2287年の荒野から (フランベルジェ)
しおりを挟む

Last Voyage of the U.S.S. Consti

私は、今まさに200年越しの使命を完遂しようとしていた。

 核融合炉に力が漲り、ジェットエンジンが温まっていく様子をありありと感じる。

 

 私の名はUSSコンスティチューション、航行可能な最古の船にして、現役のアメリカ海軍所属だ。木造船殻、3本マスト、砲数44門を誇るフリゲートだ。オールド・アイアンサイズとも呼ばれている。本来チャールズタウンで悠々と浮かんでいるはずの船体は、今では銀行の屋上で座礁してしまっている。だが、それも今日までだ。私はこれより最後の旅、大西洋へ向かうのだ。

 

 瞳を閉じれば、今までの困難や喜びがまるで昨日の事のように蘇る。

 

 私が起工されたのは1795年の夏だった。ジョシュア・ハンフリーズが設計した私は海軍の主力となるべく作られたため、当時の標準的なフリゲートよりも大きく、装備も重装備だった。1797年10月10日に進水し、その11日後に就役した。1798年7月2日に初めて出航し、フランスとの擬似戦争で合衆国南東沿岸の警戒にあたった。この作戦行動中に、サントドミンゴのプエルト・プラタに対する水陸両用作戦に参加し、フランスの私掠船サンドウィッチを捕獲し、スペイン砦の大砲を使用不能にした。1803年、エドワード・プレブル艦長指揮の地中海艦隊の旗艦とされ、北アフリカのバーバリに対する戦争に向かった。1807年にボストンに戻り、2年間の近代化改修を受けその後、ジョン・ロジャース海軍准将の指揮で北大西洋艦隊の旗艦に再就役した。これは大変に名誉なことで、今も私の誇りだ。

 

 1812年には米英戦争にも参加し、アイザック・ハル指揮官の元HMSゲリエールの撃沈を初めとする大きな戦果を挙げた。彼らの放った砲弾は、私の強いライブ・オーク製の側板に跳ね返されて(これには私も驚いた!)損傷を与えられなかった。このときに古い鉄の船腹Old Ironsidesと渾名されたのだ。

 

 1830年には私はそれ以上の就役に適さない。と、判断を受けた。私もこれには同感だったが、世論はこれを許さなかった。特にオリバー・ウェンデル・ホームズの詩「オールド・アイアンサイズ」が出版されてからはより一層声が大きくなった事を覚えている。世論を受けたアメリカ合衆国議会はなんと私の再建予算案を可決し、1835年に再び就役することになった。私は地中海と南太平洋で旗艦として従軍し、1842年には新型のぺクサン砲も搭載され、1844年3月から30ヶ月も掛けて世界周航を達成した。いやあ、長い旅だった! 

 

 1850年代、私はアフリカ沿岸を奴隷貿易船を探して警戒航海し、南北戦争の間は海軍士官候補生の訓練艦となった。私も流石に時代遅れだったのだ。何しろ、同年代の船――私の後輩に当たる連中は、皆蒸気船だったのだから。前線での役割は終えたが、まだ私には仕事が残っていた。1871年の再改造を待ち、1887年のパリ万博に品物を運んだりした。1882年に退役してからは、ニューハンプシャー州ポーツマスで接待船として使われた。そして1897年、ついに私は100歳になった! バースデープレゼントはボストンへの帰港だった。

 

 1905年、私は解体されることとなったが、大衆の支持で免れた。1917年にはなんと後輩がコンスティチューションの名を継ぐことになった! 私は快く名を譲り(誰も許可など取りに来なかったが)私はオールド・コンスティチューションと改名したが、私の名を継ぐはずの彼女は1922年のワシントン海軍軍縮条約に従い、1923年に建造中止となった。1925年には元の名前に戻り、学校の生徒や愛国者たちの手によって再修理を施された。

 

 1935年に再就役し、引き舟に引かれて就航した後はアメリカ大西洋岸、メキシコ湾岸およびアメリカ太平洋岸の90の港湾都市を訪ねて回った。3年間の訪問航海中、460万人もの人々が私の見学に訪れた。多くの人々に見られるのは何か気恥ずかしい物があったが、少し誇らしかった。私はアメリカ合衆国の象徴になっていた。1940年、私は永久就役という事になり、1954年の議会法でアメリカ合衆国海軍長官がその維持管理の責任を負うことになった。

 

 1976年7月11日、アメリカ合衆国独立200年を祝うために、信じがたい事だがイギリスのエリザベス2世とエディンバラ公がボストンを訪れ、指揮官のタイロン・G・マーチンと共に私に乗船した! これは私の人生の中で最も緊張した出来事だった。しかし、私とてもう長い船なので、平然を装い如何にも余裕綽々といった感じで振る舞ってきたが、ずっと心臓が口から飛び出しそうだった事は秘密だ。

 

 1992年から1995年までの44ヶ月をかけて、私は分解修理と近代化改修を施され、再び航海が可能となった。1997年7月21日、私の200歳の誕生日! 記念に116年ぶりの航海に出た。航海の仕方を忘れてはいないかと思ったが、体に染みついていたようで難なくこなすことが出来た。航海中には私の後輩たち、ミサイル駆逐艦ラメージとミサイルフリゲートハリバートンも来てくれた。翌日の夕方に私はキャッスルアイランドのインデペンデンス砦に21発の祝砲を撃った。久し振りに大砲を撃ったのでしっかり撃てるか不安だった。

 

 そして私はボストンで漸く休むことになった。しかし気掛かりだったのはいつまでたっても私の魂が消えなかったことだ。一般的に船に宿る魂――つまり、私のような自我――は、撃沈されるか、その使命を果たすまでは消えないが、使命を果たせば魂は消える。問題は、その使命が何なのか分からない事にある。この期に及んでも私の魂が消えないという事は何かまだ使命があるのでは――? と考えるのは普通だったろう。そのまま使命が分からず長年を過ごしたが、世界は確実に悪い方向へ向かっていた。

 

 特に核という物が生まれてから、人間達はその力に大きく依存するようになった。確かに便利なエネルギーだが誰も制御不能になった時の事など考えずに、次々と従来のエネルギーと入れ替えていった。兵器から始まり、車、ロボット、果てには子供の玩具にまで! 人間達はその魅力に取りつかれていたのだ。あんなことになるとも知らずに……。

 

 世界情勢は2051年を皮切りに一気に悪化した。石油量の不安から、合衆国は体の良いご題目を掲げメキシコに圧力を掛けた。様々な経済制裁によって不安定にし、空いた穴に合衆国をねじ込む。全ては北の国境を超えるために石油精製所を手に入れるためだった。2052年にはテキサス油田が底を突き始めているという内容のドキュメンタリーが放送され、同年には世界連合が公式に解散した。2053年には新ペストが大流行。2059年にはアンカレッジ戦線が設置された。アラスカに駐留した軍が、カナダとの関係を緊張させていた。2066年の冬には中国がアラスカに侵攻。アンカレッジ戦線が戦場となった。米中戦争の始まりだ。なお、この年には米海軍ミサイル巡洋艦 U.S.S.エボン・アトールが、誤って米海軍潜水艦U.S.S.インターフェアレンスによって撃沈される。という痛ましい事件があったことも忘れてはならない。

 

 そして2072年、カナダが完全にアメリカに併合された年、私におよそ70年ぶりの任務が与えられた。それは激化するであろう戦争に際して愛国心を高めるべく、コンスティチューションに核融合炉とジェットエンジンを搭載し、“空を飛んで出港する”という物だった。控え目に言っても頭のおかしいこの計画は、まさかの満場一致で採決され、私はその年から改造と近代化改修を施すことになった。おんぼろの船体を修復、強化し、核融合炉を搭載し、大砲を最新型のガウスキャノンとプラズマキャノンに換装、片舷二基、四基四門のプラズマ魚雷も搭載された。船体にレーダーを設置し、ジェットエンジンを四基も搭載した。全ての改装が完了したころには2077年に差し掛かっていた。

 

 そして2077年、新年早々新ペストがデンバーに襲来。2月にはFEVとか言う謎のウイルス情報もリークされた。合衆国が新ペストの原因だと言う声もあったが、あの合衆国なら有り得ると思った。そして10月23日、私は400人の乗組員と沢山のロボットを乗せてボストンを出港した。空を飛ぶために。そして沖に出たころ、ついにそれは起こった。

 

 大戦争。グレート・ウォーとも呼ばれるこの事件で世界は完全に破滅した。最早どの国家が最初に撃ったかは分からないが、世界中の空に大量破壊兵器が降り注いだ。二時間に渡る大破壊は人類が戦争で使用した爆発物の総量を遥かに超えていた。ボストンの沖で飛び立とうとした私を、大きな津波が襲った。私はなすすべもなく押し流され、今の銀行の屋上に座礁した。核兵器が直撃しなかっただけマシだろう。津波を生き残った人間の乗組員達も放射線に容赦なくさらされ、次々と死んでいき、やがて皆死んだ。船長も死に、ロボットの中で最も順位の高いセントリーボットが艦長となった。彼はアイアンサイズと名乗った。

 

 座礁してから、私は地上を見つめる事しか出来なかった。幾千もの動植物が死んだ世界にも、やがて植物が生え、放射能で変化したミュータントが闊歩し、人間達が少しづつ現れた。そして200年たった2287年、ある男が現れた。ネイト、そう名乗った彼は我々の使命の手伝いをすると言いだした。しかし200年という時間は余りに長すぎた。ロボットたちの懸命な保守点検も虚しく至る所が故障し、繰り返されるスカベンジャー達の攻撃によって私は人間を恐れていた。だが、彼は違った。彼はアイアンサイズ達と共にスカベンジャーを追い払い、私のシステムを完全に修理した。お陰で私はいつでも飛び立てる状態にまで回復していた。

 

 そして今、私は大西洋に向けて飛び立とうとしていた。核融合炉は最大効率で稼働し、ジェットエンジンは今か今かと点火の瞬間を待つ。アイアンサイズが甲板で叫んでいる。

 

「電力は予定通り、素晴らしい。カウントダウンを始める。3、2、1――航海士君、エンジンに点火しろ!」

 

 ジェットエンジンが凄まじい音量と炎を吐き出す。

 

「新しい貯蓄貸付組合よ、私達はもう係留されてはいない! 離れていくぞ!」

 

 私は凄まじい速度で空へと上がって行った。手を振るネイトが見えた。銀行を遥か下に、ビルを超え、山を越えたその先に。我々は大西洋を見た。放射能汚染されていようがその姿はキラキラと日光を反射して美しい。200年振りに見た海は変わらず美しかった。

 

「着水するぞ! 総員対ショック姿勢!」

 

 アイアンサイズの声が遠く聞こえる。私の魂は消えようとしていた。長かった、漸く、漸くだ。私は先に逝った者達の所へ行ける。やがて意識は途切れ途切れになり、心地よい浮遊感が全身を包む。

 

「やった……やったぞ! 太平洋だ! バンザーイ!」

 

 その声が、最後に私が聞いた声だった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「……長……艦長……艦長!」

「……っ、ぬう」

 

 私は聞きなれた声で意識を覚醒させた。

 見渡せば気の壁にマホガニーの戸棚。机には海図とコンパス、そしてサーベルと44.ピストルが置かれていた。私は44.ピストルを手に取った。グリップに指が吸い付くように馴染む――指?

 

「ああ!?」

「どうしました船長!」

「人間だ! 私の体が!」

 

 腕も、足もついている。慌てて鏡に自分の顔を映してみると、そこには20歳程度の青年が映った。

 

「アイアンサイズ! どういう事だ!」

「は! 申し訳ありませんが全くもって理解不能です! 気が付けばここに……艦長、どちらへ!?」

 

 私はアイアンサイズの横をすり抜け、無我夢中で甲板を目指して走っていた。途中で何体かのプロテクトロンとすれ違うが、皆普通に仕事をしていた。漸く着いた甲板から周囲を見渡す。遠くに綺麗な山が見えた。しばらく纏まらない頭で考えていると、アイアンサイズが追いかけてきた。

 

「艦長!」

「ああ、アイアンサイズ……ここは、何処だ?」

「私のデータベースと船のGPSは日本を指しています」

「日本だと……」

 

 日本、太平洋戦争で争った、かつての、敵国。

 

「艦長、お忘れ物です。どうかお気を確かに」

「……私が艦長? 私はUSSコンスティチューションだ。艦長は君だろう」

「いいえ! 私は代理でした! 少なくとも乗組員全員のデータベースは貴方を艦長と認識しています! さあ、銃とサーベルをお受け取り下さい! 後、こちらも」

 

 アイアンサイズが器用にミニガンの先端に引っ掛けて差し出した物、それは艦長の帽子だった。私の服装は艦長のそれだったのだ。ついてきたプロテクトロンからサーベルと44.ピストルを受け取り、装備した。

 

「……私でいいのか」

「貴方以外に居ません! 現時点をもって貴方を艦長に、アイアンサイズという名もお返しいたします! 新しい艦長に万歳三唱! フレー! バンザーイ!」

 

 思わず緩んだ涙腺を帽子で隠す。どうにも年を取ると涙腺が弱くなっていけない。今のところの私の考えは、今見える山に近づくことだった。少なくとも何か分かるはずだ。命令を下そうと息を吸いこんだ瞬間、甲板長のハンディ、ボースンが高速でやってきた。

 

「艦長、無線担当のプロテクトロンが救難信号をキャッチしました」

「救難信号? どこの船だ」

「それが日本でして……シンカイセイカンに追われている、六隻の救助求む。中破艦二、大破艦一、と妙なメッセージです」

「シンカイセイカン? 分かるかアイアンサイズ……ああ、えーと。お前はチャールズと名乗れ!」

「了解! わかりません、艦長!」

 

 シンカイセイカン……新しい国名か? しかし……今わかっているのは、日本の船が追われているという事だけだ。私の脳裏に浮かんだのは、日本と戦い、沈んだ後輩たち。彼らは無残に沈んでいった。いや、よそう。我々も日本の船を多く沈めたし、何より戦争は最早過去だ。我々は手を取り合わなければならない。

 

「救援に向かう。チャールズ、ジェットエンジンは使用可能か?」

「は、いつでも」

「よし、命令だ! マストを降ろし、砲を収納しろ! 核融合炉に火を! ジェットエンジンにフルパワー、余ったエネルギーで艤装をスタンバイ状態にしろ!」

「アイアイサー! 核融合始動! ジェットエンジン、点火準備完了!」

「点火!」

 

 私の命令で再びコンスティチューションは空を飛ぶ。艦は次第に速度を増し、やがて飛び立った。そのままぐんぐん進み、やがてレーダーが艦影を捉えた。

 

「レーダーに艦影! 南西に単縦陣の六隻と複縦陣の五隻! 艦影から一隻が戦艦、二隻が巡洋艦、二隻が駆逐艦と判断します! 後者がシンカイセイカンだと思われます!」

「進路変更! 単縦陣の間に着水する!」

「アイアイサー!」

 

 艦が大きく傾き少しづづ高度を下げ始めた。海面に小さな粒が見えてきた。

 

「着水まで5秒! 4……3……」

「総員、対ショック姿勢!」

「着水!」

 

 盛大に着水し、凄まじい水しぶきが上がる。真正面から複縦陣で迫る不気味な色の五隻の艦は、真ん中を我々の為に開けているように見えた。

 

「真ん中に突入する! 機関全速! 全砲門開け!」

 

 ジェットエンジンが火力を落とし、水面を滑るように進む。幸い敵艦の砲塔は此方のスピードに追い付いてはいなかった。その隙に真ん中に突入し、右舷に戦艦を、左舷に巡洋艦を捉える。反交戦だ。真ん中に入れば、敵艦も相打ちを恐れて発砲出来まい。

 

「全門斉射! fire!」

「全門斉射!」

 

 本艦より遥かに大きい二つの艦。本艦は戦列艦。故に全ての砲門を向けるのはこのタイミングしかない。

 強烈な爆音と共に次々とガウスキャノンとプラズマキャノンが火を噴き、両舷の戦艦と巡洋艦を食い破る。最初の何発かは新兵器らしい透明なシールドで防がれたが、直ぐに消滅した。プラズマが船体を溶かし、電磁誘導を受けたガウスキャノンが破砕する。本艦の艤装は、いまだ有効なようだ。船体がボロボロになった二隻の艦は急速に沈みつつあった。

 

