

「オラオラオラオラオラオラオラアァ!!」

 

ウルキオラはその尽くを避け、逸らし、打ち落とし、受け止める。のみならず、隙を突いてカウンターとして虚弾をくらわせる。

 

(これだけ俺の攻撃をくらっていながら、嬉々として戦い続けるとはな。馬鹿げた闘争心と耐久力だ。)

 

 

その攻防はしばらく続いたが、宵闇が薄れだしたところで

 

「このまま続けるのも充分楽しいがよう!やっぱ最後は派手にいこうぜぇ!?」

 

土蜘蛛は再び距離をとった。流血に塗れながらも突撃の構をとり、力を溜めている。

 

対するウルキオラは依然として無傷だが、油断する事無く指先に霊子を収束させていく。

 

 

そして、双方の攻撃が同時に放たれ――――――――――――勝敗は決した。

 

 

 

 

 

 

 羽衣狐はウルキオラの勝利を宣言して

 

「勝者であるお主には、約束通り褒美を授けよう。何を望むのじゃ?うるきおら」

 

と聞いてきたが、ウルキオラは現状は特に欲しい物も無いので、一先ず保留とした。

 

 

 

 

 ちなみに、土蜘蛛は暫くしたら自力で起き上がり

 

「ちょっと湯治にでもいってくらぁ。」

 

と、跳び去って行った。

 

 

 

 




書き溜め分はコレで全部。

月末までには次を投稿したいなぁ。


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5話 黒崎一護

 土蜘蛛との戦いから一月ほどが経過した。その間、ウルキオラは黒崎一護との再戦に備えて何度もシミュレートを重ねていた。

 

(まともに戦っては、やはり勝算は薄いか。パワーもスピードも虚化した奴の方が上回っている。長期戦も分が悪い。今の俺が勝つ方法が在るとすれば、あの時のように仮面を砕き虚化を解除するくらいしか無い。もっとも、それとて容易ではないだろうがな。)

 

そんなことを考えていると、覚えのある霊圧を感じ取った。その霊圧はウルキオラがコチラの世界で最初に触れたものだった。

 

(あの時の女か。大方、女狐に目をつけられて生贄として連れて来られたのだろうな。)

 

「・・・・・・あの女にはまだ借りを返していないままだったな。」

 

そう呟くと、ウルキオラは大阪城に居るであろう羽衣狐の所に向かう事にしたのである。

 

 

 

 

 

 

 ウルキオラが板張りの廊下を歩いていると、目的の部屋から一人の女が悲鳴を上げながら襖を開けて飛び出してきた。ウルキオラはその女を一瞥すると、何かしらの能力を保有しているのだろうと推測した。

 

 

貞姫は自分達が食われる未来を予知し、実際に目の前で宮子姫が食われる所を見てしまった。恐慌状態に陥り部屋から飛び出した所で、ウルキオラと言う規格外の存在を視てついに卒倒してしまったのだ。

 

 

もっとも、ウルキオラからすればそのような事情など知った事ではなく、そもそも興味も無い。故に、ウルキオラは卒倒した女の事など気にも留めずに部屋に入った。

 

「おや、うるきおらかえ。妾に何か用かの?」

 

羽衣狐は、ウルキオラを視て卒倒してしまった貞姫の生き肝を啜りながら聞いてきた。

 

「生き肝信仰などと言ったか。つくづく悪趣味な事だ。」

 

ウルキオラは相変らず憮然とした態度のまま答えて、まだ生き残っている2人の姫の方に眼を向けた。

 

「やはり貴様だったか。久しぶりだ、女。」

 

「は、はい。お久しぶりにございます、魔神様。」

 

このウルキオラと珱姫の会話に羽衣狐が興味を抱いた。

 

「ほう。お主等、知り合いであったのか?」

 

「・・・・この女には一つ、大きな借りがある。その借りを返す前に死なれては困る。」

 

「お主にも義理堅いところがあるんじゃなあ。これは意外よの。ホホホホホホ」

 

「御託はいい。」

 

「ふむ、お主は土蜘蛛に勝利した際の褒美を保留にしたままじゃったの。その褒美がこの女という事で良いのか?」

 

「ああ、それでいい」

 

珱姫はウルキオラに礼を言う。

 

「お助けいただきありがとうございます。」

 

「これで借りは返したぞ。それから、巻き込まれて死にたくなければ部屋の隅でおとなしくしている事だ。」

 

「へ?そ、それは一体どういう・・・・・・?」

 

ウルキオラは珱姫から羽衣狐に顔の向きを変え、告げる。

 

「たった今、2名が城に侵入した。後を追う形でそれなりの規模の妖怪の群れがこの城に向かって来ている。どうする?」

 

それを聞いた羽衣狐は、余裕の笑みを浮かべながら配下の妖怪達に命令を下す。

 

「不埒な愚か者達に、妖としての格の違いと言うものを見せ付けてやるがよい。」

 

そうして、妖怪達が臨戦態勢に移行しようとした瞬間、2名の侵入者はこの部屋に突入して来た。

 

 

一人は、匕首拵えの太刀を構える妖怪。奴良組総大将・ぬらりひょん

 

もう一人は、橙色の髪に黒い死覇装を着て、身の丈ほどの大刀を背負った青年・黒崎一護

 

 

 

「まさか、このような世界で再び見える事になるとはな。―――――――黒崎一護」

 

「この霊圧はやっぱりお前のものだったのか。テメェこそなんでこの世界に居やがる!?ウルキオラ!!」

 

「さあな。寧ろ、此方が聞きたい位だ。貴様こそ、どうやってこの世界に来た?」

 

「チッ、そんなの俺だって解んねえよ。気が付いたらいつの間にかこの世界に居たんだからな。」

 

「つまり貴様も、元の世界に返る手段は持ち合わせておらず、その方法も解らないと言うことか?」

 

「ああ。なんか期待させちまったみたいで悪いけどな。」

 

ウルキオラとしても、この答えには少々落胆した。

 

「・・・・・・まあいい。それで、わざわざこの城に来た理由は何だ?」

 

そこで今まで静観していたぬらりひょんが前に出てきた。

 

「ワシは奴良組総大将・ぬらりひょん。珱姫はワシの惚れた女じゃ。返してもらうぞ!そして今宵、羽衣狐を討ち取って、ワシが魑魅魍魎の主となる!」

 

ぬらりひょんのこの発言には、羽衣狐も穏かでは居られなかったようだ。

 

「血迷った逸れ鼠風情がほざきよるわ。精々妾を楽しませて見せよ。」

 

 

「黒崎一護、貴様の目的もあの女狐か?」

 

「まあそうだな。俺としてもソイツのやってる事は放っておけねえ。それに、ぬらりひょんと奴良組の連中にはいろいろと世話になってるからな。」

 

それを聞いたウルキオラは

 

「・・・そうか」

 

そう短く答えて、霊圧を開放しながら斬魄刀を構える。

 

「ならば、俺と貴様は敵同士と言う事だな。」

 

「やっぱりこうなっちまうのか。いいぜ、上等だ。あの時の決着、ここで付けてやるぜ!―――――卍解!!天鎖斬月!!」

 

 

 

ウルキオラと黒崎一護。この2人の、後世に伝説として語り継がれる事になる戦いが開始されたのである。

 



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6話 冥府の鬼神


    己の刃(誇り)に   誓いを立てる


    俺が皆を   護ルンダ―――――


 

 黒崎一護は大刀・斬月を構え、霊圧を上昇させる。

 

 「―――――卍解!!天鎖斬月!!」

 

それと同時に、多くの妖怪達が部屋に突入して来た。どうやら奴良組に属する、ぬらりひょんの配下の妖怪達のようだ。そいつ等に黒崎一護は告げる。

 

「悪いけど皆は手を出さねえでくれ。コイツとは俺が戦う。」

 

「まったく。ヘタすりゃ総大将のワシより目立ちおって。ではソイツは任せたぞ、一護。」

 

「ああ。―――――――待たせたな。いくぜ、ウルキオラ。」

 

そう言うと、黒崎一護は瞬歩を使い、一気に距離を詰める。天鎖斬月を上段に構え、勢いのままに振り下ろした。だが、ウルキオラは余裕で受け止め、鍔競合う。

 

黒崎一護は鍔競合った状態で刀身に霊力を纏わせる。

 

「月牙天衝!」

 

ウルキオラは刀身を滑らせる事で月牙天衝を上方に受け流し、三段突きを繰り出す。狙いは眉間・喉元・鳩尾。黒崎一護も咄嗟に回避し、胴を薙ぐ。ウルキオラは響転で胴薙ぎを回避し、距離をとって虚閃を放つ。

 

「くそっ!月牙天衝!!」

 

黒崎一護は仲間が巻き添えにならないよう、ウルキオラの虚閃を打ち消そうとする。だが、月牙天衝が徐々に押し負けていく。

 

「ならもう一発だ!月牙天衝!!」

 

これによってウルキオラの虚閃は相殺された。

 

「ほう、月牙の連撃とはな。少し驚いたぞ。」

 

今度はウルキオラが響転で距離を詰め、垂直に斬撃を放つ。黒崎一護は紙一重でその斬撃を回避するが

 

「甘い!」

 

直後に、一歩踏み込みながら袈裟懸けに切り上げる。俗に、燕返しと呼ばれる切り返しの技法である。黒崎一護は切り返しを回避しきれずに、脇腹を浅く切り裂かれた。

 

「だったらコレで如何だ!!」

 

黒崎一護は月牙を刀身に纏わせたまま斬りかかって来た。ウルキオラは刀身の側面を弾く事で、月牙の斬撃を逸らす。コレによって生じた黒崎一護の僅かな隙を見逃す事無く蹴り上げる。天井どころか天守閣まで突き破り、月下に投げ出された黒崎一護を追いかけて、体勢を立て直す前に虚閃で追い討ちをかけた。もっとも、多少のダメージを与えた程度に留まったが。

 

「無駄だ。今の貴様では何をしようと俺には勝てん。」

 

「うるせえ!」

 

そう言うと、黒崎一護は懲りずに月牙を刀身に纏わせる。だが、今度は斬撃では無い。突進しながら片手平突きを放ってきた。

 

「!・・・小賢しい。」

 

ウルキオラは体をそらす事で黒崎一護の牙突をかわし、カウンターで首へと刃を走らせる。黒崎一護は辛うじて防御に間に合い、再び鍔競合う。

 

その状態のままウルキオラは左手で虚弾を8発ほど放つが、黒崎一護は何発か被弾しながらも瞬歩で距離をとった。

 

「くそっ。なめんじゃねぇぞ!――――――月牙!!天衝!!」

 

恐らくは、今の黒崎一護にとって最大の月牙なのだろう。初戦時で放ってきた仮面を着けた状態での月牙を僅かだが上回っている。通常の虚閃では相殺しきれないだろう。すでに高度1500メートルの上空で周囲を巻き込む心配は無い。ならば

 

「――――王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)

 

ウルキオラの王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)は黒崎一護の月牙天衝を飲み込み、しかし直後にかき消された。仮面を着けた黒崎一護によって。

 

「刀剣解放も無しでコレかよ。グリムジョーが十刃にのみ許された最強の虚閃って言ってただけあって馬鹿げた威力だぜ。」

 

「ようやく本気を出す気になったか。」

 

そう言うとウルキオラは斬魄刀を解放した。

 

 

「―――――――鎖せ『黒翼大魔(ムルシエラゴ)』」

 

 

 ウルキオラは漆黒の双翼を展開し、右手に碧光の槍・フルゴールを形成する。対する黒崎一護は先手必勝とばかりに、刀身に全力の月牙を纏わせて正面から突撃してくる。

 

「舐めているのか?」

 

ウルキオラはフルゴールで受け止めようとしたが、衝突の寸前で黒崎一護は瞬歩で背後に回り、月牙の斬撃を頭部に振り下ろす。だが、ウルキオラは黒翼で受け止め、フルゴールを横薙ぎに振りぬいた。黒崎一護は斬撃こそ防御したものの、衝撃までは受け流せず吹き飛んだ。

 

「成る程。前回の戦いから少しは学習したようだな。だが、教訓を得たのは貴様だけではない。」

 

そう言うとウルキオラは指先から真黒の極光を打ち放った。

 

黒虚閃(セロ・オスキュラス)

 

黒崎一護は暗闇の本流に飲み込まれたことで仮面が砕け散ったが、咄嗟に月牙を放ち威力を減殺した事で辛うじて地に墜落する事無く踏みとどまった。

 

「ぐ・・・くそっ、霊圧は前の時よりもずっと小さいのに威力は段違いに上がってやがる。どうなってんだよ!?」

 

「簡単な事だ。戦闘中に相手から感じられる霊圧とは、ソイツが制御しきれずに垂れ流し、空費している分の霊力だと言うことができる。」

 

「そう言う事かよ。つまりテメェはその制御しきれずに垂れ流してた分の霊圧まできっちり戦いに使える様になったって訳だ。」

 

「まだ完全とは言いがたいがな。それでも、以前と比べれば精密な制御が可能だ。」

 

ウルキオラはフルゴールを構え、黒崎一護は再度仮面を出す。だが、そこから先は戦闘と呼ぶには些か一方的な展開であった。ウルキオラのフルゴールによる斬撃と黒翼の殴打に対し、黒崎一護は反撃もままならない。

 

 

 

 

「今ので、仮面が割れたのは3回目。だと言うのに、まだ戦う意思と力があるとはな。相変らず諦めの悪い男だ。」

 

「前にも言ったハズだぜ、ウルキオラ。俺は絶対に諦めねぇ!勝たなきゃいけねぇから勝つんだよ!!」

 

「・・・そうか、だが今の貴様では無理だ。あの時の姿に為らない限りはな。――――――黒虚閃(セロ・オスキュラス)

 

黒崎一護は黒虚閃をまともに食らった。今までの戦闘で蓄積されたダメージと併せれば間違い無く致命的だ。黒崎一護が奈落の底まで堕ちていく様をウルキオラは冷静に見据えている。

 

(奴がこのまま死ぬのならそれもいいだろう。だが、恐らくは―――――)

 

案の定、黒崎一護の霊圧が爆発的に上昇し、質も完全に虚のものに為り変る。

 

「グオオオオオオォォォォォォォ!!!!!」

 

黒崎一護が完全虚化したため、ウルキオラは二段階目の刀剣解放・刀剣解放第二階層になり、雷霆の槍(ランサ・デル・レランパーゴ)を形成して構えた。

 

次の瞬間には真後ろに黒崎一護がいた。しかも、既に刀を振りかぶった状態で。だが、ウルキオラはその斬撃を雷霆の槍で防ぐ。まともに受け止めては衝撃で吹き飛ばされてしまうため、攻撃の軌道を逸らして受け流す事で対処する。それと同時に長く伸びた尾で黒崎一護を強かに打ち据えて、響転で距離をとる。

 

(やはり事前にシミュレートを重ねておいて正解だったな。でなければ対処し切れなかったかもしれん。)

 

ウルキオラがそう考えていると、黒崎一護が双角に霊力を収束させていく。

 

「・・・舐めるな!」

 

ウルキオラは黒虚閃(セロ・オスキュラス)を放つ事で黒崎一護の虚閃を相殺する。砲撃面ならば今の両者は拮抗していた。しかし、パワーとスピードは黒崎一護が上である。それを黒崎一護は本能で理解している様で、接近して白兵戦を仕掛けてくる。だが、ウルキオラも上手く護る。

 

(今の黒崎一護は霊圧こそ強大だが、戦術的な駆け引きなど何もない。霊力の流れを細かく観察すれば次の動きを予想し、対処する事は不可能では無い。)

 

しかし、黒崎一護の攻撃に対して、徐々にではあるが対応仕切れなくなって行く。純粋なスペックならば黒崎一護の方が遥かに上なのだ。おまけに自分以上の超速再生まで有している。流石に、駆け引きと技術で埋めきれる差ではない。

 

(このままでは此方が斃されるのも時間の問題だな。仕掛けるなら余力の残っている今しかないか。)

 

ウルキオラはそう判断し、再び距離をとる。黒崎一護もそれを見て、双角に霊力を収束させていく。

 

「グオオオオオオォォォォォォォ―――――!!!」

 

「――――王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)

 

今度は、ウルキオラの全力で放った王虚の閃光が黒崎一護の虚閃を消し飛ばした。ウルキオラは後退し体勢を立て直した黒崎一護に最速で迫るが、黒崎一護がカウンターとして虚閃を撃つ。だが、その砲撃はウルキオラをすり抜けた。そして次の瞬間には背後から片角を切り落としていた。

 

 

双児響転(ヘメロス・ソニード)―――――響転に特殊なステップを加えることで、残像による分身を作り出す技である。もっとも、ウルキオラのソレは即興の物まねである為ゾマリ・ルルーの域には及ばない。

 

 

 

片角を失ったことで黒崎一護は虚閃を制御できなくなり、暴発した。仮面は砕け散り、虚化が解除された事で黒崎一護は正気を取り戻した。

 

「剣を取れ、決着を付けるぞ。黒崎一護。」

 

「ああ。―――――いくぜ、ウルキオラ。」

 

二人が正対し構えた所で、空間に孔が開いたのだ。しかも、ウルキオラの直ぐ近くに。孔は空間に亀裂を走らせながらどんどん広がっていく。

 

「「!!」」

 

想定外の自体に加えて先程までの戦闘による疲弊で二人は諸共に空間の孔に飲み込まれてしまったのだった。

 

 




次回からようやく本編に入ります


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7話 ウルキオラ・シファー

とっくに失くしたハズのソレを

今更になって追い求める

―――――――心の所在を



 

 

 

 

 大阪上空・高度1300メートルにて、二人の戦いは予想外の形で終わりを迎えた。空間に孔が開き、両者揃ってその孔に飲み込まれたのである。

 

空間に孔が開いた理由は、当然ながら二人の戦いの余波である。地獄の門すら打ち抜く完全虚化状態の黒崎一護の虚閃と、刀剣解放第二階層状態のウルキオラの王虚の閃光をぶつけ合ったのだ。コレによって周囲一体の空間に多大の負荷がかかっている処に、最後の暴発がトドメとなってついに空間が耐え切れず崩壊してしまったのである。

 

ウルキオラは、時限の狭間と言うべき空間にいた。黒崎一護の姿は見当たらない。そこはあらゆる色彩が無秩序に入り乱れていて、極彩色にも白にも黒にも見えた。加えて、上下左右前後といった方向の感覚も酷く曖昧だ。その中でウルキオラは何か大きな奔流に流されていく。一秒にも永遠にも感じられたが、漸く出口らしきものに行き着いた。

 

先程までの黒崎一護との戦闘で相当に霊圧を消耗していたが、念のため刀剣解放第二階層状態は維持を継続している。何しろ出口の先がどのような場所、状況なのかわからないのだ。用心に越したことは無いだろう。

 

出口の先は周囲をコンクリートで、地面をアスファルトで舗装され、一定の間隔で電灯が設置されている場所だった。そこはトンネルだった。ウルキオラは一瞬元の世界の現世かと思ったが、黒膣を開口出来ず、周囲に妖怪の気配があることから違うと判断せざるをえなかった。恐らくは、先ほどまで居た世界の別の時代なのだろう。

 

その妖怪とは、奴良組系「ガゴゼ会」の屍妖怪達の事である。

 

ウルキオラはそのような塵同然の雑魚など食らう気にもなれない。とりあえず危険は無さそうなので刀剣解放を解除して、トンネルから出ることにした。

 

(一先ず情報収集だな。ここが何時、何処なのか。それが解らなければ今後の方針も定まらん。もっとも、今の俺には無理をしてまで元の世界に帰還する理由など既に無いのかも知れんがな。)

 

ウルキオラは図書館を探すことにした。図書館なら情報も容易に調べられるし、休息も可能だと考えたからである。食事も必要だが近くに手ごろな獲物が居らず、調達しようにも資金を持ち合わせていない。しかも、ウルキオラは霊体であるが故に通常の人間では認識できない。食事については後で考えるとする。

 

因みに、それが理由でその図書館には怪奇現象の噂が立つ事になるのだがそれはまた別の話。

 

 

 

 予想は出来ていたがこの世界に空座町は存在しないようだ。ここは東京の浮世絵町。こちらではアレから400年程の月日が流れていたらしい。元の世界の現世にほど近い時代に流れ着いたのは幸いと言えば幸いだが。

 

大阪上空でのウルキオラと黒崎一護の戦いは伝説として語り継がれているらしい。ウルキオラは「虚無の魔神」、黒崎一護は「冥府の鬼神」として豊臣政権の終わりをもたらした神であると伝えられていた。逸話では、二柱の神が降臨し、大阪の町に壊滅的な損害をもたらした事で淀殿は豊臣政権の終わりを確信し、自決したことになっていた。

 

伝説の中には、ウルキオラの事を旧約聖書に登場する明けの明星とも呼ばれた堕天使ルシファーと同一視するものもあった。黒崎一護は羅刹天(仏教の天部の一つ十二天に属する西南の護法善神で破壊と滅亡を司る神)と同一視されている説もあった。大阪には二人の事を崇め奉った社まで存在すると言う有様である。

 

一通りの情報を調べ終えたウルキオラは、探査回路の範囲を町全体まで広げてみる。すると、大阪城に乗り込んできた妖怪達の霊圧を幾つか感じ取れた。

 

(どうやらあの女狐はぬらりひょんと名乗った妖怪に斃されたらしいな。しかも、宿願とやらは未だ果たされていない。ここで集めた様々な情報からそう判断するのが妥当だろう。)

 

最も気がかりなのは黒崎一護の霊圧を感じ取れなかったことである。揃って同じ孔に飲み込まれた以上黒崎一護だけが別の世界に流された可能性も低いだろう。考えられる可能性としては既にこの時代に居て、今は探査回路の及ばない程に距離が離れているのか。それとも、もっと先の時代まで流されたのか。

 

ウルキオラは大阪、京都に向かう事にした。そのどちらかであれば羽衣狐の事も解る可能性が高いと考えたからだ。流石に、配下だった京妖怪達も奴良組に全滅させられた訳ではないだろう。やはり拠点があるに越したことは無い。

 

 

 

 

 

 

 ウルキオラは大阪城跡地にいた。あの戦いの煽りで半ば崩壊したものの、その後修繕され今ではメジャーな観光地になっていた。すぐ近くには淀殿の慰霊殿と「虚無の魔神」と「冥府の鬼神」が奉られた祭殿も建てられていて、中々に賑っている。そこで探査回路を拡げてみると覚えのある霊圧を感知した。鬼童丸である。

 

「久しいな、鬼童丸。」

 

「!!・・・貴様、ウルキオラか?あの鬼神との戦いで諸共に時空の狭間に封印されたと聞いていたが復活したのか?」

 

「・・・・・まあ、そんな所だ。」

 

「ちょうどいい。羽衣狐様も400年の時を経て漸く転生なされたところだ。今は、表向き大企業の会長の孫娘として生活している。ウルキオラよ、再び我々に協力してくれんか?今度こそ悲願達成の絶好の機会なのだ。」

 

ウルキオラはこの要請を受諾し、鬼童丸と共に羽衣狐のいる京都に向うのだった。

 

 

 



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8話 破面

 

 

 ウルキオラは今、豪邸の一室で羽衣狐と対面していた。周りには配下の妖怪達も居る。

 

「久しいのぅ、ウルキオラ。」

 

「・・・ああ、そうだな。400年の間に多少のメンバーの入れ代わりがあったようだな。」

 

ウルキオラはそう言うと、頭部に巨大な目を持つ老人の姿をした妖怪に眼を向ける

 

「フェッ、フェッ。こうしてお会いするのは初めてですかな、ウルキオラ殿。ワシの名は鏖地蔵と申します。」

 

一見恭しい態度に見えるが、ウルキオラの直感が鏖地蔵に対する嫌悪感と警戒心を抱かせた。

 

(癇に障る奴だ。妙な素振りを見せたら殺すか?)

 

ウルキオラがそんなことを考えていると羽衣狐が声をかけてきた。

 

「さて、ウルキオラよ。貴様には色々と聞かねばならん事がある。400年前は素性まではあえて深くは詮索しなかったが、アレを見せられてはそういう訳にもいかんからな。」

 

「・・・・・いいだろう。まず、俺はこの世界の妖怪ではない。こことは違う世界、虚圏から来た。気が付いたらこの世界に居たと言うべきか。」

 

「ほう、興味深いな。となるとお主は異世界からの漂流者という事になるのか?」

 

「ああ、そんなところだろうな。」

 

「それで、その虚圏とやらは一体どのような世界なのじゃ?」

 

「口で説明するより見た方が手っ取り早い。」

 

ウルキオラはそう言うと、自分の眼球を抉り出して握りつぶした。すると、妖怪達の脳裏に映像が浮かんできた。夜の砂漠に、体に孔を開け白い仮面を被った化物共である。

 

「この化物共は(ホロウ)と呼ばれる悪霊だ。人間の魂が長期間成仏できずに彷徨い続けた結果、渇きや餓えに堪えかねて心を失い堕ちたモノ達だ。」

 

次に、同じ仮面をつけた黒い巨人の集団の映像に切り替わる。

 

大虚(メノスグランデ)。幾百の虚が互いを喰らい続け生まれた、強大な力を持つ虚だ。こいつ等は最下級大虚(ギリアン)と言って、ここから共食いを繰り返すことで中級大虚(アジューカス)に進化する。さらに共食いを繰り返すことで極僅かな者が最上級大虚(ヴァストローデ)に到達する。」

 

「面白いな。して、お主の階級はなんじゃ?あれ程の力を有している事を考えると最上級大虚かの?」

 

「俺は破面(アランカル)と言う虚の上位に位置する種族だ。先の虚の仮面を剥ぐことで、魂の限界を突破して新たな力を手にした者達だ。そして破面の中でも特に優れた殺戮能力を有するものには王から十刃(エスパーダ)の称号を与えられる。そして十刃はその名の通り十人いる。殺戮能力が高い順に1から10のナンバーを与えられ、下位の破面達を支配できる権限を有している。」

 

「成程な。で、お主は十刃なのじゃろ?何番手なのかの?」

 

第4十刃(クアトロ・エスパーダ)ウルキオラ・シファー。十刃での力の序列は4番目だ。」

 

ウルキオラの告白は、京妖怪達にとって余程衝撃的だったらしい。羽衣狐以外の全員が絶句している。

 

「大阪城での戦いの時、凄絶なほどの妖気が溢れ出したと思うたら、その刀が消え失せてお主が変身しおったのはどういう訳じゃ?」

 

「ああ。この刀は斬魄刀といってな、破面化する際に、虚としての肉体と能力の『核』を刀状にして封印したものだ。故に、破面の斬魄刀解放は自身の真の姿と能力の解放を意味する。」

 

「ちなみに、十刃にはそれぞれが司る死の形がある。それは人間が死にいたる10の要因で、十刃それぞれの能力であり思想であり存在理由でもある。」

 

「ふむ。10に及ぶ死の形とな?」

 

「ああ、そうだ。第10十刃から順に、憤怒を司るヤミー・リヤルゴ、強欲を司るアーロニーロ・アルルエリ、狂気を司るザエルアポロ・グランツ、陶酔を司るゾマリ・ルルー、破壊を司るグリムジョー・ジャガージャック、絶望を司るノイトラ・ジルガ、虚無を司る俺、犠牲を司るティア・ハリベル、老いを司るバラガン・ルイゼンバーン、孤独を司るコヨーテ・スタークだ。」

 

京妖怪達の脳裏に10人の破面が順番に浮かび上がる。

 

「なんというか、想像よりもアレじゃな。ウルキオラは特にだが、全体的に白っぽいのぅ。妾としては白より黒の方が好きなんじゃが。」

 

羽衣狐のこの感想にはウルキオラも少々呆れた。

 

「・・・・・・知るか」

 

(まさかと思うが、依代に引きずられて中身まで幼くなっているのか?)