「敵戦艦、敵巡洋艦を撃沈!」

「プラズマ魚雷準備! 両舷の駆逐艦を狙え!」

「アイアイサー!」

 

 次、隊列を崩し離脱しようとする二隻の駆逐艦に狙いを定める。離脱するより本艦が横を通過する方が早いだろう。機関全速で真横を通り、片舷4本、両舷で8本のプラズマ魚雷を放った。見事に命中し、緑色の光が船体をくり抜き、水底へと引きずり込む。

 

「敵駆逐艦2隻撃沈! 敵の巡洋艦は離脱を図っています!」

「再装填急げ!」

「敵艦が発砲! 躱せません!」

 

 敵巡洋艦の三門ある内の一門――連想砲が火を噴いた。お互い、外しようもない距離だ。衝撃を覚悟したが、敵の砲弾は例の透明なシールドに阻まれ、損傷は無かった。コンスティチューションにはシールドなど搭載されていないはずだ。

 

「面舵一杯! 敵に船尾を向けろ! 斉射が来るぞ!」

 

 完全に此方を捉えた砲門に備え、船尾を向け的を減らそうとした矢先に敵艦の艦橋が吹き飛んだ。援護射撃だ。見れば、逃げていた六隻の内損傷が比較的軽度な三隻が回頭し、砲門を敵艦に向けていた。此方が撃たれるより早く、次々と砲撃が命中した。恐らくバイタルパートを抜かれたのだろう。船尾を下にして沈んでいった。

 

「敵艦の全滅を確認! 我々の勝利です! バンザーイ!」

「助けた艦から無線です、艦長と話したいと。テンリュウと名乗っています」

「変わろう」

 

 無線機を受け取り、耳に当てた。今気づいたが、甲板に立って指揮した所為で服がびしゃびしゃだ。  無線の向こうは、若い女性の声だった

 

「こちら日本海軍呉鎮守府所属第二旗艦旗艦、天龍だ。貴官の勇敢な行動に感謝する。あー、ところでそちらが木造船で空を飛んできたように見えたが、俺の見間違いか?」

「こちらはアメリカ海軍チャールズタウン海軍基地所属、USSコンスティチューションだ。貴官の言う通り、空を飛んできた」

 

 

 

 

 




元ネタとか

チャールズ
チャールズ・モリス中尉から

万歳三唱
ゲーム本編で関連イベントの終了時にアイアンサイズがしてくれる、かわいい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

General Headquarters

 暇だ、どうしようもなく。

 私は艦長室に置かれたベッドに負けるとも劣らないふかふかのベットに腰かけ、読んでいた本をサイドテーブルに置いた。白い壁に、アンティークと思われる家具の数々、蛇口を捻れば何時でも放射能汚染の無い水が出る清潔なバスタブとトイレ。部屋自体もかなり広く、乗組員全員を招いてパーティーを行っても窮屈な思いはしないだろう。ここは大本営の客室、私がここに招かれて二日になる。

 

 あの後――つまり天龍と合流してから私は彼女に連れられて呉鎮守府へと向かった。その間彼女らは私に容赦のない質問攻めを浴びせた。どうやって空を飛んだのか、とかあの砲は一体なんだとか。しかし私だって彼女たちに聞きたいことは山ほどあった。そこでお互いに交互に質問をしながら呉へ向かうことになった。この一時間弱の会話のお陰で、私の疑問を多く解決できた。

 

 シンカイセイカン、もとい深海棲艦はある日唐突に世界の何処かで同時多発的に発生し、人類へ攻撃を始めた。当然人類も反撃したが、現代兵器は全く通じず、シーレーンをズタズタに引き裂かれほぼ孤立状態となった各国は瞬く間に窮地に追い込まれ小国は消滅。アメリカやロシア、中国、ヨーロッパ、日本などの大国は全滅こそ免れた物の既に陸地への上陸を許してしまっていた。だが、今度は深海棲艦とは真逆の存在がやはり同時多発的に誕生した。それらと人類が初めて接触したのは遂に本島に攻勢を仕掛けてきた深海棲艦に対し日本の海上自衛隊が最大戦力で迎え撃った戦いだった。戦いは終始深海棲艦有利で進み、最早これまでかと思われた時、地平線の彼方から彼女らは現れた。十二隻からなる大艦隊。旗艦の名は『大和』かつての大日本帝国海軍が誇る日本の象徴そのもの。

 

 大和率いる艦隊は瞬く間に深海棲艦を残滅した。唖然とする海上自衛隊達の前に大和が近づき、中から一人の少女と妖精が現れた。大和は彼女一人と妖精のごく少数で動かしていたのだ。彼女らは“艦娘”と呼ばれるようになり、それから立て続けに世界中で艦娘達が発見され順次各地の鎮守府に組み込まれた。艦娘は同時に妖精も従え、妖精は人類に一定の資材と引き換えに“艦娘を建造”して見せた。そのころには妖精は敬愛を込めて妖精さんと呼ばれていた。

 

 それから三年の間、日本は水際で深海棲艦を食い止めつつ各鎮守府に戦力を増強させ、海上自衛隊を日本海軍と改めた翌年。日本海軍は大和を旗艦とする横須賀鎮守府を中心に反撃に乗り出た。約二年に渡る死闘の末、漸く日本は全ての海域を解放。国民に待望の安定をもたらした、と、いう事らしい。因みに艦娘達に自身の出生の記憶はないそうだ。それは妖精さんによって建造された艦娘も同じだと建造出身の天龍が言っていた。

 

 それと前回の戦闘で確認したシールド、あれは艦娘が持つ“加護”という物だそうで、力場と呼ぶらしい。基本的にモデルとなった艦の耐久度に左右されるらしいが、それ以外に“運”という要素も絡むそうだ。これは概念的な運では無く数値化された戦績などから算出される運だ。生きたまま終戦を迎えたなどもポイント高だと。つまり数多くの終戦を見た私の運も相当に期待していいだろう。逆に言えば、力場がある間は安全だが、力場が消えてしまえば命の保証は無いってことだ。

 

 天龍に『“艦娘”と言うが、私は男だ。過去にこんな事があったのか?』と聞くと、聞いたことが無いと言われた。ならば男の私の事はなんと呼ぶのだろう?

 

 その話が終わった頃、私は呉鎮守府に到着した。提督の許可をもらい、天龍の隣に私の艦を停泊することになったのだが、いざ停泊してみると他の艦と比べて私の艦はとても小さく見え、鋼鉄の装甲で固められた艦の中で私の木造艦は異様な存在感を放っていた。付いて来ようとするアイアンサイズ達を艦内に残し、私は艦を離れ提督に面会した。どうも天龍たちが既に連絡していたようではあったが艦から降りてきた私が男だと確認して酷く驚いていた。提督は握手もそこそこに先ほどの真偽を問うてきた。つまり、空を飛んで深海棲艦を沈めたのは本当かと。こればかりは口で言うより見せた方が早いと考えた私は提督を艦内へと招き入れ簡単に紹介をした。この時点でなんとなく私はこの世界では私の艦が最も進んだ技術を有しているのではないか? と勘繰ったが、その予想は後に当たっていた。

 

 簡単に艦内を紹介する中で提督は特にガウスキャノンと核融合炉に強い関心を示したので、少し込み入った所まで説明したが、提督には一部理解できない所があったようだ。大方の紹介を終えた頃、提督が私に『この艦を見るに貴方は本当にこの世界の住民ではないようだ。貴方は一度大本営に行くべきだと思う』と言った。これに私は賛成した。なぜならこの世界での私はどうなっているのかがずっと気になっていたからだ。まだアメリカ海軍として生きながらえているのか。それとも沈んだか。アメリカの現在状況も気掛かりだった。

 

 私の返事を聞いた提督は懐から薄い板のような物――スマートフォンという携帯電話らしい――で大本営と連絡を取って、車を呼びつけたらしい。車が到着するまでの間に私は鎮守府内の来客室へ招かれ、提督の秘書官、金剛から紅茶とスコーンを頂いた。食物など一度も摂取した経験が無かったために、どうやって食べればいいか分からず一瞬困惑したが不思議な事に私の体は食べ方を知っていたのだ。今まで乗組員たちが飲んでいた所を見た事しかなかったが、なるほど。彼らが夢中になるわけだ。紅茶を楽しみながらスコーンを食べていると、窓から黒塗りの車とそれを挟むように配置された装甲車が目に入った。あれが迎えらしい。

 

 大本営に着いた私はそのまま海軍元帥の元に通され、直に会話を交わした。どうやらアメリカでの私はとっくに沈んでいるらしい。ボストンが攻撃された時に基地もろとも沈んだそうだ。アメリカの現在状況は今は安定しており、アメリカ艦の艦娘達も多くいるそうで、一安心した。その日はその会話だけで解散し、私はそのまま大本営に隣接する研究員で精密検査を受けた。男の艦娘は初めてだそうだから、検査は体の隅から隅まで行われた。同時に私の艦でも調査が行われ、その日私が解放されたのは午後11時。大本営到着から9時間後だった。

 

 疲れ切っていた私はすぐに眠り、今に至るという訳だ。別に此処の待遇に不満があるわけでは無い。身体をスキャンされたり血を抜かれたりしたのは驚いたが、仮に私が彼らの立場だったら同じ事をしただろう。また、一日三食の食事も素晴らしい。私に気を使ったのか、栄養バランスをしっかり考えたアメリカの料理が提供されるのだ。ちなみに今日の朝食はトーストにスクランブルエッグ、ハッシュ・ド・ポテト、グリルされたベーコン。そしてコーヒーとオレンジジュースだった。そのいずれもが高級ホテルにも劣らない美味しさだった。食事は大切だ。食事で戦争の勝敗が決まると言っても過言ではないだろう。

 

 先程サイドテーブルに置いた本を再び読もうと手を伸ばした時、ドアがノックされた。私が「どうぞ」と言うと「失礼します」と言って一人の若い女性が入ってきた。聡明そうな顔立ちに眼鏡を掛け、背中まで伸ばした黒髪。着ている服は水兵服……だろうか。なぜかスカートにスリットが入っている。「大淀型1番艦軽巡洋艦、大淀です。以後お見知り置きを」と言った。なるほど、彼女は大淀と言う名か。

 

「よろしく、大淀。私はUSSコンスティチューションだ。アイアンサイズと呼んでくれ」

「はい、よろしくお願いいたします。アイアンサイズさん……さて、本題に入らせて頂きます」大淀は顔を引き締めて言った。「教授が貴方に会いたいと仰っていますのでご同行願います」

「教授だって?」

「はい、艦娘に関連する科学や現象解明に取り組んだ第一人者です。会って頂けます?」

「勿論だ、行こう」

 

 広い廊下を大淀が先導する形でついて行く。途中既に私の噂が広まっていたのか、私を見てひそひそと話す者達が何人かいた。少女達だったので恐らく艦娘だろう。教授が待っている部屋までの間を保つためか、大淀が口を開いた。

 

「朝食はご満足頂けました?」

「とてもよかった。作った人が見たいくらいだ」

「食事は間宮という艦娘が作っております。各鎮守府に一人配属されていますので、何処かの鎮守府に所属すればいつでも食べられますよ」

「そうか……うん? 各鎮守府に一人だって?」

 

 その時見覚えがある艦娘とすれ違った。あの姿は金剛だった。彼女も来ていたのか? やがて一つの『第三会議室』と書かれたドアの前に案内され「教授はこの中でお待ちです。失礼します」と言って大淀は去っていった。少し緊張してドアを開けると、中にはクリップボードを見つめる初老の男性が居た。丸眼鏡に真っ白な髪とひげ、何となく、如何にも教授って感じだ。彼ははっと私の顔を見るなり、喜々として此方へ駆け寄ってきた。

 

「やあやあ! 待ってたよ! ささ、座ってくれ」

「ああ、いや。ドア閉めないと……」

「私が閉めるよ。飲み物は何がいい? コーヒー? 紅茶? 何でも言いたまえ」

「じゃ、じゃあコーヒーで」

「よし。ああ、座ってていいよ」

 

 驚いた……驚くほど活発的な人だ。彼は電話を取り「コーヒーを二つ」とだけ言って直ぐに切り、大きな封筒から大量の書類を取り出した。程なく、湯気を上げるコーヒーが二つ職員の手によってテーブルの上に置かれた。シュガーとミルクもある。書類を大雑把に一纏めにした教授は此方を向いて言った。

 

「すまないね、つい興奮してしまった。私は榊原聡一だ。皆からは教授と呼ばれている、専攻は艦娘に関わる事象全般だ。よろしく」

「USSコンスティチューションだ。アイアンサイズと呼んでくれ」

 

 机越しに教授と握手を交わす。

 

「さて、早速だが史上初の男の艦娘……いや、艦息になった気分はどうだね?」

「……正直よく分からない。望んでこうなったわけでは無いが、私は確かにここに居るのだ」

「今が不満かい?」

「いいや。なったものはなったのだ。とっくに受け入れている。が、もう少し威厳のある顔でも良かったとは思うがね。顔がいささか若すぎる」

「艦娘というものは艦の歳と見た目は無関係である事が私の研究で立証されている。君もその例に漏れなかったのだろうね」

 

 教授は丸眼鏡を人差し指で押し上げるとクリップボードを手元に置いてコーヒーを啜った。私もコーヒーを飲もうと思ったが、気分でシュガーを二つとミルクを少し加えた。

 

「まず君には自分を知ってもらおうと思う、今から言うのが君のカルテだ。身長184cm、体重86kg、座高86cm……」

 

 教授は全ての数値を飽きもせずにたっぷり五分も使って読み上げ、最後に「健康的だね」と言った。

 

「良い数値だ。模範的だよ」

「そうか、艦娘も病気になるのか?」

「そう言った事例は報告されていない、だが報告されていないから無いとは言えないだろう」

 

 そこまで言った所で、突然テーブルの上に茶色い猫が飛び乗った。軽く驚いてコーヒーの表面に波紋が広がった。その猫は暫く私の顔をじっと見て、教授に首根っこを掴まれてテーブルの下に置かれた。

 

「教授の猫か?」

「ああ、マーフィーだ。マーフィーの法則から取った。研究室の皆で飼っているんだよ」

「マーフィーの法則?」

「簡単に言えば“起こりうる事は起こり得る”という事さ。良い言葉だね……ああ、話が逸れた」

 

 教授は一つ咳払いをすると、ボールペンを手に取って向き直った。

 

「今から幾つか質問をする。出来るだけはっきり答えてくれ」

「分かった」

「よし、質問一、君はどこから来た?」

「2287年、マサチューセッツ、ボストンからだ。信じるか?」

「信じがたいが、君の艦を見れば信じざるを得ない。安定して、しかも艦に積める程小型の核融合炉など2020年の科学では理解不能だ。ガウスキャノンやプラズマキャノンもそうだ。どうやって空気中でエネルギーを閉じ込めている?」

「さあどうだったか、プラズマリングが何とかと聞いた覚えがあるな」

「我々が聞いた所で理解不能だろうな。質問二、この世界をどこまで知っている?」

 

 どこまで……どこまでと言ってもそれがどこまでなのか、深海棲艦や世界情勢の事だとすれば天龍から聞いたが、それ以外についてはからっきしだ。

 

「深海棲艦や世界情勢についてはある程度。しかし不可解なのは、先程大淀は間宮が各鎮守府に一人と言った。その後すぐに金剛を見た。どういう事だ?」

「簡単だ。艦娘は同一の存在が複数存在しているのだよ、君が見た金剛は大本営、つまり横浜鎮守府の金剛だろう」

「では彼女らは全くの同一個体なのか?」

「それは違う。たとえ同じ艦娘だとしても周りの人間や、経験した戦いなどで人格もスペックも異なるのだ。金剛だって全ての個体が明るい性格とは限らんよ? 鬱病の黒人や女嫌いのイタリア人も居るだろう?」

 

 なるほど。言われてみればその通りだ。しかし、私にはずっと気に掛かっている事があった。それは、何故は私が教授に呼ばれたかという事だ。教授はこの質問をするためだけに私を呼んだわけでは無いだろう。それに、教授の眼は隠し事をしていると雄弁に語っていた。私はこれでも200年以上生きた艦だ。100歳にも達しない人間の考えなど眼を見れば分かる。

 

「それでは質問……」

「待て、君は私に本当に聞きたいことがあるはずだ。それを言ってみたらどうだ」

「……流石と言うべきかな。質問三、日本海軍に入隊する気はありますか?」

 

 教授の質問は想像通りの物だった。私の艦はこの世界で最も技術が発達している。それならば聞きたいことを聞いて『はい、さよなら』とは行かないはずだ。彼らは私の能力を骨の髄まで利用したいに違いない。

 

「Noと言えばどうなる?」

「どうにもしないさ。君は民間人として生きていくだけだ」

 

 教授は分かっていて言っているのだ。いきなり人の姿になった私は、自力で生きる術を知らない。軍に入れば住居も食事も一応心配はないが、私は仕事を見つけて、全てがゼロの状態から始めなければいけない。それは余りに無謀だろう。

 

「教授、君も意地の悪い人間だな。私がyesと答えるしかないと知っていて」

「私もこの国の軍人でね、自国の勝利を祈っているのだよ」

「ふん……だが、一つ聞きたい。アメリカは私の所有権を示さなかったのか? まさかあのアメリカがみすみす私を他国に渡さんだろう」

「示したとも。だがね、我々にはアメリカに行く手段が無いのだ」

「何?」

「日本とアメリカを繋ぐ航路は幾つかある。そのすべてが深海棲艦の勢力圏内でね、アメリカは君を喉から手が出る程欲しがったようだが、行く方法が無い」

「空は?」

「それこそ無謀だ。あの海域の上を飛ぼうものなら五分もせずに落とされる」

 

 教授は海図を取り出すと、赤いマジックペンで二つ海域を囲んだ。これは……ラバウルとパールハーバーか。

 

「この二つの海域に深海棲艦の大規模な基地を確認している。日本海軍はこの二つを落とそうと躍起になっているが、正直に言って突破口が見えない。だが、君が居れば話は変わる。いいか、君はこの海域にたどり着く鍵だ。もしアメリカとの航路が確保出来たら、君をアメリカに返すと約束しよう」

「いいだろう。その言葉、努努忘れてくれるな。USSコンスティチューション、日本海軍に協力させて頂く」

「ありがとう。歓迎します。USSコンスティチューション」

 

 私は差し出された書類に名前を記入し、様々なところに必要事項を記入した。その夜すぐに、私の配属先は呉鎮守府に決まった。

 

 入り口には迎え入れられた。そこで居場所を確保できるかは、自分次第だ。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

New home

 書類にサインし、私の所属鎮守府が決まった後私は元帥と再び面会し、固い握手を交わした。その際に元帥は期待しているとか、何かあればすぐに言って欲しいだとかありがちな台詞に適当に頷き今は鎮守府行きの車の中だ。

前と後ろを装甲車に守られ、揺られること数時間。私は鎮守府に到着した。アサルトライフルを持った守衛二人が守る門の前で降ろされ、恭しく敬礼する守衛に敬礼を返しつつ進むと、白い軍服の男性――提督がやって来た。

 

「私がこの鎮守府の提督だ」

「私はUSSコンスティチューション、鎮守府に着任します」

「歓迎しよう、アイアンサイズ……さて、畏まったのはここまで。大本営はどうだった?」

「部屋や食事は最高だった。が、何となく陰謀や良からぬ考えが集まっている様に思えたな。ま、総司令部とはそういうものだ」

「あそこはペテン師と嘘つきの集合住宅だ。そう思うのが正しいだろう」

 

 提督に連れられて提督室まで向かう――ものと思っていたが、どうやら違うらしい。

 

「我々はどこに行くのだ?」

「私の鎮守府では新たな仲間が着任するたびに皆を集めて着任式を行う事にしている。質問は?」

「何を話せば? 志とか?」

「名前だけで良い、式と言っても五分程で終わる。まあ、気楽にな」

 

 大きな開かれた扉の向こうから喧騒が聞こえる。扉を潜り、簡易的なお立ち台に提督と登った時には、喧騒は消え百人近い艦娘の視線が注がれる。緊張して粘り気を持った唾液を飲み下し、提督を見ると提督は頷き、マイクに近づき声を発した。

 

「皆も噂で聞いたと思うが、世界初の艦息が呉鎮守府に着任する事になった」

 

 提督は私を見て小声で「さあ、名前を」と言った。

 

「USSコンスティチューションだ、アイアンサイズと呼んで欲しい。その……話は得意ではないが、仲良くしたいと思う。よろしく」

 

 200年も生きていてこの拙いスピーチは我ながら呆れるが、彼女らは万雷の拍手で迎え入れてくれた。どうやら最初の挨拶は成功したらしい。問題はこの後、女性だらけの軍隊で上手く生活していけるかだ。私が生まれてから最終戦争が起こるまで乗組員と言えば男ばかりだった。そんな私が上手くやっていけるか……。

 

「以上で着任式を終了する、艦娘は各々の任務に戻ること。以上、解散」

 

 艦娘達は威勢よく「はい!」と返すとそれぞれの持ち場へと戻って行った。しかし、天龍と五人の少女達が此方へ向かって来ていた。提督は「私は執務に戻る、終わったら執務室に来い。鎮守府を案内させる」と言うと帰ってしまった。天龍達は私の前に一列に並ぶとニヤリ、と笑った。

 

「この前は改めて世話になったな。紹介する、右から不知火、如月、睦月、暁、電だ」

「わざわざ礼を言いに? 私も君達が無事で嬉しい」

 

 天龍が紹介した子達が軽い自己紹介の後にそれぞれお礼を付け足してくれた。小さいのによく出来た子達だ。

 

「わざわざって、お前が居なけりゃ全員死んでたかも知れないんだぜ?」

「不知火もとても感謝しています」

 

 肩を竦め言う天龍に深く頭を下げる不知火。天龍は見た目通りさっぱりした性格の様だ。彼女とは、上手くやれそうだと思った。

 

「ま、今日はこれだけだ。いつか一緒に戦う日が来るかもな、えーと、なんだっけ?」

「アイアンサイズ」

「そうか、またな。アイアンサイズ」

 

 天龍はカラカラと笑うと駆逐艦達を引き連れて大広間から出て行った。あの様子だと駆逐艦達からかなり慕われているのだろう、彼女も駆逐艦達といると楽しそうだ。さて、私も執務室に向かうとするか。提督から呼ばれているし。広い鎮守府をどうにか提督の執務室に行くと、椅子に座って大量の書類と格闘する提督と、傍に立つ青を基調とした和服に、黒い胸当てを付けた美しい女性が立っていた。感情を削ぎ落としたようなその表情は、静謐な美しさを湛えていた。

 

「来たぞ、提督」

「来たか、アイアンサイズ。彼女は加賀だ。鎮守府を案内してもらえ」

「秘書官は金剛では無かったか?」

「この鎮守府では秘書官を日替わりで変えているわ、経験を積ませるためよ」

 

 書類から目も離さずに言う提督の代わりに加賀が答える。その声は見た目とは裏腹に優しさが潜んでいた。最初は少し怯んだが、その必要はなさそうだ。ただ、何となく呼び捨てにはできない。

 

「さ、行きましょう。案内するわ」

「よろしく、加賀さん」

 

 執務室から出て、階段を下へ。少し歩いて多くにつれ良い匂いがしてくる、開け放たれた扉をくぐると多くの艦娘が居る場所に着いた。皆一様に談笑しながら何かを口にしている、ここは……食堂か。

 

「ここが食堂よ、夜中以外は開いているけれど、朝の七時半と昼の十二時、夜の七時からはとても混むから、人混みが苦手なら時間をずらすといいわ」

「分かった、覚えておこう。ところで、メニューは何がある?」

「基本的に和食よ、和食を食べた事は?」

「無い。残念だが」

「郷に入っては郷に従え、よ。食べれるようにした方が、不自由が少ないと思うわ」

 

 「さあ、次よ」と言って先を歩く加賀さん。後をついて行くと、外に出た。水平線の果てに幾つかの艦影と砲撃の煙が見える、遠くから響く間延びした砲撃音と波止場に当たって砕ける波の音を聞くと、チャールズタウン基地を思い出す。遠い故郷の事を想い、哀愁を感じていると明らかに先ほどとは違う、しかも近距離から銃声が聞こえ、反射的に右ホルスターの44.ピストルに手を伸ばし引き抜こうとした所で「待ちなさい」と加賀さんに腕を掴まれた。

 

「敵ではないわ……射撃場からの音よ」

「射撃場だって? どういう事だ」

「この鎮守府では艦娘達にライフルなどの小火器も扱えるように訓練しているの」

「そりゃまたどうして――ああ、外敵か」

「私達の敵は深海棲艦だけとは限らないわ」

 

 『私達の敵は深海棲艦とは限らない』その言葉がこの世界の状況を如実に表していた。この世界にはきっと鎮守府を占拠して身代金を要求するような愚か者や深海棲艦を崇拝する――艦娘を殺して深海棲艦を助けることで自分たちが助けてもらえると思っている狂信者達が居るのだろう。馬鹿馬鹿しく聞こえるが、人間は自分達の及ばない存在が現れると、それを神格化し媚びることで自分達を守ろうとする。放射性物質を崇め、通りかかった者全てにガンマ線銃で放射能を浴びせるチャイルド・オブ・アトムのように。戦争には女子供は無く、あるのは敵か味方だけとはよく言うが、それでも子供に人を撃たせることは避けるべきであろう。

 

「駆逐艦のような小さな子供も銃を撃つのか?」

「ええ、出来れば撃って欲しくないけれど、ただ死なせるわけにもいかないわ」

「……そうなったら私が最前線で戦おう。艦内に人間達が置いて行った武器がある」

「そう、優しいのね。それなりに期待はしているわ」

 

 後で艦内から武器を出しておこう。ちゃんと練習もしておかねば。再び歩き出した加賀さんについて行った先は、所狭しと並んだ軍艦、大きな鋼材を吊るすクレーンやドラム缶を重そうに運ぶ妖精さんなど中々にメルヘンな光景が広がっていた。その中央でスパナ片手に指揮を取っているのが、ピンクの髪の少女だ。

 

「ここがドックよ、艦の改装とか、新しい装備が欲しければ来るといいわ」

「なるほど、あの子がやってくれるのか? あのピンクの子が?」

「明石よ。彼女は艤装の改修が仕事ね」

 

 明石、そう呼ばれたピンクの子が此方に気付いて、大きな目を見開き「アイアンサイズさん! と、加賀さん」と言って駆け寄ってきた。

 

「貴方の艦を拝見しましたよアイアンサイズさん! あのキャノンや核融合炉……どれも素晴らしかったです! もし改修したくなったら持ってきて下さいね、出来るか分からないけど! いやあ、楽しみだなあ」

「……エネルギッシュだな、とても」

「そういう子なのよ。こと艤装に関してはね」

 

 目をキラキラと輝かせて子供のようにはしゃぐ明石。だが私には聞きたい事があった。

 

「一つ聞きたいんだが、艦が傷ついたら誰が修理してくれるのだ?」

「ああ、それは妖精さんがやってくれます。もしお急ぎならこの高速修復材であっと言う間に修理可能です!」

 

 そう言って明石が差し出したのは中に空色の液体が入ったバケツだった。しかしその液体は若干光を放っていた。思わず後ずさる。

 

「おい、放射性物質じゃないだろうな」

「とんでもない! 妖精さん由来の謎物質ですよ。艦の故障部分に掛ければあら不思議、すぐ直ります!」

「非科学的で非現実的だ」

「私達だって非科学的で非現実的でしょう?」

「ふむ……そう言われると」

 

 隣の加賀さんに言われ、考えを改める。そうだ、我々こそ非科学的を非現実的で包んで作った様な存在ではないか。一人物思いに耽っていると、加賀さんは明石と話を終わらせてドックから出ようとしていた。慌てて追いかける。先ほど出たばかりの玄関を潜り、二階へ上り、更に廊下を歩き一番端の部屋のドアの前で止まった。加賀さんは懐から鍵を取り出し、開けた。机やベットに戸棚が一つあるだけで後は波止場が見える窓だけだ。

 

「ここがあなたの部屋ね。自由に使って貰って構わないわ、鍵は個人管理だからなくさない様に。無くしたら反省文を書かないといけないから注意して」

 

 いい部屋だと思った。何がいいって、私の艦が見えるところがいい。

 

「いい部屋だな。ありがとう、ここは元々誰かの部屋だったのか?」

「いいえ、元々空き部屋よ。他にも幾つかあるわ。気に入ったかしら?」

「ああ、とても。提督に感謝を伝えておいてくれ。それと、好きにしていいんだよな?」

「常識の範囲内でね」

「分かった」

 

 後から艦内の荷物を幾つかこっちに持ってきておこう。折角戸棚があるんだから、何か飾らないと勿体ない。

 

「じゃあ、私はこれで。貴方も今日はもう自由よ……ああ、ここは駆逐艦達の部屋が多いから少し煩いかも」

「子供は好きだ。だが……なぜ私が駆逐艦達と一緒に?」

「あなたはフリゲート艦でしょう。それじゃあ、また」

 

 そう言うと加賀さんは扉を閉めて去っていった。確かに、確かに私はフリゲートだが、少なくとも子供では無い。女児とはいえ女性だ、どうも気を使って生活せねばいかんようだ。女性だらけの軍隊に入る時点で覚悟はしていたが。

 

 私は窓に近づいて窓を開け放った、海風が心地よい。どうも一先ずは受け入れられた様に見える。だが軍隊で真に受け入れられるには、戦場でお互いの背を預けるに値すると思われなければいけない。私は前の世界では歴戦の戦士だったが、この世界では新兵だ。今はただ、チャンスを待つ時だ。戦いで力を示すチャンスを。そう考えていたら、地面から声が聞こえた。

 

「おーい、アイアンサイズ! 昼飯食おうぜ! 降りてこーい!」

 

 どうやら天龍は私を食堂に連れて行ってくれるらしい。時計を見ると後数分で十二時に差し掛かる時だった。「ああ、今行くよ!」と返事を返す。さあ、まずは腹ごしらえだ。加賀さんが言っていた和食を食べてみよう。和食への期待を抱きながら部屋を出る私に、心地よい風が歓迎するように吹いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




元ネタとか

チャイルド・オブ・アトム
前々作、Fallout3ではちょっと頭のネジが外れた人畜無害な集団だったのにFallout4で急に凶暴化した人たち。彼らが持っているガンマ線銃に被弾すると高い放射能ダメージを食らうので防護スーツを着込んで防ごうとするとヌカ・グレネードで爆殺される。頭に来ますよ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Council of war

ALSIEL様、アクシオス様、さーくるぷりんと様、評価ありがとうございます!