 

「次は、あの鬼神について聞かせてもらおうかの。」

 

「奴の名は黒崎一護。俺にとって宿敵と言える死神(代行)だ。コチラの世界ではどうか知らんが俺の世界の死神とは、浮幽霊を成仏させ霊界に送り届けたり、虚を斃す事で世界の霊的な均衡を保つバランサーでもある。黒崎一護は破面の逆で、死神でありながら虚化の能力を修得している。」

 

「では奴の持っていた剣はなんじゃ?身の丈ほどの出刃包丁のような大刀から漆黒の長刀に変化したが、死神とは皆あのような能力を有しておるのか?」

 

「死神達の斬魄刀は破面のソレとは異なり、虚を斬り伏せることで、虚となってからの罪を濯ぎ、その魂を元の人間のものへと戻し尸魂界へと送るモノだ。一段階目の斬魄刀の能力解放を始解、二段階目の能力解放を卍解と言う。解放後の形状や特殊能力は斬魄刀ごとに千差万別だ。卍解状態の戦闘能力は一般的に始解の5倍から10倍にも及びうるらしい。」

 

羽衣狐は一通りの説明を聞き終えて、少しの間瞑目し、思考に耽った後にウルキオラに訊ねた。

 

「ウルキオラよ、その黒崎一護とやらは再び我等の前に立ちはだかると思うか?」

 

「ああ、ほぼ間違いなくな。」

 

明確な根拠は無い。だが、ウルキオラはその時になれば黒崎一護と再び見える事になると確信していた。

 

 

 

 



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9話 幕間

 

 現在、ウルキオラはとある社に居た。羽衣狐から与えられた新しい拠点がこの社なのである。なぜなら、ここに祀られている神とは「虚無の魔神」であるからだ。正式名称は虚神殿といい、敷地面積はそれ程でもない。だが、本殿の奥にある管理人用と思われるスペースは2LDKと中々の広さだった。

 

この虚神殿は京妖怪達が畏を得るために建てたものである。神が不在で神体も祀られていない状態である為、参拝したところで御利益など何もないと思われるが何故かそれなりに盛況であった。客寄せの呪いでも仕込んでいるのか意外と利益を上げられているようで、京妖怪達の活動資金源の一つになっているという話である。

 

(もっとも、俺は一般的に崇められている善神や土地神とは異なる。どちらかと言えば、荒御霊や祟り神の類に分類されるようだな。)

 

そのあたりは、「怨念」や「怨霊」といった、"陰"に属する京妖怪達らしいと言えるかもしれない。ちなみに、ウルキオラの事を無断で神として祀った謝礼として、羽衣狐から御符らしきものを貰っている。コレを身に着けていれば一般人にも認識できるようになるとの事である。古の妖狐にして陰陽師・安倍晴明の母親だけあって呪術の心得が多少はあったらしい。

 

ウルキオラは羽衣狐に協力する代価として、幾つかの条件を提示した。

 

一つめが拠点となる場所。この虚神殿が正式にウルキオラの住所となったわけである。

 

二つめが個人的な活動資金。これについては、虚神殿の利益の中から賄われる事になった。流石に京妖怪程の大所帯ともなると経理担当の妖怪も居るようだ。今のご時勢、先立つものが無ければ妖怪と言えどもやっていられないらしい。

 

三つめが不定期的にではあるが遠出し、不在となる事。既にこの時代に流れ着いているかも知れない黒崎一護の探索である。承諾はされたが此方にも一つ条件を課せられた。立場上、安易には京を離れられない羽衣狐に共眼界で各地の名所を視せると言うものだった。このくらいの条件なら許容範囲内である。

 

ウルキオラの提示した上記三つの条件を羽衣狐が呑んだ事で再び協力関係が結ばれたのだった。

 

 

 

 

 

数日後、ウルキオラは食事の用意をしていた。本来なら人間の魂魄や妖怪などの霊体が主食なのだが、羽衣狐にやり過ぎるなと言われている。破面の場合は虚と異なり死神の領域に踏み込んでいるため、一応は通常の食事も摂取可能だ。稲荷寿司を作ろうと考えていたところに、羽衣狐がやって来た。学校が長期休暇であるため暇を持て余しているらしい。

 

「・・・・・暇なのか?表向きは大企業の会長の孫娘として有名なお嬢様学校に在学していると聞いたが。」

 

「うむ、学校も今は夏休みでな。生き肝集めの方も、本格的に動き出すには些か時期尚早じゃしな。煩わしい習い事も今し方終わったところじゃ。」

 

「そうか。用が無いなら失せろ。俺はこれから食事だ。」

 

「相変らずつれん奴じゃのう。まあよい。それで、何を食べるのじゃ?」

 

羽衣狐は台所を覗き込み、油揚げの存在に気が付いた。

 

「なっ!こ、この油揚げは!上質の大豆から一切の添加物なしで仕上げた極上の一品ではないか!!」

 

「防腐剤や化学調味料などの添加物に塗れたモノなど食えんからな。」

 

(狐が油揚げを好むと言うのはただの俗説では無かったようだな。)

 

ウルキオラは羽衣狐のテンションに呆れながらそんなことを考えていると、羽衣狐が自分にも稲荷寿司を食べさせてほしいと言ってきた。

 

「食いたければ酢飯を詰めるのを手伝え。」

 

結果として羽衣狐は作った稲荷寿司の7割近くを平らげて、悠々と帰っていったのだった。

 

 

 

 

 

 ウルキオラは鬼童丸と剣戟を交わしていた。もちろん本気の戦闘ではない。鬼童丸が修行に付き合ってほしいといってきたのだ。羽衣狐も未だ夏休みで相変らず暇を持て余しているのか見物している。

 

「いくぞ、ウルキオラ!ヌウウゥゥゥ――――剣戟・楠」

 

ウルキオラは鬼童丸の抜刀術を難なく斬魄刀で受け止め、左手で貫手を繰り出す。鬼童丸は咄嗟にもう一振りの刀を抜いて貫手の軌道を逸らして距離をとり、次の攻撃に備える。

 

「では、コレならば如何だ!――――剣戟・櫻花!!2刀による億万の花が吉野の山に散るかのごとくの高速斬撃だ!」

 

だが、ウルキオラは斬撃の尽くを右手の斬魄刀だけで打ち払って退けた。

 

「!!!――――――何・・・だと」

 

「そろそろ準備運動は充分だろう、鬼童丸。鬼の頭領の実力、まさかこの程度ではないだろう?」

 

「よかろう。其処まで言うのならば見せてくれる!」

 

鬼童丸は、妖力を全解放して正しく鬼と化した。

 

「剣戟・虚空。櫻花のさらに10倍の高速斬撃。攻撃した後には何もない、虚しさだけが残るのみ。故に、虚空。」

 

だが、剣戟・虚空はウルキオラに掠りもしなかった。ウルキオラは響転で鬼童丸の背後に回り、首筋に刃を添えていた。

 

「そこまでじゃ。双方、剣を収めよ。」

 

静観していた羽衣狐が静止を掛ける。

 

「鬼童丸、確かに貴様の斬撃は速い。だが、それだけだ。破壊力に欠けて、一定以上の防御力や耐久力を有する相手は仕留め切れんだろう。加えて言うなら、剣戟の最中は貴様自身の足が止まっている。まあ、あの斬撃速度を維持したまま動き回れるようになれば大抵の相手は容易に切り刻めるだろうがな。」

 

「ウルキオラ、おぬしの高速移動術を教えては貰えんか。」

 

響転(ソニード)をか?」

 

「良いではないか、ウルキオラ。その響転(ソニード)とやら、何かと便利そうじゃ。」

 

「・・・・・まあ、いいだろう。もっとも、響転を修得できるかどうかは貴様ら次第だがな。」

 

こうしてウルキオラは京妖怪達に響転(ソニード)を教えることになったのだった。

 

 



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10話 鬼道術式全集

 

 

 

 

 ウルキオラは今、京妖怪達とともに宴会に参加している。この春で羽衣狐が中等部から高等部に進学する事に対する祝いである。洋式の豪邸に合わせたのか羽衣狐も普段の制服ではなく黒のドレスで着飾っている。人間の使用人達は予め羽衣狐が言いくるめていた為、皆出払っている。羽衣狐は配下の妖怪達から祝いの言葉や貢物を受け取っている最中だ。

 

(ただの進学程度で随分と大仰な事だ。)

 

そこでウルキオラは、羽衣狐を見つめている見知らぬ幼女の存在に気が付いた。

 

「おい、何だ貴様は。あの女狐に用があるならそんな所に突っ立ってないで直接話しかければいいだろう。」

 

「ふぇ!にゃ、何だお前は。お前こそ名を名乗れ。」

 

「・・・ウルキオラ・シファーだ。」

 

「そうか。私は狂骨の娘だ。」

 

(・・・狂骨?・・・・・・・・・・・・ああ、そういえば居たな。)

 

ウルキオラはそんな事を考えていると、羽衣狐の方からやって来た。

 

「ここにおったか、狂骨。しばらくぶりじゃのぅ、ウルキオラ。」

 

「はい。お姉様。ご進学、おめでとうございます。」

 

狂骨は羽衣狐に花束を手渡した。羽衣狐も微笑みながら花束を受け取り、狂骨の頭を撫でる。

 

「愛い奴じゃのぅ。それで、お主からは何か無いのか?ウルキオラ。」

 

ウルキオラは小さめの箱を羽衣狐に渡した。

 

「ここで開けてみてもよいかの、ウルキオラ?」

 

「好きにしろ。」

 

箱の中身は黒いボディカラーのケータイであった。

 

「ふむ。これは携帯電話というやつか。」

 

「ああ。貴様の立場と今後のことを考えると、即座に連絡が取れる手段は在った方がいいだろう。」

 

ウルキオラも既にケータイを購入していた。ボディカラーこそ白であるものの、羽衣狐に渡したモノと同じ機種である。ちなみに、そのことを知った羽衣狐は何故か少し上機嫌になっていた。

 

 

 宴会も一段落着いたところで、ウルキオラは部屋の一角に設えられているバーカウンターで静かにブランデーを飲んでいた。そこに羽衣狐が狂骨を連れて来た。

 

「ウルキオラよ、妾達にも何か出してくれんかの?」

 

ウルキオラは舌打ちしつつも、羽衣狐にはバーボンをロックで、狂骨にはカクテルをだしてやった。

 

「シンデレラ。ノンアルコールカクテルの代表格だ。」

 

「つまりはミックスジュースじゃの。」

 

「な、なんだとー。わたしにもちゃんとお酒を出せー!」

 

「喚くな、耳障りだ。貴様のようなガキにはそれで充分だろう。」

 

結局、その宴会は日が昇り解散するまで騒がしいままであった。

 

 

 

 

 

 ウルキオラは一人で鍛錬をしていた。ただ、この鍛錬はあくまで黒崎一護との再戦に備えてのものでそれ以上の意図は無い。破面としての闘争本能はあるが、グリムジョーやノイトラと違い力そのものに対する執着は特に無いのである。

 

周りからは求道者と揶揄されることもあるが生真面目な性分ゆえに、妥協する事無く黙々と没頭しているだけである。これ以上は非合理的だと判断すればあっさりと見切りを付けて引くことも出来る。

 

鍛錬が終わって虚神殿に帰り着くと、ケータイが鳴り響いた。羽衣狐からの着信だった。

 

「何のようだ?」

 

『ウルキオラ、今週末は予定を空けておけ。ちと妾に付き合え。近頃、無粋にも土足で京の都を荒らし回る輩がおってな。そろそろ仕置きが必要じゃ。』

 

「・・・まあ、いいだろう。それで、ほかのメンバーは?」

 

『妾とお主の二人で充分足りるであろう。多少の手間隙はかかるかもしれんがな。』

 

「何故鬼共を使わない?貴様が自ら出向かずとも、奴らに任せれば済む話ではないのか。」

 

『・・・妾とて偶には加減無しで暴れたくなる時もあるのじゃ。』

 

どうやら羽衣狐もああ見えて結構ストレスを溜め込んでいたらしい。

 

 

 週末になり、ウルキオラと羽衣狐は無粋な賊共を誅罰するために山間部に赴き、おびき寄せるために霊圧と畏を解放する。

 

「そういえば妾達の畏とお主の霊圧はだいぶ違うの?」

 

「そうだな。俺達の霊圧とは、霊力によって重圧の様な過負荷を強いる。特に十刃クラスのものだと並の霊能力者程度では近づいただけで圧倒しうる。そのかわり貴様達のような畏を持ち合わせてはいないがな。」

 

その様な事を話していると夜になり、満月が全容を見せた頃に漸く件の賊共がやってきたようだ。その正体は人狼の群れであった。数も質もそこそこと言ったところか。とはいえ満月の光を浴びた状態でも大半が巨大虚並で、ギリアン級が数体程度だが。

 

「何じゃ奴らは。どこの妖怪じゃ。」

 

「ウェアウルフか。その起源は東ヨーロッパとされるらしい。まあ今の時代、人間に紛れれば比較的容易にこの国に入ってこれるようになったからな。こういう事もあり得るか。」

 

「なににせよ不愉快の事よな。一匹たりとも生かして帰さん。」

 

羽衣狐は三尾の太刀を抜刀し、次の瞬間には3匹が八つ裂きになったいた。

 

「ほう、どうやら響転は問題無く使いこなせるようになったか。」

 

ウェアウルフ達はウルキオラの放つ虚閃で薙ぎ払われ、羽衣狐に切り刻まれていく。群れの6割程を壊乱したあたりで一際強大な銀灰色のウェアウルフが出てきた。この群れを率いるボスである。妖気だけなら初対面時の卍解した黒崎一護に匹敵しうる。

 

「オノレエェェ。偉大なる狼王ロボの末裔であるこのオレがこのような蛮族共に負けるなど在り得ぬ事だ!絶対に許さんぞ!男の方はブチ殺して女の方は徹底的に陵辱してくれるわ!」

 

「下衆が。先祖が偉大だからといっても、その末裔まで優秀とは限らないという見本だな。」

 

ウルキオラは虚弾を撃とうと手を向けるが、羽衣狐が遮った。

 

「ウルキオラ、お主は周りの雑魚を頼む。アレは妾が殺す。」

 

羽衣狐は畏を全開にして、9尾を展開する。キレていた。

 

「・・・まあ、いいだろう。さっさと始末しろ。」

 

「言われるまでも無いわ。」

 

「テメェ等、このオレを舐めてんじゃねぇぞおぉ!!」

 

ウルキオラは斬魄刀を抜刀し、目前の2匹を切り捨て虚弾の弾幕で一気に14匹を肉片に変えた。すかさず被弾して生き残った死に損ないの首を刎ねていく。人狼も反撃を試みるが、例え直撃したところでダメージにもならない。人狼程度ではウルキオラの鋼皮を破る事などできはしないのだ。最後の5匹をまとめて虚閃で消し飛ばし、僅か10秒ほどで人狼の群れを殲滅したウルキオラは羽衣狐の戦いに眼を向ける。

 

羽衣狐は響転と二尾の鉄扇を使い相手の攻撃を食らう事はないが、尻尾と三尾の太刀によるカウンターを浴びせても致命傷といえるほどの深手には至らない。狼王ロボの末裔を自称するだけあって高い身体能力と持久力に回復力、硬い毛皮を有している。少々厄介だ。羽衣狐がそのように考えを纏めていると相手が動いた。今までのような直線的な軌道ではなく、狼の敏捷性を生かした動きである。

 

「ハッ!油断しやがったな女狐!!」

 

羽衣狐の尻尾による自動迎撃を掻い潜り死角から爪を振り下ろそうとしたその瞬間、心臓を貫かれていた。

 

「!!!―――――――――何・・・・・だと」

 

「四尾の槍・虎退治。あの状況でスキを見せてやれば食い付いて来ると思っておったわ。まんまと罠にかかりおったな、駄犬。」

 

ウェアウルフは羽衣狐によってバラバラに解体されたのだった。狡猾さはやはり狐の方が上だったようだ。

 

「さて、帰るとするかの。」

 

 

 虚神殿に帰り着いた頃には既に陽が上っていた。羽衣狐は両手に油揚げを大量に詰まった袋を持っている。帰る途中の老舗の豆腐屋で買い込んだものである。一体どれだけ好きなのか。

 

「ウルキオラ、妾は稲荷寿司を所望する。」

 

「・・・・・貴様も手伝え。」

 

「うむ!」

 

稲荷寿司だけでは味に飽きるしバランスも悪いので油揚げの照り焼きや挽肉の巾着煮等も作ったのだが羽衣狐が買い込んだ分の4割程は使いきれなかった。

 

「余った分は持って帰れよ。」

 

「いやいや。ウルキオラよ、ここにも油揚げを常備しておくべきじゃろう。」

 

(コイツ、入り浸るつもりか・・・)

 

羽衣狐はやはり油揚げ料理の6割を平らげてのけた。

 

「ウルキオラが来てからこの虚神殿にいわくつきの物品の持ち込みが増えたらしいのう。」

 

「大半が塵だが稀に本物が混じっているな。使えるかどうかは別にして。」

 

「どれ、ちと見せてみよ。」

 

呪いの絵馬、夜に動き出す人形、釘の刺さったままの藁人形、印刷っぽい水墨画、御札多数、錆び付いたナイフ、心霊写真、ロザリオ、etc.

 

羽衣狐は琴線に引っかかる物は無かったのかあっさりと興味を失っていたが、ウルキオラはその中にぶ厚い書物が埋もれていることに気づいた。その本の表紙にはこう記されていた。

 

『鬼道術式全集』

 

 

 

 




ヤバイ。このままだと晴明さんがフルボッコすぎる。


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11話 聖女

 

 

 ウルキオラは羽衣狐の邸宅にある書庫を漁っていた。自分、黒崎一護、鬼道術式全集。もはやこの世界とあちらの世界が何らかの形で繋がっているのは明白だ。故にウルキオラはほかの痕跡が無いか調べていたのである。だが、収穫の程は思わしくない。

 

「やはりそう簡単にはいかんか。いや、もしかしたら俺がこの世界に紛れ込んだせいで二つの世界が繋がってしまったのか?」

 

思考に耽っていると、羽衣狐が帰ってきた。どうやら獲物を二人ほど連れ込んだらしい。霊圧は二人合わせても並みの虚一匹にも及ばない程度である。精々、多少霊体が視えるくらいだろう。だが、ここで自分が目撃されるのはあまり好ましくない。そう判断し、羽衣狐の邸宅を出た。外は雪が降り始めていた。

 

最近の京都は高層建築物もそれなりに増えて、「風光明媚な古都」の面影を残しているのは観光名所くらいになりつつある。12月上旬だと言うのに街のあちこちにイルミネーションが飾り付けられ、もうすぐ冬休みで浮かれているガキ共がそこら中ではしゃいでいる。だが、羽衣狐をはじめとした京妖怪達はそれが気に入らないらしい。

 

「人間共め、図に乗りおって」「鵺が復活し、悲願達成した暁には一掃してくれる」「再びこの世を暗き闇で覆いつくすのだ」「やっぱ人間てクソだわ」「マジハゲドー」

 

などと息巻いているものも居る。もっとも、ウルキオラにとっては瑣末な問題なので特に気にはしていない。今問題なのは先程から尾行していているカソックを着た1人の女である。恐らくはエクソシストと言う奴なのだろう。

 

(生身の人間にしては中々の霊圧だな。3桁の十刃落ち連中に匹敵し得る。だが尾行の方は上手いとはいえないようだな。それに、俺に対する殺気が抑えきれずに洩れている。)

 

ウルキオラはあえて虚無殿ではなく山の麓の方に向かうことにした。

 

 

「この丘ならば邪魔なものは何もない。」

 

ウルキオラはシスターと対峙した。改めてそのシスターを観察する。金髪に深紅の瞳をした若い白人で、身長や体格はティア・ハリベルに程近い。聖性を帯びた剣を二振り有しており、カソックもただの衣服ではなく何らかの術式が施されていると視える。それ以外にも様々な武装を隠し持っている様だ。

 

「随分と余裕ですね。その傲慢、我が信仰にかけて微塵に砕いて差し上げます。」

 

「―――――――信仰、か。いいだろう。全力でこい。」

 

その女は2振りの聖剣を抜いて十字に重ねた。

 

「我らは神の代理人 神罰の地上代行者 我らが使命は 我が神に逆らう愚者を その肉の最後の一片までも絶滅すること――― Amen」

 

その宣誓で女の纏う空気は明確に切り替わった。その様はさながら両手に持つ聖剣の様でさえある。ウルキオラは女に対する評価を1段上げた。

 

女は両手に持つ聖剣を縦横無尽に駆りウルキオラを倒滅せんとする。愚直なまでに基本に忠実で、それ故に隙も無い。聖剣と言うだけあってウルキオラにとっては相性が悪い。まともに受けたとしても鋼皮を浅く切り裂く程度だが、あまり受け続けるのも得策ではないだろう。

 

「ハアアアァァァ!!」

 

女は果敢に攻め続ける。だが、女の技量と聖剣だけではウルキオラの命に届かないことはもはや明確だ。

 

ここに来て初めてウルキオラが攻めに回る。響転で頭上に回り、手刀を延髄目掛けて振り抜く。女はギリギリで回避したものの、体制を大きく崩している。ウルキオラはその隙を見逃さない。

 

「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ――――縛道の六十一・六杖光牢」

 

「なぁっ!何ですかコレ!?」

 

「止めだ。散在する獣の骨 尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪 動けば風 止まれば空 槍打つ音色が虚城に満ちる――――破道の六十三・雷吼炮」

 

だが、女は雷吼炮が直撃する寸前で、口を使い懐から純銀のロザリオをとりだして防御結界を展開してのけた。

 

我に触れぬ(ノリ・メ・タンゲレ)

 

「なるほど。存外にできるな。」

 

女は結界を維持したまま微笑を浮かべる。

 

「我々の信仰を侮らないで下さいね。」

 

女は聖書の頁であろう紙片を展開し、ウルキオラの周辺を囲む。さらに、懐から小型のロザリオを大量に取り出し、聖書の頁を陣を描くように小型のロザリオで地面に打ち付ける。

 

「天にましますわれらの父よ、願わくは御名の尊まれんことを、御国の来たらんことを、御旨の天に行わるる如く地にも行われんことを。

われらの日用の糧を今日われらに与え給え。

われらが人に赦す如く、われらの罪を赦し給え。

われらを試みに引き給わざれ、われらを悪より救い給え。――― Amen」

 

「まさか、この程度で俺を封印したつもりか?」

 

「それこそまさかですね。その結界はあくまで下準備にすぎませんよ。我等カトリックが誇る神罰の地上代行者に伝わる破魔洗礼の術式をもって完全に浄化して差し上げます。」

 

「生者の為に施しを、死者の為に花束を。正義の為に剣を持ち、悪漢共には死の制裁を。

しかして我等   聖者の列に加わらん。

聖母マリアの名に誓い、全ての不義に鉄槌を。

去りゆく魂に安らぎあれ(パクス・エクセウンティブス)――― Amen」

 

女が十字を切ったことで洗礼の術式は完成し、ウルキオラは眩い浄化の聖光に包まれる。

 

 

女は勝利を確信し踵を返して立ち去ろうとする。だが

 

「やれやれ。これ程とはな、想定以上だ。」

 

「・・・・・そんなバカな・・・ありえない!なんで、無傷なんですか?一体、何をしたんですか!!」

 

「簡単なことだ。貴様が俺を斃す為に練り上げた力より俺の霊圧の方が遥かに強かった。それだけの話だ。」

 

ウルキオラは無感情に淡々と答える。女はソレを聞いて絶句している。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・どうやら今のが全力だったらしいな。・・・残念だ。」

 

ウルキオラは女を容赦なく貫いた。自分の孔と同じ場所、喉元を。

 

「貴様がまだ動けるのなら立ち去れ。出来ないのならそのまま死ね。いずれにせよ貴様ごときでは生涯を懸けたところで俺を斃す事など不可能だ。」

 

ウルキオラはそう言い残して立ち去り、女は雪に埋もれていったのだった。

 













この聖女様、今後の展開しだいでは死なずに再登場させるかも。
その場合、羽衣狐様のライバルになるかもしれません。


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12話 虚無

 

 

 

 

 

 

 何も無い。 俺は 光の射さぬ穴の底で生まれた。

 

闇を圧し固めたような なにものともつかぬ 黒い 黒い 澱の底で生まれた

 

仲間は皆一様に真っ黒な姿をしていた。真っ黒な姿で眼を光らせ歯を剥き出して何がしかを喰んでいた。

 

しかし、俺は白い姿をしていた。俺には眼しかなかった。黒い仲間たちは、白い俺を指差して嘲笑する。

 

虚圏に浮かび続ける欠けた月の下、全身を血に濡らしながら当て所なく彷徨う。

 

感じるものは無かった いや、或いは 無だということを感じたのかも知れなかったが

 

聴くこと無く 喰らうこと無く 嗅ぐこと無く 触れて何かを感じること無く 休むこと無く 仲間は無く ただ 一人歩いた

 

何も無い

 

だが、ひたすらに歩き続けた結果として俺は奇妙なものを見つけた

 

それは白い杭のような枝が山のように密集していて、この世界に点在する得体の知れぬ半透明のモノが生まれる場所だった。

 

俺は今まで眼にした中で最も無に近い巨大なソレに身を沈めることにした。

 

白い杭のような枝がこの身を削るが、意に介さない。ソレの深奥にたどり着き、身体を横たえる。

 

そこには何も無かった。俺自身の境界線を失い、溶けて、消滅するような感覚

 

嗚呼、これが虚無か――――――――――――幸福

 

 

 

 目を覚ますと羽衣狐の顔がすぐ近くにあった。まるで悪戯に成功したような表情で覗き込んでいる。

 

「・・・・・・・・何の用だ」

 

「いや、なに。珍しくお主が寝入っていたものだからじっくり眺めておったのさ。」

 

ウルキオラが文句を言おうとしたが、狂骨が勢いよく部屋に入ってくる。

 

「お姉様!明けましておめでとうございます!!あ、あとついでにウルキオラも。」

 

(チッ。相変わらず騒がしい奴らだ。)

 

「二人とも、よい初夢は見れたかの?」

 

「はい!」

 

「下らん。夢などいつ見ようとただの記憶の羅列だ。」

 

「やれやれ、夢の無い奴じゃのう。」

 

「それで、結局何をしに来たんだ?お前達は。」

 

「初詣に来てやったぞ!」

 

「・・・初詣、だと?」

 

「うむ。お主は妾達が勝手に祀ったとはいえ『虚無の魔神』であろう?こうして直に参拝に来たというわけじゃ。」

 

「そうだ。来てやったんだから願いを叶えろー!」

 

とりあえず騒がしい狂骨をアイアンクローで黙らせつつ台所に向かう。

 

「何か喰っていくか?」

 

「うむ。稲荷寿司を所望する。」

 

ウルキオラは料理に取りかかりながらも、ふと自身の初夢を振り返る。

 

(――――――――虚無か。何も持たず、失う余地の無いモノ。俺の司る死の形。かつて至福と感じた彼の感覚。できることならアレを我が物としたいものだ。)

 

虚夜宮での戦いで黒崎一護に斃されて消滅しかけたことで再び虚無に触れて以来、その欲求は次第に大きくなっている。

 

(以前とは多少は変わったようだが、やはり本質というモノはそう簡単には変わらないらしいな。)

 

同時に、今の羽衣狐達との騒がしい日常も心地よく失うには惜しいと思い始めているのだがウルキオラは未だその事を自覚していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルキオラは今、茨木童子と模擬戦を行っている。鬼達の修行に定期的に付き合わされているのだ。羽衣狐と狂骨も見物している。

 

「鬼太鼓・乱れ打ち!オラアアァァ!!」

 

だが、茨木童子の鬼發は通用しないどころかウルキオラの鬼道、鏡門によって全て跳ね返される。

 

「アアアン!なんだそりゃあ!クソがぁ!!」

 

茨木童子は悪態をつきながらも響転で回避する。もっとも、ウルキオラから視れば響転とも呼べない程に未完成な代物だが。

 

「相変わらず口が悪い上に直情的だな。もっと頭を使ったらどうだ?」

 

「スカしてんじゃねえぞ!クソむかつくヤローだぜ。」

 

茨木童子は二刀を鬼憑させ接近戦を仕掛ける。だが不完全な響転ではウルキオラを捉えられない。鬼童丸もそうだが鬼達は全体的に霊子の操作を苦手とする傾向にある。コントロールが非常に雑なのだ。はっきり言って茨木童子のセンスは狂骨以下である。

 

「貴様達鬼共は力ばかりで霊子の操作が下手すぎる。未だに空中で足場を作る事にすら難儀する有様だ。」

 

「ウルセェ!んなもんできなくってもソッコーで撃ち落としてぶった切りゃ済む話なんだヨオ!!!」

 

「・・・そうか。では、やってみろ。」

 

茨木童子は頭に血が上っていると見えて、真っ向から突貫してくる。

 

「バカが。破道の四・白雷」

 

ウルキオラは茨木童子の右肩を撃ち抜いた。衝撃と痛みで一瞬隙ができた茨木童子に足払いで体制を崩し、膝を右面にたたき込む。さらに、茨木童子が体制を立て直して反撃に出る前に次の手を打つ。

 

「縛道の四・這縄」

 

「ガッ!こんなモン簡単にブッチギッテ」

 

茨木童子は妖気をさらに解放して鬼化しようとするが

 

「遅い。破道の十一・綴雷電」

 

茨木童子はたまらずに膝をつく。だが、戦意は未だ萎えてはいないようだ。

 

「いい加減、終わらせるか。鉄砂の壁 僧形の塔 灼鉄熒熒 湛然として終に音無し―――――縛道の七十五・五柱鉄貫」

 

茨木童子は完全に戦闘不能に陥った。ウルキオラは動けないままの茨木童子に対して、改善すべき反省点を蕩々と述べる。

 

「ウルキオラ、毎度の事ながら我らの修行に付き合ってくれて感謝する。」

 

「気にするな、鬼童丸。俺にとって何のメリットも無いというわけでも無い。」

 

ウルキオラとしても鬼達は鬼道の試し撃ちの相手として手頃なのである。羽衣狐相手だと全力を出す訳にもいかない。さりとて、雑魚では話にならない。上位の鬼達はウルキオラにとって色々と都合のいい相手なのである。

 

「では、また何かあれば呼ぶがいい。」

 

ウルキオラが帰ろうとすると、羽衣狐が呼び止める。

 

「ウルキオラ、我等もそろそろ本格的に動き出す。京に掛けられた螺旋の封印を解く際はお主の力を貸してもらう事になるじゃろう。その時は頼むぞ?」

 

「・・・いいだろう。」

 

(恐らく、その際には再び黒崎一護と戦うことになるのだろうな。その時はこの腐れ縁を清算してやる。)

 

ウルキオラは黒崎一護に対する根拠のない確信にどこか諦観を抱きながら気を引き締めるのだった。

 

 

 

 

 

 



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13話 魔王の小槌

 

 

 

 

 

 羽衣狐と京妖怪達は生き肝集めに専心している。そのため、陰陽師をはじめとした人間の霊能力者達との戦闘の機会も増えてきた。特にウルキオラは霊能力者達の間ではある意味羽衣狐以上に有名になっている。

 

最近のウルキオラは基本的に単独行動である。今日も一人で街外れにある寂れた公園の近くを歩いていたら、複数の人間共に取り囲まれた。ただのチンピラでは無い。察するに、野在の退魔師だろう。丁寧にも人払いの結界を張り、武装を展開する。

 

「こいつが噂の魔神サマかよ?」

 

「油断するな。花開院の陰陽師達をはじめ数多の霊能力者達を尽く屠り去っていると聞く。最初から全力でいくぞ。」

 

「ああ。こいつを仕留めれば箔が付く上に花開院から報奨金が出る。」

 

それをウルキオラは瞑目し、黙って聞いていた。だが

 

「・・・・・・・・・・・ゴミが」

 

ウルキオラは霊圧を解放した。それだけで片付く雑魚ばかりであった。否、ウルキオラが規格外なのであって今回の霊能力者達も弱いわけでは無い。まあ、いずれにしても彼らが辿る末路に違いは無いのだが。

 

ウルキオラは携帯で羽衣狐に連絡を取り、生け捕りにした霊能力者達を取りに来させる。最近の単独行動はこうして上質な生き肝を釣るためであった。一人で歩き回っていれば此方から狩って回るまでも無く彼方の方から態々やって来るのだ。やらない手は無い。

 

 

 

 

 ウルキオラは今、東京の浮世絵町にいた。かつて羽衣狐を斃したぬらりひょん率いる奴良組と、隠神刑部狸が率いる四国八十八鬼夜行の抗争に関する情報を掴んだためである。偵察にはウルキオラが適任と判断されたのだ。

 

「田舎出の狸共でも、今の奴良組の力を測る物差し位にはなるであろう。」

 

鬼童丸はそのように評価していた。だが、戦争に絶対など無い。程度の差はあれど必ず想定外のイレギュラーが生じるものだ。ウルキオラは今回の抗争において最大級のイレギュラーと成り得る者を視ていた。

 

「やはり居たか、黒崎一護。400年前と同様に奴良組についている様だな。」

 

 

 

 一護は高層ビルの一室で隠神刑部狸・玉章と対峙していた。偵察に赴いていた牛頭と馬頭の正体がバレて、四国妖怪達に捕らえられ重傷を負っていたため助けに入ったのである。玉章はいきなり窓を破って乱入してきた一護に多少は驚いたようだったが妖刀・魔王の小槌で斬りかかる。だが、一護も斬月で受け止め、鍔競り合う。

 

「その姿、君が噂の死神、黒崎一護か?」

 

「ああ、俺が黒崎一護であってるぜ。で、その剣は一体何なんだよ?ボロい癖してすげえ嫌な感じの霊圧だ。」

 

「ほう、中々に鋭いね。この刀は四国に伝わる神宝で魔王の小槌って言うんだよ。斬った相手の血を啜る事で力を無限に増長する刀でね。君もこの神宝の糧にしてあげるよ。」

 

玉章はサディスティックな笑みを浮かべながら畏を解放する。だが、三羽の鴉天狗が乱入してきた。

 

「オメエ等は牛頭と馬頭を頼む。ワリィけどここはひとまず退散させてもらうぜ、玉章。―――――月牙天衝!」

 

玉章はこの月牙を凌いだものの、体制を立て直した頃には一護達は既に失せていた。

 

「成る程。噂に違わぬ、と言ったところかな。だが、この魔王の小槌があれば勝てない相手ではない。次こそはリクオ君諸共に神宝の糧にしてやろう。フフフフフ」

 

 

 

 

 ウルキオラは2㎞程離れたビルの屋上からこれを視ていた。会話の内容も読唇することで大まかになら把握できた。

 

「四国妖怪達の実力は雑魚同然だな。だが、魔王の小槌とやらは気になるな。能力はまるでアーロニーロの喰虚(グロトネリア)のようだが、根底の霊圧は鏖地蔵のものと酷似している。どういう事だ?」

 

ウルキオラはもう少し様子を視ていく事にした。

 

 

 

 

 

 

 数時間後、大通りのど真ん中で両陣営は向かい合っていた。

 

「やはりあの程度では脅しにもならなかったか。それでこそ倒す価値があると言うものだ。」

 

対する奴良リクオは無言で、暫く睨み合いが続くと思われたが奴良リクオがいきなり一人で前進する。百鬼夜行大戦の火蓋が切って落とされた。

 

両陣営は数において拮抗していても、質においては奴良組が上回っている。幹部同士の戦いではそれが顕著だ。四国勢は次第に追い詰められていく。このままでは黒崎一護の出番がろくに無いまま終わりかねない。

 

追い詰められた玉章は魔王の小槌の真価を解禁した。周りの妖怪達を敵味方問わず手当たり次第に斬りだしたのだ。ソレによって妖刀の畏はどんどん強大になっていく。

 

黒崎一護や奴良組の面々は勿論黙って見ていたわけでは無い。黒崎一護が止めようと月牙天衝を放つが、妖刀で迎撃されることで逆に霊力を吸収されてしまったのだ。だが、今の月牙天衝が一度に吸収できる限界のように視えた。玉章も余波の衝撃を受け、幾ばくかのダメージを負っている。

 

「効いてるな。だったら――――卍解!天鎖斬月!!もうそろそろ夜が明ける。日が昇る前にいっきに終わらせるぜ、玉章!」

 

「玉章、テメェはその刀に踊らされてるだけだ。お前自身は百鬼を率いる器じゃねぇんだよ。いくぞ、一護!」

 

玉章は黒崎一護の高速機動に追いつけず、翻弄される。しかし、黒崎一護は袈裟懸けに斬りかかる寸前で突如停止した。一瞬であるが故に気づいたものは仕掛けた者以外居なかったが、六枚の光の板が身体に刺さっていた為だ。玉章はその隙を逃さず、逆に黒崎一護を袈裟懸けに斬った。

 

「一護!無事か!?」

 

「ああ、なんとかな。ワリぃ」

 

「気にするな。もう一度いけるか?」

 

「ああ、大丈夫だ。もう時間がねぇ。次でキメるぜ。」

 

黒崎一護は霊圧を全開にして正面から突っ込む。玉章は辛うじて反応が間に合い、鍔競り合いに持ち込む。だが、それこそが黒崎一護の狙いだった。零距離から最大級の月牙天衝を放ち、魔王の小槌を弾き飛ばす。同時に、ついに太陽が顔を出し始めた。

 

「一護、あとはオレ/ボクに任せて!」

 

玉章は隠神刑部狸としての神通力で対抗する。しかし、奴良リクオの新たな畏には通用せず右腕を切り落とされた。

 

 

 

 ウルキオラはその様子を意外と近くから観察していた。黒崎一護が全く気づかなかったのは縛道の二十六・曲光を自身に掛けて透過し、霊圧を最小限に抑えていたからだ。

 

「今回の偵察は俺個人にとっても中々有意義だったな。おかげで黒崎一護の今の力量を測ることが出来た。」

 

霊圧や容姿から推測するに、どうやら黒崎一護はこの時代に流れ着いて未だ間もないらしい。ついでに奴良組の戦力も大凡ながら把握できた。

 

ならば、もうここに居る理由も特にない。ウルキオラは京都に帰還した。

 

 

 



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14話 遠野の里

 

 

 

 

ウルキオラは鬼童丸達と共に東北にある妖怪の隠里に来ている。この里の妖怪達は中立を謳い、全国の組織に人材を派遣している。

 

「よくまぁ京くんだりからおいでなさった。ろくな歓迎も出来ず心苦しいですな。」

 

「気の利かぬ挨拶はいい、赤河童殿。率直に言う。20人ばかり優秀な兵隊を売ってほしい。」

 

「・・・・・無理ですな。ウチとしては京にそこまで恩義があるわけでもねぇですし。」

 

「だからって奴良組とつながられちゃ困るんだよ。」

 

「ワシらはあくまで中立。そうやってイチャモンをつけるなら―――また沈むぞ。」

 

空気が張り詰め、神経がひりつくような緊張感が場に満ちる。そこに今まで静観していたウルキオラが割って入る。

 

「鬼童丸、俺達はケンカを売りに来たわけでは無いはずだ。コイツ等が中立を全うする限り此方としても特に問題ないだろう?」

 

「だがウルキオラ、コイツ等が奴良組に何人も派遣した場合はどうする。」

 

「どうもしない。どこの誰であろうと敵対するなら容赦なく殺すだけだし、そうで無いなら必要以上に構うことも無い。コイツ等とて仮にも傭兵であるならその程度の覚悟は出来ているはずだ。」

 

赤河童達は思うところはある様だが、反論すること無く曖昧な表情を浮かべ沈黙している。

 

「それと鬼童丸、俺達に今必要なのは工作兵や衛生兵の類いだろう。戦闘面においては俺が鍛えてやった上、返り討ちにしてきた退魔師共から接収した武器が有るだろう。むしろ今の編成は些か以上に攻撃に偏りすぎている。」

 

「それで問題があるのか?京の封印を解いて弐條城を落とす事が出来ればいい。その頃には花開院の陰陽師共も大半が壊滅しているだろうよ。」

 

「・・・俺が奴らの立場ならあえて守りを捨て封印を解かせる。そして羽衣狐が鵺を産むまでの僅かな期間に、温存した全ての戦力とあらゆる手段を駆使してピンポイントで羽衣狐を暗殺しようとするだろうな。」

 

「むう、確かに。400年前はそれでぬらりひょんにしてやられたのだったな。」

 

「ああ、今回も奴らと花開院が手を組む可能性は高い。ぬらりひょん程に暗殺に適した能力を持つ妖怪もそうは居ない。警戒はしておいて然るべきだ。」

 

「ふむ、成る程な。赤河童殿、どうだ?」

 

「・・・そうですな。医者は無理ですが間諜の心得のある者ならば10人程ならなんとか、と言ったところですかな。」

 

「やむを得んな、一先ずはそれで手を打とう。では赤河童殿、それで頼む。」

 

 

 

 

 遠野との商談が成立し、京に帰ろうとしていたところで鬼童丸がある者を見つけた。洗濯中の奴良リクオである。

 

「ん?あの顔は、まさか」

 

その顔を見た配下の一匹である牛力が問答無用で襲いかかる。しかし、直前で感づかれ避けられる。牛力はすかさず追撃を仕掛けようとするが、畏を発動されたため見失う。

 

「あん?どこに行った?」

 

「惑わされるな。」

 

鬼童丸は部下をたしなめると、自身の畏を解放し奴良リクオの畏を容易に断ち切った。

 

「あのぬらりひょんの畏がこうも容易く断ち切れるはずが無い。そうか、貴様はウルキオラの報告にあった孫か。ちょうどいい、ここで始末していくとしよう。」

 

鬼童丸は刀を抜き、その切っ先を向ける。部下達も完全に臨戦態勢である。

 

「400年前、ぬらりひょんによって羽衣狐様が討たれてから我等の時は止まった。だが、羽衣狐様は復活し宿願も間近。刎ねた貴様の首は羽衣狐様への手土産に、胴の方は貴様の祖父に送りつけよう。狐文字で宣戦布告を添えてな。」

 

牛力は再び奴良リクオに襲いかかる。だが、闖入者によって右腕を切り落とされた。

 

「何やってんだ?俺等の里で暴れやがって。京妖怪さんよぉ。殺すぞ!?」

 

「何だお前。食い殺したろか、バカが。」「吊し決定。」

 

鬼道丸の部下達と鎌使いが戦い出す前に奴良リクオが先ほどのものとは別の畏を発動させた。

 

「イタク、ソイツはオレの敵だ。思い出したぜ、鏡花水月。」

 

「お前の畏は切られただろうが!喰らえ、俺様の鬼憑・牛力千力独楽!!」

 

だが、通じない。もう一人の断鬼も加勢するが攻撃を当てるどころか、あっさりと畏れに呑まれ二人まとめて一撃でやられてしまう。

 

「昔、じじいに聞いたことがあった。ぬらりひょんとは夢幻を体現する妖だってな。」

 

(ぬうぅ、これは意外や危険な畏。潰すなら今!)

 

鬼道丸は2鬼を倒して油断している奴良リクオに斬りかかろうとするが、ウルキオラは制止をかけた。

 

「なぜ止める、ウルキオラ!?」

 

「頭に血を上げすぎだ、鬼道丸。周りをよく見ろ。」

 

遠野の若手妖怪達に取り囲まれていた。

 

「今ここでコイツ等を殲滅するつもりか?」

 

「・・・いいだろう。だが、ぬらりひょんの孫に手を貸したことは覚えておく。奴良組とつるめば皆殺しだ。」

 

鬼道丸は踵を返すが、呼び止めるものが居た。

 

「あら、おじさん達。まさかこのまま帰れると思っているの?帰りたければ、この遠野の里で暴れたことを大声で悔いなさいな。」

 

ウルキオラは一々付き合うのも面倒なので、霊圧を解放してぶつけることで黙らせることにした。

 

「行くぞ、鬼道丸。もうここでの用は済んだのだろう?」

 

「あ、ああ。しかし、凄まじいな。慣れているはずの俺達でさえ圧倒されるのだ。こやつ等のような餓鬼共ではひとたまりもあるまい。」

 

実際、奴良リクオや遠野の若手妖怪達は身動きすらままならず、立っているのがやっとと言った有様である。

 

「まあ、これで奴良組とつるんで俺達に刃向かう愚かさは理解できただろう。遠野の諸君には賢明な判断を期待する。」

 

鬼道丸はそう言い放つと里の結界を切り裂いた。

 

「さて、それでは京に帰還するとしようか。」

 

 

 




次回はちょっと一護視点に移る予定です。


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15話 死神代行

 

 

 

 一護は今、京都にいた。清十字怪奇探偵団の引率である。今の京都は中学生だけで行かせるには危険すぎる。及川氷麗と倉田(青田坊)も一緒である。

 

ちなみに一護は肉体を元の世界に置いてきた状態なので、今も霊体のままである。だが、清十字怪奇探偵団や他の一般人達にもちゃんと認識できている。これは一護が身につけている数珠のおかげだ。この数珠はぬらりひょんが古いつてを使って用意してくれたモノで、幽体を実体化させる効力がある。

 

 

「すごい!ケンタもコンビニも看板の色が違う!」

 

「おうおめぇ等、あんまはしゃぎ過ぎんなよ。」

 

「「「「「はーい!!」」」」」

 

「奴良君、置いて来ちゃってよかったの?」

 

「なーに心配いらないさ家長さん。彼ならきっと駆けつけてきてくれるさ!」

 

「つーか清継よぉ。何だってこんな時間からなんだよ?」

 

「一護さん、これは妖怪ツアーですよ!?神社もお寺も閉まった後じゃないと意味ないでしょう!!ほら!どことなくあやしげな妖気につつまれた感じがしませんか!!」

 

「お、おう・・・」

 

清継のこの発言に、今の京都の実状を大凡ながらも知っている一護達は内心で頭を抱える。

 

その時、不意に空気が変わった。恐らく近くに潜んでいた京妖怪が畏を発動させたのだ。狙われているのは家長、巻、鳥居の女子3人のようである。

 

「くそっ!つらら、目眩まし頼む。こいつ等に見せるわけにもいかねえからな。」

 

つららが冷気の霧を発生させの意識を逸らす。その隙に一護は数珠の効力をOFFにすることで実体化を解き、霊体に戻って斬月を構える。

 

幸い妖怪達は大したものでは無くすぐに片付いた。清十字怪奇探偵団の皆も無事だ。

 

「しっかし、話に聞いてた以上だな。」

 

「ええ。まさかここまで侵略されてるなんて・・・」

 

「まったくだ。こりゃ気ぃ抜いてられねぇな。」

 

3人で話していると、黒いフードの少女が声を掛けてきた。

 

「あんたら何してるんや!?夜は出歩いたらアカンって警告きいてへんのか!?」

 

「ぬおお!?ゆらくん!?ちょうどいいところにいた!!今からお邪魔しようと思ってたとこなんだ!!」

 

「・・・・・なんで・・・みんなおんねん・・・まずいで・・・いまの京都は―――――妖に侵された街になりつつある」

 

 

 

 

 

 一行はゆらに連れられ、花開院の本家で説明を受けている。

 

「本当かいそれ!?ゆらちゃんのお義兄ちゃんが・・・花開院家のトップ3がやられたの!?」

 

「・・・うん。義兄ちゃんらは瀕死の重傷で第3の封印もとかれた。ホンマに封印が解かれて弐條城まで堕とされたら取り返しのつかないことになる。最悪の場合、京都どころか日本中に妖が跋扈するようになるかもしれん!!」

 

「それで、おまえはこれからどうすんだよ?」

 

「相剋寺。今夜あたり・・・来るみたいなんや。私らは花開院家の陰陽師や。敵に背を向けて逃げたらあかんねん!!」

 

「待てよ。俺も戦うぜ!」

 

一護はそう言うと斬月を実体化させた。

 

「敵の中にはウルキオラの奴もいるはずだ。あいつにはコイツじゃねぇと、俺じゃねぇと勝てねぇ!」

 

「・・・・・わかった。それじゃあ一護さん、よろしゅう頼みます。」

 

「おう!!」

 

 

 

 

 

 

 第二の封印・相剋寺では花開院分家「福寿流」の陰陽師達が数十人がかりで結界を張っている。一護もそこにいた。氷麗と青田坊には清十字怪奇探偵団の護りに回ってもらっている。

 

「来たぞ!!奴らだ」「よぉし!気を抜くなよ!!」「頑張れー!!」

 

だが、その結界はあっけなく斬り裂かれてしまう。

 

「なぁ!!・・・そ、そうか!コイツ等、今まで返り討ちにしてきた退魔師達の武器を!!」

 

福寿流の陰陽師達は個別の結界に切り替えるが、京妖怪達の猛攻に抗えず蹂躙されていく。

 

「させるかー!!貪狼!!武曲!!禄存!!下がってて福寿流!!」

 

京妖怪達は一瞬は怯んだモノの直ぐさま仕掛けるが、そこに一護が割って入る。

 

「月牙天衝!!」

 

雑魚を薙ぎ払う。一護は斬月を上段に構えもう一発撃とうとするが、その前に茨木童子が立ちはだかる。

 

「テメェが俺の相手か。速攻で片付けてやるぜ!」

 

「上等だ!やれるモンならやってみろ、クソ野郎!!」

 

一護は加減なしの月牙を放つが、茨木童子は鬼太鼓桴・仏斬鋏で月牙を容易く挟み斬った。茨木童子はすかさず響転で距離を詰める。一護は多少驚愕しつつも斬月で受け止め、鍔競合いに持ち込まれる前に瞬歩で距離をとる。

 

「今のは響転(ソニード)か?まさかウルキオラが教えたのか!?」

 

一護はゆらと竜二の方に目を向ける。二人はしょうけらの響転に対応し切れていない。いかに有望な陰陽師といえどもあくまで生身の人間。生理的な限界がある。

 

「くそっ!―――卍解!天鎖斬月!!」

 

茨木童子も妖気を全開にするが、卍解した一護には及ばず、圧倒する。一護はゆら達に加勢する。一護一人で茨木童子としょうけらの二人を同時に相手取るのは流石にややキツい。だが、ゆらが切り札である式神・破軍を召喚する。

 

「いくで式神・破軍!!」

 

しかし、ゆらの号令に対して破軍は何の反応も示さない。

 

「なんでや!ちょ・・・なんで何も反応せんのや!?動け・・・何で動かんのやー!!」

 

『そんな拝み倒したって動かへんよ。破軍はね・・・・・普通の式神とは違うんやから。心を静めなさい才ある者よ。そしてその才を強くしたいと願いなさい。そしてとなえよ、悪を祓う言葉を―――』

 

破軍とはただ歴代当主を呼び戻すための術にあらず。先神達の霊力をかりることでその者の才を極限にまで増力するものなり。

 

「百鬼を退け、凶災を祓わん―――破軍発動!!」

 

「ハアアアァァ―――月牙!天衝!!」

 

この連係攻撃によって茨木童子としょうけらはダメージを受け、大きく後退した。

 

「その顔・・・忘れはせんぞ。四百年間、片時も忘れはしなかった・・・」

 

『・・・・・羽衣狐か、お久しゅう。えらいカワイらしい依代やなぁ・・・』

 

「漸くお出ましかよ。女だからって手加減はしねぇ。全力で行くぜ!」

 

羽衣狐は九尾を展開し、三尾の太刀を構える。

 

「あまり妾を舐めるなよ、小僧!?」

 

 

 

 一護はスピードとパワーにおいては羽衣狐を凌駕している。だが、手数と技の多彩さと戦略眼は羽衣狐の方が上だ。結果として両者の戦力は拮抗していた。

 

しかし陣営での総戦力においては京妖怪達の方が上だ。ゆらと竜二と魔魅流の3人は茨木童子としょうけらの相手で手一杯。花開院の陰陽師達は京妖怪達に劣勢で、既に少なくない数の負傷者が出ていた。

 

(くそっ!虚化した全力の月牙天衝なら羽衣狐を倒すことが出来る。でも、下手すりゃ花開院の連中も巻き込んじまう!―――どうする・・・!?)

 

一護のその迷いが一瞬の隙となった。気が付いたら無数の蛇に取り囲まれていた。

 

「よくやった、狂骨。褒めて使わす。雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ――――縛道の六十一・六杖光牢」

 

「なっ!く・・・こんなモン」

 

「まだじゃ。君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ――――破道の七十三・双蓮蒼火墜!!」

 

羽衣狐の両掌から強大と言えるほどの蒼い炎が撃ち出される。いかに一護といえども六杖光牢を掛けられた上でこの双蓮蒼火墜をまともに食らえば戦闘不能に陥りかねない。この状況でそうなれば最悪の場合、全滅の可能性すらあり得る。

 

「ウオオオオオオォォォォォォォ―――――!!!」

 

一護は虚化し、力尽くで縛道を破り破道を掻き消した。花開院の陰陽師達は一護の変化に驚愕したり動揺していたが、今は説明していられる暇が無い。

 

(この位置なら皆を巻き込む心配もねぇ。羽衣狐だけをヤレる!)