 

私の朝は早い。総員起こしが掛かる一時間前、つまり午前五時に起床して、私の一日が始まる。

 顔を洗って歯を磨き、酒保でまとめ買いしておいたゼリー状の栄養食品を一つ飲んでから日課のトレーニングを始める。

 ドックに向かい様々な筋力トレーニングを行ってから、まだ暗い鎮守府を三周する。筋トレの後にランニングするのは有酸素運動を取り入れる事でホルモンが何とかで筋肉の回復が促される――らしいという事を大鳳から聞いたからだ。トレーニング好きと話題の彼女が言うのだからきっと正しいのだろう。最初の頃は鎮守府を一周しただけで死にそうなほど疲れて酷い筋肉痛に悩まされた物だが、今は三周出来る程の体力が付いた。まあ、早朝からトレーニングしている艦娘達――不知火や朝潮など――は息も絶え絶えの私を尻目にさっさと先に行ってしまうのだが。私が彼女達程の体力を持つのはまだまだ先だろう。

 

 どうにかランニングを終えた私は射撃練習を始める。使用する銃器は人間達が艦内に残していった物だ。

 加賀さんと話した後、チャールズ達と一緒に艦内を整理したのだが、実に様々な物が出て来た。

 200年以上前のポークビーンズの缶詰やヌカ・コーラ、大量のジャンク、ハンティングライフルにレーザーライフル、10mmピストルを初めとする様々な銃器。そして携帯型核弾頭射出装置――ヌカランチャーとその弾薬ミニ・ニュークもある程度纏まった数で発見した。

 ポークビーンズやヌカ・コーラはそれ自体が放射能を帯びているお陰でまだ食べれるため艦内に保存してあるし、一般的な銃器は自衛に使う腹積もりだが、ヌカランチャーとミニ・ニュークの扱いには困った。

 

 この世界でそれを自衛に使うには聊かオーバーキルであった為だ。もしこの世界にスーパーミュータント・ベヒモスやマイアラーククイーンが存在したら話は別だろうがそんな事は有りえないし、有り得たとしたらそれこそ世紀末だ。

 一度は処分も考えたが、チャールズを初めとする乗組員たちの発言で“最終兵器”として用いる事にした。仮に処分するにしてもミニ・ニュークを分解して無力化するのはとてつもない危険と困難を伴っただろうから、元あった場所に戻すのが正解だっただろう。

 

 銃の使い方なんて知らなかった私だが、これまた人間達の残した『銃と弾丸』と言う雑誌のお陰で大体は掴むことが出来た。

 銃と弾丸と言えば部数だけ多い三流雑誌とはよく聞く評価だが、基本的な事は抑えている。それに部数が多いお陰で艦内に最終巻を除く全巻があったのだろう。

 一人私はサプレッサー付きハンティングライフルを手に射撃ブースに立ち、ハンティングライフルを立って構えた。標的は200m先のマンターゲット。リアサイトとフロントサイトを一直線に重ね、狙うは胴体の真ん中。呼吸のリズムを一定にし、手ブレが収まった一瞬を狙ってトリガーを絞った。

 強い反動とサプレッサー越しでなお喧しい銃声を残して飛び出した308口径弾は、狙いからやや外れ、胴体の右下に着弾した。

 

「む、撃ち損ねたか」

「肝臓に当たりましたね、お見事です」

 

 突然の声に驚き横を向くと、そこに居たのは不知火だった。

 

「不知火か、おはよう」

「ええ、おはようございます」

 

 先ほどまで走っていたであろう不知火は流れる汗を肩にかけたタオルで拭いながら答えた。彼女は私より速く多く走っていたが、まだまだ余裕そうだ。

 

「肝臓か、奴は死んだかな?」

「即死はせずとも数分で死ぬでしょう」

「そうか、まあ最初に比べれば大分マシにはなったな」

 

 練習開始当初は全く当たらなかったのだ。どんなに自分で狙いを付けても当たらなかったので困っていた所、隣で練習していた不知火が私は“ガク引き”をしていると教えてくれた。

 ガク引きとは、トリガーを引く力が強すぎたり、勢いがありすぎるために銃口がブレて狙いが逸れる現象だそうだ。言われて確かに私は勢いよくトリガーを引いていたと自覚した。

 

 ハンティングライフルのボルトを引いて次発を装填した所で、スピーカーからラッパの音が響く。総員起こしの合図、午前六時を告げる音だ。

 

「おや、総員起こしが掛かりましたね、では不知火はここで」

「じゃあまたな」

「はい」

 

 そう言うと不知火は鎮守府へと歩いて行った。きっと彼女の姉妹艦達を起こしてそれから一緒に食堂に行くのだろう。私も食堂に急がなければ。今から朝食を求めた艦娘達がこぞってやてくるだろう、より早く行きより良い席を確保しなければ。この前は少し遅れたせいで北上と言う艦娘と相席になり、食べている間ずっと出所不明の殺気を背に受け続けたのだ。北上は相席を嫌がってはおらず、むしろ歓迎してくれたが私は余りのプレッシャーに食べた物が飛び出しそうだった。しかしあの殺気は一体誰が……。

 

 私は汗を流すため工廠へ向かった。ここに私専用のシャワースペースがあるのだ。

 この鎮守府に風呂は一つしか無く、私が風呂を利用できる時間はあらかじめ設定されている。普段ならそれで問題ないが、こういう少し汗を流したいだけの時には非常に困るので提督に相談したところ明石に命じて工廠の隅に小さいシャワースペースを作ってくれたのだ。

 

 そこで汗を流し、艦長服に着替える。

 この生活が始まって一週間になる。私がこの鎮守府に来て一週間だ。一週間という時間は実に短い物で、どうにか此処に適応しようとしている内に六日が過ぎ去っていた。

 

 ハンティングライフルを自室に戻し、その足で食堂に向かう。

 出来るだけ急いで来たつもりだったが、既に多くの席が埋まっていた。取り敢えず朝食セットの食券を選択し、列に並ぶ。厨房では給糧艦、間宮と多くの妖精さん達が忙しそうに活動していた。

 やがて私の番になり、妖精さんが朝食セットのトレーを差し出してくれた。受け取って一言礼を言って、席を探すため辺りを見回す。すると窓際の席が一つ空いていた、その席に向かい座る。

 

 朝食のメニューはご飯に味噌汁、焼き魚、卵焼き、ほうれん草のお浸し、そして――くそったれの納豆。

 私はこの世界で初めて和食を食べた――と言うより食物を始めて口にした――が、思いの外美味しい物だった。艦内で食べたポークビーンズやマカロニ&チーズに比べると味は薄いが、健康的だ。なんとなくアメリカの食べ物の方がしっくりくるのは私がアメリカ艦だからだろうが、ああいった味付けの濃い食べ物は胸やけがするのだ。私も若くはないという事だろう。

 だが納豆は駄目だ。臭いしネバネバするし……腐ったコーヒー豆みたいだ。そもそもどうも私はネバネバした食べ物が苦手らしい。オクラも山芋も駄目だった。

 

「相席、いいでしょうか?」

 

 納豆パックを隅に避け、焼き魚に手を付けようと慣れぬ箸を手に持った時、静かな声が掛けられた。聞き覚えのある声だ。声を掛けてきた人物にある程度の目星を付けながら振り向くと、やはり予想は的中していた。

 透き通るような銀髪に、綺麗な金色を湛えた瞳。そして正規空母、赤城に酷似した制服。振り返った先の人物は翔鶴型正規空母一番艦『翔鶴』その人だった。後ろには二番艦、瑞鶴の姿もあった。

 

「ああ、どうぞ座って」

「ありがとうございます」

 

 私に礼を言って席に座る翔鶴と瑞鶴。ふと辺りを見回すと、確かに席は全て埋まっていた。この食堂は全ての艦娘が同時に食事を摂る事は想定しておらず、全員分の席は無いのだ。つまり必然的に混雑時には誰かと相席することになる。他の艦娘達は大抵姉妹艦がいるが私には居ないので、相席を探す者の目に付きやすいのだろう。見回している内に私は一航戦の二人を発見した。そこである考え意地の悪いが思い浮かび、私はそのまま口にした。

 

「瑞鶴、あそこに一航戦の先輩方が居るぞ。彼女らと食べるべきじゃないか?」

「一航戦ですって!? 冗談じゃないわ!」

「……瑞鶴」

 

 激しく反発する瑞鶴と静かにそれを窘める翔鶴。私がこんな冗談を言ったのは瑞鶴達とはそれなりに友好的な関係を築けていると思ったからだ。それに彼女と加賀さんの掛け合いは見ていて微笑ましい。お互い本気で憎んでいはいないのに、まるで本当に嫌っている様な素振りを見せるのだ。瑞鶴も加賀さんも、心の奥底ではお互いを認めている事を私は知っている。

 食事を開始しようとした私は、一つの障害を思い出した。

 

「私の納豆を食べてくれないか?」

「何? アイアンサイズさん納豆食べられないの?」

「残念だが」

「ふーん。じゃあ貰うね」

「恩に着るよ」

 

 納豆のパックを二つ重ねる瑞鶴。目下の障害を片付けた私は漸く食事を始めた。

 

 

 

 

 

「それでね! 加賀さんったら酷いんだよ!」

「瑞鶴、叱られるわよ」

「やっぱりなんだかんだ言って仲いいんじゃないか?」

 

 食事を終えた私達はまだ食堂に居た。瑞鶴の加賀さんトークを聞いていたのだ。瑞鶴は何かと加賀さんの事を口にする。やはり本当は仲がいいのだろう。

 

「誰が加賀さんなんかと!」

「瑞鶴、後ろ」

「――呼んだかしら、五航戦」

 

 ほら、言わんこっちゃない。そこそこの声量で話していたからか、加賀さんが瑞鶴の後ろに恐ろし気な雰囲気を纏い立っていた。瑞鶴の顔が引きつり、頬に汗が伝う。

 

「うげっ……加賀さん……」

「何の用かしら、瑞鶴」

「謝りなさい、瑞鶴」

「しょ、翔鶴姉ぇ~」

 

 そろそろ仲裁に入ろうかとした時、スピーカーから音が鳴った。緊急的な連絡の合図だった。

 

「食事中失礼します。艦娘の呼び出しです、陸奥、加賀、古鷹、川内、不知火、USSコンスティチューションの六名は至急提督室にお越しください。繰り返します――」

 

 大淀の声によって呼ばれた名前の中には、私の名もあった。何だろうか、問題を起こした覚えは無いが――。

 

「不味い事でもしたかな?」

「いいえ、恐らく――行きましょう」

 

 何か言いかけた事を取りやめたように見えたが、加賀さんは先に行ってしまう。翔鶴と瑞鶴に別れを言い、トレーを返却口に戻して後を追う。提督室に向かう途中で一人の軽巡に会った。噂に聞くニンジャ装束の様な制服を着た、川内型軽巡一番艦『川内』だ。夜になるとハイになる彼女も提督に呼ばれた一人だった。

 

「あっ、アイアンサイズ」

「ニン……川内か」

「ねえ今ニンジャって言いかけた?」

「気のせいだろう」

 

 執務室の前には私と川内以外の全員が居た。どうやら待っていてくれたらしい。

 先頭の加賀さんがドアをノックし「入れ」と言う声を聞きドアを開けた。提督はいつもの様に高級そうな椅子にゆったり座っていた。大淀も傍らに立っている。

 

「来たか、朝からすまんな」

「別に構わないが、何の用だ?」

「ああ、お前は初めてだったか……演習の事だ」

 

 演習か、なるほど。話が見えたぞ。

 

「明後日横須賀鎮守府と演習を行うことになった。旗艦は陸奥に任せる」

「あらあら、随分急じゃない?」

「今回は急に決まった。横須賀鎮守府はアイアンサイズの性能を見たいんだろう」

 

 思った通りだ。横須賀鎮守府は演習で私の力を図りたいのだ。そしてそれは提督もだろう。

 

「なるほど……しかし、聊か急だな。私はあの時以来艦を動かしていないのだぞ」

「じゃあ棄権するか?」

「馬鹿言え、やるさ」

「そう来なくてはな」

 

 提督はニヤリと笑うと一枚のクリップボードを陸奥に投げ渡した。陸奥はそれを見て「あらあら、相手は長門が旗艦なの」と言った。

 

「明後日までに作戦を決めておけ、以上で解散とする」

 

 全員で提督室の外に出て、一先ず集まった。やはり急だったようで、皆困惑しているようだった。その中で、加賀さんが切り出した。

 

「……取り敢えず、作戦会議は今夜、鳳翔さんの店でいいかしら?」

「賛成ね」

「鳳翔さんのお店ですか、楽しみです」

「おいおい、酒を飲みながら会議を?」

「嫌なら、場所を改める?」

「……いや、やっぱいい。今夜だな」

 

 彼女の店は魅力的なのだ。

 

 

 

 

 軽空母『鳳翔』人類と艦娘が初めて接触した戦いの大和の随伴艦であり、空母の母とも呼べる存在。瑞鶴ですら鳳翔さんの前では加賀さんとの喧嘩は控えるのだ。そんな彼女は現在一線を退き、呉鎮守府の敷地の一部で小さな居酒屋を営んでいる。提供される料理と上質な酒は大変な評判を呼び、他の鎮守府から来た将校は必ずと言っていい程寄るそうだ。当然予約なしには料理を楽しめないが、それは人間の話だ。艦娘は予約なしでも入店出来る。それは鳳翔さんの温情によるものだろう。ありがとう鳳翔さん! こういう事があると艦息になってよかったと思う物だ。

 

 その日の仕事を終えた我々は、食堂にも寄らずに居酒屋鳳翔に直行した。加賀さんが予約していたらしく、今日は貸し切りらしい。

 

 店に入るとカウンターには既に全員分の箸と小皿が置かれていた。各自適当に座り、私は真ん中の席、加賀さんと古鷹の間に座った。「ビールでいいかしら?」と言う加賀さんの言葉に全員が同意し、不知火以外にビールが出された。不知火はオレンジジュースだ。

 

「貴方がアイアンサイズさんですね。お会いできて光栄です」

「こちらこそ、世界初の航空母艦とお会いできて光栄です」

「ふふっ、もう一線は退いているんですよ。今お通しを出しますね」

 

 そう言ってキュウリを切り出す鳳翔さん。彼女は一線を退いたと言っているが、それでもまだ確かな実力を感じる。やはり世界初の航空母艦は伊達では無いのだ。

 お通しはキュウリともろみ味噌だった。もろみ味噌が濃厚で食が進む。日本人は発酵食品が好きらしい。日本のビールも良い物だ。私はビールと言えばグインネットしか知らないのだが、日本のビールがこうも美味しいと思っていなかった。

 

「それで、作戦ね。アイアンサイズはそもそも演習のルールは分かる?」

「分からん」

 

 古鷹の横に座る陸奥が聞いて来た。素直に分からんと言うと、彼女は「じゃ、簡単に説明するわ」と言った。

 彼女の話によれば、演習は月に一回行われ、昼の十二時から翌日の朝八時まで行われる。ルールは単純で、相手の艦を全て大破させるか、時間内、つまり翌日の朝八時までに生き残っていた艦の数で決まる。当然、戦闘中の緊急修復材は禁止。使用する砲弾は妖精さん謹製の模擬弾で、これがすぐれものらしい。なんでも実際の砲弾と同じ性能を示し、同じ損傷を与えるが、艦が大破に至れば威力を無くそうだ。原理はさっぱり分からんが、そう言う物だと言っていた。大まかな指揮は提督が取るが、現場の指揮は旗艦が取る。これは実戦と同じだ。

 

「相手の編成は、旗艦長門、飛龍、蒼龍、北上、島風、呂500」

「うわあ……本気ですね」

 

 古鷹がゲンナリとした声で漏らす。確かに長門に飛龍と蒼龍、その他も超一級だ。しかし、呂500と言うのは?

 

「呂500とは? 聞いたことが無いが」

「ドイツのU-511を日本海軍式に改造した艦娘よ。彼女の魚雷は蛇行するから注意してね」

「えぇ……いいのかそれは」

「いいのよ」

 

 蛇行する魚雷とは、なんとまあ……。一人考え込んでいると陸奥が持ってきていた鞄から小さな箱のような物を取り出した。その箱から光が放たれ、空中で海を形成した。その海には六隻の艦が浮いている。ホログラムか。

 

「恐らく、相手は部隊を二つに分けてくるわ。演習の海域は西は何もなく、東に小さな島が密集している。きっと水雷戦隊はここを使う」

「戦艦と水雷戦隊か」

「そうね、アイアンサイズ、対潜装備は?」

「無い、搭載不能だ」

「でしたら不知火の出番ですね」

 

 ホログラム上で私と川内、不知火の艦が別動隊に振り分けられた。我々が水雷戦隊に対応するという事か。

 

「私と長門が撃ち合って、加賀と蒼龍、飛龍が航空戦。古鷹は私達の援護を」

「臨機応変ですか」

「そうね、よろしく頼むわ」

「加賀さん一人で空母二隻を相手取るのか?」

「みんな優秀な子達ですから」

「あらあら、加賀は日本海軍でもトップクラスの空母なのよ」

「鎧袖一触です……鳳翔さん、日本酒を」

 

 そう言って鳳翔さんから日本酒を受け取る加賀さん。しかし、私とて対空に自信はある。それに、きっと陸奥はある事を忘れている。

 

「陸奥、私は対空射撃にレーザーを使えるし、大砲は最新鋭のガウスキャノンだ。空も飛べるぞ」

「あっ……」

 

 陸奥は忘れていたと言うような素振りを見せた。無理もないが。空飛ぶ艦など前代未聞だろう。陸奥はホログラム上の私を別動隊から戻し、加賀の横に置いた。

 

「なら、遊撃隊ね。呼んだら飛んで来て」

「文字通りそうしよう」

「本当に飛ぶんですね……」

「明後日を楽しみにしてくれ」

 

 信じられない、と言外に漏らす古鷹。

 陸奥は続けて言った。 

 

「そして、きっと昼だけでは決着がつかないわ」

「!」

 

 川内が首が折れそうな勢いで陸奥を見た。その眼はジャンキーの様に爛々と輝いている。ふと聞こえたため息は、きっと全員の物だろう。

 

「やったぁー! 待ちに待った、夜戦だ-!」

「古鷹も、がんばります!」

 

 川内はまさに狂った様な喜び方だが、古鷹もやる気なのは意外だった。そう言えば彼女は探照灯の扱いに長けていたはずだ。だが、夜戦での探照灯の使用は大きな危険を伴う。暗闇でライトを点けるとどうなる? 簡単だ。馬鹿みたいに目立つ。

 

「取り敢えずの所はこんな所でしょう。せっかく鳳翔さんが貸し切りにしてくれたのだから、食事を楽しむべきだと思うわ……鳳翔さん、手羽先を」

 

 加賀さんの言葉で夕食を食べていない事を思い出した。自覚した途端に腹が減ってくる。せっかく人の体を得たのだ、食事を楽しむのも良いだろう。私も日本酒とやらを飲んでみよう、そこそこ酒に強い事は実証済みだ。結局、夜遅くまで会議は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




元ネタとか注釈

・ヌカ・コーラ
 放射能入りコーラ。なお核戦争の影響では無く、製造過程で意図的に入れられている。ちなみにコーラの製造過程や謎にまつわるジョークはコークロアと言う。

・納豆
 大豆を納豆菌によって発行させて作る発酵食品。
 納豆という語句が最初に確認できるのは藤原明衡にによって書かれた『新猿楽記』

・グインネット
 要はビール。元ネタはサミュエルアダムス、日本でも買える。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Military exercise

Гарри様、larana様、ばれっち様、評価ありがとうございます!