 

「終ワリダゼ、羽衣狐!オオオオォォォォ―――月牙!!天衝!!!」

 

漆黒の月牙が羽衣狐に迫る。この光景に十三代目秀元ですら勝利を確信した。否、していた。何故なら一護の月牙が羽衣狐を飲み込む直前に割り込んできた者によって両断されたのだ。

 

黒い髪に翡翠色の瞳をした白い男だった。一護はその男を識っていた。この霊圧、首元の孔、感情の読み取れない無機質な貌。

 

「・・・久しぶりだ、黒崎一護」

 

「ああ、久しぶりじゃねぇか。―――――ウルキオラ!!!」

 

 

 

 



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16話 相剋寺

 

 

 

 

「・・・久しぶりだ、黒崎一護」

 

「ああ、久しぶりじゃねぇか。―――――ウルキオラ!!!」

 

両者は互いを認識した瞬間に霊圧を開放しながら斬魄刀を構える。油断や隙といったモノは一切無い。

 

二人の放つ霊圧はまさに規格外と言えるレベルで、周囲の者達は言われるまでも無く即座に理解した。迂闊に踏み込めば余波だけで死にかねないと。

 

「―――――――いくぜ、ウルキオラ!!」

 

「・・・・・こい、黒崎一護」

 

二人は真っ向から激突した。剣戟の度に大気は爆散し、地面はひび割れて、周囲にあるモノは尽く薙ぎ払われていく。鏖地蔵など運悪く間近に居た妖怪などは剣戟の余波だけで消し飛ぶほどである。その様はもはや二つの異なる天変地異のぶつかり合いと言っても過言では無い。

 

「くそっ。コッチは虚化までしてんのにアッチは解放も無しで互角かよ!?ムチャクチャ強くなってやがる!!」

 

「黒崎一護、やはり貴様はこの時代に流れ着いてまだ間もないようだな。だが、俺はこの時代に流れ着いて4年になる。その間、俺が無為に時間を浪費していたとでも?」

 

ウルキオラは双児響転で2体の分身を作り、黒崎一護を取り囲み三方向から攻撃する。本人は正面からの垂直斬り、分身は黒崎一護の背後からそれぞれ鎖結と魄睡を貫こうとする。だが

 

「!!ナメンじゃねぇー!!!」

 

「ほう、咄嗟に月牙を放ったか。賢明な判断だ。」

 

そう言いながらもウルキオラは一切手を緩めること無く攻め続ける。響転で黒崎一護の頭上にまわり、加減なしの虚閃を放つ。黒崎一護はこの虚閃を多少被爆しながらも瞬歩を使い離脱する。しかし、ウルキオラにとってソレは想定通のことである。

 

ウルキオラは響転で先回りして、黒崎一護が虚閃から離脱して極僅かに気が緩んだ瞬間を狙う。だが黒崎一護は咄嗟に身体を捻り、顔を逸らすことで致命傷を避けた。完全に回避されたわけでは無いが仮面の一部と額を浅く切り裂くに止まった。

 

「オオオオォォォォ―――月牙天衝!!!」

 

「甘い!」

 

ウルキオラは斬魄刀に霊圧を纏わせて強化した斬撃で月牙を両断する。だが、黒崎一護が既に肉薄していた。

 

(!!―――そうか、月牙を盾にして・・・此方は全力で剣を振り抜いた直後だ。躱しきれん)

 

ウルキオラは即座に左腕を盾に敢て踏み込む。黒崎一護が剣を振る前に距離を潰すことで振り抜けなくしたのだ。おかげで腕一本へし折れた程度で済んだ。

 

ウルキオラは超速再生しながら響転で距離をとった。

 

「残念だったな。もし今の斬撃が月牙を纏ったモノであったなら左腕を完全に切り落とせていただろうに。」

 

「くそっ。余裕かましてんじゃ、ねぇー!!」

 

黒崎一護は仮面の欠けた部分を修復し、全力の月牙天衝を放つ。残る霊力の大半を費やした渾身の一撃である。回避すれば羽衣狐たちが巻き添えを喰う。ならば此方も全力の一撃で迎え撃つ。

 

「――――王虚の閃光」

 

黒崎一護の全力の月牙を相殺したものの、空間は大きく撓み京の霊脈も著しく乱れている。

 

(これ以上戦い続けると今後の計画に差し障るか。ヘタに奴を追い詰めて暴走されては、例え斃せたとしても京都そのものが壊滅しかねん。本来の目的を考えれば、ソレは敗北も同然だ。・・・仕方ない。)

 

「終わらせる。縛道の六十三・鎖条鎖縛」

 

黒崎一護は残る霊力を絞り出して引きちぎろうとするが僅かに遅かった。

 

「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ――――破道の九十・黒棺」

 

 

 黒崎一護は仮面も割れ霊力も底をつき満身創痍の有様だ。力なく落下していく。しかし、ウルキオラはなおも追撃を掛ける。踵落としで地面に叩き付け、クレーターを作り上げる。さらに

 

「縛道の三十・嘴突三閃」

 

黒崎一護地面に打ち付けられた。ソレを見た十三代目秀元は焦りを露にする。

 

『これはアカン!このままでは彼が死んでしまう!!なんとかして助けるんや!!』

 

ゆらと竜二と魔魅流の3人が瀕死の黒崎一護を庇うためにウルキオラの前に立つ。

 

「ほう、気概だけは立派だな。だが、解っているはずだ。貴様等三人程度では時間稼ぎの盾にもならん。」

 

そう、ここに居るのはウルキオラ一人では無い。羽衣狐をはじめとした京妖怪達が居る。

 

「で、どうするんだ十三代目?正攻法ではアイツの言うとおり勝負にもならんぜ。」

 

十三代目秀元は妖怪達に聞こえないように小声で作戦を伝える。

 

『おじょーちゃん、今から言う呪文を合図したら唱えるんや。気付かれんように出来るだけこっそりとな』

 

『羽衣狐――――妖の領分を越えて、そない規格外まで引き込んで、一体何がしたいんや』

 

「お前に言う必要は無い。術者もろとも消え失せろ!!」

 

茨木童子としょうけら、さらに鬼童丸が一斉に襲いかかる。

 

『おじょーちゃん、今や』

 

「惑いの霧よ、民草を包め!!」

 

「ブォォ!?」「ゲホッゲホー!!」「な、なんだこりゃ」「煙幕か?」

 

『さ、今のうちに彼を回収するんや。花開院の子孫どもよ!退け!!勝ち目はない』

 

「くぅ・・・相剋寺が」「京はどうなってしまうんや」

 

惑いの霧がはれた時には生き残っていた陰陽師達は既に撤退していて、この戦いで命を落とした者達の骸だけが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 羽衣狐たちは封印の要であるしめ縄が施された杭の前にいる。

 

「陰陽師のやつら、あっさりと明け渡しましたなぁ。まあ、あんな戦いを見せ付けられては無理もないですかな。さあ、ちゃっちゃと抜いてしまいましょう。」

 

「鏖地蔵、生きていたのか。気持ちの悪い奴だなお前は」

 

「フェフェフェ。あなたが死ぬまで死ねませぬ。」

 

羽衣狐は封印の杭を引き抜いた。

 

「これで、封印は残りあと一つ。」

 

振り返って立ち去ろうとしたところで、何者かが地面から這い出てきた。般若の面のような顔で6本の腕を持つ巨躯の男である。

 

「・・・久し振りだな、土蜘蛛。」

 

「あん、羽衣狐か?と、ウルキオラじゃねぇか!?会いたかったぜぇ!!」

 

「土蜘蛛、お主も力をかせ。これから最後の封印である弐條城を落とし、妾はそこでやや子を産む。我々の宿願まであと一つじゃ。」

 

「・・・・・・てめぇらとつるんだ覚えはねぇ。てめぇらが何しようと知らん。ワシは強い奴とやれればそれでいい。そんな相手が現代にいるのかい・・・」

 

「いる。必ずや我等の前に現れる。」

 

「・・・・・これで大方揃いましたかなぁ、こちらの戦力が。」

 

「だな・・・」

 

 

空腹時なら人・妖怪はおろか神仏ですら喰らい尽す妖怪―――土蜘蛛

羽衣狐に絶対の忠誠を誓う巨大な骸骨の妖怪―――がしゃどくろ

人を断罪する天虫の妖怪―――しょうけら

幼いながらも羽衣狐を慕う有望株―――狂骨

強大な力を有する高位の鬼―――鬼童丸と茨木童子

不気味な作戦参謀―――鏖地蔵

九尾の妖狐にして京妖怪を統べる狐の大妖怪―――羽衣狐

そして

絶対的な力を持つジョーカー―――ウルキオラ・シファー

 

 

「さあ、余興は終いじゃ。残り一つを落としに参ろう。」

 



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17話 弐條城

 

 

 

 

 

 羽衣狐達は閉館間際の弐條城に向かっている最中である。

 

「ウルキオラよ、お主は京を支配した暁にはどのような世を望のじゃ?」

 

「・・・俺は支配や統治には興味が無い。お前達の好きにすればいい。」

 

「お主には何か望むものは無いのか?」

 

「そうだな、強いていうなら宿敵である黒崎一護との決着を後腐れ無くつける事が出来れば特に言うことは無いな。」

 

羽衣狐は嘆息しながら

 

「・・・まあ、予想通りの答えではあるが相変わらず欲の無い奴じゃのう。」

 

「それよりも次の弐條城が最後の封印だろう。あまり気を抜きすぎるなよ。」

 

「ああ、わかっておるとも。今度こそ宿願を果たし、理想の世界を創り上げるのじゃ。」

 

 

 

 

 

 

 一行は弐條城の地下にある鍾乳洞「鵺ヶ池」にあっさりと到着した。守護者たる陰陽師が一人も居なかったためである。単に務まるものがもう居ないのか戦力を温存しているのかは判らないが。

 

鵺ヶ池はしめ縄が張り巡らされ大量の札が貼り付けられていたにもかかわらず、封印で解き放たれた京中の怨念が池の水を常闇のような黒に染め上げていた。

 

「ここが羽衣狐様が最初にやや子〝ぬえ〟を産んだという妖気終焉の地、鵺ヶ池」

 

「なつかしい、ここにたまる怨念が妾に力をくれる。封印を解き、やや子を産めと言うてくれている。永かった・・・あと五日だ」

 

鵺ヶ池の中央に君臨する羽衣狐にしょうけらが感極まったらしく跪き

 

「おお!おお!マリア様、ついに〝主〟を産むのですね」

 

さらにウルキオラの方に向き

 

「魔王サタンよ、闇の聖母に大いなる慈悲と加護を」

 

「おいコラしょうけら、いちいち変なあだ名つけんじゃねぇつってんだろ!?このナルシストのクソ野郎が。面白くもなんともねーぞ!」

 

「私は真剣だ、茨木童子。そのために我等は努めているのであろう?」

 

「もう!二人ともケンカばっかりして!」

 

「フフフ、仲悪いのぅあの二人。しかし、あの方の前では同じ方向に向きを変える。」

 

「京を制圧して魔都とし、妾のために生き肝を集めてまいれ。よいな?」

 

「「御意」」

 

「狂骨、お前はここで羽衣狐の補佐をするつもりか?」

 

「え、うん。そのつもりだけど・・・」

 

それを聞いたウルキオラは狂骨にタブレット端末をわたす。

 

「ならばこれを渡しておく。各封印地に設置されているカメラの映像を閲覧することが可能だ。くわえて、センサーやカメラに何か引っかかればアラームが鳴るように設定してある。」

 

「おおー、すごーい。」

 

「うむ。文明の利器という奴もなかなか侮れんのぅ。」

 

「・・・のんきなものだな。」

 

ウルキオラはそう言い残して忍者達を連れて出撃した。

 

その数分後、第七の封印・柱離宮のアラームが鳴り響いた。通信端末には首の無い男が妖怪達を紐で吊し上げる様が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 第六の封印・龍炎寺にて死霊の集合体である陰摩羅鬼が修学旅行生達を罠にはめて狩ろうとしていた。そこに一組の男女がまったをかける。

 

「てめぇらがこの寺の妖だな?死ね!殺取・蛇行刃」

 

だが男の紐が陰摩羅鬼を八つ裂きにする直前に紫電の斬撃が塀をぶち破り男に向かって飛んできた。男は咄嗟に後退することで躱すが陰摩羅鬼を仕留め損なう。

 

配下の鬼達を引き連れた茨木童子が舞い上がった粉塵の中から姿を現す。

 

「てめぇ等かぁ、柱離宮の奴等を殺ったってのは。名を名乗れ。」

 

「奴良組所属、首無。」

 

「同じく奴良組所属、毛倡妓!」

 

「ハッ、威勢の良い奴等だ。・・・それと、下っ端共ぉ。いつまでもぼんやりしてねぇでその生き肝をさっさと羽衣狐のところに待っていけ。コイツ等は俺がヤる。」

 

「!!――――待て!」

 

「ああ?なんだ、そのヒモは?鬼發・鬼太鼓!!」

 

茨木童子の放った雷鳴の矢は女のサポートによって躱されてしまう。

 

「一人でつっこんでいってもコイツ等には勝てないよ!!攻めんのがアンタ、守んのがアタシ。私たちは一人では弱いんだから。」

 

「・・・ああ。二人で一緒に戦おう。」

 

「・・・・・話は終わったか?なら死ね。」

 

「さあさあ、いくよ首無!!かかってきな鬼ども!!あんたらの首・・・こいつと同じにしてやるよ!!」

 

配下の鬼達が一斉に襲いかかる。だが毛倡妓と首無の卓越した連携によって押し戻される。

 

「ググ、強い」「たしかに厄介だ。だが」「ああ、あの御方と比べれば畏れるに足りぬわ」

 

「なっ!そんな馬鹿な・・・」

 

「私たちの畏が通じないっていうの!?」

 

茨木童子は二人が怯んだ隙を突いて仏斬鋏で毛倡妓を髪ごと胴体を両断する。

 

「!!?紀乃――――!!」

 

「安心しろ。てめぇもすぐに逝かせてやる。」

 

「テメェだけは絶対に許さねぇ!殺す!!殺取 ・螺旋刃!!」

 

首無の必殺を茨木童子は響転で回避してのけた。

 

「まだだ!殺取・蛇行や」

 

その攻撃を繰り出そうとしたところで何者かに背後から心臓を貫かれる。

 

「こんな奴らを相手になにを遊んでいる?」

 

「今トドメを刺すとこだったんだよ、鬼童丸。」

 

「鵺の誕生までもう四日を切っている。さっさと次に行くぞ。」

 

「チッ、ちょっと待ってろ。―――鬼太鼓・乱れ打ち!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奴良組所属、首無及び毛倡妓     再起不能により戦線離脱

 

 

 

 

 




なんとなくヴァイオレンスな気分だったのでついやってしまった\(^O^)/




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18話 ぬらりひょん

 

 

 

 

 現在、弐條城は騒然としていた。土蜘蛛によって壊乱したはずの奴良組が再び活気付き、花開院の陰陽師達と共に各寺の京妖怪を蹴散らして再封印しているのである。

 

鏖地蔵などは慌てふためきながらも指示を飛ばしていたが、第三の封印・鹿金寺を再封印されたと報告を受けて卒倒しかけていた。

 

そんな中でも、羽衣狐は鵺ヶ池で生き肝を貪っていた。奴良組の快進撃も余興程度のものであり、狂骨が持つタブレット端末に映し出される相剋寺の様子を薄く笑いながら見ている。

 

(相変わらず遊びが好きだな。懲りない奴だ。)

 

ウルキオラがそう思ったところで映像が途切れる。どうやら土蜘蛛が本気を出すために立ち上がったらしい。

 

羽衣狐は配下の妖怪が女達を連れてきたのでその生き肝を喰らう。数分後、配下達が再び騒ぎ出す。

 

「騒がしいな、どうした?」

 

「・・・おそらく相剋寺での勝負が付いたのだろう。」

 

「確認してまいります。」

 

「それには及ばんよ。土蜘蛛の負けじゃ。・・・ワシの孫等にまっぷたつにされての。」

 

「何奴!!」

 

「!!貴様は・・・ぬらりひょん!」

 

「そうじゃ。久し振りじゃのう、羽衣狐。」

 

「・・・まさか俺の探査回路をすり抜けてここまで接近するとはな。これ程の芸当が出来る者など護廷十三隊の隠密機動にさえ居まい。やはり貴様は侮れん。」

 

「おーおー、ずいぶんとほめてくれるじゃねえか。・・・それで、ここが産卵場所かい?」

 

「ぬらりひょん、老いた身でありながらわざわざ一人で来るとはのう。よほど死にたいようじゃな?」

 

「あんたに会って確かめたいことがあってな。てめぇがうちの二代目を殺したのかい!?」

 

ぬらりひょんは殺気を放ちながら羽衣狐を睨み付ける。

 

「だとしたらどうだと言うのだ?闇が再びこの世を支配する。我等の宿願が果たされるまでもうすぐじゃ。その前ではそのような些事、どうでもよかろう?」

 

それを聞いたぬらりひょんはため息をつきながら殺気を納める。

 

「よーうわかったわ。ワシらとあんたらとは、やはり相容れんようじゃな。」

 

「どうした?やらんのか?」

 

「見ての通りワシはもう老いた。なんで、あんたらの相手は若い連中に任せるとするわ。覚悟しとくんじゃな。」

 

「生きてここから帰れると思うたか?ぬらりひょん」

 

その瞬間、黒い疾風が扉を破って侵入する。そして、ぬらりひょんに攻撃しようとしていた羽衣狐に襲いかかる。

 

「!!!」

 

だがソレは白い閃光によって阻まれる。

 

「俺が高速で近づいてくる貴様の存在に気が付いていないとでも思ったか?黒崎一護。」

 

「別に奇襲を掛けようと思ってたわけじゃねえげどな。総大将のクセに無茶苦茶するコイツを迎えに来たんだよ。」

 

「おう、すまんな一護。だが、無茶というならおまえさんも大概だと思うぞ?」

 

「・・・・・傷の方は癒えたようだな。どころか、僅かながらも霊圧が上がっている。しぶとい上に死にかける度に強くなるとは、どこぞの戦闘民族のような奴だ。」

 

「うるせぇよ!・・・まあアレだ、あんま人間達を舐めてんじゃねえぞって事だ。」

 

「ところで黒崎一護。先程から頑なに羽衣狐から目を逸らしているな。貴様の霊圧ならばコイツの魅了程度ならレジストできるはずだが?」

 

「ああ、一護はこう見えて童貞だからのぅ。女の裸を見慣れておらんのさ。以外と初心で奥手なんじゃよ。」

 

「うるせえっつてんだ!!だいたい今はそんなこと言ってる場合じゃねえだろ!」

 

顔を紅くしながらでは今一説得力が無いが、いっていることは間違ってはいない。実際に羽衣狐の陣痛が始まったのだから。

 

『母上、母上様。早く出たいです。もっと、もっと血肉がほしいです。妖の上に、人の上に立つのに・・・こんな状態では出るに出られません。』

 

「おお、おお!おおお!」

 

『もっと生き肝を!はやく、はやく!はやく!!』

 

「おお、よしよし。もうすぐじゃ清明、かわいいわが子よ。今、こやつ等を殺すでな。そのあと、食事にしような。」

 

「これが鵺ってやつか。こりゃ確かにヤバそうな霊圧だ。」

 

「一護、お前なんか余裕じゃの。」

 

「余裕なんて無ぇさ。単にもっとヤバい奴を知ってるってだけだぜ。なあ、ウルキオラ。」

 

「・・・それで、この状況でどうやってここから脱出するつもりだ?」

 

いつの間にか二人は取り囲まれていた。羽衣狐の陣痛が始まったのを察して駆けつけてきたのだろう。

 

「しんじらんねぇ、また糞虫が出やがった。」

 

「にがさない」

 

「何故いつも、出で来るか。なぜ、我等の邪魔をする。」

 

「・・・こりゃあ絶体絶命の大ピンチってやつかの?」

 

黒崎一護も虚化し、二人は背中合わせで刀を構える。だがその膠着状態はがしゃどくろの闖入によって崩れ去る。

 

「はごろもギツネサマ~~~~~!!くしぇものはどこですかぁ!くってやるじょお――――――」

 

がしゃどくろはバカ丸出しででかい図体に見合った大口を開ける。

 

(・・・バカが。肉も内蔵もないクセに喰ってどうする。)

 

案の定、黒崎一護はぬらりひょんを抱えてがしゃどくろの隙間をすり抜けていく。

 

「バカどけ!!」「邪魔しないでよ!」

 

ウルキオラも同様にしゃどくろの隙間をすり抜けて追跡する。

 

漸く追いついた頃には二人は外に出る寸前だった。直ぐ側には鏖地蔵がいるようだが足止めなど期待できない。

 

「チッ!・・・仕方ない。」

 

ウルキオラは、鏖地蔵も一緒にまとめて虚閃で薙ぎ払うことにした。だが、やはり二人は仕留め損なった。二人はそのまま堀川に落ちていく。

 

結局、まんまと逃げられてしまったのだった。

 

 




次回は鬼達のターン
その次でついにウルキオラがレスレクシオンする予定


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19話 羅城門

 

 

 

 リクオ達は百鬼夜行となり弐條城の前の堀川通りに集結していた。その中には花開院の陰陽師であるゆらと竜二と魔魅流に加え、第三の封印・鹿金寺で大敗を喫し重傷を負った雅次と破戸と秋房の3人もいた。傷もほとんど治っている。

 

「さあ、いくぜテメェ等。四百年分のごっそりと積もりに積もった因縁を、この際キレイさっぱりと・・・ケジメつけようじゃねぇか!!」

 

『ヒュウ!カックイイ!あ、花開院の皆の分も畏の羽織ちゃんともらってるで。』

 

「いるか!!」

 

「ソイツはかんべんだ。」

 

『皆聞け!この城のどこかにある鵺ヶ池っちゅーところが羽衣狐の出産場所や!』

 

だが京妖怪達が黙って素通りさせてくれる筈も無く、当然取り囲まれる。

 

「邪魔する奴ぁ遠慮無くたたっ斬って、三途の川ぁ見せてやるから覚悟ねえ奴はすっこんでろ!!」

 

土蜘蛛にも勝利してのけた今のリクオ達にとっては大半が有象無象の雑魚で容易に蹴散らせる程度の連中である。

 

覚と鬼一口でさえ陰陽師達によってあっさり滅せられた。だが、そんなリクオ達でさえ警戒するほどの畏を放つ魔物が出て来た。

 

三つの頭に五メートルに及ぶ体躯を誇る黒犬、地獄の番犬と名高いケルベロスである。

 

このケルベロスは三年ほど前ウルキオラに敗れて軍門に降ったのである。その戦闘能力は高く、土蜘蛛にも匹敵する。

 

「「「ウウウゥゥオオオオオオォォォォンン!!!」」」

 

この遠吠えによって生じた音波の衝撃は凄まじく、少なくない数の者達が竦み上がる。ケルベロスはその隙を逃すこと無く追い打ちを掛ける。三つの口から同時に焔を吐き出したのだ。

 

「くそっ、花開院を舐めるな!洛中洛外全方位金屏風!!」

 

雅次が金色に輝く結界を展開するが、ケルベロスの火炎の威力は結界の強度を上回っている。

 

「だったらこれでどうだ!」

 

雅次は全方位に展開していた金屏風の範囲を敢て狭め、前面に集約させることで結界の強度を飛躍的に上昇させた。そうしてケルベロスの火炎を防ぎきったのだ。

 

雨造が水をぶっかけ、冷麗が凍らせる事で僅かながらも動きを止める。

 

「いくぜ、つらら!今度はやれるな!?」

 

「は、はいっ!!」

 

「「鬼纏・雪の下紅梅!!!」」

 

ケルベロスはまともに食らい完全に氷結し、砕け散った。

 

「よっしゃ、行くぜ。目指すは羽衣狐の待つ鵺ヶ池だ!!」

 

 

 

 

 鬼童丸率いる鬼達は回廊の突き当たりにある大部屋で奴良組と花開院の連合軍を待ち構えていた。

 

「よくぞここまで辿り着いたな、小僧共。だが、ここから先に通すわけにはいかん!!」

 

弐條城全体が鵺の強大な畏に共鳴して振動しだす。

 

『・・・まずいな、出産が始まったんか?』

 

「っ!どけ、おっさん!」

 

「断る。貴様も妖であるのなら鵺の復活を共に祝福し、下僕として理想世界の建設に従事すべきだ。したがわぬなら・・・ここで死ね!」

 

「ふん、なるほど面白そうな話だし妖怪としての血がうずくのも否定しねぇ。だがなぁ、それでもオレらとオメーらとは違うんだよ。」

 

「なんだと?」

 

「てめーらみてぇにカタギのモン踏みつけにして上に立つってのはよ、オレの理想とはかけ離れてる。妖の主ならよ、カタギにゃ畏を魅せつけてやんなきゃな。」

 

「・・・フン、成る程な。結局のところ、どこまで行っても相容れぬ存在というわけだ。よかろう!ならば―――――いでよ羅城門!!」

 

周りの景観や地形そのものが一変する。

 

「弐條城は我等京妖怪の積年の怨念によって既にこの世のものでは無くなっている。そのため我等の思念通りに変化する。ここはかつて我等鬼の眷属の根城だった羅城門。――――さあ、行くぞ!!」

 

鬼童丸と茨木童子を筆頭に鬼達が一斉に襲いかかる。

 

「つらら!もう一度やれるか!?」

 

「ムッ!させぬ!!」

 

鬼童丸は奴良リクオが鬼纏う前に響転で間合いを詰めて鍔競合いに持ち込む。

 

「その業はケルベロスを斃すほどの恐るべき威力ではある。だが一度見せたものがそうそう何度も通じると思うなよ、小僧!」

 

そこに二人の坊主が割って入る。

 

「黒!青!」

 

「リクオ様、鬼纏を習得なされたとはいえまだ不慣れなご様子。ご教授しんぜよう。鬼退治は我等と共に!!」

 

「我等を舐めるな!神速剣戟・梅木!!」

 

だが黒坊主は無数の武器を繰り出すことで互角に渡り合う。

 

「いいですか、若。鬼纏にゃいくつかやりかたがあるんです。さっきの雪女とのヤツは畏砲!威力はあるがスキもでかい。」

 

そこに茨木童子が奇襲を仕掛ける。

 

「貴様がぬらりひょんの孫か。闘いの最中に余裕かましてんじゃねぇぞぉ!!」

 