更新が遅れて申し訳ないです。




「第一艦隊は指定された位置につき、開始時間まで待機してください」

 

 大淀の声を無線越しに聞き、指定された位置に向かう。今日は演習当日、横須賀鎮守府との演習の日だ。幸いにも天候には恵まれ、強烈な日光が空から照り付けている。七月の太陽は強烈だ。日焼け止めを塗ってきて良かった。今チャールズやプロテクトロン達に触れたら火傷しそうだ。彼らの装甲でベーコンが焼けるんじゃないかな。

 

 我々は指定位置に到着し、単縦陣で開始時間を待つ。クソ、それにしても熱いな。艦長帽があるだけマシだろうか、私はペットボトルの水を飲んだ。汗を拭っていると、無線が開き大淀の声が聞こえる。

 

「横須賀鎮守府第一艦隊が指定位置に到達しました。三分後に演習を開始します、準備をお願いします」

 

 私は無線を開いた。相手は陸奥だ。

 

「陸奥、作戦は?」

「プランAでよろしく。指示は追って出すわ、あくまで流動的にね」

「プランA……分かった」

「皆もいい? もう始まるわよ!」

 

 陸奥の発破に他の艦隊員も同意を返す。我らがロボット軍団もやる気に満ち溢れている様だ。久し振りの戦いを前に興奮しているのか、チャールズに至ってはまだ何もしていないのにフュージョン・コアが発熱し始めていた。ただでさえクソ暑い中セントリーボット特有の猛烈な発熱のお陰でとんでもなく熱い。飲みかけの水を掛けてやると一瞬で音を立てて蒸発した。

 そして大淀のカウントダウンが始まる。十秒から始まったそれは、あっという間に五秒になり、そして「三、二、一、演習開始! 作戦行動を許可します!」と言う声を境に、双方の艦隊が動き出した。

 

「加賀、索敵お願い」

「ここは譲れません」

 

 加賀の甲板から航空機が飛び立つ、あれは彩雲か、我々はMyrtと呼んでいたな。『我ニ追イツク敵機ナシ』で有名な彩雲らしく、高速で水平線へと飛んで行った。「敵艦隊見ゆ、発艦始め」彩雲が敵艦隊を発見したらしく、加賀から次々と航空機が発艦する。恐らく相手も此方の位置を捉えたであろう。航空戦が始まるはずだ。彩雲から送られたデータをターミナルの画面で確認する。敵艦隊は部隊を二つに分けたらしい、長門、飛龍、蒼龍、の部隊と北上、島風、U-511の部隊に分かれていた。

 

「アイアンサイズと不知火と川内は島風の方に向かって!」

「了解だ」

「分かりました」

「了解!」

 

 陸奥の指示で行動を開始する。「第一、第二ジェットエンジンに火を入れろ、面舵一杯!」叫んで操舵輪を右に回す。コンスティチューションは最高で80ノット近く出せるが、それでは不知火を置いて行ってしまう。単独行動は危険だ。海図で言えば右側――小島や岩礁が密集した海域に近づいた頃、遠くから大きな砲撃音が聞こえた。陸奥と長門が撃ち合っているのか。魚雷や艦影を見逃さぬようにレーダーに注視する。不知火も守る必要があった。不知火しか対潜装備を搭載していないので、彼女がやられれば潜水艦に手が出せなくなる。チャールズにレーダーを任せていると、彼が突然叫んだ。

 

「11時の方向8キロに魚雷複数検知!……ロング・ランスです!」

「不知火と川内に連絡だ!」

 

 私は素早くターミナルを確認した。魚雷を確認するためだ。魚雷は諸島の隙間を縫ってコンスティチューションに向かって波の様に向かって来ていた。こんな芸当が出来る艦は北上しかいないだろう。魚雷を効率的に避けるには魚雷に艦首を向ける事が最善だ。魚雷の隙間を通過するのである。レーダー上の魚雷速度とコンスティチューションの速度を脳内で計算し、指示を出す。

 

「速度落とせ! 取り舵を切るぞ!」

 

 操舵輪を左に切り、狙うは魚雷の隙間。木製の船体に無理矢理詰め込まれた重量兵器のお陰で重くなった船体をジェットエンジンのパワーで無理矢理左に切る。速度を落としドリフト気味に曲がったコンスティチューションの傍を魚雷が青白い雷跡を残し通過していった。あれはただの魚雷じゃない、ロング・ランス――酸素魚雷だ。その特徴はなんといっても航跡の視認し辛さだろう。一般的な艦船の積んでいる魚雷は酸素を放出する為、長大な泡の航跡が視認出来るが、酸素魚雷はそれを殆ど残さない。凄まじい威力と速さと長射程を誇る超兵器。それが酸素魚雷だ。不知火はコンスティチューションについて来ていたが、川内は停止して島を盾にしたようだ。

 

 誰も被害が無くて何よりだが、やられっぱなしという訳にはいかない。レーダーで北上と島風の位置は把握出来ている。北上は諸島の外側12km、島風は此方から見て北東に21kmを航行している。北上が砲撃してこないのは此方の姿が島で見えないからか、だが呂500の居場所は不明だ。これは不味い。戦闘中に例の魚雷を撃たれれば厄介だ。

 

「不知火、呂500の反応は?」

「捜索中ですが不明です」

「分かった、引き続き頼む」

「で、どうする? アイアンサイズ」

 

 で、どうする? とは川内の弁だが、どうすると言われてもな……この艦隊の旗艦は私ではないのだが、何も提案しないというのも悪い。

 

「……島風が私、北上が君、呂500に不知火という形で一対一に持ち込むのはどうだろうか」

「……ふーん、各自で戦うって事か、いいかもね。不知火はどう?」

「問題ありません。見つけ出して倒すまでです」

 

 どうやら川内も不知火もやる気らしい。ならそれでやろう、と発言しようとした所、無線が割り込んだ。「報告します、陸奥、第三砲塔大破! 横須賀鎮守府、蒼龍中破!」大淀の声だ。彼女は戦況が変われば逐一報告する事になっている。しかし、陸奥の第三砲塔か。どうやら彼女の第三砲塔はやたらと不運な目に会うらしいな。

 

「皆聞いたな? 急いで終わらせて援護に向かった方がよさそうだ」

「タイマンで倒せって事でしょ? 任せてよ!」

「不知火もやれます」

「よし、やるぞ! 検討を祈る!」

 

 ジェットエンジンを加速させ、島風に向かう。彼女らも各々の目標に向かっている様だ。さて、島風は駆逐艦。駆逐艦で最も警戒すべきは酸素魚雷だ。そこで我々が取るべき戦術は徹底したアウトレンジだ。島風が搭載している砲は12.7cm連装砲だ。射程は精々18km程度だろう。対するコンスティチューションのガウスキャノンの射程は最大チャージで200kmだ。実際には仰角が取れず、飛行して高度を上げる以外の方法では最大射程を発揮できないのだが、少なくとも島風に200km先から砲撃する必要はない。ただ18kmより外から撃てばいいのだ。ガウスキャノンの利点は圧倒的射程と圧倒的初速。欠点は遠くを狙うためにはチャージが必要な事と、砲身が激しく摩耗する事と、撃つたびに砲身の冷却が必要な事だ。一度撃てば砲身が冷えるまで撃てない、つまり撃ち損ねる事が出来ない。

 

「ジェットエンジンの出力を上げろ、島風を仕留めるぞ!」

「待ってました! やっとガウスキャノンが撃てますな!」

 

 島風は、小島が密集している海域のほぼ外側――殆ど遮る物が無い場所を航行している。コンスティチューションも島風を右舷で狙える位置に着き、単眼鏡を取り出して覗いた。視界の中央に映る艦は島風。レーダーによれば22km先だ。やるなら今しかない。恐らく島風は此方が砲撃すれば小島に隠れようとするはずだ。

 

「不知火です! 呂500を捉えました、仕掛けます!」

「此方は島風に仕掛ける、健闘を祈る!」

「こっちはもう始めてるから!」

 

 全員が目標との交戦を始めたようだ。私も負けられない。22km先の島風は米粒のような小ささで、私が砲撃しようものならかすりもしないだろうが、プロテクトロン達には優秀なFCSが搭載されている。彼らなら捕捉できるはずだ。

 

「敵は右舷だ! よく狙え!」

 

 私の射撃命令とほぼ同時に右舷のガウスキャノンが火を噴いた。独特な発射音を残して飛翔したプロジェクタイルは四発。三発は島風の力場を掠め、一発はほぼ直撃した。目に見えて力場が弱くなるが、島風は慌てた様に小島が密集している海域に引き返していく。密かに恐れていた事態だ。コンスティチューションに砲塔は無く、砲撃しようと思ったら横っ腹を見せるしかないのだ。逃げられたら追い付いて並走するか、二門の艦首砲で攻撃するしかない。

 

「報告します、古鷹、大破! 横須賀鎮守府、長門小破! 演習海域であと一時間弱で日が沈む事に留意下さい!」

 

 あちらも拮抗した戦闘が続いているようだが、海域ではもう日が沈むそうだ。此方の古鷹が大破してしまった。せめて夜戦までに駆逐艦と軽巡は沈めないと不味いだろう。夜の海は殆ど何も見えない暗さになる。そこは駆逐や軽巡の独壇場だ。作戦を練っていると、加賀から無線が通じた。「アイアンサイズ、蒼龍の着艦できなくなった艦載機がそっちに向かっているわ、追撃機を出しますが、念のため警戒願います」成る程、蒼龍が中破して着艦出来なくなった艦載機が燃料も切れかけた状態で捨て身の攻撃を仕掛けに来ている……空母は良い物だな、コンスティチューションも艦載機を飛ばせれば島を気にせず攻撃できるのだが。残念ながらコンスティチューションに艦載機を置くようなスペースは――艦載機? そうだ!

 

「加賀、追撃機は必要ない」

「……どういう事なの?」

「コンスティチューションを飛ばして島風を追いつつ防空する。君の艦載機も巻き込んでしまうかもしれない」

「そう、分かったわ」

 

 艦載機の無いコンスティチューションが艦載機の様に攻撃する方法、それは――私自身が空を飛ぶ事だ。私としたことが、今の今までコンスティチューションが飛べる事を忘れていた。空を飛ぶことでベルチバードの様に、戦争映画のAC130ガンシップの様に上空から撃ち下す事が出来る。

 

「第1から第4までの全ジェットエンジンに火を入れろ、飛ぶぞ!」

「アイアイサー! 航海士君、核融合炉を制御しろ!」

 

 空を飛ぶために必要な核融合炉の制御を行うのは我らが航海士君だ。ボストン警察使用のプロテクトロンである彼は、艦内に入った生物を何が何でも殺そうとするちょっと危ない奴だが、腕は確かだ。ターミナルに核融合炉から各ジェットエンジンにエネルギーが振り割られていく様子が映っている。

 

「ジェットエンジン、サイダイコウリツ、ヒコウカノウ」

「行け!」

「テンカシマス」

 

 航海士君の合図でコンスティチューションは大空へと漕ぎ出した。海面を遥か後方へ置き去りに、ぐんぐんと加速していく。猛烈な風に帽子が吹き飛ばされぬよう必死に手で押さえる。目標の高度に達した所で、加速が緩やかになり、風も落ち着きを見せていた。さて、狙うべき目標の島風はここからはっきり見える。

 

「島風が見えたぞ、右舷に傾斜を付けろ! 右回りで旋回する!」

「艦長、80㎞先から蒼龍航空隊が接近しています!」

「タレットに相手をさせろ、手の空いたプロテクトロンを装填手に回せ!」

 

 勝負は蒼龍の航空隊が攻撃を仕掛けてくるまでだ。それまでに島風を倒さなければならない。島風を中心に右旋回を行い、次々とガウスキャノンで砲撃を仕掛ける。島から島へと逃げ惑う島風だが、コンスティチューションの前には無力だ。ガウスキャノンによって放たれるプロジェクタイルは電撃の尾を引きながら飛翔するので、海からは島風に雷が降り注いでいる様に見えるだろう。プロジェクタイルは次々と島風の周囲ないし艦体に直撃し、ついに島風はもうもうと煙を上げながら停止した。あれで沈まないのだから不思議だ。

 

「報告します、横須賀鎮守府、島風大破!」

「Yes! Nice kill!」

「艦長、蒼龍航空隊が仕掛けてきます!」

「傾斜復元、高度落とせ!」

 

 左を向くと、空に無数の小さな黒い影のような物が浮いていた。あれが蒼龍の航空隊だろう。目視できるという事は、もうすぐ此処まで到達するという事だ。航空機と航空戦を行うには、コンスティチューションを航空機より下に付ける事がベストだ。コンスティチューションは当然だが喫水線下に対空兵装はついちゃいないからだ。

 

「報告します、川内中破! 横須賀鎮守府、呂500大破! 北上、中破!」

「流石だ、不知火、川内」

「そちらも見事でした」

「なんか皮肉に聞こえる!」

「とんでもない」

 

 不知火と呂500の戦いの決着は、不知火の勝利という形で終わったようだ。川内はほぼ相打ちという形でお互い中破だ。つまりお互いの魚雷発射管を潰したという事になる。最も北上はあれだけ魚雷発射管があるので生きている物もあるかもしれないが。

 

「艦長、艦載機が8kmまで接近してきました! プラズマキャノン発射可能です!」

「許可する、発射後艦載機に艦首を向け突入するぞ!」

 

 左舷側のプラズマキャノンがプラズマを打ち出し、8km先の空にプラズマの華を咲かせた。黒い影の幾つかはプラズマに飲まれ墜落し、生き残りは散開した。プラズマキャノンの有効射程は8kmだ。それ以上はプラズマが減衰してしまい有効なダメージを与えることが出来ないが、有効射程圏内であれば絶大な威力を発揮する。装甲に当たれば浸食する様に溶かし、空に撃てば三式弾の様に爆発する。

 

「取り舵一杯! チャールズ、プロテクトロン、対空攻撃準備!」

「アイアイサー!」

「ホアント ホウシニ ツトメマス」

 

 艦載機とコンスティチューションの距離が近づき、甲板上に配置された様々なタレットが独特のビープ音を鳴らし、艦載機群へ砲塔を向ける。装填手のプロテクトロンは予備弾倉を持ってタレットの後ろに待機し、他のプロテクトロン達は両手のレーザーガンを艦載機群に向けた。そのまま両者は近づき、遂に交戦距離に突入した。

 

「来るぞ!」

 

 コンスティチューションを包み込む様に編隊を展開した艦載機たちにタレットが一斉に射撃を始めた。マシンガンタレットMk.Ⅶから放たれた炸裂弾が編隊を散らし、ヘビーレーザータレットが正確に撃ちぬいていく。艦載機たちは見る見るうちにその数を減らしていくが、彼らも黙ってやられている訳では無かった。明らかに、動きが違う艦載機が居る。銀色のゼロで、後部に二本の白い帯が付いている。エース機か。彼が率いる部隊は巧みに弾幕を避け、機銃でコンスティチューションの力場を確実に削っていく。

 

「力場が約30%減衰!」

「ゼロだ! 弾幕薄いぞ! 砲撃手、何やってる!」

 

 クソ、流石はゼロだ。いやらしい動きをしてくれる。ゼロ戦。大戦で我々を震え上がらせた傑作戦闘機だ。当時考えられない程の長大な航続力と、常識はずれの格闘力を持った正に日本の象徴たる戦闘機だ。アメリカ国民でも名前くらい聞いたことがあるだろう。だが、弱点もある。ロール性能が低い事だ。リロードを済ませたタレットが再び一斉射を始め、コンスティチューションの周囲を飛び回る艦載機を残らず叩き落とした。

 

 当面の危機は去った。降下して、他の艦の援護に向かおうと考えた時、何かイヤな物を感じた。悪魔に背骨を舐められたような、危険をギリギリで回避した後に訪れる頬がチリつく感じを混ぜた感覚だった。その感覚に違和を覚えた直後――コンスティチューションを激しい振動が襲った。

 

「り、力場がダウン! 1番ジェットエンジン大破!」

「報告します! コンスティチューション、中破! 不知火、大破!」

 

 コンスティチューションは高度を下げ、否応なく海面に叩きつけられた。何体かのプロテクトロンが転倒し、甲板上を滑っていく。何をされたかは分かる、攻撃だ。分からないのは、誰がそれをしたかという事だ。

 

「ダメコン急げ! 誰がやった!?」

「分かりません!」

「――やられた! 長門の長距離砲撃よ、阻止できなかった!」

 

 答えは陸奥がくれた、長門だ。長門が空を飛ぶコンスティチューションと不知火を撃ち抜いたのだ。30km近い長距離から、しかも片方は飛んでいるというのに。私は、長門の、日本海軍を支え続けているエースの力は、私の想定を遥かに超えていた。自身の想定の甘さを恥じるも、戦場は待ってはくれない。地球は自転し、遂に太陽を水平線の下に隠した。

 

「こちら提督だ。夜戦に突入する。健闘を祈る」

 

 そして、夜がやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




元ネタとか注釈

・ベーコン
 豚肉を塩漬けで燻製したもの。アメリカでよく出てくる。ほんとに毎日出てくる。ベーコン・マニアという言葉も生まれるぐらいよく出てくる。ベーコンの焼ける匂いがするタバコ巻紙なんかもある。ベーコンドーナツは許さない。ベーコン放火未遂事件もあった。ベーコンが好きならベーコン・オブ・ザ・マンス・クラブに今すぐ参加だ!
「迷ったらチーズとベーコンを乗せておけ」――デイビット・ケスラー博士

・セントリーボットの発熱
 文字通り、長時間行動すると凄まじい蒸気と共に煙を放出する。近くに居てもダメージはない。なぜだ。

・タレット
 自動で敵を探知して自動攻撃を仕掛けるロボット。高難易度になればなるほど恐ろしい相手になる。
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Military exercise part2

フォールをアウトする様、巣作りBETA様、艦息提督様、曲利様、黒鷹商業組合様、評価ありがとうございます!

戦闘描写が書けない。


昔から、夜の海――特に雨の日は嫌いだった。昔、と言うのは、私が元居た世界での事だ。陸の夜は立ち並ぶ建物の明かりや行きかう車の明かりである程度の光量は確保されているが、海にはそれが無い。月明りでもあればまだいいのだが、今夜は重苦しい雲が空を埋め、おまけに小降りの雨まで降らしていた。聞こえるのは波の音と甲板に降り注ぐ雨の音だけだった。

 

 その暗さは海と空の境を曖昧にし、操舵輪を掴んでいなければ自分が本当に両の脚で立っているかすら疑わしく思えてくる。夜の暗さに慣れた眼を凝らすが、やはり海の暗さは変わらない。まるで深淵を彷徨っている様で、とてつもなく不安になる。だから夜の海は嫌いなんだ。

 

 当然、明かりは使えない。演習中だからだ。チャールズの赤い探知センサーすら切り、ひたすらに闇の中に自らの姿を秘匿する。日が落ち、夜が訪れてからもうすぐ1時間。その間、我々はただの一度も砲撃音を耳にしていないし、我々も誰一人として砲撃を実行していなかった。此方も横須賀鎮守府艦隊も、お互いの出方を窺っている様だった。現代の空母艦娘の積んでいる艦載機は夜に飛ぶ性能を備えていない。夜戦を行うには誰かが照明弾を打ち上げるか、探照灯を照射するしか無い。そのどちらも、大きな危険が伴う行為だ。

 

 我々――呉鎮守府艦隊の戦力は、第三砲塔が大破した陸奥、中破した川内、そして中破した私。相手の横須賀鎮守府艦隊の戦力は、小破した長門、中破した北上。実質的な戦力で言えば3:2。此方が有利だが、旗艦のダメージは此方の方が大きく、夜戦で長門を倒すしかない。相手にはあの長門が居る。あの長距離砲撃を決めてくれた長門が。長距離砲撃を行ったのは昼間だったが、夜戦でそれが出来ないと考えるのは楽観的すぎた。因みに、攻撃手段を持たない空母艦娘達は夜戦開始前に他の大破艦と一緒に鎮守府へと帰投した。今頃モニターで我々を見ているだろう。

 

「チャールズ、艦の様子はどうだ」

「浸水は防ぎましたが、飛行は少々困難かと」

「困難とはどういう意味だ? 飛べないのか、飛べるが不安定なのか」

「後者です」

 

 高速修復材の使用は禁止だが、ダメコンは許可されている。乗組員諸君の働きによって不安定ながら飛べる状態まで戻ったらしいが、飛ぶのは避けた方がいいだろう。夜にジェットエンジンに点火すれば格好の的だ。また海面に叩きつけられるのは御免だ。だが、このまま何もしないわけにはいかない。向こうは隠れてても判定勝ちで万歳だろうが、ほっとけば我々は判定負けだ。

 

「ねえ夜戦は? 夜戦夜戦夜戦夜戦!」

「黙ってなさいジャンキー」

「今夜戦してるじゃないか」

「撃ってないじゃん! そんなのマスタードの無いホットドックみたいなもんだよ!」

 

 分かりにくいが、言いたいことは分かる。マスタードの無いホットドックはただのソーセージ挟みパンだ。なぜこの例えを使ったかは兎も角、川内は戦いたくて仕方がないらしい。だが、彼女の言う通りだ。

 

「陸奥、どうするのだ。照明弾でも撃つか、プランBか、Laura――あー、夜偵? でも出すか」

「夜偵なら照明弾も投下できるよ!」

「……待っているのよ」

 

 『待っているのよ』それは陸奥の台詞だった。何を待っているのか? 首をかしげる我々に、陸奥は続けた。

 

「長門は典型的な武人タイプよ。動かずに、判定負けを待つ事はしないわ。必ず、何かしらの手段で自身の居場所を明らかにするはずよ」

「どうして分かるの?」

「姉だからよ」

 

 陸奥は長門型戦艦の二番艦だ。陸奥の発言には説得力があった。姉妹だから――も、そうだが、長門が武人タイプというのは戦い方を見れば分かる気がした。昼間にも、長門は真正面からの戦艦同士の殴り合いを行ったのだから。実際に、陸奥の説は当たっていた。時間にして数十秒という短い間だったが、突如十数キロ遠くの海上から光の柱が立ち上り雲を照らした。探照灯だった。

 

「長門ね」

「誘ってるぞ、始めるか」

「川内、夜偵を出して」

「もう出してるよ! やったぁー! 待ちに待った夜戦だー!」

「次に長門が探照灯を点けたら砲撃するわ、貴方たちは優先的に北上を倒して」

 

 再び光の柱が立ち上る、それが戦闘開始の合図だった。陸奥の41cm連装砲が火を吹き、大気が震える。再び戦艦同士の殴り合いの開始だ。砲撃後、陸奥と長門の間に夜偵から照明弾が投下された。陸奥も長門も、艦首を向け増進している。接近して殴り合う算段か。

 私も気が抜けない。力場はとっくに失っているので、木造船に魚雷が命中でもすれば大変だ。いや、力場が維持できている艦などこの場にはいない。みな自身の装甲を頼りに戦うしかないのだ。コンスティチューションなど、下手すれば火矢の一発で燃えかねない。

 

「ボースン、目を凝らして見ていろ」

「興奮で燃えてきたぞ、うわー」

 

 元々付いていた三本のマニピュレーター全てを失い、ただ浮く事しか出来なくなったMrハンディ――甲板長ボースンに目視での観測を任せる。長門の砲撃でレーダーが壊れてしまったので、夜戦には昔ながらの方法たる目視を行うしかなかった。それなら私が見るよりロボットのセンサーや何やらを駆使して見た方が効果的だろう。鼓膜を破らんとばかりに轟いていた砲撃音が少し抑えめになった頃、川内は無線越しに、ボースンが真横で叫んだ。

 

「見つけた! 近いよ、探照灯照射!」

「艦長、見つけました!」

 

 川内が放った10万カンデラの光は闇を切り抜き、煙を吹く北上の姿を映し出した。近い、数キロしか離れていないだろう。探照灯を使用する目的は照射した艦が攻撃するのでは無く、他の艦に向けた、こいつを撃て! という指示だ。他の艦――この場ではコンスティチューションだ。

 

「ボースン、センサーを付け魚雷を見張れ! 右舷全兵装攻撃準備、狙いが付き次第撃て!」

「承知しました!」

「アイアイサー!」

 

 甲板下でプロテクトロン達がガウスキャノンの照準を付ける頃には、北上の14cm単装砲が川内を捉えていた。放たれた砲弾は、川内の艦首に命中した。沈むような傷では無いようで安心したが、他の艦を心配している場合では無い。北上の副砲は、コンスティチューションを捉えていたのだから。副砲が次々に火を吹き、コンスティチューションが激しく揺れた。

 

「艦首砲が吹き飛びました! 第五砲列甲板で出火!」

「ダメコンだ! 消火しろ!」

「艦長、魚雷だ!」

 

 畜生、踏んだり蹴ったりだ。唯一の救いは北上も突然の会敵とコンスティチューションの小ささに狙いが甘かったことか、もし彼女が冷静ならあれで沈んでいた。しかし、お次は酸素魚雷。北上の魚雷発射管は死んだわけでは無かったらしい。だが、此方に対処法が無いわけでは無い。昼には島が邪魔で迎撃出来なかったが、遮る物の無い今なら十分可能だ。

 

「艦長、第五砲列甲板の消火に成功しました!」

「よくやった! プラズマ魚雷、迎撃モードで発射!」

 

 酸素魚雷を迎え撃つ形で発射したプラズマ魚雷は、すれ違う寸前といった所で炸裂し、酸素魚雷を巻き込んだ。海中で緑色の光がぼんやりと輝き幻想的だったが、我々に見惚れている時間は無かった。

 

「ガウスキャノン、撃ちます!」

「さあ、私と夜戦しよっ?」

 

 ガウスキャノンと14cm単装砲の砲撃を同時に浴びた北上は、船体がボロボロになり穴あきチーズの様に止まった。北上と会敵してから今まで恐らく五分も立っていないだろうが、ひどく長く感じた。

 

「報告します、陸奥中破! 横須賀鎮守府、北上大破!」

「陸奥がやられるぞ!」

「今こそプランBじゃないの!?」

「陸奥!」

 

 一発逆転を賭けた馬鹿みたいな作戦――プランB。その実行許可を得るために旗艦に無線を繋ぐ、帰ってきた答えは、「いいわ、やるわよ!」だった。プランBをまさか本当に使う事になるとは思ってもいなかったが仕方ない。その要点は長門に限界まで見つからずに接近する事。つまり、僅かに海中から光が漏れるジェットエンジンの使用も避けるべきだった。

 

「航海士君、ジェットエンジンを切れ! 帆走を開始する!」

「行くよアイアンサイズ!」

「了解! 右舷か、左舷か?」

「右舷に接近するよ!」

 

 プロテクトロン達に帆を任せ、川内の後について行く。数分間の航行の後、我々は長門を視界に捉えた。41cm連装砲の射撃は凄まじい爆音と炎を吹き、辺りを一瞬明るくした。今ので位置を捕捉されないかと肝が冷えたが、どうやらまだ捕捉はされていない様だ。長門が放った砲弾が陸奥に命中して高角砲を幾つか吹き飛ばし、陸奥の反撃で長門の第三砲塔が吹き飛んだ。意趣返しといった所か。

 

「陸奥、長門の右舷6kmに接近した! もうちょっと頑張って!」

「やるなら早くね! こっちはもう沈みそうなんだから!」

「アイアンサイズ、準備して!」

「本当にやるんだな!? よし!」

 

 無線を操作し、全乗組員に指令を出す。

 

「左舷ガウスキャノンのチャージを開始しろ! フォアセイルとメイントガンセイルを張れ!」

 

 左舷から突き出した22門のガウスキャノンの砲身に蒼い稲妻が走り、海面を蒼く照らした。これで完全に長門に捕捉されたはずだ。今更中止できない。後は出来る限り頑張って、時の運が此方に付く事を祈るだけだ。

 

「さあ、接近するよ! 私の真横から離れないでね!」

「離れたら一瞬で海の藻屑だ!」

 

 更に近づき、長門の真横4kmにまで接近した。現在の陣形は複縦陣――といっても川内とコンスティチューションの二隻しかいないが――長門とコンスティチューションで川内を挟んでいる、と言うよりは川内がコンスティチューションの盾になっていると言った方が適切だろう。

 川内の全長は162.15mだ。それに対しコンスティチューションの全長は62m、つまり全長が三倍近く大きい川内の影に隠れる事が出来ていた。川内が攻撃を引き受けてくれているお陰で、我々は木端微塵にならずに済んでいた。

 

「現在のチャージ率は!?」

「現在約70%です!」

「核融合炉の余剰エネルギーを送れ! 多少砲身が溶解しても構わん!」

 

 川内は長門の副砲、14cm単装砲の嵐の様な砲撃に晒され見るも無残な姿になりつつあった。その時、運悪く川内のへし折れた煙突の上を14cm単装砲の砲弾が通過し、コンスティチューションのメインマストに直撃した。当然耐えきれるはずも無く、メインマストは甲板の木を捲り上げた挙句海へ滑り落ちた。巻き込まれたプロテクトロンの左腕が何処かへ飛んで行った。

 

「舵が壊れた! そっちにぶつかるかも!」

「勘弁してくれよ!」

「全ガウスキャノンフルチャージ! 砲身が溶解します、艦長、発射許可を!」

 

 続けてバウスプリットがもぎ取られる。大破判定まで秒読みだった。

 

「左舷ガウスキャノン一斉射! salvo!」

「撃て!」

 

 コンスティチューションの左舷が蒼い光に包まれ、稲妻の様な砲声が轟く。ガウスキャノンから発射されたプロジェクタイルは川内に突き刺さるが、それでも最大チャージされたエネルギーを消費できずに、川内を貫通し長門に殺到した。その威力は凄まじく、舵の損傷で此方へ寄って来ていた川内を押し戻し、長門の右舷兵装を残らず吹き飛ばした挙句、弾薬庫をも吹き飛ばした。コンスティチューションも無事では無く、無理なチャージを行ったガウスキャノンの幾つかは発射に耐えられずに爆発し、メインマストが開けた甲板の穴から爆炎が噴き出した。

 

「報告します、横須賀鎮守府艦隊戦闘可能艦無し! 呉鎮守府艦隊、勝利です!」

「やったわね!」

「川内、生きてるか?」

「まあね、風通しが良くなったよ」

 

 ギリギリだった。あと少しでも遅ければ、コンスティチューションは戦闘不能になっていただろう。川内も、陸奥も、何より乗組員達の働きが無ければ勝てなかっただろう。

 

「乗組員諸君、よくやってくれた。我々の勝利だ!」

「バンザーイ! バンザーイ!」

「ホアント ホウシニ ツトメマス」

 

 どうにか消火を済ませたらしい下層からも、プロテクトロン達のバラバラな歓声が聞こえてくる。乗組員達がロボットで良かった。もし人間ならばそれはそれはスプラッタな光景になっていただろう。

 

「こちら提督だ、よくやったな。見応えがあったぞ」

「生きてる心地がしなかったぞ」

「そうだろうな、取り敢えず帰ってこい。大金星だな、アイアンサイズ」

 

 初めての演習――それも横須賀鎮守府相手という勝負に、我々は勝った。水平線から顔を出した太陽が、我々を照らしていた。

 

 

 

 




元ネタとか注釈

・ホットドック
 茹でるかグリルするかで温めたソーセージを切れ目を入れたパンに挟んだ食べ物。アメリカ合衆国ナショナル・ホットドッグ・ソーセージ評議会の声明によれば、ホッドッグはサンドイッチの一種ではなく独自の食種に区分されるらしい。味付けはケチャップが基本だと思いがちだが、マスタードが基本。

・プランB
 あ?ねぇよそんなもん。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

The Ever-Living child

風呂敷様、SEVEN様、都会の男子高校生様、WallBlister様、陣陽様、評価ありがとうございます!