「させぬ!憑鬼槍!!」

 

「いけー!強毛裸丸!!」

 

「ああん!?・・・誰かと思えば鹿金寺にいた陰陽師共じゃねえか。まだ生きてやがったのか。」

 

「奴良くん!こいつの相手はウチ等にまかしてや!!」

 

「おう!そっちはまかせたぜ、ゆら。」

 

「舐めるなと言ったはずだ。――――櫻花」

 

奴良組の四人をまとめて薙ぎ払うが、手応えからして大したダメージは与えられていないだろう。

 

「ならばもう一度だ。櫻花!!」

 

だが鬼童丸の神速剣戟は奴良リクオの新たな御業によって防がれる。

 

「黒よ。てめぇの畏、確かに鬼纏った!!ヤツを斬れと、怖ぇぐらいに滾ってやがる!!」

 

「・・・フン!――――虚空!!」

 

しかし仕留めることが出来ない。

 

「何っ!ワシの剣戟を、止めよるか!?・・・まさか虚空を持ってしても互角とはな。」

 

鬼童丸の刀はあちこち刃が欠けていた。

 

「チッ!このままでは刀の方が持たんか。・・・ならば」

 

鬼童丸は刀を納める。勿論諦めたわけでは無く、速さの質を変えることにしたのだ。

 

「神速抜刀術・虚閃(こせん)

 

剣戟・楠に響転の速度と全体重を上乗せした必殺の一撃である。奴良リクオが剣を振り千の刃を出すよりも速く首を刎ねる事さえ可能だろう。

 

「ではな。死ね!」

 

だが鬼童丸は失念していた。かつて遠野の里で見た筈の奴良リクオの畏を。

 

「鬼纏・畏襲。こいつは、オレ達二人の畏を襲ねたもんだ。」

 

鬼童丸とて伊達に鬼の頭領を務めているわけでは無い。鏡花水月が解けて攻撃に移るまでの一瞬の隙を見逃すこと無く虚空を放つ。

 

結果として鬼童丸自身は無傷で凌ぎきったものの、刀が耐えきれずに砕け散ってしまった。茨木童子も陰陽師達の連携に苦戦している。

 

「武器を無くしたアンタに何が出来る?おとなしくどきな。」

 

「・・・・・確かに貴様を仕留められなかったのは残念だ。だが、我々の・・・勝ちだ。」

 

その瞬間、巨大な黒い球状のナニカが床をぶち抜きながら上昇していく。

 

「そうだ、奴良リクオ。あれが、我等の宿願だ!!」

 

ナニカに寄り添う羽衣狐が高らかに謳い上げる。

 

「妾はこの時を千年待ったのだ。妖と人の上に立つ、鵺と呼ばれる真の魑魅魍魎の主が、今ここで産まれる。皆のもの、この良き日によくぞ妾の下に集まった。京都中から、そしてはるばる江戸や遠野から妾たちを祝福しに。皆のもの、大義であった。」

 

京妖怪達は一斉に歓声を上げる。同時に、球状だったナニカが巨大な赤子のカタチに為っていく。

 

羽衣狐はいつものセーラー服を身に纏い、命を下す。

 

「さあ、守っておくれ。純然たる、闇の下僕たちよ!!」

 

 

 

 

 



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20話 黒翼大魔

 

 「さあ、守っておくれ。純然たる、闇の下僕たちよ!!」

 

羽衣狐の命令を受けた京妖怪達は一斉に襲いかかろうとするが

 

「させるかよ!!―――――月牙!!天衝!!!」

 

黒崎一護によってまとめて薙ぎ払われた。

 

「一護!おせぇじゃねぇか。」

 

「悪ぃな、リクオ。まあ、真打ちは遅れてやって来るってヤツだ。あの鵺ってのが不完全で戦えねぇ今のうちにヤるぞ!」

 

「そんな真似をさせると思うか?黒崎一護。」

 

「・・・・・安心しろよウルキオラ、テメーの相手は俺以外にはできねぇんだからな!」

 

「・・・そうか。ならば――――――」

 

周囲が一変していく。

 

「なっ!・・・ここは、虚夜宮(ラス・ノーチェス)の天蓋の上、か?」

 

ウルキオラや羽衣狐達は白亜の塔の天辺にいる。

 

「その通りだ。今この城は怨念の蓄積によって造られた幻影のようなもの。ゆえに、強固なイメージによって空間そのものを塗り替えることも可能というわけだ。」

 

「へっ!俺とテメーの因縁にケリつけるにはもってこいな舞台ってわけだ。」

 

黒崎一護は油断無く左手を顔に添える。対するウルキオラは

 

「―――――――鎖せ『黒翼大魔(ムルシエラゴ)』」

 

ウルキオラの帰刃(レスレクシオン)によって膨大な霊力が立ち登り、雫となって降り注ぐ。そして、霊力の豪雨が収まってウルキオラを視認したものは全員が絶句していた。

 

完全な状態となった頭部の兜、純白のロングコート、漆黒の双翼。そして、無明の深海に放り込まれたと錯覚するほどに濃く重い霊圧。

 

流石に黒崎一護だけは既に識っていただけあって呑まれること無く即座に仮面を出して剣を構える。

 

「テメェ等!!動揺してじゃねぇ!構えろ!意識を張り巡らせろ!この先、一瞬も気を緩めるな!!」

 

黒崎一護の言葉で妖怪達は我に返る。だが、ソレはウルキオラにとっては実に些末なことである。どちらにしても結果に大差は無いのだから。

 

「・・・この舞台に有象無象は必要ない。失せろ」

 

ウルキオラは霊圧を余すこと無く指先に集約させ、深黒の極光を撃ち放った。

 

黒虚閃(セロ・オスキュラス)

 

 

 

 真っ先に反応できたのはやはり一護だった。

 

「月牙天衝!!!!!」

 

次いでリクオが動く。

 

「奥義・明鏡止水"桜"!!」

 

だが、六秒の拮抗ののち、圧し負ける。

 

その間に雨造と竜二が水の障壁を張り、雪女のつららと冷麗が凍らせる事で強固な壁と成す。しかし二秒で崩れ去る。

 

雅次が改良型金屏風を展開し、破戸の式神・強毛裸丸と青田坊と猩影と土彦が全力で支える。

 

そして、二秒後

 

 

 

 

 

「ほう、黒虚閃に耐えるとはな。成る程、ゴミの寄せ集めというわけでも無いらしい。」

 

妖怪達の大半は満身創痍といった有様ではあるが、ウルキオラが想像していた以上の数が生き延びていた。

 

(黒崎一護が軽傷なのは想定の範囲内だ。だが、他にもそこそこの奴等が何匹かいるな。今のように連携をとられると少々面倒だな。体勢を立て直す前に潰すか。)

 

ウルキオラは再び指先に霊圧を収束させていく。

 

「!!・・・嘘だろ。あいつ、あんなのを何発も撃てるのかよ・・・」

 

「クソッ!させて、たまるか――――!!!」

 

黒崎一護は全力最速の瞬歩で黒虚閃を放たれる前にウルキオラの真正面まで移動した。仲間達を巻き込まないようにするためだ。結果としてその判断は間違いでは無かった。

 

ウルキオラは目の前にいる黒崎一護に標準を合わせ直す。黒崎一護も剣に月牙を纏わせる。

 

「黒虚閃」

 

「月牙天衝!!」

 

三秒程の拮抗はするが、やはり月牙が圧し負ける。しかし黒崎一護はその三秒間で攻撃範囲外までの離脱を果たしていた。

 

 

 

二人の戦いに妖怪達は魅入っていた。それは羽衣狐でさえ例外では無く

 

「へっ、スキだらけだぜ。仰言・金生水の花!」

 

咄嗟に気付いた茨木童子が迎撃するが、飛沫で濡れる。

 

「チィ!まあいい、やれ。魔魅流!」

 

「滅!!」

 

電撃の威力は高く、かつての茨木童子であったなら倒れはせずとも相当なダメージを負っていただろう。だが

 

「ハッ、ヌルいんだよ。アノ野郎のはこんなもんじゃねぇ。もっともっとシビれたぜぇ!」

 

鬼童丸も新しい刀を携え、奴良リクオに挑む。

 

「この瀬登太刀と姫鶴一文字であれば我等の剣戟にも充分ついてこれるだろう。さあ、ゆくぞ!!」

 

「まる たけ えびす に おし おいけ

あね さん ろっかく たこ にしき

し あや ぶっ たか まつ まん ごじょう

せきだ ちゃらちゃら うおのたな♪

お姉様の邪魔はさせない!いくよ、がしゃどくろ!!」

 

「ああ~~~い!!」

 

 

 

ウルキオラはフルゴールで月牙の斬撃を受け止める。黒崎一護は高速機動を活かしたヒットアンドアウェーを繰り返し、黒虚閃を撃たせまいとしている。平均速度はウルキオラが上だが、瞬発力では黒崎一護が僅かに上である。

 

「どうした、もう息が上がり始めたのか?まあ、後先考えずに常時全力では当然か。」

 

「悪ぃがそいつは見間違いだ。むしろ、漸く身体が温まってきたところだぜ!!ハアアアァァ!!!」

 

二人は一際派手にぶつかり合った。

 

 

 

 

 




瀬登太刀-----日光のある法師が、二荒山神社からこの太刀を担ぎ出し、今度の戦に勝つかどうかを占ったという。占いは、太刀を川に投げて流されたら戦は負け、流されなかったら勝ち、というものであった。
法師は読経した後、神仏に念じながら大谷川に太刀を投げこんだという。すると、太刀は見事立ち上がり、川瀬に逆らって登ってきたという。法師等は大いに喜び、勇気百倍して戦陣に打って出たところ戦は大勝利であった。それからその太刀を「瀬登太刀」と号した。
日光二荒山神社では御神刀として取り扱われており、柏太刀、祢々切丸とともに三口の大太刀とされている。

姫鶴一文字-----磨上げに出したところ、夢に姫君が現れ磨上げしないよう懇願されたという。姫の名を尋ねると「ツル」と答えた為、その後「姫鶴一文字」と号したという。


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21話 魔王

 

 ウルキオラと黒崎一護の戦いは傍目に見ても明らかにウルキオラが優勢であった。それでも黒崎一護は必死に食い下がる。

 

「・・・成る程。貴様が俺を引きつけ、奴良組が羽衣狐達を相手取る。その隙に陰陽師共が鵺を不完全な内に封印するつもりか。」

 

「ああ、あの鵺ってヤツさえヤれりゃこの戦いに勝ったも同然だからな!」

 

黒崎一護の剣戟をウルキオラは事も無げに受け流し、フルゴールで弾き飛ばす。音速さえ軽く凌駕する速度で白亜の塔に激突し、その衝撃で塔は崩壊する。もっとも、この虚夜宮は幻想に過ぎない為、誰かが崩落に巻き込まれる事も無く崩れた端から胡散霧消していく。

 

「貴様達は今の羽衣狐達を過小評価している。或いは、自分達を過大評価している。確かに万全の状態であれば極低いながらも勝算を見込めたかもしれん。だが先の黒虚閃で負傷、疲弊している。手の内もほぼ知れている。もはや貴様等が鵺の復活を止めるのは不可能に等しい。」

 

「オレ達の力を見くびるな!!リクオ達なら必ずやってくれる。もしソレで足りねぇならオレが鵺を斃す!ウルキオラ!テメェを斃してなあぁ!!―――――月牙天衝!!!」

 

ウルキオラは虚閃の連射で月牙天衝を相殺する。今のウルキオラは通常の虚閃なら威力を保ったままにほぼノータイムで撃てるようになっていた。流石にスタークの無限装弾虚閃(セロ・メトラジェッタ)には及ばないが、虚弾なみに速射、連発が可能なのだ。

 

「くそっ!そんなんアリかよ!?」

 

黒崎一護は虚閃の弾幕を瞬歩でかいくぐりウルキオラの背後に回る。だが

 

「甘い。破道の四・白雷」

 

「!!――――グガッ」

 

脇腹を穿たれた黒崎一護は失墜しかけるが、多少高度を落とした程度に止まった。勿論そのような隙を見逃すウルキオラでは無い。

 

「黒虚閃」

 

黒崎一護は為す術無く黒光に呑まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 羽衣狐は自らは戦わず塔の天辺から高みの見物をしている。そしてそれはリクオ達にとって最もとられたく無い戦法であった。

 

「くそっ!あれじゃ不意を突いて鵺だけを封印するのは無理だな。それどころか近付くだけでも一苦労だぜ。」

 

奴良組の妖怪達の中には飛行能力を持つものも居る。だが今は迂闊に飛び上がるのは危険すぎる。ほぼ間違いなくウルキオラに撃ち落とされる事になるだろう。

 

『確かに難儀な状況や。でも結局やることは変わらん。鵺が完全復活する前に羽衣狐を破軍で止めて祢々切丸で斬る。で、鵺を完全に封印する。』

 

「はっ。言うは易しってな。・・・・・おい、奴良リクオ!お前の鬼纏だかなんだかでこの塔をぶっ壊せねえか!?」

 

「ハアァ!?無茶苦茶言うな!そんな威力の攻撃、一護ぐらいしか出来ねぇよ。」

 

「だがこのままじゃ羽衣狐を戦場に引っ張り出す事も出来んぞ。ヘタすりゃ直接戦う前に鵺が産まれちまう。」

 

『リクオ様、私に案がございます。青をここに呼んでください。』

 

「おう!その案ってぇのはなんなんだ!?」

 

『簡単に言えば青を畏襲て、その怪力で私を畏砲として放つのです。あの白亜の塔は物理的に実在するわけでは無く、京の怨念とあの者のイメージによって造られた幻想。ならば畏で打ち破ることも可能なはず!』

 

「へっ、成る程な。どのみちこのままじゃジリ貧だ。やってやりましょうや、若!!」

 

「てめぇら・・・ああ!いくぜ!!」

 

リクオは二人を同時に鬼纏い、さらに明鏡止水"桜"をも上乗せする。

 

「「「ううぅおおおおぉぉぉおらあああぁぁ!!!」」」

 

三人の畏を相乗させた攻撃を放つ。しかし、同時に一護が黒虚閃をまともに食らってしまう。

 

辛うじて偽りの虚夜宮を撃ち砕いたため、フィールドが現実の半壊した弐條城にもどる。しかしリクオ達は鬼纏を保てないほどに疲弊し、一護はどう見ても戦闘不能なほどの重傷。さらに茨木童子と相対している花開院や鬼童丸と戦っている遠野勢も優勢とは言い難い。何よりもう時間が無い。

 

「ふふん、認めてやろう。お主達はよく頑張った。じゃが、ここまでよ。清明が産まれるまでもうまもなくじゃ。見るがいい。」

 

とうとうナニカに罅が入り始めたのだ。さらにウルキオラが羽衣狐の横に降り立つ。

 

「くそったれ、正直言って詰んでやがる。・・・一応聴くが十三代目、裏技とかあったりするかい?」

 

『・・・・・ないな。羽衣狐独りだけならまだなんとかなったかもしれんけど、彼が居る以上は・・・』

 

「ようやく理解できたか?ならば、そろそろ幕を引くとしようか。貴様等との戦いなど、所詮は清明の誕生前夜の余興に過ぎないのだから。」

 

 

 

 

 

 

 

 実はこの戦いを地獄の淵から密かに覗き見ている者達が6人居た。

 

その一人は山ン本五郎左衛門。江戸時代に人間でありながら数多の怪異を創作し、侍らせて江戸百物語組を創り上げた男。挙げ句の果てには本当に妖怪と為り果てて当時の奴良組に斃され地獄に落ちたモノ。実は山ン本は奴良組に復讐を果たすために清明と手を組み暗躍を重ねていた。内心では魔王の座を簒奪しようと企んでいる。

 

他の5人は永らく地獄に囚われた咎人達。紫雲、太金、我緑涯、群青、そして彼らを束ねる頭目である朱蓮。彼ら咎人達は清明が完全復活した後に行う清浄(従わぬ妖怪達の一斉粛正)に協力する見返りに地獄から解放を約束されている。もっとも、清明としてはウルキオラに対する牽制と保険くらいにしか考えていないが。

 

いかに清明が完全復活を果たそうとも、あの魔神が素直に従うとも思えない。だが敵に回すには危険すぎる。最悪の場合、復活早々に魂魄ごと消滅させられるという憂き目に遭いかねない。これは清明を含めた彼ら全員の共通認識であった。

 

彼等はその時に備える。

 

それぞれの思惑が交差し、邂逅するまであと僅か。

 

 

 

 



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22話 不退転

 

 

 

 

 羽衣狐の前には今まさに破軍の使い手と祢々切丸の担い手が揃っている。もっとも、破軍使いは経験不足な未熟者の小娘で、祢々切丸の担い手であるぬらりひょんの孫も疲弊の極致にあり明らかに衰えている。雪女が一人駆けつけてきたがそんなモノはまさしく焼け石に水だろう。

 

「さあ、余興は終いじゃ。おとなしく往生せい、ネズミ共!君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ―――――破道の三十三・蒼火墜!!」

 

「させるかー!!黄泉送葬水包銃――!!!」

 

「くそっ!地を這え〝言言〟」

 

「我が身にまといし眷属よ、氷結せよ!客人を冷たくもてなせ!!風声鶴麗――!!!」

 

3人は氷の壁を展開することで蒼火墜を凌ぐものの、羽衣狐は即座に二尾の鉄扇を取り出し追撃する。

 

「甘いわ!破道の五十八・闐嵐!」

 

本来なら斬魄刀を回転させてそこから竜巻を放つのだが羽衣狐は鉄扇を使うことで芭蕉扇のごとく爆風を相手に叩き付ける術となったのである。

 

破軍使いの小娘とぬらりひょんの孫だけは吹き飛ばされること無くその場に留まっていた。周りの連中が身を挺して必死に守ったのだろう。

 

「フン!じゃがそれに何の意味がある?この期に及んで、たった二人で何が出来るというのだ?」

 

「ふ、二人だけじゃ・・・ねぇさ。」

 

「!!い、一護!?」

 

「ひどい怪我やけど大丈夫なんですか!?」

 

ウルキオラが羽衣狐の一歩前に出る。

 

「意外だな。少なくとも鵺が産まれるまでは意識を取り戻すことは無いと踏んでいたんだが。」

 

「はっ、さっきのそよ風のおかげで目が覚めたんだよ。・・・・・ウルキオラ、オメェ何で羽衣狐に従ってんだよ?」

 

「・・・勘違いをしているようだな。俺はあくまでも羽衣狐個人に協力しているにすぎん。決して上下の関係では無い。」

 

「じゃあオマエ、鵺が復活した後はどうすんだよ?さっきの言いぶりじゃ素直に従うって訳でもねえんだろ?」

 

「・・・そうだな。場合によっては手を貸すくらいはしてもいいと考えている。まあ、ソイツの態度次第だがな。」

 

これを聞いた羽衣狐は密かに白目をむいて震えた。

 

(こ、これは妾がしっかりと間を取り持たんと大変なことになりかねんのぅ・・・)

 

「それよりも、いいのか?孵化はもう目前だぞ?いっその事、復活を阻止するのは諦めてその後のことを考慮し備えたほうがまだ建設的な状況だがな。」

 

実際にナニカが砕け散り、殻の欠片が降り注ぐ段階にまで至っている。

 

「!!清明?清明なの!?おおお、清明・・・待ちわびたぞ!」

 

京妖怪達は歓喜に沸き立ち、奴良組と花開院達には諦観の念が立ち込める。

 

「永かった。清明を想い続けて、何度となく転生を繰り返した。しかし、その度に望みは断たれてきた。嗚呼、千年にわたる旅も漸く報われる。」

 

「っまだだ!まだ終わってねぇ!!終わらせて、たまるかよっ!」

 

奴良リクオは気炎を上げる。しかし、現実は無情である。例えどれだけ想った処で、彼等には絶望的なまでに力が足りなかった。

 

「前座は疾く舞台から捌けよ!」

 

羽衣狐は九尾を展開し、二尾の鉄扇から四尾の槍・虎退治に持ち替える。

 

「っ!――――月牙」

 

ウルキオラは虚閃による牽制で月牙を撃たせない。

 

「黒崎一護、貴様の相手はこの俺だろう。余所見をする余裕があるのか?」

 

「・・・そう言う割に攻めて来ねぇのは舐めてんのか?」

 

「この戦争の勝敗はもはや誰の目にも明らかだ。だが、俺と貴様の勝負は違う。貴様は傷つき劣勢になるほどにあり得ないはずの勝機を掴みうる。全く非合理で不条理な奴だ。」

 

「それって褒めてんのか?」

 

「少なくとも、警戒すべき曲者とは評価している。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奴良リクオは羽衣狐の刺突をずらす事で致命傷だけは避け続ける。

 

「ぬらりくらりとやり過ごしおって。本当に往生際が悪いのぅ。」

 

今更奴良リクオが何を語りかけようと羽衣狐が揺らぐ事は無い。この戦いには既に勝っている以上、敗者の戯れ言に耳を傾ける必要など無いのだ。ウルキオラが居るおかげで精神的にも余裕があり、現状を俯瞰で見渡すことが出来ている。

 

そのため、破軍使いの小娘が巨大な欠片によって生じた死角からの奇襲にも難なく対応してのけた。

 

「無駄じゃ。縛道の三十九・円閘扇!・・・縛道の三十・嘴突三閃。貴様は後で生き肝を喰ろうてやる故、それまで大人しくしているがよい。」

 

「ゆらっ!く、おおおぉぉ!!」

 

奴良リクオは祢々切丸を振りかぶり突貫してくる。槍の鋒で太刀筋を逸らし柄で足払いをかけ体制が崩れたところに、フルスイングの薙ぎ払いを胴に見舞う。手に伝わる感触から察するに肋骨が折れてそのまま臓腑に突き刺さった様だ。

 

「――――――――――――――――――――」

 

奴良リクオ派手に喀血し、倒れ伏す。

 

そして、同時に鵺/安倍晴明が完全復活を果たしたのだった。

 

「――――千年間ありがとう、偉大なる母よ。」

 

「おおお!よい、よいのじゃ。清明・・・其方を愛してる。」

 

千年ぶりに再会した母子は熱い抱擁を交わす。

 

「母よ、あなたのおかげで私は再びこの一歩を踏み出せる。――――――――――二度と戻れぬ、三千世界の血の海へ」

 

 

 

 




咎人一名追加します。まあ、かませとしてデスが。原作二巻とアニメ299話に出て来たあのゲス野郎です。






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23話 煉獄蟲

 

 

 羽衣狐は千年ぶりの愛息子との抱擁の最中、突如として意識がシャットダウンしたのである。

 

「!!――――――貴様、何をした?」

 

ウルキオラの詰問にも清明は悠然と返答する。

 

「何、母上に施していた転生の術を解除したのさ。私がこうして復活した以上、母上がそのような業を背負い続ける必要ももう無いからな。」

 

だが、事はそう簡単な話では無い。何故なら、その術は一匹の妖狐にすぎなかった『葛の葉』を大妖怪『羽衣狐』たらしめていたアイデンティティーと言っても過言では無いモノ。PCで例えるのならOSの基盤となるソフトをいきなり強制削除したに等しい。確固たる『個』を失った所為で妖怪としての在り方が大きく揺らぎ、その負荷で意識が落ちたのである。

 

「母上、あなたは私の太陽だった。希望の光、ぬくもり・・・その陽光を背にしてこそ、私は冥府魔道を突き進める。」

 

清明は地獄の扉を開け放ち、羽衣狐を堕とそうとする。だが、手離すと同時に一匹の妖怪が清明に襲いかかった。

 

「清明!!千年振りだぁあああ!!!」

 

相手は仮にも最強と謳われた妖怪の一角。当然、その程度の奇襲は余裕で防がれる。

 

「ッ土蜘蛛か。懐かしい顔だ。」

 

ウルキオラはその隙に羽衣狐を抱きかかえ救出していた。

 

「邪魔を、するな!滅!!」

 

いかに清明といえどウルキオラが相手とあっては余裕など無い。手早く土蜘蛛を片付け、ウルキオラに専心しようとする。しかし、それが焦りと為り心理的な死角が生じていた。

 

「百鬼を退け、凶災を祓わん―――破軍発動!!」

 

しかし清明はソレすら完全に防ぎきる。そして仕切り直すために地獄から一人の咎人を呼び寄せた。

 

 

 

 

 その男は下卑た嗤いを浮かべ、五メートルに及ぶ斬魄刀を担いでいた。

 

「オンヤアア~?テメェはあの時のガキじゃねぇか~。会いたかったぜええぇぇぇ!!」

 

「・・・咎人、しかも破面・・・だと?」

 

「ハッ!流石にこのナリじゃワカんねぇかあ。だったら思い出させてやるぜ!―――蠢け『煉獄蟲(サンギフエラ)』」

 

古代の両生類を思わせる下半身に、プレデターのような上半身。ギリアンに匹敵する体高に、ビルの如く巨大になった斬魄刀。そして、爆発するヒルを撒き散らす小虚の群れ。

 

「コイツ等!!・・・そうか、思う出したぜ。テメェはあの時のクソヤローか。」

 

「正~~~解っ!!」

 

しかし、一護から視てもシュリーカーの破面化は不完全なものだった。崩玉が無かったために正統な進化を辿れなかったのだろう。かつての一護の斬魄刀と同様に見てくれがデカいだけで、その実中身がスカスカなのだ。そもそも、地獄で多少強くなったとは言え元がタダの虚である。エスパーダには遠く及ばない。

 

もっとも、シュリーカー自身はウルキオラ以外の疲弊しきっている一護達なら未だやりようによっては勝ち目はあると思っているらしい。ヒル爆弾を大量に撒き散らした。ソレも一護に直接では無く、身動きのとれないゆらとリクオに。だが、ソレが爆発することは無かった。信号を出す前に土蜘蛛に殴りつけられたからである。

 

「テメェ!死に損ないのクセにジャマしてんじゃねえぇ!!」

 

「ハッ!清明戦前の腹ごしらえにゃちょうどいいぜ!!」

 

土蜘蛛は全ての掌に圧し固めた妖気を纏わせ、強力な掌打を放つ。これは鉄甲掌といってグリムジョーの従属官だったエドラド・リオネスあたりが得意としていた技で、ウルキオラがコツだけ簡単に教えていたのである。

 

一護はその隙にリクオとゆらをヒルや小虚の居ないところまで退避させていた。だが、あれだけの量のヒルを一斉に起爆させられては弐條城が完全に崩壊してしまうだろう。

 

シュリーカーは小虚を跳びかかってきた土蜘蛛に向かわせ、大量のヒルを一斉に浴びせかける。

 

「ヒャッハー!!消し飛べ-!!」

 