更新が遅れたのは仕事の所為であって、元奴隷の女の子を撫でまわしていたからではないです。

仕事がひと段落着いたので、更新スピード挙げられる……かも。

お気に入りが150人超えて嬉しいです!皆様ありがとうございます!


「朝だぞおらあああああああああああ! 起きろオラァ!」

 

 朝早くにも関わらず、駆逐艦寮全体を突き抜ける程の声量を今まさに発揮しているこの声の持ち主は天龍だ。時刻は朝六時十分、総員起こしから十分後だ。天龍がこうやって叫びながら駆逐艦寮の廊下を端まで歩くのは毎朝の恒例行事で、朝が苦手で起きる事の出来ない一部の駆逐艦娘達を片っ端から叩き起こしているのだ。駆逐艦娘達の姉貴分として有名な天龍らしい行動と言えよう。

 で、普段五時には起きている私がなぜ天龍の声を聞いているかといえば、昨日横須賀鎮守府艦隊との演習を終えた我々はへとへとで鎮守府に戻り、半分眠った様な状態で提督に報告を終えて泥の様に今まで寝ていたからだ。つまるところ、非常に不本意ながら寝坊したという形になる。

 

「おい、起きてんだろうなアイアンサイズ!」

「おはよう。ノックぐらいしたらどうだ?」

「ああ? 俺とお前の仲だろ」

 

 艦長服の上着に手を通している途中でノックもせずに扉を開ける天龍に注意を促すが、当の彼女はこの調子だ。彼女の性格からして何となく予想はしていたが、異性の着替えなどには何の関心も持たないタイプらしい。そっちの方が私としてはありがたいが。着替え終えた私は扉を開け、マイカップを持って廊下に出た。

 

「起こしてくれてどうも。私は食堂に行ってくるよ」

「おう、またな」

 

 寝ぼけ眼の望月の首根っこを掴んでいる天龍に礼を言い、私は食堂に向かった。余り食欲は無かったが、コーヒーとパン程度なら食べてもいいだろう。時に米よりパンが懐かしくなるものだ。

 

 

 

 

 食堂に着いた私は食券の列には並ばず、受付の横で妖精さんがパンを扱っているコーナーへと向かい、イングリッシュマフィンとバターを取って奥の壁に面した席に座った。この付近は余り人気が無く長居しても罪悪感が薄いのがいい。窓際は競争率が高く長居しづらい。

 席にマフィンを置き、一先ず確保した私はコーヒーを求めて大量の電気ポッドが置かれている一角へ向かう。ここでマイカップが機能するのだ。一応紙コップは用意されているが、紙コップに熱いコーヒーを注げば当然熱いし、量も少ない。そこでマイカップを持って入れば諸々の問題を回避できる――と加賀が教えてくれた。実際、マイカップを持参する艦娘も多い。

 

 カップにインスタントコーヒーの粉を入れ、お湯を注いで出来たコーヒーとスティックシュガーとミルク、プラスチックのスプーンを一つづつ取って自分の席へと帰った。湯気を上げるコーヒーにシュガーとミルクを投入しスプーンで混ぜる。そうして出来たコーヒーを一口飲み、背もたれに体重を預けた。

 正直言って、酷く疲れていた。まるで手足に鉛を括り付けている様だ。艦の年齢は肉体には何ら影響しないと言うが、この疲労具合は200歳越えの老人そのものだ。もし艦齢と肉体が比例していれば、この疲労も納得できたろうに。

 

 水平に真っ二つに切られたイングリッシュマフィンの片方にバターを塗って食べてみるが、どうにも完食できる気がしなかった。おいしいのだが、胃が受け付けない。今日私が本当に食べるべきだった物はおかゆやうどんなんかの胃に優しい物だったのかも知れない。マフィン片手にぼんやりしていると背後に気配を感じ、振り向くと陸奥が立っていた。

 

「あらあら、大丈夫? キツそうね」

「私も年だからな」

「何言ってるのよ、あなたせいぜい二十歳でしょう」

 

 「いい?」と言って向かいの席を引く陸奥に頷きかけて座らせる。彼女は足を組み、机に片肘を突いて、「それ、食べてあげましょうか?」ともう片方のマフィンを指差した。どうやら私は随分苦々しい顔で食べていたらしい。「ぜひ頼むよ」と言うと、彼女はマフィンを手でちぎって食べ始めた。バターを勧めたが、彼女はダイエット中だと言って断った。彼女の何処にダイエットの必要があるのか理解に苦しんだが、女性とはダイエットしたがる物だと私の中の偏見で納得した。

 

 私がマフィンを苦心してどうにか食べ終えた頃、既に陸奥はマフィンを食べ終えていた。すっかり温くなったコーヒーを啜って落ち着き、深く息を吐いた。やれやれ、これから仕事があるってのに、これじゃ薬物を摂取する必要があるかもしれない。人間の船員達の置き土産の中には、メンタスやバファウト、サイコなどの薬物が残されていたのだ。あまりそのような物に手を出したくは無いが、中毒量を摂取しなければ問題ないとも考えている。

 

「君は元気そうだな? 陸奥」

「私は慣れてるもの。貴方は人間の体になったばかりでしょう? きっと心が付いて行ってないのよ、気疲れってやつね」

 

 気疲れか、確かにそうかも、いや、そうに違いない。精神疲労は肉体に大きな影響を与えるとマサチューセッツ外科ジャーナルに書いてあった。昨日の演習中ずっと気を張っていたのだから、その間掛かったストレスは大きな物だっただろう。

 

「その調子で今日の秘書艦が務まるの?」

「仕事だからな、やらないと仕方ないよ」

「間宮券三枚で代わってあげてもいいわよ」

「君に間宮を奢るのも悪くないが、一回は経験しておかないとマズいだろうし、そのために提督はわざわざ一日交代制なんて面倒な制度を作ったんだろう。無下にはできないよ」

「そう、じゃあ間宮はまたの機会でいいわ」

「そうしてくれ、じゃあ私は九時まで仮眠をとるよ。おやすみ」

 

 マフィンが入っていたビニール袋とマイカップを持って、席を後にした。秘書艦業務は午前九時からと決まっている。現在時刻は午前七時だ。例え二時間でも寝るのと寝ないのでは大きな差が出るだろう。そう考えた私は、皆出払ってすっかり静かになった駆逐艦寮の自分の部屋へと向かった。

 

 

 

 

「来たぞ、提督。私が秘書艦だ」

 

 午前九時、私は提督の元を訪れていた。仮眠のお陰で眠気はバッチリ取れた。提督は書類にペンを走らせる手を止めて私を見て、「来たか、仕事を始めるぞ」と言った。提督はそう言ったが、私は何をしたらいいのかさっぱり分からなかったのだ。

 

「何をしたらいい?」

「そこに書類があるだろう。それを私の署名が必要な物とそうでないものに分けてくれ」

「分かった」

 

 提督の机に小高く積まれた書類の山――それを分けるのが私の仕事らしい。私はいつも着けている白い手袋を外し、書類の山を切り崩しにかかった。艦隊の戦果報告、大本営からの作戦指示、鎮守府の意見箱に寄せられた要望――提督は毎日この量と格闘しているのだろうか。

 

「毎日この量の仕事を?」

「そうだな、今日は少し多いか。もうバテたのか?」

「バテてはないが……楽しくはないね」

「そうだろうな」

 

 話しながらも手は止めずに延々と書類を仕分けていく。一時間ほどあって、ようやく書類の山は二つに分かれた。

 

「ふぅ……これでいいか? 提督」

「午前の分はな」

「まだ午後があるのか……取り敢えず、コーヒーでも飲むか?」

「ああ、頼むよ。コーヒーメーカーはそこだ」

 

 提督が指さした先にあったのは紙のフィルターをセットして抽出するタイプの一般的なコーヒーメーカーだった。傍らに置かれている缶にはただ英語でCoffeeと刻印されているだけだった。

 

「提督、このコーヒーの品種はなんだ?」

「さあね、知らんよ。私は品種にこだわるタイプじゃないんだ」

 

 要はコーヒーであれば何でもいいという事か。如何にも提督らしい考え方だった。

 水を入れ、スイッチを押して暫く待てばコーヒー特有の香ばしい香りが提督室を漂い始める。後はカップに注げば完成だが、私は提督に聞かなければいけない事があった。

 

「提督、塩はどうする」

「塩? ……ああ、君たちはコーヒーに塩を入れるのだったな」

「塩を入れると苦みがマイルドになるんだ」

「ふむ……ま、やってみるか。頼むよ」

「よしきた」

 

 コーヒーに塩を入れるのは我らがアメリカ海軍に伝わる伝統だ。ただし、入れるのは一つまみだけ。それ以上は塩辛いコーヒーになってしまう。

 私と提督の分のコーヒーに一つまみの塩を入れて、提督の分を渡した。提督は一口飲むと顔を上げて言った。

 

「角が丸くなった……気がする」

「それが分かってくれればいいさ」

 

 コーヒーを飲みながら何気なく提督室を見回すと、大きな書棚が目に付いた。提督に「見ていいか?」と聞くと彼は頷きで返した。

 書棚の前に立ち、どんな本があるのか見ていると『呉鎮守府所属の艦娘が二度としてはいけないことの公式リスト』という本を見つけて、それを手に取った。内容はタイトルの通りの用だったが、一つ気になる一文があった。それは『112.比叡および磯風は鎮守府敷地内で調理、またはそれに準ずる行為を禁止する』という文だ。一体何をすれば調理を禁止される?

 

「提督、この本の112番――」

「112.比叡および磯風は鎮守府敷地内で調理、またはそれに準ずる行為を禁止する」

「……その意味が聞きたい」

 

 提督は内容を全て把握しているのだろうか。

 

「何、以前比叡と磯風が料理を作って大惨事になっただけの話だ」

「食中毒のような?」

「食中毒ならばまだ良かっただろうな。あれはバイオテロだよ」

 

 調理がどうしてバイオテロになるのか見当もつかなかったが、世には知らない方がいい事もあるだろう。

 リストを書棚に戻すと、その横に艦娘名簿という本が収まっているのに気づき、今度はそれを引きだした。どうも呉鎮守府に所属している艦娘の活動記録らしい。出撃記録、戦果、演習結果、撃沈者の名前――そんな類だ。撃沈者の項目を開き、ざっと斜め読みすると、一つの違和感を覚えた。『白露型5番艦 春雨 第二次渾作戦にて撃沈』この一文だ。春雨が死んだって? 馬鹿を言うな、春雨はしょっちゅう目にしているし、白露型の部屋は私の部屋向かい側だ。もし本当に死んでいるならば、私が見ている春雨はゴーストという事になる。ゴーストの存在は信じているが、これに関しては馬鹿馬鹿しい。

 

「提督、春雨が撃沈とはどういう事だ?」

「どういう意味も何も……そのままだ。深海棲艦爆撃機の空襲を受け、反跳爆撃を艦尾に受け春雨は戦没した」

「ならば私が見ている春雨は何だ? 私だけでは無い。鎮守府の誰もが見ているはずだ」

「……アイアンサイズ、彼女は“二代目”だ」

 

 提督の“二代目”という言葉に私は出所不明の嫌悪感を覚えた。

 

「二代目だって?」

「“最初”の春雨が沈んだ二週間後、大本営から“次の”春雨がやって来た。なんでも運よく直ぐに建造出来たそうだ。こういう事は稀なんだがな」

「待て待て待て……じゃあ白露型はどうなる。まさか、これが新しい姉妹です――とでも言って紹介するのか!?」

「その通りだ」

「滅茶苦茶だ!」

 

 家族が死に、喪失感に苛まれる中に新しい家族がやって来たらどうする? 空いた穴はすぐに塞がれる――それは自分が死んでも次の自分が来るということだ。それを狂気と呼ばずに何と呼ぶ? 自分は死んだ者との思い出を覚えているが、“次の”者は自分達との思い出は無いのだ。

 

「それは同一人物と言えるのか!?」

「何をもって同一人物とする? 構成する物質的には完全に同一人物だ」

「物質的な事じゃない!」

「少し落ち着いたらどうだ?」

 

 提督に言われて、声を荒げている自分に気付いた。深呼吸をして、心を落ち着かせた。

 

「……すまない、続けよう」

「アイアンサイズ、お前は二代目が来た事が気に入らない様だな。何故だ」

「死者は死者のままであるべきだ。絶対に生き返るなんて事があってはならない」

「それについては完全に同意する。けれどね、彼女達――特に駆逐艦の子達は幼い。精神年齢は肉体に比例しないが、殆どの子達は身近な者の死に耐えられるほど強くは無い。現に日本海軍では仲間を失った駆逐艦の精神疾患に悩まされている。彼女らは人類の唯一の希望だ。絶望して死なれるぐらいなら、同一人物を造って悲しみを忘れてもらう方が都合がいいのさ――例え、次の死にはもっと大きな悲しみが襲うとしても」

「……地獄に落ちるぞ」

「だろうね、私も、大本営も」

 

 何も言う気が起きなかった。提督が言っている事は理論的に正しいのか、正しくないのか。それすらも考える気が起きなかった。言葉を探していると、正午を告げるサイレンが鳴った。

 

「昼だな、飯でも食ってこい。私も昼食を摂る事にする」

 

 ありがたい申し出だった、今は提督室に居たくなかったのだ。私は頭を下げてから提督室を出て、食堂に向かう事にした。向かう途中、私は白露型を目にした。中には白露と笑い合う春雨の姿があった。彼女ら――白露は、どんな気持ちなんだろうか? 生き続ける少女を眼の前にして、何を考えている?

 少なくとも、私がその事を問う日は永遠に無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




元ネタとか注釈

・コーヒーに塩
 きっとググった方が良く分かると思う。上手く作ると結構いい感じ。

・呉鎮守府所属の艦娘が二度としてはいけないことの公式リスト
 他の人類が光の中で暮らす間、我々は暗闇の中に立ち、それと戦い、封じ込め、人々の目から遠ざけなければならない。We secure.(確保) We contain.(収容) We protect.(保護) SCPで検索してみよう! 一年ぐらい暇が潰せる。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Playground of the Lost

更新スピード上げるとか言って一ヵ月間更新無し?
つっかえ! もーホンマ使えへんわ。やめたらこの小説?