煉獄の焔が土蜘蛛を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 清明はシュリーカーを時間稼ぎの捨て駒として暴れさせ、その隙に後ろに下がり体制を整える。そこに一匹の鳥女が清明の元に舞い込んでくる。かつて四国八十八鬼夜行では玉章の側近的立ち位置であったが、実は清明の子孫である安倍有行の直属式神である夜雀だ。夜雀は携えていた刀を清明に献上する。魔王・山ン本五郎左衛門の心臓である「魔王の小槌」を。

 

「うん、良い刀だ。だが、まだ少し心許ないな。」

 

清明は土蜘蛛とシュリーカーに目を向けた。そして躊躇も容赦も無く斬り刀に血と畏、霊力を残すこと無く徹底的に吸わせた。いまや単純な圧だけなら開放状態のアーロニーロ、つまり33650体にも及ぶ虚の大軍勢にも匹敵する。大抵の相手ならば戦うまでも無く屈伏させられるだろう。

 

「さて、一応聞いておこうかな。ウルキオラ、私に忠誠を誓い服従する気はあるか?」

 

しかしウルキオラの戦闘能力はソレを遙かに上回る。雷霆の槍(ランサ・デル・レランパーゴ)に至っては新鋭の戦略兵器にさえ相当する威力があるだろう。今更その程度のモノを畏る道理など無い。何より羽衣狐に対する仕打ち故にかつて無いほどの不快感を抱いていた。答えなど決まっていた。

 

「断る。貴様ごときが俺に指図するな」

 

ウルキオラは明確な殺意を込めた黒い霊力を練り上げていく。

 

「っ!黒虚閃か!!」

 

清明は強固な障壁を展開した。そう、()()()()()()

 

「破道の九十・黒棺」

 

黒棺は黒い直方体状の重力の奔流で対象を覆い囲むことで、万物を圧壊する術である。盾では防げない。詠唱破棄で威力は本来の25%程度に落ちはいるが到底無傷では済むまい。

 

「オオオオォォォォ!!!」

 

清明は自身の呪力を刀に上乗せし、全力で振り抜く事で黒棺を破砕したものの瓦礫の山に膝を付いている有様である。そして、ウルキオラ以外にも敵が居ることにさえ気が回らない程視野が狭まっていた。

 

「月牙天衝!!!!!」

 

「!私を、舐めるな―――!!」

 

あの状態からでも咄嗟に反応できたのは流石と言える。しかし黒崎一護の全力の月牙を刀でまともに受け止めてしまうと言う判断ミスを犯す。

 

「グッガアアアァァ!!」

 

最大限にまで強化されていたはずの魔王の小槌は完全に砕け散ってしまう。

 

「くそっ!!」

 

「気を抜いている暇があるのか?安倍晴明」

 

「!!!」

 

―――黒虚閃

 

 



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24話 抑止力

 

 

 

 ウルキオラは安倍晴明の右腕を完全に消し飛ばしたものの、直前に盾を展開された所為で斃しきれなかった。

 

「黄泉帰って早々に満身創痍だな。だが安心しろ、もう転生だの反魂だの心配する必要は無い。魂魄ごと完全に消滅させてやる。」

 

「ま、待て!待ってくれ、ウルキオラ!!」

 

「何だ、鬼童丸」

 

ウルキオラは邪魔をするなと鬼童丸を睨む。

 

「その御方は我等が千年待ち望んだ宿願なのだ。」

 

「お前達にとってはそうだろう。だが、俺にとっては違う。奴等にとってもな」

 

見れば、黒崎一護が安倍晴明に追い打ちを仕掛けている。破軍使いの小娘も式神を召喚して黒崎一護を援護する。奴良リクオも立ち上がって祢々切丸を構える。

 

「あの手の輩はどれほどダメージを負っていようが、勝機とみるや途端に活気付く。見ろ、奴良組や遠野の連中も奴等に釣られて気力を取り戻しているぞ。」

 

逆に京妖怪達の士気は先程までのような一致団結とは程遠い。鬼達の中にはウルキオラと戦う事に恐れを為して尻込みしている者も少なからず居る。羽衣狐こそを主と仰いでいた狂骨やがしゃどくろ等は安倍晴明を敵視しているくらいだ。

 

「ぐっ!このままでは・・・貴様等!!なんとしても清明様をお守りしろー!!」

 

『お、オオオオオオォォォォ!!』

 

 

 

 

 

 

 清明こそが父親を死に至らしめた真の仇であると知ったリクオは立ち上がる。

 

「千年も昔に死んだ奴が、今更この世で好き勝手やってんじゃねぇよ!たたっ斬る!!」

 

「お前が鯉伴の真の息子か。この様な状況でなければ少しは構ってやっても良かったが、今は邪魔でしか無い。」

 

清明は左手に金気を収束させ、黄金の剣を5振り創り出してリクオに向かって射出する。

 

「させるかい!黄泉送葬水包銃・五月雨撃ち!!」

 

高圧で撃ち出された水砲は見事に剣の腹に命中し、粉砕した。黄金とは科学的には完璧に近くとも物理的には脆い。案外簡単に砕けてしまう物なのだ。

 

「狙撃の腕は評価するが術の方はまだ甘いな。水気の使い方はこうするのだ。」

 

清明は頭上に巨大の渦潮の球を形成する。直径にして50メートルにも及ぶだろう。

 

「月牙天衝!!!」

 

しかし、仮面を着けた一護が消し飛ばす。間髪入れずにリクオが仕掛ける。

 

「祢々切丸か。厄介な。」

 

清明は先程一護が散らせた水気から木気を相生(陰陽五行における水生木)し、即席の檻と成しリクオを取り囲む。さらに火気を相生し木生火と為す事でリクオを焼滅させようとする。だが紅蓮の牢獄の中にリクオは居なかった。

 

「鏡花水月か。本体は・・・そこか。」

 

リクオは清明の真後ろにまで迫っていたが、惜しくも躱されてしまう。そこにウルキオラの詠唱が響き渡る。

 

「千手の涯 届かざる闇の御手 映らざる天の射手 光を落とす道 火種を煽る風 集いて惑うな我が指を見よ 光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔 弓引く彼方 皎皎として消ゆ」

 

ウルキオラは自身の周囲に幾多もの霊光の鏃を形成し、その鋒の尽くを清明に向けていた。

 

「!!・・・・・なん・・・だと・・」

 

「破道の九十一・千手皎天汰炮」

 

一発一発が全力の虚閃に相当する威力を秘めた鏃全てが一斉に清明に降り注ぎ、周囲一帯が翡翠色の霊光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この光景に誰もが安倍晴明の敗北を信じた。だがウルキオラだけは気付いていた。安倍晴明がまたしても地獄から咎人を召喚して自身を護らせていたことを。

 

咎人達は自身を地獄に繋ぎ止める忌まわしい鎖を束ねてウルキオラの千手皎天汰炮を受け止めたのである。結果として鎖の全てを粉砕するには至らず、敵達は無傷である。

 

「初めまして、ウルキオラ・シファー。私は朱蓮。そして久しいな、黒崎一護。」

 

「!!テメェ等、何でマントや仮面も無しで現世に出てこれてんだよ!?」

 

「清明殿のおかげだよ。彼の術があれば我々咎人でも現世で全力を出す事が出来る。もっとも、鎖に繋がれたままの現状では数分が限界だがね。いずれは多くの咎人達を完全解放し、この世界を征圧し尽そうというわけだ。」

 

「その通りだ。彼等とはかれこれ五百年近い付き合いになる。まさか、この私が一千年もの間地獄で遊び呆けていたとでも思っていたのかね?」

 

黒崎一護は憤りを露にして安倍晴明を糾弾する。

 

「テメェ等、そんなことしたらどうなるか判ってて言ってやがんのか!!!最悪、全部の世界が諸共に崩壊しちまうかも知れねぇんだぞ!!」

 

「そうだ。それら全ての世界を習合し統一する。そして新たな世界の神に成る。私が天に立つのだ!」

 

黒崎一護はもはや絶句していた。だがウルキオラは落ち着き払っていた。

 

「・・・・・成る程。安倍晴明、一つ忠告しておいてやろう。」

 

「・・・何かな、ウルキオラ」

 

「あまり強い言葉ばかりを使うと弱く見えるぞ。」

 

「っ!貴様・・・」

 

「だが、俺と黒崎一護が何故この世界に居るのか漸く理解できた。」

 

「マジかよ!?」

 

 

 

 

 

 

 ウルキオラ・シファーと黒崎一護は本来、法則も理すらも全く異なる接点すら無い世界の存在である。そんな彼等が一体何故この世界に居るのか、その理由は『彼等』の企てに他ならない。

 

この世界の住人達の集合的無意識(カール・グスタフ・ユングが提唱した分析心理学における中心概念であり、人間の無意識の深層に存在する、個人の経験を越えた先天的な構造領域である)に因って、秩序を崩壊させうる危険因子を排除するための抑止力として二人は召喚されたのである。

 

 

 

「ナルホドな。つまりアイツ等を倒せば元の世界に帰れるって訳だな?」

 

「・・・恐らくはな」

 

(俺の場合は黒崎一護とは違い、一度完全に消滅したはずの存在だ。元の世界に帰る事さえ出来ないだろう。おまけに用が済めば今度は俺が抑止の対象に成りかねない。その時こそ完全に消えて無くなるのか、この世界から弾かれて別の世界に流されていくのか。どうあれこの世界に残り続ける事は出来ないのだろうな。)

 

 

 

 



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25話 勇気

僕は、ついてゆけるだろうか

君のいない世界のスピードに


 

 

 

 安倍晴明は地獄に撤退する事にした様だ。復活したばかりで肉体が現世に馴染んでいない処にあれだけの激戦を繰り広げたのだ。限界が訪れたとしても無理はない。

 

「ウルキオラ、そして黒崎一護。出来る事なら君達はここで始末していきたいところだが、現状で其れはあまりにハイリスクだ。忌々しいがここは一旦引くとしよう。千年間ご苦労だった、下僕達。地獄へ行くぞ、ついてこい。」

 

元より安倍晴明に忠誠を誓っていた鬼の眷属達は次々に地獄の門に飛び込んでいく。だが、ウルキオラは其れを静観していた。否、迂闊に動く事が出来なかったのである。

 

安倍晴明の協力者と嘯く咎人達の実力は極めて高い。終始無言だった4人に関しては高位の十刃に匹敵するだろう。そして、朱蓮と名乗った男は完全虚化した黒崎一護と同等と思われる。

 

もっとも、彼等に残っているのは『ダレカ』に対する復讐と言う怨念のみでそれ以外は腐り果ててしまっている。もはや解放への執念どころか思考する機能さえも半ば以上が摩耗しているのだ。唯一理性を留めている朱蓮でさえ相当歪になっていた。

 

「近いうちにまた会おう。虚無を司る魔神殿。」

 

安倍晴明達は地獄に撤退し、門は完全に鎖されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 弐條城は全損し、石垣だけが原形を留めている有様である。そのような場所では負傷者の応急処置さえままならないと言う事で、一同は緑の園に居た。ウルキオラや羽衣狐、残る事を選んだ京妖怪達も一緒である。

 

未だ意識を取り戻さない羽衣狐には狂骨が付いて拙いながらも治療を施している為、ウルキオラは回道で負傷者達の治療に当たっている。

 

「・・・ん、ここは・・・どこだ?」

 

「!!?お姉様!気が付かれましたか?ここは弐條城の外周部にある緑の園です。」

 

「羽衣狐、意識の方は取り戻したようだが、現状は把握できているか?」

 

がしゃどくろや白蔵主等も心配して寄ってくる。

 

「狂骨とウルキオラ、皆の者達。妾は、たしか・・・・・」

 

意識が完全に覚醒すると同時に、弐條城での出来事が一気にフラッシュバックする。

 

「・・・あ゛っ嗚呼、アアアアア!清、明・・・ウア゛ア゛ア゛アアァァ!!」

 

全てを思い出した羽衣狐は悲哀の慟哭をあげる。

 

 

 

 

「・・・・・羽衣狐、貴様が絶望の淵に沈んだとしても、それを肩代わりしてやる事は誰にも出来ない。その苦悩はお前が自分で抱えていくしか無い。俺達に支え合う事ができるのは荷物そのものではなく、荷物の重さで倒れそうな体だけだ。」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

羽衣狐はもう泣いてはいないものの、俯き蹲っている。

 

「瀕死寸前であろうが断末魔にのたうちまわろうが、お前は今もこうして生きている。ならば顔を上げて前を見ろ、己の足で立ち上がれ。」

 

「・・・・・手厳しいなぁ、お主は」

 

「羽衣狐、俺はこの世界にきて学んだことがある。終わることと続かないことは必ずしもイコールでは無いらしい。だが俯き蹲ったままでは何時まで経っても続きを見ることは叶うまい。」

 

「・・・妾にも、続きを見ることが出来るだろうか?」

 

「このまま、流されるままでも終わりの終わりまで見ることは出来るだろう。だが、それは惰性でしか無い。自らの意思で続けるために踏み出す一歩とはまるで違う。だからこそ人間はその一歩に特別な意味を持たせるのだ。『勇気』と」

 

ウルキオラは掌を差し伸べる。

 

「本当に厳しくて、優しい奴じゃなぁ。まったく甘くは無いがの。」

 

そう言って羽衣狐は差し伸べられた掌を取って起ち上がった。そして持上げられた面は確かに未来を見据えていた。

 

 

 

 

 




次話から2、3話修行して決戦です。
江戸百物語組についてはカットで


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26話 休戦協定

 

 

 

 

 弐條城での戦いから数ヶ月後。各勢力いずれも一先ずは落ち着きを取り戻し、小康状態に成りつつある。花開院は二十七代目が死んだ事で、破軍使いのゆらが次代の頭首候補となり竜二等が摂政として彼女を補佐している。奴良組については、数日前に奴良 リクオが正式に三代目を継いだ。

 

現在、花開院本家には奴良組の幹部達と羽衣狐とウルキオラが一堂に会している。休戦協定を正式に締結させる為である。全員がTPOにあわせて正装している。奴良組と花開院は和装だが、羽衣狐とウルキオラは洋装である。ウルキオラは黒のシャツに白のネクタイに同じく白のスリーピース・スーツ。羽衣狐は白シャツに黒のジャケット、膝までのタイトスカートに黒のストッキングを着用して艶のあるファーコートを羽織っている。二人の様はヤクザと言うよりマフィアのソレであった。

 

緊迫した中、時折皮肉やらがとび空気か凍り付く事もあったが締結そのものは問題なく成された。もっとも、あくまで休戦止まりで杯を酌み交わすには至らない。京妖怪達のトップである羽衣狐とウルキオラが過度の馴れ合いを好まない質であるからだ。だが必要であれば相応の協力は惜しまない、と言うのが彼等のスタンスである。

 

条約の内容を一通り煮詰めて会合が終了したところで共通の敵である安倍晴明達についての情報の共有が行われた。

 

 

 

花開院によれば安倍晴明には御門院家と言う末裔共がいて、曰く「古くより時の権力者の元で日本の中枢を守り、陰で暗躍してきた陰陽師の一族。」らしい。十中八九「鵺」として復活した安倍晴明に付くとみていいだろう。

 

奴良組、と言うより黒崎一護は咎人達について説明する。能力的には丸い奴が最も厄介だ。なにしろ霊力を放出してぶつけるタイプの攻撃は尽く吸収される。虚弾や虚閃をまともに浴びせたところでダメージを与えるどころか逆効果である。だが、最初からそうだと判っていれば対処は容易である。

 

此方からは鬼共についての情報を開示した。主に鬼童丸と茨木童子の手の内や精神性についてである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日、黒崎一護はウルキオラの居る虚神殿に訪れた。表では話しにくい内容である為、管理棟のリビングに移動する。

 

「ウルキオラ、頼みがある。俺に修行をつけてくれねぇか?今の俺の力じゃアイツ等には・・・」

 

「だろうな。咎人達の実力は極めて高い。特に朱蓮とやらの霊圧は完全虚化状態の貴様に匹敵する。アレを自分の意思で使い熟すことが出来なければ話にならん。」

 

「ああ、だから頼む!お前以外には頼めねぇんだ!」

 

黒崎一護は頭を下げる。

 

「・・・いいだろう、貴様との修練は此方にも利があるからな。」

 

「本当か!?」

 

「ああ、それとこの刀を水使いの陰陽師に渡しておけ。」

 

「何だこの刀?斬魄刀じゃねぇのか?」

 

「村雨だ。霊圧を注ぎ込む事で刀身から浄化の清水を発し、更に冷気を操る退魔の霊刀だ。詳しくは『南総里見八犬伝』を読め。」

 

「お、おう。とにかくこれを竜二に渡しときゃ良いんだな?」

 

「黒崎一護、貴様にもこれを渡しておく。」

 

『鬼道術式全集』である。

 

「・・・良いのかよ?」

 

「構わん。既にデータ化してPCに保存済みだしな。」

 

「そういう事なら遠慮無く貰っとくぜ。って中身全部古文かよ!?」

 

「確か貴様は国語が一番得意なのだろう?ならば問題あるまい?」

 

「ぐっ、ぐぬぬぅ・・・わーったよ!」

 

「さて、修行は良いが問題は場所だな。」

 

「ああ、そうだよな。俺等が全力を出すと周囲への被害がハンパじゃ無いことになっちまうからな。」

 

黒崎一護はため息をつき、紅茶に手を伸ばす。

 

「そうだな。広域に人払いと強固な結界を幾重にも重ね掛けし、固定化しなければならん。準備には少々時間が掛る。その間、貴様は仲の良い花開院の連中に陰陽術について教えて貰え。」

 

「俺そーゆーの苦手なんだよなぁ。つーか付け焼き刃の鬼道とか陰陽術であの清明や御門院ってのに対抗できるとは思えねぇんだが?」

 

「敵を知り己を知れば、と言う奴だ。実際に使えはせずとも知っておいて損はあるまい。」

 

「ま、言われてみればその通りだな。んじゃ、とりあえずの方針はそんなとこで良いか。」

 

黒崎一護は紅茶を飲み、ラム酒につけ込んだドライフルーツを食べる。

 

「美味ぇな。これどこで売ってるヤツだ?」

 

「自家製だ。」

 

実はウルキオラ、他にもシードル(林檎の発泡酒)やリモンチェッロ(イタリアの代表的なレモン・リキュール)などの果実酒を数種類造っていたりする。

 

「それって密造だろ?大丈夫なのかよ?」

 

「問題ない。試飲した限り、そこそこ良い出来上りだ。」

 

「いや、そういう事じゃなくてよ。・・・まあ、いいか。」

 

「準備ができ次第連絡する。貴様の携帯の番号を教えろ。」

 

「おう。」

 

 

 

そうして各々が来たる決戦に向けて準備を進めていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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27話 王虚の月牙

なんかもう色々やっちゃった感じ


 

 

 

 あれから数ヶ月が経ち、ウルキオラと黒崎一護は特製の結界を幾重にも張られた訓練場の中で対峙している。

 

「黒崎一護、お前との訓練もそろそろ終わりだ。総仕上げのつもりでかかってこい。」

 

「ああ、そうだな。いくぜ、ウルキオラ!―――卍解!!」

 

ウルキオラは緩く柄に手を掛け、力みの無い自然体で待ち受ける。居合いによるカウンターで斬って捨てるつもりである。だが黒崎一護とて流石にその程度のことは見抜いている。刀を上段に構え瞬足の摺足で迫る。縮地と呼ばれる、通常の瞬歩よりも一段上の技術である。

 

しかしウルキオラは体捌きで黒崎一護の上段斬りを躱しスキだらけの頸に刃を走らせようとするが、黒崎一護は更に一歩踏み込みながら袈裟懸けに斬り上げてきた。

 

「!・・・味な真似をする。」

 

かつて大阪で戦ったときにウルキオラが披露した燕返しと呼ばれる切り返しの技法をそのままやり返されたのだ。無論すんなりと斬られるウルキオラでは無い。

 

抜いた刀で受け止めて、左手の人差し指を黒崎一護の眉間に突きつけ零距離で虚閃を放つ。

 

「くらうかよっ。」

 

黒崎一護は膝でウルキオラの左手を蹴り上げて軌道を逸らし空撃ちさせる。だが、ウルキオラはソレを見越して詠唱していた。

 

「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ――――縛道の六十一・六杖光牢」

 

黒崎一護の身体には計12枚の光板が突き刺さり、身動きを封じ込んでいた。六杖光牢の重ね掛である。

 

「!この程度」

 

「さて黒崎一護、その状態でコレをどう凌ぐ?――――無限装弾虚閃(セロ・メトラジェッタ)

 

黒崎一護は天鎖斬月に月牙を纏わせ、柄頭から延びた鎖を掴んで振り回すことで六杖光牢を破壊する。殺到する虚閃の弾幕を冷静に見つめ

 

「月牙天穿!!!」

 

従来の月牙天衝は斬撃、つまり線であった。だがこの月牙天穿は極限まで集約させて刺突と共に解き放つ一点突破の為の技。その一突きは確かに虚閃の弾幕を突き抜け、ウルキオラに届きかけた。

 

「―――――――鎖せ『黒翼大魔(ムルシエラゴ)』」

 

「へっ、準備運動は済んだかよ?」

 

黒崎一護は霊圧を跳ね上げ、ウルキオラは雷霆の槍(ランサ・デル・レランパーゴ)を構える。

 

「ああ、十分だ。いくぞ。」

 

二人は己の武器を全力で振るう。ウルキオラは槍の刺突を瀑布の如く叩き込む。点に過ぎない軌跡を間断なく射出し続けるその様は相手に絶望を抱かせるに有り余る。だが黒崎一護とて超常の領域に達した存在。その程度では決定打になどなりはしない。

 

「甘ぇ!!」

 

黒崎一護は刺突を刀で弾き、一歩引き上体を反らすことで次撃を躱しながら側面に回り込む。

 

「それは此方の台詞だ。」

 

ウルキオラは黒翼を大きく撓ませて全力で叩き付けた。特にダメージにはならなかったが両者の間には大きな距離が出来、ウルキオラは雷霆の槍を投擲する。

 

「!?この距離で撃ちやがった!けど、これなら躱せる。」

 

「先程の言葉を今一度返そう。甘い。」

 

黒崎一護が回避した直後、ウルキオラは雷霆の槍を遠隔起爆させたのだ。黒崎一護にとっては背後からの奇襲に近いタイミングの爆撃である。為す術など無い、その筈であった。

 

「グオオオオオオォォォォォォォ!!!!!」

 

頭まですっぽりと覆い、双角の突き出した仮面。腰まで届く長い髪。正しく次元の違う霊圧。

 

「ったく、やってくれんじゃねーか。今の、ヘタすりゃ死んでたぞ?」

 

黒崎一護の意識は闇に呑まれる事無く、明確に理性を保っていた。

 

「だが間に合っただろう?」

 

ウルキオラもまた変容する。十刃の中で唯一ウルキオラのみが可能としている二段階目の刀剣解放、刀剣解放第二階層(レスレクシオン・セグンダ・エターパ)に。これこそがウルキオラの真の姿であり、真の全力である。

 

―――黒虚閃

 

月牙天衝!!

 

二人は全くの同時に攻撃を放ち、しかし相殺し合う。その爆発によって周囲には残留霊子が立ち込め、視界が遮られる。

 

「縛道の六十三・鎖条鎖縛。縛道の七十九・九曜縛」

 

黒崎一護は力尽くで縛道を引き千切るが、ウルキオラはその間に詠唱を済ませていた。

 

「千手の涯 届かざる闇の御手 映らざる天の射手 光を落とす道 火種を煽る風 集いて惑うな我が指を見よ 光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔 弓引く彼方 皎皎として消ゆ――――破道の九十一・千手皎天汰炮・黒式」

 

黒式とはウルキオラが独自に編み出した破道の応用技で、今回の場合は五つの鏃全てが黒虚閃を圧し固めて形成されている。

 

「黒崎一護、この攻撃を打ち破ることが出来るならば例え独りで朱蓮以外の咎人達をまとめて相手をしても互角以上に渡り合えるだろう。」

 

黒崎一護は天鎖斬月に月牙を纏わせ、同時に双角の間に霊圧の光球を生じさせる。勿論、単純な同時撃ちではない。月牙に虚閃の特性と威力を上乗せすることで相乗効果による霊圧の増幅を為し、攻撃の性能を上昇させたのである。

 

「朧牙天衝。ウオオオオオオォォォォォォォ―――――!!!」

 

そして千手皎天汰炮・黒式は完全に相殺された。

 

「はっ!どうよ!?」

 

「ふむ、大したものだ。では、次が最後の一撃だ。この業に耐えることが出来たならば、最早鍛錬の必要も無いだろう。」

 

「成る程な、つまり免許皆伝って訳だ。いいぜ、来いよ!」

 

「いくぞ。―――――虚無黒閃(セロ・オスキュラス)

 

「朧牙天穿!!!」

 

だがウルキオラの虚無黒閃は黒崎一護の攻撃をいとも容易く無為に帰す。

 

「・・・・・・・・・・・なん・・・だよ、今の」

 

「・・・俺の司る死の形を覚えているか?」

 

「―――――虚無、か。」

 

「そうだ、虚無こそが俺の起源であり能力の根幹だ。お前との修練のおかげで俺はその事を改めて自覚し、掌握するに至った。」

 

通常の黒虚閃は虚としての霊力を高密度に練り上げ、圧倒的な奔流で破壊する技である。それに対して虚無黒閃は文字通りに『虚無』そのものであり、形あるあらゆる存在を消し去るのだ。ここが強固の結界で覆われていなかったなら如何に朧牙で減殺されていようと凡そ100㎞に渡って、軌道上にある物全てが消滅していただろう。

 

「・・・もう一度だ。」

 

「なに?」

 

「もう一度今のを撃ってこい!」

 

黒崎一護はそう言い放つと双角の間に己の血を混ぜた極大の霊圧を煉り上げる。

 

王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)か。いいだろう――――虚無黒閃(セロ・オスキュラス)

 

「いくぜ。―――王虚の月牙(月蝕)!!天穿!!!」

 

 

 

 

 

 黒崎一護は完全虚化と卍解の解けた状態で横たわっている。

 

「真逆、虚無黒閃を撃ち消してのけるとは。特に加減をしたつもりは無かったんだが。」

 

今ので訓練場に幾重にも張られた特製の結界は完全に消し飛んでしまっている上に地形も大きく抉れていた。もしあの威力の月蝕を結界も何も無い所で使えば次元断層すら引き起こされていたかも知れない。其程のものだった。

 

「まったく恐ろしい奴だ。」

 

ウルキオラは斬魄刀を鞘に収めながら呟き、霊力を使い果たし気絶している黒崎一護を担ぐ。

 

これで二人の修業は修了したのだった。

 

 

 

 




ちなみに現時点でのウルキオラの好感度

羽衣狐

狂骨
その他の京妖怪達、黒崎一護


鬼の眷属
花開院、奴良組

(以下マイナス)
御門院

咎人達



安倍晴明


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28話 御門院家

軍勢ゆきゆきて喇叭を吹く
耳鳴り止まず星屑のごとく
軍靴の轟き雷鳴のごとく


 

 

 葵螺旋城の結界の中、小柄な少年が廊下を歩いていた。

 

この少年の名は安倍 有行。少年の形をしているが、清明の子孫で安倍姓の四代目当主として六百年以上の時を生きている。

 

「おい、遅ぇぞ。何をチンタラやってんだ。烏帽子、曲がってるぜ。ったく、オレより500才も年上とは思えないくらいだらしのねぇ奴だな。」

 

ドレッドヘアを後ろで束ねた少年が有行に話しかけてきた。九代目当主、御門院 水蛭子である。

 

「二人共、速く入りなさい。歴代当主がお揃いよ。」

 

白い着物に装飾の施されたローブを纏った女性。三代目当主、安倍 雄呂血だ。

 

部屋の中心にいた、白い装束に黒い羽織の男は三人が入ってきたのを確認する。この男こそ羽衣狐(葛の葉)の孫にして安倍晴明の実子。千年もの間、御門院家を纏めてきた二代目当主、安倍 吉平である。

 

「いざ、清浄の時来たり!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルキオラと羽衣狐の二人で東京に来ていた。羽衣狐はポニーテールでノースリーブの白いタートルネックに黒のミニスカートとニーソックスという格好である。平日の昼間で何時もの黒いセーラー服だと警察に補導されかねないからだ。その場合、隣のマフィアの幹部の如く白のスリーピーススーツを着熟すウルキオラはもれなく職質をかけられ「黙れ、ゴミが」とキレる事になるだろう。

 

そもそも、彼等が東京にいるのは奴良組の三代目から正式に招集をかけられたからである。だがこの二人、端から見れば美男と美少女である。どうしたって周囲の耳目を引きつける。あちこちで写メを撮られまくってTwitterやSNSに投稿されていた。

 

「新宿駅にカップルなう。マジパネェレベル(^o^)」「すっげー美人。芸能人かな?」「男のオーラ。ぜってーカタギじゃねーわwww」「ウホッ!いい男(*´ω`*)」「イケメンキター(≧∀≦)」「リア充爆発しろ!(`Д´#)」「腕なんか組みやがってチキショー(ノД`)」

 

もっとも、直接声をかけてくる者はほとんど居ない。たまに居てもウルキオラの一睨みであっさり退散していくヘタレチキンばかりである。一人「ティンときた!キミ達、アイドルに興味は無いかね?」と粘るものも居たが、丁重に断りを入れお引き取り願った。

 

「まったく騒々しい街だ。」

 

「うむ。その上、不躾なくせに度胸のない輩ばかりよ。嘆かわしいのぅ。」

 

(このような状況でなければ存分に堪能出来たであろうに。誠に残念じゃ。)

 

羽衣狐も薄々予感しているのだ。この戦いを最後にウルキオラはこの世界から消えてしまうのではないかと。だからそんな場合ではないと理解していながらも我儘を言ってウルキオラをデートに付き合わせているのだった。

 

 

 

 

 

 

 ウルキオラと羽衣狐は浮世絵町にある奴良組の屋敷の門前に到着した。羽衣狐の衣装もフォーマルスーツになっていた。

 

ここからは京妖怪達を束ね、上に立つ者として振る舞わなければならない。正直、未だに迷いや悩みを抱えている。でもそんな自分を、それでもウルキオラは黙って待ってくれて居る。

 

(嗚呼、妾とウルキオラが巡り会えた奇跡に改めて感謝しよう。この戦いの結末が例えどのようなものであろうと後悔だけは決してするまい。)

 

羽衣狐は決心した。愛しき息子である清明をこの手で斬る事になろうとも、ウルキオラがこの世界から居なくなろうとも、胸を張って前を向いて歩き続ける事を。

 

「さあ、征くか!」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は逢魔時を過ぎ去り、奴良組には日本全国の名だたる百鬼夜行が集まっている。頃合いを見計らって上座にいる奴良 リクオは会議を開始する。

 

「国内18地方総元締の皆様、および構成員500以上の大組織の皆様。そして花開院の次期頭首殿。高いところから甚だ失礼いたしやす。奴良組三代目奴良リクオでございます。今夜お呼びしたのは件の清浄についてでございます。」

 

「ここからは私、妖怪界の書記係である文車妖妃がご説明いたします。清浄とは、1000年前に鵺こと安倍晴明が行った自身に従わぬ者達の大粛清。当時、数多の妖怪達が滅ぼされ歴史は一度途絶えかけました。しかも今回は鵺本人に加え、子孫である御門院家と地獄の咎人達までいます。そしてその清浄は数日以内には開始されるでしょう!」

 

「皆さんの里が消えて無くなるのです!阻止する為には安倍晴明を何としてでも斃さなければならない!今こそ、全ての妖怪達は協力し合いこの窮地を凌がなくてはならないのです!!」

 

『――――――――――――――――・・・・・・・・・・』

 

「奴良組は臆したということだな?その清浄に」「鵺なんざ儂等からすればどうと言うことも無い」「そうじゃ。儂等を舐めるなよ、若造風情が」「ぬらりひょんはどうした?貴様では話にならん!」「それとも、本当に臆したのか?」「関東妖怪も落ちたモノよ」

 

そこで五月蠅いゴミ共を黙らせたのは意外にも黒崎一護だった。霊圧を解放しながら一喝したのである。

 

「ちょっと黙れ。おいウルキオラ、コイツ等にあの時の戦いを視せてやってくれねぇか?ソレが一番手っ取り早ぇだろ。」

 

「・・・分かった、良いだろう。」

 

ウルキオラの共眼界で安倍晴明の実力の一旦を初めて垣間見た妖怪達は戦慄している。

 

「皆さん、あっしらには各々守るべきものがあるはずだ。その為に先頭にたって身体を張るのが百鬼を率いる主の役目なんじゃないんですかい!?馴れ合おうとも軍門に降れとも言いはしない。ただ清明を倒す為にお力を貸していただきたい!!良き、闇夜の為に!!」

 

どうやらコイツ等は奴良 リクオをまがりなりにも百鬼夜行の主であると認めたらしい。だがそこに傷だらけの鴉天狗が飛び込んできた。そしてその鴉天狗の報告は九州では清浄が開始されたという驚愕の内容であった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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29話 黒装・御門院

 

 

 

 清浄が開始されたと聞き、場は騒然とした。九州の九十九夜行はあの土蜘蛛を輩出した蜘蛛一族として有名だったのだ。その状況でもウルキオラは冷静に思考する。

 

「ふむ。このタイミング、どう見る?ウルキオラ」

 

「十中八九、そちらは陽動で本命は京を狙ってくるだろうな。奴等にとって脅威となり得る者達、俺とお前、ついでに破軍使いが揃って不在の今こそ絶好の機会だ。」

 

「ついでにってなんやねん!?・・・そんで、どうするん?」

 

そこで夜の姿に変身した奴良リクオは宣言する。

 

「これよりオレは九州へ向かう!有志を募ろう。誰かオレと先陣きりてえ奴はいるか!!」

 

真っ先に名乗りを上げたのは二人。酒呑愚連隊若頭の獺祭と隠神刑部狸・玉章である。

 

「おう、ゆら。お前も行ってこいよ。」

 

「一護さん、でも・・・」

 

「今のあの二人なら問題なく京を任せられるさ。だろ?ウルキオラ」

 

「当然だ。」

 

 

 

 

 

 同時刻、ウルキオラの予想通りに京都に黒装・御門院の二人が現れた。黒装の中でもトップクラスの戦闘能力を持つ御門院 水蛭子と結界術に秀でた七代目当主、御門院 天海である。

 

そして、天空から八頭の(ウワバミ)が現れる。三代目である安倍 雄呂血の式神「雄呂血」でその威容は日本神話に謳われる八岐大蛇そのものである。

 

「オレの名は御門院 水蛭子!御門院最強の男だぁ!!」

 

「私は狂骨!羽衣狐様の側近だ!!お姉様とウルキオラに留守を任されてる以上、何としても京都も守り抜くよ!!」

 

「ハッ!!威勢の良い奴は嫌いじゃないぜ!いくぜ、炎の左翼!!」

 

「くっ、破道の三十一・赤火砲!!」

 

なんとか相殺する。だが水蛭子はまだ様子見の段階で全力とは程遠い。更に、もう一人が式神であろう巨大な蝸牛の群と八岐大蛇を待機させている。

 

「おい天海、手ぇ出すんじゃねぇぞ。コイツはオレは殺る!」

 

そう言って水蛭子は炎の左翼を連射する。数が多い上に範囲も広く、がしゃどくろと白蔵主が加勢しても守り切れない。このままでは被弾し負傷する者も多数出るだろう。だがそこに助太刀が入る。

 

「洗い清めろ『村雨』――――――蛟!」

 

浄化の清水で作られた多数の小龍が水蛭子の火球を喰らい尽くす。

 

「中国の故事に曰く、水で育った蛇は五百年で蛟となり、蛟は千年で龍となり、龍は五百年で角龍、千年で応龍となる。非才の俺ごときじゃ頑張っても龍止まりだが、お前相手ならそれで充分だ。」

 

京都を守護する陰陽師、花開院がこの事態に黙って居るはずも無い。竜二以外の者達も別同部隊や時間差をつけた波状攻撃に備えて万全の状態で本家に待機している。

 

「っんだ!テメェ!?ぶっ殺す!!」

 

「落ち着け、水蛭子。此奴は花開院の陰陽師だ。僕が相手をしよう。僕の結界の実験相手にふさわしい。」

 

「チッ!まあいいか。それに、この後には本命が控えてるわけだしな。」

 

「ああ。さて、初めまして花開院。僕は御門院七代目当主、天海。さあ、行け!僕の螺旋蟲ウゥゥ!!」

 

「デンデン虫なんて怖くなんて無いんだから!!いくよ、皆!!」

 

「おいおい、テメェ等の相手はオレだろうが?忘れてんじゃねぇぞ!火剋金連脚!!」

 

「縛道の三十九・円閘扇!こんなのぉ!!」

 

「…アレを防ぎきるとはな。思ったよりやるじゃねぇか、チビ。いいぜ、お前達は特別にオレの奥義で葬ってやるよ。」

 

水蛭子は炎と水という相反する属性を掛け合わせる。それによって生じる反発力を極限まで増幅し、破格の威力を持たせたのである。単純な威力だけならウルキオラの虚閃に匹敵するかも知れない。

 

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ」

 

「散れ、五蘊皆球!!!」

 

「破道の三十三・蒼火墜!!!」

 

それは今の狂骨にとって渾身の一撃であったが、端から見てもその差は明らかであった。されど、狂骨は抗えぬ破滅を前にしても決して目を逸らす事だけはしなかった。

 

「例え力及ばずとも絶対に逃げたりするもんか!心だけは負けないんだから―――!!」

 

 

 

「嗚呼、良く言った。」

 

 

――――――王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)

 

その一撃は五蘊皆球と水蛭子自身をまとめて消し飛ばした。空間が大きく歪んでいる所為で天海が仕込んでいた封印結界も用を為さない。

 

「・・・・・ウル、キオラ?・・・お姉様!」

 

「俺達が着くまでよく留守を守った。」

 

「うむ、よく頑張ったな狂骨、そして皆の者。後の事は安心して任せるが良い。」

 

羽衣狐は狂骨を抱きしめて頭を撫でてやる。そして、雄呂血を九本の狐尾によって蹂躙していく。

 

「今の妾は少しばかり機嫌が悪い。加減はしてやれんぞ。」

 

羽衣狐は一旦、雄呂血から距離をとり九尾の先を向ける。

 

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ―――――破道の三十一・赤火砲!!」

 

九尾全ての先端からガトリングの如く赤火砲を連続掃射したのだ。着弾する度に爆発を引き起こし、九発目で遂に紅蓮の業火が雄呂血を包み込む。収まった頃には雄呂血は跡形も無く焼尽くされていた。

 

 

 

残っているのは天海ただ一人。勝算はおろか逃走さえも不可能であろう。その場に残っていたのが本人であったのならば。

 

「ちぃ、蝸牛の粘液で作った分身か。どさくさに紛れて入れ替わってやがったな。逃げ足の速いこった。」

 

『カカカカカ、ここは退かせて頂きましょう。我が最高傑作たる葵螺旋城にてお待ち申し上げましょうぞ。その時は勢力を上げてもてなしましょう。カカカ』

 

「葵螺旋城か。天海と言えば江戸時代に徳川幕府のもとで葵城の結界を敷き三百年の太平を得た事で有名だが、今の奴の口ぶりじゃあただ使い古したモノを再利用なんてもんじゃ無くて最初からここまで見越して仕込んでたってのかよ?」

 

「つまり、お主では奴の結界は破れないと?」

 

「ふん、花開院の威信に懸けて総力を挙げて天海の結界を攻略してやる。必ず封印を解いてやるから黙って見てろ。」

 

 

 



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30話 葵螺旋城

 葵螺旋城の最上部にて白装・安倍姓と黒装・御門院達が集まっている。清明降臨の予兆があった為だ。

 

そして地獄の門が開かれ、数多の妖怪達が地獄より顕現する。その畏は並大抵の百鬼夜行など比較にもならない程強大で、最後に鵺が降臨する。

 

その場に集った末裔達は皆、膝を付き頭を垂れている。

 

「よくぞ我が帰還すべき地を千年にわたって守り通してくれた。礼を言うぞ、息子達。」

 

「おそれながら清明様。清浄を開始する前に、一つ具申致したく存じます。東京の浮世絵町に日本全国から数多の妖怪達が集結しつつあります。更に奴良組と花開院、そして京妖怪は現状、協力関係にある模様。」

 

「私が出よう。羽衣狐単独でさえ埋葬蟲を容易く殲滅してのけるだけの領域に達している。そんな相手に侮りや出し惜しみなど愚の骨頂であろう。」

 

「ふむ、黒崎一護とウルキオラ・シファーについては我等咎人に任せるがいい。清明殿、その際はクシャナーダ共を借りるぞ。」

 

クシャナーダとは咎人を永久に蹂躙し続ける地獄の番人である。地獄と言う世界の端末と言っても過言では無い存在で、多数存在し地獄中の至る所を徘徊している。ギリアン同様に知性は希薄でどれもが同じ姿で巨大な体躯に緩慢な動作だが、戦闘能力は「十刃落ち」と同等かそれ以上。しかし、清明は服従させ使役することに成功した。もっとも、流石の清明も十体が限界だったが。

 

「其れは構わないが、如何に私といえどクシャナーダ共の制御は骨が折れる。十体全てとなると準備には幾ばくかの時が必要だ。」

 

「それじゃあ雄呂血様、僕の式神の夜雀達も連れて行ったください。きっと役に立ちますよ?」

 

「奴良組の連中は鬼の眷属が始末しよう。」

 

「カカカ、では花開院の陰陽師共は僕が相手を仕ろう。」

 

清明もその方針には異論が無いらしい。

 

「いいだろう――――――征け!!」

 

『ウオオオオオオォォォォォォォ―――――!!!』

 

 

 

 

 

 

 同時刻、奴良組では決起集会が開かれていた。葵螺旋城の封印結界、そして迎撃に現れるであろう天海は竜二を中心とした花開院の陰陽師達が破る手筈に為っている。

 

「いよいよ決戦だ!この場に集いし妖怪達よ。総攻撃を開始する!!」

 

その宣言を終えたところで、葵螺旋城から鬼達が進撃を開始した。

 

「どうやら先手は取られてしまったようじゃな。流石は清明、相変わらず機微に賢い子じゃ。」

 

「まあ当然だろうな。いくら何でも、この期に及んで警戒を怠る程に愚昧ではあるまい。それと、全く同じ霊圧が十というのは気になるな。咎人のものとは違うようだが随分と似ているな・・・」

 

「この霊圧は多分、クシャナーダっつう地獄の番人だな。とりあえず城の結界から出てくる様子が無いのは助かったぜ。あんなのに街中で暴れられたらメチャクチャになっちまう。っと、来やがったぜ。」

 

奴良組の本家に強大な雷が降り注ぐ。二代目当主、安倍 吉平の基本にして奥義たる「天候制御」の術である。だがこの場にはその程度、意にも介さぬ『魔神』『鬼神』『天狐』の三柱が存在する。

 

ちなみに天狐とは一千の歳月を経て強大な能力を獲得した狐で神獣の一角とされている。一部の地域では憑き物の一種で、強力な神通力を獲得すると言われている。

 

「縛道の八十一・断空」

 

「卍解!―――月牙天衝!!!」

 

万物を打ち砕く閃光を、されどウルキオラは容易く防ぎきる。そして黒崎一護の一撃は文字通りに天を衝き叢雲を霧散させて退けた。

 

奴良組達妖怪連合軍には鬼童丸と茨木童子が率いる鬼の眷属達が問答無用で挑みかかる。そして羽衣狐には三代目当主、安倍 雄呂血と6羽の雀が襲いかかる。

 

夜雀達は黒い羽を周囲に撒き散らす事で、相手の視力を完全に封じる能力で安倍 雄呂血が切り札を召喚する時間を稼ごうとする。だが羽の多くはウルキオラと黒崎一護が素で発する霊圧に押し潰されているため、6羽がかりでも普段の7割ほどしか効果が無い。

 

もっとも、仮に十全の効果であっても結果は変わらなかっただろう。羽衣狐はいちいち目に頼らなくとも探査回路で周囲の妖達を正確に補足出来ている。結局、十二秒で片付いた。

 

「流石は羽衣狐。清明様の母親なだけの事はある。だが、最も偉大な式神使いであるこの雄呂血の切り札を前にしても余裕でいられるかな?我が身を糧に顕現せよ!!古代大魚 悪樓!!」

 

「ほう。悪樓、確か神話において日本武尊に討たれた悪神じゃったな。ちょうど良い、試し斬りさせて貰うぞ。―――散在する獣の骨 尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪 動けば風 止まれば空 槍打つ音色が虚城に満ちる」

 

羽衣狐は雷吼炮をそのまま放つのでは無く、高密度に練り上げ三尾の太刀に纏わせていく。

 

死神には高濃度に圧縮した鬼道を直接身体に纏い戦う瞬閧と言う高等技法が存在する。それに対し、羽衣狐はあくまで刀身のみに纏わせ収縮させていく。

 

「消し飛べ、元素の塵まで!神鳴伐劍(らいきり)!!」

 

悪樓は一刀両断され、紫紺の稲妻に包み込まれる。そして、雄呂血は力を使い果たした処に

 

「迷わず逝くがよい。破道の五十四・廃炎」

 

主従揃って屍さえ残さず退場した。

 

 

 

 

 



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31話 千年

 

 

 

 その頃、花開院の陰陽師達と天海の戦いも佳境を迎えていた。

 

「皆どいてー!黄泉送葬水包銃・改 神獣奉弓!!」

 

ゆらが必殺を期して放った一射は天海に命中し、仮面を消し飛ばした。しかし、その素顔は予想外に醜く老いさらばえていた。素顔を周囲の者達に見られたことで天海は激昂する。

 

「おお・・・・・ウア゛ア゛ア゛アアァァ!!おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ!!!絶対に許さんぞ、糞餓鬼共が―――――!!!」

 

いままで傍観していた天海が遂に本気で攻勢に回ったのだ。

 

「呪層界・怨天祝祭!」

 

怨天祝祭は次に放つ術式の威力を約2.5倍に上昇させる呪術である。

 

「消し飛べ!呪相・炎天!!」

 

緋彩の業火が周囲を包み込む。殆どの者はその身を灼かれ倒れ伏している。竜二を除いて。

 

「ふん、最後まで守られおって。其れなのに未だ出来ないのかね?まあ、お主の苦労は良く分かるぞ。才無き者は、どれだけ万全の準備を整えても分相応の成果しか上げられぬもの。」

 

「・・・ああ、そうかもな。死に物狂いでやってもこの様だ。アンタの結界の構造も攻略法も頭で分かっていても、スペック不足。なんで、コイツを使わせて貰うぜ!?洗い清めろ『村雨』」

 

「村雨だと!祢々切丸をも上回る退魔の霊刀か!?一体どこでソレを手に入れたと言うのだ!!」

 

「あの魔神サマからだよ。行くぜ、天海!―――泡沫の波濤!!」

 

竜二は浄化の清水によって全ての不浄を無慈悲に洗い清める大洪水で地下水脈を用いた結界術式を美事に断ち切って退けた。

 

「ま、まさか・・・こんな、こんなことが!?おのれ、小僧―――!!!!!」

 

天海は再び呪層界・怨天祝祭を遣おうとする。だが

 

「遅い。―――断瀑!!」

 

竜二は刀身から滾々と湧き出る清水に高圧力を掛けて激流で天海を押し潰す。如かし、天海はしぶとく存命している上に怨天祝祭を成功させていた。

 

「ヌルいわ小僧!!喰らうが良い。大殺界・彼岸花!!!」

 

術者を一定以上まで追い込んだ者を猛毒に犯す報復の呪詛である。まともに食らえば間違いなく致命的。だが、突如として天海に雷撃が迸る。そう、此処に居るのは竜二だけではない。意識を取り戻した魔魅流がなけなしの力を振り絞って放った攻撃である。しかも天海は竜二にのみ集中していたため、ダメージは大きい。

 

「ぐはああぁぁ!」

 

それでも尚、呪詛の制御を失わない辺りは流石と言える。

 

「天海僧正、貴方を滅します!黄泉送葬水包銃・改 神獣奉弓!!」

 

ゆらのその威容は月と狩猟の女神アルテミスを彷彿とさせる。その弓につがえられた神威の矢は、確かに天海の心臓を抉り貫いた。

 

七代目当主、御門院 天海は完全に絶命した。

 

 

 

 

 

 ウルキオラと羽衣狐、黒崎一護は葵螺旋城の門前に到着する。

 

鬼童丸と茨木童子が率いる鬼の眷属達については、ぬらりひょん達が引き受けて抑えている為、奴良組達も直に追いつくだろう。

 

「へぇ、大した城じゃねぇか。」

 

「壮観じゃな。陰陽師共よ、御苦労じゃった。」

 

「けっ。まさか一族に呪いをかけた怨敵と共闘して、あまつさえ手助けすることになるなんてな。自分の運命を恨むぜ、全く。それから、コイツは返すぜ。」

 

竜二は村雨をウルキオラに投げ渡す。

 

「ほう、態々返却するとはな。律義な事だ。」

 

「うるせえ、これは俺のケジメだ。陰陽師として妖怪に借りを作りっぱなしなんてのは我慢できねぇんでな。残りの後始末は此方でやっておいてやる。お前等は行きたければ勝手に行け。」

 

「では、遠慮無くそうさせて貰おう。」

 

「サンキューな、竜二。」

 

竜二は悪態をつきながらその場を立ち去っていった。

 

「さて、行くか。準備は良いな?開門」

 

途端、凄まじいほどの霊圧が3人にのし掛かる。そして

 

「行かせぬよ。知っているかい?ここを通りたければ、我等咎人とクシャナーダ共を斃していくしか無いって。」

 

「いきなりかよ。いいぜ、今度こそキッチリとケリつけてやる!!」

 

黒崎一護は単騎で突撃する。クシャナーダ共が迎撃しようと巨腕を振りかぶる。

 

「チッ、黒虚閃(セロ・オスキュラス)

 

「月牙天穿!!!」

 

10居るクシャナーダのうち4体が薙ぎ払われるが、朱蓮は余裕の笑みを絶やさない。奴等にとってはクシャナーダなど所詮捨て駒でしか無いらしい。

 

黒崎一護は太金と紫雲を同時に相手取り、ウルキオラは残存するクシャナーダの殲滅に掛かる。

 

羽衣狐は、高度な幻術で群青を翻弄している。触手による範囲攻撃も妖狐の9尾を突破できる程ではない。理知性が残っていれば早い段階で幻術を看破され、攻略されていたかも知れないが今の群青だけならば充分撃破できる。だがそこに我緑涯が加わり、形勢は不利になる。

 

「あまり妾を舐めるなよ!?呪層界・怨天祝奉!!」

 

怨天祝奉は先の戦いで天海がつかった怨天祝祭の上位互換とも言える術で、次に放つ術式の威力を約4倍に上昇させる呪術である。

 

「貴様等になど用は無い、疾く失せよ!破道の八十八・飛竜撃賊震天雷砲!!」

 

直撃を受けた我緑涯のみならず、直線軌道上に居た2体のクシャナーダまでまとめて消し飛ばした。ただ、怨天祝奉は無理矢理威力を上げるだけで妖気の総量まで上がるわけでは無いのでやはり負荷は大きい。

 

だがその隙を群青は見逃さ無かった。羽衣狐は息を荒げながらも応戦しようとする。しかし、直前で群青は背後から刀剣解放して黒翼を展開したウルキオラに貫かれていた。

 

「羽衣狐、此処の連中は俺と黒崎一護で充分だ。お前は先に行け。決着を付けてこい。」

 

 

ウルキオラの背中はとても頼もしくて、しかし羽衣狐には幻影の如く儚いものに見えた。ウルキオラと黒崎一護は抑止力として異世界から召喚された存在であるらしい。ソレはつまり、元凶を排除して世界が安寧を迎えたときは、今度は二人が抑止の対象と為り世界から弾かれると言う事。だからだろうか

 

「ああ。・・・ウルキオラ、お主にはまだ言いたい事が沢山ある。だから、勝手に居なくなったりするなよ?」

 

今の羽衣狐にとって清明と戦う事に畏れは無い。ソレについては既に覚悟が決まっている。だが、別れも告げられないまま離ればなれになるのは嫌だった。

 

 

羽衣狐はウルキオラの裾を掴みながらとても不安そうに見つめてくる。だからウルキオラもそれに応える。

 

ウルキオラは羽衣狐に口付けしたのだ。

 

「大丈夫だ、安心しろ。お前が望のなら俺はこの先も共に在り続けよう。だから行って来い。」

 

そして、彼女は死地に赴いた。その一言が、千年に航る旅の報いだったと微笑みながら。

 

 

「意外だな。お前があんな事するなんてよ。変わったな。」

 

「まさかな、俺があのような真似をするとは。これが心か。ああ、悪くない。」

 

「良いんじゃねぇの?しっかしリクオの奴、こりゃ完全にもってかれたなー。」

 

「ふん、出遅れた奴等の落ち度だ。さて、ここからは本気で征くぞ。───ついて来れるか?」

 

「へっ、てめえの方こそ、ついてきやがれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 




拮抗する死と命。背反する永続と永劫。だが永続は既に無く。千年の妄執はここに収穫の時を迎える。







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32話 黎明の星

 

 

 そして、羽衣狐は死地に赴いた。その一言が、千年に航る旅の報いだったと微笑みながら。目を閉じ、この想いを確かめる。この胸を焦がす何より大切なもの達の事を。

 

振り返れば仲間がいて、気がつけば優しく包まれてた。

 

「ふふ、ふふふ。――――――――さあ、征くぞ!妾の京妖怪達よ!」

 

「ハイ!!」

 