遅れてごめんなさい。


 

 今日も一日が終わる。ウェイストランドでは考えられなかった、騒々しくも賑やかな一日が。この世界は今まさに深海棲艦との戦争の真っただ中だが、少なくとも人間同士が僅かなキャップを争って不毛な戦いを繰り返す世界では無い。私の居る鎮守府は子供たち駆逐艦の笑顔に満ちていて、たった一本のスティムパックが買えないがために失われる命を見る事も無い。私はここでの生活を割と愛しているのだ。

 

「何ニヤついてんだよ……気持ち悪いぜ」

「おっと、申し訳ない」

「もーっとニヤついてもいいのよ!」

「それはちょっと怖いのです……」

 

 歯磨きをしていると、天龍にニヤけていたらしい事を指摘された。ニヤついていた気は無いのだが、知らぬうちにニヤけてしまっていたらしい。雷は構わないと言うが、電は若干引いた顔だった。それはそうだろう、私だって歯磨きしながらニヤけた顔の男と遭遇したら警戒する。警戒を通り越して銃に手を掛けるかも知れない。

 

 現在時刻十時、駆逐艦達が就寝準備をしている時間だ。三十分後の十時半には駆逐艦寮は消灯となる。駆逐艦寮に部屋がある私も当然その例に漏れず、十時半には眠りにつく事になる。だが私は早寝早起きの、天龍に言わせれば、『爺さんみたいな生活』を送っているので、全く問題ない。と言うよりベッドに入れば五分と立たずに眠りに落ちる。途中で目が覚める事は滅多に無いが、あるとすれば隣の部屋の暁にトイレまでのエスコートに叩き起こされるぐらいか。

 

 支給された歯ブラシで歯磨きを終えた頃には消灯時間も近くなっていた。私は歯ブラシをケースに仕舞って部屋に戻る事にした。

 

「じゃあ天龍、雷、電、また明日」

「おい、どこに行くんだ」

「ん? 私はもう寝ようと思うんだが」

 

 部屋に帰ろうとする私を口に歯ブラシを突っ込んだままの天龍が引き止めた。

 

「だから、お前今日寝れねえだろ」

「一体何の話だ」

 

 天龍は怪訝な顔をすると何か思い当たった様な顔になり、「まさか誰からも聞いてねえのか」と言った。私は誰かから何か聞いた覚えも無かったので、「聞いてない」と言った。すると彼女は歯ブラシを加えたまま器用にため息を吐いて言った。

 

「お前今日夜間警備担当だぞ」

 

 初耳だった。

 

 

 

 

 基本的に鎮守府では緊急を要する事態――侵入者や火事など――を除いて提督以外の人間が敷地を一歩でもまたぐ事は許されていない。各鎮守府の前には武装した兵隊が常駐しているが、彼らも一歩でも踏み入れば即時逮捕されてしまう。人類最後の希望と言うだけあって、艦娘は手厚く保護されているのだ。しかし、これだけの防御を敷いても鎮守府に何者かが忍び込む事態が有り得ないわけでは無い。事実、深海棲艦が艦娘に擬態して夜中に提督を殺害した事件があったらしい。そのような事件を未然に防ぐため、駆逐艦を除く艦娘達が一日交代のローテーションで夜間警備を行うというわけだ――深海棲艦が艦娘に擬態して忍び込んだ鎮守府でも夜間警備は当然していたが、深海棲艦は夜間警備担当の艦娘に擬態していた――

 

 と言うか私は分類上フリゲート艦であって駆逐艦より小さい艦なのだが夜間警備は免除されないのだろうか? まあ見た目が立派な大人である以上仕方がないとも思うが、それならばせめて重巡や戦艦寮に移してもらいたい物である――駆逐艦達が嫌いなのでは無く、何か気恥ずかしい――

 

 愚痴を言ってもやらなければならない事は変わらない。私は任された仕事は全力で行う主義だ。夜間警備にはそれなりの装備が必要になるはず。そこで私は艦内に人間達が置いて行ったコンバットアーマーのフルセットとサブマシンガンで武装して、乗組員のプロテクトロンを一体連れて行くことにした。チャールズを連れて行こうかとも思ったが、彼は大きすぎるし鎮守府の廊下が抜けでもしたら大変だ。それに排熱の問題もある。室内でフュージョン・コアを露出すればどういう事態になるか想像は容易だろう。コンスティチューションにはやたらと白兵戦装備が多いが、彼らは移乗攻撃でも行う気だったのか? いや、まさかね。

 

 私は初めてこのコンバットアーマーという物を装備したが、見ためよりずっと着心地が良くて驚いた。裏地に張られたレザーのお陰だろうか。胴体の真ん中にペイントされた星マークも気に入っている。欠点はやはり重量か。海の上では着ない方がいいだろう、もし海に落ちたらそのまま海底に真っ逆さまだ。

 

 暗い波止場を歩いて天龍の元へ向かう。彼女は私を夜間警備の待機室まで案内してくれるそうだ。話によると一時間に一回の巡回以外は待機室で休んでいていいらしい。だが夜間警備で一番きついのは待機時で、睡魔との戦いが最も過酷だそうだ。しばらく歩くと、天龍を見つけた。彼女は寮の入り口で両手を組んで壁に背を預けていた。

 

「待っててくれてありがとう、天龍」

「……戦争でも始めるつもりか? ロボットまで連れてきてよ」

「なに? 警備には武器がが必要ではないのか?」

「誰がトミーガン持ってロボット連れてこいって言ったよ!」

「ホアント ホウシニ ツトメマス」

 

 電子音を鳴らすプロテクトロン。荒廃した世界では彼らが数少ない癒しだった。

 

「……まあいいや、行こうぜ」

「なんか疲れてないか?」

「誰のせいだと思ってんだ」

 

 疲れた様に歩く天龍の後を追って待機室に向かう。彼女は夜間警備担当の艦娘は四人いると言っていたが後二人は誰なのだろうか。待機室の扉を開けると、二人はそこに居た。

 

「ハーイ、アイアンサイズ。久し振りネー」

「初めまして、アイアンサイズさん」

 

 待機室のソファーに座っているのは金剛とよく金剛の隣で見かける黒髪の女性だった。金剛の事は知っているが、黒髪の彼女の事は知らなかった。

 

「ああ、君は?」

「金剛型三番艦、榛名と申します」

「私はアイアンサイズだ。よろしく」

 

 黒髪の女性は榛名と言って金剛の妹らしい。確かによく見れば金剛に少し似ている――気がする。自己紹介を済ませた私はプロテクトロンをドアの横に待機させ、金剛達の向かいのソファーに座った。少し辺りを見回してみると、テレビやカゴに盛られたちょっとしたお菓子、棚には書籍や薄いパッケージの……ブルーレイとか言ったかな? が整然と並んでいた。軍事基地では中々お目に罹れない光景だろう。

 

「色々あるんだな、娯楽室みたいに」

「所々でガス抜きしないと潰れちゃうからネー」

「なんか映画とかやってねえのか?」

 

 早速お菓子を摘まみながらリモコンを操作する天龍。しばらくして、「おっ、コマンドーやってるじゃん。好きなんだよコレ」と言ってチャンネルを合わせた。画面の中ではやたらと筋肉モリモリの男が電話ボックスを持ち上げていた。凄い筋肉だ。

 少し頭が重くなってきたので、コンバットヘルメットを脱いでソファーの傍らに置いた。やはりこういう類の装備品は訓練を受けていないと長時間装着するのは少し辛いな。私も鍛練が足りないらしい。

 

「今更だけどサー、凄いHeavyな装備ネー」

「榛名もびっくりしました……」

「いや、加減が分からなくて、初めてだから」

 

 私の想定した夜間警備と実際の物はかけ離れていた。考えてみればこの世界にレイダーやスーパーミュータントは居ないのだ。この世界にはもっと恐ろしいのも居るが。

 

「アイアンサイズさんってどんな世界から来たんですか?」

「あっ、俺も気になるな」

 

 榛名の質問にテレビから顔を戻す天龍。金剛も興味津々といった顔で見ていた。しかし……何を話した物か、私はウェイストランドでの殆どの時間を銀行の上で座礁して過ごしたのだ。私の知っている世界などその辺りだけだった。

 

「緑色の巨人とブリキの兵隊が戦って、スカベンジャーを素手で爆散させる様な奴が居る世界だった」

「なんじゃそりゃ、世紀末覇者かよ」

 

 世紀末覇者とは一体……? だが考えてみればネイトは世紀末の覇者と言えるのかも知れない。彼はタバコと鉄でベッドを作れると聞いたことがあるが、多分与太話だろう。

 

「なんだかよく分からない所から来たんですね!」

「榛名は直球すぎネー……」

 

 榛名の言う事も最もだ。私の説明はかなり意味不明だっただろうが、私が説明べたという事実を除いてもこれ以上の説明は出来ない。少し前のめりになっていた姿勢を直すと、天龍が何かをテーブルの上に置いた。酒だった。

 

「おいおい、どこから持って来た? 不味いんじゃないか?」

「お約束って奴だ。お前も飲むだろ?」

「……ラム酒か」

「他にもあるぜ」

 

 天龍は椅子の下に置いてあった鞄から次々と酒の瓶をテーブルに上げた。ウイスキー、ウオッカ、シードル――グラスは待機室の食器棚に沢山入っていた。ワイングラスやショットグラスがある所を見ると、提督が承認している気さえしてくる。実際そうなのかもしれないが。そもそもどこから持って来たんだ? 不思議に思う私をよそに天龍はグラスにウイスキーを注いでいた。どうやらロックで飲むつもりらしい。

 

「酒に強いんだな」

「世界水準超えてるからな」

「……天龍さん、下戸じゃありませんでしたっけ」

「多分カッコつけてるネー」

 

 金剛の呟きに「カッ、カッコつけてねーし」と顔を赤らめて反撃する天龍。頬の赤みは恥ずかしさなのかアルコールからなのかは分からなかった。

 どうも皆飲むようなので、私もウイスキーをショットグラスに注いで飲んだ。琥珀色の液体が喉を通り、心地よい温かさを与えてくれた。ちびちび飲んでいると、天龍が赤らんだ顔で私に言った。

 

「そう言えば、演習の報酬は何にしたんだ?」

 

 演習の報酬。それは私達が前に行った横須賀鎮守府相手での演習に勝って、報酬として与えられた権利だ。この鎮守府では演習で勝てばある程度の要望を通す事が出来るチケットが配られる。天龍が聞いたのはそのチケットをどう使ったかという事だろう。因みにそのチケットで川内は夜戦を、加賀は焼肉屋の食べ放題券を要望した。休日に空母全員で行くそうだ。今はただ、不運な焼肉屋のがこれからも経営出来る事を祈るばかりである。その焼肉屋に取って唯一幸運なのは、空母艦娘達にしっかりとした理性が備わっている事か。その時に理性が働くかどうかは別として。

 

「私は乗組員、ボースンのマニュピレータを修理したよ」

「ロボットの修理か」

 

 ボースンはコンスティチューションの甲板長だ。彼は本来あるべき三本のマニュピレータ全てを失っており、甲板長と言ってもできる事は甲板を飛び回って他の乗組員を鼓舞するぐらいだった。勿論鼓舞も大切だが、あまりに不憫なので提督から余った資材を貰い、それをもって明石の所へ行くと喜んで手を貸してくれた。数日後、完成したと言うので見に行くと、そこにはマニュピレータの一本から緊急修復材をぶちまけながら、「うわー」と言って回転するボースンがいた。明石、君は一体どんな改造をしたんだ!?

 

「アノ……」

 

 プロテクトロンの声だった。彼は此方に歩み寄りつつ手首をくるくると回し、「ソロソロイチジカンデス」と言った。手持ちの懐中時計で確認すると、確かにその通りだった。

 

「ありがとう、プロテクトロン」

「便利なロボットだな」

「じゃあ、アイアンサイズと天龍は駆逐と軽巡寮、私たちは他を担当するネー」

「了解だ、プロテクトロンは待機室を守っていてくれ」

 

 プロテクトロンを置いて部屋を出て、しばらく歩いた所で天龍が言った。

 

「連れてかねぇのか?」

「彼の足音でみんな起きてしまうよ」

「あー……確かにあれは大きすぎるか」

 

 彼は駆動音がうるさく、少し歩いただけでも眠りを妨げるのに十分な音を出すのだ。それから我々はくだらない話をしながら歩き、駆逐艦達の部屋の前で天龍が言った。

 

「よし、アイアンサイズ。駆逐の部屋の前歩くときはわざと足音立てながら行くぞ」

「え、何故だ?」

「年頃の娘が寝ろって言われて大人しく寝るかと思うか? 俺達が部屋の前通るとき静かなら良いんだよ」

「寝ないと作戦に支障が出ないか?」

「駆逐も自己管理が出来ないほど馬鹿じゃねぇ、頃合いを見て寝るさ」

 

 そう言って天龍は木板を踏み鳴らしながら進んで行く。こういった気遣いも彼女が駆逐のボスたる所以なのだろう。L字廊下を突き当たりまで進んで行くと、一つの扉が半開きになっているのが目に入った。確かこの部屋は誰も住んでおらず、空室だったはずだ。確認のため中に入ると、美しい銀髪の少女が開いた窓から外を眺めていた。傍らのサイドテーブルにはウォッカの瓶が置かれていた。私はその少女に見覚えがあった。

 

「……響?」

「っ……驚いたじゃないか、入るなら入ると言ってくれ。それに私はВерныйだ」

「べー……ベールヌイ?」

「ヴェールヌイだ」

 

 後ろから天龍が補足してくれた。ヴェールヌイ? 聞きなれない名前だ。確か彼女は第六駆逐隊で、その仲間たちからは響と呼ばれていなかったか? だから私は響だと思ったのだ。驚いたと言ったが彼女は私達が足音を立てながら歩いてきたのに気が付かなかったのか? 酔っているのか?

 疑問に思う私をよそに、天龍はВерныйに近づいて行った。

 

「他のチビと一緒に寝たと思ったぜ」

「彼女達はベッドに入ると直ぐに寝てしまうんだ」

 

 寝なくていいのか? 私は疑問に思って言った。

 

「いや、消灯時間なんじゃないのか?」

「六駆は明日休みなんだ」

 

 いくら休みと言えどもこの時間帯に少女がウォッカを景気よく飲む姿はどうしても違和感が拭えなかった――そもそも子供が飲酒する事に違和感がある――おまけに顔も全然赤くなっていない。天龍はグラス一杯で真っ赤なのに。

 私はふと彼女が窓から何を見ていたのか気になって、Верныйの横に立って外を見ていた。窓から見えるのは大きな三日月が海に反射する姿だった。彼女はこれを私達の足音が聞こえないほど熱心に見ていたのか。

 

「綺麗だろう? ここは私のお気に入りなんだ。新しい駆逐艦が来たら此処に入るだろうから、それまでに見納めしておくんだ」

「確かに綺麗だ。だがウォッカは……」

「飲むなって? アイアンサイズさん、私も貴方もいつ死ぬか分からないんだ。楽しめる時に楽しむべきだよ」

 

 ここに来て私がВерныйに抱いていた違和感が飲酒では無いと分かった。違和感の元は彼女の纏うどこか達観した雰囲気だ。彼女は自らの死も、周りの死さえ覚悟している様な感じだった。誤解してほしくないが、諦めでは無く覚悟だ。その両者は大きく異なる。諦めは足を止めるが、覚悟は前へと進む勇気をくれる。

 

「まあ程々にしておけよ、飲んでいいのはその一本までだ」

「これが最後の一本だ、天龍さん」

 

 Верныйを部屋に残して我々は来た道を戻った。すると白露型の部屋の前を通過した時、不意に扉が開いた。扉を開けたのは春雨だった。彼女は頬を桜色に染めて小さな声で言った。

 

「あの……トイレ、ついて来てほしいです」

「トイレ?」

 

 駆逐艦寮からトイレまでは少し距離がある。子供が真っ暗な中を進むのは怖いのだろう。暁だって私の袖を握り閉めながらトイレまで行くのだから。

 

「しょうがねえなぁ。アイアンサイズ、先に戻っといてくれ」

「いえ、アイアンサイズさんの方が……あまりお話したことないので……」

「おっ、そうか。じゃあ先に戻っとくからな」

 

 そう言って天龍は待機室の方向へと歩いて行った。トイレと待機室は逆の方向だ。春雨とトイレに向かっていると、彼女は妙な質問をした。

 

「……アイアンサイズさん、深海棲艦についてどう思います?」

「……どう、って?」

 

 どうにも春雨の様子がおかしい気がした。トイレまでついて来てくれと言う割に怖がっている様子が無かった。大人が隣に居るからか? 

 

「深海棲艦と戦い続けて、人間に勝ち目があると思いますか? 深海棲艦との戦いは完全に消耗戦です。私達は数に限りがあるのに、深海棲艦には無い。倒しても倒してもまた何処かから湧いてくるのです」

「案外人間が同士討ちで戦争が終わるかもしれないぞ。何処かの誰かが自暴自棄で核のスイッチを押すかも」

「……もし深海棲艦との和平が望めるなら、どうしますか?」

 

 深海棲艦との和平。それは願っても無い事だ。しかし残念な事にこれまで深海棲艦が和平交渉に応じた事は一度も無い。ただの一度もだ。

 

「私はそれを決める立場にないが、もし和平のチャンスがあるならそうするべきだろうね」

「……そうですか」

 

 話している内にトイレに着いていたらしく、春雨はトイレへと入って行った。しばらくして春雨が出てきたが、今度は特におかしな様子は無かった。そのまま部屋に送り届けて一回目の夜間警備は終わり、結局朝まで続いた夜間警備で異常は無かった。ただ一点、春雨の様子がおかしかった事を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




元ネタとか注釈

・コマンドー
 アーノルド・シュワルツェネッガー主演のアクション映画。シュワちゃんの転機となった映画。様々な有名台詞が多く、語録となっている。某所で迂闊に使うと一瞬で市場が制圧される。『プレデター』や『トゥルーライズ』語録もある。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。