『ウオオオオオオォォォォォォォ―――――!!!』

 

 

 

 

 羽衣狐は葵螺旋城の最上殿にて清明と再会を果たす。清明自身が敢てここまで素通りさせたのだ。自らの手で、今度こそ葬るために。

 

「会いたかったぞ、清明。一つ聞かせておくれ。お前がこれから造ろうとしている世界とは一体どの様なものなのじゃ?」

 

「・・・・・勿論、平穏で美しい世ですよ。下らぬ人間共の居ない、秩序ある住み良い世界です。」

 

「ほぅ・・・しかし、今の妾には絵空事と思えてしまうのぅ。」

 

「・・・母上、かつて私は京の都を妖の跋扈する魔都とし、支配した。この身が悠久の時を生きられるものであったなら、千年経った今でもその支配は続いていたでしょう。」

 

「悠久の時、か。すべての命には必ず終わりがある。いつかは失うと知ってるからこそ、あたりまえの日々は何より美しく尊い。一秒、一瞬が愛おしいのだ。少なくとも、妾は永遠など少しも欲しいとは思わんがな。」

 

「いいですか母上、弱いとは愚かで醜い事だ!愚かな奴は愚かな行動に走る。だから、要らぬ!」

 

「――――――――――――――・・・・・・」

 

「母上の死によって私は思い知ったのです。この世は強く正しい絶対者によって全てを管理、調整せねばならないと。だから私は誰よりもそう在り続ける。その為には母上達と、何よりウルキオラには死んで貰わなければ困るのですよ。」

 

「それは違うぞ、清明。千年に渡ってこの世を移ろい続けていると嫌でも見えてくる。光と闇、善と悪、正と負、生と死、陽と陰、妖怪と人間、希望と絶望。」

 

「清明よ、お前の言っている事も理解できる。人間とは基本的に醜悪で気を許せば即座に裏切る者達であるのは間違いない。妾の内に在る、そんな人間に対する怨嗟や悲憤は永劫消えはしないだろう。」

 

「であるなら

 

「だがな、お前の言う弱き愚か者の中には妾の京妖怪達も含まれるのであろう?ソレは許容しかねる。」

 

「何だと?」

 

「今やもう、お前だけが守るべき大切な者と言うわけでは無いのだ。」

 

羽衣狐は遂に刀を抜く。

 

「清明よ、お前の気持ちはよう分った。母子の絆を断ち切りたいと申したな。良かろう。ならば妾自らの手で引導を渡してくれる。奴等には手を出させはせん!」

 

羽衣狐の宣誓を聴いた京妖怪達は感極まっている。だが清明は冷めた目で敵として羽衣狐を観ている。

 

「母の小言ほど五月蠅くどうでもいいものは無いな。今度こそ地獄の底に堕としてやろう、母上。」

 

同時に、地獄から鬼の軍勢が顕現していく。

 

「くっ、お姉様の邪魔はさせない!あんた達、やるよ!!」『オウ!!!』

 

 

羽衣狐は響転で一気に間合いを詰め、三段突きを放つ。清明も新たに用意した刀「鬼切安綱」をもって迎撃しようとする。だが遅い。元より清明は陰陽師であって、近接戦闘の達人というわけでは無い。それは羽衣狐にも言える事ではあるが、それでも響転と剣術と9尾を併用することで清明よりも僅かだが確実に上手であった。

 

「くっ、迅い!この私でも捌ききれないとは・・・」

 

それでも清明は重傷を負おう事無く凌ぎ続ける。それは膨大な戦闘経験の蓄積によって培った洞察力の賜物である。しかし徐々に清明の傷は増えていく。

 

「先程までの威勢はどうした、清明。防戦一方ではないか。」

 

「あまり私を舐めるなよ!?呪層界・怨天祝祭!残留思念読込、経験憑依、技量再現!!」

 

清明が持ち出した刀「鬼切安綱」は幾多の武人達の手に渡ってきた業物である。坂上田村麻呂、源頼光、渡辺綱、源満仲、新田義貞。清明は刀が経験した彼等の太刀筋を読み込み再現しているのである。本来ならイタコの十八番である降霊術の極致と言っていい業だ。

 

清明の剣術レベルが跳ね上がり、今までとは逆に羽衣狐を追い詰めていく。しかし清明自身も過負荷による苦痛で顔を歪めている。

 

「ぐぅ・・・厄介ではあるが、このような無茶は怨天祝祭の効果が切れるまでの、僅かな間のものでしかなかろう?その間を凌げれば妾の勝ちじゃ。」

 

「ふっ、その考えは甘いですよ母上。お忘れですか、私は陰陽師ですよ?」

 

そう、清明にとってその剣戟はあくまで必殺の一手に繋ぐための布石。

 

「さあ、逝くが良い。────永劫輪廻!!」

 

「っ縛道の三十九・円閘扇!」

 

羽衣狐は咄嗟に円閘扇で防ごうとするが、あっさりと砕かれる。即座に響転で回避したが、その威力は恐るべきものであった。

 

「ほう、あれを躱すとは。だが、今度は逃がさぬ。」

 

清明は先程よりも更に力を込めていく。

 

「躱すのも良いが、その場合は後ろに居る輩が消滅することになるぞ。」

 

「!!!」

 

「お姉様!我々に構わずお逃げください!!」

 

「そうもいかぬよ。言うたであろう、お主達は妾が守ると。」

 

羽衣狐は両掌で刀を確りと握りしめ

 

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ」

 

その刀身に青藍の業火を纏わせる。

 

「灰燼灼殺と為せ─────藍焔禍災(かぐつち)

 

羽衣狐の焔刃は清明の放つ永劫輪廻を斬り裂き、そのまま術者ごと焼灼せんとするが障壁によって阻まれてしまう。

 

「あれで仕留められんとは、やはり強いのう。」

 

羽衣狐は深追いは危険と判断し、再度距離を取る。

 

「・・・真逆、な。我が母と言えどここまで食い下がられるとは思っていなかった。だが、何人にも鵺の覇道は阻めはしない!!」

 

清明は永劫輪廻を多数同時展開し、一気に放つことでショットガンのような面征圧を行ってきた。一つ一つの質では先の一撃より遙かに劣る。だが如何せん数量が多すぎて羽衣狐一人では後ろの京妖怪達を守り切れない。質が落ちていようともその威力は9尾を上回り、大妖怪クラスでさえ真面に受け続ければ数撃と耐えられないだろう。

 

「悪いが、後先の事を考えると何時までも貴方一人に手間を掛けては居られないのです。」

 

清明は呪層界・怨天祝奉によって極限まで強化した永劫輪廻を形成する。そして現状の羽衣狐にはアレを防ぐ手立てはない。

 

「やめろ、清明!やめろぉ!!」

 

「さあ、これで終わりだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。ソレが後、もう少し速ければな。」

 

 

 

 

 

 



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33話 虚無の魔神

大変長らくお持たせ致しました。


 清明は極限まで強化した永劫輪廻を形成し、羽衣狐に対して射出する。そして今の羽衣狐には、背後に庇護すべき部下達が居る以上は躱すという選択肢はなく、しかし防ぎきる事は叶うまい。例え致命傷には到らずとも、戦局を傾けるには充分過ぎる一手。その一撃は重力云々の域を超えてマイクロブラックホールじみたモノとなっている。回避も防御も不可能な必滅の攻撃。

 

「さあ、これで終わりだ!!」

 

 

 

「ああ。ソレが後、もう少し速ければな。」

 

虚無黒閃(セロ・オスキュラス)

 

「!!?・・・なん・・だと・・?!わ、私の渾身の永劫輪廻を・・・っ!?貴様、一体なにをした?!!」

 

清明は疲弊の極致にあるようで、膝を着き息も絶え絶えである。しかし、其れも無理からぬ事であろう。何せ無限の重力による特異点を造り上げたのだから。天文操作の制御さえ危うい有様である。

 

しかし、ウルキオラの『虚無』はあらゆる存在を完全消滅(ゼロ)に帰す。物理を超越した概念による強制干渉、事象の上書きである。それは無限の重力による特異点(マイクロブラックホール)でさえも例外ではない。

 

まさしく神の権能と言えるチカラ。だが、それだけに消耗も激しい。況してや、地獄の咎人達を相手にした直後でもある。

 

両者は一度体勢を立て直して仕切り直そうとするが、他の連中がそんな絶好の隙を黙って見逃すはずが無い。

 

地獄の鬼達がウルキオラに殺到し、京妖怪達がそれを阻む。

 

清明の元に疾走するは、やはり羽衣狐。

 

決死の呪詛を込めた刃を閃かせる。

 

 

無垢式・伊弉冉

 

 

彼岸の彼方より放たれる幽世の一太刀は、あらゆる生命に安寧(おわり)を与える。これ則ち終熄の理である。

 

日本神話において、伊弉冉(イザナミ)軻遇突智(カグツチ)を産んだ所為で死亡。その後、伊弉諾(イザナギ)によって黄泉比良坂を大岩で鎖されて、黄泉に閉じ込められた。これによって両者は決別したという。その後、伊弉冉は黄泉國の主宰神となった。

 

呪術においては『名称』とは単なる識別記号や体裁以上の意味を持つ。その名を冠する事で()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

故に、清明は当然()()する。

 

「道反の大神よ!今一度その身を以て伊弉冉尊を黄泉路にて押し留め給え!」

 

羽衣狐の斬撃は、清明の大岩によって阻まれる。抑、清明は黄泉帰りを果たした身。黄泉の誘いなど躱すのは容易い事だ。

 

だが、其れは詰り『死』に対する畏れに他ならない。清明はあくまで生命にしがみついているに過ぎない。そして、無垢式・伊弉冉の本質は()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

この世に存在する全てのモノには何時か必ず『死』が訪れる。生命は言うに及ばず、星の息吹や人の意志、果ては形而上の概念にすらもだ。何であろうとも存在を確立した以上は『死』という結末は絶対だ。そこに例外は無い。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 勝敗は決した。

 

かつて清明は羽衣狐を希望の光を与えてくれる太陽だと表した。そして今、自ら堕とそうとした太陽によって(いのち)を絶たれたのだ。

 

清明が斃れた事で、天文操作の術は解け、螺旋城も崩壊していく。

 

戦いは終わった。清明の完全敗北という形で。

 

暁の世界に、無事に帰還を果たす。

 

其れは、紛う事無く奇跡の結果。

 

だがしかし、無償の奇跡など存在しない。奇跡には須く対価が要る。

 

この世界が紛れ込ませた黒崎 一護とウルキオラ・シファー。彼等は個でありながらも世界を滅ぼすに足るだけの存在となってしまった。鵺という滅びの要因を排斥し終えた以上、メリット以上にリスキーだ。この世界にとっては、本人の意図などは些末事であり、可能性がある時点で危険と見なすには充分すぎる。

 

そして、生者のままで『死』に到った羽衣狐。命と死は常に背中合わせであっても、決して相容れる事は無いもの同士。故に、『死』に触れながらも生き存えたモノは世界から特異物と見なされる。今や彼女もまた、世界にとっては排斥対象というわけだ。今回世界を滅ぼしかけた鵺の生みの親というのも要因の1つではあるだろう。

 

黒崎 一護には、彼を必要とする帰るべき元の世界があり、名残惜しくはあるが仕方ないと納得している。

 

ウルキオラは既に一度消滅したところをこの世界に拾われた身であり、仮に帰れるとしても今更元の世界に未練は無かった。そんなことよりも羽衣狐や京妖怪達の方が余程気がかりだった。

 

そして羽衣狐は、正直に言えばこの先もずっとウルキオラと一緒に居たい。だが狂骨をはじめとした京妖怪達も到底放ってはおけない。じゃあ皆で一緒に異世界に行けるかというと、其れもまた不可能である。通常なら世界に弾かれた時点で詰み、異世界に行く事さえ出来ず、次元の狭間に墜ちて消失する。況してや、自らの意志で自己を保ったままに異世界に行くなど、妖怪を超えて神域の業である。このままこの世界に無理矢理に留まり続ける場合、羽衣狐自身が急速に『死』に侵食されていく。そのことに今更恐れは無い。羽衣狐にとっては馴染んだモノだ。違うと事があるとすれば、今度は帰ってこられない事か。

 

 

羽衣狐は瞑目し想いを巡らせる。もしも、これから先もウルキオラと皆一緒に居られたら・・・だがそんな可能性は有り得ない。

 

そして自分はこの世界に残り続けると決めたのだ。京妖怪を率いる魑魅魍魎の主として、最後の最期まで誇り高くあろうと決めたのだ。共に戦い、寄り添ってくれた『虚無の魔神』が、アイツに手を貸したのは決して間違いでは無かったと、そう思って貰える様に在ろうと決めたのだ。

 

「━━━━━━━━━━━━っ!」

 

離別する事は既に分っていた筈なのに、既に決めたはずなのに、我ながら未練がましく思う。だけど、それでもちゃんと言わなければ。

 

「有り難う。ウルキオラ、其方に会えて良かった。―――感謝する。」

 

応答は何時も通り、愛想の無い簡素なモノだった。だがそれが羽衣狐には嬉しかった。

 

地平の彼方より陽が昇り、金色の光が目を灼く。同時に、一陣の風が駆け抜ける。

 

刹那の隙に、気付いたらウルキオラはもう居なくなっていた。

 

「・・・・・まったく、結局言い損なってしまったな。――――――ウルキオラ、其方を愛している。」

 

その呟く様な告白もまた風に乗ってどこかに運ばれていく。

 

願わくば、この(想い)がダレカの元まで届きますように。

 

 

 

 

 




続編を書くかどうかは、デアラとバレットが完結してから考える。
書くかも知れないし、書かないかも知れないし、予定変更して別作品とクロスさせるかも知れない。

とにもかくにも、これで一旦終わりです。
今までお付き合い頂き誠に有り難う御座いました。


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デート・ア・ライブ
34話 精霊


恥ずかしげも無くまたやってしまった・・・


 

 

 

 

 東京湾岸近辺、暁の水平線が眼を灼く。そんな中

 

⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠―――――

 

けたたましく鳴り響くサイレン。

 

可及的速やかに避難する群衆を尻目に逆行する女が居た。左右不均一なツインテール、鮮血と暗闇から具象化されたようなドレス、左目の瞳は黄金の時計盤。そして、濃密な血のニオイと、人間の領域を超越した霊力。

 

「あらあら。()()()がいらっしゃるようですわね。」「一体どの様な方なのでしょう?」「ですが、なんだか霊力の感じが違うような…」「確かに、少し気になりますわね。」「せっかくですし、覧ていきましょう。わたくし」

 

次の瞬間には、影に消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルキオラの眼に映った光景は、大規模な爆心地としか形容できないものだった。

 

広く深いクレーター、大きく歪んだ空間、周囲に散乱した瓦礫。真実、紛れもなく爆心地に他ならない。

 

例えば、王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)の制御を放棄して爆散させてやれば、こんな有様になるだろう。しかし、ウルキオラにはその様な記憶は無いし、そんな事をする理由自体が無い。

 

そこで、何やら可笑しな連中が文字通りに飛んできた。人間…ではあるようだが、妙な質感の気配だ。霊圧では無く、『畏』とも少し違う。身に纏う武装、パワードスーツと言うヤツだろうか?

 

連中は光剣や銃火器を構えながら彷徨くばかりで、明確なアクションを中々起こそうとしない。どうも、何かを探しているようだ。爆心地に居るままのウルキオラをスルー、と言うより気付いてない様子だ。

 

そこで漸く思い至った。今の自分は、帰刃(レスレクシオン)が解除された状態。更に言えば、破面(アランカル)の象徴とも言える仮面は解け、(ホロウ)たる所以でもある魂の欠落の証である孔は躰から外れ、斬魄刀はそれらと溶け合った事で変容を遂げている。おまけに羽衣狐の呪符も無くなって、と言うか()()()()の物品は何も持ち越せなかった。まあ、清明一行との決戦に余計余分な物など持って行くはずも無く、終結後は帰る間もなくこの世界に流されたのだから、当然と言えばそうなのだが…

 

つまり、余程の霊感が無ければ存在を認識できないという訳だ。そして、あの連中には今のウルキオラを視れるだけの霊感が無い。計器類を使ってもなお、僅かに漏れ出る霊圧を補足出来ないようだ。

 

クレーター付近を未だ彷徨いている人間共。此方を認識さえ出来ていない為、排除は容易いが、現状で倒したところでメリットは無い。

 

観察していると、連中の主な使用言語は日本語だった。顔立ちも日本人のそれ。つまり、ここは未知の異世界では無く日本である可能性が高い。恐らくは平行世界の、それも幾何か未来と推測できる。その点については、収穫だった。

 

結局ウルキオラを認識できず終いで、撤退していった。

 

 

霊力、空間震、精霊、AST、ウィザード、リアライザ、ロスト。幾つもの気になる単語が使われていた。

 

・・・それに、周囲一帯の()()()()()()()と視線。死神とも虚とも滅却師とも違う霊圧、もしや精霊というヤツか?・・・ルドボーンは『髑髏樹(アルボラ)』で幾多の髑髏兵団(カラベラス)を生み出していたが、それと同種の能力だろうか?何にせよ、奴等がウルキオラを認識しているのは明白だ。

 

……先ずは消耗の回復を図りつつ図書館なりで自分で情報収集することに。奴等の側から接触してきたなら、その時は相応の対応をすればいい。

 

 

 

 

 

 図書館で開館から閉館まで一通り書物を漁ってみたが、やはり別世界であるようだ。大まかな歴史の流れは大体同じだったり、貨幣がそのまま同じな辺り、平行世界と言うヤツだろう。

 

空間震とやらについても、概要程度は知れた。二〇数年前にユーラシア大陸におきた特大の超常災害、以降は世界各地で中小規模の空間震が発生し、シェルターが一般にまで普及しつつある有様だという。

 

しかし、精霊、AST、ウィザード、リアライザ、ロスト等については分らなかった。

 

いや、単語本来の意味と連中の会話の流れから何となく想像は出来る。だが至極当然ながら情報は正確な方が良い。

 

 

そんなことをつらつらと考えながら、当て所なく歩いていたら高台の広場にまで来ていたらしい。

 

街が黄昏に差し掛かり、濃影と緋光のコントラストに彩られる。陽は地平に沈み、月が宙に昇り往く。昼と夜が入れ替わる瞬間、逢魔時である。

 

「くすくす」「あら、あら」「きひひひひ」「あらあら、まあまあ」「あはははぁ」「ああ、嗚呼」「食べ応えのありそうな御方ですわぁ」「ええ、なかなか美味しそうですわねぇ」

 

「―――そうだな、一番手っ取り早いのは、()()()()()()()()()()()か…」

 

ウルキオラの存在自体がこの世界に馴染んだのか、自身の変容を感覚的にだがある程度理解を進めたからか、来た当初と比べて随分と安定している。

 

大気中の霊子も現世にしてはかなり濃く、重霊地の空座町とほぼ変らない位だろう。

 

消耗はまだ回復しきっていないが、戦闘になったところで先ず負ける事はあるまい。

 

 

第4十刃(クアトロ・エスパーダ)破面(アランカル)ウルキオラ・シファーと、最悪の精霊〈ナイトメア〉時崎狂三との、()()()が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 




時崎狂三

識別名:ナイトメア
総合危険度:S
空間震規模:C
霊装:C
天使:S
STR(力):109
CON(耐久力):80
SPI(霊力):220
AGI(敏捷性):103
INT(知力):201
身長:157cm
スリーサイズ:B85/W59/H87

マテリアルより抜粋


精霊って能力的には各勢力の上位勢にも匹敵しそうな気がする。『天使』が霊圧差で無効化されてる描写チラホラあるけど、充分に破格と言える性能だし。




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35話 ナイトメア

みんな狂三のことちょっと好きすぎへん?
それは作者もか。バレットといい、新作の事件簿といい…


 

 

 

黄昏時の高台の広場は、何時でも町の景観を一望できるスポットとして、よくデートの場に選ばれる。

 

今宵の口もまた、()()()()()()()()()()()()()()()。もっとも、何れもが人間ではなく、デートというには些か以上に剣呑だが。

 

 

その中で唯一の男性、ウルキオラ・シファー。石膏像のような白く硬質な肌と、無機質な整った面貌。腰に差された一振りの刀。一般人では視認すら不可能な、超がつくほど高位の純霊体。

 

女の方は、群衆のすべてが一様に同じ有様。左右不均一なツインテール、鮮血と暗闇から具象化されたようなドレス、左目の瞳は黄金の時計盤。そして、濃密な血のニオイと、人間の領域を超越した霊力。最悪の精霊〈ナイトメア〉時崎狂三。

 

 

 

方々のクラヤミからも幾重に響き合う囁き。地面の陰影より這いずり出て来る()()()()()()()()()()女達。なるほど、恐怖を煽る演出としては文句なしだ。一般人なら恐怖で竦み上がっているところだろう。だが、ウルキオラは前の世界で妖怪達が同じようなことをしている様を飽きるほど見ている。それ以前に、そもそもが(ホロウ)である。この程度で恐怖するなどあり得ない。

 

しかし、奴らの纏う空気は、獲物を前に舌舐めずりする狩人気取りのそれ。一応、此方のことは()()から見ていただけあり、高密度の霊子体だと認識はしているのだろうが……

 

「さてさて、まずは下拵えといきましょうか。」

 

そう言って前衛の数体が古式の短銃と歩兵銃を構え

 

パァンパァンパァンパァンパァン

 

「…縛道の八十一・断空」

 

・・・仕方ない、ヤるか。

 

「ひとつ…いや、念のためふたつ残しておくか…」

 

適当に虚弾(バラ)の乱射で散らしつつ

 

「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ――縛道の六十一・六杖光牢」

 

これでまずは一体捕縛。

 

全方位から一斉に弾幕が張られるが、響転(ソニード)で回避するも、数発の被弾。だが、一発たりとて鋼皮(イエロ)を破ることも出来ず、直撃であっても痛痒にならない。

 

お返しにと虚閃(セロ)の薙ぎ払い。思いの他、数を削れた。連中の混乱に乗じて

 

「――縛道の三十・嘴突三閃」

 

2体目を捕獲する。

 

「…この程度か?所詮は分身。どれだけ嗾けてこようと、俺を倒すことは出来ん。…いい加減、さっさと出て来い。その気が無いのなら、とっとと失せろ」

 

どこかに隠れて様子を窺って居るであろう本体に言い放つ。

 

それを聞いた連中は忌々しげに顔を歪め、負け惜しみの戯れ言と発砲。

 

先ほどの弾丸以上の霊圧が込められていたが、あえて無防備状態で受けてもノーダメージである。

 

「これ以上はこちらとしても面倒だ。撤退しないというのなら、戦闘続行の意思ありと見なし、殲滅にかからせてもらう。…どうする?」

 

ウルキオラは斬魄刀に手を掛けつつ、霊圧と殺気を放つ。

 

連中も霊圧を上昇させるものの、流石に勝ち目が無いと判断したのか、影の中に撤退していく。

 

嘴突三閃で磔にしていたほうは影に沈んでいったが、六杖光牢で捕えていたほうは残ったので良しとしよう。

 

 

ようやく静寂を得た夜の高台広場。そんな中

 

⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠⚠―――――

 

けたたましく町中に鳴り響くサイレン。

 

ウルキオラはその意味をよく知らないが、面倒事の予感がして、やや顰め面になる。

 

「きひひひひ。まもなく、ASTがやって参りますわよ?さあ、どうなさいます?」

 

「…ASTとは、パワードスーツを纏った妙な気配の人間共か?」

 

「より厳密に言えば、顕現装置(リアライザ)であるCR-ユニットを装備した現代の魔術師(ウィザード)達。わたくし達精霊の打倒を掲げる精鋭部隊。それが対精霊部隊(AntiSpiritTeam)ですわ。ご存じありませんでした?」

 

「……ああ」

 

この期に及んで否定して見せたところで意味など無い。()()()()の分からないことを訊く為に捕縛したのだから。

 

「・・・・・だが、話をするのに時間を急くのは性に合わん。まず先に、排除するか…」

 

 

戦いに美学を求めるな。死に美徳を求めるな。己1人の命と思うな。護るべきものを護りたければ、倒すべき敵は背中から斬れ。

 

かつての宿敵達であった死神連中は学院生時代からこの心得を学ぶという。

 

人類の精鋭部隊らしいASTとやらは、はたしてどうだろうか?

 

 

しかし、意気揚々と飛んできた連中は相変わらずウルキオラを知覚できないままだった。

 

あれでは交戦したところで、戦力調査にもならない。実力や勝負以前の問題だ。

 

虚閃(セロ)一発で殺虫剤を吹きかけた羽虫の様に大半が撃墜。残りの奴等も右往左往するばかりで隙だらけだ。

 

とは言え、ウルキオラの虚閃(セロ)を真面に食らっておきながら僅かでも命を繋ぎとどめて居るのは評価に値する。

 

あの仰々しい装備は伊達や酔狂では無いらしい。

 

残りの雑魚共はUnknownEnemy(ウルキオラ)より、ナイトメア(見えている敵)に狙いを定めた様だ。

 

話を訊く前に殺されるのは少し困る。

 

連中が引き金を引く前に虚弾(バラ)で撃墜していく。

 

しかし、存外にダメージは少ない。下位席官の死神程度なら一撃で半身を消し飛ばすに足る威力なのだが…

 

連中をよく見てみると、己の周囲に障壁のような力場を形成している。

 

強いて例えれば、一部の妖怪が有していた領域型の『畏』に近いか。

 

それの御陰なのか、反応速度も防御能力も生身の限界を超えた域にまで引き上げられているようだ

 

「ふむ。この世界の人間も中々興味深い真似をするものだな…」

 

それでも、やはりウルキオラの敵では無い。全員を墜としきるまで数分とかからなかった。

 

しかし、連中の装備品は確かに驚異的だったが、戦闘能力としては大したものでは無かった。個としては巨大虚(ヒュージ・ホロウ)最下級大虚(ギリアン)程度、一部隊総掛かりでやっと十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)帰刃(レスレクシオン)を引き出せるかどうか。

 

撃墜し、戦闘不能になった連中の周囲の空間が歪む。あっという間に消失した。おそらく、後方支援要員が空間転移で回収したのだろう。

 

 

出歯亀も失せた。この場に残っているのは、ウルキオラと精霊ナイトメアと呼ばれた女の2名だけ。

 

「・・・さて、訊きたい事も多く出来た。俺の質問に正直に答えてもらおう。拒否も黙秘も認めん」

 

デートは、まだ続くーーー

 

 

 

 

 




狂三を強化するとして、どの方向で行くかな?
痣城みたいに鬼道に特化させるか、スタークみたいに虚閃(セロ)とついでに虚弾(バラ)銃撃ちさせるか、バラガンみたいに死の息吹(レスピラ)使えるようにするか、聖文字(シュリフト)完現術(フルブリング)ぶっ込むか
なお、何れにせよ分身体は特攻要員な模様


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